【完結】蒼き雷霆の最前線 (塊ロック)
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出奔

迷い込むのはお伽噺の世界ではない。

傷付いた少年を待つのは、優しい世界ではない。

けれども、進むことは止めないだろう。


何度否定されようが、大切な今を生きるために。


僕は、無力だった。

 

 

助け出されたあの日から、ボクは必死に戦ってきた。

 

けれど、いつも守りたいものは両手から零れ落ちていった。

 

 

人は、ボクを最強の第七波動(セブンス)能力者と呼んだ。

 

 

それでもボクは、大切なひとを、目の前で二度も失っていたのだから。

 

 

ボクは…こんなにも無力だ。

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ、ここは」

 

周囲は暗い。

声が反響する。

どこかの地下通路の様な場所だが。

 

「おかしい…ボクはビルの中に居たはず…新手の第七波動(セブンス)能力者か?」

 

照明は無い、がそんなもの僕の能力には関係が無かった。

 

「…!」

 

バチッ!バチッ!

蒼い雷が音を立てて僕を覆う。

その蒼い光が辺りを照らしていった。

 

「…あちこちに弾痕がある。戦闘があったのか?」

 

通路の壁や天井に様々な弾丸が跳弾した跡が残っていた。

思案しながらふと、何かを蹴飛ばす。

 

「っ!?人…じゃない、これは…ロボット?」

 

足元に目を向けると、人の腕らしき物を発見。

しかし、肩に繋がる部分は何かのオイルで濡れたケーブルが生えていた。

 

よくよく見ると、そこら中にそのパーツは転がっていた。

 

「これは…ヒトの、顔だ。でもヒトじゃない…」

 

とても精巧に作られた人間の…おそらく女性の顔。

人形のように綺麗だ。

だがしかし、首から下が無い。

無残にも引き千切られて…というより、明らかに銃が貫通した跡がある。

ここで起こっていた戦闘の激しさが伺える。

 

「一体何が…」

 

銃声。

弾かれた様に前を向く。

…どうやらこちらに向けて発砲されたものでは無い。

音も若干遠い。

通路の奥までは照らせず、見えない…が、更に奥に何かあるように感じる。

 

「…行くしか、ないか」

 

なるべく足音を立てないように、素早く移動した。

 

 

 

 

 

 

銃声が段々近くなる。

手に持っている銃…ダートリーダーを握り締める。

いつでもダートを撃ち込めるよう、安全装置を外す。

 

ふいに、通路が途切れ、広いスペースに出る。

 

ここで、通路改めトンネルだったことが判明する。

…日の光に照らされる。

雷を発生させていると少し光を見にくくなってしまい気が付かなかったようだ。

 

再度、銃声。

咄嗟に近くにあった廃墟の一部に身を隠す。

…こちらに向けてではない。

コンクリート片から外を伺う。

 

「…あれは、」

 

アーマーで武装した人型と、傷付き、ボロボロになっている少女が対峙していた。

少女が、得体の知れないアンドロイドに、今まさに撃たれようとしている。

 

一瞬、ボクの頭に、人懐っこい笑顔が映る。

無意識に飛び出していた。

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

蒼い雷が、奔る。

 

 

 




導入書いてる時が一番楽しいかもしれない。

思い付きで始めた企画なので、何とか続きを書いていきたい。

続きを読みたいという方が居てくれるのなら、作者の活力になります。

応援よろしくお願いします。


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疑惑

蒼き雷霆ガンヴォルト、ロックマンみたいなゲームやりたいなーとか思ってた時に知り合いから勧められて購入。
ストライカーパックだったので続編込みでやったのですがどハマリしてしまいましてね…。

戦術人形に対して、アームドブルーってチートなのでは?

さて、疑惑の第二話、始まります。


 

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

 

天体の如く揺蕩え雷

 

是に至る総てを打ち払わん

 

 

「ライトニングスフィア!!」

 

「!!!?!」

 

 

少女の正面に居る三体の人形の目の前に躍り出る。

 

突然の闖入者に対して驚く相手に向けて、自分の周囲を覆う球場の雷の力場を発生させる。

 

 

ライトニングスフィアに触れた人形はたちまち爆散した。

 

 

(良かった、こいつらにボクの第七波動(セブンス)は通用する…!)

 

 

三体撃破。

 

その後ろに長物を構えた二体がいる。

 

ダートリーダーのトリガーを引く。

 

 

「?」

 

 

「??」

 

 

ダメージは無い。

 

が、針のようなものが人形の首と肩にそれぞれ突き刺さっていた。

 

 

「喰らえっ!!」

 

 

先程、トンネルの中で行ったスパーク。

 

 

すると、雷撃が針を撃ち込まれた箇所に吸い込まれるように流れ込んだ。

 

 

「!!!!」

 

 

爆散。

 

長物を所持していた人形は、先程の人形と同じく内側から爆発するようにバラバラになった。

 

 

「………」

 

 

辺りを警戒する。

 

…敵は、視認できない。

 

 

「ふぅ…」

 

 

一息つく。

 

被弾は無い。

 

すぐに、背後に座り込んでいた少女に話しかけた。

 

 

「えーっと…キミ、大丈夫…かな?」

 

 

がちゃり。

 

 

「えっ」

 

「動かないで。あなた何物?ここはグリフィンと鉄血の戦場よ…ここで何してたの」

 

 

先程まで撃たれようとしていた少女は、目の前に立ちはだかり、ライフルを突き付けていた。

 

 

「…銃を向けられる謂れは、無いんだけどな」

 

「答えなさい。所属は?」

 

「フェザーに所属してたけど、だいぶ前に辞めた」

 

「フェザー?聞いたことない組織ね」

 

「そう?結構ポピュラーな武装組織だと思ってたけど」

 

「武装組織…!じゃあ、ここで何をしていたの」

 

「何って…ボクは気が付いたらここに居て、キミが撃たれそうになったから助けに」

 

 

そこまで言うと、目の前に立っていた少女がぼんっ!と音がしそうな勢いで顔を赤くした。

 

 

「べ、別に助けて貰う謂れは無いわ!!」

 

「いやでも」

 

「私一人でもなんとかなったわよ!!」

 

「…見たところ遠距離狙撃用のライフルだけど、あそこまで近寄られていたら厳しいと思う」

 

「ぐっ…」

 

 

少女…今更だけど、ボクより年上に見える…は正論なのか、小さく呻いて、構えていた銃を降ろした。

 

 

「…助かったのは事実…か。あ、あ、あ…ありがとう」

 

「どういたしまして。それじゃあこっちから質問いいかな」

 

「何よ」

 

 

すっかり調子を取り戻した少女は、ぶっきらぼうに返してくる。

 

 

「今の奴らは一体?」

 

「はぁ!?アンタ、鉄血の人形を知らないの?!」

 

「鉄血…さっきも言ってたけど、キミ達はそいつらと戦っていたのか?」

 

「そうよ…と言うか、まるでここのこと何にも知らない口ぶりね…」

 

「それは…」

 

 

「WA2000!離れて!!」

 

 

「えっ」

 

 

目の前の少女ではない少女から叫び声。

 

瞬間放たれた銃声。

 

 

弾丸が、ボクを貫いた。

 

 

 




最初に出会う人形を誰にするか迷ったけども、何となくわーちゃんにしました。

年上っぽい見た目の人形ばかりの戦場で彼は何を思うのか。

さらっと一人で五体撃破。ちょっとチート過ぎるかなと危惧している。

いきなり撃たれてしまった主人公、果たして無事なのだろうか(棒)


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連行

放たれた凶弾は少年を貫く。

しかし、それは無意味な行為であった。


 

 

弾丸がボクを通り過ぎ、地面に吸い込まれていく。

 

 

「ち、ちょっと…何よこいつ!」

 

「何で傷を負ってないの!?」

 

 

先程、WA2000と呼ばれた女性と、その仲間と見られる少女…金髪のツインテール、左目は眼帯が特徴的だった。

 

 

「て言うかサソリ!何撃ってんのよアンタ!」

 

「うっさい!助けたんでしょ!立ちなさい!離脱するわよ!!」

 

 

ぎゃーぎゃーと言い争いをしていて、ボクのことは完全に眼中に無いようだった。

 

 

「あのー…」

 

 

ガチャリ。

 

声をかけた瞬間、さっきまでとは違う目付きで銃を向けられる。

 

この人達は…プロだ。

 

そう感じられるに価する切り替えの光速さ。

 

確実に相手を撃つことが出来る目付きをしていた。

 

 

「…一緒に来てもらうわよ」

 

「それは、何故?」

 

 

ダン!!

 

と足に向け威嚇…と言うか完全に機動力を奪うつもりで発砲された。

 

 

しかし、弾丸はボクを傷つける事はない。

 

 

「何でよ…」

 

「電磁結界カゲロウ。これによってボクは誰にも傷付けられない」

 

「そんなのあり!?」

 

 

眼帯の子がテンションを上下させる。

 

そこで、WA2000と呼ばれた女性が口を開いた。

 

 

「一応、ここの規則なの。助けてもらっておいてこんな事言うのは嫌なんだけど」

 

 

曰く、人間の立ち入りを禁止されている区域で見付かったため、保護義務が発生しているとか。

 

 

「その割には普通に撃ったね」

 

「うっ…その、ごめんなさい…」

 

「ううん。気にしてないよ」

 

 

撃たれたというのに自分でも呑気だと思ってしまう。

 

けれど、彼女達に従った方がここからの情報収集は楽に進みそうだと考える。

 

 

「分かった。付いていくよ」

 

「なら、良かったわ。この先に合流ポイントがあるの」

 

 

懐からタブレットの様な端末を取り出し、この辺りの地図を映し出して見せてくれた。

 

地形についても見覚えがない。

 

 

とりあえず、おとなしく付いていこう。

 

 

「そういえば、名前を聞いてなかったわね。私はWA2000。貴方は?」

 

「ボクは…『ガンヴォルト』。親しい人はGVって呼んでる」

 

「私はスコーピオン。ごめんね、GV。さっきは撃っちゃって」

 

「ううん。それにボクもちょっと助けて貰おうと思ってるから、それでおあいこにしよう」

 

「助けて欲しいことがあるの?」

 

 

この場所について、あの人形について。

 

分からないことだらけだ。

 

 

(オウカも、心配してるだろうしな…)

 

 

兎に角、彼女に連絡を取りたかった。

 

 

「GV、行くわよ」

 

「ああ」

 

 

そして、ボクを飛ばした第七波動(セブンス)能力者を突き止めなくちゃいけない。

 

 

(とにもかくにも)

 

 

お腹、空いたな…。

 

 

 




と、言うわけでついに名乗った我らがガンヴォルト。
銃弾は通用しないので下手に相手取らない方がいいと判断した人形達に連れられていく。


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投獄

情報を集めるため、ガンヴォルトは出会った女性に連れられていく。

この世界の実情を知った彼が取る行動とは。


ーーーーグリフィンのとある基地。

 

 

「ここが、キミ達の」

 

 

あれから数人と合流し、飛行場と見られる場所からヘリに乗り移動した。

 

 

「ええ。私達の拠点…PMC、グリフィン&クルーガーよ」

 

「PMCか…確かに軍隊の様には感じられなかったけど」

 

 

個々人の使う武器の形状もバラバラ、よくある統制された衣服でもなかったのでてっきりレジスタンスか何かだと思っていた。

 

 

WA2000は、基地に併設された飛行場から移動する際に言った。

 

 

「悪いんだけど、貴方を取調室に連れて行かなきゃいけないの」

 

「まぁ、妥当な判断だとは思います」

 

「…冷めてるのね」

 

「馴れてます」

 

 

疑われるのも。

 

ボクはテロリストだったのだから。

 

 

「…助けて貰っておいて最低ね、私」

 

「組織なんですから。気にしないで良いですよ」

 

「本当に、子供とは思えないわね…貴方は」

 

 

子供、か。

 

当たり前だけど14歳という年齢はまだまだ子供であると世間では認識されている。

 

 

「私も、出来る限りの事はするから」

 

「ありがとうございます。それじゃあ」

 

 

連れてきてくれたWA2000にお礼を言う。

 

ドアの前に立っていた武装した男性に目配せをして、中に入る。

 

 

「…キミが、ガンヴォルトだな」

 

 

部屋の中は、窓の無い、中央に椅子と机があるだけの簡素な造りだった。

 

その部屋の中に、冷たい雰囲気を纏うモノクルを掛けた女性が立っていた。

 

 

「…はい」

 

「架け給え」

 

 

促されるままに座る。

 

机を挟んで向かい側に女性が座った。

 

 

「君は、我がグリフィンが戦闘行動を行ったていた地域に無断で侵入していた。それだけで独房行きの犯罪であることは知っているか?」

 

「いいえ」

 

「ほう?知らなかったとシラを切るか?」

 

 

眼光が鋭くなる。

 

…しかし、知らないものは知らないのだから答えろと言われても困る。

 

 

「本当に知りませんでした」

 

「そうか。ではあそこで何をしていた」

 

「それは…」

 

 

答えられない。

 

気が付けばあの場に居たからだ。

 

 

「答えられないか」

 

「…答えろ。貴様の目的は?鉄血か?それともただのガラクタ漁りか」

 

「わかりません」

 

 

埒が明かない。

 

この状況を打開するための情報を、ボクは何一つ持ってないのだから。

 

 

「あれだけの力を持っている人形だから、プロテクトが強固なのか…面倒だな」

 

 

…人形?

 

 

「しかし、未成年男子を外見モデルにした戦術人形か…珍しい」

 

「待ってください、人形ってどういう事ですか」

 

「貴様、新造の戦術人形ではないのか」

 

 

戦術人形…?

 

さっきWA2000を襲っていた奴らの事なのだろうか。

 

 

「違います、ボクは人間です」

 

「信じると思うか?放電する人間など」

 

 

困ったな…材料がなさ過ぎる。

 

 

「た、大変です!上級代行官!!」

 

「なんだ…」

 

 

慌てた様子で男性が駆け込んでくる。

 

 

「鉄血の奇襲です!何者かにこの基地の座標がリークされています!!」

 

「何だと…!?」

 

 

女性はボクを睨めつける。

 

 

「待ってください。ボクは無関係だ!」

 

「そいつを独房へぶち込め!」

 

「ハッ!」

 

 

ここで騒ぐのは得策ではない。

 

機会を待った方が良さそうだ。

 

 

「拳銃も没収だ…なんだこれは」

 

 

ダートリーダーも取られてしまった。

 

…参ったな。

 

一点ものだからなるべくなら壊さないで欲しいんだけど。

 

 

ボクは、そのまま連行された。

 

 

 




ガンヴォルト、独房行き。

勿論GVがリークする訳でもなく帰投経路からバレた訳だがそれはまたべつの話。

次回、迸る蒼き雷霆。


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蒼翼は夜に舞う

独房に大人しく入るGV。

外は対鉄血のムードの中で取りうる選択肢は。


セルフBGMはサブタイでどうぞ。


前線基地の地下、予告通り檻と見られる中に入れられ鍵を閉められた。

 

 

「悪いな、坊や」

 

「いえ。そちらも仕事ですから」

 

「…オトナだねぇ」

 

 

外見年齢に引っ張られての発言なのだろうか。

 

 

「まぁ、人形だしそのへんはそうか」

 

「だから、ボクは」

 

 

人間だ、と言いかけてぐぅ、と腹の方が抗議の声を上げた。

 

 

「………」

 

「はははっ。腹減ってるのか。ちょっと待ってろよ」

 

 

看守はそう言うと、檻の前から消えた。

 

暫くして、看守が戻ってくる。

 

 

「ほら、食いな」

 

 

格子の隙間から、缶詰めを一つ差し出してきた。

 

 

「ありがとう、ございます」

 

「礼は良い。寝覚めが悪かっただけだからな」

 

 

突如、独房の壁が吹き飛んだ。

 

 

「なっ…!?」

 

 

思わず顔を手で守る。

 

外と繋がったのか、声が聞こえてくる。

 

 

「敵砲兵による被害発生!!」

 

「どこに落ちた!?」

 

「独房付近です!!」

 

 

先程まで会話していた看守がうつ伏せで倒れていた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「いつつ…駄目じゃないか、独房から出たら…」

 

「そんな事を言っている場合か!?」

 

「はやく、逃げろ…」

 

 

そう言って、彼は眠ってしまった。

 

爆発で頭を打ったらしい。

 

 

「くっ…」

 

 

なんとか安全な場所へ連れて…。

 

銃を構える音がする。

 

 

「無駄だ!雷撃鱗で全て防げる!!」

 

 

実弾ならば全て遮断する事ができる。

 

足元の男性を感電させないよう、出力を絞って展開した。

 

 

「…すぐ戻ります」

 

 

意識の無い男性に一言告げて、ボクは走り出した。

 

 

「ダートリーダーはどこに…」

 

 

アレが無ければ戦闘に支障をきたす。

 

…が、すぐに見つかった。

 

さっきの男性が持っていたのだ。

 

 

「どうして…」

 

 

何にせよ、すぐに見つかったのは幸運だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー外は混沌としていた。

 

 

至る所で鉄血と呼ばれた人形達が見られ、それらに応戦している人間が各所に散らばっている。

 

 

奇襲でも受けて完全に指揮系統をやられたのか、組織的な動きにはとても見えなかった。

 

 

「まさかこんな事になるなんてね…」

 

 

行く宛も無い、がこの状況を放置するほど血も涙もないわけではない。

 

随所で乱入し、鉄血と思われる人形を片っ端から壊して回っていた。

 

途中で出会った男性に怪我人が居ると伝え、看守を保護してもらった。

 

 

これで心置きなく動き回れる。

 

 

(この人形たち、個々がそれぞれ状況判断をしている感じに見えるけど…命令を出している個体でも居るのだろうか)

 

 

戦闘中はまるで熟練の兵士の様な動きをするが、固まって移動している最中などは驚くほど脆かった。

 

 

そこへ付け込むと一瞬で混乱し、容易に突き崩せた。

 

 

「あれは…」

 

 

不意に、鉄血に対して優位に戦況を進めている集団を発見する。

 

メンバーは全員女性…。

 

 

「スコーピオン!!」

 

「う、えぇ!?GV!!?何でここにいるの?!」

 

 

その内の一人が、先程顔を合わせた相手だったため声を掛けた。

 

他の女性達も次々とこちらを注視する。

 

 

「サソリ、この子は?」

 

 

これまた片目を眼帯で覆い、長い黒髪を三つ編みに纏めた長身の女性が尋ねた。

 

 

「この子はガンヴォルト。さっきわーちゃん助けてくれた子なんだけど…」

 

「へぇ、オマエが。私はM16A1だ。よろしく」

 

「ど、どうも」

 

 

ボクもそう背が高い訳ではないが、女性に見下されている光景というのはあまり記憶に無かった。

 

 

「今鉄血の奇襲を受けたせいで見ての通り混戦状態。私達もヘリアンのやつを逃がすので精一杯だった訳だ…まぁ、やられっぱなしっていうのも癪だからどうにかしたかったってとこ」

 

「反撃、出来るんですか。見たところ他の兵士は皆撹乱されて身動きが取れないみたいだけど」

 

「…凄いな、少し見ただけでそこまでわかるのか。指揮官の素質があるかもな」

 

「からかわないでください」

 

 

しばらく黙っていた他の女性が口を開いだ。

 

 

「始めまして、GV君。私はスプリングフィールドと言います」

 

 

栗色の髪の柔らかい笑顔を讃えた女性だった。

 

…しかし、武人の様に隙がない。

 

 

「わーちゃんを助けてくれた事にお礼を言わせてください。ありがとうございます」

 

「い、いえ…」

 

「あの子、素直じゃないからなかなかお礼を言わなかったでしょう?」

 

「そうですね…」

 

 

落ち着いた雰囲気にちょっとどぎまぎしてしまう。

 

 

「今、わーちゃんは囮になってくれて時間を稼いでくれています…助けに行って貰えないでしょうか」

 

「お、おい…敵か味方かまだ判らない奴に頼むのか…」

 

「私はスコーピオンの意見に賛成。多数決なら負けだよ、M16」

 

「…ッチ。しょうがないか…悪いんだが、頼まれてくれないか…ガンヴォルトとやら」

 

 

わーちゃん、と言うのが先程まで一緒にいたWA2000と言う女性らしいのは推察できた。

 

 

「ボクに任せて、大丈夫なのか?」

 

「私達は、味方の撤退の時間を稼がねばなりません。自由に動けるのは今、貴方しか居ません…お願いします」

 

「………わかった」

 

 

乗りかかった船なのだ。

 

最後まで付き合うのが道理だろう。

 

 

「…死ぬなよ」

 

「…善処する」

 

「命というのは、大事にすれば一生使えます。お願いですから、危なくなったら引いてください」

 

 

スプリングフィールドと呼ばれた女性から放たれた言葉が、ボクを貫く。

 

…昔の、顔なじみを思い出して苦笑いしてしまう。

 

 

「わかった。大事にするよ」

 

 

 




Mission Update.
次回、WA2000救出作戦。


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蒼翼は夜に舞う Ⅱ

WA2000救出作戦、開始。


 

 

WA2000が最後に戦闘したポイントは司令部エリアの最北。

 

そこで囮となるよう数体の人形と残り派手に暴れているとのこと。

 

 

『まずはその位置まで前進してください』

 

「了解」

 

 

右耳にインカムがはまっている。

 

これは出る前にスプリングフィールドさんから渡された物だ。

 

 

何でも、試作段階だから相手がスプリングフィールドさんとしか通じないが。

 

 

「そっちの状況は?」

 

『こちらは気にしなくても大丈夫ですよ。撤退の準備は出来ています』

 

「奴らに勘付かれる前に戻ります」

 

 

自身の第七波動(セブンス)である雷撃で身体能力を強化し、跳躍した。

 

ボクの身体はなんの重みも感じないほど高く飛び上がり、更に壁を蹴り上げ建物の屋上に躍り出た。

 

 

「…屋上に到着、敵影はなし」

 

『早いですね。流石最新鋭の人形です』

 

「違いますよ…ボクは人間です」

 

『?人間にそんな芸当は出来ないと思いますけど…』

 

 

それはそうだけど。

 

――と、出そうになった言葉を飲み込み、次の目的地を探す。

 

 

屋上は占拠されてはいないが、下層からの狙撃など留意することは多い。

 

長居はできない。

 

 

「…あれは、ロボット?」

 

 

屋上から戦場を一望する。

 

その中で一際目を引いたのが、四本足の装甲車のような機械。

 

 

『…何ですって。GV君、それの詳細な情報を』

 

「機体下部に大型の…アレはチェインガン?」

 

『マンティコアだわ…!鉄血の装甲機械!ライフルなら装甲を抜けるけど、一緒に居るハンドガンの子たちが危ない…!!』

 

 

あの四本足はマンティコアと言うらしい。

 

ハンドガンの子、と言うのがWA2000の護衛戦力の事だろう。

 

 

「要はアレさえ壊せば後は何とかなりそうですか?」

 

『撤退ルートはこちらから確認できませんが、進路上の鉄血は粗方GV君が排除している筈です』

 

「了解!」

 

 

脚力を強化して、走る。

 

そのまま屋上から飛び上がった。

 

 

空中で雷撃鱗を展開、落下スピードが緩やかなものになる。

 

 

足元にいた鉄血の人形達がこちらに気が付き、手にした得物で銃撃をしてくるが雷撃鱗に実弾は無力だ。

 

 

そのまま着地、交戦ポイントは目と鼻の先だ。

 

 

「敵の数が多い…蹴散らす!」

 

 

恐らく籠城しているであろうトーチカを発見。

 

まだマンティコアは後方に居るが、その随伴兵の人形達はトーチカに殺到している。

 

 

展開している…女の子達がハンドガン片手に応戦していた。

 

 

「伏せろ!」

 

「なっ…ガンヴォルト!?」

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

 

閃く雷光は反逆の導

 

 

轟く雷吼は血潮の証

 

 

貫く雷撃こそは万物の理

 

 

「ヴォルティックチェーン!!」

 

 

周りから鎖を召還する。

 

次々と鉄血人形達に、突き刺さり、絡まる。

 

 

鎖が雷へと変わる。

 

 

鎖の犠牲者たちは、全て雷撃に焼かれていく。

 

 

「…ここまで多い相手に使ったこと、そういえばなかったな…」

 

「ガンヴォルト!何でアンタここにいるのよ!?」

 

「WA2000さん…良かった、離脱しますよ」

 

 

トーチカからサイドテールが飛び出す。

 

目標人物のWA2000だった。

 

 

「離脱って…出来ないわ、そんな事」

 

「出来ない…それはどうい」

 

 

言葉が止まってしまった。

 

今まで考えていなかった事が、目の前に叩きつけられてしまう。

 

 

何故、彼女たちが武器の名前で呼ばれているのか。

 

何故彼女達のような少女が銃を持ち人形と戦っているのか。

 

 

聞かなかった。

 

聞けなかったのだ。

 

 

…WA2000の左足は、膝から先が無くなっており、赤い…血ではない液体が滴り、鉄血の人形達と同じようなケーブルやパーツが飛び出ていた。

 

 

「…ガンヴォルト?」

 

「…キミも、人形…だった…?」

 

「え、何を言っているの…?」

 

「ワルサー!ヤバイわ!もうマンティコアが来る!」

 

「…ここまで、ね。ガンヴォルト、貴方なら逃げ切れるわ…理屈は知らないけど、普通とは違う人形みたいだし」

 

 

私達みんな、もう逃げられないしね。

 

 

そう続けた彼女の顔は、寂しそうだった。

 

周りを見る。

 

ハンドガンを持っている子たちも、よく見れば片腕が無かったり、脇腹を抑えていた。

 

 

…この子達は、逃げられないから、せめて時間を稼ごうとしていたのだ。

 

 

「私達のデータはI.O.Pのデータバンクに保存されてるから、このボディが壊されてもまた復活できるわ…まぁ、何も覚えてないけどね」

 

 

ああ、どうしてボクの目の前には、助けたいと思う存在が多いのだろうか。

 

 

「…駄目だ」

 

「ガンヴォルト、さぁ…行って!」

 

「駄目だ!!」

 

 

もう二度と、目の前で死なせて堪るものか!!

 

もう絶対に、差し出した手を離したりするものか!!

 

 

「ボクはスプリングフィールドさんからキミの、キミたちの救出を依頼されている!絶対に連れて帰る!」

 

「どこの誰か知らないけど、こんな状況で…ひっ!?」

 

 

隣に居たハンドガンの子の前で雷撃鱗を展開。

 

顔の目の前で弾丸が阻まれて顔面蒼白になる。

 

 

『GV君!?WA2000は?!』

 

「発見しました。けど、足を負傷しているので動けません…マンティコアを迎え撃ちます」

 

『…出来るんですね』

 

「勿論」

 

『その周囲を掃討できれば、回収部隊が送れる筈です…どうか、死なないで』

 

 

通信が切れる。

 

その場に居る人形達に告げる。

 

 

「全員トーチカの中に退避して。アレは、ボクが片付ける」

 

「何を言って…」

 

「良いから、早く!!」

 

「……………判ったわ」

 

「ちょっ、ワルサー!?」

 

「そこまで言うなら、助けてもらいましょう…もう一度」

 

 

彼女は、手を痛いほど握り締めていた。

 

悔しさを紛らわせる様に。

 

 

「こんな消耗品(わたしたち)に、生きて欲しい奴が居てくれるんだから」

 

「…………」

 

 

ハンドガン達は、大人しくトーチカに入っていった。

 

 

「ガンヴォルト」

 

「…何?」

 

「ありがとう…絶対、忘れないわ」

 

 

その表情は、諦めに満ちていた。

 

その言葉に、返事はしない。

 

 

目の前のマンティコアに向き合う、そして、啖呵を切る。

 

今までも、そしてこれからも。

 

 

目の前の敵を貫き滅ぼす為に。

 

 

「こんな理不尽な結果になんて、させるものか!!」

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!最強の称号を証明してみせろ!!」

 

 

 




次回、VSマンティコア。

彼女達が人形だと知ってしまっても、蒼き雷霆は止まらない。

自分の守りたい物の為に今まで戦ってきたのだから。


それが何度、哀しみに満ちた結果だとしても。


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蒼翼は夜に舞う Ⅲ

VSマンティコア。

雷撃鱗では防げないチェインガン、カゲロウがあるとは言えこれだけでは防御は完全ではない。

それでも少年は立ちはだかる。


守りたいと思った物を、二度と喪わない為に。


 

マンティコア下部の大型チェインガンから無数の弾丸が放たれる。

 

 

「くっ…この勢いは!」

 

 

雷撃鱗では防ぎきれない!

 

物量で潰されてしまう。

 

雷撃鱗も万能ではないのだ。

 

 

早々に正面から退く。

 

 

…その時、何発か頬に銃弾が掠められる。

 

 

多少の怪我は気にはしない。

 

 

「そこっ!」

 

 

ダートリーダーから、GVの髪の毛を核とする特殊な弾丸を発射する。

 

これは撃ち込まれた対象に雷撃鱗を指向させるための謂わば布石。

 

 

しかし、装甲は厚い。

 

ダートは深くまで刺さらない。

 

これでは雷撃が内部まで到達しない。

 

 

「ならばっ!」

 

 

4つ脚のどれか一つをもげば、動けまい!

 

 

強化された脚力で一気に肉薄する。

 

 

霆龍玉(ていりゅうぎょく)!!」

 

 

掌からライトニングスフィアより小振りな雷の球を発生させる。

 

それを、マンティコア前足に叩き込んだ。

 

 

マンティコアの装甲を焦がすだけ…に、見えるが違う。

 

雷球は叩き込まれた場所に残留する。

 

 

少しづつ装甲を削り始める。

 

 

これは、敵を拘束しそのまま削り落とすスキル。

 

次への布石のためのもの。

 

 

「刺されっ!!」

 

 

ダートをありったけ撃ち込む。

 

…三本。

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

雷撃を削れた前足に集中させる。

 

…前脚の機甲から激しいスパークが起こる。

 

 

「効いてる…ぐっ!?」

 

 

マンティコアの脚が上げられ、ボクは回避のために動こうとした所で不意に動きを止めた。

 

 

…さっき倒した筈の人形が、ボクの脚を掴んでいた。

 

 

反対の前脚が、ボクの体を打ち据えて吹き飛ばす。

 

 

「あ、がっ…!」

 

 

機械の揚力で殴られ、頭が揺れる、視界がぼやける。

 

堪らず血の塊が口から零れ落ちた。

 

 

「はぁ、はぁ、くっ…機動力は奪った…あとは、本体…がはっ!」

 

 

思ったよりダメージを受けたらしい。

 

思うように立ち上がれない。

 

 

マンティコアは脚は動かせないが、銃口はこちらを狙っていた。

 

 

「やらせ、ないっ!!」

 

 

ライフル弾がチェインガンを叩く。

 

流石に威力はあったのか銃身がひしゃげて自爆を起こした。

 

 

「わるさー…!」

 

「今よ、ガンヴォルト!!」

 

「迸れ…!」

 

 

軋む体にムチを打ち立ち上がる。

 

一撃で本体を破壊する。

 

その為の布石は撒いた。

 

 

煌くは雷纏いし聖剣

 

 

蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

 

蒼雷の暴虐よ敵を貫け

 

 

 

「スパーク…カリバァァァァァァ!!」

 

 

巨大な剣を腕から召喚し、放つ。

 

本命の一撃。

 

その剣は寸分違わずマンティコアを両断せしめた。

 

 

「はっ…はっ…や、やった…」

 

「ガンヴォルト!!」

 

「ちょっと、あの子見て!オイルじゃない!」

 

「うそ…ワルサー、あれ血よ!!」

 

 

「…え、彼………人間なの………??」

 

 

遠くなる意識の中で、そんな声が聞こえる。

 

 

「ちょ、ワルサー!」

 

「う、うるさい!早く助けに行くわよ!!」

 

「あんた動けないでしょ!!」

 

「なら早くいけ!!」

 

 

何人かの人形が慌ててこちらに駆け寄ってくる。

 

 

…良かった。

 

今度は…守れたんだ…。

 

 

 




戦闘描写ってどうしても抽象的になってくるから苦手…。

なんだかんだここまででガンヴォルトのSPスキルを全て使っていたりする。

雷撃鱗発動中はカゲロウが使えない。

つまり、彼は無敵では無い。
密度のある弾幕、あるいは不意打ちなら相手側に勝機はあったりする。


次回、ガンヴォルト就職する。


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分岐点

致命的な勘違いをしていたため、下調べと構想を練っていたらだいぶ遅くなりました。

齟齬の発生箇所は修正していくようにします。

とりあえず今回は本編の更新を。




 

 

「GV、貴方は何処へ行きたいの?」

 

「ボクは…」

 

 

「…」

 

 

目を覚ます。

 

鉄血のマンティコアと呼ばれた兵器を破壊したあと、どうやら気を失っていたらしい。

 

 

辺りを見渡すと、白い壁にカーテン、ベッド等病室である事がひと目で判る部屋に寝かされていた様だ。

 

 

(…手当てしてもらったのだろうか)

 

 

傷を負った箇所にガーゼやら包帯やら巻かれていた。

 

…割と負傷していたらしい。

 

 

(…それにしても…懐かしい夢を見ていた気がする)

 

 

内容は覚えていない。

 

けれど、蝶のような羽根と声は思い出せる。

 

 

(…シアン)

 

 

消えてしまった。

 

ボクの、目の前で……………。

 

 

「あっ…………起きた!!」

 

「えっ」

 

 

扉が開いたと思ったら女の子の声がして、

 

 

「皆ぁぁぁぁぁ起きたよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

叫びながらどこかへ走り去って行った。

 

 

「何だったんだ…?」

 

 

バタバタバタ。

 

廊下を走る音が聞こえる。

 

 

足音から察するに、割と多い。

 

 

「ちょ、押さないでよ!」

 

「やめてください!わ、髪が!」

 

「待ちなさいって相手は病み上がりよ!」

 

 

ドアが半開きになっていたため、声が駄々漏れしていた。

 

 

「あの…」

 

 

ピタッ。

 

声をかけたら、廊下の方が静かになる。

 

 

「トカレフ、貴女行ってよ」

 

「ちょっと、話してみたいって言ってたの貴女じゃない」

 

「いやでもさ…」

 

「あぁもう、ワルサーさん呼んできますよ」

 

「はーい…」

 

 

…また足音。

 

今度は遠ざかって行った。

 

 

「何だったんだ…」

 

「失礼するよ」

 

 

そう思った矢先、男性が部屋に入ってきた。

 

軍服をきっちり着こなした、若い男性だ。

 

人の良さそうな笑みを浮かべている。

 

 

「初めまして、ガンヴォルト君。私はこの寂れた基地の指揮官だ」

 

「…初めまして」

 

「ハハハ、そう警戒しないでくれ。君をもう拘束なんてしないよ」

 

「どういう事ですか」

 

 

敵勢力と疑われ投獄された身としては不審極まりない。

 

指揮官は構わず続けた。

 

 

「この基地を救ってくれた恩人だからね…部下達も世話になった」

 

「それは…」

 

「それに、ここは鉄血にもグリフィンにとっても戦術的価値の薄い基地だったんだ…君が来てくれたお陰で、上級代行官とも直談判出来たし。こちらにもメリットは多かったんだ」

 

「はぁ…」

 

 

ここの事について、何も判らないボクには何を言っているのか理解に苦しんだ。

 

 

「君さえ良ければ色々と説明したいんだけど…聞きたいこととかはあるかい?」

 

「…良いんですか?」

 

「君がしてくれた事に対するお礼さ。勿論、これだけじゃないけど」

 

「それじゃあ…ここは何処なんですか?」

 

 

根本的な疑問だ。

 

自分が今、どこに居るのか。

 

 

少なくとも、自分がずっと戦ってきた場所では無い。

 

 

「ふむ…ここは何処、か。場所を答えるならS12地区…と言う名前しか無い。しかし君が期待する答えでは無さそうだ」

 

「ここは日本ですか?」

 

「日本?その名前は割と前に無くなったと聞くが」

 

「日本が、無くなった?」

 

 

…まさか、自分はタイムスリップしたとでも言うのか?

 

訝しむボクを他所に、指揮官は続ける。

 

 

「今や国という単位はほとんど消失している。汚染された土地を残った国…もしくは企業がそれぞれ統治しているのが現状だ」

 

「汚染?」

 

「…いよいよもって君が異世界から来たとでも言いたげな雰囲気になってきたな」

 

「異世界…ですか。では、ここに"第七波動(セブンス)"と言う力を持つ物はいますか?」

 

「セブンス…?それが、その超能力みたいなやつの名前なのか?」

 

 

この人は第七波動(セブンス)を知らない…。

 

それに、ボクがいた地域は環境汚染はそれなりにあったが人が住めなくなる程じゃない。

 

 

スメラギが崩壊し、エデンに本格的に侵攻された後なのか。

 

いや、パンテーラ亡き後のエデンにそんな余力は残されていない筈。

 

 

「はい」

 

「超能力…か。本当に漫画みたいな話だ」

 

「けど、実在して…皆、戦ってきました」

 

「まだ若いのに、大変だったんだな」

 

「…」

 

 

指揮官の表情は読めない。

 

正直、本気で同情しているのだろうか。

 

 

ここまでの会話で、にわかには信じられないがボクが異世界へ飛んだのか、未来にタイムスリップしたのか色々と可能性が出てきた。

 

 

「脱線してしまったな。君も病み上がりだしあまり長く話すのも酷だろう」

 

「いえ…」

 

「最後に一つだけ聞こう。…ウチに入るつもりは無いか?」

 

「グリフィンにですか?」

 

 

意外だった。

 

戦闘用の人形を運用する組織がボクを雇用しようとするとは思っていなかった。

 

 

「見たところ大してバックが居ないみたいだし、部下たちも君のこと気に入ってるみたいだしね」

 

「部下たち…さっきの人たちですか」

 

「なんだ、見舞いに来てたのか。そう、君が救ってくれた人形達だよ」

 

「…そうだ!WA2000や他の子たちは!」

 

 

ようやくここで思い出す。

 

誰の為に戦い、倒れたのか。

 

 

「アイツらなら…ほら」

 

 

指揮官がドアに指を指す。

 

 

「あっ…!!!」

 

 

半開きになっていたドアから覗く瞳。

 

気付かれたと思うや否や廊下を走り去る足音が。

 

 

「やれやれ、素直じゃない」

 

「無事だったんですね…」

 

「ああ。君が命を張ってくれたお陰で」

 

 

良かった。

 

ボクは、今度こそ護れたんだ…。

 

 

ホッとした瞬間、身体からまた力が抜けていく感じがする。

 

 

「…まだ君には休養が必要だ。次起きたとき、答えを聞くよ」

 

 

そこで、ボクの意識は再び途切れた。

 

 

 

 




GV、グリフィンへ入社?

ただし、この基地には配属されない。

護りたいものすべてが零れ落ちた少年への、この世界からの報酬。


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選択

GVの選択。

これまで後悔ばかりだが、今はこれからを考えなければならない。

後悔は後で出来る。


 

 

ボクは、グリフィンに所属する道を選んだ。

 

 

この世界で生きて行くには、この世界のことを知らな過ぎた。

 

 

「新入り!ちゃっちゃと動く!」

 

「はい!」

 

「次!」

 

「はい!」

 

 

トレーを持って走る。

 

…上にはメロンクリームソーダが3つ乗せられていた。

 

 

「GV!こっち!注文良い?」

 

「今行きますから!!」

 

 

何故かボクは、グリフィンの基地食堂でウェイターをやっていた。

 

ボクの第七波動(セブンス)蒼き雷霆(アームドブルー)による雷撃能力を応用した様々な恩恵が雑用に適していた。

 

 

…その為、配属先が決まるまで色々と雑用して給与を受けている形になる。

 

能力の無駄遣いも良いところである。

 

 

「ふぅ…」

 

「お疲れ様、GVちゃん」

 

 

食堂を切り盛りしているおばさん達が労ってくれる。

 

 

「いやー、若い子がいるっていいねぇ」

 

「いつもご苦労さま」

 

「いえ、ボクのやれる事をやってるだけですから」

 

「それにしても…最近人形ちゃん達増えてない?」

 

「あー、それは思ったわ」

 

「あははは…」

 

 

ボクがここで働き出してから、人形たちの客足が増えているらしい。

 

…何でだろう。

 

 

「GV」

 

 

ボクを呼ぶ声。

 

時計を見ると、ピークは過ぎ次の仕事まで間があった。

 

 

「ワルサーさん」

 

「その呼び方だと紛らわしいわ」

 

「WA2000さん。どうしたんですか」

 

「いえ…その、まっ、まだ次の仕事まで時間あるわよね!よ良かったら案内しようかなーって!」

 

「本当に?助かるよ」

 

 

おばさん達が後ろでニヤニヤしてるのを尻目に、真っ赤になってしどろもどろになっているWA2000を見る。

 

以前の戦闘による負傷は影も形もない。

 

人間と見紛うほど人に近いもの…でも、彼女は人間じゃない。

 

 

こうして話してると、イマイチ実感が湧かなかった。

 

でも、ボクは見てしまっている。

 

彼女の脚が…。

 

 

「ちょっと、GV!聞いてるの?!」

 

「えっ、あっ。うん、何だったかな」

 

「だから、行くわよ!」

 

 

WA2000は踵を返して歩いていった。

 

おばさん達に挨拶してからボクも追い掛ける。

 

 

「あら、GV君こんにちは」

 

「こんにちは、スプリングフィールドさん」

 

 

途中、スプリングフィールドさんとすれ違う。

 

彼女もここの基地の所属の人形らしい。

 

 

食堂とは別の、カフェで普段は働いているそうだ。

 

 

「今度うちにも寄ってくださいね?珈琲をご馳走しますよ」

 

「ありがとうございます。その時は是非」

 

「スプリングフィールド…今は私がGVの案内してるんだけど」

 

「分かってますよわーちゃん。頑張ってね」

 

「がっ…!!!?」

 

 

スプリングフィールドさんは手を振って去っていった。

 

 

「い、行きましょ…!」

 

「う、うん。大丈夫?」

 

「当たり前よ!」

 

 

明らかに平常ではないテンションだけど、修復されてから戦闘に参加してないと言っていたから元気が有り余ってるのだろうか。

 

 

「あ、あんまり無茶はしないでね…」

 

「???」

 

 

このあと、基地内を案内してもらったけど、ずっとWA2000さんの機嫌は良かった。

 

 

 




そろそろ他の戦術人形をちょくちょく出して行きたい。

何となく日常回。

GVに必要なのは他愛のない日常だと思ってる。


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平穏は終わるもの

束の間の平穏。

しかし少年へのささやかな報酬は終わる。


存在しない筈の能力者は、存在しない部隊に組み込まれる。


 

 

「あ、あの!ガンヴォルトさんですよね!」

 

「うん?そうだけど?」

 

 

ある日、廊下で長い白髪の女の子に声をかけられた。

 

人形みたいに整った顔立ち…いや、この子も人形だろうか。

 

赤い瞳が印象に残る。

 

 

「わたし、トカレフと申します。先日は助けて頂き本当にありがとうございます」

 

「あの時の…」

 

 

WA2000さん達と一緒にいたハンドガンの子たちのひとりだったのか。

 

しかし、ハンドガンの子たちはどうしてこう少し幼いのだろうか。

 

この子は少し大人びているけど、何となく年齢設定がボクに近い様に感じられる。

 

 

「それで…その、宜しければわたくしと基地を周りませんか?」

 

「あー…その、ごめん。案内は一通りWA2000さんがしてくれて」

 

 

先日、休憩時間目一杯まで使って基地を案内してくれた事を思い出した。

 

…トカレフの表情が若干曇る。

 

 

「そう…でしたか…」

 

「あー、そう言えばカフェに行きたかったんだけど…道を忘れてちゃったな…」

 

「カフェですか!?じゃあわたしが案内しますね!!」

 

「う、うん…お願いするよ…」

 

 

急にテンションの上がったトカレフに面食らう。

 

何だろう、人形ってみんな情緒不安定なんだろうか。

 

 

「さぁ、行きましょうガンヴォルトさん!」

 

「はいは…わ、ちょっと、力強っ!?」

 

 

トカレフに手を引っ張られて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、GV君にトカレフちゃん。いらっしゃい」

 

「こんにちは、スプリングフィールドさん」

 

「今日はトカレフちゃんと一緒なのね」

 

「ごきげんよう、スプリングフィールドさん」

 

 

カフェに入ると、エプロン姿のスプリングフィールドさんがカウンターに立っていた。

 

こうして見ると、戦場で見掛けた時の武人の様な佇まいは感じられない。

 

 

「ちょっと待っててね。今珈琲を淹れますから。トカレフちゃんもどう?」

 

「頂きます」

 

 

スプリングフィールドさんが豆を弾く音がする。

 

…なんとなく、無言になってしまう。

 

 

この世界に来てから、最初は混乱もした。

 

けど、人間という物は思ったよりも強からしい。

 

 

何となく慣れてしまい、久しぶりに穏やかな日々を送っている…ただ、

 

 

(オウカは…心配してないかな)

 

 

急にボクが戻らなくなり、彼女が心配していない筈が無い。

 

…何とかして、帰らないと。

 

 

「あっ!見付けた!」

 

「…えっ?」

 

 

ふと、新たな声が聞こえて意識が戻る。

 

振り向くと、栗色の髪をおさげに結っている子が立っていた。

 

人懐っこい笑みを浮かべている…けど、左眼に縦一線の傷跡が残っている。

 

…人形は修復すれば外傷は全て消せる筈なのに、何で残しているんだろうか。

 

 

「君がガンヴォルトだね!これからは家族だ!」

 

「…へ?」

 

「なっ…!?」

 

「あらあら…」

 

 

…またひと悶着起きそうだ。

 

 

 




と、言う訳でガンヴォルトの配属先はこちらのヤベー部隊になります。

…まぁ大丈夫だよね!GVなら!

人形とフラグは立てるけど回収はしていかない予定…まぁオウカ居るしね…。

ヒロインどうしようか…。


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Not Found

ガンヴォルトの配属先、安直だけど都合がいいと言えば良いので存分に使う所存。

なお、M16はヘリアンの護送で先に帰っていました。


 

 

「…えっと、君は?」

 

「私?私はね、UMP9!よろしくね、ガンヴォルト」

 

 

出会うやいなや家族発言をしてくれた…恐らく、戦術人形。

 

にこにこと笑みを絶やさずこちらを見ている。

 

 

「見た感じ普通の男の子だけど…ふーん」

 

「あ、あの…」

 

「あっ、気にしないでー?見てるだけだから」

 

 

周りをチョロチョロされている上にガン見。

 

気にするなと言われる方が無理である。

 

 

「あはは…は、どうしたんですか?」

 

 

スプリングフィールドとトカレフの表情は固い。

 

まるで、居てはいけないものを見るような。

 

 

「どうして、ここに?」

 

「んー?迎えに来たんだ!」

 

「迎え…ですか?」

 

「そう、私達の新しい家族の」

 

「え…そんな、まさか」

 

 

持たされていた携帯端末にコールが入る。

 

相手は…指揮官だ。

 

 

「…もしもし」

 

『GV…急で悪いんだが今日の雑務は全てキャンセルだ。至急作戦室に来てくれ』

 

「わかりました。すみません、スプリングフィールドさん、行かなきゃいけないみたいです」

 

「そう…また今度来てくださいね」

 

 

カフェを出て、作戦室に向かう。

 

…後ろをUMP9が付いてくる。

 

 

「どうして付いてくるの?」

 

「私も呼ばれてるからだよー」

 

「やっぱり、君も人形?」

 

「そうだよ。そっちは本当に人間なの?」

 

「うん」

 

 

無言になる。

 

 

…そのまま、作戦室に付いた。

 

 

「失礼します」

 

 

扉をノックして中に入る。

 

 

作戦室に居たのは指揮官と…三人の人形だった。

 

一人は、今にも寝そうに船を漕いでいる。

 

もう一人は、こちらを値踏みするように睨んでいる。

 

最後の一人は、アンニュイな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

 

…睨んでいた人形が口を開いた。

 

 

「ナイン。どこ行ってたのよ」

 

「んー?噂のガンヴォルトに会いに行ってた」

 

「はー…勝手に動かないで。小隊長からも何か言ってよ」

 

「ナイン。今日は仕事できてるんだから。勝手に動かないで」

 

「はーい、45姉」

 

「それでは、本題に入ろう」

 

 

指揮官が口を開いた。

 

…表情は、重い。

 

 

「GV…君の配属先が決まった」

 

「…」

 

「上層部の判断でね…私にはどうすることも出来なかった」

 

「嫌ですね指揮官?まるでウチが酷い所みたいじゃないですか」

 

「んんぅ…間違ってないけどね」

 

「G11!」

 

「…GV。君の配属先、404小隊の方々だ」

 

 

改めて全員を見る。

 

銀の長い髪、目元の涙のような化粧をした人形。

 

 

「HK416よ。足を引っ張る様なら切り捨てるから」

 

 

眠そうに瞼をこする、小柄な人形。

 

 

「Gr G11…紹介終わったし寝て良い?」

 

 

にこにこと笑う二つ結びの人形。

 

 

「UMP9!ナインって呼んでね」

 

 

灰色の髪を片結びにし、どことなくナインに似ている人形。

 

彼女も右目に立て一線の傷が付いていた。

 

 

「小隊長のUMP45よ。仲良くやりましょう?」

 

「ガンヴォルト…GVって呼んでください」

 

「よろしくね、GV」

 

 

UMP45が微笑む。

 

依然、指揮官の表情は固い。

 

 

「彼女たちは今、鉄血のおかしな行動について調べてもらっている」

 

「おかしな行動、ですか」

 

「ああ。鉄血の主兵装は光学兵器なんだが…君が交戦した人形達は実弾武器を使用していた」

 

 

雷撃鱗で弾いていたことを思い出す。

 

…光学兵器が実用化出来る相手に、彼女たちは旧式の銃器で立ち向かっていたのか。

 

 

「そして、今回の襲撃…明らかに戦術的価値の無い基地に対する攻撃。不可解としか言いようが無い」

 

「それを私達にヘリアンが依頼してきたの。だから、当面の任務は調査になるわ」

 

 

指揮官の説明に、UMP45が補足する。

 

確かに、ガンヴォルトにとって各地を転々とするこの任務を受けた404小隊に所属するのは都合が良い。

 

 

「あとはその場その場で補給の為に基地に寄って少し戦線に参加する形になるわ」

 

「ちょっと大変だけど、頑張ろうねGV」

 

「ありがとう、ナイン」

 

 

指揮官に向き直る。

 

 

「守秘義務があって多くを語る事が出来なくて申し訳ないと思っている…だが、頑張ってくれ」

 

「お世話になりました」

 

「出発はなるべく早い方が良い。荷物をまとめきてくれ」

 

「はい、失礼しました」

 

 

作戦室から出る。

 

…これから、新しい戦いが始まる。

 

 

(オウカ…待ってて)

 

 

 




無事にエルフェルトを入手出来たけど、ノエルがまだ入手出来ない作者です。

平穏は二話も続かなかったのは申し訳ないけど、GVはやっぱり戦うしかないと思ってます。

ワーちゃん達の出番は一旦ここで終わり。


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偽りの歌

お久しぶりです。
ちょっとリアルがごたごたしてたので大分遅れました。

あとノエルは魔素の最低保証で入手しました…。


さて、GVがいよいよこの世界で戦う理由を見付ける。


 

 

「…お世話になりました」

 

 

各所で頭を下げる。

 

UMP45は律儀だと呆れていたけど、初めてこの場所で親しくしてくれた人達だったから。

 

 

親しくなった戦術人形たちにも声を掛ける。

 

その中に、彼女は居た。

 

 

「GV…」

 

「WA2000」

 

「もう、行くんだ」

 

「うん。ボクの部隊が決まったからね」

 

「一緒に戦えなくて残念ね」

 

「…結局、あの一度だけだった」

 

 

初めて戦術人形と言う存在を認識したあの戦場。

 

もうそれも懐かしく思える。

 

 

「そうね…ほら、早く行ったら?」

 

「そうだね…それじゃあ、また」

 

「っ…ええ」

 

 

WA2000が顔を背けた。

 

…何か気に障っただろうか。

 

 

そのまま、WA2000と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

side:WA2000

 

 

 

…言えなかった。

 

言うべきでないと理解していたけど、私の電脳はエラーをずっと警告していた。

 

 

私は、殺しの為だけに生まれた。

 

そんな私が…引き止めたいと、思ったなんて。

 

 

「わーちゃん」

 

「スプリングフィールド…?」

 

 

気がつくと、目の前にスプリングフィールドが立っていた。

 

彼女は私の頭に手を起き、そのまま撫で始めた。

 

 

「ちょ、何…!?」

 

「大丈夫。彼にはまた会えますよ」

 

「は、はぁ!?ちちち違うし!GVに会えなくなるとか…あぅ」

 

 

言葉に出して一気に恥ずかしさが込み上げる。

 

これでは自分はただの…。

 

 

「私は、貴方が変わったみたいで嬉しいですよ。ただ…もう少し素直に、ね?」

 

「うぅ…」

 

「次あった時伝えましょう?」

 

「…ええ」

 

 

だからGV。

 

絶対、帰ってきなさいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:Gun Volt

 

 

「…歌?」

 

 

404小隊は、与えられた輸送機で仮拠点へと向かっていた。

 

グリフィンがいくつか点在させている、敢えて放置している廃墟群だと教えられた。

 

その中で、この小隊に与えられた任務について説明を受けていた。

 

 

「そう、歌。今どき珍しいよねー」

 

「もうそんな酔狂なモノを嗜むヒトも居ないのに」

 

「…寂しいと思うな、ボクは」

 

 

何度も歌に勇気付けられ、支えてもらった身としては。

 

 

「やっぱり、貴方は人間ね…理解に苦しむわ」

 

 

今まで黙っていたHK416が口を開いた。

 

 

「…人間に近くても、思うところはあるんだ」

 

「当たり前よ。私達の電脳は抽象的な考えなんて必要ないもの。私は完璧よ」

 

「くかー…」

 

 

一言も喋らないと思っていたG11は、寝ていたみたいだ…。

 

 

「G11は良いわ…一応、貴方にも聞かせておくわね」

 

 

UMP45がレコーダーのスイッチを押す。

 

 

ザー

 

ザー

 

ザー

 

ザー

 

ザザザ、境界線を 砕く 閃光の、ザー

 

ザッ、光抱き 届け ザザザッ、の彼方 

 

 

 

ザー

 

ザー

 

ザー

 

ザー

 

 

「…ね?ノイズに混ざって歌みたいなのが聞こえ…GV?どうしたの?」

 

 

この声、は

 

 

間違いない。

 

聞き違えるはずが無い。

 

 

 

「これは、どこで…」

 

 

ようやく絞り出した言葉は、震えていた。

 

 

「これから向かう仮拠点近くの鉄血の司令部付近を盗聴してたら聞こえたのよ」

 

「実弾武器で武装した妙な鉄血人形達が活動していると、決まって聞こえるのよ…気味が悪いわ」

 

「えぇ?でも私は好きだなー。GVもそう思うでしょ?」

 

「…そうかな」

 

「そうだよ。だってGV嬉しそうだもん」

 

 

ナインに言われて、予感は確信に変わる。

 

 

この世界に、彼女…シアンは、居るのだ。

 

 

今度こそ、助け出すんだ。

 

 

「………」

 

 




妖精の歌が聞こえる。

果たして、また彼女に逢う覚悟がガンヴォルトにはあるのだろうか。


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新たな希望

この世界で戦う意味。
元の世界に帰る決意。

彼の選択の結末は果たして。


 

 

日没。

 

404小隊に案内されて入った廃墟で一夜明かす事になった。

 

 

「今日はここで明かして、明日からS06地区に移動するわ」

 

 

テーブル代わりになりそうな倒れたコンクリート柱に端末を置き、UMP45が続ける。

 

 

「実弾配備した有り合わせの鉄血人形の目撃情報が多かった地区ね」

 

「そうよ」

 

 

ほっとくと寝そうになるG11の頬を引っ張りながらHK416が補足する。

 

 

「その、鉄血人形を見つけたらどうするんだ?」

 

「いい質問ねGV」

 

 

ふと気になったから訪ねてみる。

 

UMP45が怪しく笑う。

 

 

「基本的に皆殺しだけど、一体生け捕りにして解析に回すことになってるわ」

 

「45姉、別に人形なんだし頭さえあれば良いんじゃないの?」

 

「ペルシカが念の為全身欲しいってさ」

 

「じゃあ加減しないとね」

 

 

あははー、とUMP姉妹が朗らかに笑っている。

 

内容がちっとも朗らかではない。

 

 

「GV、膝貸してー」

 

「G11?」

 

 

いつの間にか416の近くから逃れ、ボクの隣にG11が来ていた。

 

416を見ると、やれやれと言った風貌で肩をすくめていた。

 

 

「寝たら電気でも流してもらったら?目が醒めるかもよ」

 

「え…そんな事、しない…よね?」

 

「あ、あはは…先輩には逆らえないかな」

 

「う、裏切り者ー!」

 

「ちょっとそこ?まだブリーフィング中だけど?」

 

「ごめん…」

 

 

こちらの小隊も中々騒がしい様だった。

 

 

「明日も早いから今日はこの辺にするわ…交代で見張りして寝ましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

 

ボクの見張りの番がやってきたので廃墟の屋上から敵方とされる箇所を眺めていた。

 

 

G11が交代間際に毛布を渡してくれたのでそれにくるまっている。

 

フェザーにいた頃に不寝番をよくやっていたのでこの位は慣れっこだった。

 

 

(…星がよく見えるな)

 

 

この場所は、スメラギ傘下の街と違って灯りが一切ない。

 

その為か、夜空に浮かぶ星がよく見えた。

 

 

(…理屈はわからない。けど、ここにシアンが居る)

 

 

目の前で取り込まれ、記憶を失くし、ボクのことを忘れてしまった彼女。

 

その彼女の歌がどこかで流されている。

 

人々を襲う人形の出現と共に流れている。

 

 

(そんな事、彼女は絶対に望まない)

 

 

人を傷付ける為に歌っていた事に、シアンはずっと心を痛めていた。

 

だから、ボクは止めなきゃいけない。

 

 

「ねぇ、GV。貴方は何処に行きたいの?」

 

「…ッ!!?」

 

 

背後から掛けられた言葉に、思わず反応してしまう。

 

嘗て、同じ事をボクは言い、言われた言葉。

 

 

振り向くと、UMP45が立っていた。

 

…いつもの、含みのある笑顔で。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや…昔、同じ事を言われたんだ」

 

「へぇ…その人は?」

 

「……………居なくなった」

 

 

息を呑む音がする。

 

…そのまま、ふわり、と背中に柔らかい感触が。

 

UMP45に、背中から抱き締められていた。

 

 

「何を、」

 

「こうすると人間の男の子は落ち着くって聞いたわ」

 

「落ち着くって…」

 

 

別の意味で落ち着かないと思うよ…。

 

それに、45の囁くような声色が耳元で聞こえてきて背筋がぞくぞくしてくる。

 

 

「大丈夫よ。私達は家族。私達と一緒に戦う限り、私達が貴方を守るわ」

 

「…ありがとう、隊長」

 

「明日からビシバシ行こうと思ってたけど、今日位は甘やかしてあげる」

 

「子供扱いして…」

 

「14歳って子供じゃないの?」

 

「それは…………確かに」

 

「ふふふ。それじゃ、交代するわ。寝坊しないようにね」

 

「…ありがとう。それじゃあ、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 

 




そこに本人は居なくても、歌はずっと貴方の中にある。

人を傷付ける為の歌を止めるための決意。


…45姉のキャラをちょっとつかめてないかな?。
G11があまり喋ってないのはキャラ掴めてないため。
勉強してきます…。


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夜明け、開戦前

メリークリスマス(ヤケクソ

仕事が入ってしまったので行く前に投稿だァ!


 

「…よし」

 

 

ダートリーダーのメンテナンスを終わらせる。

 

この特殊な銃は替えが効かないため、綿密なメンテナンスとチェックが必要だ。

 

今の内にやっておくに越したことはない。

 

 

誰かが背後に立つ気配がした。

 

 

「おはよう。早いのね」

 

「HK416。おはよう」

 

「416でいいわ。長いもの」

 

 

長い白髪と、目元に涙のようなタトウがされている人形だ。

 

大人びた雰囲気を出しているが、ナインに一番頭に血が登りやすいとこっそり教えられていた。

 

 

「わたかったよ、416」

 

「さて。G11のやつちゃんと起きてるかしら…」

 

 

夜警の一番最後はG11が付くことになっていた。

 

あの眠たがりの人形が果たして起きているのか甚だ疑問である。

 

 

「寝てたら電撃を流してやりなさい」

 

「いや、普通に危ないからね?」

 

「冗談よ」

 

 

フッ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

ボクはこの子とあまり話した事はない。

 

何故なら、この小隊にボクが入ることを最後まで反対していたらしい。

 

 

人間という不純物を混ぜると言うことに。

 

 

「あら、どうしたのGV」

 

 

ボクがじっと見つめていた事に気が付き、416が振り向いた。

 

 

「いや…どういう心境の変化なのかなと」

 

「心境?…………ああ、あなたの事ね」

 

 

ボクという不純物を彼女は受け入れたのだろうか。

 

 

「別にこれと言ったことはないわ。足を引っ張る様なら後ろから撃つ」

 

「そうなんだ…」

 

 

でも、ある程度は彼女の中で折り合いを付けたらしい。

 

…このあと、屋上に二人で出ると案の定G11は眠りこけていたので、最小出力で電流を流したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようみんな。今日で一時的に受け入れてくれる基地まで向かうわ」

 

 

昨日ブリーフィングした位置で再度全員集まる。

 

…G11から微妙に黒煙が上がっているが、誰も気にしなかった。

 

 

「45姉、でも前言ってた最短ルートって鉄血に抑えられてたよね?どうするの?」

 

 

ナインが45の出したルートを指でなぞる。

 

この付近は見張り、あるいは罠が仕掛けられているのだろう。

 

 

 

「迂回しようと思ってたけど、拾い物が役立ちそうだから掃討するわ」

 

「どうしても見付かるルートだから仕方ないわ」

 

「弾は足りる。それに、新しい戦力も居るわ」

 

 

四つの視線が一斉にボクを射抜く。

 

女の子の姿をしていてもその視線は鋭い。

 

 

「行けるわね?ガンヴォルト」

 

「そのつもりだよ。任せてくれ」

 

 

今まで戦い続けてきたから、これからもきっと戦い抜ける。

 

そんな気持ちが伝わったのか、彼女達は話をまとめに掛かった。

 

 

「陣形はGVの周囲に散らばる形で行きましょう。扱いはハンドガンだし恩恵くらいはあるでしょう」

 

 

戦術人形たちは戦術リンクにより相互に能力を作用できるらしい。

 

ボクは人間だから特に意味はないんじゃないのだろうか。

 

 

「さ、行くわよ」

 

 

 

ボクの、この小隊に配属されてから初めての戦闘が始まる。

 

 

 




次回、蒼き雷霆の最前線。

敵包囲網を突破せよ。

ところで、鉄血のハイエンド機が最近活発らしい。


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壁と電気と囮

ナイン、そのバッテリー全部空っぽだけど、どうしたの?

え?これ充電出来ないかって?

…うーん…多分、爆発するよ?それ。

…ごめん、ちょっと何を言ってるのかわからryうわーっ!?


これから突破する地区は、なんと暫くあとに寄る予定の基地と支配する鉄血の戦闘が行われるらしい。

 

あわよくば援護し、支援をせざるを得ない状況に持ち込んでおく腹積もりらしい。

 

UMP45がとても良い顔をしながら語っていたのを思い出す。

 

 

『GV?着いた?』

 

「着いたよ、小隊長。まさか最初にやる仕事がビルを登ることだなんて」

 

 

比較的無事な廃墟の屋上に躍り出る。

 

ボクはボクの第七波動(セブンス)の恩恵で壁に張り付きそのまま三角跳びの要領で垂直の壁を登ることができる。

 

これを初めて小隊の皆に披露したら「本当に人間なの?」と416から最もなお言葉を貰った。

 

 

「…クリア。特に見張りもいないみたいだ」

 

『了解よGV。それじゃあ探してちょうだい』

 

 

ボクの与えられた仕事は簡単だ。

 

楽に高さが稼げるので戦場を一望し、戦火の上がる箇所を発見次第介入、グリフィンを援護しつつ鉄血を掃討する。

 

 

言っていることは簡単だけど、ボクはこの人形達の戦闘のセオリーを知らない。

 

まずは見て慣れろとの事だった。

 

 

…遠くの方で火の手が上がる。

 

 

「始まったみたいだ」

 

『了解。それじゃあGV、始めて頂戴』

 

 

背中のラックサックからドローンを一台取り出す。

 

このドローンのカメラはUMP45とリンクしており、これを通して戦場の様子を掴む魂胆だ。

 

 

「小隊長、見えてる?」

 

『良好よ。貴方の可愛い顔もバッチリ』

 

「…からかわないでくれないかな」

 

『冗談よ。さ、行きましょう』

 

 

ドローンを残して、屋上から飛び降りた。

 

落下地点には、404小隊の面々が待っていた。

 

 

「GV、さっきぶり。はいこれ」

 

 

ナインが別のラックを渡してくる。

 

中身は配給と別のドローン。

 

 

「ありがとう。それで、これからどうするの?」

 

「今416が無線を傍受してるわ。来てる子達の目標を把握して便乗する」

 

「…………45まずいわ」

 

 

神妙な顔持ちで、HK416が振り返る。

 

 

「スケアクロウよ」

 

「…面倒ね」

 

「スケアクロウ?」

 

 

かかし?

 

何かのコードネームだろうか。

 

G11が補足してくれた。

 

 

「鉄血の戦術人形だよ。それも特別性の」

 

「…特別性」

 

 

ボクが見た戦術人形は彼女たちグリフィン所属と、継ぎ接ぎだらけの鉄血人形だけ。

 

純鉄血人形を見るのは今回が初めてになる。

 

 

「ここの掃討、ちょっと骨になるかもしれないわ」

 

「大丈夫だよ。家族と一緒なら」

 

 

思案するUMP45に、UMP9が励ます。

 

 

「計画を変更しましょう。まずは頭を潰す」

 

「いきなり?」

 

「ハイエンドが居るなら恐らくそいつが指揮系統の最上位。鉄血の虫けら程度残ってても問題はないけど、統率されてるなら面倒なの」

 

 

筋は通っている。

 

だが、それ相応に危険が伴っているとも言える。

 

 

「グリフィンと協同してスケアクロウを追い詰めるのは?」

 

「投入されてる部隊数からしてかなり小規模よ。囲い込みは難しいわ」

 

「…グリフィンを囮に使うってこと?」

 

「そうなるわ」

 

「…」

 

 

ここは、ターニングポイントになるかもしれない。

 

見捨てるか、助けるか。

 

これから向かう基地に面識のある人物、あるいは人形は居ない。

 

ボクの両手は、全て取るにはあまりにも小さい。

 

 

(…考えるまでも、ない)

 

 

 




ついに現れるハイエンドモデル。

これを打倒しなければ先には進めない。

迸れ、蒼き雷霆。

無慈悲な案山子を貫き滅ぼせ。


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嵐の前触れ

頭を潰すのは良いけど、指揮系統が混乱しなかったらどうするの?

…………え、なんで黙ってるのかな。

あっ。


一行は指揮官クラスの人形が潜伏している地点を探す。

 

 

「大概廃墟に偽装されてるけど、そこには電力が通ってる筈だし何かしらの痕跡が残るのが常よ」

 

 

足跡、壁の傷、とにかく痕跡を探る。

 

人数も情報も無いのなら足で稼ぐしか無い。

 

 

遠くから銃声が聞こえる。

 

 

…どうやらグリフィンの方も開戦したようだ。

 

 

「…気になるの?GV」

 

 

並走するナインが聞いてくる。

 

…声音は無機質だった。

 

 

「何で気になるのかな?だってアイツらは顔も合わせたこと無いのに」

 

「そう、だけど」

 

「家族じゃないんだよ。気にしなくていいよ」

 

「ナイン、君は…」

 

 

つい出そうになった言葉を飲み込む。

 

この子達には血が流れている訳じゃない。

 

…どこまで行っても、家族はごっこなんだ。

 

 

ボクとは、違うんだ。

 

 

価値観の違いなんてよくある事だ。

 

けれど、相手はとても人に似ている。

 

どうしても、慣れないな…。

 

 

「ごめん、何でもない」

 

「?変なの」

 

 

ナインは飽きたのか、足を止めて周囲を捜索し始めた。

 

ボクも一旦立ち止まり、辺りに目を走らせた。

 

 

今、小隊は二手に別れて拠点の炙り出しをしている。

 

 

G11がたまたま見つけた()()()()()()を中心に探っている。

 

 

…この引きずった跡、と言うものが人間大の物を引きずった様に見えるのが、何か嫌な予感がする。

 

 

「45姉〜、こっちには何もないよー」

 

 

ナインが45と通信している間、ボクは警戒をする。

 

一見何も無い袋小路が目に付いた。

 

 

(…………電気が流れてる?)

 

 

肌を刺す、ピリピリとした感じ。

 

ボクの第七波動(セブンス)が電気の痕跡を感じ取っている。

 

 

「ナイン、こっち」

 

「GV?何か見つけたの?」

 

「この行き止まりなんだけど…ナインはどう思う?」

 

「え?うーん…ただの行き止まりにしか…あっ!」

 

 

戦術人形の記憶は劣化しない。

 

過去に体験したこと全てが彼女達の武器だ。

 

なら、専門家に判断を任せる方が確実だと。

 

 

「これ見て」

 

「…光学迷彩」

 

 

壁だと思われた場所にナインが手を突っ込んだ。

 

…手はそのまま突き抜けていく。

 

 

「GV!お手柄だよ!撫でてあげる♪」

 

「わっ、ちょっと、ナイン!?」

 

 

ナインが背伸びしてボクの髪を撫でに来る。

 

…頭を撫でられた事なんて久しく無かったから、抵抗できずにされるがままになっていた。

 

 

『GV?いちゃいちゃするのもそこそこにしてね』

 

「あっ、45姉!GV凄いよ!」

 

『本当ね、ナイン。二人共、私達も今からそっちに行くわ』

 

 

通信終わり。

 

三人がこっちに来るまでの間この場所を確保しなくちゃいけない。

 

 

「鉄血、いないね」

 

「わからない。その出入り口から来るのか、それともこっちに戻ってくる奴らに鉢合わせするのか」

 

 

ー永遠を欲しがる君と

 

 

何か、聞こえてきた。

 

 

ー永遠を行きたかった

 

ー思い出す記録開いては閉じ繰り返す

 

 

懐かしい、声、が。

 

 

「うた…45姉!歌だよ!」

 

『何ですって!?すぐに行くわ!迂闊な行動は…』

 

「ちょっと、GV!何処に行くの!?」

 

 

ー傷付いたとしても構わない

 

ー素顔のまま

 

ー熱くなる両の手に掴む星

 

ー冷やす涙乾いて

 

 

無意識に走り出していた。

 

ただ、声の、歌の聞こえる方へ。

 

 

ー時は今も進んでいる。

 

 

 

 




聞こえる。

聞こえた。

聞いてしまった。

何時までも彼を縛る言葉、呪い、祝詞。


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聞こえる歌。

周囲なんて関係ない。

ボクが、今度こそ彼女を。

…彼女を、どうしたいんだ…?


 

「シアン…!シアン!!どこに居る!?ボクだよ、ガンヴォルトだ!!」

 

 

本来なら、敵地…それも敵の本拠点と思われる場所で大声なんてあげるべきではない。

 

けど、落ち着いて何て居られない。

 

彼女は2度消えた。

 

どんな形であれ…存在しているなら守らなきゃいけない。

 

 

今度こそ…今度こそボクが、守らなきゃ。

 

 

「GV!待って!!待ってったら!!」

 

 

後ろから追いかけてきているナインの声が聞こえるが構えない。

 

 

「ねぇどうしちゃったのGV!」

 

「ナイン…ごめん、でも行かなきゃいけないんだ」

 

「せめて45姉達が来るまで待ってよ…!」

 

「そんな時間は無いんだ。…彼女が行ってしまう」

 

「彼女…?誰の事?」

 

「ボクの…大事な人なんだ」

 

「それって、GVの家族?」

 

「…家族…かな。一緒に過ごした時間は短かったけどね」

 

 

彼女…シアンと過ごした日々を思い出す。

 

穏やかで優しい時間。

 

けれど、長くは続くことは無かった。

 

 

「その人をボクは助けられなかった。だから…今度こそ、助けるんだ」

 

 

どんな形であれ。

 

 

「GV!」

 

「45…ぐっ!?」

 

 

呼ばれたので振り返る。

 

…顔面に拳が突き刺さった。

 

人形の馬力で一気に吹っ飛ばされてそのまま背後の壁に背中から叩きつけられた。

 

 

「45。こいつもう置いて行った方がいいわ…隊の生存率が下がる」

 

「ちょ、416…!殴ることは」

 

「私はこいつに言ったわ。『足を引っ張るなら後ろから撃つ』ってね。殴られただけで済んだことに感謝する事ね」

 

「…ごめん、少し、錯乱してた」

 

 

416に殴られて少し冷静になれた。

 

…シアンは、消えてしまったんだ。

 

ここに居ることがそもそもおかしい。

 

 

「…理由を聞かせて貰って、良いかしら」

 

 

UMP45が、いつもと変わらない表情で問いかけてくる。

 

…少しだけ、怒気を孕んでいた。

 

 

「…この歌は…ボクの大事な人が歌っていたんだ」

 

「…どういう事かしら?」

 

「その人はもう居ない。それなのにこの歌が聞こえたんだ…そうしたら」

 

「もういいわ」

 

 

UMP45が話を切る。

 

そのまま周囲を見渡す。

 

 

「…図らずも敵陣に踏み込んじゃった訳だけど、静かね」

 

「45姉達、鉄血達と会わなかったの?」

 

「うん…全然見つからなかった」

 

「…まさか、まだ中に居るとか…?」

 

 

足元を見る。

 

…暗くて見えない。

 

 

「GV、灯り」

 

「う、うん…」

 

 

雷撃鱗を展開する。

 

…床に、何かを引きずった様な跡が奥に続いている。

 

 

「…行くわよ。GV、切り替えなさい。貴方の処遇は全部終わってからよ」

 

 

そう告げられて、全員奥へ進みだした。

 

…ボクも立ち上がり、それに着いて行った。

 

 

 




ついに手が出た416。

404小隊からの信頼が地に落ちてしまった。

果たして、挽回の機会は巡ってくるのだろうか。


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隠歌

404小隊との間に入る亀裂。

絶えず聞こえる歌。

入り口は隠されていたが中は不気味なほど無人。
まるで、この状況を隠すかのごとく。


…通路には非常灯しか点いておらず、赤い光に照らされていた。

 

 

「おかしい」

 

 

UMP45が呟いた。

 

 

「どうしたの?45姉」

 

「集合。ちょっと聞いて」

 

 

殿として後方にいたHK416が合流する。

 

…ボクも、追い付いた。

 

UMP45はボクに一瞥し、話を続ける。

 

 

「妙だとは思わないかしら。ここまで鉄血の気配が無いなんて」

 

「…あー、確かに。いつもなら侵入すると嫌ってほど湧いてくるのに…ふぁ」

 

「…ボクたちの侵入がバレてないっていうのは」

 

「アレだけ派手に叫んで走っていた貴方が言う?」

 

「………ごめん」

 

 

駄目だ、今ボクは発言してはいけない。

 

彼女たちの信頼を取り戻すまで好機を待つしか…。

 

 

「GV…」

 

「ナイン。貴女は合流するまでに何か見たかしら」

 

「ううん。何も」

 

「…探索を続けましょう。警戒は怠らないように」

 

 

そう告げてまた陣形を構える。

 

…416の視線が冷たい。

 

これは自業自得だからと堪える。

 

 

「行くわよ」

 

 

赤く照らされた道を進む。

 

シアンの歌は、まだ聞こえていた。

 

 

 

手当たり次第ドアを開く。

 

 

特に目ぼしい収穫もなく、時間だけが過ぎていく。

 

 

「GV、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。ありがとうナイン」

 

 

ボクは人形じゃない。

 

疲労はもちろん蓄積している。

 

いくら身体能力を上げられるとはいえ限界は来る。

 

 

「止まって」

 

 

通路の突き当り。

 

…認証装置など、最も厳重なセキュリティが敷かれている部屋。

 

 

「判りやすいまでに厳重ね」

 

「うーん、これ凄い量の電子ロック。こんなのやってたら寝る時間もなくなっちゃう」

 

「最悪416の榴弾で壊すのも視野ね」

 

「弾数は少ないからあまり使いたくは無いんだけれど」

 

 

…このロック、よく見ると仕掛け的には皇の物に数段劣る。

 

この位なら第七波動(セブンス)を使えば恐らく…。

 

 

「GV、これ電気で壊せたりしない?」

 

 

ナインがボクに向かってそう言った。

 

気を遣ってチャンスをボクに回してくれたのだろうか。

いや、考え過ぎか…。

 

 

「やれるの?GV」

 

「…やってみる」

 

 

コンソールに手をかざす。

 

ボクの第七波動(セブンス)蒼き雷霆(アームドブルー)が何故最強の能力と呼ばれるのか。

 

 

それは圧倒的な攻撃力と汎用性を兼ね備えた能力だからだ。

 

電子回路に雷撃を流し込み、都合の良いように作用させる。

簡易的なハッキング。

 

過去に相対した能力者、テセオのワールドハックと呼ばれる第七波動(セブンス)には劣るものの、この程度の機器ならば…。

 

 

「開いた」

 

 

電子音。

 

スライドドアが空気の抜ける音と共に開く。

 

 

「GV凄いよ!こんな事も出来るんだ!」

 

「電気が通ってるなら、ボクの能力で操れるからね」

 

「…それ、私達も動かせるとか言わないわよね」

 

 

416が思わず自分の肩を抱いていた。

 

…それを見て苦笑いしながら答える。

 

 

「それは思い付かなかったよ」

 

「どうだか。私達は人間にできることは大抵できるもの」

 

「…どういうこと?」

 

「ッ!言わせる気!?」

 

 

何故か顔を赤くして怒られてしまった。

 

 

「GV!!!」

 

「どうし…ッ!?」

 

 

目の前に、明らかに銃口と思しき穴の開いた機械が浮いていた。

 

それはボクの頭を狙って…。

 

 

「スケアクロウ!!」

 

 

416の声と共に、銃弾が放たれた。

 

 

 




蒼き雷霆の力はまさしくチート。
けれど原作でも様々な制限、弱点、はたまた対策したボスなど現れて一筋縄では行かなかった。

今回は、どのような壁がGvを苦しめるのか。

…やっとサブタイトル回収した気がする。


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継ぎ接ぎされた案山子

目の前の危機、まとわりつく呪い。

彼の苦しみは終わらない
終わらないなら、まだ生きている。


 

 

「GV!!」

 

 

目の前に現れた()()()()()()()()()()()()()()()()()から()()が放たれた。

 

 

蒼き雷霆(アームドブルー)よ!!」

 

 

咄嗟に雷撃鱗を…。

 

 

(ダメだ!後ろにナインたちが居る!)

 

 

雷撃で実弾を弾こうにも、近くにいる彼女たちの回路を焼いてしまうかもしれない。

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

しかし、狙いが雑だったのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()機構なのか、ボクの頬を掠って壁に吸い込まれた。

 

そのすきに、G11が端末を破壊した。

 

 

「GV大丈夫!?」

 

「う、うん…助かったよ」

 

「…気を付けて。まだ何かいるよ」

 

 

G11に注意され、他のメンバーが臨戦態勢に入る。

 

…部屋の中央に、案山子のように立つ影がひとつ。

 

 

「…鉄血のハイエンドモデル!」

 

「各員、撃…」

 

「…待って、あいつから歌が聞こえるよ!」

 

「だとしても…撃てッ!!」

 

 

4人の銃撃が、そのまま鉄血の人形に突き刺さった。

 

…特に何か動きがあるわけでも無く、人形は崩れ落ちた。

 

 

「…何よ、肩透かしも良いところね」

 

 

416が銃口を向けながら近づいていく。

 

付近の警戒…しかし、周囲にこの子以外誰も居なかった。

 

 

「…いくら何でも…その、ハイエンドってことはここのボスみたいなものなんじゃないのかな」

 

「そうだけど…こんなあっけないハズ」

 

「…何よこいつ」

 

「どうしたの?416」

 

「見て…こいつ、普通じゃない」

 

「…」

 

 

416の言う事が、ボクには判断できない。

 

けれど、この戦術人形がおかしいことは…すぐにわかった。

 

顔も、腕も、腹も、何もかも()()()()()()()

 

 

「うへぇ…なにこれ、気持ち悪い…」

 

 

思わずナインが顔をしかめた。

 

肌の色も違う。

 

繋がっている筈の手首と腕が明らかに太さが違う。

 

腰が足より細い。

 

そして、接合部分には全て、縫い合わせたような跡があった。

 

 

まるで、継ぎ接ぎされたかのように。

 

 

「頭部のタイプから、スケアクロウだってのはわかったけど…」

 

「…あのビットも、おかしかったよ…本当は光学兵器なのに、実弾が出てた」

 

「まさか、こいつが歌の正体…?」

 

 

だとしたら、この胸騒ぎはなんだろう。

 

 

「…これで終わり何て」

 

 

終わってほしくない。

 

そう思ってしまっているボクが、何処かに居た。

 

 

「…取り合えず、頭部を解析に回しましょう?」

 

「誰がやる…?」

 

「GV」

 

 

45がナイフを抜き、渡してきた。

 

 

「いずれやる事だし、慣れておきなさい」

 

「…分かった」

 

 

言わんとすることはわかる。

 

これは人形の残骸、いつまでも躊躇ってはいけない。

 

 

ボクは、人形の残骸にナイフを突き立てた。

 

 

----あーむど、ぶるー。

 

 

「っ!?まだ生きてる?!」

 

 

----ここに、なぜ。

 

 

「GV!」

 

 

手を掴まれる。

 

…電撃を流してしまえば、この人形の電脳を破壊してしまうかもしれない。

 

 

だから、咄嗟にナイフを首に刺してしまった。

 

 

ずぶり。

 

 

「あ、か…ひゅう…」

 

 

オイルが溢れ、人形は動かなくなった。

 

そのまま、首を切り落とす。

 

 

「びっくりした。まだ息が合ったなんて」

 

「取り合えずこれをペルシカのとこに回しましょう」

 

 

ナインと45が話している。

 

 

「g11これ運ぶわよ」

 

「えぇ…GVにやらせりゃいいじゃん」

 

「あんたね」

 

 

G11と416が話している。

 

 

さっきの声が耳から離れない。

 

だって、あれは…あの声は。

 

 

『私たちの楽園(エデン)の為に』

 

 

死んだはずの少女の声だったのだから。

 

 

 




少女の祈りは、新たな世界で呪いとなる。

少年の折った妄執は、世界を超えて彼を蝕む。

再開のための楽園か、罰のための煉獄なのか。


蒼き雷霆に安息の場所は無い。

しかし、彼の心は折れることは無い。


電子の妖精と、もう一度会うために。


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滞在

G11、何してるの?

え?微弱な電気を流すことで身体の疲れをほぐして快眠するって…電脳とかにダメージが入ったらどうするのさ。



ーーーーグリフィン前線基地。

 

 

脅威を排除し、スケアクロウの解析や補給、修復のために最寄りのグリフィン基地へ身を寄せることになった。

 

 

「それじゃあGV。私達は修復受けてくるから大人しく待っててね」

 

 

そう言われ、一人置いていかれてから30分が経とうとしていた。

 

 

「…何をすればいいんだろうか」

 

 

45達が気を遣って一人で考える時間を与えてくれたと解釈すべきか。

しかし、割当たれた部屋も分からず、司令室の前で途方に暮れている訳にも行かない。

 

カフェでもあれば良いんだけど。

 

 

「む、なんだ貴様。まだ居たのか」

 

 

司令室の扉が開き、中から大柄な男が出て来る。

 

ボクよりもふた周り以上体格差がある。

 

この前線基地の指揮官を任せられているらしい。

 

 

「すみません、道に迷ってしまって」

 

「フン…404が人間の小僧を囲うとはな…案内させる。待ってろ」

 

 

指揮官はボクを一瞥してどこかへ歩き去って行った。

 

ーーーー五分後。

 

 

「あ、あの!」

 

「?」

 

 

振り返る。

 

黒い長い髪をした女の子が息を切らせながら走ってきていた。

桜が散りばめられたタイツが印象的で…どこを見てるんだボクは。

 

 

「は、初めまして!一〇〇式機関短銃と申します!貴方の案内を承りました!」

 

 

何となく舌足らずな声。

それでいて大きな声を出すものだから少し驚いた。

 

やっぱり人形何だし喉の仕組みとか違うんだろうか。

 

 

「初めまして。ボクはガンヴォルト。ボクらに割り当てられた宿舎かカフェに案内して欲しいんだけど…」

 

「え、あ…その、ウチにはそういったものは無くて」

 

「あれ?そうなんだ…」

 

 

一瞬一〇〇式が暗い顔をしたように見えた。

無いのなら仕方ない。

宿舎に案内してもらおう。

 

 

「はい、宿舎はこっちです」

 

「ありがとう」

 

 

一〇〇式の後についていく。

気になるのは、すれ違う人形達が皆明るい顔をしていないこと。

 

 

(前の基地とは大違いだ)

 

 

目の前を歩く一〇〇式に表情は無い。

…ふと、左手に銀色に光るリングを嵌めている事に気付く。

 

 

「一〇〇式、それは」

 

「えっ、あ、あはは…指揮官が、何かの間違いで私にくれたんです」

 

「あの指揮官が?」

 

 

とてもそうは見えない、と言う言葉は飲み込む。

表情の無かった一〇〇式が、とても嬉しそうに…懐かしそうな顔をしていたから。

 

 

「はい…私も、その、指揮官の事をお慕いしていましたので…とても嬉しかったんです」

 

「…だから、指揮官の為に私は何だってします」

 

 

声のトーンが変わる。

驚いて一〇〇式の顔を見てしまう。

 

 

「指揮官の為に、鉄血もグリフィンも関係ありません…邪魔なものは全部撃ちます」

 

「…そう、なんだ」

 

「…そうすれば、またあの人も…あっ、すみません変な話なんてしてしまって。着きましたよ!」

 

 

気が付けば、404と書かれた扉の前に着く。

ボクたちに割り当てられた宿舎だ。

 

 

「それでは失礼します。また何かあれば呼んでくださいね」

 

 

そう言い残して、一〇〇式はあるき去っていった。

 

 

「…やりきれないな、何だか」

 

 

どこでも同じような話があり、どこにでも同じような悲劇が転がっている。

 

 

 




この基地も闇が深い。

一〇〇式ちゃんにお世話になった指揮官も多いかと思われますが、誓約してる方どれだけ居るんだろうか。


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誓約

必ず守ると約束すること。
また、その約束。


UMP45達の修復が終わり、全員が宿舎に帰ってきた。

 

 

「ただいま、GV。寂しくなかった?」

 

「おかえり、ナイン。そんな事はなかったよ」

 

 

からかって来るナインを躱しつつ、気になった事があったので聞いてみた。

 

 

「ねぇ、人形も指輪ってするのかな」

 

「あら」

 

 

45が意外といった表情になる。

 

 

「誰か付けてたのね。あんな指揮官が誓約してるなんて」

 

「誓約…?」

 

「そう、誓約。GVは私達グリフィンの戦術人形の所有権を何処が持ってると思う?」

 

 

人形の所有権。

道具として存在するのだから、確かにそれは発生する。

 

 

「…グリフィン」

 

「不正解♪今日のデザートは貰うわね」

 

「あっ、45姉ずるい!」

 

「UMP45…話を続けて」

 

 

何故かボクの食事から一品抜かれてしまった。

解せない。

 

 

「正解は、I.O.Pよ」

 

「確か、グリフィンと提携してる人形製造会社だっけ」

 

「そうよ。グリフィンはそこから人形を貸与されてるの。だから回収分解の際は変換の義務が生じるの」

 

 

グリフィンが製造会社から買っているのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだ。

UMP45は話を続ける。

 

 

「それで出てくるのが誓約よ」

 

 

UMP45は手で輪を作る。

…それが何を意味しているか、先程の一〇〇式の指に合致した。

 

 

「戦術人形のリミッターを外すための指輪。あれを付けているとさらなる権限が与えられた指揮官個人の物になるの」

 

「そうなんだ…まるで、結婚みたいだ」

 

 

そう、ポツリと漏らす。

安易に結婚と表さないのは、やっぱり人形だからなのだろうか。

 

 

「ねーねーGV」

 

「どうしたの、ナイン」

 

「結婚って何?」

 

 

言葉に詰まってしまった。

結婚、結婚かぁ…。

 

 

「うーん、好き合った人同士が家族になる…って事かな」

 

「じゃあ私達は結婚してるの?」

 

 

後ろで416が飲んでいた水を吹き出した。

 

 

「人間の言う家族って言うのは…なんて言うんだろうか」

 

 

ナインは興味津々でボクの話を聞いている。

…いや、よく見ると全員、ボクの話を待っている。

 

 

「一生を共有するんだ。何もかも」

 

「共有?」

 

「辛いことも嬉しい事も。パートナーと一緒に分かち合う」

 

 

そんな絆が、結婚なんじゃないかな。

ボクはまだ14だし、そんな明確なビジョンを持っているわけじゃないけど。

 

そう結論付けた。

 

 

「人間は、ロマンチストね」

 

「ロマンチストじゃなかったら、君達はもっと武骨だったろうね」

 

「見た目に関心は無いけど、この姿の方が色々都合が良いから助かってるわ」

 

「可愛い方が一緒に居て楽しいからね」

 

「ふふ、お世話上手いんだから」

 

 

釣られて皆笑い始める。

…ナインだけは、無言で考え込んでいた。

 

 

 




相当難産になってしまってきたこのシリーズ。
原作がハッピーエンドじゃないからやっぱりバッド、ビターに寄ってしまいそうになる…。


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模造品

歌の響く案山子。
それは、電子の妖精の模造品として作られたのだろうか


「GV、ここに居たのね…って、またやってるの?」

 

この基地に来てから3日。

少しずつ作戦に加わったりしながら過ごしていた。

 

今ボクはと言うと、ダートリーダーの整備を行っていた。

416に言われるのも、もう数えていない。

 

「この銃は特別製だからね…換えが効かないからメンテナンスをしっかりしなきゃいけない」

「完璧な仕事の為に努力をする姿勢は評価してあげるわ」

「それはどうも」

 

最近、416のボクに対する態度が少し軟化してきたような気がする。

相変わらず辛口で厳しいけど。

 

「…私の顔に何かついてるの?」

「え?いや…ごめん、気に障った?」

「別に」

 

そのまま416は向いの机に腰掛け、同じように銃を整備し始めた。

…火薬を使って実弾を発射する機構は、実を言うとあまり見た事が無い。

少し興味をそそられてついじっくり見てしまった。

 

「…GV。デリカシーが無いんじゃないかしら」

「…えっ?」

「もしかして知らないのかしら。良い機会だし教えてあげるわ」

 

ちょっとした講義が始まった。

烙印システムと言って、義体と銃を刻印で結びつける事らしい。

…専門的な事はさっぱりわからないから、理解出来ているかは怪しい。

 

「つまり…その銃は416自身…って事で良いのかな」

「そうよ…まぁ、銃に興味があるって言うなら今回のは不問にするわ」

「あはは…ありがとう」

「二人とも、談笑してるとこ悪いけど移動よ。最低限の荷物だけ持って来て」

 

そこへ、UMP45が部屋に入ってくるなりそう言った。

 

「任務?」

「いいえ…行き先は16Labよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IOPは、この世界において自律人形生産においてトップクラスのシェアを獲得している企業らしい。

404小隊の面々、G&Kに所属している人形達は軒並みIOP製だという。

 

そこの中にある16Labと言う部署に用事があるらしい。

 

「来たわよ、ペルシカ」

 

UMP45が中に入る。

G11とUMP9は車両待機、今ここに居るのはボクと、UMP45、HK416の3人だ。

 

「うわぁ」

 

思わず変な声を上げたボクは悪くない。

研究者らしき人々が目の下に凄まじいクマをこしらえて所狭しと動き回っていた。

…全員、目だけが爛々と輝いているのを見て更に引くのだった。

 

「いらっしゃい」

 

置くから、寝ぼけ眼のねこみみ…耳!?を生やした一人の女性が出てきた。

 

「ペルシカ。紹介するわ…うちの新メンバーのガンヴォルトよ」

「君が?よろしく…私はペルシカリア」

 

えっ、紹介終わり?

何となく気まずい沈黙が降りた。

ペルシカさんは凄い形相でボクをずっと見ていた。

 

「…ガンヴォルト君、だった?今バリバリ出来る?」

「えっ…あー、まぁ、出来ますけど…ここの電子機器が全部駄目になると思います」

「そっか…残念。着いてきて」

 

ペルシカさんに、奥へ案内された。

申し訳程度の談話室に通され、来客用のソファに腰掛けた。

 

「コーヒー飲む?」

「要らないわ。それで、私達を呼んだって事は何かわかったのね?」

 

UMP45が切り出す。

以前の調査作戦の際に鹵獲したスケアクロウの頭部をここに送り、解析を依頼していた。

 

「それなんだけどね…あれ、バラバラになっちゃった」

「どういうこと?」

「うーん…なんて言えば良いかな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいにバラっと」

 

…確かに、おかしな現象だ。

あの人形自体が継ぎ接ぎされてアンバランスなものだったとしても不自然すぎる…。

 

「一応残った電脳とかチップとか片っ端から調べたんだけど…」

 

1枚の板を取り出され、目の前に置かれた。

 

「コレだけが記録されていたわ」

「…中身は、何かしら?」

「歌…よ」

 

板…後で聞いたらフロッピーディスクと言う名前だったらしい…をペルシカさんが機械に差込んだ。

 

…歌が、流れてきた。

ボクがよく知る、あの歌声が。

 

「歌…ね。歌姫の模造品か何かかしらこれ」

「それにしたって悪趣味すぎない?」

「さぁ?もしかしたらその手のマニアとか居るかもしれないわよ?」

 

隣で416とUMP45が何かを話していたが…ボクは、ずっと歌を聴いていた。

 

亡き電子の妖精(サイバー・ディーヴァ)の声は、記憶にあった彼女の声と、寸分の違いも無かった。

 

(間違いない…この世界に、理屈はわからないけど…存在しているんだ)

 

 




2ヶ月以上も放置してしまいました。
…ガンヴォルト外伝も音沙汰無しですが更新します。

歌姫の模造品にしては、とてつもなく醜い案山子。
これが完成だとは思えない…が…。


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襲撃、蒼翼は

携帯端末のアラートが鳴り響く。
内容は、駐屯先の基地が鉄血らしき勢力に襲撃されている、救援を求むと言うもの。

404小隊にも救援が届くと言う事は、それだけ事態が逼迫していると言う事であり…。


 

「…総員傾注。たった今、駐屯先の基地が鉄血の襲撃を受けたと連絡があったわ」

 

UMP45…小隊長から告げられた言葉は、ボクの思考を現実に引き戻すのに充分な威力を持っていた。

 

「それって…いつの話?」

「…今から、10分前ね」

「UMP45、それじゃあ…向こうに到着する頃には…」

「…全滅、してるわね。最悪基地を放棄して後方に撤退するか…」

「そんな…」

 

友軍を、見捨てるって言うのか…。

ボクは、思わず声を上げた。

 

「なんとか、ならないのか…!」

「無理よGV。今私達の移動手段では到底間に合わないわ」

「くっ…!」

 

あの一○○式と名乗った戦術人形が頭を過ぎる。

どうしても、あの子の光を失った瞳を思い出してしまう。

 

「…404小隊。足をお探し?」

「…ペルシカリア。今は貴女に構っている暇なんて」

「うちにあるヘリなら、その基地までに30分で着くわ。貸してあげてもいいけど…条件があるわ」

 

ペルシカさんの特徴的な髪がなびく。

条件…何となく嫌な予感がする。

 

「彼…ガンヴォルトの戦闘データを頂戴」

「GVの、戦闘データ?」

「そう、彼の。雷撃の能力…それを解析できれば…面白そうだから」

「…分かったわ。GV、良いわね?」

 

UMP45が、一応ボクに確認を取ってくれた。

…過去に、ボクは第七波動(セブンス)の研究の為に自由を奪われていた時がある。

そのせいかあまり気乗りはしなかったけれど…。

 

「…大丈夫」

「交渉成立ね。貴方達の戦闘地域にドローンを追随させるわ」

「じゃあ、行きましょう…戦場に」

 

HK416が眠っていたG11を叩き起こして、UMP9が後に続いた。

ふと、UMP45の表情が優れない事に気が付く。

 

「…UMP45?」

「え、ええ…どうしたの?じーぶい?」

 

すぐにいつもの仮面の様な笑顔といやに甘い声音になる。

…何か、思う事でもあったのだろうか?

 

「…何か、拙かった?」

 

だから、つい聞いてしまった。

 

「…そうね。私達は404小隊(存在しない部隊)。データを残されるのは、ちょっとね」

「…ボクは正式なメンバーじゃない。それでどう…かな」

「何?フォローしてるつもりかしら」

「いや…そんなつもりじゃ」

「ふふ、おねーさんを気遣うなんて生意気ね。さ、行きましょうGV。助けに行きたいんでしょ?」

 

ふ、と薄く笑い、UMP45はヘリポートまで歩いていった。

…ボクも惚けている場合じゃない。

すぐに走って追いかけて言った。

 

「…404、Not foundか…」

「GV!早く行くよ!」

「ごめん、ナイン!すぐに行く!」

 

ボク達はヘリに乗り込み、すぐさま離陸していった。

 

 

 




次回、前線基地防衛線。

この戦場にも、歌が響いていた。


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存在しない理由

戦場に舞い降りた蒼翼。
ガンヴォルトは己の気持ち…整理できない感情のまま、雷撃を放つ。

…戦場に、歌が響いていた。


 

歌が、聞こえる。

とてもよく知る声で、それは歌っていた。

 

「…歌だ」

「何ですって?」

「聞こえる…ここを襲ってる連中は…この前のスケアクロウと同類だ…!」

 

ヘリから身を乗り出す。

…眼下に見える戦場は、既にあちこちで火の手が上がり、鉄血の人形達の侵入を許していた。

 

「総員傾注。今からリペリング降下による移動を敢行し、速やかに敵主力を叩くわ」

「45、またハイエンドが居るんじゃない?」

 

G11が口を出す。

…彼女がこうやって会話に参加するのを初めて聞いた気がする。

 

「そうね…でも、排除しなきゃ状況は変わらないわ…他に意見は?」

 

誰も発言しない事に頷き、ヘリのドアを開いた。

パイロットがこちらに声を張り上げる。

 

「降下が確認出来次第こちらは16Labに帰還する!」

「ありがとう!それじゃ、行くわよ!!」

 

次々と降下していく。

…正直、ボクはこの高さでも大丈夫なんだけどね。

律儀に降下し、速やかに遮蔽物に身を隠した。

 

降りてきている事は既にばれている。

ここからは速攻が重要だ。

 

「まず指揮系統を奪還するわ。あのいけ好かない指揮官の救出に行くわよ」

「了解!」

 

前衛にボクとUMP姉妹、後衛にHK416とG11のフォーメーションで進む。

途中で接敵した人形達を丁寧に処理し、道を急ぐ。

 

「うわぁ、施設内も結構侵入されてるね45姉」

「そうねナイン。所々でバリケードを建てて防衛戦をしてるみたいだけど」

 

物陰から廊下の先を見やる。

鉄血の集団とバリケード越しに打ち合っている戦術人形の一団が見えた。

 

「…UMP45、提案があるんだけど」

「何かしらGV。手短にね」

「あの部隊、動かせるようにしたら楽じゃない?」

「採用。じゃ、救援しましょうか。ナイン」

「私の任務を邪魔しないで!」

 

ナインが手のひらサイズの筒を取り出し…ピンを抜いた。

それを思いっきり振りかぶり、投げる。

…戦闘中の2つの部隊の真ん中に落ちて…。

 

「GV!目を瞑りなさいよ!!」

「え、わっ」

 

HK416に押し倒され、視界の端で閃光が見えた。

今の、閃光で機能を阻害する手榴弾だったのか…。

人形とは思えない柔らかさを感じつつ、慌てて謝る。

 

「ごめん、416」

「さっさと立つ!行くわよ!」

蒼き雷霆(アームドブルー)よ!」

 

ダートを3体の人形に撃ちこみ、雷撃鱗を展開する。

鉄血の人形は3体とも爆散する。

 

「立ったまま死ね!!」

 

その爆発を縫ってUMP45とナインが肉薄し発砲。

G11と416も負けじと射撃で制圧していく。

 

…グリフィンの人形部隊も状況を把握し、各々が射撃を開始していた。

このエリアの制圧も時間の問題か。

 

「…義理は果たしたわ!移動よ!」

 

すぐに戦闘エリアから離脱しに掛かる。

…味方にも、姿を見られないように。

 

 




ここから更に戦闘に介入しつつ、司令室を目指す。
…歌は、まだ聞こえていた。

…はい、およそ一ヶ月ぶりにこちらを更新しました。
どうにも息抜きの方が思いのほか反応が良くてこっちを続けるかどうか迷っていました。

完結まで、なんとか持って行きたいなぁ。


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操る傀儡

司令部へ向かう404小隊。

しかし、戦闘の起こる地域2違和感を覚える。


 

戦闘の音、銃撃、人形達の声。

その中でも一際ボクの耳を打つ、歌声。

 

それが、ボクを疾す。

 

「GV、何を焦ってるのか知らないけど…落ち着きなさい」

「416…?」

 

ボクの後ろを走っていた416が、そう言った。

 

「また貴方にヘマされたら堪ったもんじゃないわ」

「…そうだね、もう皆には迷惑をかけられない」

「分かってるなら、良いわ」

 

会話が切れる。

45がちらりとこちらを見るが、直ぐに視線を前へ戻す。

 

…司令室に近付いてきた。

 

戦闘音は小さくなってきたが、代わりに、

 

「…45姉、何か聞こえない?」

「歌ね…ホントに聞こえてくるなんて」

 

歌が、ボク以外にも聞こえるようになった。

 

「…………待って、中から聞こえるよ」

 

G11が呟く。

耳を澄ませると、確かに司令室から歌声が聞こえてきた。

 

「……司令室は、コイツに押さえられてると見て間違いないわ」

 

45の言葉に頷く。

…時々、出入り口の方からグリフィン側の人形が侵入している様子を見た。

 

ここを奪回しようとしていたのだろう。

 

「…様子を見ましょう」

 

45が目を閉じる。

…少しして、ため息を吐いた。

 

「…直に、ここも堕ちるわ」

「どういう事?」

「今監視カメラの電脳を見てきたわ…中に鉄血人形が一体と…二人、倒れている人影があった」

「…それって」

 

間に合わなかった、そういう事だ。

 

「そんな…」

「GV…」

「ペルシカから回収を依頼されてるから…一応、破壊はするわよ」

「…了解」

 

左右に別れて、司令室の出入り口付近の壁に貼り付く。

 

「合図と同時に扉を開いて、スモークを焚くわ。そしたら突入。斉射して」

「了解」

「GVは念の為防御をお願い。実弾は防げるのよね?」

「問題無いよ…ただ、少し君たちから離れないといけないけど」

「なら、最前衛はGVね…行くわよ、3.2.い」

 

45が言い終わる前に扉が開く。

…慌てて飛び退き、各々が構える。

 

「…ア、あ…ァ…ア…」

「何よ、こいつ…!?」

 

45が悲鳴の様なうめき声を上げる。

 

…中から出てきたのは、以前のスケアクロウの様に継ぎ接ぎされた人形だった。

 

四肢のパーツも何もかもバラバラ。

まるで残骸を拾ってきてそのまま利用したような…。

 

「…ん?糸…?」

 

その継ぎ接ぎされた人形から、上方向へと伸びる糸のような物が見えた気がした。

 

「気を付けて!」

 

416が叫ぶ。

その時、人形は口を開いた。

 

 

【永遠を欲しがる君と永遠を生きたかった 】

「何…?」

【思い出す記憶(データ)開いては閉じ繰り返す】

 

歌い出した。

何事も無かったのように。

 

…しかし、45達はそうでもなかった。

 

「ぐっ、あっ、あ、あ…頭がっ」

「ナイン!?」

【傷ついたとしても構わない 素顔のまま】

 

ナインが頭を抱えて蹲る。

416も、G11も同じ様に。

45だけ、立ってはいるが辛そうだ。

 

【熱くなる両の手に掴む星 冷やす涙乾いて】

「舐められたモノね…私達にハッキングを仕掛ける、なんて」

「45!」

「GVごめん…!任せるわ…私にどこまで出来るか判らないけど、三人を抑えなきゃ…」

「…分かった」

【時は今も進んでいる…】

 

未だ歌い続ける人形に向き直る。

…この歌で、彼女達を操ろうとしていると言うのだろうか。

 

だが、

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!哀れな傀儡に、零時(おわり)告げる針となれ!!」

 

そんな事は、させない。

 

 

 




謡精の歌声は、電子の脳をかき乱す。

お久しぶりです。
やっと更新できました。

正直、クロス系よりやっぱりオリジナル主人公系の方が伸びるんだなと痛感しております。

次回をお楽しみに。


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決着

響く歌声、消えない後悔、起こる悲劇。

この世界では当たり前であるが、許容できるものでは無い。

だから雷霆は奔る。
選択に後悔をしない為に。


 

人形に向かってダートを飛ばす。

 

…が、天井からダガーを持った人形が降りてきて盾になる。

 

「!こいつら…」

 

一体が突っ込んでくる。

雷撃鱗を展開し、先にそちらから焼き切る。

 

もう片方にもダートは刺さっている。

そのまま雷撃を打ち込み爆破する。

 

「…奴は!?」

 

煙が晴れると、そこには誰も居なかった。

 

「45、ごめん!」

「ちょっと、GV!一人で行くつもり!?」

「どの道人形は操られてしまう…それなら、一人のほうが良い」

 

まだ404として認知されていないボクなら、多少見られても問題ない筈。

 

「…わかったわ。わたし達はシステムを復旧させたら退路の確保に。通信には気を配っておいて」

「了解、行ってくる」

 

走り出し…ふと、司令室の中へ目線を向けた。

 

…そこには、一〇〇式と名乗った人形と、物言わぬ骸となった男がいた。

 

「…ごめん」

 

 

蒼翼は、走り出す。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

前線基地屋上。

 

ドアに鍵が掛かっていたので蹴り開け、躍り出る。

…そいつは、屋上で待っていた。

 

しかし、その人形の周りを多くの鉄血人形達が護る様に取り囲んでいる。

 

「…思っていたより、数が多いな」

 

盾を持っているもの、長いライフルを構えるもの。

今まで見た事のある鉄血兵たちが目白押しである。

 

ダートリーダーのプラグを入れ替える。

相手が多いのであるなら、ロック数が最も多いレミエルを使いまとめて倒す。

 

ダートもオロチに切り替える。

 

「行くぞ…!」

 

ダートリーダーのトリガーを引く。

一発の発射と共に、1基のビットが飛び出す。

 

ダート、オロチ。

その能力はビットから様々な方向にダートをばら撒くタイプだ。

 

数が多い時に役に立つ。

 

蒼き雷霆(アームドブルー)よ!」

 

ロックされた人形達が次々と感電し、倒れ、爆ぜる。

爆発しなかった人形達も流された電撃でどこかしこにエラーをか変えて動きを止める。

 

…フレンドリーファイアの危険も大きい為、やはり十全に第七波動(セブンス)を使うならばボク一人の方が動きやすい。

 

「この程度で、ボクを止められると思うな!」

 

反撃として放たれる弾丸、レーザーを避け、カゲロウで無効化する。

 

一体、また一体と数を減らしていく。

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!」

 

 

 

天体の如く揺蕩え雷

 

 

是に到る総てを打ち払わん

 

 

「ライトニングスフィア!」

 

ボクの周囲を覆う更に出力の高い雷撃鱗。

周りを囲んでいたナイフを持つ人形達を全て薙ぎ払う。

 

「お前で、最後だ!」

 

床を蹴り、跳ぶ。

ボクの持つ第七波動(セブンス)が、空を翔ける力を与えてくれる。

 

勢いそのまま蹴りを放ち、歌う人形を吹き飛ばした。

 

「…雷撃で倒すとデータが取れないから…どうやってとどめを刺そうか」

 

今までこういった手合とはあまり戦った事が無いから、少し迷う。

…結局、周囲に落ちていた無事な銃を使う事にした。

 

「確か、コアを撃ち抜けば動けないんだっけ」

 

記録の残る電脳さえ手に入れば問題ない…筈。

拳銃を拾い上げ、それを向けーーーー

 

【…駄目だよ、GV…】

「………シアン!?」

 

声が、聞こえた気がした。

慌てて周囲を見渡す。

 

聞き間違える筈は無い、だって、この声はー…!!

 

視線を外した隙に、倒れていた人形が銃を向けていた。

 

「しまっ、」

「貴方の運命も、ここまでね」

 

…銃声。

こちらを剝いていた人形は、そのまま倒れ伏した。

 

「…はぁ、ありがとう…416」

「…フン、礼はいらないわ…借りを返しただけよ」

 

屋上に、404のメンバーが上がってきていた。

 

 

 

 




GVをバッドエンドから掬い上げたくて始めたのに、どうしても暗い内容になってしまう…。

404とほのぼのする光景が、思い浮かばない…。

今回の騒動が収まったら、少しやってみます。


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後悔

インティからようやく白き鋼鉄のXの続報が来ましたね!
楽しみで仕方のない作者です。

生放送で聞けた二曲もいい曲でした。
次のガンヴォルトステーションが楽しみです。


あれから、3日。

ボクたちが厄介になっていたあの地区は指揮官の死亡と言う事実上の陥落扱いとなった。

 

代わりの指揮官が配属されるまでの間、他所から支援という形で建て直すらしい。

 

そして、あの指揮官と一○○式と名乗った人形。

 

 

戦死し……彼女は、初期化されるらしい。

UMP45曰く、残当だそうだ。

 

 

 

 

 

…ボクは、基地の屋上から空を眺めていた。

 

今回の一件で報告する事が増えたので、直接依頼主の元へ行くとの事で…PMC、グリフィン&クルーガーの本部にやって来た。

 

暫くはここに滞在するとの事で、休暇の意味合いを含んで自由行動をUMP45から言い渡された。

 

「…」

 

ぼんやりと思う。

もし、間に合っていたら。

 

仮定の話に意味はない…けれど、思わずにはいられなかった。

 

「…少年、そこは私の特等席だったのだがな」

 

ふと、背後から声を掛けられる。

振り返ると、髭を蓄えた、傷だらけの男性が立っていた。

…肩にかかるコートを見るに、グリフィンの指揮官だろうか。

 

「すみません」

「構わんさ。若い者に道を譲るのも老人の役目だ」

 

隣にやってきて、彼も空を眺めた。

…ボクよりも遥かに背の高い、がっしりとした体格だ。

 

「…君が、ガンヴォルトだな」

「はい…そうですが」

「…若いな。歳は」

「14です」

「そうか…君の様な子供を戦わせない為に、私はこの会社を創ったのだがな…」

 

男性は苦々しくため息を吐いた。

 

「何か、思い詰めていたようだな」

「…前に居た基地で、少し」

「そうか…ガンヴォルト。一つ教えよう…男にはな、時々何をやっても駄目なときがある」

 

頭上には、青空が広がっている。

 

「そういう時は、酒でも飲んでさっさと寝るに限る」

「ボクは、未成年ですよ」

「このご時世法律なんてあってないような物だ。…それに、悩んだ所で答えの出ない話だ。引きずるくらいなら吹っ切れろ」

「…」

「フッ…顔は不詳不詳と言った具合だが態度が変わったな…戦場を体が知っている。すぐに折り合いが付けられるだろう」

 

ボクの頭に手を起き、乱暴に撫でた後、男性は立ち去る。

 

「それに、仲間が居るだろう」

 

「ジーブーイ!!」

 

バタバタと階段を駆け上る音。

この声は…ナインだろう。

 

「GV!デートしよう!」

「…えっ?」

「ははは、悩めよ少年。それではな」

 

男性は去って行った。

 

「…GV、社長と知り合いだったの?」

「…えっ、社長?!あの人が!?」

「そうだよ。ベレゾヴィッチ・クルーガー。ほら、グリフィン&クルーガーって」

「…そう言う意味だったのか」

「そんな事より、ほら、行こう?せっかく街に来たんだからさ!」

 

ナインに手を取られて引っ張られる。

…気を使ってもらってしまったかな。

 

でも、気分転換もやっぱり必要なのだろう。

 

いつまでもうじうじしていたら、迷惑が掛かってしまう。

 

「ありがとう、ナイン」

「?どういたしまして!行こう!」

 

 




偶にはガンヴォルトにも、ほのぼのさせたい。
次回はデート回です。


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まるで逢引の様に

GVがちょっと情緒不安定過ぎたかもしれない…。
今回はGV癒やし回。
ナインに癒やされよ。


 

グリフィン本部が管轄している街だけあって、治安が良く外観も綺麗な場所だ。

 

そんな中をナインと一緒に歩いていた。

 

「でね、その時G11がね」

 

ナインは今までの作戦で面白かった事、楽しかった事をボクに聞かせてくれていた。

 

「そうなんだ。よく45が許したね」

「45姉はその時ね、」

「へぇ…」

 

ナインなりに気を遣ってくれているのだろうか。

…そう思うと、ボクも早く404に馴染んだ方が良いのだろうか。

 

「あ、GV見てコレ!」

「これは…ペンダント?」

 

露天のオジサンがボクたちを値踏みするように一瞥したが、すぐに視線を前に戻した。

 

「GVはいつもペンダントしてるから…私も何か買おうかな」

「これは、お守りなんだ…家族から貰った、大事な」

 

…かつて、シアンから貰ったペンダント。

凶弾に斃れたボクを救ってくれた、大切な御守。

 

「そうなんだ…あ、見てみて、猫!」

「可愛いね…買うの?」

「いくらなんだろう…」

 

オジサンが値札を指差してくれた。

…そう言えば、ボクのお給料ってどうなってるんだろう。

 

「これください!」

「毎度」

「GV、着けて着けてー」

「え、しょうがないなぁ…」

 

首を少し上げて待つナインの首にかけてあげる。

道行く人達が微笑ましそうにボク達を見て笑っている。

 

何となく、平穏を感じてしまう。

 

「…ねぇ、あの子の目…」

「何で治さないのかしら…」

 

そんな声を聞いてしまうまでは。

 

「…!」

「GV」

 

振り返ろうとして、ナインに手を掴まれた。

ナインは、笑っている。

 

「良いんだよ。GV」

「ナイン…」

「おじさん、ありがとう!ほら、行こうGV!時間は有限なんだよ?」

 

何時もと変わらない様子でナインが笑う。

 

「GVは、どこに行きたい?」

「え…」

 

その姿が、重なってしまった。

 

「…GV?どうしたの?大丈夫…?」

「なん、あれ…」

 

気が付くと、ボクは涙を流していた。

とても、とても大切な家族。

 

二度も守れなかった家族を思い出して。

 

「…よしよし」

 

そんなボクを、ナインは抱き締めて頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ、GV。私達は、家族だ…家族は、GVを見捨てたりしないよ」

「…ありがとう、ナイン」

「うん。辛い事があったら言ってよ…私は、GVの味方だよ…416も、G11も、45姉も…だから、私達を頼って?」

「…ごめん」

「あはは、謝らないでよ。いこ、GV」

 

ナインに手を引かれて、再び歩き出した。

 

「ね、GV!この前新しくオープンしたお店があるんだ!」

 

この日は、ずっとナインはボクの手を握っていた。

 

 

 




次回は…416と絡ませようかな。
GVと404のメンバー一人ずつ絡ませて、五人で何かさせて。

そこから新しい仕事を。

ちょっとずつ、GVに幸せを。


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談笑

皆も、約束は守ろうね…(


「じ、GV。付き合いなさい」

 

朝。

グリフィンの本社は朝食も豪華なんだなとぼんやりの考えていたとき…416が声を掛けてきた。

 

「おはよう、416。別に構わないけど」

「そう…それじゃあ、準備が出来たら正面玄関で待ってなさい」

 

言うが早いか、そのままそそくさと歩き去った。

 

「…どうしたんだろう」

「Gぃ〜Vぃ〜?聞いたわよ?昨日妹と宜しくやってたみたいね」

「…45、びっくりした」

 

部屋に入ろうとしたとき、耳元で甘ったるい声で囁かれたら誰でもびっくりすると思う。

…UMP45が、だいぶラフな格好で立っていた。

 

「おはよう、GV。昨日よりはマシな顔してるわね」

「お陰さまで。いい気分転換になったよ」

「なら良いわ。そーれーでー?どうだった?デート」

「デートって…そんなんじゃないよ、別に」

 

ナインはナインで、僕を気遣っての行動だろう。

大体デートと言うには殺伐とし過ぎている気がする…。

 

「そうかしら?少なくともナインは上機嫌だったわよ?」

 

一応、ボクと他の小隊メンバーの部屋は分けられている。

仮にも思春期真っ盛りの青少年が女性四人と相部屋なのはどうなんだ、と言う声があったらしい。

 

…ちょくちょくG11がこっちの部屋で寝てるんだけどね。

本人曰く静かで丁度良いんだって。

 

「そうだったんだ…」

「ふふ、可愛いでしょう?私の妹は」

「そうだね。ボクもそう思うよ」

「…その割には反応が薄いわね」

「そう?」

 

45がつまんないなーと肩をすくめて見せた。

 

「な、何かごめん?」

「すぐ謝っちゃ駄目よ?冗談なんだから」

「えっ、あぁ…ごめ」

「ほーらっ」

 

口に人差し指が押し当てられる。

…なんと言うか、くすぐったい。

 

「少なくとも、今は気を抜いてもいいのよ」

「…こっちに来てから、そんな暇なかったから…難しいかも」

「大丈夫よ。貴方なら出来るわ」

 

なんて、45と談笑していると…。

…かなりコワい顔をした416がこちらに向かってきているのが見えてしまった。

 

「ガ、ン、ヴォ、ル、トォ〜!!」

「あら、怖いのが来ちゃったわね。それじゃあねGV」

「え、ちょっと45?この状況で丸投げ!?」

 

素早く45が走って逃げていく。

…416が、ボクの肩に手をおいた。

 

「や、やぁ…416」

「ええ、GV。さっきぶりね」

「…どれだけ待った?」

「えぇ、えぇ、大丈夫よ。私は完璧よ」

 

にっこりと416が笑う。

ボクも釣られてぎこちなく笑う。

 

スンッ、と416が真顔になる。

 

「30分よ」

「えっ…うぎっ」

 

頭にげんこつが振り下ろされた。

…流石にカゲロウを発動させなかったけど。

 

 

 




9月にガンヴォルト外伝、白き鋼鉄のXの発売日が決まりましたね。

…それまでに、完結出来るかな…。


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買い出し

416が出掛けると言っていたけれど、何を買うのだろうか。

 

「……一体どれだけ買うのさ」

「今回使ったりした資材とか配給の補給ね。まだまだあるから持ってもらうわよ」

「はいはい……」

 

既に両手には紙袋が2つ。

これ以上増えていくのだろうか。

 

「……あ"」

「?どうしたの416」

 

急に416が女の子が出しちゃいけない声を出して立ち止まった。

視線の先には……見覚えのあるおさげ。

 

「M16……」

「よう、416。久しぶりだな……おお?ガンヴォルトじゃないか!」

 

相変わらず獰猛な笑みをする人だ。

 

「そうか、無事だったか……今は、404預かりなのか」

「そうだよ。今は……416達に良くしてもらってる」

「ハハッ、そうなのか。よろしく頼むぜ416」

「……ふん」

 

416はそっぽを向く。

この二人は何か確執でもあるのだろうか。

 

「今日は買い物か?」

「そんな所。そっちは?」

「こっちも似たようなモンだ。そうだ、妹たちに会っていくか?」

「前に話していた?」

「ああ。お前さえ良ければ……」

「GV、行くわよ」

 

416が踵を返して歩いて行ってしまった。

……その様子にM16がため息を吐いた。

 

「すまんな、あいつはいつもああなんだ」

「……何かあったんですか?」

「昔、な……」

 

これ以上踏み込まない方が良いかもしれない。

 

「あいつを頼むぜ、ガンヴォルト。ああ見えてナイーブな奴なんだ」

「うん。ボクは、チームの一員だからね」

「……上手くやれてるみたいだな。安心したよ」

 

そう言うと彼女はボクの頭をぐしぐしと乱暴にかき乱す。

 

「やめてよ、M16」

「おっと、悪いな。何だかお前は弟みたいだからな」

「弟って……」

「私に弟が居たらこんな感じかもしれない、ってね」

「初めて言われたよ、そんな事」

「そうか?年の近い誰かに可愛がられてた事、無かったのか?」

 

そう言われて、ふとジーノとモニカの顔を思い浮かべてしまった。

 

フェザーを抜けた今、二人に会うことはもう……無い。

 

「……すまん」

「気にしないで。ボクが選んだ道だ」

「GV!いつまでそいつと油売ってるの!?行くわよ!!」

「あっ!わかったよ!……それじゃ、またね」

「……またな」

 

結局このあと、416の機嫌を取るために自腹を切ってアイスを奢ったのだった。

 

(結局、理由は聞けず終いか……)

 

誰にだって、触れてはならない過去はある筈だから。

 

「どうしたの?GV」

「何でもないよ……416、今日はこれで全部かな」

「そうね。GV、これがこの街よ……大体地理は把握できたかしら」

 

……わざわざ、買い出しと言う名目で連れ出してくれたのか。

 

「……うん、大丈夫。ありがとう」

 

早く吹っ切れて、皆の役に立たなきゃいけない。

ここまで良くしてくれる人が居るのだから。

 

 



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氷結都市

破られる平穏。

事態は終わりに向かう。


夜半。

ボクは45に叩き起こされ、404の宿舎へと集められた。

 

「集まったわね。仕事よ」

 

その一言でボクも含め、全員のスイッチが切り替わる。

……相変わらず、G11は眠そうだけど。

 

「場所はグリフィンの管理するVIP向けリゾート地よ」

「リゾート地……?しかもVIP向けならかなり厳重に警備されてる筈じゃないかしら」

 

416の言葉に全員が頷いた。

 

「これを見てもらえるかしら」

 

45が部屋に置かれたモニターに映像を映し出す。

 

ーーーそれは、一面氷漬けになったビーチだった。

 

「………………なに、これ」

 

ナインが震える声で言葉をしぼり出す。

G11も目を見開いている。

 

「この映像を記録したドローンも、この後撃墜されたわ」

「南のリゾート地で、こんな事……」

「私達の任務は原因の調査よ。……気は進まないけどね」

 

リゾート地の氷結。

心当たり……と言うか確信があった。

 

これは、第七波動(セブンス)による現象だ。

 

「……GV、心当たりがありそうね」

「……これを、ボクは知っている。前にも遭遇した事がある」

「もしかして……GVの力と関係があるの?」

「犯人の名前は、《テンジアン》。能力は《超冷凍(オールフリーズ)》。だけど奴は、ボクが倒したはず……」

「何ですって?」

 

生きていた?

いや、そんな筈は無い。

 

「そんなヤバい奴なら……私達で何とかできるわけ無いじゃん」

「G11、その通りだけど……仕事よ」

 

G11の弱音……仕方ない事だとは思う。

416も心無しか震えている。

戦術人形が如何に優れていようと、使用している火器が旧式なのは否めないし……何より、第七波動(セブンス)に対抗できる用設計されている訳ではない。

 

彼女達を、ボクが守らなくちゃいけない。

 

しかし……テンジアンはもう死んでいる筈。

この世界に飛んできているのは過去のテンジアンなのだろうか。

 

……いや、

 

「……パンテーラ?」

 

鏡写しの様に複製された能力者たち。

 

仮に、パンテーラ自身もバックアップとして遺していたとしたら。

 

「朝出発よ。寝坊しないようにね」

 

45がそう、この場を締める。

ボクの懸念を他所に、事態は進む。

 

 

出発まであと3時間。

それまでに、出来る事を探さなくちゃいけない。

 

「GV」

 

ふと、ボクの上着の袖をG11が引いた。

 

「どうしたの、G11。ボクに話しかけるなんて珍しいね」

「……気負わなくて良いから。何だかんだ、私達は今までやってきたんだし、これからも大丈夫だよ」

「………………!」

「45や416、9が居る。だから、大丈夫」

「……ありがとう、G11」

 

この子も、ちゃんと404の一員なんだ。

G11の頭をぐしぐしと撫でてやる。

 

猫のように目を細めている。

 

「むにゃ……じゃあ、時間になったら起こしてね……」

「……いや、ボクは自分の部屋に戻るから」

 

ここは女子用だし。

 

「寝坊が心配ならここで寝てても良いわよ」

「GV!一緒に寝よう!家族だから大丈夫だよ!」

「あはは……おやすみ」

 

ボクは部屋に戻るのだった。

いやいや、流石に同じ部屋で寝るのはね……。

 

 




ラストスパート。
ここからほぼ蒼き雷霆ガンヴォルト爪のボスラッシュになります。


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侵入

――――出発から4時間後。

ボク達は、氷結したリゾート地へと足を踏み入れていた。

 

「うわぁ……本当にあちこち氷付けだ」

「気を付けてよナイン。ここは敵地なんだから」

「分かってるよ45姉……うわわっ!」

 

勿論地面も凍結している。

足を滑らせたナインが盛大に尻餅をついた。

 

「いったーい!」

「……言わんこっちゃ無い」

「45、9、遊んでないで行くわよ」

 

416が先行する。

その後をG11が着いていく。

……ボクはナインに手を差し出す。

 

「足元、気をつけてね」

「ありがと、GV」

 

さて、状況を一旦整理しよう。

現在地はリゾート地の外壁……要するにまだ外側だ。

ここから侵入するのだが……防衛システムがまだ生きているらしい。

最悪攻撃される可能性があるため迂闊な行動は出来ない。

 

「さて、まずは防衛システムを掌握するわよ」

「「了解」」

 

防壁の周囲を歩く。

監視カメラも凍結しているのであまり気にしなくても良い。

 

注意すべきは……。

 

「停止……前方、鉄血モドキだよ」

 

G11がボク達を制止する。

前方を確認すると……例のツギハギだらけの人形達が立っていた。

 

45に目配せする。

彼女は首を横に振る。

 

「なるべくここで騒ぎは起こさないように。警戒が厳重になるわ」

「……でも、どうやって侵入するの?ゲートはここにしか無いけど」

「地図を共有するわ……ごめん、GVは着いてきて」

 

4人の中で情報の共有があったみたいだ。

ボクは人間じゃないからその辺りは足並みを揃えられないけど。

 

「ごめん、迷惑けてる」

「今更。その分しっかり働いてもらうわ」

 

四人が立ち上がる。

外柵から少し離れた場所に、それはあった。

 

「マンホール……」

「ここから水路を伝って中に侵入する」

「……ねぇ、これ……外せるの?」

「「「「……………」」」」

 

全員が黙ってしまった。

地面が凍結しているからマンホールもそのまま凍り付いている。

 

「……仕方ないじゃない。こんな、予想出来ないわよ……」

 

45がぽつりと漏らした。

 

「だ、大丈夫だって45姉!水路があるって事は何処からかまた侵入出来るはず!」

「そ、そうよ!まだ行けるわ!」

「……私は、まだやれるよ」

 

珍しく三人でフォローを入れる。

 

さて、どうしたものか……うん?

 

「まって、皆……アレ」

 

作戦説明の時に見せられた地図を思い出す。

確か、環境再現用の用水路があったはず。

 

その水路が凍りつき、丁度道のようになっている。

 

「なるほど……ここから侵入するわよ。足元の氷を踏み抜いて水没なんてしないでよ?多分……一瞬で凍結してオダブツよ」

 

 



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絶冷剣

現れるのはかつての虚像。

迸れ、蒼き雷霆。
目の前の哀れな妄執を、穿き滅ぼせ。


――潜入から二時間が経過した。

 

今の所は監視にも見付からず、するりと潜入出来ていた。

 

「……静か過ぎるわ」

 

416が、ぽつりと漏らす。

ここまで、いくらなんでも警備がザル過ぎる。

 

誰もがそう感じていた。

 

「……まさか、誘導されている?」

「既に術中だと?」

「可能性は」

 

何となく、肌がピリピリする。

こう言うときは、決まってろくな事が起きていない。

 

「……GV、大丈夫?」

「……ありがとう、大丈夫だよ」

 

ナインに気遣われて気持ちを切り替える。

今更恐れてはいけない。

 

「皆、ここから先は開けたフロアになる。注意して」

 

45の一言で思考を目の前に引き戻す。

確かにこの先は吹上構造になっていて、かなり広い……それこそ、ここで銃撃戦もありうるほど。

 

「……ねぇ、皆。嫌な予感がする」

 

G11が呟く。

……その様子は、普段の無気力さを払しょくさせるほど。

 

「何か、怖いのが居る」

「……拙いわね。G11がこうなるって事は……」

「さっき言ってた能力者ってのが、居る」

 

足音が、響く。

 

ホールの奥から、誰かが歩いてくる。

……グレーのアーマーを身に着けた、男。

 

「………………」

「やっぱり、テンジアン……!」

 

かつて戦った、エデンの守護戦士……超冷凍(オールフリーズ)の能力者。

 

エデンの巫女としてトップに立っていた妹を護る騎士。

彼は、一言も喋らない。

 

テンジアンが無言で剣を構える。

 

「各員戦闘準備!来るわ!」

 

45の号令のもと、散開しテンジアンを包囲する。

……テンジアンは真上に飛び上がる。

 

「高っ……!?」

「ナイン!」

「わっ……!?」

 

ボクはナインを急いで突き飛ばす。

 

……先ほどまでナインが立っていた場所を、チャクラムの様な物が通過した。

 

「ご、ごめん!GVありがとう!」

「油断しないで!ナイン!GV、前に戦った事あるんでしょ!自由に動いて!」

「わかった!」

 

ダートリーダーの安全装置を外す。

……テンジアンの戦い方は、自身の作り出した7本の氷の剣を駆使した我流剣術が厄介だ。

 

裏を返せば、接近戦を行わなければ落ち着いて対処することが出来る。

 

ダートがテンジアンに着弾する。

 

「行くぞ……!」

 

ボクの蒼き雷霆(アームドブルー)がスパークを起こす。

 

一言も物を言わぬテンジアン。

恐らく彼もまた……。

 

感傷は無い。

どんな姿になろうとも、妹を護るその意思は変わらないのだから。

 

「GV、援護するよ」

 

G11の鋭い援護が、テンジアンの飛び道具を撃ち落としてくれる。

 

45がスモークでかく乱、ナインがフラッシュを使い、416も火力支援をしてくれる。

 

誰かと一緒に戦うのも、本当に久しぶりな気がする。

 

「……迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

ボクは、今は一人じゃない。

……けれど、隣に居てほしかったひとは……もう、居ない。

 

 




白き鋼鉄のXをプレイしていて大幅に更新が遅くなってしまった……。

このSSも、テンジアン戦後にイベントを挟み、ラスボス戦を行った後にエンディングとなります。
あと少しだけお付き合いください。


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割れる鏡像

物言わぬテンジアン。

その力はオリジナルとはとても比べ物にならない。

それは、何故。


「迸れ!蒼き雷霆!」

 

何度目か分からない雷撃鱗の展開。

 

テンジアンにも相当なダメージが通っているはず。

しかし、彼は倒れない。

 

一言も発さない……しかし、執念だけは伝わってくる。

 

ここだけは通さないという、執念。

 

「45姉こいつ、めちゃくちゃだよ!」

「ナイン!走って!足を止めたら凍り付けよ!!」

 

サブマシンガンは性質的に前衛であり、後衛のために時間を稼ぐ役割を持つ。

……高い回避性能を活かして、果敢にテンジアンに立ち向かっている。

 

その後ろから、G11の狙撃と416の射撃が飛んでくる。

 

「効いてない……?」

「そんなはず……っ!!」

 

テンジアンの身体にはいくつもの弾痕が残っている。

しかし……勢いは止まらない。

 

「うわっ……」

 

ナインがつんのめる。

……右足が、床に貼り付いている。

 

「氷が……!」

「ナイン!」

 

拙い、いくら人形が頑強でも凍結してしまえばシャットダウンする。

そして、完全に凍ってしまえば砕かれてしまう。

 

ナインを救出すべきか、テンジアンを倒すか。

 

「GV……お願いっ!」

 

ナインが、叫んだ。

そうだ、迷う事は無い。

 

やるべき事は、一つ。

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

―煌めくは雷纏いし聖剣―

 

―蒼雷の暴虐よ敵を貫け―

 

「スパークカリバー!!」

 

 

雷を纏う蒼き聖剣が、テンジアンの体を貫いた。

 

「やった……!」

 

ナインの声が漏れる。

が、次の瞬間……テンジアンが粉々に砕け散った。

 

「えっ……!?」

 

416の驚愕の悲鳴。

これは、以前見ている。

 

そして、敵の正体を知る決定的な瞬間。

 

「パンテーラ……!」

 

以前敵対した能力者集団のトップ、パンテーラ。

彼女の第七波動(セブンス)による鏡写しのまぼろし。

 

テンジアンも、その力で作られたまぼろし。

しかし、前に戦った時はまぼろし自体に意思があった。

 

力が弱まっている?

そもそも、何故彼女がここに居るのか。

 

疑問は尽きない。

 

「やった……のね」

 

45が呟く。

 

「皆……見て」

 

G11が指を指す。

……氷が、溶け始めている。

 

ポタポタと、雫が天井から滴る。

 

「これ拙いんじゃない!?」

「ずぶ濡れになる前にここを通り抜けるわよ!!」

 

ボクたちは走り出した。

 

ここから先は確か通り抜けられて屋外に出られた筈。

そこで全て溶け切るまで待機しなければ。

 

ボク自身濡れてしまうと能力が半減してしまうので、それは避けたいところである。

 

「急ぎましょう」

 

45が先導する。

ボク達も続いていく。

 

ドアを蹴破り、屋外へ出る。

 

「……何よ、これ」

 

416が呟いた。

 

目の前に、例の継ぎ接ぎされた人形達が一面転がっていた。

 

 




白き鋼鉄もクリアして、ようやく更新。
これ、アキュラ君出せないなぁ……。


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ドールマスター

祝、PS4版ガンヴォルトストライカーパック発売決定。


辺り一面に広がる光景に、誰もが言葉を失う。

余りにも凄惨で……まるで、悪夢の様だ。

 

「……この先よ。正直、この先へは行きたくないけど」

 

45がそう言うが、覇気がない。

 

「注意して進みましょう。突然起き上がって襲ってくるかも」

「了解……」

 

鉄血人形の残骸の山を進む。

途中途中で警戒を怠らず、全員で陣形を組みながら進む。

 

ここまで氷は届いていなかったのか、濡れてはいない。

 

「妙だよ。こいつら、オイルすら零してない」

 

G11が呟く。

所々欠損しているが、その場所から出血している人形が少ない。

放置されてからそれなりの時間が経っている?

 

「まるで、材料にされたみたいね」

 

45が呟き……ハッとした顔をする。

 

「まさか、最近出現してる妙な鉄血って……こいつらから作られてた?」

 

なるほど、確かに……パーツがこれだけ揃っているなら不可能ではない。

 

ふと、視界の端で何かが光った。

 

「ん……?」

「どうしたの?GV」

「いや……何か光った様な気がして」

「まだセンサーが生きてる奴が居るのかも。警戒して」

 

センサー類の光……?

いや、どちらかと言うと反射の光だった様な。

 

「糸……これは!気を付けて!」

 

人形の残骸に糸が張り巡らされている!

屋外だと言うのに、そこら中に!

気が付かなかった……。

 

「うわぁ!?動いたよ!?」

 

G11が悲鳴を上げる。

鉄血人形の残骸が立ち上がり始めたのだ。

 

「ひっ……さっきからホント何なのよ!」

「一気に抜けるわよ!!」

 

ボク達も走る。

幸い、動きは鈍いのかすぐに引き離せた。

 

「このまま目の前の建物まで入るわよ!あそこが目的地……!」

「45姉!上!」

「何……!?」

「危ない!」

 

45の襟を掴んで引き寄せる。

上から、巨大な鉄塊が降ってきた。

 

「私とした事が……ごめんなさいGV、助かったわ」

「構えて。敵だ」

 

硬い音を発てながら、鉄塊が立ち上がる。

丸みを帯びたフォルムに、まるでとんがり帽子の様な頭部。

 

「こいつは……!」

「ロボット!?」

「後ろに誰か居るよ!?」

「いや、アレは操り人形だ!アイツは……第七波動(セブンス)使いだ!」

 

パペットワイヤーの能力者、糸紡ぐ操者(ピグマリオンワークス)アスロック!!

 

「………………」

 

やはり、テンジアンと同じ様に一言も発しない。

 

「アレを何とかしないと、先には進めそうにないわね……GV、対策は?」

「人形とのコンビネーションに注意して……なんとかアレを倒せれば、アスロックだけになる」

「オーケー。各員、狙いは人間の方よ!行くわよ!」

 

 

 




連載開始から一年経過しましたが未だに終わる気がしない……。


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戦闘、アスロック

ドールマスター。
今回の騒動に最も関与が疑わしい第七波動……。
しかし、テンジアンの様に一言も発しないのは、妙だ。


アスロックの手が動く。

丸っこい人形の手がこちらに向くと、指先に穴が開いて……。

 

「射撃が来る!」

 

ボクが咄嗟に叫ぶと、周りに居た404の皆が射線上からすぐ様飛び退る。

ボクはカゲロウで難を逃れた。

 

「撃てっ!」

 

45の号令で皆が発砲を始める。

しかし、アスロックの操る人形が悉くを弾く。

 

「能力者ってのは、どいつもこいつもデタラメね!」

「前に出る!」

「GV!」

「416、援護を!」

「判ってる!GV!当たらないでよ!」

 

アスロックにダメージを与えられはしないが、人形に損傷を蓄積させれば行動不能に出来たはず!

後方から416とG11の援護射撃が飛んでくる。

人形は意にも介さず腕を振り上げる。

そのまま、飛び上がった。

 

「当たるか……!」

 

その下を走り抜ける。

人形の拳がさっきまでボクが居た場所を叩く。

反転、横薙に腕を振るう。

その腕を飛び越え、頭を蹴って跳ぶ。

 

「吼雷降!」

 

自分に向かって雷が落ちる。

かつて、ミッションの途中で身に着けた技能。

それは、見事に人形を巻き込んだ。

 

少し痙攣した後、がくりと脱力したかの様に動きが止まる。

 

「やった!動きが止まった!」

「今よ!」

 

アスロックに射撃が集中する。

……いや、

 

「気を付けて!何がするつもりだ!」

 

アスロックが素早く手を動かす。

糸が繋がる先は……地面?

 

違う、人形の山……!!

 

 

 

――糸が紡ぎし機人の演舞

 

――絡み手繰るは死の運命

 

――この戦場こそ我が厨房

 

 

 

BEAT UP ENTREMETS(ビートアップアントルメ)

 

 

 

山の中から出てきたのは……鉄血人形たちの持っていた武器と、その引き金に指を掛ける腕。

 

「散開!!」

 

瞬間、一斉射。

鉛に光に、様々な凶器が降り注ぐ。

 

「も、もうめちゃくちゃだ!!」

「喋ってないで逃げなさいG11!!」

 

アスロックの人形の頭部がこちらを見据えていた。

 

「拙い、レーザーだ!」

 

瞳が光る。

瞬間、地面が豪炎をあげて爆発する。

 

駆け出す。

狙いはボク……!

なるべく小隊から離れないと!

 

「ボクが引き付ける!その間に先へ!」

「正気!?」

「今までの人形の暴走はこいつの仕業だ!でも、こいつを生み出した何かがここに居る!」

「……!」

 

45が何かに勘付いた。

恐らく、この一連の幻影を生み出した存在……パンテーラが、何処かにいる。

 

「合流地点はその端末に送るから!死ぬんじゃないわよ!」

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

45達が離脱する為の目くらまし。

派手にぶちかませ!

 

「ライトニングスフィア!」

 

最大出力で打ち出した雷球が、あたり一面を覆い尽くした。

 

「うまく行ってくれよ……!」

 

 

 

 




404小隊と別行動。
異能者には、異能者をぶつけるべきだ。


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「く、うぅ!」

 

アスロックの攻撃がカゲロウを少し貫通する。

油断なくダートリーダーを構えて後ろに飛んだ

かつて戦った時、攻撃してきたのはあのロボットだけだった。

 

……しかし、今回は周囲に鉄血人形たちの残骸が無数に転がっている。

ビットにライフル、軽機関銃と選り取り見取りだ。

ボクは今、武器庫の中に放り込まれている様なものだ。

 

「う、わ!」

 

リング状のエネルギー弾まで飛ばしてくる。

跳ね回り回避する。

単純に敵の手数が多く、攻めあぐねていた。

 

45達が抜け、狙いが全てボクに集中しているのもそれに拍車をかけていた。

 

(大型の機動兵器がないだけマシか!)

 

迫る機械に雷撃を浴びせ続ける。

下手をしたらどこかでオーバーヒートの隙を突かれるのではないか。

オーバーヒートをしてしまえば、カゲロウは張れない。

ボクの防御が丸裸になってしまうのだ。

 

「くっ……!」

 

だが、かつて一度倒した相手。

ここで負ける道理も無い!

 

「迸れ、蒼き雷霆(アームドブルー)!!」

 

一点集中。

スパークカリバーを放つ。

ロボットの腹を突き破り、吹き飛ばす。

一瞬だけ、アスロックの動きが止まる。

 

「うおおおおお!!」

 

既にスパークカリバーを放っているため、ボクのキャパシティは乏しい。

だから、次の一撃はどうしても威力は劣る。

 

「ライトニングスフィア!」

 

雷撃のドームを作り出す。

アスロックを巻き込む。

 

雷撃が体中を駆け巡り……アスロックに()()()()()

 

「やっぱり……!」

 

アスロックは鏡の様に砕け散った。

破片は散らばり、さらさらと砂の様に消えていく。

 

「これも、鏡像……やっぱりパンテーラの仕業か」

 

糸が切れた様に周りに浮いていた残骸も全て地面に落ちる。

……これで本当に、瓦礫の山になった。

 

「………………ん?」

 

耳に微かに入る、声。

いや、これは……歌だ。

 

そして、聞き違える事は決して無い……歌声。

 

「シアン……」

 

駆け出そうとして、止まる。

今、ボクは一人でここに居る訳ではない。

前はボクの独断専行で……404が窮地に陥ってしまった。

 

二の轍を踏んではいけない。

落ち着くんだ。

 

「……?」

 

連絡を取ろうと通信を開こうとして……聞こえるのは、砂嵐ばかり。

 

「嫌な予感がする……」

 

45達に限って敵の手に落ちるなんて事は無い筈。

ここは電波妨害の可能性を加味した方が良さそうだ。

 

ボクも合流地点に向かおう。

 

確か……。

 

「こっちだ」

 

残骸の山をかき分けて進む。

最奥に設けられた教会の廃墟。

 

ここに、45達が入っていった。

ボクも続こう。

 

 



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パンテーラ

サイバーディーヴァ。
かつて、スメラギによる能力者一斉告発のトリガーとなった……ある少女に付けられた名前。


教会の奥、誰かが……奇跡的に無事を保っているステンドグラスに照らされて、蹲っていた。

否、祈っている。

この世界の、何へ捧げる祈りだろうか。

 

「……やはり、来たのですね」

 

頭に揺れるリボン。

この子を、ボクは知っている。

 

少女は立ち上がり、アメジストの様に煌めく瞳をボクに向ける。

 

「パンテーラ……!どうして生きている……!キミはあの時、」

「ええ、あの時間違いなく……貴方に殺された筈でした」

 

パンテーラ。

かつて、迫害された能力者達を束ね……能力者の為の世界を想像しようとした組織、『エデン』のリーダーだ。

幻影を生み出す夢幻鏡の(ミラー)第七波動(セブンス)を持つ能力者。

 

ここまでに対峙したテンジアンとアスロックは、彼女の力による幻影だった。

 

「じゃあ、どうして」

「あの時、私の中に存在したエネルギーが行き場を無くし爆発しました。私自身のうちから生じたものです……死んだ、私はあの時はそう自覚しました」

「………………」

 

先に突入した404の姿が見えない。

どこかに潜んでる……?

 

「そのエネルギーが奇跡的に別の世界の扉を開いた……そんな仮設も、あながち否定は出来ません」

「じゃあ、どうしてボクはここに居る……!」

「抑止力、なのかもしれませんね。私と言う異分子を始末する為に、この世界が探した答え」

「お前を倒せば、ボクは元の世界に帰れるってことか」

 

今までにないシンプルな結末だ。

 

「果たして、倒せるでしょうか」

 

パンテーラの背に、ホログラムの様な蝶の羽が広がる。

 

「!それは、シアンの……!」

「私の中に電子の謡精(サイバーディーヴァ)の欠片が残っていた。その力を組み込み……それなりに力を取り戻した。一度は遅れを取りましたが……二度はありませんよ」

 

パンテーラが、浮かび上がる。

ダートリーダーを握り締める。

 

「パンテーラ、お前は……この世界で何をするつもりだったんだ」

「エデンの再建を」

「ここには能力者はいない!一握りの人間と、人間らしい人形達が戦う世界だ!ボク達は必要ない!」

「やはり、貴方とは戦う運命にあるようですね。人形と言えば……先程入ってきた彼女達は、知り合いでしょうか」

「なっ……45達の事か!」

 

何ということだ。

既にパンテーラの手に堕ちていた?!

 

「彼女達には眠って貰いました。然るべき場を整え、賛同してもらう為に」

「45も、ナインも、G11も、416も!お前の理想になんて感化はされない!」

 

彼女達は皆、それぞれ戦う理由がある。

パンテーラの語るまやかしの愛なんて、最も必要が無いだろう。

 

ただ、全員生きている。

 

「私達の邪魔は、させない!」

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!」

 

解けた魔法に、もう一度零時(おわり)を告げろ――!!

 

 

 




次回、激闘・パンテーラ。
最終回まであと少し。


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決戦

力を失ってもなお、苛烈な攻撃を仕掛けるパンテーラ。
その前に立ちはだかるのは、翼を失った一人の少年。

異世界で起こった悲劇の続きを、終わらせる。


放たれるカードを避ける。

以前対峙したパンテーラとの姿の差は大きい。

 

宝剣やミラーピースで変身した姿とは打って変わってそのまま蝶の羽を生やしたような姿だ。

 

「ハァッ!!」

「くっ……!」

 

投げられるカードを躱す。

パンテーラの攻撃は単純だ。

手にしたトランプのカードを投げる。

ただそれだけ。

 

だが、

 

「!」

 

カードの着弾点から緑のタワーが次々と生えてくる。

そこから飛び退り、パンテーラにダートを撃つ。

 

「くうっ……!?」

 

パンテーラに雷撃を浴びせ、次の行動に備える。

今度は水鉄砲があらぬ方向から飛んでくる。

 

水は駄目だ、当たってはいけない。

数々の第七波動(セブンス)を駆使する戦い方は以前となんの遜色もない。

戦いにくい。

 

「はぁ!!」

 

パンテーラが氷の剣を生み出しこちらに飛ばしてくる。

走り回りとにかく回避した。

先程から雷撃を浴びせ続けているのに、まるでダメージが無い。

何故……!?

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

――きて

 

お―――――

 

――――い

 

――――――――――

 

 

お願い、目を覚まして。

 

 

「う、うう……」

 

あたまが、痛い。

強制的に意識をシャットダウンさせられたからだろうか。

 

「そうだ、GV……」

 

――彼は今、戦っているわ。

 

「誰……」

 

――私は、シアン。

 

「シア、ン……?GVの、家族?」

 

――そう、ね。GVは、私の、とても大事な人。

 

「知らせなきゃ……」

 

あれ、体がうまく動かない。

さっきのパンテーラとかいう奴にやられたからかな。

 

「うっ……頭痛い……」

「45姉……」

「ナイン、無事みたいね……立てる?」

「ごめん、体がうまく動かなくて」

「ちょっと待ってて。今見るわ」

 

――お願い、力を貸して。

 

「ごめん、私今動けなくて……」

「ナイン?誰と話してるの……?」

 

私にしか聞こえないのかな。

 

「416とG11は援護に向かったわ。けどあまり状況は良くない。GVの攻撃が効いてないみたいなの」

「いか、なきゃ……」

「応急処置しか出来ないから、大人しくしてなさい。すぐ戻るわ!」

「45姉……」

 

――私なら、なんとか貴女の身体も動かせるわ。

 

「本当に?……GVがピンチみたいなんだ……助けてあげて」

 

――ありがとう……名前、聞いてもいい?

 

「私は、UMP9」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「GV!生きてる!?」

「416!良かった!生きてたんだね!」

「そこっ!」

「くっ……降雷吼!!」

 

416達へ向けられた攻撃を落雷で相殺する。

 

「援護するわ。存分にやって。行くわよG11」

「……やられたままじゃ寝てられないね」

 

二人が駆け出す。

ボクも走り出して、二人を抜き去り雷撃を放つ。

 

「たかが人形が増えた所で!」

「立ったまま死ね!」

「くっ……煙幕か!」

「45!ナインは!?」

「残してきたわ!後で回収に行くから、さっさと片付けるわよ!」

「了解!うわっ!?」

 

突風が吹き、煙幕が一瞬で吹き飛ばされた。

 

「面倒ね……GV以上に万能じゃない。これまで攻撃は?」

「ずっとしてた」

「何よ、全然ピンピンしてるじゃない」

「謡精の力かも。ボクだけじゃ貫けない」

「ピンチね」

「本当に」

 

さて、どうしたものか。

ボクの攻撃が全くと行って言いほど効いていない。

向こうの攻撃もカゲロウを貫けないのでボクにもダメージが無い。

お互いのエネルギーが切れるまで続くいたちごっこだ。

 

「私達が隙きを作るから、最大火力入れなさい!」

 

45が駆け出す。

 

最大火力、か。

アレを使うべきだろうか。

 

「人形が!」

 

迷ってる場合じゃない。

飛び出そうとした瞬間、声が聞こえた。

 

「駄目だよ、GV」

「ナイン……?」

 

振り返ると、UMP9がそこに立っていた。

動けなくて置いてきた筈じゃ。

 

「今の貴方じゃ、あの子には勝てない」

「判ってる。けど」

「でも、大丈夫。歌は、貴方の中にあるから」

「え……」

 

ナインの背中に、一対の翼が開く。

この翼、まるで、電子の謡精……。

 

「まさか」

「歌うよ、GV。負けないで」

 

 

――解けない心 溶かして二度と 離さない 貴方の手を

 

 

「う、お、おおおおおおお!!!」

 

 

間違いない。

彼女は、この歌は。

ボクの身体に流れる歌は。

 

「アンリミテッドボルト!!」

 

蒼い雷が音を立ててどんどんと漏れ出てくる。

 

 

「私の歌が、きっと貴方を守るから」

 

「迸れ!蒼き雷霆(アームドブルー)!偽りの歌を貫き滅ぼせ!!」

 

 




謡精、復活。


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輪廻ーリインカーネイションー

解けない心、溶かして。
二度と離さない、貴方の手を。

あどけない寝顔見つめる 月明かり真白の花。
戯れに裂いた水面に 広がって消えていく。
茨の道でも優しさ 此処にある胸の奥に。
解けないココロ溶かした あなただから。


戦況は一変した。

謡精の加護を受けたボクは、パンテーラの力を上回る。

雷撃が、彼女の肌を焼く。

 

 

「馬鹿な……謡精の力は、私にノーマライズされているハズ……!!」

「歌は、ボクの中にある!!」

 

アンリミテッドボルトにより、短時間ボクの力は増幅されている。

オーバーヒートの危険性はもうない。

だって、ナイン……シアンの歌が、ボクに力をくれている!

もう二度と、目の前で失うものか!!

 

「何アレ……本当に人間?」

「喋ってないでトリガー引きなさい!」

 

空中を縦横無尽に飛び回る。

翼のような光が舞う。

 

「ガンヴォルトぉ!!」

 

叫ぶパンテーラ。

弾幕はより苛烈になる。

 

「GV!勝てるんでしょうね!」

 

416が叫びながら榴弾を撃つ。

 

「当たり前だ!」

「しっかりして!」

 

歌声は、まだ響く。

ナインはまだ、歌い続けている。

 

「あの人形の仕業か!小賢しい!」

「させない……!」

「邪魔!」

 

45達が振り払われる。

ボクはパンテーラを蹴り飛ばす。

 

「二度も!私たちの邪魔をするの!?ガンヴォルト!」

「ボクは、お前を許しはしない!」

「許しなど、請いません!」

 

「皆さん……私に、力を!!」

 

 

心からの愛を込めて

 

 

仲間たちよ、家族たちよ

 

 

今再びこの地へと戻れ

 

 

RESIDENT OF EDEN(レジデントオブエデン)!」

 

 

パンテーラの手から、カードが7枚飛ぶ。

この技は……!!

 

「まずい、皆……!ナインを!!」

 

カードから、7人の人が現れる。

ニケ―、ガウリ、アスロック、ニムロド、ジブリール、テセオ、そして……テンジアン。

 

「な、ナニコレ……!?」

「来る!」

 

かつて、エデンを守護せし7人の能力者達。

その力の一端を、パンテーラは召喚出来る……!

 

炎、水、糸、氷、水晶、およそ考えうる凶器が全て飛来する。

なんとかして受け止めなくては……!!

 

「GV!」

「ライトニングスフィア!!」

 

雷撃の出力を最大まで引き上げる。

これは、凌げば……勝機は見える!

 

「う、くぅ……!?」

 

雷撃鱗で防ぎ切れずに、あちこちが裂ける。

けれど、引けない。

もう、絶対に失うものか……!!

 

「ガンヴォルト……そこまで!」

「パンテーラあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ありったけの力を振り絞る。

ボクの力、全てを込める!

 

「迸れ!!蒼き雷霆(アームドブルー)

 

 

掲げし威信が集うは切先 

 

 

夜天を拓く雷刃極点

 

 

齎す栄光 聖剣を超えて

 

 

「グロリアスストライザー!!」

「う、あ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!?!?!?」

 

雷を纏った蒼く輝く聖剣が、パンテーラの体を貫いた。

 

 

 




終局。
パンテーラは地に伏せる。


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終幕

敵を倒し、傷付き、それでも進む。
決して、誰一人として助ける事が出来なくとも。



鏡が砕け散る様に、パンテーラの体が粉々に砕け散った。

彼女もまた、オリジナルが夢見た偶像の一つに過ぎなかったのか。

 

「やった……のね」

 

誰かが呟く。

 

「GV」

 

歌が止まる。

振り返ると翼を生やし瞳の色や前髪の一部がシアンの色になったナインが立っていた。

 

「ナイン……?」

「ありがとうGV。消え掛けの私を、助けてくれて」

「……ボクは、何もしてないよ」

 

消え掛けの。

それを言われて理解出来ないほど愚かではない。

 

彼女もまた、パンテーラの残滓が生み出したまぼろし。

 

「シアン……」

「偽物の私でも、そう呼んでくれるんだ」

「………………」

「意地悪だったね。ねぇ、GV」

「……何?」

「私の残った力で、貴方を空の向こう……元いた世界に帰してあげる」

「それは……!」

 

45が声を上げる。

……この一件が終わった後、ボクをどうするかは……何となくだけど、分かってしまう。

 

「ごめんなさい」

「……まあ、そうよね。残ったらどうなるかなんて分かり切ってるわよね」

「……45」

「はいはい。そう言うの良いから。上には戦死したって伝えとくわ」

「……ありがとう」

「早く可愛い妹分を返してくれないかしら。ほんと、GVに会ってから非日常の連続よ」

「GV」

 

今度は。416が口を開く。

 

「貴方が来てから、まぁ楽しかったわ」

「そっか」

「GV〜またね」

「11も、ありがとう」

「それじゃあGV。私と共鳴して……空を目指して」

「……うん」

 

ナイン……シアンが、謳う。

 

「45」

「何?」

「ナインに、よろしく」

「………………ええ」

 

解けない心、溶かして二度と。

離さない、その手を。

 

「シアンは……」

「私は、行けないの」

「……そう、なんだ」

 

せっかく、こうして会えたというのに。

 

「GV……オウカの傍に、居てあげて」

「………………っ」

 

ボクは、空を目指して地を蹴った。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ナイン、ナイン」

「う、ううん……はれ?45姉……」

 

名前を呼ばれて、意識が戻ってくる。

 

「大丈夫?ナイン」

「うん、大丈夫だけど……私、何が」

「鉄血の攻撃で一時的にシャットダウンしてたみたい」

 

45姉が指さした方には、バラバラになった鉄血の量産型が散らばっている。

 

「……そうだっけ」

「そうよ。しっかりしてよ?まだ任務は終わってないんだから」

 

45姉に手を引かれて立ち上がる。

全身のチェックを素早く済ます。

特に異常は無いみたい。

 

「……こいつら、何で動いてたんだろ」

「さぁね。こんなのの究明はペルシカにでも投げちゃえば良いのよ。あーあー、こんな辺鄙なトコに来たのに何も手掛かりがないなんて」

 

45姉がボヤくのを聞きながら、ふと。

 

「そうなのかな、G―――――」

 

あれ?

 

だれだっけ。

 

「45姉」

「なーに?」

「45姉、私、416、G11……これだけだっけ」

「もう、まだ寝惚けてるの?()()()()()()()()()()()()

「……そうだね」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

目が覚めてから、一週間が経った。

どうにもボクはまる一日眠っていたらしい。

 

「心配しましたよ、GV」

「ごめんねオウカ……ちょっと疲れてたのかも」

 

テーブルの向かいに座る柔和な雰囲気の女性……オウカは、未だ心配の色の濃い表情をしていた。

 

「大丈夫ですよ、まだまだ……休む時間はたくさんあります」

「そうだね」

「それにしてもGV……夢でも、見ていたんですか?」

「夢……どうなんだろう。とてもやるせない気持ちだったけど」

「……GV、今日は天気も良いですし。出掛けましょう」

 

 

 

――蒼き雷霆の最前線 完

 




ご愛読ありがとうございました。


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