戦姫絶唱シンフォギアーカデンツァの系譜ー (姫神__)
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第1話「出会い」

「すまない、マリア。待たせてしまったな。」

「いいえ。気にしなくていいわよ、翼。早く行きましょう。」

 

 パヴァリア光明結社との戦いから2か月ほどが経ったある日、マリアと翼は休日のショッピングへと足を運んでいた。様々な洋服やアクセサリーを手に取り、どれが似合うかとお互いに着せ合う。昼過ぎには新しく開店した話題のレストランへ、そして日が傾き始めるころには映画鑑賞。その感想を話し合いながら夜の街中を散歩する。

 

「......ア、マ......ア、......マリア!」

「へ!?あ、あぁ、ごめんなさい。サインだったわね。」

「どうしたのだ急に、ぼうっとして。」

「いえ、なんでもないわ。遊び過ぎてちょっと疲れたのかしらね......?」

 

 道中、正体がばれてしまい、数人の女子高生にサインを書いていたところ、マリアは集中を欠いたのか、長いこと棒立ちしてしまったらしい。普段凛としている彼女であるものだから、これもまた良いファンサービスだろうか、などと翼は考えていた。そして、当のマリアはというと、気が付かされた今でさえ、何かをその瞳で追っていた。

 

 

 

 そう...ふわり、と揺れる栗色の後ろ髪を......

 

 

 

「......ッ!」

 

 突如マリアが走り出す。後ろ髪を追って人混みをかき分け、さらに追いかけていく。まるでマリアを誘い込むかのようにその後ろ髪はゆらり、ゆらりと距離を離してゆく。その少女が奥の路地へと入り込もうとした瞬間、風がなびく。髪は搔き上げられ、その横顔が露わとなった。艶のある栗色の髪、透き通るような碧眼、自分によく似た顔立ち。そのときマリア・カデンツァヴナ・イヴは確信していた。いや、確信せざるを得なかった。心の中では克服した、頭でも理解している。しかし、過去の記憶がどうしても彼女の脳裏にちらつかせる姿がある……

 

 

 

「セレナッッ...............!!!!!!!」

 

 

 

「おい!どうした!マリア、大丈夫か?」

「セ、セレナが、、、いたわ。」

「セレナが?何を言っているのだ。お前の妹ならもう何年も前に......」

「申し訳ないが、他人の空似だろう。今日はもう帰ってゆっくり休もう。」

「ええ、ごめんなさい。やっぱり疲れているみたいね。でも、不思議だわ。本当によく似ていたの、あの子に。」

「髪や目の色だけじゃない、顔立ちも。ちょうど、あの子が今生きていれば、きっとあんな感じだったはずよ。本当に、本当によく似ていたの......」

 

 そうこうしているうちに栗毛の少女はどこかへと姿を消してしまったようだ。はたして、彼女はセレナに似ているだけの少女だったのか?マリアの頭の中はただその問いだけが支配していた。



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第2話「悲劇の再開」

「じー......」

「じーデス......」

「切ちゃん、やっぱり最近マリアの様子がおかしい。」

「確かにそうデス。この間翼さんとお出かけしてからずっと上の空デス。」

 

 

「「これは............恋ッ!!!!」」

 

 

「何故そこで恋ッ!?」

 

「うわぁ!つ、翼さんデスか。びっくりしたデスよ。」

「あぁ、すまない。なに、私もここ数日マリアの様子がおかしいのを気にかけていたのだ。」

「何か知っているようですけど、いったい何があったんですか?」

「それについてだが、場所を移そうか。」

 

 街中の喫茶店へと足を運ぶ。昔ではきっと珍しい組み合わせ、とでも思うのだろうが、今ではもうそんなことはないことに時の流れの速さを3人とも感じていた。

 カラン、カラン、と軽快な鐘の音と共に入店する。席につき翼は紅茶を、調はブラックコーヒーを、そして切歌はミルクティーを注文する。ほどなくしてそれらが運ばれると暖かな香りが鼻をくすぐる。

 

「美味しいデス!」

「うん。良い香り。」

「そうだろう?私のお気に入りなんだ。」

 

「それでは、本題に入ろうか。実はな......」

 

 先日の出来事を翼は説明する。マリアが急に走り出したかと思えばセレナを見たなどと言いだしたこと。本人曰く、もし生きていれば、というIFの姿としてあまりにもそれらしい、本物と見紛うほどの存在だったこと。そのどれもが信じられないが、マリアがそのような嘘を言うはずもなく、この様子から本当に見たのだろうということを。

 

「「セ、セレナを見たんです(デス)か!?」」

 

 一瞬、店内が静まり返る。顔を赤らめながらそそくさとカップに口をつけながらも二人は思考を巡らせる。何故セレナなのか、ただ他人の空似なのか。

 

「それにしても珍しいですね。マリアがこれほど影響されるなんて。」

「そうデス。たとえセレナのそっくりさんがいたとしても、いつものマリアならこうはならないデスよ。」

「ああ、そこが本当に不思議でならない。それとも、妹のことに気を奪われるくらいには平和になったと楽観するべきか......」

 

 prrrrr......prrrrr......

 

「司令からだな。はい、翼です。」

「おう、出かけているところすまないが至急本部に来てくれ。緊急ブリーフィングを始める。」

「何かあったのですか?」

「細かいことは本部で話す。それでは、申し訳ないがよろしく頼む。」

「了解しました。」

 

「何の電話だったんですか?」

「ああ、至急本部に来て欲しいと連絡を受けた。緊急ブリーフィングをするらしい。」

「何を話すんデスかね?」

「それも向こうに行ってからだそうだ。とにかく長居はしていられない。急いで向かおう。」

 

「「はい(デス)!」」

 

 

 -S.O.N.G.本部-

 

 

「皆、緊急招集をかけてすまない。しかし、放ってはおけない事態が発生した。」

「何があったんですか?師匠。」

「では説明しよう。その前に......藤尭!」

「はい。皆さん、この画像を見てください。」

 

 そう言って藤尭が見せた画像は何処かの工場らしき、いや工場“だった”場所が映されていた。ところどころ壁が黒ずみ、ぽっかりと歪な穴が空いている。そして画像のあちこちに五芒星のような黒ずみがある。

 

「なあおっさん、この星型の黒いのってもしかして......」

「ああ、クリス君の言う通り、これは人間の死体だ。」

 

 

()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 



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第3話「襲撃」

「ちくしょうッ!またノイズかよ......ッ!」

「それにしても変ね。アルカ・ノイズなら何故アラートも招集もかからなかったのかしら?」

「それについてはボクが説明します。」

「それではエルフナイン君、よろしく頼む。」

「はい、最初に結論を言うと、今回現れたのはアルカ・ノイズではありません。こちらで検知できませんでしたから。あるいは、何かしら特殊な改造がなされたノイズなのかもしれません。」

「じゃあ、新種のノイズってことデスか?」

「いや、ノイズを模して作られたものでしょう。」

「まさか?!錬金術ではない何かだというの?」

 

 外見はノイズの犯行なのに、その正体はノイズではない、ノイズを模した何者か。これが錬金術師が作り出したアルカ・ノイズではないとしたら、普通の人間の持つ技術、科学の力で生み出したとでもいうのか......

 この考えが導き出す未来は凄惨なものに他ならない。他の職員やシンフォギア装者以上にマリア、クリスの表情が曇る。

 

「話はこれだけではない。この襲撃された場所はアメリカにあるF.I.S.が所有していた工場で、クローン技術を主とした研究がされていたそうだ。そして、襲撃後、多くの研究資料が持ち出されていたとの報告を受けている。」

「くろーんぎじゅつ?」

「お前そんなことも知らねぇのか!」

「クローン技術......遺伝子が同じものを作る技術のことです。農業では早くからこの技術を使い、品種改良などに大きな影響を与えました。ボクとキャロルの関係を参考にしてもらえれば分かりやすいかと。ボク自身、元々キャロルのクローンみたいなものでしたからね。今ではキャロルの体ですが。」

「立花にはちょっと難しいかもしれないな。」

「え~そんなひどいですよ~。」

 

 一同の緊張も解れつつある中、マリアだけはまだその唇を噛み締めていた。そして、その緊張の糸を引き千切るようにアラートが鳴った。

 

「F.I.S.日本支部から支援要請。大量のノイズが国内の施設にも襲撃を始めたそうです!」

「よし、出動だ!何があるかわからない、いつもより気を引き締めて向かってくれ。」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

-F.I.S.研究施設-

 

 

 装者達が現場に到着するとノイズたちが施設内を跋扈していた。今までの無作為に襲い掛かるノイズとは様子が違う。

 すると、そこに1人の研究員らしき女性が現れた。こちらに手招きしているようだ。

 

「皆さん、S.O.N.G.の方々ですよね?私はここの職員です。あちらの部屋にはまだノイズがいないのでそこで話しましょう。」

「相手はノイズですよ?意味ないんじゃ......」

「バカ、アイツらの様子が変なのに気付かなかったのか?」

「そうなんです、あのノイズたちは意図を持って動いている様なんです。」

「今までは誰かに操られても、目標を攻撃するだけで、こんな統率のとれた、それも人間の中でもさらにターゲットを決めたような動きはしたことが無かったのに......」

 

 研究所内のノイズ達は道なりに歩き、物を破壊、もとい炭化させることなく歩き回っているという。それをチャンスと感じたのか、反撃を試みた者がいたようだが、敵対すると分かった者には容赦なく攻撃を仕掛けること、助けを請う、戦う意思がないことを泣き叫ぶような者へは攻撃してこないことを女性職員が説明する。

 

「ノイズがまるで人の言葉を理解しているみたいですね。」

「それはそれで怖いデス。」

「ん?なんか聞こえないか?まさか?!」

 

 ピピピとキーを打ち込む音が僅かに聞こえる。この部屋も気づかれてしまった。そう悟ると同時にロックが解除され、扉が開くと、その奥には仮面を被った女性が1人。

 

「ほう、まだ逃げ隠れる余力のある者が居たのか。」

「あなたは......ッ?!」

「ここの職員か。私を見たこともあるのだろうな。しかし、今の私はもうF.I.S.の人間ではない。寧ろ貴様らとは対立する存在にある。いや、敵対しているのは貴様らS.O.N.G.の連中もだがな!!!」

 

 そう言い放つと謎の女性が通信機のようなものを手にする。ピッとボタンを押すとその場に大量のノイズが押し寄せる。

 

「危ない!逃げて!!」

 

 たとえ怪しい者であろうとノイズの脅威からは救おうとする響。しかしその呼びかけに応じることなく、逆に彼女はノイズの頭を撫でるかのようにその手を伸ばした。

 

「フフフ......炭化するとでも思ったか?小娘。こいつらは私が作り上げた、私だけのノイズだよ。頭も良いし言うことは聞く。さて、お前たちはこいつらとどう戦うかな?今までの突っ込んでくるだけのノイズとは一味も二味も違うぞ!!!!」



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第4話「倒れても、塵とは消えぬ」

「くッ!!!なんだこいつらは!?いくら何でもやりすぎだろ!!」

「危ないクリスちゃん!」

「うわ!さんきゅ!クソッ!動きが読めねぇ......いや正確すぎる。」

「ええ、このノイズたち、明らかに戦術を駆使しているわ。」

「洗濯?」

「センジュツ、だよ切ちゃん。ゲームでよくある......」

「ゲームで済めばいいのだがな!こうも数が多くては洒落にならん。」

 

 装者たちは新種のノイズに翻弄されていた。隊列を組み、攻撃をいなし、避け、受け身をとる。入れ代わり立ち代わり互いをフォローし合うその戦い方はまさに軍隊、戦士の類である。

 

「こうなったらS2CAで!!」

「よせ!ここには生存者が多く居る!建物に被害は出せねぇ!」

 

「それにしても何故奴らは受け身をとる程の余力がある?」

「考えている暇はないわ!一点集中!各個撃破で殲滅するわよ!!」

「「了解(デス)!!」」

 

 長い攻防の末、どうにか新型ノイズを撃破することができた装者たち。しかし、そのノイズたちは炭化することなくその場に伏しているだけで、まるで生き物が死んでいるかのようだった。

 そして、仮面の女はいつの間にか姿を消しており、ノイズの遺体という違和感の塊を抱え本部に帰還することとなった。

 

 

-S.O.N.G.本部-

 

 

「今回の事件について、この特殊なノイズを戦術特化ノイズと呼称することにしました。」

「戦術型......あのノイズたち、防御力も異様に高かったみたいだが、ありゃどうなってんだ?」

「確かに...今までなら殴ったらすぐ炭化してたのにね。」

「それだけでない。天羽々斬で切り伏せた後も残った手足で立ち上がろうとしていた。」

「まるでゾンビ。」

「本当にゾンビかもしれないデス。」

「あれは防御力というより耐久力?かしらね。シンフォギアで戦ってあの結果ということは、本当にノイズを模した生物なのかしら??」

 

「マリアさんの言う通りで、あれがノイズそのものである可能性は極めて低いことが明確になりました。ただ今のところ対抗策が無く、シンフォギアでも撃破可能なことから現状維持になります。戦術特化ノイズの正体や仮面の女性についてはこちらで調査を行っています。」

「戦術特化ノイズの最も難儀なところはゾンビさながらの耐久力もだが、あの連携の取れた動き、個々の戦闘技能が軍人並みであることがそれを助長させている。なればやることは一つ!戦術には一枚上手の戦術を!!つまりは......」

 

 

「特訓ですね!!師匠!!!」

「おうとも!!!!!」

 

「はぁ...そんなこったろうと思ったぜ......」

「特訓......今度はどんなキツイことが待ち受けているんデスかね?」

「これは夏休みの宿題より手ごわいかも。」




ずいぶんと更新が遅くなってしまいましたorz
できるだけまめに更新するようにしたいですね......できれば週に1~2回かなぁ。


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第5話「つくられるということ」

 酷く簡素な空間だ。だが清潔ではない。古びたコンクリートには積年の恨みでも浮かんだかのような滲みやひび割れ。ヒールをならせばどこまでも音が響き鳴り渡る。蛍光灯はどれも不規則に瞬き、今にも消えそうで、この建物に住まう私たちのか細い心そのもののようだ。

 奥へ進み研究室へ入ると培養カプセルの中にはぷかぷかと可愛らしい生物が浮かんでいる。グミのような、ゼリーのような、飴玉のような、プリンのような。人々はこれを「ノイズ」と呼称している。こんなにも可愛らしいのに、こんなにも従順なのに、忌み嫌われ、そのくせ時には利用される。

 同じだ。私と。恐れられ、崇められ。なのに利用されている。道具で、玩具で、モルモット。嗚呼、お前たちは悲しくないのか。人間にいいようにされて。

 

()()()()()()おきながら、愛してもらえないなんて......

 

 出来上がったノイズたちは檻の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた。なんて可哀想。お前たちは荷物ではなく、等しくこの星に生まれた命だというのに。

 同情か、憐憫か、蠢くノイズたちを撫でる。天然物は触れた瞬間消し炭になるという。だがこのノイズたちは違う。敵か味方か選べる。殺すか殺さないか選べる。そして、この子たちにとって私は味方であるようだ。

 いつも一緒にいた。物心ついた時からずっと。朝夕を共にし、苦しみを、悲しみを、憎しみを分かち合った。

 ノイズたちはいろんなことを知っていて、たくさん教えてくれる。幾千、幾万、幾億もの夜を遡り、過去を、真実を語ってくれる。

 

曰く、人は愚かな生き物らしい。

曰く、人は悲しい生き物らしい。

曰く、人は破壊を好むらしい。

曰く、人は悲劇を好むらしい。

曰く、人は身勝手らしい。

曰く、人は非道徳らしい。

 

 

......曰く、人とは自らも滅ぶし、滅ぼすに値するらしい。

 

 

 ならば、私と同じお前らが言うならば。より高尚なお前らが言うならば。私を信じ、私に願うお前らが言うならば、

 

 

 私は喜んで人を滅ぼそう。私にはそれを成し遂げるだけの力がある。人にはそれを受け入れるだけの責がある。いつか人がいなくなりし日が来るのなら、そこには何者が何物をも虐げることの無い恒久平和が、永遠の楽園が、或いは新しいこの星の歴史が始まる。

 やってみせようとも。ノイズたちは絶え間なく増え続け、個の力を、群れの力を増やしている。後は、私がこの烈槍を振るうのみである。

 

 

 

-雪音クリス宅-

 

「お前らいつまで宿題なんてやってんだ!ダラダラしてねぇで、ちゃっちゃと済ませろよな!」

「うぅ......クリス先輩はなんでそんなに早く終わるんデスか......」

「流石、成績優秀者は違う......」

「あぁ?!こんなの頭の良し悪しなんて関係ねぇっての!やりゃあ終わるんだからよ!」

「リディアンは音楽院のはずデス。なんでクローン生物と社会についてのレポートなんて......」

「あぁ、それはたぶんこのニュースだな。」

 

 呆けた顔で画面をのぞき込む切歌。そこには様々な動物の写真が写っていた、同じ見た目のものが複数。どうやらアメリカのとある研究所で違法な研究をしていた科学者が逮捕されたということらしい。人間のクローンに手を染める一歩前だったとか。

 調はSNSで検索をしている。実はもう人間のクローンも作っているだとか、秘密結社の仕業だとか当たり障りのない噂が電子の海を泳いでいる。

 

「切ちゃん、いろんな噂が流れてるみたいだよ。」

「どれどれ......おお!オカルトマニアの心をくすぐりそうなものばかりデス!」

「んぁ......??おお、結構話題になってるもんなんだなぁ。」

「そういえば、マリアがこの前見たっていうセレナのそっくりさん、もしかしてクローン人間だったりして。」

「それはさすがにないデスよ、調~。」

「ほら、気分転換もしたし課題、、、進めろよ~~。」

「はぁ、クローン人間を作って宿題とか全部ソイツにやらせたいデス......」

「高望みし過ぎだ。そんなことして復讐でもされたらどうすんだ。」

「真面目にやるしかないみたいだね、切ちゃん。」

「デース......」



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第6話「よからぬ期待」

「ふぅ~~♪やっぱりトレーニングの後のシャワーは最高デスね!」

「うん。疲れが吹き飛ぶ......。」

「こら、切歌、はしたないでしょう!」

「あ...アハハ...ついついやってしまうデスよ。」

「でも、シャワー浴びた後そのまま扇風機にあたるの気持ちいいよね~!」

「こら、響もっ!」

「ひどいよ未来~。」

「(こいつはなんでシャワールームにいるんだ!?)」

「それにしても、なかなか慣れてきたな、戦術特化ノイズへの対策は。」

 

 装者たちはトレーニングを終え、雑談に耽っていた。戦術特化ノイズに対抗すべく様々な戦闘技術や兵法を学び、実践に活かすためのトレーニングを続ける日々。各々の特性を生かしたフォーメーションも出来上がりつつあった。

 

 

-S.O.N.G.司令室-

 

 

「皆、トレーニングご苦労だった。だいぶ慣れてきたと見える。疲れているところ申し訳ないが、このままブリーフィングに移る。」

「先日、アメリカのとある研究所で科学者が逮捕されたニュースはみなさんご存知かと思います。この研究所というのが、F.I.S.のものであるということが判明しました。」

「それから、この研究所の下請けとして様々な実験が行われていたところが以前皆さんに見ていただいた襲撃後の工場や緊急出動して頂いた研究施設ということも分かりました。」

 

「ということは、あそこはクローン技術の研究をしていたのね......。」

「ハイ、そうなります。そして、戦術特化ノイズもクローン技術によって生み出された可能性が浮上しました。」

「太古の人類が作り出したノイズ......。それをまた人類が科学の力で一から作り出せるようになるとは......。」

 

 暗い表情を浮かべる面々。かつてフロンティア事変でバビロニアの宝物庫を閉じることができたというのに、これでは骨折り損である。それらの原因として深く関わっていたマリア・クリスは特に悔しさを浮かべていた。

 そしてマリアの脳裏にまたあの少女の姿がよぎる。戦術特化ノイズの出現でしばらく忘れていたが、「F.I.S.」「クローン技術」「日本も関わっている」これらの事実がマリアの心によからぬ期待をさせてしまう。

 

 

-マリア・カデンツァヴナ・イヴ宅-

 

 

「なぁ、マリア。」

「ん...何?翼。」

「暁と月読からも聞いた。最近ずっと様子が変じゃないかと。ノイズが出てから落ち着いてきたが、先ほどからまた不安そうな顔をしてばかりだ。まだ、気になるのか?先日のあの子のことが。」

「調や切歌にまで心配かけちゃうなんて、まだまだね......。」

「ええ、そうよ。どうしても忘れられなくて、しかもクローン技術の話を聞いてからやけに現実味を帯びちゃって、ずっと頭の中に残るの、あの子の姿が。」

「そうか、忘れろとは言えない。でも、戦闘中だけは気にかけない努力を頼む。お前を失っては皆も、私も困るからな。共に真相を暴こうではないか。たとえ良くない結果だったとしても腑に落ちることは間違いない。」

「ありがとう、翼。少し、楽になったわ。」

「ほら、もう無理をしている。仕方ない、今日は泊まらせてもらおう。」

 

 マリアは微笑みを浮かべる翼の優しさに、ついつい甘えてしまった。情けないと思いながらも、今は彼女に付き合ってもらうことにした。



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第7話「徒花の如き」

 未明。けたたましく鳴り響く警報。S.O.N.G.本部は平静を失っていた。それもそのはず、突如東京上空に巨大ノイズが出現し、そこから今までの記録に無いほどの大量のノイズが投下されていた。

 

「緊急出動!緊急出動だ!!あおい!全装者に連絡と出動命令!藤尭は現場状況の確認!緒川は避難誘導の漏れがないか確認を!他オペレーターは各種機器、計器の調整、監視!!いきなりだが総力戦になる、総員覚悟して挑め!!!」

「司令、装者全員現場に到着しました。目標は上空に待機、現在溢れてくるノイズを確認中......特徴から戦術特化ノイズと断定します。」

「了解した!お前ら全員聞こえるか!住民の避難誘導はほぼほぼ完了している。あとはノイズ共を殲滅するのみ!しかし敵はあの厄介なノイズだ!気を引き締めていけ!」

 

 

「「「「「「了解!!!!!!」」」」」」

 

 

 装者たちは鍛えた技と戦術を持って次々とノイズを倒してゆく。が、その数は一向に減らない。

 

「クソッ!!なんだこのふざけた量のノイズは!?!?」

「......クッ!!!だけどXDになるにはまだフォニックゲインが!!!」

「こうなったらコンビネーションアーツよ!!クリス!いけるわね!?」

「任せろ!!」

 

【Change ☨he Future】

 

マリアとクリスのギアが合体し、ひとつの戦闘機のようになる。ギアのブースターに熱が入り、激しくノイズを一掃してゆく...はずだった......。

 

「うわぁ!?」

「グッ、アァ!?!?」

 

 これでノイズを殲滅できるかと思いきや、フォニックゲインの数値が想定よりも低く、突如2人のギアは分断され地面に打ち付けられる。他の走者も同様コンビネーションアーツを使いこなせないでいる。

 

「これは......まさか!?!?」

「エルフナイン!何かわかったの?」

「はいッ、皆さんに戦術特化ノイズに対抗するため、様々なトレーニングをこなしてもらいましたがこれが仇となったようですッ。効率の良い戦闘、効果のある攻撃に意識が行き過ぎてフォニックゲインの根幹たる感情の表出が弱くなっている可能性があります。だから大型のコンビネーションアーツを発動する程のロック解除がなされていない!」

「感情が薄くなったっていうことデスか?」

「いや、たぶん技術にリソースを振り分けすぎて......」

「つまり、熱くなれていないってことですか!?師匠!?」

「そういうことらしい!」

「しかし、どうすれば......もはやここまでだというのか??」

 

「だったら!S2CAで!!」

「試してみるか!」

「了解した!」

「私達はフォローするデス!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

 

 

「セット!ハーモニクスッ!!」

「「「S2CA!トライバースト!!!」」」

 

 初期の頃より培ってきたコンビネーションアーツ。いままでどの土壇場でも使いこなしてみせただけあって、何とか成功した。しかし、これで倒せたノイズはまだごく一部。これでは響の体力が持たない。ヘキサゴンバージョンを放つ隙は与えてくれそうにない。未だ絶体絶命であることに変わりはないようだ。

 

 そこへ、上空の巨大ノイズからあの仮面の女が降りてきた。

 

「仮面の女!やはり貴様が黒幕か!!」

「黒幕とは、よくもまあ悪党扱いしてくれるな。それはさておき、どうだ?私のクローン・ノイズたちは。なかなかやるだろう?共に苦しい思いをしてきただけあってかなり強いぞ。こいつらは。」

 

 やはり、このノイズたちは大量生産されたものだった。そのうえ戦闘技術を叩きこまれた、知能あるノイズたちであることが裏付けられた。

 

「私を作った奴らは言っていた。私をノイズの女王として集団戦闘の核とすると。そしてソロモンの杖などに頼らない、真の意味で人間に制御可能なノイズを作り上げると。私は望み通りノイズの女王となった。そしてノイズに導かれ今、ここにいる。」

 

「私はこの星の救済者となる存在だ。愚かしい人間を抹殺し、この星の生けるものを抹殺し、ノイズだけの世界を創る。この世界はあまりにも醜い。私はそれを身をもって体験してきた。この雪辱を晴らすためにも、そして私を導いてくれたノイズのためにも、、、」

 

 

「この星を......焦土と化さん。」

 

 



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第8話「烈槍、襲来。」

―Granzizel bilfen gungnir zizzl―

 

「なっ...!聖詠!?」

 

 

 仮面の女の胸元が赤く光る。この輝きは紛うことなくFG式回天特機装束、即ちシンフォギアのギアペンダントのものである。漆黒の深利が彼女を包み込み、そして締め上げるように四肢に張り付く。そこから形成される鎧はまさにシンフォギア。一段階、二段階と変形(リビルド)してギアの強度を高めてゆく。腕のバングルから射出されたアームドギアは大槍へと姿を変える。そう、その姿は......

 

「黒いッ...ガングニール、、、だとぉッ!?!?」

「そ、そんな...なんであのギアが......。マリアさんのガングニールは今私が纏ってる...。じゃあ、あれはどこから??」

 

「フフフ、随分と驚いているようだなァ?だが驚くにはまだ早い!!」

 

 すべてのアーマーの着用が終わり、頭部のヘッドギアが装着される。それと同時に彼女の仮面が砕け散る。すると、今まで隠れていた栗色の長髪が軽やかに舞い上がる。搔き上げられた髪の隙間から覗く顔は、マリアの顔によく似ていた。

 

「セレナ、やっぱりあなただったのね。言葉を聞くに、あのノイズたちと同じ、あなたもクローン。違いないでしょう?」

「おや?お前なら狼狽して泣き崩れて、終いにはそのギアを脱ぎ捨てるかと思ったが......、随分骨があるようだな。私の中のセレナが知っているお前とは違う。」

「当り前よ。あれからもう何年もたっている。あれからいろんなことがあった。たくさん悔しい思いもした。今回も心が折れそうになった。たくさん悩んだ。でも、もう決めたの。」

 

 みんなは他のノイズをお願い。彼女とは私一人でやらせて。そう言って装者達を置いて前に進む。

 

「今だけは......、絶対にうろたえないッ!そしてッ!!今度こそあなたを救ってみせるとッッ!!!」

 

 

「私を、救ってみせる、、、だとォッ!?!?」

「冗談はその程度にしておけ。あまり巫山戯たことをほざいていると...この烈槍が黙っていないぞ!!!!」

「どういうことよ!?」

「チッ......。これだから平和ボケした連中はッ!!」

 

 瞬間、セレナはガングニールを強引に振るい、マリアに襲い掛かる。2人の戦力はほぼ互角、ひたすら剣戟が続く。他の装者たちは溢れかえるノイズの対処をする中2人の衝突は激しさを増す。

 マリアは信念を貫く。魂は違えどその身は同じ。またこの子にシンフォギアを纏わせることになってしまった。そんな迷いを打ち消すほどに強く、負けじと短剣を振るう。

 

「はぁぁぁッ!!!!」

 

 マリアの力にじりじりと押され後退するセレナ。隙の生じた瞬間に潜り込まれ大きなきな一撃を食らい、遥か後方へ突き飛ばされる。

 

「ぐッ......。なかなかやるではないか。」

「えぇ、貴女のためだもの。絶対に負けられない戦いよ。」

「いい加減にしろ。セレナを救うだと?分かっているはずだ、私はセレナの姿をしているに過ぎないと。本物のセレナはとうの昔に死んでいると。」

「そんなこと分かっているわ。でも、セレナの記憶はあるんでしょう?だったら、あの時のセレナが目覚めた。それでは駄目なのかしら?」

「ああ、もちろんだとも。セレナの記憶を引き継ぎ覚醒した私は人間にいいように使われ続けた。このノイズたちもだ。セレナの記憶を思い返しても、いやな気分になるだけだった。好き勝手やって、守られて、そのくせまだ利用したがる。お前だってあの時、私に頼るしかなく、ナスターシャもお前を守ることしかできなかった。」

「それは......」

 

「お前だってその後ナスターシャとウェルに利用されただろう?事が終わっても魔法少女事変が始まるまでは国連に利用されてきただろう?」

「いつだって、人は何かを利用して、犠牲にして自分を守ろうとする。それが嫌いなのだ。憎いのだ。」

「せめてフロンティア事変の時にお前がフィーネとして覚醒していれば、或いはマリア・カデンツァヴナ・イヴとして君臨し続けていれば、奴らも気づいていただろう。必要以上に利用する愚かさを。」

 

「だがそれもできなかった。お前がただの優しいマリアのままだったから。私も!お前も!他の装者も!ノイズたちも!......。結局人間にいいようにされているだけじゃないか......。」

「私はノイズたちの記憶も伝えられた。ノイズ自身の手によって...。そこでも人間は今と同じだった。今の人間は何も変われていなかった。だったら......!!」

 

「私の手で終らせれば、この世の全て、もう悲しまずに済むだろう???」

 

「そろそろ終わりにしようか。来いッ!!!!!!」

 

 突如、ノイズが彼女の方へと向かって行く。いや、これは吸い寄せられているのだろうか?次々と彼女のギアへと融合し、マリアを覆いつくすような、遥かに凌駕した体躯へと変化した......。



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第9話「不協和音に沈む」

「な、何だ?!急にノイズ共が...!」

「あれは...ずるくないデスか?!」

 

 一部のノイズが装者たちの元を離れ、セレナへと集まり、ガングニールと融合して行く。その装甲はぶくぶくと膨れ上がり、4,5メートルほどの巨大なパワードスーツのような姿に変わる。

 体格差、パワー、スピード、全てにおいて今までと比べ物にならない。次第に追い詰められてゆくマリア。しかし、他の装者が彼女に加勢しようと試みるも、ノイズの数が多すぎて、まともに近づけそうにない。

 

「ずるい、だってぇ??全力を出しているんだ、喜んでほしいものだね!!」

「くっ、さすがにこれは...」

 

 さすがのマリアでもこの力量差を覆すことができないでいる。そこへ...

 

「切歌ちゃん、調ちゃん!もう一度、SC2Aを使うから、残りのノイズを集めてくれる!?」

「立花?!...仕方ない。不承不承ながら了承した!」

「しゃーねーなぁ!!手伝ってやる!おいチビ共!!あたしらが残りの力を使って雑魚を蹴散らす!」

「あとは、マリアさんをお願い!!」

 

 切歌と調が他のノイズを上手く寄せ集め、誘導する。そして、響、翼、クリスの三人はS2CAを発動させようと体勢に入る。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal----

 

「ふん、捨て身覚悟で他のノイズを消しに来たか。だが、そうはさせん!!!」

 

 セレナが天に掌を翳す。すると他のノイズたちが次々と吸い込まれ、さらに巨大な姿へと変容する。

 が、しかしセレナの様子がおかしい。

 

「グッ......、、、何だ?!?!おい、ノイズ!もういい!これ以上融合しなくていい!!これではガングニールが持たない!!!!おい!聞いているのか?!?!?!」

 

「セ、セレナ???」

 

「グ、アアアァァ!!!!やめろ!これ以上融合するな!」

「い、嫌だ!!呑まれる!!嫌だ!!死にたくない!!!嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「セレナ!!!!」

 

 暴走したノイズがセレナを呑み込んでゆく。このままではガングニールが耐えられずに、ギアが破壊されてしまう。

 ノイズたちはセレナを炭化させはしないだろう。今までそのように訓練されてきたからだ。即ち、ギアをまとわぬセレナがこの暴走したノイズの群れに身を投げるということは真の意味でノイズの融合に巻き込まれるということだ。これだけは避けなければ。

 

「敵データの更新は終わったか?!」

「ハイ、こ、これは...!!緊急出動レベルです!」

「なん...だとォッ?!絶唱のエネルギーを溜め込むのはまずい、今あの三人にはS2CAを撃たせるしかない。となればあれを倒すのは...ッ。」

「皆さん!聞こえていますか?!あれを急遽、クイーン・ノイズと仮称します。これを討伐できなければ、この街を丸々飲み込みかねません。対象の討伐を優先してください!」

 

「エルフナインちゃん、セレナちゃんを助けるのは譲れない!大丈夫、このままS2CAを敵装甲部へ打ち込みますッ!!少しは装甲が剥がれるはず、、そしたらセレナちゃんを!!」

「分かったわ!調!切歌!射線から外れるわよ!」

「了解(デス)!」

 

「S2CA!トライ!バースト!!」

 

 三人の残りの力を込めたS2CA。それはクイーン・ノイズの装甲を大きく抉るが、セレナの救出には至らない。高火力の攻撃があと一つ、足りない。

 

「そ、そんな...これじゃセレナちゃんが...。」

 

「諦めちゃダメよッ!響!それに翼とクリスも!そこで見ていなさい。私が、私達がセレナを救って、あのノイズも倒して見せる。二人とも、行くわよッ!!」

 

 そう言うと三人はLiNKERを取り出し首元へ注射する。体が悲鳴を上げる。だが、フォニックゲインは高まる。ならば、力が高まるその限り彼女たちは戦い続けてみせると、救って見せると巨大な影の中へ吸い込まれていった。



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最終話「カデンツァの系譜」

♪-旋律ソロリティ-

 

「セレナ...今、今度こそ貴女を救うわ。」

「たとえクローンでも、セレナはセレナ、アタシたちの大事な仲間デス!」

「うん。絶対に...連れて帰る。」

 

-どこからだろう? 声が響く 立ち上がれと 言っている

           いつからだろう? 鼓動が打つ 勇気を掲げ今......-

 

「「「明日へぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」」」

 

 クイーン・ノイズの傷口からぼろぼろと分離し崩れ落ちるノイズ。肌を伝うように流れ落ちてゆく様はまるで涙のよう。果たしてそれは賭けた理想を呑まれたセレナの涙か、それとも人への憎しみを忘れぬノイズの涙か。巨大な咆哮を上げ、それは3人を迎え撃つ。

 

-自分よりも相手を-

 

 アガートラームが切り開く。

 

-信じることをしたくて-

 

 イガリマが切り払う。

 

-上手くは難しいけど-

 

 シュルシャガナが切り墜とす。

 

-教える背を追って 弱さを断ち切ろう!-

 

 3人の連携に為す術もなく倒れゆくノイズ。人間を巧く、確実に仕留めるよう教育された彼らにとって、たった3人。僅かな人間にこれほどまでに蹂躙されるのは恐ろしい光景であった。シンフォギアに背を向け死ぬもの、同じノイズを庇い死ぬもの。

 しかし、倒れゆくときは皆必ず一つの願いを胸に切られる。セレナを、ノイズの女王を覚醒させるのだと。たとえそれが彼女の意志でなくとも人を滅ぼすために心を通わせた身。で、あれば...

 

-強さの 理由に 溺れ足掻いて 闇に飲まれてた ちっちゃなカラダに 未熟な心-

 

 再び咆哮を上げるクイーン・ノイズ。3人は負けじと声を張る。互いに叫び合う。セレナはこちら側のものだと。お前たちには渡さないと。

 

-「頑張れッ!」 って言葉 ちゃんと受け止め 答えて行きたい

                  キ ・ ズ ・ ナ!旋律にして

                           歌に束ね ぶち抜け空へ-

 

「切歌!調!あれをやるわよ!!」

「了解(デス)!!」

 

-涙しても拭いながら 前にだけは進める-

 

 3人が空高く飛翔し、空中でマリアを中心として右肩に切歌、左肩に調が手を乗せ、マリアはアガートラームをクイーン・ノイズへ向けて構える。

 ガントレットに打ち込まれた聖剣は強く輝き出し、翅のようにフィンを広げる。

 

-傷だらけで 壊れそうでも 「頑張れッ!」が支えてる-

 

「あれは...ホライゾンキャノンか?」

「いや、違う。よくみてみろ、雪音。」

「アガートラームに3人乗力が集まっていく...」

 

-高くは 飛べない ガラクタ それでも踏み出す-

 

「後ろ!」

「だけは!!」

「向かない!!!」

 

 イガリマのバインダーとシュルシャガナのコンテナが巨大化し、左右に大きく開く。

それは巨大な羽を携えた不死鳥の如く、輝き、光の粒子を放つ。

 

「ぜ!・っ!・た!・い!・にぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

 

【TRINITY✞SPARKLE】

 

 

 アガートラームの切っ先へ光が収束し、巨大な一閃を放つ。クイーン・ノイズの装甲を溶かし、抉り取る。三位一体の技が貫いた先にはセレナの顔が。どうやら意識は残っているようで、再びもがき始める。それを諌めるようにノイズが彼女をクイーンの中へ取り込もうと絡みついてゆく。

 

「マリア!今(デス)!」

 

「セレナ!こっちへ来なさい!貴女にはまだ話すことがたくさんある!貴女とやりたいことがたくさんある!貴女に見せたいものがたくさんある!確かに人間は馬鹿で愚かよ。もちろん私達のような力を持ったものでも。でもね、それでも人間なんか滅びればいいなんて、そんな事絶対に思えないくらい幸せなことで世の中は溢れているわ!」

 

「でも......でも、私はもうそっちへは戻れない!...もう決めたのだ!人を滅ぼすと!一度決めた!実行した!ここまで来たら、もう完了させるしかないじゃないか!」

 

「違う!そんな事ないわ!私は覚えている。貴女と過ごした日々を。幸せを知っている貴女の顔を!あのときだって、血を流しながら貴女は人を守ろうとした!あのときの貴女のギアを、思いを受け継いで私は今ここにいる!守ると決めた誰かの、愛の盾に!貴女のその思いを受け継いだ私とこのギアならば!今、貴女をも救ってみせる!」

 

「貴女がまた利用されそうになったら私が守る!誰かに傷つけられそうになったら私が守る!全部、全部守る!貴女の身も、心も...」

 

「私が!!守る!!!だから、迷っているのなら、少しでも心が揺らぐなら、助けを請いなさい、セレナ!!!!」

 

 思いの丈をすべてぶつけるマリア。妹の一瞬の心の迷いを彼女は見逃さない。セレナ・カデンツァヴナ・イヴが結局はノイズの憎しみに利用されていたことを、本当は心の底から人間を憎んでなどいないことを、彼女は確信していた。

 

 

 

「...m、マ...マリア姉さぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

 

 顔をくしゃくしゃに歪め、ようやく本音を叫んだその声が姉の元へと届くのはいとも容易かった。

 

「セレナァァァァァァアアア!!!!!!!!!!」

 

 

【SERE✞NADE】

 

 

 聖剣を今度は逆手にガントレットへと打ち込み、ブースターが火を噴く。

加速、加速、更に加速。ノイズが彼女を呑み込む前に、撃ち抜く。

 セレナを抱えたままクイーン・ノイズを貫通し、激しく着地する。すると、力を維持する核を失くしたためか、ノイズが崩れ落ちてゆく。

 

「セレナ、止めを刺すわよ!」

「はい、マリア姉さん!」

 

 セレナは右手を、マリアは左手をクイーン・ノイズへ向け、互いに両手を握り、セレナのガングニールを構える。二人のガントレットからフィンが広がり、白銀と漆黒、二対の光が放出される。

 

「すまない、マリア姉さん。私、ノイズに騙されていた。たしかに人間への恨みは持ったし、本気で殺してきた。でも、今になって理解できた。あの、ネフィリム起動実験の事故があった日、それでも人を守ると、愛の盾になると決めていたことを。」

 

「良くはないわ。貴女のやってきたことは。それでも今、私と、私達とここにいる。私だって、人を殺したことはあるわ。だから今、正義を信じて、貫いて、償っている。貴女もこれからは私達と共に償うのよ。その罪を。大丈夫、天は、神様はしっかり見てくれているわ。」

 

「ありがとう。じゃあ、まず、最初の償いは...」

「クイーン・ノイズを、倒すことよ!」

 

「「とどめぇ!!!」」

 

 

【VICTORY✞KADENZ】

 

 

 白と黒の光が混じり合いながらクイーン・ノイズへと放たれ、最後の咆哮を上げながらそれは崩れ落ち、消失してゆく。

 

----------------

 

「や、やったぁ!マリアさんと、セレナちゃんが!」

「ふふっ、流石だな。」

「ああ、よくやったぜ。」

 

「セレナ。」

 

 改めて妹の名を呼ぶ。きっとその声色はあのときのままで、今、彼女にそのように聞こえるように。

 

「ありがとう。私に、私達に応えてくれて。貴女はノイズの女王なんかじゃない。私は信じていたわ。」

「な、なぜ?」

「ふ、ふふっ!ふふ、くふふふ!!」

「ほんと、おかしい(デス)。」

「な、何がおかしい?!」

「だって、あなた、昔の私達にソックリなんだもの!」

 

「相手の善を信じないあたり、頑固な調に似てるデス!」

「勢いで大技に出るあたり、考えなしの切ちゃんに似てる。」

「結局、優柔不断で自分の正義を信じられなかったあたり、私に似ているわ。」

 

「な、何だそれは。わ、私がそんなわけ無いだろう!」

「なんだか、セレナに反抗期が来たみたいで楽しいデスね。」

「うん。とっても意外。」

 

 まあまあ、と、これ以上からかうことを静止しつつマリアは問いかける。

 

「セレナ、これからどうするの?貴女さえ良ければS.O.N.G.に来ない?きっと司令も許可してくれるわ。シンフォギア奏者が増えるんだもの。同情じゃない、貴重な戦力として貴女を迎えたいのだけれど...」

 

「いや、私はいい。さっきは共に償う、なんて言葉に惹かれはしたが、まずはこの世界を色々見て回りたい。今まで暗い研究所で生きてきた身。人の愚かさ以外、まだ何も知らないのさ。」

 

「そう、じゃあせめて門出の餞ぐらいはさせて?」

 

「わかった。だが、それが終わり次第私は行く。姉さんが言っていた世の中の幸せを、人間の良いところを探したい。それがわかって、自分の罪の重さを知ってから、そのときからは私はシンフォギア装者として、力を存分に振るおう。」

 

「それじゃ、帰りましょう?セレナ!」

「はい!マリア姉さん!」

 

 黒いガングニールの少女は凛とした瞳と、満面の笑みで応えた。栗色の艷やかな後ろ髪を風になびかせ、その足取りはふわり、ふわりと姉の影を踏む。

 

 なぜだろうか、ノイズたちと記憶をかわしたときは、過去のセレナが憎しみに満ちた血涙を流していたというのに、今、記憶の片隅で彼女は笑っている。誇りに満ちたその眼差しを解する日まで、姉がその思いを継いだように、いつか自分も愛と正義を掲げたいと、そう胸に刻み朝焼けの中に溶けていく。

 

 

 

『戦姫絶唱シンフォギア-カデンツァの系譜-』完

 

 

 



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