拝啓、天国の父へ。マナリア魔法学院に行く事になりました。 (ハツガツオ)
しおりを挟む

拝啓、天国の父へ。マナリア魔法学院に行く事になりました。

筆者のパソコンにあったものです。


人の行き来で賑わう人里から、少し離れたある山の奥深く。鬱蒼と茂る木々に囲ま

れた獣道を抜けた先。日の光が草に反射し、見晴らしのいい草原にて、二人の人物による戦いが繰り広げられていた。

 

「うぉおおおお――――!!」

「はぁああああ――――!!」

 

 片や黒みがかった鎧を纏った黒髪の青年。片や動きやすい服装である、緑のジャージ姿のの髪のヒューマン族の少年である。青年が携えるのは、燃え盛るような真紅の槍。その穂先は、炎を表すかのようだった。そして、少年の得物は刀だ。しかし只の刀では無い。全長は槍と同等。それでいて刀身は六割、残りは柄の、鍔も見受けられないという既存の物とは一線を画す武器。魔法の類は一切使用しない、純粋な打ち合いが幾度となく繰り広げられている。

 第三者から見れば、命を懸けた決闘とも思えるこの戦い。だが、当人たちにとっては

そうでない。この二人は師弟の関係で――つまるところ、模擬戦である。模擬戦に

してはいささか全力である。特に少年が顕著だが。

 

「ぜぇぇあああああああ!!」

「ふっ……いいぞ、その調子だガルド。どんどん切り込んで来い!!」

「本っっっ当に、おかしいな師匠は! これだけやっても、かすることしかできないって!!」

「経験の差だ、経験の」

 

 笑みを浮かべた青年に軽くあしらわれてしまう。

 少年――ガルドによる連撃を師である彼は裁き続け、真面に喰らえば致命傷を負う様なそれを最小限のダメージにとどめている。――もっとも、そのダメージですら鎧によって阻まれているので無いに等しいが。

 

 それに焦りを感じたのだろう。

 

 ガルドは自身の得物を上段に構え、全身の筋力を総動員。全力全開。

己が持つ全てを以て振り下ろした。 

 

「ぜぇあっ!!」

 

 斜方からの攻撃。剣速も本人の限界で繰り出されたもの。

並みの戦士なら反応すらできない程の速度。青年も「ほぅ……」

と感嘆の息を漏らすと同時に冷や汗を流す。最初と比べて、ここまで育ったか、と。このままいけば、彼の身体は肩から二つに分かたれるであろう。だがしかし――

 

「まだまだ甘い!!」

 

 現実はそう上手くいかないものだ。青年はすぐさま槍を両手で平らに持ち、上部へと構える。そしてそのまま槍の柄と刃が衝突する

 

――瞬間、左手で滑らせるように槍を傾け、斬撃を滑らせるようにいなした。

 

「何!?」

 

 ガルドは驚愕の声を上げる。――今のは完全に決まったと思ったからだ。

 逸らされた刀身はそのまま地面へと激突。草は舞い、土片が跳び上がり、地へと

深い傷跡を残す。少年はその光景に呆ける。

 自身の全力の一撃を、ああも簡単に凌がれては茫然とする。しかし、戦いの最中に

生まれた隙を、青年が逃すはずも無く。

 

「詰みだ」

「くっ……」

 

 首元に槍を当てられる。勝負は師の勝ちで終わった。その結果に弟子であるガルドは悔しそうに俯く。――今回の勝負は、彼にとって最後の試合だった。だからこそ、最後は勝ちで終わりたかった。悔しさで一杯、しかしそれでいて晴れやかに師に対面する。

 

「だあああ! クソ、最後の最後まで勝てなかった……!!」

「俺としてもそう易々負けるわけにもいかんのでな。だが――」

 

 言葉を切って、少年の頭に手をやる。

 

「良くここまで強くなった」

 

 そう言って、笑みを浮かべながらくしゃりと撫でる。

 

「…………!」

 

 師に褒められたことで嬉しくなる。多少なりとも認められたと。が――

 

「だが、まだまだ甘い。剣速ももっと速く、そして精密に。それと最後のアレはなんだ。

戦闘の際には油断するなと、最初にあれ程教えただろう」

「す、すみません……」

 

 この師匠、スパルタである。ダメ出しも容赦ない。

 

 こうして勝負は終わり、師匠のダメ出しを聞きながら、二人はガルドの家である

山小屋へと戻って行った。

 

◇    ◇    ◇

 

 どうも皆さん初めまして。初っ端から戦ってた少年、ガルドです。七歳の頃に父さんが亡くなって師匠に引き取られてから十年間、鍛錬を積むのと並行でこうして時たま手合せをやったりしてきました。いやぁ、今日いきなり師匠が訪ねてきて最後の手合せをするぞとか言うもんだから、こっちも本気でやる羽目になりました。……結局一度も勝てなかったけど。

 で、試合が終わって自宅に戻ってきて中に入ると、褐色肌の薄着の女性がテーブルに

着いていた。湯呑みのお茶を啜りつつ、絵物語を読みながら。

 

「おお、戻ってきおったか」

「……何でいるんですか、義姉さん」

「なんじゃとはなんじゃ、折角お主の顔を見に来たというのに」

 

 そう言ってぷくっと頬を膨らませてもダメですよ。今までの行動を顧みてから言って

くれません? この前なんて、ルーマシーの遺跡に突撃したから肝が冷えましたよ。この人といい師匠といい、無駄に行動力があるだけでなく、飛行能力があるせいで、他の島への移動に騎空挺いらずだから、尚更性質が悪い。これに警戒心を抱くなという方が無茶である。

 あともうこれ以上絵物語を持ち込んで増やすのは止めてください。販売会がある度に購入してくるもんだから、本棚が一杯なんです。というか、放置しないで欲しいのですが。

 

「別にいいじゃろう、お主も読んでおるんじゃし」

「ええ、おかげでネタがこれでもかというぐらいに増えましたよ……ってそうじゃない。そろそろ読まないやつを処分したいんですが……」

「ダメじゃ」

「何でじゃ」

「当たり前じゃ! 妾のこれくしょんを勝手に捨てるでない!!」

「ここ俺の家なんですが……」

「妾のものは妾の物。そして、お主の物は妾のものじゃ!!」

「どこのガキ大将だアンタは」

 

 そんなやり取りをしていると、師匠が外から戻ってきた。その顔には、呆れの色が浮かんでいた。

 

「相も変わらず、お前らは飽きないな……」

「それは義姉さんに言って欲しいんですがねぇ……っと、そうだ。お二人に聞きたいことが」

「何だ?」

「何故二人して、俺の元に?」

 

 普段なら偶にやってきては俺と手合せをするか、俺をおちょくって帰って行くか、絵物語を放置してから帰るかのどれかだ。もしくは俺を連れて、他の島へとダイナミックエントリーするか。だが、それは師匠か義姉さんのどちらか一方のみだ。二人してやってくるときは、大体何かある。

 今日だってそうだ。最後の手合せと言って模擬戦をやったのだから、これは最早確定だろう。それを伝えると、師匠が鎧から何かを取りだし、俺に渡した。

 

「これは……封筒?」

 

 裏を返して、差出人を見ると……へえ。マナリア魔法学院ねぇ。

 

 マナリア魔法学院。そこは、ファータ・グランデ空域にて最高峰の魔法学校であり、多くの生徒達が種族の枠を超えて学問に勤しむ場所だ。最古の魔法図書館でもあり、学院内の魔法図書館には入門用の魔道書を始め、それこそこの空域に一冊しか無いような禁書まで幅広く莫大な量の書物がある。

 だが問題は、何故師匠が学院からの手紙を持っているのかだ。少なくとも師匠とは縁が少ないはずだ。いや、まあ、風魔法と炎術魔法の組み合わせたもので空飛んでるけども。義姉さんは義姉さんで、翼があるし、風魔法に精通しているし。

 けれども、この二人が学院の関係者と知りあいからこれを貰っただけで来るはずが無い。そう思って、師匠達を見ると……二人して笑っていた。その光景に嫌な予感を感じつつも、言葉を促す。

 

「……師匠。これは一体なんですか?」

「開けて見ろ」

 

 そう言われて、中身を取り出すと……。

 

「受験票……――って、おい! ちょっと待て!? 何でこれがあるんだよ!? しかも俺の名前入りで!!」

「何でって、俺達が申し込んだからに決まっているだろう?」

「当たり前のように言ってんじゃねえよ!! 何時誰が受けると言った!? マナリアのマの字すら会話に出してねえのによ!!」

「マナリア魔法学院へ行け。答えは聞いていない」

「お主はマナリアを受けろ、いいね?」

「アッハ――じゃない、説明を放棄すんな!! まるで意味が分からんわ!!」

「考えるな、感じろ」

「そうじゃそうじゃ、察しの悪い奴め。勘の良い奴は嫌いじゃが、鈍すぎるのも好きでない」

「何で俺が悪いみたいになってんの、ねえ!? 俺何一つ悪くないよね!? むしろ悪いことやってんのはアンタ達だよね!?」

「さて、これについて説明するか」

「人の話を聞けぇぇぇえええ!!!」

 

 肺の空気と一緒に一気に捲し立てたせいで、息が切れる。あーもう、本当にこの人達は……つまりはそういう事か。最後の勝負だの言ってたのは、俺を遠く離れた地であるマナリアへと送るために、しばらく会う事が出来ないからこそってことか。そう伝えると、師匠はうんうんと頷いた。

 

「その方が本気を出すと踏んでいたからな」

「この人は……!」

「あははは! 見事に嵌められたのう!!」

 

 そう言って義姉さんはケラケラと笑う。だまらっしゃい。ああいう風に、しかも有無を言わせない雰囲気を出されたら誰だってそうするしかないでしょうが。俺だってそうしたんですし。……ってそうじゃない。何で俺をマナリアに送るんですか。

 

「お前の父との約束でな。武術と魔法、その両方を鍛えてやってくれと言われたんだ」

 

……そうだったのか。俺の父と師匠は種族こそ違うものの、互いを認め合う友だったと聞いていた。その父の願いを汲んで、俺を魔法学校に行かせようと……。

 

「師匠…………

 

 

じゃあ何で、武術一辺倒だったんですか」

 

「…………(サッ」

「いや、こっち見ましょうよ」

 

 目、逸らすなよ。そもそも魔法学校に行かせるのが分かりきってるなら、多少なりとも魔法も教えて欲しかったんですが。それを何がどうして物理特化になったんですかねぇ……。おかげでそこいらの魔物や盗賊には遅れをとりませんけど。

 

「だったら良いだろう。細かいことは言うな」

「開き直ってんじゃねえよアンタは」

 

 あまりに清々しい開き直りっぷりに、こちらも素で返してしまう。まあいい、仕方ない。試験の為にも、今から準備を始めないと。

 

「ちなみに試験日は?」

「一ヵ月後じゃ」

「ふざけてんのか」

 

 残り一ヵ月? これは無理だわ。具体的に言うと、帝国の本拠地に素手で殴り込みに行く位。それを乗り越えろとか、不可能にもほどがあるわ。こちとら座学とはほぼ無縁だぞ。無理だ無理。そんな最初から分かりきってる事なんて、どうしようもn――え、ちょ、何で二人ともいい笑顔で迫ってくるんですか。その両手に持っている参考書の数々は……え? 俺に覚え込ませる為? はっはっは、冗談キツイですね二人とも。試験までは残り一ヵ月なんですよ? そんなもの覚えられる訳がな――やめろォ! 離せ!! 縄で拘束するんじゃねえ!! というか、何だこの縄は!? これだけ力を込めても切れないとか!!

 こうしている間にも、無情に着々と進められていく。

 

「まずは魔法基礎からだな」

「うむ、その次は錬金術じゃ」

 

 く、来るな! じりじりと来るんじゃない! やめろ……やめろ…………

 

「俺のそばに、近寄るなぁぁああああああッ!!」

 

 

――こうして一か月間、彼はみっちりと缶詰状態で勉強をさせられた。それはもう、

二度と思い出したくもやりたくも無いレベルで。

 

 そして月日が過ぎ、精神と肉体共にボロ雑巾の状態で試験を受けに行ったのだった。

 

 絶対に受かるわけないだろと思いながら――――。

 

 

――試験から一ヵ月後――

 

「喜べ。合格通知が届いたぞ」

「嘘ォ!?」

 

――――かくして、ガルドのマナリア行きは決定したのだった。

 




供養なので続きません。それと以下は登場人物の説明。

ガルド……七歳の頃、師匠に引き取られた少年。以降は彼を父の様に慕って成長した。使う武器は長巻(刀の刀身と柄を長くしたもの。大太刀等に近い)。最近の悩みは、友達がいない事と義姉が入り浸っていたり、師匠が無茶振りをしてきたりすること。ちなみに脳筋。

師匠……ガルドを引き取った、若々しい青年。正体は星晶獣ナタク。ガルドが持つ武器"砍妖刀"は、ガルドの父親の武器を加工し、自身の力を付与して作ったもの。最近、ガルドが更に強くなっているので、ついつい無理難題を押し付けてしまう。本人曰く、「ガルドは俺が育てた(ドヤッ」

義姉……ガルドをからかう義姉であり、正体は星晶獣ガルーダ。ナタクがガルドを引き取ったばかりの時、父を失った悲しみで泣き続けていた為、ほとほと困ったナタクが「ど、どうすればいいんだ――!!」と半泣きで頼った相手。ナタクとは昔からの知り合いらしい。最近ガルドをからかう事が楽しいのと、一緒に居ると何故か心がポカポカするので、ついつい通い詰めている。

ガルドの父……星晶獣ナタクと友人関係のヒューマン族の男性。魔法と刀の扱いに長けていたらしい。故人。生前は、自らの強さを試す為にあちこちの島へと腕試しの旅をしていた。その際、ナタクの武勇を聞いたので挑むことに。結果は引き分けになったが、それ以降は共に語り合う仲に。しかし病には勝てず、病死。間際に、旅先で拾った子供であるガルドと自身の武器をナタクに託した。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。