転生戦姫の恋事情。~転生して三千年、目覚めたら乙女ゲームが始まりました~ (れーと)
しおりを挟む

プロローグ

こんにちは、『れーと』と申します。
この小説は『小説家になろう』でも連載しているものです。
感想、評価、お待ちしています。


「戦姫様!戦姫様ッ!」

 

 

 

遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。

 

最後までその名で呼ばれるのね。

 

一度でいいから名前で呼ばれたかったな。

 

 

 

朧な思考の中で今に至るまでを思い返す。

 

 

 

エルガルト王国の剣―カナストル公爵家に転生して、三歳から戦場に立った。

 

今でも思い出せる。

 

初めて味わった強烈な血の香り、人を斬る手の感覚。

 

何回も吐いて、何回も泣いて、それでも戦場に立ってきた。

 

世界大戦真っ只中な世界で生きるために、ずっと剣も魔法も磨いてきた。

 

でも、それだけじゃ足りないって知って。

 

前世で大好きだったロボットをもとに、敵殲滅兵器を作り上げて―

 

いつからかみんなから〈戦姫〉って呼ばれるようになったんだっけ。

 

気が付いた時にはもう、隣にも前にも誰もいなくなっていて。

 

それで―………

 

 

 

(あ、私。死ぬのか)

 

 

 

もう、ろくに保てない意識で考える。

 

氷の戦姫って呼ばれるけど、まさか死ぬときの魔法も氷とは―

 

 

 

くすっ、と笑みがこぼれる。

 

いや氷漬けになっているのだから、ちゃんと顔に出ているのかは分からないけど。

 

 

 

まさか異世界に転生して十八年しか生きられない、だなんて。

 

生まれてから死ぬまでずっと戦場にいた気がする。

 

ここ、世界設定は前世でやっていた乙女ゲームの世界そのままなんだけどなぁ。

 

そもそも、ゲームの中じゃ世界大戦なんて起きてなかったし。

 

メインヒーローの王子すら生まれていないし―

 

折角乙女ゲームの世界に来たなら悪役令嬢でも、モブ令嬢でも何でも良い。

 

 

 

恋に落ちて青春したかったなぁ……

 

 

 

 

 

(軍姫とか、戦姫とかじゃなくて。アミスって、呼びかけて、欲しかった、な、ぁ―)

 

 

 

暗闇に落ちていく感覚がした。

 

 

 

頬に何かが伝った。

 

 

 

ねぇ、神様。いるのなら。

 

血に染まった私を、救ってくれるのなら。

 

もう少しだけ―

 

 

 

「ぃ、き…た……い」

 

 

 

舌がうまく回らなかったからきっと誰も聞き取れないだろう。

 

そもそも声になったかも分からない。

 

戦場でたくさんの人を殺めた戦姫にかける情も、ないだろうし。

 

 

 

 

 

あぁ

 

前世で憧れた魔法とロボット。

 

 

 

それを両方を、血で穢してしまったな……

 

 

 

殺戮兵器だの、SSS級軍魔法だの。

 

 

 

連発して、戦場駆けて。

 

 

 

ただ敵を滅していって。

 

 

 

得たかったものって何だろう。

 

 

 

あぁ、分かんないなぁ。

 

 

 

分からない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主ノ生命危機ヲ確認。回避シマス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、意識を手放す直前に聞こえた機械音この声は

 

 

 

 

 

何を得たのかも分からぬまま

 

 

 

 

 

まるで、神様の存在だけを肯定するかのように

 

 

 

 

 

私の願いを聞き届けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued………

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一章・七歳、出会い編
少女の目覚め(1)


投稿日が変なことになっていますが、気にしないでください★


青い結晶石がきらきらと照らす洞窟の中を一人の少年が歩いていた。

ランタンを掲げ行く先を照らしては、何度も地図と比較している。

 

「うーん……さっきのところからずっと一本道だよねぇ。もうそろそろ氷の大広間についてもいいころだと思うんだけど……」

 

困惑した様子で辺りを見渡し氷に手をあてる少年。

 

「ふむ…何千年か前に大魔法使用の痕跡あり……うー、やっぱり前に進んでみるかぁ」

 

お化けを怖がる子供のような様子で再び少年は足を進める。

淡い青白の光が七歳になった少年の背に影をつけていた。

 

「…ん?出口だ……!」

 

今までとは比べ物にならないほどの光に思わず目を細める。

すると細い道から一変、明けた先には大きな空間が広がっていた。

魔力の影響なのか、まるで太陽のような明るさで結晶石はソレを照らし出す。

 

「…氷像………?」

 

青白の光を受け輝く巨大な氷。

縦三十メートル、横八十メートルくらいの氷像にしては不格好な氷。

しかし青いクリスタルの光を受けて輝く氷ソレはとても幻想的なモノだった。

―それは少年が思わずため息をついてしまうほどに。

 

しかし一分もすれば、少年は氷から目を離し大広間を歩き始める。

あちらこちらに人の骨のようなものが落ちているが見ないふりだ。

あとは、鉛玉のようなものやナイフらしきものなどもチラホラと見えた。

 

一番驚いたのは失われたといわれている大魔法の魔法陣跡。

大きさから考えると、五、六人の術者の命が必要になってくる。

一体どんな敵を殺したのやら。

 

そこまで考えたところで少年はふと顔を上げた。

視線の先にはさっきまで見ていた大きな氷。

床の魔法陣とその氷を見つめては何なら考えている。

 

「え………?」

 

おそらく術が発動したであろう場所から氷へ向かって視線を追っていくと、何か認めたくない現実を突きつけられたような表情をして少年は一歩退いた。

その顔には困惑の表情が強くにじみ出ている。

 

「おんなの…こ?」

 

ようやく絞り出したようなその声は困惑と恐怖で震えていた。

少年の紅い瞳は氷の中央にいる一人の少女に釘付けになっている。

さっきまでは神聖さすら感じていたその氷像は、今や少女をとらえる牢獄にしか見えなくなっていた。

 

「!」

 

しっかり三分は経った時、なにを思ったか少年は駆け出し氷像に手を当てて呟いた。

 

「〈融けよ〉」

 

無駄に溢れている大気中の魔力を全開に使って〈魔法〉を発動させる。

大火災が発生したわけでも、大地震が起きたわけでもないのに巨大な氷は見る影もなく融け去っていく。

 

「よっと」

 

「親方ー空から女子がー」的な感じに少年は少女を受け止める。

 

「……………え」

 

のちに少年は語る。

ここで気絶しなかったことが今回最も褒められるべきだった、と。

 

「うそ……生きてる……………」

 

自分の腕の中ですぅすぅと寝息を立てる少女。

極寒の氷の中に閉じ込められていて、今息をしている――

 

「え、なんでぇ………」

 

あまりに荒唐無稽な話に少年の呆けた声が広間に反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・・

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の目覚め(2)

「……ぅ、ん………?」

 

今まで感じたことのない暖かさと心地の良さを感じながら目を開ける。

あれ、今何時だろう。

フェレベティシア軍を追い返したから、しばらくは安全なはずだけど――

 

「え」

 

視界に飛び込んできた情報が信じられず呆けた声が漏れる。

いつも寝ているボロボロの仮眠室ではない……?

天蓋付きのふわふわベッドから始まり、上質なものだけで飾られた部屋。

―――ココどこだッ?!

どこの国に世界大戦中にこんな豪華な暮らしをする奴がいるんだよッ!

愚王のいたベスファチアだってもっと………

 

「あれ、私。生きている………?」

 

状況確認をしていたせいで忘れていたけど、なんで私生きているんだ?

氷漬けにされたはずじゃ…

あー、もしかしてまた転生した?

マジか。人生で二回目の転生。

三回目の人生スタート…的な感じなのかな?

それとも――

ううん。考えていても仕方ない。

取り敢えず自分の姿を見て見よう。

もう一度辺りを見渡すと少し離れたところに鏡台が見えた。

…行くか。

早速床に足をつけると、扉のほうから声がした。

 

「あ!目が覚めたんだね!気分はどおう?」

 

目を向けると無邪気に笑う少年が目に入る。

ファンタジー特有の鮮やかな空色の髪。

年齢は九歳といったところだろうか。

 

「え、あ、あの。気分は…悪く、ない。けど……」

「そっか。よかったぁ!ずっと目が覚めないから心配していたんだ。今メイドを呼んでくるからちょっと待っていてね!」

 

そういうと颯爽と廊下を去っていく少年。

え、一体何だったんだ?

 

「あ、それより状況確認ッ!」

 

自分のやろうとしたことを思い出して、鏡台を目指して立ち上がる。

しかし――

 

「きゃっ」

 

前に向かって足を進めるどころか、立つことすら不安定。

え、なに。歩くのってこんな難しいことだったの。

さっきの少年とか走っていたけど、実は超すごい子なの!?

 

無邪気に笑う少年を思い返してみる。

戦争中にはありえないような実用性を無視した綺麗な服装。

やっぱり、二回目の転生……?

 

ふらふらしながらなんとか鏡台までたどり着き、鏡を覗き込む。

そこには――

 

「あれ…?私だ」

 

見慣れた私の顔が映っていた。

長く伸びた白銀髪の髪、血を連想させる真紅の瞳。

でも、どこかおかしい。

どことなく違う感じがする。

そう、それはさっきからずっと感じている違和感――

 

「こらこら、病み上がりのお嬢ちゃん。大人しく寝てなきゃダメでしょう!」

「きゃぁ!」

 

違和感について考えていたせいか、背後からきた女性に気づかず抱き上げられる。

 

「うわぁ、軽いねぇ。今ご飯持ってくるから、一杯食べなね!そうじゃないと大きくなれないぞぉ!」

 

私を軽々と持ち上げてベッドまで運ぶメイド。

 

ってか、大きくって!

やっぱり、私………

 

「お嬢ちゃん今七歳くらい?可愛いねぇ~」

 

小さくなっているぅぅぅぅううう!?

 

 

 

 

 

 

 

To be continued………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の目覚め(3)

 

「はい、少し熱いから気を付けてね」

「あ、ありがとうございます」

 

なんとか冷静を繕ってご飯を受け取る。

出来立てなのかお粥から湯気が出ている。

 

暖かいご飯……しかも非常食じゃない……じゅるり。

ぱくり、と口に入れてみれば質の良い出汁の香りが口一杯に広がる。

……ご飯ってこんなにおいしかったんだ。

硬い小麦の固形物しか齧ってこなかったせいか、お粥が輝いて見える。

やばい、なんか泣きそうなんだけど。

 

はふはふとお粥を食べていると、ベッドの脇に座って頬杖をついていたメイドが私の髪をいじりながら口を開いた。

 

「お嬢ちゃんの髪、すごく綺麗だねぇ~。今時こんな綺麗な銀髪めったに見ないよ~」

 

そういう彼女の髪は茶色で、少し伏せられている瞳は黒色をしている。

ファンタジーなんだし、パステルカラーでもおかしくないんじゃないか?

現に戦友の中に紅い髪の奴とか、それこそ同じような白髪の奴だっていたぞ?

 

「そうですか?私のいたところでは普通でしたけど…」

「えぇ、なにそれ。そういえば、お嬢ちゃん名前はなんていうの?どこ出身?」

 

すごく今更な気もしないでもないが…

食事に毒も入っていなかったし、一応敵ではないらしい相手だ。

名乗って置こう。

 

「私の名は、アミス。出身はエルガストです」

「エルガスト?それってどこら辺にあるの?」

「どこもなにも、ここの近くにあるでしょう?世界三大国の一つですよ?アルバスハルト、フェレベティシア、エルガスト。私、ココがアルバスハルトとばかり思っていたのですが…?」

 

こんな贅沢な暮らしができるほど力を持っている国なんてアルバスハルトしかないはずだ。

〈戦姫〉と言われるだけあって私の観察眼も決して悪くないはず―

 

「お嬢ちゃん、怪我をしていたしきっと記憶がこんがらがっているのね。」

 

何を失礼な、私は至って正常だ。

 

「ここは、カルディア王国。今年でちょうど二千年の歴史を持つ国よ。世界三大国って言ったら、カルディア、ゲルバニア、ルクシェリア…でしょう?」

 

かるでぃあ王国?それに、げるばにあ?るくしぇりあ……

どれも聞いたことのない国名。

それになにより……

 

「ねぇ、二千年の歴史を持つって言いました?」

「え?えぇ、言ったけど……」

 

おかしい。二千年の歴史を持つ大国など存在しなかったはずだ。

アルバスハルトですら五百年。

エルガストなんて二百年もないぞ。

 

でも、カルディア王国は二千年――

彼女が嘘をついているようには見えない。

ということは、転生ではなく転移?または、召喚……?

とにかく、ここは私が生きていた世界とは別物と考えるべきね。

 

「そっか、ありがとうお姉さん。私ちょっと動揺していたみたい。この国についてもっと知りたいんだけど…教えてくれる?」

 

必殺★上目遣いO・NE・DA・RE!!

 

「ッはい!私にお応えできるものなら何なりと!あ、何冊か本もお持ちしますね!」

 

決まったぁああああああ!

いやぁ、美人っていいっすね!役得ですね!

 

「わぁ、ありがとう~!」

 

行動の基本は情報収集!

〈氷の戦姫〉アミス、行きますよッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の目覚め(4)

 

「アミス様、ココを見てください。」

 

そう言ってメイドことマイさんが指差すのは北半球の大陸。

 

「ここは、グランパトル大陸。人類に残された最大にして唯一の大陸です。私たちが住むことが出来るのは、グランパトル大陸と、その周りの島々だけですから」

 

何故人類は北にしか住めないんだ?

寒い地方に対応するように進化してしまった結果?

いや、なら南極に行けば良いだけの話―

そもそも、赤道(?)より下がすべて黒で塗りつぶされているとは意味不明だぞ。

 

「あ、あの。どうして人類は南に住めないんですか?」

「え………?」

 

え、なに。

めっちゃ変な目で見られているんだけど。

北にしか住めないっていうのは常識なの?

 

「あぁ、すいません。えっと。この地図にもある通り、南は〈闇〉で覆われているんです。南に行くと黒霧が濃くなって……気が付けば多くの魔物に襲われている。なんて、よくある話なんですよ。だから、南に何があるのか。どんなところ何か。何もわかっていません。ただ一つ分かっているのは〈死海〉を超えた先には魔物の住処がある、ということだけです」

 

なるほど、赤道より下は全部〈闇〉に覆われているから、食べられたくなかったら北に住むしかないってことね。

 

そりゃ、常識だわ。

 

「…わかりました。ありがとうございます」

「それじゃあ、改めてカナストル王国についてお話しますね」

 

ぺらり、と次のページへ進めば大陸だけを写した絵が広がる。

マイさんはその中心を指で囲みながら話し出す。

 

「カナストル王国は、大陸の中央海岸沿いに位置します。南は海産物、北は農作物、西は畜産物、東は果樹園、と自然に恵まれています。他国とのつながりとしては、西にハルバード帝国。東にゲルバニアがあります。どちらの国境にも高い山があるので、貿易は船のほうが盛んですね」

 

ふむふむ。

聞くだけだと大分平和に聞こえるわね。

私だったら『千人の兵士が大魔法を使えて~』とか説明するもの。

取り敢えず、探りは入れてみるか。

 

「あの。ゲルバニアってさっき言っていた世界三大国の一つですよね?戦争の危険性とかはないんですか?」

「ありませんね。世界三大国はすべて平和条約を結んでいます。『人類同士で争うことなく、国の境を超えて共に〈闇〉に立ち向かうべし』…と」

「…なるほど」

 

つまりは人類で戦争するよりも、魔物を倒さなきゃヤベーじゃん!って話だね。

そうなると、魔王討伐~とか言い出しそう。

やっぱり本格的に転移や召喚の可能性を疑うべき、か………

 

「あの、歴史の中に世界大戦とかなかったんですか?」

「世界大戦…?あぁ、あったわよ。三千年前に一度。百年以上続いたって話だけど…そうそう、殺戮兵器を背負った少女が戦争に終止符を打ったって逸話が残っているやつ」

 

サ ツ リ ク ヘ イ キ  ?

 

「その容姿は神の如き美しさで、白銀髪に真紅の瞳、絶世の美少女だったんだって。」

 

私、白銀髪に真紅の瞳。

あと、比較的可愛い方だと思う。

 

「しかも、無詠唱で半径五キロのクレーターを作り上げたーとか」

 

いや、普通じゃない?

私も連発していたよ。

あ、でも。殺戮兵器を作ってからはそっちのほうが威力強いってやめたんだっけ?

 

「彼女は指一本で大陸ごと凍らせた、とか」

 

気のせいでしょ。

辺り一面が氷になったことならざらにあるけど。

 

「彼女は剣も極めていて、剣先を目で追うことは不可能、とか」

 

いや、普通に目が悪いんじゃない?

宮廷騎士団長とか光よ、光。

 

「ほかにもたくさんあるよ?〈氷の戦姫〉の逸話。」

 

――私、何の戦姫って呼ばれていたっけ?

郡?瘧?小鳥?

 

「………なるほど。あ、ありがとうございます」

 

あ、マジか。

つまり、これってそういうことだよね……?

 

「いいえ!あ、そうそう。さっき本を取りに行ったときにね。旦那様が貴方とお話ししたいって言っていたわよ!後で、お部屋まで案内するわね」

 

隣で嬉しそうにマイさんが何か言っているが、今はそれどころじゃない。

 

えっと、この世界では三千年前に世界大戦があって。

そこには〈氷の戦姫〉と呼ばれた私と全く同じ容姿をした少女がいて。

彼女が戦争に終止符を打っただの、逸話が残っちゃってて。

 

だから―

つまり―

すなわち―

よって―

 

 

 

 

 

私、三千年後の世界にいるぅぅぅぅううううう⁉⁉

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の主(1)

「よく来たな。体調はどうだ?」

 

厳つい顔で話しかけてくるこのおじさんはこの家、ファルファード公爵家の現当主―レイフォンドさん。

相手が相手なので私も水色のドレスを着せられている。

一応病み上がり、ということでコルセットの地獄からは免れたけどね。

 

「はい、大分よくなりました。ご心配ありがとうございます」

 

美味しいご飯も食べられたし。

一応この世界についても少しは分かってきたところだ。

三千年で人類は色々変えすぎた!とも思うけど。

 

「して、アミスといったか?お主は何者じゃ」

 

!?いきなりドストレートな質問来たよ!

え、もっと遠回しに聞いたりしない?

この人天然か何かなの?それとも私なめられているの?

 

「分かりません」

 

エルガスト王国が剣、カルディア公爵家の長女アミスです。

何て言ったら、絶対不審者扱いじゃん!

そもそもエルガスト王国ってどこよ!って話になるし。

 

あ、じゃあ。

前世持ちの転生者〈氷の戦姫〉アミスでーす★

って言ってもいいですか?

あ、駄目ですか。そうですか。

 

「ほぉう?自身のことを知らぬと申すのか?」

「はい。残念ながら私は名前以外覚えておりません。なぜここにいるのか、ここはどこなのか。私はどこにいたのか。すべて覚えていないのです」

 

一つ確かなのは、何かがあって私がこの家に運ばれてきたってことぐらい。

 

「なるほど。わかった。その様子だと親についても覚えていないのであろう?」

「申し訳ございません」

 

母親は生まれてすぐに死んで、父親は私を少佐に任命して戦場に送り込みましたよ。兄もいたけど私が先に少佐になった嫉妬で相当恨まれていました。

まぁ、お陰様で何故か今ここで生きていますがね!?

 

「…ではアミス。貴殿にはここで働いてもらおうと思う」

 

…え、マジか。話の展開が少し早すぎるんですが。

もしかして私が知らないうちに話が進んでいた―?

 

というか、てっきりどっかに送り込まれるか、少量のお金を渡されて野放しかと思っていたわ。

 

「働く、と申しますと?」

「うむ。貴殿はまだ幼い。一人ででは生きていけぬだろう?メイド辺りが妥当だと思うが…何か希望はあるか?」

 

希望…?

屋敷の役職としては料理人や庭師とかもあるんだよね。

でもずっと戦場にいたからそういうのやったことないしなぁ……

出来ること―強いて言うなら……

 

「では、護衛で」

 

戦うことしかできん。

 

「は?お主は戦える、と申すのか?」

「はい、恐らく戦えるかと」

 

少しだけど体にも慣れてきたし、千人くらいまでなら余裕かな。

魔力も回復してきていて、最上級魔法は無理だけど上級魔法なら連発可能―ってところ。

うん。若いっていいね!(?)

 

「―では一本、お願いできるかな?」

 

…力試しってことだよね?

つまりは護衛に成るに足りる才を持っているかの確認、か。

 

「貴方様と…ですか?」

「そうだ。なにか問題はあるか?」

「特にございません」

「では訓練場に移動だ。ついてこい」

 

 

***********

 

 

何故だ。

何故同じ公爵家なのにここまで違う!!

私も公爵家の生まれだけど、こんな整備された訓練場なかったよ?

さっき通り過ぎてきたバラ園や温室も綺麗だし、でかいし……

この試験に合格出来たらここで働けるんだよね?

なんかすごいやる気出てきたかも。

 

「いつでも良いぞ?」

 

そう言って大剣を構えるレイフォンドさん。

戦場慣れしているのか構え自体は悪くない。

でも質より量って粗さを感じる。

 

そういう私の手には双剣。

レイピアじゃないどころか、小さい子が剣を二本も持つことに驚かれたけど…まぁいいじゃん。

理由は簡単、剣一本で攻撃するより二本で攻撃した方がなんか強そうじゃない…?

私は質も量も確実に狙いますからねッ!

 

「では、失礼します」

 

一応雇い主になるかもだし、断りを入れてから駆け出す。

私とレイフォンドさんの距離は大体十メートル。

距離を半分まで縮めてから姿と気配を消す。

 

「―!?」

 

まさか私が魔法を使えるとは思っていなかったのか、目を見張る主人(仮)。

ふっふっふ~、戦場ではその一瞬が命取りなのです。

 

「―ここかっ!」

 

背後から剣を振るうが抑えられる。

気配は消していたから超直感の天啓でも持っているのかな。

 

おじさんと外見七歳の少女じゃ鍔迫り合いになったとき負けるに決まっている。

まぁ、光系魔法を使うなりやり方はあるんだけど―

 

今日はもう

勝負はついているよ。

 

「ふっ―――」

「なっ!?」

 

鍔迫り合いをしている反対側から首筋に剣を当てる私。

レイフォンドさんは幽霊でも見たかのように目を大きく見開いている。

 

「勝負あり、です」

 

剣を下ろして微笑めば、彼も苦笑した。

 

「あれは土魔法か」

「はい、私の分身人形です。気配を消して、すぐに作ったんですよ」

 

もう一度分身人形を作り上げて、種を明かす。

レイフォンドさんは呆れたような苦笑をして、どこか嬉しそうに口を開いた。

 

「無詠唱か……うむ。お主を雇おうではないか」

「えっ!やったー、ありがとうございます!」

 

分身人形とハイタッチする私。

これで衣食住の心配はいらなくなったぞー!

 

「ではアミス。お主の主人を紹介しよう」

「…………へ?」

 

私の主人って、レイフォンドさんじゃないのぉぉぉおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・・

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の主(2)

「失礼します、お父様。お呼びでしょうか?」

 

控えめなノックと共に入ってきたのは、小動物のような少年だった。

ふわふわな亜麻色の髪。

ルビーのような真紅の瞳。

気が弱いのか、たれ目になっているところに庇護欲をそそられる。

年齢は私と同じ、七歳くらいだ。

私の存在に気が付いていないのか、レイフォンドさんを見つめる少年。

 

ちなみに私は執務机に座っているレイフォンドさんの近くの壁に立っている。

そこで今すぐ自分に幻想魔法をかけたい気持ちを全力で抑えていた。

 

(もう、めっちゃ可愛い!!撫でまわしたいわッッ!)

 

今の私は、例えるなら可愛い子犬を見つけたときのような心情だ。

膝から崩れ落ちていないことを誰か褒めてほしい。

あまりの可愛さに彼を不躾に見つめてしまう。

 

もう女の子より、可愛い…

というか、少し男の子っぽいのも相まって初々しい…(?)

誰かこの気持ちを分かって…!

本当にかわいいのッッ!お人形さんみたい……

 

〈氷の戦姫〉の氷の部分(笑)が溶け出してしまっているだろうが、女の子みんな可愛さには弱いから仕方ないッ!

 

ちょっとして、私の熱視線のせいか少年は私の存在に気が付いた。

 

「あ、あの。もう起きて大丈夫なんですか?」

「え?えぇ。大分よくなったし、大丈夫よ」

 

第一印象は大切!

そう思って出来る限り優しく微笑む。

 

「なら、良かったです」

 

私の渾身の笑みのお陰か、元気になったことに安心したのか、ほっと息をついて微笑む少年。

 

「うぐっ……」

 

なにコレ、マジ天使!!

膝から崩れ落ちそう…ほんと可愛い~ッッ!!

笑っただけで背に翼が見えたわ。

天国はココにあった………ッッ!

 

「では、レグル。紹介しよう。こちらアミス。これからお前の護衛になる少女だ。くれぐれも仲良くやれよ」

「僕の…護衛、ですか…?」

 

困ったように眉を寄せて私を見るレグル君。

まぁ、一見弱そうだよね。

多分君と同い年だろうし。何より女だし。

 

「あぁ、腕は確かだ。安心しろ」

「そう、ですか…わかりました。アミスさん、よろしくお願いします」

「あっ、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

この子が私の主…なんかすごく守りがいがあるわね!

(主に見た目の問題で)

 

「では、レグル。アミスに屋敷の中を案内してやれ」

「分かりました」

 

あ、もしかしてもう行くのかな。

慌ててレグル君に駆け寄る。

 

「それでは失礼します」

 

レグル君の後に私も一礼して書斎(?)を後にした。

 

 

 

*******

 

 

 

「…で、最後にここが大図書館。一通り回ったけど大丈夫?覚えられそう?」

 

レグル君の後ろについて回ること一時間。

ようやく一周を回ったらしい。

 

「はい、大丈夫です。お手を煩わせてすいません、レグル様」

 

記憶力は多少自信があるし、何日か過ごしていれば覚えられるだろう。

というか、流石は世界三大国の一つって感じ?

公爵家の屋敷が昔のお城くらいの広さあるんだけど。

 

そもそもなんで家の中に『大図書館』だの『研究室』(1~10まである)だの『植物園』だのあるの!?

大図書館だったら国立でも行けばいいし、研究室はそれこそ研究所行けやッ‼

植物園と温室はまとめて良いと思うよ……?二つもいる?

前世は普通の社会人、少し前まで戦争一途の貧乏国家だったから差にクラクラする。

 

前世は安いボロアパート、転生してからは戦闘メインの家だからな。

あちらこちらに大砲ついているし、攻撃用魔法陣書かれているし…だったのに。

この家は、装飾は一つ一つ綺麗だし、道は大理石だし、バラ園とかラベンダー畑あるし。

 

三千年って、大きいねぇ~。ここもう別世界だよ、本当。

 

「あ、あのさ…」

 

この家に対するツッコミ…という名の愚痴…を頭で言っていれば、可愛い主マイ・マスターが言いにくそうに口を開いた。

 

「?ハイ、なんでしょう」

 

護衛、別の人にしてほしい…とかかな?

あ、それかお腹空いたとか?

ここのご飯美味しいからね。それは仕方ないよ。

 

「できれば、でいいんだけど…あの、僕たち同い年だし…護衛っていうよりも、達…に、なってほしい…な…と、思って……」

「ふぇ……?」

 

さっきまでくだらないことを考えていたせいか、呆けた声が出た。

やばい、めっちゃバカっぽい…

でも取り敢えず、言質!言質をとろう‼

 

「え、い、いいんですか?私なんかと友達で」

 

私の幻聴じゃないよね……?

 

「も、もちろん。あの……ダメかな…?」

 

幸 せ 死 ぬ ッ

もう本当可愛い!

こんな子と友達になれるなんて……ッ!

というか、もしかして転生して初めてのまともな友達……?

このチャンス、逃すまじ!!

 

「じゃあ、今から私たちは友達ですッ!レグル‼」

「え、あ…うん!よろしくね、アミスちゃん」

 

………え?

アミスちゃん………?

 

「アミスです、レグル」

「え?」

「私たちは友達なんですから、ア・ ・ミ・ ・ス・ ですよ?」

 

にっこりと微笑みながら圧を出せば、レグルが戸惑いながら呟いた。

 

「あ、じゃあ。アミス…」

「はい!レグル!」

 

なんか嬉しくなって笑いあう。

だからこの時、私はすっかり忘れてしまっていたんだ。

 

この世界が乙女ゲームの世界だ、ということを。

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主の訓練(1)

感想ありがとうございます!
これからも、評価・感想を送ってもらえると嬉しいです。


「レグル、いつでも良いですよ!」

「分かった」

 

訓練場の中心で向かい合う私たち。

レグルの手には直剣。

私の手には相変わらずの双剣だ。

 

「―はぁッ!」

 

声と共に踏み込み、四十メートルの間合いを一気に駆けるレグル。

私の五メートルほど手前で真正面から剣を振り上げた。

 

「…………」

 

さて、どうするものかと考える。

………これって弾いていいんだよね?

手首を痛めて剣を落とさせる?魔法を使って動きを止める?

……いや、シンプルにいこう。

 

「うわっ!?」

 

一応悩んでから剣を弾き飛ばすと、反動でレグルも尻餅をいた。

痛かったのか「うう~」と言って空を仰いでいる。

 

「レグル。スピードは悪くありませんが、戦略と構えが悪いです。現状、私とレグルでは圧倒的に私の方が強いでしょう。鍔迫り合いになれば私が押し勝つことは当たり前です。その上で、真正面から斬りかかるならば何か策を作るべきですね。それから、真正面から斬りかかるときは自分が相手よりも圧倒的に強くなってからの方が良いですよ。あと、剣を振る時はもう少し脇を締めて重心は下です」

 

つらつらと修正点を並べると、座っていたレグルが立ち上がる。

慣れたように剣を構えて、さっきよりも脇を締めて腰を落としている。

 

「分かった。こんな感じでいいのかな?」

「…そうですね。できればもう少し重心は下に―あ、そうです。大分良くなりました。では、そのまま素振り50回です。」

 

七歳の少年には少しキツイ訓練かもしれないが、仕方がない。

旦那様にも頼まれたし、何よりレグル自身が望んでいる。

 

 

私が今いる、ファルファード公爵家は『カナストルの剣』と呼ばれているらしい。

つまりは、騎士公爵家―戦場の最前線である。

三千年前も私は『エグネストの剣』として生きてきた。

 

私異世界でどんだけ戦場に愛されているんだ!

っていうツッコミも何だか虚しかった。

残念ながら叫んでも戦況は変わらないしね。

幸いなのは現在進行形で戦争がおきていないこと。

例の〈闇〉とは現在停戦中。

もしもゲーム通りならば神聖魔法使いの〈聖女様〉が魔王を浄化して『グランパトル魔法戦争』は終結を迎える。

 

愛しのマイ・マスターを殺さないためにも、それまで何とか生き延びるしかないのだ。

 

「よし、素振り終了。じゃあジャンプしてください」

「え…?あ、はい」

 

不思議そうな顔をして飛び跳ねるレグル。

連想するのは、子ウサギ…だろうか。

下心など全くなかったが、思わず「ぐっ」っとなった。

 

私は悪くない。

可愛すぎるレグルが悪いのだ。

 

何とか煩悩を取り払い、落ち着いた口調と繕って口を開く。

 

「よし、じゃあもう一回構えて」

「は、はいっ!」

 

地面に置いてある剣を拾い剣を構える。

 

何かをした後でも基本の構えだけは出来るようにするべし、といつか筋肉バカが言っていた気がする。

今は初歩的にジャンプをしてもらったが、そのうち寝起きにでもやってもらおう。

 

「うん。さっきよりも良くなっています。じゃあ、一本行きますよ!」

「ふぇ…!?あ、はい!」

 

早い展開についていけないのか、おろおろしているレグルに斬りかかる。

 

「!?」

 

一応手加減をして間合いを詰めたがまだ早すぎたのか、目を白黒させている。

でも私は一切速さを落とすことなく、無抵抗のレグルの首過ぎに左の剣を当てる。

そして右手の剣は心臓に。

 

「戦場ではその一瞬が命取りです、レグル。これからは身体能力向上も視野に入れて訓練しましょうか」

 

これからは基礎体力のほかにも、こういった力も伸ばさなくては。

速さは正義ですからね!

 

「……アミスは―」

 

呆けたままの顔で、でもその真紅の瞳に戸惑いの色を浮かべて、レグルは私に聞いた。

 

「―戦場に立ったことがあるの?」

 

レグルの瞳が私を貫く。

胸の奥がどくんと波打つ。

心拍数、脈白、呼吸、全てを整えて口を開いた。

 

「私はまだ子供ですよ?立ったことがあるわけありません。カナストルの剣である貴方ですらまだなのですから」

 

ここで真実を語ることはできない。

私は自分の手が汚れていることを厭いはしないけれど、彼がどういう反応をするのかは分からない。

レグルと私の間に変な溝を作りたくないし、三千年前の人間だと言って信じる人はいないだろう。

いつか、語れる日が来れば良い…今思うのはそれだけだ。

 

「そう、だよね……うん。変なこと聞いた、ごめん。アミス」

「いいえ、気にするほどのことでもありません。ほらほら剣の次は魔法の特訓ですよ!レグル」

 

 

 

 

To be continued………




身バレする回が一番面白い説ありますよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主の訓練(2)

 

「レグルは魔法を使ったことはありますか?」

「は、はい。僕は他の人より魔力が強い…らしいので」

 

〈魔法〉それは世界の秩序に干渉し、自身の願いを叶える術である。

発動方法は、大気中の魔力を用いるか、自身の魔力を使うかの二択だ。

前者の場合は多くが〈精霊使い〉と呼ばれている。

ちなみに後者は普通に〈魔法師〉になる。

〈精霊使い〉と〈魔法師〉は大気中の魔力に干渉できるか、否かで分かれる。

マナは精霊の魔力と言われており、自身の魔力の十倍以上の質を誇る。

つまり〈魔法師〉が半径十メートルの範囲魔法を使うとき〈精霊使い〉ならば半径百メートル以上の範囲魔法を同じ速さ、質で行うことが出来るのだ。

それは攻撃魔法、治癒魔法、空間魔法…関係なく、魔道具の製作時にもかかわってくる。

 

「では取り敢えず、一番得意な魔法をやってみてください。もちろん、最大出力で」

「わ、分かりました……」

 

何故か少し不安そうな顔をして、魔力を練り始める。

ほわ、とレグルの周りがほのかに光った。

 

「〈ヘル・フレイム〉!!」

 

凛と澄んだ声が無駄に広い訓練場に響いた。

その刹那―何もなかった大気から炎があふれ出てきた。

瞬きをする間もなく訓練場は炎の地獄と化した。

 

「……へぇ」

 

この世界で七歳の平均魔法がどんなものかは知らないが、魔法師が五人は必要な大魔法をたった一人で成し遂げられる実力は持っているらしい。

炎属性超上級魔法・炎地獄。

これをたった一人でやるとなると、やはり―

 

「…〈精霊使い〉だね」

 

さっきレグルは他の人よりも魔力量が多いと言っていたが、恐らくそれはほぼ無限にある大気中の魔力を用いて魔法を発動させているためだろう。

こうして考えている間にも火の手尽きることなく広がっていく。

 

うん。これは将来が楽しみだ。

 

「〈キャンセル〉」

 

本来なら魔法の名称など言わないが、レグルに見せるためにわざと言って魔法を発動させる。

まだ少し粗さが目立つためか、ほぼ魔力を使うことなく超上級魔法を削除する。

 

「……え」

 

ふっふっふ…どうだ~!

これぞかつて私しか使えなかった最上級魔法〈世界干渉〉。

マジックみたいで面白いから結構好きなんだよね。

 

「魔法が……消えた?」

「はい。消しましたよ?あのままじゃ私たち黒焦げになっちゃいますからね」

「……どうやって消したの?」

「普通に。魔法で、チョイっと」

 

どうやってって聞かれると難しいんだよ~。

「やりたい」って思えば、出来るものじゃない?

 

「………そうなんだ」

「じゃあ、レグル。火属性以外の魔法も使ってもらっていいですか?何属性でも良いですよ」

 

火魔法の次ならやっぱり水かな?

それとも光~とかやっちゃう系の子?

うーん…雷以外だと嬉しいなぁ……

レグルが次に発動させる魔法が何か当てようと考えていると、隣から声がした。

 

「あ、のさ。魔法って一属性しか使えないものじゃないの?」

「はい!?何を言っているんですか、レグル」

「だ、だって!宮廷魔法師団長だって風属性だけしか使っていないし…魔法書には二属性使おうとすると魔力枯渇を起こして死に至る可能性があるため、使用しないほうが良いって書かれていたよ……?」

 

誰だ、その本書いたヤツ。

んな、バカなことがあるはずないでしょうに。

 

この世界には『炎・水・風・土』の基本属性の他、『光・闇・雷・氷・空間・癒』の特別属性を合わせて全部で十の属性が存在する。

ちなみに私は雷以外のすべての()()()()()が使える。

雷は相性が悪いのか、せいぜい超上級魔法になってしまうんだよね……

 

まぁ、上級魔法が出来れば『魔法が使える』として、私は十、すべての属性を制覇している。

―で、さっきのレグルの発言に戻るけど、三千年前だと全属性使用は当たり前だった。

と、なると……魔法が衰退している、とか?

いや、この場合だと衰退しているのは人間の魔力量だろうな。

さして実力もない賢者でも表れて、二属性目の魔法を習得しようと思ったら手違いが起きて魔力枯渇寸前になって『人間は一属性しか使えない!』ってホラ吹いたんだろう。

(↑正解)

―まぁ、原因は何でもいい。とにかくレグルには最低八属性は制覇してもらはなくては!

 

「……はぁ。一属性しか魔法が使えないなんて言う決まりはありません。現に私は十の属性をすべて操ることが出来ます……信じられないなら、見ていてください」

 

レグルの訝し気な半目を横目でスルーして魔法を発動させる。

 

「しかと、その目に焼き付けてくださいね…?」

 

そういうと、私は訓練場を闇で包み込んだ。

 

 

 

 

 

To be continued ………

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主と訓練(3)

七歳編、今回で終了になります。
次回からは十歳!
そして少しずつ、ゲームは始まっていく―


ボクの護衛に成った『アミス』という少女は大分変わっている。

ボクを愛玩動物のような目で見てくるし、剣の一族として常に苦しい訓練に耐えてきたボクのことをいとも簡単に下した。

彼女とボクは相手にすらなっていない―まるで次元が違う。

氷雪の大迷宮で彼女が凍っているのを見つけた時はどうしたものか、と思ったが今では『アミスだからな…』って思い始めているところがある。

 

剣でボクをあしらった後は、魔法の授業に入った。

そこでも、彼女はやはり変わっていた。

「魔法は一属性しか使えない」という常識を「コイツ何言ってんの。バカなの」とでも言いたげな顔で聞いていた。

そして彼女は言い出したのだ。

 

「私は十の属性をすべて操ることが出来ます……信じられないなら見ていてください」

 

十の属性―それはかつてあったとされる属性。

今では四の属性に減ってしまっている。

使える人がいなくなったからだ。

そのことを伝えたら彼女はどんな反応をするだろう。

難しいことを知っているくせに、すべて顔に出ているのだから面白い。

 

そんなことを考えている間に彼女の周りに暖かい魔力が集まっていた。

 

「しかと、その目に焼き付けてくださいね……?」

 

そのセリフを最後に、訓練場の景色は一変した。

空には満天の星。

 

「……幻想魔法…?」

「はい。特別属性の一つ、闇属性の魔法ですよ。それじゃあ、イッツ・ショータイム」

 

そして彼女が発動させたのはさっき僕が使った炎・属性の超上級魔法〈ヘル・フレイム〉。

僕たちを囲むように炎が広がっていく。

でも明らかに僕より質が良い。

 

超上級魔法を使えるだけでみんなから褒め称えられるのに、彼女は常識のようにボクを超えていく。本当に、何者なんだろう。

よく見たら僕たちがいるところと炎の間に結界が貼ってあった。

いつの間に………しかもコレ光属性だ。

 

あっという間にが端々まで広がっていくと、少女は徐に指を鳴らした。

そして目に映るのは氷の世界。

さっきまで爛々としていた炎は今や氷漬けになっている。

それは熱が逃げる間もなく冷却されたことをさしている。

 

闇・炎・光・氷…今の一瞬で四属性を操っている。

しかもそのうちの三つは失われた特別属性。

 

そしてショーは続いてく。

 

「うわッ……?!」

 

急に揺れ始めた地面に驚く。

地面がひっくり返るような揺れを感じていると、さっきまで氷だった炎が崩れ落ちていくのが見えた。

 

「よっと」

 

それを風魔法で巻き上げるアミス。

キラキラと光ながら氷は上がっていく―そして、天井にでも届いたか、アミスは風魔法を中断させると雷魔法を使用し始める。

ここまでで七属性。

 

あちらこちらに散らばっている氷を伝わって雷が動いていく。

それは星が星座を片付くっているようにも見えて、とても幻想的な風景だ。

 

「どう?一属性しか使えないなんて嘘だって、分かった?レグルも訓練すれば十属性全部の才上級魔法くらい使えるようになるわ!」

 

そういってアミスはボクに笑いかけた。

 

十属性全部の最上級魔法…って、彼女が言うと可能なのかもって思える。

そもそも今最上級魔法を使える魔法師はこの国には一人もいないんだけどね。

もはや最上級魔法は伝説になり始めているモノだ。

それを失われた六属性も合わせて使えるようになる、と言った。

本当、規格外な少女だ……

 

あとアミス。敬語崩れているよ?

いや、そのままでいいや。

―人生で初めての友達なんだから。

 

「…うん。ご指導のほど、お願いします」

 

強くなりたい。

いつか、誰にもバカにされないくらいに。

強くなりたい。

紅い瞳を恐れて目をそらされることがなくなるくらいに。

 

真紅の瞳―それは、高魔力保持者の証。

多くの人はボクを恐れる。

多くの人はボクから逃げる。

でも、アミスは『僕』と向き合ってくれる。

 

神秘的な白銀髪を揺らして、美しい瑠璃色の瞳を僕に向けて。

笑ってくれる。

だから―――

 

「あ、レグルごめんなさい。敬語使うのすっかり忘れていました」

「ううん、これからは使わなくていい。アミスが先生なんだから」

 

これからは、守っていく。

自分の手で、自分の力で、大切なものを。

 

 

 

 

 

To be continued………

 

 

 




アミスの瞳は幻想魔法で色を変えています。
マイさん(メイド)から〈氷の戦姫〉の話を聞いて用心のために瑠璃色にしました。
本来はレグルと同じ真紅の瞳をしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二章・十歳、王宮騒動編
少女とプレゼント


十歳編開始です!



「レグル、レグル!どう?似合っている?」

「うん、良く似合っているよ、アミス」

 

くるり、とレグルの前でターンを決める。

珍しくはしゃいでいる私を微笑まし気に眺めているレグルに思うことはあるが、とりあえず無視しておこう。

 

今の私の格好は紺がベースのワンピースに白いエプロン。

―つまり、メイド服だ。

といっても、私の本職は護衛なので動きやすさ重視に作られている。

本来のメイド服よりスカート丈が短いのはそれが理由だ。

 

「ごめんね、女の子の護衛なんてめったにいないから…」

「ううん、王宮に行くならこれくらい仕方ないよ。私も付いて行って良いことが十分嬉しいもの」

 

そう、これから私たちは王宮へ行く。

レグルがこれから剣として使えることになる殿下に挨拶をするためだ。

ファルファード家の子供は十歳になると必ず主に挨拶に行く伝統があるんだとか。

先月レグルは十歳になったので、その伝統を遂行するために王宮へ向かう。

 

私がこの家に仕え始めて早二年。

魔法は中級魔法なら十属性、上級魔法なら八属性、最上級魔法なら二属性操れるようになっている。

剣も手加減はしているものの私との斬り合いが三分間は持つようになった。

実は、メキメキと上達するレグルに少しだけ戦慄を覚えている私がいる。先生として、抜かされないように私も日々精進だ。

 

「あ、そうだアミス。これ良ければどうぞ」

「…リボン?」

 

レグルから手渡されたのは紅色のリボン。

でもなんで急に?

 

「この前のボクの誕生日にプレゼントくれたでしょう?それのお返し。よければ使ってくれないかな?」

「―ぁ、ありがとう。レグル。」

「え!?どうしたの、アミス。リボン嫌いだった?」

「い、や…嬉しくて。プレゼント、もらったの、初めてだから」

 

昔は戦争中だったからプレゼントなんて貰えなかった。

誕生日には「おめでとう」って戦友たちから言われるだけ。

前世独りぼっちでそんなこと言われてこなかったから、初めて言われたときは嬉しくて泣いちゃったっけ。

今も少し涙目だけど、仕方ないよね…

 

「ありがとう、レグル。大切にする」

 

髪に括りつけて笑えば、レグルも嬉しそうに笑ってくれた。

私にはそれだけで十分だ。

 

 

**

 

 

そして馬車に乗り、揺られること三十分。

 

他愛のない会話をしながら(半分が訓練の話)王都の町を眺めていた。

THE・異世界、とでも言いたげな色とりどりな建物。

多くの人と物で賑わう町は見ていて飽きなかった。

 

「あ、王宮が見えてきたよ、アミス!」

 

レグルと向かい合って座っているので、体を捻って窓から外を窺う。

 

「わぁ…本当だ!でかいねぇ」

 

目の前に広がるのは、前世で見た西洋風のお城。

それは三千年前のものとは大きく異なり、威厳溢れる門も高く覗く棟も実用性を完全に無視していた。

―でも、まぁ。一乙女としてワクワクしてしまうのは仕方がないだろう。

 

「あはは、迷子にならないでよ?」

「もう、子供じゃないわよ!」

「ハイハイ。今までそう言って何回迷子になったことか」

 

出会った時よりも大人っぽくなったせいか、私を妹扱いすることが増えてきている気がする。

精神年齢なら私の方が断然上なんですけど!?

昔は子ウサギみたいだったのに、今は美しい豹のようだ。綺麗な顔立ち、美しい瞳…ここが乙女ゲームの世界だったら絶対攻略対象ね。

 

あれ…乙女ゲーム…?そういえばこの世界って乙女ゲームの世界なんだっけ?

転生してからはずっと戦場、こっちに来てからはレグルの訓練ですっかり忘れていた。

えーっと…舞台は魔法学校で、メインヒーローはラヴィレント殿下。

金髪に緑の瞳。なんでも出来ちゃうタイプの人間で、毎日を退屈して過ごしている。そんな中面白い発想をするヒロインと出会って興味を持つんだよね。

 

…なんでも難なく出来ちゃう人間……なんか、レグルみたいじゃない?

まぁ、この子の場合どんな努力も惜しまないから出来るようになるんだけどね。

―本当、出会えてよかったなぁ………

レグルのお陰で本当にたくさんのことを学べた。

 

「アミス…?もうすぐ王宮着くよー?」

 

レグルの声にはっとする。

 

「え、あ、うん」

「どうしたの、寝不足?」

「ううん、考え事していたのよ。あ、止まったみたいね」

 

心配そうな顔をしているレグルに微笑みかけ、馬車から降りる準備をする。

 

「よいしょ…お手をどうぞ、レディ?」

 

先に馬車を降りて、私に手を差し出してくるレグル。

なにコレ、まるで物語の王子様みたいじゃない。

 

「あら、メイドに手を貸す主なんておかしくてよ?」

 

悪戯にそういえばレグルは笑って私の手を引いた。

 

「いいから、いいから。さぁ、行こう」

 

ぎゅって握られた手が存在を主張している。

耳にかすった紅色のリボンが何だかとてもうれしかった。

 

 

 

 

To be continued ………




ア「ちょっと…何時まで手をつないでいるの…///」
レ「ん?恥ずかしいの?アミス」
ア「そッ…そんなわけないじゃない……!!た、ただメイドと主が手をつないでいたらおかしいって話をしているのよ……!」
レ「ふ~ん…じゃあ、もう少しつないでいようか♪」
ア「ちょ、え…ッ!?」


翻弄されるアミスさん(笑)
レアですよ~?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と赤髪の少年(1)

「おい、行くぞ」

「はいはい、何時でもどうぞ」

 

そう言って向き合う私とグレン。

春の風が私たちの勝負を見守っている。

 

はぁ、本当に―どうしてこうなった……

 

 

****

 

 

「この先に、殿下が……」

「どうしたの、レグル。緊張している?」

 

王宮について早々、ここまで連れて来られた私たち。

―でも先からレグルの様子が少しおかしい。

 

「あ、当たり前だよッ。相手は生涯の主だよ?緊張もするさ……」

 

まぁ、確かに?

でも私、初めて陛下に挨拶に行ったときあんまり緊張しなかったよ。

戦争中だったのもあったからかな?

主に媚びを売るより、敵を滅することしか考えていなかったんだよね。

 

「平気よ、レグル。生涯の主だからこそ、失敗しても何回でも挽回できる。それに、心を開いて真に向き合えば何事も伝わるわ。あと貴方は決して一人じゃないこと、忘れないで」

「………そう、か。うん。僕は一人じゃない…大丈夫だ」

 

力強く頷くレグルに、私も頷き返す。

そして、レグルは扉をノックした。

少しだけマシになった主の横顔を眺めながら相手の返事を待つ。

 

―待つ……

 

「「………」」

 

―あれ、返事が来ない。

 

「…ねぇ、レグル。殿下お昼寝でもしていらっしゃるのかな」

「……それはないでしょう。入ってみる?」

「うん。なんか何時までも返事が来ない気がする」

 

扉に手を当てて押してみる。

少し空いた扉から、昼時の温かい日差しが廊下に溢れた。

そのまま一思いに扉をあけ放つ。

 

そして日の当たる部屋の中を見ると――

 

 

……I・NA ・I ?

 

 

「えっ、殿下がいらっしゃらない……?」

 

唖然としている私の隣でレグルも驚愕に目を見開いている。

 

「あ、あれ!レグル、机に何か置かれているわ!」

「…本当だ、何だろう」

 

取り敢えず部屋の中に入り、執務机らしきものへ近づいてみる。

 

「えっと『はじめまして、私の剣。私はこの城のどこかにいるので、一時間以内に探し出してみてください。それじゃあ』」

「「………」」

 

あー、殿下ってそういう方なわけね。

一時間以内…今が大体十一時だから十二時までに探し出せば良い…と。

未だに何が起きているのか理解できていない主に作戦を伝える。

 

「レグル、ここは手分けして回りましょう。十一時四十分にバラ園の前集合。その時に来なかったら相手が殿下を見つけたと解釈しよう」

「―わかった。じゃあ僕は城の中を探してみるよ」

「了解、じゃあ私は図書館や温室をあたるわね」

 

あ、これだけは伝えておこう。

 

「レグル、焦らなくていいわ。さっきも言った、私たちは一人じゃない。だから安心していいよ。それじゃ」

「……うん」

 

扉を出て右に曲がる、とりあえず別館へ向かおう。

えっと、別館は東の方角だから―

頭に地図を展開して辺りを見渡す。

城内は広いのでタイミングを見計らえば人に見つからず行動を起こすことが出来る。

 

「よしッ、今は誰もいない!」

 

衛兵が消えるのを待って廊下の窓を開ける。

下は中庭になっているらしい、木々が植わっていることが確認できた。

木の陰にでもなっていない限り誰もいないはずッ!

 

「よっと」

 

ちなみに今私が飛んだ窓から中庭までは大体五百メートル。

私にとってはさして高くもないので風魔法は使わずに飛び降りる。

空中で壁をけって一回転すれば無事着地。

 

「さて、別館はあっちかな…?」

 

何事もなかったように東へ向かって歩き出す。

―が、三歩もいかないうちに呼び止められた。

 

「おっ、おい!お、お前ど、どっから降ってきたッ!?」

 

声のした方に体を向ければ、レグルと同い年くらいの少年が腰を抜かしていた。

燃えるような赤色の髪、大きく見開かれている目はエメラルドグリーンをしている。

…この子、どこかで見たことがあるような気がするぞ?

 

「…大丈夫ですか?蜘蛛でもいました?あ、虫退治は苦手なので庭師でも呼んできます」

 

すこし震えている少年の原因を察し、再び足を進める。

 

「ちょ、待て!蜘蛛も虫も苦手じゃねぇッ!勝手に話を進めるなッ!お前が急に降ってきたから驚いたんだッッ!」

 

あぁ、そういう理由でしたか。

それは失礼。

でも、初対面の相手に対してその態度はどうかと思いますよ。

最近の親は躾が出来ていませんねぇ~。

 

「女の子が降ってきたくらいで腰を抜かさないでください。女の子だ、ラッキー!くらいにでも思っておけばいいんです」

「いや、普通の女は空から降ってきたりしない。ってか、本当にどっから湧いてきた!?」

 

うーん…この俺様系、赤髪少年やっぱりどこかで見たことがあるような……?

 

「人をネズミみたいに言わないでください。あ、ちなみに私が飛び降りた窓は北の第一王子の書斎です」

「はぁ!?あそこからここまで何百メートルあると思っているんだ!着地に失敗したら骨折れるぞ!?」

「大丈夫です、そんなヘマしませんよ。それに、折れたら直せばいいだけです」

 

本格的に死んでいなければどんな怪我でも直せるからねッ!

えっへん。

 

「……お前、変わっているな」

「よくレグルに言われます」

 

そんなに変じゃないと思うんだけど、呆れた顔でよく言われるんだよね。

まぁ、二年も言われ続けていれば慣れてくるけどさ。

 

「レグル…?あ、そういえばお前の名は?」

 

…そういえば名乗っていなかったっけ?

なんか乗りが旧来の友達みたいで気にしてなかったや。

 

「私はファルファード家がメイド、アミスです。貴方は?」

「俺はカナストルの第二王子、グレンだ」

「王子………」

 

あー、そうだ。思い出した。

昔やっていた乙女ゲームに出てくる攻略対象の一人だ。

グレン=ピル=カナストル。

野性的な風貌で、メインヒーローの双子の弟。

あれ、でもこの世界って設定が同じなだけなんじゃなかったっけ?

いや、でも現に顔だけ良い残念俺様系少年がいるわけだし…

うーん?よくわからんぞ…??

 

とりあえず、考えるのは後回しだ。

今はこの残念俺様美少年を何とかしよう。

 

「おい、なんだその目は」

「いえ、特に何も思っておりません」

 

そうそう、残念な美少年だなって考えているだけ。

あ、残念なのは性格ね。

ツンデレ拗らせ過ぎて面倒な性格になっちゃってるが故のあだ名。

 

「いや、絶対何か失礼なこと考えているだろ」

 

残念はともかく、美少年は褒めていますよ?

―まぁ、面倒だから話題変えよう。

 

「そういえばグレン様は剣が使えるんですね」

 

素振りをしていたのか、手には剣が握られているし。

 

「あ?あぁ、腕には結構自信あるぞ。…お前は?ファルファードの人間なら剣くらい使えるだろう?」

 

おう、俺様系って本当に態度がでかい。

あ、それとも王子様って大体こんな感じなのか?

三千年前にいたあのバカ王子がおかしかっただけ…?

 

「お前ではなく、アミスです。まぁ、使えることは使えますが…」

「よし!じゃあ勝負だ」

 

 

………どうしてそうなった?

 

 

 

 

 

 

To be continued ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と赤髪の少年(2)

「…勝負したところで私に利がありません」

「お前が勝ったら名前で呼んでやる」

「別に、呼んでほしいわけじゃないんですけど」

「ほら、やるぞ」

 

人の話きけよ、残念王子!

あー、もういいや。私大人だし?

ぱっぱと終わらせて第一王子探そう。

 

「剣は真剣ですか?」

「…そうだな。木刀は今持っていない」

「了解しました。じゃあ私も真剣にします」

 

空間魔法〈マジック・ホール〉(私命名)を発動させて愛剣を取りだす。

 

説明しよう!

マジック・ホールとは三次元と二次元の隙間に空間を作り出し、物を保管・収納する魔法だ。

マジック・ホールの中に入っているものは時間が停止するから古びない、腐らない、劣化しない、の実用性抜群!

 

「……魔法か」

「はい、私は魔法師なので」

 

まぁ、正しくは〈精霊使い〉なんだけど。

 

「じゃあ行くぞ」

 

仕方ないので、双剣を構える。

うー、気が乗らない。

 

「はぁ、どうぞ」

 

相手一応王子だし手加減しなきゃ……面倒臭いなぁ。

 

少しむっとした顔で踏み込むグレン。

三十メートルの間合いを一気に詰めると背後からの一撃。

 

うん、レグルより戦略はいいかな。

初撃を難なく流して、私もカウンターをお見舞いする。

 

「―ッ!」

 

あまり力がないと考えていたのか、食らった反撃の重みに目を見開いている。

 

さて、これからが本番だよ。

魔法を使えば瞬殺だが、剣で勝たないとこの残念王子の鼻っ柱を折れない。

ふっふっふ、やることは一つ!

圧倒的差を見せつける!!

 

「―はっ」

 

息継ぎをして一秒の休憩を入れる。

そして、超高速連続攻撃を発動。

私命名剣技〈時雨〉。

一秒に三回の速さで相手を斬りつける(今回はグレンの剣が対象)技。

王子をケガさせるわけにはいかないけど、私の剣、受けてもらいます!

 

「マジか……」

 

〈時雨〉発動二十秒で剣を落としたグレン。

信じられないのか、その顔には驚愕が強く浮かんでいた。

レグルでも三十秒持つか持たないかだし、この子いい線行っている。

 

そしてお決まりのように座り込むグレン。

なに、私と戦った後はみんな座り込みたくなるの?

 

「では、約束通りアミスとお呼びくださいね」

 

剣を鞘に納めながら言う。

まぁ、呼び方なんてなんでもいいんだけど『お前』はあまりいい気がしないしね。

 

「…分かった」

 

おやや?

これは…一応フォローに回るべき?

それとも良い機会だし本格的に鼻折っとくか?

……うーむ、シンプルに講評しておこう。

 

「グレン様は力任せになっている面があります。もう少し精密な動きをマスターするべきでしょう。基礎体力はありそうなので、瞬発力や精密性を上げることをお勧めします。あとは、武器を変えるべきですね。グレン様だとその力強さを生かせる矛や斧が良いかと」

 

ずっと思っていた、グレンに剣ってあっていないんだよね。

剣が折れないように加減して、本当の力を出せていない気がする。

 

「……アミス、お前何者だ?」

 

私は一回戦うとなにかしらの秘密を垣間見られる気がする。

レグルと戦った後は『戦場に立ったことあるの』だったし。

 

「レグル様専属の護衛です」

 

ここでメイドって言っても説得力に欠けるよね…

いつかバレたとき面倒だし、本当のこと言っちゃおう。

 

「……なるほど」

 

何故か神妙な顔で頷くグレン。そして大切なことを思いだす。

 

「あ、やばい、第一王子を探さないといけないんでした!……グレン様」

「………また助言してくれるのなら手伝おう」

 

うわぁ、その呆れた顔レグルにそっくり。

 

「はい!もちろんです。じゃあ、第一王子のいそうな場所教えてください!」

「うーん…アイツなら大図書館か温室だな。ちなみに、ここからだと大図書館の方が近い」

 

流石双子の兄弟。良く知っているぅ!

でも、弟が素振りしているときに兄は大図書館か温室……

まるで正反対だな……

 

「よし!じゃあ大図書館をめざして出発です!」

「俺も行くのか……」

 

何を当たり前なことを。

第一王子のことを知っているのはグレン様なんですからね。

そしてグレンの後について行きながら考える。

 

もし……もし、第一王子がラヴィレント様だったなら―

 

乙女ゲームが、スタートする………?

 

 

 

 

To be continued ……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と友達

「ほへぇ…ここが大図書館ですか……」

「何を呆けている、行くぞ」

「あー、はい」

 

中庭からずんずん進んで約五分後。

私とグレン様は見渡す限り本、本、本…の空間に来ていた。

―それにしてもココ、戦争になったら大火事間違いなしだな。

 

「グレン様、どこへ向かっているんです?」

「あぁ、政治の本の区間だ。アイツは大体そこにいる」

「…なるほど」

 

…グレン様って本当に殿下について詳しいな。

ゲームの中じゃ仲違いしていたから、やっぱりここはゲームそっくりなだけの別世界…?いや、それか残念王子だけに殿下の前に行くと突っぱねて喧嘩になっちゃう…とか?

うわっ、グレン様ならあり得る……

 

ちらりと横顔を盗み見ると、苦い顔をしてこっちを見ていたグレンと目が合った。

 

「おい、なんか失礼なこと考えていただろ」

 

残念王子について考えているときだけ話しかけてくるグレン様、案外強者だな。

というか―

 

「…グレン様のそれってどういう根拠をもとに言っているんですか?」

「アミスの顔だ」

 

うおっ、即答の上ズバッときたよ!

何気にダメージ大きいっス……

 

「考えていることがほぼ全部顔に出ている」

「…うッ」

 

…これ、レグルにもよく言われるんだよね…

変なこと、突拍子もない考えがいつも顔に出ている~って。

出会って少ししか経っていない人にも同じことを言われるとは……

 

「…私ポーカーフェイスを学ぼうかなぁ」

「いや、アミスはそのままでいいだろう」

「なぜ?」

「面白いから」

 

そういって悪戯っ子のように笑うグレン。

…おぉ、笑うと案外可愛いなぁ……

 

「グレン様、笑っていた方がいいですよ。そっちの方が可愛いです」

「おい、俺は可愛さなんて求めていないぞ」

 

不可解そうに顔を歪めるグレン様。

だから笑っとけって。

 

「愛嬌の話ですよ」

「……いや、例えそうだとしても何もないのにニコニコしていたらおかしいだろう」

「……………そんなことないんじゃないですか」

「長いッ!間が長いッッ!」

 

くだらない会話をしながらもたくさんの本棚を通過し、螺旋階段を上っていく私たち。

一応声の大きさは下げて話していますよ?

だって、文官の人とかたくさんいるんだもの。

みんな勉強熱心だよね~。

 

「……いつもはココにいるんだが……」

 

端の一角を見渡して眉を寄せるグレン。

わを、ただでさえ野性的な風貌をしているのにそんな厳つい顔しちゃ怖いですって。

 

「いませんねぇ…」

 

この一角にいるのは中年のおじさんと私たちくらいの少女の二人だけ。

ちなみにその女の子はすごく美人だ。桃色の髪に紫色の瞳をしている。

甘い髪色とは反対に、少しキツめの顔をしていてギャップ萌えッ!!

…瞳の色変えるとき、咄嗟に瑠璃色にしちゃったけど紫でもよかったかなぁ…

 

「おい、まじめに探せ」

「……至って真面目に探しています」

 

うん、真面目に探していたら美少女を見つけてしまっただけだ。

 

「今プレアに見とれていただろ」

「プレア…?あぁ、あの美人さんとお知り合いなんですか?」

 

プレアちゃん……うん、美人は名前も美しく感じます……

 

「………まぁな」

 

おや?何気なく聞いただけなのに反応が苦いぞ…?

何かあったのか…?

……はッ!もしかして片思いとかッ?!

 

「今お前が考えていることは絶対に違うと断言しておく。で、今アイツはいないみたいだが、どうする?」

 

私の顔で考えていることを読まないでください。

そして違うと断言されたし……ッ!

むぅ、残念だぁ。

 

「…では、温室へ行ってみましょうか」

「いいのか?他の本棚にいる可能性もあるぞ」

 

うーん…グレン様と戦っていたおかげで現在十一時三十分。

あと十分でレグルとの待ち合わせ時間になる。

レグルの方で見つけられていたらそれでいいんだけど……

どうしよう……

 

「やっぱり温室へい…」

「あれ、グレンだ~!どうしたの。ここに来ているなんて珍しいね」

 

私の声を遮って、背後から明るい声をかけられた。

振り返ってみると、鮮やかな青緑色の髪をした少年がグレンに手を振りながら近づいてくる。

…グレン様の友達かな?

 

「あぁ、キース。兄貴を見かけなかったか?」

 

ニコニコしている『キース』君とは反対に相も変わらず仏頂面のグレン様。

友達の前でくらい笑えばいいのに…

 

「え、殿下?……今日は見かけていないけど」

 

グレンの言葉が衝撃的だったのか、眉を寄せて目を見開いている。

片眼鏡越しに開かれた瞳はついさっき見かけた紫色をしている。

―もしかしてカナストル王国で紫の瞳は珍しくないのか?

 

「…どうしたの、グレン。君が殿下を探すなんて明日槍でも降るんじゃないのか?」

「いや、探しているのは俺じゃなくてコイツ」

 

そういって親指で私を指すグレン様。

―本当に残念王子だな。

もうツンデレ拗らせたレベルの話じゃないよ。

人見知りなの?何なの。口悪すぎだろ。

 

「女の子…?本当に大丈夫?君が女の子を連れているなんて…あ、もしかして熱!?熱なのか…?」

 

そういうキース君は騒がしいな…そして、謎のテンション。

見た目だけだとクールで落ち着いているみたいなのに……変な子だぁ。

 

「いや、アミスは普通の女じゃないっていうか…まぁ、いい。とにかく、兄貴を見たか?」

 

おい、私が普通の女じゃないって辺り詳しく。

そしてそれを『まぁ、いい』で流すな!

 

「ぷっ?!げほん、ううん…今日は見ていないよ」

 

…?キース君、何故今吹いた?

 

「そうか…じゃあ、温室に行く。またな」

 

少し強引に会話を断ち切って来た道を折り返していくグレン。

………もう、残念過ぎるよ。

 

「あー、うん。またね」

 

そしてキース君はマイペースだな。

強引に話を切られたというのに不快そうな雰囲気を微塵も感じない。

それどころかニコニコしている…本当、面白い子だな。

 

っと、大事なことをグレンに伝え忘れていた。

 

「グレン様、温室へ行く前にバラ園へ向かってください。私の主と待ち合わせをしているんです」

「…あぁ、わかった。さっき言っていた『レグル』とやらだな」

「はい、可愛いし優しいし強い、私の最高の主様ですよ」

「…嬉しそうだな」

 

フッとグレンが優しく笑った。

 

「……まぁ、私の友達でもありますからね」

 

思わずそう言ってしまえば、グレンは驚いた顔をした。

まぁ、普通主とメイド(護衛)を友達だという人はいないか。

 

「…友達……主と友達なのか……」

「…あー、まぁ…変わっていますよね?」

 

上手く言い訳が見つからなくて否定的になる。

 

「いや、いいんじゃないか?…そうだな、良ければ俺とも友達になってくれ」

 

……え。王子と、友達?

『そうだな』で済まさせる話か?

私とグレン様じゃ身分が違い過ぎるだろ…

いやでも、グレン様がいいって言うならいいのか……?

でもな……

 

「…わ、分かりました。今から私とグレン様はお友達です…ッ!」

 

半場自暴自棄になって承諾する。

「いやです」なんて言って不敬罪になりたくないしね。

 

でも、グレンの方を見て少し罪悪感を抱いてしまった。

だってグレン様、本当に嬉しそうに笑っているんだもの。

 

「あぁ、友達…だ」

「……っ!」

 

不覚にもグレン様に見惚れてしまっていた。

うぅ…今回ばかりはなんかすまん……

いや!これから誠心誠意グレン様と友達として向き合おう!

そしてあわよくばその残念な性格を少しずつ直していこう!!

だって本当はとっても良い子なんだからッ!!うん!!

 

グレンの様子に私も嬉しくなってしまったからだろうか。

後ろから睨んでくる紫の瞳に、私は気づけなかったんだ――

 

 

 

 

To be continued ………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と戸惑い

「おーい!レグルーッ!」

 

集合時間丁度、見慣れた亜麻色の髪を見つけて手を振る私。

隣でグレン様が苦笑いしているのには無視だ、無視。

 

「あぁ、アミス……って、え?そ、その子は…?」

 

早速隣にいるグレン様に気づいて困惑するレグル。

ふっふっふ~、聞いて驚け。

 

「カナストル王国第二王子の、グレン様です」

「あぁ、グレンだ。よろしく」

「あ…はい、よろしくお願いします…?」

 

おや、まだ困っているぞ…?

そんなに困惑することでもないでしょうに。

 

「本当アミスって少し目を離すだけで、何かやらかすよね」

 

はぁ、とため息をつきながら言うレグル。

 

「…人をトラブルメーカーみたいに言わないで。トラブルを起こすんじゃなくて、トラブルが近づいてくるの。今回だって、窓から飛び降りたらグレン様に会っちゃっただけなんだから」

「いや、ソレ自分からトラブル起こしているよ。ってか何やっているの?!普通に階段で降りようよ。何で窓から飛び降りたのさ!」

「そっちの方が近いかな、と」

「いや、家ならまだしもココ王宮だから!変な行動しちゃダメでしょ!?」

「変な行動じゃないわ!窓も交通手段の一つよ!」

「…ぶっ、あはははははははははは!」

「「え?」」

 

突如響いたグレン様の爆笑にレグルと顔を見合わせる。

 

(レグル、何か変なことしたかしら?)

(…していないと思う、よ…多分)

 

アイコンタクトを取ってグレンに視線を戻す。

 

「あのー、グレン様?大丈夫ですか」

 

まぁ、グレン様笑い過ぎて呼吸困難に陥っているんですけどね。

うん、コレ駄目なヤツや。

レグルと二人で呆れた顔を張り付けて約二分後、ようやくグレン様の笑いは収まった。

 

「はー…笑った、笑った」

 

本当、めっちゃ笑っていたね。オーバーってくらい。

 

「お前ら、本当に面白いな」

「「…そうですか?」」

「あぁ、変わっている」

「いやいや、そんなことないですよ」

「…アミスに限っては同意見ですね」

「ちょ、私は至って普通よ!?」

「「どこが!!」」

 

全て…かな?

って、今はそれどころじゃないんだったよ!

 

「レグル、その様子だと殿下はいなかったのよね?」

 

…これは立場が危うくなって、話題を変えたわけじゃないんだからね?

 

「え、あ…うん。残念ながら見つからなかったよ」

 

申し訳なさそうに目を伏せるレグル。

…私も見つけられなかったのだから、落ち込まないでッ!

 

「残り時間は二十分…やっぱり、温室へ行ってみましょうか」

「そうだな。残るはそこぐらいだ」

「じゃあ、グレン様!案内お願いします!!」

「ちょ…アミス!?」

 

何故かレグルが慌てている。

…私、変なことした?

 

「あぁ、分かった。ついてこい」

「え…いいんですか?」

「ほら、行こう?レグル」

「……僕がおかしいのか……?いや、そんなことは……」

 

隣でレグルがぶつぶつ言っている。

………レグル、大丈夫か?

 

 

**

 

 

少しずつ変わっていく景色を見ながら考える。

 

殿下ってどんな人なんだろう。

ゲームでは天才肌でなんでも出来ちゃうから、何も楽しむことが出来ない子って風に描かれていたな……

そのせいもあって大体が無表情なんだよね。

 

…ん?無表情……?

そういえば、ゲームの途中に王子の過去の回があったな。

 

確か…かつて存在した何とかって兵器を蘇らせようとしていた伯爵の企みに気づいて、どうにかしようって奮闘するんだよね。でも中々証拠が見つけられないんだ。

それで現場を押さえようって、『頼りになる子』にヒントだけ置いて一人で温室下の地下室へ向う。でも証拠を掴めないまま伯爵に見つかっちゃって、逆に捕らえられてしまう。それで五日くらい監禁された後に一人の少女が伯爵を捕まえてくれて、やっと日常に戻ることが出来るんだ。でも、監禁された恐怖は消え去らなくて無表情になっちゃうんだっけ。

殿下も大変だなぁ……

 

あ、そういえばこの事件で一人の攻略対象と仲違いしちゃうんだよね。

えーっと…何とかっていう強い公爵家の子。

王子を救う剣のはずなのに、気づけなかったって自分を責めちゃうんだよね。

しかも、その子が殿下が唯一ヒントを残した『頼りになる子』だったから尚更。

 

そういえば、私その子のルート好きだったんだよな…

紅い瞳をしているせいか多くの人から避けられて生きてきて、本当は辛いはずなのにいつも頑張って笑っているんだよね。

それを知ったとき私の方が泣きそうになっちゃって――

うわぁ…懐かしいな。

そうそう、二人が仲直りした時のスチルなんて本当に素敵で……

 

―あれ、どうしてだろう。

体が震えている……

あはは…変なの。

 

ねぇ、もう逃げるのは止めなよ。

…本当は分かっているんでしょう?

 

ううん、違う!

ここは、そっくりな世界ってだけ…!

そう―ッ!違うわよ!違う…ッ!

 

「アミス、温室が見えてきたぞ?……アミス?」

「―ッ!………何でも、ない…」

「……?」

 

グレン様とレグルが心配そうにこちらを向く。

大丈夫だ、と微笑めば彼らは再び温室へ向かって足を進めた。

 

そうだ、違う。

乙女ゲームの世界にアミスなんてキャラクターいなかった。

だから、温室へ行けば殿下がお茶を飲みながら微笑んでいるはず。

 

「失礼しまーす……あれ、ココにもいねぇな…?」

「…!?」

 

適当な挨拶をしながら温室へ入るグレン様。

…王子様がいない……?

 

「あれ、机に何か置かれているよ?」

 

…まさか。

 

「えーっと…?『水の双子に眠るのは失われし古の力』………なんだこれ」

「―ッ!?」

 

『強い公爵家の子にヒントを置いておいた―』

『イベント開始は十歳の春―』

『双子の像を動かした下にある秘密の研究室―』

『水の双子に眠るのは失われし古の力―』

 

ねぇ、もう認めなよ。

私の中の誰かが言った。

 

そっか。

ココは乙女ゲームの世界なんだ……

 

ずっと逃げていたくせに、危機に瀕せば簡単に現実を認めた。

私って案外薄情だな。

 

…ねぇ、殿下を救いたい。

どうすれば良い?

どうすればみんなを幸せにできる?

アミス、考えなさい―

〈氷の戦姫〉に不可能なんてないのだから―ッ!!

 

「…レグル、グレン様。聞いてほしいことがあるの」

 

覚悟を決めろ、私!

私にあの子の未来がかかっているんだ…ッ!

 

「…うん。なんでも言ってアミス」

「何か気づいたのか?言ってみろ」

 

大丈夫。大丈夫だ。私。

二人を信じろ。

決して長いとは言えない付き合いだけど、信じるんだ。

大丈夫、大丈夫……

 

「あのね…実は―ッ」

「「「!?」」」

 

その時だった。

 

どかあああああああああんッッッ

 

そんな衝撃音と共に、温室が大きく揺れた。

 

「「!?」」

「…ッ!」

 

やばい!もう時間がない!

 

『世界が揺れたかと思うほどの衝撃を受けて、ソレは姿を現した。そう、これが伯爵がずっと望んでいた古代の兵器―』

 

頭に浮かぶのは王子が伯爵に見つかってしまう、その場面。

 

「!?アミス…ッ!?」

「おい、アミス!!」

 

二人の悲鳴帯びた声を背に聞きながら、私は噴水へと駆けて行った――

 

 

 

To be continued………

 

 




感想、お気に入り登録、お願いしますッ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と救出(1)

★レグル視点です


「アミス―ッ!」

 

急に駆けだしたアミスを追いかけて噴水までやってくる。

―何かを考えている彼女の横顔は、見たことがないほど辛そうだった。

 

…本当に、今日はどうしたんだろう。

約二年間一緒に過ごして、彼女のことは大体わかってきたつもりだ。

いつも明るくて前向き、考えることは明らかに異質で突拍子もないことばかり。

でも彼女の隣にいると、とても心地が良かった。

彼女は何でも認めてくれる。

他人が畏怖するようなことも、笑って認めて手を取ってくれる。

 

でも、彼女はたまに遠いどこかにいる様な目をしていた。

ココじゃない、遠い、遠いどこか。

明るい顔をしていても、心の深くに影を落としている何かがあった。

彼女はそれを絶対に隠す。だから、僕も踏み込みはしなかった。

でも―今日の彼女はおかしい。

何かから目をそらしているような、でもどうにかしようとしているような、そんな葛藤を感じる。

だから、彼女が口を開いたとき嬉しかった。

なのに――

 

「…どうした?」

 

アミスの尋常じゃない雰囲気を見取ったグレン様が、アミスに問いかけた。

噴水の中央の像から視線を外し、彼女の瑠璃色が僕たちを見抜く。

 

「…レグル、グレン様。ここからは危険が伴います。覚悟を、決めてください」

 

…何が彼女をそんな顔にさせるのだろう。

今にも壊れて、崩れ落ちてしまいそうな危うい顔。

泣きそうなのに、それを必死にこらえて我慢している、そんな顔。

 

君が言ったんじゃないか。

一人じゃない―って。

 

「…覚悟なら、生まれた時からきまっている」

「うん。大丈夫だよ、アミス。僕たちは一人じゃない」

 

少しだけ、アミスが目を見開いて微笑んだ気がした。

…願望かもしれないけど。

 

そして、彼女は目を閉じて深呼吸をした。

 

「…うん、行こう。王子殿下を助けに…ッ!」

 

今回はちゃんと微笑んだ。

 

 

***

 

 

「…王宮にこんな場所があったとはな……」

 

薄暗い道を歩きながらグレン様が呟く。

煌びやかな王宮とは異なり、ここは迷宮のような雰囲気を持っている場所だ。

 

「アミス、よくこんな場所知っていたね」

 

ここは温室の地下通路。

双子の噴水にある像を動かすとここに入る階段が現れる仕組みになっていた。

―明らかにヤバい雰囲気はするんだけどね。

 

「…殿下がヒントをくださったじゃない。だから分かったのよ」

「ヒント…?あぁ『水の双子に眠る』ってやつね」

「そう、温室にある水は噴水だけ。双子に眠るっていうと大体隠されているモノを指すわ」

「…なるほど」

 

…本当、彼女の思考は計り知れないな。

天才っていうか、鬼才っていうか…

 

「―ッ!扉よ!!」

 

彼女の視線をたどると、確かに扉が見えた。

やっぱりココって元は迷宮か何かじゃない?

なんかボスモンスターの扉って感じなんだけど。

 

「…何か物音がしないか?」

「物音―?」

 

訝しそうに前を見て聞き耳を立てるアミス。

こんな状況だけど、耳に手を添えている姿に思わず「可愛いな」と思った。

 

「…確かに、人の気配はするけど……」

 

あと二十メートルほどに迫った扉を見て首を傾げるアミス。

まぁ、入ればわかることか。

そう思った直後だった。

 

「うわああああああああああああッッ!」

 

幼い少年の声―少し低めのアルトが扉の向こうから響いてきた。

 

「―ッ!」

 

一瞬息をのんでから駆け出すアミス。

慌てて僕とグレン様も走り出す。

 

無詠唱の風魔法で扉を吹き飛ばして中に突進する彼女。

この間僅か一秒。

 

「殿下ぁあああああああああッッ!」

 

珍しく本当に慌てたアミスの声。

視線の先には、金属で出来た『何か』が殿下へ向かって腕を振り下ろしているところだった。

そして――

 

 

どっしーんッ

 

 

地面にクレーターを作り上げるソレ。

クレーターの少し向こうには、殿下を横抱きにしたアミスがしゃがんでいた。

うーん、絵ずら的にはアミスと殿下の立場逆だと思うんだけど。

 

「大丈夫ですか!?殿下ッ!アミスッッ!」

 

気が付けば、無詠唱の転移魔法で隣に座っていた二人に声をかける。

二人とも極度の緊張から解き放たれたようで、立ち上がれないらしい。

 

「私は大丈夫よ…殿下は―」

「あ、あぁ。大丈夫……」

 

思わす胸を撫で下す。

間に合ったのか――

 

「あ…少しケガしていますね―〈治癒〉」

 

殿下の腕や膝の擦り傷を光が包んでいく。

すると、隣にしゃがんでいるアミスが話しかけてきた。

 

「うーん…レグルは本当に〈癒〉が苦手よね。中級魔法までは全属性無詠唱必須よ!」

「うぅ…分かっているんだけど扱いにくいんだもん。そういうアミスだって〈雷〉はたまに詠唱しているじゃないか」

 

言い訳気味に師匠唯一の欠点を指摘する。

 

「…あれは上級レベルよ」

「アミス、間があったよ…はい殿下、治療終了です」

「……君たちはすごいんですね」

 

いつも通り軽口をたたいていると、殿下が驚いた顔をして僕たちを見ていた。

 

「そうですか?王国の剣としてこれくらい普通ですよ」

 

まぁ、アミスの訓練は本当にきついんだけどね。

でも、ここはやせ我慢してでも格好つけ…

 

「といいつつ、本当はすごく嬉しいのよね、レグル」

 

格好つけたかったんだけど…ッ!

 

「こらッ!余計なこと言わないッ!」

「うわぁー、怒られたー」

 

棒読みだよ、アミス。

思わずジト目で彼女を見ていると、「あ」と何か思いついたような顔をしてアミスは殿下に向き合った。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね」

 

あ、そういえば。

 

「私はファルファード家のレグル様専属護衛、アミスです。以後お見知りおきを」

 

胸に手を当ててお辞儀するアミス。

メイド服を着ているのに護衛―なんか変なの。

 

「僕はファルファード家第三子、レグル=ファルファードです。どうぞよろしくお願いします」

「では改めて。私はカナストル王国第一王子、ラヴィレント=ピル=カナストルです。二人ともこれからよろしくお願いします……そういえば、どうしてグレンはココに?」

「…俺はアミスに付き合わされたんだ」

 

バツが悪そうな顔をして親指でアミスを指すグレン様。

……これが前アミスが言っていた『ツンデレ』ってやつ?

 

「まあまあグレン様。私たちは友達なんですし、いいじゃないですか」

「……嫌だとは言っていない」

 

待て、グレン様スルーしたけど、え?友達?

 

「……アミス、グレン様と友達って……」

「あぁ、レグルと私が友達だって言ったら、グレン様もなりたいって言ったから」

「軽いなッ!?」

 

殿下たちがいるにも関わらず素で突っ込む。

 

にしても、王子と友達…

あー、でもアミスだからな。

うん。深く考えることはやめよう。

 

すると、グレン様が慌てた声で怒鳴った。

 

「ていうか、おいっ!アレはどうするんだ!?」

 

…アレ?

そう思ってグレン様の指さす方を見ると、こちらに向かってきている金属の塊であるソレ。

…正式名称知らないし指示語になってしまうのは仕方ない。

 

「んー、私の拘束魔法解けちゃったか」

「…いつの間に」

「殿下をお姫様抱っこしてすぐ」

 

あっけらかんと言い放つアミスに殿下が俯いて頬を赤くした。

そりゃ、自分よりも小さくて細いアミスにお姫様抱っこされるのはキツイよね…

 

 

 

 

 

 

To be continued………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と救出(2)

★レグル視点です


「さて、じゃあレグル君。特別授業です」

 

立ち上がってスカートの裾を払うアミス。

そういえば、いつの間にか元のアミスに戻っているな…

 

「はい、師匠」

「アレの名前は軍用殺戮兵器、コーロスちゃんです」

 

…命名したの、アミスだね。

殿下とグレン様も微妙な顔しちゃっているよ!

っていうか流石双子。

髪色や瞳の色の違いを抜けばそっくりだな。

 

「コーロスちゃん含む、魔兵器の利点は中級、物によっては上級までの魔法攻撃が効かないことにあります」

 

そういってアミスは中級の炎をコーロスちゃんにぶつける。

だが、コーロスちゃんは何事もなかったようにこちらに向かってきた。

 

「つまり、魔法で殺すなら超上級か最上級だけってことだね」

「えぇ、または物理でもいけます。まぁ、下手な攻撃したら武器の方が折れますけどね」

 

このままコーロスちゃんが来ると殿下たちが危険なので、彼女は少しずつ僕たちから離れていく。

…気を引くために上級魔法を連発しながら。

もう殿下とグレン様の開いた口が塞がってないよ。

 

でも、気にしたら負けだッ!今は授業に集中しなくては!

 

「…じゃあ、結局壊せるのは魔法だけなんじゃ…?」

「そう、でも超上級や最上級をポンポン使える魔法師は限られています。魔兵器の利点その二は、量産できるところにありますから」

「…じゃあ、どうするの?」

 

魔兵器って最強なんじゃ…?

この世界で超上級魔法を使えるのは各国の宮廷魔導士団のトップとアミスと僕くらいのものだ。

明らかに片手で事済む人数。

しかもそんなものが大量生産できるときた。

今戦争がおきていなくてよかったよ……

 

「…現在魔兵器はこの世界残っていません。それは何故か。答えは簡単明白―それ以上の存在が現れたから」

「…それ以上の存在?」

 

大量生産出来て、上級の魔法を防いでしまう魔兵器の上の存在…?

そんなもの、思いつかない。

 

「はい、特別授業終了。面倒なので終わらせちゃいます。〈さよなら〉」

 

突如起きる大爆発。

でもよく見ると天井が崩れ落ちないよう、コーロスちゃんの周りにだけ結界が貼ってある。

…本当に抜け目がない。

アミスが変に授業を切ったことよりも、大爆発の方に気を取られてしまった。

 

「…アミス。ソレは何?」

「オリジナルSSS級軍魔法。〈万象の終焉〉」

「…炎と氷を同時に作りだして、そこに雷と風ね……はぁ」

 

〈さよなら〉の一言で国が『さよなら』する気がする。

最上級の炎と氷を同時に創り上げた上、超上級レベルの雷と風。

雷属性さえ入っていなければ無詠唱で出来たんだろうな…

うん、欠点があるだけ可愛げがある。

―欠点とは呼べない気がしないでもないけど。

 

「……お前ら、国を滅ぼさないでくれよ?」

「………本当に」

 

もう理解することをあきらめたような顔をしている殿下ーズ。

そりゃね。

失われた六属性の失われた最上級魔法(しかも加工済み)を見せられたら、僕でも何かを開ける気がする。

 

「失礼ですね。国を滅ぼしたら美味しいご飯を食べられなくなるじゃないですか。いくら滅ぼすのが簡単でも、そんな無意味なことしませんよ」

 

…無意識に国を貶しているアミスさん。

国の良いところはご飯だけじゃない…と思うよ?

まぁ、確かにアミス相手じゃ宮廷騎士団も魔法師団も、手も足も出ないだろうけどさ。

 

「…そうか。よかった」

 

うん、グレン様諦めちゃったね。

殿下も苦笑い隠す気なくなってるし。

 

「…そういえば、殿下はどうしてこんな場所にいたんです?さっきのコーロスちゃんと何か関係が?」

 

これ以上被害が出ない前に話題を変えよう。

 

「あぁ…実は、ハーヴェル伯爵が国に秘密に軍用兵器を作っているらしいと聞いてね。書類証拠はなかったから現場を押さえようと思ったんだ」

 

…殿下の行動力おそるべし。

思わず呆れていると、アミスが口を開いた。

 

「殿下、次からは行動する前におっしゃってください。今回間に合ったから良いものの、殿下の身に何かあってからでは遅いのです。私たちがいれば護衛にもなりますし、行動の幅も広がります。一人より二人、二人より三人、三人より四人ですよ!殿下」

 

うーん…ちゃっかり僕とグレン様も巻き込まれているぞ……?

まぁ、いいんだけどね。

 

「殿下、アミスの言う通りです。一人じゃ出来ないことも四人なら出来るかもしれませんよ?ですから、どうか次は先にお知らせくださいね」

 

まぁ、次がない方が良いんだけど…

でも、アミスと一緒にいると絶対に次がある気がする…ッ!

 

「まぁ、アミスやレグルもこう言っているし、俺も国のためだったら兄貴の手伝いをするよ。だから一人で抱え込むな。俺たちは双子なんだし…苦労も分け合おうぜ」

 

おぉ…グレン様が超かっこいい。

アミスも「良いこと言ってんなッ!」って顔で見てるよ。

殿下は…あ、感動している。まぁ、『ツン』しか見たことないと結構衝撃的か…

 

「…分かった。これからはみんなに相談することにするよ。折角だし、アミス、レグル。私とも友達になってくれるかな」

 

…うん。こうなる気はしていた。

 

「はい!もちろんです、殿下」

「…了解です、殿下」

 

あれ、そういえば僕とグレン様は友達じゃないんだっけ…?

思わずグレン様を見る。

うをぉ、目が合ったよ…!

 

「…俺とレグルも友達だ。いいな」

 

前アミスが『ツンデレは可愛い』って言っていたけど、本当だな。

ぷいって視線を外しているけど、少し拗ねていることは分かっていますよ?

 

「はい!よろしくお願いしますね、グレン様」

「…」

 

おっ、グレン様の頬が少し赤いぞ…?

アミスも隣で笑っているし、見間違いではなさそうだね。

 

「…アミス、レグル」

 

不意に殿下から名を呼ばれた。

 

「? 何でしょう殿下」

「…それ」

 

((どれ))

 

アミスと僕の心情が見事に一致した。

グレン様の次は殿下が拗ねていらっしゃるよ…。

この双子大変だな…。

 

「えーっと?」

「私のことも是非名で呼んで欲しい……」

 

恥じらっている姿が乙女なのですが!?

繊細な顔立ちも相まって、様になってしまっている…ッ!

 

「…ラヴィレント様、でよろしいですか?」

「…ううん、長いからラヴィルでいい。あと様もいらない。私たちは対等な友なのだから」

 

出会って数十分でまさかの愛称呼び!

しかも『様』なし!

うっ、なんか距離が近すぎる気が…

ううん、もう諦めよう!ココに常識人はいないッ!

 

「はあ…じゃあラヴィル」

 

アミスが少し呆れ顔で名を呼べば、ラヴィルはホロリと笑った。

 

「…うん。よろしくね、アミス、レグル、グレン」

 

(((可愛いなッ!おい)))

 

この時僕たち三人の心情は寸分違わず一致した。

 

「アミス、レグル。俺も様はいらない。これからはグレンと呼べ」

「はい!グレン」

「了解、グレン」

 

またしても少し拗ねているグレンに笑いかければ、頬を赤くしてそっぽ向いた。

兄弟そろって可愛いな…

 

ふとアミスを見ると、彼女は噴水の前とは打って変わって幸せそうに笑っていた。

なんだ…よかった。

 

 

幸せな時間はすぐに過ぎる。

でもそれでも良いって思えるほど、今が楽しかった。

―だから僕は、失念していた。

 

「おい!そこで何をしている!?」

 

―そう、ココが敵地のど真ん中だってことを

 

 

 

 

 

 

To be continued………

 

 

 

 




グ「ヒロインの座はアミスよりも兄貴の方がいいんじゃね?」
ア「ヒロインポジの私としては否定したいんだけど…絶対ラヴィルの方がいいわね」
レ「…そこは否定しようよ、アミス」
ラ「いや、ヒロインはアミスしかいないと思うよ。美しい白銀髪、綺麗な瑠璃色の瞳。多くの令嬢を見てきたけど、アミスほど美しい少女は見たことないもん」
ア「……そう、面と向かって褒められると、なんか照れくさいわね」
レ「………(イラ)」
グ「確かに見た目も良いけど、アミスは剣と魔法もすごいよな」
ア「まぁね…(育った環境が環境だから)」
レ「……(イライラ)もう!早く話し進めよう!ほら伯爵に見つかっちゃったよ!」
ア「うぇ?どうしてレグル怒っているの…?」
グラ「さぁ…?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と戦闘

 

「おい!そこで何をしている!」

 

えーっと、親睦会…かな?

ラヴィルとグレンとの友情を深めていましたよ。

え?羨ましい?はっはっはー、そうだろう、そうだろう。

 

「…無性にイラつく顔を止めろ、小娘」

 

…なんか怒られてしまった。

というか、前世で二十五歳、三千年前に十八歳、今十歳…計五十歳越えの私を小娘…

面白い冗談だね。

 

「…ハーヴェル伯爵」

 

私が心の中でピッカリオジサンを貶していると、徐にラヴィルが口を開いた。

 

へぇ、この人が噂の伯爵なのか…うん、ピッカリだ。

どこがとは言っていないよ?ここ大事。

 

「先ほど私に襲い掛かってきた軍用殺戮兵器について、詳しいお話を伺っても?」

 

ラヴィルの翠玉の瞳が伯爵を見抜く。

 

「―ッそれ、は…」

 

言葉に詰まらせて二、三歩退いてしまう伯爵。

 

うん、ラヴィルの威厳はすごいからね。

そうなってしまうのも無理はないかな。

 

「一つ、貴方に確認します」

「……」

「伯爵は確か、ゲルバニアとの外交を中心的に活動していらっしゃいますよね」

「…!」

「そして先日ゲルバニアの外交官が変わられた、と耳にしました。そして、そのせいで外交が上手く行っていない…とも」

「……」

「まさかとは思いますが、貴方はあんな武器を作り出して、ゲルバニアと戦争をするおつもりだったのではないでしょうね?」

 

つまり、外交が上手く行かなくなったことに腹を立てて、ゲルバニアにあの兵器を送り込もうとした…ってことだよね。

そして兵器を送り込んだことがバレたら、もちろんカナストルとゲルバニアの全面戦争になる。

世界三大国が戦争になったらその被害は計り知れない。

…世界中を巻き込んだ第二次世界大戦になる可能性もある。

その上、平和条約を破ったのだからカナストル王国は『裏切り者』のレッテルを張られる。

 

ラヴィルはそれを止めたかったのか……

最近の十才はすごいなぁ。

前世だったらあほ面して缶蹴りしていたよ。

 

「……に」

「?」

「…お前にッ、何がわかるッッ!!」

 

伯爵は、ばっと真っ赤な顔を上げて捲し立て始めた。

 

「温室で花よ蝶よと育てられたお前らに何がわかるッ!?私は外交が失敗したら、家族を養っていけないかもしれないッ!その恐ろしさがお前にわかるかッ?!お前らは絵本を読んでいるだけで、裕福な生活を送れるかもしれないがな…ッ!!私はそんな甘い生活を送っていな…」

 

伯爵の熱弁(笑)はそこで終了した。

何故なら私が頭から冷水をかけたから。

 

「「「……」」」

 

レグル、ラヴィル、グレン、伯爵に同情の目を向けるのはやめて。

私が悪者みたいじゃない。

顔を真っ赤にして吠えているものだから、暑いのかと心配してあげたのよ?

…まぁ、私の大切な主が貶されているような気がしたからやっただけなんだけどね。

 

「お言葉ですがピッカリ伯爵?公爵家の子であるレグルでさえ、日々血のにじむ努力をしています。比喩でもなんでもなく日々の鍛錬で骨折なんて当たり前。それはこの国の上層に立つ一人として中層、下層の人の何十倍もの努力が必要になるからです。いつか命を懸けて、戦場の最前線に立ち、そして生き残るために」

「―っ!?」

「命を懸けているのは、みんな一緒です。公爵だの伯爵だの、関係ない。どれが外交だろうが、戦場だろうが意味ない。そんなことも分からないのに世界三大国の一つに戦争を仕掛けたい、だなんて貴方はバカなのですね」

 

戦争の恐ろしさを、彼は何もわかっていない。

生き抜くのがどんなに大変なのか。

明日も、明後日も、そのあともずっと戦場だと知ったときの絶望がどんなに大きいものか。

なんのために戦い、生きるのか分からなくなってしまう虚無感も。

転生してずっと戦場だと国への愛着など微塵もなかったから尚更ね。

両親からも「戦姫」と呼ばれる悲しさを、貴方は何も理解していない。

 

「……ッ、私は―ッ!」

 

冷水効果か、さっきより幾分怒りが収まった顔の伯爵へ、ラヴィルが冷静に告げる。

 

「…伯爵、貴方の身柄は拘束させていただきます。私を殺そうとしたこと、その罪が如何なるものかは分かりませんが、いず…」

「罪?…私は、牢屋へ行くのか?」

 

ピッカリ伯爵の顔が真っ青になった。

え、まさか考えていなかったの?

戦争を仕掛けようとしたり、牢屋へ行くことに驚いたり、とんだ阿呆伯爵だな。

 

ラヴィルも呆れて残念なものを見る目しちゃっているよ…

 

「はぁ…まぁ、戦争を仕掛けようとした上私も殺されそうになりましたから…」

「わっ、私は殿下を殺そうとはしていないッ!」

「でもな、結果論で言えば兄貴はアイツに殺させる寸前だった。アミスがいければ…兄貴は助からなかった…ッ」

「そっ、そんなッ!」

 

あ、あれも忘れちゃだめだね。

 

「あとは~さっきの『お前』とかも不敬罪になるわね。しかも、ダブル王子様プラス公爵家の子…この罪も大きいかもね」

「……うそだ」

 

ふっふー、残念ながら現実よ。

さて、主を貶めたのだからもう一押ししなきゃね。

 

「まぁ、これだけ罪を犯してしまえば、一生牢獄暮らしか最悪死刑ね」

「―ッぁ……嘘だ…嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁああああああッ!!!」

 

だから現実、本当だって。

十歳の殿下の方がよっぽど大人っぽいわね。

本当、こんな精神状態のおバカさんが戦争をおっぱじめたいだなんて、世も末ね。

 

「ラヴィル、うるさいから拘束しちゃっていい?」

「……そうだね。じゃあお願いするよ」

「!? そこを動くなッ!ガキどもッッ」

 

あちゃー、どれだけ罪を増やしたいのかしら。

伯爵…戦争を始めようとした罪どころか不敬罪で簡単に死ねるわよ?

それに、拘束って土魔法使えば出来るし、別に動く必要ないんだけど。

まぁ、面白そうだからピッカリ伯爵に付き合おう。

 

「これはさっきの兵器を始動さえるスイッチだ。ここには五十体しまわれている。一体ならなんとか出来ても、五十体いると無理だろう?」

 

…いや、今まで五十体どころか五百体相手にしたこともある。

でも…アレを使えないこの状況じゃ十体が限界か。

だからと言って、大人しく伯爵につかまってしまえばゲームと同じになるし…。

―まぁ、四人いるからお泊り会みたいになるかもしれないけど♪

 

うーん、考えるのも面倒だしスイッチ押さないようにして拘束しちゃう?

いやでも、ずっとここに兵器がしまわれ続けるのも物騒だよな。

それにこの計画には他の仲間が存在するはず。

そいつらを洗い出す前に兵器を手に入れられても迷惑極まりないし…

 

うん、コーロスちゃんは全員ここでヤっちゃおう。

 

 

「レグル、ラヴィルとグレンを連れて温室へ転移して」

「!?」

 

レグル達がここにいても特に問題はないけど、アレを使う姿を極力見られたくない。

もし万に一つ、千に一つ彼に拒絶されたら、私は……

 

「一度行ったことあるから出来るでしょう?そして温室にて待機」

「…アミス一人で、倒せるの?」

「当たり前よ。私は魔法の天才なんだから」

「……分かった。無事を祈っているよ〈転移〉」

 

レグル、グレン、ラヴィルの足元が光って―いなくなった。

 

「さて、ピッカリ伯爵。どうぞそのスイッチを押してください。押さないと貴方が死んでしまいますよ?」

「…ッ!言われなくても押すわ!来いッ、コロース君!」

 

…やばい、名前のセンスがほぼ同じなんだけど。

コーロスちゃんでしょ?なにコロース君って!

 

「じゃあ私も、相棒を呼ぼうかな」

 

膨大な力が迫ってくるのを感じながら、手首に着けている銀の腕輪に魔力を通す。

 

(久しぶり。元気にしていた?)

 

どくん、どくん、と脈を打つ。

 

(主ノ魔力ヲ確認。スリープモードカラ移行シマス)

「おはよう、三千年ぶりだね。ホロビーロちゃん」

(オハヨウゴザイマス、主。五十ノ敵兵ヲ感知、殲滅シマスカ?)

「うん、お願い。全武装装備、魔力チャージ開始!」

 

銀の腕輪の中心についた真紅の魔石が煌々と光り輝く。

懐かしいな…よくこうやって一緒に戦場を駆けまわったよね。

 

あ、そういえば天井落ちてきても困るし一応結界を張って置こう。

範囲はこのボスモンスターの部屋的空間全部でいいかな。

 

ぱっぱと半径三キロくらいに結果を張ると、男性の声が響いた。

 

「…な、なななななななんだッ!?ソレは!」

 

私の背に浮かぶ大量の大砲やら銃やら魔法発動装置やらを指さして震える伯爵。

えっへん、かっこいいでしょう?

 

あれ…?そういえば伯爵まだいたの?

ホロビーロちゃんとの感動の再開を邪魔しなかったことは褒めてあげるけど…

ここにいたらホーちゃんに殺されちゃうよ?

 

…どうせ大した魔法も使えないんだろうし、仕方ない。

 

「〈転移〉」

 

目標はラヴィルのところね。

雷属性の殻に転移魔法を包んで、伯爵に投げる。

伯爵に当たると殻が初めて空間魔法が発動する原理。

他人に魔法をかけるのって〈治癒〉くらいしかないから試行錯誤して作ったんだよね。

 

「さて、邪魔者もいなくなったし、ちゃっちゃと片付けますか!」

 

さて、私も剣で応戦しようかな。

 

〈マジック・ホール〉から取り出すのは魔石で出来た双剣。

剣に魔力を通すことによって折れなくなるし、炎を想像して魔力を通せば剣に炎が巻き付くっていう優れもの。

三千年前に鍛冶師さんに土下座して作ってもらったんだよね…

うん、今じゃいい思い出だぁ~(?)

 

剣を構えて状況を確認する。

私を取り囲むように並んでいる五十体のコーロスちゃん。

 

「じゃあ殲滅開始だよ!ホロビーロちゃん、冷却魔法!」

(了解シマシタ。殲滅、開始ィィィイイ!)

 

とりあえず今の魔法で第一線のコーロスちゃんが氷漬けになった。

はっはっはー、〈氷の戦姫〉復活じゃぁああああ!

 

「―フッ!」

 

自動で敵を滅していくホロビーロちゃんと合わせて私も敵を一閃していく。

十属性の超上級魔法を連射し続けるホーちゃん…

ちなみにホーちゃんが連発している魔法の魔力は全部私持ちです。

私が「おごるよ」って言ったら、いつも以上にバカ食いする阿呆後輩を思い出す…はぁ。

 

(目標残リ三十ニナリマシタ)

「了解ッ!私も魔法行くよッ!〈魔力変換〉」

 

説明しよう!

〈魔力変換〉とは敵の魔力を精力に変換させる魔法。

自分の魔力に変換さえると魔力貯蓄量に耐えられなくて、自分が爆発しちゃうからそこは注意しましょう!

私やレグルみたいな〈精霊使い〉は精力を使って魔法を発動させられるから、SSS級の魔法を使う前にこの魔法を使うと敵も弱くなるし、魔法は強くなるしの一石二鳥。

 

「からのーッ〈還元〉」

 

私を中心にして敵の足元に大きな魔法陣が出現する。

そして魔法陣はぐんぐん上に上がっていき―

 

(敵反応消失。目標全滅。主、オ疲レ様デシタ)

 

敵は微粒子となって消え去る。

 

「うん、ホーちゃんもお疲れ様……―ッ!?」

 

(主?)

 

「…ッ、大丈夫。十歳の体じゃホーちゃんの魔力に耐えられなかったみたい…っ。くぅッ、いくつか血管切れちゃっている……」

 

くそぉ…めちゃめちゃ痛い…

戦闘中に気づかなかっただけ不幸中の幸い…

というか、よくこんな状態で戦えたな、私。

あれか、火事場の馬鹿力ってやつなのか?

……いや、なんでもいい。

少し休憩してから自力で上へ戻ろう。

これ以上の魔力行使は死に繋がります、ハイ。

 

「―アミスッ!」

「え?」

 

聞きなれた声に振り返ると、こちらへ向かってくるレグル。

あれ、私まだホロビ―ロちゃんしまっていない。

私の背にたくさんの殺戮兵器が浮いちゃっているよぉ……ッ!

 

ていうか、敵滅したら戻るからこっちに来るなって―

いや、来るなとは言っていないや…待機って言ったんだ。

 

「血だらけじゃないか!僕が見ていた限り敵の攻撃に当たっていなかったみたいだけど…どうして?」

 

マジか…戦闘中からいたのか…

え、どうしよう。

ホロビーロちゃんのことなんて説明しよう。

っていうか、色々ヤバい場面見られていない?

戦場に立ったことないって言ったのに、戦い慣れし過ぎていた?

………本当に、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

To be continued………

 

 




★アミス大ピンチッ!
次回正体はバレるのか…?!
それとも…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と少年

「…アミス」

 

レグルに〈治癒〉してもらっていると、不意に名前を呼ばれた。

 

「〈氷の戦姫〉って知っている?」

「!?」

 

どうしていきなりその話題!?

……え、もしかしてバレた?

どうしてだ?ホロビーロちゃん使ったから?

もしかしてホーちゃんのことまで後世に残っちゃってるの!?

まぁ、目立つ上にインパクトすごいことは認めるけどさ……。

 

「え…えぇ、知っているわよ。マイさんが教えてくれたわ。世界大戦中にいたすごく強い女の子のことよね?」

「うん。その子のことであっているよ」

 

俯いてしまっているからレグルの表情が見えない。

―疑われているのか?それともただの世間話?

 

「曰く、美しい白銀髪に真紅の瞳をしていた。

 曰く、背に黒い兵器を浮かべ多くの敵を滅していった。

 曰く、少女の得意魔法は氷で、世界をも凍らせることが出来る。

 曰く、少女は黒曜石の魔剣で敵を一閃する。

 曰く、戦争終結後誰もその姿を目にしたものはいない。    」

「………」

 

ちょっと待って!?

色々詳しく伝わり過ぎじゃない?

ホーちゃんのことも案の定知られてしまっているし…

戦争終結後誰も私を見たことないって…そりゃそうだ。

私氷漬けにされていたんだから。

 

…急にこんなことを話し出すってことは、やっぱり疑われているんだよね?

ううん。こんな時こそ冷静に!戦姫アミス!!

 

「急にどうしたの?レグル」

 

呼吸、心拍、脈拍…うん、どれもいつも通りだ。

声色も問題ないはず。

 

「…ここまで言わないと言ってくれないの?アミス。

   君の瞳は今、僕と同じ紅色をしているよ     」

「―ッ!?」

 

嘘ッ!?幻覚魔法が解けた!?

あ…そういえばさっき少しでも楽になるようにって体に張っている魔法を全部解いたんだっけ…!!

…ッ、状態異常の結界とかだけ解くつもりだったのに……

 

「それにさっき使っていた兵器…逸話に残っているヤツだよね?」

 

…もう言い逃れはできない。

 

「……そうだよ。私が三千年前の〈氷の戦姫〉アミス=カルディア。エグネスト王国の剣にして、侵略特攻部隊隊長」

「……やっぱりね」

 

…それは、どういう心情を表している言葉なんだろうか。

たくさんの人を殺めてきた私に対する侮蔑?

三千年前の人間であることに対する畏怖?

いつ自分も殺されてしまうか分からないという恐怖?

 

―ねぇ、貴方も私を鬼胎するの

 

「……アミス」

「―ッ」

 

「なに?」って言おうとしたのに、声が喉に突っかかる。

ふと顔を上げた、レグルの真紅と目があった。

 

彼の瞳に反射して映った私の顔は、恐怖と悲しみで歪んでいた。

なんて顔をしているんだ、と思うが上手く表情が取り繕えない。

ーなんで彼に拒絶さえることをここまで恐ろしいと思うのだろう。今まで誰に何を言われようと、どうでもよかったのにー

 

目を閉じて小さく深呼吸をした。

例えこれから拒絶されてしまおうと、今までの月日が消えるわけじゃない。

私がたくさんの人を殺めて生きてきたのも、

生き残るためにたくさんの仲間を犠牲にしたのも、

血塗られた手で一筋の光を必死に追いかけてきたのも

全部事実だ。

だから―

 

覚悟を決めて彼の言葉を待つ。

どんなことでも受け入れようと、決心しながら。

 

 

 

 

―しかし、私の耳に入ってきたのは場違いに明るい彼の声だった。

 

 

「流石、僕の師匠だねッ!!」

 

 

「………………え」

 

 

きつく閉じた瞳を大きく開き、彼の言葉と表情を理解するまでに二十秒を要した。

 

彼は今何と言った?

「流石?ボクの師匠?」

何故彼はこんな純粋な尊敬の眼差しで私を見ているの?

軽蔑していない、恐怖も感じていない。

……どうして。

 

「…アミス、何を呆けた顔しているのさ。自分の師匠が伝説の戦姫だった、なんて喜ぶに決まっているでしょう?」

「…いや、でも私はたくさんの人を殺めてきたわけで…」

 

何を言っているんだ、私……。

水を差すようなことを言って…。

 

「戦争だったんだから当たり前だと思うよ?それに、これ以上犠牲を出さないために戦争に終止符を打ったアミスはすごいよ」

「…終止符を打った?」

 

私が?いつ?どこで?

 

「え?アミスが何とかって国の大将を取って兵を降参させたって、書いたあったけど…?」

「……そういえば、そんなこともあったような?」

 

氷漬けになる前後の記憶がすごく曖昧なんだよね。

死ぬのがショックで忘れちゃったのかな?

 

「あはは!戦争後その姿を見たものはいないって伝わっているけど、まさか三千年も氷の中で寝ているなんて誰も考えないだろうね!」

「…そういえば!私ってどうしてファルファード家にいたの?」

 

普通に目覚めたなら、あの敵地のはずだ。

 

「あぁ、世界六大迷宮の一つ〈氷雪の大迷宮〉っていうところに鍛錬に行ったときにアミスを見つけたんだ」

「…レグルが見つけたの!?」

「うん。そういえばアミスを見つけたところを中心に魔力量が濃くなっていたな…迷宮内の魔力ってもしかして全部アミスのものだった…?」

 

そのあともぶつぶつ思考にふけるレグル。

こうなると気が済むまで考え込んでしまうんだよねぇ。

…今のうちにホーちゃんを仕舞ってしまおう。

 

「ホーちゃん、今日はお疲れ様。腕輪に戻って休んでいいわ」

 

(了解シマシタ、主。今度モットオ話シマショウ)

 

「えぇ、もちろんよ。おやすみなさい」

 

キラキラと光りながら魔石に吸い込まれていくホーちゃん。

再びこうして話せた喜びと懐かしさに胸がいっぱいになる。

 

「今のは?」

 

いつの間にか思考から脱していたレグルが興味深そうに腕輪を眺めている。

 

「自動敵殲滅兵器ーホロビーロちゃん。魔石に魔法陣を添付させて、魔力を通すとホーちゃんが装備される仕組みになっているの……さっき話したコーロスちゃんがなくなった理由っていうのが、この子」

「…なるほど。さっきみたいに自動で超上級魔法を連発するから、コーロスちゃんも歯が立たなかった…と」

「そういうことね」

 

コーロスちゃんに対抗しようと戦争の合間に作り出した兵器。でも私みたいに規格外の魔力量がないと、ホーちゃんも本領を発揮できない。それどころか、ホーちゃんの存在に押しつぶされて死んじゃう人もいるかも。つまり、コーロスちゃんを絶滅させたのって私とホーちゃんなんだよねぇ…あはあは。

 

「……レグル。私が〈氷の戦姫〉だってことは―」

「うん、もちろん内緒にしておくよ」

 

困ったような呆れたようないつもの顔をして微笑むレグル。

 

「そう、ありがとう。まぁ、私が言っても『何言ってんだ、コイツ』で終わる気もするけどね」

「……そうかなぁ?それこそアミスがいた三千年前からずっと、最上級魔法を使える人って七人しかいないんだ」

「七人ッッ!?」

 

は?少なすぎないかッ!?

 

「うん、アミス、魔神ルイチェル様、他四人。そして僕」

「ぷっ、魔神ルイチェル様!?何それ!アイツ確かに魔法を得意としていたけど、オリジナルSSS級軍魔法一つしか作れなかったよ!?それが魔神…ッ!?」

 

いや、SSS級軍魔法を操れるだけで十分魔神の名に相応しいと思うんだけど…。

というレグルの心情は大爆笑しているアミスには全く届かなかった。

 

「はぁ」と息を吐いて言葉をつづけるレグル。

 

「そう、それでね。魔法を使える人は限られているからーアミスの容姿やこの時代では高技術な魔法、剣技を見てバレてしまう可能性もある」

「……マジか。髪の色も変えておいた方がよかったかな?」

 

ふと思い浮かぶのは図書館で見つけたあの美少女。

私に桃色の髪が似合うかは分からないけど…。

 

「いや、今回みたいなことがあったらどっちにしろ関係ないよ。それに結構多くの人と出会ってきちゃったから…」

 

今更変えても手遅れだし、逆に不審に思われちゃう…か。

 

「そっか…じゃあこれからは魔法を少し自重しようかな。その上でバレてしまったら『戦姫の遠い親戚なんです』とでも言っておくよ」

「…うん、それがいいかもしれないね。それじゃあ、そろそろ戻ろうか」

 

立ち上がってアミスに手を差し伸べるレグル。

アミスはその手をとって、笑いながら立ち上がる。

 

「了解…それにしても、お昼時だしお腹空いたよ~」

「あはは、もしかしたらラヴィルたちが何か用意してくれているかもしれないね。〈転移〉」

 

アミスとレグルがいたところに、少しだけ光が散った。

 

 

 

 

 

 

To be continued………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三章・少年と誘拐事件編
少女と建国祭


「んん~ッ!このサンドイッチ美味しいよ!レグル」

「へぇ~ってアミス!僕はトマトが苦手だと知っているじゃないか!あぁ!それッ、仕返しだ!」

「あーッ!私アボカド嫌いなのにッ!レグルひどいッ!」

「さきにやってきたのはアミスだろう!?」

「はいはい、食事中は静かに。レグル、アミス」

「「はーい」」

 

麗らかな春の日差しを受けながら中庭で昼食をとるアミスたち。

まぁ昼食といっても、サンドイッチのような簡単なものなのだが。

わいわいと四人で騒ぎながらとる昼食は、とても楽しそうだ。

権力があるためこのようなことをやったことがない三人と、戦争中だったため硬い保存食を戦友とかじったことしかないアミス。

初めての経験にみんな胸が躍っている。

 

「そういえばラヴィル。もうすぐ建国祭なんだって?」

「あぁ、そうだよ。三日後に城下でね。たくさん出店も出るから結構盛り上がるよ」

 

出店…?

わたあめ、りんご飴に焼きそば、焼きトウモロコシ、チョコバナナ…

射的や金魚すくい、投げ輪……

―つまり、そういうのだよねッ!?

これは行くしかないよッ!

 

「……レグル」

 

必殺★涙目O NE DA RI 

涙目で少し首をかしげるのがポイント。

技を発動させたら、相手の目を見つめてじっと待ちましょう。

 

あざとい、キモイというコメントは受け付けておりません。

予めご了承ください。

…それに美少女だからいいの。

あざといもキモイも可愛いになるのッ!(多分)

あ、いや、別にね。

折角美少女に転生したんだから、って調子に乗っているわけではないよ!?

例え前世が男勝りな平凡女だったからと言って、決して調子に乗っているわけでは…というか!いいの。

美貌で敵を滅せなかった三千年前と違って、今は使い道があるんだから。

 

「…………人多いし、迷子になるよ」

 

じー

 

「…………レグル」

「………はぁ、分かったよ。どうせこういうときのアミスには敵わないんだから…ラヴィルやグレンは行くの?」

 

えっへん、勝利なり。

やっぱり諦めも大切ですよね!

 

「あー、お前たちが行くなら行こうかな」

「そうだね。みんなが行くのであればきっと楽しいし」

「やったー!みんなで一緒に回れるねッ!!」

 

一度も行ったことのないお祭りを思い浮かべてワクワクする。

うー、待ち遠しい。

 

ワクワクしている私を見て、何故か妹の面倒を見る兄のような顔で苦笑いするレグルとラヴィル。

けれどすぐに直し会話を再開する。

 

「お祭りは六時からだっけ?」

「うん、広場で点灯式をやってからお祭りが始めるからね」

 

へぇ、点灯式なんてやるんだ。

なんかお洒落。

 

「じゃあ六時にその広場に集合しようか」

「分かった。抜け道を使えるようにしとかないとだね、グレン」

「…そうだな」

 

素っ気なく答えているけど、僅かに口角が上がっていますよ?グレン。

ふと隣を見ると『手のかかる弟だ』とでも言いたげにレグルも笑っていた。

 

 

**

 

 

「うわぁ、たくさんお店並んでいるよ~!」

 

建国祭当日。

白いブラウスにひざ丈の赤いワンピースの平民姿で集合場所へと向かう私たち。自慢の白銀髪は後ろで三つ編みにしている。

一方、レグルは群青色のトップスに黒のズボン。

何気に平民に溶け込んでいるのだから、彼の変装技術は侮れない。

 

「あ、アミス。あの広場だよ!」

 

キョロキョロと見渡しながら歩いている私に、用意された舞台を指さすレグル。

 

確かにたくさんの人が舞台を見ているようだ。

舞台の上には点火台と小さな子供が五、六人集まっていた。

恐らくあの子たちが火をつけて、お祭りを始めるのだろう。

 

「ラヴィルやグレンはもう来ているかなー?」

「うーん…お忍びだし髪の色とか変えちゃっている可能性もあるからね…二人がアミスの白銀髪を見つけてくれることに期待するしかないんじゃないかな」

 

…私の髪ってそんなに目立つか?

まぁ確かに、それ以外目印がないことも事実なんだけどね。

 

「あ!分かった!空間魔法と光魔法を合わせて私たちが注目されるように仕向けようか?それか精神干渉魔法とか」

 

精神干渉魔法は【空間属性】と【闇属性】【雷属性】の複合で成り立つ。

闇魔法で相手の神経に干渉し、空間魔法で掌握、雷魔法で指示を送る。

簡単に言うようだが、見境なしに魔法を発動させるより細々と気を付ける精神干渉魔法の方が大変だ。

 

「……普通にラヴィルたち目指して転移すればいいんじゃない?」

 

いや、ここは人も多いしやめた方が…

という私の否定は後ろからかけられた声によって、喉の奥へ消えていった。

 

「いや、そんなことする必要ないよ」

「「え?」」

 

揃って振り返れば、深緑色の髪をした双子が立っていた。

 

「こんばんは、レグル、アミス」

「よう」

「ラヴィル、グレン!よくこの人混みの中見つけられたね!」

 

今まで髪の色で見分けていた節もあったのに、髪と瞳が同じになってしまった二人は雰囲気で見分けるしかなくなってしまった。

 

「まぁ…アミスの髪は目立つから……」

「……そう。それは…よかったわ」

 

うっわ…なんかとても心中複雑なんですけど。

いやさ、別に。

「アミスならどこにいてもすぐに見つけられるよ」

みたいな臭いセリフを求めているんじゃないの。

ただ、ね。

寄ってたかって人の髪色を目立つだのなんだのって…

「髪以外にも言うことがあるでしょうッ!」

って叫びたくなるんだよね……はぁ。

 

「あぁ、そうだ。ここからはラビとレンと呼んでね」

 

くそう、人の気も知らないでッ!

って、もういいや。

ラヴィルがラビで、グレンがレン…だね。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

ラヴィルの一言によって、活気づいた屋台へ足を踏み込む。

会話をしている間に点灯式は終わってしまったらしい。

前を行く三人越しに人で賑わう屋台が見えた。

 

 

 

ふとその情景に足が止まった。

暖かな光が溢れる様子に目を見開く。

 

『あぁ、望んでいた場所はここにあった』

 

と、暖かい感情が胸に広がる。

 

急にどうしたのか全く分からない。

どうして胸が苦しく締め付けられるようなのに、嬉しく思うのか。

自分が何を望んでいるのか。何故この感情を懐かしく思うのか。

無意識の中まだはっきりとしないけれど、この暖かな風景の中にずっとレグル達がいてくれることを真に願った。

 

 

 

 

To be continued……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と回想

 

がたん、がたんと揺れる荷馬車から風景を眺める。

どんどん離れていく街の灯を遠目に見ながら、満天の星空へと視線を移す。

 

「…おい」

 

不愛想な声にさらに視線を移すと、鮮やかな青緑色の髪が視界に入った。

もう少し振り向けば、寝かされているたくさんの子供の姿。

 

「…はぁ」

 

本来なら今頃楽しく屋台を回っていたのに…

 

思わずため息をつきながら、つい半刻前を思い返す。

 

 

**

 

 

事件の始まりは、その少年を見つけたところから始まる。

 

「?こんなところで何をやっているんですか?」

 

人波に揉まれて何時の間にかレグル達とはぐれてしまった私は、少し脇道にそれたところで彼を見つけた。

 

「……? あぁ、こんばんは。この前グレンと一緒にいたメイドちゃんだよね」

「はい、アミスです。で、こそこそと何をやっているんです?キースさん」

 

こそこそと、を少し強調していえば、前図書館で見かけたその少年は苦笑を浮かべた。

彼もお忍びなのか平民の格好をしているが、鮮やかな青緑色の髪は相変わらずだ。

 

「…あれ」

 

キースの指さした方を覗けば、先ほど舞台に立っていた五、六人の子供と厳つい顔をした四人の男性がもめていた。

二人の男性は子供を脅かし、残りの二人は袋に子供を詰めようとしている。

 

「…はぁ、誘拐現場ですか」

 

うわ、この楽しい時間になんて面倒なことを。

今回ばかりはキースに巻き込まれたのだ。

私は悪くないよ!レグルッ!

 

「正解~、良くわかったね」

 

日向ぼっこしているような呑気な声でキースは答えた。

その様子に思わずイラッとしてしまったのは仕方がないだろう。

 

「捕まえなくていいんですか?」

「えー、僕がそんなことできると思う~?」

「はい。だってキースさん、闇魔法使いでしょう?」

 

裏道からキースの瞳へ視線を移せば、二人の間に緊張が走る。

 

「……おかしいな。誰かに漏らした記憶はないんだけど」

 

…最近の十歳は殺気も自由自在ですか。

そうですか。

 

今彼の浮かべている目の笑っていない笑みが、暗黒微笑と言われるものでないことを心から祈っていますよ。

甘い容姿に反した【闇】を持った上、中二病患者とか冗談じゃないから。救えないから。

 

「何となく、ですよ。大丈夫、誰にもバラしていません。…で、なんで捕まえないんです?せめて衛兵でも呼べば良いではないですか」

 

まぁ、【光属性】と【闇属性】は対になっているから、どちらかを使えれば気配で分かるって理屈なんだけどね。

 

「いやだよ、面倒くさい」

 

…なるほど、キースってこういう奴なのか。

なるほど、なるほど。

これは性根を叩きなおす必要がありそうですねぇ?

 

「分かりました。じゃあ行きましょうか」

「はっ!?ちょ、ひ、引っ張らないでよッ!?」

 

「なんでこんなバカ力なの!?」というキースの叫びと共に、大人たちのいる道へ踏み込む。

キースの叫びを聞いて振り向いた誘拐犯男。

 

「あ゛?なんだい嬢ちゃん」

「さっき攫った子供たちを返してくれない?私の妹もいたはずなの」

 

残念ながら三千年前の人間は生きていない上、いたのは兄だけだけれど。

 

「…ちッ!見られていたかッ!?おい、この女顔と銀髪も追加だッ!」

 

…確かにキースは繊細な顔立ちをしているけど……女顔、ぷっ!

じりじりと近づいてくるユー君(誘拐犯)を眺めていると、キースが囁きかけてきた。

 

『…おい、こいつらどうするんだ?』

『…この人たちだけなのか、上がいるのか確かめる。後者の場合、本拠地に乗り込んで、潰す』

『…了解』

 

おや、こういう時は聞き分けが良くなるのか。

インテリな見た目は伊達じゃない…と。

まぁ、コイツはいらないんだけど一人じゃ暇だし丁度いいか。

さて、一演技行きますよ?

 

「ねぇ、貴方たち。私たちをどこへ連れて行くつもりなの」

 

少し体を震わせて、目に涙をためる。

…ちなみに私は女優じゃないので、涙は水魔法を使って出しています。

 

「はっ!怯えちゃってら。お前らがどうなるかは全部親頭が決める。俺らはそこまで連れていくだけだ」

 

おう、重要な情報をありがとうユー君。

素直な人は嫌いじゃない。

 

『決まりね、攫われるわよ女顔』

『おい、ぶっ飛ばすぞ銀髪』

 

うーん…一応レグル達に知らせておこう。

殿下もいるから、王都をひっくり返して捜索されたらたまらないし。

 

「土魔法展開、分身作成。特定人物との接触で私へ回路をつなげて」

 

(了解シマシタ。接触者、レグル=ファルファード。ラヴィレント=ピル=カナストル。グレン=ピル=カナストル。ノ三名ヲ登録。分身人形コピードール五分後二作成終了シマス。魔道具・電話、対象者トノ接触ヲ条件二製作開始)

 

「了解、ありがとね」

 

さすが私の相棒、愛してるッ!

 

「おい、銀髪。何ぶつぶつ言ってやがる」

「行くよ、キース」

「…あぁ」

 

 

**

 

 

というのが、今私が荷馬車に揺られている理由である。

ふと腕に振動を感じて現実に引き戻される。

 

(対象者トノ接触ヲ確認。回路、ツナゲマス)

 

「お願い」

 

腕輪の中央の紅い魔石が輝きだす。

大量の魔力を消費しながら、輝きが最高潮に達しー

荷馬車の暗闇を柔らかな光が包み込んだ。

 

 

 

 

To be continued……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の会話

光が収まると、聞き慣れた声が闇に響いた。

 

『…アミス?おーい、アミスー?』

『おい、どうした?』

 

どうやら話しかけても反応のない私(分身)に違和感を覚えている真っ最中らしい。

 

ラヴィルとグレンは反応のない私に話しかけ続ける。

このまま見守っていても楽しそうだ。

…にしても、レグルは?いないのだろうか。

 

私がそう思った途端、レグルの声が魔石越しに聞こえた。

 

『ねぇ、これ…分身人形じゃない?』

 

…もう少し経ってから気づいてくれてもよかったんだよ?

にしても、良く分かったなぁ…成長したな、レグル。

 

「せいかーい!流石はレグル~!」

 

魔石に向かって話しかける。

 

『アミスッ!もう!どこ行っちゃったのさ』

 

うを、すごく心配をかけてしまっているらしい。

 

「ごめん、ごめん。ちょっと攫われちゃって」

『はぁ?もう、本当にいつも厄介ごとに突っかかっていくよね』

 

いや、今回はキースに巻き込まれただけだから。

悪いのは私じゃなくて、隣にいるコイツだからッ!

 

『というか、コレどうなっているんだ?』

『レン、今はレグルとアミスが会話中だよ』

 

まぁでも気になるよね。

この世界には〈電話〉ってないから。

 

「あぁ、これはね。人形の手首に青色の魔石が付いているでしょう?それが私の魔石と共鳴して、通話を可能にしているの。詳しいことは省くけど【空間魔法】【雷魔法】【闇魔法】【風魔法】【土魔法】を合わせているんだー、これ作るの結構大変だったんだよ~?」

 

造るのに丸々三か月使ったんだから。

 

『五属性の魔法使用を会話中続けるのは結構な負担にならない?』

「まぁそうかもね。でも、そもそも五属性使えるのが私とレグルしかいないじゃない?私やレグルにとってこのくらいの消費些細なものだから平気よ」

 

大丈夫、帰ったらレグルにも教えてあげるからね!

私が意気込んでいると魔石越しに呆れたような、諦めたような声がした。

 

『はぁ…それで、今どこ?』

「んー?荷馬車の中」

『………風景は?』

「空と木が見える」

『……………西に進んだんだね。了解』

「はぁ!?なんで空と木で分かるんだよッ!?」

 

いや普通にわかるでしょう。

キースってこういうところはまだまだなのね。

 

『え?アミス以外にも人がいるの?』

「うん、さっき一緒に習われた子供たちと女顔」

「おいッ!女顔はやめろ、銀髪女」

「はっ!文句はあの男たちに言うべきね。言い出しっぺは私じゃないわ」

 

売られた喧嘩は十倍にして返すからな。覚えとけよ。

 

『…それでアミス。僕たちはどうしたら良い?』

「……そうね。レグル、今〈転移魔法〉で何人まで運べる?」

『多くて十人かな』

「……最低でも無詠唱で二十五人。」

『……………ハイ』

 

ちなみに私は詠唱有りになるけど、王都にいる人間くらいなら全員余裕で運べる。日本でいえば首都圏内の人口の半分くらい。

この人数になると、流石にホーちゃん使うけどね。

 

「じゃあ貴方たちは事情を説明して、賊をいつでも捕らえられるように兵でも呼んでいて。あぁ、賊は私が潰すから戦闘準備はいらない。魔石越しに合図するから、そしたらレグルと兵は私を座標に転移して」

『了解』

『おい!俺たちは役目なしかー!?』

 

おう、グレンさん。

流石に王子を誘拐現場に連れてはいけませんよ。

 

「ラビとレンは兵への説得係。レグルは運搬係。兵は捕獲係。私は潰す係。妥当な役割分担でしょう?」

 

勝利に戦略は重要なのですよ!

 

『………分かった』

『じゃあアミス、怪我しないで気を付けね』

『というかアミスは世界を壊さないように気を付けてね』

 

おいレグル、か弱い乙女にそれは失礼だろう。

 

「じゃあ切るね。あとよろしく」

 

レグルのセリフに少しイラつきながら通話を終了する。

熱が収まっていく魔石を眺めていると呆れたような声で話しかけられる。

 

「…世界を壊さないようにって…お前何者」

「しがない公爵家のメイドです」

 

しれっと答えると、イライラした様子でキースは続ける。

 

「しかも五属性の魔法使いなんてきいたことねぇぞ…ッ」

「私は十属性の魔法使いです。五属性だけじゃありません」

「それこそおかしいだろッ!?今は四属性しか存在しないッ!だから俺の闇魔法だってーッ!」

「おかしくありません。ここに十すべての属性を使える私がいるのですから、闇魔法一つ使えたところで、異端でも、異常でもありません」

 

珍しく感情を露にするキースに至って冷静に告げる。

 

「……ッ!」

 

何を豆鉄砲喰らった鳩のような顔をしているんだ。

確かに特別属性は基本属性より威力が強い上、使い勝手が良い。

でも、だから何だ?

 

「しかも使えるといっても精々中級魔法でしょう?そんなもんで魔法を使えるなんて抜かさないでください。魔法への冒涜です」

「…宮廷魔導士でも中級魔法を使えるのはトップクラスの人間だけだぞ」

「じゃあ全員魔法師を止めるべきです。超上級を無詠唱で連発出来ないと使い物になりません」

 

…【雷属性】だけは詠唱必要なんだけどな。

あ、でも【氷属性】なら最上級魔法でも連発できるからね?

 

「…お前は出来るのかよ」

「できますよ、それくらい」

 

〈氷の戦姫〉をなめないでください。

伊達に戦場を駆けまわっていないんです。

 

「あーでも、今やってみろはダメですよ?賊を潰すときに見せてあげますから、少し我慢していてください。こんなところで魔法を使ったらユー君に不審がられます」

「…誰だ、ユー君って」

「誘拐犯のユー君ですね」

「……」

 

おい、その残念なものを見る目で見つめてくるのを止めろ。

私はネーミングセンス以外なら「残念なもの」じゃない。

 

軍用殺戮兵器、殺すから「コーロスちゃん」

自動敵殲滅兵器、滅するから「ホロビーロちゃん」

誘拐犯、誘拐するから「ユー君」

……結構良くない!?

 

「…お前って変わっているな」

「そうですか?普通ですよ。十歳の癖に猫かぶりを極めている貴方にだけは言われたくないですし」

 

えっと、腹黒口悪女顔中二病予備軍くん?

 

「……生い立ち上仕方なかったんだよ」

「へぇ、キースも大変なんですね。でもさっきの言い方だとキースが闇魔法使いだと知っている人は貴方だけなのでは?」

「………まぁ、な。今は俺とお前の二人だけだ」

 

今は…ねぇ?

 

「まぁキースのお家事情なんて知りませんが友として応援しています」

「いつ友達になったんだ、俺ら」

「友とは気が付いたらなっているモノですよ。まぁ強いているならば今です」

 

そうそう一緒に誘拐される仲なんだから。

 

「…やっぱりお前変わっているな」

「みんなか弱い乙女を捕まえて失礼ですね。貴方の言葉を拝借するなら生い立ち上仕方がなかったんです」

「世界を壊すか弱い乙女の生い立ちか?結構気になるな」

 

ふむ。

 

「…簡単に言うならば、三歳のころに敵地に放り込まれて、死に物狂いで強くなって、気が付いたらレグルに拾われていました」

「………」

 

なんだその顔は。

哀れな子猫を見るような目で見ないでください。

その癖してちゃんと苦笑を浮かべないでください。

 

それでも瞳の奥に悲しみが浮かんでいるのは、貴方の優しさ故なんだろうね。

 

「変に気を使わなくて良いです。今までの人生を振り返って後悔することも、今苦しいと泣くこともありません。今幸せならそれでいい。例えそれが血塗られた手で掴んだ幸せだとしても」

 

振り返って後悔しなければ、人生それでいいではないか。

今幸せならそれでいいではないか。

いつ死ぬかも分からない場を生き抜いた今だから言える。

 

「罪から逃げるのも、神に懺悔するのも、なんでも良いではないですか。ただ貴方が今幸せだと、自信を持って言えるなら、それで十分です。言えないなら何がダメなのかを考えて、動くんです。動かなくちゃ、何も変わりません。怖い何て些細な感情です。後々後悔する悲しみの方が、怖いではないでしょう?……だから、闇に溺れそうになったら言ってください。

 

       私は全力で貴方に光を、届けてみせる       」

 

 

彼のアメジストの瞳が大きく見開かれ「ひゅっ」と息をのんだのを感じた。

それでも私は彼の瞳を見つめ続ける。

彼がここから、消えてしまわないように。

この世界に縫い留めるように。

 

なんてらしくないことを言っているのだろう。

後々ベッドに埋もれて、悶えて、叫びたくなるようなセリフなのに。

 

でもこの平和な世界で自由自在に殺気を操って、心に闇を持った貴方を私は見逃すことなんて、出来るはずないんだ。

 

何時か自分が抱いた感情と同じ。

自分は他者と違う。

いつも誰かに傷付けされる。

それでも誰かを求めてしまう。

 

『お願いキース、その心のままに死なないで。』

 

友達になってしまったが故に、貴方を失いたくない私の自己中心的で自己満足な我儘。

勝手に扉こじ開けて、土足で入って、一方的に思いを伝えて。

我ながら酷いと思うが、それでもいい。

彼が闇から浮き上がってきてくれるなら。

 

 

**

 

 

きつく拳を握りしめ、顔を伏せて沈黙を保つキース。

暗闇のせいで彼の表情が全く窺えない。

一方で私は、ずっとキースについて考えていた。

『もしかしたら本当に余計なことだったのかも』とか『何を偉そうに言ってしまったんだろう』とか。

『光を届ける』と言っても私には側にいてあげることしかできない。

 

何分、何時間も悶々と思考に耽っていると、がこんと大きな音をたてて馬車が止まった。

 

「………着いたみたいですね」

 

人が動く気配がする。

直ぐにユー君たちがここに来るだろう。

 

だから、その前に一言。

 

「行きましょう?キース。貴方の希望を探しに」

 

闇があるから光があるのだと、貴方に知ってほしい。

何をすれば良いのか、まだ分からないけれど。

貴方の幸せは、私が絶対に守り切って見せる―

 

 

 

 

To be continued………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少年側の物語

★キース視点です


〈知の公爵〉カエルム公爵家の長兄である俺には二人の母がいる。

 

一人は俺の生みの親、サラシャ=カエルム。

彼女は男爵の生まれだが、父・グライドと恋に落ち結婚したらしい。

しかし彼女は精神的な病に伏し、俺が五歳の時に死んでしまった。

 

そして、もう一人は義母・グロイア=カエルム。

俺が五歳のころに父が再婚して出来た母だ。

 

彼女には俺と同い年の娘がいる。

義母・グロイアと同じ桃色の髪をし、父や僕と同じ紫の瞳を持った少女――プレア。

父と母が結婚して三年目に産んだ子が俺なのに、何故カエルム公爵家の証である『紫の瞳』を持った同い年の少女がいるのか。

理由は簡単明白だ。

 

父は、不倫をしていた。

それも俺と同い年の少女を産むほど前から。

 

それを理解した時俺は心の底から絶望した。

もしかしたら母はそのことを知っていて病にかかったのかもしれない。

男爵である彼女が公爵夫人として生きるのが、どれほど大変だったかも考えずグロイアと関係を持ち、あまつさえ自身の妻を殺した彼が俺は心底許せなかった。

 

しかし俺は何も言わなかったし、しなかった。

何故なら母が死んでしまったのは、俺が原因かもしれないから。

 

俺が【闇魔法使い】だと発覚したのは、母が病に伏す一週間前だった。

優しくて明るい母といつもの様に城下の町へ出かけていたときのことだ。

近道をしようと裏道に入り、俺たちは賊と出会ってしまった。

か弱い母と何もできない五歳の俺。

屈強な男たちに俺はボコボコにされ、母は美人だからと襲われそうになった。

 

その時だ。

目の前が真っ赤に染まり、体が熱くなった。

そして俺は力の限り叫んだ。

『母を救いたい』その一心で。

 

気が付いたら家のベッドの上だった。

俺の闇魔法で賊は全員死亡、母も無事だったらしい。

俺は途轍もなく嬉しかった。

大好きな母を救うことが出来たのだから。

 

しかし、その後からだ。

母が自室から出てこなくなった。

会いに行ったら母は話してくれる。

会いに行ったら母は笑ってくれる。

 

けれど、会いに行く度に父に暴力を振るわれた。

 

おかしいと思った。

自分の母に会いに行くことの何がダメなのか理解が出来なかった。

 

五回目に会いに行った日から俺は一週間の自室謹慎を命じられた。

『絶対に自室を出るな』と。

部屋の中に監視兵を置かれ、俺は一週間を自室で過ごした。

一週間たてば、また母に会える。

それだけを心の支えに不自由な時を耐えた。

 

しかし一週間後、母はこの世にいなかった。

父からは五日前に死亡したと告げられた。

 

もう何がなんだか分からなかった。

いつからか狂い始めていた歯車が俺を壊していくようだった。

 

 

そして一か月後、新しい母が来た。

目が痛くなるような鮮やかな桃色の髪、濁った金の瞳。

柔らかな印象を与える産み母・サラシャとは正反対のキツイ風貌をしたグロイア。

 

そしてその日から地獄の日々が始まった。

毎晩一時間グロイアの部屋に呼ばれ、暴力を振るわれる。

所謂、虐待の日々。

髪も瞳も父と同じ色彩をしているのに、サラシャの面影があることが気に食わなかったらしい。

背中に鞭を当てられ、熱湯をかけられ、泣いたり喚いたりするとより酷くなる。

 

希望だった母が死に、その間際にすら立ち会えず、新しい義母には虐待を受け、虐げられる毎日。

 

何のために生きるのかもう分からなくなっていた。

しかし俺は生きていた。

 

 

時が経ち五年後、十歳の今日。

 

俺は変な少女と出会った。

一瞬で俺の力を見抜き、それでも変わらず接してくる彼女。

重度の人間不信ゆえの、俺の厚い皮もいつの間にか剥がれていた。

 

バカみたいに真っ直ぐでお人よし。

でも自称十属性を操る稀代の天才。

 

微塵も曇りを感じさせない瑠璃色の瞳で俺を見つめながら彼女は言った。

 

「今までの人生を振り返って後悔することも、今苦しいと泣くこともありません。今幸せならそれでいい。例えそれが血塗られた手で掴んだ幸せだとしても。罪から逃げるのも、神に懺悔するのも、なんでも良いではないですか。ただ貴方が今幸せだと、自信を持って言えるなら、それで十分です。言えないなら何がダメなのかを考えて、動くんです。動かなくちゃ、何も変わりません。怖い何て些細な感情です。後々後悔する悲しみの方が、怖いではないでしょう?……だから、闇に溺れそうになったら言ってください。私は全力で貴方に光を、届けてみせる」

 

どんな人生を送ればその言葉にたどり着くのだろう。

どんな苦しみを乗り越えれば彼女のように美しく生きられるのだろう。

 

今幸せだと言えるならそれでいい…

あぁ、言えるわけがない。

ただ俺に傷をつけたグロイアに仕返しをしたくて今まで生きてきたのだから。

 

動かなくては変われない。

サラシャが死んだあの時から俺は立ち止まったままな気がする。

 

怖いなんて些細な感情。

そう、俺はもっと辛い感情に耐えてきた。

 

闇に溺れそうになったら、光を届ける―

本当はもうとっくに溺れて一人じゃ抜け出せなくなっていたんだじゃないか。

 

 

がたん、と音をたてて馬車が止まると、彼女は立ち上がり俺に手を差し出した。

―それはまるで溺れた俺を光に引き上げるようで。

 

暗闇を切り裂く美しい白銀を棚引かせて、アミスは微笑む。

 

「行きましょう?キース。貴方の希望を探しに」

 

俺はお前の手をとろう。

 

  もう二度と大切なものを失わないように。

 

 

 

 

To be continued………




キース君のお話でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と新しい戦友

いつもありがとうございます。


 

「へい、連れてきましたぜ。親頭」

 

大男の声が廃工場に響いた。

 

「へぇ、今回は大漁じゃないか。その銀髪と女顔は高値で売れそうだねぇ」

 

うわお、人が変わっても私は銀髪でキースは女顔かよ。

これでもキース君、兄ポジションのキャラとして人気だったんですよ?

 

「ねぇ、私の妹はどうなるの?」

 

あくまでか弱い乙女を演じながら問う。

 

「妹?チビたちは奴隷商人に買い取って貰うさ。安心しな。ちゃんと売りさばいてやんよ」

 

奴隷商人に売りさばく、ということは……

 

「……貴方たちは誘拐集団なの?」

「そうさね。アタシらは【緑の攫い手】と呼ばれる山賊さ」

 

緑の攫い手…山賊。

うーん、この世界って中二病って概念あるのかな。

まーいいか。

 

「ずっとこうして子供たちを攫って奴隷として売っていたのね?」

「あぁ、ゲルバニアでは奴隷は当たり前だからな。しかも子供となれば簡単に攫えて、売り手はどこにでもある!アンタたちも良いところに売ってやるから安心しな!」

 

…なんでだろう。

なんか段々優しいオバサンに思えてきた。

この人宿屋の女将さん向いてるわぁ。

 

「了解。じゃあ罪状は誘拐および人身売買ね」

「あ゛?やるって言うのかい?嬢ちゃん」

「そうよ。そのためにわざわざ捕まったんだから。【緑の攫い手】五十三名。全員牢屋に入ってもらうわ」

 

全員に聞こえるように声を張って、嘲笑する。

オバサンが殺気立ったのを確認してから手の拘束を解いた。

解く…と言っても力技なんだけど。

 

「おいお前らやっちまいな。顔は傷付けるんじゃねぇぞ。存分に傷みつけてから最悪の相手に売り飛ばしてやるんだからな!!」

 

ぞろぞろと集まってくる男たち。

手早く空間魔法を発動させて敵を確認する。

 

(炎魔法使いが一人、土魔法使いが二人、六人が剣士で、残りが喧嘩得意組ってところね)

 

これなら五分もいらないだろう。

 

「ねぇキース。本当の魔法使いっていうのを見せてあげる」

 

迫ってくる男たちから視線を外してキースに向かってふわりと微笑めば、彼も苦笑い交じりの笑みを返してくれた。

 

「……あぁ、分かった」

 

返事を受けて空気中の魔力を練る。

 

「ホーちゃん、私の流れ弾が当たらないように子供たちを全力で守って」

(了解シマシタ。味方ト認識スル者ニ最上級結界ヲ展開。自動モードデ保護ヲ開始シマス)

「じゃあそっちはよろしくー!」

(オ任セ下サイ)

「おいガキ、さっきからブツブツうるせーんだよ!」

 

叫びながら拳を振り飾すユー君1。

取り敢えず拳と足を凍らせる。

 

「…なっ!?」

「アンタうるさいわ。よくよく集中していないと貴方たちの心臓まで凍らせてしまいそうなのよ。黙っていてくれる?弱者くん」

 

半径十キロは余裕で氷漬けに出来る魔力を弄びながら、男たちを煽る。

 

「…なッ!この糞尼ーァァァア!」

 

そう言って剣を抜くのはユー君8。

 

「だから、うるさいわ。もう少し静かにしていて下さる?」

 

一人一人相手にするのが面倒臭くなってきた。

…もういいや、みんなまとめて凍っちゃえ★

 

「〈氷薔薇の庭園〉」

 

ぼそりと呟いて足で床を突く。

すると私を中心に大きな氷のバラが広がっていった。

軍用A級拘束魔法、氷属性〈氷薔薇の庭園〉。

バラの蔓で敵を拘束しながら、棘で攻撃。

拘束しながら攻撃を与える一石二鳥の自己流魔法。

 

「な、んだッ!これはッ」

「動かない…?!」

「おい、マリス!早く炎を出せっ!!」

 

軽い混乱に陥る【緑の攫い手】の皆さん。

あと、炎の魔法使いがいることなんてとっくに把握済みですからね?

 

私がぼんやりと炎魔法師・マリス君を眺めていると、詠唱が始まった。

 

「〈燃えよ 燃えよ 燃え上れ 敵を滅せよ 火の子〉!!」

「……………」

 

え、マジ……?

 

「おぉぉお!流石はマリス!ほら早く解かせ!!」

 

え、マジでッ!?!?

 

「なっ、と、解けない…だと!?何故だッ!」

「おい、この氷おかしいぞ!」

 

騒ぎ出す誘拐犯一味。

でもアミスは倒すことなど忘れるほどに驚いていた。

 

(はぁあああああああああッッッ!?!?!何アレ!何アレ―ッ!あれは火の子じゃなくて、火の粉!!!ヒのコナだわッ!なに!?あんな中二病みたいな詠唱して出した魔法が火の粉!?しかもユー君たち大絶賛じゃん!頭おかしいのか!?)

 

「……キース。何、アレ」

 

おかしいのはアイツらだ、と思ってくれる仲間が欲しい。

 

「炎魔法だな。あの人あんなに若いのに下級魔法を省略呪文で…すげぇよ」

「……うそでしょ。キース本気で言っている!?あんな火のコナを見て何でそんなこと言えるの!?」

「え、いや。だって中級魔法を使えたら宮廷魔法師のトップ。下級魔法を省略詠唱で使えたら魔法師のエース…だぜ?」

「ぁ…………」

 

ダメだ、頭がパンクしそう。

つまりは火の粉でも魔法を使えているアイツはエースなの?

もうヤダ。帰りたい。

魔法をなめすぎでしょう。

 

「……おい、アミス。どうした?」

「…の」

「?」

「こんなの認められるかぁあああああッ!!魔法をなめすぎだッ、お前らッ!いいぜ、こうなったら全員丸焼きにしてやるッッッ!!」

 

怒りで思考は短絡化。

もはやアミスを止められるものはいなかった。

 

(発動させる魔法は炎属性の上級魔法以上全て。超上級も最上級もSSS軍魔法も全部合わせて炎地獄にしてやろう)

 

「えーっと?なんだっけ?〈燃えろ 燃えろ 燃え上れ お前ら全員丸焼きじゃぁあああああ!!〉」

「ちげーよッ!全然呪文ちげーよッ!ってか戻ってこいッ!!お前それマジでやべーから。本当に世界壊れちゃうからなッッ!?」

 

キースの叫びを無視して青白い炎はどんどん燃え上る。

 

「行くぞーッッッ!!!!」

 

アミスの叫びによって、氷薔薇の蔓を溶かそうと頑張っていた誘拐犯は彼女の手にある巨大な熱量の塊に気づく。

 

「「「「ぎゃぁあああああああああ!!!!!!!!」」」」

 

そこからは阿鼻叫喚。

炎属性だけでなくほぼ全属性のSS級魔法を乱発するアミスと、恐怖で失神したり神に許しを請ったりする誘拐犯。

 

しかしそんな地獄でも、気を使ったホロビーロによって奇跡的に死人はゼロ。

それこそ本当に世界を壊しかねないアミスは、これまた気を使ったホロビーロに呼ばれたレグルによって回収。

 

こうして【緑の攫い手】五十三名全員、無事に牢屋に入れられたのだった。

そしてアミスとキースの誘拐事件は幕を閉じた―

 

 

**

 

 

「…おい」

 

誘拐犯の投獄とレグルの長々とした説教を受け終わったアミスは、キースによって呼び止められた。

 

「あらキース、どうしたの?」

「……お前は本当にすげぇ魔法使いだ。だから、お前に頼みがある」

 

…ふむ。

魔法に関係があること、だよね?

 

「俺に魔法を教えてくださいッ!もう二度と誰も失わない力が欲しいんだ!」

 

そう言って思い切り頭を下げるキース。

隣にいるレグルは何事かと固まり、アミスはキースを見つめて思考に耽った。

 

「―分かった、貴方に魔法の何たるかを教えてあげるわ。そしてそれを学びながら考えなさい。貴方が守りたいものは何か、どうしたら守れるのかを」

「…っ!ありがとう!アミスッ!!」

「…と、言うことなんだけど。訓練にキースも追加していい?レグル」

 

勝手に許可してしまったけど、大丈夫か?

 

「はぁ…許可しちゃった後で言うんだね?いいよ。僕も競える相手がいるのは悪くないし」

「よしっ!じゃあキース明日からファルファード家で訓練よッ!!」

 

レグルと互角にやり合えるくらいに育てないとッ!

【闇属性】と相性が良いなんて珍しいもの!!

 

「えっ、はぁ!?ファルファード家ッ!?〈武の公爵家〉ッ!?ってことはコイツって…」

「お初にお目にかかります。ファルファード公爵家が三男、レグルです」

「…ぁ。マジか。こちらこそ初めまして。〈知の公爵〉カエルム公爵家の長男、キースです。よろしくお願いします」

 

おぉ、流石猫かぶりの達人。

インテリの見た目と相まって完璧に公爵家のご子息だぁ。

 

アミスが感心していると、キースの自己紹介を聞いたレグルの空気が固まった。一緒に誘拐された友達が〈知の公爵〉のご子息で、明日からファルファード家で一緒に訓練するってなったら驚くに決まっているのだが。

 

「………アミス?僕聞いていないよ?」

 

…お説教追加の気配がするぞ?

うへぇ、さっきまでたっぷり一時間使ってお説教していたのに。

…よしッ!ここは逃げよう!

 

「……じゃあ取り合えずお祭りに戻りましょうか!!私まだ綿あめとチョコバナナ食べていないのよ」

 

必殺★話題転換ッ!!

お祭りは深夜まで続くらしいし、食べたいのも事実だし!!

 

「………はぁ、分かった、そうしようか。でも、そのあからさまな逃げが何回も通用するとは思わないでね?」

「…ひッッ!?」

 

やばい、やばいよ、この子。

目が完全に笑っていないし、何よりオーラが黒いッ!!

戦いになれば余裕で勝てるだろうけど、なんか怖いよッ!?

 

「ほ、ほら、き、キースも行きましょう?」

 

この大魔王様と二人きりとか、ちょっと……

折角の友達だしね?うん。仲良くしようぜッ!?

…つまりは……道ずれじゃぁあああああああ!?!

 

「…アミス。後半に本音漏れちゃってる」

「!? マジか!!」

「ぷッ!…まぁいいや。ほらキース様も行きましょう」

「…ぁ、あぁ!」

 

幸せに満たされた表情でアミスの元へ駆け寄るキース。

 

笑いあう三人の姿を大きな月が照らしていた。

 

 

 

To be continued………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女と家族計画

短めです。


 

「さあアミス。できたわよッ!」

 

はぁ、ようやくか…という愚痴を噛み殺して鏡を覗く。

 

「………!」

 

鏡の中には様々な青と白の豪奢なドレスを身に着けた少女が一人。

目の瑠璃や髪の白銀と相まって、幻想的な神々しさを醸し出している。

 

「うん!可愛いわぁ!折角のパーティーですもの、楽しんでらっしゃいね!」

 

とん、と背中を押されて部屋を出る。

前世でも三千年前でも着たことのない豪華なドレスを棚引かせて玄関へと向かう。

着慣れていないせいか歩みが遅い。

ハイヒールで床を踏みしめながら思い出すのはつい一週間前のこと―

 

 

**

 

 

「え…?ノトス王国の護衛、ですか?」

「あぁ、二か月後に王族と二代公爵家でノトス王国へ行く。その時の殿下たちの護衛をレグルとお前に任せようと思ってな。ラヴィレント殿下やグレン殿下と仲が良いのだろう?」

「まぁ…はい」

 

まぁ確かに、一週間に二回以上お茶をする仲だ。

何気ない日常の話、訓練の話、不思議と話題が尽きない。

それに、最近ではラヴィル、グレン、レグルに加わってキースも一緒にお茶を飲むようになった。

いやぁ、これは嬉しい。

 

ほわほわと喜びの波に揺られていると、レイフォンドさんが爆弾を落とした。

 

「そろそろレグルの護衛任務も終わりになる。そこでアミスに…」

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくださいッ!」

 

今、重要なことを流さなかったッ!?

 

「む?なんだ」

「れ、レグルの護衛任務終わりって……」

「あぁ、アイツも大分強くなった。レグルが幼いから護衛をつけていたが、もう必要ないだろう」

 

確かにレグルは強くなった。

それはもう五百の兵と戦っても生き残れる程度には。

…じゃあもうレグルとは―

 

「そこでな、アミス。お前に養子に入ってもらおうと思う」

「……………はい?」

 

え?容姿?用紙?要旨?洋紙?ヨウシ?YO・U・SI??

 

「お前の強さは失うには痛い。国にとっても大きな痛手となること間違いなしだ」

「…」

 

まぁ、国一強い自信はあるんだよなぁ。

 

「別に戦闘メイドにしても良いが…養子に入ればレグルや殿下たちとも今まで以上に気軽に話せるようになる。殿下たちに危険が及んだらお前が付いている故安心。賊も狩れる。一石三鳥だろう?」

 

…確かに。

公爵令嬢に何を求めているのか分からんが、win-winってやつね。

 

「はぁ、了解しました」

「お前はレグルの姉、フレムとクーゼの妹という立場になる。アイツらにはもう話は通してあるから、よろしく頼んだぞ」

 

なんだ。もう外堀は囲まれていたわけね。

それに、レグルと家族になれるのも悪くないし…

 

「それで、護衛の話に戻りますが。南の島国、ノトス王国に公爵令嬢として参加。ラヴィルとグレンの護衛をすれば良いんですね?」

「あぁ。道中、宿泊中くれぐれも離れないように。詳しいことは日を追って説明する。とにかく、今のアミスの任務は公爵令嬢としてのマナーを一週間後のお披露目パーティーまでに完璧にすることだ」

「はぁ?!一週間後ッ!?!養子の話、もうとっくに拒否権なんてなかったじゃないですかッ!!」

「…パーティーは王宮の茶会だ。午後からマナーの先生が来る。頑張り給え、我が義娘よ」

 

くそう、狸爺がぁああああ!

 

「あーあと」

「?はい、なんでしょう」

 

私は今、貴方への罵倒で頭が埋まりそうなんですが。

 

「義理の家族は結婚できるから安心したまえ」

「?………はぁ」

 

何言ってんだ?コイツ。

 

 

**

 

 

と、いうことである。

いや、最後の会話は不必要だと思うんだけどね。

 

ゆったりと正面階段を下りて行けば馬車が目に入った。

 

「あっ、レグルー!お待たせ」

「!アミス!うわぁ……すごい、綺麗だね」

 

正装しているレグルも十分格好良い少年になっている。

これは…令嬢の方々の反応が楽しみね♪

もし囲まれてしまったらニヤニヤしながら見守ってあげよう。

 

「えぇ、マイさんとチリ―が頑張っていたわ」

「あー、うん。まぁいいや。兎に角行こう。ほら、お手をどうぞ」

「はいはい、どうも」

 

これが貴族の嗜みと言っても、今更小恥ずかしい。

涼しい顔を装いながら少しだけときめいている私がいた。

 

「それじゃあ、いざ!戦場へ!!」

 

 

 

 

To be continued……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少年とお茶会(お披露目会)

遅くなり申し訳ございません<(_ _)>
★ラヴィレント視点になります


「アミスがファルファード家の養子に…ですか」

 

王宮の図書館から戻る途中、宰相であるカエルム公爵に話かけられた。

最近仲良くなったキースと同じ、青緑色の髪にカエルム家の証である紫の瞳。

四十歳近くになっても彼の美貌と片眼鏡の奥の鋭い光は、衰えることを知らないらしい。

 

「はい、三日後のお茶会でアミス様のお披露目をするそうですよ」

「…へぇ」

 

なるほど、だから最近レグルしか来なかったのか。

それに彼がニヤニヤしながら「お茶会楽しみだな」と言っていたのもそういうことだ。

 

「うん、分かった。ありがとう、カエルム宰相」

 

彼にお礼を言ってグレンの部屋へと向かう。

グレンは滅多に茶会や夜会へ参加しないが、レグルやアミスがいるならば別だろう。マナーだけなら完璧だし。

 

「グレン、いる?少し話があるんだけど」

 

もう夜も深い。

流石にこの時間は部屋にいると思うんだけど…

 

「んー?あぁ、兄さんか。どうした?」

 

よし、私の推理は当たっていた…ッ!

少しご機嫌になりながらグレンに言う。

 

「三日後の茶会について話があってね」

 

つい最近まで入ったことのなかった部屋に入る。

こうしてグレンと普通に会話できるようになったのも、今五体満足でここにいるのも、全てあの少女のお陰だと考えると何だか胸が暖かくなった。

 

 

**

 

お茶会当日。

 

ファルファード家の養子に興味を持った大勢の貴族が、二人の到着を心待ちにしていた。

少し耳を澄ませば『ファルファード家に取り入るチャンスだ』とか『うちの子と仲良くしてもらわなくちゃ』とか自己中心的な馬鹿馬鹿しい策略が伺えた。

…貴族社会の筆頭である私がそんなことを言うのも変な話だと思うが。

 

そして少し経った頃―

ざわり、と空気が動いた。

全ての人の視線が入口の方向に釘付けになっている。

そしてその横顔は老若男女問わず夢見心地に紅潮していた。

 

「…あれは……」

「あぁ、アミスとレグルが着いたらしいぞ」

 

グレンの言葉を聞いて私も視線を動かす。

 

「……ッ!!」

 

視線の先には一組の男女。

しかし彼らの周りだけ空気が変わっている。

妖しい美しさと神々しさを持った少女はさも月の女神の様で、エスコートしている少年はその亜麻色の髪と顔立ち、オーラも相まって太陽の使いの様。

二人を見ていると神話の一頁を覗き見たような気分になる。

 

アミスは元から美人だとは思っていたが、少しめかしただけでここまでになるとは思っていなかった。

 

「あら、あの子がファルファードの養子ちゃん?随分と可愛いわねぇ」

 

母の言葉に現実に引き戻される。

危ない危ない。

思わず見惚れてしまっていたらしい。

 

「えぇ。それに彼女は伯爵の一件で軍兵器から私を助けてくれた恩人でもあるんです。この間は【緑の攫い手】という大山賊も一人で潰したんですよ」

 

後にレグルとキースから聞いた話だと、危うく世界崩壊の危機に面するところだったらしいし…。

 

「あら!あんなに華奢なのに!?ファルファードに入るからそれなりに剣の心得があるものだとは思っていたけれど…凄いわねぇ」

 

全くだ。

天は二物を与えずとか言うくせに、アミスは強いし格好良いし可愛いし美人だし……もうあの子は出来ないことも、苦手な物もないのではないかって思う。

 

アミスたちに視線を戻してぼーっとしていると、いつの間にか二人は目の前まで来ていた。

僕に目配せしてから、王妃である母に頭を垂れる。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます」

 

挨拶を述べるのは事実上姉であるアミス。

彼女に合わせる形でレグルも礼をした。

 

「ねぇ、貴方が噂の少女なのよね?」

 

一応礼儀として確認する母。

しかしその横顔が幼い少女のように輝いていることを私は知っている…。

 

「えーっと、噂については存じ上げませんが…初めまして王妃様。ファルファード家が長女になりました、アミス=ファルファードと申します」

「えぇ初めまして。養子に入ったのは一週間前だと聞いたのだけれど、随分としっかりしているね」

 

『しっかりしている』とはマナーについてだろう。

お辞儀をする角度も、話し方も、ましてや微笑み方も完璧な令嬢である。

まるで何年も貴族令嬢をやっているみたいだ。

 

「はい、お義父様が急に言い出したのは大変でした」

「ふふふ、困ったことがあれば直ぐに相談してね。あら、そろそろラヴィルとグレンの我慢の限界みたい。別日にお茶のお誘いをさせてもらうわね」

「はい、楽しみにしています」

 

あらら、母上に気に入られてしまったかぁ…

まぁ、アミスならなんとかするだろうけど。

 

「ラヴィル、グレン。お久しぶり」

 

母上から離れて、人気のない一角を占領する。

私たちにたくさんの視線が集まっていることは全員無視。

そりゃ、噂の美少女公爵令嬢とダブル王子、イケメン公爵子息がいたら仕方がないんだろうけどさ。

 

「あぁ、一週間ぶりだね。アミス」

 

ふわりと微笑んだアミスにつられて、私も微笑みながら挨拶を返す。

いつもは仏頂面のグレンも、今はどこか嬉しそうにしていた。

 

「貴族令嬢って大変なのね。基本的なことは出来るようになったけれど、刺繍やダンスより剣を振りたいし、魔法を使いたいわ」

 

なんていうか…アミスに同じ令嬢の友達が出来る日が来るのか心配になってきた…。

まぁ、この国は政略結婚よりも恋愛結婚を重視している面があるから、無理して交友関係を広める必要も…ない、のか?

 

「あぁ、そうだ。この前言っていた槍斧(ハルバード)、基本的な型なら出来るようになったぞ」

「おぉ、流石グレン。優秀ね。使い心地はどう?上手くいっている?」

「あぁ。剣よりも扱いやすいし、応用も効く。それにアミスの魔法のお陰で伸縮自在だしな」

 

アミスのアドバイスによって、グレンは剣ではなく槍斧という武器を使い始めた。斬る、突く、叩く、引っかける、など色々な使い方が出来る武器でグレンは実に気に入っている。

しかも、本来二・五メートルほどある槍の形をしたソレは、アミスの魔法によって伸縮自在で持ち運びも楽なのだ。

 

「そっか~、じゃあ今度手合わせしよう。型の応用の仕方を実践で教えるわ。あ、ラヴィルは?光魔法ある程度使えるようになった?」

「あー、うん。中級魔法までなら詠唱ありでなんとか」

 

私もアミスに護身用の魔法とレイピアを教わっている。

「もし一人になってしまっても、本当に助けたいものを助けるために」と言われては、習わない訳にはいかなかった。

 

「うーん…分かった。ラヴィルの場合は魔法をレイピアに付与して使うから、その練習を始めようか。剣に常に魔法を付与しておくくらいの気持ちだから、頑張ろう!」

「……おー」

 

そもそも魔法剣なんて本の中の存在だからぁああああああッ!!!

という、ここにいるアミス以外四人の心情は見事に一致し…

え?四人?

 

「そう言えば二か月後のアレ。アミスも行くの?」

 

黒いタキシードに身を包んだ少年が彼女に問う。

 

「二か月後…?あぁ、ノトス王国ね。勿論行くわよ」

「ふぅん。じゃああっちへ行ってもみんなで遊べるんだ」

「うん、そういうことになるわね…って、キース!こんにちは」

 

何時の間にか輪に入っていた青緑の少年をアミスが笑顔で迎える。

コイツ見た目派手な癖して何故か存在が薄い時あるんだよなぁ。

 

「あぁ、こんにちは。今日は一段と綺麗だね、アミス」

「そぉう?ありがとう。私もこんなに綺麗なドレスを着たのは初めてだわ」

 

いや、キースはドレスの話をしているんじゃないと思うよ…?

あっ、レグルのその諦めたような苦笑いは経験済みってこと…?!

なんていうか本当、さすがアミスだ。

 

「いや、そういうことじゃなくて…」

「?どうし…」

 

アミスの疑問は途中で遮られることになった。

 

「あっ!あのッ!私伯爵家の…」

「ずるいわッ!ごきげんよう。よければあちらでお話…」

「そのドレス綺麗ですねッ。一体どこでおつくりに…」

「御髪も美しいですわッ!何か秘訣がおありになりま…」

 

キースが輪に入ったことにより、自分たちも会話に入れると考えたらしい。

何時の間にか遠巻きに見ていた令嬢、子息が私たちのもとに押しかけていた。

いや、超が付くレベルで無礼なんだけどね。

 

「あのっ!ラヴィレント殿下!!」

「グレン様!少しお時間よろしいですか!?」

「レグル様ぁ!今度の夜会で…」

「キース様ッ!少しお話が…」

 

押しかけている人の半分がアミスへ、残りが無駄にハイスペックな私たち四人のところへ来た。

 

「ちょッ!ちょっと。一気に話さないでッ!?」

 

初めての体験なのか慌てているアミス。

 

「はいはーい、なんだい?お嬢さん」

 

女受けの良さそうな作り笑いを浮かべて対応するキース。

 

「ヴァ―フリー伯爵だったよな?それで…」

 

そして反対に真面目な雰囲気を醸し出すグレン。

 

「あぁ、あっちで話そうか。ほら、飲み物をどうぞ」

 

男女関係ないレグル信者に囲まれるレグル。

男子からは強いと、女子からは王子様みたいだと人気なのだ。

 

「はい、分かりました。チェスキー侯爵様。是非あちらでお話しましょう」

 

そして来賓の対応に当たる私。

この話の続きはいつものお茶会でしよう。

 

暖かくなった風に吹かれて、そう決意した。

 

 

 

 

To be continued……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四章・ノトス王国編
小話・ノトス王国への旅路(1) キースと魚釣り


スランプです(T_T)
遅くなってすいません。


 

「~♪~~~♪~♪」

 

昨日の夕方に船に乗り込み、早朝。

アミスたちはノトス王国へ向かう一週間の海の旅に出ていた。

 

カナストル王国の友好国であるノトス王国は『世界で一番危険な国』である。つまり『世界で一番南の国』言い換えれば『世界で一番〈闇〉に近い国』。

 

この世界は南の半分を〈闇〉に支配されている。南大陸の〈闇〉の中には魔物や魔人が存在し、ゲーム通りなら十八歳の時―八年後に魔王軍の進撃が開始される。そして進撃の一年前、多く出現するようになった魔物を〈浄化〉するため異世界から聖女が召喚される。神聖魔法によって魔物を〈浄化〉する…んだけど、神聖魔法なんて本当は存在ない。【光魔法】に【浄化の力】っていうスキルか天啓を手に入れることによって発動できるただの魔法、なんだよね。まぁ、私やレグル、ラヴィルなら魔物の〈浄化〉も可能ってこと。

 

ノトス王国が魔物の襲撃を受けた際、カナストルは援護するということを条件にノトス王国にある豊かな自然資源を分けてもらっている。そして今回は「魔物の動きがおかしい」という報告をもとに、契約通りこうして遥々向かっていた。

 

大きな船に二百人近くの乗客。

国王陛下や殿下、二大公爵など国の重鎮ばかりが集まったこの船の半分以上は護衛が占めている。ちなみに、陛下に殿下、宰相様がいなくなった穴は王弟陛下が埋めているらしい。陛下の弟であるイグノアード公爵様は〈魔〉を司るルベラシュタイン公爵の現当主で陛下の影として活躍している。

 

「~♪~~~♪~~♪」

 

重要な書類はアミスが魔石に付与した転移魔法でイグノアード様と陛下を繋いでいる。だから一週間の旅でも公務のため陛下とカエルム公爵は部屋に閉じこもってしまっているのだが。

 

「お、アミス。まだ日の出前なのに早いな」

「んー?あぁ、キース。おはよう。キースも一緒に、どう?」

 

船の甲板の端―自分の隣を指さして誘うアミス。一体何をやっているのか分かったものではない。

 

「…何をやっているんだ?」

 

訝し気に聞いたキースを一瞥して海に手を翳すアミス。

 

「魚釣り」

 

彼女の声と共に海の中から水球が現れる。

その中には銀の鱗をきらめかせた三匹の魚。

 

「よし。これで九十四匹目」

「―――は?」

「キースもやりましょう?【空間魔法】と【水魔法】【風魔法】の練習になるわよ」

「………はぁ?!……いや、まぁ、そういうことなら?」

 

渋々といった感じでアミスの隣に座り込むキース。それを見てアミスは満足げに笑った。

 

「えーっと。まず【空間魔法】で魚の場所を察知。【水魔法】と【風魔法】を使って魚の周りの水ごと回収。釣れた魚は…そこに置いておいて」

「ん。了解」

 

そして目を閉じて【空間魔法】を発動させるキース。毎日レグルと一緒に訓練をした彼は今や超上級魔法を発動できるまでになった。アミスにより宰相の息子としても期待されているのに魔法も操れる、万能型に変身したのだ。

 

「!逃げられた…ッ」

「【風魔法】で切り離すのが遅かったんじゃない?雑でもいいからスピード重視でもう一回やってみて」

「ん。わかった」

 

キースが頑張って魚を釣っている間、【闇魔法】でも魚を釣れないかな~♪と魚釣りがてら考えていた。

 

「!ッ、釣れた!!」

「おぉ、美味しそうじゃない!それで百一匹。あと九十九匹頑張ろう!」

「おー!」

 

そして甲板は魚で埋まっていく―

 

「ねぇねぇ。分身人形を作って潜らせるのはどうかな」

「あぁ、いいんじゃねぇの?【闇魔法】と【空間魔法】で―」

「そうそう!やってみようか!」

 

ぱっぱと分身人形を二体作成するアミス。そこに【闇魔法】をかけて一体をアミス、一体をキースとつなぐ。

 

「行けーーー!!」

「うぉッ!海の中が見える!!」

 

繋いだ分身人形越しに海を散策していく。綺麗な海の姿に、アミスもキースも興奮していた。

 

「あっ!ねぇあれサザエじゃない?〈回収〉」

 

ぽとっ。

〈回収〉の魔法によって、甲板にサザエが落下する。

まぁ〈転移魔法〉の応用だ。

 

「おっ、魚の大群発見〈回収〉」

 

ぼとぼとぼと―

 

「んー、この貝食べられるかなー?一応〈回収〉」

「あっ!これもいけるんじゃねぇの?」

「あぁ、いいねぇ!」

 

どさどさどさ―

 

回収した貝や魚で大きな甲板は埋まっていった。

一見すると、甲板の端に腰かけて目を閉じて魔法を操り「わぁ!魚!」や「おぉ、これ旨そう」と独り言ちている変な人たち―。そしてその背後ではどんどん魚介が積まれていくのだ。

 

 

***

 

 

「おぉ、レグル。はよ」

「おはよう。レグル」

「あぁ、おはよう。ラヴィル、グレン」

 

まだ少しの眠気を残して廊下に出ると、ラヴィルやグレンと出会った。

 

「そういうば、キースは?アイツならもう起きてそうだけど」

「あれ、アミスの気配もない。甲板かな?」

 

そう、そして彼らは発見する。

たくさんの魚介の山と、目を閉じて楽しそうに話している二人のことを―

 

 

***

 

 

「えっ!?な、なにこの山ッ!―はッ!?魚?」

「………これ、は……」

「おぉ、旨そうだな」

 

広い甲板を埋め尽くすように積まれた魚の山に、三人の反応は様々。

―まぁ、レグルとラヴィルは同じような引き笑いを浮かべているが。

 

「あっ!アミス!!キース!!」

 

甲板の端に座り込む二人の背を見つけて声をかける。

 

「ふぇっ!?」

「うわっ!!」

 

海の中に集中していた二人は急に声をかけられて吃驚し、バチンと音をたてて強制的に魔法が終了させた。急に陸に引き戻されたことに戸惑いながらも、なんとか現状を理解しようと辺りを見渡す。

 

「ちょっと二人とも!何をやっているのさ!」

 

そんな二人に構わず、責め立てる少年ママことレグル。

 

「「魚釣りッ!」」

 

揃って渾身のドヤ顔を決める二人に、レグルは脱力した。

 

「釣りすぎだろ」

「よくこんなに釣れたねぇ」

「えぇ、楽しくなっちゃって」

 

えへへ、と無邪気に笑いながら魚の山を見渡すアミス。そんな彼女を見て、レグルは眉を寄せて小言を漏らす。

 

「もう、こんなにたくさん食べられないでしょう!?」

「〈マジック・ホール〉に収納しておくから平気。それに、護衛の騎士さんだって新鮮な魚介をお腹いっぱい食べたいよ!」

「―――まぁ、そうかもね…?」

 

そしてレグルが「アミスに何かを言うほうが間違っているのかも」と諦め始めたころ、甲板に三つの声が響いた。

 

「えぇぇえええええええええええッッッ!?なにこの山ぁあああ!!」

「―――すごいな」

「うむ、美味しそうだ」

 

上から国王陛下、ファルファード公爵、カエルム宰相。

まさかの国のトップ三人に見つかり、流石のアミスもてんやわんやなる旅路一日目の早朝の話。

 

 

 

 

END



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ノトス王国への旅路(2)みんなでお化け退治【前編】

お久しぶりです(*- -)(*_ _)↷


「はあ?幽霊がでるぅ!?」

 

早朝の魚釣り事件後、国王陛下にいいように使われたアミスは精神的にも肉体的にも疲労困憊な様子でいつものメンバーと話をしていた。

 

「あぁ、港町で聞いたんだ。なんでもこの船には秘密の地下室があって、そこから毎晩毎晩女の泣き声が聞こえるらしい」

 

まぁ、なんともベタな……。

 

「それに、子供やかつての船長らしき幽霊を見たっていう目撃情報も上がっているらしいよ~?」

 

え、グレンだけじゃなくてラヴィルまで信じているの!?

思わず飲みかけていた紅茶を下ろして呆れた表情で二人を見た。いやいや、幽霊を信じるってガキかよ……ってコイツらまだ十歳だったな。

 

「…はぁ、でもさ。実害はないんでしょ?わざわざ調べる必要なんて…」

 

「無いでしょ」という言葉は瞳をキラキラと輝かせたレグルを見た途端、喉の奥に消え去った。

おいおい、マジかよ。

 

「まぁ、実害の問題はさておき、曰く付きの船なんて乗客も多くないでしょ?これは解決して船長たちに恩返しをするべきじゃないかな」

 

ううっ、そういわれると………そうなのかなぁ?

いやッ、でも……。

 

「そうだな!やっぱり調べるべきだよなッ!じゃあ今夜二時に俺の部屋に集合して幽霊退治と行こうぜ!」

「「「おー!!」」」

「……ぉ、ぉー」

 

はぁ…どうしてこういう時ばかり物事がトントン拍子で進んでいくんだろ。あ゛ぁ…今夜急に体調不良になったり、用事できたりしないかなぁ…。

 

**

 

深夜二時―

 

しゅいん、と音がして真っ白だった世界が開いた。

どうやら着いてしまったらしい。

 

「よう、アミス。待っていたぜ」

「おそかったねぇ~」

 

部屋の中央を見て見ればグレン、ラヴィル、レグル、キースと全員集まっていた。船の見取り図を囲んでいることからして、例の地下室を探していたのだろう。

渋々と部屋の陰からみんなの方へと足を進める。

あぁ、本当に行きたくないッ!!

 

「!?あ、アミス!その服装は!?」

 

「はぁ」と何度目か分からない嘆息をしていたせいで気づくのが遅れてしまったが、何故かみんなが頬を赤く染めてこちらを見ていた。

―――は?お前らどうした?

 

「?え、何?何か変?」

 

いくら考えても答えが出ないので聞き返す。

 

「いや、変もなにも、女の子なのに、そんなに足を出すって…」

 

あぁ。服の話か。

 

「だってドレスじゃ動きにくいじゃない。私ズボンは持っていないし、それにこの戦闘服は着慣れているから安心だし」

 

これは元々〈戦姫〉時代に使っていた戦闘服(バトル・ドレス)だ。暗殺()にも回れるように黒を基調に作られている。肌にピッタリと合ったこの服は十歳とは思えない我儘ボディを大々的に表してしまうが、体の一部になったようで動きやすい。太ももにつけた暗器も手早く取り出せるようにミニスカートにハイソックス、という確かにこっちの世界では少々過激な服…なのか?

 

「まぁ、何。気にすんな。いざ戦闘になったら私この服に変身するだろうし、今のうちに慣れておいて」

「……わ、分かった」

 

はぁ、なんていうか変な雰囲気になっちゃったな。

 

―うん。しゃーない、話題を変えよう。

 

「ねぇ、それよりも疲れたから早く寝たいんだけど」

「あぁ、昼間親父にこき使われまくっていたな」

 

ぱっと私に釘付けになっていた視線を外し、苦笑いするグレン。

 

「うん。まさかアミスが書類仕事まで完璧だとは思わなかったよ。あんなに早く計算できて、新しい書類の案まで作られちゃったらお父様も手放したくなかっただろうね」

「あぁ、あれはすごかったな」

 

うっ、だって元日本OLの私にあの書類は耐えられなかったんだもん。それに異世界転生に内政無双は付き物ですから。

 

「………はぁ。わかったよ。ぱっぱと行って早く寝よう」

 

結局無駄な足掻きだったか……。

 

「そうそう。例の地下室についていくつか目途を付けておいたよ、アミス」

「んーじゃあ一番近いところから当たっていこうか」

「「「「おー!!」」」」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。