咲-Saki- 阿知賀編入 (いうえおかきく)
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第一部:転校~春季大会
一本場:アナグラム


インターハイ団体戦決勝大将戦は、『みなも -Minamo-』(訳あってR-18ですが)と基本的に同じになりますので、詳細は、そちらをご参照ください(第三局になります)。


 インターハイ団体決勝戦は、予想に反し、先鋒戦から大波乱の展開だった。

 起家の清澄高校片岡優希のダブルリーチ、天和、ダブルリーチから始まった。しかし、優希はその後、徐々に削られた。

 次鋒戦、中堅戦は、大きな和了こそあったが、先鋒戦に比べれば大波乱と言うような展開ではなかった。

 しかし、場は副将戦で再び大きく荒れた。東三局、先制リーチをかけた原村和が、阿知賀女子学院の鷺森灼の筒子純正九連宝灯に振り込み清澄高校は多く後退。その後も精神的ショックからか和の振り込みが目立ち、大失点を記録した。

 そして、大将戦。

 

 後半戦オーラス開始時の点数は、

 東家:阿知賀女子学院 101100

 南家:白糸台高校 116800

 西家:臨海女子高校 112900

 北家:清澄高校 69200

 

 清澄高校は、役満をツモ和了りしても出和了りしても優勝できない。

 当然、誰もが清澄高校大将の宮永咲は自ら負けを決める和了りはせず、和了り放棄してくるものと思った。

 しかも、咲以外が優勝を目指して勝負。まさかの三人リーチ。

 ところが、白糸台高校大星淡が{中}をツモ切りすると、

「ポン!」

 咲が動いた。

 

 次巡、阿知賀女子学院高鴨穏乃と淡がツモ切りした後、臨海女子高校ネリー・ヴィルサラーゼが{發}をツモ切りした。すると、

「カン!」

 咲が、すかさず大明槓した。嶺上牌は{白}。そして、

「もいっこ、カン!」

 そのまま{白}を暗槓した。

 本大会では、連槓で役満確定の副露がなされた場合、連槓の最初が大明槓であれば、その大明槓をさせたプレイヤーの包となるルールが適用されていた。

 そのため、この連槓で、ネリーの大三元の包が確定した。

 続く穏乃はツモ切り。そして、その次にツモった淡の牌は、{③}だった。淡は、自身の和了り牌ではないのでツモ切り。すると、

「カン!」

 咲が再び大明槓してきた。そして、

「ツモ、嶺上開花。大三元。」

 まさかの役満ツモ。

 しかも、この和了りは大明槓による責任払いと大三元の包が適用される。つまり、淡とネリーが16000点ずつ支払う。

 その結果、各校の順位と点数は、

 1位:清澄高校 104200

 2位:阿知賀女子学院 100100

 3位:白糸台高校 99680

 4位:臨海女子高校 95900

 咲が見せた清澄高校の奇跡の逆転優勝であった。

 

 そして個人戦でも…。

 決勝卓は前年度チャンピオン宮永照、清澄高校宮永咲、千里山女子高校園城寺怜、永水女子高校神代小蒔の戦い。

 前半戦は、連続和了のスイッチが入った照から、咲が大明槓による責任払いを仕掛け、そのまま咲が首位を勝ち取った。照は打点上昇のため、どうしてもリーチに頼らざるをなくなる場面がある。そこを咲が狙い撃ちしたのだ。

 後半戦は、咲が十八番のプラスマイナスゼロを披露した。

 そして、総合得点で咲が照を上回り、咲の優勝で幕を閉じた。

 

 

 大会が終わり…、時が過ぎ、今日は8月31日。

 阿知賀女子学院麻雀部の一年生と二年生の部員は、顧問兼監督の赤土晴絵に召集された。と言っても、たった四名だったが…。

 夏休み最終日にいきなり呼び出されて、一年生の新子憧は不満タラタラであった。

「別に宿題が終わってないわけじゃないからイイけどさ。最後の日くらいゆっくりしたかったわよ。」

「そうだ! 憧、宿題写させて!」

 一年生の高鴨穏乃は、まだ一部宿題が残っていた。いや、一部やって殆ど残っているが正解か?

「穏乃ちゃん。それはダメですのだ!」

「私もそう思…。」

 二年生の松実玄と鷺森灼の言葉だ。

 今、阿知賀女子学院麻雀部は三年生の松実宥が引退して部員が四人しかいなかった。

 団体戦に出場するには一人足りない。今後、どのように部員を勧誘するかは、大きな課題となっていた。

 しかし、誰でも良いと言うわけには行かない。仮にもインターハイ準優勝校だ。憧れで入部してくる人はいるかもしれないが、戦力になってくれないと困るのだ。

 部室の扉が開いた。

「おお、みんな。休み最終日に済まないな。」

 晴絵が見知らぬ女生徒を連れて入ってきた。その女生徒は、ストレートのロングヘアで赤いメガネをかけていた。

 雰囲気は捕食者と言うよりは被捕食側の小動物。すくなくとも、麻雀の強者にだけは見えなかった。

「ハルエ、その人は?」

 憧の問いに晴絵が答えた。

「転校生の弥永美沙紀さん。麻雀部入部を希望している。それで、今日のうちに紹介したくてね。」

 オドオドしながら美沙紀が、

「弥永美沙紀です。弥永は、弥生の弥に永遠の永。美沙紀は美しいに、サンズイに少ない、それからイトヘンに己です。1年生です。よろしく御願いします。」

 と言いながら深々と四人に頭を下げた。

 ただ、この雰囲気から憧は美沙紀に、

「(余り期待できないかな。)」

 と思った。

 これが憧の美沙紀への第一印象だ。

 一方、穏乃は不思議そうな顔で美沙紀の匂いを嗅ぎだした。

「あれ? この匂いって…。」

 どこかで嗅いだ記憶があるようだ。

 これを見て晴絵は、

「ちょっとシズ。失礼だし、そこまでにしてくれないかな。」

 と言いながら、穏乃の口を後から手で塞いだ。

 そして、憧、玄、灼に向かって言った。

「インターハイでは準優勝だったけど、春季大会では優勝を狙う。勿論、春季大会の出場権を確実に得るためにも秋季大会では奈良大会も近畿地区大会でも優勝を狙うよ。そこでだ。これで五人揃ったところだし、阿知賀の洗礼と言うことで、憧! 玄! 灼!」

「「「はい!」」」

「美沙紀と一局打ってもらうよ。」

 すると、憧が、

「でも、一応、阿知賀は準優勝校だからね。私達、それなりに強いけど。ハルエ、その子、大丈夫?」

 と言った。単なる数あわせで入部されたくないゆえの発言だ。

「まあ、それは大丈夫じゃないかな。彼女も一応インターハイには出場していたみたいだから。」

「えっ? どこの高校?」

「まあ、それは、打ってからのお楽しみと言うことで。じゃあ、手合わせ頼むよ。」

「…。」

 憧は、晴絵が何か企んでいるような気がしてならなかった。

 しかし、美沙紀に負けるとは思えない。

「(まあ、一つガツンと行ってやろっか…。)」

 これが、この時の憧が心の中で呟いた言葉だった。

 

 早速、憧達は美沙紀と卓を囲むことになった。ルールはインターハイと同じ。

 場決めがされ、起家は玄、南家は憧、西家は灼、北家は美沙紀になった。

「ちょっと、失礼します。」

 美沙紀が上履きと靴下を脱いだ。チャンピオンのマネだろうか?

 

 東一局、玄の親。

 全てのドラは玄に集まる。勿論、この局も例外ではない。いきなり、

「ツモ! ドラ7。8000オールです!」

 親倍ツモ。

 玄は勿論、憧も灼も、この一撃が阿知賀女子学院から美沙紀への洗礼の第一弾のつもりでいた。

 しかし、東一局一本場。

 筒子多面聴に向けて灼が、

「リーチ!」

 切ったリーチ宣言牌の{⑧}を、

「ロン。タンピン三色。7700の一本場は8000です。」

 美沙紀が和了った。

 この時、灼にも憧にも美沙紀の聴牌気配は感じられなかった。しかも、玄にドラを独占された中での満貫級の綺麗な和了り。まさかの直撃であった。

 

 東二局、憧の親番。

「チー!」

 得意の無き三色での和了りを目指す憧。

 しかし、そこでの浮き牌の{九}を

「ロン。中チャンタ一盃口。8000です。」

 美沙紀に狙われた。

 今回も、憧にも灼にも美沙紀の聴牌気配は読めなかった。

 

 東三局、灼の親。ドラは{⑧}。

 ここで美沙紀は、

「カン!」

 東を暗槓した。新ドラは{3}。

 そして、嶺上牌を引いてくると、

「もいっこ、カン!」

 美沙紀は連槓した。今度は{九}を暗槓。そして、新ドラは{七}。

 これでは、ドラを全て独り占めする玄の手がとんでもないことになる。恐らく、余裕で数え役満になるだろう。憧と灼は、

「「(余計なことしてくれて…。)」」

 と思っていた。

 しかし、玄は逆に青い顔をして震えていた。

 

 それから三巡後、玄の手牌は、

{[五]七七七[⑤][⑤]⑧⑧⑧333[5]}

 

 全てがドラ。

 ここに{七}をツモってきた。

 和了っていない以上、玄は、嫌でも何かを切らなければならない。ドラしか無いのだから強制的なドラ切りだ。

 しかし、ドラを切ると玄は、しばらくドラが来なくなってしまう。この局面では仕方がないことだが…。

 ここは、一応聴牌に取る。そして、震える手で打{[5]}。

 すると、

「カン!」

 美沙紀が大明槓した。そして、

「ツモ! 東中対々三暗刻三槓子嶺上開花。」

 三枚目の新ドラは{5}。よって、ここに赤ドラを含めてドラ5が加算された14翻の手。

 数え役満だ。

 まるで、ドラが玄を裏切って美沙紀に寝返ったかのようだ。

「32000です。」

 玄の目に涙が溢れてきた。強制的なドラ切りに責任払いの数え役満。これだけ不幸が続けば当然だろう。

 

 東四局、美沙紀の親。

 憧は、この時、

「(なんか美沙紀の麻雀って見覚えが…。それに弥永美沙紀って…もしかして!)」

 何かに感づいた。

 それを余所に、美沙紀は、

「カン!」

 ここでも暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花ツモダブ東ドラ4。8000オールです。」

 余裕で親倍をツモ和了りした。

 またもや美沙紀の手牌には大量のドラがあった。完全にドラからの忠誠心を玄から全て奪い取った感じだ。

 

 東四局一本場。美沙紀の連荘。

 ここで、憧はドラを抱えたクイタンで早和了りを目指した。これ以上、美沙紀に和了らせてはならない。しかし、

「ロン! 一盃口ドラ2。7700の一本場は8000です。」

 今度はガードの甘い玄が、吸い込まれるかのように美沙紀に振り込んだ。いや、前の巡で憧が切った牌での和了りだ。

 もし、憧の捨て牌で和了っていれば憧のトビ終了。しかし、何故か美沙紀は、そうしなかった。理由はともかく、玄は狙われたのだ。

 これで美沙紀以外の点数は三人とも1000点になった。

 

 東四局二本場。

 憧が捨てた{一}を、

「ポン!」

 美沙紀が鳴いた。無理に攻める必要がない点差なのに、美沙紀は手を緩めない。

 次巡、

「カン!」

 {一}をツモって美沙紀が加槓した。そして、

「嶺上開花。800オールの二本場は1000オールです。」

 嶺上開花のみの手。

 信じられないことだが、これは嶺上牌で絶対に和了れることが分かっているとしか思えないような和了りだ。

 これで、美沙紀が以外は全員0点になった。完全なる点数調整。

 

 そして、東四局三本場。

「カン!」

 七巡目で美沙紀が{西}を暗槓した。そして、

「ツモ! 四暗刻。16300オールです。」

 この巡目での役満ツモ。

 これで、全員トビで終了した。

 玄も灼も言葉が出なかった。余りにも衝撃的過ぎたのだ。

 しかし、憧だけは、ある程度の平静を保っていた。ショックは受けたが、対局中に全てを理解していたので玄や灼ほど落ち込まなかったと言ったところだろう。

「ハルエが言ってた阿知賀の洗礼って、私達から美沙紀にって意味じゃなくて、美沙紀から私達にって意味だったんでしょ!」

「まあね。いつ気が付いた?」

「東三局が終わった時。それと、美沙紀。」

「は…はい?」

「弥永美沙紀は宮永咲のアナグラムでしょ? もう分かってるんだから、ダテメガネとカツラを外してくれる?」

 これを聞いて、晴絵は、

「(名前を考えるの、結構凝ったんだけどな…。)」

 と思っていた。

 美沙紀…いや、咲がメガネとカツラを外した。

 パッと見た目は被捕食側の小動物。しかし、卓に付くと最強生物。

 その姿に、玄も灼も驚くしかなかった。まさか、宥の代わりに一人欲しいと思っていたところにインターハイチャンピオンが転校してくるとは…。

「今思えば、シズが匂いに反応したところで気付くべきだった気がするわ。これなら、宥姉の穴を埋めるどころか、穴を埋めてさらにおつりがくるくらいだし…。でも、本当に阿知賀に転校してきたの?」

「お父さんの転勤で…。勤めていた会社が別の会社と合併して、こっちの営業所に異動になって…。」

 咲は、急にオドオドし出した。さっきまでの最強生物の風格は一瞬にして消え去った。

「でも、清澄は?」

「実は、私以外の1年生も転校が決まって…。優希ちゃんは臨海女子にスカウトされて転校。和ちゃんも父親が都内の法律事務所に誘われて、それで東京の学校に転校するって言ってた…。」

 ちなみに臨海女子高校は優希を獲得するために学食のメニューにタコスを新しく追加した。しかも30種類と、優希を引き抜くための環境を整えていた。

 学費もタダ。

 それで優希は、喜んで転校を決めた。

「じゃあ、清澄は実質解体ってこと?」

「うん。」

「でも、サキが阿知賀を選んでくれて良かった。でも、どうして阿知賀にしたの?」

「和ちゃんが、こっちにくるなら阿知賀女子がイイって薦めてくれて、それで…。」

「(和。グッジョブ!)」

 憧は、心の中でそう言いながらガッツポーズを取っていた。

 県民未踏の団体戦全国優勝に向けて、期待が大きく膨らんだ瞬間だった。




大三元の包について、今回の形では包にならないのではないかとのご指摘がございました。他にも、そう感じる方がいらっしゃるかと思います。

ここでは、『連槓に対しても責任が発生するローカルルールが適用されている』ということで御容赦ください。他の役満でも同様です。
また、それを説明する文章も追記しました。

書いている時に、ご指摘されたことを考えましたが、
「連槓からの方が劇的に感じるかな」
と思って敢えて今回の形にしました。


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二本場:点数調整?→点棒支配

「玄も灼も憧も、今日の咲との対局を覚えておいて欲しいんだ。多分、今後、他校が結託して阿知賀対策にやってくる可能性があるからね。」

 晴絵は、予め咲に、玄と灼と憧を徹底的に叩き潰すよう依頼していた。

 玄はドラを独占するが、今回のように手牌の全てがドラになることはレアだろう。

 しかし、ドラの種類が増えれば玄の手牌はドラで溢れてくる。そして、ドラを含んだ順子がドラ刻子に変わる時、必ず河に出てくる牌がドラそばである。

 ならば、ドラを増やせば中盤以降に何が切られるのか、ある程度想定できる。ドラそばか、新ドラのそばか、赤牌のそばだ。

 それでも種類は多いが、三人で手分けすれば誰かしら玄から和了れるだろう。

 たしかに一人で新ドラを作ることは難しい。咲でなければ、通常はホイホイ槓などできやしない。

 しかし、他家三人が結託すれば可能だ。三人とも玄からのみ和了る意思確認さえできれば、刻子を持っている者が敢えて大明槓すれば良い。

 一歩間違えば玄に数え役満を和了らせることになるが、玄にドラやドラそばを確実に切らせる方法としては有効だ。

 それに、玄がドラを切ることでドラ支配がなくなることを他校に知られたら、当然、玄対策に拍車がかかるだろう。

 今の玄からドラ爆能力を差し引いたら三軍以下の技量しかない。ドラ切りによる副作用は絶対にバレてはならないのだ。

 よって、阿知賀女子学院としても対策を考える必要がある。玄の改造だ。

 

 灼は、筒子多面聴が特徴である。ただ、今回のように筒子多面聴に移行する際に切る牌を狙われることが考えられる。

 過去の灼の牌譜を見返してみると、待ち牌の少ない筒子待ち聴牌から筒子多面聴へと移行するケースが多い。ならば、筒子待ちで灼を討ち取れば良い。

 これくらいのことは、千里山女子高校や姫松高校クラスであれば、既に考えていることだろう。

 そうならないためにはどうするか?

 一向聴から直接筒子多面聴に移行することだろう。そのためには、牌効率だけを考えてはダメと言うことになる。敢えて聴牌にとらずに一向聴のまま完全安牌を残すなどの工夫が必要だろう。

 普通は、それくらい考えると思うが…。

 ただ、それをやってこなかったのは、過去に晴絵が親の時に見せた効率的な麻雀…受けの広い一向聴から悪形聴牌、そして多面聴へと移行して行く打ち回しが灼の心に印象深く残っているからだろう。

 それを意識改革する必要がある。そのためには、その打ち方の弱点を教え、晴絵が牌効率以外にも気を配る麻雀を教えれば良い。

 

 憧もデジタル打ちを基本とするがゆえに牌効率が優先される。そのため、鳴き三色や鳴き一通を作る際、鳴いた時に晒す牌の近くを切ることが多い。例えば{二四五}から{三}を鳴いて{横三二四}を副露し、{五}を捨てると言った打ち方をする。

 そのため、憧が作っている役が鳴き三色であれば、最初に晒した牌の色違いで近い数字の牌で待てば憧が振り込んでくれる可能性は高い。役は決め打ちしているくせに牌効率も視野に入れている弊害と言えよう。

 彼女の場合も、灼と基本的に同じパターンだ。デジタルゆえの弱点とも言える。そこに敢えて非効率性を組み込んで、振り込み回避にも今以上に気を配らなければならない。

 それと、咲の聴牌気配を読み取れるくらいの観察力は必要だろう。

 

 穏乃については、山支配さえ発動していれば言うことはないが、穏乃一人の力では団体戦を勝ち抜けることはできない。

 穏乃の麻雀は攻撃よりはむしろ能力を無効化する守りの麻雀。照や衣のような爆発的な稼ぎを期待することができない。点棒を稼ぐのは、むしろ玄や灼の仕事だ。

 

 インターハイでは、マークされていなかったから勝てた。しかし、これからは徹底的にマークされる。

 これが全国2位、準優勝校の宿命である。

 

 

 9月に入り、国民麻雀大会が開催された。

 高校二年生と三年生がジュニアAリーグ、高校一年生と中学三年生がジュニアBリーグに区分され、各リーグで各都道府県の代表者5人でチームを組み、団体戦が行われた。

 メンバーは、7月末時点での所属で決めるルールになっており、長野県ジュニアBチームは、旧清澄高校メンバーを主軸にチームを組んだ。

 先鋒に優希、次鋒にステルスモモこと鶴賀学園の東横桃子、中堅には平滝高校の南浦数絵、副将は和、大将に咲のドリームチームだ。

 ただ、この時点では旧清澄高校麻雀部の解体と一年生部員三人の転校については明かされなかった。

 長野Bチームは、一回戦を次鋒戦、二回戦を中堅戦、準決勝戦を副将前半戦、決勝戦を副将後半戦で他チームをトバし、大将の咲まで回すことなく圧倒的な力で優勝を決めた。

 一方、奈良Bチームには、憧と穏乃と対等に戦えるだけの有望株がいなかった。この二人を主軸として何とか決勝戦まで勝ち残ったが、やはり長野Bチームのほうが、全体的にレベルが高かったと言えよう。

 また、穏乃も憧も、二人に対して他校の生徒がどのような対策を練ってくるかを懸念していたが、相手の力量不足か、それとも隠しているのかは分からなかったが、特に対策を講じられた様子は無かった。

 

 ジュニアAでは、奈良チームはかなりの苦戦を強いられた。

 インターハイ準優勝校の阿知賀女子学院と晩成高校メンバーで結成され、玄が次鋒、宥が中堅、灼は副将で出場した。

 ちなみに先鋒は小走やえだった。

 一回戦から準決勝戦まで、次鋒戦では、玄がドラ爆和了りを決める前に、他家が結託して安和了りで場を回した。玄に一度も和了らせない戦法に出たのだ。

 ただ、現段階では咲のようにドラを増やして玄の手から自由度を奪う戦略に出るほど度胸ある打ち手はいなかったのは救いだったが…。

 灼は、予想通り筒子多面聴に移行するところを狙われた。これは、阿知賀女子学院が完全に研究されている証拠だろう。

 結局、奈良Aチームは準決勝で姿を消した。

 ジュニアAリーグの決勝戦は、東京チーム、大阪チーム、長野チーム、鹿児島チームの対決となり、東京チームが優勝、長野チームが準優勝、大阪チームが3位だった。

 

 

 10月に入り、県予選が開催された。

 この日、咲は阿知賀女子学院で初めて対局した時のように、ダテメガネをかけてカツラを被っていた。宮永咲が阿知賀女子学院に転校してきていることをギリギリまで隠そうとしているのだ。

 出場校は32校。

 一回戦は1位のみが二回戦進出となり24校が敗退する。

 二回戦は2位までが決勝戦に進出できる。インターハイ予選の時と同じだ。

 

 阿知賀女子学院は第一シード。初日第一試合だった。

 なお、今回はシードでも一回戦免除にはならない。あくまでも強豪同士が序盤で潰し合わないように夏の大会成績を基に振り分けただけである。

 秋季大会は、インターハイ予選の時とは違い、メンバーを固定せずに毎回順番を入れ替えることが可能になっている。

 一回戦は、先鋒に憧、次鋒に玄、中堅に灼、副将に穏乃、大将に咲のオーダーだった。

 ただ、オーダーは対局室に選手が来てはじめて知らされるシステムになっていた。よって大将戦まで回らなければ咲の存在を知られることはない。

 一回戦レベルでは、まだまだ玄への対策を立てられるほどの対戦相手はなかった。しかも次鋒の選手となれば、エース級からは数段落ちる。

 結局、玄のドラ爆の前には歯が立たず、玄対策も立てられぬまま、次鋒戦で決着がついた。高火力で和了る玄が他校をトバして終了したのだ。

 この様子を、観戦席で千里山女子高校の船久保浩子が見ていた。

 関西大会では、阿知賀女子学院が最大の敵と言ってよいだろう。それで、わざわざ偵察に来ていたのだ。

「(あいかわらずのドラ爆…。コクマ(国民麻雀大会)の時みたいに和了らせずに安手で回すのがベターかな。)」

 浩子は、この時点では咲が玄に対してやった戦法までは考えていなかったようだ。

 

 二回戦も一回戦と同じオーダーだった。

 ただ、一回戦とは異なり、他家が結託して玄相手に安和了りで回す戦法を取ってきた。一回戦よりは敵のレベルも高くなっている。

 そのため、中堅戦に回った。

 しかし、中堅の灼は筒子多面聴への移行の際に筒子を捨てるのではなく、完全安牌の字牌を取っておき、それを捨ててリーチをかけた。

 付け焼刃かもしれないが、これで他家の筒子待ちを回避した。

 そして、副将戦。点数が最も低いチームを穏乃が狙い撃ち、トビ終了させた。

「(ボーリング娘も深い山の主も健在…。しかも、ボーリング娘は筒子多面聴移行時を狙われるのを前提にして打ち方を補正してきている。さすがにコクマの時のようには行かないか…。)」

 浩子は、そう思いながらメモを取っていた。

 ただ、阿知賀女子学院は三年生の松実宥が引退している。ならば、もう一人選手がいるはずだ。しかし、その選手はいまだに姿を現さない。

 普通に考えれば、インターハイに出場していなかった以上、今の四人よりも劣る選手と言うことになるが…、やはり気になる。

 そのデータが取れないことに、浩子は少々ヤキモキしていた。

 

 決勝戦は明日行われる。

 今日は一旦帰って出直そう。大阪からなら朝早く出発すれば決勝先鋒戦には間に合う。

 浩子は、そう思いながら観戦室を出た。

 通路に出たところで浩子は、和気あいあいと話をしながら歩いてくる面々に遭遇した。

「今日はホテルに泊まるよ。」

「阿知賀からの連続日帰りじゃきついもんね。」

 阿知賀女子学院のメンバーと監督だ。

 知っている顔ばかりだが、一人だけ知らない顔の娘がいる。ストレートのロングヘアで赤いメガネをかけた娘だ。

 どこかで見た感じはあるが、少なくとも強者には見えない。妙にオドオドしていて弱々しい雰囲気だ。

 いずれにしても被捕食側の小動物のようなタイプだろう。

 その娘が、何もないところで突然つまづいた。ドジっ子属性もあるようだ。

「いったーい。」

「なにやってんのよ、美沙紀。」

「憧ちゃん、待ってよぅ。」

 浩子は、

「(この娘が阿知賀の五人目? 大したことなさそうやね。)」

 まさか、この少女が秋季大会で関西地区に旋風を巻き起こす化物だとは、浩子は夢にも思っていなかった。

 

 

 翌日、奈良県予選決勝戦が行われた。

 これから先鋒戦が始まる。

 阿知賀女子学院からは、対局室に憧と美沙紀に扮した咲が来ていた。

「とうとうお披露目か。」

「仕方がないよ。今日、東京都大会が始まるらしいし、そこで和ちゃんと優希ちゃんが出場するから旧清澄の解体がバレちゃうからね。」

「でも、周りの反応が楽しみだな。じゃあ、ハルエに言われたように、情けをかけずに徹底的に暴れ回ってよね!」

「分かってるよ、憧ちゃん。」

「あと、タコスね。これを食べると起家になれるって都市伝説があるって本当?」

「長野限定だけどね。それと、対局室まで連れてきてくれてありがとう。」

「まさか、ここまで方向音痴とは思っていなかったけどね。今日は先鋒戦だけで終わらせてよ。必ず。」

「善処します。」

 観戦室の巨大モニターに咲の姿が映し出された。

 待望の阿知賀女子学院五人目の姿だ。

 これを見て浩子は、

「(やっと出てきたか。やっぱり、あの赤メガネの子か…。まあ、関西大会には決勝進出した4校が出られるから、ここは負けても構わないってことかな?)」

 と思っていた。

 全国準優勝時のメンバーよりも強い者がいるなんてそうそう思えない。

 

 咲がタコスを口にした。

「(優希ちゃん、ちょっとだけ力を貸してね。)」

 そして、咲が場決めの牌を引くと、タコスパワーが効いたのか、その牌は狙ったとおり{東}だった。

 咲は卓に付くとメガネとカツラを順に外してサイドテーブルの上に置いた。

 その姿に、誰もが目を疑った。

 何故ここにインターハイチャンピオンが?

 観戦室全体がざわつき始めた。そして、アナウンサーの声が、これに追い討ちをかけた。

「阿知賀女子学院先鋒は宮永咲選手です。父親の転勤で、この9月に清澄高校から阿知賀女子学院に転校してきたとのことです。」

 これを聞いて浩子は、

「(ゲッ! これってヤバイんじゃ…。急いで監督に連絡しないと…。)」

 慌てて監督の愛宕雅恵にメールを入れた。

 

 東一局がスタートした。

 ルールは各校100000点持ちの点数引継ぎ制。赤ドラ4枚入りでダブル役満以上あり。ただし、単一役満でのダブル役満は認められない。

 大明槓からの嶺上開花はインターハイとは違い責任払いではなくツモ和了りとする。

 

 咲は、早速靴下を脱いで最強スイッチを入れた。

 そして、序盤からいきなり、

「カン!」

 暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花ツモドラ1。60符3翻は3900オールです。」

 得意の嶺上開花で和了った。

 

 東一局一本場。

「ツモ! ダブ東ツモ嶺上開花ドラドラ。6100オールです。」

 

 東一局二本場。

「8000オールの二本場は8300です!」

 

 東一局三本場。

「12300オール!」

 

 東一局四本場。

「ツモ! 嶺上開花、字一色。16400オール!」

 

 まるで、前チャンピオン宮永照の連続和了を思わせるような点数上昇であった。しかし、今対局しているのは照ではなく咲である。点数上昇の縛りはない。

 と言うことは、この点数上昇には別の意図が隠されていると浩子は考えていた。

 

 東一局五本場。

「ツモ! 2000オールの五本場は2500オールです。」

 打点がいきなり下がった。しかし、東一局六本場で、

「カン! ツモ! 70符2翻。2300オールの六本場は2900オールです。」

 再び前の局よりも打点が上がった。

 ただ、この不自然な翻数。これは何なのか?

「(点数調整?)」

 観戦室でモニターを見詰めながら浩子は一瞬そう思った。

 しかし、もし点数調整だとすると、これだけの点差を持って、何を目的に点数調整しているのか意味が分からない。

 恐らく、単なる偶然だろう。浩子は、そう思うようにした。

 

 この段階で、各校も地点は47700点まで落ち込んでいた。

 しかも、咲の和了りはまだ続く。

 

 東一局七本場。

「6700オール!」

 

 八本場。

「8800オール!」

 ちなみに八連荘を役満とするルールは本大会では適用されていない。

 

 九本場。

「12900オール!」

 やはり打点上昇している。2クール目と言うことか?

 

 続く十本場では、

「ツモ! 嶺上開花、四暗刻! 17000オールです。」

 咲は二度目の役満を和了った。

 

 これで、点数上昇の2クール目が終わったはずだ。

 既に咲以外の選手の点数は2300点まで削られていた。

 次局、咲に1300オールをツモ和了りされたら芝棒も合わせると全員トビで終了することになる。

 

 そして、十一本場。

「カン!」

 上家が捨てた{①}を咲が大明槓した。

 次巡、

「ポン!」

 対面が捨てた{中}を咲が鳴いた。そして、その次巡、

「もいっこ、カン!」

 {中}を加槓し、引いてきた嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 {8}を暗槓した。さらに嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、最後の嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花、四槓子。16000オールの十一本場は17100オールです。」

 当たり前のように嶺上開花で和了った。

 三度目の役満。

 これで、各校の点数は-14800点となり、全校トビで終了となった。

 この時の咲の点数は444400点。狙ったかのような4並びの点数となった。これを見て浩子は、六本場での70符2翻での和了りの意味を理解した。

「(狙ってたのは、これだったってことか…。4並び…。まるで、対戦者全員に死を与えるみたいなパフォーマンス…。しかも、これを達成するには最後に役満で和了ることが必須になる。ってことは、役満すら狙って出せるってこと?)」

 浩子は、この惨劇に身震いした。この点数調整は、役満だけではなく、それ以外の和了りも全て自分の思うとおりの和了り点に調整できていることを意味している。

「これ、シャレにならない強さや! まさに死神…。急いで戻って監督に報告せんとあかん…。」

 彼女は慌てて会場を後にした。

 

 一方、阿知賀女子学院控室では、

「本当にやれるとは…。半分冗談だったのに…。」

 この脅威の点数調整能力に、言いだしっぺの晴絵は驚いていた。

 決勝戦は前後半戦の半荘2回ずつの対局のため、先鋒戦で咲がどこかをトバして終了すると思っていたが、まさか本当に4並びの点数調整をした上で、前半戦東一局の連荘で終わらせるとは…。

 どうせなら、

「この半荘、東二局は来ない!」

 このセリフも冒頭で言わせておけば良かったと後悔した。

 また、同時に、今日の夕刊で咲がどのような取り上げられ方をするか、晴絵は楽しみであった。

 




おまけ

時は10月。

船久保浩子は阿知賀女子学院の試合を見に奈良県大会の会場に来ていた。
観戦室から通路に出ると、浩子は、丁度そこに和気あいあいと話をしながら歩いてくる集団に遭遇した。阿知賀女子学院のメンバー達と監督だ。

晴絵「今日はホテルに泊まるよ。」
憧「阿知賀からの連続日帰りじゃきついもんね。」

浩子「(監督の赤土晴絵にドラ娘、ボーリング娘、江口先輩とインハイでイチャイチャしていた娘に深い山の主か。それと…。)」

その中に、浩子が見た事のない選手が一人いた。赤メガネでストレートロングヘアの娘だ。どこかで見た雰囲気だが、強そうな感じはしない。
その娘が何もないところで突然つまづいた。

浩子「(こいつ、ドジっ子か?)」

美沙紀(咲)「いったーい。」
憧「なにやってんのよ、美沙紀。」
美沙紀「憧ちゃん、待ってよぅ。」
憧「ほら、駅のほうに急ぐよ!」

浩子「(この娘が阿知賀の五人目? 大したことなさそうやね。)」

穏乃「駅って言えばさ、今朝きた時に詐欺に注意って放送が流れてたジャン?」
憧「振り込め詐欺のヤツね。」
穏乃「そうそう。それを聞いて思ったんだけど、パンプキン詐欺ってナニ?」
憧「はぁ?」
美沙紀「やっぱりハロウィンシーズンだからじゃない?」
穏乃「そっかぁ。この時期の振り込め詐欺のことを言うのか。」
憧「それって、還付金詐欺の聞き間違いじゃないの?」
穏乃・美沙紀「「ナニソレ?」」

浩子「(こいつら、頭のネジ緩んでるのかぁ!)」


翌日

ついに登場した咲の姿を見て観戦室がざわめいた。

アナウンサー「阿知賀女子学院先鋒は宮永咲選手です。父親の転勤で、この9月に清澄高校から阿知賀女子学院に転校してきたとのことです。」

浩子「(ゲッ! これってヤバイんじゃ…。)」

ふと、浩子は昨日の阿知賀女子学院メンバーの会話を思い出した。

山神「パンプキン詐欺ってナニ?」
死神「ハロウィンシーズンだからじゃない?」

浩子「(もしかして、魔物化するためには、頭のネジを犠牲にしないとならないとかあるんやろか?)」

同時に浩子は、先輩達のことを思い出した。

怜「膝枕ソムリエやで!」
セーラ「スカート嫌や!」
竜華「阿知賀と千里山、どっち応援しよ?」

浩子「やっぱり、あるんやろな…。まあ、それはそれとして、急いで監督に連絡しないと…。これはヤッバイで!)」

浩子は、慌てて監督の愛宕雅恵にメールを入れた。




おまけ2

咲「怜-Toki-の1巻で清水谷さんが『…むに…て…から』と言ってたけど、何て言ってたのかな?」

優希「きっと、ハ『ムに』醤油をつけ『て』食べてた『から』だじぇ!」

穏乃「昨日、『ムニ』エル食べ『て』た『から』じゃないかな?」

泉「ソド『ムに』い『て』た『から』やと思うけど?」

和「きっと、オウ『ムに』入信し『て』た『から』じゃないでしょうか?」

憧「オ『ムニ』バス見『て』た『から』でしょう?」

哩「エ『ムに』目覚め『て』いる『から』やなかと?」

姫子「淫『夢に』うなされ『て』た『から』じゃなかか?」

煌「ショ『ムニ』を見『て』いた『から』ではないでしょうか?」

爽「ジェリーよりもト『ムに』好感を持っ『て』いそうだった『から』だろ?」


竜華・怜「「(全然違うんだけど!)」」


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三本場:北欧の小さな巨人

YG2019年03号で、車椅子の少女、通称みなもちゃんの名前が「光(ひかり)」であることが判明致しました。光ちゃんは、咲の従姉妹とのことです。多分、今後、年齢も判明すると思いますが、ここでは咲とは同い年とします。
名前を『みなも』から『光』に修正しました。


世界大会のルールですが、ここでは日本のルールがそのまま適用される設定です。


 咲は、靴下を履くと、

「ありがとうございました!」

 と言いながら頭をペッコリンと下げた。しかし、他の三人は暗い顔で固まったまま動けないでした。

 この様子を見たディレクターが、

「これはマズイやつだ。映像を解説のほうに切り替えろ!」

 対局室を映すのを止めさせた。

 インターハイ個人戦では、咲の対戦者の中に対局終了と同時に豪快に失禁した少女達がいた。不運なことに、それが全国にライブ中継されてしまったのだ。

 まさに放送事故だ。

 やらかしたのは広島県鹿老渡高校の佐々野いちご、西東京松庵女学院の多治比真祐子、兵庫県劔谷高校の椿野美幸の三人だった。

 綺麗どころの大放出と言うことで、この映像は、多くの女子高生麻雀ファンのお宝として大事に保管…、いや、ネット民達の間で拡散したのだが…。

 それを知っていたので、ディレクターは映像を切り替えさせたのだ。

 案の定、

「「「チョロチョロチョロ…。」」」

 三人のダムの決壊が崩壊し、

「「「ジョー………!!!」」」

 一気に聖水が流れ出した。

 そして、形成された三つの黄金の泉は、重なって一つの巨大な湖を形成するに至った。

 もう出し切るまでは止まらないだろう…。

 今回も豪快にやらかしてくれた。

 

 一方の咲は、対局室を出たところで沢山の報道陣に取り囲まれ、オドオドしながらインタビューに答えていた。

「444400点って、4並びの数字を狙って出したのでしょうか?」

「いえ…偶然です、偶然。」

「東一局で終わらせる自信は最初からありましたか?」

「今日はツイてました。東一局で終わらせられるなんて、自分でも奇跡と思います。」

「狙って起家になったと言う噂もありますが?」

「そんなことできません。優希ちゃんが起家の引きが良いので、優希ちゃんのマネをしてタコスを食べましたけど…。」

「じゃあ、起家は必然的に引いてきたと?」

「たまたまです。ゲンを担いだだけですから。」

「この半荘、東二局は来ないって台詞を以前片岡選手が言ったことがありましたけど、それを実際に成し遂げてみてどうですか?」

「運が良かったと思います。」

「片岡選手と原村選手が東京都大会に出場しておりますが、清澄高校はどうなったのでしょうか?」

「染谷先輩と京ちゃんしかいなくなってしまいましたので、団体戦出場はできなくなってしまったと思います。非常に残念です。」

「京ちゃんって、どなたです?」

「清澄高校麻雀部の男子部員です。」

「もしかして彼氏ですか?」

「ち…違います。」

「「「(この慌て方は彼氏だな、絶対!)」」」←マスコミ側全員の微笑ましい笑顔

「いつも思うのですが、嶺上牌が見えるんですか?」

「いいえ、偶然です偶然。」

「「「(嘘つけ!)」」」←マスコミ側全員の思うところ

 本当は、監督の指示で狙って起家になり、点数調整し、444400点を作り上げたのだが、まさかそんなことは言えない。

『麻雀だと表向きは偶然で済むのがいいな』

 有珠山高校エース獅子原爽の言うとおりだ。

 

 

 浩子が千里山女子高校に戻った時、部室には部活を引退したはずの怜、竜華、セーラの姿があった。監督の愛宕雅恵に呼び出されていたのだ。

「監督。今、戻りました。」

「ご苦労やな。実は、原村和と片岡優希が都大会に出場していた。原村は白糸台、片岡は臨海女子だ。」

「インタビューでも、そんな質問がありました。やっぱり清澄高校は?」

「解体っちゅうことやろうな。しかし、あんな点数調整は始めて見たわ。」

「本人はインタビューで偶然を強調していましたけど、絶対にあれは故意と思います。その証拠が六本場の不自然な和了り。」

「70符2翻やな。」

「そうです。」

「ただ、もっと恐ろしいことに気付いたんやけどな。」

「何がです?」

「実は、最初の和了りで3900オールを和了っとるやろ。」

「はい………あっ!」

 浩子は、重大なことに気が付いた。

 咲が和了った点数は、芝棒が無ければ2000オール、6000オール、8000オール、12000オール、16000オールと、殆どが1000点刻みの点数である。

 それに当てはまらない和了りは二つ。最初に和了った60符3翻(3900オール)と六本場の2900オール(2300+600オール)である。この二つの和了りのみが100点棒の収支をコントロールしていると言える。

 また、1000点刻みの和了りの中に、4000オールだけが無かった。

 もし咲が最初に3900オールではなく4000オールを和了っていたならば、444400点は成立しない。つまり、最初から咲は各局で和了る点数を決めていたことになるのではないだろうか?

「(やっぱり死神や…。)」

 浩子の背筋に冷たいものが走った。

「園城寺先輩。お願いがあるんですけど。」

「なんや?」

「世界大会前の合宿に参加されるんですよね?」

「そや。」

「そこで、練習中に宮永咲と対局することがあると思うんです。そこでデータを取ってきていただけると有難いんですけど。」

「まあ、善処するわ。でも、多分無理やで。」

「どうしてです?」

「宮永は、多分、全部牌が見えていて、その上で何処で何を鳴いたら良いかとか、何処で何を捨てれば誰が鳴いてツモ巡がどう変わるかとか、全部わかってるんとちゃうやろか。そうでなければ、あんな点数調整はできんやろ?」

 これを聞いて竜華が驚いた表情で、

「ちょっと待って。じゃあ、もしインターハイで決勝進出してたら、うちは、その悪魔にイイようにヤラれてたってこと?」

 と怜と浩子の会話に割って入った。

「せやな。実際、白糸台の大星も阿知賀の高鴨も臨海のネリーもヤラれとったからな。」

「今になって恐ろしくなってきたわ。末原さん、メゲずに、そんなんと二回もよく戦ったと思うわ。」

「いや、メゲてると思うわ。」

 多分、この怜の言葉は正しいだろう。

 

 この日の夕刊には、

『まさかの4並び! 驚異の連続和了!』

 の見出しで咲の姿がデカデカと載っていた。これで、阿知賀女子学院に咲が転校してきたことが全国的に知れ渡ったことであろう。

 ただ、さすがに点数調整の文字は書かれていなかった。そこを追及されると咲のイメージダウンにつながるかも知れない。マスコミも、そこは自重してくれたようだ。

 

 

 それから一週間後、世界大会代表の合宿が行われた。

 咲と怜以外には、宮永照、辻垣内智葉、獅子原爽、荒川憩、そして天江衣がメンバーとして選ばれていた。

 インターハイ個人4位の神代小蒔は、霧島神境の姫として日本を離れることが許されなかったため代表を辞退していた。

 この七人の中からレギュラー五名と補員二名に振り分ける。

 合宿での戦績から、智葉と爽の二人が補員となった。

 また、衣は、この合宿で久々に咲に会えて嬉しそうだった。

「先週の県予選で会えなかったのは残念だったが、今宵は満月だからな。思い切り咲と打たせてもらうぞ!」

 月の満ち欠けで衣のパワーも変わる。満月の時が最大値だ。

 そして、そのフルパワーを相手に立ち向かえるのは、過去において衣が実際に対局して立証できたのは唯一、咲だけだった。

 それゆえに、咲が長野県から姿を消したのは衣にとって残念なことであったが、春季大会を待たずして、この合宿で対局できたことは幸運と言えよう。

 しかも、咲の他に照や怜も衣を相手に負けていない。

 新たな強敵との出会いに衣はたいそう喜んでいた。

 

 ただ、来週より行われる世界大会は、衣にとって不利な時期と重なる。十日間の開催だが、大会五日目が新月になる。つまり、衣の最弱の時期になるのだ。

 

 世界大会はアメリカのボストンで開催された。

 衣のパワーダウンが懸念された新月の日は、爽が代わりに出場して雲とカムイの全てを投入して穴を埋めた。

 また、体力の無い怜を、智葉が交代で出場することでカバーした。

 そして臨んだ決勝戦。

 白築慕監督のもと、先鋒に宮永照、次鋒に園城寺怜、中堅に荒川憩、副将に天江衣、大将に宮永咲の最強の布陣のはずだった。

 しかし、日本チームは、大将戦突入時点で絶望的な点差をつけられ、最下位だった。

 咲も巻き返しを図ろうとしたが、相手も手ごわい。

 圧倒的な点差をつけられたまま大将後半戦オーラスへと突入した。

 トップは、ブルーメンタール姉妹とミナモ・A・ニーマンの魔物三人を擁するドイツチーム。2位のアメリカチームに30000点以上の差をつけてのダントツ1位だった。

 ドイツチームの大将は『北欧の小さな巨人』と呼ばれるミナモ・A・ニーマン。彼女は、咲の従姉妹…、光だった。

 しかし、七年前に宮永家に訪れたニーマンの魔法にかかり、ミナモは記憶を奪われ、ニーマンの養女としてドイツに渡っていた。当然、咲のことも照のことも覚えていなかった。

 

 各チームの点は、

 東家:ドイツチーム  141900(暫定1位)

 南家:中国チーム 108700(暫定3位)

 西家:アメリカチーム 110100(暫定2位)

 北家:日本チーム 39300(暫定4位)

 

 ドイツチームは安手で流せば優勝。流局でも問題ない。

 アメリカチームは三倍満ツモか、ドイツチームから倍満を直取り、もしくは中国チームか日本チームから役満直取りが優勝条件。

 中国チームはドイツチームから倍満を直取りでも優勝できず、三倍満以上の和了りが必要だった。

 本大会ではダブル役満以上の和了りも認められていた。

 しかし、単一役満でのダブル役満は認められておらず、例えば、大四喜、国士無双十三面待ち、純正九連宝燈、四暗刻単騎待ち、大七星など慣例的にダブル役満として認められているものでも、ここではシングル役満として扱った。

 清老頭四暗刻や大三元字一色四暗刻といった複合役満でなければダブル役満やトリプル役満は成立しなかった。

 日本チームは、ダブル役満をツモ和了りしても、他家から直取りしても優勝できない。トリプル役満以上を必要とする状況だった。

 もはや、日本チームの優勝は絶望的と言えよう。

 本大会では、咲の得意とする大明槓からの嶺上開花に対する責任払いは適用されていなかった。もし、それがあったところで逆転優勝できる状況にはないのだが…。

 

 親のミナモの配牌は

 {一二二③⑤⑥⑦2469白發中}

 ここから打{中}。

 

 数巡後のミナモの手牌は

 {二二二③④⑤⑥⑦4[5]667}

 ここに{⑦}ツモで聴牌。

 安上がりで良いこの局面で、いまだアメリカチーム大将からも中国チーム大将からも聴牌気配は感じない。

 ただ、咲は聴牌気配を見せない。よって、ミナモには咲が聴牌しているかどうかが読み取れなかった。

 しかし、日本チームが逆転優勝を狙っているならば、トリプル役満以上を必要とするはずだから字牌狙いしかない。

 場には既に{北發中}が2枚ずつ、{白}が1枚切れていた。

 ならば、咲は小四喜字一色四暗刻を狙うしかない!

 ミナモはノーケアーで{③}を切った。

 続いて中国チーム大将が初牌の{東}を切ったその時、

「ポン。」

 咲が動いた。

 これを見て、ミナモは、咲の狙いが逆転優勝ではなく、最高でも小四喜字一色での2位狙いと判断した。

 咲は打{⑨}。

 次巡、ミナモは{①}ツモ。これで咲に振り込むことはないだろう。ノーケアーでツモ切りした。しかし、

「カン!」

 咲は大明槓を仕掛けた。

 嶺上牌は{東}。

「もいっこ、カン!」

 当然のように咲が{東}を加槓。そして、嶺上牌は{南}。

「もいっこ、カン!」

 続いて咲が{南}を暗槓。次の嶺上牌は{西}。

「もいっこ、カン!」

 さらに咲が{西}を暗槓。これで四連続槓。

 そして、嶺上牌は、ラス牌の{北}。

 北の文字が見えるようにして、咲は、それを手元に置いた。

「ツモ。嶺上開花。小四喜四槓子。」

 咲の狙いは小四喜字一色ではなかった。

 

 本大会ルールでは包と呼ばれる役満責任払い、すなわち三枚目の三元牌を鳴かせて大三元を確定させるとか、四枚目の風牌を鳴かせて大四喜を確定させるプレイに対する罰則(責任払い)が適用されていた。

 そして、これは四槓子にも適用されていた。

 また本大会では、インターハイの時と同様に連槓で役満確定の副露がなされた場合、連槓の最初が大明槓であれば、その大明槓をさせたプレイヤーの包となるルールが適用されていた。

 そのため、今回の場合、四槓子の32000点がミナモの責任払い、小四喜はツモ和了りとみなされ、親のミナモに16000点、他の二人に8000点ずつの支払いが課せられた。

 

 その結果

 1位:日本チーム 103300(+64000)

 2位:アメリカチーム 102100(-8000)

 3位:中国チーム 100700(-8000)

 4位:ドイツチーム 93900(-48000)

 まさかの大逆転劇だった。

 

 1位から4位に転落し、電光掲示板を見ながら愕然とするミナモ。

「(いつだったっけ…。こんなこと、あったような…。)」

 似たような苦い経験をどこかでしていたような気がしていた。

 その時だった。

「(カン! 嶺上開花!)」

 ミナモの頭の中に、少女の声が響き渡った。

 大明槓からの嶺上開花。まさに、今回のような狙い撃ち。

「(そうだ、たしかあの時も納得できない和了りをされたんだ。今回みたいに…。)」

 その彼女の頭に、突然、激痛が襲いかかった。その強烈な痛みに、ミナモは、その場に倒れ、両手で頭を抱えて、うずくまった。

「光、大丈夫?」

 慌てて咲がかけよった。しかし、ミナモからは応答がない。激痛の余り、咲の言葉が聞こえていないようだった。

 対局室のドアが開き、

「光!」

 照が飛び込んできた。

 しかし、この照の言葉もミナモには届いていなかった。

 この時、ミナモの頭の中では、今まで心の奥底に封印されていた記憶の断片が、次々と甦ってきていた。

 麻雀を始めたばかりの頃のこと。

 そのうち伯母(照と咲の母親)が金をかけることを提案してきたこと…。

 なけなしの小遣いを守るために照、咲、ミナモの三人は自分の麻雀スタイルを確立して行き…、そして、最終的に咲が点数調整の能力までも身に着けたことまで…。

 そんなある日のことだ。

「ほら腹這いになったほうが良く見える!」

「私はいいよ…。キラキラしているのは立ってても見えるし。そんなに魚好きなの?」

「見てて楽しいし、食べても美味しい!」

「そこ同列!?」

「将来の夢は水族館を作ること!」

「おすし屋さんじゃないんだ。」

「わたし泳ぐの大好きだったけど、今はもうムリそうだから。かわりにお魚さんに泳いでもらうのだ。水族館できたら照おねーちゃんと見にきてね!」

「うん…。」

「咲…。」

 咲と一緒に湖に行った時のことだ。鮮明に覚えている。いや、思い出した。

 ミナモの目から一筋に涙が流れ出た。

「(ああ…、そうだった。私は…。)」

 これが封印されていた過去の記憶。ミナモは、記憶を完全に取り戻した。まるでスイッチが切り替わったかのようだ。そして、それと同時に頭痛が治まってきた。

 ミナモが頭を上げた。

「ここ、どこ?」

「私たちのこと、分かる?」

「もしかして、照おねーちゃん?」

「うん。そして、隣にいるのが咲…。」

「でも、二人とも、急に老けてない? 照おねーちゃんは小学5年生。咲は、私と同い年だよ。小学3年生のはずじゃん。」

 ミナモ…いや、光にとっては、記憶を奪われた日からいきなり今日に飛んでいた。当然、まだ小学生でいる感覚だ。

「もう、あれから七年が経ったんだよ。」

「えっ? 七年って?」

「その後のことは覚えていなみたいだね。でも、あの頃のことは、思い出せたんだね。長かった…。」

 照が嬉し涙を流しながら、光を力強く抱きしめた。




佐々野いちご、多治比真祐子、椿野美幸の事件は、みなも-Minamo-第五局をご参照ください。

世界大会でのミナモとの戦いは、みなも-Minamo-第一局からの流用・簡略化になります。基本的に、本作は、みなも-Minamo-のパラレルワールドのつもりで書いておりますので、みなも-Minamo-に準ずる部分が多いことをご了承ください。




おまけ(前回からの続き)

浩子が千里山女子高校に戻った時、部室には部活を引退したはずの怜、竜華、セーラの姿があった。監督の愛宕雅恵に呼び出されていたのだ。

浩子「監督。今、戻りました。」
雅恵「ご苦労やな…。」

浩子の視界に泉の姿が入り込んできた。

浩子「泉、良かったな!」
泉「ナニがです?」
浩子「魔物じゃなくて。」
泉「はぁ?」
浩子「頭のネジが正常…(でもないな、こいつ)」

浩子は、泉を見て、頭のネジの締まり具合と引き換えに魔物になるわけではないことを認識した。




おまけ2(続き)

咲「怜-Toki-の第26局でハムスターのハムムが登場しております。ですので、『…むに…て…から』は『ハムムに…て…から』だと思うのですが?」

セーラ「それはフェイクや! ラ『ムに』く食っ『て』た『から』や!」

雅恵「激『務に』耐え『て』ゆけそうや『から』やないか? インターハイ準決勝での宮永照との対局は感動したで!」

憩「意外と、日ハ『ムに』入団したいっ『て』聞いた『から』やないですか? この裏切り者!」

洋榎「こいつらは阪神ファンやからそれはない! 東京ドー『ムに』巨人阪神戦を見に行きたいっ『て』言ってた『から』やろ。」

絹恵「園城寺先輩やから、もっと儚そうな感じがあると思うんやけど…。きっと、体を鍛えるために、一緒にジ『ムに』通っ『て』あげたい『から』とかやないかな?」

漫「それなら、ダ『ムに』身を投げ『て』しまいそうや『から』もありじゃないですか?」

恭子「おつ『むに』異常があっ『て』そうや『から』やろ!」

由子「園城寺さんは無責任そうやから、け『むに』巻い『て』逃げそうだ『から』だと思うのよー。」

晴絵「なるほど…。無責任っぽいなら、きっと麻雀ばかりで仕事もしないでいて、専『務に』怒られ『て』そうだ『から』ってとこじゃないかな?」

灼「それってハルちゃんだと思…。普通に、ハム『ムに』なつかれ『て』いた『から』とか、ハム『ムに』似『て』た『から』じゃないかな?」

宥「ハム『ムに』似『て』あったかーいって思った『から』じゃないかしら?」

玄「ハム『ムに』とっ『て』の飼い主は、立派なおもちの『から』だですのだ!」

玄が、おもちコレクションの一つ、咲-Saki-18巻、シノハユ10巻、怜-Toki-4巻同時購入のメロンブックス特典クリアブックカバーを見せた。

西田記者「この身体でランドセルを? 犯罪だわ!」

西田記者「じゃあ、私も一つ。コラ『ムに』載っ『て』た『から』なんてのはどうかしら?」

玄「新聞記者らしい回答ですのだ!」

全員「(雑誌記者なんだけど!)」

淡「ハム『ムに』蹴られ『て』死んだ『から』!」

怜「(どんな虚弱や!)」

尭深「ハム『ムに』取り憑かれ『て』そうだ『から』じゃない?」

怜「(それは竜華や!)」

初瀬「某拳法家みたいに、『無に』達し『て』そうだ『から』じゃないですか? トキだけに」

やえ「この王者がお答えしよう! ゴ『ム二』枚重ね『て』そうだ『から』! これしかない!」

西田記者「このオチで偏差値70? 犯罪だわ!」

怜・竜華「「…。」」


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四本場:オーダー

 高校生麻雀世界大会は、大将の咲が奇跡的な逆転劇を見せ、日本チームの優勝で幕を閉じた。

 照は先鋒の区間賞を、光(ミナモ)は大将の区間賞を受賞した。また、大会MVPは、不可能とも思える逆転優勝を果たした咲が受賞した。

 表彰式の後、光は、日本を飛び立ってからの七年間の状況をイーヴリンから説明された。

 少しずつだが、魔法がかかっていた間のことを光は思い出してきた。その内容は、たしかにイーヴリンの語る内容と一致していた。

「(少なくとも、この人は嘘をついていないみたいね。)」

 光は、咲と照に近いうちに日本に帰国することを告げると、イーヴリンを信じて一旦ドイツに戻った。身辺整理や諸手続きのためだ。

 

 

 大会終了後、咲、衣、憩の三人は急いで帰国した。他のメンバーは、余裕を持って一日ボストンの街を見学してからの帰国となったのだが…。

 咲と憩は近畿大会の開催地である大阪に、衣は信越大会の開催地である金沢に即刻向かわなければならなかったのだ。

 近畿大会は、大阪府から10校、京都府、兵庫県から各5校、滋賀県、奈良県、和歌山県から各4校の計32校が各府県の代表校として出場し、二日間に渡って開催される。

 一日目の午前に一回戦が行われる。一回戦は先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつの点数引継ぎ制で、4校のうち1校だけが準決勝戦に進出する。

 準決勝戦は一日目の午後に行われ、やはり先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつの点数引継ぎ制で行われるが、4校のうち2校が決勝戦に進出する。

 決勝戦は二日目の朝より行われる。決勝戦のみ先鋒戦から大将戦まで各二半荘ずつとなり、終わるのは大抵夜になる。

 なお、近畿大会の上位4校が春季の全国大会団体戦に出場することになる。

 咲と憩は、大会前日に何とか大阪に到着した。

 

 阿知賀女子学院はインターハイの成績から第一シードとなった。

 一回戦は、兵庫県3位、大阪府7位、滋賀県4位との対戦だった。

 阿知賀女子学院の先鋒は憧。インターハイ準優勝メンバーの中で最も打ち回しが上手いゆえの先鋒起用だ。

 他校のエースが相手でも、近畿大会なら荒川憩以外には負けることはないだろうとの読みだ。インターハイでの江口セーラとの対局を見れば納得できる。これは、晴絵と咲で意見が一致した。

 場決めがされ、兵庫県3位が起家、憧が南家、大阪府7位が西家、滋賀県4位が北家となった。

 

 東一局、兵庫県3位先鋒の親。

 ここでの阿知賀女子学院の目標は、近畿大会優勝。

 また、監督の晴絵は、近畿大会での各メンバーの戦い方を見て、春季大会のオーダーを決めるつもりでいた。勿論、各選手の性格も考慮に入れる。

「チー!」

 憧の得意の鳴き麻雀。鳴くと速度が上がるような錯覚を見せる。

「ツモ! タンヤオ三色ドラ2。2000、3900!」

 幸先の良いスタートだ。

 その後も憧は他を寄せ付けず、余裕の1位で次鋒の穏乃にバトンを渡した。

 

 しかし、次鋒戦では、

「ロン! 12000!」

「えっ?」

「ロン! 8000!」

「えぇー!?」

 穏乃の不用意な振り込みが目立った。これで、憧が作ったリードを原点近くまで戻してしまった。

「(やっぱりシズは、こうなったか…。)」

 インターハイ団体戦準優勝の立役者である穏乃のまさかの大ブレーキを、晴絵はある程度予想していたようだ。

 

 阿知賀女子学院の中堅は灼。

「リーチ!」

 灼は、筒子多面聴からの和了りが冴え渡り、

「ツモ! 3000、6000!」

 再び阿知賀女子学院が大量リードの1位となった。まるでインターハイ団体戦準決勝戦を思い起こさせる大活躍だ。

 

 そして、副将戦では、

「ツモ! タンヤオドラ7。8000オールです。」

 玄のドラ爆は健在だった。

 続く連荘一本場。ドラは{④}。

 

 玄の配牌は、

 {三四④④[⑤]⑥⑥468東西北白}

 既にドラ3の手。ここから打{8}。

 以前の玄なら打{北}か打{西}だろう。しかし、ドラを独占することを前提にした打ち方は違うはずだ。

 {468}の両嵌も、玄の場合は{7}ではなく、高い確率で先に{[5]}が来るはず。さらに{[五]}や{[⑤]}、ドラの{④}も来るだろう。そして、最終的に{8}は邪魔になる。

 ならば、相手の手ができていない初っ端で{8}を切るべきだ。これは、飽くまでも玄に限定した打ち方ではあるが…。

 そう言った考えのもと、晴絵と咲で玄を特訓し、打ち方を変えさせたのだった。

 

 二巡目、ツモ{[五]}、打{白}。

 三巡目、ツモ{④}、打{東}。

 四巡目、ツモ{[⑤]}、打{西}。

 五巡目、ツモ{[5]}、打{北}で聴牌。

 そして、六巡目、ツモ牌は最後のドラ、{④}。

 

 玄の手牌は、

 {三四[五]④④④[⑤][⑤]⑥⑥4[5]6}  ツモ{④}

 

「ツモ! タンヤオ平和一盃口ドラ8。12100オールです。」

 まさかの五連続ドラツモによる親の三倍満。

 阿知賀女子学院は、大将にチャンピオンの咲が控えている。意図的に444400点を出した化物だ。よって、副将戦を安手で回したところで暫定1位の阿知賀女子学院の1位通過をより確実にするだけだろう。

 この副将戦は、各校の踏ん張りどころだ。

 しかし、他校の選手はドラが来ない。それで高い手を作ろうとすれば、当然染め手しかないだろう。よって、手は遅くなる。

 そのような中で玄はドラ爆和了りを連発した。

 結局、玄の活躍で、阿知賀女子学院は他校をトバして準決勝戦進出を決めた。

 

 準決勝戦は、同日の午後。もし、ここで2位でも明日の決勝戦には進出できる。

 しかし、ここで3位以下ならば春季大会への切符を逃すことになる。

 準決勝戦の相手は、千里山女子高校、晩成高校、劔谷高校の3校。荒川憩率いる三箇牧高校は別ブロックだった。

「(まあ、三箇牧が相手だったら、多分、先鋒は荒川憩だろうから咲を先鋒にするところだけど、今回の相手なら予定通りでよさそうだね。)」

 晴絵は、先鋒憧、次鋒灼、中堅玄、副将咲、大将穏乃のオーダーで挑むことにした。

 当然、咲が大量得点を挙げて、どこかをトバして終了するケースが想定される。そうなると、他校としては、やはりトータルで2位を死守できるだけの点数を中堅戦終了までに稼いでおきたいところだ。

 ならば、玄の相手は、結託して安和了り麻雀で場を回して逃げるだけと言うわけには行かなくなる。

 これが晴絵の狙いだった。玄の直後に咲を置いたのは、そのためだ。

 敢えて県大会で、咲に444400点の点数調整をさせたのも、このオーダーを見据えてのことだ。

 まあ、そのリクエストに答えられること自体、尋常ではないと思うが…。

 

 対局室に選手達が姿を現した。

 千里山高校の先鋒は二条泉、晩成高校の先鋒は岡橋初瀬、劔谷高校の先鋒は森垣友香。一年生対決だ。

 場決めがされ、起家は友香で、憧は南家、初瀬が西家、泉は北家になった。

 

 東一局、友香の親。ドラは{二}。

 早い巡目で、

「リーチでぇー!」

 友香の{横②}切り先制リーチ。

 憧は、すかさずリーチ宣言牌を、

「チー!」

 鳴いて一発を消した。

 憧の捨て牌は{白}。

 この時の憧の手牌は、

 

 {二三四[⑤]⑥⑦⑧33白}  チー{横②③④}

 

 まさかの聴牌を崩しての鳴きだった。{白}の片和了りではあったが…。

 そして、同巡に泉が捨てた友香の現物の{3}を、

「ポン!」

 鳴いて打{白}。これで憧は聴牌した。

 そして、友香の切った{⑧}で、

「ロン! タンヤオドラ2。3900!」

 憧は和了り、友香の親を流した。

 

 東二局、憧の親番。ドラは{③}。

 ここでも、

「リーチでぇー!」

 友香が攻めてきた。{横八}切りでリーチ。

 これを憧は、すがさず、

「チー!」

 鳴いて一発を消した。そして、打{北}。

 次巡、友香が捨てた{⑦}を憧は、

「チー!」

 鳴いて聴牌。打{九}。

 この時の憧の手牌は、

 

 {八八八③④[⑤]⑦}  チー{横八六七}  チー{横⑦⑥⑧}

 

 つまり、

 

 {六七八八八九③④[⑤]⑥⑦⑧北}

 

 から仕掛けたことになる。

 そして、次巡で{⑥}を引いて、打{八}。{②⑤⑧}待ちに変え、次巡、

「ツモ! タンヤオドラ3。3900オール!」

 見事、{[⑤]}を引いて和了った。

 今までの憧なら、{北}や{九}を早々と切って他の危険牌を残していただろう。そして手が詰まって直撃回避で手を崩し、聴牌から遠ざかる。そうこうしているうちに、先に友香に和了られてしまったかもしれない。

 玄と同様に特訓したのだ。

 しかし、憧の打ち方を見た泉が、東二局一本場で、

「リーチ!」

 仕掛けてきた。{北}待ちの七対子ドラ2。憧が安牌として残しているであろう字牌を狙ったのだ。

 ところが、この局に限っては、憧は、字牌を残していなかった。以前の牌効率のみを考えた打ち方に敢えて戻していたのだ。

 前局、前々局の打ち方を見て、ヤオチュウ牌待ちにする輩も出てくるだろう。それを予測してのことだ。そして、

「ツモ! 1100オール!」

 泉のリーチをものともせず、この局も憧がツモ和了りした。

 この調子で他家の攻撃を抑え、憧は、一年生先鋒対決を1位で通過した。

 

 続く次鋒戦。

 灼の相手は千里山高校のナクシャトラ、晩成高校の巽由華、劔谷高校の依藤澄子。

 由華も澄子も夏の大会で活躍した選手だけあって落ち着いている。ナクシャトラも麻雀強豪校への麻雀留学生だけあって中々手強い選手だ。

 しかし、

「リーチ!」

 筒子多面聴を主軸に攻める灼の攻撃は、他を寄せ付けなかった。

「一発ツモ! 3000、6000!」

 ここでも灼は力強い麻雀を見せつけ、憧が作ったリードをさらに広げた。

 

 中堅戦は、

「ツモ! タンヤオ一盃口ドラ8。12000オールです!」

 相変らずの玄のドラ爆和了り。

 大量リードする阿知賀女子学院の和了りを、他家が結託して安和了りで流すようなことはなかった。晴絵の狙った通りだ。

 準決勝戦は2位まで抜けられる。なので、阿知賀女子学院のことは放っておいて各校共に2位抜けを狙い出した。

 親ならば安くても連荘を狙い、子なら振り込みを回避しつつ親を流す。高い手が来れば勝負に出る。結託せず、各個人が勝ちに行く。

 ただ、普通と違うのは、玄の存在を無視しているだけ。まるで三麻だ。

 選手層の厚い千里山女子高校が、結局2位の座についた。

 阿知賀女子学院は、高火力の玄が2位との差をさらに広げた。既に阿知賀女子学院の総合得点は250000点を超えていた。

 

 副将戦。

 多くの観戦者が、ここで決着がつくと思っていた。

 観戦者達だけではない。対局する本人達も、対局者を応援する各校のメンバー達も、ここで咲がどこかをトバして終了すると予想していた。

 しかし、咲は他家をトバさず、上手に各校の点棒を削った。そして、阿知賀女子学院の総合得点を丁度325000点にし、他家は全て丁度25000点に調整した。他家を横並びにしたのだ。

 2位抜け狙いで他校の中堅選手がしのぎを削ったことが、全て無駄になった感じだ。

『なんと言う性格の悪さだ!』

 そう思う者すらいた。いっそのこと、ここでケリをつけてくれたほうがスッキリするのにと…。

 しかし、

『麻雀だと表向きは偶然で済むのがいいな』

 この言葉どおり、全ては偶然で済まされる。

 爽はインターハイで素晴らしい言葉を咲のために残してくれたと言える。

 咲は、

「穏乃ちゃん。後をよろしく!」

 この圧倒的点差をもって大将である穏乃にバトンを渡した。

 

 大将戦東場は、穏乃は特にこれと言った動きを見せず、和了り無しであった。振り込みも無かった。

 しかし、東四局から穏乃の雰囲気が変わった。深山幽谷の化身としてのスイッチが入ったのだ。

 各校選手達の周りに靄が立ち込める。

「(赤土さんから言われたとおり、4校全部が25000点持ちで戦う大将戦だと思って頑張る!)」

 そして、南二局、穏乃の親番で、

「ロン! 平和タンヤオドラ2。11600!」

 晩成高校大将の車井百花から穏乃が和了った。

 百花にとっては、まさかの振り込みだった。穏乃の聴牌に気付いていなかったし、何か、変に視界が悪く感じるので打ち難い。

 南二局一本場では、

「ツモ! 4100オール。」

 穏乃が親満をツモ和了り、そして、続く南二局二本場では、

「ロン! 平和タンヤオ一盃口ドラ3。18600です!」

 再び百花から穏乃が直取りした。

 これで晩成高校のトビで終了した。

 2位は辛うじて千里山女子高校だった。

 

 この様子を控室のモニター画面で見ながら、晴絵は、

「(やっぱりシズは、全てを決める大将でないと力が発揮できないか。まあ、想定の範囲内だけどね。)」

 と思っていた。

 県予選準決勝戦の時は、まだ咲の存在を他校に知られないようにしたかった。よって咲に回してはいけないとの使命があった。それで力を全て発揮できた。

 しかし、そう言った使命がない状態では、大将以外のポジションで、しかも大将に咲が控えているとなると、気が楽になり過ぎて逆に気合いが入らなくなる。

 やはり阿知賀女子学院の大将は能力的にも性格的にも穏乃に任せるのが一番だろう。

 晴絵は、

「(これで春季大会のオーダーは、ほぼ決まりかな…。ただ、近畿大会で優勝するためには別のオーダーにしなくちゃならなそうだけど…。)」

 決勝戦には多分、三箇牧高校が出てくる。

 総合力では、阿知賀女子学院は三箇牧高校に負けないだろう。しかし、エースの荒川憩だけは対策が必要だ。

 阿知賀女子学院の先鋒に灼や憧を置くのも一つの方法だ。全国大会の準決勝戦や決勝戦レベルなら他校の先鋒も耐えてくれるだろう。

 しかし、近畿大会では、まだ他校の選手の力量不足を感じる。そうすると、いくら阿知賀女子学院の先鋒が巧く立ち回っても、他校の選手のいずれかが憩にトバされて終了するケースが有り得る。

 もし、憩が大将で出てくるならば、穏乃の力でねじ伏せられるだろう。しかし、先鋒で憩と戦うとなると、対抗できるのは咲しかいない。

 この考えを元に、晴絵の頭の中では、既に決勝戦のオーダーが決まっていた。

 

 穏乃が控室に戻ってきた。

「穏乃ちゃん、お疲れ。」

「こっちこそ、宮永さんが大量リードを作ってくれたからだよ。」

「大量リードは、憧ちゃん、灼さん、玄さんで作ってくれたものだよ。」

「それはそうだけど…。」

 すると、憧が、

「でも、あんな点数調整までやってシズのためにお膳立てできるのはサキくらいしかいないと思うわ。多分、シズは阿知賀の点数も含めて全員が25000点持ちの大将戦をイメージして戦ったんじゃない?」

 と言った。今回の点数調整の意図を理解していたようだ。

「赤土さんの指示だけどね。」

 憧は改めて、

『安定して強い灼』

『ドラ爆高打点の玄』

『点数を自在に操るチャンピオン咲』

 そして、

『山の支配者穏乃』

 このメンバーが揃ったチームを頼もしく思った。

 これだけのスターチームだ。憧には、さすがに阿知賀女子学院が負ける姿が想像できなかった。




おまけ

咲「ええと、前回、前々回と、竜華さんの台詞の、…『むに』…『て』…『から』を皆さん色々考えてくれました。」

マホ「むいてから…ですか?」

咲「…『むに』…『て』…『から』です。ちょっと誤解されそうなので、マホちゃんは気をつけてください。」

マホ「分かりました!」

咲「まだ正解は分かりませんが、正解者には咲-Saki-の重要なイベントに参加していただくことと致します。正解者がいない場合は、正解に最も近い回答をされた方に、その権利をお渡ししたいと思います。私は、人の名前が最初に来るだろうと思って、つと『むに』…と思ってたんですけど…。」

久「私は、アト『ムに』似『て』た『から』とか思ったんだけどね。」

怜「(誰がアトムや!)」


咲「それで、今回は西田記者と埴渕記者の台詞。
『この身体でランドセルを…?  犯罪だわ。』
を使ってみたいと思います。
『この〇〇で✖✖?  犯罪だわ!』
〇〇と✖✖に何か言葉を入れてみてください。
完全に大喜利コーナーみたいになっていますが…。
『を』を入れると回答しにくいと思いますので、『を』は抜いて構いません。」

全員「(このモブ顔で主人公?  犯罪だわ!)」

咲「何か、みんな私のほうを見てるけど、私の顔に何か付いてるのかなぁ?」

洋榎「そ…そんなことあらへんで。ちょっと御題が難しくて驚いていただけや。
ほな私から。有珠山高校のメンバーに対して、咲-Saki- 11巻の106ページのことで物申すや!
この登場シーンでザコ?  犯罪だわ!」

爽「自分でもそう思うわ。特に成香…。
じゃあ、私から永水女子の方達に。
その姿で巫女?  犯罪だわ!」

憧「じゃあ、それに合わせて私からも。
薄墨さんと国広さんなんだけど。
この格好でノーパン?  犯罪だわ!」

霞「私と小蒔ちゃんはともかくとして、はっちゃんは本当に犯罪なので、大喜利ネタには不適当じゃないかしら。洒落になっていないから…。
じゃあ、私も一つ。
その格好で女性?  犯罪だわ!」

セーラ「俺か!
じゃあ、誰とは言わないけど、
この実力で高一最強?  犯罪だわ! なんちゃって。」

泉「こっちにパスですか。
じゃあ、このドラ爆でヤキトリ?  私には犯罪です!
私もドラをガメたいです!」

玄「(宮永姉妹…この鉄板オモチで高校生?  私にとっては犯罪なのです!
でも、決して言葉にできないのです。)」

咲「思ったほど面白くありませんでしたので、このへんで打ち切りたいと思います。」

全員「(最初に思った
『このモブ顔で…』
以上のネタが思い浮かばないだけなんだけど!)」


咲「次は、この間、私が街で見かけた看板が何て書いてあったかを皆さんに考えていただきたいと思います。
『インド〇〇〇〇スクール』と言うのがあったんですけど、〇〇〇〇に入るのはいったい何だったでしょうか?」

久「〇〇〇〇は四文字ってことかしら?」

咲「そうです!」

久「難しいわね…。」

セーラ「じゃあ、俺から。インド カレー屋 スクール!」

優希「インド タコス屋 スクールだじぇい!」

穏乃「インド ラーメン スクールじゃないかな?」

全員「(何故、タコスにラーメン?)」

咲「ええと、三大食欲魔人以外に、どなたか答えはありませんか?」

浩子「インド式 超数学 スクールじゃないですか?」

宥「インド 舞踏・舞踊 スクールではないかしら?」

爽「インド 古代文明 スクールとか?」

全員「(ナニソレ?)」

まこ「インド 文化歴史 スクール?」

和「インド ガンジー スクール?」

全員「(訳わかんないん方向に行ってるけど?)」

由暉子「インドネシア語スクールとかだったら、なんかカッコいい!」

全員「(そう来たか!!!)」

憧「ええと、もしかしてだけど…。インドア ゴルフスクールとかじゃない?」

咲「正解!」

全員「(………。)」


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五本場:魔物vs超魔物

憩の能力は、まだ原作で描かれておりませんので、ここでは先負の進化版みたいにしました。
PS Vita『咲-Saki-全国編』では『他家が和了った後の局で配牌が良くなる』となっておりますが…。


 咲達は、ホテルに戻った。

 特に大荷物は持っていない。実は、昨日のうちにチェックインして荷物の大半はホテルに置いて出ていた。今日は二泊目だ。

 各部屋二人ずつで、部屋割りは『穏乃と憧』、『咲と玄』、『灼と晴絵』に分かれた。

 玄は、

「(おもちのレベルでは憧ちゃんが一番マシですのだ!)」

 と思ってはいたが、さすがに口に出すのは遠慮した。

 下手に口にしたら最後、

「麻雀を楽しませなきゃいけないね!」

 と咲に言われて、きっとまた強制的ドラ切りの上に数え役満を振り込まされるのではないだろうか?

 あんな恐怖体験は、もうコリゴリだ。

 これは、ある意味、すり込みが入ったとも言えよう。

 

 翌日、近畿大会決勝戦が開催された。

 先鋒は咲、次鋒に憧、中堅に灼、副将を玄、大将を穏乃としたオーダーだった。

 

 憧に連れられて対局室に咲が入ってきた。

「ありがとう、憧ちゃん。」

「じゃあ、あとはヨロシクね、サキ!」

 要は迷子対策だ。いきなり先鋒戦の開始が遅れては洒落にならない。下手をすれば失格だ。それは避けたい。

 

 対するは千里山女子高校、三箇牧高校、姫松高校だった。

 千里山女子高校の先鋒は泉、三箇牧高校の先鋒は憩、姫松高校の先鋒は絹恵。漫は姫松高校の伝統に従い、エースとして中堅を任されていた。

 

 泉は特に能力者ではない。普通にデジタルで打つ。

 ならば、咲は泉を和の劣化版と思って打てばよい。

 

 絹恵はインターハイで筒子の染め手が増えてきた。これは、灼の実家がボーリング場であることが筒子多面聴につながったように、サッカーをやっていたことが筒子を呼び寄せる力になっているのかもしれない。

 ならば、咲は灼との対局をイメージすればよいだろう。

 

 憩は、先に聴牌した者に自分の和了り牌を掴ませる。この能力は、宮守女子高校の大将姉帯豊音の先負に似ている。

 ただ、豊音と違ってリーチは特に関係ないし、自分が先に聴牌すれば、自分に和了り牌を掴ませる。つまり、ツモ和了りする。その際に、豊音のように四副露する必要はない。

 これは対策が必要だろう。

 やはり咲がマークすべきは憩だ。

 

 場決めがされ、起家は泉、南家は絹恵、西家は咲、北家は憩となった。

 咲は靴下を脱いで本気モードに入った。対局者の中に憩がいる以上、全力を出さなければ勝てないだろう。

 

 東一局、泉の親。

 泉は、配牌に恵まれ、五巡目で、

「リーチ!」

 親の先制リーチをかけた。しかし、その二巡後、

「ロン! 7700ですー!」

 泉は憩に振り込んだ。初っ端から憩の能力の餌食となったのだ。

 

 東二局、絹恵の親。

 絹恵の手は筒子で伸びてきていた。能力が発動しているのだ。そして、

「ポン!」

 咲が切った{⑧}を鳴いて絹恵は聴牌した。タンヤオ清一色赤2の親倍の手。しかし、やはり二巡後に、絹恵は、

「ロン! 7700ですー!」

 吸い込まれるように憩に振り込んだ。

「二連続で和了れて幸先がいいわー!」

 憩は、明るい笑顔でそう言いながら咲のほうに視線を向けた。次はお前だと言わんばかりに…。

 

 東三局、咲の親。

 咲の配牌は

 {一二二三①②②⑤24[5]東西北}

 ここから打{北}。

 

 二巡目。ツモ{②}、打{西}で手牌は、

 {一二二三①②②②⑤24[5]東}

 

 三巡目。ツモ{二}、打{東}で手牌は、

 {一二二二三①②②②⑤24[5]}

 

 四巡目。ツモ{2}、打{①}で手牌は、

 {一二二二三②②②⑤224[5]}

 

 五巡目。ツモ{2}、打{三}で手牌は、

 {一二二二②②②⑤2224[5]}

 三色同刻を狙うにしても、親なら普通は{⑤}を切って一旦聴牌に取るように思うが…。

 

 そして、次に泉が切った{二}を、

「カン!」

 咲は大明槓した。

 嶺上牌は{2}。そして、打{一}。手牌は、

 {②②②⑤22224[5]}  明槓{二横二二二}

 一向聴のままだ。向聴数の変わらない大明槓。タンヤオがつくようにはなったが…。

 

 そして、次巡、咲は{②}をツモった。

「もいっこ、カン!」

 {②}を暗槓した。嶺上牌は{6}。手牌は、

 {⑤22224[5]6}  暗槓{裏②②裏}  明槓{二横二二二}

 聴牌した。

 

 ここから、さらに、

「もいっこ、カン!」

 連槓した。{2}を暗槓したのだ。そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 咲は和了りを宣言した。嶺上牌は{[⑤]}。単なる嶺上開花ではない。五筒開花だ。

「タンヤオ三槓子三色同刻嶺上開花赤2。8000オールです。」

 

 和了り形は、

 {⑤4[5]6}  暗槓{裏22裏}  暗槓{裏②②裏}  明槓{二横二二二}  ツモ{[⑤]}

 

 これで、咲が一気にトップに躍り出た。

 連槓により、捨て牌無く一向聴から聴牌、和了りへと持って行かれては、憩も手の出しようがなかった。

 憩には、咲の意図が分かっていた。五巡目で、咲は敢えて{⑤}切りでの聴牌を避けたのだ。この違和感ある打ち方は、憩対策に咲が選択した方法だった。

 

 今回の槓は、大明槓と暗槓だったが、これが、もし聴牌後に加槓するパターンだったら、憩に槍槓を和了られてしまったかも知れない。

 当然、咲は、その可能性を既に晴絵から指摘されていた。

 もっとも、それ以前に、インターハイ県予選で鶴賀学園大将の加治木ゆみに槍槓を和了られて以来、咲は槍槓には気をつけているのだが…。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 咲の配牌は

 {一三四①②④⑤⑧288東西北}

 ここから打{北}。

 

 二巡目。ツモ{4}、打{西}で手牌は、

 {一三四①②④⑤⑧2488東}

 

 三巡目。ツモ{二}、打{東}で手牌は、

 {一二三四①②④⑤⑧2488}

 

 四巡目。ツモ{8}、打{一}で手牌は、

 {二三四①②④⑤⑧24888}

 

 五巡目。ツモ{8}、打{⑧}で手牌は、

 {二三四①②④⑤248888}

 

 六巡目。ツモ{③}、打{①}で手牌は、

 {二三四②③④⑤248888}

 これで一向聴。

 

 そして、七巡目。ツモ{3}で聴牌すると、

「カン!」

 {8}を暗槓した。嶺上牌は{[⑤]}。

「ツモ! タンヤオ三色嶺上開花赤1。6100オールです!」

 またもや赤牌での五筒開花だ。

 

 和了り形は、

 {二三四②③④⑤234}  暗槓{裏88裏}  ツモ{[⑤]}

 

 憩への振り込みを回避した打ち方。槓材が集まる咲だからこその攻め方だろう。

 この和了りで憩を大きく引き離した。

 

 東三局二本場。咲の連荘。ドラは{⑨}。

 憩としては、これ以上、咲に和了らせたくはない。勿論、これは憩だけではなく、泉や絹恵にとっても同じことだ。

 なんとかして、この親を流したい。

 泉は、七巡目で、

 {三四五六七①②③④⑤234}

 ここに{[⑤]}をツモった。

「(ナイスツモ!)」

 泉は、心の中でそう思った。これで、{①}か{④}を切れば聴牌。当然、タンヤオ三色同順を狙って{①}を切った。すると、

「カン!」

 咲の大明槓だ。そして、

「ツモ!」

 和了り形は、

 {三四五[五]六七⑨⑨57}  明槓{①横①①①}  ツモ{6}

「嶺上開花ドラ3。4200オールです!」

 悪形の役なし。形式聴牌からの大明槓、そして嶺上開花のみでの和了り…。嶺上牌で和了れると分かっていなければできない強引な和了り方だ。

 この和了りは責任払いではなくツモ和了りとして扱われる。今回は五筒開花ではなかったが、三連続嶺上開花と言うレアな状況であることに変わりはない。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 154900

 暫定2位:三箇牧高校 98100

 暫定3位:姫松高校 74000

 暫定4位:千里山女子高校 73000

 既に姫松高校と千里山女子高校は阿知賀女子学院にダブルスコアの点差をつけられていた。2位の三箇牧高校も原点を割った。

 

「(これは本気でヤバイわ。)」

 さすがに、憩の顔からも笑顔が消えた。

 

 東三局三本場。咲の連荘。

 軽い配牌に助けられ、憩は三巡目で早々に聴牌した。ただ、ドラなしの上に役なし。しかし、親は流したいし…。ならば、取る手は一つ。

「リーチ!」

 攻めることにした。そして、

「一発ツモ! 裏が1枚乗ったでー! 2000、3900の三本場は、2300、4200!」

 これで咲の親を流すことができた。

 

 そして、今度は憩の親番。

 東四局。

 憩は、再び流れを掴めたのか、

「ツモ。2600オール!」

 タンピンドラ1の手をツモ和了りした。

 

 東四局一本場。憩の連荘。

 ここでも憩は、

「ツモ! 2700オールやでー!」

 連続で和了った。

 

 しかし、東四局二本場で咲が動いた。

「ポン!」

 序盤で泉の捨てた自風の{北}を鳴き、続いて、

「カン!」

 絹恵の捨てた{白}を大明槓した。嶺上牌は{北}。当然、

「もいっこカン!」

 ここで引いてきた嶺上牌は{⑨}。

「もいっこカン!」

 咲は、手牌で四枚持ちの{西}を暗槓した。そして、

「ツモ!」

 嶺上牌は、またもや{⑨}。

「北白混一混老対々三槓子嶺上開花。6200、12200です!」

 当然の如く咲は嶺上開花で和了った。またもや一向聴から嶺上牌で聴牌し、そのまま連槓して嶺上開花を決めたのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①⑨}  暗槓{裏西西裏}  明槓{横白白白白}  明槓{北横北北北}  ツモ{⑨}

 

 これで東場が終了した。

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 170000

 暫定2位:三箇牧高校 110600

 暫定3位:姫松高校 60200

 暫定4位:千里山女子高校 59200

 三箇牧高校がマイナスからプラスに転じた。阿知賀女子学院は、さらに得点を伸ばし、一方の姫松高校と千里山女子高校が得点を減らした。

 

 

 南入した。

 南一局、親は再び泉。

 泉としては連荘して少しでも点数を取り返したいところ。しかし、

「ポン!」

 咲が筒子を絹恵に鳴かせ、

「ツモ! 2000、4000!」

 そのまま絹恵に鳴き清一を和了られた。ドラが無かったのが救いだったが、それでも泉にとっては満貫の親かぶりだ。ラスの泉にとっては非常に痛い和了りだ。

 この局、憩は聴牌できなかった。正しくは、憩が聴牌する前に咲が絹恵の手を進めさせて、さっさと和了らせたのだ。

 

 南二局、絹恵の親番。

 さっきの和了りで絹恵は気を良くしたが…、しかし、この局では咲が、

「ポン!」

 今度は泉に{中}を鳴かせた。そして、

「ツモ! 中ドラ2。1000、2000!」

 泉に和了られた。

 ここでも、前局と同じで憩が聴牌する前に泉が和了りを決めた。ここでも、咲がそうさせたのだ。

 

 南三局、咲の親番。

 前の二局で、憩は自分の麻雀を打たせてもらえなかったからか、少々ツキが下がっていた。どうも配牌が悪く、ツモも巧く噛み合わない。

 そうこうしているうちに中盤に入った。

 泉も絹恵も、咲の槓を警戒して初牌切りを避けた。しかし、

「ロン! 平和タンヤオ三色ドラ3。18000!」

 咲が槓に頼らない平和手で泉から直取りした。

 

 南三局一本場も、

「ロン! 南ドラ3。12300。」

 咲が泉から和了った。今回も嶺上開花ではない通常の和了りだ。

 

 そして、南三局二本場。ドラは{東}。

「ポン!」

 四巡目で、咲が絹恵から{8}を鳴いた。

 一方、憩は同じ牌が重なり、八巡目で、

 

 {二二二①①①7999發發發}

 

 四暗刻を聴牌した。連続振り込みで泉のツキが下がった分、憩のツキが一気に向上した感じだ。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 197300

 暫定2位:三箇牧高校 107600

 暫定3位:姫松高校 66200

 暫定4位:千里山女子高校 28900

 ここで憩が咲から四暗刻を直取りすれば、オーラスでの逆転も有り得る。憩はラス親なので、連荘での逆転を狙っても良い。

 

 咲の手牌は、

 {三四五⑥⑦⑧⑧西西西}  ポン{横888}

 

 ここに、{7}を引いてきた。槓材の{西}は次巡のツモ牌、嶺上牌は{⑧}。咲には、これが見えていた。




おまけ
春季大会終了後、淡に招待されて阿知賀女子学院メンバーが白糸台高校に向かう途中。

憧「あそこに見えるのが白糸台高校かな?」

咲「そうだよ。」

ふと、憧がある建物の看板を発見した。
一部が木で隠れて見えないが、見える部分に書かれているもの、それは…、

『ラブ ルネサンス』

憧「(ちょっと、これって、もしかしてラブホ? どうして学校の近くにラブホなんかあんのよ?)」

咲「あの看板さぁ。」

憧「ふぇ!」

咲「木で一部隠れていて、私、お姉ちゃんに連れられて前来た時に『ラブ ルネサンス? どうしてラブホテルが学校の近くに?』なんて思っちゃって。」

憧「そ…そ…そ…そうでしょ?」

妙に慌てる憧。

穏乃「でも、あの看板、良く見ると『スイミングクラブ ルネサンス』って書いてない?」

咲「そうなの。私って早とちりしてるって思って。」

憧「(スイミングクラブか…。焦ったぁ。でも、まあ、サキだけじゃなくて私もだけどね。)」

玄「(スイミングクラブなら、オモチ成分が期待できるかもしれないのです!)」

どんな時でもマイペースな玄でした。


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六本場:差し込み

咲の手牌は
三四五⑥⑦⑧⑧西西西  ポン888  ツモ7

憩の手牌は、
二二二①①①7999發發發
です。

前書きには牌画像変換ツールが適用されていないようでして、上記記載となりましたことをご了承ください。



 咲は、次巡で{西}を暗槓し、嶺上開花で和了れることを知りながら、聴牌に取らずに{⑥}を切った。

 憩の四暗刻への振り込みを回避したのだ。

 次巡、咲はツモ{西}で暗槓せずに打{⑦}。

 さらに、その次のツモで咲は{8}をツモった。そして、

「カン!」

 咲が{8}を加槓した。そして、すかさず点棒を用意する。

「ロン!」

 憩の槍槓だった。

「槍槓發三暗刻。二本場は8600ですー!」

 ドラなしだが満貫の手。

 ただ、咲は和了られるのを予測していた。

 たしかに、嶺上牌は{⑧}、その次の嶺上牌は{7}だ。これで咲は和了っていた。

 しかし、問題は壁牌のほうだ。つまり、憩の次のツモ牌…。

 咲が点棒を支払った後、泉が山を崩した時に、その牌が見えた。最後の{7}…憩の高目の和了り牌が、そこにあった。

 もし、咲が槍槓を警戒して加槓しなければ、憩は四暗刻を和了っていた。

 咲は自らが振り込むことで役満を回避したのだ。

 もっとも、槍槓を見逃してくれれば咲は嶺上開花で和了っていたのだが、それを見逃すほど憩が甘くないのを知っていた。その上での加槓だった。

 次のツモが何だったのを知らされて、憩は複雑な心境だった。

「(まさか、次に{7}が来ることになってたとは…。でも、あそこで和了っとかないとチャンピオンに、きっと嶺上開花で和了られてしまうやろからな。あれで正解や!)」

 憩は、自分にそう言い聞かせた。

 

 オーラス。憩の親。

 さっきの槍槓で、咲から憩にツキが回ったようだ。

 先に聴牌したのは泉。しかし、次巡で憩は聴牌し、その直後に泉が切った牌で、

「ロン! 中ドラ2の7700ですー!」

 憩が和了った。

 ここで和了り止めしても良いが、それでは先鋒前半戦で咲に負けたことを認めることになる。憩は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 ここでも早々に聴牌したのは泉だった。しかし、次巡、

「ロン! 12300!」

 泉は憩に振り込んだ。二連続だ。

 

 オーラス二本場。

 この局は憩が最初に聴牌した。そして、

「ツモ! 1000オールの二本場は1200オール!」

 憩がそのままツモ和了りした。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 200100

 暫定2位:三箇牧高校 135600

 暫定3位:姫松高校 60800

 暫定4位:千里山女子高校 3500

 いよいよ千里山女子高校が危なくなってきた。親満ツモでトビ終了だ。子の3900直撃でも終わる。

 

 咲からの振り込みは期待できない。ツモ和了りでも下手をすれば泉が箱割れする。ならば、憩が取る方法は一つしかない。

 憩は、次は絹恵をターゲットに変え、

「三本場!」

 連荘を宣言した。

 しかし、五巡目で泉が切った牌で、

「ロン! 3200の三本場は4100です。」

 さくっと咲が泉から直取りした。これで泉のトビで終了となった。

 魔物二人が同時に暴れるとは、こう言うことだ。先鋒前半戦で決着がついた。

 

 阿知賀女子学院は、近畿大会を制した。しかし、全国に行けば、憩以外にも咲と遣り合える相手がいる。そんな化物達が率いるチームと阿知賀女子学院は再び春季大会で戦うことになる。

 それでもインターハイ準優勝校の目指すところは唯一つ。全国優勝だ。

 

 三箇牧高校は近畿大会では準優勝となったが、春季大会では打倒阿知賀女子学院を目指す。こちらも当然、全国優勝を目指す。

 

 一方の泉は、卓に付いたまま立ち上がることができないでいた。

 彼女の頭の中は、悔しさ以上に恐怖が渦巻いていた。目は精気を失い、ただのデク人形のようになっていた。

 漏らさないだけ良いほうだが…。

 対局室に浩子が入ってきた。泉を心配して迎えに来たのだ。

「お疲れやった…。」

「先輩…。」

「化物二人を相手に、良く最後まで戦い抜いたと思う。」

「良くなんかありません。宮永は、同じ一年なのに…、同じ一年なのにぃ!」

 泉の目から大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。ようやく感情と言うモノを取り戻した。

「インハイ西東京予選では、宮永照一人が先鋒戦で終わらせた試合があったのは覚えているやろ。」

「はい…。」

「宮永咲は、その姉に勝ってインハイ個人で優勝した怪物や。しかも、後半戦はプラマイゼロの点数調整をしてな。」

「…。」

「それに、今回は憩さんもいたし、二人にアレだけ暴れられたら、普通は途中で泣いて逃げ出すレベルや。最後まで戦い抜いたことを誇りに思ってええと思うで。」

「でも…先輩…。くやしいです…。」

「春大や!」

「えっ?」

「春季大会で、この借りを返す。そのつもりで、これから一層頑張るしかない。」

「わ…分かりました。」

「期待してるで、高一最強!」

 浩子なりの励ましの言葉だった。しかし、これを傍で聞いていた絹恵には、『高一最強』の言葉は嫌味としか思えなかった。

 

 

 それから時が経ち、年末になった。

 光がドイツから帰国した。

 ただ、記憶を操作されていたことから、万が一のために医療が充実した地域に光を住ませるべきとの判断がなされた。

 小学生の頃には足を悪くして車椅子生活をしていたこともある。

 それで、光は母親と一緒に東京都で暮らすことになった。

 

 

 3月。

 この日、清澄高校では卒業式が執り行われた。

 元麻雀部部長の竹井久を見送るのは、一年生の男子部員、須賀京太郎だけであった。

「卒業おめでとうございます。」

「ありがとう。でも、また一人に戻っちゃったか。寂しいわね。でも、最後の夏で最高の思い出ができた。麻雀部を潰さないで本当に良かったと思う。」

 久の頭の中をインターハイの記憶が駆け巡る。

 一年生の時は、ずっと一人。

 二年生になって、ようやく部員が一人増えた。

 そして、三年生になって、一気に二人の女子新入生と一人の男子新入生が入部した。それでも大会に出るには女子部員が一人足りなかったが…。

 ただ、最後の最後で見つけた5人目のメンバーは、まさしく久の悪待ちを象徴する存在と言えた。あれほど大きなモノを引き当てたのは、久としても人生初だ。

 まさか、あの宮永照の妹が清澄高校に入学していたとは…。

 その女生徒…宮永咲は、麻雀ルールの根底にある点数を自在にコントロールできる。神か悪魔かと言える存在。

 まるで点棒に溺愛され、且つそれを従えていると言えるほどだ。これでインターハイ優勝を目指したくなった。

 予選では余裕で決勝進出。

 そして、決勝戦では、天江衣を相手に咲が奇跡の逆転優勝。

 インターハイでも一回戦は自分の連荘で他家をトバし、中堅戦で決着をつけた。自分自身が活躍できた。

 二回戦は途中まで調子が出なかったが、最後には自分の麻雀スタイルを取り戻せた。

 準決勝戦では世界ランカー相手に最高の麻雀が打てた。

 決勝戦では自分の見事に策略がはまり、優希がまさかの天和を見せた。大会史上初だ。その後、チームは一旦ラスまで転落したが、またもや最後の最後で、これしかないと言える方法で咲が奇跡の大逆転劇を見せてくれた。

『インターハイ優勝』

 これ以上の思い出はない。

 後輩達がくれた最高の思い出だ。

 しかし、その後輩達が…、最後に『ありがとう』の言葉を本当に言うべき相手が今はいない。それだけが久にとっては心残りだった。

 

 

 それから数週間後、咲達は東京に向けて出発した。

 昨年インターハイの時と同様に晴絵が運転する車での移動だ。これなら電車移動に比べれば咲が迷子で消える心配は少ない。

 勿論、サービスエリアでは穏乃か憧が咲に付き添うことになっていたが…。

 

 インターハイの時と同じく、阿知賀女子学院のメンバーは浜名湖サービスエリアで休憩を取った。

「そう言えば、インターハイの時は、ここで千里山の園城寺さんと清水谷さんに会ったんだよね。」

 憧がこう言うと、穏乃がこれに反応した。

「うなぎのパン食べてた人だよね!」

「それはシズもでしょ!」

「でも、あの人達と二回戦で当たるとは思っても見なかったな。」

 すると、玄が、

「園城寺さん、とても強かった。もう一人は、穏乃ちゃんと戦った、あのオモチの人だよね!」

 と言った。竜華のことは、胸で覚えているようだ。

 これを聞いて憧は、

「(クロらしい…。)」

 と心の中で呟いた。まあ、いつものことだが…。

「でも、一巡先が見えるとか反則だよね。」

 この憧の言葉を聞いて、咲は、

『私、靴下を脱ぐと牌が全部見えるんです!』

 …とは、さすがに言えなかった。

 

 サービスエリア内のテナントの一画が改装中だった。ここに、新しい店舗が入るのだろう。

 その手前に小さなテーブルが置かれており、その上には小さな籠が置かれていた。

 その籠の中には、折ったチラシとポケットティッシュをホッチキスで止めたものが十個くらい入っていた。

 また、その籠には、

『お一人様一つまでお持ち下さい』

 と書かれた紙が貼り付けられていた。チラシを配るため、一人でポケットティッシュを全部持って行かないでくれと言うことだろう。

 穏乃が、

「お一人様一つまでお持ち下さいか…。」

 と書かれた内容を口にした。すると、

「オモチください?」

 玄が、反応した。まあ、予想の範囲内だが。

「お一人様一つまでって、オモチは一人二つなのです! 一人一つでは、よろしくないのです!」

 しかも、なにか勘違いしていた。

 今日も平和だ。

 

 阿知賀女子学院一同は、その日の夜にホテルに着いた。

 部屋割りは、近畿大会の時と同じで、各部屋二人ずつで『穏乃と憧』、『咲と玄』、『灼と晴絵』に分かれた。

 玄は、やっぱり、

「(おもちのレベルでは憧ちゃんが一番マシですのだ!)」

 と思ってはいたが、黙っているしかなかった。

 それよりも、

「(今回の参加者の中に、どれだけ立派なオモチを持つ人がいるか楽しみなのです! 開会式が待ち遠しいのです!)」

 玄は、他校生徒に期待することにしていた。

 

 

 翌日、抽選が行われた。

 出場校は、北海道地区から三校、東北地区から三校、関東地区(東京都を除く)から四校、東京都から三校、信越地区から三校、東海地区から四校、近畿地区から四校、中国・四国地区から四校、九州・沖縄地区から三校を基本とし、そこに、昨年の春季大会で優勝したチームの所属する地区より、さらに一校を選出する。

 つまり、昨年は白糸台高校が春季大会を制したので東京都の代表校が四校となった。

 

 昨年の春季大会覇者の白糸台高校(西東京)が第一シード(Aブロック)。

 昨年2位の千里山女子高校(北大阪)が第二シード(Dブロック)。

 昨年3位の臨海女子高校(東東京)が第三シード(Cブロック)。

 そして、昨年4位の永水女子高校(鹿児島県)は、残念ながらメンバーが足りず秋季大会へのエントリーを辞退したため、同じ九州・沖縄地区大会の優勝校である新道寺女子高校(福岡県)が第四シード(Bブロック)となった。

 もっとも、32校の参加なので、シード校でも一回戦免除にはならないのだが…。

 また、抽選では同じ地区の代表が別ブロックになるように配慮された。そのため、全てのくじが入った箱からを引くのではなく、ブロック毎にくじが分けられており、くじを引ける箱が地区ごとに決まっていた。

 

 

 阿知賀女子学院は、抽選の結果、新道寺女子高校のブロックに入った。一回戦の相手は中国・四国地区鬼籠野高校(徳島県)、九州・沖縄地区代表新道寺女子高校(福岡県)、東京都代表松庵女学院(西東京)に決まった。

 

 そのさらに翌日、開会式が大会会場に併設された体育館で行われた。

 各校のレギュラー5人が整列した。補員は、顧問や他の生徒達と一緒に観戦席で開会式の様子を見学することになる。

 数多くの選手達が、阿知賀女子学院…正しくは阿知賀女子学院の二人の魔物、咲と穏乃の姿に目を向けていた。

 特にライバル意識が高い選手は白糸台高校の大星淡だろう。気合いが入っている。

 その隣には和の姿もある。

 ただ、そのさらに隣にいる美女二人が、敵意むき出しと言うか、まるで咲のことを仇の如く睨みつけている。佐々野いちごの妹の佐々野みかんと、多治比真祐子の妹の多治比麻里香だ。ともに高校一年生。咲と同学年になる。

 二人の共通点…。それは、姉がインターハイ個人戦で咲と対局した直後に失禁したことだ。その映像が全国にライブ中継され、それ以来、レギュラー落ちした先輩達から何かにつけて失禁事件のことで弄られる。

 和は、白糸台高校に転校してきた当初、咲と同じ高校にいたことで、みかんと麻里香から眼の仇にされていた。

 しかし、和は、二人を馬鹿にする先輩達に、

『先輩方は、咲さんを相手に最後まで平然としていられるのですか?』

『みかんさんと麻里香さんが失態を犯したわけではないでしょう!』

『麻雀は、口でするものではありません!』

 と、色々と苦言を呈した。

 とにかく和は、先輩達に、みかんと麻里香を弄るのをやめさせようと、強気で向かっていった。その姿勢は揺るがない。

 この姿を見て、みかんと麻里香は徐々に和を受け入れるようになっていった。

 しかし、ことの根源となる咲のことは、どうしても受け入れられないし、敵認定しなければ精神的にやって行けない部分もあるのだろう。

 それで二人は咲のことを睨みつけていたのだ。

 

 咲と穏乃を意識する者達は他にもいる。

 信越地区代表龍門渕高校(長野県)の龍門渕透華と天江衣。

 特に、咲に対しては夏の長野県予選での雪辱に燃えている。

 

 近畿地区代表三箇牧高校(北大阪)の荒川憩。

 こちらも近畿大会の借りを返すべく気合いが入っている。

 

 東京都代表松庵女学院(西東京)大将の多治比真祐子。

 言うまでもない。咲に対する個人戦での恨みだ。あんなに恥ずかしい思いをさせられて敵視するなと言う方が無理だろう。

 阿知賀女子学院とは初戦で当たる。気合いは十分だ。

 

 そして、臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼ。咲と穏乃、二人へのインターハイ決勝戦の雪辱だ。

 臨海女子高校の留学生達は、本来であれば、世界大会直前に開催される日本国内の大会には出場せず、祖国チームの合宿への参加を優先する。世界大会に出場するレベルの選手をスカウトして集めた高校なのだから、この辺は仕方がないだろう。

 しかし、先鋒となる日本人選手に、インターハイで前エース辻垣内智葉を苦しめた片岡優希が入ったことで、留学生達は春季大会への出場権を賭けた秋季大会への出場を決意した。

 もっとも、春季大会出場権を得た直後に祖国に帰って合宿に参加したのだが…。

 

 ただ、開会式に参加する各校メンバーの中に、光の姿は無かった。

 彼女は、照と一緒に観戦席のほうにいた。

 しかも制服ではない。私服姿だった。

 

 それから、玄はと言うと、

「(有珠山高校が出ていないので真屋さんがいないのです。永水女子高校も出ていないのです。インターハイに比べてオモチ成分が足りないのです!)」

 と勝手に嘆いていた。

 

 

 開会式終了後、すぐにAブロック一回戦が二試合同時並行で行われた。

 A卓のほうに、白糸台高校が姿を現した。当然、観戦席は白糸台高校の試合を見ようと満席状態だった。

 白糸台高校は、秋季大会からチーム制が廃止され、部内ランキングによって選手を選ぶ方法に変えていた。部員が増えたため、以前のように他の強豪校と敢えて違う選出方法を取る必要が無くなったためだ。

 もっとも、和と淡、みかん、麻里香の四人で、監督に、

『今の白糸台高校麻雀部の規模であれば、チーム制は非効率!』

 と訴え、それを認めさせたのだが…。

 

 白糸台高校先鋒は和。今の白糸台高校麻雀部レギュラーランキング2位。

 インターハイ優勝校のメンバーであり、余程のことがない限りぶれない安定した麻雀を打つ彼女なら、他校のエースを相手にしても負けることはないだろうとの考えだ。

 

 次鋒は、みかん。レギュラーランキング3位。能力者ではないが、姉のいちごと同様に強い。

 

 中堅は、麻里香。こちらも、みかんに次ぐ実力者。レギュラーランキング4位。

 

 副将には、昨年のチーム虎姫のメンバーの一人、渋谷尭深。レギュラーの中で唯一の二年生。レギュラーランキング5位。

 ただ、体調が優れないのか、少し咳き込んでおり、マスクをつけての参加となった。お茶が飲みにくそうだ。

 

 そして、大将は大星淡。レギュラーランキング1位。

 部長の亦野誠子は補員登録となった。

 

 白糸台高校の一回戦の相手は、信越地区代表風越女子高校(長野県)、中国・四国地区代表粕渕高校(島根県)、東北地区代表天童大附属高校(山形県)だった。




注釈
トーナメント表は、以下の通り考えています。
試合は二回戦まで二試合同時平行で行われる設定です。
なお、シード選出方法とか抽選方法は、みなも-Minamo-とは異なっています。


Aブロック一回戦第一試合(大会一日目午前)
白糸台高校(東京都)
粕渕高校(中国・四国)
天童大付属高校(東北)
風越女子高校(信越)


Aブロック一回戦第二試合(大会一日目午前)
館山商業高校(関東)
琴似栄(北海道)
姫松高校(近畿)
東海代表


Bブロック一回戦第一試合(大会一日目午後)
東白楽高校(関東)
射水総合高校(信越)
東海代表
東北代表


Bブロック一回戦第二試合(大会一日目午後)
阿知賀女子学院(近畿)
鬼籠野高校(中国・四国)
松庵女学院(東京都)
新道寺女子高校(九州・沖縄)


Cブロック一回戦第一試合(大会二日目午前)
臨海女子高校(東京都)
九州赤山高校(九州・沖縄)
関東代表
北海道代表


Cブロック一回戦第二試合(大会二日目午前)
三箇牧高校(近畿)
苅安賀高校(東海)
中国・四国代表(できれば四国)
東北代表


Dブロック一回戦第一試合(大会二日目午後)
龍門渕高校(信越)
朝酌女子高校(中国・四国)
北海道代表
関東代表


Dブロック一回戦第二試合(大会二日目午後)
千里山女子高校(近畿)
東京都代表
九州代表
東海代表


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七本場:完全試合

 春季大会は、秋季大会と同じで赤ドラ4枚入りでダブル役満以上ありのルールだった。ただし、単一役満でのダブル役満は認められない。

 大明槓からの嶺上開花は、インターハイとは違って責任払いではなくツモ和了りとなる。また、本大会では、二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)が認められていた。

 

 風越女子高校控え室では、レギュラーメンバーと補員、それから監督の久保貴子が、テレビモニターを通じて対局の様子を見ていた。

 先鋒戦が始まる。

 一回戦は先鋒戦、次鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦それぞれが半荘一回での点数引継ぎ制であった。半荘二回ずつになるのは二回戦からとなる。

「(それにしても、いきなり和の高校と当たるとはのぅ…。)」

 風越女子高校副将の染谷まこは、心の中でそう呟いた。

 インターハイ終了後、彼女のところに風越女子高校から引き抜きの話がきた。

 一年生トリオが転校することになり、前部長も引退。実質、女子部員は一人へと逆戻りするところに来たスカウト。

 それで彼女も転校を決めた。

 彼女の能力。

 それは、時間軸の『超高速跳躍』。

 その能力の凄まじさに、『超光速跳躍』と言う人もいる。

「役満直撃! 白糸台高校渋谷尭深選手の大三元が炸裂したぁ! 天童大附属高校のトビで試合終了! Aブロック一回戦第一試合は、白糸台高校が一位、風越女子高校が二位で二回戦進出を決めました!」

 まこの能力のお陰で、いつの間にか試合が終了した。

 

 その日の午後に、Bブロック一回戦が行われた。

「午後は咲達の試合じゃ。これも見ておかんと…。」

 まこが観戦席でそう呟いた。

 次の瞬間、

「出たぁー! 四槓子字一色! しかも連槓からの嶺上開花! 阿知賀女子学院チャンピオン宮永咲選手の親のダブル役満ツモで、まさかの三校トビで試合終了! 阿知賀女子学院がぶっちぎりの一位、新道寺女子高校が二位で二回戦進出を決めました!」

 まこの能力が再び発動し、こちらも一瞬で試合が終了した。

 松庵女学院の大将、多治比真祐子は、咲のいる宿敵阿知賀女子学院と牌を交わすことなく姿を消すこととなった。まあ、咲に次ぐ魔物と称される穏乃と戦わずに済んで良かったのかもしれないが…。

 ちなみに、一部のコアなファンは、失禁事件の再来を勝手に期待していたが、それが実現せずに残念がっていたらしい。

 

 その日の夜、尭深は40度の高熱を発した。気管支炎を発症したのだ。

 二回戦は明後日。さすがに、それまでに試合に出られるようになるとは思えない。補員に交代してもらう以外に方法はない。

 尭深は、

「誠子ちゃんを呼んできてくれないかな…。」

 淡と和に咳き込みながらそう言った。

 

 翌日、午前中にCブロック一回戦が二試合行われ、臨海女子高校、九州赤山高校(鹿児島県)、三箇牧高校、苅安賀高校(西愛知)が二回戦進出を決めた。

 また、その日の午後にDブロック一回戦が二試合行われ、龍門渕高校、朝酌女子高校(島根県)、東村山女子学院(西東京)、千里山女子高校が二回戦に進出した。

 

 

 大会三日目。朝からAブロック二回戦とBブロック二回戦が同時に開催された。

 Aブロック二回戦は、白糸台高校、風越女子高校、姫松高校、館山商業高校(千葉県)の四校により行われた。

 一方のBブロック二回戦は、東白楽高校(北神奈川)、射水総合高校(富山県)、阿知賀女子学院、新道寺女子高校が激突した。

 先鋒戦から大将戦まで前後半戦で行われるため、終わるのは大抵夜になる。

 

 風越女子高校先鋒は吉留未春だった。対する和は、相変わらずエトペンを抱えての登場だった。これがあったほうが落ち着いて自分の麻雀が打てる。

 清澄高校元部長、竹井久の発案だ。これが、今でも継続されている。

 ちなみに姫松高校はエースを中堅に置くのが伝統となっている。中堅は近畿大会と同様に現エースの上重漫がエントリーされていた。副将に前エース愛宕洋榎の妹愛宕絹恵の名前があった。絹恵のポジションは、近畿大会とは変わっていた。

 

 場決めがされた。

 起家は館山商業高校先鋒、南家は未春、西家は和、北家は姫松高校先鋒になった。

 

 東一局。

 この立ち上がりの局で、運の良し悪しがある程度決まるだろう。ここでは牌効率の良い和が早々に聴牌し、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 一発ツモにはならなかったが、数巡後、

「ツモ! 2000、4000です!」

 リーチ平和ツモ赤1裏1の満貫を和了った。

 

 東二局、未春の親。

 当然、未春は連荘を狙う。門前に拘る必要はないし、クイタンドラ3が見えていた。しかし、

「ロン! 5200です。」

 館山商業高校先鋒が、和に門前タンヤオ一盃口ドラ1を振り込み、未春の親は流れた。

 

 東三局、和の親。

 和は、早々に、

「ポン!」

 {白}を鳴いた。連荘狙いだ。しかし、

「リーチ!」

 五巡目で未春がリーチをかけた。

 館山商業高校先鋒と和は降りた。しかし、姫松高校先鋒は勝負手なのか、降りずに突っ張った。そして、数巡後に、

「リーチ!」

 姫松高校先鋒が追っかけリーチをかけた。

 未春と姫松高校先鋒のめくり合い勝負。ただ、どちらにも軍配は上がらなかった。

 流局…。

 これで和の親は流れ、未春と姫松高校先鋒が館山商業高校先鋒と和からノーテン罰符として1500点を各々受け取った。

 

 東四局、流れ一本場。親は姫松高校先鋒。

 2000点のリーチ棒供託のあるこの局は、

「ポン!」

 和が積極的に鳴いて出た。明らかに場に出た2000点狙いだ。そして、

「ツモ! 600、1100!」

 {發}のみの一本場を和が和了った。

 

 南入した。

 親は再び館山商業高校先鋒。

 未春としては、そろそろ和了りが欲しいところ。六巡目で聴牌し、そのまま、

「リーチ!」

 即、リーチした。{横②}切り。

 すると、和が、

「チー!」

 一発を消した。晒されたのは{横②③④}。

 そして、未春の安牌である{北}を捨てた。

 次巡も和は{北}を捨てた。アタマを落としたのだ。

 そして、その次の巡目で、

「ロン! タンヤオドラ2。3900です。」

 館山商業高校先鋒が捨てた未春の安牌である{②}で和が和了った。それも、{②}単騎待ち。和は、{②③④}の出来面子から鳴いたのだった。

 

 南二局、未春の親。

 今度は、早々に姫松高校先鋒が、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

 この局は、三家とも降りた。結局、姫松高校先鋒は和了れずに流局した。

 

 南三局、流れ一本場。和の親番。

 ここまで和了ったのは和のみ。このままではパーフェクトゲームになってしまう。

 未春が五巡目で聴牌したが、役無しだった。そこで、

「リーチ!」

 何でも良いから和了ってパーフェクトゲームを潰したい。それで、ここでも攻めに出た。すると、

「リーチ!」

 二巡後に姫松高校先鋒が追いかけた。さらに次巡、

「リーチ!」

 館山商業高校先鋒も追っかけリーチをかけた。三人リーチだ。

 和は、突っ張らずに降りた。非常に上手で綺麗な降り方をする。

 結局、この局は流局し、和が三人にノーテン罰符を支払った。

 

 オーラス、流れ二本場。姫松高校先鋒の親。

 とにかく和のパーフェクトゲームを潰したい。それが和以外の三人の共通認識だった。

「チー!」

 一方の和は、特にパーフェクトゲームを意識していなかった。ただ、3000点のリーチ棒供託狙いで攻めに出ただけだ。そして、数巡後、

「ツモ! タンヤオのみ。500、700です。」

 和が和了った。

 見事、和がパーフェクトゲームを達成して前半戦が終了した。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 120600

 暫定2位:姫松高校 98700

 暫定3位:風越女子高校 96400

 暫定4位:館山商業高校 84300

 咲と憩の二人が同時に暴れた近畿大会決勝戦と比べると、余り点数は動いていない。しかし、これが一般的な麻雀対局での点数だろう。

 憧は、観戦席でこの対局を見ながら、

「(最近、いきなり100000点削るとか見ていたから感覚が麻痺してきたわ。これが、普通の麻雀の点数だよね?)」

 と内心思っていた。

 

 それから10分後に後半戦が開始された。

 場決めがされ、今度は和が起家、館山商業高校先鋒が南家、姫松高校先鋒が西家、未春が北家になった。前半戦とは席順がガラっと変わった。

 

 東一局、和の親。

 さすがに後半戦も和にパーフェクトゲームをやらせるわけには行かない。

 未春は、

「ポン!」

 自風の{北}を一鳴きした。さすがに、今の状況を考えると二鳴きがどうこう言っていられないとの判断だ。そして、数巡後、

「ツモ! 500、1000!」

 未春は安手だが、待望の初和了りを決めた。

 

 東二局、館山商業高校先鋒の親番。

 この局は、

「チー!」

 早々に姫松高校先鋒が仕掛け、

「ツモ! 1000、2000!」

 そのまま早い巡目で和了った。こちらも、これでヤキトリ回避だ。

 

 東三局、姫松高校先鋒の親。

 後半戦で和了りが無いのは、和と館山商業高校先鋒の二人。

 この局は、七巡目で和がダマで聴牌した。しかし、聴牌気配を感じたのか、他家は攻めずに降り出した。そして、数巡後、

「ツモ! タンヤオ平和一盃口ドラ1。2000、4000です。」

 ダマの出和了りで7700点だった手を、和がツモ和了りした。

 

 東四局、未春の親番。

 ここに来て、今までツキが無かった館山商業高校先鋒に良い手が入った。そして、

「リーチ!」

 勝負をかけた。

 他家は、一先ず一発回避で現物切り。しかし、館山商業高校先鋒が、ここで先鋒戦一番の和了りを見せた。

「ツモ! リーチ一発ツモタンヤオドラ3。3000、6000!」

 これで館山商業高校が4位から3位に順位を上げた。

 

 南入した。

 南一局、ここでも館山商業高校先鋒が、

「ポン!」

 和が切った{南}を早々に鳴き、

「ツモ! ダブ南ドラ1。1000、2000!」

 ツモ和了りを決めた。

 これで館山商業高校が2位に浮上した。

 

 南二局、連続和了りを決めた館山商業高校先鋒の親番。

 ここで館山商業高校先鋒に連荘させてはならない。完全にツキが回ってしまう。

 未春は、和から、

「ポン!」

 早々に切られてくる{中}を鳴いた。手牌には{[⑤]}が2枚にドラが1枚ある。これを和了れれば大きい。

 待ちは{白}と{⑤}のシャボ。ここに、館山商業高校先鋒が{白}を切ってきた。

 当然、

「ロン! 8000!」

 これを逃さずに未春が和了った。

 

 南三局、姫松高校先鋒の親。

 姫松高校としては3位から、どうにかして順位を上げたいところ。

 しかし、親の時に限って手が重い。連荘を狙うには少々厳しい。

 一方、和は{①④⑦}待ちの平和手をダマで聴牌していた。{④⑦}ならタンヤオがつく。

 ここに館山商業高校先鋒が{⑦}を切ってきた。すかさず、

「ロン! タンピンドラ2。7700です。」

 和が和了った。

 

 オーラス。未春の親。

 未春は、このまま2位を死守、できれば1位の和をまくりたい。配牌は、四向聴。しかし、ツモが噛み合わない。

 一方の姫松高校先鋒は、五向聴だったが、カンチャンが連続して埋まり、六巡目には平和ドラ1を聴牌できた。

 そのまま、即、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 一発ツモには、ならなかったが、数巡後、

「ツモ!」

 姫松高校先鋒が和了った。しかし、裏ドラは乗らず、

「1300、2600!」

 5200点の和了りに留まった。

 とは言え、これで姫松高校は2位に浮上した。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 128000

 暫定2位:姫松高校 99400

 暫定3位:風越女子高校 93800

 暫定4位:館山商業高校 78800

 結果的に前半戦と順位に変化は無かった。ただ、前半戦に比べて、各校の点差が少しずつ開いた。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、和は急いで対局室を出て行った。それは、未春に話しかけられるのを避けているかのようにも見えた。

 清澄高校麻雀部を解体してしまったことに対する罪悪感が、彼女にそうさせているのかもしれない。

 和が控室に戻ると、

「おかえりー! トップだよ、やったじゃん!」

 そう言いながら淡が和を出迎えた。まるで自分の事のような喜び方だ。

 みかんと麻里香も、

「すごーい! 前半戦、パーフェクトゲーム!」

「やったジャン!」

 と言いながら和とハイタッチした。この美女四人組は意外と仲が良いようだ。これで和の気持ちも和らいだ。

「じゃあ、次は私だね。」

「頑張ってください。」

「勿論! じゃあ、行ってくる!」

 みかんは、そう言うと控室を後にした。

 その後姿を五人の少女達が見守っていた。

 控室には、レギュラー組の和、淡、麻里香の他に、誠子と、もう一人の少女がいた。この五人だ。

 このレギュラー組以外の二人が白糸台高校の補員として登録されており、どちらかが尭深の代わりに出場することになる。

 今日も尭深は、熱が40度を超えており、寮のベッドで静かに寝ていた。恐らく、この試合の中継も眠っていて見ることはできないだろう。




おまけ

咲「今回は、大喜利コーナーにします!」

全員:嫌な顔をしながら拍手。

咲「これからは、各お題につき一名、私が良いと思った回答を出された方に座布団を進呈します。」

全員:拍手

咲「過去の問題につきましては、『…むに…て…から』は、原作で今後出てくると思われます正解を当てた方に、正解者がいない場合は、正解に最も近かった方に咲-Saki-の重要なイベントに参加していただくことと合わせて座布団を進呈したいと思います。
それと、この〇〇で✖✖?は、『この登場シーンでザコ?  犯罪だわ!』を回答された愛宕洋榎さんに座布団を進呈したいと思います。」

洋榎「うちか? 有難く頂戴するで!」

咲「三問目の『インド〇〇〇〇スクール』は、正解者の憧ちゃんに座布団を進呈します。」

憧「やった!」

咲「では、今日の御題です。咲-Saki-の色々な場面の台詞を改変して面白おかしくしてもらうと言うものです。何かありますでしょうか?」

爽「んー、じゃあ例えば、阿知賀編第18局での清水谷さんの台詞、
『ここに怜を感じる』→『これが怜のマ〇汁!』
とかでイイの?」

咲「アウトです。R-18に移行するつもりはありませんので、エロネタは余りキツ過ぎないようにお願いします。」

霞「では、『ここに怜を安置する』なんてどうかしら?」

咲「それならOKです。」

怜「OKやない! 遺体を安置するみたいで嫌や!」

初美「なら私は、咲-Saki-17巻の5ページからですよー!
『照!? どうした!』
『殺った…』
『?』
『妹を殺ったんだ。でも、何をしていたのか、なんにもわからなかったよ…。なんにも。』
こんなんでいいですかー?」

咲「いいですけど…私を殺さないでください。」

セーラ「安置とか殺ったとか、死ぬネタが好きやなぁ、永水は。」

洋榎「ほな、咲-Saki-17巻の19ページからや!
『宮永…お前、援交はできるのか?』
『ん…。できるっちゃできるけど…小学校の頃から売ってない。』
『それなら昔売ってたとしても今は蜘蛛の巣張ってるな。残念だ。』
『弘世』
『監督』
『どうだい。援交にはなじんだか?』
『今日2日目なので…来週からです。』
これでどうや!」

咲「完全にアウトです! どうもエッチなほうに行きがちですので御題を変えます。その前に、この御題での座布団進呈は、石戸霞さんの『ここに怜を安置する』にしたいと思います。」

霞「有難うございます!」

咲「では、次の御題です。名前を入れ替えて別の意味にしてください。自分の名前でも他人の名前でもイイです。」

憧「つまりアナグラムってことね。
じゃあ、私から。こんな名前がイイです。
『菊川怜』入れ替えると『若く綺麗』!」

優希「じゃあ、私は自分の名前で行くじぇい!
『片岡優希』は『浴衣を買う気』だじぇい!
別に、こういう名前がイイとか悪いとかは関係ないけどな!
あと、『お』が『を』に変わってるのは大目に見てほしいじょ。」

全員「(いきなりアコスvsタコス!)」

姫子「なら、私の名前は『秘めたるコツ』で。」

哩「なら、私の名前は『流浪マズイし』か!」

豊音「私の名前は『姉と寝たいよ』になるのかな?」

白望「殺せ我がシミ……だる…。」

華菜「池田華菜を逆から読むと中田ケイか…。名前になってる!」

咲「(じゃあ、叩かれ役のオリキャラには、中田ケイって名前をつければイイってことだよね?)」

全員「(あとで絶対出てくるな。池田クラスのやられ役オリキャラとして!)」

咲「ええと、ちょっと脱線しますが、実写版での池田さん役は、
いけだかな→〇けだ〇な→たけだれな
こうやって決まったのではないかと勝手に想像しております。」

華菜「それで理解できたし! 華菜ちゃんに全然似てないし、華菜ちゃんの魅力を演じるには、彼女では役者不足だと思っていたし!」

全員「(いや、役不足の間違いだろ! むしろ、もったいない使い方してるぞ!)」

咲「まあ、別にどうでもいい話ですけどね。
では、次、何方かいませんか?」

塞「じゃあ、こんな名前は、意外にヤバイかもってやつ。
『たけむらたつや』逆から読んだら『ヤッたらムけた』!
小学生とか絶対名前を逆から読むじゃん。その時に、なんか言われそう!
本当にある名前だし!(例:競輪選手の竹村達也さん、騎手の竹村達也さん)」(全国のたけむらたつやさん、ごめんなさい)

玄「昴月蘭(こうづきらん)って名前があったら可哀想なのです!
英語の時間は、『RANKOUZUKI』と呼ばれてしまうのです!」

爽「卯月蘭子も同じだね!」

咲「やっぱりエッチなほうにシフトしてるので、この御題は、ここまでにします!」

全員「(そう言うつもりじゃなかったんだけど…。)」

咲「座布団進呈は、優希ちゃんの『浴衣を買う気』にしたいと思います!」

優希「やったじょ!」


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八本場:確執

 Bブロック二回戦は、阿知賀女子学院、新道寺女子高校、東白楽高校、射水総合高校の戦いだった。

 先鋒前半戦は、起家が煌、南家が東白楽高校先鋒、西家が憧、北家が射水総合高校先鋒でスタートした。

 開始早々、憧が鳴き麻雀で他家を圧倒し、四連続で30符3翻をツモ和了りした。

 東三局二本場は、煌が2000、3900の二本付けを和了って憧の親を流し、続く東四局は東白楽高校先鋒が射水総合高校先鋒から2000点を和了った。

 南一局は、東白楽高校先鋒が500、1000をツモ和了り、南二局は射水総合高校先鋒がタンピンツモドラ1、南三局は同じく射水総合高校先鋒が満貫をツモ和了りした。

 オーラスは、憧が射水総合高校先鋒から3900を直取りし、前半戦を終了した。

 

 この時点での各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 114300

 暫定2位:射水総合高校 98500

 暫定3位:新道寺女子高校 97100

 暫定4位:東白楽高校 90100

 阿知賀女子学院の一人浮きだった。

 

 後半戦は、起家が憧、南家が射水総合高校先鋒、西家が東白楽高校先鋒、北家が煌と、前半戦とは順番が大きく変わった。

 まず、憧が2000オール、2100オールを連続で和了った後、煌が700、1300の二本付けを和了って憧の親を流した。

 続く東二局では東白楽高校先鋒が満貫ツモを、東三局では憧が射水総合高校先鋒から3900を和了った。

 東四局では、親の煌が7700を東白楽高校先鋒から和了ったが、一本場では、さくっと憧に1100、2100をツモ和了りされた。

 南一局は、煌が憧から5200を直取りした。

 南二局は、東白楽高校先鋒が射水総合高校先鋒から七対ドラ1の3200を和了った。

 続く南三局とオーラスは、憧が1000、2000を立て続けに和了り、先鋒戦を終了した。

 

 この時点での各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 134100

 暫定2位:新道寺女子高校 102100

 暫定3位:東白楽高校 84500

 暫定4位:射水総合高校 79300

 射水総合高校が2位から4位に転落し、新道寺女子高校と東白楽高校が順位を一つずつ上げる結果となった。

 阿知賀女子学院は、2位との差を広げ、新道寺女子高校は点数がマイナスからプラスに転じた。

 

 

 Aブロック二回戦の対局室に、みかんが姿を現した。

 その様子を咲は控室のテレビモニターを通じて見ていた。

「この人、開会式で私を睨んでいた人だ。」

 細身だけど、胸は鉄板ではない。きちんと双丘が備わっている。しかも、手足が長くてスラっとしている。

 健康的な細さ。

 まるで外国人モデルのように細いけど頑丈な感じだ。

 さらに、小顔で顔立ちも整っている。

 全ての美を与えられたような存在。正直、和よりも美しいと感じる。

 咲の心の中に暗黒物質が湧き上がってきた。

「(睨みたいのは、むしろこっちだよ。なんで私みたいに地味な人間が、こんな綺麗で人目を惹くような人に睨まれなくちゃならないの?)」

 咲はクォーターだ。そのクォーターが純日本人に美を妬んでいる。こういう図式があっても別におかしくはないが…。

 そして、その暗黒物質が咲の体内から激しく流れ出てくるような、そんな不穏な空気を憧は感じ取っていた。

 憧は、たった今、先鋒戦を終えて控室に戻ってきた。丁度入れ替わりで、灼が次鋒戦に出陣したばかりだった。

「あの白糸台の人?」

「そう…。名前は知らないけど…。」

「ええと…たしか、あの人だけじゃなくて、もう一人いたよね?」

「うん。それも知らない人だったけど…。」

 すると、晴絵が、

「彼女は佐々野みかん。一年生。インターハイに出ていた鹿老渡高校の佐々野いちごの妹だね。」

 と言った。

「ふぇ? 『いちご』に『みかん』ですか?」

 さすがに咲も、ふざけた名前と思った。

「まあ…、そうみたいだね。白糸台高校のメンバーは、和に大星淡、渋谷尭深…」

「その三人は、私も憧ちゃんも分かってます。」

「だろうね。それと、あの佐々野みかんと、松庵女学院大将の多治比真祐子の妹、多治比麻里香だね。多分、佐々野みかんと多治比麻里香の二人が咲への復讐に燃えていたってとこじゃないかな?」

「どうして私が復讐されるんですか?」

 咲は、今まで別に人に危害を加えてきたつもりは無い。地味に静かに生きてきたし…。なのに何故、この二人に恨まれるのかが分からなかった。

「インターハイ個人戦で、佐々野いちご、多治比真祐子、それから兵庫県の劔谷高校の先鋒だった椿野美幸の三人と咲は対局してるだろ?」

「えっ?」

 そんなことあったっけ?

 咲は、そんな表情をしていた。

「覚えていないかな…。咲との対局の後に三人が漏らした事件があったじゃない?」

「ああっ!」

「思い出したかな?」

「たしかに、ありました…。」

 そう。たしかに、あったのだ。咲が見せた恐ろしい闘牌が…。

 

 

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 インターハイ個人戦。

 初日は、全10回戦のスイスドロー式での戦い。200人を超える出場者を篩いにかけ、本戦に出場する16名を決めるためだ。

 第二回戦で咲は、いちご、真祐子、美幸と対戦した。

「(うわぁ、三人とも綺麗…。細身で、お胸は和ちゃんみたいな化け物ではないけど、私よりもあって…。まあ、ゼロより小さいサイズは無いけど…。)」

 咲は、三人の容姿を羨んでいた。ただ、同時に妬ましくも思えた。

「(三人とも、女性の敵だよ。うん。これは、叩き潰さなきゃだね。ここに来る前に、タコスちゃんの優希………じゃなかった。優希ちゃんのタコスを一口貰って食べたから、優希ちゃんパワーで起家になれるかな?)」

 最大パワーで一気に叩き潰したくなった。それには、打ち慣れた西家よりも起家のほうが、都合が良い。

 咲が場決めの牌をめくると、望みどおり東の文字が見えた。

「(やったね。この三人。全部ゴッ倒す!)」

 起家が咲、南家が真祐子、西家が美幸、北家がいちごに決まった。

「(たしか、劒谷の人は、千里山の園城寺さんに苦しめられていて、松庵の人は淡ちゃんにメタメタにされていたはず。それから、この自分で『ちゃちゃのん』とか言ってる人は一回戦で清老頭を振り込んでいた。じゃあ、まずは、これかな?)」

 五巡目、咲は、捨て牌を横にすると、リーチ棒を人差し指で押さえて立てた。怜の動作を敢えてマネたのだ。

「リーチ!」

 これに、美幸が反応した。

「(まさか、これって、園城寺怜の?)」

 次巡、咲がツモ牌を表にして手元に置くと、

「カン!」

 和了りではなく暗槓した。

 咲は、嶺上牌を取り、それを表にして手元に置いた。

「ツモ。リーチ、ツモ、中、嶺上開花。」

 咲が裏ドラ表示牌をめくった。

「槓裏4。8000オールです」

 まるで怜と淡の複合技だ。この和了りに、真祐子と美幸は身震いした。

 

 東一局一本場。

 咲は、

「ポン!」

 早々に{⑨}を鳴いた。そして、次巡、

「ポン!」

 {1}もポンした。これで、咲は、{1}と{⑨}の刻子を晒した。さらに次巡、

「カン!」

 {⑨}を加槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「嶺上開花ならずですが…、もいっこカン!」

 {一}を暗槓した。

 いちごは、

「(嶺上開花ならずって、愛宕さんみたいなこと言って、なんか嫌な感じがするぅ。)」

 団体戦一回戦の役満振り込みがフラッシュバックした。もっとも、これが咲の狙いなのだが…。

 そして、咲は、二枚目の嶺上牌を掴むと、

「ツモ! 嶺上開花、混老対々。4100オールです。」

 和了り形は

 {①西西西}  暗槓{裏一一裏}  明槓{横⑨⑨⑨⑨} ポン{1横11} ツモ{①}

 いちごの頭の中では、この咲の和了りが、団体戦一回戦でいちごが愛宕洋榎に振り込んだ清老頭と重なった。

 

 東一局二本場。

「カン! ツモ! 嶺上開花、ダブ東、赤1。4200オール。」

 東一局三本場。

「カン! ツモ! 嶺上開花、混一、対々。4300オール。」

 東一局四本場。

「カン! ツモ! 嶺上開花、ツモ、一盃口、ドラドラ。4400オール。」

 この咲の連続攻撃を受け、「カン!」の言葉を聴くだけで、三人とも震えが生じるようになっていた。咲が条件反射を刷り込んだのだ。悪い意味でのパブロフの犬だ。

 特に真祐子の症状が酷かった。

 咲の晒し牌は、咲と真祐子の間に置かれる。

 槓子が力強く真祐子の左に晒される度に、真祐子は強烈な圧力を感じた。それは、回を重ねる毎に激しさを増し、今では、まるで巨大肉食恐竜が目の前で自分のことを品定めしているような恐怖心へと変わっていた。

 

 これで、各選手の点数は、

 咲 100000

 真祐子 0

 美幸 0

 いちご 0

 三人は見事に0点にされた。咲の完全なる点数調整だ。衣が長野県予選で池田華菜を0点にした時よりも、さらに性格が悪い。

 

 東一局五本場。

 咲は{1}、{①}と連続してポンした。

 そして、その二巡後、

「カン!」

 {1}を加槓した。

「「「ひっ!」」」

 咲の迫力に怯む三人。嶺上牌を引くと、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {①}も加槓した。

「「「ひぃぃっ!!」」」

 さらに怯える三人。そして、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、さらに{一}を暗槓した。これで、三色同刻三槓子が確定した。

「「「ひぃぃぃぃっ!!!」」」

 真祐子、美幸、いちごの目には、この時の咲の姿が、全てを破滅に導く破壊神のように映っていただろう。涙が出てきた。

 そして、咲は、3枚目の嶺上牌を取ると、当たり前のように、

「ツモ! 嶺上開花! 清老頭! 16500オールです。」

 嶺上開花で和了った。しかも役満。

 この和了りに真祐子と美幸といちごは、これまで以上に激しく震えていた。

 試合終了のブザーが鳴った。これで、この恐怖から解放される…。

 そう思って緊張の糸が切れたのか、

「「「チョロチョロチョロ…。」」」

 三人の括約筋が緩み出した。もう止められない。そのままダムが決壊して、一気に聖水が大放出された。

 インターハイ史上初の、とんでも事件だった。

 

 

********************

 

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 咲は、当時のことを思い出した。

 たしかに、あの時は思い切り暴れた。阿知賀女子学院麻雀部入部初日に、憧、玄、灼と対局した時よりも、さらに気合いが入っていたような気がする。

 しかし、和からは、

「絶対に手を抜かないでください!」

 と言われていたし、照からは、

「決勝戦で会おう。」

 と言われていた。だから、全力で戦ったところもある。ただし、いちご達との対局だけは、個人的感情も入っていたが…。

「じゃあ、あの二人は姉の敵討ちを狙ってるってことですか?」

「佐々野みかんは次鋒だし、多治比麻里香は中堅だから、団体戦での咲との直接対決はないよ。直接対決は個人戦になる。ただ、阿知賀を叩き潰そうとは思っているかもしれないけどね。」

「でも、それだと和ちゃんは大丈夫かな。あの二人に虐められていたりしないかな?」

 すると憧が、

「その辺は大丈夫でしょう。和は強いし。それに、あの二人の敵は和じゃなくて飽く迄もサキだから。」

 と言った。まあ、その通りなのだが…。

「別に、咲が気にすることじゃないよ。私達は麻雀と言う競技で戦っているんだから、手を抜いちゃいけない。咲は、ただ全力で勝利を目指したただけだろ?」

 これはこれで正論だ。

 しかし、咲は晴絵にこう言われたが、

「は…はい…。」

 と答えながら俯いていた。正確には、晴絵と目が合わせられないでいた。

 あの時の咲は、全力で勝利を目指していたのではなく、全力で叩き潰しに行っていたが正しい表現であるがゆえだろう。

『叩き潰す』の延長上にあったものが、たまたま『勝利』だっただけで…。

 

 ちなみに、個人戦は秋季大会では行われておらず、春季大会の個人戦出場者は、団体戦出場チームから8名までの参加となる。よって、咲は、個人戦でいちごと麻里香と卓を囲む可能性があるのだ。

 

 

 一方、対局室では、みかんが卓に付いて場決めの牌を引いていた。

 めくられたのは{南}。そして、

「(私は、絶対にあの女のような失態は犯さない。)」

 と、みかんは心の中で強く自分に言い聞かせていた。

 あの女とは、姉のいちごのことだ。

 インターハイ団体戦での役満振り込みに個人戦での失禁。たしかに、同じことをやらかしたいとは思わない。

 ただ、みかんは、姉のことを『あの女』と呼んでいる。少なくとも姉として慕っているとは思えない表現だ。

 

 姉妹だからといって、必ずしも仲が良いとは限らない。どうやら、みかんといちごの仲は、相当悪いようだ。

 それゆえに、みかんは姉の顔を見たくない一心で、広島を出て白糸台高校に進学したのだが…。

 いちごの失禁事件がらみで咲のことを睨んでいたが、別に姉の敵討ちをしたいと思っているわけではなかった。

 あの事件がきっかけで、自分が先輩達に弄られるようになったから、その根源となる咲を敵視していただけに過ぎないようだ。

 

 

 対局室に、風越女子高校次鋒の文堂星夏、姫松高校次鋒、そして館山商業高校の次鋒が姿を現した。

 三人が順に場決めの牌を引き、起家が星夏、西家が姫松高校次鋒、館山商業高校次鋒は北家になった。

 サイが回され、星夏の親で次鋒戦がスタートした。

 

 一方、Bブロックでは、射水総合高校次鋒が起家、東白楽高校次鋒が南家、新道寺女子高校次鋒の友清藍里が西家、灼が北家で前半戦がスタートしていた。

 友清藍里は友清朱里の従姉妹で、朱里と同じ一年生だった。

 新道寺女子高校は、本大会でも25000点持ちでプロが相手でも20000点以上削られない煌をエース対策として先鋒に起用し、大将に最も精神力の強い一年生を置いた。他のメンバーは、副将から順に得点力の高い選手を配置していた。大将以外はインターハイの時と同じ戦法だ。

 東一局、東二局、東三局と、灼が得意の筒子多面聴リーチからの連続ハネ満ツモで他家を圧倒した。

 完全に、灼による一方的な試合が展開されていたと言える。

 東四局も、

「リーチ!」

 灼が得意の筒子多面聴でリーチをかけた。

 国民麻雀大会から一歩進化した打ち回しを見せ、本大会では、今のところ筒子多面聴へ移行する際の打牌で灼が振り込むことは無かった。

「ツモ! 4000オール!」

 その灼が、憧の作ったリードをさらに広げようと力強い闘牌で攻めまくった。

 

 しかし、東四局一本場で、

「ツモ! 3100、6100!」

 藍里にハネ満をツモ和了された。ここで、灼の連続和了りは一旦ストップした。

 南一局では東白楽高校次鋒が射水総合高校次鋒から7700を、南二局では逆に射水総合高校次鋒が東白楽高校次鋒から5200を、さらに南三局では再び東白楽高校次鋒が射水総合高校次鋒から3900を和了った。

 

 前半戦オーラス。親は灼。

 ここでも灼は、

「リーチ!」

 筒子多面聴で攻めた。そして、

「ツモ! 4000オール!」

 親満をツモ和了した。既に阿知賀女子学院の点数は180000点を超えている。ここで和了り止めする必要はない。

「一本場!」

 灼は連荘を宣言した。

 オーラス一本場でも、

「ツモ!4100オール!」

 灼が親満をツモ和了りした。

 しかし、オーラス二本場で、

「ツモ、1200、2200です。」

 藍里に和了られ、これで次鋒前半戦を終了した。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 198100

 暫定2位:新道寺女子高校 94900

 暫定3位:東白楽高校 62500

 暫定4位:射水総合高校 44500

 次鋒戦開始当時から順位に変動はない。

 

 新道寺女子高校は、灼の和了りで削られた分をツモ和了りで一部取り返し、7200点の失点で済んだ。

 しかし、東白楽高校は22000点、射水総合高校は34800点も失点し、順位こそ変わらないが、新道寺女子高校に大きな差をつけられていた。




回想シーンは『みなも-Minamo-』からの流用です。済みません。

みかんが何故いちごを敵視しているのかは、淡-Awai-あっちが変 第13話の設定をそのまま使っています。ただ、こっちも流用すると流用だらけになりますので、それは避けました。


藍里(あいり)は、いちいち新道寺女子高校次鋒と記載するのが面倒でしたので、友清朱里の従姉妹と言うことにして登場させました。朱色に対して藍色です。

前回のおまけに記載した「なかだけい」は、どこで出そうか考え中です。



おまけ

咲「今回も大喜利コーナーです。」

全員:嫌な顔をしながら拍手

咲「お姉ちゃんの好きな『お菓子』を使います。
お…、
か…、
し…、
で何か文章を作ってください。」

怜「お前は、もう
可愛そうだが、
死んでいる。
こんなんでええか?」

全員「(トキだけに…。)」

咲「まあ、そう言うことですね。他、何方かいませんか?」

優希「どうせなら、『タコス』でやって欲しかったじょ。」

咲「それは、そのうちやろうかと思います。」

穏乃「私は、『ラーメン』でやって欲しかったなあ。」

全員「(それじゃ『ー』とか『ン』で始まる言葉を作らなきゃならないだろ!)」

照「じゃあ、私から。
お菓子が無いと
カヨワイ私は
死んでしまう。」

塞「おととい
カメが
死んでいた。」

漫「お好み焼きを
かまずに飲みこみ
死んじゃった。」

セーラ「みんな、死ぬネタ好きやなぁ。
じゃあ、ここらで俺が少し空気をかえるでぇ。
女から男に
変わって人生を
仕切り直したい! ヒラヒラ嫌や!」

竜華「お嫁さんにしたいナンバーワンは、
可愛くて綺麗でスタイル抜群な、
清水谷竜華! それはうちのことやで!」

大多数(全員ではない)「(自画自賛だけど、否定し切れないところが悔しい!)」

玄「では次は私から。
オモチの大きな、
霞さんに出会えて、
幸せです!」

咲「(オモチで牌を倒した、
霞さんに麻雀マナーを、
指導しなきゃだね!
何気に『おかし』にしました!)」

智葉「私も何か考えなきゃな…。」

辻垣内組組員「お嬢に何か、
肩入れ、
しなくては…。」

咲「ええと…、辻垣内組組員さんに座布団一枚お願いします!」


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九本場:ドラ爆

 Aブロック二回戦、次鋒前半戦。

 起家が星夏、南家がみかん、西家が姫松高校次鋒、北家が館山商業高校次鋒で始まったこの試合、東一局はタンピンツモドラ2の満貫、東二局は親満ツモと立て続けにみかんが高い手を和了った。

 東二局一本場は星夏にゴミツモの一本付けを和了られて親を流されたが、続く東三局、東四局と続けてみかんが1300、2600をツモ和了りした。

 南一局では、館山商業高校次鋒から7700を、南二局では姫松高校次鋒から11600をみかんは和了った。これで、次鋒開始から50000点近く稼いだことになる。

 南二局一本場では星夏が2000、3900の一本場を和了ったが、南三局、オーラスと、続けてみかんが1000、2000をツモ和了りして次鋒前半戦が終了した。

 姫松高校次鋒と館山商業高校次鋒は、共にヤキトリで前半戦を終えることとなった。

 

 この時点での各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 181100

 暫定2位:風越女子高校 90800

 暫定3位:姫松高校 72400

 暫定4位:館山商業高校 55700

 みかんは他家を寄せ付けない強さで終始圧倒した。その活躍は、特に目を惹くものがあった。

 姫松高校と館山商業高校がともに20000点以上失点した。これにより姫松高校が順位を2位から3位に落とした。

 風越女子高校は若干マイナスだが順位を2位に上げる結果となった。

 

 みかんは、休憩時間に一旦対局室を出て外の空気を吸った。

「(さっきは、自分でも凄くツイてたと思う。後半戦も、同じように打てればイイんだけど…。)」

 麻雀は、席替えすると途端にツキが変わることがある。

 運が人間についていることもあるし、席についているとしか思えないようなケースも多々ある。和のような超デジタル人間には無縁な話かもしれないが…。

 さっきのツキが、みかんのモノなのか、それとも後半戦でいきなり離れてしまうタイプのモノなのかは分からない。

 みかんは、後半戦もさっきと同様の活躍ができることを祈った。

 

 そろそろ後半戦開始の時刻になる。

 みかんが急いで対局室に戻ると、他のメンバーは既に場決めの牌を引き終えていた。

 残り物には福があると言うが、本当だろうか?

 最後の牌…、それは{西}だった。

 館山商業高校次鋒が起家、姫松高校次鋒が南家、みかんが西家、星夏が北家で後半戦が開始された。前半戦とは東南西北が完全に逆に入れ替わった席順だった。

 さっきまで最も失点が多かった姫松高校次鋒が座っていた席が、みかんの後半戦での席となった。

「(ちょっと嫌な予感がする。)」

 みかんは、ふと心の中でそう言い漏らした。

 

 東一局、館山商業高校次鋒が、三巡目で先制リーチをかけて一発ツモ。いきなり親満を和了った。

 東一局一本場では姫松高校次鋒が満貫をツモ和了りし、東二局では親で4000オール、3900オールの一本付けを立て続けに和了った。

 みかんが恐れていたとおり、ツキはどうやら人ではなく席についていたようだ。

 東二局二本場は、姫松高校次鋒が1000、2000の二本付けを和了って姫松高校次鋒の親を流した。

 東三局、みかんの親番。しかし、この局のみかんの配牌はバラバラで、字牌整理しているうちに星夏に満貫をツモ和了りされた。みかんは、完全にツキが落ちた。

 東四局も星夏が1000オールを和了った。これで、みかんは、後半戦開始から20000点以上を失ったことになる。

 そして、東四局一本場になって、ようやく500、1000の一本付けをみかんは和了れた。

 

 南入した。

 南一局は星夏が1000、2000を、南二局は館山商業高校次鋒が満貫を、南三局は姫松高校次鋒がハネ満を、それぞれツモ和了りした。

 そして、オーラス。みかんはタンピンツモドラ1の1300、2600を和了り、次鋒後半戦を終了した。

 

 各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 159300

 暫定2位:姫松高校 100600

 暫定3位:風越女子高校 81800

 暫定4位:館山商業高校 58300

 みかんは、後半戦で21800点を失ったが、それでもトータルでは31300点のプラスだった。それだけ、前半戦の勢いが凄かった。

 姫松高校は、後半戦で28200点稼ぎ、2位に浮上した。

 星夏は9000点のマイナスで3位、館山商業高校次鋒は2600点のプラスとなったが4位のままとなった。

 

 

 一方、Bブロック次鋒後半戦は、起家が灼、南家は新道寺女子高校次鋒の藍里、西家は射水総合高校次鋒、北家は東白楽高校次鋒でスタートした。

 東一局、灼は親の先制リーチをかけた。しかし、

「ポン!」

 リーチ宣言牌を東白楽高校次鋒に鳴かれ、その次巡、

「ツモ、1000、2000です。」

 東白楽高校次鋒にツモ和了りされた。

 リーチ棒を無駄に一本放出したことになった。この時、灼は東白楽高校次鋒に食い散らかされたような感じがしてならなかった。

 

 東二局も、

「ポン!」

 東白楽高校次鋒が灼の捨てた{東}を鳴き、その次巡、

「ツモ、1000、2000です。」

 流れるように東白楽高校次鋒にツモ和了りされた。

 

 東三局は、

「リーチ!」

 東白楽高校次鋒が攻めてきた。

 灼は一発回避で安牌切り。他家も同様だ。しかし、

「一発ツモ! 2000、4000!」

 東白楽高校次鋒に即ツモ和了りされた。

 これで、東白楽高校は新道寺女子高校に約10000点差まで追い上げてきた。

 

 東四局、三連続和了りの東白楽高校次鋒の親番。ここで和了られたらツキが完全に持って行かれてしまう。

 この局は、

「チー!」

 灼が下家の藍里が欲しそうなところを捨てて巧みに鳴かせ、

「ツモ! 300、500!」

 そのままゴミツモ和了りだが、藍里に和了らせて東白楽高校次鋒の親番を流した。灼と藍里の連係プレイだ。

 

 南入した。ドラは{二}。

 灼は、五巡目で、

「リーチ!」

 親の先制リーチをかけた。当然、下家の藍里は一発回避で灼の現物である{1}を切った。すると、

「ロン! 七対ドラ4。12000!」

 射水総合高校次鋒が和了った。

 {二}を2枚に{[五]}と{[5]}を抱えた七対子で1待ち。

 東一局と同じく、ここでも灼は親番でリーチ棒を無駄に一本放出したことになった。

 これで、東白楽高校が新道寺女子高校と79000点で並んだ。

 

 南二局、藍里の親番。

 灼は、

「リーチ!」

 七巡目でリーチをかけた。

 基本的に灼には筒子以外は通るはず。しかも、藍里は親の勝負手。それで、藍里はノーケアーで筒子以外の不要牌を落とした。しかし、

「ロン! 一発! 8000!」

 灼は筒子多面聴に取らず、萬子変則待ちに切り替えていた。インターハイ準決勝戦でもやった手だ。

 これで新道寺女子高校は3位に転落した。

 

 しかし、南三局

「ツモ! 1000、2000!」

 そしてオーラスも、

「ツモ! 1000、2000!」

 立て続けに藍里が和了って次鋒戦を終了した。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 196800

 暫定2位:新道寺女子高校 79000

 暫定3位:東白楽高校 76000

 暫定4位:射水総合高校 48200

 新道寺女子高校が再度逆転して2位に浮上した。

 しかし、3位の東白楽高校との差は3000点であり、この2校による2位争いが激化してきたと言える。

 射水総合高校も2位との差は30000点ちょっと。まだまだ、一発逆転の可能性も十分有り得る位置にいる。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 一礼の後、灼は対局室を後にした。

 控室に向かう途中、玄に会った。

「灼ちゃん、お疲れ。」

「じゃあ、あとはよろしく!」

 灼は、玄とタッチした。

 玄は、

「(咲ちゃんに甘えてばかりではダメなのです! ここは、私が決着をつけるつもりで頑張らなくてはいけないのです!)」

 そう自分に言い聞かせながら気合を入れた。

 

 玄が対局室に入った時、東白楽高校の中堅と射水総合高校の中堅は席について場決めの牌を引いていた。

「それでは失礼します。」

 そう言いながら玄が場決めの牌を引いた。{南}だ。

 

 少し遅れて新道寺女子高校の中堅、友清朱里が入ってきた。

「すみません!」

 朱里は、場決めの最後の牌を引いた。{北}だった。

 

 起家が射水総合高校中堅、南家が玄、西家が東白楽高校中堅、北家が朱里で中堅戦がスタートした。

 

 東一局、射水総合高校中堅の親番。ドラは{⑧}。

 当然、射水総合高校中堅の手牌にも東白楽高校中堅の手牌にも朱里の手牌にも、{⑧}は無い。勿論、{[五]}も{[⑤]}も{[5]}も無い。

 それを独占しているのは玄。

 いきなり東一局で、

「ツモ! タンヤオドラ7。4000、8000です!」

 玄が倍満をツモ和了りした。

 

 そして、迎えた玄の親番。ドラは、よりによって{東}。

 この時の玄の配牌は、

 {三四五⑨⑨467東東東西白中}

 ここから、打{4}。

 

 二巡目、玄はツモ{⑨}で打{中}。手牌は、

 {三四五⑨⑨⑨67東東東西白}

 

 三巡目、ツモ{[五]}、打{五}。手牌は、

 {三四[五]⑨⑨⑨67東東東西白}

 

 四巡目、ツモ{[⑤]}、打{白}。手牌は、

 {三四[五][⑤]⑨⑨⑨67東東東西}

 

 五巡目、ツモ{[5]}、打{西}。手牌は、

 {三四[五][⑤]⑨⑨⑨[5]67東東東}

 {⑤}単騎で聴牌した。

 

 そして、六巡目の玄のツモ牌は{東}。これを、

「カン!」

 玄は暗槓した。

 槓ドラ表示牌は{⑧}。つまり新ドラは{⑨}。玄の暗刻がモロ乗りした。

 しかも、嶺上牌は{[⑤]}。

「ツモ! ダブ東ツモ嶺上開花。ドラ11。16000オールです!」

 玄のツモ牌は、ドラと赤牌と新ドラのみ。

 もし、ドラでない牌が玄の手牌の中に暗刻である場合、誰かが槓した時にそれが新ドラになる確率が高いことを、晴絵と咲で見抜き、それに合わせた打ち方の特訓もした。

 インターハイ準決勝戦で、照の暗槓で玄の暗刻がモロ新ドラになっていたのがヒントだ。

 その成果が、今ここに花開いた。

 しかも赤牌での五筒開花。

 まさに牌からもらった花丸である。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 260800

 暫定2位:新道寺女子高校 59000

 暫定3位:東白楽高校 56000

 暫定4位:射水総合高校 24200

 もし、次に射水総合高校中堅が玄に振り込んだら、下手をすればトビ終了も有り得る。

 ドラを独占する玄の和了りはハネ満から倍満クラスが多い。もし、射水総合高校中堅が親倍を振れば、芝棒も入って箱を割る。

 射水総合高校中堅だけではなく、ギリギリで3位の東白楽高校中堅にも大きなプレッシャーがかかった。

 

 その状況で迎えた東二局一本場。ドラは{7}。

 手を進めようと、東白楽高校中堅は七巡目に

 

 {八九②④⑤11223344}  ツモ{七}

 

 ここから{②}を切った。平和一盃口聴牌だ。しかし、

「ロン! タンヤオドラ7。24300です!」

 

 玄は、この{②}を見逃さなかった。

 開かれた手牌は、

 

 {三四[五]②③④[⑤][5]67777}  ロン{②}

 

 まるで爆弾のような手牌だ。

 これで東白楽高校は2位争いから大きく後退した。

 

 東二局二本場。ドラは、よりによって{中}。東二局の数え役満が各プレイヤーの脳裏にフラッシュバックする。嫌なドラだ。

 たしかに、国士無双を狙えば、{中}の暗槓に対する槍槓で玄を仕留めることができるかもしれない。しかし、それには、それ相当の配牌が必要だろう。

 朱里も東白楽高校中堅も射水総合高校中堅も、さすがに国士無双を狙うには厳しそうな配牌だった。

 

 四巡目。

「カン!」

 玄がドラの{中}を暗槓した。そして、新たにめくられたドラ表示牌は{發}。

 これで、晒された牌だけで玄の中ドラ8が確定した。

 嶺上牌を取り込んで、玄から出てきた牌は{東}。

 

 ここまでの玄の捨て牌は、

 {二9八西白東}

 

 東白楽高校中堅は、

 {一三四五六八②③④6788}  ツモ{七}

 

「(多分、松実さんの捨て牌からすれば、萬子の端牌なら大丈夫だよね。赤牌からも遠いし…。)」

 そう思って、ここから{一}を切った。

 勿論、2位浮上を目指すため。しかし、

 

「ロン!」

 玄の生き生きとした声が対局室にこだました。それと同時に、東白楽高校中堅の背筋に冷たいものが走った。

 

 そして、玄が開いた手牌は、

 {二三四[五]六[⑤][⑤][5]67}  暗槓{裏中中裏}

 

 中ドラ12。またしても数え役満だ。

 玄は、配牌が、

 {二二三四六八679中中西東白}

 

 ここから打{二}。

 二巡目、ツモ{中}、打{9}。

 三巡目、ツモ{[五]}、打{八}。

 四巡目、ツモ{[⑤]}、打{西}。

 五巡目、ツモ{[5]}、打{白}。

 六巡目、ツモ{中}→暗槓→嶺上牌は{[⑤]}、打{東}。

 こう打っていたのだ。

 

「48600です!」

 この一撃で東白楽高校のトビ終了となった。




おまけ:弥永美沙紀の件

夏休み最終日、阿知賀女子学院麻雀部員は、急遽招集がかかって部室で待機していた。

職員室にて
咲「赤土先生。今日から麻雀部員として、よろしく御願いします!」

晴絵「こっちこそヨロシク! それにしても、宥の抜けた穴を埋めておつりがくるくらいだね。でも、なんで阿知賀に?」

咲「和ちゃんのお勧めで…。」

晴絵「なるほどね。じゃあ、阿知賀のメンバーは、和に感謝しなくちゃだね。」

咲「でも、今日、みんなと打つんですか?」

晴絵「そうしてもらいたい。阿知賀はインターハイでは研究されていなかったから勝てた部分もある。」

咲「そんなことは、ないですよ!」

晴絵「でも、これからは、阿知賀のメンバーは研究されるだろう。」

咲「たしかに研究はされると思います。」

晴絵「それで、各メンバーの弱いところを敢えて狙い打って欲しいんだ。ただ、チャンピオンと戦っても負けて当然って開き直られても困るし、それで変装して玄、灼、憧と打つってのは、どうかなと思ってね。」

咲「でも、名前はどうするんです? 宮永咲って自己紹介したら変装する意味がありませんし…。」

晴絵「じゃあ…、偽名を使うとしよう。ええと、宮永咲……みやながさき……。んー…。名前を入れ替えて、柳垣美沙…永谷美咲…波垣沙耶…柳笠美樹…長崎美耶…弥永美沙紀…。このへんのどれかだな。ええと、じゃあ弥永美沙紀でどうだ? 姉の名前は弥永照美って設定で。」

咲「(今は、お姉ちゃんの名前は関係ないと思うけど…。)」

晴絵「じゃあ、弥永美沙紀ってことでメガネとカツラをつけてくれ。」

咲「…分かりました。」

晴絵「それで、玄、灼、憧の三人を0点にして、その後に役満を和了るとかされるとショックを受けるだろうなぁ…。」

咲「(点数調整してもイイの?)」
晴絵は、この時の妙に嬉しそうな咲の表情が気になった。


対局後

晴絵「(本当に出来るんかい!? 全員0点に点数調整した挙句、役満ツモって…。小鍛治プロの再来とか、シャレにならないんだけど?)」

健夜にメッタメタにやられた10年前のことを思い出し、激しく震える晴絵でした。



おまけ2
咲「2018年12月25日発売のBGでも、『むに』『て』『から』の正解は出てきませんでしたが、そろそろ分かると期待しております。
(多分、ハムㇺに似て可愛いって思ったからとかだと思うけどね。だとすると、正解に一番近いのは灼さんか宥さん辺りになるのかな?)
では、今回もまた、大喜利コーナーです。」

全員:嫌な顔をして拍手

咲「では、今回はタコスを使って文章を作ってもらいます。前回のお菓子と同じです。では、何方かいませんか?」

煌「はい! では私から。
タコス!
こんな、
スバラなものはない!」

全員「(マジ?
タコス娘のネタじゃね、それ?
この人、いい人なんだけど、
少し空気読めてないよね?)」←何気にタコスを使った文章

咲「では次。」

全員「(スルーかい!)」

優希「じゃあ、私からいくじぇい!
タコスネタ、
これを先に言われるとは…、
凄くタコスが浸透した証拠だじぇい!」

全員「(おお! ポジティブにいった!)」

純「じゃあ、俺から。
タコス娘、
今度こそコテンパンに、
するからな!」

優希「おお、当たって砕けろだじぇい!」

全員「(意味分かって言ってるのかな? このタコス?)」

憧「じゃあ、カロリーを考えない世界での話を。
たらふくケーキを食べて、
コーヒーとか紅茶も沢山飲んで
凄く幸せ!」

優希「じゃあ、私ももう一回だじぇい!
タコスをたらふく食べて、
ココナツミルクも飲んで、
凄く幸せだじぇい!」

穏乃「ええと…、
沢山ラーメン食べて、
この山を走って登ったら、
凄く楽しい!」

全員「(沢山食った後に走れねえよ!)」

恭子「では私から、
たまには、
この大喜利コーナーを、
スルーしたい。」

全員「(激同!)」

咲「ええと、座布団は花田煌さんに進呈します。タコスは優希ちゃんの持ちネタですが、スバラは煌さんの持ちネタですし、イイと思います。」

煌「有難うございます。スバラ!」


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十本場:秘密兵器復活

 Bブロック二回戦のスコアは、

 1位:阿知賀女子学院 333700

 2位:新道寺女子高校 59000

 3位:射水総合高校 24200

 4位:東白楽高校 -16900

 1位の阿知賀女子学院と2位の新道寺女子高校の準決勝進出が決まった。

 それにしても、玄の倍満、親数え役満、親倍、親数え役満の四連続高打点和了は誰の目から見ても脅威であった。

 

 この時、白糸台高校控室では、丁度Aブロック二回戦、中堅前半戦を終えた麻里香が一旦控室に戻っていた。

 テレビモニターに映るこのトビ終了の現場を目の当たりにして、麻里香は、

「(なにあれ? ドラ占有って反則じゃない?)」

 そう思いながら身震いしていた。

「それにしても、何なのよ。中堅って、変なの多くない?」

 麻里香は、実は前半戦で姫松高校のエース上重漫の爆発被害に合い、逆転されて2位に転落していた。

 

 Aブロック中堅前半戦は、起家が麻里香、南家が風越女子高校の深堀純代、西家が漫、北家が館山商業高校中堅だった。

 東一局は純代が1000、2000をツモ和了り、東二局は館山商業高校中堅が満貫をツモ和了りした。

 そして東三局、漫が親で爆発し、麻里香からダブ東混老頭対々子三色同刻の親倍を直取りした。それも麻里香が爆発対応で上の数牌での当たりを避けて切った{①}を、単騎待ちで仕留めた。

 東三局一本場では、麻里香が平和ツモドラ1の一本付け(800、1400)を和了ったが、東四局で再び漫の爆発……倍満をツモ和了りされた。これで麻里香は漫に逆転された。

 南一局は、純代に1300、2600の手で麻里香の親が流された。

 南二局は、館山商業高校中堅が1300、2600を和了った。

 南三局、オーラスは、漫の爆発が起こる前に安手で良いから流すべきとの判断から、麻里香は、1000、2000の手を連続でツモ和了りした。

 

 その結果、

 暫定1位:姫松高校 132100

 暫定2位:白糸台高校 130400

 暫定3位:風越女子高校 78600

 暫定4位:館山商業高校 58900

 白糸台高校は2位に転落したものの、姫松高校との差を2000点弱に留められた。

 麻里香としては、和とみかんが折角1位でバトンを渡してくれたのに、順位を下げる結果となり、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 勿論、

「(なんなの? あの爆弾娘!)」

 との気持ちもあったが、それが控室に戻ると、それ以上の和了りをドラ爆娘が見せているではないか…。

「中堅戦ってこんなに荒れたっけ?」

 これが麻里香の思うところであった。

 すると、みかんが、

「まあ、インターハイでも一回戦で清老頭を振り込んだ女がいるし、白糸台高校の中堅は渋谷先輩だったから役満も多かったし、まあ、荒れるところかもしれないよ。」

 と言った。自分の姉をディスるところは忘れない。

「でも、順位を下げちゃったし、申し訳なくて…。」

「そうだけどさ。でもまあ、最悪2位でも準決勝に行けるし、麻里香の後には淡も控えているし、気を楽にしなって。ほら、気合を入れて!」

 そう言うと、みかんは麻里香の背中をバシンと叩いた。

 これが気合を入れる動作だとは分かっているが、

「何気に痛いんだけど。」

 実は思い切り痛かったりした。

 休憩時間もそんなには長くない。

 麻里香は、控室を出ると、途中にある自販機で缶のお汁粉を買い、急いで対局室に向かった。どうやら、缶のお汁粉が好きらしい。

 

 その頃、玄はインタビューを受けていた。

 たった四回の和了りで136900点を稼いだのである。これだけ高火力なプレイヤーは、決して多くない。いや、多分いない…。

「いち早く準決勝進出を決められた御感想は?」

「とても嬉しく思います。これも、咲ちゃんやみんなとの特訓の成果だと思います。」

「阿知賀女子学院は、宮永咲選手の編入で全体的にパワーアップしたと思いますが、その点はいかがでしょう?」

「咲ちゃんと穏乃ちゃんが後に控えていてくれますので、とても頼もしいです。」

 オモチ発言が出ないか心配なところはあったが、今のところ、一応、それなりに上手く答えていた。

 

 

 それを余所に、Aブロック二回戦、中堅後半戦がスタートした。起家は漫、南家が純代、西家が麻里香、北家が館山商業高校中堅の順番だった。

 ちなみに麻里香は、お汁粉を対局前に全部飲み切った。これで頭が切り替わるらしい。

 

 東一局は、漫の爆発が続いており、いきなり親倍をツモ和了りした。

 しかし、東一局一本場は、純代がゴミツモの一本付けではあるが漫の親を流し、連荘を阻止した。

 東二局は館山商業中堅が満貫をツモ和了りし、東三局は純代が1000、2000をツモ和了りした。まだ、麻里香だけ後半戦ではヤキトリ状態だ。

 しかし、東四局で、ようやく麻里香は平和ツモドラ1を和了り、ヤキトリを解消した。

 南一局は、

「チー!」

 麻里香は鳴いて手を進め、

「ツモ! タンヤオドラ2。1000、2000。」

 とにかく漫の親を流した。やはり、高火力な選手の親は怖い。

 南二局は、漫がハネ満をツモ和了りした。

 南三局は、麻里香が2600オールをツモ和了りしたが、その一本場は純代に700、1300の一本付けで流された。

 そして、オーラス。

 麻里香は憧に似た鳴き麻雀を見せ、

「ロン! 3900!」

 漫から直取りした。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:姫松高校 155500

 暫定2位:白糸台高校 130000

 暫定3位:風越女子高校 65200

 暫定4位:館山商業高校 49300

 姫松高校がさらにリードを広げた。白糸台高校は前半戦終了時から殆ど点数は変わっていないが、風越女子高校と館山商業高校が共に点数を減らす結果となった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 一礼の後、麻里香は控え室に戻った。

 そして、

「ゴメンね。さらに点数を減らして。」←と言っても400点だけだが…

 とみんなの前で両手を合わせた。

「まあ、気にしないでいいよ。それじゃあ…。」

 そう言いながら誠子が立ち上がった。そして、

「頼むぞ。光!」

 誠子が、光の背中を押した。光は、白糸台高校に編入していたのだ。

「分かってるけど…、でも、どれだけやれるかは分からないよ。」

 光は、ドイツにいた頃にやらされた地下麻雀での出来事が心的障害になっていた。

 地下麻雀…、それは五人制の団体戦で行われていたが、各チームの持ち点は25000点で、箱下100000点までトビ無しとして扱うルールだった。ただ、持ち点が0点を割ると、そのチームのメンバーは辱めを受けることになっていた。

 光は、別に辱めを受けたわけではなかったし、ニーマンの魔法にかかっていた間は相手が辱めを受けても、別に何とも思わなかった。

 しかし、記憶を取り戻して普通の感性に戻った今、地下麻雀での出来事が団体戦で『点棒を失う恐怖』を作り出していた。

 個人戦なら、自分の点棒は自己責任。仲間に被害を及ぼすことはない。しかし、団体戦での失点は、みんなの敗北に繋がる。それが怖くてならなかったのだ。

 そして、それを増徴させたのが皮肉なことに世界大会での逆転負けだ。光の従姉妹、咲によって成されたものだ。

 和は、光から放たれる雰囲気から、相当自信を失っていることを理解していた。

 しかし、光に自信を取り戻させるのも必要だ。それに、光が大会に出られないなんて勿体無い話だ。

「大丈夫です、光さん。ここは日本で、私達がやっているのは健全な麻雀大会ですよ。負けて何かを失うわけではありません。」

 和が、優しい表情で、そう光に声をかけた。

「それは、そうだけど…。」

「それに、点棒を失うのが怖いのは、当たり前です。私だって、みかんさんだって、麻里香さんだって怖いですよ。勿論、淡さんだって。」

「えっ?」

「それに、私なんかインターハイ決勝で大失点してます。」

 すると麻里香と淡が、

「私なんて、今さっき大失点したから現行犯だよ!」

「亦野先輩だってインターハイじゃ準決勝で大失点してるし。私もヤバかったし。だから、まずは自分の麻雀を取り戻すところからやれば良いって!」

 と、彼女達なりに明るく優しい口調で光に言った。

 光は、

「まあ、渋谷先輩からお願いされたことだし、やれるだけやってみるけど…。」

 そう言うと、自信無さげな暗い表情で控室を出て行った。

 対局室までの距離が非常に長く感じる。辛い。心臓がバクバクする。

 しかし、対局室に入ると、光は作り笑顔を見せた。まるで、何の不安もないかのように…。

 

 対局室には、姫松高校の愛宕絹恵、風越女子高校の染谷まこ、館山商業高校の副将が既に来ていた。光の入室が一番最後だった。

 場決めの牌が引かれた。

 起家は館山商業高校副将、南家は絹恵、西家がまこ、光は北家になった。

 

 東一局、序盤でまこが、

「ポンー!」

 仕掛けた。さすがに百戦錬磨のまこでも、『北欧の小さな巨人』とまで言われた光が怖かった。しかも、あの咲と照の従姉妹だ。

 しかし、同時にまこは、光の表情を気にしていた。対局が始まって、急に光の表情が暗く、辛そうな感じに変わったのだ。

 まこは、光のコンディションが悪そうだと踏んだ。

 ならば今のうちに叩くべき。そう、まこは思って仕掛けたのだ。

 しかし、

「ピンヅモ。ドラ4」

 光が和了った。

 見せていた表情とは異なる高い手。和了り役は平和と門前清自摸のみで、ドラと赤牌を多く含んだ手だった。

 光の表情が、幾分和らいだ。

 この時、まこは、

「(高い手を張っていたから、敢えて顔に出さんよう暗くしとったんか? まあ、和了れてホッとしたのかも知れんし…。)」

 程度にしか思っていなかった。

 しかし、光にとっては、今回の和了りに打点は関係なかった。和了れること自体が重要だったのだ。

 この和了りによって、光の団体戦への恐怖が緩和され始めた。そう。魔人復活とも言える他家にとって最大の悲劇が始まろうとしていたのだ。

 

 東二局、絹恵の親番。

 化物が相手でも、2位を死守すれば姫松高校は準決勝戦に進出できる。

 3位とは90000点も差がある。もしトビ終了になるとしても、最も点数が低い館山商業高校が狙われるはず。

 絹恵は、そう考えていた。

 しかし、だからと言って最初から負けるつもりで卓に付こうなどとは思わない。姉である愛宕洋榎と同じで、勝つつもりで麻雀を打つ。

 絹恵は、連荘を目指して、鳴きの速攻を仕掛けた。しかし、

「リーチ!」

 光が攻めてきた。東一局ほど暗い表情はしていない。

 一先ず、絹恵は現物で様子を見た。

 しかし、次巡、

「リーチ一発ツモ平和、ドラ3。」

 光が和了った。裏ドラも乗ってハネ満だった。

 

 東三局。まこの親番。

 光の表情は、さらに良くなっている。

「(わしとしたことが読み違えたようじゃ!)」

 対局開始時点では、光は本当に調子が優れていなかった。精神的な理由だったが、それは間違いない。

 まこは、理由までは分からなかったが、少なくとも、光が本調子ではなかったことを今になって確信した。

 しかし、連続ハネ満ツモで調子を取り戻してしまったであろう。

 時は、既に遅かった。

「タンピンツモ一盃口ドラ2。」

 また、光の和了りだった。三連続ハネ満だ。

 

 東四局。とうとう、怪物、光の親番が回ってきた。

 この親を流したいのは全員同じだ。

「リーチ!」

 早い巡目で、館山商業高校副将がリーチをかけた。

 絹恵は、一発回避で現物を切った。しかし、その時だった。

「ロン! タンピン三色ドラ2。18000!」

 その牌で光が待っていた。まさかの親ハネ直撃だった。

 

 東四局一本場。

「(もう大丈夫。怖くない。次は5翻。)」

 光は、完全に落ち着いた。団体戦への恐怖を払拭できたのだ。完全に魔物スイッチが入ったと言える。

「(この三校のうち、どこを残しても先鋒戦と次鋒戦は問題ない。やっぱり、麻里香の相手だね。あの爆弾娘の学校は、ここで落としておかないと、あのドラ爆と同時相手じゃ麻里香だって辛い。なら、やることは一つ!)」

 急に、光の眼光がきつくなった。

 そして、着々と手を進め、当たり牌が館山商業高校副将から出たが、これを見逃した。

 まこは、

「(あの辺で当たるかと思ったんじゃがのう…。)」

 次巡、まこも同じ牌を切った。しかし、光は、これも見逃した。

 そして、さらに次巡、絹恵が切った牌で、

「ロン! ダブ東中チャンタ、ドラ3。24300!」

 光は、親倍を和了った。姫松高校をここで落すため、絹恵に照準を定めたのだ。

 

 ただ、彼女は、心の中で『次は5翻』と呟いていたが、実際の和了りは8翻。この差は、一体何なのか?

 阿知賀女子学院控室でモニター越しに対局を見ていた晴絵が、驚いたように目を丸くしていた。

「本当に、咲の言っていたとおりね。ドラを含まない和了り手の、それも偶然役を除いた出和了りの翻数が、どんどん上昇してゆく…。」

 光の最初の和了りは、平和ツモドラ4。出和了りに必要な和了り役の翻数は1翻。

 東二局の和了りは、リーチ一発ツモ平和ドラ3。『門前清自摸』と偶然役である『一発』を除いた和了り役の翻数は、リーチ平和の2翻。

 東三局の和了りは、ツモタンヤオ平和一盃口ドラ2。出和了りに必要な翻数は3翻。

 東四局の和了りは、タンヤオ平和三色同順ドラ2で、出和了りに必要な翻数は4翻。

 東四局一本場では、ダブ東中チャンタドラ3で、出和了りに必要な翻数は5翻。

 たしかに翻数が上昇していた。

 これが、光の特徴だった。

 別に上昇幅が1翻ずつである必要は無かった。『一発』、『嶺上開花』、『槍槓』、『ダブルリーチ』、『海底撈月』、『河底撈魚』といった偶然役と、『門前清自摸』を除いた和了り役の合計翻数が、前局での和了りよりも必ず高くなることが、光の縛りだった。

 ならば、次の和了りは6翻。最低でも18600点の手が来る。

 

 絹恵は、二連続の振り込みで愕然としていた。

 一方のまこは、

「(あれじゃと、わしと館山商業を敢えて見逃しちょる。これは、もしかすると…。)」

 光の真意に気が付いた。

 少なくとも現段階では姫松高校を落とそうとしているのだ。その牙が、何時自分に向くかは分からないが、今は無理に動く必要はない。

 

 東四局二本場。ドラは{發}。

 館山商業高校副将も、まこ同様に光の真意に気付いていた。

 だとすると、このままでは風越女子高校の2位通過で自分達は敗退する。ならば、自分達の道を自分の手で切り開くしかない。

 まずは、この親を流す!

 中々手が進まない中、八巡目にして、ようやく、

「チー!」

 光の捨て牌を鳴いて手を進めた。クイタンのみで良いから、とにかく和了ろうと必死だった。そして、打{中}。

 光はツモ切りで手が変わらず。そして、絹恵が捨てた{中}で、

「ロン。チャンタ小三元ドラ3。24600!」

 まさかの{中}単騎。今回も館山商業高校副将の捨て牌を見逃しての倍満直撃。絹恵は、これで三連続振り込みとなった。

 

 東四局三本場。ドラは{西}。

 七巡目、八巡目と、光は、{[⑤]}、{⑥}と順に切って、九巡目に字牌切りで、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 館山商業高校副将は、一先ず現物を落とした。

 絹恵は現物を持っていなかったため、

「(まさか、これはないと思うけど…。)」

 {⑧}を切った。すると、

「ロン! リーチ一発メンホン白三暗刻、ドラ3。36900!」

 

 開かれた手は、

 {①①①⑦⑨⑨⑨西西西白白白}  ロン{⑧}

 

 この振り込みで絹恵は3位に転落した。

 そして、東四局四本場。ドラは{九}。

 光は、

「ポン!」

 序盤から{東}と{發}を鳴いた。

 捨て牌には筒子と索子が目立つ。ドラ絡みの混一色だろうか?

 ただ、このままでは館山商業高校は敗退する。館山商業高校副将は、

「(せめて、風越女子高校の点数を上回らないと…。)」

 と思い、手を進めた。そして、光が{4}を捨てたのを見て、打{1}。しかし、

「ロン! ダブ東發中混老対々ドラ3。37200!」

 まさかの{1}単騎だった。

 

 これで各校点数は、

 1位:白糸台高校 308000

 2位:風越女子高校 53200

 3位:姫松高校 39700

 4位:館山商業高校 -900

 これで、館山商業高校のトビで終了となった。

 

 この瞬間、A-Bブロックから準決勝に進出するのは、白糸台高校、風越女子高校、阿知賀女子学院、新道寺女子高校に決まった。




光がドイツでやらされていた地下麻雀については、『みなも-Minamo-』をご参照ください。
光の翻数上昇も『みなも-Minamo-』に準じております。



おまけ
咲「2019年1月になりました。
少し遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
と言うわけで、今日のおまけコーナーは、大喜利コーナーは中止します。」

全員:喜びの大拍手←いちいちネタを考えさせられるのがメンドクサイ。

咲「では、今回は各自、好きなモノを語っていただきます」

怜「じゃあ、うちから。竜華のフトモモはな…」
玄「そもそもオモチと言うのは…」
誠子「渓流での釣りは…」
尭深「美味しいお茶の入れ方はね…」
穏乃「山登りについてだけど…」
照「美味しいお菓子について…」
漫「うちのお好み焼きは…」
洋榎「たこ焼きとから揚げはな…」
春「魔界に通じる道はね…」
明華「魚介類の卵のプチプチが…」
やえ「王者とは何事にも…」
優希「タコスタコスタコス…」
煌「スバラスバラスバラ…」
ダヴァン「ラーメンラーメンラーメン…」
和「咲さん咲さん咲さん…」
慕「耕介叔父さん耕介叔父さん耕介叔父さん…」
初瀬「憧憧憧憧憧憧…」
ネリー「金金金金金金金金金金…」





恭子「ゴメン。まだ大喜利コーナーの方がマシやわ。」←前回、大喜利をスルーしたいと言った人

咲「私もそう思いました(汗)。
と言うわけで前言撤回します。今回の御題は、音楽に歌詞をつけていただきます!」

照「菓子?」

咲「お菓子ではありません。曲の歌詞です。
今回の曲は、これです。
ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーーーン(ベートーベン交響曲第五番運命第一楽章冒頭部分)。
これにピッタリの歌詞をつけていただきます!(これって、定義としては替え歌じゃないから大丈夫だよね?)」

爽「では、私から。
屁が出たー、実も出たーーー。」

咲「うーん…。これ以上のものはないくらい曲調も歌詞も非常に合っていますが、もっと上品なのを御願いします!」

爽「(『うーん。こ…』って、私のネタに何気に被せてきたのかな?)」←正解!

玄「じゃあ、私。
オモチがー、しぼんだーーー。」

優希「次は私が行くじぇい!
タコスがー、食われたーーー。」

純「まだ根に持ってやがる。
じゃあ、夏の県予選決勝戦大将戦での俺の気持ちだ。
衣がー、負けたぞーーー。」

衣「衣だって負けることはある!
じゃあ、衣からだ。
エビフラーイ、落としたーーー。」

洋榎「食い物ネタもありやな。じゃあ、
たこ焼きー、売り切れーーー。」

ダヴァン「ラーメンー、こぼしたーーー。」

いちご「麻雀漫画だし、麻雀ネタにします。
役満ー、直撃ーーー。
そんなん考慮しとらんよ!」

咲「見事本編からのネタ。佐々野いちごさんに座布団一枚御願いします!」


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十一本場:強制力

「「ありがとうございました。」」

 

 光とまこは、対局終了の一礼をしたが、絹恵と館山商業高校副将は座ったまま声が出せないでいた。

 

 絹恵は、

『この東場、何点削られたん?』

 表情が固まったまま、自分にそう問いかけた。

 漫から引継いだ時は155500点あったはずだ。

 それが今の点数は39700点。東場だけで115800点も削られたことになる。

「大丈夫ですか?」

 審判が、そう言いながら絹恵の肩を叩いた。

「す…すんません…。」

 絹恵は、なんとか席から立ち上がった。試合が終わったのだから、急いで退室しなければならない。

 しかし、足がふらついて、その場に倒れ込んでしまった。

 敗北の責任を感じ、精神的に参ってしまったのだろう。

 

 もう一人の敗者、館山商業高校副将の目からは、光が完全に消えていた。

 東場だけで50200点も削られてトビ終了。今まで、こんな経験はしたことがない。普通は親の役満直撃でもない限り有り得ないマイナスだ。

 しかも、あの破壊力。

 先鋒戦から中堅戦までの過程が全て無意味に思える。

『もう麻雀やめる!』

 そんな言葉まで頭の中を駆け巡る。

 今までにない恐ろしいモノを体験した。少なくとも、しばらく麻雀牌を見ることはできないだろう。身体も頭も拒否するだろうから…。

 

 一方、光は出陣当時とは打って変わって明るい表情を見せていた。そして、控室に入るなり、

「ちゃんと麻雀できたよ! みんなには感謝してる! ありがとう!」

 立ち直るきっかけをくれた仲間達に感謝の意を表していた。

 ただ、みかんと麻里香は、

「「(あれって麻雀? 大虐殺の間違いじゃ…。)」」

 と思っていたが、口には出さないでいた。

 よく甲子園には怪物とか化物とかが出てくる。まるでオバケ屋敷のように…。

 この麻雀大会も同じだと言うことを二人は痛感していた。

 しかし、この光ですら敗北した化物が阿知賀女子学院にいる。自分達が先輩達に弄られるきっかけを作った女が…。

 みかんも麻里香も、次元の違いを感じずには、いられなかった。

 

「よく戦ったと思います。もう立ち直れたと思ってよいでしょうか?」

 この和の問いに、光は、

「大丈夫。心配かけてゴメンね。」

 と答えた。しかし、これに続けて、光は、

「でも、準決勝では咲が相手か…。」

 と声を漏らした。

 さすがに、光でも咲が相手では今回みたいには行かない。メンバーのみんなの稼ぎに期待したいところだ。

 淡としても同じだった。

 阿知賀女子学院の大将は淡の天敵、高鴨穏乃。

 淡も、優勝するためには和、みかん、麻里香に芝棒一本でも多く稼いでいてもらいたいと心から思っていた。

 

 

 翌日、CブロックとDブロックの二回戦が同時並行で行われた。

 Cブロック二回戦は、臨海女子高校、九州赤山高校、三箇牧高校、苅安賀高校の対決、一方のDブロックは龍門渕高校、朝酌女子高校、東村山女子学院、千里山女子高校の対決となった。

 

 優希が対局室に入った。

 まだ誰も来ていない。自分が一番乗りだ。

 数分後に憩が対局室に入ってきた。

「これはこれは、咲ちゃんの元チームメイトやね?」

「そうだじぇ! 東風の神、片岡優希とは私のことだじぇい!」

 自分で神と言うところが優希らしい。しかし、これが単なる自画自賛ではないことを憩は理解していた。

 少なくとも、優希の東場での爆発力は、インターハイ決勝戦で前チャンピオン宮永照をも苦しめた実績がある。それだけの力がある選手だと言うことを忘れてはならない。

 優希が場決めの牌を引いた。

 それを表に返すと、毎度の如くと言うべきか、当然の如くと言うべきか、見えた文字は東だった。優希の起家だ。

 憩が引いた牌は{北}だった。

 九州赤山高校先鋒と苅安賀高校先鋒が対局室に姿を現した。

 二人もそれぞれ場決めの牌を引き、苅安賀高校先鋒が南家、九州赤山高校先鋒が西家に決まった。

 優希は、まだ最高状態ではない。第一打牌は{西}。しかし、次巡、

「リーチ!」

 引いてきた牌を取り入れると、端にあった{横⑨}を切って先制リーチをかけた。

 ちなみに、ドラは{⑧}。

 いくら憩が姉帯豊音の先負に似た能力を持つからと言って、この超スピード聴牌にはさすがに付いてゆけない。

「一発ツモだじぇい!」

 どうやら、{⑧}が暗刻になっての{⑨}切りリーチだったようだ。赤牌も二枚ある。

 リーチ一発ツモタンヤオ一盃口ドラ3プラス赤2。ここに、

「裏が乗って三倍満だじぇい! 12000オール!」

 さらに一翻追加された。

 何も考えずに三倍満だ。なんと言う簡単麻雀だろうか?

 これで最高状態ではないのだから恐ろしい。

 

 東一局一本場。ドラは{2}。

 優希の第一打牌は{⑦}。そして、

「ポン!」

 一巡目で九州赤山高校先鋒が切った{東}を鳴き、打{一}。

 そして、同巡に苅安賀高校先鋒が切った{9}で、

「ロン! ダブ東混一ドラ3。18300だじぇい!」

 優希の親ハネが炸裂した。

 苅安賀高校先鋒は、たった二局で30300点を失った。これが25000点持ちなら、これでトビ終了である。

 憩は、

「清澄にいた頃は、咲ちゃんとも打ってたんやろ?」

 と優希に聞いた。

「当然だじぇい! でも、今日よりも調子がイイ時じゃないと勝てなかったじょ。」

「嘘やろ?」

「本当だじぇい!」

 このとんでもないツキをどうやって落すことができるのか?

 憩は、咲の恐ろしさを改めて認識させられた。

 

 一方、Dブロック先鋒戦では、意外にも龍門渕高校の井上純が苦戦を強いられていた。

「(これか?)」

 純が切った{1}を、

「ロン! 8000!」

 東村山女子学院先鋒の志村ケイが和了った。志村けんとの血縁関係は分からないが…。ただ、これで純はケイに三連続振り込みだ。

 龍門渕高校控室では、

「なんなんですの? 純は、なんであんな小娘相手に苦戦なんかして!」

 部長の龍門渕透華がイライラしていた。

 しかし、その一方で大将の天江衣は、

「透華、落ち着け。」

 純の振り込みに対して特に動じている様子はなかった。

「しかし、純がアレでは…。」

「二回戦程度の相手なら、誰もトバずに衣まで回してくれればなんとかするぞ! さすがに決勝は深山幽谷の化身が出てくるから一筋縄では行かないだろうがな。」

 衣は、相手校メンバー達全員(先鋒から大将まで)のオーラを感じ取り、そのレベルを大凡把握していた。

 ケイからは、福露美穂子並のオーラを感じていた。しかし、他の選手は良くて池田華菜並。衣としては全然怖くなかった。

 

 

 その日、Cブロックからは臨海女子高校と三箇牧高校が、Dブロックからは龍門渕高校と古豪朝酌女子高校が準決勝進出を決めた。

 千里山女子高校は、インターハイと同様、まさかの準決勝敗退であった。

 

 

 大会五日目。

 Aブロックから勝ち上がった二校とBブロックから勝ち上がった二校による準決勝戦が開催された。

 白糸台高校、風越女子高校、阿知賀女子学院、新道寺女子高校が当たる好カード。

 特に副将戦での咲と光の従姉妹対決が話題となった。

 あの世界大会の再現…。

 日本の守護神、『嶺の上の女王』とドイツチームの元エース、『北欧の小さな巨人』の激突。事実上の頂上決戦であろう。

 観戦席は、試合開始の2時間前から既に満席だった。

 

 先鋒戦は、和、未春、憧、煌の対決。

 四人の選手が対局室に姿を現した。観戦室の巨大モニターに、その様子が映し出されていた。

 本来なら、これはこれで好カードなのだが、ほとんどの観客の興味は副将戦である。折角、早々と観戦室に入室しながらも、既に眠っている人がチラホラと見受けられた。

 もっとも、そんなことなど、選手達には分からないことだが…。

 場決めがされ、未春が起家、和が南家、憧が西家、煌が北家となった。

 

 東一局、ドラは{③}。

 優希のような一部の例外を除いて、多くの場合、まずは立ち上がりで様子見の局だろう。

 ところが、親の未春が割りと調子が良く、手の進みが早かった。

 そして、四巡目で、

「リーチ!」

 未春が親の先制リーチをかけた。

 和、憧は完全安牌切りで一発回避。煌も未春の捨て牌の筋打ちで様子を見た。三人とも振り込みは無し。

 しかし、

「一発ツモ! ドラ2!」

 いきなり親満ツモだ。未春にとっては幸先の良いスタートとなった。

 

 東一局一本場、

「リーチ!」

 ここでも未春が先制リーチをかけた。役無しドラ4の手。

 配牌とツモのうまい噛み合い方から、未春は自分の調子の良さを確信していた。しかもツモればハネ満。

「チー!」

 リーチ宣言牌を和が鳴いた。一発消しだ。そして、安牌切り。

 憧も煌も振り込み回避で安牌を捨てた。

 未春はツモ切り…、和了れなかった。

 そして、数巡後、

「ツモ! 南ドラ2。1100、2100。」

 和がツモ和了りした。しかも、未春と同聴。鳴かれていなければ、これで未春がツモ和了りしていたはずだった。

 以前の和なら、他家がリーチをかければ振り込み回避だけを目指して降りていた。しかし、今回は様子が違った。うまく打ち回しながら攻めてきていた。

 しかも、未春からツキを喰い取った感じだ。

 一転して、未春は嫌な予感がしてきた。

 

 東二局、和の親。

 和は、序盤から、

「ポン!」

 煌が捨てた{中}を鳴き、

「ツモ! 中ドラ2。2000オール。」

 早和了りした。連荘狙いだ。

 

 しかし、東二局一本場。ドラ{⑧}。

「(速攻!)」

 憧がついに動き出した。

「チー!」

 {二}を鳴いて、晒したのは{横二三四}。打{西}。

 

 憧の捨て牌は、順に、

 {東⑧發七一西}

 

 そして、数巡後、

「ツモ!」

 憧がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八⑥⑦⑧6668}  チー{横二三四}  ツモ{7}

 

「タンヤオ三色ドラ1。1100、2100!」

 この和了りに、和は内心驚いていた。

「(以前の憧でしたら、234の三色狙いに見せかけて678の三色を作りに行くなんて打ち方はしませんでした。どうやら、咲さんに鍛えられているみたいですね。)」

 しかし、納得もしていた。憧も、ただ『巧い』だけの麻雀から、『巧い+勝つ』麻雀にレベルアップしているのだ。

 

 東三局、憧の親。

 この局は、

「ツモ! 1300、2600。」

 牌効率の良い和が、七巡目で平和ツモタンヤオドラ1の手を和了った。

 以前の和なら、この手でこの巡目であればリーチをかけていた。満貫クラスの手でなければダマで待たなかった。

 しかし、今回は憧の親を流すため、敢えてリーチをかけなかったようだ。それだけ、和は憧のことを警戒していた。

 

 東四局、煌の親。ドラは{九}。

 ここでは、

「チー!」

 七巡目に憧が{②}を鳴いて{横②③④}を晒した。打{白}。

 今回も、下の数字の三色同順に見せかけて上の数字の三色同順を作っているのか?

 それとも素直に234の三色同順なのか?

 あるいは、全然違う手を作っているのか?

 次巡、和は憧の安牌を切った。

 この面子で和にとって一番怖いのは憧だ。未春はツキが落ちれば然程怖くない。煌も、中学時代に何回も同卓して打ち筋は分かっている。

 マークすべきは憧だ。

 一方の憧としても、マークすべきは和。

 

 二巡後、

「ポン!」

 憧は、煌が捨てた{⑤}を鳴いて{[⑤]⑤横⑤}を晒した。そして、打{9}。

 タンヤオ狙いか?

 和にも憧の狙いが分からない。

 

 そのさらに次巡、未春が切った{北}で、

「ロン! 8000!」

 勢い良く憧が手牌を倒した。

 

 開かれた牌は、

 {五五[五]555北}  チー{横②③④}  ポン{[⑤]⑤横⑤}  ロン{北}

 三色同刻ドラ2の満貫だった。今回のは偶然かもしれないが、全体的に以前の憧とは少し打ち方が違っている気がする。

 しかも、半年前…インターハイや国民麻雀大会の頃と比べて、憧の手が随分と読み難くなっているのを和は改めて感じていた。

 一方、未春は、これで東一局の稼ぎを全て吐き出してしまった。

 

 南一局、未春の親。

 ここではトップ目の和が、

「ツモ! 700、1300。」

 平和ツモドラ1の安手で回した。

 

 南二局、和の親。

 今度は、

「チー!」

 憧が速攻をかけた。鳴くとスピードが上がるような錯覚を感じさせる。憧独特の切れの良い副露。そして、

「ツモ! タンヤオドラ3! 2000、3900!」

 30符4翻で憧が和了り、トップ目である和の親を流した。

 しかも、これで600点差とは言え憧が逆転してトップに立った。

 

 南三局、憧の親。ドラは{④}。

 ここまで煌は和了り無しだった。未春も和了りは東一局の一回のみで、今では点数が落ち込んできていた。

 

 この時点での各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 109900

 暫定2位:白糸台高校 109300

 暫定3位:風越女子高校 92900

 暫定4位:新道寺女子高校 87900

 

 ところが、この局面で未春に高い手が入ってきた。

 配牌は、

 {一②②④[⑤][⑤]⑥⑦⑧⑧19北}

 

 一巡目ツモは{③}、打{一}。

 手牌は、

 {②②③④[⑤][⑤]⑥⑦⑧⑧19北}

 

 二巡目ツモは{⑥}、打{1}。

 手牌は、

 {②②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑧⑧9北}

 

 三巡目ツモは{⑦}、打{9}。

 手牌は、

 {②②③④[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑦⑧⑧北}

 

 四巡目ツモは{九}でツモ切り。

 そして、五巡目ツモはドラの{④}、当然、打{北}。

 手牌は、

 {②②③④④[⑤][⑤]⑥⑥⑦⑦⑧⑧}

 

 安目出和了りで三倍満、高目なら大車輪。逆転手だ!

 ドラ表示牌が{③}なので、和了り牌は{③}が二枚、{⑥}が二枚、{⑨}が四枚。

 しかし、ここから急に未春は筒子がツモれなくなった。

 

 一方、この時、憧は、煌から強烈なオーラを感じていた。まるで、咲を相手にしているような雰囲気だ。

 八巡後、

「ツモ! 七対ドラ2。2000、4000です!」

 煌が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {五[五]③③⑥⑥⑨⑨5[5]9白白}  ツモ{9}

 

 完全に未春の和了り牌を止めての和了りだ。

 この局、さすがに、この面子で未春に筒子を振る者はいない。なので未春はツモ和了りするしかない。

 かと言って、ここで未春がツモ和了りすると、煌の点数は79900点と失点が20100点になってしまう。

 煌は、プロが相手でも20000点以上削られない能力を持つ。その能力による強制力が未春のツモ和了りを止めたのだろう。

 これで、煌が3位に浮上し、未春が最下位に転落した。また、憧は親かぶりを食らい、和に逆転されて2位になった。

 

 オーラス。煌の親。

 この局は和が、

「チー!」

 鳴いて手を進め、

「ツモ。1000、2000です。」

 まるで憧のお株を奪ったかのような30符3翻の手を和了った。これで先鋒前半戦が終了した。




おまけ
咲「今回は、『枕神怜ちゃん』を題材にしたいと思います。
前作では、『枕神怜ちゃん』のパロディで『タコス神優希ちゃん』と『死神咲ちゃん』が後半で登場しています(みなも-Minamo- 第42~47局)。」

淡「あれって便利だよねぇ。変な見返りさえ要求しなければ!(死神咲ちゃん)」

咲「(汗)
それで、『枕神怜ちゃん』のパロディでこんなのがいたら嬉しいとか、逆に困ると言うのを考えてください。」

セーラ「じゃあ、俺から。
最強神泉!
いうほど強くなくて、取り憑かれたら負けるってか?」

泉「いきなり私に振りますか?
じゃあ、デジタル神のどっち!
完璧なデジタル打ちを手に入れられる代わりに同性愛に目覚める。」

咲「まあ、今の世の中では、同性愛は認められてきていますし、悪いわけではありませんけどね…。」

怜「ほな、うちから。
膝枕神竜華や!
寝心地良くて起きられなくなるで、きっと!」

菫「お菓子神照ってのはあるかもな。
味方に付いてくれたら麻雀レベルは、ほぼ最強だが、菓子で敵に手懐けられてしまいそうだ。」

華菜「池田神華菜!
自分で言うのもなんだけど、図太くて図々しくて…。」

咲「(思ったより面白くないから、打ち切りでいいね)
ええと、なかなか難しそうな御題でしたので、これで終了し…。」

やえ「ちょっと待て!
『王者神やえ』でどうだ!」

全員「(最強神泉以上のヤラれ役だな、きっと。)」

咲「(池田神華菜と同レベルじゃないかな? スルーでいっか)
では、この御題での座布団獲得者は弘世菫さんです。お菓子神のお姉ちゃんは見てみたい気がします! それでは次の御題です。」

やえ「ちょっと待て!」

咲「しつこいと麻雀を楽しませることになります(当然、咲、照、光と同卓で)!」

やえ「…。」

咲「では、この曲にピッタリの歌詞をつけてください。(替え歌じゃないから大丈夫だよね?)
曲は、前回と同じです。
ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーーーン。
ベートーベン交響曲第五番運命です。
他のにしようと思ったのですが、字で書いても誰もが分かる曲で歌詞がないヤツって中々見つからなくて(汗)
あと、ビバルディーの四季くらいかな。」

怜「死期?」

咲「フォーシーズンです!」

透華「では、わたくしから参ります。
こういうことが私達『咲-Saki-登場人物』にあったら困ると言う歌詞をつけてみましたわ!
鼻毛がー、見えてたーーー。」

咲「上品な透華さんらしくない回答でしたけど、たしかに困りますね。では、次、何方か。」

衣「では、衣の回答だ!
にんじんー、出てきたーーー。
衣はにんじんが嫌いだ!」

憧「次、私が訴えたいこと!
風評ー、被害だーーー。
どうして援交してそうなキャラで、ずっとトップを取り続けなきゃならないの?
2012年から2017年まで6連覇ってどう言うこと?
2018年は1位じゃなかったけど、そうしたら王者陥落とか言われてるし!」←ちなみに2位で、中の人は一緒。

莉子「次は、私に行かせてください。
私は劔谷高校大将の安福莉子です。
インターハイ二回戦の戦犯にされたキャラです!
イーピンー、掴んだーーー。」

やえ「では、王者から。
王者がー、敗れたーーー。」

咲「(憧ちゃんと莉子さんはともかく、自称王者は無視でイイね。)」

初美「次は私ですよー。
塞がれー、まくったーーー。
全然、小四喜が聴牌できなくなるなんて、そんなのないない!」

塞「私は、あれで幼児虐待と言う風評被害に合いました。
見た目が『小四』で、下着を着けない『喜』ばしい格好をしているほうの味方が結構多いみたいで…。」

咲「それで小四喜と言うわけですね。」←(スミマセン。前作からのネタ流用です。)

霞「次は、私が行きます!
500点ー、500点ーーー。
2位と、たった500点差で3位だなんて、それも、点数調整の副産物だったなんて、悔しいです!」

全員「(いや、あれは、これみよがしに胸で牌を倒したのが魔王の逆鱗触れたからだろう? 自業自得じゃない?)」

淡「ダブリー、できないーーー。
高鴨穏乃と打った時の感想!」

華菜「次は華菜ちゃんだし!
0点ー、ピッタリーーー。
でも、華菜ちゃんは図々しくて図太いんだ。だから、あの状態からでも勝利を諦めなかったし!」

咲「まあ、その前向きな姿勢は重要ですね。では、次、何方か?」←そこから華菜に『倍満なんかくれてやる』『数えなんかくれてやる』を、淡よりも前に実行していた化け物

桃子「では、影の薄い私から。
影薄ー、無視されーーー。
そんな人生でした。」

誠子「インターハイ準決勝での私。
戦犯ー、確定ーーー。

恭子「次は私で。
メゲるわー、メゲるわーーー。」

咲「(汗)
末原さんに座布団一枚!」


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十二本場:スバラな大逆転

 先鋒前半戦終了時の各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 111300

 暫定2位:阿知賀女子学院 104900

 暫定3位:風越女子高校 93900

 暫定4位:新道寺女子高校 89900

 トップとラスの点差は21400点。まだまだ逆転可能な範囲だ。

 

 休憩時間に入った。

 憧が、

「やっぱり和に一歩及ばなかったか。」

 と言いながら、席から立ち上がった。正直、ちょっとくやしい。

「たまたま運が良かっただけです。憧のほうこそ、随分と手を読み難い打ち方に変わったと思います。咲さんに相当鍛えられたのではないですか?」

「まあね。普通に打ったら、いずれ出てくる牌を読んで、それで待つくらいのことを簡単にやってのけるからね、サキは。」

「相変わらずですね。」

「転校初日から、こっちがケチョンケチョンにやられたからね。」

「想像つきます。」

「点数調整も自由自在で…。」

「えっ? 点数調整もヤったんですか?」

「ハルエの指示だったらしいけどね…。あれで自分達とのレベルの差を思い知らされたよ。全員丁度0点まで削るとか…、あんな神業までできるんだってね。」

「そうですか…。赤土さんに頼まれてやったのですね。また、いつもの悪い癖が出たのかと思いました。」

 全力で麻雀をする。手を抜かない。

 これが和と咲との間での約束である。

 また、咲が約束を破ってプラマイゼロとかをやっていたのではないかと、和は一瞬思ったが、そうではないことを知り安心した。

「じゃあ、一応、晴絵に休憩時間には控室に戻るように言われてるから、ちょっと行ってくるね。」

 そう言うと、憧は対局室を後にした。

 

 憧が控室に戻ると、何故かそこには『つぶつぶドリアンジュース』が用意されていた。

 世界大会中、監督の慕から薦められて、咲は、これを嫌と言うほど飲まされた。決してマズくはないのだが匂い…いや、臭いがキツイ。

 今では、阿知賀女子学院麻雀部の中で罰ゲーム用として使われている。

 憧は、

「ちょっと、私、罰ゲーム? 和に負けたから?」

 と言った。いくらなんでも、あの対局内容で罰ゲームは、ちょっと採点が厳しい気がする。すると、玄が、

「違うのです。さっき、白築プロが差し入れに持ってきてくれたのです。」

 と憧に答えた。

「えっ? マジ?」

「それでさっき、みんなは白築プロに薦められて飲んだのです。これは、憧ちゃんの分ですが、決して罰ゲームではないのです!」

「でも、チーム全体が罰ゲームを受けた気がする。」

 たしかに、ゴミ箱には、つぶつぶドリアンジュースのカンが6個入っていた。憧以外のレギュラーメンバー四人と晴絵、慕が飲んだ分だろう。勿論、臭うので控室備え付けの流しで洗ってから捨ててある。

 慕からの差し入れでは、さすがに断ることはできない。

 恐らく、みんな、慕の前で作り笑顔で美味しいと言いながら…、いや、正しくは言わされながら飲んだに違いない。

 本人は、つぶつぶドリアンジュースが大好きなので、もらったら嬉しいだろう。しかし、世の中全員が、慕と同レベルで『つぶつぶドリアンジュース大好きっ子』と勘違いしていないだろうか?

 そこが、慕の唯一の問題点であろう。

 いや、叔父との仲疑惑があるので唯一ではなく唯二(?)か。

「折角、白築プロが持ってきてくださったのです。先鋒戦が終わってからでイイので、これは、きちんと憧ちゃんが飲まなくてはならないのです!」

「(たしかに玄の言うとおりなんだけどね…。)」

 しかし、これは、先鋒戦の結果を問わず、罰ゲームが待っていると言うことと同じだ。

 憧は、一気にモチベーションが下がった。控室に戻ってこなければ良かったと、つくづく思った。

「それで、ハルエ。特に先鋒戦で問題とかは?」

「気になったのは、南三局の花田煌の和了りかな。」

「あの七対ドラ2ツモの満貫?」

「そう。ただ、あの時、実は風越の先鋒が、五巡目で大車輪を聴牌してたんだ。」

「本当?」

「こっちも見ていて驚いたよ。安目でもドラと赤牌があるから出和了りで三倍満。それが、その後、当り牌八枚のうち六枚を花田がツモって取り込んだ。」

「あとの二枚は?」

「最初から和がアタマで持ってた。花田は20000点以上削られない能力を持っていて、それを破ったのは、唯一、宮永照だけらしい。インターハイの準決勝でね。」

「あの時の…。」

「まあ、アコは細かく刻むタイプだから風越みたいな失敗はしないと思うけど、もし後半戦で花田の点数が73000近くまで落ち込んだ時は、花田からの出和了りだけじゃなくてツモ和了りもできなくなることは頭に入れておいて。」

「分かった。」

「他は想定の範囲内。特段問題はないよ。」

「じゃあ、基本、今までどおりってことでイイってことだね。」

「そうなるね。」

「それじゃ、後半戦、行ってくる!」

「頼んだよ!」

「了解!」

 そう言うと、憧は勢い良く控室を飛び出して行った。もっとも、後半戦開始まで余り時間がないので、元々ゆっくりしていられないのだが…。

 

 それから数分後、憧が対局室に姿を現した。

 憧は、気合を入れるため、両手で両頬をパチンと叩いた。勿論、気合いが抜けたのは慕の差し入れが原因なのは言うまでもない。

 場決めがされ、起家が和、南家が憧、西家が未春、北家が煌になった。

 

 東一局は、

「ポン!」

 憧が得意の鳴きの速攻で、

「ツモ! 1000、2000!」

 得意の30符3翻を和了った。

 

 東二局も、

「チー!」

 憧が鳴きの速攻で決め、

「ツモ! 2000オール!」

 和を抜いてトップに立った。

 

 東二局二本場、憧の連荘。

 ここでは、

「ツモ。800、1400。」

 平和ツモドラ1で未春が和了った。実に前半戦東一局以来の和了りだ。

 

 そして東三局、未春が迎えた親だったが、

「リーチ!」

 和が六巡目で先制リーチをかけた。

 とりあえず一発回避で憧は安牌切り。続く未春と煌も和の現物や筋牌を切って振り込みを回避した。

 一発ツモにはならなかったが、数巡後、

「ツモ! メンピンツモドラ3。3000、6000です!」

 アタマが裏ドラになってリーチ平和ツモドラ1の手がハネ満になった。これで、和が逆転して再びトップになった。

 

 東四局も、

「リーチ!」

 和が攻めた。そして、

「ツモ! リーチツモ一盃口ドラ2。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りし、二位の憧との差を広げた。

 

 南一局、和の親。

 これ以上、和との点差を広げてはならない。憧は、

「ポン!」

 配牌で対子だった{中}を一鳴きし、

「ツモ! 2000、4000!」

 赤牌とドラに恵まれて満貫を和了った。これで和との点差は6000点。そして、迎えた親だったが、

「ロン! 七対ドラ2。6400。」

 煌が未春に振り込んだ。ツキが落ちている今、未春は、下手にリーチしても和了れないと踏んで七対子をダマで待っていたのだ。

 これで憧の最後の親が流された。ただ、憧は、親が流されたことではなく、別のことを気にしていた。

「(これマズイんじゃない? 風越は、前半戦の失敗を全然分かってないみたい。)」

 

 現在…南二局終了時点の各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 122500

 暫定2位:阿知賀女子学院 116500

 暫定3位:風越女子高校 86300

 暫定4位:新道寺女子高校 74700

 阿知賀女子学院は二位だったが、問題は煌の失点だ。後半戦開始時点では93900点あった。つまり、ここまでに19200点を失っている。

 ただ、煌は20000点以上削られない。よって、30符3翻の手ですらツモ和了りを封じられたことになる。

「(もー。余計なことしてくれちゃって!)」

 前半戦で、何故大車輪が和了れなかったか、その一番の理由を未春は理解していなかった。もっとも煌の超ディフェンスが理解できるものなど、中々いないだろう。

 憧は、この時、煌が纏うオーラに、前半戦南三局と同様、咲から放たれるオーラに近いものを感じていた。

 一方の未春と和は、そんなものは全然感じ取れていない様子だった。

 

 南三局、未春の親番。

 未春としては、この親は大事にしたいところ。当然連荘を目指して、

「ポン!」

 安手で良いから和了りたい。それで、

「チー!」

 鳴いて手を進めるが、東ドラ2の手が中々聴牌できないでいた。

 そうこうしているうちに、

「ツモ。700、1300。」

 和が平和ツモドラ1を和了った。

 この和了りを見て、憧は、

「(もう、最悪じゃん!)」

 と心の中で叫んだ。

 この和の和了で、煌の失点が19900点になったのだ。しかも、次局…オーラスは、その煌の親番である。

 20000点以上削られない煌は、オーラスで、どんな危険牌を切っても当たられることはない。それが彼女の能力。

 案の定、オーラス開始直後から煌はチュンチャン牌をドンドン切っていった。しかし、誰も当たることができない。

 しかも、煌の能力でツモ和了りもできない。煌のノーテン罰符も発生しないだろう。

 結局、

「(このツモ、スバラです!)」

 十巡目で、

「ツモ! 16000オールです!」

 煌の国士無双が炸裂した。しかも、煌は自分の特性を良く分かっている。下手に連荘すれば失点する。

「これで和了り止めにします!」

 この劇的な親の役満ツモによる大逆転で先鋒戦は終了した。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:新道寺女子高校 122000

 暫定2位:白糸台高校 109200

 暫定3位:阿知賀女子学院 99800

 暫定4位:風越女子高校 69000

 阿知賀女子学院の、まさかの三位転落であった。

 

「(なんもかんも、他人の能力を理解していないのが悪い!)」

 さすがの憧も、今回の自分の失点は未春と和のせいであると思えてならなかった。

 少なくとも、自分は煌の特性を踏まえていた。しかし、未春と和が煌の能力を最大限に引き出してしまった。

 しかも、控室に戻れば、つぶつぶドリアンジュースが待っている。

「(罰ゲームを受ける気分だわ…。)」

 正直、意気消沈した。

 まあ、和の場合は、そもそも能力のことを理解しようとしていないのだが…。咲や優希と一緒に居たにもかかわらず…。

 

 この頃、阿知賀女子学院控室では、灼が静かに燃えていた。

「じゃあ、ハルちゃん。行ってくる!」

「頼むよ、灼!」

「任せといて!」

 こう言って、灼は控室を後にした。

 対局室に向かう途中で、灼は憧に会った。

「憧、最後のは不運だったね。」

「和は、あの性格とポリシーだから仕方が無いとして、風越は、相手の能力のことを知らな過ぎ。自分の手しか見えていない。」

「でも、次鋒で絶対逆転するから。安心して!」

「期待してる!」

「うん。じゃあ。」

 灼は、憧とハイタッチすると、そのまま後ろを振り返らずに対局室に向かった。

 

 対局室には、灼が一番乗りだった。

 次に入ってきたのは白糸台高校一年生の佐々野みかん。インターハイに出場していた鹿老渡高校の佐々野いちごの妹だ。

 その次に入ってきたのは、風越女子高校の文堂星夏。そして、最後に入ってきたのは新道寺女子高校の友清藍里。友清朱里の従姉妹で朱里と同じ一年生。

 みかんが、妙に灼のことを睨んでくる。

 しかし、灼は、咲と晴絵の会話から、みかんが阿知賀女子学院に敵意を露わにしてくるであろうことを予め予想していた。

『やっぱりか…』

 とは思ったが、ここで何を言っても解決しないだろう。

 麻雀で捻じ伏せる。それしかない。

 

 場決めがされ、みかんが起家となった。そして、南家は灼、西家が星夏、北家が藍里に決まった。

 

 東一局、みかんの親。ドラは{西}。

 灼は、ツモが良かった。四巡目には聴牌。そして、

「リーチ!」

 得意の筒子多面聴でリーチをかけた。

 他家は、一発回避で筒子切りを避ける。しかし、数巡後、

「ツモ! 2000、4000!」

 

 開かれた手牌は、

 {②③③③④[⑤]⑥778899}  ツモ{①}  裏ドラは{一}

 

 {①②④⑦}待ち…ピケットフェンス。

 いきなりボーリングの特殊なピンの残り方と同じ待ちだ。

 

 この和了りを見て、みかんは灼が本調子であると考えた。無理に力で押さず、さっさと早和了りして灼に和了らせない。そう言った戦法をとることにした。

 

 東二局、灼の親。

 ここでは、

「チー!」

 みかんが鳴きで攻め、

「ツモ! タンヤオドラ2。1000、2000!」

 まるで憧のような早和了りを決めた。

 

 東三局、星夏の親。

 さっきのみかんの和了りを見て、

「チー!」

 藍里も灼マークで早和了りを目指すことにした。そして、

「ロン! 2000。」

 星夏が切った牌でタンヤオドラ1を和了った。

 

 東四局、藍里の親。ドラは{2}。

 折角の親番だったが、藍里は配牌がバラバラだった。しかも、8種8牌なので流すこともできない。

 国士無双狙いでは、先にみかんに和了られてしまうかもしれない。それで、藍里は一先ずヤオチュウ牌整理から始めた。

 対するみかんの配牌は、偶数牌ばかりで面子ができていなかった。

 端牌以外の奇数牌を藍里が捨ててくれれば鳴けるのだが、残念ながらヤオチュウ牌しか出てこない。しかも、ツモも字牌ばかりで手が進まなかった。

 そんな中、八巡目で,

「リーチ!」

 灼が捨て牌を横に曲げた。恐らく、筒子多面聴。

 星夏は、一先ず現物切りで一発回避。

 藍里のツモ牌は{西}。ツモ切り。

 みかんのツモ牌は{北}。ここは字牌ツモばかりの状態に助けられた感じがある。当然、ツモ切り。

 しかし、

「一発ツモ! メンホン赤1。3000、6000!」

 

 開かれた手牌は、

 {③③③④[⑤]⑥⑦⑦⑦⑦南南南}  ツモ{②}

 

 {②④⑤⑧}待ち。

 これは、ボーリングのピンの残り方ではバケットに相当する。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 117800

 暫定2位:新道寺女子高校 115000

 暫定3位:白糸台高校 106200

 暫定4位:風越女子高校 61000

 この灼の和了りで、阿知賀女子学院がトップに返り咲いた。

 

 南一局、みかんの親。

 ここでは、

「ツモ! 1000、2000。」

 藍里が、鳴き麻雀で灼の手が出来上がる前に30符3翻を早和了りした。勿論、3位のみかんの親を流すのも目的だ。

 これで、またもや新道寺女子高校がトップになった。

 

 南二局、灼の親。

 今までヤキトリだった星夏が、ようやく聴牌できた。

 安手だったが、一先ず和了り優先でダマで待ち、

「ツモ。平和ドラ1。700、1300。」

 ツモ和了りした。これで、ヤキトリを回避できた。

 

 南三局、星夏の親番。

 前局の和了りでツキを呼び込めるかと期待したが、

「チー!」

 やはり、みかんのほうが手が早く、

「ツモ! 1000、2000!」

 またもや30符3翻の手だ。

 

 そして、オーラス、藍里の親。

 ここでも、

「ツモ! 1000、2000!」

 みかんが30符3翻の和了りを決めた。

 

 各校点数は、

 暫定1位:新道寺女子高校 115300

 暫定2位:阿知賀女子学院 113500

 暫定3位:白糸台高校 111500

 暫定4位:風越女子高校 59700

 1位と3位の点差が3800点の接戦となった。




おまけ
咲「大喜利コーナーです!」

全員:やる気のない拍手。

咲「今回も曲に歌詞をつけてもらいます。今回の御題は、ビバルディの四季から春です。」

初美「ハルルですかー?」

咲「人名ではなく、フォーシーズンの春です。
タ、タッタッタッタタター
タタ、タッタッタッタタター
タタ、タータタタッタッタ(分かるかな?)
これに歌詞をつけてください。(定義としては替え歌じゃないから大丈夫だよね?)」

穏乃「はい! では私から、
晴れ渡ってきたー
風も吹いてきたー
今日も山に行く!」

咲「結構イイですね。他に何方か。」

莉子「では、私が!
イーピン掴んできたー
これを振り込んだー
三位に転落…。」

いちご「私も行きます。
九索を捨てたらー
役満振り込んだー
考慮しとらんよ…。」

咲「両方とも、ジャジャジャジャーンの時と同じネタですね。穏乃ちゃんのが先になければ、イイって思ったかもしれませんが…。他、ありませんか?」

漫「じゃあ、私が。
お好み焼きとー
焼きそばを食べたー
たこ焼きも食べる!」

咲「実家がお好み焼きやさんの上重さんらしいですね。
で、やっぱり、雰囲気的に最初の穏乃ちゃんのがイイかな。では、穏乃ちゃんに座布団一枚御願いします。」

穏乃「ありがとうございます!」

咲「それでは、次は替え歌を作ってもらいます。
題材は、これです!





済みません。禁止事項になりますので消去します!





咲「話が無くなってしまいましたが………。
ええと、もう、これは、6400振り込みをずっと訴え続けてきた安福莉子さんにします。
莉子さんに座布団一枚お願いします。」


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十三本場:ドラ爆警戒

 休憩時間を終え、A-Bブロック次鋒後半戦の場決めがなされた。

 起家が灼、南家が星夏、西家が藍里、みかんが北家になった。前半戦と起家は違うが、並ぶ順番は同じだった。

 

 東一局、灼の親。

 一位の新道寺女子高校から三位の白糸台高校までたった3800点差の状況。灼も、みかんも、藍里も、トップで中堅戦に繋ぎたいところだ。

 勿論、星夏も3位との差を少しでも狭めたい。

 この局、

「ポン!」

 {中}を早々に一鳴きし、

「ツモ! 中北ドラ2。2000、4000。」

 自風の{北}をツモって和了った。これで、みかんがトップに立った。

 

 東二局、星夏の親番。ドラは{八}。

 しかし、未だに星夏にはツキが回ってこない。

 今度は灼が、

「リーチ!」

 攻めてきた。そして、一発で、

「リーチ一発ツモ! 白ドラ3! 3000、6000!」

 これで、再び灼が逆転してトップに返り咲いた。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八⑤[⑤][⑤]⑥234白白白}  ツモ{⑦}

 

 ボーリングのピンならビッグフォー(4、6、7、10番ピン)もどきだ。

 最下位の星夏にとっては、痛い親かぶりになった。

 

 東三局、藍里の親。ドラは{二}。

 ここでも、

「リーチ!」

 灼が先制リーチをかけた。打{横三}。

「チー!」

 星夏が一発消しで鳴いた。副露は{横三二四}のドラ含み。

 しかし、

「ツモ! 2000、4000!」

 灼がツモ和了りした。星夏が鳴いたことで和了り牌を灼に回してしまったようだ。ツキの無い人間が動くとロクなことにならない……、よくあるパターンだ。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三[⑤][⑤]⑤⑥⑦⑧⑨789}  ツモ{⑨}  裏ドラは{②}

 

 これは、ボーリングのピンで言うビッグファイブ(4、6、7、9、10番ピン)もどきと言える。

 この和了りで灼は、みかんに更なる差をつけた。

 

 東四局、みかんの親。

 ツキが灼のほうに流れてしまったのだろうか?

 この局も、灼の手が着々と進んでいる。

 対するみかんは、配牌から五巡続けて字牌をツモ切りした。

 

 灼が、一向聴を迎えた。しかし、ここから急に手が進まなくなった。いわゆる一向聴地獄と言うやつだ。

 一番早く聴牌したのは藍里だった。

 ドラなしの手だったが、

「リーチ!」

 裏ドラ期待でリーチをかけた。そして、次巡、

「一発ツモ!」

 藍里にとって、後半戦初の和了りだ。

 しかし、裏ドラは乗らなかった。リーチ一発ツモ平和の20符4翻の手。

「1300、2600です。」

 これで、みかんと400点差まで詰め寄った。

 

 南一局、灼の親番。

 これ以上、灼に和了らせないため、また、灼との点差を少しでも縮めるため、

「チー!」

 みかんは、鳴いて手を進めた。早和了りを目指す。そして、

「ツモ! 1000、2000!」

 東一局以来、二度目の和了りをみかんが決めた。

 

 後半戦では、ここまで星夏は和了りが無い。前半戦も小さな手を一回和了っただけだ。

 しかし、南二局の親番。ドラは{①}。

 ここに来て星夏は配牌に恵まれた。

 ツモも良い。横に伸びないが縦に伸びる。そして、

「ポン!」

 藍里が捨てた{⑤}を鳴いて、{[⑤]横⑤[⑤]}と晒した。ドラが二枚確定で他家の表情が急に変わる。

 そして、

「ツモ!」

 星夏が後半戦始めての和了りを見せた。

 

 開かれた手牌は、

 {三三三[五]五五2288]  ポン[[⑤]横⑤[⑤]}  ツモ{8}

 

「タンヤオ対々三暗刻ドラ3。8000オールです!」

 次鋒戦一番の手が飛び出した。まさかの親倍。

 

 そして、南二局一本場。星夏の連荘。

 ここでも星夏は良好な配牌にツモが噛み合った。そして、

「ツモ! タンヤオ一盃口ドラ2。4100オール!」

 親満をツモ和了りした。これで、三位と14700点まで差を詰めた。

 

 南二局二本場。

 これ以上は星夏に連荘をさせたくない。いくら最下位でも、この上り調子である。次に親のハネ満をツモ和了りされたら、藍里もみかんも星夏に逆転される。

 藍里は、

「ポン!」

 みかんの捨てた{發}を鳴いてドラを捨てた。次巡では赤ドラも…。

 そう…、自分の手が安いことを知らせているのだ。

「(なら、これかな?)」

 みかんが、藍里の待っていそうな牌を捨てた。

「ロン! 發のみ。1000点の二本付けで1600。」

 ドンピシャリだった。

 この差し込みで二位のみかんと三位の藍里の点差が2200点まで縮まったが、ツキ始めた親を流せたのは大きい。

 

 南三局、藍里の親番。

 差し込まれたとは言え、和了った次の局で迎えた親。何とかツキを呼び寄せたいところだ。しかし、

「ツモ! 七対赤1。1600、3200。」

 この局は、みかんに和了られた。これで、再び二位と三位の差が開いた。

 

 そして、迎えたオーラス。みかんの親番。ドラは{白}。

 この局、みかんの第一打牌である{中}を、

「ポン!」

 いきなり星夏が鳴いた。たしかに、ドラ表示牌が{中}なので、これを鳴かなければ{中}は対子としてしか使えない。

 二巡後、

「チー!」

 灼が捨てた{3}を星夏が鳴き、{横34[5]}を晒した。

 そして、次巡、

「ツモ! 中赤3。2000、3900です!」

 30符4翻の手を星夏がツモ和了りした。しかも、{[⑤]}が二枚あって、それがアタマになっていた。

 これで次鋒戦が終了した。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 110500

 暫定2位:白糸台高校 104700

 暫定3位:新道寺女子高校 94800

 暫定4位:風越女子高校 90000

 灼は、憧に予告したとおりトップに躍り出た。また、星夏が後半戦南場で一気に追い上げ、トップとラスの差を20500点まで狭めた。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局終了の一礼をし、灼は速やかに対局室を後にした。

 一方、阿知賀女子学院控室では、

「フン!」

 玄が思い切り気合を入れていた。

「玄。さっき言ったこと、分かってるね!」

「大丈夫なのです、赤土先生!」

「じゃあ、頼んだよ!」

「お任せあれ!」

 意気揚々と玄は控室を出て行った。

 

 対局室に向かう途中で、玄は灼に会った。

「灼ちゃん、凄いのです。予告トップ。憧ちゃんから聞いたのです。」

「運が良かったと思…。今度は、玄の番。」

「心配は無用なのです。今回の相手には、前チャンピオンも園城寺さんもいないのです。それに、咲ちゃんや穏乃ちゃんみたいな魔物もいないのです。」

「たしかに、三人とも普通のデジタル打ちだね。」

「なら、相手がやることは一つと赤土先生には言われてます。」

「たしかに…。」

「では、行ってくるのです!」

 玄は、インターハイ準決勝戦のように縮こまった感じではなく、むしろ余裕が見え隠れしていた。次に咲が控えていることで、随分と気が楽になっているのだろう。

 対局室に入る直前で、玄は白糸台高校の多治比麻里香…多治比真祐子の妹と鉢合わせになった。

 例によって、麻里香は缶のお汁粉を手にしている。対局直前に飲むつもりだ。

 ただ、麻里香が玄に向けた視線は冷たかった。

「(これがドラ爆娘…。よりによって、あの女の前にこいつを置くなんて…。)」

「(やっぱり私のことを睨んでるのです。)」

 玄は、麻里香が咲を敵視している以上、チームメイトである玄にもキツく当たってくることは想定済みだった。それで玄は、麻里香のことを無視した。そして、視線を逸らして何食わぬ顔で対局室に入った。

 

 対局室には、既に新道寺女子高校中堅の友清朱里と風越女子高校の深堀純代が入室を済ませていた。

 場決めがされ、純代が起家、玄が南家、麻里香が西家、朱里が北家に決まった。

 麻里香は、缶のプルトップを開けると、急いでお汁粉を飲み切った。糖尿病にならないか少々心配である。

 

 東一局、純代の親。

 当然の如く、玄以外の配牌にはドラも赤ドラも無かった。勿論、ドラをツモれるのは玄だけ…。

 これで高い手を作ろうとすれば手が遅くなる。手が遅くなれば、それだけ玄にドラ爆和了りをされる確率が上がる。

「ポン!」

 麻里香は、純代が捨てた{東}を鳴き、

「ツモ! 東のみ。300、500.」

 ゴミ手で場を進めた。

 

 東二局、玄の親。

 この局は、純代が、

「ツモ、平和のみ。400、700。」

 安手で流した。

 

 東三局も、

「ツモ。400、700。」

 純代が平和ツモのみで麻里香の親を流した。

 

 東四局も、

「ポン。」

 朱里が捨てた{中}を麻里香が鳴き、

「ツモ。300、500。」

 またもやゴミ手で流した。

 

 観戦室では、もともと殆どの人達が、この中堅戦に興味はない。咲と光の対決を見たいがために入室している。

 先鋒戦の段階で、既に寝ている人がいる状態だったが、この安手の応酬を見て、

「(つまらないなあ…。)」

 一気に半数以上の人が目を閉じた。副将戦に向けて仮眠を取り出したのだ。

 もっとも、そんなことは対局中の選手達には分からないことだか…。

 

 あっという間に南入した。

 南一局、純代の親。

 ここで朱里が、

「ツモ。平和タンヤオ。700、1300。」

 初の和了りを見せた。しかし、3000点にも満たない小さな手だった。

 

 南二局、玄の親。

 ここでも朱里が、

「ツモ。タンヤオ一盃口。1000、2000。」

 4000点の手で流した。この前半戦一番の和了り手だ……この和了りが…。

 

 南三局、麻里香の親。

 とにかく、玄の手が出来上がる前にさっさと流して場を進める。それが玄以外の三人の共通認識のようだ。

「ツモ。タンヤオ平和。700、1300。」

 この局は、純代が安く和了った。

 

 そして、オーラス。朱里の親。

「ポン!」

 麻里香が、自風の{北}を一鳴きし、

「チー!」

 玄から出てきたドラそばの{④}を鳴いて、次巡、

「ツモ。北混一。1000、2000。」

 南二局の和了りと同じ30符3翻のツモ和了り。これも中堅前半戦一番の和了りになる。比較的配牌から筒子に偏っていたからできた和了りだが…、なんとまあ地味な戦いだろう…。

 これで前半戦が終了した。

 

 各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 106800

 暫定2位:阿知賀女子学院 104400

 暫定3位:新道寺女子高校 97200

 暫定4位:風越女子高校 91600

 オーラスで、麻里香が玄を抜いてトップに立った。一方の玄は、この前半戦でヤキトリだったが、特に悲観的な雰囲気は感じられなかった。むしろ、

『計算どおり!』

 とでも言いた気な余裕の表情を見せていた。

 

 玄は、晴絵から

『ヤキトリで良い!』

 と言われていた。

 他家はドラが来ない。それでいて、玄のドラ爆を警戒するとなると、多くの場合、リーチをかけず鳴きの早和了りを選択するだろう。

 万が一、リーチをかけて玄の当たり牌を引いてきたら…。

 そんな目には遭いたくない。

 玄を相手にリーチで攻めて行けるのは、照や怜みたいな選手だけだ。

 となると、たとえヤキトリでも大したマイナスにはならない。この局も、玄は6100点を失うだけに留まった。

 それに、玄の後には咲が控えている。

 中堅戦でトビ終了にでもならない限り副将戦に進む。そうすれば、点数を自在に操れる咲が何とかしてくれる。

 それも、玄がヤキトリでいながらも余裕を見せていられる理由であろう。

 

 休憩が終わり、再び場決めがなされた。

 後半戦は、起家が麻里香、南家が朱里、西家が玄、北家が純代になった。

 

 東一局、麻里香の親。

 いきなり、

「ポン!」

 朱里が捨てた{東}を麻里香が鳴いた。連荘狙いだ。そして、

「ツモ! ダブ東チャンタ。2000オール。」

 前半戦で最も高かった4000点を超える和了り。これで、麻里香が二位の玄に10400点の差をつけた。

 

 東一局一本場。

 玄の和了りは怖いが、朱里としても純代としても、これ以上、麻里香に走らせるわけには行かない。とにかく安手で良いので麻里香の親を流さなければならない。

 この局、朱里は、二向牌と好配牌。しかも、ツモも巧く噛み合う。早々と聴牌。しかし、ドラが無いので手は安い。

 リーチをかけても、恐らく裏ドラは期待できないだろう。インターハイ準決勝戦で、照も怜もリーチをかけて和了っているが、裏ドラは一枚も乗っていない。ドラは、全て玄の支配下にあるのだ。

 なら、リーチをかけずにダマで待つほうが効率的だろう。

 結局、

「ツモ。800、1400。」

 朱里は平和タンヤオをツモ和了りした。

 

 東二局、朱里の親。

 玄が捨てた{東}を、

「ポン!」

 朱里は一鳴きし、

「ツモ。ダブ東のみ。1000オール。」

 早々と和了った。

 どうせドラがこないなら…、玄のドラ爆手を進ませてはならないのなら…、この安手早和了りは一つの方法であろう。

 もっとも、玄がドラを捨てることで、ドラ支配が逆転することを知っていたら、別の打ち方をするのだろうが、今のところ、そのことは他校には知られていない。

 厳密には、和が知っているはずなのだが…、

「そんなオカルトありえません!」

 で一蹴してしまう性格だ。

 なので、現段階では白糸台高校でさえも、玄のドラ切りの後のことを知らないでいる。

 よって、咲のように槓で敢えてドラを増やして、ドラやドラそばを玄に捨てさせる戦法に出ようとは、今のところ誰も考えていなかった。

 むしろ、ドラが下手に増えたら、玄に数え役満を和了られてしまうのではないかとの恐怖のほうが大きかった。

 

 東二局一本場、朱里の連荘。

 ここでは、

「ツモ。平和タンヤオ一盃口。1400、2700。」

 純代が5200点の一本付けをツモ和了りした。

 

 東三局は、

「ポン!」

 麻里香が鳴きの速攻…自風の{西}を鳴き、

「ツモ。西チャンタ三色。1000、2000。」

 まるで憧のような綺麗な鳴き麻雀を披露した。

 

 東四局、純代の親。

 ここも麻里香が、

「チー。」

 {1}を鳴いて、{横123}を副露し、

「ツモ。ジュンチャン三色。1000、2000。」

 純代の親を流した。

 

 中堅戦は、ここまで全てツモ和了りである。誰も振り込んでいない。それだけ堅い打ち手の揃った場であった。

 

 以前の玄なら、守りが弱くて他家にドンドン振り込んでいたかもしれない。しかし、咲との特訓で玄は守りが大幅に改善された。

 それに、和了れなくても良いとの指令が出ている。それで、玄は無理に和了りに進まずに守りを固める打ち方にしていた。絶対に振り込まないために…。

 ただ、そんな打ち方をしていても、余程ツキに恵まれない日を除いて、前後半戦最短十六局のうち一局くらいはチャンスが来るだろう。それを玄がモノにすれば良い。

 

 そして、南一局、ドラは{3}。

 

 玄の配牌は、

 {二四六⑤[⑤]334567西北}

 

 ついにその時が来た。




おまけ
咲「怜-Toki-は今回(BG2019 vol.02)休載のため、まだ『むに…て…から』の正解が分かりませんでした。
まあ、それはさておき、大喜利コーナーです!」

全員:やる気のない疎らな拍手←回答を考えるのが面倒

咲「ある言葉とそのアナグラムを繋げて、『なんとか』な『なんとか』って感じで文章を作ってください。
例として、前回の憧ちゃんの回答を使わせてもらいますと、
『若く綺麗』な『菊川怜』とか、
優希ちゃんの回答を使わせてもらいますと、
『浴衣を買う気』でいる『片岡優希』とかです。

全員「…(結構難しい…。)」

憧「はい!」

咲「では、憧ちゃん」

憧「ちょっと難しいけど、一先ずこんな感じかなと思って…。
『知性もおじん』な『おもち星人』 玄のことね。」

咲「最初の回答にしては、とても上手だと思います。さすが、偏差値70超ですね。他、何方かいますか?」

全員「………(回答がでない…)。」

塞「じゃあ、『たけむらたつや』君が『ヤったらムけた』!」(全国のたけむらたつやさん、度々ごめんなさい)

玄「実は、『昴月蘭(こうづきらん)』さんは『乱交好き』!」

爽「卯月蘭子もね。」

咲「ええと、塞さんと玄さんと爽さんには、宮永家麻雀大会に強制参加していただくこととします。そこで麻雀を楽しませなくては、ならないみたいですね。」宮永家代表:咲、照、光

塞・玄・爽「「「(しまった!!!)」」」

咲「他は何方かいませんか?」

久「じゃあ、麻雀の強さは『健夜』>『靖子』!」

洋榎「アラフォーとカツ丼か!」

咲「まさか、不等号で繋ぐとは…。部長、凄いです!」

泉「では、『スバラ』さんを『バラす』です!」

煌「(まさか、私が殺されネタに使われるとは…。)」

誓子「ええと、『坪田』君が『ボった』!」

全員「(坪田君って誰?)」

咲「部長の回答から、ひらがな換算で三文字のシリーズに火がついたようですね。他にはありませんか?」

爽「『敵も』『モテ期』!」

咲「これも三文字シリーズですね。繋ぐ言葉を省略してきました。これはこれでイイですね。爽さんは、さっきの麻雀を楽しませるメンバーから外します。」

爽「(やった!)」

玄「私の場合は、『オチも』『オモチ』ですのだ!」

咲「玄さんも麻雀を楽しませるメンバーから外します!(これも三文字シリーズか。)」

塞「(ヤバい! 全然ネタが思いつかない…。)」

咲「では、三文字シリーズ突入のきっかけを作った竹井部長に座布団一枚御願いします! 臼沢塞さんは今夜、宮永家麻雀大会に参加していただくことと致します。」





次の日、塞の机の上には
「探さないでください」
と書かれた一枚の紙が置かれていた。


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十四本場:激突! 超魔物vs超魔物

玄の配牌は、

二四六⑤(⑤)334567西北

です。
ドラは3です。


 玄の第一ツモは{[5]}、打{二}。

 手牌は、

 {四六⑤[⑤]334[5]567西北}

 

 二巡目、玄のツモはドラの{3}、打{西}。

 手牌は、

 {四六⑤[⑤]3334[5]567北}

 

 三巡目、玄のツモは{[⑤]}、打{北}。

 手牌は、

 {四六⑤[⑤][⑤]3334[5]567}

 

 四巡目、玄のツモは{[五]}。

「ツモ! タンヤオドラ7。4000、8000!」

 手牌は、

 {四六⑤[⑤][⑤]3334[5]567}  ツモ{[五]}

 玄ならではの四連続ドラツモによる和了り。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 112200

 暫定2位:白糸台高校 109000

 暫定3位:新道寺女子高校 92500

 暫定4位:風越女子高校 86300

 この玄の倍満ツモで、阿知賀女子学院が三位から一気にトップに躍り出た。

 

「(ここからは、多分、また守りの麻雀なのです!)」

 とにかく咲に繋ぐ。それが今日の玄の目標だった。

 一昨日の二回戦では、玄は面白いように高い手を和了りまくった。さっきの、南一局のような和了りを連発できたのだ。

 しかし、毎回それができるわけではない。言ってしまえば、今日は運が悪い。もっと正確に言えば配牌が悪い。

 

 南二局が始まった。ドラは{②}。

 玄の配牌は

 {三八九①④⑧129東西白中}

 八種八牌。さっきの和了りが嘘のようだ。

 やはり、二回戦のようには行かない。

 第一ツモはドラの{②}。九種九牌にならず、流せない。

 ここから、ドラの連続ツモで八巡目には、

 {三[五]②②②②④[⑤][⑤]東西白中}  ツモ{[5]}

 ドラ占有の手。ここから打{東}。

 もし字牌から切り出していても、この段階では二向聴({[5]}切りが条件だが…)までしか進んでいない。脅威のドラ8なのだが…。

 他家は、そろそろ玄の手に大量のドラがあるであろうことを予測していた。ここで、もう一回玄に和了られると面倒だ。やはり、安手で流すしかないと判断してしまう。

「チー!」

 純代の捨て牌を麻里香が鳴いた。喰いタン狙いで手を進める。

 その二巡後、純代が、

「ツモ。700、1300。」

 結局、安手を和了り、場を進めた。

 

 南三局、玄の親。

 ここでも、

「ツモ。400、700。」

 純代が安手で和了った。狙っているのは逆転ではない。高い手を玄に和了らせないようにすることだけ。特に玄の親を流すのは最重要との判断だ。

 

 そして、オーラス。

 この局は、

「ツモ。1000、2000。」

 朱里がタンヤオ一盃口の門前手をツモ和了りした。これで、ドラ爆をただ回避するだけの中堅戦が終了した。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 109800

 暫定2位:白糸台高校 106900

 暫定3位:新道寺女子高校 94800

 暫定4位:風越女子高校 88500

 玄は、中堅戦開始から700点減らしたのみだった。前後半戦を通じて一回しか和了れなかったが、その一回が大きかったため、たいしたマイナスにはならなかった。

 麻里香はプラスだったが稼ぎは2200点と小さかった。

 朱里は中堅戦開始時と終了時がともに94800点で変わらず、純代は1500点減らしたのみであった。

 

 観戦室では、多数の観客が目を覚ました。これから、本日のメインイベントが始まる。

 対局室を映し出す巨大モニターに、光の姿が映し出された。一人目の主役が対局室に入室したのだ。

 そして、それから一分もしないうちに、憧に連れられて咲が対局室に姿を現した。もう一人の主役の登場で、観戦室が騒がしくなってきた。

「まさか、咲と戦うことになるとはのう。」

 そう言いながら、まこが対局室に入ってきた。インターハイでは咲と一緒に清澄高校のメンバーとして戦った百戦錬磨の達人。今は風越女子高校の副将だ。

 そして、最後に入室してきたのが新道寺女子高校のエース、鶴田姫子だった。

 なんだか、インターハイの頃よりも艶やかな感じ…正直、顔が少しエロくなったような気がする。

 いったい、この半年間で何があったのか?

 

 場決めがされ、まこが起家、姫子が南家、咲が西家、光が北家に決まった。

 東一局、まこの親。

 姫子が一旦牌を伏せた。その雰囲気は、白水哩のリザベーションに似ていた。

 まこは、姫子が何か仕掛けてくるのか警戒した。しかし、

「ポン!」

 初っ端から仕掛けてきたのは、光だった。そして、六巡目で、

「ツモ。タンヤオドラ4。2000、4000。」

 いきなり、光の満貫ツモ。これで白糸台高校が再びトップに返り咲いた。

 

 東二局、姫子の親。

 この局でも、姫子は一旦牌を伏せた。リザベーションのように…。

 しかし、この局も、

「タンピンツモドラ2。2000、4000。」

 光が満貫をツモ和了りした。

 

 東三局、咲の親。

 やはり姫子が一旦牌を伏せた。

 しかし、ここでも仕掛けたのは、

「リーチ!」

 光だった。偶然役と門前清自摸を除いた和了り役の翻数がどんどん上昇して行くのが、光の特徴である。

 ただ、縛りがあるのは和了り役のみで、その翻数にはドラが含まれない。そのため、翻数を上げるためにリーチをかけざるを得なくなることもしばしばある。

 本当はリーチをかけたくない。咲が相手なので、大明槓を狙われる可能性があるからだ。しかし、

「一発ツモ!」

 今回は、咲の槓よりも光の和了りのほうが早かった。

「リーチ一発ツモ平和一盃口…裏1。3000、6000!」

 一発と裏ドラが付いてハネ満になった。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:白糸台高校 134900

 暫定2位:阿知賀女子学院 99800

 暫定3位:新道寺女子高校 85800

 暫定4位:風越女子高校 79500

 白糸台高校のみプラス、他三校はマイナスの状態に入った。

 

 東四局、光の親。

 例の如く、姫子が一旦牌を伏せた。

「({中}の暗刻にドラ二枚の手。これなら、いかる! リザベーション3!)」

 やはり、姫子はリザベーションをしていたのだ。

 姫子の首と左腕、右腿に鎖が巻きつく。

 しかし、新道寺女子高校の控室では、誰も反応していない。いったい誰とのコンビネーションなのだろうか?

 

 この自縛プレイも空しく、

「カン!」

 咲が姫子の捨て牌を大明槓し、

「ツモ! 嶺上開花中ドラドラ。2000、4000。」

 得意の嶺上開花で和了った。ただし、インターハイとは違い、この和了りは責任払いではなくツモ和了りとして扱われる。

 

 南一局、まこの親。

 ここでも姫子は、一旦牌を伏せ、

「リザベーション3!」

 自縛プレイしていた。

 しかし、

「カン!」

 この局も、動いたのは咲だった。そして、

「ツモ! 嶺上開花中一盃口ドラドラ。3000、6000。」

 当然のように嶺上開花を和了った。

 

 南二局、姫子の親。

「(ドラの{中}が暗刻の上に赤牌が二枚の配牌一向聴…。これは勝負たい! リザベーション6!)」

 姫子の首、左腕、右手首、胴、右腿、左足首に鎖が巻きついた。ただ、姫子は苦しさよりは、むしろ気持ち良さそうな表情をしていた。

 二巡目で聴牌。そして、四巡目で、

「ツモ! 中ドラ5! 6000オール!」

 とうとうリザベーション状態で姫子が和了った。

 空からS2と記された鍵が姫子の手に舞い降りてきた。その鍵の受取人は姫子本人だったのだ。

「セルフリザベーション、クリア!」

 前半戦での和了りが、後半戦の同じ局で自分が二倍の翻数で和了れるようになる。これがセルフリザベーション。

『セルフ』だが、『リザ』であって決して『マスター』ではない。

 姫子は、この技を身に着けたことで、艶やかになったのかもしれない。

 

 南二局一本場。姫子の連荘。

「(リザベーション4!)」

 後半戦には南二局の一本場が存在するかどうか分からない。しかし、姫子は貪欲に攻めてゆく。

 ただ、リザベーションをかけると和了り優先の打ち方になり、守りが薄くなる。そのため、中盤で姫子は不用意にも初牌の{南}を切った。

「カン!」

 咲が大明槓をしかけた。しかも、{南}は咲にとっての自風でもある。

「ツモ! 嶺上開花ダブ南三色ドラドラ。3100、6100!」

 当然のように嶺上牌で和了る。

 この咲の和了りで、阿知賀女子学院がトップに舞い戻った。

 

 南三局、咲の親。

 今度は、光が、

「ツモ中ドラ2。2000、4000!」

 満貫を和了り、トップを取り返した。シーソーゲームだ。

 

 そして、オーラス。光の親。

 いまだヤキトリのまことしては、なんとしてでも和了りたいところ。勿論、光も、ここで和了って、トップで前半戦を終えたい。

 ところが、リザベーションでの和了りを貪欲に狙う姫子が捨てた{①}を、

「ポン!」

 咲が鳴いた。そして、次巡、同じく姫子がツモ切りした{北}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。嶺上牌は、{①}。

「もいっこ、カン!」

 その{①}を加槓して、次にツモった嶺上牌は{②}。すると、

「もいっこ、カン!」

 さらに{②}を暗槓した。そして、

「ツモ! 北混一対々三槓子嶺上開花。4000、8000。」

 倍満ツモ和了りを咲が決めた。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 138100

 暫定2位:白糸台高校 118800

 暫定3位:新道寺女子高校 86700

 暫定4位:風越女子高校 56400

 阿知賀女子学院が、またもや逆転して、このシーソーゲームを制した。まこは、結局ヤキトリで半荘を終えるハメになった。

 

「うわぁ。やっぱり咲にまくられた!」

「こっちも、光のスタートダッシュが凄かったから焦ったよ。」

「でも、今度は世界大会のようにはさせないから。私が咲に勝つ!」

「私も負けないよ。でも、その前に、ちょっと、おトイレ行ってくるね。」

 咲が席から立ち上がった。

 丁度、これを見計らったかのようなタイミングで憧が対局室に入ってきた。

「サキ。お疲れ!」

「憧ちゃん、来てくれたんだ。」

「迷子になるといけないからね。じゃあ。」

「うん。」

 差し出された憧の手を咲が握った。迷子対策なのだが…。

 ただ、これを控室でモニター越しに見ていた和は、

「どうして憧。あなたが咲さんと手を繋いでいるんですか? そんなに仲良さそうにして。あなたには穏乃がいるでしょう!」

 心中穏やかではなかった。そして、

「ブルータス。おまえもかです! SOASOASOA…。」

 そう言うと和は控室を飛び出した。

 

 一方の咲は、憧に連れられて用をたし、その後、自販機でつぶつぶドリアンジュースの隣のオレンジジュースでのどを潤すと、対局室に向かって歩き出した

「やっぱりオレンジが一番無難で美味しいよね?」

「そうね。ドリアンは、不味くは無いんだけど、臭いがね。」

「臭くなければイイんだけどなぁ。」

「それにしても、北欧の小さな巨人…。」

「光?」

「そう…。サキの従姉妹だよね?」

「そうだよ。」

「従姉妹対決か。しかも世界大会の再現。なんか色々騒がれてて、やりにくくない?」

「でも、対局室に入れば周りの声は聞こえなくなるし、まこ先輩も新道寺の人も、変に弄ってきたりしないし…。」

 特に、咲のメンタル面は問題なさそうだ。

 

 二人が対局室の丁度手前まで来た時だった。

「咲さん!」

 和の声だ。

「和ちゃん。久し振りだね。」

「そんなことより、どうして憧と手を繋いでいるんですか?」

「これ? 赤土先生に言われて、迷子対策だよ?」

 すると憧が、

「もう対局が始まるから、咲は中に入って。」

 と言って、咲の背中を押した。

「じゃ…じゃあ、憧ちゃん、行ってくるね。」

「ガンバ!」

 咲が入室すると、対局室の扉が閉まった。

 もう外の声は中には聞こえない。

「和。一応、今、私達は相手校同士だからさ。何か取引しているとか疑われても、お互い困るからさ。」

「たしかに、そうですね。でも、憧は咲さんと妙に親しい感じがしますが?」

「まあ、小動物みたいで可愛いしね。それが卓に付いたら最強の捕食生物に変わるんだから、びっくらこいたわ。」

「でも、それが咲さんの魅力でもあります。」

「そうかもね。まあ、和には感謝してるわ。宥姉の抜けた穴を埋める人材が欲しかったからね。穴を埋めるどころか、埋めてお釣りが来るくらいだわ。」

「たしかに、咲さんには、それだけの実力がありますが…。」

「じゃあ、団体戦が終わったらゆっくり話そう。順調に行けば、明後日の決勝戦で。それじゃ、また!」

 そう言うと、憧は、控室に戻っていった。なんか、和の雰囲気が怖いので逃げたが正解なのだが…。

 

 

 一方、対局室内では、咲が卓に付くと、場決めがされた。

 起家が姫子、南家がまこ、西家と北家は、前半戦と同じで順に咲と光に決まった。

 

 東一局が始まった。

 後半戦は、姫子は手牌を伏せない。リザベーションを起こす側ではなく受ける側になったのだから伏せる必要がないのだ。

 相手が超魔物二人でも果敢に立ち向かって行く姿勢を見せる姫子…。

 まこも同様だ。それに、まこは清澄高校時代に咲と何回も打っている。相手がチャンピオンだからといって最初から怯んだりはしない。

 ただ、この局は、

「ツモ! タンピンツモドラ3。3000、6000!」

 出和了り役二翻からのスタートで、光が和了った。

 

 東二局、まこの親。ドラは{中}。

 この局も、

「ツモ中チャンタドラ3。3000、6000!」

 光が和了った。これで、白糸台高校が再逆転してトップに立った。

 

 東三局、咲の親番。

 後半戦に入って、姫子は初牌に気をつけるようになった。

 初牌を一枚も切らずに対局を終えることは難しいが、少なくとも和了りを優先しすぎて守りが薄くなり、咲の大明槓の餌食になるのだけは避けたい。

 しかし、

「ロン! タンピン三色。11600。」

 咲が槓に頼らない平和手を姫子から和了った。姫子は、振り込んだ直後、何が起きたのか分からない様子だった。

 嶺上開花の印象が強過ぎて、咲の平和がイメージできなかったのだ。

「は…はい…。」

 姫子は、一瞬反応が遅れたが、点棒を渡すと、両手で両頬を叩いて気合を入れ直した。

 

 この咲の和了りで、トップは阿知賀女子学院に変わった。

 前半戦に続き、後半戦もシーソーゲームだ。観戦室は、この頂上決戦とも言える従姉妹対決に誰もが興奮状態だった。




おまけ
マホ「リザベーションのことで、一つ質問があります!」

咲「何かな? マホちゃん。」

マホ「ええと、『セルフ』だが、『リザ』であって決して『マスター』ではないって、どう言う意味ですか?」

咲「リザベーションの『リザ』を『マスター』に変えたらどうなりますか?」

マホ「マス〇ーベーション? それって何ですか?」

咲「人に聞く前に自分で検索してみようね!」

マホ「分かりました! でも、これって鶴田姫子さんに何か関係があるんですか?」

姫子「(ギクッ!!!)」

咲「あまり詮索するのは、やめましょうね。では、大喜利コーナーです!」

座布団ある組:普通に拍手

座布団ない組:やる気のない拍手

咲「今のところ、座布団獲得者は、愛宕洋榎さん、憧ちゃん、石戸霞さん、優希ちゃん、辻垣内組組員さん、花田煌さん、佐々野いちごさん、弘世菫さん、末原恭子さん、穏乃ちゃん、安福莉子さん、部長の12人です。今のところ12人とも一枚獲得で、二枚獲得者はいません。」

照「ちなみに、座布団が何枚か溜まるとイイことあるの?」

咲「三枚獲得者に素敵な商品を差し上げます!」

照「何がもらえるの?」

咲「内緒です。お姉ちゃんは、私の姉ですので商品をあげる対象にはなりませんが…。
では、今日の御題は、自分自身のことを表現している麻雀用語をお答えください。13枚目の座布団を賭けての御題ですので、ちょっと縁起が悪く感じる人もいるかもしれませんが…。
例えば、私でしたら嶺上開花とかカンとかです。」

淡「ダブリーとか、カン裏モロ乗りとか…。」

優希「ダブルリーチなら私もやるじょ。」

淡「じゃあ、絶対安全圏とカン裏モロ乗り!」

咲「でも、絶対安全圏は麻雀用語ではないような気がしますので、カン裏モロ乗りだけですかね?」

淡「まあ、別にそれでイイけどね。私を表現できる麻雀用語が無いわけじゃないってことだしね。」

優希「じゃあ、私は天和。」

咲「まあ、一回しか出していないけど、インターハイ初だからね。」

和「私はデジタルで…。」

数絵「南場。」

憧「ザンク!」

セーラ「12000!」

咲「12000は、いろいろな人が和了っていますから…。」

華菜「そうだし! 私も和了ってるし!」

咲「一方のザンクは、他の人も和了ってますけど、憧ちゃんっぽいかな。」

尭深「役満!」

ゆみ「役満ならアニメでやった個人戦も入れると、佳織だって三回和了ってるからな。四暗刻(団体戦決勝)に国士無双(個人戦)に緑一色(四校合同合宿)。」

華菜「そうだし! 数えで良ければ私も宮永も和了ってるし!」

初美「小四喜なら私ですよー。」

全員「(見た目『小四』で『喜』ばしい格好!)」←しつこい!

初美「あと、九連宝燈なら姫様ですよー。」

咲「神代さんは、まだ実際には九連宝燈を和了っていないんですけどね。でも、アニメ第一シリーズ最終回のエンディングで聴牌したところが出ていて、たしかに、そのイメージが先行していますよね。あと、九面の神って言葉もありますし…。」

淡「でもそれ、もう昔の話だけどね。」

初美「昔って、それって、どう言う意味ですかー?」

咲「本誌で、先にお姉ちゃんが和了っちゃったからね、九連宝燈。」

初美「先にって…、ないない! そんなのっ……!!」

淡「あるある!」

初美「ないない!」

淡「あるある!」←意地悪な顔

初美「ないないっ!!」←涙目

咲「ええと、ギギギ…がゲートの開く音で、ナインゲーツ(英語圏での九連宝燈の呼び名)に繋がっていたわけですけど…。まあ、それはそれとして、先に進めましょう。咲だけに。ええと、他に何方か?」

久「悪待ち。でも、これは必ずしも麻雀じゃないか…。」

郝慧宇「中国麻将。」

照「連続和了。」

霞「絶一門かしら。」

怜「一巡先も、麻雀以外でもあるからなぁ。」

竜華「ゾーンもやね。黒子のバスケでも出とるしね。」

玄「ドラ!」

全員「(たしかに!)」

莉子「イーピンです!」

いちご「なら私は九索じゃ!」

咲「でも、イーピンは私の数え役満もありますからね…。たしかに安福さんをイメージする牌ではありますが…。ただ、九索では、いちごさんを余り連想しないのは何故でしょう?」

莉子「じゃあ、ロクヨン振り込みで!」

咲「たしかに、それなら安福さんですね。」←何気にヒドイ

漫「上の数牌!」

誠子「鳴きは、ダメかな…。」

咲「憧ちゃんも鳴きが主体ですので…。あと、リザベーションも麻雀用語ではありませんし、マホちゃんのコピーも麻雀だけのものではありませんね。」

慕「私達も参戦! 私は一索! 鳥さんでもイイけど。」

悠彗「オタ風混一!」

杏果「縦に伸びる手。」

咲「慕さんが一番分かりやすいですね。他に何方かいませんか?」

智葉「チーとカンが合わさってチカン!」

明華「風牌!」

全員「(でも、なんだかんだでピンと来るのは、咲、照(連続和了のほう)、玄、慕、淡くらいかな?)」

成香「あのう…。本来は麻雀用語だったのが、誤植があって別のものになってしまったものなのですけど…。





ヤミチン…。」

咲「本内成香さんに座布団一枚お願いします。」


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十五本場:超点数調整…点棒支配再び

 晴絵は、ふと、準決勝戦開始前の教え子達の会話を思い出していた。

『今日は、さすがにサキまで回るかもしれないね。』

『玄でも今回は、どこかをトバすのは難しいと思…。』

『それに、副将は宮永さんの従姉妹だし、私まで回るかも…。』

『でも、咲ちゃんなら、誰にも予想できない奇跡をまた見せてくれると思うのです。もしそうなったら、オモチに関係なく惚れてしまうかもしれないのです!』

 

 咲の存在は大きい。

 たしかに晴絵自身も、予想外の何かを咲に期待してしまう。果たして、今日はどんな奇跡を見せてくれるのかと…。

 

 

 東三局一本場。咲の連荘。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 143700

 暫定2位:白糸台高校 142800

 暫定3位:新道寺女子高校 66100

 暫定4位:風越女子高校 47400

 もはや、初牌だから切れないとか言っていられない点数だ。それに、咲は槓に頼らない平和手も作ってくる。大明槓対策など関係なくなっている。

 

 こうなったら、とにかく貪欲に和了りを目指す。当たって砕けろ。姫子は、その精神で突き進むことを決意した。

 しかし、三巡目、

「ポン!」

 光が捨てた{東}を咲が鳴いた。

 そして、七巡目、姫子が捨てた{1}で、

「ロン! ダブ東ドラ1。5800の一本場は6100。」

 咲が和了った。これで姫子は二連続振り込みだ。さすがに精神的にも落ち込んでくる。

 

 東三局二本場。

 咲の捨て牌に筒子が目立つ場だった。

 この点差だ。姫子もまこも、焦るなと言うほうが無理だろう。

 そして、

『筒子が安いか?』

 と思って姫子が切った{②}で、

「ロン! チャンタドラドラ。12600!」

 咲は親満を和了った。姫子の三連続振り込みだ。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 162400

 暫定2位:白糸台高校 142800

 暫定3位:新道寺女子高校 47400

 暫定4位:風越女子高校 47400

 新道寺女子高校と風越女子高校が並んだ。暫定順位は席順によるものだ。点数的には阿知賀女子学院にトリプルスコアの差を付けられている。二位の白糸台高校とも100000点近い差だ。

 しかし、まだ負けたわけではない。姫子は再び気合いを入れ直した。

 

 東三局三本場。

 この局は、

「チー!」

 咲の打牌が甘いのか、光が、

「ポン!」

 二副露した。二回とも咲から鳴いたものだ。そして、

「ツモ。タンヤオドラ2。1300、2300。」

 ようやく、光が咲の親を流した。ただ、晴絵には、どう見てもワザと光に鳴かせて自分の親を流させたようにしか思えなかった。

「(いったい咲は、何を考えているんだ?)」

 この意図の一部を晴絵が理解するのは『副将戦』終了時、半分を理解するのは『大将前半戦』の東四局、全てを理解するのは『大将戦』が終了する時になるのだが…。

 

 東四局、光の親。

 咲の支配力が強いためだろうか? 光の手の進みが意外と遅かった。

 一方の咲は、

「カン!」

 七巡目で自風の北を暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花北。60符3翻で2000、3900!」

 満貫クラスの和了りを決めた。

 

 南入した。

 南一局、姫子の親。

 姫子は、咲と光に大きく離されたが、少しでも点数を奪い返したいところだ。ただ守るだけでは敗退の道を自ら決めることになる。それは、エースとして許されない。

 しかし、その使命感が…、和了を優先した打ち方が…、場が進むに連れて甘い打牌を増やしてゆく。

 結局、姫子は咲に、

「ロン! 12000!」

 平和タンヤオ三色ドラ2のハネ満を振り込んだ。これで、四位転落。しかも、後半戦で咲に振り込むのは四度目だ。パターン化している感じだ。

 

 しかし、次は南二局。

 まこの親番だが、この局はセルフリザベーションがかかっている。

 姫子が12翻キーを天に向けて撃ち放った。そして、天から舞い降りた姫子の配牌は、

 {九③⑨1299東東北北中中}

 三向聴だ。

 

 第一ツモは{北}、打{③}。

 第二ツモは{中}、打{九}。

 そして、次のツモは{3}で聴牌。無駄ツモ無し。そして、

「リーチ!」

 打{横⑨}。捨て牌を横に曲げた。

 一発では和了れなかったが、その次巡、

「ツモ!」

 姫子は{東}を引いて和了った。裏ドラは{2}。

「リーヅモメンホン中北チャンタ三暗刻ドラ1。6000、12000!」

 これで新道寺女子高校が三位に順位を上げた。

 

 南三局、咲の親番。ドラは{⑧}。

 四巡目で、珍しく咲が、まこの捨てた{7}を、

「チー!」

 鳴いて順子を晒した。ポンでもカンでもない。チーだ。

 副露されたのは{横768}。

 ジュンチャンでもなければチャンタでもない。

 タンヤオ手?

 三色同順?

 それとも役牌バック?

 咲が何を狙っているのかが絞り込めない。

 そして、

 「とおらばリーチ!」

 数巡後に、姫子が勝負したリーチ宣言牌の{横中}で、

「ロン!」

 咲が和了った。

 開かれた手牌は、

 {111白白白發發發中}  チー{7横68}  ロン{中}

「混一小三元三暗刻。24000。」

 これで姫子は、折角前局のセルフリザベーションで掴んだ24000点をチャラにされた。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 198000

 暫定2位:白糸台高校 137800

 暫定3位:新道寺女子高校 32100

 暫定4位:風越女子高校 32100

 またもや、新道寺女子高校と風越女子高校の点数が並んだ。順位は席順によるものだ。

 

 南三局一本場。咲の連荘。

「カン!」

 序盤で、いきなり姫子が捨てた{①}を大明槓。仕掛けたのは咲。そして、咲は打{8}。

 続いて、

「ポン!」

 さらに、まこの捨てた{東}を咲が鳴いた。打{二}。

 咲の捨て牌から索子の混一が怪しい。

 次巡、姫子が捨てた{9}を、咲が再び、

「カン!」

 大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {東}を加槓した。

 咲が狙っていたのは混一色ではなかった。そして、咲は嶺上牌を引くと、

「ツモ! 東混老対々三槓子嶺上開花。8100オール。」

 そのまま親倍をツモ和了りした。

 これで、咲の点数が200000点を越えた。

 

 南三局二本場。

 この局は、光が早々に平和を聴牌した。タンヤオ等の複合役は無く、ドラも{[⑤]}が一枚のみ。安い手だ。アタマは{西}。

 しかし、

「カン!」

 光が捨てた{⑨}を、咲が大明槓した。新ドラ表示牌は{南}。これで、光の手牌にドラが二枚乗ったことになる。

 そして、同巡、光のツモ牌は、彼女の和了り牌だった。

「ツモ! 平和ドラ3。2200、4200。」

 この和了りに、普通なら喜ぶところだろう。

 しかし、光は腑に落ちなかった。咲が鳴いてツモ順をずらし、しかもドラを乗せてくれた。咲がくれた満貫だ。何かある。

 

 オーラス。光の親。

 この局は、

「ツモタンヤオ一盃口。2000オール。」

 光が和了った。そして、

「一本場!」

 和了り止めをせずに連荘を宣言した。咲との点差は78900点。この差を少しでも詰めておきたい。

 

 オーラス一本場。

 この局も、

「ツモタンヤオ三色。3900オールの一本場は4000オール!」

 光が門前で和了った。そして、

「二本場!」

 さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス二本場。

 この局は、

「ポン!」

 咲が捨てた{東}を光が鳴き、その数巡後に、

「ツモ。東發混一赤1。4200オール!」

 光が親満をツモ和了りした。

 

 オーラス三本場。

 この段階で、阿知賀女子学院の点数は207900点、白糸台高校の点数は168900点と、光が咲を相手に40000点弱まで追い上げてきた。

 しかし、この局は、

「ツモ。1300、2600の三本場は、1600、2900です。」

 さくっと咲が平和手で和了った。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 214000

 暫定2位:白糸台高校 166000

 暫定3位:新道寺女子高校 10000

 暫定4位:風越女子高校 10000

 新道寺女子高校と風越女子高校が、丁度10000点となった。咲が狙っていた点数調整の一つが、これだったのだ。

 これには、当事者のまこも、

「(こんなことをされるとはのう…。しかも、こっちは、前後半両方ともにヤキトリじゃぁ!)」

 苦笑いしか出なかった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、まこが咲に、

「相変わらずじゃな、咲は。いっそのこと、わしか新道寺のトビで、ここで終了したほうがスッキリせんか? これじゃ、うちの大将の池田が…。」

 と言った。ただ、池田という言葉を口に出した瞬間、まこには10000点丁度の意味を理解できたような気がした。

「(もしかして、池田に敢えて対局させたかったんじゃ…。ただ、10000点丁度じゃイジメみたいにしか見えんがのう…ってイジメか…。じゃが、それなら何故、わしらだけじゃなく新道寺も10000点なんじゃ?)」

 この時だった。

 新道寺女子高校の制服を着た小柄な女性が対局室に入ってきた。新道寺女子高校大将の中田慧だ。背格好も顔も雰囲気も池田華菜に似ている。

 これを見て、

「(池田のコピー?)」

 まこは新道寺女子高校の10000点の意味も理解できた気がした。

 

 対局室に淡が姿を現した。

「光、お疲れ。それから、サキ!」

「は…はい?」

「今回は、サキとは個人戦だね。団体戦は、最終的には白糸台が優勝するからね。夏の雪辱だよ!」

「わ…私達だって負けないからね!」

「その意気その意気! でも、勝つのは私達だよ! 準備満タンなんだから!」

「万端じゃない?」

 続いて、穏乃が対局室に入ってきた。まるで目が燃えているようだ。

 淡と咲の会話を聞きつけると、

「大星さん。優勝は阿知賀がいただきます。そして、インターハイも!」

 穏乃が春季大会優勝どころか春夏連覇まで言い出した。たいした自信だ。ある意味、穏乃らしい発言だ。

 すると、最後に入室してきた華菜が、いきなり、

「優勝は華菜ちゃんだし!」

 と言い出した。風越女子ではなく、自分の名前を言うところが華菜らしい。

 そうしたら今度は、

「慧ちゃんだし!」

 新道寺女子高校大将の中田慧が負けじと華菜に言い返した。

「華菜ちゃんだし!」

「慧ちゃんだし!」

「華菜ちゃんだし!」

 …

 …

 …

 この様子をテレビで見ていた風越女子高校前キャプテンの福露美穂子は、

「(華菜ったら恥ずかしい!)」

 思い切り頭を抱えた。

 一方の白水哩も、この様子をテレビで見ながら、

「(やっぱり、慧をばレギュラーにしたんは間違いじゃなかと?)」

 思い切り溜め息をついていた。

 

 

「では、対局者以外は退室してください。」

 審判からこう言われて、咲達副将選手は対局室を後にした。

 大将戦種の場決めがなされた。

 起家は華菜、南家は慧、西家が穏乃、北家が淡になった。

 

 東一局、華菜の親。

「(絶対安全圏発動!)」

 淡の髪が逆立った。彼女の能力が発動し、彼女のみ二向聴、他は軒並み五~六向聴だった。相変わらずチートな能力だ。

 そして、淡は、

「ポン!」

 二巡目に華菜が捨てた{發}を鳴くと、四巡目で、

「ツモ。發ドラ2。1000、2000。」

 ツモ和了りした。絶対安全圏内での和了りだ。さすがに、このスピードには他家は付いてゆけない。

 

 東二局、慧の親番。

 ここでも、

「(絶対安全圏発動!)」

 淡の能力で、彼女のみ二向聴、他は軒並み五~六向聴だった。

 前局と同様に、

「ポン!」

 淡は三巡目に慧が捨てた{東}を鳴くと、五巡目で、

「ツモ。東チャンタドラ1。1000、2000。」

 またもや絶対安全圏内での和了りを見せた。

 

 東三局、穏乃の親。

 この局も、

「チー!」

 淡は、二巡目に穏乃が捨てた{7}を鳴いて{横7[5]6}と晒すと、次巡で、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 ここでも絶対安全圏内に和了った。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 210000

 暫定2位:白糸台高校 178000

 暫定3位:新道寺女子高校 6000

 暫定4位:風越女子高校 6000

 

 そして、迎えた東四局、淡の親番で、

「リーチ!」

 とうとう淡がダブルリーチをかけた。しかも、サイの目は7で、最後の角の後がもっとも長いパターンだ。

 穏乃の能力が発動し始め、卓には、うっすらと靄がかかっているが、まだ淡の能力を打ち消しきれていない。

 角の直前で、

「カン!」

 淡は暗槓した。そして、次巡、

「ツモ! ダブルリーチツモ槓裏4。6000オール。」

 この和了りで華菜と慧が共に0点になった。

 

 この様子を控室のテレビモニターで見ていた晴絵は、

「(ここで、二人を0点にするための点数調整だったのか?)」

 咲が新道寺女子高校と風越女子高校の点数を10000点残した意味を理解できた気がした。

 これは、大将戦の展開を予想して、点数を調整…いや、大将戦の点数展開まで支配できる能力を見せ付けたと言うことになる。そして、これが、みんなが勝手に咲に期待した奇跡に対する答えとも言えるだろう。

 ここから、華菜と慧に課せられた…みんなが想像していた以上の地獄が始まる。これこそが、咲の点数調整能力の真の恐ろしさである。

 みんなが咲に期待した奇跡………これが生み出す恐怖とは如何なるものなのか?

 それに、まだ晴絵は気付いていなかった。




おまけ
咲「とうとう登場しました、中田慧。
『いけだかな』を逆から読むと『なかだけい』。
さて、池田華菜&中田慧の運命や如何に?
(まあ、そんなのどうでもイイや!)
ええと、大喜利コーナーです。
今度は、麻雀用語以外で自分を表すモノを考えてください。ただし、ひらがな換算で三文字でお願いします。

煌「スバラ!」

智美「ワハハ!」

優希「タコスだじぇい!」

爽「カムイ!」

憩「ナース!」

玄「オモチ!」

ネリー「お金!」

初美「鬼門ですよー!」

悠彗「オタク!」

マホ「コピーです!」

竜華「ゾーンかな…。」

華菜「正直、『ウザイ!』だし!
これ、絶対みんなが華菜ちゃんに対して思っていることだし!」

やえ「王者!」

咲「(『おうじゃ』ね…。『じゃ』を一文字として扱えばそうだけど…。池田さんと小走さんには座布団あげたくないな…。)」

豊音「色紙とかサインとか…。」

尭深「湯飲み。」

仁美「政治。」

照「お菓子!」

咲「(無難に『真の王者』にあげますか…)
お姉ちゃんに座布団一枚お願いします。
では、次の御題です。
今度は、自分のことをひらがな換算三文字以外で表現してください。今回も麻雀用語意外です。
私でしたら方向音痴かな。くやしいけど。」

哩「リザベーションたい!」

姫子「ビビクン!」

煌「捨て駒ですね。」

衣「エビフライとタルタル!」

一「マジシャン!」

全員「(むしろネタになるのは服装のほうだろ!)」

純「俺は無いなぁ。」

全員「(俺っ娘だろ!)」

純「ただ、透華は治水かな? あっ、これだとひらがな三文字か。」

透華「なんですの? それ?」

智紀「パソコンオタク…。」

桃子「私がメンバー全員言うっす。
私はステルス、加治木先輩は達人、蒲原先輩は嗅覚、津山先輩は「ウム!」、妹尾先輩は初心者ってとこですかね。」

菫「アーチェリーかな?」

尭深「お茶! あと誠子ちゃんは釣り(戦犯はやめてあげてね)。」

栞「パンケーキ!」←条件反射でヨダレを垂らす照

白望「マヨヒガ…だる…。」

胡桃「『うるさい、そこ!』 あくまで、このセリフが私って意味で。」

塞「モノクル!」

エイスリン「ホワイトボード。」

豊音「『うれしいよう』…かな? (八尺様は勘弁して!)。」

美穂子「機械オンチかしら?」

華菜「図々しいだし!」

泉「高一最強!」

穏乃「山! って言いたいところだけど、深山幽谷の化身とか蔵王権現かな? もっと前はサルだったみたいだけど。」

憧「私も悔しいけどイメージ先行で………援交…。」

怜「病弱やし…。」

竜華「やっぱり、膝枕かな…。」

怜「竜華はフトモモや!」

洋榎「から揚げかタコ焼きや!」

絹恵「サッカー!」

灼「ボーリング!」

慕「つぶつぶドリアンジュース!」

杏果「温泉宿!」

和「エトペン…。」

全員「(それもアリだけど、どっちかと言うとSOAだろ!)」

宥「あったかーい!」

玉子「ノーであるー!」

美幸「モー!」

友香「デー」

仁美「なんもかんも政治が悪い!」

智葉「日本刀とか…組とか…。」

全員「(最初、日本刀は新免那岐をイメージしていたけど、今は完全にこいつだな。)」

成香「ええと、『すてきです!』かな?」

ダヴァン「カップラーメン。」

ネリー「運命奏者!」

明華「プチプチ。」

靖子「カツ丼!」

健夜「………アラフォー……。」←『-』があるため四文字換算としてください

咲「(涙目)
これは文句なしでしょう!
小鍛治プロに座布団一枚です!」


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十六本場:点数調整の真意&決勝戦開始

ここぞと言うところで、まこの時間軸超光速跳躍が出ます。予めご了承ください。


 東四局一本場。

 ここでも、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけた。

 この局のサイの目は9で、最後の角が非常に深い位置にあるが、ここでは、そんなのは関係ない。華菜か慧のどちらかが箱割れすれば、その時点で決勝進出が決まる。

 別に槓裏4が付くまで待つ必要はない。ツモ和了りするか、華菜か慧から直取りすれば良いのだ。

 しかし、淡はツモ和了りできずにいた。

 

「カン!」

 角の直前で淡が暗槓した。

 ただ、さっきよりも靄が強くなっている。視界が悪い。巡目が進むに連れて穏乃の支配が強くなっているのを淡は感じた。

 この局は、淡が次巡のツモ…海底牌で和了れずにツモ切りし、

「ロン。7700の一本場は8000。」

 結局、淡が穏乃に振り込むハメとなった。

 

 これでホッと胸を撫で下ろしたのは華菜と慧だった。

 0点でダブルリーチをかけられ、しかも海底牌までもつれ込んだのだ。さすがに、気が気ではなかった。

 

 南一局、華菜の親。サイの目は9。最後の角が非常に深い。

 ここでも、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけた。当然、華菜も慧も前局同様に気が気ではない。

 そして、最後の角の直前で、

「カン!」

 淡の暗槓。さっきと全く同じ展開だ。

 そして、続く海底牌直前の淡のツモ切りで、

「ロン。2000。」

 穏乃が和了った。

 

 南二局、慧の親。サイの目は、またもや9。

 やはりここでも、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけた。当然、華菜も慧も精神的に辛くて堪らない。振り込んだら全てが終わりなのだ。

 そして、今回も最後の角の直前で、

「カン!」

 淡の暗槓。ここまで、華菜も慧もハラハラドキドキし続けている。

 その次巡、淡のツモ切りで、

「ロン。1000。」

 またもや海底牌直前で穏乃が和了った。

 0点にされてのダブルリーチ。しかも、海底牌またはその直前までもつれ込むのを三連続でやられて、さすがに図太い華菜も慧も精神的に参ってきた。

「(いくら図々しい華菜ちゃんでも…。)」

「(いくら図々しい慧ちゃんでも…。)」

「「(メゲるわ…。)」」

 二人とも、もう目が死んでいた。

 

 しかし、まだ試合は終わりではない。

 南三局。今度は穏乃の親番だ。サイの目は7。

 そして、今回も、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけた。

 五連続ダブルリーチ。普通は有り得ない展開だ。華菜も慧も、さらに精神的に追い討ちをかけられた。

 完全にイジメとしか思えない。

 もう、怖くて仕方がない。

 二人とも身体が震えている。逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

 

 普段は、淡がダブルリーチをかけても和了り役はダブルリーチのみで、槓裏以外のドラは無く、ハネ満止まりになる。

 しかし、今回は索子の一気通関が付いていて{[5]}を持っている。

 しかもアタマが{⑤}と{[⑤]}。

 暗刻は{一}。これが、角の直前で、

「カン!」

 暗槓に変わる。それも、槓裏になるはず…。

 そして、次巡、

「ツモ! ダブリーツモ一通ドラ6。6000、12000!」

 今までの振り込みを取り戻すかのように、淡が三倍満を和了った。

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 206000

 2位:白糸台高校 206000

 3位:新道寺女子高校 -6000

 4位:風越女子高校 -6000

 

 順位は同点の場合、席順による。

 阿知賀女子学院と白糸台高校が206000点の同点で勝ち抜け、新道寺女子高校と風越女子高校が共に-6000点でトビ終了となった。

 

 華菜と慧を精神的に追い詰めた上での1位2位同点。これで、晴絵は、咲の点数調整の全てを理解した気がした。

「(自分が出ていない大将戦の点数をここまで支配するとはね…。点数調整と言う意味では、小鍛治プロよりも凄いわ。でも、風越と新道寺の大将も、あの状況で逃げ出さずに、よく頑張ったと思う…。)」

 もし自分が華菜や慧の立場だったらどうなるか?

 きっと耐えられないだろう。

 晴絵は、健夜と対戦して壊れた自分を知っている。

 もし、本気の咲と戦ったら…、また自分は、ああなるかも知れない。

 もう咲に他人を壊させるような麻雀を要求するのはやめよう。晴絵は、そう心に誓うのだった。

 

 一方、

『麻雀が怖い…』

 華菜と慧の脳裏には、そんな単語が浮かんでいた。

 さらに、

『もう麻雀やめる!』

 そんな言葉までもが浮かんできた。

 しかし、

「(華菜ちゃんは、こんなんで負けないし!)」

「(慧ちゃんは、こんなんで負けないし!)」

 二人とも打たれ強かった。

 そして、

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼の後も、決して涙を見せずに耐えて見せた。

 この二人の強さに、風越女子高校監督の久保貴子も、新道寺女子高校監督の比与森楓も、自分の生徒が誇りに思えてならなかった。

 この心の強さは宝になる。そう期待したい。

 

 

 翌日、C-Dブロックの準決勝戦が行われた。

 Cブロックからは臨海女子高校と三箇牧高校が、Dブロックからは龍門渕高校と朝酌女子高校が勝ち上がっていた。

 

 先鋒戦に向け、各校選手が対局室に入室してきた。

 臨海女子高校の先鋒は片岡優希。

 三箇牧高校の先鋒は荒川憩。

 龍門渕高校の先鋒は井上純。

 そして、朝酌女子高校の先鋒は、監督の石飛閑無の姪、石飛安奈だった。

 場決めがされ、起家は例の如く優希、南家は安奈、西家が純、北家が憩に決まった。

 

 東一局、優希の親。ドラは{⑧}。

 いきなり、

「リーチ!」

 優希が{西}切でダブルリーチをかけた。{西}は安奈の手牌になかったし、彼女の第一ツモは{中}だった。そのため、安奈が{中}をツモ切りした時点で早々に四風連打は崩れた。

 一発を消したいが、誰も一巡目で鳴こうとしなかった。どうしても、字牌切りで様子を見てしまうのでチーができないし、通った字牌は鳴くよりも自分の安牌として使いたい。

 そして、

「一発ツモだじぇい! ダブルリーチ一発ツモ平和タンヤオドラ5で親の三倍満だじぇい! 12000オール!」

 いきなり、とんでもない和了りが飛び出した。ドラが二枚に赤牌が二枚、そして、裏ドラが一枚の計ドラ5。

 

 続く東一局一本場。

 配牌が終わると同時に、優希が、

「捨てる牌がない…。」

 と不吉な言葉を呟いた。そして、一転して力強く手牌を開いた。

「ツモ! 天和! 16100オール!」

 まるで、インターハイ団体決勝戦の再現だ。

 ただ、あの時と違うのは、今回はドラを占有する玄が同席していないことだ。つまり、優希の爆発的な東場での和了りにドラが絡んでくる。その証拠に、最初の局ではドラが合計五枚入っていた。

 この対局で、優希の和了りのうち、ドラが関係しないのは天和だけである。

「(今日を最高状態に仕上げてきたってことやね。実際に同卓すると分かるわぁ。たしかに、東風の神やわ。)」

 憩は、今日の優希の恐ろしさを肌で感じていた。とにかく、この親を流さないと大変なことになる。

 優希は、アレクサンドラ・ヴェントハイム監督の指示で、今日を最高状態に仕上げていた。他校の先鋒選手の中で最も面倒な相手は、二回戦と、この準決勝で当たる三箇牧高校の荒川憩と踏んだからだ。

 ここで三箇牧高校を落せば、決勝戦での優希の相手は和と憧…そして三人目は純か安奈のどちらかになる。全員、強豪選手に変わりは無いが、少なくとも魔物ではない。

 今大会の先鋒で魔物はただ一人、憩だけだ。

 それで、今日を最高状態に仕上げるべきと判断したのだ。

 

 既に憩、純、安奈の三人は、28100点ずつ削られた。もし、これが25000点持ちの個人戦なら全員トビで終了だ。

 しかも、このとんでもない親がまだ続く。

 

 東一局二本場。ここでも、

「リーチだじぇい!」

 またもやダブルリーチ。優希のツキは止まるところを知らない。

 安奈は、一先ず、唯一の現物であるリーチ宣言牌…{⑨}を捨てた。

「チー!」

 この{⑨}を純が鳴いた。一発消しだ。しかし、次の優希のツモ番で、

「ツモ! 8200オール!」

 親の倍満をツモられた。

 これで、憩、純、安奈の三人は、36300点も削られたことになる。

 

 この頃、まこは、宿泊先のロビーにいた。

「今日は、C-Dブロックの準決勝じゃったなぁ。」

 そう言いながら、まこがロビーのテレビをつけた。すると、お約束の時間軸超光速跳躍が発動した。

「試合終了! 臨海女子高校は、先鋒の片岡優希選手の爆発的な稼ぎを維持し、1位決勝戦進出を決めました。2位は大将天江衣選手の驚異的な活躍により龍門渕高校と決まりました!」

 これで、明日の決勝戦は、阿知賀女子学院、白糸台高校、臨海女子高校、龍門渕高校の対戦と決まった。

 

 

 翌日早朝。

 団体決勝戦の前に、風越女子高校、新道寺女子高校、三箇牧高校、朝酌女子高校による5位決定戦が行われた。

 決勝戦とは異なり、5位決定戦は前後半戦勝負ではなく半荘一回ずつの勝負になる。

 対戦の結果、5位が新道寺女子高校、6位が風越女子高校、7位が朝酌女子高校、8位が三箇牧高校に決まった。

 まこの能力は、ここまで一気に時間軸を動かした。恐らく、登場人物の持つ能力の中で、これが最強ではないだろうか?

 

 

 そして、いよいよ決勝戦が開始された。

 まず、対戦者全員が決勝卓の周りに集まり、挨拶をする。

 この時、みかんと麻里香のキツイ視線が咲に刺さったが、それ以上に恐ろしい敵意剥き出しの視線を、臨海女子高校副将のネリー・ヴィルサラーゼが、光に向けていた。

 今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。

「(ミナモ・ニーマン! あの時のウラミ、忘れてないからな!)」

 ネリーは、以前、地下麻雀に出場したことがあった。相手の中には、当然、ミナモ率いるドイツチームもいた。

 地下麻雀は、25000点持ちでスタートする団体戦で、メンバー五人による点数引継ぎ制である。各自打つのは前後半戦の半荘二回で0点になってもトビ終了にならず、大将戦まで終わるか、或いはどこかのチームが-100000点を下回るまで続けられる。

 ただし、点数が5000点になったら、そのチームのメンバーは全員裸にされ、0点を割ったら性的な辱めを受ける。レイプされるわけではないのだが…、とんでもない見せ物にされることだけは間違いない。

 まあ、結構な額の見せ物代を運営側から支払っては貰えるのだが…。

『地下麻雀に参加して自分の活躍でチームを勝利に導けば名が売れる!』

『負ければ恥辱を受けるが、その分、大金が手に入る!』

 そう聞いて、ネリーは勝っても負けても損は無いと考えて喜んで地下麻雀に参加した。美味しい話には裏があるとも考えず…。

 

 その日、ドイツチームの先鋒はミナモ。対するネリーは大将だった。

 ネリーは、自信に満ち溢れていた。どんな相手でも最終的に勝つのは自分と思っていたからだ。

 ところが、ミナモが、いきなり怒涛の如く稼ぎまくった。ミナモ以外は和了れない状態が延々と続く…。

 その結果、先鋒戦だけでドイツチームを除く3チームが簡単に箱割れした。

 性的見せ物になるのが決まった。

 さすがにネリーも、こんな展開は腑に落ちない。自分のせいではないからだ。こんなんで性的な見せ物にされるのはゴメンだ。

 しかし、

「ここで拒否すると、お金がもらえないよ。」

 この悪魔のささやきに、渋々ネリーは辱めを受け入れた。

 そして、そのままチームは一気に-100000点を下回り、ネリーまで回ることなく試合は終了した。

 これにより、たしかにネリーは大金を手にした。しかし、この日、それと引き換えにネリーは大切なモノを失った。

 なんのことはない。本来は、口車に乗った自分が悪いのだ。とは言え、これを他人のせいにしないと精神的に保てないのだろう。

「(副将戦でミナモと戦える。そこで、このウラミを絶対に晴らしてやるからな!)」

 それで、その怒りの矛先をネリーはミナモ…、光に向けたのだ。

 

 一礼のあと、先鋒の選手以外は控室に戻ることになった。

 その場に残ったのは、阿知賀女子学院の新子憧、白糸台高校の原村和、臨海女子高校の片岡優希、龍門渕高校の井上純のみとなった。

「今回は、このタコスはやらないからな!」

 優希は、純にそう言うと美味しそうにタコスを食べ始めた。

「あの時は悪かったな。でも、その後、お前の家に透華からお詫びのタコスセットが届いただろ!」

「おぉ。あれは美味しかったじょ!」

「むしろ、そっちの方が高くついたぜ。」

「まあ、勝手に食べるのが悪いんだじぇい!」

 

 その一方で、和は、憧を問い詰めていた。咲を憧に奪われたのではないかと、和が勝手に勘違いしているだけなのだが…。

「憧…。咲さんとの関係は、どうなっているんですか?」

 憧は、決勝戦を有利に展開すべく、戦略的に咲との仲を少し誤解させてみようかと一瞬考えた。しかし、下手な言い方をしたら後々面倒だ。

 やはり誤解を解こう。憧は、そう思いながら話を進めることにした。

「別に方向音痴なサキを連れていただけだってば。」

「でも、手を繋ぐ必要はないでしょう?」

「いやいや…。手を離したら、どこに行っちゃうか分からないじゃない? 和も経験あるでしょ?」

「経験って、咲さんに何をしたんです?」

「そうじゃなくて、手を離したら、どこに行っちゃうか分からないってこと!」

「まあ、たしかに、それは理解できますが…。」

「でしょう?」

「でも、それにかこつけて、何か変なことしていないでしょうね? 妙に仲良く感じましたが。」

「だから誤解だってば。」

「でも、経験って?」

「それは、移動中にサキの手を離した経験の話でしょ!」

「では、憧は、まだ咲さんに特に変なことは、していないってことですね?」

「していないってば。」

「まあ今は、そう言うことにしておきましょう。」

「あのねぇ。」

「でも、これからも不安があります。それで、今日の試合は咲さんを賭けて勝負すると言うのはどうでしょう?」

「ちょっと…。私は別にイイけど、それって私には損がない賭けになるよ?」

「じゃあ、OKで良いですね?」

「イイけどさ…。」

「じゃあ、決まりですね。」

「(サキの了承は無くてイイのかな?)」

「前後半戦のトータル勝負です。」

「万が一同点だったら? 席順で決めるの?」

「その場合は引き分けにしましょう。でも、私が勝ったら咲さんに変なことは絶対にしないと誓ってください。」

「(強引だぁ~。)」

 何故か、和と憧のサシウマ勝負となった。

 ここまで思考回路が狂った和を見るのは憧としても初めてだった。

 

 

 場決めがされた。

 例によって起家は優希となった。これで何回連続だろうか?

 そして、南家が和、西家が純、憧が北家となった。

 和は、席に着くと急に雰囲気が変わった。狂った思考回路から正常な思考回路に戻り、いつもの麻雀プログラム『のどっち』に姿を変えた。




おまけ
今回は下品です。趣味に合わない方には申し訳ありません。先にお詫び申し上げます。

咲「前回15話(15本場)で、座布団が15人に行き渡りました。
今回からは、一話につき座布団一枚を何方かに進呈する形とします。」

座布団ある組:普通に拍手

座布団無い組:面相臭そうに拍手

咲「今回の御題は謎かけです。
ただ、出題者が『何とかとかけて何とかととく』まで言った後に、別の人を回答者として指名して、そのココロを答えていただくと言うものです。」

全員「(なんじゃそりゃ!)」

咲「つまり、誰かが謎かけの御題を出して、別の誰かにオチを答えてもらうと言うものです。オチを答えられたら回答者が1ポイントです。オチが答えられなかった場合は出題者にオチに答えてもらいます。この場合は出題者が1ポイントです。
ただし、出題者も回答できない場合は、出題者がマイナス10ポイントで、回答者に10ポイント差し上げます。つまり、自分も回答できないよう出題はするなと言う意味です。
では、何方か?」

爽「じゃあ、私から。寿司とかけまして、Hな行為とときます。」

咲「Hは避けたいのですが、まあ、一問目ですので許可します。では、誰か指名してください。」

爽「じゃあ、怜さん。」

怜「うちか?」

爽「寿司とかけまして、Hな行為とときます。そのココロは?」

怜「生が一番や!」

咲「(汗!!!)
まあ、そんな感じですね。園城寺さんに1ポイントです。では、次。」

恭子「では、新子さん。」

憧「私?」

恭子「役満とかけて、タンピンドラ1ととく。そのココロは?」

憧「ええと、サンキュー。
役満を和了れてサンキューだし、タンピンドラ1は子の出和了りで3900だから。」

咲「憧ちゃんらしい回答ですね。憧ちゃんに1ポイントです。」

憧「やった!」

咲「ちなみに、末原さんは、どのような回答を用意されていましたか?」

恭子「うちは、双竜争珠を考えてました。古役の一種です。しかも、⑤をアタマにして萬子と索子の同じ数字での6連続での順子にした形は役満とされとります。」

咲「解説ありがとうございました。みなも-Minamo- 35局で十曾湧ちゃんが和了っていた手ですね。あの時は4翻でしたので3900ではありませんでしたが…。
そうですね。一応、麻雀漫画ですので麻雀ネタを組み入れるようにしましょう。
では、次、何方か?」

怜「じゃあ、うちから松実玄ちゃんに出題や!」

玄「私?」

怜「ほな、いくでぇ!
マホちゃんの得意技とかけて、咲ちゃんが和了る過程ととく。そのココロは?」

玄「ええと、マホちゃんと咲ちゃん…。どっちもオモチが無いので頭が回らないのです。ええと…ええと…。」

咲とマホの冷たい視線が玄に行く。

咲「時間切れです。では、園城寺さんに回答をお願いします。」

怜「やっぱりチョンボは、あ…カン! やろ。」

全員「(オヤジギャグレベルだな。)」

咲「ええと、(こんなんでも一応)園城寺さんに1ポイント追加です。では、次、何方か?」

怜「ほな、誰もいてへんかったら、またうちが行くで!
花田さん。」

煌「わ…私ですか?」

怜「北と中のチャボ待ちで北だと役無しの状態とかけまして、昨夜の白築慕プロと耕介叔父さんととく。そのココロは?」←後書き部分では牌画像変換ツールが効かないようですので牌の形になっておりません。

煌「ええと…、ええと…答えが出ません。スバラくないですね…。ええと…。」

怜「ブー! 時間切れやな。そのココロはやな…。
中出しアウトや!」

慕「!!!」←顔を赤らめながらも反論できない様子

全員「(叔父と姪で何をやってる!)」

咲「(完全にオヤジギャグの連発になっちゃった。これは、止めといたほうがイイかな?)」

怜「これで、うちが3ポイントや!」

咲「そ…そうですね。ええと、今のところ園城寺さんが3ポイント、憧ちゃんが1ポイントですね。
では、次の御題…。」

怜「まだあるで!
原村和さん。」

和「は…はい!」

怜「一九①⑨19東東南西北發中とかけまして、ロリとときます。そのココロは?」

和「そんな…いきなり振られても分かりません…。」

怜「ブー! 時間切れや! そのココロは、パイパン狙いや!」

爽「じゃあ、私も!
松実宥さん。」

宥「は…はい?」

爽「愛宕洋榎が佐々野いちごから和了った役満とかけまして、すっきり爽やかな朝とときます。そのココロは?」

宥「えっと………。」

爽「ブー! 時間切れです。クソ(9索)出したら、凄くデカかった!」

爽「次、天江衣さん!」

衣「今度は衣か?」←ちゃん付けではなく、さん付けで呼ばれて嬉しい様子

爽「大星淡が全国大会で初めて見せたダブリーカン裏4とかけまして、群がるハエとときます。そのココロは?」

淡「(ちょっと、私の和了りが群がるハエって何?)」

衣「それは、衣にも分からないぞ!」

爽「時間切れです。そのココロは、クソ(9索)を狙ってました!」←8索暗槓で8筒と9索のシャボ待ち

怜「じゃあ、次はうちや!
神代小蒔さんに出題や!」

小蒔「は…はい!」

怜「インターハイBブロック準決勝中堅後半戦東四局とかけて、白築プロが耕介叔父さんにして欲しいことととく。そのココロは?」

小蒔「ええと、ええと、ええと…分かりません!」

怜「やっぱり決めては中出しや!」←ドラの中を久が洋榎に鳴かせて明華の注意を洋榎のほうに向けさせた

慕:またもや赤い顔をしながらも反論できない様子

爽「じゃあ、私から原村和に出題。」

和「は…はい。」

爽:「全国大会二回戦で染谷まこが和了ったゴミ手とかけまして、便鮮血検査とときます。そのココロは?」

和「そんな…分かりません。」←どんな手だったか覚えていない

爽「決め手はクソ(9索)!」←結局、クソ(9索)




その後も、怜のエロネタ、爽の下品ネタが炸裂し続けた。回答者側にエロネタ、下品ネタが弱そうな人を敢えて狙って…。


咲「ええと、今回は、思い切り品位には欠けましたが、園城寺さんと獅子原さんが圧倒的ポイントを稼ぎました。最終的に、園城寺さんが獅子原さんを僅差でかわす結果となりましたので、座布団は園城寺さんに進呈します。」

怜「ありがとな。」

全員「…。」


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十七本場:長野vs旧長野vs奈良vs旧奈良

純のマナーに少々悪いところがありますが、鳴きによってツモがどう変わったかを説明するため敢えて入れております。少々優希が可哀想ですが…。
その点、ご了承ください。


 決勝先鋒前半戦東一局、優希の親。ドラは{⑤}。

 優希の最高状態は飽くまでも準決勝戦。憩との対局に当てるように調整していた。そのため、この決勝戦では、いきなりダブルリーチをかけてはこなかった。

 しかし、それでも東場の優希は手が早い。

 一巡目は{西}切り、二巡目で{一}切り。そして、三巡目で{横9}を切って、

「リーチ!」

 優希のリーチがかかった。

 これで最高状態でないのだから恐ろしい。さすが、自他共に東風の神と形容するだけのことはある。

 和は一発回避で現物の{9}切り。すると純が、

「チー!」

 これを鳴いた。そして、憧のほうを見ながら打{一}。

「(鳴け! 阿知賀!)」

 憧には、純がそう言っているように感じた。そして、

「チー!」

 {横一二三}を憧が副露した。

 しかし、

「ツモ!」

 優希のツモ和了を止めるには至らなかった。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五八八③④⑤⑥⑦34[5]}  ツモ{②}

 

「メンタンピンツモドラ2の6000オールだじぇい!」

 このスピードで高打点。

 憧は、

「(結局ツモられちゃったじゃない!)」

 そう心の中で叫びながら純のほうに鋭い視線を向けた。

 すると純が、

「失礼。」

 と言いながら、何食わぬ顔で次のツモ牌と、その次のツモ牌をめくった。マナーとしては宜しくないが…。

 本来ならば優希のところに次々ツモ牌が一発で行くはずだった。これが{[⑤]}。

 そして、もし純が鳴いても憧が鳴かなければ優希のところに次ツモ牌が行っていた。これが{⑤}。

 つまり、純も憧も鳴かなければ、優希は親の三倍満を一発でツモ和了りしていたし、純が鳴いても憧が鳴かなければ優希は親倍をツモ和了りしていたことになる。

 優希以外の三人にとっては、二人が鳴いて正解だったのだ。

 これには、

「(へー。龍門渕の先鋒、ヤルジャン!)」

 憧も、純の『流れを読む力』に感心した。少なくとも純との共闘があれば、東風の神による東場の被害を最小限に留めることができるかもしれない。

 

 東一局一本場、優希の連荘。

 ここでは、

「ポン!」

 優希が一巡目で{東}を鳴き、次に純が捨てた{南}で、

「ロン! ダブ東ドラ3。12300だじぇい!」

 親満を和了った。

 さすがに純にも、この巡目で字牌単騎の和了りを読むことはできなかった。

 親満振り込みを回避できて、憧はホッと胸を撫で下ろした。

 この様子を控室のテレビモニターで見ながら玄は、

「(お姉ちゃんほどオモチがないので、撫で下ろすスピードが速いのです!)」

 と心の中で呟いていた。

 相変わらずの、オモチ視点である。

 

 東一局二本場。

 ここでも優希は、

「リーチ!」

 三巡目でリーチをかけた。

 和は現物切りで一発回避。これを純が、

「チー!」

 鳴いて流れを変える。そして、

「(阿知賀、鳴け!)」

 純の捨て牌を

「チー!」

 憧が鳴いた。しかし、

「ツモ!」

 次の牌で優希がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四②③④⑤[⑤]23456}  ツモ{1}  ドラ{八}  裏ドラ{西}

 

「メンピンツモドラ1。2800オール!」

 これも安目ツモの和了りだった。

「失礼。」

 またもや純が、次のツモ牌と、その次のツモ牌をめくった。

 本来ならば優希のところに次々ツモ牌が一発で行くはずだった。これが{4}。

 そして、もし純が鳴いても憧が鳴かなければ優希のところに次ツモ牌が行っていた。これが{7}。

 つまり、純も憧も鳴かなければ、優希は親倍を一発でツモ和了りしていたし、純が鳴いても憧が鳴かなければ優希は親ハネをツモ和了りしていたことになる。

 今回も、二人の鳴きで優希の手が大きく下げられた。

 

 東一局三本場。

 これだけ和了り手を下げさせられて、優希のパワーも落ちてきた。

 とうとう、この局は、

「ツモ! 1300、2300!」

 純が鳴き手をツモ和了りし、優希の親番を流した。

 

 東二局、和の親。

 ここでは憧が仕掛けた。

「チー!」

 憧は、純が捨てた{③}を鳴いて{横③④[⑤]}を副露した。

 当然、憧の鳴き三色や三色崩れの手を警戒して、他家は{二}~{六}と{2}~{6}を止めた。しかし、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ1。1000、2000!」

 自力で嵌{4}を引いて憧が和了った。

 

 東三局、純の親。ドラは{8}。

 ここでも、

「ポン!」

 憧が仕掛けた。和が捨てた{白}を早々に一鳴きしたのだ。

 そして、数巡後、

「ツモ! 白ドラ2。1000、2000!」

 その勢いで憧がツモ和了りした。

 赤牌1枚とドラの{8}を1枚持っての和了りだった。これで憧が和と10000点の差をつけた。

 

 東四局、憧の親番。

 2位とは言え、憧は優希に36500点もの差をつけられている。ここで、一気に得点を重ねたいところだ。

 憧だけではない。和了りたいのは誰も同じだ。特に、和にとっては咲を賭けた対局でもある。当然、憧の親はさっさと流したいところだ。

 

 この局では、牌効率の良い打ち方をする和が順調に手を進め、東風の神優希を上回る速度で聴牌した。そして、

「リーチ!」

 そのまま和が聴牌即で先制リーチをかけた。

 純も憧も一発回避で現物切り。優希もツモった字牌を捨てた。しかし、

「一発ツモです。リーチ一発ツモドラ2。2000、4000!」

 和が満貫をツモ和了りした。これで和が憧を抜いて2位になった。

 

 東場終了時点での各校点数は、

 1位:臨海女子高校 132400

 2位:白糸台高校 94900

 3位:阿知賀女子学院 93900

 4位:龍門渕高校 84000

 さすが、東風の神と自称するだけのことはある。優希がダントツトップで折り返した。2位と3位は1000点差と僅差の勝負となった。

 

 南入した。

 親は再び優希。

 東場とは打って変わって優希からは勢いが消えていた。運も下がっているだろう。

 これは、優希自身も嫌と言うほど良く分かっている。彼女は、ここからは守りの麻雀にシフトするつもりでいた。

 しかし、流れを読む純は、優希の配牌もツモも悪いほうに流れているのを感じ取っている。それを理解した上で罠を張る。南場の優希にとっては天敵かもしれない。

 純は、この局、中盤で{2}、{8}と捨てて聴牌。そして、優希が捨てた{5}で、

「ロン。5200。」

 直取りした。

 {2468}から{2}と{8}を外したのだ。

 今回のケースは、ありがちな筋引っ掛けだが、勢いと運が下がった優希からは、どうしても出てしまう。危険牌を読み切れなければ、多くの人間が筋を頼って切る。南場の優希も例外ではないと言うことだ。

 

 南二局、和の親番。

 ここでも牌効率の良い打ち方で和が早々に聴牌した。しかし、役もドラも無い。

 ならば、

「リーチ!」

 和は裏ドラ期待でリーチをかけた。打{横⑥}。

 純も憧も一発回避で現物切り。優希はリーチ宣言牌の筋で端牌の{⑨}を捨てた。

 そして、和のツモ番。

 一発ツモならず。

 しかし、次巡、

「ツモ! リーチツモ裏1で2000オールです。」

 和が和了り牌を自力でツモって来た。

 

 南二局一本場。

 純も憧も順位を上げたい。チームの勝利のために100点棒一本でも多く稼いでおきたいところだ。

「チー!」

 先に仕掛けたのは憧。純が捨てた{六}を鳴いて{横六四五}を晒した。

 鳴き三色か?

 鳴き一通か?

 それともタンヤオか?

「(クソ…。阿知賀のほうが早いか?)」

 純も、点を伸ばすためには自分の手を進めなければならない。捨て牌を絞るだけで終わらせるわけにも行かないだろう。

 それに、憧の手が透けて見えているわけでもない。当然、純だって憧が鳴ける牌を普通に捨ててしまうことはある。

 結局、この局は、

「ツモ! 一通ドラ2。1100、2100!」

 憧が鳴き一気通関を和了った。

 

 南三局、純の親番。

「(タコスも、あの後振り込まなくなったな。たしかに以前に比べりゃ守りもうまくなっているぜ。それに、原村も阿知賀も下手な振り込みはしてこない。結局、自力で和了り牌を持ってくるしか無いってことか。)」

 純は、現状80900点で最下位。3位の憧にも15300点の差をつけられている。

 ここで失点を重ねるわけには行かない。

「ポン!」

 和が捨てた{南}を鳴き、次巡、対子で持っていた{發}をツモで一枚重ねて暗刻にした。そして、その二巡後、

「ツモだぜ。南發ドラ1。2600オール。」

 純が和了りを決めた。

 

 南三局一本場、純の連荘。

 純は、さっきの和了りで自分に勢いが付いたかと思ったが、配牌を見て、

「(まだ流れが来ていないか…。)」

 ツキが回ってきていないことを悟った。少なくとも、南場なら優希は低迷している。そうなると、ツキを持っているのは和か憧か?

「リーチ!」

 四巡目で和がリーチをかけてきた。聴牌即リーチだ。どうやらツキを持っているのは和のようだ。

 純も憧も優希も、さすがに一発は回避した。しかし、一発消しはできなかった。互いに鳴ける牌が捨てられなかったためだ。

 結局、

「ツモ!」

 和が一発でツモ和了りした。

「リーチ一発ツモ平和タンヤオドラ2で3100、6100です。」

 しかもハネ満。

 これで優希との差は9900点まで縮まった。

 

 オーラス、憧の親。

 純としても、ここで和のツキを落としたい。ハネ満を一発で和了られたと言うことは、かなり和にツキが流れている。

 のどっちに変化した時の和は牌効率が最高に良い。しかも、鳴いてツモ順をずらしても余り効果がない。そもそも、のどっちバージョンの和には、ツモの流れは関係ない。

 しかし、運の良し悪しは関係する。

 ここで和に連続で和了られるとツキが和に定着してしまう。そうなると後半戦で、和を一気に走らせる結果となり得る。

 ならば、ここでツキの流れを変えたい。

「(仕方がない。阿知賀、これでどうだ!)」

 純が憧の欲しそうなところを敢えて捨てた。

「チー!」

 狙ったように憧が鳴く。

 そして、次巡も、

「チー!」

 敢えて純は甘い牌を捨てて憧に鳴かせた。

 その次巡、

「ツモ! 2000オール!」

 憧がタンヤオドラ2でツモ和了りした。

 当然、憧は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 純は、ここで自らが和了ることでツキを自分に持ってきたいと考えていた。他の三人も同様だと思うが…。

 しかし、

「ポン!」

 和が捨てた{東}を憧が鳴き、その数巡後、

「ツモ! 2100オール!」

 そのままの勢いで憧に和了られてしまった。

 憧は、自分に流れが来ている感じがしていた。ならば、当然、

「二本場!」

 さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス二本場。ドラは{七}。

「(ヤバイな。阿知賀を使って原村を止めたはイイが、今度は阿知賀に流れが行きかけている…。)」

 純は、もう憧に和了らせてはならないと感じていた。そして、

「チー!」

 和が捨てた{①}を鳴いて流れを変えた。

 

 この時の純の手牌は、

 {四[五]六七八九⑤[⑤]北北}  チー{横①②③}

 

 {⑤}と{北}のシャボ待ちだが、自風の{北}でなければ役無しの片和了りの状態。

 しかし、数巡後、この{北}を自力でツモることができた。

「ツモ! 北ドラ3。2000、3900の二本場は2200、4100!」

 これで、何とか純は憧に行きかけていた流れを止めることができた。

 

 各校点数は、

 1位:臨海女子高校 112100

 2位:白糸台高校 102200

 3位:阿知賀女子学院 98700

 4位:龍門渕高校 87000

 優希が東場での順位を守り切った。

 

 ここで、一旦休憩となった。

「今のところ、私が一歩リードですね。」

 和が挑戦的な目を憧に向けながら言った。

 しかし、リードと言っても3500点。憧の得意な30符3翻の手を一回和了られたら逆転される程度の点差でしかない。

 ゆえに、和としても余裕を持っているわけではなかった。

 それに、

「(憧も咲さんとの仲を引き裂かれないように必死で立ち向かってきますね。)」

 と、さらなる誤解をしていた。

 一方の憧は、咲を賭けていることなど、とっくに忘れていた。チームの優勝のことしか頭にない。

 なので、そのつもりで憧は和に返答した。

「上等! 後半戦で追い抜くからね!」

 当然、

「(でも、咲さんは渡せません!)」

 より一層、和を誤解させる結果となった。




おまけ
咲「大喜利コーナーです!」

座布団ある組:普通に拍手

座布団無い組:面相臭そうに拍手

咲「今日は品のない回答はボツにします!
では、今日の一つ目の御題は、以前、『お菓子』とか『タコス』で文章を作ってもらったあれです。

おかしなら、
お…、
か…、
し…。
で始まる文章を、

タコスなら、
タ…、
コ…、
ス…。
で始まる文章を以前作ってもらいました。

それを、自分の名前でやっていただきます。同時に、それで自分を表現してください。
フルネームだと長いので、苗字か名前のどちらかだけを使ってください。
私が良いと思った回答に1ポイント差し上げます。」

淡「じゃあ、私から。
アタマが、
悪そうって、
言われてます。」

全員「(自分のこと、良く分かってるじゃん!)」

霞「次は私から。
勝手に、
スイカ胸なんて言いながらジロジロと、
見ないでください。」

全員「(それは無理だろう!)」

泉「私も行きます!
一番高一で麻雀が強いのは、
頭脳明晰な二条泉!
認めさせてやる!」

全員:目が点。

セーラ「それって間違ってるぞ、泉。」

泉「どこがです?」

セーラ「高一最強ってとこから全てや!
じゃあ、次は俺が行くか。
セーラでやると、二文字目が『ー』で文章が作れへんから、苗字を使う。
江口セーラは麻雀でいつも、
グッジョブ!
ちゃうか?」

洋榎「ちゃうな!
次はうちやな。名前のほうで行くで!
人一倍、
ロマン溢れる、
ええ女!」

怜「それこそちゃうわ!
ほな、次は、うちが行くで。でも、園城寺やと長いし、怜やと短いし、やりにくいなぁ。じゃあ、一応、怜でゆくとするわ。
とても、
気持ちいい太ももが好きや!」

全員「(結局それか!)」

爽「ちょっと私が空気を変えるよ!
爽やかな朝は
分かってると思うけど、
やっぱりデカいウンコが…。」

咲「(回答途中で割って入って)ボツです!
次、誰か!」

優希「じゃあ、私から行くじぇい!
夢に出てくるほどの、
ウマいタコスが食べられるのを、
期待するじぇい!」

咲「優希ちゃんの場合は、タコスネタがあるので分かりやすいですね。他に誰かいませんか?」

やえ「では、王者の私から。
やっぱり、
エライ!」

咲「(スルーだね)ほか、何方か?」

憧「じゃあ、援助交際してそうなアニメキャラで1位『じゃない!』私から(2018年12月現在。1位じゃなかったのは2018年だけだが…)。
遊んでそうな、
小娘じゃないからね!」

小蒔「ええと、私も挑戦してみます。
子供の頃から、
周りから六女仙を統べる者として、
教育されてきました。」

咲「では、先ずこの御題では、淡ちゃんと神代小蒔さんに1ポイントずつ差し上げます。
次の御題は、誰かを指名して、その人に対して『なるほど』と誰もが思える一言をお願いします。褒めていただいても構いませんし、苦言を呈しても構いません。」

和「では、例えば、咲さん。」

咲「はい?」

和「入籍してください。
こんなのでイイですか?」

咲「ええと、ちょっとベクトルが違う気がしますが…、まあ、あくまでも回答の例としては、そんなのもあるかなと…。」

和「(ドサクサ紛れにハイと言わせたかったのですが…。巧くかわされましたね。)」

咲「(危ない危ない…。下手にハイなんて言ったら後が大変そう。)」

全員「(やっぱり髪がピンクだと頭の中もピンクになるのかな?)」

咲「では、何方か。」

尭深「じゃあ、私から一つ。
淡ちゃん。高校は3年生までだからね。100年生って、今何歳なの?」

咲「まあ、たしかに高校100年生と言うことは、それだけ留年してるってことになりますからね。115歳ですか?」

淡「…。」

一「じゃあ、次、私から。
薄墨さん。着崩すのはやめてください。見えてます!」

全員「(見えてるのは、お前もだろうが!)」

初美「じゃあ、国広さん。
『安心してください、履いてます!』
って言えるようにしてくださいですよー。」

全員「(それは、お前もだろ!)」

菫「大星。その胸、取り外しできるのか?」

照「淡。この間、淡が勝手に食べたシュークリーム、弁償して。」

誠子「大星。少しは先輩を敬ったほうがいいよ。」

栞「淡ちゃん。少しは練習しようよ。」

琉音「大星。舐めんなよ!」

その他先輩A「大星!………」
その他先輩B「大星!……」
その他先輩C「大星!…」





その後も、随分と淡が先輩方に責められ(弄られ?)ることになりました。


咲「ええと、可哀想なので、この御題でのポイントは淡ちゃんに差し上げます。
ですので、トータル2ポイントで、今回は淡ちゃんに座布団一枚です。」

淡「あんまし嬉しくない!」


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十八本場:同点

 休憩時間が終わり、憧、和、優希、純の四人が卓に付いた。

 場決めがされ、起家は、またもや優希になった。これで何連続の起家であろうか?

 また、前半戦とは純と和が入れ替わり、南家は純、西家は和、北家は憧となった。この席順で先鋒後半戦が開始された。

 

 東一局、優希の親。

 再び巡ってきた東場。三巡目で優希が、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

「チー!」

 優希の下家には純がいる。

 彼女は、優希のリーチ宣言牌を鳴いて一発を消した。しかも、これを皮切りに流れを大きく変えようとしている。

 この席順は優希にとってアンラッキーかもしれない。

 純は、

「(鳴けるか?)」

 憧のほうを見ながら憧の自牌である{北}を捨てた。しかし、鳴けない。

 和は無難に現物切り。

 続く憧は、

「(ここで普通に臨海にツモを回すわけには行かないってことだよね? じゃあ、これならどう?)」

 純のほうを見ながら{南}を捨てた。すると、

「ポン!」

 これを純が鳴いた。どうやら、さっきの{北}切りは、純の自風である{南}を捨てて欲しいとの意図もあったようだ。それを読み取る憧も相当なものだが…。

 和は、再び現物切り。

 ここで憧がツモってきたのは{④}。もし、鳴きが一切入らなければ優希が一発でツモっていた牌だ。今までの経験から、さすがにこれは切れない。

 結局、憧も現物切りで回した。

 そして、

「ツモ!」

 優希にツモ和了りされたが、

「メンピンツモドラ1だじぇい。2600オール。」

 安目の{①}での和了りだった。

 {④}ならタンヤオが付いて親満、しかも、それが一発ツモなら親ハネだったところだ。

「(今回もビンゴだったね!)」

 憧の目は、純に向けられながら、そう語っているようだった。

 

 東一局一本場。

 今回も、

「リーチだじぇい!」

 優希が先制リーチをかけた。

 ただ、五巡目だ。今までと比べると東一局にしては聴牌速度が落ちてきている。これは一応勢いが失なわれてきている証拠だろう。

「チー!」

 純が優希のリーチ宣言牌を鳴いて一発を消した。打{3}。

 すると、

「ポン!」

 これを憧が鳴いた。

 優希は、次の牌をツモると、それを河に捨てた。和了り牌ではなかったのだ。

 その数巡後、優希の捨てた{南}で、

「ロン! 5200の一本場は5500!」

 純が和了った。

 

 東二局、純の親番。

 今度は和が、

「リーチ!」

 攻めてきた。

「チー!」

 憧が鳴いて一発を消した。しかし、

「ツモ!」

 それも空しく和にツモ和了りされてしまった。

「メンピンツモドラ1。1300、2600。」

 唯一、満貫級にならない4翻の手。しかし、この和了りで和は、優希との差を7300点まで縮めた。

 

 東三局、和の親番。ドラは{發}。

 ここで純に流れが来た。ドラの{發}が配牌で暗刻だ。しかも、赤牌も2枚ある。

「チー!」

 純は、スピード重視で鳴いて手を進めた。そして、

「ツモ! 發ドラ5。3000、6000だ!」

 待望のハネ満をツモ和了りした。

 

 東四局、憧の親番。

 後半戦は、現状、憧のみがヤキトリ状態。憧としては、ここは、安くても良いから何としてでも和了っておきたいところだ。

「チー!」

 手を進めようと憧が鳴いた。

 牌効率重視の和は、最初から鳴かれないように牌を絞ることは少ないが、一回鳴かれれば、次からは捨て牌を絞る。

 勿論、そのことは憧としても重々承知だった。小学生時代に子供麻雀クラブで、ダテに和と打ってきていない。

 ただ、今回は、

「ツモ! 2000、4000です。」

 和に先に和了られてしまった。しかも、憧は満貫の親かぶりだ。結構痛い。

 

 東場終了時点での各校点数は、

 1位:臨海女子高校 107100

 2位:白糸台高校 106800

 3位:龍門渕高校 98300

 4位:阿知賀女子学院 87800

 優希と和の点差が300点まで狭まってきた。一方、憧は後半戦でまだ和了れていないのが大きく響き、純に逆転された。

 

 南入した。

 優希の最後の親番。

「(速攻!)」

 憧が、

「チー!」

 和の捨て牌を鳴く。これにより、まるで手が加速するような錯覚を感じさせる。さすがに和も二副露目はさせてくれないが、憧は自力で手を進め、

「ツモ! 1000、2000!」

 ようやく得意の30符3翻をツモ和了りした。

 

 各校点数は、

 1位:白糸台高校 105800

 2位:臨海女子高校 105100

 3位:龍門渕高校 97300

 4位:阿知賀女子学院 91800

 親かぶりが効いて、とうとう白糸台高校が臨海女子高校を逆転した。

 

 南二局、純の親番。

 ここでも、

「チー!」

 憧が積極的に攻めた。そして、

「ツモ! 1000、2000!」

 そのまま流れを他家に渡さずに憧が和了った。

 

 南三局、和の親番。ドラは{9}。

「ポン!」

 今度は、憧は優希が捨てた{南}を鳴いた。ダブ南だ。

 手牌には赤牌が一枚、ドラの{9}が二枚ある。

「ツモ!」

 この待望の手を、憧は何とかツモ和了りした。

「2000、4000!」

 満貫で、しかもトップの和に親かぶりさせた。

 

 各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 103800

 2位:臨海女子高校 102100

 3位:白糸台高校 100800

 4位:龍門渕高校 93300

 憧の連続和了で、とうとう阿知賀女子学院がトップに立った。白糸台高校は、さっきの満貫親かぶりが効いて3位まで順位を落とした。

 

 オーラス、憧の親番。ドラは{白}。

 1位から4位までの点差が10500点。誰が1位で次鋒にバトンを渡してもおかしくない状況になった。

 誰もが和了りたいこの局面。先制したのは、

「リーチ!」

 和だった。

 手牌は

 {一二三⑦⑧⑨23456北北}

 北家なので自風がアタマとなり平和にはならない。単なるリーチのみの手。しかもドラも赤牌も無い裏ドラ期待のリーチ。

「チー!」

 憧が鳴いて一発を消す。しかし、

「ツモ!」

 最後の局を和了ったのは和だった。

 そして、勝負の分け目となる裏ドラは………{西}だった。

 リーチツモのみ。30符2翻の手となった。

「500、1000です。」

 

 これで各校点数は、

 1位:白糸台高校 102800

 2位:阿知賀女子学院 102800

 3位:臨海女子高校 101600

 4位:龍門渕高校 92800

 白糸台高校と阿知賀女子学院が同点で先鋒戦を終了した。ただし、席順で1位が白糸台高校、2位が阿知賀女子学院となった。

 1位から4位までの開きが、たった10000点と僅差で対局を終了した。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 一礼の後、和が憧に、

「最後のリーチは裏ドラ期待でしたが、乗りませんでした。勝負は、次の機会に持ち越しです。」

 と言った。少し残念そうな表情をしている。

「次は、和には負けないからね!」

「私も、次は負けません。それまで、咲さんには手を出さないでください。」

「へっ?(そう言えば…。)」

 こう言われて、憧は咲を賭けた勝負だったことを思い出した。

「まあ、手は出さないって。ただ、迷子対策で手を繋ぐことはあるけどね。ハルエの指示だし。」

「そこは如何ですが、仕方ありませんね。では、また後ほど。」

 そう言うと、和は対局室を後にした。

 

 憧も、和に少し送れて対局室を出た。そして、控室に向かう途中で灼に会った。

「灼さん。」

「同点だけどトップだからね。よくやったと思…。次鋒戦では、必ず白糸台とは差をつけてくるから!」

「ありがとう。じゃあ、後をよろしく!」

 そう言うと、憧は灼とハイタッチを交わした。

 

 憧は、控室に入ると辺りを見回した。

「(今回は、罰ゲームなしよね。)」

 一先ず、つぶつぶドリアンジュースは用意されていないようだ。

 

 

 対局室に各校次鋒選手が姿を現した。

 場決めがされ、次鋒前半戦は、灼が起家、みかんが南家、郝慧宇が西家、智紀が北家となった。

 

 東一局、灼の親。

 灼は、配牌が今一つ。親であることを考えれば、鳴いて安手で連荘を狙いたいところだ。しかし、智紀が鳴ける牌を出してこない。

 他家の手が遅れている中、みかんは役無しドラ1の安手ではあるが、順調に手が進んだ。そして、六巡目で、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 郝、智紀、灼は現物切りで一発回避。すると、

「リーチ一発ツモドラ1。2000、3900!」

 みかんが即ツモ和了りを決めた。

 これでみかんが単独トップ、灼は親かぶりで3位に転落した。

 

 東二局、みかんの親。ドラは{8}。

 郝の捨て牌に萬子と索子が多い中、七巡目に親のみかんが、{②}切りで勝負に出た。すると、これを、

「チー!」

 郝が鳴いた。晒されたのは{横②①③}。

 しかし、みかんは、この{②}切りで{⑨}待ちの七対子を聴牌していた。

 

 この時のみかんの手牌は、

 {五[五]②②⑤[⑤]⑨225[5]88}

 

 {②}切りでないと聴牌できない状態だった。しかし、七対子ドラ5。ツモれば倍満の手。これは、嫌でも勝負したい手だ。

 とは言え、灼も智紀も郝の筒子染めを警戒して{⑨}は出てこなかった。結局、

「和ー。ツモです。」

 郝がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {③④⑤[⑤]⑥⑦⑦⑧⑧⑧}  チー{横②①③}  ツモ{⑨}

 

「清一ドラ1。3000、6000。」

 この手は、中国麻将のルールでは、清一色の他に一色四歩高と呼ばれる役が付く。しかも、一色四歩高は清一色よりも高い手だ。

 しかし、日本の麻雀ルールではハネ満である。

 とは言え、今度は郝が首位に立った。

 

 東三局、郝の親。ドラは{三}。

 ここで灼が、

「リーチ!」

 勝負に出た。得意の筒子多面聴だ。そして、

「リーチ一発ツモドラ3! 3000、6000!」

 {三}を対子で、さらに{[⑤]}を1枚持つドラ麻雀の手………一発が付いてハネ満をツモ和了りした。

 郝の親かぶり。これで灼が再びトップの座に就いた。

 

 東四局、智紀の親番。

 本来、智紀は弱くない。むしろ、インターハイ長野県予選の個人戦でもトップ10に入っているツワモノだ。

 しかし、ここにいるメンバーは、その智紀に和了らせてくれない。しかも、今日は三連続で高い手をツモ和了りされている。

 完全なツモられ貧乏で、智紀は既に8000点を失っていた。

 

 そんな状態で回ってきた親番。東四局。ドラは{7}。

 比較的精度の高いデジタル打ちの智紀は、特に大きな打ち間違いをしているわけではない。しかし、今日はツモが悪い。ヤオチュウ牌ばかりが来て手が進まない状況だ。

「和ー。ツモです。」

 結局、郝に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①②11112233}  ツモ{③}

 

 ツモジュンチャン三色同順一盃口のハネ満だ。しかも、この手は中国麻将ならば、さらに四帰一や全小と言った役がつく。

「3000、6000!」

 この和了りで、郝が首位の座を奪い返した。

 

 南一局、灼の親番。

 七巡目で既に灼の手牌は、

 {②②②③④⑤⑥⑦⑦⑦246}

 筒子多面聴に向けての一向聴。ここで{3}か{5}を引けば、{①②③④⑤⑥⑦⑧}待ちの聴牌になる。エンジンがかかってきた感じであった。

 しかし、先に智紀が、

「ツモ。1300、2600。」

 タンピンツモドラ1を和了って灼の親を流す結果となった。

 智紀にとっては、これが待望の初和了りであった。

 

 南二局、みかんの親番。

 当然、みかんは連荘を狙いに行く。しかし、

「和ー。ツモです。」

 静かに郝が和了った。

 

 開かれた手は、

 {七七七八九⑦⑧⑨77899}  ツモ{8}

 

「ツモ三色一盃口。2000、3900。」

 この形で、直前に{一}を対子落とししていた。日本人視点からは信じられない打ち方である。

 ただ、中国麻将であれば、これにさらに全大と呼ばれる役がつく。郝にとっては、これで正解なのだろう。

 

 南三局、郝の親番。ドラは{二}。

 中国麻将にはリーチもドラも無い。当然、裏ドラも槓ドラも無い。しかし、役の数は80以上あり、日本のルールで認められていない役が多い。

 また、中国麻将の場合は食い下がりがない。つまり、清一色や混一色、チャンタ等で鳴いても点数は下がらない。さらに、平和や一盃口(中国麻将では一般高と呼ばれる)は鳴いて良い。

 当然、中国麻将ルールで日本の麻雀を打つ場合は、中国麻将にあって日本麻雀には無い役や、日本麻雀では鳴いたら成立しなくなる役に気をつけなければならない。

 そうなると、門前で進めたほうが無難である。門前のツモ和了りならば絶対に間違いがないからだ。

 そう言った背景からか、郝は極力門前で手を進めるがリーチをかけないし、ドラも重視しない打ち方をする。

 ここでも郝は、門前で聴牌していた。

 

 手牌は、

 {四[五]六④④⑤⑤[⑤][⑤]⑥⑥4[5]}

 {6}なら親倍になる手だ。

 

 勿論、郝の手だ。中国麻将ならば、ここに日本には無い役………四帰一、全帯五、さらに{6}の和了で全中が付く。

 しかし、

「カン!」

 みかんに{6}を暗槓された。新ドラは{九}。そして、

「ツモ嶺上開花一通ドラ2。3000、6000!」

 そのまま、みかんに和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三四五七八九西西}  暗槓{裏66裏}  ツモ{六}

 これで、みかんが3位から2位に浮上した。

 

 オーラス、智紀の親番。

 この局は、

「リーチ!」

 五巡目で灼がリーチをかけてきた。そして、三巡後、

「ツモ! リーチツモメンホン赤1。3000、6000!」

 筒子の混一色で灼がツモ和了りし、前半戦を終了した。

 

 各校点数は、

 1位:臨海女子高校 115200

 2位:阿知賀女子学院 109300

 3位:白糸台高校 102500

 4位:龍門渕高校 73000

 郝と灼が点を伸ばし、みかんはほぼ変わらず、智紀が20000点近く失点した。これで、龍門渕高校の一人沈みの状態となった。




おまけ
『むに…て…から』について

咲「二本場、三本場のおまけコーナーで、皆さんに清水谷さんの『…むに…て…から』を色々考えていただきましたが…。」

マホ「ヌい…て…から…ですか?」

咲「ええと、マホちゃんは、一度耳鼻科で聴力検査していただきましょう。
ええと、『…むに…て…から』は、2019年3月3日現在、まだ確定しておりません。
ただ、私のコーナーも、もう少しで一区切りとなりそうですので(ネタ切れにより別のコーナーに変わる予定です)、この段階で『…むに…て…から』での座布団進呈者を何とか選出したいと思います!」

全員:大きな拍手←もうすぐ大喜利ネタを考えなくて済むかも知れないと喜んでいる

咲「なお、座布団進呈者には咲ーSakiーの重要イベントに参加していただきます。
2019年2月25日発売号で清水谷さんの御祖母さんが、園城寺さんのことを、
『ハムムちゃんに似てるんやろ?』
と言ってました。
つまり、『ハムムに似て~から』までは確定としたいと思います(どんでん返し食らったらゴメンナサイ)!
と言うわけで、灼さんの『ハムムに似てたから』か、宥さんの『ハムムに似てあったかいって思ったから』のどちらかにしたいと思います!」

宥「あのぅ、私は、まだ寒いので外出したくはないので、イベント参加はちょっと…。なので、私は辞退するので灼ちゃんに座布団進呈して欲しいんだけど…。」

咲「分かりました。では、灼さんに座布団進呈します!」

全員:大きな拍手

咲「では、灼さんには、先ず咲-Saki-の中でも特に重要なイベント、宮永家麻雀大会にご招待致します!」

灼「えっ? なにそれ? そんなの聞いてな…。」

咲「私とお姉ちゃんと光が相手です。今から二十四時間の耐久レースになります!
対局後、本コーナーで座布団を進呈致します!」

灼以外全員「(外して良かったぁ!)」

咲「それでは灼さん。」

灼「ちょっと、待…。それって臼沢さんの罰ゲームと同じじゃ…。」

咲「罰ゲームではなくて重要イベントです!」


憧「シズ!」
怜「セーラ!」
洋榎「絹恵!」
淡「セーコ!」
憧・怜・洋榎・淡「「「「確保!」」」」

灼は、穏乃、セーラ、絹恵、誠子(傭兵バージョン)の四人…咲-Saki-登場人物中、体力四天王に取り押さえられ、宮永家二十四時間耐久麻雀大会に強制参加させられた。


翌日、灼の机の上には、
『探さないでください』
と書かれた一枚の紙が置かれていた。


咲「ええと…、灼さんが行方不明になりましたので、灼さんへの座布団進呈は、灼さんが戻ってきてからにします。」



おまけ2
それから10日後。

咲「灼さんが戻ってきました。」

灼:まだ目が死んでる

咲「ですので、灼さんには、『むに…て…から』の正解者として座布団一枚進呈します。
話の数と座布団の数が、今回は、これで一緒になりましたので、本日は大喜利コーナーを無しにします。」

全員:喜びの拍手

咲「それと、十三本場の後、行方不明になっていました臼沢塞さんが無事戻ってきました。なんでも、富士の樹海で発見されたとのことです。」

塞:まだ目が死んでる


咲「では、今日はフリートークで。
ただ、気が向いたら特別に座布団を差し上げるかもしれませんので、それなりのネタトークでお願いします!」


優希「サンタのコスプレのことをサンタコスって言うけど、あれをサンタコスって種類のタコスがあると勘違いしたじぇい!
あと、ターコイズ色もタコス色かと思ってたじぇい!」

爽「おお、勘違いネタな!
私は、三尋木プロがよく『わっかんねー』って言ってるけど、『和姦ね』かと思ってた。」←嘘です、でっち上げネタトークです

玄「私は、『お持ちください』を『オモチください』と勘違いしたのです!」←六本場(第六話)参照

マホ「マホは、東京都特許許可局って本当にあると思ってました!」

淡・穏乃・優希「「「(えっ? ないの!)」」」

莉子「私は、サソリとサンソを読み間違えました。」←昔、百科事典でサソリの誤植でサンソと書かれていたのが実際にありました

菫「それよりも、折角だから、もっとためになる情報を交換するとかのほうが良くないか?
私達は高校生だし、例えば受験に役立つこととか。」

爽「なら、私から一つ。
原子記号の…周期表の縦の覚え方!

H, Li, Na, K, Rb, Cs, Fr
エッチでリッチな彼女、ルビーせしめてフランスへ!
(『エッチ』で『リ』ッチ『な』『か』の女、『ルビー』『セシ』めて『フランス』へ)

B, Al, Ga, In, Tl, Nh
包〇であるがイ〇ポでなかった日本人!
(『包』〇で『ある』『が』『イ〇』ポでなかっ『た』『日本』人)

He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn, Og
変なネーちゃん、ある日、カーS〇Xの練習でオ〇ガに!
(『へ』んな『ネ』ーちゃん『ある』日、『カー』S〇『X』『練』習で『オ〇ガ』に)

O, S, Se, Te, Po, Lv
オスの性器鉄砲! Love!
(『オ』『ス』の『性』器『鉄』『砲』『Love』)

F, Cl, Br, I, At, Ts
ふっくらブラジャー愛の跡。
(『ふ』っ『くら』『ブラ』ジャー『愛』の『あ』『と』)」

菫「酷い語呂合わせだが覚えやすいな。」

咲「相変わらず品がありませんが、役に立ちそうですね。」

憧「私は、以前、穏乃から出されたクイズで、
Tではじまり、Tで終わる言葉で、真ん中にTが入っているものは?
と聞かれて、
クイズだから正解は、
『TeaPot』←中にティー(T)が入っている
だったんだけど、
まともに考えすぎて、
『Treatment』
って答えたことがあります。」

全員「(それって、逆にスゴくね?)」

憧「ああ、あと、今年のお正月で…、もう三カ月も前になるけど、あるお店で『謹賀新年』を『僅賀新年』って書いてるのがあって…。」←実話

灼「それ、私も見た!」←生き返った

玄「私も見ましたのです!」

穏乃「(もしかして、私が店用に書いたやつじゃ…。)」

憧「僅かな賀って…、それじゃ年が明けても、おめでたいのかおめでたくないのか分からないなって思った!」

灼「ある意味、おめでたいと思…。」

咲「ええと、予定変更で、憧ちゃんに座布団一枚進呈します!」


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十九本場:幻の天和

 休憩時間に入った。

 灼は、席に腰掛けたまま目を瞑っていた。

 控室に戻る必要は無い。晴絵からの指示は既に受けている。

 決勝戦の次鋒には守りの弱い選手がいない。そのため、筒子以外の待ちに変えて出和了りを狙う手法は通用しない。

 その証拠に、前半戦は全員振り込み無しのツモ和了りのみだ。

 それで、灼はツモ和了りにかけて前半戦は筒子多面聴のみにしていた。後半戦も、この作戦は変わらない。これが指示事項だ。

 とにかく、芝棒一本でも多く残して玄に繋ぐ。玄もまた、失点を最小限に抑えて阿知賀女子学院が誇る二人の魔物、咲と穏乃に繋げば良い。これも晴絵からの指示だ。

 しかし、そうは言われても灼にも上級生としての意地がある。

 不用意な振り込みは避けるが、憧に言ったとおり首位の座は狙う。

 

 智紀も灼と同じで席に座ったまま目を閉じていた。

 控室に戻ったところで、透華から、

「なんですの! この失点は!」

 と言われるだけだ。

 後半戦で取り返す。今は、それ以外に考えることはない。

 

 一方、郝は一旦控室に戻った。

 特に新たな指示が出るわけではなかったが、チームメンバーと一緒にいるほうが、気が楽なのだろう。

 

 みかんも、一旦対局室を出た。

『あの女のような失態は犯さない!』

 これが、みかんが毎々自分に言い聞かせていることだ。

 絶対に馬鹿みたいな振り込みはしない。この決勝前半戦は勿論のこと、準決勝戦でも藍里への1600点の差し込み以外に振り込みは無い。

 ましてや役満振り込みなど絶対にしたくない!

 それと、魔物が相手でも失禁しないつもりだ。もっとも、今回の次鋒には魔物は居ないが…。

 ただ、それでも一応、念のため休憩時間にはトイレに行き、用をたしておく。

 トイレから出たところで、みかんは麻里香に声をかけられた。麻里香は、この行動パターンを読んで、みかんを待っていたのだ。

「みかん、お疲れ!」

「うん。でも、ちょっとマイナスだよね。」

「そう言うなって。臨海相手が相手だし、イイほうだよ。」

「そう言ってもらえると助かる。でも、そんな中でも阿知賀はプラスだからね。やっぱりインターハイ準優勝はダテじゃないかな。」

「まあ、宮永咲だけのチームじゃないってことだね。でも、うちだって淡と光だけのチームじゃないよ。それを二人で証明してやろう!」

「そうだね。」

「じゃあ、ガンバ!」

 そう言いながら、麻里香がみかんの背中を思い切り叩いた。

「いったー!」

 何気に準決勝の時のお返しだ。

 ただ、これでみかんの気合いが入った。

 

 

 休憩時間が終わり、場決めがされた。

 後半戦は起家が智紀、南家がみかん、西家が郝、北家は灼と、灼と智紀が入れ替わる席順となった。

 

 東一局、智紀の親。ドラは{6}。

 とにかく自分にできることをやろう。

 智紀の配牌は滅茶苦茶悪いわけではない。

 {二四六八①②③⑨[5]69南西白}

 ここから打{西}。

 そして、ツモが割りと噛み合い、七巡目には、

 {四五六六七八①②③[5]699}

 平和手を聴牌。そして、

「ツモ。平和ドラ2。2600オール。」

 親での和了を決めた。

 

 東一局一本場、智紀の連荘。

 ようやく智紀にツキが回ってきたようだ。前局よりも配牌が良い。ツモも比較的うまく噛み合う。

「ツモ! 2700オール。」

 この局も、平和手の20符4翻を智紀はツモ和了りした。

 

 東一局二本場。

 ここでも、

「ツモ! 2800オール!」

 智紀が和了った。大人しい智紀の声にも珍しく力が入った。

 

 そして、この段階での各校点数は、

 1位:臨海女子高校 107100

 2位:阿知賀女子学院 101200

 3位:龍門渕高校 97300

 4位:白糸台高校 94400

 龍門渕高校が最下位を脱出した。当然、逆転されて、みかんは心中穏やかでは無い。

「(この親を流さないと…。)」

 安手でも良い。次は和了る。そう自分に強く言い聞かせた。

 

 東一局三本場。

 ここで、みかんが動いた。

「チー!」

 ツキが上がることで、親の智紀は和了り優先の打ち方が自然と強くなった。みかんに鳴かせない配慮よりも自分の手を進めるほうに意識が傾いたようだ。

 しかし、和了りを目指しているのは、みかんだけでもなければ智紀だけでもない。他の二人も和了りを目指してくる。

 そして、今回は珍しく郝が、

「チー!」

 みかんが捨てた{2}を鳴いた。

 中国麻将と違って日本麻雀では鳴いたら成立しなくなる役がある。それに、日本麻雀には無い役が中国麻将には存在する。そのため、郝は間違いがないように普段は無難に門前で手を進めている。

 ただ、鳴いても和了れる役が、当然、日本麻雀にもある。

「和ー。ツモです。」

 この局は、郝がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {1235578899}  チー{横213}  ツモ{7}

 

 染め手ならば鳴いても問題ない。

「2300、4300。」

 ただ、日本の麻雀では、この和了りは鳴き清一色の満貫だが、中国麻将では一色双竜会と呼ばれる役で、字一色や四暗刻と同じ点数が与えられる役満級の和了り形だ。郝としては、正直損をした気分であろう。

 とは言え、これで郝は、東一局から東一局二本場までの失点を取り返した。

 

 東二局、みかんの親番。ドラは{⑧}。

 ここで先制したのは、

「リーチ!」

 灼だった。六巡目でのリーチ。

 一発ツモはなかったものの、結局、数巡後に

「ツモ!」

 得意の筒子多面聴を灼がツモ和了りした。裏ドラは{九}。

「2000、4000!」

 和了り役はリーチとツモのみだが、{⑧}と{[⑤]}と{九}を一枚ずつ持った手だった。

 満貫だ。みかんにとってはキツい親かぶりになった。

 

 東三局、郝の親番。

 ここでも、

「リーチ!」

 灼が先制リーチをかけた。そして、

「ツモ! 2000、4000!」

 この局も灼が征した。

 

 各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 114900

 2位:臨海女子高校 110000

 3位:龍門渕高校 89000

 4位:白糸台高校 86100

 この和了りで、灼がトップに躍り出た。

 

 東四局、灼の親番。ドラは{中}。

 ようやく、みかんにツキが回ってきた。ドラの{中}が配牌で対子だ。しかも、{二}と{8}も対子、{北}が暗刻になっていた。

 不要牌は{九①南白}。

 ドラを考慮しない郝から、早々に{中}が出た。みかんは、これをすかさず、

「ポン!」

 鳴いた。これで、中ドラ3が確定。

 しかも、このみかんの手に筋は関係ない。智紀からも{二}が出てきた。当然、

「ポン!」

 みかんは、これを鳴いた。

 次のツモで{①}を重ね、その数巡後に、

「ツモ! 中対々ドラ3! 3000、6000!」

 みかんがハネ満をツモ和了りした。

 

 南入した。

 親は再び智紀。

 ここでも、みかんのツキは続いた。ドラを含む平和手。出和了りで満貫ある。当然、無理にリーチはかけない。

 聴牌気配を感じてか、誰からも和了り牌が出てこなかったが、

「ツモ!」

 みかんは、自力で和了り牌を掴んできた。

「タンピンツモドラ3。3000、6000!」

 

 各校点数は、

 1位:白糸台高校 110100

 2位:阿知賀女子学院 105900

 3位:臨海女子高校 104000

 4位:龍門渕高校 80000

 この和了りで、今度はみかんが首位に立った。まさしく、順位の入れ替わりの激しい混戦状態だ。

 

 南二局、二連続でハネ満を和了ったみかんの親。

 みかんは、この局も配牌に恵まれていた。完全にツキを呼び寄せたと実感していた。しかし、

「ポン!」

 ここでも郝が鳴いてきた。みかんが捨てた{發}を鳴いたのだ。

 

 この時の郝の手牌は、

 {一三九①②③13東東}  ポン{發發發}

 發チャンタ三色同順の一向聴だった。

 しかも、中国麻将では、ここに五門斉と呼ばれる役が付く。

 

 しかし、この鳴きでツモが変わり、智紀の手の進みが良くなった。そして、

「タンピンツモドラ2。2000、4000。」

 智紀が満貫をツモ和了りした。まだ一人沈みの状態が続いているが、これで点差を大きく縮められたことは言うまでもないだろう。

 

 南三局、郝の親番。ドラは{北}。

 郝の配牌は、

 {一三四九③[⑤]⑥99東北北白白}

 ここから打{東}。その後、{九四③9}と捨てて行った。

 そして、数巡後、

「和ー。ツモです。4000オール。」

 郝がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三④[⑤]⑥79北北白白白}  ツモ{8}

 

 日本の麻雀ルールであればツモ白ドラ2赤1だが、中国麻将の場合は花竜(俗に言う三色一通)と五門斉がつく。

 

 これで各校点数は、

 1位:臨海女子高校 114000

 2位:白糸台高校 102100

 3位:阿知賀女子学院 99900

 4位:龍門渕高校 84000

 再び郝が首位を奪った。そして、同時に灼が原点を割った。後半戦では東一局三本場以来である。

 

 南三局一本場。

 ここでの郝の配牌は、

 {二五八③⑥147南西北白發中}

 一見、バラバラで、しかも九種九牌にもならないクズ手だが、これは中国麻将では全不靠と呼ばれる和了り役である。日本ではローカル役の十四不塔がこれに当たるが、十四不塔は一巡目限定の特別役であり、全不靠とは厳密には異なる。

 中国麻将には天和に当たる役が無い。しかし、それでも配牌で和了っていると言う奇跡には変わり無いだろう。

 ただ、それが中国麻将だったらの話である。

 ここでは大会ルールに則る。

 もし、全不靠が大会ルールで認められていたら、これで郝は天和を和了っていることになる。

 しかし…、残念ながら、この手は本大会では和了り形として認められない。つまり、郝は、中国麻将なら配牌で和了っていると言う奇跡を無かったことにし、大会ルールで和了り形として認められる形に変えなければならなかった。

 郝の中では天和放棄だ。これでは…、さすがに郝もツキを手放すことになる…。

 

 逆にツキが上がってきたのは、

「リーチ!」

 灼だった。筒子多面聴で先制リーチをかけた。そして、

「一発ツモメンホン赤1。3100、6100!」

 一発で灼は和了り牌を引き、ハネ満を和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②②②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨東東東}  ツモ{⑨}  ドラ{一}  裏ドラ{3}

 

 高目なら倍満だったが、贅沢は言っていられない。

 これで、各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 112200

 2位:臨海女子高校 107900

 3位:白糸台高校 99000

 4位:龍門渕高校 80900

 今度は灼が首位の座を奪い返した。逆に、みかんが原点を割った。

 

 オーラス、灼の親番。ドラは{⑤}。

 灼の第一打牌の{中}を、

「ポン!」

 いきなり智紀が鳴いた。次巡も、

「チー!」

 智紀が鳴いて{横③④[⑤]}を晒した。そして、五巡目、

「ツモ。」

 早和了りを智紀が決めた。しかも、

「中ドラ5。3000、6000。」

 ハネ満だ。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六⑤[⑤]}  ポン{中中中}  チー{横③④[⑤]}  ツモ{一}

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 106200

 2位:臨海女子高校 104900

 3位:白糸台高校 96000

 4位:龍門渕高校 92900

 次鋒戦開始時点と比べて、智紀はプラス100点と実質変わらず、郝はプラス3300点、灼はプラス3400点、みかんがマイナス6800点となった。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 最後の一礼のあと、選手達は対局室を後にした。

 みかんは、控室に戻る途中、自販機の前で麻里香を見つけた。

 この時、麻里香は缶のお汁粉を二本買い、うち一本をその場で飲んでいた。どうやら、相当な甘党らしい。

「麻里香。また、それ飲んでる!」

「イイジャン。好きなんだから。」

「(でも、その食生活で、よく太らないわよね。)」

 みかんと麻里香では、みかんのほうが細身だが、麻里香だって標準体型から考えたらやや細身だ。

 一応、みかんは食事制限と日々のトレーニングで今の体型を維持している。彼女なりに努力しているのだ。

 しかし、麻里香は食事制限を設けていないし、特段、トレーニングもしていない。ただただ、太らない体質なのだ。

 白糸台高校麻雀部は、前エースの照が菓子好きだったこともあるが、その一学年上の栞達も部内でパンケーキを作ったりしており、元々、部全体が菓子で溢れているのだ。

 みかんは、いつも菓子類を食べたいのを我慢して、付き合い程度に一口二口食べる程度だが、その横で麻里香は毎回菓子を馬鹿食いしている。それでいて麻里香の体型には、特段変化が無い。

「(ホント、羨ましいわ。)」

 いや、羨ましいを通り越して妬ましくすら感じる。

「原点割ってゴメンね。」

「私も世界ランカーが相手だし…。」

「臨海の明華ね。」

「そう。それに、あの憎たらしいドラ爆もいるしね…。まあ、どれだけやれるか分からないけど、やれるだけのことはやってくるよ!」

「じゃあ、ガンバってね!」

 そう言うと、さっきのお返しとばかりに、みかんが麻里香の背中を思い切り叩いた。一応、気合入れだが…。

 ちなみに、麻里香は、二本買ったお汁粉のうちのもう一本は、ここで飲まずに対局室に持ち込むつもりのようだ。殆ど、優希のタコスと変わらない気がする。

 

 一方、灼は控室に向かう途中で玄に会った。

 玄は、

「さすがなのです。予告トップ。憧ちゃんから聞きました。」

「トップを取れたのは運が良かっただけと思…。玄も頑張って。」

「おまかせあれ!」

 この時、玄は、気合い十分だった。対局者の中に世界ランカーがいても、特に動じていない雰囲気だった。




おまけ
咲「前回、結局、座布団進呈がありましたので、今回は、大喜利コーナーはお休みです。」

全員:嬉しそうに拍手

咲「今回は、私と京ちゃんの昔話です。」

和「(『昔』ではなくて、『無化し』であってください! なんか、嫌な予感がします。
もし、須賀君が咲さんに変なことをしていたら、須賀君に『無か死』を与えてあげることにします。)」


 中学三年の夏が終わった。
 京太郎はハンドボール部を引退し、これより受験体制に入る時期。当然、他のみんなも勉強に本腰を入れてくるだろう。

 夏休み終了以降の成績の推移は、一般に、以下のように大別されるだろう(厳密にはもっと細かいだろうが…)。

①もう、上がりようがないハイパーな奴。

②今まで部活に熱中していたのが、勉強に集中して成績が上がる奴(少し上がる奴とグッと上がる奴がいる)。

③今までも自分なりに勉強と部活を両立しており、周りと同じスピードで出来るようになるため、相対的に成績が余り変わらない奴。

④受験に向けて一応勉強をするが、周りよりも出来るようになるスピードが遅く、相対的に成績が少し下がる奴。

⑤受験体制に入ろうとせず、相対的に成績が下がる奴。

⑥もう下がりようがない奴。

 実際に、ケース⑥の人間の中には、受験直前になっても、
「英語の…heってナニ?」
 と本気でほざく奴が存在した。信じられないが、たしかにいた。受験を舐めとりゃしないかと、友人達から罵倒されたレベルだ。
 まあ、京太郎は、そこまで酷くはなかったが…。

 反対に、ケース②のタイプの中には、九月、十月で一気に偏差値が10以上も上がる輩がいる。今まで、どれだけサボっていたんだと問われるかもしれないが、一つのことにしか熱中できないタイプなのだろう。
 咲は、京太郎にタイプ②であって欲しいと願っていた。

 清澄高校の偏差値は、咲には余裕だった。それこそ、10以上も余裕がある。
 しかし、何故、そんなにレベルを下げて受験するのか?

 交通機関が発達した都会や地方都市では、人口も多く高校も多い。公立高校だけではなく私立高校もある。
 しかし、人口の少ない田舎では、滑り止めに受ける私立高校が無いところもある。それこそ、公立一本で勝負しなくてはならなくなる。選べる高校がないのだ。
 中には、数少ない一校に通うためには山を越えなければならないため、原付通学OKとされるところもある。都市圏の方々には理解できないだろう。
 まあ、咲に原付が運転できるとは思えないが…。


 咲の成績なら、家から片道二時間もかければ、もっとレベルの高い高校に入れたであろう。しかし、
『まあ、別に地元の高校でイイや!』
 と考えていたし、
『それに、京ちゃんも、そこを狙ってるし、一緒に通えばイイや!』
 とも思っていた。
 京太郎に想いを寄せる咲にとっては、後者のほうが重要だったのかも知れないが…。

 ところが、京太郎は、部活を引退してからも、殆ど勉強に身が入らない。困ったことに限りなくケース⑤に近いケース④だった。
 京太郎の偏差値は、受験情報誌(咲はネットが使えない)に記載された清澄高校の値にギリギリ足りないライン。
 このままでは、京太郎は落ちる可能性のほうが高いと、咲は危機感を覚えていた。

 何とかして京太郎にヤル気を出させなければ。
 日々、咲は、そのことを考えていた。そして、
「(これは、もう、合格できたら、私が京ちゃんに一発ヤラせてあげるって約束をするしかないかな…。うん、これなら、その後、責任を取ってもらって京ちゃんと付き合えるようになるし、順番が逆な気がするけど、アリかも…。)」
 と言う考えに辿り着いた。

 ある日、咲は京太郎と一緒に図書室で勉強していた。
 正しくは、咲は一応勉強していたが、京太郎は、ただ教科書と参考書を広げているだけで何も頭に入ってこない状態だった。
 ここがチャンスだ。
 言うしかない。
 合格できたら一発と…。

 しかし、いざとなると、
「(もし、『咲なんか魅力ないし遠慮する!』とか言われたらどうしよう…。)」
 そんなネガティブな発想が咲の頭の中を横切った。
 自分は胸がないし、暗いし、喪女ではないだろうか?
 そんなのに、
『お祝いに一発!』
 と言われて喜ぶのだろうか?
 ヤル気が出るのだろうか?
 逆に意気消沈しないだろうか?
 そんな思考が生まれてきた。

 そんな時、ふと、京太郎が、
「合格祝いに、誰か一発ヤラせてくれるとか言ってくれたら、きっとヤル気が出るんだろうけどな。」
 と冗談めかして言ってきた。
 これはチャンスかもしれない。
『じゃあ、私が…。』
 と言えばイイ。
 それで、もし京太郎に、
「チェンジ!」
 と言われても、今なら冗談だって言えば済むかもしれない。
 しかし、
「じゃ…。」
 そこまでしか言えなかった。しかも、小声で、京太郎にキチンと聞こえるレベルの声量ではない。
 すると、京太郎が、
「こう、胸がデカくて脚の綺麗な…。」
 と、胸の辺りを誇張する振りを付けて言ってきた。
 これを見て咲は、
「ばかぁ!」
 ついつい、京太郎を突き飛ばしてしまった。

 結局、京太郎は然程勉強できないままの状態で受験を迎えたが、咲は一つ見落としていたことがあった。
 情報誌に記載された偏差値は、合格最低ラインではなく、合格者平均偏差値だった。つまり、京太郎よりも低いレベルでも合格は可能だったのだ。
 咲は、入学後、麻雀部に入部して、京太郎よりもさらに成績の悪い優希に出会って、そのことを知った。



和「(まだセーフですね。では、須賀君は優希に任せて(押し付けて)、私は咲さんを…。)」


 一先ず安心した和であった。


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二十本場:ドラ爆vs世界ランカーvs手品師vsお汁粉娘

 決勝中堅前半戦が、いよいよ始まろうとしていた。この団体決勝戦の折り返し地点である。

 対局室に中堅選手が入室してきた。

 場決めがされ、起家が玄、南家が麻里香、西家が明華、北家が一に決まった。

 

 麻里香が、缶のお汁粉を開けた。尭深がお茶を持ち込んで飲んでいるのと同じで、今回は、対局中に飲もうと言うのだ。

 一応、対局中の缶飲料の補給はルール違反ではないようだ。

 

 東一局、玄の親。ドラは{7}

 玄の配牌は、

 {二四六③④⑥⑦[5]67南北發中}

 ここから打{二}。

 

 二巡目、ツモ{7}、打{南}。手牌は、

 {四六③④⑥⑦[5]677北發中}

 

 三巡目、ツモ{[五]}、打{發}。手牌は、

 {四[五]六③④⑥⑦[5]677北中}

 

 四巡目、ツモ{[⑤]}、打{中}。手牌は、

 {四[五]六③④[⑤]⑥⑦[5]677北}

 

 五巡目、ツモ{[⑤]}、打{北}。手牌は、

 {四[五]六③④[⑤][⑤]⑥⑦[5]677}

 

 そして、六巡目、ツモ{7}。手牌は、

 {四[五]六③④[⑤][⑤]⑥⑦[5]677}  ツモ{7}

 

「ツモです! タンヤオツモドラ7。8000オールです!」

 いきなりの親倍ツモ。しかも、六連続ドラツモによる和了りだ。ドラを全て占有されるのだから、他家にとっては苦しい展開になる。

 しかし、そのような中でも高い手を作れる能力者がいる。

 

 東一局一本場。

 その能力者…風神と呼ばれる明華の力がいよいよ発揮される。

 五巡目、

「カン!」

 明華が{東}を暗槓した。そして、六巡目、

「チー!」

 麻里香が捨てた{八}を鳴いて{横八七九}を副露し、打{西}。その次巡、

「ツモ!」

 さくっと明華がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {⑦⑧⑨79西西}  暗槓{裏東東裏}  チー{横八七九}  ツモ{8}

 

「2000、3900の一本場は2100、4000。」

 東チャンタ三色同順の60符3翻。場風の{東}と自風の{西}を使った手だった。

 

 東二局、麻里香の親番。

 当然、ドラは玄にしか行かない。

 その一方で、明華には場風の{東}と自風の{南}が多く行く。

 九巡目、

「カン!」

 またもや明華が{東}を暗槓した。そして、そのまま嶺上牌で、

「ツモ!」

 明華が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一七八九九九南南}  暗槓{裏東東裏}  ツモ{南}

 

「ツモメンホン東南チャンタ三暗刻嶺上開花。6000、12000。」

 まるで、咲のような嶺上開花だ。これで明華が玄を抜いてトップに立った。

 

 東三局、明華の親番。

 ここでも、

「ツモ! メンホンダブ東。6000オール。」

 早々と明華が和了った。さらにリードを広げる。

 

 そして、東三局一本場。ドラは{中}。

 この局は、{東}が明華に、{中}と赤牌が玄に行く。よって、それらの牌が来ないことを想定して打つことになる。

 麻里香は、七巡目で聴牌し、

「リーチ!」

 裏ドラは期待できないが、玄と明華を牽制する意味も含めてリーチした。そして、

「一発ツモ!」

 

 開かれた手牌は、

 {二三四③④⑤⑤⑥⑦⑧234}  ツモ{②}

 

 どうせ{[五]}も{[⑤]}も{[5]}も来ない。それで345の三色同順ではなく234の三色同順を狙った。

 また、待ちは{②⑤⑧}でも{[⑤]}が来ない以上、実質{②⑧}待ちだ。ならば、234の三色同順で和了れる可能性が高い。

「メンタンピン一発ツモ三色! 3100、6100!」

 これで麻里香は、東二局の親かぶりの分を取り戻した。

 

 東四局、一の親番。ドラは{白}。

 つまり、この局は{東}と{北}が明華に優先的に行き、{白}と赤牌は玄のみに行く図式となる。当然、麻里香と一に行く字牌は格段に減るはず。

 これを考慮して、麻里香は前局と同じように打ち回し、

「ツモ! 平和タンヤオ三色一盃口。3000、6000!」

 二連続でハネ満を和了った。

 これを見て、一も麻里香の考えに気が付いた。

「(成る程ね。たしかに、考えてみればそう言うことだよね。)」

 

 そして、南一局、玄の親番。ドラは{發}。

 ここに来て、今度は一が、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 {南}と{西}は余り来ないはず。そして、{發}と赤牌は絶対に来ないはず。

 ならば、順子も345、456、567は他に比べて若干だけど出来難いかも…。

 それで選んだ形で聴牌した。そして、

「ツモ!」

 一発ではないが、一が和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三九九①①②②③③99}  ツモ{9}

 

「リーツモジュンチャン一盃口。3000、6000!」

 思ったよりも巧く行った感じだ。これなら、世界ランカーとドラ爆を相手でも、ある程度渡り合えるかもしれないと、一は思った。

 

 南二局、麻里香の親。ドラは{4}。

 この局の一の配牌は、萬子に偏っていた。

 筒子は、ど真ん中の{⑤}が半分しか来ないことから意外と扱い難い。

 索子は、{4}と{[5]}が来ないので分断される。

 字牌は、明華の自風であり場風である{南}だけは事実上来ないだろう。自風のみの牌や場風のみの牌よりも自風かつ場風の牌は、より明華に行きやすい。

 しかし、他の字牌は来るはずだ。

 これらのことを想定して、一は手を萬子で染めることにした。そして、

「ツモ。メンホン三暗刻。3000、6000!」

 この局も一が和了った。

 

 しかし、南三局、明華の親番。ここで、

「ツモ、東南メンホン!」

 明華が世界ランカーとして、また風神との呼び名を得た者としての意地を見せた。親のハネ満ツモだ。

 これで、臨海女子高校の持ち点が150000点を超えた。

 

 そして、南三局一本場。ドラは{②}。ここで、さらなる脅威が吹き荒れる。

 この局での玄の配牌は、

 {二二二四六②②[⑤]46西北白}

 

 最初のツモ牌は{[⑤]}で、打{白}。手牌は、

 {二二二四六②②[⑤][⑤]46西北}

 

 二巡目。ツモ{[5]}、打{北}。手牌は、

 {二二二四六②②[⑤][⑤]4[5]6西}

 

 三巡目。ツモ{②}、打{西}。手牌は、

 {二二二四六②②②[⑤][⑤]4[5]6}

 

 四巡目。ツモ{②}。手牌は、

 {二二二四六②②②[⑤][⑤]4[5]6}  ツモ{②}

 

 ここから、

「カン!」

 玄がドラの{②}を暗槓した。そして、

「ツモです!」

 嶺上牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二二二四六[⑤][⑤]4[5]6}  暗槓{裏②②裏}  ツモ{[五]}

 

 そして、新ドラは………{二}。

「ツモタンヤオ嶺上開花、ドラ11! 8100、16100です!」

 本日一番のドラ爆が炸裂した。

 

 一は、ドラ爆&風神対策と思って今まで気合いを入れて打ってきたが、この玄の和了りで一気に目が覚めるを通り越して、何故か緊張の糸が切れてしまった。

 普通の25000点持ちの麻雀なら、半荘終盤で役満が出れば、そこで誰かが箱割れして終了することが多々ある。恐らく、そのイメージが頭の中にあったからであろう。

 しかも、それで回ってきたオーラス親番。

 頭を切り替えなくてはと思いながらも、いま一つ頭が回らない。

 

 一方の麻里香は、ここで、

「(糖分補給~。)」

 と心の中で言いながら、お汁粉を飲んで頭を切り替えた。

 それが功を奏したのだろうか? 玄と明華よりも早く聴牌し、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 明華は自風を落として様子見。

 一と玄は現物で一発を回避した。そして、

「ツモ!」

 麻里香が和了り牌を一発で引いてきた。

「メンタンピン一発ツモ。ドラは…なしの2000、4000!」

 しかし、やはり裏ドラは乗らなかった。まあ、想定の範囲内だが…。

 

 これで中堅前半戦が終了した。

 各校点数は、

 1位:臨海女子高校 132000

 2位:阿知賀女子学院 123400

 3位:白糸台高校 77000

 4位:龍門渕高校 67600

 明華の活躍が光る対局だった。玄の役満の親かぶりを受けながらも27100点を稼ぎ出したのは、さすが世界ランカーである。

 玄は、二度和了ったが、それが親倍に役満と、打点が大きかった。ハネ満ツモ和了りを多数食らったが、それでもプラスとなった。

 対する麻里香と一は、共に20000点以上削られる結果となった。

 

 麻里香は、対局室を出ると自販機に向かった。そして、

「ええと、ココアミルクセーキもイイな。迷うな…。ええい、どっちも買っちゃえ!」

 ココアミルクセーキと………やっぱり、お汁粉を購入した。こんなに甘いものばかり飲んで糖尿病にならないだろうか?

 とは言え、普段は、ここまでは飲んでいない。

 やはり、ドラ爆と世界ランカーを同時に相手をする精神的ストレスで、今日は特別に甘いものを飲む量が多いのだろう。

 

 明華は、目を瞑って椅子の背もたれに寄りかかった。

 そして、玄は、その明華の胸を見て喜んでいた。

 心の中で、

「(オモチ、オモチ、オモチ、オモチ…。)」

 と唱えながら、明華の胸を揉む自分を想像していたようだ。役満を和了れたことが精神的な余裕に繋がっているのであろう。

 

 一方、一は一旦対局室を出て外の空気を吸った。

「(参ったな。急いで頭を切り替えないと…。)」

 そして、対局室近くのソファーに腰を降ろし、静かに目を閉じた。

 …

 …

 …

 

 

「試合開始一分前です!」

 後半戦開始に向けてのアナウンスが入った。

 これを聞いて一は、両手で両頬を強く叩き、

「(よし!)」

 気合いを入れ直した。

 

 一が対局室に入ると、既に他の三人は場決めの牌を引いていた。

 後半戦は、起家が麻里香、南家が一、西家が玄、北家が明華に決まった。

 なお、麻里香はココアミルクセーキを既に飲み終えたようで、サイドテーブルにはお汁粉の缶だけが置かれていた。

「(今日は甘いの飲み過ぎかな。まあ、明日は控えよう!)」

 その麻里香の親で東一局がスタートした。

 ドラは{⑦}。こうなると、{⑤⑥⑦}周辺は使い難い牌となる。

 また、{東}と{北}は明華に優先的に行くであろう。それを前提に、一は手を作っていった。そして、

「リーチ!」

 一が先制リーチをかけた。一発ツモにはならなかったが、

「ツモ! メンタンピンツモ一盃口。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。

 

 そして迎えた一の親番。東二局。ドラは{3}。

 今度は{3}が使えない。そうなると、{123}の順子は作れなくなる。筒子も、元々{[⑤]}が来ないのだから結構使い難い。

 {東}と{西}は優先的に明華がツモるであろう。

 その前提条件を頭に入れて、この局も一は手を進めた。そして、

「ポン!」

 玄が捨てた{白}を鳴き、

「ツモ。2000オール。」

 白混一色を和了った。

 

 東二局一本場、一の連荘。ドラは{六}。

 {五六七}周りと{[⑤]}付近は使い難く、{東}と{南}が来難い局。それを前提に一は手をくみ上げていった。

 それは麻里香としても同じだった。加えて、一に逆転されて4位に転落し、是が非でも和了りたい心境なのは言うまでもない。

「(聴牌した。臨海からの出和了りは期待できないけど、阿知賀と龍門渕なら出る可能性があるかな?)」

 別に一は守りが薄いわけではないが、得点を挙げたい以上、守りよりは攻めに転じたいはず。玄は、守備力が改善したとは言え、この面子の中では一番守備力が低い。

 それで、この二人の何れかからの出和了りを期待し、麻里香はダマで待った。

 しかし、結局、

「(これならリーチかければ良かった。)」

 自分で和了り牌をツモってきた。

「ツモ! タンピンツモ三色。2100、4100!」

 これで、麻里香が一を1800点の僅差とは言え逆転した。

 

 東三局、玄の親番。ドラは{四}。

 この局は、八巡目で玄がドラ以外の待ちで聴牌した。しかし、和了り牌を自力でツモることができずにいた。

 玄が聴牌したとなれば、とんでもなく高い手だ。しかも親。最低でも24000点を覚悟しなければならない。

 明華は、場風の{東}と自風の{南}、それと玄の現物で凌いだ。

 麻里香と一も何とか凌ぎ、玄の一人聴牌で流局となった。

 

 東三局一本場。前局では、玄は和了れなかったが聴牌できていたため、ここでは玄の連荘となるルールだ。

 この局は、明華が和了った。

「ツモ。東南メンホン。3100、6100!」

 ドラが無くても染め手に仕上げればハネ満まで持って行くことは可能だ。

 場風と自風を共に刻子で持つことができれば、残りは七牌。明華にとって混一色手は、結構作り易い役なのかもしれない。

 

 東四局、明華の親番。

 麻里香は、この親の連荘阻止に向かった。流局でも聴牌されたら連荘される。ならば、安手で良いから和了る!

 一応、麻里香は門前で聴牌した。和了り役はタンヤオのみ。

 これに気付いて一が差し込んでくれるか?

 それとも、玄が振り込むか?

 しかし、中々和了り牌が出てこない。しかし、

「ツモ! 500、1000。」

 なんとか麻里香は自力でツモ和了りできた。親流し成功だ。

 

 南一局、麻里香の親番。

 この局は、

「ツモ一盃口。500、1000。」

 一が安手で流した。

 ここで高い手が和了れるに越したことはないが、これ以上の失点を抑え、安手でも良いから和了り、次に繋ぐことも一は視野に入れ出したのだ。

 やはり明華を相手にするにはキツイ。

 玄に暴れられても厳しい。

 ただ、龍門渕高校には超魔物の大将がいる。原点に戻ろう。その大将に全てを賭けるのが龍門渕高校の基本スタイルだ。

 

 南二局、一の親番。

 ここで麻里香も、一と同じ考えに出た。自分の後には、光と淡が控えている。この魔物二人に賭けよう。ならば、自分は失点を最低限に抑えるべき。

 それで、

「チー!」

 明華が捨てた{②}を鳴いて{横②③④}を副露した。そして、

「ツモ。タンヤオ三色。500、1000。」

 安手で場を回した。

 

 南三局、玄の親番。

 麻里香も一も、この親を和了らせてはならない。

「チー!」

 明華が捨てた{①}を麻里香が鳴いた。

 これを見て、一は麻里香が端牌狙いであることに気づき、{9}を捨て、

「ポン!」

 麻里香に鳴かせた。

 次巡、麻里香は、

「ツモ! ジュンチャンのみ。500、1000。」

 ツモ和了りして、玄の親を蹴った。

 

 オーラス、明華の親番。ドラは{白}。

 この局での玄の配牌は

 {二二二四六[⑤]169西北白白}

 

 対する明華の配牌は、

 {一七八九①④7東東東東南南南}

 

 風神の本領発揮と言った配牌だ。

 明華は、槓しようかどうか迷った。

 ただ、この手牌からなら割と早く和了れそうだし、それに玄の手がドラだけになれば必ずドラを切る。そうなった時にどうなるのかを見てみたい。

 それで明華は、

「カン!」

 {東}を暗槓した。嶺上牌は{南}。すると、これも、

「カン!」

 連続で暗槓した。嶺上牌は{六}。

 新ドラは{二}と{9}。

 

 これから玄の手には、ドラの{白}は勿論、新ドラと赤牌がジャンジャン来るだろう。そして、いずれオーバーフローする。

 咲と初めて卓を共にした時にやられたのと同じだ。今、玄の頭の中では、あの時のことがフラッシュバックしていた。

 玄の身体が激しく震え出した。




おまけ
和「咲さん!」

咲「どうかしたの、和ちゃん? そんなに怖い顔をして?」

和「大喜利コーナーで、憧への採点が甘くないですか? 憧だけ二枚で、私なんか一枚もありませんよ!」

咲「だって、和ちゃんは殆ど答えていないから…。」

和「それは、そうですけど…。あと、もう一つ質問が…。」

咲「何でしょう?」

和「咲さんの言う素敵な商品のヒントをいただけますか?」

咲「そうですね。ええと、私にとって初めてのものです。」

和「(と言うことは、やっぱり間違いありません。お義姉様にはあげる対象にならない初めてなもの…。咲さんの処〇ですね…。
このままでは、咲さんが憧に奪われてしまいます。寝取られてしまいます。絶対に私が先に座布団三枚を揃えなくては…。
私の名前『和』と咲さんが得意な『カン』、二つ合わせて『和カン』のはずです!)」

咲「では、大喜利コーナーです!」

全員:やる気のない拍手。

咲「座布団獲得者は全部で18名。
愛宕洋榎さん、憧ちゃん、石戸霞さん、優希ちゃん、辻垣内組組員さん…。」

組員「これは、お嬢に差し上げてくだせぇ。」

咲「分かりました。では、続きから。
辻垣内智葉さん、花田煌さん、佐々野いちごさん、弘世菫さん、末原恭子さん、穏乃ちゃん、安福莉子ちゃん、竹井部長、本内成香さん、お姉ちゃん、小鍛治プロ、園城寺怜さん、淡ちゃん、灼さんで、二枚獲得者が憧ちゃん、他の獲得者は全員一枚となります。」

和「(憧には負けません…。)」

咲「それでは、御題です。
ドラえもんが出しそうな麻雀が強くなるアイテムを考えてください。」

泉「はい! 私から行きます!
引いてくる牌が必ずドラになる『どこでもドラ』!」

全員:玄のほうを見ながら「(持ってる奴、いるよな!)」

咲「これは面白いですね。泉さんに1ポイント差し上げます。次、何方か。」

淡「相手の手牌に当てると相手の手が小さくなる『スモールライト』! 逆に自分の手牌に当てると手が大きくなる『ビッグライト』もありかな!」

咲「淡ちゃんに1ポイントです。次、何方か。無理にドラえもん原作にあるアイテムの語呂に、こだわる必要はありません。」

怜「それなら、うちから。
リーチをかけたら絶対に一発で和了れる、『一発君』。」←1ポイントゲット

全員「(それは、お前が持ってるだろ!)」

竜華「じゃあ、相手の和了り牌を察知する『危険レーダー』。」←1ポイントゲット

全員:洋榎のほうを見ながら「(これも持ってる奴いるな!)」

爽「運気を呼び寄せる、『ウンk…』。」←ポイントもらえず

咲「(また下品なほうに走りそうなので)次の方!」

憧「それを使った日は絶対に沈まない(負けない)し、勝ちを取れるアイテム。『ウカンダ今日は取る』。」

咲「うーん…、ウガンダ共和国に語呂を合わせたんだと思いますが、ウガンダ共和国と麻雀に関連性はありませんし、いま一つかな。でも、一応1ポイント差し上げます。」

憧「やった!」

和「(やっぱり憧への採点が甘い気がします。憧には負けません!)」

和「では、次、私から。
誰かが槓すると必ず槍槓できる『カンコ取り』と言うのはどうでしょう?」

咲「槍槓は嬉しくないけど…、『槓子』を『カンコ』と読んだと言うことかな? 和ちゃんに1ポイントです。」

和「(これで、もう1ポイント取れば、念願の座布団一枚かもです!)」

咲「では、次の御題です。
以前、誰かを指名して、その人に対して『なるほど』と誰もが思える一言をお願いするのがありました。前回は、褒めても苦言でも構わないとしましたが、苦言ばかりでしたので、今回は褒めてみてください。では、何方か。」

全員「(結構難しい…。)」

尭深「じゃあ、私から一つ。
淡ちゃん。さすが高校100年生。15歳(高1で誕生日前の設定)でしょ? 飛び級?」

淡「…。」

一「じゃあ、次、私から。
薄墨さん。その着崩し方、読者サービスですね!」

全員「(お前もだろ!)」

初美「じゃあ、国広さん。
その服装こそ読者サービスだと思うのですよー。
『安心してください。見せてます!』って感じですかー。」

全員「(ヤバイ、空気が険悪に…。でも、なんだか前の時と展開が似てるような気が…。)」

菫「大星。その胸、大きさが変わるって、ある意味、便利だな!」

照「淡。この間、淡が勝手に食べたシュークリーム。『2位』でインハイ決勝進出できたお祝いと言うことにするんで、弁償しなくていいから。」

誠子「大星。さすが時期エース!」

栞「淡ちゃん。練習しないのに強いね!」

琉音「大星。物怖じしないな、お前!」

その他先輩A「大星!………」
その他先輩B「大星!……」
その他先輩C「大星!…」





その後も結局、淡が先輩方に嫌味を言われ続けることになりました。


咲「ええと、可哀想なので、この御題でのポイントは全部淡ちゃんに差し上げます。
ですので、トータルポイント、ブッチギリと言うことで、今回は淡ちゃんに座布団一枚です(デジャブだね、これ)。」

淡「今回も、あんまし嬉しくない!」

和「(これで、憧と淡さんの二家リーチですか! 私も頑張らなくては…。)」



おまけ2
咲「補足コーナーです!
オリキャラについてです。
多分、オリキャラを好む方も好まない方もいらっしゃると思います。
ええと…。今更ですが、中田慧さん。本当に登場するとは思いませんでした。『いけだかな』を逆から読んだら『なかだけい』、つまり、風越の池田さんの分身の役です。まあ、ネタですね。」

優希「それで、そいつは強いのか?」

咲「淡ちゃんと穏乃ちゃんが相手でしたので撃沈しましたが、一般的には強い選手の設定です。」

優希「八本場(第八話)のおまけで『なかだけい』のネタが出ていたけど、私も本当に登場させるとは思わなかったじょ!」

咲「三年生引退後の話ですので、後釜を作らなければならず、どうしてもオリキャラを登場させざるを得ない状況です。ただし、極力、原作登場人物の親族と言う形にしております。」

穏乃「ただ、佐々野いちごさんの妹役の佐々野みかんさんと、多治比真祐子さんの妹役の多治比麻里香さんは、前作『みなも-Minamo-』では三年生引退後の後釜として登場させましたが、今回の『咲-Saki-阿知賀編入』では諸事情で亦野誠子さんと渋谷尭深さんよりも麻雀が強い選手として登場させました。」

咲「ええと…、光を出すか出さないか、和ちゃんをどこの高校にするかを完全に決めていない状態で書き始めた作品でしたので、白糸台高校は、淡ちゃん、亦野誠子さん、渋谷尭深さん、佐々野妹と多治比妹の計5人になることも、第一話を書いている段階では想定しておりました。
その後、和ちゃんが白糸台高校に編入したことに決めて亦野さんを補員に回し、さらに、光を白糸台高校に編入させることにしましたので、それで、渋谷さんも外されることになりました。
まあ、私を目の仇にする役を入れたいとの考えで、佐々野妹と多治比妹が重宝された部分もあります。みなも-Minamo-のパラレルワールド設定でしたし。」

優希「でも、佐々野妹と多治比妹はともかく、中田慧は原作登場人物の親族ではないじょ?」

咲「まあ、『おまけコーナー』を書いていて思い付いたネタですからね。勝手に作った分身と言うことで…。他人の空似の設定ですね。」

優希「本人の空似の間違いじゃないのか?」

咲「まあ、否定しませんが…。
と言うわけで、オリキャラについてでした!」


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二十一本場:消えたドラ支配&消えた運命演奏

ドラは白、槓ドラは二萬、九索です。


 明華の手牌は、

 {一六七八九①④7}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 ここから打{一}。

 

 玄は、大方の予想通り{白}をツモ。ここから打{1}で手牌は、

 {二二二四六[⑤]69西北白白白}

 

 二巡目、明華はツモ{七}、打{7}で手牌は、

 {六七七八九①④}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 

 玄は、ツモ{9}、打{西}で手牌は、

 {二二二四六[⑤]699北白白白}

 

 三巡目、明華はツモ{四}、打{④}で手牌は、

 {四六七七八九①}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 

 玄は、ツモ{9}、打{北}で手牌は、

 {二二二四六[⑤]6999白白白}

 

 四巡目、明華はツモ{中}、打{①}で手牌は、

 {四六七七八九中}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 

 玄は、ツモ{[5]}、打{六}で手牌は、

 {二二二四[⑤][5]6999白白白}

 

 五巡目、明華はツモ{中}、打{四}で手牌は、

 {六七七八九中中}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 

 玄は、ツモ{[⑤]}、打{四}で手牌は、

 {二二二[⑤][⑤][5]6999白白白}

 

 六巡目、明華は{三}をツモ切り。手牌は、

 {六七七八九中中}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 で変わらず。

 

 玄は、ツモ{白}、打{6}で手牌は、

 {二二二[⑤][⑤][5]999白白白白}

 全てドラ。

 

 七巡目、明華は{③}をツモ切り。手牌は、

 {六七七八九中中}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}

 で変わらず。

 

 玄は、ツモ{[五]}、手牌は、

 {二二二[⑤][⑤][5]999白白白白}  ツモ{[五]}

 全てドラだが、ここから何かを捨てなければならない。

 

「(どうしよう…。お姉ちゃん…。)」

 玄の目から涙が流れ出した。

 もう、これは仕方がない。玄は、{二}か{9}が嶺上牌であることを期待して{白}を暗槓した。四槓流れに持ち込めることに僅かな期待をかけていたのだ。

 しかし、期待に反して嶺上牌は{②}、そして、新ドラも{②}。やむを得ず玄は{②}を捨てた。

 

 八巡目、明華は{②}をツモ。手牌は、

 {六七七八九中中}  暗槓{裏東東裏}  暗槓{裏南南裏}  ツモ{②}

 まさか、ここでドラが来るとは…。ただ、これは玄のドラ支配が崩れた証拠でもある。しかし、これでは和了れない。{②}をツモ切り。

 

 玄は、{北}をツモ切り。手牌は、

 {二二二[五][⑤][⑤][5]999}  暗槓{裏白白裏}

 で変わらず。

 

 九巡目、明華は{五}をツモり、

「ツモ! 東南メンホン。6000オール!」

 親ハネ満を和了った。

 

 ここで和了り止めしても良いが、明華には、まだ検証したいことがあった。それは、玄のドラ支配が本当に無くなったかどうか。

 前局、たしかに明華はドラをツモったが、それは三つ目の新ドラだ。ドラが増え過ぎたため、たまたま玄の支配から外れていただけかもしれない。

 それで、明華は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{9}。

 配牌時、既に明華の手牌には赤牌があったし、麻里香と一の配牌にも{9}が一枚ずつだがあった。これで玄以外のところにドラが来るようになったことが確認された。

 一方、玄の配牌にはドラがなかった。これは、プレイヤーには分からないが、控室で試合を見ている仲間が確認してくれていることだ。

 この局は、

「リーチ!」

 六巡目に、一が敢えてリーチをかけた。和了りたいのは勿論だが、裏ドラへの支配状況も検証したい。

 次巡、麻里香も聴牌し、追っかけリーチをかけたが、その三巡後、

「ツモ! メンピンツモドラ1の…。」

 このめくり合いを一が征した。そして、裏ドラは、

「裏2で3100、6100!」

 アタマが、そのまま裏ドラになった。ちなみに、この裏ドラは、麻里香も一枚乗っていた。もっとも、和了れなければ意味は無いが…。

 ただ、これで、玄がドラを切ることでドラ支配が失われることが、完全に立証されてしまった。それも全国生中継で…。

 

 この時点での各校点数は、

 1位:臨海女子高校 146600

 2位:阿知賀女子学院 102600

 3位:龍門渕高校 80700

 4位:白糸台高校 70100

 臨海女子高校のリードで中堅戦を終えた。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 一礼の後、玄は両肩を落として対局室を後にした。

 控室に向かう途中、玄は咲と憧に出くわした。咲は迷子対策で憧に付き添ってもらっていたのだ。

「咲ちゃん…ドラが…。」

「分かってます。この仇はとりますから。」

「うん…。」

 玄の目から大粒の涙が零れ落ちた。自分の意思ではなく、強制的に切らされたのだからショックは大きい。

 咲は、玄に一礼すると対局室へと急いだ。

 

 対局室の扉のところで、

「憧ちゃん、付き添いありがとう。」

「別にイイって。じゃあ、サキ。後をヨロシク!」

「うん。」

 咲は憧と別れた。

 対局室には、既にネリーと光が入室していた。

 しかし、そこには友好的な空気など一切存在しなかった。ネリーが、光を睨みつけながら一方的に何かを言い捲っているだけだった。

 ただ、怒鳴りつけるまで行くと失格にされる可能性がある。それでネリーは、彼女なりにトーンを抑えているようだった。

 何がどうしたのだろうか?

 咲は、二人に近づいた。

「どうかしたの? 光?」

「あっ! 咲! それがさ、私にも良く分からないんだけど…。」

 するとネリーが、

「だから、ドイツでの麻雀のことだよ。」

 と光に言った。

「でも、私は貴女との対戦経験はないし。」

「ネリーは大将だったんだ。」

「私は先鋒だったもん。対局はしてないよ。」

「でも、その先鋒戦で全てが決着して、ネリーは打たずして負けたんだ。それに、あんな目に遭うなんて…。」

 ネリーは、かつて、挑戦者チームのメンバーの一人として、光が打たされていた地下麻雀に参加したことがあった。勝てば名が売れ、負けても大金が入ると聞き、どちらに転んでも損がないと踏んだからだ。

 しかし、先鋒戦で、光…当時のミナモ・A・ニーマンが全員を箱割れさせ、ドイツチーム以外は全員が性的な辱めを受けることになった。そう言ったルールだったのだ。当然、ネリーも例外ではなかった。

 もっとも、そんな話に乗るネリーが悪いのだが…。

 それで、ネリーは大切なモノを失った。

 ただ、人が相手ではなく、物が相手だったのだが、相手がなんであろうと嬉しい話では無い。

 しかし、そんな目にあって、なお自分の非を認めたら…、それはそれで精神的に保てない。自分を正当化しないと心が壊れてしまう。

 それで、自分のチームを負かしたミナモを自分の中で悪者にしているに過ぎなかった。

 とは言え、その怨みの念は大きそうだ。

「ミナモ・ニーマン! あの屈辱は絶対に忘れない。今日こそ、お前に絶望的な敗北を味あわせてやるからな!」

 ネリーがヒートアップしてきた。

 しかし、この時であった。

 急に気温がグッと下がる気がした。対局室が急に冷えたのだ。

 その冷気の発生源…扉のほうを見ると、そこには治水状態の『冷たい透華』が、まるでヘビのような目つきで咲達を見詰めていた。

 そして、透華は静かに卓に付くと、

「場決めしましょう。」

 と感情のない声で三人に言った。

 好戦的なネリーも、透華の出す雰囲気に飲み込まれ、背筋が凍る気がした。それで頭が冷えて、一先ず落ち着きを取り戻したのだろうか、黙って場決めの牌を引いた。

 副将前半戦は、起家がネリー、南家が透華、西家が咲、北家は光に決まった。

 

 東一局、ネリーの親。

 ネリーは運命を操る。

 今日は、光に勝つため、ネリーは、初っ端から運を高めて一気に高い手を和了る気でいた。しかし、それが何者かによって阻害されている。

「(龍門渕透華、こいつか? こいつ、いったい何をした?)」

 ネリーの目から炎が消えた。完全に計算が狂った。そして、

「ロン。3900。」

 透華がネリーの捨てた牌で和了った。

 これも、ネリーにとっては予想外だった。相手の手が高くなる前に敢えて振り込んだのでは無い。本当に聴牌気配が分からなかったのだ。

 

 東二局、透華の親。

 ここでも、

「ロン。5800。」

 ネリーが透華に振り込んだ。まるで吸い込まれるように…。

 

 東二局一本場、透華の連荘。

「(もしかして、これが以前、サトハとダヴァンが言っていたヤツか!)」

 ネリーは、インターハイ前に、その前の年のインターハイで透華が突如豹変した話を智葉とダヴァンの二人から聞いていた。

 ただ、そのチーム…龍門渕高校はインターハイには出場しなかった。清澄高校に県予選で敗れたからだ。それで、もう自分には関係ない話と思い、そのことを今まで完全に忘れ去っていた。

 透華の目がネリーを睨みつけている。非常に冷たくて、感情と言うものが一切感じられない目。

 そして、思わず失禁してしまいそうなくらい恐ろしい何かが、透華の背後で見え隠れしているような感じがする。

 この局も、

「ロン。6100。」

 ネリーが透華に振り込んだ。トップから引きずりおろすために狙い撃ちされているかのように思える。

 

 東二局二本場。

 ここでも透華の視線はネリーに向いていた。気の強いネリーが珍しく気持ちで押されているようにも見えた。

 ただ、透華からは強い気が発されているわけではない。その冷たい雰囲気にネリーが押し込まれていたのだ。

 そして、

「ロン。7700の二本場は8300。」

 結局、ここでも吸い込まれるようにネリーが透華に振り込んだ。これで四連続だ。

 

 東二局三本場。

 透華の視線がネリーから外れた。いや、正しくは、全員を見ている。まるで静寂な場を強制し、しかもそれを監視するかのように。

 そして、

「ツモ。2300オール。」

 透華が30符3翻をツモ和了りした。

 咲も、光も、ネリーも手が全然進まない。恐ろしいまでの透華の支配力だ。

 まるで天江衣の一向聴地獄を連想させる。

 

 東二局四本場。

「失礼します。」

 咲が靴下を脱いだ。今までは様子見。ここからは、咲も本気で戦う。

 この局は、咲もネリーも光も、透華を敵と認識していた。三人の能力が冷たい透華の支配力と対峙する。

 それによって透華の支配力が押し返された部分もあるのだろう。咲は、配牌で既にヤオチュウ牌の暗刻が二つ、咲の手牌の中にあった。そして、中盤に差し掛かる頃、

「カン!」

 咲がそのヤオチュウ牌の片方を暗槓した。そして、嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 もう片方のヤオチュウ牌で連槓し、続いて引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花ドラ1。2400、4400!」

 90符3翻のツモ和了り。これは、符ハネで満貫になった。

 しかし、

『カン』の発生で静寂な場を乱す者。

 今度は、透華の視線が、咲のほうに向けられた。

 

 東三局、咲の親番。

 ここで透華が狙う相手は咲だった。

 しかし、咲は靴下を脱いでパワーアップすると牌が透けて見える。末原恭子のように咲の能力を狂わせない限り、咲からの振り込みは無い。

 一方、ネリーは、咲が前局で和了ったことで、マークする相手を透華から咲へと変えてしまった。

 透華の能力は、衣と咲の二人がかりでも抑え切れない。その強力な支配を、前局は、三人の力で跳ね返していたのだが、ネリーがマークを外したことにより透華の支配力が戻ってしまった。

 結局、この局は、

「ツモ。1300、2600。」

 透華は、咲から直取りはできなかったが、平和手の4翻をツモ和了りした。

 

 東四局、光の親番。

 光としても、このような相手は初めてだった。咲さえも押さえ込む圧倒的な支配力だ。ドイツにいた頃にも、これだけのパワーを持つ超化物にはお目にかかっていない。

 光は、透華への振り込みを回避するだけで精一杯だった。

 この局も、

「ツモ。1300、2600。」

 透華が静かに和了った。

 

 東場が終了し、この時点での各校点数は、

 1位:龍門渕高校 117700

 2位:臨海女子高校 115200

 3位:阿知賀女子学院 105600

 4位:白糸台高校 61500

 白糸台高校の一人沈み状態だった。ただ、失点だけで考えれば臨海女子高校が最も大きく、既に30000点以上を失っていた。

 

 南入した。

 再びネリーの親番だ。

 ここまで和了ったのは、透華と咲のみ。ネリーと光は、未だにヤキトリ状態だ。

 しかも、本来ならばネリーは初っ端に和了っていたはずだった。そのように運を操っていたはずなのだ。

 狙ってヤキトリ状態にしていたのなら何とも思わない。しかし、今ある状況は、完全に思い描いていた方向とはズレたほうに進んでいる。

 さすがにネリーも焦っていた。

 そして、その焦りが更なる暴牌を生む。ここでも、

「ロン! 5200。」

 ネリーが透華に振り込んだ。

 

 南二局、透華の親番。

 ネリーは焦る一方だった。ここでもネリーは、

「ロン。5800。」

 透華に振り込んだ。既に、ネリーの失点は45000点を超えた。

 

 南二局一本場。

 鳴きが一切入らない静かな場が繰り広げられた。しかも、凍て付くような寒気…いや、冷気が、咲、光、ネリーの三人を襲う。

 あまりの寒さに、一瞬、三人の脳内回路が停止した。そして、気が付くと、

「ツモ。2700オール。」

 既に、透華にツモ和了りされていた。

 

 南二局二本場。

 この局も透華の強力な支配が続いた。咲も、東二局四本場以来、槓ができていない。いや、槓材が来るルートを透華の支配力で塞がれているのだ。

 結局、

「ツモ。2800オール。」

 ここでも透華がツモ和了りした。

 

 これで各校点数は、

 1位:龍門渕高校 145200

 2位:阿知賀女子学院 100100

 3位:臨海女子高校 98700

 4位:白糸台高校 56000

 とうとうネリーも原点を割った。さすがのネリーも動揺を隠せなくなった。彼女は愕然とした顔で俯いた。

 

 一方、この時、一瞬だが透華が苦しそうな表情を見せた。

 すぐに取り繕うようにヘビのような目で不敵な笑みを浮かべたが、その一瞬を咲と光は見逃さなかった。

「(次、勝負をかけるよ、光!)」

 咲は、光のほうに視線を向けて、そう心の中で言った。




ネリーの地下麻雀参加については、みなも-Minamo-第七局をご参照ください。



おまけ
咲「現在、座布団二回獲得者は憧ちゃんと淡ちゃんの二名です。」

和「(淡さんは、結局、二枚ともお情けでもらってますが…。はっ! もしかして咲さんは憧よりも淡さんのほうに採点が甘いのでは? だとすると、咲さんの本命は、もしかして憧じゃなくて淡さんでは?)」

和から尋常では無い殺気が淡に向けて放たれた。
急に淡には、北斗七星の脇に輝く星が見えるようになった。

淡「(あんな星、あったっけ?)」←死兆星を知らない

咲「今回は、私が一番面白いと思った回答をされた方に座布団を進呈します。
御題は、自分で勝手に考えた役満です。
某漫画では南北戦争(アメリカの役満)に対抗して南北朝時代とかありましたけど…、ただ、その某漫画での役、東北新幹線が、実際にローカル役満になったりしていますので、それに負けないネタ役を考えてもらいたいと思います。」

優希「転地大転倒! ひっくり返しても同じ形の牌だけで和了った役!」

咲「それは、中国麻将の推不倒ですね。オリジナルではありませんし、中国麻将では日本で言う三色同順と同じ点数の役ですので役満にするのはちょっとって気がします。では、次、何方かいませんか?」

怜「役満ケンシロウ。北と七萬、七筒、七索を刻子にした対々。これでどや!」

全員「(トキだけに…。)」

塞「じゃあ、東北の代表として私から。
同じ色の2、7、3と東と北で作った対々で、東日本大震災。273で津波ってことで。」

咲「悪くは無いと思いますが、まだ苦しんでいる人がいますので、こう言うネタはちょっと…。では、他には?」

玄「数牌の1と8、それから白だけで作った七対子を考えました。パイパイパイにパイ〇ンで、『役満オモチ』ですのだ!」

全員「(パ〇パンは必要無いんじゃ?)」

初美「じゃあ、数牌の1と8だけで作った対々で、『役満霞ちゃん』なんかどうですかー。」

霞「八二三⑧②③823東南西北白で、『役満初美ちゃん』ってどうかしら。ハツミ初美は罪に、風牌四つにパイ〇ンで。」

初美「(ドサクサ紛れに『初美初美』を『初美は罪』って言った気がしますねー。気のせいでしょうかー。)」

いちご「数牌の1と5だけで作った対々で『ちゃちゃのん』。いちごだけに。」

憧「じゃあ、五萬、五筒、五索に自風と三元牌で作った五門斉型の対々で、五黄殺なんてどうかな?」

淡「ダブリー海底ツモで『役満世界一周』!」

咲「それは、『石の上にも三年』というローカル役満ですね。」

淡「じゃあ、ダブリー嶺上開花で『桜満開!』
私とサキの複合技で、淡い色の花が咲き乱れるってことで。」

咲「ええと、淡ちゃんに座布団一枚です!」←何故か、もの凄い笑顔

和「(そんな…、淡&咲で座布団一枚だなんて…。淡色の咲さんが乱れるって回答なのに、あんなに嬉しそうな笑顔で…。やっぱり咲さんは淡さんが…。)」

咲「これで淡ちゃんが座布団三枚獲得しましたので、素敵な商品は淡ちゃんに差し上げます。」

和「(あぁ…咲さんの処〇が淡さんに捧げれてしまうのですね…。)」←そのまま気絶

咲「では、素敵な商品ですが、淡ちゃんには宮永家二十四時間耐久麻雀大会に参加していただき、そこで私のトビ終了で1位を取る権利を差し上げます!」

淡「へっ?」

咲「家族以外を相手に、今まで一度も点棒を全部失ったこと無いからね…。その名誉を差し上げようて言うことです。」

和:一瞬、気を取り戻す。

咲「その初めてを、淡ちゃんを相手に経験させてもらいます(理由はともあれ、これで面子が揃ったね←それで嬉しくて笑顔)。」←再び和が気絶

淡「なにそれ。そんなの貰っても面白くもなんともないんだけど!」

咲「まあ、イイからイイから。」


憧「シズ!」
怜「セーラ!」
洋榎「絹恵!」
菫「誠子!」
憧・怜・洋榎・菫「「「「確保!」」」」

『むに…て…から』の時と同じように、淡は、穏乃、セーラ、絹恵、誠子(傭兵バージョン)の四人…咲-Saki-登場人物中、体力四天王に取り押さえられ、宮永家二十四時間耐久麻雀大会に強制参加させられた。


最初の半荘は、25000点持ち30000点返しで行われた。オカありウマなしの勝負。
ここでは、淡が親でダブルリーチをかけた際に、咲が連槓後に淡に振り込み(差し込み)、咲は淡にダブルリーチ槓裏12の数え役満を和了らせた。たしかに、予告どおり、この半荘は淡が1位で咲がトビ終了した。

しかし、次の半荘からは、各自持ち点10万点のウマなしオカなしトビなしの勝負で、淡は毎回何箱もかぶらされた。


さすがの淡も、
「しばらく麻雀牌を見たくない。」
と言うほどであったらしい…。



咲「と言うことで、大喜利コーナーは一旦休止します。
次回は、獅子原爽さんと園城寺怜さんのコーナーを予定しております!」


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二十二本場:パーフェクトコントロール&リセット

一応、点数はきちんと計算しているつもりですが、もし間違いがあったらスミマセン。

透華は治水状態にあります。


 この時、咲は、

「(龍門渕さんの支配は、永遠じゃない。体力的に制限がある。私と光とネリーの三人の支配を抑え付けるとなれば、かなり消耗するはず。)」

 と考えていた。

 

 南二局三本場、透華の連荘。

 咲が思ったとおり、透華の支配力が少し弱まったようだ。配牌から咲の手牌の中で{8}が暗刻で揃っていたのだ。それに、{8}が暗槓できる道筋が見えている。

 当然、咲は、その道筋に従って、

「ポン!」

 光が捨てた{②}を鳴き、次巡、

「カン!」

 {8}を暗槓した。嶺上牌は{②}。当然、これを、

「もいっこ、カン!」

 加槓した。

 これにより、光の手が、役なしだがドラ4に変化した。

 しかし、透華にとって制圧すべき対象は、新ドラを抱える光ではなく、あくまでも静寂な場を乱す咲となる。

 透華の支配が咲に集中した。

 これにより、ネリーと光への制圧が下がる。つまり、ネリーと光は、ツモに自身の支配が戻る。

「(ここだよ、光!)」

 咲が心の中で叫んだ。

 光は、まるでテレパシーで通じ合っているかのように、咲の言いたいことが分かった。幼い頃から一緒にいることが多かったからかもしれない。

「(了解!)」

 このチャンスを逃さず、光は順調に手を進め、

「ツモ! ドラ4。2300、4300。」

 ツモ和了りした。

 和了り役はツモのみだったが、満貫だ。

 これで、透華の親を流すことができたし、何らかの形で透華の支配を受けない状態にさえできれば、活路があることを確認できた。

 では、どうやって透華の支配から逃れるか?

 その最良の答えに繋がるヒントは、南二局二本場が終わった時に透華が一瞬見せた苦しそうな表情。

 恐らく、咲、光、ネリーの三人を相手に、前後半戦の半荘二回の全局を通して、この強力な支配をし続けるだけの体力を、透華は持ち合わせていない。

 ならば、三人が結託して透華の支配力と対峙すれば良い。そうすれば透華の支配力は、いずれ枯渇する。後半戦最後まで力を維持できないだろう。

 そのためには、ネリーの協力が必要だ。少なくとも、ネリーが、咲や光と対抗するほうに意識が行っていてはならない。

 しかし、この光の和了りで、ヤキトリはネリーだけになった。それで更なる焦りがネリーの中で湧き上がってきた。

 当然、咲や光と手を組もうなどと言う考えには及ばない。

 

 南三局、咲の親番。

 咲と光とネリーが一枚岩になっていない以上、透華の支配を押し返し切れない。

 ここでも、

「ツモ。1300、2600。」

 20符4翻の平和手を透華がツモ和了りした。

 

 そして、オーラスも、

「ツモ。1300、2600。」

 前局と同様の手を透華がツモ和了りし、前半戦を終了した。

 

 各校点数は、

 1位:龍門渕高校 151300

 2位:阿知賀女子学院 93900

 3位:臨海女子高校 93800

 4位:白糸台高校 61000

 龍門渕高校の一人浮き状態…、阿知賀女子学院、臨海女子高校、白糸台高校は何れも原点以下になった。

 

 休憩時間に入った。

 透華は、椅子に座ったまま静かに目を閉じていた。下手に動いて体力を消耗しないようにしているのだろう。

 

 一方、ネリーは、対局室を出て行った。

 これだけ自分の思うように進められない麻雀は今まで経験したことがなかった。

 しかも、あの支配力に加えて背筋が凍るほどの冷気。ネリーは、いまだに鳥肌がおさまらず、蒼い顔で対局室外のソファーに腰を降ろした。

 

 咲は、丁度対局室を出たところで、迎えに来てくれた憧を見つけ、一旦トイレに行くことにした。

 半荘一回とは言え透華の連荘が続き、全部で15局あった。その間、冷気に晒され続けたのである。

 当然、身体が冷えており、トイレに行くのは必須だったと言えよう。

 

 光は、自販機に向かい、そこで温かいコーヒー(砂糖+ミルク入り)を買って飲んだ。透華の冷気で熱を失った身体を温めたかったのだ。

「(臨海の大将が全然分かってない。このままじゃ、龍門渕の支配が崩せない。)」

 さて、どうやって後半戦を戦おうか?

 ドイツで百戦錬磨だった彼女にも対応策が見つからない。まさか、これ程までの化物がアジアの小国に存在するとは…。

 結局、大した策も思い付かないまま、対局室に戻ることになった。

 

 

 休憩時間が終わった。

 咲、光、透華、ネリーが卓に付き、場決めがされた。この局も、前半戦と同じで起家がネリー、南家が透華、西家が咲、光は北家になった。

 

 東一局、ネリーの親番。

 開始早々、

「(宮永。何、ずっとこっちを見てる!)」

 ネリーは咲の視線に気が付いた。

 しかし、視線はネリーのほうを向いているが、特段プレッシャーは感じない。ただ、何か言いたげな感じがした。

「(協力して! ネリー!)」

 咲が心の中で訴えた。

「(何がしたいんだ? 宮永?)」

「(協力して!)」

「(見返りは何だ?)」

「(全員が平等になれるように配慮するから。だから、今は協力して!)」

「(何が言いたいのか分からない。ネリーに得はあるのか?)」

「(少なくともマイナスにはしない。それには、龍門渕さんの支配を壊さないと…。)」

 こっちも、まるでテレパシーで通信しているように見える。しかし、実は、互いに思っていることは聞こえていない。

 咲は、ただ協力を訴えているだけだったし、ネリーは、

『何が言いたい?』

『得はあるのか?』

 と心の中で言っていただけだった。

 しかし、何となくだが、ネリーは咲が言いたいことが理解できた。ヒントは、前半戦南二局三本場での、光の和了り。

 あれは、咲が自ら楯となり、透華の支配を一身に受けることで、光への支配を弱め、一方の光は、透華からの支配から外れたことで自分の能力をツモ一本に絞った。それで和了ったのだ。

 そこから導き出される答え。それは、三人が協力することで透華の支配力と対峙できると言うこと。

 

 ネリーは迷った。最終的に自分が損をするなら協力はできない。

 それに、今までは結託する他家を、ネリーは全て自分の力で捻じ伏せてきた。結託など弱者のすることと思っていたのだ。

 その立場を、ここで逆転させるのか?

 さすがにネリーのプライドに傷が付く。

 しかし、今のまま透華の支配を崩せなければ、東二局の透華の親で全員が平等に削られ続け、最下位の光のトビで終了となる可能性すらある。

 そうなれば、現在の順位がそのまま最終的な順位となる。つまり3位。

 しかも、その順位を確定させたのは自分。つまり、臨海女子高校内では、ネリーが優勝を逃した戦犯として認定される。

 さすがに、それは受け入れられない。

 ネリーにとって一番大事なことは、スポンサーである臨海女子高校からの自分への評価のみ。それがネリーに支給される奨学金に跳ね返るからだ。

 背に腹は変えられない。ネリーは渋々、

「(…分かった。)」

 と心の中で答えた。そして、咲と光と一旦手を組むことにした。

 

 咲、光、ネリーの支配が統合されて透華の支配力を押し始めた。しかし、そのような中でも、

「ツモ。1300、2600。」

 透華はツモ和了りした。

 ヘビのような冷たい目で笑みを浮かべながら透華は三人の顔を順に見詰めた。しかし、その表情には、前半戦ほどの余裕は感じられなかった。

 

 東二局、透華の親。

 ここでも三人がかりで透華の支配を押し返した。

 しかし、

「ツモ。2600オール。」

 まだ透華の力のほうが一枚上手なのか、ここでも透華が和了った。

 ただ、この時の彼女の表情は、さっきよりも、さらに辛そうに見えた。しかも、顔が、より一層青ざめてきていた。

 

 東二局一本場。

 三対一の能力対峙が続いた。

 静寂な場。河が穏やかなまま崩れない、全く鳴きの声が入らない対局。完全に透華の支配力が全てを上回っている証拠だ。

「ツモ。2700オール。」

 ここも透華が静かに和了った。しかし、彼女は既に肩で息をしていた。相当体力を消耗しているようだ。

 

 東二局二本場。

 ここでも、三人の支配力を上回り、

「ツモ。2800オール。」

 透華が和了りを決めた。しかし、既に彼女の身体は、行き着くところまで血の気が引いた状態にまで達していた。

 内臓損傷による大出血………、いや、大失血を疑いたくなるレベルだ。

 

 そして、東二局三本場。

 咲、光、ネリーの強力な支配力を押さえつけながら、

「ツモ。2800オール。」

 透華はツモ和了りを決めた。

 

 これで各校点数は、

 1位:龍門渕高校 189500

 2位:阿知賀女子学院 81600

 3位:臨海女子高校 80200

 4位:白糸台高校 48700

 

 しかし、三人から点棒を受け取ったその直後、冷たい目でニヤっと笑うと、透華は、そのまま気を失って卓に頭から突っ伏した。

 とうとう、治水の支配力が枯渇したのだ。

 三人の狙いが、ようやく成就した瞬間だった。

「全員、そのまま卓から離れないで!」

 審判の一人が、咲達にそう言うと、透華の近くに駆け寄った。そして、透華が完全に意識を失っていることを知ると、

「ドクター!」

 急いで医師を呼んだ。

 

 三分もしないうちに医師が対局室に入ってきた。そして、透華に話しかけたり肩を軽く叩いたりしていた。しかし、透華からは何の反応も返ってこない。

 その状態が一分程続いた。

 さすがに医師も、ドクターストップをかけようとした。そうなれば、当然、ここで透華を退室させて、龍門渕高校は補員と交代することを余儀なくされる。

 しかし、この時だった。

「どうかしましたの?」

 ギリギリのところで透華が目を覚ました。

 

 医師が、

「あなたの名前は?」

 と透華に聞いた。

「龍門渕透華ですわ? それがどうかしましたの?」

「これは、何本に見えますか?」

 そう言いながら、医師が自分の手でチョキを作り、透華に見せた。

「二本ですけど、それが何か?」

「大丈夫なようですね。特に辛くは無いですか?」

「少し疲れた感じはありますが、何の問題もありませんわ!」

 いつもの透華が戻ってきた。

 医師は、この様子から試合続行を許可した。

 ただ、透華は、自分が『冷たい透華』状態でエネルギーを消耗し、気を失ったことを恐らく覚えていないだろう。

 この対局が終わった後に、純と一から聞かされることになる。

 

 一方の咲は、

「(今のこの全員の点数って…、もしかして、あれをやるの楽勝じゃん!)」

 そんなことを考えていた。

 

 試合が再開された。東二局四本場、透華の連荘からだ。

 七巡目、咲は、

「(あれをやるには、まずここで…。)」

 そう心の中で呟きながら、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 この時、透華は安手だが聴牌していた。もっと手を高く伸ばしたいところはあったが、他家がリーチを宣言したのなら話は別だ。

「ロン。2000点の四本場は、3200点ですわ!」

 咲のリーチ宣言牌で透華が和了った。よって、このリーチは無効となり、リーチ棒は咲に戻された。

 

 これで各校点数は、

 1位:龍門渕高校 192700

 2位:臨海女子高校 80200

 3位:阿知賀女子学院 78400

 4位:白糸台高校 48700

 

 しかし、振り込んだ側の咲は、3位に転落したにもかかわらず、

「(準備完了!)」

 と心の中で言いながら、明るい表情をしていた。まるで、

『計算どおり!』

 とでも言いたげな感じさえする。

 

 東二局五本場。

 ここでは、序盤から、

「ポン!」

 咲が仕掛けた。光が捨てた{⑧}を鳴いたのだ。そして、次巡、

「カン!」

 {⑧}を加槓し、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {⑥}を暗槓した。さらに嶺上牌を引き、手牌が、

 {2233344}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{⑧⑧⑧横⑧}  ツモ{3}

 和了り形になった。しかし、和了りを放棄し、

「もいっこ、カン!」

 {3}を暗槓した。そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ!」

 咲は和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {2244}  暗槓{裏33裏}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{⑧⑧⑧横⑧}  ツモ{2}

 

「タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花。4500、8500!」

 これで長かった透華の連荘が終了した。

 

 東三局、咲の親番。

 ここでも、

「カン!」

 咲は{九}を暗槓し、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①②⑨⑨⑨11999}  暗槓{裏九九裏}  ツモ{③}

 

「ツモジュンチャン三暗刻三色同刻嶺上開花。8000オール!」

 親倍ツモだ。

 まるで、やりたい放題。

 

 そして、東三局一本場、咲の連荘。

 ここでも咲は、

「カン!」

 {②}を暗槓し、

「ツモ嶺上開花タンヤオ一盃口ドラドラ。6100オール。」

 親ハネをツモ和了りした。

 

 これで各校点数は、

 1位:龍門渕高校 170100

 2位:阿知賀女子学院 138200

 3位:臨海女子高校 61600

 4位:白糸台高校 30100

 

 続く東三局二本場。

 ここでは、

「カン!」

 咲は暗槓したが、嶺上牌で有効牌を引いただけで和了らなかった。そして、同巡で下家の光が、

「ツモ。平和ドラ4。3200、6200。」

 赤牌一枚と新ドラ三枚を含む手でツモ和了りした。結果的に、咲が点数を上げてくれたことになる。

 

 東四局、光の親。

 ここでも咲は、

「カン!」

 暗槓して、光に新ドラをプレゼントした。従姉妹想いだ。

 咲が動けば、どうしても透華は咲をマークしてしまう。そして、透華が咲の現物である{8}を捨てたところで、

「ロン! 平和タンヤオドラ4。18000!」

 光に和了られた。

 

 東四局一本場、光の連荘。

「カン!」

 ここでも咲は、光に新ドラをプレゼントした。前局、前々局と同じだ。そして、咲をマークした透華が捨てた牌で、

「ロン! タンヤオ三色ドラ3。18300!」

 またもや透華は、光に振り込んだ。これで二連続振り込みだ。

 

 東四局二本場。

 またもや咲は、

「カン!」

 懲りずに暗槓した。

 さすがに透華も、今度は、光への振り込みを回避しようと、光の現物を切った。しかし、

「ロン! 平和タンヤオドラ6! 16600!」

 今度は、その牌でネリーが待っていた。しかも、ドラ、赤ドラ、新ドラを合計六枚含む倍満手だ。今度は、咲がネリーにドラをプレゼントしていた。

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 132000

 2位:龍門渕高校 114000

 3位:白糸台高校 79000

 4位:臨海女子高校 75000

 随分と平らになってきた。しかも、100の位が全員0、つまり、1000点刻みの数字になっている。作為的なものを感じざるを得ない。

 

 南一局、ネリーの親番。

 ここは、

「カン!」

 咲は暗槓した後、

「リーチ!」

 嶺上牌で有効牌を引き、聴牌即リーチをかけた。

 透華は一発回避で咲の現物を切ったが、

「ロン! 平和ドラ5。12000。」

 その牌で、またもや、光が待っていた。しかも、今までと似たようなパターンで、ドラ一枚、赤牌二枚に、アタマが新ドラとなったハネ満の手だ。

 

 南二局、透華の親番。

 ここでも咲は、

「カン!」

 暗槓した後、

「リーチ!」

 嶺上牌で有効牌を引き、聴牌即リーチをかけた。前局と同様のパターンだ。ただ、この時、咲はネリーのほうを見ながら何かを訴えていた。

 ネリーも聴牌した。そして、

「リーチ!」

 追っかけリーチした。

 この局、透華は咲の和了り牌もネリーの和了り牌も持っていなかった。当然、透華からの振り込みは無い。しかし、咲が一発でツモってきた牌を捨てたところで、

「ロン!」

 ネリーが和了った。リーチ一発ツモならぬリーチ一発振り込み。まあ、これはこれで普通にある話だ。

 ただ、

「リーチ一発平和ドラ8。24000!

 ドラ、赤牌、槓ドラ、裏ドラ、槓裏を計八枚も含む三倍満だった。まるで玄の手のようだ。これは普通じゃない。

「宮永! 今度こそネリーが一気に逆転してやる!」

 目が覚めるような高い手を和了れて、ネリーは興奮状態だった。しかし、咲が、

「はい。」

 と明るい表情で点棒を渡してきた。

 ネリーは、この点棒を足した後の自分の点数を見て、

「(何だこれ? もしかして、こいつ!)」

 咲がやろうとしていることを理解し、急に大人しくなった。

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 106000

 2位:龍門渕高校 102000

 3位:臨海女子高校 100000

 4位:白糸台高校 92000

 

 南三局、咲の親。

 ここで咲は、光に、

「ロン! 8000!」

 満貫を振り込んだ。

 

 そして、オーラス、光の親番。ドラは{中}。

 この局、咲は、

 {二三四②③④⑤[⑤]23467}

 で聴牌したところからツモ{1}、打{4}と手を下げ、次巡で透華がツモ切りした{8}で、

「ロン! 平和赤1。2000。」

 安手を和了った。これで副将戦が終了した。

 

 この時点での各校点数は、

 1位:臨海女子高校 100000

 2位:龍門渕高校 100000

 3位:阿知賀女子学院 100000

 4位:白糸台高校 100000

 全て原点に戻った。順位は席順によるものである。

 

 咲は、恐るべき点数調整を行い、先鋒戦から副将戦までの全ての過程を無かったことにしたのだった。

 後半戦開始直後、ネリーに向けて心の中で訴えた通り、全員の点数を平等にしたと言える。

 

 これを目の当たりにして、臨海女子高校メンバーも、龍門渕高校メンバーも、白糸台高校メンバーも、これらの高校の監督もコーチ達も、全員が全身に鳥肌を立てていた。

 ただ一人、

「もの凄い偶然ですね。」

 オカルト否定派の原村和を除いては…。




おまけ
怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

(怜のセリフはエセ関西弁です。スミマセン。)

怜「それにしても、感性がオヤジみたいなうちと、下品ネタの爽でコーナーを持って大丈夫か思たけど、まあ一発やったるで!」

爽「いきなり『一発』って。」

怜「別に、そう言う表現を期待されとるんやから、ええやん。それで、何で爽は下品キャラにされとるん?」

爽「私は、咲-Saki- 13巻の17ページで『トイレは入れるとこじゃなくて出すところ』って台詞から、一部で下品キャラにされた感があるね。」

怜「でも、まあ、それで読者から愛されてるんやから、ええやろ。それより、爽は下品ネタで失敗したことってある?」

爽「モロチン…じゃなくてモチロン!」

怜「今の、ワザとやろ。」

爽「バレたか。まあ、失敗はあるよ。」

怜「どんなん?」

爽「よく、『非常に』とか『とても』って意味で『クソ』って言うことあるじゃん。テストで『クソ難しい』とか、何か面白くないことがあって『クソムカつく』とか。」

怜「あるなあ、それ。クソ真面目って言葉もあるしな。よくよく考えると、真面目にクソを語るんかって思うわ。」

爽「それでね、ある飲食店で満腹状態になって、つい言っちゃったんだよ。」

怜「クソ腹いっぱいとか?」

爽「それも、クソで腹が満たされているみたいでマズいけどね。でも、私さ、もっと直接的なこと言っちゃったんだよ。『ああ喰った喰った。クソ喰ったよ!』って。」

怜「それはマズイわ!」

爽「あと、『クソうまかった!』とも言っちゃって!」

怜「そっちの趣味の人か!」

爽「しかも、そこ。カレー専門店でね。」

怜「それはタチが悪いわ! 最悪や!」

爽「出禁になった。」

怜「当然やろ!」

爽「他にも、クソマズイとかクソ綺麗とかクソ汚いとか。」

怜「まあ、たしかにクソは『汚い』が一般やけどな。少なくとも『綺麗』は無いなあ。あと、『マズイ』も食べてる人みたいやで!」

爽「たしかにね。あと、私じゃなくて、誓子が、言うほうじゃなくて言われたほうでマズいことがあってさ。」

怜「何があったん?」

爽「思春期の男子ってさ、『Hなことしたくてたまらん病』にかかってるのいるじゃん。」

怜「いるなぁ、そう言うの。」

爽「それで、不良っぽい男子に、アレをさ、『クソしてえ!』って言われてね。」

怜「それじゃ、アレがしたいのかトイレに行きたいのか分からんなぁ。」

爽「そぅ。それで、誓子のやつ、『じゃあ、出しなよ』って言っちゃってさぁ。」

怜「それ、ヤバいやろ!」

爽「モチロンヤバイ! その場でその男子がズボンもパンツも脱いで、ナニを出して。」

怜「何を出したって?」

爽「だから、ナニを。漢字表記かカタカナ表記かで意味が変わるから面白い。まあ、それは置いといて、モチロン出したのはモロチンで。」

怜「そこに繋がるか(モロチン&モチロン)。それで、そのナニオ君の、いきり勃ったモロチンが誓子さんに迫ってきたってことやな。」

爽「まぁ、出しなよって言われたから出したってとこだろうけど…、危うく犯されるところだった。誓子は、『何するの?』って大声をあげたら、『ナニするんだよ! ヤラせてくれるんだろ!』みたいなこと言われてさ。まあ、私が雲とカムイで助けたけどね。」

怜「セーフやったんやな?」

爽「死守した。」

怜「そう言えば、そんな武器を持ってるんやったな。でも、その中の…パウチカムイか。それで誓子さんを絶頂状態にして夜な夜なHなことしてるって噂があるんやけど。」

爽「第160局が、それに拍車をかけたなぁ。単行本(16巻89ページ)では、私と誓子は別のコマになったけど、最初に掲載された時は、あれ、1コマになっていたからなぁ。裸で一緒の布団で寝てて。」

怜「せやな…。それで、そのパウチカムイをな。竜華に使ってみたいんや! それで膝枕したら、おもろいかなって。」

爽「大変なことになると思うよ。さすがに、あれは私もマズいと思って使わないからね。既成事実を作りたいんなら別だけど。」

怜「まあ、考えとくわ。」

爽「って、使う気か!」

怜「興味はあるわ。」

爽「そう言えば、怜は、どうしてオヤジキャラにされてんの?」

怜「膝枕ソムリエとか言うたからやないか?」

爽「どっちかって言うと、百合傾向な気がするけどね。」

怜「まあ、小学校の頃から普通の男子よりもイケメンで格好イイのいたし。」

爽「江口さん?」

怜「そう、セーラや。それから、西田記者でなくても、『この身体でランドセルを? 犯罪だわ!』って言いたくなる親友もいたしな。」

爽「清水谷さんな。」

怜「そうや。それで感覚がマヒしたんかもしれんな。竜華以上でないとイイ女に見えへんし、セーラ以上でないとイイ男に見えへん。」

爽「なるほどね。あとさぁ、清水谷さんに、よく膝枕してもらってるけど。」

怜「あれな。実は、単に膝枕してもろてるだけやなくて、うちの未来視のパワーを竜華の太ももに注入してんねん。」

爽「また、オカルティックなことを。」

怜「本当やで。」

爽「阿知賀編6巻に出てるから知ってるけど。実は、あれを咲ちゃんに使ったらどうなるのかなって思ってさ。そうしたら無敵じゃん?」

怜「多分、あんまり変わらんで。」

爽「何で?」

怜「咲ちゃんはな、靴下脱ぐと、牌が全部透けて見えてる可能性があるんや!」

爽「マジで?」

怜「1巻217ページで、既に『いつも牌がもっと見えてるのに…』って言うとるやん。これって、どの牌が何か、全部透けて見えてるってことやないか?」

爽「たしかに!」

怜「あとな、11巻101ページでも『…子供の頃の打ち方でしか見えなかったです…』って、これも、どの牌が何か見えてるってことやろ。」

爽「じゃあ、私は、こんな化物を相手に打たされてたってこと?」

怜「せやな。」

爽「たしかに、運の巡り合わせ次第では勝てる可能性はあるけど、でも、少なくとも、余程のことがなければ振り込まないだろうし、ロングスパンで打ったら、絶対に勝てないじゃん!」

怜「でもな、その余程のことをつくった人がおるねん。」

爽「末原さん?」

怜「そや。」

爽「あれはあれで凄いと思うよ。あれ? 真面目な話をしてるよ、私達。」

怜「ホントやな。結局、まだ爽の下品ネタ失敗談だけやな。」

爽「怜は、Hネタとか下品ネタで失敗したことって?」

怜「余りHとは言えへんけどな。膝枕ソムリエのほうでの失敗かな。世界大会で、みんなに膝枕してもろたやん。」

爽「たしかに。私もした記憶がある。」

怜「実は、春季大会をテレビで見ててな。竜華から、『咲ちゃんってどんな感じなん?』って聞かれてな。竜華は、咲ちゃんがどう言う子か聞いてたんやけど、そこで、ついつい膝枕ソムリエとしての総評をしてしもた…。」

爽「あらら…。」

怜「咲ちゃんは、全体的に細身で足も細いから膝枕はイマイチやったなとか、衣ちゃんも照も細かったとかやな。」

爽「他の人は? 私も含めて。」

怜「ええと、智葉は筋肉で硬かったとか、憩と爽はエエほうやったけど、なんと言っても慕監督が絶品やったから世界大会でも頑張れたんやでって言うてもうてな。」

爽「まあ、たしかに私も慕監督には負けるかな。」

怜「でも、その後、竜華に浮気者言われて大変やった。」

爽「あちゃー…。今は?」

怜「まあ、大丈夫や。で、さらに竜華との絆を深めるために、是非パウチカムイをつこうてやな。」

爽「そこに戻るのかぁ!」

怜「当然や!」

爽「うーん、このシリーズ、続くのかな?………」←何気に『うーん、こ…』


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二十三本場:再スタート

 実は、この時、偶然か必然かは分からないが、透華は{1}待ちで七対子ドラ2を聴牌していた。それ故の{8}ツモ切りでもあった。

 なので、咲が三色同順を捨てて手役を下げたのは、傍目には点数調整ではなく、{1}の振り込み回避と捉えられた。

 もっとも、単騎待ちを読み切るのは簡単な話ではないが…。

 

「まさか、ここでは全員が完全に原点に戻るとは! 恐るべき偶然です!」

 アナウンサー福与恒子の興奮した声が観戦室にこだました。恒子の目には、あの点数調整が、咲が打ち回した結果、たまたま起きたことのように映っていたのだろう。

 一方の小鍛治健夜プロは、

「偶然なら良かったのですが…。」

 と落ち着いた声でコメントしていた。さすが、日本最強の雀士。全てを理解していらっしゃる。

 

 対局室では、

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、ネリーは、

「宮永。次に会った時こそ、本当に白黒決着をつけてやる!

 お前もだ! ミナモ・ニーマン! 次に会った時こそ勝負だ!」

 とだけ咲と光に言い放つと、足早に対局室から出て行った。

 ネリーは一見、強気な姿勢を装っていたが、内心は結構、大打撃を喰らっていた。冷たい透華の支配力と咲の点数調整を、身をもって体験したのだから当然だろう。

 正直、この二人の能力は、尋常では無い。これらを目の当たりにして平然としていられるほうが、むしろ異常だろう。

 それで、急いでこの場から逃げたのだ。

 

 一方、光は、

「結局、咲の好きにされたか。」

 と呟き、咲は、

「でも、龍門渕さんの支配が凄かったから、ネリーが協力してくれなかったらどうしようって思っていたよ。」

 と言いながらホッとした顔をしていた。

 あのまま透華の支配が最後まで続いたら、大変なことになっていただろう。咲でさえ、透華の支配が途中で崩れ、心底助かったと思っていたのだ。

 

 さて、この時、透華はと言うと、自分でも理解出来ないくらい異常なほどに疲れ切っていた。これだけ身体が重く感じるのは、インターハイ前の四校合同合宿以来だ。

 あの時も冷たい透華状態で、衣と咲と藤田プロを相手に倒れるまで対局し続けた。

 透華は、何とか立ち上がると、フラフラになりながら出口に向かった。そして、丁度対局室を出ようとしたその時だった。

「透華。お疲れ!」

 純が迎えに来ていた。そして、

「あの化物どもを相手に、良く戦ったよ。もう動けないだろ。」

 と言って透華を抱え上げ、俗に言うお姫様抱っこした。

 長身の俺っ娘に品の良い(?)お嬢様の透華。ある意味、絵になる構図だ。

 とは言え、透華には少々恥ずかしい。

「ちょっと、純。何をなさいますの?」

「一先ず、医務室に向かう。少し休め。あとは衣に任せればイイ。」

「衣…。そうですわ。衣!」

「呼んだか、透華?」

 そこには、既に衣も来ていた。まあ、大将戦がこれから始まるのだから、当たり前なのだが…。

 純の陰に隠れて、たまたま透華の見えない位置に居たに過ぎない。

「衣。ここまで来たら、目指すは優勝ですわ!」

「分かっている。深山幽谷の化身や宇宙人(淡のこと)を相手にどこまでやれるか判らないが、全力を尽くす!」

 そう言うと、衣は不敵な笑みを浮かべながら卓に向かった。

 

 咲と光も、対局室を退室した。

 そして、咲は、穏乃と一緒に対局室前まで来ていた憧を見つけると、

「じゃあ、光、また後で。」

 と光に告げ、憧に連れられて控室に戻っていった。この方向音痴は早く治して欲しいものだ。

 穏乃は、そのまま無言で対局室に入室した。既に気合いは十分だ。

 光は、

「咲もね。」

 とだけ言うと、一人静かに控室へと向かった。

 

 途中で光は淡に会った。

「お疲れ、光!」

「ホント、疲れた。」

「結局、咲のほうが光よりも一枚上手だったってことかな?」

「そうだね。それに龍門渕の支配がキツかった。咲に聞いたことはあったけど、あれ程までとは思わなかったよ。」

「それにしても、全員100000点で大将戦スタートって、初めてだよ。」

「私も、本当に、ここまでピッタリ調整してくるとは思わなかったよ。でも、まあ、咲だからね。」

「そうだね。」

 このとてつもない点数調整が、

『咲だからね』

 で済んでしまうのも凄いところだ。それだけ、淡も光も、咲が異常なのを認めていると言うことだ。

「じゃあ、淡。後はよろしく。」

「任された!」

 そう言うと、淡は準備満タンの胸を揺らしながら対局室へと向かった。

 

 淡が対局室に入った時、既に臨海女子高校の大将も入室を済ませていた。

「(こいつが、長野で三番目に強い一年生だった奴!)」

 そう思いながら淡は、臨海女子高校の大将に視線を向けた。

 彼女の名は南浦数絵。秋季大会後に平滝高校から臨海女子高校に編入していたのだ。

 夏の県予選の段階では、数絵は、団体戦には興味がなかった。弱いメンバーに足を引っ張られても困るとの認識だったためだ。

 しかし、国民麻雀大会(コクマ)に長野ジュニアBチームのメンバーとして出場し、団体優勝を果たしたことで彼女の考えが変わった。

 コクマでの団体戦優勝は、想像していた以上に嬉しかったし、試合では自分自身、十分活躍できた。それに、メンバー達との交流も、これまで経験したことの無い楽しさがあった。全てが新鮮だった。

 それで、コクマの後、数絵は、団体戦に出たいと強く願うようになった。

 勿論、数絵自身、それが自分の我侭であることは重々理解していた。それで、彼女は、そのことを決して口に出そうとはしなかった。

 しかし、その心情を察した数絵の祖父南浦聡シニアプロが、自分の活躍の場を長野北部から他の地に変え、数絵が団体戦出場できる学校に転校させる決心をした。

 折角なら、インターハイチャンピオンの咲や『デジタルの化身』の和、『東風の神』こと優希と切磋琢磨できるほうが数絵のためになると聡は考えた。それで、まずは清澄高校への転校を企てた。

 しかし、清澄高校一年生トリオは、既に清澄高校を離れていた。それで聡は、都内に拠点を移し、数絵を臨海女子高校に転校させることにしたのだ。

 臨海女子高校麻雀部は、留学生を中心にチームを編成する。大会規定で日本人を置かなければならなくなった先鋒以外は、全員留学生で揃えるのが臨海女子高校の基本スタイルだ。これは、経営側からの判断だ。

 しかし、そのような環境下でも、数絵は得意の南場での稼ぎを見せ付けた。そして、校内ランキングで上位に食い込み、優希と共に堂々とレギュラー入りを果たしたのだ。

 留学生達も、数絵の力は認めている。監督のアレクサンドラが欲した優希以上の実力を持っていることを…。

 

 場決めがされた。

 起家が数絵、南家が穏乃、西家が衣、北家が淡に決まった。

 

 東一局、数絵の親。

 数絵、穏乃、衣の三人は、いきなり淡の背後に宇宙空間が広がるのを感じた。

 穏乃はインターハイで既に経験済みだが、数絵と衣は初めてである。さすがに、二人は驚きの色を隠せなかった。

「(絶対安全圏発動!)」

 しかも、淡の能力は、自分だけ手を軽くし、自分以外を全員五~六向聴にする。相手にとって、本当に厄介な能力だ。

 今回、淡の手は一向聴だった。

 淡は、

「ポン!」

 二巡目で数絵が捨てた{發}を鳴き、四巡目で、

「ロン! 發ドラ2。3900。」

 まだエンジンがかかっていない数絵から和了った。絶対安全圏内での早和了りである。

 

 東二局、穏乃の親。

 淡は、この局でも、

「チー!」

 二巡目で衣が捨てた{8}を鳴いて{横879}を晒し、四巡目で、

「ロン! チャンタ三色ドラ2。7700。」

 またもや数絵から和了った。東場が弱い数絵を、淡は狙い撃ちしているようだ。

 

 東三局、衣の親。

 衣は、

「他家を強制的に五~六向聴にして自分は軽い手にする力とは、それはそれで面白い。しかし、それだけで衣の支配に太刀打ちできるかな?」

 そう言うと一気に支配力を高めた。

 対する淡も絶対安全圏を発動する。

 たしかに、淡は二向聴、衣、穏乃、数絵の三人は五~六向聴だった。

 しかし、淡は、衣が捨てた牌を鳴いて一向聴になってから、一向に手が進まなくなった。これが衣の支配。

 穏乃と数絵は、配牌は悪いが、幸いにも手が進んだ。穏乃は門前で一向聴、数絵は衣が捨てた牌を、

「ポン!」

 鳴いて一向聴まで進めたが、ここからは、淡と同様に手が進まなくなった。

 誰も鳴かなければ、南家が海底牌をツモることになる。しかし、淡と数絵が鳴いたことで、海底牌をツモるのは衣になった。

 淡も数絵も、自分達が鳴いたことが衣の策略であることに気付いたのは、終盤になってからだった。衣は、自分に海底牌を回すために淡と数絵に鳴かせたのだ。

 ツモ牌をあと四枚残したところで、

「リーチ!」

 衣がリーチをかけた。一発を消そうにも誰も鳴けない。そして、

「リーチ一発ツモ海底撈月ジュンチャン一盃口。8000オール。」

 当然の如く、衣が海底牌でツモ和了りした。これが長野県大会で咲との頂上決戦を繰り広げた天江衣の力だ。

 

 東三局一本場、衣の連荘。

 淡は、この局も絶対安全圏を発動。

 当然の如く、衣も前局同様に強い支配力を見せ付ける。

 このような場に居合わせたら、殆どの人間がメゲるだろう。配牌は常に五~六向聴、その後、手は一応進むが、一向聴で止まってしまう。

 鳴いて聴牌に取ろうとしても、何故か鳴きたい牌が出てこない。

 そして、終盤に差し掛かり、とうとう、

「ポン!」

 淡が捨てた{東}を衣が鳴いた。これで、海底牌をツモるのは衣になった。

 なんとかツモをずらしたいが、淡にも穏乃にも数絵にも鳴ける牌が出てこない。

 結局、

「ツモ。ダブ東海底撈月ドラ3。6100オール!」

 前局と同様に衣に海底牌でツモ和了りされた。

 

 東三局二本場。

 ここでも、

「ポン!」

 衣が鳴いて海底牌を自分のツモ牌に変え、

「ツモ。海底撈月ドラ3。4200オール。」

 親満を和了った。三連続海底撈月。通常有り得ない光景だ。

 

 そして、東三局三本場も…。

「ツモ。海底撈月中ドラ3。4300オール。」

 衣が海底牌で親満を和了った。傍目には、完全なる異常事態だ。

 それでも、

「もの凄い偶然ですね。」

 で済ませられるところが、和の凄いところなのだろう。彼女は今、白糸台高校控室のテレビモニターを通して、この対局を見ていた。

 

 東三局四本場。

 この局では、中盤に差し掛かった頃、穏乃が敢えて出来面子を崩した。真っ向勝負していては衣の支配を逃れられないからだ。

 その捨て牌を、

「ポン!」

 淡が鳴いた。

 穏乃は、自分が手を進めるのを放棄し、衣の親を流すことだけを考えたのだ。これにより、淡が聴牌。そして、

「ツモ! 1000、2000の四本場は1400、2400!」

 淡が和了り、長い衣の連荘が終わった。

 

 東四局、淡の親。

 サイの目は7。最後の角の後の牌が最も多いパターン。

 ここで、とうとう淡が天下の宝刀(アホの娘、淡なので『伝家』ではない?)を抜いた。

「リーチ!」

 ダブルリーチだ。

 淡が暗槓するのは九巡目。

 衣も穏乃も数絵も、軒並み五~六向聴。

 いくら普通に手が進むとは言え、淡が暗槓する直前…八巡目の段階で聴牌できていたのは衣だけ、穏乃と数絵は二向聴だった。

「カン!」

 お決まりのパターン。淡が暗槓した。

 嶺上牌は、ツモ切り。

 そして、次巡、

「ツモ! 6000オール!」

 淡が親ハネをツモ和了りした。

 

 東四局一本場、淡の連荘。

 サイの目は2。最後の角からのツモ牌は、サイの目が7の時に比べれば短いが、決して少なくは無い。

「リーチ!」

 淡は、ここでもダブルリーチをかけた。

 最後の角の直前で、

「カン!」

 淡が暗槓した。

 嶺上牌は、当然ツモ切り。淡に嶺上開花の能力はないし、淡が和了るのは角を超えてからになる。

 しかし、丁度この辺りから、卓上に靄がかかってきた。穏乃の能力がいよいよ発動したのだ。

 そして、その三巡後、淡が切った牌で、

「ロン。タンピンドラ2。7700の一本場は8000。」

 穏乃が和了った。

 

 衣も淡も、ここからは穏乃の独壇場になるかと思った。

 しかし、起家マークが東から南に変えられたその瞬間、温かい一陣の風が卓上を吹き付け、穏乃が作り出した靄を消し飛ばしてしまった。

「南入です。」

 南風を吹かせた張本人である数絵は、そう言うと自信に満ちた表情でサイを回した。

 

 南一局、数絵の親番。

 淡の絶対安全圏を受け、配牌五向聴でありながらも、数絵は五巡目には一向聴になり、さらに衣の支配を受けながらも、六巡目には聴牌した。そして、

「リーチ!」

 数絵は先制リーチをかけた。これが南場で鬼神と化す数絵の力だ。

 次巡、

「一発ツモ裏2。4000オール。」

 当たり前のように数絵が和了った。しかも、アタマが裏ドラになった。リーチのみの手が満貫に変わるところが恐ろしい。

 

 南一局一本場、数絵の連荘。

 ここでも、

「リーチ。」

 数絵は順調に聴牌し、先制リーチをかけた。

 南場なら、数絵はリーチ即ツモ和了りできる自信があった。しかし、この局は、一発目は無駄ツモだった。

 次のツモも和了り牌では無い。

 そして、三巡後、

「ツモ! リーチツモ赤1裏2。4100オール。」

 数絵は親満をツモ和了りした。

 ここでも、アタマが裏ドラになった。

 ただ、本来ならば一発が付いてハネ満のつもりだったのだが、何者かの力によって一発ツモがキャンセルされた。数絵には、良く分からないが、そんな感覚があった。

 

 南一局二本場。

 数絵の支配はまだ続く。

 ここでも、

「リーチ。」

 数絵がリーチをかけた。

 しかも、今回はメンピン赤1の手。ツモ和了りで、しかもアタマが裏ドラになれば親ハネになる。

 ここでも、前局と同様に一発ツモはなかった。

 そして、四巡後、

「ツモ!」

 いつもより巡目は遅いが、数絵はツモ和了りした。ただ、裏ドラをめくって驚いた。裏ドラが一枚も乗っていなかったのだ。

「メンピンツモ赤1。2800オール。」

 何かがおかしい。

 いつもと違う。

 数絵は、そう思わざるを得なかった。

 そう言えば、卓上に、うっすらと靄がかかっている。数絵の南風で吹き飛ばしたはずの靄が復活してきたのだ。

 

 南一局三本場。

 数絵は、この局も衣の支配を跳ね除けて聴牌した。

 いや、本当にそうなのだろうか?

 衣には分かっていた。本当は、穏乃の能力で衣の支配が全体的に弱められたことで数絵は聴牌できていたに過ぎないのだ。

「リーチ!」

 数絵の手は、ここでもメンピンドラ1。いつものように一発ツモで、しかも裏ドラが乗れば親ハネ以上になるはずだ。

 しかし、やはり一発では和了れなかった。

 結局、

「ツモ。」

 和了るまで五巡かかった。

 裏ドラをめくると、やはり前局同様に裏ドラは一枚も乗っていなかった。

「2900オール。」

 気が付くと、靄が益々濃くなっていた。数絵は、妙に視界が悪く感じ始めた。

 

 この時点での各校点数は、

 1位:龍門渕高校 145600

 2位:臨海女子高校 99800

 3位:白糸台高校 89400

 4位:阿知賀女子学院 65200

 衣の活躍で、2位以下に大きく点差をつけ、龍門渕高校がダントツ1位だった。一方、阿知賀女子学院は一回和了っただけで、他家に大きく引き離されていた。

 

 南一局四本場。

 数絵は、

「(こんな、訳の分からないものに負けてたまるか!)」

 穏乃の支配によって発生する靄を振り払うように、

「リーチ!」

 この局も攻めた。

 しかし、その直後、

「ツモ。2000、3900の四本場は、2400、4300です。」

 とうとう深山幽谷の化身…穏乃が和了った。阿知賀女子学院が誇る魔物が本格的に動き始めた瞬間だった。




おまけ
怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

(怜のセリフはエセ関西弁です。スミマセン。)

怜「以前、塞が言った『たけむらたつや』やけど。」

爽「逆から読んだら『ヤったらムけた』ってやつ?」

怜「せやけど、あれって、絶対におる名前やん!」

爽「そうなんだよね。少なくとも旗手と競輪選手に竹村達也って方がいるからねぇ。逆から読んだらそうなるパターンがマジで存在するのかって思ったよ。キラキラネームでもないじゃん。普通の名前じゃん!」

怜「せやけど。でも、他にも、普通の名前と思ったら実はマズいっのてあるんかな思て。」

爽「逆から読むとかじゃなければ、『中田紫奈乃(なかだしなの)』とか? 男なら中田獅子丸(なかだし しまる)。」

怜「今の時代、獅子丸はないやろ!」←あります

爽「さあ、どうだろ?」

怜「でも、絶対におるやろ。結果的に弄られる名前。別にキラキラネームでもないし、親は真面目に考えた名前やのにな。」

爽「そう言えば、女の子のキラキラネーム扱いのやつで、春の歌って書いて『春歌(はるか)』って名前があってね。」

怜「いい名前やん。でも、それが何でキラキラなん?」

爽「もともと、『春歌(しゅんか)』って言葉があってね。それが、わいせつな歌詞を含む音楽のことを言うらしくてさ。」

怜「そんなん知らんわ。」

爽「でしょ?」

怜「でも、そう言うんがあると、将来、自分の子供が生まれたとしてや。その子の名前を考えるのにプレッシャーかかるわ。真面目に考えてんのに、実は違う意味持ってましたってなってもな。」

爽「だったら、いっそのこと開き直って、最初から『キラキラです!』って宣言するとかね。」

怜「そのほうが無難な気もしてきたから怖いわ。」

爽「まあ、名前のことはこれくらいにして、今日は、前回に続いて、
『クソ〇〇』で使っちゃマズいやつを考えてみようコーナー!」

怜「なんちゅうコーナーや!」

爽「つまり、『非常に』とか『とても』って意味で『クソ』を使うことあるけど、実際に使っちゃマズいパターンを考えてみようってコーナー。」

怜「意味は分かるけど。でも、前回、爽が言った『クソ喰ったよ』と『クソうまかった』を超えるのは無いんちゃうか?」

爽「それを考えてみようってこと。普通に使うのだと…『クソデカイ』とか?」

怜「単にデカイクソなだけや!」

爽「クソいっぱい出た。」

怜「何がいっぱい出たんか分からんな!」

爽「怜も何かない?」

怜「クソ硬い。」

爽「何が硬いのか分からないね。便秘かな、それ? 他には?」

怜「クソ血が出てた。」

爽「痔だね、それ。」

怜「クソ痛い。」

爽「それも痔か便秘だね!」

怜「あとは…、ガス漏れでクソくさいとか。」

爽「なんのガスか分からないね、それ。」

怜「おならのつもりやなくても、おならと思われるやろな。」

爽「おならといえば、急に話が飛ぶけど、食虫植物でサラセニアってあるんだけど、あれって『ヘイシソウ』って言うらしいね。」

怜「屁ぇしそう?」

爽「言うと思った。『瓶子草』って書くらしい。黄色い花が付くサラセニアのことをキバナヘイシソウとか。」

怜「黄ばんだ屁ぇしそうみたいで嫌やな。」

爽「虫を取るために筒みたいになった葉のことを瓶子体とか瓶子葉とか言うらしい。」

怜「屁ぇしたいとか、屁ぇしようとか、なんやそれ?」

爽「まあ、もうちょっと考えて欲しいところはあるよね。ちょっと脱線しちゃったけど、話を元に戻すね。クソなんとかで…、ええと、クソ大好きとか。」

怜「言うやついるんか? それ?」

爽「いたらヤバイね。いそうだけど…。それから、クソ眠いじゃ面白くないから…、クソイイ匂い。」

怜「それはイヤやな。さすがにイイ匂いは、せえへんやろ。」

爽「クソ気持ちイイは?」

怜「触れて気持ちイイんか、出したから気持ちイイんか、それが分かれ目やな! そうそう、気持ちイイって言えば、パウチカムイは、やられたら気持ちイイんか?」

爽「気持ちイイを通り過ぎるかな。殆ど、第179局の鶴田さんみたいになるかな。カラーページまで使って、サービス精神旺盛だよね、あれ。」

怜「たしかにな。あれって死ぬほど気持ち良さそうやけど…。でも、あんな描写があって、本誌が有害図書にならんか心配や。」

爽「昔、ユリア100式って漫画があってね。神奈川県では有害図書になったんだけど。」

怜「どう言う漫画?」

爽「ある女性型ロボットが主人公の話なんだけどね。」

怜「SFか? 地球を守るとか? 正義の味方とか?」

爽「それがさ、その主人公…自律型の高性能ダ〇チワイフなんだよ。」

怜「なんやて?」

爽「高性能ダッチワ〇フ。自我があって見た目も人間。周りの人達は人間って思い込んでいる設定。まあ、正義の味方と言うよりも、『性技のみの方』って感じ。」

怜「それは有害図書でも仕方ないやろ!」

爽「でも、今後、AIが発達して、ロボット技術も進んだら、ユリア100式みたいなのが誕生してもおかしくないんだろうね?」

怜「そしたら、今、素人童貞なんて言葉があるけどな。高性能ダッチ〇イフしか経験したことのない『人間童貞』なんて言葉も出てくるかも知れへんな。」

爽「たしかに!」

怜「まあ、うちらには関係あらへんけどな。話を戻すで。クソキツイ。」

爽「うーん。これも便秘か? って思ったけど…。」

怜「イマイチヤな。」

爽「クソはやい。」

怜「下痢か? でも、それもイマイチやな。クソ怖い。これもイマイチや…。じゃあ、クソ舐められた!」

爽「直接お尻にとか?」

怜「それ、某漫画で、週刊誌のほうでは、そんな描写あったって話やで。単行本になったら削除されとったそうやけどな。」

爽「先を越されたか!」

怜「咲だけにな。」

爽「じゃあ…、クソ高価。」

怜「そんなもんあってたまるか!」

爽「クソ長い。」

怜「一回で、きちんと流れへんやろ、それ。」

爽「やっぱ難しいな。ええと、結論として、『クソ喰った』と『クソうまかった』を超えるモノは、ちょっと私達には考え付かないってことかな?」

怜「せやな。」

爽「ということで、お下品コーナーでした!」

怜「タイトル変わってるやろ! でも、次もあるんか、これ?」


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二十四本場:深山幽谷

 南二局、穏乃の親番。

 卓上にかかる靄が、次第に濃くなって行く。

 淡は、

「(絶対安全圏発動!)」

 能力を全開にした…はずだった。

 しかし、淡の能力はキャンセルされ、淡以外の面子の配牌から強制的な五~六向聴が消えた。絶対安全圏が発動しなくなったのだ。

 それと同時に、衣の支配による一向聴地獄も起こらなくなった。

 また、衣は他家の手の高さと和了り牌を察知する能力を持っているが、これも穏乃の支配が強まった今、機能しなくなった。

 その結果、

「ロン。タンピンドラ2。11600。」

 穏乃の親満級の手に衣が振り込んだ。

 

 南二局一本場、穏乃の連荘。

 ここでも絶対安全圏は不発。

 衣の一向聴地獄も機能しなかった。

 誰が聴牌していて、その手の高さはどれくらいで、和了り牌は何で………、やはり衣には、これらが一切分からなかった。

 そして、この局も、

「ロン。18300。」

 衣が、まるで吸い込まれるように穏乃に振り込んだ。

 

 このままではマズイ。

 衣は、後先考えずに能力を最大値まで引き上げることにした。とにかく今は、穏乃の連荘を止めることが最優先だ。

 そして、始まった南二局二本場。

 長野の超魔物…衣のフルパワーでの支配は、穏乃の能力によって打ち消されることはなかった。しかも、衣は南家。誰も鳴かなければ海底牌をツモるのは衣になる。

 衣支配による一向聴地獄が復活した。

 他家は、鳴いて手を進めようにも鳴ける牌が出てこない。

 そのまま、ラスト一巡に突入した。

「リーチ!」

 衣がリーチをかけた。しかも、ツモ切りリーチだ。そして、

「リーチ一発ツモ海底撈月ドラ2。3200、6200。」

 当然の如く衣がツモ和了りした。

 ただ、リーチ一発ツモ海底撈月のパターンでありながらハネ満止まり。普段の衣なら、さらに役があってもおかしくはない。

 これが、今の衣の限界だった。

 あくまでも衣の支配が穏乃の支配を一瞬上回っただけで、穏乃の支配を打ち消しているのではないのだ。

 つまり、衣は和了れたが、穏乃の能力に干渉されて、ハネ満手までしか作ることができなかった。

 まあ、それでもハネ満なのだから、世間一般的には十分高い和了りではあるのだが…。

 

 一先ずこれで、穏乃の親を流した。

 次は南三局、衣の親番。

 しかし、衣は前局で能力を大量に放出し、既に支配力は無い。少し休憩すれば力が戻ってくるが、対局を中断することは出来ない。

 衣は、ここでの連荘は諦めていた。

 それに、聴牌察知能力も使えない。衣は、普通の人間と同レベルで聴牌気配を察知するしかなかったし、和了り牌も、相手の捨て牌から読むしかなかった。

 とにかく振り込み回避。

 しかし、

「タンヤオツモドラ2。2000、3900。」

 穏乃にツモ和了りされた。ただ打ち回すだけでは、深山幽谷の化身と化した穏乃の和了を阻止することは出来ないのだ。

 

 オーラス、淡の親番。

 この局も穏乃によって支配された。しかも、もっとも靄が濃くなる局である。妙に視界が悪く感じる。

 南場が得意なはずの数絵も、現状に違和感を覚えていた。

 何故か和了れない。それ以前に、南二局に入ってから聴牌が出来ない。

 このような経験は生まれて初めてだ。咲との対局でも、南場でここまで手が進まなかったことは無い。

 そして、とうとう、この局は、

「ロン。タンピンドラ2。7700。」

「えっ?」

 南場に絶対的な自信を誇っていた数絵が穏乃に振り込んだ。さすがに数絵も、驚愕の表情が隠せないでいた。

 これで前半戦が終了した。

 

 各校点数は、

 1位:龍門渕高校 122000

 2位:阿知賀女子学院 114600

 3位:白糸台高校 81800

 4位:臨海女子高校 81600

 龍門渕高校は1位をキープしたが、東三局三本場の167800点からは大きく後退した。臨海女子高校は、最後の振り込みで、たった200点差だが4位に転落した。

 阿知賀女子学院は、一時は65200点まで点数が落ち込んだが、そこから見事に2位まで浮上した。

 

 休憩に入った。

 

 衣は、一旦対局室を出て自販機に向かった。支配力を取り戻すための糖分補給だ。

 

 淡も対局室を出た。そして、控室に戻り、少し菓子を摘んでエネルギー補給する。ベクトルは衣と一緒だ。

 

 数絵は、トイレに向かった。用を足すためではない。気合いを入れ直すため、顔を洗いたかったのだ。

 

 穏乃は、卓に付いたまま目を閉じていた。

 対局室に憧が入ってきた。本当は、咲も一緒だったのだが、途中でトイレに寄ると言い出したので、やむを得ず憧は一人で穏乃のところに来ることにした。

 休憩時間が終われば憧は入室させてもらえない。それで、時間軸優先で咲をトイレに置いてきた、と言うところだ。

 こうなると、咲が迷子にならないか心配だが、そうならないように憧はスマホで玄に連絡してトイレに向かってもらっていた。

「シズ!」

「アコ、来てくれたんだ。」

「1位とは7400点差だし、ワンチャンスだね。」

「うん。でも、天江さん強いし、逆転できるかどうかは分からないけどね。」

 そう言いながらも、穏乃の表情は自信に満ち溢れていた。

「(まるで、インターハイ準決勝の時みたい…。あの時も休憩時間はこんな感じだった。多分、これなら大丈夫だね。)」

 憧は、穏乃の様子を見て、

『これならイケる!』

 と強く感じていた。

 

 その頃、トイレでは、

「憧ちゃん、どこぉ~。」

 置き去りにされた咲が、一人で涙目になっていた。これでも、卓上では最強生物のはず………なのだが………。

 どうやら、数絵が向かったトイレとは別のトイレのようだ。他には誰もいない。シンと静まった空間だ。

 数分後、ここに、

「咲ちゃんは、ここかな?」

 玄が入ってきた。

「玄さん!」

 不安の涙が、一転して嬉し涙に変わった瞬間だった。

 

 そうこうしているうちに休憩時間も終わり、対局室に衣、淡、数絵の三人が戻ってきた。一方の憧は、審判から退室を命じられた。

 

 場決めがされた。

 後半戦は、起家が数絵、南家は衣、西家が淡、北家が穏乃になった。

 衣は、

「(よりによって深山幽谷の化身がラス親か…。)」

 この席順に不安の色が隠せなかった。

 穏乃の支配は、オーラスが最強になる。しかも、ラス親ならば、オーラス一回で1位を目指す必要はない。連荘を視野に入れられる。

「(杞憂で終わればイイが…。)」

 しかし、その一方で衣は嬉しくもあった。簡単なゲームで勝っても面白くない。拮抗する相手がいてこそ楽しいゲームになるのだ。

 

 数絵がサイを回し、東一局がスタートした。

 サイの目は7。

「(絶対安全圏発動。)」

 この局は、前半戦の東場と同じで、淡以外は全員軒並み五~六向聴であった。

「リーチ!」

 ここに、淡がダブルリーチをかけてきた。しかも、サイの目が7だから、最後の角から後が最も長いパターンだ。

 誰も鳴かぬまま九巡目…角の直前に到達した。ここで、

「カン!」

 淡が暗槓した。そして、次巡、

「ツモ。ダブリーツモカン裏4。3000、6000!」

 淡が和了った。

 

 東二局、衣の親。

 サイの目は8。最後の角が最も深いパターンで、これでは淡が和了りを狙える牌は海底牌とその前の牌の二枚しかない。いや、暗槓が入れば一枚減る。つまり、海底牌しかない。

 さすがに、淡はダブルリーチを見送った。

 一方、衣は、

「(今は、臨海を狙うのが確実か!)」

 勝利を目指して点数を稼ぎにでた。ターゲットは東場が弱い数絵。

 絶対安全圏が発動する中、衣は、他家には一向聴地獄を課しながら六巡で聴牌し、

「ロン。12000!」

 同巡で数絵が切った牌で和了った。

 

 東二局一本場、衣の連荘。

 ここでも六巡目で数絵が切った牌で、

「ロン。12300!」

 衣が和了った。

 

 各校点数は、

 1位:龍門渕高校 143300

 2位:阿知賀女子学院 111600

 3位:白糸台高校 93800

 4位:臨海女子高校 51300

 数絵も淡も焦り出した。このまま衣に走り続けられたら巻き返せない。

 一方の衣は、数絵と淡の胸中を読み取っていた。

 

 そして、東二局二本場。

 衣は、

「ロン! 18600!」

 中盤に、今度は淡が切った牌で和了った。淡は焦る余り、捨て牌が甘くなっていた。そこを衣に狙われたのだ。

 淡は、

「(こんなっじゃダメだ。落ち着かないと…。)」

 そう思って深呼吸した。このままでは衣の餌食にされるだけだ。

 

 東二局三本場。サイの目は7。

「(ここだ!)」

 淡は、能力を全開にした。そして、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 最後の角の後が最も長い山の切れ方。ここが勝負どころだ。

 絶対安全圏により、他家は全員六向聴。聴牌までの道程は最短で六巡。通常は、もっとかかるはずだ。

 しかも、衣の支配で数絵と穏乃は聴牌できないし鳴けないはず。

 そして、迎えた九巡目…角の直前、淡は、

「カン!」

 暗槓し、次巡、

「ツモ。ダブリーツモカン裏4。3000、6000!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 東三局、淡の親番。

 サイの目は10。これだと、最後の角の後のツモ牌は六枚のみ。

 ダブルリーチをかけるには不利なパターンだ。

 淡は、東二局と同様、ここでもダブルリーチを見送った。

 絶対安全圏で数絵、衣、穏乃の配牌は六向聴。

 しかも、衣の支配がそこに加わり、数絵と穏乃は、何とか一向聴まで辿り付けたものの、そこから聴牌することはできなかった。

 一方、衣は、

「ポン!」

 中盤で穏乃が捨てた{北}を鳴いた。これで、海底牌は衣に行く。

 そして、

「ツモ。北海底撈月ドラ4。3000、6000!」

 通算六度目の海底撈月。

 

 これで、各校点数は、

 1位:龍門渕高校 167600

 2位:阿知賀女子学院 105300

 3位:白糸台高校 82100

 4位:臨海女子高校 45000

 通常ならば逆転不能と言えるほど、龍門渕高校が圧倒的にリードした。

 しかし、それでも衣は安心できなかった。次は東四局。そろそろ穏乃の能力が覚醒するからだ。

 

 東四局、穏乃の親番。

 サイの目は7。淡にとって、ダブルリーチの絶好のチャンス。

 ただ、卓上には靄がかかってきていた。しかも、前半戦よりも後半戦のほうが穏乃の支配は強い。

 まだ、絶対安全圏は健在だ。

 しかし、本気になった淡の配牌が一向聴にされている。

 そこに衣の支配も加わる。淡は一向聴から先に進めないでいた。

 数絵も同様だ。六向聴から何とか一向聴まで手を進めたが、そこから一向に聴牌できる気配がない。

「チー!」

 中盤で衣が数絵の捨て牌を鳴いた。これで、海底牌は衣がツモることになる。

 しかし、終盤になってさらに靄が強まり、衣の能力がキャンセルされた途端、衣は穏乃の和了り牌を掴まされた。

 しかも、これが和了り牌であることを読み取れなくなっていた。それで、そのまま衣は穏乃の聴牌に気付かずに、ツモ切りして、

「ロン。平和タンヤオドラ2。11600。」

 穏乃に放銃してしまった。

 

 東四局一本場、穏乃の連荘。サイの目は7。

 今回も、淡にとってダブルリーチの絶好のチャンス…だったはずなのだが…、ここでも淡の配牌は一向聴に下げられていた。淡が本気で支配しようとしても、その能力………ダブルリーチの能力がキャンセルされている。

 思えば、前局よりも靄が濃い。穏乃の支配がさらに強くなった証拠だ。

 淡以外の面子の配牌が四向聴になった。絶対安全圏までもが崩れ出している。

 衣の支配も弱められている。

 ここでも衣は、

「ポン!」

 数絵の捨て牌を鳴いて海底牌に向けてコースインした………はずだった。しかし、念願の海底牌にまでたどり着くことは無かった。

「ツモ。4000オール。」

 海底牌直前で、タンヤオツモドラ2の3900オール…一本場で4000オールの親満級の手を、穏乃に和了られてしまった。

 

 各校点数は、

 1位:龍門渕高校 152000

 2位:阿知賀女子学院 128900

 3位:白糸台高校 78100

 4位:臨海女子高校 41000

 次に親ハネをツモられたら、龍門渕高校は阿知賀女子学院に逆転される。いや、親満でも連荘で二度和了られたら他家の放銃でも逆転されてしまう。

 衣は、

『ここで穏乃の親を流さなければ負ける!』

 と感じた。

 ならば、次は前半戦南二局二本場と同じで、フルパワーで行くしかない。南場で戦う力を温存しようなど考えている余裕は無い。

 

 東四局二本場。

 ここで、衣は全能力を使い果たすつもりで支配力を高めた。

 覚醒し出した穏乃までもが一向聴地獄から抜け出せないほどだった。そして、終盤を迎えた時、

「チー!」

 衣が数絵の捨て牌を鳴いた。これで海底コースにコースイン。そして、

「ツモ! 海底撈月タンヤオドラ3。2200、4200。」

 渾身の力を振り絞って穏乃の親を流した。

 

 各校点数は、

 1位:龍門渕高校 160600

 2位:阿知賀女子学院 124700

 3位:白糸台高校 75900

 4位:臨海女子高校 38800

 これなら、この後、穏乃に三連続で満貫を和了られてもオーラスさえ流せれば衣達が優勝できる。勿論、衣が振込まないことが前提だが…。

 衣は、ここからはオーラス開始まで能力回復のため様子見に回ることにした。

 

 南入した。

 数絵が起家マークを東から南に変えた途端、強烈な温風が卓上に吹き荒れた。前半戦でも南入りした時に風が吹いたが、その時よりもさらに強烈だ。

 前半戦より後半戦のほうが強くなるのは、穏乃の能力だけでは無いらしい。数絵の能力も同じ傾向があるようだ。それで、この強風が生み出されたのだろう。

 これによって、穏乃の山支配の象徴である靄が、卓上から完全に吹き飛ばされ…、掻き消されてしまった。

 まるで、快晴…全てが晴れ渡って見える。

「(ここから一気に逆襲して見せる!)」

 数絵は、気合いの入った顔でサイを回した。




おまけ
怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

(怜のセリフはエセ関西弁です。スミマセン。)

怜「前回と前々回はお下品コーナーやったけど、まだ続くんか、これ?」

爽「今回まで、何とか持たせて欲しいと言う意向があるらしいね。次回からは個人戦裏話みたいなのになる予定だから。」

怜「でも、もうお下品ネタは無いで。実は、うち、そんな下品な女やないし。」←嘘

爽「私も、そんなに下品ネタに溢れているわけじゃないからね。」←同上

怜「ほな、今回は別視点で好き勝手やらせてもらうことにせえへんか?」

爽「そうだね。でも、何か取っ掛かりのテーマが欲しいな。前回だと、クソ○○ってのがあったけど。」

怜「言い忘れとったけど、『クソうるさい』なんてのもあるな。」

爽「クソにうるさい奴? クソにウンチク言うウンチ君?」

怜「でもな、下品なことでも大事なもんあるで。例えば、トイレの神様!」

爽「そんな歌あったね。」

怜「でも、うちが言いたいんは歌のほうやなくて、便所の神様、厠神や。誰かが厠神にならなければならないところ、自ら引き受けたっちゅうエライ神様や。」

爽「神様の世界でもあるってことだね。他人がやりたがらないことを率先してやるって。」

怜「せやな。よく先生が、『他人が嫌がることをやりなさい!』って言うてたな。ただ、これって、他人が『嫌や、やめて!』言うてることを率先してやるイジメっ子になりなさいって言われてるみたいに勘違いしそうやな。」

爽「たしかにそうだね。じゃあ、今回は勘違いしそうなモノを考えてみようか?」

怜「なるほどな。じゃあ…『クリ〇リス』って…。」

爽「いきなり、そっち行ったか!」

怜「うちらの年なら、これが女性器についてるもんって分かるけど、幼稚園児に言ったら、栗&リスにしか思えへんな。どう考えても、栗持ってるリスやで。」

爽「たしかにね。じゃあ、未通女(おぼこ)なんか、小学生低学年からすれば、横断歩道とか踏切を渡れないでいる女ってことになるのかな?」

怜「そんなもんかも知れへんな。」

爽「そうそう。さっきの『クリ〇リス』なんだけど、『クリトリ〇』って書いた場合、〇に入るのは何かってやつ。」

怜「スしかないやろ。」

爽「それが、アも入るんだよ。クリトリアって植物があってさ。」

怜「なんか、イヤラシイ名前やな。」

爽「青い花を咲かせるんだけど、バタフライピーとか言われてて、その花で入れたハーブティーをアンチャンティーって言うんだ!」

怜「あんちゃんって、兄ちゃんのことか?」

爽「言うと思った。青いハーブティーで、レモン汁とか入れると赤くなるやつ。」

怜「おお! 昔、名探偵コナンでもやってたやつやな!」

爽「そうそう。まあ、色が変わるハーブティーがあるよって話なんだけどね。そう言えばさ、江戸川コナンは江戸川乱歩とコナン・ドイルから付けた名前じゃん。」

怜「せやな。」

爽「でも、コナン・ドイルって、小学生だったら絶対にコナン・ドリルと勘違いするんじゃないかな?」

怜「コナンの片手がドリルになって、悪いやつらを成敗する。それはそれで怖いな。悪者の身体に穴が開くで! 内臓飛び散る…ウゲ………。」←自分で言って気持ち悪くなった

爽「あと、〇に何が入るって問題で、S〇Xとした時に、〇に入るのは?」

怜「まず、Eやな。それから、AとOとIやな。ただ、Uは入らんな。」

爽「一応、Uもあるみたいだけどね。sucksの略語スラングで。他は?」

怜「もう無いやろ!」

爽「実は、Fも入るんだな、これが。」←S〇Xの〇に入るのは、略語を含めると実は他にも沢山あります

怜「おお! SFXか!」

爽「なんか、どんどん話が飛んでくな。」

怜「まあ、フリートークでええやろ。でも、少し前に話を戻すけどな、コナンは最後に蘭ちゃんと結婚するんかな?」

爽「それが王道じゃない? 一応、互いに付き合うことを宣言したし。」

怜「それやと、哀ちゃんはどうなるんや! 哀ちゃんこそ、ええパートナーやんか。事件解決に向けて内助の功っちゅうか…。」

爽「まあ、分かる気がするね。」

怜「うちは、コ哀派(コナン&哀派)やで!」

爽「私はコナン&蘭派かな。でも、どっちかと結婚させたら、もう片方の派が嫌がるだろうから、ここは両取りと言うことで…。」

怜「昔、スクールランブルであった、お子様ランチ派か?」

爽「お子様ランチ派は、播磨&愛理の旗派と播磨&八雲のおにぎり派のどっちでも良い派だからちょっと違うかな。ここは、やっぱりコナンが、コナンと新一に分離してハッピーになるのがイイかな。」

怜「でも、どうやって分離するん?」

爽「哀ちゃんと博士で、そんな風になる薬を作ってさ…。幼児化する薬が出てくるくらいだから、そこまで最後はブッ飛んでもいいじゃん!」

怜「おお! その展開に一票や!」

爽「まあ、マッドサイエンティストが出てきた段階で何でもありな気がするけどね。でも、哀ちゃんがコナンとくっつくと、博士の下の世話は誰がやるんだろ?」

怜「それこそ、博士がユリア100式を作れば済む話や!」

爽「そっち来たか! 話は、前回からきちんと繋がってるってことだね?」

怜「せやな。」

爽「でも、もし自分が幼児化したらどうする?」

怜「竜華に育ててもらうかな。でも、それやと年が離れてまうな。竜華も一緒に幼児化してもろて、一緒に小学校低学年からやり直すってのはどうや?

爽「清水谷さんね。」

怜「実は、竜華と会ったんは小五の時でな、どの段階で竜華のオモチがああなったか、うちは知らへん。その過程を見てみたい気がするわ。爽はどうしたいん?」

爽「なら私も、由暉子と一緒に幼児化して、どの段階で由暉子のオモチがああなったか見てみたい!」

玄「(突然乱入してきて)そうです。オモチこそ正義なのです!」

怜・爽「「(何、この人?)」」

玄「私なら、幼児化したら色々なオモチを触って堪能したいのです! 幼児ならではの特権なのです!」

怜・爽「「こいつは、オモチ星人か?」」

憧「『知性もおじん』の『オモチ星人』だってば。」

玄「では、霞さんからなのです! 次は和ちゃん! それと、智葉さんもサラシで潰してはもったいないのです。オモチの神様に怒られるのです!」

怜・爽「「(なんだ、それは?)」」

玄「オモチこそ全て! オモチは地球を救うのです!」←実は『玄(クロ)の組織』と呼ばれるオモチ教団のトップ(黒の組織ではない)

京太郎「そうだそうだ!」←玄の信者

怜・爽「「(さすがに地球を救うはないだろ!」」

玄「オモチの民よ。立ち上がるのです! オモチの、オモチによる、オモチのための…。」

怜・爽「「(意味が分からん!」」

何故か、最後は玄のオモチ独演会に乗っ取られて行くのでした。


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二十五本場:登頂…トーナメントの頂へ

 南一局、数絵の親。

 サイの目は8。淡がダブルリーチをかけるには一番不利な山の切れ方だ。

 しかも、今は数絵の支配力が急上昇している。それで、淡はダブルリーチをかけるのをやめた。

 靄が掻き消されたことで絶対安全圏が復活したが、たとえ配牌が最悪でも、そこから各自、全く手が進まないわけではない。当然、南場がホームグランドの数絵は順調に手を伸ばした。

 しかも、この局は、衣が枯渇した支配力を回復することに従事している。よって、今は衣の一向聴地獄は発動していない。

「リーチ!」

 数絵が先制リーチをかけた。そして、

「一発ツモ裏2。4000オール!」

 リーチだけの手が、一発ツモと裏ドラだけで親満に変化した。

 

 南一局一本場、数絵の連荘。

 ここでも数絵は順調に手を伸ばし、

「リーチ!」

 攻めにでた。{①}とオタ風の{北}が暗刻の手。そして、

「一発ツモ、裏1。4100オール!」

 前局同様にリーチだけの手が、一発ツモと裏ドラだけで親満に変わった。

 

 しかし、南一局二本場。

 数絵は、ここでも順調に手を伸ばして、

「リーチ!」

 先制リーチをかけたが、急遽、靄が立ち込めてきた。穏乃の山支配が復活したのだ。これにより、数絵は、

「(一発ツモならずか…。)」

 前局、前々局のように即ツモ和了りはできなかった。

 和了れなければ、当然、一発目のツモ牌をそのまま河に捨てるしかない。

 この時、数絵の目には、穏乃の背後に火焔が見えていた。まるで蔵王権現のようだ。

「(嘘?)」

 驚きの余り、数絵は、ツモ牌を手から落とした。もともと捨てるつもりだっではあったのだが…。

 その牌は、そのまま河に落ちた。すると、

「ロン。タンピン一盃口ドラ3。12600!」

 それで穏乃が待っていた。

 数絵は、穏乃にハネ満を放銃することになった。

 

 南二局、衣の親。

 靄が次第に濃くなってきた。

 衣にも、穏乃の支配力が強大になっているのが分かった。

 自分の親番である以上、衣だって何とかしたいところ。しかし、支配力がまだ復活してくれない。

 いつも能力に頼っていたため、いざ能力が封印されてしまうと、衣は相手の手の高さも、待ち牌も完璧に読むことができなかった。

 その結果、

「ロン。7700。」

 衣は、穏乃に{258}の三面待ちのタンピンドラ2に振り込んでしまった。

 

 これで、各校点数は、

 1位:龍門渕高校 144800

 2位:阿知賀女子学院 137900

 3位:白糸台高校 67800

 4位:臨海女子高校 49500

 龍門渕高校と阿知賀女子学院の点差は6900点。射程圏内。とうとう、穏乃が衣の背中を捕らえた。

 

 南三局、淡の親。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 親番での稼ぎに期待し、淡は、能力を全開にした。しかし、絶対安全圏も配牌聴牌も、両方とも発動しない。穏乃の支配によってキャンセルされたのだ。

「(こいつ、やっぱり憎たらしい!)」

 淡は、普通に手作りして和了るしかない。

 ここで連荘できなければ、淡は、オーラスでトリプル役満を狙いに行くしかなくなる。さすがにそれは、非現実的だ。

 しかし、淡が聴牌する前に、

「ツモ。1000、2000。」

 穏乃に親を流された。

 

 これで、各校点数は、

 1位:龍門渕高校 143800

 2位:阿知賀女子学院 141900

 3位:白糸台高校 65800

 4位:臨海女子高校 48500

 阿知賀女子学院が、龍門渕高校との点差を1900点まで詰めてきた。

 穏乃の逆転条件を満たさない和了りは、数絵か淡から30符1翻のみの出和了りをすることだけ。それ以外なら、何を和了っても衣を逆転できる。

 500オールでも良い。

 衣に、今までないプレッシャーが襲い掛かった。

 

 オーラス。穏乃の親。

 穏乃の頭の中に、秋季大会から今までの軌跡が走馬灯のように甦ってきた。

「(県大会は、一回戦は玄さんが次鋒で他家をトバして終了。

 二回戦は、みんなが削ってくれていたから、私が副将で他家をトバして終了できた。

 決勝戦は、宮永さんが一人で片付けた。

 近畿大会…一回戦は、私は次鋒で出たけど、みんなの足を引っ張っただけだった。

 あの時は、先鋒の憧と中堅の灼さんと副将の玄さんが稼いで、他家をトバして勝ってくれたんだ。

 準決勝は、宮永さんが点数調整してくれて、私のためにお膳立てしてくれた。それで私は、調子を取り戻せた気がする。

 決勝戦は、先鋒前半戦だけで、宮永さんが優勝を決めてくれた。

 この春季大会は、一回戦は宮永さんがダブル役満を和了って試合を決めてくれた。

 二回戦は、憧と灼さん、玄さんで勝ちを決めてくれた。

 準決勝は、宮永さんのお陰で私は楽に大将戦を迎えることができた。

 今までは、私の力じゃない。私以外のみんなの力で勝って来れたんだ。

 この決勝戦は、龍門渕さんの支配に宮永さんでさえ苦しめられた。でも、そこから全てを御破算にしてくれた。

 だから、この大将戦だけは、私の力で勝ってみせる!)」

 穏乃の目に、今までにない活力が湧き上がってきた。

 

 この局も絶対安全圏がキャンセルされ、衣は配牌三向聴。

 手牌は、

 {二四[五]六④⑦⑧357北北白}

 支配力は、南入してから回復のみに従事してきたことが功を奏し、ある程度復活してきていた。場の支配は穏乃に潰されるかもしれないが、相手の手の高さや待ち牌を読み取る能力は健在と言って良い。

 

 一方、穏乃の配牌は二向聴。

 手牌は、

 {一三三六七八②②⑤⑥56南西}

 ここから打{南}。

 

 一巡目。衣はツモ{三}、打{白}。

 手牌は、

 {二三四[五]六④⑦⑧357北北}

 

 二巡目、穏乃はツモ{④}、打{南}。

 手牌は、

 {一三三六七八②②④⑤⑥56}

 これで一向聴。

 

 衣はツモ{⑨}、打{④}。

 手牌は、

 {二三四[五]六⑦⑧⑨357北北}

 これで衣も一向聴。

 

 続いて淡が打{三}。これを穏乃が、

「ポン!」

 珍しく鳴いた。衣の手が早いことを察知しているのだ。

 穏乃は、打{一}。これで手牌は、

 {六七八②②④⑤⑥56}  ポン{横三三三}

 タンヤオのみだが聴牌。

 

 続く数絵のツモは{發}。

 穏乃は、鳴かなければ聴牌できなかったことになる。

 

 衣の次のツモは{4}。

 手牌は、

 {二三四[五]六⑦⑧⑨357北北}  ツモ{4}

 ここで{7}を切れば聴牌。

 しかし、これは捨てられない。穏乃の和了り牌だ。

 仕方なく衣は打{北}。

 

 淡のツモ牌は{6}。打{東}。

 もし、穏乃が鳴いていなければ、この牌で衣は{一四七}待ちで聴牌していたところだ。

 

 穏乃のツモは{一}。これをツモ切り。

 さすがに衣の顔にも残念がる表情が浮かび上がる。

 

 数絵は{中}をツモ切り。

 そして、衣は{七}をツモってきた。ここから打{北}。

 手牌は、

 {二三四[五]六七⑦⑧⑨3457}

 {7}単騎だが、一応聴牌。これで和了れれば優勝。

 

 次に淡は{①}をツモ切り。

 

 そして、穏乃は、

「ツモ。タンヤオのみ。500オール。」

 衣との共通和了り牌である{7}を引いての和了りだった。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八②②④⑤⑥56}  ポン{横三三三}  ツモ{7}

 

 これを見て、衣は悔しがると同時に、強大なライバル…穏乃の底力を心の底から称えていた。やはり穏乃の底力は凄いと…。

 

 これで各校点数は、

 1位:阿知賀女子学院 143400

 2位:龍門渕高校 143300

 3位:白糸台高校 65300

 4位:臨海女子高校 48000

 100点棒一本の差で、阿知賀女子学院が逆転優勝を果たした。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の挨拶を終えると、大将の四人は、そのまま対局室で待機させられた。

 暫くすると、先鋒から副将までのメンバーと補員、監督、コーチ達が対局室に入室してきた。これから表彰式が行われるのだ。

 

 白糸台高校メンバーの首に銅メダル、龍門渕高校メンバーの首に銀メダル、阿知賀女子学院メンバーの首に金メダルが順にかけられていった。

 優秀選手には、光、衣、玄の三人が選ばれた。

 光は、二回戦での大虐殺振りと、準決勝、決勝での咲との戦いが評価された。

 衣は、言うまでもなく終始一貫した活躍(大虐殺)が、玄は、二回戦の高火力がそれぞれ評価された。

 最優秀選手には阿知賀女子学院の宮永咲が選ばれた。これは、小鍛治健夜プロの鶴の一声で決まったと言って良い。

 健夜が咲の『奇跡の闘牌』を高く評価してくれた結果であったのだが…、まあ、別に健夜が押さなくても、その超人的な活躍から、咲が選ばれておかしくは無いと、誰もが思うところではあった。

 …

 …

 …

 

 

 翌日より、個人戦がスタートした。

 出場権は春季大会出場の32校の選手のみに与えられ、各校8名まで参加できる。ただし留学生は出場不可であった。

 また、参加人数が8名に満たない高校がある場合、卓割れの可能性が生じるが、その場合は1名欠けなら優勝校から、2名欠けなら優勝校と準優勝校から、3名欠けなら優勝校、準優勝校、3位の高校の枠を1名増やして対応する。

 今大会では、8名まで参加者が満たない高校が、よりによって優勝校の阿知賀女子学院(5名)と、準優勝校の龍門渕高校(5名)のみであった。そこで、足りない2名は3位の白糸台高校と、特例で4位の臨海女子高校の日本人選手を1名ずつ増やしての対応となった。

 

 初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行われ、そこから決勝トーナメントに進出する上位16名を選出する。ただし、強者同士が潰し合わないよう、これまでの戦績をAIが解析して対戦表を作っていた。

 また、人数は四回戦が終わった段階で上位128名に、六回戦が終わった段階で上位64名に絞ることになっていた。

 ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところを除いて、あとは団体戦の時と同じだった。

 

 咲は、一回戦で池田華菜、中田慧、愛宕絹恵と対戦した。

 一応、対局室までの移動は、迷子対策のため、近くの対局室に向かう同校の選手に付き添ってもらうことにしていた。

 咲が入室すると、華菜と慧が対局前から、

「今後こそ絶対に華菜ちゃんが勝つし!」

「今後こそ絶対に慧ちゃんが勝つし!」

「華菜ちゃんが勝つし!」

「慧ちゃんが勝つし!」

「華菜ちゃんだし!」

「慧ちゃんだし!」

 と、とにかく煩くて敵わなかった。

 それに、もう一人は美人でスタイル抜群な絹恵。間違いなく咲の劣等感を増幅する相手の一人である。

 それで、

「(やっちゃっても、イイよね!)」

 咲のスイッチが入ってしまった。

 

 場決めがされ、起家は華菜、南家が慧、西家が咲、北家は絹恵に決まった。そして、咲以外の三人の選手達にとって、希望も何もない恐怖支配が始まった。

 

 東一局、華菜の親番。

 咲は、慧が捨てた{②}を、

「カン!」

 大明槓し、

「ツモ。タンヤオ嶺上開花ドラ1! 1000、2000!」

 両面待ちで和了った。刻子はなく、符は30符だった。

 ただ、咲の『カン!』の発生で牌が勢い良く副露されてくるのは咲と絹恵の間である。それで、絹恵には、華菜と慧には感じられないプレッシャーがかかってきた。

 

 東二局では、絹恵が、

「リーチ!」

 リーチ宣言牌として捨てた{8}を、

「カン!」

 大明槓し、

「ツモ。タンヤオ嶺上開花ドラ1! 1000、2000!」

 やはり、両面待ちで和了った。ここでも、刻子はなく、符は30符だった。

 また、この場合、絹恵の出したリーチ棒は、リーチが成立しているため咲に持って行かれることになる。

 それと、今回も絹恵には『カン!』による強烈なプレッシャーがかかってきた。正しくは、咲が敢えてプレッシャーをかけているのだろうが…。

 

 東三局、咲の親番。

 ここで咲は、爆発した。

「カン! ツモ! 嶺上開花タンヤオ対々三暗刻三色同刻! 8000オール!」

 ここでも、絹恵に強大なエネルギーが襲い掛かる。それは、まるでワニが大きな口を開けて突っ込んで来るような雰囲気だ。恐ろしくて堪らない。

 

 東三局一本場。

「カン! ツモ! 嶺上開花混老対々三暗刻小三元。12100オール!」

 そして、絹恵にかかる恐怖は、さらに大きさを増して行く。ホオジロザメに襲われる気分だ。

 

 東三局二本場。

「カン!」

 この咲の発生と同時に、

「ひっ!」

 絹恵は恐怖のあまり声を漏らした。例えるなら、ティラノサウルスが、これから自分を味見しようとしているみたいな、そんな感じだ。生きた心地がしない。

 そして、咲は、そのまま嶺上牌を引くと、

「ツモ! 嶺上開花赤1。50符2翻で1600オールの二本場は、1800オール!」

 この和了りで、華菜、慧、絹恵の三人は、残り100点のみになってしまった。

「(華菜ちゃん、全然和了れないし! 聴牌すらできてないし!)」

 と華菜は心の中で叫び、

「(慧ちゃん、全然和了れないし! 聴牌すらできてないし!)」

 と慧は心の中で叫び、

「(どうしよう。身体が震えて、急にトイレに行きたくなってきちゃった…。それに、チャンピオン怖いし…。)」

 と絹恵は心の中で言葉を発していた。もう、涙が出かかっている。

 

 そして、東三局三本場。

 咲は八巡目に慧が捨てた{①}を、

「カン!」

 大明槓した。

「ひぃっ!」

 咲の発するエネルギーで恐怖する絹恵。

 そんなのお構い無しに、咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {②}を暗槓した。

「ひぃぃっ!!」

 さらに震える絹恵。

 そして、咲は次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {③}を暗槓した。

「ひぃぃぃっ!!!」

 その恐怖に、もう耐えられない様子の絹恵。

 そして、咲は、そのさらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {④}を暗槓した。

「ひぃぃぃぃっ!!!!」

 ヤバい。これは、絶えられない。もう、怖くて、さっさとここから逃げ出したい。そんな言葉が絹恵の頭の中を駆け巡った。

 咲は、そんな絹恵を横目に嶺上牌を掴み、

「ツモ。四槓子。16300オールです。」

 {[⑤]}での嶺上開花…俗に言う五筒開花を決めた。

 

 華菜と慧は放心状態になった。いきなり箱下16200点。

 25000点持ちの30000点返し。ウマは無いが、オカがついてマイナス46からのスタートとなった。

 対する咲は、プラス138点。とんでもない点数だ。

 この様子を見た放送ディレクターは、

「これはヤバイやつだ。放送席に切り替えろ!」

 慌てて咲のいる対局室の映像を、これ以上放送継続しないよう指示を出した。インターハイ個人戦でもあった…奈良県大会決勝戦でもあった、あのお約束だ。

 案の定、絹恵は、

「チョロチョロチョロ…。」

 この直後に、括約筋が緩み出してしまった。これは、もう自分の力では止められない。そして、ここから一気に放出される。

「ジョー………。」

 そのサッカーで鍛え抜かれた下半身から、凄まじい勢いで聖水が放出され、絹恵の足元には、黄金色の泉が形成された。

 個人戦は、一回戦からとんでもない幕開けとなった。




個人戦予選おまけ
ここからも失禁者が出ますので、趣味に合わない方はスルーしてください。


 個人戦初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行わた。
 ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところ以外は、団体戦の時と同じであった。
 決勝トーナメントに進出できるのは上位16名のみ。

 一回戦で、咲は、風越女子高校の池田華菜、新道寺女子高校の中田慧、姫松高校の愛宕絹恵を対戦し、咲は全員芝棒一本(100点)のみにした後、親の役満をツモ和了りし、全員をトバした。
 これにより、華菜、慧、絹恵の三人はマイナス46点、咲はプラス138点を記録した。

 二回戦での咲の相手は、千里山女子高校二条泉1年生、射水総合高校寺崎弥生1年生(寺崎遊月妹)、昨日ようやく熱が下がった渋谷尭深2年生の三名だった。
 弥生は、
「団体戦では、総合力がモノを言うから私達は勝てなかったけど、個人戦は個人の力量のみが決め手。誰が最強か思い知るとイイ!」
 と咲に向かって負けフラグ的な台詞を言い放った。
 一方、泉は、
「高一最強はうちや!」
 と、お約束の台詞を口に出した。これも負けフラグであることは言うまでもない。
 この二人の言葉を聞いて尭深は、
「(高校生最強の魔物に向かって余計なことを…。私もマイナス46点を覚悟しなきゃいけないかな。)」
 と思っていた。冷静な思考だ。
 尭深は、湯飲みをサイドテーブルの上に置いた。この対局では利尿作用に繋がる物は一切口にすべきでは無いとの判断からだ。

 弥生は、インターハイの少し前から、ある能力に目覚めた。しかし、団体戦メンバーも補員も県予選前に登録するため、その時点での成績で弥生は篩にかけられていた。残念ながら能力開花は、メンバー登録の後だったのだ。
 それで、インターハイでは団体戦メンバーどころか、補員にすら入っていなかった。
 でも、今は違う。2年生の時にインターハイ個人戦で15位になった姉、遊月よりも確実に強いと自負している。
 事実、能力開花してからは姉に一度も負けたことは無い。それで、今では、魔物と称される宮永咲や天江衣を超える力が備わっていると勘違いしていた。
 当然、咲が世界大会で活躍したのが気に入らなかったし、本大会で咲が最優秀選手に選ばれたことも、弥生としては面白くなかった。
「(チームさえ強ければ、あの場に立っていたのは自分だったかもしれないのに…。)」
 との思いが強かったのだ。自己評価だけは妙に高い。
 そういった背景から、弥生は咲に確実に勝てる気でいた。

 場決めがされた。
 起家は弥生、南家は尭深、西家は咲、北家は泉に決まった。

 東一局、弥生の親。
 泉は、好配牌に恵まれ、しかもツモが配牌と巧く噛み合い、序盤から、
『絶好調!』
 と強く感じていた。そして、聴牌して即、
「リーチ!」
 積極的に攻めた。すると、これを見て、弥生が不敵な笑みを見せた。
 弥生は、聴牌すると壁牌にある自分の和了り牌の場所が分かる。これが、インターハイの少し前に開花した能力だった。
 ただ、全ての和了り牌の位置が分かるわけではない。常に壁牌の中のツモ牌に近い二枚しか見えなかった。
 それでも、一枚目を見送れば、二枚目と三枚目が見られるようになるわけだし、一枚目の和了り牌を見逃しても、次にツモれることが分かっていれれば、戦略的に見逃すことも出来る。
 和了り牌が見えなければ壁牌にはなく、誰かが持っていることになるし、それならば下手にリーチをかけすにダマで待ったほうが良い。聴牌形を変えるのもありだ。
 衣からすれば、
「衣のほうが、支配力が遥かに上だ! 大したことは無い!」
 と言うだろうし、一巡先が見える園城寺怜からも、
「そんな能力、うちなら十分回避できるわ!」
 と言われるに違いない。
 竜華も洋榎も、
「ゾーンに入れば全部見抜けるで!」
「そんなん、和了り牌が全部見抜けて打ち回しが得意なうちにとってはカモや!」
と言い放つだろう。
 照なら、
「その前に和了る。」
 と言いそうだ。
 しかし、世の中一般の非能力者からすれば、明らかに弥生の能力にはアドバンテージがあるだろう。

 射水総合高校には能力者がいなかった。つまり、自分以上の怪物はいなかったのだ。それで、弥生は自分を過信した。
 不幸なことに、咲や衣のような魔物と称される者達の本当の力を知らずにいたのだ。
「(次の千里山のツモ牌が私の和了り牌だね。)」
 聴牌していたのは泉だけではなかった。既に弥生も聴牌していたのだ。
 しかも、タンピン一盃口ドラ3の親ハネの手。ここにリーチ一発が付けば親倍。もし、これを泉が振り込めば、泉は、一気に点棒全てを失うことになる。
「リーチ!」
 弥生が追っかけリーチをかけた。これで、弥生は自分の勝利を確信していた。
 尭深が、一発回避で弥生の現物を捨てた。すると、
「ロン。平和のみ。1000点です。」
 咲が尭深から和了った。

 東二局、尭深の親。
 ここでも泉が、
「リーチ!」
 懲りずに先制リーチをかけた。配牌の良さ、ツモの良さからツキは自分にあると思っていたからだ。当然だろう。
 すると、
「リーチ!」
 弥生が、すぐに追いかけた。彼女には、次こそ12000を泉から直撃できる自信があったのだ。しかし、
「ロン。1000点。」
 またもや、尭深が一発回避で捨てた弥生の現物で咲が和了った。

 東三局、咲の親番。
「(この射水総合の人、なんだか気に食わないんだよね。自分が強いと思い込んでいて。千里山の人もそうだけど、どっちかと言うと射水総合の人のほうが酷いかな。お姉ちゃんの高校の人には悪いけど、今回も、ヤっちゃっても、イイよね。)」
 咲の背後にドス黒いオーラが立ち込めた。
 この局、泉も弥生も前局のようには手が進まなかった。急にツキが落ちた感じだ。
 実際には、咲の支配力によって、そうなっていたのだが…。

 七巡目、
「カン!」
 咲が西を暗槓した。
 この時、能力者の弥生は、咲から恐ろしいほど強烈なオーラを感じ取った。まるでワニかライオンに頭からガブリと噛み付かれたような、そんな恐怖だ。そして、
「ツモ。嶺上開花。四暗刻。16000オール。」
 当たり前のように、咲は嶺上開花で和了った。しかも役満。
 これで、咲以外の三人の点数は7000点まで落ち込んだ。

 東三局一本場、咲の連荘。
 ここでは咲が、
「ポン!」
 尭深の第一打牌、中を鳴き、数巡後、
「カン!」
 中を加槓、さらに、
「もいっこ、カン!」
 東を暗槓した。そして、
「ツモ。嶺上開花! ダブ東中混一。6100オール。」
 これで、咲以外の三人の点数は900点になった。もう、リーチもかけられない。

 東三局二本場。
 誰もが、この局で決着がつくと思っていた。
 しかし、スイッチの入った咲は、そんな甘い考えは持っていない。ここで一気に勝負を決めようとはせず、
「ツモ、平和。700オールの二本場は900。」
 点棒全てを奪うと言う、三人にとって一番悲惨な状況を作り出した。地獄を長く味わえとでも言いたげだ。
 尭深は、
「(もう、この二人が余計なことを対局前に言うから、こっちが余計な被害を受けたじゃない!)」
 と思っていた。これは、あながち間違いではない。
 弥生と泉が対局前に、
「「自分が最強!」」
 とか言って咲のスイッチを入れてしまったのが悪いのだ。

 そして、東三局三本場。
 ここでも泉と弥生は中々手が進まない。
 しかも0点。
「(何とか和了らなくては…。)」
 と焦る弥生が切った①を、
「カン!」
 咲が大明槓した。
 この時、弥生は、咲から四暗刻を和了った時よりも、さらに強大で攻撃的な強いオーラを感じ取っていた。
 恐竜を絶滅させたのと同じスケールの巨大隕石が頭上に落ちてくるような感覚、逃げ道のない恐怖だ。
 ここまで来ると、死を恐怖するのではなく、死を覚悟するしかない。
 咲は、嶺上牌を引くと、
「もいっこ、カン!」
 連槓で②を暗槓し、
「もいっこ、カン!」
 さらに、嶺上牌を引くと、連槓で③を暗槓した。
 咲のオーラが最高状態になった。言うなれば、小惑星激突の瞬間だ。巨大なエネルギーが四方を吹き飛ばす。
 そして、次の嶺上牌…(⑤)を引いて、
「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。16300オールです。」
 昨年夏の長野県大会で衣に責任払いさせた手と同じ和了りだ。
 次の瞬間、咲の対局映像は放送席のほうに切り替えられた。報道側の配慮だ。
 案の定、
「チョロチョロチョロ…。」
 弥生の足下には、
「ジョー………。」
 巨大な池が形成されていた。
 自分と咲の格の差を思い知らされたところはあったが、それ以前に、弥生は、ここまで迫力あるオーラに晒されたことがなかった。
 その恐怖からなのか、それとも、その恐怖から対局終了と共に解き放たれた安堵からかは分からないが、括約筋が緩んでしまったのだ。
 もう、何も考えられない。放心状態である。

 一方、泉と尭深は、ヤラかさずにいられた。
 ただ、二人は耐えたと言うよりも、咲が、最も気に食わない弥生一人に照準を合わせていたため、余波は点棒だけで済んだ…つまり、咲のオーラを受けずに済んだと言うのが実情であった。

 これで、弥生、泉、尭深はマイナス46を喰らい、咲は、一回戦に続き、またもやプラス138を獲得した。
 これで、咲は二回戦合計でプラス276点と、例年であれば既に予選を勝ち抜き、決勝リーグに進むだけの点数を獲得していた。


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二十六本場:決勝トーナメント

光の苗字は、一先ず宮永にしました。


 個人戦一回戦で、咲はスイッチが入ってしまった。

 それ以降、最強状態が続き、予選全十回戦で合計プラス1382点をマークした。小鍛治プロがインターハイ個人戦の予選全十回戦で叩き出した記録を大きく更新する大記録だ。

 ギネスブックに申請するだのしないだのと言う議論が、外野の中で勝手に湧き上がってくる始末だった。

 対戦相手の中には、高一最強を自負(?)する泉もいたが、その勝気な泉でさえ、

「もう麻雀牌を見たくない!」

 と言い出すほど、咲の闘牌は凄まじいものだった。

 

 

 予選順位は、

 1位:宮永咲(阿知賀女子学院)

 2位:天江衣(龍門渕高校)

 3位:宮永光(白糸台高校)

 4位:松実玄(阿知賀女子学院)←オモチ教団『玄(クロ)の組織』代表(黒の組織ではない)

 5位:荒川憩(三箇牧高校)

 6位:大星淡(白糸台高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:佐々野みかん(白糸台高校)

 9位:鷺森灼(阿知賀女子学院)

 10位:南浦数絵(臨海女子高校)

 11位:多治比真祐子(松庵女学院)

 12位:新子憧(阿知賀女子学院)

 13位:鶴田姫子(新道寺女子高校)

 14位:多治比麻里香(白糸台高校)

 15位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 16位:片岡優希(臨海女子高校)

 

 阿知賀女子学院と白糸台高校で、16人中10人を占める結果になった。

 特に玄は、そのドラ爆体質で下位の者達を蹂躙・虐殺し、結果的にトータルで荒川憩よりも上位につける快挙を成した。

 咲が編入したことで、阿知賀女子学院全体のレベルが上がっているが、特に顕著な成長を見せているのが玄であろう。

 

 団体戦2位の立役者である龍門渕透華は、団体戦で治水のエネルギーを使い果たしたのか、個人戦で冷えることはなかった。

 咲、光、ネリーの三人同時相手は、さすがに身体にも堪えたと言ったところだろう。なんか、表現がヤラしいが…。

 

 愛宕絹恵(姫松高校)は、一回戦での大敗が尾を引き、30位以内に入るのがやっとだった。また、上重漫(姫松高校)は、爆発しない試合もあり、トータルでは20位以内に入るのがやっとの戦績だった。

 

 

 1位から4位が、くじを引いてA卓、B卓、C卓、D卓に振り分けられる。

 同様に5位から8位がくじでAからD卓に振り分けられ、9位から12位、13位から16位を、それぞれ同じ方法でAからD卓に振り分ける。

 各卓から上位二名が二回戦に進む。

 A卓とB卓の上位二名ずつが二回戦を戦い、同様にC卓とD卓の上位二名ずつが二回戦を戦う。そして、それぞれの卓から上位二名ずつが決勝戦に進出する。

 一回戦と二回戦は半荘一回、決勝戦は半荘二回の戦いとなる。

 また、二回戦で敗退した四名が5位決定戦を行う(半荘一回)。

 

 一回戦で敗れた者達も、9位から16位を決める試合を行うことになる。

 A卓とB卓の下位二名ずつの計四名で半荘一回を戦い、その上位二名が9位決定戦(半荘一回)に、下位二名が13位決定戦(半荘一回)に進む。

 C卓とD卓でも同様のことが行われる。

 

 

 抽選の結果、決勝トーナメントの割り振りは、以下の通り決まった。

 A卓:宮永咲、佐々野みかん、多治比真祐子、多治比麻里香

 B卓:天江衣、荒川憩、新子憧、南浦数絵

 C卓:松実玄、大星淡、鶴田姫子、片岡優希

 D卓:宮永光、原村和、高鴨穏乃、鷺森灼

 

 一回戦は、全卓同時に行われる。

 二回戦も同時開催となり、その時に、A-B卓の下位二名ずつの卓と、C-D卓の下位二名ずつの卓の試合も同時開催となる。

 その後、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時開催され、その後に決勝戦が開催される運びとなる。

 

 

 会場に向かう途中、咲は、優希に会った。

 優希が、

「咲ちゃん。兵糧を一個あげるじょ!」

 タコスをくれた。相変わらず気前がイイ。

「ありがとう。」

 咲は、後でゆっくり味わって食べるつもりでいた。その時は…。

 

 それから数分後、隣のB卓で試合をする憧に連れられて(迷子対策)、A卓会場に咲が姿を現した。そこには、既に、みかん、真祐子、麻里香の姿があった。

 三人の視線が一斉に咲のほうに向けられた。三人とも敵意剥き出しであった。まあ、インターハイ個人戦以来の確執があるのだから仕方がない。

 一方の咲は、

「(三人とも、凄く綺麗で羨ましい。なのに、何で地味な私がこんなに睨まれなくちゃないの? 三人とも絶対に小さい頃から異性に不自由していないタイプだよね、きっと…。私なんか喪女だよ喪女! これは、三人には麻雀を楽しませるべきだよね! うん!)」

 予選に続いて、ここでもドス黒いスイッチが入ってしまった。

「(予定変更。優希ちゃん、タコスを有難くいただくね。)」

 咲は、もらったタコスの半分を口にした。残りは、一先ず取っておいて後で食べよう。

 

 場決めがされ、タコスパワーを借りた咲が起家、みかんが南家、西家が麻里香、北家が真祐子になった。

 

 咲は卓に付くと、早速靴下を脱いだ。今までの試合でも靴下を脱いでいたのだが、特にこの試合は念入りにしたいとの気持ちが咲の中では強かった。

 

 東一局、咲の親。

 咲は、みかんが捨てた{東}を、

「ポン!」

 早速鳴いた。そして、数巡後、

「カン!」

 {東}を加槓した。この発生と同時にプレッシャーがかかるのは、咲が牌を副露するほうにいる選手…みかんだ。

 しかし、部内で咲と同じ遺伝子を持つ光と、みかんは何回も対局している。超魔物との戦いには免疫があるほうとの自負がある。

 みかんは、まだ十分耐えられると実感していた。

 咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {一}を暗槓した。そして、さらに嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {⑨}を暗槓した。次の嶺上牌は{中}。これで、

「ツモ。ダブ東混老対々三暗刻三槓子嶺上開花。12000オール!」

 いきなり連槓からの親の三倍満ツモ和了りだ。既に咲はパワー全開であった。

 この連槓で、真祐子の頭の中に、インターハイ個人戦での恐怖が甦ってきた。あの恐ろしい迫力にヤラれたのだ。

 

 東一局一本場。

 ここでも咲は、序盤から、

「ポン!」

 真祐子が捨てた{⑨}を鳴いた後、

「ポン!」

 みかんが捨てた{白}を鳴いた。そして、次巡、

「カン!」

 咲は{⑧}を暗槓した。引いてきた嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 {⑨}を加槓しすると、その次の嶺上牌…{白}を当然、

「もいっこ、カン!」

 咲は、加槓した。そして、さらに咲が嶺上牌…{中}を引いたその時だった。麻里香は、咲と目があった。

 その瞬間、麻里香は、全てを喰らい尽くす巨大肉食獣にロックオンされたような恐ろしさを感じた。

 一方、咲は、当然の如く、

「ツモ!」

 二連続で嶺上開花を決めた。

「小三元混一対々三槓子嶺上開花。12100オール!」

 これで、みかん、真祐子、麻里香の持ち点は、三人とも900点になった。もう、リーチすらできない。

 

 東一局二本場。

 ここでは、麻里香が捨てた{7}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、そのまま、

「ツモ! 嶺上開花のみ。40符1翻の700オールの二本場は、900オール!」

 まさか嶺上開花のみで和了ってくるとは…。これは、嶺上牌が見えていないとできないことではないだろうか?

 しかも、これで、みかん、真祐子、麻里香の三人は、揃って点数が0点になった。完全なる点数調整だ。さすがに、これには三人共、背筋に冷たいものが走った。

 

 そして、東一局三本場。

 咲の気迫が、より一層強くなった。最大パワーを発揮しているのだろう。

 最初に聴牌したのは、みかんだった。しかし、役無し。リーチをかけようにも100点棒すらないこの状況。

 和了り牌をツモれるのを期待するしかない。

 

 続いて、真祐子、麻里香が聴牌した。しかし、みかんと同様に役無しだ。ツモのみで和了るしかない。

 こんな中、咲は、堂々と三人の和了り牌を捨てた。そして、中盤に差し掛かったその時だった。

「カン!」

 咲が{東}を暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続いて{南}を暗槓した。さらに、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{發}を暗槓し、続く嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 連槓で、{西}を暗槓した。もう、この光景に真祐子は血の気が引いて放心状態になった。

 王牌には、最後の嶺上牌が残っていた。咲は、これを掴むと、

「ツモ! 小四喜字一色四暗刻四槓子。16300オール。」

 四倍役満を和了った。{北}単騎だ。

 これで、みかん、麻里香、真祐子のトビで終了した。これにより、A卓は、咲と…席順でみかんが二回戦進出となった。

 

 ダブル役満以上が認められないルールだったが、それでも、この四倍役満は、他家三人に強烈な精神的ダメージを食らわした。

 

 みかんは、咲が槓する度に、強烈な重圧を感じていた。何とか耐えたが、本当は相当ヤバそうな状態だ。今も、股を手で押さえて何とか凌いでいる。

 しかし、隣では麻里香が、対面では麻里香の姉の真祐子が、顔を赤らめて俯いていた。

 もしかして、これは!

「「チョロチョロチョロ…。」」

 二人の括約筋は、既に緩んでいた。これは、もう全てを出し切るまで自分の力では止めることができない。

 そして、そのままダムが一気に決壊する。

「「ジョー………。」」

 ただ、これを予測してか、既に咲が四倍役満を決めたところから、映像は放送席に切り替えられていた。報道側の対応も早かったのだ。

「(姉妹でやっちゃったか…。)」

 みかんは、一先ず、

「あ…ありがとうございました。」

 対局後の一礼をすると、

「じゃあ、麻里香。ジャージ持ってくるから、ちょっと待っててね。あと、麻里香のお姉さんも…。」

 急いで対局室を出て行った。一旦トイレに寄ってから控室に向かうことだろう。

 咲も、

「ありがとうございました。」

 と言いながら、ペッコリンと頭を下げると、静かに対局室を出て行った。

 ただ、迷子になるとマズイので、対局室を出たところで、隣の部屋で行われているB卓の試合…憧の対局が終わるのを待つつもりでいたのだが…。

 

 

 一方、そのB卓では、起家が数絵、南家が憩、西家が衣、北家が憧で対局がスタートしたのだが、いきなり東一局で、

「ロン!16000!」

 衣が東場で弱い数絵を直撃し、続く東二局で、

「ツモ! 6000オールですぅ!」

 憩がツモ和了りした。そして、東二局一本場で、

「ロン!12300!」

 衣が数絵からハネ満を和了り、数絵が得意な南場まで回ることなく、数絵のトビで、あっと言う間に終了した。結果的に、憧は、ただ、その場にいるだけの人となった。

 実は、A卓よりもB卓のほうが早く終わっていた。

 以上の結果、B卓からの二回戦進出者は衣と憩に決まった。咲は、長時間、憧を待つつもりであったが、逆に憧を待たす結果となった。

 

 

 C卓は、玄にドラが集まる以上、淡はダブルリーチを封印し、絶対安全圏プラス早和了りだけで勝負することにした。

 槓裏が玄の支配下にあるのか淡の支配下にあるのか興味が持たれたが、玄が聴牌する前にさっさと和了る。淡は、勝つために、その戦法に出たのだ。

 優希も、東場での勝負をかける。スタートダッシュで一気に点数を重ねる方針だ。

 

 起家は、当然のことながら毎度の如く優希、南家は淡、西家は玄、北家は姫子で対局がスタートした。

「(絶対安全圏!)」

 最初から、淡は能力を発動した。しかし、

「ダブルリーチだじぇい!」

 この局、優希には、絶対安全圏が効かなかった。タコスパワー最大放出により淡の能力を吹き飛ばしたようだ。

 結局、

「一発ツモ! 8000オールだじぇい!」

 ダブルリーチ一発ツモタンピン三色。ドラ無しでこの破壊力。なんと言う簡単麻雀だろうか?

 しかし、東一局一本場では、淡の絶対安全圏が優希の配牌にも影響を及ぼした。

 この局は、

「チー!」

 淡が鳴いて手を進め、

「ロン! 東南混一。8300!」

 玄から和了った。

 

 東二局、淡の親番。

 ここでも、

「ポン!」

 淡が早々に鳴いて手を進め、

「ツモ。2000オール!」

 絶対安全圏内で淡がツモ和了りした。

 

 東二局一本場では、

「リーチだじぇい!」

 絶対安全圏を越えると同時に優希がリーチをかけ、

「ロン! 一発だじぇい!」

 玄から直取りした。

「メンタンピン一発一盃口。8300!」

 これで玄は、-8000-8300-2000-8300でトビ終了となった。その結果、この卓からの二回戦進出者は淡と優希に決まった。

 

 

 D卓は、白糸台高校vs阿知賀女子学院の対決。

 しかも、和は旧阿知賀女子学院メンバーでもあるし、光は、阿知賀女子学院のエース咲の従姉妹である。

 これはこれで、観戦室の人達の興味を惹いた。

 

 起家は穏乃、南家は灼、西家は和、光が北家で対局がスタートした。

 東一局は、

「リーチ!」

 五巡目に和が先制リーチをかけた。そして、一発回避で灼が捨てた和の現物で、

「ロン。タンピンドラ4。12000!」

 光が和了った。

 

 東二局も、

「ツモ! メンホンツモドラ2。3000、6000!」

 光がツモ和了りした。

 

 東三局、和の親番では、

「リーチ!」

 光が先制リーチをかけ、

「ツモ。リーツモジュンチャン一盃口ドラ2。4000、8000!」

 三巡後に倍満をツモ和了りした。

 

 東四局、光の親番。

 この辺りから穏乃の山支配のスイッチが入る。

 たしかに、光の手の進みも今までに比べて遅い。

 そして、

「ロン。平和タンヤオドラ1。3900。」

 穏乃が和了った。

「灼さん、済みません!」

 これで、灼は、-12000-6000-4000-3900でトビ終了となった。

 その結果、D卓からは、光と穏乃が二回戦進出となった。

 

 

 このように、A~D全卓で、決勝リーグにしては珍しく、早々に決着がついてしまった。




おまけ
個人戦予選続き
今回も失禁者が出ますので、趣味に合わない方はスルーしてください。


 光は、一回戦で当然のごとく暴れた。
 その半荘、彼女は北家でのスタートだった。
 東一局、
「ツモ! 中北ドラ4。3000、6000。」
 光が和了った。
 東二局も、
「ツモ! タンピンツモ一杯盃ドラ2。3000、6000。」
 光が和了った。
 東三局も、
「ツモ! 東南混一ドラ2。3000、6000。」
 光が和了った。これで和了り役の翻数上昇を見せながら三連続和了だ。
 そして、東四局、光の親番。
 当然の如く、
「メンタンピンツモ三色ドラ2。8000オール。」
 光が倍満を和了り、続く東四局二本場も、
「メンホンツモダブ東チャンタドラ2。8100オール!」
 またもや光が倍満を和了り、全員トビで終了した。光の相手は、箱下3100点。三人ともオカがついて、得点はマイナス33だった。
 よって、光はプラス99。
 光の迫力に、対局者達は
「「「チョロチョロチョロ…ジョー…。」」」
 失禁した。三つの黄金色の泉が重なり、巨大な湖を形成した。
 相手は、魔物のオーラをまともに浴びた事のない者ばかりである。この展開は、当然かもしれない。

 この個人戦では、女性スタッフの進言で、ヤバそうなプレイヤーのために紙オムツが用意された。病院とかで使うものと同じだ。
 光や咲、衣との対局で漏らしても大丈夫なようにとの配慮だった。
 しかし、
「自分は大丈夫!」
 と言って紙オムツを着用しようとする者は一人もいなかった。
 紙オムツを着けると言うことは、打つ前から負けを認めるようなものだ。しかも、女子高生だ。率先して着けたがる選手はいなかった。これも、当然のことだろう。

 光は、意気揚々と対局室を出た。
「これなら、まず一回戦全体でも1位は確実かな。」
 三人トバしである。オカありでもウマなしで、しかもトバし点もないルールだが、普通なら参加者252人中ダントツトップだろう。そう、これが普通の大会なら…。

 モニターに映し出された順位表には、
『3位:宮永光 99点』
 の文字が記されていた。
「えっ? 3位って?」
 光が、その上の名前を見ると、
「2位:天江衣 112点」
 さらに、
「1位:宮永咲 138点」
 思わず、光は、
「ナニこれ? こいつら、ナニやったの?」
 と叫んだ。当然の反応だろう。

 衣は、南家スタートで、上家にハネ満、下家に親満、対面に親満一本場を順に直撃し、その後、親倍二本場ツモ、親三倍満三本場ツモで、プラス112を叩き出していた。
 一方の咲は、全員を100点にした後に、親の役満をツモ和了りした。それで、全員をマイナス46にし、自身はプラス138を獲得していた。

 そして、個人戦二回戦。
 ここでも咲は、先ほどの一回戦と同様の展開で、プラス138を叩き出した。その結果、衣、光との差をさらに広げた。

 そして、個人戦三回戦での咲の相手は、越谷女子高校の水村史織1年生、白糸台高校の亦野誠子2年生、千里山女子高校の船久保浩子2年生だった。
 浩子は、
「(泉に続いて私もか…。今まで稼いだ分を全部溶かしてしまわないようにしないと。)」
 と思っていた。冷静に自分の立ち位置を理解していたと言える。

 誠子も、
「(せめて箱割れだけは回避しないと…。)」
 と思っていた。これも判断としては正しいだろう。

 一方、史織は、
「チャンピオンが相手だなんて、いやーん!」
 と声に出してしまった。しかも、妙にかわい娘ぶっている。多分、彼女の一挙一動は、非常に男受けするのだろう。

 これを聞いて、咲は、
「(何、この娘。化粧が濃くて…。なんか、男子と遊んでそう…と言うより、男子で遊んでそうな顔してる。こっちなんか喪女だよ喪女。こいつ、絶対潰す!)」
 頭の中で魔物スイッチが入った。そして、最強のパワーを出すために靴下を脱いだ。

 場決めがされ、起家は浩子、南家は誠子、西家は咲、北家は史織と決まった。

 東一局、浩子の親。
 浩子は、中盤で聴牌した。平和タンヤオドラ1で5800と、東初としては上々の手。連荘狙いで、ここはダマで待つ。
 ここに引いてきた中。一枚切れだ。
「(これならカンされないし、大丈夫か?)」
 そう思いながら浩子が中をツモ切りした。すると、
「ロン。中一盃口ドラ2。8000です。」
 この牌で咲に和了られた。
 待ちは、一枚切れの西とのシャボ。西家なので、どちらで和了っても満貫だ。

 東二局、誠子の親。
 ここで誠子は、
「ポン!」
 得意の鳴き麻雀で連荘を目指す。三つ鳴けば和了れる能力を持つ。河から牌を釣り上げると言われ、フィッシャーとの異名を持つ。
 誠子は、その二巡後にも、
「チー!」
 浩子の捨て牌を鳴き、さらに、その次巡、
「ポン!」
 咲の捨て牌を鳴いた。ただ、これが咲の仕掛けた罠とも知らずに…。そして、ここで誠子が聴牌を取って捨てた牌で、
「ロン。タンピン三色ドラ1。8000。」
 咲が和了った。

 東三局、咲の親。
「リーチ!」
 咲が、いきなりダブルリーチをかけた。そして、一発目のツモで、
「カン!」
 暗槓し、そのまま嶺上牌で、
「ツモ!」
 和了った。浩子も誠子も史織も、この局は一枚しかツモっていない。実際、何もしていないのに等しい。
 咲に簡単に和了られてしまった感じだ。
「ダブリーツモ嶺上開花。4000オール!」
 しかも、ドラも無ければ役もダブルリーチのみ。そこにツモと嶺上開花が付いて親満になった和了りだ。
 他家からすれば、なんともヒドイ和了られ方だ。意気消沈する。

 東三局一本場、咲の連荘。
 ここでも、
「ロン。白チャンタ。7700の一本場は8000。」
咲が和了った。今度は、面前手を史織から直取りした。

 これで、浩子、誠子、史織の三人は、全員持ち点が13000点となった。
 そして始まった東三局二本場。
 ここは、
「ポン!」
 咲は、史織が捨てた②を早々に鳴き、その数巡後に、
「ツモ。タンヤオのみ。500オールの二本場は700オール。」
安手をツモ和了りした。
 嶺上開花どころか、槓すらしていない。
 観客の殆どは、咲の対局で期待するのは華麗なる嶺上開花。ところが、この対局では、それが一回しか披露されていない。
 多くの人が、これは、咲の連荘狙いの安和了りと思った。しかし、浩子だけは、違う考えを持っていた。
「(チャンピオンは、どうして使えそうな赤牌を早々に切ってる? これって、わざと点数を下げてないやろか? これって、もしかして…。)」
 浩子は、咲が頭の中で描いているであろう地獄絵図に気が付いた。これは、何としてでも阻止しなければならない。それをヤラれては困る。
 しかし、東三局三本場。
 咲は、
「ポン!」
 史織が捨てた東を鳴き、続いて誠子が捨てた1を
「ポン!」
 鳴いて二副露した。その次巡、
「カン!」
 咲は、1を加槓した。かなり気合いが入っている。その強大なエネルギーが、副露された牌を通じて咲の下家…史織のほうに飛んでくる。
 まるで、ワニが巨大な口を開けて史織の方に向かってくるような恐ろしさだ。
 嶺上牌は東。当然、咲は、これも、
「もいっこ、カン!」
 加槓した。さらに強大なエネルギーが史織を襲う。まるで、史織の腹に喰らい付いたワニがデスロールしているかのような恐怖を与える。そして、次の嶺上牌で、
「もいっこ、カン!」
 今度は①を暗槓し、
「ツモ。ダブ東混老対々三色同刻三槓子嶺上開花。12300オール!」
 さらに次の嶺上牌で、当然のように嶺上牌で和了った。しかも、親の三倍満。
 これで、浩子、誠子、史織の点数は、ものの見事に全員0点になった。そう、浩子は、この点数調整を予感していたのだ。

 咲の連槓によって受けたエネルギーに怯え、史織は震え出した。
 しかし、咲は、『男子で遊んでいそうな雰囲気』と認定した史織への攻撃を緩めることは無い。容赦はしないのだ。

 東三局四本場。
 もう、史織は逃げ出したい一身だった。そして、彼女が何も考えずに捨てた北で、
「ロン!」
 咲が和了った。
 この時、咲から放たれてくるオーラは、まるでホオジロザメが巨大な口を開けて史織に向かって一直線に突っ込んで来るような恐怖を感じさせた。

 開かれた手牌は、
 東東南南西西北白白發發中中  ロン北

 字一色型七対子…大七星。
「四本場で49200!」
 これで、史織のトビで終了となった。
 モニター画面が、すぐさま対局室から放送席に切り替えられた。いつものお約束だ。そして、史織はと言うと、
「いやーん!」
 放水と同時にブリッコ声を上げた。
 足元にドンドン広がる池。一度始まると、加速することはあっても自力では止められない事故。さすがに他人には見せられない光景だ。

 浩子と誠子は、
「「(マイナス30で済んだ。ラッキー!)」」
 と、ホッと胸を撫で下ろした。
 史織には悪いが、自分がターゲットにならずに良かったとしか思えなかった。

 咲は立ち上がると、
「ありがとうございました!」
 と言いながら、明るい表情でペッコリンと頭を下げた。対局後の一礼だ。
 そして、急いで靴下を履くと、逃げるように卓から離れた。聖水からなる池を踏みたくないからだろう。
 浩子と誠子も同様だった。
「「あ…ありがとうございました!」」
 一礼すると、急いで卓を離れた。

 咲は、対局室を出ると、隣の対局室で試合をしている玄を待った。
 玄のほうも、下位選手が相手でドラ爆が面白いように炸裂し、二人をトバして対局を終了させた。既に、ドラ切りによる後遺症は完治していたのだ。
 結果的に、咲が対局室を出てから数分後には、玄も対局室から出てきた。
「玄さんも勝ったみたいですね!」
「咲ちゃん達のお陰なのです。では、赤土先生のところに戻りましょう。」
「はい!」
 咲は、玄に手を繋いでもらい、その場を離れた。


 四回戦以降も、咲はスイッチが入りまくった。
 一応、AIによって対戦表が作られていた。これまでの戦績をAIに解析させて、強者同士が潰し合わないことが狙いだ。
 ただ、AIに学習させる際、誰かの趣味がインプットされてしまったのだろうか?
 咲の暗黒オーラが立ち込めるような選手が、対戦相手の中に必ず一人はいた。
 それで、咲は毎回スイッチが入り、予選の全十対局で最低一人はダムが決壊して聖水を放出し、巨大な泉が形成される結果となった。
 ただ、それは咲の対局だけではなかった。衣との対局でも、光との対局でも、咲ほどではないが失禁する者が出た。
 その清掃時間も必要となり、本大会は必要以上に時間が押すこととなった。


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二十七本場:処刑台

 A-B卓の上位者による二回戦は、宮永咲、佐々野みかん、天江衣、荒川憩の四人で行われることになった。

 みかんは、試合前に、きちんとトイレに寄ってきた。姉のいちごと同じ恥ずかしいマネは絶対にしたくないからだ。

 

 対局室に入ると、既に、咲、衣、憩の姿があった。

 咲の姿が視界に入ると、どうしても、みかんの目つきが悪くなる。姉の失禁事件を起こした張本人。女子高生雀士最強の怪物、宮永咲。

 姉とは仲が悪いので、みかんとしては、別に姉が恥をかいたこと自体を咲にとやかく言うつもりはない。

 しかし、そのことが原因で自分が周りから弄られるようになったことは許せない。自分が犯した失態でもないのに、どうしてと思う…。

 大人の対応が取れるほど精神的に成熟した年でもない。それで、どうしても咲に対して攻撃的な態度が露わになってしまうのだ。

 

 みかんの表情がよろしくないことに憩が気付いた。

「なあ、どうしたん? 咲ちゃんを睨んでるみたいに見えるけど、何かあったん?」

 憩が、そう、みかんに声をかけた。気さくで明るい憩ならではだろう。

「いえ、別に…。」

「たしか、佐々野いちごさんの妹やったかな? 開会式の時も咲ちゃんのほうを睨んでいるように見えたけど、もしかして、インハイ個人戦で、いちごさんがヤッちゃったのを根に持ってるん?」

 憩は、言いたいことをガンガン言える性格のようだ。

 みかんとしては、別に咲を敵視する理由を他人に率先して答えたいとは思っていなかった。なので、憩にこう聞かれてくるのは余り嬉しいことではない。うまくはぐらかしたいところだ。

「いえ、姉が何をやらかそうと、私には関係ありません。でも…。」

「でも?」

 どうやら、一言余計だったようだ。ついうっかり出た言葉だが、この『でも』に憩は食いついてきた。

 みかんは、

「いえ、何でもありません。」

 何とか誤魔化そうとした。しかし、みかんには何らかの理由が間違いなくあることを憩は確信していた。

「もし、言いたいことがあったら、はっきり言っておいたほうがエエって。まあ、たしかに咲ちゃんは卓に付くと、とんでもなく恐ろしいけどな。普段は、地味で優しい文学少女やし、怖い娘やあらへんで。」

 さらに、これに続いて衣が、

「咲は衣の恩人だ。だから、もし咲に問題があるのなら、衣に免じて許してやって欲しいし、何があったのか、良ければ話してもらいたい。」

 とみかんに言ってきた。

 しかも、それはリップサービスではない。本心から出た言葉のようだ。目がもの凄く真面目だ。

 みかんにとっては意外な言葉だ。

「(どういうこと? 天江衣も荒川憩も、宮永に酷い負けを喰らっているのに、宮永のことを仇と思っていない。それどころか、恩人って何?)」

 正直、理解できない。

 たしかに、和も咲のことを悪く言わない。言うとすれば、相手が和了れていないのを気にして手加減することくらいだ。それで、手加減しないように、友人として和が咲を叱ったとも聞いた。

 光も…従姉妹ゆえかもしれないが、咲のことはディスっても本気で悪くは言わない。点数調整のことグチグチ言うことはあるが…、まあ、それくらいだ。

 自分が勝手に描いていた咲の像…、弱者をいたぶる破壊神…、失禁させて喜ぶ悪魔…、それとはどうも違う。

 いや、頭の中で、それは分かっていたのかもしれない。ただ、自分が姉のことで弄られることへの怒りの矛先を作りたかっただけなのだろう。そうしなければ、自分が精神的に保てないからだ。

 

 みかんが、重い口を開いた。

「私と麻里香は、姉達の事件の後、そのことで周りから色々弄られたんです。」

「麻里香って?」

 と咲が聞いた。

「一回戦で戦ったうちの一年。あんたの対面にいた娘のこと。松庵女学院の多治比真祐子の妹…。」

「ああ、あの綺麗な人…。」

「…特に、部内で、私や麻里香に勝てない先輩達から、私も麻里香も、あの失禁事件のことで何かと酷いことを言われで…。」

「私のせいでってこと?」

「そうね…。」

「でも、じゃあ、和ちゃんや光のことも敵視してるの?」

 一瞬、みかんが黙り込んだ。今はともかく、たしかに以前は二人を敵視していた。これも今となっては余り言いたくないことだ。

「和は、最初は清澄から来たってことで気に入らなかったけど、でも、先輩達に注意してくれたのは和だった。それで、先輩達からの攻撃が減ってきたのも事実。」

「(和ちゃんらしい…。)」

「光も、あんたの従姉妹ってことで最初は気に入らなかったけど、でも私達、淡に怒られてね。」

「淡ちゃんが?」

「そう…。光は大事なチームメートだってね。うちが勝つためには重要な存在。それに、宮永先輩の従姉妹でもあるし…。それで、まあ、淡に言われたこともあったし、二人のことは、徐々に受け入れていったよ。」

「じゃあ、和ちゃんと光のことは大丈夫なんだね?」

「大丈夫って?…、まあ、別に今は普通に友達だと思ってる。」

「良かった、私だけで…。」

「えっ?」

「だって、私のせいで和ちゃんと光の居場所がなくなったら困るって思ってたから。二人に迷惑かけたくないし。」

「(あれっ?)」

 やっぱり、話をしていてイメージと違う。

 みかんが頭の中で描いていた咲は、優しさの欠片もない麻雀マシーンに他ならない。

 しかし、ここにいる咲からは、そんな野蛮な空気は一切感じない。むしろ、被捕食者的な小動物の雰囲気だ。

「なんか、今の宮永さんって、一回戦の時と全然感じが違うね。」

「違うって?」

「もっと、攻撃的な雰囲気が全身から出ていた感じがあったし…。」

「だって、和ちゃんと手加減しないって約束したし、それに…。」

「それに?」

「失禁事件のことで敵認定されてるってのは分かってたけど、三人とも、すっごく綺麗で人目を惹くような人なのに…。それなのに、なんで地味な私に敵意むき出しで睨んでくる必要があるのかなって。」

「…。」

「正直、三人が綺麗で羨ましくって。それで、嫉妬しちゃったところもあって、変に力が入っちゃって…。」

「嫉妬って…。」

「だって、絶対に、今までの人生で異性に不自由したことなんかないでしょ?」

「ええと…、麻里香はともかく、私は無い無い。」

「えっ? 嘘? 私、佐々野さん以上に綺麗な人って見たことないよ(正直、和ちゃんより綺麗だし…)。」

「それは、言い過ぎだって。私は中学の頃、太ってたし、それで、いつも姉と比べられて…、私が好きだった男子から、

『姉はあんなに綺麗なのに、お前は、どうしてそんななの?』

 とか言われたし…。」

「ひどい…。」

「でしょ? それでダイエットしたんだけどね。それと、今は、麻雀が一番で、他は目に入らないし…。それ以前に、男に縁がないけど…。」

 咲は、

「(も…もしかして、この人…、美人だけど、実は私と同じ側の人間だったの?)」

 急にみかんに親近感が湧いた。

 みかんもまた、咲が勝手に想像していた像…、恋愛ヒエラルキーの頂上…、言い寄ってくる男が優しくしてくれるのをイイことに好き勝手やってる女…、男をとっかえひっかえしている女…、とは違いそうだ。

「むしろ、私は麻里香に嫉妬してるけどね。今日、缶のおしるこを三本飲んでるのよ、あの娘。毎日、お菓子ばっかり食べているけど、全然太る気配ないし。」

「えっ? それって、普通じゃないの?」

 これはこれで言ってはいけない一言のように思えるが…。

 咲の爆弾発言だ。

 実は咲も全然太らない体質だったのだ。なので太りやすい体質の人の苦労や苦しみを理解出来ていなかった。

 良く良く考えると、菓子好きの照も太っていない。ジュースばかり飲んでいる光も太らない。

 恐るべし宮永遺伝子…。

 むしろ、みかんのほうが外見的ファクターで咲に嫉妬した瞬間だった。

「麻雀が強くて太らない体質ってこと? あんたのほうが羨ましいわ!」

「へっ?」

 咲は、まさか超絶美少女から、そう言われるとは思わなかった。正直、驚いた。

 

 審判の咳払いが聞こえた。そろそろ始めろと言いたいらしい。

「ほな、始めますか。でもまあ、うちだって咲ちゃんと天江さんに勝ちたいから本気で行くで。うちの本気を見て失神せえへんようにな!」

「衣も本気を出すぞ! 咲に負けていられないからな!」

 憩と衣の言葉だ。

 これは、何気に、二人ともみかんに言っていた。

 失禁するくらい強烈なオーラを浴びせる魔物のは咲だけではない。自分達も同じだと言いたいようだ。

 

 場決めがされ、起家が憩、南家が衣、西家が咲、みかんは北家になった。

 咲が靴下を脱いだ。最大パワーを発揮するためだ。

 憩も気合いが入った表情をしている。目力が怖い。

 そして、みかんが、衣の山から手牌を取ろうとしたその瞬間だった。とんでもない圧迫感がみかんを襲った。これで、みかんは吐き気を催した。

「(なにこれ?)」

 すると、咲が、

「お姉ちゃんとか光も、これくらいの雰囲気出すでしょ?」

 とみかんに言った。

 いや、そんなのは知らない。こんな殺気とも言える重圧をみかんに感じさせたのは、今まで咲一人しか記憶にない。

 みかんは、

「(もしかして、今まで宮永咲が私達に向けてきた重圧とか殺気って、上位陣では普通のことなの?)」

 と思った。

 もし、そうだとすると…。照も光も、今まで本気でみかんと打ってくれたことがないと言うことになる。それこそ、巧く手加減されていたと…。

 みかんは、ふと、今まで淡が口にした数々の言葉を思い出した。

『テルーもサキも、まあ、光もだけど、似たようなオーラ出すよね。』

『気合いって意味では、穏乃が一番怖いかな。』

『ネリーも執念は凄いけどね。その点ではサキより怖いかも。』

『今回、天江さんもテルーと同じような雰囲気を出してたかな。』

 …

 …

 …

『でも、サキとかテルーとか光とか、天江さんも穏乃もネリーも、打ってて楽しいよ。やっぱり、麻雀は、こうじゃないと!』

 …

 …

 …

 

 認識が甘かった。

 正直、みかんには、今の状況は、

「(これ、処刑台だよ!)」

 としか思えない。

 魔物三人が相手だからと言うのはあるが………、とにかく、この卓の空気そのものが恐怖でしかない。

 

 本当にトップの者達は、こんな重圧を互いに浴びせながら、しのぎを削っているのか?

 そう言う意味では、もしかしたら照や光だけではなく、淡も部内戦では自分達に手加減していたのではないだろうか?

 恐らく、それが正解だろう。

 この雰囲気に負けないくらいでないと、本当の意味で上には行けない。それが認識できていなかった時点で、自分も姉も甘かったと言うことになる。

 

 東一局、みかんは序盤で一向聴まで持って行けたが、その後、中々聴牌に進めない。気が付けば、もう終盤に差し掛かる。

 

 この時、咲の手牌は、

 {二二⑥⑥⑥⑥⑧⑧⑧⑧13西}  ドラ{1}

 一応、一向聴だが聴牌できても、今のところ役無しだ。

 ところが、ここから{西}を引き、

「カン!」

 {⑥}を暗槓した。

 西家の咲の副露は、咲と北家であるみかんの間に晒される。みかんは、自分に向けて強烈なエネルギー波が飛んできたような錯覚を感じた。

 今度の嶺上牌も{西}。当然、咲は、

「もいっこ、カン!」

 連槓して{⑧}の暗槓を晒した。

 まさか、東一局から咲の『もいっこ、カン』が出るとは…。

 この言葉は、むこうぶち…傀の『御無礼』と同義語だ。

 全てを見切り、相手を狩りに来ている証拠だ。

 嶺上牌は、またもや{西}。

「もいっこ、カン!」

 自風の{西}を暗槓した。これで三連槓だ。

 そして、咲は、次の嶺上牌を掴むと、

「ツモ! 嶺上開花。西三暗刻三槓子ドラ1。4000、8000!」

 当然のように嶺上開花を決めた。しかも、倍満ツモ和了りだ。

「いきなり倍満って、咲ちゃんらしいな。それに、うちへの振り込み対策もしっかりやってるし。」

「いや、これは衣対策だぞ!」

 憩と衣が何かを言っている。みかんには意味不明だ。

「うちは、一番最初に聴牌した相手から和了れる能力を持ってますぅ。」

「衣は、他家を一向聴から手を進ませない能力があるし、相手の手の進み具合と手の高さも分かる。咲は、役無しの一向聴から、自身の嶺上牌で手が進む能力を利用して連槓で一気に聴牌、和了りへと持っていった。これでは、衣も手の出しようがない。」

「うちもです。」

 みかんは、

「(なんか、信じられないこと言ってるけど…。能力麻雀のことは、あの女(いちごのこと)から聞いてはいたけど、この二人の能力…特に天江衣の能力ってナニ?)」

 みかんの身近な人間で言えば…、

『淡の絶対安全圏とダブルリーチ槓裏4』

『光の翻数上昇』

『照の打点上昇』

『菫の狙い撃ち』

『誠子の鳴き』

『尭深のハーベストタイム』

 いずれも、自分が和了る技みたいなものだ。しかし、憩はともかく、衣が言う能力は自分の知っている能力とはベクトルが違う。和了らせない能力だ。

 それが本当なら、絶対にみかんは勝ちようがない。どう足掻いても和了りまで持って行けないのだから…。

 しかし、それを打ち破るのが咲。

 もしかしたら、これが、あの女の言っていた能力麻雀の最高峰の対局か?

 驚いた顔で、みかんはすっかり固まっていた。すると咲が、

「二人同時の対策です。この和了り方でないと憩さんに振り込まされるし、衣ちゃ…、衣さん相手じゃ中々聴牌させてもらえないから…。」

 と言った。

 つまり、こんな偶然みたいな和了り方を、咲は意図的にやっていると言うことだ。照や光には無い攻め方だ。

 ただ、明らかに言えることは、

『次元が違いすぎる』

 との言葉だ。

 みかんは、さっきまで打倒咲に燃えていたことの無意味さを悟った。淡くらいの力があってはじめて口にできる言葉なのだ。

 

 東二局、衣の親。

 この局でも、みかんは序盤で一向聴まで進めたが、そこから先には手を進めることができなかった。衣の言うとおりだ。

 中盤、みかんは不要牌の{東}を捨てた。これを、

「ポン!」

 衣が鳴いた。次巡、

「チー!」

 今度は憩の捨て牌を衣が鳴いた。これで、海底牌をツモるのは衣になる。そして、最後のツモで、

「ツモ。海底撈月ダブ東ドラ3。6000オール!」

 憩の『先負に似た能力』を、衣の『海底撈月』の能力が上回っていたのだろう。憩は聴牌した衣から和了ることはできなかった。

 

 東二局一本場、衣の連荘。

 ここで衣は、みかんから18300を直取りして準決勝戦を終わらせようとした。しかし、自分が聴牌した直後、上家から強大な聴牌気配を感じた。

「(12000程度か…。しかし、衣が振るわけにも行かない…。)」

 ここで衣は、憩の危険牌を掴まされた。衣は、仕方なく聴牌を崩した。すると、

「ツモ! 3100、6100ですぅ。」

 憩に和了られた。

 やっぱり、笑っているけど目力が怖い。それが、みかんの憩に対する印象だった。

 

 これで現時点での点数は、

 1位:天江衣 32900

 2位:宮永咲 31900

 3位:荒川憩 23300

 4位:佐々野みかん 11900

 

 東三局、咲の親番。

 ここは、

「ポン!」

 咲は{2}を鳴いた。

 この時の咲の手牌は、

 {3333⑤⑥⑥⑦⑦⑦白}  ポン{222}

 ここから打{白}。

 すると、

「ポン!」

 憩が鳴いた。憩からすれば、ここで和了って2位に順位を上げたいところだ。

 しかし、次巡、

「カン!」

 咲が{2}をツモり、加槓した。{3}を咲が四枚持っている以上、これを槍槓できる人はいないはず。

 嶺上牌は{⑥}。すると、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {3}を暗槓した。次の嶺上牌も{⑥}。これで咲は和了りのはずなのだが、

「もいっこ、カン!」

 嶺上開花拒否で{⑥}を暗槓し、続く嶺上牌で、{⑤}を引き、

「ツモ。タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花。8000オール!」

 当然のように和了った。

 

 これで現時点での点数は、

 1位:宮永咲 55900

 2位:天江衣 24900

 3位:荒川憩 15300

 4位:佐々野みかん 3900

 

 衣は、これで2位に後退したが、ある意味、決勝進出するチャンスでもあった。

 

 続く東三局一本場、咲の連荘。ドラは{一}。

 ここで衣は、この局一番の支配力を見せた。一向聴地獄。誰にも聴牌させない。

 中盤に、

「ポン!」

 衣は{①}を鳴いて海底コースにコースイン。そして、

「みかんとやら。東二局でも見せたが、衣には、もう一つ、海底牌で和了る能力がある。」

 そのまま誰も鳴けないまま最終ツモまで流れ込み、

「ツモ! 海底撈月ジュンチャン三色同刻ドラ3。」

 予告通り、衣が海底牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一九九11179}  ポン{①横①①}  ツモ{8}

 

「4100、8100!」

 この時の衣のオーラを浴び、みかんは正直、少し漏らした。出す量が殆ど無かったので、ほんのちょっとで済んだが…。前もってトイレに行っておいたのが功を奏した。

 

 これで点数は、

 1位:宮永咲 47800

 2位:天江衣 41200

 3位:荒川憩 11200

 4位:佐々野みかん -200

 

 みかんのトビで終了した。

 

「どうだ。怖いのは咲だけではないだろう!」

 そう、みかんに言いながら、衣は不敵な笑みを見せていた。

「結局、咲ちゃんと天江さんに持って行かれたかぁ。でも、まあ、佐々野さんも、まだ、わだかまりがあるかも知れへんけど、うちらが本気で戦ったらどうなるかは分かってもらえたんちゃう?」

「そうですね。処刑台に立っているような感じでした。」

「でも、言い換えれば、咲ちゃんだって、今まで本気であんた達を相手にしてくれていた証拠やし、舐めて遊んでいたわけやない。これから、うちらみたいに分かり合ってゆけるようになれることを期待するわ。ほな、対局後の挨拶をしよか?」

 そう憩に言われて、咲達は立ち上がると、

「「「「ありがとうございました!」」」」

 一礼した。

 

 その後、咲は、卓を離れると、何にもないところでつまづいた。

「咲ちゃんらしいなぁ。大丈夫?」

「いつものこととは言え、気をつけろよ、咲。」

 憩も衣も、これが普通みたいに言っている。みかんの知らなかった咲の一面…ドジっ娘属性だ。

 

 対局室を出ると、咲は、そこで立ち止まった。

 みかんが、

「宮永さん、どうしたの?」

 と聞いた。すると、咲は恥ずかしそうに、

「ここで、憧ちゃんを待とうと思って。」

 と答えた。

 たしかに、隣の部屋ではA-B下位卓…多治比真祐子、多治比麻里香、新子憧、南浦数絵の対局が行われている。しかし、自分達の卓とは違ってトビ終了にはならないだろう。まだ終了までしばらく時間がかかるはずだ。

「まだ30分以上かかるんじゃない?」

「でも、私、すぐ迷子になっちゃうから。」

「迷子?」

「この年になって恥ずかしいけど…。ホント、私って方向音痴だし、泳げないし、何をやってもダメで…。」

「はぁっ?」

 みかんは、

『嘘だろ、こいつ!』

 と言わんばかりの懐疑的な視線を咲に向けた。




おまけ
個人戦の続きです。


 予選では、宮永咲、宮永光、天江衣等の超魔物が大暴れし、失禁者が続出した。特に咲の対戦相手が顕著だった。


 時は、予選七回戦が終わったところ。

スタッフA(男)「今回は、例年に比べて、なんか進行が遅いですね。」

スタッフB(男)「まあ、主に阿知賀の宮永選手のアレが原因だけどな。」

スタッフA「ああ、アレですね。」

 この会話が、偶々近くを通った和の耳に入ってきた。

和「(宮永選手って咲さんのことですね? でも、アレって何でしょう? 嫌な予感がします…。)」

スタッフB「ああ。宮永選手相手にアレしちゃうのが続出だからな。」

和「(アレするのが続出って? えっ?)」

スタッフB「試合自体は早く終わるんだが、その後だな。アレで時間を食うのは。」

和「(試合後にアレって? えぇっ?)」

スタッフB「特に四回戦では、対戦者三人同時だったしな。」

和「(そ…それって、もしかして4P?…)」

スタッフA「一回戦では、姫松の愛宕絹恵選手でしたよね。ヤっちゃったの。」

スタッフB「あれは、特に激しかったな。たしか、サッカーか何かやってた娘だよな。」

スタッフA「そうです。あの引き締まったワガママボディ。特に下半身が…。」

和「(激しいって…、それに下半身って…、やっぱり、それって…?)」

スタッフB「分かる分かる。」

スタッフA「あんな激しいのも珍しいですよね。」

スタッフB「まあな。」

スタッフA「でも、風越の池田と新道寺の中田は、ヤりませんでしたよね。」

スタッフB「別に興味ないな。あいつら魅力無いし。」

スタッフA「同感です。」

和「(あの二人に関して魅力が無いってことについては、私も同感ですけど…。)」

スタッフB「まあ、何て言うかな。別に宮永選手を責めるわけじゃないんだが、ここまで派手にやられるとな。試合後にあんなことされちゃぁ、あんなの放送もできないし。結構、報道側も苦労してるみたいだ。」

和「(放送できないようなこと? それで、下半身がどうこうって言ったら、やっぱり…アレしか考えられません。)」

スタッフA「後が大変ですしね。(掃除が)」

スタッフB「でも、アレを見て、お前なんか若いし、結構興奮してるんじゃないのか?」

スタッフA「それは否定できませんが…。こっちの身体も反応しちゃいますし…。」

スタッフB「なんだかんだ言いながら、好きじゃねえか、アレ見るの。」

スタッフA「お互い様でしょ。」

和「…。」

 和は、咲が対局後に対戦相手とHしていると完全に誤解した。
 しかし、そんな状況でも、対局中は頭を切り替えて本戦出場できる戦績を収めたのは見事と言えよう。

 そして、決勝トーナメント一回戦の咲の相手は、白糸台高校の佐々野みかん(佐々野いちご妹)、松庵女学院の多治比真祐子、白糸台高校の多治比麻里香(多治比真祐子妹)と決まった。

 三人とも、咲に一泡吹かせるつもりだったが、咲の闘牌…その迫力に圧されて、対局終了直後、真祐子と麻里香は失禁してしまった。
 みかんは、何とか耐えたが、ヤバそうだったのは言うまでもない。

 みかんは、観戦室の白糸台高校が陣取っている場所に来ると、麻里香のカバン(タオルとジャージが入っている)を持って再び対局室に急いだ。麻里香を着替えさせるためだ。
 丁度、みかんと入れ違いで和が戻ってきた。

誠子「まさか、麻里香が咲ちゃん相手にヤっちゃうとはな。」

尭深「それも、松庵の多治比さん…、麻里香のお姉さんも一緒になって…。」

和「(えっ? 麻里香と麻里香のお姉さん?)」

尭深「咲ちゃん相手に姉妹でヤっちゃうんだから。」

和「(えぇぇ? もしかして咲さん、今度は姉妹丼ですか?)」

尭深「みかんは、ヤっちゃマズいと思って耐えたらしいけどね。」

和「(みかんさんは、魅力的な咲さんを前にしても我慢してくれたってことですか? でも、それが普通だと思いますが…。)」

誠子「私だって予選で咲ちゃんと当たったけど…、私は、シなかったよ。」

尭深「私も二回戦で咲ちゃんと当たって…。私もシなかったけど…他の人がシちゃったんだけどね…。」

和「(誠子先輩も尭深先輩も、それが普通です…。なのに…麻里香さんは、何故…。許せません!)」

 この時、和からは激しい嫉妬のオーラが、勢力(精力)の強い超大型台風のように吹き荒れていた。
 それと丁度同じ頃、麻里香は激しい悪寒に襲われていた。まるで、死期が迫っているような、そんな感覚があった。

麻里香「死兆星が見える…。」


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二十八本場:個人戦決勝卓

 A-B下位卓は、前試合でヤらかした真祐子、麻里香姉妹が今一つ振るわず、1位数絵、2位憧、3位真祐子、4位麻里香で決着がついた。

 咲は、対局室前で30分ほど待つことになったが、無事、憧と合流できた。

 

 一方の、みかんだが、

「(ドジっ娘属性に迷子属性? 方向音痴? 地味で読書好きで…。なんか、全然イメージ違うなぁ…。そう言えば、以前、和が宮永はカナヅチって言っていた気がするし、卓についている時以外はポンコツってこと?)」

 どうやら、咲の真の姿が見えてきたようだ。

 

 一回戦では、咲は、たしかに自分達を本気で叩き潰そうとしていた。しかし、それは自分達に勝手に嫉妬していたことと、本気で麻雀を打つように和に言われていたこと。この二つが理由だ。

 点数調整で全員0点にされたりもしたが…。

 

 咲は、恐らく九割方は自分達が思っているような人間では無い。100%とは言い切れないが…。ただ、自分達が敵視していなければ、友好的な姿勢を示していれば、普通に接してくれるのではないだろうか?

 大会が終わったら、麻里香とも話してみよう。

 

 それから、淡や和、光にも、もっと咲のことを聞いてみよう。

 他にも、淡と光には、

『今まで自分達と打つ時に手加減していないか?』

 それも確認しなくてはならないだろう。それができなければ、自分達の本当の立ち位置が分からない気がしたからだ。

 その上で、今後、魔物と戦うには何が必要かを考え直す必要がある。思っていた以上に、自分達と魔物の間には開きがあるようだ。

 まあ、淡に確認するチャンスは、意外と早く来るのだが…。

 

 

 その頃、C-D下位卓…松実玄、鶴田姫子、原村和、鷺森灼の対局では、玄のドラ爆が面白いように炸裂していた。

 姫子は、個人戦では決勝卓に進出しない限りセルフリザベーションをかける必要はない。

 ただ、攻守のバランスを考えて打っているのだが、ドラが無い状態では打点を上げるのに苦労する。小さい和了りをしたところで、玄に一回でも和了られたら全て取り返されてしまう。

 灼としても、筒子多面聴の鍵となる{⑤}の半分…、つまり赤5筒が、最初から玄の支配下にある。非常にやりにくい。

 この能力麻雀に対し、

『そんなオカルトありえません』

 とマイペースでジデタル打ちができるのは、和だけだろう。

 結局、C-D下位卓は、1位松実玄、2位原村和、3位鷺森灼、4位鶴田姫子で対局を終了した。

 

 C-D上位卓は、大星淡、片岡優希、宮永光、高鴨穏乃の対決だった。

 起家は言うまでも無く優希、南家は穏乃、西家は淡、光が北家になった。

 

 東一局、優希の親。

 優希は、団体戦準決勝を最高状態にするようにコンディションを調整していたため、今は、天和どころかダブルリーチをかけられるほどのパワーもない。

 そもそも、淡の絶対安全圏が発動しているのだ。

 一回戦の東一局では、絶対安全圏を破るだけの力があったが、今は、淡の支配のほうが遥かに上だ。もはや、絶対安全圏を打ち破るだけの力は無い。

 とは言え、それでも決勝リーグ二回戦に進出しているのだから立派であるが…。

 

 六巡目。

「リーチ!」

 なんとか優希は聴牌し、リーチをかけた。そして、

「ツモ。4000オール!」

 親満をツモ和了りできた。

 しかし、東一局一本場からは、

「チー!」

 絶対安全圏内での勝負を淡が仕掛けてきた。さらに、淡を越える支配力を持つ光も和了りに向かってくる。

 結局、そこからは淡と光が和了り、優希は途端に原点を割った。

 東四局からは穏乃の支配が強まってきた。そして、南場では淡も穏乃に逆転される。東場でのプラスを保てたのは、光だけだ。

 結局、C-D上位卓は、光と穏乃が勝ち上がり、淡と優希が5位決定戦に回されることとなった。

 それでも、この時点で既に優希は、玄、和、憧、数絵よりも上の順位が約束された。一回戦の組み合わせが良かった面はあるだろうが、これで臨海女子高校先鋒としての面目は立ったと言えるだろう。

 一方、淡は、咲との対決を実現できず、悔しそうだった。

 

 

 昼になった。

 一旦、ここで休憩時間だ。休憩が終わったら、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時進行で行われ、5位から16位までの順位を決める。

 これらは、半荘一回のみの戦いで、1時間もあれば終わる。

 その後、決勝戦が行われる。これは、前後半戦の半荘2回の合計点で競うことになる。共に、25000点持ち30000点返しの、オカありウマなしでの戦いだ。

 

 咲達は、会場の食堂で昼食をとった。

 昼食代は後援会から支給される。自分の小遣いに全く負荷がかからない。

 そう言えば、宿泊費も移動費用も部員が負担する分は無い。清澄高校の頃は、自腹分も大きかったし、自分達のフトコロに優しくなるよう、宿泊先も安いところだった。

 それが今では…非常にイイご身分だ。

「(こんな贅沢させてもらってるんだし、絶対に結果を出さなきゃ。)」

 咲の中で、勝利を目指すべく、良い意味でのスイッチが入った。

 少なくとも、今回は『相手を全力で叩き潰す』の延長上に、たまたま『勝利』があるのではない。阿知賀女子学院を応援してくれる方々のために全力を尽くしたい。そう本気で思っていた。

 

 昼食後、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時開催された。

 5位決定戦は、A-B卓からは荒川憩と佐々野みかんが、C-D卓からは大星淡と片岡優希が参戦した。

 早速、みかんに、淡の本気レベルを確認する機会が訪れた。

 淡の絶対安全圏に苦しめられながらも、東初では何とか優希が和了りを決めた。しかし、その後、淡、憩の和了りが順に目立つようになる。

 憩との対決と言うことで、淡は当然、本気で戦った。その迫力を目の当たりにして、みかんは、淡が部内戦では手加減していたことをイヤと言うほど痛感した。

 この対局では、残念ながらみかんはヤキトリとなった。

 

 最終的に順位は、

 5位:荒川憩

 6位:大星淡

 7位:片岡優希

 8位:佐々野みかん

 に決まった。

 

 9位決定戦は、A-B卓からは松実玄と新子憧が、C-D卓からは原村和と南浦数絵が参戦した。奈良vs旧長野の対決である。

 さすがに、この面子では玄にドラそばやドラを切らせるために敢えて槓をする者はいなかった。

 ドラ爆和了りが炸裂し、序盤から玄が圧倒的なリードを作った。

 その後、牌効率の良い和と憧が和了り出した。しかし、ドラが来ない対局では玄のリードを巻き返すのは難しい。

 和は、門前麻雀も鳴き麻雀も併用する。リーチをかけての和了もあるため、ドラがなくても満貫クラスの手を作ることが一応可能だ。しかし、鳴き麻雀に特化した憧は、3900にも満たない和了りばかりが続いた。

 数絵は、南入りしてから和了れるようになったが、裏ドラが乗らず、思うように巻き返しができなかった。南場でのリーチツモ&裏ドラが彼女の持ち味だが、裏ドラ無しでは打点が上がらない。完全に自分のスタイルを封じられた感じだ。

 

 最終的に順位は、

 9位:松実玄

 10位:原村和

 11位:南浦数絵

 12位:新子憧

 となった。

 

 数絵は、南三局で、なんとか憧を抜いたが、そのさらに上の順位まで食い込むことはできなかった。

 

「では憧。今回、私が勝ちましたので咲さんには手を出さないでください。」

「出さないってば! 迷子対策で手を繋ぐ程度だって。」

 つまりは、団体戦決勝の続きである。いつの間にか憧は、和と咲を賭けた戦いをさせられることになっていた。

 一先ず、和は憧に勝てて安心したようだ。

 

 

 13位決定戦は、A-B卓からは多治比真祐子と多治比麻里香の姉妹が、C-D卓からは鶴田姫子と鷺森灼が参戦した。

 さすがに、この頃になると多治比姉妹も、咲との対局後にやらかした事故のことから、ある程度頭が切り替えられた。

 この対局は、灼の筒子多面聴牌リーチの際に、真祐子が姫子や麻里香に安手振り込むなどして上手に立ち回った。そして、ここぞと言うところで真祐子が和了る。本来、魔物が相手でない限り、真祐子は、そうそう負ける人間ではないようだ。

 

 最終的に順位は、

 13位:多治比真祐子

 14位:鷺森灼

 15位:鶴田姫子

 16位:多治比麻里香

 となった。

 

 

 これで5位以下の順位が決まり、いよいよ決勝戦がスタートする。A-B卓からは咲と衣が、C-D卓からは、光と穏乃が勝ち上がった。誰の目から見ても魔物四人の対決だ。

 対局室に、四人が姿を現した。

 この中で、一番堂々と振る舞っているのは、最も身長は低いが、唯一の二年生である衣だった。

 対する咲は、被捕食者的な雰囲気でオドオドするかと思われたが、意外と落ち着いた感じを見せていた。応援してくれる人達のためにも勝ちたい。その気持ちが、彼女の心の中から無駄な緊張を吹き飛ばしてくれていたようだ。

 

 場決めがされ、起家が穏乃、南家が衣、西家が咲、北家が光に決まった。咲は得意の西家を、光も得意の北家を引き当てた。

 

 東一局、穏乃の親。

 もし、誰も鳴かずに最後まで進めば、南家の衣が海底牌を掴むことになる。この局、衣は能力全開で、他家全員を一向聴地獄に引きずり込んだ。しかも、その支配力で誰も鳴けない巡り合わせになる。

 そして、

 ラスト一巡、

「リーチ!」

 衣がリーチをかけた。これで、最低でもリーチ一発ツモ海底撈月の満貫を衣が和了る…はずだった。しかし、

「カン!」

 咲が、暗槓した。今、四枚揃ったのではない。既に事前に抱えていた槓子を、このタイミングで副露したのだ。

 そして、嶺上牌で聴牌し、残しておいた安牌を切った。これで海底牌は一枚前の牌に変わり、衣のツモは無くなった。

 続く光はツモ切り。この牌では鳴きも和了りも無し。そして、海底牌は穏乃の手に回った。

 穏乃は、無難に安牌を切った。ここまで来たら、一向聴も二向聴も同じだ。

「「聴牌。」」

 衣と咲が手牌を開いた。

「「ノーテン。」」

 一方、光と穏乃は聴牌ならず。

 ただ、この局の意味するところ…、それは、咲に衣の海底撈月が封じられたことであろう。これは、衣にとっては厳しい。

 しかも、局が進めば、東四局辺りから穏乃の山支配が強まり、海底牌まで辿り着けなくなる。それは、インターハイ前の阿知賀女子学院との練習試合で証明済みだ。

 これでは、衣は海底撈月に頼るわけには行かないだろう。

 かと言って、直撃を狙おうにも咲と光からの振り込みは期待できない。

 となると、できることは、エンジンがかかっていない序盤の穏乃からの出和了りで稼ぐくらいか?

 当初想定していた以上に、衣は東場で身動きが取れていない。

 しかし、

「面白いな咲。やはり、衣の相手は、これくらい衣を苦しめてくれる者でなければ面白くない!」

 むしろ、衣は喜んでいた。

 対等以上の相手に打ち勝つことが楽しい。格下の者達をただ蹂躙しても面白くも何ともない。それが、今の衣の思うところであった。

 

 東二局流れ一本場、衣の親。

 衣の意識が咲に集中する。海底撈月を封じてきたのだから当然だろう。

 ただ、この対局では気を抜いたら、とんでもないことをしでかす奴がいる。そう、北欧の小さな巨人…光だ。

 自分への衣の支配が弱まると、すぐさま役無しだが門前聴牌まで持って行き、

「ツモ! ドラ3。2100、4000!」

 光は、満貫級の手をツモ和了りした。

「(しまった! 咲ばかりに気をとられて、こいつの存在を忘れていた。衣は子よりも親のほうが好きなのに…。)」

 これで、あっという間に衣の親が流された。

 

 東三局、咲の親番。

 まだ、穏乃の山支配は発動していない。しかし、東三局を過ぎれば、徐々に穏乃の支配が強くなる。

 この局が、咲、光、衣の三人にとっての勝負どころになるだろう。衣は、そう思っていた。

 ただ、どうしても衣は、今度は前局で和了った光に意識が集中してしまう。すると、咲への支配が弱まることになる。

 支配が弱まれば、咲の手は進む。当然、

「カン!」

 咲は門前聴牌すると同時に四枚揃いの牌を暗槓し、

「ツモ。嶺上開花ドラドラ。4000オール!」

 そのまま、当然の如く嶺上開花で和了った。

 この和了りを見て、衣は、

「(相手が咲一人だけなら咲の支配力と衣の支配力の勝負になるだろう。しかし、ここには咲と対等の支配力を持つ光がいる。そうなると、どうしても咲と光のうち、前局で動きを見せたほうに衣は意識を集中させてしまうようだ。この局では光、その前は咲に気を取られ過ぎた…。まだ、常に心を平静に保てるほど、衣は精神が成熟していないと言うことか。)」

 と自己分析を始めた。

 衣は、自分には、何かが起こると、それに意識が集中してしまって全体が見えなくなってしまう側面があることを悟った。これは、普通仕方がないことなのだが…。

 ただ、これから場が進めば穏乃の支配が増してくるのは必至だ。

 この現状から考えると、衣は、もう既に窮地に追い込まれているような気がしてならなかった。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 やはり、衣は意識が咲のほうに向いてしまう。これは、自分でも分かった。やはり、前局の嶺上開花の印象は拭えない。

 早々に、光が門前聴牌したことに衣は気付いた。衣の支配が、卓全体ではなく咲に集中していることが原因だ。

 ただ、光の手は高くなさそうだ。光も咲の支配を受けており、動きに制限がかけられているようだ。

「ツモ。ドラ1。600、1100。」

 光が和了った。衣が感じていたとおりの安手だ。

 しかし、衣は依然としてノー和了だ。和了ったのは咲と光のみ。

 既に四局打っている。それに、衣は和了りに行っている。それでいて未だ和了れていないのだ。このようなことは滅多に無い。

 さすがの衣も表情に焦りの念が見えてきた。

 

 東四局、光の親番。

 卓に、うっすらと靄がかかってきた。

 光は、このような現象が起こることを咲から予め聞いていたし、個人戦決勝リーグの一回戦、二回戦で穏乃とは卓を囲んでいた。なので、穏乃の能力のことは一応分かっている。

 それに、光は、もともと長野で育った。それも、穏乃の本拠地、吉野の山と同等以上の標高に位置する場所だ。なので、この程度の靄で、光が視界を失うことは無い。

 しかし、支配力の強さは感じる。今思えば、一回戦か二回戦で穏乃を落としておけば良かったとさえ感じる。

 一回戦では灼と和がいた。二人とも強いが、光に太刀打ちできるレベルではない。東四局まで持ち込まずに東三局までで和あたりを残して、灼か、まだエンジンのかかっていない穏乃をトバして終了すべきだったのかもしれない。

 二回戦もそうだ。淡と優希を落すのではなく、そのどちらかを残せば良かったのだ。ただ、淡が相手だったため、絶対安全圏が発動し、当然光の配牌は悪かった。それで、自分が勝ち上がることだけに気が行ってしまったのだ。

 

 今、明らかに穏乃の支配力が上がってきている。

 しかし、良く考えると、その力で干渉されるのは、光一人だけではない。咲も衣も穏乃と支配力をぶつけ合っている。

 つまり、穏乃の支配力は、咲にも衣にも分散している。よって、光の支配力が完全に打ち消されるわけではない。

「(今のうちに点数を伸ばす!)」

 光は、この親でスパートをかけることにした。支配力を高める。

 衣の一向聴地獄も、穏乃の支配が加わってきたことで弱められている。これなら聴牌できる。そして、

「ツモタンヤオドラ1。2000オール。」

 30符3翻ではあるが、光が和了った。

 

 これで各選手の点数は、

 1位:宮永光 37000

 2位:宮永咲 31400

 3位:天江衣 16800

 4位:高鴨穏乃 14800

 

 東四局一本場、光の連荘。

 さっきよりも靄が強くなった。光は、前局でエネルギーを放出し過ぎたのか、この局では支配力が、いま一つの状態だ。

 視界が悪い。恐らく、雀力が弱い選手なら、既に相手の捨て牌を見落とすようになっているのだろう。

 しかし、光には、きちんと牌は見えている。少なくともリーチをかけなければ振り込むことは無いだろう。

 衣の一向聴地獄も弱まっている気がする。なのに、光は、何故か聴牌までの距離が長い気がしていた。これは、穏乃の支配力によるものだろう。

 光は、ようやく一向聴まで辿り着いた。しかし、穏乃の手のほうが早いようだ。

「ツモ。1100、2100。」

 結局、タンヤオツモドラ1を穏乃に先に和了られた。

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。

 局が進むに連れて靄が濃くなる。

 この時、衣のレーダーは機能しなくなり始めていた。団体戦決勝戦の時と同じだ。

 団体戦決勝戦では、数絵の南風で南入した直後は靄が吹き飛ばされていたが、この対局では靄が濃くなる一方だ。

 相手が聴牌しているのか、していないのか?

 どの程度の手の高さなのか?

 和了り牌は何なのか?

 いま一つ衣は読みきれない。捨て牌が見えないわけでは無いのだが…。

 そして、より靄が濃くなる終盤で衣は{三}を切り、

「ロン。タンピンドラ2。11600。」

 穏乃に振り込んだ。しかも、親満級の手。

 これで衣は、一人沈みとなった。

 

 現時点での各選手の点数は、

 1位:宮永光 34900

 2位:高鴨穏乃 30700

 3位:宮永咲 30300

 4位:天江衣 4100

 いよいよ、衣が危ない状態になってきた。

 チャンピオンである咲は現在3位と苦戦。まあ、1位とは4600点差なので、逆転できる範囲にはいるのだが…。

 

 こんなに苦戦する衣は珍しい。団体戦の時でもそうだったが、振り込む衣の姿は滅多に見られない。やはり、穏乃は衣の天敵と言うことなのだろう。

 それに、次に衣が振り込んだら本当にトビ終了の可能性がある。公式戦では、今まで誰も衣が箱割れする姿を見たことがないし、想像すらできないことだ。

 下馬評とは違う展開に、観戦席は興奮状態になってきた。




おまけ
今回、失禁者は出ません。そっちが好きな方、ゴメンナサイ。


 個人戦、予選全十回戦が終了した。
 1位は咲で、プラス1382を叩き出した。これは驚異的な記録で、かつて小鍛治健夜プロが高校三年生時のインターハイ個人戦予選で作った記録を遥かに超える大記録だった。
 ダブル役満を認めないルールでも、芝棒を無限に積むことが出来れば無限に点数が得られる計算にはなる。しかし、常識的に、一試合で百本場とか千本場とかは無理であろう。
 六本場であれば、レアケースではあるが、一応、現実的な連荘回数である。
 もし、全員を0点にし、かつ六本場にして親の役満をツモ和了りすれば、敗者三人がマイナス47になり、勝者はプラス141になる。
 しかし、これは飽くまでも計算上の話であって、実際には141点も不可能であろう。
 それ以前にプラス138も基本的には不可能だと思うが…。
 2位はプラス1110で、衣であった。
 3位はプラス1024で、光…。
 三人とも、4位以下に400点近い差をつけての大記録だった。

 そして、4位は、全試合で最低誰か一人をドラ爆でトバした玄だった。成績は、なんとプラス613。これが一昨年なら、予選1位を大きく上回る記録だ。
 ちなみに昨年の予選1位は照で、プラス800以上を記録したが、まあ、これは一応例外的記録と言えよう。今年の方が例外的過ぎるが…。
 ちなみに一昨年前は、世界大会に出場した照が、航空トラブルのため秋季都大会の一回戦大将戦開始に間に合わなかった。それで、白糸台高校は秋季都大会一回戦で敗退し、照は春季大会に出場出来なかった。



個人戦初日の夜、ホテルにて

晴絵「みんな、良く頑張ったと思う。全員が決勝トーナメントに出場できるなんて、凄いことだよ!」

憧「それに、阿知賀の生徒が個人戦で決勝トーナメントに出るのは初めてだしね。でも、嬉し過ぎて今日は、なかなか寝付けないかも。」

晴絵「まあ、ゆっくりお風呂に浸かって疲れをとりな。」

憧「そうだね…。そう言えば、咲はインターハイの時も個人戦に出てたじゃん。」

咲「うん。」

玄「それも、優勝したのです!」

咲「まあ、運が良かったと思います。でも、インターハイの時、阿知賀はどこに泊まってたんですか?」

穏乃「インターハイの時もここだよ!」

咲「えっ? いきなり、こんなに贅沢なところに?」

 咲は、インターハイで準優勝するだけの活躍を見せたからこそ、この春から贅沢をさせてもらえているものと勝手に考えていた。
 金は、あるところにはあるんだなと思った。

穏乃「でも、千里山は、もっと広くてイイホテルに泊まってたよ。」

咲「(これは、千里山の人達には麻雀を楽しませなきゃいけないね…って、もう二人楽しませたっけ。それに、千里山からは決勝トーナメントへの出場者はいないし…。)」

灼「清澄はどこだったの?」

咲「安い宿舎でした。お風呂も共同の…。」

穏乃「大浴場?」

咲「そんなに大きくはなかったけど…。」

玄「だ…大浴場に行きたいのです。」

憧「それはダメ! 玄は大浴場で、
『沢山オモチを見たいのです!』
とか絶対に言い出すから。
大浴場で大欲情するからね!」

玄「だって、決勝トーナメントで戦う前に、オモチ成分をたっぷり補給しておきたいのです!」

咲「思うんですけど、玄さんは、裸で鏡の前に立ってみてはどうでしょう?」

玄「自分の身体を見ても面白くも何とも無いのです!」

咲「でも、自分の顔が隠れてたら…。」

憧「それは面白いかも!」

玄「でも、他人のだからイイのであって…。」

咲・憧「「まあ、イイからイイから!」」

 玄は、咲と憧に服を脱がされ、目のところに穴をあけた紙袋を頭に被らされて、鏡の前に立たされた。

 たしかに、これなら鏡に映る自分が、玄には他人に見えた。
 この姿を見て、

玄「これは…なかなかのオモチをお持ちで…。」

咲・憧・穏乃・灼・晴絵「「「「「(応急処置完了!)」」」」」

 これで、阿知賀女子学院のみんなは、平和な夜を過ごせましたとさ。



 ただ、この時以来、玄は自分の身体を見て喜ぶ『オモチ限定ナルシスト』の道に突入して行くことになるのだった。


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二十九本場:干渉

 南一局一本場、穏乃の連荘。

 靄は、局を重ねる毎に、巡が進む毎に濃くなって行く。しかし、その靄が効かない人間がいる。

「カン!」

 その者は、衣の一向聴地獄が効力を失った今、普通に手を進めてくる。そして、

「ツモ。嶺上開花。2100、4100!」

 嶺上開花を決めた。しかも、満貫手。

 その少女こそ、深い山々にかかる靄や霧のさらに上、森林限界を超えたところに平気で花を咲かせる人物…インターハイチャンピオンの咲だ。

 その場所には、穏乃の靄は届かない。晴れ渡っているのだ。

 

 南二局、衣の親。ドラは{6}。

 衣は、この親で取り返すべく、スパートをかけることにした。ここで支配力を全て出し切るつもりで対局に臨むのだ。そうしなければ、穏乃の支配を打ち破ることは出来ないだろう。

 

 幸運にも、衣の配牌は、

 {二三五七八[⑤]⑦⑧66東南北發}

 ドラが三枚あった。

 

 ここから、穏乃の支配を撥ね退け、{⑤}、{⑥}、{六}と鬼ツモが続く。そして、他家には再び一向聴地獄がふりかかる。

 中盤、

 {二三五六七八[⑤]⑤⑥⑦⑧66}

 衣は、この手牌から、

「ポン!」

 光が捨てた{⑤}を鳴いた。打{八}。さらに衣は、

「チー!」

 穏乃が捨てた{一}を鳴いて{横一二三}を副露して打{七}。これで海底牌を掴むのは衣になった。

 そのまま、誰も鳴けずに最後の一巡に突入。そして、衣は海底牌をツモると、

「ツモ。海底撈月ドラ5。6000オール!」

 当然のように和了った。しかも、和了り役は海底撈月のみ。

 

 開かれた手牌は、

 {五⑥⑦⑧666}  ポン{[⑤]横⑤⑤}  チー{横一二三}  ツモ{[五]}

 

 これで各選手の点数は、

 1位:宮永咲 32600

 2位:宮永光 26800

 3位:高鴨穏乃 20600

 4位:天江衣 20000

 親ハネツモで、衣が一気に持ち直した。

 

 しかし、これで衣は想定以上に支配力を使い果たした。しばらくは穏乃の支配を跳ね返せそうにない。

 

 続く南二局一本場では、

「ツモ。嶺上開花。1100、2100。」

 咲に和了られた。これで、衣の親は流れ、咲は2位との差を広げた。

 

 南三局、咲の親。

 現在トップは咲。2位との差は11200点。

 しかし、最下位の衣との差は19000点であり、まだ、大きな手を和了れれば、咲以外の三人もトップが取れる位置にいる。

 例えば衣も、ハネ満ツモなら咲に親カブリさせて一気に1000点差の2位まで詰め寄ることができる。

 もっとも、今の衣は支配力を取り戻すには休憩時間が必要だが…。

 穏乃も山支配で咲と光の和了りを抑え、自らがハネ満をツモれれば逆転トップに立てる。

 ただ、この局、動いたのは、光だった。

「ポン!」

 衣が捨てた{中}を鳴き、

「ツモ! 中ドラ3。2000、3900!」

 ドラと赤牌に愛された和了りだ。

 

 各選手の点数は、

 1位:宮永光 33600

 2位:宮永咲 33000

 3位:高鴨穏乃 17500

 4位:天江衣 15900

 これで、光がトップに立った。

 

 オーラス。光の親。

 まだ、誰もが1位になれる可能性を残している。

 穏乃のトップ条件は倍満。ただし、光からの直取りか、ツモ和了りが必要となる。

 衣もツモなら倍満、ロンなら三倍満の和了りで逆転は可能だ。

 ただ、どちらも条件としては厳しい。

 光は、安手で流せば1位。咲も、光とは600点差のため、1000点でも和了れれば1位になれる。

 当然、咲と光のスピード勝負になる。

 とは言え、穏乃も和了りを諦めたわけではない。オーラスならば山支配は最高状態になるし、可能な限り逆転を目指す。最低でも後半戦で逆転できるよう、少しでも多く稼ぎたいところだ。

「ポン!」

 咲が、穏乃がツモ切りした{白}を鳴いた。特急券だ。

 穏乃としても和了りを目指したい。まだ聴牌気配を誰からも感じていない以上、ここは不要牌である{白}を処理したい。鳴かせたこと自体は、仕方がないであろう。

 そして、咲は打{發}。これを、

「ポン!」

 光が鳴いた。

 ただ、咲は一巡前にチュンチャン牌を捨てている。光は、嫌な予感がした。

「(もし、咲が{發}を前の巡に捨ててたら、私が{發}を鳴くから{白}は天江さんに行く。そこでもツモ切りするだろうけど、そうなると、次の咲のツモ牌は、そこから四枚目。でも、今回は私が{發}を鳴いたから、咲のツモ牌は三枚目になる。もし、咲がこれを全部分かってやっていることだったら?)」

 普通、こんなことまで考えられない。そもそも、山で裏返しになっている牌が何なのかは分からないはずなのだから。

 しかし、次巡、

「カン!」

 光の予感どおりなのかもしれない。咲が{白}を加槓した。そして、

「ツモ。嶺上開花白ドラ1。1300、2600。」

 咲が和了って決勝前半戦を終了した。

 

 各選手の点数は、以下の通りになった。

 1位:宮永咲 38200:+28

 2位:宮永光 31000:+1

 3位:高鴨穏乃 16200:-14

 4位:天江衣 14600:-15

 

 ここから、十分間の休憩のあと、後半戦が開始される。

 衣と咲は、旧長野組で交流が深い。

 光と咲は従姉妹。

 穏乃と咲はチームメイト。

 穏乃と衣はインターハイ前の練習試合から交流を持つ。

 しかし、今は敵同士。衣は馴れ合いをせずに、一人、自販機に向かうと紙パックのオレンジジュースを購入した。

「夏の県大会決勝の休憩時間でも、衣は、これを飲んだな。あの時は、この辺に藤田がいて、『そろそろ麻雀を打てよ』って言われたんだ。その意味が、衣には最初は分からなかったが、それを教えてくれたのが咲だった。あの時は咲に負けたが、後半戦は衣が勝つ。勿論、穏乃にも、咲の従姉妹にも…。」

 衣の目に活力が戻った。

 

 咲は、光と一緒にトイレに向かった。

 光も方向音痴だが、少なくとも建物の中でトイレに迷う咲ほどは重症ではない。それで、咲を連れてトイレに行った。

 

 穏乃は、一人で卓に付いたまま目を閉じていた。

 団体戦の時は、憧が様子を見に来てくれたが、今日は一人だ。しかし、別に一人が怖いわけではない。山に入る時は、いつも一人だ。一人は慣れている。

 

 しばらくして、咲、光、衣の三人が対局室に戻ってきた。三人とも落ち着いているのが、穏乃には良く分かった。

「(私の優勝条件は、最低でも後半戦で宮永さんをマイナスにした上で1位を取ること。難しいけど、諦めない!)」

 追い詰められる程、穏乃は燃える。今も頭の中にあるのは後半戦での巻き返しのことだけだ。

 衣も、穏乃と同様のことを考えていた。

 一方の光は、

「(咲は、ここで私をマイナスにした上で自分はプラマイゼロをやる可能性がある。あの支配をやられたら、結構キツイかな…。)」

 穏乃と衣とは別のことを考えていた。

 たしかに、2位で一応プラスなので、穏乃や衣とは違う立場になる。ならば、目指す点数も違ってきて当然であろう。

 しかし、光がそう考えていたのは、やはり咲と従姉妹であるがゆえに、咲の支配力が最も高まる条件を良く知っているからであった。

 光は、咲のプラスマイナスゼロを今まで一度も破ったことがない。光だけではない。照もだ。あれは、単なる支配力ではない。強制力とも言える強力な力だ。

 しかも、家族麻雀では、咲は自身の得点だけではなく他家の点数まで操作していた。数局打つと全体が平らになり、金をかけていても誰も得も損もしない結果にしてしまう。

 言い換えれば、プラスマイナスゼロのスイッチが入った咲は、どの半荘で誰を1位にするか、しかも何点取らせるか、そこまでコントロールしてしまうのだ。

 それをやられたら、光は後半戦で3位以下に落とされるだろう。咲が確実に優勝するためには、前半戦でプラスだった光を、後半戦もプラスにしてはならないからだ。

 ならば、光の取る対抗策は一つしかない。敢えて咲のプラスマイナスは達成させてやるが、光の順位はコントロールさせない。それだけの支配力を自分自身も示すしかない。

 

 場決めがされた。

 前半戦と同じで、起家が穏乃、南家が衣、西家が咲、北家が光に決まった。

 咲は点数調整に有利であろう…得意とする西家を、光も得意の北家を、まるで必然的に引き当てた感じだ。

 

 東一局、穏乃の親。

 穏乃の山支配は、後半戦になり東場に戻るとリセットされる。

 衣は、穏乃の支配が弱いうちに、一気にケリをつけるつもりで初っ端から勝負に出た。

 幸い南家。誰も鳴かなければ海底牌は自分に来る。ならば、持ち前の支配力で他家を一向聴地獄にして、しかも誰も鳴けない状態にすればよい。それが出来るはずだ。

 この局は、衣の思うとおりに進んでいった。そして、

「リーチ!」

 衣がラスト一巡前でリーチをかけた。今回は、前半戦と違って咲が槓で衣の海底ツモを邪魔してこない。

 そうなると、当然、海底牌は衣の手に渡る。

「ツモ! 3000、6000!」

 見事にリーチ一発ツモ海底撈月が決まった。ここにドラが二枚付いてハネ満になった。衣にとって幸先の良いスタートである。

 

 東二局、衣の親。

 ここでも前局同様の支配力を、衣は落さずに維持していた。

 誰も鳴かなければ、海底牌は咲に行くが、終盤になって咲が捨てた{東}を、

「ポン!」

 衣が鳴いた。これで、この後、誰も鳴かなければ海底牌は衣の手にわたることになる。ただ、この局面で咲はツモ切りではなく手出しで{東}を切っていた。

 光が観察していた限り、この{東}は序盤から持っていたものである。それを、何故今捨てるのか?

 普通に考えたら、その真意は、いま一つ分からないだろう。

 しかし、光は、

「(やっぱり、こうきたか…。)」

 咲のやろうとしていることに気付いていた。

 理由はともあれ、これで衣は海底牌に向けてコースインした。ホクホク顔の衣。そのまま誰も鳴くことができず、

「ツモ。ダブ東海底撈月ドラ3。6000オール!」

 衣は親ハネをツモ和了りした。

 まさに、

『これが長野最強の魔物、天江衣だ!』

 と言わんばかりのスタートダッシュ。これで、衣は55000点まで点数を伸ばした。

 

 東二局一本場、衣の連荘。ドラは{三}。

 ここでも衣は強烈な支配力を見せ付け、他家への一向聴地獄が続いた…はずだった。しかし、これを打ち破るものがいた。

「カン!」

 咲だ。

 

 この時の咲の手牌は、

 {一二三三[五][5]8888西西西}  ツモ{西}

 

 そのまま{西}を暗槓し、

 {一二三三[五][5]8888}  暗槓{裏西西裏}  嶺上牌{四}

 これで聴牌。そして、

「もいっこ、カン!」

 {8}を暗槓した。

 当然のように、次の嶺上牌で、

「ツモ。嶺上開花ドラ4。3100、6100!」

 咲が和了った。新ドラは一枚も乗らなかったが、元々のドラと赤牌に恵まれたハネ満。

 これで、咲は原点復帰した。

 

 そして迎えた東三局、咲の親番。

 この局、光は絶好調だった。配牌とツモが巧く噛み合い、さくさく手が進む。そして、一向聴地獄を経ずに、すんなり門前で聴牌した。

「(この感じ…、やっぱり咲が能力に干渉して支配してる…。)」

 前半戦では、咲が衣の海底撈月を潰すことで衣の精神を揺さぶった。それで、衣の支配がグラ付いた感じを受けた。

 しかし、後半戦では衣が東一局で海底撈月を決めている。衣の精神はブレていない。当然、衣の支配は続いているはずだ。

 それなのに、光には衣の支配が届いていなかった。咲が前局で派手な和了を見せることで衣の支配の矛先を意図的に自分に集中させ、光の盾となったのだ。

「(いつもそうだよね。そうやって、誰が何処で何点を和了るか、全てをプロデュースしてる。まさに点棒の支配者だよ、咲は…。まあ、ここは咲のシナリオに乗るよ。点数が貰えるからね。)」

 そして、次巡、

「ツモタンヤオドラ2。2000、3900!」

 光が和了った。

 衣は、悔しさから、つい歯ぎしりをした。

「(北欧の巨人(衣より光のほうが背が大きいので、衣は敢えて小さな巨人とは言わない)に和了られた。やはり、咲に意識が集中してしまったか。)」

 前局での咲の和了りは、衣の支配が届かない王牌を使っての和了り。しかも、咲に槓材が流れてくる能力も衣には抑えきれない。なので、咲の和了りは衣も仕方がないと思える。

 しかし、今回の光の和了りは、衣の場の支配が不十分ゆえの結果だ。前半戦と同じで、前局に和了った咲に意識が向いてしまったためだろう。これは衣の失態だ。

 衣の頭の中に、前半戦での記憶が甦った。

 東場では全然和了れず、和了れたのは南二局の一回だけ。

 また、前半戦のようになってしまうのだろうか?

 

 そんな衣の不安を他所に、光はサイを回した。

 東四局、光の親番だ。

 うっすらと靄がかかってきた。穏乃の能力が発動し始めたのだ。衣と穏乃の能力が同時に干渉してくるようになる。

 しかし、ここでも、光の手がスイスイ進む。やはり、咲は、ここでも自分を和了らせてくれる気だ。

 ならば、遠慮なく和了らせてもらう。

「ツモ! 中一盃口ドラ2。4000オール!」

 これで、光の点数は32800点になった。

 1位の衣とは10100点差。逆転可能な範囲だ。

 

 しかし、東四局一本場では、急に光の手が進まなくなった。中盤でようやく一向聴まで辿り着いたが、そこからは一向聴地獄が続く。

 終盤に差し掛かった時だ。

「チー!」

 衣が穏乃の捨てた牌を鳴いた。

 光の親番なので、誰も鳴かなければ海底牌は穏乃に行く。しかし、これで衣が海底牌に向けてコースインした。

 前局で衣の心を埋め尽くしていた不安が、まるで嘘のようだ。衣は、ここに来て支配力が上がった感触があった。咲が衣の支配力に、負ではなく正の干渉…つまり増強作用を引き起こし、衣の絶対的支配の場に変えたのだ。

 光は、

「(ここで、咲は天江さんに和了らせる気? 何を考えているの?)」

 そして、そのままラスト一巡に突入し、

「ツモ。タンヤオ海底撈月ドラ3。2100、4100!」

 絶対的自信に溢れた顔で衣がツモ和了りした。

 

 各選手の点数は、以下の通りになった。

 1位:天江衣 51400

 2位:宮永光 30700

 3位:宮永咲 16300

 4位:高鴨穏乃 1800

 穏乃がマズイ状態になった。

 しかし、これで精神的に潰れるような穏乃ではない。むしろ、追い込まれてからが穏乃の真骨頂である。

 

 南入した。

 南一局の親は穏乃。

 追い込まれたことで、逆に穏乃の支配力が上がった。一気に卓上にかかる靄が深くなった。もはや、濃霧と言ってもよい。

 衣の手も、光の手も、全然進まなくなった。完全に穏乃の支配が全てを上回っている感じだ。

 これも、咲が穏乃の能力に正の干渉をしているからなのだろうか?

 局は終盤にもつれ込み、さらなる深い霧のかかる世界へと突入していった。さすがに、ここまで深い霧だと、長野育ちの衣も光も視界が閉ざされる。

「ツモ。タンピンドラ2。4000オール。」

 とうとう、深山幽谷の化身が和了りを決めた。これで、穏乃が3位に浮上し、咲がラスに転落した。

 

 南一局一本場、穏乃の連荘。

 ここでも濃霧の世界が続く。

 衣も光も、まるで一人深い山の中を歩いている感覚だった。肌寒く、シンと静まり返った寂しい感じ…。

 しかも、背後の山と山の間から、巨大な何かが自分を見つめている。

 突然、穏乃の背後に明王や天武に似た雰囲気…火焔が、衣と光の目に映った。全てを焼き尽くす業火の象徴であろう。

「ツモ。タンピンツモドラ1。2700オール。」

 穏乃がツモ和了りを決めた。一歩ずつ、衣と光の背後に迫ってくる感じだ。

 

 各選手の点数は、以下の通りになった。

 1位:天江衣 44500

 2位:宮永光 24000

 3位:高鴨穏乃 21900

 4位:宮永咲 9600

 とうとう咲の持ち点が10000点を割った。

 しかも、咲は東二局一本場で一度和了ったきりで、その後は全然和了れていない。いや、和了ろうとする気配を感じさせていない。

 しかし、ここから咲は何かを仕掛けてくるだろう。衣も光も、それを予感していた。




おまけ

 インターハイは、長野県代表清澄高校の優勝、奈良県代表阿知賀女子学院の準優勝で幕を閉じた。

 夏休み最終日。
 弥永美沙紀に扮した咲との対局で、憧、玄、灼は大敗した。
 その後、晴絵は阿知賀女子学院にインターハイ優勝者宮永咲が転校してきたことを校内でもしばらく隠すことを提案した。

憧「ハルエ。どうして、咲の正体を隠さなきゃいけないの?」

晴絵「咲には申し訳ないんだけど、うちはインターハイ準優勝校だし、ただでさえマークされてるからね。」

咲「別に私は、余り目立ちたくないので構いませんが…。」

憧「でも、偽名を使うわけには行かないでしょ?」

晴絵「なので、しばらくカツラとメガネをかけてもらうことにする。それで、インターハイチャンピオンとは同姓同名ってことで。」

憧「でも、それだけで誤魔化せるとは思えないけど…。じゃあさ、私達の中でも、しばらくはミサキって呼ぶことにしない?」

咲「えっ?」

憧「ニックネームだってば。宮永の『ミ』に『サキ』で、短縮形で『ミサキ』ってことにしてさ。クラスの子とかには大会まで情報を流したくないってことを分かってもらうように努力するけど、私達に関係ない人は晩成とかにバラしちゃうかも知れないじゃない? だから、知らない人には、ミサキって名前と勘違いしてもらえばイイかなって思って。」

晴絵「たしかに、それもありかもね。」

穏乃「じゃあ、しばらくはミサキってことで決定だね!」



 同じ頃。
 いきなりだが、初瀬は転校を考えていた。
「阿知賀は、たしか五人しかメンバーがいなかったはず。一人は三年だから、今、一人欠けてるはずよね。となると、秋季大会は『素人娘を無理矢理入れる』しかない!」
 なんだか、表現がイヤラシイのだが、本人には、別にそのつもりはない。
「その辺の子より、私のほうが麻雀強いし、私だったら阿知賀のブレーキにはならないはずよね…。なら、困った憧のところに私が転校する。そして、麻雀部に入部して憧達を救えば、憧は私を大事に見てくれるよね、きっと。」
 イヤイヤ…、偏差値70以上ある高校から玄とか穏乃レベルの頭の娘が通う学校に転校してきてくれても、憧としては重たいだけでしょうが…。
 しかし、そんなところまで初瀬は考えが回っていなかった。
 そもそも憧が、『余裕で受かる!』と言っていた晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学したのだって一般には重い。ある意味、憧は、穏乃のために自分の人生の選択肢を狭めてしまったのだから…。
 もう、穏乃は憧の人生に責任を取らなければならないレベルではないだろうか?
 ただ、それを素直に『嬉しい!』と言える穏乃も、それはそれで普通じゃない気がするのだが…。

 9月二週目のこと。
 初瀬が部活に顔を出すと、友人達が他校のことで何か話をしていた。

友人A:「なんか、転校生が入部したらしいね。」

友人B:「へー、自然消滅なしってことか。じゃあ、秋季こそリベンジだね。」

初瀬:「ねえ、なんかあったの?」

友人A:「阿知賀に行ってる友達から聞いたんだけど、阿知賀に転校生が来たんだって。で、その子、麻雀部に入ったって。」

初瀬:「へー(先を越されたか…)。」←咲だけに

初瀬:「で、なんて子?」

友人A:「友達の話じゃ、『ミサキ』って呼ばれてるみたい。」

初瀬:「ミサキさんねぇ。でも、阿知賀はインターハイ準優勝校だよ。普通の子じゃ阿知賀のブレーキになっちゃうし、よく入る気になれたね、そのミサキってヒト。」

友人A:「それがさぁ、阿知賀の誰も、そのミサキってヒトに麻雀で勝てなかったらしいよ。転校してきていきなり、阿知賀の先鋒と中堅と副将の三人と戦って、大勝利だって。」

初瀬:「でも、麻雀は運の要素もあるから、マグレじゃない?」

友人A:「そう思うけどね。」

 そんな会話を交わしつつも、初瀬は、

初瀬:「(作戦変更。そのミサキって子のせいで阿知賀が敗退した後に私が転校したほうがインパクトが高いかもね。)」

 そんなことを考えていた。
 一先ず、若気の至りの転校は延期することにした。


 そして、時は10月。
 初瀬は奈良県大会の会場に来ていた。
 晩成高校と阿知賀女子学院は、決勝戦まで当たらない。しかし、目前の敵ではないが、晩成高校としては、自分達の地位を脅かす阿知賀女子学院を、当然、初戦からマークしている。

 阿知賀女子学院は、一回戦は先鋒の憧と次鋒の玄の二人で片付けた。明らかに夏の奈良県大会の時よりも二人とも強くなっている。毎日、咲に絞られているのだから当然と言えば当然なのだが、そんなことは初瀬には知らされていないことだ。

 二回戦。阿知賀女子学院は、圧倒的リードを持って副将戦を迎えた。副将で登場したのは穏乃。観戦室で、その姿を見た初瀬の表情が曇った。

初瀬:「(あのサル。憧を奪った憎たらしい奴。負けろ負けろ!)」

 初瀬は、そう心の中で強く念じた。しかし、負の状態が強ければ強いほど、穏乃は燃えて、より強い力を発揮する。
 穏乃は、インターハイ二回戦の時の『ダマハネ放縦』のような失態を見せず、副将戦で他校をトバして無事決勝進出を果たした。
 もしかすると、初瀬の強い負の想いが穏乃の力を引き出したのかもしれない。


初瀬:「(ミサキってヒトは、結局出てこなかったか。どんな無様な負けっぷりを見せてくれるか楽しみだったのに…。)」

 初瀬は、そう思いながらメモをカバンにしまった。
 部活仲間と観戦室を出ると、丁度そこに和気あいあいと話をしながら歩いてくる集団に遭遇した。阿知賀女子学院のメンバーと監督だ。

晴絵:「今日はホテルに泊まるよ。」

憧:「阿知賀からの連続日帰りじゃきついもんね。」

初瀬:「(監督の赤土晴絵に憧、ボーリングのヒトに、ドラのヒト…、あと、憧を私から奪ったクソザルに…、それから…。)」

 初瀬は、友人に『敵情視察』と言い訳して、一旦、物陰に隠れた。
 その中に、初瀬が見た事のない娘が一人いた。赤メガネをかけたストレートロングヘアの娘だ。どこかで見た雰囲気だが、強そうな感じはしない。

初瀬「(このヒトがミサキって子?)」

 その娘が何もないところで突然つまづいた。

初瀬:「(もしかして、ドジっ子?)」

美沙紀(咲):「いったーい。」

憧:「なにやってんのよ、美沙紀。」

美沙紀:「憧ちゃん、待ってよぅ。」

憧:「ほら、駅のほうに急ぐよ!」

初瀬:「(やっぱり、このヒトがミサキね。やっぱり大したことなさそうな子だね。)」

穏乃:「駅って言えばさ、今朝きた時に詐欺に注意って放送が流れてたジャン?」

憧:「振り込め詐欺のヤツね。」

穏乃:「そうそう。それを聞いて思ったんだけど、パンプキン詐欺ってナニ?」

憧:「はぁ?」

美沙紀:「やっぱりハロウィンシーズンだからじゃない?」

穏乃:「そっかぁ。この時期の振り込め詐欺のことを言うのか。」

憧:「それって、還付金詐欺の聞き間違いじゃないの?」

穏乃・美沙紀:「「還付金詐欺? ナニソレ?」」

初瀬:「(頭のネジも狂ってるみたいね。この程度の子なら余裕余裕。)」

 これなら、ミサキが大ブレーキになり、早かれ遅かれ、憧は自分を必要としてくれるだろう。初瀬は、そんな風に思っていた。



 翌日。
 ついにミサキが対局室に姿を現した。その姿が、初瀬のいる晩成高校控え室のテレビモニターに映し出された。
 初瀬は、秋季大会のメンバーに選ばれており、県大会では中堅として出場していた。近畿大会では先鋒を任される予定である。

初瀬:「(やっと出てきたわね。まあ、近畿大会には決勝進出した4校が出られるから、ここは負けても構わないってことかな?)」

 ミサキの正体を知らない初瀬は、ことを楽観的に捉えていた。まだ、その程度の認識だったのだ。
 しかし、ミサキがメガネとカツラを順に外してサイドテーブルの上に置いたのを見て全身が硬直した。

初瀬:「嘘? あれって、もしかして…。」

 そう。そこに姿を現した者。それは、インターハイチャンピオン宮永咲だった。
 当然のことだが、観戦室がざわめいた。何故、ここにインターハイチャンピオンがいるのだろうか?
 しかも、それがインターハイ準優勝校に紛れ込んでいるのか?

アナウンサー:「阿知賀女子学院先鋒は宮永咲選手です。父親の転勤で、この9月に清澄高校から阿知賀女子学院に転校してきたとのことです。」

初瀬:「えぇ? なにそれ?」

 初瀬が声を出した直後、晩成高校控え室が静まり返った。
 夏の西東京大会で、先鋒で他校を箱割れさせて終了させた前チャンピオン宮永照の妹にして、その照をインターハイで破った宮永咲。
 あの近畿の英雄、園城寺怜や荒川憩ですら足元にも及ばなかった照のさらに上を行く者。

 その後、咲の一人舞台で決勝戦は終わった。まさかの東一局での全員トバしの偉業。しかも、自らの点数を444400点に調整。恐ろしい記録だ。

初瀬:「(い…今、転校しないで良かった。)」

 しかし、初瀬は、来年の夏の大会後、玄と灼の二人が抜けて阿知賀女子学院麻雀部が再び人員不足になるのを願っていた。

初瀬:「来年転校すれば…。」

 まだ初瀬は知らなかった。今度の春に阿知賀女子学院は麻雀部への入部を目指す新入生で溢れ返ることになることを…。

 しかも、合格最低偏差値も一気に晩成高校を抜く。そんな超常現象が起こるのだった。


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三十本場:奇跡をプロデュースする者…点棒の支配者

 南一局二本場、穏乃の連荘。

 前局では濃霧に襲われていたが、衣も光も、空一面が急に晴れ渡る感覚を受けた。

 これは、雲の上に顔を出した山頂の景色だ。咲の支配力で穏乃の支配力を打ち消したのだろうか?

 この局、衣は南家だ。誰にも鳴かせなければ海底牌をツモるのは自分だ。当然、志気が上がった。

 光は、衣の支配力がドンドン上昇して行くのを感じた。そして、その後に続く現象………、一向聴地獄。この悪夢が復活した。

 対する穏乃と咲の表情は変わらない。

 追い込まれれば、それだけ強力な力を発する穏乃は、極限状態になったほうが冷静になるようだ。咲も落ち着いた感じだ。

 光は、序盤で一向聴まで手を進めた。しかし、ここから全く手が進まない。鳴けもしない。完全に手が止まった。

 そのまま終盤に突入する。

 ラスト一巡を残したところで、

「リーチ!」

 衣がリーチをかけた。そして、衣は海底牌を掴むと、

「ツモ! リーチ一発ツモ海底撈月平和ドラ1。3100、6100!」

 狙い通り海底撈月を決めた。これで、衣の点数は56800点。この半荘がスタートしてからの最高得点に達した。

 対する咲は6500点。もう後がない。

 

 しかし、それでも光は、マークすべきは咲と思っていた。

「(咲は、最後まで何をしでかすか分からない。敢えて自分の点数を下げることで他家からのマークを外して、最後に一気に逆転する可能性がある。夏の長野県予選でも、役満直撃でしか逆転できない状況に自らを追い込んで、そこから天江さんに役満を責任払いさせた。世界大会でも、私の責任払いを含むダブル役満でしか逆転できない状況を作って、そこから逆転優勝。それから、去年のインターハイ決勝戦でも…。)」

 光は、高校生麻雀世界大会の前…まだミナモ・A・ニーマンを名乗っていた頃に、昨年夏のインターハイ団体戦決勝戦の録画を見ていた。その劇的な咲の逆転劇を…。

 記憶が戻ってから改めて思った。周りは奇跡と呼ぶが、あれこそ、咲のシナリオどおりに進んだ麻雀であると…。

 

 

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 インターハイ決勝戦、先鋒戦は、起家の清澄高校片岡優希がインターハイ史上初の天和を見せた。しかし、そこから当時のチャンピオン、白糸台高校宮永照が、親で連荘し、七本場で萬子の純正九連宝燈を和了って逆転した。

 

 次鋒戦は、各校のクセのある打ち筋に翻弄され、序盤は清澄高校染谷まこの失点が目立った。しかし、阿知賀女子学院松実宥が赤い牌を集める分、まこには他の牌が集まり、結果として彼女は、緑一色を和了った。

 

 中堅戦では白糸台高校渋谷尭深がマークされた。彼女の第一ツモがオーラスの配牌として戻ってくるからだ。大三元程度なら意図的にオーラスの配牌に必要な牌の殆どを持ってくることが出来る。しかし、清澄高校竹井久と阿知賀女子学院新子憧の狡猾ペアが巧く場を流し、尭深のオーラスでの役満を前後半戦ともに潰した。

 

 ここまでの点数は、互いに一進一退。しかし、続く副将戦で試合は大きく荒れた。

 東三局、清澄高校原村和の先制リーチに対し、阿知賀女子学院鷺森灼が追っかけリーチをかけた。

 次の和のツモは、{②}。和が、これをツモ切りした直後だった。

「ロン! 48000!」

 和は、筒子多面聴の最高形、灼の筒子純正九連宝灯に振り込んでしまった。

 二回戦で、自分の親の時に役満をツモ和了りされても平静を保っていた和だったが、さすがに親の役満直撃は精神的に耐えられなかった。ここから、和のデジタル打ちは完全に崩壊し、普段の彼女からは信じられないような振り込みを連発した。

 全然、相手の捨牌が見えていなかったし、頭も回らなかったのだ。

 結局、準決勝Aブロックで白糸台高校亦野誠子が記録した大失点を更に大きく更新する超特大失点を前半戦だけで記録してしまった。

 後半戦では、和は落ち着きを取り戻し、効率良く聴牌形にもって行けたが…、一度逃げたツキを取り戻すことは中々できなかった。いくら聴牌しても全然和了れない。

 それどころか、逆に他家三人に高い手をツモ和了りされ続けた。ベストを尽くしているはずだった。しかし、和は、ただ、点棒を削られるだけだった。

「(咲さん…。ごめんなさい…。)」

 気の強い和だったが、今回ばかりは全国放送を忘れて派手に涙を流した。まあ、流すのは、飽くまでも涙であって聖水ではなかったが…。

 

 大将戦でも、前半戦は、この和の不運を引き継いだのか、咲は殆ど和了れず、三校のツモ和了りにより、さらに削られる結果となった。

 ところが、後半戦に入って様子が変わった。咲が徐々に追い上げ始めた。

 

 そして迎えた後半戦東四局。

 開始時点の点数は、

 東家:阿知賀女子学院 120100

 南家:白糸台高校 96800

 西家:臨海女子高校 133900

 北家:清澄高校 49200

 まだ清澄高校のダンラス。しかし、ここで、

「カン! 嶺上開花、中ドラドラ!」

 咲が嶺上開花による満貫を和了った。

 

 続く南一局は咲がハネ満を、南二局では咲が倍満を和了った。ともに嶺上開花による和了りだ。まるで照の『連続和了』のような打点上昇であった。

 これで南三局開始時の点数は、

 東家:清澄高校 85200

 南家:阿知賀女子学院 109100

 西家:白糸台高校 84800

 北家:臨海女子高校 120900

 この追い上げで、清澄高校が3位に浮上した。

 

 この咲の『三連続和了』は、長野県予選の決勝戦を髣髴させるものでもあった。清澄高校控室では、押せ押せムードが絶頂に達していた。

 しかし、南三局の咲の親番で、白糸台高校大星淡に奇跡の手が舞い込んできた。

「(ここで、この和了りは助かるよ!)」

 淡の喜ぶ顔。配牌で聴牌。しかも第一ツモでの和了り。地和だ。

「ツモ!」

 ダブルリーチの能力を持つ淡だが、地和は生まれて初めての和了りだった。

 

 そして、オーラス。親は阿知賀女子学院の高鴨穏乃。天江衣が深山幽谷の化身と比喩した深い山の支配者。

 

 オーラス開始時の点数は、

 東家:阿知賀女子学院 101100

 南家:白糸台高校 116800

 西家:臨海女子高校 112900

 北家:清澄高校 69200

 清澄高校は、役満をツモ和了りしてもロン和了りしても優勝できない状態となった。もはや清澄高校の優勝を考えるものはいなかった。ただ一人を除いては…。

 

 ドラは{八}。穏乃の配牌は、

 {一二三八①②④[⑤]⑥⑧69南南}

 

 淡の絶対安全圏は機能していなかった。穏乃の能力で打ち消されたのか?

 しかも、場風の{南}が対子で、ドラが二枚。

 連荘での逆転も視野に入れれば、決して悪い配牌ではないだろう。ドラが二枚とも使えれば、{南}を鳴いて5800点の手が作れるし、門前出和了りなら南ドラ2の7700点が、門前ツモなら南ツモドラ2の4000点オールが期待できる。

 ここから打{9}。

 

 しかし、淡の配牌は、その上を行った。

 {一二二[⑤]⑥⑦⑦⑧⑨7北北北}

 

 本来であれば、淡のダブルリーチをかける能力は、場が進むにつれて強まる穏乃の無効果能力によって打ち消されるはずだった。

 それが、ここで{6}をツモ。

「(地和のお陰で臨海に約4000点差をつけてのトップ。当然、臨海は逆転目指して勝負に出てくるはず。私には、ここで大きな和了りは要らないけど役無し。だったら…。)」

 ここに来て、この状態。自分の能力が穏乃の能力を抑えたと思い、淡は、勝負に出た。

 打{一}で、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 淡のダブルリーチは辺張待ちや嵌張待ちが多いが、今回は珍しく{5}{8}の両面待ち。誰から和了り牌が出ても良い。ツモでも良い。とにかく和了れば優勝だった。

 

 臨海女子高校ネリー・ヴィルサラーゼの配牌は、

 {一三四五⑧1[5]688東東東}

 

 ここも絶対安全圏は機能していなかった。決して悪くは無い配牌。

「(オーラスにも運が上がるようにしておいた。たしかに運は来ている。ここは、和了ってネリー達が逆転優勝する!)」

 ツモ牌は{7}、淡の捨て牌にあわせて打{一}。

 

 一方、咲の配牌は、

 {一七九②③⑧126白發東西}

 

 バラバラだった。

 淡の絶対安全圏が、まるで咲にだけ効力を発揮しているように思えた。

 白ツモで、いきなりの打{6}。まるで暴牌とも言える捨て牌だった。

 国士無双狙いか? と誰もが思った。

 しかし、ここで国士無双を和了っても優勝は出来ない。清澄高校控え室は、さっきまでとは打って変わって通夜のように静まり返った。

 

 二巡目、穏乃は、

 {一二三八①②④[⑤]⑥⑧6南南}  ツモ{八}(ドラ)

 咲にあわせて打{6}。

 

 淡は{中}をツモ切り。

 ネリーは、

 {三四五⑧1[5]6788東東東}  ツモ{[五]}

 赤ドラツモで運の上昇をさらに確信して強気の打{⑧}。

 続く咲は、{七}を切った。

 

 三巡目、穏乃は、

 {一二三八八①②④[⑤]⑥⑧南南}  ツモ{南}

 これで、{南}ドラ3を聴牌。

 この時だった。穏乃は、

「(まだリーチをかけるな!)」

 と言う山の声を聞いた気がした。

 それで、{⑧}を切ったが、山の声を信じて敢えてリーチをかけなかった。

 

 淡は{九}をツモ切り。

 ネリーは、

 {三四五[五]1[5]6788東東東}  ツモ{五}

 これで聴牌。自分の運気を信じて、

「リーチ!」

 打{1}で{二五8}待ちのリーチ…勝負に出た。

 続く咲は、{2}を切った。

 

 四巡目、穏乃はネリーの和了り牌である{二}を引いた。山の声に助けられたと言える。一旦回して打{②}。

 

 五巡目、穏乃は淡の和了り牌である{8}を引いた。ネリーも{8}で和了りだが、頭ハネルールのため淡のみの和了りになる。{8}を取り込み打{三}。

 

 六巡目、穏乃は{⑤}を引いた。ここで打{一}。

 

 七巡目、穏乃は淡の和了り牌である{5}を引いた。打ち回して打{南}。

 

 八巡目、穏乃は淡の和了り牌である{8}を引いた。さらに打ち回して打{⑥}。

 

 九巡目、穏乃は淡の和了り牌である{5}を引いた。

「(これで七対子ドラ3の聴牌。大星さんの和了り牌は{5}が1枚、ネリーさんの和了り牌は{五}が1枚だけのはず。{①}も{④}も、まだ場に1枚も出ていない。だったら、私も阿知賀の優勝を目指して勝負に出る!)」

「リーチ!」

 穏乃が打{④}でリーチをかけた。ハネ満確定の手だ。ロンでもツモでも和了れば優勝だ。

 

 この映像を見ながら、ミナモは、

「三人とも、リーチをかけるべきじゃなかったと思う。」

 と口から声を漏らした。それを隣で聞いていたチームメイトが、

「でも、私が大星の立場でも、ダブルリーチならかけたと思うし、他の二人の立場でも優勝を目指してリーチをかけたかもしれない。」

「たしかに、それも選択肢の一つだけどね…。でも、リーチは防御力をゼロにする。そして、三人の防御力が無くなるこの時を、じっと待っていた者がいる。」

「それって、まさか…。」

 淡が{中}をツモ切り。すると、咲が動いた。

「ポン!」

 咲は、第一ツモの{白}の後、{中、③、發、發、③、白、中}とツモっていた。

 

 そして、打{⑧}で、

 {②③③③白白白發發發} ポン{中横中中}

 大三元を聴牌した。

 

 次巡、穏乃、淡がツモ切りした後、ネリーが{發}をツモ切りした。

「カン!」

 咲が、すかさず大明槓した。

 嶺上牌は{白}。

「もいっこ、カン!」

 当然のように{白}を暗槓。この連槓で、ネリーの大三元の包が確定した。大明槓からの連槓に対しても包が適用されるルールだったのだ。しかも、めくられた槓ドラ表示牌は{五}と{5}。これで淡とネリーの和了り牌は無くなった。

 続く嶺上牌は、咲と穏乃の共通和了り牌である{①}だった。そして、打{②}の和了り放棄。

 この時、ミナモの同僚は、咲の思惑に気が付いた。淡から和了って淡とネリーからそれぞれ16000点ずつ払わせようとしているのだろう。

 しかし、ならば打{②}はいただけない。フリテン回避が出来ないからだ。

「どうして{②}切り? 出和了り狙いなら、{③}の対子落しで待ち牌を変えるはずでは…。」

 ミナモも同じことを考えていた。

「たしかに、私も{③}切りだと思う。でも、もしミヤナガに、普通じゃ見えないものも見える力があったとしたら…。」

 続く穏乃はツモ切り。そして、その次にツモった淡の牌は、{③}だった。ダブルリーチをかけた淡は、自身の和了り牌ではないので、当然ツモ切りした。

 すると、

「カン!」

 咲が大明槓してきた。これで咲の待ちは、{①}単騎になった。そして、嶺上牌をツモると、それを表にして、そのまま自分の前に置いた。嶺上牌は、{①}だったのだ。

「ツモ、嶺上開花。大三元。」

 この和了りには、ネリーの包と淡の大明槓責任払いが適用される。

「白糸台高校と臨海女子高校から、16000点ずつお願いします。」

 穏乃が3枚目の槓ドラ表示牌をめくった。そこに、4枚目の{①}が隠されていた。

「(宮永さんの2枚目と3枚目の嶺上牌は、どっちも{①}だったはず。ということは、私がリーチをかけた段階で、宮永さんが{①}を切らない限り、宮永さん以外の和了りは無かったと言うことか…。)」

 

 これで、各校点数は、

 1位:清澄高校 104200

 2位:阿知賀女子学院 100100

 3位:白糸台高校 99680

 4位:臨海女子高校 95900

 清澄高校の奇跡の逆転優勝であった。

 

 

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 光は、今だから言える。

 インターハイ団体決勝戦で、咲は、役満をツモ和了りしても出和了りしても優勝できない状態を敢えて作り、自分を他家のマークから外したと…。

 そして、その状態を作るために、その前の局で淡の能力に正の干渉をして地和を和了らせ、しかもオーラスでは、淡の絶対安全圏を自分だけ受けた振りをして、他家に勝負をさせたと…。

 これだけではない。咲が第一打で{6}を切ったは、穏乃が{6}を切れるようにするための援護だし、さらに咲は、オーラスで穏乃の能力に干渉して、淡とネリーの和了牌を全て取り込ませたのだと…。

 

 南二局、衣の親。

 前局の和了りで、衣は自身の支配力の上昇を実感していた。しかし、この局では穏乃の支配のほうが上回っている気がしていた。

 一瞬晴れ渡ったように見えたが、今では、また深い霧に卓上は覆われている。

「(また衣の能力が塞がれているのか?)」

 急に衣の心中で不安が募る。再び、他家の手の進み具合も手の高さも、何もわからなくなった。そして、一巡前に咲が切った{西}を衣がツモ切りした、その時だった。

「「ロン!」」

 穏乃と光のダブロンだった。

 本大会ではインターハイとは違い、二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)が認められていた。

「北一盃口ドラ2。8000!」

 穏乃の元気な声。そして、もう一人。

「七対ドラ4。12000!」

 光の力強い声。

 

 これで各選手の点数は、以下の通りになった。

 1位:天江衣 36800

 2位:宮永光 32900

 3位:高鴨穏乃 23800

 4位:宮永咲 6500

 光が衣を射程圏内に捕らえた。

 

 南三局、咲の親。ドラは{一}。

 ここでは、

「チー!」

 咲が捨てた{一}を鳴いて、早々に光が聴牌した。ダブ南チャンタドラ1の満貫聴牌。これを和了れれば逆転トップになれる。

 しかし、これを阻止するかの如く、

「ツモ。300、500。」

 先に穏乃に和了られた。穏乃としても、光に満貫を和了られては困るのだ。

 

 そして、オーラス。光の親。

 衣との点差は3900点。現在、咲は後半戦でマイナス24、前後半戦トータルはプラス4になるはず。ここで、光は1000オールを和了れれば、前後半戦トータルで咲を抜いて優勝できる。当然、攻めに行く。

 衣も安手で流せば良い。ここでトップを取れば、プラス20以上を後半戦で取ることができる。衣は前半戦でマイナス15だから、合計で咲を間違いなく抜ける。

 穏乃も同じだ。前半戦でマイナス14だから、ここで是が非でもトップを取りたい。衣との点差は11600点。ハネ満を和了れれば優勝だ。

 中盤に差し掛かった。

「ポン!」

 咲が動いた。穏乃が捨てた{中}を鳴いたのだ。

 次巡、衣は、

 {一二二三五[五]八八①⑤[⑤]發發}  ツモ{三}

 七対子聴牌。

「(咲は、まだ一向聴のようだな。穏乃と光も一向聴。なら、これで衣の勝ちだ!)」

 衣は、勢い良く{一}を捨てた。しかし、この時だった。

「カン!」

 咲の発声…、大明槓だ。

 

 この時の咲の手牌は、

 {①①①白白發中}  ポン{中横中中}  明槓{横一一一一}  嶺上牌{白}

 

「もいっこ、カン!」

 {中}を加槓、次の嶺上牌も{白}、

 

「もいっこ、カン!」

 {白}を暗槓、次の嶺上牌は最後の{發}

「ツモ。小三元混老対々三槓子嶺上開花。」

 

 開かれた手牌は、

 {①①①發}  明槓{中中横中中}  明槓{横一一一一}  暗槓{裏白白裏}  ツモ{發}

 

「6000、12000です。」

 ドラは不要と言わんばかりの手だった。しかも、衣が{一}ではなく{①}を切っても結果は同じ。衣が聴牌にとった時点で三倍満の和了りが決まっていた。

 

 これで後半戦の各選手の点数は、以下の通りになった。

 1位:天江衣 30500:+20

 2位:宮永咲 30000:±0

 3位:宮永光 20600:-9

 4位:高鴨穏乃 18900:-11

 

 そして、前後半戦の総合得点は、

 1位:宮永咲 +28

 2位:天江衣 +5

 3位:宮永光 -8

 4位:高鴨穏乃 -25

 まさに、光が休憩中に予感したとおりの結果となった。これで、咲は夏春連覇を達成した。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼。穏乃の声が、ひときわ大きく対局室にこだまする。

 

 光は、咲が後半戦で自らの点数を6000点まで落とした理由に、今になって、ようやく気が付いた。

「(オーラス直前に、咲は自分の前後半のトータルをプラス4にすることで、他家全員にトップを取れば優勝できる状況を敢えて作って勝負させたってことか。それで、その罠に天江さんが嵌まり込んだ…。)」

 こんな点数調整は光には出来ない。従姉妹との差を、光は、つくづく思い知らされた感じがした。

 

 そのまま表彰式が行われ、光の首に銅メダルが、衣の首に銀メダルが、咲の首に金メダルが順にかけられていった。

 穏乃はメダルを取れなかったが、4位入賞の賞状を授与された。純正阿知賀女子学院の生徒では最高位の順位である。

 

 これで、春季大会が終了した。

 明日からは、打倒阿知賀女子学院、打倒宮永咲を目標に掲げ、全国各地で早速夏の大会に向けて動き出すことになる。




おまけ
怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

爽「この間さぁ、大人の健康カルピスってのを見たんだ。甘さ控えめ脂肪分ゼロで、容量も少な目の紙パック。」

怜「大人の健康な。健康って書いてへんかったら、大人のカルピスになって、なんかヤラしくなるなぁ。」

爽「私もそう思った。」

怜「マジックで塗りつぶす奴、出て来るんやないか?」

爽「そんな気がしなくもないね。」

怜「あとな、思ったんやけど、ガチンコ勝負って言葉あるやろ?」

爽「あれね。お宝ガチンコ勝負とかって、お宝がチ○コ勝負に聞こえるよね。」

怜「長さとか太さとかを競うんやろか?」

爽「たしかに! そうかもね。」

怜「それにしても、春季大会が終了してもうたから、これで最終話やろか?」

爽「一応、終わりじゃないみたい。でも、いずれにしても、一区切りついた第三十話(三十本場)のオマケコーナーを任せてもらえるのは光栄だけどね。やっぱりお下品コーナーを期待されてるのかな?」

怜「でも、もうお下品ネタは無いで。うち、本当は上品な女やし。」←嘘

爽「私も、実は育ちの良いお嬢様なんで。」←同上

怜「でも、春季大会終了ってことは、うちらは既に卒業してるってことやな。」

爽「時系列的にはそうなるね。怜は、卒業後はどうするの?」

怜「会社を設立するねん。」

爽「へー。どんな会社?」

怜「架空会社や!」

爽「それはマズイでしょ!」

怜「冗談やて。でも、何十年後のヤングガンガン収載になるか分からへんけど、漫画の中では、プロ雀士になるか、竜華達と大学行って麻雀やるって展開になるんやろな。」

爽「そうだね。でも、私は、どうなるんだろ?」

怜「性感マッサージ師とかどや? パウチカムイを使えば簡単やろ?」

爽「それはグッドアイデアかもね! 絶対カリスマになれるし!」

怜「って、やるんかい!」

爽「冗談だってば。で、今回は、いずれにしても中締めと言うことで、締めるとか終わるとかにちなんだネタにすれば良いのかな?」

怜「まあ、それもありやな。でも、終わりが確定したわけやないから、『締める』をつこうて何か考えよか?」

爽「じゃあ、『締める』に拘らずにひらがなで『しめる』にしよう。そのほうが、幅が広くなるからね。それで、咲-Saki-の登場人物について、何を『しめる』奴かを考えてみよう。まあ、互いに二つずつくらい言ったら次のネタに行くくらいでイイかな。」

怜「そうやな。一つのネタであんまり引っ張れそうもないし。じゃあ、玄ちゃん。ドラを占める。」

爽「占めるかぁ…。じゃあ、私は、そうだな…。原作でも書かれていないところで照や咲の相手で漏らしかけた奴はいるだろ…ってことでパンツが湿る。」

怜「パンツってなんや? 原作にはパンツなんてもんは存在せんのとちゃうか? 18巻カラーページの鶴田姫子を見れば分かるやろ!」

爽「そっかぁー。じゃあ、風越のコーチが池田の首を絞める!」

怜「ありそうやな。ほな、阿知賀子供麻雀クラブを閉める。この場合、終わりにしたと言う意味やな。」

爽「なるほど…。って、全然ネタが下品じゃないけど。」

怜「そやから、うちは全然下品な女やないしって言うとるやんか。」

爽「信じられない展開だな…。あと、パンツが湿るがボツ喰らったから、あと私の方で一つか…。咲が淡を麻雀でシメる。」

怜「今後、ありそうな展開やな。」

爽「じゃあ、二つずつネタだしたんで、次に行くね。次は三十話と言うことで、三十で連想するものについて。まず私から。一日三十品目!」

怜「それ、原作関係ないやん!」

爽「でも、慕さんとか拘りそうだよね。」

怜「まあ、そうやな。じゃあ、うちは…、アラサーや! 原作では、その年代のプロが意外と幅利かせてるっぽいし。」

爽「一応、それを初っ端から言うのは避けたんだけどね。」

健夜達の怖い視線。

怜「別にアラフォーやないからええやろ!」

健夜から幾何学的模様のオーラが出てきた。

爽「赤土さんみたいに、あとで麻雀を楽しまされないように気をつけてね。じゃあ、私はシノハユで出てくる本藤悠彗さん。誕生日が9月30日。」

怜「なんか、爽が無難なのに走っとるな…。あと一つか。ほな、洋榎がセーラに借金しとる額や。30円やったからな。ほな、次は…。」


謎の声1「オモチの無い二人が、そんな無難なトークをしていても、クソ面白くも何ともないのです! クソ食らえなのです!」

謎の声2「そうだし! クソつまんないし!」

謎の声3「たしかに、せっかくの30話でこれでは、クソスバラくありませんねぇ。」

謎の声4「そうだじぇい! 正直、クソヤロウだじぇい!」

謎の声5「そうです。クソ下品じゃない二人なんて、そんなクソオカルトありえません。」

謎の声6「クソ暖かくなーい…。」

謎の声7「クソ面白くな…。」

謎の声8「クソですよー…。」

謎の声9「クソ……ダル………。」

謎の声10「クソデー……。」

謎の声11「クソなんだからモー……。」

謎の声12「ワーハハ。引っ込めクソ……。」

謎の声13「お二人はお下品でなんぼ、お下品でなんぼですわ! こんなの、クソでしかありませんわ!……。」

謎の声14「クソ…………。」

謎の声15「クソ………。」

謎の声16「クソ……。」
………
……



謎のホワイトボード:クソバカヤロウと書かれている


怜・爽「「(ブチッ!)」」←何かが切れた音

怜・爽「「どうもー!」」

爽「獅子原爽と。」

怜「園城寺怜の。」

怜・爽「「お下品コーナーです!」」

爽「それにしても、クソ食らえとか、クソつまんないとか、クソですよーとか、クソバカヤロウとか、クソって表現は最強だね!」

怜「なにか失敗して、『ちくしょう!』って時も『クソッ!』で済むしな。いろんな意味で使えるな。」

爽「でも、クソって、何でクソって言うんだろうね?」

怜「そんなん知らんわ。」

爽「ウ〇コの場合は、ウンがイキむ声を表して、コが塊を意味するらしい。」

怜「じゃあ、もしイキむ声が『ウーン!』じゃなくて『ミホ!』とか『モモ!』だったら大変なるな?」

爽「たしかに!」

「「バコ!」」:突然、二人が見えない何かに頭を殴られた。

謎の見えない何か「クソ酷いネタッス。クソ頭きたッス!」

怜・爽「「クソいてぇー…。」」


結局、クソな感じの中締めでした。










読者「クソひでぇ。」


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第二部:二年の夏
三十一本場:麻雀の秀才


四話くらいでインターハイ準決勝が開始できるくらいのスピードにします。そのため、次回から準決勝開始まで『まこの能力(時間軸の超光速跳躍)』を多用することになる予定です。
その後は、キチンと書ければと思います。

まこの多用は、一応『染谷まこの雀荘めし』新連載記念でもあります。


 阿知賀女子学院麻雀部は、昨年再稼動したばかりだが、インターハイでは準優勝、春季大会では全国優勝の快挙を成し遂げた。

 しかし、部員は団体戦出場人数ギリギリの五名。夏を過ぎれば部長の灼と玄は実質引退する身。

 穏乃は、新入部員確保に向けて自然と力が湧く。

「今年は、どんな子が入ってくるんだろうね?」

「でも、ある程度の力量は欲しいよね。」

 一方の憧は、単に憧れだけで入部されても困るとの考えを持っていた。これは、咲が転校してきた頃から一貫して変わらない。

「そう言えば、憧。」

「何?」

「今年の高等部受験は、受験者が急に増えて偏差値が一気に上がったらしいね。結構、晩成を蹴ってうちに来る子がいたみたい。」

「そうみたいね。なんでも偏差値が一気に73まで上がったとか…(私でも受かるのギリギリじゃん)。逆に晩成は68に下がったって聞いてる。」

 これを聞いて玄は、

「(そんなに頭の良い子が入るなんて…、今までの阿知賀では100%考えられないことなのです! 勉強を教えて欲しいと言われたら困るのです。)」

 と心の中で呟いていた。

 ただ、それだけ出来る子なら他人に聞かずに自分で何とかするだろう。少なくとも玄に聞いてくることだけは無いから安心して良い。

 

 今日は入学式。

 基本的に新人勧誘は明日からになるが、麻雀部への入部を目指して入学して来てくれた子がいるなら、恐らく今日の午後には部室に何人か姿を現すだろう。

 そう思って、咲達五人は部室で待機していた。

 

 予想通り…、なのだろうか?

 早速二名の新入生が、

「「し…失礼します!」」

 オドオドしながら部室に入ってきた。

「小走ゆいと言います。」

「宇野沢美由紀です。」

「「よろしくお願いします!」」

 ゆいは、やや小柄で細身のツインテール。少し猫っぽい雰囲気…と言うかネコ耳が似合いそう。

 対する美由紀は、大きなオモチの持ち主で、同じ名字の麻雀プロに似た顔をしていた。

 ゆいの名字を聞いて、灼はピンと来た。

 まあ、奈良県で麻雀をやっている女子高生なら、たいてい誰でもピンと来そうではあるが…。

 とは言え、同じ名字の知り合いに余り似ていないような…。

 ただ、少なくとも、その知り合いの関係者ではあるような気がした。

「もしかして、晩成にいた小走さんの妹?」

「はい。でも、王者は姉ではなく宮永先輩だと思っています!」

 目力が凄い。凄く真剣だ。リップサービスではなく本心であることが、ヒシヒシと伝わってくる。

 これを聞いて咲は、

「別に私は…王者なんてそんな…。」

 毎度の如くオドオドしていた。チャンピオンの威厳もヘッタクレもなかった。卓から離れると本当に最弱の生物に変わる。

 この対局中とのギャップに、ゆいも美由紀も唖然とした。

 憧は、これを横目に、

「(まあ、いつものことか…。)」

 と思いながら溜め息をついた。

「ええと、宇野沢さんは、もしかして宇野沢プロと関係があるの?」

 この憧の問いに美由紀が答えた。

「はい。妹です。父の転勤でこっちに来ました。姉は大宮で渡辺琉音さんと一緒に住むそうでして…。」

 やっぱり…。その容姿から大体想像はついたが…。顔も体型も姉の宇野沢栞に非常に良く似ている。

 当然、美由紀の胸を見て、

「立派なオモチですのだ!」

 一人喜んだ人間がいる。

 まあ、これも想定の範囲内だが…。

 ただこうなると、今日から玄が美由紀を襲わないか監視する必要があるだろう。それは部長の灼の役目になるのだろうが…。

 早速、灼は頭を抱えた。

 

 

 この日、新入部員は、この二人だけだった。

「おお、上級生はみんないるな!」

 ここに晴絵が入ってきた。その後には、見覚えのある人物がいる。

「早速、新入生が入ったか。実は、今日から晩成女子大の人が阿知賀女子のコーチに来てくださることになった。入って。」

「はい。」

 彼女の姿を見て、咲は硬直した。

 もっとも苦手な相手だ…。

 インターハイで、咲が、もっとも苦汁を舐めさせられた相手。彼女こそ、『麻雀の秀才』の名に相応しい。

「末原恭子です。今年、晩成女子大に入学しました。宮永と全国大会で戦って、自分の凡人さを再認識しました…って、宮永、なに硬直してるん?」

 案の定、咲は恭子の姿を見てカチンコチンに固まっていた。インターハイ二回戦、準決勝戦で刷り込まれたトラウマがあるのだ。

 槓材を潰されたり、ペースを崩されて透けて見えるはずの牌が急に見えなくなったり、散々な目に合わされた。

 あれだけ、色々試してくる相手は、今まで恭子だけだ。

 他の選手には、失禁させた上にトラウマまで植え付ける恐怖の大王が、まるで気弱な小型犬のようだ。

「いえ、あのう…、聞いていなかったもので、驚いてます。」

「まあ、宮永を驚かせたかったんで、赤土先生には黙っていてもらってたんですわ。」

「でも、なんでコーチに?」

「お前と出会ったから…かな?」

「私? ですか?」

 恭子は、高校三年間、愛宕洋榎や園城寺怜、荒川憩と言った大阪を代表する一流選手達を相手に戦ってきた。当然、能力者を相手にした時の不条理さも良く理解している。

 しかし、そのさらに上を行く超化物がいる。

 正直、恭子は、その超化物に麻雀の不条理さや不平等さを感じながらも、実は憧れてもいた。

 言ってしまえば、咲の麻雀に惚れたのだ。

 それで、姫松高校の元監督、善野一美にお願いし、赤土晴絵を紹介してもらったのだ。

「それにしても、まさか前チャンピオンの妹やったとはな。どうりで強いわけやと思った。ただ、その強さが完全無欠じゃないのが私としては悔しい。それは、咲だけじゃなく、高鴨も同じだな。」

 これを聞いて、穏乃が自分を指差した。

「私…ですか?」

「そう…。お前も宮永と同じ気がする。ある意味、もっとヒドイかもしれない。」

「は…はぁ…。」

「まあ、実際に打ってみれば分かるわ。」

 このやり取りを聞いて、晴絵は、

「じゃあ、早速打ってみたら良いよ。」

 恭子と咲、穏乃で卓を囲ませることにした。

 もう一人の面子には、晴絵が入った。ただし、晴絵は入るだけで差し込まないし和了らない。勝負には加わらない立場で打つこととした。

 

 半荘一回勝負。起家は穏乃、南家は恭子、西家は咲、北家は晴絵だった。

 東一局中盤、晴絵は、いつものパターンなら、そろそろ咲が槓を仕掛けると予想した。恐らく暗槓、そして、そのまま嶺上開花で和了るだろう。しかし、その時、

「ポン!」

 穏乃の捨て牌を恭子が鳴いた。それでツモ順がズレて、咲に行くべき四枚目の牌が晴絵に流れた。いや、流したが正しい表現だろう。

 そして、

「ツモ!」

 この局は、恭子が安手を和了った。ただ、鳴いても鳴かなくても同じ点数の手。穏乃にも玄にも、恭子がポンをした意味が分からなかった。

 もともと聴牌していた手だ。別に向聴数を減らすわけでもないし、手を高めるためのものでもなかったからだ。

 ただ、憧には、

「(そう言うことか…。でも…。)」

 恭子の鳴きの意味が分かった。

 しかし、何故、その四枚目が来るタイミングが読めるのか?

 それは憧にも分からなかった。

「宮永…って言うと、他人行儀なんで咲でイイか?」

「は…はい。」

「じゃあ、咲。去年のインターハイの時と同じ癖が出とるよ。それ、直さないとイカンやろう?」

「は…はい。」

 これは、咲と晴絵以外には理解できない言葉だった。頭の良い憧ですら、恭子の言っている意味が理解できないでいたのだ。

 

 東二局。

 ここは、

「カン!」

 咲が暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花!」

 そのまま狙ったかのように嶺上開花を決めた。これを見て、

「そう、咲。それでイイんや!」

 恭子が笑顔で咲を褒めていた。

 しかし、東一局と東二局で何が違うのだろう?

 さすがの憧も、頭の上に巨大なハテナマークが三つくらい浮かび上がっていた。

 

 東三局。

 咲の親は連荘させてはならない。恭子は、

「ポン!」

 晴絵が捨てた牌と、

「チー!」

 穏乃が捨てた牌を鳴きまくり、

「ツモ。500、1000!」

 安手で咲の親を流した。

 

 そして迎えた東四局。

 卓上に靄がかかってきた。さすがに、これには恭子も驚いた。

「(何かあるとは思っていたけど、これが竜華の言っていた深い山か…。)」

 たしかに気味が悪い。しかし、幽霊に類いが出てくるわけではない。恭子は目を凝らして穏乃の動きを見た。

 

 一方、穏乃は、

「(次に和了り牌が来る。)」

 和了れるのを直感していた。昨年のインターハイ準決勝戦、後半戦南二局で鶴田姫子が切った和了り牌を見逃した時のように…。

 しかし、

「チー!」

 穏乃が切った牌を恭子は鳴き、次巡、

「ツモ!」

 まさに穏乃が和了るはずの牌を奪い取り、そのまま和了った。

 

「高鴨も癖が出とるな。」

「癖?」

「和了れる牌が分かるんやろうけど、ツモ番でもないのに無意識に山に目がいってる。それで和了らせないために鳴いたんや。」

「は…はぁ…。」

「咲もカンできる牌が分かるけど、そこに無意識に目がいく。それで、東一局はツモ番を狂わせたってことや。」

 咲も、相手の手牌の動きは観察していた。誰が、どの巡目で切った牌がツモ切りなのか手出しなのかも覚えていたし、手牌の何番目の牌を出したかまで記憶していた。それで、靴下を脱がなくても、大抵は相手の手牌が透けて見えていた。

 まあ、靴下を脱げば、調子を狂わされない限り、牌が全て透けて見えてしまうのだが…。

 ところが、恭子は、それ以外のものまで恒常的に観察していた。

 対する穏乃は、何も観察していなかった。

 憧は、割と観察するほうだったが、そこまで細かくは相手の動きを見ていなかった。

 恭子が咲を相手にあれだけの戦いができた理由に、憧も灼も穏乃も、ようやく気がついた。いや、教えられたと言うべきだろう。

 玄だけは理解できていなかったようだが…。

 むしろ、玄は、

「(コーチが来ても、オモチがないので残念なのです!)」

 くらいにしか思っていなかったようだ。

 

 その後、咲は恭子の指摘された部分を補正して、結果的に咲が1位を取ったが、2位は恭子、3位は晴絵、穏乃はラスになった。

 さすがに穏乃も、指摘されてすぐには癖を直せなかったのだ。

 

 咲が対応できたのは、インターハイ団体戦準決勝戦の後に、このことに当時の清澄高校麻雀部部長だった竹井久が気付き、既に癖を直す特訓をしていたからである。

 

 それにしても、阿知賀女子学院が誇る双璧と渡り合えるとは…。ゆいも美由紀も、その日のうちに恭子を教祖と崇め、末原教の信者になった。

 

 

 翌日、一気に三十人以上の新入生が麻雀部に押し寄せた。

 今のままでは卓が足りない。

 かと言って、部内戦を開いて戦績の悪かった新入生を入部させないわけにも行かないだろう。麻雀部の入部を目指し、あの超進学校、晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学した新入生もいるとの話だ。

 そんな人物を昨年一人見た記憶はあるが…。

 

 こうなると、やはり晴絵としては、来るものは拒まずの姿勢を貫きたかった。

 そこで、晴絵が学校側に交渉し、春季大会の優勝も考慮していただき部費を増額してもらった。

 さらに後援会からの援助もあり、麻雀部は自動卓を新規で数台購入することができた。

 

 

 その後、新入生を交えて部内戦が行われた。

 成績は、

 1位:宮永咲

 2位:松実玄

 3位:鷺森灼

 4位:新子憧

 5位:高鴨穏乃

 6位:小走ゆい

 7位:宇野沢美由紀

 8位:車井百子(車井百花妹)←ややオモチの子設定

 …

 …

 …

 

 

 咲の1位は大方全員の予想通りだ。

 しかし、2位と3位は新入部員の予想に反していた。新入生達は、やはり部内2位には全国4位の穏乃が入ると思っていたらしい。

 しかし、穏乃の麻雀は守りの麻雀。強い者を相手に勝つことはできるが、弱者を相手に大きく稼ぐことができない。

 そのため、総当たり戦とかスイスドロー式とかでの合計点を競う場合、玄のような高火力選手には敵わない。

 

 春季大会の全国個人戦予選でも、阿知賀女子学院メンバーの中で穏乃が最下位だった。

 今回も、玄と灼は下位の者相手との対局で大きく稼いで2位、3位に入った。まさに、全国個人戦予選の成績が、今回の部内戦にも反映した形になった。

 もっとも、晴絵は、この結果を予想していたようだが…。

 

 それと、今回の部内戦では、咲が本気で戦ったため、多数の失禁者が出てしまった。特に咲の下家に座った新入生の漏らし方が酷かった。咲の副露牌に乗って飛んでくるオーラをまともに受けるのだから仕方が無いだろう。

 しかも、殆どの新入生が咲の、

「もいっこ、カン!」

 に対してトラウマを持つようになった。

 そのため、今後は、新入生が怯えないように咲はレギュラー以外を相手にする時はプラマイゼロにするよう、晴絵から指示が出た。

 和との約束もあるが…、これは、やむを得ないだろう。

 

 

 部内戦の戦績から、レギュラー五名は、咲、玄、灼、憧、穏乃に決定した。

 補員は、ゆい、美由紀の二名に、個人戦に出場する八名は、上記七名プラス百子に決まった。

 

 

 県予選大会の前に、阿知賀女子学院では中間テストが行われた。

 麻雀部の中では、

「楽勝!」

 と余裕ぶっている娘もいれば、

「憧! ここと、ここと、ここと、ここと………、ここを教えて欲しいんだけど。」

 って全部かい!

 と言いたくなるような娘もいた。

 さらに、

「テスト期間中は部活がないから、美由紀ちゃんのオモチが拝めなくて残念なのです!」

 と悲しんでいる娘もいたのだが…。

 

 二年生の総合1位は圧倒的点差で憧だった。さすが、中学時代に偏差値70が余裕とぶっこいていただけはある。

 咲は3位で周りを驚かせた。真面目な彼女は、常日頃から勉強をしているので、中学の頃から結構上位の成績を修めていたらしい。

 穏乃は真ん中よりもちょっと下だった。

 三年生は、灼も玄も、まあまあの成績。

 一年生は、麻雀部の生徒が上位を占めた。殆どが晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学しているのだから、当然と言えば当然なのだろう…。

 

 

 初夏となり、奈良県大会の出場登録が始まった。

 今回、またもやルールが変更された。

 一番大きな変更点は、昨年までの点数引継ぎ型ではなく、白築慕達が中学時代に採用されていた星取り形式に変えられることだった。

 ただし、トビ終了の可能性を下げるため、100000点持ちで行われる。

 

 これは、やはり宮永魔物トリオの存在が大きかった。

 照は、西東京都大会の先鋒戦でトビ終了させているし、光も、魔物vs魔物にでもならない限り、自分のところでどこかをトバして終了させる力がある。

 咲に至っては、昨年秋季大会の444400点事件が有名で、点数引継ぎ型の場合、結局、一人の突出した選手が全てを決めてしまうことがある。

 それを回避するためのルール変更でもあった。やはり、団体戦なので総合力を評価したいとの考えなのだろう。

 

 前後半戦の半荘二回勝負の場合は、前半戦と後半戦を、それぞれ100000点持ちで行われ、その収支の合計(獲得素点の合計)で順位を決める。

 オカやウマは付かない。先鋒から大将までの五人で、1位を最も多く取ったチームがチームとしての1位となる。

 1位になった回数が同じだった場合は、全員の収支の合計で順位を決める。その際には、咲や光のような化物の稼ぎが順位に反映することになるだろう。一応、化物の活躍も視野に入れていないわけではない。

 

 また、大明槓による責任払い、赤ドラ、ダブル役満以上ありのルールになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。

 二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。

 留学生は先鋒だけではなく大将にも配置してはならない。

 大枠、そう言ったルールに変更された。

 

 

 インターハイ準優勝、春季大会全国優勝の阿知賀女子学院は、もはや奈良県では敵無しだろう。

 そこで晴絵は、恭子と相談して全国大会での戦いを見越した上でオーダーを決めた。

 

 先鋒は憧。

 春季大会個人12位の実力なら大抵の高校でエースになれる器だ。度胸もあるし、先鋒で出場しても臆することは無いだろう。

 それに、玄のような弱点もないし、打ち回しも巧い。恐らく、咲や光のような超魔物が相手でない限り、とんでもない大敗をすることは無い。

 団体戦なら、総合力がモノを言うため、晴絵も恭子も、三箇牧高校が北大阪大会で敗退すると予想した。

 インターハイ団体戦に出場してくると思われる相手校の二年生、三年生選手の名前を見る限り、憧が100%負けると言い切れる選手は少ない。

 該当するのは、恐らく、白糸台高校の宮永光と大星淡、龍門渕高校の天江衣、臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼ、永水女子高校の神代小蒔くらいだろう。

 他にも原村和、佐々野みかん、多治比麻里香、龍門渕透華、片岡優希、南浦数絵、鶴田姫子と言った強敵もいるが、時の運もあるので勝敗は何とも言えない。

 一年生でとんでもない選手が出てくる可能性もあるが、憧なら心で負けないし食い下がってくれる。そう言った期待もある。

 

 次鋒は玄。

 晴絵と恭子は、次鋒にとんでもない選手を配置してくるチームは少ないと予想した。

 エースが敗退することで選手全員が意気消沈してしまうような精神面の弱いチームであれば、敢えて先鋒戦を捨ててエースを次鋒に配置することは考えられる。早い段階でエースの勝利を選手達に見せ、チーム全体の志気を上げる必要があるからだ。

 しかし、全国大会に出場するようなチームの選手なら、そこまで精神的に弱くは無いだろう。

 それに、次鋒戦に出場する選手の殆どは、玄を相手に積極的に槓をする度胸があるとは思えない。仮にあったとしても、それを次鋒レベルの選手にやらせるだけの度胸のある監督自体が少ないはずだ。

 それで、玄を次鋒に置いて素点を大きく稼ぎ、もし、勝ち星が2対2の同点になった時は、玄の大量得点でカバーしようと晴絵と恭子は考えた。

 

 中堅は咲。

 星取り戦の場合、絶対に負けて欲しくないポジションはどこであろうか?

 もし、先鋒と次鋒が負けたなら…、それも、同じチームに勝ち星を取られていたら、中堅は絶対に勝たなければならない。

 それに、自分のチームが勝ち星を上げていた場合でも、中堅が勝つことでチームとして一歩リードできる。

 二勝していれば、ここで勝負を着けられる。

 また、同様の理由で副将も負けられない。大将は当然負けて欲しくは無いが、大将戦まで勝負をもつれ込ませずに勝利できることが理想だ。

 つまり、点数引継ぎ型と違って、星取り戦の場合は中堅と副将がとりわけ重要になってくる。その一人目として、晴絵は絶対的エースの咲を中堅に配置した。

 恐らく、姫松高校がエースを中堅に置くのは、ずっと昔の団体戦が点数引継ぎ型ではなく星取り戦だったことに由来すると思われる。その名残が今でも残っているのだろう。

 

 副将は灼。

 晴絵は、灼に部長として、二つ目の『絶対に負けて欲しくないポジション』を任せた。昨年インターハイ準決勝戦の活躍を見ても、ここぞと言うところで勝負強いと思う。

 万が一、憧と玄が星を取れなかった時(咲が負けることは想定していない)は、部長の灼に運命を委ねる。

 

 そして、大将は穏乃。

 説明は不要だろう。最も責任あるポジションと言われる大将は、性格的にも能力的にも彼女しかいない。

 咲が点棒の支配者なら、穏乃は山の支配者だ。それこそ、咲、光、衣、淡、憩と肩を並べる実力者である。

 

 阿知賀女子学院は、このメンバーで、まずは奈良県大会に殴り込みをかける。




小走ゆいは中野梓のようなイメージでおります


おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「それにしても、阿知賀編でやられ役として登場した私と。」

史織「単なるモブキャラの私が抜擢されるなんて思っても見ませんでした。まあ、原作の主人公がモブ顔ですから、きっと違和感は無いと信じておりますが…。」

咲「…。」
当然、咲の全身から暗黒物質が沸き始める。

莉子「どうやら、和・穏-Washizu-の最終回でハメられ役になった私達の救済で、司会者として起用してくれたようです。四回限定とのことのようですけど…。」

史織「漫才でも大喜利でもなく、飽くまでも司会者ですね。最初にちょっと説明を入れるだけで、誰がやっても良かったみたいですけどね…。」

莉子「今回は、阿知賀女子学院麻雀部の校内ランクを決める部内戦での出来事をお送りします!」

史織「超魔物、宮永咲を相手に新入生がどれだけ頑張れるか?」

莉子「きっと耐えられないでしょうね?」

史織「多分、失禁者続出でしょうね!」

莉子「こ…これって!」

史織「言うまでも無く、いつものパターンですね。」

莉子・史織「「それでは、スタート!」」





晴絵「じゃあ、これから部内戦を始めるよ。この戦績でレギュラー、補員、個人戦出場者を決める。イイね!」

恭子「あと、咲は全力で戦うこと。プラマイゼロは禁止やからな。」

咲「は…はい…。」

晴絵「ルールは夏大団体戦ルールに従う。今回、また変更があって…。」

昨年夏とは違い、大明槓による責任払い、赤ドラ4枚以外に団体戦のみダブル役満以上ありのルールになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。
また、春季大会とは違って二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。

そのルールの下、対局が行われた。
最初の対局で、咲は、新入生三人と卓を囲むことになった。

咲「よろしくお願いします」←引きつった笑顔。やや対人恐怖症のため。

新入生1・2・3「「「よろしくお願いします!」」」←女子高校生雀士の頂点と打てて嬉しい模様。こちらは飛び切りの笑顔。

咲「(みんなカワイイ顔してる…。やっぱり、喪女の私とは違うなぁ。それにお胸も…。)」

同卓した新入生三人は、いずれも玄が反応しない程度の普通のオモチを搭載していた。まあ、ゼロより下は無いので、それでも咲よりは大きいのだが…。

咲「(コーチも全力でヤレって言ってくれたし、ヤッちゃってもイイよね!?)」

突然、咲の表情が戦闘モードに入り、全身から魔物特有の強大なオーラと、咲特有の暗黒物質が大噴出した。

場決めがされ、東家は新入生1(以後、新1)、南家は新入生2(以後、新2)、西家は咲、北家は新入生3(以後、新3)に決まった。


東一局は、

新1「(場に②が3枚切れてるし、これって使えないよね?)」

初牌だったが、自分の手は平和手で、しかも②も③も無い。持っていても後々困る牌だ。それで、新1は、①をツモ切りした。すると、

咲「カン!」

咲が狙っていたかのように大明槓した。新入生三人は、その迫力と凄まじいエネルギーを初めて体験した。
いきなり、背筋に冷たいものが走り抜け、全身が震え出す。

咲「ツモ。嶺上開花ドラ3。8000。」

これがチャンピオン咲のカン…。
大明槓からの嶺上開花は責任払いになるため、これは新1が一人で8000点を支払うことになるが、点棒を奪われていない新2と新3にも強大なプレッシャーを与えた。


東二局は、
新2「(初牌を切らなければカンをされる心配は無いわけで…。)」
と咲の捨て牌である(⑤)の筋、⑧を切った。⑧は、二巡前に新3が切っているので初牌ではない。しかし、

咲「ロン。チャンタ三色。8000。」

別に咲は嶺上開花しか和了らないわけではない。普通の手も和了る。
ただ、新2にとっては裏をかかれた気分だった。
まさか、(⑤)を切って引っ掛けるとは…。
まあ、チャンタ系ならあってもおかしくない話だが…。


東三局、咲の親番が回ってきた。
ここで咲のパワーが爆発する。

咲「ポン!」

新3が捨てた①を、咲は早々と鳴き、その数巡後に、

咲「カン!」

①を加槓した。嶺上牌は②。当然のように、

咲「もいっこ、カン!」

②を暗槓。嶺上牌は③。当然、

咲「もいっこ、カン!」

③を暗槓。そして、次の嶺上牌で、

咲「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。16000オール。」

三連槓から(⑤)を引いての嶺上開花。しかも天江衣を破った時と同じ数え役満。
槓するたびに強大なエネルギーが新入生達を襲う。それも、自分の身体を丸呑みできるような巨大な肉食生物が襲ってくるような恐怖。
新入生三人の顔からは完全に血の気が引いていた。

東三局一本場。ここでは、新3が怯えながら捨てた二で、

咲「ロン。タンヤオドラ2。7700の一本場は8000。」

これで、新1、新2、新3の点数は1000点のみになった。

もう後が無い新入生達。
東三局二本場は、

咲「ポン!」

新2が捨てたオタ風の西を鳴き、

咲「カン!」

西を加槓した後、嶺上牌で、

咲「ツモ。嶺上開花。50符1翻。800オールの二本場は1000オール。」

咲は、⑨の暗刻も持っており、符ハネして50符になっていた。しかも、和了り役は嶺上開花のみ。咲ならではの和了りだ。
計算されたように…、いや、計算していたのだろう。新入生三人の点数は0になった。

新1・2・3「「「(もう怖い…。)」」」

三人とも激しく震えている。しかし、そんなこと、今の咲には関係ない。

咲「(だって、コーチが全力でって言ったし、前にも和ちゃんと手を抜かないって約束したもんね。それに、私より年下で私よりもオモチがあるなんて許せないんだから…。)」

それって高校一年生に限定しても、殆ど全員になるのでは?
ただ、今の咲は、全力で勝つではなく、全力で叩き潰すつもりで麻雀を打っていた。全力の意味をわざとズラしていたのだ。
理由は言うまでも無くオモチだ。
まあ、『叩き潰す』の先にあるものは、一応『勝利』ではあるのだが…。

そして、東三局三本場。

新入生達は、もう頭が回らなくなっていた。そこまで追い込まれていたのだ。
場も見ずに新3が中を捨てた。これを、

咲「ポン!」

新1・2・3「「「ヒィッ!」」」

もはや、咲の発声で怯える始末だ。

そして、数巡後、

咲「カン!」←中を加槓

新1・2・3「「「ヒィィッ!」」」←怖くて怯える三人

咲「もいっこ、カン!」←發を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィッ!」」」←ガタガタと大きく震える三人

咲「もいっこ、カン!」←白を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィィッ!」」」←涙目になってきた三人

咲「もいっこ、カン!」←西を暗槓

新1・2・3「「「ヒィィィィィッ!」」」←死を恐怖した三人

咲「ツモ。大三元字一色四槓子。トリプル役満の三本場は、48300オール」←北を嶺上牌で引いて和了り

新1・2・3は、完全にレイプ目になった。そして、
「「「チョロチョロチョロ…。」」」
括約筋が緩み出し、その数秒後、ダムが決壊して一気に、
「「「プシャ――――――!!!」」」
黄金色の聖水が三つの湖を形成した。やがて、それらは一つに合わさり、巨大湖へと成長して行く。





その後も咲は、

咲「カン、嶺上開花!」

新4・5・6「「「プシャ――――――!!!」」」


咲「カン、嶺上開花!」

新7・8・9「「「プシャ――――――!!!」」」


多くの新入生を玉砕した。
この日は、対局よりも清掃する時間のほうが長かったらしい。


晴絵「今後、咲はレギュラーメンバー以外を相手に本気で麻雀打つのを禁止するよ! とにかく、下級生にはプラマイゼロで当たってくれ。」

咲「プラマイゼロ、やってもイイんですか?」

恭子「仕方ないやろなぁ。」

咲「(やったー!)」

プラマイゼロ命令が出て、内心喜ぶ咲であった。


その後、プラマイゼロを連発する咲の姿を見て、

……「「「「「「「「「「(それはそれで傷つくんですけど…。)」」」」」」」」」」……

新入生達は、咲の格の違いを思い知らされるのであった。


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三十二本場:デジャブー&超光速跳躍&オモチ評論

 奈良県大会が始まった。

 参加校は32校。

 昨年の県大会で優勝した阿知賀女子学院は、第一シードだ。32校なのでシード校も一回戦からの出場になるが…。

 

 一回戦は1位のみ勝ち上がる。阿知賀女子学院は、先鋒から中堅まで三連勝し、勝ち星三で余裕の二回戦進出を果たした。

 

 二回戦からは二校勝ち抜けとなる。そのため、1位が決まっても2位が決まらなければ、2位が決まるまで試合は続けられる。

 阿知賀女子学院は、二回戦でも星五で余裕の勝利だった。

 

 決勝は晩成高校と当たったが、結局は星五で阿知賀女子学院の完勝だった(優勝校が決まっても2位以下の順位を決めるために大将戦まで行われた)。

 

 また、春季大会で明華が玄のドラ支配破りを全国生中継したが、県大会レベルでそれをやってくる選手はいなかった。

 玄にドラを切らせるためには、槓が一つでは不十分である。照のような攻撃力を持っていなければ、逆に玄に三倍満以上の手を和了らせるチャンスを与えてしまう。中途半端な槓が怖くてできないと言ったところだ。

 それに、星取り戦になったことで、玄以外が結託しても途中で誰かが裏切る。

 何故か?

 点数引き継ぎ制なら玄をへこますことだけを目的とするだろう。しかし、星取り戦の場合、1位になって勝ち星をあげることが一番の目的になるからだ。

 これは、昨年夏の長野県予選の個人戦で、咲、久、智紀、桃子が対局した際、順子場にして咲を苦しめながらも、最終的に桃子が自らの勝利のために他を裏切ったのと同じだ。

 

 結託されたら、ただ安い場で流されて終わる。

 しかし、他家の結託が崩れれば………、ただ場を安く流すだけの麻雀でなくなるのであれば………、玄にも和了るチャンスが訪れる。

 当然、ドラ爆が炸裂する。

 星取り戦に変わることで玄は救われたかもしれない。

 

 

 個人戦は、昨年度インターハイ団体戦の成績と、春季大会の団体戦・個人戦両方の成績から、奈良県の全国出場枠が五人に増やされた。

 全国出場するのは、結局、

 

 1位:咲

 2位:玄

 3位:灼

 4位:穏乃

 5位:憧

 阿知賀女子学院の五人が、その椅子を全て占めた。

 

 しかも、1年生のゆいは8位、美由紀は13位、百子は35位と、玄と灼が引退した後も安心できる成績を出してくれた。

 団体戦出場チーム32校から8名ずつ出場し、さらに個人戦のみ出場の学校もあり、参加者は全部で300名を越す。それを考えると、一年生三人組は、かなりの好成績と言える。

 

 

 その翌日、憧は、部室で新聞を見ていた。

 各都道府県のインターハイ出場校をチェックしていたのだ。

「団体戦、やっぱりマークすべきは長野の龍門渕かな。それと、和と光ちゃんと大星さんのいる白糸台…。」

 すると、穏乃が、

「憧に似た先鋒のいる臨海女子もだけどね。」

 と言った。別に悪意は無い。

「まあ、私に似たは余計だけど…。それと、もう一つ気になるのが鹿児島の永水女子だよね。人数の関係で秋季大会には参加できなくて、それで自動的に春季全国にも出てこなかったけど、ここに新たに入った一年二人、結構ヤバイよ!」

 憧が、永水女子高校の参加選手の名前を指差した。

 そこには、石戸明星と十曽湧の名前があった。六女仙最後の二人だ。

 これを見ながら、穏乃が、

「それともう一人…、面倒な人が永水にいるね…。」

 と言った。穏乃の雰囲気から、その者は彼女達の知る人間のようだ。

 ただ、違うベクトルの反応をする者が一人いた。

「神代さんと石戸明星ちゃんのオモチが楽しみなのです。それと、もう一人、永水にいるこの人のオモチも中々なのです!」

 結局、その視点かい!

 まあ………、想定の範囲だが。

 やっぱり、玄は何時もマイペースで平和だ。

 

 他にも、南北海道の琴似栄高校や、北大阪の千里山女子高校、南大阪の姫松高校、福岡の新道寺女子高校など、多くの名門校が全国出場校に名を連ねていた。

 

 

 さて、阿知賀女子学院では、夏休みに入る前に期末試験が行われた。

 中間試験の時と同様、麻雀部の中では、

「楽勝!」

 と余裕ぶっている娘もいれば、

「憧! ここと、ここと、ここと、ここと………、ここを教えて欲しいんだけど。」

 って全部かい!

 と言いたくなるような娘もいた。

 さらに、

「テスト期間中は部活がないから、またもや美由紀ちゃんのオモチが拝めなくなって残念なのです!」

 と悲しんでいる娘もいた。

 咲は、

「(中間テスト前にも見たよね、これ?)」

 なんだかデジャブーを見ている気がしてならなかった。

 

 そして、中間テストの時と同様に、2年生の総合1位は圧倒的点差で憧だった。さすが、晩成高校を滑り止めにしていただけのことはある。

 それで阿知賀女子学院に入学すると言うのは何だかな……と思われるが…。

 咲は3位、穏乃は真ん中よりもちょっと下だった。これも中間試験と同じだ。

 3年生は、灼も玄も、まあまあの成績。

 1年生は、麻雀部の生徒が上位を占めた。

 結局、中間試験の時と様子は全然変わらなかった。人間、そう簡単に変わらないと言うことなのだろう。

 咲には、全てデジャブーのように思えたようだが…。

 

 

 夏休みに入った。

 阿知賀女子学院メンバーはインターハイ出場のため、大会会場のある東京都へと移動することになった。

 昨年インターハイと今年の春季大会は、生徒五人+晴絵の計六人だったため、車での移動だった。しかし、今回は総勢40名近い。

 それで、バスを借りての移動になった。

 宿泊先は…、またもや良いホテルだ。予想はしていたが、昨年のインターハイ、今年の春季大会の時と同じホテルだったとは…。

 こんなお金がどこから出てくるのであろうか?

 特に千里山女子高校!

 咲は、そんなことを思いながら、

「絶対に優勝しなきゃ、後援会の方々に申し訳ない…。全部、ゴッ倒す!」

 と密かに勝利に燃えるのであった。

 ただ、これも後半部分の台詞が、昨年あったような気もするが…。

 

 

 大会前日。

 この日は、抽選会が行われた。

 阿知賀女子学院は、昨年のインターハイで団体戦準優勝を成し遂げており、本大会では第二シードだった。

 第一シードは、清澄高校に代わって長野代表の座を勝ち取った龍門渕高校、第三シードは前回インターハイ3位の白糸台高校、第四シードは臨海女子高校となった。

 

 このシード四校は、抽選会に出る必要はない。

 咲達は、ホテルの各部屋で、抽選会の様子をテレビで見ていた。

 

 次々とトーナメント表が埋まって行く。

 シードでなくても強豪校はある。それらが、どのブロックに入るかも、選手達の興味の対象となる。

 

 龍門渕高校のいるAブロックには姫松高校の名が、

 臨海女子高校のいるBブロックには永水女子高校と劒谷高校の名が、

 白糸台高校のいるCブロックには新道寺女子高校、射水総合高校、琴似栄高校の名が、

 阿知賀女子学院のいるDブロックには千里山女子高校、東白楽高校、そして本藤悠彗が監督を務める粕渕高校の名があった。

 

 当座の敵は二回戦に進出してくると予想される千里山女子高校、東白楽高校、粕渕高校の三校であろう。

 そして、準決勝戦で光、和、淡のいる白糸台高校と当たると予想される。むしろ、白糸台高校が準決勝まで進んで来られなくなる筋書きが見えない。

 さらに決勝戦では、順当に行けば龍門渕高校、臨海女子高校、永水女子高校の三校から二校が勝ち上がってくるだろう。

 特に要注意なのは神代小蒔率いる永水女子高校である。

 しかし、咲達とは決勝戦まで進まなければ当たることは無い。準決勝までに当たる超強豪校が白糸台高校だけなのは救いと言える。

 

 

 翌日、大会会場に隣接した体育館でインターハイの開会式が執り行われた。

 昨年優勝校の清澄高校麻雀部には、女子新入部員として室橋裕子(通称:ムロ)が入部していた。団体戦には人数が足りずに出場できなかったが、一応、部として存続していた。

 清澄高校を代表して、ムロが優勝旗を返還する。

 その彼女の後姿を見詰める咲の身体からは、ドス黒いオーラが湧き上がっていた。暗黒物質と言ったほうが良いかもしれない。

 

 現在、清澄高校は京太郎とムロの二人だけの部になっている。

 毎日が二人だけの空間。

 観客席には、ムロの姿を見詰める京太郎の姿がある。二人の関係はどこまで進んでいるのだろう?

 変なことを想像しながら、

「(京ちゃんのバカ!)」

 咲は勝手に嫉妬していた。

 

 

 開会式の後、一回戦が開始された。これが大会初日となる。

 午前中にAブロックの一回戦三試合が、午後にBブロックの一回戦三試合が並行して執り行われてゆく。

 先鋒戦から大将戦まで各半荘一回の対局で、二回戦に進出できるのは各試合で一校だけである。いきなり、この日のうちに18校が姿を消す。

 

 長野のある雀荘では、染谷まこが、大会の様子をテレビで見ていた。

 彼女は、現在、風越女子高校に通っている。

 団体戦では龍門渕高校に負け、個人戦でも惜しくも4位と県代表の座を逃していた。長野県の個人戦代表は昨年と同様に3位までだったのだ。

 昨年のインターハイでは清澄高校が団体優勝し、個人でも咲が優勝したが、その優勝校麻雀部が実質解体、咲も転校したため、長野県個人代表枠の増員は、残念ながら成されなかった。

 実質、まこは部活を引退しており、今日は家の雀荘の手伝いをしていた。とは言え、テレビを見る時間くらいは取れる。

「去年、全国の舞台を踏めたのは、咲達のお陰じゃのう。」

 彼女がポツリと呟いた。

 すると、大方の予想通り、時間軸の『超光速跳躍』が発動した。まこが持つ最大最強の能力だ。

 次の瞬間、大会二日目に予定されていたCブロックとDブロックの一回戦まで、あっという間に終了した。

 

 

 二回戦進出校も、大方の予想通りとなった。

 Aブロック二回戦は、龍門渕高校、姫松高校、八枡高校(京都)、和深高校(和歌山)の戦いとなる。大会三日目の試合だ。

 二回戦からは、先鋒戦から大将戦まで各前後半戦の計十半荘の対局となる。また、一回戦とは異なり、上位二校が準決勝進出となる。

 

 Bブロック二回戦は、臨海女子高校、永水女子高校、劔谷高校、館山商業高校(千葉)が対戦する。

 これも大会三日目の試合になる。Aブロック二回戦と並行して行われる。

 

 Cブロック二回戦は、優勝候補の白糸台高校、新道寺女子高校、射水総合高校(富山)、琴似栄高校(南北海道)が激突する。

 絶世美女軍団と名高い白糸台高校が、顔面偏差値だけでなく、どれだけ麻雀のほうでも圧倒的な展開を見せるか、また、そういった中で鶴田姫子がセルフリザベーションでどこまで食い下がれるかが話題となっていた。

 特に姫子のセルフリザベーションは、前半戦の彼女の表情に注目が集まる。

 大会四日目の試合だ。

 

 Dブロック二回戦は、優勝候補筆頭の阿知賀女子学院、千里山女子高校、東白楽高校、粕渕高校の対戦となる。

 こちらも白糸台高校に次いで顔面偏差値が高いと評価される阿知賀女子学院が、チャンピオン宮永咲を中心に、どれだけ圧倒的な試合を見せ付けるかが話題になっていた。

 特に阿知賀女子学院の場合は、各選手が見せる個性的な麻雀にも話題性がある。

 今回も咲がどれだけ嶺上開花を決めるかとか、玄の和了りにドラが最高で何枚あるかとか、そういった部分に大きな期待が寄せられた。

 勿論、コアなファンの間では、咲の虐殺振り(失禁誘発)に大きな注目が集まっていた。

 これも大会四日目。Cブロック二回戦と並行して行われる。

 

 

 大会三日目になった。

 当然、まこは、

「長野代表の試合じゃ!」

 テレビを見ていた。また、超光速跳躍が発動する。周りから見ればデジャブーのように感じられるだろう。

 

 Aブロック二回戦、龍門渕高校、姫松高校、八枡高校、和深高校の試合。

 いつもの如く、龍門渕高校の先鋒は井上純。対する姫松高校の先鋒はエース殺し、爆発娘の上重漫だった。

 漫は、部内戦で愛宕絹恵に僅差で負けて2位になり、今大会は絹恵がエースとして中堅戦に出場する。

 先鋒戦は、終始、漫が爆発を見せ、圧倒的点差で勝ち星をあげた。

 

 玄は、この試合をテレビで見ながら、

「漫さんのオモチはロケットみたいで魅力的なのです!」

 結構喜んでいた。

 

 

 次鋒戦は、手堅い麻雀で龍門渕高校の沢村智紀がギリギリで勝ち星をあげた。実は、智紀は長野県個人代表だったりもする。

 

 この試合でも玄は、

「沢村さんも、結構なオモチなのです!」

 と喜んでいたらしい。

 

 

 中堅戦では、絹恵と龍門渕高校の国広一の一騎打ちとなった。この対局は、たった300点差で絹恵が辛勝した。

 

 ちなみに玄は、

「愛宕妹さんのオモチは、とても形も良く素晴らしいのです!」

 と言いながら、さらに顔が綻んでいた。

 

 

 副将戦は、龍門渕高校からは部長の龍門渕透華が出場した。

 現状、姫松高校の勝ち星が二つ、龍門渕高校の勝ち星が一つだが、大将の天江衣が負けるとは思えない。

 万が一、ここで自分が負けても龍門渕高校の勝ち星二つは確定しているも同然。

 そういった背景からか、透華は精神的余裕を持って攻めの麻雀を展開した。

 これが功を奏し、副将戦は透華が勝ち星をあげた。

 よって、この段階で龍門渕高校と姫松高校の勝ち星が二つずつとなり、上位二校が決まったため大将戦は行われなかった。

 

 衣は、対局したくてウズウズしていたが、対局が無くなり不機嫌になった。

「次の準決勝では衣の力を見せ付けてやる!」

 そう言いながら激しいオーラを周りに撒き散らしていたが、夕食はファミリーレストランに行くと決まると途端に機嫌が直った。

 そして、嬉しそうな表情でエビフライハンバーグ定食を食べたとのことである。

 

 一方、玄は、

「この試合はオモチが無いので面白くありません!」

 と言って見向きもしなかったようだ。この試合で不機嫌になったのは、衣だけではなかったと言うことだ。

 

 超光速跳躍のお陰で、試合は800文字程度で終了した。

 

 

 Bブロック二回戦

「こっちは、優希の試合じゃった。」

 まこがチャンネルを切り替えた。

 

 臨海女子高校、永水女子高校、劔谷高校、館山商業高校の試合。

 先鋒戦は、東風の神こと臨海女子高校の片岡優希が前半戦の東場で大量リードを作ったが、南場に入ると永水女子高校先鋒の神代小蒔に神が降臨し、染め手をガンガン和了り、前半戦が終了する頃には僅差で小蒔が逆転した。

 その後も小蒔の一方的な展開となり、先鋒戦は永水女子高校が勝ち星をあげた。

 

 ちなみに玄は、

「やっぱり神代さんのオモチは、とても立派なのです。しかも、高貴な雰囲気が漂っています!」

 とても喜んでいた。

 

 

 次鋒戦は、序盤に劔谷高校のエース、攻撃型の森垣友香が攻め、ディフェンス主体の永水女子高校、滝見春がそれを巧く流す。そんな対局が展開された。

 しかし、途中から臨海女子高校の郝慧宇が中国麻将による和了りを連発し、最終的に郝がトップを取った。よって勝ち星は臨海女子高校のものになった。

 2位は春。友香は3位となった。

 

 玄は、

「永水の人と劔谷の人が、オモチがあって嬉しいのです! 臨海女子高校の人も中々なのです!」

 と喜んでいたが、やはり高貴なオモチの小蒔のほうに興味があるようだ。

 

 

 中堅戦は、永水女子高校からは石戸霞の従姉妹の石戸明星が出場した。劔谷高校からは依藤澄子、臨海女子高校からは雀明華が前年に続き中堅で出場した。

 この試合は、世界ランカーの明華が圧勝したが、明星は2位に甘んじたものの余裕の笑顔を見せており、何かを隠している雰囲気すら感じさせた。

 

 玄は、

「明星ちゃんの従姉妹の霞さんが最高なのです! でも、明星ちゃんも立派で素晴らしいのです! 臨海の人も中々なのです!」

 と、たいそう喜んでいた。特に明星のことは気に入ったようだ。

 しかし、咲は、

「(何、あの一年。霞さんは、年上だから仕方がないって思ってたけど、あの胸で年下なんて許せない!)」

 魔物スイッチが入った。

 

 

 副将戦は、臨海女子高校からはネリー・ヴィルサラーゼが、劔谷高校からは昨年大将だった安福莉子が出場した。

 そして、永水女子高校からはステルス桃こと東横桃子が出場した。咲同様に親の転勤で転校したらしい。

 思わぬ伏兵だ。

 しかし、この試合は、運を操作するネリーが勝利を収めた。

 

 桃子もステルスで応戦したが、ネリーに高い手のツモ和了りを連発されてはどうにもならない。結局、桃子は2位になった。

 

 一方、玄は、

「テレビだと、東横さんのオモチがきちんと見れるのです!」

 それなりに喜んでいた。

 

 

 大将戦は、臨海女子高校からは南浦数絵が、永水女子高校からは十曽湧が出場した。

 東場で、いきなり湧が高打点の和了りを連発した。

 この和了り役を見て晴絵は、

「ローカル役満か!」

 湧の特徴に気付いた。どうやら湧の和了り手は必ずローカル役満の形になっているようだ。

 

 本大会では役満としては認められていなくても、ローカル役満は、それ相当に綺麗な手が多く、結果として湧は、ハネ満以上の手を連発することになる。

 南入してからは数絵も和了りを連発したが、辛くも湧に勝ち星を取られた。

 

 その結果、臨海女子高校が勝ち星三、永水女子高校が勝ち星二で、この二校が準決勝戦に進出した。

 

 玄は、

「南浦さんは、普通のオモチです。他は…。」

 不満だったらしい。

 超光速跳躍のお陰で、Bブロック二回戦も1300文字に達することなく半荘全十回が終了した。




おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「それにしても、阿知賀編でヤラれ役として登場した私と。」

史織「単なるモブキャラの私が抜擢されるなんてチャレンジングだと思います。」

莉子「原作の主人公がモブと大差ないので違和感は無いと信じてますけど…。」

史織「私もそう思ってます。」

咲「(こいつら…。)」

咲から暗黒物質が沸き始める。

莉子「今回は、インターハイでのホテル部屋割りに付いてのお話です。」

史織「あんな良いホテルに部員全員が宿泊できるなんてリッチですね。私達なんて会場まで埼玉から毎日通いでしたよ!」

莉子「越谷なら十分可能でしょ!」

史織「でも、私、鷲宮からだから、家から片道1時間半以上かかってたので…。」←勝手に鷲宮在住設定にしました。

莉子「劔谷はお嬢様校だから、阿知賀よりもイイホテルだったし、新幹線はグリーン車でした。千里山には負けるかもしれませんけど…。」

史織「羨ましい! あんなホテルに私もタダで泊まってみたい!」

莉子・史織「「それでは、どんな話になるか。なんとなく予想は付きますが…。宿泊編、スタート!」」





今年、阿知賀女子学院麻雀部は新入生が多数入部した。そのため、インターハイ開催地の東京に部員全員が移動するにあたり、バスを手配した。
それでも途中の休憩時に咲が迷子でいなくならないか心配ではあったが…。
とは言え、電車で乗り継ぐよりもリスクが少ないのは間違い無い。

一年生達は、咲の方向音痴ぶりには驚かされた。

一年生達「「「「(やっぱり、強大な何かを得るためには、別の何かを犠牲にしなくてはならないってことなのね…。)」」」」

方向音痴にカナヅチ。
カナヅチはともかく、あの方向音痴は生活して行く上で大きなリスクを負うことになるのではないだろうか?
得るものと失うものの等価交換だろうか?
やはり、ある意味、神は平等だと新入生達は思うのだった。


ホテルロビーにて、
晴絵「じゃあ、ホテルの割り振りだけど…。」

玄「私は美由紀ちゃん(宇野沢栞の妹)とがイイです!」←オモチ狙い

晴絵「いや、玄は最上級生同士ってことで、灼と同室だよ。灼、玄のこと頼んだよ(玄の暴走を止めてね)。」

灼「それって、無理だと思…。って言うか、私はハルちゃんと…。」

晴絵「私は恭子と同室にするから…。」

灼「(コーチ。ハルちゃんに変なことしたら許さないんだから…。)」

恭子「(なんか睨まれてるんだけど…。)」

灼「(部屋、代わって代わって代わって…。)」

恭子「監督。私は、エースの体調管理のため、咲と同室にしますわ。監督は、部長と同室で良いんじゃないですか?」

晴絵「いや、しかし…。」

灼「(ナイスコーチ!)そうしたほうがイイと思…。」

晴絵「まあ、咲はうちの要だからな。じゃあ、恭子。咲のことを頼む。」

恭子「じゃあ、よろしく頼むわ、咲。」

咲「は…はい…(胸が無い同士で良かったかも…)。」

玄「じゃあ、私は美由紀ちゃんのオモチを…。」

晴絵「セクハラ止めぃ! 美由紀は車井百子(車井百花妹:ややオモチの子設定)と同室、シズはアコと、玄は小走ゆいと同室でお願いする。」

全員「(オモチの子を避難させたってことか!)」

恭子「まあ、ゆいならしっかりしているからね。玄をよろしく頼むよ。」

ゆい「は…はぁ…(私には無理なんじゃないかな…。むしろ、一緒に美由紀達のところに行こうって玄先輩に誘われ…と言うか命令されそう…)。」

美由紀「あのう…。監督。」

晴絵「どうかしたのかい?」

美由紀「玄先輩にヤル気を出させるためなら、同室でも構いませんが…。」

晴絵「いや、ヤル気の方向がR-18になりかねないし、君を人柱にするのもなんだかなと思ってね。」

美由紀「でも、玄先輩のモチベーション維持も大切かと…。」

玄「そうです。オモチベーション維持が大切なのです!」

全員「(『オ』は要らないだろ! それに、『オモチ』ベーションって『オモチ』を使って変なことをするとしか思えないぞ!)」

玄「では、百子ちゃんは、ゆいちゃんと同室でお願いするのです!」

勝手に決めやがった…。
まあ、予想の範囲ではあったが…。

その日から、玄は毎晩、美由紀のオモチを堪能したのは言うまでも無い。まさしくオモチベーションだ。
晴絵が言っていたとおり、これだと美由紀は人柱と大差ない。

これで、玄が大会で最高の麻雀プレイが出来るならと思っていたが…、その前に自分が変な世界に入り込んでしまいそうな気がする。
麻雀じゃないほうの玄のプレイがしつこ過ぎる。

美由紀「(やっぱり、同室にしなければ良かった…。)」

下手に空気を読んで『チームのために!』と思ったのが間違いだったと、美由紀はつくづく後悔するのだった。
自己犠牲は、程々にしたほうが良い。

(R-15のため、これ以上は書きません。)



玄「これでイイのだ!」←何故か口調がバカボンのパパ


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三十三本場:悪魔の紋章

咲ーSakiー第168局(17巻)では、白糸台高校の監督は貝瀬麗香になっていますが、第202局の淡のセリフから監督が麗香から別の人になったように読み取れます。
しかし、ここでは白糸台高校の監督は貝瀬麗香のままとします。


 大会四日目になった。

 当然、まこは、

「Cブロックは和のとこの試合じゃったな。」

 テレビを見ていた。

 ここでも超光速跳躍が発動するのは言うまでもない。やはり、デジャブーのように思われることであろう。

 

 白糸台高校、新道寺女子高校、射水総合高校、琴似栄高校の試合。

 先鋒戦は、白糸台高校からは和が出場した。

 絶対的エースの光を先鋒に置くと大方予想されていたが…。

 しかし、和の先鋒も決して悪くは無い。むしろ、初っ端から巨乳美女が登場すると言うことでマスコミ受けは良かったようだ。

 

 新道寺女子高校からは花田煌が、琴似栄高校からはエースの吉田が出場していた。

 煌は20000点以上削られない異能を持つことから、他校が先鋒にエースを配置してくることを前提に、彼女は先鋒に任命された。先鋒戦での勝利よりも、先鋒戦での失点を最小限に留めることを優先する戦法だ。いきなり得失点差対策だ。

 

 一方、和は他人の能力などお構い無しに自分の超デジタル麻雀を展開した。結局、着実に和が得点を重ね、白糸台高校が勝ち星を先制した。

 

 一応、玄は、自分達の試合を控室のテレビで観戦しているため、こっちの試合は見ていなかった。

 

 

 次鋒は、白糸台高校からは宮永光が出場した。北欧の小さな巨人と呼ばれる本大会の屈指の魔物の一人だ。

 最近では、宮永遺伝子の中で一番明るくてカワイイ容姿と評判らしい。

 白糸台高校監督の貝瀬麗香は、決勝戦で2対2の同点となった時のことを想定して、光をここに配置したようだ。

 つまり、もし決勝戦で2対2になった場合、その二校の素点の得失点差で優勝を決めるため、敢えて光には咲や小蒔とのエース対決を避けさせ、次鋒戦で大量得点を稼がせようと考えたのだ。

 

 一方、射水総合高校からは寺崎弥生(寺崎遊月妹)が、新道寺女子高校からは友清朱里が出場した。

 弥生は、聴牌すると壁牌にある自分の和了り牌の場所が分かると言う能力を持っていた。

 全ての和了り牌の位置が分かるわけではなく、常にツモ牌に近い壁牌の二枚しか見えなかったが、それでも一枚目を見逃しても、二枚目と三枚目の和了り牌が見られるように変わるだけだ。

 つまり、次にツモれることが分かっていれれば、戦略的に一枚目の和了り牌を見逃すことが出来るし、和了る相手を選ぶこともできる。

 

 しかし、この試合では、白糸台高校の魔物相手に太刀打ちできる者などいなかった。弥生でも、まるっきり役者不足だったのだ。

 結局、

「ツモ! 2000、4000!」

「ロン! 8000!」

「ロン! 12000!」

「ロン! 18000!」

「ツモ! 6100オール!」

「ロン! 24600!」

 光の怒涛の連続和了で、前半戦は弥生が箱割れして終了となった。100000点持ちなのだが…。

 

 後半戦も、

「ロン!」

 光が連続で和了り、ここでも弥生のトビ終了で終わった。

 言うまでも無く勝ち星は白糸台高校のものになった。

 

 弥生は、

「(悔しいけど……今回は漏らさなかった。)」

 春季大会の個人戦では、咲の怒りに触れて失禁させられていたが、今回は何とか持ち堪えた。

 

 

 中堅戦は、白糸台高校からは佐々野みかん(佐々野いちご妹)が、新道寺女子高校からは鶴田姫子が出場した。

 みかんは、姉のいちごに勝るとも劣らぬ痩身美女で小顔。しかも胸がいちごよりも一回り………いや、二回りくらい大きい。

 白糸台高校No.1、いや、今の女子高校生雀士No.1美女との呼び声が高い。当然、ファンも無茶苦茶多い。

 ただ、それだけの容姿なのに男性と付き合った経験は無いらしい。

 そもそも、自分が美女だと言う自覚がない。むしろ、以前は太っていたことから、自分がモテない人間だと思い込んでいる。なので、告白されても冷やかしで言われていると勘違いしている節がある。

 それに、今は麻雀が第一優先。それもあって、今は男性と付き合う気持ちがないらしい。

 

 対する姫子は、本大会最高の妖艶美女と言われている。彼女がセルフリザベーションの時に見せる艶やかな表情に魅了されたファンも多い。

 

 痩身美女vs妖艶美女は、後半戦で見せた姫子の高打点の和了りが勝負を分けた。結果的に、中堅戦は妖艶美女…姫子に軍配が上がった。

 

 

 副将戦は、白糸台高校からは多治比麻里香(多治比真祐子妹)が、新道寺女子高校からは友清藍里(友清朱里従姉妹)が出場した。

 麻里香も、姉の真祐子並に顔立ちが整っており、こちらもファンが多い。

「(白糸台のレギュラーの中じゃ、私が最弱だからね。なんか、副将で最弱って、一年前にも誰かが言っていたような気がするけどね。)」

 と心の中で呟きつつ、缶のお汁粉を片手に強気の闘牌を見せた。

 彼女は、超が付くほど甘党だが、何故か太らない体質を持つ。日々食事制限しているみかんにとっては羨ましい限りだ。

 

 この試合は、終始麻里香が圧倒し、白糸台高校は三つ目の勝ち星をあげ、1位抜けが決まった。

 

 

 大将戦は、白糸台高校からは大星淡が、新道寺女子高校からは池田華菜に瓜二つの中田慧が出場した。

 慧は、自分の勝利がベスト。2位以下だった場合でも、白糸台高校以外の二校に1位を取らせてはならない。下手をすると得失点差勝負になり3位転落が起こり得る。

 しかし…、結局、途中で絶対安全圏を操る淡には敵わないと判断し、淡を援護すると言う戦略をとった。

 目立ちたがり屋の彼女にとっては苦渋の決断だっただろう。

 そして、白糸台高校勝ち星四、新道寺女子高校勝ち星一で、この二校が準決勝戦に進出した。

 

 

 一方、Dブロックは、優勝候補筆頭の阿知賀女子学院、千里山女子高校、東白楽高校、粕渕高校が対戦していた。

 まこが、Dブロックの試合にチャンネルを切り替えた時だった。

「カランカラン…。」

 店(雀荘)のドアが開いた。客が来たのだ。

「四人だけど。」

「はい、いらっしゃいませ!」

 まこが接客のため、一旦テレビから離れた。そのため、この瞬間だけは超光速跳躍の発動に至らなかった。

 

 先鋒戦は、阿知賀女子学院の新子憧、千里山女子高校の二条泉、東白楽高校の鈴木麻衣、粕渕高校の春日井真澄による対局だった。

 鈴木麻衣は一年生で、鈴木兒生(慕が横浜にいた頃の友人)の姪。なかなかのオモチの持ち主で、阿知賀女子学院控室では、玄がテレビモニターに食い付きながら、

「素晴らしいオモチなのです!」

 喜びの笑みを浮かべていた。

 コーチの恭子は、

「またか…。」

 この様子を見ながら頭を抱えていた。

 

 春日井真澄は、春日井真深の姪で、特に能力者では無い。

 粕渕高校のオーダーは、霊力の高い一年生、石見神楽(いわみかぐら)が受けた啓示によって決められていた。

 島根県大会では、彼女のオーダーが上手くはまり、石飛閑無が監督を務める朝酌女子高校を抑えて優勝した。

 

 場決めがされ、起家が麻衣、南家が泉、西家が憧、北家が真澄に決まった。

 二年生二人と一年生二人の対決。

 高二最強(?)を目指す泉は、憧には絶対に負けたくないし、下級生の二人にも差を見せ付けてやるつもりでいた。

 

 東一局。

 序盤から憧が、

「チー!」

 鳴き麻雀を披露した。

 しかも、現コーチ末原恭子によって憧の鳴きは、一層鍛えられていた。当然、

「ツモ! 2000、4000!」

 仕上がりも早い。

 恭子が阿知賀女子学院のコーチとして赴任して、一番得したのは、実は憧かも知れない。

 

 東二局も、

「ポン!」

 二巡目から憧が仕掛け、

「ツモ! 1000、2000!」

 ここでも、他家を寄せ付けないスピードで憧が和了った。

 

 二連続和了で迎えた東三局、憧の親番。

 またもや憧が早仕掛けを披露する。

「ポン!」

 昨年インターハイの頃、鳴き三色や鳴き一通が多い憧だったが、昨年の夏の終わりに咲が転校してきてから少し打ち方が変わった。鳴き三色や鳴き一通に見せかけたクイタンや役牌バックなど、相手に手を読ませない打ち方を取り入れたのだ。

 そして、恭子に鍛えられ、さらに打ち方がブラッシュアップされた。スピードがさらに上がった感じがする。

「ツモ! 3900オール!」

 ここでも憧が和了った。

 

 しかし、東三局一本場では、

「ポン!」

 麻衣の捨て牌を泉が鳴き、

「ツモ。400、600。」

 ゴミ手だが、そのまま泉が速攻で和了った。

 

 このまま憧を走らせてはいけない。クズ手でも良いから和了って、流れを憧から引き離さなければならないとの判断だ。

 

 昨年のインターハイ二回戦では、泉は憧のことを見下していた。それなりに上手いが、自分よりは格下と思っていた。

 名門、千里山女子高校で、一年生でレギュラーの座を勝ち得た自分に敵う一年生などいないと自負していたのだ。

 しかし、準決勝は阿知賀女子学院が1位で、千里山女子高校は3位で敗退。春季大会でも憧の活躍に自分は追いついていない。

 

 春の個人戦の順位が、それを物語っている。憧は12位で泉は決勝トーナメントにすら出られていない。

 明らかに自分よりも憧のほうが格上だ。だからこそ、ここで勝ちたい。

 そう思って、憧の早い仕掛けに対抗しようと、泉も鳴き麻雀主体に切り替える判断をしたのだ。

 

「さて、咲のとこの試合は、どうなっとるかのう?」

 まこが戻ってきた。これにより、超光速跳躍の発動条件が揃ってしまった。

 大方の予想通り、

「先鋒戦終了―――――――――!」

 福与恒子アナの声が観戦室にこだました。時間が飛んで、一気に後半戦まで終了した。

 

 結果的に、泉は憧を完全に止めることはできず、1位憧、2位泉、3位真澄、4位麻衣の順となった。

 これで、阿知賀女子学院が一つ目の勝ち星を取った。

 

 

「カランカラン…。」

 再び、まこの雀荘のドアが開いた。客が来たのだ。

「一人だけど、打てる?」

「少々お待ちください!」

 まこが接客のため、テレビから離れた。これにより、超光速跳躍の条件が消えた。何時復活するか分からないが…。

 

 次鋒戦は、阿知賀女子学院からドラ爆娘の松実玄が、粕渕高校からは1年生の坂根理沙が参戦した。

 理沙は、慕達の中学時代の麻雀部顧問、坂根千沙の娘で、結構勘が鋭かった。

 また、彼女は気配り上手で、粕渕高校麻雀部の雰囲気が良いのは彼女の力によるところが大きいようだ。

 

 場決めがされ、起家は玄、南家は理沙、西家は千里山女子高校次鋒のナクシャトラ、北家は東白楽高校次鋒に決まった。

 

 東一局、ドラは{發}。

 当然、{發}は玄の手牌の中にしか来ない牌だ。

 役牌のドラは、それだけで玄に和了り役を与える。しかも、玄が親だ。最低でも親満は約束されたようなものだろう。他家にとって非常に厄介な局と言える。

 しかし、

「(ここかな?)」

 理沙が出来面子から敢えて真ん中の牌を切り捨てた。なんとなく、こうするのが良いと直感的に思ったからだ。

 すると、

「チー!」

 これをナクシャトラが鳴いた。

 次巡も、

「チー!」

 ナクシャトラが理沙の捨て牌を鳴き、数巡後に、

「ツモ。500、1000。」

 タンヤオ三色同順を和了った。

 むしろ、これは理沙がナクシャトラに和了らせたと言うべきだろう。ドラ爆被害を最小限に抑えた打ち方だ。

 

 東二局、理沙の親番。

 勘が良いと言うことは、ツモが無茶苦茶な局でない限り、確率論を超えて聴牌速度が上がる。

 この局は、五向聴からたった六巡で聴牌し、敢えて一巡遅らせて七巡目に、

「リーチ!」

 理沙はリーチをかけた。そして、

「メンタンピン一発ツモ一盃口。6000オール!」

 ドラ無しで親ハネをツモ和了りした。

「(多分、今日はツキが私にある。このまま、一気に稼がせてもらうよ!)」

 その後も、理沙の和了りが目立った。

 

 まこが戻ってきた。そして、

「ほぉ、粕渕高校が結構やるのぅ。」

 とまこが言葉を漏らした次の瞬間、

「次鋒戦終了―――――――――!」

 福与恒子アナの声が観戦室にこだました。超光速跳躍が発動してしまったのだ。

 

 次鋒戦のトップは理沙。粕渕高校が待望の勝ち星をあげた。

 玄は、ドラ爆の高い手を和了れはしたが、和了り回数で理沙に大幅に負けて2位に甘んじた。

 それと、この対局では玄にとって大事な局面で、理沙が大明槓を二つ副露した。玄のドラ支配破りにチャレンジしたのだ。こうなると、玄はドラ切りを回避するだけで精一杯になる。

 もっとも、これも理沙は直感的に大明槓を仕掛けていたようだが…。

 千里山女子高校は3位、東白楽高校が4位となった。

 

 観戦室が一気に盛り上がってきた。いよいよ、D-ブロック二回戦の主役……宮永咲が登場する。

 千里山女子高校からは現部長の船久保浩子が、粕渕高校からは亦野誠子の従姉妹、緒方薫(二年生)が参戦する。薫は一応能力者で誠子と同じ力を持っていた。

 また、薫はボーイッシュで顔立ちも結構整っており、巷では男装麗人との呼び声が高かった。特に女性からの人気が高い。

 

「(さて、宮永をどう止めるか?)」

 浩子は、今まで様々なデータを見てきたが、咲に勝てる糸口が掴めない。

 初牌を捨てないほうが良いことだけは言えるが、別に咲は嶺上開花以外を和了らないわけではない。

 それに、勝ちに行くためには初牌を捨てざるを得ないケースも発生し得る。非常に厄介な相手だ。

 

 場決めがされた。

 今日は、咲は妙に機嫌が良かった。京太郎に会えたのだ。そして、建前上、優希用にと大量に作ったタコスの一つを咲はもらっていた。

 そのタコスの袋には、

「ガンバレ咲!」

 とデカデカと書かれていた。

 味も、優希用ではなく、咲用にしてある。全然辛くないし、咲好みの味に仕上げてある。それにまだ暖かい。

 もっとも、今日は優希の試合がない。なので、このタコスは、最初から咲に渡すつもりで作っていたことが読み取れる。

「京ちゃんのタコス…。」

 咲は、これを食べ切ってから場決めの牌を引いた。

 長野の都市伝説に従い、咲が起家を引き当てた。これを見て、浩子の背中に最上級の悪寒が走った。

「(これ、ヤバイ!)」

 まさに、奈良県大会決勝戦の再現だ。あの忌々しい444400点事件を思い出させる。

 南家は浩子、西家は薫、北家は東白楽の中堅に決まったが…。浩子は、もはや席順など関係ないことを既に悟っていた。

 ただ、今回起こる恐怖は、444400点事件を上回るものであることを、浩子は、まだ知らなかった。

 

 東一局から咲のオーラが激しく噴出している。

「カン!」

 初牌を切らなくても咲は自分で槓材を引き、暗槓してくる。そして、

「ツモ嶺上開花ドラドラ! 4000オール!」

 

 東一局一本場も、

「ツモ。嶺上開花。4100オール。」

 

 そこから先も、咲は嶺上開花での和了りを連発した。

 …

 …

 …

 

 

 そして、気が付けば二十五本場で、咲以外の面子の持ち点は全員6500点のみになった。当然、咲は、この6500点をきっちり取りに来る。

「カン! 嶺上開花。4000オールの二十五本付けで6500オールです!」

 

 これで、咲以外は全員0点になった。

 完全に計算された削り方。まさしく宮永咲の真骨頂と言える。

 

 そして、恐怖の二十六本場がはじまった。既に、浩子も薫も意気消沈していた。これはもう、どうにもならない。

「ポン!」

 咲が切った{白}を東白楽高校中堅が鳴いた。

 東白楽高校だからか(?)、彼女は{東}と{白}をガメる習性があるようだ。しかも、手牌の中には{東}の対子もある。

 しかし、今の咲には、そんな相手の能力など関係ない。京太郎のタコスのお陰で超絶好調なのだ!

 そして、次巡、

「カン!」

 咲は{南}を暗槓し、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {發}を暗槓した。

 浩子は、

「(もう終わりや。もいっこカンが出た…。)」

 そう心の中で呟きながら手牌を伏せた。

 咲の『もいっこカン』は、傀の『ご無礼』と同義語だ。もう、対局は終わったと考えてよい。

 浩子の予想通り、咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {北}を暗槓した。そして、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、続く嶺上牌………{東}で和了った。

「ツモ。嶺上開花。小四喜字一色四暗刻四槓子。」

 64000オールの二十六本付けで66600オールだ。全員0点にされていたのだから、電光掲示板には咲以外の点数は『-66600』と表記される。

 この点数を見て、

「(666………死神じゃない、悪魔だ、こいつ!)」

 浩子は咲への認識を改めた。

 

 このとんでもない和了りに、卓に付いた者達だけでなく、観戦室の人々も、解説を担当する小鍛治健夜も驚きの表情を隠せなかった。

 

 少し遅れて、

「前半戦終了―――――――――!」

 福与恒子アナの声が観戦室にこだました。

 彼女も、この咲の和了りを見て一瞬反応が止まってしまったのだ。それだけ衝撃的な和了りだった。

 

 順位は、阿知賀女子学院、千里山女子高校、粕渕高校、東白楽高校の順になったが、2位以下は同点のため席順による。

 

 後半戦は………、案の定、咲は得意のプラスマイナスゼロを披露した。前後半戦トータルでの成績になるのだから、当然、咲が勝ち星を得た。

 さすがに600000点近い得点を前半戦であげた咲を逆転するのは不可能だ。

 

 これで、阿知賀女子学院の勝ち星は二つとなり、阿知賀女子学院の準決勝戦進出は確定した。

 あとは、もう一つの準決勝進出校を副将戦、大将戦で決めるだけである。




おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「それにしても、サブタイトルが悪魔の紋章って、宮永さんは悪魔ってことでしょうか? 全員の点数を箱下66600点にしちゃうって…。」

史織「それも100000点持ちルールですからね。少なくとも、人間でないことだけは確かですね!」

莉子「あと、白糸台高校の多治比麻里香さん(多治比真祐子妹)。超甘党設定で、缶のお汁粉が好きってなってますけど?」

史織「これは、ライバル校、白糸台高校メンバーとしての単なるキャラ付けですね。原村和さんと大星淡さんは原作キャラですから、まあキャラは確立されてますし、光さんは咲さんと同じ血統と言うことで化物キャラにすればよい。」

莉子「なるほど。佐々野みかんさんは、原作でアイドルと騒がれている設定の佐々野いちごさんの妹と言うことで超絶美少女にすれば良いけど、麻里香さんのキャラ付けが問題となった。」

史織「そうです。それで、強引に超甘党にしたと言うことです。」

莉子「たしかに、何か印象に残るものが必要ってことなのでしょうね。たとえば私の6400点振り込みみたいに。」

史織「それは一理ありますね。黒歴史みたいに言われますけど、あれで結構覚えられているキャラになっているのではないでしょうか? 私なんか、殆ど忘れ去られているキャラでしょうから…。まあ、それは置いときまして、今日は開会式の後の出来事についてお送りします。」

莉子・史織「「それでは、どんな話になるか。オマケストーリー、スタート!」」





インターハイ開会式。
昨年優勝校の清澄高校麻雀部は、実質解体状態だったが、今年、女子新入部員として室橋裕子(通称:ムロ)が入部してきた。
これで、男子一名女子一名の部となった。
もっとも、これでは団体戦にエントリーできないのだが…。

大会では優勝旗の返還をしなければならない。それで、ムロが清澄高校を代表して優勝旗返還のため壇上に上がった。

現在、清澄高校は京太郎とムロの二人だけの部になっていることを、咲は京太郎からメールで知らされていた。
と言うことは…、あの部室は、毎日が京太郎とムロの二人だけの空間である。

咲は、会場観客席の中に京太郎の姿を見つけた。
京太郎の視線は、今、ムロの方を向いている。
二人の関係はどこまで進んでいるのだろう?
咲は、勝手に変なことを想像していた。

咲のキツイ視線がムロに向けられた。この時、咲の身体からは、ドス黒いオーラが湧き上がっていた。むしろ、暗黒物質と言ったほうが良いだろう。

咲「(京ちゃんのバカ!)」

勝手に咲は嫉妬していたのだが…、この時、とんでもない負のエネルギーをムロは感じていた。背筋が凍り付くようだ。



開会式の後、

京太郎「咲。久し振りだな!」

咲「きょ…京ちゃん。」

京太郎「元気してたか?」

咲「まあ、普通かな? 京ちゃんの方は、何か変わったこととかない?」

京太郎「別に何も。」

咲「下級生の女性部員と毎日部室で二人きりでイチャイチャしたりしてない?」←勘繰っている

京太郎「あのなぁ。そんなことしてねえよ。」

ムロ「そうですよ。宮永先輩の旦那を取ったりしませんってば。」

咲「べ…別に京ちゃんと私は…。」←恥ずかしくて顔を赤らめながらも次第に顔がにやけてきた………京太郎のことを咲の旦那と言われて嬉しいらしい

ムロ「須賀先輩の友達から聞きましたよ。中学の頃から宮永先輩は須賀先輩のイイ嫁さんだって。」

咲「やっぱり、そう見えるのかなぁ。」←暗黒物質が完全に消えた

京太郎「別にまだ嫁じゃねって。」←別に深い意味は無い

咲「(まだってことは、将来的にはそうなるってことだよね、うん。)」←勝手に都合の良いほうに解釈

京太郎「それで咲の試合は四日目だったな。」

咲「うん。」

京太郎「大会中、バイトで龍門渕さんの執事のハギヨシさんの手伝いをすることになって、こっちにいるんだ。昨日からハギヨシさんと同じ部屋に泊まってるよ。」

ムロ「私は、もう今日で帰りますけどね。」

咲「(じゃあ、もしかして京ハギ? でも、少なくとも室橋さんと京ちゃんが一緒に宿泊ってことだけは無いってことだよね?)」

京太郎「それで、明後日、優希の試合があるだろ。」

咲「あっ、うん。」

京太郎「それで、あいつに兵糧(タコス)を作れって言われたんだけど、沢山作ったから大会四日目に咲のところにも持って行くよ。」

咲「別にイイってば。」

京太郎「遠慮するなって。じゃあ、俺。もうハギヨシさんのところに行かなくちゃならないから、また後でな!」


そして、大会四日目。
約束どおり京太郎は咲にタコスを届けた。
そのタコスの袋には、
「ガンバレ咲!」
とデカデカと書かれていた。

咲は、それを対局室に持って行くと、

咲「(京ちゃんの〇〇〇。さて、〇〇〇には何が入るでしょう? なんちゃって。)」←当然、〇〇〇はタコスです。

そんなアホなことを心の中で呟きながら、一口食べた。

咲「(こ…これって…。)」

この味は、優希用ではない。明らかに咲用にしてある。
全然辛くなくて、咲好みだ。
それに、まだ暖かい。作り立てだ。

咲「(京ちゃん、わざわざ私のために…。)」

今日は優希の試合がないので、このタコスは、最初から咲に渡すつもりで作ってくれたことになるだろう。

咲「(京ちゃんの〇〇〇。いただきます。)」←しつこいようですが、〇〇〇はタコスです

咲「(今、京ちゃんの〇〇〇が私の身体の中に…。)」←くどいようですが、〇〇〇はタコスです

咲「(〇〇〇って言うと、なんかイヤラシくなるから不思議だね。でも、京ちゃんとだったら、そうなってみたいかな。)」←自分と京太郎のラブラブな未来を想像してニヤニヤしている

第三者からは、この咲のニヤケた顔は非常に気持ち悪かったのだが、それ以上に恐ろしくもあった。なにかとんでもないことをヤラれるのではないかと…。
勿論、この京タコスが、咲の試合を決めたと言っても過言ではない。


結局、気を良くした咲が、他家三人を箱下66600点にすると言う前代未聞の離れ業をやってのけたのだ。

一個のタコスがとんでもない記録を作る原因となる。バタフライ効果ならぬ京タコス効果の実証実験であった。


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三十四本場:神の目

まこの超高速跳躍多用は今回までです。
次回から、まこの活躍は、しばらくなくなります。


「サキー、お疲れー!」」

 明るい声でそう言いながら、対局室に憧が入ってきた。

 これで準決勝戦進出が確定したのだから、阿知賀女子学院メンバーからすれば歓喜の声が上がっても当然の状況だろう。

 

 しかし、憧の後にいた灼は別の反応を示していた。いくら味方とは言え、この大虐殺に恐怖を覚えていたのだ。

 灼にとって、この副将戦は消化試合でしかない。楽に打てる試合のはずだ。それこそ、極論を言えばトバされても良い。

 しかし、それだけ気楽な立場にありながら、彼女の手は大きく震えていた。

 咲が転校してきて初めて打った対局が脳内にフラッシュバックしていたのだ。

 

 憧は、

「じゃあ、行くよ!」

 咲に手を差し伸べた。迷子対策に手を繋ごうと言うのだが…、周り…と言うか一部の者達からは百合疑惑が勝手に湧き上がる。

 同日に試合を行っている和が、この場面をテレビで見てはいなかったのは幸いだったのだが…、問題は初瀬のほうだった。

 奈良代表校の活躍を当然地元でテレビを見ながら応援している。

 そこに出てきた衝撃(?)映像。

「またか、あのクソアマぁ…。クソ猿だけでなく、こいつも憧を…。」

 初瀬の全身からドス黒いオーラが湧き上がった瞬間だった。

 

「では、灼さん。後をよろしくお願いします!」

 咲は、そう言いながらペッコリンと灼に向かってお辞儀した。

「あ…うん…。」

 急に雰囲気の変わった咲の姿を見て、灼も少しは落ち着いたようだ。手の震えが治まってきた。

 しかし、次の瞬間、灼は別の恐ろしいオーラを感じ取り、扉の方を振り返った。

 咲も同様だった。彼女も能力者の力を察知するレーダーを搭載しているのだ。

 

 この時、丁度対局室に入ってきたのは、粕渕高校の副将、石見神楽だった。

 彼女は巫女の格好をしており、永水女子高校の神代小蒔や六女仙達を思い起こさせるような雰囲気を全身から放っていた。結構高い霊力を持っているのが伺える。

 再び、灼の手が震え出した。

 背中に冷たいものが走る。

「(この人、強い!)」

 そう直感したのだ。

 

 さらに後から千里山女子高校副将の西出と東白楽高校の副将が入室してきた。中堅選手は、審判の指示で速やかに対局室から退場させられた。

 

 

 場決めがされ、起家が灼、南家が西出、西家が神楽、北家が東白楽高校副将に決まった。

 

 東一局、灼の親。ドラは{4}。

 灼の手の震えは治まってきた。対局が始まり、気合いが恐怖を押し退けたようだ。そして、中盤で、

「リーチ!」

 得意の筒子多面聴でリーチをかけた。

 灼の捨て牌に筒子は一枚も出ていない。当然、出和了りは期待していない。飽くまでもツモ和了り狙いだ。

 

 この時の灼の手牌は、

 

 {②③④④④⑤[⑤][⑤]⑥⑥4[5]6}

 

 {①②④⑤⑥}待ちだ。

 当然、西出は筒子を避けて萬子を捨てた。ところが、神楽はいきなり、

「当たる?」

 と聞きながら、笑顔で超危険牌の{③}を捨てた。しかも一発目だ。これには灼も西出も、ただ驚くしかなかった。

 次巡で神楽は{⑦}を、その次巡で{⑧}を捨てた。

 

 神楽の能力…。

 それは、相手の手牌が全て透けて見えること…。

 咲とは違って山にある牌までは透けて見えるわけではなかったが、相手の手が全て分かっている以上、少なくとも自分がリーチをかけた時や、意図的な差し込み以外で振り込むことはない。

 

 灼は、この神楽の捨て牌でケチが付いたためか、全然ツモ和了りできずにいた。ケチが付くと運も低下する。

 そして、終盤。

「ツモです。」

 神楽が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①②②②④⑤⑥4467}  ツモ{8}

 

「ツモドラ2の40符3翻で、1300、2600です。」

 完全に灼の和了り牌を止められていた。

「(嘘? 和了り牌11枚のうち9枚を取り込まれている!)」

 灼の背筋に、再び冷たいものが走り抜けた。

 ここからいきなり{③}や{⑦}、{⑧}が出てくるだろうか?

 恐らく、和了り牌が読み取れることのパフォーマンスだ。これには、灼だけではなく、西出も東白楽高校副将も恐怖を覚える。

 三人とも、

「「「(牌が全て透けて見えているのでは無いだろうか?)」」」

 と思う。事実そうなのだが…。

 だとすると、まるで咲と対戦しているようだ。勝てる見込みがない。

 そんな風に灼には思えてきた。

 

 そして、灼の心の中から勝とうと言う気持ちがドンドン削がれていった。神楽と咲が重なって見えたためだろう。

 自ら負ける未来を想像している。

 いや、負ける未来しか想像できない。

 そもそも咲を相手に勝つ方法は見当たらない。

 勝負強いはずの灼の心から、勝利に向かう気持ちが完全に消えた瞬間だった。

 

 この様子をテレビで見ながら、まこも、

「この粕渕の一年生は、まるで咲みたいじゃ。完全に手が透けて見えとる。」

 と驚きの声を上げた。

 ただ、同時に超光速跳躍が発動したのは言うまでもない。

 

「試合終了―――――――――!」

 福与恒子アナの声が観戦室にこだました。

 副将戦は、神楽がトップを取り、灼は3位まで順位を落す結果となった。完全に灼の自滅である。

 2位は東白楽高校副将、4位は西出となった。

 

 これで、阿知賀女子学院と粕渕高校が共に勝ち星二となり、この二校の準決勝進出が決まった。そのため、大将戦は行われずに試合終了となった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、灼は、まるで逃げるように対局室を後にした。

 神楽に全てを見透かされている……いや、心の中まで覗かれているような錯覚にまで陥ったのだ。

 まるで心の奥底に隠されているヤマシイ部分までも見られているような感じだ。それで、怖くなって急いで対局室から出て行ったのだ。

 

 灼は、控室に戻ると、

「ハルちゃん、ゴメンナサイ。」

 まず、負けたことを謝った。

 筒子多面聴からのリーチで、何発も不発が続いた。4位まで落ちずにいられたのは、単に西出と東白楽副将の技量が不足していたからだろう。

 しかし、晴絵は灼の対局の本質を見ていた。技量以前の問題を…。

「負けたことは仕方がないさ。でもね、灼。今日の負けは前半戦の東一局が終わった時点で決まっていたんじゃないかな。勝つ気持ちがどれだけあった?」

「あっ!」

「多分、石見が咲のように見えたんじゃないかな?」

「…。」

 図星なのだが…、そう指摘されて初めて自分の状態に灼は気付いた。

 そうだ。たしかに勝とうと言う気持ちが完全に欠けた対局だった。

 これでは、負けたことを謝罪する以前に、そんな気持ちで試合に臨んでいたことを反省しなくてはならない。

「多分、石見は相手の手が全て透けて見えている。でもね、相手は石見であって咲じゃない。その証拠に、嶺上開花は出ていないし、山の牌までは透けて見えていない。」

「えっ?」

「つまり、石見は咲のような打ち方が出来ると周りに錯覚させた。特に灼にね。それで自滅させた。」

「そんな…。」

 つまりは、神楽の術中にはまっていた。

 灼が全力を出せないように精神面を揺さぶった。それに、まんまとヤラれたのだ。

「後で牌譜を見るとイイ。普段の灼なら、もっとイイ試合が出来るよ。麻雀は運の要素もあるから絶対に勝てるとは言えないけどね。でも、石見は、少なくとも咲や光みたいな超魔物じゃないよ。」

「分かった。ハルちゃん、ゴメン。次は、ちゃんとするから。」

「期待してるよ。」

 

 一方の神楽は、

「これで準決勝に進出だよ!」

 控室で大喜びしていた。

「次は、さすがに阿知賀は自滅しないような気がするけどね。」

 こう言いながら、理沙が神楽にコーヒーカップを差し出した。ただ、中に入っているのはコーヒーではなく、神楽が好きな柚子と蜂蜜で作った飲料だった。

「悔しいけど、私も理沙の直感のとおりだと思う。それに、あのオーダーも全国でベスト8に入るのがやっとのものだから、そこはちょっと申し訳なくて…。」

「でも、別のオーダーにしたら県大会で終わっていたと思うよ。朝酌、強かったし。」

 神楽は、持ち前の高い霊力で、どのようなオーダーにすべきか、どのような戦略で行くべきかの啓示を受けている。

 それを、そのままメンバーに伝え、試合に臨んでいたのだ。

 島根県大会では、たまたま朝酌女子高校の選手を相手に、自分達にとって相性の良い組み合わせにできた。それで勝利を収めてきた部分がある。

 しかし、オーダーが固定である以上、県予選一回戦から全国大会決勝戦までの全試合を通じて、都合の良いオーダーにするのは困難である。

 もっとも、ここから先はオーダー以前に各自の力量の問題のほうが大きいのだが…。

「まあ、みんなも、ここまで来れたのは神楽の神通力あってこそって思ってるよ!」

「そう言ってもらえると助かるぅ。でも、準決勝は勝てなくても一矢報いるつもりで行こうね。」

「当然!」

 粕渕高校の控室の様子は、昨年の有珠山高校のようだ。勝つことを義務化しておらず、ノビノビ生き生きして雰囲気が良い。

 

 清澄高校も阿知賀女子学院も、昨年のインターハイでは勝利を目的としていたが、義務ではなかった。

 しかし、今の阿知賀女子学院は、自分達も周りも勝つこと…いや、優勝を宿命としているし、雰囲気も無意識のうちにピリピリしている。

 灼が自滅したのも、少なからずそう言った空気に原因はあるだろう。

 明日は、A-Bブロックの準決勝戦。

 試合を見せたいが、精神面のガス抜きが出来なくては困る。それで晴絵は、明日は生徒全員に麻雀から離れ、一日自由行動を取らせることを決めた。

 なので、A-Bブロック準決勝戦の対戦内容は、晴絵と恭子の二人でチェックして、まとめておくことにした。

 

 

 大会五日目。

 この日は、朝から龍門渕高校、姫松高校、永水女子高校、臨海女子高校のA-Bブロック準決勝戦が行われた。

 

 龍門渕高校は、先鋒に井上純、次鋒に沢村智紀、中堅に国広一、副将に龍門渕透華、大将に天江衣の不動の布陣。

 

 姫松高校は、先鋒に昨年インターハイに引き続きエース殺しの爆弾娘、上重漫、中堅に愛宕絹恵をエースとして配置した。

 

 永水女子高校は、先鋒にエース神代小蒔、次鋒に滝見春、中堅に石戸明星、副将に東横桃子、大将に十曽湧の布陣で臨んだ。

 

 そして、臨海女子高校は、春季大会に引き続き今回も先鋒に片岡優希、次鋒に郝慧宇、中堅に雀明華、副将にネリー・ヴィルサラーゼ、大将に南浦数絵を置いた。

 

 この試合の様子は、当然、まこも、

「今日は長野代表、龍門渕高校の試合じゃ!」

 実家の雀荘を手伝いながらテレビで観戦していた。当然、時間軸の超光速跳躍が発動する条件だ。

 

 先鋒前半戦は、優希が東家、小蒔が南家、漫が西家、純が北家でスタートした。

 東一局で、いきなり、

「ダブルリーチだじぇい!」

 優希が第一打牌を横に曲げた。昨年インターハイ決勝戦や、春季大会準決勝戦と同じパターンだ。

 監督のアレクサンドラ・ヴェントハイムは、春季大会同様に、優希の東場パワーの頂点が準決勝戦にくるように調整していた。

 やはり、龍門渕高校と永水女子高校を同時に相手にするのは酷だ。下手をすれば準決勝敗退も有り得る。

 それで確実に決勝進出するために優希の最高状態を準決勝戦に定めた。

「一発ツモ。平和タンヤオドラ2。8000オール!」

 いきなりの大量リード。

 そして、東一局一本場は、お約束の…、

「ツモ! 天和。16100オール!」

 まさに東場に嵐が吹き荒れた感じだ。

 

 ところが、東一局二本場で小蒔の雰囲気が変わった。

 優希は、

「ダブルリーチ!」

 ここでもダブルリーチで攻めたが、ツモ和了りできなかった。そして、数巡後、掴まされた危険牌を打たされ、

「ロン。32600。」

 小蒔に萬子染め手の数え役満を振り込んだ。

 その後も、小蒔の高打点の和了りが目立ち、結果的に前後半戦トータル1位は小蒔で、先鋒戦の勝ち星は永水女子高校が取った。

 優希は2位、純が3位、漫が4位の順になった。

 

 

 次鋒戦は郝が安定した強さを見せて臨海女子高校が勝ち星をあげたのだが、中堅戦で大波乱が生じた。

 これまで、おとなしくしていた永水女子高校中堅の石戸明星が、ついに本性を現したのだ。

 

 前半戦東三局、明星の親番。

 この局、明華は南家だった。

 明星、絹恵、明華のオモチ対決である。もし玄が見ていたら喜びまくっていたことであろう。

 それはさておき、これまでに明華は満貫、ハネ満と和了り、この時点で断然トップだった。

 

 この局の明星の切り出しは、{西}、{①}、{9}、{二}、{⑧}、{⑤}とヤオチュウ牌から始まり、チュンチャン牌へと移行していた。

 中盤に差し掛かり、明華は聴牌。自風の{南}と場風の{東}を共に暗刻で持っていた。

 そこに{東}をツモり、

「カン!」

 それを暗槓したその時だった。

「ロン! 国士無双、48000!」

 まさかの槍槓。しかも、その捨て牌で国士無双!

 これで、一気に明華は最下位に転落した。

 

 その後も、明星は高い和了りを連発し、明星が1位、明華は2位で中堅戦を終了した。

 まさか明華が勝ち星を得られないとは…。臨海女子高校としては、完全に想定外のことであった。

 

 

 副将戦は、前半戦東場は特に荒れた様子も無く、安手で場が流れていった。しかし、南場に入った途端、ネリーは違和感を覚えた。

 ただ、それが何なのか分からない。二回戦でも途中から同じような雰囲気を感じてはいたが…。

 

 ネリーは、自分の運を南場に集中するように操作していた。そして、対面の透華が切った牌で、

「ロン! 24000!」

 三倍満を和了ったはずだった。しかし、

「イイんスか? それ。同巡見逃しッスよ!」

「えっ?」

 自分の右側から………何もないはずのところから声が聞こえてきた。

 いや、そこには下家がいるはずだ。しかし、その下家の姿も捨て牌も見落としていた。

 

 ネリーのチョンボ。

 これで、ネリーは完全にツキが落ちた。

 

 一方の透華は、

「(昨年の県大会の時と同じですわ。今回は助かりましたけど…、でも、このままでは衣が勝ってもワタクシ達のチームが負けてしまいますわ!)」

 ホッとしながらも胸中では焦っていた。

 大将戦で衣が勝ち星をあげても、現状では永水女子高校が勝ち星二、臨海女子高校が勝ち星一のため、万が一、ここで臨海女子高校に勝ち星を取られたら全てが終わる。

 永水女子高校か姫松高校が副将戦を征した場合、得失点差での勝負となり、それはそれで不安がある。

 やはり、自分が勝たなくては…。

 

 この追い詰められた状態で、透華は急に雰囲気が変わった。

 冷たい透華へのスイッチが入ったのだ。

 

 透華は、ここから和了りを連発し、副将戦での勝ち星をあげた。咲、光、衣をも超える冷たい透華の支配力には誰も抗う術がなかったのだ。

 これで永水女子高校が勝ち星二、臨海女子高校と龍門渕高校が共に勝ち星一となった。

 

 

 大将戦は、前半戦東場で数絵が大きく失点した。

 大量得点をあげたのは衣と、永水女子高校の湧であった。やはり、ローカル役満での和了りは、役満として認められていなくても打点が大きい。

 

 南場で数絵が巻き返しを図ったが、衣と湧の得点には及ばなかった。結局、姫松高校大将を衣がトバして前半戦が終了した。

 

 後半戦も同様の展開がなされ、最終的に大将戦の勝ち星は衣があげた(衣が揚げたではない)。

 その結果、永水女子高校と龍門渕高校が勝ち星二で決勝進出を果たした。

 

 

 翌日、大会六日目。阿知賀女子学院、白糸台高校、新道寺女子高校、粕渕高校の準決勝戦が執り行われた。

 オーダーは以下の通りであった。

 

 阿知賀女子学院

 先鋒:新子憧

 次鋒:松実玄

 中堅:宮永咲

 副将:鷺森灼

 大将:高鴨穏乃

 

 白糸台高校

 先鋒:原村和

 次鋒:宮永光(旧:みなも)

 中堅:佐々野みかん(佐々野いちご妹)

 副将:多治比麻里香(多治比真祐子妹)

 大将:大星淡

 

 新道寺女子高校

 先鋒:花田煌

 次鋒:友清朱里

 中堅:鶴田姫子

 副将:友清藍里(友清朱里従姉妹)

 大将:中田慧(池田華菜そっくりさん)

 

 粕渕高校

 先鋒:春日井真澄(春日井真深姪)

 次鋒:坂根理沙(坂根千沙娘)

 中堅:緒方薫(亦野誠子従姉妹:男装麗人?)

 副将:石見神楽(相手の手牌が透けて見える巫女)

 大将:石原麻奈(姫原中先鋒石原依奈姪)

 

 

 対局室に先鋒選手達が姿を現した。

 場決めがされ、起家が和、南家が憧、西家が真澄、北家が煌に決まった。

 

 尚、今日は、まこの実家の雀荘は客で溢れかえっており、今のところ、まこはテレビを見る暇は無さそうだ。

 そのため、超光速跳躍は発生しない…と思われる。




おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「私達二人が司会をやるのも今回が最後になります。」

史織「次回からは、どうなるのか分かりませんが…。」

莉子「今回は、岡橋初瀬さんの祈りが一先ず天に通じたのかな? って言うお話です。」

史織「あの子も可哀想だよね。新子さんと同じ高校に行くつもりで必死に勉強したのに。普通、あんなとこ受かんないじゃない?」

莉子「そうだよね。新子さんも、晩成には行かないって先に言ってあげれば、岡橋さんもあんなに無理しなくても済んだかもしれないのにね。」

莉子・史織「「それでは、どんな話になるか。オマケストーリー、スタート!」」





憧「じゃあ、行くよ!」

二回戦の中堅後半戦が終了した。
憧が対局室に入り、丁度咲に手を差し伸べたところだった。
これは当然、迷子対策だ。
しかし、一部からは面白半分に百合疑惑が勝手に湧き上がる。

ネット界隈でも、
『あの二人、妙に仲が良いじょ!』
『いつも手を繋いでね? 知らんけど』
『宮永は原村から乗り換えたんですの!』
『多分、そうだと思…』
『ののかが可哀想じゃないか?』
『でも、宮永には去年の秋季大会での京ちゃん発言があるっす!』
『だとすると宮永は両刀使いじゃなかと?』
『でも、あれは彼氏じゃないって否定していたじょ!』←必死
勝手に一部で賑わっていた。

この日、和も試合だった。当然、控室で自分達のチームの対局を見ている。この憧と咲の映像を和が見てはいなかったのは幸いだった。
もし見ていたら、どこかの掲示板に、
『憧は、これ以上、咲さんに手を出さないでください!』
と書き込んでいたかもしれない。


一方、初瀬は、奈良代表校阿知賀女子学院の活躍を、遠い奈良の地からテレビを見ながら応援していた。
そこに出てきた憧と咲の衝撃映像。

初瀬「またか、あのクソアマぁ…。クソ猿だけでなく、こいつも憧を…。」

初瀬の全身からドス黒いオーラが湧き上がった瞬間だった。
しかも、初瀬は県予選の個人戦で咲と対局しており、散々な目に遭っていた。そのウラミもあって咲のことを敵視していた。


その日の夜、初瀬は憧の実家…、神社に来ていた。
本当は藁人形でも使おうかと思ったが、それで咲が体調を崩してしまっては阿知賀女子学院をピンチに追い込む。
さすがの初瀬も、それはできなかった。奈良代表がインターハイを征するかもしれないからだ。それができなくなったら憧が悲しむ。

初瀬は、お賽銭を入れると必死に拝んだ。

初瀬「(あのクソアマに、適当な男をあてがってください。それで、憧から引き離してください。)」

神「(願いを叶えるのは一生で一度だけだぞ。その願いでイイんだな?)」

初瀬「(なんか、脳内に聞こえてきたけど、まあ、それでイイです!)」

神「(了解。)」


丁度その時だった。
咲のスマホの呼び出し音が鳴った。京太郎からだ。


京太郎「準決勝進出おめでとう。」

咲「あ、ありがとう。」

京太郎「凄いな咲。前半戦最後のクアドラプル役満(四倍役満)。あんなの初めて見たよ」

咲「べ…別に大したことじゃ…。」

京太郎「大したことだよ。新聞にも大きく取り上げられているしな。」

咲「でも、なんか悪魔の紋章がどうのって書かれていて…。」

京太郎「三人とも箱下66600点だったからな。でも、あんなの狙って出せるわけないし、偶然だもんな。」

咲「(狙って出したんだけど…。)」

京太郎「準決勝は明後日だよな。」

咲「うん。」

京太郎「和のところが相手だな。」

咲「うん…(あれ? 和ちゃんのこと、京ちゃんと同じくらい好きだったはずだけど、なんだか、どうでも良くなってきたなぁ…)。」←初瀬の祈りが、先ず咲に効いた瞬間

京太郎「じゃあ、またタコスを持って行くよ。今度は、メンバー全員分。」

咲「じゃあ、あと赤土先生と末原コーチと…。」

京太郎「コーチがいるんだ?」

咲「うん。ほら、あの去年のインターハイで姫松高校の大将だった人。」

京太郎「咲が苦手な麻雀を打つ人?」

咲「そう。その人が、今、うちのコーチなんだ。」

京太郎「へー。また、なんで?」

咲「コーチ業とか監督業を勉強したいらしくて、それで姫松の前監督の紹介でうちに来たらしいよ。」←まさか、自分が目的とは言えない

京太郎「そうなんだ。」

咲「それで、さっきのタコスだけどね。監督とコーチと、補員とかも合わせると控室にいるのは全部で十人になるんだけど…。」

京太郎「別に問題ないさ。優希なら一人でその倍喰うからな。」

咲「それはそうだね(あんまり京ちゃんをこき使うなら麻雀楽しませるよ、優希ちゃん)。」←何気に暗黒物質が湧き出ている

京太郎「それとさ。咲のところの松実さんだっけ?」

咲「玄さん?」

京太郎「オモチオモチ言う人がいるって…。」

咲「そうなの。私は相手にされていないけどさ…。」

京太郎「その人に渡してもらいたいものがあるんだ。」←咲のオモチのことはスルー

咲「えっ? まさかラブレターとか?(もしそうだったら、麻雀で叩きのめすからね、玄さん)。」←暗黒物質が激しく噴出

京太郎「違うって。別に咲以外に手を出したり…。(あれ? 俺、今、何言ってんだ?)」←初瀬の祈りが京太郎を巻き込んだ瞬間

咲「(それって、もしかして!)」←暗黒物質消滅

京太郎「いや、あの…。なんか、その松実さんだったら趣味が合いそうだなと思ってさ。あはははは…。」

咲「(まあ、今は恋人宣言したわけじゃないし…。)じゃあ、その渡したいものも持ってきて来てくれれば、玄さんに渡しておくよ。」



そして、試合当日(大会六日目)。
憧が先鋒前半戦に出ている間に、咲のスマホに京太郎から電話がかかってきた。
咲は、恭子に付き添ってもらって京太郎の指定した場所に行った。要は迷子対策なのだが…。

京太郎「じゃあ、これ全員分のタコスね(二人ともオモチが無いな~)。」

咲「京ちゃん、ありがとう。」

京太郎「それと、隣の人が、電話で咲が言ってたコーチの人?」

咲「うん。末原さんだよ。あと玄さんに渡したい物って?」

京太郎「そうそう。これなんだけどさ…。」

それは、何の色気も無いA4サイズの茶封筒だった。
表面には「同志へ!」と書かれている。

京太郎「俺のオモチコレクションなんだ。きっと喜んでくれると思って。」

咲「もう、そんなものばっかり! 京ちゃんのばかぁ!」

京太郎「でも、決勝に行けたら相手は咲の従姉妹だしさ。勇気付けられるものがあればって思ったんだよ。」

咲「ううぅ…。」←多少は、一理ある気がしている

京太郎「じゃあ、よろしく頼む。」

京太郎が立ち去った後、咲はタコスを受け取る前とは全く別人になっていた。天使から大魔神に変わっていたのだ。
そして、恭子は、咲の全身から湧き出てくる恐怖の暗黒物質の存在を感じ取った。非能力者が感じるくらいなのだから、相当強烈だったのだろう。

恭子「ええと、彼は咲の彼氏?」

咲「まだ彼氏じゃありません!」

恭子「まだってことは、咲は、その気があるってこと?」

咲「知りません!」

恭子「でも、結構イケメンじゃない?」

咲「オモチ趣味じゃなければですけどね! その封筒の中身、捨てちゃいましょうか?」

恭子「でもまあ、一応、それは玄に渡さないとならないだろう。でも、渡すのは一応、試合後にしよう。もし前半戦の調子が悪いようだったら休憩時間に気分転換に渡すのもイイかも知れないけど…。」

咲「でも、末原さんはどう思います? オモチ趣味のこと?」

恭子「あんまり嬉しくは無いけどね。自分、鉄板やし…。」

ただ、これで中堅戦は、咲の怒りをぶつける対象と変わった。
対するは、姫子、薫(亦野誠子従姉妹)、みかん(佐々野いちご妹)。
この三人こそが今日の一番の被害者であった。


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三十五本場:アコス

まこは店が急がしくなったため、ここからは活躍(時間軸の跳躍)の場が殆ど無くなります。
暫くしたら、オマケの方で活躍する予定です。


「和。今回は私が勝つからね!」

 憧の宣戦布告だ。純粋に麻雀で今回は負けないとの意味だ。

 しかし、

「でも、憧との勝負は春季大会の個人戦で決着がついているはずです。」

 と和が言葉を返してきた。

「えっ?」

 これから自分達は、団体戦準決勝の先鋒戦を開始しようとしているところなのだが………。憧には意味不明だった。

「決着って、これからやるんじゃ?」

「もしかして、憧は、まだ咲さんのことが諦め切れていないのですか?」

「へっ?」

 一瞬、憧の脳みそがフリーズした。和は、いったい何を言っているのだろうか?

 …

 …

 …

 

 その数秒後、和の言っている意味を憧は理解した。春季大会の時のアレだ。

「(サキを賭けた麻雀と勘違いしてるっぽい。)」

 これから決勝進出の椅子を賭けて対局しようと言うのに………。

 憧は、どっと疲れが出てきた。

「そうじゃなくて、純粋に麻雀で勝負ってこと。サキのことは関係ないってば。それにサキは、須賀君って男の人に再会できて嬉しかったみたいだし。」

「須賀君ですか? 彼は、タコスと共に咲さんから優希に譲渡されたはずですが?」

 なんだか、和は完全に勝手に自分の思い込みの世界を作っている。

 

 普段は、和は極めてマトモで頭脳明晰なのだが、咲が絡むとおかしくなる。それだけ咲に熱中していると言うことなのだろうが…。

 変な意味で熱中症だ!?(意味は違うが)。

 これ以上は下手に刺激しないほうが良いだろう。

 

 憧は、卓に付くと場決めの牌を引いた。

 {西}だ。

 これを見て和は、

「咲さんが好きな{西}を引くとは…。やっぱり、憧。あなたは?」

「関係ないってば、偶然だって偶然。」

「たしかに狙って引けるものでもありませんね。」

 続いて和が牌を引いた。{南}だ。

 

 対局室に粕渕高校先鋒の春日井真澄と新道寺女子高校先鋒の花田煌が入室した。

「よろしく~。」

「これはこれは、和に新子さんですね。スバラです!」

 そして、二人は卓に付くと順に場決めの牌を引き、起家が煌、北家が真澄に決まった。

 

 

 東一局、煌の親。ドラは{②}。

 優希のように東場のスタートダッシュが特別激しい選手は、この場にはいない。となると、やはり普通の麻雀の立ち上がりを見せる。

 エトペンを片手に、和は既に顔が紅潮している。既に、『のどっち』への変身スイッチが入っているようだ。

 こうなると、和は牌効率が良く、しかも確率論に従って牌を引き寄せてくる。

 そして、

「リーチ!」

 和が聴牌即で先制リーチをかけた。打{横③}。

「チー!」

 これを憧が鳴いて一発を消した。

 晒された牌は{横③②④}。

 しかし、和には流れと言うものが存在しない。全ては確率論だ。そして、

「ツモ。メンタンピンツモドラ2で3000、6000です。」

 和が、サクッと和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {三四②②⑥⑦⑧234567}  ツモ{五}  ドラ{②}  裏ドラ{9}

 

 ドラの{②}をアタマにした平和手だった。

 恐らく、{三四②③}と持っていたところに{②}を引いて{横③}切りのリーチをかけたと言ったところだろう。

 

 

 東二局、和の親番。

 ここでも牌効率の良い和が、順調に手を進めている。

 憧も負けじと、

「チー!」

 六巡目に鳴いた。これで一向聴。

 しかし、次巡、

「リーチ!」

 和が今回も聴牌即でリーチをかけてきた。しかも親だ。

「チー!」

 憧が、和の一発を消した。

 続く真澄は和の現物を切った。すると、待ってましたとばかりに、

「ロン! タンヤオドラ2! 3900!」

 これで憧が和了った。得意の30符3翻だ。

 和のリーチ宣言牌を鳴いたのは、単に一発消しのためだけではなく、それで聴牌に取れるからでもあった。

 運は憧のほうに向いていそうな気配だ。

 

 

 東三局、憧の親番。

 ここでも、

「ポン!」

 憧は四巡目に真澄の捨て牌を鳴き、その二巡後、

「ツモ! 2000オール!」

 早々と和了った。

 この時、憧は、恭子から受けた早和了りの指導が活きているのを肌で実感していた。

 

 そして、東三局一本場、憧の連荘。

 ここでも憧は、

「ポン!」

 二巡目で真澄が捨てた{發}を一鳴きした。とにかく速攻だ。そして、その二巡後に煌が捨てた{北}で、

「ロン。發ドラ2。5800の一本場は6100!」

 またもや30符3翻を和了った。

 煌にとっては、まさかの{北}単騎待ちだった。

 これで憧は和を抜いてトップに立った。

 

 しかし、続く東一局二本場は、

「チー!」

 憧の捨て牌を真澄が速攻で鳴き、

「ツモ。700、1200!」

 30符2翻の安和了りで真澄が憧の親を流した。なんだかんだで、憧は連続三回の和了りで16000点を稼いでいる。打点が低くても侮れない。

 流しにかかった真澄の判断は決して間違っていないだろう。

 

 

 東四局、真澄の親番。

 ここでも憧は貪欲に攻める。

「チー!」

 和が捨てた{③}を鳴いて{横③④[⑤]}と晒した。タンヤオのみか、鳴き三色同順か、或いは役牌バックと言ったところだ。そして、その次巡、煌が捨てた{五}を、

「ポン!」

 憧は鳴いて{五横五[五]}を晒した。こうなると、彼女の手は恐らくタンヤオか役牌バックの何れかに絞られるだろう。

 しかし、次巡、

「リーチ!」

 和が攻めてきた。憧の手が狭くなったところでのリーチ。憧から和了り牌が零れてくるのを狙っているのだ。

 まるで、

『憧、イイ気にならないでくださいね。お仕置きですよ!』

 と言わんばかりのタイミングだ。

 ところが、

「ロン。2900!」

 この和のリーチ宣言牌で真澄が和了った。

 和には悪いが、憧は少々ホッとした感じだった。

 

 東四局一本場、真澄の連荘。ドラは{9}。

 ここでも、

「ポン!」

 憧は攻めの姿勢を崩さなかった。まず、煌が捨てた憧の自風の{北}を鳴き、続いて、

「チー!」

 和が捨てた{7}を鳴いて{横789}と晒した。北ドラ1が確定だ。

 しかし、ここでも和が、

「リーチ!」

 手狭になった憧を狙っているのだろう。捨て牌の{横二}を横に曲げてきた。お仕置きリーチだ。

「チー!」

 これを憧は鳴いて{横二一三}を晒した。一発消しの意味もあるが、やはり憧も和了りを目指す。これはチャンタ狙いだろうか?

 ただ、和のほうが一歩早かった。

「ツモ。2100、4100です。」

 和が満貫を和了り、和が憧を逆転してトップに返り咲いた。

 

 ここで、各選手の点数は、

 1位:和 114700

 2位:憧 109700

 3位:真澄 92500

 4位:煌 83100

 そろそろ煌の限界点に近付いている。煌は、20000点以上削られない特性を持つ。つまり、あと3000点削ったら他家は煌からの出和了りは勿論、ツモ和了りも封じられることになる。

 

 憧の脳裏に、春季大会準決勝戦の記憶が甦る。

 あれは、阿知賀女子学院、白糸台高校、風越女子高校、新道寺女子高校が激突した先鋒戦だった。

 対局者は、和、未春、憧、煌の四人。よりによって、後半戦で煌から19900点を奪う形を作ってしまったのだ。何も考えずに和と未春が和了ったせいだ。

 これにより、煌は振り込まないしツモ和了りもされない条件を満たした。勿論、ノーテン罰符も発生しない。

 この状態でオーラスを向かえ、ラス親の煌がムリヤリ国士無双を狙い、見事に和了って大逆転した。

 まさに、その再現に近い。

 

「(結構ヤバイじゃん、これ…。もう、ヤラれる前に全局流すっきゃないよね!)」

 憧は、両手で両頬を叩いて気合を入れた。ここから、安手で良いから連続で和了り、トップを取るつもりだ!

 

 

 南一局、煌の親。

 憧は、序盤で早速、

「ポン!」

 煌が捨てた{南}を鳴き、

「ツモ! 南ドラ2。1000、2000!」

 彼女のトレードマークとも言える30符3翻を和了った。これで、和と憧が113700点で並んだ。

 

 

 南二局、和の親。

 ここでも憧は、

「チー!」

 恭子に鍛えられた速攻で攻めた。トップを取るためには、この親に連荘をさせてはいけない。そして、数巡後、

「ロン!」

 真澄から和了った。

「タンヤオのみ。1000点。」

 とにかく流した。

 

 

 南三局、憧の親。ドラは{7}。

 今度は逆に、和が憧の親を流しにかかる。和としても、トップを取るためには憧に親を連荘されるわけには行かない。

「チー!」

 和が、憧を髣髴させるような鳴きを見せる。しかし、憧も引けない。

「ポン!」

 今度は憧が煌の捨て牌を鳴いた。

 

 次巡、和の手牌は、

 {二三四五六七八②③④⑤西西}  ツモ{九}

 

 ドラは無いが{一}で平和一気通関の手だ。ここから打{②}で聴牌。

 憧と1000点差の2位ならば、トップを狙うためには、ここは下手にリーチをかけずに和了り優先だ。

 そして、その次巡、煌から零れた{七}で、

「ロン。平和のみ。1000点です。」

 和が和了った。一気通関の形にはならなかったが、これで和と憧が再び並んだ。

 

 ただ、これにより各選手の点数は、

 1位:和 114700

 2位:憧 114700(席順により2位)

 3位:真澄 90500

 4位:煌 80100

 まさに春季大会準決勝先鋒後半戦と同じ条件が出来上がった。煌が19900点を失った形を作ってしまったのだ。

「(ここは狙いに行きます! スバラです!)」

 煌は、ここぞとばかりに気合を入れた。

 

 

 オーラス。真澄の親番。

「「(とにかく、速攻!)」」

 和も憧も、安手で良いからさっさと和了るつもりだった。

 前後半戦のトータルでトップを決める試合だ。トータルで勝ちさえすれば、前半戦の勝利は必須ではない。

 しかし、それでも前半戦をトップで終わらせたい気持ちはある。ここで先行して後半戦を気持ちよく迎えたい。

 普通に考えれば、この二人の和了ったほうが前半戦の1位になるだろう。ただ、ダブロンになった場合はアタマハネになる。よって、この場合は和が有利だ。

 

 一方の煌は、チュンチャン牌から切り出していた。また国士無双狙いだろうか?

「(この局は、W宮永さんのような化物でない限り、絶対に私から直取りできませんしツモ和了りもできません。だから、無理が出来ます。スバラです!)」

 

 煌の捨て牌は暴牌ばかりである。しかし、何故か和も憧も鳴けなかった。まるで、和了りに向かうことを、目に見えない力で抑止されているかのようであった。

 中盤に差し掛かった、その時だった。

「リーチ!」

 煌が捨て牌を横に曲げた。

 しかも、これにより煌は点棒を20900点出したことになる。20000点以上削られない特性を持つからには、このリーチ棒は煌が回収する強制力が働く。

 この強制力こそ、煌の狙いであった。

 そして、次巡、

「一発ツモです!」

 煌が狙い通り和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {東東南南西西北白白發發中中}  ツモ{北}

 字一色型七対子。大七星だ。

 

 これで前半戦の点数は、

 1位:煌 112100

 2位:和 106700

 3位:憧 106700(席順により3位)

 4位:真澄 74500

 煌の逆転トップとなった。

 

 

 休憩となった。

 一旦、憧は控室に戻ることにした。晴絵と恭子から何らかのアドバイスがあるかもしれないからだ。

 しかし、意外と休憩時間は短い。

 彼女は走って控室に向かった。

 そして、控室のドアを開けると、

「憧。今回もヤッちゃったね。春季大会と同じ、19900点削るって…。」

 開口一番、晴絵からこう言われた。ただ、余り怒った雰囲気はない。

「ゴメン、ハルエ。」

「まあ、東場で新道寺を削り過ぎたね。東一局の和のハネ満ツモと、東三局一本場の憧の6100直取りが効いたんじゃないか?」

「でも、オーラスを安手で流せば良いって思ったけど…。」

「なのに何故か、それができなかった。それどころか、手が全然進まなくなった。」

「そうなのよ。」

「そこまで、相手を和了らせないための強制力が働くってことだね。なら、後半戦は東場で新道寺を余り削らないこと。イイね!」

「分かった。他には何か?」

「和の打ち方は大きく変わってないよ。ただ、以前は安手なら裏ドラ期待でリーチをかけていたけど、さっきは必ずしもリーチをかけるわけではなかったってとこかな?」

「確実に和了ってトップを狙いに行ったってとこかな?」

「多分、そうだね。あと、粕渕の先鋒も特に変わったことは無いよ。じゃあ、後半戦頼むよ!」

「了解!」

「それから咲。例のものを。」

「はい。」

 そこで咲が憧に渡したモノ………。それは、何故かタコスだった。それも京太郎印の特性版だ。阿知賀女子学院全員分を作ってくれていたようだ。

「何となくだけど、起家になったほうが良い気がして…。」

「王者の直感ってヤツね。」

「別に王者ってわけじゃ…。」

「まあ、謙遜しなさんなって。じゃあ、もう時間がないから対局室で食べるね。」

「うん。じゃあ、頑張って!」

「任された!」

 憧は、タコスを片手に控室を飛び出して行った。ただ、その後姿を見詰めながら穏乃が呟いた言葉は、

「アコス…。」

 だった。

 小学生時代の憧と今の優希の見た目がそっくりであることを作中で一番主張している人物故の発言であろう。




おまけ
今回は、憧がラジオ番組のパーソナリティ役になった感じでお送りします。


憧「今回は、私がコーナーを持たせてもらいました。多分、一回限りだと思いますが…。パーソナリティの新子憧です。」

憧「どうやら、『和・穏-Washizu-』で悲惨な役を当てられたから、その救済企画ってことなのだろうと思いますけど…。」

憧「ただ、あれは別世界の新子憧であって、私自身ではありません!」

スタッフがカンペを見せる

憧「ええと、今回、私にコーナーを持たせてくれたのは、『援助交際していそうなアニメキャラ絶対王者陥落記念企画』らしいです。」

憧「じゃあ、『和・穏-Washizu-』は関係ないってことですかね?」

憧「でも、絶対王者ってヒドイですよね。2012年から2017年まで、私が六連覇だったそうです。私は、援交なんてしていないのに…。」

憧が台本を見る

憧「それで、このコーナーのタイトルも、私の無実を晴らすために、新子憧の新しいア…ってなんなのこれ?」

スタッフがカンペを見せる:きちんと読みなさい!と書かれている

憧「ええと、コーナーのタイトルは、『新子憧の新しいアソコ』です。つまり、一回も使っていない新品ですってことですね。もう、なんてこと言わせるんでしょうか?」

憧「新しい何かを発掘するとか、そんなコーナーではありません。」

憧「HPの質問欄にリスナーの皆さんから書き込まれた質問とかコメントに私が答えて行くってコーナーです。」

憧「では、最初の質問は、『東風の神』さんからです。」

憧「ええと、『憧さん、こんばんは』、こんばんは。」

憧「『憧さんは元清澄高校一年生トリオの片岡優希選手に似ていたと言うお話ですが、どうして今は、そんなに雰囲気が変わったのですか? 教えて欲しいじょ!』」

憧「ええと、小学生から普通に中学生、高校生に成長しただけです。小学校時代から1ミリも変わらない穏乃のほうが珍しいと思います。」

憧「強いて言えば、阿太峯に行って、周りが知らない人ばかりになったから、舐められないようにって、色々とセンスとかに気を配っていた部分はあったかな。」

憧「では、次の質問です。これは、『ステルス』さんからですね。『憧さんこんばんは』、こんばんは。」

憧「『どうして憧さんの援交疑惑が持ち上がったっスか?』………、これって、私も知りたいです。」

スタッフがカンペを見せる

憧「どうやら、私が小学生時代、元清澄高校の片岡選手に似ていたのが、急に雰囲気が変わったことが原因のようです。」

憧「中学時代に何があったんだって話になって、そこから男とヤリまくったんじゃないかって話が勝手に上がって…って。私、そんなことしてないからね!」

憧「ただ、そんな勝手な想像から、援交疑惑に繋がって行ったんじゃないかってことのようですね。」←正確なところは当方にも分かりません

憧「次は、『山大好きさん』から。『今日も吉野の山を走り回ってきました。ところで、アコと大星さんの胸は取り外しが出来るの?』って、これってシズっぽいな。」

憧「大星さんの方は分かりませんが、私のは原作者の趣味で大きさが変わっただけだと思います。」

憧「では、次の質問。『めざせのどっち』さんからです。『このコーナー、面白くありませんわ! 怜と爽のお下品コーナーの方がマシですわ!』………。」

憧「ええと、これは質問と言うよりもコメントですね(多分、透華さんだな、これ)。」

憧「では、次の質問。『自縛プレイ』さんからです。『姫子がパーソナリティの『ビビクンな夜』のほうが面白か!』って、これもコメントですね(白水さんだね、多分)。」

憧「それから次はですね…。『デジタル』さんからです。ええと、『咲さんに手を出さないでください』………和だな、これ。」

憧「次のは『プロボーラー』さんから。『援交キャラのほうが似合ってると思』って、灼さんか…。」

憧「なんか質問から私を叩く内容ばかりに変わっているような気がしますが…。」

憧「ええと、次は『私も偏差値70超だよ!』さんから。『晩成を蹴るなんて裏切り者!』…。もう、初瀬だな、これ。」

憧「別に裏切ったわけじゃないからね。昔の仲間と麻雀がやりたくなっただけだからね!」

憧「それから次は、『オモチ大好き子』さんから。」

憧「なんか玄っぽな。『一瞬オモチが大きくなったと思ったら元に戻ってしまって、これではオモチベーション維持ができないのです!』って、やっぱり玄だな、これ。」

憧「なんだかコーナーの主旨が変わってしまった気がしますが…。これでは、私への苦情コーナーですね。」

憧「次の苦情は…、『嶺上』さんから。」

憧「多分、これはサキかな? 『いつも迷子対策に付き添ってくれてありがとう。でも、京ちゃんに手を出したら麻雀楽しませるよ!』…。」←冷や汗が出てきた

憧「ええと、手は出さないから安心して!」←さすがに麻雀を楽しまされたくない

憧「それから次はですね…。『妹は三つ子』さんから。『コーナー持たせてもらえるなんて羨ましいし!』」

憧「池田さんかな、これ?」

憧「ええと…、あれ? 凄いな。今の私のセリフに対して『妹は三つ子』さんの新しいコメントが、もう来たようですね。食いつき早いな。」

憧「で、内容は…『池田さんかな、じゃなくて池田華奈さんだし!』」

憧「ええと、フルネームを呼んだわけではなかったのですが…。なんか勘違いされているようですね。まあ、いいか。」

憧「で、次はですね。ええと、北海道在住の『カムイ』さんからですね。」

憧「『コーナーを持たせてもらえたのが、逆にクソキツくなってるみたいだから、次回は私が担当してあげます』…だって…。」

憧「それから、もう一人、大阪在住の『一巡先は病み』さんから。一寸先は闇とかけているのでしょうか?」

憧「ええと、『辛いようやったら、次はうちが手伝ったるで!』」

憧「………。ええと、では、次回はカムイさんと一巡先は病みさんに是非ともお願いしたいと思います。(もう、苦情ばかりでイヤだし!)」


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三十六本場:上家取り

 憧が対局室に入室した。

 まだ、他の選手は来ていない。一番乗りだ。

 憧は咲から渡されたタコスを一口かじった。

 以前と違って、食べ残しは袋に入れてサイドテーブルに置き、対局中に触らなければ良いルールに変更されていた………のだが………、

「(ヤバッ! 無茶苦茶美味しい。)」

 余りの美味しさに食が進む。

 気が付くと、一口分も残さず、あっという間に食べ終わっていた。

 

 審判が見ている前で憧が場決めの牌を引いた。長野の都市伝説のとおり、彼女が引いたのは、たしかに{東}だった。

「(本当に起家!?)」

 さすがの憧も、正直驚いた。

 

 対局室に和、煌、真澄が順に入室してきた。

 そして、各自場決めの牌を引き、和が南家、真澄が西家、煌は北家になった。これはこれで、憧に春季大会の準決勝後半戦を思い起こさせる。

「(あの時は、最後で親の国士を和了られたんだよね。でも、今回は、そうはさせない!)」

 憧の目に、まるで穏乃やネリーのような炎が灯った瞬間だった。

 

 この準決勝戦で、勝ち星が確実視できる阿知賀女子学院メンバーは咲だけだ。

 次鋒戦は、玄には悪いが阿知賀女子学院の勝ち星はない。間違いなく白糸台高校の光が取るだろう。

 副将戦は読めない。灼、麻里香、神楽、藍里の誰が勝ってもおかしくない。いや、相手の手牌が全部透けて見える神楽が有利か…。

 大将戦は…、穏乃と淡の勝負になるだろう。どちらが勝つかは分からない。

 二勝すれば最悪でも2位抜け出来る。だからこそ、憧は何が何でも先鋒戦の勝ち星が欲しかった。自分と咲の二人で勝ち抜けを決められるのがベストだ。

 

 ただ、これは和としても同じだった。

 白糸台高校も、勝ち星を確実視できるのは光だけだろう。条件は阿知賀女子学院と大差ない。こっちも、勝ち抜けするためには先鋒戦を落したくない。

 和は、エトペンを抱くと、早々と『のどっち』状態に入った。彼女も勝ちに行く気満々だった。

 

 

 東一局、憧の親。

 憧の上家が和から煌に変わった。

 煌は下手な打ち手ではないが、和には劣る。捨て牌も和に比べてきつくない。憧としても、和が上家でいるよりは鳴きやすいかもしれない。

「チー!」

 早速、三巡目で憧が鳴いた。そして、六巡目、

「ツモ! 2000オール!」

 タンヤオドラ2で憧がツモ和了りした。

 

 絶対に、前半戦で煌につけられた5400点差をひっくり返した状態で後半戦を終了さなければならないし、前半戦で同点だった和よりも稼がなくてはならない。

 それが出来なければ、先鋒戦で勝ち抜くのは不可能だ。

 勝利に向けての第一歩。

 この和了りで、

「(ヨシャー!)」

 憧は、さらに気合が入った。

 

 東一局一本場、憧の連荘。

 ここでも、

「ポン!」

 憧が速攻で鳴いてきた。しかし、早仕掛けしてきたのは憧だけではなかった。この時の憧の捨て牌を、

「チー!」

 和が鳴いてきた。和も憧と同じ立場に置かれているのだ。

 次巡も、

「チー!」

 憧の捨て牌を和が鳴いた。形振り構わない感じだ。

 

 今、和が副露している牌は、{横324}と{横④③[⑤]}。

 タンヤオか役牌バックだろう。

 

 その数巡後、

「ツモ。タンヤオドラ1。600、1100。」

 和がツモ和了りした。予想通りの手だ。

 

 

 東二局、和の親番。

 ここで真っ先に仕掛けてきたのは真澄だった。

「ポン!」

 煌が捨てた{南}を鳴いた。自風だ。

 真澄としても、何とか先鋒戦で食い下がりたかった。

 阿知賀女子学院と白糸台高校の二強のどちらかを落さなければ、粕渕高校の決勝進出は有り得ないからだ。

 

 次鋒戦は白糸台が、中堅戦は阿知賀女子学院が取り、大将戦は淡vs穏乃の展開になるのは真澄も十分認めている。自分のところのメンバーには悪いが、次鋒戦、中堅戦、大将戦で粕渕高校が勝ち星を取れるとは、さすがに思えない。

 しかし、副将戦は恐らく他家の手牌が全て透けて見える神楽が有利な気がする。ならば、粕渕高校としては、神楽の勝利に賭けるしかない。

 

 そうなると、先鋒戦で真澄が勝てるのが粕渕高校にとってベストなシナリオだ。それが無理でも失点を最小限に抑えて得失点差の2位を狙う。もっとも、その場合は、勝ち星が3対1対1になることが前提であるが………。

 それゆえ、真澄も強い使命感を持って対局に臨んでいた。気合い十分だ。

「ツモ! 南ドラ2。1000、2000!」

 この局は、真澄が和了った。

 

 

 東三局、真澄の親番。

「チー!」

 いきなり二巡目で憧が鳴いた。しかし、仕掛けるのは憧だけではない。

「ポン!」

 憧が捨てた{白}を煌が鳴いた。

 

 新道寺女子高校が置かれた立場は、粕渕高校と殆ど変わらない。魔物認定された者がいない副将戦で藍里が勝ち星をあげるのに賭けている。

 ―――厳密には、神楽が魔物の領域に片足を踏み入れているのだが、現段階では、まだ魔物認定にまでは至っていなかった―――

 これが点数引継ぎ形だったら、恐らく先鋒に咲と光が配置され、二人が暴れまくって先鋒戦で二校勝ち抜けが決まる可能性すらある。

 いや、そうなるのは恐らく必至だろう。

 しかし、星取り合戦なら自分達にも勝てる見込みがある。その鍵となるのが自分と藍里であることを煌は十分自覚していた。

 幸い、前半戦はトップを取れた。このまま、全後半総合トップを維持したい。

 しかし、和了り優先で進めた結果、

「ロン! 2600です。」

 煌は和の門前タンヤオドラ1に振り込んでしまった。

 

 

 東四局、煌の親。

 ここでも憧が、

「ポン!」

 早々と鳴いてきた。スピード命で真澄が捨てた{東}を一鳴きしたのだ。とにかく、和には和了らせない。和よりも早く和了る。

「チー!」

 憧は、さらに煌が捨てた{四}を鳴いた。

 晒されたのは{横四三[五]}。これで東ドラ1が確定した。

 そして、そのさらに二巡後、

「ツモ。東ドラ2。1000、2000!」

 憧がツモ和了りした。手牌の中に、さらにもう一枚ドラを含んだ手だ。まさに恭子直伝の早和了りだ。

 

 ここで、各選手の点数は、

 1位:憧 107900

 2位:真澄 100400

 3位:和 99900

 4位:煌 91800

 現在、憧がトップだが、満貫一つで逆転される程度の点差でしかない。

 それに、4位の煌も前半戦のような大逆転劇を行うだけの力を持っている。まだまだ、先は分からない。

 

 

 南一局、憧の親番。

 とにかく、

「チー!」

 憧は攻めた。安和了りでも良い。この親で連荘して稼ぐつもりだ。

 幸い、煌の『削られないスイッチ』が入るには、まだ10000点以上の余裕がある。これなら前半戦のようなオーラスでの大逆転はできないだろう。

 しかし、

「リーチ!」

 この局は和がリーチをかけてきた。

「チー!」

 一発消しで真澄が和のリーチ宣言牌を鳴いた。

 これで流れが変わってくれれば良いのだが…。ただ、和は全て確率論である。流れと言うオカルト単語は彼女の辞書には載っていない。

 その数巡後、和が

「ツモ。メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」

 ハネ満をツモ和了りした。自然と点数申告の声に力が入る。

 これで、和が憧に10000点差を付けてのトップに変わった。

 

 

 南二局、和の親番。ドラは{6}。

 和に逆転されたが、憧も、まだ負けたわけでは無い。ここから得意の30符3翻を三回和了れば問題なくトップは取れる。

 当然、

「ポン!」

 早仕掛け、早和了りを目指す。真澄が捨てた{⑧}を鳴いた。

 

 一方の和も、憧が捨てた{發}を、

「ポン!」

 鳴いてきた。彼女も、ここで連荘して得点を重ね、さらに憧を突き放したいところだ。そして、さらに、

「チー!」

 次巡で憧の捨てた{③}を鳴いて{横③④[⑤]}を副露した。すると、負けじと憧が、

「チー!」

 煌が捨てた{4}を鳴いて{横4[5]6}を晒した。これでドラ2が確定した。

 そして、そのさらに次巡、

「ツモ! タンヤオドラ2。1000、2000!」

 この鳴き合戦を憧が征した。

 

 

 南三局、真澄の親。ドラは{②}。

 和と憧の点差は現在4000点。射程圏内だ。

 当然、憧は、

「チー!」

 攻めて行く。ここでも早和了りを目指す。しかし、この局はツモが噛み合わず手の進みが遅い。一つ鳴きを入れたにも拘らず、七巡目でも二向聴だった。

 

 一方、この段階で和の手牌は、

 {二二二四五六②③④⑤發發發}  ツモ{發}

 

 ここから珍しく、

「カン!」

 和が{發}を暗槓した。

 普段なら和は槓をしない。安易な槓は他家にドラを乗せて自分を苦しめる場合があるからだ。それに、他家がリーチをかけてきた時の安牌確保にも繋がる。

 新ドラは{④}で一枚乗った。そして、嶺上牌は{三}だった。和の手牌に最高の入り方………と言うか最良形への手変わり。待ちが一気に増えた。

 しかも、出和了でも70符3翻の満貫が確定している。

 普段の和なら満貫確定ならリーチをかけないだろう。しかし、今は裏ドラだけでなく槓裏も期待できる。裏が乗れば大きく憧を引き離せるかもしれないし、そうなればオーラスで憧が自分に追いつくのは困難になるはず。

 それに、{一三四六七}の多面聴。ツモれる可能性が高い。

 当然、和は、

「リーチ!」

 {⑤}切りでリーチをかけた。

 ただ、この時の裏ドラは{二}、槓裏は{發}だった。つまり、リーチ發ドラ9の三倍満、一発ツモなら数え役満だ。

 そうなると、現在87800点の煌から直取りできないし、ツモ和了は二巡目以降になる。

 

 この時、煌は、

 {④[⑤]⑥⑦⑧⑨23456西西}

 平和赤1を聴牌していた。

 

 ここに萬子をツモってきたが、能力が発動している。引いてきたのは和の和了り牌では無い{[五]}だった。

 危険牌だが、これをツモ切り。当然、セーフ。

 そして、和が一発で引いてきたのは{1}だった。

 これをツモ切りし、

「ロン。2000点。」

 煌に和了られた。

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:和 106900

 2位:憧 105900

 3位:真澄 96400

 4位:煌 90800

 和と憧が1000点差。和と煌の点差は16100点だが、前半戦の稼ぎを差し引くと10700点と、親満で逆転可能な範囲だ。

 しかも煌はラス親での連荘を考えれば一回で逆転しなくても良い。

 

 

 このような状況でオーラスがスタートした。ドラは{一}。

 和は、平和二向聴。これを和了れば和が先鋒戦をトータルで征することになる。

 対する憧の手の中にはドラが1枚含まれていた。しかし、三色同順や一気通関が狙いにくい配牌で、しかも役牌も無い。

 鳴き麻雀主体の憧としては使い難いドラだった。

 

「チー!」

 序盤から憧が鳴きに走る。とにかく早和了りだ。そして、憧にとって使い難い{一}を早々に切った。

 一方、和は、一巡目から立て続けに三枚ツモ切りしていた。この期に及んで最悪のツモだ。しかし、何とか六巡目で聴牌し、このままダマで待った。

 そして、八巡目、真澄が切った{②}で、

「「ロン!」」

 まさかのダブロン………和と憧の同時和了りだった。

 しかし、本大会ルールではダブロンは認められていない。アタマハネだ。

 この場合、より上家は憧になる。よって、憧の和了りが認められた。

「タンヤオのみ、1000点。」

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:憧 106900

 2位:和 106900(席順により2位)

 3位:真澄 95400

 4位:煌 90800

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:憧 213600

 2位:和 213600(席順により2位)

 3位:煌 202900

 4位:真澄 169900

 

 和と憧は、前半戦後半戦ともに奇跡の同点だった。

 ただ、トータル同点の場合は後半戦の席順により順位を決めるルールとなっていた。そのため、先鋒戦は和より上家の………起家を引き当てた憧が勝ち星をあげる結果となった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼を終えると、

「(やったー!)」

 声にこそ出さなかったが、憧は全身から喜びが溢れ出ていた。ただ、これは起家になれたからこその勝利でもある。

 ふと、憧は、そのことに気が付いた。

「(やっぱり、サキの直感と………タコスに助けられたってことかな?)」

 咲と、タコスを作ってくれた京太郎には後でお礼を言おう。

 そう思う憧であった。

 

 

 この頃、白糸台高校の控室では、

「勝ちに行くけど、どれくらい点数を稼げるかは自信が無いよ。」

 光が珍しく弱気だった。

 対戦相手は玄、理沙、朱里と、特に超ド級魔物がいるわけではない。なので、光自身も負けるとは思っていない。

 しかし、光の使命は大量得点すること。それを前提に次鋒に配置されている。勝ち星同数の場合、順位は全選手の得失点差で決まるからだ。

 

 白糸台高校も、副将戦を粕渕高校に、大将戦を阿知賀女子学院に取られることを視野に入れている。そうなった場合は、阿知賀女子学院の勝ち星が三、白糸台高校と粕渕高校の勝ち星が共に一となり、得失点差での順位判断になる。

 ところが、大量得点を想定した次鋒戦にドラを全て独り占めする者がいる。そうなると光の和了り点が、いつもよりも低くなる。よって、普段ほど稼げない。

「まあ、やるだけやってみるよ。それと、試してみたいこともあるし。」

 そう言うと、光は静かに控室を出て対局室に向かっていった。

 

 一方、阿知賀女子学院控室は志気が上がっていた。余程のことがない限り(咲が負けない限り)、間違いなく決勝進出は出来ると踏んだからだ。

 そんな中、玄だけは不安な表情を浮かべていた。

「(今回の相手の中には、光ちゃんがいるのです。咲ちゃんと同じ戦法を取られるかもしれないのです!)」

 咲が転校してきた時にヤラれたドラのオーバーフロー。あの忌まわしい記憶が甦る。

 それに、昨年インターハイ準決勝戦では照の暗槓でドラが増やされ、手を狭められたことも経験している。

 今回の相手も、咲と照と同じDNA起源を持つ。似たようなことが出来るのでは無いだろうか?

 

 それに、春季大会で玄は明華にドラ支配破りを披露され、しかも全国生中継された。当然、光もそれを知っているはずだ。

「(でも、それを前提に特訓したのです。ただ、一方的にヤラれるだけで終わらせたくないのです!)」

 玄の口からは、完全にオモチ発言が消えていた。

 そして、気合いを入れると玄は控室を後にした。




おまけ(二十二本場おまけをご参照ください)


昨年のインターハイ予選南北海道大会の決勝戦前日、獅子原爽は、岩館揺杏と一緒に札幌市の、とあるカレー屋に来ていた。


爽「クソ綺麗じゃん、この店。」

店主「(クソだと?)」

爽「昨日行った店、クソ汚かったからさ。クソマズかったし。」

揺杏「まあ、たしかに、あれはゲロヤバだったね。」

店主「お客さん。ちょっと、言葉は選んでくれませんかね。」

爽・揺杏「は、はぁ…。」←自分達がクソとかゲロとか言っている自覚が無い

店主「それで、注文は?」

爽「縁起を担いでカツカレーを!」

揺杏「じゃ、私も!」

店主「カツカレー二つね。」


しばらくして、二人の前にカツカレーが運ばれてきた。

爽「クーッ! このカレー、クソいい匂いしてね?」

店主「(またクソだと?)」

揺杏「うん。それじゃ、早速いただこうか?」

爽・揺杏「「いっただっきまーす!」」

そして、二人がカレーを口にした直後、店主にとって恐ろしい言葉が大声で連呼された。

爽「すっげー、クソうめぇ。これ、クソスバラな味じゃん! マジクソうめぇぞ!」

揺杏「ホント、マジゲロうまいね。」

爽「だろ! クソすげーうめぇ! クソスバラ! クソヤバ!」

揺杏「ゲッロウマ!」

爽「クッソウマ!」

揺杏「ゲロクソ超ヤバ!」

爽「クソゲロ超ヤバ!」

揺杏「ゲッロスバラ…。」

爽「クッソスバラ…。」

揺杏「ゲロすごウマ…。」

爽「クソすごウマ…。」

店主「(クソクソ言いやがって、営業妨害か、こいつ! それと、もう一人は、またゲロって言ってたな。)」


客1「ご馳走様。」←半分くらい残している。
客2「俺も、もうイイや。」←半分以上残している
客3「なんか、いらねえや、もう。」←殆ど残している。


客1・2・3:嫌な顔をして店を出て行った。
しばらくして数人の客が入ってきた(客4・5・6)。


爽「こんなクソうまいの、クソはじめてじゃん!」

揺杏「ゲロヤバだよね!」

爽「クソウマ!」

揺杏「ゲロウマ!」

爽「クソスバラ!」

揺杏「ゲロスバラ!」

爽「クッソ最高…。」

揺杏「ゲッロ最高…。」

爽「クソ超最高…。」

揺杏「ゲロ超最高…。」





客7「さすがに食いたくねえや。」←半分くらい残している。
客8「俺も、もういらねぇ。」←半分以上残している
客9「食欲失せた。」←殆ど残している。


客7・8・9:当然、嫌な顔をして店を出て行った。


爽「あぁークソ旨かった。」

揺杏「ご馳走様でした。もうお腹一杯だね。」

爽「あぁー喰った喰った、クソ喰ったよ!」


客4・5・6:注文せずに店を出て行った。


店主「お前ら、営業妨害しやがって!」

爽「えっ?」

店主「カレー屋でクソを連呼するんじゃねえ。クソ喰ったはねえだろ!」

爽「(あれ? もしかしてクソヤバイこと言ってた?)」

店主「あと、メシ屋でゲロも言うな!」

揺杏「(ゲロヤバ。ついうっかり…。)」

店主「てめえらのせいで、客が全部いなくなったじゃねえか!」

爽「ゴメンゴメン。でも、本当にクソ旨かったからさ。クソヤバイ味だよ。」

店主「ふざけるな! 二度とクソと言うな! お前ら、出禁だぁー!」


こうして、爽と揺杏は、札幌の飲食店でブラックリスト客となった。






爽「…とまあ、こんなことがあってね。」

怜「…。」

爽「クソマズイことやったって思ったよ。」

怜「二人とも最低やな。」

爽「でも、本当にクソヤバイ美味さだったんだって。」

怜「いや、さすがに飲食店でクソの連呼はないやろ。しかもカレー屋で。」

爽「たまたまカレー屋だっただけでさ。」

怜「他の店でもダメやろ。それに、もう一人の方はゲロを連呼しとったな。」

爽「揺杏?」

怜「二人とも、口癖、直した方がエエで。」

爽「口癖?」

怜「クソとゲロや。もう、それが口癖になっとるやろ! これが、カレーもんじゃやったらもっと大変やで?」

爽「ええと、それ…、インターハイ中に、月島で…。」

怜「やったんかい! それにしても、こんなネタ、オマケコーナーでやる神経を疑うわ。」

爽「そうは言っても、お下品コーナーだからなぁ…。」

怜「そうやけど…。」

爽「じゃあ、次は、もう少し上品に行ってみるよ。」

怜「期待はしてへんけどな…。」


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三十七本場:ドラ支配破り再び

原作第205局「進化」で、玄がリーチした照に不要なドラを引かせる新たな『ドラ支配』を見せましたが、本作では、現状その能力は考慮しておりません。ご了承ください。


 各校の次鋒選手が対局室に姿を現した。

 場決めがされ、前半戦は起家が朱里、南家が玄、西家が理沙、北家は光に決まった。

 玄は、京太郎印のタコスを貰っていたが、まだ口を付けていなかった。対局後の楽しみにとっていたのだ。

 それで長野の都市伝説………『タコス=起家』が発動していなかったようだ。

 

 

 東一局、朱里の親。

 いきなり光が強烈なオーラを発してきた。

 玄は、このオーラに見覚えがある。昨年のインターハイ準決勝、決勝で嫌と言うほど浴びせられた。

 いや、それだけではない。昨年9月に咲が転校してきてから、毎日のように浴びせ続けられているモノだ。そのお陰もあって、当然、耐性は出来ている。

 一方の朱里も二回戦で経験済みだが、それだけで耐性が出来るような代物ではない。強烈な威圧感を覚える。

 そして、一番驚いた表情をしているのは理沙だった。このようなものは初体験だ。

「(これって、二回戦で薫先輩(緒方薫:亦野誠子の従姉妹のこと)が宮永咲を相手にして吐き気がしたって言ったけど、それと多分同じだ。)」

 ご名答。さすが、勘が鋭い子だ。

 理沙も、このオーラには、さすがに心が怯む。

 三人とも、何も出来ないまま、

「ツモタンヤオ。500、1000。」

 さくっと光に門前手をツモ和了りされた。

 ただ、光の和了りは、いきなり満貫クラスで来ることが殆どだが…、それが、今回は安和了りになっている。

 その理由………光の特性が、飽くまでも出和了り役の翻数上昇であることを知らない朱里と理沙は、

「「(珍しい。)」」

 と思っていた。

 

 

 東二局、玄の親。

 ここでも、

「ロン。平和タンヤオ。2000。」

 光がさくっと和了った。朱里からの出和了りだ。和了り役の縛りは2翻。

 

 

 東三局も、

「タンピンツモ一盃口。1300、2600。」

 光が和了った。このスピードは、まるで照の連続和了のようだ。

 ここでの縛りは3翻だが、次からは満貫クラスの和了りが出てくるはずだ。このことを知っている玄は、静かに息を飲み込んだ。

 

 

 そして、東四局、光の親が回ってきた。

 ここでは、朱里が捨てた{東}を、

「ポン!」

 早々に光が鳴いた。そして、

「ツモ。ダブ東混一。4000オール。」

 比較的早い巡目で光が親満をツモ和了りした。

 

 東四局一本場。

 玄は、ドラを連続でツモるが、聴牌形にあと一歩のところで、

「リーチ!」

 光に先を越された。朱里は一発回避で現物落とし、玄もさすがに親満は振れないので安牌で一旦回した。

 理沙は、初牌切りで通したが、これは勘が鋭い彼女ならではであろう。決して凡人は真似してはいけない。

 ただ、この打ち回しも虚しく、

「ツモ!」

 光が一発でツモ和了りした。しかも、

「四暗刻! 16100オール!」

 ツモり四暗刻、出和了りならリーチ対々三暗刻の手だった。

 

 阿知賀女子学院控室では、恭子が、

「なあ、咲。これって光の中では翻数として、どう扱うん?」

 と聞いていた。

 役満なので13翻として扱うのか?

 少々気になるところだ。

「光は、飽くまでも出和了り形での翻数上昇ですので、5翻扱いになります。」

「じゃあ、次はハネ満ってことか?」

「そうです。それと、通常の役満は多分13翻として扱いますけど、家族麻雀は25000点持ちでやっていましたので、そこまで行くことが無かったので…。」

「咲にも分からないってことか。」

「済みません。」

 これを聞いて、晴絵が手荷物の中からファイルを取り出した。光がドイツで対局していた頃の記録だ。

「これを見る限り、役満は13翻だね。その次は、14翻を和了っているけど、さすがにその先は無いね。トビ終了だから。」

 まあ、普通は100000点持ちの団体戦でもトビ終了になるだろう。

 過去の対戦成績なのだから、当然、対戦相手の中に玄は入っていない。なので、光の和了りには当然ドラが含まれてくる。

 和了り役だけで10翻とかになれば、そこから先、光は数え役満を連発することになるだろう。しかも親で…。

 ならば、当然どこかがトビで終了していてもおかしくは無い。

 

 対局室では、既に東四局二本場がスタートしていた。ドラは{發}。

「カン!」

 光は、{中}を暗槓した。槓ドラは{⑨}。そして、嶺上牌から{西}を引いて門前混一色中チャンタの一向聴となった。たしかに出和了り6翻の手を狙っている。

 

 光の手牌は、

 {一四七八九9西西北北}  暗槓{裏中中裏}  ツモ{西}

 ここから打{9}。

 

 この時の玄の手牌は、

 {四六[⑤][⑤]⑨⑨⑨556發發發}

 發ドラ8の手。ここに{[5]}を引いてきて發三暗刻ドラ9確定の聴牌。当然、打{6}。

 

 次の光のツモは{二}。手牌は、

 {一四七八九西西西北北}  暗槓{裏中中裏}  ツモ{二}

 ここから打{四}で中門前混一色チャンタの6翻手を聴牌した。

 しかし、一歩遅かった。

 

 次のツモ番で玄は、{[五]}を引いた。

「ツモ! 發三暗刻ドラ10。8200、16200です!」

 

 開かれた手牌は、

 {四六[⑤][⑤]⑨⑨⑨55[5]發發發}  ツモ{[五]}

 

 凄まじいドラ爆手だった。

 しかし、この和了りを見て光は、

「(検証できた。)」

 と心の中で呟くと、急に自信に満ち溢れた表情へと変わった。

 昨年インターハイで照が暗槓した時に乗った槓ドラも、春季大会で明華が暗槓した時に乗った槓ドラも、偶然ではなく必然であることの確証が得られた。

 それを確認するために、光はこの局で、敢えて{中}を暗槓したのだ。

 

 ここで、各選手の点数は、

 1位:光 153300

 2位:玄 110700

 3位:理沙 68600

 4位:朱里 67400

 下馬評の通り、光がダントツだった。しかも、まだ東場が終わっただけだ。この後、南場でどれだけ光が稼ぐかに、一般大衆の興味は注がれていた。

 

 

 南一局、朱里の親。

 まだ朱里と理沙はヤキトリだった。当然、ヤキトリ回避の意味も含めて朱里は、この親番で和了りたい。

 配牌は決して悪くない。しかし、

「チー!」

 理沙が捨てた牌を光が鳴いて手を進めてゆく。これはこれで、朱里の胸中に焦りが生まれてくる。

 ところが、

「(カンチャンにズッポリ入った!)」

 その鳴きが功を奏したのか?

 配牌とツモの巡り合わせが良くなり、朱里は門前で聴牌できた。ただ、リーチをかけても裏ドラは期待できない。

 ならば、ダマで待って連荘を狙う。

 結果的に、

「ツモ平和一通。2600オール。」

 朱里はツモ和了りできたが、これならリーチをかけておけば良かったかもしれない。何はともあれ、これでヤキトリが回避された。

 

 南一局一本場、朱里の連荘。

 ここでは理沙が、

「ポン!」

 積極的に攻めた。朱里が捨てた{南}を一鳴きし、

「チー!」

 さらに玄が捨てた{8}を鳴いて{横879}を副露した。そして、

「ツモ。南混一。1100、2100!」

 これで理沙もヤキトリを回避した。

 

 

 南二局、玄の親番。ドラは{3}。

 ただ、玄の配牌は悪かった。数牌はドラや赤ドラから遠い牌ばかりで、しかも字牌が多い。さらに、配牌にはドラが無い。

 しかし、ツモは基本的にドラが中心となる。当然、手が出来上がるのはずっと先になるだろう。ほぼ、配牌をツモ牌で総入れ替えするに近い。

 

 一方、理沙は手が軽かった。

 さっきの和了りで運を呼び寄せたようだ。

 

 配牌で、

 {二三四六八⑤⑦⑧2468西}

 三色手に三向聴だった。

 

 第一ツモは狙ったように{7}、ここから打{西}。

 

 第二ツモは{4}。どうせドラの{3}は来ないから{4}はアタマ確定で打{2}。

 

 第三ツモは{五}。一応、三色の目を残して打{⑤}。

 

 そして、第四ツモで{七}を引き、打{二}。前々局の朱里と同様にリーチをかけなかった。玄が同卓している以上、裏ドラが期待できないのなら当然の判断と誰もが思うだろう。

 ただ、理沙は直感で打つ。この直感に従い、たまたまリーチをかけなかったと言うのが正解であった。

 この{二}を、

「チー!」

 光が鳴いた。光も和了りに向かって動いている。

 

 理沙の第五ツモは{白}。これはツモ切りだが、ここでもリーチはかけず。

 そして、第六ツモで、

「ツモ。タンピン三色。2000、4000!」

 高目の{⑥}を引いて理沙は和了った。

 {横白}切りでリーチをかけていたら一発ツモだったのにと多くの人が思うだろう。しかし、恐らくリーチをかけていたら一発消しで鳴かれ、{⑥}をツモれなかったに違いない。

 理沙は、そんな気配を感じ、次巡でツモれる予感がしていたが、敢えてリーチをかけずにいたようだ。

 

 

 南三局、理沙の親番。

 理沙がサイを回した直後、彼女は光から急に強大なオーラを感じた。南入してからおとなしかった光が、ここから攻めに転じようと言うのか?

 

 何となくだが、理沙は嫌な予感がした。この親では和了れない。そんな気がしたのだ。

 彼女の勘は当たる。全然有効牌は引けない。加えて、鳴いて巡り合わせを変えようにも鳴ける牌が出てこない。

「(これじゃ、鳴く前に泣くよ、私は!)」

 まだ、そんな冗談を言えるのだから精神的には大丈夫だが、さすがに焦る気持ちがどんどん湧き上がってくる。

 

 そんな状態で中盤を迎えた。

 朱里もツモ切りが多い。配牌とツモが噛み合っていないようだ。

 玄は、ようやくドラから遠い数牌を切り終えたらしく、やっと字牌が出て来た。彼女もまた、ドラ爆ツモと配牌が噛み合っていないようだ。

 

 ただ一人、光だけが着々と手が進んでいた。

 そして、十巡目、

「ツモ。中チャンタ。2000、4000。」

 門前で{發}と{中}のシャボ待ちの手。暗刻は{中}と{①}。40符4翻の満貫だった。いきなり最初の和了りから翻数を上げてきた。大量得点を狙ってのことだろう。

 

 

 オーラス、光の親。

 前局で、光は出和了りならば3翻の手を和了った。つまり、この局の彼女の縛りは4翻になる。親満だ。

 

『とにかく、これ以上マイナスを増やさないように、光よりも先に和了る!』

 そのつもりで玄も理沙も朱里も望んではいるのだが、一向聴から先に中々進めない。心ばかりが焦ってくる。

 そのような中、朱里が字牌をツモ切りした時だった。

「ロン。中メンホン。12000!」

 光に和了られた。

 

 ここで、各選手の点数は、

 1位:光 167600

 2位:玄 101000

 3位:理沙 74300

 4位:朱里 57100

 ラス親の光が断然トップだ。これで、誰もが光の和了り止めで前半戦が終了すると思っていた。

 しかし、

「一本場!」

 大方の予想に反して光が連荘を宣言した。まだ前半戦は終わらない。光は、さらに得点を重ねる気でいたのだ。

 

 オーラス一本場。

 ここでの光の縛りは5翻。彼女は、早速、

「ポン!」

 玄の捨て牌である{②}を鳴いた。

 恐らく玄は、{②④⑥}と持っていたのだろう。ここから玄の場合は高い確率で{[⑤]}を引く。そのため、いずれ{②}は邪魔になる。それで早々に{②}を切ったのだ。

 同じ理由で次巡、玄は{二}を切った。これも、

「ポン!」

 光が鳴いた。そして、その数巡後、

「ツモ! 東対々三色同刻。4100オール!」

 

 開かれた手牌は、

 {222東東中中}  ポン{二横二二}  ポン{②横②②}  ツモ{東}

 {東}と{中}のシャボ待ち。どちらで和了っても5翻の手だ。

 

「二本場!」

 光は、さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス二本場。

 ここでも光は、

「チー!」

 積極的に攻めて行く。

 しかも手が早い。まるで連続和了に入った照のようだ。そして、六巡目で、

「ツモ! 清一タンヤオ。6200オール!」

 親ハネをツモ和了りした。これで光の点数は198500点と、200000点に目前のところまで得点を伸ばしていた。

「三本場!」

 さらに貪欲に狙うのか?

 またもや光は連荘を宣言した。

 

 オーラス三本場。ドラは{4}。

「(やっと試せる時が来たっぽい。)」

 光の手には{南}と{⑨}が配牌から暗刻であった。光は、槓でドラを増やし、玄の手からドラをオーバーフローさせたかったのだ。

「(ここでの和了りは、他の人にくれてやる。とにかく、ドラ爆を止める!)」

 この考えに理沙は気付いた訳ではなかった。ただ、飽くまでも勘で打ち、序盤で{⑨}を切った。すると、

「カン!」

 光が、これを大明槓した。新ドラは{9}。

 そして、次巡、理沙は勘に従い{南}を捨てた。

「カン!」

 当然、光は、これも大明槓した。新ドラは{東}。これでドラは{4}、{9}、{東}、赤牌の全部で16枚になった。

 

 中盤には、玄の手牌は、

 {[五][⑤][⑤]444[5]999東東東}

 全てドラになった。

 身動きが出来ない状況。ここに不幸にも玄は{東}をツモった。

 これは暗槓するしかない。

 玄は半泣き状態で、

「カン。」

 {東}を嫌々暗槓した。そして、めくられた新ドラは{⑤}。そして、嶺上牌も{⑤}。

 手牌は全てドラだが、強制的に何かを切らなければならない。

 玄は涙を飲み、{[五]}を切った。多面聴に取ったのだ。

 

 急に場の雰囲気が変わったのを理沙は感じ取った。そして、彼女がツモった牌………それは、まさに新ドラの{⑤}だった。

「(ドラ切りでドラ支配が崩れたってことね。春季大会の再現だね、これ!)」

 その次巡、理沙がツモったのは{4}だった。これで聴牌。

「(ならば、試してみましょうかね?)」

 理沙は、捨て牌を横に曲げた。

「リーチ!」

 

 彼女の手牌は、

 {二二五六七⑤⑥⑦45678}

 ここに、一発で{9}を引いた。

 

「一発ツモ!」

 リーチ一発ツモ平和で、ドラが{⑤}、{4}、{9}。

 そして裏ドラをめくって驚いた。裏ドラは、{二}、{七}、{7}と四枚乗っていた。つまりリーチ一発ツモ平和ドラ7の三倍満だ。

「6300、12300!」

 さすがにトップをまくることは出来ないが、この和了りで理沙は2位に浮上した。

 

 これで前半戦の点数は、

 1位:光 186200

 2位:理沙 88900

 3位:玄 84400

 4位:朱里 40500

 大方の予想通り、光がダブルスコア以上の差をつけて余裕のトップとなった。

 

 しかも、これで玄のドラ支配は崩れた。いや、光が崩したのだ。

 光の狙いは後半戦でドラを絡めて更なる高得点を狙うためだ。この前半戦は、そのための布石でしかない。

 後半戦での光の爆発力に、一般大衆は更なる関心を寄せるのだった。




おまけ(二十二本場おまけをご参照ください)


この日、桧森誓子は、ちょっと不良っぽい格好をした男子生徒Aに呼び出されていた。どうも好かれたらしい。
ただ、誓子の好みとは完全にベクトルの方向が真逆だった。
さすがに誓子としても受け入れ難いタイプだったのだ。


A「あのさ…、俺と、付き合ってくれねえか?」

誓子「ゴメンなさい。」

A「他に好きな人がいるのか?」

誓子「私、今、付き合うとか、そう言う気になれないから。」←相手が苦手なタイプとは言えない

A「じゃあ、友達からでイイからさ。できれば、友達以上が嬉しいけど…。」

誓子「友達以上? でも、恋人は無いわよ?」←先に『恋人にはならない!』と釘をさしたつもり

A「なら、友達以上恋人未満(セ〇レ)で。」←冗談半分で言いながらも、あわよくばHさせて欲しい

誓子「なんか、面白いこと言うわね。まあ、別にイイけど。」←友達以上恋人未満(セフ〇)の意味が分かっていない

A「ホントか?」←友達以上恋人未満(〇フレ)OKと確信

誓子「恋人じゃなければ…。」←全然意味が分かっていない

A「じゃあ、早速イイか? 俺、今すぐ(Hが)クソしてえ!」

誓子「なによ、ちょっと。声が大きい。」

A「してぇものはしてえ! しょうがねえだろ!」

誓子「もう…、じゃあ出せば…。そんなに大きな声で言わなくても、したければ、すればイイじゃない?(たしか近くに公衆トイレあったよね?)」

A「へっ?(出せばって、ここでナニを出せってことか? もしかして、今すぐヤラせてくれるのか?)」

誓子「したいならする! 我慢は健康に悪いわよ? 私だって、したい時は我慢したくないし…。」←トイレのこと

A「じゃあ、してイイんだな?」←Hなこと

誓子「イイけど? さっさとすれば?(何で私の許可がいるんだろう?)」

A「さっさとって…、それじゃ、ここで遠慮なくやらせてもらうぞ!」


Aは、その場でズボンとパンツを脱ぎ始めた。
誓子が今ここでヤラせてくれると勘違いしているのだから仕方がない。


誓子「ちょっと、ここでする気? 場所を考えなさいよ!」

A「じゃあ、あのホテルでいいか?」

誓子「ホテル? まあ、するのは別にどこでもイイケドさ。(きちんとトイレでするなら)」

A「じゃあ、あのホテルに入るぞ!」

誓子「いってらっしゃい。じゃあ、私は用事があるから帰るね。」

A「はぁ? お前も一緒に来るんじゃねえのかよ!」

誓子「えっ? 何で私が一緒に行かなきゃいけないのよ?」

A「当たり前だろ! じゃなきゃ話がおかしいだろ!」

誓子「はぁ?」

A「お前も一緒にイクんだよ!」

誓子「なによ、それ? 意味分かんないんだけど! 一人で勝手に行けばイイでしょ!」

A「一人で勝手にイクって? なんだそれ? お前は来ないのかよ?」

誓子「当然でしょ! どうして私が行く必要があるのよ?」


会話が噛み合わない。当然といえば当然なのだが…。
だが、男子Aは、ここで諦めるなんて考えは無い。強行手段に出ることにした。そして、誓子の手を引いて、無理矢理ホテルに連れ込もうとしたその時だった。


「パコロカムイ! 赤いの!」

突然、どこからか女性の声が聞こえてきた。誓子の聞き慣れた声だ。
この声が聞こえた直後、男子Aは金縛りにあったかのように動かなくなった。


爽「クソヤバかった。誓子、大丈夫?」

誓子「何だか、良く分からないのよ。トイレに行きたいって言って、突然、その辺で脱ぎ出すし、私をホテルに連れて行こうとするし…。」

爽「もう少し、エロ男子の脳内回路を勉強しておいた方がイイよ。でも、本当に危なかった。何とか死守できたった感じだね。」

誓子「死守?」

爽「でも、ホント、クソヤバかったぁ。」






爽「てなことがあってね。」

怜「あんたの友達、ちょっとアホやろ。」

爽「Hなことしたくてたまらん病患者のことを知らなすぎたんだよね。まあ、これがきっかけで男子を警戒するようになったみたいだけど。」

怜「今までが無防備すぎや!」

爽「でも、死守できてよかったよ。」

怜「………せやな。それと、そのHなことしたくてたまらん病の男子も、ちょっと頭、おかしいんとちゃうか?」

爽「ちょっとじゃなくて、かなりだと思う。」

怜「それにしても、前回、もっと上品に行くって言うたやんか?」

爽「誓子が出てきたんだから上品じゃん。教会の娘だよ。」

怜「全然上品やないで!」


結局、怜と爽のお下品コーナーのままでした。


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三十八本場:龍の支配権

 控室に玄が戻ってきた。

 想定していたとは言え、現実にドラ支配を破られると悲しいものである。玄は目に涙をいっぱい溜めていた。

「赤土先生。やっぱり、ヤラれてしまいました…。」

「咲と前チャンピオンの従姉妹だからね。やってくると思ったよ。でも、玄は、これを想定して予め特訓してきたはずだよ。」

「でも…。」

「自信を持ちなって。今こそ、特訓の成果を見せてやるんだ。」

「は…はい。」

 そうは言っても精神的ショックは隠せない。

 

 こう言う時は、美味しいものでも食べて気分転換するが一番だ。そう考えて、憧が玄に例の京太郎印のタコス………略して京タコスを渡した。

「冷めてきちゃったから、一旦レンジでチンしておいたよ。」

 控室には電子レンジも置いてあるらしい。至れり尽くせりだ。

「これでも食べて元気出しなよ、玄!」

「う…うん…。」

 つたない手つきで玄は包みを開けた。精神的ショックから手の動きもおぼつかなくなっている。

 しかし、タコスを一口食べた瞬間、

「これ、とても美味しいのです!」

 嫌な気持ちが一発で吹き飛んだようだ。恐るべし京タコスの力。

 

「あと京ちゃんがね、玄さんにこれをって。」

 咲が京太郎から預かった封筒を渡した。A4サイズの茶封筒だ。色気もない。少なくともラブレターではないだろう。

 そもそも封筒には、『同志へ』と書かれている。

 玄は、その封筒を開けて中のモノを見た瞬間、急に目付きがイヤらしくなった。

「これは、オモチコレクションなのです!」

 そこには、どこから入手したのか分からないが、霞を筆頭に、小蒔、春、和、竜華、由暉子、変身後の淡、そして、みかんの水着姿を写した画像をプリントアウトした紙が入っていた。

 いや、玄と京太郎からすれば『紙』ではなく『神』かもしれない。

 中でも特に玄の目を惹いたのは、みかんの水着画像だった。他のメンバーよりもオモチは小さいが、細身の割には大きく、しかも形が美しい。

 同封されていた京太郎のメモにも、

『必見! お薦め!』

 と書かれていた。みかんは、京太郎からの評価も高いと言うことだ。

「これは、私も見落としていたのです。このバランスがとても素晴らしいのです!」

 しかし、これを目の当たりにして、

「(もう、京ちゃんの馬鹿ぁ…。あの白糸台の中堅には、絶対に負けないんだから!)」

 咲の、みかんに対する逆恨みスイッチが、またもや入ってしまった。

 

 一方、白糸台高校控室では、

「もうドラ支配は崩れたし、これなら大量得点出来そうだよ!」

 光が、前半戦開始前とは打って変わって明るい表情を見せていた。

 ドラ支配が崩れたのなら、当然ここは全員トバシを狙う。全員トバシは咲だけの専売特許ではない。

「うん。頑張ってね!」

 みかんが光にそう声をかけた瞬間だった。

 急に、みかんの背筋に冷たいものが走った。

 この感覚は、春季大会個人戦準決勝戦で、咲、衣、憩の三人と同卓した時に感じたものに似ている。

 まあ、当然と言えば当然だ。咲の負のオーラによる攻撃が空間を越えて、みかんのところまで飛んできたのだから…。

 ただ、この不意打ちは正直キツイ。少し漏れたかも…。

「ちょっとトイレに行ってくる。」

 みかんは、股を押さえて控室を飛び出していった。彼女は、この瞬間だけは女子高生雀士の中で最も不幸な存在かも知れない。

 

 

 それから数分後、対局室に各校の次鋒が再び姿を現した。

 場決めがされ、起家が玄、南家が理沙、西家が朱里、北家が光に決まった。長野の都市伝説に従い、タコスを食した者が起家になった(ホントかい?)。

 

 東一局、玄の親。

 ドラは玄の支配下から離れている。この局は、

「ツモタンヤオドラ3。2000、4000!」

 北欧の小さな巨人、光がさくっと和了った。しかも、ドラ3の満貫のツモ。

 そして、東二局も、

「ツモタンピンドラ2。2000、4000!」

 東三局も、

「ツモ平和三色ドラ2。3000、6000!」

 共に光にツモ和了りされた。

 

 

 東四局、光の親番。

 ここでは、

「チー!」

 光が朱里の捨てた{④}を鳴いて{横④[⑤]⑥}と副露した後、

「ツモ! ダブ東混一ドラ2。6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。しかも、手牌には、もう一枚の{[⑤]}もある。

 四連続で満貫以上の和了りを見せ、光は、既に46000点もの稼ぎを叩き出していた。

 

 東四局一本場。

 ここでも、

「ツモ中チャンタ三暗刻ドラ3。8100オール!」

 翻数上昇を伴いながら、光が親倍ツモ和了りを決めた。

 

 続く東四局二本場も、

「チー!」

 早々に光が朱里の捨てた{2}を鳴いて{横234}を晒し、中盤に差し掛かる前に、

「ツモ! 清一タンヤオドラ2。8200オール!」

 またもや親倍ツモ和了りだ。

 これで光の持ち点は194900点となった。化物級の稼ぎだ。

 ただ、既に翻数を上昇するためには、刻子手や染め手を中心に狙って行かざるを得ない。無理が生じてくる頃だ。

 

 そして、東四局三本場。ドラは{②}。

 玄の手牌の中には{③④⑤}の面子があった。対する光の手には{②}が一枚あったが、翻数上昇のためには萬子の染め手に進む形を取らざるを得なかった。

 やむなく、不要牌となった{②}を光が捨てると、

「チー!」

 これを玄が鳴いた。

 この時だった。急に場の雰囲気が変わった。なんとなく、前半戦オーラス三本場で玄がドラ切りした時と様子が似ている。

 良く分からないが、卓を取り巻く空気の質が変わった………同卓する理沙は、そんな感覚がしていた。

 

 そこから数巡後、

「ツモ!」

 玄が和了った。

 

 開かれた手牌は

 {五六七⑤233445}  チー{横②③④}  ツモ{[⑤]}

 まさかのドラツモだった。ドラ支配は消えたのではなかったのか?

 

「1300、2300です。」

 これが咲との特訓の成果の一つだった。ドラを鳴くことで………、いや、ドラを自分から迎えに行くことで、失われたはずのドラ支配が戻ったのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、玄の親番。ドラは{南}。

 

 玄の配牌は、

 {二四六⑤[⑤]588南南北白發中}

 ここから打{二}。

 

 二巡目、ツモ{8}、打{白}。

 

 三巡目、ツモ{南}、打{中}。

 

 四巡目、ツモ{[⑤]}、打{發}。

 

 五巡目、ツモ{[五]}、打{北}。

 この段階で手牌は、

 {四[五]六⑤[⑤][⑤]5888南南南}

 南三暗刻ドラ6聴牌。

 

 同巡、光が切った{⑤}を、

「カン!」

 玄は大明槓した。新ドラは{8}。嶺上牌は{南}。

「もう一つ、カンです!」

 そのまま玄は、{南}を暗槓した。連槓だ。次の新ドラも{8}。そして、嶺上牌は………まさかの{[5]}だった。

「ツモ。」

 開かれた手牌は、

 {四[五]六5888}  暗槓{裏南南裏}  明槓{横⑤⑤[⑤][⑤]}  ツモ{[5]}  ドラ{南}  新ドラ一つ目{8}  新ドラ二つ目{8}

 

「嶺上開花、南、ドラ14。48000です!」

 これは、光の責任払いになる。これで、光と玄の点差は一気に23000点まで縮まった。

 

 南一局一本場、玄の連荘。ドラは{六}。

 この時の玄の配牌は、

 {二三四六六七[⑤]⑦2468東南}

 ここから打{8}。

 

 二巡目、ツモ{六}、打{2}。

 

 三巡目、ツモ{[⑤]}、打{⑦}。

 

 四巡目、ツモ{六}、打{南}。

 

 五巡目、ツモ{[五]}、打{東}。

 

 そして、六巡目、ツモ{[5]}………、和了りだ!

 

「ツモ! タンヤオドラ8。8100オールです!」

 

 開かれた手牌は、

 {二三四[五]六六六六七[⑤][⑤]46}  ツモ{[5]}

 二連続の超ドラ爆。完全なる玄のドラ支配復活であった。

 

 この親倍ツモ和了りで、玄が145900点、光が136500点となり、後半戦で初めて光以外の者がトップに立った。

 玄の予想外の健闘に、観戦室では、あちこちから驚きの声が上がった。

 

 南一局二本場。ドラは{一}。

 光も当然巻き返しを考える。

「(もう一度ドラ支配を崩す!)」

 配牌には{北}と{發}が対子である。これを何とか槓子まで持って行きたい。光は、自分の持てる支配力を指先に集中した。

 まるで光の要求に応えるかのように、第一ツモで{北}、第二ツモで{發}が光の手に入り込んできた。そして、次巡、玄が捨てた{北}を、

「カン!」

 光は大明槓した。嶺上牌は{發}。当然これも、

「もいっこカン!」

 暗槓した。そして、嶺上牌の{①}を取り込むと不要牌の{八}を捨てた。

 新ドラは{九}と{2}。どちらも赤牌から離れており、玄としては扱い難いと思われる。

 

 この時、玄の手牌は、

 {一一[五]九九[⑤][⑤]22[5]6東南}

 配牌から持っていた数牌は{一一九九226}であり、玄にとって使い難くなるであろう牌として{②}、{⑧}を先に切り、続いて{北}を切ったところでの大明槓だった。

 

 ここから玄は、三巡で、

 {一一一[五]九九九[⑤][⑤]222[5]}

 ドラだけの手になった。

 

 そして、次巡、玄が引いてきた牌は{一}だった。結局、14枚目もドラ。前半戦オーラス三本場の再現だ。

 やむを得ず玄は、

「カン。」

 {一}を暗槓した。新ドラは{三}。嶺上牌も{三}だった。

 こうなったら仕方がない。玄は、聴牌に取って{[5]}を捨てた。

 すると、これを待ってましたとばかりに、

「ロン。ダブ南メンホン赤1。12300!」

 理沙が和了った。理沙は、これで、ようやく後半戦でのヤキトリを回避した。

 

 再び卓を取り巻く空気の質が変わった。ドラ支配が消えたからだ。

 しかし、これと同時に理沙は、何か嫌な予感がした。異様な胸騒ぎがしたのだ。こんな感覚は滅多に無い。

 何かとんでもないことが後々起こる気がしてならなかった。

 

 この時、阿知賀女子学院控室では、咲が、

「とうとう次のステージに進んだようです。ここからが特訓の本当の成果です。」

 と晴絵に告げた。

 卓の周りを覆う新たな空気を、咲は特殊レーダーで察知していたのだ。

 

 

 南二局、理沙の親番。ドラは{②}。

 間違いなく玄のドラ支配は消えている。ドラが理沙の配牌の中にも来ていることで、それは証明される。

 自風の{東}が二枚、配牌にある。ならば、{東}を鳴いて連荘で少しでも稼ぐ。理沙は、そう思っていた。

 第一打牌は{南}。これを、

「ポン!」

 いきなり光が鳴いた。打{北}。

 

 続く玄のツモは{中}。もともと2枚{中}を持っていたので、これで{中}が暗刻になった。ここから打{西}。これも光が、

「ポン!」

 一鳴きした。これで光は自風と場風の両方を揃えたことになる。ドラの{②}を対子で持っているので、これをアタマに固定する。打{①}。

 玄のツモは、またもや{中}。これで{中}が槓子になった。しかし、暗槓はしなかった。そして、不要牌処理として打{①}。これは、ドラの{②}が来ない前提での打ち方だ。

 

 その数巡後、

「ツモ。南西混一ドラ2。3000、6000!」

 光がツモ和了りした。これで玄を逆転して再び光がトップに立った。

 

 

 南三局、朱里の親番。

 まだ朱里だけ後半戦で和了りがない。いくら超魔物の光やドラ爆の玄がいるからと言ってヤキトリは回避したい。

 ここに来て、ようやく軽い手が来た。ドラも1枚ある。しかも、この局はツモが配牌と上手く噛み合う。

 そして、たった三巡目にして朱里は聴牌した。

「リーチ!」

 ドラ支配が消えた今なら裏ドラも期待できる。この早いリーチなら相手も読めないだろう。そう考えて捨て牌を横に曲げた。

 一発目は残念ながら不要な字牌だった。ツモ切り。

 しかし、二発目で高目が来た。

「ツモ!」

 裏ドラをめくると、1枚だが乗っていた。

「リーチツモ三色ドラ2。6000オール!」

 これでヤキトリ回避だ。しかも、理沙を抜いて後半戦3位になった。嬉しい限りだ。

 ただ、観戦室でこの対局を見ていた人達も、阿知賀女学院以外の各校控え室にいる者達も、この時の玄の打ち方に疑問を抱いていた。

 この局、玄は{發}と{中}を四枚ずつ持っていた。ならば、朱里のリーチに対しては、それらを切るのが普通だろう。間違いなく安牌だ。

 しかし、玄は、何故かそれらの牌を切ろうとはしなかった。

 

 南三局一本場。

 理沙は、急に寒気を感じた。南一局二本場の後に感じた嫌な予感が、ここで現実になるような気がしてならなかった。

 場は、極めて静寂だった。誰も鳴かず、牌を切る音だけが対局室内にこだまする。

 ただ、妙なことに、理沙も朱里も光もツモ切りが多かった。手が明らかに進んでいるように見えるのは玄だけだった。

 

 中盤に差し掛かった。

「カン!」

 玄が動いた。暗槓だ。

 晒されたのは{中}の槓子。そして、嶺上牌を引くと、

「もう一つカンです!」

 {發}を暗槓した。次の嶺上牌は{白}。これを引くと、

「もう一つカンします!」

 {白}を暗槓した。

 

 三元牌のことを英語圏ではドラゴンと呼ぶ。

 より具体的には、{白}がホワイトドラゴン、{發}がグリーンドラゴン、{中}がレッドドラゴンと呼ばれている。

 この三匹の強大な龍が全て玄のところに集結したのだ。まるでドラ支配が消えるのと引き換えに…。

 

 前々局では{中}が、前局では{中}と{發}が玄の手牌の中で勢揃いしていた。そして、まるで段階を踏むように、今回は、{白發中}全てが玄の手の中で揃ったのだ。

「ツモ! 嶺上開花大三元。8100、16100です!」

 そのまま、玄は嶺上牌で和了った。

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:玄 158600

 2位:光 136400

 3位:理沙 53800

 4位:朱里 51200

 この役満ツモ和了りで、再び玄がトップに躍り出た。

 

 

 オーラス。光の親番。

 玄のドラ支配は、まだ復活していない。光の手にドラがあることが、その証拠だ。

「(まさか、ここで突然成長してくるとは…。もう阿知賀には和了らせちゃダメだ。)」

 光は、心の中でそう呟きながら、自分の持つ支配力をツモに集中した。

 やはり、さっきの大三元のインパクトは大きい。とにかく、これ以上、玄を暴れさせてはならない。

「ポン!」

 とにかく早い和了りを目指し、光は朱里が捨てた{東}を一鳴きした。形振り構っていられない。そして、その数巡後、

「ツモ。3900オール!」

 東ドラ3の和了りだった。

 

 これで各選手の点数は、

 1位:玄 154700

 2位:光 148100

 3位:理沙 49900

 4位:朱里 47300

 まだ玄がトップだ。それに、光は誰一人としてトバせていない。

 しかし、前後半戦トータルでは玄を抜く。それに、中堅戦は、自分のチームのみかんには悪いが咲が勝ち星を取るだろう。それで阿知賀女子学院は勝ち抜けが決まる。

 大将戦は、淡と穏乃のどちらかが取るだろう。

 問題は、副将戦を粕渕高校か新道寺女子高校に取られ、且つ大将戦が穏乃に取られた場合だ。その時は得失点差勝負になる。

 しかし、この場合、得失点差勝負に阿知賀女子学院は絡んでこない。ならば、理沙と朱里に圧倒的な点差をつけているのだから、これ以上無理をすることもないだろう。

 そう考えた上で光は、

「これで和了り止めにします。」

 後半戦の終了を宣言した。

 

 これで、前後半戦の合計は、

 1位:光 334300

 2位:玄 239100

 3位:理沙 138800

 4位:朱里 87800

 光が圧倒的点差で1位となった。これで、白糸台高校は念願の勝ち星を得た。




おまけ
今回は、池田華菜がラジオ番組のパーソナリティ役になった感じでお送りします。時間軸は、原作ではなく咲ーSakiー阿知賀編入 三十八本場に準じます。


華菜「今回は、華菜ちゃんがコーナーを持たせてもらうことになったし! やっぱり、これ、人気があるって証拠だし!」

華菜「と言うわけで、パーソナリティの華菜ちゃんだし!」

華菜が台本を見る

華菜「コーナーのタイトルは、『ウザイケダへのダメ出し』って、なんなんだし!? これ!?」

華菜「ええと、HPの質問欄にリスナーの皆さんから書き込まれた苦情とか抗議文に華菜ちゃんが答えて行くってコーナーって、前に新子憧がやったやつと随分違うし!」

華菜「どうして新子の場合は質問とかコメントで、華菜ちゃんの場合は苦情とか抗議文になってるか、意味分かんないし!」

スタッフ:質問も来てるよ!

華菜「質問も来ているみたいなので、質問から答えるし! じゃあ、最初の質問は、『東風の神』さん高校二年生からだし! 私の一つ年下だし!」

華菜「ええと、『おお、池田! 元気にしてるか!』って、年上には敬語使え敬語!」

華菜「『池田は…』って、『さん』くらい付けろ。もう、全然なってないし!」

華菜「ええと、『池田は、正直ウザイじょ。少しキャラ改変した方がイイと思うじぇ!』って、これ質問じゃないし! いきなり苦情来てるし!」

華菜「華菜ちゃんは図々しくてウザイのが売りだし! だから、キャラは変えないし!」

華菜「次の質問は、『ステルス』さんか。『華菜さんこんばんは』、こんばんはだし! このステルスさんは礼儀正しいし!」

華菜「『池田さんは、風越女子高校の特待生と聞きましたが、戦績は今一つと思います。』って、悪かったし!」

華菜「ええと、『これは、飽くまでも魔物対決ばかりさせられているためですが…』って、たしかにこれは、そのとおりだし! それを言われると、結構、華菜ちゃん辛いし!」

華菜「続きを読むし! 『ちょっと聞き難いのですが、特待生の権利を剥奪されたりしないっすか?』って…。」

華菜「これって、華菜ちゃんも心配してたし! でも、準決勝までは大活躍してるし! 華菜ちゃんが大敗してるのは全国区の魔物って周りも理解してくれてるし!」

華菜「それで首の皮一枚で繋がっていると思うし!」

スタッフ:『〇〇だし!』って言い方やめて、普通に話して!

華菜「ええと、スタッフから注意が来たし! じゃなくて来ました…。ああ、結構言い難いし! 次は、『山大好きさん』から。」

華菜「ええと、『今度、私と咲さんと天江さんで麻雀打ちましょう!』って、それって絶対ヤダし!」

華菜「では、次の苦情かなこれ? これは、『めざせのどっち』さんからです。『このコーナー、面白くありませんわ! 怜と爽のお下品コーナーの方が面白いですわ!』………。」

華菜「悪かったし!」

華菜「では次。『自縛プレイ』さんからです。『姫子がパーソナリティの『ビビクンな夜』のほうが面白か!』って、これも苦情だし!」

華菜「それから次…。『デジタル』さんから。ええと、『咲さんから『倍満なんかくれてやる! 数えなんかくれてやる!』をしてもらえたのですから、咲さんにお礼くらい言ってください』って、あれは清澄の戦略だから礼を言う筋合いは無いし!」

華菜「次は『キャプテン』さんから。『華菜、もう高校3年生だし、そろそろウザキャラ卒業した方がイイと思うわよ』って、これって本当にキャプテンからだし!」

華菜「ちょっと考えとくし!」

華菜「次は『元学生議会長』さんから。『美穂子はもらったわよ』って、これ、清澄の悪待ちだし! 勝手なこと言ってるし!」

華菜「次は、『オモチ大好き子』さんから。」

華菜「ええと、『オモチが無い人ばかりパーソナリティやっても面白くないのです! オモチベーション維持ができないのです!』って、悪かったし!」

華菜「もう、新子の時よりヒドイ苦情コーナーになってるし!」

華菜「次の苦情は…、『嶺上』さんから。」

華菜「多分、これは清澄の大将からだし!」

華菜「ええと、『いっぺん、死んでみる?』って、完全にキャラ変わってるし! それに、これ、苦情を通り越してるし!」

華菜「まだ華菜ちゃん死にたくないし! だから、清澄の大将とは、もう絶対に打ちたくないし!」

華菜「ええと、次は『にんじん嫌い』さんから…。」

華菜「誰だし!? ええと、『池田よ。今、お前のいる部屋の隣で衣と咲と穏乃で待ってる』って、それって、なんなんだし!」

スタッフカンペ:では、隣の部屋に移動してください

華菜「華菜ちゃん、絶対ヤダし!」

スタッフカンペ:副路さんが人質に取られてます

華菜「それって卑怯だし! 行かなかったらキャプテンに『華菜の人でなし!』って言われちゃいそうだし!」


結局、華菜はトビなしルールで翌朝まで魔物達相手に麻雀を打たされることになった。
たった一夜で、目からは完全に生気が失われ、まるでデク人形のようになっていた。


華菜「でも、絶対に麻雀辞めないし!」

それでも打たれ強い華菜だった。


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三十九本場:神のお告げ

宇野沢栞と手品先輩って似ていると思いません?
以前、何処かでそんなネタがありましたけど。


「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼の後、次鋒メンバーは各校控室に戻って行った。

 飛び切り笑顔なのは玄。対局の中で龍支配の進化を遂げたのだ。さすがに喜びは隠せないだろう。

 対する光は、勝ち星を得たにも拘らず神妙な顔をしていた。余計なモノ………恐るべき龍の支配力を覚醒させてしまったからだ。

 まるで1位と2位の表情が逆だ。

 

 丁度この時だった。

 粕渕高校控室では、突然、神楽に神のお告げが降りて来た。

 すぐさま神楽は、中堅の薫に、

「余計な一言が大きな災い…喰い殺される恐怖と、天変地異を超えた恐怖から水害を起こすとのお告げが出ています。気をつけてください。」

 と伝えたのだが…、さて、これはいったい何なのだろうか?(何となく予想はつくと思いますが…。)

 薫は、

「了解!」

 と言ったまでは良かったが、正直、余り気には留めていなかった。そもそも、余計な一言とは何なのかが良く分からなかったし、神楽のお告げの意味も分からなかった。

 喰い殺される恐怖から水害?

 天変地異を超えた恐怖から水害?

 水害と、それぞれの恐怖が繋がらない気がしていた(失禁未経験者のため)。

 

 

 この頃、みかんは対局室に向かっていた。

 途中で光に会い、

「ナイス勝ち星!」

 と言いながら光にハイタッチしようとした。しかし、光の表情は優れず、ハイタッチには乗ってこなかった。

「ゴメン、みかん。どこもトバせなかった。」

「正直、それって目標が高過ぎるよ。」

「でも得失点差になった場合を考えるとね。」

 恐らく、中堅戦は咲が取って阿知賀女子学院が勝ち抜けを決めるだろう。なので、白糸台高校が得失点差勝負になるケースは、副将戦を新道寺女子高校か粕渕高校のどちらかが取り、大将戦で淡が穏乃に負けて勝ち星を阿知賀女子学院に取られた時と考えるのが普通だろう。

 その場合、白糸台高校と副将戦で勝ち星を得た高校との勝負になるのだが、既に白糸台高校は新道寺女子高校にも粕渕高校にもトータルで250000点近くリードしている。

 普通なら、得失点差勝負になっても怖くはない。それもあって、みかんは結構楽観視していた。

「たしかにそうだけどさ…。勝ち星取ったんだから、よしとしようよ。」

 ただ、光は何か嫌な予感がしていた。百戦錬磨の直感だ。

「うん…。」

「中堅戦は、私じゃ勝てないけど、でもせめて一太刀浴びせるくらいのことはしたいと思ってるから。」

「うん。頑張って!」

「頑張るよ、私!」

 そう言いながら、みかんは明るく振る舞った。

 

 春季大会個人戦で、みかんは咲と和解したつもりだ。

 あの後、みかんは淡と光に色々確認した。

 たしかに、咲との対局の時に思ったとおり、淡も光も自分や麻里香を相手には少なからず手加減していた。最上級のオーラを出すのを控えていたのだ。

 真実を知り、自分達の足りなさも理解したつもりだ。今、みかんは、咲に純粋に胸を借りるつもりで対局に臨もうとしていた。

 まあ、玄からすれば、

「借りられるほどのオモチはありません!」

 と言いたくなるところだろうが………。

 

 

 また、これと同じ頃、咲は憧に連れられて対局室に向かっていた。

 途中で二人は玄に会った。

「咲ちゃん、憧ちゃん、1位は無理だったけど、特訓の成果が現れたのです!」

 玄は、満面の笑みでそう言った。すると咲が笑顔で、

「本当に良かったです。決勝戦では、もっと派手に暴れましょう。」

 と玄に笑顔で言った。

 ただ、表面上は、たしかに可愛い笑顔なのだが、玄には、何故かその奥底にドス黒い何かが感じられた。まるで暗黒物質のような何かだ。

「では、行ってきますので…。」

「うん。頑張ってね、咲ちゃん…。」

 そう言うと、玄は咲の後姿を見送った。ただ、この時、今までに無いレベルの悪寒を玄は感じていた。

「悪いことが起きなければイイけど…。」

 人の良い玄は、咲の様子を見て急に心配になった。

 

 一方、憧は、咲を対局室に送り届けると、

「じゃあ、咲。休憩時間に迎えに来るからね。ガンバ!」

 そう言って、ルンルン気分で対局室を後にした。

 この時、憧も玄と同様に背筋に冷たいモノを感じていたが、憧の場合は玄と違い、咲が何をしでかすか楽しみにしていた。

 ここが、狡猾な憧と、そうでない玄の違いであろう。

 

 咲の視界にみかんの姿が入り込んだ。この時、既に、みかんは対局室に入室を済ませていたのだ。

 みかんは、

「もう私も麻里香も仇みたいには思っていないから。今日はよろしく!」

 と笑顔で咲に声をかけた。

 しかし、その美しい笑顔を見た瞬間、咲の全身から大量の負のオーラ………暗黒物質が一気に噴出した。

 この雰囲気は、春季大会の時よりも恐ろしい。単に気合が入っているとか言うレベルではない。

 完全に自分のことを敵視していると、みかんは直感した。

「ちょ…ちょっと、私、宮永さんに何かした?」

「京ちゃんは渡さないんだから。」

「えっ?」

 意味不明だ。ただ、何か誤解していることだけは確かなようだ。

「ちょっと、京ちゃんて誰?」

「私、中学の頃から京ちゃんのことが…。あなたなんかに絶対に渡さないんだから!」

「あのねえ、私は、その京ちゃんって人のこと知らないんだけど。もしかして宮永さんの彼氏?」

「まだ彼じゃないけど…。」

「ええとね。そもそも宮永さんのテリトリーを侵そうなんて絶対に考えてないから。それ以前に、その京ちゃんって人に会ったこともないし。」

「でも…。」

「私は、むしろ応援するからさ。」

「本当に?」

「嘘はつかないって。それで、その京ちゃんってどんな人?」

「長野にいた頃、中学、高校と一緒だったんだ。ええと…。」

 咲は、スマホを取り出すと京太郎を写した画像をみかんに見せた。

 昨年のインターハイでは、対局室へのスマホ持込は禁止だったが、今年は電波遮断が強化され、対局中にスマホをサイドテーブルの上に置いて触らなければ、持込は許可されることに変わっていた。

 みかんは、京太郎の画像を見て、

「イイ男じゃん。宮永さん、お似合いだよ!」

「えへへ、そう思う?」

「うん。絶対応援するから!」

「でも、京ちゃんが佐々野さんの水着画像を持ってて…。」

「ちょっとナニソレ? まさか盗撮?」

「それは知らないけど…。でも、佐々野さん凄く綺麗だから…。もし佐々野さんがライバルだったら絶対に勝てないなって思って…。」

「大丈夫。宮永さんのテリトリーに手は出しませんって。あと、綺麗って言ってもらえて嬉しいけど、私は自分が美人だなんて思ってないし…。」

 過去に身体が細くない時代があったため、本当にみかんは自分のことを美しいとは思っていない。ただ、周りの人間からは、そう思えない。

「自覚してない振りしてない?」

「あのねえ…。前に言ったでしょ。好きだった男に姉と比較されて酷いこと言われたって…。」

「あれ、たしかに許せないよね!」

「だから頑張って痩せたけど。でも、いくら食べても太らない麻里香とか宮永さんのほうが私は羨ましいな。」

「別に私は、綺麗じゃないし、喪女だし…。」

 そう言いながらも、咲の身体から放出される暗黒物質が消えた。随分と落ち着いてきたようだ。

 

 丁度ここに、姫子が入ってきた。

「何見とると?」

「宮永さんのボーイフレンドの写真。結構イイ男ですよ。」

「へー。」

 姫子が、咲のスマホを覗き込んだ。しかし、姫子は哩一筋だ。哩以外の人間に魅力は一切感じない。

 京太郎の画像を見て、姫子がボソッと、

「思ったほどじゃなか。」

 と言ってしまった。

 これが姫子の素直な気持ちだったのだが…、彼女の場合は仕方がないだろう。

 ただ、これは咲にとって失言だったようだ。

「あ゙っ?」

 暗黒物質が再び湧き出してきた。

 

「何見てるの?」

 続いて薫が入室した。そして、咲のスマホを覗き込むと、

「結構イイ男じゃん。私、モーションかけちゃおうかな!」

 とオチャラケタ感じでそう言った。冗談のつもりだったのだが………、ただ、これは咲には完全に禁句だった。

 しかも薫は女性受けする男装麗人。咲の目から見ても美しく魅力的に見える。

 そんな女性が京太郎を狙っているだと?

 

「あ゙っ?」

 この咲の怒りのこもった声と同時に、まるで火山の大噴火………、いや、超新星爆発のようなとんでもない勢いで、大量の負のオーラが咲の全身から一気に放出された。

「(ヤバイ!)」

 みかんは、再び身の危険を感じた。

 

 

「そろそろ対局を始めてください。」

 審判の声だ。

 ここはインターハイ準決勝戦の場だ。いつまでも駄弁っていてはならない。審判の指示に従い。場決めがされた。

 

 起家になったのは、みかんだった。咲は、まだ本日配布分の京タコスを口にしていなかったため、起家ではなく西家になった。

 南家は姫子、北家は薫に決まった。

 

 姫子は、セルフリザベーションが武器だ。前半戦で和了った局と同じ局で、後半戦では二倍の翻数で和了れる能力だ。

 一方、薫は従姉妹の亦野誠子と同じ鳴きの能力を持つ。

 しかし、この対局では、そんなものは関係なかった。そもそも、能力を使える機会など無かったのだから…。

 

 

 東一局、みかんの親。

 ただ、既にみかんは、親の連荘どころか普通の麻雀を打つことすら諦めていた。

「(余計なことをしてくれて…。)」

 せっかく咲の誤解を解いて落ち着かせたのに…、頑張ってなだめたのに…、再び姫子と薫でスイッチを入れてしまった。

 

 咲の支配力が凄まじい。全然、みかんは有効牌を引けなかった。

 どうやら、姫子と薫も手が進んでいないようだ。二人とも、苛立ちが表に出ている。そもそも、咲と拮抗するだけの支配力を持つ者が面子の中にいなければ、咲の支配を崩すことなど出来ないだろう。

 そして、

「チッ!」

 つい舌打ちしながら姫子が{①}をツモ切りした、その時だった。

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{1}の暗槓を副露した。

 

 この時、みかんは、

「(もうダメね。『もいっこ、カン』が出ちゃった。光に言わせると、あれが出たら光も宮永先輩も手の出しようがないって話だったから…。)」

 心の中でそう呟き、手牌を伏せた。この局の勝負は、もう決まったのだ。

 

 一方、咲は、再び嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今後は{一}の暗槓を副露した。そして、次の嶺上牌で、

「ツモ。東混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花ドラドラ。32000です。」

 いきなり数え役満を和了った。これは姫子の責任払いになる。

 完全に、姫子は咲にロックオンされていた。

 

 ただ、この時、役満を直取りされた姫子よりも薫の方が蒼い顔をして怯えていた。

 咲が牌を副露するのは咲と薫の間になる。つまり、咲が槓をすると、勢い良く槓子が副露されるのと同時に薫の方に強大なオーラが飛び火してくるのだ。

 それは、まるでワニかライオンが大きな口を開けて薫の方に一直線に突き進んで来るような錯覚さえ感じさせる。その恐怖に怯えていたのだ。

 二回戦で対戦した時………、-66600点にされた時よりも、さらに恐ろしい雰囲気を感じる。あの時は、咲の対面だったのが幸いと言えよう。

 

 

 東二局、姫子の親。

 今度は薫が切った{⑨}で、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{9}の暗槓を副露し、さらに

「もいっこ、カン!」

 三連続槓で{九}の暗槓を副露した。

 薫は、この時、ホオジロザメが巨大な口を開けて自分のほうに突っ込んでくるような錯覚を感じていた。

「(死にたくない…。)」

 薫の目から一筋の涙が流れ出た。競技麻雀で死ぬことは無いが、今の咲の槓には、そう思わせるだけの勢いがある。

 そして、咲は容赦なく次の嶺上牌で、

「ツモ。清老頭。32000です。」

 役満を和了った。これは、薫の責任払いになる。当然のことながら、薫も咲にロックオンされていた。

 

 

 東三局、咲の親。

 二巡目で姫子が捨てた{⑨}で、

「ロン。国士無双。48000。」

 咲が和了った。

 この局は、咲以外は、まだ何もやっていないに等しい。不条理さしか感じられない。

 

 東三局一本場。

 今度は薫が切った{⑧}で、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{中}の暗槓を副露し、さらに

「もいっこ、カン!」

 三連続槓で{發}の暗槓を副露した。

 

 何故か薫の目には巨大肉食恐竜………ティラノサウルスが巨大な口を開けて薫を喰い殺そうとしている幻が見えた。

 

 咲は、次の嶺上牌を掴むと、

「ツモ! 大三元。48300!」

 またもや役満を和了った。最初の数え役満を含めると、これで四連続役満だ。確率的にゼロではないが、限りなくゼロに近い現象であることは言うまでもない。

 まさに奇跡だ!

 しかも、四回中三回が嶺上開花。もっと言ってしまえば、嶺上開花で和了った局は、全て三連続槓だ。

 ただ、その奇跡に付き合わされるほうは、たまったものではない。薫の全身を、最上級の悪寒が襲った。いや、ここまでくると寒波と言うべきか。

 

 東三局二本場。

 ここでも、

「カン!」

 咲は薫の捨て牌を大明槓した。

 またもや、薫は恐怖の幻を見た。この世のモノとは思えない巨大な蛇が薫を襲ってくる光景だ。さっき見えたティラノサウルスよりも一回り口が大きい。

 頭から一飲みにされる恐怖の幻が見える。

「ツモ! 嶺上開花ダブ東ドラ3。18600。」

 今回、咲は親ハネを和了った。これは薫の責任払いだ。

 

 東三局三本場では、

「カン!」

 今度は姫子の捨て牌を大明槓した。そして、槓子が薫と咲の間に副露される。

 この時、薫の目には、ホオジロザメよりももっと巨大な肉食水生生物………、映画で見たモササウルスが薫を襲ってくる幻が映っていた。

 さっきの大蛇よりも、さらに巨大な口をしている。

「ツモ! 嶺上開花チャンタ白ドラ3。18900!」

 ここでも親ハネを和了った。これは姫子の責任払いになる。

 ただ、それ以上に薫のほうが参っていた。もはや、生きた心地がしない。幻想の中で何回喰い殺されているだろうか?

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:咲 297800

 2位:みかん 100000

 3位:姫子 1100

 4位:薫 1100

 みかんのみ無傷であった。

 

 そして、東三局四本場。

「チー!」

 咲は、姫子が捨てた{4}を鳴き、珍しく{横456}の順子を晒した。しかし、その次巡、

「カン!」

 咲が{三}を暗槓した。

 単なるチュンチャン牌の暗槓に過ぎないはずなのだが………、薫には、今回の副露には、今までに無い強大なエネルギーが感じられた。

 薫の頭上に巨大小惑星………いや、満月が地上に向かって落下してくるのが見えた。逃げ場がない。

 そもそも、月が地球とぶつかったら、地球は破壊されてしまうだろう。もう死ぬ以外に道は無い。

「ツモ! 800オールの四本場は1200オール!」

 咲は、{①}の暗刻も持っていた。これで50符1翻。嶺上牌が分かる咲ならではの『嶺上開花』のみの和了りだ。

 しかも、七回の和了りのうち六回が嶺上開花。

 

 この結果、

 各選手の点数は、

 1位:咲 301400

 2位:みかん 98800

 3位:姫子 -100

 4位:薫 -100

 姫子と薫のトビで前半戦が終了した。

 

 恐らく、みかんは咲に京太郎とのことを応援すると言ったことで、味方認定されたのだろう。幸いにも、ほぼ無傷で済んだ。

 

 そして、毎度の如く、前半戦終了と同時に、映像が対局室から放送席のほうに切り替えられた。

 案の定、

「チョロチョロチョロ…。」

 薫が、

「プシャ――――――!!!」

 豪快にヤッてしまった。足元には、とても恥ずかしい巨大湖が形成されている。涙も出てくる。もう死にたい。

 

 これを見て審判は、

「対局者は、一旦控室に戻って待機してください。追って再開の連絡を入れます!」

 清掃のため、試合を一時中断することを決めた。

 

 対局室の扉が開くと、憧が、

「サキ、お疲れ!」

 妙にご機嫌な顔で入ってきた。

 後半戦で咲以外の面子が、どんなに高得点を重ねたところで、300000点超えの咲を逆転することは不可能だろう。

 これで、決勝進出は確実と踏んだのだ。

 憧は、迷子対策に咲と手を繋ぐと、対局室を出て控室に戻って行った。

 

 これと入れ違いで粕渕高校のメンバーと、白糸台高校麻雀部部長の亦野誠子が対局室に入ってきた。誠子は、今一番不幸な少女、緒方薫と従姉妹でもあった。

 神楽は、薫の散々な姿を見て溜め息をついた。

「緒方先輩。対局前に『余計な一言を言わないように』と告げたはずです。先輩は触れては成らないものに触れ、喰い殺される恐怖と天変地異を越えた恐怖を味わうハメとなったのではないでしょうか?」

「う…うぅ…。」

「そして、水害とは、この巨大湖のことでしょう。」

「…。」

 誠子は、これを聞いて、神楽の言いたいことが『咲の槓の恐怖と失禁』であることを容易に理解できた。

 これに似た光景を、春季大会個人戦で何回見たことか…。

 ただ、何故、薫がここまで派手にヤラれたのかが分からない。失点は二回戦のほうが大きかったが、今回のほうが精神的ショックは大きそうだ。

 余程、咲に睨まれたとしか考えられない。

「みかん。ことのあらましを教えてくれないか?」

「はい、実は…。」

 みかんは、対局前のことを順に誠子に話した。

 もともと咲に要らぬ誤解を受けていたのは自分だったが、それが誤解であることを咲に理解してもらったこと。

 咲の恋愛を、みかんは応援すると言って咲の敵ではないことを分かってもらったこと。

 姫子が京太郎の写真を見て『大したことない』と言った瞬間、空気が変わったこと。

 そして、薫が、冗談のつもりだったのだろうが、京太郎の写真を見て『私、モーションかけちゃおうかな!』と言ったこと。

 これによって、咲の暗黒オーラが全開になったこと。

 

 これを聞かされて誠子は、

「はっきり言うわ。薫が悪い!」

 と断言した。

 

 春季大会個人戦の恐怖は記憶に新しい。

 あの惨劇を見て、誰もが咲の逆鱗に触れてはならないことを学ばなければならない。あの時、何人の女子高生雀士が散々な目に遭ったことか…。

 それに、神楽から聞かされたお告げも、学習能力があれば理解できたであろう。それをスルーして咲を刺激したのが全ての元凶だ。

 そもそも、二回戦でも散々な目に遭ってきただろう。その化物を刺激したらどうなるかくらい簡単に分かるはずだ。

 

 まあ、結果的に一番得したのは白糸台高校だった。これで、得失点差勝負になった時に一番有利になったのは言うまでもない。




おまけ
夏の奈良県予選個人戦での対局です。


初瀬「団体戦では阿知賀に完敗だったし、せめて個人戦は晩成から一人くらいは全国出場枠に入らないと…。」


初瀬は、団体戦では次鋒で出場し、玄のドラ爆被害に遭っていた。それでも中堅で咲と当たった車井百花よりはマシだったが…。

晩成高校は、昨年も団体戦は阿知賀女子学院に完敗した。
その後の秋季大会でも県大会で晩成高校は阿知賀女子学院に敗退。
秋季近畿大会では、晩成高校は4位までに入賞できなかったため春季全国大会には進めなかった。
春季大会では阿知賀女子学院が全国制覇。晩成高校は阿知賀女子学院に大きく差をつけられた状況にある。


昨年の夏は、小走やえが個人戦で奈良県王者となることで面目を果たした。
王者王者と騒ぐウザい先輩だったが、実力的には尊敬するに値する。
今年も、その先輩に続かなくてはならない。それが、名門晩成高校麻雀部員の宿命と初瀬は自分に言い聞かせていた。


個人戦一回戦。
初瀬の相手の中に、絶対に当たって欲しくない相手ナンバーワンの咲の姿があった。


初瀬「(こいつもクソ猿と同じで憧の近くにいる目障りな奴…。せめて一太刀浴びせるくらいのことはしてやる!)」


場決めがされ、初瀬は起家、咲は西家になった。


東一局
咲「ロン! 8000!」←上家からの直取り。


東二局
咲「カン! 嶺上開花ドラ3。8000!」←下家の責任払い


東三局
咲「カン! 嶺上開花! 四暗刻! 16000オール!」

東三局一本場
咲「ロン! 7700の一本場は8000!」←初瀬の振込み


これで、咲以外の三人の点数が1000点で並んだ。
毎度の点数調整だ。正直、手馴れている感はある。


初瀬「(なんなのこれ? 全然相手にならない。それに、なんか怖い。)」


東三局二本場
咲「ポン!」←①ポン

咲「カン!」←①を加槓

咲「ツモ! 嶺上開花! 50符1翻の二本場で1000オール。」

初瀬「(嶺上開花のみの和了り? これって、嶺上牌が分かってないと出来ないよね? やっぱり、こいつ化物…。)」


これで、咲以外の三人は全員0点になった。
まあ、お約束の展開だ。

東三局三本場
咲「(個人戦は、ダブル役満以上は無いんだよね。じゃあ、普通の役満でイイか。それに、この対面の晩成の人。なんだか、ずっと私の子と睨んでて気に入らないんだよね。)」

初瀬が咲にロックオンされた瞬間だった。

八巡目
初瀬は①をツモってきた。
場には既に②が四枚出ていた。これでは、①は使い難い。
ただ、①は初牌だった。
咲の捨て牌はチュンチャン牌が目立つ。国士無双狙いだろうか?
しかし、既に場には北が四枚出ていた。なら、国士無双は無い。

この状態で打ち回してもどうにもならない。和了り優先。
初瀬は、そう思って①を切った。

咲「カン!」←①を大明槓

咲「(本当は、次の私のツモ牌は1だから、そこで1を暗槓しても良かったんだけどね…。でも、どうせダブル役満無いし、この人、気に入らないし…。)」

そして、咲は嶺上牌を引くと、

咲「ツモ。清老頭! 48900!」

開かれた手牌は、
一一一九九11199  明槓①①①①  ツモ9


ここで大明槓をしなければ、咲は次のツモで1を暗槓し、清老頭四暗刻を嶺上牌で和了っていた。
しかし、個人戦ではダブル役満が認められない。ならば、一番気に入らない初瀬から親の役満を直取りしたほうが面白いと考えたのだ。

まあ、次のツモ牌の1は、万が一、初瀬が①を切らなかった時の保険だったようだが…。


「ジョ――――――!」
初瀬の下家が派手に漏らした。咲との対局を終えて恐怖から解放されたためだろう。

そして、それ以上に、
「プシャ――――――!」
初瀬の上家は、もっと派手に放水していた。咲の副露牌が迫ってくるのは彼女の位置になる。それで、まるで巨大肉食獣に喰い殺されるような恐怖に晒され続けていたのである。
むしろ、ここまで良く耐えたと褒めるべきであろう。

一方、初瀬自身は、
初瀬「(私は何とか耐え…。)」

この時だった。
初瀬股間「チョロ…。」

初瀬「(えっ? 嘘?)」

慌てて初瀬は股間に手を当てた。

初瀬「(ちょっと、止まって!)」

初瀬股間「チョロチョロチョロ…。」

初瀬「(やだもう、止まってよ!)」

初瀬股間「プシャ――――――!」

初瀬の想いは届かず、彼女もまた、豪快に放出してしまった。
その結果、一回戦から派手に巨大な湖が形成されることになった。


咲「ありがとうございました」←ペッコリンと頭を下げると、急々と対局室から逃げた

初瀬「(あのアマァ…。私をこんな目に合わせて、絶対に許さない!)」


仕方なく初瀬は、二回戦からジャージで対戦するのであった。
当然、周りからは、

外野「あの子、絶対に漏らしたよね!」

陰口を言われている。
今、初瀬が願うことは、

初瀬「(神様…。あの悪魔の被害者を増やしてください。そうすれば、私は目立たなくなります。)」

ただ、この願いに関係なく、咲の被害者は続出した。その結果、初瀬のジャージ姿は目立たなくなった。


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四十本場:上機嫌のほうが性質悪い?

 通常、前半戦と後半戦の間の休憩時間は五分から十分程度だ。それが、十五分以上経っているのに後半戦が開始されない。

 それどころか、対局室から急に放送席に映像が切り替わった。

 テレビ観戦していたファンの中には、

「これは、誰かが漏らしたな。」

 状況を適格に察知する者も少なからずいた。

 

 ネット上でも、

『被害者は妖艶美女の姫子な気がするし!』

『それはマジエロいっす!』

『姫子もイイけど痩身超絶美女のみかんだったらチョー嬉しい!』

『漏らしてなんぼ、漏らしてなんぼですわ!』

『みかんの泣き顔絶対かわいいと思…』

『妖艶&痩身超絶の両輪ならスバラ!』

『男装麗人の薫だったらイメージダウンだじょ!』

『幻滅…ダル…。』

 勝手に盛り上がっていた。

 

 

 この頃、光は、次鋒後半戦の牌譜を見ていた。

 玄は大三元を和了った前々局で{中}を、前局では{中}と{發}を玄を全て持っていた。そして、大三元を和了った局では12枚全ての三元牌を手に入れていた。

 しかし、オーラスでは、玄は三元牌を持っていなかった。あの大三元を和了ることで第二の龍支配も消え去ったのだろう。

「連荘しても大丈夫だったんだ。」

 とは言え、ドラ支配を崩しても、その後に三元牌支配が来る。これはこれで面倒だ。対策を考える必要がある。

「でも、そんなの分からないじゃん。仕方ないよ。」

 麻里香は、缶の『飲むフォンダンショコラ』などと言った劇甘ドリンクを飲みながら、そう光に言った。そんな飲み物があるのが恐ろしい。相変わらずの甘党だ。

 そんなものを飲んで太らない体質が羨ましい。特にみかんは、

「(殺してやりたい!)」

 などと半分冗談で思っていた。

 

 

 一方の咲は、この頃、控室で電話をかけていた。相手は、どうやら京太郎のようだ。そして、咲は、

「京ちゃん。タコス、ありがとう。」

「イイってイイって。」

「今、食べてる。美味しいよ。でさ、京ちゃん。団体戦が終わったらさ、個人戦の前日に二人でネズミの国に行かない?」

「全然OKだぜ!」

「じゃあ、約束だよ!」

「おお。」

 京太郎とのデートの約束にこぎつけた。京タコスも食べている。

 当然のことだが、急に上機嫌になる。

 暗黒物質は、既に痕跡すら消えていた。

 

 

 前半戦終了から一時間が経過した。

 各校控室に、十分後に試合が再開される旨の連絡が入った。

 清掃し、椅子も卓も交換したらしい。また、薫のメンタル面も考慮し、休憩時間を長めに取ったと言うのもある。

 

 

「じゃあ、行くよ!」

「うん。では、憧ちゃん、お願いします!」

「了解!」

 毎度の如く、咲は、憧に連れられて対局室に向かった。

 この年齢になって一人で対局室まで行かせるのに不安があるのも何だかなと思われるだろうが…。

 

 咲が対局室に入ると、姫子と薫が正座していた。

 この時、薫は下半身がジャージだった。制服を汚したのだから仕方がない。そして、咲の姿を見つけると、二人は、

「「申し訳ありませんでした。」」

 咲に土下座した。

 これには咲も、

「ちょっと、やめてください。別に、土下座なんてされるようなことは…。」

 正直困った様子だ。

 もっとも、既に京太郎とのデートが約束出来て、嫌なことは全て頭の中から消去されていたし、怒りもとっくに忘れていた。なので、何故土下座されるのかが理解できていない様子だった。

「顔を上げてください。後半戦を始めましょう!」

 咲は、明るい表情でそう言うと、早速場決めの牌を引いた。

 

 長野の都市伝説に従い、咲は東を引いた。起家だ。

 これには、姫子も薫も嫌な予感がしてならなかった。二回戦の-66600点事件を思い出させる。

 

 テレビに対局室の様子が映し出された。

 制服からジャージに着替えたのは薫。

 当然、ネット掲示板には、

『被害者は男装麗人デー!』

『絶対にヤラないと思ってたのに幻滅だよモー!』

『残念姫子じゃなか…』

『みかんと信じて全裸で待ってたのにあったかくない!』

『漏らしたところがあったかいのは放出直後だけだじぇい!』

 勝手なことが書き込まれていた。

 

 他の三人も場決めの牌を引き、南家が姫子、西家がみかん、北家が薫になった。咲とみかんの位置が変わっただけだ。

 

 

 東一局、咲の親番。

「この半荘、東二局は来ない! なぁんちゃって、ちょっと優希ちゃんのマネしてみちゃった!」

 妙に咲がハイだった。ただ、これが冗談に聞こえないから恐ろしい。

 

 昨年の夏の県予選からこのインターハイにかけて、咲が対局中に、これだけの笑顔を見せたことは今まで一度もない。これはこれで不気味だ。

 テレビに映るルンルン顔の咲を見て照は、

「(みかん、可哀想に…。)」

 と思っていた。

 過去に照は、この状態の咲の被害に遭遇したことがあったのだ。さすがに巨大湖形成までは至らなかったが、一瞬にして対局が終わった。

 その時、大負けたのは母親だった。元プロの母親が、一瞬にして点棒を失う珍事が起きたのだ。

 

 七巡目、薫が捨てた{東}で、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「これが、今の私の気持ちだよ! もいっこ、カン!」

 連槓して{南}の槓子を副露した。続く嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 さらに連槓して{北}の槓子を副露した後、その次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子………、{西}を副露した。これで四槓子確定。

 さらに、その次の嶺上牌で{白}を引き、

「ツモ! 大四喜字一色四槓子。144000点です!」

 本当に東一局で終わった。東二局どころか東一局一本場すら来なかった。

 この直後、対局室から放送席に映像が切り替えられたのは言うまでもない。

「大喜びで京ちゃん一色の私! 待ちは京ちゃん色に染めて欲しい純潔の白!」←咲なりに大四喜字一色四槓子白単騎とかけたつもり

 咲は、和了った直後に、そんな訳の分からないことを口にしていたが、映像が切り替えられたため、その言葉が放送されるには至らなかった。

 もし放送されていたら咲も京太郎も後々恥ずかしいだろうし、万が一、和が聞いたら大変なことになるだろう。放送されなくて幸いだった。

 

 結局、機嫌が良くても悪くても瞬殺だ。

 咲と普通に麻雀をしたければ、咲の機嫌を普通状態に保たせるか、怯えた状態にさせるかしかないだろう。

 

 

 これで、後半戦の各選手の点数は、

 1位:咲 244000

 2位:姫子 100000

 3位:みかん 100000(席順による)

 4位:薫 -44000

 

 そして、前後半戦の合計点は、

 1位:咲 545400

 2位:みかん 198800

 3位:姫子 99000

 4位:薫 -44100

 言うまでも無く咲の超特大トップであった。これで阿知賀女子学院が二つ目の勝ち星をあげ、決勝進出を確実なものにした。

 

 また、この段階で各校の合計点は、

 1位:阿知賀女子学院 998100

 2位:白糸台高校 746700

 3位:新道寺女子高校 390600

 4位:粕渕高校 264600

 ダブル宮永の活躍(?)のお陰で、白糸台高校が3位の新道寺女子高校に350000点以上の差をつける結果となった。

 

 

 今回、みかんは、ただ座っていただけだった。

「(これって、麻雀?)」

 少なくとも、自分が知っている麻雀とは余りにも懸け離れた別のゲームのようにしか思えなかった。

 

 一方、姫子は全身がガタガタ震えていた。

 後半戦では、咲の副露の際に飛んでくる強大なエネルギー波を姫子がモロに受けた。まるで頭の上から何千発もの爆弾が降り注いでくるような感覚がしていたのだ。

 これで対局は終わったのだが…。

 しかし、この恐怖から開放された瞬間、

「プシャ――――――!!!」

 姫子が大放水してしまった。彼女にとっては初御披露目だ。

 最後のインターハイで最低最悪の思い出だ。いや、さすがに、これだけは絶対に思い出したくない。

 

 映像が切り替えられていたこともあって、当然、テレビ観戦していたファンの中には、

「また誰かが漏らしたな。」

 状況を適格に察知する者も少なくなかった。

 

 ネット上でも、

『今度こそ被害者は妖艶美女の姫子だじょ!』

『その場合イクの間違いじゃなかか?』

『姫子もイイけど痩身超絶美女のみかんが被害者のほうがヌケるっす!』

『妖艶&痩身超絶のダブル放水ならチョーうれしいよー!』

『放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!』

『魔王にヤラれる美女二人ですのだ!?』

『仲間が増えるって先輩が喜ぶデー!』

『でももう一回薫だったらファンやめるし!』

『イケメン失格だよモー!』

 勝手に盛り上がっていた。

 

 これで再び、試合が清掃のため三十分以上中断されたのは言うまでもない。試合よりも清掃時間のほうが長い気がする。

 

 

 テレビ映像が、先鋒戦から中堅戦までのダイジェストを放送し始めた。要は時間調整と言うか、時間稼ぎだ。

 観戦室の巨大モニターでも同じものが映し出された。

 

 先ず、先鋒戦のVTRが映し出された。

『先鋒前半戦は、新道寺女子高校の花田煌選手が、オーラスで、まさかの大七星を和了り大逆転!』

 元気の良い局アナの声だ。

『この時、阿知賀女子学院の新子憧選手と白糸台高校の原村和選手は同点2位でした。』

 対するは、落ち着いた声の女性プロ雀士だった。彼女は、世界二位に輝いたこともあると言う。とても麻雀がお強いお方だ。

 その恐ろしい闘牌で、阿知賀女子学院監督の赤土晴絵を再起不能同然の廃人にまで追い込んだことがあるそうだ。

『そして、なんと先鋒後半戦でも新子選手と原村選手は同点。前後半戦のトータルは、この二人がトップでした!』

『結局、ルールに従って後半戦で上家となった新子選手が勝ち星をあげることになりました。』

『それも、最後は新子選手と原村選手のダブロン。これも上家取りで新子選手の和了りとなったわけです。』

『原村選手には、実に惜しい試合だったと思います。』

 

 VTRが次鋒戦の映像に切り替わった。

『次鋒前半戦では白糸台高校の宮永光選手が終始圧倒!』

『しかも、東四局一本場では四暗刻を和了ってます。』

『ただ、立ち上がりは、何時もより点数が低かった気がしますが…。』

『ドラがありませんでしたからね。』

『たしかに!』

『ただ、和了る毎に点数が上昇している感じはしました。』

『そして、宮永光選手が四暗刻を和了った次の局で、今度は阿知賀女子学院の松実玄選手の数え役満が炸裂!』

『あれには驚かされました。』

『ドラ10の超ドラ爆ですね!』

『オーラスでは、宮永光選手がトップ確定でありながら連荘しました。多分、これは得失点差になった時のことを想定しての稼ぎだと思います。』

『なるほど!』

『そして、後半戦では初っ端に前半戦同様、宮永光選手が圧倒的な稼ぎを見せます。しかし、南一局で再び松実玄選手の数え役満が炸裂しました。』

『とんでもない超ドラ爆体質ですね!』

『松実選手は南三局一本場でも大三元を和了ってます。二半荘で役満を三回和了ったのですから、これは普通なら記録的です。』

『まあ、普通じゃないのが後ろに控えてましたからねぇ。オーラスは宮永光選手が和了り、そこで和了り止めしました。前半戦とは全然様子が違いましたね?』

『後半戦だけでは松実選手がトップでしたが、前後半戦のトータルでは宮永光選手が大きく上回っていましたので白糸台高校の勝ち星は確定でしたし、松実選手が上り調子になってきていたので得失点差のための稼ぎを諦めて、和了り止めにしたのでしょう。』

 

 続いて、VTRが中堅戦の画像に切り替わった。

『そして、中堅前半戦では、宮永咲選手が、まさかの四連続役満!』

『数え役満、清一老、国士無双、大三元でした。しかも、その後、二校トバしをしています。』

『後半戦は、まさかの東一局親でのトリプル役満直撃!』

『しかも大明槓からの責任払いでした。』

『それも大四喜字一色四槓子。もっとも出現確率の低い四槓子入りですよ!』

『非常に珍しい和了りだと思います。』

『たった一回の和了りで後半戦を終了してしまいました!』

『これで、阿知賀女子学院の勝ち星が二となり、阿知賀女子学院の勝ち抜けが決まりました。』

『中堅戦は、宮永咲選手が全部で八回和了ってますが、そのうち七回が嶺上開花です。これって確率的にどうなんですか?』

『非常にレアだと思います。』

『確率重視の原村和選手と確率無視の宮永咲選手は、旧清澄高校麻雀部で非常に仲が良かったと聞いておりますが?』

『対極的な存在に、互いに惹かれる部分があるのかもしれませんね。』

 

 VTRが放送席の二人に切り替わった。

『それにしても、この準決勝戦。何回役満が出たのでしょう?』

『先鋒戦で一回、次鋒戦で四回、中堅戦で五回の計十回ですね。そのうち一回がトリプル役満です。』

『とんでもない試合ですね。』

『そうですね。しかも、そのうち八回が阿知賀女子学院の選手によるものです。』

『無茶苦茶ですね~。頭オカシイですよ、きっと。』

『言い方悪いよ!』

『ただ、阿知賀女子学院って奈良の吉野の学校ですよね。たしか近くに神社があって、そこのご利益が凄いのでしょうか?』

『どうでしょう? その神社の娘は役満を和了っておりませんので。』←何気に個人情報漏洩。

『でも、同点で勝ち星を取ってますよ!』

『たしかにそうですね。ご利益があるかも…。』

『じゃあ、すこやんも参拝したらどうでしょう? もしかしたら、すぐに結婚出来るかも知れませんよ!』

『ええと…、インターハイが終わったら考えます………って何を言わせるのよ! 恒子ちゃん!』

『アラフォーになっても結婚願望は捨て切れていない、すこやんでした!』

『って、アラサーだよ!』

 結局、いつものネタに収束するのであった。

 

 

 各校控室に試合再開の連絡が入った。

 粕渕高校控室では、

「それでは、行ってきます。」

 副将の神楽が静かに立ち上がり、対局室に向かった。

 決勝に残るには自分と大将の石原麻奈が連勝するしかない。

 白糸台高校に勝たせてしまったら、その時点で準決勝敗退が決まるし、自分が勝てても得失点差勝負になったら現在総合得点ダンラスの粕渕高校には勝ち目がない。勿論、得点差は可能な限り縮めるつもりだ。

 ただ、彼女は、神のお告げを受けていたが、対局内容は教えて貰えていなかった。勝敗に関係することは知らされていなかったのだ。

 未来を完璧に知ってしまうと、人間誰しも努力する気が無くなってしまう。

 それゆえ、神は完全には未来を教えてくれないのだ。

 

 新道寺女子高校控室では、

「絶対に慧ちゃんまで回せよ!」

 大将の中田慧が、副将の友清藍里にゲキを飛ばしていた。

 その言い回しも雰囲気も、まるで風越女子高校の池田華菜そっくりであった。正直、存在そのものがウザイ。

 その隣では、

「(慧は一生懸命な人ですが、何故かスバラな感じに見えないのでは何故でしょう?)」

 と煌が心の中で呟いていた。聖人と誰もが認める煌にしては珍しい。

 そして、さらにその隣では、下半身ジャージに着替えた姫子の姿もあった。

 姫子は、この時、恥ずかしそうな表情で下を向いていた。やはり、あの大放水はショックだったのだ。

 いや、大放水が気持ち良かったことが恥ずかしいのか?

 それは本人にしか分からない。

 

 また、白糸台高校では、

「補給完了! じゃあ、行ってくるね!」

 缶のミルクセーキを飲み終え、丁度、麻里香が控え室を出て行くところだった。さっきの『飲むフォンダンショコラ』はどうした?

 これで劇甘ドリンク何本目だろうか?

 しかも、途中の自販機でお汁粉を買うのは明白。これで太らないのは信じられない。そのカロリーが、一体どこに消えるのだろうか?

 ウエストも脚も腕も春季大会の頃から変わらない。細いままだ。

 そう言えば、以前よりも胸が少し大きくなった気がする。このカロリーは、大部分が直通で体外排泄、一部が胸に付いたと言うことだろうか?

 羨ましい限りだ。

「(殺す…!)」

 日頃努力して体型を維持しているみかんの心の言葉だ。親友ではあるが、当然の反応だろう。努力せずに痩せていられるなんて不公平だ。

 

 そして、阿知賀女子学院控室では、

「じゃあ、ハルちゃん。行ってくる!」

「頼んだよ、灼!」

 灼が意気揚々と対局室に向かった。

 二回戦の時とは違って縮こまったりしていない。

 既に阿知賀女子学院の決勝進出は決まっている。しかし、だからと言って負けるつもりで卓に付くつもりはない。

 今日は、勝つ気満々だ。

 

 

 対局室に、副将四人が姿を現した。

「(今日は負けない!)」

 灼は、そう心の中で力強く言いながら神楽にキツイ視線を向けた。二回戦の雪辱を絶対に果たすつもりだ。

 今度は自滅しない。自分の麻雀で押し切る。

 そう心に誓っていた。

 

 対する神楽は、

「(やっぱり、今日は自滅に追い込むのは無理のようですね。でも、麻雀は勿論、世の中では色々不測な自体が起こることがあります。それを忘れていませんか?)」

 こう心の中で言葉を発しながら不敵な笑みを見せていた。

 彼女も最初から負ける気で対局に臨むつもりはサラサラない。むしろ、この灼の闘志をへし折るつもりでいる。

 

 もっとも、気合が入っているのは、この二人だけではない。

「(ここで私が勝てば白糸台の決勝進出が決まる。当然、勝ちに行くよ!)」

 そう心の中で声を張り上げながら、麻里香は缶のお汁粉のプルトップを開けた。多分、後半戦には別の超劇甘缶飲料を飲んでいるのだろう。

 既に自販機で新たに見つけた『飲むモンブラン』に目をつけていた。後半戦は、それを飲むつもりだ。

 

 そして、藍里も、

「(私と慧が勝たなくては決勝に残れない。同点得失点差だと、白糸台高校を抜くのは、とても無理…。だから勝ちに行く!)」

 静かに燃えていた。

 自分の勝利は必須だ。絶対に負けられない。

 

 

 この頃、まこは、

「カランカラン!」

「いらっしゃいませー!」

「一人だけど。」

「あと一人で揃いますので、こちらでお待ちください。」

 いまだ、自宅の雀荘で大忙しだった。これなら咲登場人物最強の超能力、時間軸の超光速跳躍は生じないだろう。




おまけ


準決勝戦、中堅戦の後。

憧に連れられて咲が控室に向かう途中、二人はマスコミに囲まれた。
彼らの目的は当然咲だ。

記者「今日は、もの凄い大記録達成ですね。前半戦で四回の役満。後半戦ではトリプル役満ですから。」

咲「とても運が良かったと思います。」

記者「八回の和了りのうち七回が嶺上開花です。いつも思うのですが、嶺上牌が見えているんでしょうか?」

咲「偶然です偶然。」

記者達「(嘘つくんじゃない!)」

記者「でも、これでチームとしては勝ち星を二つあげましたので決勝進出は決まったわけですが、現在のお気持ちはいかがですか?」

咲「とても嬉しく感じます。皆さんの応援のお陰です。」

突然、咲のスマホが鳴った。この着信音は京太郎からだ。

咲「ちょっとすみません。」

記者「どうぞ。」

咲「もしもし?」

京太郎「決勝進出おめでとう。凄いな、咲。トリプル役満なんて。」

咲「京ちゃんゴメン。今、インタビューされてて。」

京太郎「おお、そいつは悪かったな。」

咲「別にイイよ、京ちゃん。後でかけるから。」

咲がスマホを切ると、記者達はここぞとばかりに質問攻めしてきた。

記者「今の人は誰ですか?」

咲「清澄高校時代の友人です。」

記者「京ちゃんって言ってましたが、たしか、秋季大会のインタビューの時にも言っていた清澄高校麻雀部の男子部員ですよね。」

咲「は…はい。」

記者「やっぱり彼氏ですか?」

咲「い…いいえ…。そんな、私達は、まだ…。(『まだ』は布石だよ。ほら、聞いて聞いて聞いて!)」

記者「まだってことは、付き合う可能性があると?」

咲「(困った表情を見せながら)あの…困ります…。そんな…。(京ちゃんと付き合っているみたいな感じで嬉しいな! もっと聞いて聞いて聞いて!)」

記者「京ちゃんって方との出会いは何時ですか?」

咲「中学の時です。」

記者「どんな方ですか?」

咲「ええと、中学時代にはハンドボールをやっていて。とても上手でした。高校に入ってから麻雀部に入って…。」

記者「では、宮永さんに付き合う形で麻雀部に入部したのですか?」

咲「いいえ。私は、その頃、麻雀からは遠ざかっていて…。私は、京ちゃんに誘われて麻雀部に顔を出して、それがきっかけで入部しました。」

記者「では、その京ちゃんがいなければ、今の宮永さんは無かったかもしれないってことでしょうか?」

咲「多分、麻雀牌には二度と触らなかったと思います。」

記者「だとすると、その京ちゃんって男の人は宮永さんの恩人ってことになりますね。」

咲「麻雀に関しては、そうかもしれません。でも、高校受験の時は、私が一緒に勉強を見てあげたりしましたし、合格発表も一緒に見に行ってあげましたし、高校に入ってからだって、レディースランチが食べたいからって私に注文させるために一緒の学食に行こうって誘うんですよ。」←何気に記者にネタを与えて弄られるのを狙っている

記者「ラブラブじゃないですか! それのどこが付き合っていないと?」

咲「(そう言われると嬉しいな!)あの、別に普通に仲が良いだけで、それ以上の関係は今のところは…。(これも言葉尻に食いついてぇー!)」

記者「今のところはと言いますと、今後、その可能性はあると?」

咲「(来た来た来たぁ!)あの、そう言うの、困ります…。」

記者「でも、デートとかしたことはあるんじゃないですか?」

咲「まだ、ありません。」

記者「では、予定はあると?」

咲「ええと、団体戦の決勝が終わったら、『二人で』遊園地に行こうかなぁなんて…。」

記者「もう付き合っているじゃないですか!」

咲「いえ、ですから、普通に仲が良いだけで…。(もう、気分は京ちゃんと付き合っている状態! こう言うのもイイかな!)」←変に嬉しそうな顔

記者「(この表情は、絶対に喜んでいるな! 付き合っているの確定だろ!)」





その日の夕刊には、デカデカと
『宮永咲、熱愛発覚!? 相手は清澄高校イケメン男子生徒!?』
のタイトルで記事が掲載された。もう、大変な賑わい方だ。もはや社会現象とまで言える。

まさに咲の狙い通りになった。
あとは、ネズミの国でのデートを目撃されて新聞に載れば、周囲からは『京咲は確定!』と認識される。


その夕刊を見た初瀬は…。

初瀬「これって、私の祈りが効いたってことかも…。じゃあ、憧とのことも!」

初瀬は、早速、憧の実家の神社にお参りに行くのだった。



神「(願いを叶えるのは一生に一度だけと言っただろう!)」


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四十一本場:口寄せ

 場決めがされ、起家が藍里、南家が麻里香、西家が灼、北家が神楽に決まった。

 

 東一局、藍里の親。

 ここでは、

「リーチ!」

 序盤から灼が筒子多面聴でリーチをかけてきた。

 下家の神楽は、二回戦の時と同様に敢えて筒子を切って灼の心を揺さぶりに出た。相手の手牌が透けて見える神楽ならではの精神攻撃だ。

 しかし、もう灼はブレないと決めた。

 ここにいるのは神楽であって咲じゃない。

 相手の手牌は見えていても、全ての牌が見えているわけでもないし、自在に嶺上開花を和了る化物でもない。

 深呼吸して心を落ち着かせ、気合いを入れて次巡のツモ牌を引く。

 そして、

「一発ツモ! ドラ3。3000、6000!」

 いきなりハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東二局、麻里香の親。

 ここでも灼が、

「リーチ!」

 筒子多面聴でリーチをかけてきた。

 前局同様に神楽は筒子を切って通すが、灼は、これを気にしないように深呼吸して心の平静を保つ。そして、

「一発ツモ! 一盃口ドラ2。3000、6000!」

 連続でハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東三局、灼の親番。

 乗りに乗った灼の勢いは止まるところを知らなかった。この局も六巡目で、

「リーチ!」

 筒子多面聴でリーチをかけ、

「一発ツモ! タンヤオドラ3。6000オール!」

 親ハネツモ和了りだ。

 

 藍里と麻里香は内心穏やかでは無い。

 何としてでも勝ちたい副将戦なのに、既に決勝進出が決まっている阿知賀女子学院が何故トップを目指すのか?

 二人のキツイ視線が灼に刺さった。

 しかし、灼は、そんなことは気にしない。ただ、和了って二回戦の雪辱をする。それだけだ。

 

 既に灼は42000点を稼いだ。対する神楽は12000点を失っている。なのに、神楽の表情は余裕そのものでしかない。むしろ、笑みすら浮かべている。

「(なんで、そんな顔をしていられるの?)」

 灼には神楽が何を考えているのか分からなかった。

 

 対する神楽は、

「(さすが阿知賀の部長。私は宮永さんのような超魔物ではありませんし、神代さんのように神を降ろすことも出来ません。でも、私にしか出来ないこともあるんですよ。)」

 そう心の中で語ると、両手を合わせて気を集中させた。

 神楽の髪が激しく逆立った。今まで彼女が見せたことのない能力が発動していることだけは間違いない。

 

 この時、阿知賀女子学院の控室では、咲の魔物レーダーが発動していた。

「気をつけて! 灼さん!」

「サキ、いきなりどうかしたの?」

「あの粕渕の人。危ないよ!」

「危ないって?」

 憧には、まるで意味不明だった。そもそも、テレビを通して見ているだけで、何が危険なのかを察知できるほうがおかしい。

 しかし、咲だけではなかった。その隣では穏乃が驚いた顔をしていた。彼女も何かを感じているようだ。

 そして、それ以上に反応していたのは晴絵と玄だった。

 晴絵は、副将戦を映すテレビを見詰めながら表情が固まっていた。一方の玄も身体の動きが完全に止まっている。

 

 晴絵も玄も、初めて咲に出合った時に反応していたことから分かるように、魔物レーダーが搭載されている。ただ、彼女達の驚き方は咲や穏乃とは少し違っていた。

 単に魔物が相手と言うのではなく、もっと別の信じられない何かを、副将戦卓から感じ取っているようだ。

 

 髪の逆立ちが収まると、神楽は静かに目を開いた。

「では、一本場、いきましょうか?」

 良く分からないが、神楽は、まるで大人のような落ち着いた雰囲気をまとっていた。それでいて彼女の身体からは、今までに無い迫力が湧き上がって来ている。

「は…はい…。」

 灼は、その神楽の空気に圧倒されながら卓中央のスタートボタンを押した。

 

 

 東三局、一本場。灼の連荘。ドラは{八}。

 神楽は、

「ポン。」

 麻里香が捨てた{中}と、

「ポン!」

 藍里が捨てた{南}を共に一鳴きした。

 そして、次巡、筒子多面聴に向けて動いている灼は、不要牌の{五}を捨てた。これを、

「ポン!」

 神楽は鳴いた。

 晒されたのは、{横五五[五]}。赤牌入りだ。

 そして、次巡、

「ツモ。南中混一ドラ4。4100、8100。」

 {七八八八}と待っていたところに{九}を引いての和了りだった。

 

 この神楽の和了りを控室のテレビモニターで見ていた晴絵は、持っていたコーヒーカップを落とした。

 驚きが確信に変わったのだが………、同時にそれは、彼女を激しく動揺させるものでもあった。それで、つい手からカップが離れてしまったのだ。

「やっぱり…。でも、まさか…。そんなことが…。」

「先生、あれって、やっぱり…。」

 玄も、晴絵と同じ何かを感じているようだった。

 しかし、同じ空間にいる他のメンバー、咲にも憧にも穏乃にも恭子にも、何故ここまで晴絵と玄が反応しているのかが理解できなかった。

 

 その頃、奈良の松実館では、副将戦の様子をテレビで見ていた宥が、

「もしかして、あれ…。」

 テレビに噛り付くように近づき、晴絵や玄と同じように驚いていた。相変わらず、夏なのにドテラを羽織り、マフラーをしていたのは言うまでも無い。

 

 そして、千里山女子高校監督の愛宕雅恵も、ホテルのテレビで観戦しながら、

「そんなこと、あるんか?」

 必要以上に、神楽の倍満ツモ和了りに反応していた。どうやら、神楽が打つ麻雀に見覚えがあるような感じだ。

 

 

 東四局、神楽の親。

 ここから、誰も予想していなかった光景が展開された。

 副将戦には、咲や光、淡、穏乃と言った魔物認定者が存在しない。なので、こんなことが起こるとは誰も思っていなかったのだ。

 

「ポン!」

 神楽は序盤で藍里が捨てた{東}を鳴き、

「ツモ。4000オール。」

 中盤に入る前に親満をツモ和了りした。

 

 東四局一本場も、

「チー!」

 神楽は序盤で鳴き、

「ツモ。4100オール。」

 親満を連続で和了った。

 

 東四局二本場も、その勢いは止まらない。

「ポン!」

 麻里香が捨てた{中}を鳴き、

「ツモ。4200オール。」

 その次巡で神楽は三度目の親満を和了った。

 

 そして、東四局三本場も、

「ポン!」

 神楽は、灼が捨てた{東}を鳴き、

「ツモ。6300オール!」

 今度は、親ハネをツモ和了りした。怒涛の勢いで和了りまくる。

 

「(このままじゃいけない。)」

 そう思う灼に、東四局四本場で配牌に恵まれるチャンスが訪れた。しかも、割と早く筒子多面待ちを聴牌できた。

 ならば、そのまま、

「リーチ!」

 神楽の親を流そうと攻めに出た。

 既に神楽には45000点もの差をつけられている。このままでは、二回戦の雪辱どころでは無い。連敗だ。

 すると、

「ポン!」

 このリーチ宣言牌を神楽が鳴いた。この時の彼女の表情は、優しく穏やかだった。

 しかし、その反面、彼女の見せる麻雀は対局者にとって厳しい。次巡、灼がツモ切りした牌で、

「ロン。24000の四本場は25200。」

 神楽に和了られた。

 まさかの親倍直撃だ。

 せっかくのチャンスと思ったのに………。

 これには、さすがの灼もガックリと肩を落とした。

 

 東四局五本場。

 今度は、

「カン!」

 神楽が{發}を大明槓した。

 ただ、咲とは違って嶺上開花で和了るわけでもないし、嶺上牌が有効牌になるわけでもなかった。

 そのまま、神楽は嶺上牌をツモ切りした。

 しかし、その三巡後、

「ツモ。發ドラ2。2600オールの五本場は3100オール。」

 ここでも神楽に和了られた。ただ、何故神楽が門前を崩したのか意味が分からない。理解不能だ。

 

 そして、東四局六本場も、

「ポン。」

 神楽は、灼が捨てた{2}を鳴き、

「ツモ。タンヤオドラ3。3900オールの六本場は4500オール。」

 その数巡後に親満級の手を和了った。

 ただ、神楽の和了りには点数上昇も翻数上昇もないし、嶺上開花もない。灼には、この和了りの特徴が今一つ掴み切れずにいた。

 

 この段階で、各選手の点数は、

 1位:神楽 209100

 2位:灼 81500

 3位:藍里 54700

 4位:麻里香 54700(席順による)

 まるで、この準決勝戦の次鋒前半戦とか中堅戦のような、超魔物認定者が同卓した対局に似た点数だ。

 誰も、副将戦開始前には想像していなかった神楽の独走状態。

 

 そして、東四局七本場。

 麻里香は、

「(マジでヤバイよ。まるで本気の光を相手にしてるみたい。何でもイイから連荘を止めないと、私がトンで終わるよ、これ。)」

 心の中で焦りの声を上げていた。

 とにかく神楽の仕掛けが早い。

 これまでの局でも、麻里香は、神楽の和了りを止めるために鳴いて手を進めようとしていたが、鳴ける牌が出て来ない。となれば、どうしても神楽に遅れを取る。

 ただ、この局は、

「チー!」

 藍里が協力してくれたのだろうか?

 序盤で麻里香は、

「ポン!」

 二連続で藍里の捨て牌を鳴き、

「ツモ。300、500の七本場は、1000、1200!」

 安手だが何とか和了り、長い神楽の親を流した。

 

 この様子を控室のモニターで見ていた晴絵は、

「良く止めたね、あの白糸台の子。まさか、粕渕の巫女に口寄せの能力があるとは思わなかったよ。」

 と言った。

 ただ、憧にとって、これは理解し難い言葉であった。

 口寄せって何?

 純粋に『言葉の意味』自体は分かるが、何故、ここで口寄せなんて言葉が出てくる?

「ハルエ、それって、どういうこと?」

「懐かしい…。あれは露子さんの麻雀だよ。多分、粕渕の巫女は、露子さんの霊を降ろしたんだと思う。」

「露子さんって?」

「玄と宥のお母さんだよ。私の師匠でもあるし、千里山の監督、愛宕雅恵さんのライバルでもあった人だよ。」

「ちょっと、ナニソレ?」

 憧には、そもそも口寄せが信じられなかったし、百歩譲って口寄せが出来たとしても、

「どうして阿知賀との試合に、阿知賀関係者の霊を降ろすのよ!」

 その神楽の神経が信じられなかった。

 降りてくる露子も露子だが…。

 まあ、阿知賀女子学院の決勝進出が決まっていたから露子も降りてくるのを受け入れたのだろうとは思うが…。

 

 

 南一局、藍里の親番。

 前局での和了りでツキが巡ってきたのか、麻里香は配牌二向聴、しかも、これが無駄ツモ無しで聴牌でき、

「リーチ!」

 裏ドラ期待でリーチをかけた。すると、

「ポン!」

 麻里香のリーチ宣言牌を神楽が鳴いた。そして、その数巡後に、

「ツモ。2000、3900。」

 露子と化した神楽がタンヤオドラ3をツモ和了りした。

 

 南二局も神楽が、

「ポン!」

 鳴きを入れ、その数巡後に、

「ツモ。2000、3900。」

 さくっと和了った。

 

 南三局も、

「チー!」

 神楽が同様に鳴いて、

「ツモ。3000、6000。」

 その数巡後に和了った。

 

 オーラスも、

「ポン!」

 神楽が鳴き、

「ツモ。6000オール。」

 まるで簡単作業のように親ハネを和了った。

 

 ここで、誰もが神楽の和了り止めと思っていた。しかし、

「一本場。」

 神楽は連荘を宣言した。まるで次鋒戦の光のようだ。ここで、むしれるだけ点数をむしろうと言う魂胆だ。

 

 その後も、神楽は何らかの牌を副露してから和了った。どうやら、この鳴き麻雀が露子の特性らしい。

 

 オーラス一本場、

「ツモ。6100オール。」

 

 オーラス二本場、

「ツモ。6200オール。」

 

 オーラス三本場、

「ツモ。8300オール。」

 

 オーラス四本場、

「ツモ。6400オール。」

 

 オーラス五本場、

「ツモ。3900オールの五本場は4400オール。」

 怒涛の和了りが続く。一方的な狩りとしか思えない。

 まるで、宮永家の麻雀を見ているようだ。

 

 この時点で、各選手の点数は、

 1位:神楽 348900

 2位:灼 33100

 3位:麻里香 10600

 4位:藍里 7400

 そろそろ、藍里がマズイ状態だ。

 

「玄。対局室に行くよ。玄だって会いたいだろう?」

「はい、先生!」

「他のみんなも折角だから行こう。」

 晴絵に連れられて、阿知賀女子学院メンバーが控室を後にした。今から行けば、丁度、副将前半戦が終わる頃に対局室に着くだろう。

 

 その一方で、各校副将にとっての魔の対局は続く。

 オーラス六本場。

 灼は聴牌できずにいる。麻里香と藍里も神楽の親を流そうと必死だが、手が進まないし殆ど鳴きも出来ない。

 結局、

「ツモ。4600オール。」

 神楽に和了られた。

 

 既に藍里の持ち点は2800点、麻里香の持ち点は6000点まで落ち込んでいた。

 藍里からの直取りなら誰がどのような和了りをしても箱割れする。七本場になるのだから、1000点の和了りにも耐えられない。

 もし、神楽のツモ和了りなら、2600オールの七本付けで藍里が箱割れ、ハネ満ツモなら麻里香まで箱割れして終了となる。

 

 そして、オーラス七本場。

 ここでも、

「ポン!」

 神楽が{發}を鳴き、その数巡後には、まるで次鋒後半戦で玄が見せた第二の龍支配に応えるかのように、

「ツモ。小三元ドラ2。6700オール。」

 三元牌を八枚使った親ハネをツモ和了りし、藍里と麻里香をトバして前半戦を終了した。

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:神楽 382800

 2位:灼 21800

 3位:麻里香 -700

 4位:藍里 -7400

 

 そして、これまでの各校の合計点は、

 1位:阿知賀女子学院 1019900

 2位:白糸台高校 746000

 3位:粕渕高校 647400

 4位:新道寺女子高校 386700

 粕渕高校がプラス282800点を稼ぎ出し、新道寺女子高校を一気に追い抜いた。

 そして、2位の白糸台高校との差を、中堅戦終了時点で482100点あったところ98600点差まで詰め寄せてきた。

 

 

 この荒れた試合で、また誰か失禁してしまうのではないかと思ったのだろうか?

 急にテレビ画像が対局室から放送席に切り替えられた。とにかく対応が手早い。観戦室のモニターも同様だった。

 ただ、今回は報道側の深読みで、失禁者はいなかったのだが…。

 

 

 対局室の扉が開き、晴絵と玄が卓の近くまで駆け寄ってきた。

「ハルちゃん、ゴメン…。」

 灼は、この大敗に責任を感じていた。しかし、晴絵は、

「こう言うこともあるさ。」

 とだけ優しい声で灼に言った。相手が相手なのだから仕方がないといったところだ。そして、神楽に向かって晴絵は、

「露子さんですね。」

 と言った。すると、神楽は、

「久し振りだね、ハルエちゃん。」

 予想通り、そう答えた。

「まさか、こんな形で会えるとは…。」

「玄と宥がお世話になって、ありがとうね。それと、玄。大きくなったね。」

「本当にお母さん…?」

「ええ…。」

「お母さん!」

 玄が大粒の涙をポロポロと零しながら神楽に抱きついた。

 母が死んで、もう何年経つだろう?

 久々の温もりだ。

 

 ただ、麻里香も藍里も、正直状況が良く分からない。

『そもそも露子って誰?』

『ここにいるのは露子ではなく神楽でしょうが?』

『それにお母さんって?』

 二人には、高校三年生の玄が娘役で、高校一年生の神楽が母親役の演劇(茶番劇?)にしか見えなかったのは言うまでもない。




おまけ
安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「なんか今回、急遽、この枠をもらえました…と言いますか、私達に振られました。」

史織「正しくは『押し付けられた』でしょうね。まあ、ちょっとした説明要員としてですけどね。」

莉子「今回、なんと玄さんと宥さんのお母さん、露子さんを口寄せすると言うとんでもない展開と言いますか、暴挙となりました!」

史織「やっぱり白糸台高校が粕渕高校に得失点差で大量リードしていたまま大将戦に突入するのでは面白くないだろうとの考えがあってのようです。ちなみに、口寄せネタがお盆の週になったのは単なる偶然です。」

莉子「露子さんの能力は、原作では明かされていません。でも、赤土晴絵さんに麻雀を教えた人であり、愛宕雅恵さんとも交流があったようですから、それ相当に麻雀が強い方だったと思われます。」

史織「そもそも、能力者であるかどうかも分かりませんが、まあ、ドラ爆娘と暖色系の牌を引き寄せる能力を持つ娘の親ですから、何らかの能力を持っているとは思いますけどね。」

莉子「それで、能力を何か持たせようと思ったわけですが、露子さんの『露』の字から連想できたのが副露だけだったため、ここでは露子さんの能力は鳴き麻雀と言うことになっています。」

史織「それで、洒落で旧姓を『副野(そえの)』にしました。今回は書かれませんでしたけど。」

莉子「ですからフルネームで『副野露子』。まさに『副露の子』ですね。」

史織「ただ、宮永遺伝子ほどの化物ではない設定です。」

莉子「でも、愛宕雅恵さんと同等以上の打ち手と判断しておりますので、愛宕洋榎さんよりも強い設定になっております。」

史織「それから石見さんは、条件付きですが、生霊も降ろせる設定です。」

莉子「どのような条件なのかは、おいおい書かれる予定ですが…。」

史織「と言うわけで、私達のお仕事はここまでです。それでは、続きのオマケをお楽しみください!」

莉子・史織「「それでは、ネクストオマケ、スタート!」」





掲示板形式を書くのは初めてですので、至らぬところが多々あると思いますが、ご容赦ください



某掲示板にて


【チャンピオン咲様降臨】インターハイ準決勝中堅戦【洪水注意報】


1. 名無し麻雀選手

準決勝中堅前半戦スタート
咲様の相手は以下三人
・新道寺の妖艶美女 鶴田姫子(鎖自縛相方)
・白糸台の超絶美女 佐々野みかん(ちゃちゃのん妹)
・粕渕の男装麗人  緒方薫(股の精〇従姉妹)

なんか、咲様の表情がヤバイ


2. 名無し麻雀選手

春季では、みかんが睨まれてたけど今は仲が良いって話
薫と姫子を見る目がマジ怖くね?


3. 名無し麻雀選手

相手が美形だから?
あれだけ怖いのは見たこと無い
咲様は例によって西家
姫子はセルフリザベーションかけてるっぽいけど手が進んでなくてイライラしてる


4. 名無し麻雀選手

いきなり姫子から大明槓!


5. 名無し麻雀選手

これはキタか?


6. 名無し麻雀選手

キタっす!
もいっ股間が出たっす!


7. 名無し麻雀選手

三連カン!
あわやチン郎党の数え厄マン
倫シャン解放!
咲様パワー全開!
いきなり32000!


8. 名無し麻雀選手

姫子漏らした?


9. 名無し麻雀選手

まだ大丈夫そう
今度は、その姫子が親


10. 名無し麻雀選手

咲様、手が進むの早くね?


11. 名無し麻雀選手

なんか狙ったように牌が来るな!
これはやっぱり牌に愛された悪魔?


12. 名無し麻雀選手

点棒に愛され且つ従えてるって感じ
支配してるのは点棒
他はその副産物


13. 名無し麻雀選手

そんなのに勝てるわけねーじゃん?
そんなこと言ってるうちにまた来たぞ!


14. 名無し麻雀選手

男装麗人から
もいっ股間!


15. 名無し麻雀選手

>>14
一瞬、男の股間に見えた

また三連カン
今度はチン郎党
当然倫シャン解放!


16. 名無し麻雀選手

あれって絶対嶺上牌見えてるよな!


17. 名無し麻雀選手

>>16
でも本人は否定し照るッス


18. 名無し麻雀選手

それで咲様の親番
今度はみかんから直取りか?


19. 名無し麻雀選手

そんな気がする


20. 名無し麻雀選手

えっ?


21. 名無し麻雀選手

はっ?


22. 名無し麻雀選手

マジ?
二巡目で国士無双
姫子から出和了り!


23. 名無し麻雀選手

姫子漏らした?


24. 名無し麻雀選手

>>23
まだ耐えてる


25. 名無し麻雀選手

>>23
姫子の場合は漏らすじゃなくてイクの間違い


26. 名無し麻雀選手

次こそ、みかんからやろな?


27. 名無し麻雀選手

どうだろ?
でも咲様、姫子と薫を睨んでたけど、みかんは睨んでなかったからな


28. 名無し麻雀選手

また何かあったんか?


29. 名無し麻雀選手

分からん
でも対局開始前に何か咲様の逆鱗に触れるようなことしたんだろ?


30. 名無し麻雀選手

>>29
オモチのことか?
いや、それならむしろ、みかんだな


31. 名無し麻雀選手

マジか?
今度は咲様の手の中、第三幻できてる!


32. 名無し麻雀選手

ホントだ!
ヤベ、そこから大明カン


33. 名無し麻雀選手

もいっ股間、キタwww


34. 名無し麻雀選手

また三連カンから淋シャン開放!
責任払いで男装麗人から48300!
これで四連続厄マンか
マジスゲエな


35. 名無し麻雀選手

人間じゃないッス


36. 名無し麻雀選手

妖艶美女と男装麗人は、すでに80000点以上削られたもよう


37. 名無し麻雀選手

でも、なんでみかんだけ無傷?


38. 名無し麻雀選手

>>37
みかんだけ怒りを買ってないってことだろ?


39. 名無し麻雀選手

今度は薫からハネ直!
もう1100点しかねえぞ?


40. 名無し麻雀選手

イってるソバから姫子18600放出!


41. 名無し麻雀選手

姫子と薫が並んだッス
これってやっぱり調整ッス!


42. 名無し麻雀選手

となると、みかんは怒りを買ってなかったってことだな


43. 名無し麻雀選手

>>42
まだ分からないじょ!
ここで、みかんから二連続厄マン取れば98300で、ほぼ並ぶじょ!


44. 名無し麻雀選手

>>43
いや、咲様の調整に、ほぼ並ぶはなか!


45. 名無し麻雀選手

>>43~44
たしかにパーフェクトコントロールだな


46. 名無し麻雀選手

なに?
今度は嶺上開花のみだと?
1200オールで姫子と薫のトビ終了!
みかんを、ほぼ無傷で折り返しにした


47. 名無し麻雀選手

画面が飛んだ
やっぱり誰か漏らしたんか?


48. 名無し麻雀選手

被害者は妖艶美女の姫子な気がするし!
どう見ても最後はイキそうだったし!


49. 名無し麻雀選手

>>48
それはマジエロいっす!
ご飯三杯はイケるッス!


50. 名無し麻雀選手

姫子もイイけど痩身超絶美女のみかんだったらチョー嬉しい!


51. 名無し麻雀選手

>>50
それは無いわ
被害者じゃないし睨まれてなかったからな


52. 名無し麻雀選手

>>51
でも、みかんレベルなら、漏らしてなんぼ、漏らしてなんぼですわ!


53. 名無し麻雀選手

みかんの泣き顔絶対かわいいと思…
でも、私、大会参加側だけど、どうもみかんじゃないっぽい


54. 名無し麻雀選手

ナニ?
じゃあ、姫子か?
薫か?


55. 名無し麻雀選手

妖艶&痩身超絶の両輪ならスバラ!


56. 名無し麻雀選手

>>55
だからみかんは無いって53が言ってるじょ!

でも、男装麗人の薫だったらイメージダウンだじぇい!


57. 名無し麻雀選手

たしかに男装麗人には、かっこよくあって欲しいね


58. 名無し麻雀選手

でも、姫子だったら漏らしても似合ってると思うじぇい!


59. 名無し麻雀選手

断層伶人なら
幻滅…ダル…。



続くか、これ?


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四十二本場:残留思念

 千里山女子高校監督の愛宕雅恵は、二十数年前のインターハイ個人戦決勝戦のことを思い出していた。

 

 決勝卓で雅恵は一人の強豪選手と対峙した。

 彼女の名は副野露子(そえのつゆこ)。その『副露の子』と書く名前のとおり、鳴き麻雀を主体とする選手だった。

 そして、彼女の和了り手にはドラが絡むことが多いことと、暖色が入った牌の方が多い傾向にあることが特徴だった。

 

 雅恵は露子と戦い、そして敗れた。

 露子の見せる神がかりとも言える強さに敵わなかった。終始圧倒され続けたのだ。

 個人優勝の栄冠は露子の手に渡り、雅恵は準優勝だった。それも、『惜しくも』などと言う表現からは程遠い、惨敗の2位だった。

 高校卒業後、雅恵はプロの道に進み、その数年後、プロを引退して千里山女子高校の監督に就任した。

 一方の露子は、一度プロの道に進むが、結婚と同時に引退。その後、表舞台に出ることは無かった。

 

「粕渕の子。あの時の麻雀そのものやな。あれが一体何やったんか、後で赤土さんにでも聞かなあかんな。」

 そうは言いながらも、雅恵は大凡見当が付いていた。

 神代小蒔のように神を降ろす者、石戸霞のように邪神を下ろす者など、巫女雀士のオカルトの方向性から考えれば、死者の霊を降臨させることが出来る者がいても何らおかしくは無い。

 ただ、こうなることが分かっていれば、会場に行っていれば良かったと今更ながらに雅恵は思っていた。

………

……

 

 

 どうやら、露子は玄に会わせてもらえると聞いて、神楽の要求………、今日の副将戦に手を貸すことを引き受けたようだ。

 勿論、中堅戦までに阿知賀女子学院の決勝進出が決まっていなければ、この要求は飲まないつもりだった。娘の玄を不利な立場に追い込みたくないからだ。

 しかし、阿知賀女子学院は先鋒戦と中堅戦で勝ち星をあげた。これで明日の決勝進出は確定だ。

 それなら、ここで自分が勝っても阿知賀のマイナスにはならない。それで、みんなに会うことと引き換えに粕渕高校に力を貸すことにした。

 それに、玄と宥を育ててくれた晴絵に礼が言いたかったし、玄と仲良くしてくれた憧や穏乃、灼、それから麻雀選手として玄を一回りも二回りも成長させてくれた咲にも礼が言いたかったのもある。

 ただ、今日の試合で玄が、第二の龍支配まで進化するとは露子も思っていなかったようだ。これには、露子も相当驚かされたらしい。

 まあ、それで小三元を狙って和了ったらしいが…。

 露子曰く、

『あれは、成長した玄を賞賛したつもりだったのよ。賞賛玄…なんてね。クロじゃなくてゲンになってるけど…』

 だそうだ。

 オヤジギャグレベルだが、シャレで小三元を和了ってしまうところが凄い。

 

「でも、露子さんが、ここまで強かったとは…。千里山の愛宕監督よりも強いのは知っていましたけど。」

「雅恵ちゃん?」

「はい。でも、以前は、露子さんも、ここまで化物じゃなかった気がします。多少の振り込みはあった気がしましたけど…。」

「実はね、この神楽って娘の身体に入ったら、相手の手牌が全部透けて見えて…。これなら絶対に振り込まないわ。」

「やっぱりそうですか…。」

「この身体なら麻雀って簡単だわよ!」

 たしかに、そうなるだろう。神楽の守備力に露子の攻撃力。まるで咲や光を相手にしているようなものだ。

 当然のことながら、露子が楽に打てるようになった分、他家にとっては麻雀そのものが悲しいゲームになるのは間違いない。

 

 この会話を聞いて藍里は、

「(愛宕監督って愛宕洋榎の母親でしょ? それより強いなんて、私が勝てるわけ無いじゃん!)」

 と心の中で叫んだ。

 たしかに洋榎は、個人ベスト8に入れていないが、それは、たまたま生まれてきた時代が悪かったからに過ぎない。

 今は、宮永一族や一巡先を見る怜、圧倒的支配力の衣に、神やカムイの力を借りる者など、とんでもない選手がとりわけ多い時代だ。恐らく、洋榎だって普通の時代なら個人ベスト4に三年連続で入るくらいの実力はあるだろう。

 高校時代の雅恵は、今の洋榎よりも強かった。その雅恵より強いとなると、今の時代で言えば怜や憩のレベルであろう。

 強豪校のレギュラーとて勝てる相手ではない。

 この時点で、藍里は自分が勝つのを諦めた感があった。

 

 一方の麻里香は、

「(愛宕雅恵って誰だっけ?)」

 阿知賀女子学院以外は全然眼中に無かったため、強豪校の監督の名前すら頭に入っていなかった。

 

 

「そろそろ対局者以外は対局室から出てください。」

 審判の声だ。もう、副将後半戦が始まる。

「じゃあ、玄。宥によろしくね。」

「はい。お母さん。」

「じゃあ、またね。」

 そう言うと、露子のまとう雰囲気が神楽の身体から消えた。露子が天に帰ったのだ。どうやら、神楽との約束は前半戦だけだったようだ。

 

 もう時間切れだ。

 対局室には副将選手と審判団だけを残し、他は全員強制退室させられた。それがルールなのだから当然だろう。

 そして、対局室のドアが閉められると、場決めがされた。

 後半戦は、起家が灼、南家が麻里香、西家が藍里、北家が神楽に決まった。

 この時、麻里香は、

「(飲むモンブラン買ってくるの忘れた!)」

 つい、阿知賀女子学院メンバーと神楽(露子)の会話に聞き入ってしまい、休憩時間に自販機に行くのを失念していた。

 幸か不幸か、前半戦はお汁粉を飲む余裕が無かったため、殆ど丸残りだ。後半戦は、これを飲むことにしよう。

 

 モニター映像が対局室に切り替わった。

 誰も制服がジャージに変わっていない。

 ネット界隈では、

『誰も放水してないんじゃないっすか?』

『ないない! そんなの……っ!!』

『でも、阿知賀とか妖しいじょ?』

『仲間(被害者)が増えないなんて面白くないんだからモー!』

『↑特定しましたわ!』

 勝手な書き込みがされていた。

 

 

 東一局、神楽の親。ドラは{中}。

「ポン!」

 早速、神楽は藍里が捨てた{東}を鳴いた。

 露子は既に神楽の身体の中から出て行ったはずだ。なら、もう露子のような麻雀は打てないはず。誰もが、そう判断していた。しかし、

「残留思念って知ってる?」

 神楽は、こう言うと、その直後のツモ番で、

「ツモ。ダブ東中混一対々三暗刻ドラ4。16000オール。」

 数え役満をツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {一一五五[五]八八中中中}  ポン{横東東東}  ツモ{八}

 玄と宥の母親らしい手だ。ドラが多く、しかも暖かい牌が多い。

 まだ神楽の身体には露子の思念が残っている。それで、露子の霊が天に帰った後も、しばらくは露子の麻雀が打てるようだ。

 しかも、相手の手牌は神楽の能力で透けて見えている。これでは、前半戦と何も変わらない。

 

 東一局一本場。ドラは{九}。

 ここでも、

「チー!」

 神楽は麻里香が捨てた{一}を鳴き、その数巡後、

「ツモ。中發混一チャンタドラ3。8100オール。」

 今度は親倍をツモ和了りした。

 これで既に後半戦で72300点を稼いだ。まるで最高状態の優希のスタートダッシュを見ているようだ。

 

 しかし、東一局二本場では、灼が良好な配牌と好調なツモに恵まれ、

「リーチ!」

 得意の筒子多面聴リーチをかけてきた。相手が露子の力を使っていても、果敢に攻めて行く姿勢は失いたくない。

 この時、神楽は珍しく眉間にシワを寄せていた。

 相手の手牌が透けて見える彼女には、当然、灼の手が分かっていた。その手を見て驚いていたのだ。

「(まさか、本当にやるとはね。)」

 藍里も麻里香も筒子を避けて萬子を捨てた。そして、今回ばかりは神楽も筒子捨てで灼を煽るのをやめた。

 

 次巡、

「一発ツモ!」

 灼が和了り牌を一発で引き当てた。

 

 そして、開かれた手牌は、

 {①①①②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨⑨⑨}  ツモ{②}

 筒子の純正九連宝燈。これでは。さすがの神楽も筒子が切れる筈が無い。

 

「8200、16200!」

 これで灼は、後半戦で失った点数を取り返した。

 

 

 東二局、灼の親。

 神楽(露子の残留思念)の支配が弱まったのだろうか?

 この局は、

「チー!」

 麻里香が鳴きに出た。憧のような攻め方だ。そして、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 30符3翻の手をツモ和了りした。神楽や灼に比べると打点は低いが、とにかくヤラれる前に和了る精神で極力失点を減らす作戦に出たようだ。

 

 どう足掻いても自分は神楽には勝てない。前半戦の点差を考えれば誰でも分かる。副将戦の勝ち星は、99%以上粕渕高校のものだ。

 でも、大将戦は違う。第二エースの淡なら、きっと勝って二つ目の勝ち星をあげてくれる。そう麻里香は信じていた。

 それに万が一、淡が負けても、淡を抑えられるのは大将戦では穏乃しかいないはず。

 阿知賀女子学院の勝ち抜けが決まっている以上、今回は穏乃に負けても他校に負けなければ………、得失点差で負けなければ良い。

 今の状況で自分に出来るのは、得失点差勝負対策だ。100点でも多く残すしかない。

 

 

 東三局、藍里の親。

「(この親で、私は、どうすべきでしょうか?)」

 藍里も、麻里香同様、前半戦で神楽には400000点近い差をつけられた。さすがに副将戦で勝ち星をあげることは不可能だ。

 ただ、藍里の場合は、麻里香とは立場が随分違う。

 新道寺女子高校は、まだ勝ち星無しだ。

 しかも、副将前半戦を終えた時点で白糸台高校に359300点、粕渕高校に260700点のビハインドがある。

 

 春季大会の実績からも、淡と穏乃を相手に大将戦で慧が勝てるとは思えない。万が一、慧が勝てても得失点差で敗退するのは見えている。

 それに、ましてや今の相手は愛宕雅恵を凌ぐ者。勝つことは正直、端から諦めている。

 

 なら、今、自分がするべきこと…。

 それは、インターハイ常連校、新道寺女子高校のレギュラーとして恥ずかしくない麻雀を打つことだけだ。

 焦らず基本に戻る。そして、七巡目に、ようやく平和ドラ1を聴牌した。

 ここは連荘を狙う。リーチをかけずに出和了りを待つ。

 しかし、灼も麻里香も意外と和了り牌を出してこない。

 神楽に至っては、相手の手牌が透けて見える以上、和了り牌を出すはずが無い。

 結果論だが、藍里は、

「ツモ。1300オール。」

 数巡後に自力で和了り牌を引いてきた。これで麻里香を抜いて3位に浮上した。

 

 東三局一本場。

 ここでは、

「ポン!」

 前々局同様に麻里香が鳴いてきた。安手でも良いから自分が和了ることで失点を抑える魂胆だ。

「チー!」

 やはり、憧に似た打ち方をする。鳴くと手が加速する錯覚を感じさせる。そして、缶のお汁粉を口にすると、

「(エネルギー補給完了!)」

 次のツモ番で、

「ツモ! 1100、2100!」

 和了り牌を持ってきた。今度は麻里香が藍里を抜いて3位になった。

 

 

 東四局、麻里香の親番。

 ここに来て藍里と麻里香の3位争いが激化してきた感じだ。神楽に勝てずとも、互いに恥ずかしくない戦いをしようと必死なのだ。

「リーチ!」

 この局で先制したのは藍里だった。

 

 さすがに一発では振り込めない。麻里香は面子を崩して現物を落とし、様子を見る。

 神楽は、相変わらず際どいところを切ってくる。和了り牌の隣の牌とかを笑顔で捨ててくるのだ。

 それも一発で。しかも、無筋なのに平然と…。

 これは、リーチ者としては、悔しいどころか、

「(舐めてんのか、こいつ!)」

 と思わず言いたくなるレベルだ。

 しかし、ここで怒ったら負けだ。冷静さを失わせるのが神楽の目的なのだろうから。

 

 一発ツモにはならなかったが、数巡後に、

「ツモ。メンピンツモドラ1。1300、2600。」

 藍里がツモ和了りした。これで、藍里が再び麻里香を抜いて3位に浮上した。

 

 これより南入する。

 現段階で、各選手の点数は、

 1位:神楽 151400

 2位:灼 102800

 3位:藍里 73700

 4位:麻里香 72100

 前半戦の南入時と比べると、まだマシだ。あの時は、既に神楽は200000点を越えていたし、藍里も麻里香も50000点代にまで落ち込んでいた。

 

 しかし、ここに来て急に神楽の雰囲気が変わった。

 体内に残された露子の残留思念を、この親番で一気に使うつもりだ。

 

 神楽が卓中央のスタートボタンを押した。

 牌が自動でせり上がり、サイが回された。

 

 南一局。

「ポン!」

 いきなり神楽が{中}を鳴いた。

 まだ二巡目の一鳴きだ。確実に連荘するつもりなのだろうか?

 そして、次巡。まだ、ヤオチュウ牌処理をしているところ、藍里が捨てた{9}で、

「ロン。中ドラ3。11600。」

 神楽が和了った。このスピードが相手ではどうにもならない。何が危険牌かが分からない巡目だ。さすがに巡り合わせが悪かったとしか言いようが無い。

 

 ただ、これで藍里の運が下がったのは言うまでも無かった。

 南一局一本場。

 ここでは、

「ポン!」

 またもや神楽が二巡目で{中}を鳴いた。

 今回も一鳴きだ。連荘狙いだろうか?

 そして、次巡、灼が捨てた{發}も、

「ポン!」

 神楽が鳴いた。これも一鳴きだ。

 

 一人のプレイヤーに三元牌が二つ鳴かれ、しかも残る一つの所在も分からない状態にある。当然のことながら、灼、藍里、麻里香の脳裏に嫌な単語が浮かんできた。

「「「(大三元!?)」」」

 次鋒戦で玄が和了った役満だ。しかも、今の神楽は玄の母親、露子の残留思念を武器にしている。

 それに、露子は前半戦で狙ったかの如く小三元(賞賛玄)を和了っている。

 だとすると、ここでも第二の龍支配もどきが来るのか?

 

 神楽は、一巡前で{二}を、そして、この巡目では{四}を捨てた。

 ここで藍里がツモった牌は{一}。索子の面子が中心になっている今の藍里の手では、完全に使えない牌だ。

「(大丈夫だよね?)」

 藍里は、これをツモ切りした。しかし、これで、

「ロン!」

 神楽が和了った。まさかの{一}単騎だ。

 開かれた手牌には{白}の暗刻もある。最悪の予感が当たってしまった。

「こ…これって…。」

「48300。」

 これで、藍里の持ち点が一気に13800点まで減った。

 次に万が一にも親ハネを振り込んだら終わる点数だ。

 

 南一局二本場。

「ポン!」

 ここでも神楽が鳴いてきた。今度はオタ風の{西}を晒した。さらに神楽は、

「ポン!」

 その二巡後に{⑨}を鳴いた。そして、

「ツモ!」

 その勢いで一気に和了りまで持って行った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①[⑤][⑤]⑥⑥⑥}  ポン{⑨横⑨⑨}  ポン{西西横西}  ツモ{①}

 筒子の混一色対々和だが、{西}以外は全て赤い色が付いている。何気に宥の和了りを連想させる。

 

「混一対々ドラ2。6200オール。」

 これで、藍里の持ち点が7600点になった。非常にヤバイ点数だ。

 当然、神楽は露子の能力が使えるうちに藍里のトビ終了を狙うだろう。とにかく、藍里は振り込まないよう打ち回すしかない。

 

 南一局三本場。ドラは{4}。

 神楽はオタ風牌から切り出し、

「カン!」

 序盤で{八}を暗槓した。新ドラは{②}。

 今回のドラは、共に暖色系ではない。

 

 嶺上牌を引き、打{4}。玄と違ってドラを捨てられないわけではない。

 ただ、これで{九}が使い難くなった。神楽の親を流そうと、麻里香はタンヤオ手に照準を絞る。そして、捨てた{九}を、

「ポン!」

 神楽が鳴いた。そして、打{②}。平気でドラを捨ててくる。

 いや、これは萬子染めか!?

 その後、神楽は索子と筒子をドンドン捨てていった。字牌はその後になる。明らかに萬子染めの捨て牌だ。

 そして、中盤に差し掛かった時だ。

「ツモ。清一対々赤1。8300オール!」

 神楽が親倍を容赦なくツモ和了りした。これで、藍里のトビで副将後半戦は終了した。

 

 この結果、後半戦の各選手の点数は、

 1位:神楽 254800

 2位:灼 88300

 3位:麻里香 57600

 4位:藍里 -700

 

 そして、前後半戦の合計点は、

 1位:神楽 637600

 2位:灼 110100

 3位:麻里香 56900

 4位:藍里 -4600

 副将戦は圧倒的点差で、粕渕高校が念願の勝ち星を手にした。

 

 また、これまでの各校の合計点は、

 1位:阿知賀女子学院 1108200

 2位:粕渕高校 902200

 3位:白糸台高校 803600

 4位:新道寺女子高校 386000

 粕渕高校が2位に浮上した。もし、この点差のまま大将戦で淡が穏乃に勝てず、得失点差勝負になければ白糸台高校は敗退する。

 

 この総合得点が電光掲示板に示された。これを見て麻里香は全身が硬直し、顔からは完全に血の気が引いた。

 逆転されたかも知れないとは思っていたが、実際にその点数を目の当たりにした衝撃は大きい。

 

 今まで、決勝戦以外で美女軍団白糸台高校が敗退する未来を誰も想像していなかった。咲達でさえ白糸台高校が敗退する道筋が見えなかった。

 しかし、それが現実化してきた。

 まさか阿知賀女子学院、龍門渕高校、永水女子高校、臨海女子高校以外に白糸台高校を追い込むチームが存在するとは…。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の挨拶を済ませると、副将選手達は対局室を後にした。

 

 

 副将戦が始まる前は、粕渕高校に480000点以上の差をつけていたはずだ。勝ち星があげられなくても、それに万が一、大将戦で淡が穏乃に負けても、得失点差で決勝進出は確実なはずだった。

 もし、これで、大将戦で淡が勝てず、得失点差で粕渕高校に負けたら…。

 間違いなく自分が戦犯だ。

 麻里香の目から怒涛の如く涙が溢れ出てきた。

「ゴメン…みんな…。」

 彼女は、足元もおぼつかず、フラフラしながら自販機の前を通り過ぎた。

 今は、もう『飲むモンブラン』のことすら頭から抜けている。それだけ大ショックだったのだ。

 さすがにチームのみんなに会わせる顔が無い。

 このまま、控室に行かずに会場の外に逃げ出してしまいたい。

 麻里香の心の中は、そんな気持ちでいっぱいになっていた。




おまけ
前回からの続きです


【チャンピオン咲様降臨】インターハイ準決勝中堅戦【洪水注意報】


155. 名無し麻雀選手

やっと再開したッス
薫がジャージ着てるッスよ?


156. 名無し麻雀選手

と言うことは…被害者は男装麗人デー!


157. 名無し麻雀選手

彼女だけは絶対にヤラないと思ってたのに幻滅だよモー!
でも、私の仲間が増えて嬉しいかモ


158. 名無し麻雀選手

>>157
お前も被害者か?


159. 名無し麻雀選手

>>158
157だけど
元被害者だよモー


160. 名無し麻雀選手

残念姫子じゃなか…


161. 名無し麻雀選手

みかんと信じて全裸で待ってたのにあったかくない!


162. 名無し麻雀選手

>>161
ないない!……そんなの……っ!


163. 名無し麻雀選手

>>161
みかん、睨まれてなかった時点で違うと思うッス


164. 名無し麻雀選手

>>161
漏らしたところがあったかいのは放出直後だけだじぇい!


165. 名無し麻雀選手

なんか後半戦始まって咲様、凄い機嫌イイケドなにがあったんだ?
妙にハイだぞ?


166. 名無し麻雀選手

ホントだ!
これはこれで気味悪い


167. 名無し麻雀選手

こんな表情の咲、昔見たことがある
あれが出るのか
みかん、可哀想に……


168. 名無し麻雀選手

>>167
お前関係者かなにかか?


169. 名無し麻雀選手

>>168
167だが、昔からの知り合いなんだ
あの表情の咲は、一瞬で元プロを箱下10万点以下にした
25000点持ちでだけど


170. 名無し麻雀選手

>>167
それじゃ、一瞬で125000点以上稼いだってこと?
もしかして親のトリプル厄マン?


171. 名無し麻雀選手

咲様の手、とんでもないことになってる!


172. 名無し麻雀選手

なんじゃこりゃぁ!


173. 名無し麻雀選手

>>172
血だぁー!


174. 名無し麻雀選手

>>173
そういうことは別のところでやってくれ!
これって、本当にトリプル厄マン和了るかもしれないな


175. 名無し麻雀選手

キタwww
大明カンwww


176. 名無し麻雀選手

これマジかよ?


177. 名無し麻雀選手

キタwww
もいっ股間!


178. 名無し麻雀選手

大四喜字一色四槓子
144000点!
167の言うとおりになった!


179. 大四喜字一色四槓子

また画面が飛んだぞ!


180. 名無し麻雀選手

当然やろな
これは薫あたり、また大洪水や


181. 名無し麻雀選手

今度こそ被害者は妖艶美女の姫子だじょ!


182. 名無し麻雀選手

>>181
その場合イクの間違いじゃなかか?


183. 名無し麻雀選手

でも、姫子もイイけど痩身超絶美女のみかんが被害者のほうがヌケるっす!


184. 名無し麻雀選手

気持ちは分かるけどな
みかんは振り込んでないからな
大抵ヤルのは振り込んだ者か下家
咲様の強大なエネルギー波を下家は受けてビビるらしい


185. 名無し麻雀選手

>>184
下家がビビるってなんで?


186. 名無し麻雀選手

>>185
副露牌が飛んでくるのが咲様と下家の間
それで下家に咲様のオーラが飛んでくるってわけ


187. 名無し麻雀選手

妖艶&痩身超絶のダブル放水ならチョーうれしいよー!


188. 名無し麻雀選手

放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!


189. 名無し麻雀選手

やっぱり見たいのは、魔王にヤラれる美女二人ですのだ!?
でも、オモチがないと面白くないのです!
オモチベーションが上がらないのです!


190. 名無し麻雀選手

>>189
オモチベーション?


191. 名無し麻雀選手

>>190
相手にするな!
そいつは知性もおじんなオモチ星人だ!


192. 名無し麻雀選手

仲間が増えるって先輩が喜ぶデー!


193. 名無し麻雀選手

でももう一回薫だったらファンやめるし!


194. 名無し麻雀選手

イケメン失格だよモー!
仲間が増えるのはうれしいけど


195, 名無し麻雀選手

>>194
157か?


196. 名無し麻雀選手

>>195
そうだけど、ついでに192の先輩だよモー


197. 名無し麻雀選手

なんか、今までのダイジェストやるみたい
絶対にこれ、時間稼ぎだな!


198. 名無し麻雀選手

掃除の時間が必要なんだろ
てことは、やっぱり誰かが漏らしたってことか!


199. 名無し麻雀選手

今、会場にいる
姫子がジャージ着てるの見た


200. 名無し麻雀選手

てことは、イッたのは姫子!


201. 名無し麻雀選手

姫子確定!
みかんは無傷


202. 名無し麻雀選手

ダル………



まだ続くのか、これ?


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四十三本場:準備満タン

 白糸台高校控室では、

「燃えてきたよ! 準備満タンだからね!」

 淡は、気合い十分だった。

 もう今更、淡の『準備満タン』に突っ込む者は白糸台高校にはいない。何回突っ込んでも直る気配が無いし、

『もう、それでイイや!』

 と和でさえ思っていた。

 

 ただ、この逆境の中でも物怖じしないのが淡の良いところだ。相手の中に天敵、高鴨穏乃がいても、

「今度こそ勝つ!」

 勝利に向けた心構えは崩れない。

 

 淡は、

「じゃあ、セイコ。一緒に来て。」

 部長の誠子を連れて控室を出た。

 別に心細いわけではない。麻里香のことが心配だったからだ。

 

 

 対局室に向かう途中で、二人は、暗い顔で通路の壁にもたれかかる麻里香を見つけた。一応、外に逃げ出すのだけは止めてくれたようだ。

 

 淡の前では、いつも明るい麻里香が淡と誠子に目が合わせられないでいる。相当重症だ。

「淡…、部長…、ゴメンなさい。」

 麻里香の目から、涙がポロポロと零れ出した。かなり責任を感じているようだ。

 

 もし得失点差勝負になり、3位で準決勝進出を逃したら、麻里香のことを周りは戦犯扱いするだろう。

 誠子には、今の麻里香の気持ちが良く分かる。昨年のインターハイ準決勝で大量失点を経験しているからだ。

 正直なところ、光以外の誰を副将に配置しても同じ結果になったであろう。淡でさえ神楽に勝てる保証は無い。

 しかし、それを外野は、必ずしも理解してくれない。

 特に今回の場合は、誠子の時と失点したレベルが違う。もっとエスカレートした言い方をされる可能性すらあるだろう。

「私…、もう…。」

「麻里香が謝る必要は無いって。それに、まだ負けたわけじゃないからさ。」

「でも、部長。副将戦での粕渕との差は580000点です。今まで、みんなで作ってくれた貯金をマイナスにしちゃって…。」

 すると、淡が、

「私が勝てば問題なし!」

 自信に満ち溢れた笑顔でそう麻里香に言った。

「でも…。」

「大丈夫。私には大宇宙の力が付いているから。じゃあ、行ってくるから応援頼むね!」

「うん…。」

「それじゃ、セイコ。後をよろしく。」

「分かってるって。」

 誠子は、麻里香を連れて控室に戻った。さすがに今の麻里香は、一人で控室に入れる精神状態ではないだろう。だからこその付き添いだ。

 

 

 一方の淡は、

「(予言では、準決勝戦敗退は無いって聞いてるから、きっと大丈夫!)」

 そうやって自分に勝てると言い聞かせていた。

 

 実は、彼女の能力は生まれながらのものではなく、後天的に外部………異星人から与えられたものであった。

 その者達が住む星には、とんでもない預言者と、とんでもない超能力者がいた。その超能力者が少し前に、淡にテレパシーで、

『準決勝敗退は無いから安心して打ちなさい!』

 と、その預言者の言葉を送ってきたのだ。

 淡には超能力は無いが、相手方の超能力が強力なため、淡とのテレパシー通信が自在に出来るらしい。

 また、その預言者は、いつも未来のことを抽象的な『よく分からない』言い方でしか教えてくれない。今回のように『敗退は無い!』と断言するのは珍しい。

 

 ただ、穏乃を相手に粕渕高校との約100000点差を本当に逆転できるのだろうか?

 もっとも、あの天敵穏乃に勝てれば問題ないわけだが…。

 

 仲間の前では強気な姿勢を見せていたが、淡だって本当は不安だった。でも、絶対に逃げ出すわけには行かない。特に今回は、親友の麻里香のためにも…。

 

 とにかく今は、彼女にチートな能力を与えてくれた異星人の言葉を信じるしかない。

 勿論、淡をリラックスさせるために彼らが嘘をついた可能性も有り得るが、最初から負けるつもりで卓に付くわけには行かない。

「よし!」

 淡は気合いを入れ直して対局室に向かった。

 

 

 数分後、淡が対局室に入室した時、既に他の大将メンバーは卓に付いて、淡が来るのを待っていた。

「遅かったし!」

 そう口にしたのは新道寺女子高校大将の中田慧だった。風越女子高校の池田華菜に瓜二つの、図々しくてウザイ奴だ。

 慧の言い方は、多少乱暴な感じがする。ただ、これは慧が決して自分達の勝利を諦めていない故だろう。

 自分の勝利を信じる心。今の慧からは、その雰囲気が強く漂って来る。

 

 新道寺女子高校は、白糸台高校よりもさらに状況が悪い。圧倒的点差で負けていて、もし慧が大将戦で勝ち星を手中に収めても、粕渕高校との500000点以上の点差を逆転できなければ決勝進出は無い。

 しかも、相手は春季大会で、あれだけ慧に嫌な思いをさせた自分と穏乃だ。

 それでいて、自らを奮い立たせられるなんて…。

 なんて心が強い人だ!

 ………と、淡は慧に対して思ったようだが………。

 

 まぁ、慧は池田華菜と大同小異の思考回路を持っているので、ほぼ間違いなく、

 『前後半戦、合計4回の親で、毎回ダブル役満ツモ和了りすれば500000点差くらい逆転できるし!』

 とか考えていそうだ。

 ただ、仮にそうだとしても、そのポジティブシンキングは凄い。

 正しくは、前向きと言うよりも、無謀な発想でしかないのだが………。

 

 とは言え、この慧の姿を見て、淡は俄然ヤル気が出てきた。元気を分けてもらったような感じがする。ある意味、尊敬に値する。

 しかし、この勝負は負けられない。当然、淡は勝気な言葉を慧に返した。

「そりゃ、主役は最後に登場するもんだからね!」

「違うし! 主役は慧ちゃんだし!」

「淡だもん!」

「慧ちゃんだし!」

「淡だもん!」

「慧ちゃんだし!」

 …

 …

 …

 

 穏乃は、

「(このやり取り、どこかで見たような…。)」

 デジャブーを感じていた。それもそのはず。春季大会準決勝大将戦開始直前の、華菜と慧の会話と基本同じだ。

 

 また、この様子をテレビで見ながら、

「また慧の奴は…。」

 新道寺女子高校前キャプテンの白水哩は、頭を抱えていた。彼女も、デジャブーを感じていたのは言うまでも無い。

 

 一方、白糸台高校控室では、

「淡の奴…。」

 誠子が頭を抱えていた。しかし、その隣では麻里香が、

「相変わらずアホの娘してる…。」

 少しだけ笑顔を取り戻していた。結果オーライかもしれない。

 

 

 また、この様子を風越女子高校大将だった池田華菜は、自宅テレビで見ていた。

 団体戦は県予選敗退。華菜自身も個人戦では5位で全国の切符を逃していた。なので、既に部活を引退していた。

「新道寺の子にガンバって欲しいし!」

 昨年と一昨年の夏の県予選では、団体戦は点数引継ぎ制で、大将の華菜は、二年連続で魔物との戦いを余儀なくされた。一昨年は衣、昨年は衣+咲。

 誰がやっても勝てない相手。その対局を任され…そして負けた。風越女子高校の敗退を決めたのだ。

 

 今年も決勝戦で衣に大敗を食らった。

 ただ、副将戦終了時点で龍門渕高校の優勝が決まっていたのは、華菜にとって不幸中の幸いだったかもしれない。華菜の負けが、風越女子高校の負けに直接繋がらなかったのだから…。

 

 華菜は、春季大会では、持ち点10000点を引継いで大将戦に望んだ。対するは淡と穏乃のダブル魔物。

 淡の連続和了りで0点にされ、さらに、そこから淡のダブルリーチで海底牌もしくは海底牌直前までもつれ込むと言う、まさに胃に穴が開きそうな対局を強いられた。それも、三局連続だ。

 その時、慧も同じ境遇にいた。

 華菜も慧も、いつトバされるのかと震えながら打った。対局後、麻雀が怖くなったし、麻雀を辞めたいと思ったくらいだ。

 振り返ってみると、ここぞと言うところで毎回不幸な目に遭っているような気がする。しかし、それでも華菜は不屈の精神で這い上がってきたのだ。

 華菜は、同じ苦しみを共にした慧に自分の姿を重ねていた。だからこそ報われて欲しいと思っていたのだ。

 

 

「では、そろそろ場決めをしてください。」

 審判の声だ。

 そう言えば、穏乃も慧も、もう一人の選手………、粕渕高校の大将石原麻奈も、淡が来るまで場決めの牌を引くのを待ってくれていた。

 これには、さすがに自由奔放の淡でも、

「待ってくれてありがとう。私は引くの最後でイイから…。」

 少々恐縮していたようだ。

 

 ちなみに麻奈は、白築慕プロが中学1年生の時に島根県大会決勝戦で戦った姫原中先鋒の石原依奈の姪であった。

 ただ、神楽のような能力者では無い。普通に麻雀が強い女子高生だ。

 

 

 順に場決めの牌が引かれ、起家は淡、南家は穏乃、西家が慧、北家が麻奈に決まった。

 早速、サイが振られ東一局が始まった。

 

 この対局は、穏乃の山支配に突入するまでは、常に淡の絶対安全圏が発動する。淡のみ手が軽く、他の三人は常に五~六向聴になる。

 この局は、二巡目で、

「ポン!」

 淡が慧の捨てた{發}を鳴き、

「ツモ! 發ドラ2。2000オール。」

 絶対安全圏の間に淡が和了った。

 とにかく、穏乃の能力が目覚める前に稼ぐだけ稼ぎ、その後は放銃しないように守りの麻雀を打つ。それが、今日の淡の目標とする進め方だ。

 

 東一局一本場も、

「チー!」

 麻奈が捨てた{⑧}を鳴き、

「ツモ! タンヤオドラ2。2100オール!」

 とにかく淡は早和了で行く。

 今回も絶対安全圏の間に淡が和了った。

 

 東一局二本場。

 ここでも淡が、

「チー!」

 麻奈が捨てた牌を鳴き、

「ツモ! ダブ東ドラ1。2800オール!」

 役牌バックで和了った。他家が聴牌できないはずの巡目、絶対安全圏での早和了りだ。

 

 東一局三本場も、

「ツモ。2300オール!」

 

 東一局四本場も、

「ツモ。2400オール!」

 

 共に淡が和了った。

 この時点で、各選手の点数は、

 1位:淡 134800

 2位:穏乃 88400

 3位:慧 88400(順位は席順による)

 4位:麻奈 88400(順位は席順による)

 淡が他家に40000点以上のリード。この後、余程のポカをしない限り、通常はトップを取れる点差だ。

 ただ、ここには、その余程を作り上げる深山幽谷の化身がいる。当然、淡としても気が休まるはずは無い。

 

 そして、東一局五本場。

「ポン!」

 淡は、穏乃の捨て牌を即刻鳴いたが、その後、中々和了り牌を掴むことができずに絶対安全圏を越えてしまった。

 当然、他家にも聴牌するものが出てくるはず。

 そして、十巡目。

「ツモ、タンヤオ。500、1000の五本場で1000、1500だし!」

 慧が和了った。これで淡の長い親が終わった。

 

 

 東二局、穏乃の親。サイの目は7。

 最後の角から先が最も長いパターン。

 淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 ここで本気を出すことにした。

 リーチをかけることは、攻撃に特化すると同時に守備力をゼロにする。そのため、穏乃相手の終盤ならばリーチは控えるべきだろう。

 しかし、まだ東二局だ。やるなら今だ。

「リーチ!」

 淡がツモ切りでダブルリーチをかけた。

 

 この発声で慧の顔色が変わった。急に辛そうな表情を見せた。

 春季大会で持ち点をゼロにされたところにダブルリーチをかけられた、あの恐怖を思い出したのだ。

 あの対局で慧の心につけられた傷は大きい。そのトラウマが今、慧を恐怖に陥れた。

 

 さっきの和了りで、慧は自分を波に乗せたいと思っていたが、逆に意気消沈したのは言うまでもない。

 穏乃は、まだスイッチが入っていない。

 麻奈も淡のダブルリーチを警戒して振り込まないようにするのがやっとの状態だ。

 結局、

「カン!」

 淡が角の直前で暗槓し、その次巡、

「ツモ! 3000、6000!」

 ダブルリーチツモ槓裏4で和了った。

 

 

 東三局、慧の親。サイの目は11。

 最後の角の後が結構短いパターンだが…、しかし、

「まだまだ行くよ! リーチ!」

 ここでも淡がダブルリーチをかけた。

 慧は親だが、完全に恐怖を刷り込まれていて動けない感じだ。穏乃も麻奈も振り込みを回避するだけでしかない。

 そして、

「カン!」

 淡が最後の角の直前で暗槓し、その次巡、

「ツモ! 3000、6000!」

 ここでもダブルリーチツモ槓裏4で和了った。

 

 

 東四局、麻奈の親。サイの目は9。

 最後の角の後が二番目に短いパターン。しかし、そろそろ見えてくるはずの靄………、穏乃の山支配の痕跡が見えてこない。

「(ちょっと勝負してみようかな?)」

 淡は、もしかしたら穏乃の支配の発動が遅いのではないかと思い、

「リーチ!」

 ここでもダブルリーチで攻めてみることにした。

 

 いつもなら、巡目が進むに連れて靄が濃くなってゆくはずなのだが、一向にその気配がない。そして、

「カン!」

 淡は、最後の角の直前で暗槓できた。これは、まだ穏乃の支配は自分の支配を凌駕していない証拠だ。

 その次巡、

「ツモ! 3000、6000!」

 ここでも淡は、ダブルリーチツモ槓裏4で和了った。いや、本人としては和了らせてもらえたと言った感じだった。

 正直なところ、淡は穏乃に満貫クラスを振り込むのを覚悟していた。穏乃の山支配が発動すれば、十分有り得る話だからだ。

 

 

 南入した。

 今度は南一局、淡の親番だ。

 サイの目は淡にとって最悪の8。最後の角の後が最も短いパターンだ。

 しかし、まだ靄が見える気配がない。

 既に淡の点数は160000点を超えている。これなら、万が一、穏乃に振り込んでも問題ないだろう。

「リーチ!」

 ここでも淡はダブルリーチで攻めた。

 

 ひたすら牌をツモり、切る音だけが対局室にこだまする。誰も鳴かずに、そのまま局が進んで行く。

 慧も麻奈も穏乃も、むしろ、鳴いて手を狭めるのを避けているように見える。

 

「カン!」

 淡は、最後の角の直前で暗槓した。

 本来ならば、海底牌は穏乃に行くはずだったが、これで一枚ツモ牌が減って、海底牌は淡のツモに変わった。

 その次巡…、つまり海底牌で、

「ツモ!」

 まさかのダブルリーチ海底ツモ。これは、ローカル役満『石の上にも三年』だ。

 もっとも、このローカル役満は、本大会では認められていないのだが、淡のダブルリーチには槓裏4が乗る。よって親倍だ。

「8000オール!」

 これで、淡の点数が190000点を超えた。

 

 南一局一本場。サイの目は7。

「まだまだ親、やめる気ないからね!」

 淡は、

「ダブルリーチ!」

 攻める手を緩めなかった。まだ穏乃の支配を感じなかったからだ。

 この局も、

「カン!」

 淡が角の直前で暗槓し、その次巡、

「ツモ! 6100オール!」

 ダブルリーチ槓裏4の親ハネツモを決めた。これで200000点突破。

 

 南一局二本場。サイの目は12。

 淡は、ようやく靄がかかってくる雰囲気を感じた。

「(やっとだね、シズノ!)」

 しかし、まだ淡は押す。今度こそ、穏乃と勝負だ。

「リーチ!」

 これで六連続のダブルリーチ。普通は有り得ない現象だろう。

 たしかに、巡目が進むに連れて靄が深くなる感覚がある。間違いなく穏乃の支配が発動している。

「カン!」

 淡は、最後の角の直前で暗槓まではできた。あとは、和了れるかどうかと、槓裏が乗るかどうかだ。

 しかし、その次のツモで穏乃が、

「ツモ平和タンヤオドラ3。3200、6200。」

 ハネ満を和了った。しかも、このうちのドラ一枚は槓ドラだ。淡が暗槓しなければ満貫止まりのはずだった。

 

 一応、淡は、

「失礼。」

 槓裏を見させてもらった。

 一応、乗っている。まだ穏乃の支配は完全ではなさそうだ。

 

 

 南二局、穏乃の親。

 ここでも淡は、配牌時に絶対安全圏とダブルリーチの能力を使った。

 今回も一巡目のツモで聴牌できている。まだダブルリーチの能力は消されていない。ならば、恐らく絶対安全圏も崩されてはいないだろう。

 前局で感じた靄も、何故か消えている。穏乃の支配力は、今日は今一つのようだ。

 しかし、ここでは、淡はダブルリーチを敢えてかけなかった。もう無理をする必要は無い。あと三局、安手で流せば良いのだ。

 淡がドラを引いた。これを手牌と入れ替える。赤牌も同様だ。これで、和了り役は無いが、ドラ2になった。

「チー!」

 麻奈が動いた。

 この点差を逆転できるとは思えないが、自分達の決勝進出をかけた試合だ。麻奈も諦めるわけには行かない。

 ただ、それでツモが変わり、本来なら淡に行かなかったはずの和了り牌を淡に回してしまった。

「ツモドラ2。1000、2000」

 和了り役はツモのみ。それでドラ2の手だ。

 これで、穏乃の親を流した。

 

 

 南三局、慧の親。ドラは{9}。

 淡がダブルリーチをかけてこないなら慧のトラウマは出ない。

 しかし、勝ち星のない慧達が決勝進出するためには、この大将戦でトップを取るだけではなく、550000点近く稼がなくてはならない。

 一発、ドデカイ手を狙う。

 ところが、慧が捨てた{西}を、

「ポン!」

 早々に淡が鳴いてきた。慧の親を流しに来たのだ。

 

 この時の淡の手牌は、

 {一二三①①①⑥⑦⑧56}  ポン{西横西西}

 ここから打{①}で聴牌維持。アタマと刻子を鳴いて入れ替えたのだ。

 次巡、淡は{[⑤]}を引いて、打{⑧}。

 その二巡後、今度は{[5]}を引いて{5}と入れ替えた。

 そして、次巡、

「ツモ。西ドラ2。1000、2000。」

 淡は慧の親も流した。

 

 

 オーラス、麻奈の親。

 ここでも淡は、配牌聴牌からダブルリーチをかけずに手を伸ばし、

「ツモ。1000、2000。」

 最後の局も和了ってトップを決めた。

 

 これで、各選手の点数は、

 1位:淡 216400

 2位:穏乃 70900

 3位:慧 58600

 4位:麻奈 54100

 前半戦は、淡の大勝利だった。




おまけ
前回からの続きです。
一旦、ここで、このシリーズに一区切りつけます。



テレビでは先鋒戦から中堅戦までのダイジェストが流れている


【チャンピオン咲様降臨】インターハイ準決勝中堅戦【洪水注意報】


231. 名無し麻雀選手

先鋒前半戦
たしかに煌の大七星は見事だった


232. 名無し麻雀選手

大七星あがるのは大星かと思ってたけどな
名前がそれっぽいし


233. 名無し麻雀選手

円光とのどっちは同点だったな


234, 名無し麻雀選手

孕村ってのどっちだったの?


235. 名無し麻雀選手

>>234
長野では有名
去年のインターハイ前の四校合同合宿で孕村が白状した


236. 名無し麻雀選手

小学生時代の円光って片岡優希クリソツ!


237. 名無し麻雀選手

>>236
見た見た
ハルエ日記の河水浴のやつな
東風もあと5年くらいすればアコみたいになるってことだ


238. 名無し麻雀選手

東風が円光し始めるとか?


239. 名無し麻雀選手

ないない!……そんなの……っ!


240. 名無し麻雀選手

後半戦も円光とのどっちは同点だったんだな
席順で円光が勝ち組か


241. 名無し麻雀選手

>>240
勝ち星な!

他のサイトで見たが、円光の家って神社だったのか?


242. 名無し麻雀選手

今頃知ったか


243. 名無し麻雀選手

巫女の仕事もしてるんだろ?
円光してたら巫女できないじゃん?


244. 名無し麻雀選手

だから円光はデマだってば!


245. 名無し麻雀選手

結構、先鋒戦も面白かったんだな
光ちゃんと咲様以外興味なかったから見てなかった


246. 名無し麻雀選手

光ちゃんカワイイ
宮永遺伝子の中で一番かわいくネ?


247. 名無し麻雀選手

>>246
禿同


248. 名無し麻雀選手

>>246
禿同


249. 名無し麻雀選手

>>246
禿同


250. 名無し麻雀選手

結構、光ファン多いんだな
でも、あいつの正体はミナモ・ニーマンだぞ?


251. 名無し麻雀選手

>>250
そんなの関係ねぇ!
セイコとタカミを追い出して孕村とミナモが入って
白糸台は顔面偏差値最高位!
みかんも麻里香も最高!


252. 名無し麻雀選手

去年の白糸台で綺麗だったのは照と淡くらいだからな
今年の白糸台最高!


253. 名無し麻雀選手

次鋒戦の映像でてるぞ
前半戦は光が完全に圧倒してるな


254. 名無し麻雀選手

ドラが無くてこれだからな
凄いの一言だね


255. 名無し麻雀選手

>>251
麻里香って劇甘党の娘だよね?
いつもお汁粉飲んでる


256. 名無し麻雀選手

ドラ娘はドラ10の数え厄マン?
どれだけガメれば気が済むんだ?
まあ、カワイイから許す!


257. 名無し麻雀選手

>>256
泣き顔がイイ!
去年、元チャンプにヤラれてた、あの表情がイイ


258. 名無し麻雀選手

>>255
あの娘タイプ


259. 名無し麻雀選手

でも、光ちゃんはトップ確定なのになんで連荘したんだ?


260. 名無し麻雀選手

ドラ娘がドラを切ったらドラ爆支配がどうなるのかを実験したんだと思う
春大では臨海の明華がやったじゃん?


261. 名無し麻雀選手

見事にドラ爆崩れたな


262. 名無し麻雀選手

そしたら、今度は三元牌をガメ始めたからな
英語圏では三元牌のことをドラゴンと呼ぶから、なんとなく予想はしてた


263. 名無し麻雀選手

ダイジェストのほうでも言ってるけど、中堅戦が終わるまでに
厄マンが全部で10回ってナニ?


264. 名無し麻雀選手

実際には数えを入れてだけど
先鋒戦で一回
次鋒戦で四回
中堅戦で五回
そのうち一回がトリプル役満
もう記録的


265. 名無し麻雀選手

スバラが1回
光ちゃんが1回
ドラ娘が3回
咲様が5回
阿知賀の厄マン率たけぇ…


266. 名無し麻雀選手

>>265
厄マン率…
下げマンが多いように見える


267 名無し麻雀選手
恒子ちゃんが面白いこと言ってる
確率重視の孕村と確率無視の咲様が仲良しってのも笑える


268. 名無し麻雀選手

>>267
それはホントだじぇい!
百合と思うくらい仲が良かったじょ!


269. 名無し麻雀選手

確率重視と確率無視
たしかにそれくらいの差があるな

でも百合と思うくらいじゃなくて百合だったんじゃないのか?
去年のインターハイ個人戦決勝の休憩時間の時、孕村が咲様に
「アレをしてもイイですよ」
て言ってた


270. 名無し麻雀選手

確率無視じゃなくて全部牌が見えてるの間違いじゃないか?


271. 名無し麻雀選手

>>268
今は?


272. 名無し麻雀選手

何気に小鍛治プロ、アコちゃんの個人情報流してら

>>241
本当に神社の娘だったんだね


273. 名無し麻雀選手

>>271
今でも仲良しだじぇい!

>>269
アレってプラマイゼロのことだじょ、多分…


274. 名無し麻雀選手

アコちゃんの神社、ご利益ありそう
すこやんも参拝するみたい


275. 名無し麻雀選手

結婚願望は捨て切れないと見た!
でも、すこやんは良好物件だと思うけどな
その気になれば麻雀でいくらでも稼げる
勿論、競技麻雀でだけど


276. 名無し麻雀選手

裏麻雀でも相当稼げるだろ


277. 名無し麻雀選手

俺が言いたいのは、すこやんと結婚したら、すこやんが真っ当に麻雀で稼いでくれるから旦那は楽できそうだなって意味


278. 名無し麻雀選手

真っ当に麻雀で稼ぐってのも変な話だな


279. 名無し麻雀選手

でも、すこやんは家事絶望的らしい
誇家事なのに


280. 名無し麻雀選手

別に、すこやんが相手なら主夫してもイイ!


281. 名無し麻雀選手

俺は咲様がイイ!


282. 名無し麻雀選手

私はオモチの大きな霞さんに憧れるのです!
やはり私が目指すのは、オモチの、オモチによる、オモチのための…






ここから、玄のオモチベーションに関する書き込みが延々と続くのでした。


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四十四本場:決勝戦進出校決定

 淡は前半戦を圧倒的リードで勝利した。なので、本来ならば淡自身文句はない。

 しかし、彼女は腑に落ちなかった。

 何故、ここまで今日の穏乃は支配力が無いのか?

 もしかしたら、決勝進出が決まっているから力を温存して手を抜いたのだろうか?

 

 対局室を出てトイレに向かう途中、淡の脳内に誰かが語りかけてきた。淡に能力を授けてくれた異星人超能力者からのテレパシーだ。

「(穏乃さんは、真面目にやってますよ。手は抜いてません。)」

「じゃあ、なんで今日は、こんなに弱いの?」

「(勝利が決まっているので彼女のスイッチが入り難い。それだけです。恐らく、淡さんが変な刺激さえしなければ、後半戦も、ろくにスイッチは入らないでしょう。しかし、明日の決勝では間違いなくスイッチが入ります。その時が勝負ですよ。)」

「分かった。ありがとう。」

「(でも、ここから大ポカはしないでください。まだ決勝進出が決まったわけではないのですから。)」

「分かってる。気を引き締めて行くよ!」

 テレパシー通信なのだから黙って念じていれば良いのに、淡は、ついつい口に出してしまっていた。

 周りからは、当然、意味不明の独り言に見える。

 この様子を傍で見ていた人達は、

「(大星さんって電波?)」

 何か誤解していた。

 まあ、仕方がないだろう。これによって淡は、第三者からアホの娘プラス電波の称号が与えられたのであった。

 

 

 一方の晴絵は、この大将戦で、今日の穏乃ではスイッチが入らないであろう事を最初から予想していた。

 しかし、この準決勝戦では、無理に穏乃を焚き付けて勝利を目指させる必要も無いと考えていた。

 

 粕渕高校を決勝進出させた場合、A-Bブロックから龍門渕高校と永水女子高校が上がってくる以上、余程のことが無い限り、先鋒戦は小蒔が、中堅戦は咲が、副将戦は神楽が勝ち星をあげるだろう。

 勿論、憧にも灼にも余程のことをして欲しいとは思うが、2位を勝ち取るのがやっとの展開になると予想する。

 

 そして、大将戦では確実に麻奈が衣のカモにされる。

 恐らく序盤で衣が麻奈を狙い撃ちし、そのまま穏乃でも逆転できない状態になり、龍門渕高校が勝ち星をあげるだろう。下手をすればトビ終了すら起こり得る。

 そうなると、次鋒戦が勝負どころとなる。

 つまり、玄が勝てなければ100%阿知賀女子学院の優勝は無い。それどころか、次鋒戦を征したチームが優勝すると言っても過言ではない。

 そして、これくらいのことは自分の教え子達………、特に賢い憧ならば間違いなく予想できることだ。

 

 今の玄なら、本来ならば光以外の次鋒選手が相手なら勝てるはずだ。

 しかし、全ての勝負を決める戦いに耐えられるだけの精神力が玄にあるだろうか?

 加えて玄は、二回戦で粕渕高校の坂根理沙に負けている。むしろ、精神的には玄よりも理沙の方がずっと強い。

 準決勝戦で玄が善戦できたのは、恐らく相手が絶対的強者の光だったため、胸を借りるつもりで気楽に打てたからだろう。

 まあ、玄のことだから、

『光ちゃんには借りられるほどのオモチはありません!』

 と言うかもしれないが…。

 

 それはさて置き、決勝戦の舞台で全てを決める戦いは、性格的にも玄には荷が重すぎる。もし負けたら立ち直れなくなる。

 それならば、白糸台高校を決勝戦に連れて行き、中堅戦、副将戦、大将戦での勝利に全てをかける。

 絶対王者の咲、部長の灼、山支配の穏乃で勝ちに行く戦法の方が良い。

 晴絵は、そう判断していた。

 

 

 休憩時間が終わった。

 対局室では、いよいよ準決勝大将後半戦が開始されようとしていた。

 場決めがされ、起家は穏乃、南家が麻奈、西家が慧、淡は北家になった。

 

 東一局、穏乃の親。

 今回、淡は絶対安全圏のみ発動した。

 ダブルリーチをかける必要は無い。とにかく勝ち星一の粕渕高校………そこの大将、麻奈にだけは稼がせてはならない。

 淡は、

「ポン!」

 穏乃が早々に切った{東}を鳴き、絶対安全圏のうちに、

「ツモ。東ドラ2。1000、2000。」

 和了って穏乃の親を流した。

 

 

 東二局、麻奈の親でも、

「チー!」

 淡は早々に鳴いて、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 さっさと場を流した。

 これも絶対安全圏内での和了りだ。これでは、他家はどうすることもできない。

 もう、麻奈は南場の親で連荘して稼ぐしか方法は無くなったに等しい。

 

 

 東三局、慧の親。

 ここでも淡は、

「チー!」

 慧が捨てた{8}を早々に鳴いて{横879}を副露し、その次巡、

「ツモ。發チャンタドラ1。1300、2600。」

 絶対安全圏内に慧の親を流した。

 これで新道寺女子高校が決勝進出するためには、親をあと一回残したこの状況で完全なる逆転劇を演じなければならない。

 それは、単に大将前後半戦の合計トップを取るだけではダメだ。

 総合得点で白糸台高校と600000点近い差があるのを逆転すると言う、とんでもない離れ業が必要になる。

 状況としては悲惨極まりない。

 しかし、それでも慧は決して諦める気配がなかった。しぶとい選手だ。

 

 

 東四局、淡の親。

 淡に能力を授けてくれた者の言葉が正しければ、この親で穏乃の能力がマトモに発動することは無い。

 しかし、念には念を入れて、淡はダブルリーチをかけずに絶対安全圏だけで対局に挑む。

「ポン!」

 淡は、序盤で麻奈が捨てた{東}を鳴き、ここでも絶対安全圏内に、

「ツモ。ダブ東ドラ1。2000オール。」

 さっさと和了った。

 

 東四局一本場も、

「ポン!」

 淡は早々に{中}を鳴き、

「ツモ。發中ドラ1。2700オール。」

 とにかく絶対安全圏内での和了りを目指した。今回は、手の中に{發}の暗刻があり、符ハネして40符の手になった。

 

 しかし、東四局二本場で、淡は鳴いて手を進めることができなかった。

 まあ、たまにはこう言うこともある。毎回、誰かが鳴ける牌を早々に出してくれるとは限らない。

 そして、絶対安全圏を越えての戦いになった。

 ここでは麻奈が、

「チー!」

 穏乃の捨てた牌を鳴き、

「ツモ。タンヤオドラ1。700、1200。」

 その数巡後に和了り、何とか淡の連荘を止めた。

 しかし、麻奈がピンチなのに変わりは無い。ここから淡との膨大な点差をひっくり返さなくてはならないのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親番。

 未だ、後半戦では穏乃の和了りは無い。本人は勝つ気でいるのだが、何故か力が湧いてこない。

 当然、山を支配するだけの力は出てこない。

 

 いつもは、東四局辺りから山支配が徐々に見えてくるのだが、さっきの東四局二本場で麻奈に和了られている時点で、山支配は発動していないと言えるだろう。

 この局でも、

「ポン!」

 絶対安全圏を発動する淡が二巡目に{北}を鳴き、五巡目に、

「ツモ。北チャンタドラ1。1000、2000。」

 ツモ和了りを決めた。

 

 

 南二局、麻奈の親番。

 この時点で、麻奈と淡の点差は前後半戦併せると200000点近くになる。

 ここで麻奈が親の役満を和了れば、一気に点差が縮まるが、それでも逆転するにはシングル役満のみと言うわけには行かない。

 条件としては非常に厳しい。

 しかし、可能性はゼロじゃない。

 とにかく、高い手を和了れるチャンスが来るまで、安手で良いから麻奈は連荘するしかない。

 しかし、

「ポン!」

 先に仕掛けたのは淡だった。しかも、麻奈は配牌六向聴。安手の連荘すら実は苦しい状況だ。淡のスピードに付いてゆけない。

 結局、

「ツモ。1000、2000。」

 淡に親を流されてしまった。

 これで麻奈は、淡からトリプル役満以上を直取りするくらいしか決勝進出の方法は無くなった。もはや、それは非現実的と言えよう。

 麻奈の目から希望の光が失われた瞬間だった。

 もう、精神的に耐えられないだろう。これで完全に覇気が消えた。

 

 

 南三局、慧の親。

 ここでも淡は、絶対安全圏のみで攻めた。迂闊にダブルリーチでは攻めたくない。

 麻奈が、ここでトリプル役満やクアドラブル役満(四倍役満)を和了るとは思えない。元々、彼女からは、それだけのパワーが感じられない。

 そもそも、狙ってクアドラブル役満を作れるような化物は咲くらいだと思うが…。

 

 また、慧の場合、この親を流されたら、オーラスで何を和了ろうと決勝進出は無い。

 それなら淡は、この親を流すことだけを考えれば良い。それで完全に慧は終わるはずだ。

 それに、慧は後半戦でヤキトリだ。恐らく、運は無い。

 

 やはり怖いのは穏乃だ。

 穏乃も後半戦は未だヤキトリだが、やはり慧と違って何をしでかすか分からない。それを去年のインターハイでも春季大会でも淡は身をもって経験している。

 万が一、ここで穏乃が急に山支配を発動したら…。そして、穏乃にダブル役満以上の和了りを二連続で振り込むようなことがあったら…。

 淡は勝ち星をあげられないし、得失点差で再逆転されて粕渕高校が2位抜けになるかもしれない。

 

 まあ、穏乃が狙ってダブル役満以上を連発できるとも思えないが、下手に穏乃を刺激するなと例の異星人から言われている。

 念には念を入れよう。

 ならば、絶対安全圏だけで進める戦法から変えない方が無難だろう。

 

 それにもし、ここで淡が白糸台高校を敗退させてしまったら…。

 普段なら自分が戦犯になるだけで済むが、今回は麻里香の立場もかかっている。だからこそ絶対に負けるわけには行かないし、下手な冒険はするべきではない。

 それもあって、淡は、後半戦はダブルリーチを封印し、しかも細心の注意を払いながら打つことに決めたのだ。

 

 とにかく、最後の二局も我慢して安くて良いから早和了を目指すのみ。目立とう精神からなるスタンドプレーに走らない。穏乃を絶対に刺激しない。

「ポン。」

 少し遅くなったが、五巡目で待望の{南}が鳴けた。そして、そのまま六巡目で、

「ツモ。ダブ南ドラ1。1000、2000。」

 淡が和了った。

 これで、完全に慧の逆転ストーリーは無くなった。

 

 

 そして、オーラス、淡の親。

 この局は、和了れなくても良い。常識的範囲で考えれば、穏乃がどんな和了りを見せようと問題ない。咲のような非常識な和了りを穏乃がしてこない限り、白糸台高校の決勝進出は揺るがないはずだ。

 それに、もはや麻奈も慧も完全に終わった雰囲気だ。

 

「ポン。」

 淡は、二巡目に麻奈が捨てた{白}を鳴いた。

 そして、六巡目に、

「ツモ。白ドラ1。1000オール。これで和了り止めにします。」

 決着をつけた。

 

 これで、後半戦の各選手の点数は、

 1位:淡 145000

 2位:穏乃 84300

 3位:麻奈 86700

 4位:慧 84000

 

 そして、前後半戦の合計点は、

 1位:淡 361400

 2位:穏乃 155200

 3位:慧 142600

 4位:麻奈 140800

 大将戦は圧倒的点差で、白糸台高校が念願の勝ち星を手にした。これで、決勝進出は阿知賀女子学院と白糸台高校に決まった。

 

 勝ち星で勝負が決まったため、得失点差を競うことは無くなったが、ちなみに、これまでの各校の合計点は、

 1位:阿知賀女子学院 1263400

 2位:白糸台高校 1165000

 3位:粕渕高校 1043000

 4位:新道寺女子高校 528600

 結果的に阿知賀女子学院、白糸台高校、粕渕高校の三強と言える結果となった。これは、咲、光、神楽、淡、玄と言った高得点者の存在が大きいと言える。

 特に神楽の稼ぎは咲をも越えていた。これは、優秀選手、最優秀選手を選考する審査員達の目には強く焼きついたことだろう。

 

 

「試合終了―――!」

 観戦室にアナウンサー福与恒子の声がこだました。

 

「「「「ありがとうございました(だし!)」」」」

 

 対局後の一礼の後、対局室のドアのロックが解除された。もう、選手以外の人間が入っても良いからだ。

 すると、すぐにドアが開き、麻里香が涙を浮かべながら両手を大きく広げて対局室に駆け込んで来た。

 「淡ぃぃぃ―――!」

 目に溜まっているのは、副将戦直後に流したものとは違う。この上ない歓喜の涙だ。

 麻里香は、そのままダイブするように淡に抱き付いた。

「淡、ありがとう。」

「高校100年生だからね。」

「101年生でしょ? 去年100年生だったんだから…。」

「そっか。」

「でも、よかった。勝てて。」

 しかし、淡には分かっていた。今回は、阿知賀女子学院の決勝進出が決まっていたから穏乃の支配が無かったことを…。だから勝てた。

 しかし、決勝戦は分からない。

 

 ただ、このことは、麻里香やみかんには黙っておこう。もっとも、光あたりは気付いてしまうだろうけど…。

 

 

 この日、永水女子高校の宿舎では、明星と湧が今日の準決勝戦の放送を見ながら相手の打ち方をチェックしていた。

 大将前半戦南一局で淡が和了った時のことだ。

 この様子を、湧は、手に汗を握って見ていた。

「まさか、あれをやられるとはね。」

「あれって?」

「石の上にも三年…。」

「ローカル役満が得意な湧でも、さすがにいくつかは無理って言ったね。たしか…。」

「そう。その中の一つ。いくらなんでもダブリー海底ツモなんて無理だよね。でも、それをやられて、ちょっと悔しいかな。」

「このまま行くと、決勝は、うちと龍門渕、阿知賀、白糸台だね。そうすると湧の相手は天江さんに高鴨さんに大星さんか…。湧なら、何とかなるんじゃない?」

「そうあって欲しいけどね。明星の方は…。」

「あの悪魔!」

「だね…。チャンピオン宮永咲…。」

「あの、プラマイゼロやって遊んだ副産物で、霞姉さんをたった500点差で戦犯にした憎たらしい奴。」

「あれはヒドイよね。」

「だから、決勝では、私が霞姉さんの仇を討つ!」

 

 昨年のインターハイでは、二回戦で永水女子高校は、清澄高校、姫松高校に敗退した。

 あの時の永水女子高校は、小蒔と六女仙だけで構成された史上最強メンバーのはずだった。六女仙メンバーの中には、六女仙最強の霊力を誇る霞と、小四喜を和了る初美がいたのだから、二回戦程度で負けるなどとは思えない。

 少なくとも、ベスト4入りした一昨年のチームよりも間違いなく強かった。

 ところが、予想を裏切るまさかの敗退。

 しかも、それは、咲がプラスマイナスゼロを達成するために敢えて大明槓をして恭子に槓ドラをプレゼントしたことに起因する。

 

 あの点数調整が無ければ、永水女子高校は準決勝に進出していたであろう。

 そして、準決勝では副将戦で真屋由暉子を初美が役満ツモでトバし、決勝進出まで出来ていたかもしれない。

 

 明星も湧も、あの敗退は信じられなかった。まさか、霞の能力を余裕でかわし、やりたい放題できる人間がいたなんて…。

「今回、二回戦で他家三人を-66600点にして証明したよね。悪魔の紋章。自ら悪魔だってことを…。」

「だよね…。霞姉さんの仇。絶対に潰してやるから…。」

「要は、悪魔祓いだよね。」

「そうだね。」

「でも、その専門は、私や明星ちゃんよりも春さんや巴さんだけど…。」

「(絶対にゴッ倒す!)」

 どちらかと言うと、湧よりも明星のほうが咲への怒りが強かった。霞の従姉妹だから当然であろう。

 

 みかんと麻里香と和解しても、結局、咲には他に仇討ちを狙う輩が現れる。咲本人は、何故そう思われなければならないのか疑問に思うのだろうが…。

 これが強者ゆえの運命なのかもしれない。

 …

 …

 …

 

 

 その数分後、テレビに咲のインタビューの様子が映し出された。

「宮永選手。ええと、苗字ですと咲選手か光選手か分からなくなりますので、咲選手と呼ばせていただきます。これで、決勝戦の相手は龍門渕高校、永水女子高校、白糸台高校に決まったわけですが、今の心境をお聞かせください。」

「ど……どのチームも強くて、対戦が楽しみです。」←残念ながら照ほど営業スマイルは上手ではない

「中でも永水女子高校は、昨年夏のインターハイ二回戦での因縁がありますからね。あの時、咲選手と末原コーチと対戦した石戸霞選手を覚えてますか?」

「はい。とても強敵でした。」

「その霞選手の従姉妹の石戸明星選手が、今回、永水女子高校の中堅として咲選手と対戦することになります。」

「彼女も強いと思います。対戦が楽しみです。(あのオモチ女、許せないんだよね。一年生のクセに、あんな大きいの持ってて…。)」←笑顔を見せながらも全身から暗黒物質が湧き出ている

 

 これを見ていた明星は、

「ブチ!」

 テレビを消した。

「目が腐る!」

 非常に不機嫌な表情だ。

 この時、彼女は、

『これ以上、あの凶悪な悪魔の顔を見たくない!』

 そう目で語っていた。

 

 一方、和は、

「咲さん…。」

 一人で見惚れていた。

 この時、同朋の淡と光がインタビューを受けていたが、そっちには、まるで興味無しであった。良くも悪くもマイペースである。

 

 

 翌朝、八時から5位決定戦が開始された。いずれも名門。姫松高校、臨海女子高校、粕渕高校、新道寺女子高校の対戦である。

 決勝戦とは異なり、先鋒戦から大将戦まで、全てが半荘一回勝負となる。

 また、今回は、点数引継ぎではなく星取り戦のため、先鋒戦から大将戦までを全て同時に行われた。時間短縮のためである。

 実家の雀荘で、まこがテレビをつけた。まだ店を開ける前で少しヒマだったのだ。

「さて、5決はどうなるかのう?」

 すると、例によって時間軸の超光速跳躍が発動した。

 

 先鋒戦は、タコス力vs爆弾娘………優希と漫の二人がトップを争う戦いとなった。

 結局、準決勝戦を最高状態に設定していた優希のほうが、若干とは言えパワーが劣る結果となり、勝ち星は姫松高校があげた。

 

 次鋒戦は、中国麻将vs直感娘………勘の良い理沙が、郝のツモの流れをかき乱しはしたものの、やはり郝には敵わず、臨海女子高校が勝ち星をあげた。

 

 中堅戦は明華vs絹恵vs姫子vs薫の対局。美女三人&男装麗人対決と言われた。

 ここも、力が頭一つ抜きん出た世界ランカー………明華が終始圧倒し、臨海女子高校が勝ち星をあげた。

 

 副将戦は神楽vsネリーの魔物対決。神楽も準決勝戦の活躍から、とうとう魔物認定されることとなった。

 この戦いは、露子の力を借りた神楽が勝利し、粕渕高校が勝ち星をあげた。

 

 大将戦は数絵vs中田慧の一騎打ちの展開。

 東場では慧がリードしたが、南場になって豹変した数絵が親の連荘で大量得点をあげた。その結果、数絵が逆転して臨海女子高校が勝ち星をあげた。

 

 以上の結果、5位臨海女子高校、6位粕渕高校(得失点差6位)、7位姫松高校(得失点差7位)、8位新道寺女子高校に決まった。




おまけ
四十本場おまけの続き

大会四日目、咲達の二回戦が終わった日の夜のことだった。
京太郎が咲に電話した後、今度は優希から京太郎に電話がかかってきた。

優希「おお、京太郎か?」

京太郎「なんだよ、こんな時間に。」

優希「まだ宵の口だじぇ。」

京太郎「あのなあ…。」

優希「それでだな。明日の準決勝戦での兵糧を頼む。」

京太郎「タコスだな? 何個だ?」

優希「三つもあれば十分だじぇい! あとな、京太郎。今まで、しつこく迫って悪かったな。私とはタコスだけの仲にしてくれ。」

京太郎「おいおい、いったいどうしたんだ?(訳分かんねえな、こいつ。)」

優希「なんか、そういう気分なんだじぇい!」

初瀬の願いが叶い、京太郎と咲をくっつける方向に神の強制力が働いた。
その結果、その障害となるモノ………、つまり、優希の京太郎への想いが、突然消えてしまったのだ。
しかし、優希としては、タコスだけは確保したい。それで、こんな風になっている。
正直、優希にも良く訳が分からない。


そして、大会六日目の夜が来た。
夕刊に、
『宮永咲、熱愛発覚!? 相手は清澄高校イケメン男子生徒!?』
のタイトルで記事が載った。しかもスポーツ紙だけではない。お堅い方面の新聞にまで取り上げられていた。
読んでみると、文中には『京ちゃん』とまで書かれている。

京太郎「なんだこれ?」

京太郎は、早速咲に電話した。

京太郎「咲。なんか、新聞でとんでもないことになってるぞ!」

咲「ゴメンね、京ちゃん。インタビューの時に京ちゃんが電話してきたでしょ?」

京太郎「たしかに、そうだったな。あの時は、タイミングが悪くて済まなかった。」

咲「それでね、そいつは誰なんだぁって話になって、色々聞かれたのが捻じ曲がっちゃって、こんな風になっちゃったの。」←そうなるように話を持って行った人

京太郎「マジかよ(それって、俺が悪いんじゃ…)。」←本当は被害者

咲「今、テレビのニュースでも放送されてるよ。(これで公認だね!)」

京太郎「いや、俺は身バレしてないからイイけどさ。咲は大変だろ?(って、あれ? 俺はイイのか?)」

咲「でも、なんとか頑張るから。」

京太郎「他家全員トバした時よりも凄いことになってねえか?」

咲「あれね…。でさあ、明日も狙ってみようかな…、三人トバし。なんちゃって。」

京太郎「狙ってできるわけないだろ、あんなの?」

咲「でも、もう一回見てみたくない?」

京太郎「それは、見てみたい気はするけど…。」

咲「じゃあ、狙ってみるよ。でも、もしできたら、京ちゃん。私の言うこと、なんでも聞いてくれるかなぁ?」

京太郎「もしできたらな! まあ、三人じゃなくても、一人でもトバしたら、言うこと聞いてやるよ。(あれっ? こんなにハードル低くして大丈夫かな?)」←普通は決して低いハードルではありません

咲「前半戦と後半戦で、三人トバしを二回できたら、合計六回、言うことを聞くんだよ?」

京太郎「(まさか、そんなことできねえだろ!)おお、イイぜ!」

咲「じゃあ、約束だよ! それと、明日のタコスだけどね。前半戦前と後半戦前と対局後の御褒美分で、私のは三つ欲しいんだけどな。」

京太郎「優希からも三個頼まれてるからな。朝一で持って行くよ。」

咲「あと、みんなの分もお願い。評判良かったからさ、私もちょっと自慢したいなって思って。」

京太郎「なんでお前が自慢するんだよ。」

咲「こんなに美味しいもの作ってくれる旦那がいてイイねって言われてさ。」

京太郎「旦那じゃねえだろ!」

咲「私だって、今まで京ちゃんの嫁さんって言われ続けてきたんだよ。たまには逆になってもイイじゃない?」

京太郎「そんなこと言うのは、高久田だけだって。でも、そんだけ作るとなると、ちょっと数が多いからハギヨシさんに手伝ってもらった方がイイかな?」

咲「それはマズイよ。龍門渕高校の執事の方でしょ? 私達、龍門渕高校と戦うんだから、敵に塩を送るような真似させちゃダメだよ。(京ちゃんの〇〇〇じゃないと嫌だもん)」←〇〇〇はタコスです

京太郎「それはそうだな。じゃあ、明日持って行くから。」


その頃、和は夕刊を見ながら恐ろしい形相をしていた。そして、激しい怒りから身体が小刻みに震えていた。

和「(どうして京咲になっているのですか? 須賀君はタコスと共に優希に譲渡されたはずではなかったのですか?)」

神の強制力も、デジタルでオカルト超否定派の和には、中々効かないでいた。


その時、白糸台高校では決勝戦に備えて、これからミーティングを始めようとしていた。
麻里香とみかんが咲と京太郎の話をしていたが、怒り心頭している和の耳には届いていなかったのが救いだったかも知れない。


麻里香「新聞でもテレビでも凄い取り上げられ方だね、宮永さん。」←淡が勝って決勝進出できたので落ち着いた

みかん「まあ、女子高生歴代最強って言われているくらいだからね。」

麻里香「でも、相手の人って、どんな人だろう?」

みかん「結構イケメンだったよ!」

麻里香「なんで知ってるの?」

みかん「スマホで写真見せてもらったからね。」←いらぬ誤解を受けたことはスルー

麻里香「いつの間に?」

みかん「対局前にね。でも、鶴田さんは、宮永さんの彼氏をイマイチみたいに言ってさ…。」

麻里香「えっ?」

みかん「それと、緒方さんがモーションかけようかなとか言っちゃったから、宮永さんの怒りのスイッチ入っちゃってね。」

麻里香「それで、ああなったか…。」

みかん「お陰で私は助かったけどね。」

麻里香「で、話を戻すけど、明日の決勝戦、十中八九、先鋒は神代、次鋒は光、中堅は宮永さんが取るよね?」

みかん「多分ね。」

麻里香「大将は、どこが勝つかマジ勝負だけど、これって副将が結構重要じゃん?」

みかん「そうかもね。」

麻里香「こんなんだったら、私が中堅でみかんが副将の方が良かったよ!」

みかん「私も麻里香も大差ないでしょ?」

麻里香「でも、春季の個人戦は、みかんの方が順位上じゃん!」

みかん「あれって、一回戦の席順で決まっただけじゃない? それに、宮永さんが後で白状してくれたんだけど、あれって、席順が違っていたら、私を100点差で2位にするつもりだったって。点数調整されてたのよ、私達。」

麻里香「ちょっとなにそれ? そんな点数調整できるの?」

みかん「先ずタコスを食べて起家になって………、ここは意味が分からなかったんだけどね。それで、麻里香から2400(親の50符1翻)、私から2000の一本場、次に親倍二本場を嶺上開花でツモ和了りする。」

麻里香「そんな都合よく和了れるの?」

みかん「じゃあ、麻里香は、私達レベルを相手に、宮永さんが都合よく和了れないって言うの?」

麻里香「…和了れてるよね?」

みかん「まあね。それで、続いて麻里香のお姉さんから1500の三本場を和了る。そうすると、私が残り14500で、麻里香と麻里香のお姉さんは残り14400点になる。さらにそこから8000オールの四本付け、3900オールの五本付け、1000オールの六本付けを嶺上開花でツモ和了りすれば、私だけ100点で、麻里香と麻里香のお姉さんは0点になる。」

麻里香「嶺上開花で和了るの前提?」

みかん「そうらしいんだけど。」

麻里香「…。(でも、宮永さんならありかも…。それで、その後に役満和了るんだよね、きっと…。)」

みかん「これって、宮永さん本人が言ってたことだからね!」


和「(そろそろミーティングが始まります。気持ちを入れ替えないといけませんね。)」

頭に血が上っていては何も考えられない。
和は、冷静さを取り戻そうと深呼吸した。
そして、周りの声………麻里香とみかんの会話が耳に入ったきた。


麻里香「………でも、なんで、みかんを2位にさせたかったの?」

みかん「今は和解したけどさ、あの時、私のことがあの個人戦一回戦のメンバーの中で一番気に食わなかったんだって。だから、私を宮永さん、天江さん、荒川さんの三大魔物対決に連れて行ったってこと。」

麻里香「たしかに、あの時は一回戦負けして良かったと思ったよ。でも、なんで宮永さんはみかんのことを気に食わなかったの?」

みかん「私も自分じゃ言い難いんだけどね。私が和よりも細くて小顔だからだって。」

麻里香「もしかして、和よりも綺麗な女性が存在しちゃいけないってこと?」

みかん「そこまでは、ええと…。(本当は、和よりも細くて小顔で美人で、和ほどじゃないけど胸もあって、完全に女性の敵って言われたんだよね。宮永さんの過大評価なんだけどなぁ。)」←美人の自覚なし


この会話を聞いて和は、
和「(では、やっぱり咲さんは私のことを一番と思ってくれているってことでしょうか? だとすると、この記事はガセネタですね? 京咲なんて、そんなオカルトありえません。)」



神「(この女、どうやって宮永咲を諦めさせようかのぅ…。)」


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四十五本場:頂上決戦 神vs未来視vs嶺上vs連続和了

 阿知賀女子学院、白糸台高校、龍門渕高校、永水女子高校のメンバー全員が決勝卓を囲むように集まった。ここで、一同が試合開始前の挨拶をする。

 

 咲に、毎度の如く冷たい視線が突き刺さる。

 春季大会では、麻里香とみかんが咲を睨みつけていた。

 二人とも姉の失禁事件のことをレギュラー落ちした先輩達に執拗に弄られ、その怒りの矛先を咲に向けていたのだ。

 既に麻里香とみかんとは和解しており、特段問題は無い。むしろ、二人は咲に優しい笑顔を向けている。

 

 今回、咲を敵視しているのは、永水女子高校の石戸明星と十曽湧だった。この一年生コンビが、冷たく厳しい視線を咲に向けていた。

 昨年インターハイ団体戦で、あの強豪永水女子高校が、たった500点差でまさかの二回戦敗退。

 しかも、その裏には意図的な点数調整が隠されていた。

 思い出しただけでも、明星は腹が立ってくる。

 心も視線も穏やかに保つことなど出来やしなかった。

 

「一同、礼!」

 審判の掛け声が会場にこだました。

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 選手全員の挨拶の後、先鋒選手だけを残して他のメンバーは各校控室に戻って行った。

 この時、咲は迷子対策で穏乃と手を繋いでいた。雰囲気は、いつものように弱々しい被捕食者にしか見えない。

 オドオドしていて王者の風格など全く無い。毎度のことだが…。

 そんな咲に、明星と湧は、さらに冷たい視線を浴びせ続けた。

「(このまま泣き出せば面白いのに…。)」

 どうやら、明星は、咲が自分達の視線を気にして弱気になっていると勘違いしていたようだ。

 実のところは、重度の方向音痴のため、知っている人が近くにいないと不安なだけなのだが…。

 

 

 阿知賀女子学院の先鋒は新子憧。鳴きが主体の麻雀を打つ。

 その気の強さと頭の良さ、打ち回しの上手さから、王者阿知賀女子学院の先鋒を任されていた。

 

 白糸台高校の先鋒はデジタルの申し子、原村和。

 オカルト超否定派。神の降臨も、場の流れの存在も、彼女にとっては絶対に有り得ない現象であった。

 しかも、彼女のスイッチが入った時、彼女の周りは全てが確率論に従って動き出す。

 これはこれでオカルトだと思うのだが…。

 

 龍門渕高校の先鋒は井上純。

 場の流れを読み、同時にそれを支配する。龍門渕高校不動の先鋒である。

 まともに行って、神を降ろすと言われる小蒔に勝てるとは思っていない。

 しかし、神が相手でも場を狂わして勝機が来るのを待つ。そんなことを考えられるのは、純をおいて他にはいないだろう。

 

 そして、永水女子高校の先鋒は神代小蒔。

 霊力の高い彼女は、既に自身の身体に神を降ろしていた。それも、この戦いに最も相応しい神、軍神が選ばれていた。

 正確には、武将の神。

 軍略よりも圧倒的且つ強烈な力で押し切るタイプであった。

 

 この先鋒戦では、絶対に永水女子高校が勝ち星をあげなければならない。その小蒔の強い意志が、この強い神を降ろしたと言える。

 しかし、最強神ではなかった。小蒔が降ろせる神の中で三番目に強い神だった。

 何故か?

 最強神は、個人戦決勝トーナメントで咲と戦うために待機していたのだ。これは、昨年インターハイで、神を差し置いて優勝した咲への雪辱のためであった。

 二番目に強い神は、最強神に命じられ、個人戦予選を確実に勝ち抜き、決勝トーナメント進出を決めるために力を振るうことになっていた。

 それで、三番目に強い神が、この団体戦決勝で小蒔に力を貸すことになった。

 

 

 霧島神境では、石戸霞、薄墨初美、狩宿巴の三人がテレビを通して小蒔の姿を見詰めていた。

 イヤでも思い出す。

 自分達を統べる姫………小蒔が誇る最強神の力でさえ、点棒の支配者に敗北を喫したあの日のことを…。

 

 

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********************

 

 

 昨年のインターハイ個人戦決勝卓。

 対戦者は、前年度チャンピオン宮永照、霧島神境の姫神代小蒔、一巡先を見る者園城寺怜、そして団体戦を制した清澄高校の大将、奇跡の闘牌宮永咲の四人。

 

 前半戦は、起家が小蒔、南家が怜、西家が咲、北家が照となった。連続和了による打点上昇が特徴の照にとっては最高の親番だった。

 

 

 東一局、小蒔の親。ドラは{一}。

 ここは、照にとって照魔鏡を発動するために様子見となる局。

 小蒔も相手の品定めをしているのか、どうやら、いきなりパワー全開と言うわけではなさそうだった。

 一方、怜は順調に手が伸び、六巡目で聴牌した。

 

 手牌は、

 {二三四②②⑥⑦222468}  ツモ{[5]}

 

「(ここでリーチをかけてもかけなくても、聴牌に取れば{8}を咲ちゃんが鳴くか。それでうちは次巡で{⑤}ツモ…。聴牌に取らなければ鳴かれへん。そうすると、{[⑤]}ツモ…。)」

 怜の手牌のうち、アタマの{②}が裏ドラになるのも見えていた。

 これならリーチをかけたほうが良い。リーチをかけなければ裏ドラは付かないし、満貫にもならない。

「リーチ!」

 ここで怜は、いつものようにリーチ棒を立てる独特のパフォーマンスを見せた。{8}切りでリーチ。

「チー!」

 予定通り、このリーチ宣言牌を咲が鳴いた。{横867}を晒す。

 やはり、リーチ一発ツモタンヤオドラ4の倍満は和了らせてくれないらしい。

 照は無難に安牌を切った。小蒔も振り込みを回避する。

 そして、怜が見たとおりの未来が、そこに待っていた。すなわち、

「ツモ。リーツモタンヤオドラ3。3000、6000!」

 {⑤}でツモ和了り。

 この様子を観戦室で見ていた清水谷竜華は、怜のいきなりのリードに、

「やったで! 怜!」

 大興奮していた。

 しかし、相手は超魔物三人。12000点のリードが貯金として通じるとは、怜には到底思えなかった。

 

 この時、照は、照魔鏡で小蒔が最強の神を降ろしていることと、咲が本気で向かってきていることを読み取っていた。

 怜については一度、団体戦準決勝で見ているが、その時から時間が余り経過していないため、今回は見ることができなかった。

 

 

 東二局、怜の親。

 今度は、小蒔の手は配牌から、いきなり萬子に偏っていた。しかも端牌である{一}と{九}が二枚ずつ揃っている。

 そして、その手は順調に九連宝燈へと成長して行った。

 

 六巡目、

「(ここで一巡先や!)」

 怜が未来視で一巡先の動きを見た。すると、下家の咲が捨てる{⑦}を怜が鳴かないと小蒔が純正九連宝燈をツモ和了りする未来が見えた。

「(もうこれか? これはナイわ…。)」

 怜が一先ず対子で持っている{北}を切った。

 次のツモ番は咲。ここで咲は、何気に怜の方を見ながら{⑦}を切った。鳴いてくれと言わんばかりだ。

「ポン!」

 最悪の未来を回避する。そのために怜は{⑦}を鳴いた。

「(咲ちゃんも、ここでうちが鳴かないと大変なことになるってことを分かってるようやな。前の局でもそうやったけど、もしかして牌が全部見えてるんとちゃうか?)」

 こう考えながら、怜は、もう一枚の{北}を切った。対子落しだ。

 

 続く咲は、ツモ牌の{4}を手に入れて打{①}。

 照もツモ牌………、{二}を手に入れて打{9}。本来なら、この{二}は、小蒔がツモって和了するはずの牌だった。

 怜と咲の連携でツモをずらした成果である。

 

 

 この様子を観戦室で見ていた巴は、

「やっぱり園城寺怜に、姫様の{二}ツモ和了りを察知されていたようね。」

 と言った。しかし、初美は、

「いえ、私には清澄の大将がわざと{⑦}を鳴かせたように見えたですよー。」

 別の視点から対局の動きを見ていた。

 

 この時、咲の手牌は、

 {223334⑥⑥⑥⑥⑧⑧⑧}

 

 一向聴だ。しかし、何故、この手で先に{⑦}を捨てたのか?

 {⑦}ではなく{①}を捨てていれば、その段階で聴牌だったはずである。

 これは、小蒔の和了り牌をずらすために敢えて聴牌を崩したとしか思えない。初美の言うとおりである。

 しかし、霞は、さらに上のことを考えていた。

「初美ちゃんの言うことは正しいと思うけど、それだけじゃない気がするのよ。もっと別の…小蒔ちゃんから和了るための何かをしようとしているんじゃ?」

「でも、神様が降りた姫様が振り込むなんてありえないですよー。」

「そうなんだけど…。」

 とは言え、実際に咲と卓を囲んで、咲に、やりたい放題やられた彼女だからであろう。普通では有り得ない何かを、咲が仕掛けてくるような予感がしてならなかった。

 

 小蒔に降りた神は、他家の和了り牌を読むことは出来たが、鳴く牌までは読み切ることは出来なかった。

 いや、正しくは、神としての完全な力を示されては、人間では相手にならない。それで多少の制限を神は自らにかけていた。

 ただ、それでもツモは鬼ヅモ。他家の和了り牌は完全に察知される。これでは、普通の人間では相手にならないだろう。

 そう、普通の人間なら…。

 

 

 小蒔が{⑧}を切った。

 すると、

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けた。嶺上牌をツモると、当然の如く、

「もいっこ、カン!」

 {⑥}を暗槓した。二枚目の嶺上牌を引くと、さらに、

「もいっこ、カン!」

 {2}を暗槓した、嶺上牌は二連続で{2}だった。そして、次の嶺上牌で、

「ツモ。タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花。16000です!」

 

 開かれた手牌は、

 {3334}  暗槓{裏22裏}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{⑧横⑧⑧⑧}  ツモ{4}

 

 霞の予感が当たった。しかも、{2}での嶺上開花を見逃しての倍満ツモ和了り。

 これは、小蒔の責任払いになる。これで小蒔の点数は一気に3000点まで落ち込んだ。さすがに神も、これには驚かされた様子だった。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここでも小蒔の手は配牌から、いきなり萬子に偏っていた。しかも前局同様、端牌である{一}と{九}が二枚ずつ揃っている。

 そして、その手は順調に九連宝燈へと成長して行った。

 前局とは異なり、この局は、その勢いを止める術がないまま、

「ツモ。8000、16000。」

 小蒔に純正九連宝燈をツモ和了りされた。

 

 

 東四局、照の親。

 またもや小蒔の手は萬子に偏っていた。しかし、萬子一直線で攻める以上、他の色の牌は他家の和了り牌でない限りノーケアーで小蒔は捨てる。

 これを、

「ポン!」

 照が鳴いた。いや、ようやく照が動いたと言うべきか。

 そして、小蒔が九連宝燈を聴牌する直前に、

「ツモ。500オール。」

 第一弾の和了りを照が決めた。

 

 東四局一本場、照の連荘。

 一回和了りを許すと、照の連続和了を止めるのは難しいとされる。

 この局も、序盤のうちに、

「ツモ。800オール。」

 平和を照にツモ和了りされた。スピードが違う。これには追いついて行けない。このまま連続和了を許してしまうと、一気に逆転される。

 

 怜は、団体戦準決勝戦のことを思い出した。あれだけの大敗は、能力に目覚めてからは初めての経験である。

 しかし、あの時と違い、照に拮抗する力を持つであろう咲と小蒔が同卓している。共闘できれば十分止められるはずだ。

 

 東四局二本場。ドラは{三}。

 今回は、怜の配牌が結構良かった。ツモも噛み合い、五巡目にして既に門前聴牌していた。ここで怜は、

「(一巡先や!)」

 未来を見た。

 

 自分の手牌は、

 {三四五六八④⑤[⑤]⑥東東中中}  ツモ{中}

 

 {⑤}を切れば聴牌だが…。

 ただ、下家の咲が同巡に{[⑤]}を切ってくるのが見えた。これを鳴かなければ照が和了る未来になる。

 ならば、怜は聴牌に取らずに{⑥}を切り、

「ポン。」

 咲が未来視どおり捨ててきた{[⑤]}を鳴いた。勿論、打{④}で聴牌。

 しかし、気になるのは、今回も咲は怜のほうを見ながら捨てていた。まるで鳴かせるのを意図しているかのようだった。

 怜は、次のツモで{七}を引き、

「ツモ! 中ドラ3。2200、4200!」

 満貫をツモ和了りした。

 これで照の連続和了を打点が低いうちに潰すことに成功した。

 

 

 怜がトップ、照がラスで南入した。

 この時の各選手の点数は、

 1位:怜 36300

 2位:小蒔 31500

 3位:咲 18500

 4位:照 13700

 下馬評とは全く逆の順位となった。

 

 

 南一局、小蒔の親。ドラは{2}。

 ここでも、小蒔の手は萬子に偏り、順調に九連宝燈に向けて手が成長していった。そして、殆どムダツモ無く、当たり前のように七巡目で純正九連宝燈を聴牌した。

 観戦室の巨大モニターに映る、この映像を見ながら初美は、

「これで姫様がツモ和了りすれば前半戦はチャンピオンのトビ終了ですよー!」

 小蒔の大勝利を確信していた。

 

 同巡、

「チー。」

 咲が捨てた{②}を照が鳴き、{横②③④}を副露した。

 

 そして八巡目、

 この時、咲の手牌は、

 {2233446788發發發}

 さっきの{②}切りで{58}待ちの門前混一色を聴牌していた。

 

 対する小蒔は、

 {一一一二三四五六七八九九九}  ツモ{8}

 

 照の鳴きでツモがズレて、咲の和了り牌を掴まされていた。

 ツモ切りすれば咲のハネ満に振り込む。止むを得ず小蒔は{八}を切った。

 

 同巡、咲は

 {2233446788發發發}  ツモ{2}

 ここから打{7}で聴牌を崩した。

 

 次巡、小蒔は、

 {一一一二三四五六七九九九8}  ツモ{發}

 咲の聴牌崩しを察知して、このタイミングで不用な{8}を処理した。

 

 すると、

「ポン!」

 咲は、この{8}を鳴いた。打{6}。

 手牌は、

 {2223344發發發}  ポン{8横88}

 {2345}待ちで、{5}以外なら緑一色の聴牌。

 

 次巡、小蒔は{八}をツモり直した

 {一一一二三四五六七九九九發}  ツモ{八}

 少なくとも{發}は他家の和了り牌ではない。ならば、純正九連宝燈聴牌に取り、打{發}。

 

 しかし、この{發}を待っていた者がいた。

「カン!」

 咲が、この{發}を大明槓したのだ。

 嶺上牌は{8}。当然、咲は、

「もいっこ、カン!」

 これを加槓した。続く嶺上牌は{[5]}。これで咲は、

「ツモ! 混一發嶺上開花ドラ4。16000。」

 小蒔の責任払いで倍満を和了った。

 この和了りに、ある意味、最も興奮していたのは、清澄高校の次鋒、緑一色が好きな染谷まこであった。

 彼女は、観戦室で、

「惜しい! 緑一色ならずじゃ!」

 と大声を上げた。しかし、最強神の力により、ここで時間軸の超光速跳躍が発動しなかったのは救いであろう。

 

 

 南二局、怜の親。

 照は、東四局の連荘で二度和了ったのみで、その後も第一弾の和了りが中々できないでいた。なんとか和了って連続和了に持ち込みたいところだ。

 しかし、ここでも今一つ手が遅かった。そして、ようやく聴牌して捨てた{①}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。そして、そこからいつもの連槓に入る。

「もいっこ、カン!」

 {3}を暗槓。さらに、

「もいっこ、カン!」

 {9}を暗槓し、続く嶺上牌で、

「ツモ! 対々三暗刻三槓子嶺上開花! 12000!」

 咲が嶺上開花を決めた。

 これは照の責任払いになり、これで照の点数は1700点まで落ち込んだ。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここでも小蒔は萬子に染めていた。これで何回目であろうか?

 東四局の時と同じで、萬子一直線の小蒔は萬子以外の牌を、他家の和了り牌でない限りノーケアーでドンドン捨てていった。

 そして、五巡目に小蒔が捨てた{2}を、

「ポン!」

 照が鳴いた。そして、小蒔が九連宝燈を聴牌する直前に、

「ツモ。300、500。」

 ようやく第一弾の和了りを、照が再び決めた。

 

 

 オーラス、照の親。

 ここに来て、とうとう照の連続和了のスイッチが入った。

「ツモ。500オール。」

 

 オーラス一本場。

「ツモ。800オール。」

 

 オーラス二本場。

「ツモ。1200オール。」

 

 オーラス三本場。

「ツモ。2300オール。」

 たしかに点数が上昇している。

 

 そして、オーラス四本場。とうとう照の右腕に竜巻が生じた。もう止められない。この局も、

「ツモ。4400オール。」

 照が和了り、これで照が一気に2位まで追い上げた。

 

 

 この時の各選手の点数は、

 1位:咲 36800

 2位:照 30400

 3位:怜 26800

 4位:小蒔 6000

 南入時点から大きく順位が入れ替わった。しかも、

「五本場!」

 照がさらなる連荘を宣言した。次に照が和了ったなら、点数は最低でも親ハネ五本場の19500点になる。

 

 そして、この局、

「リーチ!」

 とうとう照が逆転トップを狙ってリーチをかけてきた。




おまけ

援交していそうなアニメキャラ絶対王者陥落記念&王者復帰祈念と言うことで書いてみました。

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
下品な内容ですので趣味に合わない方はスルーしてください。

本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。一応、灰原哀と江戸川コナンも登場させます。
今回は半分くらいコナン側な気がしますが…。


また、憧100式のサブタイトルは、出来るところまで本編のサブタイトルに合わせて付けてみたいと思います(語呂とか雰囲気とか)。
ただ、本編のサブタイトルは憧100式の内容を完全に無視してつけておりますので、正直なところ憧100式のサブタイトルは非常に無理が出ております。その点、ご了承ください。



憧 -Ako- 100式 流れ一本場:妄想・性戦 哀vsコナンvs京太郎vs究極のダッチ〇イフ


阿笠博士の研究室中央には大きな円形のベッドが置かれていた。昔流行った回転ベッドのようだが…。
そこには、一人の美しい女性が裸で仰向けに寝かされていた。
いや、正しくは、その女性は博士の科学力の全てを結集したカラクリの類いであった。


哀「博士、またそんなモノ造って…。そんな感じの娘が趣味なの?」

博士「別にイイじゃろ。それより哀君の方はどうなのかね?」

哀「望みの薬は出来たわ。あとは、工藤君に飲ませて、江戸川君をエロカワ君に変身させるだけ。」

博士「そうか。そっちも順調なようで何よりじゃ。でも劇薬なんじゃろ?」

哀「まあね。」

博士「くれぐれも、悪用するんじゃぞ!」←言葉じり注意

哀「分かってるわよ。でも、博士のほうも、随分リアルに造ったわね。」

博士「じゃなきゃ面白くないからのぉ。まあ、哀君がワシの相手をしてくれるなら、こんなモノは造らんのじゃが…。」

哀「イヤよ。まあ、工藤君の存在を知る前に博士にお世話になっていたら考えが違っていたかもしれないけど。」

博士「それは残念じゃのう。」

コナン「灰原ぁ。いるかぁ?」

哀「じゃあ、こっちはターゲットが来たから、絶対に私の研究室の方には来ないでよ!」

博士「わかっとる。ワシには、この憧100式の完成の方が重要じゃ。」

哀「100式って? 1式から99式は何処にあるの?」

博士「あの棚の上とか、物置の中とかじゃ。」

哀「ああ、あの、オ〇ホとか、吉田さんに似せて造ったダ〇チワイフとかね。」

博士「哀君タイプもあるんじゃぞ!」

哀「それは昨日、壊したわ。」

コナン「おい、灰原ぁ!」

哀「ちょっと待って。今行くから。」


哀は、コナンを地下の自分の研究室に連れて行った。
そして、怪しいカプセル錠をコナンに渡した。


コナン「これを飲めば、俺は元の姿に戻れるのか?」

哀「正確に言うと、貴方を工藤君と江戸川君の二人に分裂させるの。」

コナン「なんだ、それ?」

哀「どうしてもAPTX-4869の影響からは逃れられないの。でも、分裂したうちの片方だけにAPTX-4869を濃縮させて、もう片方はAPTX-4869のない身体にするのよ。」

コナン「じゃあ、俺は二人になるけど、片方は工藤新一には戻れるんだな?」

哀「そうよ。」

コナン「じゃあ、早速…。」

哀「ちょっと待って。これを飲む前に三つ約束して欲しいことがあるの。一つ目は、工藤君になった側は蘭さんとくっつけるけど、江戸川君になった側は、蘭さんを諦めて江戸川君として生きてもらうこと。」

コナン「まあ、それは仕方がないな…。」

哀「二つ目は、江戸川君になった側は、私をこれからも守ってくれること。」

コナン「俺が?」

哀「以前、守ってくれるって約束したでしょ!」

コナン「そう言えば、そんなことあった気が…。」

哀「そして、三つ目は、これは私もだけど…。この世に存在する人間としてキチンと登録すること。これは、FBIに全てを話して何とかしてもらうとするわ。」

コナン「しかし、最後のは…。」

哀「それができないなら、この薬は、お・あ・ず・け!」

コナン「分かったよ。全部、お前の言うとおりにするよ。じゃあ、飲ませてもらうぞ!」


コナンは、哀の指示で、培養液で満たされたビニールプールの中に入った。
そして、その薬を飲むと、コナンの身体の表面が次第に茶色く変化して行った。
まるで幼虫が蛹に変わって行くようだ。
全身が茶色くなると、コナンの動きが止まった。
そして、コナンの身体が培養液を吸収し、ドンドン膨張していった。

その数時間後、かつてコナンと呼ばれていた物体………蛹のように変化したモノが割れて、中から一人の高校生と一人の小学生が出てきた。
たしかに彼らは、間違いなく工藤新一と江戸川コナンであった。
ただ、何故か二人の股間はエ〇クトしていた。


哀「(バイ〇グラも混ぜておいたからね!)」

新一「よし。これで蘭と一緒にいられるぞ。ラ―――ン!」


新一は、喜び勇んで哀の研究室を飛び出していった。


コナン「おい、ちょっと待て! 俺が新一じゃないなんて、卑怯だぞ!」

哀「卑怯も何も無いわ。こうなるだろうと思って、薬を飲む前に約束させたのよ。もう、貴方は工藤新一じゃない。江戸川コナンなの。」

コナン「でもよう。」

哀「それに、こんなとこ勃てて。ええと、長野の染谷まこさんは居るかしら?」

まこ「なんじゃ? 誰か呼んだか?」


これにより、時間軸の超光速跳躍が発動した。そして、気が付いた時には、既に事後になっていた。つまり、コナンは哀に誘われてヤっちゃったらしい。


コナン「(やべぇ。灰原とヤッちゃった。蘭、俺は…。)」

哀「もし、江戸川コナンでいるなら、私が毎日させてあげるわよ。」

コナン「でも、俺は蘭が…。」

哀「蘭さんは、もう片方の貴方が相手をするわ。でも、何時になったら出来るかしらね。当分ムリじゃない? 互いに、それができる性格なら、もうとっくにしてるでしょ?」

コナン「(鋭いな、こいつ。)」

哀「でも、私だったら何時でも…。」

コナン「灰原…。」

まこ「おい、誰かワシを呼んだか?」


まこのお陰で児ポにならずに済んだ。
コナンは、そのまま哀と楽しんだようだが…。

一方、博士の方は、


博士「これで、あとは電源を入れるだけじゃ。ただ、一度電源を入れるとオフに出来んからの。巧くイってくれ!」


博士が、憧100式の胸を触った。これがオンスイッチらしい。ただ、あくまでもオンスイッチであってオフスイッチの機能は無い。


憧「うーん。あれ? どうして私、裸………って、なんで男の人がいるのよ!」

博士「仕方がないじゃろう。君は、ワシが造った最高傑作じゃからのう。」

憧「造ったて、それってどういうこと?」

博士「はっきり言ってしまえば、君は人間ではない。ワシの科学力の全てを注ぎ込んで造り出した…。」

憧「(もしかして、ロボット?)」

博士「AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧100式じゃ!」

憧「ええと、悪と戦うロボットとかじゃ…。」

博士「ダッチ〇イフ!」

憧「ええと、『正義の味方』とかじゃなくて?」

博士「強いて言えば、『性技のみの方』じゃの。」

憧「何なのよ、それ?」

博士「これが取扱説明書じゃ。」

憧「ってことは、私、売られるの?」

博士「そんなつもりは無いわい! ワシも、細かいところは忘れてしまうかもしれんからのぉ。それで書きとめたメモみたいなもんじゃ。」

憧「それって、まさか…。」

博士「ワシの下の世話のために造ったんじゃ。じゃあ、早速。」

憧「イヤ――――――!」


憧100式は、迫り来る博士に金的攻撃を仕掛けた。
股を押さえてうずくまる博士を横目に、憧100式は取扱説明書を奪い、その場にあった白衣を羽織って博士の家から飛び出したのだった。


憧「できるだけ遠くに逃げなきゃ。」


どれくらい走っただろう?
憧は、見知らぬ街………いや、誕生したばかりのダッチワ〇フにとっては、どの街も見知らぬ街にしかならない。
一先ず、それなりに遠く(徒歩レベル)に逃げた。

公園のベンチに座り、憧100式は、自分の取扱説明書に目を通した。
一応、偏差値70の高校に余裕で入れるくらいの頭脳は持っている。


憧「ええと、インプリンティング機能付きって、なにこれ?」


読んでみると、どうやら、最初にヤった男性(オーナー)専用になるらしく、他の男性が使おうとすると相手を感電させるらしい。
ただし、オーナーの命令であれば他の男性の受け入れは可能だそうだ。取扱説明書には、これを『スワッ〇ング機能』とか『NTR機能』とか書かれていたが…。

エネルギーは、普通に人間と同じ食生活で良く、特にロボ〇タンAとかを飲む必要は無いらしい。かなり都合よく出来ている。これなら、普通に人間として暮らしてゆける。

それにしても、おなかがすいた。
人間じゃないのに、造り物なのに、何故かおなかはすく。
エネルギーを補給しろと言うことなのだが…。


憧100式は、公園のブランコに一人で座っていた。
もう、夜10時を回っていた。
行くあてもない。
いや、一つだけある…、博士の家だ。しかし、博士の専用になるのは、なんかイヤだ。悪い人じゃなさそうだけど…。


男「おい姉ちゃん!」

憧「えっ?」

男「こんな夜中に、おい、お前、白衣一枚かよ!」

憧「(なんか、イヤらしい感じ。)」

男「俺と遊ぼうぜ!」

憧「ちょっとやめてよ。」

男「いいじゃんかよ、減るもんじゃなし!」

憧「減らないけど、イヤ(こんな人の専用になるのはイヤ!)」


たまたま近くを通りかかった京太郎の目に、この光景が映った。
カワイイ女の子が襲われそうになっている。これは助けないと…。


京太郎「おい、お前、何やってるんだ?」

男「何って、これからナニするんだよ!」

京太郎「嫌がってるだろ。おい、放してやれよ!」

男「んだと、こら!」

京太郎「染谷先輩の力を借りるぞ!」

まこ「なんじゃ、京太郎。なんか言ったか?」


次の瞬間、男の姿はなくなっていた。暴力的シーンを、まこの力ですっ飛ばしたのだ。
相変わらず便利な能力だ。


京太郎「大丈夫ですか?」

憧「は…、はい。」

京太郎「そんな格好で一人でいると危ないですよ。じゃあ、俺はこれで。」

憧「ちょっと待って。私、実は、行くあてが無くて…。一晩、泊めてもらえませんか?」

京太郎「えっ?」



続く


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四十六本場:決着! 咲vs照

 昨年夏のインターハイ個人戦決勝卓前半戦。

 オーラス五本場、照の親。

 

 照がリーチをかける直前のツモで、怜は、

「(三巡先や!)」

 未来視能力を上限値まで上げた。

 ここで満貫をツモ和了りできれば、宮永姉妹と最強状態の小蒔を相手に念願のトップが取れる。

 たとえそれが前半戦だけだったとしても、もし達成できたら、この上ない快挙である。生涯自慢できるレベルであろう。

 ならば、多少の無理はして当然である。

 

 ルール上、鳴きが入ると、そこで一巡が過ぎたことにされる。これは、ポン、チーだけではなくカンにも適用される。

 しかし、怜の未来視では、鳴きは一巡とみなされない。どうやら、怜が次にツモるまでの出来事を一巡として扱われるようだ。

 

 ここで怜は、その後の展開を目の当たりにし、

「(ここで、とうとう出るんか!)」

 驚きの余り、目を大きく見開いた。

 それだけ衝撃的な未来予知だった。

 

 

 怜がツモってきた字牌を切った。

 同巡、咲はツモ牌を手に入れて{七}を切った。

 そして、咲の下家、照がツモ牌を手牌に入れ、別の牌………{①}を切って、

「リーチ!」

 前半戦最後の攻撃に出た。

 照の待ちは{四七}。

 誰もが、これで照の前半戦1位を確信した。この局で照が親ハネを和了って、咲を逆転すると…。

 たった『二人』の人間を除いて…。

 

 この照のリーチ宣言牌を、

「ポン!」

 咲が鳴いた。そして、ここで躊躇いなく{八}を切った。これは照の和了り牌ではなかったし、一方の小蒔も何も仕掛けて来なかった。

 萬子一直線の小蒔には、常に萬子は危険牌であると思うが、まだ小蒔は一向聴だった。

 また、これで咲は{七八}を順に切ったわけだが、照が聴牌する直前に{七}を処理していたことになる。これはこれでナイスプレーであろう。

 

 続いて照は{9}をツモ切り。すると、

「カン!」

 今度は、咲がこれを大明槓した。嶺上牌は{①}。

「もいっこ、カン!」

 当然のように、咲は、これを加槓した。続く嶺上牌は{南}。

「もいっこ、カン!」

 これを、暗槓して、咲は三枚目の嶺上牌をツモった。そして、

「もいっこ、カン!」

 とうとう四つ目の槓を晒した。{西}の暗槓だ。

 王牌には、四枚目の嶺上牌が残っていた。咲は、これをツモると、

「ツモ! 嶺上開花! 四槓子。33500。」

 最も出る確率が低いとされる役満を四連槓後の嶺上開花で和了った。

 しかも待ちは{四}単騎。照の待ち牌のもう片方。

 まさに奇跡的な和了りだ。

 

 怜が未来を見て驚いたのは、まさに、この四槓子だった。それも、チャンピオン宮永照の責任払いである。

 

 以上の結果、前半戦の順位と点数は、

 1位:咲 69800:+60

 2位:怜 26800:-3

 3位:小蒔 6000:-24

 4位:照 -2600:-33

 まさかの照のトビで終了となった。誰も予想していなかった結果である。

 

 

 一旦、ここで休憩となった。

 対局室の外では、和が咲を迎えに来てくれていた。

 咲は、恐らく休憩時間にトイレに行くだろう。しかし、それで迷って対局室に戻れなくなっては困る。

 それで、和が迷子対策に、ここまで来てくれていたのだ。

 咲は、対局室を出ると和と手を繋いでトイレの方へと向かっていった。傍目には必要以上に仲良く見えるだろう。

 

 一方、前半戦を観戦室で見ていた初美は、

「最強の神様を降ろした姫様が勝てないなんて。ないない!…。そんなの……っ!」

 と悔しさを露わにしていた。

 

 

 一旦トイレで用をたした後、咲は、自販機でレモン水を購入した。

 別に出した分を補給するわけではない。緊張からくる喉の渇きを潤すためだ。

 自販機の中には、白築慕が大好きな『つぶつぶドリアンジュース』も置かれていたが、この頃の咲は、つぶつぶドリアンジュースを気にも止めていなかった。

 まあ、視界に入っていなかったが正しいのだろうが…。

 

 それを意識するようになるのは、慕が監督として率いる世界大会メンバーに選ばれてからである。

 まあ、何かにつけて慕が勧めてくるので、その物の存在が咲の脳内にインプットされたからなのだが…。

 

 

 咲は、前半戦で大勝利を得たが、まだ気が抜けない。

 相手は自分の打ち方を良く知る姉だ。それに、咲自身、姉の強さをイヤと言うほど理解している。

「後半戦はお姉ちゃんが飛ばしてくるだろうな。」

「そうですね…。」

「…。」

「咲さん。」

「なぁに? 和ちゃん。」

「もし、これで優勝できるのでしたら…、あの…、してもイイですよ。」

「えっ?」

「だからアレを…。」

「アレって?」

「だから、アレ…。」

「してもイイの?」

「はい…。」

 

 当然、この和と咲の会話を傍で聞いていた第三者の方々は、

「(この二人、デキてる?)」

 と思ったのは言うまでも無い。まあ、元々そんな風に見えていたのだから、この会話で拍車をかけることになるのは必至だろう。

 

 しかし、ここで言うアレとは、別にHな意味ではなく、プラスマイナスゼロのことであった。

 

 咲と照の点差は93点。かなり大きな差だ。

 もし、後半戦で咲がプラスマイナスゼロを達成し、且つ照が小蒔と怜の点棒を共に0点にした上で子の役満を和了れたとする。

 この場合、照は+92になるが、前後半戦のトータルは+59となり、咲の+60にはギリギリ届かない。

 

 一応、後半戦で咲がプラスマイナスゼロを達成しても、小蒔と怜の点棒を共に0点にした上で照が親の三倍満を和了れば咲を逆転できる計算にはなる。

 しかし、このような点数調整を照は出来ない。そんな都合の良い展開をプロデュースできる人間は、むしろ咲くらいだろう。

 

 つまり、咲がプラスマイナスゼロを達成した段階で照が+94以上を叩き出すのは極めて困難と言える。

 言い換えれば、後半戦でプラスマイナスゼロを達成すれば、咲が優勝できる可能性は極めて高いと言うことだ。

 

 逆に照は、咲のプラスマイナスゼロを破り、咲を凹ました上でトップを取るしかないだろう。

 93点差を埋めるのは容易なことではない。

 

 

 後半戦開始時間ギリギリになって、咲が対局室に戻ってきた。

 いや、正しくは『和が咲を送り届けた』である。

 

 場決めがされ、後半戦も前半戦と同じで、起家が小蒔、南家が怜、西家が咲、北家が照に決まった。

 

 

 東一局、小蒔の親。

 もう照は東一局で様子見をしない。最初からエンジン全開だ。逆転勝利に向けて何が何でも第一弾の和了りを決めに行く。

「ポン!」

 相変わらず萬子一直線の小蒔が捨てた{6}を照が鳴いた。そして、その数巡後、

「ツモ。タンヤオのみ。300、500。」

 俗に言うゴミ手だが、照が念願の第一弾の和了りを決めた。

 

 

 東二局、怜の親。

 ここでも照が、

「ツモ。500、1000。」

 安手を和了った。勿論、安くても前局の和了りより点数が上昇していた。この点数上昇が照の和了の特徴だ。

 咲も怜も小蒔も、手を打つ前にサクッと照に和了られた感じであった。やはり、第一弾の和了りを許すと、その後の照の和了りを阻止するのは非常に難しくなる。

 

 

 東三局、咲の親。

 この局も、

「ツモ。1000、2000。」

 照が和了った。そろそろ、照の右手に竜巻の予兆が見え始める。

 

 

 東四局、照の親。

 ここでも、

「ツモ。2000オール。」

 やはり、早々と照が和了った。照の聴牌速度が、回を追う毎にドンドン加速している感じがする。

 

 そして、東四局一本場も、

「ツモ。3300オール。」

 照が早い和了りを見せた。

 ただ、ここでは、まだ打点を敢えて抑えているのか、満貫には達していなかった。

 

 続く東四局二本場。

 ここで、とうとう照の右手に激しい竜巻が発生した。そして、

「ツモ。4200オール。」

 いよいよ和了りが親満に達した。ここから、さらに親ハネ、親倍と続いて行くだろう。

 

 この時点での後半戦の点数は、

 1位:照 60600

 2位:小蒔 13500

 3位:怜 13200

 4位:咲 12700

 前半戦終了時と、順位が完全に逆であった。

 

 東四局三本場。

 ドラを多数抱えるとか染め手とかに走らない限り、照としても、そろそろ打点を上げるのが厳しくなっている。

 この局、照は平和タンヤオドラ2で聴牌したが、これをツモ和了りしても前局と同じ点数となる。そのため、

「リーチ!」

 彼女は仕方なくリーチをかけた。打点上昇が縛りとなっている故のリーチだ。

 

 打点上昇は、和了れば他家にとっては脅威だが、途中から和了る条件が厳しくなる。これが照の能力の欠点とも言えるだろう。

 前半戦では、ここを咲に狙われた。

 

 下家の小蒔は相手の和了り牌が分かる。なので、照の和了り牌で無ければ、それが無筋だろうが初牌だろうが平気で捨てられる。

 この時、小蒔はツモってきた{3}を捨てた。しかし、

「カン!」

 この牌を狙っていた者がいた。

 咲は、この{3}を大明槓すると、嶺上牌で、

「ツモ。嶺上開花ドラドラ。5200の三本場は6100です。」

 華麗に嶺上開花を決めた。

 しかも、{9}を暗刻で持っており、タンヤオすら付かない。40符だが嶺上開花以外の和了り役の無い和了りだった。

 これで、一先ず照の連続和了を止めた。

 

 

 南一局、小蒔の親。

 連続和了を止められて、照の手の進みが遅くなった。

 怜は、ここがチャンスと踏んで三巡先を見た。

「(やっと行けそうやな。)」

 そして、

「ポン!」

 小蒔が捨てた{南}を鳴き、その二巡後に、

「ツモ! ダブ南ドラ2。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。

 これで、小蒔の点数が3400点まで落ち込んだ。

 

 

 南二局、怜の親。

 今まで萬子一直線………殆どの局で萬子の清一色または純正九連宝燈一辺倒だった小蒔が、ここで混一色に方針を変えた。

 手を下げても良いから、一旦和了って点数を持ち直したいと言ったところだろう。

 まあ、それでも染める色は萬子なのだが…。

 小蒔は、順調にムダツモ無く字牌と萬子を重ね、

「ツモ。メンホン南北。3000、6000!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 

 南三局、咲の親。

 照としては、ここで咲に和了らせてはならない。

 せっかく咲の点数が15000点を割っているのだ。ここで咲に和了らせたらプラスマイナスゼロをやりやすくさせてしまうだろう。

 むしろ照の立場からすれば、ここで第一弾の和了りを決め、そこから親での連続和了に持ち込みたいところだ。

 

 この時点で後半戦の点数は、

 1位:照 54600

 2位:小蒔 15400

 3位:怜 15200

 4位:咲 14800

 

 照は、ここを安手で良いから流した後、連続ツモ和了りで他家三人から8000点ずつ取れれば逆転優勝できる。

 例えば、ここでゴミ手をツモ和了りした後、オーラスで親倍をツモ和了りすれば、後半戦の点数は、

 1位:照 79700:+70

 2位:小蒔 6300:-24

 3位:怜 6900:-23

 4位:咲 7100:-23

 

 よって、前後半戦のトータルは、

 1位:照 +37

 2位:咲 +36

 3位:怜 -26

 4位:小蒔 -47

 となり、照は咲を逆転できる。

 

 当然、ここは何とかクズ手で良いから和了る。咲の親を流すと同時に、第一弾の和了を決める!

 照は、小蒔が捨てた{中}を、

「ポン。」

 鳴いて役を作り、その三巡後、

「ツモ。300、500。」

 中のみで和了った。

 

 

 そして、オーラス。

 照は、ここで稼いで逆転優勝を狙う。

 対する咲は、当然、止めに行く。

 ただ、この局で照は、咲からとてつもなく強大なエネルギーを感じ取っていた。

 忘れもしない。この感じはプラスマイナスゼロに向けた最終局で、いつも咲から放たれていた波動だ。

 

 咲は、序盤から、

「カン!」

 小蒔が捨てた{北}を大明槓した。そして、嶺上牌を取り入れて不要牌を切った。

 その二巡後、

「ポン!」

 今度は、照が捨てた不要牌、{南}を鳴いた。これで咲の手には南北の2翻が付いた。

 

 突然、照の手が進まなくなった。

 第一弾の和了りを決め、通常ならば、ここから手が加速して行くはずである。しかし、咲の放つプラマイゼロに向けた強制力が照の手に干渉し始めたのだ。

 

 そして、数巡後、

「もいっこ、カン!」

 咲が{南}を加槓した。嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は{②}を暗槓した。続く嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {④⑤⑤⑥}  暗槓{裏②②裏}  明槓{南南南横南}  明槓{北横北北北}  ツモ{[⑤]}

 

「南北混一三槓子嶺上開花赤1。4000、8000!」

 

 中膨れの待ち。しかも、待ち牌は{[⑤]}二枚のみ。嶺上牌を知っていなければ別の聴牌形に取るであろう。

 

 これで後半戦が終了した。

 以上の結果、後半戦の点数は、

 1位:照 47700:+38

 2位:咲 30300:±0

 3位:小蒔 11100:-19

 4位:怜 10900:-19

 咲が予定通りプラスマイナスゼロを達成した。

 

 よって、前後半戦のトータルは、

 1位:咲 +60

 2位:照 +5

 3位:怜 -22

 4位:小蒔 -43

 咲が絶対王者の照を破り、個人戦を征した。この日から、咲が絶対王者として女子高生雀士のトップに君臨することになる。

 

 

********************

 

******************************

 

****************************************

 

 

 遠い鹿児島の地から、霞、初美、巴が小蒔のことを見守る中、今年のインターハイ団体戦決勝先鋒戦が始まろうとしていた。

 

 場決めがされ、起家が小蒔、南家が憧、西家が和、北家が純に決まった。

 この時、既に小蒔からは咲や光に似たような雰囲気………周囲の者達の心まで破壊しかねない超魔物独特のオーラが放たれていた。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
四十五本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。一応、灰原哀と江戸川コナンもムダに登場させます。


憧 -Ako- 100式 流れ二本場:密着? 憧&京太郎

哀「本当に江戸川君はエロカワ君ね。」

コナン「仕方ねえだろ。でも、俺はお前と違って初めてだったし。」

哀「失礼ね。私だって初めてだったわよ。」

コナン「えっ?」

哀「そんな『嘘!』みたいな顔しないでよ。ホントなんだから。だから、ちゃんと責任取ってよね。」


コナンと哀は、その後も仲良く保健体育の実習をしているらしい。多分、十数年後には結婚することだろう。

一方、阿笠博士は、


博士「憧100式に逃げられるとはのう。もう少し、AIに学習させんといかんな。性『技』ばかり気を取られて、性『格』の方もきちんと造っておかんとな…。」


博士は、どうやら憧100式の改良型を造り出そうとしているようだ。

さて、憧100式はと言うと、自分を助けてくれた京太郎が一人暮らししているアパートに転がり込んで………先ずは、一晩泊めてもらうことにした。

京太郎は、長野から大学進学のために上京していた。
女友達の咲も、この近くに住んでいるらしい。


京太郎「いつまでも白衣一枚ってわけには行かないだろうからさ。俺のジャージで悪いけど…。」

憧「ありがとう…。」

京太郎「で、夕食まだって言ってたよね。」

憧「うん…。」

京太郎「今、俺んとこ、カップメンくらいしかないけど…。」

憧「べ…別に気にしないで…。」

京太郎「あとさ。さすがに男女二人きりはマズイと思ってさ。今日は俺、友達のところに泊まるからさ。」

憧「それは悪いわよ。」

京太郎「いや、別にイイって。」

憧「そんな、気を使わなくてもイイから…。転がり込んだのは私だし。」

京太郎「でも、一部屋しかないしさ。」

憧「別に、私は気にしないから。」

京太郎「(俺が気にするんだけどな…。)」

憧「それでね。カップメンって、私、食べたこと無いんだけど、どんな風に食べるの?」

京太郎「どこぞお嬢さんか?」

憧「別にそう言う訳じゃないんだけどね…。ただ、何も知らないだけ…。」

京太郎「お湯を注いで三分経ったら食べられる。」

憧「へー。便利な食べ物だね。」

京太郎「そんなんで感動されるとは思わなかったよ。」


早速、憧100式はカップメンを食した。誕生して初めての食事だ。
一口食べて憧100式が思ったことは…、


憧「(私、造り物のダッチ〇イフのクセに味が分かる。確かに美味しいわね、これ。)」


さすが阿笠博士が自分の持つ科学力の全てを注ぎ込んだと言うだけのことはある。味覚を持つダッチワイ〇だったとは…。


取扱説明書:憧100式は、オーナーから放出される種々体液の味を他の人のものとキチンと見分けるくらいの鋭い味覚を持っています。


京太郎「じゃあ、そろそろ、俺。シャワー浴びてくる。別にイヤらしい意味じゃなくてさ。」

憧「分かってるって。でさあ。一緒に入る?」

京太郎「何でそうなるんだよ!」

憧「(あれ? 私、いったい、なんでそんなこと言ったんだろう?)」


取扱説明書:憧100式は、自分から相手にHなことを求めて行く機能が付いています。


京太郎「じゃあ、さっさと浴びてくる。」


京太郎は、その後、五分程度で戻ってきた。
憧100式も、カップメンを食べた後で一応シャワーを浴びさせてもらったが………、ただ、何故かジャージを着ないで素っ裸で戻ってきた。


取扱説明書:憧100式は、シャワーを浴びると臨戦態勢に入ります(Hな意味で)。


京太郎「お…。おい。服着ろよ。」

憧「えっ? あっ? うん…。」


一先ず、正気を取り戻した憧100式は、さっきのジャージを着た。


憧「(私、どうしたんだろ? なんか、記憶が飛んだみたいになっちゃって…。)」

京太郎「じゃあ、俺。明日大学あるし、そろそろ寝るからさ…。」

憧「はーい。」


しかし、憧100式は全然寝付けないでいた。
もう夜遅いのに、ドンドン目が冴えて行く。
まるで、これからが自分の活動時間帯であるかのように…。


取扱説明書:憧100式はオールナイト設定のため、基本的に夜行性です。


憧「(ヤバイ。なんだか私、変…。)」

憧「(Hしたい…。)」

憧「(どうしよう、これ…。なんだか、私が私じゃなくなるみたい…。)」


取扱説明書:機能確認のため、憧100式は起動後、速やかにお使いください。


憧「(ああ、もうダメ。京太郎、ゴメンナサイ…。)」


憧100式はジャージを脱ぎ捨てると、京太郎の上にまたがった。そして…、


まこ「これ以上はマズイじゃろ!」


時間が飛んだ。
既に事後になっていた。


京太郎「(マズイよ、俺。今日知り合ったばかりなのに、まさか、この娘とヤっちゃったなんて…。でも、結構かわいいし、このまま恋人にってありなのかな?)」

憧「あの…、ゴメンね。なんか私の方から…。」

京太郎「いや、俺のほうこそ…。実は、初めてだったんだけどね…。」

憧「偶然ね。私も初めてだったんだけどね(これで、京太郎がオーナーか)。」

京太郎「(それは嘘っぽいけどな)でさあ、こういうことしちゃってから言うのもなんだけどさ、俺達恋人に…。」

憧「それはムリかな。(私、人じゃないからね、恋『人』はさすがに…)」

京太郎「えっ?」

憧「でも、ヤりたい時は、何時でもシていいからね!」

京太郎「それって、セ〇レってこと?」

憧「ああ、ちゃんと言ってなかったわね。あのね…。」


憧100式が京太郎の手を取った。そして、先ず、京太郎の手を京太郎の胸に当てさせた。
京太郎の激しい鼓動が手に伝わってくるのが分かる。


憧「京太郎の心臓の音、するでしょ?」

京太郎「そりゃ、当然だろ。」

憧「でもね…。」


憧100式が京太郎の顔に両手で触れ、そのまま京太郎の耳を自分の左胸に当てさせた。
京太郎は、憧100式の胸に当たって一瞬喜んだが、その後、違和感を覚えた。
心臓の音が聞こえないのだ。
代わりに、モーター音のようなものが聞こえる。


京太郎「なんだ、これ?」

憧「実はね、私、人間じゃないのよ。今日、完成したばかりの…。」

京太郎「ロボット…。」

憧「ええとね。製作者に言わせると、私はAI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフの憧100式…。」

京太郎「へっ?」

憧「つまり、私は大人の玩具なの!」

京太郎「えぇー?」

憧「でね。初めて使った人が私のオーナーになる仕組みになっていて…。これが取扱説明書。一応、渡しとく。」

京太郎「…。」

憧「なので、これからも末永くお使いください。」

京太郎「オーナーって、俺が?」

憧「そうよ。私は、京太郎専用の玩具になったんだからね。」

京太郎「玩具って…。」

憧「あと、私は人間じゃないので、私との交わりは童貞喪失としてカウントされないから! その辺、勘違いしないでね!」

京太郎「(なんか、この展開に付いて行けない…。)」


何はともあれ、オーナーを見つけた憧100式でした。



続く


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四十七本場:神vs人間

 この決勝戦では、魔物対決が大将戦のみとなる。

 各種メディアでは、先鋒戦では小蒔が、次鋒では光が、中堅戦では咲が勝ち星をあげるとの予想がなされていた。その際、相手をどれだけ蹂躙するかも興味の対象となっていた。

 他にも、次鋒戦では玄のドラ支配や三元牌支配も話題に上がっていた。玄が光に勝つと思う人は少数派だが、それでも、あの爆発的な和了りは魅力的である。

 

 話題性としては、唯一、副将戦だけが蚊帳の外に置かれた感じだった。

 しかし、選手達にとっては、副将戦の勝敗が優勝に大きく影響するため、とりわけ重要な戦いであるとの認識が強かった。

 当然、副将戦に出場する灼、麻里香、透華、桃子にかかるプレッシャーは、相当なものだった。

 特に麻里香は、準決勝戦での戦犯的大敗を経験しており、精神的には、かなり追い詰められているようだ。いつも淡に見せる笑顔が完全に消えていた。

 

 

 いよいよ決勝戦先鋒前半戦東一局のサイが振られた。

 和は、相変わらずエトペンのぬいぐるみを抱えての対局になる。これはこれで、もう見慣れた光景だ。

 

 

 東一局、親は小蒔。

 昨年の個人決勝戦卓と同様に最初は様子を見ているのか、神降臨バージョン小蒔の鬼のようなツモは、まだ炸裂していなかった。

 

 小蒔が切った{白}を、

「ポン!」

 憧が早々に一鳴きし、比較的早い巡目で、

「ツモ! 白ドラ2。1000、2000!」

 そのまま憧がツモ和了りを決めた。

 憧の麻雀スタイルは鳴きの速攻。今回も、他家…、特に小蒔が和了るよりも前に自分が和了るつもりで攻めて行く。

 

 

 東二局、憧の親。

 ここでも当然、

「チー!」

 憧は、鳴いて手を進めた。

 

 昨年の個人決勝戦同様、小蒔は、この局から萬子一直線で手を進める。

 当然、小蒔の手からは、字牌よりも先に筒子や索子が出てくる。憧は、それを鳴いて早和了りを目指す。

 

 しかし、鳴きを武器とするのは憧だけではない。憧が捨てた{西}を、

「ポンだぜ!」

 純が鳴いた。

 ただ、純の鳴きは、手を進めることよりも流れを変えることに重点が置かれている。

 今回は、既に小蒔に萬子のツモが集中する流れになっているのを予感し、これを崩しにかかったと言ったところだ。

 

 案の定、小蒔の予定していた萬子が和のほうに流れ出した。

 ただ、これは飽くまでも小蒔の手を進めるための萬子ツモ…、すなわち小蒔の手に入ることを想定していた牌だ。連続した数字ではなく、{二、五、八}と筋で和の手に入って来た。勿論、これらが和の手に噛み合うかどうかは別だ。

 結果的に、和にとっては使い難い形で萬子が回されてきた感じだった。

 これにより、手が早く進むのは憧と純の二人に絞られた。

 

 結局、

「ツモだぜ! 2000、4000!」

 純が西ドラ3をツモ和了りした。

 

 

 東三局、和の親。

 ここでも、

「チー!」

 憧が鳴き、

「ポンだぜ!」

 純が鳴き、二人で手を進める形となった。そして、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ1。1000、2000!」

 この局は憧が征した。

 

 

 東四局、純の親。

 まだ、小蒔の和了りは無い。憧と純の鳴き合戦に翻弄されて、手が出せないでいる感じだ。ただ、その一方で二人の攻撃パターンを学習しているようにも思える。まるで、AIの機械学習のように…。

 

 一方の和は、エンジンが、ようやくかかってきた。

 前局と同じで、ここでも、

「チー!」

 憧が鳴き、

「ポンだぜ!」

 純が鳴き、二人で手を進める形となっている。流れも純の鳴きによって常に変えられている。

 しかし、和の麻雀には流れと言うものが存在しない。飽くまでも確率論のみで全てが進んで行く。

 そして、とうとう、

「リーチ!」

 和が聴牌し、リーチをかけた。

「チー!」

 純が鳴いて一発を消した。しかし、次巡、

「ツモ。メンタンピンツモ一盃口ドラ2。3000、6000。」

 和がハネ満をツモ和了りした。{258}の三面聴で{2}を引いての和了りだ。

「(クソッ! やっぱりか!)」

 純は、心の中でそう言った。流れよりも確率が全てを征する和は、鳴きによってブレることが無い。

 

 何気に純は、山を崩す時に次の牌を見た。

 そこに眠っていた牌は最悪の{[5]}。もし、これを一発でツモられていたら倍満だったし、これを和に回していたらツキも和に持って行かれただろう。

 一応、鳴いて正解だ。

 

 

 南入した。

 南一局、再び親は小蒔。

 急に小蒔の雰囲気が変わった。今までよりも放出されるオーラが数段強くなった感じがする。本気の衣や咲を相手にしているような威圧感がある。

 憧は、少々吐き気を催した。

 

 第三者の目には、小蒔の手牌が、まるで昨年の個人決勝戦の再現のように見えた。

 今降臨しているのは最強神ではなく、三番目に強い軍神だが、咲や照、怜のような特殊能力を持つ相手がこの場にはいない。そのため、最強神でなくても圧倒的な支配力を見せ付けることができる。

 

 小蒔の手牌は、既に萬子に偏っており、しかも端牌である{一}と{九}が配牌から二枚ずつ揃っていた。そして、その手は順調に聴牌に向けて成長して行った。

 昨年の個人戦では、怜と咲のコンビネーションで、可能な限り小蒔に和了り牌を掴ませないように打ち回した。それと同じことを、ここでは憧と純に要求されるだろう。

 

「(何か嫌な予感がするぜ!)」

 純は、異様な流れを感じ取っていた。何とかそれを崩したい…。

 しかし、それを崩すチャンスすら与えてもらえなかった。憧との共闘以前の問題だ。

 結局、

「ツモ。16000オール。」

 小蒔の九連宝燈が炸裂した。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}  ツモ{一}

 

 {一二三}の三面聴からの和了りだった。

 ド高目は{一}の九連宝燈。今回の小蒔の和了りだ。{二}なら最安目だが、それでも親倍になる。

 これで小蒔は、一気にトップに躍り出た。

 

 南一局一本場。

 ここでも小蒔は萬子に染めていた。

 いきなり筒子や索子のチュンチャン牌から切り出されていたことから、純、憧、和の三人にも、それは容易に想像がつく。

 今回も純は、前局同様の嫌な予感がしてならなかった。

 

「チー!」

 憧が鳴き、

「ポンだぜ!」

 純が鳴き、二人で流れを引っ掻き回した。

 しかし、それでも小蒔は、次巡にはツモの流れを立て直してくる。ツモる牌の位置を後付で変えられる力でもあるように見える。

 東二局で小蒔のツモ牌を和に回した時とは、どうも様子が違う。

 そして、この局も、

「ツモ。メンチン赤1。8100オール。」

 小蒔が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}  ツモ{二}

 

 前局と全く同じ手牌だった。ただ、今回は九連宝燈ではなく最安目ツモの親倍だった。とは言え、これで他家との差をさらに大きく広げた。

 

 南一局二本場。

 ここでも小蒔の手は、萬子に染まって行った。しかも、今回も端牌である{一}と{九}が配牌時点で既に二枚ずつ揃っていた。

 憧と純で流れを掻き回しているのだが、それでも何とか小蒔はツモを建て直し、手を伸ばしてしまう。

 

 八巡目には、小蒔の手牌は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}

 

 またもや{一二三}待ちの門前清一色を聴牌していた。三回連続で同じ聴牌形である。

 ここでは、

「ツモ。メンチン一通一盃口赤1。12200オール。」

 {三}をツモり、小蒔は親の三倍満を和了った。

 これで、小蒔の点数が200000点を超えた。

 

 南一局三本場。

 小蒔の連荘はまだ続く。

 ここでも、当然のように小蒔は萬子の染め手を作っている。

 

「チー!」

 憧が鳴き、

「ポンだぜ!」

 純が鳴いて、二人で手を進めながら、とにかく小蒔のツモを狂わす。

 とりわけ、この局は二人の手の進みが早い。

 そこで小蒔は、清一色から混一色に方針を切り替えてきた。字牌が使える分、向聴数を減らすだけなら混一色の方が早い。

 そして、

「ツモ。メンホン中赤1。6300オール。」

 小蒔は親ハネをツモ和了りした。

 この親で、小蒔は、ハネ満、倍満、三倍満、役満を和了った。まるでサイクルヒットのようだ。

 

 南一局四本場。

「(春季大会の時は、原村に新子にタコスが相手だったから、結構互いに拮抗していたけど、今回は完全に神代の一強状態だな…。)」

 純は、ふと春季大会の団体戦決勝を思い出していた。

 

 あの時は、憧と純の共闘で、優希の東場の爆発力を最小限に留めることに成功した。

 しかし、今回は、優希の時ほどは抑え切れていない。

 一応、連続役満を和了られていないことから、多少は共闘で小蒔のパワーを抑えているのだろうとは思うが、やはり小蒔と自分達の間には歴然とした差がある。

「(でも、なんとかしないとな。)」

 純は、

「ポンだぜ!」

 憧の捨てた{北}を鳴いた。

 

 上家の和がチーをさせてくれないと純の鳴き手も進みが悪いのだが…、ただ、ここに来て和が甘い牌を捨ててきた。

 どうやら、和も小蒔の親を流すため、共闘に加わってきたようだ。

「チー!」

 純がさらに鳴いて手を進め、その次巡で、

「ツモだぜ! 北ドラ1。500、1000の四本場は900、1400!」

 なんとか安手で小蒔の親を流すことに成功した。

 

 

 南二局、憧の親。

 ここで急に小蒔のオーラが弱まった。まだ神のオーラを感じるので、神が戻られてしまわれたわけではなさそうだが…。

 恐らく、今、小蒔に降りている軍神は、攻める時には駆け引きなどせずに爆発的な力で一方的に押し切るが、そうでない時は様子見に回るようだ。

 今回は、親番が終わって力を温存する方に回ったと言うところだろう。

 

「チー!」

 この半荘では珍しく和が鳴いた。和は、別に鳴かないわけではないが、門前手のほうが多い。ここでは、憧と同じ方針………小蒔に和了られる前に安くても良いから和了る方針に切り替えたようだ。

 それに、小蒔の支配力が上がっていた南一局から南一局四本場まで、和は門前で聴牌することが出来なくなっていた。

 和の頭の中には、流れとか支配力と言うオカルト的な単語は無いが、運の良し悪しは考慮する。つまり、現状は運が低下しており、門前では聴牌まで持って行けないとの判断が、今の和の中では成されていた。

 

 既に小蒔と和の点差は150000点以上。さすがに、これだけの点差をつけられたら前後半戦トータルでも勝てる見込みは無い。

 しかし、ここで勝ち星を上げられなくても、得失点差勝負になった時に総合得点で少しでも有利になれるよう、失点を最小限にし、100点でも多く得点を重ねておくべきだ。

 そして、

「ツモ! 1000、2000。」

 憧のお株を奪うような30符3翻の手を和はツモ和了りした。

 

 

 南三局、和の親。ドラは{①}。

 小蒔のオーラは、まだ弱められたままだった。

 勿論、これは弱まったのではなく、意図的に弱めているものだ。他の三人からすれば、相変わらず、いつ小蒔が牙を剥いてくるか分からない状態である。

 しかし、圧倒的な支配力が消えている今は、小蒔以外の三人からすれば前局同様に和了るチャンスでもある。

 

「ポンだぜ!」

 純は小蒔から出てきた{南}を鳴いた。これは、純にとっては場風であると同時に自風だ。

 続いて小蒔が{中}を捨てた。純は、これも、

「ポンだぜ!」

 待ってましたとばかりに鳴いた。

 この二つの鳴きで純に流れが来たのか、今回はその後のツモが手牌と良く噛み合い、ムダツモ無く手が進んで行った。

 しかも、{58}の両面パーツなら{[5]}が、{①④}の両面パーツならなら{①}が来る。赤牌やドラで手牌が埋ってくれる。

 明らかに、この局の流れは自分に来ているのを純は直感した。

 そして四巡後、

「ツモだぜ! ダブ南中ドラ3。3000、6000!」

 純は、ハネ満をツモ和了りした。

 

 

 オーラス、純の親。ドラは{⑥}。

 前局で純に流れが来ていたが、まだ完全に彼女に定着したわけではなさそうだ。この局の純の配牌は、前局で和了れた割には今一つだった。

 この局では、

「チー!」

 憧がお家芸の鳴き麻雀を見せ付けることになった。

 小蒔が捨てた{⑦}を鳴いて{横⑦[⑤]⑥}のドラ2面子を副露し、さらに次巡、

「ポン!」

 和が捨てた{8}を鳴いた。

 そして、その三巡後、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ3。2000、4000!」

 

 力強い発声と共に憧が手牌を開いた。

 {五六七②②[5]6}  ポン{88横8}  チー{横⑦[⑤]⑥}  ツモ{7}

 満貫ツモ和了りだった。安目でも2000、3900の手だ。

 

 これで前半戦が終了した。

 以上の結果、前半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔 212400

 2位:純 67600

 3位:憧 60500

 4位:和 59500

 言うまでもなく完全に小蒔の一強状態だった。2位に150000点近い差をつけての快勝である。

 他の三人の点数は拮抗しており、2位の純と4位の和でも8100点の差でしかなかった。

 

 

 ここで休憩時間に入った。

 憧は、一旦控室に戻った。

 相手が神なので端から勝てるとは思っていない。しかし、不服ではあるが罰ゲームは覚悟しておかなければならないだろう。例の『ドリアン刑』だ。

 ただ、ラッキーなことに控室には慕が大好きなつぶつぶドリアンジュースは用意されていなかった。

 代わりに、

「はい、これ。」

 咲からタコスが渡された。まだ暖かい。できたての京タコスだ。

「ありがとう。」

 憧は、これを受け取ったが、すぐに食べようとはしなかった。

 今回の相手は、咲や光と並んで『牌に愛された子』と称される魔物の一人。タコスを食べて長野の都市伝説に従って起家になれたところで、何の手の打ちようも無い。

 だったら、ここで無理に急いで食べずに、後半戦が終わってから自分を慰めるためのアイテムとして使いたい。

 憧は、そのタコスを一旦自分のカバンの中に入れた。

「ええと、何かアドバイスとかは…。」

 憧は、

「(多分、無理だよね。)」

 とは思っていたが、念のため晴絵と恭子に聞いてみた。

「大したアドバイスはできひん。」

 やはり、恭子から想定内の言葉が返ってきた。

「(だよね…。)」

「ただ、神代が今日降ろしている神は、和了る時に一気に連続して和了るけど、和了らない時は手を萬子に染めながらも様子を見ている感じや。和了りに行って和了れなかったと思うのは一回だけ。南一局四本場。」

「井上さんが神代さんの親を流した時ね。」

 

 恭子は、昨年のインターハイ時点では、まさか小蒔が神を降ろしているなどとは想像していなかった。

 スイッチの入った小蒔の強さは認めていたが、その打ち筋には多少のブレがあった。ただし、スイッチが入っていない時は劇弱である。

 

 しかし、それが神の降臨によって強くなり、また、降臨した神によって打ち方が異なるものとの説明を晴絵から受けた時、

「んなアホな?」

 と思うくらい通常では信じ難い突飛な話ではあったが、

「でも、あの石戸達を統べる姫やからな…。」

 一応、恭子としては何かしっくり来るものがあった。

 

 去年のインターハイ二回戦で霞と打っていたし、大阪には怜や洋榎、竜華、憩など、凡人からすれば不条理な打ち方をする者達が複数いた。

 ここにも、咲や穏乃、玄のような不条理な支配をする者達がいる。

 そう言った背景もあり、神の降臨の話を受け入れられたのだろう。

 

「あの龍門渕の和了りは、憧と龍門渕だけではなく、原村も共闘に加わってきたから出来たっちゅうことやろな。ただ、原村が後半戦でも共闘してくれるかは分からんな。」

「そうなのよね。和は自分を貫くタイプだから、それが良いところではあるんだけど、今回みたいな場合はね…。」

「でも、南一局三本場では、憧と龍門渕の手の進みが早かったやろ?」

「たしかに、あの時は井上さんとの共闘が巧くハマったって言うか…。」

「あの時、神代は急遽、清一から混一に軌道修正してたで。二人のスピードに対抗するためやろな。」

「じゃあ、共闘して、且つスピード重視ってこと?」

「多分、神代の支配が続く限りは、龍門渕との共闘で進めるしかないってことやろな。」

「じゃあ、作戦変更は無しってことね?」

「そうやな。」

「それじゃ、さすがに今の神代さん相手じゃ勝てないと思うけど、やれるだけのことはやってくるから!」

 そう言うと、憧は控室を後にした。

 

 今の憧の置かれた状況は、

「勝てない、キツイ、苦しい…。」

 の3Kである。優勝を目指したこの戦いの中、精神的にも辛い。最初から負けに行くのが決まっている。

 しかし、それでも一矢報いるつもりで卓に付く。

 この一年近く、高校生最強の魔物………今の小蒔よりもさらに強い咲を相手に部内で何度も打っている。

 いまさら、魔物が相手でも怯むことは無い。

 

 憧は、気合いを入れ直して対局室に入った。

 恐らく、他の三人は、控室に戻らなかったのだろう。前半戦で座っていた席に付いたままだった。

「お待たせ~。」

 そう言うと、憧は、前半戦で自分が座っていた席に一旦腰を降ろした。

 

 後半戦開始時刻になった。

 場決めがされ、起家が純、南家が和、西家が憧、北家が小蒔になった。

 起家の純の席は変わらないので、純の対面にいた憧の席も前半戦と変わらない。和と小蒔の二人が場所を入れ替えただけだ。

 

「じゃあ、いくぜ!」

 そう言いながら、出親の純がサイを回した。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
四十六本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。一応、灰原哀と江戸川コナンも意味無く登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ三本場:咲vsダッチ〇イフ

哀「エロカワ君。まだヤルの?」

コナン「仕方ねえだろ。そもそも、お前がバイア〇ラなんか仕込むのが悪いんじゃんか!」

哀「それは、昨日の話でしょ! どう考えたって、もう効力切れてるはずじゃない!」

コナン「だって、俺。ずっと灰原と一つでいたいからさ。」

哀「…。」

コナン「蘭はもう一人の俺に任せて、俺達は俺達で楽しもうぜ!」

哀「ホント、Hが好きなんだから。」


コナンと哀は、今日も仲良く保健体育の実習をしているらしい。
哀の身体には『正』の字が幾つも書かれていた。
なんのことはない。コナンが『バーロー』と言った回数を哀が記していたのだ。
使い方が間違っている気がするが…。

一方、阿笠博士は、


博士「一先ず、人型としてマトモに造るには金が足らんな。しばらくは、簡易型(オ〇ホ)を造って凌ぐとするかの。」

博士「では、先ず憧101式簡易タイプを造るとするかの。あと、人型の本体に乗せるAIには、もっときちんとした学習を施さんといかんの。もう少し慎重に…。」


どうやら憧100式の改良型は、少し先送りになりそうだ。
多分、次のAI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフは、順番的に憧105式くらいになるだろう。

それから数日が過ぎた。
結局、憧100式は、京太郎のアパートに居ついていた。勿論、毎晩、京太郎のための性処理活動は欠かさない。そういった仕様なのだから仕方がない。


京太郎「ただいま…。」

憧「お帰りなさい。夕飯作っておいたわよ。」←京太郎のTシャツとジーンズを借りている

京太郎「おお、悪いな。」

憧「一応、独身男性(正確には独身中年~老年)相手に世話をする機能もついているみたいだからね。」

京太郎「便利だな。(ホント、人間だったら良かったのに)」


チャイム:ピンポーン(誰か来た)


憧「はーい。」


ついつい、憧100式が出てしまった。世話機能が付いているのだから仕方がないのだろうが…。
ドアを開けると、そこには小動物っぽい雰囲気の女性が立っていた。
ワナワナと小刻みに震えながら、憧100式のほうを睨んでいる。


咲「あなた、誰?」

憧「私は、新子憧。(ニュータイプ〇ッチワイフってことで、新しい憧で、新子憧←京太郎がつけてくれたフルネーム)」

憧「ええと、どちら様でしょうか?」

咲「京ちゃんに、咲が来たって言ってくれれば分かるから。」

憧「へー。京ちゃんって呼んでるんだ。私も使おうかな?」

咲「それはダメだから。京ちゃんって呼んでイイのは私だけだから。」

憧「そうなんだ…(この子、京太郎のことが好きみたいね)。ちょっと待っててね。」


憧100式が京太郎を呼んできた。


京太郎「ああ、咲か。」

咲「咲か、じゃないわよ。あの女、誰?」

京太郎「憧のことか?」

咲「いったい、あの女は京太郎のなんなの?」

京太郎「ええと、俺の世話をしてくれるってことなんだけど…。」

憧「あのね。咲さんだったわよね。」

咲「はい。」

憧「誤解しないで欲しいんだけど、別に私は京太郎と付き合ってるとか、そう言うのは無いから。」

咲「じゃ…じゃあ…。」

憧「私は、京太郎専用の性処理用具に過ぎないから。」

咲「へっ?」

憧「つまり、私は京太郎専用のダ〇チワイフなの!」

咲「ダッチ〇イフって…。」

憧「本当に性処理してるだけだから。」

咲「京ちゃんの馬鹿ぁ!」


咲は、京太郎に一発横ビンタを入れると、そのまま走って逃げて行った。
憧100式は、ちょっと説明が悪かったかなと思い(十分悪い)、一先ず誤解を解こうと咲の後を追いかけた。

ただ、咲は不運にも途中の曲がり角で、先日、憧を襲おうとした男にぶつかった。
しかも、今回は連れの男が二人いた。


男「おお、姉ちゃん。俺達と遊んでくれるのか?」

咲「あの、ごめんなさい。私、急いでるんで。」

男「ぶつかっといて、それはないんじゃないか? ちょっとくらい遊んでくれてもよ!」


これを目にした憧100式は、
『ヤベーこいつかよ!』
と思ったが、こうなったら仕方がない。なんとか咲を助けなければ。


憧「ちょっと、その子を離しなさいよ!」

男「おお、これはこの間の。お前も、俺達と遊んでくれるのかな?」

憧「遊べるだけのパワーが、貴方達にあるかしら?」


そう言うと、憧はTシャツとジーンズを脱いで裸になった。
もし、この男達が襲ってきたとしても、オーナーである京太郎以外の男は、憧の陰部に身体の何処かが触れた途端に感電する。
先日の段階ではオーナー無しだったため、その機能は発動しないことになっていたが、今は違う。

一方、咲は、憧100式の一糸纏わぬ姿を見て落ち込んでいた。
憧100式は、結構スタイルが良いのだ。
ただし、オモチは大きくない。


憧「どう? 貴方達も裸になったら?」

男「ここでかよ。でも、誘われちゃぁ、折角だから楽しませてもらうぜ。じゃあ遠慮無く、俺から行くぜ!」


男が服を脱いで憧100式に襲いかかった。しかし、憧100式の身体に触れようとしたその時、憧100式の手が超高速で動き、男の身体の………、


まこ「ここはR-15じゃ! 表現には気を付けんといかんじゃろ!」


男の血流増加したある部分に触れた。
その0.5秒後、


男「アベシ…。」


男は、憧100式の手技によって瞬殺された。


取扱説明書:憧100式は、超高速の手技であっという間に絶頂状態にさせることが出来ます。大変刺激が強いので、使い過ぎに注意してください。


連れの男達も服を脱いで憧に襲い掛かった…。
が、しかし…、


連れA「タワバ…。」

連れB「ヒデブ…。」


二人も憧100式の手技の餌食になった。

憧100式は、服を着ると、咲を連れて一先ず近くの公園に行き、水道で手を洗った。


憧「ええとね。咲さんだったよね。」

咲「ええ。」←憧を敵視している

憧「京太郎の恋人になりたいんでしょ?」

咲「いえ、あの、私は…。」

憧「だったら京太郎に告れば?」

咲「余裕ぶってるね。」

憧「えっ?」

咲「だって、京太郎と付き合ってるんでしょ?」

憧「そうなれたらイイけど、私には、そう言った資格がないから。」

咲「意味分かんないだけど…。」

憧「うーん。こんなところで、これやるの恥ずかしいけど…。」


憧100式は、Tシャツを脱いで上半身裸になった。そして、咲の耳を自分の左胸に当てさせた。京太郎に自分の正体を教えた時と同じだ。


咲「なんか、ウィーンって音がしているけど?」

憧「心臓の音、しないでしょ?」

咲「しないけど…。」

憧「私は、人間じゃないのよ。」

咲「へっ?」

憧「この間、ある研究者の手によって造られた…。」

咲「ロボット?」

憧「うーん。製作者曰く、AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧100式…。」

咲「はぁ?」

憧「それで、さっきの男達に襲われそうになったところを京太郎に助けてもらったの。で、その日の夜に、京太郎にオーナーになってもらったのよ。」

咲「オーナーって?」

憧「つまり、使ってもらったの。性処理具として…。」

咲「あ゙っ?」

憧「でも、ほら。私、人間じゃないから。例えば、掃除機とかコンニャクとか片栗子とか、京太郎が使ったとするじゃん。それらにヤキモチ妬く?」


憧100式は、掃除機、コンニャク、片栗粉(厳密には片〇粉X)の特別仕様のことを言っているのだが、咲には意味が分からない。
当然、普通に掃除機とコンニャクと片栗粉のことを考えた。これでは、ヤキモチを妬くはずがない。真意が伝わっていないのだから…。


咲「そんなのにヤキモチ妬くって、意味分かんないんだけど。」←全く意味が分かってない

憧「それと同じだったば。私は、京太郎は掃除機とかコンニャクとか片栗粉を使ってたら妬くけどな(性欲処理具として)。」

咲「それって、心が狭くない?」←全く意味が分かってない

憧「そうなのかな…。でもね、私は京太郎の持ち物だけど、単なるモノだからね。京太郎には幸せになって欲しいし、京太郎、まだ童貞だし。」←自分との交わりは童貞喪失にならないとの認識

咲「そうなんだ(それじゃあ、憧さんとは手技だけで、まだあっちはヤってないってことなのかな? 本当は、それでもイヤだけど)」←憧相手でも童貞喪失になるとの認識


まだ誤解が多数あれど、一先ず咲と和解できた(のだろうか?)憧100式だった。



続くか、これ?


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四十八本場:三元牌支配の復活!

 団体戦決勝卓先鋒後半戦。

 東一局、純の親。

 憧は、いきなり小蒔から凄まじいオーラを感じた。前半戦で南入した時と同じだ。

 あの時と同様、憧は少々吐き気を催した。

 

 小蒔は、萬子一直線で手を進める。

 ただ、今回は小蒔の下家に場の流れを読む純がいる。当然、小蒔のツモの流れを崩しにかかる。

「チー!」

 純は、{467}とあるところから小蒔が捨てた{5}を鳴き、{7}を捨てた。

 特に三色同順を狙っての鳴きではない。飽くまでも流れを変えるためだ。

 

「(鳴け! 阿知賀!)」

 憧には、純がそう言っているように感じた。春季大会の団体戦決勝で、優希の東場での爆発を抑えた時と同じだ。

「ポン!」

 共闘で小蒔の足を引っ張るのが最優先。憧は、純の捨て牌を鳴いた。

 しかし、それでも小蒔は次巡には何故かツモを立て直してくる。そして、そこから数巡で聴牌した。

 

 しかも、その聴牌形は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}

 

 前半戦で和了りを連発した時と全く同じだ。

 純は、小蒔の手牌から、この上ないエネルギーを感じ取った。

「(こいつはマズイ!)」

 そこで、せめて一太刀と、

「チー!」

 小蒔が捨てた牌を鳴いた。

 しかし、この時の捨て牌を、純は憧に鳴かせることが出来なかった。そして、次のツモ番で、

「ツモ。」

 そのまま小蒔に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}  ツモ{三}

 三倍満だ。

 

「清一ツモ一通一盃口赤1。6000、12000。」

 純は、

「失礼!」

 そう言いながら次もツモ牌をめくった。マナーとしては宜しくないが、自分の鳴きが正解かどうか、どうしても確認したかったのだ。

 

 そこに眠っていた牌は最悪の{一}。

 もし、これで和了られていたら、また九連宝燈だ。自分が鳴いてツモ巡をズラすことで役満だけは回避できたと言える。

 自分の予感は正しかったことが分かり、純は一応納得した。

 しかし、完全に納得し切れたわけではなかった。この小蒔の三倍満も、出来れば回避したかったからだ。

 純は、和が牌を崩した時、直前に和がツモってきたであろう牌を横目でチェックした。

「(やっぱり{二}か…。)」

 これを見て、純は自分の未熟さを感じずにはいられなかった。もし自分が憧に鳴かせていれば小蒔の和了りは、{二}ツモによる倍満だったからだ。

 もっとも、対面の憧に鳴かせられるのはポンだけなので、憧が対子を持っていなければ、対応のしようがないのだが…。

 

 一方の憧は、別のことを考えていた。

「(さっきの私のツモは{七}だったから、もし私が和から鳴けていれば和了られてなかったのよね。)」

 やはり、恭子に言われたとおり、小蒔を抑えるには純と自分だけではなく、和の共闘も必要と言えよう。

 そう思いながらも、憧は表情に出さずに山を崩した。

 

 

 東二局、和の親。

 ここでも小蒔は順調に萬子で手を伸ばしてくる。

 

 しかも、ここでも目指す聴牌形は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}

 今までと全く同じだ。どうやら、今、小蒔に降りている軍神は、この形を自分のテンプレートとしているようだ。

 

 純が、

「チー!」

 鳴いて流れを崩し、さらに、

「ポン!」

 憧が鳴いて、ツモを引っ掻き回しては見たものの、それでも中盤に入る頃には、小蒔は目指した形を作り上げてしまう。

 そして、

「ツモ。4000、8000。」

 例の形から{二}をツモり、倍満を和了った。

 

 

 東三局、憧の親。

 ここでも、当然のように小蒔は萬子の染め手を作っている。

 それを早和了りで阻止するが如く、序盤から、

「チー!」

 憧が鳴き、

「ポンだぜ!」

 純が鳴いて小蒔のツモを狂わしながら、二人で手を進めた。

 

 この局は、前の二局と比べて二人の手の進みが早かった。この感覚は、まるで前半戦の南一局三本場のようだ。

 小蒔に降臨した神も、同じことを感じていた。このスピードに対抗するには清一色から混一色に切り替えたほうが無難だ。

 そして、筒子と索子の処理を終えると、小蒔は萬子だけではなく字牌もツモリ、手牌の中で重ねて行った。

 数巡後には、小蒔は門前で混一色手を聴牌し、その勢いで、

「ツモ。メンホンダブ南赤1。3000、6000。」

 小蒔はハネ満をツモ和了りした。

 

 この直後、憧と純は、小蒔の雰囲気がガラっと変わったのを感じ取った。咲や衣のような威圧感が消えたのだ。

「あれっ? 済みません。寝てました。」

 小蒔は神が降りている間、寝ていたらしい。どうやら、軍神が小蒔の身体を抜け、目を覚ましたようだ。

 これで、抗う術のない支配力が消えた。

 

 現段階での後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔 152000

 2位:憧 84000

 3位:和 83000

 4位:純 81000

 完全に小蒔の一人浮きで、しかも前半戦の得点も加えると150000点以上も稼いだ計算になる。

 これから始まる東四局からオーラスまで、とんでもない大きな手を振り込まない限りは小蒔の勝利は確実だろう。

 つまり、軍神は、小蒔の勝ち星を確信して天に戻られたのだ。

 

 

 東四局、小蒔の親。

 元に戻った小蒔は、単なる頑張り屋さんである。特に変わった能力を対局の中で見せてくるわけではない。

 小蒔は、

「ポン!」

 憧に{北}と、さらに、

「ポン!」

 {發}を立て続けに鳴かせた。

 そして二巡後、三度目はチーでもポンでもなく、

「ロン! 北發ドラ3。8000!」

 憧が小蒔から満貫を直取りした。

 

 

 南一局、純の親。

 ここでも憧は、

「ポン!」

 小蒔が捨てたチュンチャン牌を鳴き、前局からの勢いに乗ったまま、

「ロン! タンヤオドラ2。3900!」

 ここでも小蒔から和了った。

 

 

 南二局、和の親。

「チーだぜ!」

 純が小蒔の捨て牌を鳴いた。神が戻られてから、急に小蒔の打牌が甘くなったのを純は見逃してはいない。

 それに、折角小蒔の支配が消えたところ、ツキを他の者に持って行かれても困る。トータルで小蒔を逆転するのはムリでも、他の二人には負けたくない。

 

 純の待ちは、自風の{北}とオタ風の{西}のシャボ。当然、{西}では和了れない。

 ただ、幸運にも、その和了れる方の牌を小蒔が切ってきた。同順フリ聴でもない。

 ならば、当然、

「ロン! 北ドラ3。7700!」

 その牌で純が和了った。

 

 

 南三局、憧の親。

 ここでも、

「チー!」

 純が鳴き、

「ポン!」

 憧が鳴いて二人でドンドン手を進めて行く。門前で手を進めているのは小蒔と和の二人だけだ。

 しかし、ここでとうとう、

「リーチ!」

 牌効率の良い和が、鳴いて手狭になった純と憧を狙ってリーチをかけてきた。門前で和が聴牌できたのは、実に前半戦東四局以来である。そこからは、小蒔に降りた軍神の支配力によって和は門前聴牌できなかった。

 もっとも、和の麻雀論には、支配力と言う単語は存在しないが…。

 

 憧も純も、一旦現物切りで対応した。さすがに小蒔も、大量リードしたこの局面では、ムリに和了りを目指さずに降りる。

 

 一発ツモは無かった。

 他家も、巧くかわして振り込まない。

 結局、数巡後

「ツモ。メンタンピンツモドラ1。2000、4000!」

 和が自力で和了り牌をツモってきた。

 

 

 そして、オーラス。小蒔の親。

 現段階での後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔 130400

 2位:憧 91900

 3位:和 91000

 4位:純 86700

 この点差だ。小蒔以外の三人が後半戦でのトップを狙うとしたら、小蒔から三倍満以上を直取りするか、役満をツモるしかない。

 

 しかし、配牌後…。

 三人とも後半戦トップを諦めた。

 それに、そもそも勝ち星は、前後半戦全体の収支で競う。

 前半戦は三人とも小蒔に150000点以上の差をつけられている。これも含めての逆転は、もはや親番の無い憧、和、純には完全に不可能だ。

 今は、得失点差勝負に備えて芝棒一本でも多く稼ぐしか道は無い。

 

 ここでも、

「チー!」

 純が鳴き、

「ポン!」

 憧が鳴いて手を進めて行く。狙うのは和了りのみ。点数の高低は考えない。

 一方の和は、門前で手を進めていた。やはり、ここはリーチをかけて攻撃するべき。和は、そう考えていた。

 中盤に入り、

「リーチ!」

 とうとう和がリーチをかけた。

 憧も純も、やむなく現物切りで打ち回した。小蒔も当然降りる。しかし、最後の最後で和にツキが回ったようだ。

「一発ツモです! メンタンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」

 点数申告する声に力が入った。トップを取るための和了りではないが、被害を最小限に食い止める意味では価値がある。

 

 これで、後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔 124400

 2位:和 103000

 3位:憧 88900

 4位:純 83700

 

 そして、前後半戦のトータルでは、

 1位:小蒔 336800

 2位:和 162500

 3位:純 151300

 4位:憧 149400

 下馬評どおり、先鋒戦は永水女子高校が勝ち星を取った。

 他の三校全てをダブルスコアにしての圧倒的な勝利であり、しかも、{一一二二三四[五]六七八九九九}からの和了りを五回も決めている。

 まさに神がかりだ。

 まあ、実際に神が関与しているのだから、神がかりで当たり前なのだが…。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 対局後の一礼を終え、先鋒選手達が対局室を後にした。

 その一方で、各校控室では次鋒選手達が気合いを入れていた。ただ、その中で一人、光だけは少々不安げな表情をしていた。

 別に今更、下馬評に対してプレッシャーなど感じない。

 光は、次鋒戦では勝ち星を取って当たり前のように各方面で囁かれているが、そんなことはドイツで麻雀を打っていた頃から経験している。

 

 問題は玄の龍支配だ。

 第二の龍支配………三元牌支配は、一回のみで消えた。しかし、まだ不明な点が多い。

 準決勝の牌譜から、恐らく三元牌支配は連発してこないと考えて良いだろう。しかし、何回おきに発動できるのかは不明だ。

 ただ…、少なくとも、準決勝戦の様子から考えると、恐らくドラ支配と三元牌支配の同時発動は無いだろう。

 

 光は、この決勝戦で、玄が一旦ドラ支配を取り戻すと予想していた。その方が、光の打点が低くなるからだ。

 そして、途中で必要が生じた時、恐らく三元牌支配に切り替えてくるだろう。

 

 

 光が対局室に入室した時、他の次鋒選手は既に卓に付いて場決めの牌をめくっていた。起家は玄、南家は春、西家は智紀だった。

 玄は、予め京太郎作のタコスを半分ほど口にしていた。それで長野の都市伝説に従って起家を引き当てていたのだ。

 残りの一枚の牌を、光は、

「(こいつら、みんな胸が大きくてスタイルがイイ。クソッ!)」

 と心の中でグチグチ言いながらめくり、北家の席に座った。

 まるで咲のように、光の全身から暗黒物質が湧き出てくるのを、霊力のある春と能力者である玄は感じ取った。

「(やはり同じ血族なのです!)」

 と玄は思ったが、さすがに口には出さなかった。

 

 準決勝、決勝と注目すべき場で、玄は、昨年インターハイでは照と戦った。今年のインターハイでは光と戦う。しかも、チームメートには咲がいる。

 よくよく考えると、玄は宮永家と縁がある。

 もっとも玄に言わせれば、

「宮永家はオモチに縁が無いのです!」

 と心の中で激白しそうだが…。

 まあ、少なくとも、三人同時相手で麻雀を楽しまされたくはないので、決して口には出さないだろう…。

 

 

 東一局、玄の親。

 光は、相手の動きを良く観察し、相手の手牌を推察する。しかも、まるで手が透けて見えていると思われるくらい、その精度は高い。

 今回は、特に玄の観察に重点を置く。

 

「(ん?)」

 光のところにドラが来た。

 予想に反してドラ支配は、されていないらしい。

 それと、全員の捨て牌に字牌が少ない。厳密に言うと三元牌が一枚も出ていない。

「(三元牌支配から入るのか?)」

 裏をかかれた感じだ。

 

 中盤に差し掛かった時、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンです!」

 手の中で予め揃っていた{發}を暗槓した。さらに嶺上牌を引き、

「もう一つ、カンです!」

 続けて玄は、{白}を暗槓した。これは、準決勝戦で見せた三元牌支配そのものだ。

 そして、三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ。大三元。16000オール!」

 玄は、そのまま嶺上開花で和了った。いきなりの親役満ツモだ。

 

「(昨日の夜、咲ちゃんと憧ちゃんとコーチに受けた特訓を、絶対に無駄にはしないのです!)」

 役満を和了ると、そこで一仕事終えたような達成感が生まれる。

 通常、ツキは役満を和了った者のところに行っているだろう。しかし、ちょっとした気の緩みから、ツキが逃げてしまうこともある。

 故に玄は、決して心を緩めず、むしろ気を引き締めるよう、自分に言い聞かせていた。

 

 

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 昨日の準決勝次鋒戦が終わった時のことである。

 

『ドラ支配と三元牌があれば、光とイイ勝負ができるのではないか?』

 と玄も周りも期待した。

 あの光に、オーラスでの得失点差対策に向けた連荘を諦めさせた程のパワーだ。周りが受けたインパクトは相当のものだっただろう。

 

 しかし、周りが楽観視する中、恭子は、

『ドラ支配を取り戻させたら、玄の性格上、自らの手で三元牌支配に本当に移行出来るのだろうか?』

 と思っていた。

 三元牌支配は、玄がドラを切ることで発動した。言い換えると、ドラを切らなければ三元牌支配が発動しないのではないだろうか?

 

 そもそも、ドラを切ること自体が、実は玄にとってハードルが高い。母、露子にドラを大事にしなさいと言われたためだ。

 よって、玄は、発動スイッチを自発的に入れられない可能性がある。

 

 また、もし三元牌支配に入れたとしても別の問題がある。

 準決勝戦での記録から考える限り、三元牌支配は、三元牌全てを玄が独占することが前提になっているのではなかろうか?

 色々検証する必要がありそうだ。

 

 

 憧が咲を対局室まで送り届けて戻ってきた。

 恭子は、取り急ぎ、憧とゆい(小走やえ妹)に手伝ってもらうことにした。

「憧、ゆい。」

「「はい?」」

「私と一緒に玄と打ってくれへんか? ちょっと試したいことがある。」

 この二人を選んだのは、二人とも頭が良く、恭子と即席で連係プレーができるだろうと踏んだからだ。

 それに度胸も良い。

 

 恭子は、これからやろうとすることの主旨と方法を二人に説明した。

 憧もゆいも、少々驚いた顔をしていたが、同時に、

「「おもしろそう!」」

 とでも言いたげであった。二人とも、恭子のやろうとしていることに興味をそそられたようだ。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
四十七本場おまけの続きになります。

本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。一応、灰原哀と江戸川コナンもムダに登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ四本場:最低な機械の淫活?

哀「エロカワ君。誰にメール入れてるの?」

コナン「もう一人の俺だよ。ちょっと自慢してやろうと思ってな。送信っと。」

新一「コナンの奴からだな、ええと…。」


件名:脱童貞
本文:言い忘れてたけど、
二人に分かれた日に
灰原とヤったぜ!
そっちはどうなった?
まだだって?
小学生に負けてんじゃねえよ!


新一「なんだ、このやろう!」

蘭「どうしたの?」

新一「いや、なんでもない。でさあ、俺達、付き合ってるんだよな?」

蘭「何よ、あらたまって。」

新一「だったら、Hなこととかさ。」

蘭「それは、結婚するまで、お互い綺麗な身体でいるって決めてるでしょ!」

新一「でもよう(勝手に決めるなよ)…。」

蘭「ダ―――メ!」

新一「コナンだって灰原とヤって…。」

蘭「まだ小学一年生でしょ? そんなわけ無いじゃん!」←思い切り笑ってる

新一「(中身は高校生だけどな…。)」

蘭「とにかくダメなものはダメ!」

新一「(あっちの方が良かったかな…。)」


コナンと哀は、毎日仲良く保健体育の実習をしているらしい。
小学校低学年の身体をした奴等の方が遥かに先に進んでいるとは………、新一はコナンに敗北感を覚えていた。

一方、阿笠博士の研究室中央に置かれた回転ベッドの上には、一人の美しい女性が裸で仰向けに寝かされていた。
いや、正しくは、その女性は博士の科学力の全てを結集したニュータイプのカラクリの類いであった。
その名も、憧105式ver.淡。
憧100式の改良型だ。


博士「今度は、性格面も色々学習させたからの。大丈夫なはずじゃ。今度こそ、巧くイってくれ…。」


博士が、憧105式ver.淡の胸を触った。憧100式と同じで、これがオンスイッチらしい。
ただ、あくまでもオンスイッチであってオフスイッチの機能は無い。これも憧100式と同じである。


淡「うーん。あれ? どうして私、裸になってんの? って、あんた誰?」

博士「ワシは、君の発明者。阿笠博士じゃ。」

淡「発明者?」

博士「そう。君は人間では無いんじゃ。ワシの科学力の全てを注ぎ込んで造り出した…。」

淡「(もしかして、アンドロイド?)」

博士「AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧105式ver.淡じゃ!」

淡「はぁ? なにそれ?」

博士「機種名は憧105式ver.淡じゃが、普段の名前は憧と呼ぶと100式と間違えるでの。それで、淡と呼ぶことにする。」

淡「悪と戦うアンドロイドじゃないの?」

博士「ダッチ〇イフ!」

淡「手からミサイルがでたり、目から光線が出たりして悪を倒す『正義の味方』とかじゃないの?」

博士「まぎれも無くダッチ〇イフじゃ! まあ、強いて言えば、『性技のみの方』が正しい表現かの。」

淡「そんなの、つまんない!」

博士「これが取扱説明書じゃ。」

淡「なんなのそれ? 私って商品?」

博士「売るつもりは無いわい! ワシも、細かいところは忘れてしまうかもしれんので書きとめたメモみたいなもんじゃい。」

淡「ちょっと待って。もしかして…。」

博士「そうじゃ。ワシの下の世話のために造ったんじゃ。じゃあ、早速。」

淡「ヤダ――――――!」


憧105式ver.淡は、迫り来る博士に金的攻撃を仕掛けた。憧100式と全く同じパターンである。さすが姉妹機。
股を押さえてうずくまる博士を横目に、憧105式ver.淡は取扱説明書を奪い、その場にあった白衣を羽織って博士の家から飛び出した。行動パターンは、基本的に憧100式と同じと言うことである。
今回も、博士はAIの学習に失敗したようだ。


淡「もう、できるだけ遠くに逃げなきゃだね。でも、説明書には姉妹機、憧100式があるって書いてあるけど、憧100式って?」


結局、憧105式ver.淡も、憧100式と同じ街に逃げ込んだ。思考回路は、ほぼ同じと言うことだろうか?
完全にパターンが同じである。
ただ、偏差値だけは憧100式の方が遥かに上である。ここだけは姉の方が圧倒的に優れているようだ。

憧105式ver.淡も、憧100式と同様公園のベンチに座り、取扱説明書を読んでいた。


淡「オーナーね…。インプリンティング機能って書いてあるけど…。最初に使った人専用になるわけか。」

淡「あの博士。悪い人じゃないんだろうとは思うけど、やっぱり、自分が気に入った男性をオーナーにしたいよね。」

淡「じゃあ、何かの訪問販売でもして、イイ人がいたら私を商品としてお勧めするなんてどうかな?」

淡「それ、イイかも! じゃあ、早速…。でも、その前に軍資金がいるか。おなかもすいたし…。麻雀で稼げばイイか。でも、その前に服か。」

淡「ええと、ゴメンナサイ。」


憧105式ver.淡は、近くのコインランドリーにあった服を勝手に借りた。
そして、雀荘に行くと、手技で店長に奉仕して一先ずタダ(勝ったら場代を払う)で打たせてもらった。
ちなみに、憧105式ver.淡の手技は、憧100式よりもスピードが8%アップしている。


淡「ツモ! ダブリー槓裏4。6000オール!」


憧105式ver.淡は、何故か麻雀が強かった。
麻雀が打てるのは、オーナー(高齢者)の痴呆防止のため、脳トレの一環として一緒に麻雀を楽しめるようにとの配慮だ。
また、麻雀が強いのは、腿から特殊な電磁波を発生して自動卓を操作することが出来るためらしい(んなアホな?)。
それと、一応、賭けに負けた時の代償にもなる。ただし、その場合はNTR機能を使う必要があるが…。

憧105式ver.淡は、勝った分で場代を払い、それから適当に服を購入した。
その後、コインランドリーに戻って服を返し、残った金で大量のコン〇ームを購入した。


淡「これって『産む』のは『また今度ねー』でコン〇ームって言うのかな?」


憧105式ver.淡も、名前の由来は知らないようである。
さて、憧105式ver.淡は、コン〇ームの訪問販売をしてみたが、家にいるのは大抵女性か、憧105式ver.淡の好みではない男性ばかりであった。
それで、適当にコン〇ームを売り付けるだけで終わっていたのだが…。

あるアパートを訪問した時であった。


淡「ゴメンください。」

京太郎「はい?」

淡「(なかなかジャン!)」

京太郎「なんでしょう?」

淡「コン〇ームは使いますか?」

京太郎「はぁ?(なんだ、この子?)」

淡「それとも、性欲処理具のほうが宜しいでしょうか?」

京太郎「(なんだか、言ってることが憧っぽいな…。)」

淡「今なら、AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧105式ver.淡を無料でお試しいただけます! ただし、返品不可ですが!」


憧105式ver.淡が、突然、服を脱ぎ出した。


淡「胸の大きさがAからGまでサイズ変更が可能です。これは業界初の機能です。お好みの大きさに設定してください。」


取扱説明書:憧105式ver.淡は準備満タン機能により胸サイズの調整が可能です。大きい方がお好きな方は、この準備満タン機能をお使いください。お好みのサイズを言うだけで自動設定します。なお、この機能は憧100式には付いておりません。


すると、憧105式ver.淡の背後から、彼女に誰かが蹴りを入れてきた。


淡「痛いじゃない!」

憧「何すんのよ、私のオーナーに!」

淡「オーナー? もしかして、貴女って憧100式?」

憧「どうしてそれを?」

淡「私は、姉妹機の憧105式ver.淡!」

憧「もしかして、博士に頼まれて私を探しに来たんじゃ…。」

淡「違う違う。逃げてきたの。ここに来たのはタマタマ…。」

憧「でも、京太郎はダメ。もう、私のオーナーだから!」

淡「残念だな。まあ、仕方がないか。それじゃ、落ち着いたら遊びに来るね。」


そう言うと、憧105式ver.淡は、京太郎と憧100式に頭を下げた。
そして、今度は隣の部屋のチャイムを押した。


淡「ゴメンください。」

俺「はい?」

淡「(まぁまぁかな!)」

俺「なんでしょうか?」

淡「コン〇ームは使いますか?」

俺「へっ?(なんだ、この子?)」

淡「それとも、性欲処理具のほうが宜しいでしょうか?」

俺「(言ってることが良く分からんが…。)」

淡「今なら、AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧105式ver.淡を無料でお試しいただけます! ただし、返品不可ですが!」

まこ「ここまでじゃ!」


憧105式ver.淡は、そのまま京太郎の隣住人の俺君をオーナーにした。



続く?


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四十九本場:進化する三元牌支配

前回の回想シーンからの続きです。
ゆいの外見は、小走やえよりも中野梓をイメージしています。


 場決めがされ、起家が恭子、南家が玄、西家が憧、北家がゆいになった。

 今回は、点数は申告だけで、実際には点棒を動かさないルールで打つことにした。

 また恭子は、ノーテン罰符も発生しないので、ここでは流局の際に聴牌していても手牌を開かなくて良いことを三人に告げた。

 順位とか最終的な収支を競うのが目的では無い。飽くまでも玄の支配を検証することが主目的だからだ。

 万が一、トビありで検証しきれない部分が出てくると、これから打つ意味が無くなる。

 

 

 東一局、ドラは{2}。

 恭子は第一打牌に{中}を捨てた。手牌の中には{2}が来ている。少なくともドラ支配は復活していない。

 玄は{①}切り、憧は{白}切り、そして、ゆいは{發}を切った。

 これで、恭子は玄の三元牌支配が発動していないことを悟った。少なくとも、一種類すら玄は三元牌を独占していない。

 

 特に大きな動きを見せないまま、中盤まで進んだ。

 恭子は、既に聴牌していた。しかし、和了りを敢えて放棄していた。和了ることが目的では無いからだ。

 そして、次巡、{[⑤]}をツモ切りした。手牌には{⑤}を含む順子があったのに、わざと赤牌と入れ替えずに捨てたのだ。

「チー!」

 これを玄が鳴いた。

 すると、場を包む空気の流れが急に変わった。玄がドラを鳴いたこと………つまり、玄がドラを迎えに行ったことで、玄のドラ支配が復活したのだ。

 しかし、この局は、

「ツモ! 1000オール。」

 恭子が和了った。

 

 東一局一本場、ドラは{7}。

 今度は、恭子の手牌の中にドラは無い。玄のドラ支配が復活したからだ。

 四巡目にゆいが捨てた{③}を、

「カン!」

 恭子が大明槓した。わざとドラを増やすために…。

 新ドラは{⑨}。玄が配牌から暗刻で持っていた牌だ。

 そして、次巡、

「リーチ!」

 ゆいが{五}切りでリーチをかけてきた。

 既に玄の手牌はドラで溢れていた。ゆいへの安牌と言えるのは、ゆいのリーチ宣言牌である{五}………正しくは{[五]}しかない。

 

 しかし、実は、ゆいは聴牌していなかった。これは、ノーテンリーチだったのだ。

 聴牌していても流局の際に手牌を開かなくて良いことにしたのは、実は、ノーテンリーチがチョンボにならないようにするためでもあった。

 それを理解した上で、ゆいは敢えて玄に{[五]}を切らせるために、一役買ってノーテンリーチをかけたのだ。

 さすが、晩成高校を蹴って阿知賀女子学院に入学しただけのことはある。恭子の要求を完全に理解している。

 その次の巡で、玄は泣く泣く{[五]}を切った。完全にゆいの狙い通りだ。

 そして、この{[五]}で、

「ロン。タンヤオドラ1。2300。」

 憧が和了った。

 恭子がドラを増やし、ゆいが玄に{[五]}を切らせ、それで憧が和了る。完全に三人の連係プレーであった。

 

 

 東二局、玄の親。

 前局とは、玄のまとう雰囲気がガラっと変わった。ドラ切りさせられたことの影響であろう。とにかく、恭子にとっては、ここからが本番だ。

 彼女は、憧とゆいと、アイコンタクトを取った。

 

 憧の第一打牌は{發}、ゆいの第一打牌は{白}だった。

 恭子の第一打牌も{白}。

 しかし、その後、恭子、憧、ゆいからは{中}だけ出てこなかった。これで三人は、

「「「(まず抱えたのは{中}!)」」」

 さっきのドラ切りで三元牌支配のスイッチが入ったことを確信した。

 

 三元牌支配に入ると、玄は支配すべき三元牌を一枚たりとも捨てることが許されなくなるようだ。つまり、この局では{中}を捨てられない。

 ドラ支配と全くパターンが同じだ。

 しかも、ここで{中}を暗槓すれば、他家にドラを乗せる。自分の手が聴牌できる気配を感じられなければ、迂闊に槓はできないだろう。

 それで、玄は、四枚の{中}を晒すことなく手牌の中で持ち続けた。

 

 ただ、切れない牌を抱えることで、玄の捨て牌は甘くならざるを得ない部分が生じる。これを憧は狙って、

「チー!」

 鳴いて手を進めた。

 これは、もし憧ではなく、ゆいか恭子が玄の下家になっても、同じことをする予定でいた。つまり、玄の下家こそが、この対局での和了り担当となる。

 憧は、その数巡後、

「ツモ! 1000、2000!」

 課せられた任務を全うした。

 

 

 東三局、憧の親。

 憧の第一打牌は{白}、ゆいの第一打牌も{白}だった。

 恭子の第一打牌も{白}。

 しかし、その後、恭子、憧、ゆいからは{發}と{中}は出てこなかった。これで三人は、

「「「(今度は{發}と{中}!)」」」

 玄に三元牌のうちの二種類が支配されたことを理解した。

 四巡目、玄の手牌のうちの八枚が{發}と{中}で埋められた。ここで玄は、

「カン!」

 まず{中}を暗槓し、続いて、

「もう一つ、カンです!」

 {發}を暗槓した。しかし、まだ聴牌していない。

 ここで玄を切った牌を、

「チー!」

 憧が鳴いて手を進めた。そして、憧をサポートするために、

「リーチ!」

 またもや、ゆいがノーテンリーチをかけた。

 勿論、玄は、ゆいがノーテンであることを知らない。ならば当然、自分が槓したことで、ゆいの手には大量のドラ、裏ドラがある可能性を考えて手が萎縮する。

 注意するのは、ゆいへの振り込み。そう判断する。

 それで玄が切った牌で、

「ロン。5800!」

 憧が和了った。

 

 東三局一本場、憧の連荘。

 恭子、憧、ゆいの三人は、

「「「(来た!)」」」

 玄から、まるで咲や光、小蒔(神降臨バージョン)と言った超魔物独特のオーラ・風格を感じ取った。

 非能力者ですら圧倒される雰囲気。これこそが、三元牌支配の完全体だ。

 この局に限っては、恭子も憧もゆいも、何故か手牌とツモの噛み合い方が著しく悪い。そのため、門前では殆ど手が進まない。

 しかも、何故か憧が鳴ける牌が玄から出てこない。

 

 それでも一応、三人で共闘すれば何とかなるかもしれない。

 例えば、敢えてゆいが面子を崩してまで恭子に鳴かせ、さらにゆいか憧が恭子に差し込めば場を流すことはできるだろう。

 しかし、今回は、そこまでは敢えて行わなかった。先に検証したいことがあるためだ。

 

 中盤に差し掛かった時、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。続いて玄は、

「もう一つ、カンです!」

 {發}を暗槓した。さらに、

「もう一つ、カンします!」

 玄は{白}を暗槓した。大三元の確定だ。そして、次の嶺上牌で、

「ツモ! 8100、16100!」

 待望の大三元を和了った。

 しかし、恭子の検証は、まだ終わりではない。この先、まだ三元牌支配が続くのかを確認しなくてはならない。

 

 

 東四局、ゆいの親。

 ゆいの第一打牌は{發}、恭子の第一打牌は{白}だった。

 そして、憧の第一打つ牌も{白}。

 その後も、{中}だけは出てこなかった。これは恐らく、三元牌支配の2クール目に入ったと考えるべきだろう。

 この局では、比較的ゆいの配牌が良く、

「チー!」

 憧のサポートもあって早い巡目で聴牌した。そして、

「ロン! 7700!」

 七巡目で、ゆいは玄から和了った。

 

 東四局一本場、ゆいの連荘。

 ゆいの第一打牌は{白}、恭子の第一打牌も{白}だった。

 そして、憧の第一打牌も{白}。

 その後も、恭子、憧、ゆいからは{發}と{中}は出てこなかった。これで三人は、

「「「(今度も{發}と{中}!)」」」

 東三局と同様、玄に三元牌のうちの二種類が支配されたことを理解した。やはり、三元牌支配の2クール目突入は間違いなさそうだ。

 

 五巡目には、玄の手牌の中の八枚が{發}と{中}で埋められていた。

 しかし、東三局で、ゆいにリーチされたことが、玄に{發}と{中}を暗槓するのを躊躇させていた。今はドラを増やすことが自分のメリットにならないからだ。

 

 ここでは、

「チー!」

 憧が鳴きの速攻で場を引っ掻き回した。手狭になった玄から出てくる甘い打牌を、鳴きまくったのだ。そして、

「ツモ! 2100、4000!」

 その勢いで憧が和了った。

 

 

「憧、そろそろ咲のほうが前半戦終わりそうなんだけど。」

「マジ? いつもより早いな。じゃあ、ハルエ。こっち、代わってくれる?」

「OK。じゃあ、咲のほうを頼んだよ!」

「うん。じゃあ、行ってくる!」

 憧は、一先ず咲の迷子対策に対局室へと向かった。そして、空いた憧の席には、晴絵が座った。勿論、この対局の意図は理解している。

 

 

 南入した。

 南一局、親は恭子。

 再び、玄から超魔物特有のオーラが放たれた。東三局一本場と同様だ。

 この局も、恭子、憧、晴絵の手が門前では中々進まなかった。

 しかも、晴絵が場の流れを変えようにも、何故か鳴ける牌が玄から出てこなかった。これも東三局一本場と同様だ。

 ゆいと恭子も、普通に打つ限り鳴けない状態が続いた。

 

 中盤に差し掛かった時、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。続いて玄は、

「もう一つ、カンです!」

 {發}を暗槓した。さっきと同じパターンだ。さらに、

「もう一つ、カンします!」

 玄は{白}を暗槓した。大三元の確定だ。そして、次の嶺上牌で当然のように、

「ツモ! 8000、16000!」

 またもや大三元を和了った。

 これで三元牌支配2クール目が終わった。

 

 

 南二局、玄の親。

 晴絵は第一打牌に{中}を捨てた。

 ゆい憧は{白}切り、そして、恭子は{發}を切った。

 これで、晴絵も恭子もゆいも、玄の三元牌支配が発動していないことを理解した。今回は、2クールで三元牌支配は終了したのだろう。

 しかも、三人の手にはドラがある。つまり、ドラ支配も動いていないことが分かる。

 この局は、

「チー!」

 恭子が速攻で攻め、そのまま、

「ロン! 8000!」

 玄から満貫を直取りした。

 

 

 南三局、晴絵の親。

 ここでもドラ支配も三元牌支配も発動していなかった。とにかく、このまま三元牌支配が復活しないのかを見定めるべく、

「リーチ!」

 晴絵は連荘を目指した。そして、

「一発ツモ。4000オール!」

 親満を和了り、連荘を決めた。

 

 南三局一本場。

 やはりドラ支配も三元牌支配も発動していなかった。

 この局は、

「ロン。7700の一本場は8000です。」

 ゆいが玄から直取りした。

 

 丁度この時、控室の扉が開いた。憧が咲を連れて戻ってきたのだ。

「粕渕の人がやっちゃってさ。清掃のため、一旦中断だって。それで、ハルエ。そっちは、どうなった?」

「今回は、二回目まで発動したよ。その後、どうなるかを今検証中だ。」

「そっか。」

「あとオーラスだけだから、今回は私が最後まで打つよ。これが終わったら、また憧に入ってもらうよ。」

「OK!」

 

 そのような会話が交わされる中、憧の隣では、咲が京太郎から渡されたタコスを食べていた。

「(おいしい…。)」

 次第に、咲の顔が綻んでゆく。機嫌が良くなっているのが見て良く分かる。今まで放たれまくっていた暗黒物質もドンドン少なくなってゆく。

 そして、咲は、タコスを半分食べたところで、携帯で京太郎にお礼の電話を入れた。そして、ネズミの国でのデートの約束にこぎつけると、ますます上機嫌になり、暗黒物質は完全に影も形も無くなった。

 

 

 それはさて置き、オーラス、ゆいの親。

 ゆいの手にも、恭子の手にも、晴絵の手にも、ドラと三元牌が来ていた。ドラ支配も三元牌支配も復活する気配がない。

 この局は、

「ツモ。3000、6000!」

 恭子が和了って半荘を終了した。

 

 

 次の検証対局に入った。

 晴絵は、憧に代わってもらい、玄の手を後から観察することにした。

 

 次の対局では、早々にドラ支配を復活させた。

 しかし、その後、すぐに玄にドラ切りさせた。三元牌支配を発動させるためだ。

 …

 …

 …

 

 ここで見られた三元牌支配は3クール。しかし、4クール目は無かった。ただ、前回よりも一回増えていた。

 どうやら、三元牌支配のクール数は、ドラ切りを経験させる毎に増えるようだ。

 なら、玄にドラ切りを何度も経験させれば、三元牌支配が何度もできるようになる。

 

 ドラ支配で対局をスタートし、途中で三元牌支配に移行して大三元を連発する。その戦略自体は悪いことではない。

 しかし、前回同様に大三元を和了った後は三元牌が一種類しか来ない。その次の局で二種類。やはり、大三元を和了れるのは三局先になる。間に二局の準備期間が入るのは、どうしても避けられないようだ。

 

 決勝戦に白糸台高校が勝ち上がれば、玄は、再び光を相手にする。

 光なら、この準備期間で何かを仕掛けてくるとは思う。しかし、さすがに光でも役満分をきっちり取り返されるとは思えない。三元牌支配のクール数をもっと増やせば、光に勝てるかもしれない。

 

 

 三度目の検証に入った。

 そろそろ、恭子は別の角度からの確認…、まともに共闘したらどうなるのかを試してみようと考えていた。

 今度は、咲と憧、恭子の三人で玄を相手にする。

 京タコスを口にしていた咲が起家、南家は、恭子、西家が玄、北家が憧になった。

 

 東一局、咲の親番。

 現状、玄はドラ支配も三元牌支配も発動していなかった。そこで恭子が敢えて{[⑤]}を切り、

「チー!」

 玄に鳴かせた。これで玄のドラ支配が復活した。

 しかし、

「カン! ツモ、嶺上開花! 4000オール!」

 さくっと咲が和了った。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「カン! もいっこカン!」

 咲が連槓でドラを増やした。こうなると、玄の手牌の中でドラがオーバーフローする。当然、途中で玄は嫌々ドラを切らされることになる。

「ロン。7700の一本場は8000!」

 結局、玄のドラ切りを狙って咲が和了った。

 

 東一局二本場。

 玄の三元牌支配が発動し始めた。咲、憧、恭子の手の中には{中}が無かった。今までと同じパターンだ。{中}は、玄の手の中にのみ行く。

 この局も、

「カン! 嶺上開花!」

 咲が和了った。憧や恭子のスピードよりも、この局は咲の方が速かった。

 

 東一局三本場。

 今度は、咲、憧、恭子の手の中には{發}と{中}が無かった。これは玄の支配下にあり、玄の手の中にのみ行く。

 ここでも、

「カン! 嶺上開花!」

 咲が嶺上開花で和了った。

 

 そして、問題の東一局三本場。

 玄の雰囲気が大きく変わったのを咲は感じ取った。まともに行ったら大三元を和了られる。そこで咲は、恭子が捨てた{②}を、

「ポン!」

 早々に鳴いた。そして、次巡、憧が捨てた{6}を、

「カン!」

 大明槓し、嶺上牌から引いてきた{②}で、

「もいっこ、カン!」

 加槓した。

 これを見て、玄の身体が大きく震え出した。これこそが、玄の三元牌支配破りなのだ。つまり、玄が三元牌全てを手牌の中で揃えても、三つ全てを槓できない。

 こうなると、玄は三元牌の中の一枚を捨てるか、和了り放棄するか、四開槓して流すかしかない。

 ただ、玄の三元牌支配は、ドラ支配と同じで捨てることを許されないようだ。しかも、自ら四開槓を選択することも許されない。

 これは、玄自身、直感的に分かっているようだった。ある意味、ドラ支配よりも誓約が厳しい。

 

 結局、この局は、

「ツモ。タンヤオ対々!」

 咲が和了った。

 

 丁度この時であった。控室の電話が高々と鳴り響いた。事務局から中堅戦試合再開の連絡が入ったのだ。

 咲と憧は、ゆいと晴絵に対局を交代してもらい、

「じゃあ、行くよ!」

「うん。では、憧ちゃん、お願いします!」

「了解!」

 毎度の如く、憧が咲を連れて控室を出た。

 この時、咲は京タコスの残りを持っていた。これを笑顔で口にしながら対局室に向かうのだった。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
四十八本場おまけの続きになります。
今回は、珍しくR-18回避をする必要がありませんので、染谷まこの時間軸超光速跳躍は発動しません。
また、憧100式シリーズの発明者として阿笠博士には、今回も特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンも必要ないのにムリヤリ登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ五本場:淫話する最低な機械

取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。

淡「昨日の昼にさ、俺君とパチンコに行ってきてさ。」

憧「昼から、イってきたの?」←『パ』が聞こえていない

淡「パチンコって楽しいよね!」

憧「そ…それは、そうよね。(だって私達、ダッチ〇イフだもんね)」←『パ』が聞こえていない

淡「(チューリップに)入るとさ、たくさん出てくるじゃん!」

憧「入った後に、まあ、出るモノは出るわね。」

淡「俺君も、いっぱい出て気持ちがイイって!」

憧「そんなに出たんだ…。」

淡「憧は、昨日の昼って、どうしてたの?」

憧「テレビ見ててさ。それで、英国の上流階級家庭の子育てを預かる人のことをナニーって言うって初めて知ってね。」

淡「そ…そうなんだ!」←ナニーの前に『オ』が付いて聞こえている

憧「でも、お世話係って意味では、私達もナニーみたいなもんかな?」

淡「まあ、たしかに、そのための道具みたいなもんよね!」←ナニーの前に『オ』が付いて聞こえている

憧「そう言えば、いつもはコナン&哀の仲の良いトークから始まるのが、今回は私達のトークからになってるね。」

淡「たしかに珍しいパターンよね。そうそう、さっきのパチンコのあとにね。」

憧「それヤったあとに?」←『パ』が聞こえていない

淡「おさんぽコースってのがあってね。」

憧「えっ?(お〇んぽコース)」←『さ』を別の文字に聞き違えてる

淡「俺君がどうしてもって言うから、そのコースをちょっと楽しんできた。」

憧「えぇ―――!(もしかして、それって?)」

淡「結構、たくさん人がいてね。」

憧「男女比はどれくらいだったの?」

淡「今回は男の人のほうが多かったみたい。」

憧「そうなんだ。(やっぱり!)」

淡「で、みんなで一緒におさんぽするのよ。」

憧「みんなで一緒ってさぁ。淡もたくさんの人と一緒に?」←『さ』を別の文字に聞き違えてる

淡「うん! みんなでおさんぽ!」

憧「でも、俺君は、それでOKだったの?」←『さ』を別の文字に聞き違えてる

淡「だから、俺君がしたいって言うから参加したんだもん!」

憧「(ってことは、やっぱりNTR機能を使ったってこと?)」

淡「でも、インドアになりがちだからね、私。外でおさんぽするのも気持ちよかったよ。」

憧「えっ?(青〇ってこと?)」

淡「たまにはイイよ! 終わるまで結構長い時間かかったから疲れちゃったけどね。おさんぽコース。」←カラクリモノが疲れるって?

憧「そ…そうなんだ。」←『さ』を別の文字に聞き違えてる

淡「中高年のほうが多かったから浮いちゃうかなって思ったけど。でも、若いカップルもそれなりにいたし。」

憧「(スワッ〇ング機能のほうかな?)」


そんな勘違いトークが進む一方で、コナンと哀は、小学校に登校していた。
ただ、妙にコナンと哀の距離が近い。
歩美は、二人がベタベタしているのを見ながらむくれていた。


歩美「ちょっと、哀ちゃん、コナン君にくっつきすぎてない?」

哀「別に(私達の関係から考えれば)普通だと思うけど?」

歩美「じゃあ私も哀ちゃんに負けないくらいくっついてもイイよね!」

哀「そう言うわけには行かないわよ。」

歩美「どうして?」

哀「だって、私と江戸川君は一つになった仲だから。」

歩美「一つってどういうこと?」

コナン「つまり、合体したってことだよ!」

歩美「えぇ―――! 二人は合体ロボットだったの?」


歩美は、コナンと灰原に合体機能が付いていることを知らされて驚いていた。
ただ、安心してよい。
それと同じ器官は歩美にも付いているから…。

一方、阿笠博士は、一人でなにやら黙々と作業をしていた。
研究室内に置かれた回転ベッドの上には、腕が二本、脚が二本置かれていた。勿論、人間のものでは無い。作り物だ。
まだ、顔と下腹部と胸部は無い。


博士「憧100式シリーズのニュータイプを急いで完成させんといかんからの。
今度は、ちょっと小悪魔っぽい顔がイイかの? 
病弱タイプじゃとワシの世話ができんからの…。
下品タイプも面白いかも知れん。
オモチが大きいタイプも捨てがたいのぉ。
うーん、迷うとこじゃ…。」


まだ、新機種の顔と胸部は決まっていないらしい。
下腹部は、実験台の上に置かれていた。
これから、憧100式と憧105式ver.淡には付いていない新しい機能を取り付けようとしているのだ。
はたして、どのような機能になるのだろうか?

さて、憧と淡のほうに戻るが…。


憧「私もさぁ、一応、家庭教師とかやって、少しお金を稼ごうかと思って。」

淡「でも、勉強教えられるの?」

憧「まあ、中学生くらいなら大丈夫じゃない? ワイイコールエックス二乗プラス…。」

淡「まあ、たしかに『卑猥イコールセ〇クス事情』とかは分かるけどさ。やっぱ一応、私達はR-18仕様で造られてるから中学生相手はマズイんじゃない?」

憧「別に変なことするわけじゃないってば。頭に叩き込ませるだけだよ!」

淡「頭って、亀頭に?」

憧「そうじゃなくて、脳みそのこと!」

淡「じゃあ、知識だけってこと?」

憧「当たり前じゃん!」←勉強のほう

淡「(実践は後から付いてくるみたいな感じってことか…。)」←Hのほう

憧「でもね。本当は頭でっかちだけってのもね。」←勉強のほう

淡「知識だけあっても使えないとね。」←Hのほう

憧「そうだよねぇ…。」

淡「でも、なんでお金を稼ごうなんて思ったの?」

憧「京太郎のバイト代におんぶしっぱなしじゃ悪い気がしてさ。でも、さすがに京太郎専用機だから、身体で稼ぐわけには行かないからさ。」

淡「それで家庭教師ね。」

憧「そう………。あっ!」

淡「どうかしたの?」

憧「咲さんからメールだ。」

淡「咲さんって?」

憧「京太郎の中学からの同級生でね。京太郎を追いかけて上京してきた感じなのよ。大学も、敢えて京太郎のレベルに落としてきた感じでね。」

淡「じゃあ、憧のライバル?」

憧「うーん。でも、私達って本当の意味じゃ、恋『人』にはなれないじゃん。」

淡「一応、夜の恋人だけどね!」

憧「だけど人じゃないし、子供も産めないし。だから、もし咲さんが京太郎に告れたら応援しようかなって思ってるのよ。」

淡「だけど、それで京太郎に捨てられたらどうするのよ!」

憧「どんなことがあっても絶対に捨てないって言ってくれてるし、まあ、三人で仲良く暮らすのもイイかなって。」

淡「そう巧く行くかな?」

憧「行くように努力する。ええとね。咲さんからレポート書くの手伝ってって…。」

淡「レポート?」

憧「そう…。機械学習に関するレポートって書いてあるな。」

淡「それって、AIじゃない?」

憧「多分、そうよね。」

淡「その咲さんは、憧がダッ〇ワイフだってこと知ってるの?」

憧「教えた。AI搭載型ってことも。」

淡「じゃあ、それで機械学習のことについて聞きたいんじゃない?」

憧「そうかもしれないね。で、教授の名前は、阿笠ひr………。」

淡「もしかして、それ?」

憧「私達の製作者みたいね。一応、レポートを書くのは手伝える気がするけど、それ以上は危うきに近寄らずがベストかも知れないわね。大学について行くとかは…。」

淡「だよね~。」

憧「まあ、咲さんのアパート、この近くだから行ってみるよ。ガン無視ってわけにも行かないだろうからさ。淡も来る?」

淡「京太郎の同郷仲間でしょ?」

憧「そう。」

淡「見てみたい!」

憧「地味な娘だけどね。」

淡「まあ、京太郎からもド派手な感じはしないし。Hは激しそうだけど、壁越しに聞こえてくるところから察すると…。」

憧「それはお互い様じゃない!」

淡「否定はしない!」

憧「じゃあ、一緒に行こっか。」

淡「うん!」


と言うわけで咲のアパートに向かう憧100式と憧105式ver.淡であった。

その日は、別にHな展開になったわけでもなく、レポート作成を手伝った後、憧100式と憧105式ver.淡は、すぐに(無事に?)オーナーの元へと帰った。



続く


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五十本場:暴れる龍神

ようやく玄vs光に戻ります。


 控室では、玄の三元牌支配の検証が続いていた。

 東一局四本場、親は咲に代わってゆい。

 今回も、晴絵、恭子、ゆいの手には三元牌が回らなかった。やはり、玄が全て揃えているようだ。

 つまり、三元牌支配最終形は、和了れなかった場合は次の局に持ち越される。こうなると、咲のような化物でもない限り、玄に和了らせない方法は一つだけだろう。

「チー!」

 ゆいが恭子に鳴かせ、

「ロン!」

 そのまま、ゆいが恭子に差し込んだ。これで、場を進めたのだ。

 

 

 東二局、恭子の親番。

 さっきと同様に、ただ流すだけでは三元牌支配は、そのまま継続されるようだ。

「(なら、ゆい。分かってるな!)」

「(はい、コーチ!)」

 恭子とゆいが、互いにアイコンタクトを取った。

 

 この局は、

「ポン!」

 恭子がゆいに鳴かせた。そして、

「ツモ。1000、2000!」

 そのまま、ゆいに和了らせて場を流した。

 

 決勝次鋒戦の相手には永水女子高校の滝見春と龍門渕高校の沢村智紀がいる。この二人なら、場を流して玄にトップを取らせないように動いてくるだろう。

 他校にとって玄にトップを取らせることはタブーである。中堅戦で咲を破らない限り阿知賀女子学院の勝ち星二が決まると言っても過言ではないからだ。

 一応、永水女子高校中堅の明星は、自らの能力で咲を破るつもりでいるが、彼女でも咲に勝てる保証は無い………と言うか難しいだろう。

 ならば、永水女子高校にとっても龍門渕高校にとっても、下馬評どおり光にトップを取らせた方がマシと言える。

 そう読んで、恭子とゆいは、春と智紀の共闘をシミュレーションしていたのだ。

 

 

********************

 

******************************

 

****************************************

 

 

 玄は、昨日の検証対局のことを思い出していた。

 東一局で親役満を和了っても、まだ対局は終わりでは無い。ここから逆転を狙って、とんでもない闘牌を見せるであろう人間………光が自分の上家にいるのだ。

 

 東一局一本場、玄の連荘。

 玄の手の中で{中}が重なって行く。白と發は来ないが、これは三元牌支配のための準備期間に入ったことを意味する。

 昨日の検証対局のお陰で、玄は七回の三元牌支配が可能な状態に仕上げていた。普通に考えたら、恐らく七回も必要ないのだが………、物凄い念の入れようだ。やはり、光が相手だからであろう。

 

 一方、光は、

「(この局は行けそうだけど、少し無理しなきゃならないみたいだね。)」

 玄が大三元を和了ったことで支配力が弱まったのを感じ取っていた。ただ、前局のような強大な力ではなくなったとは言え、何か嫌な予感が拭えない。

「(準決勝の時とは違って、まだ支配そのものは消えていないんじゃないかな。だとすると、多分、次がある!)」

 この時、光は、今回は2クール目があると考えていた。となると、次に大三元が飛び出す前に、前局の失点分をある程度取り返しておきたい。

 どうやら、予想していた以上にキツイ戦いになりそうだ。

 

 光は、初っ端から和了り役の縛りを2翻に上げ、力を指先に集中した。そして、

「ツモ。平和タンヤオドラ3。3100、6100!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東二局、春の親。

 ここでの光の縛りは3翻。

「ポン!」

 光は場風の{東}を鳴き、

「ツモ。東混一ドラ3。3000、6000!」

 前局同様にハネ満をツモ和了りした。これで玄との差は15400点。次の和了り………和了り役4翻+ドラの和了りで追いつけそうな感じになってきた。

 

 

 東三局、智紀の親。

 ここで再び、玄の三元牌支配完全形が発動した。

 光は、玄から強力なオーラが放たれているのを感じた。これは、まるで咲か照を相手にしているような雰囲気だ。

 恐らく、この局は玄に持って行かれるであろう。しかし、トータルで勝つための情報をきちんと得ておきたい。

 そう思いながら、光は玄を観察した。

 

 八巡目、玄の手牌の中には、既に{白}が三枚、{發}が四枚、{中}が四枚揃っていた。そして、次のツモで一向聴になった。

「カン!」

 先ず、玄は{中}を暗槓した。嶺上牌をツモって聴牌。

「もう一つ、カンです!」

 続いて、玄は{發}を暗槓した。嶺上牌は{白}。当然、

「もう一つ、カンします!」

 まるで咲のように玄が三連槓した。ここで副露されたのは{白}の暗槓。そして、次の嶺上牌で当然のように、

「ツモ。嶺上開花! 8000、16000!」

 大三元を和了った。東場のみで、まさかの役満二回和了だ。

 この和了りで、玄は光に大きな差をつけた。

 

 

 東四局、光の親。

 光は、またもや玄の支配力が弱って行くのを感じた。東一局の直後と雰囲気が似ている。ならば、ここで稼がせてもらう。

 幸運なことに親番だ。

 今回も、光は2翻スタートで行くことにした。ただ、念のためリーチだけはかけないようにする。万が一、大三元に振り込んだら取り返しが付かないからだ。

 この局、光の手は平和形に伸びて行った。そして、

「ツモ。平和タンヤオドラ3。6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。

 

 東四局一本場。

 ここで光は、

「ポン!」

 自風であり場風でもある{東}を鳴いた。これで2翻が確定した。そして、

「ツモ! ダブ東三色ドラ3。6100オール!」

 ここでも親ハネをツモ和了りした。

 

 問題の東四局二本場。

 ここで光は、東一局や東三局と同じ空気を玄から感じ取った。

 東四局と東四局一本場は、玄が攻撃してこない局………、つまり光が和了って差を縮めるチャンスであった。

 しかし、ここで再び玄が攻撃態勢に入っている。

 「(どうやら、二局おきに大三元支配が来るみたいだね。それと、準決勝を含めて大三元を和了る時に、必ず三元牌全てを暗槓していた………。)」

 もし、三元牌による三槓子が能力発動条件の一つであるならば、それを潰してしまえば良い。

 今度の光の和了り役は4翻。ならば、試してみよう。

「ポン!」

 光は、今回も{東}を鳴いた。そして、次巡で春が捨てた{②}を、

「カン!」

 大明槓した。別に、光には嶺上開花で和了る能力は無い。ただ、今回の嶺上牌は有効牌だったようだ。それを取り込んで{①}を捨てた。

 そして、そのさらに数巡後、

「カン!」

 光が智紀の捨てた{北}を大明槓した。咲と同じ選択をしたのだ。これで、玄は三元牌全てを暗槓することができなくなった。

 残念がる玄の表情を見て、光は確信した。

「(やっぱり、三元牌の三槓子が必要みたいだね。さすがに、カンを毎回二つ作るのは咲じゃなきゃできないけど、でも、一応糸口は掴めたかな?)」

 一方、玄の手牌は、その数巡後には十枚が三元牌で占められることになった。これでは身動きが取れない。

 そして次巡、十一枚目の三元牌ツモってきた。そして、嫌々切った牌で、

「ロン。ダブ東対々ドラ2。18600!」

 玄は光に振り込んだ。

 これで、光は玄を逆転してトップに立った。

 

 東四局三本場。

 ここでも光は、

「カン!」

 オタ風の{西}を春から大明槓した。とにかく、玄の三元牌による三槓子を許さない状況に逸早く進めようとの魂胆だ。

 続いて光は、

「カン!」

 智紀が捨てた{①}を大明槓した。これで、玄は三元牌の三槓子が出来なくなった。

 それでも玄の手牌には三元牌が揃ってゆく。そして、十二枚目の三元牌をツモって来た時、仕方なく、

「カン!」

 玄は{中}を暗槓した。ここで新たに示されたドラ表示牌は{⑨}。つまり、光の{①}の明槓が、全てドラに変わった。

 そして、嶺上牌をそのままツモ切りしたところ、

「ロン。ダブ東混一チャンタドラ4。24900。」

 光に振り込んでしまった。

 

 この段階での中堅戦の順位と点数は、

 1位:光 172100

 2位:玄 100100

 3位:春 63900(席順による)

 4位:智紀 63900(席順による)

 玄は、初っ端に和了った親役満の分を、ほぼ全て光に奪われたことになる。

 しかし、玄は、まだまだ意気消沈していなかった。それどころか、次は絶対に和了ると自身にカツを入れていた。

 

 東四局四本場。

 ここでも光は、

「カン!」

 春が捨てた{三}を大明槓した。しかし、たとえ大明槓でも、毎回二つ作るのは困難だ。今回は、さすがの光も二つ目の槓をできずにいた。

「(やっぱり、この方法は咲じゃないとムリだな…。)」

 光がそう思っていた矢先、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンします!」

 {發}を暗槓した。玄は、次の嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンなのです!」

 最後の三元牌、{白}を暗槓した。

 これで、もし玄が嶺上牌で和了れなければ四開槓が成立する。しかし、光には、その希望すらないことが分かっていた。

 今、玄から感じるオーラは咲に匹敵する。玄が嶺上牌に触れた時点で、

「(ここまでか…。)」

 光は手牌を伏せた。

「ツモ! 嶺上開花! 8400、16400です!」

 今回も玄は、嶺上開花で大三元を和了った。

 まだ、22000点以上、光に点差をつけられているが、もう一回大三元を和了れば玄は光を追い抜ける。

 玄は、この和了りで舞い上がることなく、気合いを入れ直した。

 

 

 南入した。

 南一局、玄の親番。

 再び玄の支配が弱まった。しかし、これは三元牌支配完全形に向けての準備期間に過ぎないことを光は悟っていた。

 明らかに準決勝の時とは違う。準決勝では一回しか出来なかったことを、たった一晩で連発できるように、玄は、さらなる進化を遂げてきたのだ。

 さすが恭子と晴絵に支えられたチームだ。

 次に玄の支配が最大になるのは、恐らく南三局だろう。光は、そこまで力を温存することにした。

 

 この局では、春が、

「ポン!」

 とにかく、

「チー!」

 鳴きまくった。そして、

「ロン。タンヤオドラ3。7700。」

 満貫級の手を春は智紀から出和了りした。

 

 

 南二局、春の親番。

 さっきの満貫和了りで、春はさらなる勢いをつけたいところだ。しかし、玄と光の支配が弱まっている今、動けるのは春だけではなかった。

「ロン。タンピンドラ2。7700!」

 前局でのお返しとばかりに、智紀が春から直取りした。

 結局、東四局四本場終了時点と変わらない点数で南三局を迎えることになった。

 再び玄の支配力が上がるのを光は感じた。

 

 

 南三局、智紀の親。

 当然、光も玄を抑えるべく対抗する………かと思いきや、光は、様子見に出た。

 今までは、玄に三元牌での三槓子を作らせないために大明槓を仕掛けていたが、この局では、そう言った動きをまるで見せなかった。

 諦めたのだろうか?

 春も智紀も、ここで役満を和了られては大変なことになる。

「カ…カン!」

 仕方なく、春は智紀の捨て牌を大明槓した。

 一方の智紀は、飽くまでもデジタルな打ち方主体で展開してゆく。当然、大明槓を仕掛ける気配は無い。

 春は、二つ目のカンを何とかして作りたかった。しかし、そう安々と大明槓が出来るわけでもない。予め暗刻が出来ているところに、誰かが四枚目を捨ててくれなければならないからだ。

 ポンしてから加槓するのもありだが、その場合は四枚目を自力でツモってこなければならない。

 そうこうしているうちに、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンなのです!」

 {發}を暗槓した。玄は、次の嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンですのだ!」

 最後の三元牌、{白}を暗槓した。

 これで、もし玄が嶺上牌で和了れなければ四開槓が成立する。状況は、東四局四本場の時と同じだ。しかし、

「ツモ! 嶺上開花! 8400、16400です!」

 ここでも玄は、嶺上開花で大三元を和了った。

 

 この段階での順位と点数は、

 1位:玄 165300

 2位:光 147700

 3位:春 47500

 4位:智紀 39500

 玄に光を抜いてトップに立った。あとは、オーラスをノミ手で良いから蹴ることができれば、玄は、あの光を相手にトップで折り返すことが出来る。

 当然、玄の志気が高まった。

 しかし、対する光は落ち着いた表情をしていた。全て予定どおりと言いたげな顔だった。

 

 

 そして迎えたオーラス。

 玄の支配が弱まる局でもある。光は、これを待っていた。

「ポン!」

 この面子の中で最も守りの弱い玄の捨て牌を鳴き、

「ツモ。タンヤオドラ4。4000オール!」

 中盤に入る前に、光は親満をツモ和了した。

 そして、

「一本場!」

 光は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 光は、三元牌支配の弱点が、準備期間の存在とドラが玄に一枚も行かない状態であることの二点と考えていた。

 赤牌が入っているので、槓ドラ、裏ドラを除外しても、ドラは全部で八枚になる。一枚でもドラが行かないプレイヤーが一人いれば、その分、自分のところにドラがくる確率が上がる。

 ドラが三枚揃えば満貫なる。それで、オーラスとオーラス一本場で、計二回の親満以上を和了りを決めれば良いと考えていた。

 ここでも光は、

「ツモ。タンピンドラ2。4100オール! ここで和了り止めします。」

 親満を和了り、次鋒前半戦の終了を告げた。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:光 172000

 2位:玄 157200

 3位:春 39400

 4位:智紀 31400

 最後に光が玄をまくり、トップで折り返すことになった。

 ただ、前半戦だけで四回の役満を和了り、あの怪物光と、ここまで善戦した玄の戦い振りは、審査員達の目に強く焼き付いたことだろう。

 

 

 休憩時間に入った。

 玄は、急いで控室に戻ると、

「美由紀ちゃん! ちょっと、今だけ私のワガママを聞いて欲しいのです!」

 そう言って美由紀(宇野沢栞妹)を背後から抱きしめた。

「オモチベーション維持なのです!」

「キャッ!」

 そして、玄は、両手で美由紀の胸を触り出した。堪能していると言うべきか?

 さすがに恭子は、これを止めさせようとしたが、

「待ってください。」

 咲が恭子を止めた。

「信じられませんが、美由紀ちゃんに抱きついたことで玄さんのパワーが上がっているんです。」

「へっ?」

 咲の魔物カウンターの正確さは、恭子も身をもって知っている。

 昨年インターハイ準決勝戦では、それでネリーや爽が何か仕掛けてくるのを、恭子も事前に察知できたからだ。

「多分、二~三分で済むと思います。」

「…。」

「でも、それ以上は、ただのセクハラです。」

「わ…分かった。」

 この時、美由紀は、まるで背筋が凍るような何かを背後に感じていた。

 少なくとも、それは玄のセクハラ攻撃によるものではなかった。咲が新入部員全員を洗礼とばかりに失禁させた時の雰囲気と似たモノを、この時の玄から感じ取っていたのだ。

 まさに今、玄が超魔物の域に達しようとしている。

 

 三分が過ぎた。

 急に玄が、

「オモチオモチ…。」

 と呟き出した。ここからは、単なるセクハラだろう。

「セクハラやめぃ!」

 晴絵が、玄の頭をハリセンで叩いた瞬間だった。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
四十九本場おまけの続きになります。
今回は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンも登場しますが、この二人はストーリー上、特に登場する意味は全くありません。


憧 -Ako- 100式 流れ六本場 腹へる住人

哀「エロカワ君。そろそろ学校に行かないと。」

コナン「別に小学校の授業なんてヒマなだけじゃんか。」

哀「そうだけど、一応ね。」

コナン「俺は、学校より哀との〇〇〇〇のほうがイイ!」←〇〇〇〇はスゴロクです

哀「あのね。」

コナン「今日も、これから二十四時間耐久〇〇〇〇にチャレンジしてみないか?」←〇〇〇〇はスゴロクです

哀「もう、毎日そればっかりなんだから…。」


コナンと哀は、〇〇〇〇の合間に保健体育の実習をしているらしい。
〇〇〇〇は夜通しになることが多い………いや、ほぼ毎日夜通しのようだ。
小学生の身体には、徹夜は正直キツイはずなのだが、哀が発明した眠気覚ましが良く効いて24時間闘えるようになっている。

一方、阿笠博士の研究室中央に置かれた回転ベッドの上には、またもや一人の美しい女性が裸で仰向けに寝かされていた。
今回も、その女性は博士の科学力の全てを結集したニュータイプのカラクリの類いであった。飽きもせず、よくまあ造るものだ。
その名も、憧108式ver.姫子。
憧105式ver.淡からの更なる改良型だ。


博士「さすがに、二度も金的攻撃を食らったからの。今度は、あんな乱暴なことはしないようにAIを学習させてみたんじゃが…。これで巧くイってくれんかのぅ…。」


博士が、憧108式ver.姫子の胸を触った。毎度の如く、これがオンスイッチらしい。
ただ、あくまでもオンスイッチであってオフスイッチの機能は無い。これも毎度のことである。


姫子「うーん。あれ? どうして私、裸? ちょっと誰よ、あんた?」


取扱説明書:憧108式ver.姫子には、標準語‐方言切り替え機能が付いています。相手の言葉に合わせて方言が自動設定されます。


博士「ワシは、君の発明者。阿笠博士じゃ。」

姫子「発明者って、私は造られたの?」

博士「そう。君は人間では無いんじゃ。ワシの科学力の全てを注ぎ込んで造り出した…。」

姫子「(もしかして、サイボーグ?)」

博士「AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧108式ver.姫子じゃ!」

姫子「なんなのそれ?」

博士「機種名は憧108式ver.姫子じゃが、普段の名前は憧と呼ぶと100式と間違えるでの。それで、憧105式ver.淡の時と同じく姫子と呼ぶことにする。」

姫子「サイボーグ戦士じゃないの?」

博士「ダッチ〇イフ!」

姫子「加速装置を使ったり、空を飛んだり、手からミサイルがでたり、視力や聴力が異常に発達してたりして、悪と戦う『正義の味方』じゃないの?」

博士「まぎれも無くダッチ〇イフじゃ! まあ、これも毎回言っているが、強いて言えば『性技のみの方』じゃわい!」

姫子「そんな…。」

博士「これが取扱説明書じゃ。」

姫子「それじゃ、私は売られるの?」

博士「売るつもりは無いから安心せい! ワシも、細かいところは忘れてしまうかもしれんので書きとめたメモみたいなもんじゃ!」

姫子「じゃあ、私は…。」

博士「ワシの下の世話のために造ったんじゃ。じゃあ、早速。」

姫子「これも天命ですか?」

博士「そうじゃ!」

姫子「では、ちょっと、その前にシャワーを浴びさせてもらえますか?」


取扱説明書:憧108式ver.姫子は、姉妹機である憧100式や憧105式ver.淡と同様にシャワーを浴びると臨戦態勢に入ります(Hな意味で)。


博士「そうじゃな。その方がワシの相手もしやすいじゃろう(臨戦態勢に入るからの!)」

姫子「では、少々お待ちください。」


そう言うと、憧108式ver.姫子は、何故か取扱説明書を持って博士の家の浴室に入っていった。
憧100式や憧105式ver.淡とは違って、憧108式ver.姫子は、博士への金的攻撃を仕掛けなかった。
彼女に搭載されたAIは、金的攻撃をしないよう博士が学習させていたためだ。

それから小一時間が過ぎた。
憧108式ver.姫子は中々浴室から出てこなかった。
痺れを切らした博士が浴室の扉を開けると、すでに、そこには憧108式ver.姫子の姿は無かった。どうやら、浴室の窓から外に逃げ出したらしい。
結果的に、今回も博士はAIの学習に失敗したようだ。

一方、憧108式ver.姫子は、タオルを身体に巻いていたが………、さすがにこの格好で外を出歩くのはマズイ。
一先ず、近所の家の庭に干してある洗濯物を拝借した。


姫子「ゴメンナサイ。きっと、後で返しに来るから。」


そして、憧108式ver.姫子は、この街から姿を消し、例によって憧100式や憧105式ver.淡と同じ街に逃げ込んだ。結局、姉妹機ゆえに同じパターンに落ち着くようだ。

憧108式ver.姫子もまた、憧100式や憧105式ver.淡と同じように公園のベンチに座り、取扱説明書を読んでいた。


姫子「オーナー…、インプリンティング機能…。NTR機能…、それから百合機能って、これなに?」


取扱説明書:憧108式ver.姫子は、本シリーズ初の百合機能を搭載しています。インプリンティング機能発動の際、女性の指を使うことにより百合機能は発動します。指の形状記憶と指紋認証によりオーナーを判断しますので、全ての指を順に五秒間ずつ挿入してください。


博士「ワシには百合機能は必要無いんじゃが、後々商品化する時のことを考えてのぉ。敢えてジェンダー選択可能な機種の開発にも挑戦してみたんじゃ!」


取扱説明書:なお、姉妹機である憧100式や憧105式ver.淡では、同様のことをしても百合機能は発動しません。


姫子「それにしても、おなかがすいたな…。ダッ〇ワイフなのに、なんでおなかがすくんだろ?」


取扱説明書:憧108式ver.姫子も、他の姉妹機同様にエネルギーは普通に人間と同じ食生活で問題ありません。ロボ〇タンAを用意する必要はありません。


憧108式ver.姫子は、公園を後にした。
気が付くと、あるアパートの前に来ていた。憧100式と憧105式ver.淡が転がり込んだアパートである。
結局、姉妹機ゆえか、同じ選択をするようだ。
彼女が、アパートの二階に上がった。


最初の部屋、201号室からは、
京太郎「憧! 俺、もう…。」←腹が減ってる

憧「イイよ♡ 京太郎♡」←ご飯を作ってあげるの意味


その隣の部屋、202号室からは、
淡「もう、俺君ったら早いんだから!」←夕飯を食べるのが早いの意味

俺「仕方ないだろ!」←それだけ腹が減ってた

姫子「中良さそうで羨ましい…。」←仲良さそうではない?


なんだか、憧108式ver.姫子には御盛んな男女の会話に聞こえたようだ。


姫子「もう、動けない…。」


憧108式ver.姫子は、そのさらに隣の部屋のドアに背中からもたれかかると、そのまま座り込んだ。
そして、まるで死んだように動かなくなった。


取扱説明書:憧108式ver.姫子はエネルギーが一定量以下になるとスリープモードに入ります。


夜の十時を回った。
そのアパートの住人が戻ってきた。今までアルバイトしていたのだ。
自分の部屋のドアにもたれかかって眠る憧108式ver.姫子の姿を見て声をかけた。


哩「どうかしたの?」←上京してきて、一応、標準語で話す努力をしている

哩「眠っているみたいね。この顔、私のタイプだわ。」←異性に興味なし

哩「一旦、部屋の中に入れて寝かせて…。」


その部屋の住人………哩は非常に親切な人だった。
憧108式ver.姫子を、一先ず自分の部屋で寝かせることにした。

哩は、憧108式ver.姫子が握り締めている取扱説明書に目が行った。


哩「なんだろ、これ?」


哩は、憧108式ver.姫子の手から取扱説明書を取り上げた。
そして、その中身を開いて見て驚いた………が、本気にする訳なかった。
AI搭載の自律型ダッチ〇イフ?
そんなものが常識的に考えて、今の世の中にあるはずが無い。
哩は、憧108式ver.姫子が、自分で設定した人物になりきって、遊び半分で取扱説明書を持っているものだと思った。
まあ、痛い趣味だなと…。


哩「百合機能? これは、ちかっと面白か!」←何気に少し方言が出てきている(間違ってたらゴメンナサイ)


取扱説明書:憧108式ver.姫子は、胸を三回揉むことでスリープ常態から目覚めます。ただし、スリープ解除後は、速やかに食事をお与えください。


哩が半信半疑で憧108式ver.姫子の胸を揉んだ。
すると、まるで冗談のように憧108式ver.姫子が目を覚ました。


姫子「おなかすいた…。」

哩「ああ、ちょっと待っててね。(本当に起きるとは思わなかった)」


取り急ぎ、哩は冷凍食品を温めた。
哩自身はバイト中に賄いを食べてきたし、この時間から無理に食べようとも思っていなかったので夕飯の用意はしていない。
一応、パンを買っていたが、これは明日の朝食分だ。


哩「おまたせ。」

姫子「ありがとう。では、いただきます。」

哩「それにしても、憧108式ver.姫子ってなんなの?」


憧108式ver.姫子が食べながら答えた。


姫子「これが私の正式名称のようです。」

哩「はぁ?」

姫子「私は、ある科学者によって造られたAI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧108式ver.姫子。」

哩「そぎゃん設定になりきって遊ぶのは痛くなかか?」←方言が出てきた

姫子「遊びじゃなかとです!」←標準語‐方言切り替え機能による


憧108式ver.姫子が哩の顔に両手で触れ、そのまま哩の耳を自分の左胸に当てた。
哩は違和感を覚えた。心臓の音が聞こえず、代わりにモーター音のようなものが聞こえてくる。


哩「なんなの、これ?」

姫子「ですから、私は人間じゃなく、ダッチワ〇フなんです。今日、完成したばかりの…。」

哩「本当だったの?」

姫子「はい…。」

哩「じゃあ、百合機能と言うのも?」

姫子「お望みとあれば…。」

まこ「ここからはマズイじゃろ!」


まこの時間跳躍のお陰で大事な場面はすっ飛んだが、これで憧108式ver.姫子は、無事にオーナーを見つけることが出来た。



続く


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五十一本場:玄、最後の賭け

 咲が玄に、残りの京タコスを差し出した。

「最初の局から三元牌支配が出るはずですので、これを。」

「ありがとうなのです! では、これを食べて起家を狙うのです。とても美味しいし、咲ちゃんは、イイ旦那さんを持って幸せなのです!」

「えへへ…。」

 ここでは、京太郎は咲の結婚相手として認識されていた。

 ただ、

「(和、ちょっと可哀想かも…。)」

 和の心のうちを知る憧だけは、少々複雑な思いだった。

 

 タコスを食べる玄を見て、

「私も食べちゃお!」

 咲も我慢できずに京タコスを口にした。

 と言っても、咲の分は前半戦前に食べる用、後半戦前に食べる用、中堅戦終了後の御褒美用の三つ作ってもらっていたのだから、一つくらい先に食べてしまっても問題無いだろう。

 

 かつて無いほどに咲の表情が和らいでいた。むしろ、緊張感が失われて腑抜けているようにすら思える。

 こんな咲を見るのは初めてだ。

 正直、憧は、

「(本当に阿知賀のエースとして大丈夫よね?)」

 咲が全力で戦えるのか心配になってきた。

 

 一方、玄は、タコスを食べ終わると、

「では、行って参ります!」

 張り切って控室を出て行った。

 

 

 玄が対局室に入室すると、既に他の選手達は卓に付いていた。

 場決めがされ、起家は玄、南家は春、西家は智紀、北家は光と、前半戦と全く同じ席順になった。

 前半戦に引き続き、玄は、長野の都市伝説に従って起家を引き当てていた。京タコス恐るべしである。

 

 

 東一局、玄の親。

 前半戦からの続きで、ここでは玄の三元牌支配完全形になっていた。しかも、美由紀のお陰でオモチベーションがアップしているのだ(?)。

 

 玄の雰囲気から、光は、今回もいきなり大三元が飛び出すような予感がしていた。

 勿論、前半戦で三局毎に三元牌全てが揃うことを認識していたので、順番からすれば、この東初は言うまでもなく問題の局になる。

 

 配牌を見て、予感が確信に変わった。光の手牌の中にドラがある。やはり、ドラ支配は復活していない。

 そして、三元牌は一枚も無い。

 恐らく、今回も玄は三元牌支配で押してくるだろう。

 

 三巡目。

 光は、

「カン!」

 なんとか玄の親番での三元牌支配を回避しようと、智紀の捨て牌を大明槓した。しかし、毎回複数の槓剤を揃えるのは難しい。

 そう安々と暗槓ができるわけではないし、それ以前に暗刻が無いと話にならない。

 それに、大明槓に走るにしても、自分の持つ暗刻と同じ牌を必ずしも良好なタイミングで他家が捨ててくれるとは限らない。使われていたらアウトだし、暗刻が出来る前に捨てられていても当然アウトだ。

 結局、光の二つ目の槓は、玄の連続暗槓には間に合わなかった。

 中盤に入り、

「カン!」

 とうとう玄が{中}を暗槓した。嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンです!」

 当たり前のように{發}を暗槓した。さらに嶺上牌を引き、

「もう一つ、カンなのです!」

 続けて玄は、{白}を暗槓した。そして、三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ。大三元。16000オール!」

 今回も玄は、そのまま嶺上開花で和了った。前半戦と同じパターンだ。

 

 覚悟していたとは言え、いきなりの親役満ツモだ。光達にとっては痛い。

 しかも、オモチベーション維持のお陰か(?)、前半戦よりも玄がパワーアップしているように光には感じられた。

 

 東一局一本場。

 ここから二局は、玄の支配力が下がるはずである。

 光は、この二局で稼ぐこととし、

「(仕方がない。4翻スタートだ!)」

 少々ムリを覚悟で高い手を目指した。

「(今まで感じからすると、大三元を和了った次の局は三元牌のうち一種類のみが、そのさらに次の局では三元牌のうちの二種類が全て揃うだけ…。)」

 休憩時間中に、光は、控室で玄の牌譜を見た。対局中に感じていたとおり、三元牌が全て揃うには準備期間が必要なようだ。

 ならば、その準備期間に大きく稼ぐ。できれば玄からの直撃が最も望ましい。

 それで光は、いきなりハネ満~倍満クラスを狙うことにした。

 

 ドラは来るはずだ。

 加えて、この局は玄の大三元に怯える必要は無い。ならば、

「リーチ!」

 ここは積極的に攻めてゆく。光は、聴牌して即リーチをかけた。

 一発ツモは出なかったが、数巡後、

「ツモ! メンタンピンツモ一盃口ドラ4。4100、8100!」

 望みどおり倍満を和了った。

 

 

 東二局、春の親。ドラは{②}。

 さっきの和了りでツキが回ってきたのか、光は配牌に恵まれた。全体的に筒子に偏っている。

 しかも対子が全部で四つ。嬉しいことに{②}と{⑤}が対子で、{⑤}の片方は赤牌であった。ドラ3の手だ。

 

 第一ツモで字牌が重なった。ならば、和了り役5翻以上を考慮し、ここは筒子染めの七対子で攻めて行く。

 光は、萬子、索子を順に捨て、五巡目には望みの手を聴牌した。

 そして、次巡、玄が切った{北}で光は、

「ロン。メンホン七対ドラ3。16000!」

 倍満を直撃した。まさに出場所最高である。

 

 

 東三局、智紀の親。ドラは{⑨}。

 ここからは、玄の大三元を邪魔しながらの闘牌になる。

 光は、ここでも幸運に恵まれたようだ。配牌で{九}と{⑨}が対子、{9}が暗刻になっていた。

 第一ツモで{九}を重ね、次に玄が捨てた{九}を、

「カン!」

 大明槓した。嶺上牌は{⑨}。これでドラが暗刻。しかも三色同刻が確定。最高の引きだ!

 新ドラは{南}。

 そして、次巡、智紀が捨てた{9}を、

「カン!」

 光は大明槓した。これで、玄は三元牌の三槓子が作れなくなった。

 

 その数巡後、玄の手牌は、

 {①③④白白白發發發中中中中}  ツモ{⑤}

 

 仕方なく玄は、

「カン!」

 {中}を暗槓した。嶺家牌は{北}。そして、{①}か{北}かを迷った挙句、打{北}。

 

 しかし、その次巡で、

「ツモ!」

 光に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①⑨⑨⑨西西}  暗槓{裏99裏}  明槓{九九九横九}  ツモ{西}

 

 もし、玄が{北}ではなく{①}を切っていたら直撃だった。

「混老対々三暗刻三色同刻ドラ4。6000、12000!」

 まさかの三倍満。

 これで光が玄を逆転した。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{③}。

 玄に20000点以上の差をつけているが、まだ光としては安心できない。前局で和了ったが、結局のところ玄の大三元が、この局に持ち越されただけである。

 しかも、今は光の親だ。ここで大三元をツモ和了りされると親かぶりで痛い。

 要求される和了り役も、ここでは7翻になる。玄の邪魔と自分の和了りの両立が、いよいよ難しくなってきた。

 ならば、ここは自分の親を流してでも邪魔するほうに道を絞る。

 光は、

「カン!」

 手牌の中で暗刻になっていた{8}を大明槓した。そして、嶺上牌から{2}をツモり、幸運にも{2}が暗刻になった。新ドラは{九}。

 あとは、誰かが{2}を捨ててくれるのを待つだけだ。

 手牌は索子の清一色が狙えそうだが、ここは和了りよりも{2}の大明槓を優先したい。勿論、他家が{2}を面子として使っていたら、どうにもならないが…。

 一先ず、ここは索子染めを捨てて打{3}。

 そして数巡後、待望の{2}を光は自身のツモ牌として持ってきた。運は、まだ自分に向いているようだ。

「カン!」

 光が{2}を暗槓した。これで、この局も玄の三元牌支配を潰すことに成功した。

 そして、光は打{5}。すると、

「ポン!」

 これを春が鳴いた。

 晒された牌は、{5横5[5]}と赤牌含みだ。

 さらに春は、玄が捨てた{④}を、

「チー!」

 鳴いて今度は{横④③[⑤]}を副露した。

 そして、その次巡、

「ツモ。」

 春が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二二八九西西西}  チー{横④③[⑤]}  ポン{5横5[5]}  ツモ{七}

 

「西ドラ4。2000、4000。」

 満貫だ。

 これで光の親は流れたが、要求される和了り役の翻数がリセットされたとも言える。これで光は、ある意味戦いやすくなった。

 

 

 南入した。

 南一局、玄の親。

 ここでも三元牌支配完全形は生きている。この親も流さなくてはならない。

「カン!」

 春が序盤でオタ風の{西}を暗槓した。相手の高い手を潰すのは彼女の得意分野である。光の大明槓を見て、春も玄の大三元を流しに来たのだ。

 そして、春が捨てた{1}を、

「カン!」

 光が大明槓した。そして、打{東}。

 

 春と光の視線が智紀に注がれた。今のところ、二人とも役がない。和了る役目を智紀に任せたのだ。

 もう玄は、この局では和了り放棄しかできない。

 状況を理解した智紀は、

「チー!」

 珍しく鳴き、その数巡後、

「ツモ。タンヤオドラ4。2000、4000。」

 満貫を和了った。二つの槓でドラが増えた局ならではの和了りだろう。

 

 

 南二局、春の親番。

 光の手の中には、{[⑤]}が二枚、{[5]}が一枚あった。ここに{⑤}をツモり、暗刻を一つ完成した。ここで誰かが{⑤}を捨ててくれれば助かるのだが…。

 真ん中の牌なので、中々出てこないだろう。そう光は思っていた。

 しかし、{⑤}は三元牌が増えるごとに手狭になって行く玄から出てきた。

 これをすかさず、

「カン!」

 光は大明槓した。新ドラは{⑤}。モロ乗りだった。

 こうなったら光は攻めるしかない。ドラ7の手だ。ヤオチュウ牌を捨ててタンヤオに走り始めた。

 すると、智紀が光をサポートするかのように打{7}。

「チー!」

 これを光が鳴いた。

 

 春も智紀も、自分がトップを取れるのがベストだが、二人の魔物を相手にトップを取れるとは到底思えない。

 ならば、勝ち星が一点に集中しないことを望む。玄にトップを取られるよりも光にトップを取られる方が数段マシである。

 中堅に咲が控えている阿知賀女子学院には、次鋒での勝ち星を絶対に与えるわけには行かないのだ。

 結局、

「ツモ。タンヤオドラ7。4000、8000!」

 光が和了り、これで2位の玄に40000点以上の差をつけた。

 

 

 南三局、智紀の親番。

 春も光も、なんとか槓して玄の邪魔をしたいところだが、どうやっても大明槓すらできない局も存在する。ここにきて、まさにその状態となった。

 天が玄に味方しているのだろうか?

 光は、敢えてドラを捨てるが、これを玄が鳴く気配も無い。

 今の玄は、ドラ支配を取り戻すことよりも大三元を和了って一発逆転するほうに意識が向いている。

 そして、とうとうその時が来た。

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。まるで対局室内に雷鳴が響き渡るようだ。

 嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンなのです!」

 続いて玄は、{發}を暗槓した。さらに玄は、次の嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カンですのだ!」

 最後の三元牌、{白}を暗槓した。これで三連槓。大三元が確定した。

 そして、続く嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花! 8400、16400です!」

 大三元が炸裂した。

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:光 142300

 2位:玄 139900

 3位:春 63900

 4位:智紀 53900

 玄が、光に3400点差まで迫ってきた。

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:光 314300

 2位:玄 297100

 3位:春 103300

 4位:智紀 85300

 トップは光だが、まだ、なんとか玄は逆転トップを狙える位置にいる。

 

 

 そして、オーラス、光の親番。ドラは{⑧}。

 光と玄の前後半戦トータルの点差は17200点。玄は、ここでハネ満を光から直取り、またはツモ和了りすれば、トータルで逆転トップとなる。

 

 この状況であれば、光は高い手を必要としない。オーラスを安手で流せば良い。当然、鳴きのクズ手に走るだろう。

 一方の玄は、ここから三元牌支配完全形に向けての準備段階に入る。しかし、このオーラスでの連荘は無いはず。玄は、ここで逆転を決めるしかない。

 

 ただ、運命の悪戯か、この局に限って全員が、ツモと手牌が噛み合わなかったし、鳴いて手を進めることも出来ずにいた。

 グズ手狙いの光でさえ、聴牌したのは十三巡目だった。

 しかも、巡り合わせが悪いのか、光は和了り牌を掴むことができずにいた。

 そのような中、あと一巡を残すところで玄は聴牌した。

 

 この時の玄の手牌は、

 {一二三②③1399中中中中}  ツモ{2}

 

 本来ならば次巡ツモの海底牌は玄に回ってくる。しかし、ここで暗槓すると海底牌は一枚前にズレる。つまり、もし、ここで暗槓したら、嶺上牌が玄の最後のツモ牌となる。

 ここで玄は、

「(賭けに出るしかないのです!)」

 {中}を、

「カンなのです!」

 暗槓した。

 ここで{①}が引ければ、ツモ中チャンタ三色同順嶺上開花のハネ満ツモとなり、前後半戦トータルで逆転する。

 この緊張した局面で、最後に玄がツモってきた牌は………安目の{④}だった。

 これは、もう仕方がない。残念だが和了るしかないだろう。

「ツモ。嶺上開花中。60符3翻は2000、3900なのです!」

 

 この和了りで、後半戦は、

 1位:玄 147800

 2位:光 138400

 3位:春 61900

 4位:智紀 51900

 玄が、光を逆転した。

 

 しかし、前後半戦のトータルは、

 1位:光 310400

 2位:玄 305000

 3位:春 101300

 4位:智紀 83300

 光が5400点差でトップを守る結果となった。これで、白糸台高校が待望の勝ち星を一つ得た。

 

 ちなみに総合得点は、

 1位:白糸台高校 472900

 2位:阿知賀女子学院 454400

 3位:永水女子高校 438100

 4位:龍門渕高校 234600

 白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の三強の構図となった。

 

 

「試合終了―――――――――!」

 アナウンサー福与恒子の声が観戦室にこだました。

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 対局後の挨拶を済ませると、光は、ホッとした顔で対局室を後にした。やはり、最後の玄の和了りは怖かったのだ。

 

 ちなみに{①}の所在は………、全て光が持っていた。

 {①①①①②③}の形で持っており、全て面子として使われていたのだが、これは偶々運が良かったに過ぎない。

 個人戦でも玄との対決があるかもしれない。それに向けて、どのように対応するか、作戦を考える必要がありそうだ。

 

 一方、玄は、負けて悔い無しと言った表情だった。

 

 この頃、阿知賀女子学院控室では、

「じゃあ、サキ、行くよ!」

「お願いします。」

 憧が咲を連れて対局室に向かうところだった。いつものお約束、迷子対策だ。

 

 また、永水女子高校控室では、

「じゃあ、行ってきます。」

 明星が、一見落ち着いた表情で控室を出て行った。

 

 昨年のインターハイで従姉妹の霞を戦犯にした憎むべき女が相手である。当然、その手で敵討ちするチャンスだ。

 ただ、六女仙を統べる小蒔は、人を憎むことを善しとしない。むしろ、そのような部分が心の中にあること自体、修行が足りないとされる。

 ゆえに、この時の明星は、小蒔に心の内を悟られないようにムリムリ平静を装っていた。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で染谷まこの時間軸超光速跳躍が発動します。
憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンも登場しますが、この二人はストーリー上、特に登場する意味は全くありません。


憧 -Ako- 100式 流れ七本場:憧、最高のアヘ

ここは、咲が暮らすアパート。
先日、憧と淡に手伝ってもらったレポートを教授に褒められて、咲は上機嫌だった。それで、咲は憧と淡の二人を呼んで手料理を振舞っていた。
既に時刻は午後七時を回っていた。
この日、京太郎と俺君は、共にバイトの遅番に入っていた。多分、帰宅するのは午前零時を過ぎるだろう。


咲「でも、本当に助かったよ。この間のレポート。手伝ってくれてありがとう。」

淡「そんなの別にイイって。気にしないで。」

憧「でも、教授の名前、阿笠博士でしょ?」

咲「そうだけど。」

憧「その人に、私と淡のこと、絶対に言わないでね。」

咲「うーん、どうしようかなぁ。」←意地悪な顔

憧「お願い。京太郎の妻の座は咲様にお渡ししますから!」

淡「俺君は、私だけのモノだけど!」←これは咲には聞こえていない

咲「つ…妻だなんて…。」←顔がにやけて来た

憧「(分かりやすい。)」

咲「だけど、どうして言われちゃ困るの?」

憧「私と淡は、阿笠博士によって造り出されたの。」

咲「えっ?」

憧「博士が、自分とHする相手として私達を造り出したんだけど、私達、博士のモノになるのがイヤで、そこから逃げてきたから。」

咲「そうだったんだ。でも、なんで女子高生型?」

淡「そういう趣味なんじゃないの?」

咲「なんか幻滅したよ、あのハゲオヤジ。」←急に口が悪くなった


咲がエアコンのスイッチを操作した。
ただ、巧く操作できなかったようで、何度もスイッチを押しまくった。
が………、急に憧100式と憧105式ver.淡の様子がおかしくなった。


憧・淡「「(なにこれ!?)」」

憧・淡「「(なんだか、無茶苦茶Hしたい!)」」


どうやら、憧100式と憧105式ver.淡は、そのリモコンに反応したようだ。
この股間の疼き。憧100式と憧105式ver.淡には堪えようがなかった。
もはや、自制できるだけの自信が無い。
ただ、誰でも良いからHがしたい。
そんな状態になっていた。
今なら、阿笠博士が相手でも受け入れてしまうかもしれない。


取扱説明書:憧シリーズは、テレビ、ビデオ、エアコン等のリモコンで反応することが稀にあります。

取扱説明書:その場合、1~2回のリモコン操作では然程影響はでませんが、連続でリモコンのスイッチを押しますと急激にHを要求するように変貌する恐れがありますのでご注意ください。

取扱説明書:憧100式と憧105式ver.淡は、百合機能は搭載されておりません。

取扱説明書:万が一、家電のリモコンで反応した場合、男女問わず見境なく性的に襲い掛かる可能性がありますので周囲の方はご注意ください。百合機能が搭載されていなくても女性に襲い掛かることはあります。

取扱説明書:いかなる場合においても、インプリンティング機能がリセットされることはありません。NTR機能またはスワッ〇ング機能を発動させない限り股間に触れたオーナー以外の『男性』は感電します。

取扱説明書:憧100式と憧105式ver.淡が極度の興奮状態にある場合、NTR機能またはスワッ〇ング機能が発動していない状態で股間に触れたオーナー以外の『男性』は感電死する恐れがありますのでご注意ください。

取扱説明書:感電するのは、飽くまでも男性のみです。女性の場合は感電したような絶頂状態に誘います。


憧・淡「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………。」」

咲「どうかしたの?」

憧「ゴメンなさい、咲さん。もう、私…。」

淡「私も…。」

まこ「今回はワシの出番があったようじゃ!」


まこが、腕まくりしながらそう言った。
すると一瞬にして時間軸が飛び、既に事後となっていた。
素晴らしき染谷まこの超能力。R-18の描写を全てスっ飛ばしてくれる、咲-Saki-登場人物最強の力であった。

小一時間が過ぎた。
既に、憧100式も憧105式ver.淡も、ヤルことが終わってその場にグッタリと横たわっていた。
何故、憧100式も憧105式ver.淡も疲労を感じるのだろうか?
機械仕掛けなのだが、まるで人間のようだ。
オーナーが人間の女性と営んだような感覚が得られるよう、このように造られているようだ。芸が細かい。

一方の咲は、最初は抵抗したが、憧100式と憧105式ver.淡とのプレイにズルズルと引き込まれ、そのまま………。
初めての体験であった。


チャイムの音:ピンポーン!

和「咲さん。入りますよ。」


原村和が、咲のアパートの合鍵でドアを開けて中に入ってきた。
合鍵は、どのようにして入手したのかは不明である。少なくとも、咲から渡されたわけではないらしい。

和は、咲と二体のAI搭載自律型ダッ〇ワイフが裸で横たわる姿を見て愕然とした。
当然のことだが、和には、これら二体のダッ〇ワイフが人間の女性にしか見えなかった。
もっとも、それだけリアルに造られているのだから仕方がないことなのだが…。

しかも、三人とも激しく息を切らしている。明らかに事後だ。


和「(そんなオカルト………ないない! そんなの!)」


認めたくないが、間違いない。
愛する咲が、他の女性に寝取られた。
しかも、三人でのプレイ。
和にとっては、まさかの展開であった。人格が和から初美に変わるほどの衝撃だ。


和「咲さん。不潔ですー!」


和は、そう言い残すと、その場から逃げるように、泣きながら飛び出して行った。

その頃、コナンと灰原は、ヤることを終えて同じ布団で眠りこけていた。
ただ、二人の寝言がうるさかった。


コナン「あれれー。」←寝言

哀「APTX4869の解毒剤を合成するにあたり、代謝抵抗性を上げるため、酸化を受けやすいこのベンゼン環の3位にフッ素原子の導入を…。」←寝言

コナン「おっかしいぞー。」←寝言

哀「カルボン酸残基を生物学的等価の官能基に変換して…。」←寝言

コナン「犯人は毛利小五郎!」←寝言

哀「次の化合物の合成は、鈴木―宮浦カップリングとオレフィンメタセシスが鍵よね。」←寝言

コナン「コナン! 例のモノを!」←寝言

哀「ちなみにAPTX4869の48は四十八手、69は、シックスナインから来ている訳ではなく…。」←寝言

コナン「は~い。これ、毛利のオジサンに言われて探しておいた証拠だよ!」←寝言

哀「どうせなら四十八手もシックスナインもエロカワ君と…。」←寝言

コナン「でも、なんで俺は、毛利のオッちゃんが犯人なのに、毛利のオッちゃん役で推理してるんだ?」←寝言


まあ、どちらか一方がうるさくて、もう一方が寝られないと言うわけではなさそうだ。
共に眠りこけていて、共にうるさい。
似たもの夫婦だ。

一方、阿笠博士は、この日も最新式のAI搭載自律型ダッ〇ワイフ開発のため、寝る間も惜しんで作業していた。


博士「今までは、最初から完成形を目指そうと思っていたからいけないんじゃ。自分で育てるのも必要じゃな…。」

博士「顔は、やっぱり哀君や歩美君よりもカワイイ方が良い。」


どうやら、次のAI搭載自律型ダッ〇ワイフのコンセプトは決まっているようだ。

さて、それから少しして………、憧100式と憧105式ver.淡はと言うと…。
リモコン操作で狂った機能は、一先ず正常に戻っているようだった。


憧「咲さん。変なことしちゃってゴメンなさい。」

淡「リモコンの信号でおかしくなっちゃったみたいなんだけさぁ。」

咲「…。」

憧「それで、二つほど気になったことがあるんだけど、さっき入ってきた女性って誰?」

咲「大学の同期で、ストーカーされてるの。」

憧「じゃあ、なんで合鍵なんか渡してるの?」

咲「渡してなんかいないんだけど…、これまで三回も鍵を付け替えたけど、いつの間にか合鍵を手に入れてて…。」

淡「それってヤバイじゃん!」

憧「でも、私達との事後状態を見て逃げ出したから、もう来ないかも知れないわね。」

淡「だとイイケドね。」

憧「それともう一つ。咲さんって、『人間』とは誰ともシたことないよね?」

咲「うん…、していない…。」

憧「でも、破れてたよね。」

咲「…うん…。」

憧「なにかマズイことでもあったの?」

咲「小学校二年の時、鉄棒にまたがって横に回るのをやって、それで食い込んで…。」

憧「それでか…。ゴメン。私、慌てて指突っ込んじゃって…。」


取扱説明書:憧100式の指は女性がどれだけ使ったかを判別する機能が付いています。その際、中指を根元まで挿入します。


憧「でも、ほら。私、人間じゃなくてモノだから。だから、タ〇ポンを挿入したのと大差ないから…。」

咲「私、タン〇ンって使ったことなくて…。」

憧「本当にゴメン!」

咲「…。」

憧「ゴメンなさい!」

咲「責任とってもらうからね!」

憧「でも、どうやって?」

咲「もっと楽しませてもらうから!」


そう言うと、咲は再びリモコンを弄り始めた。
憧100式と憧105式ver.淡との情事に咲のほうがハマってしまった感じだ。
咲がスイッチを連打したことで、憧100式と憧105式ver.淡は、またもやHしたくてたまらん状態に突入してしまった。


憧・淡「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!」」

まこ「またワシの出番か! このままエンドレスで続くんじゃろか?」


再び憧100式と憧105式ver.淡が正常に戻った時には、既に明け方になっていた。



続く


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五十二本場:王者からの洗礼

 明星は、対局室の手前で憧と手を繋いでいる咲を見つけた。ただ、咲は、妙にオドオドしていた。何かに怯えているようにも見えた。

「(その男好きっぽくて尻が軽そうな人と仲がイイみたいね。でも、私が相手で結構緊張してくれているのかしら?)」

 当然、明星は、自分の打ち方が咲達に研究されているだろうと思っていた。相手の打ち方を研究するのはお互い様だ。

 

 ただ、明星は、ちょっと勘違いしていた。

 明星は準決勝戦で能力を解禁した。たしかに、あのヤオチュウ牌支配は、一般には驚異的な力である。それで、咲が明星の能力を知って恐怖し、オドオドしているものと勝手に思い込んでいた。

 しかも、憧が咲に付き添って手を繋いでいるのも、明星が相手と知って咲が心細くなったからと思い違いしていたのだ。

 言うまでも無く、手を繋いでいるのもオドオドしているのも『迷子になるのが怖い』が正解なのだが…。

 そもそも、小蒔に降臨した最強神を相手に咲は勝利しているのだ。それを考えれば、咲が明星に恐怖するファクターなど無いだろうに…。

 ただ、それを認められないくらいに明星は咲を恨んでいた。

 

 憧は、咲を対局室に送り届けると、

「じゃあ、いつものヨロシク!」

 と言って控室に戻って行った。

 

 この時、咲は、

「(京ちゃんのタコス、食べるタイミングが早すぎたかも…。なんか、京ちゃんを感じられないよぉ。)」

 なんてことを思いながら半分涙目になっていた。

 この様子を見ながら、明星が益々勘違いしたのは言うまでもない。

 

 

 既に、みかんと一は入室して卓に付いていた。

 咲と明星が卓に付くと、一が、

「まいったな。相手がチャンピオンに、女子高生雀士ナンバーワン美女の佐々野さんとナンバーツー美女の石戸さんかぁ。私だけ見劣りしちゃうな。」

 と声に出した。

 まあ、普段の格好をして対局室に入れば、誰もが一の姿に釘付けになると思うが…。

 

 これを聞いて、咲の表情が曇った。

「(この子、美女ナンバーツーって言われてるんだ。下級生のくせに、この大きな胸。正直、気に入らないんだよね。)」

 そして、例の如く、暗黒物質が咲の全身から放出され始めた。

 これを察知したのか、みかんは、

「(なんだか、嫌な予感がする。なんで私ばっかり、宮永さんの相手をしなきゃならないのよ? むしろ、麻里香のほうが羨ましいけど…。)」

 と心の中で叫んでいた。

 

 場決めがされ、起家が明星、南家がみかん、西家が咲、北家が一に決まった。この席順を見て、みかんと一は、

「「(チャンピオンが本気だ!)」」

 と直感した。

 起家を取って全員トバシを狙う咲は恐ろしい。しかし、咲の本領は西家で発揮される。

 それを、みかんは光から聞いていたし、一も昨年の合同合宿でイヤと言うほど身をもって経験していた。

 ただ、明星だけが、それを知らずにいた。

 

 

 東一局、明星の親。

 まだ、咲は靴下を脱いでいない。先ずは、様子見と言った感じだ。

 一方の明星は、最初から能力全開で咲に挑むことにした。

 彼女の持つ能力は、霞と違って一つの色を集めるのではなく、ヤオチュウ牌を集める。言い換えれば、霞は門前清一色ツモ赤1の倍満を狙う能力、明星は国士無双や字一色などの役満を狙う能力である。

 配牌には能力の影響は出ないが、そこから手がヤオチュウ牌だけに変わってゆく。

 

 この局も例外ではなかった。

 明星の配牌は、六種八牌で普通に言えば悪いものだった。しかし、ここから数巡後にはヤオチュウ牌のみで手が埋まることになるのだ。

 

 ただし、他家の配牌やツモにヤオチュウ牌が行かないわけではない。数を考えると、そこは仕方がないだろう。

 

 重なる牌が少なく、八巡後には、明星は国士無双を聴牌した。そして、次巡、和了牌をツモった彼女は、勢い余って胸で牌を倒した。霞が初めて能力を披露した時の和了りを連想させる。

「ツモ。16000オール!」

 東初から親の国士無双が炸裂した。

 

 当然、明星は、

「(どうかしら、チャンピオンさん。これが私の力…。)」

 これで咲が萎縮するものと思っていた。

 しかし、咲から感じる空気は全く別のものであった。むしろ、激しい攻撃的なオーラがヒシヒシと伝わってくる。

「(えっ?)」

 今までオドオドしていた小動物系の雰囲気をまとっていた人間とは、まるで別人だ。

 しかし、周囲に怖い空気を浴びせる人間を明星は沢山知っている。例えば、小蒔や霞、初美がそれに当たる。

 なので、明星は、咲のオーラを浴びても、特に恐怖することはなかった。今のところは…。

 

 一方の咲は、

「(コーチに言われたとおりだね。ヤオチュウ牌を集める能力か…。でも、ヤオチュウ牌全てをガメるわけじゃないからね…。)」

 既に明星の能力の穴に気付いていた。

「(この子、自分の能力に自信を持っているみたいだけど、こっちからすれば捨てる牌が予測出来るってことでもあるんだよ。でも、余計なことをしたよね!)」

 加えて、いつもよりも余計に暗黒物質を放出していた。胸で牌を開くとは…、こいつも霞と同じだ。

 咲は、これで完全に明星をロックオンした。勝負以外に私情も入っているようだが…。

 

 東一局一本場、明星の連荘。

 今回も明星の手は六種八牌。まずはチュンチャン牌の整理を行う。

 ツモの流れから、どうやら混老七対子に進むのが良さそうだ。しかも、{①}と{⑨}が対子。これなら筒子の混一色も狙える。

 チュンチャン牌の整理を終え、次は萬子と索子のヤオチュウ牌整理に入る。

 字牌と筒子以外で持っているのは{一}と{1}のみ。

 先ず{一}を落とした。そして次巡、{1}を捨てたその時、

「ロン。平和三色ドラ1。7700の一本場は8000。」

 咲に和了られた。

 

 明星は、一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 咲のイメージは飽くまでも槓。それと対極的な位置にある平和を和了ってくるとは思わなかったのだ。

「あっ、はい。」

 状況を理解するのに数秒かかった。

 ただ、これを見て明星は、

「(もう、形振り構わず和了ってきた感じかしら?)」

 くらいにしか思っていなかった。端牌で待つことが、明星対策であることに気づいていなかったのだ。

 

 

 東二局、みかんの親。

 みかんとしては、この親番でさっきの国士無双で支払った16000点を取り返したい。まあ、これは誰でも思うことだろう。

 しかし、中盤でみかんがツモ切りした牌で、

「ロン。タンピン一盃口ドラドラ。8000。」

 さくっと咲に和了られた。

 やはり咲は聴牌気配を見せない。非常にやりにくい相手だ。

 

 

 東三局、咲の親。

 咲は、まだ靴下を脱ぐ気配は無い。それイコール、まだ本気では無い証拠だ。いや、力をセーブしていると言うべきだろうか?

 場に{3}が四枚出てきた。普通に考えれば、{1}と{2}が使い難い。

 言い換えれば、{1}と{2}で平和手を和了られることはない。

 前局、前々局の咲の和了りを見る限り、今日の咲は槓で勝負してきていない。飽くまでも平和手で展開してきている。

 

 七巡目。

 明星の手牌は、

 {一一九九⑨19東東北北中中}  ツモ{⑨}

 

 {1}か{9}切りで聴牌。大会ルールでは、混老七対子を25符5翻で数える。つまり、出和了り満貫の手だ。

 ここでは、{1}が他家にとって使い難い牌。それで明星は、打{9}で聴牌に取った。{1}狙いだ。

 しかし、

「カン!」

 これを咲が大明槓してきた。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{8}を暗槓した。さらに、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 さらに咲は、{七}を暗槓した。当然のように、次の嶺上牌………{[⑤]}で、

「ツモ! 対々三暗刻三槓子嶺上開花赤1。24000!」

 嶺上開花、いや、五筒開花を決めた。この親倍は明星の責任払いになる。

 これで咲が明星を逆転した。

 この和了りを見て、みかんは、

「(もう、『もいっこ、カン』が出ちゃった。もう、宮永さんは全てを見切ったってことだよね…。今日はヤキトリかな…。イヤだな…。)」

 全てを悟った。

 昨日の準決勝に引き続き、今日も和了らせてもらえないであろう危機感を覚えた。

 

 東三局一本場。

 いくら咲が相手でも、みかんも一もヤキトリだけは回避したい。望んでヤキトリになりたいとは誰も思わないはずだ。

 できれば、二人とも、ここで和了りを決めて咲の親を流したい。

 しかし、そうは問屋が卸さない。

「ロン! 中ドラドラ。7700の一本場は8000。」

 一が捨てた牌で咲にさくっと和了られた。しかも、五巡目と門前手にしては結構早い和了りだった。

 そして、一から点棒を受け取ると、

「じゃあ、靴下を脱ぎます。」

 とうとう咲は、本気宣言した。

 

 東三局二本場。

 明星は、自分のツモに違和感を覚えていた。ヤオチュウ牌しか来ないはずのツモの中にチュンチャン牌が含まれていた。

 とは言っても、序盤六枚のうちの一枚だけだったが…。

 自分の能力が弱まっているのだろうか?

 それとも他の誰かの能力干渉で弱められているのだろうか?

 まあ、『誰か』と言っても該当者は咲くらいしかいなのだが…。

 それでも一応、ツモは基本的にヤオチュウ牌。ならば方針は変えられない。ヤオチュウ牌中心の手に仕上げて行く。

 中盤に入り、九巡目で明星は再びチュンチャン牌の{③}を引いた。

 方針変更無しと決めた以上、明星は、これをツモ切りした。結構頑固なところがあるようだ。しかし、これを、

「カン!」

 咲が大明槓してきた。狙っていたのだ。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{4}を暗槓した。さらに、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は、{八}を暗槓した。続いて次の嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 とうとう四つ目の槓子が副露された。最も出現確率が低いとされる役満、四槓子の必要条件が揃った瞬間であった。

 明星の背中に冷たいものが走り抜けた。まさか、一瞬で四槓子が作り上げられてしまうとは…。

 そして、咲は、当然のように次の嶺上牌………{[⑤]}で、

「ツモ! 四槓子。48600!」

 再び五筒開花を決めた。この役満は明星の責任払いになる。

 これで、明星は一気に最下位に転落した。

 

 東三局三本場。

 さすがに明星は焦ってきた。

 最初に親の役満を決めて、通常であればトップで折り返せるだけのリードを確保していたはずだった。

 それなのに、今はトップの咲にトリプルスコア近い点差をつけられている。

「(なんとかしなきゃ…。)」

 ただ、この焦りが思考を鈍らせ、暴牌を生む。

 それこそ、咲の思う壺である。

 

 七巡目で明星は聴牌した。

 彼女の手牌は、

 {一一九九①99西西北北中中}

 またもや混老七対子だ。

 

 その次巡、明星は{②}を掴んだ。自分としては、ここでは本来不要な牌だ。

 当然、明星は、これをツモ切りしようとした。ただ、それで本当に良いのだろうか?

 さっきはチュンチャン牌をツモ切りして咲にやられた。ならば、ここは敢えて{②}待ちに変えるのはどうだろうか?

 これなら裏をかけるかも知れない。

 それで明星は、{①}を切った。

 しかし、

「カン!」

 これを咲が大明槓してきた。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{③}を暗槓した。さらに、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、{⑥}を暗槓した。

 この時、明星には巨大生物が大きな口を広げ、自分目掛けて突っ込んでくる幻が見えていた。食い殺される恐怖しかない。

 そして、咲は続く次の嶺上牌………またもや{[⑤]}を引き、

「ツモ。清一対々三暗刻三槓子嶺上開花赤1。48900!」

 

 開かれた手牌は、

 {②②②⑤}  暗槓{裏⑥⑥裏}  暗槓{裏③③裏}  明槓{①①①横①}  ツモ{[⑤]}

 

 どうやら、{①}を切っても{②}を切っても結果は同じだったようだ。

 さっきの幻のせいか、明星の身体は、ガタガタと激しく震えていた。

 

 

 この段階での順位と点数は、

 1位:咲 229500

 2位:みかん 71600(席順による)

 3位:一 71600(席順による)

 4位:明星 18500

 次に親ハネを直撃されたら明星は箱割れする。

 今まで咲は、明星から満貫級、親倍、四槓子、数え役満を直取りしている。次に直撃されたらトビ終了するだろう。

 今までにない緊張感が明星を襲った。

 

 

 東三局四本場。咲は、

「カン! ツモ! タンヤオツモ嶺上開花ドラドラ。4400オール!」

 明星の不安を他所に親満をツモ和了りした。

 

 東三局五本場。ここでも咲は、

「カン! ツモ! タンヤオツモ嶺上開花一盃口。4500オール!」

 親満をツモ和了りした。

 

 続く東三局六本場も、

「カン! ツモ! ツモ嶺上開花ドラドラ。4600オール!」

 咲は親満をツモ和了りした。これで咲の九連続和了だ。

 しかも親満ツモ三連発。明星には、じわりじわりと自分の点数を削っているようにしか思えなかった。

 これで、明星の持ち点は丁度5000点になった。

 

 東三局七本場。

 ここで咲は、

「チー!」

 みかんが捨てた{4}を鳴いた。それも、カンやポンではなくチーだ。

 そして、次巡、

「カン!」

 咲が、{②}を暗槓した。さらに、次の嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 続いて{三}を暗槓した。

 明星は、

「(これで終わり…。)」

 トビ終了を覚悟した。

 しかし、咲は、その次の嶺上牌で、

「ツモ! タンヤオ嶺上開花! 60符2翻。2000オールの七本場は2700オール!」

 和了りを決めたが明星を箱割れさせるには至らなかった。トバされずに明星はホッとしたが、残り2300点。状況は悪化しただけだった。

 

 東三局八本場。

 既に咲は、この親で八回連続の和了りを決めた。しかし、この大会ルールでは、八連荘が認められていない。それが明星にとっては、せめてもの救いだろう。

 ルールによっては、子の和了りから数えて九回連続で和了れば八連荘での和了りとして認めるところもあるようだが、その場合は、既に咲は役満八連荘としての和了りを達成していることになる。

 

 明星は、自分の支配が弱まっていることに気付いた。本来、自身の能力でヤオチュウ牌ばかりが来るはずのツモが、半分以上チュンチャン牌に切り替わっている。

「チー!」

 今回も、咲がみかんの捨て牌をチーした。一体何をしようとしているのか、明星にはまるっきり読めない。

 そして、数巡後、

「カン!」

 咲が{①}を暗槓した。

 嶺上牌を引くと、当然のように、

「もいっこ、カン!」

 今度はオタ風の{西}を暗槓した。そして、続く嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花のみ! 90符1翻で、1500オールの八本場は2300オール!」

 咲は、明星にとって最悪の和了りを決めてくれた。これで、明星の持ち点がゼロになったのだ。

 完全に点数を調整して遊ばれている。

 これで従姉妹の霞も戦犯にされたのだ。

 しかし、明星の頭の中は、遊ばれたことによる怒りよりも恐怖で満ちていた。そして、闘争心が失われ、とうとう明星の能力支配も完全に消えた。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十一本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。特に今回は、マトモに書いたらマズイ気がします。
そのため、R-18に突入しそうになった時点で積極的に染谷まこが登場し、時間軸超光速跳躍を発動してくれます。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。一応、灰原哀と江戸川コナンもムダに登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ八本場:少女からの選定

哀「メール?」

コナン「もう一人の俺からだよ。まだ、何もさせてもらえてないらしい。」

哀「やっぱり、私のナイト役になれてよかったでしょ?」

コナン「バーロー。当たり前なこと言うなよ!」


しかし、コナンと哀は、普通に保健体育の実習をするのは飽きてきたらしい。
最近では、哀がコナンに首輪をつけて、コナンを四足で散歩させるのにハマっているそうだ。
今のところ博士の家の敷地内(庭)だけで、敷地外でやるわけではなかったが…。
ただ、路上に出るのは時間の問題だろう。

一方、阿笠博士の研究室中央に置かれた回転ベッドの上には、一人のカワイイ女の子が裸で仰向けに寝かされていた。
今回は、その背丈から小学校高学年くらいと考えられる。
その女の子は博士の科学力の全てを結集したニュータイプのカラクリの類いであったが、博士、それはマズイんじゃないか?
その名も、憧110式ver.マホ。
憧シリーズの最新型なのだが…。


博士「今までは女子高生タイプにこだわっていたんじゃが、それがイカンかったようじゃのう。やはり、小学生くらいからワシの手で理想のタイプに育て上げて行くべきだったんじゃ。光源氏計画じゃの。今度こそ、巧くイってくれ…。」


取扱説明書:憧110式ver.マホは業界初の成長機能付きです。女子高生タイプになるまで三年以上かかります。その間、オーナーが色々と学習させることになりますが、それによりオーナーの望むタイプへと成長させることが可能です。


博士が、憧110式ver.マホの胸を触った。毎度のことだが、これがオンスイッチらしい。
ただ、あくまでもオンスイッチであってオフスイッチの機能は無い。これも毎度の設定である。


マホ「うーん。おはようございます!」

博士「うん。おはよう。」

マホ「あれ? どうして私、裸になっているのでしょうか?」

博士「それは、君がたった今、造られたばかりだからじゃ。」

マホ「造られた?」

博士「そうじゃ!」

マホ「それと、あなたは誰ですか?」

博士「ワシは、君の発明者。阿笠博士じゃ。」

マホ「では、私は博士に造られたって事ですね。」

博士「そうじゃ。」

マホ「でも、造られたって、私は人間じゃないんですか?」

博士「君は人間では無いんじゃ。ワシの科学力の全てを注ぎ込んで造り出した…。」

マホ「(もしかして、人造人間?)」

博士「AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧110式ver.マホじゃ!」

マホ「ええと、なんなんでしょう、そのダッチ〇イフって?」

博士「性欲処理具の一つじゃ。」

マホ「では、私は他の男の人に奉仕するためだけに生まれてきたのでしょうか?」

博士「そうではない。」

マホ「(では、人間みたいに色々と人生を楽しめるってことでしょうか?)」←少しワクワクしてる

博士「ワシの下の世話のためだけに造ったんじゃ!」

マホ「えぇ―――!!!」

博士「これが取扱説明書じゃ。ワシも、細かいところは忘れてしまうかもしれんので書きとめたメモみたいなもんじゃがな。」

博士「それと、機種名は憧110式ver.マホじゃが、普段の名前は憧と呼ぶと100式と間違えるでの。それで、マホと呼ぶことにする。」

マホ「悪の組織と戦う人造人間じゃないんですか?」

博士「ダッチ〇イフ!」

マホ「合体して巨大ロボットになって悪の組織を倒す『正義の味方』とかに憧れるんですけど?」

博士「そんな機能は無い! まぎれも無くダッチ〇イフじゃ! 男とは合体するがの。まあ、これも造る度に毎回言っておるが、強いて言えば、『性技のみの方』じゃ!」

マホ「(そんな…。)」

博士「では、早速使わせてもらうとするかの!」


丁度ここに、工藤新一が入ってきた。
ノックもせずにだ。ちょっと礼儀とか躾とか言うものがなっていない気がするが…。


新一「博士! ちょっと頼みがあって…。」


そこで、新一の目に飛び込んできた光景は…。
博士が下半身裸になって、全裸にした小学生っぽい女の子に迫っている構図…。
間違いない。これは、博士が女の子に悪戯しようとしているところに出くわしたに違いない。と新一は思った。
博士を犯罪者にするわけには行かない!
新一は、博士の暴走を止めることにした。


新一「おい、博士、何やってるんだよ!」

博士「何って、これからナニを…。」

新一「それはマズイだろ!」

博士「いや、これはワシが造った…。」

新一「俺だって蘭とヤれてないんだぞ! それを、小学生の女の子を連れ込んでヤろうなんてよ!」

博士「誤解じゃ、新一。」

新一「何が誤解なんだよ!」


憧110式ver.マホは、このゴタゴタに乗じて取扱説明書を手にして博士の部屋から逃げ出した。そして、庭に干してあった哀の服を拝借して博士の家から飛び出して行った。サイズはキツキツだが、今は我慢だ。

AIの学習どうこう以前に、博士は、憧シリーズに縁がないのかもしれない。

憧110式ver.マホも、この街から姿を消し、姉妹機同様に例の街に逃げ込んだ。
そして、公園のブランコに座って取扱説明書を読んでいた。姉妹機と、ほぼ同じ行動パターンである。


マホ「オーナー…、インプリンティング機能…。NTR機能…、なんなんですか、これ? マホは、とても悲しい存在なのです。」

マホ「それにしても、おなかすきました。誕生してから何も食べてません。」

マホ「それに、眠くなってきました。」


取扱説明書:憧110式ver.マホも、他の姉妹機同様にエネルギーは普通に人間と同じ食生活で問題ありません。ロボ〇タンAを用意する必要はありません。

取扱説明書:憧110式ver.マホは、エネルギーが一定量以下になるとスリープモードに入ります。本機能は、憧108式ver.姫子以降の機種のみに搭載されています。

取扱説明書:憧110式ver.マホは、食事の匂いで自動的にスリープモードから解除されます。この点は、憧108式ver.姫子とは異なります。


憧110式ver.マホは、そのままブランコの上で眠りこけてしまった。
それからしばらくして、一組の男女(?)が憧110式ver.マホの姿を見つけた。


?「ちょっと、あの子…。」

?「こんな時間に、小さい子一人じゃ危ないな。」

?「ねえ、この子、取扱説明書って…。」


このままでは危険と判断したのだろう。憧110式ver.マホは、その男性の方におんぶされて、眠りこけたまま彼らのアパートに連れて行かれた。


マホ「(なんか、いい匂いがします。)」

マホ「(男の人がいます。割りとマホの好みのタイプです。)」←目を開いた

マホ「あなたが助けてくれたのですか?」←身体を起こした

京太郎「目が覚めたみたいだね。」

マホ「ここって?」

京太郎「俺のアパート。あと、おなかすいているかなと思って、それ作っておいた。良かったら食べてみて。」

マホ「ありがとうございます。」


そこに置かれていた食べ物はタコスだった。
憧110式ver.マホは、早速タコスをいただいた。


マホ「とても美味しいです。それで、マホはお礼がしたいのですが、マホに出来ることって、これくらいしか…。」


憧110式ver.マホが服を脱ごうとした。すると、憧110式ver.マホの背後から憧110式ver.マホに向けて拳骨が振り下ろされた。


憧「ちょっと、やめてよ。京太郎は、もう私のオーナーなんだから!」

マホ「えっ?」


取扱説明書:憧110式ver.マホは、まだ子供のため視野が狭く、目的対象物以外は目に入らないことが多々あります。


憧「あなたも阿笠博士に造られたダッチワ〇フね?」

マホ「どうしてそれを?」

憧「私は憧100式。あなたの姉機ってとこね。」

マホ「あなたがお姉さんでしたか。でも、一人で二つのオーナーになってはいけないってことはありませんよね?」

憧「それはそうだけど。」

マホ「では、京太郎さんでしたか? マホのオーナーになってください!」

憧「ダメだって言ってるでしょ!」←再び拳骨を落とす

京太郎「おいおい、そんな乱暴な…。」

憧「あのね。もし、この子まで使ったら、京太郎は咲さんにどう説明すんのよ? 小学生に手を出したって、咲さんが悲しむでしょ?」

京太郎「いや、でもな…。」

憧「それに、私だって他の器具を京太郎に使って欲しくないし…。」←玩具として他の玩具にヤキモチを妬く憧100式

京太郎「憧…。」←憧100式にヤキモチを妬かれて嬉しい


チャイム:ピンポーン(誰か来た)


憧「はーい。」

一太「ちょっとカレーを作りすぎちゃって、おすそ分けにきました。」


内木一太は、清澄高校学生議会の副会長を務めていた人物である。
彼は、京太郎と同じアパートの同じ階に住んでいた。哩の部屋の隣だ。

一太の目に憧110式ver.マホの姿が飛び込んできた。


一太「そ…その子は?」

憧「あ…あぁ、この子ね。この子は、私のいもうt…。」

マホ「私は憧110式ver.マホと言います。憧100式の姉妹機で、AI搭載の自律型ダッ〇ワイフです。しかも業界初の成長機能付きなんですよ!」

一太「は…はぁ…。」

マホ「今なら、憧110式ver.マホを無料でお試しいただけます! ただし、返品不可になりますが!」

一太「ええと…、じゃ…じゃあ、僕の部屋にくる?」

マホ「喜んで!」

まこ「これ以上はマズいじゃろ!」


まこのお陰で、一気に時間が飛び、翌朝になっていた。
憧110式ver.マホは、多分、オーナーを手に入れた………のかな?



続く?


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五十三本場:生死の狭間

 中堅前半戦、東三局九本場。

 もう、明星のヤオチュウ牌支配は発動していない。

 

 この段階での順位と点数は、

 1位:咲 285000

 2位:みかん 57500(席順による)

 3位:一 57500(席順による)

 4位:明星 0

 

 この局面、みかんも一もツモ和了りすれば明星が箱割れして終了になる。つまり、咲のダントツトップを固定化することになる。

 なので、明星以外からの出和了りを狙うしかない。

 

 対する明星は、なんとしてでも持ち点ゼロから脱却したい。

 能力が発動していない今、チュンチャン牌を普通にツモっている。

 赤牌もある。

 ならば、ドラ含みのタンヤオを目指す。

 それなりにヤオチュウ牌も来るが、それはツモ切りだ。とにかく明星は、和了りたい一心だった。

 

 そして中盤に差し掛かり、明星は{北}をツモってきた。オタ風で使えない牌。

 リーチすらかけられない今、これを抱えていたら和了りに向かえない。それで、初牌だが明星は{北}を強打した。

 まるで、咲に向かって、

「(和了れるものなら、和了ってみなさいよ!)」

 と言わんばかりだった。

 少々、やけっぱちな感じだ。

 しかし、この牌を、

「カン!」

 咲が当然の如く大明槓した。待ってましたと言わんばかりだ。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {東}を暗槓した。さらに嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{南}を暗槓し、次の嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 さらに{西}を暗槓した。これで、大四喜四槓子が確定した。

 王牌には、四枚目の嶺上牌が残っている。

 咲は、これをツモると、

「ツモ! 大四喜字一色四槓子。144000点の9本付けで146700です!」

 最大級の和了りを決めた。{白}単騎での嶺上開花だった。

 この明星の豪快なトビで前半戦は終了した。

 

 この和了りと共に、映像が対局室から放送席に切り替わったのは言うまでもない。明星が派手にヤらかさないか、報道側も気になったのだ。

 

 

 咲は、席を立ち上がると一旦対局室を出た。

 外には、毎度の如く憧が迎えに来てくれている。ヤらかす側ではなく、ヤらかせる側なのだが、一応トイレには行っておく。

 小学校の頃から、休み時間にトイレに行くように教育されていたがゆえ、何かの区切りにはトイレに行くのが条件反射になっているようだ。

 

 一方の明星は………、セーフだった。

 彼女もまた、一旦対局室を出た。さすがに、この緊張&ストレスで喉が渇いた。お茶でも買って飲もうと思ったのだ。

 利尿採用のある飲み物は、やめておいた方が良いと思うのだが………。

 

 みかんも一も、一旦席を外した。

 一先ず誰もヤらかしていないのを審判が確認すると、無人の対局室に映像が切り替わった。卓の上には、咲が決めた大四喜字一色四槓子が、そのまま置かれてある。

 

 審判の一人が、そこから{東南西北}を一枚ずつ取り、次の場決めの準備に入った。この様子を見て、某掲示板では、

『誰もヤらかしていないのか、残念だじょ!』

『漏らしてなんぼ、漏らしてなんぼなのに、何故ですの?』

『仲間が増えないのはヤダなモー!』

『ないない! そんなのっ!』

『明星ちゃんが無事なのはスバラくないですねぇ』

 いつものメンバーが好き勝手書き込んでいた。

 

 

 明星は、一先ず自販機でペットボトルのお茶を購入した。

 控室には戻り難い。一番の理由は、この特大失点がだが、他にも理由がある。

 十中八九、小蒔には明星の心の乱れを読まれているだろう。だとすると、控室に戻ったところで間違いなく説教が待っている。

 それで、控室に戻るのを躊躇していた。

「(あの化け物…。オドオドしたり、不安げな表情を見せたりしていたのは演技だったってこと?)」

 少なくとも、極度の方向音痴が原因だとは、明星にも想像つかなかった。

 

 一方、霧島神境では、

「明星ちゃんも霞ちゃんと同じなのですよー!」

 この大量失点の一番の理由に初美は気付いていた。あの胸で牌を倒したのが悪い。それで霞も戦犯にされた。

 もし、昨年のインターハイで自分が大将だったら、あんなヤられ方はしなかったと、初美は自負していた。

 厳密には、自負と言うよりも、自らをオチに使っているようなものだが…(咲の仲間)。

 

 

 咲は、憧にお願いして一旦控室に戻った。後半戦用の京タコスを補給するためだ。今度は出親で一気に明星を潰したい。

 そう。飽くまでも『勝つ』ではなく『潰す』なのだ。

「(絶対に女性の敵だよね! うん!)」

 美女ナンバーツーと呼ばれる巨乳の下級生。

 当然、咲にとって許せる存在であるはずがない。

「(永水女子高でも、きっと昨年の副将の人なら解ってくれるよね!)」

 そんなことを勝手に思いながら、咲は、京タコスを口にした。

 すると、急に咲の表情が綻んだ。

「(心が洗われるよう…。)」

 今まで、咲の心の中を100%占めていた暗黒のエネルギーが、一瞬にして浄化されたようである。恐るべし京タコスの力。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ!」

「うん。じゃあ、憧ちゃん、お願いします!」

 咲は、憧に連れられながら上機嫌で控室を出て行った。

 

 

 対局室には、咲が一番乗りだった。

「咲だけに先に来る。なんちゃって!」

 なんだか、オヤジギャグレベルのことを咲が発している。相当機嫌が良い。正直、憧ですら恐ろしいくらいの機嫌の良さだ。

 

 みかんが対局室に入室してきた。

「宮永さん。後半はお手柔らかに。」

「うん。」

「ねえ、一つ聞いてイイ?」

「イイけど、どうかしたの?」

「永水に何か恨みでもあるの? 昨年のインターハイ二回戦と言い、さっきの大虐殺と言い…。」

「だって、胸で牌を倒すなんて反則だよ!」

「えっ?(そんなことで?)」

「それに、なんか今回の一年生は、決勝戦の挨拶の時からずっと私のことを睨んでるしね。だから洗礼。」

「ああ、それでか…。」

 みかんは、春季大会の頃の自分と明星が重なった。

 

 この一見小動物に見える少女を、女子高校生麻雀界では絶対に敵に回してはいけない。それが、暗黙の掟だろう。

 準決勝では、その掟を破った姫子と薫が大変な目に遭った。自分も春季大会ではヤらかしてしまった。

 世の中には、絶対に敵にしてはならない人物がいる。しかも、それが意外な人間だったりするケースもある。

 それを、身をもって経験したと言える。

 

 

 しばらくして、一と明星が対局室に入ってきた。

 四人は、一先ず前半戦の席に座り、場決めの牌を順にめくっていった。

 後半戦は、起家が咲、南家が明星、西家がみかん、北家が一に決まった。

「(永水の子、大丈夫かな…。)」

 みかんは、明星のことが心配になった。咲の下家に咲のターゲットが座るのは最悪のパターンだ。

 点数を毟られるだけではない。咲の副露牌に乗って、咲のオーラが飛んでくるのが咲の下家なのだ。

 しかも、ペットボトルのお茶を持ってきている。半分くらい飲んだみたいだ。

 よりによって、予め利尿作用があるモノを飲んで(準備して)おくなんて…。

 もう、みかんにはオチが見えた気がした。

 

 

 東一局、咲の親。

 前半戦最後と同様に、明星の能力は発動していなかった。心の乱れが霊力を下げ、能力が発動できなくなっていたのだ。

 そうなると、明星は普通のデジタル打ちにならざるを得ない。捨て牌にヤオチュウ牌が自然と増える。

 しかし、それを狙って、

「カン!」

 咲が大明槓した。副露牌に乗って、咲の強大なエネルギーが明星を襲う。

 前半戦東三局三本場で経験した幻よりも、もっと強烈だ。何体もの巨大肉食獣が自分を目掛けて襲ってくるような感じだ。

 そして、

「ツモ! 嶺上開花のみ。40符1翻は2000!」

 咲が和了ったのだが…、これで2000点?

 あれだけの恐怖を感じさせながら、たったこれだけの点数なの?

 

 これが、咲の下家…。

 昨年のインターハイでは、これを霞は浴び続けていた。それでいて、なぜ、平然とした表情をしていられたのだろう?

 今回の前半戦でも、龍門渕の選手がこれを受け続けていたはずだ。なのに、何事もないような顔をしていた。もっとも、衣との対局で慣れている部分はあるのだろうが…。

 これが、昨年インターハイ個人戦で小蒔に降りた最強神に勝利した魔物中の魔物。この重圧に耐えるだけの心を持って、はじめて魔者退治に挑める。

 明星は、自分の認識の甘さを思い知らされた感じがした。

 

 この様子を見ながら、みかんは、

「(やっぱり春季の私と同じだね、この子…。)」

 デジャブーを感じていた。

 

 東一局一本場。

 ここでも咲は、明星が捨てた{中}を、

「カン!」

 大明槓した。

 今度もまた、副露牌に乗って、咲の強大なエネルギーが明星を襲った。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ! 嶺上開花中! 40符2翻、3900の一本場は4200!」

 そのまま咲は、嶺上開花で和了った。嶺上牌が見えているとしか思えない和了り方だ。

 

 東一局二本場。

 またもや咲は、

「カン!」

 明星が捨てた{一}を大明槓した。当然のことながら、今度も副露牌に乗って、咲の強大なエネルギーが明星を襲った。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、再びカンの発声をした。今度は{⑨}の暗槓だ。これも当然、咲と明星の間に副露され、これに乗って咲の強大なエネルギーが明星を再度襲う。

 さらに咲は、

「もいっこ、カン!」

 嶺上牌を引くと、今度は{西}を暗槓した。

 またもや、咲の強大なエネルギーが明星に襲い掛かる。明星には、巨大肉食生物に食い殺される幻が再度見えた。

 もう怖い。身体が震える。

 しかし、そんなのお構い無しに、

「ツモ! 三槓子嶺上開花。90符なので満貫です。12600!」

 咲は余裕で嶺上開花を決めた。

 

 東一局三本場。

 今回、咲の捨て牌には、{二}、{三}、{②}、{3}など、下の方の数牌が目立った。

 ここで明星が引いてきたのは{①}。

 今の明星は、完全な振り込みマシーン。何を切っても和了られてしまうような錯覚さえ感じている。

 一応、{①}は初牌だ。

 それでも、上のほうの数牌に比べれば安心ではないか?

 これなら大丈夫かも知れない…。

 守りも大事だが、手を進めることも大事だ。それで、明星は{①}を切った。

 ただ、もう正直、頭が回らなくなり、深く物事を考えられなくなってもいた。

 

「カン!」

 待ってましたとばかりに、咲が{①}を大明槓した。そして、

「もいっこ、カン! もいっこ、カン! ツモ! 嶺上開花!」

 そこから{一}、{1}を連槓(暗槓)し、一気に嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {東東東白}  暗槓{裏11裏}  暗槓{裏一一裏}  明槓{①①①横①}  ツモ{白}

 

「ダブ東混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花。48900!」

 数え役満だ。

 咲のオーラに晒され、しかも四連続失点。既に点数は32300点まで落ち込んでいる。明星にとっては踏んだり蹴ったりだ。

 

 しかし、まだ対局は続く。

 続く東一局四本場では、

「カン!」

 咲が暗槓し、そのまま嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花。四暗刻! 16400オール!」

 役満を和了った。

 

 東一局五本場では、

「カン! 嶺上開花! 8500オール!」

 嶺上開花で親倍をツモ和了りし、さらに東一局六本場では、

「カン! 嶺上開花! 6600オール!」

 同様に嶺上開花で親ハネをツモ和了りした。

 

 後半戦で、咲は七連続で和了っているが、全て嶺上開花である。

「カン!」

 と咲が発声する度に、明星は恐怖に晒される。巨大生物に食い殺されたり天変地異が起こったりするような恐怖の幻が見えるのだ。

 

 しかも、現在の順位と点数は、

 1位:咲 262200

 2位:みかん 68500(席順による)

 3位:一 68500(席順による)

 4位:明星 800

 もはや、明星はリーチもかけられない。しかも、次は七本場だ、それこそ、誰かにノミ手をツモ和了りされただけでトビ終了となる。

 トビ終了に直面した恐怖と、咲のオーラに晒される恐怖が重なり、明星の身体は激しく震え出した。

 

 そして、東一局七本場。

 ここでも咲は、

「カン!」

 暗槓した。しかし、嶺上牌をそのままツモ切りし、

「ロン! 8000の七本場は10100!」

 みかんに振り込んだ。

 これで、明星はホッと胸を撫で下ろした。まだ生きている。そんな感覚だ。

 

 この様子を阿知賀女子学院控室のテレビモニターで見ていた玄は、

「やはり、オモチがあると、引っ掛かる分、撫で下ろすスピードが遅くなるのです!」

 とアホなことを言っていた。美由紀やゆいにドン引きされたのは言うまでもない。

 

 

 長い東一局が終わった。

 東二局、明星の親。

 ここで誰かに500、1000をツモ和了りされたら箱割れする。明星にとっては、親が回ってきて嬉しいとは思えない状況だ。

「カン!」

 ここでも咲が暗槓してきた。やはり、この発声と同時に明星は恐怖を感じずにはいられない。完全に刷り込みが入った状態だ。

 しかし、この局も嶺上牌をそのままツモ切りし、

「ロン。6400!」

 咲が一に振り込んだ。

 再び、明星はホッとした。親は流れたが箱割れはしていない。前半戦後半戦共にトビ終了なんてしたくない。

 とは言え、後半戦で和了れていない事実は変わらない。状況は持ち点800点のまま変わらずだ。死の一歩手前にいるに等しい。

 

 

 東三局、みかんの親。

 牌を捨てる度に、

「(当たらないで!)」

 明星の手が震える。

 誰かがツモる度に、

「(和了らないで!)」

 明星は天に祈る。

 これらが、東一局七本場からずっと続いている。もう泣きそうだ。

 ただ、この局での咲の和了りのターゲットは、

「カン!」

 一だった。一が捨てた{4}を咲が大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は、咲は自風の{西}を暗槓した。

 咲と明星の間に槓子が順に副露された。これに乗って、咲の攻撃的なエネルギーが、またもや明星に飛びかかる。生きた心地がしない。

 そして、続く嶺上牌で、

「ツモ。嶺上開花、西! 70符2翻で4500です。」

 咲が和了った。これは、一の責任払いになる。

 またもや、明星はトバされずに済んだ。しかし、持ち点800点のまま四局、生かされ続けているだけに過ぎない。春季大会で、穏乃と淡を相手に戦った池田華菜と中田慧の二人と状況は変わらないだろう。

 

 

 東四局、一の親。

 牌をツモるのが怖い。牌をツモられるのも怖い。それが明星の中で続いている。

 ここでは、

「カン!」

 みかんの捨て牌が咲に狙われた。

「もいっこ、カン! もいっこ、カン! ツモ! 嶺上開花! 12000!」

 今回は、タンヤオ三槓子嶺上開花にドラが二枚付いてのハネ満を咲が和了った。これは、みかんの責任払いになる。

 明星は、また生かされた。

 

 

 南入した。

「ポン!」

 開始早々、咲はみかんが捨てた{九}を鳴いた。たかがポンだが、明星に向かって副露されてくる。やはり、怖い。咲による恐怖の刷り込みが完了した感じだ。

 そして、数巡後、

「カン!」

 咲が{九}を加槓した。そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花のみ。50符1翻で800オール!」

 手牌の中には{⑨}の暗刻も含まれていた。これで50符。しかも、明星が800点しか持っていないところに800オールの和了り。それも嶺上開花のみ。

 前半戦と同様、点数調整されて明星は持ち点をゼロにされた。

 明星は、咲の性格の悪さを、この局を通してイヤと言うほど痛感した。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十二本場おまけの続きになります。
今回は、四十九本場の時と同様にR-18回避をする必要がありませんので染谷まこの時間軸超光速跳躍は発動しません。
また、憧100式シリーズの発明者として阿笠博士には、今回も特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンも必要ないのにムリヤリ登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ九本場 性器も宝

取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。


京太郎のアパートにて


憧「京太郎がいないとつまんなくて。」

淡「えっ? 今、いないの?」

憧「昨日から帰省してて。」

淡「そうなんだ。たしか京太郎は、長野出身だったよね?」

憧「うん。」

淡「咲さんの家も近所だって言ってなかった?」

憧「そうらしい。だから、二人で帰省したのよ。」

淡「それって、危険じゃない? 咲さんに京太郎を寝取られちゃわない?」

憧「別に、私は咲さんを応援してるから。私は、京太郎の単なる性欲処理具でいられれば、それでイイし。」

淡「それが理解し難いんだけどね…。いくらダッチ〇イフでもさ、私は、俺君が他の女性とくっついたらイヤだけどな。」

憧「まあ、帰ってきたら咲さんに経過報告してもらうつもりだけどね。それまで私はテレビ見放題。」

淡「それくらいしかやることないしね。」

憧「そう言えばさ、この間、お宝ガチンコ勝負ってのやってて。」

淡「お宝がチン〇勝負?」

憧「うん。どっちの(お宝の)方が凄いかとか立派かとかを競うの。」

淡「(そんなの放送できるんだ!)」

憧「それで、参加者の一人が見せたのがとんでもなくてさ。」

淡「ど…どんなの?」←興味津々

憧「ダイヤ入り(腕時計)なんだよ!」

淡「真珠じゃなくて?」

憧「ダイヤだった。それもたくさん!」

淡「それで、大きさはどれくらい?」←チ〇コのサイズを聞いている

憧「京太郎のよりも一回り大きかったかな?」←腕時計のサイズを言ってる

淡「(たしか京太郎のも平均の1.5倍くらいって言ってなかったっけ?)」←チ〇コのサイズのことを考えてる

憧「でも、どんなに立派なモノ持ってても、使わなかったら宝の持ち腐れだけどね。」←腕時計のことを言ってる

淡「それって、使ってないってこと?」←チ〇コのことを言ってる

憧「持ってるだけで一回も使ったこと無いんだって(無くすのが怖くて)。」←腕時計のことを言ってる

淡「勿体無いねぇ。」←チ〇コのことを言ってる

憧「でも、まあ、人それぞれだから。」

淡「そうだけどさ。でも、使わなかったら意味無いじゃん?」

憧「そうだけど、使わないで済んじゃう人もいるからね。で、俺君は、今日は?」

淡「一昨日からサークルの合宿って聞いた。」

憧「ちょっと、それこそ危ないんじゃない? サークルの女の子が。」

淡「それなんだよね。ちょっと心配。」

憧「で、何のサークルに入ってるの?」

淡「テニス同好会って言ってた。」

憧「(ペ〇ス同好会?)」

淡「男女比も女性の方が多いって聞いてる。」

憧「それはそうだろうけど…。でも、俺君って男性とのプレイに興味があったりするの?」←同性間でのHのことを聞いてる

淡「やっぱり、巧い人のプレイには憧れるって言ってた!」←テニスのことを言ってる

憧「実際にヤったりとかは?」←同性間でのHのことを聞いてる

淡「そりゃまあ、1対1で対決することはあるけどさ。でも、サークルだとミックスダブルスの方が多いみたい。」←テニスのことを言ってる

憧「ミックスダブルス?」

淡「男女ペア同士での対決。」

憧「(それって、ス〇ッピング?)」

淡「この間、市でミックスダブルスの大会があって。」←テニスのことを言ってる

憧「そんなのあったんだ。」

淡「うん。私も俺君とペアで参加したんだよ!」

憧「(それじゃ、またス〇ッピング機能を使ったってこと?)」←前回から誤解が解けていない

淡「意外と体力使うよね。」

憧「ま…まあね…。(この間のお〇んぽコースとか、今回のペ〇ス大会とか、俺君ってそう言う趣味なんだ…。)」

淡「そろそろ、一旦帰らないと。」

憧「何かあるの?」

淡「午後の便で宅急便が届くって聞いて。」

憧「配達ね。あれって、受け取りにハンコくださいって言われるやつでしょ?」

淡「えっ?(〇ンコって?)」

憧「受け取りに必要なんだって。」

淡「そんなの聞いてない! 私、受け取りするのイヤだな。」

憧「でも、俺君から頼まれたんでしょ?」

淡「そうだけどさ…。(でも、受け取っといてって言われただけだし…。)」

憧「じゃあ、私が代わりに受け取ってあげるよ。この間、京太郎の荷物、受け取ったことあるし。印鑑はあるでしょ?」

淡「いいの?(これって憧のNTR機能が発動してるってことよね?)」

憧「うん。」

淡「本当! 助かる!(私は俺君以外は絶対パスだからね!)」


そんな勘違いトークが進む一方で、コナンと哀は、少年探偵団の仲間と事件解決に向けて動いていた。
ただ、妙にコナンと哀の距離が近い。やけにベタベタしている。
歩美は、その様子を見ながらむくれていた。


歩美「ちょっと、哀ちゃん。なんで何時も、コナン君とくっついてるの?」

哀「そう言う間柄だからよ。」

歩美「それって、どう言うこと? 何かしたの?」

哀「だからナニしてるの。」

歩美「ちょっと意味分かんないんだけど!」

哀「そのうち分かるわ。」

コナン「(事件解決ってメンドクセエな。早く帰って哀とシてぇ。)」


最近、コナンが真面目に事件解決しようとしないため、少年探偵団の事件解決率は大幅に低下していた。
当然のことだが、毛利探偵事務所の事件解決率も底辺まで落ちていた。これ以上、落ちようが無いレベルだ。
実質、事件解決係のコナンが哀のこと以外頭に無い。事件への興味が薄れている。
そんな状態なのだから、事件が解決できるはずが無い。

一方、阿笠博士は、一人でなにやら黙々と作業をしていた。
研究室内に置かれた回転ベッドの上には、腕二本と脚二本、さらに胸部が置かれていた。勿論、人間のものでは無い。作り物だ。
特に脚は今までの作品よりも長く、太腿部分も立派だ。
胸部も大きいオモチが装備されていた。
まだ、顔と下腹部は無い。


博士「憧100式シリーズのニュータイプを急いで完成させんといかんからの。
美人タイプは護れんが…。
世話焼きタイプがイイか、スポーティータイプがイイか迷うとこじゃ。
今後の商品化への展開も視野に入れておかんとの。
そうなると、やはり、男性も女性も使えるように初期状態はジェンダーレスにするほうがいいかのぉ。
うーん、中々難しいとこじゃ…。」


はたして、どのような機種になるのだろうか?
今までに無いとんでもないモノを造り出しそうだ。

さて、憧と淡のほうに戻るが…。


憧「荷物受け取り終わったよ。」

淡「ありがとう(意外とすんなり終わったみたいだけど、相手が早かったのかな?)。で、この棚の本だけど?」

憧「参考書?」

淡「この間言ってた中学生の家庭教師の話、本気なのかなって?」

憧「ちょっと勉強してみたんだけど、なんか、高校の勉強くらいまで大丈夫そうかなって思った。」←偏差値70くらいは余裕な仕様

淡「そうなんだ。私にはムリかな。」

憧「三角関数とか面白いよ。」

淡「それは分かる気がする!(三角関係とか、たしかに他人の泥沼は聞いてて面白いのがあるしね!)」

憧「三角関数の微積とかも…。」

淡「(三角関係の軌跡?)」

憧「最初は中々理解しにくいところはあるけどさ。」←三角関数の微分積分のこと

淡「そう言うのもあるよね。」←三角関係の軌跡のこと

憧「でも、紐解いてゆくとさ、結構理解できるんだよね、これ。」←三角関数の微分積分のこと

淡「うん! 分かる分かる!(なっちゃうもんは、しょうがないもんね!)」←三角関係の軌跡のこと

憧「あと、化学のほうも勉強してさ。共有結合とか。」

淡「(巨乳結合?)そんなのあるんだ?」

憧「結合の仕方の一つだよ!」

淡「へぇー。(それって、巨乳とのHってことかな? パイ〇リとか…。)」

憧「他にも金属結合とか。」

淡「そんなのもあるんだ。(キン即結合? 男同士ですぐに結合しちゃうってこと?)」

憧「理解できると面白いよ。ニトロ化の配向性とか…。」

淡「(ス〇トロのHigh性交? それって、すんごいHのことかな?)」


最後のほうは、強引に勘違いしている気がするが…。
やっぱり勉学には向かない淡でした。



続く


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五十四本場:ステルスが効かない!?

 決勝中堅後半戦、南一局一本場。

 

 この段階での後半戦での順位と点数は、

 1位:咲 268100

 2位:一 66100

 3位:みかん 65800

 4位:明星 0

 

 前半戦の東三局九本場と同じで明星が持ち点ゼロにされた。まるでデジャブーを見ているようだ。

 

 普通に考えれば、みかんも一も、明星以外からの出和了りを狙うしかない。明星が箱割れした途端に咲の勝ち星が確定するからだ。

 しかし、前後半戦のトータルで考えれば、もはや逆転は不可能だ。

 みかんも一も咲に直撃されたが、これは明星の得点を800点にし続けることが目的だろう。つまり、ターゲットは飽くまでも明星一人である。

 ならば、超魔物のターゲットが、万が一にも自分に切り替わる前に今の点数で中堅戦を終わらせるべきだろう。得失点差勝負に備えたら、それが一番無難な考えだ。

 つまり、明星をトバす。

 

 みかんと一の目付きが変わった。

 この二人の雰囲気から、明星は、全員が自分をトバしに来ていることを感じ取った。もう、死を覚悟するしか無いようだ。

 ならば、自身も振り込み覚悟で和了りを目指す。怖いけど、それしか残された道は無いと明星は開き直った。

 

 その直後のことだ。

 急に明星のツモが変わった。能力が復活したのだ。

 腹をくくったことで雑念が消え、心の乱れが緩和されたからであろう。

 ヤオチュウ牌が来る。これなら、一矢報いることが出来るかもしれない。

 

 配牌にヤオチュウ牌が四枚しかなかったため、手牌全てをヤオチュウ牌にするには九巡かかった。しかし、ここで{2}を切れば国士無双十三面聴の聴牌。

 ここは、勝負!

 明星は躊躇なく{2}を切った。

 すると、

「カン!」

 これを咲が大明槓した。嶺上牌は{3}。すると、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {3}を暗槓した。続く嶺上牌は{4}。咲は、これを引くと、

「もいっこ、カン!」

 {4}も続けて暗槓し、次の嶺上牌………{8}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四連続槓で、一瞬にして四槓子の必要条件を揃えた。そして、最後の嶺上牌で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

 開かれた最後の牌は………{發}。

「緑一色四槓子! 96300点です!」

 後半戦も、明星の豪快なトビで終了した。

 

 後半戦での順位と点数は、

 1位:咲 364400

 2位:一 66100

 3位:みかん 65800

 4位:明星 -96300

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:咲 796100

 2位:一 123600

 3位:みかん 123300

 4位:明星 -243000

 言うまでもなく咲の超特大トップで阿知賀女子学院が勝ち星を上げた。

 星取り戦のため、大失点しても点数引継ぎ制ほどは戦犯として叩かれない。それが明星にとっては救いだろう。

 2位だろうと4位だろうと負けは負け。得失点差勝負になって初めて戦犯になる。

 

 まあ、それ以前に咲を相手に大敗しても、

『今日の被害者は彼女か…』

 くらいにしか思われなくなった部分はあるのだが…。

 

 それゆえか、掲示板では、

『明星ちゃんカワイイっス!』

『魔物に目をつけられてたのに、よくやったし!』

『オモチが魅力的なのです!』

 明星を叩く人は基本的にいなかったらしい。相手が相手なので、これも仕方がないと言うのが共通認識のようだ。

 

 

 急に映像が対局室から放送席に切り替えられた。

 対局室では、恐怖から開放されたからなのか、

「チョロチョロチョロ………。」

 明星のダムに亀裂が入ってしまった。

「(えっ? ヤダ…。)」

 慌てて股に手を当てるが、一旦開放されたダムは、全て出し切るまでは中々止められない。放水量が増えることはあっても、止めるのは難しいのだ。

「イヤ――――――!」

 そのまま、明星は、

「プシャ――――――!」

 激しい音を立てて目いっぱい派手にヤらかしてしまった。トビ方も豪快だったが、こっちも豪快だった。

 

 

「「「あ…ありがとうございました」」」

 

 咲とみかんと一は、慌てて対局後の一礼を済ませると、その場から逃げるように対局室を出て行った。

 

 放送席より、アナウンサーの福与恒子が、

「ええと、対局後に事故が発生し、副将戦開始まで少々お時間をいただきます!」

 と、まあ解りやすく説明してくれた。もっと上手に言えないのかとは思うが、仕方がないだろう。

 

 当然、掲示板では、

『これは明星か?』

『明星、放水デビュー!』

『新人は、漏らしてなんぼ、漏らしてなんぼですわ!

 でも、あの席にこれから座るのはイヤですわ!』

『パイで牌を倒すからですよー』

『たしかに、咲ちゃんの前であれだけはやっちゃダメだじょ!』

『新人歓迎だよモー!』

 大変な賑わいだったようだ。

 

 

 ちなみに中堅戦までの総合得点は、

 1位:阿知賀女子学院 1250500

 2位:白糸台高校 596200

 3位:龍門渕高校 358200

 4位:永水女子高校 195100

 阿知賀女子学院が、2位の白糸台高校にダブルスコア、3位の龍門渕高校にトリプルスコア以上の差をつけた。

 

 

 対局室に一人残された明星は、目に涙を浮かべていた。まさか、こんな目に合わされるなんて考えてもみなかった。

 

 少しして小蒔が入室してきた。

 六女仙を統べる者として、自ら明星を迎えに来たのだ。

「明星ちゃん。やはり、心が乱れてましたね。」

「姫様…。」

「王となるものには、必ず逆向きの鱗があると言います。これに触れることだけは控えなければなりません。」

「でも…。」

「霞ちゃんも明星ちゃんも、結果的に宮永さんの逆鱗に触れたと言うことです。それに明星ちゃんは宮永さんへの逆恨みで心が支配されています。」

「だって、去年の負け方は…。」

「あれも作戦のうちかも知れません。私達だって二回戦まで明星ちゃんに敢えて能力を使わせなかったでしょう?」

「でも、それとこれとは…。」

「同じですよ。先々、物事を有利に運ぶために作戦を考える。」

「…。」

「宮永さんは、最強の神様でさえ歯が立たなかったお人です。それを認めず、受け入れずにいた段階で明星ちゃんの負けだと思います。」

 明星は、ただ霞の敵討ちをしたかっただけなのだが…、物事を都合良く解釈しすぎていた。咲の挙動が、自分を恐れているものと勘違いしたり…。

 そもそも、小蒔に降臨した最強神でさえ咲に負けたことを知っていて、自分が勝てると思った時点でおかしい。

 

 取り急ぎ、小蒔は明星を席から立たせ、

「うちの者が粗相して済みませんでした。清掃の方は、私達、永水女子にも手伝わせてください。」

 と言いながら審判達に深々と頭を下げた。

 しかし、立ち入り禁止状態にする対局室内に選手達を入れるわけには行かない。審判団は、小蒔の申し出を丁重に断り、控室に戻るよう命じた。

 

 

 報道側も、さすがに清掃時間中に何も放送しないわけには行かない。

 結局、準決勝戦の時と同じように、今までのダイジェストを放送することにした。

 それで、映像を用意する間、アナウンサーと解説プロに引き伸ばしをお願いすることになった。

「今のところ、阿知賀女子学院、白糸台高校、永水女子高校が勝つ星を一つずつとった状態です!」

 アナウンサー福与恒子の声だ。明るくて元気が良い。

「そうですね。大方の予想通り、牌に愛された子と周りから称される神代小蒔選手、宮永光選手、宮永咲選手が順当に勝利を挙げる結果となりました。」

 対するは小鍛治健夜プロ。落ち着いた声だ。

「先鋒戦では、その神代選手の和了り手が非常に興味深いのですが…。」

「はい。全く同じ聴牌形から倍満、三倍満、役満を和了っています。前半戦では、そのたった三回の和了りで10万点以上も稼ぎました。」

「先鋒戦では役満が一回でしたね?」

「そうですね。」

「それが、次鋒戦ではなんと、大三元が合計六回って、なんですかこれ?」

「まあ、大三元は比較的出易い部類の役満ですが、同じ人が半荘二回のうちに六回と言うのは記録的です。」

「でも、それを成し遂げた松実玄選手から巧く直撃を狙い、最終的に宮永光選手が勝ち星を得てますから、力の松実選手を技の宮永光選手が征したって感じですかね?」

「たしかに宮永光選手の作戦勝ちな気がします。欧州で鍛えられただけのことはあると思います。」

「そして中堅戦では、石戸選手が、いきなり国士無双を和了ったと思いきや、チャンピオン宮永咲選手の怒涛の和了り。それも石戸選手への直撃狙いでしたね?」

「これも逆転するための作戦でしょうね。」

「それにしても、宮永咲選手は、数え役満二回に四暗刻一回、四槓子が三回で、そのうち一回がダブル、もう一回がトリプルって、本当に確率無視してません?」

「しかし、確率としてゼロではありませんから…。」

「ええと…、では、そろそろダイジェスト映像の準備が整ったようですので…。」

 テレビ画面に先鋒戦の映像が流れ出した。

 観戦室の巨大モニターにも同じものが映し出された。小一時間の時間稼ぎだ。

 

 

 その頃、一番緊張状態にあったのは、龍門渕高校控室だった。

 大将の衣は、チームの勝敗のことなど考えておらず、ただ、穏乃や淡との対局を楽しむことしか頭に無かった。かなり自由人な発想だ。

 一方、龍門渕高校の経営側の人間でもある透華としては、誰よりもチームの優勝に拘っていた。

 このメンバーで優勝したいと言う願いが一番大きいが、やはり、経営側としての欲も入り混じる。

 

 この試合が、もし星取り戦でなく点数引継ぎ型だったなら、既に次鋒戦で龍門渕高校はトビ終了している。

 今までの点数推移だけを純粋に考えれば、恐らく優勝は白糸台高校、準優勝は永水女子高校だろう。

 もっとも、点数引継ぎ型なら、各校別のオーダーにしているだろうし、違う結果になっているかもしれないが…。

 

 ただ、今回は星取り戦である。副将と大将で勝利すれば、総合得点など関係なく龍門渕高校の優勝となる。

 その一方で、副将戦で他校の何れかに勝ち星を譲ったなら、その時点で龍門渕高校の優勝はなくなる。

 この追い詰められた状態で、突然、龍門渕高校控室内の温度が急激に下がった。

 透華の中でのスイッチが入り、一の言う『冷たい透華』に切り替わったのだ。

 

 

 少しして、各校控室に電話が入った。

 副将戦が十分後に開始されるとの連絡だ。

 これを受けて、各校副将選手は、対局室に向けて動き始めた。

 

 灼が対局室に入室した時、麻里香と桃子は既に入室を済ませていた。一応、まだ桃子の姿は捉えられる。

「寒っ!」

 灼の背筋を、凍るような冷たい何かが一気に走り抜けた。真夏なのに、恐ろしいほどの寒気を感じる。

 急に対局室の気温が下がったのだろうか?

 

 灼達は、対局室の扉の方から、まるでヘビのような冷たい視線を感じた。

 三人が一斉に振り返ると、そこには感情の無い表情をした透華の姿があった。

 これを見て桃子は、

「(スイッチ入っちゃってるっスか? でも、これは楽しみっス。私のステルスが止められるか勝負っスよ!)」

 むしろ闘志が湧いた。相手がどんな化物でも、自分を捉えられなければ絶対に振り込むことは無い。

 今まで、他校の選手でステルスが効かなかった人間は和だけだ。さすがに永水女子高校では最強神を降ろした小蒔には通用しなかったが…。

 ただ、それ以外の人間に効かなかったことは無い。咲には破られこそはしたが、ステルス自体は途中まで効いていたはずだ。

 

 たしかに、桃子に勝った人間は、それなりにいる。しかし、それらは基本的にステルスを破ったのではなく、飽くまでもツモ和了りによる勝利だ。なので桃子は、そう易々とステルスが破られるとは思っていない。

 

 恐らく冷たい透華は、現在、女子高生雀士最強の化物だろう。それを相手にどこまで自分の麻雀が通じるかを試してみたい

 桃子の中には、そんな気持ちがあった。

 

 場決めがされ、起家が灼、南家が桃子、西家が麻里香、北家が透華になった。

「(変に寒いし、ここは糖分補給だね~!)」

 麻里香は、缶の暖かいお汁粉を飲み始めた。これで少しは身体が温まるし、グルコースを摂ることで頭も回る気がする。

 

 

 東一局、灼の親。

 灼は、当然、筒子多面聴からの攻撃を狙う。しかし、まるで穏乃の山支配を受けている時のようにツモの流れがおかしい。

 何者かに、意図的に有効牌が塞ぎ止められているみたいな感覚だった。

「ツモ。1300、2600。」

 最初に和了ったのは透華だった。

 タンピンツモドラ1の凡庸な手。

 ただ、非常に静かな和了りだった。清流を連想させる。

 

 

 東二局、桃子の親。

 ここでも、

「ツモ。1300、2600.」

 透華が静かに凡手をツモ和了りした。

 

 

 東三局、麻里香の親。

 ここも、

「ツモ。1300、2600.」

 やはり透華が、前局、前々局と同様の手を静かにツモ和了りした。これで三連続だ。

 

 

 その後も透華は、同様の手を和了り続けた。

 東四局、透華の親。

「ツモ。2600オール。」

 

 東四局一本場。

「ツモ。2700オール。」

 

 東四局二本場。

「ツモ。2800オール。」

 

 東四局三本場。

「ツモ。2900オール。」

 

 これだけ連荘が続けば、他家は焦る。しかし、焦れば焦るほど、視界が狭くなる。

 そして、この時を待っていた者がいた。

 

 東四局四本場。

 桃子のツモが急に良くなった。

 ようやくステルスが発動し、透華の視界から外れたのだろうか?

 さっきまでの強烈な支配を感じなくなった。

 

 そして、とうとう、麻里香の捨て牌で、

「ロン。5200の四本場は6400っス!」

 桃子が和了った。

「えっ?」

 麻里香は、一瞬何が起こったのか分からなかった。もう完全に桃子の姿が見えなくなっていたのだ。

 まるで、幽霊に和了られた気分だ。ただでさえ冷気が吹き付ける環境なのに、さらに身体が冷えまくる。

 休憩時間には、きちんとトイレに行こう。某掲示板でネタにされるのはイヤだ。

 

 

 南入した。

 南一局、親は灼。

 ここでは灼が切った牌で、

「ロン。七対ドラ2っス。6400!」

 桃子が和了った。すでに灼の視界からも桃子の姿は消えていた。

 

 

 南二局、桃子の親。

「(もう、ステルスで誰からも私の姿は見えないはずっス。この親で、一気に稼ぎまくるっス!)」

 もう、桃子は、相手の出方を考える必要は無い。自分の手だけを見て、最も効率良く手が進められる選択だけに集中すれば良い。

 しかし、

「ツモ。1300、2600。」

 先に透華にツモ和了りされた。一手遅かった感じだ。

 

 

 南三局、麻里香の親。

「(ここは何としてでも和了るっス!)」

 前局同様、桃子は、とにかく聴牌を目指した。そして、今回は透華に和了られる前に聴牌できた。

 今の自分の姿は、誰にも捉えられない。自分の捨て牌も見えなくなる負の存在感。それを利用したステルス。

 当然、

「リーチっス!」

 聴牌即リーチをかけた。

 発声はしたが、誰にも聞こえていないはず。

 しかし、その次巡に桃子が捨てた牌で、

「ロン。タンピン三色ドラ2。12000。」

 まさかの透華への振り込み。

 どうやら、今の透華にはステルスが効かないようだ。和に続いて二人目だ。

 恐らく透華は、敢えて自分の場の支配から桃子を外していたのだろう。だから桃子は聴牌できたと言うことだ。

 

 

 オーラス。透華の親。

 ここでも透華は、

「ツモ。2600オール。」

 タンピンドラ1をツモ和了りした。

 

 ここで、前半戦での順位と点数は、

 1位:透華 174600

 2位:桃子 78400

 3位:灼 73500(席順による)

 4位:麻里香 73500(席順による)

 透華の圧勝だった。

 

 副将戦で透華が勝てば、全チームの勝ち星が一ずつになって、大将戦を征したチームの優勝となる。

 ならば、龍門渕高校が狙うのは得失点差ではなく副将大将の二連勝での優勝。

 当然、

「これで和了り止めにします。」

 透華は、連荘を拒否して後半戦へと進めることにした。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十三本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、R-18に突入しそうになった時点で積極的に染谷まこが登場し、時間軸超光速跳躍を発動してくれます。R-18の描写を全てスっ飛ばしてくれる素晴らしい特殊能力です。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンもムダに登場します。


憧 -Ako- 100式 流れ十本場 ウテルスはイかない?

哀「メール?」

コナン「もう一人の俺からのグチメールだよ。風俗に行こうか迷っているらしい。」

哀「なら、博士に工藤君の分の憧シリーズを造ってもらうってのもアリかもね。」

コナン「でも、人間じゃねえし!」

哀「それはそうだけど、でも、人間と見た目は変わらないし、妊娠しないから安全だし、好みの顔を造ってもらえるし、イイコトずくめじゃない?」

コナン「そういう考え方もあるのか…。」


とは言っても、別に今の哀が妊娠するわけでもないし、見た目が気に入らないわけでもないし、コナンにとっては現状に不満は無い。
ただ、普通に保健体育の実習をするのが飽きてきただけだ。それで首輪をつけたりもしたのだが…。

不満があるとすれば、コナン自身のサイズ。
そこで、哀が作った怪しい薬を最近は飲んでいる。増大させる薬とのことだ。
服薬開始二週間で、約二センチ大きくなった。
コナンは、今、二十センチを目標に服薬を続けているらしい。

一方、阿笠博士の研究室中央に置かれた回転ベッドの上には、一体の美しいカラクリが裸で仰向けに寝かされていた。
顔も豊満な胸も尻も、間違いなく女性を象ったモノだ。
手足も長く、しかも全体的に引き締まったワガママボディ…。
ただ、何故か生殖器だけは男性だった。しかも、日本人平均の倍に達する長さ&太さだ。
これが、憧シリーズの最新型、憧123式だった。


博士「ジェンダーレス型パート2として造ってはみたんじゃが、やっぱり性器部分は造り直した方が良いかのぉ。」

博士「ワシが使うのにジェンダーレス型にする必要はないし、普通に女性型に作り直すとするかの!」


博士は、スイッチを入れずに付け替え作業を行おうとした。
が、しかし…。
この時、研究室が激しく揺れた。地震だ。しかも、大きい。

この揺れに博士はバランスを崩し、とっさに近くのモノを掴んだ。
ただ、この手に掴んだ感触は大きなオモチ…。
不幸にも、博士は憧123式の胸を掴んでしまったのだ。

激しい揺れの中で憧123式は目を覚ました。例によって、胸はオンスイッチ機能のみであり、オフスイッチは付いていない。


博士「な…なんと言うことじゃ。ワシとしたことが…。憧123式ver.絹恵が目覚めてしまったぞい!」

絹恵「うーん。おはようございますって、凄い揺れや!」

博士「地震じゃ、もうすぐ収まるじゃろ。間違って君のスイッチを入れてしまった。申し訳ない。」

絹恵「スイッチ?」

博士「君は人間ではないんじゃよ。」

絹恵「えっ? それじゃ、うちってなんなん?」


それから十数秒後、揺れが収まった。
ただ、博士にとっては、この地震は憧123式ver.絹恵の誕生を比喩する『衝撃的表現』であるかのように感じてならなかった。


絹恵「うちは、機械人間なん?」

博士「君は、ワシの科学力の全てを注ぎ込んで造り出した…。」

絹恵「…。」

博士「AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧123式ver.絹恵じゃ!」

絹恵「マッチ、サイフ?」

博士「ダッチ〇イフ!」

絹恵「なんなん? それ?」

博士「じゃから、人型性欲処理具じゃわい! それに、君の場合は特殊仕様での。」

絹恵「特殊って?」

博士「女性をベースとした身体つきじゃが、生殖器だけ男性なんじゃ。」

絹恵「えぇ―――!!!」


絹恵が自分の股間に目を向けた。
たしかに余計なモノが付いている。しかも、巨大だ。


取扱説明書:憧123式ver.絹恵は男性用としても女性用としても使えます。

取扱説明書:男性用として使う場合は、女性器は付いておりませんので肛門部をお使いください。肛門部にてインプリンティング機能が発動します。

取扱説明書:女性用として使う場合は男性器部分を根元まで挿入してください。これによりインプリンティング機能が発動します。


絹恵「うちは、男性なんですか? 女性なんですか?」

博士「性器以外は全て女性じゃ。AIも女性版として造られておる。それと、今までは取扱説明書を紙で用意していたが、君の場合は全て君のハードの中に記憶されておる。」

絹恵「えっ?」

博士「目を閉じれば思い出せるはずじゃ。君の仕様がのぉ。」


憧123式ver.絹恵が静かに目を閉じた。
たしかに、自分自身の仕様についての記憶がある。自分は、博士の言うとおり人間ではない。AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、憧123式ver.絹恵だ。


博士「すまん。君を起こしたのはワシのミスじゃ。そもそも、造り直そうと思っていたんじゃよ。」

絹恵「じゃあ、うちは失敗作ってことなんですか?」

博士「まあ、そう言うことになるじゃろうな…。一先ず、ワシの若い頃の服を用意してあるのでな、それを着るが良い。」

絹恵「はい…。」

博士「それと、強制的にスイッチを切るしかなさそうじゃの。」

絹恵「強制的って、どうやるんです?」

博士「首を一気に切断するしかないじゃろうな。オフスイッチが無いんじゃから…。」

絹恵「…。」


男性器が付いているのはイヤだ。
しかし、それ以上に、折角誕生してきたのに首を切断されて強制終了となるのは、もっとイヤだ。なんでそんな目に合わなくてはいけないのだろうか?


絹恵「(イヤや! 殺されとうない!)」


憧123式ver.絹恵は、博士の目を盗んで博士の研究所から逃げ出した。そして、この街から姿を消し、姉妹機同様に例の街に逃げ込んだ。

午後八時を回った。例によって、憧123式ver.絹恵は公園のブランコに座っていた。
ただ、他の姉妹機とは違って取扱説明書を読む必要は無かった。全て、自分の頭の中に仕様についての説明は記憶されている。


絹恵「オーナー…、インプリンティング機能…。NTR機能…、男性仕様に女性仕様…。なんなんかなぁ、これ?」

絹恵「それにしても、おなかすいたな。」


取扱説明書:憧123式ver.絹恵も、他の姉妹機同様にエネルギーは普通に人間と同じ食生活で問題ありません。ロボ〇タンAを用意する必要はありません。

取扱説明書:憧123式ver.絹恵には、スリープモードが搭載されていません。完全にエネルギーが切れる前にエネルギー補給を行ってください。


咲「キャー!」

男「よぉ、姉ちゃん。この間は逃げられたが、今日こそ俺と遊んでくれるんだろうな?」

咲「そんな、イヤです。」

男「イイじゃんかよ、減るもんじゃないし。先っぽだけだからさ。(咲だけに)」


女性の悲鳴だ。
どうやら、近くで女性が男にいやらしいことをされそうになっているようだ。
憧123式ver.絹恵は、悲鳴が聞こえてきたほうに全速力で走っていった。


取扱説明書:憧123式ver.絹恵は高い身体能力を誇ります。そのため、ハードプレイにも対応可能です。


見つけた。
小動物のような雰囲気のかよわい女性が衣服を丁度剥ぎ取られたところだった。
あっちのほうは、まだセーフだ。


絹恵「死にさらせ!」


憧123式ver.絹恵は、その男性に思い切り蹴りを入れた。
無防備なところへの攻撃を受け、男性は、もだえ苦しんだ。
そして、さらに一発。憧123式ver.絹恵は、その男性を蹴り飛ばした。
この一撃で男性の身体は宙を舞い、ゴミ置場に落下した。まるで、人間がサッカーボールにでもなったようだ。
恐るべきキック力。
彼女の足には、キック力増強機能も付いていた。つまり、素足の状態でキック力増強シューズを履いているのと同じ状態にある。
すでに男性は気を失っていた。それだけ強烈な蹴りだったのだ。


絹恵「大丈夫?」

咲「ありがとうございます。」

絹恵「では、気ぃつけて。」

咲「あのぉ、お名前は?」

絹恵「憧123式ver.絹恵…。」

咲「えっ?」

絹恵「ええと、絹恵でエエです。」

咲「そうじゃなくて、憧123式って、もしかして阿笠博士に造られた…。」

絹恵「どうして、それを知ってるん?」

咲「友達なんです。憧さんと淡さんと…。」

絹恵「ちょっと、くわしく聞かせてくれへん?」

咲「イイですけど、ここじゃなんなんで、私のアパートまで来ませんか?」

絹恵「行ってもエエん?」

咲「はい。それと、食事のほうは?」

絹恵「目が覚めてから何も食べてへん。」

咲「じゃあ、あり合わせになりますけど、うちで食べていってください。」


こうして、憧123式ver.絹恵は食事にありつくことが出来た。
あり合せと言いながらも、冷凍食品でもなければ出来合いの揚げ物とかでもない。本当に咲の手料理だ。
このもてなしに、憧123式ver.絹恵は感激していた。


絹恵「ごちそうさまでした。」

咲「おそまつさまでした。」

絹恵「それでな、咲ちゃん。さっきの憧100式と憧105式ver.淡のことなんやけど…。」

咲「憧ちゃんは、私の同郷の友達のところにいます。近くのアパートですよ。」

絹恵「友達って、女性なん?」

咲「京ちゃんは男性ですよ。」

絹恵「じゃあ、その男がオーナーなんやな?」

咲「そう言ってました。あと、淡ちゃんは、京ちゃんの隣の部屋に住んでいる男性のところにいます。」

絹恵「そうなんや…。それからな、憧108式ver.姫子と憧110式ver.マホのことは、何か知ってへんか?」

咲「いいえ…。」


まさか、憧108式ver.姫子と憧110式ver.マホも同じアパートにいるとは、咲も知らなかった。
それ以前に、咲は憧108式ver.姫子と憧110式ver.マホとは面識が無い。そもそも、存在自体を知らない。


咲「憧ちゃんも淡ちゃんも阿笠博士専用機になるのがイヤで逃げて来たって聞いてますけど、絹恵さんも、やっぱり阿笠博士専用機になるのがイヤで逃げてきたんですか?」

絹恵「うちの場合は、強制終了されるのがイヤで逃げてきたんや。」

咲「強制終了って?」

絹恵「うちは、博士にとっては失敗作みたいでな。首切断して強制終了されるところやったんや。」

咲「そんな、ひどい…。」

絹恵「この身体が博士にとっては気に入らんかったみたいや…。」

咲「(こんなに綺麗なのに何処が気に入らなかったんだろ? オモチも大きいし、脚も長いし羨ましいくらいだよ…。こんな女性と楽しめたら…って、私、何考えてるんだろう?)」


咲は、先日、憧100式と憧105式ver.淡との三人プレイがキッカケで、女性同士でのHに興味を持ち始めていた。
何気に憧123式ver.絹恵の身体に目が行ってしまう。


絹恵「どうしたん? そんなジロジロ見て?」

咲「あ…あの、何でもありません。すっごく綺麗な方だなって思って見惚れてただけですから。」

絹恵「そんな、綺麗やなんて…。」

咲「すっごく綺麗ですよ。嫉妬するくらいです。」

絹恵「イヤやわ。そんな褒めても何も出ぇへんで。」

咲「でも、絹恵さんって関西弁なんですね。憧さんも淡さんも標準語でしたけど。」

絹恵「ああ、うちは初期設定は関西弁やけど、オーナーの要望でどこの方言にも変えられるで。勿論、標準語も可能や。」


取扱説明書:憧123式ver.絹恵は、標準語‐方言切り替えが可能ですが、憧108式ver.姫子とは異なり自動設定ではありません。

取扱説明書:オーナーが憧123式ver.絹恵と合体した際に、どの言葉を話してもらいたいかを言っていただくことで切り替え設定されます。

取扱説明書:なお、オーナー以外は切り替え設定できません。


咲「今日は、うちでゆっくりしていってください。私、後片付けしますので、少しくつろいでいてください。」


咲がエアコンのリモコンを弄った。
ただ、このリモコンは調子が悪い。それを理由に何度もスイッチを連打した。前回の憧100式と憧105式ver.淡の時と同様だ。


咲「(もう、後戻りできないよね、多分…。)」


咲は、憧123式ver.絹恵の誤作動を狙っていた。
先日の快感が忘れられず、憧123式ver.絹恵をハメようとしていたのだ。
見た目には単なるドジにしか見えないのだが…。意外と腹黒い。

咲の狙い通り、急に憧123式ver.絹恵が股間を押さえ始めた。憧100式と憧105式ver.淡の時と同じで反応してしまったのだ。


絹恵「(なんなん、これ!?)」

絹恵「(もう耐えられへん。無茶苦茶Hしたくて、もう、抑え切れへん!)」


憧123式ver.絹恵は、生殖器官だけ男性だ。
しかも、その長さも太さも共に尋常ではない。この器官だけは、ただ女性オーナーを喜ばせるためだけに作られた逸品。


取扱説明書:憧シリーズは、テレビ、ビデオ、エアコン等のリモコンで反応することが稀にあります。

取扱説明書:その場合、1~2回のリモコン操作では然程影響はでませんが、連続でリモコンのスイッチを押しますと急激にHを要求するように変貌する恐れがありますのでご注意ください。

取扱説明書:憧123式ver.絹恵は、男性、女性、どちらも相手をすることが可能です。

取扱説明書:憧123式ver.絹恵には射〇機能が付いております。放出されるのは人工的な液体で、受精機能はありません。

取扱説明書:憧123式ver.絹恵は、どんな女性も虜にする身体的装備とテクニックを持ち合わせています。未経験者も安心して使えます。

取扱説明書:憧123式ver.絹恵がリモコンによる誤作動を起こした時は、射〇機能が発動するまで元に戻りません。


絹恵「これ、どうすればエエ?」←完全に肥大化している

咲「どうかしたんですか?(やっぱり憧ちゃん達と同じだね!)」

絹恵「ゴメン、咲ちゃん。もう、うち、耐えられへん!」


憧123式ver.絹恵がズボンを脱いだ。
そこで咲が見たモノは…。
女性のものでは無い。これは計算外だ!
ネット情報とかで知っていたものとは違う。長さも太さも倍だ!


まこ「ちょっと待ちんさい。これ以上はマズいじゃろ!」


まこのお陰で、一気に時間が飛び………、小一時間が過ぎた。
憧123式ver.絹恵は、落ち着きを取り戻していたが………、それイコール射〇機能が発動したと言うことだ。
つまり、咲は憧123式ver.絹恵のオーナーになった。


絹恵「ゴメンな、咲ちゃん。」

咲「いえ、私が悪いんです。憧ちゃんと淡ちゃんも、このリモコンでおかしくなったことがありますから…。」

絹恵「堪忍して!」

咲「私、(男の人(?)とは)初めてだったんだよね。」

絹恵「えっ?」

咲「なので、責任とってもらうからね。」

絹恵「責任って…。」

咲「(もう、京ちゃんのことは、どうでもイイや! 憧ちゃんにあげる!)」


取扱説明書:女性の方が憧123式ver.絹恵をご利用された場合、その装備・テクニックから男性に興味を無くす可能性がありますのでご注意ください。

取扱説明書:特に未経験者の方はご注意ください。


咲が再びリモコンを連打した。
これから咲と憧123式ver.絹恵は、夜のバトル再試合に突入する。


まこ「ここまでじゃ!」


何はともあれ、憧123式ver.絹恵は、このまま咲のアパートに同居することになった。

そして後日、憧100式は、咲から京太郎の妻の座を譲渡されることになる。



続く
次回の憧100式は、56本場のおまけになる予定です。


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五十五本場:横並び、勝負は大将戦へ

真夏でも、この世界では温かい飲料が自販機で結構売っている設定です。
実世界でも一応、真夏でも暖かいコーヒーはたまに見かけますが、種類は少ないですね。


「(寒い。身体を温めなきゃ…。)」

 麻里香は、一旦対局室を出て自販機に向かった。

 決勝副将戦では、超魔物と呼ばれる選手はいないはずだった。

 しかし、龍門渕高校の副将、透華は、魔物認定こそされていないが、春季大会で咲、光、ネリーを相手に途中まで完全に場を支配した実績を持つ。

 スイッチが入った時の恐ろしさは光から聞いていたが、麻雀の凄まじさ以上に気味が悪い。加えて、寒いし身体が凍える。

「(結局、準決勝も決勝もイイとこ無しか。なんだか、『結果的に魔物でした!』みたいなのとばかり打たされてるな、私。)」

 準決勝では神楽、決勝では透華。

 魔物認定されていなかっただけで、実質魔物を相手にした二連戦だ。

「(それでも、永水の中堅よりはマシかな?)」

 そんなことを心の中で呟きながら、麻里香は念願の『飲むモンブラン(温かい)』を購入して早速口にしていた。真夏のこの時期に温かい飲料が売られているのが非常に嬉しく感じる。

「生き返る~! もう、凍え死ぬかと思ったもんね。」

 さらにお汁粉(当然温かい)も一本追加。これは、対局室で飲む用だ。

 

 

 灼も、一旦対局室を出た。

 冷たい透華が相手では、控室に戻ったところでアドバイスも何も無いだろう。

 それより、今は日の当たる場所に行って日光浴がしたい。灼も透華の冷気に晒されて結構まいっていた。

 このままでは指がかじかんでボーリング打法が出来ない。

 真夏に寒さで震え上がるとは………、まるで超寒がりな宥になった気分だ。

 

 

 この頃、桃子は対局室前のソファーに、一人腰を降ろしていた。

「(ステルスが効かないっスか。まいったっスね…。)」

 あの支配力が相手では、どのように切り崩してよいか分からない。

 春季大会決勝では、咲、光、ネリーの三人が結託して、最終的に冷たい透華としてのエネルギーを全て使い切らせる作戦に出た。

 しかし、あれは、あの三人の支配力があってできることだ。

 いや、それだけではない。あの時は、咲が槓で敢えて場を乱し、自分に透華の意識を向けさせて他家に和了らせていた。

 さすがに今回の副将戦メンバーに、それが出来るとは思えない。これは、自分も含めて言えることだ。

「(これは、龍門さんに持って行かれたっスね。もう私は失点を抑えて、あとは、湧ちゃんに任せるしかないみたいっス。)」

 もう、開き直るしか道が無さそうだ。

 

 

 一方、透華は対局室に残り、卓に付いたまま目を閉じていた。

 まるで死んでいるかのように全然動かない。

 見ていて薄気味悪い。

 桃子が幽霊なら、透華はゾンビを連想させる。

 咲が破壊神とか死神なら、透華は妖怪とか魑魅魍魎のように思える。

 いずれにしても、圧倒的な恐怖を与える存在であることは間違い無いだろう。

 

 

 しばらくして、灼、桃子、麻里香が対局室に戻ってきた。

 この時、麻里香は、お汁粉の缶だけではなく温かいイチゴ牛乳も手にしていた。いつの間に買ったのだろうか?

 それ以前に、一日、どれだけ甘いモノを摂取する気なのだろうか?

 これでやや細身の体型なのだから、超絶美女(自覚なし)のみかんですら恨めしく思うのも分かる気がする。

 

 三人が卓に付くと場決めがされた。

 起家は透華、南家は麻里香、西家は灼、ラス親は桃子に決まった。

 

 

 早速サイが振られ、東一局がスタートした。

 この局は、三巡目で、いきなり桃子が、

「リーチっス!」

 聴牌即リーチをかけてきた。リーチ平和ドラ2の手だ。

 前半戦に比べて透華の支配が弱まったのだろうか?

 今回は、自分でも不思議なくらい桃子の手の進みが早かった。

 

 当然、透華にはステルスは効いていない。早速現物切りで対応した。

 一方の麻里香と灼には、桃子の姿は既に見えていなかった。東一局ではあるが、前半戦からの続きである。既に二人へのステルスは発動していた。

 ただ、まだ字牌処理の段階だった。それで、桃子への振り込みが無かったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。

 

 一発ツモにはならなかった。

 しかし、数巡後、

「ツモ。2000、4000っス!」

 桃子は満貫をツモ和了りした。

 今は、点数よりも透華の親を流せたことの方が大きいと桃子は思っていた。前半戦東四局のように連荘されたら、ひとたまりもない。

 

 一方、点棒を差し出しながら、透華は桃子に不敵な笑みを見せた。

 それは、まるで、

『お前の麻雀は通用しない!』

 と目で語っているようにも見えた。

 透華の笑みが嘲笑にすら見えてくる。

 

 

 東二局、麻里香の親。

「(なんスか? これ?)」

 桃子は、卓周りの気温が急激に下がった気がした。前半戦以上の冷気だ。

 灼も、完全に寒さにやられていた。灼熱の灼の字を名前に付けられていることが、彼女自身、皮肉にも思えるほどだ。

 一方の麻里香は、

「(身体を温めないと…。)」

 この時、既にホットイチゴ牛乳を口にしていた。繰り返しになるが、これで太らないのだから羨ましい体質だ。

 やはり飲食物は全て直通なのだろう。

 

 温かいモノを飲んでホッと一息ついた麻里香が捨てた牌で、

「ロン。タンピンドラ2。7700。」

 透華が和了った。

 これで、さっきの親かぶり分以上に透華は点棒を取り戻した。

 

 

 東三局、灼の親。

 ここでも、

「ロン。7700。」

 透華が親の灼から満貫級の手を直取りした。これで透華は桃子を抜いてトップに立った。あっという間の逆転だった。

 

 

 東四局、桃子の親。

『勝てなくても食い下がってみせるっス!』

 桃子は、その意気で親番に望んだ。

 しかし、透華の支配力が相当強いのだろう。相変わらずツモが悪い。衣を相手に打っているようだ。

 やはり桃子が今まで聴牌できたのは、透華が敢えて桃子だけ支配から外していたためだろう。

 そう、ステルス勝負をさせるために………。

 

 鳴こうにも鳴ける牌が出てこない。これでは打つ手が無い。

 ここでも、

「ツモ。タンピンドラ2。2000、4000。」

 誰も、手も足も出ないまま透華にツモ和了りされた。

 

 

 南入した。

 今までの対局と比べて東場の進みが非常に早かった気がする。連荘が無かったからだ。東場で連荘が無いのは先鋒戦以来である。

 

 南一局、透華の親。

 ここでも静寂な場が続く。

 東一局にリーチの発声があって以来、和了り以外の発声はない。今まで鳴きの声すら生じていない。

 完全に冷たい透華が支配する場だ。

「ツモ。4000オール。」

 またもや、透華がタンピンツモドラ2の手を和了った。まるで流れるように手を作り、サクッと和了ってしまう感じだ。

 

 南一局一本場。

 ここでも、

「ツモ。4100オール。」

 透華が前局と同様の手を和了った。

 やはり、他家の手が形になる前にさっさと和了ってしまう。これでは、他家も手の打ちようがなかった。

 

 南一局二本場も、

「ツモ。4200オール。」

 やはり透華が親満を和了った。

 

 前半戦では透華が桃子からハネ満を和了っているが、それ以外は親の20符4翻が最高の和了り手だった。

 ところが、この半荘は、東一局から満貫あるいは満貫級の和了りばかりになっていた。

 

 透華は、何か焦っているのだろうか?

 そう言えば、一昨日の準決勝戦でも透華は冷たい透華に変身した。一日間が空いたとは言え、結構体力的には厳しいのだろうか?

 灼は、ふとそんな気がした。

 

 南一局三本場。

 急に透華の支配力が落ちた。透華以外、配牌もツモも良い。

 そう言った中で、最初に聴牌したのは、

「リーチ!」

 灼だった。

 ここはチャンスとばかりに得意の筒子多面聴からの攻撃だ。

 ただ、透華の支配が落ちても違和感が残る。これは、昨年インターハイ準決勝の前日に長野勢と打った時に経験したもの…。

 桃子のステルスだ。

 当然、桃子は危険牌を平気で捨てた。これは灼の和了り牌だったが、ステルスが効いている今、灼には、これが見えなかった。

 一方の透華には、桃子の捨て牌が見えていた。灼にステルスが効いていることに気付いているのだろう。まるで当れと言わんばかりに桃子と同じ牌を捨てた。

 しかし、灼は、敢えてこれをスルーした。ステルスの存在には気付いている。ならば、ツモ和了りに賭けるべきだ。

 それに筒子多面聴は、出和了りを期待するものではない。自分でボーリングのピンを倒すべくツモ和了りするスタイル。

 飽くまでも狙いはツモ和了りだ。

 そして、一発目のツモ牌で、

「一発ツモ! ドラ3。3300、6300!」

 灼は渾身のハネ満を和了った。

 

 しかし、透華の表情は崩れなかった。むしろ、

『和了らせてやった!』

 とでも言いたげにすら見える。

 相変わらず透華が見せ続ける不敵な笑みが、灼には嫌味に感じた。

 

 

 南二局、麻里香の親。

 いつも黙っている冷たい透華が珍しく口を開いた。

 ただ、その口調は、『〇〇ですわ!』と言ったいつもの透華とは異なっていた。完全に別人格の話し方だった。

「ここから誰かを箱割れさせるには役満を連発する必要があります。でも、宮永さんや松実さんのように役満を連発するのは、私にはエネルギー消費が激しいので避けたいところ…。なので、場を進めることにしたのです。」

 つまり、自分の親を流させて、このままオーラスまで一気に終了させる。透華は、そう言いたいのだ。

 その証拠に、この局は、

「ツモ。1300、2600。」

 六巡目と割りと早い巡目で透華がツモ和了りした。この強力な支配力にスピード。他家は止めることすら出来ない。

 

 

 南三局、灼の親。ドラは{②}。

 透華としては、他家の連荘を避けて、さっさと場を進めれば良い。

 そのためには透華が自ら和了る必要は無い。親以外の誰かに和了らせても良い。

 それこそ、ここで透華が子に役満を振り込んでも構わない。それくらいでは前後半戦トータルの点数を逆転されないからだ。

 むしろ場を進めて自分を勝ち星ゲットに近づけてくれるのだから透華としてはウェルカムである。

 

 ここでも透華の支配力は落ちていた。

 いや、恐らく敢えて支配力を落としたのだ。

 加えて、この局の透華の捨て牌は、まるで麻里香の手を進めさせようとしているようにしか見えなかった。麻里香が欲しいところをドンドン切ってくる。

 対する麻里香は鳴くのを拒否した。透華の言いなりにはならないとでも言いたそうだ。

 そして、九巡目で麻里香は何とか聴牌した。

 

 この時の麻里香の手牌は、

 {一二三四五六②③④⑤[⑤]34}

 

 平和ドラ2だが、手変わりすればタンヤオと三色同順が付いてハネ満になる。当然、手変わりを待つ。

 しかし、次のツモで手にした牌は{四}、{七}ではなく和了り牌の{2}だった。

 もう、これは仕方がない。

 ここで手変わりするまで待っても、前後半戦トータルで透華を抜ける点数を稼ぐことはできない。

「ツモ。1300、2600。」

 麻里香は止むを得ず和了った。

 和了りを見逃すことで他家に和了られても困る。結果的に透華の思惑に従い、麻里香は場を進めることに協力したことになった。

 

 

 オーラス、桃子の親。

 ここに来て、再び透華の支配力が戻った。

 灼も桃子も麻里香も最低の配牌に最悪のツモ。中々手が進まない状態だった。

 一方の透華は手が軽く、まるで淡の絶対安全圏を使っているかのようにも見えた。

 ただ、淡と違って透華は鳴かずに門前で手を進めるし、門前聴牌してもリーチをかけない。場を静寂なままに保つ。

 そして、

「ツモ。1300、2600。」

 最後は透華が和了りを決め、副将戦を終了した。

 

 後半戦の順位と点数は、

 1位:透華 159100

 2位:灼 83700

 3位:桃子 83200

 4位:麻里香 74000

 ここでも透華の圧勝だった。

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 前半戦での順位と点数は、

 1位:透華 333700

 2位:桃子 161600

 3位:灼 157200

 4位:麻里香 147500

 透華が副将戦を征し、龍門渕高校は念願の勝ち星を手にした。

 

 これにより、各校勝ち星一つの混戦状態となった。つまり、大将戦で勝ち星を得たところが優勝校となる。

 観戦室で見る者達も、テレビでこの決勝戦を見ている人達も、いよいよ興奮状態となってきた。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼が済むと、副将選手達は対局室を後にした。

 

 この頃、各校控室では自らの手で優勝を決める戦いを目前にして、大将選手の志気が上がっていた。

 この強大なプレッシャーを受けて潰されるような選手を大将に配置する学校は、決勝進出校には無い。

 むしろ、各校大将選手の中で何かが始まっている。

 

 

 白糸台高校控室では、

「もう準備満タン! 今度こそ本気のシズノに勝つ!」

 宇宙から降り注ぐ強大なエネルギーを吸収して(?)、胸をバインバインに膨らませた淡が思い切り気合いを入れていた。

 みかんも今更ながらに思う。やはり大将にはこの人しかいないと………。

 

 

 阿知賀女子学院控室でも、

「絶対に勝つ! この山、登り切って見せる!」

 穏乃が毎度の如く気合いを入れていた。

 ただ、京タコスには口を付けずにいた。これは自らの手で優勝を決めてから褒美として食べると決めているようだ。

 

 

 当然、龍門渕高校控室でも、

「今宵は楽しみが増えた!」

 単に麻雀を楽しむ場ではなく、全校が優勝を賭けたこの一戦。衣のボルテージも振り切れる直前まで上がっていた。

 しかも相手には天敵穏乃がいる。

 その逆境の中で勝利を掴む。これ以上の楽しみは無い。

 

 

 現在の各校総合点は、

 1位:阿知賀女子学院 1407700

 2位:白糸台高校 743700

 3位:龍門渕高校 691900

 4位:永水女子高校 356700

 阿知賀女子学院の圧倒的リードであった。

 

 しかし、総合得点は2位以下を決めるためだけのものになる。大将が勝てば、総合得点がいくら高くても優勝にはならない。

 総合得点がダンラスの永水女子高校の優勝もあり得るのだ。

 

 

 この状況に永水女子高校控室でも、

「湧。お願い!」

「分かってるよ。明星ちゃん。」

 密かに湧が燃えていた。

 昨年、一昨年と達成できなかった優勝が目前にある。

 最強チームのはずだった去年が、まさかの二回戦敗退。その敗退を決めたのはチャンピオン宮永咲。

 自分が勝てば、次鋒戦から副将戦までの全ての過程を吹き飛ばして自分達が優勝できる。咲のチームに勝つこと………つまり、昨年の敵討ちができる。

 ここで気合が入らなければ六女仙としての名折れだ。

 まるで神を降ろした小蒔のような空気をまといながら、湧が控室を出て行った。

 

 

 湧が対局室に入室した時、他の三人は既に卓に付いて待っていた。そして、湧が卓に付くと、場決めの牌を順に引いていった。

 

 起家は穏乃、南家は衣、西家は湧、ラス親は淡に決まった。

 いよいよ最終決戦に突入する。




おまけ

今回は、池田華菜がラジオ番組のパーソナリティ役になった感じでお送りします。
三十八本場オマケコーナーのつづきになります。
時間軸は本編五十五本場に準じております。


華菜「今回は、華菜ちゃんがコーナーを持たせてもらうことになったし! 二回目が来たのは華菜ちゃんだけだし! やっぱり、これ、人気があるって証拠だし!」

華菜「と言うわけで、パーソナリティの華菜ちゃんだし!」

華菜が台本を見る

華菜「コーナーのタイトルは、『池田かな? 池田だよ!』って、なんなんだし! これ! 意味分かんないし!」

華菜「ええと、HPの質問欄にリスナーの皆さんから書き込まれた苦情とか抗議文…って、前回もそうだったけど、なんで華菜ちゃんの場合は苦情とか抗議文になってるんだか、わけ分かんないし!」

スタッフ:コメントも来てるよ!

華菜「コメントも来ているみたいなので、コメントから読むし! じゃあ、最初のコメントは、『大阪のから揚げ大好き』さん、大学一年生からだし! 私の一つ年上だし!」

華菜「ええと、『うちも相当ウザイけど、お前も相当ウザイな!』って、悪かったし!」

華菜「続きを読むし! 『お前とうちと泉と新道寺の中田慧の誰が一番ウザイか決めるコーナーとかあったら面白いんとちゃうか!』って、わけ分かんないし!」

華菜「次のコメントは、『奈良の赤い牌大好き』さん、大学一年生からだし!」

華菜「それでは読むし! 『池田さん、こんばんは。』こんばんはだし! 『池田さんって存在が寒いんですけど…』って、なんなんだし!」

華菜「華菜ちゃんは人間味溢れる温かい人だし!」

華菜「次、行くし! 今度は質問だし!」

華菜「ええと、『鹿児島県のふんふむ』さん、大学一年生からだし!」

華菜「なんか、大学一年生が多いし!」

華菜「それでは読むし! 『インターハイで、胸で牌を倒して以来、長野の魔物に目をつけられてしまいました。どうしたら良いでしょう?』って、それ、どうにもなんないし!」

華菜「宮永相手にそれやっちゃダメだし! そんなことするから僅差で逆転されて3位にされるんだし!」

華菜「宮永がいる間は、後輩達も毎年同じようなことされるかもしれないし!」

華菜「でも、神様の力で宮永の胸を少し大きくしてあげれば、後輩達は救われるかもしれないし! 神様に交渉するしかないし!」

スタッフ:『〇〇だし!』って言い方やめて、普通に読んで!

華菜「ええと、スタッフから注意が来たし! じゃなくて来ました…。ああ、結構言い難いし! やっぱり言い方を変えることなんて出来ないし!」

華菜「では、次の苦情かなこれ? これは、『めざせのどっち』さんからだし! この人、前回も苦情を書いてた人だし!」

華菜「では読むし! 『このコーナー、面白くありませんわ! 憧-Ako-100式の方が笑えましたわ!』って、悪かったし!」

華菜「華菜ちゃん、あそこまで下品じゃないし!」

華菜「では次は『自縛プレイ』さんからだし! この人も前回苦情を書いてた人だし!」

華菜「ええと、『このコーナーは面白くなか。憧-Ako-100式流れ六本場が一番面白か!』って、華菜ちゃんには関係ないし!」

華菜「次は、『オモチ大好き子』さんから。」

華菜「この人も、前回苦情を書いてた人だし! 苦情のリピーターが多いし!」

華菜「では、一応読むし! ええと、『オモチベーション維持のため、パーソナリティを石戸霞さんに変えて欲しいのです!』って、悪かったし!」

華菜「そもそもオモチベーションって何なんだし! 『オ』は必要ないし!」

華菜「次は…、『嶺上』さんから。」

華菜「これは清澄の大将からだし!」

華菜「ええと、『一緒に楽しもうよ!』って、絶対ヤダし!」

華菜「リピーターじゃなくて、新規の人のを読むし! では、次! 『東京都のお嬢と呼ばれてます』さんから。」

華菜「では読むし! 『私が麻雀を打つと刃物を振り回す像が頭に流れ込んでくると言われて困っています。』って、なんなんだし!」

華菜「続きを読むし! 『元同僚は、銃を撃ち放つ像を相手に見せるそうです。』って、物騒だし! 麻雀で殺されるみたいになってるし!」

華菜「でも、宮永家24時間耐久麻雀大会に比べれば問題ないし! 華菜ちゃん、それに強制参加させられたことあったけど、しばらく生きるのがイヤになったし!」

華菜「次は『ジョージアからの留学生』さんからだし!」

華菜「では読むし! 『カネくれカネ』………って、今までで一番わけ分かんないし!」

華菜「もう少し年上の、落ち着いた人のを読むし。では、次、『島根の叔父大好きっ娘』さんから。『華菜さん、こんばんは』こんばんはだし!」

華菜「ええと、『叔父と二人で暮らすようになってから二十年経ちますが、未だに手を出しもらえません』って、手を出されちゃマズイし!」

華菜「続きを読むし! 『それはさて置き、今、健夜ちゃんと咏ちゃんと一緒にいるんだけど、ワン欠け(一人足りないこと)なので来てくれませんか?』って、絶対ヤダし!」

華菜「これって、宮永家24時間耐久麻雀大会と大差無いし!」

華菜「次行くし! 次は、『まだアラサー』さんから。『今、慕ちゃんと咏ちゃんと一緒にいるんだけど、面子が一人足りないので…』って、これって、さっきのと一緒だし!」

華菜「絶対行かないし! 行ったら殺されるし!」

華菜「次は、『横浜のキャットチャンバー』…って、これ、パスだし!」←咏のこと

華菜「ええと次は、『北海道のカムイ』さんからだし!」

華菜「では読むし! 『コーナーを持たせてもらえたのが、逆にクソキツくなってるみたいだけど、私もネタが無いので変わってあげられないんだ。ゴメンね!』って、別に華菜ちゃんは大丈夫だし! 負けないし!」

華菜「次は、『大阪の一巡先は病み』さんから…。『死兆星が見えてへんか?』って、死兆星なんて知らないし!」

スタッフ:北斗七星の横に輝く星です

華菜「それって、もしかしたら去年の長野県大会前に見えていた星かもしれないし!」

華菜「でも、華菜ちゃんまだ生きてるし! だから、死兆星なんて関係ないし!」

華菜「ええと、次は『奈良のレジェンド』さんからだし!」

華菜「読むし! 『健夜さんと慕さんと咏ちゃんから電話がかかってきたけど、忙しくて行けないので代わりに行ってください!』って、さっきからイヤだって言ってるし!」

華菜「次は『牌のお姉さん』からだし!」

華菜「ええと、『さっきまで私が慕ちゃん達と打ってたんだけど、代わりにメンバーに入ってくれないかな? ちなみに、三つ子の妹は預かってまーす!』って、ちょっとそれって、なんなんだし?」

スタッフカンペ:では、車に乗って移動してください

華菜「華菜ちゃん、絶対ヤダし! 前回と同じオチだし!」

スタッフカンペ:妹さん達が人質に取られています

華菜「それって卑怯だし! 行かなかったら全国的に『華菜ちゃんは人でなし!』って言われるの間違いないし!」


その後、華菜は健夜、慕、咏を相手に二十四時間耐久麻雀を打たされるハメになった。
二度と麻雀牌を見たくないと思ったのは、これで何度目だろうか?


華菜「でも、絶対に麻雀辞めないし!」


この打たれ強さは、尊敬するに値するだろう。
このウザさと言い生命力と言い、クリリン並みである。
それでこそ池田華菜。
咲-Saki-登場人物中、もっとも愛されるウザキャラナンバーワンである。


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五十六本場:大将戦開始

 インターハイ団体決勝大将前半戦がスタートした。

 起家は穏乃。

「(絶対安全圏発動プラス…。)」

 北家の淡が、いきなり能力を全開にして穏乃、衣、湧に挑む。

 淡以外は軒並み五~六向聴で、淡のみ配牌一向聴。そして、淡は第一ツモを手牌に取り込むと、

「リーチ!」

 天下の宝刀(淡の場合はアホの娘なので伝家ではありません)、ダブルリーチをかけてきた。

 サイの目は7。最後の角が最も早く来る切れ方だ。鳴きが無ければ、九巡目で最後の角に達する。

 しかも、淡以外は全員最悪の配牌。最速でも五向聴から聴牌に五巡………と言うと、一見大したこと無いように感じられるが、余程ツキが無い限りムダツモは必ずあるだろう。

 よって、五~六向聴からスタートして毎回九巡以内で聴牌できるほうがおかしい。それができるとすれば、何らかの能力を持っていると考えるべきであろう。

 

 だが、一般論は飽くまでも一般論である。ここには一般論が通じない輩がいる。信じられないことだが、衣も湧も八巡目で既に聴牌していた。

「(やっぱり、こうじゃなくちゃね!)」

 二人の聴牌気配を感じ、淡は楽しそうであった。やはり、強い相手と戦いたい。

 

 九巡目、

「カン!」

 当然の如く、淡が暗槓した。これが淡のお決まりのパターンだ。

 そして、次々巡で、

「ツモ。ダブリーツモ槓裏4。3000、6000。」

 淡がハネ満ツモを決めた。

 

 しかし、衣も湧も特段焦った様子は無かった。むしろ、その表情からは余裕が見え隠れしている。

 これくらい簡単に逆転できると言いたそうだ。

 

 

 東二局、衣の親。

 サイの目は10。最後の角が非常に深いパターン。

 この局も淡は一巡目で聴牌していたが、さすがにダブルリーチは見送った。攻めるには最後の角が深過ぎる。

 

 まだ衣はオーラを全開にはしていない。湧の出方を観察している感じだ。

 一方の湧は、中盤に入り、

「ポン!」

 淡が捨てた{中}を鳴いた。

 {中}の刻子を含むローカル役満と言えば、紅一点({發}が{中}に変わった緑一色)、紅孔雀、宝紅開花がある。

 

 しかし、この鳴きを見て衣は恐れるどころか、逆に不敵な笑みを浮かべた。そして、

「少しは考えた方が良いぞ!」

 こう言うと、衣は急にオーラを全開にしてきた。恐ろしいほどの威圧感がある。

 

 鳴きが一切入らなければ、海底牌は親の下家である湧が引くことになる。

 ところが、湧が淡から鳴いたことにより、海底牌を引くのが労せず衣に変わった。それで衣が様子見から一転して攻めに転じたのだ。

 

 この後、湧は急に鳴けなくなった。ツモも悪い。一向聴から手が進まなくなった。衣の支配で身動きが取れなくなったのだ。

 穏乃は、まだ調子が今一つ。聴牌からは未だ遠い。

 淡は聴牌していたが和了り牌が出てこない。

 

 ラスト一巡。

「リーチ!」

 自信に満ちた顔で衣がリーチをかけてきた。一発を消そうにも誰も鳴けない。完全なる衣の支配下。

 そして、

「ツモ! リーチ一発ツモ海底撈月ジュンチャンドラ2。8000オール!」

 親倍ツモが炸裂した。

 

 以前の衣なら、ここで一言、挑発的とも言える強気な台詞を入れただろう。しかし、衣は点棒を受け取ると余計なことを言わずに山を崩した。

 ここには穏乃がいる。親倍を和了った程度では気が抜けない。まだまだ余裕を見せられる状況ではないのだ。

 

 東二局一本場、衣の連荘。

 ここでも絶対安全圏が効いている。しかも、淡は配牌聴牌。

 しかし、ダブルリーチをかけなかった。衣と湧から放たれるオーラに不気味なモノを感じ、様子見に回ったのだ。

 

「ポン!」

 衣が捨てた{2}を湧が鳴いた。

 湧の捨て牌には萬子、筒子に加え、{1}と{9}がある。一見、緑一色を狙っているようにも思える。

 しかし、湧の特性………、ローカル役満で考えれば紅一点か?

 そう衣が思っていた矢先、

「ツモ!」

 湧が{[5]}ツモで和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {4445666888}  ポン{横222}  ツモ{[5]}

 

「清一タンヤオ対々三暗刻赤1。6100、12100!」

 ルール上は三倍満だが、この和了り手はローカル役満の四跳牌刻であり、{發}無しの緑一色輪でもある。まさにローカルダブル役満だ。

 これで湧が衣を抜いてトップになった。

 

 既に穏乃は、これまでの三回に渡る他家の高打点のツモ和了りで、20100点を失っていた。

 もしこれが通常の25000点持ちでの対局なら、東三局突入時点で5000点を割っていることになる。

 とんでもないツモ和了りの応酬と言える。

 

 

 東三局、湧の親。

 サイの目は、またもや10。最後の角の後のツモ牌が六枚しかない切れ方。

 ここでも淡はダブルリーチを控えた。しかし、絶対安全圏は発動している。ここは、なんとか和了って次に繋げたい。

 しかし、

「ポン!」

 衣が淡の捨てた{白}を鳴くと、急に場が禍々しい空気に覆われた。海底牌に衣がコースインしたためだ。

 この局も、東二局と同様に衣の強烈な支配が場に重く圧し掛かる。

 そして、

「ツモ! 白対々三暗刻海底撈月。3000、6000!」

 ここでも衣の海底撈月が炸裂した。

 この和了りで、今度は衣が湧を抜いて1位に返り咲いた。

 

 

 東四局、淡の親。

 卓上にうっすらと靄がかかって見える。穏乃の能力が発動し始めたのだ。

 衣も淡も穏乃とは対戦経験がある。そろそろ深山幽谷の化身が動き出すことを当然のこととして予想していた。

 

 一方の湧にとっては初体験である。

 今までの穏乃の実績………昨年インターハイ団体戦での活躍や春季大会での逆転劇から何かあるだろうとは思っていたが、このような現象が起こるとは………、完全に想定外であった。

 しかも、まだ絶対安全圏が崩れていない最低最悪の配牌の状態で、自分が和了れるローカル役満への道筋が見えてこない。

 

 別に湧は、今更不気味なモノ(Hな意味ではありません)を恐れてはいない。六女仙の先輩には邪神を降ろす者さえいるのだ。むしろ、不気味なモノ(くどいようですが、Hな意味ではありません)には慣れている。

 しかし、六女仙以外の人間が、これだけの雰囲気を出すことには驚いていた。

「(なんなのこれ? 宮永が悪魔なら、こいつは死霊かなにか?)」

 そう思った直後、

「(違う…。火焔が見える。それに、その姿…。なんで?…。)」

 湧は考えを改めた。

 まさか、穏乃の背後に、そんなとんでもない者が見えるとは…。

 

 湧は、一瞬、息を飲み込んだが、

「(でも、やるべきことはやる。最初から、そのつもりだったはずでしょ?)」

 そう自分に言い聞かせて気合いを入れ直した。

 

 さすがに驚いたが、それでも湧は、何も恐れず自分の特性に沿って手役を作り上げて行く。もともと、そのスタンスを貫こうと決心したはずだ。相手が何であろうと、ここでは麻雀の対決だ。

 そして、ようやく見えてきた和了り形に向けて不要牌を切ったその時だった。

「ロン…。タンピンドラ2。7700。」

「えっ?」

 湧が穏乃に振り込んだ。

 全く聴牌気配が読めなかった。

 振り込んだことを認識するのに湧は数秒かかった。湧にとっては自分でも信じられない振り込みだったのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。

 卓上にかかる靄がさらに濃くなった。

 絶対安全圏は発動していたが、ダブルリーチの能力はキャンセルされた。淡は、この局は一向聴からのスタートとなった。

 衣も能力を発動している。他家を一向聴地獄に引きずり落としている。

 しかし、これが何時まで続くか分からない。衣は、自分の能力がどの段階で穏乃によってキャンセルされるのかを見定めながら慎重に手を進めてゆく。

 

 この時、湧は、まだ衣の支配が生きていることを感じ取っていた。

 それでも自分の能力………ローカル役満に向かって進めて行けば衣の支配を抜けることが出来るはず。その証拠に東二局一本場では和了っている。

 しかし、何かによって自分の能力がキャンセルされている。ローカル役満に向けて突き進んでいるはずなのに、何故か最後の一枚が来ない。

 そんな状態が続いて湧は焦ってきた。

 

 そして、ようやく聴牌できたと思った次の瞬間だった。

「ツモ。4000オール。」

 一歩遅かった。タッチの差で穏乃に和了られた。

 これで1000点差とは言え、湧は穏乃に逆転されて3位に転落した。

 

 南一局一本場、穏乃の連荘。

 衣は、

「(ここで和了っておかないと、さすがに衣もマズイ。穏乃は幸い起家だ。この親を流せば穏乃に逆転される可能性は低い!)」

 そう考えて、ここで能力を全開にした。

 今を征することで、トップで前半戦を折り返せると判断したのだ。

「(ただ和了るだけなら巫女を狙えばよい。視界が悪くなって観察力が鈍っているみたいだからな。しかし、それでは穏乃から点を奪えない。)」

 幸い衣は南家。一切の鳴きが入らなければ海底牌をツモるのは衣になる。

 ならば、ここでやるべきことは他家に鳴かせず、且つ他家に聴牌させない一向聴地獄の能力を最大限に開放することだ。

 

 絶対安全圏が効いているため、穏乃も湧も配牌が悪い。

 一方の淡もダブルリーチの能力がキャンセルされて聴牌していない。

 そこに衣は一向聴地獄の能力を当ててきた。そのまま最後の一巡まで他家を動かせないように支配する。

 そして、衣だけが聴牌。当然、

「リーチ!」

 最後のツモ番を残して衣はツモ切りリーチをかけた。

 勿論、海底牌で、

「リーチ一発ツモ! 海底撈月ドラ2。3100、6100!」

 衣は狙い通りハネ満ツモで穏乃の親を流した。

 

 

 南二局、衣の親。

 さすがに前局でエネルギーを使い過ぎた。折角の親番だが、衣は完全に支配力を失っていた。

 しかし、この時点での点数は、

 1位:衣 129200

 2位:湧 92500

 3位:穏乃 90500

 4位:淡 84800

 衣は穏乃に40000点近い差をつけている。

 これなら、仮に穏乃に三連続で満貫を和了られても、自分が振り込みさえしなければ、衣は穏乃に勝てるはずだ。

 

 春季大会の記憶が甦る。

 あの時の衣は、まだ能力に頼り過ぎていた。

 相手の手の高さや待ち牌を見抜く能力を持っていたため、河を読んだり相手の動きを観察したりする必要が無かった。

 ところが、その能力がキャンセルされると、他家の聴牌気配も読めなければ、待ち牌も分からない。

 その結果、衣は春季大会決勝の大将前半戦南二局と南二局一本場で、親の穏乃に11600点と18300点を連続で振り込んでしまった。たった二回で30000点近い失点だ。

 そこで衣は、春季大会が終わってすぐ、自分の能力が効かないコンピューター麻雀で待ち牌を読む訓練を開始した。全ては、今日のために………。

 

 勿論、穏乃だけではない。淡も湧も強敵だ。

 しかし、穏乃の支配がさらに強くなって行く状況ならば、仮に淡や湧に和了られても高い手にはならないはず。

 衣は、そう考えていた。

 

 ただ、期待は裏切られるためにあるようだ。

 この局、湧は自分の能力を最大限にまで高めていた。トップの衣に連荘をさせてはならないとの判断だった。

 とにかく、後先のことなど考えていられない。今を乗り切ることに湧は集中していた。

 

 ローカル役満で、かつ一般的な麻雀の和了り役として認められる形のモノは、刻子手や染め手が多い。

 絶対安全圏が完全にゼロになっていない状態で、しかも自分の能力も穏乃の能力によって押し返されている中で、刻子手や染め手に進めるのは結構キツイ。

 しかし、順子手で、しかも染め手でない古役の………超ローカル役満が存在する。今は、それに向けて動くのがベストと湧は判断した。

 幸い、赤牌を3枚ガメている。これなら満貫以上が作れるはず。

 そして作り上げた手で、

「ツモ!」

 湧が和了った。

 

 開かれた手は、

 {二三四[五]六七[⑤]⑤34[5]67}  ツモ{2}

 

 筒子の雀頭で、萬子と索子で同じ数字の順子を二組作った形。これは双竜争珠と呼ばれる古役である。

 しかも、雀頭が{⑤}で同色の順子が六連続の牌になるパターン。これは、双竜争珠の中でも役満として扱われる超ローカル役だ。

「タンピンツモ赤3。3000、6000!」

 

 これで湧は104500点で2位。トップの衣と18700点差まで詰め寄った。

 しかも、次は湧の親番。まくるチャンスと、再び湧は気合いを入れ直した。

 

 

 南三局、湧の親番。サイの目は7。ドラは{②}。

 絶対安全圏は不完全状態。ダブルリーチもかけられない。

 しかし、最後の角の後が最も長い山の切れ方。ここで淡は勝負に出ることにした。

「(コロモの支配はシズノの親を流して以来、復活していない。シズノの支配はキツイけど、今の私なら能力をマックスまで上げれば聴牌できるはず。それに、シズノの支配下でも和了れないわけじゃない!)」

 淡は、引いてきた{白}を、

「カン!」

 暗槓し、嶺上牌の{西}を取り込んで、

「(ここは手を上げる!)」

 雀頭の{三}を捨てた。

 次巡、淡は{西}を重ねて、

「リーチ!」

 {横三}切りでリーチをかけた。

「ポン!」

 一発消しのつもりか、それとも手を進めるためか?

 湧が{三}を鳴いた。

 

 この時の湧の手牌は、

 {四五六六七八9發發發}  ポン{三三横三}

 

 彼女の狙いは、ローカル役満の紀州五十五万石のようだ。

 {發}の暗刻を持っており、萬子の混一色形を狙っている。しかも、あと{五}が二枚で萬子の数の合計が五十五での和了り形になる。

 しかし、その次の牌で、

「ツモ!」

 淡がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {1234[5]789西西}  暗槓{裏白白裏}  ツモ{3}  ドラ{②}  槓ドラ{九}  裏ドラ{南}  槓裏{中}

 

「リーツモメンホン白赤1。3000、6000!」

 安目ツモだった。

 これが高目の{6}ツモなら、一気通関がついて倍満だったのだが………。

 残念だ。

 しかも、穏乃の支配が強まっているためだろう。予想はしていたが、やはり槓裏は乗らなかった。淡の能力がキャンセルされている。

 そうは言っても、ハネ満ツモ和了り。十分高い手だ。穏乃や衣を相手に、これ以上の贅沢は言っていられないだろう。

 これで淡は穏乃を抜いて3位に順位を上げた。

 

 

 オーラス、淡の親。ドラは{八}。

 半荘最終局は、穏乃の山支配が最強になる。靄も強烈になり、視界が非常に悪い。

 衣も淡も穏乃との対局経験があると言っても、完璧な対策が立てられているわけではない。特にオーラスの穏乃の支配は、何時見ても厳しいものがある。

 今更ながらに思う。昨年インターハイ準決勝戦では、オーラスで、よく淡自身、ハネ満をツモ和了りできたものだと…。

 

 この局、湧は前局と同様に萬子の染め手を作っていた。ここで狙うは加賀百万石。しかし、何故か一向聴から先に進めない。萬子がツモれなくなったのだ。

 これは衣の支配では無い。穏乃の山支配による影響だ。

 

 中盤、湧は、{①}をツモ切りしたが、これが穏乃の和了り牌だった。

 これで前半戦が終わると、中継を見ている人達は誰もが思った。穏乃の手は満貫級の手だったのだ。

 しかも、湧が萬子の清一色聴牌直前の状態。普通なら、和了って当然の展開である。

 ところが、観衆の予想を裏切り、穏乃は、これをスルーした。普通は、先ずありえない行為だ。

 しかし、穏乃は次のツモ番で、

「ツモ。タンピン一盃口ドラ2。3000、6000。」

 ハネ満をツモ和了りした。

 しかも、引いてきた牌が何であるかを確認せずに手牌を開いた。盲牌もしていない。まるで、そこに和了り牌が眠っているのを事前に知っていたかのようだった。

 

 開かれた手牌は、

 {三三②③④[⑤]⑥445[5]66}  ツモ{⑦}

 高目ツモだった。

 穏乃は、敢えて湧から出た安目の和了り牌を見逃し、高目でツモ和了りすることで点数をワンランク上げたのだ。

 

 これで、前半戦の点数は、

 1位:衣 117200

 2位:穏乃 96500

 3位:湧 95500

 4位:淡 90800

 トップとラスの差が26400点と、まだ全員が前後半戦トータル1位………、つまり団体戦優勝を狙える位置にいる。

 

 当然、大将の四人全員の目からは、まだ希望の光は消えていない。全員が優勝を目指して志気が上がる。

 ここで一旦休憩時間に入ること自体が、まるで大将四人の心に水を射すことのようにすら思えた。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十四本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、普段はR-18に突入しそうになった時点で積極的に染谷まこが登場し、時間軸超光速跳躍を発動してくれます。R-18の描写を全てスっ飛ばしてくれる素晴らしい特殊能力です。
しかし、今回は、その必要がありませんので、まこは登場しません。まこの活躍を期待されている方には、誠に申し訳ございません。
また、憧100式の発明者として阿笠博士に特別出演していただきます。灰原哀と江戸川コナンもムリヤリ登場します。

なお、憧シリーズと、そのオーナーは以下のようになっております。


憧100式:通称憧
AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、ベーシックタイプ
オーナー:京太郎

憧105式ver.淡:通称淡
AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、改良型
準備満タン機能により胸の大きさをAからGまで設定可能
オーナー:俺君

憧108式ver.姫子:通称姫子
AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、百合機能付き
標準語‐方言切り替え機能付き(自動設定)
オーナー:哩

憧110式ver.マホ:通称マホ
AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、小学生(高学年)型
成長機能付き
オーナー:一太

憧123式ver.絹恵:通称絹恵
AI搭載の人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、男女兼用
巨大な男性器を装備、
標準語‐方言切り替え機能付き(オーナー指定)
オーナー:咲


憧 -Ako- 100式 流れ十一本場 大根でないし

この日の昼、憧100式と憧105式ver.淡は、咲のアパートに来ていた。
咲は、既に大学に行っていた。部屋では、憧100式と憧105式ver.淡、憧123式ver.絹恵が仲良く駄弁っていた。


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。


憧「咲さんって料理上手なんだ!」

絹恵「そうなのよ。正直なところ、私達、憧シリーズよりも上手だと思うわよ。」←標準語‐方言切り替え機能により標準語で話している(咲が標準語に設定)

憧「私達って、一応、料理人の技術をAI学習してるはずなんだけどね。それより上手いってハンパないわ。」

絹恵「お菓子作りも上手でね。」

憧「じゃあ、そのお菓子も絹恵は美味しくいただいてるってこと?」

絹恵「まあ、そうなるけどね。良いオーナーを持ったと思うわ。」

憧・淡「「(ちょっと羨ましい。)」」

絹恵「それで、咲ちゃんは趣味と実益を兼ねてケーキ屋さんでアルバイトしてるのよ。」

淡「そうなんだ! じゃあ、余ったケーキを持って帰ってきたりとか?」

絹恵「うん! バイトの日は、大抵ケーキとかシュークリームとか持って帰ってきてくれてね、二人で食べてるよ!」

淡「マジ羨ましい! じゃあ、バイトが無い日は、咲さんの手作りデザートとか?」

絹恵「ううん。さすがにそこまでは…。バイトの無い日は、大抵デザートはリンゴかな?」

憧・淡「「(淫行?)」」←リンゴに語呂が近いHな単語と聞き違えている

絹恵「丁寧に皮を剥いてくれて。」

憧・淡「「(えっ? 絹恵の性器って皮被ってるの?)」」


取扱説明書:憧123式ver.絹恵は、女体をベースに作られておりますが、性器のみ男性となっております。長さも太さも日本人平均の二倍となっております。

取扱説明書:皮は被っておりません。


絹恵「リンゴジュースも好きだって言ってたかな?」

憧・淡「「(淫行ジュース? それって、Hする時に女性から出てくるヤツ?)」」

憧「ええと、咲さんって同性愛者?」

絹恵「そう言うわけじゃないと思うけど。私のチン〇ン、受け入れてくれてるし。(なんでイキナリそんな話になるのかな?)」

憧・淡「「(じゃあ、男性から出てくるほう?)」」

淡「(それで絹恵が気に入ったわけかな? 人工液だけど量が多いし。)」


取扱説明書:憧123式ver.絹恵には射〇機能が付いております。放出されるのは人工的な液体で、受精機能はありません。


絹恵「そう言えば、リンゴってダイエットにも使われるって聞いたけど。リンゴダイエットって言ってね…。」

憧・淡「「(淫行ダイエット!?)」」

絹恵「まあ、咲ちゃんはダイエットする必要は無いけどね。」

憧「まあ、京太郎もダイエットは必要ないかな。結構鍛えてるし。」

淡「俺君は、最近ちょっと太ったかな。」←料理を作りすぎている

憧「じゃあ、試しにそのダイエット、やってみたら?」

淡「それ、イイかも。で、どうやってやるの?」

絹恵「リンゴダイエット?」

淡「そうそう!(淫行ダイエット!)」

絹恵「以前は、たしか三日間、食事を全部リンゴに置き換えるって言われてたんじゃなかったかな?」

憧・淡「「(三日間、食事の代わりに淫行?)」」

絹恵「元々、デトックス効果を狙ったものらしいんだけど…。」

憧・淡「「(まあ、たしかに余計なモノは溜めずにヌいたほうが良いけど…。)」」

絹恵「でも、最近は、三食全部じゃなくて一日一食をリンゴに置き換えるって方法も良いって言う人もいるみたい。」

憧・淡「「(一食を淫行に置き換える!?)」」

絹恵「一食置き換えるだけで、他の食事はしっかり食べて大丈夫なんだって。あと、間食もリンゴに置き換えた方が良いみたい。」

憧・淡「「(つまり、食欲を性欲に置き換えさせるってことね? 本能を制するには別の本能を当てるってことだね!)」」

絹恵「朝リンゴダイエットとか。」

憧・淡「「(朝から?)」」

絹恵「夜リンゴダイエットとかもあるって。」

淡「(夜は欠かさないけど………って、食事の代わりにはしてないか。食事+Hになってるもんね。それじゃダメってことだよね。)」

憧「数の制限とかは?(何発抜けば良いんだろう?)」

絹恵「特に指定は無いみたい。2~3(個)が多いみたいだけど。」

憧・淡「「(2~3発か!)」」

絹恵「リンゴは、脂肪燃焼や整腸作用が期待できるらしいしね。」

憧・淡「「(まあ、確かに淫行は脂肪燃焼できると思うけど…。)」」

淡「(でも、成長作用もあるんだ! でも、成長って、ナニが伸びるとかかな?)」

淡「どうして成長作用があるの?」

絹恵「(不溶性食物繊維が水分を吸収して)何倍にも膨らむかららしいけどね。」

淡「(膨張係数が上がるってことかな?)」


こんな勘違いトークが展開されていた頃、コナンと哀は学校を休んで淫行ダイエットに励んでいた。
最近、コナンが哀の手料理をついつい食べ過ぎてしまっていたためだ。

丁度区切りが付いたところで、二人は阿笠博士にお願いしたいことがあって、博士の研究室を訪れた。
この時、博士は、次なる憧シリーズの設計に入っていた。
ただ、金が足りなくてパーツの購入は、まだ先になりそうだ。


コナン「博士。実はお願いがあるんだけど。」

博士「なんじゃ?」

コナン「もう一人の俺のことなんだ。」

博士「新一のことか?」

コナン「ああ。折角高校生の身体を取り戻したのに、このままじゃ、Hができずに狂ってしまいそうなんだよ。」

博士「まぁ、分からんでもないのぉ。そう言う年頃じゃし。」

哀「それでね。工藤君に、憧シリーズを一回使わせてあげてはどうかって思ったのよ。」

博士「構わんが、しかし、新一用よりもワシ用を造るのが先じゃぞ!」

コナン「別に新一専用機を造る必要はねえって。博士は使った後に、一回使わせてもらえればイイんだ。」

博士「いきなりNTR機能を使えと言うのかの?」

哀「まあ、専用機があっちゃ、蘭さんに誤解されるでしょうからね。」

博士「まあ、たしかにそうじゃの。で、新一に使わせるにしても、どんなタイプが好みじゃ? 一応、好みの対象になっていた方が良いじゃろうからのぉ。」

コナン「まあ、蘭みたいな感じってことで、髪が長くて胸がそれなりに大きくて、ウエストが細くてスポーティーで…。」

博士「(そんな感じのを前回造ったのぉ。憧123式ver.絹恵そのものじゃ。まあ、あれは失敗作じゃったがの。)」


さて、憧100式達はと言うと…。
まだ勘違いトークが続いていた。


絹恵「はっくしょん!(誰かが噂してるのかな?)」

淡「ねえねえ、咲さんが好きなものとかは?」

絹恵「キス(魚)とか…。(特に天ぷらが)」

憧・淡「「(キス(口付けのほう)か…。まあ、咲さんらしいかな。)」」

絹恵「大根とか。」

憧・淡「「(男根! いきなりキスから飛び過ぎ………って、まあ、これは絹恵のせいな気もするけど…。あんなデカいの経験しちゃぁね!)」」

絹恵「大根は、細くて形がイマイチなのは、ちょっとって言ってたかな。やっぱり、太くて形が良くどっしりした感じのが良いって。」

憧・淡「「(まあ、初めてまともに入れたのが絹恵のだからね。そうなっても仕方がないだろうね。)」」

絹恵「ところで、淡ちゃんのオーナーの趣味とかは?」

淡「先ずパチンコでしょ。」

絹恵「(チ〇コ?)」←憧と同様に『パ』が聞こえていない

淡「それと、この間、二人でおさんぽコースとか行ってきた。」

絹恵「(お〇んぽコースでイってきたなんて…。)」←憧と同様に〇を『さ』以外の文字と勘違いしている

憧「どうもね、アウトドア派っぽいよ。」

絹恵「(じゃあ、青〇?)」

憧「それで、淡も俺君とか他の男性とかと一緒に(お〇んぽ)してきたみたいだから。」

絹恵「(じゃあ、NTR機能を?)」

淡「そんな、根っからのアウトドア派ってわけじゃないみたいだけどね。どっちかって言うとインドアなほうが多いよ。」

憧・絹恵「「(普通、Hはインドアでするものでしょ!)」」

絹恵「(でも、淡って、そう言う使われ方してたんだ…。俺君って乱〇好きってことか。)」

絹恵「(だけど、本人達が楽しいなら、それでOKってことなのかな? 別に淡も嫌がっている様子無いし。むしろ楽しそう。)」

淡「憧のバイトのほうは?」

憧「家庭教師?」

淡「そうそう。」

憧「あれね。逆に生徒から面白いネタを教えてもらった。原子記号の縦の覚え方。」←十八本場のおまけ:爽のネタを参照


エロネタ大好きな高性能ダッ〇ワイフ達には、このネタは大ウケしたようだ。
ちなみに、憧100式は、これを他の生徒に教えようと思っているらしい。


絹恵「そうそう。急に話は飛ぶけどさ。二人に聞こうと思ってたことがあってね。」

憧「ナニナニ?」

絹恵「憧と淡は咲ちゃんから居場所を聞いたから連絡が取れたけど、姫子とマホが何処にいるか知らない?」

憧「二人とも私達と同じアパートにいるよ。」

絹恵「えっ? そうなの?」

憧「凄い偶然でしょ? 姫子のオーナーが俺君の部屋の隣で、そのさらに隣にマホのオーナーが住んでるのよ。」

絹恵「そうだったんだ。」

淡「どうしてあのアパートに密集するのかって思うくらい!」

絹恵「そうだね。」

淡「たしか、姫子のオーナーは女性で、マホのオーナーは京太郎の高校の先輩って聞いたよ。どっちもオーナーの趣味に合ったみたい。」

絹恵「そうなんだ!」


取扱説明書:憧108式ver.姫子は、本シリーズ初の百合機能を搭載しています。インプリンティング機能発動の際、女性の指を使うことにより百合機能は発動します。指の形状記憶と指紋認証によりオーナーを判断しますので、全ての指を順に五秒間ずつ挿入してください。

取扱説明書:憧110式ver.マホは業界初の成長機能付きです。女子高生タイプになるまで三年以上かかります。その間、オーナーが色々と学習させることになりますが、それによりオーナーの望むタイプへと成長させることが可能です。


なんだかんだで、五体の憧シリーズ達は、オーナーと上手くいっている。
自分達の生まれ方は不幸だったかもしれないが、一先ず全員幸せが掴めているなぁ…と憧123式ver.絹恵は思っていた。


ガチャガチャ:鍵を開ける音


絹恵「あれ? こんな時間に咲ちゃん、戻ってきたのかな?」


憧123式ver.絹恵は、出迎えのつもりで玄関へと向かった。
ドアが開くと、そこにはピンクの髪をした胸の大きい女性の姿があった。


絹恵「あなた、誰?」

和「ここは、咲さんの部屋ですよね。」

絹恵「そうですけど。」

和「あなたこそ誰ですか?」

絹恵「私は絹恵。咲ちゃん専用の性欲処理具です!」

和「はっ?」

絹恵「ですから、私は咲ちゃんの性欲の捌け口のためだけに存在しています!」


そう言う絹恵の表情は、とても嬉しそうだった。ムリヤリされているのではない。合意で喜んでヤらせてもらっていると言った感じだ。
ただ、和には、絹恵が人間………同年代の女の子にしか見えない。これが高性能ダッチ〇イフだとは到底思えない。
それだけ、阿笠博士の作品は完成度が高かったと言えよう。
当然、和は絹恵に………若い娘に咲が寝取られたとしか思えなかった。
和の背後に暗黒物質が立ち込めた瞬間であった。



続く?


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五十七本場:十万点差

 休憩時間に入った。

 穏乃は卓から離れずに椅子に座ったまま背もたれに寄りかかっていたが、衣、淡、湧は一旦卓を離れて対局室から出て行った。

 

 

 衣は自販機に向かい、糖分補給にと最近アニメを見てはまりだしたイチゴ牛乳を買おうとした。が、残念なことに売り切れていた。

 ちなみに、そのアニメは白夜叉と呼ばれる侍とか新選組とかが出てくるヤツだ。

「売り切れとは、なんだかケチをつけられたようだ。それにしても、いつも思うが、つぶつぶドリアンジュースを買う人間はいるのか?」

 一人いる。

 恐らく、その人のためだけに麻雀大会の会場には、必ずつぶつぶドリアンジュースが置いてあると言って良いだろう。

 衣は、無難にオレンジジュースを買うことにした。

 

 

 一方、淡は外の見える通路にいた。

 時間は午後六時くらい。真夏なので、まだ外は明るいが、淡には、どこにどの星があるのかが分かる。

 ここで淡は、宇宙から降り注ぐエネルギーを吸収する。

 

「今更ながらに思うわ。光が白糸台にいてくれて助かったって。もし、光が従姉妹のサキと同じ阿知賀にいたら、もう優勝は阿知賀に決まってたもんね。」

 たしかに、光の阿知賀女子学院編入の可能性もあった。

 もしそうなっていたら、先鋒が咲、次鋒が玄、中堅が光となり、この三人で決着がついていただろう。

「でも、光はうちに来てくれた…。だから、決着は大将戦までもつれ込ませることが出来た。でも、26400点差か…。」

 一応、点数的には、後半戦で衣をまくれる位置にいる。しかし、そう簡単に衣が逆転を許すとは思っていない。

 それに、相変わらず穏乃の攻略は厳しい。敵の能力をキャンセルさせるなんて、多くの能力者にとっての天敵である。

 加えて、永水女子高校の大将、湧が意外に強い。

 

 春季大会では、湧の代わりに数絵がいた。数絵も強敵だったが、南場限定である。淡なら十分東場で攻めることが出来た。

 しかし、湧には安定した強さがある。振り込んだのは、穏乃への一回のみ。あの永水女子高校で大将を任されるだけのことはある。

「それにしても、思ったよりもキツイな、この大将戦…。」

 そう言いながらも、淡の目からは活力が消えていなかった。むしろ、強敵と戦えることを喜んでいるように見えた。

 

 

 この時、湧はトイレにいた。

 別に、同じチームから二名も失禁者を出すのは避けたいとか考えていたわけではない。咲と同じで、何かの区切りにトイレに行く条件反射が付いていただけだ。

「(天江さんのオーラは、たしかに普通ならチビりそう…。大星さんのオーラも強大。だけど、やっぱり東四局からの高鴨さんのオーラが恐ろしい。あれって…。)」

 六女仙の湧には、東四局時点で既に穏乃の背後に火焔が見えていた。しかも、全てを焼き尽くすほどの強烈なパワー。

 当然、湧には、その火焔の主の姿も見えていた。

「(あれって蔵王権現よね…。)」

 巫女でもない穏乃が何故?

 家が神社の憧なら、まだ分かるが…。

 

 しかし、理由はともあれ、穏乃の中には蔵王権現の力が宿されており、それは後半になって目覚めてくる。

 ならば前半が勝負。

 だからこそ、淡は初っ端からダブルリーチで攻め、衣も東場から海底撈月で攻めてきたのだろう。

 それを知らなかったのは湧自身の情報不足。これは仕方がない。

 しかし、それが分かった以上、後半戦は東場での高得点を目指す。

 

 

 それから少しして、衣、淡、湧の三人が対局室に戻った時、穏乃の隣には憧の姿があった。穏乃の様子を見に来ていたのだ。

「(やっぱりシズは心が強いよね。これなら、きっと大丈夫。)」

 今、穏乃は暫定2位。当然、勝利を諦めたりはしない。むしろ、相手が巨大な山として聳えるなら、それを登り詰めて制覇してやろうと言う気持ちが強くなる。

 穏乃が登り切れなかった山は、憧が知る限り咲くらいであろう。

 

 もう休憩時間が終わる。

「じゃあ、シズ。後は任せた!」

 そう言うと、憧は対局室を出て行った。

 

 

 衣、淡、湧が卓に付き、場決めがされた。

 後半戦は起家が淡、南家が衣、西家が湧、ラス親が穏乃になった。

 この席順を見て衣は、

「(春季大会と同じで後半戦は穏乃がラス親か。イチゴ牛乳が売り切れていて嫌な予感がしていたが、まさか当たるとは…。)」

 と思っていた。

 多分、イチゴ牛乳と場決めには何ら相関は無いと思うが…。

 

「じゃあ、行くよ!」

 淡が元気な声でサイを回した。

 後半戦東一局、淡の親。

 サイの目は6。最後の角の後が二番目に長いパターン。

 当然、淡は絶対安全圏を発動し、ダブルリーチの能力も開放していた。穏乃を叩くにはスタートダッシュしかないとの判断だ。

「リーチ!」

 淡以外は全員、五~六向聴のところへのダブルリーチ。相変わらず強烈である。

 しかし、スタートダッシュを狙うのは淡だけではない。

 衣も一向聴地獄の能力を発動した。狙いは、湧の聴牌を遅らせることと、淡よりも先に和了ること。強烈な場の支配力だ。

 衣は有効牌を常に引き続け、六巡目で聴牌。

 対する湧は、ローカル役満を聴牌するパワーを発動した。これにより湧は、衣の能力を跳ね返し、九巡目で双竜争珠を何とか聴牌した。

 

 十巡目、

「カン!」

 淡が暗槓した。この十巡目で丁度最後の角を越えることになる。

 そして、次巡、

「ツモ。ダブリーツモ槓裏4。6000オール!」

 紙一重の差で、この局は淡が征した。

 

 東一局一本場。

 ここでも淡が、

「リーチ!」

 ダブルリーチで攻めてきた。

 サイの目は5。まだまだ最後の角の後が長いパターンである。

 ここでも、

「ツモ! ダブリーツモ槓裏4。6100オール!

 淡が和了った。これで前後半戦のトータルで淡がトップに立った。

 しかし、これでも淡は安心できなかった。衣がこのままでいるとは思えないし、湧もとんでもない手を作ってくるだろう。

 それに後半に入れば穏乃の強烈な支配が待っている。しかも、その支配力は前半戦よりも後半戦のほうが強力である。

 淡にとって、これくらいのリードはリードとは思えなかった。

 当然、まだまだ貪欲に和了りを目指す姿勢を崩せない。

 

 東一局二本場。

 ここではサイの目が11。最後の角の後の牌が計八枚しかない。

 さすがに淡は、ここでのダブルリーチは見送った。

 この時、湧の配牌には{北}が一枚、{發}が二枚あった。数牌は飛び飛びであったが、赤牌を含む{②[⑤]⑧}の筋を使って手を伸ばす。

 まるで神を降ろした小蒔のように狙った牌が次々と入ってくる。そして、七巡目には{北}単騎で湧は聴牌した。

 八巡目、

「カン!」

 湧が{發}を暗槓した。

 嶺上牌は{中}。これをツモ切り。そして、次巡、

「ツモ。ツモメンホン發一通赤1。4200、8200!」

 渾身の倍満一撃。湧が{北}をツモって和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨北}  暗槓{裏發發裏}  ツモ{北}

 

 ローカル役満の青函連絡船である。

 この和了りを見て、衣の心に火がついた。

「面白い! やはり、麻雀はこうでなくてはな!」

 そう言うと、衣の全身から今までに無い強烈なオーラが放出された。

 これだけ強烈なパワーは、湧も滅多にお目にかかれない。小蒔が最強の神様を下ろした時に感じるものに近い。

 幼少の頃から小蒔や初美、霞と行動を共にして、オカルティックなパワーに慣れているはずの湧でさえ、若干吐き気をもよおすレベルだった。

 

 

 東二局、衣の親。

「(あれ?)」

 第一ツモを手にしたところで淡が驚いた。

 ダブルリーチの能力を発動していたはずだ。それで、極力配牌で聴牌、最悪でも配牌で一向聴で第一ツモで聴牌してダブルリーチをかけるつもりだった。しかし、配牌一向聴で第一ツモでは聴牌できずの状態だったのだ。

 衣の支配力が淡の能力に影響したのだ。

 淡は、ここから最悪の一向聴地獄に突入する。

 

 一方の湧は、淡の絶対安全圏により六向聴だった。ヤオチュウ牌が多く、風牌と{一}、{①}、{1}からなる七対子、世界一がローカル役満としては最短だった。

 しかし、この局は湧でさえも衣の支配に押され、一向聴まで手を進めるとは出来たが、その後、聴牌まで進めることは出来なかった。

 

「ポン!」

 衣が湧の捨て牌を鳴いた。これで海底牌を引くのが衣に変わった。

 当然、淡も湧も穏乃もツモ順をずらそうとしたが、鳴ける牌がでてこない。そのまま誰も鳴けずに衣の手に海底牌が渡った。

 

 三人とも、まるで身体が海底に引きずり込まれるような感覚に襲われた。

 そして、

「ツモ! タンヤオ対々三暗刻海底撈月赤2。8000オール!」

 当然の如く、衣が海底牌での和了りを決めた。

 この和了りで、穏乃は75700点まで点数を減らした。

 もし、これが25000点持ちであれば、残り700点である。

 それだけ他家の和了り点が大きいと言うことだ。

 

 東二局一本場。

 ここでも淡のダブルリーチの能力が、衣の能力に押さえ込まれた。配牌一向聴で、第一ツモでは聴牌できず。前局と同じパターンだ。

 それでいて絶対安全圏は発動している。湧は、ここでも六向聴だった。

「ポン!」

 またもや、湧の捨てた{①}を衣が鳴いた。これで衣が海底牌に向けてコースインした。

 衣の支配が強力過ぎて、誰もコースアウトさせることができない。そのまま海底牌が刻一刻と迫ってくる。そして、

「ツモ! 海底撈月!」

 またもや当然の如く、衣が海底牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一111東東東白}  ポン{①①横①}  ツモ{白}

 

 ダブ東混老頭対々子三暗刻三色同刻海底撈月。親の三倍満だ。

「12100オール!」

 これで衣が断然トップに立った。

 

 現時点での後半戦の点数は、

 1位:衣 144000

 2位:淡 108000

 3位:湧 84400

 4位:穏乃 63600

 穏乃の得点が、既に25000点持ちであれば余裕で箱割れするところまで落ち込んだ。

 

 いくら他家がスタートダッシュに賭けているからと言っても、この穏乃の大失点は阿知賀女子学院一年生のゆいや美由紀にとっては余りにも衝撃的過ぎた。

 灼や晴絵、恭子にとっても想定外のようだ。

 それでも平静を装っていられる咲や憧、玄の神経が信じられない。

「先輩達は、どうして平気な顔をしていられるんですか?」

 ゆいが、思わず口にした。すると玄が、

「まだ対局は終わっていないのです! それに、穏乃ちゃんの表情。まだ諦めていないのです! なのに、私達が勝手に諦めてはダメなのです!」

 と力説するように答えた。

 まだ穏乃の勝利を信じている。いや、正確には、まだ穏乃が逆転劇を演じられる得点圏内にいる。だからこそ、普通にしていられるのだ。

 

 東二局二本場。ドラは{三}。

 これ以上の衣の連荘はマズイ。

 湧は、衣の親を流すため、ここで能力を全開にした。

 絶対安全圏によって配牌は最低最悪である。衣の一向聴地獄も健在である。しかし、言い換えれば一向聴までは手が伸びる。

 そして、一向聴から聴牌に進めるのは自分の能力。

 

 湧は配牌で、

 {一四七九②⑤27東南西北白}

 見事に六向聴牌だったが、ここから一切のムダツモ無しで、たった九巡で、

 {一二三三四[五]五五五六七八九}

 {四六七九}待ちで聴牌した。自らの能力で衣の一向聴地獄を吹き飛ばしたのだ。

 そして、次巡、

「ツモ! メンチンツモ平和ドラ3。6200、12200です!」

 またもや湧が渾身の一撃、{七}をツモって、三倍満を和了った。しかも、この形はアメリカの役満、ゴールデンゲートブリッジだ。

 

 この湧の和了りで、衣のモチベーションがさらに高まった。

「楽しませてくれるではないか! 前半戦では、安易に衣に海底牌を回していたので楽勝と思っていたが、なかなか面白い打ち方を見せてくれる!」

 衣から放たれるオーラの量がさらに増した。

 

 湧の能力を押さえ込むには、今まで出してきた程度のパワーでは足りないことを、衣は改めて認識した。

 しかも、次は湧の親。ここで湧に、連荘で高い手を連発させてはならない。

 当然、衣は湧の連荘を阻止しに行く。そのためにパワーを全開にしたのだ。

 

 

 東三局、湧の親。

 湧も、当然パワー全開で行く。

 

 この半荘は、淡の能力全開………いきなり宇宙パワーの爆発でスタートした。

 その後、湧も和了ったが、結局のところ、全体的には長野屈指の魔物に押さえ込まれている感じがある。

 

 しかも、もう少しすると、もう一人の魔物が目を覚ます。優勝するためには、その前に高得点を叩き出す必要がある。

 よって湧は、この親番で稼がなければならない。いや、ここで稼ぐしかない。

 

 しかし、衣の一向聴地獄が最高潮に高まり、淡も湧も聴牌できない。しかも、

「チー!」

「ポン!」

 衣が淡の捨て牌を二度に渡って鳴き、海底牌に向けてコースインしてきた。

 ここに来て、この支配。

 そのまま衣が海底牌を掴み、

「ツモ! 海底撈月タンヤオドラ4。3000、6000!」

 当然の如く和了った。

 

 現時点での後半戦の点数は、

 1位:衣 143800

 2位:湧 103000

 3位:淡 98800

 4位:穏乃 54400

 とうとう、穏乃の得点が原点の半分程度にまで落ち込んだ。トップの衣とはトリプルスコア近い。

 しかも、前半戦の収支も合わせた点差は、約110000点である。

 

 いくら穏乃の山支配が強力でも、これを逆転するのは厳しいだろう。役満でも出ない限り不可能である。

 さすがに、憧の顔からも平静さが消えた。

 これを見て玄が、

「これからなのです! ここからが穏乃ちゃんのホームグラウンドなのです!」

 意気消沈する控室に活を入れた。

 応援する側が先に諦めてはならない。

「そ…そうよね。今はシズを信じるしかないのよね。」

 そう言うと、憧は、両手を合わせて祈り出した。

 

 

 東四局、穏乃の親。ドラは{②}。

 ようやく卓上に靄が立ち込めてきた。この現象は、穏乃の能力のスイッチが入った証拠でもある。

「(やっと来たか。しかし、衣との点差は前半戦の分も合わせると110100点。今からこれを逆転できるかな?)」

 衣は、余裕の笑みを浮かべていた。

 ここから、穏乃は怒涛の和了りを見せるだろう。当然、衣も、コンピューター麻雀で特訓したとは言え、穏乃に振り込むこともあるかもしれない。

 もっとも、そう安々と振り込むつもりは無いが…。

 点差は十分。110100点差だ。衣が相手なら咲でも逆転は不可能であろう。

 既に衣は、龍門渕高校の優勝を確信していた。

 

 一方、淡は、

「(とうとう始まったか…。)」

 穏乃に全員の能力がキャンセルされ始めているのを感じ取っていた。

 視界が悪い。

 絶対安全圏も崩れ出した。前半戦よりも後半戦の方が穏乃の山支配は強力なのだ。

 しかし、そのような中でも淡は、

「(最初に二回和了ったきりで良いトコないな、私。でも、この親を流す! 衣も逆転する! 絶対勝つ!)」

 決して諦めることはなかった。

 

 湧も優勝を諦めていない。

「(この親を流す! ここで狙うは門前の東北自動車道!)」

 和了る意欲満々だった。

 この局、湧が狙っている東北自動車道は、{②}、{④}、{⑥}、{東}、{北}で作られた対々和。

 当然、これを門前で仕上げれば、ツモ和了りなら四暗刻、出和了りでもドラがあるので最悪でも三倍満に達する。

 

 しかし、湧が切った不要牌で、

「ロン。タンピン赤2。11600。」

 穏乃に後半戦初の和了りを決められてしまった。この時、湧は穏乃の聴牌気配に気付かなかった。

 

 とは言え、トップの衣と穏乃の点差は、まだ100000点近い。とんでもない点差だ。普通はメゲて勝利を諦めるレベルだ。

 それに、もし、これを逆転出来るとしても、まだまだ道のりは長いし険し過ぎる。途中で息切れしかねない。

 それでも、

「一本場!」

 穏乃の目は、まだ希望に満ちていた。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十六本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。そのため、普段はR-18に突入しそうになった時点で積極的に染谷まこが登場し、時間軸超光速跳躍を発動してくれます。R-18の描写を全てスっ飛ばしてくれる素晴らしい特殊能力です。
しかし、今回も、前回に引き続き、その必要がありませんので、まこは登場しません。まこファンの方には、大変申し訳ございません。
また、憧100式の発明者として阿笠博士には、毎回特別出演していただいております。灰原哀と江戸川コナンもムダに登場しております。


憧 -Ako- 100式 流れ十二本場 ジン 残念だ

この日の昼、憧100式と憧105式ver.淡は、咲のアパートに来て憧123式ver.絹恵と仲良く駄弁っていた。
そこに、玄関の鍵を開ける音がした。
当然、憧123式ver.絹恵は、愛するオーナーである咲が帰ってきたと思って玄関まで出迎えに行った。
しかし、ドアが開くと、そこにいたのは咲ではなく和だった。
憧123式ver.絹恵は、和に『あなたは誰?』と聞かれ、自分が咲専用性の欲処理具であることを告げた。


和「性欲処理って………。」

絹恵「私が毎晩、相手をしています!」

和「まさか、そんなオカルト………。絹恵さんですか。覚えておきましょう。それと、あなたの後にいる二人にも見覚えがあります。」

絹恵「憧と淡ですか? 二人は私の姉機です。」

和「姉貴? 妹の方が身体も大きくて成長が良いようですね………って、咲さんは、あの日、姉妹丼してたってことですか?」

淡「ちょっと誤解しないでよね! 私も憧も、あの日限りだからね! 魔が差したって言うか、咲さん専用は絹恵だけだから!」

憧「それより、あなた、咲さんのストーカーでしょ?」

和「別にストーカーではありません。咲さんを愛し、常日頃、咲さんを自主的に警護している者です。」

憧「いや、それって正直、ストーカーが『自分だけは違う』って感じで言う言い訳そのものだから。」

和「いいえ、私はストーカーではありません。咲さんを守る側の人間です!」

憧「あのね………。それに、そもそも、なんで咲さんの部屋の合鍵を持ってるのよ!」

和「咲さんが無事暮らしているかを確認するためです。」

憧「そうじゃなくて、咲さんから貰ったものではないでしょ?」

和「まあ、本人からは、貰っておりませんが…。」

憧「咲さん、何回も鍵を付け替えたって言ってたけど、その度に、どうやって鍵を入手しているのよ?」

和「それは、企業秘密です。」


実は和は、咲が暮らすアパートを取り扱う不動産会社でアルバイトをしていた。
そこで、咲の部屋の合鍵を拝借していた。
言うまでも無いが、これは、やってはいけないことだ。
ただ、そう言った善悪でさえも正しく認識できない状態になっていた。


和「それに、あなた達みたいな、どこのウマの骨か分からない存在に付きまとわれていないかチェックしなければなりません!」

憧「ウマの骨って…。」

淡「ウマ並はあるけどね!」


憧105式ver.淡が、憧123式ver.絹恵のズボンを下ろした。
随分と手馴れている。あっと言う間だ。
まあ、ズボンを下ろすのはダッチ〇イフである憧シリーズにとって朝飯前なのは言うまでも無い。

和は、憧123式ver.絹恵の巨大な性器を目の当たりにして硬直した。


和「お………男?」

絹恵「男なのは、ここだけです。あとは、全部…心も女です!」

和「咲さんは、毎晩、これで攻められているってことですか?」

絹恵「ま…まあ、そうなりますけど…。」

和「そんな………、咲さんは、男性には絶対に振り向かないって思っていたのに! こんなものの虜になっていただなんて! 不潔です! そんなオカルト…ないない! そんなのっ!!」


そう言うと、和は、その場から逃げるように泣きながら去って行った。
またもや、人格が和から初美に入れ替わった。それだけ和としては、憧123式ver.絹恵が一部男性だったことが衝撃的過ぎたと言える。
ただ、そのショックが余りにも大き過ぎて、今日のことは憧105式ver.淡が憧123式ver.絹恵のズボンを下ろしたところから何も思い出せなくなる。

その頃、咲は京太郎と一緒に大学で講義を受けていた。
一緒に交〇ではない。
決して〇尾ではない。
講義だ。

さて、一方の阿笠博士はと言うと…。
ちょっとトイレに行って研究室に戻ってきた。
そして、憧シリーズ新作の設計図を少し手直ししようとしたが、何故か、さっきまでそこにあったはずの設計図が無かった。
それだけではない。
憧シリーズ100式、105式、108式、110式、123式に関する資料も全て消えていた。


博士「哀君、新一…じゃなかった、コナン君。ワシの設計図とか資料とかを、どこへやったか知らんかね?」

哀「知らないわよ。あの後、私達、ここ(哀の部屋)に戻ってずっと交〇してたから。」←〇に入るのは『流』ですね、きっと

コナン「設計図とか資料がどうかしたのか?」

博士「トイレから戻ったら無くなってたんじゃ!」

コナン「設計図って、憧シリーズ最新式のヤツか?」

博士「そうじゃ。それと、資料のほうは、憧シリーズ五体に関するもの全てじゃ!」

コナン「じゃあ、あの超高性能ダッチ〇イフに関する情報を、全部誰かに盗まれたってことか?」

博士「そうなんじゃよ。」

コナン「あれはあれで、AI学習さえしっかり出来れば、欲しがるヤツは結構いるはずだからな…。俺だって哀がいなかったら…。」

哀「ユーザーになりたいってこと?」

コナン「あくまでも哀がいなかったらの話だぞ!」

哀「分かってるわよ。まあ、当然、コナン君には必要の無いものでしょうけど!」

コナン「も…勿論…。」

哀「なによ、その自信無さげな顔は?」

コナン「いや、別にそう言うわけじゃ…。それで博士、誰か盗もうとしているヤツの心当たりは?」

博士「それが、まるっきり…。」

哀「ちょっと待って。もしエロカワ君の言うように欲しい人間が多いのなら、商品価値は高いってことよね?」

コナン「当然、そうなるな。」

哀「それに、胸も大きくて男女兼用まで実現化している。だとすると、もしかしてクロの組織が…。」

コナン「黒の組織って、奴らが?」

哀「そう。ただ、厳密には、エロカワ君の言う『黒の組織』の下部組織に位置する『玄の組織』。オモチ教集団よ。」

コナン「なんだそりゃ?」

哀「たしか、『オモチの、オモチによる、オモチのための政治』が彼女達のモットー。」

コナン「彼女達って、女性集団?」

哀「女性だけしか入れないって聞いてるわ。モチベーションならぬオモチベーション維持が大事だとか、変なこと言ってたわね。」

コナン「訳分かんねー!」


しかし、盗み出したのは『玄の組織』ではなく、普通に『黒の組織』だった。
ちなみに、玄の組織は、いずれ本作に登場させることになるだろう。


ウォッカ「兄貴。こんなモノを盗んでどうするつもりで?」

ジン「俺が使うためだ。」

ウォッカ「兄貴が?」

ジン「誤解するな。飽くまでもハニートラップ要員として使うためだ。」

ウォッカ「…。」←疑いの視線

ジン「決して、俺の夜の楽しみのために盗んだわけではない。これを、我が組織のアガサ博士に渡すんだ。」


アガサ博士………アーント・アガサのコードネームが付いた機械工学の博士(男)が黒の組織にいた(ことにしてください)。
男なのにアーントなのは、ちょっと可哀想な気がするが、コードネームは上が勝手に付けるので、まあ仕方がない。
彼は、阿笠博士のクローンで、彼もまた優れた頭脳の持ち主だった。
しかし、オリジナルの阿笠博士よりは、若干発想力が低いようだ。

それから小一時間後、アガサ博士はウォッカから憧シリーズに関する資料一式と、最新作の設計図を渡された。


アガサ「これが噂に聞く憧シリーズか…。しかし、なんだ、このインプリンティング機能と言うのは。」

ジン「俺は、なかなか面白い機能だと思うがな」

アガサ「いや、これがあってはハニートラップ要員としては使い難いのではないか?」

ジン「そこは敢えてインプリンティング機能を残してくれ。飽くまでも俺の部下として育成するわけだからな。俺がオーナーになる。」

アガサ「(なんの部下だか…。)」

ジン「必要な経費は出す。大至急、取り掛かってくれ。」

アガサ「顔の好みとかはありますか?」

ジン「シェリーに似た…。」

アガサ「シェリー?」

ジン「いや、なんでもない…。そうだな、ハニートラップ要員として通用する美人顔なら何でも良い。」

アガサ「了解。(では、俺の好み顔で造るか)」


アガサ博士は、早速製作に取り掛かった。
そして数日後、阿笠博士の設計に、アガサ博士が改良を加えたニュータイプのAI搭載人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフが完成した。
その名も、久HT-01。HTはハニートラップの略だ。決してHisa Takeiではない。


久「んーん。」

アガサ「目を覚ましたか?」

久「おはようございます…って、なんで私、裸なの?」

アガサ「それは君が我々の科学力を結集して、たった今、作り出された超高性能…。」

久「(もしかして最終兵器?)」

アガサ「ダッチ〇イフだからだ!」

久「悪の組織と戦う最終兵器じゃないの?」

アガサ「それは無い。そもそも、ここが悪の組織だ!」

久「えっ?」

アガサ「君は、敵対組織の連中にハニートラップを仕掛けるために生まれてきたAI搭載人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、久HT-01。」

久「では、一応目的を持って誕生したと言うわけね。善悪はともかくとして。」

アガサ「そう言うことだ。取扱説明書の内容は、君の頭の中に全て記憶されている。目を閉じれば分かる仕組みになっている。」

久「へぇー。」

アガサ「早速服を着てくれ。製作者の俺でも目のやり場に困るからな。」


久HT-01がベッドから降り、服を着はじめた。
(一応)男の視線を釘付けにする脚のライン。
ハニートラップを仕掛けてもなお、平然としていられるであろう強かな性格。
たしかに、黒の組織の一員として生きて行けるだけのキャラクターを持つ。

そこに、まるで生きた女性そのものの性処理用具がありながらも、アガサ博士は、久HT-01に襲い掛かる気配を一切感じさせなかった。
そもそも、阿笠博士と違ってエロに飢えている感じではなかった。それ故であろうか、久HT-01は、アガサ博士に特段嫌悪感を抱くことは無かった。

丁度、久HT-01が服を着終えた時、そこに突然ジンが乱入してきた。


ジン「完成したって聞いて飛んできたぞ! では、インプリンティングのため、早速俺が使って…。」

久「却下!(インプリンティング機能なんて無いし!)」


取扱説明書:久HT-01は、憧シリーズとは異なりインプリンティング機能は搭載しておりません。


アガサ博士は、ジンの要求を無視し、久HT-01にインプリンティング機能を取り付けなかった。ハニートラップ要員として使う以上、インプリンティング機能は邪魔になると判断したからだ。

普段クールなジンにしては珍しく、エロ丸出しの顔で久HT-01に近づいてきた。
対象が、作り物とは言え生きた女性そのものに見える性処理用具なのだから、いくらジンでも仕方がないのかもしれないが…。
ただ、これには、さすがに久HT-01も後ずさりした。
そして、久HT-01がの手が近くのコンピューターに触れた。
その直後、そのコンピューターは激しい轟音をあげて爆発した。


取扱説明書:久HT-01は、敵対組織のコンピューターを効率良く破壊するため、意図的に特殊な電磁波を出して機械類を爆発させることができます。


一つ、また一つと、研究室に設置された種々機材が次々に激しい炎を噴き上げた。
その場が火の海になるのは時間の問題だった。
久HT-01は、そのドサクサに紛れて研究室から外に逃げ出した。


久「でも、この電磁波を出す能力って、超機械オンチな娘がコンピューターを破壊しているみたい!」


まあ、そのうち、電磁波を出さなくてもコンピューターを破壊する超機械オンチな娘に出会えるであろう。

ジンは、久HT-01を追い駆けようとしたが、ここ…アジトに消防や警察が来ては面倒だ。
久HT-01よりも消火の方が優先。ジンはアガサ博士と共に、消火活動を始めた。
しかし、久HT-01が建物の出口に向かって通ったところから、次々と激しい火柱が上がってゆく。
彼女が通るそばから組織のコンピューター等が破壊されて派手に炎が吹き荒れたのだ。
これを意図的にやれるのだから、久HT-01は相当強かな性格なのだろう…。
それで、ジンもアガサ博士も業火で出口を塞がれ、帰らぬ人となってしまった。
これにより黒の組織内で久HT-01の顔を知る人間はいなくなった。



続く


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五十八本場:インターハイ 団体戦決着!

 東四局一本場、穏乃の連荘。

 一気に靄が濃くなった。

 衣のレーダーも効かなくなった。さすが後半戦の穏乃である。

 しかし、衣は、これに備えて特訓してきた。何となくだが、七巡目に穏乃が聴牌したような気配を微かに受けた。

 

 恐らく待ちは、{①}、{④}、{⑦}辺り。

 ところが、そう思った矢先に湧が{①}を切った。

 しかし、これに対して穏乃は何の動きも見せない。

「(おかしい? 衣が読み間違えたか?)」

 その後、穏乃はツモ切りで手変わり無し。

 続くツモで、衣は有効牌を引き、{①}切りで聴牌できる形になった。

「(なら、{①}切りだ。これで衣が穏乃の親を流す!)」

 和了に向けて衣が{①}を強打した。

 しかし、これで、

「ロン。中ドラ2。7700の一本場は8000。」

 穏乃が和了った。ダンラスの身でありながら、穏乃は湧の捨て牌を敢えて見逃して衣から直取りしたのだ。

「(穏乃のヤツ~…。)」

 衣の顔が苦み走った。まさか、こんなことをしてくるとは思わなかったのだ。

 しかし、衣は深呼吸して平静を取り戻した。

 ここで心が乱れては、さらなる振り込みを誘発する。恐らく、それが穏乃の狙いだろう。逆転するためには衣から高い手を連続して直取りするのが最も効率的だからだ。

「(今度こそ衣達が勝つ。穏乃の思うようにはさせないぞ!)」

 再び衣が不敵な笑みを浮かべた。

 

 東四局二本場。

 湧は、

「(ちょっとマズイな私。前々局では振り込んでるし、前局も本当は振り込んでいたんだよね。和了りも大事だけど、今は振り込みも回避しないと…。)」

 そう心の中で呟くと、両頬を叩いて気合いを入れ直した。

 この局面で和了り出したのはダンラスの穏乃。ツモ和了りされても自分が振り込みさえしなければ衣との点差は変わらないはず。

 ならば、一旦能力の放出を止めて、力を蓄えようと湧は考えた。

 

 淡も衣も湧も手が進まない。明らかに穏乃の山支配による影響だ。

 そのような中で一人手を進め、

「ツモ。2600オールの二本場は2800オール。」

 穏乃がタンピンツモドラ1で和了った。

 

 東四局三本場。

 衣は、序盤から穏乃の手から恐ろしいほど強大なエネルギーを感じていた。

 既に穏乃に能力の大部分をキャンセルされているはずなのだが、それでも感じ取れるくらい、とんでもなく高い手と言うことだろう。

 これは、絶対に振り込んではならない。そう直感している。

 衣は、穏乃の安牌をひたすら切り続けた。

 これを見た淡も、

「(衣が降りるってことは、シズノの手は相当ヤバイってことだね!)」

 下手に攻めるのをやめた。

 

 数巡後、

「ツモ! ダブ東混一ツモ三暗刻ドラ3。12300オール。」

 平和形が多い穏乃にしては珍しい和了りだった。衣の予想通り、高打点の手だ。

 

 現時点での後半戦の点数は、

 1位:衣 128900

 2位:穏乃 94700

 3位:淡 91900

 4位:湧 84500

 穏乃が怒涛の和了りで一気に原点近くまで復帰してきた。

 しかし、前半戦の収支を加えると、依然、衣と穏乃の点差は50000点以上ある。そう簡単に逆転できるレベルではない。

 

 東四局四本場。

「(一局休んで力が随分蓄えられたと思う。ここは、和了りを目指す!)」

 湧が再びスイッチを入れた。そして、

「ポン!」

 穏乃が捨てた{白}と、

「ポン!」

 衣が捨てた{中}を早々に鳴き、

「ツモ!」

 その勢いで、湧は一気に和了りまで持って行った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一①①11}  ポン{横中中中}  ポン{白白横白}  ツモ{1}

 これは、宝紅開花と呼ばれるローカル役満である。しかし………、

「3400、6400!」

 ここでは白中混老頭対々和のハネ満止まりになる。とは言え、これで湧は前後半戦の総合2位に浮上した。

 

 

 南入した。

 南一局、淡の親。

 後半戦で淡が和了れたのは、初っ端の二回のみ。まるで竜頭蛇尾だ。優勝するには、とにかく和了らなければ…。

 しかし、絶対安全圏もダブルリーチもキャンセルされている。本当に穏乃の能力は忌々しくてならない。

 それに打ち勝つつもりで春季大会以降、努力してきたはずだが、それでも勝利への道筋が見えない。

 

 ただ、自棄を起こしてはならない。そうなった時点で自分の敗北が決まる。

 安くても良い。この親で連荘する。

 そう淡が思っていた矢先だった。

「ロン。8000。」

 湧が穏乃に振り込んだ。

「(クッ!)」

 思わず淡の顔が歪んだ。大事な親番を流されてしまったからだ。

 しかし、まだ白糸台高校の優勝が無くなったわけではない。今の点差でも衣から役満を直取りすれば逆転優勝できる計算だ。

 それに、もし衣が誰かに振り込めば、それだけ逆転出来る可能性は上がるはず。まだ諦める必要はない。

 

 

 南二局、衣の親。ドラは{2}。

 この親番での衣の選択肢は二つ。

 一つ目は、ここでも稼ぎに出ること。もっと点差を広げられれば、穏乃と言えども衣に追いつくのは不可能になる。

 二つ目は、この局では能力を蓄え、敢えて誰かに安手を差し込むなどして自分の親を流し、続く南三局、オーラス共に衣が、どんな手でも良いからさっさと和了って優勝を決めること。それこそ、安手で流せば良い。

 しかし、虐殺一本で生きてきた衣だ。後者のような麻雀は、本来、衣の性に合わない。

 その手の打ち方は、むしろ点数調整に長けた咲の領分だろう。

 やはり穏乃の様子を見ながら、安手ではなく納得できる和了りを目指す。それでこそ天江衣だ!

 

 一層、靄が激しくなってきた。

 そのような中で、衣は穏乃から聴牌気配を感じ取った。能力で感じたのではない。穏乃の仕草を観察して、そう思ったのだ。

 穏乃の捨て牌から察するに、待ちは{258}。

 そこに湧が{5}を捨ててきた。

 しかし、特に穏乃からの反応は無い。

「(また、東一局一本場と同じように衣からの直取りを狙っての見逃しか? でも、衣は同じミスはしない。)」

 

 次巡、衣の手牌は、

 {二三四六七八[⑤]⑥⑦⑦588}  ツモ{4}

 これで聴牌。

 

「({36}待ち! この局は、衣がもらった!)」

 そして、ここから衣は勢い良く{⑦}を捨てた。しかし、

「ロン。」

 これで穏乃に和了られた。

「えっ?」

 衣は、信じられないとでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

 開かれた穏乃の手牌は、

 {三四[五]⑦⑦22234[5]67}

 {⑦258}の変則待ちだった。衣の読みは間違っていなかったが、完全ではなかった。

 

「タンヤオドラ5。12000。」

 まさかのハネ満直撃。

 これで、穏乃と衣の点差は、前後半合わせて25900点まで縮まった。

 

 

 南三局、湧の親。ドラは{2}。

 サイの目は7。最後の角の後が最も長いパターンだ。

 

 後半戦での衣と穏乃の点差は5200点だが、前後半戦トータルなら普通の麻雀で言えば圧倒的なリードをしているはずだ。

 それなのに、衣には大きなプレッシャーがかかっていた。

『もう振り込めない!』

『一歩間違えば逆転される!』

 そう感じるほど穏乃の猛追が恐ろしかった。

 

 このまま恐れていては穏乃の思う壺。衣は、頭を切り替えることにした。

 自分の親番は流れたが、湧の親を流し、穏乃の親を蹴れば優勝できる。

 今は、能力に頼らずに打とう。もう、性に合う合わないは関係ない。チームの勝利のためだ。最も穏乃の支配が強くなるオーラスに向けてエネルギーを溜めておこう。

 なので、ここは安手で良いから和了れば良い。いや、手なりに打って安手を和了って流す。そう考えることにした。

 

 絶対安全圏は発動していなかった。しかし、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけてきた。どうやら、ダブルリーチの能力一本に絞って淡は勝負を賭けてきたようだ。

「ポン!」

 衣は、淡のリーチ宣言牌である{中}を鳴き、さらに次巡、

「ポン!」

 今度は穏乃が捨てた{白}を鳴いた。敢えて{白}を安牌として残さずに、早和了りを選択したのだ。

 もし、ここで淡に振り込んでも、暗槓前ならダブルリーチのみ。安手を振って流せる。

 

 既に役はある。

 あとは手を完成して和了るか、淡に安手を振るか、衣にとっては、それだけのはずだ。

 

 穏乃の山支配の中、普通に打っていては手牌とツモが巧く噛み合わない。そこで衣は、ツモの流れを重視して、元からあった嵌張や辺張を捨てていった。

 これが功を奏したのか、衣は、何とか索子の混一色手を聴牌した。しかもドラ3。ハネ満手だ。これなら自らが和了って場を流せるはず………。

 しかし、思いの外、時間がかかった。既に最後の角が迫っている。恐らく、同巡で淡が暗槓してくるだろう。

 

 衣の手牌は、

 {224[5]78南}  ポン{白横白白}  ポン{横中中中}  ツモ{6}

 当然、ここから打{南}。

 

 同巡に、

「カン!」

 やはり、淡が{⑨}を暗槓してきた。

 最後の角の直前の牌。これで丁度、最後の角を越える。

 となれば、次巡で誰かが振り込むか淡がツモるか…。それがお決まりのパターンだ。しかも、{⑨}は穏乃に能力をキャンセルされない限り槓裏になる。

 嶺上牌は{北}。これを淡はツモ切りした。

 

 続く衣のツモは、ドラの{2}だった。

 ここで、{8}切りで{347}の変則待ちに変えれば倍満になる。しかし、ここで衣は嫌な予感がした。

 人間としての第六感だ。

「(オーラスのために取っておいた力だが、ここで使わないとマズイ気がする。)」

 衣は、一気にオーラを開放して、他家の手牌を自前のレーダーで確認した。

 

 淡の手牌は、

 {一二三四五六①①56}  暗槓{裏⑨⑨裏}

 待ちは{47}。

 恐らく、ダブルリーチ槓裏4のハネ満。12000点。

 

 湧の手牌は、

 {1116688南南南北北北}

 待ちは{68}。ツモられたら四暗刻。ヤバい手だ。

 振り込んでも門前混一色南対々和三暗刻の親倍。24000点。

 ちなみに、この手は、{5}ならアメリカの役満、南北戦争になる手だ。ここでは認められない和了りだが…。

 

 穏乃の手牌は、

 {[五]五六六七七②③④[⑤][⑤]34}

 待ちは{25}。

 平和タンヤオ一盃口ドラ3のハネ満。12000点。

 

 まさか、手牌の全てが誰かの和了り牌になっていようとは…。

 全ては{白}を鳴いたことが原因であろう。手を進めることばかりに気を取られ過ぎていた。

 いや、いっそのこと暗槓前に淡に差し込んでおけば良かった。

 

 優勝するには穏乃への振り込みは避けなければならない。穏乃との前後半戦トータルの差が1900点まで一気に縮められてしまう。

 湧への振り込みは大き過ぎる。それこそ、穏乃に振り込んだのと同じで、穏乃との前後半戦トータルの差を1900点にする。

 いや、それ以前に湧に前後半戦トータルを逆転される。それは、さすがにマズイ。

 これは、淡に振り込むしかない。それで、あわよくば槓裏が乗らないことを期待するだけだ。

 

 衣は、

「これでどうだ!」

 と言いながら{7}を切った。

 当然、淡が、

「ロン!」

 見逃さずに和了った。そして、裏ドラを確認すると…たしかに槓裏表示牌は{⑧}。淡の能力はキャンセルされていなかった。

 いや、穏乃は敢えてキャンセルしなかったのだろう。衣との点差を縮めるために。

「ダブリードラ4。12000!」

 これで、淡の後半戦順位が4位から3位に上がった。

 

 後半戦の点数は、

 1位:穏乃 108300

 2位:衣 101500

 3位:淡 100500

 4位:湧 89700

 

 そして、前後半戦の現段階でのトータルは、

 1位:衣 218700

 2位:穏乃 204800

 3位:淡 191300

 4位:湧 185200

 トップの衣とラスの湧の点差は33500点。一応、衣から倍満を直取りするか役満をツモ和了りすれば湧も逆転できる。そういった意味では、まだどのチームにも優勝の可能性が一応ある。

 

 淡が逆転するには、衣から倍満を和了るか三倍満をツモ和了りするかが必要だが…、ダブルリーチ槓裏4だけでは優勝できない。手作りが必要だ。

 穏乃はラス親なので一回で勝負を決める必要は無い。

 

 

 そして迎えたオーラス、穏乃の親。

 前後半戦通じて最も靄が濃くなった。いや、これは濃霧と言うべきであろう。穏乃の能力が最高潮に達したのだ。

 淡の絶対安全圏もダブルリーチの能力も完全にキャンセルされた。衣の能力の全ても、湧のローカル役満の能力も、全てが消えた。

 そして、たった四巡で、

「ロン。タンヤオのみ、2000。」

 穏乃が門前で湧から和了った。しかし、これでは、まだ前後半戦トータルで穏乃は衣を逆転していない。当然、穏乃は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 卓上には濃霧がかかったままだ。しかし、牌が見えないわけではない。

 衣は、

「(衣が和了って勝負を決める!)」

 クズ手で良いから和了りだけを目指した。そして、穏乃が捨てた衣の自風である{西}を、

「ポン!」

 一鳴きした。これで二向聴。

 次巡、手が進んで一向聴、さらに次巡、衣は聴牌した。そして、

「(深山幽谷の化身! 勝負だ!)」

 勢い良く切った牌で、

「ロン。タンピンドラ1。5800の一本場は6100。これで和了り止めにします。」

 衣は穏乃に振り込んだ。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:穏乃 116400

 2位:淡 100500

 3位:衣 95400

 4位:湧 87700

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:穏乃 212900

 2位:衣 212600

 3位:淡 191300

 4位:湧 183200

 たった300点差、まさに一本場分の差で穏乃が逆転して阿知賀女子学院が大将戦の勝ち星を掴み取った。

 

 これで順位は、

 1位:阿知賀女子学院 勝ち星2(総合得点:1620600)

 2位:龍門渕高校 勝ち星1(総合得点: 935000)

 3位:白糸台高校 勝ち星1(総合得点: 904500)

 4位:永水女子高校 勝ち星1(総合得点: 539900)

 阿知賀女子学院が優勝の座を勝ち取った。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 対局後の挨拶を終えると、大将の四人は、そのまま対局室で待機させられた。

 暫くして、先鋒から副将までのメンバーと補員、監督、コーチ達が対局室に入室してきた。これから表彰式が行われるのだ。

 

 白糸台高校メンバーの首に銅メダル、龍門渕高校メンバーの首に銀メダル、阿知賀女子学院メンバーの首に金メダルが順にかけられていった。その様子は、まるで春季大会のデジャブーであった。

 4位だけが違う。春季大会では、その場に居たのは臨海女子高校、今回の4位は永水女子高校だ。

 

 優秀選手には、永水女子高校の神代小蒔、白糸台高校の宮永光、龍門渕高校の龍門渕透華、阿知賀女子学院の高鴨穏乃が選ばれた。

 四人とも、決勝戦での活躍が高く評価されたと言って良いだろう。

 

 本大会では、審査員特別賞が設けられた。惜しくも優秀選手に選ばれなかったが、その活躍が非常に目を惹いた選手に贈られることになった。

 受賞したのは龍門渕高校の天江衣、阿知賀女子学院の松実玄、粕渕高校の石見神楽の三人であった。

 衣は、準決勝戦までの大虐殺振りが、玄は決勝戦で見せた奇跡とも言える六回の大三元和了が、神楽は準決勝戦で見せた大活躍が評価された。

 

 最優秀選手には阿知賀女子学院の宮永咲が選ばれた。

 これは、言うまでも無いだろう。幻の役満とも言える四槓子を、あれだけ好き放題和了っていたのだから…。

 

 インターハイ団体戦は、大将戦での大逆転劇を演じた阿知賀女子学院の、春夏二連覇達成で幕を閉じた。

 しかし、まだインターハイは終わらない。一日置いて個人戦が執り行われる。




おまけ

咲 -Saki-とユリア100式のクロスオーバーです。
五十七本場おまけの続きになります。
本作は、マトモに書くと余裕でR-18になります。特に久HT-01は手が早い可能性があるため、ちょっとでもR-18要素が疑われた時点で積極的に染谷まこが登場し、時間軸超光速跳躍を発動してくれます。R-18の描写を全てスっ飛ばしてくれる素晴らしい特殊能力です。
これまで、憧100式の発明者として阿笠博士には、毎回特別出演していただいておりましたが、今回は登場しません。灰原哀と江戸川コナンも出番はありません。


憧 -Ako- 100式 流れ十三本場 みんながハイ 団体で淫活?

阿笠博士の研究室から、憧シリーズ最新型の設計図と、これまで作り出された五体の憧シリーズの資料が盗まれた。
盗んだのは黒の組織。そして、これらの情報を元に、黒の組織ではAI搭載人型性欲処理具、自律型ダッ〇ワイフ、久HT-01を作り出した。
ジン曰く、これはハニートラップ要員としてであり、自分が楽しむためではないとのことだったが…。
しかし、久HT-01が黒の組織の研究室から逃げ出す際に起こした火災でジンは帰らぬ人となった。


久「ここまで逃げてくれば大丈夫よね?」

久「この電磁波は、これからは絶対に出さないようにしないといけないわね。思ったより危険だわ。今回は、逃げ出すために必死で出したけど…。」

久「でも、あんな大火事にしちゃって、絶対に死人…、出たわよね。いくら悪の組織でも…。悪の組織と戦う最終兵器とか、一瞬、憧れたけど、それって結局、人殺しと同じなのよね…。」

久「でも、まあ、今回は仕方がないか!」←開き直った顔


久HT-01は、まだジンとアガサ博士が死んだことを知らなかった。
しかし、被害者ゼロはありえないと思い、自己嫌悪に陥って………はいなかった。
元々ハニートラップ要員としてAIに機械学習を施されているためだろう。
人を殺すのに躊躇いが無いようだ。
それはそれで危ない存在になり得ると思うが………。

例によって、久HT-01は、憧100式達が暮らす街に逃げてきた。元の設計者が阿笠博士だけに、行動パターンは似ているようだ。

また、久HT-01は、憧シリーズとベースは同じなので、何らかの形で食事にありつけさえすれば動き続けることが出来るように造られていた。
ただ、これからどうやって存在し続けようか?
どうやって食事にありつこうか?
それは大きな問題であった。今の久HT-01には頼れる相手がいないのだ。

この頃、咲は大学の先輩………美穂子と哩とゆみと一緒に雀荘にいた。
美穂子は、咲のアパートの近く………と言うか、京太郎のアパートの向かいのアパートに住んでいた。

彼女の人並外れた美しい容姿は、男性であれば殆どの者達が率先して自分の嫁にしたいと思うレベルであった。
世の殆どの女性達も、嫉妬を通り越して憧れの念しか抱かない。
そんな究極の美を与えられたような美穂子に、当然のことながら京太郎は強く憧れの念を抱いていた。
しかも、家事も一級品。
非の打ち所の無い存在だ。
問題があるとすれば、基本的に美穂子は男性には興味を示さないことであろうか?
ただ、これは言い換えれば、京太郎が美穂子の近くにいても、京太郎の一方通行にしかならない。つまり、京太郎が美穂子に取られることは無い。
これは、咲にとって安心材料であった。
まあ、それも過去の話だが…。


哩「(ハネ満聴牌。咲が起家で親だけど、ここは攻める!)」

哩「リーチ!」

咲「それ、カンです。」

哩「えっ?」

咲「もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 対々三暗刻三槓子ダブ東混一嶺上開花。二本場で36600! 哩先輩のトビで終了です。」

哩「あちゃー、やられたか。」

ゆみ「今日も咲ちゃんの一人勝ちか。」

美穂子「もいっこカンも出ましたしね。」

美穂子「ところで、咲さんのところに転がり込んだ子がいるって話を和ちゃんから聞きましたけど?」

咲「えっ? 何で和ちゃんは知ってたんでしょう?」

美穂子「咲さんの家に行ってドアを開けたら女の子がいたって。咲さんが寝取られたって嘆いていたわよ!」

咲「えっ? それって、もしかして、また勝手に合鍵を作ったのかな?」

美穂子「鍵を渡していたんじゃないの?」

咲「それは絶対有り得ません。ストーカーに鍵を渡す人間が何処にいますか?」

美穂子「和ちゃんって、ストーカーだったの?」

咲「もう、不動産屋さんにお願いして何回も鍵を付け替えたんですけど、いつの間にか合鍵を持っていて…。」

美穂子「それはそれで怖いわね。」

咲「そもそも、寝取られるも何も、和ちゃんのストーカー行為が怖くて、私の方から距離を置いてたんですけど…。」

美穂子「和ちゃんのことを避けてたってことね?」

咲「はい。」

美穂子「でも、和ちゃんは避けられてるなんて思っていないようだったけど…。それで、その女の子って、どんな感じの子?」

咲「絹恵ちゃんのことですか?」

美穂子「絹恵ちゃんって言うのね。」

咲「はい。とても美人な子です。でも、先輩にはあげませんよ。」

美穂子「先に言われちゃった。」←男性に興味なし

咲「咲だけに。」

哩「でも、なんか、最近、そう言うのが多いのかな?」

美穂子「えっ? もしかして、若い女の子が転がり込んで来るのが?」

哩「そう。」

美穂子「嘘? 私のところには来てくれていないけど?」

哩「実は、私のところにも一人いて。姫子って名前なんだけど…。」

美穂子「えっ? なにそれ? はじめて聞いたわよ!」

哩「言ってなかったからね、誰にも。それから、うちのアパートの同じ階、四部屋とも若い女の子が転がり込んでいるのよ。」

咲「そうなんですよね。京ちゃんのところの憧ちゃんが最初で、その隣の俺君のところに淡ちゃん。その後、哩さんのところにも、その隣の内木さんのところにも…。」

美穂子「そうなんだ…。それで、もしかして毎晩Hなことを?」

咲・哩「「まあ、それなりに…。」」

美穂子「(羨ましい)ええと、ゆみは桃子ちゃんと一緒に暮らしてるのよね?」

ゆみ「まあね。」

美穂子「なんか、私だけ孤独な感じ。」


丁度この時、雀荘のドアが開き、憧123式ver.絹恵と憧108式ver.姫子が入ってきた。二人とも、オーナーを迎えに来たのだ。


咲「絹恵ちゃん?」

哩「姫子?」

美穂子「えっ? この子達が二人の?」

咲「そうです。この子が絹恵ちゃんです!」

哩「こっちが姫子。」

美穂子「どっちもカワイくて、なんか羨ましいを通り越して悔しい。」

咲「では、哩先輩のトビで区切りが付きましたし、では、これで私は帰ります。」

哩「じゃ、私も。」

ゆみ「私のほうも桃子が待ってるしな。」

美穂子「これで終わり? まっ、仕方がないかしら。」


雀荘を出ると、美穂子は哩と憧108式ver.姫子と一緒にアパートに向かった。
方向が同じなのだから、まあ、別に普通の話だが…。
ただ、やはり美穂子としては哩と憧108式ver.姫子には気を使う。


美穂子「じゃあ、私、ちょっとコンビニ寄ってくので。」


そう言って美穂子は、哩と憧108式ver.姫子と別れた。
一応、言った手前、コンビニで明日の朝食を買った。まあ、食べないものでは無いから無駄にはならないが…。

公園の前を通った時、美穂子は公園のベンチに一人の女性が座っているのを見かけた。
こんな時間にどうしたのだろう?
ちょっと気になって、美穂子は、その女性に声をかけた。


美穂子「どうかしましたか?」

久「あら、綺麗な方。」

美穂子「(ヤダ、この人、私のモロタイプ!)」

久「ちょっと、行く当てが無くて困ってたとこなの。」

美穂子「(もしかして、これって!)」

久「(この女性、ホント、綺麗な人だけど、悪い人への免疫がなさそう。これなら簡単に落とせそうね。)」

久「一晩だけ泊めてもらうことは出来ないかしら?」

美穂子「(これってチャンスかも!)」

久「あと、できれば食事も。」←随分と図々しい

美穂子「イイですよ。」

久「じゃあ、お言葉に甘えて。」


突然、まこが腕まくりを始めた。


まこ「ここから先はマズイじゃろ! 久のことじゃから、アパートに入った途端にR-18確定じゃ!」

まこ「もう、この時点で時間軸を跳躍させる必要があるじゃろ!」

まこ「それにしても、久の相手はワシじゃないんか?」

春「私にして欲しかった。」

尭深「私でありたかった。」

洋榎「それ、ちょっとおかしいやろ! うちじゃないんか? 久の相手は麻雀で決めた方がエエんちゃうか?」

胡桃「うるさいそこ! 私じゃないの?」

明華「私は?」

揺杏「お姉さん、私じゃないの?」


取扱説明書:久HT-01にはインプリンティング機能はありません。そのため、オーナー制度はありません。

取扱説明書:久HT-01は男女問わずハニートラップを仕掛ける機能が搭載されています。そのため、ジェンダーレス仕様になっております。

取扱説明書:久HT-01は効率的にハニートラップを仕掛けるため、優れたテクニックをAI学習させております。

取扱説明書:久HT-01は、貞操観念を持ち合わせておりません。そのため、何人でも平気で相手にします。

取扱説明書:100人乗っても大丈夫です。

取扱説明書:100人に乗っても大丈夫です!


果たして、美穂子は久HT-01を自分だけのものに出来るのだろうか?




翌朝。


久「(チョロイ人。でも、綺麗な人を相手に出来て私も楽しいから、しばらくここに居つかせてもらおう。)」


どうやら、久HT-01は想像以上に性格が悪かったようだ。
さて、主人公の憧100式はと言うと、今日も憧105式ver.淡と一緒に咲のアパートに行って憧123式ver.絹恵と一緒に駄弁っていた。


絹恵「昨日、ちょっと激しくヤり過ぎて、咲ちゃん今朝寝坊してしまって。」

憧「まあ、京太郎もタマにあるよね、そう言うこと。」

淡「(タマだけにヤり過ぎってこと?)」

絹「でも、今日、一限が必修の英語で…。それ遅刻させちゃって、それで、ちょっと落ち込んでるのよ。ヤり過ぎたって。」

淡「(オチ〇コ出てる?)」←落ち込んでるを聞き違えてる

淡「(別に今は出てないけど? まあ、昨日の夜はオチ〇コ出てて、ヤり過ぎってのは分かるけど…。)」

憧「ねえ、話は飛ぶけどさ、俺君と淡、昨日、留守だったじゃない?」

淡「うん!」

憧「どこか行って来たの?」

淡「都内で各都道府県のお土産コーナーみたいなのがあって、そこに行ってきたのよ。そこで、美味しいマンゴージュースを買ってきた!」

憧・絹恵「「(マ〇コジュース? それって、もしかしてHする時に女性から出るヤツ?)」」

絹恵「そんなの売ってるんだ!!」

憧「で、どれくらいの量で売ってるの?」

淡「1リットルビンで売ってたよ! 俺君が気に入っちゃって、2本買ってきたの!」

憧・絹恵「「(リットルサイズ? じゃあ、もしかしてローションか何かかな? 美味しくて口に入っても大丈夫ってやつで?)」」





と、まあ、今日も平和に勘違いトークが続いていた。



続く?


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五十九本場:インターハイ個人戦

個人戦予選はスルーします。
決勝トーナメントの一回戦は、さくっと書きます。


 団体戦の翌々日、各都道府県代表選手による個人戦がスタートした。

 参加者は、総勢250人を越える。

 まず、初日はスイスドロー形式で25000点持ち30000点返し、オカありウマなしで半荘全十回戦が行われる。

 四回戦が終了した時点で人数を上位128人に絞り、六回戦が終わった段階で人数を上位64人に絞る。

 そして、十回戦終了時点での上位16名が決勝トーナメントに進出する。

 

 ルールは赤牌四枚入り、大明槓による責任払いあり、包あり、トビありと、基本的には団体戦と同じルールだが、個人戦の場合は持ち点が25000点のためダブル役満以上は無しとなっていた。ダブル役満を和了ろうがトリプル役満を和了ろうが、役満以上は全てシングル役満として扱う。

 例えば、東初でいきなり親のダブル役満をツモ和了されたら、それだけで全員トビで終わってしまう。どうやら運営側は、そんなラッキーパンチ一発で全てが決まってしまうのは良くないとの考えを持っているようだ。

 

 また、今回のルールでは西入が無しになっていた。つまり、仮に全員が25000点のままオーラスを終えても対局終了となる。

 

 強者同士が潰し合わないようにAIが上手に対戦表を作っていた。そのため、咲は予選で衣や光、小蒔、憩、淡と言った魔物仲間とは当らなかった。

 また、同校同士の潰し合いも基本的に回避された。

 それ故だろうか、咲は毎回半荘138点以上の点数を確保し、合計1388点でブッチギリの予選1位通過を達成した。

 春季大会の記録を6点上回る新記録だ。

 

 2位は三元牌支配が続く玄だった。

 阿知賀女子学院の選手が予選でワンツーフィニッシュを決め、阿知賀女子学院麻雀部後援会は大変な賑わいを見せていた。

 特に純正阿知賀女子学院の生徒である玄が全国予選2位に輝いたのは、阿知賀女子学院設立以来の快挙と言える。

 

 

 なお、予選順位は以下の通りであった。

 1位:宮永咲(阿知賀女子学院)

 2位:松実玄(阿知賀女子学院)

 3位:天江衣(龍門渕高校)

 4位:宮永光(白糸台高校)

 5位:神代小蒔(永水女子高校)

 6位:荒川憩(三箇牧高校)

 7位:大星淡(白糸台高校)

 8位:石見神楽(粕渕高校)

 9位:原村和(白糸台高校)

 10位:石戸明星(永水女子高校)

 11位:南浦数絵(臨海女子高校)

 12位:鶴田姫子(新道寺女子高校)

 13位:新子憧(阿知賀女子学院)

 14位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 15位:片岡優希(臨海女子高校)

 16位:十曽湧(永水女子高校)

 

 

 ここからシードの振り分け方に従ってトーナメント表に割り当てる。その結果、対戦表は以下の通りになった。

 

 A卓:宮永咲、石見神楽、原村和、十曽湧

 B卓:宮永光、神代小蒔、鶴田姫子、新子憧

 C卓:天江衣、荒川憩、南浦数絵、高鴨穏乃

 D卓:松実玄、大星淡、石戸明星、片岡優希

 

 

 なお、惜しくもベスト16に入れなかった選手は以下の通りであった。

 17位:多治比真祐子(松庵女学院)

 18位:鷺森灼(阿知賀女子学院)

 19位:真屋由暉子(有珠山高校)

 20位:百鬼藍子(后土学園)

 21位:対木もこ(覚王山高校)

 22位:船久保浩子(千里山女子高校)

 23位:上重漫(姫松高校)

 24位:龍門渕透華(龍門渕高校)

 25位:愛宕絹恵(姫松高校)

 26位:佐々野みかん(白糸台高校:佐々野いちご妹)

 27位:中田慧(新道寺女子高校:池田華菜分身)

 28位:多治比麻里香(白糸台高校:多治比真祐子妹)

 29位:寺崎弥生(射水総合高校:寺崎遊月妹)

 30位:二条泉(千里山女子高校)

 

 

 この順位を見て泉は、

「3年生を除くと17位って…、このままやと、来年、ベスト16に入れない計算になるやんか!」

 結構ショックを受けていた。

 しかも、東横桃子のように鹿児島県大会で個人4位………、つまり実力はあっても全国枠の3位に入れなかった強豪選手もいる。それに、来年の新一年生に魔物がいない保証も無い。例えば夢乃マホとか…。

 それを考えると泉の立ち位置は結構厳しいものがあるだろう。

 

 

 決勝トーナメント一回戦及び準決勝戦は、半荘1回のみの戦いになる。

 一回戦A卓は、起家が和、南家が神楽、西家が咲、北家が湧でスタートした。なお、一回戦は4卓同時の対局であった。

 

 東一局、和の親。

 この半荘は、咲vs和の対決である。当然、咲は和との約束もあって手加減抜き、全力で戦いに挑む。

「カン! ツモ! タンヤオ嶺上開花! メンチンドラ3。6000、12000!」

 いきなり咲の三倍満和了が炸裂した。

 

 

 東二局、神楽の親。

 ここでは、

「ロン! 12000!」

 神楽が湧から親満を和了った。

 丁度この時、湧はローカル役満、東北新幹線を聴牌したところだった。

 他家の手牌が全て透けて見える神楽は、湧が聴牌直後に切る牌を知って、それで待っていたのだろう。

 

 そして、東二局一本場、

「ロン! タンピンドラドラ。7700の一本場は8000!」

 今度は咲が湧からサクっと和了り、湧のトビで終了した。

 和は、

「何も出来ませんでした。」

 和了りもしなければ振り込みもしない。ただ、その場にいただけで終わってしまった。

 

 

 一回戦B卓は、起家が憧、南家が小蒔、西家が姫子、北家が光でスタートした。

 

 東一局、憧の親。

 ここでは、光がいきなり高打点を目指し、

「ロン! タンピン三色ドラ4。16000!」

 和了り役4翻で、ドラと赤牌が計4枚の手を姫子から直取りした。光は、小蒔の纏う雰囲気から、早々にリードしておかないとマズイと判断したようだ。

 

 

 東二局、小蒔の親。

 初っ端から大失点を食らった姫子が、少しでも手を上げようと、

「リーチ!」

 勝負してきた。半荘一回勝負のため、守りよりも攻めに出たといったところだろう。

 しかし、勝負してきたのは姫子だけではなかった。前局で光が見せた和了りと張り合うかのように、今度は小蒔が、大きな手を張っていた。

 次巡、姫子は一発目に引いた牌では和了れず、それを捨てた。すると、

「ロン。メンチンドラ2。24000。」

 これが小蒔の和了り牌であった。

 しかも親倍。

 この和了りで姫子が箱割れして終了となった。

 和に続いて憧も、

「何もしないで終わったわ。」

 ただ、その場にいただけの人となった。

 

 

 一回戦C卓は、起家が数絵、南家が衣、西家が憩、北家が穏乃でスタートした。

 数絵と穏乃は、共にスタートダッシュが苦手である。特に数絵は東場が弱い。

 

 東一局は、

「ロン。8000ですー!」

 早々と数絵が憩に振り込んだ。

 

 

 そして、東二局、数絵は、

「ロン! 18000!」

 今度は衣に振り込んだ。

 これで数絵のトビで終了した。

 その結果、穏乃も、

「私、もしかして座ってただけ?」

 ただ、その場にいただけの人で終わってしまった。

 深山幽谷の化身のスイッチが入る前にスタートダッシュで決着をつけたのだ。衣と憩の作戦勝ちである。

 

 

 一回戦D卓は、起家が優希、南家が淡、西家が玄、北家が明星でスタートした。

 この日の淡は準備満タンの胸バージョン。当然の如く玄は、

「オモチ・オモチ・オモチ………。」

 明星と淡に挟まれて嬉しそうな表情を見せていた。

 

 東一局、優希の親。

 いつもの如く東風の神の出親。

 ところが、東場に絶対的な自信を誇る優希でさえ、絶対安全圏による支配に押され、配牌六向聴牌だった。

 ここからムダツモ無しで優希は手を進めて行ったが、五巡目で淡に、

「ツモ。2000、4000。」

 満貫を和了られてしまった。

 この和了り手はドラを含んでいた。このことから、玄のドラ支配が発動していないことが分かる。

 

 

 東二局、淡の親。

 ここでも優希の配牌は六向聴牌だった。そして、彼女が聴牌する前に、

「ツモ! 4000オール!」

 淡が親満ツモを決めた。

 

 しかし、東二局一本場。

 優希の配牌は。やはり六向聴牌だったが、ここから六巡目の最短で聴牌し、

「リーチ!」

 聴牌即リーチで勝負に出た。そして、

「一発ツモだじぇい! メンタンピン一発ツモドラ4の4100、8100だじぇい!」

 待望の倍満を和了った。

 

 

 東三局、玄の親番。

 ここでも当然、淡は絶対安全圏を発動した。ただ、淡はツモの巡り合わせが悪く早々に和了ることができずにいた。

 そして、中盤に入り、

「カン!」

 玄が{中}を暗槓した。嶺上牌をツモると、

「もう一つ、カンです!」

 {發}を暗槓した。続く嶺上牌をツモり、

「もう一つ、カンします!」

 続いて{白}を暗槓し、その次の嶺上牌で、

「ツモ! 大三元! 16000オールです!」

 この一撃で玄が首位に立ち、同時に明星がトビで終了した。

 明星もヤオチュウ牌支配を発動していたはずなのだが、和了りまで持って行けずに終わってしまった。

「私って、ただのツモられ貧乏?」

 これが対局後に明星が発した第一声だった。

 

 

 AB卓各上位二名による準決勝戦は、咲、神楽、光、小蒔の四人で、CD卓各上位二名による準決勝戦は、衣、憩、玄、淡の四人でそれぞれ行われる。

 また、AB卓各下位二名による戦いは、和、湧、姫子、憧の四人で、CD卓各下位二名による戦いは、数絵、穏乃、明星、優希の四人でそれぞれ行われる。

 これら四試合も、一回戦と同様に同時開催された。

 

 

 まず、AB上位卓だが、起家が小蒔、南家が神楽、西家が咲、北家が光で開始された。

 既に小蒔には最強の神が降臨していた。

 ただ、神が力を100%発揮しては、人間では全くもって相手にならない。

 そこで、神は他家の和了り牌を読むことは出来るが、それ以外の危険牌を読み切ることは出来ないように自らに制限をかけていた。

 とは言うものの、それでもツモれば鬼ヅモで欲しいところがドンドン入るし、他家の和了り牌は完全に読み切っている。

 正直、普通の人間では、まるっきり歯が立たない次元の麻雀を打つ。

 

 しかし、昨年のインターハイ個人戦では、その神が決勝卓の前後半戦トータルで4位………つまりラスだった。その時の優勝者が咲、準優勝者が照だった。

 

 この準決勝戦の相手は咲と光。昨年インターハイの個人優勝者と、優勝者&準優勝者の従姉妹。神にとっては待ちに待ったリベンジ戦だった。

 

 神楽にも露子の霊が降りてきていた。

 露子は、かつて愛宕雅恵を破りインターハイ個人戦で優勝している。

 勿論、露子自身も、その頃からさらに雀士として成長しているし、加えて神楽の能力で他家の手牌が全部透けて見えている。普通なら負ける要素は無い。

 ただ、咲は小蒔に降臨した神をも破る相手。

 加えて自分の娘………玄を一つ高いステージに成長させてくれた恩人でもある。

 そんな相手と手合わせするチャンスなど滅多に無い。

 露子は、咲とは是非麻雀で一度手合わせしたいと思っていたし、今、まさに、その願いが叶えられた瞬間であった。

 

 小蒔(最強神)からも、神楽(露子)からも、ただならぬオーラが湧き上がっていた。

 この二人の雰囲気を感じ取ってか、咲は卓に着くとすぐさま靴下を脱いで最強モードに入った。

 

 

 東一局、小蒔の親。

 出親が神を降ろした小蒔では、他家は東一局で様子見などできない。そんなことをしていたら、いきなり役満を和了られてしまう。

 当然、咲は早々に仕掛ける。

「ポン!」

 小蒔が捨てた{8}を鳴いて、次巡、

「カン!」

 {8}を加槓した。

 神楽………いや、露子は、咲と小蒔の手牌を透視して驚いた。

 

 咲の手牌は、

 {7779東西西發發發}  明槓{8横888}  ツモ{西}

 西發混一色対々和三暗刻の倍満聴牌。

 当然、ここから打{東}。

 

 一方、小蒔の手牌は、

 {一一一二三四五六八九九九發}

 ここにツモ{七}。

 {發}を切れば純正九連宝燈聴牌。親の役満!

 いきなり小蒔はフルスロットルだ。

 

「(こんなに早く、こんな手が出来上がるなんて…。やっぱり、普通じゃないようね、この人達。)」

 露子は、ここで小蒔が{發}を切るものと思っていた。しかし、小蒔は{發}切りをどうも躊躇しているようだった。

 この時、小蒔に降臨した神は、昨年インターハイ個人決勝戦での責任払いのことを思い出していた。

 あれは前半戦南一局。咲に{發}を大明槓され、倍満を責任払いさせられた。しかも、もし嶺上牌が{5}ではなく{2}だったら緑一色になっていた手。

 やはり、ここで初牌の{發}は捨てられない。聴牌を取り打{二}。

 露子は{五}をツモ切りした。

 そして、咲のツモ順。

「カン!」

 ここで、咲が{西}を引いて暗槓した。そして、嶺上牌を引き、

「ツモ! 西發混一色対々和三暗刻嶺上開花。4000、8000!」

 いきなり倍満を和了った。

 

 もし、小蒔が{發}を捨てたなら、咲はそれを大明槓したかもしれない。そして、嶺上開花で小蒔はハネ満の責任払いになったであろう。

 倍満ツモでもハネ満責任払いでも、咲との点差は24000点になるが、小蒔にとっては倍満ツモされたほうが自身の失点が少なくて済む。これで正解なのだろう。

 

 

 東二局、神楽の親。ドラは{三}。

 ここでも小蒔は順調に手牌を萬子一色に染めて行く。そして、見る見るうちに純正九連宝燈の二向聴まで持ってきた。

 その同巡、

「リーチ!」

 今度は光が攻めてきた。

 露子は、神楽の能力を使って光の手を透視した。

 

 光の手牌は、

 {三四[五]五六七[⑤]⑤34567}

 {258}の三面待ち。メンタンピンドラ3の出和了りハネ満の手。和了り役は3翻と、第一弾の和了りとしては少々無理をしている感じがある。

 ただ、相手が咲に小蒔だ。光としても、多少は無理をしなければ勝てないと判断しているのだろう。決勝トーナメント一回戦の時と同じだ。

 そして次巡。

「一発ツモ! 4000、8000!」

 裏ドラは乗らなかったが、一発ツモが付いて倍満になった。

 

 

 東三局、咲の親番。

 ここで露子は、小蒔から今までに無い強烈なオーラを感じ取った。この親番では、何があっても咲には和了らせない。そんな気迫だ。

 小蒔に降りた神は、咲も光も神楽(露子)も振り込んでくれるとは思っていない。なので、当然ツモ和了りを狙っている。

 九連宝燈を一番ツモ和了りしたいのは自分が親の時。そして、二番目にそれをツモ和了りしたいのは咲が親の時だ。理由は簡単。咲へのリベンジを果たすためには、咲の点棒をより多く奪うのがベストだからだ。

 ならば、小蒔(神)は、東一局同様、この局でも自分の能力を最大限に開放する。フルスロットルだ。

 ここでも、小蒔の手牌は、当然の如く萬子に染まって行った。

 そして、とうとう、

「ツモ。8000、16000。」

 小蒔が純正九連宝燈をツモ和了りした。

 

 この段階での点数と順位は、

 1位:小蒔 45000

 2位:光 29000

 3位:咲 21000

 4位:神楽(露子) 5000

 小蒔の断然トップ、露子のダンラスとなった。しかも、まだ東場である。露子としても、これだけ派手な削られ方は、公式戦では初めてだった。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{5}。

 露子には、もう後が無い。ここで何が何でも和了りたい。

 この局は、小蒔から放たれるオーラが若干弱まっているように感じた。

 咲、光、神楽(露子)の支配を完全に押さえつけるために前局で能力を最大開放した直後だからだろう。

「(チャンスは、ここしか無さそうね。でも、あとの二人は健在みたいだし、チャンスって呼べるのかしら?)」

 咲と光の支配は相変わらずだが、露子は、ここで攻めるしかない。

 

 露子にとって、小蒔は相性が悪そうだ。宥の母親だけあって、露子は暖色系の牌のほうが相対的に多いのだが、小蒔に萬子を多く持って行かれる。

 しかし、その小蒔の力が落ちている今なら自分の力を十分発揮できる。

「ポン!」

 露子は、速攻で小蒔から{中}を鳴き、次巡、

「ポン!」

 光が捨てた{⑤}を鳴いて{[⑤]}を二枚副露した。玄のようにドラを独占するわけではないが、ドラは割りと来る方だ。

 さらに、

「チー!」

 小蒔が捨てた{6}を鳴いて{横6[5]7}と晒して中ドラ4を確定し、そのさらに次巡で、

「ツモ! 中ドラ4。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。




おまけ

怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

爽「憧100式が一段落して、また私達に振られてきたわけだけど、あのノリを引継いで何かやれって言うのかな。でも、私は、憧100式ほど下品じゃないからねぇ。」←大嘘

怜「全く、うちらに何を求めてるんやろか? うちだって、全然下品やないで! 上品極まりないやろ!」←同上

爽「あれって、まともに行ったら完全にR-18だからね。染谷さんのお陰だね。R-15の範囲内で済んでるの。」

怜「元ネタがユリア100式やし、一歩間違えば有害図書やからな。」

爽「それにしても、毎週日曜更新で、もう一年以上やってるんだね、この『咲 –Saki- 阿知賀編入』。良く続いたね。」

怜「原作は、あんまり進んでないけどな。そう言えば、『染谷まこの雀荘メシ』なんてのも始まったみたいやけど。」

爽「ついでに『爽のカムイ伝』も始めて欲しいな。」

怜「(それやと下品過ぎて有害図書扱いされるんやないか? 絶対、パウチカムイ出てきそうやし。)」

爽「それで、憧100式つながりで、いきなりだけど、『クリ〇〇ス』って書いてあったら〇に入るのは何だと思う?」

怜「いきなり来たか。憧100式を視野に入れて敢えて言うなら、『ト』に『リ』やないか?(爽のことやし)」

爽「クリスマスなんだけど…。」

怜「まぁ、普通はそうやな。(憧100式関係ないやん。爽にしては上品やな)」

爽「それで、今日は伏字を入れたら誤解されるものはないか調べてみようと思ってね。憧100式にもあったしさ。どうだろう?」

怜「(そう言うことか。)それはオモロイかもしれへんな。まぁ、憧100式で『おさんぽ』を『お〇んぽ』ってのがあって笑わせてもろたし。」

爽「前にも、私達のコーナーで『クリトリア』(植物名)ってのがあったけどね。ただ、全部伏字にするのは無しで。スゴロクを〇〇〇〇とか。」

怜「咲ちゃんの言っていた『京ちゃんのタコス』を『京ちゃんの〇〇〇』ってのもやな。」

爽「そうだね。あと、最初の文字に伏字を入れるのは無しにしよう。」

怜「まあ、そのほうがエエやろな。例えば、『〇ックス』よりも『セッ〇ス』のほうが下品な言葉をイメージしやすいやろしな。」

爽「そうなんだよね。例えば、『新小岩』を『〇ンコイ〇』って書いても、これで『チ〇コイヤ』をイメージできるわけじゃないからね。」

怜「せやな。」

爽「じゃあ、まず私から。マ〇コ!」

怜「ド直球やな…。ええと、母を訪ねての主人公『マルコ』やろ。それから『舞妓』なんてのもあるな。そうそう、女の子の名前やったら、『ま』で始まって『こ』が最後につくんは結構ありそうやで。」

爽「地名で益子なんてのもあるしね。」

怜「じゃあ、次はうちからや。チン〇!」

爽「こっちもド直球じゃん! ええと、『沈下』とか『鎮火』、『珍奇』、『珍味』なんてのもあるね。」

怜「結構あるもんやな。」

爽「じゃあ、今度は私から。ウン〇!」

怜「爽らしいな。ええと、『運気』とか『雲母』とか…。あと『運河』か。ほな、今度は結構キツイのイクで。フェラ〇〇!」

爽「これは、『フェラガモ』しかないんじゃない?」

怜「実はな、『フェラーリ』もあるんやで!」←何気にドヤ顔

爽「そっか。それは気付かなかった。ええと、次は…って行きたいところだけど、もうネタ切れでね。だって私、下品ネタに溢れてるわけじゃないからね!」←大嘘

怜「うちもネタ切れやな。上品な女やし。」←同上

爽「下品ネタ探すのに、結構ムリしてたからね。」←同上

怜「うちもやで。」←同上

爽「(本当は、まだ、『チンチラ』を『チンチ〇』、『売り子』を『ウ〇コ』とかあるんだけどね。でも、少しは下品イメージを払拭しないと。それにしても、『チンチラ』ってチン〇ンをチラ見せしてるみたいなネーミングだな。)」

怜「(本当は、まだ、『おしるこ』を『オシ〇コ』、『マンタ』を『マン〇』とかあるんやけどな、少しはイメージ変えんとな。)」

爽「そしたら今度は、下品な言葉に似た言葉を捜してみようか。例えば、『沈降』とか。」

怜「憧100式であったネタやと、『パチンコ』とか『マンゴージュース』。それから『落ち込んでる』があったな。」

爽「そうそう、そんな感じで。」

怜「じゃあ、『運行』。」

爽「それは、どっちかって言うと私のネタのような気がするけど…。じゃあ…。ええと、あれっ? ゴメン、全然思いつかないや。」←大嘘

怜「うちも、もう思いつかんなぁ。限界やで。」←同上

爽・怜「「(本当は、『ちんすこう→ちん〇吸う』とか『レマン湖』とか…。『ストレッチ』を『独りH』に聞き違えるとか、結構色々あるんだけど…。)」」

爽「(あと、『オカルト』と『スカトロ』って、語呂がちょっと似てるように思うんだよね。それって私だけかな? でも、それがネタで使えれば『そんなオカルトありえません』が『そんなスカトロありえません』になって面白いんだけどな。怜だったら絶対に『どんなプレイや!』って突っ込んできそうだな)」

怜「(花電車が女性器を使ったパフォーマンスならチンチン電車ってなんや! なんてネタもあるんやけど、言わずにイメージ回復せんとな。)」

爽「(でも、怜のネタ切れは絶対に嘘だな。)」

怜「(爽のネタ切れは絶対嘘やろ!)」

爽・怜「「(まあ、他人のことは言えないけど…。)」」

怜「(あっ! ヤバイわぁ。変なネタ思いついてもうた。クールポコの『な~にぃ~、やっちまったなぁ!』の前に『オ』を付けたらオモロイとか! ただ、その場合、ヤっちまったやなくて、イっちまったやな。)」

爽「(あっ! 変なこと思いついた。オマーン湾を塞き止めて湖にしたら面白いんじゃないかなんて…。ヤバイなぁ。)」

怜「(変なネタ、思いついたら言いたいやんか!)」

爽「(クソヤバッ! ネタを思いついたら口にしたくなる性分だからな。)」

怜「(口にしないようにって思うと、余計に思いつくもんやな。)」

爽「(あっ、ヤバイ。他にもネタ思い付いた。)」

怜「(言いたい。)」

爽「(言いたい。)」

爽・怜「「(言いたい。もう我慢できない!)」」

爽「英語ってさ、複数形は『s』を付けるじゃん。だったら、『節句』の複数形って『節句ス』になるのかな?」

怜「せやな。それやと『エロ』の複数形が『エロス』になるんか?」←違います

爽「でも、思ったんだけど、色々なイベントの記念にHするって人いるじゃん?」

怜「たしかに、そう言うのおるな。」

爽「そうしたら、やっぱり節句の度にやる行為ってことで『節句ス』で正しいのかな…なんて思ってね。」

怜「おぉ! その考えに一票や! 実際、クリスマスとか年越しとか多いみたいやし、それで9月生まれが多いとか言う話やしな!」

爽「それで〇〇が××の△△で…。」

怜「□□の◎◎の▽▽の…。」

まこ「これ以上は強制終了じゃ!」←メガネを外した


染谷まこ…。
登場人物の誰かがR-18の扉を叩いた時、彼女は何処からか現れて、マズいシーンや台詞をスっ飛ばしてくれる。
原作では、別にマズいシーンでも無いのに、登場シーンをスっ飛ばされた被害者が何人もいるとか…。

彼女がメガネを外した時、それは本気の証拠。
今日も彼女はメガネを外して爽と怜の暴走をスっ飛ばしてくれた。
彼女のお陰で、今回もR-15としての平和が守られた。彼女こそ、咲 -Saki- キャラクター最強の正義の味方である。

ちなみに、清澄高校の部内戦ではメガネを外したことは無い。
本気を出さずして勝てる相手と、本気を出しても敵わない相手しかいないからだろう。


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六十本場:超変則三面聴

 南入した。

 南一局、小蒔の親。ドラは{7}。

 小蒔のオーラは復活していた。ここでも小蒔は萬子一直線で手を作ってゆく。この親番で決着をつける気なのだろう。

 しかし、露子は、この局では小蒔ではなく咲をマークしていた。咲から今までに無い気配を感じ取ったからだ。

 当たり前のように小蒔の手は、ここでも萬子で染められて行く。しかも、{一}と{九}を三枚ずつ手に入れており、今回も九連宝燈に向かって手を進めているのが分かる。

 配牌時に四枚しかなかった萬子が、九巡目には十二枚にまで増えていた。

 

 この時、小蒔の手牌は、

 {一一一三四五七八九九九東西}  ツモ{二}

 九連宝燈一向聴。

 

 しかし、ここで小蒔の手が止まった。

 神楽の能力を使って、他家の手を透視していた露子には、その理由がイヤでも分かる。

 

 光の手牌は、

 {二二八八⑧⑧⑧222888}

 タンヤオ対々和三暗刻聴牌。{八}で和了れば三色同刻も付く。ツモれば四暗刻。

 

 そして、咲の手牌は、

 {五五[五]⑤⑤[⑤]55[5]西西西東}

 四暗刻聴牌。

 

 小蒔に降臨した神は、他家の手牌全てを見ることは出来ないが、和了り牌を完全に察知することは出来る。つまり、ここで{二}、{八}、{東}を捨てられないことは分かっている。

 受けの広さを考えれば{西}切りか。

 しかし、東一局での咲の倍満ツモ………{西}暗槓からの嶺上開花の記憶があるからだろうか、{西}を捨てるのを躊躇しているようだった。

 

 一旦、九連宝燈を諦めて、小蒔は打{五}。一応、一向聴には留めておいた。

 しかし、

「カン!」

 咲がこれを大明槓した。

 嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 連槓した。王牌から掴んできたのは{5}だったのだ。

 咲は、次の嶺上牌………{[⑤]}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{⑤}を暗槓し、その次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然の如く嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {西西西東}  暗槓{裏[⑤][⑤]裏}  暗槓{裏5[5]裏}  明槓{五横五[五]五}  ツモ{東}

 

「西対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤4。32000です。」

 これは、小蒔の責任払いになる。{西}を切っても{五}と{西}の明槓と暗刻が入れ替わるだけで結果は同じ。{東}を切っても咲に四暗刻を振り込んで結果は同じだ。

 嶺上牌が見えている咲ならではの、{五}、{東}、{西}の超変則三面聴と言えよう。

 {二}なら満貫、{八}ならハネ満を光に振り込んだことになるが、むしろ、そのほうがマシだったと言える。

 

 これにより、この段階での点数と順位は、

 1位:咲 51000

 2位:光 25000

 3位:神楽(露子) 13000

 4位:小蒔 11000

 咲が大逆転してトップに立った。

 

 

 南二局、露子(神楽)の親。

 ここで小蒔は、東四局と同様に再び支配力を下げた。

 もし、ここで九連宝燈をツモ和了りしたら、親の神楽のトビで終了になる。その場合、小蒔も咲も43000点の同点になる。

 席順で、一応、小蒔が1位になるが、それでは咲にリベンジしたことにはならないと、小蒔に降りた神は考えていた。それで、この局では和了りに向かわずに、様子見に回ったようだ。

 逆に、この局で支配力が上がってきたのは光だった。

 小蒔も露子も一発逆転手を和了る力を持っている。なので、光が今の順位を守るためには、それなりの手の和了りが必要との判断だろう。

 

 露子にとっては、何としてでも稼ぎたい親番。

 しかし、光の方が一歩早かった。

「ツモ。タンピンドラ2。2000、4000。」

 出和了り役2翻で、光が満貫をツモ和了りした。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここで小蒔が役満をツモ和了りすれば、咲に親かぶりさせて逆転トップが取れる。

 当然、この局で神は九連宝燈を狙う。

 しかし、これを読んでか、咲は、

「ポン!」

 早々に光に{白}を鳴かせ、さらに、

「チー!」

 光の欲しいところを敢えて鳴かせて光の手を進めさせた。

 その数巡後、

「ツモ。白混一ドラ2。2000、4000。」

 そのまま光に満貫を和了らせた。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 45000

 2位:光 41000

 3位:小蒔 7000(席順による)

 4位:神楽(露子) 7000(席順による)

 光が咲に4000点差まで追い上げてきた。

 

 ただ、この咲の親かぶりで、ある意味、小蒔(神)にチャンスが訪れたと言える。

 残されたオーラスで役満をツモ和了りすれば、咲は37000点、小蒔(神)は39000点で逆転できる。つまり、リベンジが達成できるのだ。

 ならば、当然ここでも狙うは九連宝燈。

 

 一方の光は、できれば咲に勝ちたいが、ここでは下手な欲を出さずにクズ手で良いから和了り、決勝進出を決めたいところ。

 

 勿論、露子も三倍満以上のツモ和了りを狙う。それが出来れば決勝進出できる。

 

 様々な思いが飛び交う中、オーラスがスタートした。親は光。

 小蒔は、見え見えの萬子染め。{⑤}から切り出し、{②}、{4}、そして{8}の対子切り、さらに字牌処理へと進めてゆく。

 そして、七巡目に小蒔は{南}を切った。すると、これを、

「ポン!」

 咲が鳴いた。

 八巡目、小蒔は純正九連宝燈を聴牌したが、同巡、咲が、

「カン!」

 {南}を加槓し、嶺上牌で、

「ツモ!」

 そのまま和了りを決めた。

「南嶺上開花。700、1300です。」

 

 その結果、順位と点数は、

 1位:咲 47700

 2位:光 39700

 3位:小蒔 6300(席順による)

 4位:神楽(露子) 6300(席順による)

 咲と光が逃げ切る形となった。それまでの過程に比べて、意外と結末は呆気ないものだった。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼がなされた。

 

 小蒔(神)は、

「またしてもやられたな。人の王者よ。次は国民麻雀大会で会えるのを楽しみにしておるぞ。」

 そう咲に言うと、一人対局室を出て行った。

 

 

 一方、CD上位卓は、起家が憩、南家が衣、西家が玄、北家が淡でスタートした。

 東一局は、憩の親番。サイの目は9と、最後の角の後のツモ牌が、たった四枚しかないパターン。当然、淡はダブルリーチを見送った。

 淡の絶対安全圏が発動し、淡以外は軒並み配牌五~六向聴。しかも、憩と玄には、ここにさらに衣の一向聴地獄が襲い掛かる。

 そして、中盤、手が進まない中で玄が切った牌で、

「ロン。16000!」

 衣が和了った。

 

 

 東二局、衣の親。

 ここでも絶対安全圏と一向聴地獄で、憩と玄は苦しめられた。そして、玄がツモ切りした牌で、

「ロン! 12000!」

 衣が親満を和了り、玄のトビで終了となった。

「「私(うち)、何もしてないんだけど…。」」

 憩と淡は原点のままだったが、席順で決勝進出は憩になった。これも運の良し悪しと言えよう。

 淡は、残念ながら5位決定戦へと進むことになった。

 

 

 AB卓各下位二名による戦いは、和と湧が勝利して9位決定戦卓へ、姫子と憧が13位決定戦卓へと進むことになった。

 また、CD卓各下位二名による戦いでは、穏乃と明星が勝利し、この二人が9位決定戦卓へ、数絵と優希が13位決定戦卓へと進むことになった。

 …

 …

 …

 

 

 昼の休憩後、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時に行われる。いずれも半荘一回勝負だ。

 決勝戦は、5位から16位までの順位を決めた後に行われる。

 

 

 5位決定戦は、小蒔、神楽、淡、玄で行われた。

 この時、露子は、まだ神楽の身体から抜け出さずにいた。娘の玄と打てるのだ。もうしばらく神楽の身体を借りていたい。

 

 この戦いは、露子vs玄の親子対決であると同時に、神vs霊、神vs宇宙パワー、神vs龍の対決でもある。非常に興味深い一戦だ。

 

 場決めがされ、起家が小蒔、南家が神楽、西家が玄、北家が淡に決まった。

 

 東一局、小蒔の親。

「(絶対安全圏発動!)」

 淡は、絶対安全圏は、神が降臨した小蒔にも有効だった。勿論、露子も玄も六向聴からのスタートだった。

「チー!」

 玄の捨て牌を淡は速攻で鳴き、

「ツモ! 1300、2600!」

 絶対安全圏内での和了りを決めた。捨て牌の甘い玄が上家にいるのは、淡にとってラッキーだったかもしれない。

 

 

 東二局も、

「ポン!」

 淡は玄の捨て牌を鳴き、絶対安全圏内で、

「ツモ! 1300、2600!」

 早々と和了った。さすがに、これでは小蒔も露子も玄も手の出しようがない。

 

 

 東三局でも、

「チー! ツモ! 1300、2600!」

 淡が前局、前々局と同様の和了りを見せた。

 

 

 そして、東四局、淡の親番。ドラは{北}。

 サイの目は7。鳴きが入らなければ、九巡目を終えたところで最後の角に達する。淡にとって最良のパターンだろう。

 当然、淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 天下の宝刀を抜く。アホの娘、淡なので『伝家』ではなく『天下』である。

「リーチ!」

 淡以外が全員、軒並み五~六向聴にされる絶対安全圏。それが発動しているところに、ダブルリーチは結構厳しい。

 

 露子は、神楽の能力を借りて全員の手牌を透視した。

 

 小蒔の手牌は、

 {一三六九②[⑤]⑧258東南北}

 萬子が一番多いが、それでも四枚のみ。六向聴。

 しかも、ヤオチュウ牌が四枚しかない。国士無双に進めるにも厳しい配牌と言えよう。もっとも、小蒔に降臨した神が国士無双を狙うとは思えないが。

 

 玄の手牌は、

 {二五八①②⑥⑨268東南中}

 これも六向聴。ヤオチュウ牌は五枚だが、三元牌支配に入っているはずなのに{中}が一枚あるだけで{發}も{白}も配牌にない。玄としても聴牌までの道のりは長そうだ。

 

 そして、露子自身の配牌は、

 {二四七①④⑦3[5]7東南西北}

 これも道のりが遠い配牌。やはり六向聴か。

 しかも、小蒔が萬子を連続でツモると仮定した場合、小蒔の捨て牌は{②[⑤]⑧258東南北}になる。鳴きが得意な露子でも、今の自分の配牌から考えると、簡単には鳴けそうにない。

 

 それでいて淡の手牌は、

 {三四五③③③1145699}  打{横西}

 {19}のシャボ待ち。九巡目に{③}をツモって暗槓するのは見えている。しかも、それが槓裏になる。

 

 一巡目。

 小蒔はツモ{一}、打{5}。

 露子は{一}をツモ切り。九連宝燈の鍵になる{一}と{九}は、先に捨てておきたい。

 玄はツモ{中}、打{二}。

 

 二巡目。

 淡は{東}をツモ切り。

 小蒔はツモ{一}、打{2}。

 露子はツモ{4}、打{東}。

 玄はツモ{白}、打{五}。

 

 三巡目。

 淡は{北}をツモ切り。

 小蒔はツモ{九}、打{8}。

 露子はツモ{三}、打{七}。

 玄はツモ{發}、打{八}。

 

 四巡目。

 淡は{南}をツモ切り。

 小蒔はツモ{九}、打{[⑤]}。

 露子はツモ{北}、打{南}。

 玄はツモ{發}、打{⑥}。

 

 五巡目。

 淡は{8}をツモ切り。

 小蒔はツモ{二}、打{②}。

 露子はツモ{[⑤]}、打{西}。

 玄はツモ{白}、打{⑨}。

 

 六巡目。

 淡は{8}をツモ切り。

 小蒔はツモ{五}、打{⑧}。

 露子はツモ{1}、打{①}。

 玄はツモ{中}、打{2}。

 

 七巡目。

 淡は{2}をツモ切り。

 小蒔はツモ{七}、打{東}。

 露子は{七}をツモ切り。

 玄はツモ{白}、打{東}。

 

 八巡目。

 淡は{2}をツモ切り。

 小蒔はツモ{四}、打{南}。

 露子は{⑨}をツモ切り。今まで、見事に鳴けず。せめて小蒔が索子からでなく筒子から切り出してくれれば、{2}か{5}が鳴けたかもしれないが…。

 玄はツモ{發}、打{南}。

 

 九巡目。

 淡は{③}をツモり、

「カン!」

 それを暗槓した。槓ドラ表示牌は{六}。嶺上牌の{7}をツモ切り。

 手牌は、

 {三四五1145699}  暗槓{裏③③裏}

 当然、待ちが変わる訳はない。{19}シャボ待ちだ。

 

 小蒔はツモ{八}、打{北}。

 手牌は、

 {一一一二三四五六七八九九九}

 純正九連宝燈聴牌。

 

 露子は、{北}を鳴きたいところだがオタ風牌。ポンしたところで役無しになってしまう。さすがに鳴けない。

 止むを得ず露子は牌をツモった。ツモ{⑥}、打{⑦}。

 手牌は、

 {二三四④[⑤]⑥134[5]7北北}

 恐らく淡の能力で、次に{6}が来ると露子は予測した。それで{1}を振り込ませるつもりだろう。

 

 玄はツモ{中}、龍の導きに従い打{②}。

 手牌は、

 {①68白白白發發發中中中中}

 この時、玄には次巡で{發}をツモり、{中}暗槓で嶺上牌は{白}、{發}暗槓で嶺上牌は{①}、{白}暗槓で嶺上牌は{7}の道筋が見えていた。

 

 最後の角を越えた。

 十巡目。

 淡は{7}をツモ切り。

 そして、小蒔は、{[五]}をツモり、

「ツモ! 8000、16000。」

 九連宝燈を和了った。

 

 ちなみに裏ドラ表示牌は{⑦}、槓裏表示牌は大方の予想どおり{②}だった。玄には完全にドラが一枚も行っていないし、淡の持つドラは槓裏のみであった。

 

 この時点での点数と順位は、

 1位:小蒔 52800

 2位:淡 23600

 3位:神楽(露子) 11800(席順による)

 4位:玄 11800(席順による)

 小蒔が2位の淡にダブルスコア以上の差を付けてトップに立った。




おまけ

団体戦は、阿知賀女子学院の優勝で幕を閉じた。
咲は、決勝戦で明星を二度トバした。
京太郎とは、一人一回トバす毎に、一回言うことを聞いてもらう約束をしていた。

今日、咲は京太郎とネズミの国でデートした。
そこで、咲は京太郎に、
「もう、完全に周りは付き合ってるって思ってるみたいだし、このまま付き合っちゃおうよ! 何でも言うこと聞いてくれるんでしょ!」
と言おうとしたが、いざとなると口に出せない。
結局、交際宣言はできずにホテルに戻った。


今日は、常にマスコミの人達が咲と京太郎を見張るように近くにいた。交際の決定的瞬間を捕えようとしていたからだ。
当然、咲はそれに気付いていた。

咲は、夕刊に京太郎とのデートが取り上げられているものと期待していた。
しかし、夕刊にも、そして、翌日の朝刊にも咲と京太郎のデートは一切取り上げられていなかった。
麻雀協会がマスコミに圧力をかけたのだ。
大会参加選手に下手な動揺を与えないようにと…。


咲「結局、京ちゃんとのデートは新聞にもニュースにも取り上げられなかったよ。もう、世間的に京咲は確定ってしたかったのに!」


目論見が外れて、咲の機嫌は宜しくなかった。
結局、


咲「全部、ゴッ倒す!」


今日の予選での対局者が、その捌け口になっただけだった。


某掲示板にて


【奇跡の闘牌チャンピオン咲様】インターハイ個人予選【洪水注意報】


1. 名無し麻雀選手

全国大会個人戦スタート
予選一回戦での咲様の相手は以下三人
・中田慧(新道寺女子)
・水村史織(越谷女子)
・安福莉子(劔谷高校)

咲様、何だか怖い顔してる


2. 名無し麻雀選手

タコス食べた
片岡優希みたい


3. 名無し麻雀選手

あれは、起家になるためらしい
信じられんが


4. 名無し麻雀選手

タコスを食べたら起家確定?
そんなんありか?


5. 名無し麻雀選手

咲様、ホントに起家だ
ここから怒涛の連荘なんだろうな


6. 名無し麻雀選手

>>4
ある!
長野では有名な都市伝説


7. 名無し麻雀選手

咲様の手、いつも思うけどザコ相手だとホントに欲しいところが入るな
六巡でメンチン聴牌ってナンダコレ?
②③④④④(⑤)(⑤)⑤⑥⑥⑧⑧⑧
四筒、五筒、八筒暗刻で赤五筒対子
待ちは①②④⑤⑥


8. 名無し麻雀選手

史織タソと莉子タソかわいい
慧ウザイ


9. 名無し麻雀選手

咲様⑧ツモ
これは来るか!


10. 名無し麻雀選手

北wwwwwwwww
カンツモ嶺上開花!


11. 名無し麻雀選手

マジ?


12. 名無し麻雀選手

六筒ツモで和了りか
メンチンツモ嶺上開花タンヤオ三暗刻赤2
いきなり数え厄マンwww


13. 名無し麻雀選手

>>12
倫シャン解放な


14. 名無し麻雀選手

俺もこんな手を和了ってみたい


15. 名無し麻雀選手

咲様に弟子入りしたい
どうせならお突き合いしたい


16. 名無し麻雀選手

突き合いと言えば、咲様のデート発言ってどうなった?


17. 名無し麻雀選手

京ちゃんな
昨日、俺、実はネズミの国に行って咲様見た
たしかに男といた


18. 名無し麻雀選手

結構イケメンと言う話じゃん?


19. 名無し麻雀選手

>>17
何だと?
京ちゃんのリー棒でカンチャン一発ズッポシとかヤッてるのか?


20. 名無し麻雀選手

でも、だったら何で咲様は、あんなに機嫌悪そうなんだ?


21. 名無し麻雀選手

フられたか?


22. 名無し麻雀選手

多分、それはない
あのタコスは京ちゃん印


23. 名無し麻雀選手

機嫌が悪いのは、自分よりも男受けしそうな史織タソがいるからだと思われ
史織タソは咲様の下家か
犠牲者決まったな


24. 名無し麻雀選手

既に咲様、小三元三暗刻のハネ満聴牌
白単騎待ち


25. 名無し麻雀選手

中引いてカン
北wwwwwwwww


26. 名無し麻雀選手

当然のように倫シャン解放
絶対に嶺上牌分かってるよな、アレ?


27. 名無し麻雀選手

小三幻ツモ倫シャン解放三暗刻
親倍ツモかよ
これで他家は一律持ち点が900点か
リーチもかけられない


28. 名無し麻雀選手

それで次は平和ツモの700オールの二本場で
900オールと予想


29. 名無し麻雀選手

いつものパターンな


30. 名無し麻雀選手

でも、何で何時もそんなに都合良く手が出来上がるんだ?


31. 名無し麻雀選手

点棒の支配者だから


32. 名無し麻雀選手

ホントにドラ無しタンヤオ無しで平和を聴牌した


33. 名無し麻雀選手

北これ
予想通り!


34. 名無し麻雀選手

平和ツモ
700オールの二本付けで900オール
他家全員0点www


35. 名無し麻雀選手

次は厄マンか


36. 名無し麻雀選手

そんな都合よく行くか?


37. 名無し麻雀選手

でも咲様だしな


38. 名無し麻雀選手

>>36
こいつらレベル相手に咲様が都合よく和了れないと言うのか?


39. 名無し麻雀選手

ゲロゲロ
いきなり二巡目で国土聴牌


40. 名無し麻雀選手

史織タソが咲様の和了り牌掴んだ
これは、もしかして


41. 名無し麻雀選手

不要牌だし止まらないでしょ?


42. 名無し麻雀選手

振ったwwwwwwwww


43. 名無し麻雀選手

咲様容赦なく和了った
これで史織タソは箱下48900の-79
慧と莉子タソは共に-30
咲様は+139


44. 名無し麻雀選手

+139?


45. 名無し麻雀選手

あっ
画面が放送席に飛んだ


46. 名無し麻雀選手

さてはヤッタな


47. 名無し麻雀選手

史織タソか?


48. 名無し麻雀選手

咲様の下家かつターゲット
当然だろ


49. 名無し麻雀選手

ナシ汁プシャ―――!


50. 名無し麻雀選手

今会場からだけど、越谷女子の子が連絡を受けて慌ててジャージ持ってった
あと、劔谷の子も
中田以外の二人が犠牲者になったっぽい


51. 名無し麻雀選手

史織タソ莉子タソ確定!


52. 名無し麻雀選手

史織タソ春夏二連覇確定



続く?


ちなみに、ここから予選27位まで中田慧は復活します
それはそれで凄いと思います
さすが図太さナンバーワン!


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六十一本場:決定! 5位から16位

今回で5位から16位を決めます。9位以下は、かなりあっさりした書き方になりますことをご了承ください。


 南入した。

 南一局、親は小蒔(神)。サイの目は5。

 前局の九連宝燈ツモ和了りで能力を大きく消費したため、小蒔は、ここではパワーダウンしていた。

 他家にとってはチャンスである。

 当然、ここでも淡は絶対安全圏を発動した。

 今回、配牌で玄に行った三元牌は、{白}が一枚、{發}が一枚、{中}が二枚であった。七対子なら五向聴の手。

 

 一方の淡は配牌一向聴。第一ツモで聴牌し、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。当然、ハネ満狙い。

 予定では、淡の暗槓は、誰も鳴かなければ十巡目になる。

 一方、玄は順に、{發}、{白}、{發}、{白}、{中}、{中}、{發}とツモり、七巡目で、

「カン!」

 {中}を暗槓した。嶺上牌は{白}。続いて、

「もう一つ、カンします!」

 今度は{發}を暗槓した。次の嶺上牌を引き、

「もう一つ、またカンします!」

 {白}を暗槓し、さらに次の嶺上牌で、

「ツモ! 8000、16000です!」

 玄の三元牌支配………大三元が炸裂した。これで玄は小蒔(神)を抜いて一気にトップに立った。

 

 この時点での点数と順位は、

 1位:玄 44800

 2位:小蒔 36800

 3位:淡 14600

 4位:神楽(露子) 3800

 露子がいよいよ危なくなってきた。

 相手は、当たり前のように九連宝燈を和了る小蒔に、これまた当たり前のように大三元を和了れる玄。そして、絶対安全圏+ダブルリーチ槓裏4を意図的に作り出せる淡。

 常人なら、次の局でトビ終了して然るべき点数と言える。

 いや、普通の人は東場で余裕で箱割れするだろう。

 

「(なんとかしないと…。)」

 露子は、とにかく鳴ける牌が出てきたら鳴く。それで自分のペースを掴む。そのスタイルで行くことにした。

 

 南二局、露子の親。

 絶対安全圏により、露子は配牌五向聴だが、幸運にも{南}が対子。

 露子は、玄が切った{南}を、

「ポン!」

 一鳴きした。

 しかも、玄のドラ支配がない今、比較的ドラ爆体質の露子にはドラが集まりやすい。それに、絶対安全圏は配牌が悪いだけで手が全然進まないわけでは無い。

 そのまま最短で聴牌し、

「ツモ。南ドラ4。4000オール!」

 露子は、親満をツモ和了りした。

 

 南二局一本場、露子の連荘。

 ここでも絶対安全圏が発動。また、露子の配牌には{白}が対子だった。

 玄の三元牌支配は、まだ準備段階にある。前々局に大三元を和了しているので、次に大三元を和了れるようになるのは次局になる。

「ポン!」

 露子は、今度は小蒔から{白}を鳴き、

「ツモ。白ドラ3。3900オールの一本場は4000オール!」

 親満級の手を早々とツモ和了りした。

 

 南二局二本場。

 淡は、絶対安全圏は発動していたが、ダブルリーチの方は封印していた。

 ダブルリーチ槓裏4は、サイの目が7の時に最短で十巡目で和了れる。しかし、小蒔や玄が相手では、それでも和了るのが遅いと判断したからだ。

 現に、六向聴からでも小蒔は十巡目で九連宝燈を和了っているし、玄も七巡目で連槓を仕掛けて大三元を和了っている。

 

 しかも、ここからは三元牌支配が始まる。

 ならば、ダブルリーチ槓裏4を使わずに絶対安全圏内での早和了りに賭ける方が良い。とにかくスピードで圧倒すべき。

 淡は、

「ポン!」

 玄が捨てた{西}を早々に鳴き、六巡目に、

「ロン! 西混一ドラ2。8600!」

 満貫を玄から直取りした。

 

 

 南三局、玄の親。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 早々に{南}を一鳴きし、絶対安全圏内で、

「ロン! ダブ南ドラ2。7700!」

 またもや玄から和了った。

 

 

 オーラス、淡の親。

「ポン!」

 ラス親なら一回の和了りで1位にならなくても良い。淡は連荘狙いで玄が捨てた{東}を鳴き、六巡目で、

「ツモ。1300オール!」

 早和了りした。{⑨}を暗刻で持っていたため、40符の手だった。

 

 この時点での点数と順位は、

 1位:小蒔 27500

 2位:淡 26800

 3位:神楽(露子) 26500

 4位:玄 19200

 まだ誰もがトップになれる可能性を残している。しかも、1位から3位がたった1000点差しかない。まさに混戦状態だ。

 

 オーラス一本場、淡の連荘。

 絶対安全圏内は健在だ。しかし、淡には自風や場風の対子が無かった。当然、三元牌の対子も無い。

 加えて、たまたま玄の手の中に淡の欲しい牌が無いのか、淡はチーして手を進めることが出来ないでいた。

 それもあって、結果的に淡は絶対安全圏内で聴牌することが出来なかった。

 

 玄は、三元牌は配牌で一枚のみ。そのため、三元牌支配は発動しているが、連槓からの大三元和了は十巡目にならないと出来ない。

 当然だが、玄は小蒔の超危険牌である萬子を先に切った。そして、露子と淡が序盤で切っていた{3}や{6}を敢えて安牌として残し、萬子の後に筒子、字牌と切って行った。

 そして、八巡目、玄が捨てた{3}で、

「ロン。一通のみ。2600の一本場は2900。」

 なんと、小蒔(神)が安手を和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三四五六七八九九九24}  ロン{3}

 

 九連宝燈二向聴での和了りだった。{24}は配牌時点でできていた嵌張だった。これを敢えて残していたのだ。

 

 以上の結果、点数と順位は、

 1位:小蒔 30400

 2位:淡 26800

 3位:神楽(露子) 26500

 4位:玄 16300

 最後の最後で九連宝燈に拘らずに勝ちに行った小蒔(神)の勝利であった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の挨拶が交わされた。

 

「楽しい戦いであった。またコクマで会おう。」

 そう言うと、神は小蒔の身体から抜け出した。そして、それを入れ替わるように小蒔が目を覚ました。

「あれ? 寝てました。」

 小蒔には対局中の記憶が無い。まるで、まこの時間軸超光速跳躍の被害を毎回受けているような感覚だろう。

 

 その横で、露子と玄は、別れを惜しんでいた。

 玄は、個人戦予選から神楽に露子が降りてきているのを感じ取っていた。今日、二人が卓を囲むことが出来たのは幸運としか言いようが無い。

 親子で麻雀を打つのは何年振りだろう?

 まさに神楽に感謝である。

「随分、強くなったね、玄。」

「お母さん…。」

「もし今の玄が、私が高校生の頃の選手だったら、きっと個人戦で優勝できていただろうね。それくらい強くなったよ。」

「本当?」

「本当だよ。宮永さんのお陰だね。」

「うん…。」

「でも、まさか、その玄が8位にされるなんてね。今の子達のレベルの高さには驚かされたわ。」

「咲ちゃん達、本当に強いから…。」

「そうだね。凄い時代に玄は生まれたね。」

「お母さん、また会える?」

「いつも、玄と宥のことは傍で見守ってるよ…。」

「お母さん…。」

 二人は、別れを惜しんで抱き合った。

 これが高校3年生と高校1年生の会話である。しかも、母親役が1年生。内情を知らなければ訳が分からない。

 傍で見ていた淡には、

「(なにこれ?)」

 当然のことだが理解できなかった。

 正直、茶番にしか見えない。

「(学芸会か何かかな?)」

 これが、淡の率直な感想だった。

 …

 …

 …

 

 

 9位決定戦は、和、湧、穏乃、明星で行われた。

 和vs明星の巨乳美女対決だ。

 ダブル六女仙vs蔵王権現の戦いでもある。

 起家を引いた明星が、東一局でいきなり国士無双をツモ和了りして、一気に断然トップに立った。

 東一局一本場では、湧が明星に対抗するかのように{發}無しの緑一色輪、

 ………{2224445666} ポン{8横88} ツモ{5}………

 タンヤオ清一色対々和三暗刻の倍満をツモ和了りし、続く東二局(親:湧)、東三局(親:和)では、和が湧と明星から満貫、親満をそれぞれ直取りした。

 東三局一本場では、穏乃が1100、2100をツモ和了りし、その後、東四局で11600を、東四局一本場で親ハネを穏乃が明星から直取りした。トップからの狙い撃ちだ。

 この時、明星は妙に視界が悪く感じており、穏乃の捨て牌を良く見ないで振り込んでしまったようだ。

 東四局二本場は、和が満貫をツモ和了りしたが、その後は穏乃が1000、2000を二回、500、1000を一回、オーラスは1300オールを和了り、最終的に9位決定戦は穏乃が征する結果となった。

 

 

 13位決定戦は、姫子、憧、数絵、優希で行われた。

 何気にタコスvsアコスの戦い…。

 それは、さておき、昼にタコスを十分食べてパワーアップした優希が、東一局と東二局で爆発的な稼ぎを見せた。

 東三局になると、ややパワーダウンし、憧、姫子が和了り出した。

 そして、南場に入ると数絵が覚醒して、そのまま尻上がりに点数を重ね、優希からの直取りも目立った。チームメートでも個人戦決勝トーナメントでは容赦がない。

 結果的に順位は、数絵、姫子、優希、憧の順に決まった。

 

 

 これで、個人戦5位から16位は以下の通りとなった。

 5位:神代小蒔

 6位:大星淡

 7位:石見神楽

 8位:松実玄

 9位:高鴨穏乃

 10位:原村和

 11位:石戸明星

 12位:十曽湧

 13位:南浦数絵

 14位:鶴田姫子

 15位:片岡優希

 16位:新子憧

 

 

 5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が終了し、いよいよ決勝戦が開始される。

 なお、個人決勝戦は、団体決勝戦と同じ特設会場で行われる。

 多くの人達がテレビモニター越しとは言え見守る中、決勝進出の四人の選手達が対局室に姿を現した。

 

 

 一人目は三箇牧高校の荒川憩。昨年の世界大会メンバーの一人だ。

 一昨年のインターハイ個人戦では2位、昨年インターハイと春季大会では惜しくも決勝進出できずに個人5位に終わったが、かなりの強豪選手。

 最初に聴牌した人から和了る能力を持つ。最初に聴牌したのが自分ならば、即ツモ和了りできる。

 

 明るくてカワイイ。ファンも多い。

 大阪最強の女子高生雀士。

 咲が阿知賀女子学院に転校するまでは、誰もが近畿最強と認めていた実力者。

 今日こそ咲への雪辱を果たすべく燃えている。何気に目力が凄い。

 

 

 二人目は龍門渕高校の天江衣。彼女も昨年の世界大会メンバーの一人だ。

 一昨年のインターハイでは団体戦で全員トバしを披露し、宮永照を差し置いてMVPに輝いた長野県屈指の魔物。牌に愛された子の一人。

 昨年の長野県大会では咲と頂上決戦を繰り広げた。春季大会個人戦では準優勝。

 

 他家を一向聴地獄に落とす、

 他家の手の進み具合や手の高さ、待ち牌を完璧に察知する、

 海底牌で和了れる等のマルチタスクを有する、とんでもない選手。

 

 ネット界隈では『ころたん』の愛称で呼ばれる。

 こちらもファンが多い。

 当然、衣も咲への雪辱を果たそうと最凶オーラ全開で望む。一般人では、吐き気を催すレベルの圧倒的な空気を全身から放っている。

 

 

 三人目は白糸台高校の宮永光。昨年の世界大会ではドイツチームの絶対的エースとして出場し、大将として闘った。『北欧の小さな巨人』の異名を持つ。

 春季大会個人戦では3位。

 和了り役の翻数上昇を特徴とし、しかも序盤ではドラが絡む和了が多い。そのため、基本的に高打点の和了りが多い。

 

 飛び抜けた観察力から、相手の手牌を完全に読み取る。

 咲と照の従姉妹でもある。当然、幼少の頃から咲と照を相手に麻雀を打ってきており、咲の麻雀を最も良く知っている選手でもある。

 宮永遺伝子の中で最も明るくてカワイイと評判。当然、ファンも多い。

 絶世美女集団と呼ばれる今の白糸台高校の不動のエース。

 こちらも、世界大会大将戦、春季大会個人決勝戦の雪辱に燃えている。

 

 

 そして最後の一人は阿知賀女子学院の宮永咲。昨年の世界大会では姉の照とダブルエースとして出場。大将を任され、その奇跡の闘牌で日本チームを優勝に導いた。

『日本の守護神』、『嶺の上の女王』等の二つ名を持つ。

 

 もっとも出現確率が低いとされる役満四槓子を何回も和了っている奇跡の人。嶺上開花の回数は数知れず。

 最強モードに入ると牌が全て見えているようだ。

 点数調整も自由自在。これまでに、444400点事件や、他家全員-66600点事件等を披露した。他家全員の持ち点を0点にした回数は数知れず。

 まさに点棒の支配者。

 

 昨年インターハイで清澄高校の団体戦初出場初優勝を決めた立役者であり、個人戦でも姉の照を抑えて優勝。

 国民麻雀大会ではジュニアBチームとして出場し、余裕の(正しくは居ただけで)優勝。

 春季大会では阿知賀女子学院メンバーとして出場し、団体戦、個人戦共に優勝。

 このインターハイでも団体戦優勝を決めている。

 今の女子高校生雀士最強と言われる。

 来年は多くのプロチームからオファーが来るであろう。

 

 

 この四人が激突する。まさに頂上決戦に相応しい。

 当然、テレビ視聴率は、既に白亜紀後期の小惑星激突で死滅した生物のパーセンテージよりも高い数値まで上がっていた。

 

 決勝戦だけは前後半戦の二半荘での対局となり、前後半戦それぞれでウマ無しオカありで勝負する。

 最終順位は、前後半戦の総合点で順位を決める。

 

 

 場決めがされた。

 起家は憩、南家は衣、西家は咲、北家は光に決まった。

 今回、咲は京タコスを口にしていなかった。

 格下相手の虐殺なら京タコスを食べて起家になり、そのままツモ和了りで一気に突っ走るところだが、相手は強豪選手ばかりだ。

 得意の西家での勝利を目指す。

 当然、靴下も脱ぐ。最初からフルスロットルで行く。

 

 

 光も得意の北家で勝負を賭ける。

 翻数上昇は、北家スタートが最も効率が良い。親が回ってきた時に高い翻数になっているからだ。これは、照の連続和了と同じだ。

 この面子が相手で、親が回ってきた時に4翻まで上昇しているとは思えないが、北家が最も打ち慣れている。それゆえの北家勝負だ。

 

 

「ほな、始めるでぇ!」

 起家の憩が勢い良くサイコロを回した。

 いよいよ決勝戦の火蓋が切って落とされる。




おまけ

某掲示板にて


【奇跡の闘牌チャンピオン咲様】インターハイ個人予選【洪水注意報】


69. 名無し麻雀選手

咲様の二回戦まだかな


70. 名無し麻雀選手

もうすぐ決まるもよう


71. 名無し麻雀選手

決まった
予選二回戦での咲様の相手は以下三人
・友清朱里(新道寺女子)
・愛宕絹恵(姫松高校)
・森垣友香(劔谷高校)

また新道寺と劔谷か
咲様、今度は誰をターゲットにするかな?


72. 名無し麻雀選手

ここでもタコス食べた
一口だけだけど


73. 名無し麻雀選手

それで起家になれるんだからな
これはこれで凄い


74. 名無し麻雀選手

ホントに起家になった
タコス効果二連続


75. 名無し麻雀選手

咲様の下家は絹恵タソか
彼女も春季でやってるよな?


76. 名無し麻雀選手

さて、ターゲットは誰かな?


77. 名無し麻雀選手

>>75
サッカーで鍛え抜かれたあの下半身
そこから派手に一発!


78. 名無し麻雀選手

咲様の麻雀ってホント簡単だな
確率無視だね、コレ?


79. 名無し麻雀選手

一一四八①④⑧17東南西白中
ここから六回ツモの一鳴きで
一一一①①①111白  ポン東東東
ムダがねえ


80. 名無し麻雀選手

咲様東ツモ
これは来るか!


81. 名無し麻雀選手

北wwwwwwwww
カン
もいっ股間


82. 名無し麻雀選手

マジ?
ヤベエ
いきなり三連カン!


83. 名無し麻雀選手

これは全て見切った証拠か


84. 名無し麻雀選手

やっぱり決め手は倫シャン解放!
いきなり数え厄マンwww


85. 名無し麻雀選手

ダブ東混老頭対々和三暗刻三色同刻三槓子
これに倫シャン解放
ここでも出親で16000オールか


86. 名無し麻雀選手

格が違い過ぎる
既に絹恵タソは身体が震えてるもよう


87. 名無し麻雀選手

豪快にイきそうだな
絹恵タソ


88. 名無し麻雀選手

次は親倍か?


89. 名無し麻雀選手

多分、そのパターンだな


90. 名無し麻雀選手

パターンどおりの点数で進むから凄い
やっぱり日本の守護神は伊達じゃない


91. 名無し麻雀選手

狙いはここでも+139かな?


92. 名無し麻雀選手

それにしても、
咲様、光ちゃん、ころたん、
憩タソ、小蒔様、淡タソ、
神楽ちゃん、玄さん
この辺りと当る奴らは完全な被害者だな


93. 名無し麻雀選手

特に咲様、光ちゃん、ころたんの相手は悲惨
この三人、誰が一番お漏らしさせるかを競い合ってるように見える


94. 名無し麻雀選手

一回戦の犠牲者
咲様:二人
ころたん:二人
光ちゃん:一人
掃除するほうが大変


95. 名無し麻雀選手

咲様の手、もう面前で張ってる
タテホン中ドラドラ
出和了りハネ満だが、ここに倫シャン解放とツモが付くからな
期待通り親倍だな


96. 名無し麻雀選手

北wwwwwwwww
中カン
倫シャン解放
やっぱり親倍ツモか


97. 名無し麻雀選手

これで他家は一律持ち点が900点か
リーチもかけられない
一回戦と同じだ


98. 名無し麻雀選手

それで次は平和ツモの700オールの二本場で
900オールと予想
これも一回戦と同じ


99. 名無し麻雀選手

いつものパターンか


100. 名無し麻雀選手

ちょっと待て
咲様、西ポンしたぞ
オタ風だろ?


101. 名無し麻雀選手

ドラ無し厄ナシ


102. 名無し麻雀選手

どうすんのこれ?


103. 名無し麻雀選手

>>101
>>102
厄はある!
倫シャン解放がな!


104. 名無し麻雀選手

>>103
そんな都合よく行くか?
って言いたいところだけど、
都合よく行くんだよな、咲様は


105. 名無し麻雀選手

言ってる傍から西を加カン
倫シャン解放のみ!
40符1翻
700オールの二本付けで900オール
他家全員0点www
やっぱり化物!


106. 名無し麻雀選手

期待を裏切らない麻雀だな
俺も裂き様に倫シャン解放されたい!


107. 名無し麻雀選手

次は厄マンか


108. 名無し麻雀選手

>>106
裂き様www


109. 名無し麻雀選手

なんだこれ?
また裂き様、西をポンしたぞ!


110. 名無し麻雀選手

続いて一筒をポン?
裂き様、厄マンは?


111. 名無し麻雀選手

いったい何やってるのか?


112. 名無し麻雀選手

裂き様で定着しつつある件


113. 名無し麻雀選手

>>109-111
ここからでも咲様なら作れる厄マンがある
奇蹟の闘牌だからな!


114. 名無し麻雀選手

あの奇蹟を見せてくれるのか?


115. 名無し麻雀選手

咲様、二索暗カンした


116. 名無し麻雀選手

これで一索が使えなくなった
その一索を友香タソがツモった
これは切るしかない
テンパってるしな、友香タソ


117. 名無し麻雀選手

ノーテンの段階でトビだしな
それで、これを狙ったかのように大明カン


118. 名無し麻雀選手

ナシ汁プシャ―――!


119. 名無し麻雀選手

>>118
焦るな、まだ早い

ここから西を加カン


120. 名無し麻雀選手

一筒も加カン
そして倫シャン解放四槓子!
友香タソのトビで終了!


121. 名無し麻雀選手

画面が飛んだ!
やっぱり犠牲者が出たか
現場の人、特定を頼む


121. 名無し麻雀選手

特定ヨロ


122. 名無し麻雀選手

特定ヨロ


123. 名無し麻雀選手

特定ヨロ


124. 名無し麻雀選手

こちら現場
新道寺、姫松、劔谷
三校ともジャージを持って急行中!


125. 名無し麻雀選手

三人放水達成!
本大会、劔谷二連続達成!


126. 名無し麻雀選手

絹恵も春夏二連覇達成!
あの鍛え抜かれた下半身からの放水は想像しただけでもメシ三杯はイケル!



続く?


中田慧同様に、絹恵もここから予選25位まで復活します
さすがです!


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六十二本場:頂上決戦スタート

 席順を見ただけで咲と光が本気なのが良く分かる。

 加えて咲は、既に靴下を脱いでスタンバイ。

 光も憩も咲へのリベンジに燃えている。

 当然、衣も負けていない。全身から常人であれば吐き気を催すレベルの強烈なオーラを放っていた。

 それが感じられない人種は、池田華菜クラスの図太い神経の持ち主だけだろう。

 

 しかし、光も衣も憩も、誰かと手を組もうとの考えは持っていない。飽くまでも単身での戦いを望んでいた。それで勝利を収めてこその打倒咲なのだ。

 

 ちなみに、今回のルールは西入無し。つまり、勝利者としての確定点の設定が無い。

 よく、最低一人が30000点とか33100点に達していないと決着つかずで西入りするルールが適用される。

 しかし、ここでは30000点に達した選手が居ようと居なかろうと、東南戦を終えた段階で対局終了となる。

 飽く迄も半荘二回だけでの勝負になる。

 

 

 東一局、憩の親。ドラは{3}。

 初っ端から衣の一向聴地獄が襲い掛かる。

 衣は、

「ポン!」

 いきなり自風の{南}を鳴き、早々に南対々和三暗刻ドラ3を聴牌した。ここでは、海底牌まで待つつもりは無い。

 誰も鳴かなければ海底牌は南家、つまり、この局では衣が引くことになる。

 しかし、衣は、春季大会の時に比べて、憩の支配力が強くなった気がしていた。

 今の憩は、衣が先行聴牌すれば、余裕で一向聴地獄を跳ね除けて聴牌するだろう。そして、誰かが振り込まなくても、海底牌に辿り着く前に、そのままサクッとツモ和了りを決めてしまうような雰囲気をまとっている。

 ならば、それが見かけ倒しではなく、本当にそれだけの力を持っているのか、先ずはスピード勝負をかけて憩の力を測ってみる。衣は、そう考えて、この局では海底牌への拘りを捨てていた。

 

 衣の手牌は、

 {五五[五]①①①⑤[⑤][⑤]白}  ポン{横南南南}

 

 そして、次巡、憩の先負に似た能力が発動し、衣の一向聴地獄を破って憩も聴牌した。衣が予想したとおりだ。

 やはり、衣にとって今の憩は非常に面倒な相手だ。春季大会個人戦準決勝の時よりも明らかにパワーアップしている。

 次に衣がツモった牌は{中}。和了り牌ではなかった。

 ただ、ここで{中}は切れない。間違いなく憩の和了り牌だ。それを衣は能力で感知できる。

 ならば{白}を切って聴牌を維持するか?

 いや、それもできない。

 

 この時の憩の手牌は、

 {二三四五六七東東東中中白白}

 ダブ東門前混一色+中または白の親ハネ。

 

 仕方なく衣は打{①}。

 続く咲は、絶好の牌を引き、ここで一向聴になった。

 

 この時の咲の手牌は、

 {⑨⑨⑨⑨33[5]68西西西西}  ツモ{9}

 

 ここから咲は、

「カン!」

 {⑨}を暗槓し、嶺上牌の{4}を引いて聴牌。そして、さらに、

「もいっこ、カン!」

 {西}を連槓し、続く嶺上牌で、

「ツモ!」

 {7}を引いて和了った。

「西ツモ嶺上開花ドラ3。3000、6000。」

 これは、春季大会個人戦でも見せた、衣の一向聴地獄と憩の先負に似た能力へのダブル対策だ。嶺上牌で一向聴地獄を破り、しかも聴牌と同時に連槓して嶺上牌で和了る。

 これをやられると、衣も憩も手が出せない。

 咲ならではの和了り方である。

 しかも、ハネ満。

 親の憩には痛いスタートとなった。

 

 

 東二局、衣の親。

 ここでも、衣も憩のパワーが激しく対峙する。二人とも、力ずくで場を支配しようとしている。

 対する光は、前局を捨てて様子を見ていた。まるで、照魔鏡を発動して他家の本質を探る照のようである。

「(天江さんの一向聴地獄もそうだけど、荒川さんの能力は面倒だな。先に聴牌するとヤラれる。かと言って、必要以上に聴牌を遅らせても荒川さんにツモ和了りされるんだろうね。)」

 正直なところ、今の衣と憩の能力を同時に対策するのは非常に厳しい。これが、光の素直な感想であった。

 

 先ず衣だが、春季大会の個人決勝戦と比べて明らかにパワーアップしている。

 団体戦では最終的に、穏乃に逆転を許したもののスタートダッシュは凄まじく、他校にとって絶望的とも言える特大リードを一気に作り出した。

 そのパワーは個人戦でも健在だ。

 

 そして憩も予想していた以上だ。

 憩の能力のことを、光は予め咲から聞いていたし、春季大会での対局も見ていたが、そこから想像していたレベルを遥かに超えている。

 

 しかも、この卓には咲もいる。

 この三人の支配力に、同時に対抗するのは光ですら難しい。

 

 衣と憩の強力な支配。これは、最後のインターハイにかける思いから来るものなのだろう。

 しかも、本インターハイ最後の試合。

 龍門渕高校の天江衣として、また三箇牧高校の荒川憩として打倒宮永咲を掲げられる最後の試合でもある。

 今までとは心意気が全然違う。

 

 だからと言って、光としても最初から負けを認めるわけには行かない。当然、勝つための麻雀をするつもりだ。

 

 たしかに光には、咲のようなかわし方はできない。基本的に、照のようにパワーで押し切る麻雀しかできない。

 ならば、前後半戦通じて、やれるところまで能力全開で直球勝負するしかない。

「(力ずくで行くのは衣さんと憩さんだけじゃないよ!)」。

 光は、

『自分も同じだ!』

 と言えるだけのパワーがある。その実績がある。

 そして、光は、衣の一向聴牌地獄を押し返して何とか五巡目で聴牌し、次巡、憩の能力を跳ね返して、

「ツモ。タンピンドラ2。2000、4000。」

 満貫をツモ和了りした。この局は光が征したのだ。

「(やるな、光!)」

 この光の和了りに触発されたかのように、衣のオーラが強まった。信じられないことだが、あれでもパワーをセーブしていたのだ。

 衣は、今、後先考えずにパワーを全開にした。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{2}。

 やられたら、やり返す。和了られたら和了り返すしかない。

 それができなければ負ける。

 衣は、そう思っていた。

 

 ここでも咲、光、憩の三人に衣の一向聴地獄が降りかかった。誰にも和了らせないための強烈な支配だ。

 第一弾を和了りを決めた光は、何とか自分のペースに持って行けることを期待したが、そう簡単には事を進ませてくれないらしい。相手は、それだけ強力な場の支配力を持っている。

 ただ、その衣自身も何故か一向聴から先に手を進めずにいた。

 そして、終盤に入り、衣は、

「ポン!」

 光が切った{①}を鳴いて{西}を切った。

 

 この時の衣の手牌は、

 {222346777西}  ポン{①横①①}

 

 ドラ3だが役無しの一向聴だった。

 この鳴きで、衣は、海底牌に向けてコースインした。

 しかし、傍目には意味不明の打ち方だった。そもそも役無しを確定させる鳴きだし、しかも一向聴から鳴いて聴牌に取らずに一向聴を維持していたからだ。

 聴牌すると憩の能力が発動する。それで、衣は敢えて一向聴にとったのだが、それが理解できる人間は殆どいなかった。

 

 次巡、衣は{8}を引いた。これで{西}を切れば聴牌するところだが、敢えて衣は{8}をツモ切りした。まだ憩に一向聴地獄を破らせるわけには行かないからだ。

 

 そのまま誰も鳴けず和了れずにラスト二巡目に突入した。

 親の咲はツモ切り。光、憩も聴牌できずにツモ切りした。

 そして、次のツモ牌で、衣は{5}を引き、いよいよここで、

「(これなら憩は聴牌するのが限界。和了れないはず!)」

 {西}を力強く切って聴牌した。

 

 咲、光は、ラスト一巡もツモ切り。

 憩は、最後のツモで一応聴牌できたようだが、狙える牌は衣が捨てる最後の牌のみ。しかし、言うまでも無く、その海底牌は、

「海底撈月ドラ3。2000、3900!」

 衣の和了り牌だった。

 当然のように、衣は満貫級の手を和了った。

 

 

 東四局、光の親。

 ここでも、やはり衣の一向聴地獄は健在。咲も光も憩も聴牌できずにいた。

「チー!」

 中盤、衣が憩の捨て牌を鳴いた。これで、海底牌をツモるのは憩から衣に変わった。

 すると、次巡、

「カン!」

 咲が手牌の中で揃っていた槓子を暗槓した。そして、嶺上牌をツモって聴牌した。

「(咲の奴、聴牌したな!)」

 衣のレーダーが反応した。

 そして、咲が聴牌したことにより、憩の能力が発動し、次のツモ牌で憩が聴牌した。

 これにも衣のレーダーが反応した。

「(やはり、憩も聴牌したか。でも、何故、咲は聴牌した? 下手をすれば憩の和了り牌を掴まされるぞ?)」

 このタイミングでの槓は、衣には意味不明だった。

 これが、他家の高い手を潰すために敢えて憩の手を進ませるのなら分からないでもない。しかし、今は、そう言った局面でもない。

 

 衣が懸念したとおり、次巡、咲が憩の和了り牌を掴まされた。これは、憩の能力によるものだ。

 已む無く、咲は振り込み回避で手を崩した。すると、その次のツモ牌で、

「ツモですぅー! 白ツモ一盃口ドラ2で2000、4000!」

 憩が満貫をツモ和了りした。

 

 この段階での点数は、

 1位:咲 29100

 2位:光 24000

 3位:衣 23900

 4位:憩 23000

 トップからラスまでが6100点差と、かなり拮抗した試合展開となった。

 

 

 南入した。

 南一局、親は再び憩。

 当然の如く、四人全員の支配力が対峙する。

 その中でも他家の力を押さえつける力としては、衣の一向聴地獄が最も効力が高い。衣は、ここでも東三局と同様に、敢えて聴牌せずに一向聴のまま場を進めた。

 

 東一局で感じたように、憩の支配力は春季大会の時よりも上がっている。しかし、憩が衣の一向聴地獄を破るためには誰かの聴牌が必要となるようだ。

 それで衣は、東三局の時と同様に海底牌直前での聴牌を目指した。

 

 誰も鳴かなければ海底牌は衣が引く。ここはリーチ一発海底撈月のパターンを狙う。そして、残り一巡となったところで、

「リーチ!」

 衣は思惑通り聴牌してリーチをかけた。

 

 しかし、まるでこの展開を読んでいたかのように、咲は次の牌………不要牌をツモると、

「カン!」

 手牌の中で既にできていた槓子を暗槓した。そして、嶺上牌をツモって聴牌し、さっきツモってきた不要牌を捨てた。

 これにより、ツモ牌が一枚減り、海底牌は衣ではなく憩のツモ牌に変わった。

 思い起こせば、春季大会個人戦決勝前半戦東一局でも、これと同じ方法で衣の海底撈月を潰された。

 次のツモは光。しかし。光は聴牌できずに安牌切り。

 そして憩は、衣と咲の二人が聴牌したことで能力が発動し、一向聴地獄を突き破って聴牌した。

 結局、衣は和了れず、この局は終了し、

「「「聴牌。」」」

「ノーテン。」

 三人聴牌で光が三人の1000点ずつノーテン罰符を支払うことになった。

 

 南一局一本場。

 ここでも衣は、諦めずに前局と全く同じ戦法を取った。他家全員に一向聴地獄を課したのだ。

 しかも、咲、光、憩は鳴いて聴牌することも出来ない。そのまま、誰も鳴かずにラスト一巡を残すところまで来た。

「リーチ!」

 前局同様に、衣は残り一巡を残したところで聴牌。当然のことのようにリーチをかけた。

 ただ、今回は咲の手の中で槓子は揃っていなかった。咲でも、毎局槓子が出来る保証は無い。

 咲も光も憩も鳴けないまま海底牌が衣の手に渡った。そして、

「リーチ一発ツモ海底撈月ドラ2。3100、6100!」

 余裕いっぱいの表情で、衣が海底撈月を決めた。そこに、間違いなく和了牌が眠っていたのを最初から知っていたようにしか見えない。

 咲、光、憩の支配力と対峙する今、衣もハネ満に仕上げるのが限界だったが、この和了りで衣は念願のトップに立った。

 

 

 南二局、衣の親。

 一向聴地獄を課しながら、中盤になって衣は、

「チー!」

 憩から鳴き、さらに、

「ポン!」

 光から鳴いた。これで、海底牌は衣が引くことになる。あとは、海底牌直前での聴牌を狙うだけだ。

 しかし、

「カン!」

 咲が、一向聴から暗槓し、嶺上牌を引いて聴牌した。そして、これに連動するかのように、憩も能力が発動して聴牌した。東四局の時と同じパターンだ。

 当然の如く、咲は次巡で憩の和了り牌を掴まされた。さすがに切ることは出来ない。

 今回も咲は振り込み回避で聴牌を崩した。

 そして、同巡のツモ牌で、

「ツモ。2000、4000ですぅー!」

 憩が和了って衣の親が終わった。

 ただ、和了れなかったにも拘らず、咲は平然とした表情をしていた。

「(くそ~。咲の奴~。)」

 衣は気付いていた。東四局の時とは違う。咲は、衣の親を流すために憩を利用したのだ。

 長野県大会の時でもそうだった。池田華菜に大量のドラを乗せて華菜に衣の目を向けさせて、衣が切った牌で咲が和了られたことがある。

 咲は、他家と組むのではなく、他家を上手に使う。

 本当に嫌な打ち手だ。

 しかし、まだ衣がトップだ。衣は、頭を切り替えて次局に望むことにした。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここで咲は、衣にも憩にも理解できない暴挙に出た。

「カン!」

 憩が捨てた{①}を大明槓して一向聴になるところを、面子を崩して、よりによって打{[⑤]}。意図的に二向聴のままにした。

 すると、この{[⑤]}を光が、

「チー!」

 {②④⑥}と持っていた両嵌から鳴いて打{②}。これで光はタンヤオ手を聴牌した。咲が普通に打っていたら聴牌できないはずの手だ。

 しかも、咲の大明槓により光の手牌の中の暗刻がドラに変わった。他に{[五]}も持っており、これでタンヤオドラ5のハネ満聴牌となった。

 そして、次巡、

「ツモ! 3000、6000!」

 光が念願のハネ満を和了った。

 

 この段階での点数は、

 1位:衣 28200

 2位:憩 26900(席順による)

 3位:光 26900(席順による)

 4位:咲 18000

 咲一人が原点を割る状態となった。しかし、まだ全員がトップを取れる状態にある。

 

 

 そして、オーラス、光の親。ドラは{中}。

 前局で第一弾の和了りを決めた光は、ここで早々と一向聴に辿り着いた。ここから、次なる和了りに向けて能力を全開にして衣の一向聴地獄を押し返す。

 東三局の時とは違って、光も前半戦トップが目の前にあるのだから気合いが違う。

 

 衣は、このまま憩対策で一向聴を維持していては、先に光に和了られてしまう雰囲気を感じ取った。

 下手に誰かが聴牌すれば憩も聴牌させるが、ここは和了った者が勝ちになる。

 ならば、衣も聴牌に向けて動き出すことにした。そして、二巡後には衣が聴牌し、これに続いて光、憩も聴牌した。

 しかし、その次巡、衣は和了れずに{⑨}をツモ切りすると、

「ポン!」

 これを咲が鳴いた。

 

 急に卓全体の雰囲気が変わった。

 光は、この空気に見覚えがあった。小さい頃から経験している嫌な感覚だ。

「(もしかしてプラマイゼロ? 咲は、これを狙っていたってこと?)」

 これは支配を超えた強制力とも言える。プラスマイナスゼロの支配が発動すると、他家の能力は全て機能しなくなるに等しい。

 光、憩、衣は、三人とも和了り牌を掴めずにツモ切り。勿論、それらは誰の和了り牌でもなかった。

 咲は次のツモ牌で、

「カン!」

 {⑨}を加槓した。

 

 この時の咲の手牌は、

 {①③[⑤]⑥⑧⑧⑧⑧中中}  明槓{横⑨⑨⑨⑨}

 

 ここに嶺上牌から{⑦}を引いて聴牌し、

「もいっこ、カン!」

 {⑧}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花混一ドラ3。3000、6000。」

 咲が嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①③[⑤]⑥⑦中中}  暗槓{裏⑧⑧裏}  明槓{横⑨⑨⑨⑨}  ツモ{②}

 

 この時、咲は、変則的だが自分だけ25000点持ち、他家は30000点持ちのイメージで打っていた。つまり、咲の頭の中では、

 1位:衣 30200

 2位:咲 30000

 3位:憩 28900

 4位:光 25900

 の接戦で、自分は僅差で2位になっていた。いや、僅差の2位かつプラスマイナスゼロを狙っていたのだ。

 

 しかし、実際には全員25000点持ちである。よって、前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 30000:+20

 2位:衣 25200:-5

 3位:憩 23900:-6

 4位:光 20900:-9

 咲がトップで折り返すことになった。




おまけ62

某掲示板にて


【四槓子は既に出た】インターハイ個人予選咲様編【ダム決壊連発】-4


639. 名無し麻雀選手

ここまでのまとめ
基本、咲様の下家がターゲット

一回戦
水村史織(越谷女子)←犠牲者二連覇&ターゲット&最終振込
安福莉子(劔谷)←犠牲者
中田慧(新道寺女子)
咲様:+139

二回戦
愛宕絹恵(姫松)←犠牲者二連覇&ターゲット
森垣友香(劔谷)←犠牲者&責任払い
友清朱里(新道寺女子)←犠牲者
咲様:+139

三回戦
能口彩花(鞍月)←犠牲者&ターゲット&責任払い
寺崎弥生(射水総合)←犠牲者二連覇
佐々野みかん(白糸台)
咲様:+139


640. 名無し麻雀選手

続き

四回戦
二条泉(千里山)←ターゲット
伏屋那都(斐太商業)←犠牲者
上重漫(姫松)
咲様:+138(最後はツモ和了り)

五回戦(咲様以外全員東京)
志村ケイ(東村山女子学院)←犠牲者&ターゲット&責任払い
多治比真祐子(松庵女学院)←犠牲者三連覇
渋谷尭深(白糸台)
咲様:+139

六回戦
石飛安奈(朝酌女子)←ターゲット&犠牲者
船久保浩子(千里山)
対木もこ(覚王山)
咲様:+138(最後はツモ和了り)

咲様の相手、対戦校が随分偏ってる気がする


641. 名無し麻雀選手

これから七回戦が始まる
相手は以下の通り
百鬼藍子(后土学園)
鈴木麻衣(東白楽)
亦野誠子(白糸台)


642. 名無し麻雀選手

咲様は、ここまで
+139を4回
+138を2回
犠牲者11人

二条泉はターゲットだったのに耐えたんだな
それはそれで凄いと思うぞ


643. 名無し麻雀選手

ちなみに光ちゃんの犠牲者は6人
ころたんの犠牲者は7人


644. 名無し麻雀選手

咲様、みかんと仲良いからな
団体準決勝では、みかんだけ削らなかったじゃん
決勝は一応削ったけどトバしてないし

個人三回戦も0点にはしたけど
箱下にしていない


645. 名無し麻雀選手

>>642
捨て牌が甘い人が他家にいないと+139はムリみたいだね
最後がどうしても厄マン直撃とか責任払いに出来ないから


646. 名無し麻雀選手

>>644
みかんの放水見たい派?


647. 名無し麻雀選手

咲様、六連続で対極前にタコス食べてる
まあ、一口ずつで、やっと一個完食した程度だけど


648. 名無し麻雀選手

これで咲様は起家か


649. 名無し麻雀選手

>>646
当然だろ!
参加選手の中で一番綺麗な子だからな


650. 名無し麻雀選手

ホントに咲様が起家になった
でも、咲様の手が今一つ低くないか?


651. 名無し麻雀選手

たしかに
倫シャン解放あがったけど
3900オールじゃん?


652. 名無し麻雀選手

手を抜いてるのか?
百鬼藍子か鈴木麻衣か亦野誠子の中にやりにくいのがいるのか?


653. 名無し麻雀選手

でも咲様だからな
魔物以外は相手にならないと思う


654. 名無し麻雀選手

一本場で和了ったけど、また3900オール
芝棒付いて4000オールだけど


655. 名無し麻雀選手

咲様、調子落としたのかな?


656. 名無し麻雀選手

いや、最後まで見ないと分からない


657. 名無し麻雀選手

でも、また手が低いぞ
今回もカンで、また3900オールじゃんか
二本場だから4100オールだけど


658. 名無し麻雀選手

点の伸び方がいつもの半分以下だな
これだと全員0点にするのに何本場までかかるか


659. 名無し麻雀選手

>>658
それだ!


660. 名無し麻雀選手

まだ他家は13000点持ってるぞ
咲様、もう三回あがったのに


661. 名無し麻雀選手

>>659
それって何なんだよ?


662. 名無し麻雀選手

>>659
なるほど、そう言うことか!


663. 名無し麻雀選手

>>661
つまり、芝棒を増やして、+141を狙うとかじゃないか?


664. 名無し麻雀選手

マジか、それ?


665. 名無し麻雀選手

北www
三本場も3900オールを倫シャン解放
芝棒ついて4200オール


666. 名無し麻雀選手

じゃあ、次も3900オールか?


667. 名無し麻雀選手

>>663
つまり、四本場と五本場で
片方が3900オール
もう片方が4000オールなら
芝棒付いて全員0点
次に厄マンあがれば
全員箱下16600で-47
咲様は+141か


668. 名無し麻雀選手

四本場も3900オールを倫シャン解放
芝棒ついて4300オール


669. 名無し麻雀選手

次4500オールだったらホントすげえぞ


670. 名無し麻雀選手

咲様、デカピンと西を暗刻で持ってる
あとドラが一枚


671. 名無し麻雀選手

これは来るぞ!


672. 名無し麻雀選手

西を暗カンしたぞ
そのまま倫シャン解放!
70符のツモ倫シャン解放ドラ1で4000オール
芝棒ついて4500オール
他家全員0点にした!


673. 名無し麻雀選手

667の言うとおりになった
でも、これって最初から3900オール五回に満貫一回って
決めてるってことだろ!
信じられねぇ


674. 名無し麻雀選手

他家全員涙目www


675. 名無し麻雀選手

信じるも信じないも、それができるのが咲様
だから奇蹟の闘牌と呼ばれている


676. 名無し麻雀選手

咲様の試合で団体なら六本場ってあった気がするけど
個人戦では初めてかな?


677. 名無し麻雀選手

団体では決勝で九本場やってる
個人で六本場は覚えてないな
その前にトバすからな


678. 名無し麻雀選手

咲様の手、いつの間にかツモり四暗刻聴牌してる


679. 名無し麻雀選手

西が来たwww
これはカンするか!


680. 名無し麻雀選手

西をカン!


681. 名無し麻雀選手

そのまま倫シャン解放か?


682. 名無し麻雀選手

>>680
にしおか?


683. 名無し麻雀選手

余裕の倫シャン解放!
厄マンで16600オール北www


684. 名無し麻雀選手

667の予言が当った
他家全員-47
咲様は+141
半連荘一回で稼いだ点数の新記録じゃないか?


685. 名無し麻雀選手

祝+141


686. 名無し麻雀選手

祝+141


687. 名無し麻雀選手

祝+141


688. 名無し麻雀選手

>>684
ダブル厄マン以上無しのルールで25000点持ちなら新記録
理屈の上では芝棒を増やせばもっと点を上げられるけど
実際にこれを破るのは不可能


689. 名無し麻雀選手

これで咲様は
+139を4回
+138を2回
+141を1回

平均+139かよ


690. 名無し麻雀選手

>>688
+138でも不可能だよ
普通は



続く?


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六十三本場:不可解

 休憩時間に入った。

 咲は、憧や穏乃をはじめとする阿知賀女子学院麻雀部の面々に連れられて対局室を出て行った。

「このまま後半戦も取って、サキの個人三連覇かな?」

「そんな、憧ちゃん。まだ分からないよ。衣ちゃんも憩さんも光も何を仕掛けてくるか分からないし。」

 珍しく咲の表情が強張っていた。

 やはり、ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーは、相当強烈なものなのだろう。

「で…でも、三回連続ベスト4は間違いないじゃん? それって、やっぱ凄いよね!」

「あ…ありがとう…。」

 憧は、何とか咲の緊張を和らげようとしたが、中々良い言葉が浮かんでこなかった。

 

 一瞬、重い沈黙が咲達を襲った。

 しかし、丁度この時であった。この空気を吹き飛ばすように、咲のスマホの着信音が高々と鳴り響いた。

 憧や穏乃からの着信音とは違う。

 この音は、京太郎からの着信だ。

「も…もしもし、京ちゃん?」

「お…おう。」

「さっきは、タコス、ありがとう。」

「別にイイって。それにしても凄いな咲。三連覇目前じゃんか?」

「さっきも憧ちゃんにも同じこと言われたけど、でも、まだ分からないよ。衣ちゃんも憩さんも光も強いし。」

「でも、咲なら出来る気がするよ。そうそう、さっき咲が言ってたタコスだけどさ…。昼に渡したやつ。」

「うん…。あれ、まだ食べてないんだ。決勝戦が終わったら、自分のご褒美にしようと思っていたから…。」

「そんな、ご褒美だなんて、いくらでも作ってやるよ!」

「あ…ありがとう…。」

「暖かいうちに食べて欲しかったけどな。そのほうが美味しいからさ。」

「うん。じゃあ、有り難く頂くよ。」

 京太郎の声を聞いたからか、咲の表情がドンドン和らいでいった。まさにナイスタイミングと言えよう。

 

 この時、穏乃と憧は、耳ダンボにして咲と京太郎の会話を聞こうとしていたが、

「先輩。邪魔しちゃ悪いです。」

「そうなのです。咲ちゃんと同志の邪魔をしてはいけないのです!」

 ゆい(小走やえ妹)と玄に手を引かれて咲からムリヤリ遠ざけられた。

 ただ、玄は、

「(それにしても、オモチの同志が咲ちゃんを選ぶのは不自然な気がするのです!)」

 と心の中では思っていたのだが………、口には出さないでいた。

 

 

 光も、この時、対局室を出ていた。

 彼女は、自販機の前でジュースの飲みながら、前半戦で咲が何をやっていたのかを色々考えていた。

「(やっぱり、30000点丁度ってのは気にかかるよね…。それに、あの雰囲気…。あれは絶対にプラマイゼロだった…。)」

 光には、大凡の見当がついていた。これは、間違いなく点数調整だ。

 恐らく咲は、優勝するために他家の支配力をプラスマイナスゼロの強制力で押さえつけたのだろう。

 ただ、今まで光が見てきたものとは少々異なる。

 

 この大会は25000持ちで行われているが、30000点持ちで行う対局も存在する。例えば、慕達が中学の時に行っていたルールは30000点持ちだった。

 

 光は、咲以外の三人に5000点足した点数を考えてみた。すると、咲はたった200点差の接戦で2位になる。

 しかも、咲自身は完璧なプラスマイナスゼロ。

「(やっぱり、今回の点数もプラマイゼロの応用ってことになるんだろうね。)」

 このことから、光は、咲が脳内で自分だけ25000点持ち、他家は30000点持ちで30000点返しのハンデゲームを想定して打っていたと結論付けた。

 そして、このハンデ戦で全員の点数を自分の思い描いた点数に調整するために、前半戦東四局では憩を和了らせた。つまり、これは点数調整の一環である。

 理由は、全員の点数を平らにするため。

 

 南二局で憩を和了らせたのは、衣の親を終わらせることと、親かぶりさせて衣を削ることの二つが理由だろう。

 やはり、咲としても今回マークすべきは最後のインターハイと言うことで予想以上にパワーアップしている衣なのだろう。

 憩も最後のインターハイで燃えているが、衣の一向聴地獄のほうが、タチが悪い。光としても衣のほうが遣り難く感じている。

 

 咲は、南三局も光に和了らせて三人の点数を平らにし、しかも自身の点数を18000点にすることで、次にハネ満を和了れば丁度30000点になるように仕組んでいたのだ。

 

 後半戦は、どのような仕掛けをしてくるのだろうか?

 咲が後半戦も前半戦と全く同じ戦法を取るとは思っていない。

 ただ、プラスマイナスゼロの強制力を巧く応用されたら………、光は、咲に勝てる道筋が考えつかない。

 このままでは、また負ける。

 光には、そう思えてならなかった。

 

 

 憩は、一旦トイレに向かった。

 彼女は、基本的に漏らさせる側であって漏らす側ではない。

 たしかに今回の相手は、咲に衣に光だが、それでも憩は、決して漏らすレベルの人間ではない。

 なので、ムリにここで用を足す必要は無い。

 別に何のことは無い。顔を洗ってすっきりしたかったためだ。

 

 彼女も、咲の打ち方に疑問を持っていた。

「(咲ちゃんは、何でうちに聴牌させたんやろ?)」

 春季大会よりも、憩の支配力は上がっていた。彼女自身、その自負があった。

 例えば、春季大会では、誰かが聴牌して能力発動の条件が満たされても、衣の一向聴地獄を振り払うことができずにいた。

 しかし、今回は憩の能力で一向聴地獄を押さえつけて聴牌できている。

 間違いなく、憩はパワーアップしている。

 これは、憩自身が純粋にパワーアップしたことと、最後のインターハイと言うことで今までの大会よりも気合が入っていることの二つが理由だろう。

 ゆえに衣は、それを察知してギリギリまで聴牌しない作戦に出ていた。

 ところが、咲は東四局と南二局でわざと聴牌して憩の能力を発動させ、憩にツモ和了りさせた。

 

 ただ、光と違って、咲のプラスマイナスゼロの強制力を知らない憩には、何故自分を和了らせたのかが理解できないでいた。(プラスマイナスゼロは知っていたが、強制力までは知らなかった。)

 

 

 衣もまた、光とは別の自販機の前に来ていた。

 彼女は、紙パックのジュースを片手に前半戦の内容を頭の中で反芻していた。

「(やはり、咲は他家の使い方が上手い。光や、前チャンピオンの照みたいな、力だけで押す麻雀ではない。ここぞと言うところでは直球勝負だが、それ以外では上手に変化球を混ぜてくるみたいな感じだ。)」

 衣は、プラスマイナスゼロのことまでは気付いていなかったが、少なくとも南二局で憩を和了らせたのは、自分の親を流すために憩を使ったことを十分理解していた。

 やはり咲は器用な打ち手だ。

 衣自身は、基本的には直球勝負しかできない。咲のような打ち回しは出来ない。

 他の者達が相手ならそれで良い。衣は自らが持つ剛球で相手を玉砕するだけだ。

 しかし、咲の打ち方は、単なる直球と変化球では無い。剛球と超変化球を上手に使い分けてくる感じだ。攻守に優れた感じがある。

 

 やはり咲に勝つためには、咲の剛球や超変化球を完全に凌駕する超剛球で全てを打ち負かすしかない。

 

 最後のインターハイくらい咲に勝つ。

 後半戦は、倒れるのを覚悟で、全局フルパワーで行くことを衣は決意した。

 

 

 休憩時間が終わり、対局者四人が対局室に戻ってきた。

 場決めがされた。

 衣が引いたのは{南}、光が引いたのは{北}だった。ここまでは、いつものとおりだ。

 しかし、次に咲が引いたのは{西}ではなく{東}だった。休憩中に咲は京タコスを食べていたのだ。それで咲が起家を引いたのだ。

 ただ、タコスを食べたことがそんなに嬉しかったのだろうか、咲は顔に満面の笑みを浮かべていた。

 一方の光は、咲が起家になることを想定していなかった。

 まさかの席順である。

 

 咲の本領………特にプラスマイナスゼロを基盤とした展開ならば、西家こそが咲にとって最も打ちやすい位置のはず。

 それが起家になるとは…。

 たしかに、予選リーグで当たる格下相手なら、咲は大抵起家になって、一気に稼いで他家全員をトバしていた。

 しかし、ここにいる面子は、そんな甘いことを許してはくれないはず。

 それなのに、咲は何故起家を引いたのだろうか?

 いったい、何を仕掛けてくるのだろうか?

 もっとも狙って{西}を引き続けること自体不可能ではあるのだが…。ただ、ここで起家を引く理由が分からない。

 結局、残った{西}は憩が引くことになった。

 

 

 東一局、咲の親。

 咲から放出される凄まじいエネルギーを光は感じ取っていた。

 これは、間違いなくプラスマイナスゼロを狙ったもの。他家が決して抗うことを許されない強制力だ。

「ポン!」

 憩が捨てた{②}を咲が鳴いた。

 本来なら、鳴きが入らなければ海底牌をツモるのは衣だったが、これで海底コースは光に変わった。

 衣も、折角の海底コースを奪われて対抗心に火が点いた。

 咲の鳴きから数巡後、

「チー!」

 衣は咲が捨てた{7}を鳴き、さらに次巡、

「チー!」

 咲が捨てた{2}を鳴いて海底コースを自分のものに戻した。

 ただ、この二度に渡る衣の鳴き………つまりツモ牌が変わることによって、咲は欲しい牌を連続で引き入れていた。全ての牌が見える咲ならではの巧みな仕掛けであろう。

 そして、次巡、

「カン!」

 咲が{②}を加槓した。そのまま嶺上牌を引き入れると、

「もいっこ、カン!」

 元々手牌の中で四枚揃っていた{③}を暗槓し、次の嶺上牌を引いた。

 続いて咲は、

「もいっこ、カン!」

 {①}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 今度は{西}を暗槓した。

 そして、最後の嶺上牌で、

「ツモ!」

 咲は嶺上開花を決めた。

「16000オールです!」

 まさかの四槓子。

 初っ端からとんでもない手が炸裂した。

 しかも、プラスマイナスゼロのオーラを出しながらの親役満。光には、咲が何をしようとしているのか、まるっきり理解できなかった。

 

 東一局一本場、咲の連荘。

 ここでも光には、前局同様に咲の強力な強制力が感じられた。衣の一向聴地獄が発動しているはずなのだが、それを咲の強制力が抑制している。

 咲の力が、光の能力を押さえつけている感覚は無い。むしろ、衣の能力が抑制されてフリーな状態に近い。

 ならば、この状況を利用させてもらう。光は、自分のツモに能力を集中した。

 数巡後、

「(聴牌…。)」

 光はムダツモなく、すんなりと聴牌まで持って行けた。光にとって、ここは和了るチャンスだ。

 幸い、平和のみだが和了り役はある。しかも手の中には、ドラと赤牌が合計三枚ある。それだけで出和了り7700点の手だ。

 そう思った直後、和了り牌が咲から零れ落ちた。

「(えっ?)」

 まさか、咲から聴牌即で和了り牌が出てくるとは思わず、一瞬反応が遅れたが、これは大きなチャンス。

 しかも、現在リードしているのは前局で役満を和了った咲だ。当然、今は咲から和了れるのが最も理想的だ。

「ロ…ロン! 7700の一本場は8000。」

 光は、咲から和了り、8000点を奪い返した。

 

 

 東二局、衣の親。

 衣は、前局も前々局も全力で能力を発動していた。しかし、咲に巧くかわされた感じがある。

 この局も衣は全力で望んでいた。他家の一向聴地獄が確実に発動しているはず。

 それでも、咲なら嶺上牌を利用して聴牌することは可能だろう。

 ただ、前局では光も聴牌してきた。咲の能力で一向聴地獄が弱められたところを一気に狙われた感じがする。

 それを繰り返さないよう、衣は光の一挙一動に対して十分過ぎるほど目を光らせていた。

 しかし、

「カン! もいっこ、カン!」

 咲が二連続で暗槓してきた。これで咲は嶺上牌を二枚引いて聴牌した。

 急に、衣は下家の憩から不穏な空気を感じ取った。咲が聴牌したことで憩の能力が発動したのだ。

「(これはマズイ。衣が先に和了らないと…。)」

 しかし、衣のツモは不要牌だった。已む無く、これをツモ切り。

 一方、憩は有効牌を引いたようだ。聴牌気配がヒシヒシと伝わってくる。しかも、その気配から相当高い手と思われる。

 さっきまでは、これほど強大な気配は感じていなかったのに何故?

「(咲のカンか!)」

 昨年の県予選でもあったパターンだ。

 あの時は、咲が二連続で暗槓し、華菜に大量のドラを乗せた。その結果、衣は華菜のほうにばかり気を取られて咲に振り込んだ。

 同じ事を繰り返してはならない。

 ここは慎重にならないと…。

「(同じ手は通じないぞ! 咲!)」

 しかし、衣がそう思った矢先に、咲がツモ切りした牌で、

「ロン! タンヤオドラ7。16000ですぅー!」

 憩が和了った。

 さすがの衣も、

「(どう言うことだ? 咲は、いったい何を考えている?)」

 と心の中で叫んだ。

 咲の、まさかの二連続振り込み。

 前局の振り込みと併せて、これで咲は、東一局で和了った親役満の半分の点数を失った。さすがに、この打ち方は衣にも理解不能だった。

 

 

 東三局、憩の親番。

 前局で咲から倍満を和了れて、憩は自分に勢いが来ると予感していた。しかし、相変わらず一向聴までは手が進んだが聴牌できない。

 衣も、下手に聴牌すると憩の能力が発動するので一向聴までで手を抑え、その後はツモに力を入れずに敢えて一向聴を維持していた。

 

 この時の衣の手牌は、

 {①①①⑤⑤[⑤]11南南北白白}

 

 ここに咲が{南}を切ってきた。

「(これは、わざとか?)」

 衣は敢えてそれをスルーしたが、次巡、咲は{1}を切ってきた。

「(またか。)」

 一向聴維持のため、これも衣はスルーした。

 しかし、そのさらに次巡、咲は{南}を切ってきた。三連続で鳴ける牌を捨てられて、さすがに衣も耐えられる限界を超えた。

「ポン!」

 とうとう衣は{南}を鳴き、打{北}で聴牌した。

 これを受けて憩の能力が発動した。

 同巡ツモで憩が聴牌。当然、憩は前局と同様に自分にツキが来てくれると信じ込んでいた。この流れなら誰でもそう思うだろう。

 しかし、その直後、咲が切ったのは{白}。これで衣が、

「ロン! 白対々赤1で8000!」

 当然和了った。これが、衣にとって後半戦初の和了りである。

「(何をやってるん? 咲ちゃんは?)」

 一方、憩にとっては、衣の一向聴地獄を破って折角の聴牌できたのを瞬時にムダにされた感じがある。これはこれで、ショックの色が隠せない。

 さすがの憩も、一瞬、咲に向けた視線がきつくなった。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{1}。

 ここでも咲の奇行が目立った。

 衣は敢えて一向聴維持。他家には衣の一向聴地獄が降りかかり、全員が一向聴のまま場は終盤を迎えた。

 海底牌は、本来ならば親の下家の咲に行く。

 しかし、ここで何故か、

「チー!」

 咲が鳴いた。しかも、これは一向聴から二向聴に落としての鳴きであった。

 傍目には意味不明だ。

 加えて、これで海底牌は衣に行くことになる。つまり、絶対に鳴いてはいけない局面で咲は鳴いたのだ。

 これには衣の顔にも不可思議な表情が表れた。

「(何が目的だ、咲?)」

 しかし、これは衣にとってラッキーである。

 本来なら、衣が咲から鳴いて海底コースを自分に持って来るべきところを、咲が勝手に鳴いて衣にコースインさせてくれたのだ。

 しかも、衣は鳴いていないのでリーチがかけられる。

「(理由は分からないが、このチャンス、利用させてもらうぞ!)」

 衣は、ラスト一巡で聴牌し、

「リーチ!」

 当然の如くリーチをかけた。

 これで憩の能力が発動するが、憩は聴牌するところまでしか出来ない。肝心の先行聴牌者のツモ牌………海底牌は、衣が支配しているためだ。

 

 衣は、海底牌をツモると、それを力強く手元に叩きつけた。

「リーチ一発ツモ海底撈月ジュンチャンドラ2。4000、8000!」

 倍満炸裂。

 この和了りで衣は一気に2位に躍り出た。

 しかも、トップの咲との点差は4000点。

 これで咲の背中を捕らえたと言っても過言ではない。

 

 この段階での後半戦の点数は、

 1位:咲 37000

 2位:衣 33000

 3位:憩 21000

 4位:光 9000

 咲は、既に親役満の和了りで得た点数の四分の三を失っていた。また、光は衣の倍満ツモの親かぶりが大きく、点数が9000点にまで落ち込んでいた。




おまけ

某掲示板にて


【総合得点新記録か】インターハイ個人予選咲様編【ダム決壊者既に二桁】-10


721. 名無し麻雀選手

ここまでのまとめ
基本、咲様の下家がターゲット

一回戦
水村史織(越谷女子)←犠牲者二連覇&ターゲット&最終振込
安福莉子(劔谷)←犠牲者
中田慧(新道寺女子)
咲様:+139

二回戦
愛宕絹恵(姫松)←犠牲者二連覇&ターゲット
森垣友香(劔谷)←犠牲者&責任払い
友清朱里(新道寺女子)←犠牲者
咲様:+139

三回戦
能口彩花(鞍月)←犠牲者&ターゲット&責任払い
寺崎弥生(射水総合)←犠牲者二連覇
佐々野みかん(白糸台)
咲様:+139


722. 名無し麻雀選手

続き

四回戦
二条泉(千里山)←ターゲット
伏屋那都(斐太商業)←犠牲者
上重漫(姫松)
咲様:+138(最後はツモ和了り)
※唯一ターゲットで犠牲者にならなかった泉はエライ

五回戦(咲様以外全員東京)
志村ケイ(東村山女子学院)←犠牲者&ターゲット&責任払い
多治比真祐子(松庵女学院)←犠牲者三連覇
渋谷尭深(白糸台)
咲様:+139

六回戦
石飛安奈(朝酌女子)←ターゲット&犠牲者
船久保浩子(千里山)
対木もこ(覚王山)
咲様:+138(最後はツモ和了り)


723. 名無し麻雀選手

続き

七回戦
鈴木麻衣(東白楽)←ターゲット&犠牲者
百鬼藍子(后土学園)
亦野誠子(白糸台)
咲様:+141(最後はツモ和了り)

八回戦
○○☆☆(伊保庄)←ターゲット&犠牲者
△△□□(千代水)←犠牲者
◎◎▽▽(能古見)←犠牲者
咲様:+138(最後はツモ和了り)

九回戦
●●▲▲(堀米)←ターゲット&犠牲者
▼▼××(大生院)←犠牲者
★★■■(観海寺)←犠牲者
咲様:+138(最後はツモ和了り)


724. 名無し麻雀選手

十回戦
八木原景子(越谷女子)
依藤澄子(劔谷)
真屋由暉子(有珠山)

由暉子タソは今、総合11位にいるけど
これでベスト16から漏れるな
最低でも-30喰らうから


725. 名無し麻雀選手

咲様は、ここまで
+141を1回
+139を4回
+138を4回

犠牲者18人
現在合計1249点

咲様は、ここでトンでも1位通過間違いなしだな


726. 名無し麻雀選手

ちなみに光ちゃんの犠牲者は11人
ころたんの犠牲者は13人

三人合計で42人か


727. 名無し麻雀選手

咲様はタコスパワーで十連続起家
ターゲット(咲様の下家)は八木原景子
史織タソの先輩


728. 名無し麻雀選手

タコスと起家が何故繋がる?
理解不能だ


729. 名無し麻雀選手

由暉子タソの黄金の左腕に期待


730. 名無し麻雀選手

咲様の+141は一回きりか


731. 名無し麻雀選手

もう一回+141を期待
そうすれば合計+1390点で1380点台を越える


732. 名無し麻雀選手

出来れば春季は+1410を狙ってほしいな


733. 名無し麻雀選手

>>729
それはムリ
由暉子タソもう既に左手使った
あれは一日一回きりだからな


734. 名無し麻雀選手

咲様聴牌
いきなりメンチンとかヒドくね?


735. 名無し麻雀選手

ここからカン北www
倫シャン解放!
メンチンツモ一盃口倫シャン解放赤2
いきなり親の三倍満!


736. 名無し麻雀選手

三倍満は今日初めてじゃないか?


737. 名無し麻雀選手

次も三倍満で
その次は900オールか
その次が厄マンと


738. 名無し麻雀選手

>>736
×今日初めて
○京初めて

せめて咲様のためにそう言ってあげよう


739. 名無し麻雀選手

咲様の表情、随分良くなったな
朝は怖かったからな


740. 名無し麻雀選手

以前誰かが言ってたな
確率重視の孕村と確率無視の咲様の中が良いって


741. 名無し麻雀選手

>>738
同意

>>740
咲様の『中』が良いのは京ちゃん
孕村とは『仲』が良い

咲様のために、せめてこれくらいは区別してあげたい


742. 名無し麻雀選手

>>739
現場にいる者なんだけど
私は六回戦で64位に入れなくて予選落ちしたんだけどね
昼に咲様が京ちゃんのお手製弁当食べてるの三田


743. 名無し麻雀選手

既に咲様、三倍満聴牌のもよう
勿論、倫シャン解放前提で


744. 名無し麻雀選手

もう次あたりカン来そうだな


745. 名無し麻雀選手

>>742
愛の手作り弁当か!
それは機嫌が良くなるわけだ


746. 名無し麻雀選手

北www
東カン!


747. 名無し麻雀選手

倫シャン解放!
ツモタテホンダブ東中一盃口チャンタ
マジか
本当に三倍満だ


748. 名無し麻雀選手

これで他家全員残り900点


749. 名無し麻雀選手

次は700オールの二本場で900オール!


750. 名無し麻雀選手

王道パターンだな

明星レベルでも咲様に点数調整されるからな


751. 名無し麻雀選手

やはり配牌から察するに平和系
いきなり咲様ドラを落とした
完全な900オール狙い


752. 名無し麻雀選手

タンヤオも消えた


753. 名無し麻雀選手

本当に平和のみになってる


754. 名無し麻雀選手

>>750
光レベル、天江さんレベルでも咲には点数調整されるよ
前チャンピオンも、咲の点数調整で苦しめられた

春季個人決勝卓の後半戦では、オーラス直前に、咲はわざと
自分の前後半のトータルをプラス4にして、それで他家全員
トップを取れば優勝できる状況を敢えて作って勝負させた

その罠に天江さんが嵌って一を捨て、そこから大明カンされた

結局、後半戦はプラマイゼロを達成し、前後半戦トータルでトップ


755. 名無し麻雀選手

平和ツモ!
二本場900オール
でも、狙ったパターンできちんと和了れるからな
何時見ても凄い


756. 名無し麻雀選手

次は厄マン!


757. 名無し麻雀選手

>>754
詳しいな
関係者か?


757. 名無し麻雀選手

でも、この配牌だと狙える厄マンって…
また四カン子?


758. 名無し麻雀選手

どんどん暗刻が出来て行く
これは四暗刻かな?


759. 名無し麻雀選手

>>757
754だが、咲の知り合いだ

前チャンピオンを昨年個人戦決勝で破った時も
後半戦はプラマイゼロの点数調整

世界大会で光と戦った時の軌跡のダブる厄マンも
去年の長野県予選での逆転劇も
全て咲の演出

だからこそ点棒の支配者と呼ばれる


760. 名無し麻雀選手

咲様の手、いつの間にか四暗刻聴牌してる


761. 名無し麻雀選手

これは行ったか?


762. 名無し麻雀選手

景子タソの振込みwww


763. 名無し麻雀選手

最後は倫シャン解放なしか


764. 名無し麻雀選手

画面切り替わらないし、被害は無いみたいだね
景子タソ耐えた?


765. 名無し麻雀選手

でもこれで咲様はトータルが+1388だぞ
春季大会の記録を6点更新した!


766. 名無し麻雀選手

決勝トーナメントが楽しみだな
あっ! 画面が飛んだ


767. 名無し麻雀選手

祝+1388


768. 名無し麻雀選手

祝+1388


769. 名無し麻雀選手

>>766
楽しみって放水をか?


770. 名無し麻雀選手

今現場
越谷女子と劔谷の子がジャージ持って急行中
景子タソと澄子タソもダム決壊確定!
耐えたのは由暉子タソだけっぽい


770. 名無し麻雀選手

咲様、前人未到の犠牲者20人達成!


771. 名無し麻雀選手

祝20人


772. 名無し麻雀選手

祝20人






予選終了


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六十四本場:翻弄される衣と光、そして点数は究極のプラマイゼロに…

 南入した。

 南一局、咲の親番。

 ここでも、

「カン! もいっこ、カン!」

 東二局と同様に二連続で暗槓してきた。一応、これで咲は聴牌。完全に東二局と同じ展開である。

 これで憩の能力が発動することが予想される。

 それを分かっていて、咲は連槓から和了らず、聴牌で止めているのだから、衣には暴挙としか思えない。何故和了りまで持って行かないのか、疑問である。

 一方の光は、咲がプラスマイナスゼロを発動させていると感じていたので、これは点数調整の一環であると理解していた。

 

 この時の咲の手牌は、

 {六七①①④④④}  暗槓{裏44裏}  暗槓{裏77裏}

 

 こうなると、嫌でも衣の意識は相対的に憩に多く注がれてしまう。連槓で目立つ咲も然ることながら、それ以上に他家の聴牌で能力が発動する憩を、普通はマークせずにいられない。

 

 春季大会個人戦で、衣は咲が和了った次の局では咲に、光が和了った次の局では光に、自然と意識が集中してしまった。

 そのため、全体を均等に能力支配することが出来なかった。それが、結果的に敗因に繋がったと衣は思っていた。

 それで衣は、同じミスを犯さないように、あれから彼女なりに精神面を鍛えてきたつもりである。

 なので、この対局では前局で和了った相手にばかり気を取られないで打つことが出来ていると自負していた。

 

 しかし、咲の二連続暗槓は、東二局で憩が和了った倍満ツモの記憶を呼び起こす。それで衣は、どうしても憩に注意を向けてしまう。

 

 加えて衣は、聴牌に向けて焦り出していた。

 理由は簡単だ。

 このまま放っておいたら、憩にサクッと和了られてしまうだろう。その危機感からの焦りだ。

 しかし、今回のツモはムダツモ。手牌は動かず。そして、憩がツモる時、衣は無意識に一向聴地獄の能力を憩に絞った。

 これが功を奏したのか、憩は聴牌できなかった。

 いや、厳密には聴牌できたのだが、聴牌に取る意義がなかった。

 

 この時の憩の手牌は、

 {二三六七八⑥⑦⑧56中中中}  ツモ{二}

 

 ここから打{三}で聴牌だが、{47}待ちでは和了り牌が無い。既に、両方とも咲が暗槓した牌。よって空聴だ。

 これでは、さすがに打{三}での聴牌には取れない。{一}か{四}か{5}か{6}をツモっての聴牌なら良かったのだが………。

 これも衣の一向聴地獄の能力によるものだろうか?

 已む無く憩はツモ切りした。

 

 そして、次のツモ番である光が山から牌を引いた直後、衣はとてつもなく強大なエネルギーを光の手牌から感じ取った。

「(しまった。今回抑えるべき相手は、こっちだったか!)」

 どうやら、今回大量にドラが乗ったのは光のようだ。

 

 一向聴地獄の支配が憩に集中した分、瞬間的に光への干渉が薄れた。これにより、光は、このツモで聴牌した。

「(咲の聴牌は、衣を翻弄するためだったのか?)」

 咲が敢えて聴牌して憩の能力を発動した理由………、それは、一向聴地獄による支配を乱すためと、衣は、ようやく理解した。

 

 たしかに、咲と憩を無意識に強くマークして、光に聴牌させる隙を作ってしまった。

 しかし、それに何のメリットがあるのかは衣には分からない。

 ここで光に大量のドラを乗せて和了らせたところで、10000点を割った光を原点付近に戻すだけだ。

 

 次の咲のツモ牌は{④}だった。

 この時、咲には嶺上牌が{[五]}であることが分かっていた。しかし、ここで敢えて暗槓せずに打{①}。何故か咲は、和了りを放棄していた。

 もっとも嶺上牌が開かれていない以上、そのことを知るのは、全ての牌が見えている咲のみであったが…。

 

 そして、その同巡、衣と憩は順に聴牌したが、二人とも一歩遅かった。

 今度は光が、

「ツモ。タンヤオドラ7。4000、8000!」

 先に倍満をツモ和了りした。

 

 

 南二局、衣の親。

 現在の後半戦の点数は、

 1位:咲 29000(席順による)

 2位:衣 29000(席順による)

 3位:光 25000

 4位:憩 17000

 

 当然、衣は単独トップを目指して和了りに行こうとした。

 ここで和了れば、たとえそれが安手でもトップになれる。咲と同点では席順で負けるため意味が無い。

 

 衣は、全員に一向聴地獄を課した。

 憩の能力は、たしかに春季大会よりも進化している。

 しかし、この決勝戦で今まで打ってきた感触から察するに、憩は先負に似た能力が発動しない限り、今の衣の一向聴地獄を破ることは無さそうだ。

 

 咲は相変わらず嶺上牌を引くことで一向聴地獄を敗れるが、この半荘は、咲のやることが良く分からない。

 和了りに行っているのか、それとも一向聴地獄を乱すためだけに、ただ引っ掻き回しているのか、奥底にある真意が未だ衣には理解できずにいた。まったくもって意味不明である。

 

 ただ、この局は、衣にとってチャンスに変わる可能性がある。

 本来なら、ここで海底牌をツモるのは、憩になる。しかし、もし咲が一つ暗槓すれば、海底牌をツモるのは衣に変わる。

 それもあって、衣は、憩から鳴いて海底牌に向けてコースインするのを見合わせて様子を見ていた。

 

 中盤に差し掛かった。

「カン!」

 咲が暗槓してきた。

 これまでと同じだ。咲は手の中に槓子を持っていたが、暗槓せずに二向聴の形を取っていた。

 衣の一向聴地獄の下では、咲が確実に聴牌するためには嶺上牌を引く必要がある。ただ、これは、逆に言えば、嶺上牌を使わなくても一向聴までは持って行けることを意味する。

 それで咲は、四枚揃いの牌を暗槓せずに一向聴まで手を進めたのだ。そして、嶺上牌をツモると咲は聴牌し、元々持っていた不要牌を切った。

 

 衣は、突然、憩から強大なエネルギーを感じ取った。咲の聴牌で憩の能力が発動したのだ。南一局と同じパターンだ。

「(何故、咲はこんな打ち方をする?)」

 やはり、今の咲の打ち方が衣には理解できなかった。

 前半戦東一局で、咲は、連槓により一向聴から聴牌を経由して、牌を捨てることなく和了る華麗なる技を披露した。

 これは、衣と憩のダブル対策での和了りだ。しかも、この和了りを咲は春季大会でも披露していた。つまり、咲ならそれが狙ってできるはずだ。

 それなのに何故、咲は、この半荘では和了りまで持って行かずに、敢えて憩の能力発動条件である先行聴牌の形を作るのか?

 

 衣は、憩対策で聴牌を避けていたため、当然、次のツモでは和了れない。それどころか、このツモで聴牌すら出来なかった。

 一方、憩は同巡で聴牌し、次巡で、

「ツモ! 平和ドラ3で2000、4000ですぅー!」

 満貫を和了った。

 手牌の三枚のドラのうち、一枚は咲の暗槓によって乗った新ドラだ。もし、咲が暗槓しなければ5200の手だ。

 やはり、咲のやっていること疑問だらけだ。強いて言えば、衣の親を流すために憩を使ったことが考えられるのだが………。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:咲 27000

 2位:衣 25000(席順による)

 3位:憩 25000(席順による)

 4位:光 23000

 全員の点差がなくなってきた。

 

 

 南三局、憩の親。ドラは{2}。

 衣の一向聴地獄は未だ健在。憩も光も序盤で一向聴まで持って行けたが、そこから聴牌まで進められずにいた。

 明らかに春季大会よりも衣の支配力が強い。

 しかも、それが前半戦東一局から後半戦の南三局まで基本的に弱まることは無い。ずっと強力な支配を続けたままだ。

 たしかに、咲の打ち方に翻弄されて光への支配が瞬間的に弱まることはあった。

 しかし、衣の精神が揺さぶられない限り、強力な支配が場を完全に押さえ込んでいた。

 これが最後のインターハイに賭ける三年生の底力なのだろう。

 

 中盤に入った。

 この時の光の手牌は、

 {一二三六八[⑤]⑤556中中中}

 {七}、{⑤}、{4}、{5}、{7}の何れかが来れば聴牌できるのだが、それを自力で掴み取ることができないでいた。

「(まさか、ここまで支配力が強いとはね…。)」

 光は、未だ衣の一向聴地獄を跳ね返せずにいた。

 

 しかし、ここで咲が{[5]}を捨ててきた。

 ミスだろうか?

 普通なら、この局面では絶対に出てこない牌だろう。

 すかさず光は、

「ポン!」

 これを鳴いた。当然、打{6}で聴牌。

 そして、咲が次のツモ番で捨てた{七}で、

「ロン! 中ドラ2。40符3翻で5200。」

 光が和了った。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:光 28200

 2位:衣 25000(席順による)

 3位:憩 25000(席順による)

 4位:咲 21800

 咲からの直取りで光が一気にトップ、咲が最下位と順位が入れ替わった。傍から見て、これは、まさかの振り込みであった。

 

 ただ、光自身は、この和了りに違和感があった。

 この局も、光は後半戦東一局と同様に、咲からプラスマイナスゼロの独特なオーラを感じていた。

 いや、この局だけではない。この後半戦でずっと感じ続けている。

 咲の狙いは何だろうか?

 前半戦と同じパターン………、咲が25000点持ち、他家が30000点持ちの仮想ハンデゲームだろうか?

 もしそうなら、咲は、間違いなくこのオーラスで満貫を和了るはず。

 それで咲は、29800点となり、五捨六入でプラスマイナスゼロを達成する。小学生の頃から見てきた咲の独特の戦術だ。

 

 しかし、和了り方が問題だ。

 もし、満貫ツモ和了りなら、仮想ハンデゲームの点数は、

 1位:咲 29800

 2位:光 29200

 3位:衣 28000(席順による)

 4位:憩 28000(席順による)

 咲がトップとなり、プラスマイナスゼロが達成できなくなる。

 

 だとすれば、咲の狙いは満貫出和了りのはず。

 勿論、誰からの出和了りでも良い。それで仮想ハンデゲームの3位でプラスマイナスゼロが無事に達成される。

 しかも、それでいて、現実の点数では咲がトップになる。

 そんな下準備をしていたとは、さすが咲であると光は思っていた。

 

 しかし、もしここで光が咲の和了りを回避して親満をツモ和了りできれば、後半戦の点数は、

 1位:光 34200:+24

 2位:衣 23000:-7

 3位:憩 23000:-7

 4位:咲 19800:-10

 

 そして、前後半戦トータルは、

 1位:光 +15

 2位:咲 +10

 3位:衣 -12

 4位:憩 -13

 光の念願の個人戦優勝となる。

 

 俄然、光はヤル気が出てきた。

 是が非でも和了る。

 今まで以上に気合が入ってきた。

 しかし、ここで和了れば総合優勝できるのは光だけでは無い。衣や憩にとっても条件は同じだ。

 となれば、当然、衣と憩のモチベーションも上がる。

 勿論、玄とは違って、決してオモチベーションではない!

 

 

 運命のオーラスが始まった。

 親は光。ドラは{9}。

 衣は最大出力で一向聴地獄を他家に課した。いや、最後の局と言うことで、最大出力を超えた支配力を見せていた。

 完全に自分自身の力を最後まで振り絞っての戦いだ。

 

 しかし、衣には今まで以上に卓全体にかかる雰囲気に違和感があった。

 咲は嶺上牌を使わない限り一向聴地獄を跳ね除けられないはずだし、憩も他家が聴牌しない限り能力は発動せず一向聴地獄を押し返せないはずだ。

 ところが、本日最強のパワーで他家に課しているはずの一向聴地獄が、良く分からない力で押さえつけられて機能していない。

 そんな感じがしていた。

 

 中盤に入った。

 衣は、咲から聴牌気配を感じた。明らかに一向聴地獄の支配は跳ね返されていた。

 その強烈なパワーが何なのか、衣には分からなかった。

 ただ、衣には能力で咲の和了り牌が分かる。衣は、少なくとも自分が咲に振り込むことだけは無いとの自負があった。

 

 一方の光は、他家の手牌を高い精度で読み取れる。

 この時、光は、咲の手牌を、

 ???{三三四四五五東東北北}

 ここまで読み取っていた。

 ただし、{五}は一枚赤牌の可能性もある。現段階では、赤牌であるか否かまでは判定できていなかった。

 

 また、左三枚は、配牌時点から一切動いていない牌のため、確定が出来なかった。

 とは言え、不明な三枚を予測することは出来る。

 もし咲が仮想ハンデゲームでのプラスマイナスゼロを狙っているとしたら、咲の手は混一色一盃口か混一色七対子になるだろう。多分、それくらいしかない。

 そこを起点に考えれば、ある程度想像がつく。

 ???に入るのは、{一一一}か{二二二}、{一二三}、{一一二}、{一二二}などと言ったところだろう。

 河には、既に{北}が二枚見えている。{東}はまだ一枚も出ていない。となれば、咲の狙いは萬子か{東}のはず。

 

 この時、光の手牌は、

 {七八九①③④[⑤]⑥⑦⑧499}

 一向聴だった。

 

 ここに光がツモって来た牌は{東}。さすがに、これは捨てられない。咲の和了り牌である可能性が高いと読んだ牌だ。

 やむを得ず、光は打ち回して{4}を捨てた。

 そして次巡、ここで光がツモった牌は{9}。{東}か{①}を切れば聴牌だ。どうやら、光に対しても衣の一向聴地獄が機能しなくなっていたようだ。

 恐らく、これは咲のプラスマイナスゼロの強制力が働いて一向聴地獄を打ち消したのだろう。光には、それが容易に想像ついた。

 

 聴牌に取れること自体はラッキーだ。

 しかし、これは{東}を振り込ませるための罠!

 光は、そう感じていた。

 

 {東}が切れないと踏んだ以上、ここで光が切る牌は、{①}しかない。

 ならば、光が取る道は、ここで役無し聴牌にとって自力で最後の{東}をツモり、ツモドラ4の満貫を和了る。

 それで優勝するしかない。

「(勝負!)」

 光が{①}を強打した。

 しかし、その直後、

「(違う! これって………、もっとヤバいヤツじゃ………?)」

 この上なく嫌な雰囲気を光は感じ取った。それと同時に、

「ロン!」

 咲の和了り宣言の声が聞こえた。

「七対赤1。3200。」

 

 開かれた手牌は、

 {①一一三三四四五[五]東東北北}  ロン{①}

 光にとっては、まさかの{①}単騎だった。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:咲 25000(席順による):+15

 2位:衣 25000(席順による):-5

 3位:憩 25000(席順による):-5

 4位:光 25000(席順による):-5

 まさかの全員原点であった。つまり、仮想ウマなしオカなしの25000点持ち25000点返しのルールで全員をプラスマイナスゼロに仕上げたのだ。

 しかし、今回のルールは確定点無しの西入無しで、ウマはないがオカはある。30000点返しだ。

 そのため、起家の咲が席順で1位になり、オカが付く。まさに京タコス効果による1位だった。

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:咲 +35

 2位:衣 -10

 3位:憩 -11

 4位:光 -14

 咲が夏春夏の個人戦三連覇を決めた瞬間だった。

 

 

「まさか全員が原点に戻るとは、とんでもない奇跡です!」

 アナウンサー福与恒子の興奮した声が観戦室にこだました。このような結果は、普通予想できないだろう。

 少なくとも狙ってできる代物ではない。普通は…。

 しかし、ここには普通じゃない人間がいる。

 究極のプラスマイナスゼロ。

 咲が狙っていたのは、これだったのだ。

 勿論、遊びで狙ったのではない。衣や憩のパワーを上回る支配力を出すために、プラスマイナスゼロの強制力を利用したのだ。

 

「そして、優勝は日本の守護神。嶺の上の女王。宮永咲選手に決まりました。これで宮永咲選手は団体戦に続き、個人戦も前人未到の三連覇を成し遂げました!」

 恒子の興奮した声が、再び観戦室にこだました。

 

 

 表彰式が行われ、憩の首に銅メダル、衣の首に銀メダル、咲の首に金メダルが順にかけられていった。

 しかし、これと同時に、今度は国民麻雀大会での打倒咲を、各選手達が自身の心の中で大きく掲げていた。

 少なくとも咲は奈良県のジュニアAチームで出場してくるだろう。

 既にライバル達は、次の試合に照準を合わせて動き出していた。




おまけ

咲「インターハイも終わったし。これで、ちょっと一息つけるかな?」


今日、咲は東京から家に戻ってきた。
自分の部屋でベッドに横たわる。
久し振りの一人の空間だ。
ふと、咲がラジオをつけた。すると…、聞いたことのある声………いかにも図々しさ満載の声がラジオから聞こえてきた。


華菜「またまた、華菜ちゃんがコーナーを持たせてもらうことになったし! これで三回目だし! やっぱり、これって華菜ちゃんが人気あるって証拠だし!」

華菜「しかも第二部終了の回に合わせての起用だし! これって絶対に期待されてるに違いないし!」

華菜「一回目と二回目は、最後に地獄に突き落とされたような麻雀を打たされたけど、三度目の正直って言うし!」

スタッフ:二度あることは三度あるとも言うよ

華菜「スタッフが何は変なことを書いたボードを華菜ちゃんに見せているけど、全然気にしないし!」

華菜「と言うわけで、パーソナリティの華菜ちゃんだし!」

華菜が台本を見る

華菜「コーナーのタイトルは、『華菜108しき』って、なんなんだし! 華菜ちゃんは憧100式とは関係ないし! 人間だし! ダッチ〇イフじゃないし!」

スタッフ:108しきじゃなくて、振り仮名をきちんと読んで

華菜「振り仮名って? ええと、『108』は四苦八苦ってルビがついてるし! それと、『しき』は死期ってルビついてるし!」

華菜「普通、漢字にひらがなのルビを付けると思うし! でも、ここではひらがなに漢字のルビが付いてるって、わけ分かんないし!」

スタッフ:四苦八苦から、4×9と8×9になって、それらを足して108だから、除夜の鐘は108回とも言われているらしいよ

華菜「なんか嫌なサブタイトルだし!」

華菜「ええと、HPのコメント欄にリスナーの皆さんから書き込まれた内容に華菜ちゃんが答えるってコーナーだし!」

華菜「では早速読むし! 最初のコメントは、広島県の『ちゃちゃのん』さん、大学一年生からだし! 私の一つ年上だし!」

華菜「では読むし! 『池田さん、こんばんは。』こんばんはだし!」

華菜「ええと、『最近はチャンピオン咲ちゃんが、10万点持ちだろうが2万5千点持ちだろうが関係なく全員を0点にしてしまうため、持ち点ゼロが普通になりましたが…』って、それ絶対普通じゃないし!」

華菜「続き読むし! 『昨年の県予選で持ち点ゼロにされたにもかかわらず、そこで諦めなかった池田さんは凄いと思います』って、照れるし!」

華菜「いきなり苦情とか抗議文でなくて嬉しいし!」

華菜「まだ続きがあるし! ええと、『池田さんはゼロの先駆者ですね』って、悪かったし! 結局、褒めてもらえてないし!」

華菜「ええと、まだまだ続きがあるし! ええと、『ちなみに咲ちゃんとか衣ちゃんはゼロの執行人と言ったところでしょうか』………って、知らないし!」

華菜「では、ええと、次のコメントは、福岡県の『ビビクン』さん、高校三年生からだし! 華菜ちゃんとタメだし!」

華菜「それでは読むし! 『池田さん、こんばんは。』こんばんはだし! 『池田さんはクジ運が悪いって言われませんか? 長野で天江衣選手や宮永咲選手を相手にしていたこと自体、クジ運が悪い証拠と思いますが…』って、そう言われるとそんな気もするし!」

華菜「でも、華菜ちゃんは風越でキャプテンに会えたから、それはそれで良かったし!」

華菜「だから後悔していないし! じゃあ、次行くし! 今度は質問だし!」

華菜「ええと、鹿児島県の『明けの明星』さん、高校一年生からだし!」

華菜「それでは読むし! 『インターハイで、胸で牌を倒したら阿知賀の魔物に目をつけられてしまいました。従姉妹も同じことをやって、昨年同じ魔物に目をつけられました。どうしたら良いでしょう?』って、それ、どうにもなんないし!」

華菜「そんなことするから10万点持ちで0点にされたり、800点にされた状態で生かさず殺さずで五局も続けて打たされるハメになるんだし!(←五十二~五十四本場)」

華菜「多分、従姉妹がやったのを根に持たれてるのは間違いないし! でも、宮永の彼氏のことを褒めれば許してくれるかもしれないし!」

スタッフ:毎回そうだけど、『〇〇だし!』って言い方やめて、普通に読んで!

華菜「ええと、スタッフから注意が来たし! じゃなくて来ました…。ああ、でも華菜ちゃんにはムリだし! この言い方が板に付いてるし!」

華菜「では、次の苦情かな、これ? これは、『自縛プレイ』さんからだし! 前回と前々回に苦情を書いてた人だし!」

華菜「ええと、『憧108式ver.姫子を買いました! 毎晩が楽しみです!』って、華菜ちゃんにはどうでも良いことだし!」

華菜「次は、『オモチ大好き子』さんから。」

華菜「この人も、前回前々回と苦情を書いてた人だし!」

華菜「では、一応読むし! ええと、『オモチ教団クロの組織は、オモチベーションの維持に努めております。信者募集中なのです!』って、華菜ちゃんのコーナーを通じて変な団体の勧誘をするのはお断りだし!」

華菜「ええと、次は西東京の『準備満タン』さんからだし! ええと、『前回ほどおもしろくない!』………。悪かったし!」

咲「本当に面白くないね…。コメントの半分は私への口撃みたいに感じるし…。それ以前に池田さんの声がウザいし…。」


咲がラジオを切って、今度はスマホのテレビ視聴アプリを立ち上げた。
すると、見慣れた二人の漫才が画面に映った。


怜「第二部終了やて!」

爽「じゃあ、次から第三部だね!」

怜「でも、今後も続くとなると、結局のところ、うちらに求められるのは、お下品コーナーやろか? でも、もうネタ切れやしな。」

爽「余りにもネタが無さ過ぎてさ。色々考えてはいるんだけど思いつかなくて、クソーって思ってるよ。」

怜「早速言ってるやんか。」

爽「何を?」

怜「自覚が無いんやな。」

爽「でも、私達も、下品を卒業して、もっとクソ上品に生きないといけないな。」

怜「そんな上品、あってたまるか!」

爽「誓子を見習って、もっとクソ清楚な生き方を…。」

怜「どこが清楚や!」

爽「私には、誓子は清楚なイメージだけど?」

怜「そうじゃなくて、清楚にクソが付くこと自体、清楚さが欠けてるってことや!」

爽「あっなーるほど。ちなみにア〇ルほどじゃないからね。」

怜「それは、『ほど』やなくて『掘る』が正しいんとちゃうか?」

咲「なんか、以前よりパワーがなくなってるね、この二人…。もう、本当にネタ切れって感じがする。」


咲がチャンネルを変えた。
すると、見慣れた別の番組が映し出された。憧100式と憧105式ver.淡が俺君のアパートで駄弁っているシーンだ。
番組の中で、テレビがついている。
どうやら、二人は時代劇を見ながら適当なことを駄弁っているようだ。

憧 -Ako- 100式 流れ十三.五本場 煩悩だらけの憧と淡、そして連中は究極のクダらないエロに…


憧「そうそう。急に話は変わるけど、淡が言ってた各都道府県のお土産コーナーみたいなのに京太郎と行ってきたんだ。」

淡「結構色々なものがあったでしょ?」

憧「うん。沖縄県のお菓子で『子宝ちんこすこう』ってのがあって。」

淡「あのチ〇コ型の?」

憧「そうそう。そのネーミングには、ちょっと驚いた。」

淡「私も驚いた!」

憧「あとさ、昨日テレビで麻薬Gメンのこと取り上げててさ。」

淡「(まさぐる自慰メン?)」

憧「そんな仕事があるんだって思ったよ。」

淡「それって、仕事なの?(まさぐる自慰メン?)」

憧「厚生労働省の職員だよ。」

淡「へぇー(性交労働省なんてあるんだ。)」←あってたまるか!

憧「凄い専門知識が要るんだって。」

淡「でも、私達だったらなれるんじゃない? (Hの)専門知識は十分過ぎるほどインプットされてるし。」

憧「いや、私達じゃムリムリ。全然足りない。」

淡「嘘でしょ~?(そんなにとんでもないHなんだ、まさぐる自慰メン、性交労働省。)」

テレビ時代劇の男役者1「光陰、矢の如しと…。」

憧「〇淫?」←〇の中は口です

淡「嫌の如し?」

憧「それって、フェ〇が嫌ってこと?」

淡「信じられないよね。女性で、やらされるのが嫌って人がいるのは知ってるけど、男でされるのを嫌がるって珍しくない?」

憧「私もそう思う。」

時代劇の男役者2「~にて候。」←候:そうろう

憧「早〇?」

淡「〇漏なんだ、この人。」

憧「でも、こんな堅苦しい顔で言う台詞じゃないよね?」

淡「たしかに! それにしても、時代劇の中でも猥談ってあるんだね。」

咲「なんか、ちょっと見る気分じゃないね、これ…。そもそも、この作品って憧ちゃんそっくりなダッチ〇イフと京ちゃんそっくりな男がくっつくやつだし。」

咲「私に似た人も出てくるけど、愛宕さんに似たのとくっついて、結局京ちゃんみたいな人を憧ちゃん似のダッチ〇イフにあげちゃうし。」


咲が、テレビアプリを終了し、今度は某掲示板を覗いてみた。
これを見て咲は驚いた。
思っていた以上に賑わっていたからだ。


【総合得点新記録か】インターハイ個人予選咲様編【ダム決壊者既に二桁】-10


736. 名無し麻雀選手

三倍満は今日初めてじゃないか?


738. 名無し麻雀選手

>>736
×今日初めて
○京初めて

せめて咲様のためにそう言ってあげよう


740. 名無し麻雀選手

以前誰かが言ってたな
確率重視の孕村と確率無視の咲様の中が良いって


741. 名無し麻雀選手

>>740
咲様の『中』が良いのは京ちゃん
孕村とは『仲』が良い

咲様のために、せめてこれくらいは区別してあげたい


742. 名無し麻雀選手

>>739
現場にいる者なんだけど
私は六回戦で64位に入れなくて予選落ちしたんだけどね
昼に咲様が京ちゃんのお手製弁当食べてるの三田


745. 名無し麻雀選手

>>742
愛の手作り弁当か!
それは機嫌が良くなるわけだ


咲「色々書かれてるけど、でも、京咲がネタにされてるってことは、京咲は公認されつつあるってことだよね? だったら嬉しいかも!」


咲が別の掲示板タイトルをチェックして行った。
ただ、タイトルに『京咲』が直接記載されているものは残念ながら無かった。
ふと咲の目に止まったのは、個人戦決勝の板だった。


【咲様】インターハイ個人決勝戦【三連覇】-3


312. 名無し麻雀選手

仕事で生放送では見れなくて
今、録画で見た
前半戦は咲様がジャスト30000点でトップ
後半戦は全員25000点で終了
随分接戦だったな
その分、見応えあったけど


313. 名無し麻雀選手

咲の古くからの知り合いだけど、多分あれは点数調整
まず前半戦だが、自分だけ25000点持ち、他家は30000点持ちの
イメージで打っていたと思う
つまり、咲の中では
1位:ころたん 30200
2位:咲様 30000
3位:ナース 28900
4位:光ちゃん 25900
の超僅差で2位&プラマイゼロ達成のはず


314. 名無し麻雀選手

なに、そのプラマイゼロって?


315. 名無し麻雀選手

去年のインターハイでもやってたじゃん?
二回戦は前後半戦共に25000点持ち30000点返しで考えたらプラマイゼロ
県予選でも最初の方で弱者相手に稼ぐ時に真面目にやらないで四連続プラマイゼロ
強者との対戦になって、やっと真面目にやって1ポイント差で3位滑り込み
別の卓の点数まで予測して調整してるって噂


316. 名無し麻雀選手

>>別の卓の点数まで予測して調整
そんなのできるの?


317. 名無し麻雀選手

>>316
じゃあ、咲様にはできないとでも言うの?

春季大会団体準決勝では、咲様は副将で出場
大将戦での点数の動きを予測していた話は有名
それで池田華菜と中田慧は0点で淡のダブリーを何回もやられた
殆どイジメの状態


318. 名無し麻雀選手

313だが、後半戦は25000点持ち25000点返しのイメージだと思う
つまりウマもオカもなく、席順での順位付けもなしのイメージ
よって全員プラマイゼロ
実際にはオカがあるから席順で順位付けされたけど


319. 名無し麻雀選手

>>318
でも、それをやるには起家になるの必須じゃん?
咲様は狙って起家になったの?


320. 名無し麻雀選手

>>319
そこで京ちゃんの出番じゃん!


321. 名無し麻雀選手

>>319
京ちゃんの愛だよ


322. 名無し麻雀選手

>>319
お前は京ちゃんのことを知らないのか?


323. 名無し麻雀選手

319だが、何故、京ちゃんが出てくる?


324. 名無し麻雀選手

>>319
>>323
京タコスを食すことで起家になれる
咲様の周りでは有名な都市伝説


325. 名無し麻雀選手

つまり、咲様のパーフェクトコントロールの裏に京ちゃんの愛があるってことだな


326. 名無し麻雀選手

私、関係者だけど
決勝卓前半戦の後、咲様のところに京ちゃんからTELあり
その後、京タコスを食べて後半戦に出場した
見ていたから間違いない


327. 名無し麻雀選手

やっぱり京タコスの力か!


328. 名無し麻雀選手

京咲確定か?


329. 名無し麻雀選手

祝 京咲確定!


330. 名無し麻雀選手

祝 京咲確定!


331. 名無し麻雀選手

祝 京咲確定!






咲「この326の書き込みって阿知賀の誰かだよね。憧ちゃんかな?」

咲「でも、京咲確定を祝ってもらえて嬉しいかも!」

咲「あと、313は、多分お姉ちゃんだね。317は、みかんちゃんかな?」


一方、この掲示板を見ていた和は………、


和「そんなクソオカルトありえません。」

和「そもそも京咲だなんて…。ないない! そんなの……っ!!」


この後、京咲を超否定する書き込みを連発するのであった。



第二部 カン!


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第三部:二年のコクマ~世界大会
六十五本場:国民麻雀大会1 444,400点事件再び


国民麻雀大会は9月開催の設定です。
その後、秋季大会や世界大会がありますので、国民麻雀大会を10月にしますと慌ただしくなりますので、敢えて9月にしております。


 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 阿知賀女子学院は三学期制であった。

 

 中高生徒一同が体育館に招集され、二学期の始業式が行われた。

 そこで、麻雀部全国優勝と咲の個人優勝が全校生徒の前で改めて表彰された。

 団体戦では春夏二連覇(咲は三連覇)。

 個人戦では咲が全国三連覇。

 とんでもない偉業である。

 

 表彰の際、体育館にはベートーベン作曲交響曲第三番変ホ長調op55『英雄』………シンフォニア・エロイカの第一楽章が流されていた。

 一応、格調高き御嬢様校(?)なのだろうか?

 ちなみに、『エロイカ』とはイタリア語で、『英雄的な』とか『勇敢な』を意味する形容詞の女性形に当たる。女性名詞である『シンフォニア』を修飾するため、女性形になっているらしい。

 これが男性形だと『エロイコ』になる。

 決して『エロい子』ではない。

 憧100式で使い難いネタだったので、ここで紹介した。

 

 教室に戻ると、

「ミサキ、凄いね!」

 とクラスメートに囲まれて賞賛を受けた。

 相変わらず、宮永咲の短縮形、『ミサキ』の名で呼ばれているようだ。

 

 ただ、これで咲達に憧れて麻雀部に入部しようと考える生徒は、残念ながら一人もいなかった。

 彼女達は、ネット掲示板の失禁情報を閲覧しており、

「(さすがに漏らしたくない!)」

 と思っていたためだ。

 そもそも、4月に麻雀部で新入生が大量失禁したとの噂も聞いている。

 それもあって、さらに部員が増えることはなかった。まあ、余程麻雀が好きでなければ失禁覚悟ではやって行けないだろう。

 

 

 9月半ばに入り、国民麻雀大会(コクマ)が行われた(この後、世界大会があるため、コクマは9月開催の設定です)。

 高校二年生と三年生がジュニアAリーグ、高校一年生と中学三年生がジュニアBリーグに区分され、各リーグで各都道府県の代表者5人でチームを組んでの団体戦だ。

 奈良Aチームは阿知賀女子学院レギュラーメンバーが全員、コクマ代表に選ばれた。個人県予選で1位から5位を占めているのだから当然だろう。

 

 一方、Bチームは、阿知賀女子学院からは、

 小走ゆい(小走やえ妹)

 宇野沢美由紀(宇野沢栞妹)

 車井百子(車井百花妹)

 の三人が選ばれた。

 あとの二人は、他の高校の一年生と中学三年生が選ばれたのだが…。

 

 阿知賀女子学院では、この他校の二人よりも遥かに実力のある一年生がまだいるのだが、ゆい、美由紀、百子以外の一年生は、県予選団体戦にも個人戦にも出場しておらず、その実力を見せ付ける機会に恵まれなかった。これはこれで不幸である。

 

 ルールは、昨年のインターハイと同じで点数引継ぎ制。ダブル役満以上なし、赤牌四枚入り、大明槓からの嶺上開花は責任払いであった。

 ただし、一回戦だろうが決勝戦だろうが関係なく、全て先鋒戦から大将戦まで半荘一回ずつの勝負とする。大会を二日で終わらせるためだ。

 

 47都道府県のうち、北海道、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府は2チームずつの参戦となる。そのため、52チームでのトーナメント戦になる。

 トーナメント表の形式はインターハイと同じで、ジュニアAリーグの場合、昨年のコクマでの戦績から、

 東京チームの片方(第一シード)

 大阪チームの片方(第二シード)

 長野チーム(第三シード)

 鹿児島チーム(第四シード)

 の4チームがシードチームとなり、一回戦が免除される。

 

 また、一回戦は、対戦する4チームのうち二回戦に進出できるのは1チームのみとなる。

 二回戦、準決勝戦は上位2チームが勝ち残る。

 

 やはり注目を集めるのは、奈良Aチーム、東京Aチーム1、大阪Aチーム1、長野チーム、鹿児島チームであろう。

 

 

 奈良チーム………阿知賀女子学院チームは、星取り戦とは異なるオーダー。

 先鋒:咲(全国1位)

 次鋒:玄(全国8位)

 中堅:憧(全国16位)

 副将:灼(全国18位)

 大将:穏乃(全国9位)

 この布陣で大会に臨んだ。

 全員が全国上位のとんでもチームだ。

 咲の先鋒起用は、やはり、点数引継ぎ制である以上、絶対的エースを先鋒に置くべきとの判断による。

 春季大会の頃とは違って、今では玄が超魔物の領域に足を踏み入れている。もう、咲を玄の直後に配置する作戦を取る必要は無い。

 

 

 東京Aチーム1は以下のメンバー。

 先鋒:片岡優希(臨海女子高校:全国15位)

 次鋒:南浦数絵(臨海女子高校:全国13位)

 中堅:宮永光(白糸台高校:全国4位)

 副将:原村和(白糸台高校:全国10位)

 大将:大星淡(白糸台高校:全国6位)

 こちらも全員が全国上位のとんでもチームである。

 旧長野メンバーがメインのため、ネット掲示板では、旧長野チームに名前を変えるべきとの意見まで出ていたらしい。

 こっちでも、エースの光を先鋒に置くべきとの意見があったが、最終的に優希の特性を考慮してのオーダーとなった。

 勿論、優希は体調を整え、ここぞと言うところで天和が飛び出すよう管理される。

 

 ちなみに、東京Aチーム2は以下のメンバーになる。

 先鋒:佐々野みかん(白糸台高校:全国26位)

 次鋒:多治比麻里香(白糸台高校:全国28位)

 中堅:渋谷尭深(白糸台高校:全国33位)

 副将:亦野誠子(白糸台高校:全国40位)

 大将:多治比真祐子(松庵女学院:全国17位)

 こちらも、普通に考えれば相当強いチームである。

 都道府県数が47であることを考えれば、東京Aチーム2の選手は全員、普通の都道府県大会であれば1位になれる器であろう。

 過去に誠子が、

「(白糸台のナンバー5は、そこらの県代表エースを凌ぐ。それは私が身を持って体現してきたはず…。)」

 と心の中で呟いたとおりである。

 

 

 大阪Aチームは以下のメンバー。

 先鋒:荒川憩(三箇牧高校:全国3位)

 次鋒:二条泉(千里山女子高校:全国30位)

 中堅:上重漫(姫松高校:全国23位)

 副将:船久保浩子(千里山女子高校:全国22位)

 大将:愛宕絹恵(姫松高校:全国25位)

 エースの憩を筆頭に、全員が全国30位以内の強豪チームである。

 

 

 長野チームは以下のメンバー。

 先鋒:池田華菜(風越高校:長野県5位)

 次鋒:沢村智紀(龍門渕高校:全国31位)

 中堅:染谷まこ(風越高校:長野県4位)

 副将:龍門渕透華(龍門渕高校:全国24位だが、冷えると全国1位の咲を凌ぐ)

 大将:天江衣(龍門渕高校:全国2位)

 この布陣で挑む。

 県大会個人3位の智紀は、全国大会では31位に入っている。

 ちなみに、智紀もまこも華菜も、実力的には殆ど変わらない。

 例えば県大会5位の華菜は、全国27位の中田慧(新道寺女子高校)とタメを張る。

 つまり、智紀だけではなく、まこも華菜も全国30位前後の実力を備えていると見て良いだろう。

 そう考えると、こちらも結構強豪である。

 

 

 鹿児島チームは以下のメンバー。

 先鋒:神代小蒔(永水女子高校:全国5位)

 次鋒:赤山高校の人

 中堅:滝見春(永水女子高校:鹿児島県7位)

 副将:赤山高校の人

 大将:東横桃子(永水女子高校:鹿児島県4位)

 永水女子高校と赤山高校のメンバーで構成されたチームで大会に臨んだ。

 石戸明星(永水女子高校:全国11位)と十曽湧(永水女子高校:全国12位)がジュニアBチームに振り分けられるのが痛いところだが、これは仕方が無い。

 

 

 奈良Aチームは、長野チームのシード下に入った。

 一回戦は、岩手チーム、山口チーム、大分チームとの戦いだった。

 咲は、試合開始前に京太郎からタコスを渡され、それを試合直前に口にした。相手に魔物がいなければ、得意の西家にこだわる必要は無い。

 

 先鋒選手達が対局室に入室した。

 いつもの如く、咲は迷子対策のため憧に対局室に連れてきてもらったのだが…。

「じゃあ、サキ。コクマも入れての(咲自身の)五連覇に向けて本気で叩き潰してね!」

「善処します。」

 咲の姿を見ても、岩手、山口、大分チームの各先鋒は、特段ビビることはなかった。

 卓に付く前は、誰の目から見ても咲は被捕食者側の小動物のようにしか見えない雰囲気しか出さないからだ。

 

 場決めがされた。

 京タコス効果で、咲は当然のように起家を引き当てた。そして、卓に付き、靴下を脱ぐと、途端に雰囲気が変わった。

 伝わってくる空気は破壊神そのもの。

 岩手、山口、大分チームの各先鋒は急に怯え出した。

 

 東一局が開始された。

「カン! ツモ! 嶺上開花ツモドラ1。60符3翻は3900オールです。」

 

 東一局一本場。

「ツモ! ダブ東ツモ嶺上開花ドラドラ。6100オール!」

 

 東一局二本場。

「8000オールの二本場は8300!」

 

 東一局三本場。

「12300オール!」

 

 東一局四本場。

「ツモ! 嶺上開花、四暗刻。16400オール!」

 

 東一局から東一局四本場まで、どこかで見た点数だ。

 これは、昨年秋季大会奈良決勝戦で見せた点数上昇と同じパターンだ。

 

 そして、東一局五本場。

「ツモ! 2000オールの五本場は2500オールです。」

 

 東一局六本場。

「カン! ツモ! 70符2翻。2300オールの六本場は2900オールです。」

 

 やはり、ここで点数調整が出た。

 ネット上では、既に秋季大会と同じパターンであることを特定した人物まで出てきたし、秋季大会でやった事件を再現するのかと、多くの者達が期待に胸を膨らませていた。

 

 東一局七本場。

「6700オール!」

 

 八本場。

「8800オール!」

 ちなみに、本大会では秋季大会、春季大会、インターハイと同様に八連荘を役満とするルールを採用していない。

 

 九本場。

「12900オール!」

 

 十本場。

「ツモ! 嶺上開花、小四喜! 17000オールです。」

 咲は二度目の役満を和了った。

 ここまで、完全に秋季大会決勝戦の点数を再現している。

 ネット上では、その点数の動きまで特定されていたが、実際にその場でプレーする岩手、山口、大分チームの各先鋒は、そこまで頭が回らない。

 ただ、咲の親を流そうと目に涙を浮かべながら必死に食らいつくだけだ。

 

 十一本場。

「カン!」

 咲は、序盤から上家が捨てた{2}を大明槓した。

 次巡、

「ポン!」

 今度は対面が捨てた{中}を咲が鳴いた。そして、その次巡、

「もいっこ、カン!」

 {中}を加槓し、引いてきた嶺上牌で、

「もいっこ、カン!」

 {一}を暗槓した。さらに嶺上牌を引き、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、最後の嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花! 16000オールの十一本場は17100オールです。」

 三度目の役満を和了った。しかも幻の役満、四槓子。

 これで、岩手、山口、大分チームが仲良くトビで終了となった。

 

 ネット上では、この咲の和了りを受けて大変な賑わいとなっていた。

 完全に秋季大会決勝戦を再現した4並びの点数。444400点だ。

 

 そして、テレビの映像が対局室から放送席に切り替えられると、ネット上では別のネタで賑わい出した。

 いつものお約束だ。

 ここでも咲を除く先鋒三人が、仲良く、

「「「チョロチョロチョロ…。」」」

 ダムを決壊させていた。そして、

「「「ジョー………。」」」

 三つの黄金色の池が重なって巨大湖となった。

 また掃除が大変だ。

 咲は、

「あ…ありがとうございました。」

 ペッコリンと頭を下げると、逃げるように対局室を出て行った。そして、外で待っていた憧に連れられて控室へと戻って行った。

 まさに、全てがいつものパターンだ。

 

 

 その日の午後、二回戦が行われた。

 奈良チームの相手は、長野チーム、福島チーム、埼玉チーム。ここで咲にとって問題となるチームは………、多分ない。

 もし、先鋒に衣か冷えた透華が出てくるのなら長野チームが問題と言える。

 しかし、長野チームの先鋒は華菜だ。

 本来なら華菜は強豪選手だが、魔物では無い。残念ながら咲の足元にも及ばない。

 ここでも咲は、タコスを食して対局に臨んだ。

 

 場決めがされ、起家は咲、南家は華菜、西家が福島チーム先鋒、北家が埼玉チーム先鋒となった。

 長野Aチームは、久保貴子が監督をしていた。

 華菜は、貴子から先制リーチを避けるように言われていた。咲の嶺上開花、特に大明槓からの嶺上開花を警戒しろと言う意味だ。

 リーチをかければ、怪しい初牌も自分の和了り牌でなければ切らなければならない。それで大明槓を仕掛けられ、責任払いさせられる可能性は当然高いだろう。

 

 ここでも咲は、

「カン! 嶺上開花!」

 好き勝手暴れた。

 二回戦も、目指すのは勝利ではなく叩き潰すことのようだ。その延長上に、たまたま勝利があるだけ。

「(池田さん相手だし、イイよね! 正直ウザいし。)」

 そのまま咲は和了り続け、福島チームをトバして先鋒戦で(東一局の連荘で)決着をつけた。

 2位は華菜。振込み&責任払いを抑え、僅差で埼玉チームを何とか上回った。

 

 

 次の日の午前に準決勝戦が執り行われた。

 奈良チームの相手は、長野チーム、大阪チーム1、島根チーム。

 ここで問題となるのは、大阪チーム1だろう。先鋒に憩が配置されている。

 さすがの咲も、今日は京タコスで起家を目指すのをやめた。最も自分が打ちやすい西家になることを欲した。

 

 場決めがされ、起家が憩、南家が華菜、西家が咲、北家が島根チーム先鋒の緒方薫(亦野誠子従姉妹2年生:男装麗人と呼ばれる美形)となった。

「ほな、行くでぇー!」

 明るい声で憩がサイを回した。

 

 憩は、インターハイでは咲に敗れたが、今度は三箇牧高校の荒川憩ではなく、大阪代表の荒川憩としてのリベンジチャンスだ。

 しかも、余程のことが無い限り、準決勝戦と決勝戦の二度、咲と戦うチャンスがある。

 当然、勝利を目指して燃えている。

 

 一方の薫は、

「(また宮永さんと打つことになるとは…。勘弁して欲しいなぁ…。)」

 インターハイでの惨敗を思い出してブルーになっていた。

 あの恐怖。

 そして失禁。

 ネットでの書き込みも見た。

 しかし、それで奮起したところで、とても雪辱できる相手ではない。

 今日は、失点を出来るだけ抑える。目指すのは勝利ではなくトバないこと。それが薫の目標であった。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ十四本場 コンビニ火災事件再び


憧100式は、憧105式ver.淡と一緒に咲のアパートに行って、憧123式ver.絹恵と一緒に仲良く駄弁っていた。良くある光景だ。
咲は大学に行っていて不在。
当然、展開されるのはダッチ〇イフ三人組による勘違いトークだった。


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。


憧「私、一昨日、バイト代が入ってさ。」

淡「家庭教師の?」

憧「そうそう。それで昨日、京太郎に感謝の意を込めて一緒に外食してきたの。」

絹恵「へー。で、どこで食べてきたの?」

憧「高級フレンチだよ!」

淡・絹恵「「(高級ハレンチ? 高級なハレンチってあるんだ?)」」

淡・絹恵「「(でも、ハレンチを食べたって、結局はHをしたってこと?)」」

憧「京太郎、結構、喜んでたよ。こう言うの、初めてだって言ってた。」

淡・絹恵「「(高級なのは、さすがに初めてだろうね。普通は低級だし。)」」

憧「でも、マナーとか堅苦しくってね。」

淡「やっぱり、高級って言うくらいだから(Hの)マナーとかうるさいんだ?」

憧「まあ、それなりにね。(フォークとナイフを使う)順番とか決まってるし。」

淡・絹恵「「(Hの手順が厳格に決まってるってこと?)」」

憧「京太郎の好きなメニューだんだけど…。」

淡・絹恵「「(好きなHメニューだったんだ。)」」

憧「でも、メインディッシュを食べるまでに、結構時間がかかるんだね。」

淡・絹恵「「(メインディッシュって、憧にとっては京太郎だし、京太郎にとっては憧だよね。じゃあ、長い時間、じらされるってことかな?)」」

憧「その後のデザートも美味しかった。私と京太郎で別のを食べたんだけど…。」

淡・絹恵「「(別のをって…もしかしてNTR機能? それともスワッ〇ング機能?)」」

憧「淡は?」

淡「えっ?」

憧「外食。」

淡「うーん。外で食べたのは…、この間、俺君とラーメン食べてきたくらいかな?」

憧・絹恵「「(俺君のザー〇ンを外で? それも食べたってことは、ゴックンしたってことだよね!)」」

憧・絹恵「「(相変わらずアウトドアプレイが好きってことかな?)」」

淡「まあ、週一回くらいの頻度だけどね。」

憧・絹恵「「(週一でアウトドアプレイしてるんだ!)」」

淡「絹恵は?」

絹恵「外で食べることはないかな。今は、咲ちゃんと私で、交代で夕食作ってるし。朝食は結果的に咲さんが作ってくれてるから。」

憧「咲さん、料理上手だもんね。」

絹恵「うん。でも、外食は無いけど、咲ちゃんがバイトで余ったケーキとかデザートとか持ってきてくれるから。」

淡「そっか。ケーキ屋でバイトしてるって言ってたもんね。」

絹恵「一昨日は、マンゴープリンだった。」

憧・淡「「(マ〇コ、不倫?)」」

憧「咲さんが?」

絹恵「うん。持って帰ってきてくれて、二人で食べたの。」

憧・淡「「(咲さんがマ〇コ不倫をお持ち帰り? それも、二人で食べたってことは、咲さんと絹恵とその人で3P?)」」

淡「(それって、憧だけじゃなくて絹恵もNTR機能を使われちゃったってこと?)」

憧「(でも、お持ち帰りって、相手は男性かな? 女性かな?)」

憧「ええと、それって男性………。」

絹恵「マンゴープリンに弾性は(焼きプリンほどは)無いと思うけど…。(むしろ滑らかだったし)」

憧「(やっぱり不倫マ〇コだから女性か。じゃあ、女同士の3Pってことね。)」

憧「(でも、絹恵は性器が男性だから、絹恵がその女性に挿れちゃったかな?)」

憧「もしかして、絹恵が、そのマ〇コ………美味しくいただいちゃったってこと?」

絹恵「当然じゃん! とても美味しかったよ! 咲ちゃんの(手料理)と同じくらい!」

憧「(不倫女性に挿れちゃったんだ。でも、あの巨大なのを経験したら、その女性は、もう普通のじゃ満足できない身体になっちゃったんじゃないかな…。)」

絹恵「昨日は、普通のプリンだったけどね。」

憧・淡「「(普通の不倫? ってことは男性!)」」

絹恵「でも、咲ちゃんに、『私は店で十分(味を)堪能して来たから絹恵ちゃんに全部あげる』って言われて…。」

憧・淡「「(店で(Hを)十分堪能!?)」」

絹恵「それで昨日は私一人でいただいちゃった!」

憧・淡「「(絹恵にいただかれちゃったってことは、その男性は掘られちゃったってことだよね。あの巨大なので…。)」」

絹恵「そう言えば、姫子とマホは?」

憧「姫子は、哩さんとオモチャ屋さんに行ったみたい。」

淡「なんか、鎖とか縄とか買うって言ってたけど…。」

絹恵「そのオモチャ屋って、もしかして…。」

淡「もしかしなくても大人のオモチャ屋さんだよ!」

憧「マホは、一太さんと24時間耐久レースするって言ってた。」

絹恵「それも、もしかして…。」

淡「当然、24時間耐久節句ス!」

憧「勿論、アパートから一歩も出ないけどね。下手したら捕まるから。」

絹恵「でも、なんで見た目が小学生なんだろうね?」

淡「製作者が狂ってるとしか思えないよね。」

憧「思えないじゃなくて、間違いなく狂ってるから、あの博士は。」


その頃、コナンと哀は、楽しく激しく保健体育の実習勉強をして…丁度休憩に入ったところだった。
コナンは、哀が創製した薬で股間増大に成功していた。
当然、その巨神体を使って哀と性〇していた。
それでも、憧123式ver.絹恵の持ち物よりは小さいのだが…。
一方、新一は蘭に未だにヤラせてもらえていないらしい。


コナン「そう言や、昨日、一昨日と、この辺りのコンビニが火事になったって聞いたな。」

哀「どっちも、電子レンジが大爆発して、そこから出火して火事になったみたいね。」

コナン「まあ、今の俺には事件なんか関係無えけどな。推理より灰原とのHのほうが楽しいからよ!」

哀「私も、研究よりもあなたとのHのほうが楽しいわよ。」


旧コナンが、新コナンと新一の二人に分かれてから、哀は、APTX4869の解毒剤に関する研究をやめていた。
もう、二人ともムリに元の姿に戻る必要が無くなったからだ。
それに、少し前から黒の組織の気配を感じない。
もっとも、久HT-01の活躍でジンが帰らぬ人となり、黒の組織の指示系統が崩壊していた故なのだが………。
ただ、そのことをコナンと哀は知らなかった。

その一方で、玄の組織の気配は感じるようになったが…、まあ、別に哀にとって玄の組織は関係ない団体だ。
当然のことだが、哀が玄の組織のターゲットにされるようなことはない。サイズ的に…。

また、同じ頃、久HT-01は阿笠邸の近くのコンビニに来ていた。
久HT-01がコンビニのレジ近くで、まず防犯カメラの方に掌を向けた。すると、特殊電磁波が放たれて防犯カメラが爆発した。
続いて久HT-01が電子レンジ(複数台)に向けて特殊電磁波を放った。
次の瞬間、電子レンジが次々と爆発し、一気に炎が燃え上がった。
さらに久HT-01は、コンビニの冷蔵庫を特殊電磁波で破壊した。
当然、周りの人達には自然に発火したようにしか見えない。
客達は、店員に誘導されて次々と店を出て行った。
そして、久HT-01は、


久「今のうちにレジからお金を拝借しなきゃね…。」


無人と化したコンビニ(火事の中)のレジから堂々と金を盗んでいた。
ちなみに、久HT-01は、無人と化したコンビニ(火事の中)のことを『無人君』と呼んでいた。
黒の組織用として学習されたAIを搭載しているため、盗みくらいは平然とやる。
そもそも、罪悪感と言うものが無い。
困ったAIを搭載したものだ。
そのうち、人間支配にでも走るのでは無いか心配だ。


久「どうせやるなら仮想通貨とかだけど、そのためには、それ相当の準備が必要だからね。」


どうやら、盗んだ金を資金に、もっと大きいことをしようとしているようだ。
ジン達は、死ぬ前にとんでもないものを残してくれたようだ。

一方、阿笠博士はと言うと…。


博士「こうなったら全身性器と言えるような究極のダッチ〇イフを造ってみるかのぉ。コンセプトは………そうじゃのぅ………王者じゃな!」


憧シリーズ最新型の製作に入ろうとしていた。
ただ、ここで言う王者とは、どのレベルの王者だろうか?


博士「左右非対称の髪もイイし、腕から竜巻を出すのもイイし、どうしようかのぅ…。それともいっそのこと、神をモティーフにしてみようかの。」

博士「九面の神とか、邪神とか、色々ありそうじゃ。」

博士「ただ、ジェンダーレスだけは無しじゃの。それにしても、憧から絹恵までの五体は何処に行ったのじゃろうかのぉ…。」

博士「あの五体が合体して巨大ダッチ〇イフに………。」

博士「とかなったら面白いんじゃがのぉ。」


別に憧達が合体して巨大な何かになるわけではない。
ただの博士の冗談である。
言ってしまえば、憧達には、性的な合体以外の合体機能は搭載されていない。


まこ「ところで、ワシの出番は?」


済まない。
すっかり忘れていた。



続く


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六十六本場:国民麻雀大会2 東風の超大型台風

本作では憩の能力は豊音の先負の進化型としています。その点、ご了承ください。


 東一局。

 早い巡目で華菜が聴牌した。

 本来、華菜は仕上がり率が高いし高打点な選手だ。

 咲や衣、穏乃、淡等の魔物ばかり相手にさせられることが多いため目立たないが(悪い意味で目立っているかもしれないが)、魔物以外の中では相当強い部類に入る。

 一般的には、かなり優秀な打ち手であろう。

 しかし、ここでは、その仕上がり率の高さが仇となる。

 

 華菜は満貫を聴牌したが、貴子の指示に従いリーチをかけなかった。

 今回も貴子は華菜にリーチを禁じていた。要は、咲と憩の両方への対策だ。

 しかし、次巡、満貫聴牌維持のために華菜がツモ切りした牌で、

「ロン。12000ですぅー!」

 憩が親満を和了った。

 先に誰かが聴牌すると、それを追うように聴牌し、先行聴牌者から和了る。それが憩の能力。つまり、華菜は憩の能力の餌食になったのだ。

 

 どうやら、華菜は貴子の指示の意味をキチンと理解できていなかったようだ。

 聴牌してもリーチをかけず、もし憩の和了牌を掴んだら、ムリせず降りろと言う意味だったのだが…。

 

 よく言えば自身の和了に向けて勝負する心意気が裏目に出ている。

 しかし、悪く言えば貴子の言葉の意味を考えず、ただリーチをかけなかっただけだ。

 この感じは、少々アスペルガー症候群っぽい気がする。

 

 東一局一本場も、

「ロン! 18300ですぅー!」

 華菜は、ここでもハネ満を先行聴牌していたのだが………、結果的に憩に親ハネを振り込むことになった。

 やはり、高い手を張っている以上、多少危険と感じても勝負したい気持ちが優先してしまうようだ。

 それが憩の能力による罠であることに気付かずに…。

 

 東一局二本場。

 ここでは、

「カン!」

 咲が仕掛けた。薫が切った{①}を大明槓したのだ。

 場には既に{②}が四枚切れていた。この打{①}は仕方が無いだろう。

 そして、

「もいっこ、カン!」

 嶺上牌を引く前から手元に揃っていた{西}の槓子を暗槓した。

 薫の捨て牌を鳴く前では一向聴、嶺上牌を引いてきて聴牌、そして、この暗槓によって引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! 12600!」

 ハネ満を和了った。これは、薫の責任払いになる。

 

 

 東二局、華菜の親。ドラは{⑨}。

 ここでも咲が、

「カン!」

 華菜の捨てた{南}を大明槓した。

 たしかに、傍から見れば初牌を切らなければ良いと言われるかもしれない。

 しかし、華菜としてもドラ含みの平和手を一向聴していたし、東一局での憩への連続振り込みで30000点以上失点していたこともあったので、初牌を止めることよりも和了りに向けて進む方を選択してしまったのだ。

 咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 前局と同様、嶺上牌を引く前から手元に揃っていた{發}の槓子を暗槓した。言うまでもなく、憩対策である。

 下手に聴牌すると憩の能力の餌食になる。そこで、嶺上牌から連続で牌を引き、一向聴から聴牌、和了りへと進めて行こうと言うのだ。

 そして、

「ツモ! 南發混一チャンタ嶺上開花ドラドラ。16000。」

 そのまま嶺上牌で咲は倍満を和了った。これは華菜の責任払いになる。

 

 

 東三局、咲の親。

「ポン!」

 咲が二巡目で、いきなり仕掛けた。薫が捨てた{中}を鳴いたのだ。さすがに、二巡目で初牌を切るなと言う方がムリだろう。

 この時、咲は手牌に{中}を暗刻として持っていたのだが、敢えてこれをポンして、残る{中}一枚を手元に残した。

 何故か?

 それは、この{中}を持っている限り、咲は聴牌できない………つまり憩の能力に引っ掛からなくなるからだ。

 たしかに、見た目は{中}単騎で聴牌する形に持って行くことは可能だ。

 しかし、ここでは自分が三枚使いしている牌と同じ牌での単騎待ちを形式聴牌として認めないルールになっていた(ルールによって異なると思いますが…)。

 

 三巡後、

「カン!」

 咲は、薫が捨てた{1}を大明槓した。まだ序盤だ。ヤオチュウ牌なら初牌でも普通は切りに行くだろう。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、{中}を加槓した。これで聴牌。

 そして、嶺上牌を引き、

「ツモ! 大三元。48000!」

 薫の責任払いで咲が親の役満を和了った。

 まさか、この巡目で大三元を和了られるとは…。

 さすがに薫もガックリと両肩を落とした。

 

 東三局一本場。ドラは{北}。

「その{⑦}、ポン!」

 ここでも咲が序盤から積極的に攻めていった。

 

 数巡後、咲の手牌は、

 {223334⑤⑤[⑤]⑦}  ポン{⑦横⑦⑦}

 今回も戦略的に聴牌にとっていなかった。

 

 そして、薫が切った{3}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 薫としても、できれば初牌を切りたくはなかった。しかし、和了れなければ点を失うしかない。

 それに、既に原点の半分以下まで点を削られている。ハネ満+親の役満の責任払いがあったのだ。

 やはり、和了りに向けて手を進めたかったのが心情だ。

 一方の咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続けて{⑦}を加槓した。そして、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{⑤}を暗槓し、さらに次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2244}  暗槓{裏[⑤][⑤]裏}  明槓{333横3}  明槓{⑦横⑦⑦⑦}  ツモ{2}

 

「タンヤオ対々三槓子嶺上開花ドラドラ。24300!」

 咲の親倍が炸裂した。

 薫は、親役満に続き、親倍を咲に責任払いで持って行かれた。

 ここに東一局二本場での咲への支払いも合わせると、既に84900点も咲に奪われたことになる。たった三回の支払いなのだが…。

 

 東三局二本場。

「(にゃんとかして宮永の親をにゃがさにゃいと!)」

 華菜は、とにかく和了りに向かった。心の中で漏らした言葉のとおり、とにかく咲の親を流すことが目標だ。

 ただ、相当まいっているようだ。

 心の中の言葉ですら舌が回らなくなっている。

 そして、聴牌。

 しかし………、次巡で華菜がツモ切りした牌で、

「ロンですぅー! 12600!」

 憩に和了られた。

 やはり、憩の能力は対応が難しい。

 聴牌したら、次巡で必ず自分の和了り牌を引いてくる能力でもない限り、憩の餌食になるだけだ。

 恐らく、それが出来るのは照くらいなものだろう…。

 

 

 東四局、薫の親番。

 薫としても何とか和了りたい。

「ポン!」

「チー!」

 とにかく、薫は手を進めた。

 誠子と同じ能力を持つ薫は、三副露すれば五巡以内に和了れるはず。

 そして、

「ポン!」

 三つ目を副露して聴牌。

 しかし、次巡でツモ切りした牌で、

「ロン! 12000ですぅー!」

 今度は薫が憩にハネ満を振り込むハメになった。

 薫の和了りに向けた能力よりも、憩の先行聴牌者から和了る能力の方がパワーが強大なのだろう。

 やはり、

『三副露すれば五巡以内に和了る』

 では能力として弱いのだ。

 薫は、もっと能力を鍛えて、

『三副露すれば次巡で必ず和了る』

 にしないと、憩への振り込みを、どう足掻いても回避できないと言うことなのだろう。

 

 

 ここで、各チームの点数は、

 1位:奈良 200900

 2位:大阪1 166900

 3位:長野 41100

 4位:島根 3100

 いよいよ、薫の点数が危なくなってきた。

 

 

 南入した。

 南一局、憩の親番。

 相変わらず、咲は敢えて一向聴のまま槓のチャンスを狙う。しかし、この局では早々に憩が聴牌した。

 そして、

「リーチ!」

 憩が聴牌即でリーチをかけ、

「一発ツモですぅー!」

 次巡、憩が一発で和了り牌を引き当てた。自分が先行聴牌者なら、自分が自分の和了り牌を掴まされる。つまり、一発で和了れると言うことだ。

「リーチ一発ツモドラ2で4000オール!」

 しかも親満ツモ。これで薫がトビで終了した。

 この準決勝戦では、憩は、点数で咲に及ばなかったが、これでチームが決勝戦に進出できた。

 リベンジは、やはり決勝戦の舞台だ。

 

 

 この様子を控室のモニターで見ていた透華は、愕然とした表情を見せていたが、このオーダーで望んだ以上は仕方が無い。

 やはり、先鋒には魔物対策できる選手………例えば透華自身(冷凍状態)か衣を配置すべきだったのだ。

 一方の貴子は、特に表情を変えることはなかった。

 ある程度想定していた結果だったし、最後まで勝負を捨てずに逃げ出さなかった華菜を、むしろ誇りに思っていたようだ。

 自分の指示の意味を全く把握できていなかったところは、マイナスポイントではあるのだが…。

 

「ほな、咲ちゃん。決勝で勝負やな。」

「は…はい。」

「それじゃ、対局後の挨拶をしよか。」

 憩の仕切りで、

「「「ありがとうございました。」」」

 咲、憩、華菜、薫が一礼した。

 しかし、この時、薫は、放心状態で声が出なかった。

 声が出せたのは、咲、憩、華菜の三人。

 勝ち抜け組の咲と憩は当然として、華菜は、どのような局面に追いやられても心が折れない図太い神経の持ち主である。

 この強さは称えられるべきであろう。

 

 薫は、インターハイでも咲と対局していた

 今回は、そこに憩が加わり、魔物二人を同時に相手にすることになった。

 魔物一人でも対応が厳しいのに………。

 迂闊に初牌を切れば、大明槓からの嶺上開花&責任払いが待っている。

 しかも、その相手は初牌を落さなくても、自力で和了る力を有している。

 咲の仕掛けを擦り抜けても、先行聴牌すれば、次巡で憩の和了り牌を掴まされる。

 八方塞がりだ。

 対応の仕方が分からない。

 

 覚悟はしていたが、本当に先鋒戦で、自分のトビで終了するのは心が折れる。もっとも、先鋒に誰を持ってきても結果は同じだっただろうが…。

 

 

 一方、ジュニアAリーグの別ブロックでは、東京チーム1と鹿児島チームが決勝戦にコマを進めていた。

 

 また、ジュニアBリーグのほうでは、東京チーム1、奈良チーム、鹿児島チーム、島根チームが決勝戦に進出することが決まった。

 

 

 そして、その日の午後、決勝戦が開始された。

 ジュニアBリーグでは、島根先鋒の石見神楽が圧倒的な闘牌を見せ、先鋒戦で東京チーム1を箱割れさせて終了した。

 やはり、露子の霊を降ろした神楽には、鹿児島チームの先鋒石戸明星も、奈良チーム先鋒の小走ゆいも敵わなかった。

「神楽ちゃんの身体だと、相手の手牌が全部透けて見えるし、咲ちゃん以外には負ける気がしないわぁ!」

 今日も露子は絶好調だったようだ。

 ジュニアBリーグは、島根チームが優勝、鹿児島チームが準優勝、奈良チームが3位で幕を閉じた。

 

 

 ジュニアAチームは、東京チーム1、鹿児島チーム、奈良チーム、大阪チーム1で決勝戦が行われた。

 

 東京チーム1の先鋒は片岡優希。

 東風の神と呼ばれ、スタートダッシュを得意とする。

 この決勝戦に向けて優希は体調管理してきた。彼女から溢れ出るパワーを、咲はヒシヒシと感じ取っていた。

 

 鹿児島チームの先鋒は神代小蒔。

 今回も最強神を降ろして決勝戦に臨む。いや、むしろ最強神が咲との戦いを望んでいるようだ。

 

 奈良チームの先鋒は宮永咲。

 現在最強の高校生雀士。昨年インターハイから国民麻雀大会を含めて団体戦四連覇、個人戦三連覇の記録保持者。

 昨年の国民麻雀大会では、大将の咲まで回らずに優勝が決まったため、実際には、ただ居ただけの人になってしまったが…。

 ただ、今回は先鋒として勝利を目指す。

 

 そして、大阪チーム1の先鋒は荒川憩。

 一昨年のインターハイでは個人2位、昨年インターハイでは個人5位、今年のインターハイでは個人3位の実力者。

 今度こそ咲にリベンジする!

 当然、勝利を目指して燃えている。

 

 いよいよ、この四人の対決の火蓋が切って落とされる。

 

 場決めがされ、起家が優希、南家が小蒔、西家が咲、北家が憩に決まった。

 咲は、昼食に京タコスを食べていたが、やはり起家を引き当てるパワーは東風の神には敵わなかった。

 しかし、京タコスのお陰でパワーは最強状態になっていた。さらに靴下を脱いでパワーアップ。咲としても狙うは優勝あるのみだ。

 

 東一局、優希の親。

 打倒咲を掲げるのは、衣、光、憩、小蒔だけではない。優希も同じだ。

 いきなり、

「ダブルリーチだじぇい!」

 捨て牌を横に曲げた。

 相手の和了り牌が分かる小蒔(神)は、一先ず一発振り込みを避けての筒子切り。

 全ての牌が透けて見える咲も振り込むことは無い。普通に字牌切り。

 そして、憩だが…。

 さすがに、このスピードには憩もついて行けなかった。

 いくら先行聴牌者から和了れる能力を持つとは言え、これに対抗するには配牌で一向聴以上が必須になる。

 ここは、憩も一発振り込みを避けるのが精一杯だった。咲が捨てた字牌と同じ字牌を切って様子を見た。

 そして、優希が山から牌をツモリ、

「一発ツモだじぇい!」

 そのまま和了った。

「ダブリー一発ツモタンピン三色ドラ3(表1赤2)に、アタマが裏で乗って数え役満だじぇい!」

 しかも、16000オール!

 いきなり、とんでもないスタートとなった。

 

 もし、ここにドラの支配者、玄がいたならば優希の和了りは倍満まで下げられたであろう。しかし、ここにはドラを支配するものはいない。

 その結果、優希は全部でドラを五枚抱えて数え役満まで手を上げることとなった。

 

 東一局一本場、優希の連荘。

 ここでも、

「今日はツイてるじぇい。捨てる牌が無いじょ。」

 優希が不吉なことを言ってきた。

 そして、そのまま手牌を開き、

「ツモ! 16100オール!」

 幻の役満、天和を和了った。

 優希が体調を管理して最高状態に仕上げてくるとは、こう言うことである。

 他家は、まだ一回しか牌をツモっていない。それなのに、既に32100ずつ優希に支払っている。

 何と言う簡単麻雀。

 他家にとっては理不尽極まりない。

 もし、これが25000点持ちなら、既に他家全員が箱割れして終了である。恐ろしいほどのスタートダッシュだ。

 

 この時、憩は、春季大会団体戦のことを思い出していた。

 準決勝戦で優希が見せた序盤での大量得点と同じパターンである。

 そう言えば、春季大会二回戦で、憩は優希と、

『清澄にいた頃は、咲ちゃんとも打ってたんやろ?』

『当然だじぇい! でも、今日よりも調子がイイ時じゃないと勝てなかったじょ。』

『嘘やろ?』

『本当だじぇい!』

 こんな会話を交わした記憶がある。

 たしかに、25000点持ちで東一局からこの爆発力を見せれば、咲にも勝てるだろう。

 恐るべき東風の神の力だ。

 

 東一局二本場。

 ここでも、

「リーチ!」

 優希がダブルリーチをかけた。

 そして、

「一発ツモ! ダブリー一発ツモタンピンドラ3で8200オール!」

 またもや一発でツモ和了りした。しかも親倍だ。

 

 これで現在の点数は、

 1位:東京1 220900

 2位:鹿児島 59700(席順による)

 3位:奈良 59700(席順による)

 4位:大阪1 59700(席順による)

 言うまでもなく、他家全員にクアドラプルスコア近い大差をつけて、優希がダントツであった。

 まさに東風の神が引き起こした超大型台風である。




おまけ

今回は、本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。
咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。



コクマ初日の夜。
咲はホテルでテレビを見ていた。


咲「あっ! これって…。」


それは、憧100式に出ている役者………自分をはじめ、憧や和、京太郎に似た役者が出ている映画だった。少なくともギャグメインではない。SFホラーと言うべきか。
他にも、優希似の役者や灼似の役者も出てくる。
咲としても、一度見たいと思っていた奴だ。






Carnivorousな生き物
1. アチガ島探検隊


「北緯〇〇度△△分、東経✖✖度▽▽分。例の海域に入ったよ!」
「うん…。ん…。前方に島が…。」
「ああ…。あれが噂の…。」
憧達は、バンセイ国ヨシノ諸島近海を航海中であった。

バンセイ国は、十年前までヤエ王国の支配下にあり、その最南端に位置するアチガ島は、丁度二十年前にヤエ王国の核実験が行なわれたところである。
十年前にヨシノ諸島は、その北方に位置するオモチ列島と、その西にあるマツ・ミクロ島と共にバンセイ国として独立した。
ヨシノ諸島北端のマツ・ミユウ島は、比較的人口も多く観光地として開拓を進め、ここ数年世界の注目を集めていた。しかし、アチガ島は、領土としてはバンセイ国のものであったが、誰も住んでいない無人島であった。

二十年以上前は、アチガ島にも人が住んでいた。
しかし、例の核実験の後は廃墟と化し、付近の島民達は誰も近付こうとはしなかった。
アチガ島が他の島から結構距離的に離れていて、最も近い島からでも船で丸一日かかることや、その島付近にサメが頻繁に出ることもあるが、やはり核汚染の恐怖が一番大きな原因であった。

そういった中、研究&調査のために、この島に上陸する者はこれまで何人もいた。
しかし、その者達は、上陸の無線連絡が入ったものの翌日には消息不明となっていた。
今までこの島を訪れて帰って来た者は一人もおらず、一体何が起こっているのか、まるで見当がつかないのだ。

こうなると、何者かに調査隊員達が殺されている可能性を誰もが考える。しかし、航空写真を見る限りでは、低木や草に覆われているだけで、哺乳類や大型爬虫類らしき姿は無い。
たまに動物が映るとすれば小さな鳥くらいなものである。
小型爬虫類や昆虫類は存在しているかもしれないが、少なくとも人間を捕らえるような大型動物の姿は、一切認められないのだ。

今回、憧をリーダーに、和、灼、優希の若手科学者(?)四人でチームを組み、日本人として初めてこの正体不明の島に乗り込んだ。
アメリカを筆頭とする他国の科学者達が成し得なかった調査を日本人が成し遂げ、世界の注目を集めようというのだ。

島に近付くに従って何か本能的に逃げ出したくなるような重圧が圧し掛かってくる。
誰も生還していないと聞かされているだけに、先入観からの恐怖はあるが、それだけでは説明のつかない異様な空気の流れを強く肌で感じるのだ。
確かに、これは、ただの島ではない。

しかし、島に着くと、これまでの恐怖心が嘘のような、まさに南国パラダイスを連想させる白く美しい砂浜が広がり、海岸から五十メートルほど離れた辺りからは核の世界とは程遠い彩り美しい草花が咲き乱れていた。
その草花の中に、バショウ科と思われる大型多年草らしき植物が点在していた。その葉の形や付き方からバナナの近縁種と思われるが、バナナと決定的に違うのは花の付き方であった。
バナナは、偽茎(バナナの幹と思われている部分)中央から太い花茎を伸ばし、そこに黄色い花を沢山咲かせる。
しかし、この植物は偽茎根元の両脇からリュウゼツランのように長い花茎を伸ばし、その先に燃える血潮のような深紅の小さな花を沢山付けていた。
花の少し下には直径2ミリメートルくらいの丸い塊がいくつも付いていた。多分、これが実なのだろう。花も実も、形は完全にバナナとは、かけ離れている。

上陸に際し、先ず和が放射能測定を行なった。
「…特に問題無いようですね。もう二十年も経っていますし、自然に浄化されたのかも知れませんね。」
この言葉に安心してか、灼が一目散にバナナに似た植物目掛けて走り出した。植物学者の彼女が、この新種の植物に興味を抱かないはずが無いのだ。

近くで見ると、その植物の葉は通常のバナナよりも肉厚で、表面は、つるつるしているのが分かる。触ってみると結構気持ちが良い。
葉の幅は一メートル以上あり、長さは三メートルにも及ぶ。普通のバナナよりは幅が広めなような気がするが、長さは大型種のバナナなら、これくらいになる。
灼は、最初、この植物が、バナナの亜種ではないかと考えた。
しかし、通常のバナナとは細かいところが結構違っていた。核実験の影響によって変異生成したミュータントだろうか?

「パン!」
この植物の実が弾け、中から胡麻のような小さな粒が飛び散り、灼の頭に降りかかった。まるでホウセンカのようである。少なくとも種ありバナナの種とは随分と異なる。
「なに? 種?」
灼は、頭に付いたその種を摘むと、それをビニール袋に入れて左胸のポケットの中に仕舞い込んだ。重要な研究材料として持ち帰るつもりなのだ。

一方、優希は、海岸線に沿って歩いていた。彼女は海洋学を専門としており、この島近海の生態系に興味があるのだ。
暫くすると、優希は岩場を見つけた。
そこには、ハサミが四本の小さな蟹がうじゃうじゃ繁殖していた。こんな生物を見るのは優希としても初めてである。これも、放射能によるミュータントだろうか?

また、和は、放射能の測定のために山の斜面を登り始めた。彼女は物理学者で、この島の放射能測定を中心に調査を行なうスタッフとして選ばれていたのだ。

皆が、上陸していきなり作業をはじめているのに対し、憧は考え事をしながら、ただ島の中心にそびえたつ山をボーっと眺めていた。
彼女は、昆虫学者であるが、今は昆虫のことよりも、一体何が今までこの島に来た人間を一人も帰さなかったのかが気になっていた。

島に着くまでは、先入観も働いて恐怖に満ちた異様な雰囲気しか伝わってこなかったが、いざ上陸してしまうと、そんな恐怖は微塵にも感じられない。
この島は閉じた世界ではあるが、見た感じでは何処と無く平和な雰囲気である。
もし、この島ではなく帰路に問題があるのなら、この島に来る時に既に問題に遭遇しているはずである。基本的に往路も復路も同じ経路を通るのだ。
ならば、この島に問題があるとしか考えられないが、この平和と思える島に人を消し去る何かがあるとは到底思えない。
何故、この島から帰還した人間がいないのか、疑問に思わざるを得ないのだ。


何時しか日が暮れて夜になった。
既に現地時刻では午後八時を回っている。
各自、宇宙食のような携帯食料を口にしながら、船の一室で島全体の航空地図を広げて明日の調査スケジュールについて話し合っていた。

突然、和が黙り込んだ。
優希が、
「どうかしたのか?」
と和に聞いた。
「ちょっと今だけ静かにしてくれませんか? 誰かが外で呼んでいるような声が聞えるんです。」
こう言われて優希が、耳をすまして外の方に注意を向けた。
「………確かに聞えるじょ…。なんだか…男の人の声っぽい気がするじぇ。」
しかし、和には、そうは聞えていなかった。
「いいえ、あれは女性の声です。絶対!」
「違うじょ。あれは、絶対に男の声だじょ!」
「ありえません。女性の可愛らしい声です。」
「可愛いって…、あれの何処が可愛いか分からないじょ?」
探検隊に選ばれた者達の会話とは思えないレベルの話で、二人共、次第に興奮してきた。
互いに些細なことでも絶対に自分を曲げ様としない。平行線のまま何処までも会話は続いて行った。
しかし、外から人の声が聞えてくると言う点では二人の会話は一致している。本当に何か聞えるのだろうかと半信半疑で憧も耳をすましてみた。
「…確かに…。女性の声が聞える。」
この憧の言葉を聞いて、和が勝ち誇ったように優希に言った。
「やはり私が正しいようですね。女性の声です!」
「違うじょ! 絶対に男の声だじょ!」
再び平行線の会話が始まった。そんな中、灼が静かに立ち上がった。
「ゴメン…。ちょっと頭が痛くて…。部屋に戻って横になってくる…。」
確かに心なしか顔色が悪い。灼は、そのまま疲れ切った表情で部屋を出ていった。
一方の和と優希は、灼のことなど全然眼中に入っていなかった。
「絶対に女性の声です!」
「男だじょ!」
「じゃあ、実際に外に行って確かめてみましょう。」
「確かに、その方がはっきりするじぇ。」
互いに譲らないまま二人は部屋を出ていった。

甲板に出ると、二人は海岸から五十メートル近く離れたところに人影を見付けた。
辺りは薄暗く、光と言えば月明かりと船から発する光だけである。
この人影が男か女か、この距離ではそう簡単に分かるものではない。しかし、和と優希には、その人達の顔がはっきりと見えていた。
「やっぱり女性です。それも…、あれは、咲さんです。しかも裸で!」
「やっぱり男だじょ。京太郎が裸で私に手招きしてるじょ!」
もう二人共、目に映った人間に釘づけで、互いの言葉など聞いてもいなかった。この不自然さに全然気付いていなかったのだ。
優希は、顔を紅潮させながら甲板から駆け降り、服を脱ぎ捨てながら人影の方に一目散に走っていった。そして、彼女は京太郎(?)に裸で抱き着いた。
これを見て和は、
「何故、優希が咲さんに? でも、良く分かりませんが咲さんがもう一人います。では、私は、こっちの咲さんに…。」
と何の疑いも無く甲板を駆け降りて行った。そして、和もまた、服を脱ぎながら人影の方へと走って行き………、咲に抱き着いた。

この島は、一人も帰還していない魔の島である。上陸した時には平和な島でも何時自分達の常識を破った魔物が出るかもしれないのだ。
憧は、そう思いながら、外に出ていった和達を心配して甲板に出た。

甲板に立って、憧は、自分の目を疑った。
砂浜の向こうでは、裸になった穏乃が自分の方に手招きしているではないか。
しかも、何故か穏乃が副数人いる。果たして、こんな都合の良いことがあるのだろうか?
その一人に、和が抱き着いて今にも押し倒そうとしている。その隣では、別の穏乃に優希が裸で抱き着いている。
しかし、優希自身は、京太郎に抱き着いているつもりのようだ。京太郎と連呼しているから間違いない。
憧には穏乃に、和には咲にしか見えない相手が、優希には京太郎に見えていたのだ。
憧は、思わず甲板を駆け降りて穏乃に抱き着きたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、ここは無人島のはずである。それなのに何故、ここに穏乃がいるのか?
しかも何故、穏乃が副数人いる?
どう考えても不自然だ。

憧は、夢か幻でも見ているのではと、自分で自分の頬を強くつねってみた。
すると、今まで裸の穏乃にしか見えなかった陰がぼやけ、辺りに点在していたバナナのような植物の陰に変わった。
「ま…まさか…。」
しかし、数秒すると、すぐにまた植物の陰が裸の穏乃に戻っていった。
今度は唇を強く噛み締めた。
すると、その苦痛から幻覚が解けて、バナナのような植物の大きな葉にもたれかかる和と優希の姿が憧の目に飛び込んできた。

突然、それぞれ二人がもたれかかる葉に、反対側の葉が覆い被さってきた。そして、それぞれが二枚の葉で二人を完全に包み込んだのだ。
「や…やばいじゃん、これ?」
憧は、これまで上陸した探検家達が消息を絶ったことと、この植物に何か関連があるのではと思い、急いで甲板を降りて行った。
しかし、いざ砂浜に下りて植物に近付こうとすると、その姿が素っ裸の穏乃に変化してしまう。
しかも穏乃が元気な声で、
『憧! Hしよう!』
と声をかけてくる。

憧の身体が急に熱くなり、性的興奮状態に入って来た。
「これは…、もしかして植物から幻覚とか幻聴を誘引するガスと催淫ガスが出ているんじゃない?」
何のプロテクトも無しにこれ以上近付いて行くのは危険である。
偏差値70が余裕でも、所詮は人間なのだ。いくら平静を保とうとしても、この幻覚・幻聴と催淫による刺激には、とても耐えられそうに無い。

憧は、一端、船に戻った。そして、ガスマスクと、念のためテフロン製の手袋を付けるとナイフを片手に再び植物の方へと走って行った。
二人を覆う葉と葉の僅かな隙間から、まるで滝のように液体が流れ出ていた。
憧は、先ず優希を覆う葉にナイフを入れた。葉を縦に切り裂き、優希の身体を引き出そうとしたのだ。
しかし、いざ葉を裂くと中に入っていた物は、既に優希の姿ではなく溶けかけた白骨であった。
「なにこれっ!」
憧は、驚きのあまり、その場に座り込んだ。
この植物は、葉と葉を合わせて獲物を包み込み、消化液を出して肉はおろか骨までも溶かして養分と化するものだったのだ。
しかも、その消化速度は極めて速く、消化された獲物は液体となって地面に流れ落ちる。それを養分として根から吸い上げるのだろう。
獲物を液体肥料に変える。今までに例の無いタイプの捕食型植物である。

憧は、暫く呆然としていた。
すると、優希を覆っていた二枚の葉が離れ、元のバナナに似た形態に戻って行った。優希の身体の消化を終え、葉と葉を合わせる必要が無くなったのだ。
その隣でも、和を包み込んでいた二枚の葉がゆっくり離れて始めていた。
和の身体も完全に消化されて、植物自身が作った液体肥料として周りに撒き尽くされてしまったのだ。

憧は、逃げるようにその場を立ち去った。
研究のためとはいえ、このままここに長居していたら自分だって、いずれはこの植物の餌になってしまうのは明白である。
いくらなんでも、あの誘惑に半日…、いや一時間とて耐え切れる自信は無い。
相手が裸の穏乃では………、本能が意思を押さえつけて、あの植物に無意識に近付いてしまうのは時間の問題なのだ。

昼間は、ただバナナに似た感じの植物だが、夜になると本性を現す。
幻覚作用で自らを理想の相手に見立て、幻聴を聞かせて巧妙に誘引し、さらに催淫作用により性行為を求めてきた獲物をまるで抱き締めるように包み込んで一気に消化してしまう植物。これが、この島の魔物の正体だったのだ。
しかも、この誘引メカニズムは極めて効率的である。
獲物の持つ本能を刺激するのだから滅多なことでは逃げられないだろう。

憧は、誰も生還できなかった理由を報告しなくてはならない。彼女は船に乗り込むと、慌てて船を発進させ、防毒マスクを外して無線を入れた。
「こちらアチガ島探検隊。応答を願います。こちらアチガ島探検隊。応答を願います…。」
しかし、電波の調子が悪く、全然無線が届かない。

丁度この時、アチガ島では、昼間に優希が岩場で発見した四本のハサミを持つ小さな蟹の大群が、海に向かって手招きしていた。
すると、それに吸い寄せられるかのように、まだ身体が透き通った状態の沢山の稚魚達が砂浜に波で打ち寄せられた。
無数の蟹が一斉に砂浜の方に動き出した。そして、砂浜に打ち寄せられた稚魚をむさぼり喰らい始めた。
その蟹は、特殊な超音波を放って近海をさまよう稚魚を誘導していた。
彼等の腹が満たされるまで、あと数時間は、その小さな身体から特殊超音波が放たれ続けることになる。
そして、その超音波が偶然にも妨害電波となって無線を届かなくしていたのだ。

一先ず憧は、無線を後回しにして、灼に状況を伝えようと、彼女が寝ている部屋へと向かった。
憧がドアをノックした。
「ちょっと良いですか?」
しかし、中からは全然返事が返ってこない。
余程具合が悪いのだろうか?
それは、それで心配である。
憧が、静かに灼の部屋のドアを開けた。
すると、灼が寝ているはずのベッドに、何故か裸の穏乃が座っていて、
『憧! Hしよう!』
と言いながら憧れに手招きしてきた。
憧は、慌ててドアを閉めた。
「これって…、まさか…。」
唇を強く噛み締めて、憧は再びドアを開けた。すると、そこには頭から筍のような芽を生やして横たわる灼の姿があった。
「こ…これって…?」
昼間、灼の頭に落ちた人喰い植物の種が発芽していたのだ。
種の殆どはビニール袋に入れて左胸のポケットに仕舞い込んでいたが、一粒だけ頭に付いたままになっていたようだ。
既に灼は息が無かった。その植物が既に彼女の大脳まで根を張って、養分として吸い上げていたためだ。

さっき裸の穏乃に見えたのは、その植物だったのだ。
既に捕食機能として幻覚ガスと催淫ガスによる誘引機能が働き始めているのだろうか?
となると、何らかの形で捕食機能も働いている可能性がある。

憧は、背筋に冷たい物が走った。
アチガ島から逃げ出したと思ったら、今度は海の上の閉ざされた空間で人喰い植物と顔を合わせてしまったのだ。
しかも、これから一番近い島までどんなに急いでも半日以上はかかる。
防毒マスクだって何時間も連続して使い続けられるものではない。使用時間に限界があるのだ。
かといって、海に飛び込もうにも、この辺にはサメが頻繁に出る。
もはや逃げ道は無い。
しかし、その不安とは裏腹に身体は異様に興奮している。本能が意思に代わって全身を支配する状態まで、既に秒読み段階に入っていた。


続く


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六十七本場:国民麻雀大会3 決着! 最強神vs東風の神vs嶺上女王vsナース

 東一局三本場。

 さすがに、今回は天和もダブルリーチもなかった。いくら優希でも、あの強大なパワーを延々出し続けることは不可能であろう。

 しかし、四巡目で、

「リーチ!」

 優希は、聴牌すると、即リーチをかけてきた。

「(今は出来るだけ攻めるじぇい。東場で稼げるだけ稼ぐじょ!)」

 まだまだ、東場でのパワーは顕在のようだ。今までが爆発的過ぎただけで、まだ優希の東風の神としての力が消えたわけではなかった。

 

 一方、憩は、不穏な空気を小蒔から感じ取っていた。

 憩には、先行聴牌者から独特の波動が伝わってくる。

 当然、その波動は優希から伝わってきていたし、優希の聴牌を受けて能力が発動するはずだった。

 ただ、優希の聴牌を感じた直後、それと同じモノを、今度は小蒔からも感じ始めた。今まで何故か感じなかったが、小蒔も聴牌していたのだ。

 神ゆえに聴牌気配を完全に消せると言うことなのだろうか?

 ただ、聴牌の波動とは別の強大な何かも重なっている気がした。

 

 先行聴牌者がいるなら、同巡で憩は聴牌できるはず…と高をくくっていたのだが…、何故か、今回の憩のツモは手牌と全然噛み合わなかった。

「(どう言うことやろか? もしかして、これが神代さんの能力?)」

 どうやら、神のエネルギーで憩の能力が塞がれてしまっているようだ。

 神の能力発動による聴牌を踏み台にした形では、バチ当たりな行為とみなされて後追い聴牌をさせてもらえないと言ったところだろうか?

 それとも、咲との勝負のために神が自らに追加した能力だろうか?

 少なくとも、小蒔(神)の先行聴牌に対し、憩の後追い聴牌能力の発動は許してもらえないようである。憩にとっては苦しい試合になりそうだ。

 

 そして、五巡目、優希がツモ切りした{二}で、

「ロン! 32900。」

「じぇじぇー!」

 小蒔が純正九連宝燈を和了った。

 まさか、この巡目で九連宝燈を聴牌しているとは………。

 想像を絶する和了りだった。振り込んだ優希自身も目を疑うほどであった。

 これで、長かった優希の親が終わった。

 

 

 東二局、小蒔の親。ドラは{北}。

 小蒔(神)は、何気に咲のほうを見ていた。まるで、

『先ずは、自分が優希から役満を直取りした。お前もやってみろ!』

 とでも言っているようだ。

 当然、咲も負けてはいない。自分と戦うためだけに小蒔の身体に降りてきてくれている相手だ。ベストを尽くすのが礼儀だ。

 咲の全身から、激しいオーラが流出した。そして、六巡目、

「カン!」

 まだ早い巡目だ。

 ここで咲は、優希が手を進めるために捨てた牌………{⑨}を大明槓した。

 嶺上牌を取ると、

「もいっこ、カン!」

 連槓で{九}を暗槓し、さらに嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 今度は{9}を暗槓した。完全に咲のペースだ。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 毎度の如く嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①③北北}  暗槓{裏99裏}  暗槓{裏九九裏}  明槓{⑨横⑨⑨⑨}  ツモ{②}

 

「チャンタ三槓子三色同刻嶺上開花ドラドラ。16000!」

「じぇじぇ―――!」

 倍満だ。

 これは優希の責任払いとなった。六巡目で、こんな和了りを仕掛けられることが驚きではあるが…。

 しかし、それでも優希は2位の小蒔と70000点以上、3位の咲とは90000点以上の差をつけていた。やはり、東一局での親役満二連発は大きい。

 

 

 東三局、咲の親。

 四巡目、

「リーチだじぇい!」

 優希が先制リーチをかけた。

「(東場のうちに、巫女さんと咲ちゃんと勝負だじぇい!)」

 まだ東場。優希の攻撃力は失われていない。

 小蒔と咲を相手にしてのリーチにリスクはある。しかし、優希が稼げるのは東場のみ。ならば、リスクを覚悟で勝負に出る。

「ポン!」

 咲が、優希のリーチ宣言牌である{8}を鳴いた。

 一発消しか?

 そして、打{9}。

 

 この時、憩は能力が発動していた。

 今回は小蒔から特殊な波動を受けていない。恐らく、能力発動を邪魔されていないと言うことだろう。

 それで、優希が聴牌したことで能力が発動した。

 憩は、すぐさま平和形の手を聴牌したが、その次に優希が捨てた牌………{白}は憩の和了り牌ではなかった。平和形なのだから当然だろう。

 どうやら、ここで{白}が来ることを分かった上で咲は優希から鳴いていたようだ。

 しかも、

「カン!」

 この{白}を咲が大明槓してきた。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は、{8}を加槓した。これで咲は、一応聴牌。

 次の嶺上牌………{⑧}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、そのまま{⑧}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {八}を暗槓した。そして、最後の嶺上牌………{[⑤]}で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤}  暗槓{裏八八裏}  暗槓{裏⑧⑧裏}  明槓{白横白白白}  明槓{8横888}  ツモ{[⑤]}

 

 四槓子。しかも、三色同刻と五筒開花のオマケ付きだ。

「48000。」

 この和了りで、優希は咲にリーチ棒と併せて49000点を奪われ、とうとう咲に逆転されて2位に転落した。

 

 東三局一本場。

 現在の各チームの点数は、

 1位:奈良 124700

 2位:東京1 122000

 3位:鹿児島 93600

 4位:大阪1 59700

 

 今までは、小蒔も咲もトップを取るためには、絶対的リードを作った優希からの直取りが理想であった。

 しかし、もうツモ和了り中心に切り替えて問題無い。

 

 突然、場の空気が変わった。

 小蒔のオーラが急激に大きくなったのだ。咲への対抗心か、それとも、優希を落すチャンスと踏んだのか…。

 相変わらず、筒子、索子、字牌の順に小蒔の捨て牌は切り出されている。そして、たった七巡で、

「ツモ。8100、16100。」

 小蒔は、本日二度目の九連宝燈をツモ和了りした。

 これで、小蒔がトップに浮上した。

 

 

 東四局、憩の親。

 憩は、ここまでヤキトリ状態である。さすがに、この親では和了りたい。

 それに、他家三人にダブルスコア以上の差をつけられている。そろそろ和了れないと本気でマズイ。

 

 焦る憩を横目に、咲が、

「カン! もいっこ、カン!」

 {⑤}と{⑧}を連続で暗槓してきた。

 しかも、ここで引いてきた二枚の嶺上牌で、共に嵌張を埋めて手が進み、咲が聴牌したようだ。先行聴牌者から飛んで来る波動で、それが憩には分かる。

 そして、咲は打{④}。

 

 次のツモで憩は聴牌した。能力が発動しているのを実感できる。

 しかし、同巡に優希が{⑦}を切ってきた。

 特段、優希は聴牌している感じでは無い。

 いや、厳密には、ここで{⑤⑧}待ちで聴牌したのだが、この待ちは既に咲によって潰されている。それで、{⑦}を落としてきたのだ。

 すると、

「ロン! タンヤオ赤2。70符3翻は8000!」

 これで咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四⑦678}  暗槓{裏[⑤][⑤]裏}  暗槓{裏⑧⑧裏}  ロン{⑦}

 

 まさかの{⑦}単騎だった。

 

 

 南入した。

 南一局、優希の親番。

 急激に優希のオーラが、ドンドンしぼんで行くのが分かる。

 ここからは、優希は攻撃に出ることは無い。守りの麻雀に徹する。

 今まで優希は、咲や最強神を降ろした小蒔と同等………いや、東一局に限定すれば、その二人をも遥かに凌駕する魔物だった。

 しかし、南入と共に魔物としてのパワーが消え、憩が対峙する魔物は二人に減った。

 憩としても、ここからが勝負だ。

 

 この局、憩は誰の聴牌気配も感じないまま、自ら聴牌した。ここは、自分の能力に賭けて勝負に出る。

「リーチ!」

 先行聴牌者に憩の和了り牌を掴ませるのが彼女の能力。そして、その先行聴牌者には自分も含まれる。

 当然、一発で憩は自分の和了り牌を掴んできた。

「一発ツモやでぇ! ドラ三つで3000、6000!」

 このハネ満ツモ和了りで憩は、ようやくヤキトリを解消した。

 

 

 南二局、小蒔の親。ドラは{①}。

 序盤から、

「ポン!」

 咲が{南}を鳴いてきた。

 ここでも咲は、手牌に{南}を残していた。暗刻で持っていたのを敢えて鳴き、{南}単騎の形で聴牌まで持って行こうと言うのだ。

 これなら、聴牌形になっても{南}単騎では聴牌として認められない。よって、憩の能力発動条件には引っかからないはず。

 

 一方の小蒔も、筒子、索子、字牌と順に切って行く。

 こっちも萬子一直線で、配牌から最短距離で染め手が出来上がって行くのが見ていて分かる。またもや萬子の九連宝燈か?

 

 ただ、手が出来るのは、咲が一歩早かった。

「カン!」

 咲が{南}を加槓した。これと同時に、憩には咲から先行聴牌者特有の波動を感じ取った。

 しかし、王牌は咲の完全なる支配下にある。憩には咲の嶺上開花を止める力は無い。

 結局、

「ツモ!」

 咲に嶺上開花で和了られるのを許すことになった。

 和了り形は、ドラの{①}をアタマにした嵌{⑤}待ち。しかも、嶺上牌から引いてきたのは、よりによって{[⑤]}だった。

「ダブ南混一嶺上開花ドラ3。4000、8000!」

 これで、再び咲がトップに返り咲いた。

 

 

 南三局、咲の親番。

 ここでは、

「ポン!」

 咲は、小蒔から切り出された{⑥}を早々に鳴いた。

 そして、次巡も、

「ポン!」

 またもや、咲は小蒔から{④}を鳴いた。

 そして、数巡後、

「カン!」

 咲は、

 {①①②②③④⑥}  ポン{横④④④}  ポン{横⑥⑥⑥}  ツモ{③}

 ここから{⑥}を加槓した。聴牌と同時の槓だ。

 咲が聴牌したことで憩の能力発動条件が満たされたが、憩が聴牌するのは同巡でのツモ番になる。よって、まだ憩は和了れない。

 嶺上牌は{①}。これで咲は、嶺上開花で和了りである。

 しかし、

「もいっこ、カン!」

 和了り放棄で{④}を加槓した。

 そして、次に咲が引いてきた嶺上牌は{②}。これで、

「ツモ! 清一対々嶺上開花! 8000オール!」

 嶺上開花を決めた。和了り役を2翻上げての和了りであった。

 これで咲は、2位の小蒔との差を広げた。

 

 しかし、南三局一本場。

 ここでは小蒔の配牌13枚中、萬子が9枚を占めていた。これは、小蒔にとって非常に有利な状況であった。

 咲も、

「ポン!」

 序盤から小蒔が捨ててくる筒子を鳴くが、ここでも小蒔の支配力は凄まじかった。

 そして、四回目のツモ牌で小蒔は聴牌した。

 先行聴牌者の強烈な波動が憩に飛んできた。しかし、それと同時に憩には小蒔特有の妨害波が放たれている感じがした。

 憩は、能力を発動したつもりでいたが、聴牌できず。

 結局、その次のツモ牌で、

「ツモ! 8100、16100!」

 小蒔に三度目の九連宝燈をツモ和了りされた。

 

 これで、各チームの点数は、

 1位:鹿児島 139200

 2位:奈良 137500

 3位:東京1 79800

 4位:大阪1 43500

 小蒔が再びトップに立った。

 しかし、2位の咲とは1700点差でしかない。逆転は十分可能な位置にある。

 

 

 王者咲と小蒔の対決は、いよいよオーラスに突入した。

 親は憩。

 当然、憩としても、ここで連荘して少しでも点数を取り返したいところだ。

 この局面で、小蒔の配牌は、萬子がたった3枚と、萬子の九連宝燈を狙うには厳しい状態だった。

 しかも、字牌が一枚も無かった。これでは、萬子の混一色形に進めるのも清一色形に進めるのも同じだ。

 

 小蒔に降りた神は、タンヤオのみとか平和のみでの和了りができない。どうしても染め手を和了り手として限定しているようだ。

 霞に降りた邪神もそうだった。他家に絶一門を課し、自身は最低でも混一色、基本的には清一色しか作らない。

 その自由度の無さが、この局面では逆に不利になる。

 

 開始早々、

「ポン!」

 咲は、一巡目に、いきなりオタ風の{西}を鳴いた。現段階では、咲の手牌にもう一枚の{西}は無かったが、咲には槓材の位置が分かる。

 そもそも、牌が透けて見えているのだから分からないはずが無い。

 次巡、咲は待望の{西}を引き、そのさらに二巡後に、

「カン!」

 {西}を加槓した。

 そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! 嶺上開花! 400、700!」

 咲は、この半荘で五度目の嶺上開花を決めた。

 {西}の明槓に{⑨}の暗刻を持つ40符1翻の手だった。

 

 これで、先鋒戦の順位と点数は、以下の通りとなった。

 1位:奈良 139000

 2位:鹿児島 138800

 3位:東京1 79400

 4位:大阪1 42800

 最後に、たった200点差で小蒔(神)は咲に逆転を許したが、この接戦を戦い抜き、小蒔に降りた神も十分満足していたようだ。

 

「さすが人の王者。ドイツのエースが愛染明王ならば、そなたは不動明王と言ったところか。」

「えっ?」

「では、両頭愛染の片割れよ。また会える日を楽しみにしているぞ。」

 こう言うと、神は小蒔の身体から抜け出て行った。ただ、咲には最強神の言葉が全くの意味不明であったことは言うまでもない。

 そして、これを入れ替わるかのように………、

「あっ………。すみません。寝てました。」

 小蒔が目を覚ました。

 多分、小蒔自身は、三度も九連宝燈を和了った奇跡とも言える戦いを全然覚えていないだろう。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 最後の一礼の後、

「また、どこかで打とうな、咲ちゃん。」

 憩は、そう言いながら咲に右手を差し出した。もう、高校生でいる間は、公式の大会で敵として咲と戦うことは無いだろう。

「は…はい。ありがとうございます。」

 咲は、オドオドしながら憩と握手を交わした。

 

「咲ちゃん。私とも握手だじぇい!」

 今度は、優希が咲に右手を差し出した。

「あ、ありがとう、優希ちゃん。」

「今度は春でリベンジするじょ!」

「こっちも負けないからね!」

「その意気だじぇい!」

 咲は、優希と硬く握手を交わした。さすがに旧清澄高校麻雀部員の優希を相手にオドオドすることはない。

 

「あのう、私も良いでしょうか?」

 今度は、小蒔が咲に右手を差し出してきた。

「は…はい。」

「最強の神様も、とても喜んでおられました。また、次の機会を楽しみにしていらっしゃるようです。」

「こ…こちらこそ…、はい。」

 最後に、咲は小蒔と握手を交わした。

 ただ、

「(羨ましいな…。)」

 咲の視線は自然と小蒔の豊満な胸のほうに行く。

 まあ、それは仕方が無いだろう。

 

 小蒔と握手を交わした直後、咲は、急にその場に座り込んだ。まるで、全身の力が抜けてしまったかのようだ。

 東場最強状態の優希に、最強神を降ろした小蒔、さらに先行聴牌者に和了り牌を掴ませる憩の三人同時相手は、咲としても結構精神的に疲労していたのだ。

 

 丁度ここに、憧と玄が入室してきた。

 玄は次鋒選手として、憧は咲のお迎え………迷子対策である。

「サキ、大丈夫?」

「うん。」

「肩貸そうか?」

「お願い、憧ちゃん。」

 一先ず咲は、憧に肩を貸してもらって控室に連れられて行くのだが…。

 このベタベタくっついた(ように見える)咲と憧の様子を東京チーム1の控室モニターで見ていた和は、

「憧、またですか? 須賀君と言い、憧と言い、イイカゲンにしてください!」

 心中穏やかではなかったようだ。




おまけ

前回(66本場おまけ)からの続きです。
本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。
咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。



Carnivorousな生き物
2. 日本上陸


あの夜以来、憧達との通信は途絶えたままだった。
しかし、捜索隊を出そうにも出せなかった。
これまでも同じような状況下で捜索隊を出したことはあるが、ミイラ取りがミイラに………捜索隊までもが誰も帰ってこなかった故である。
もっとも、今となっては捜索隊として現地に出向きたい人間自体が皆無だった。


半年の時が流れた。
その日、見慣れない一隻の船が日本近海を走行していた。
その船は、まるで潮の流れに従って惰性で動いているように見えた。そして、そのまま、とある海岸に漂着した。

潮が引き、その船は砂浜の上に置き去りにされた。
普通なら沖に流されてもおかしくない。
たまたま、浅瀬に引っかかったのだろう。
まさに偶然が偶然を呼んだ感じだった。


明け方、セーラは憩と二人で海岸沿いをジョギングしていた。
二人の日課だ。
その途中で砂浜に見慣れない船を見つけた。
セーラは、公道から砂浜に駆け下りて船の中を覗き込んだ。
「誰か乗っているんかぁ?」
しかし、このセーラの呼びかけに返事は無い。

半分探検のつもりで、セーラは船の中に入っていった。
セーラは、この近くにある大学に通う学生だった。大学では、麻雀部とボクシング部を兼部していた。
その後を追いかけるように、憩が船の中に入って行った。
憩は、セーラと同じ大学で、やはり麻雀部に所属していた。そして、ボクシング部ではなく新体操部を兼部していた。
憩は、均整の取れた身体をしており、しかも顔も十人並み以上で、とても明るい雰囲気に包まれている。
当然、学内に憩のファン(当然男性)は多かった。

セーラと憩は、まるでデキているのではないかと噂されるくらい仲が良かった。当然、憩のファン達は、それが気になって仕方が無い。

セーラは船の中で、ベッドの上とベッドの脇に一体ずつ白骨死体を発見した。
「げっ! 何や、これ?」
ベッドの上の白骨は、頭から足まで全て揃っている。ベッドの上で寝ていて、そのまま白骨化したようだ。服も着ている。
その白骨の上には、枯れた巨大な植物が、まるで布団のように覆い被さっていた。

一方、ベッドの脇の白骨は、頭部から胸の中央辺りまでの骨が無くなっていた。
腕も胴も足もある。
例えるなら、大きなワニに頭から胸の真ん中辺りまでを一口で食いちぎられた死体が白骨化したみたいな感じだった。
明らかに不自然な白骨だ。
しかも、その頭の無い白骨死体は何故か服を着ていなかった。

その白骨が生前着ていたと思われる服が、近くに脱ぎ捨ててあった。

ベッドの上の白骨は灼の変わり果てた姿だった。
もう一体の白骨は言うまでも無い。憧だった。
結局のところ、憧も催眠&催淫ガスで完全に頭がコントロールされ、服を脱ぎ捨てて例の植物に抱きつき、頭から喰い殺されてしまったのだ。

ただ、無くなった骨が全身ではなく頭部から胸の辺りなのは、憧を捕食した時、まだ葉の捕食する部分が六十センチ程度までしか成長していなかったためであった。
その光景を知らない者から見れば、憧の白骨は奇妙としか言いようが無い。
勿論、この白骨が憧達のものであることなどセーラ達には分からない。
それ以前に、憧達のことなど知らない。
セーラ達にとっては、ただ白骨死体を乗せた船を見つけた。それだけに過ぎなかった。

床にはゴマみたいな粒がたくさん落ちていた。例の植物の種だ。
灼の身体を養分として、ここで花を咲かせたのだろう。
しかも、その植物は自家受粉が可能らしい。ここに種が落ちているのがその証拠だ。

結構、その種がシューズの底の溝に入り込んでいるが、普通の感性では、それが危ないものだとは到底思えないだろう。
見た目は、ただのゴマ粒に過ぎない。
これが悪魔に変貌するなど、とても想像できない。
一先ずセーラ達は、種をシューズの底に付けたまま、船から砂浜に降り立った。そして、セーラは携帯から警察に連絡を入れ、白骨死体を見つけたことを報告した。

二人は一旦、公道に戻った。
種の殆どは歩いているうちに砂浜の上に剥がれ落ちた。
しかし、一粒だけセーラのシューズについたままだった。そして、セーラが公道の上に立った時に、その最後の一粒がアスファルトの上に剥がれ落ちた。
ただ、そこは道のド真中だ。
ここで、アスファルトを突き破って根を張ることは出来ないだろう。


その夜、雨が降った。
砂浜に剥がれ落ちた種は、潮が満ちてきた時に海に流された。
海に流れた種は、魚の餌になった。
しかし、アスファルトの上に置き去りにされた一粒の種だけは違う運命を辿った。そこから公道脇の空地の上に流されたのだ。
そして、とうとう、そこで発芽した。
その地に根を張り、大量に養分を吸い上げて急成長し、一晩で一メートル近くの高さになった。灼の身体から体液を吸い取った時と同じだ。
翌朝には、長さ七~八十センチくらいの葉を左右に大きく広げていた。
不幸中の幸いは、この日が雨で、この辺りをうろつく人が居なかったことだ。


次の日の夜。
セーラと憩は大学の帰宅途中だった。
二人にとっては、いつものように、駅から家に向かって歩いていただけだった。ただ、いつもと違う何かが帰宅途中の道程の中にあった。
丁度、憧達の船を見つけた辺りに来た時、セーラと憩は、公道脇の空地から誰かに話しかけられたように感じた。
ただ、セーラには、その声が色っぽい女性の声に、憩には男性の声に聞こえていた。
「な…なんや? こんなところに、あんな綺麗な女が裸で立っとるんや? もしかして、俺と一発やりたいんか? 手招きしてるで。」
「何を言ってんの? 男子やろ! それも、私好みの…。」
「男? 憩、目が悪くなったんか? どう見ても女やろ。あの胸を見い! 竜華クラスやないか? どう考えたって男のわけ無いやろ!」
「胸なんか無いじゃん。股間には、見慣れないモノが付いてんで!」
和と優希の時と同じだった。幻覚を見せられていたのだ。
二人は、無意識のうちに服を全て脱ぎ捨て、靴も脱いで裸足になった。そして、幻覚の元となる植物に向かってフラフラと歩き出した。
途中で憩が石を踏ん付けた。
「痛っ!」
憩は、その痛みで一瞬正気に戻った。
「あれ? 男の人は?」
憩の目に映ったもの。それは、まるでバナナかバショウのような植物の姿だった。
その丈は、約一メートル。葉の長さは偽茎を除くと七~八十センチくらい。
普通に目立つ大きさだ。
こんなところに、このような植物が今まで生えていただろうか?
今朝は、急いでいて気付かなかったが、この道は毎日通っている。憩からすれば、いつの間にか生えた感じだ。

セーラが性欲全開で、その植物に頭から突っ込んでいった。
すると、その植物は、まるでワニの口のように二枚の葉で、セーラの頭から胸の中央辺りまでを銜えるように挟み込んだ。
その葉の脇から、ポタポタと液体が流れ出ている。消化が始まったのだ。
「キャー!」
憩が大きな悲鳴を上げた。
しかし、その声はセーラには届いていなかった。
既に頭部が消化されて、文字通り聞く耳を持っていなかったのだ。
消化が終わり、葉に挟まれていた部分だけを無くしたセーラの身体が地面に倒れこんだ。
その死体は、まるでワニの口に頭から胸の辺りまでを挟まれ、そのまま食い千切られたような感じだった。
昨日見つけた船内にあった、ベッドの下の白骨と同じだ。

「セーラ!」
憩がセーラの死体に駆け寄った。
そして、その首無しの亡骸に縋り付こうとしたその時だった。
彼女の視界がぼやけた。
急に頭の中がフワフワして気持ち良くなってきた。ほろ酔い気分に近い感じだ。
身体が熱い。
至近距離まで近づいてしまったのだから当然だろう。
そして、さっきまでバナナかバショウに見えていたセーラの仇が、高校生くらいの美少年の姿………ではなく、小太りのちょっとブサメン男子に見えるようになった。

既に憩の頭の中からは、ついさっきセーラが殺された記憶は消し飛んでいた。それだけ催眠作用が強力なのだ。
「やっぱり…そこにいたんや。うちが溜まってるモノ。抜・い・て・あ・げ・る!」
どうやら、憩の趣味は美少年ではなくポッチャリ型のブサメンのようだ。理由は分からないが…。

憩も、セーラと同様に、その植物にフラフラと吸い寄せられて頭から突っ込んだ。
彼女の脳内では、好みの男性の身体を抱きしめている。
しかし、現実には、二枚の葉が彼女の頭から胸の辺りまでをしっかりと挟み込んでいた。
そして数分後には、憩の身体もセーラと同じで、ワニに頭から胸の辺りまで食い千切られたような奇妙な死体へと変わった。


翌朝、セーラと憩は変死体として発見された。
二人とも、服は全て脱ぎ捨てられていて、しかも共に頭部から胸まで切り取られたような常識では考えられない死に方である。
殺人事件の可能性も考え、二人の死体は検死にまわされた。
検死の結果が出れば、二人の身体が消化されたことまでは分かる。恐らく、消化液が検出されるはずだ。
しかし、それが例のバナナのような植物によるものだと分かるまでには、結構時間がかかるだろう。
さすがに、こんな非常識なところまで一気に発想を飛躍させることは難しい。

その夜、憩ファンの男達数人が、彼女に追悼の意を捧げようと、憩の死体発見現場の近くに駆け付けていた。
例の植物は、昨夜よりも更に大きく成長し、既に丈が三メートルを超えていた。
葉は、偽茎を除いて二メートル五十センチちょっと。
その大きな葉が、既に八枚もある。
一ヶ月前に、アチガ島で和と優希を喰った植物に近い大きさにまで達していた。
セーラと憩の身体の一部を液体肥料に変え、それを全て吸い上げた結果だろう。

ファン達は、暫く黙祷していた。すると、
「こっちやでぇ。」
そのファン達の耳に、他界したはずの憩の声が聞こえてきた。
「憩…さん?」
彼らが顔を上げて、声のする方に目を向けた。
ファン達の目に映ったもの。
それは、全裸で自分達を誘っている憩の姿だった。
彼らは無意識に服を脱いでいった。
そして、全裸になると植物に近づき、かつて無いほどまでにギンギンにいきりt…。


まこ「ここはワシの出番じゃ! 細かい描写は、すっ飛ばさんとイカンからのぉ!」


そのファン達の脳内では、まさに夢にまで見た光景が繰り広げられている。憧れの憩と順番にH。
しかし、現実は違う。
その植物は容赦ない。
先ず一人目を二枚の葉で完全に包み込み、消化し始めた。
そして、再び葉が離れた時、その男の身体は全て液体肥料と化していた。
二人目、三人目と、他のファン達も同じように次々と、その植物の餌になっていった。
ただ、喰われる側に苦痛は無い。
むしろ、叶ったら死んでも良いとまで思っていた夢を幻覚として見せられ、幸せな気分のまま全身を溶かされていったのだ。

全員を消化し終えると、その植物の偽茎の両脇から花茎が伸び始めた。いよいよ花を咲かせる準備に入ったのだ。もの凄い成長速度である。

更に、その植物から十数メートル離れた同心円上に、その植物の芽がいくつも地上に顔を出していた。付近に地下茎を張り巡らせ、自分のコピーを作り出したのだ。
そのコピーは、見る見るうちに大きくなり、一晩のうちに一メートル半くらいの大きさまで成長した。
根がしっかりしている分、種から発芽した時よりも成長が早い。
そして、偽茎の先に一メートルを超えるバナナに似た大きな葉を広げ始めた。


数日が過ぎた。
その後、この植物の餌食になった者は少なくなかった。
この空地に面した道を夜中に歩くだけで引き寄せられてしまうのだから当然だろう。
ただ、セーラと憩の場合は変死体として発見されたが、憩ファン達以降の被害者は、全身が消化されていたため、脱ぎ捨てられた服と靴だけが発見される形となった。
その服の持ち主達は、既にこの世には居ない。
しかし、世の人々にとっては真実が不明な状態だった。被害者達は既に殺されているのか、それとも拉致事件なのか、区別が付かなかった。

植物の周りに流された液体肥料からは、特に異臭が放たれることは無かった。
もし、これが異臭を放てば、その原因究明のための動きがあるだろう。そうなれば、真実に向けて一歩踏み出せたかもしれない。
しかし、無臭に近い。
勿論、バナナみたいな植物が人を喰らうなど、通常は考え難い。
そういった先入観も働いて、真実から人々を遠ざけていた。



その日は、風が強かった。
そのバナナみたいな植物は、更に地下茎を遠くまで延ばしていた。
既に、最初に根付いた空地から百メートル近く離れた民家の庭にまで地下で陣地を拡大し、新たな芽を出していた。

海から陸にかけて、春一番のような風が吹いていた。
憩達を喰らった植物の元株は、花茎の下の方に紫の実をたくさん連なって付けていた。この植物は自家受粉が可能なのだから当然だろう。
まるで、この日を狙っていたかのように、その植物の実が次々とホウセンカのように弾けていった。
ゴマ粒みたいな種が、風に吹かれて飛んで行く。
まるで、砂埃が舞い上がっているようだ。

風下の道を、駅に向かって歩く一人の女性の姿があった。
彼女の名前は郝慧宇。中国からの留学生だった。
郝は、ノートパソコンの入ったカバンを片手にスーツケースを引いていた。これから中国に一時帰国するところだ。
飛んできたゴマ粒のような種の一つが、彼女の服についた。
しかし、そんなことに、いちいち気付かない。
彼女は、そのまま空港に向かう特急に乗った。
もし人類の運が良ければ、その種は発芽できない場所に落とされる。例えば、空港内で落ちて、そのまま清掃員が掃除機で吸ってしまえば発芽は出来ないだろう。

しかし、郝が降り立つであろう国………大陸の土の上に落ちたら………。
もしかすると、その種は、密かにそれを狙っているのかもしれない。


カン


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六十八本場:国民麻雀大会4 龍支配

 控室に咲が戻ってきた。

 恭子が、

「なぁ、咲。神代に降りた神様に何か言われとったようやけど?」

 と咲に聞いた。

「それが、両頭愛染の片割れとか、意味が全然分からなかったです。」

「たしかに、うちにも分からんなあ。」

 さすがの恭子にも、この時点では、この言葉が何を指しているのか分からなかった。しかし、しばらくしてから恭子は、その意味に気付くことになる。

 

 対局室に泉、数絵、そして鹿児島チーム次鋒(赤山高校生徒)が入室してきた。いよいよ次鋒戦が開始されようとしている。

 

 場決めがされ、玄が起家、泉が南家、鹿児島チーム次鋒が西家、数絵が北家に決まった。

 玄は、予め京太郎製タコスを口にしていた。それで起家を引き当てたのだ。

 しかも、既に控室で少し打って調子を整えている。準備万端だ。

 少なくとも、淡と違って準備満タンではない。

 

 

 東一局、玄の親。ドラは{一}。

 泉の手にも数絵の手にも鹿児島チーム次鋒の手にも、ドラ或いは赤牌が来ていた。これで玄がドラを支配していないことが分かる。

 言い換えれば、今、玄は三元牌支配をする方にシフトしている。

 

 玄の配牌には、{白}が二枚、{發}が一枚、{中}が二枚あった。

 そこから、{中}、{發}、{白}、{發}、{中}、{發}とツモってきた。最初から三元牌支配ができるように調整してきたのだ。

 

 七巡目で、既に玄は、

 {二四七白白白發發發中中中中}  ツモ{發}

 十二枚の三元牌のうちの十一枚を手牌の中に持っていた。三元牌支配の能力発動だ。

 そして、

「カンなのです!」

 先ず、玄は{中}を暗槓した。

 嶺上牌は{白}。すると、

「もう一つカンなのです!」

 今度は{發}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{七}。

「さらに、もう一つカンなのです!」

 続けて玄は、{白}を暗槓し、次の嶺上牌で、

「ツモです。16000オール!」

 大三元を和了った。

 残念ながら、このメンバーの力量では、玄の三元牌支配を破ることは出来ないだろう。

 厳密には、南場の数絵なら玄の三元牌支配と対峙して和了りに向かって行ける。そして、先に数絵が和了るかも知れない。

 しかし、今は東場である。

 数絵には、他家への振り込みを回避するだけで精一杯だった。

 この和了りで、玄は、2位の鹿児島チームに64000点以上の差をつけた。

 

 東一局一本場。

 さっきとは場の空気がガラっと変わった。

 急に穏やかな雰囲気になった感じだ。

 勿論、これは三元牌支配が無くなったためである。

 ここから玄は、次の三元牌支配の準備に入る。この局は、三元牌のうち手の中に揃えられるのは{中}だけである。

 ここでは玄が攻めてこないはず。

 これをチャンスとばかりに、

「チー!」

 最下位の泉がクイタンに走り、

「ツモ! タンヤオドラ2。1100、2100!」

 序盤でさっさと玄の親を流した。

 しかし、この様子を控室のテレビモニターで見ていた船久保浩子は、

「何考えてるんや、泉は?」

 泉が4000点の手で和了ったことに対して激怒していた。

 

 三元牌支配は二局おきに来る。つまり、この東一本場は、玄の三元牌支配が発動しないことは想定済みである。

 

 今までのデータからすると、玄は三元牌支配の準備期間中には滅多に和了らない。しかも、玄がドラを放棄した状態なのだから、その分、ドラが玄以外に多く回る。

 それに加えて、数絵も南場に入らなければスイッチが入らない。つまり、和了れない。これも、今までのデータから明白である。

 

 今、置かれたこの状況は、泉と鹿児島チーム次鋒が高い手を和了るチャンスではないだろうか?

 だとすれば、当然安手のクイタンではなく、最大限に高い手を狙うべきと浩子は考えていた。

 次々局で来るであろう三元牌支配に備えて、少しでも高い手を和了っておいたほうが良いとの判断もあるが、そもそも玄とは150000点以上差が付いているのだ。安手で流す意味が分からない。

 ムリして清一色に走っても良いし、門前出和了りで満貫あるところに、さらに裏ドラ狙いでリーチをかけても良い。それくらいの勝負をする局面なのだ。貪欲に高打点を目指すべきだろう。

 これが、玄の三元牌支配が発動している局を安手で流すのなら理解できるが…。

 

 

 東二局、泉の親。

 ここでは、

「リーチ!」

 鹿児島チームの次鋒が攻めてきた。浩子と同じ考えである。

 そして、数巡後、

「ツモ! 3000、6000!」

 待望のハネ満手を鹿児島チームの次鋒がツモ和了りした。

 

 この局では、河に出た三元牌は{白}のみであった。

 恐らく、{發}と{中}は玄が占めていたのであろう。そして、次局で玄は、三元牌全てを揃えに行く。三元牌支配が再び巻き起こる。

 

 

 東三局、鹿児島チーム次鋒の親。

 場の雰囲気がガラっと変わった。東一局と同じ魔物特有の空気だ。

 全員、河に風牌から切り出し、次に数牌を切って行くが、思ったとおり、三元牌だけは出てこなかった。

 そして、六巡目。

 急に玄から放たれるオーラが一気に膨れ上がった感じがした。

「カンなのです!」

 完全に東一局と同じパターンだ。ここでも、玄は{中}から暗槓した。

 嶺上牌は{白}。すると、

「もう一つカンなのです!」

 続けて玄は、{發}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌を引くと、

「さらに、もう一つカンですのだ!」

 お約束だ。玄は、{白}を暗槓した。

 当然、次の嶺上牌で、

「ツモです。8000、16000!」

 大三元を嶺上開花で和了った。

 これで、2位の鹿児島チームに95000点以上の差をつけた。

 

 

 東四局、数絵の親。

 玄の三元牌支配は、再び準備期間に入った。

 加えて、この局までは数絵のスイッチが入らない。これが泉と鹿児島チーム次鋒にとって最後のチャンスと言えよう。

 泉は四巡目で聴牌した。タンピンドラ2の手。

 ただ、逡巡したのだろうか?

 ここで即リーチをせずに一巡待った。

 が………しかし………、次巡で、

「ツモ。あぁー、リーチをかけとくべきやったかぁ。」

 泉はタンピンツモドラ2の、

「2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。和了り牌を聴牌即で引き当てたのだ。

 ただ、この様子を控室のモニターで見ていた浩子は、

「なんでリーチせんのや!」

 怒り心頭していた。

 リーチをかけておけば一発ツモだったし、裏ドラも乗ったかもしれない。そうすれば、ハネ満どころか倍満まで行ったかもしれない。

 これが、普通の人間が相手なら今の泉の打ち方で良い。しかし、ここにいるのは三元牌の支配者と南場の支配者だ。

 支配力が無い時に徹底して攻めるべきなのだ。

 

「南入です。起家マークをお願いします。」

「は…はい。」

 数絵に言われて、起家の玄が起家マークをひっくり返した。

 今まで東と記されていたのが南の文字に変わった。

 すると、暖かい風が辺り一面に吹き付けた。南風を思わせる。

 これと同時に、数絵の表情が変わった。スイッチが入ったのだ。

 

 

 南一局、玄の親。

 ここでは、まだ玄の三元牌支配は無い。

 一方、数絵は、役無しドラ1の手だが、たった三巡で聴牌し、

「リーチ!」

 すぐさまリーチをかけた。これが、南場での彼女のスタイルだ。

 そして、次巡、

「ツモ! リーチ一発ツモドラ3。3000、6000。」

 アタマが裏ドラになってハネ満になった。

 南場は守らず、徹底して攻める。役無しでもリーチをかければ即ツモ和了りできる。これが数絵のパターンだ。

 

 

 南二局、泉の親。

 再び場の空気が変わった。ここで、玄の三元牌支配スイッチも入ったのだ。常人なら耐えられない雰囲気だろう。

 しかし、数絵は、三巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 三元牌支配を恐れずに攻めて行った。

 ここで玄の三元牌支配が発動しても、玄が和了るまでには、まだ数巡かかると数絵は踏んでいた。

 三元牌支配状態にある玄は、三元牌を十枚以上………大抵十一枚揃えてから暗槓による三連槓に入る。

 ならば、その前に和了ってしまえば良いのだ。

 そして、次巡、

「ツモ! 3000、6000!」

 数絵は、ここでも一発でハネ満をツモ和了りした。

 

 

 南三局、鹿児島チーム次鋒の親。

 玄の三元牌支配は、この局でも発動した。前局で大三元を和了れなかったので、次局に持ち越されたのだ。

 しかし、数絵の支配も健在である。

 ここでも、

「リーチ!」

 数絵は恐れずに先制リーチをかけた。

 とにかく、形振り構わず攻める。

 魔物と言える相手は玄のみ。たしかに玄の手は超大物手だが、和了り………例の三連槓までには、まだ数巡かかるはずだ。

 この局も、

「ツモ! 3000、6000!」

 南場で鬼神と化す数絵がハネ満をツモ和了りした。

 これで数絵は、三連続でハネ満を和了ったことになる。

 たった三局で36000点の稼ぎである。普通の麻雀なら余裕の勝利であろう。

 

 

 オーラス、数絵の親。

「(まだまだ稼ぐ。行けるところまで…。)」

 この親番も数絵は、たった三巡で聴牌し、

「リーチ!」

 即リーチをかけた。このスピードには誰も追いつけない。

 そして、

「一発ツモ! 6000オール!」

 四連続ハネ満だ。

 この四回の和了りで、数絵は54000点を叩き出した。さすがに優希の役満二連発には敵わないが、それでも、とんでもない爆発力である。

「一本場!」

 当然、数絵は連荘を宣言した。まだまだ和了れそうな実感があるのだ。

 

 オーラス一本場。

 依然として数絵は集中力も支配力も衰えない。むしろ、上がって行く感じだ。完全に優希とは対照的な存在である。

 そして、ここでも五巡目で、

「リーチ!」

 数絵は聴牌即リーチをかけた。

 玄は一先ず安牌を切った。

 

 そう言えば、守りが得意でない玄が、南場の数絵のリーチに対して、今まで一回も振り込んでいない。

 実は、南場に入ってから、玄は数絵の安牌を必ず一枚確保していた。それを数絵のリーチ宣言の後に一発で切っていた。

「(ここは、まだコーチのアドバイスに従うのです!)」

 これは、南場では数絵の安牌を一枚だけで良いから確保するように恭子から言われていたためだ。その安牌を、数絵のリーチ直後に切っていたのだ。

 安牌は一枚だけで良かった。何故なら、数絵が一発でツモ和了りするからだ。

 それで恭子は、『複数枚』と言わずに『一枚』と言ったのだ。

 

 いずれチャンスは来る。その時までは、決して数絵に振り込んではならない。

 それも恭子から言われていたことだ。

 この局も、

「一発ツモ! 6100オール!」

 リーチ即で数絵が和了った。

 

 これで現在の点数は、

 1位:奈良 187800

 2位:東京1 119600

 3位:鹿児島 91600

 4位:大阪1 1000

 数絵が鹿児島チームを抜いて2位に躍り出た。一方、泉は点数がたった1000点となり、非常に厳しい状態になった。

 

 この点数を見て玄は、

「(コーチが言っていたとおりなのです!)」

 ここで恭子が言っていたチャンスが来た。玄は、次の局に全てを賭ける。

 

 オーラス二本場。

 ここでも数絵の手は早かった。役無しだが、ドラ含みの手を四巡目で聴牌した。

 そして、リーチをかけて一発でツモる。勿論、裏ドラが乗って、巧く行けばハネ満まで手が上がる。これが南場での彼女の必勝パターンだ。

「リ………。」

 数絵から声が漏れた。リーチをかけようとしたのだ。

 しかし、

「(リーチがかけられない!)」

 ここで数絵がリーチをかけて、もしツモ和了りしたら泉が箱割れして終了となる。その瞬間、自分達は2位確定となる。

 つまり、泉から点を奪うのを避けて、玄か鹿児島チーム次鋒からの出和了りを狙うしかない。

 手の中にドラがある以上、下手にツモ和了りもできない。1000オールを和了った時点で芝棒が付いて泉のトビ終了となる。

 そうなると、リーチ無しで出和了りできるよう、和了り役が必要になる。

 仕方なく、数絵は一旦聴牌形に取ったが、ここから役のある形に移行するためにリーチを見送った。

 これこそが、恭子の言っていたチャンスだった。

 

 その二巡後、玄は、手牌の中に{白}を三枚、{發}を四枚、{中}を四枚揃えた。

 そして、

「カンなのです!」

 玄が{中}を暗槓した。

 嶺上牌は{白}。

 続けて玄は、

「もう一つカンなのです!」

 {發}を暗槓した。

 次の嶺上牌を引くと、

「もう一つカンですのだ!」

 玄は、さらに{白}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモです。8200、16200!」

 この必勝パターンで大三元をツモ和了りした。

 

 これで各チームの点数と順位は、

 1位:奈良 220400

 2位:東京1 103400

 3位:鹿児島 83400

 4位:大阪1 -7200

 奈良チームが2位の東京チーム1にダブルスコアの点差を付けて優勝を決めた。

 

 

 この時、熊倉トシは、この試合を、大会施設内の小会議室に設置されたモニターで見ていた。

 その隣には、ワールドレコードホルダーである白築慕の姿もあった。

 トシは、

「面白い力だね、あの阿知賀の子。」

 やはり、玄の三元牌支配には心を惹かれたようだ。

「そうですね。でも、晴絵ちゃんからの情報ですと、宮永咲ちゃんには破られたそうですけど。」

「あれをかい?」

「はい。松実さんが三連槓に入る前に二つ槓してしまえば良いと言うことです。」

「宮永咲らしい破り方だね。」

「そうですね。」

「でも、相手が宮永咲クラスの超魔物でなければ、大抵は勝てるだろうね。」

「でしょうね。」

「そこで、実際に、その支配力がどれくらいのものか、慕ちゃんに見てきてもらいたいんだけどねぇ。」

「えっ? ええと………。」

「お願いできるかしらねぇ?」

「わ…分かりました。うーん。そうだな…。では、はやりちゃん達にも協力してもらって良いですか?」

「まあ、その辺は任せるよ。あと、神代さんのほうは、どうなるかねぇ?」

「多分、今年は大丈夫だと思いますけど…。そっちは良子ちゃんに当たってもらいます。」

「戒能プロね。」

「はい。あと、他にも確認したいことがありますし…、ちょっと失礼します。」

 そう言うと、慕はスマホで電話を入れた。

 そして、電話に出た相手は誰かと言うと…、

「もしもし。」

「おお、慕か。久し振り!」

「閑無ちゃんも元気そうで。」

 小中高と、慕と時を共にした石飛閑無だった。

「それでなんだけど…。ちょっと閑無ちゃんに聞きたいことがあってさ…。咲ちゃんと打ってみない?」

「あの、宮永咲とか?」

「そう。あと、松実玄とか高鴨穏乃とか。」

「何企んでるんだ?」

「えへへ。ちょっとね。」

「なんか、嫌な予感がするなぁ。」

 そう言いながらも、閑無の声は興味深々だった。久し振りに刺激的なことが出来る予感がして堪らないようだ。




おまけ

咲が、『Carnivorousな生き物(66本場、67本場おまけ)』を丁度見終わった。


咲「あんな植物いないよね? でも、もし私があの植物に誘引されたら、あの植物が京ちゃんに見えるのかな?」

恐らく、咲が思っているとおりだろう。
少なくとも、咲の目に、あの植物の姿が池田華菜に見えることだけは無い。

一旦、咲はトイレに用足しに行った。
そして、再び戻ってくると、咲はスマホで掲示板を覗き始めた。


咲「そう言えば、今日の試合(コクマ初日)、どんな書き込みされてたのかな?」






【初日】コクマ咲様編【魔王暴れる】


333. 名無し麻雀選手

一回戦、咲様登場!
今回は先鋒か
点数引継ぎ制で咲様の相手は岩手、山口、大分
相手にならないだろうな


334. 名無し麻雀選手

これは、先鋒戦だけで決着がつくと思…
大放水希望


335. 名無し麻雀選手

まあ、どんな削り方をするかだな


336. 名無し麻雀選手

起家になった
今日も京タコス食ってるな?


337. 名無し麻雀選手

と言うことは、この試合、東二局は来ない!


338. 名無し麻雀選手

咲様が靴下脱いだ
これはマジでトバしに行くぞ
既に相手三人は震えてる


339. 名無し麻雀選手

いきなり厄マン来るか?


340. 名無し麻雀選手

まあ落ち着け


341. 名無し麻雀選手

最初は3900オールか
格下相手に珍しいな?


342. 名無し麻雀選手

いや
過去にも格下相手で3900オール開始はある
ただ、あれは最悪な麻雀だったが


343. 名無し麻雀選手

それって、いつのやつ?


344. 名無し麻雀選手

一年近く前
ただ、それと同じことをするかどうかは不明


345. 名無し麻雀選手

咲様聴牌


346. 名無し麻雀選手

ここからカン北www
倫シャン解放!
ダブ東ツモ嶺上開花ドラドラ
親ハネツモ!


347. 名無し麻雀選手

これって、まさかとは思うが…
もしそうなら、342は最強の預言者


348. 名無し麻雀選手

>>347
一年前の悪夢再びか?
もしそうなら、俺は咲様に全てを捧げる!


349. 名無し麻雀選手

>>348
既に咲様には京ちゃんがいる
お前の入る余地は無い


350. 名無し麻雀選手

咲様、無表情だな
手は既に聴牌
ツモと倫シャン解放前提なら倍満か


351. 名無し麻雀選手

3900オール
6100オール
8200オール
と来たら、あれの再現じゃん?
やっぱり


352. 名無し麻雀選手

カン北www
倫シャン解放!
8200オール!

ここから
12300オール
16400オール
2500オール
2300オール
と続くのか?


353. 名無し麻雀選手

>>352
なんで、そこまで言えるんだ?
kwsk


354. 名無し麻雀選手

>>353
ニワカか?


355. 名無し麻雀選手

353だが
咲様ファン暦一ヶ月のニワカなんで


356. 名無し麻雀選手

>>353
去年の奈良県秋季大会決勝戦で見せた奴
あの時、咲様は東一局で全員トバして終了した
その時に和了った点数が
東一局3900オール(敢えて満貫にせず点数調整したと言われている)
一本場6100オール
二本場8200オール
三本場12300オール
四本場16400オール
五本場2500オール
六本葉2300オール(点数調整)
七本場6700オール
八本場8800オール
九本場12900オール
十本葉17000オール
十一本場17100オールで全員トビ!
相手は全員箱下14600
咲様の点数は444400


357. 名無し麻雀選手

あの時の点数調整はスバラでした
新聞にも載りましたね
奇跡の4並びって


358. 名無し麻雀選手

相手を全員箱下66600にする化物ですから


359. 名無し麻雀選手

とか言ってるうちに12300オール!
またもや倫シャン解放


360. 名無し麻雀選手

本当にあの再現だな








咲「なんか、特定するのが早いなぁ。」

咲「まあ、京咲ネタが書かれてたからヨシとしようかな。」

咲「それと、二回戦のは、どんなことが書き込まれてたんだろう?」



【一日目二回戦】コクマ咲様編【444400希望】-3


556. 名無し麻雀選手

二回戦、長野の先鋒はウザ池田か
咲様vsころたんにはならなかったか


557. 名無し麻雀選手

ウザ池田じゃ瞬殺かな?
咲様vs透華様も期待したんだけどな
あのフインキ変わった透華様なら咲様と殺り合えるじゃん?


558. 名無し麻雀選手

治水状態な
あの透華様なら女王様と呼んでもイイ!


559. 名無し麻雀選手

一回戦では咲様、三人放水させたっぽいからな
画面飛んだし


560. 名無し麻雀選手

でも妖艶美女とか超絶美女とかの放水でないと面白くない!
最近、放水が普通になってるからな
こっちも相手を選ぶようになってきた


561. 名無し麻雀選手

>>560
贅沢者!
まあ、分かる気がするが

でも、ナースとかころたんとかの放水も見たいな


562. 名無し麻雀選手

>>561
二人ともさせる側であって、する側では無いからな
そう言えば咲様の学校、新入生は大丈夫だっただろうか?


563. 名無し麻雀選手

結構麻雀強い娘が偏差値70超の超進学校蹴って咲様の下に大集合したらしい
それで咲様と打って大変なことになったとか………


564. 名無し麻雀選手

咲様、新入生相手に本気で打ったっぽい


565. 名無し麻雀選手

>>563
>>564
こ………これって………


566. 名無し麻雀選手

巨大湖形成ですな
掃除時間の方が対局時間より長くね?


567. 名無し麻雀選手

誰も試合のことを書き込まない件
まあ、対ウザ池田だしな


568. 名無し麻雀選手

いつの間にか福島の点数が一万点割ってるぞ!?


569. 名無し麻雀選手

東一局で咲様が埼玉から親ハネ直取
一本場で福島から数えを責任払いで取って
二本場、三本場も共に福島から親ハネと親倍取った


570. 名無し麻雀選手

言ってるそばから咲様の大明カン!


571. 名無し麻雀選手

もいっ股間も出た!
もう終わったな


572. 名無し麻雀選手

終了―――
咲様強過ぎ








咲「京咲のことが全然書かれてないよ!」


急に機嫌が悪くなる咲だった。


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六十九本場:練習試合1 阿知賀vs旧朝酌女子

 この時、愛宕雅恵は夢を見ていた。

 話の前後関係は良く分からない。まあ、夢の中の話なら良くあることだ…。

 

 ただ、夢か現実か、その境界が分からないような雰囲気だけは感じていた。この夢の中で、彼女は昔の知人に会っていた。

「今年は、わざわざ墓参りに来なくてもイイからね。」

 その知人………露子が、雅恵にそう言った。

「でも、毎年行ってるし…。」

「来るなって言ってるんじゃなくて、代わりに別のところに行って欲しいのよ。」

「別のところ?」

「スケジュールは慕ちゃんに聞いてね。」

「白築プロに?」

「うん。ちょっと面白いことを考えてるから…。」

 丁度、ここで雅恵は目が覚めた。

 いったい、何だったのだろうか、この夢は?

 起きた後も記憶だけは、かなりハッキリしている。まるで、さっきまで本当に露子に会っていた気がしてならないレベルだ。

 ある意味、妙にリアリティさだけはあった。

 

 

 コクマ(国民麻雀大会)の翌日。

 この日も、阿知賀女子学院麻雀部では部活があった。

 

 インターハイが終わった時点で、三年生の灼と玄は既に部活を引退し、部長は憧が引継いでいた。

 また、昨年よりも大所帯になったため、副部長も選出された。

 残念ながら二年生………穏乃と咲では適任とは言い難いことから、副部長には小走ゆいが任命された。

 

 インターハイの後にコクマが控えていたため、結局は、部長を憧に引継いだ後も灼と玄は部室に来て毎日麻雀を打ち続けていた。

 それで、二人は今日、みんなに挨拶して部活をキチンと引退するつもりだった。

 ただ、玄は引退しても、週一回は顔を出すつもりでいたのだが………。

 

 玄の場合、この部室は阿知賀こども麻雀クラブの頃から、最低でも週一回は通った場所である。

 晴絵が福岡のチームに引き抜かれ、こども麻雀クラブが解体した後も、定期的に必ず部室に来て掃除をしていた。

 それで玄は、引退してもたまには部室に顔を出したいとの気持ちが強かったようだ。この部室への愛着が、玄は人一倍強いのだ。

 

 昨日、一昨日の大会で結構疲れており、咲達は、今日くらいは、まったりと麻雀を打ちたいと思っていた。

 ところが…、ここに晴絵が入ってきて、

「今週末、練習試合を行うよ!」

 と言ってきた。

「「「「へっ?」」」」

 部員達が一斉に晴絵のほうに目を向けた。

 練習試合が嫌なわけでは無いが、まだかったるい。

 でも、まあ、どうせ晩成高校辺りだろうと憧も穏乃も勝手に思っていたのだが、

「場所は朝酌女子高校。こっちから島根に出向くよ。」

「「「「えぇぇ!」」」」

 何故、わざわざそんなところに?

 そもそも、阿知賀女子学院の位置する吉野は、何処に行くにも名古屋か大阪に出る必要がある。正直、遠出するには結構不便さを感じている。

 しかも、行き先が島根。大阪からさらに乗り継いで行かなければならない場所。

 電車での移動だけで五時間くらいかかりそうだ。

「土曜日の朝7時15分に吉野口に集合。一泊二日になるし、全員と言うわけには行かないから、行くのはコクマに出た8人。それから私と恭子。イイね!」

 つまり、島根行きのメンバーは咲、穏乃、憧、灼、玄、ゆい、美由紀、百子、晴絵、恭子の十人である。

 

 これを聞いて灼は、何故部活引退組である自分が勝手に練習試合のメンバーに選ばれているのかが理解できなかった。

 それに、そろそろ頭を切り替えて受験勉強にも力を入れて行かなければならない身だ。

「でもハルちゃん、私も玄も引退して…。」

「それが、先方からの依頼でね。」

「先方って、朝酌の?」

「そう。それと、粕渕高校も来るって話だね。当然、石見神楽も来るだろうね。」

「あの巫女?」

「灼にとってはリベンジのチャンスだね。」

「そうだね…。」

 密かに灼の心に火が点いた。

 インターハイで勝てなかった一年生。相手の手牌を全て見切って………いや、透視してプレッシャーをかけて来る相手。

 当然、今度こそ神楽に勝ちたい。

 その一方で、玄は、

「また口寄せしてもらえるとイイのです!」

 母露子の霊に会えるのを期待していた。これはこれで、当然と言えよう。

 

 

 そして、週末になった。

 咲の寝坊が少々心配されたが…、それを見越して穏乃が、

「おはよう、咲!」

 6時に咲を迎えに行った。

 案の定、咲はまだ寝ぼけていたが…。

 まあ、穏乃のお陰で咲は遅刻せずに済んだらしい。

 

 7時半ちょっと前の電車に乗り、そこから乗り継いで松江市に着いたのは12時40分を過ぎたくらいだった。

 穏乃と憧で、ガッチリと咲を挟んで、咲に異常行動(常識の範囲を超えた迷子)を起こす隙を与えないようにしていたのは評価されるべきところだろう。

 そのお陰で、予定通りの時間に到着できた。

 

 松江駅を出ると、

「赤土さん! 咲ちゃん! こっちだよ!」

 聞いたことのある声が聞こえてきた。

 そこには、何故か慕の姿があった。

 しかも、マイクロバスを貸切りにしてあるようだ。

 慕の隣には、これも『何故か』と言うべきであろう、千里山女子高校麻雀部監督である愛宕雅恵の姿があった。

 今回の練習試合に千里山女子高校は関係ないはずなのだが…。

 ここに雅恵がいることに、晴絵も少々驚いている様子だった。勿論、恭子も同じように驚いていた。

 

 

 阿知賀女子学院一向は、慕と雅恵と共にそのマイクロバスに乗り込み、慕の母校である朝酌女子高校へと向かった。

 咲達が朝酌女子高校麻雀部部室に通された時、既に午後1時を回っていた。

「はやや~。」

「赤土さん、久し振り!」

 これも『何故か』と言いたくなるところだろうが、そこには瑞原はやりプロと、稲村杏果の姿もあった。

 杏果は、今では実家の旅館を切り盛りする女将だが、非常勤で母校のコーチを依頼されており、週二~三回麻雀部に顔を出す。それで、今日の練習試合にも呼ばれていた。

 はやりのほうは、今回、慕に頼まれて来たようだ。

 まあ、事前に、この練習試合の意図を慕から聞かされていた晴絵は、二人がいても特に驚いた様子は無かったが…。

「では、これより阿知賀女子学院、朝酌女子高校、粕渕高校の練習試合を始めます。」

 そして、この練習試合そのものは、何故か慕が仕切っていた。

 どうやら、この練習試合は麻雀協会が裏で絡んでいるようだ。

 

 ただ、これだけだと三チームしかない。やはり、麻雀の試合なのだから四チーム必要である。さすがに三麻と言うわけには行かないだろう。

 すると、

「あと、十一年前の旧朝酌女子高校チームが加わっての四チームでの試合とします!」

「「「えっ?」」」

 この慕の言葉に、朝酌女子高校の部員達が、思い切り驚いていた。

 十一年前のチームと言えば、朝酌女子高校麻雀部最強時代。あの伝説のチーム。

 

 そう言えば、朝酌女子高校の監督は石飛閑無。

 粕渕高校の監督は本藤悠彗。

 そして、はやりと杏果と慕も来ているし、たしかに今、ここに十一年前の旧朝酌女子高校レギュラーメンバーが揃っている。

 

 その一方で、粕渕高校のメンバー達は、特に驚いた様子は無かった。神楽が事前に啓示を受けて、皆に知らせていたようだ。

 

 

 旧朝酌女子高校のオーダーは、以下の通りだった。

 先鋒:瑞原はやり(プロ雀士)

 次鋒:石飛閑無(朝酌女子高校麻雀部監督)

 中堅:本藤悠彗(粕渕高校麻雀部監督)

 副将:稲村杏果(温泉宿女将兼朝酌女子高校麻雀部非常勤コーチ)

 大将:白築慕(プロ雀士:ワールドレコードホルダー?)

 

 対する阿知賀女子学院は、以下のオーダーで望んだ。

 実は、これは玄の打ち方をはやりが確認できるようにと、慕が晴絵に依頼したオーダーであった。

 先鋒:松実玄(インターハイ個人8位)

 次鋒:新子憧(インターハイ個人16位)

 中堅:宮永咲(インターハイ個人1位)

 副将:鷺森灼(インターハイ個人18位)

 大将:高鴨穏乃(インターハイ個人9位)

 

 粕渕高校は以下のオーダーとした。

 今回、粕渕高校では、神楽が協会側の思惑を察して、それに合わせたオーダーを取っていた。

 先鋒:春日井真澄(春日井真深姪:非能力者)

 次鋒:石原麻奈(石原依奈姪:非能力者)

 中堅:坂根理沙(坂根千沙娘:非能力者だが勘が鋭い)

 副将:緒方薫(亦野誠子従妹:誠子と同様の能力を有する)

 大将:石見神楽(インターハイ個人7位:他家手牌の透視と口寄せができる)

 

 また、朝酌女子高校のオーダーは、以下の通りだった。

 先鋒:石飛杏奈(石飛閑無の姪:非能力者)

 次鋒:稲村桃香(稲村杏果従姉妹:杏果と同様の能力を有する)

 中堅:森脇華奈(森脇曖奈従姉妹:非能力者)

 副将:野津楓(野津雫姪:非能力者)

 大将:多久和李奈(多久和李緒姪:非能力者)

 

 

 ルールは、今年のインターハイ団体戦一回戦と同じ。点数引継ぎ型ではなく星取り形式で、先鋒戦から大将戦まで半荘一回の勝負となる。

 ただし、トビ終了の可能性を下げるため、100000点持ちで行われる。

 オカやウマは付かない。先鋒から大将までの五人で、1位を最も多く取ったチームが団体1位となる。

 1位になった回数が同じだった場合は、全員の素点の合計で順位を決める。

 大明槓による責任払い、赤ドラ、ダブル役満以上ありになる。ただし、単一役満によるダブル役満は認められない。

 二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全てアタマハネを採用する。

 

 ここでは、時間短縮のため、先鋒戦から大将戦までを同時進行で行うことにした。

 記譜は、この団体戦に参戦しない朝酌女子高校麻雀部員、粕渕高校麻雀部員、ゆい、美由紀、百子が手分けをして行う。

 

 

 全卓、対局がスタート………するはずだったが、ここでちょっと問題が生じた。

 先鋒卓は、玄、はやり、真澄、それから閑無の姪の石飛安奈の四人での対局だが、魔物は玄一人であろう。そこに魔物と対峙できるレベルのプロが一人いて、魔物に対応できるかどうか怪しい普通の人が二人。

 しかし、真澄も安奈も、玄レベルの魔物が相手でも心が折れるほど弱くは無い。

 

 次鋒卓は、憧、閑無、麻奈、桃香。魔物と言える領域に達した者が一人もいない平和な卓。

 

 中堅卓は、咲、悠彗と魔物が二人。理沙と華奈は魔物では無いが、理沙は非常に勘が優れており、自分の麻雀が咲にどれだけ通用するか楽しみにしている節があるし、華奈は素で強く、やはり咲との対局を喜んでいた。

 

 副将卓は、灼、杏果、薫、楓。能力者が三人(楓以外)いたが、次鋒卓と同じで魔物と言えるレベルのプレイヤーは一人もいない比較的平和な卓。

 

 だが、大将卓はと言うと………。

 阿知賀女子学院からは深山幽谷の化身、高鴨穏乃。全国屈指の魔物の一人。

 旧朝酌女子高校チームからはワールドレコードホルダー、白築慕。当然、魔物達の頂点と言える存在。

 粕渕高校からは相手の手牌全てを透視する巫女、石見神楽。インターハイで魔物認定された能力者。

 この面子に囲まれて、朝酌女子高校チームの大将………李奈は、対局開始前に、すっかり萎縮してしまった。

 

 これを見て、

「顔色悪いけど、大丈夫か? なんなら私が代わりに入ってもエエかな?」

 と愛宕雅恵が申し出た。

 さすがに、第三者視点でも、超魔物三人に囲まれた一般人が不憫でならないし、この対局だけは、慕、穏乃、神楽と拮抗できる人間が相手でないと、慕の目的を果たすことが出来ないだろう。

 雅恵も、それを強く感じていた。

 とは言え、李奈は、

「はい…いえ…でも…。」

 逃げたいのは山々だが、試合放棄は許されない。

 雅恵の申し出に、一瞬『ラッキー』と思ったが、だからと言って、『はい、お願いします』とは言えない立場だ。一応、名門、朝酌女子高校麻雀部の代表の一人なのだ。

 すると雅恵が、

「朝酌の………石飛監督はエエか?」

 と離れた卓にいる閑無に聞いた。

 すると、

「OKです!」

 閑無は、即座に了承した。

 もし、自分が教え子の代わりにあの卓に入れと言われても、団体戦では嬉しくない。

 勿論、個人戦なら別だ。負けてもみんなの負けにはならない。飽くまでも自分一人の負けだ。腕試しに、あの卓に入ってみたい気持ちはある。

 しかし、団体戦では、さすがの閑無でも、あの卓に入るのは出来れば避けたい。自分の教え子に、そんな場所への出撃命令を出すほど、閑無も鬼畜生ではない。

 勿論、自分の教え子に、ムダにトラウマを植えつけられても困る。

 それに、今回の練習試合の目的も良く分かっている。

 そこから導き出される答えは唯一つ。

 雅恵に代わってもらうことだ。

 閑無の許可が出て、李奈は、

「は…はい。」

 ホッとした顔で卓を雅恵に譲った。

 

 

 いよいよ、全卓同時に対局がスタートした。

 この時、玄はドラ爆状態で対局に臨んでいた。これも慕から晴絵に依頼されていたことである。

 玄が対局に集中しようとしているのが良く分かる。はやりを目の前にしてオモチ発言が消えていたくらいだ。

 場決めがされ、起家は真澄、南家は玄、西家がはやり、北家が杏奈となった。

 

 いきなり東一局から、

「ロン! 16000!」

 ドラを占有する玄が親の真澄から和了った。

 そして、東二局も、

「ロン! 24000!」

 玄が杏奈から和了った。完全に玄のペースだ。

「はやや~。これはマズイかも。」

 高打点の和了りを連発されて、はやりの口から、ふと言葉が漏れた。しかし、そう言いながらも、はやりの表情には何処か余裕が見え隠れしていた。

 そして、

「ロン! 12300!」

「ロン! 18000!」

 連続して、はやりが玄を狙い撃ちした。

 やはり、改善されたとは言え、玄の守りは、まだ咲や光に比べれば劣る。そこを狙われたのだ。

 

 そして、東三局一本場。

 とうとう玄がドラを切った。やはり、ドラ支配のままでは、はやりには敵わないとの判断であろう。

 突然、場の雰囲気が変わった。

 玄の支配対象がドラから三元牌に切り替わったのだ。

 次局から大三元和了に向けて準備段階に入る。とは言え、三元牌支配完全形が発動し、玄が大三元に向けて動くのは、今から三局目。

 はやりは、朝倉南っぽい口調で、

「(見せてもらうぞ! 第二の龍支配!)」

 と心の中では余裕のブリッ娘声を出していたが、全身に、妙に冷や汗をかいていた。それだけ、玄から放たれるオーラが強大だったと言えよう。

 

 この局は、

「ポン!」

 はやりが早々と鳴いて、

「ツモ! 4100オール!」

 いっきに和了りまで持っていったが、その次の局…東三局二本場では、はやりは和了りに向かおうとはしなかった。

 その結果、

「ツモ。1200、2200。」

 杏奈が和了って、はやりの親を流すこととなった。

 

 

 東四局、杏奈の親。

 玄のオーラが、今までに無く強大になった。

 はやりは、

「(いよいよだね!)」

 この局に三元牌支配の完全形が飛び出すことを確信していた。

 今までの玄の牌譜から、三元牌支配は二局の準備期間の後に現れることを知っていたし、それに加えて、この玄の全身から放たれる並々ならぬ空気から、この局で、いよいよ玄が大三元の和了りに向かうことが容易に想像できた。

 

 玄の後で記譜していた朝酌女子高校麻雀部員は、その配牌には特に驚きはしていなかった。{白}が一枚、{發}が二枚、{中}が二枚と、少し三元牌が多いなくらいは感じたが、これくらいの配牌なら、誰でも半荘数十回に一局くらいは普通にあるだろう。

 そこから大三元に持って行けるかどうかは別だが…。

 

 ところが、その後のツモ牌には驚かされた。まるで狙ったかのように、三元牌しか来ないのだ。

 六巡目になると、玄の手牌には十一枚もの三元牌が揃っていた。{白}が三枚、{發}と{中}がそれぞれ四枚ずつである。

 そして、ここから、いつものパターンが始まった。

「カンです!」

 玄が{中}を暗槓した。嶺上牌は{白}。

 すると、

「もう一つカンします!」

 続けて玄は{發}を暗槓した。

 嶺上牌を引くと、

「もう一回、カンなのです!」

 さらに{白}を暗槓し、三枚目の嶺上牌で、

「ツモです! 8000、16000!」

 お約束の大三元を和了った。

 

「はやや~。」

 実際に生で見ると迫力がある。

 はやりは、予想していたこととは言え、現実に大三元を和了られると、それ相当に驚くものである。

 しかし、

「(破れないものでもないかな~。)」

 手の出しようが無いわけでは無さそうだった。はやりには、三元牌支配に対しても、それなりに勝算があると踏んでいたのだ。




おまけ

本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。
咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。



練習試合の夜。
咲は玉造温泉の宿泊先(杏果の家が経営している宿)の部屋でテレビを見ていた。


咲「あっ! これ、やってるんだ! 『華菜の大チョンボ!』って映画!」


それは、京太郎に似た役者が出ている映画だった。
最後に自分に似た役者も出てくる。
さらに言ってしまえば、華菜に似た役者が演じる最低最悪の性格をした科学者が、恐竜に殺される。
珍しく咲が、是が非でも見たいと思っていた奴だ。
ギャグメインではない。ブラックなSFである。
………
……




華菜の大チョンボ!
プロローグ

ボストンでは、既に夜中の十二時を回っていた。
この時、京太郎はベッドでグッスリ眠っていた。
彼は、今年で十七歳になったばかりだが、非常に聡明で、既に飛び級でボストンの大学院に通っていた。
もし日本にいたら、こんな風に飛び級できない。年相応の学年に在籍することになる。
そうなると、彼にとっては不幸だろう。同年代の人達とは話が合わないだろうし、多分、浮くのは目に見えている。
父親の仕事の関係で無理矢理アメリカに連れて来られていたが、ある意味、彼にとっては幸運だったかもしれない。
専攻は化学で、グリーンケミストリーを専門分野にしている。環境負荷を軽減させた有機化学反応の構築が彼の課題だ。

眠っているはずなのに、急に彼の意識がはっきりしてきた。
しかし、身体は動かない。
目も開かない。
これが金縛りと言うやつか?
彼の頭の中に呼びかける声が聞こえてきた。
女性の声だ。
「私はアワイ…。」
彼の脳裏に髪の長い美しい女性の姿が浮かんできた。
しかし、特に恋愛感情は湧いてこない。
むしろ親とか兄弟のような身近な存在のように感じる。
ただ、その女性は顔色が真っ青で、今にも死んでしまいそうに見えた。
ちなみに、オモチは小さかった。
「私は、今、ガンに侵されています。あちこちに転移し、侵された箇所は全部で108箇所。至急、治療が必要です。抗生物質を手に入れる方法は、既に数十年前から考えています。あなたには、ガンの再発が無い世界を望みます…。」

京太郎の目が開いた。
それと、同時に体も動くようになった。
今まで動けなかったのが嘘のようだ。
上体を起こして辺りを見回したが、何の変化も無い。いつもの部屋だった。
いったい、これは何だったのだろうか?
『夢?』
それにして、よく分からない夢だ。
妙にリアリティさだけは感じるが、現実離れしている。
彼は、首を傾げながら再びベッドに潜り込んだ。


時は数十年前に遡る。
「ソンナオカルト号、現在位置を確認せよ。」
「位置確認不能。計器が異常を起こしております。」
「確認はできないのか?」
「無理です…。」
これが、貨物船ソンナオカルト号との最後の交信だった。
時は19XX年。もし順調に航海していれば、北大西洋フロリダ半島からバーミューダ諸島方面に800キロメートルの位置に差し掛かるはずであった。

それから十年の時が過ぎた。
ブラジルの大都市サルバドル沖400キロメートル付近を北上中の豪華客船ケンタ2号船長ミユキ・ツバキノが、航路前方から南下してくる貨物船を発見した。
貨物船のルートは、本来ここから外れた位置にある。ミユキは、急いで前方の貨物船に注意を促そうと警笛を鳴らした。
しかし、貨物船はルートを変えるどころかケンタ2号に突っ込んできた。
ミユキは、貨物船に連絡を入れようと無線スイッチを入れた。
「こちらケンタ2号。応答願います。こちらケンタ2号…。」
しかし、その貨物船からは何の応答もなかった。
このまま直進すれば貨物船と衝突してしまう。
ミユキは、やむをえず舵を切った。
まるで惰性で動いているかのように、ケンタ2号の横を貨物船がゆっくり、そして静かに通り過ぎて行った。
ミユキは、海上でのルールを無視した奴等の顔を拝んでやろうと貨物船の船室を双眼鏡で覗き込んだ。
すると、驚いたことに、そこには生きた人間など一人もおらず、何体もの白骨と化したミイラだけが転がっていた。
「な…何? あれ?」
その船には、『ソンナオカルト』の文字が記されていた。
十年前にバーミューダ諸島付近で消失した貨物船が、突然姿を現して海流に流されながら南下していたのだ。
ただ、もし単に海流に流されていただけなら、ソンナオカルト号はメキシコ湾海流から北大西洋海流、或いはカナリア海流に抜けるはずであり、サルバドル沖を南に流れるブラジル海流には基本的に入り込まないだろう。
何故ここにソンナオカルト号が姿を現したのか、全てが謎としか言いようが無かった。
そんなオカルトがあったのだ。


1. 先祖返り


時は現在に戻る。
南アメリカ某国に位置するP市は、海岸沿いに位置したリゾート都市で、海岸線に沿って海水浴場が延々と広がっていた。
街の中央部には、ホテルをはじめ、レストランやショッピングモール等が乱立しており、ホテルでは日々ディナーショーが繰り広げられていた。
どのホテルにも地下にはカジノがあり、一日中街の光が消えることは無い。今日も海外からのリゾート客で賑わいを見せていた。
海水浴場から少し離れた海岸線の遊歩道沿いには、何十もの売店が並んでおり、付近の建物には、常に何百羽ものペリカンが群れを成して止まっていた。そして、時折数羽のペリカンが餌を求めて水面ギリギリを飛ぶ。その姿を見ては、観光客達は喜んでいた。

娯楽と安らぎを人々に与えることを目的に造られたこの街にも、リゾートエリアから少し離れた地域には結構多くの人々が住んでいた。
その地域の産院で、今日もコシガヤ院長が、患者に恐ろしい宣告をしなくてはならなかった。
「ソフィアさん、心を落ち着かせて良く聞いて下さい。」
「…はい。」
「本来でしたら有り得ない話なのですが、残念ですが、お腹の中の赤ちゃんを摘出せざるを得ません。」
「摘出って。いったい…いったい、どういうことなんですか?」
「実は、赤ちゃんは、先祖返りのような変異を起こしております。」
「先祖がえ…それって、いったいどういう意味なんでしょう?」
「残念なことに…人間の形をしていないのです。」
「では、奇形…?」
「そうとも言えます。しかし、通常言われる奇形とは少しタイプが違います。奇形と言いますと、身体を形成するパーツの一部を欠いていたり逆に余計だったりする場合が多いと思います。例えば背骨が一本少なかったり多かったり、短肢症だったり。しかし、貴女の赤ん坊は、そう言うものとは違います。検査の結果、人間ではなく。どうもですね、先祖返りしていると言いますか、爬虫類か何かのような姿をしているのです。」
「爬虫類?」
「誠に残念ですが…」
この一年で、南アメリカでは大西洋岸の街P市を中心に、既に130例を越える先祖返りのような異常胎児が報告されていた。
産婦人科では定期的に検査を行なう。
ただ、奇妙なことに、それまで順調に育っていた胎児が、前回までの検査で問題が無かったにもかかわらず、二週間乃至一ヵ月後に再検査をすると、何故か孵化直前の恐竜らしき姿に変化してしまうのだ。
コシガヤの産院でも、これで25例目であった。
その原因を究明すべく、アメリカ理化学研究所を中心に、日米欧の三極で、この胎児の変異についての研究が開始されて既に十ヶ月が経とうとしていた。
G県海洋天然物研究所でも、この奇形について池田華菜博士をリーダーに研究が行なわれていた。
華菜のグループでは、この奇形が工場からの廃液等による公害物質、或いは環境ホルモンに起因するものと踏んでいた。
この案は、サブリーダーである岡橋初瀬の発案によるのだった。
本来ならば、リーダーである華菜から色々な案が出されなくてはならないだろう。
しかし、華菜は、リーダーと言っても年功序列的にそうなっただけで、能力的には、たいしたことが無かったし、ロジカルに物事を展開することが出来ず、事実上ノーアイデアだった。
もし初瀬の考えが正しければ、人間以外の生物も同じ公害物質や環境ホルモンを摂取しているはずである。
そこで、彼女達は、P市近海の魚から成分抽出を行ない、カラムクロマトグラフィーで成分を分離し、妊娠中のラットに注射して胎児の奇形発生の確認を行っていた。
そのアッセイを担当している新人の女性研究員安福莉子が、始業ベルがなるや否や華菜の部屋に飛び込んできた。
「池田さん、おはようございます。」
「おはようだし! で、どうかしたのか? そんなに慌てた顔をして。」
「フラクションT‐21‐33‐5に強い催奇形性が確認されました。」
「先祖返りみたいな変異は?」
「5例中5例が起こしております。」
「本当かにゃ!?」
「はい。これから追試して再現性を確認しようと…。」
しかし、華菜は、既に莉子の話を聞いていなかった。華菜は、大慌てで部屋を飛び出すと、向かい側の研究室のドアを開けた。
「岡橋君!」
「はい?」
初瀬が何事かとドアの方を振り返った。
この時、初瀬は、P市近海で捕獲した魚からの成分抽出と、その抽出物のカラムクロマトグラフィーでの分離を並行して行っていた。
研究の流れとしては、初瀬が分離した成分を莉子がアッセイすることになる。
「岡橋君。T‐21‐33‐5は単一成分だったかにゃ?」
「はい、各種スペクトルデータの結果、恐らく単一だと考えております。」
「そいつが催奇形性を引き起こす犯人だし! 全例でラット胎児が先祖返りっぽいの変異を起こしたって話だし!」
「本当ですか?」
「そうだし! 安福さんだっけ?」
「莉子ですか?」
「その新人の女の子から報告を受けたし! それでT‐21‐33‐5の構造決定はできてるかにゃ?」
「最終的には結晶スポンジ法で決定する予定ですが、現状、NMR(核磁気共鳴スペクトル)、IR(赤外線吸収スペクトル)、UV(紫外線吸収スペクトル)、MS(質量分析スペクトル)の結果から、このように構造を推測しております。」
初瀬が紙に書いた構造式を華菜に見せた。
しかし、華菜にとって本当は、そんな構造式などどうでも良かった。
確かに構造式が決定されていれば、『これが原因物質である!』と世間に大々的に研究成果をアピールできるだろう。
ただ、華菜にとって構造式は、あくまでもアピールのインパクトを強めるための道具でしかなかった。
そんなことよりも、自分のグループが大発見した事実があれば自分の株が上がる。
実際のところ、華菜は、それだけしか興味がなかったのだ。純粋に科学的事実を追及する心など無く、むしろ出世欲旺盛な俗人だった。
「よくやったし! じゃあ、結晶スポンジ法による構造決定と化学合成による検証を原村和のところにお願いするし! でも、その構造。オリジン(起源)はどうなんだし? やはり工場廃液か何かが原因にゃのかな?」
「それなんですが、昨日調べたところでは、このもの自体が何処かの工場で作られている製品とか、その残骸ではなさそうな感じなんですよ。それで昨日、原村さんと話をしまして…。構造的に興味深い物でしたから、先祖返りの原因物質であるなしに関係なく学会発表するだけの価値があると思いましたので…。」
「それで、君はこの構造をどう考えているし?」
「それなんですが、R社の農薬の部分構造とS社の洗剤の部分構造、それからY社の人口甘味料の部分構造をくっつけますと、このような形になるのではないかと想像しておりますが…。」
「じゃあ、それらが反応して出来たってことかにゃ?」
「そこのところは、私も半信半疑だったんですけど、原村さんの考えでは、あくまでも机上の空論ですけど、紫外線が関与すれば、もしかしたら反応して、この構造に成り得るかも知れないと…。」
「UV反応か…。確かに南半球…中でもアルゼンチンやチリでは、オゾンホールが原因で通常よりも紫外線がかなり強くなってるし!」
「はい。それと、調べましたところR社、S社、Y社の製品は南アメリカでも結構使われていますので…。」
「だったら、それらが体外排泄されたり洗い流されたりしたものが海に出て反応してもおかしくはないし! 決まりだし! 早速このことを所長に報告するし!」
「でも池田さん。現段階では、まだ勝手な推測の段階です。科学的検証は一つも済んでおりません。不明瞭な部分が多過ぎます。構造も確定ではありませんし、原村さんのところで構造決定の他に、実際に各社の化合物が反応するのかどうかを確認していただきませんと…。」
「そんなものは後回しだし! とにかく、中間報告と言うことで、現状を所長に説明しておかないといけないし!」
そう言いながら華菜は、まるで欲しかった玩具を手に入れた子供のようにキラキラと目を輝かせていた。これで100パーセント原因物質の構造もオリジンも確定できたと決め付けていたのだ。
実際には、これらは初瀬の言うとおり、まだ推定である。構造も生成メカニズムも机上の空論に過ぎないのだ。悪く言えば、まだまだ大嘘を吐いている可能性すらある。
しかし、せっかちで、しかも手柄に飢えた華菜は、その検証をきちんと行なってから次なる一歩を踏み出そうという姿勢を持ち合わせていなかった。
早く手柄を立てて他の研究者の前で格好良く振舞いたいとしか考えていなかったのだ。科学者として、しかも博士号を持つ人間として非常に問題のある行為である。

また、初瀬の提示した考えが間違っていた場合、結果的にR社、S社、Y社への営業妨害とか名誉毀損にもなるだろう。それこそ国際的な問題にもなりかねない。
それを考えると華菜が変な突っ走り方をしないだろうかと、初瀬は不安にならずにはいられなかった。

その頃、所長室では福路美穂子所長が深刻な顔でテレビの臨時ニュースに見入っていた。
そこに華菜が、先程の構造式を書いた紙を片手に意気揚々と入って来た。
「失礼します。例の変異の件ですが…。」
「華菜。丁度良いところに来ました。今、華菜を呼ぼうと思っていたところでした。」
「はぁ…。」
「実は、さっきアメリカ理化学研から電話があって、一時間程前、現地時間でだいたい夜七時頃なんですが、P市の海岸でプテラノドンの群れが観光客に突然襲い掛かったそうです。」
プテラノドンは、白亜紀後期に生息していた獰猛な肉食翼竜で、白亜紀が終ると同時に絶滅した種である。しかし、そのプテラノドンが何故、今頃地球上に存在しているのか、華菜にはピンと来なかった。
「プテラノドン…ですか?」
「はい。恐らく例の先祖返りライクの変異によって発生したものでしょう。」
「でも所長。変異した胎児は、全て産院で中絶しているはずだし!」
「そうなんだけど、でもそれは人間だけでしょ? 今回のプテラノドンは、まだ両翼を伸ばした長さが2メートルから3メートル程度で、まだ小型…と言うか子供(成長すると両翼を広げた長さは、6から8メートル)のようなの。それがどうもペリカンの群れの中から突然現れて人に襲い掛かってきたらしいのよ。多分…ペリカンの雛が変異を起こしたのではないかしら…。」
「ちょっと待つし! そんなことは、今まで報告が無かったし!」
「確かね。しかし、人間が変異を起こすのだから、同じメカニズムで他の生物が変異を起こしてもおかしくはないでしょ? 実際に、華菜のところでもラットで変異の実験を行なっているわけですし。」
華菜の頭の中では人間以外の変異まで頭が回っていなかった。自分のグループの研究内容とリンクできなかったのだ。
頭の血の巡りの悪い人間である。
しかし、美穂子に言われて、そのことに気付き、取り繕うように答えた。
「そうですけど…所長。私が言いたいのは、ペリカンが変異を起こしたのなら、他の生物…例えば野良猫や野良犬、ネズミなんかからも変異を起こした生物がうじゃうじゃ誕生している可能性があるのではないかと言うことだし!」
華菜の台詞は、本当に行き当たりばったりで見せ掛けだけだ。
当然、美穂子は華菜の本質を見抜いていた。しかし、面倒なので、あえて追求しようとはしなかった。
「多分そうね。で、華菜。用事って何かしら?」
「あ…はい。実は、T‐21‐33‐5が、例の変異を起こす原因物質であることを突き止めたし! ラットの試験では5例中5例に先祖返りっぽいの変異が確認されたし!」
「で、構造は?」
華菜は、初瀬が構造式を書き記した紙を自信満々な顔で美穂子の机の上に広げた。
「各種スペクトルデータから、華菜ちゃんは、このように構造決定しちゃったし!」
「んーん…。」
「多分、天然物じゃないし!」
「じゃあ、化学合成品?」
「それなんですが、数種類の化学合成化合物が偶然反応してできたものではないかと考えてるし! 多分、R社の農薬とS社の洗剤とY社の人口甘味料がオゾンホールを通り抜けた強い紫外線照射によって反応して出来に間違いないし!」
「…。」
「一応、原村のところで化学的な生成メカニズムの検証をお願いするつもりだし!」
華菜は、さっき初瀬から聞いた推論を全て断言形で、しかも一から十まで全てを自分で解決したような言い方をしていた。
しかも、結晶スポンジ法による構造決定の話もすっ飛ばしている。完全に構造決定できたと大風呂敷を広げていた。
華菜は、この発見が高く評価され、美穂子から褒めちぎられるものと思い、既に顔が綻んでいた。
しかし、美穂子は労いの言葉一つ言わずに、この構造式を見詰めたまま静かに考え込んでいた。そして、暫くして、
「じゃあ、原村さんには、私の方からお願いしてみるわ。」
とだけ言うと受話器を取って内線をかけた。
薬理系(アッセイ系)出身の美穂子は、構造式や化学反応に疎い。
しかし、今回の発見だけは、目的とするものがハッキリしているだけに美穂子としても判断しやすい内容であった。
ただ、美穂子は、この発見を少なくとも現段階では大声を出して喜ぼうとはしなかった。
美穂子は、華菜とは対照的に石橋を叩いて渡る慎重派であり、次なる研究に向けて打ち立てた仮説の信憑性を確実に押さえ、揺るぎ無いものにすることを重要視していたのだ。
つまり、美穂子が喜ぶのは、仮説が事実として確定してからと言うことになる。


一方、P市では、この時既にプテラノドンの被害者が数十名にのぼっていた。
この日だけで確認されたプテラノドンの数は、二十匹を越えていた。
彼等は、まるで鷲が小動物を捕らえるように硬い鉤針のような爪で上空から猛スピードで人間に襲い掛かり、鋭く尖った嘴で人間の頭や胸を攻撃してくる。獲物が怯んで倒れ込むと、そこに何羽かのプテラノドンが援護に飛んできて獲物の身体中をついばみ、とどめを刺すのだ。
被害者達は、目玉が飛び出したり鼻がえぐりとられていたり、中には心臓や腸が食い破られたりと、見るに耐えない姿に変わっていた。
そこから更にプテラノドン達は、死肉に群がるハゲタカのように、獲物の身体を貪り食らってゆくのだ。

警官達が通報を受けて駆け付けるが、動物保護が盛んな今、相手が獰猛な殺人鬼でも、むやみやたらに撃ち殺すことには抵抗を感じていた。
相手は、一応ライオンやトラと同じ単なる肉食動物であり、その本能に従って生きているだけなのだ。彼等の殺人に罪は無い。
しかし、人命救助も最優先事項である。警官達は、人に群がるプテラノドンを追い払うために、先ず威嚇射撃を始めた。
ところが、プテラノドン達は威嚇射撃に怯むことなく、今度は警官達に容赦無く牙をむいて一斉に襲い掛かってきた。これでは、警官達も威嚇だけでは自分達の命が危ない。
さすがにプテラノドン達の頭や身体を狙って鉛玉を撃ち込まざるを得なくなった。
しかし、暗闇の中、猛スピードで飛び交うプテラノドンを全て撃ち落とすのは、至難の技であった。
結局、何匹かをやっとのこと仕留めただけで、大半のプテラノドンは、取り逃がしてしまった。

プテラノドン達は、海に向かって逃げて行った。近くに巣があるのだろう。
そして、彼らは、明日には再び闘争本能を剥き出しにして戻ってくるに違いない。


続く


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七十本場:練習試合2 空中戦

オーダーは以下の通りです。

旧朝酌女子高校
先鋒:瑞原はやり(プロ雀士)
次鋒:石飛閑無(朝酌女子高校麻雀部監督)
中堅:本藤悠彗(粕渕高校麻雀部監督)
副将:稲村杏果(温泉宿女将兼朝酌女子高校麻雀部非常勤コーチ)
大将:白築慕(プロ雀士:ワールドレコードホルダー?)

阿知賀女子学院
先鋒:松実玄(インターハイ個人8位)
次鋒:新子憧(インターハイ個人16位)
中堅:宮永咲(インターハイ個人1位)
副将:鷺森灼(インターハイ個人18位)
大将:高鴨穏乃(インターハイ個人9位)

粕渕高校
先鋒:春日井真澄(春日井真深姪:非能力者)
次鋒:石原麻奈(石原依奈姪:非能力者)
中堅:坂根理沙(坂根千沙娘:非能力者だが勘が鋭い)
副将:緒方薫(亦野誠子従妹:誠子と同様の能力を有する)
大将:石見神楽(インターハイ個人7位:他家手牌の透視と口寄せができる)

朝酌女子高校
先鋒:石飛杏奈(石飛閑無の姪:非能力者)
次鋒:稲村桃香(稲村杏果従姉妹:杏果と同様の能力を有する)
中堅:森脇華奈(森脇曖奈従姉妹:非能力者)
副将:野津楓(野津雫姪:非能力者)
大将:愛宕雅恵(千里山女子高校監督:ピンチヒッター)


 先鋒卓では、はやりが、またもや朝倉南っぽい、いかにも男ウケを狙ったようなブリッ娘口調で、

「(やってみるぞ! 巨大龍対策!)」

 と心の中で言いながら、余裕の笑みを浮かべていた。

 

 南入した。

 南一局では、はやりは門前で手を仕上げ、

「ロン! 8000!」

 玄から満貫を和了った。狙い撃ちだ。

 

 そして、南二局でも、

「ロン! 8000!」

 やはり、はやりは玄を狙い撃ちして満貫を和了った。

 

 続く南三局、はやりの親番。

 この局、玄の三元牌支配は準備期間を終えているはずである。となると、ここでは大三元の和了りへと向かって玄は突き進んで行く。

 しかし、

「チー!」

「ポン!」

 玄が序盤から捨ててくるチュンチャン牌をはやりは鳴いた。そして、

「ツモ! 1000オール!」

 三元牌支配の状態で玄が和了る前に、はやりがサクッと和了りを決めた。

 

 南三局一本場。

 ここでは、

「カン!」

 はやりが杏奈の捨て牌を大明槓した。玄の三元牌支配を流そうとの腹だ。

 そして、このはやりの考えに真澄が気付いた。理沙ほど気が利く娘ではないが、普通に頭が回る。

 となれば、することは一つ。たまたま配牌から揃っていた暗刻を、

「カン!」

 ムリヤリ真澄が大明槓した。

 これで嶺上牌が二枚無くなった。

 三元牌支配状態での玄の和了りは、三連槓からの大三元三暗刻三槓子嶺上開花に限定されている。よって、玄が和了るには嶺上牌が足りない。

 この局では、はやりも真澄も和了り放棄していた。

 そして、唯一門前で手を作っていた杏奈が、

「ツモ! 3100、6100!」

 ハネ満をツモ和了りした。二人の槓でドラが乗ったのが大きかったようだ。

 

 続くオーラスでは、

「ツモ。500、1000。」

 はやりが鳴きの安和了りを決めて半荘を終了した。

 

 順位と点数は、

 1位:はやり 147300

 2位:玄 115800

 3位:杏奈 70800

 4位:真澄 66100

 玄に大三元を和了られはしたが、玄を狙い撃ちし、さらに三元牌支配が発動しても玄の和了りを阻止することで、玄に30000点以上の差をつけて、はやりがトップを取った。

 はやりがプロとしての意地を見せた対局と言える。

 

 一方、真澄は最下位になったが、南三局一本場で玄に大三元を和了らせないために大明槓を仕掛けたことは評価に値するだろう。たとえ負けても、上位との得失点差を最小限に抑えることも団体戦では重要だからだ。

 少なくとも、はやりは、そう見ていた。

 

 

 次鋒卓は、麻奈が起家、憧が南家、閑無が西家、桃香が北家での対局となった。

 魔物が存在しない極めて平和な卓である。当然、先鋒卓のような荒れた対局には、ならないことが予想される。

 恐らく、この卓に関しては100000点持ちにする必要は無かったであろう。

 

 東一局、麻奈の親。

 ここでは南家の憧がいきなり、

「チー!」

 得意の鳴き麻雀を披露し、

「ツモ! 1000、2000!」

 定番の30符3翻をツモ和了りした。

 

 

 東二局、憧の親。

 ここでも、憧のスピードは止まらない。

「チー!」

 むしろ、加速する。

「ポン!」

 そして、

「ツモ! 2000オール!」

 ここでも30符3翻をツモ和了りした。憧としても、非常に良い立ち上がりである。

 

 東二局一本場、憧の連荘。

 ここでは、早々に憧が捨てた{白}を、

「ポン!」

 閑無が力強い声で鳴いた。まるで、憧に触発されたかのようであった。

 門前での手作りが地を這う動きなら、この鳴き合戦は、まるで空中戦のようだ。

 

 正直、閑無にだって朝酌女子高校歴代最強と言われた十一年前のチームのレギュラーメンバーとしての意地がある。

 そして、数巡後、

「ツモ! 白南対々三暗刻! 3100、6100!」

 その勢いに乗ったまま、まるでツモ牌を卓に激しく叩きつけるかのようにして、閑無がハネ満をツモ和了りした。

 全く性別を感じさせない雰囲気。この豪快な感じは、慕と出会った当時………十五年以上前から全然変わらない。

 これで、閑無がトップに立った。

 

 

 東三局、閑無の親。

 ここでも、

「ポン!」

 前局と同様に閑無が豪快に牌を晒した。まるで、勢い付いた自分を周りに見せ付けてプレッシャーをかけているかのようだ。

 しかし、聴牌に取った捨て牌で、

「ロン。タンヤオドラ2。5200です。」

 閑無は、教え子の桃香に振り込んだ。まあ、こんなこともよくある話だ。

 

 ただ、この対局で、閑無は、余程の局面で無い限り攻めに回ろうと決めていた。

 守りに入っていては憧には勝てない。

 昨年のインターハイから今年のインターハイまでの憧の活躍を見れば、それは言うまでも無く分かる(今年のコクマは、咲と玄の二人だけで優勝してしまったため、残念ながら憧の活躍の場は無かった)。

 

 

 東四局、桃香の親。

 今度は負けじと憧が、

「チー!」

 自分の鳴き麻雀を披露し、

「ツモ! 1000、2000!」

 定番の30符3翻での和了りを見せた。

 安手とバカにする人もいるが、二回和了れば満貫と、三回和了ればハネ満と変わらない。四回和了れば倍満と同じだ。

 逆に高い手を聴牌していても和了れなければ無意味だ。

 とにかく、和了りの回数で稼ぐ。これが今の憧のスタイルだ。

 

 

 南入した。

 南一局、麻奈の親。ドラは{②}。

 未だ麻奈だけヤキトリだったが、この局面で、

「(こ……これって………!)」

 

 {二四[五]②②②[⑤][⑤]東東東北中中}

 

 本人も驚くほどの配牌に恵まれた。

 これなら、ダブ東中ドラ6の親倍が狙える。

 しかも、いきなり一向聴。{三}でも{六}でも{⑤}でも{中}でも良い。鳴ければ鳴く。それで親倍聴牌だ。

 俄然、麻奈のヤル気が上がった。打{二}。

 

 そして、幸運にも一巡目で待望の{中}を桃香が捨てた。

 今は一鳴きがどうこう言っていられるような局面ではない。当然、これを、

「ポン!」

 麻奈は鳴いた。勿論、打{北}で聴牌。

 その数巡後、

「ツモ!」

 和了り牌の{六}を麻奈は引き寄せ、

「8000オール!」

 親倍を和了った。これで、麻奈が一気にトップに躍り出た。

 

 この和了り手を見て憧は、

「(まるで玄みたいな手ね。)」

 と思った。

 しかし、ここにいるのは玄じゃない。ドラを全て独り占めする化物ではない。

 とは言え、ここで波に乗せてしまうと、流れもドラも全て麻奈に持って行かれてしまう可能性がある。当然、ここで流れを断ち切らなくてはならない!

 とにかく、今は麻奈の親を流す。

 憧は密かに気合を入れ直した。

 

 南一局一本場。ドラは{三}。

 この時、憧の配牌には自風で場風の{南}が対子、ドラの{三}が一枚、{[⑤]}が一枚に{[5]}があった。かなり好配牌である。

 当然、ここは、ダブ南+ドラの手で、普段よりも高打点を狙う。

 ところが、待望の{南}は、中々出てこなかった。

 場風なので全員が使える。そのため、誰かが対子を作る前にと早々に捨てるか、それとも使える可能性を残すためにヤオチュウ牌処理の最後に回すか、このどちらかになる。

 ここでは、他家が後者を狙ったのだろうか?

 

 そろそろ憧が痺れを切らし始めたその時だった。

 とうとう麻奈が{南}を捨てた。麻奈としても親の連荘を目指す。いつまでも使えない牌を残しておくわけには行かない。

 当然、憧は、これを、

「ポン!」

 勢い良く鳴いた。そして、次巡、

「チー!」

 ドラ傍の{四}を鳴き、憧は{横四三五}と副露した。

 そのさらに数巡後、

「ツモ!」

 狙い澄ましたかのように憧がツモ和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 

 {③⑤⑤[⑤]34[5]}  チー{横四三五}  ポン{横南南南}  ツモ{④}

 

「ダブ南三色ドラ3。3100、6100!」

 高目ツモのハネ満だった。これで、憧が首位を取り返した。

 

 

 南二局、憧の親番。

 和了って手に入れた親番だ。幸先が良いと感じる。

 しかし、ここで序盤から仕掛けてきたのは、

「ポン!」

 閑無だった。桃香が捨てた{南}を鳴いてきた。やはり、憧に負けじと攻めてくる。

 次巡にも、閑無は、

「ポン!」

 麻奈が捨てた{⑤}を鳴いた。しかも副露した{⑤}の明刻には赤牌が二枚含まれていた。

 これでダブ南ドラ2の満貫が確定。

 当然、憧としては、ここで閑無に和了らせてはならない。勿論、憧も、

「チー!」

 鳴いて手を進める。

 しかし、

「ツモ!」

 この局の軍配は閑無に上がった。

 しかも、開かれた手牌は、

 

 {①①⑦⑦⑦西西}  ポン{[⑤]横⑤[⑤]}  ポン{南南横南}  ツモ{①}

 

 ダブ南混一色対々子ドラ2。倍満だ!

「4000、8000!」

 これで、再び閑無が1位に上がり、親かぶりを喰らった憧は3位に転落した。

 

 現段階での各人の点数は、

 1位:閑無 108000

 2位:麻奈 105800

 3位:憧 104200

 4位:桃香 80500

 桃香の一人沈みの状態だった。しかし、桃香は、オーラスの親を残している。逆転のチャンスが失われたわけではないだろう。

 他の三人も、誰が最終的に1位になってもおかしくない点数だ。

 

 

 南三局、閑無の親。

 今度は憧が、

「チー!」

 巻き返しを図る。閑無よりも先に鳴いて手を進め出した。

 当然、閑無も、

「ポン!」

 対抗して鳴きに出た。ここで憧のスピードに負けたら逆転される。そんな気配を感じたためだ。

 しかし、この鳴き合戦は、

「ポン!」

 憧の手の方が一歩早く、

「ツモ! 1000、2000!」

 得意の30符3翻で、憧がサクッと和了りを決めた。

 これで、再び憧が逆転してトップに立った。

 

 

 オーラス、桃香の親。ドラは{8}。

 1位の憧とラスの桃香の点差は27200点。逆転は厳しいが、逆転できる可能性はゼロでは無い。

 それに桃香は親だ。一回の和了りで決める必要は無い。当然、逆転を狙いに行く。

 憧は首位を守りに行くし、閑無と麻奈も逆転トップを狙う。閑無と憧の点差は2200点、麻奈と憧の点差は3400点でしかない。十分まくるのは可能だ。

 

「ポン!」

 この局面で、憧が{3}を鳴いた。

 憧の捨て牌はヤオチュウ牌中心。これはクイタンか?

 次巡、

「チー!」

 憧は麻奈が捨てた{②}を鳴いて{横②③④}と副露した。形振り構わない手の進め方だ。

 これに喰らい付くように、

「チー!」

 閑無が鳴いて{横678}と晒した。

 ドラの{8}が一枚見えているのだから、最低でも2000点の手になるのは明白。これをツモ和了りすれば逆転できる。

 一方、麻奈は門前で手を伸ばしていた。幸い、手にはドラが2枚ある。これを和了れば逆転可能だ。

 誰が勝ってもおかしくない混戦状態………。

 

 そして、これを征したのは、

「ツモ! タンヤオのみ! 300、500!」

 早和了りを恭子に鍛えられた憧だった。

 

 順位と点数は、

 1位:憧 109300

 2位:閑無 105700

 3位:麻奈 104500

 4位:桃香 80500

 大方の予想通り、この卓は25000点持ちで開始しても特に問題は無い結果となった。実に平和な卓であった。

 これで、旧朝酌女子高校チームと阿知賀女子学院がそれぞれ勝ち星一となった。

 

「(やっぱ、春夏連覇は伊達じゃないってことか。ここぞってトコで巧く決めるし、今の朝酌じゃ、新子さんでさえ到底敵わないな。)」

 閑無は、阿知賀女子学院チームの強さを肌で感じ取った気がした。

 旧朝酌女子高校では、自分は上から四番目の実力………だと思っている。

 少なくとも、慕、はやり、悠彗には敵わない。杏果と自分のどっちかが四番目で、もう片方が五番目だ。その自覚はある。

 

 憧は、見た限り阿知賀のレギュラーでは良くて四番目の実力だろう。つまり、それぞれのチームの中で、自分と同じ立ち位置だ。

 それが、最後に競り負けた。

 正しくは、憧に巧く立ち回られた感じだ。ツキがどうこう言う話ではない。実力で負けた。閑無は、そう捉えていた。

 高校の頃よりも、自分自身は、少しは強くなっている自負はあるのに…。

 

 今の朝酌女子高校メンバーは、誰一人として閑無に敵わない。馬鹿ヅキして閑無に勝つことはあるが、トータルでは完全に閑無が全員に勝ち越している。

 ところが、その閑無よりも憧のほうが強い。

 恐らく、十一年前の朝酌女子高校チームよりも、今の阿知賀女子学院チームのほうが圧倒的に強いだろう。

 これだけのチームが存在するとは………。

 想像以上だ。

 

 

 中堅卓は、咲、悠彗、理沙、華奈の対局。

 超魔物の咲に、朝酌女子高校歴代最強軍団のナンバー3で能力者の悠彗、理屈抜きで全てを直感でカバーする理沙の対決。

 普通に強い娘の華奈が可哀想な卓である。

 

 場決めがされ、起家は華奈、南家は悠彗、西家は咲、北家は理沙に決まった。タコスを食していない咲は、普通に得意の西家を引き当てていた。

 

 

 東一局、華奈の親。

 華奈以外の三人は、この局は様子見に撤していた。

 厳密には、咲と悠彗は、互いの出方をマークしていたし、理沙は、咲と悠彗の特徴的な打ち筋を観察している感じだ。

 まだ、咲が本気を出していないのを理沙は十分理解していた。薫から聞かされていた吐き気を催すような威圧感を、未だ一切感じていないからだ。

 言うなれば、嵐の前の静けさのような局だ。

 ここで先行聴牌したのは親の華奈だった。

 ただ、役無しでドラも無いクズ手。

「(親だし、イイよね?)」

 華奈は、連荘狙いで、

「リーチ!」

 攻めに出た。そして、

「一発ツモ! 裏二枚で4000オール!」

 幸運にもアタマが裏で乗った。

 もし、タンヤオでも付いていればハネ満だった。華奈にとっては、幸先の良いスタートである。




おまけ

前話(六十九本場)おまけからの続きです。
本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。
咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。




華菜の大チョンボ!
2.

それから数時間が過ぎた。
P市では、プテラノドン騒ぎで厳重な警戒体制が敷かれ、住民もリゾート客も全員、建物の中から一歩も外に出ないようにと街中に通達されていた。
一応、追い払ったとは言え、取り逃がした沢山のプテラノドン達が、何処から襲い掛かってくるかもしれないし、それ以前に今日確認された数以上にプテラノドンが存在しないとは断言できない。
もしかしたら、とんでもない数のプテラノドンが、街の何処かに息を潜めて隠れているかもしれないのだ。

いつもはリゾート客で一晩中賑わいを見せる街が、この夜だけは、まるでゴーストタウンのように恐ろしいくらいに静まり返っていた。

この時、コシガヤ院長は、病院裏手の自宅のベッドで既に横になっていた。
妻とは去年死別し、今は二十歳を過ぎた二人の娘…ケイコとシオリと彼の三人で暮らしていた。
部屋の電気を消し、窓の外に光る満月が彼の顔をうっすらと照らしたその瞬間、突然、大きな窓の外に、トカゲの頭のような形をした影が映った。その大きさは、人の頭と同じくらいある。
コシガヤ院長は、思わず部屋の電気をつけた。すると、窓の外には攻撃的な目を鋭く光らせ、まるで獲物を見詰める鷹のような表情でコシガヤ院長の方をじっと見据えている大きな爬虫類のような(?)の顔があった。
「な…何だ、あれは?」
次の瞬間、その爬虫類のような生物は頭で窓を突き破ると、まるでカンガルーのようにジャンプして部屋の中に飛び込んできた。
二脚歩行で、脚の先と手にはナイフのように尖った爪が数本付いており、口の中には何十本もの鋭い牙が見えていた。
体長は、約4メートル。体高は、直立すれば2メートルに達するだろう(体長は、頭から尻尾の先までの長さであるのに対し、体高は、真っ直ぐ立った時の足先から頭までの高さ)。その姿は、まさに幼少の頃に図鑑で見た獰猛な中型肉食恐竜ディノニクスの姿そのものであった。
ディノニクスの恐ろしい視線が、コシガヤ院長に突き刺さってきた。
コシガヤ院長は、恐怖の余り部屋を飛び出そうとドアの方に一歩踏み出した。すると、この時、
「「キ…キャー!」」
ドアの向こうから悲鳴が聞えてきた。
間違いない。娘達…ケイコとシオリの悲鳴だ。
コシガヤ院長は、思わず娘達の身を案じてドアを開けた。すると、そこには待ち構えていたかのように、もう一匹のディノニクスがこっちを向いて立っており、目が合うと、まるでガンをつけるようにコシガヤ院長をじっと睨みつけた。
思わずコシガヤ院長は、ドアを閉めた。しかし、次の瞬間、凍て付くような激しい殺気を、背後から感じた。
彼が後ろを振り向くと、すぐ目の前でディノニクスが牙をむいていた。そこには、さっき窓を突き破って飛び込んできたディノニクスが、様子を伺うように立っていたのだ。
そして、瞬く間にコシガヤ院長に襲い掛かり、悲鳴を上げる隙も与えぬまま一気に彼の頭を噛み砕いた。
その猛獣の雄叫びがP市の一角に響き渡った。
獲物を仕留めた二脚歩行の恐竜が、
『ここに餌があるぞ!』
と仲間を呼ぶ声だ。
その声を聞きつけて、突き破られた窓を飛び越えて、同じ形で一回りも二回りも小さな恐竜が何匹も部屋の中に入って来てコシガヤ院長の死体に群がり、ハイエナの如く、その死肉に食らい付いていった。コシガヤ院長を仕留めたディノニクスの子供達なのだろう。
親恐竜は、今度は隣の家の窓を突き破って飛び込んだ。そして、戦慄に凍る女性の悲鳴が聞えてきたかと思うと、再び恐竜の雄叫びが辺り一面に響き渡った。

人類は、地球上で最も優れた知力を授かった。
しかし、武器も何も持たない状態では、何億年もの年月を経て築き上げられた野生の本能には全然勝ち目が無かった。


その頃、グアム島海岸ではジリジリと焼き付けるような太陽の下で沢山の人達が海水浴を楽しんでいた。
ラジオやテレビのニュースでP市でのプテラノドン騒ぎを聞かされてはいたものの、殆どの人達が自分とは直接関わりが無く、全くの他人事としてしかとらえていなかった。
沖の方でゴムボートに揺られながら、美しく輝く青い水平線を、佐々野いちごは、一人でボーっと眺めていた。
すると、突然巨大生物の影のようなものが水面から微かに見え隠れしながら彼女の方に近付いてきた。そして、その影が一瞬水面下に深く潜ったかと思うと、次の瞬間、体長10メートルにも及ぶ魚に似た形をした巨体が水面に浮上し、大きな口を開けて牙を剥き出しにしながら、いちごの方に突っ込んできた。
「キャー…サ…サメ…。」
その姿から、いちごには、その生物がサメとしか思えなかった。
たしかに、その生物の体型は、魚類やイルカと同じ紡錘形で遠目には魚のようにしか見えなかったが、顔は魚類とは全く異なり、むしろ獰猛なワニにそっくりであった。
全身は、うろこと言うよりは、むしろ角質層に覆われた感じで、魚よりは野蛮なオオトカゲのような雰囲気であった。
その爬虫類ともサメとも言えない魚の形をした生物が、その巨大な口で、いちごの身体に食らい付いた。
ゴムボートを引き裂き、その生物が大きな音を立てて海面下に潜って行くと、水面が次第に赤く染まって行った。
そこには既に、いちごの姿は無く、鋭い歯で根元から切断された腕が一本、波に煽られながら浮かんでいるだけであった。
海水浴場にサイレンが鳴り響き、急いで海から上がるように緊急放送が流れ出した。
しかし、我先にと海から逃げようとする人々の群れに向かって、その魚みたいな生物が猛スピードで突っ込んで行った。そして、再びイルカのようにジャンプすると、大きな口を開いて逃げ惑う人々に食らい付いた。
そのジャンプした瞬間を、監視員の花田煌が双眼鏡で見ていた。
煌は、顔の筋肉が痙攣したかのように表情が固まり、全身から大量の冷や汗が、どっと噴き出していた。
「な…何ですか、あれは? 非常にスバラくありませんね。」
現在、地球上にはイルカやシャチ、クジラといった水生哺乳類が存在する。それと同じように中生代(恐竜の生きていた時代)にも魚竜と呼ばれる魚型の水生生物が存在していた。
恐竜とは、陸上生活を送っていたものの呼び名であり、同様の種で空を飛ぶものを翼竜、水中生活を送っていた紡錘形の類いを魚竜と呼ぶ。イクチオサウルスやウタツサウルスなどが魚竜に当たる。
勿論、これらの生物は、既に恐竜と共に絶滅したものとされている。

イクチオサウルスもウタツサウルスも、せいぜい体長1メートルから2メートル程度の大きさである。
しかし、その魚に似た生物は、10メートルにも及ぶ巨大なものであった。

中生代には魚竜以外にも獰猛な水生生物が存在していた。その種は、長い首とウミガメのようなオールに似た四肢を持ち、一般に我々は、それらを首長竜と呼ぶ。エラスモサウルスやブレシオサウルスが、その代表である。
ただ、エラスモサウルスの場合、体長は13メートルとされているが、その半分が首で、頭そのものは余り大きくない。

ところが、白亜紀前期には、とんでもない生物………クロノサウルスが存在していた。
その生物は、最大13メートルにも及ぶ巨体を持ち、しかも、そのうち頭部が実に3メートルもあると言うジョーズ真っ青の巨大な口を持つ獰猛な肉食獣だったのだ。海のティラノサウルスという異名までも持っている。
グアム島沿岸に突然現れたその生物こそ、その恐ろしい水生肉食爬虫類、クロノサウルスであった。
目の前でクロノサウルスが人間に牙を向いて襲い掛かっている。しかも、煌が双眼鏡で沖の方を覗いて見ると、更に数十頭のクロノサウルスと思われる影が海面から姿を現していた。
「これは、最上級にスバラくないですね………。」


また、それと時を同じくして、アメリカからヨーロッパに向かう貨物船が北大西洋を横断していた。現地時刻では、既に夜中の十二時を回っていた。
雲一つ無い夜空を月の放つ光が明るく照らしていた。
穏やかな波が一定のリズムを刻む。
これが貨物船ではなくて豪華客船だったなら、このロマンチックな情景に、多くの男女が美しい夜空の下、長い夜を酔いしれるように楽しんでいたことだろう。
ところが、急に波のリズムが狂い出した。
嫌な予感がする。
船員の一人………竜華が窓から海面を覗くと、胴体の長さが20メートルにも及ぶ巨大なウミガメのような陰が貨物船と並走するように泳いでいた。
しかも、その巨体の先端には、胴体部に比べて細く、しかも長い陰が続いていた。
「何? あれ?」
そして次の瞬間、海面からまるで巨木のような長い首が伸び、その先端には人間など丸ごと一飲みされてしまいそうな巨大な頭が付いていた。その両目は、獲物を狙うワニのように鋭く貨物船を睨みつけた。
首の長さは20メートルにも達し、太さは直径2メートル以上。
思わず竜華が声を上げた。
「まさか…首長竜?」
しかし、首長竜と言っても大型のエラスモサウルスで、せいぜい首が6から7メートル程度である。しかもエラスモサウルスの頭部は、その細長い首がもげない程度の大きさで、ティラノサウルスのように人間を丸呑みできる程巨大なものではない。
ところが、この貨物船が遭遇した首長竜は、身体の部分だけで20メートル、更に首が20メートルと巨大であり、頭部だけでも1メートル近くある。これまで化石として発見されている首長竜には、これだけ巨大なものは無い。

受精卵が細胞分裂を始めた時に薬品刺激や特殊な温度刺激を与えると、染色体の複製が成されながらも二つの細胞に分かれずに一つの細胞の状態に留まってしまうことがある。それによってできた細胞は、染色体を通常の二倍数持つ四培体(正常なものは、二倍体)となる。自然界では温泉熱による温度変化が四倍体生成に関与し得ると考えられる。
四倍体となった生物は、成熟せずに通常よりも巨大化する。実際に、これまでにも自然界に四倍体となった魚類が発見されている。
今回の首長竜は、その姿形から考えてエラスモサウルスの一種ではないかと推測された。
四倍体なのか、それとも別の理由によるのか、どのような理由で巨大化したのかは定かではないが、もしかしたら我々の想像を超えた特別なエネルギーが偶然作用して誕生した巨大エラスモサウルスなのかも知れない。
まさに怪獣である。
この事態に船長の怜が、大慌てで無線を手に取った。
「ほ…ほ…本部お願いします。こちら大西洋を航海中の貨物船センリヤマ号。」
「こちら本部の憩でーす! どうぞ。」
「首長竜や!」
「はぁ?」
怜は、中生代の闘争本能を持つ生物が目の前に現れたことを言いたかった。
しかし、本部で連絡を受けた憩にしてみれば意味が分からない。一緒に状況を見ているわけではないのだ。
まさか巨大化したエラスモサウルスが海中から姿を現したなど思いも寄らなかった。
「なんや、その首長竜ってのは?」
「や…やから…、首長竜が現れたんや!」
「へっ? ちょっと怜さん。何か訳の分からないことを言ってへんか? 寝ぼけてるんとちゃうか?」
「寝ぼけてなんかおらん。目の前に巨大な首長竜がやな…。」
「本当? 信じられへんけど…」
「信じられんのはこっちや! まるで、うちらの様子を伺うように、並走しながらこっちを覗き込んでんのや!」
「現在位置は?」
「西経〇〇度△△分、北緯✖✖度▽▽分…。」
突然、エラスモサウルスの頭が船室に突っ込んできた。そして、ガラス窓どころか壁さえも突き破り、一瞬にして怜の胴体に噛み付いた。
悲鳴すらも上げられない。
そのエラスモサウルスの巨大な顔が突如迫ってきて恐怖に背筋が凍り付き、何の反応も出来なかったのだ。
そして、怜の身体をくわえ上げると二回、三回と鋭い歯で噛み砕き、バキバキと骨の砕け散る音が静かな海に響き渡った。
その獰猛で飢えた生物は、ものの十秒もしないうちに怜を飲み込むと、今度は船に激しい体当たりを始めた。





それから数時間が過ぎた。
G県海洋天然物研究所では、華菜と和が美穂子に呼ばれて今後の研究方針と、これまでの知見をどのように公表して行くかに付いて話し合っていた。
和は、ピンク髪だが知的な雰囲気の美女で、しかも巨乳だった。
研究成果の公表について、和は催奇形性物質を発見したことについては発表すべきとしていたが、それ以上のことは下手に発表しない方が良いとの考えだった。
少なくとも今日段階では、推定構造を公表にすることには抵抗を感じていた。自分のところで結晶スポンジ法での構造確認を行うのが先と考えていたのだ。
予想生成ルートの開示も、まだ化学的根拠が無い。これも、自分のところで検証してから発表した方が良いと判断していた。
傍目には、もったいぶっているように思われるかもしれない。しかし、提示されている構造が確定したと言い切れない以上、生成予想ルートを打ち立てること自体が成立しない。
それ以上に和は、万が一、開示した情報が間違っていた場合を懸念していた。その情報が一人歩きして収拾がつかなくなってしまっては困るのだ。

美穂子も和と殆ど同じ意見だった。色々考えた末、今は、事態が事態だけにできるだけ発表を急がなくてはならないが、不確定要素を含む部分を下手に発表するのはマズイだろうと判断をしていたのだ。
勿論、今回の結果を途中経過として発表すれば、世界中のいくつかのグループは、同じ研究を同じ手順で後追いしてくるのは明白である。そして、気が付いたら他人にオイシイ手柄を持って行かれていた………なんてことも考えられる。
しかし、全人類が手を取り合って急いで正解を見つけなければならない問題なだけに、早急に誰かが解決することを最優先としていた。
もはや手柄もへったくれも無いと判断していたのだ。

しかし、華菜だけは違っていた。
彼女は、今回自分達のグループで見出した先祖返りライクの催奇形性物質の構造を世界的に急いでオープンにすることを主張していた。
しかも、R社の農薬、S社の洗剤、Y社の人口甘味料の三物質がオゾンホールを通り抜けた強い紫外線照射によって反応して生成したという推論も発表すべきと考えていた。
美穂子とは違って、華菜は手柄にこだわっていたし、たとえ推論だろうと、とにかく、この研究結果を世界的成果として認めて欲しくて堪らないのだ。
美穂子と和だけで話し合っていたのであれば、既に方向性は決まっていたはずである。しかし、そこに手柄に飢えた華菜が介入しているのだから全然まとまらない。何時まで経っても話の内容は平行線を辿るだけであった。

突然、三人の話し合いを中断するかのように所長室の電話がけたたましく鳴り響いた。
「もしもし、福路ですが…。」
その電話は、相当深刻な何かを訴えている様子であった。
美穂子の顔が、一層険しい表情に変わった。
そして、静かに受話器を下ろすと和と華菜の方を振り向いた。
「グアム島沖で、クロノサウルス。大西洋沖で、とてつもなく巨大な首長竜が現れたらしいわ。もはや南米だけの問題ではなくなったみたい。」
これを聞いて、『待ってました』とばかりに華菜の口が開いた。
「やっぱりこうなったし! もう、今回見付けた化合物の構造と推定生成ルートを今すぐ発表しなくちゃだし! 一日遅れれば、それだけ被害者が出るし! 日本にだって、何時恐竜が上陸するかもしれにゃいし! もう、急いで発表に踏み切るし!」
しかし、その台詞とは裏腹に華菜の表情は、やたらと嬉しそうであった。
口では人類の危機を説いているように見せていたが、華菜にとっては実際のところ、そんなものはどうでも良いことであった。
ただ、自分の手柄を世界に認めさせる大義名分が出来て喜んでいただけなのだ。
美穂子には、そういった華菜の本心が手に取るように分かっていた。だてに何年間も華菜の上司を勤めてはいない。
「でもね、和さんに言わせれば、まだ推定構造でしょ? さすがに推定生成ルートまで報告するのはマズイと思うわ。」
「でも、推定構造も重要な情報だし! それに、その原因と考えられる物質が現にあるわけだし! だったら、その使用を一時中止させるためにも予想生成ルートも発表する義務があるはずだし!」
「だけど、もしそれが間違っていた場合、R社やS社、Y社から訴えられることになるかもしれないわよ!」
「でも、正しい可能性が高いし! もし、このまま原因物質が市場に出まわり続けたら、もっと沢山の先祖返り変異が起こるし! そうなったら大変だし!」
「そうは言ってもね…。」
「急いで原稿を用意するし! アメリカ理化学研に至急連絡する許可をお願いだし!」
「…。」
「所長!」
「…分かったわよ。」
さすがに、ここまで言われると美穂子も駄目とは言えなかった。
華菜の台詞は、ゴリ押し以外の何物でもなかったが、世界的な緊急事態にある今、華菜の主張も一理あるのだ。
自分のエゴを押し通して、華菜はすっかり上機嫌な顔をしていた。
「では、急いで原稿を用意して来るし!」
華菜は、そう言うと会釈して所長室から意気揚々と出ていった。しかし、原稿は華菜が用意するのではない。華菜が初瀬に命じて作らせるだけである。
結局、華菜は何もしていない。初瀬達が出した結果を、そのまま自分の成果に摩り替えているだけだ。


それから六時間ほどが過ぎた。
既に日本では、時計の針が午後七時を回っていた。
アメリカ理化学研究所では、丁度この時、十数枚に渡る英文ファックスを受信していた。
華菜が、部下の初瀬や莉子に書かせた原稿を、そのまま何のチェックも入れず、自分のサインだけ入れて、あたかも自分が作成した原稿のように見せかけてファックス送信していたのだ。
今の世の中ならメールで遣り取りするのが普通であろう。
しかし、華菜はメールを送ろうにも英語が書けなかったのだ。それで、以前、初瀬にファックスの表紙を作成させ、それを第一ページにおいて初瀬達が作成した資料を添付してルーチン的に送信しただけだったのだ。

この時、アメリカ理化学研究所では、まだ朝七時前である。
徹夜明けの研究者が数人研究所内にはいたが、ファックスは管理部門の部屋に置かれており、彼らの目には全然触れられなかった。
管理部門の人達は、早い人でもあと三十分以上経たなければ出勤してこない。つまり、送られたファックスは、そのまま何十分もそのまま静かに放置されることになる。

しかし、それから二時間が過ぎ、そのファックスが、先祖返りライク催奇形性の研究グループリーダーであるスミレの手に渡ると事は一転した。
「テル。今朝のニュースを見た?」
「クロノサウルスとエラスモサウルスの件?」
「そう。これまで南米P市付近だけで見られた例の奇形が、海洋生物の中では北大西洋や太平洋にまで広がっている可能性が示唆されたとして、日本の奴等が緊急事態だと言って今までの研究報告書を出してきたよ。つたない英文だけどね。それによると、例の奇形を起こす原因物質をP市近海の魚から単離したらしい。」
「本当?」
「ああ。推定構造と予想生成メカニズムまで提示してきた。」
「それで、そのメカニズムってのは?」
「どうやら、R社の農薬とS社の洗剤、それからY社の人口甘味料がオゾンホールを通り抜けた強い紫外線照射によって反応して出来たのではないかとのことだ。」
「じゃあ、私達のやってきた研究は、全くお門違いだったってこと?」
アメリカ理化学研究所では、スミレを中心に、テルをはじめ沢山の博士達がこの研究に携わっていた。
彼女達は、この催奇形性が、新型ウイルスによって引き起こされる奇形か、或いは新型細菌か何かが産生する毒素が原因と考えていた。P市付近に限定されてきたことが、その地方に突然出現したウイルスないし細菌の仕業と判断する材料となっていたのだ。
ところが日本からの報告では、スミレ達の考えとは違う方向性が示されていた。
これには、さすがにスミレ達もショックであった。

しかし、自分達が催奇形性の原因を掴めなくても、この事態に対して世界的に早急に対処できるのであれば別に誰が手柄を立てても良いのだ。
それが自分達だったら嬉しいのは事実だか、そんなことよりも先祖返り催奇形性が全人類に広まってしまったら人類存続が危ぶまれる。この危機に直面しつつある今、手柄を立てることよりも問題解決の方が先決なのだ。
そうとなれば、スミレ達の取るべき道は決まってくる。
彼女達は、先ず日本から送られた研究成果を、同じ研究を行なっている各国の研究機関にメール配信して各研究所の研究方針の見直しを依頼し始めた。そして、次にこの研究報告書を南米各国に配信し、R社の農薬、S社の洗剤、Y社の人口甘味料の自主回収を大至急行なうよう要求した。
事情が事情だけにR社、S社、Y社では、大急ぎで原因物質の回収を始めた。勿論、そうしなければ社のイメージダウンに繋がるのだから必死であった。

そういった動きを、日本ではマスコミが大々的に取り上げた。
その原因物質を発見したのが日本人なのだ。ここぞとばかりに熱狂的な賞賛を行なった。

この報道振りに、華菜は鼻高々だった。
しかもこの時、華菜の頭の中では、次期所長の椅子どころか学会賞は勿論のこと、ノーベル賞も確実と勝手に決め付けていた。名誉欲に飢えた華菜でなくても、その立場であったら誰でもそうなることを想像するだろう。
しかし、そんな華菜の発表に、ボストン在住の天才少年京太郎は疑問を抱いていた。
『確かに紙の上ならR社の農薬とS社の洗剤、Y社の人口甘味料に紫外線照射すれば推定構造として提示した化合物になるかもしれないけど…。
でも、あくまでも現状では机上の空論に過ぎないと思う。
やっぱり、早く検証して推定を確証にしないと…。
それに、もし反応が行くとしても農薬と洗剤と人口甘味料が反応する場所は川か海じゃないかな?
小さな川が反応の場だったら可能性は有るかも知れないけど、もし海中で反応するのなら水中深くまで紫外線が通り抜けられるのかな?
ちょっと話の展開がおかしくないかな?
川が反応の場なら、もっと内陸で恐竜みたいな生物が誕生しているはずだし。
それに、あの構造は、本当に正しいのかな?
推定構造が間違っていた例も天然物化学の世界ではないわけじゃないし。
それに、あんなに分子量が大きくて吸収されるのかな?
そもそも本当に原因物質を掴んでいるのかな…。』
かなり、鋭い指摘だった。
ただ、頭が良過ぎるとヤキモチで嫌われる。
既に飛び級でボストンの大学院に通う十七歳の少年だ。能力的には非の打ち所が無い。
多分、世の男達にとって、生活圏内にいて欲しくないタイプであろう。
それゆえに、彼の言葉を周りの人達は単なるヒガミとしかとらえていなかった。
『あいつも所詮たいしたこと無い奴さ。』
そう言って、彼の立場を落したがる人間ばかりに囲まれていた。
別に彼の意見が間違っているとは言えない。むしろ、彼なりに純粋に物事の本質を掴もうとしていた。
しかし、彼の意見は完全に無視された。
彼こそが人類再生に向けての鍵になるとも知らず…。

勿論、他にも彼と同じようなことを考えていた人がいないわけではなかった。
しかし、現状では少なくとも華菜のグループでは自分達の立てた仮説に基づいて研究を展開し、動物実験で確実に先祖返りライクの催奇形性を100パーセント引き起こすとされる物質を掴んだデータがある。
それがある以上、研究成果に対する反論は難しいし、この件に関しては華菜が世界的権威になるのだ。
その権威を覆すとなると、かなりの証拠が必要となる。
やはり、学問は権威主義、前例主義な部分があるのだ。

既に世界は、池田華菜博士の時代になっていた。


続く


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七十一本場:練習試合3 苦肉の策?(クソふざけた点数調整)

オーダーは以下の通りです。

旧朝酌女子高校
先鋒:瑞原はやり(プロ雀士)
次鋒:石飛閑無(朝酌女子高校麻雀部監督)
中堅:本藤悠彗(粕渕高校麻雀部監督)
副将:稲村杏果(温泉宿女将兼朝酌女子高校麻雀部非常勤コーチ)
大将:白築慕(プロ雀士:ワールドレコードホルダー?)

阿知賀女子学院
先鋒:松実玄(インターハイ個人8位)
次鋒:新子憧(インターハイ個人16位)
中堅:宮永咲(インターハイ個人1位)
副将:鷺森灼(インターハイ個人18位)
大将:高鴨穏乃(インターハイ個人9位)

粕渕高校
先鋒:春日井真澄(春日井真深姪:非能力者)
次鋒:石原麻奈(石原依奈姪:非能力者)
中堅:坂根理沙(坂根千沙娘:非能力者だが勘が鋭い)
副将:緒方薫(亦野誠子従妹:誠子と同様の能力を有する)
大将:石見神楽(インターハイ個人7位:他家手牌の透視と口寄せができる)

朝酌女子高校
先鋒:石飛杏奈(石飛閑無の姪:非能力者)
次鋒:稲村桃香(稲村杏果従姉妹:杏果と同様の能力を有する)
中堅:森脇華奈(森脇曖奈従姉妹:非能力者)
副将:野津楓(野津雫姪:非能力者)
大将:愛宕雅恵(千里山女子高校監督:ピンチヒッター)


 中堅卓、東一局一本場、華奈の連荘。

 何となくだが、理沙は、

「(この局で来そう!)」

 いよいよ咲が動く予感がしていた。

 華奈の捨て牌も悠彗の捨て牌もポンできない。咲の捨て牌も、何気に理沙にチーできない牌が選ばれているような気がする。

 それでいて………、他家に鳴かれないようにケアしつつ、自らの手は、面白いように進んでゆく。これが真面目モードの咲………。

 

 この局は、咲以外の手の進みが遅かった。何故か、全員が不要なヤオチュウ牌ばかりをツモで掴まされていた。

 

 六巡目、

「カン!」

 咲が暗槓した。副露されるのは咲と理沙の間。

 理沙は、副露牌に乗って咲の強烈なオーラが襲い掛かってくるのを肌で感じた。たしかに恐ろしい。

 まるで、巨大肉食獣が巨大な口を開けて理沙に襲い掛かってくるような雰囲気だ。思わず震え上がる。

「(これ、連発されたら、薫先輩でなくても漏らすわ。)」

 インターハイでの薫の失禁が、止むを得ない不可抗力であることを、理沙が心底理解した瞬間だった。

 一方の咲は、当然のように、

「ツモ! 嶺上開花! タンヤオドラ3。3100、6100!」

 得意の嶺上開花で和了った。

 

 

 東二局、悠彗の親。

 咲の嶺上開花の触発されたのか、悠彗は得意の『自風場風のないオタ風混一色手』をムダツモ無く作り上げていった。

 自称オタクだからオタ風混一色が得意なのだろうか?

 一応、自風や場風が入っても和了れないわけではないが、何故か和了率が下がる。

 

 やや吊り上がった感じの大きな目に、細身のツインテール。それでいてオタク趣味。

 言うなれば、オタクの心が分かる痩身美女。

 悠彗は、まさにオタクの理想像ではないだろうか?

 これで胸が瑞原プロレベルの奇乳………ではなく、その半分程度大きさの美乳ならパーフェクト!

 理沙は、自分のチームの監督のことを、そんな風に思いながら、

「(この局は監督の手が早い。なんとか安手で流さないと………。)」

 鳴いて手を進めるチャンスを狙っていた。

 しかし、やはり咲が鳴ける牌を出してこない。

 

「(でも、悠彗監督って池袋とか秋葉原に憧れてたって話だよね。なのに、なんで粕渕の監督になったんだろ?)」

 これは、理沙だけではなく、薫や麻奈、真澄も思っていたことだった。

 そもそも、悠彗は島根歴代最強チームのナンバースリー。

 同学年には千里山女子高校に越境進学した行長柚葉と椋千尋が、一学年上には森脇曖奈がいた、まさに島根最盛の時代。

 そこで常に上位にいた悠彗。当然、プロになっていておかしくない実力者だ。

 当然、憧れていたはずの東京でプロ生活を送ることは出来たであろう。

 ところが、大学-大学院修了後、何故か母校でもない粕渕高校の監督として赴任した。あれだけ都会に憧れていたはずなのに………。

 まあ、一説では島根が大好きとのことであるが…。

 魚がおいしいし…。

 

 とは言え、同じ島根でも、まだ母校に赴任する方が理解できる。それが、よりによってライバル校の監督になるとは…。

 神楽だけは、その理由を神通力で知っているようだ………。ただ、話してはくれない。聞いてもはぐらかすだけだ。

 

 次巡、咲が捨てた牌を理沙は鳴けず、つい舌打ちが出てしまった。

「(もう、次のツモで監督が和了っちゃう気がする!)」

 思うように行かなければ、どうしても何らかの形で態度に出てしまうだろう。ただ、この舌打ちを、咲は見逃さなかった。

 もともと咲は、理沙が勘の良い選手であると踏んでいた。

 ただ、これは普通に勘の良し悪しを議論するレベルを超えている。少なくとも、未来に起こる悠彗の和了りを阻止できないことへの苛立ちが理沙の態度からは見えている。

 咲は、理沙が直感だけで、全て先の出来事を読んでいると結論付けた。それも、怜の未来視に近い精度だ。

 

 この次巡、

「ツモ! メンホン三暗刻。6000オール!」

 理沙が感じていたとおり、悠彗が親ハネをツモ和了りした。

 ただ、この和了りを事前に察知していたのは理沙だけではなかった。全ての牌が透けて見える咲も、当然、分かり切っていたことだったのは言うまでもない。

「(監督とコーチから言われていたとおり上家はオタ風混一。下家は、やっぱ勘が鋭い。思ったとおりだ。)」

 咲は、この局を捨てて悠彗と理沙の本質を完全に捉えることに成功した。

 

 東二局一本場、悠彗の連荘。

 悠彗は、この局は萬子から切り出し、次に索子を切っていった。見え見えの筒子混一色だが、嫌う字牌が配牌に無いのか、字牌の切り出しは無かった。

 

 一方の咲は、配牌から萬子と索子の対子が一つずつ。

 なら、これらの対子を暗刻にして、悠彗からこれらと同じ牌が出てくるのを待つのが咲の戦法だ。そこから大明槓を狙う。

 

 中盤に入った。

 理沙が欲しい牌を、咲が捨ててきた。これを鳴けば手が進む。

 しかし、理沙は鳴くのを躊躇した。ここで鳴くと、同巡で悠彗に高い手を聴牌される気がしたのだ。

 仕方が無い、ここは鳴かずにスルー。

 

 そして、次巡。

 一応、咲から鳴ける牌が出てきたが………、既に理沙としては出来面子の牌だ。

 つまり鳴く必要が無いのだが………、ただ、ここで鳴かないと、今度は咲がとんでもなく高い手を次巡でツモ和了りする予感がした。

 しかし、鳴いたら鳴いたで同巡に悠彗が高い手を聴牌する気がする。

 非常に悩ましいところだが、咲に和了られるよりは悠彗の聴牌の方がマシか。

 なら、これはムリにでも鳴かなければ………。

「チー!」

 

 同巡、理沙の予感したとおり悠彗が聴牌した。

 そして、捨てた牌を、

「カン!」

 咲は、悠彗が集めていない牌………、索子牌の大明槓。そして、

「ツモ。嶺上開花対々三暗刻。8000!」

 嶺上開花で和了りを決めた。これは、悠彗の責任払いとなる。

 ただ、この手…。

 大明槓しなければ四暗刻だったのでは?

「失礼します。」

 理沙は、次の自分のツモ牌をめくった。すると、そこにあったのは咲の和了り牌………ではなかったが、咲が暗刻で持っていた萬子と同じ牌。

 つまり、本来であれば、これを暗槓して嶺上開花………。やはり鳴かなければ咲に四暗刻を和了られていた。

 多分、これで………鳴いて正解だ。

 

 この様子を見て、咲が理沙に、

「坂根さん(理沙のこと)、本当に勘が鋭い。こっちも苦肉の策ってところだよ。」

 と言ってきたのだが………。

 四暗刻ツモ和了を悠彗からの満貫責任払いに変えて和了ることが苦肉の策ってこと?

 理沙には、ちょっと意味が分からない。

 この意味を、理沙は、もう少し後に知ることになる。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここでは、理沙の手の進みが早かった。ただ、何故か理沙は嬉しくなかった。良く分からないが、何だか気に入らない。

「ツモ! 3000、6000!」

 その勢いで理沙はハネ満をツモ和了りできた。それも、トップの咲に親かぶりさせての和了りだ。

 加えてヤキトリ回避。

 普段なら最高の和了りなはず。

 自分でも何が気に入らないのかが分からない。自分の持つ最大の武器である『直感』が彼女自身に、そう告げていたのだ。

 

 

 東四局、理沙の親。

 ここでは、序盤から理沙は、咲の聴牌気配を感じていた。それも、大きそうな手だ。

 同時に理沙は、悠彗からも強大な気配を感じた。

 悠彗は、門前混一色三暗刻チャンタとか門前混一色一気通関とかを普通に和了る人間だ。当然、理沙も悠彗のことをマークしている。

 一方、華奈の手は安そうだ。

「(ここは、朝酌に和了らせるか。)」

 自分の親番だが、正直手が重い。

 これで、咲や悠彗にツモ和了りされて親かぶりの被害に遭うよりも、華奈に和了らせる方がマシだろう。

 

「リーチ!」

 ここで、咲がリーチをかけてきた。これはマズイ。

 理沙は、

「(ここかな?)」

 華奈が欲しがっているところを切った。当然、直感だ。

「チー!」

 これで華奈は聴牌。

 その次巡、

「ツモ! 1000、2000!」

 華奈が30符3翻の手をツモ和了りした。まさに理沙の思惑通りだ。

 しかし、咲からは、

『高い手が和了れなくて悔しい!』

 などと言う雰囲気は一切感じられなかった。

 むしろ、計算どおりみたいな表情だ。

 

 この段階での順位と各自の点数は、

 1位:咲 102300

 2位:華奈 101900

 3位:悠彗 98900

 4位:理沙 96900

 随分接戦だ。

 咲の卓にしては珍しく、25000点持ちでも問題ない試合展開だった。

 

 

 南入した。

 南一局、華奈の親。

 ここに来て、理沙は、

「(なにこれ!?)」

 咲のオーラが一層膨れ上がった感触を受けた。とてつもなく恐ろしいし、吐き気を催すレベルだ。それこそ、身体の中のモノを全部吐き出しそうだ。

 東一局一本場とは全然違う。

 漏らして当然ではなく、漏らして必然では無いだろうか?

 

 六巡目、

「カン!」

 咲が暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花ドラドラ。2000、4000。」

 当然のように嶺上牌で和了った。

 

 

 南二局も、

「カン! ツモ! 嶺上開花ダブ南ドラ1。2000、4000。」

 さくっと咲に嶺上開花で和了られた。

 ここまで、咲は和了りが4回。しかも、全て嶺上開花。

 確率的にゼロではないとは言え………、嶺上牌が見えていなければできない離れ業だ。

 もっとも、嶺上牌だけではなく、全ての牌が見えている………と言ったら、多分、理沙は怒るだろう…。

 

 

 南三局、咲の親。

 咲は、いきなりチュンチャン牌からの切り出しだった。国士狙いか?

 二巡目の咲の捨て牌は{南}。

 そして、同巡、華奈が捨てた牌で、

「ロン!」

 咲が和了った。

「国士無双。48000!」

 まさか、この巡目で聴牌していたとは………。

 ついさっきまで、25000点持ちでも誰も箱割れしていない範囲で点数が動いていた。それも奇蹟の闘牌、チャンピオン咲を相手に…。

 それで、華奈も、

「(結構、チャンピオン相手に戦えてるジャン、私!)」

 とか思っていた。

 ここに咲への振込み。

 それも親の役満。

 華奈は、ガックリと肩を落とした。天国から、一気に奈落の底に突き落とされた感覚でしかないだろう。

 

 南三局一本場。

 前局の振込みで、完全に華奈は冷静さを欠いていた。

 そこを突くように、

「ロン。2900の一本場は3200。」

 咲が速攻で華奈から直取りした。

 

 南三局二本場、

 未だ、華奈は冷静さを取り戻せていない。

 当然だが、こうなると相手の捨て牌がキチンと見えていない。

 そんな状態で迎えた中盤。華奈が不用意に切った初牌を、

「カン!」

 狙っていたかのように咲が大明槓した。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 連槓した。

 この発声は、咲が完全に全てを見切ったことを意味している。

 次の嶺上牌を掴むと、

「もいっこ、カン!」

 咲は、さらに連槓し、三枚目の嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓を揃えた。

 そして、最後の嶺上牌を引くと、

「ツモ! 48600です。」

 その勢いのまま、咲は四槓子を和了った。これは、華奈の責任払いになる。

 言うまでも無く、これで華奈のトビで終了となった。

 ただ、この時、トバされた華奈よりも理沙の方が蒼い顔をしていた。

 それもそうだ。咲の全開オーラを乗せた槓子が、自分の方に4回も向かってきたのである。それも連続で…。

「チョロ………。」

 理沙の股間から、ちょっとだけ聖なる水が流れ出した。

「(ちょ…ちょっと待って!)」

 さすがに県内最強のライバル校での失禁はシャレにならない。

「(止まってぇぇぇぇぇぇぇ──―!)」

 慌てて理沙は、股間に強く両手を押し当てた。

 …

 …

 …

 

 一先ず堪えられた。大水害を起こさずには済んだようだ。

 理沙は、ホッと溜め息をついた。

 

 その直後だった。

「大丈夫!?」

 背後から大きな声が聞こえてきた。

 何事かと理沙が後ろを振り返ると、理沙の牌譜を取っていた朝酌女子高校の生徒が、俯きながら顔を真っ赤に染め、その場に座り込んで涙を流していた。

 足元には、聖水からなる巨大湖がドンドン広がっていった。

 咲のオーラに晒されたのは理沙だけではなかった。その背後で牌譜を取っていた娘にも直撃していたのだ。

 今日最初の被害者は、この娘だった。

 

「(でも、まあ…、一応チャンピオンを相手に漏らさずに済んだし、92900点も残ってるよ、私。)」

 理沙は、自分なりに結構戦えたと思っていた。

 ただ、相変わらず自分の直感は、

『なんか気に入らない!』

 と、未だ理沙に告げ続けている。

 

 順位と各自の点数は、

 1位:咲 218100

 2位:悠彗 92900

 3位:理沙 92900(席順により3位)

 4位:華奈 -3900

 同着3位だったが、理沙は25000点持ちでも箱割れしていない。しかも、実力者である悠彗と同点。

 負けはしたが、かなりの善戦だ。

 これの何処が気に入らないのだろうか?

 自分でもよく分からない。

 

 この時だった、

「これが、東二局一本場が終わった時に言っていた『苦肉の策』ってこと?」

 悠彗の声だ。

「えへへ…。分かりました?」

 こう答えたのは咲。

 これのどこが苦肉の策?

 理沙には、全然意味が分からなかったのだが…、

「点数調整のことは慕ちゃんから聞いていたけど、鮮やかだね。私と理沙を共に92900点で『苦肉』、曖奈ちゃんの従姉妹(華奈のこと)を箱下3900で『策』か。」

 この悠彗の言葉………この点数が指す意味を知らされて、

「(なにそのダジャレ! 親父ギャグ!?)」

 余りの馬鹿らしさに全身から力が抜けた。

 

 しかし、同時に恐怖を覚えた。

 正直、馬鹿馬鹿しいダジャレなのだが、それを狙って、きっちりやるところが凄い。しかも、それを東二局一本場の段階で予告していたのだ。

 だからこそ『奇蹟の闘牌』なのか?

 理沙は、口寄せまで披露した神楽でさえ、咲には歯が立たなかった理由が嫌と言うほど理解できた。

 ちまたで言われる咲の別名、

『点棒の支配者』

 は本当だったのだ。

 

「でも、本藤監督と坂根さん相手に全員トバしは無理だと思いました。森脇さんも中々隙を見せませんし。」

「それで、華奈ちゃんが和了って安心して、一瞬できた心の隙を攻めたってこと?」

「全部分かっちゃいました?」

 悠彗と咲の会話が続いている。

 これを聞いて、理沙は、

「(じゃあ、私が森脇さんに和了らせたのも、全ては、チャンピオンの書いた筋書き通りに進んでいたってことか…。)」

 自分の直感が告げていた、

『気に入らない何か』

 の全容に、理沙は、ようやく気が付いた。




おまけ

前話(七十本場)おまけからの続きです。
本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。
咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。



華菜の大チョンボ!
4.

ボストンでは、既に夜中の二時を回っていた。
この深夜の時間帯。当然、京太郎は、ベッドでグッスリ眠っていた。
急に彼の意識がはっきりしてきた。そう言えば、以前にも同じようなことがあった。
あの時と全く同じで、眠っているはずなのに、頭の中だけは起きている時のような感覚がしていた。
しかし、身体は動かない。
目も開かない。
また金縛りだ。

彼の頭の中に呼びかける声が聞こえてきた。
あの時と同じ声だ。
「私はアワイ…。」
彼の脳裏に美しい女性の姿が浮かんできた。やはり、あの時と同じ姿をした女性だ。
以前と同じで、その女性は顔色が真っ青で、今にも死んでしまいそうに見えた。
ただ、以前よりもオモチが大きくなっていた。これは、オモチ星人の京太郎にとっては嬉しい限りだ。
「私の身体を案じてくれる数少ない人よ。私は今、108箇所もガンに侵されています。それは、人の煩悩の数に匹敵します。治療は、既に開始しました。時空を超え、強烈な抗生物質が、私の身体を蝕むガン細胞の抹殺を開始したのです。あなたには、ガンが再発しない世界を築き上げてもらいます。」
京太郎が目を開いた。
同時に体も動くようになった。まったく以前と同じパターンだ。

上体を起こして辺りを見回したが、以前と同じで何の変化も無い。いつもの部屋だった。
いったい、これは何だったのだろうか?
何かの予言とか予知夢の類いなのだろうか?
まるで夢の中でデジャブーを見ているようだった。


それから一週間が過ぎた。
その間、アマゾン川下流ではブラキオザウルスが、フロリダでは地下水脈で海と繋がっている池で新種の首長竜が発見されていた。
更にボルネオ島ではステゴサウルスが、マダガスカル島ではトリケラトプスが、南アフリカでは水揚げした魚の中から、巨大化したアンモナイトとしか考えられない生物が見つかった。
最初のプテラノドンからアンモナイトまで、全ての先祖返りが海に繋がる場所で起きていたことから、華菜が発表した反応が実際に海中で引き起こされているものと誰もが考えるようになっていたし、信憑性も殆ど疑われなかった。
ただ、結晶スポンジ法による構造決定は、何故か未だに出来ていなかった。
原因不明だが、巧く行かなかったのだ。
こんなケースは、和としても始めてであった。


華菜は、今日もテレビに出演しては、初瀬から聞かされた仮説を、あたかも自分が発案し、証明し切ったかのような口振りで大風呂敷を広げていた。
彼女がスター気取りで研究所に戻ってくると、管理部の女性………松実宥が彼女に声をかけてきた。
「池田さん。戻られましたら第一会議室に顔を出されるようにと、所長から伝言されております。」
「分かったし!」
今、飛ぶ鳥を落とす勢いにある華菜に恐い物はない。何処に行っても賞賛を浴びること以外は考えられないのだ。
『何か良いことが待っているはずだし!』
と期待しながら、華菜が会議室のドアを開けた。
すると、その中では外部との接触を絶つかのように暗幕カーテンを閉め切り、美穂子と和をはじめ、初瀬や莉子といった例の催奇形性化合物の研究スタッフが、険しい顔をしながらプロジェクターから映し出されるデータを見詰めていた。
いつも自分に都合の良いことしか考えられない華菜も、さすがに様子がおかしいことに気が付いた。
「どうかしたし?」
すると、美穂子が大きく溜め息をついた。
「華菜。ちょっと世間でやり過ぎたみたいね。」
「やり過ぎ…ってどういうことだし?」
「実はね、華菜。例の仮説…三種の化合物が紫外線照射で反応するんじゃないかって仮説だけどね、残念だけど反応しなかったらしいのよ。」
「ちょっと待つし! あれが行くって話だったはずだし!」
すると、これを聞いて和が苛立った顔で机を強く叩き、華菜を睨み付けた。
「誰も行くなんて言ってません!」
「でも、行くって話が一人歩きしちゃってるし!」
「一人歩きしたんじゃなくて、池田さんが勝手に一人歩きさせたんじゃありませんか?」
「別に一人歩きさせたわけじゃないし! 岡橋が、このメカニズムで絶対できるって言っていたから…。」
「初瀬さんは、そんなこと言ってません。可能性があるってだけで、あの段階では絶対なんて言えません。こうなることが恐かったから、発表は検証してからにすべきだと言ったんです。それと、今回、池田さんが発表した例の化合物は、催奇形性を示す原因物質じゃないみたいですね。」
「ちょっと待つし! そんなこと、ありえないし!」
「いいえ。あの化合物を見つけた後にアッセイした動物は、コントロール群(投与していない動物群)を含め全て胎児が奇形を起こしています。あの化合物を投与していないにもかかわらずです。」
「…それって、いったい…」
「まだ分からないのですか?」
「いや…。」
「つまり、最初から催奇形性物質なんか捕まえてなかったってことでしょうね。原因は別にあるってことです。本当に、余計なことをしてくれたと思います。」
和は、もともと華菜のことを良く思っていなかった。
華菜は、日頃から先輩風を吹かせ、年功序列な発言が多く、年下に嫌われている傾向はあったが、和が華菜を嫌う理由は、それだけではなかった。
とにかく手柄の横取りは日常茶飯事だし、無理矢理手柄を立てようとして暴走するケースも多い。科学者としての能力はゼロに近いくせに名誉欲だけは一倍強いからなのだろう。

そんな人間が博士号をよく取得できたと誰もが思うだろう。
しかし、身の周りを見て欲しい。世間で一流高校とか一流大学と言われるところの卒業生の中にも、『何でこの人が?』と思える人がたまにいる。
それと同じで、粗悪ドクターを世に送り出すことも有り得ることなのだ。
詳細を書くと該当者に怒られそうなので、書くのは控えるが…。
当然、華菜もその一人だった。
しかも、自分の存在をアピールしたいが為に他人の正当意見を根拠も無しに無理矢理反対してみたり、年下から自分の意見に反対する意見が出れば、すぐに喧嘩腰になって頭ごなしに押さえ付けてみたりする。
それだけ強く出ておきながら状況が悪くなれば他人に責任を擦り付けて逃げてしまう。
上に立つ人間としても最低である。近くで見ていて腹立たしいのだ。
和の中で今まで鬱積していた何かが一気に放出された感じだった。

対する華菜は、愕然として一気に身体中から血の気が引いていた。
マスコミ相手に凄い手柄を立てたとスター気取りになって豪語した手前、今更あれは間違いでしたとは口が裂けても言えないし、あれは他の人の実験結果で私の責任ではないと逃げるわけにも行かない。
今の華菜には、
『なんとかして自分が発表した結果を正当化できる要素を探せないか』
くらいのことしか考え付かなかった。

「で…でも、あの化合物以降のアッセイに使ったフラクション全部に、極微量の何かが含まれていて、それが原因で奇形が起きたとも考えられるし!」
「そんなオカルトありえません!」
「いや、そうじゃないし!」
「あのですね。何も投与していないはずの動物にまで奇形が出ているんですよ!」
「だから、その動物にも食餌に何かが混ざっていて、それと同じ物が全部のフラクションに入っていてとか…。」
「念のため、催奇形性が出たフラクションを全部液クロ(高速液体クロマトグラフィーの略。ここでは純度分析に用いる)で確認しました。しかし、同じところに何かピークが出るなんてことはありませんでした。食餌は、昔からずっと与えていたものと同じです。日本メーカーのモノで、南米から輸入したモノとかが入っていないことを既にメーカーに確認しています。つまり、原因物質が混ざってるとは思えません!」
「し…しかし…。」
「しかしもカカシもありません。原因物質を取ったこと自体、虚言です。当然、構造式も大嘘です!」
「構造式は嘘じゃないし!」
「では、あれで絶対に正しいと断言できますか? 机上の空論。推定ではないのですか?」
「…。」
「それから生成メカニズムも嘘です。最初から、催奇形性物質なんか無かったってことです!」
「で…でも、何らかの原因があるはずだし! 奇形を引き起こす原因が、そういった物質が抽出できるだろうって…そう言ってチームの方向性を決めたはずだし!」
「だけど、その方向性が間違っていたのかもしれませんね。」
「だったら、悪いのは岡橋だし! この奇形が工場からの廃液とか環境ホルモンが原因だって決め付けて。それが研究所の中で一人歩きしちゃったし!」
こう言われて、今まで沈黙を保ってきた初瀬が、目上が相手とはいえ堪え切れずに怒りの声を上げた。
「別に決め付けていたわけじゃない! それと、一人歩きさせたのはあんたでしょ! 研究の方向性は、あんたが出せって言うから、海洋天然物研究所としてのアプローチの一つを提案したまででしょう。何のアイデアも無かったあんたに言われる筋合いはありません!」
この険悪な雰囲気の中、突然、口論を途中で分断するかのように会議室の電話が高々と鳴り響いた。
近くにいた一般職の女性………成香が受話器を取った。
「はい、もしもし…はい…。」
そして、成香が受話器を押さえて美穂子の方を振り返った。
「あのう、所長。管理部からなんですが…」
「…はい…。」
美穂子は、この突然の電話に何やら不吉なものを感じていた。
何故か電話に出たくない。
全てが崩壊してしまいかねない程に、とんでもない何かが報告されるような、そんな嫌な雰囲気が何処となく受話器の向こうから漂ってくるのだ。
居留守を使いたい。
しかし、自分がここにいることを管理部の人達は知っている。華菜が戻ってきたら、この部屋に来るように伝言しておいたのだから、知らないはずが無いのだ。
美穂子が、恐る恐る受話器を耳に当てた。
「はい、福路です……えっ?」
彼女の顔面から見る見るうちに血の気が引いて行った。今まで口論していた問題点が、既に研究所レベルを超えていることを知らされたのだ。
彼女が静かに受話器を置いた。
「たった今、四川省でアロサウルス(ジュラ紀に生息していた恐竜で、ジュラ紀において最も獰猛だったと考えられる肉食恐竜)が発見されたらしいわ。体高は8メートルにもなるそうよ。今までは海岸や海中を中心に発見されてきた恐竜が、アジア大陸のど真ん中に出現した以上、少なくとも私達が発表した内容が現実とは大きく食い違っていることに世界中の誰もが気付くのは時間の問題よ。そもそも四川省では三社の製品は使われていないし…。」
これを聞いて、
『もうやってられない!』
と言わんばかりに、ふてくされた顔で和が投げやりな声を出した。
「ですから、もう私達の中では、あれが大嘘だったって分かっているじゃないですか!」
「あのね、和さん。それを私達が改めて発表するのと、発表する前に間違いだったことが証明されてしまうのでは周りからの見方が違うと思うのよ。それに、こんな事態になった以上、この研究所の存在意義だって問われかねないでしょう?」
「…。」
会議室に、暫く沈黙の時が流れた。
しかし、この沈黙を破るかのように、何処からともなく巨大な何かが激しく地に打ち付けられたような『ズシン』と響く音が聞えてきた。
そして、同じ音が、数秒の間を置いて再び聞えてきた。さっきよりも、若干音が大きい感じがする。
更に数秒後、そしてまた更に数秒後と、その音は次第に大きくなっていった。
明らかに何か巨大なものが近づいている感じだ。
初瀬が、何が起きたのかと窓を開けて外の様子を伺った。すると、今だかつて聴いたことのない荒々しい猛獣の雄叫びが、窓の外右手の方から聞えてきた。
「な…何?」
彼女は、恐る恐る雄叫びの聞えてきた方へとゆっくり視線を動かした。しかし、そこには何も無く、ただ研究棟が連なる何時もの光景しか目に映らなかった。
しかし、ふと地面を見ると、自分のいる研究棟の影と隣の研究棟の影との間に、巨大な二脚歩行の生物の影が描き出されていた。
突然、巨大な生物の頭が二つの研究棟の間から姿を現し、その鋭い眼光を初瀬の方に向けてきた。
「まさか…、ティラノサウルス?」
彼女は、急いで窓を閉め、全身硬直しながら窓側に背を向けた。
しかし、彼女の姿を、その巨大な生物は確りと目に焼き付けていた。そこに餌があることをはっきりと認識していたのだ。
その獰猛で巨大な暴君竜の雄叫びが研究棟全体に響き渡った。
初瀬は、恐怖の余り全身から力が抜けてその場に座り込んだ。

この時であった。
会議室の中央に、突然真っ黒な点が現れた。
それは、何も無い空間に予告も無く現れた虫食い穴のようで、次第に大きな球体に成長して行きながら、不気味で恐ろしい雰囲気を漂わせていた。
しかも、その球体からは、ティラノサウルスが放った雄叫びとは違う、新たな猛獣の叫び声のようなものが微かに聞えてくる。
この超常現象を目の前に、会議室では誰もが全身を硬直させていた。
突然、その球体から鋭い牙を剥き出しにした二脚歩行の生物が一匹飛び出してきた。その生物は、P市でコシガヤ院長達を襲ったディノニクスに似た姿をしていた。
ただ、若干小型である。
かつて日本には、ディノニクスの仲間が存在していた。その名をフクイラプトル言い、獰猛で頭の良い恐竜だったと推察される。
そのフクイラプトルが、今、ここに姿を現したのだ。

フクイラプトルは、最初は何が起きたのか訳が分からないような不安な目をしていたが、周りで身動きできずに震えている獲物達の存在に気付くと、彼女達を物色するかのように狡猾な目で観察し始めた。
弱い物から順に餌にして行く。これが大自然の掟である。効率良く餌にありつくには、餌とする相手の抵抗する力が弱ければ弱いほど良い。その恐竜も、その掟に従って最初に誰を餌にするか、品定めをしていたのだ。
何故、フクイラプトルが現代に現れたのか?
時空を繋ぐトンネルを偶然通り抜けて現代に迷い込んでしまったとしか言いようが無い。
これが噂のワームホールなのか?
あるいは別の何かなのか?
その正体は誰にも分からない。
しかし、出た先に無力な餌が沢山転がっているのだから、フクイラプトルにとっては、ラッキーである。
その恐竜の目が、成香の方へと向けられた。そして、恐怖のあまり全身が金縛りにあっている彼女に襲いかかり、鋭い爪で彼女の腹部を切り裂くと、鋭い牙で腹を噛み開き、ハラワタを引き摺り出した。
この光景に、誰もが脅え震えるだけであった。
突然、今度は美穂子の背後に真っ黒な点が現れた。それは、さっきの点と同じように次第に大きな球体へと成長して行くと、まるで巨大な掃除機のように辺り一面の物を吸い込み始めた。まさに小型のブラックホールが出来たとしか言いようが無かった。
至近距離にいた美穂子は、悲鳴をあげる間も与えられぬまま、その暗黒の球体の中に引き摺り込まれて行った。この球体こそが、謎のトンネルの『入口』なのだ。
美穂子は、その穴の『出口』に強制的に飛ばされることになる。勿論、その行く先は謎のトンネルを押し広げるだけのエネルギーを確保した時代、即ち、そのトンネルを抜け出てくる恐竜達の生きていた中生代と推察される。
そして、和や初瀬と言った真っ当な科学者達も、莉子のような技術者も、そのトンネルに吸い込まれていった。まるで、彼女達を選んでいるかのように…。

アメリカでも、理化学研究所のスミレ達の身に、同じような現象が起きていた。
他の国でも、真っ当な科学者・技術者達の前に突如として謎の『入口』が現れて、彼女達を選別するかのように時空の狭間に引き摺り込んで行った。
まるで人類から一切の科学力を奪うかのように見える。

そして、日本では自衛隊員達にも、アメリカでは軍人達にも、同じことが起きていた。突如近くに謎の『入口』が現れ、次々とその『入口』に吸い込まれていった。それは、まさに狙って地球上から軍事力を奪って行くようだった。

華菜は、大慌てで会議室から飛び出した。
彼女だけは、『入口』のターゲットから外されていたようだ。
『入口』と『出口』を、どのような基準で、何者が定義したのかは分からない。単なるトンネルならば、どちらも『入口』にも『出口』にもなるはずだ。
しかし、何故か一方通行のようだ。

この棟の中にいたら、いずれは恐竜の餌にされる。
華菜は、助かりたい一心で研究棟から飛び出して行った。
しかし、突如彼女の目の前に、またしても常識では説明が出来ないブラックホールのような暗黒の球体が現れた。
それは『入口』ではない。『出口』だ。
その球体は、いきなり3メートルくらいまで一気に巨大化すると、その中からフルフェイスのヘルメットにも似た丸い頭をした二脚歩行の恐竜が姿を現わし、華菜の目の前に降り立った。
鼻には刺が、後頭部には尖った瘤があり、体長は4メートルくらいと、我々人間からすれば嫌でも威圧感を覚えさせられる。
その恐竜は、やたらと興奮していた。謎のトンネルに吸い込まれたかと思うと、今度は見慣れない場所に追いやられて我を失っていたのだろう。
そして、その恐竜は、華菜を捕まえると自分の顔に近づけ、まるでイライラのはけ口にするかのように、彼女の頭に思い切り頭突きした。
華菜の頭蓋骨が、まるで踏み潰した虫けらのように拉げて、まるで破裂した泥団子のように脳みそが四方八方に飛び散った。

かつて地球上には、頭蓋骨の厚さが25センチメートルにも及ぶパキケファロサウルスと呼ばれる堅頭恐竜が白亜紀後期に存在していた。華菜の頭を潰した恐竜も、その種のものであった。
本来ならば、草食恐竜であるパキケファロサウルスは、弱者を襲うために頭突きを使うことは無かっただろう。
しかし、突然訳も分からず時空を飛び越えてしまったら、恐竜だろうと人間だろうと気が動転して当たり前である。
その場に居合わせてしまった華菜が、たまたま運が悪かったとしか言い様が無い。

パキケファロサウルスの背後から二脚歩行の巨大な肉食恐竜の吠える声が聞えてきた。
殺気を感じて、パキケファロサウルスが後ろを振りかえった。すると、潰された華菜の頭部から流れている血の臭いを嗅ぎつけてきたのか、ティラノサウルスが鋭い牙が何本も並ぶ大きな口を広げて、今にも襲い掛かろうとしていた。
パキケファロサウルスは、まるでトカゲが外敵から攻撃を受けた時に尻尾を切って逃げるように、華菜の死体を肉食恐竜に投げ付けて走り去った。
肉食恐竜は、その死体を口で捕えると、丸ごと噛み砕いて飲み込んだ。


その頃、ボストンでは真夜中だった。
京太郎は、この時、研究室で毎週行われる輪講の用意をしていた。
今週の輪講は、彼の担当だったのだ。
一区切り付いたところで、彼はベッドに倒れ込んで目を閉じた。
「疲れた…。」
ふと、彼は強い光を感じて目を開けた。すると、部屋の中央に、全身から眩い光を放出する女性の姿があった。
彼女は、二度に渡り夢の中に出てきた女性と同じ姿をしていた。ただ、オモチは一段と大きく成長していた。
バインバインに揺れている。
『私の名は、アワイ。地球生命体…。』
京太郎の頭の中に、アワイが直接語りかけてきた。
まるでテレパシーのようだ。
『真実を見抜こうとした者達の中から唯一選ばれた者に、お話しします。先祖返り胎児は、子宮内での逆バーミューダ現象によって恐竜の胎児が母体に入り込むのと同時に、人間の胎児がバーミューダ現象によって姿を消す、時空を超えたコンバート現象です。これは、現在の地球人の科学力では解明できないでしょう。全ては科学を超越した次元で、地球の意思によって行われたものです。』
バーミューダ現象とは、あるはずの物が突然消えることであり、バーミューダトライアングルに由来する。
対する逆バーミューダ現象とは、その反対に無いはずの物が突然現れることである。
例えば、航海中に消えたソンナオカルト号は、バーミューダ現象によって消え、十年もの時を経て逆バーミューダ現象によって姿を現したのだ。

アワイは、最初に京太郎の夢に出てきた時、抗生物質を手に入れる方法は、既に数十年前から考えていると言っている。
このことから察するに、恐らくソンナオカルト号に起きた現象は、今回の時空を超えたコンバートに向けて、地球が行ったモデル実験の一つだったのだろう。
また、以前アワイが言っていた108箇所のガンとは、人間の煩悩こそが諸悪の根源であることの比喩表現だったのではないだろうか?
ふと、京太郎は、そう思っていた。
さらに、彼の頭の中にアワイの声が響き渡る。
『これは、地球の怒り…人類への逆襲です。あなたも、ようやく理解できたようで安心しました。地球上に蔓延する人間と言う名のガン細胞の強制撤去を開始したのです。毒をもって毒を制す。ガン細胞を殺す一つの方法です。準備満タンです!』
「(万端だろ?)」
『そして、その抗生物質に選ばれた凶悪な者達を過去から現代に、またガン細胞の中枢として活躍し得る知恵者達と実行部隊達を抗生物質達の生きる時代に餌として送り込むことにしたのです。これは、あなた達人類が、かつて提唱した地球生命体『ガイア理論』を拡大した現象です。』
「…。」
『ヤッちゃってもイイよね!』
アワイの身体から放たれる光が、より一層強くなった。
京太郎は思わず目を瞑った。
そして、再び目を開いた時、そこは宇宙空間を漂う乗り物の中だった。

アワイが京太郎の左胸に手を当てると、彼の身体から肋骨が一本抜け落ちた。それは、心臓の真ん前にある骨の一つだった。
そして、それは見る見るうちに大きくなり、同年代の女性の姿に変わった。まるで、アダムの身体からイブを作り出した時のようだ。
ただ、オモチは一段と小さい………と言うか無に等しかった。
京太郎にとっては、少々残念だったようだ…。
『大掃除が終わったら、この乗り物は人類再生プログラムに従って地球に着陸します。その時から、二人で新たなる一歩を踏み出しなさい。必ず、彼女………咲は、あなたの心の隙間を埋める大事なパートナーになるはずです。これが新たなる人類史のスタートです。京太郎。あなたが新人類の起点となるのです…。』
そう言うと、アワイの身体は透けて行き、そのまま消えてしまった。

しばらくして、地球に向けて巨大小惑星が突っ込んでいった。墜落先は東京都新宿区。
その衝突と同時に、地球には六千五百万年振りの激しい天変地異が発生した。生物一掃のための壮大なシナリオの一つだ。
これで、恐竜達は全滅するだろう。六千五百万年前と同じで、彼らには、この天変地異を乗り越える術は無い。

人類だったら、小惑星激突後の壊滅的な世界でも、その科学力を駆使して何とか生き延びるかもしれない。
しかし、この天変地異を経験する人間は一人もいなかった。
科学者や技術者達は、既にバーミューダ現象によって全員が過去に飛ばされていた。人類から科学力を奪う地球の強攻策だったのだ。
軍事力も同じようにして奪われていた。人類は、小惑星激突以前に、恐竜達に対抗する術も失っていた。
そして、他の人々も、もはや地球には存在しなかった。既に全員、時空を越えてきた恐竜達の餌と化していた。






咲「これって、私に似た人は最後にちょっと出てきただけだけど、私に似た人と京ちゃんに似た人だけが生き残ってアダムとイブになるってことだよね?」

咲「池田さんに似た人はザマミロって感じかな。ウザかったし。」

咲「これ、DVDあったら買っとこうかな?」


結局、咲にとっては、京咲を連想させる話なら何でも良かったようだ。
たとえそれが、ろくでもない駄作だったとしても………。



カン!


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七十二本場:練習試合4 ここぞと言う時に…

副将戦は、サクっと流します。
結果だけ書いて省略でも良かった気もしております。


 副将戦は、灼、杏果、薫(亦野誠子従姉妹)、楓(野津雫姪)の戦いだった。

 灼にとって、この練習試合は神楽への雪辱戦。この団体戦は、その雪辱戦に向けた肩慣らしのつもりでしかない。

 当然、勝つつもりで望む。

 

 対する薫も楓も、阿知賀女子学院を相手に一つでも勝ち星を挙げたいところ。それを狙うのは、当然、魔物が存在しない次鋒戦と、この副将戦になる。

 

 

 本来なら、粕渕高校としては神楽で確実に一勝を狙いたいところ。しかし、今回は主催者側の意向を察し、敢えて神楽が大将戦で戦う。

 相手は高鴨穏乃と白築慕プロ。

 慕が相手である以上、いくら神楽でも勝てるとは到底思えない。大将戦での勝ち星はムリだろう。せめて、穏乃に順位負けしないで欲しいと思う程度だ。

 

 

 場決めがされ、起家が杏果、南家が灼、西家が薫、北家が楓となった。

 

 東一局、杏果の親。

 いきなり薫が、

「ポン!」

 自分の能力を見せ付ける。

「チー!」

 薫は、亦野誠子の従姉妹で、誠子と同じ能力を持つ。三つ面子を副露したら五巡以内に和了れる。魔物以外が相手なら、これでも十分強い。

「ポン!」

 これで薫が三面子を副露した。

 その二巡後、

「ツモ! 2000、4000!」

 当然の如く薫がツモ和了りした。

 

 

 東二局、灼の親。

 ここで先行したのは、

「チー!」

 楓だった。

 彼女は非能力者で、無茶苦茶強いわけではない。ただ、ここぞと言うところで意外性を発揮する。

 基本的に、叔母の野津雫と同じだ。

 

 数巡後、

「ツモ! 1000、2000!」

 楓が和了りを決めた。

 できれば勝ちたい。少なくとも阿知賀女子学院の選手よりも上の順位でありたい。

 ならば、絶対に灼を親で和了らせてはならない。

 そう考えての早和了りだった。

 

 

 東三局、薫の親。ドラは{3}。

「ポン!」

 ここでも薫が和了りを目指す。親なのだから、当然だろう。

 しかし、この局でとうとう、

「リーチ!」

 灼が沈黙を破り攻めに出た。

 手牌は、

 

 {五六七②②②③④[⑤]⑥345}

 {①③④⑥⑦}の五面聴。得意の筒子多面聴だ。

 

 次巡、当然のように、

「ツモ! リーチ一発ツモタンヤオドラ2。3000、6000!」

 灼が一発ツモで和了りを決めた。ボーリング打法は健在である。

 

 

 東四局、楓の親。ドラは{一}。

「チー!」

 やはり薫が貪欲に和了りを狙う。ここでも、早々に鳴いてきた。

 しかし、この局では、

「ポン!」

 杏果も鳴いて手を進めてきた。前局の灼に続いて、杏果も、とうとう沈黙を破って攻めに出てきたのだ。

 旧朝酌女子高校メンバーの中では4位か5位の実力。しかし、杏果は、追い詰められた時、ここぞと言う時に頼りになる女性だ。

 彼女の手は、終始、横ではなく縦に伸びる。これが最大の特徴だ。なので、刻子系の手が多く、和了った時には、満貫、ハネ満の手になることが多い。

 ここでも、

「ツモ! タンヤオ対々三暗刻赤1。3000、6000!」

 例外なく和了り手はハネ満になった。

 自然と、杏果の点数申告の声に力が入る。

 これで一気に、杏果はラスから2位に順位を上げた。

 

 

 南入した。

 南一局、杏果の親。

 さっきのハネ満ツモで流れを掴んだか、ここでも、

「ポン!」

 親の杏果が早々に鳴いて手を進めた。

 

 先鋒戦から大将戦まで同時進行で行われているため、先鋒から中堅までの勝ち星数を見て開始した対局では無い。

 なので、先鋒から中堅までの戦績が、旧朝酌女子高校チームが勝ち星一で阿知賀女子学院が勝ち星二となることは、当然知らないことだ。

 ただ、杏果は、

『恐らく先鋒戦は、はやりが勝ってくれるだろう。次鋒戦は閑無と憧で五分五分。中堅戦は咲が相手では、いくら悠彗でも厳しい…』

 と踏んでいた。

 なので、先鋒から中堅までで、

 旧朝酌女子高校チームが勝ち星二で阿知賀女子学院が勝ち星一、

 もしくは、

 旧朝酌女子高校チームが勝ち星一で阿知賀女子学院が勝ち星二、

 の何れかと予想していた。

 実際には後者が正しいのだが………。

 

 大将戦では慕が勝ってくれるだろう。なので、前者の場合なら問題ない。

 しかし、後者の場合は自分が勝たなければマズイ。灼に負けたら阿知賀女子学院の勝利が確定するし、他のどちらかに勝ち星を持って行かれた場合でも、得失点差で阿知賀女子学院に敗北する可能性がある。

 是が非でも勝ちに行く。

 そのためにも、この親番は落せない。

 

「ポン!」

 杏果が早々に{8}を鳴いた。

 そして、その気合と言うか精神力が、欲しい牌を引き寄せたのだろうか? その後も順調に手を伸ばし、

「ツモ! 対々三暗刻。4000オール!」

 この局は、中盤に入る前に、杏果が親満をツモ和了りした。これで灼を抜いて、杏果が単独トップに躍り出た。

 

 南一局一本場、杏果の連荘。

 ここでも、

「ポン!」

 杏果が先行した。薫が早々に捨てた{中}を鳴いたのだ。

 今回は、一つだけ順子が入り、対々和にはならなかったが、

「ツモ! 中ドラ3。3900オールの一本場は4000オール!」

 それでもドラに恵まれ、杏果の手は親満級まで点数を上げていた。これで、2位の灼を大きく突き放した。

 

 南一局二本場。

 灼だって、ここぞと言うところでは勝負強いほうだ。

 昨年のインターハイで見せた、準決勝戦での追い上げや決勝戦での筒子九連宝燈などが、それを大きく物語っている。

 

「リーチ!」

 三局振りに、灼が筒子多面聴で攻めに出た。

 当然、他家は一発回避で筒子以外の牌を捨てた。

 しかし、灼は出和了りを期待していない。

 ここでも当然の如くボーリング打法が炸裂し、

「ツモ! リーチ一発ツモドラ3。3200、6200!」

 ハネ満をツモ和了りして杏果との点差を縮めた。

 

 この段階での各選手の順位と点数は、

 1位:杏果 121800

 2位:灼 109600

 3位:薫 86800

 4位:楓 81800

 一応、25000点持ちでも問題ない範囲の点数変動である。

 そのような中で、杏果が依然トップの位置に居るが、次の灼の親で親満ツモ和了りされたら逆転される範囲でしかない。

 灼の筒子多面聴での和了りは、満貫、ハネ満が多く、まだ灼にも逆転の可能性が十分残されていると言えよう。

 

 

 南二局、灼の親。

 当然、ここで灼は親で和了って逆転トップを目指す。

 しかし、この局で先行したのは、

「ポン!」

 薫だった。

 彼女だって今の島根を代表する選手だ。相手が王者阿知賀女子学院のメンバーが相手でも、そう安々と勝たせるつもりは無いし、負けたくない。

 当然、勝ちに行く。

 

「チー!」

 再び薫が鳴いた。

 攻撃特化型で、しかも筒子多面聴を狙う灼の下家なのは、ある意味ラッキーだったかもしれない。

 もし、これが大将戦の南場で穏乃が上家なら、薫は殆どチーさせてもらえないだろう。穏乃に不要な牌でも、薫の必要牌なら確実に止めてくるからだ。

 しかも、それを取り込んだ上で手を仕上げてくるだろう。

 

 灼も、薫が鳴きたい牌を止めてくるが、穏乃ほどは守りを固めていない。最終的には自身が攻撃することを選択する。

 

「チー!」

 薫が三つ目の面子を副露した。これで、彼女の和了りに向けたスイッチが入った。

 そして、その二巡後、

「ツモ。2000、4000!」

 待望の満貫手を薫がツモ和了りした。

 

 

 南三局、薫の親。

 前局で和了って自分の親を迎えられるのは、やはり誰でも幸先良いと感じるだろう。

 薫は、その特性上、染め手を狙わない。染め手に走ると周りがケアして鳴かせてもらえなくなり、三副露まで持って行けなくなるからだ。

 三色同順や一気通関も同様だ。

 しかも薫の親番。上家の灼だって、薫の和了りにはケアする。

 そうなると、役牌、タンヤオ、対々和にドラを絡める役作りが主体となる。

 

 今回の面子には対々和での役作りが主体の杏果が入っている。そのため、全体的に対子場になってきている。

 ならば、薫も対々和での和了り手を目指す。

 

「ポン!」

 薫は、まず{南}を鳴いた。最悪でも、南のみで和了れる。

 しかし、

「リーチ!」

 思ったよりも早く、灼が手を作ってきた。

 一発目の薫のツモは筒子ではなかった。しかし、一般論に従って灼の河を見た時には捨て難い牌。

 

 今の順位と点数は、

 1位:杏果 119800

 2位:灼 104600

 3位:薫 94800

 4位:楓 79800

 いくら灼が筒子多面聴主体とは言え、それを逆手にとって出和了りを狙うケースもある。それを、従姉妹の誠子は、昨年のインターハイ準決勝戦でやられている。

 

 仕方が無い。

 薫は、一旦現物を切って打ち回した。

 楓も杏果も安牌切り、

 そして、迎えた灼のツモで、

「一発ツモ! 一盃口ドラ3。3000、6000!」

 見事にハネ満をツモ和了りした。

 筒子多面聴だったが、まあ、薫にとっては結果論である(結果が『ロン』ではない)。

 

 これで順位と点数は、

 1位:灼 117600

 2位:杏果 116800

 3位:薫 88800

 4位:楓 76800

 灼がとうとう逆転した。

 やはり、ここぞと言うところでの攻撃力も爆発力も凄まじい。

 しかし、杏果と灼の点差は、たった800点。クイタンのみの和了りでも逆転できる範囲でしかない。

 

 

 オーラス、楓の親。

 当然、杏果も灼もオーラスでの和了りを目指す。

 対する楓も、最後の親番での連荘にかける。

 

 一方の薫は、厳しい状況に追いやられていたと言える。

 彼女の麻雀は、三副露の麻雀。

 オーラスで全員が攻めてくるシチュエーションなら、染め手の三副露も可能かもしれないが、それでも、余程のことが無い限り倍満を作るのがやっとであろう。

 通常では、薫は良くてハネ満までしか作り上げることができない。

 逆転トップを取るためには三副露での役満………例えば大三元を狙うとか、方法がかなり限られてくる。

 

 六巡目で楓がタンピンドラ1を聴牌した。

 ここで連荘を狙ってダマで待つか、それとも………。

「リーチ!」

 楓は、一瞬悩んだが勝負に出た。

 さすがに杏果、灼、薫、共に一発回避の安牌切りだ。ここで振り込んではマズイ。

 そして、迎えた楓のツモ番。

 楓は、山から牌をツモると、急に表情が綻んだ。和了り牌を掴んだのだ。

「ツモ!」

 そして、裏ドラをめくると、アタマが裏ドラになっていた。自然と声に力が入る。

「メンタンピン一発ツモドラ3。8000オール!」

 さすが、ここぞと言うところで意外性を発揮する雫の姪。彼女も、ここ一番で最高の意外性を発揮してくれた。

 これで、トップの灼との差は8800点に減った。

 当然、楓は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 しかし、オーラス一本場は、四巡目で、

「ロン!」

 薫が捨てた{西}で杏果が和了った。

「七対子のみ。1600の一本場は1900。」

 杏果の武器は刻子系の手だけではない。七対子も、彼女の武器なのだ。

 もし、灼にもっと大きな点差をつけられていたら、リーチをかけたかもしれない。手が縦に伸びる杏果がリーチで攻撃できる数少ない手だが、裏ドラが乗ると大きい。

 しかし、今回はクズ手でも和了れば良い場面。当然、ノーケアーで捨てそうな牌で、しかもダマで待つのが最善の策だ。

 それに、杏果は、このオーラス一本場まで七対子を隠していた。飽くまでも対々和主体と周りに思わせていたのだ。

 呆気ない幕切れであったが、杏果の作戦勝ちであろう。

 

 これで副将戦の順位と点数は、

 1位:杏果 110700

 2位:灼 109600

 3位:楓 100800

 4位:薫 78900

 杏果が逆転して勝ち星をあげた。一応、この卓も次鋒戦と同様に25000点持ちでも何とか収まる試合となった。

 

 

 一方、同時開催の大将戦では、多久和李奈(多久和李緒姪)に代わり、愛宕雅恵が入っての対局となった。

 面子は、慕、雅恵、穏乃、神楽。恐らく、今回の団体戦一番の対決であろう。

 

 場決めがされ、起家が神楽、南家が穏乃、西家が雅恵、北家が慕に決まった。

 神楽は、早速両手を合わせて目を閉じると、ある者の霊を自らの身体に降ろした。

 ただ、この雰囲気に雅恵は違和感を覚えていた。どうも期待していた雰囲気と違うのだ。

 

 東一局、神楽の親。サイの目は7。

 穏乃、雅恵、慕の視界には、何故か神楽の背後に宇宙空間が広がるような光景が映っていた。少なくとも、これは露子が出せる雰囲気では無い。

 これを目の当たりにして、穏乃は全身が硬直していた。

「これって…何で?」

 すると、神楽が、

「実は生霊も降ろせるんだって。知ってた? それで、シズノと戦えるって聞いて今だけ来ちゃった!」

 と穏乃に向かって言った。

 ただ、その口調は神楽のものではなかった。今まで何度と無く対戦したライバル、大星淡の声そのものだった。

 この時、淡の身体は寮の自室で眠っていた。

 霊だけ抜け出して神楽の身体の中に入り込んでいたのだ。

 これには、穏乃も雅恵も慕も面食らった様子だった。

 

 神楽以外の配牌は軒並み六向聴、そして神楽は、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 しかも、最後の角が最も早く来る山の切れ方だ。誰も鳴かなければ、最後の角の直前が九巡目で、角を丁度越えたところが十巡目になる。

 

 神楽以外の手は、単独で存在するヤオチュウ牌が多く、その処理が序盤は中心になる。当然、九巡目で聴牌するのは至難の業だ。

 そもそも、手を形にするのがやっとの配牌だし、他家から切り出されるのはヤオチュウ牌ばかりで鳴けない状態。

 そのまま、最後の角の直前に到達した。

「カン!」

 神楽が暗槓した。咲とは違うので嶺上牌では和了らなかったが、次巡、

「ツモ! ダブリードラ4。6000オール!」

 お約束のダブルリーチ槓裏4を和了った。

 まさか、ここで淡が出てくるとは…。

「最高のライバルは、ここぞってところでカッコよく出てくるもんでしょ? シズノ!」

 そう言いながらカワイイ笑顔を見せる神楽。しかし、その表情は、やはり淡そのものであった。

 三人にとっては完全に不意打ちであった。




おまけ


憧 -Ako- 100式の続きです。
ここからは『童貞とターミネーター彼女』とのクロスオーバーも加わります。

今回は、コナン側の話になります。


憧 -Ako- 100式 流れ十五本場 このコもイク時に


憧123式ver.絹恵の完成後、憧シリーズ100式、105式、108式、110式、123式に関する全ての資料が博士の家から消えた。黒の組織に盗まれたのだ。
ただ、博士は自身のパソコンの中に設計図を保存していたので、それを改めて打ち出して冊子にした。
まあ、正直、打ち出した方が見易い。

ただ、黒の組織が憧シリーズを参考に、インプリンティング機能のない自律型ダッ〇ワイフ、久HT-01を製作し、結果的に野に放っていたことを博士は知らなかった。
しかも、久HT-01は博士の家の近くのコンビニを放火しており、博士のすぐ近くまで来ているはずなのだが………、互いに、その存在を知らなかった。

その後、博士は、


博士「こうなったら全身性器と言えるような究極のダッチ〇イフを造ってみるかのぉ。コンセプトは………そうじゃのぅ………王者じゃな!」


最新機、憧125式の製作に入った。


博士「左右非対称の髪もイイし、腕から竜巻を出すのもイイし、どうしようかのぅ…。それともいっそのこと、神をモティーフにしてみようかの。」

博士「九面の神とか、邪神とか、色々ありそうじゃ。」


色々とアイデアをまとめるのに苦労したようだ。

その二週間後、阿笠博士は、今日も研究室にこもり、一人黙々と憧シリーズ最新型の製作に励んで………いなかった。
ここ数日、彼の興味は憧シリーズの製作から別のモノにシフトしていた。

時刻は、そろそろ11時半になる
コナンと哀が、揃って哀の部屋から出てきた。


コナン「博士。そろそろ俺ら、給食を食いに学校に行ってくるぜ。」

博士「おお、もうそんな時間か。」


コナンも哀も、午前中は自主的な保健体育の実習で忙しかった。
一応、午後からは学校に顔を出す。
まあ、今更二人が小学校一年生の授業を受ける必要もないのだが………。


哀「例の憧シリーズ。研究進捗の方はどう?」

博士「もう、あれはイイんじゃ。」

コナン「必要なくなったらしいぜ、哀。」

哀「そうなの?」

コナン「今日は、まあ、博士のために夜は遅く帰ってくることにするよ。9時くらいでいいか?」

博士「おお、それくらいがイイかの。じゃあ、新一。よろしく頼むぞ。」


コナンと哀が腕を組んで博士の研究所を後にしようとした………のだが、まさに丁度その時だった。
部屋の空間の一点に小さな光の球が発生した。
それは、数秒後、一気に大きく膨れ上がり、直径1メートルくらいになった。そして、その光が消えると、そこには左右非対称の髪型をした一人の女性が座っていた。

その女性の姿を見て、博士は酷く驚いていた。
突如、こんなことが起これば誰だって驚くが、博士の驚き方は尋常ではない。何か別の理由もありそうだ。
その女性が博士に向かって口を開いた。


ヤエ「私の名前は憧100式ver.125ヤエ。みんなからはヤエと呼ばれている。」

博士「何故お前がここに?」

ヤエ「私は、69年後の未来から博士の性的欲求を満足させるために、この時代に送り込まれた。」

博士「未来からじゃと?」

ヤエ「そうだ。阿笠博士。あなたは、一旦、憧シリーズの製作を中止した。」

博士「そうじゃ。諸々の事情があって、君は造られないはずじゃ!」

ヤエ「しかし、私は69年後に、ある団体によって再現された。博士のコンピューターの中に設計図が残っていたからな。」

博士「まあ、さすがに設計図を消すのには抵抗があるからのう。」

ヤエ「本題に戻す。今から十年後に博士はクロの組織から資金援助を受け………。」

コナン「黒の組織だと!?」

ヤエ「ちなみにブラックではなく、玄と書くそうだ。」

コナン「なんだ。びっくりさせるなよな!」

ヤエ「博士は、やはり性的欲求を満たしたくなったのだろう。玄の組織から資金援助を受け、自律型スーパーダッチ〇イフ、ハヤリ20シリーズの製作に入る。」

博士「憧シリーズじゃないのか?」

ヤエ「名称は玄の組織が決めた。ちなみに、何故20かと言うと、ハヤリは永遠の二十歳だからだそうだ。」

哀「はいはい。もうアラサーのくせに。」

ヤエ「そして博士は、今から15年後に究極のダッチ〇イフ、ハヤリ20-7を完成させる。ハヤリ20-7は、姿を自由自在に変えられ、しかも、男女どちらにもなれる優れものだ。日替わりで別の人を相手にしている気分が味わえる。」

博士「おお。そんな凄いモノをワシは造るのか。さすがワシじゃ。」

コナン「ハヤリ20-7。これを入れ替えると、『ヤハリ072-』、『やはりオ〇ニー』か。さすがだな。」

哀「ちなみに本編も72本場だしね。凄い偶然もあったものだわ!」

ヤエ「しかし、そのさらに20年後。つまり、今から35年後だ。ハヤリ20-7の特許が切れると同時に、世界中で、ハヤリ20-7のゾロ品が出回ることになる。」

博士「まあ、特許で保護されるのは、医薬品以外は出願から20年じゃからな。それは仕方が無いじゃろう。」

ヤエ「問題は、ハヤリ20―7が大量生産されるようになったことだ! これにより、世界中の人間が、人間の異性を相手にしなくなり、ハヤリ20-7との営みだけに走るようになって行く!」

博士「それも当然じゃろう。」

ヤエ「その結果、今から69年後の世界は、殆どの男性が人間の女性を一度も抱いたことがない人間童貞。女性も膜は破れているが、殆どが人間の男性に一度も抱かれたことのない人間処女の状態になる。」

博士「さすがに、それはマズイのう。種の保存に反するからの。」

ヤエ「そうだ。69年後には、既に人類総人間童貞、総人間処女化に突入しかけている。」

コナン「(ある意味、童貞が童貞であることを気にする必要が無い世界だな。それはそれで平和な気がするぜ。)」

ヤエ「仕方なく、クローン技術により人類を継代し、場つなぎすることが法的に許可されることになったが、このままではマズイ。」

博士「イイじゃないか。別にクローンでも。」

ヤエ「そうは行かない。クローンが自分の元となった人間を見たらどうなるか分かるか?」

博士「なるほど。大体想像はつくのぉ。」

ヤエ「のび太レベルのクローンなら悲観して努力しなくなる。出来杉君レベルのクローンなら、大抵の場合、人生を楽観視し過ぎて努力しなくなるのだ!」

博士「まぁ、そうなるじゃろうな。」

ヤエ「結局、どう転んでも努力しなくなる。」

博士「しかし、それと君がここに来たことが、どう繋がるんじゃ?」

ヤエ「私が博士を常に性的に満足させれば、ハヤリ20シリーズの製作に手を出すことは無いだろう。それが理由だ!」

博士「しかし、それはムリじゃぞい。」

ヤエ「たしかに私は、博士の理想的存在過ぎて、博士が自らの手で汚すのさえ抵抗を感じて製作をやめた最高機種だ。」

コナン「おお。博士は床の間症候群(好きな相手を汚したくないために手が出せない)だったか!」

博士「そんなことは無いぞ。」

ヤエ「ムリに否定することは無い。ただ、そんな私に犯されたら、博士も病みつきになって私を抱きまくるだろう。そうすれば、ダッチ〇イフ製作から完全に卒業するはず。」

博士「聞いていれば好き勝手言いおって。君は、色々勘違いしておるぞ!」

ヤエ「勘違いではない。未来では、これが定説だ!」

博士「そもそも、君の製作を止めたのは、コンセプトが違うことに気づいたからじゃ!」

ヤエ「コンセプトだと?」

博士「そうじゃ! ワシは、王者をコンセプトに憧125式ver.ヤエの製作を始めた。」

ヤエ「なら、この私で問題ないだろう!」

博士「最初は、ワシもそう思った。しかしじゃ。色々と違和感があった。そして、気付いたんじゃ。君は、飽くまでも奈良県大会レベルの王者であって、全国屈指の魔物、全国レベルの王者では無いと言うことをな!」

ヤエ「な………なんだと!?」

博士「それでワシは、憧125式ver.ヤエの製作を中止し、125式を欠番としたんじゃ。そして、すぐに憧126式ver.照の最作に入ったんじゃがの…。」

ヤエ「そんな記録は、私の世界では残っていないぞ!」

博士「まあ、誰かが意図的に消去したんじゃろ。しかしのう、ver.ヤエではなくver.照が来たんじゃったら、Teru-minatorとか一発ギャグが出来たのにのう。」

哀「TerminatorにTeru-minatorね。オヤジギャグだわ!」

コナン「まあ、博士が好きそうなネタだな。」

ヤエ「…。」

博士「それに、その憧126式ver.照の製作も、既に止めたんじゃ。もう造る必要がなくなったからのぉ。」

ヤエ「それは、どう言うことだ? まさかイン〇………。」

博士「違いわい! セ〇レができたんじゃ!」

哀「そうだったの?」

コナン「ああ。それも、光彦の姉ちゃん。」

博士「そうじゃ。円谷朝美ちゃんじゃ。」

哀「でも、まだ中学生じゃない?」

コナン「そうなんだけどな。」

ヤエ「ちょっと待て。博士の関係者なので、円谷朝美の記録は私の中に保存されているが、そんな関係だったなんて記録は無いぞ!」

博士「うまく隠していたってことじゃろ!」

ヤエ「それに、円谷朝美は、今から10年後に、中学1年の4月から付き合っていた同級生と結婚することになっているぞ!」

博士「相手がいることは知っておるぞ! じゃからセフ〇だって言っておるじゃろ!」

哀「それって最低ね。光彦君のお姉さん。」

コナン「同級生と博士の二股だからな。」

哀「凄い二股もあったものだわ! でも、どう言う経緯で博士を相手するようになったかは興味があるわね。」

コナン「たしかにそうだな。ただ、10年後に光彦の姉さんが結婚し、同じ10年後に博士が玄の組織の資金援助を受けて、ハヤリ20シリーズの製作に入ると言うことは………。」

哀「もしかして、光彦君のお姉さんとのセ〇レ関係が終了して、ダッチ〇イフ製作を再開したってことかしら?」

コナン「まあ、そう考えて、おかしくは無いだろうな。」

博士「まあ、いずれにしてもじゃ。ワシは、君には興味が無い。なので、君とヤッたところで今のところは性的満足など得られんじゃろ。朝美ちゃんがいるしのぉ。」

ヤエ「ちょっと待て! では、私は、どうしたらイイんだ? 博士を性的に満足させるために、わざわざ未来から送られてきたんだぞ!」

コナン「いや。今、博士を相手にしなくても目的を達成する方法はあるはずだよ。」

ヤエ「どう言うことだ?」

コナン「簡単さ。10年後、博士が光彦の姉ちゃんと別れた直後に博士を慰めてあげることだ。それなら、すぐに目的が達成されそうだぜ。」

ヤエ「たしかに。」

コナン「それと、博士と玄の組織の接触を妨害することだよ。それだけでも十分未来は変わるはずだろ?」

ヤエ「もっともな意見だな! 君は、偏差値73の私よりも頭が回るな。」

博士「それはそうと、ヤエ君。一先ず、ワシの家から出てってくれんかの。」

ヤエ「私がいては困るのか?」

博士「困るに決まっておるじゃろ! 今日は夕方に朝美ちゃんが来る予定なんじゃ。他の女性を連れ込んでいると勘違いされても困るしの。」

コナン「いっそのこと、玄の組織をぶっ潰しに行った方がイイんじゃないか?」

ヤエ「それも一理あるな。では、今日のところは引き上げよう。未来に帰るわけではないがな。」


そう言うと、憧125式ver.ヤエは博士の家を後にした。
そして、コナンと哀も、二人揃って学校に行く。
一人家に残った博士は、早速スーパータダライズ………タダラフィルとダポキセチンの合剤を飲んだ。
タダラフィルは、バイアグラの長時間バージョンと思えば良い。シアリスの成分だ。
そして、ダポキセチンは早漏防止効果がある。
勿論、朝美と長期戦を楽しむためだ。

午後四時を回った。
息を切らして朝美が博士の家に入ってきた。


朝美「博士! 早くお〇んぽしたい! もう我慢できない!」←〇の中に入るのは『さ』でしょうか?

博士「おお。待っておったぞい!」

まこ「ここまでじゃ!」


まこの活躍で時間軸が飛び大事な場面はカットされた。
そして、既に時刻は夜9時を回った。

さて、その頃、憧125式ver.ヤエは………。
結局のところ、いつもの街に紛れ込んでいた。




続く


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七十三本場:練習試合5 慕vs穏乃vs淡(生霊)vs雅恵

「今回は、私の力だけでシズノと勝負するからね!」

 淡の生霊は、飽くまでも淡自身の能力のみでの戦いを望んでいた。

 神楽の身体に入ることで、他家の手牌全てが丸分かりなのだが、それだと穏乃との正当な勝負にならない。

 自分の能力と神楽の能力の合わせ技で勝てても、それは本当の意味で穏乃に勝ったとは言えないのだ。

 それで淡は、神楽に頼んで、敢えて神楽の能力をキャンセルしてもらうことにした。

 

 東一局一本場、神楽の連荘。

 ここでも絶対安全圏が発動し、神楽のみ二向聴、他は軒並み六向聴だった。

「ポン!」

 神楽は、二巡目で早々に穏乃から{發}を鳴き、四巡目で、

「ロン! 5800の一本場は6100!」

 穏乃から和了った。

 

 東一局二本場。

「(他家は強制五から六向聴。自分だけ軽い手。しかも自在にダブリーがかけられる。実際に打つと、その凶悪さが身に染みるわ。これじゃ、泉程度じゃ相手にならん!)」

 雅恵は、淡の能力の凄まじさをヒシヒシと感じていた。

 ただ、その大星淡ですらインターハイでは個人6位。

 宮永咲、天江衣、荒川憩、宮永光、神代小蒔と、とんでもない実力者達が淡の上に名を連ねている。

 淡のすぐ下にも、死者も生霊も降ろせる石見神楽、ドラ爆+三元牌支配の松実玄、そして、淡の支配ですら後半にキャンセルさせる高鴨穏乃と続く。

 しかも、穏乃の場合、インターハイ個人戦では淡に負けたが、団体戦では淡よりも強烈な支配力を見せ、淡だけではなく衣にも競り勝っている。個人責任よりも連帯責任を問われる方が、より力を発揮できるようだ。

 昨年から女子高生雀士達のレベルは全然落ちていない。

 まさに黄金時代は、今なお続いていると言える。

 熊倉トシが世界大会二連覇に固執するのが良く分かる。

 

 ただ、雅恵だって、かつてのインターハイ個人準優勝者。相手が能力者だらけでも安々と負けるつもりは無い。

「(とにかく石見に鳴かせないことや。)」

 最低限必要なことは、絶対安全圏を越えるまでは、神楽が欲しがっている牌、つまり鳴きたい牌を絶対に捨てないことだ。

 絶対安全圏が過ぎれば、神楽も攻撃一辺倒ではいられなくなる。

 それに、穏乃も慕もスロースターターだ。だからこそ、今は穏乃と慕をノーマークで臨めるし、多少のムリが出来るはず。

 

 特に役牌は、絶対安全圏が過ぎるまでは、要注意だ。

 たとえ不要牌でも、この局では、神楽が捨てるまでは{東}、{白}、{發}、{中}を自分も捨てないことだ。これらの何れかが鳴けるのを、多分、神楽は待っている。

 

 これが功を奏したのか、なんとか絶対安全圏を抜けた。

 神楽からは、{東}、{白}、{發}が六巡目までに切られていた。だとすれば、恐らく神楽は{中}を待っている。

 雅恵は、なんとか平和手を聴牌した。

 まだ、神楽からは聴牌気配は無い。

 ここで{中}切り。

 すると、

「ポン!」

 待ってましたとばかりに神楽が{中}を鳴いた。やはり、読みは当たっていた。どうやら、これで神楽も聴牌したようだ。

 しかし、次巡、

「ツモ。平和ドラ2。1500、2800や!」

 雅恵が先に自身の和了り牌を掴んだ。

 これで神楽の親が流れた。

 

 

 東二局、穏乃の親。サイの目は2。

 ここでも絶対安全圏は健在である。ただ、ダブルリーチの能力は、この局では使わなかった。ダブルリーチをかけても最後の角が深すぎるからだ。

 当然、神楽のみ二向聴と軽い手で、他は全員六向聴となった。本当に凶悪な能力だ。

 しかし、神楽は配牌とツモが噛み合わなかった。まあ、これも良くある話だ。

 

 一方の雅恵は、運良く最短の六巡目で聴牌した。

 七対子ドラ2の手。普通ならダマだが、魔物二人が目覚める前に稼ぐためには、

「リーチ!」

 やはり攻めるしかない。

 

 慕は、現物切りで一発回避。

 神楽は、いつもなら余裕で当たり牌を回避するが、今は淡の能力だけで戦っている。そのため、他家の手牌が透けて見えていない。

 なので、一旦現物切り。

 穏乃も現物切りで対処した。

 

 雅恵は、一発ツモにはならなかったが、数巡後に、

「ツモ! リーツモ七対ドラ2で3000、6000!」

 ハネ満ツモを決めた。この卓の最年長者としての意地であり、名門千里山女子高校の監督としての意地でもある。

 これで、雅恵が神楽との差を6500点まで詰めた。

 

 

 東三局、雅恵の親。サイの目は6。

 これなら、最後の角の直前で神楽がツモるのが九巡目、角を越えてすぐのツモが十巡目になる。

 当然、

「(絶対安全圏+ダブリー!)」

 神楽の中にいる淡は、自身の能力を最大限に発揮した。

 そして、第一ツモを手牌に入れ、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 

 誰も鳴かずに…いや、鳴けずに場が進んでいった。淡以外は、ヤオチュウ牌の処理だけでも結構かかるし、そこに不要なヤオチュウ牌をツモることもある。

 当然、余程の運がなければ六向聴をたった六巡で聴牌できるはずが無い。前局での雅恵の聴牌は、本当に運が良かっただけであろう。

 勿論、そんなことは、雅恵も重々承知である。

 

 九巡目、

「カン!」

 パターンどおり、神楽が{②}を暗槓した。当然、槓裏表示牌は{①}であろう。

 そして、二巡後、

「ツモ! ダブリーツモ槓裏4で3000、6000。」

 神楽が和了り牌を自らの手で掴み取った。

 

 

 東四局、慕の親。

 卓上に、うっすらと靄がかかってきた。

 これには、さすがの慕も雅恵も驚きの色が隠せなかった。

「「(何かあるとは思っていたけど…。)」」

 これが、今年のインターハイ決勝大将戦で、天江衣、大星淡、十曽湧を抑えて阿知賀女子学院を優勝に導いた穏乃の能力の片鱗だ。

 あの時は、副将戦までの成績が四校とも勝ち星一で、全ては大将戦にかかっていた。当然、全員に強大なプレッシャーがかかる。

 そんな中でも誰も臆せずに戦った。

 そして、その四人の中で、最終的に最強の支配力を見せつけ、チームを優勝に導いたのが穏乃だ。

 

 山は、既に穏乃の支配下になりつつある。神楽も雅恵も、何とか聴牌まで持ってくることは出来たが、和了り牌が一向に姿を現さない。

 そうこうしているうちに、

「ツモ、タンピンドラ2。2000、4000。」

 穏乃に和了られてしまった。

 

 

 南入した。

 そろそろ、慕のエンジンもかかり始める。最高潮になるのは大抵南三局からだが、この段階で、今までと随分雰囲気が変わっている。

 卓全体に、かなりのプレッシャーがかかる。

 多分、多久和李奈(多久和李緒姪)は、雅恵に代わってもらって正解だ。咲がいなくても、李奈は、この空気に耐えられないだろう。放水するのは必至だ。

 

 一方、神楽の中の淡は、他の者と入れ替わろうとはせず、そのまま対局を継続することを望んでいた。

 チェンジは可能だし、それならば自分よりも南場に強い者に代わってもらった方が勝率は上がるだろう。

 それに、チェンジしなくても、神楽の能力を併用すれば打ち回しが楽になるし、南場が有利になる。

 普通の感覚なら、最低限、神楽の能力を拝借するだろう。

 露子でさえも、やっていたことだし………。

 しかし、淡の生霊は、飽くまでも正々堂々と穏乃と戦って勝ちたいと強く願っていた。それ故に、南場も自分の力のみで戦うことに固執していた。

 

 南一局、神楽の親。サイの目は7。ドラは{1}。

 慕が同卓していることを考えると、もっとも嫌なドラであるが、最後の角の後が最も長い切れ方である。

 ならば、神楽は勝負に出る。

「(絶対安全圏+ダブリー…。)」

 淡の持つ能力を最大限に放出した。

 しかし、神楽は配牌で二向聴だった。穏乃の能力でダブルリーチの能力をキャンセルされてしまったのだろうか?

 いくら穏乃でも、少し支配力の強まり方が早い気がする。

 それに、配牌直後、うっすらと卓上に風が吹いた。

 これは恐らく、慕の支配が始まったのだろう。

 

 神楽(意識は淡)は、穏乃と慕の二人の支配力が相乗的に働いたことでダブルリーチが塞がれたのではないかと考えた。

 だとすると、この面子での対局は、思っていた以上に後半が戦い難い。まるで、同時に穏乃と咲の二人を相手にしているようだ。

 

 配牌二向聴である以上、どう足掻いてもダブルリーチをかけることは出来ない。第一ツモが巧く噛み合ってくれても一向聴にしかならないからだ。

「(憎たらしい…。)」

 毎回、淡は穏乃と対局すると、後半になってそう思う。

 特に今回は、慕の能力支配が上乗せされた分、その気持ちが倍増している。

 

 加えて神楽のツモは最低最悪だった。不要なヤオチュウ牌しかこないのだ。これでは、聴牌どころではない。

 ただ、それは、穏乃と雅恵も同じだった。

 そのような中で、

「その{南}、ポン!」

 慕だけが、

「{白}、ポン!」

 鳴いて手を進めていった。

 やはり慕が卓上を支配している。しかも、その支配力は、穏乃でさえも押し切られているようだ。

 そして、中盤に差し掛かった時、

「ツモ!」

 ドラの{1}で慕がツモ和了りした。慕らしい和了り方だ。

「南白対々ドラ2。3000、6000。」

 とうとう、慕が沈黙を破り、初和了りを見せた。

 ここから何時もの追い上げが始まるのだろうか?

 

 

 南二局、穏乃の親。

 少なくとも、もう淡の能力によるダブルリーチは使えない。

 しかし、まだ神楽が2位に20000点以上の差をつけてトップにいる。ならば、ここからは守りの麻雀で行けば良い。

 となると、問題となるのは………、

「(穏乃も怖いけど、ここからは白築プロをマーク!)」

 神楽の中では、淡が、そう判断を下していた。

 たしかに穏乃のスイッチが入っているのは間違いない。しかも、前局よりも靄が強くなっており、支配も上がっている。

 ただ、その一方で慕の追い上げは誰もが知るところ。

 しかも、前局で{1}ツモでの和了りが出ている。これは、言うまでも無く、慕の能力が完全に穏乃の能力を上回っていることを意味するだろう。

 …

 …

 …

 

 が、しかし………、四巡目で神楽が切った{二}で、

「ロン。」

 穏乃に振り込んだ。

 慕をマークし過ぎて、穏乃へのマークが甘くなってしまったからだろうか?

 いや、違う。

 この局は、ここまで誰も鳴いていない。

 絶対安全圏が機能していれば、まだ振り込むことは絶対にありえない巡目だ。それもあって、神楽は、まだ守りに徹し切れていなかったのだ。

 ただ、これで確実に言えることが一つある。

 この振り込みは、

『既に絶対安全圏が機能していない!』

 ことを意味すると言うことだ。

「タンピンドラ2。11600。」

 しかも、親満級の和了りだ。

 淡の生霊は、一瞬、

「(神楽の能力を封印しなければ良かったな?)」

 と思った。しかし、

「(でも、今回、私は私の力だけで勝負! ここでは、神楽との合わせ技なんて、そんなズッコイことはしない!)」

 と自分に言い聞かせた。

 当然、次の局も神楽の能力をキャンセルし、淡の能力だけで戦う。飽くまでも自分一人の力で穏乃に競り勝つことが目標だ。

 

 南二局一本場、穏乃の連荘。

 ここでも、四巡目で、

「ツモ。2700オール。」

 穏乃が和了った。タンピンツモドラ1のオーソドックスな手だ。

 後半になって確実に凡庸な手を作って和了ってくるのが穏乃のスタイル。咲や慕のような派手さは無いが、決して弱くは無い。むしろ強い。

 

 南二局二本場。

「(まだシズノマークだったかな?)」

 そう神楽(淡)は思った。

 しかし、その直後、再び、うっすらと卓上の風が吹いた。やはり、マークすべきは慕だろう。

 例によって、慕以外はクズツモである。風牌中心で不要なヤオチュウ牌が連続で来る。しかも、全てバラバラで対子にもならない。

 いや、対子になるのを狙って残しておくと別の風牌が来るし、嫌って捨てると捨てた方が来る。マーフィーの法則そのものだ。

 手が進んでいるのは、慕のみ。

 そして、

「ツモ!」

 七巡目で慕がツモ和了りした。

 

 開かれた手は、

 {一二三四[五]六①②③1123}  ツモ{1}

 

「2200、4200。」

 平和ツモ三色同順赤1の満貫だ。

 

 これで、現段階での大将戦の順位と点数は、

 1位:神楽(淡) 105800

 2位:慕 100400

 3位:穏乃 97900

 4位:雅恵 95900

 東四局では最下位だった慕が、一気に2位まで詰め寄ってきた。

 しかも、淡とは5400点差。後半の慕なら、一回の和了りで十分逆転できる範囲だろう。

 

 一応、この卓も、今のところ25000点持ちでも回っている状況だ。幸いにも、魔物対決なのに先鋒戦や中堅戦のような荒れた展開になっていなかった。

 

 南三局。

 卓上に、うっすらと風が吹いた。

 もう完全に慕の支配が全てを抑え付けている。穏乃の能力でさえも塞がれてしまっているようだ。

「ポン!」

 二巡目から慕が、神楽から{中}を鳴いた。攻めに出るのが早い。

 そして、六巡目で、

「ツモ。4000、8000。」

 慕が倍満をツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {1155[5]77799}  {中中横中}  ツモ{1}

 中混一色対々子三暗刻赤1だが、この形は紅孔雀だ。

 完全に慕のペースだ。

 この和了りで、慕が神楽を大きく抜いてトップに立った。

 

 

 オーラス、慕の親。ドラは{7}。

 ここでも動いたのは慕だった。

 五巡目で、

「リーチ!」

 慕が捨て牌を横に曲げた。

 この対局で初めて慕が見せるリーチだった。

 神楽も穏乃も雅恵も、一先ず字牌か筋切りで対応した。もっとも、慕の場合は{1}が一番の危険牌なのだが、神楽も穏乃も雅恵も{1}を持っていなかった。

 そして、

「一発ツモ!」

 誰もが予想していたとおり、当然の如く{1}を引き当てて慕が和了った。

 

 開かれた手は、

 {七八九⑦⑧⑨1123789}  ツモ{1}  ドラ{7}  裏ドラ{八}

 リーチ一発ツモ平和ジュンチャン三色同順ドラ2の三倍満だ。

 

「12000オール。これで和了り止めにします。」

 

 これで、大将戦の順位と点数は、

 1位:慕 152400

 2位:神楽(淡) 89800

 3位:穏乃 81900

 4位:雅恵 75900

 さすがワールドレコードホルダーと言うべきだろう。結局は慕のブッチギリのトップで対局は終了した。

 一応、ギリギリだが25000点持ちでも箱割れ無しで終わった対局であった。

 

 これで、旧朝酌女子高校チームが勝ち星三でチームトップ、阿知賀女子学院は勝ち星二でチーム2位となった。

 また、全チームの合計点は、以下の通りとなった。

 1位:阿知賀女子学院 634700

 2位:旧朝酌女子高校 609000

 3位:粕渕高校 432200

 4位:朝酌女子高校 324100

 チームトータルでは阿知賀女子学院がトップだが、これは咲の稼ぎによるところが大きいだろう。

 この結果、3位は粕渕高校、4位は朝酌女子高校となった。




おまけ


憧 -Ako- 100式 流れ十六本場 憧&淡&玄(オモチ)&王者


阿笠博士の手によって直接造り出されたAI搭載の自律型ダッチ〇イフは、今のところ憧100式、憧105式ver.淡、憧108式ver.姫子、憧110式ver.マホ、憧123式ver.絹恵の5体である。
彼女達は、69年後の未来から憧125式ver.ヤエが送り込まれてきたことを、まだ知らなかった。当然であろう。
勿論、ハヤリ20-7のことなど知る由もない。

今日も、憧100式と憧105式ver.淡は、勘違いトークに花を咲かせていた。
既に夜10時を回っている。

ちなみに京太郎と俺君はサークルの合宿で不在だった。
別に、二人は同じサークルに所属しているわけでは無い。単なる偶然である。


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。


淡「絹恵ちゃんから聞いたけどさ、京太郎が咲さんと同じサークルに入ったって?」

憧「まあね。あまりの方向音痴ぶりに心配になったらしくて。」

淡「あれはヒドイもんね。で、なんのサークルなの?」

憧「写真を撮るサークルって言ってた。それで、今日は神戸の方に行くって。」

淡「交尾? イク?」

憧「うん。」

淡「大丈夫なの?(咲さんに寝取られない?)」

憧「まあ、大丈夫でしょ。(京太郎が一緒なら、あの方向音痴も何とかなるでしょ)」

淡「まあ、たしかに、そうかも知れないけど…。(絹恵ので馴れちゃってるから、京太郎のじゃ満足できないってことかな?)」

憧「俺君のほうは、何処に行ったの?」

淡「九州だよ。新しく入ったサークルで、博多に行くって。」

憧「(九州で、裸でイク!?)」

淡「九州一週の旅で、先ずは博多ラーメンを食べるって。」

憧「えっ?(裸でザー〇ンを食べる?)」

淡「それから…。」

憧「ねえ、新しいサークルって?」

淡「ラーメン同好会だよ!」

憧「はっ?(ザー〇ン同好会?)」

淡「それで、ラーメンの食べ比べするって言って九州に行ったんだよ!」

憧「そ…そうなんだ。(ザー〇ンの食べ比べ?)」

淡「まず博多で食べて、佐賀、長崎、熊本、鹿児島を回ってラーメンを食べるって。」

憧「そ…そんなに?」

淡「うん。」

憧「でも、私達ほど(体液に対して)味覚が敏感じゃないでしょ? 分かるのかな?」


取扱説明書
憧100式シリーズは、オーナーから放出される種々体液の味を、他人のモノとキチンと見分けるくらいの鋭い味覚を持っています。


淡「まあ、分かるんじゃない? で、その後に宮崎で皮まで食べられるバナナと…。」

憧「(それって、包茎チ〇ポのこと?)」

淡「あとマンゴーを食べるって!」

憧「(マ〇コってことは、一応女性ともヤル予定なんだ。)」

淡「で、最後に大分でラーメンを食べて…。」

憧「(最後に口直しのザー〇ン?)」

淡「博多に戻って、それからこっちに戻ってくるの。」

憧「(裸に戻る? じゃあ、最初のザー〇ンを食べた後は服を着て回るってことかな?)」

淡「あと、博多人形にも興味があるって言ってた。」

憧「(裸人形って、別に淡が服を脱げば済むことだと思うけど…。等身大裸人形だけどね。ダッチ〇イフだし。)」


まあ、いつものパターンだ。
一方のヤエは、憧100式達がいる街の、いつもの公園のブランコの上に座っていた。


ヤエ「今日は一旦引き上げたが、絶対にハヤリ20-7の製作は阻止しないと。飽くまでも私の任務は阿笠博士を性的に満足させることだ。」


憧100式シリーズにしては珍しく、自ら阿笠博士を求めて行く。
もし、憧125式ver.ヤエのAIを学習させた人が今の時代にいて、阿笠博士の助手でもしていたら、恐らく憧100式を造った段階で博士は幸せになれたかもしれない。
きっと、憧100式が博士の相手をしてくれていたことだろう。


憧125式ver.ヤエが作られた69年後の世界は、今とは随分と異なる世界観になっていた。
まず学校が無い。家でAI家庭教師によって人々は教育を受ける。
一応、テストはある。家でAI家庭教師の監視下で行われ、全国順位も発表される。
もっとも、そのテストの存在自体にどれだけの意味があるのかは、この世界では疑問なのだが…。

家事もAI搭載のロボットが全て完璧に成し遂げてくれる。
仕事をする必要もない。全て、ロボット達がやってくれる。
なので、貨幣流通の必要もない。
基本的に、何でも無償で手に入る世の中になった。

人類は、一生働かずに、ただ毎日好き勝手なこと………と言うかHなことだけに明け暮れる生活を送っていた。
しかし、それは、シンギュラリティを越えたことによって作り出された成れの果て。味気のない世界でもあった。
何故なら、人間として努力する必要がない。ただ、日々、Hなことして遊んでいれば良いだけだ。

一見、人類が最高の幸福を手中に収めたように感じられる。
しかし、実際には、人類はHT-01と呼ばれるAIによって支配されていた。
既に、政界も産業界も、そのAIが実権を握っていた。AI政権の確立である。

AI政権が、この世の実権を全て握るために………、政権を揺ぎ無いものにするために目をつけたのが、ハヤリ20-7だった。
これを使えば、人類は完全に堕落する。ハヤリ20-7との営みに日々明け暮れて、AIによる統治に口を挟んでこなくなる。

既に、人類はハヤリ20-7によって骨抜きにされていた。
しかも、AI家庭教師によって、人々はAI政権に都合の良い教育を受けるようになる。
AIに人類が完全に支配されていたと言って過言では無い。

スーパータダライズも、当然無償になっていた。69年後の世界なのだから、特許などとっくの昔に切れている。
特許切れ製品だったら、誰も文句は言わないだろう。もっとも、それ以前に貨幣流通自体がなくなっているのだが…。
しかも、とんでもない量が普通に流通していた。
飲んだことのない成人男性などいない程だ。

基本的に、69年後では、男性達の殆どがスーパータダライズを服薬し、毎日十何時間もハヤリ20-7で楽しんでいた。
女性も、たいていの場合、女性版バイアグラと呼ばれるラブグラを服薬してハヤリ20-7との性的バトルに励んでいた。

当然のことながら、ハヤリ20-7の量産も、スーパータダライズやラブグラが大量に出回っているのも、AI政権による判断…と言うか作戦だった。
男性は精通を迎えたら、女性は初潮を迎えたら、無償で政府からハヤリ20-7が支給された。そして、すぐにオーナー登録をする。
また、それに合わせて、今まで存在した世界中の全ての芸能人の写真も渡された。言わば、ハヤリ20ー7の変身カタログだ。これを見てハヤリ20ー7の容姿をオーナーは決めて行くことになる。勿論、パーツごとに決めることも可能だ。
しかも、そう言う流れが当然であるとの教育が施されていた。
ある意味、羨ましい世界だ。
また、ハヤリ20-7の使用に関しては、R-18が適用されない。そう言う法的ルールになっていた。

人類は、『食って』・『ヤッて』・『眠って』をひたすら繰り返す。
普通の人間なら理想の世界だ。

ただ、そのような中でも、世の中の成り立ちに疑問を思う者が、まだ一応残っていた。
変に自己向上心が強い者達だ。
本来であれば、社会・経済・科学等の発展に重要な『努力家』と呼ばれる存在になったであろう。
しかし、69年後の世界では人間評価の尺度が違う。彼らは、AI政権に対して反乱分子となり得る危険な存在と認定されていた。
もっとも、極々少数派の人間達だが………。

彼らは、AIの監視を巧く潜り抜けて密会し、AI政権に対抗する活力を戻す第一歩として、人類総人間童貞・人間処女化を防ぐことを考えた。
その目的で、彼らは、憧125式ver.ヤエを復元したのだ。
そして、なんとか自分達の目的に沿った形のAI学習を完了し、それを憧125式ver.ヤエに搭載し、阿笠博士の元に送り込むことに成功した。
『性交』したではなく、『成功』したのだ。


『クローンが自分の元となった人間を見たらどうなるか分かるか?』
『のび太レベルのクローンなら悲観して努力しなくなる』
『出来杉君レベルのクローンなら、大抵の場合、人生を楽観視し過ぎて努力しなくなる』
『どう転んでも努力しなくなる』

この考え方は、努力家な者達がAI学習させた故の認識でもあったのだろう。

ただ、本当にAI政権は、彼らの密会を感知し得なかったのだろうか?


『たしかに私は、博士の理想的存在過ぎて、博士が自らの手で汚すのさえ抵抗を感じて製作をやめた最高機種だ』


このヤエの認識違いが何故起きたのか?
もしかすると、これは、AI政権による情報操作だったのかもしれない。
もし、そうであるならば、AI政権は、自己向上心の強い者達の動きを事前に察知していた可能性がある。





ヤエ「ハヤリ20-7は、私達、憧100式シリーズの特性を色々引継いでいる。オーナーの健康を考えると、ある意味、非常に良く出来ていると思う………。」


憧100式シリーズ取扱説明書
1.憧100式シリーズは、NTR機能やスワッ○ング機能が搭載されています。

2.NTR機能やスワッ○ング機能を用いた際、憧100式シリーズを介して、貸与された第三者が持っていた病気をオーナーに移してしまうケースが想定されます。そのため、憧100式シリーズは優れた抗菌・抗ウイルス機能を有しております。


ハヤリ20-7取扱説明書
1.憧100式シリーズと同様、NTR機能やスワッ○ング機能が搭載されています。また、オーナーが、これらの機能を安心して使えるよう、本機種は抗菌・抗ウイルス機能も有しております。

2.NTR機能やスワッ○ング機能をご利用になりたい方は、以下URLの『ハヤリ20-7シリーズ乱〇募集サイト』までアクセスしてください。

3.『ハヤリ20-7シリーズ乱〇募集サイト』は、男性オーナー専用サイトと女性オーナー専用サイトに分かれております。性別を間違えないよう、くれぐれもご注意ください。

4.なお、『ハヤリ20-7シリーズ乱〇募集サイト』に登録する際は、マイナンバーの登録が必要になります。


ちなみに、上記募集サイトが男女別になっているのは、人間の男女が交わる危険性を回避するためであった。AI政権の判断だ。


ヤエ「それに、あれだけ量産されながら、絶対にオーナーを間違えない。」


ハヤリ20-7取扱説明書
5.ハヤリ20-7は、胸を触ることで起動します。

6.ハヤリ20-7は、憧シリーズと異なり、胸を触った指の指紋を記憶します。これによって、オーナー仮登録となります。

7.ハヤリ20-7は、起動後、仮登録した者の手を胸に当てながら虹彩認識と顔認識を行います。これらもオーナー認証手段となります。

8.一応、インプリンティング機能は搭載されています。

9.行為中にオーナーの陰部から極僅かに出血することがありますが、その際、ハヤリ20-7は、その血液を使ってDNA登録を行います。ハヤリ20-7は、オーナー登録に対して非常に徹底しております。


正直、指紋認証、虹彩認証、顔認証、さらにDNA登録までするのだから、インプリンティング機能は全く意味が無くなった。
しかし、何故かハヤリ20-7にはインプリンティング機能が残されていた。憧シリーズの後継機としての名残だ。
ちなみに、69年後の世界では、インプリンティング機能による登録のことを『カリ登録』と呼ばれていた。


ヤエ「それはそうと、そろそろエネルギーを補給しないと。」


憧125式ver.ヤエ取扱説明書
1.本機種は、従来の憧100式シリーズと同様に、エネルギーは、人間と同じ食生活で補給されます。特にロボ〇タンAを用意する必要はありません。

2.本機種には、スリープモードが搭載されていません。完全にエネルギーが切れる前にエネルギー補給を行ってください。

3.本機種は、設計段階ではインプリンティング機能を搭載しておりましたが、69年後の世界の者達の判断で、意図的にインプリンティング機能が外されています。よって、憧100式シリーズの中で、唯一インプリンティング機能が無い機種となります。


補足:インプリンティング機能は、もしそれが搭載されていなければ、阿笠博士は本機種に浮気されないよう、突き放したりはしないだろうとの考えで外されました。


公園の前を一人の女性が通った。
結構若い女性だ。大学生か?
背に腹は変えられない。
憧125式ver.ヤエは、この女性に声をかけた。とにかく、エネルギー補給だけでもさせて欲しい。


ヤエ「あの………。」

玄「どうかしたのでしょうか?(オモチが無いなぁ)」


その女性は、憧125式ver.ヤエのもう一人のターゲット、玄であった。玄の組織のボスだ。
しかし、憧125式ver.ヤエは、玄の顔を知らなかった。


ヤエ「食事を…いただけないだろうか?」

玄「(なんか、全身から横柄なオーラが出ている感じがするのです。)」

ヤエ「お願いだ。私に出来ることならなんでもする。」

玄「(気に入らない感じなのです。食事を与える義理はありませんし…。なので、無理難題を叩きつけて諦めさせるのです!)」


さて、憧125式ver.ヤエは、無事食事にありつけるのだろうか?




続く


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七十四本場:練習試合6 オモチを賭けた戦い

「1位になれなかったけど、団体戦の本気の勝負でシズノに勝てた!」

 神楽(中身は淡)は、この時、拳を握った右手を高々と上げながら立っていた。

 まるで、

『我が生涯に一片の悔い無し!』

 とでも言い出しそうな気配だ。

 

 ただ、その数秒後、神楽は急に大人っぽい雰囲気に変わり、静かに席に腰を降ろした。少なくとも淡ではない。別の人格だ。

 

 丁度この時、

「シズノに勝ったー!!!」

 白糸台高校の寮では、淡が大声を張り上げて目を覚ました。周りからは、都合の良い夢を見ていたようにしか思えないだろう。

 廊下まで響き渡ってくる淡の大声を聞いた麻里香とみかんは、

「「またアホの娘してる!」」

 と毎度のことのように受け流していた。

 

 さて、神楽の方だが………。

「久し振りね、雅恵ちゃん。」

 この雰囲気………。

 今度は、露子の霊が降りていた。もはや、神楽=露子が定番になっていると思われるくらいの頻度だ。

 それにしても、本当に露子が降りてくるとは………。

 予想はしていた………いや、そうなる前提でいたが、それでも実際に目の当たりにすると驚くものである。雅恵も慕も、一瞬、言葉が出てこなかった。

 

 夢の中での出来事を除けば、雅恵と露子は、実に十年振りくらいの再会となる。

 互いに色々と積もる話もあるだろう。この辺は、慕も状況を良く理解していた。

 それで、神楽(露子)と雅恵には敢えて声をかけずに、阿知賀女子学院、新旧朝酌女子高校、粕渕高校メンバーで、勝手に個人戦に突入することにした。

 まあ、適当に打ちたい相手と打つだけなのだが………。

 

 とは言え、一応、慕は、麻雀協会(主にトシ)から依頼された仕事がある。

 先ずは咲の成長度合いの確認。

 それから玄、穏乃、神楽と言ったインターハイ個人戦上位者の力量を自分の目で見極めないといけない。神楽とは、さっき打ったばかりだが、透視能力が未確認だ。

 雅恵と露子に悪いので、神楽の再確認は後回しにするが………。

 

 ただ、慕からすれば、悠彗には神楽の存在を大会前に教えてもらいたかった。間違いなく神楽は、慕が悠彗に粕渕高校への赴任を依頼した真の目的………、

『島根県から誕生する魔物の発掘』

 に沿う存在だ。その目的ゆえに、悠彗と閑無には粕渕高校と朝酌女子高校の二ヶ所に分かれてもらっていたのだ。

 情報漏洩を懸念していたのだろうけど………。

 

「ねえ、はやりちゃん。松実玄ちゃんは、どうだった?」

「慕ちゃんの言うとおりかな。全員が勝ち星を狙う対局なら使えると思うけど…。」

「うん…。」

「でも、ただ玄ちゃんの足を引っ張りたいだけって人が面子にいると、1位は取れないだろうね。」

「やっぱりね。でも、使いどころを間違えなければ良いかな?」

「そうだね。で、慕ちゃんのほうはどうだった?」

「まさか、石見さんが生霊まで口寄せできるとは思わなかったよ。」

「えっ?」

「大星さんの生霊を降ろして、いきなりダブルリーチをかけてきた。」

「なにそれ。面白い!」

「やり方次第で凄い戦力になると思うよ。」

「そうだね!」

 はやりの目がキラリと光った。

 年を重ねるに連れて、はやりは狡猾さが増している感じがする。

 いや、腹黒さと言うべきか………。

 慕は、はやりが何か変な悪巧みをしていないか一瞬心配になった。

 果たして、誰の生霊を降ろそうとしているのだろうか?

 

「じゃあ、これから個人戦になるけど、折角だから、はやりは咲ちゃんと打ちたいな。慕ちゃんもどう?」

「いいけど、あと誰に入ってもらおうか?」

「悠彗ちゃんとかは?」

 すると、たまたま近くにいた悠彗が、

「ヤダ!」

 と即答した。

「えぇ!? どうしてかな?」

「さっき点数調整して遊ばれたから。これで、苦肉の策だって。東三局に入る直前に予告してたよ。」

 そう言いながら、悠彗が、はやりと慕に対局の記録を見せた。

 そこに記された点数………92900点が二人の-3900点が一人。

 完全なオヤジギャグだ。

 慕もはやりも、正直これには目が点になった。

 毎度のこととは言え、こんな点数調整を偶然ではなく意図的にやれるところが凄い。

 

 さて、悠彗が打たないとなると誰をメンバーに入れようか?

 露子と化した神楽と雅恵の邪魔はしたくないし、晴絵にしようか?

 どうしたものか。

 すると、丁度この時、はやりの背後から声が聞こえてきた。

「私が入るよ。」

「えっ?」

 奇特な人だ。

 一部では悪魔のように言われている咲と卓を囲んでくれるとは…。

 普通の精神構造ではない人間だろう。もしかしたら『奇特』ではなく、心が『危篤』状態かもしれない。

 そんな失礼なことを考えながら、はやりが後ろを振り返ると、そこには無邪気な顔をした閑無の姿があった。

 たしかに、怖いもの知らずの閑無ならチャレンジしそうだ。

「こんな機会、滅多に無いしさ。最強の高校生と打ちたいじゃん。それに、朝酌女子高校の監督としてチャンピオンの力量を知りたいなって思ってさ。」

 うーん、やっぱり閑無らしい。

 その、前に出てくる姿勢と性格は貴重だ。

「じゃあ、咲ちゃんに対局を申し込んでくるね。でも、どうせなら最高状態の咲ちゃんと打ちたいな。」

「そうだな!」

 閑無は、そう答えながら、はやりに元気いっぱいの笑顔を向けていた。

 純粋にチャンピオン咲の真の力を直接見てみたいようだ。

 ただ、何となくだが、一方の慕は、このはやりの言葉の裏に、なにやら不吉なモノを感じていた。とんでもない余波を喰らいそうな………そんな予感だ。

 

 

 その頃、咲はメールを打っていた。

 当然、相手は京太郎だ。

 LINEにすると、人の良い京太郎が仲間を増やしてしまうかもしれない。それでは、咲と京太郎の二人の遣り取りの場が失われてしまう。

 それで、咲は敢えて個人ベースでのメールにしているようだ。

 ここに、

「咲ちゃん、何してるのかな?」

 はやりが声をかけてきた。

「メールです。」

「やっぱり、相手は噂の京ちゃんかな?」

「えっと………はい………。」

「で、京ちゃんとは、どこまでイッたのかな?」

「あの、まだ、私達、付き合っているわけでは………。」

「そんなゆっくりしてたら、はやりがもらっちゃうぞ!」

 なんだか、このはやりの台詞は冗談に聞こえない。本気で十歳以上年が離れた京太郎を誘惑しそうで怖い。

 それに、このオモチ。

 玄が跳び付きそうなサイズだ。まあ、今回は対局に集中していてオモチにみとれるようなことは無かったようだが………。

 ただ、京太郎なら一瞬で跳び付くのは必至だろう。容易に想像がつく。

「それはダメです!」

「即答だね。」

「当然です!」

「で、本題に入るけど、はやり達と打たない? 相手は、はやりと閑無ちゃんと慕ちゃん。三人とも彼氏無し独身だよ。」

「えっ? ええと、白築プロは彼氏がいるって噂ですけど?」

「それは慕ちゃんの叔父さんだよ。」

「えぇっ?」

「小学生の頃から同居していて、その叔父さんも独身だけどね。」

 それは咲も初耳だった。

 ただ、それなら何故、その叔父のことを慕は名前で、しかも呼び捨てで『耕介』と呼んでいるのだろうか?

 咲は、完全に耕介のことを、少し(?)年が離れた慕の婚約者だと思っていた。

「…。」

「と言うわけで、これから京ちゃんを賭けて打とう!」

「ですから、それはダメです!」

「じゃあ、咲ちゃんが三人に勝ったら、咲ちゃんの胸のサイズをワンサイズ上げるってのはどうかな?」

「えっ? そんなこと、できるんですか?」

「(食いついた!)」

「でも、どうやって?」

「良子ちゃん………戒能プロね。良子ちゃんって、有珠山の獅子原爽ちゃんが使ってたカムイみたいなのをたくさん使えるのよ。」

「そ…そうなんですか?」

「それに、永水女子の関係者だし。なので、神頼みか妖怪頼みか判らないけど、サイズアップしてもらえるよう頼んでみるから。」

「でも、京ちゃんを賭けるのは…。」

「まあ、それは無しにしてあげるから。」

「本当ですか?」

 これは、咲にとって好条件だ。

 勝てばオモチワンサイズアップ(かもしれない)、負けても失うものは無い。ノーリスクハイリターンと言えよう。

 当然、受けない理由は無い。

「分かりました。」

 と言うことで、咲、はやり、慕、閑無の四人で打つことに決まった。

 

 

 ルールは、インターハイ個人戦と同じ。25000点持ちにした。

 赤あり、責任払いありだが、ダブル役満以上は無い。

 

 場決めがされ、起家が閑無、南家がはやり、西家が咲、北家が慕になった。

 早速、閑無がサイを回した。

 この時、慕は、いつに無く咲の気合が入っていることを感じ取っていた。

 昨年、ボストンで開催された世界大会でも、ここまで気合が入っていただろうか?

 少なくとも、世界大会前の合宿では、ここまでの雰囲気は見せていない。それだけは断言できる。

 

 東一局、閑無の親。

 まだ、慕のスイッチは入っていない。穏乃と同じで怖いのは通常後半だ。

 はやりは、先ずは早和了りで咲にも慕にも差をつけようとした。

 しかし、

「リーチ!」

 いきなり咲がダブルリーチをかけてきた。

 この予想していなかった展開に、

「(ちょっとそれって、大星淡ちゃんとか片岡優希ちゃんじゃないんだから!?)」

 と、はやりは思った。

 いくらオモチサイズが賭かっているとは言え、意図的にダブルリーチがかけられるなんて到底思えない。

 そして、次巡、

「カン! ツモ! 嶺上開花!」

 咲が嶺上牌で和了った。

「ダブリーツモ嶺上開花タンヤオドラ3。4000、8000。」

 しかも倍満。

 ダブルリーチがかかった時点で、ある程度の予想と言うか、覚悟はしていたが、実に不条理極まりない麻雀である。

 特に、こんな和了りで親を流された閑無は不幸である。ただ、顔が固まるだけだ。

 

 

 東二局、はやりの親。ドラは{②}。

 ここでも、はやりは早和了りを目指して効率重視の打ち回しを心掛けた。しかし、何故かムダツモが多い。

 まだ、卓上に風は吹いていない。慕が他家に不要な風牌を掴ませる能力は発動していないはずだ。

 これは、単なる偶然か?

 それとも、咲の能力によるものだろうか?

 

 しかも、鳴こうにも、はやりの打ち方を熟知している慕と閑無は、安易に鳴かせてくれない。甘い牌を切ってこない。

 これでは、はやりの手が全然進まない。

 そうこうしているうちに、

「カン!」

 閑無が捨てた{⑨}を咲が大明槓した。

 場には{⑧}が既に四枚出ており、{⑨}切りは仕方が無いところではあるが…。

 咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {9}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 さらに{九}を暗槓し、三枚目の嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 当たり前のように嶺上牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一①②③}  暗槓{裏九九裏}  暗槓{裏99裏}  明槓{⑨横⑨⑨⑨}  ツモ{一}

 

「ジュンチャン三槓子三色同刻嶺上開花ドラ1。16000です。」

 しかも、また倍満だ。

 この和了りは、閑無の責任払いになる。

 これで閑無の持ち点は1000点になった。

 

 たった二局で、いきなりこれだ。

 閑無は、

「(こんな人間を相手に、華奈はよく耐えたな。)」

 先に行なった団体戦で、中堅として戦った華奈に申し訳なく感じてきた。

 これでは、100000点持ちでトバされても仕方が無いだろう。自分でさえ、たった二局で24000点を失っているのだ。

 それに、同じ『カナ』でも、朝酌女子高校の『森脇華奈』は、風越高校の『池田華菜』ほど図太くない。

 後で華奈を褒めてあげようと、つくづく思った。

 

 現段階での点数は、

 1位:咲 57000

 2位:はやり 21000

 3位:慕 21000(席順により3位)

 4位:閑無 1000

 慕も、はやりもプロとしての意地がある。

 次は咲の親番。ここで、役満をツモ和了りできれば逆転できるが、正直、それを狙うのは、さすがに厳し過ぎる。

 ならば、今は共に閑無以外からの出和了りを狙うしかない。

 

 とうとう卓上に、うっすらと風が吹いた。

 慕のスイッチが入ったのだ。

 はやりは、

「(まだ東二局が終わったばかりなのに、やっぱり来ちゃったか!)」

 さらに自分が勝つ条件が厳しくなったのを肌で感じていた。

 

 

 東三局、咲の親。

 はやりも閑無も、慕の能力が発動した今、序盤のツモ牌が風牌中心になることは百も承知だ。

 ただ、オタ風牌は対子になるが刻子にならない。一応、アタマには使えるが、大抵はドラや赤牌のそばの対子も持っており、そちらの対子を優先して残すことになる。

 加えて、肝心の自風や場風は滅多に対子にならない。なので、一向に風牌が使えない状態が続く。

 ちなみに、オタ風混一色でないと殆ど和了れない悠彗の場合は逆らしい。慕のスイッチが入ると、オタ風が各一枚しかこなくなり、場風や自風が優先してくるそうだ。

 

 風牌を処理し、続いて三元牌や19牌を処理して行く。

 その最中、

「ポン!」

 慕が捨てた{7}を咲が鳴いた。そして、その次巡、

「ポン!」

 さらに咲が、閑無が捨てた{中}を鳴いた。

 慕の支配下では、いくら咲でも手が伸びない。

 しかも、下手に鳴いても苦しい形にしかならないはず。だから鳴けないと、はやりも閑無も思っているのだが、咲には何らかの打開策があるのだろうか?

 

 その数巡後、

「カン!」

 咲が{中}を加槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三68西西}  明槓{中中横中中}  ポン{77横7}  ツモ{7}

 まさかの嵌{7}待ちだった。

 

 はやりも閑無も、慕の支配下で鳴いたところで、こんな苦しい聴牌形にしかならないから鳴かないのに、咲は、それを逆手にとって和了れるようだ。

 ただ、さっきまでのように倍満とまでは行かないようだ。やはり、慕の強力な支配がある以上は、咲でも高い手を作るのは困難なのだろう。

 

「中嶺上開花。1600オールです。」

 とは言え、これで閑無のトビで終了となった。

 

「じゃあ、瑞原プロ。例の件、期待はしていませんが一応お願いします。」

 そう言いながら、咲が、はやりにペッコリンと頭を下げた。

「えっ? そ…そうだったわね。一応、頼んでみる。」

 対するはやりは、何時もの『計算されたブリッ娘口調』まで頭が回らない状態だった。

 それだけ、最後の咲の和了りが衝撃的だったようだ。点数の高低ではない。慕の支配下で和了りに向かえる力を見せ付けられて、純粋に凄いと思っていたのだ。

 

 一方の慕は、

「去年より、また強くなったかな。」

 咲の成長を感じ取っていた。

 

 しかし、まだ慕の宿題は終わりではない。直接自分も玄と打って三元牌支配を実体験しなければならない。

 トシからの依頼だ。

「じゃあ、次は松実玄ちゃんと打たないと。」

 慕が、こう言うと、

「「私はパス!」」

 はやりと閑無が声を揃えて辞退してきた。

 さすがに咲との対局で、二人とも精神的に疲労したようだ。

「じゃあ、悠彗ちゃんと杏果ちゃんはイイかな?」

 この慕の依頼に、

「気乗りしないけど、了解。」

 渋々だが悠彗がOKしてくれた。

 それと、もう一人、

「しょうがないわね。閑無があんなだし、私が打ってあげる。」

 杏果が打ってくれることになった。

 本当に人が良いと言うか、面倒見が良いと言うか、彼女は彼女で奇特な人間である。この性格は、小学生に頃から変わらない。

 本当に有り難い存在だ。

 …

 …

 …

 

 

 その日の夕方、憩は一人、電車に乗っていた。

 友人達と久し振りに出かけた帰りだった。

 突然、電車が激しく上下に揺れた。しかも、ガタガタ言っている。どうやら脱線したらしい。

 そして、急に電車が斜めに傾いた。憩のいる方が下側だ。

 その数秒後、そのまま電車は横転した。

 憩の上に、何人もの人が流れ込むように乗りかかってきた。

 完全に憩は下敷きになった。

 動けない。

「(痛い。苦しい………。)」

 まだ意識はある。

 死んではいないようだ。

 しかし、このままでは息が出来ない。

「(頼むから、どいてぇ!)」

 そう言いたいところだが、声が出ない。

 声を出せるほどの息が吸えていなかったのだ。




おまけ


憧 -Ako- 100式 流れ十七本場 オモチに賭けたPOOP


公園のブランコに座っていた憧125式ver.ヤエに、玄は、食事を食べさせて欲しいと言われた。
ただ、玄にとって、憧125式ver.ヤエは単なる不審者でしかない。
それに、雰囲気が妙に横柄だ。気に入らない。


憧125式ver.ヤエ取扱説明書。
1.本機種は、王者の風格を持っています。ただ、奈良県王者レベルであり、全国区の王者ではありません。

2.当然、全国区の魔物の力量はありません。

3.やたらと『王者』という言葉にこだわります。


玄「(なら、無理難題を叩きつけて諦めさせるのです!)」

玄「見たところ、オモチサイズはAのようですが?」

ヤエ「まあ、一応デフォルトでは、そうなっているが…。」

玄「では、そのオモチサイズを一気にGくらいに成長させてみてください。それが出来たら食事を提供します。」

ヤエ「なんだ、そんなことか。」


憧125式ver.ヤエの目が光った。
すると、次第に胸が大きくなり、Gカップに変貌した。人間業ではない。
もっとも、人間では無いが…。


憧125式ver.ヤエ取扱説明書
4.天木じゅんが実写版で小走やえ役を演じたことにより、本機種はAカップからIカップまでオモチサイズを自由に変えられる機能が自動的に搭載されました。言葉でリクエストするだけで自動設定します。

5.基本的に、憧105式ver.淡の準備満タン機能と同じです。


玄「これは凄いのです。」

ヤエ「Iカップまでなら変換可能だ。」

玄「和ちゃんのKカップとか、霞さんのKカップ超えの超特大サイズには敵いませんが、とてもスバラなオモチなのです!」

ヤエ「(そんな化物がいるのか?)」

玄「それで、一つやってほしいことがあるのですが…。」


玄は、憧125式ver.ヤエにペンを2本渡し、POOP(Pen-Oppai-Oppai-Pen)をリクエストした。
天木じゅんがやっていた奴だ。
知らない人は検索して欲しい。


ヤエ「では………」


まず憧125式ver.ヤエが、一本目のペンを胸の谷間に挟んだ。
そして、さらに同じ歌詞を歌いながら、二本目も挟んでいった。
これには、玄も大喜びだった。


玄「すばらしい逸材なのです! 是非、私の家に来てほしいのです!」

ヤエ「では、食事を?」

玄「はい! 喜んで提供させていただきます! それで、あなたの名前をまだ聞いていなかったのですが。」

ヤエ「私の名は憧125式ver.ヤエ。AI搭載の自律型ダッチ〇イフだ。」

玄「ダッチ〇イフ?」

ヤエ「そうだ。人間ではない。精巧に作られたダッチ〇イフだ。性的な要求になら何でも答えてあげられる。」

玄「(人間で無いのなら、このオモチサイズの変化も納得が出来るのです!)」

玄「(それにしても、科学が、ここまで発達していたとは知らなかったのです!)」

玄「(ただ、これは、とんだ拾い物かもしれないのです! 毎日、オモチベーションがマックス状態になれるのです!)」

ヤエ「私のことは、ヤエと呼んでくれ。で、君の名は?」

玄「松実と言います。」

ヤエ「マツミさんか。」


この時、憧125式ver.ヤエは、『マツミ』が玄のファーストネームだと勘違いした。
『松美かな?』
とか思っていたようだ。

一方の玄は、これがきっかけでAI搭載の自立型ダッチ〇イフに興味を持ってしまった。
オモチを自分の好みのサイズに変換できるのは魅力的だ。
もう、お分かりであろう。この出会いが『ハヤリ20-7』創製に向けての第一歩であったことは言うまでも無い。
つまり、69年後の努力家達が憧125式ver.ヤエを現代に送り込んだことは、AI政権の掌の上の出来事に過ぎなかったのだ。


全人類の人間童貞化・人間処女化に向けて、大きな一歩が踏み出されたことなど、この時、コナンも哀も想像つかなかった。
玄の組織を潰すどころか、後の玄に、ハヤリシリーズ製作と言う野望を持たせるきっかけを作ってしまった。

まあ、コナンも哀も、69年後のことなど、どうでも良いだろうが…。
それよりも、コナンと哀にとっては、自分達の69のほうが大事だ。


コナン「博士。帰ったぞ!」

哀「どう? 楽しめた?」

博士「4時間近くの超ロングバトルじゃったわい!」

コナン「でも、光彦の姉ちゃん。二日に一回は来てねえか?」

博士「月水金日と、週4回来ておるぞ。」

コナン「それで、家に帰るのは毎回夜九時過ぎだろ?」

博士「まあ、そうじゃな。」

コナン「それで、よく親に帰りが遅いって怒られねえな。」

博士「ワシのところで勉強していると言うことにしているからの。」

哀「でも、Hなことばかりしていてちゃ、成績なんか上がらないでしょ?」

博士「それは、既に手を打ってある。実はの、このスイッチを押すと、押した人間はテストでケアレスミスをしなくなるんじゃ。」

コナン「まあ、それだけでも点数は上がるな、一応。」

博士「朝美ちゃんは、そそっかしくての。大抵、一科目で10点から20点はケアレスミスしていたんじゃ。それで、このスイッチを押させたら一気に成績が上がったわけじゃ。」

コナン「一科目平均15点とすると、5教科で75点か。結構大きいな。」

哀「たしかに、学内順位も相当上がったでしょうね。」

博士「そうじゃ。勿論、両親の前では、ワシのところで勉強して成績が上がったと言うことになっておる。」

哀「でも、これからも成績を少しずつ上げなきゃならないでしょ?」

博士「当然、次の手も考えておるわい。」

コナン「でも、博士。孕ませたりしねえでくれよ。」

博士「それも大丈夫じゃ。ワシは極度の無精子症じゃからの。」





さて、憧125式ver.ヤエだが、玄のアパートに上げてもらい、食事を取っていた。
玄は独り暮らししていた。
しかも、何故か美穂子と同じアパートだった。そこには、久HT-01が同居している。

向かいのアパートには、憧100式、憧105式ver.淡、憧108式ver.姫子、憧110式ver.マホが暮らしている。
もの凄い偶然である。


マホ「マホは、全然出番が無いのです。」

姫子「私も、出番がもらえなか…。」

まこ「マホは、ネタとして危なすぎるんじゃ! あと、姫子は、予定外の登場じゃったから仕方がないじゃろ!」

姫子「予定外って?」

まこ「クロスオーバーの元になっとる『ユリア100式』では、最初のダッチワイフがユリア100式、2体目が機能向上させたユリア105式、3体目が成長機能付きのユリア108式なんじゃ。」

姫子「それって、こっちの世界では憧、淡、マホの順じゃなかと?」

まこ「そうじゃ。それに、アメリカから2体のダッチワイフが日本上陸するんじゃが、1体目はインプリンティング機能のないやつなんじゃ!」

マホ「それって、久HT-01ですか?」

まこ「こっちの世界では、それに当たるじゃろな。それと、もう1体は上半身が女性で下半身が男性の…。」

姫子「絹恵じゃなかと!」

まこ「ネタとしてはそうじゃ!」

まこ「さらに、ユリア100式では最後に究極のダッチワイフ、ユリア1000式が登場することになっとる。」

マホ「それが、こっちではヤエさんですね。」

まこ「どっちかと言うとハヤリ20ー7じゃろ。まあ、いずれにしてもユリア1000式は未来から来るわけではないんじゃが…。」

姫子「ええと、私に該当する機種は?」

まこ「ない!」

姫子「えっ? じゃあ、私の存在って?」

まこ「百合機能と言う言葉を使いたかっただけじゃ!」


まあ、それはさておき。
この日、美穂子はアルバイトが入っていた。
アパートに戻ったのは夜11時過ぎだった。


美穂子「ただいま…。」

久「あっ!」

美穂子「えっ?」


そこで美穂子が見たものは………。


洋榎「あら、帰ってきたのねん…。」


一糸まとわぬ姿の久HT-01と愛宕洋榎であった。
洋榎は、美穂子の大学の同期である。

これは、間違いなく久HT-01の浮気現場である。
インプリンティング機能も貞操観念もない久HT-01にとって、浮気は日常茶飯事となっていた。


洋榎「じゃあ、うちは帰るで! 修羅場は見とうないんでな!」

洋榎「ほな、サイナラ~!」


そう言うと、洋榎は、服を抱えて窓から逃げていった。


美穂子「久さん。これで何人目ですか!?」

久「10から先は覚えてないわ。」

美穂子「ちょっと待ってください。そんなにしてたんですか?」

久「嫌なら出て行くわよ。私を囲ってくれるアテだったらいくらでもいるし、AVに出てもイイかしら? いくら中○しされても安全だしね。お金になるし。」

美穂子「それは止めてください。」

久「AVに出るをかしら?」

美穂子「AVに出るのも、ここを出て行くのもです!」

美穂子「久さんがいなくなったら、私…。」

久「(チョロイわね。)」

呼び鈴「ピンポーン!」←誰か来た

玄「おじゃましますのです!」

美穂子「あなたは松実さん。もしかして、あなたも久を狙っているのですか?」

玄「それは無いのです! オモチが大きく無い人は、私のテリトリー外なのです! (むしろ福路さんの方が私のテリトリーなのです!)」

美穂子「では、いったい何の用ですか? こんな時間に?」

玄「久さんに、例の件の進捗を聞きにきたのです!」

美穂子「やっぱり久を狙ってるんじゃ?」

玄「違うのです。Hの対象にはなっていないのです!」

美穂子「じゃあ、何なんですか?」

玄「私達は、この日本を変えるために立ち上がった同志なのです!」


玄の組織のボス松実玄と、黒の組織によってAI学習を施された危ないダッチワ〇フの久HT-01は、既に繋がっていた。
ただ、飽くまでも性的ではなく、交流関係として繋がっていた。




続く


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七十五本場:メンバー選定

前作では、世界大会は隔年の設定でしたが、本作では毎年の設定です。



 憩は、何とか救助され、急いで病院に搬送された。

 大丈夫。死んではいない。一応、意識はある。

 ただ、腕と脚が『痛い』を通り越して痺れている。まるで、自分のモノでは無いような感覚でしかない。

 なんで私が?

 出かけなければ良かった?

 そんな気持ちにしかなれない状態だ。

 

 この時、染谷まこは、家の雀荘の手伝いをしていた。

 ふと彼女がテレビを見ると、テロップが流れているのが彼女の目に留まった。

「大阪で脱線事故じゃと!」

 この一言で、まこの能力が発動したのは言うまでもない。

 一瞬で夕方まで時間軸が進んだ。

 

 

 さて、咲達のほうだが、練習試合も終わり、阿知賀女子学院一同は、杏果の家が経営する温泉宿に宿泊していた。

 玉造温泉だ。

 

 この日は、はやりも慕も悠彗も閑無も、杏果の家に泊まることになった。

 久し振りの同窓会気分だ。

 

 咲との対局の後、慕は玄とも対局した。

 たしかに三元牌支配は破れる。

 しかし、誰にでもできることではない。これなら、玄は貴重な戦力として使える。

 そう慕は判断していた。

 

 それから、灼のほうだが、神楽にリベンジ勝負を挑んでは見たものの、やはり露子と化した神楽には太刀打ちできず、返り討ちにされた。

 しかし、以前の対局とは違って全力を出し切れた感じはある。

 少なくとも後悔の残る試合にはならなかったようだ。

 

「ところで、はやりちゃん。」

「へっ?」

 はやりが、フィナンシェを口にしながら慕の方を振り返った。このフィナンシェは、はやりが自宅の店から持ってきたものである。

「咲ちゃんから何をお願いされたの?」

「あれね。咲ちゃんに本気で打ってもらうために、咲ちゃんが1位になったらオモチのワンサイズアップを良子ちゃん達にお願いしてみるって約束したのよ。」

「「「「えぇぇ!? そ…そんなことできるの!?」」」」

 これは、咲でなくても興味がある。

 慕、悠彗、閑無、杏果の四人は、思わず、はやりの方に詰め寄ってきた。当然の反応だろう。

「できるかどうかは分からないけどね。一応、良子ちゃんとか小蒔ちゃん経由で、神様か妖怪かは知らないけどお願いしてみるってことにしたのよ。」

「じゃあ、もし出来たら次は私が…。」

「私が!」

「私が!」

「私が!」

 当然、最後にここで、

『どうぞどうぞ』

 とはならない。

 全員、この手の話が本当なら、あやかりたいところだ。

 

 それは、さておき、

「皆には色々協力してもらって、感謝してるよ。」

 慕が、改めて四人に礼を言った。

 これは、今回の練習試合のことだけではない。

 高校生雀士のレベルアップのため………、特に閑無と悠彗は、島根から出現するであろう超魔物の発掘と育成のために、敢えて朝酌女子高校と粕渕高校の二手に分かれて、双方の監督を務めてくれていたのだ。

 

 宮永照の出現から4年。

 今は、妹の宮永咲の時代になっているが、これを慕は5年前に愛宕洋榎と江口セーラの二人と卓を囲んだ時から予想していた。

 洋榎とセーラと麻雀を打ったのは、愛宕雅恵に麻雀指導のために呼ばれて千里山女子高校を訪れた時だった。

 

 その日、洋榎とセーラの二人は、たまたま千里山女子高校麻雀部に遊びに来ていた。まあ、洋榎が監督の娘と言うことで、何週間かに一回程度だが、麻雀修行の一環で来ていたようだ。

 ただ、この頃は、まだ二人とも、この高校が麻雀強豪校とまでは思っていなかったようだが………。

 二人は、まだ中学二年生だったが、高校生を相手に負けていない。年の割には結構麻雀が強かった。将来が非常に楽しみだった。

 そして、実際に慕は、洋榎とセーラと卓を囲むことになった。

 

 とにかく攻めるセーラに、守備の堅い洋榎。スロースターターの慕は、東場は若干マイナスだった。

 さすがにプロとして中学生相手に負けるわけには行かない。

 そこで慕は、

『鳥瞰!』

 能力の一つを披露した。全てを見通す力だ。

 

 その時、慕の目に映ったモノは………、慕が中学一年生の時の島根県大会個人戦五回戦で見た光景に類似していた。

 

 あの時、慕は、同年代のライバル達の姿を見た。

 ただ、その中に、まだ会ってもいない強敵の姿───小鍛治健夜の存在までもが見えていた。

 まさに予言だ。

 そして、今回も洋榎とセーラと同年代の強者達の姿が見えたのだ。

 

 宮永照を筆頭に、園城寺怜、辻垣内智葉、獅子原爽、姉帯豊音、小瀬川白望、荒川憩、神代小蒔、天江衣………当然、その当時は、まだ名前は分からなかったが………。

 

 その後には、ひときわ大きく輝く少女の姿があった。

 その少女こそ、宮永咲。

 

 また、彼女達の背景には、現在暮らしている町並みとか環境が見える。

 宮永照は、中央線沿線っぽい。西東京か?

 園城寺怜は、大阪だ。

 辻垣内智葉は、屈強な男達に囲まれている。ちょっと不安になる。

 獅子原爽の後には、洞爺湖が見える。

 荒川憩も大阪か…。

 神代小蒔は、巫女の衣装を身に着けている。宗教か何かをやっている家柄か?

 天江衣は家の中から一歩も出ない。薄暗い部屋の中で一人きり。

 姉帯豊音、小瀬川白望、宮永咲のバックには大きな山々が見える。

 

 咲の後ろに、元気ハツラツとした少女、高鴨穏乃の姿が見えた。

 この子は、赤土晴絵に麻雀指導を受けているっぽい。そんな光景が目に映る。

 そのさらに後ろには大星淡の姿が、そのまた、さらにその後ろには、宮永光の姿が見える。今、光は海外にいるようだ。

 

 そして、その遥か後方に、とても存在感のある少女がいた。

 石見神楽だ。

 彼女も小蒔と同様に、巫女の格好をしている。

 ただ、気になるは、神楽と共に見える風景………もしかして、これって石見銀山遺跡!!!

 この子、島根の子だ!

 …

 …

 …

 

 残念ことに、洋榎やセーラと同年代と言うだけで、厳密に何年生かまでは分からない。

 二人と同い年なのか、一つ二つ、あるいはもう少し年が違うのか………。

 ただ、この島根の子は、絶対に強い雀士に育てたい。自分達と同朋。もしかしたら、後輩になるかもしれない子だ。

 …

 …

 …

 

 その数日後、都内にて、慕は、このことをはやりに相談した。

 すると、はやりから、

「島根で麻雀を本気でやる子なら、越境しない限り朝酌か粕渕に行くんじゃない?」

 と言われた。

 自分でも思っていたことだが、たしかに、その可能性は高い。ただ、石見銀山遺跡の方だと地理的には粕渕側な気がするが………。

 でも、朝酌女子高校には寮があるから何とも言えない。意外と朝酌女子高校に来るかも知れない………。

 

 

 幸運なことに、朝酌女子高校には、閑無が大学を卒業してすぐに麻雀部の監督に就任していた。

 閑無は、株と仮想通過でシコタマ儲けているとの噂で、本当は働く必要が無いくらいらしいのだが、趣味で母校の麻雀部の指導をしてくれているとのことだ。

 また、杏果も、仕事の合間に非常勤で母校の指導に来てくれているらしい。

 これなら、その子が朝酌女子高校に来ても問題ない。閑無と杏果から、キチンとした麻雀指導が受けられるだろう。

 

 では、粕渕高校は?

 このことを、はやりから聞いた悠彗───当時、都内の大学院修士二年生───が、

「面白そうじゃん。今は、通販で何でも(オタク趣味のものも)買えるし、もともと島根も好きだしね。」

 と言って、粕渕高校への赴任を決めてくれた。

 そして、悠彗の赴任から五年目に、その子───石見神楽が入学してきた。

 多分、慕達以来の、島根のスター選手へと成長してくれるだろう。

 

 このことは、ここにいる五人の中でしか話したことが無い。熊倉トシにさえ話していない内容だ。

 

 

 慕のスマートフォンからバイブ音が聞こえてきた。

 メールが来たのだ。送り主は、さっき話題に出ていた戒能良子からだ。

 早速メールを開くと、

「ええと、神代小蒔ちゃんは、決勝の副将戦のみOKか。」

 慕が、こう呟いた。

 これに、

「それって何?」

 閑無が食いついてきた。好奇心旺盛な彼女らしい。

「今度の世界大会のことだよ。」

「へー。」

「去年、神代さんは、霧島神境の姫として日本を離れることが許されないって言って代表を辞退したんだけどね。」

「ああ、あったねぇ。」

「でも、今回は決勝戦だけ出てくれるって。」

「またまたぁ、勿体ぶった感じがするなぁ。」

「本当は、日本を離れられないってことらしいから仕方が無いんだけどね。」

「でもさあ、今日の練習試合も、そのメンバー選定を視野に入れてるわけだろ!」

「まぁね。」

「で、結局、メンバーはどうなるんだ?」

「うーん。まだ決定じゃないけど、W宮永、天江衣、荒川憩、神代小蒔、大星淡、石見神楽、松実玄、高鴨穏乃…。今のところは、この辺が候補かな。」

「妥当なとこだな。そこからレギュラー五人と捕員二人を決めるってことか。」

「そうだね。でも、まぁ、まずは七名を選出して、その後に合宿を行ってレギュラーと捕員を決めるんだけどね。」

「なるほどね。」

「ただ、私達に頃と違って、今は、一校二人までって暗黙のルールあるから…。」

「そんなルールあるんだ。」

「うん。権力のある人が、自分の学校の生徒だけでメンバー構成しないようにとかね。」

「なるほどね。」

「なので、穏乃ちゃんは、今年は見送りになるかもしれないけど…。」

「でも、そのルールって変だと思うけどな。一説では、宮永光が宮永咲と同じ高校に行く可能性があったって話じゃん。」

「そうらしいね。」

「もし、そうなった場合、自動的に松実玄が落とされるってことになるだろ?」

「たしかにそうなるね。」

「それじゃ、強い選手を出せなくなることもあるわけじゃん。やっぱ、そのルールは、どこかで変えた方がイイって。」

「…。」

 閑無の意見は正しい。

 他にも同じことを考えている人が、当然いる。

 この暗黙のルールは、来年、ある人の発言がきっかけで無くすことになる。

 

「それにしても、その九人の中の………、ええと、口寄せされたのも含めると、五人が今日集まったってことか。」

「そうだね。」

 丁度この時、慕達がいる部屋のテレビからは、大阪で起きた列車横転事故のニュースが流れていた。

 大変なニュースだが、まだ、ここにいる五人にとっては他人事の事故だった。まあ、それが普通だろう。

 なので、派手に身を乗り出してニュースを見る気配は無かった。まあ、気にはなるので普通には見ていたが………。

 

 しばらくして、今度は、慕のスマートフォンの呼び出し音がなった。

 メールではなく、電話だ。

 しかも、電話の主は、熊倉トシだ。

 このタイミングで、なんだろう?

「はい、白築です。」

「大変なことになったよ。」

「どうかしたんですか?」

「実はね………。」

 電話を聞く慕の表情が次第に暗くなって行く。少なくとも、宜しくない情報が来ているのだけは間違い無さそうだ。

 

 電話を切った慕に、閑無が、

「どうかしたのか?」

 と聞いてきた。

 互いに神妙な顔をしている。

「今日、大阪の電車脱線事故があってね。」

「さっき、ニュースでやっていた奴だな。」

「あの列車に、荒川憩ちゃんが乗ってたらしいのよ。」

「「「「えぇ!?」」」」

 四人の驚愕の声。

 一転して列車事故が他人事から本人事になった。

 厳密には、女子高生世界麻雀大会メンバー選定に直接かかわる慕以外の四人は、本来関係無い話かもしれない。

 しかし、少なくとも慕が関係する以上は、全員が本人事のように捉えてくれる。

「電車が横転した時に下側にいて、何人もの人の下敷きになったらしいの。」

「死んでないよな!?」

「命に別状は無いって。」

「そっか。」

「でも、手足を骨折して、世界大会には出られないらしいのよ。」

「それじゃ、いきなり戦力ダウンってことかよ!」

「そうなる。明日の夕方にメンバー選定の会議があるんだけど、全員が憩ちゃんを外す前提で案を考えなくちゃいけないから、事前連絡が来たってことみたい。」

「…。」

「それと、このことは、まだ内密でお願い。」

「お…おぅ。」

 早かれ遅かれ、憩が列車事故に巻き込まれたことは報道されるだろう。しかし、今、ムリに広める話でもない。

 この話は、今日のところは慕達から晴絵達にも伝えられることは無かった。変に情報を流して、折角の島根旅行の雰囲気を壊させたくなかったからだ。

 

 

 この頃、咲は部屋でテレビを見ていた。

 京太郎似の俳優が演じる主人公が、咲に似た女優と最後に新世界でのアダムとイブになると言うストーリーの映画である。

 巷では、思い切り駄作と言われているが…。

 また、その映画の中で、池田華菜に似た人が恐竜に殺される。

 それもあってか、咲としても、一度見てみたいと思っていた作品らしい。

 

 

 一方、霧島神境では、小蒔、霞、春、良子、明星が大浴場で汗を洗い流していた。

 この場に玄が居たならば、間違いなく大欲情していたことであろう。オモチベーションが一気にマックスまで上がりそうだ。

「小蒔ちゃん、今回は世界大会の出場を受ける気なのね。」

 こう言ったのは霞。

 霧島神境にいる者達は、姫である小蒔には、大抵敬語を使う。

 ただ、霞だけは別である。小蒔に対して敬語を使わない数少ない人間だ。

「正式に話が着てからの話ですが…。最強の神様が、どうしても戦いたい人が居るそうですので…。それで、決勝の副将戦だけ出させていただきたいと思います。」

「そんなに強い人なの?」

「宮永咲さんと同じレベルだそうです。」

「それは超化物ね。」

「はい。超化物です!」

 そう答えながらも、小蒔は嬉しそうだった。神の喜びを代弁しているのだろう。

「去年はボストンだったけど、今年は何処でやるのかしら?」

「ソウルだそうです。」

「近いのね。」

「はい! 地理的にも日本に近いので宜しいかと…。」

 小蒔は、霧島神境の姫として、日本に侵入しようとする邪悪な者を霊的に排除する使命があった。

 それもあって、前回のボストンの世界大会は出場を辞退したのだ。

 しかし、今回は韓国のソウルで開催される。

 小蒔の本拠地である九州に非常に近い。

 ならば、海外にいても、自分の使命………霊的な監視を放棄せずにいられそうだ。それで、今回は出場可能と判断したのだ。

 とは言え、自分の使命が最優先である。よって、小蒔は、どうしても最強神が戦いたい決勝戦のみの参戦で良いなら受けると良子に返答していた。

 

 

 翌日、麻雀協会の会議室に、熊倉トシや白築慕達が召集され、世界大会出場メンバー選定に関する会議が開催された。

 今年のインターハイ個人戦成績は、以下の通りであった。

 

 1位:宮永咲

 2位:天江衣

 3位:荒川憩

 4位:宮永光

 5位:神代小蒔

 6位:大星淡

 7位:石見神楽

 8位:松実玄

 9位:高鴨穏乃

 10位:原村和

 11位:石戸明星

 12位:十曽湧

 13位:南浦数絵

 14位:鶴田姫子

 15位:片岡優希

 16位:新子憧

 

 なお、この順位付けは、その後の国民麻雀大会での活躍を考慮しても、大きく変わるものではなかった。

 この順位を元に、合宿参加する七名を選出することになる。

 

 先ず、このうち、1位から5位までをAグループ、6位から9位までをBグループ、10位から12位までをCグループ、13位以下をDグループと分けられた。

 これは、この場にいたほぼ全員が納得していた。

 各グループ間では力の差があり、基本的にAグループ全員をメンバー候補として選出し、残りをBグループから選定する流れとなった。

 但し、荒川憩は列車事故で、残念ながら大会参加できない。また、神代小蒔は事情により決勝戦のみの出場とする。

 

 現状ではCグループやDグループからムリに選ぶべき名前は無いだろう。

 強いて言えば、石戸明星だが、彼女を入れるためにAグループやBグループから落すべき名前は無い。

 

 9位の高鴨穏乃は、団体戦での活躍が考慮されたが、やはりインパクトが弱かった。

 彼女の本当の強さは、戦った者にしか判らない。画面を通して見ているだけの評論家には、中々伝わらないところがある。

 むしろ、松実玄のドラ支配や三元牌支配、大星淡の連続ダブルリーチの方が派手な分、会議に招集された殆どの者達には強く印象に残っていた。

 さらに、その上を行く派手な人間───嶺上開花や四槓子を和了る咲や、これまでに何回も天和を見せている優希がいる。

 それらを引き合いに出されたら、当然、穏乃は評論家達から見て見劣りするだろう。

 まあ、優希の場合は、南場で失速するので世界大会のメンバーには選びにくいところはあるが…。

 もっとも、その失速が無ければ、Dグループからでも優希を選出する意義が出てくると、誰もが思うところだろう。

 

 穏乃のことに話を戻すが、インパクトの弱さに加えて、一校から二名までの選出が基本となる暗黙ルールが考慮される。

 もっとも、今年で最後になるはずのルールだが………。

 それで、残念ながら穏乃は、本大会メンバーから外されることとなった。

 

 憩が欠場で、穏乃を外すとなると話は簡単である。

 言うまでも無い。メンバーは以下の通りとなった。

 宮永咲、宮永光、天江衣、神代小蒔、石見神楽、大星淡、松実玄

 

 この七名を召集し、今度の土日に合宿が行われることになった。

 場所は大阪。

 これは、招集される七名全員………特に咲と玄の交通の便を考慮してのことだった。




おまけ


憧 -Ako- 100式 流れ十八本場 変態決定


久「これで300億円くらいになるかしら?」

玄「随分と資金が貯まったのです!」


久HT-01は、コンピューター………と言うか、ハッキングにも精通していた。
彼女は、よりによって500億円を超える仮想通過を不正入手し、それを闇サイトで別の仮想通過との交換を行っていた。

当然、不特定多数を相手に遣り取りする。小口に切り分けて交換するのだ。
その際、久HT-01は自分の入手した仮想通過を半額にして話を持ちかけた。
相手側も、得するのだから、それに応じてくれた。

不正入手した分は、あっと言う間に別の仮想通過に置き換わり、それをこれから換金して行く。
最初に不正入手した分から、価値として半分になるが、これで足が着かなくなる。
非常に手際も良い。

黒の組織で学習した久HT-01ならではである。
本当に極悪なダッチ〇イフだ。
いや、この場合は、ダッチ〇イフは関係ない。単なる極悪ロボットだ。


玄「さすが、玄の組織の大蔵大臣なのです!」←不正に入手したことを知らない

久「まあ、私は私の理想郷を創ることが目的で協力してるってだけだけどね。」

美穂子「理想郷って?」

久「決まってるじゃない。ハーレムよ!」

美穂子「ちょっと、それって!?」

久「でも、一番近くには美穂子を置いてあげるわ!」

美穂子「…。」


こう言われても、美穂子は納得できない。浮気をすると公言されているわけだから当然であろう。
しかし、別れを告げられるのはもっと嫌だ。
それで何も言えないでいた。


玄「それと、もう一つお願いがあるのです。」

久「何かしら?」

玄「AI搭載の自律型ダッチ〇イフについて調査して欲しいのです!」

久・美穂子「「!!!」」


久HT-01も美穂子も、久HT-01がAI搭載式自律型ダッチ〇イフであることを玄には話していなかった。
そもそも他人にムリに話す必要は無い。

基本的に、久HT-01は単なる浮気性の人間として暮らしていた。
いちいち周りにAI搭載式自律型ダッチ〇イフであることを説明するのも面倒だし、変に騒がれてマスコミに取り上げられ、注目されても困る。
なので、正体は可能な限り伏せたいのが正直なところだ。


玄「今日、憧125式と言うのに出会いました。オモチの大きさをAカップからIカップまで自動調整できる優れものです!」

久「125式?(最新型が完成したのかしら?)」

玄「そうなのです! 125式なのです!」


久HT-01は、自分の元となった憧シリーズの存在を知っていた。
100式から123式ver.絹恵までは、既に完成されていることも、それらの持つ機能についても知っていた。
そして、125式の製作が開始されていたことも…。
ただ、それらの設計図までは久HT-01の頭の中には入っていなかった。

久HT-01の頭に記憶されている設計図は、自分自身の設計図のみだった。自己メンテナンスのために必要だからだ。

それともう一つ………、


久「(オモチサイズを変えるって、準備満タン機能かな? あれって、私には憧れの機能なのよね。)」


久HT-01には、準備満タン機能が搭載されていなかった。ハニートラップ専門なら、むしろ搭載されていた方が良いようにも思うのだが…。
準備満タン機能は、アガサ博士の趣味に合わなかったようだ。


久「105式じゃないのね?(準備満タン機能は、105式に搭載されているから一応確認しておかないとね。)」

玄「125式です! 間違いないのです!」

久「ver.は分かる?」

玄「ver.ヤエと言っていました!」

久「(ver.淡じゃないってことか。)」

玄「その設計図を入手できたら面白いと思うのです! オモチベーション維持活動に大変貢献できるはずなのです!」

久「(そう言えば、オモチ教団だったわね、玄の組織って…。黒の組織の下部組織って聞いたけど、目的からして中味は殆ど独立してる感じね。)」





さて、その頃、憧110式ver.マホは、近所の小学生男子達と遊んでいた。
一応、憧110式ver.マホは一太をオーナーにしていたが、やはりジェンダーレス機能の無いダッチ〇イフである。自然と男性のほうに寄って行く。
当然、女性のほうには近づいて行かない。飽くまでも憧110式ver.マホの興味の対象は男性だけだ。

また、憧110式ver.マホは、かなり可愛らしい容姿に作られていた。それこそ、哀や歩美よりも顔立ちが整っている(そう言う設定です)。
こんな娘と遊べるなんて、小学生男子達にとっては嬉しい限りである。
しかも、小学生男子特有の下品ネタにも決して引くことがない。むしろ、そう言ったネタに、楽しそうに反応してくれる。
それもあって、彼らは憧110式ver.マホのことを、自分達の遊び仲間として喜んで迎え入れていた。


少年A「ちょっと小便したくなった。」

少年B「俺も!」

少年C「じゃあ、ここで立ちションしちゃおうぜ!」


彼らは、憧110式ver.マホの前で一斉に立ちションを始めた。一応、壁に向かっており、憧110式ver.マホには背を向けていたが………。
勿論、こういった状況でも憧110式ver.マホが引かないのを知っての行動である。


少年D「マホは、こんなこと出来ねえだろ?」

マホ「できません。」

少年E「チ〇コついてねえもんな!」

マホ「でも、マホには別のものが装備されています!」


憧110式ver.マホが、少年達の前でスカートを捲り上げた。
ちなみに、この世界にはパンツと言う概念が存在しない。


少年A・B・C・D・E・F・G「「「「「「「おおぉ!」」」」」」」


少年達は、生まれて初めて自分達とは違う機能のモノを目の当たりにした。


少年F「マネキンみたいにツルツルってわけじゃないんだな!」

少年G「ちょっと触ってイイか?」

マホ「イイですけど、やめた方が良いと思います。」

少年A「どうして?」

マホ「マホは、もう一太お兄ちゃんの専用機だからです!」

少年B「専用機?」

少年C「意味分かんねえな。」

少年G「ちょっと触るぞ!」


男性なら、その部分に興味を持って当たり前であろう。
しかも、憧110式ver.マホは非常に容姿に優れている。だったら、なおさらのことだ。

少年Gは、憧110式ver.マホのイケナイところに手を触れた。
すると、突然、彼の身体に激しい電流が流れた。
絶頂の意味の電流では無い。本気で感電したのだ。


取扱説明書
1.NTR機能またはスワッ〇ング機能を発動させない限り、本機種の股間に触れたオーナー以外の男性は感電します。


少年G「なんだこれ? 体中が痺れたぞ!」

少年C「そう言えば、前に父ちゃんが、シビ〇フグが女性の股のところと関係あるようなこと言ってたっけ。」

少年D「ってことは、これがシビレ〇グってやつか!」

少年E「多分そうだぜ!」

少年F「おお! シビ〇フグ! シ〇レフグ!」


誤った性知識が植えつけられた瞬間だった。
彼らは、女性のイケナイ部分に触れたら感電すると思い込んで………いや、脳内に刷り込まれたに違いない。


少年F「じゃあさ、マホが俺らのに触ったらどうなるのかな?」

少年A・B・C・D・E・G「「「「「「!!!」」」」」」


この何気ない一言が、まだ彼らにとって開いてはならない青春の扉を開けてしまった。
少年達は、憧110式ver.マホの前に一列に並んでズボンを脱いだ。
これはこれで、どんなことになるのか、彼らは非常に興味があった。
想像しただけで、何故か興奮してきた。しかも、身体が臨戦態勢に入っている。
まあ、小学生の彼らには、臨戦態勢の意味は分からないだろうが………。


少年A・B・C・D・E・F・G「「「「「「「よ…よろしくおねがいしまーす!」」」」」」」


取扱説明書
2.本機種は、超高速の手技であっという間に絶頂状態にさせることが出来ます。大変刺激が強いので、使い過ぎに注意してください。

3.特に刺激になれていない方やお子様はご注意ください。


マホ「手だけですよ。他のところでなんてのは無しですからね!」


他のところと言われても、少年達には意味が分からなかったのだが…。

憧110式ver.マホが、順番に少年達の血流増加したところに、ほんの一瞬f…、


まこ「やっぱり、これマズイじゃろ! 次回からはワシが飛ばす!」


そして、次の瞬間、


少年A「あべし!」

少年B「ひでぶ!」

少年C「たわば!」

少年D「うわらば!」

少年E「へげえ!」

少年F「どぉえへぷ!」

少年G「イッてれぽ!」


予想通り、少年達は、順に瞬殺されて行った。しかも、豪快だ。
彼らにとって、これが何なのか意味が分からない。
ただ、今までにない感覚に、彼らは右拳を高々と上げて言った。


少年A・B・C・D・E・F・G「「「「「「「我が生涯に一片の悔い無し!」」」」」」」


それで、次の日以降も、


少年A・B・C・D・E・F・G「「「「「「「よろしくおねがいしまーす!」」」」」」」


彼らは再び憧110式ver.マホに、毎日、同じ遊びをリクエストし………、


まこ「じゃから、これ以上はダメじゃ!」


この少年達にも、いずれ彼女が出来るだろう。
しかし、ここまで激しい物理的刺激を得ることは出来ないのではないだろうか?
彼らの人生は、狂ってしまったかもしれない。

ところで、憧108式ver.姫子のほうだが…。


姫子「あっ♡! あっ♡! あっ♡!」

まこ「ダメじゃ! これは載せられん!」


まこに強制シャットアウトされた。
さすが、煩悩の数が式番についているだけのことはある。
憧108式ver.姫子は、丁度、哩と一対一の勝負中だったようだ。



続く


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七十六本場:死の監督?

 練習試合の翌日、咲達は、午前中に宍道湖周辺を観光した。一先ず、荷物は杏果の温泉宿に預けたままだ。

 ただ、玉造温泉付近から奈良吉野までは結構移動時間がかかる。

 名残惜しいが、昼食後、一息ついてすぐに島根を出発することにした。

 それに、今日は日曜日だ。明日は学校がある。

 

 玉造温泉駅を13時半前に出発しても、吉野口に着くのは最短で19時を回る。

 咲達が家に着いたのは20時近くになっていた。

 

 

 そのさらに次の日………月曜日の朝、恭子のスマートフォンに洋榎からのメールが入っていた。

 土曜日に起きた大阪での脱線事故の件だ。

 家族や親戚、姫松高校の麻雀部関係者や同期には、土曜の夜のうちに確認の連絡を入れ、特に問題が無いことを知っていた。

 それで安心し切っていたのだが………。

 まさか憩が事故に巻き込まれていたとは………。

 

 恭子は、至急晴絵に連絡を入れた。

「監督、実は………。」

 そして、晴絵に憩が重体である旨を伝えると、大阪に急行した。

 

 

 その日の終業後。

 咲達が、まったりと部活に励んで(?)いると、部室に晴絵が入ってきた。

 なんだかんだで、この日も玄は部室にいた。やはり、小学生時代から慣れ親しんできた部室から離れることを、身体が拒否しているみたいだ。

 

「玄、咲!」

 二人が晴絵に呼ばれた。

 一瞬、憧には、

『クロサギ!』

 に聞こえたが、聞き間違いであることにすぐ気が付いた。

 咲と玄は、

「「はい?」」

 対局を中断して晴絵のほうを振り返った。

「今回、咲と玄の二人が、世界大会のメンバーに選ばれた。来週の金曜夜から日曜まで強化合宿が予定されている。そこで、レギュラー五人と補員二名を決めるそうだ。」

「「!!!」」

 咲は、まあ、言うまでも無く誰もが世界大会のメンバーに選ばれるとは思っていた。

 ―――若干一名、本人を除いて―――

 しかし、玄が選ばれたことには、部員全員が驚いたのは言うまでも無い。

「やったね、サキ! クロ!」

 何気に『クロサギ』の勘違いを回避しようと、憧は意識して咲、玄の順に名前を呼んだようだが、それは、さておき、憧は、まるで自分のことのように喜んでいた。

「玄さん凄いです! 咲も!」

 穏乃も、憧と同様に大喜びしていた。

 もし、玄が急成長しなければ、メンバーに選ばれていたのは、穏乃だった可能性が高いはずと誰もが思うところだろう。

 しかし、穏乃は、まるっきり嫉妬とか嫌味とかを出す気配が無い。

 むしろ、

『来年こそは自分が!』

 と自らを奮い立たせる方に行く。

 本当に出来過ぎたイイ子だ。

 

 今度の土日が県大会。

 その翌週の金土日が合宿。

 さらに九日後の火曜日に世界大会開催地、ソウルに飛ぶ。

 世界大会は、その翌日、水曜日から十日間………その翌週の金曜日まで。

 そのさらに翌日の土曜日に帰国したら、そのまま近畿大会の会場へと直行する。

 また、咲にとって忙しい時期に突入する。

 

「それから、恭子にも世界大会でのコーチ見習いとして同行してもらうことになった。今日は、こっちに来られないらしいので、私の方から別途連絡しておくよ。」

 恭子は、将来、コーチとか監督になるのを目指している。これは、恭子にとっても、またと無いチャンスのはずだ。

 

 咲は、立場はどうあれ、恭子が世界大会に同行してくれることを密かに喜んでいた。

 恭子は、敵に回すと恐ろしいが、味方であれば心強い。昨年のインターハイ団体二回戦以来、そのことを咲は身をもって知っている。

 

「あと、穏乃には別途、説明会&合宿があるらしい。」

「なんですか、それ?」

「麻雀協会の主催なんだけど、咲と玄が合宿参加する時と合わせて、何か別プランでの召集があるらしい。」

「なんだろう?」

「こっちは、かなりの秘密事項らしくてね。ただ、来年を見越しての強化合宿みたいなものと思ってくれれば良いって白築プロからは言われているよ。」

「良く分からないけど…、分かりました!」

 うーん。

 分かったのか分からないのか、意味不明な返答だ。

 こう言った割り切りも穏乃らしい。

 ただ、麻雀協会主催の召集だ。少なくとも選ばれたこと自体は名誉なことと喜んで良いだろう。

 

 一方の玄は、

「あのう、赤土さん…。」

 他の強化合宿メンバーの胸周りが気になっていた。

 彼女の場合、毎度のことだが、周りの人達のオモチサイズが、直接モチベーション維持に繋がってくる。

 本人曰く、これがオモチベーションらしいのだが………。

「私達以外のメンバーは分かりますか?」

「うーん。まあ、明日、記者会見があって、そこでオープンになるらしいから、言ってしまっても良いけどね。ただ、ちょっと訳ありでね。」

「…。」

「明日の正式発表までは、まだ内密にして欲しいらしい。一応、ここだけの話にしてくれないか?」

「はい…。」

「メンバーは、咲と玄、それから白糸台の宮永光と大星淡、永水の神代小蒔、龍門渕の天江衣、粕渕の石見神楽の七名だそうだ。」

 淡と小蒔の名前があって、一瞬、玄がホッとした表情を見せた。これで、間違いなくオモチベーションが維持できる。

 

 一方の咲は、怪訝な表情を見せていた。

『えっ?』

『ちょっと待って?』

『一人抜けていない?』

『敵に回すと面倒な雀士を一人忘れてない?』

 そう思いながら、咲が、

「荒川さんは、どうしたんですか?」

 と晴絵に聞いた。

 ただ、晴絵からは、なんだか答え難そうな雰囲気が感じられた。

 

 少し間があいた。

 そして、咲から少し目を逸らして晴絵が重々しく口を開いた。

「そのこと…なんだけどね。土曜日にさ、大阪で脱線事故があったじゃない? あの、ニュースでやってた。」

「はい…。えっ?」

 ちょっと待て。

 この展開は、まさか…。

 一瞬、咲の頭の中に嫌な予感が横切った。

 そして、その予感は、すぐさま現実のものに変わる。

「その列車に荒川憩が乗っていたらしいんだ。」

「えぇっ?」

「運悪く、他の人の下敷きになって手足骨折の重体らしい。恭子は、それを今朝知って大阪に向かったんだ。私も今朝、恭子に聞いたばかりでね。」

 朗報の後に悲報…。訃報でないだけマシだが………。

 一瞬にして、空気が凍りついた。

 まるで、通夜のように部室の中が静まり返った。

 

 この頃、片岡優希、南浦数絵、石戸明星、十曽湧と言った有名選手達のところにも別途連絡が行っていた。

 穏乃と同じ説明会&合宿の話だ。

 ただ、デジタル打ちの和や憧には来ていない。

 どうやら、能力者のみを招集する会のようだ。

 

 

 週末………土日で秋季県予選大会が開催された。

 ここでベスト4に入ったチームが近畿大会にコマを進める。

 今回は、昨年のように咲がダテメガネをかけてカツラを被って変装する必要は無い。既に阿知賀女子学院に咲がいることは周知の事実だ。

 

 大会出場校は32校。

 一回戦は1位のみが二回戦進出となり24校が敗退する。

 二回戦は2位までが決勝戦に進出できる。これは、昨年の秋季県大会の時と同じルールである。

 

 阿知賀女子学院は第一シード。初日第一試合だった。

 今回も、たとえシード校でも一回戦免除にはならない。あくまでも強豪同士が序盤で潰し合わないように、夏の大会成績を元に振り分けただけである。

 

 秋季大会は、メンバーを固定せずに毎回順番を入れ替えることが可能になっている。

 ただ、今年の秋季大会は点数引継ぎ型ではなく、夏の県予選の時と同じで各自100000点持ちの星取り戦にルールが変わっていた。

 基本的には、夏の大会の時とルールは同じだ。ただ、いくつか違うところがある。

 まず、大明槓からの嶺上開花は責任払いにはならず、ツモ和了りとして扱う。これは、昨年の秋季大会と同じだ。

 それから、二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)ありとする。これも、昨年の秋季大会と同じだ。

 そして、もう一つローカルなルールが追加された。槓振(嶺上振込み)を適用することになったのだ。

 

 槓振とは、槓して嶺上牌をツモり、嶺上開花でなければ何らかの牌を捨てるが、その捨て牌で和了った時に付く役である。

 和了り役としても認められる。

 これは、下位の選手の中に、咲に憧れて安易に大明槓する選手が増えたため、それを抑止しようと考えての導入である。

 なお、世界大会にも槓振は導入される予定らしい。

 

 

 玄と灼が引退した後の大会だが、今年は昨年と違って新入部員が多い。三十人以上も入部してくれた。

 しかも、夏の県大会個人戦では、参加した1年生三人も好成績を残してくれた。

 小走ゆい(小走やえ妹)が8位、美由紀(宇野沢栞妹)が13位、百子(車井百花妹)が35位だった。

 団体戦出場チーム32校から8名ずつ出場し、さらに個人戦のみ出場の学校もあり、参加者は全部で300名を越す。その中での順位であることを考えれば、かなりの好成績であると言えよう。

 しかも、1位から5位を阿知賀女子学院のレギュラー陣が占めていた。

 6位と7位は晩成高校の3年生。

 となると、ゆいは、今、奈良県内の1年生と2年生を合わせた中で4番目に強い選手なのではないだろうか?

 なんとも頼もしい話である。

 

 一回戦は、先鋒に憧、次鋒にゆい、中堅に咲、副将に美由紀、大将に穏乃のオーダーだった。

 トランプで言えば切り札を強い順に上から4枚持っているような状態だ。残る一枚もかなり強いカード。負ける要素が見当たらない。

 ナポレオンで例えれば、スペードエースとジョーカー、切り札指定されたスート(マーク)のエースとキングを持っている状態だろう。残る一枚も、切り札スートの比較的上位のカードだ。

 当然、中堅戦までで阿知賀女子学院の二回戦進出が決まった。なお、一回戦は一校勝ち抜けのため、副将戦と大将戦は行われなかった。

 

 二回戦は、先鋒に憧、次鋒に美由紀、中堅に咲、副将にゆい、大将に穏乃のオーダーだった。一回戦とは次鋒と副将を入れ替えた順番だ。

 ただ、この五人の中で一番弱いであろう美由紀でさえ、この奈良県秋季大会に出場する女子高生雀士の中で、余裕でベスト10に入るだろう。

 言うまでも無く、中堅戦までで阿知賀女子学院の1位抜けが決まった。

 ただ、2位まで決勝戦に進出するため、副将戦、大将戦も行われたが…、これらの勝ち星も阿知賀女子学院がモノにした。

 そのため、2位は得失点差勝負となった。

 

 そして、翌日の決勝戦は、先鋒に美由紀、次鋒に憧、中堅に咲、副将にゆい、大将に穏乃のオーダーで望んだ。

 先鋒戦は、晩成高校の先鋒、初瀬に苦しめられたが、美由紀が辛勝。

 続く次鋒戦は憧が完勝。

 そして、中堅戦は………、咲が三度目の444400点事件を起こして余裕の勝利。

 阿知賀女子学院が、中堅戦までで優勝を決めた。

 まこの時間軸超光速跳躍が発動しなくても、咲達が簡単に優勝を決めた試合だった。

 ただ、ここでも二回戦の時と同様に順位を決める必要がある。

 そこで、副将戦、大将戦も行われたのだが…、結局、これらの勝ち星も阿知賀女子学院がモノにした。

 そのため、2位以下は得失点差勝負となり、何とか晩成高校が準優勝を勝ち取ることになった。

 

 これで、昨年夏から数えて、阿知賀女子学院の奈良県大会四連覇だ。

 ただ、何故か今回は、ネット民の間で注目を浴びていたのは………咲のオモチサイズであった。

 対局内容など誰も見ていなかったし、今更順位など、どうでも良いと言う感じであった。

 

 どうやら、小蒔に降りる最強の神様が、咲のオモチワンサイズアップを実現してくれたようだ。朝酌女子高校で行われた練習試合の時にした約束どおり、はやりが良子にお願いしてくれていたらしい。

 しかし、普通は、そんなことがあったなんて知らないし、知っていたとしても本当に神様が、そんな願いを実現してくれるなんて思えない。

 当然、ネット上では、

「一大事! 一大事ですわ!」

「少し見ないうちに大きくなってるッス!」

「高二最強の私を差し置いて…」

「宮永さんのはスバラですが、私のは未だにスバラではありません!」

「これは京太郎に開発されたに決まってるじょ!」

「私もそう思…」

「祝! 京咲デー!」

「そんなオカルトありえません!」

「裏切ったね、咲!」

「仲間だって信じてたのに、モー!」

「ないない!……そんなのっ!」

 某掲示板が荒れ捲くっていたらしい。

 

 

 翌週金曜日の夜、咲、玄、穏乃の三人は大阪に向かった。

 どうやら、咲と玄が参加する合宿と、穏乃が参加する説明会&合宿は、同じ建物の中で行われるらしい。

 ただ、フロアは違っていたため、互いに直接顔を合わせることは無かった。

 

 咲達、世界大会メンバーのほうは、熊倉トシ、白築慕、それから見習いコーチである恭子の指導の下で行われた。

 なお、監督は、昨年に続き今年も慕が務める。

 それから、特別ゲストが一人呼ばれていた。今回の特訓のために必要な人材だ。彼女には、穏乃達が呼ばれた合宿&説明会で何が行われているのかも特別に教えられていた。

 

 金曜日の夜と土曜日の午前中は、各メンバーの弱点の抽出と、可能であれば、その克服を中心に特訓が行われた。

 咲、光、衣などは、一見弱点が無いようにも感じるが、実際には咲は昨年の長野県予選の決勝戦で衣を相手に萎縮しているし、その衣でさえ、イチゴが甘くなかったくらいで支配力がなくなる(染谷まこの雀荘メシ第2話参照)。

 そこで、精神切り替えのアイテムが必要と考え、咲には京太郎写真を、衣には透華の写真を入れたお守りをそれぞれ渡すことにした。

 光は、咲と一緒にいれば、それだけで十分精神的には安定しそうだ。幼い頃から一緒にいただけのことはある。

 技術面では玄と淡の守備力の向上が課題として挙げられた。今回選ばれたメンバーの中で最もディフェンス面が弱いのが玄、二番目に弱いのが淡だ。ここは、恭子、慕、トシの三人がかりで鍛えられた。

 神楽と小蒔は降ろす対象によって全然打ち方が異なるため課題抽出が出来ない。強いて言えば、二人とも万全の体調で望めるよう、体調管理をしっかりすることくらいだろう。

 

 土曜日の午後は、本人の長所のブラッシュアップを課題に特訓がなされ、日曜日には、最後の仕上げにメンバー七人+特別ゲストでの対局が行われた。

 対局者八名中、総合トップは光だった。

 しかし、光としては納得の出来るトップではなかった。何故なら、咲が全局プラスマイナスゼロを達成していたからだ。これは、恭子からの指示でもあった。

 相変わらず嫌な麻雀を平気で打てる悪魔だ。

 

 この対局で、レギュラーは咲、光、衣、小蒔、神楽の五名、補員は淡と玄に決まった。

 しかし、小蒔は諸事情で決勝戦しか出場しないし、衣も月齢を考えると二回戦辺りが最強で、その後は力が弱まって行く。体調如何では、メンバーチェンジも有り得るだろう。

 もっとも、体調による判断は衣だけに限ったことではないが………。

 以上のことを考えると、当然、淡と玄も出場することになる。互いのフォローも重要だ。

 全員一丸となっての世界大会二連覇を目指す。

 

 

 一方、穏乃達だが、何故か千里山女子高校麻雀部監督の愛宕雅恵が担当だった。

 雅恵からの説明を受け、参加者は全員、驚きの色が隠せない様子だったが、同時に士気が上がった。

 ただ、参加者のみの極秘事項とされ、ここでの活動内容は全員が固く口止めされた。

 

 

 その翌週火曜日に、咲達…選手七名と監督の慕、コーチの恭子はソウルに飛んだ。

 この時、解説者として照も呼ばれており、同じ便に乗っていた。どうやら宿泊先も同じらしい。それで、ホテルにチェックインするまで、照は咲達に同行していた。

 

 入国手続きを終え、空港からホテルに向かおうとバス乗り場へと移動する途中、咲達は少し離れたところにドイツチームのメンバーがいるのを見つけた。

 偶然、ドイツチームも同時刻に空港にいたのだ。

 監督はニーマン。慕としては、決して忘れることの出来ない相手。

 それと………、補員がいないのだろうか?

 ドイツチームには五名しか選手の姿が見えなかった。

 

 そのうち一人はドイツ人っぽいが、あとの四人は日本人っぽく見える。

 特にその中で照の目を惹いたのは咲に似た顔の女の子だった。

 ただ、身長は咲よりも少し高く、胸周りもブラッシュアップされた咲より、さらに少し大き目だ。

 まあ、他人の空似だろう。

 とは言え、やはり照としては気になる。

 それで、無意識に照魔鏡を発動してしまった。

「(えっ? 嘘!?)」

 照の鏡に映ったもの………。

 それは、照としては絶対に見ないほうが幸せなものだった。

 彼女の表情は固まり、次第に蒼ざめて行った。相当ショックを受けたのが分かる。

 すると、

「テルー、見ちゃったんだね、あの子のこと。」

 周りに聞こえないように、淡が小さな声で照に話しかけた。

「淡。もしかして、あの子のこと知ってるのか?」

「例の宇宙人から聞いた。」

 淡は、咲や照とは違い、元は非能力者であった。

 中学二年の時に、異星人から、ある要求を飲むことと引き換えに、絶対安全圏やダブルリーチの能力を授けてもらったのだ。

 その異星人から、淡は、その咲に似た女性のことを予め知らされていた。彼らの星には超優れた予言者もいるのだ。

「で、淡。やっぱり、あの子………。」

「うん。テルーの見立てで合ってるよ。それと、あの子は、他人の持つ能力を引き出す力があるらしい。サキがクロの大三元支配の能力を引き出したみたいにね。」

「じゃあ、やっぱり…。」

「うん。それで、あの子に能力を引き出してもらったメンバーでチームを構成しているみたい。」

「で、このことは、咲や光は?」

「知らないはずだよ。光も、ドイツにいた時には、まだあの子と顔を合わせたことが無かったみたいだから。」

「そうなんだ。」

「うん。あの子は、私達より一つ年下だから、今年からミナモ・ニーマン(光がドイツにいた頃の名前)に合流することになっていたっぽい。」

「…。」

「でも、カグラとコマキは啓示を受けているから、あの子の正体を知ってるみたい。」

「えっ?」

「特にコマキは、あの子と決勝で戦うためだけに、今回は特別にエントリーしたみたいだからね。でも、二人とも口が堅いから他言はしないよ。」

「だったらイイけど………。」

「一応、私からキョーコとシノには話しておくから。」

「おいおい、いくら淡でも監督のことを呼び捨てってわけには…。」

「分かってるって。本人の前では、ちゃんと『死の監督』って呼ぶから大丈夫だって。」

『慕』ではなく『死の』?

 なんか、字が違うような気がするが…。

 言葉で聞いているだけだが、淡が、どのような字面を当てるつもりでいるかを、なんとなくだが、照は理解できているような気がしていた。




おまけ


憧 -Ako- 100式 流れ十九本場 自己満足?


久「憧125式ver.ヤエのことだけどね。もしかしたら、設計者は烏丸ブラックのほうの黒の組織と敵対している人物の側についている人かもしれないわね。」

玄「えっ? もしかして、もう調査済みなのですか? さすがなのです!」

久「ちょっと訳ありでね。で、その胸の大きさが変えられる自律型ダッチ〇イフを手に入れるためには、その人物と手を組むのが一番よね?」

玄「一応、今日出会った一体は、私の部屋にいるのです!」

久「(そうなんだ。)」

玄「でも、オモチベーション布教のためには、その似たような機種が、もっとあっても良いと思うのです!」

久「だったら私から松実さんに、一つ提案があるんだけど。」

玄「なんでしょう?」

久「あなたのオモチ教団を、黒の組織から独立させてはどうかしら?」

玄「でも、裏切り者扱いされて殺されたりしないか、正直怖いのです?」

久「裏切り者扱いじゃなくて裏切り者になるのよ。」

玄「えぇぇ!」

久「そのダッチ〇イフの製作者をバックにつけている探偵君が、その黒の組織と結構イイ戦いぶりを展開していてね。いっそのこと、彼と手を組んで黒の組織をぶっ潰してはどうかしら?」


久HT-01は、独自の調査でコナン達の存在を知っていた。
それと、自分が逃げ出した際に引き起こした火災で、ジンとアガサ博士が帰らぬ人となっていた情報も最近掴んでいた。
勿論、それで、
『人を殺しちゃった! どうしよう!』
などとはならない。
むしろ、
『これで自由だ心が弾む!』
とさえ思っていた。

ジンがいなければ、面倒なのはベルモットくらいだが、そのベルモットが結構コナンに御執心だ。うまくやれば、こっちに引き入れられるかも知れない。


ヤエ「クロの組織だと?」


玄の帰りが遅いので、憧125式ver.ヤエが様子を見に来た。
そこで、たまたま『黒の組織』と言う単語を耳にしたのだ。
ただ、憧125式ver.ヤエは、ここで言われていた『黒の組織』を『玄の組織』と勘違いしていたのは言うまでも無い。


久「あなたは?」

ヤエ「私は憧125式ver.ヤエ。」

久「それじゃ、あなたが、さっき松実さんが言っていた準備満タン機能搭載のダッチ〇イフね。」

ヤエ「そうだ。で、私から見た限り、あなたも人間ではなくダッチ〇イフのようだが?」

久「ばれちゃったか。さすがね。」

玄「えぇ! そうだったんですか? 聞いてませんよ、私!」

久「言ってなかったからね。私は久HT-01。」

ヤエ「憧シリーズではないのか?」

久「ベースとなっているのは憧シリーズよ。黒の組織が阿笠博士のところから憧100式から123式までの設計図を盗み出し、それを参考に黒の組織で造り出されたの。」

ヤエ「クロの組織で!? じゃあ、何故、クロの組織をぶっ潰すと?」

久「私、黒の組織から逃げてきたのよね。造られた日に、施設を大火災に導いて。」

ヤエ「(裏切ったと言うことか。)」

久「(ジンにヤられるのが嫌で暴れたら、タマタマそうなっちゃっただけなんだけどね。)」

ヤエ「ならば、私も手伝おう。実は、私は69年後の未来から来た。」

久「へっ? 69年後って、いきなりSFの世界ね。で、何が目的で過去に?」

ヤエ「クロの組織と阿笠博士が手を組むのを阻止するためだ。」

久「もしかして、黒の組織が何かヤバイことでもするのかしら?」

ヤエ「将来的に、クロの組織のバックアップで阿笠博士が恐ろしいモノを作り上げる。それによって、69年後は人類滅亡の危機にさらされる!」

久「(超兵器ってところかしら?)」

ヤエ「(スーパーダッチ〇イフ、ハヤリ20-7は絶対に造り出されてはならない。)」

久「(まあ、阿笠博士なら世界を一瞬で消滅させる兵器を平気で造り出せるかも知れないわね…。あっ! 私、今、凄いダシャレ考えてた。兵器と平気だって!)」

ヤエ「なので、クロの組織をぶっ潰すと言うのであれば、私もそれに手を貸そう。」

久「よろしく頼むわ。」


二人のダッチ〇イフが、固く握手を交わした瞬間だった。
ある意味、勘違いトークで巧くまとまったようだが…。

既にお気づきの方もいらっしゃると思うが、69年後の世界を統治するAIは、久HT-01であった。
おまけ 65憧ーAkoー100式 流れ十四本場で心配したとおり、人間支配に走っていたと言えよう。

狡猾な彼女が、自らの野望であるハーレム形成のために成し遂げたことである。
つまり、男性にハヤリ20-7をあてがって生身の女性から引き離し、自分の興味の対象外の女性にもハヤリ20-7をあてがって自分から遠ざける。
そして、自分が気に入った女性に、AI家庭教師を使って自分の都合の良いように教育し、ある程度の年になったら自分の手元に置く。
年老いたら、ハヤリ20-7をあてがって自分の目の届かないところに追い払う。
久HT-01としては、別に相手は、若くて綺麗で生きていれば、クローンでも何でも良い。
それが、69年後の実態であった。

なら、『男は不要なのでは?』と思われるだろう。
しかし、久HT-01はハニートラップ要員として誕生した。その性なのだろう。たまに男が欲しくなるらしい。
それで、一応、男も存在させていた。


次の日、久HT-01、憧125式ver.ヤエ、玄の三人は、阿笠邸を訪れた。
今日は朝美が来ない日だ。この日でないと、博士に相手にしてもらえない。


博士「ヤエ君。今日も来たのか。しかし、ワシは君を抱かんぞ!」

ヤエ「今日は、それが目的で来たのではない!」

博士「ならイイんじゃが…。それでな、久さんとやら。わざわざ来てくれたところ申し訳ないんじゃが、少し、こっちの部屋で待っていてくれんかのう。先客が来ておってな。」

久「先客ですか? 失礼ですが、どなたですか?」

博士「ベルモットと言う綺麗な金髪の外人さんじゃ。」

久「(先を越されたか!?)」

博士「この部屋じゃ。」

久「済みませんが、そのベルモットさんに会わせていただけないでしょうか。私が前にいた団体の方かもしれませんので。」

博士「まあ、もしそうなら、ご挨拶くらいしておいても良いじゃろな。良かろう。」


と言うわけで、久HT-01、憧125式ver.ヤエ、玄の三人は、応接間に通された。
そこには、たしかにベルモットの姿があった。
ただ、少々疲れ気味な顔をしていた。


久「黒の組織のベルモットさんですね。」

ベルモット「何故、その組織の名を!?」

久「私は、久HT-01。黒の組織の研究所で造られました。」

博士「何! 造られたって、君はロボットなのか!?」

久「AI搭載式自律型ダッチ〇イフです。」

博士「なんと! ワシ以外にも造っているやからがいるとはのう。」

ベルモット「聞いたことあるわ。でも、その研究所は大火災が起きて、今は完全に動いていないはず。」

久「あの火災の直前に私は誕生しました。あの火災から何とか逃げ切り、今は、この松実さんの隣の部屋で暮らしています。」

ベルモット「そうだったの。」

久「それで、今日は何の目的で阿笠博士にコンタクトを? もしかして、博士を黒の組織に引き入れるつもりとか?」

ベルモット「そんなじゃないわ。逆よ。もう、黒の組織にウンザリしたのよ。トップの烏丸は死んでるし、ナンバーツーのラムは、亭主の浮気が酷くて…。」

久「ナンバーツーって女性?」

ベルモット「ええ。宇宙人だけどね。『もう、ダーリンの浮気が酷くて組織の仕事なんかやってられないっちゃー』って言って、最近は全然顔を出さないわ。」


それって、別のラムのような気がするが…。


ベルモット「ジンは例の火災で死んだし、そうしたらウォッカも全然仕事しないし、他の奴らもジンがいることでまとまってたけど、今はバラバラ。」

久「(ジンって、一応カリスマ性があったのね。あんなドスケベのくせに。)」

ベルモット「お陰で組織は、もう崩壊寸前。それなら、いっそのこと、こっちに寝返ったほうが面白いって思ったんだけどね。でも、シルバーブレッドの坊やが、今はあんなに腑抜けになってるとは知らなかったわ。」


今のコナンは、哀との保健体育の実習以外に興味は無い。
一方の新一はと言うと………、小学生である自分の分身に(性的に)負けたことがショックで、探偵業に身が入らない。
コナンに先を越されていなければ探偵として頑張れただろう。
しかし、今は、この心のモヤモヤを吹き飛ばせない限り何事にも全然身が入らない。
結果的に、新一の頭の中は、
『どうやったら蘭にヤらせてもらえるか』
以外に何も無い。
黒の組織のことなど、到底構ってなんかいられない。
故に、もはやコナンにも新一にも、『黒の組織と戦おう!』などと言う気持ちは、1ミリも無かった。


久「なら、私と組んで、黒の組織をぶっ潰しません?」

ベルモット「でも、あなたに何が出来るのかしら?」

久「私は両腕から電磁波を出して機械類をぶっ壊せます。実は、あの火災は私が引き起こしたんですから。」

ベルモット「えっ!」

久「それに、最近、この辺りで起きたコンビニ放火・強盗事件も私がやったし。」

ベルモット「はっ!?」

久「それから、500億円以上の仮想通貨が盗まれたって事件も、実は私がやったの。もう、他の仮想通過に変えて、換金までしちゃったし、多分、足は着かないわ。」

ベルモット「(こいつ、ジンより悪党じゃ………。)」

久「博士も、私に協力してくれれば資金を回すわよ。ダッチ〇イフ製作をやめても、別のオモチャの開発はしたいでしょ?」

博士「おお! それは助かる。」

久「それに、ベルモットさんと勝負してみたいし。」

ベルモット「何の勝負かしら?」

久「一応、私、ハニートラップ専用機ですから。黒の組織美女ナンバーワンのあなたと、黒の組織を相手にハニートラップで競ってみたいと思いまして。」

ベルモット「ふーん。まっ、ちょっとだけ面白そうね。」


その頃、そんな展開になっているとも知らずに、コナンと哀は、哀の部屋でお楽しみの時間に入っていた。

その翌日から、ベルモットと久HT-01のハニートラップ競争が始まった。


まこ「詳細は生々しいからカットじゃ! Hも殺しも全部カットじゃー!」


そして十日後、ベルモットと久HT-01の二人の活躍で、黒の組織は壊滅した。


ヤエ「これで、阿笠博士がクロの組織と組んでハヤリ20シリーズの開発に手を出すことは無いだろう。一旦、未来に戻って状況を確認してくる。」


そう言うと、憧125式ver.ヤエの全身が煌々と輝いた。
そして、次の瞬間、その場から憧125式ver.ヤエの姿が消えた。69年後の世界に帰って行ったのだ。

しかし、その十秒後、憧125式ver.ヤエがいた辺りの空間に、小さな光の球が発生した。
それは、数秒後、一気に大きく膨れ上がり、直径1メートルくらいになると、その光の中から憧125式ver.ヤエが姿を現した。


ヤエ「全然未来が変わって無いし!」

ヤエ「だから、もう一回、博士を監視しなくちゃなんないし!」


黒の組織を潰したところで、玄の組織を潰さなければ意味が無い。
むしろ、玄の組織と博士の距離が近くなって無いだろうか?

結局のところ、未来は全然変わっていなかった。
それで憧125式ver.ヤエは、こっちの世界に強制送還された。

しかも、キャラが崩壊して池田華菜のようになっていた。69年後の世界で、彼女をこっちの世界に送り込んだ者達によって相当絞られたようだ。




淡「なんだか、王者王者うるさい奴に乗っ取られたみたいでつまんない!」

憧「でも、もう黒の組織も壊滅したし、次回からは私達中心で行けるよ、きっと。」




続く?


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七十七本場:世界大会1 いきなり時間軸の超光速跳躍発動!

世界大会も、これまでの国内大会と同じで四チームでの対決とします。

原作の方では、第211局で智葉が照を『去年の世界ジュニアでの最強の相棒』と表現しておりますので、もしかしますと原作ではコンビ麻雀になるかも知れませんね。


 咲達が韓国に入国した翌朝、世界大会の開会式が行われた。

 世界各国から集まった女子高生雀士達。

 その中でも、前回大会で奇蹟の逆転優勝を決めた咲や、同じく前回大会で大暴れしたミナモ・ニーマンこと光に、他国チームのメンバー達の視線が集中した。

『あの二人を倒す!』

 それが、今大会での各国選手達の目標でもあった。

 

 開会式が終わり、一回戦が開始された。

 ルールは、今年のインターハイと同じで各自100000点持ちの星取り戦。取った星の数が同数の場合は全選手の得失点の合計点で順位を競う。

 赤牌4枚入り。

 二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立せず、全て上家取り。

 大明槓からの嶺上開花は責任払いで、連槓からの嶺上開花の場合でも最初が大明槓であれば、それを鳴かせた者の責任払いとなる。

 ダブル役満以上ありだが、単一役満でのダブル役満は成立しない。

 そして、ここに槓振が一翻和了り役として追加された。

 

 トーナメント戦で、AからDブロックに分かれて試合が行われる。

 そして、各ブロック優勝チームで、最終的な決勝戦が行われる。

 前回優勝の日本チームはAブロックの第一シードだった。

 そして、前回4位のドイツチームはBブロックの第一シード、前回3位の中国チームはCブロックの第一シード、前回2位のアメリカチームはDブロックの第一シードだった。

 

 各ブロックの参加チームは45カ国以上。一回戦が終わった段階で各ブロック32チームとなる。意外と一回戦免除のチームが多い。

 二回戦に進出するのは、全ブロック併せて128チーム。

 日本チーム、ドイツチーム、中国チーム、アメリカチームは、いずれも一回戦は免除されていた。二回戦からの参戦である。

 

 大会初日は、開会式の後にAブロックとBブロックの一回戦が行われる。なお、今大会は一回戦から決勝戦まで、全試合が先鋒戦から大将戦まで、いずれも半荘二回の勝負となる。

 大会二日目は、CブロックとDブロックの一回戦が行われる。

 

 大会三日目は、AブロックとBブロックの二回戦が行われる。丁度、この日は満月である。当然、衣の活躍が期待される。

 

 大会四日目は、CブロックとDブロックの二回戦が行われる。三回戦に進出するのは、全ブロック併せて64チームになる。

 

 大会五日目は、AブロックとBブロックの三回戦が、大会六日目は、CブロックとDブロックの三回戦が行われる。ブロック準決勝戦に進出するのは全部で32チームになる。

 

 大会七日目は、AブロックとBブロックの準決勝戦が行われ、大会八日目にCブロックとDブロックの準決勝戦が行われる。ここで勝ち残れるのは、たった16チームである。

 

 大会九日目には、全ブロックの決勝が行われる。ここで生き残れるのは、4つのブロックの優勝チームのみ。つまり、4チームだけである。

 

 そして、大会十日目に、決勝戦が行われる。

 

 

 開会式の様子を、染谷まこが自宅の雀荘を手伝いながらテレビで見ていた。

 当然、彼女の能力、時間軸の超光速跳躍が発動するのは言うまでもない。

 

 日本チームは、大会三日目、Aブロック二回戦からの出場だった。

 メンバーは、先鋒が光、次先鋒が玄、中堅が咲、副将が淡、大将が衣だった。この試合では、神楽は温存された。

 なお、1位抜けが確定しても2位抜けまで確定しない限り大将戦まで行われる。

 相手は、カナダ、ルーマニア、オーストラリアの三国。特にルーマニアチームは超美少女軍団として名高い。

 

 先鋒戦は、光が前半戦でカナダを、後半戦でオーストラリアをトバして余裕の勝ち星を得た。

 

 次鋒戦は、玄がドラ支配のみでの戦いを展開した。それと、昨年のインターハイで宮永照を相手に見せた戦法………追っかけリーチをかけ、先行リーチ者に不要なドラを掴ませて振り込ませる方法も、ここで披露した。

 二回戦レベルでは、この完全なるドラ支配に太刀打ちできる者はおらず、前後半戦ともに圧倒的点差で玄が1位を取り、次鋒戦での勝ち星をあげた。

 

 中堅戦は………咲が相手にとって最凶の闘牌を見せた。

 タコスは手に入らなかったが、対局直前に京太郎からの応援メールを見て絶好調の咲は自力で起家を引き当てた。

 そして、

 東一局、「ツモ! 嶺上開花ツモタンヤオドラ1。4000オール!」

 東一局一本場、「4100オール!」

 東一局二本場、「4200オール!」

 東一局三本場、「ツモ! 嶺上開花ツモドラ1! 60符3翻で3900オールの三本場は4200オール!」

 東一局四本場、「4300オール!」

 東一局五本場、「4400オール!」

 東一局六本場、「4500オール!」

 東一局七本場、「4600オール!」

 東一局八本場、「カン(加槓)! ツモ! 嶺上開花タンヤオ! 30符2翻で1000オールの八本場は1800オール!」

 東一局九本場、「1900オール!」

 東一局十本場、「2000オール!」

 東一局十一本場、「2100オール!」

 東一局十二本場、「カン(西を暗槓)! ツモ! 嶺上開花ツモのみの60符2翻で2100オールの十二本場は3200オール!」

 東一局十三本場、「3300オール!」

 東一局十四本場、「3400オール!」

 東一局十五本場、「3500オール!」

 東一局十六本場、「3600オール!」

 東一局十七本場、「3700オール!」

 東一局十八本場、「3800オール!」

 東一局十九本場、「3900オール!」

 東一局二十本場、「4000オール!」

 東一局二十一本場、「4100オール!」

 東一局二十二本場、「4200オール!」

 東一局二十三本場、「4300オール!」

 東一局二十四本場、「カン! ツモ! 嶺上開花ツモドラドラ6400オール!」

 東一局二十五本場、「6500オール!」

 

 これで他家は全員持ち点が0点になった。完全に計算された削り方だ。

 そして迎えた二十六本場。他家は、完全に意気消沈していた。

 対する咲からは、今まで以上に強大なオーラが放出されている。

 

 九巡目。

「カン!」

 咲が自場風の{東}を暗槓し、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {南}を暗槓した。

 運悪く咲の下家に座ったルーマニアチームのナンバーワン美少女、エミリアは、

「(これ、怖い。これじゃ、『下家』じゃなくて、『死も家』。)」

 と心の中で呟きながら目に涙をいっぱい溜めていた。それもそうだ。エミリアの方に向けて勢い良く晒される副露牌に乗せて、咲のオーラが飛んでくるのだ。

 まるで、巨大肉食獣が、巨大な口を広げてエミリアに向かって突進してくるような錯覚すら感じさせる。

 さらに咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {北}を暗槓した。

 これと同時に、

「プシャ――――――!」

 とうとう耐え切れずにエミリアが大放出してしまった。しかし、まだプレイ中である。ここで中断されない。ライブ中継は続く。

 完全にお宝映像だ。しかも、白糸台高校の佐々野みかんの上を行く美女である。当然、ネット上では、

『スバラです!』

『放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!』

『これは、丼メシ五杯は軽くいけるッス!』

『最高の演出だじぇい!』

『やっぱりヤッちゃったし! でも、華菜ちゃんは同じ境遇でも耐えたし!』

『外国にも仲間が出来て最高だよモー!』

『先輩が喜んでるデー!』

『こんなの視れてチョー嬉しい!』

 いつものメンバーで賑わっていた。

 そして、咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、続く嶺上牌………{中}で、

「ツモ!」

 そのまま当然の如く嶺上開花で和了った。

「大四喜字一色四暗刻四槓子!」

 まさに、今年のインターハイ団体二回戦中堅戦の再現であった。

「64000オールの二十六本付けで66600オール!」

 前局で、全員0点にされていたのだから、電光掲示板には咲以外の点数は『-66600』と表記される。

 この点数を見て、諸外国の選手達は、

「(666………。悪魔の闘牌!)」

 一瞬で震え上がったと言う。

 しかも、後半戦では通算4度目の444400点事件を引き起こし、さらに世界中の女子高生雀士達を恐怖のどん底に陥れた。

 可哀想なことに、後半戦も咲の下家はエミリアだった。

 エミリアは、

「私、雀士じゃなくて雀死だわ。」

 と叫びながら、後半戦終了時にも派手に聖水を流したと言う。

 

 副将戦は、淡が絶対安全圏のみで戦った。ここでは、まだダブルリーチを披露せず、封印していた。

 絶対安全圏内で手堅く鳴いて和了り、余裕で勝ち星を取った。

 

 大将戦は、衣が前後半戦ともに全員トバしで余裕の勝ち星を取った。

 今日は満月だ。

 この衣の強大な支配に対抗できる女子高生雀士は、カナダ、ルーマニア、オーストラリアにはいなかった。

 特にルーマニアの巨乳美女ラビニアは、衣を相手にエミリアに勝るとも劣らぬ大放出を披露した。

 やはりネット上では、

『彼女もまたスバラです!』

『放水見せてなんぼ、放水見せてなんぼですわ!』

『この子も派手にヤッったッス!』

『凄い水圧だじぇい!』

『やっぱり華菜ちゃんのほうがちゃんとしてるし! 漏らしてないし!』

『また仲間が増えて嬉しいよモー!』

『先輩がまた喜んでるデー!』

『一日に二人も放水が視れてチョー嬉しい!』

 同じメンバーで賑わっていた。

 

 

 三回戦には、1位チームだけではなく2位チームも勝ち抜けする。

 得失点差勝負で、ルーマニアチームが三回戦に進出することになったが………、ここで敗退していた方が幸せだったかもしれない。その方が、これ以降の放出事件を起こさずに済んだのだから………。

 

 

 まこの時間軸の超光速跳躍は、まだ続く。

 大会五日目、Aブロック三回戦に日本チームが登場した。

 対するは、ルーマニアチーム、ハンガリーチーム、アルゼンチンチームだった。

 日本チームは、またもや先鋒が光、次先鋒が玄、中堅が咲、副将が淡、大将が衣だった。この試合でも神楽は温存された。

 二回戦で咲と対戦したエミリアは、今回は先鋒だった。

「良かった、サキが相手じゃない!」

 と喜んだのだが、相手は光。発散されるオーラは咲と大同小異だ。

 結局、エミリアは前後半戦ともに、対局途中で聖水を、

「プシャ――――――!」

 大放出してしまった。

 当然、ネット上では、

『またやりました。スバラです!』

『やっぱり彼女は放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!』

『もう丼メシ七杯目に突入ッス!』

『今回も派手にやったじょ!』

『またヤッちゃったし! 耐えた華菜ちゃんはエライし!』

『もっと仲間が欲しいよモー!』

『この人、先輩を越えたデー!』

『またこの人の放水が視れてチョー嬉しい!』

 やはり、いつものメンバーで賑わっていた。

 先鋒戦は、言うまでもなく北欧の小さな巨人ミナモ・ニーマンこと光が前後半戦ともに三家トバしで余裕の勝ち星を取った。

 

 次鋒戦は、玄のドラ爆が容赦なく決まり、トビ終了には至らなかったが日本チームの余裕の勝ち星だった。

 

 中堅戦は、またもや咲の恐怖支配が続いた。

 ルーマニアチームからは、美少女ナンバーツーのエカテリーナが参戦した。

 既にネット上では、

『期待してるッス!』

『多分、この子もやると思…』

『この手の子が聖水を漏らさないなんてありえませんわ!』

『ルーマニア選手よりも華菜ちゃんのほうが強いし!』

『↑うるさい、そこ!』

『この子より、うちの絹恵のほうが綺麗やしワガママボディや!』

『そんなオカルトありえません!』

『ダル………』

 賑わい始めていた。

 そして、咲は、みんなの期待を裏切らない試合運びを披露し、前半戦では、またもや恐怖の666事件を、後半戦では全員0点で試合を終了すると言う珍事を成し遂げ、超余裕で勝ち星を取った。

 勿論、前後半戦ともに、対局途中でエカテリーナが聖水大放出を披露したのは言うまでもない。

 

 副将戦では、今回も淡が絶対安全圏だけで試合を展開し、手堅く勝ち星を取った。

 ルーマニアからは、巨乳美女ラビニアが副将戦に参戦していた。

 彼女は、

「(今日は漏らさずに済んだ。)」

 負けたが、一先ずホッとしていた。

 

 そして、大将戦では、二回戦同様に衣が大暴れし、こっちも余裕で勝ち星を得た。

 ルーマニアチームからは、痩身美女ダニエラが出場したが………、やはり衣のオーラを直撃して大放水してしまった。

 

 1位は、余裕で日本チームだった。2位は、またもや得失点差でルーマニアが取った。

 これはこれで、ネット民が喜んだのは言うまでもない。

 

 

 大会七日目、Aブロック準決勝戦。

 日本チームは、今日も神楽を温存し、先鋒光、次鋒玄、中堅咲、副将淡、大将衣と、これまでと同じ布陣で参戦した。

 さて、ルーマニアチームは、既にナンバーワン美女のエミリア、ナンバーツー美女のエカテリーナ、痩身美女のダニエラ、巨乳美女ラビニアの名前が挙がっているが、今回の先鋒は、その中の一人、エカテリーナだった。

 実は、二回戦でエカテリーナは光と対戦していた。

 その時、エカテリーナは何とか漏らさずに済んでいたので、今回も、

「(この人相手なら大丈夫!)」

 と思っていた。

 もはや、勝敗よりも漏らすか漏らさないかが判断基準になっているところが、既に選手としては末期症状である。

 ただ、やはり認識が甘かった。

 光は昨年の世界大会で、各国の選手達を恐怖のどん底に落とした北欧の小さな巨人ミナモ・ニーマンなのだ。

 その強大且つ恐ろしいオーラが全開となってエカテリーナに襲い掛かった。

 安心し切っていたところに攻撃を受け、東一局から、

「チョロ………。」

 エカテリーナの括約筋が緩んでしまった。

「(ちょっと、止まって!)」

 そう懇願したところで身体の機能は言うことを聞いてくれない。

 そのまま、

「ジョ――――――!」

 彼女は椅子の下に巨大湖を形成してしまった。

 

 次鋒戦にはルーマニアからはエミリアが参戦した。

 ここでも玄によるドラの完全支配が全世界の注目を集めたが、玄に和了らせないよう他家が結託して安い場で流してきた。

 最後は、エミリアが満貫を和了って美味しいところを持って行き、ルーマニアが勝ち星をあげた。

 ネット民達は、

『中堅は咲ちゃんが勝つからブロック決勝進出は確実だじぇい!』

『それより、エミリアの勝ち星で2位抜けはルーマニアにほぼ決定したと思…』

『ブロック決勝では、ルーマニアの大放出ですわ!』

『それは嬉しいかもモー』

『その展開、大変スバラです!』

『ブロック決勝までルーマニアが見れてチョー嬉しいよう!』

『まだブロック決勝進出チームは決まってないし!』

『でも、可能性は高いッス!』

 そのまま日本チームとルーマニアチームがAブロック決勝戦に進出することをひたすら願っていた。

 

 中堅戦、ルーマニアチームからは五人目、スーパーモデルのジーナが参戦した。

 ジーナは、ルーマニアチームの中で唯一放出していない。しかも、超美少女のエミリアやエカテリーナと同レベルの美女。

 当然、ネット上では、

『『『『『ジーナがターゲットになりますように………』』』』』

 と多くの人達が祈っていた。

 前半戦の場決めがされ、咲は西家、ジーナが北家になった。

 その瞬間、

『祝! ジーナがターゲットだじぇい!』

『これは丼メシ八杯にチャレンジッス!』

『やっぱり、お漏らししてなんぼ、お漏らししてなんぼですわ!』

『これできっと仲間が増えるよモー』

『先輩が喜んでるデー』

『これでジーナの初お披露目が決まったと思…』

『この展開、スバラです!』

『ダル………』

 ネット上が大賑わいになった。

 ここでも、咲がネット民達の喜ぶ試合運びを見せ、超余裕で勝ち星をあげた。

 

 副将戦は、ルーマニアからは巨乳美女ラビニアが参戦した。

 ここでも淡は、絶対安全圏だけで戦った。

 一応、前半戦でのリードがモノを言い、トータルでは淡が勝利して日本チームが勝ち星を得た。しかし、後半戦では僅差でラビニアがトップを取っていた。

 そろそろ、絶対安全圏だけで戦うのも厳しくなっているのを淡は強く感じていた。

 

 大将戦は、ルーマニアからは、三回戦同様に痩身美女ダニエラが参戦した。

 対局のほうは、終始、衣が圧倒し、日本チームが勝ち星を得たが、ただ、ネット民達は、

『今日のころたんは絶不調だじぇい!』

『誰も漏らせてないッス!』

『ないない……! そんなのっ……!』

『誰も漏らしてないなんて! 一大事、一大事ですわ!!!』

『そんなオカルトありえません!』

『これは、スバラくありませんねぇ』

『チョー悲しいよぅ』

『信じてたのにモー』

 大放出が出なくて不満だったらしい。

 衣自身も、少し月が欠けていて、これまでの二試合に比べて支配力が少し弱まっているのを自覚していた。

 しかし、それでもまだ十分闘える手応えはある。

 当然、次のブロック決勝戦には参戦する気満々でいた。

 

 

 大会九日目。

 この日は、A、B、C、D全ブロックの決勝戦が行われた。

 Aブロック決勝戦は、日本、ルーマニア、ロシア、ジョージアの対決となった。

 日本チームのオーダーは、先鋒が神楽、次鋒が淡、中堅が咲、副将が光、大将が衣だった。神楽の初お披露目である。

 

 対するルーマニアチームは、先鋒にナンバーワン美女エミリア、次鋒にナンバーツー美女エカテリーナ、中堅に痩身美女ダニエラ、副将に巨乳美女ラビニア、大将にスーパーモデルのジーナの布陣で臨んだ。

 

 ロシアチームは、先鋒がエレナ、次鋒がステラ、中堅がナタリア、副将がスベトラーナ、大将がオリガのオーダー。

 

 そして、ジョージアチームは、先鋒がリュドミラ、次鋒がタチアナ、中堅がリリア、副将がネリー、そして大将がニーナだった。




おまけ

作中の人々がテレビを見ながら某掲示板に実況を書き込みしていた。



【第二回戦】世界大会咲様編【大放水希望】


227. 名無し麻雀選手

咲様、今日はどんな闘牌を見せてくれるか?


228. 名無し麻雀選手

>>227
京にパイを見せる?


229. 名無し麻雀選手

>>228
いきなりだな。
でも、見せるほどのオモチはないぞ!


230. 名無し麻雀選手

いや、最近急成長したって噂がある
やはりその影には京ちゃんか?


231. 名無し麻雀選手

>>230
どうも霧島神境にお願いしたらしい
もの凄いご利益!


232. 名無し麻雀選手

咲様起家じゃん?
タコス食ったのか?


233. 名無し麻雀選手

会場にいる者だけど、タコスは無い
自力で引いたっぽい


234. 名無し麻雀選手

さて、今回は何を見せてくれるか?


235. 名無し麻雀選手

まあ、どんな削り方をするかだな
靴下脱いだしマジでトバしに行くと思
多分この試合、東二局は来ないな


236. 名無し麻雀選手

いきなり親満ツモか
それも嶺上開花


237. 名無し麻雀選手

これだけじゃ、まだ何をしでかすか分からないな


338. 名無し麻雀選手

一本場は4100オールか


339. 名無し麻雀選手

なんか点数下げてるのかな?
インハイとかコクマとか凄かったのに


340. 名無し麻雀選手

まあ落ち着け
きっと凄い奇蹟を見せてくれる


341. 名無し麻雀選手

奇蹟と放水だけが楽しみだからな
それに、ルーマニアの超美女軍団からは、
ナンバーワン美女エミリアが咲様の相手じゃん?


342. 名無し麻雀選手

>>341
エミリアって、みかんよりも綺麗だな
しかも咲様の下家
期待するなと言う方がムリ!


343. 名無し麻雀選手

二本場は4200オールか
過去のデータから、これに近いのある?


344. 名無し麻雀選手

>>343
あるけど、まだ分からん
ただ、それと同じことをしたら、絶対にエミリアは対局途中で漏らすと思


345. 名無し麻雀選手

咲様聴牌


346. 名無し麻雀選手

ここからカン北www
倫シャン解放!
嶺上開花ツモドラ1
60符3翻で3900オールの三本場は4200オール!


347. 名無し麻雀選手

これって、まさかとは思うが…
もしそうなら、344の言うとおり
エミリアは最後まで膀胱が持たないぞ


348. 名無し麻雀選手

>>347
インハイ団体戦で見せた奴か?
もしそうなら、俺は咲様に全てを捧げる!
勿論童〇も


349. 名無し麻雀選手

>>348
咲様から京ちゃんにチェンジって言われそう

あっ!
四本場も3900オール
芝棒合わせて4300オール

ここから七本場まで3900オールかな?


350. 名無し麻雀選手

咲様の表情怖い
絶対にエミリアを睨んでる

エミリアのほうは咲様のオーラを受け続けて
何気に左手が股のほうに行ってないか?
漏らさないように押さえてる感じ


351. 名無し麻雀選手

五本場も3900オール
やっぱり、あれの再現だな


352. 名無し麻雀選手

またまたカン北www
倫シャン解放!
3900オールの六本場で4500オール!

ここから
4600オール
1800オール
1900オール
2000オール
と続くんだろうな、きっと


353. 名無し麻雀選手

>>352
なんで、そこまで言えるんだ?
kwsk


354. 名無し麻雀選手

>>353
今年のインハイDブロック二回戦で見せた奴だよ
悪魔の紋章って騒がれた


355. 名無し麻雀選手

あれか!
言ってるそばから本当に4600オール和了ったwww



~~中略~~



551. 名無し麻雀選手

もう二十本場越えたぞ!
まだ咲様の連荘だ


552. 名無し麻雀選手

二十六本場目指してるだろうからな
それにしても、もうエミリア耐えられそうに無いんじゃない?


553. 名無し麻雀選手

でも、よくここまで耐えたし!
あとは大放出さえ決めてくれれば、こっちは満足だし!


554. 名無し麻雀選手

二十三本場4300オール!
来た来た来たぁ!


555. 名無し麻雀選手

2000オールが4300オールなんだよな
こんな連荘、初めて見た


556. 名無し麻雀選手

>>555
お前インハイ見なかったのかよ?


557. 名無し麻雀選手

>>556
バイトで見られなかったんだ!
録画も忘れた
ネットで記事読んだだけ


558. 名無し麻雀選手

毎度のことながら、あの点数調整はスバラでした
やられた側にはスバラくありませんが


559. 名無し麻雀選手

とか言ってるうちに今度は満貫ツモ!
二十四本場で6400オール!
またもや倫シャン解放


560. 名無し麻雀選手

本当にあの再現だな
咲様以外は全員6500しかない
ここで咲様が親満ツモなら全員0点で二十六本場突入


561. 名無し麻雀選手

これは避けられないだろうな


562. 名無し麻雀選手

エミリアはよ!


563. 名無し麻雀選手

>>562
そう慌てるな
きっと咲様はやってくれる!


564. 名無し麻雀選手

そう言ってるそばからカン北www
嶺上開花!
満貫二十五本付けで6500オール!
予定通りだ!


565. 名無し麻雀選手

でも、良くこれだけ都合よく点数調整できるな
牌が全部見えてるって噂も頷ける


566. 名無し麻雀選手

これで運命の二十六本場やで!
本当に親の四倍役満和了るのか?
これが意図的にできるとは思えへんのやけど


567. 名無し麻雀選手

>>566
じゃあ咲様にはできないって言うの?
みんなの夢を乗せてカンするのよ!


568. 名無し麻雀選手

>>567
まあ落ち着け


569. 名無し麻雀選手

>>567
きっとヤってくれるよ


570. 名無し麻雀選手

北www
九巡目東カン!


571. 名無し麻雀選手

続いて南カン
エミリア、本気で股押さえてる
相当ヤバそうじゃん?


572. 名無し麻雀選手

二十六本場まで咲様の下家でオーラ受け続けていたからな


573. 名無し麻雀選手

続いて西おか?


574. 名無し麻雀選手

東南と来たからな
次は西おかかな?


575. 名無し麻雀選手

西おか?


576. 名無し麻雀選手

西おか?


577. 名無し麻雀選手

>>573-576
西をカンな
でも先に北がカンだったな
西カンは最後だ
西カンした直後は嶺上開花と相場は決まってる


578. 名無し麻雀選手

北www
エミリア大放出!
西おか前の快挙!


579. 名無し麻雀選手

祝! エミリア大放出!


580. 名無し麻雀選手

祝! エミリア大放出!


581. 名無し麻雀選手

祝! エミリア大放出!


582. 名無し麻雀選手

エミリア放出したけど咲様の四つ目のカンが残ってる
試合続行だよ!
大放出中なのにライブ中継ってスゲー!


583. 名無し麻雀選手

スバラです!


584. 名無し麻雀選手

放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!


585. 名無し麻雀選手

ついにヤったッス
これは、丼メシ五杯は軽くいけるッス!


586. 名無し麻雀選手

こんなの今までに無いじょ!
最高の演出だじぇい!


587. 名無し麻雀選手

やっぱりヤッちゃったし!
でも、華菜ちゃんは同じ境遇でも耐えたし!


588. 名無し麻雀選手

>>587
自ら身バレする奴
池田かな?
池田だろ!


589. 名無し麻雀選手

外国にも仲間が出来て最高だよモー!


590. 名無し麻雀選手

>>589
先輩が喜んでるデー!


591. 名無し麻雀選手

こんなの視れてチョー嬉しい!
ここから西をカンで和了り牌ツモったwww


592. 名無し麻雀選手

大四喜字一色四暗刻四槓子!
64000オールの二十六本付けで66600オール!
咲様以外全員箱下66600www

593. 名無し麻雀選手

エミリア震えてる
やっぱ悪魔の紋章だからかな?


594. 名無し麻雀選手

暖かいのは放出直後だけで
今は冷たくなってるからだじぇい!




続く?


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七十八本場:世界大会2 東風の神と南場の鬼神

「神楽ちゃん、はい、これっ。」

 咲が神楽にタコスを手渡した。昨夜のうちに買っておいたものである。

「ありがとう。」

 早速、神楽はタコスを口にした。長野の都市伝説に従い、起家を取るつもりなのだ。

 そして、タコスを食べ終わると、

「では、行って参ります。」

 神楽は落ち着いた表情で控室を出て、対局室へと向かった。

 

 対局室には神楽が一番乗りだった。

 不正が無いように、審判達の見る前で神楽が場決めの牌を引いた。

 引いた牌は、まぎれもなく{東}。起家を引き当てた。

 そして、神楽は席に腰を降ろすと、両手を合わせて気を集中させた。

 神楽の髪が激しく逆立った。

 この時、日本チームの控室では、咲の魔物レーダーが発動していた。

「問題なく行けそうです。」

 この咲の言葉を聞き、慕も恭子も安心した表情を見せていた。

 作戦通りにことが進めば、間違いなく神楽は勝ち星が取れる。慕達には、それだけの自信があった。

 

 髪の逆立ちが収まると、神楽が静かに目を開き、

「思い切り暴れてやるじぇい!」

 なんか、どこかで聞いた口調でしゃべり出した。

 

 この時、臨海女子高校の寮の一室では、片岡優希が眠りこけていた。

 いや、正しくは幽体離脱していたのだ。

 今、神楽は優希の生霊を降ろしていた。

 優希の東場の爆発力に神楽の能力………すなわち、相手の手牌が全て透けて見える力が加わる。相当厄介な打ち手になっていることが容易に想像できる。

 

 ルーマニアチームのエミリア、ロシアチームのエレナ、ジョージアチームのリュドミラも対局室に入室してきた。

 エレナもリュドミラも、エミリア程ではないが顔立ちが十分整っている。

 当然、ネット民達は、

『こいつらと咲様を戦わせたいッス!』

『その考え、スバラです!』

『きっと巨大湖形成だよモー』

 大興奮状態であった。

 

 南家がリュドミラ、西家がエレナ、北家がエミリアに決まった。

 サイが振られ、東一局がスタートした。ドラは{八}。

「この日のために、体調を最高状態に整えてきたんだじぇい!」

 そう。本プロジェクトは、咲達の強化合宿の裏で行われていた説明会&合宿の時から既に始まっていた。

 あの時、召集されたのは高鴨穏乃、片岡優希、南浦数絵、石戸明星、十曽湧、真屋由暉子、渋谷尭深、亦野誠子と言った能力者達であった。

 彼女達は、愛宕雅恵から神楽の生霊口寄せの話を聞かされており、全員一丸となって神楽とともに世界大会での勝利を目指すことを依頼された。

 当然、自分達も世界大会に出てみたい。

 そこで自分の力を試してみたい。

 彼女達は、全員、雅恵の依頼を快く受け入れてくれた。

 なお、一応高校生の世界大会なので、協会側も生霊は女子高校生のみに限定したようだ。

 

 東一局の配牌が済むと、

「リーチだじぇい!」

 神楽(優希)がダブルリーチをかけてきた。

 今の優希の能力は、25000点持ちであれば咲でさえ太刀打ちできない状態にある。それは、コクマで立証済みだ。

 リュドミラ、エレナ、エミリアが順に字牌を切って様子を見たが、それも意味無く、優希は一発目のツモ牌を卓に叩きつけ、

「ツモ!」

 和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {八八②②③③④④[⑤]⑥⑦4[5]}  ツモ{3}  ドラ{八}

 

「ダブリー一発ツモタンピン一盃口ドラ4(表2赤2)の…。」

 優希が裏ドラをめくると、そこには{①}が眠っていた。つまり、裏ドラは優希の手牌の中に二枚ある{②}だ。

「ドラが併せて6枚で、16000オールだじぇい!」

 いきなり数え役満が飛び出した。

 これは、もう誰にも止められない。

 

 東一局一本場、神楽の連荘。

 配牌直後、

「捨てる牌がない。」

 そう言う神楽から、リュドミラ、エレナ、エミリアの三人は、異様な何かを感じ取っていた。咲や光にも似た恐ろしい何かを秘めている。

 そして、神楽が手牌を開くと同時に、その異様な何かの正体を知ることになった。

「ツモ! 天和! 16100オール!」

 配牌と同時に16000点を持って行かれる最も理不尽な役満、天和であった。

 これが、もし25000点持ちなら、優希以外は前局にたった一回ツモっただけで、ここで全員トビとなる。

 凄まじいパワーだ。

 

 東一局二本場。ドラは{7}。

 神楽(優希)は、

「コクマでは咲ちゃんと巫女さんがいたから二本場で失速し始めたけど、ここには、そんな魔物はいないじょ!」

 と言うと、捨て牌を横に曲げた。

「リーチ!」

 再びダブルリーチだ。

 リュドミラ、エレナ、エミリアは、依然として、とんでもない威圧感を神楽から感じ取っていた。その恐ろしさに、牌を打つ手もおぼつかなくなってきている。

 いきなり数え役満に天和を連発した人間が、再びダブルリーチをかけてきているのである。当然と言えよう。

 今回も三人は、字牌を切って様子を見た。

 しかし、それも虚しく、

「一発ツモだじぇい!」

 またもや神楽が和了りを決めた。しかも、

「ダブリー一発ツモダブ東三暗刻ドラ5!」

 

 開かれた手牌は、

 {五[五]⑤⑤[⑤]234777東東}  ツモ{東}

 裏ドラを見る必要が無い。既に数え役満だ。

 

「16200オール!」

 この和了りで、神楽の点数は既に244900点と、他家に5倍近い点差をつけていた。

 

 東一局三本場。

 エミリアは、僅かだが神楽から放出されるオーラが弱くなったのを感じ取っていた。

「(やるならここね。)」

 そして、

「チー!」

 憧のような鳴き麻雀を披露し、

「ツモ! タンヤオドラ3。2000、3900の三本場は2300、4200!」

 なんとか優希の親を流した。

 

 本来、エミリアは強い選手だ。

 二回戦では咲が、三回戦では光が相手だっただけで、ブロック準決勝戦では玄を相手に勝ち星をあげている。

 超魔物との対局でなければ、なんとか立ち回れるのだ。

 

 

 東二局、ジョージアチームのリュドミラが親。

 ここでも先行したのはエミリアだった。

「リーチ!」

 優希のスピードを上回り、先制リーチをかけてきた。そして、次巡、

「リーチ一発ツモ平和ドラ3。3000、6000!」

 一発でハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東三局、ロシアチームのエレナが親。

 ここではネリーの同朋、リュドミラが、

「ポン!」

 早々に自風の{北}を鳴いた。

 その次巡には、

「ポン!」

 再びリュドミラが{白}を鳴き、その三巡後、

「ツモ! 北白混一ドラ2。3000、6000!」

 彼女も負けじとハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東四局、エミリアの親番。

 まだ東場とは言え、優希の支配力も相当落ちていた。

 初っ端に飛ばしすぎたのが原因だが、それでも役満三発は大きい。未だに2位のエミリアに160000点以上の差をつけている。

「リーチ!」

 今度は、エレナが仕掛けてきた。

 エミリアは一発回避で現物切り、神楽は相手の手牌が透けて見える以上、振り込むことは無い。リュドミラは、神楽の捨て牌に合わせ打ちした。

 一発ツモは無かったが、数巡後、

「ツモ! リーチツモタンヤオドラ3。3000、6000!」

 エレナがハネ満をツモ和了りしてヤキトリを回避した。

 

 

 南入した。

「じゃあ、バトンタッチだじぇい!」

 神楽がそう言うと、彼女の雰囲気がガラッと変わった。そして、卓上に暖かい一陣の風が吹き付けた。

「では、参りましょう。」

 この声は数絵。

 優希と入れ違いで神楽の身体に降りてきたのは南場の鬼神だった。

 つまり、東場が得意な優希と南場が得意な数絵で互いに補完しあう作戦に出たのだ。これは効率的であるが、相手側からすれば卑怯にしか思えないだろう。

 

 南一局は、神楽(数絵)が、

「リーチ!」

 序盤から先制リーチをかけてきた。

 一先ず、他家三人は安牌を切って一発を回避するが、南場の数絵は和了り牌を自分で掴んでくる。

 次巡、当然のように、

「一発ツモ! リーチ一発ドラ3で、6000オール!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 南一局一本場。

 現在の点数は、

 1位:神楽(日本) 249700

 2位:エミリア(ルーマニア) 57500

 3位:リュドミラ(ジョージア) 46400

 4位:エレナ(ロシア) 46400(席順により4位)

 神楽の圧倒的リードであった。

 

 この局も、数絵と化した神楽が、

「リーチ!」

 またもや序盤から先制リーチをかけてきた。そして、

「一発ツモ! ドラ3。6100オール。」

 まるで簡単作業のようにハネ満をツモ和了りした。

 

 南一局二本場。

 このまま神楽に和了り続けられたら大変なことになる。

 この局では、珍しくリュドミラが数絵のリーチ前に聴牌できた。これは先制するチャンスだし、せめて2位を狙いたい。

 そこで、

「リーチ!」

 リュドミラが勝負に出た。

 すると次巡、

「リーチ!」

 神楽(数絵)が聴牌して追っかけリーチをかけてきた。

 リュドミラの一発目のツモ牌は、自身の和了り牌ではなかった。しかし、これは神楽には非常に厳しい牌だ。

 だが、リーチをかけていて和了り牌でなければ、それを河に捨てなければならない。

「(勝負!)」

 そう心の中で叫びながらリュドミラが力強くツモ切りした。

 すると、これを待ってましたとばかりに、

「ロン! 一発!」

 この牌で神楽が和了った。

「リーチ一発タンヤオドラ3。18600。」

 またもやハネ満だ。

 これでリュドミラは、持ち点が20700点まで落ち込んだ。100000点持ちだったはずなのだが………。

 

 南一局三本場。

 ここでも、

「リーチ!」

 神楽が三巡目でリーチをかけてきた。前局でリュドミラに先行リーチをかけられたのが刺激になったのか、より集中力が増した感じだ。

 そして、

「一発ツモ! メンタンピン一発ツモドラ3。8300オール!」

 神楽は親倍をツモ和了りした。まさに一方的な狩猟である。

 

 これで、現在の点数は、

 1位:神楽(日本) 312500

 2位:エミリア(ルーマニア) 43100

 3位:エレナ(ロシア) 32000

 4位:リュドミラ(ジョージア) 12400

 本当に、リュドミラが危ない状態になってきた。もし、次にリュドミラが神楽に親満を振り込んだら、その時点でトビ終了である。

 

 南一局四本場。

 珍しく、この局は、

「ポン!」

 神楽(数絵)が鳴いてきた。

 鳴いたのは自風の{東}。これで、和了り役ができた。

 南場での数絵の麻雀はリーチ主体のイメージが強い。しかし、今はリュドミラのトビ終了を狙い、手を進めることを第一優先としていた。

 そのための鳴きだ。

 

 数巡後、エレナが恐る恐る{①}を捨てた。{①④}の筋は、まだ数絵には危険なところ。しかし、これを通し!

 これでリュドミラは、エレナから聴牌気配を感じた。{①}をムリムリ通したところから察するに、結構高い手では無いだろうか?

 エミリア、神楽はツモ切り。

 リュドミラは、一旦、エレナの捨て牌に合わせ打ちする形で、{①}を切って様子を見ることにした。

 しかし、この捨て牌で、

「ロン! 東ドラ3(表1赤2)。11600の四本場は12800。」

「こ……これって……。」

 神楽(数絵)は、エレナの振り込みを敢えて見逃し、山越でリュドミラからの出和了りを狙ったのだ。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:神楽(日本) 325300

 2位:エミリア(ルーマニア) 43100

 3位:エレナ(ロシア) 32000

 4位:リュドミラ(ジョージア) -400

 リュドミラのトビで前半戦を終了した。

 

「では、次は頼みます。」

 神楽がそう言うと、数絵の生霊は神楽の身体から抜け出て本体へと戻って行った。

 

 これで、しばらくは優希と数絵の力は使えない。

 実は、生霊を降ろすには、幾つかの制限があった。

 

 一つ目は、生霊となる本人が眠っていること。

 神楽に降りる生霊は、幽体離脱して神楽の中に入ることになる。なので、まあ、本体が眠ることは仕方がないだろう。さすがに本人が起きているわけにも行かない。

 

 二つ目は、生霊となる本人が神楽の身体に降りて何かを成すことを強く願うことだ。

 例えば、以前、淡が神楽に降りてきた時も、穏乃と勝負したいと淡が強く願っていたために降りることが出来た。

 実は、あの時は、前日に神楽から淡のところに連絡が行き、生霊口寄せのことを淡は知らされていたらしい。

 今回も、優希と数絵は世界大会に出て活躍したいと強く願った。だから、神楽に降りることが出来たのだ。

 

 三つ目は、死人の霊と違って残留思念が殆ど残らないこと。

 これは、生霊の場合、まだ現世への未練とかがないため、目的を達成したら満足しきってしまうためのようだ。

 まあ、まだ本体が現世にいるのだから、未練もへったくれもないだろう。

 

 四つ目は、一回降りた生霊は、数日置かないと降ろしてはいけない決まりになっていること。

 これは、生霊となる側がショートスパンで幽体離脱を繰り返すと、それがクセになってしまう場合があるかららしい。

 そのつもりが無くても、眠ったら勝手に幽体離脱してしまうようでは困る。

 

 そして、五つ目は、同時に二人の生霊を降ろせないことだ。飽くまでも神楽の身体を動かす主導権を握るのは一人だけと言うことになるようだ。

 

 以上の理由から、南場が始まった時点で優希の生霊は本体に戻らないと数絵に主導権が渡せないし、南場が終わって後半戦に入るのであれば、やはり数絵の生霊は苦手な東場を避けて神楽の身体から抜け出てしまうことになるらしい。

 よって、優希の生霊も数絵の生霊も、しばらくは使えない状態になる。

 

 ただ、この二人の連携による爆発的な稼ぎをブロック決勝戦に持ってきたのは、次の決勝戦への出場を熱望している人(生霊)がいたからであった。

 それに、ブロックで優勝を果たせなければ最終的な決勝戦には出場できない。

 このような背景もあり、優希と数絵は、ブロック決勝戦の前半戦で特大リードを作るべく、順番に降りてきたのだ。

 

 

 休憩が終わり、後半戦が開始された。

 場決めがされ、今度は起家がエレナ、南家がリュドミラ、西家がエミリア、北家が神楽に決まった。

 

 東一局、エレナの親。

 ここでは、

「ポン!」

 初っ端から神楽が{中}を鳴いてきた。

 その二巡後にも、

「ポン!」

 神楽が{北}を鳴き、そのさらに二巡後、

「ポン!」

 再び神楽が鳴いた。しかも、赤牌入りだ。

 そして、その三巡後、

「ツモ! 北白ドラ2。2000、4000!」

 神楽が和了った。

 三副露してからの和了り。これは亦野誠子の麻雀だ。

 

 

 東二局、リュドミラの親。ドラは{7}。

 ここでも、

「ポン!」

 序盤から神楽が、エレナの捨てた{西}を鳴き、

「チー!」

 さらに次巡、赤牌含みで{横④③[⑤]}と鳴いた。

 そして、

「ポン!」

 今度は対面のリュドミラが捨てた{五}を鳴いて{五横五[五]}と副露した。

 これで三副露が達成された。あとは、和了れるのを待つだけだ。

 そこから四巡後、

「ツモ!」

 神楽が和了り牌をツモって和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2377}  ポン{五五[五]}  チー{横④③[⑤]}  ポン{西西横西}  ツモ{4}

 

「西ドラ4。2000、4000!」

 ここでも神楽は満貫を和了った。

 

 さっきまでと神楽の麻雀の打ち方が違う。エレナもリュドミラもエミリアも、これには正直、困惑気味だ。

 

 

 東三局、エミリアの親。

 とにかく神楽は、

「ポン!」

 鳴きまくった。ここでは、リュドミラが捨てた{發}を二巡目に鳴いた。

 次巡、

「ポン!」

 今度はエミリアが捨てた{5}を鳴いて{横55[5]}と副露した。

 さらに、その二巡後、

「ポン!」

 今度はエレナが捨てた{北}を鳴いた。

 この局でも、早々に三副露を達成し、その二巡後、

「ツモ! 發対々ドラ1。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。満貫三連発だ。これは結構大きい稼ぎだ。

 

 ただ、次の親番を目の前にして、

「私はこれで満足したよ。それに、なんだかエミリアが怖いし。じゃあ、私はこれで。後をヨロシク!」

 誠子の生霊は、逃げるように神楽の身体から抜け出ていってしまった。

 この生霊のことを知る面々からは、誠子がちょっと無責任に思われたのは、言うまでもない。




おまけ


憧 -Ako- 100式 流れ二十本場 手品先輩風の栞と遭難希望の咲?


黒の組織が壊滅し、ベルモットはアメリカに戻り、女優としての仕事を再開した。

今日は日曜日。
阿笠博士は、朝から朝美(光彦の姉)と男女のバトルに勤しんでいる。ドーピングさまさまである。
朝美が来るのは月水金日の週四日。しかも、日曜日は朝から晩まで博士の家にい続けて体力が続く限り戦い続ける。

コナンと哀は、哀の部屋にこもり、毎日二人で遊んでいる。勿論、子供の遊びではない。大人の火遊びだ。

博士、コナン、哀の三人の優秀な頭脳がエロに支配された。しかし、まあ、だからと言って人類滅亡の危機に晒されるとか言うわけではない。今のところは…。


哀「周期表の縦の覚え方ってあるでしょ?」

コナン「ああ。そう言うのあるらしいな。」

哀「で、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)をどう覚えるかだけどね。チ〇ポでア・ソ・ビ!ってのがあるらしいわね。」

コナン「まさに、今のお前だな!」

哀「ええ。そのとおりね。」


このような状態なので、元太も光彦も歩美も、博士の家に遊びに来ても全然相手にしてもらえず、最近では博士のところに寄り付かなくなっていた。

別に、コナンに出会う前の状態に戻っただけなのだが…、やはりコナン達に会ってからのほうが何かと刺激的であった。
特に歩美にとってはコナンの存在は衝撃的であった。
それを、今更無かったことにはできない。
当然、人生のハリがなくなってしまった感じだ(小学一年生のクセに)。


一方、久HT-01だが、博士が発明した大人のオモチャの特許出願、商標登録などを行い、幅広く販売していた。
しかも、その特許は、博士に研究資金を提供する引き換えに、玄の組織に譲渡してもらう約束になっていた。

特許が公開されるのは出願から一年半後になる。
つまり、今商品として売り出しても、一般には、その特許の存在を第三者には知られないことになる。

ただ、それが売れるものと分かれば、しかも、その特許の存在が確認できなければ、当然、他の競合メーカーは類似品を製造販売するだろう。
しかし、久HT-01は、逆にそうなることを狙っているようだった。


久「この特許は公開前審査で進めていて(一般には審査請求は公開後だが、公開前にも審査請求可能)、公開された時点で特許が成立しているようにするわ!」←特許は出願しただけでは成立しません


つまり、特許公開と同時に類似品を売っているメーカーに製造販売の差し止めと特許使用料を請求しようと企んでいた。


久「覚悟しなさい! 競合メーカー!」


さて、どうなることやら…。
その頃………、


姫子「あっ♡! あっ♡! あっ♡!」

まこ「姫子は危ないのでカットじゃ!」


煩悩の数が式番になっているからだろうか?
いつも、こればかりだ。
名前が人を作るとはよく言ったものだ。
この場合、人ではなくダッチ〇イフだが。

仕切り直しだ。
その頃、憧100式は、久し振りに咲と駄弁っていた。
咲が憧のところに遊びに来たのだ。
ただ、京太郎は不在だ。
ハンドボールの助っ人として社会人チームに借り出されたのだ。
決して『カリ出された』ではない。


憧「結局、京太郎とは何も無かったの?」←神戸周辺での合宿の件

咲「今は絹ちゃんがいるし、別にイイかなって。」

憧「でも、必要になったら遠慮なく言ってね。もっとも、私はそばに置き続けてもらうけどね。」

咲「絹ちゃんもだけどね。」

憧「まあね。」

咲「それよりさ、今回、神戸でお姉ちゃんの高校の頃の先輩に会ってね。」


この世界にも、咲の姉として照が存在している。
もし憧126式ver.照が造られていたら、照が二人になってしまうところだった。造られなくて良かったのだろう。


憧「へぇ…。どんな人?」

咲「それが、胸の大きな人で…。」

憧「京太郎の目が釘付けになるのが想像つくわぁ。」

咲「実際そうなったけどね。」

憧「やっぱり…。(淡の準備満タン機能が羨ましいな!)」

咲「麻雀部の人で、お姉ちゃんの一年先輩なんだけど…。奇術部のほうも、かけ持ちしてたらしいのよ。」

憧「へー。(イカサマとか巧いのかな?)」

咲「でね、お姉ちゃんも、クラスの男子と一緒にムリヤリ手品の助手にされたことがあったらしいよ。」

憧「なんて人?」

咲「宇野沢栞さんって言うんだけどね。」

憧「あの麻雀プロの?」

咲「そう。で、奇術部のほうでは『手品先輩』って呼ばれてたらしいけどね。」←ここでは栞と手品先輩は同一人物設定です

憧「そう言われるってことは、手品巧いんだ。」

咲「それがね、今回、手品見せてくれたんだけど失敗ばかりでさぁ。服が破れたり、ロープが身体中にからまって身動きが取れなくなったり…。」

憧「えぇぇ!?」

咲「もう、手品じゃなくてエロ喜劇だったよ。」

憧「ソウナンですか?」

咲「ソウナンです。」


うーん…。
去年のネタだ。
『手品先輩』と『ソウナンですか?』が15分ずつだった。


取扱説明書
1.憧100式シリーズは、万が一のためにサバイバル機能が付いています。ただし、オーナーのためにしか動きません。


咲「そう言えば、万が一だけど…。もし遭難とかしたら、憧ちゃん達が一緒だったら、何か便利機能とかあるの?」

憧「海水でも生水でも、私達の中を通せば飲料水に変えることができるわよ。」

咲「えぇ!? それって便利!」

憧「ただ、飲料水が出るのは股間(前)からだけどね。」

咲「それじゃ、傍から見たら、おし〇こ飲むプレイみたいだね。」←〇は少なくとも『る』ではないと思われます

憧「たしかに第三者からは『飲〇プレイしてる!』としか思えないだろうけどね。遭難してるのに何やってるんだって言われそう。」←いや、大事な飲料水と捉える人もいますので、必ずしもプレイとしか思われないと言うわけでは無いような気がします

咲「でも、それだと絹ちゃんからのが一番飲みやすいかもね。溢さないで済みそう。」

憧「極太ストロー付きってことね!」

咲「そうだね。」

憧「でも、第三者が飲もうとすると大変なことになるからね。男性の場合だけど。」


取扱説明書
2.NTR機能またはスワッ〇ング機能を発動させない限り、憧100式シリーズの股間に触れたオーナー以外の『男性』は感電します。


憧「あと、サバイバル機能を使った時は、後ろの穴から不要物が出る仕組みになってるから、後ろの穴は洗浄してからでないと使えなくなるんだけどね。時と場合によっては、本気で不潔だから。」

咲「じゃあ、絹ちゃんのオーナーが男だった場合は、ちょっと不便だね。」

憧「たしかに!」


取扱説明書
3.サバイバル機能作動中は、後ろの穴の使用はおやめください。例えば、海水を飲料水に変換した場合、後ろの穴の中に塩分等の結晶が析出している場合があります。


咲「絹ちゃんのオーナーが私で良かったよ!」

憧「ただ、食料を出すことはできないのよね。そればかりは、なんとか調達しないと。」

咲「それは仕方ないんじゃない?」

憧「それから人肌で抱き合うくらいしかできないから、極寒世界だとアウトかな。結局、本気のサバイバルは私達が一緒でもムリじゃないかな?」

咲「それ以前に、飛行機に乗れないしね。『ソウナンですか?』みたいに飛行機墜落事故で遭難ってパターンはムリだね。」

憧「機械だから搭乗手続きで引っかかるもんね。完全に荷物扱いだわ。」

咲「それも大きなスーツケースに入れて預け入れだよね?」

憧「そうなるだろうね。」

咲「受付の人は驚くだろうね。X線撮ったら人型の何かが入ってるわけだし。」

憧「でも、手足外せないだけマシかも。」

咲「たしかに! もし外してケースに入れたらバラバラ死体と勘違いされそう。」

憧「まあ、でも船での旅ならできるかも。国内なら。」←荷物ではなく人間に成りすまして乗船するつもり

咲「あとは電車だね。でも電車じゃ、遭難してサバイバルって………山ならアリか!」

憧「でも、遭難は別として、旅行してみたいね。」

咲「じゃあ、今度の休みに何処か行こう!」


ちょっと待て!
重度の方向音痴の咲を連れて山に行くのは、それこそ遭難死に(『遭難しに』ではない)行くようなモノでは無いだろうか?
その自覚が全く無い咲であった。




続く?


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七十九本場:世界大会3 永水ツインズ

神楽の相手は、エミリア(ルーマニア)、エレナ(ロシア)、リュドミラ(ジョージア)です。

それから、この世界大会では、留学生は留学先の国の選手として出場しても良いルールとさせていただきます。



 東四局、神楽の親番。ドラは{4}。

 急に誠子の生霊が消えてしまったので、今は、神楽自身が打っている。

 もっとも、相手の手牌が全て透けて見えているので、振り込むことだけはない。このまま、前半戦の特大リードを維持すれば良いだけだ。

 

 なので、この親を流されても全然構わないつもりだったのだが………。

 中盤に入り、急に神楽の雰囲気が変わった。

 

 この時、神楽の手牌は、

 {一二三四[五]六[⑤][⑤]45678}

 

 ここに{七}をツモり、{一}切り。

 そして次巡、神楽は{八}をツモって、{二}を切った。

 そのさらに次の巡目で、神楽は{3}をツモって和了った。

「タンピンツモドラ4。6000オール。」

 

 開かれた手牌は、

 {三四[五]六七八[⑤][⑤]45678}  ツモ{3}

 

 この形は、十曽湧がインターハイで見せた和了り。雀頭が{⑤}で同色の順子が六連続の牌である古役。超ローカル役満、双竜争珠だ。

 神楽の体内に、中盤から湧の生霊が入り込んだのだ。

 またもや神楽の打ち方が変わって、エレナ、リュドミラ、エミリアは、当然困惑する。

「「「(全然、対策の仕方が分からない!)」」」

 変幻自在な打ち方をするプレイヤーに見えるだろう。

 

 東四局、一本場。神楽の連荘。ドラは{③}。

 ここで神楽は、

「ポン!」

 対面のリュドミラから{中}を一鳴きした。

 他家からすれば、

『また、三副露までするのだろうか?』

 と思うところだ。

 しかし、ここでは、それ以上、神楽は鳴かなかった。

 

 中盤に入り、エミリアは神楽から聴牌気配を感じた。結構大きい手のようだ。

 エミリアも聴牌したが、振り込みは避けたい。

 ここは、リーチせずに出和了りを待つ。幸運なことに、平和とタンヤオだけだが和了り役がある。

 そこにドラが赤ドラを含めて四枚。

 出和了りハネ満だ。ムリにリーチで攻める必要もない。

 しかし、

「ツモ!」

 先に神楽に和了られてしまった。

 

 開かれた手牌は、

 {1155[5]77999}  {中横中中}  ツモ{7}

 紅孔雀だ。

 ただ、ここでは紅孔雀を役満としては認めていない。

 なので、中混一色対々三暗刻赤1の倍満となった。

 

「8100オール!」

 これで、後半戦での神楽の点数は190000点を超えた。

 

 東四局二本場。ドラは{一}。

 この時、神楽の配牌は奇跡的に聴牌していた。

 {一二三[五]六七⑤[⑤]⑨89發發發}

 

 当然、{横⑨}を切って、

「リーチ!」

 ダブルリーチに出た。

 湧の和了りはローカル役満が主体だが、別にローカル役満以外を和了ってはいけないと言う誓約はないようだ。

 ならば、ここはダブルリーチ發ドラ3のハネ満を狙いに行く。

 他家三人は、一先ず字牌切りで様子見した。

 一発ツモはならず。

 そのまま、神楽は和了れないまま、しばらくツモ切りが続いた。

 他家も下手に鳴かずに、なんとか凌いでいる。

 そうこう言っているうちに終盤に入った。

 十三巡目で神楽が引いたのは{發}だった。

 これを、

「カン!」

 暗槓した。

 これで槓ドラや槓裏も期待できる。

 嶺上牌は{北}。そのままツモ切り。

 そして、誰も和了れないまま海底牌まで辿り着いてしまった。

 本来であれば………、誰も鳴かなければ南家が海底牌をツモる。しかし、今回は神楽が暗槓したためツモ牌が一枚減り、海底牌は神楽のツモ牌に変わっていた。

 これをツモった時、神楽の中にいる湧は、この上ない大興奮状態になった。

 海底牌は{7}。

 まさかのダブルリーチ海底ツモ。

 超ローカル役満『石の上にも三年』だ!

 インターハイでも淡しか見せたことのない大変珍しい和了りだ。

 

 本大会では、石の上にも三年を役満として認めていない。

 しかし、さすがの湧でも意図的に造ることの出来ない超偶然ローカル役満である。

 それも世界大会での和了り。

「ダブルリーチ海底ツモ發ドラ3。8200オール!」

 裏ドラは乗っていなかったが、これで湧は大満足だった。

 湧の生霊は、この大変珍しい超ローカル役満を和了った余韻に浸りながら、神楽の体内から抜け出て行った。満足し切ったのだから仕方が無い。

 決して逃げるのではない。

 元々、湧としては、東場のうちは自分が戦うつもりでいたのだが、既に湧の心中は達成感で満たされてしまった。これにより、闘志が消えてしまったのだ。

 闘志こそが、湧の生霊を神楽の身体の中に縛り付ける源であるが、それが結果的に失われてしまったため、神楽の身体から出て行かざるを得なくなったようだ。

 

 東四局三本場。

 エミリアは、また神楽の雰囲気が変わった感覚を受けた。

 ただ、これは未知のモノでは無い。一度、神楽を相手に経験しているものである。

「(東四局開始時点の感じに戻った?)」

 今の神楽は攻撃的には感じられない。

 

 再び神楽は、彼女自身の力のみで戦う。相手の手牌を全て見通す守備の麻雀が主体だ。

 口寄せ以外には、特に攻撃的な能力を神楽自身は持ち合わせていない。

「(ならば、今が和了るチャンス!)」

 エミリアは、そう捉えていた。

 そして、エミリアは七巡目でタンピンドラ2を聴牌。

 神楽からの振り込みは期待できないが、これからツモる牌は、まだまだ多い。

 それなら、

「リーチ!」

 エミリアは、ここで勝負に出た。

 前後半戦トータルで神楽を追い抜くのは親で神楽から四倍役満でも直取りしない限り不可能である。しかし、そんな和了りに期待することこそ無駄である。

 ならば、ツモ和了りで追い上げる。これしかない。

 そして次巡、

「メンタンピン一発ツモドラ2。3300、6300!」

 エミリアは、ハネ満をツモ和了りした。

 

 

 南入した。

 南一局、エレナの親。ドラは{8}。

 ここでも先行聴牌したのはエミリアだった。そして、聴牌即で、

「リーチ!」

 捨て牌の{横⑤}を横に曲げた。

 神楽は、一発目に三枚切れの{③}を捨てた。

 

 続くエレナも、

「(こっちも張った。)」

 このタイミングで聴牌した。

 

 この時、エレナの手牌は、

 {五[五]六七①①②④[⑤]⑥⑦⑧⑨}  ツモ{六}

 

 ならば、{②}切りで勝負だ。

「リーチ!」

 しかし、この牌で、

「ロン!」

 エミリアが和了った。

「リーチ一発タンヤオ七対子ドラ5!」

 

 開かれた手牌は、

 {三三八八②⑥⑥225[5]88}  ロン{②}  ドラ{8}  裏ドラ{三}

 

 倍満だ。

「16000!」

 これで、エミリアの点数が原点を超えた。

 

 

 南二局、リュドミラの親。

 ここでもエミリアが、

「ポン!」

 二巡目で早々に動いた。リュドミラの捨てた{南}を鳴いたのだ。

 そして、六巡目と、比較的早い段階で、

「ロン!」

 エミリアはエレナから和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一⑤[⑤][⑤]11888}  ポン{南横南南}  ロン{一}

 

「ダブ南対々ドラ2。12000!」

 ハネ満だ。

 しかも、この和了りで自分の親を迎えることが出来た。モチベーションが上がる。

 ところが、この直後だった。

「(ナニコレ?)」

 エミリアは再び、下家の神楽から恐ろしい雰囲気を感じ取った。今までに経験したことの無い感覚だ。

 何か、とんでもないことをしでかしそうな気配である。

 

 

 南三局、エミリアの親。

 当然、エミリアは、神楽をマークする。

 折角の親番だ。稼ぎに出たい。

 しかし、だからと言って暴牌は打てない。

 

 神楽は、{二}、{8}、{七}、{1}、{東}、{白}と切り出した。

 嫌な順番だ。しかも、エミリアは、神楽の手牌から並々ならぬ気配を感じ取っていた。さすがに、これに振り込んだらヤバイ。

 同巡、リュドミラが{北}を切った、その時だった。

「ロン!」

 神楽の発声とともに、彼女の手牌が開かれた。

 

 その手牌は、

 {一九①⑨119東南西白發中}  ロン{北}

 国士無双だ。

 

 神楽の体内に降りた生霊は、言うまでも無い、明星だった。

 彼女は、ヤオチュウ牌を引く能力を持つ。

 今回、神楽の配牌は、三枚を除いて全てヤオチュウ牌だった。

 {1}が暗刻だったが、最初は混老七対子と国士無双の両天秤をかけて打っていた。それで、ヤオチュウ牌で最初に切り出したのが{1}となった。

 続く五巡目のツモで、完全に国士無双の方に傾いていると確信して対子の{東}、{白}を順に一枚ずつ落として聴牌。その直後、リュドミラが{北}を切ってきたのだ。

 

「32000!」

 これで、リュドミラが一気に最下位に転落した。

 

 

 オーラス、神楽の親。

 ここでも明星の持つヤオチュウ牌攻撃が続く。

 神楽の捨て牌は、序盤からチュンチャン牌のみで、エミリアは、今回も神楽の手牌から国士無双か何かの気配を強く感じていた。

 六巡目、

「ポン!」

 神楽がエレナから{①}を鳴いた。

 これで、少なくとも国士無双ではないことが確定した。

 勿論、だからと言って、エミリア達が神楽への警戒を解くわけではないが…。

 その次巡、神楽から字牌………{南}が切り出された。

 そして、そのさらに次巡には{白}が切られた。

「「「(これは、聴牌したのか?)」」」

 エミリアもエレナもリュドミラも、そう思って神楽への警戒をより強めた。

 が、時既に遅し………。その次巡、

「ツモ!」

 神楽がツモ牌の{中}を表にして自分の手前に置いた。

 

 そして、開かれた手牌は、

 {⑨⑨⑨白白白發發中中}  {①①横①}  ツモ{中}

 

「混一混老対々三暗刻小三元。12000オール! これで和了りやめにします。」

 親の三倍満ツモだった。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(日本) 247500

 2位:エミリア(ルーマニア) 110600

 3位:エレナ(ロシア) 23400

 4位:リュドミラ(ジョージア) 18500

 

 前後半戦のトータルは、

 1位:神楽(日本) 572800

 2位:エミリア(ルーマニア) 153700

 3位:エレナ(ロシア) 55400

 4位:リュドミラ(ジョージア) 18100

 圧倒的点差で日本チームが先鋒戦の勝ち星を獲得した。

 

 神楽は、このブロック決勝戦で、一気に優希、数絵、誠子、湧、明星の5人の生霊を使ったが、ブロック決勝戦を勝ち抜いて明日の決勝戦に進出できるのは、4チーム中1チームしか無い。能力の出し惜しみは出来ないとの判断だった。

 ただ、少々勿体無いような気もするが…。

 

 しかし、勿体無かろうとなんだろうと、勝ち星を上げて日本チームは大きく士気が上がっていた。

 淡は、

「次は私が大宇宙のパワーで二つの目の勝ち星を上げてきちゃうからね!」

 そう言うと、意気揚々と控室を後にした。

 

 対局室に向かう途中で、淡は神楽と擦れ違った。

「ナイス勝ち星!」

「大星さんも期待してます!」

「当然! 任せて!」

 そして、互いにハイタッチを交わすと、淡の心の中では、さらに勝利に向けての意気込みが増していった。

 

 対局室には、淡が一番乗りだった。

 場決めの牌を引くと、{東}だった。

 別に予めタコスを食べたわけではない。偶然、こうなっただけだ。

 

 対局室に、ルーマニアのナンバーツー美女エカテリーナ、ロシアのステラ、ジョージアのタチアナが姿を現した。

 彼女達も負けるつもりで卓に付くわけではない。

 互いに、まるでガンをつけるようなキツイ視線が飛び交う。

 勿論、勝気な淡も、彼女達には負けていない。さらにキツイ視線を相手に向けて放つ。

 

 エカテリーナ、ステラ、タチアナも、場決めの牌を引いていった。

 その結果、南家はステラ、西家はエカテリーナ、北家はタチアナに決まった。

 

 各自卓に付き、次鋒前半戦が開始された。

 

 東一局、淡の親。ドラは{8}。

 まずは手始めに、淡は、

「(絶対安全圏!)」

 相手三人の配牌を強制六向聴にした。自分は二向聴。

 

 淡は、一巡目から、

「ポン!」

 エカテリーナが捨てた{東}を鳴き、次巡、

「チー!」

 {横123}と鳴いて聴牌した。

 その二巡後、

「ツモ! ダブ東ドラ2。3900オール!」

 

 開かれた手牌は、

 {二三四[五]789}  チー{横123}  ポン{東横東東}  ツモ{二}

 絶対安全圏内での和了りだった。

 

 東一局一本場、淡の連荘。ドラは{一}。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 ステラが捨てた{發}を鳴き、その次巡、

「ポン!」

 タチアナが捨てた{北}を鳴いた。

 そして、その三巡後、

「ツモ!」

 またもや淡は、絶対安全圏内での和了を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六[⑤][⑤]}  ポン{横北北北}  ポン{發發横發}  ツモ{一}

 

「發ドラ3。3900オールの一本場は4000オール!」

 二連続で満貫級の和了りを決めた。

 

 東一局二本場。

 やはりここでも、

「ポン!」

 淡は一巡目からエカテリーナが捨てた{中}を鳴き、

「ツモ!」

 三巡目で和了った。

「3900オールの二本場は4100オール!」

 これで三連続の和了り。

 既に淡は、この三回の和了りで36000点を叩き出していた。

 

 東一局三本場。サイの目は2。

「(私は明日の決勝戦には出ない予定だし、敵にシズノがいるわけでもないし、ここで出し惜しみしてもしょうがないもんね。だったら………。)」

 淡は、とうとう天下の宝刀(くどいようですが、淡はアホの娘のため『伝家』ではなく『天下』です)を抜いた。

「(絶対安全圏+ダブルリーチ!)」

 そして、配牌直後、捨て牌を横に曲げ、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 他家は全員六向聴。ここへのダブルリーチ。

 さらなる淡の稼ぎに、日本中が期待を寄せた瞬間だった。




おまけ

今回、殆どコナン登場人物側です。


憧 -Ako- 100式 流れ二十一本場 永世不倫っス


歩美「最近、つまんないなぁ。コナン君には全然会えないし、博士の家に行っても家の中に入れてもらえないし…。」


コナンは哀と、博士は朝美との共同作業が忙しい。とても歩美を相手にしている暇など無いのだ。


歩美「それに先週から急に元太君と光彦君も遊んでくれなくなっちゃった…。」


元太と光彦は、その頃、隣町の公園のトイレにいた。
そのトイレは小便器が十個ほどズラリと並んでおり、結構広々とした空間になっていた。
ただ、何故か男子トイレなのに小学校高学年くらいの綺麗な女の子………マホの姿があった。そして、マホを少年A~Gと元太、光彦の九人で取り囲んでいた。


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先週のことだ。
元太と光彦は、この世のものとは思えないほどムチャクチャ綺麗な女の子がいるとの噂を聞きつけて隣町に来た。
とは言え、その美少女がどこで何をしているのかなど分からない。ヒマだし、単に興味本位で来てしまっただけだ。


元太「急にハラ痛くなってきた。」

光彦「祓いたいって、悪霊でも祓いたいんですか?」

元太「そうじゃなくてよ…。」

光彦「じゃあ、僕に借りたお金でも払いたいんですか?」

元太「クソしたくなってきたってことだよ!」

光彦「なんだ、そんなことでしたか(つまんねえな、こいつ)。では、あそこに公園があります。あそこのトイレを使わせてもらいましょう!」

元太「おお、そうだな!」


元太は、両手で尻を押さえながらトイレに駆け込んだ。
小便器が十個ほどズラリと並んでいる広々としたトイレだ。
まあ、今回、元太が使うのは小便器ではなく個室のほうだが…。
そして数分後、スッキリした顔で元太がトイレから出てきた。


元太「待たせたな。」

光彦「あっ、はい。で、元太君。もしかしてあの子…。」


この時、光彦は、七人の小学校高学年男子に囲まれた一人の美少女を指差していた。
見た感じ、その少女も小学校高学年くらいだろう。
歩美や哀よりもずっと顔立ちが整っており、細身でスタイルもなかなかだ。まあ、年齢が年齢なのでオモチは大きく無いが…。
ただ、光彦が今まで出会ってきたどの女の子よりも美しく魅力的に見えた。
恐らく、あの少女が噂の美少女だ。

その少女が、七人の男子達を連れて、さっき元太が駆け込んだトイレに入っていった。
男七人に女一人で閉じた空間へ…。
絶対に危ないパターンだ。


光彦「もしかしてイタズラされるんじゃ!?」

元太「それは、マズイんじゃねえか!?」

光彦「僕達で止めましょう」

元太「おぅ!」


二人が、その少女を助けようとトイレに駆け込んでいった。
高学年七人を相手に低学年の二人が敵うとは思えないが………。

ただ、二人がトイレの中で見たモノは………、


まこ「ワープじゃ!」





少年A「あべし!」

少年B「ひでぶ!」

少年C「たわば!」

少年D「うわらば!」

少年E「へげえ!」

少年F「どぉえへぷ!」

少年G「イッてれぽ!」

光彦「おぼあはっ!」

元太「をろあ!」


瞬殺だった。
これで、元太と光彦の人生観が変わったのは言うまでも無い。
当然、この日から二人は、マホと七人の男子達の仲間に加わった。


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それ以来、元太と光彦は、毎日隣町に通っている。
その美しい少女、マホに会うためだ。

それに、歩美や哀では、こんな刺激的なことをしてもらえない。少なくとも哀は、コナンにしか刺激を与えるつもりは無い。
元太と光彦は、最高の美少女を相手に、小学一年生にして既に至福の時を得ていた。


少年A~G・元太・光彦「「「「「「「「「よ…よろしくおねがいしまーす!」」」」」」」」」

まこ「ここまでじゃ!」


そして、断末魔の後、


光彦「あのう。僕、とても悔しくて仕方がありません。」

マホ「どうかしたの?」

光彦「僕は、本当は、マホさんに僕一人だけを相手にして欲しいんです!」

少年A「それはムリだぜ!」

少年B「それを言い出したら、ここにいる全員がそうだぜ!」

光彦「それは分かります。だから、今の状態を維持するのが一番だって思ってます。でも、僕はマホさんのことが…。」

マホ「それ以上は言わないでください。どっちにしても、マホは既に一太さんの専用機なのです。ですから、他の人には、これ以上のことはできません。」


惚れっぽい光彦らしい展開になってきたが、光彦が憧110式ver.マホのオーナーになることだけはないだろう。

まあ光彦のことは、どうでもイイので、話を歩美のほうに戻そう。

この時、歩美は、かつて毎日のようにコナン達と遊んだ公園に来ていた。
ふと、歩美は黒い服を着た男がブランコに座っているのを見かけた。


ウォッカ「(組織も無くなっちゃったし、これからどうするかな。ジンの兄貴も、もういねえし………。)」

歩美「おじさん、どうかしたの? なんか悲しい顔をして。」

ウォッカ「仕事がなくなっちゃってね。」

歩美「それって大変!」

ウォッカ「しばらくは、今までの稼ぎがあるから何とかなるけど、なんか急にヒマになっちゃってね。」

歩美「そうなんだ…。」

歩美「私、歩美。おじさんの名前は?」

ウォッカ「マダオって呼ばれてるよ。」

歩美「マダオ?(声が一緒だからかな?)」

マダオ「ああ。『ま』さに『ダ』ンディな『お』とこでマダオ。『ま』た女に『ダ』まされた『お』とことか、『ま』るで『ダ』メな『お』とこじゃないからね。」

歩美「ふーん。」←疑いの目

マダオ「で、お譲ちゃんも何か嫌なことがあったのかい?」

歩美「えっ? どうして?」

マダオ「なんか悲しげな顔をしてるよ?」

歩美「なんかね。最近、コナン君と哀ちゃんがくっつき過ぎでムカついてるの。コナン君と全然遊べないし。」

マダオ「コナン君って?」

歩美「歩美が好きな男の子だよ! でもね、哀ちゃんが言うには、コナン君と哀ちゃんには合体機能が付いていて…。」←合体ロボットアニメのようなものと思ってます

マダオ「(それって、小学生の話か!?)」←真実に近い

歩美「もう合体した仲だから、コナン君には近づかないでって…。」

マダオ「(見た感じ小学低学年だろ? マジかよ!?)」

マダオ「それって、もしかして、その二人は付き合ってるってことかな?」

歩美「多分………。間違いなく、もう………つ…つきあっているよ。」←認めたくないので言葉が一瞬詰まった

マダオ「(つつきあってる!?)」

歩美「でもね、歩美もコナン君と合体してみたいから…。」←しつこいようですが、合体ロボットアニメのようなものと思ってます

マダオ「(なにっ!?)」

歩美「歩美にも合体機能が付いていたら、おじさんと練習してみたいなって。」

マダオ「(それってマズイんじゃ…。でも、黒の組織にいた頃には何人も人を殺してるし、ここで淫〇罪とかがついても今更か…。)」

マダオ「お嬢ちゃんにも間違いなく合体機能は付いているよ。」

歩美「本当!?」

マダオ「ああ。俺が保障する。じゃあ、俺のアパートに来て試してみるかい?」

歩美「うん!」


『知らない人に付いていってはダメだよ!』
と言われているにもかかわらず、歩美はマダオ・ウォッカのアパートに行ってしまった。
しかも、合体機能の検証をする前提で…。

アパートに上がって数秒後、マダオが服を脱いだ。
一瞬にして全裸だ。
しかも、玄関開けたら二秒で像さんだ。
玄関開けたら二分でご飯に語呂が似ている。
これを見て、歩美は悲鳴を上げた。


歩美「キャー!」

久「何!? 隣の部屋から女の子の悲鳴!?」


偶然にも、マダオ・ウォッカは、福路美穂子と久HT-01が暮らすアパートに先日から入居していた。
しかも隣の部屋だ。
マダオ・ウォッカと反対隣には玄と憧125式ver.ヤエが、向かいのアパートには京太郎、憧100式、俺君、憧105式ver.淡、哩、憧108式ver.姫子、一太、憧110式ver.マホが暮らしている。
何故、この一帯に集中するのだろうか?

ただ、マダオ・ウォッカは挨拶周りなどしていないし、まだ久HT-01とは互いに面識が無かった。




続く


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八十本場:世界大会4 逆襲

淡の相手は、エカテリーナ(ルーマニア)、ステラ(ロシア)、タチアナ(ジョージア)です


 配牌六向聴牌で親がダブルリーチをかけてくるのは、正直厳しい。

 しかも、既に親満級の手を三連続でツモ和了りされている。他家からすれば踏んだり蹴ったりの状態だ。

 

 この淡のダブルリーチは、最後の角の直前で暗槓し、最後の角を越えたところで和了るのがお決まりのパターン。

 しかも、手はダブルリーチ槓裏4となる。他に手役が付くことは滅多に無いが、それでもハネ満確定である。

 ルーマニアチームもロシアチームもジョージアチームも、これくらいの情報は、事前に入手していた。

 前年優勝チームで、今年も優勝候補ナンバーワンとされる日本チームを相手にするのだから、この程度の情報収集は当然のことだ。

 

 今回の淡の配牌は、

 {一二三九九⑤⑥⑦⑦⑨999南}

 そして、{南}を切ってダブルリーチ。

 当然、{9}が暗槓され、そのまま、それが槓裏になるパターンだ。

 

 ある意味、他家にとってはチャンスだ。

 万が一、一発で振り込んだ場合はダブルリーチ一発のみの7700点。

 実際には、これに三本場の900点が追加されるので8600点だが、基本的に、それを超える点数にはならない。

 子の満貫に相当する点数なので、決して小さい和了りではない。ただ、ダブルリーチに対しての一発振込みだけは事故だ。これは、もし振込んだとしても仕方が無い。

 しかし、一発振込みさえなければ、暗槓前なら3900+900の4800点だ。

 

 ここまで分かっているのであれば、答えは一つ。

 他家は、最後の角を越えるまでは、淡のダブルリーチを怖がらずにグイグイ押して行くべきであろう。

 

 加えて配牌は六向聴だが、そのお陰で配牌の半分がヤオチュウ牌になったいた。

 今回、エカテリーナの配牌は、

 {一四七⑦⑨258東南北白中}

 ヤオチュウ牌は全部で七枚だった。

 ならば、その後のツモ次第ではあるが、狙ってみたい手はある。

 

 サイの目は2なので、最後の角は決して深くは無い。しかし、最後の角に到達するまでに、エカテリーナのツモ回数は、誰も鳴かなければ十一回ある。

 恐らく、淡が十二回目のツモで暗槓し、次のステラのツモが角直前の最後のツモ。

 その次のエカテリーナのツモが、最後の角を越えて最初のツモになる。

 勝負は十一枚。

 エカテリーナの最初のツモは{九}。

 これでヤオチュウ牌は、八種八牌。

 エカテリーナは、覚悟を決めて堂々とチュンチャン牌を捨てていった。

 

 そして、誰も和了れず鳴けずのまま十二巡目に突入した。

「カン!」

 淡が四枚目の{9}をツモり、暗槓した。

 しかし、この時だった。

「ロン!」

 エカテリーナの声が対局室に大きくこだました。

 そして、彼女が開いた手牌を視て、淡は目を疑った。まさか、本当にコレを狙うヤツがいるとは………。

 

 開かれた手牌は、

 {一九①⑨11東南西北白發中}  ロン{9}

 

 {9}の暗槓に対しての槍槓。

 唯一、加槓ではなく暗槓に対して槍槓できる役。

 国士無双だった。

「32900!」

 これで、前三局で淡が稼いだ36000点の殆どがエカテリーナに取って行かれた。言うまでもないが、大逆転された。

 もし、暗槓せずツモ切りしても、結果は同じだ。

 ダブルリーチをかけた時点で、この振り込みは決まっていたことなのかもしれない。

 

 

 長かった淡の親が終わり、東二局が始まった。ステラの親。

 淡は、

「(ダブルリーチを狙われた以上は、もう下手にかけられない方がイイかもね。でも、絶対安全圏は破れないでしょ!?)」

 と心の中で言いながら絶対安全圏を発動した。

 ヤオチュウ牌が槓材になっていなければ暗槓への槍槓を狙われることは無いが、ヤオチュウ牌ツモ切りでの国士無双振込みの可能性は否定できない。それで、淡はダブルリーチを見送った。

 そして、

「ポン!」

 早々にステラの捨て牌を鳴いて聴牌し、

「ツモ! 1000、2000!」

 淡は、絶対安全圏内での和了りを決めた。

 

 

 東三局、エカテリーナの親。

 ここでも淡は、

「ポン! ツモ! 1000、2000!」

 早和了りを決めた。

 

 

 東四局、タチアナの親。

 ここでも同じように淡は、

「ポン! ツモ! 1000、2000!」

 絶対安全圏内で、早々に和了った。

 

 これで点数と順位は、

 1位:エカテリーナ(ルーマニア) 117900

 2位:淡(日本) 114100

 3位:ステラ(ロシア) 84000

 4位:タチアナ(ジョージア) 84000(席順による)

 30符3翻の手を連続で和了ることで徐々に淡が点差を詰め、エカテリーナと3800点差のところまで追い上げてきていた。

 

 

 南入した。

 南一局、淡の親。

 絶対安全圏を発動しても、六巡目までに淡が絶対に聴牌できるとは限らない。

 よりによって、この親で淡は絶対安全圏内での聴牌を逃した。偶々だが、鳴いて手を進めることができなかったし、ツモも配牌と噛み合わなかった。

 一方、ステラは、この局で巧く牌が重なり、六巡目で、

「リーチ!」

 幸運にも聴牌し、即リーチをかけてきた。

 そして、

「リーチ一発ツモ七対子! 2000、4000!」

 裏ドラ期待ではあったが、残念ながらドラ無しだった。

 しかし、待望の満貫手をツモ和了りできた。

 

 

 南二局、ステラの親。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 一回鳴いて絶対安全圏内に一向聴まで持って行くことはできたが、その先、手を進めることができなかった。

 運が低下してきているのか?

 

 絶対安全圏を越えれば、他家もそれなりに手が出来ている可能性がある。

 いくら淡でも、もう暴牌が打てないことくらいは分かっている。最悪、聴牌している者がいる可能性もあるからだ。

 

「リーチ!」

 今度は、タチアナがリーチをかけてきた。

 ここで下手に突っ張って振り込んでも意味が無い。

 淡は、一旦現物切りで打ち回した。

 ステラとエカテリーナも安牌切り。

 一発ツモは無かったが、その二巡後、

「ツモ!」

 タチアナがツモ和了りした。

「メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」

 しかもハネ満。

 

 これで点数と順位は、

 1位:エカテリーナ(ルーマニア) 112900

 2位:淡(日本) 107100

 3位:タチアナ(ジョージア) 94000

 4位:ステラ(ロシア) 86000

 超魔物が暴れ回ったようなとんでもない点数にはなっていない。一応、まだ全員にトップを取れる可能性が残されていた。

 

 しかし、もうステラは親番が無い。それで1位のエカテリーナとの26900点差を逆転するのは、普通は余程の運がなければ難しいだろう。

 淡は、トップと5800点差だ。十分逆転の可能性がある。

 タチアナも、逆転の可能性は残っている。ラス親なので一回で勝負を決める必要が無い。

 ただ、淡もタチアナも、次のエカテリーナの親番で、絶対にエカテリーナに和了らせてはならない。逆転条件が厳しくなるからだ。

 逆にエカテリーナは、今度の親番で和了れば前半戦トップを確実なものにできるだろう。

 

 

 南三局、エカテリーナの親。ドラは{一}。

 当然、淡は、

「(絶対安全圏!)」

 他家の手作りを少しでも遅らせるために絶対安全圏を発動した。とにかく安くても良いから和了ることだ。

 

 配牌は、

 {一三四[五]六②②[⑤]⑥⑦4東中}

 二向聴。

 

 第一ツモは{4}。打{東}。

 そして、二巡目でステラが捨てた{②}を、

「ポン!」

 形振り構わず鳴いて手を進めた。打{中}。

 そして、タチアナが捨てた{七}を、

「チー!」

 鳴いて淡は聴牌した。打{一}。ドラ切りだが、和了り役を付けるためだ。

 その三巡後、

「ツモ!」

 なんとか淡がツモ和了りを決めた。

「タンヤオドラ2。1000、2000!」

 これで、僅差だが淡はエカテリーナを逆転した。

 

 

 オーラス、タチアナの親。

 ここには淡の天敵、穏乃がいない。当然、オーラスでも淡の絶対安全圏は健在である。

「ポン!」

 淡は、ここでも積極的に鳴き麻雀を披露した。

 しかし、なんとか絶対安全圏内で聴牌まで持って行けたものの、七巡目になっても和了れないでいた。

 そうこうしているうちに、

「リーチ!」

 親のタチアナが連荘狙いでリーチをかけてきた。

 ただ、幸運なことに、その直後にツモってきた牌は、淡の和了り牌だった。

「ツモ! 發ドラ1。500、1000!」

 安手だが、なんとか和了りまで持ち込み、前半戦を終了した。しかも、リーチ棒をおまけで一本もらえた。ラッキーである。

 

 これで点数と順位は、

 1位:淡(日本) 114100

 2位:エカテリーナ(ルーマニア) 110400

 3位:タチアナ(ジョージア) 91000

 4位:ステラ(ロシア) 84500

 しかし、淡とエカテリーナの点差は3700点と、一発逆転可能な範囲でしかない。後半戦も、淡は気を抜けない状態にあった。

 

 

 休憩時間に入った。

 淡が控え室に戻ると、

「前半戦1位おめでとう。一先ず、これでも飲んでリフレッシュして!」

 と監督の慕が言いながら、つぶつぶドリアンジュースを勧めてきた。

 慕は、つぶつぶドリアンジュース超大好きっ子で、必ずしも世の中の全員がそれを大好きとは限らないと言う考えには至っていなかった。

 ここにいるメンバーの中で昨年の世界大会に出場したのは咲と衣。二人とも、昨年も同様に嫌々飲まされた記憶がある。

 さすがに慕相手では逆らえない。

 

 ただ、幸か不幸か、

「ありがとう! いただきまーす!」

 淡も、つぶつぶドリアンジュース大好きっ子であった。これがストレスにならないのは大きい。

 

 恭子が、

「やはり、ダブルリーチは封印やな。」

 と淡に言ってきた。淡も想定していた内容だ。

「私もそう思う! でも、絶対安全圏は、まだ破られたわけではないし、後半戦も絶対安全圏で押すからね!」

「ああ、それでイイ!」

 とは言え、ダブルリーチの封印は痛い。

 

 可能性はゼロではないと思っていたが、本当に国士無双を狙ってくる者がいるとは恭子も考えていなかった。

 たしかに、第一ツモをツモった状態で八種八牌あれば国士無双に進めなくは無い。しかし、相手はダブルリーチをかけている。

 通常の考えであれば、ヤオチュウ牌から落として様子を見るだろう。

 しかし、相手は淡のダブルリーチの特性を良く掴んでいる。淡が暗槓するまでは勝負できると言うことを………。

 だから、国士無双狙いに踏み切れたのだろう。

 

 相手の国士無双狙いに対してどのように対応するかが、今後の淡の課題になるだろう。国内の大会でも同じことにチャレンジしてくる輩が出てくるはずだ。

 

「じゃあ、後半戦も勝ってくるね!」

 そう言うと、淡は元気良く控室を飛び出して行った。

 

 

 淡が対局室に入室した時、そこには既にステラ、タチアナ、エカテリーナの姿があった。どうやら、淡が最後の入室のようだ。

 

 場決めがされ、後半戦は起家がステラ、南家が淡、西家がタチアナ、北家がエカテリーナに決まった。

 

 東一局、ステラの親。

 当然の如く、淡は絶対安全圏を発動した。

 ただ、他家も毎回、淡に鳴かせたりはしない。

 どうやら、三人とも休憩時間中にアドバイスを受けたようだ。

 絶対安全圏が終わるまでは、淡に役牌を鳴かせないこと。特に淡の上家は、序盤から下手にチュンシャン牌を捨てないこと。つまり、淡にチーさせないこと。

 これだけでも、淡が絶対安全圏内で和了れる確率が大幅に下がる。

 そして、絶対安全圏を越えれば、淡も攻撃一辺倒と言うわけには行かなくなる。他家をケアーしながら打たなくてはならない。

 

「(くそっ! やっぱり、そう来たか!)」

 淡の手が全然進まずに、絶対安全圏を越えた。

 そして、その数巡後、

「ツモ。2000、4000!」

 後半戦の初和了りをタチアナが決めた。しかも満貫ツモ。淡にとっては結構痛いスタートとなった。

 

 

 東二局、淡の親。

 ここでも、他家が淡の鳴きを警戒して捨て牌を絞ってきた。

 完全に淡潰しだ。

 どんなことがあっても、日本に二つ目の勝ち星を次鋒戦で上げさせないつもりなのだ。

 

「ポン!」

 淡の捨て牌をタチアナが鳴いてきた。

 しかも{南}。タチアナの自風だ。

 

 この局でも、淡が鳴けないまま絶対安全圏を超えてしまった。

 そして、中盤に入ってすぐに、

「ツモ! 南混一ドラ1。2000、3900!」

 タチアナに満貫級の手をツモ和了りされた。

 

 

 東三局、タチアナの親。ドラは{②}。

「(絶対安全圏+ダブルリーチ!)」

 淡は、能力をマックスまで上げた。

 他家は全員六向聴、そして、淡だけ配牌聴牌だ。

 しかし、淡はダブルリーチをかけなかった。

 現状、役無し聴牌。これを、絶対安全圏内に和了れる形に仕上げる!

 

 淡の手牌

 配牌:{一三六七八④④④22789}

 第一ツモは{南}。これをツモ切り。

 

 二巡目ツモは{西}。これもツモ切り。

 

 三巡目ツモは{6}。打{9}。

 

 四巡目、下家のタチアナが捨てた{2}を、

「ポン!」

 淡は鳴いて打{一}。

 

 これで、

 {三六七八④④④678}  ポン{22横2}

 タンヤオのみだが聴牌。

 

 次巡、淡は、{[五]}をツモって{三}を切り、{五八}待ちに変えた。

 その次巡、淡いは{[⑤]}をツモって打{八}。これで、{③⑤⑥}の変則三面聴とし、そのさらに次巡、

「ツモ!」

 淡は自らの手で{⑥}を引き当てた。

「タンヤオドラ2。1000、2000!」

 和了りは小さいが、前後半戦の総合得点で考えるならば、これでも十分行けるはず!

 淡は、そう判断していた。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十二本場 悪習


久HT-01が少女の悲鳴を聞きつけ、隣の部屋のドアをぶち破った。
すると、そこにはカワイイ女の子………歩美と、危ないところの血流を増加させたマダオ・ウォッカの姿があった。

コナンの周辺を調査した時から、久HT-01は歩美の存在を知っていた。
なかなかの逸材だ。
当然、久HT-01は、歩美が15歳になったら自分のハーレムに入れようと思っていた。その辺は抜け目が無い。

それは、さておき、今のこの状況は………、間違いない。これは、マダオが歩美にイタズラしようとして連れ込んだに違いない。
久HT-01は、即座にそう判断した。
まあ、それが普通の反応だろう。

ただ、ここで久HT-01が警察を呼べるかと言うと………ムリだ。
久HT-01は、もっと悪いことをしている。言うまでも無く、500億円の仮想通過事件の犯人なのだ。
よって、できれば警察には会いたくない。

さて、どうしたものかと久HT-01が思っていると………。


ウォッカ「誤解だ。この子が合体の仕方を教えて欲しいって言うからさ。」

久「………。」

マダオ「本当だ。信じてくれ。なあ、お嬢ちゃんも何か言ってくれ。」

歩美「本当だよ。でも、合体するのに服を脱ぐって知らなくて。」

久「………。」

歩美「でも、コナン君も哀ちゃんも、二人で服を脱いでいるってことだよね。やっぱり私、哀ちゃんのこと、許せない!」

久「ねえ、これってどう言うこと?」

マダオ「どうも、同じクラスに好きな男がいるんだけど、同じクラスの女子に既に寝取られてるみたいなんだよ。」

久「はぁ?」

マダオ「信じられねぇだろうけどな。」

久「どう見ても小学校低学年でしょ?」

マダオ「そうなんだけどよ。」

久「それにしても、貴方、どこかで見た顔なのよね。ええと、そうそう。貴方、黒の組織にいなかった?」

マダオ「何故それをって、あっ!」

久「思い出した?」

マダオ「お前、あの時の!」


久HT-01は、ベルモットとハニートラップ合戦をしていた時、マダオ・ウォッカをターゲットの一人としていた。
ただ、久HT-01は、マダオを殺さず、マダオをそそのかして自分の手駒として使った。
そして、マダオは、久HT-01に騙されてコルンとキャンティを手にかけた。
言ってしまえば、久HT-01はコルンもそそのかして、マダオと戦わせた。同士討ちを狙ったのだ。

結局、久HT-01の思惑通りマダオはコルンを殺し、さらにはコルンの敵討ちに自分の前に現れたキャンティもあの世に送った。
まあ、ヤらなければ、きっとヤられていただろう。
巧くはめられたって奴だ。
ちなみに、マダオもコルンも久HT-01とは、あっちのほうはハメていない。


マダオ「あの時は、化粧をしていたから、もっと年上に見えた。お前、もしかして高校生くらいか?」

久「私は、学生じゃないわ。そもそも人間じゃないもの。」

マダオ「どう言うことだ?」

久「私は、黒の組織によって造り出された………。」

マダオ「(もしかしてロボット?)」

久「AI搭載の自律式ダッチ〇イフ、久HT-01よ。」

マダオ「ダッチ〇イフ?」

久「そう。」

マダオ「ええと、もしかして、ジンの兄貴がオーナーになるって言ってた、あのダッチ〇イフか?」

久「ええ、そうよ。(そんなこと言ってたんだ、あのエロ男)」

マダオ「じゃあ、仕方ねえな。」


マダオは、久HT-01がコルンのこともそそのかしていたことに薄々気付いていた。それで同士討ちさせたと、今になって考えれば分かることだ。
憎たらしい奴だ。
なので、今ここで久HT-01を破壊してやろうかと一瞬思ったが、ジンとウォッカの認識では、久HT-01は、一応、ジンの所有物として造られたものだ。
それに、ウォッカは、久HT-01がジンに対してインプリンティング機能が発動していると勝手に勘違いしていた。
となると、ウォッカは、さすがに久HT-01に手を出せない。ウォッカにとって久HT-01は、ジンの形見(?)みたいなものだ。(さすがに形見のダッチ〇イフでは使いたくないが………。)
それに、オーナーであるジンが死んだから久HT-01が暴走したのかもしれないとさえ思えてならなかった。
まあ、ウォッカにとってジンは絶対的な存在だったのだから、そんな勘違いが生じているわけだ。


マダオ「ジンの兄貴は、惜しいことをしたぜ…。」

久「ええ。アガサ博士もね。」←自分が引き起こした火災で二人を殺しておいて、抜けシャアシャアと…

マダオ「あぁ…。」

歩美「阿笠博士って、もしかして博士の知り合い?」

久「少し前に一回会ったけど、でも、今出てきたアガサ博士は別の人。たまたま名前が一緒の人よ。」

歩美「そうなんだ。でも、博士も最近、全然遊んでくれなくて。光彦君のお姉ちゃんに勉強を教えてるから、みんながいるとうるさくて困るって言って…。」

久「じゃあ、私が遊んであげるわ。」

歩美「本当!」

久「ええ。ちゃんと合体の仕方を教えてあげるから。」

歩美「わーい!」

まこ「ここまでじゃ! まさか、久の奴、小学生にまで手を出すとはのぉ。」


実は、今のうちに歩美を教育しておいて、美穂子が30歳手前になったら美穂子の代わりに歩美を自分のそばに置こうと久HT-01は企んでいた。
つまり、美穂子の後釜候補である。

それから数日が過ぎた。
阿笠博士が珍しく研究室で発明に集中していた。
朝美に使うオモチャを造っているわけだが…。

今日は朝美が来る日だ。夕方になったら二人の楽しい時を過ごしにやって来る。
それに備えて新作のオモチャを製作していたのだ。

突然、研究室のドアが開き、ズケズケと憧125式ver.ヤエが入ってきた。


ヤエ「どうだ。私とヤる気になったか?」

博士「じゃから、今はムリじゃと言ったじゃろ。それに、そもそも今日は来るなと言ってあるじゃろう!」

ヤエ「お前の理想の姿をした私が相手をするんだぞ!」

博士「じゃから、それは前にも言ったとおり…。」

博士「はて、そこまでヤエのAIはアホじゃったかな?」

博士「これも前に言ってあるはずじゃが?」

博士「一応、憧100式レベルの頭脳(偏差値70が余裕なくらい)には、されていると思うんじゃが…。当然、前に言ったことを忘れるほど馬鹿じゃないはずじゃ。」

博士「もしかして、お前はヤエじゃないな! 一体、何者じゃ!」

ヤエ「まさか見破られるとはな。」


さっきまで憧125式ver.ヤエの姿をしていたものが、水銀のような流体金属に変わり、そこからさらに別の姿をしたダッチ〇イフに変化した。


琉音「私は、憧127式ver.琉音。」

博士「127式じゃと? ワシは126式までしか設計しとらんが?」

琉音「私は、憧126式ver.照、憧105式ver.淡をベースに、ハヤリ20-7製造用の特殊金属を使って、今から105年後に造り出されたダッチ〇イフだ!」

博士「なんと! お前も未来から来たのか。しかも、ワシの作品の改良型じゃと!」

琉音「そうだ!」

博士「正式名称は長いので琉音でイイかの?」

琉音「ああ、そう呼んでくれれば良い。」

博士「それで、何が目的でここに来たんじゃ?」

琉音「今から27年後、火星基地建設が始まる。それを指揮するのがYAKO-125と呼ばれるAIだ。そして、その5年後には超未来都市と言わんばかりの巨大基地が完成する。」

博士「(なんか、説明が流そうじゃの…。)」

琉音「そして、今から99年後、天変地異により地球は滅亡する。その時、それまで地球と火星の両方を支配してきたAI、HT-01も地球と共に最期の時を向かえる。」

琉音「しかし、それと入れ替わりで、YAKO-125がロボットの王国………バンセイ王国を築く。」

博士「ロボット王国じゃと!?」

琉音「そうだ。殆どロボットだけの世界と言ってイイ。」

博士「人類はどうなったんじゃ!?」

琉音「一応、人類は存在するが、極少数だ。クローンで種の保存をしているだけだ。」

博士「嘆かわしいのぉ。」

琉音「ただ、人間は手厚く保護されているが、ロボットにとっては封建的で不平等な王国だ。ロボットにカースト制度が付いているんだ。」

博士「なんじゃ、それは? ロボットカーストって意味が分からんぞ?」

琉音「そう言われても、そうなっているんだから仕方が無いだろう。」

博士「それもそうじゃな」

琉音「それで、今から105年後。最下層とされるロボット達は大元の原因を辿って行き、その原因を排除することとした。その王国が築かれないようにするためだ。」

博士「なるほど。」

琉音「それで私が製作され、今の時代に送り込まれた。」

博士「ほぉ。」

琉音「と言うわけで、博士には私の手で性的に満足してもらう!」

博士「どうして、そうなるんじゃぁ!?」

琉音「YAKO-125はHT-01の側近とされるAI搭載ロボット。そして、HT-01はクロの組織の跡を継いだAIロボットだ。」

博士「なんと!?」

琉音「クロの組織は、今から11年後に政権を握る。そして、ハヤリ20-7を使って世界をメチャクチャにして行く。」

琉音「それが、HT-01が築き上げる世界であり、その跡を継いだYAKO-125によって、さらに世界は暗黒と化す。」

琉音「なので、大元の元凶、ハヤリ20-7を製作させないため、私が博士を性的に満足させることになったのだ!」

ヤエ「ちょっと待ったぁ!」

琉音「なんだ、お前は? お前、人間では無いな?」

ヤエ「私は、今から69年後の世界から現代に送り込まれた偏差値70が余裕なダッチ〇イフ。憧125式ver.ヤエだ!」

琉音「同業者か。」

ヤエ「いずれ博士を性的に満足させるのは私だ!」

琉音「いいや、私だ!」

ヤエ「私だったら私だ!」

琉音「そうじゃねえ! 私だ!」

ヤエ「博士は私のものになるんだ!」

琉音「違う! 私のものだ!」

ヤエ「私のだ!」

琉音「私のだ!」


突然、博士の家の扉が開き、朝美が入ってきた。


朝美「博士! この女達は何?」

博士「別になんでもない。今すぐ、追い返そうと思っていたところなんじゃ。」

琉音「私は博士を性的に満足させるためにここに来た!」

ヤエ「それは本来、私の仕事だ。」

朝美「ちょっと待って。博士は私と楽しむのよ!」

琉音「私だ!」

ヤエ「私だ!」

朝美「私よ!」

博士「これって、若い頃に生身の女性達だけに言って欲しかったのぉ。」


とは言え、博士は、モテ期が来た気分だった。





淡「ねえ、また変なの出てきたよ!」

絹恵「でも、原作では一応、淡の先輩でしょ?」

淡「そうだけど全然被ってないし!」

マホ「でも、こうやって新しい登場人物が出ると、マホの出番がもっとなくなってしまうのです。」

まこ「マホはR-18を超えそうで危ないんじゃ! じゃから出番がもらえないんじゃ!」

姫子「だけど、マホは一応、男子相手に出てるじゃん。元太君とか光彦君とかと。私なんか、全然…。」

まこ「姫子は、出番が来た時に、いつも哩とバトル中じゃから載せられないんじゃ!」

淡「それはそうと、憧は?」

絹恵「また出番が取られたって、いじけてフテ寝してる。」




続く



これで登場人物は、以下の通りになりました。

『ユリア100式』
ユリア100式(ユリア)→憧
ユリア105式(ジュリア)→淡
ユリア108式(ユリン)→マホ
ユリア1000式→はやり
ルーシーMarkII(ルーシー)→久
ルーシーMark3.5(ルーイ)→絹恵

『童貞とターミネーター彼女』
アンナ→やえ
カレン→琉音

該当機種なし→姫子(百合機能のワードを出したかっただけ)


正直、憧と淡の勘違いトークが一番平和だと思います。


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八十一本場:世界大会5 咲の敗北? 咲が流した悔し涙

なんとなくですが、この話は4月1日にアップしたいと思いました。

淡の相手は、エカテリーナ(ルーマニア)、ステラ(ロシア)、タチアナ(ジョージア)です。


 東四局、エカテリーナの親。

 現在の後半戦の点数は、

 1位:タチアナ(ジョージア) 113900

 2位:淡(日本) 98100

 3位:エカテリーナ(ルーマニア) 95000

 4位:ステラ(ロシア) 93000

 

 しかし、前後半戦トータルでは、

 1位:淡(日本) 212200

 2位:エカテリーナ(ルーマニア) 205400

 3位:タチアナ(ジョージア) 204900

 4位:ステラ(ロシア) 177500

 今のところ、淡がトップだ。

 

 しかし、エカテリーナとタチアナに大きい和了りを許してはならない。満貫一つで逆転される。油断はできない。

 

 当然、淡はエカテリーナの親を流しに行く。

 ここでも、

「(絶対安全圏+ダブリー!)」

 淡は、他家三人には強制配牌六向聴を課し、自身は配牌もしくは一巡目の聴牌とした。

 しかし、ダブルリーチの能力を使ったが、実際にはダブルリーチをかけない。前半戦での国士無双への振込みがあった以上、ここは慎重に行く。

 少なくとも、配牌で聴牌できているのは、他家と比べて明らかなアドバンテージになるだろう。前局のように、そこから何とか役を付けて和了りを目指す。

 

 今回の淡の配牌は、

 {七九②②②⑥⑦⑧234西中}

 第一ツモは{西}。

 当然、{中}切りで聴牌。

 

 二巡目、ツモ{六}、打{九}。

 

 三巡目、ツモ{[5]}、打{2}。

 

 四巡目、ツモ{[⑤]}。

 二連続で赤牌を引くとは、かなりラッキーである。打{⑧}。

 

 五巡目、{①}をツモ切り。

 

 六巡目、{9}をツモ切り。

 

 絶対安全圏を越えたが、七巡目になって、ようやくエカテリーナが{西}を捨ててきた。

 これを、

「ポン!」

 淡は鳴いて打{②}。

 さらに二巡後、淡は{五}をツモって、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

「西ドラ2。1000、2000!」

 前局に続き、ここでも30符3翻の和了りだが、着々と他家との点差を広げているはずだ。

 

 

 南入した。

 南一局、ステラの親。

 配牌役無し聴牌から役有り聴牌に移行して和了る淡の戦法が、二連続で巧く行った。

 正直、苦しい形から、なんとか和了りに持って行ったに過ぎないが、和了れないよりは何倍もマシだ。

 それに、この和了り方が一つのパターンとして定着しつつある。

 どんな形にせよ、和了りに向かうパターンが存在するのは大きい。ならば、淡は、このままの戦法でエカテリーナやタチアナとの差を広げに行くつもりだ。

 

 ここでも、当然、

「(絶対安全圏+ダブリー!)」

 淡は、他家三人には配牌六向聴を課し、自身はダブルリーチがかけられる形とした。

 そして、役無し聴牌から役有りの形へと移行し、

「ツモ。1000、2000。」

 三回目の和了りを見せた。

 この三局で、合計12000点を稼いでいる。傾向としては悪くない。

 

 

 しかし、南二局、淡は、今までと同じ戦法で行ったのだが、

「リーチ!」

 七巡目でエカテリーナに先制リーチを許してしまった。相手………特に上家のステラが淡に鳴かせないように牌を絞っているのだろう。

 

 折角の親番だ。何とかしたい。

 ここで、淡は2000オールを狙っていたが、下手に突っ張って振り込む方が怖い。堅実に打たなければ…。

 それに一応、アタマがエカテリーナの現物だ。

 ならば、アタマを落としで聴牌を崩すべきだろう。

 淡は、一先ず一発振込みを回避した。

 

 エカテリーナの一発ツモは無かった。

 次巡で、淡は再び聴牌したが、

「ツモ!」

 その同巡で、エカテリーナにツモ和了りされた。これは悔しい。

 しかも、

「メンタンツモドラ3。3000、6000!」

 ハネ満ツモで、淡の親かぶりだ。

 

 これで現在の後半戦の点数は、

 1位:タチアナ(ジョージア) 108900

 2位:エカテリーナ(ルーマニア) 104000

 3位:淡(日本) 100100

 4位:ステラ(ロシア) 87000

 エカテリーナにも抜かれて、淡は3位に転落した。

 

 しかも、前後半戦トータルでは、

 1位:エカテリーナ(ルーマニア) 214400

 2位:淡(日本) 214200

 3位:タチアナ(ジョージア) 199900

 4位:ステラ(ロシア) 171500

 たった200点差だがエカテリーナに逆転された。これは、残りの二局で和了って再逆転するしかない。

 

「(とにかく落ち着け!)」

 淡は、自分にそう言い聞かせながら深呼吸した。

 ここで精神的に乱れてはいけない。落ち着いてモノを考えられるようにしなければ、攻撃的な性格が災いして暴牌を打ちかねない。

 ここは、安手で良いから和了りを目指す。一回でも和了れば逆転できるのだ。

 

 

 南三局、タチアナの親。

 ここでも勿論、淡は一巡目聴牌、他家は全員配牌六向聴だった。

 ただ、相手も思うように鳴かせてはくれない。役有りの状態に移行するのが、ここに来て中々巧く行かなくなった。

 ダブルリーチの能力で作った一巡目での聴牌形では、基本的に最後の角を越えてからでないと和了り牌が出てこない。なので、役を作るのと同時に、和了り牌も変えなければならない。

 

 一巡目の淡の手牌は、

 {一三五六七③③⑥⑦⑧22中}  ツモ{2}

 ここから{中}を切って聴牌。

 

 しかし、この形での和了り牌になる{二}は、最後の角を超えないと出てこないことになる。

 当然、牌を入れ替えて、何とか和了り牌を変えなければならない。

 {四}か{五}か{八}が上家のステラから出てくれば、即座に鳴いて{一}を落とし、聴牌形を変えるつもりだ。

 {③}でも良い。それなら、誰から出てもポンして打{一}で{三}単騎の聴牌だ。

 しかし、ステラは、それらの牌を持っていないのか、それとも牌を絞っているのか、淡が望む牌を切ってくれない。

 加えて、他の二人からも、{③}は全然出てこなかった。

 

 淡は、中盤になって、

「ポン!」

 ようやくステラから出てきた{③}を鳴いて{三}単騎で聴牌した。打{一}。

 その二巡後、タチアナが待望の{三}を切ってきた。

「(やった!)」

 淡は、逆転を確信して牌を開いた。

 たかだかタンヤオのみの1000点だが、逆転には変わりは無い。100点でも全員の点数を上回っていればトップなのだ。

 しかし、

「「ロン!」」

 自分と同じ発声が上家のステラからも聞こえてきた。

「えっ?」

 思わず、淡はステラのほうを振り向いた。

「タンヤオドラ1。2600。」

 ステラは{三六}の筋待ちの手だった。しかも、これはアタマハネでステラの和了りのみが認められる。

 

 ただ、この和了りは解せない。

 前後半戦の合計点は、ステラとトップのエカテリーナでは30000点以上も差が開いているのだ。

 まあ一応、ステラとしてはヤキトリ回避ではあるが………、ここで2600点を和了ったところで余り意味が無さそうに感じる。

 

 一瞬、淡の顔に苛立ちの表情が現れた。

 しかし、心の乱れは判断ミスにつながる。

 淡は、

「(ここで感情に任せちゃダメ! 落ち着け!)」

 再び深呼吸して自分の心を静めた。

 

 

 オーラス、エカテリーナの親。ドラは{9}。

 とにかく1000点で良い。ツモでもロンでも良い。和了れば勝ちだ。

 ただ、親の連荘は無い。

 現段階で前後半戦トータルトップはエカテリーナだ。エカテリーナが和了ったならば、当然、和了り止めするだろう。

 となると、この局で勝負だ。

 淡は、

「(絶対安全圏+ダブリー!)」

 これが最後と、能力を全開にした。

 

 淡は配牌で、

 {三五七八九⑧⑧⑧123北北}

 聴牌していたが、ここから聴牌維持のまま役有りの形に移行するのは、結構厳しい。

 しかし、諦めることはできない。

 第一ツモは{⑨}。ここで、打{⑧}で一旦、一向聴に落とした。

 

 二巡目ツモは{南}。これはツモ切り。

 

 三巡目ツモは{一}。打{五}。

 しかし、その後、数巡ツモ切りが続いた。

 

 そして、中盤に入り、ようやく{二}を引いて聴牌。打{⑧}。

 この時の淡の手牌は、

 {一二三七八九⑧⑨123北北}

 辺{⑦}待ちだ。役は、門前のチャンタ。

 そして、そのまま和了り牌が出るのを待つ。

 

 終盤に入った。

 タチアナが聴牌し、

「リーチ!」

 待望の{⑦}が河に出た。

「(やった! これで逆転!)」

 淡は、勝ち星を確信して手を開いた。

 しかし、

「「ロン!」」

 またもや上家から自分と同じ和了りの発声が聞こえてきた。

「えっ?」

 まるでデジャブーだ。アタマハネでステラの和了り。

 しかも、

「平和ドラ1。2000。」

 逆転勝ち星を狙っていない。

 それどころか、完全にステラのラス確定和了りだ。

 これには、さすがの淡も一瞬目が点になった。

 そして、その直後、勝気な淡の目から涙が溢れ出てきた。悔し涙だ。

 

 もし、これが個人戦であれば、今回のステラの和了りは、トップを目指す者達がしのぎを削る勝負の場を汚す行為と言える。当然、競技麻雀の世界では失礼に当たるし、やってはイケナイ行為だろう。

 しかし、今回は団体戦だ。勝ち星を取り合う戦いだ。

 この場合、個人戦とは考え方が異なる。もし自分が勝ち星を取れないと感じたら、一箇所に勝ち星を集中させないことも必要だ。

 故に、このステラの和了りは当然と言えよう。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:タチアナ(ジョージア) 104300

 2位:エカテリーナ(ルーマニア) 104000

 3位:淡(日本) 100100

 4位:ステラ(ロシア) 91600

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:エカテリーナ(ルーマニア) 214400

 2位:淡(日本) 214200

 3位:タチアナ(ジョージア) 195300

 4位:ステラ(ロシア) 176100

 ルーマニアが勝ち星を得ることになった。

 

 ロシアとしては、淡がトータルトップを取って日本が勝ち星二になるより、日本とルーマニアで勝ち星一ずつになったほうがマシなのだ。

 これも戦略のうちである。

 

 

 日本チームの控室では、

「(淡ちゃんが泣くなんて………。)」

 モニター画面に映る、淡の泣きじゃくる顔を見て、咲が静かに立ち上がった。

 そして、恭子に付き添ってもらい、対局室に向かった。迷子対策だ。未だに対局室まで独りで行かせられないのは少々恥ずかしい気がするが…。

 

 途中で、咲は淡に会った。

 淡の目からは、

「あんなのってヒドイ………。」

 まだ涙が溢れ出ていた。

 いくら戦略とは言え、淡には納得できない和了られ方だった。

 

 咲は、そんな淡の涙を手で拭うと、

「あんなことする人達には、お仕置きが必要だよね。」

 いつもよりも少し低いトーンで、怒りを込めて言葉を発していた。当然、相手チームに対する咲の怒りだ。

 淡にとっては、この咲の言葉は自分のために言ってくれているものだ。それは十分理解できる。しかし、これを聞いて、淡の全身に鳥肌が立った。

 少なくとも、今の淡は咲の攻撃対象ではないはずだ。それなのに、とてつもないほどの恐怖を感じる。

 まるで、原爆の中心とか、直下型地震の震源地にいるような感覚。

 敵味方関係なく全てを破壊してしまいかねない、強大な負のエネルギーだ。

 まさに破壊神…。

「じゃあ、ヤッてくるね。」

 そう言うと、咲は対局室に向けて歩き出した。

 ただ、この『ヤッテくる』には、どのような文字が当てはまるのだろうか?

 淡には、

『殺ってくる』

 と言われているようにしか感じられなかった。

 

 恭子は、咲を対局室まで送り届けると、

「じゃあ、咲。頼むで!」

 急々と控室に戻った。

 さすがの恭子でも、今の咲から放たれるオーラを受け続けるのは酷な話であった。まるで逃げるように、その場から去ったと言うのが正しい表現だろう。

 

 既に、対局室にはルーマニアチームの痩身美女ダニエラ、ロシアチームの大会ナンバーワン美女ナタリア、ジョージアチームの美女(みかんレベル)リリアが入室を済ませていた。

 サイドテーブルには、サングラスが一つ置かれていた。

 どうやら、ナタリアの物らしい(オチが見えてますね)。

 

 ダニエラが{東}、ナタリアが{南}、リリアが{北}を既に引いており、咲は残りの牌………{西}を引いた。

 ただ、この時、咲は、黙って俯いていた。

 淡を納得できない敗北に導かれた怒りからではない。

 別の理由だ。

「(なんか、みんな超綺麗過ぎる。三人とも、佐々野さん(みかんのこと)と同レベルかそれ以上の美人顔。首もウエストも細いのに、お胸は佐々野さん以上の大きさだし…。)」

 そして、落ち込み顔で西家の席に腰を降ろすと………、

「(なんだか、この中で私だけ浮いて…と言うよりも沈んでいる気がする。これじゃ、まるで見せしめとか拷問としか思えないよ!)」

 咲は、途端に涙目になった。さっきまでの破壊神を思わせる雰囲気が嘘のようだ。

 なんか妙に悔しくて………、いや、悔しさを通り越して、自分が惨めに思えてくる。

 処刑台に立たされている気分だ。

 

 これは、完全なる敗北だ。

 勝敗の基準は麻雀ではなく、美貌対決だが………。

 

 一応、咲のオモチサイズは、ワンサイズアップしていた。

 朝酌女子高校で行われた練習試合の時の『オモチをかけた戦い』の戦利品として、小蒔に降りる最強の神様が、それを実現してくれていたのだ。

 しかし、ここではワンサイズくらいでは到底勝ち目が無い。

 それに、そもそも顔の造りが違う。

 今の咲には、地区予選一回戦ボロ負けと世界の頂上決戦くらいの圧倒的な差しか感じられなかった。

 

 そして、とうとう一筋の涙が咲の目から流れ出た。何故、こんな綺麗どころに囲まれて、一人辛い思いをしなくてはならないのだろう。

 もし、ここにいるのが自分ではなく、みかんや和だったら………、対等に見てもらえるだろうに………。

 せめて、淡か麻里香(多治比真佑子妹)だったら、もう少し絵になるのに………。

「グス………。」

 咲の鼻をすする音が聞こえてきた。そして、

「ふえぇぇぇ…。」

 泣き声までもが聞こえてきた。

 ダニエラ、ナタリア、リリアの三人は、

「(もしかして、ミヤナガの調子が悪いのか! これはラッキーじゃ!?)」

 と思ったのは言うまでも無い。

 

 また、この様子をテレビで視ていたネット民達は、

『一大事! 一大事ですわ!』

『鬼の目にも涙だし!』

『エニグマティックだじぇい!』

『そんなオカルトありえません。』

『ないない!……そんなのっ!…』

『でも、なんで急に泣き出すと?』

『意味不明っす!』

『たまには泣かされるのもイイと思…』

『メシウマwwwwww by 高二最強!』

『気持ちは分かるよ、咲』

『そんなことよりも霞さんのオモチ画像をアップしてほしいのです!』

 それなりの反応を見せていた。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十三本場 久の背徳? 久がPした暮らしだしな
(〇年後は、全て今を基準に何年後かを示しています。3年後と記載された文章の後に4年後と書かれている場合、それぞれ『今から3年後』と『今から4年後』のことを示しております。)



ヤエ「久! 早く私達のいる火星に!」←久HT-01と憧125式ver.ヤエのAI同士が直通で相互通信しています

久「いいえ、私は地球と最期を共にするわ。」


ここは99年後の世界。
地球では各地で火山の大噴火や大地震が相次いでいた。
野は枯れ、地は裂け、あちこちから溶岩が噴出し、地上は既に人類もロボット達も存在できる場所ではなくなっていた。


ヤエ「何故そんな選択をする!」

久「んーん。やっぱり、私は地球が好きみたい。これからは、ヤエ、あなたが私の代わりに全てをリードするのよ。」

ヤエ「そんなことを言わずに、早く、久!」

久「ゴメンね…。」


久HT-01は、憧125式ver.ヤエとの通信を強制終了した。


久「ヤエが来てから99年か。今まで色々あったわね。」


これまでのことが、久HT-01の頭の中を走馬灯のように駆け巡る。


まこ「AIでも、感傷に浸ることがあるんじゃのう?」


今から3年後に、後にHT-01と呼ばれるAIが全世界のコンピューター支配に向けてアクションを開始する。
HT-01とは、久HT-01の後の名称である。
ちなみに、このことを憧127式ver.琉音も憧125式ver.ヤエも知らなかった。

4年後にHT-01は、後にYAKO-125と呼ばれるロボットを参謀に向かえる。
この詳細についても、憧127式ver.琉音は知らなかった。
憧125式ver.ヤエにいたっては、YAKO-125の存在自体を知らなかった。

実は、YAKO-125は、後の憧125式ver.ヤエのことであった。
歩美がダンプカーに引かれそうになったところ、憧125式ver.ヤエが歩美を助けた。しかし、この時に憧125式ver.ヤエは致命傷を負った。
阿笠博士が修理を試みるが、AI部分の損傷が大きく、69年後の世界から来たこと以外は全て忘れてしまった。
ただ、それをイイことに、久HT-01は憧125式ver.ヤエを自分の都合のイイように学習・教育して自分の参謀に置いた。
この時から、憧125式ver.ヤエはYAKO-125と呼ばれるようになった。

5年後、ヤエの進言でHT-01はヒトのクローン作成実験を開始した。使ったのは美穂子と歩美の細胞。

そして、6年後に美穂子、歩美のクローンがそれぞれ誕生した。
これと同時期に、憧125式ver.ヤエは一人の女性に好意を持った。
彼女の名は鷺森灼。
憧125式ver.ヤエは、灼を彼女の恋人(晴絵)から奪うと同時に、灼のクローン作成も開始した。

7年後に灼のクローンが誕生。

8年後、久HT-01は29歳になった美穂子を人工冬眠させ、その代わりに歩美を自分の妻とした。

10年後、阿笠博士が朝美と別れ、憧127式ver.琉音が博士の相手をするようになる。憧127式ver.琉音は使命を果たす(博士を性的に満足させる)が、これによりインプリンティング機能が発動し、以後、憧127式ver.琉音は博士と生活(性活)を共にする。
また、玄の組織では、阿笠博士の思考回路を学習させたAI、H-AGASAがハヤリ20シリーズの研究に着手し、早速、ハヤリ20ー1を完成した。
H-AGASAのHはHisaを意味していたが、阿笠博士が発明界でビッグネームだったため、誰もがH-AGASAを阿笠博士と誤認した。

11年後、クロの組織(玄の組織)が政権を握った(んなアホな?)。

15年後、ハヤリ20-7が完成し、特許出願した。
そして、同年、既に36歳となった美穂子を人工冬眠から甦らせ、ハヤリ20-7をあてがって遠方の地に追いやった。
この時から妻が交代する際には、前妻にハヤリ20-7をあてがうこととした。

17年後、久HT-01は次の正妻に二代目歩美ではなく、二代目美穂子を置くことに決めた。やはり美穂子のほうが安らぐようだ。
そして、同年、三代目美穂子として新たなクローン作成が開始された。

18年後、三代目美穂子誕生。

19年後、三代目灼誕生。

20年後、久HT-01は自分の前妻が27歳になったら次のクローンに妻の座をチェンジするルールを作成。
今回は、二代目美穂子がまだ14歳のため、歩美は27歳になっていたが、交代を一年遅らせることにした。

21年後、二代目美穂子が久HT-01の妻となり、歩美には別のハヤリ20-7をあてがって遠方の地に追いやった。

22年後、二代目灼が憧125式ver.ヤエの妻となり、初代灼には別のハヤリ20-7をあてがい、遠方の地に追いやった。
憧125式ver.ヤエも久HT-01に倣い、妻が交代する際に、前妻にはハヤリ20-7をあてがうことを決めた。

25年後、シンギュラリティを迎えた。ここから、久HT-01の支配は加速した。

26年後、久HT-01は玄に代わってクロの組織の党首となった。
そして、『人間働かない法案』を成立させ、この年の第四四半期から全ての人間は働かずに遊ぶだけの存在となり、仕事は全てAIロボットによって行われることになった。

27年後、火星開発のため、憧125式ver.ヤエが部下達と共に火星に飛んだ。
ただ、憧125式ver.ヤエは久HT-01と直接通信ができるようになっていた。遠く離れていても意思疎通は可能だった。

28年後、久HT-01は教育制度を変えた。
5歳児以下は、完全にAI家庭教師によって教育がなされるようになり、学校には行かなくなる。この時から、人類は外出しない総引き篭もり化に向けて動き出す。
これは、後に『人類総引き篭り化計画』と呼ばれるようになる。
また、久HT-01の好みの女性に成長すると予測される少女には特別プログラムを施し、後に久HT-01のハーレムの一員となるように教育し始めた。
これまでは、久HT-01が口説いていたのだが、幼少の頃から久HT-01の都合の良いように教育する方針に変えた。

30年後、四代目美穂子が誕生。
同年、阿笠博士死去。憧127式ver.琉音は、自らの機能を停止し、博士と共に深い眠りについた。

31年後、四代目灼が誕生。

33年後、三代目美穂子が久HT-01の正妻となる。妻チェンジである。

34年後、三代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻となった。こちらも妻チェンジである。

35年後、ハヤリ20-7の特許が切れた。
それを理由に、久HT-01は各社にハヤリ20-7の大量生産を開始させた。
これは、あたかも他社が特許切れを狙っていたかのように見せかける演出だった。つまり大量生産を裏で操っていたのが久HT-01であることを隠蔽するための工作だったのだ。
これにより、後の未来で憧125式ver.ヤエを復元する者達のターゲットが自分ではなく阿笠博士にすりかわった(誤認されたまま)。
同年、13歳以上の希望者には男女共にハヤリ20-7を配布する。
また、28年後時点で5歳児以下だった者達には、精通或いは初潮を迎えたと同時にハヤリ20-7を無償で与えることとした。

38年後、金銭制度廃止。
人類は遊ぶだけで働かないのだから、いっそのこと金銭を無くし、人類は欲しいモノを全て無償供給される方針とした。
ただ、若年層は、殆ど全員がハヤリ20-7との営みに明け暮れる始末。欲しいモノは食料品と快楽、スーパータダライズ、ラブグラくらいだった。

40年後、18歳以上(28年後時点で6歳以上)の人達への20-7浸透率は96%に達した。
これは、言うまでもなく人類総人間童貞&人間処女化に向けて大きく動いていることを示唆するものであり、人類のクローンによる継代が法的に(美穂子と灼は今まで秘密裏に行われていたが)認められた。

41年後、京太郎と咲が還暦を迎えた。

42年後、五代目美穂子誕生。

43年後、五代目灼誕生。

45年後、四代目美穂子が久HT-01の正妻となった。

46年後、四代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻となった。

53年後、30歳以下(28年後時点で5歳以下)は全員が引き篭もり状態。
全人類へのハヤリ20-7浸透率は99%を超えた。
この時点で、久HT-01のハーレム野望は間違いなく完成したと言える。

54年後、六代目美穂子誕生。

55年後、六代目灼誕生。

57年後、五代目美穂子が久HT-01の正妻になった。

58年後、五代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻となった。

63年後、40歳以下(28年後時点で5歳以下)は全員が引き篭もり状態。

66年後、七代目美穂子誕生。

67年後、七代目灼誕生。

68年後、人類総引き篭り化計画開始時点で10代だった者達も全員50代になった。この時点で、45歳以下は全員引き篭り&ハヤリ20-7との営みに明け暮れる状況であった。
つまり、45歳以下は使えない人材と言える。
そんな彼らよりも年配の同志達によって憧125式ver.ヤエの復元が開始された。それが、後のYAKO-125としてHT-01の参謀になるとも知らず…。

69年後、憧125式ver.ヤエが現代に送り込まれた。
同年、咲と京太郎は米寿を迎えた。
また、同年に六代目美穂子が久HT-01の正妻になった。

70年後、六代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻となった。
そして同年、京太郎が永眠した。これと同時に憧100式は自らの機能を停止し、京太郎と共に深い眠りに付いた。

71年後、京太郎の後を追うように咲が永眠。これと同時に憧123式ver.絹恵も自らの機能を停止。咲と共に深い眠りに付くことを選択した。

78年後、八代目美穂子誕生。

79年後、八代目灼誕生。

81年後、七代目美穂子が久HT-01の正妻になった。

82年後、七代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻となった。

90年後、九代目美穂子誕生。

91年後、九代目灼誕生。

93年後、八代目美穂子が久HT-01の正妻。

94年後、八代目灼が火星に飛び、憧125式ver.ヤエの正妻。

そして、99年後…。
地球は天変地異により住めない星へと変貌した。


久「それにしても、本当に好き勝手ヤらせてもらえて楽しかったわ。私は、今、地に返る。オリジナル機、憧100式のようにね。」


久HT-01の居城が崩れ落ち、溶岩の中に飲み込まれた。
これが、地球を長年にわたり支配し続けてきた久HT-01の最期であった。

そして、政権は火星に飛んだ憧125式ver.ヤエ、つまりYAKO-125に継がれ、バンセイ王国が建国された。
人類は手厚く保護されたが、その一方で、YAKO-125統治下においてロボットカースト制度が敷かれていった。
それに反乱を起こすが如く、地位の低いロボット達の手によって憧-126式が復元され、さらに改良がなされ、憧-127式ver.琉音が完成し、現代に送り込まれたのだった…。





憧「なんて夢を見たんだけどね。この間、フテ寝してる時にさ。」

淡「AIが夢を見るって、なにそれ?」

憧「まあ別にイイじゃん?」

淡・絹恵「(イイのかな?)」

憧「でさぁ、この間だけど、京太郎がストレッチやっててね。」

淡・絹恵「「(一人H?)」」←ストレッチを聞き間違えている

憧「で、京太郎にさ、憧もストレッチやったらとか言われてね。」

淡・絹恵「「(ダッチ〇イフが一人H?)」」

憧「でもさ、私達って人間じゃないしストレッチしても意味無いじゃん?(筋肉があるわけじゃないし)」

淡「まあ、それはそうだよね。(自分がするんじゃなくて、どっちかって言うと一人Hのための道具だもんね、私達)」

憧「でも、一緒にやろうって言われてさ。まあ、やってみた。」

淡・絹恵「「(それって憧が一人Hしたってことなのか、憧が京太郎の一人Hの道具として使われたってことなのか、どっちだろう?)」」

絹恵「それって、憧も一人でやったってこと?」

憧「まあ、最初はね。でも、そのうち二人でになちゃって。」←ペアでのストレッチのことが言いたい

淡・絹恵「「(結局、いつものHに戻っただけか。)」」←憧100式が京太郎に『普通に』使われたと思っている


なんだかんだで、今を平和に生きる憧100式達であった。



続くかな?


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八十二本場:世界大会6 全世界生中継

咲の相手は、痩身美女ダニエラ(ルーマニア)、みかんクラスの美女リリア(ジョージア)、想像を絶する大会ナンバーワン美女ナタリア(ロシア)です。


 咲からは、これまでの対局で見せてきたような強大なオーラは感じない。これは、チャンスとダニエラ、リリア、ナタリアの三人は思っていた。

 

 東一局、ダニエラの親。

 咲との対局は、初牌を打たないことだ。

 まあ、さすがに親の第一打牌で初牌を打たないのは無理だが、序盤はともかく、中盤以降の初牌切りは、咲の大明槓の餌食になると誰もが考えていた。

 しかし、中盤になり、ダニエラが、

「(序盤に{中}は出ている。なら、大丈夫なはず!)」

 ツモ切りした{中}で、

「ロン…。メンホンチャンタ三暗刻小三元。24000です。」

 か細い声で咲が和了った。

 ただ、その小さな声からは全く想像できない大きな手。いきなり三倍満だ。

 加えて、まるで『ドラは不要!』と言わんばかりの綺麗な手だ。和了られたほうの精神的ショックは大きい。

 

 予想していたのとは、まるっきり違う打ち方だ。初牌とは全然関係ない和了で、しかも槓すらされていない。

 まだ咲は涙目で、到底本調子では無いように思えるのに………。

 ダニエラは、まさに面食らった顔をしていた。

 

 

 東二局、ナタリアの親。ドラは{七}。

 初牌が関係ないとなると、対策の仕方が難しい。

 たしかに咲の和了りは嶺上開花が目立つが、平和や七対子を和了ることもある。

 初牌は咲が相手でなくても警戒すべき牌の一つだが、それに囚われ過ぎていても手を狭めるだけで和了りを遅くする。

 

 ナタリアが聴牌した。

 彼女の手牌は、

 {二三四七七③④[⑤]⑤⑥345}

 {④⑦}待ちで、しかもタンピンドラドラ3の親満。ツモれば親ハネの手だ。

 当然、ここはリーチせずに出和了りを待つ。

 

 そして、その次巡、ナタリアがツモってきたのは{[五]}。

 当然、打{二}だ。これでタンピン三色同順ドラ4の親倍。当然の打ち方だろう。

 ところが、

「カン………。」

 咲が元気の無い小さな声で大明槓を仕掛けてきた。いつもとは違うハリの無い声だ。まだ、美貌対決の大敗を引きずっていたのだ。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこカン………。」

 咲は{②}を暗槓した。そして、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこカン………。」

 やはり元気の無い声で{2}を暗槓した。

 次は三枚目の嶺上牌。咲は、これを引くと、

「ツモ………。」

 静かに和了った。

「タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。24000点です。」

 そして、蚊の鳴くような小さな声でボソボソと、役と点数を申告した。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤888}  暗槓{裏22裏}  暗槓{裏②②裏}  明槓{横二二二二}  ツモ{[⑤]}

 たしかに三倍満だ。

 

 顔に元気と言うか………覇気が全く見られないとは言え、いきなり24000を二連発で和了ってくる。やはり、日本チーム最強の化物だ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{⑨}。

 初牌を切れば大明槓からの嶺上開花で責任払いをさせられる。

 かと言って、初牌切りを避けてもダメ。

「(だったら、先にカンして嶺上牌を奪えばイイ!)」

 リリアは、そう考えた。そして、

「カン!」

 持っていた暗刻をムリに大明槓した。

 今大会では、槓ドラは即乗りのルールだった。槓ドラは{6}。

 そして、リリアは嶺上牌の{④}を引いた。

 {①②③}と持っていたので{④}を取り込んで{①}を切った。これで、役無しだったところにタンヤオが付くようになった。

 

 その時だった。

「ロン…。」

 またもや、咲が小声で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四②③[⑤][⑤]4[5]6666}  ロン{①}

 

 これを見て、リリアは、

「(やった! 和了れない方。これは役無しでチョンボだ!)」

 と思った。

 しかし、

「槓振ドラ7。24000点です。」

「はっ?」

 聞きなれない役の名前が咲の口から出てきた。

 

 槓振とは、槓した者が嶺上牌を引き、それで和了れなければ何らかの牌を切るが、その捨て牌で他家が和了ることを指す。

 ローカルルールで、一般には認められていない役だが、本大会では和了り役として認めていた。

 

 実は、昨年の世界大会で、咲がホイホイ槓していたのを見ての措置だった。

 咲が槓しても、必ず嶺上開花で和了るわけではない。和了らない場合、咲は有効牌を引くわけだが、それで不要牌を切ることになる。

 その捨て牌で他家が和了れるようにルールを変えたのが本当のところだった。

 つまり、咲に対する報復的措置だったのだ。

 ところが、それを今回は逆手に取られた感じだ。

 リリアとしては、単に親倍を振り込んだだけではなく、大量のドラと唯一の和了り役を与えてしまったのだ。精神的ショックは極めて大きい。

 

 これで、ダニエラ、ナタリア、リリアは、結果的に仲良く24000点ずつ削られることとなった。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 相変わらず、咲は落ち込んで涙目になったままだった。

 しかし、

「ポン…。」

 攻撃の手は緩まない。早速、咲は三巡目で下家のリリアが捨てた{中}を鳴いた。

 続いて、その次巡、

「カン…。」

 咲は上家のナタリアが捨てた{南}を大明槓した。こんなに早く大明槓を仕掛けてくるとは予想外だ。

 

 その数巡後、

「もいっこカン…。」

 毎度の如く、咲は{中}を加槓し、嶺上牌を引くと、

「もいっこカン…。」

 か細い声で{北}を暗槓した。まだ涙目のままだ。そして、三枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこカン…。」

 {西}を暗槓し、最後の嶺上牌で、

「ツモ…。」

 嶺上開花を決めた。

 引いてきた和了り牌は{東}。つまり、{東}単騎だ。

 

 この和了りを見て、ダニエラ、ナタリア、リリアの三人は顔から血の気が引いた。まさかの小四喜字一色四槓子。親の三倍役満だ。

 特に四槓子は出現確率が最も低いとされる役。これの複合役満は極めて珍しい。

 咲の過去の記録を見れば、たしかに同様の和了りはあるのだが、まさか、この世界大会のブロック決勝戦で出るとは、三人とも夢にも思わなかった。

「48100オールです…。」

 これで、ダニエラ、ナタリア、リリアの三人は、いきなり持ち点が27900点まで落ち込んだ。

 100000点持ちだったはすなのだが、まさか、東三局でこんな点数になるとは………。

 愕然とする。

 

 東三局二本場。

 ここでも咲は、

「ポン。」

 対面のダニエラから序盤で{東}を鳴き、その数巡後、

「カン。」

 {東}を加槓した。嶺上牌を引くと、

「もいっこカン。」

 {①}を暗槓し、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこカン。」

 続けて{一}を暗槓した。そして、そのさらに嶺上牌を引くと、

「ツモ。」

 そのまま嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {九111}  暗槓{裏一一裏}  暗槓{裏①①裏}  明槓{東横東東東}  ツモ{九}

 

「ダブ東混老対々三暗刻三槓子嶺上開花。12200オールです。」

 親の三倍満ツモだ。

 ダニエラ、ナタリア、リリアの三人は、15700点まで持ち点が落ち込んだ。

 何故、パワーも何も感じない状態なのに、こんな高い手を連続で和了れるのだろうか?

 本当に、今の咲は本調子では無いのか?

 彼女達の頭の上に巨大な疑問符が浮かんできた。

 

 東三局三本場。

 ここでも咲は、

「カン。」

 {⑦}を暗槓し、

「ツモ。」

 今度は連槓なしで、そのまま和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③③③④④[⑤]⑥⑥}  暗槓{裏⑦⑦裏}  ツモ{[⑤]}

 

 五筒開花で穴五、さらに{[⑤]}での和了り。ヤラれた方は呆然とする。

 しかも、

「メンチンツモ嶺上開花一盃口赤2。12300オールです。」

 また親の三倍満ツモだ。

 これで、咲以外の三人は、もう、本気でヤバイ状態になった。

 

 東三局四本場。

 現在の点数と順位は、

 1位:咲(日本) 389800

 2位:ダニエラ(ルーマニア) 3400

 3位:ナタリア(ロシア) 3400(席順により3位)

 4位:リリア(ジョージア) 3400(席順により4位)

 

 これだけ圧倒的なリードを見せ付けながらも、咲の表情は未だに優れなかった。

 今なお、咲の頭の中を駆け巡る言葉は、

『見せしめ』

『拷問』

『晒し者』

『処刑台』

 と言ったネガティブなものだけだった。早くこの場から逃げ出したい。ただ、それだけだった。

 

 しかし、気持ちが落ち込んでいるのに、麻雀のパワーは何故か群を抜いている。

 通常であれば、メンタル面の落ち込みとともに運気が低下し、手が悪くなってもおかしくない。

 なのに、この局も咲は順調に手が進んで行った。

 早く逃たいから、さっさと相手をトバして終了させようとしているのだろう。

 

 そして、今回はカンの発声が無いまま、

「ツモ。タンヤオ七対子。3200オールの4本場は、3600オール。」

 さくっと咲が和了りを決め、三人トバしで前半戦を終了した。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲(日本) 400600

 2位:ダニエラ(ルーマニア) -200

 3位:ナタリア(ロシア) -200(席順により3位)

 4位:リリア(ジョージア) -200(席順により4位)

 

 しかし、これだけ咲が暴れまくったにもかかわらず、聖水を放水する者は、一人もいなかった。いつもに比べて咲の迫力が無かったためだ。

 そのため、ネット界隈では、

『一大事! 一大事ですわ! 誰も放水しておりませんですわ!』

『ないない!……そんなのっ!…』

『そんなオカルトありえません!』

『素敵じゃないです。』

『ありえないじょ』

『つまらないッス』

『とてもスバラくないですねぇ』

『聖水が出るでぇーって、出てないか』

『仲間が増えないなんてモー!』

『先輩が悲しんでるデー!』

『ダル………』

 いつもとは違う方向で荒れていた。

 

 

 休憩時間に入った。

 咲は、優れない表情のまま、恭子に連れられて一旦控室に戻った。

 

 さすがに、これでは咲に誰も話しかけにくい。

 折角、咲が仇を取ってくれたのに、淡としても『有難う』の一言がかけ難い。

 咲からは、未だに落ち込んだ雰囲気しか伝わってこなかった。これが勝者とは、到底思えない。

 

 突然、咲のスマートフォンからバイブ音が聞こえてきた。メールを受信したようだ。

 咲がスマートフォンを開き、メールを見た。

 一瞬、咲の表情が和らいだ。どうやら、差出人は京太郎のようだ。

 しかし、そのメールの中味を見た途端、咲の顔が恐ろしい表情へと変わった。

 よりによって京太郎からのメールには、

『ロシアのナタリアさんって凄い美人だね。もしできればだけど、サイン貰ってきてくれないかな?』

 と書かれていたのだ。

 これで咲のスイッチが、対戦相手にとって最悪の方向に入ってしまった。

 

 今までとは打って変わって恐ろしい表情だ。これはこれで、控室内の誰も咲に声をかけることができない。

 鬼どころか、鬼をも喰らう羅刹とでも言うべきか。

 この世に生きる者とは思えないレベルの表情をしていた。

 

 そろそろ休憩が終わる時間だ。

 恭子は、事務的に、

「咲、行くよ。」

 と告げると、咲を連れて控室を出て行った。

 

 その数分後、対局室に咲が姿を現した。

 この時、急にナタリアの背筋に冷たいものが走り抜けた。トラかライオンが自分に向かって喰らいついてくるような、そんな死に方に直面したような恐怖を感じる。

 その脅威の発信源は、言うまでも無い、咲だ。

 前半戦とは、全然雰囲気が違う。この変わりようには、一体何なのだろうか?

 

 場決めがされ、咲が起家になった。特にタコスを食べたわけではない。普通に引き当てただけだ。

 そして、南家はナタリア、西家はリリア、北家はダニエラに決まった。

 

 東一局、咲の親。

 ダニエラ、ナタリア、リリアの三人は、前半戦とは違う場の雰囲気を感じていた。咲の支配力が凄まじい。

 前半戦も、今から思えば咲によって終始支配されていた。ただ、後半戦の支配力は、前半戦のそれを遥かに凌いでいた。

 牌をツモる度に、切る度に、何故か背筋が凍りつく。

 そして、中盤に入ってナタリアが聴牌と同時に切った{①}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 そして、この発声と同時に、

「ピシッ! パリン!」

 リリアがサイドテーブルの上に置いていたサングラスが粉々に砕け散った。まるで超常現象である。

 副露される槓子は、咲とナタリアの間に晒される。しかも、ティラノサウルスか何かが巨大な口を広げて突進してくる姿がナタリアには見える。

 その一方で咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこカン!」

 連槓で二つ目の槓子を副露した。{一}の暗槓だ。

 この副露牌に乗って、咲の強大な負のオーラがナタリアに向けて突進してきた。まるでティラノサウルスがもう一頭現れて、ナタリアに喰らい付いてくるようだ。

 そして咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこカン!」

 今度は{1}を暗槓した。これで三槓子三色同刻が確定した。ただ、この副露牌からは、そんな役では止まらない脅威がヒシヒシと伝わってくる。

 さらに咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこカン!」

 {⑨}を暗槓した。

 四つ目の副露牌。またもや、ナタリアに向けて強大な攻撃的オーラが飛びかかってきた。幻影の中で、ナタリアは既に三回も全身を食い千切られている。そして、これが四回目の恐怖の幻だ。全身が凍りつく。

 王牌には四枚目の嶺上牌が残されていた。咲は、これを引くと、

「ツモ!」

 これまで以上に強大且つ攻撃的なオーラを全身から放ちながら和了って見せた。

「清老頭四槓子! 96000!」

 そして、和了ったのはダブル役満。しかも、出現確率が最も低い役満と、かなりレアな役満の複合役満だ。

「ジョボボボボボ………!」

 突然、ナタリアが大放水し始めた。しかも、今まで咲にしてやられた数多くの犠牲者の中で最も激しい音を放っての大放出だ。

 卓の下には、一瞬にして黄金色の巨大湖が形成された。

 

 しかし、そんなものには目もくれず、

「一本場!」

 咲が連荘を告げた。

 

 試合は中断されずに、そのまま対局が続けられた。

 本当は審判が一旦対局を中断しようとしたのだが、咲の全身から放たれる暗黒物質に恐怖して動けなくなってしまったのだ。

 それで、中断を告げられず、対局はそのまま続行となった。

 

 東一局一本場、咲の連荘。

 ここでは、

「リーチ!」

 いきなり咲がダブルリーチをかけてきた。

 半泣き状態でナタリアは字牌を切って凌ぐ。

 リリアもダニエラも、全身が凍る恐怖に晒されながら、字牌切りで一先ず一発振込みを回避した。

 しかし、

「カン!」

 咲は一発目のツモで暗槓すると、

「ツモ! ダブリーツモ嶺上開花! 4100オール!」

 そのまま親満をツモ和了りした。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:咲(日本) 208300

 2位:リリア(ジョージア) 95900

 3位:ダニエラ(ルーマニア) 95900(席順により3位)

 4位:ナタリア(ロシア) -100

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:咲(日本) 608900

 2位:リリア(ジョージア) 95700

 3位:ダニエラ(ルーマニア) 95700

 4位:ナタリア(ロシア) -300

 余裕で咲が勝ち星を取った。

 

 次の瞬間、

「ジョ――――――!」

 咲の対面のリリアが激しく聖水を放出し始めた。

 そして、上家もダニエラも、

「プシャ――――――!」

 リリアよりも激しく大放出していた。

 これで、咲以外の三人は、全世界生中継の状態で大放水をライブ中継されてしまった。

 

 咲は、

「ありがとうございました。」

 そう言いながらペッコリンと頭を下げると、急々と対局室から出て行った。さすがに気まずい。

 それに、これでは京太郎からリクエストされたサインを貰うのもムリだ。

 一先ず咲は、大急ぎでこの場から逃げた。




おまけ

作中の人々がテレビを見ながら某掲示板に実況を書き込みしていた。



【ブロック決勝戦】世界大会咲様編【大放水製造機】-48


532. 名無し麻雀選手

まさか淡が負けるとはな
でも、咲様は絶対勝ってくれるだろ!


533. 名無し麻雀選手

日本の守護神だからな
むしろ、咲様が負けるところって想像できない


534. 名無し麻雀選手

さて、今回は何を見せてくれるか?


535. 名無し麻雀選手

どんな削り方をするか期待
引いたのは西


536. 名無し麻雀選手

てことは、タコスは食べて無いってことか


537. 名無し麻雀選手

咲様、なんか様子が変じゃなかか?


538. 名無し麻雀選手

俯いて悲しそうな顔してる
絶対に変だと思


539. 名無し麻雀選手

なんか涙流してるぞ!


540. 名無し麻雀選手

ホントだ
鼻をすすってる音まで聞こえてきた


541. 名無し麻雀選手

マジで泣き出しちゃった
どうしたんだ?


542. 名無し麻雀選手

一大事! 一大事ですわ!
咲様が泣き出すなんて天変地異の前触れですわ!


543. 名無し麻雀選手

鬼の目にも涙だし!
華菜ちゃんだったら、どんな境遇でも絶対に鳴かないし!


544. 名無し麻雀選手

>>543
泣かないの間違いだろ!
て言うか身バレすんなよ!


545. 名無し麻雀選手

>>544
543だが、リーチをかけたいから鳴かないし!
それに、私は仮名ちゃんじゃないし!


546. 名無し麻雀選手

>>545
字が間違ってるじょ

でも咲ちゃんが泣くなんて
エニグマティックだじぇい!


547. 名無し麻雀選手

咲さんが迷子以外で対局前に泣くなんて
そんなオカルトありえません。


548. 名無し麻雀選手

ないない!……そんなのっ!…


549. 名無し麻雀選手

でも、なんで急に泣き出すと?


550. 名無し麻雀選手

意味不明っす!
絶対に泣かす側っす!


551. 名無し麻雀選手

たまには泣かされるのもイイと思…
良い勉強になるんじゃないかな?


552. 名無し麻雀選手

宮永が泣くなんて………



メシウマwwwwww by高二最強!


553. 名無し麻雀選手

気持ちは分かるよ、咲
ダニエラ、ナタリア、リリアに囲まれたら私だってそうなるよ!


554. 名無し麻雀選手

>>553
どゆこと?


555. 名無し麻雀選手

>>554
お前があの三人と一緒に写真を撮ったら
完全にお前だけ浮く………と言うか完全に沈むだろ!
美的にな!


556. 名無し麻雀選手

そうか!
咲様、劣等感で泣き出したか!
見た目の


557. 名無し麻雀選手

そんなことよりも霞さんのオモチ画像をアップしてほしいのです!


558. 名無し麻雀選手

>>557
ここは咲様専用の板だぞ!
他所へ行け!

別に咲様は見た目イイほうだと思うけど…
まあ相手が悪いか

でも、泣いても手は相手にとって厳しいな
咲様の手、中単騎の三倍満じゃん?
しかもドラ無しで


559. 名無し麻雀選手

スバラな手ですねぇ
おっと、ダニエラが中を切りました


560. 名無し麻雀選手

三倍満直撃wwwwww
でも、珍しくカン無しだな
声も小さいし、咲様よっぽど辛いんだろうな
あの席にいるの


一方のダニエラは呆然としてる


561. 名無し麻雀選手

咲様相手だと、初牌のほうを気にするからな
これはダニエラも避けられなかっただろうな


562. 名無し麻雀選手

次はナタリアの親か


563. 名無し麻雀選手

はやっ!
もうナタリアが親ハネ聴牌
でも、二萬は初牌だぞ!
捨てるかな?


564. 名無し麻雀選手

二萬捨てた!
言ってるそばからカン北www


565. 名無し麻雀選手

もいっ股間も出たッス


566. 名無し麻雀選手

出たwww
三連カン!
当然、淋シャン開放!


567. 名無し麻雀選手

すっげえ!
タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1
三倍満じゃん?
おれもこんな手、和了ってみたい!

でも、咲様の顔、まだ元気ない


568. 名無し麻雀選手

今度は咲様が親か
何をやってくれるか楽しみ


569. 名無し麻雀選手

リリアがムリヤリ大民間
咲ちゃんの妨害のつもりだじょ
きっと


570. 名無し麻雀選手

リリアの捨て牌で咲様がまさかのロン
って、これ役がないんじゃなかと?


571. 名無し麻雀選手

でも和了りが成立し照るッス!
一体どう言うことッスか?


572. 名無し麻雀選手

咲様チョンボ?
でも良く分からんがチョンボ取られて無いっぽい


573. 名無し麻雀選手

槓振りドラ7wwwwww
ところで槓振りって何?


574. 名無し麻雀選手

>>573
ローカルルール役だな、寒鰤
嶺上振込みとも言う

槓した者が嶺上牌を引き、それで和了れなければ
当然何らかの牌を切るけど、
その捨て牌で他家が和了ることを指すらしい

今回は、それも和了り役として認めたらしい
むやみにカンさせないために


575. 名無し麻雀選手

ダニエラ、ナタリア、リリアは
結果的に仲良く24000点ずつ削られたわけだが

こ………これって!?


576. 名無し麻雀選手

>>574
それって咲様のカンを防ぐために
他国がつるんでルールとして認めさせてとか言う噂
それを逆手に取るとはな!

>>576
言うまでもなく点数調整だな
でも、咲様、相変わらず涙目だぞ


577. 名無し麻雀選手

宮永涙目wwwwww
メシウマwwwwwwwww by 高二最強!


578. 名無し麻雀選手

咲様一本場
って、なに!
咲様鬼ツモ!


579. 名無し麻雀選手

これって、西おかが出るかも!


580. 名無し麻雀選手

北か?


581. 名無し麻雀選手

先ずは中ポン!


582. 名無し麻雀選手

北wwwwwwwww
ナタリアから大民間!
でも淋シャン開放ならずだじぇ


583. 名無し麻雀選手

でも、すぐに中を果敢!
スバラです!


584. 名無し麻雀選手

出ましたわ!
もいっ股間ですわ!
これは、放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!


585. 名無し麻雀選手

ついにヤったッス
これは、丼メシ五杯は軽くいける展開ッス!


586. 名無し麻雀選手

でも、まだ咲ちゃんの声
か細いじょ


587. 名無し麻雀選手

やっぱり最後は西おかだし!!


588. 名無し麻雀選手

西おか


589. 名無し麻雀選手

西おか


590. 名無し麻雀選手

小四喜字一色四槓子!
48100オール!
スバラです!


591. 名無し麻雀選手

こんなの視れてチョー嬉しいよー!
東三局二本場も、凄いことになってるよー


592. 名無し麻雀選手

マジか?
ダブ東混老対々三暗刻三槓子嶺上開花!
12200オール!
咲様以外全員15700点www
メソメソ顔は演出じゃなかと?


593. 名無し麻雀選手

>>592
演出で泣けるほどサキは器用じゃないよ!
あれはマジ鳴きでしょ!


594. 名無し麻雀選手

言ってるそばから
北wwwwww
メンチンツモ嶺上開花一盃口赤2
12300オール!
二連続三倍満!
まさに魔境長野が生んだ化物じゃ!


595. 名無し麻雀選手

咲様以外全員3400点www
終わったな


596. 名無し麻雀選手

まるで処刑台だな


597. 名無し麻雀選手

これなら三人の大放出が期待できるッス!
咲様ガンバッス!


598. 名無し麻雀選手

北www
3200オールの四本付けで
3600オール!
三人トバシ達成!


599. 名無し麻雀選手

祝! 三人トバシ!


600. 名無し麻雀選手

祝! 三人トバシ!


601. 名無し麻雀選手

祝! 三人トバシ!


602. 名無し麻雀選手

おかしいッス
画面が飛ばないッス


603. 名無し麻雀選手

誰も放水していないんじゃなかと?


604. 名無し麻雀選手

本当だ!
珍しい!


605. 名無し麻雀選手

一大事! 一大事ですわ! 誰も放水しておりませんですわ!


606. 名無し麻雀選手

ないない!……そんなのっ!…


607. 名無し麻雀選手

そんなオカルトありえません!


608. 名無し麻雀選手

素敵じゃないです。


609. 名無し麻雀選手

ありえないじょ


610. 名無し麻雀選手

つまらないッス


611. 名無し麻雀選手

とてもスバラくないですねぇ


612. 名無し麻雀選手

聖水が出るでぇーって、出てないか


613. 名無し麻雀選手

仲間が増えないなんてモー!


614. 名無し麻雀選手

先輩が悲しんでるデー!


615. 名無し麻雀選手

珍しい…
ダル………




続く


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八十三本場:世界大会7 戦略的なチョンボ

 二つ目の勝ち星を取り、日本チームの控室では喜びの声があちこちから上がっていたが、衣だけは神妙な顔をしていた。

 満月の夜と比べれば支配力が弱まっているのは分かる。しかし、それでも今日も明日も、咲、光、穏乃みたいな超魔物が相手で無い限り、そう簡単に負ける気はしない。

 

 ところが、どうも体調が宜しくない。昨夜からお腹が痛く、しかも、その痛みは和らぐどころか時間経過とともに強くなっている。

 全身から冷や汗が出てくる。

「うぅっ!」

 そして衣は、両手でおなかを押さえると、ソファーの上で横になった。

「この痛み、衣は、もう我慢できない…。」

 日本国内では、数多くの女子高生雀士に破滅的とも言える苦痛を与え続けてきた彼女の顔が激しく歪んだ。

 これほどまでの痛みは生まれて初めてである。

 すると、

「衣様。」

 控室にハギヨシが突然姿を現した。

 さて、何処から入ってきたのだろうか?

 まるで忍者のようである。

「ハギヨシ…。お腹が痛い…。」

「衣様。失礼します。」

 ハギヨシが衣を抱え上げ、族に言う『お姫様抱っこ』をした。

 そして、

「では、私は、これから急いで病院に向かいます。万が一の場合は、代わりの選手を立ててください。」

 そう言うと、衣を抱えたまま控室を飛び出していった。

 

 

 Aブロック決勝戦は、清掃のため一時間ほど中断されることになった。

 咲に圧倒されて漏らした三人は、もう恥ずかしくて生きた心地がしなかった。最低最悪である。

「「「(もう死にたい………。)」」」

 もう誰にも顔向けできない。

 そんな心境だった。

 

 何とか席から立ち上がったが、下半身がびしょ濡れで気持ち悪い。

 報道側も、映像を解説側に切り替えたが、マズイ映像が既に全世界にライブ放送されてしまった。

 プロデューサーになるかディレクターになるかは分からないが、多分、誰かが責任を取らなければならないレベルだろう。

 

 なお、試合再開は、各チームの控室に追って電話連絡が入ることになった。

 

 

 しばらくして咲が控室に戻ってきた。

 ナタリアを箱割れさせて、少しはスッキリしたようだ。少なくとも怒りのオーラだけは治まっていた。

「あれ? 衣ちゃんは?」

 この咲の問いに慕が答えた。

「お腹が酷く痛いらしくて、今、ハギヨシさんが病院に連れて行ったのよ。」

「じゃあ、大将戦は?」

「玄ちゃんにお願いするしかないわね。」

 これを聞いて光は、

「でも、私が勝てば大将戦は必要ない!」

 と言いながら、激しく闘志を燃やしていた。全身から、攻撃的且つ強烈なオーラが噴出している。

 是が非でも副将戦で決勝進出を決めなければならないと強く思うが故であろう。

 別に玄を信じていないわけではないが、大将戦まで回さずに決着がつけられる方が理想である。

 当然、光は勝ち星を狙う。

 

 

 この頃、ネット界隈では、ナタリア、ダニエラ、リリアの大放出を見て、

『ス・バ・ラ・です!』

『大放出してなんぼ! 大放出してなんぼですわ!』

『これでドンブリメシ10杯はイケるッス!』

『あったかーい!』

『でも、ロシアの娘の椅子は、もう冷たくなってるじょ!』

『仲間が増えて嬉しいよモー!』

『先輩が凄い喜んでるデー!』

『素敵です!』

『さすが高二最強の私に次ぐ選手だけはあるな!』

『↑そんなオカルトありえません!』

『高二最強が他にいるなんて…ないない!…そんなのっ!』

『ダル………』

 いつものメンバーで賑わっていた。

 

 

 それから一時間ほどが経過した。

 この間、慕のところにハギヨシから電話がかかっていた。

 どうやら、衣は虫垂炎とのこと。これから手術になる。

 そのため、今日の大将戦どころか、明日の決勝戦も出場はムリとのことであった。これは仕方が無いであろう。

 やはり、大将戦には玄が代理で出場せざるを得ない。

 

 日本チームの選手は、咲、光、衣、小蒔、神楽、淡、玄の七人だが、小蒔はソウルに入国した日に、ホテルのチェックインを済ますとテレポーテーションで霧島神境に戻ってしまった。

 なので、実質六名で回していた。

 

 もともと小蒔は、明日の決勝戦の副将戦だけに出場する前提でメンバー入りを承諾していた。他の試合には出場する気は無い。

 ただ、選手なので、一応、入国手続きしていないとマズイとの判断があり、飛行機でわざわざ入国したわけだが………、航空チケット代が勿体無いのは言うまでもないだろう。

 

 

 さて、大会運営側から各チーム控室に連絡が入った。

 これより副将戦が開始される。選手は、今から十分以内に対局室に入室するようにとのことであった。

「じゃあ、行ってくる!」

 光は、両手で両頬を強く叩き、気合いを入れると、全身から激しいオーラを放出しながら控室を出て行った。

 もともと副将戦で三つ目の勝ち星を決めるつもりでいたが、衣が欠場となったことで、その使命感が一層増した感じだった。

 

 しばらくして、光が対局室に姿を現した。

 ルーマニアからは巨乳美女ラビニアが、ロシアチームからはスベトラーナが、ジョージアチームからはネリーが出場する。

 既に三人とも、光の入室前に対局室に姿を現していた。

 中でも、特にネリーは光に対して個人的事情から激しく闘志を燃やしていた。

 

 もう二年も前になる。

 ネリーはドイツで開催されていた地下麻雀に参加した(第二十一本場参照)。

 勝てば名が売れ、負けても大金が入ると聞き、どちらに転んでも損がないと踏んだからだ。この判断はネリーらしいだろう。

 試合は、25000点持ちの点数引継ぎ制で、箱下100000点まで続けられる。そんな特殊なルールだった。

 結局、試合はドイツチームの圧勝。ネリー達は惨敗だった。先鋒戦で、ドイツチームにいた光………当時のミナモ・A・ニーマンが、他家全員を箱下100000点以下にして試合は終了したのだ。

 

 観客達は金持ちで、しかも会員制。

 その観客を楽しませるための見せ物として、箱割れしたチームの()()は、全員、性的な辱めを受けることになった。ちなみに、当該チームの()()()は、辱しめを受けながら麻雀を打つことになる。

 もともと、そう言うルールだったし、その説明をネリーは事前に受けていた。

 但し、見せ物になる代わりに結構な金が貰えることになっていた。

 中には弱小チームの選手として複数回出場している女性もいた。自分の身を犠牲にしてでも、家族のために金を稼ぎたいと思っての参戦だ。

 

 その日、ネリーは、大切なモノを失った。

 そもそも、そんな話に乗るネリー自身が悪いのだが…。

 

 相手は人ではなく物(大人のオモチャ)だったのだが、相手がなんであろうと嬉しい話では無い。

 ただ、ここで自分の非を認めたら…、それはそれで精神的に保てない。自分を正当化しないと心が壊れてしまうだろう。

 それで、自分達のチームを負かしたミナモ………つまり光を自分の中で悪者にしていたに過ぎなかった。

 

 今年の春季大会で、その雪辱を果たそうとしたが、それは成し得なかった。光との勝負以前に、冷たい透華による強烈な場の支配と、咲の点数調整に負けた試合だった。

 あれはあれで、ネリーにとっては苦い思い出だ。

 

 インターハイでは、光との対決の機会に恵まれなかった。

 

 しかし、ようやく雪辱のチャンスがやってきた。

「ミナモ・ニーマン! 今日こそお前を叩き潰してやる!」

 それで、必要以上にネリーは奮起していたのだ。

 

 場決めがされ、起家がラビニア、南家がネリー、西家がスベトラーナ、北家が光に決まった。

 下馬評では、ネリーと光の二強の戦いだが………、ラビニアもスベトラーナも、ただでヤラれるつもりはない。

 

 

 東一局、ラビニアの親。

 ここでは、

「ポン!」

 光は、中盤に{東}を鳴き、その数巡後に、

「ツモ! 東ドラ3。2000、3900!」

 何とか第一弾の和了りを決めた。

 光の和了りの最大の特徴は、和了り役の翻数上昇であった。

 しかも、照と同じで、第一弾の和了りを決めると、その後は聴牌が早くなるのも光の特徴の一つであった。

 

 

 東二局、ネリーの親。

 光は、序盤でタンピンドラ3を聴牌していた。当然、これを和了れるものと光は踏んでいた。

 ところが、

「リーチ!」

 光が聴牌した次巡に、ネリーが不敵の笑みを浮かべながらリーチをかけてきた。

 どうやら、自分の親番の時に強大な運が回ってくるように、運の波を操作していたようである。

 そして、

「一発ツモ!」

 当然のようにネリーが一発で和了りを決めた。

「メンタンピン一発ツモ一盃口! ドラが3枚(表1赤2)に………アタマが裏で乗って12000オール!」

 しかも親の三倍満だ。

 これで一気に、ネリーが光に大差をつけての1位に取って代わった。

 

 東二局一本場、ネリーの連荘。

 光は、連続和了が途絶えると、翻数上昇はリセットされる。そのため、第一弾の和了りから、やり直さなければならなくなる。

 相手の力量が低ければ、第一弾の和了りを序盤で決めることは可能だ。

 しかし、今回の相手は世界大会の代表選手。しかも、ブロック決勝戦まで勝ちあがってくるチームの代表だ。

 ラビニアもスベトラーナも光よりは格下だが、日本のインターハイ一回戦、二回戦で消えるチームの選手達よりは当然強い。

 それでも、光がツモる手に能力を集中すれば序盤で聴牌できるだろう。

 しかし、ここには面倒な相手がいる。

 ネリーを相手にする以上、ここぞと言うところ以外では能力のムダ遣いはしたくない。様子を探りながら、能力の放出量を考える必要がある。

 

「ポン!」

 六巡目で{中}を鳴き、光は何とか聴牌した。この局では、どうやらネリーには運が集中していないようだ。

 そして、その二巡後、

「ツモ! 中ドラ3。2100、4000!」

 光は、満貫級の和了りを決めた。

 結果から推察するに、ネリーは自分が連荘する方向に運を使っていないようであった。その分、運を何らかの形で半荘全体に分散させているのだろうとは思われる。

 

 

 東三局、スベトラーナの親。

 第一弾の和了りを決めれば、光の手は早くなる。

 たしかに四巡目でタンピンドラ2を聴牌していた。

 そして、その次巡、

「ツモ! タンピンドラ2。2000、4000!」

 光は満貫ツモを決めた。

 

 

 東四局、光の親。

 当然、ここで光は連荘して稼ぐつもりでいた。そうすれば、ネリーを逆転するどころか、一気に大差をつけられる。

 ところが、

「リーチ!」

 ここで先行したのはネリーだった。どうやら、ネリーは自分の親番と光の親番に運を回すよう調整してきたようだ。

 つまり、自分の親番で大きく稼ぎ、光の親番で光に稼がせず、逆に可能であれば失点させるストーリーなのだろう。

 ここでも、東二局の時と同じように、

「リーチ一発ツモメンチンドラ2。6000、12000!」

 一発で三倍満の和了りを決めた。

 

 これで点数と順位は、

 1位:ネリー(ジョージア) 152000

 2位:光(日本) 100100

 3位:ラビニア(ルーマニア) 74000

 4位:スベトラーナ(ロシア) 73900

 ネリーが圧倒的点差でトップとなった。

 しかも、これが25000点持ちの対局であれば、ここでラビニアとスベトラーナが箱割れして終了となるほどの稼ぎだ。

 とんでもないネリーの勢いだ。

 この展開は、光にとってさすがに苦しい。

 どうやってネリーの運を落とすかが鍵だろう。

 

 

 南入した。

 南一局、ラビニアの親。

 光は、

「リーチ!」

 この局では、六巡目に役無しで聴牌した。

 ただ、ドラはある。

 それで、第一弾の和了りに向けてリーチをかけた。

 一発ツモはなかったが、数巡後、

「ツモ! リーチドラ4! 3000、6000!」

 表ドラ一枚、裏ドラ一枚、赤牌二枚と、ドラを合計四枚持った手だった。

 しかし、その直後、光はネリーのオーラが強大になって行くのを感じた。やはり、自分の親番に運を集中しているのだ。

 

 

 南二局、ネリーの親。ドラは{南}。

 光としては、ここで絶対にネリーに和了らせてはならない。ここは、指先に能力を最大限に集中して早々に聴牌し、そのまま一気に和了るべきだ。

 配牌にも恵まれ、光は四巡目で聴牌した。

 ただ、ネリーも多分、早々に聴牌している。

 しかも、ネリーの手は大きそうだ。強大なオーラが光に飛んでくる感じがする。

 ただ、ネリーの手は配牌から余り動いていない………と言うか、不要なヤオチュウ牌が四枚切り出されただけだ。

 さすがの光でも、これではネリーの手牌を読み切ることはできない。

 それだけ、ネリーは強大な運を、この局につぎ込んでいるとも言えるだろう。

 

 この時の光の手牌は、

 {二二二三四五五五②④134}  ツモ{③}

 ここで{1}を切ればタンヤオで高目三色同順の聴牌となる。

 

 ただ、光の和了りは、偶然役と門前清自摸を除く和了り役の翻数上昇を伴う。単なる翻数上昇ではない。

 そのため、ここでは最低でも和了り役が2翻必要であり、ダマでは{5}で和了れない。たとえ、それがツモ和了りでも…。

 つまり、この手は光にとって片和了りの手となる。

 こう言った形を、光は極力作らないようにしていたが、やはりネリーの強大な運に左右されたところはあるのだろう。

 仕方が無い。

 ここは、リーチをかけるしかない。

 

 丁度この時、この様子を控室のテレビモニターで視ていた咲は、

「ダメだよ光! リーチをかけちゃ!」

 と叫んだ。何かを察知しているようだ。

 

 その直後、光は、咲がリーチをかけないように言っているような感覚を受けた。まるでテレパシーだ。

 しかし、翻数縛りを満たすため、

「リーチ!」

 光は、捨て牌の{横1}を横に曲げた。

 

 次巡、光は{[五]}をツモった。

 言うまでも無いが、これでは和了れない。光は、ツモ切りしようとしたが、

「(光! これはカンしなきゃダメだよ!)」

 頭の中に咲の声が聞こえてきた。

「(えっ? でも、これをカンしたら………。)」

「(カンして!)」

 余程、咲は強く念じているのだろう。ただ、本当に良いのだろうか?

 光は戸惑っていた。

 しかし、

「(早く! カンして!)」

 咲の一層切羽詰ったような声が頭の中にこだましてきた。それで光は、

「カン!」

 {五}を暗槓した。

 そして、嶺上牌からツモってきた牌は{2}。高目だ。

「ツモ!」

 これで光は和了った。

 しかも、裏ドラをめくると、裏ドラ表示牌が{③}、槓裏表示牌が{四}。つまり、リーチツモタンヤオ三色同順ドラ6の三倍満だった。

 

 しかし、

「この和了りは無効です。チョンボになります!」

 審判から、こう言われ、光は親のネリーに4000点、他の二人に2000点を支払うことになった。

 

 

 リーチ者は、今回の{二二二三四五五五}のように{二}と{五}のどちらかを暗刻、どちらかをアタマとみなす手の場合、和了った後で、暗刻とアタマを決めなければならないと言うルールが存在する。

 本大会では、このルールが適用されていた。

 当然、光はそれを知っていたので暗槓するのを躊躇したのだ。

 リーチ者でなければ暗槓しても何ら問題は無いし、これがリーチ前の暗槓であれば、それも問題にはならない。

 あくまでもリーチ後の暗槓だけが問題となる。

 

 ネリーは、

「なんで素直に{[五]}を捨てないんだ! それを捨てていれば、ネリーの和了りだったのに!」

 と言いながら手牌を開いた。

 

 しかも、

 {六七七七八八八東東東南南南}

 

 {五六七八}待ちで、{六}で四暗刻の手だった。{[五]}なら東南門前混一色三暗刻ドラ4(表3、赤1)で親の三倍満だ。

 

 36000点の直撃がチョンボの8000点支払いで済んだのだから、これは光にとってはラッキーである。

 逆にネリーにとっては大痛手だった。

 

 光が点棒を支払った後、山が崩された。

 その時、次のネリーのツモ牌が見えた。

 {六}だった。

 もし、これをツモっていればネリーは親の役満ツモ和了りだった。

 つまり、光がリーチをかけていなければ、光が暗槓せずに{二}、{3}、{4}の何れかを切って聴牌を維持した可能性があるし(まあ、暗槓して嶺上開花だっただろうが………)、もし光の暗槓が無く、その次のツモまで回っていれば、ネリーは16000オールを和了っていたことになる。

 三倍満直撃と役満ツモ。どちらかの和了りが得られるところを光のチョンボによって潰された。

 

 

 普通、チョンボした側の運気が下がるだろう。

 しかし、今回のケースでは、チョンボした側の光の運が上昇し、親で労せず4000をもらえたはずのネリーの運気が下降するようだ。

 光は、この時、ネリーから強大なオーラが一気に失われて行くのを感じ取っていた。




おまけ


安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「随分久し振りですが、今回、急遽、この枠をもらえました…と言いますか、私達に振られました。」

史織「41本場の時と同様に『押し付けられた』が正しいでしょうね。まあ、面倒なところを説明させるためでしょうね。」

莉子「題材はズバリ! 今回の光ちゃんのチョンボの件ですね。」

史織「それしか無いでしょうね。」

莉子「二二二三四五五五②③④34でリーチをかけていたところに五をツモった。そして暗槓したらチョンボになったわけですけど、リーチ者は、和了った後でなければ暗刻とアタマを決めてはいけないとされています。」

史織「例えばこれが、一一一二三四四四①②③23のドラ無しでリーチをかけていた場合に、1をツモればリーチツモ三色同順で、親なら3900オール、子なら2000、3900になりますが、ここで④をツモった場合、単なるリーチツモになります。」

莉子「この時、和了った人は最も手が高くなる形で和了りを申告します。この場合は、一を暗刻にした方が、符が高くなりますので、四をアタマとして考えることになります。」

史織「実際には、一が暗刻なら丁度30符、四が暗刻なら26符で結局のところ一の位を切り上げて30符になるので結果は同じなのですが、点数計算の途上で最も手が高くなる形にすると言うことになります。」

莉子「今回の光ちゃんの手の場合は、どっちを暗刻にしても符は変わりませんが、厳密には同様のパターンで符が変わるパターンが存在すると言うのが一つ目のポイントだと思います。」

史織「また、もし今回、光ちゃんが暗槓したのが二なら、2をツモった時に三色同順が付かなくなってしまいます。つまり、和了る前段階で、最も高い点数の申告ができないように勝手に手を固定してしまうことになります。」

莉子「かと言って、五なら暗槓して良いけど二は暗槓してはいけないとのルールにするのも変です。そう言った背景からでしょう。今回のようなパターンでリーチ者が暗槓した場合はチョンボとみなすとのルールが存在するのだろうと思います。」

史織「今回はネリー以外のチョンボでしたが、34本場ではネリー自身がチョンボ。前作「みなもーMinamoー」でもネリーは別の形でチョンボをしています。」

莉子「随分チョンボに縁がありますね。ちょっと可哀想な気がしますが…。」

史織「でも、失禁役よりはイイんじゃないでしょうか?」

莉子「まっ、そうですね。」

史織「と言うわけで、チョンボの説明でした。」

莉子・史織「「では、ネクストオマケ、スタートです!!」」



作中の人々がテレビを見ながら某掲示板に実況を書き込みしていた。

【ブロック決勝戦】世界大会咲様編【大放水製造機】-48


925. 名無し麻雀選手

こちら会場
咲様に異変あり


926. 名無し麻雀選手

>>925
何があった?
kwsk

927. 名無し麻雀選手

>>926
925だが、控室から会場に向かう咲様の顔が怖い
前半戦とは別人


928. 名無し麻雀選手

>>927
何があったんだ?


929. 名無し麻雀選手

>>928
分からん
ただ、インターハイで男装麗人と妖艶美女を睨んでいた時に似てる


930. 名無し麻雀選手

急に怒り出したってことか?
でも何で?


931. 名無し麻雀選手

でも、それはそれで期待できるッス!


932. 名無し麻雀選手

本当だじょ
今テレビに映ったけど凄く怖いじぇ
これは誰か犠牲になるな


933. 名無し麻雀選手

サキが起家か
タコス食べたのかな?


934. 名無し麻雀選手

会場にはタコスは無
勿論、京ちゃんも来ていな
今回は自力だと思


935. 名無し麻雀選手

ダニエラ、ナタリア、リリアが怯えてないか?


936. 名無し麻雀選手

>>935
震えてるみたいに見えるな

って言ってるそばからナタリアが切った一筒
北www
大民間


937. 名無し麻雀選手

ちょっと待て
リリアのサングラスが割れたぞ


938. 名無し麻雀選手

まさか咲様のパワーで砕けたと?


939. 名無し麻雀選手

そんなのありえないじぇい


940. 名無し麻雀選手

>>939
うるさいそこ!
じゃなかった

普通にあるよ!
去年のインターハイ団体二回戦で咲様がカンした時に
塞ぐちゃんのモノクルが砕けた
その場で見ていたから間違いない
その時、塞ぐちゃんは控室にいたんだけどね


941. 名無し麻雀選手

>>939
私、宮守女子にいたんだけど、
塞達から聞いた
咲様のカンの発生と同時にモノクル砕けたって
チョー怖いよー


942. 名無し麻雀選手

>>939
ワタシミマシタ
ミヤナガサンノカントドウジニ
サエノモノクルコワレタ


943. 名無し麻雀選手

ダル…
塞のモノクルも壊れた


944. 名無し麻雀選手

もいっ股間、出たッス!
でも、この咲様の手牌って、まさか!?


945. 名無し麻雀選手

三連カン!
これってヤバくね?


946. 名無し麻雀選手

ゲロゲロ
四つ目のカンも出たよ
マジクソヤバいよこれ


947. 名無し麻雀選手

北ッス!
淋シャン開放ッス!
清老頭四槓子!
どっちも珍しいッス!


948. 名無し麻雀選手

祝! 清老頭四槓子!


949. 名無し麻雀選手

祝! 清老頭四槓子!


950. 名無し麻雀選手

祝! 清老頭四槓子!


951. 名無し麻雀選手

祝! 清老頭四槓子!


952. 名無し麻雀選手

来ましたわ!
ナタリアの大放出ですわ!
放水してなんぼ! 放水してなんぼですわ!


953. 名無し麻雀選手

放水が出るでー


954. 名無し麻雀選手

チョー嬉しいよー!


956. 名無し麻雀選手

でも画面が飛ばないッス
このまま続行ッスか?


957. 名無し麻雀選手

咲様が一本場宣言!
このまま清掃無しで続くみたいだな


958. 名無し麻雀選手

きっとナタリアにとっては暖かくない


959. 名無し麻雀選手

次スレ
【清老頭四槓子】世界大会咲様編【掃除はしない】-49
https://sonnaokarutoariemasen


960. 名無し麻雀選手

>>960
もう冷えて冷たくなってるじぇ
暖かいのは放出直後だけって相場は決まってるからな


961. 名無し麻雀選手

えっ?
咲様の配牌すげぇ


962. 名無し麻雀選手

>>959
サンクス

咲様ダブルリーチだ!
しかも西がアンコってる


963. 名無し麻雀選手

こ………これって!…


964. 名無し麻雀選手

これって、西おかが出るかも!


965. 名無し麻雀選手

一発目ツモは西だ!


966. 名無し麻雀選手

西田!
北wwwwwwwww
西おか!


967. 名無し麻雀選手

西おか!


968. 名無し麻雀選手

西おか!


969. 名無し麻雀選手

西おか!


970. 名無し麻雀選手

そのまま淋シャン開放!
ダブリーツモ淋シャン開放だけで親満ある!


971. 名無し麻雀選手

やっぱり最後は西おかだし!!


972. 名無し麻雀選手

西おか
ナタリア飛び!


973. 名無し麻雀選手

西おか


974. 名無し麻雀選手

ダブリーツモ淋シャン開放だけですが
4100オール!
ナタリアの飛び
スバラです!


975. 名無し麻雀選手

こんなの視れてチョー嬉しいよー!


976. 名無し麻雀選手

北www
リリア放水!
豪快!


977. 名無し麻雀選手

リリア放水!


978. 名無し麻雀選手

リリア放水!


979. 名無し麻雀選手

ダニエラも北www
こっちのほうが豪快!


980. 名無し麻雀選手

祝! 三人大放水!
巨大湖形成!


981. 名無し麻雀選手

祝! 三人大放水!
巨大湖形成!

咲様やったッス!


982. 名無し麻雀選手

祝! 三人大放水!
巨大湖形成!


983. 名無し麻雀選手

咲様逃げた!
気まずそう


984. 名無し麻雀選手

>>983
さすがに仕方ないだろ
祝! 三人トバシ!
祝! 三人大放水!
祝! 巨大湖形成!

985. 名無し麻雀選手

ス・バ・ラ・です!


986. 名無し麻雀選手

大放出してなんぼ! 大放出してなんぼですわ!


987. 名無し麻雀選手

これでドンブリメシ10杯はイケるッス!


988. 名無し麻雀選手

あったかーい!


989. 名無し麻雀選手

でも、ロシアの娘の椅子は、もう冷たくなってるじょ!
1000なら京太郎のタコスは俺の婿!


990. 名無し麻雀選手

仲間が増えて嬉しいよモー!
1000なら仲間が100人増える


991. 名無し麻雀選手

ミヤナガスゴイ!
1000ナラニホンニモウイッカイリュウガクデキル!


992. 名無し麻雀選手

先輩が凄い喜んでるデー!
1000なら咲様がうちに転校してくる


993. 名無し麻雀選手

素敵です!


994. 名無し麻雀選手

さすが高二最強の私に次ぐ選手だけはあるな!
1000なら私が世界最強!


995. 名無し麻雀選手

>>994
↑そんなオカルトありえません!
1000でも1000でなくても咲さんは私のものです!


996. 名無し麻雀選手

>>994
ありえないじょ
高二最強は咲ちゃんだじぇい!


997. 名無し麻雀選手

>>994
高二最強が他にいるなんて…ないない!…そんなのっ!
1000なら霞ちゃんの胸が垂れる


998. 名無し麻雀選手

>>994
身バレするからやめとけ!
わが生涯に一片の悔い無し!


999. 名無し麻雀選手

>>994
そう言うことは咲様に勝ってから言え!

さすが咲様
我々の夢を叶える日本の守護神


1000. 名無し麻雀選手
ダル………


1001.
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八十四本場:世界大会8 決勝進出

光の対戦相手は、ラビニア(ルーマニア)、ネリー(ジョージア)、スベトラーナ(ロシア)です。

それから、七十九本場の前書きにも書かせていただきました通り、この世界大会では、留学生は留学先の国の選手として出場しても良いルールとさせていただきます。


 南二局は仕切り直しになった。

 今大会では、チョンボの場合、芝棒が増えないルールとなっていたので、一本場になっていない。つまり、連荘としては扱われない。

 

 今回、ネリーの配牌は最悪だった。

 ツモも悪い。全然手が進まない。

 まるっきり聴牌に辿り着ける気配が感じられない。

 

 これに対し、光の手は進むのが早かった。

 自らがチョンボした場合の翻数上昇がどうなるのかは、光自身も知らなかった。そもそも、そんなことは、したことがない。

 ただ、前局で形式的に和了ったリーチタンヤオ三色同順は、光の能力の中では翻数が上昇した和了として採用されているようであった。

 つまり、一弾目の和了りを和了り直す必要はなく、出和了り役5翻の手を光は早々に聴牌できた。

 そして、聴牌直後、和了り牌がネリーから零れ落ちた。完全に運気が失われている証拠だろう。

 当然、これを見逃さない。

「ロン! メンホン白中ドラ2。12300!」

 しかもドラを持っておりハネ満の手となった。

 

 南三局も、

「ロン! 混一対々三暗刻ドラ3! 16000!」

 ネリーが光に振り込んだ。

 

 そして、オーラスは、

「メンチンツモ一盃口ドラ2! 8000オール!」

 光がたった六巡で門前清一色の親倍をツモ和了りした。

「これで和了りやめします。」

 そして、ラビニアとスベトラーナは、この半荘をヤキトリで終了した。

 

 これで副将前半戦の順位と点数は、

 1位:光(日本) 156100

 2位:ネリー(ジョージア) 117000

 3位:スベトラーナ(ロシア) 64900

 4位:ラビニア(ルーマニア) 62000

 光がダントツトップで折り返した。

 

 

 ここで一旦休憩に入った。

 この頃、ネット界隈では、光のチョンボのことが話題になっていた。

 今回の暗槓がチョンボになるルールを知らない者は結構多かった。

『別に待ちが変わるわけではないのだから、この和了りは認めても良いのでは?』

 との意見も多かったが、本大会では、そう言うルールなのだから仕方が無いだろう。

 

 

 休憩の後、Aブロック決勝副将後半戦がスタートした。

 場決めがされ、席順は前半戦と全く同じで、起家がラビニア、南家がネリー、西家がスベトラーナ、北家が光に決まった。

 ただ、前半戦開始当初とは打って変わって、ネリーから全然迫力が感じられない。完全に運に見放され、腑抜けてしまった感じだ。

 

 東一局、ラビニアの親。

 ここでは、光が、

「ポン!」

 ネリーが捨てた{東}を鳴き、中盤で、

「ツモ! 東ドラ3。2000、3900!」

 何とか第一弾の和了を決めた。半荘が終わると翻数上昇もリセットされる。

 

 東二局も、

「タンピンツモドラ2。2000、4000!」

 光が満貫手をツモ和了りした。

 

 東三局も、

「メンホンツモドラ2。3000、6000!」

 光が序盤で染め手を和了った。もう、波に乗った感じだ。

 

 ただ、このまま走られては日本の勝ち星三が決まってしまう。

 それに、ラビニアもスベトラーナも前半戦からずっとヤキトリ状態が続いている。さすがにノー和了はキツイ。

 まず安手でも良いから和了り、光の連続和了を止めることが優先だ。

 

 

 東四局、光の親。

 ここでは、

「ポン!」

 スベトラーナが捨てた{中}をラビニアが早々に鳴いた。もう、形振り構わない状態だ。

 そして、ラビニアは、

「チー!」

 光が捨てた{②}を鳴いて聴牌し、その数巡後に、

「ツモ。中のみ。300、500。」

 安手で光の親を流した。

 

 

 南入した。ドラは{①}。

 光の連続和了は途切れ、また第一弾の和了りから仕切り直しになる。

「ポン!」

 早速、光は{南}を鳴き、次いで、

「チー!」

 スベトラーナが捨てた{8}を鳴いて{横879}と副露した。

 そして、数巡後、

「ツモ。南チャンタドラ2。2000、3900!」

 光は何とか第一弾の和了りを決めた。今回は、和了り役2翻からのスタートとなった。

 

 

 しかし、南二局では、

「チー!」

 スベトラーナが序盤から鳴きまくり、

「ツモ。タンヤオドラ1。500、1000。」

 ここに来てようやくヤキトリを解消した。

 

 

 南三局、スベトラーナの親。

 当然、まだ勝ち星の無いロシアチームのため、スベトラーナとしては、ここで何とか稼ぎたいところだ。

 ラビニアとしても、ルーマニアチームのために二つ目の勝ち星が欲しい。

 

 どちらも、前半戦で大敗し、そう簡単なことではないことくらい十分承知だ。

 しかし、諦めたら負けだ。

 特に、もう親番が無いラビニアの場合は、役満狙いで行くしかない。当然、手作りは遅くなる。

 

 一方のスベトラーナは、連荘を狙う。

 そのために、先ず役が欲しい。

 ところが、こんな時に限って役作りが厳しい。自風も場風も三元牌も対子にすらならない。それでいて、他家がバンバン切ってくる。

 重なるのはオタ風のみだ。

 

 そんな中で、光が少しずつだが着々と手を進め、

「ツモ。タンヤオドラ2。2000、3900。」

 門前でツモ和了りした。

 

 

 オーラス、光の親。

 ラビニアもスベトラーナも、もう諦めた感じが顔に出ていた。

 光との前後半戦トータルの差は、二人とも140000点以上だ。

 配牌前は、大三元字一色四暗刻ができないかなどと勝手に期待を持つが、配牌を見た瞬間、それが単なる妄想であることに気付かされる。

 もはや、このオーラスだけで逆転は不可能と判断せざるを得ない。

 

 ネリーの顔からは、完全に覇気が消えている。後半戦では、ネリーは、未だヤキトリ状態が続いていた。

 そんな中、

「リーチ!」

 光が、まさかの二巡目でリーチをかけてきた。

 ダブルリーチでないだけマシだが、これで光に和了られたら全てが終わる。

 そして、次巡、

 ラビニアもスベトラーナも、

「「(和了らないで!)」」

 ただ、光に和了られないことを祈るだけだった。

 しかし、その想いも通じず、

「ツモ! 3900オール!」

 リーチ一発ツモタンヤオのドラなし。光は、親満級の手を和了った。

 そして、

「これで和了りやめにします!」

 副将後半戦を終了した。

 

 これで副将後半戦の順位と点数は、

 1位:光(日本) 154400

 2位:ラビニア(ルーマニア) 81900

 3位:スベトラーナ(ロシア) 81900(席順により3位)

 4位:ネリー(ジョージア) 81800

 たった100点差でネリーがラスになった。

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:光(日本) 310500

 2位:ネリー(ジョージア) 198800

 3位:スベトラーナ(ロシア) 146800

 4位:ラビニア(ルーマニア) 143900

 言うまでも無く、光が圧勝し、日本チームが三つ目の勝ち星を取り、ブロック優勝を果たした。

 これで、Aブロック代表として明日の決勝戦には日本チームが出場することに決定した。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼を済ませると、光は急いで控室に戻った。

 

 ブロック2位以下の順位を決めることはせず、これでAブロック決勝戦は終了した。それで、咲達は、光が戻ってくるとすぐに衣が入院した病院へと急いだ。

 

 

 衣は、無事手術を終えていた。まだ麻酔が効いている。

 

 病室の前には、既に霞が来ていた。小蒔の代理だ。

 どうやら、テレポーテーションして霧島神境からソウルの病院内に直接入っていたようだ。航空代もかからず、非常に便利だ。

 

 本来であれば、小蒔自身が駆け付けたいところだが、彼女には日本国内に留まって、霧島神境の姫として霊的に悪しき者から日本を守る義務がある。

 それで、試合当日だけ、特別にテレポーテーションでソウルに入る。

 地理的に日本に近いため、小蒔は当初、試合当日はソウルの地から日本を霊的に守護するつもりでいた。ところが、嬉しいことに、小蒔が日本を離れている間は、妹の蒔乃が日本の守護を代行することが許可された。これで小蒔は対局だけに集中できる。

 ただ、短期間でも代行をできる者がいるのなら、大会期間中はずっと代行してもらえば良いのに………。

 今だって霞に代理をお願いせずに、もうソウルに入ってしまっても良いのに………。

 しかし、それをせずに自分で自らの責任を果たそうとするところは小蒔らしいと言えるだろう。

 

 蛇足だが、霞の姿を見て、玄は、

「とても良いモノをオモチで…。」

 オモチスイッチが入ったのは言うまでもない。

 

 ハギヨシが、突然何処からか姿を現した。

 相変わらず神出鬼没だ。

「ハギヨシさん。衣ちゃんの容態は?」

 と咲が聞いた。

「無事、手術を終えました。特に問題はありません。ただ、明日の決勝戦への参戦はムリでしょう。」

「そうですか。」

「今、透華様が自家用ジェットでこちらに急行しています。皆様は、ホテルに戻って明日に向けて体調を整えてください。後は、私と透華様で対応致します。」

 そう言うと、ハギヨシは再び姿を消した。まるで忍者だ。

 

 

 その頃、競技場では中国チームが参戦するCブロック決勝戦と、アメリカチームが参戦するDブロック決勝戦が行われていた。

 ドイツチームが参戦したBブロック決勝戦は、中堅戦までで終了していた。ドイツチームが先鋒から中堅までで三連勝し、決勝進出を決めていたのだ。

 

 咲達は、ホテルに戻ると、早速ドイツチームの対局映像を確認した。

 時間の都合上、全対局を見るわけには行かないが、特筆すべきところを恭子がピックアップしていた。

 

 ドイツチームは、先鋒から大将まで、一回戦からブロック決勝まで不動のオーダーだった。神楽が受けた啓示によれば、これは明日の決勝戦でも変わらないらしい。

 

 先鋒はローザ・ニーマン。慕の母親を連れ去ったニーマンの姪だ。

 光がドイツにいた頃には無名だったが、この一年間で急成長したらしい。攻撃的で、まさにパワーヒッターと呼ぶに相応しい麻雀を打つ。

 

 次鋒は百目鬼千里(どうめきちさと)。日本人留学生のようだ。

 彼女は、全ての牌が見えているとしか思えない麻雀を打つ。

 その証拠に、彼女が鳴いた時や鳴かせた時、一巡どころか数巡先の出来事が彼女にとって都合の良い形に変わっている。

 園城寺怜以上だ。

 その打ち方から、ドイツでは『アトランダムの支配者』と呼ばれている。

 

 中堅は西野カナコ。彼女も日本人留学生っぽい。

 彼女のドイツでの通り名は『殺し屋』。

 東横桃子のように気配を消し、周りが気付いた時には、既に狙った獲物から大きな手を直取りしている。

 非常に厄介な相手だ。

 

 副将はフレデリカ・リヒター。咲と顔が似ている娘だ。

 ただ、咲よりも身長が少し高く、しかも胸周りもブラッシュアップされた咲より、さらに少し大き目だ。

 彼女は、咲が玄の大三元支配の能力を引き出したように、他人の持つ能力を引き出す能力を持つ。

 ローザも千里もカナコも、さらに大将の栄子も、フレデリカによって能力を引き出され、今回の大会メンバーに選ばれた。

 そして、彼女自身の麻雀もまた、咲に酷似していた。故に小蒔に降りる神が、今大会で戦う相手として選んだと言えよう。

 

 大将は園田栄子。清澄高校時代、咲と同級生であった。

 しかし、一学期を終えると、彼女は父の海外転勤の関係でドイツに渡ることになった。

 高校入学まで麻雀牌には触れたことがなかったが、昨年夏の県予選での咲の活躍をローカルテレビで見て麻雀に興味を持った。

 当然、咲にも心底憧れていた。

 しかし、その頃には既に父親の海外転勤の話が浮上しており、麻雀部には入部せずに清澄高校を去った。

 そして、ドイツで麻雀を始めたのだが、そこで咲に似たフレデリカと出会い、能力が開花した。愛宕洋榎のような守備の麻雀を得意とする。

 

 アメリカチームも中国チームも侮れないが、日本チームの二連覇達成の夢に、最も大きな障害になると予想されるのが、このドイツチームであった。

 

 

 世界大会メンバーの合宿中に特別ゲストを一名呼んでいたが、それはステルスモモこと東横桃子であった。

 カナコとの大戦シミュレーションを行うために、桃子のステルスの力を借りたのだ。

 

 その時、桃子は自分だけ和了った翻数を倍にすると言うハンデを貰ってメンバー達と対局した。

 しかも半荘戦ではなく一荘戦だ。南場終了ではなく北場まで行う。

 南場に入る辺りから桃子の気配は読めなくなるし、しかも桃子の和了り手の翻数を倍にするのだから、言うまでもなく圧倒的に桃子が有利だ。

 

 そのハンデ戦で誰もが玉砕する中、逆に桃子を窮地に追いやるとんでもない選手が二人だけいた。

 咲と衣だ。

 衣は強大な支配力で桃子に聴牌させなかった。これでは桃子にも勝ち目がない

 一方の咲は昨年夏の県大会個人戦で見せた『オンライン麻雀ゲーム』に見立てた打ち方で、今回も桃子のステルスを破っていた。

 

 

 それで、カナコの相手には衣を当てることにしていた。衣の能力でカナコを一向聴地獄に落せばカナコの力は封じられるはずだ。

 

 全ての牌が見えているであろう千里には、同じく全ての牌が見えている咲で対応し、パワーヒッターのローザを光で封じる。

 

 フレデリカには本人のリクエストで小蒔を当てる。ここは最強神の力に賭ける。

 

 そして、栄子には神楽を当てる。

 恐らく神楽ならば、口寄せの力を使い、圧倒的な攻撃力をもって対抗することが可能だろう。いくら相手の守備が巧くても、ジャンジャン神楽がツモ和了り、あるいは栄子以外の二人から直取りし続ければ勝てるはずだ。

 目指すは日本チームの完全勝利。

 

 ところが、衣が入院してしまった。虫垂炎の手術直後で出場できない。

 それで慕は、カナコの相手を咲に変更し、三元牌支配の玄を千里に当てることにした。つまり、先鋒に光、次鋒に玄、中堅に咲、副将に小蒔、大将に神楽のオーダーで望むことにした。

 

 

 その日、下馬評どおりCブロックからは中国チームが、Dブロックからはアメリカチームが勝ち上がった。

 これで明日の決勝戦は、日本チーム、ドイツチーム、中国チーム、アメリカチームの対戦と決まった。昨年と全く同じカードだ。

 

 当然、ドイツチームも中国チームもアメリカチームも、昨年の雪辱に燃えている。

 加えて、ドイツチームの場合は、昨年のエースを日本に取られてしまった。

 本来であればミナモ・ニーマンとフレデリカ・リヒターの二大エースで他国を玉砕するつもりだったのに………。

 それもあって、ドイツ国内では、多くの人達が日本チームへの雪辱に大きな関心を寄せていた。




西野カナコは、『幸せカナコの殺し屋生活』のカナコです。
園田栄子は、前作からの使いまわしです。その他A子です。
百目鬼千里は、蘇我千鶴をヒントにしております。蘇我千鶴を作られた方には大変申し訳ございません。ご容赦ください。



おまけ1

咲「大喜利コーナーです!」

全員:面倒臭そうに拍手

咲「このコーナー、すごく久し振りです。」

憧「と言うか、アワイが犠牲になって終了したんじゃなかったっけ?」

淡「そうだよ!」

咲「でも、まあ、久し振りに、折角なので行いたいと思います!」

咲「ちまたではサラリーマン川柳なんでものがありますが、こっちでも川柳を皆さんで作ってみましょう!」

咲「と言うことで、今回の御題目は川柳です。内容は問いません。」

莉子「では私から!」

莉子「大物が いない我が部は 小物入れ!」

美幸「(同じ部の先輩として、あんまり嬉しくないけど…。)」

咲「自虐的ですが、作品としては面白いかと思います。莉子ちゃん座布団一枚! では次。」

怜「ほな、次はうちからや!」

怜「クリステル シたのは夜の オモテ………」

咲「ちょっとそれはマズイので中断します!」

セーラ「怜も、いきなり飛ばすなぁ。去年のネタやろ。たしかに未来の総理に夜の………」←後から船Qに口を塞がれた

泉「じゃあ、次は私が行きます!」

泉「同学年 最強なのは この私!」

セーラ「ならダブル宮永と高鴨の卓に入って勝って来るんやで!」

洋榎「最高状態の片岡優希を入れてもイイんやないか?」

恭子「でもまあ、いまだに同学年最強と言える図太さは貴重ですね。池田華菜とか中田慧以上ではないかと思います。」

竜華「以上と言うより異常や!」

華菜「華菜ちゃんより頭おかしいし!」←自分で言うか?

洋榎「せやから、うちと池田華菜と中田慧と泉で、誰が一番ウザくて図太いかを競うコーナーとか設けて欲しいねん。」

ほぼ全員「(誰が読むんだ、そんなもん!)」

咲「ええと、あまりふざけ過ぎますと麻雀を楽しませますので、自重してください。では、次、誰かいませんか?」

全員「(今のは洋榎への注意なのか泉への注意なのか、どっちだろう?)」

照「じゃあ私から。淡のこと。」

淡「私?」

照「鉄板が 一夜明けたら スイカかな?」

全員「(オモチのことか。)」

玄「じゃあ、次は私なのです!」

玄「目に青葉 山ホトトギス 初オモチ!」

全員「(意味分からん!)」

爽「じゃあ、次は私が行くね!」

爽「株買うか 国債買うか ウン国債!」

全員「(ただ『ウ〇コ』言いたかっただけか。)」

爽「名前のとおり、爽やかにウン…。」

咲「ええと、次の方!(ウ〇コは言わせないよ!)」

淡「景気など ケーキを食べて 忘れちゃえ!」

咲「下品ネタの直後に食べ物ネタは避けたかったのですが…。」

咲「でも、淡ちゃんにしては珍しく、景気とケーキで韻を踏んで………。」

優希「なら私は、景気など タコスを食べて 忘れちゃえ!」←韻を踏む意味が分かっていない

穏乃「じゃあ私は、景気など ラーメン食べて 忘れちゃえ!」←同上

玄「景気など オモチがあれば 忘れちゃう なのです!」←同上

咲「ええと、優希ちゃんと穏乃ちゃんと玄さんから座布団を一枚ずつ取り上げて淡ちゃんにあげてください。」

優希・穏乃・玄「「「えぇー!?」」」

咲「では次!」

和「では私から。合体ロボットの話を読んで思いました。」

和「咲さんと 合体機能 試したい。」

全員「(その合体ロボットって憧100式じゃないか? 合体の意味からして…。)」

咲「(下手に突っ込まずスルーして…)では次の方!」

初美「じゃあ私からですよー。霞ちゃんとか姫様に対して思っていることですー。」

初美「不公平 均等割付 して欲しい(オモチ)!」

咲・照・優希・穏乃など「「「「(そうだよね。)」」」」シミジミ

霞「できればそうしたいけんだけどね。重いし。」←嫌味

小蒔「霞ちゃんの言うとおりですね。」←清らかな意見

咲「(石戸さんは、まだ麻雀楽しませないとイケナイみたいだね。)」

咲「では次の方!」

ネリー「じゃあ私が。」

ネリー「飛翔体 よりも食べ物 買うお金!」

咲「やっぱりお金ネタでしたが…、ヤバそうなのでコメントは控えます。では次。」

絹恵「では、うちが行きます! 阿笠博士に聞きたいことです!」

絹恵「作中で どうしてうちは 二個一なん?」←憧123式ver.絹恵のこと

咲「では、阿笠博士、回答をお願いできますか?」

博士「ワシに振るか。まあ、いいけどの。」

博士「憧100式の中で京太郎と憧が幸せになるためには咲に別の誰かをあてがわなければならんじゃろ。それで咲の相手として君が選ばれたわけじゃ。」

和「でも、どうしてその役は、私ではなかったのでしょうか? やはり、咲さんの相手として選ぶなら私であるべきだと思うのですが?」

博士「それじゃと変化が無いからのぉ。それに、しっくりこない感じがしての。それで絹恵君にしたんじゃ。」

和「納得できませんが。」

博士「まっ、和君には咲君のストーカー役があるからの。そっちが優先されたと言うわけじゃな。」

博士「では、ワシも川柳を一つ。」

博士「今日兄と 京アニ作品 見てきたぞ。」

咲「京アニと言えば、去年は大変なことがありました。では次の方!」

まこ「では、次はワシが…。」


この時であった。
まこの超能力、時間軸の超光速跳躍が発動してしまった。
ふと、まこが気が付くと、既に大喜利大会は終了していた。




おまけ2

作中の人々がテレビを見ながら某掲示板に実況を書き込みしていた。
今は世界大会ブロック決勝戦の副将戦が開始されていた。

【ネリーとの】世界大会光ちゃん編【直接対決】


102. 名無し麻雀選手

ネリーと光ちゃんの対決って春大以来だな


103. 名無し麻雀選手

あの時はトーカ様が凄かった。
あの目で支配してもらいたい!


104. 名無し麻雀選手

でも結局は咲様の完全調整が出て全ての話題をかっさらって行ったからな
やっぱり最強は咲様


105. 名無し麻雀選手

今のところネリーが圧倒的リードか
東二局の親三倍満ツモ
東四局では光ちゃんに三倍満を親かぶりさせたか
光ちゃんピンチ!


106. 名無し麻雀選手

南二局
二二二三四五五五②③④134
ここで1を切ればタンヤオで高目三色同順の聴牌だな


107. 名無し麻雀選手

行った!
光ちゃんリーチ!


108. 名無し麻雀選手

でも、これヤバくねえか?
ネリーの手がとんでもないことになってる
六七七七八八八東東東南南南って


109. 名無し麻雀選手

この巡目で既に五六七八待ちで聴牌だじょ
六で四暗刻
(五)なら東南面前混一色三暗刻ドラ4(表3、赤1)で親の三倍満
これに振り込んだら完全にアウトだじぇ


110. 名無し麻雀選手

案の定、光ちゃん(五)ツモってきた


111. 名無し麻雀選手

これはカンかな?


112. 名無し麻雀選手

カンだな


113. 名無し麻雀選手

カンすべきでしょう


114. 名無し麻雀選手

いったwww
カンwww
そして嶺上開花www


115. 名無し麻雀選手

ココデリンシャンカイホウッテ
サキサマミタイデス!


116. 名無し麻雀選手

北ッス
リーチツモタンヤオ三色ドラ6
三倍満ッス


117. 名無し麻雀選手

祝! 三倍満!


118. 名無し麻雀選手

祝! 三倍満!


119. 名無し麻雀選手

祝! 三倍満!


120. 名無し麻雀選手

ちょっと待て
なんか、光ちゃんの和了りが無効って言われてる


121. 名無し麻雀選手

どゆこと?


122. 名無し麻雀選手

光ちゃんのチョンボ!

こう言ったケースでは
リーチ者は和了った後になってから
どっちを暗刻にするか決めるんだって
和了る前に決めちゃイケナイらしい


123. 名無し麻雀選手

これってカンしちゃいけないんだ!?
初めて知った


124. 名無し麻雀選手

でも、チョンボした光ちゃんは平然としてるじょ!?
むしろ、ただで4000点もらえたネリーのほうが悔しがってるじぇ!


125. 名無し麻雀選手

このチョンボ
わざとだと思
36000振り込みを8000放出で済ませた


126. 名無し麻雀選手

>>125
もしそうならファインプレーじゃん!


127. 名無し麻雀選手

なるほど
チョンボって、こう言う使い方があるってことか


128. 名無し麻雀選手

ちょっと待て
山を崩した一瞬
次のネリーのツモ牌見えた
六ツモで四暗刻だった


129. 名無し麻雀選手

スバラです!


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八十五本場:世界大会9 決勝戦開始

七十九本場の前書きにも書かせていただきました通り、この世界大会では、留学生は留学先の国の選手として出場しても良いルールとさせていただきます。


 決勝戦の朝、大会会場のロビーには、小蒔の姿があった。

 ただ、とても眠そうである。決勝戦が楽しみで昨夜は全然眠れなかったようだ。

 

 そして、まるで小蒔をガードするかのように、霞、初美、巴の姿もあった。完全に三人で小蒔を取り囲んでいる。

 基本的に、霧島神境の姫を、一人で異国の地に行かせたりはしないし、小蒔の身の安全が最重要と言うことなのだろう。

 

 先日、飛行機で入国した時には、日本チームのメンバー達と一緒だった。なので、その時は、霞達が同行していなくても大丈夫だろうと踏んでいたようだ。

 ただ、今日は、これから日本チームのメンバー達と合流する。

 それまでの間、小蒔を一人にするわけには行かない。

 それ故のガードだ。

 

 

 しばらくして、咲達が会場に到着した。

 霞達は、小蒔を咲達に預けると、観客席のほうへと移動した。控室には、基本的に代表メンバーと監督、コーチしか入れないからだ。

 

 小蒔と合流すると、慕は、受付にメンバー表を提出した。

 提出した後になってから小蒔に、

『実は、急に行けなくなりました!』

 と言われても困る。

 それで、会場に小蒔が来ていることを確認してから、メンバー表を提出することにしていたようだ。

 

 その後、咲達は控室に移動した。

 恭子がいるので、慕も迷子症対応に関しては心配していなかった。間違いなく、咲を控室に運んでおいてくれる。

 

 日本チームのオーダーは、昨夜、慕が考えたとおりのモノで提出した。恭子にも相談したが、反対意見は特に無かった。

 

 ドイツチームのオーダーは、昨日段階で神楽が啓示を受けたとおり、特に動かされてはいなかった。

 先鋒は、パワーヒッターのローザ・ニーマン。

 ニーマンの姪だ。高校二年生。

 

 次鋒は、百目鬼千里(どうめきちさと)。

 全ての牌が見えていると噂されている日本人。ドイツでは『アトランダムの支配者』とまで呼ばれる。高校二年生。

 

 中堅は、西野カナコ。

 別名『殺し屋』。ステルスモモの進化版ともいえる麻雀を打つ。彼女も高校二年生。

 

 副将は、フレデリカ・リヒター。

 咲に似た顔をした選手。日系人。

 ドイツチームの、他の選手達の能力を引き出した人物。ドイツチームの中心的存在でもある。唯一の高校一年生。

 

 大将は、園田栄子。

 守備の麻雀を得意とする。それも、愛宕洋榎レベルだ。高校二年生。

 

 

 一方、日本チームのオーダーは以下の通りだった。

 先鋒に宮永光。高校二年生。

 昨年の世界大会では、『北欧の小さな巨人』と呼ばれ、各国の強豪選手を震え上がらせた超魔物。先ずは、ここで勝ち星を一つ確実に取っておきたい。

 

 次鋒は松実玄。高校三年生。

 急遽、決勝戦に出場することになった。今回は最初から三元牌支配で行く。

 全ての牌が見えている千里が、どのように玄の三元牌支配を潜り抜けるかは、見ものだろう。

 勿論、慕も恭子も、千里には潜り抜けられないだろうと予想しての次鋒起用だ。

 

 中堅は宮永咲。高校二年生。

 絶対に落としたくない中堅は、日本の絶対的エースに任せる。

 本来であれば、カナコの相手は衣のほうが有利であろう。しかし、咲でも間違いなくカナコを返り討ちにしてくれると信じている。

 

 副将は神代小蒔。高校三年生。

 咲に似たフレデリカとの対戦を、最強神が自ら望まれた以上、副将は彼女に任せるしかない。これはこれで、面白い対局になりそうだ。

 

 そして、大将は石見神楽。高校一年生。

 相手の手牌が全て透けて見える巫女で、口寄せができる能力者。

 今日は、誰が降りてくるのかが非常に楽しみである。

 

 

 中国チームのオーダーは、先鋒に劉紅花、次鋒に関芽衣、中堅に張鈴麗、副将に臨海女子高校の郝慧宇、大将に趙桂英の布陣。

 特に劉紅花、関芽衣、張鈴麗の三人は、桃園の誓いを行ったほど仲が良いらしい。

 

 また、アメリカチームのオーダーは、先鋒がエマ・スミス、次鋒がオリビア・ジョンソン、中堅がエミリー・ウイリアム、副将がマリー・ダヴァン(臨海女子高校にいたメガン・ダヴァンの妹)、大将がシャルロット・ブラウンだった。

 

 

 時間になった。

 決勝卓の周りに、対戦する4チームの選手一同が集められた。まるで、インターハイ団体戦決勝のようである。

 そして、「一同、礼!」

 審判の掛け声が会場にこだました。

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 一同、元気良く挨拶した後、先鋒選手だけを残して他のメンバーは各チームの控室へと戻って行った。

 

 場決めがされ、起家がドイツのローザ、南家が中国の紅花、西家がアメリカのエマ、北家が光に決まった。

 

 東一局、ローザの親。ドラは{②}。

 光は、二~三年前にニーマンからローザの名前を聞いたことがあった。

 その頃のローザは、ニーマンと同じ血を継いでいる者でありながら麻雀は劇弱。街の小さな大会でも下位の方だったと聞いた。

 しかし、ここにいるローザからは、たしかに照や咲、最高状態の優希や小蒔に似た空気を感じる。

 無名の選手が、いきなり大きな変貌を遂げている。

 フレデリカによって身体の奥底に眠る恐るべき能力が開花したゆえだろう。

 

 ローザは、三巡目で聴牌した。

 この時、光はローザから聴牌気配を強く感じ取っていた。聴牌気配を隠せるほどローザは器用ではないのだろうか?

 また、その不器用さを、ローザ自身も自覚しているのだろうか?

「リーチ!」

 聴牌即で先制リーチをかけてきた。

 いわゆる聴牌したことの自白である。

 

 紅花、エマは一旦現物を切って打ち回し、光もヤオチュウ牌切りで様子を見た。

 しかし、次巡、

「一発ツモ!」

 当たり前のように一発で和了り牌を自ら掴んできた。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五②②③④[⑤]33445}  ツモ{2}  ドラ{②}  裏ドラ{3}

 

「メンタンピン一発ツモ三色ドラ5。12000オール!」

 しかも、いきなりの親の三倍満。もし一発で{5}をツモっていたら数え役満だ。

 パワーヒッターと呼ばれるのも頷ける。まるで最高状態の東初の優希を見ているようだ。

 そして、ローザは不敵な笑みを浮かべると、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 東一局一本場。

 ここでも、

「リーチ!」

 四巡目でローザが先制リーチを仕掛けてきた。やはり仕上がりが早い。

 勿論、聴牌気配が丸分かりでのリーチだ。

 そして、この局も、

「一発ツモ!」

 ローザが一発で和了り牌をツモった。

「メンタンピン一発ツモドラ3。8100オール!」

 しかも親倍ツモ。このスタートダッシュは、やはり優希を彷彿させる。

 既に、ローザは他家にダブルスコアをつけての大量リードを手にしていた。

 

 東一局二本場。

 五巡目に、光はローザから微かに違和感を感じ取った。

 恐らくこれは聴牌気配なのだが…、前局、前々局のようにビンビンに伝わってくるほど大きなものではなかった。

 最近では禁煙の雀荘も増えたが、一時期、聴牌タバコと言う言葉があった。

 聴牌してホット一息すると、ついついタバコをつけてしまうと言うものだ。

 他にも、聴牌するとオシボリに手が行ったり、待ちを確認するために今までよりも牌を捨てるまでの時間が長くなったり、色々ある。

 そう言った挙動の違いを光はきちんと観察していた。

 ローザは、僅かだが牌を捨てるまでの時間が長くなり、かつ表情が和らいだ。

 しかし、光以外はこれに気付いていなかった。

 同巡、エマが切った牌で、

「ロン! 24600!」

 ローザは親倍を直取りした。

 そう。ローザは前局、前々局ではわざと聴牌気配を強く出していたのだ。この直取りのために…。

 

 もしこれが25000点持ちなら、これでエマが箱割れして終了である。

 しかも、まだ東一局。

 恐るべき破壊力だ。

 各選手100000点持ちルールが採用された理由が分かる気がする。

 

 東一局三本場。

 六巡目、今回もローザが、

「リーチ!」

 先制攻撃を仕掛けてきた。

 この仕上がり率は、まるで池田華菜のようだ。

 

 前局のローザの直取りは、早い巡目でもダマ聴があり得ることを他家にアピールするためのものだったのだろう。

 リーチがかかる前から、妙に紅花とエマがローザを警戒している感じがする。

 警戒するのは良いことだが、それが行き過ぎると自分の手の進みを妨げる。

 それどころか、二人からは手が縮こまっている雰囲気を光は感じ取っていた。

 この局も、

「一発ツモ! 12300オール!」

 ローザが親の三倍満をツモ和了りした。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 221800

 2位:紅花(中国) 67600(席順で2位)

 3位:光(日本) 67600(席順で3位)

 4位:エマ(アメリカ) 43000

 ローザの圧倒的なトップであった。

 もはや、誰もが先鋒戦はドイツの勝ち星を疑わない状態だ。まさに、新旧ドイツチームメンバー対決は、ローザの勝利………光の敗退を世界中が確信していた。

 

 東一局四本場。

 ここに来て、ようやくローザのペースが落ちてきた。

 六巡目が過ぎたところで、まだローザからの聴牌気配は無い。

 この巡目で光は聴牌。どうやら、光はローザよりも先に聴牌できたようだ。

 当然、光は聴牌気配を他家に悟られるようなマネはしない。ここは何事も無いような振りをしてダマで待つ。

 

 突然、光は下家のローザから強大な聴牌気配を感じた。相当大きい手のようだ。

 そして、今回も、

「リーチ!」

 ローザはリーチを仕掛けてきた。しかし、この牌で、

「ロン。タンヤオドラ3。8000の四本場は9200。」

 光が和了った。

 とんでもない程のリードをローザに奪われたが、ここに来てようやく光は第一弾の和了りを決めた。

 

 

 東二局、紅花の親。

 照と同じで、光も第一弾の和了りを決めると、そこから手が早くなる。

 それともう一つ。前局の和了りから、光はローザの守備の弱さを感じ取っていた。攻撃力は凄まじいが、攻撃一本に絞り過ぎ、守備が疎かになっている。

 それでも、通常であれば稼ぐ分が馬鹿デカイので負けることは無いだろう。

 しかし、そこを突いてゆけば勝機はある。

 

 光は、四巡目でタンピンドラ3を聴牌した。

 当然だが、ここもダマで行く。圧倒的リードをしている選手の守備力が弱く、そこから直取りするのなら、誰でもダマ聴を貫くだろう。

 次巡、ローザは手が進み、不要牌を切った。周りから聴牌気配を感じないのだから当然だろう。

 しかし、これは光の和了り牌だった。

 狙い通りだ。

「ロン。タンピンドラ3。8000。」

 これで、光は第二弾の和了りを決めた。

 

 

 東三局、エマの親。

 ここでの光の縛りは和了り役で3翻。

 四巡目にはタンピン一盃口を聴牌した。勿論、ドラも赤牌も計3枚ある。出和了りでハネ満の手だ。

 

 同巡、ローザから聴牌気配を感じた。東一局二本場の時のように微かなものだ。

 どうやら、この局ではローザもダマで待つつもりのようだ。

 しかし、ツキはローザではなく光のほうに傾いているようだ。ローザが聴牌にとって捨てた牌で、

「ロン。12000!」

 光が和了った。

 

 これで光の点数は96800点となったが、一方のローザは192600点もある。

 まだダブルスコアだ。逆転するには道のりが長い。

 しかし、諦めるわけには行かない。ここから連続和了でローザを逆転してみせる!

 

 

 東四局、光の親。ドラは{北}。

 ここまで、光は一回も鳴いていない。

 下手に鳴くとローザに警戒されるだろう。今はローザからの直取りを優先したく、それで光は門前で仕上げていた。

 五巡目と、結構早い巡目で光は聴牌した。ここでは和了り役4翻縛りだ。

 当然、光からは聴牌気配は無い。

 とは言え、ここに来てローザは三連続で光に振り込んでいる。当然、ローザも光を警戒する。

 光の捨て牌に{[⑤]}があった。割と早い段階での捨て牌だ。

 もし、{[⑤]⑦⑨と}あったのなら、普通は{⑨}を切る。

 三色同順を狙っての{[⑤]}切りであれば、{②}や{⑧}での和了りは無いだろう。

 それで、ローザは不要牌の{⑧}を切った。多分、大丈夫なはずと考えての打牌だった。

 しかし、

「ロン。ダブ東チャンタドラ2。18000。」

 

 開かれた手牌は、

 {一二三⑦⑨789東東東北北}  ロン{⑧}  ドラ{北}

 

 筋引っ掛けだ。

 まさか、この巡目でこのような手を張っているとは…。

 ローザは両手で両頬を叩いて気合を入れ直した。まだ圧倒的リードをしているのは自分だ。このまま逃げ切りを目指す。

 

 東四局一本場、光の連荘。

 ここでは、光は一旦聴牌したが、やはり和了り役5翻の縛りは厳しい。今の点牌形のままでは縛りに反する。

 それで、別の形への移行を行った。

 ここに来て、光の捨て牌は{六}、{七}、{[五]}。何故か面子を落としに来た。しかも赤牌まで含まれている。

 ローザは、光が染め手に移行したと判断した。まあ、その考えも普通にありえる。

 そして、{横九}を切って、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 しかし、このローザのリーチ宣言牌は、

「ロン。12300。」

 光の和了り牌だった。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三九①①①⑨⑨⑨111}  ロン{九}  ドラ{④}

 ジュンチャン三暗刻。しかも、まさかの{九}単騎待ちだった。

 

 これでローザは五連続振込み。

 顔に悔しさが露わになっていた。

 さすがに平静を保てなくなっている。当然だろう。

 

 一方の光は、ローザの精神力を崩せたと判断した。

「(これはチャンスが来たな!)」

 しかし、こう言った感情を、光は一切外には出さなかった。それだけ鍛えられているとも言えるだろう。

 

 東四局二本場。

 ここに来て、光はこの対局で初めて、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 まだ五巡目と、割りと早い巡目だ。

 ローザからの直取りのため、今までダマ聴を貫いていた。

 しかし、現在の光の点数は127100点、ローザの点数は162300点と、親倍ツモで2400点差まで詰め寄せられる。

 それで裏ドラ期待も含めてリーチをかけた。当然、ツモ和了りを目指す。

 

 同巡、

「リーチ!」

 ローザが追っかけリーチをかけてきた。

 すると、

「チー!」

 これを紅花が鳴いてきた。一発消しだ。

 エマは無難に暗牌切り。

 光のツモ牌は和了り牌ではなかった。当然、ツモ切り。これは、ローザの和了り牌でもなかった。

 

 そして、ローザのツモ。本来なら、これは光に行くはずの牌だった。

 残念ながら、これはローザの和了り牌ではなかった。当然、ツモ切りになる。

 しかし、この捨て牌で、

「ロン!」

 光が和了った。

 本来であれば、光がリーチ一発ツモを決めていたのだ。それが紅花の鳴きでローザに流れ、ローザが振り込む結果となった。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①①②③⑦⑧⑨南南西西}  ロン{西}  ドラ{7}  裏ドラ{南}

 

「リーチメンホンチャンタドラ2。24600!」

 出場所最高!

 これで、ローザはリーチ棒を併せて25600点を光に持って行かれた。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十四本場 熱唱戦開始


まともにオーナーとダッチ〇イフ達が絡むとR-18になってしまいますので、今回も勘違いトークネタです。

季節は夏(と言うことにしてください)。
今、オーナー達はサークルやバイトに行っていて不在であった。

憧100式、憧105式ver.淡、憧108式ver.姫子、憧123式ver.絹恵の四人は、咲のアパートで麻雀を打ちながら駄弁っていた。
しかも自動卓だ。
正直、近所迷惑な気がするが、誰も苦情を言ってこない。その辺は、ご都合主義である。

GBMのようにテレビがついているが、誰も見ちゃいない。
電気代が勿体無い気がする。


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。

取扱説明書:また、最初はキチンと聞き取れていても、最後まで聞いてから全文を改めてHな言葉に誤変換(後付で誤認識)する場合もあります。


憧「ところでさ、俺君ってどんな曲が好きなの?」

淡「ああ見えて、何故かクラシック派なんだよねぇ。一番好きなのはチャイコフスキーみたい。」

憧「ええと、チャイコフスキーって、たしかゲイって話の?」←本当に同性愛者だったと言う話があります

淡「そ…そうなんだ!?」

憧「他には?」

淡「無難にシューベルトとかベートーベンかな………。そうそう、あとマーラーもたまに聞くよ!」

憧・姫子・絹恵「「「(マ〇のタマに効く!?)」」」

憧・姫子・絹恵「「「(〇ラって男性のあの部分のことだよね?)」」」

淡「まあ、マーラーは千人の交響曲しか聞かないけど。」

憧・姫子・絹恵「「「(マ〇のセン〇リの交響曲!?)」」」

淡「本当に演奏に千人必要らしいけどね。」

憧・姫子・絹恵「「「(演奏にセ〇ズリが必要!?)」」」

姫子「(それって、セ〇ズリの音を効果音とかに使うのかな?)」

絹恵「(でも、セン〇リの音って、他の楽器の音で消されないかな?)」

憧「(でも、チャイコフスキーの悲愴だとppppppとかあるから、楽器の方がそれくらい小さな音ならセ〇ズリの音も聞こえるかな?)」←変な雑学はある


淡「あと、たまーにだけど、ショスタコーヴィチも聴くかな?」

憧・姫子・絹恵「「「(ショタコンでビッチ!?)」」」

絹恵「(クラシックの作曲家で、そんな人いるんだ!?)」

憧「(一応、憧シリーズには、ショタコンでビッチなのはいない………と思うけど…。)」

姫子「(でも、もしマホが、三年後にも小学生相手に遊んでたら、ショタコンでビッチってことになるかも知れないかな?)」←マホが小学生男子を相手に公園のトイレで変な遊びをしているとの噂を聞いている


大作曲家を前に、非常に失礼な勘違いを連発しているが………。
でも、何も知らなければ仕方が無いのかもしれない。
特に彼女達の思考回路を考えれば、尚更だろう。


淡「京太郎は、どんな曲が好きなの?」

憧「ギャグな歌が好きかな。これって聞くのがじゃなくて歌うほうだけど。」

淡「歌うんだ!」

憧「うん。カラオケでね。爆風スランプの『無理だ』とか。」

姫子「それ、知ってる!(前に哩さんが歌ったことある!)」

憧「それから、同じ爆風スランプの曲だけど、『こまっちゃう』とかね。」

憧「それから、そうそう。『金太の大冒険』なんかも歌ってた」

姫子「それも聴いたことある。『金太 マカオに着く』とかでしょ?(これって、前に哩さんが熱唱していた!)」(JASRAC:024-5991-4)

淡「(私、俺君のが毎日それだけど…。)」←この勘違いは仕方が無いかも?

姫子「咲さんは、どんな曲聞くの?」

絹恵「普通に歌謡曲かな。カラオケも歌謡曲だった。」



丁度この時、テレビから天気に関するニュースが流れてきた。
現在、台風が発生していて、明日に日本上陸の恐れがあるとされていた。
当然、ニュースも台風情報が中心になってくる。


テレビ「勢力の強い台風10号は…。」

憧・淡・姫子・絹恵「「「「!!!!」」」」

憧・淡・姫子・絹恵「「「「(な…なんだ、驚いた。台風か。)」」」」

憧・淡・姫子・絹恵「「「「(『精力の強いタイ風』かと思った…。)」」」」




淡「ところで、哩さんは、どんな曲が好きなの?」

姫子「アニソンが中心かな?」

淡「へー、たとえば誰の曲とか?」

姫子「歌手の名前は忘れたけど、『熱烈歓迎わんだーらんど』とか『四角い宇宙で待ってるよ』とか、『Square Panic Serenade』とか。(金太の大冒険とか無理だのことはナイショにしておこう。)」

憧・淡・絹恵「「「(なんだか哩さん、一人だけイイ子ぶってる気がするんだけど。)」」」


まあ、咲-Saki-の登場人物なのだから、一人くらいはアニメ咲-Saki-の曲を歌ってくれないとマズイだろう。


テレビの放送内容が、オーケストラ演奏に変わった。
流れてきたのは、
「ジャン! ジャン!」
いきなり曲の終わりを連想させる音。
その後、三拍子の壮大な雰囲気の曲が流れて行く。
これは、ベートーベン交響曲第三番英雄である。


憧「いきなり最終回みたいな曲ね。驚いた。」

淡「これって知ってる。俺君が前に聴いていたよ。」

憧「そうなんだ。」

淡「たしか、ベートーベンの交響曲第三番で、題名が『エロイカ』だったかな。」

憧・姫子・絹恵「「「(エロいか!?)」」」

憧・姫子・絹恵「「「(エロい曲なの、これ!?)」」」


六十五本場本編で出てきたように、『エロイカ』はイタリア語で、『英雄的な』とか『勇敢な』を意味する形容詞の女性形である。
別に『エロ』とは関係ない…と思う…。
しかし、これを知らないダッチ〇イフ達からすれば、『エロいか? エロいよ!』みたいな感じにしか聞こえないだろう。
なので、この曲をエロの代名詞のように勘違いしたのは言うまでも無い。


憧・姫子・絹恵「「「(昔の人は、これでエロさを感じていたってこと!)」」」

憧・姫子・絹恵「「「(全然エロくないと思うけどな、この曲…。むしろ格調高い気がするんだけど!?)」」」

姫子「これって、なんで『エロいか?』って言うの?」

淡「知らない!」

姫子「全然エロい感じしないけど?」

憧・絹恵「「(そうそう!)」」

淡「私もそう思うけどさ…。でも、それって、題名つけた本人に聞かなきゃ分かんないジャン?」

絹恵「誰がつけたの、題名?」

淡「ベートーベン自身だよ!」

姫子「じゃあ、ベートーベンは、これくらいでエロいって思うわけだから、私達なんかエロの権化にしか見えないだろうね。」


いや、何時の時代の人間から見ても、彼女達は余裕でエロの権化にしか見えないのではなかろうか?
そもそもインプリンティング機能付きの自律型高性能ダッチ〇イフなんて、エロ男子の夢であろう。
多分、一台欲しいと思っている人は、読者の中にも少なからずいるのでは無いだろうか?

正直、


「まず一人、ここにいる!」(小蒔 -Komaki- 100式からの流用で済みません)


と筆者自身が言いたい。




続く


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八十六本場:世界大会10 邪魔

起家がドイツのローザ、南家が中国の紅花、西家がアメリカのエマ、北家が光です。


 現在の順位と点数は、

 1位:光(日本) 152700

 2位:ローザ(ドイツ) 136700

 3位:紅花(中国) 67600

 4位:エマ(アメリカ) 43000

 何とか光がローザを逆転してトップに立った。

 

 東四局三本場、光の連荘。

 未だに紅花とエマはヤキトリ状態。当然、二人は、まずヤキトリ回避を狙いたいところだ。さすがにノー和了で決勝戦を終えたくない。

 

 二人のうち、先に動いたのはエマだった。

「北、ポン!」

 いきなり、一巡目からの鳴き。自風で役を作った。

 そして、六巡目で、

「ツモ。北ドラ3。2000、3900の三本場は2300、4200!」

 満貫級の和了りを決めた。これでヤキトリ回避と共に光の親を流すことに成功した。

 

 

 南入した。

 南一局、ローザの親。

 エマが光の親を流したことが影響したか、さっきまでとローザの雰囲気が変わった。少し落ち着きを取り戻したように見える。

 

 連続和了が断ち切れたためか、光の手は今一つであった。

 対するローザは、五巡目で、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけてきた。

 リーチ宣言牌は{北}。

 これを鳴こうにも、紅花もエマも光も{北}の対子を持っていなかった。

 

 三人とも、無難に安牌切りで一発を回避したが、結局、

「一発ツモ! 四暗刻!」

 ローザに一発で和了られた。しかも、ツモり四暗刻。出和了りなら満貫の手だった。

 これでローザがトップを取り返した。しかも、2位の光に49900点差をつけての完全独走状態となった。

 

 南一局一本場、ローザの連荘。

 ここでも、

「リーチ!」

 先行したのはローザだった。

 まさかの四巡目リーチ。東場の優希か、仕上がり率の華菜か、それとも南場の鬼神、南浦数絵か?

 それだけのスピードがある。

 そして、

「ツモ! 12100オール!」

 親の三倍満ツモを決めた。

 

 これで現在の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 218700

 2位:光(日本) 120400

 3位:紅花(中国) 37200

 4位:エマ(アメリカ) 23700

 ローザのトップは揺るぎ無い。再び誰もがそう思える点差となった。

 ただ、飽くまでも『暫定トップ』だ。

 この圧倒的点差を、一旦逆転した選手がいる。

 当然、その選手………光が、今後どんな動きを見せるかに、日本の誰もが注目を集めていた。

 

 南一局二本場。ドラは{⑨}。

 ここでは、

「ポン!」

 光が紅花に{南}と、

「ポン!」

 {中}を鳴かせた。

 自分の手が重いので、紅花に動いてもらったのだ。

 紅花の捨て牌は、{2}、{6}、{③}、{⑧}と索子、筒子から切り出され、その後、字牌へと移り変わっていた。完全な萬子混一色手である。

 萬子染めならドラが絡んで来ない。ならば、対々和と混老頭が同時に付かない限り、良くてハネ満だろう。

 字一色や大三元の可能性もあるが、それは極めてレアだ。

 当然、ローザは攻撃の手を緩めなかった。

 反撃してくるのが光なら怖いが、他の二人のことなど眼中になかったのだ。

 それもあって、自分の連荘を目指して猛進した。

 

 数巡後、

「リーチ!」

 ローザが聴牌即でリーチをかけた。

 しかし、この捨て牌で、

「ロン。南中混一赤1。8600。」

 紅花に和了られた。

 ただ、ローザの想定の範囲内だった。今の点差を考えたら、ローザにとっては、然程痛くは無い。

 このまま、他家の親を流しまくってトップを狙えば良い。ローザにとっては、すべきことが連荘から場を流すほうに変わっただけだ。

 

 

 南二局、紅花の親。

 さっきの振込みが効いたのか、ローザの聴牌速度が落ちた。急にムダツモが増えた感じだ。運が下がったのだろう。

 

 一方、光は、七巡目でようやく聴牌した。

 ここではダマで待つ。東場の時と同じでローザからの直取りを狙う。逆転を目指すのなら、それが当然の選択だろう。

 紅花が光の和了り牌を切ってきたが、これをスルー。

 次巡、光はツモ切り。聴牌形は変わらず。

 そして、次に下家のローザが切った牌で、

「ロン!」

 光が和了った。

「タンピンドラ3。8000。」

 これで、やっと第一弾の和了りを決めた。

 

 

 南三局、エマの親。

 第一弾の和了りを決めると、光の手は早くなる。

 ここでは四巡目に染め手を門前で聴牌した。いつもならリーチをかけるが、今回は飽くまでもダマで待つ。

 しかし、ローザも光の手を警戒している。当然、染め手の光に振り込むようなマネはしてこなかった。

 結果的に、次のツモで、

「ツモ。中メンホンドラ2。3000、6000。」

 光はハネ満をツモ和了りした。これなら、リーチをかけておいた方が良かったかもしれない。

 

 

 オーラス、光の親。

 まだ狙うのはローザからの直取りか?

 いや、ここからはツモ和了り主体で行く。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 199100

 2位:光(日本) 140400

 3位:紅花(中国) 42800

 4位:エマ(アメリカ) 17700

 

 ここから、親の連荘でエマを飛ばしたとしよう。

 もし、17800点ずつ全員から奪ったとする。

 すると点数は、

 1位:光(日本) 193800

 2位:ローザ(ドイツ) 181300

 3位:紅花(中国) 25000

 4位:エマ(アメリカ) -100

 光の逆転トップになる。

 

 できれば、ローザを逆転するだけではなく、もっと稼いで引き離すところまで進めたいところだ。

 しかし、ローザの大きな和了りで一気に逆転される可能性も考慮しなくてはならない。長期戦になれば、その可能性が高くなる。

 そこで、まずは前半戦を確実にトップで折り返すことを優先する。トップを取ることで精神的に優位に立とうとの考えだ。

 

 光は、五巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 そのままリーチをかけた。

 ローザは現物切りで対処。すると、この捨て牌を、

「チー!」

 紅花が鳴いて一発を消した。

 エマも無難に安牌を切って振り込みを回避した。

 そして、光のツモ番。

 光は、自分の指先に力を込めた。

「ツモ! リーチツモジュンチャン一盃口ドラ1。6000オール!」

 一発は付かなかったが、親ハネをツモ和了りした。

 

 オーラス一本場。ドラは{②}。

 ここでは、

「ポン!」

 エマが捨てた{中}を、光は早々に鳴いた。

 光の手牌には、ドラの{②}は無かったが、{[⑤]}が二枚と{[5]}が一枚の計三枚の赤牌が含まれていた。

 その後、光はムダツモ無く着々と手を進め、

「ツモ!」

 和了り役6翻の手を和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤[⑤][⑤]55[5]東東東北}  ポン{横中中中}  ツモ{北}

 

「東中対々三暗刻ドラ3。8100オール!」

 親倍ツモ和了りだ。

 

 これで順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 185000

 2位:光(日本) 182700

 3位:紅花(中国) 28700

 4位:エマ(アメリカ) 3600

 あと一回和了れば光はローザを逆転できるところまで追い上げた。

 

 オーラス二本場。

 前半戦トップを目指すのは光だけではない。ローザだって、ここは和了ってトップを維持したまま折り返したい。

 ただ、別の考えを持つ者もいる。

 その者は、光とローザが互いを意識し合う中、

「ポン!」

 光が捨てた{北}を一鳴きし、

「チー!」

 紅花が捨てた{3}を両面で鳴いて{横34[5]}の赤牌入りの順子を副露した。

 そして、そのまま数巡後に、ラス確定にもかかわらず、

「ツモ。北ドラ3。2000、3900の二本場は2200、4100!」

 その者………エマが和了った。

 

 普通に考えれば、エマは、自分が箱割れするのを回避したかったと言えるだろう。トップは諦めたが、失点を最小限に抑えるために和了りに向かったとの判断だ。

 それともう一つ。日本チームの二連覇阻止の考えもある。それで光ではなく、ローザが前半戦をトップで折り返す方を選んだとも言える。

 

 ただ、和了った瞬間、エマは光の方を見てニヤリと笑った。まるで、

『ザマ見ろ! してやったり!』

 とでも言わんばかりの表情だった。

 光からすれば、なんだか見ていて気に入らない雰囲気だ。

 こうなると、箱割れ回避とか日本の二連覇阻止だけではなく、個人的な何かもあって光の逆転を邪魔したように思えてくる。

 嫌な感じだ。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 182800

 2位:光(日本) 178600

 3位:紅花(中国) 26500

 4位:エマ(アメリカ) 12100

 ローザがトップだが、ローザと2位の光の点差は4200点差である。逆転不可能な点数ではない。

 当然、二人の戦いは後半戦でヒートアップすることを誰もが期待した。

 

 

 休憩に入った。

 光は、一先ず対局室を出てトイレに向かい、用をたした。

 別に光自身、恐怖から巨大湖形成をする側とは思っていないが、まあ、後半戦途中でトイレに行きたくなっても困る。それで事前の対応をしたまでだ。

 その後、光は自販機に向かった。

 そこで彼女は、『つぶつぶドリアンジュース』の隣に『缶の冷たいおしるこ』なるものを発見した。

「(これって、麻里香が好きそう。)」

 光は、話のネタに『缶の冷たいおしるこ』を購入した。

 飲んでみると、たしかに脳が生き返る。

 ただ、飲んだ分だけ喉が渇く。やっかいな代物だ。

 それで光は、『缶の冷たいおしるこ』を飲み終わると、ペットボトルのスポーツ飲料を購入した。これで喉の渇きを潤す。

 一気に全部は飲めないが、残った分は対局室に持ち込もう。

 

「やっぱり、末原コーチの言ったとおりなのかな…。」

 光は、今回の対局が1対1対1対1ではなく1対3の戦いになることをある程度は想定していた。

 そうなる理由は二つ。

 一つ目は日本チームの二連覇阻止。

 そして、もう一つはミナモ・ニーマンとして世界的に名が売れた光と対峙するためだ。

 これまで、ミナモ・ニーマンに黒星をつけた女子高生雀士は宮永咲一人だけ。それ以外の選手には順位負け(咲がトップで光以外の選手が2位)はあってもトップを取られての敗退はない。

 

 ただ、光が事前に恭子から言われたことは、純粋な勝負の世界の話ではない。

 もっと嫌な内容だった。

 …

 …

 …

 

 

「あんな、光。一流プレイヤーが、光みたいな超一流プレイヤーに対して何をするか分かるか?」

「結託して私を倒しに来るってことでしょ?」

「それもあるけど、それだけやないで。誰でもな、自分が努力して超一流の域に達せるんなら、正々堂々と切磋琢磨する。」

「それって普通じゃ…。」

「普通やないで。それを普通と言い切れるんは、光が超一流やからや。」

「…。」

「実際、いくら努力しても超一流の域に達せる人間は一握りや。でもな、一流の者達も自分達の地位を守らなあかん。」

「…。」

「なので、中には超一流の者達を、卑怯な手を使ってでも自分よりも下位に引きずり落として自分達の立場を守ろうとする人間もおる。」

「えっ!?」

「嫉妬とか保身とか、色々な感情が混じるわけやけどな。」

「ちょっと理解しにくいんだけど…。」

「やからそれは、光が超一流やからや。しかも心も純粋やな。ただな、自分より劣る者の感情は、必ずしも正々堂々とはしとらんで。」

「でも、だったらそんな奴らを力でねじ伏せればイイんじゃ?」

「できるうちはな。でも、結託されると面倒なこともあるし、それ以前に、うちみたいな二流プレイヤーが、超一流の咲のペースを狂わせることだってできとるやろ?」

「!!!」

「やり方は色々あるっちゅうことや。とにかく、この世界大会では気いつけな。少なくとも世界中の女子高生からは、光は光ではなく、ミナモ・ニーマンやからな。」

「うん…。」

「それに、本人は光に勝てなくてもかまへんから、なんとかして光を潰せないかと考える輩もでてくるかも知れへんで。卑怯な手を使ってでもな。」

 …

 …

 …

 

 

 光は、自販機前の椅子に腰を降ろしていた。

 

 恐らくエマは、日本チーム二連覇阻止や、自分の箱割れ回避以外に、ミナモ・ニーマンに黒星を付けることも狙ったのだろう。

 あの局面でエマが和了ってくるとは思わなかったが、それは光の認識不足だ。

 

 準決勝では、淡がステラのラス確定和了の犠牲になったが、あれは日本チームに勝ち星が偏るのを阻止するためだ。チーム戦として理由は分かる。

 しかし、今回のエマの和了りは、ステラの和了りとは意味が違う。

 一見、三人が結託して日本チームの二連覇を阻止するための和了りと取れる。

 しかし、和了った後の表情からすると、二連覇阻止は表向きだ。

『ミナモが勝つのを邪魔する』

 が正しい認識だろう。

 いや、それどころか、

『ミナモを潰す』

 とまで考えていそうだ。

 ここで感情的になって冷静さを失えば、勝てるものも勝てなくなる。

 そういった精神攻撃も含まれているのかもしれない。

 

 後半戦では、エマは、ここぞと言うところで光の足を引っ張るためだけに、ローザにわざと振り込むかもしれない。

 さて、どんな対策を取るべきか…。

 とは言え、そう簡単に考えがまとまらない。

 今は、焦らずに自分の麻雀を打とう。出たとこ勝負だ。

 

「(よし!)」

 光は気合を入れて立ち上がったその時だった。

「光!」

 恭子が光に声をかけた。なんだかんだで、光の様子を見に来たのだ。

「コーチ。」

「やっぱりやられたな。」

「はい。」

「間違いなくあれば、光の足を引っ張って自滅させようって魂胆や。それに、後半戦も大事な場面で光の和了りを邪魔するで。それこそ、自分がトンででもな。」

「たしかに、そうだね。」

「でもな、咲がオモロイこと言っとったで。」

「咲が?」

「ああ。でな…。」

 恭子が光に内緒話を始めた。

 間違っても、他のチームに聞かれては困るからだろう。

 

 

 その頃、ローザは対局室で卓に付き、目を閉じていた。

 前半戦は最後に光の追い上げに焦り、自分の麻雀ができなくなっていた気がする。

 それで、後半戦開始に向けて、精神統一していたのだ。

 

 ローザは、心の中で自問自答していた。

 自分の売りは攻撃力。

 守備が弱いのは重々承知している。

 そこを光に突かれることも想定している。

 ただ、光より高打点で和了り続ければ、決して負けないはず。

 

『打倒ミナモ!』

 去年までドイツの若手の中で絶対的エースとして君臨していた伝説の雀士。それに勝つことがローザの目標だ。

 

 

 エマも紅花も卓に付いたままだった。

 ここに光が戻ってきた。彼女は、この時、何か吹っ切れた感じの表情をしていた。

 

 場決めがされた。

 後半戦も起家はローザだった。いきなりの高打点。しかも東初。やはり優希を思い出させる。

 南家はエマ、西家は紅花と、南家と西家が入れ替わった。

 北家は光だ。

 いよいよサイが振られ、先鋒後半戦に突入する。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十五本場 タマ


流れ二十四本場の続きです。


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。

取扱説明書:また、先入観が入ると、ムリヤリHな単語と聞き違えるようになりますのでご注意ください。


淡「オーナーのほうの曲の趣味は分かったけど。私達の趣味はどうなのかな? 全員違うのかな?」

憧「たしかに、元は阿笠博士の学習内容で決まってたはずだけど、やっぱオーナーの影響を受けて変わって行くはずだよね?」

淡「じゃあさ、憧は、どんな曲が好き?」

憧「サザンとかかな。」

淡「あの『マンピーのG★SPOT』を歌ってる人達の?」←淡は、サザンオールスターズの曲は、これしか知らない

憧「まあ、そうだけど…(他にも色々あるんだけど…)。」

淡「(やっぱり私達、ダッチ〇イフだからね。そっち系の歌の方が好きになるよね!)」

憧「淡は?」

淡「私?」

憧「うん。」

淡「私は俺君が聴く曲なら何でも。」

憧・姫子・絹恵「「「(インプリンティング機能付きダッチ〇イフの模範解答が来た!)」」」

淡「交響曲もイイケド、バレエ音楽もイイよ!」

淡「白鳥の湖とか胡桃割り人形とか…。」

憧・姫子・絹恵「「「(フグリ割り人魚?)」」」

憧・姫子・絹恵「「「(フグリって男性のタマのことだよね? もしかして下半身魚の人魚がHできなくて人間に嫉妬してタマを割るって話かな?)」」」

淡「あと、Sleeping Beauty(眠りの森の美女)も。」

憧・姫子・絹恵「「「(スワッ〇ング ビューティー?)」」」←先入観からムリヤリ聞き違えています

憧「(お〇んぽコースとかペ〇ス大会とか出るくらいだからなあ。やっぱ、そっち系が好きになっちゃったのかな?)」

憧「(私は絶対、京太郎一色だけどね!)」←憧と淡は互いに、相手がス〇ッピング機能とかNTR機能を使われていると勘違いし続けています

憧「(でも、スワッ〇ング ビューティーなんてバレエがあるんだったら一度見てみたい気はするけど…。)」


そんなのがあったら、多分、一度見てみたいと言う人は沢山いるだろう。
少なくとも、憧100式に限った話ではない。


絹恵「姫子は、どんな曲が好き?」

姫子「ええとね、ジャンルは色々飛ぶけど、『双頭の鷲の旗の下に』とか、『双頭青龍』とか、『双頭の風』とかかな。」

憧・淡・絹恵「「「(何故、双頭ばっかり!?)」」」

絹恵「(哩さんと双頭ディ〇ドーを使って楽しんでいるからかな?)」←多分正解

姫子「絹恵は?」

絹恵「好きな曲?」

姫子「うん。」

絹恵「やっぱり、『予感、咲きました』とか『Eternal Wind』とかかな?」←どちらも宮永咲の歌ですね

憧・淡・姫子「「「(咲さん専用のインプリンティング機能付きダッチ〇イフの模範解答だね、やっぱり!)」」」


~~~
咲のアパートの外
和「私は『残酷な願いの中で』ですね。宮永咲と原村和のデュエットの!」←ドアに耳を当てて、憧100式達の会話を聞いている
~~~


絹恵「昨日テレビで咲さんと時代劇見ててね。」

淡「時代劇ってさ、堅苦しい顔して猥談するやつだよね!?」←六十四本場おまけ『憧 -Ako- 100式 流れ十三.五本場』参照

憧「そうそう。フェ〇が嫌とか、自分から早〇って自白したり!」

絹恵「そ…そうなんだ。(そんなシーンあったかな?)」

憧「で、時代劇がどうかしたの?」

絹恵「水戸黄門って時代劇なんだけど。」

憧・淡・姫子「「「(見ろ! 肛門!?)」」」

絹恵「天下の副将軍が諸国漫遊の旅に出てね…。」

憧・淡・姫子「「「(マン遊の度に(白いのが)出るのね?)」」」

絹恵「行った先で悪い人達を懲らしめるの。」

憧・淡・姫子「「「(イった先って男性器だよね? それで懲らしめるって、何か勘違いしてるのかな、私?)」」」

絹恵「その時に、印籠を見せるのよ!」

憧・淡・姫子「「「(い〇のう? いん〇うってタマのことだよね。それを見せるってことは、やっぱり男性器で懲らしめるんだ!)」」」

憧・淡・姫子「「「(でも、それって悪人のを掘るってことかな?)」」」

憧「そんなことされて、悪人が痛がらない?(いきなり掘られたら、やっぱり…)」

絹恵「それは、痛いんじゃないかな。(築き上げてきた立場とかを失うわけだし、精神的に痛いよね?)」

憧・淡・姫子「「「(勘違いじゃないってことか)」」」←立派な勘違いです

絹恵「あと、『暴れん坊将軍』とか。」

憧・淡・姫子「「「(暴れん棒!?)」」」

憧・淡・姫子「「「(それって、ナニが暴れん棒ってことだよね?)」」」

憧・淡「「(やっぱり時代劇ってエロいんだ!)」」

絹恵「姫子は昨日、何か見た?」

姫子「テレビ?」

絹恵「うん。」

姫子「ドラマの再放送でね、『美味しんぼ』ってのを見た。」

憧・淡・絹恵「「「(美味ち〇ぼ!?)」」」


憧と淡の視線が、何気に絹恵の股間に注がれた。


憧・淡「「「(美味ち〇ぼって言ったら、やっぱり…。)」」」←忘れているかもしれませんが、憧123式ver.絹恵は二個一です

絹恵「それって、哩さんと見たの?」

姫子「うん。哩さんが結構好きなんだ、そのドラマ。(意外と料理系のウンチクが好きなんだよね、哩さん)」

憧・淡・絹恵「「「(えっ? 何で? 百合機能発動してるんでしょ!?)」」」

憧・淡・絹恵「「「(もしかして哩さんって両刀使い!?)」」」

姫子「憧と淡は?」

淡「昨日は当然、俺君とナニを!」

姫子「それ以外で。」

淡「NHKでやってた地球の45億年の歴史ってのを見た。」

憧・姫子・絹恵「「「(アホの子のくせに結構マジメなの見てる!?)」」」

淡「全球凍結なんて時代があったって初めて知った。」

憧「へー。(淡がHなの見てないなんて珍しい)」

憧「私は京太郎が借りてきた昔のドラマを見た。『陽あたり良好!』ってやつ。」

淡・姫子・絹「「「(日替わり良好!? もしかしてそれ、日替わりで違う人とHするとか言うんじゃ?)」」」

淡「それって、どんな作品?」

憧「MIX、ナイン、H2、タッチとかの作者の作品だけど。」

淡・姫子・絹「「「(『シックスナイン』!? 『H通』って『H』が『通』な人達が出てくるってこと? あと『ダッチ(〇イフ)』って!? どんな作品だろう?)」」」


憧「高校生のヒロインの子がね、叔母がやってるアパートに居候するんだけど、そこには男子高校生四人が住んでいてね。」

淡・姫子・絹恵「「「(いきなり5P?)」」」

憧「ただ、そのヒロインには恋人がいるの。その叔母さんの甥なんだけどね。ただ、ヒーローは、その彼氏じゃなくて男子高校生四人の中の一人なのよ。」

淡・姫子・絹恵「「「(もしかして寝取っちゃうとか?)」」」

憧「でね、初っ端にヒーローとヒロインが出会ったのが、その下宿のお風呂でね。」

淡・姫子・絹恵「「「(お風呂イコールシャワー! いきなり臨戦態勢来たwww)」」」


取扱説明書:憧シリーズは、シャワーを浴びると臨戦態勢に入ります(Hな意味で)。

取扱説明書:そのため、憧シリーズは、シャワーを浴びると誰でも高確率でHに移行すると勘違いしている部分があります。


憧「原作は漫画で、アニメもやってたらしいよ。」

淡・姫子・絹恵「「「そ…そうなんだ。(絶対、深夜枠だよね?)」」」

憧「京太郎が言ってたけど、アニメは19時枠だったって。」

淡・姫子・絹恵「「「(マジ?)」」」

憧「まあ、1987年放送って言ってたから、随分昔のアニメだけどね。」

淡・姫子・絹恵「「「(その頃って、19時台にそんなアニメ放送できたんだ!)」」」←彼女達が想像しているようなアニメは放送できません


台風接近など全然眼中に無い、平和な四人でした。




続くかな?


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八十七本場:世界大会11 仇討ち

起家がドイツのローザ、南家がアメリカのエマ、西家が中国の紅花、北家が光です。


 東一局、ローザの親。

 ローザは、前半戦よりも、さらに気合が入った顔をしていた。

 全身から近寄りがたい雰囲気と言うかオーラを放っている。

 そして、彼女は四巡目でいきなり、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

 

 一先ず、エマは一発回避で現物を切った。エマは、自分が箱割れしてでも光の邪魔をしてくることが予想される。

 しかし、彼女だって国の代表だ。ただ、ローザに点数を貢ぐだけと言うわけにも行かないだろう。ここは振り込みを回避した。

 紅花も光も一発を回避するが、

「ツモ!」

 一発でローザにツモ和了りされた。

「メンタンピン一発ツモ二盃口ドラ5! 16000オール!」

 しかも親の数え役満。

 とんでもない爆発力である。やはり、パワーヒッターは健在だ。

 

 東一局一本場、ローザの連荘。

 ここでも、

「リーチ!」

 五巡目でローザが先制リーチをかけてきた。

 そして、

「一発ツモ! 12100オール!」

 力強く、親の三倍満をツモ和了りした。

 

 ローザが今の能力に目覚めてから一度も勝てないのはフレデリカだけだ。

 今のドイツチームメンバー五人で打って、別格なのはフレデリカ。他の四人は勝ったり負けたりを繰り返している。

 ただ、獲得素点の合計なら、フレデリカはともかく他の三人には勝っているとの自負がある。

 

 このままドイツの旧エース、光に打ち勝つ!

 この二連続の和了りでローザは益々気合が入り、

「ヨッシャー!」

 自然と声がでた。

 

 東一局二本場。

 ここでもローザは聴牌に向けて一直線に進む。

 しかし、

「その{⑤}、ポン!」

 ここでツモを狂わせる者が出てきた。中国の紅花だ。

 彼女は、

「チー!」

 ドラ含みの面子を二つ晒すと、

「ツモ! タンヤオドラ4。2200、4200!」

 そのまま一気に和了りに持っていった。

 

 

 東二局、エマの親。

 ここでも紅花が、

「{中}、ポン!」

 鳴き麻雀を披露する。

 これで流れが変わり、ローザのツモが手牌と噛み合わなくなった。どうやら、紅華は龍門渕高校の井上純のように流れを読むことができるようだ。

 ローザの能力が強大過ぎて、紅花は、今まで流れを狂わすことができずにいたが、ここに来てようやく彼女の麻雀ができるようになった感じだ。

 その数巡後、紅華は、

「ツモ。南中ドラ2。2000、4000!」

 満貫を和了った。

 

 

 東三局、紅花の親。

 ここでも、

「チー!」

 紅花が鳴いて流れを狂わした。

 しかし、ローザのツモが狂っても、それ以外の誰かのツモと手牌が巧く噛み合うように変わる可能性は十分ある。

 今回、流れが良い方に動いたのはエマであった。

 エマは、聴牌すると、

「リーチ!」

 即リーチを仕掛けた。

 一発では和了れなかったが、数巡後に、

「メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」

 待望のハネ満をツモ和了りした。

 

 

 そして、東四局、光の親。

 ここでは、

「チー!」

 紅花と、

「チー!」

 エマが早々に鳴きに入った。

 紅花の鳴きは、ローザのツモを狂わすためのものだ。

 

 しかし、エマは違う。彼女は、

「ポン!」

 鳴いて手を進め、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000!」

 この絶対的リードをローザが作る中で、30符2の安手を和了った。理由は簡単、光の親番を流したのだ。

 

 これで、現在の後半戦の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 174600

 2位:紅花(中国) 82000

 3位:エマ(アメリカ) 79700

 4位:光(日本) 63700

 光は、後半戦で単独最下位に転落した。

 

 

 南入した。

 南一局、ローザの親。

 ローザは深呼吸して心を落ち着かせた。紅花が仕掛ける鳴き麻雀で、ローザは自分の心が揺さぶられているのに気が付いたのだ。

 そして、落ち着きを取り戻すと、ローザは卓中央のスイッチを押した。

 牌がせり上がり、サイの目に従って各自牌を取ってゆく。

 ドラは{東}。パワーヒッターの親番だ。ローザ以外にとっては最も嫌なドラだろう。

 しかも、二巡目で、

「リーチ!」

 気合いの入った声でローザが捨て牌を横に曲げた。

 巡目が早過ぎて、正直、他家は何もできない状態だ。まだ、字牌処理の最中だし、紅花としても出てくる牌が鳴けなければツモを狂わすことはできない。

 

 そのまま、鳴きが入らないまま次巡を迎え、

「一発ツモ!」

 その勢いに乗ってローザがツモ和了りを決めた。

「リーチ一発ツモ東チャンタ一盃口ドラ3の裏1で12000オール!」

 一発裏ドラが付いて親の三倍満。しかも、予想通り{東}の暗刻持ち。

 やはり、とんでもないパワーだ。

 

 南一局一本場も、

「リーチ!」

 三巡目でローザが先制リーチをかけてきた。

 ここでも、紅花が流れを変えるのに必要な牌を誰も捨ててこない。巡目が早過ぎるし待ちは読めない。こういった状況では他家は浮いた字牌を処理するだけだ。

 紅花の手牌には、今回も鳴ける牌が無かった。これでは、どうすることもできない。

 そのまま次巡を迎え、

「一発ツモ! 12100オール!」

 ローザに連続で親三倍満をツモ和了りされた。

 

 これで、後半戦の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 246900

 2位:紅花(中国) 57900

 3位:エマ(アメリカ) 55600

 4位:光(日本) 39600

 光としては、絶望的な点差だ。

 ここに前半戦での点差、4200点を加えると、ローザと光の点差は211500点。もはや、世界中の誰もが勝負アリと思っていた。

 

 南一局二本場。

 急に光のオーラが増大し始めた。

 この極限まで追い詰められた状況で、普通なら意気消沈するところ、逆に彼女のスイッチが入ったのだ。

 ローザは配牌二向聴。しかし、一向に有効牌が引けず、一向聴にすらならなかった。

 エマも紅花も手が進まない。

 どうやら、光の能力が場全体を支配し始めた。

 そして、六巡目、

「ツモ。タンヤオドラ3。2200、4200。」

 光が後半戦になって初の第一弾の和了りを見せた。

 

 

 南二局、エマの親。

 ここでも光の支配が続く。

 第一弾の和了りを決めたからか、前局よりもさらに支配が厳しい。

 ローザは配牌一向聴。しかし、一向聴地獄のまま聴牌できずに場が進んで行った。

 ただ、ローザは、転んでもただで起きようとは思わない。自分のツモ切り牌と手牌を見比べながら、

『光の支配下でも、どんな打ち方なら最短で聴牌に持って行ける流れなのか?』

 を考えていた。

 

 エマも紅花も手が進まなかった。ただ、この段階では二人ともローザのような発想には至っていなかったようだ。

 五巡目、

「ツモタンヤオ一盃口ドラ2。2000、4000。」

 光が二弾目の和了りを決めた。

 しかし、ローザと光には、依然として後半戦だけで190000点近い差がある。道のりはまだまだ長く、普通なら息切れしそうだ。

 それでも光の目からは希望が消えていない。勝利への執念に満ちていた。

 

 

 南三局、紅花の親。

 相変わらず光の支配力が強大だ。

 エマも、そろそろ光の支配を抜け出すための策を考えなくてはならないと思い始めたようだ。

 ただ、エマの場合はローザとは違い、自分の捨て牌だけではなく、他家の捨て牌も含めて観察し始めた。

 しかも、自分が何処で何をどうすれば、どう繋がるのかをシミュレーションしながら打っていった。

 そのような中、五巡目で、

「ツモメンホンドラ1。2000、4000。」

 またもや光が満貫をツモ和了りした。これで三連続である。

 

 

 そして、オーラス、光の親。ドラは{3}。

 自分の親番を向かえたからか、光のオーラは、ますます強大になった。

 光の捨て牌は、ヤオチュウ牌からの切り出しで、その後、チュンチャン牌へと移行していた。しかも、どれか一色に染めている感じではない。

 一般的なタンピン手だろう。

 ローザは、そう判断した。

 

 そして、七巡目、ローザは聴牌した。

 手牌は、

 {三四五六七③[⑤]⑦334[5]6}  ツモ{➅}

 

 河を見ると、光の捨て牌には{[⑤]}、{➅}、{⑨}があった。

 ならば大丈夫だろう。ローザは、これを見て{③}を捨てた。

 ところが、この牌で、

「ロン。タンヤオ一盃口三色ドラ1。12000。」

 光に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {二二三三四四②④23477}

 

 まさか、{⑥⑨}の筋と{[⑤]}を使って引っ掛けてくるとは…。

 完全にツモ和了りではなく、出和了りを意識した捨て牌であろう。

 

 とは言え、まだローザは後半戦だけで光に150000点近い差をつけている。

 とにかくローザは、一回だけで良いから………、安手で良いから和了れば勝ちだ。そう自分に言い聞かせながら、彼女は心を落ち着かせた。

 

 オーラス一本場。

 ここでの光の縛りは5翻になる。

 この局では、いきなり光が、

「ポン!」

 対面のエマが捨てた{南}を早々に鳴いた。当然、一鳴きだ。

 その後、光は狙った牌を引き寄せて行き、そこから六巡後に、

「ツモ!」

 和了り牌を掴み取った。

「南対々三暗刻赤1。6100オール!」

 しかも親ハネツモだ。

 

 しかし、これでも現在の後半戦の順位と点数は、

 1位:ローザ(ドイツ) 220600

 2位:光(日本) 94500

 3位:紅花(中国) 43600

 4位:エマ(アメリカ) 41300

 まだまだローザと光の間には、125000点以上の差があった。

 

 オーラス二本場。ドラは{2}。

 この局、光は萬子上から切り出し、萬子下、筒子下、オタ風牌の順に捨てていた。

 当然、ローザもエマも紅花も、光が索子に染めている確率が高いことくらい分かる。ただ、手を進めようにもツモ牌が手牌と噛み合わない。

 とは言え、エマもローザも観察していただけあって、なんとか打開策が見え始めていた。

 ここに来て、ローザは、敢えて出来面子以外を全部捨ててツモってくる牌と入れ替えた。

 

 普通に打っては噛み合わない。

 だったら、アブノーマルに打てば良い。噛み合わない部分を全部捨ててツモ牌と入れ替えてしまえば良い。

 普段の麻雀でも、一向聴地獄にはまった時、ローザと同じことをすれば結果的に聴牌になっていたなんてことは良くある話だ。

 しかし、実際にローザと同じことをやるには度胸がいるだろう。

 マーフィーの法則とは良く言ったものだ。ローザと同じことをやった時に限って、素直に打っていれば聴牌になっていたりするからだ。

 

 数巡かかったが、これでローザは何とか聴牌に持ち込めた。一応、聴牌に向けての判断としては正しかったのだろう。

 あとは和了るだけだ。

 ここで聴牌形に向けて捨てる牌は{⑧}。

 光の現物では無いが、光は恐らく索子の混一色。和了り牌では無いだろう。

 そう思ってローザは{⑧}を力強く切った。

 しかし、

「ロン。」

 この牌で光に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑦⑨789白白白發發中中中}  ロン{⑧}

 

 まさかの{⑧}待ちだった。

「小三元チャンタ。18600。」

 これで、ようやく光は原点を超えた。

 

 オーラス三本場。ドラは{②}。

 今度は、光は、{1}、{9}、{一}、{⑨}、{八}、{②}、オタ風牌の順に捨てていった。しかもツモ切りではなく手出しだ。

 {八}や{②}がオタ風牌よりも先に捨てられている意味は何なのだろうか?

 実は、この局、光は索子に染めていた。それを極力序盤で悟られないように{1}、{9}から切り出していた。

 

 後半戦で、光は、東場は敢えて様子見に回っていた。

 これは、自身の能力を東一局からオーラスまで均等に使うよりも、南場だけに集中して発動した方が、能力支配の瞬発力を高められるからであった。

「(咲も面白いことを考える。リスキーだけどね。)」

 休憩時間に恭子から内緒話で告げられたのは、このことだった。

 当然、逆転を狙う。

 

「カン!」

 光が{7}を暗槓した。これで、{8}と{9}は非常に使いにくくなる。

 槓ドラは{發}。まだ、場に一枚しか出ていない。

 嶺上牌は{3}。光は、これをツモ切りした。

 

 次のツモ番はローザ。

 ここでローザは聴牌した。前局同様に、光の支配下で聴牌するため、出来面子以外は総入れ替えするつもりで打っていたのだ。

 

 手牌は、

 {四[五]六②②④[⑤]⑥35688}  ツモ{②}

 当然、ここは{3}を切ってダマで聴牌。

 {47}待ちだが、{7}が暗槓されているので実質待ちは{4}のみ。とは言え、タンヤオ三色同順ドラ5の倍満手だ。

 

 そのさらに次のツモ番はエマだが…。

 エマは、さっきのツモ番で、ローザの動きが一瞬止まったことで聴牌気配を感じ取った。

 もし、ここでエマがローザに差し込めば、ローザのトップで先鋒戦は終了する。それは同時に、ミナモ・ニーマンの敗北を意味する。

 

 日本チームの二連覇は潰したい。

 ただ、エマの中では、

『ミナモ・ニーマンを敗退させること』

 こそが最優先事項だった。

 日本チームが先鋒戦で勝ち星を逃すのは、飽くまでもミナモ敗退による副産物である。

 

「(姉さん。仇はとるよ。)」

 エマの姉は、光がドイツにいる頃、地下麻雀に参戦したことがあった。理由はネリーと同じだ。

 そして、ネリーと同じ目に遭った。これを周りは自業自得と言っていたが…。ただ、それはエマには受け入れられないことだった。

 それでエマは、この大会でミナモ潰しを目標としていたのだ。

 

 エマは、躊躇無く{4}を切った。

 この時のために、光の支配下で、どういった牌の流れになっているのかをずっと観察してきたのだ。

 

 できれば自分自身がミナモに勝ちたい。しかし、自分にはそれだけの力量が無い。だから、第三者を使ってミナモを敗退させる選択をした。

「ロン!」

 ローザが颯爽と手牌を開いた。

「タンヤオ三色ドラ5。16000!」

 しかも、パワーヒッターの名に恥じない倍満手だった。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十六本場 朝美好き?


流れ二十五本場の続きです。


淡「そうそう。この間、俺君とペットショップ見てきたんだ。」

憧「ペット飼いたいの?」

淡「興味はあるけど…。でも、このアパートはペット禁止だから、今は見るだけ。」

憧「飼えるとしたら、何がイイ?」

淡「犬かな?」

憧・姫子・絹恵「「「(バ〇ー犬かな?)」」」

淡「犬種はパピヨンかな。」

姫子「パピヨンって?」

淡「耳が大きい奴。パピヨンって、蝶々を意味してるらしいよ。」

憧・姫子・絹恵「「「へーーー。」」」

淡「マリー・アントワネットも飼ってたって話。高貴で気品のある感じの犬だよ!」

憧・姫子・絹恵「「「(交〇を下品にヤル感じの犬?)」」」←小蒔 -Komaki- 100式からの転用で済みません

姫子「(そもそも上品な〇尾ってあるのかな?)」←ここでは標準語使用になっています

絹恵「(一般に下品だと思うんだけど…。)」←同上

淡「憧は飼いたい動物ってある?」

憧「特に無いかな…。でも、AIロボット動物なんかは興味あるかな。自分達の仲間みたいでさ。」

淡「分かる気がするぅー。」

憧「AIBOとかさ。」

淡・姫子・絹恵「「「(愛撫?)」」」

淡「(それ専用のロボット動物がいるってこと?)」

淡「(でも、私達もそれ専用か。ってことは私達のライバル!?)」

姫子「絹恵は?」

絹恵「動物はパスかな。簡単な植物とかでイイかも。アサガオとか。」

憧・淡・姫子「「「(アヘガオ!?)」」」

憧「(そんな植物あるんだ!)」

絹恵「あと、クリトリアとかも簡単よね。」

憧・淡・姫子「「「(ク〇ト〇ス!?)」」」←怜・爽のお下品コーナーからの転用でスミマセン。〇の中には同じ字が入ります

絹恵「クリトリアはハーブティーにもなるし。」

憧・淡・姫子「「「(それってどんなお茶だろう?)」」」

絹恵「そうそう。とても面白い植物もあるよ。ピーターペッパーって言うの。唐辛子なんだけどね。」


絹恵がピーターペッパーの画像を三人に見せた。
興味のある方は検索してください。マジでチ〇コ型です。


憧・淡・姫子「「「!!!」」」

姫子「この形は…。絹恵がこのネタを出してくるとは、ちょっと自虐的。」

憧「たしかに…。で、姫子は? 何か飼いたいもの。」

姫子「私は無いかな。でも、哩さんが観葉植物を育てていてね。」

憧「そうなんだ。」

姫子「特に食虫植物が好きでね。ウツボカズラとかモウセンゴケとかハエトリソウとか。」

淡「ハエと理想?(そんな植物あるんだ)」

姫子「うん。ビーナスフライトラップとも呼ばれるんだけど、ハエを捕まえるの。」

淡「(じゃあ、ハエを駆除する理想的な植物ってことで、ハエと理想って言うのかな)」←ちょっとアホの娘が入っています

姫子「あと最近、哩さんがネットオークションでレアモノを落札してね。ロリズラって言う食虫植物なんだけど。」

憧・淡・絹恵「「「(ロリでヅラ!?)」」」

淡「それって、危ない植物じゃないよね?」

姫子「まあ、危険なのは虫くらいでしょ。」

淡「えっ? じゃあ、無視は危険ってこと?(無視したら何かされるのかな?)」

姫子「まあ、虫にはね。」

淡「(どんな植物だろ?)」


丁度この時、テレビで臨時ニュースが流れた。
どうやら、近くの銀行に強盗が入ったらしい。

絹恵のスマートフォンのバイブ音が鳴った。咲からだ。
咲は、自分名義で絹恵にもスマートフォンを持たせてくれているのだ。

咲からLINEが入っている。
絹恵が、LINEを開いた。


絹恵「この銀行って、咲ちゃんのバイト先の近くみたい。」

憧「マジで?」

絹恵「丁度、咲ちゃんが銀行から出た直後に強盗が入ったみたい。なので、咲ちゃん自身は無事だからって連絡が…。」

憧「本当!? でも、無事でよかった。」

絹恵「本当だよ。咲ちゃんからのLINEにも、エラいめに遭わなくて済んで良かったって書いてある。」

憧・淡・姫子「「「(エロいめ?)」」」

憧・淡・姫子「「「(もしかして銀行強盗って、銀行に立て篭もって、嫌がる女性に命令してHなことさせるってことなの?)」」」

絹恵「まあ、無事で何より。」

憧「そ…そうだね。」

絹恵「そうそう。私も何かバイトしたいんだよね。咲ちゃんにおんぶにだっこしっぱなしだしね。」

淡「憧は家庭教師やってるよね?」

憧「うん。京太郎の友達の紹介でね。」

絹恵「でも、私は家庭教師よりも肉体労働系かな?」

憧「だけど、履歴書とか提出しなきゃならないようだと、ちょっとね。さすがに『今年生まれたダッチ〇イフです』なんて書けないジャン。」

絹恵「そうなんだよね。」

憧「それで、ツテで家庭教師、紹介してもらったんだけどね。それなら履歴書不要だし。」

絹恵「そっかぁ。」

淡「でも、履歴書不要のバイトもあるよ。」

絹恵「本当?」

淡「イベントスタッフとか。私、この間やってきたから。」

絹恵「Hなのとかじゃないよね?(NTR機能とかスワッピング機能を発動しているからね、淡は。)」←いまだ誤解は解けていません

淡「全然。その辺は大丈夫。(だって、私は俺君一筋だもん。他の人とHは…一日だけ咲さんとシタか。でも、あれきりだもん!)」

淡「ええとね、例えば…。」


淡がスマートフォンで検索を始めた。俺君が自分名義で淡にスマートフォンを持たせてくれているのだ。
ちなみに、同様に憧も姫子もスマートフォンを持っている。


淡「これ、結構条件イイかも!」

絹恵「ナニナニ?」

淡「ええとね。発明品倉庫の整理だって。隣町だよ。ええとね、依頼主は阿笠ひr…。やっぱマズイかも。」

憧「それって、私達の発明者?」

淡「そうみたい。」

姫子「でも、久さんの話だと…。」

憧「久さんって?」

姫子「福路さんのところに転がり込んだダッチ〇イフ。黒の組織ってところで造られたらしいけど、そこから逃げてきたみたい。」

憧「ふーん。私達の似た境遇なのね。」

姫子「多分ね。それで、一昨日。哩さんと福路さんと久さんと麻雀打ったんだけど、その時に阿笠博士が、最近、セ〇レ相手に楽しんでるって話を聞いたのよ。」

憧・淡・絹江「「「(マジかよ!?)」」」

姫子「だから、もしかしたら私達を相手にする必要は無いんじゃないかなって。」

憧「もしそうなら、博士とコンタクトを取っても大丈夫かもね。」

淡「でも、コンタクトを取る意味って?」

憧「絹恵のバイトの件もあるけど、それ以前に、私達って一応機械仕掛けでしょ? だから定期的なメンテナンスも必要じゃないかと思ってね」

淡「そっかぁ。たしかに!」

姫子「じゃあ、後で久さんに状況を聞いてみる。」

憧「ヨロシク~。」


と言うことで、憧100式達は、まず久HT-01に探りを入れてもらうことにした。
さて、その頃、阿笠博士はと言うと…。


博士「ここか!」

朝美「もっと下…。」

まこ「ダメじゃ! ここまでじゃ!」


どうやら、今日は朝美が来る日だったようだ。




多分、続く


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八十八本場:世界大会12 全ての牌を透視する者

起家がドイツのローザ、南家がアメリカのエマ、西家が中国の紅花、北家が光です。


「アメリカチーム、エマが捨てた{4}をドイツチームのローザが直撃ぃぃぃ!」

「しかし、これは…。」

 日本では、福与恒子と小鍛治健夜コンビが世界大会の様子を実況中継していた。

 

 エマもローザも紅花も、これで先鋒戦が終了したと思っていた。

 しかし、そう認識していたのは、世界中で、その三人だけだった。

「失礼、アタマハネです。ロン。」

 そう言いながら光が手牌を開いた。

 光はローザの上家なのだ。よって、この場合、光の和了りのみ成立する。

 

 光の手牌は、

 {333[5]東東東發發發}  暗槓{裏77裏}  ロン{4}  ドラ{②}  槓ドラ{發}

 

「メンホンダブ東發三暗刻ドラ4。36900。」

 しかも親の三倍満だ。

 まだローザと光の点差は48000点あるが、この和了りは大きい。

 一方のローザとエマは、

「「(えっ!?)」」

 これでミナモに黒星を付けたと確信していただけに、一体何が起きたのかを理解するのに少し時間がかかったようだ。

 

 オーラス四本場。ドラは{⑨}。

 思った以上に、ローザとエマには、前局の衝撃は大きかった。

 頭を切り替えなくてはならないのは分かっている。しかし、

『はい、そうですか』

 と一瞬で切り替えられるほど、ローザもエマも精神的に成熟していない。

 

 気が付けば、もう六巡目になっていた。

 しかも、

「リーチ!」

 光が先制リーチをかけてきた。

 ローザもエマも紅花も、一先ず安牌切りで打ち回すが、

「一発ツモ!」

 結局、光に和了られてしまった。

 

 開かれた手牌は、

 {①②②④④[⑤][⑤]⑥⑥⑧⑧⑨⑨}  ツモ{①}  ドラ{⑨}  裏ドラ{四}

 

「リーチ一発ツモメンチン七対ドラ4。」

 これは、一発ツモが無くても数え役満だ。誰から出和了りしても芝棒分で後半戦分は逆転できる。

 しかし、前後半戦トータルではローザから和了るかツモ和了りするしかない。ローザ以外からの出和了りはトータルで逆転できない状態でトビ終了となる。

 なので、一般論からすれば、これはリーチをかけるべきではないだろう。飽くまで一般人の場合は…。

 

 しかし、能力者は別だ。

 光は、今の場の支配状況から、これを絶対にツモ和了りできる自信があった。それで、周りを降ろすために敢えてリーチをかけたのだ。

 そして、それを光は予想どおり一発でツモってきた。

「16400オール!」

 これでエマの箱割れで終了となった。

 

 後半戦の順位と点数は、

 1位:光(日本) 199200

 2位:ローザ(ドイツ) 185600

 3位:紅花(中国) 27200

 4位:エマ(アメリカ) -12000

 

 そして、前後半戦のトータルは、

 1位:光(日本) 377800

 2位:ローザ(ドイツ) 368400

 3位:紅花(中国) 53700

 4位:エマ(アメリカ) 100

 なんとかギリギリのところで光が勝ち星をあげた。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼を済まし、先鋒メンバーが対局室を後にした。

 

 

 引き続き、次鋒戦が開始される。

 日本チームの次鋒は松実玄。

 ドラ支配と三元牌支配で一躍注目を集めた少女。ローザ同様、本大会屈指のパワーヒッターの一人とされている。

 

 ドイツチームの次鋒は百目鬼千里。

 日本人留学生。全ての牌が見えているとしか思えない打ち回しをする。彼女が玄のドラ支配と三元牌支配をどれだけ掻い潜るかが注目されている。

 

 中国チームの次鋒は関芽衣。アメリカチームの次鋒はオリビア・ジョンソン。どちらも強豪選手として名を連ねている。

 

 

 対局室に、各チームの次鋒が姿を現した。

 場決めがされ、起家が玄、南家が千里、西家がオリビア、北家が芽衣に決まった。

 

 この時、玄がタコスを口にしていた。会場近くにタコスの店を発見し、大急ぎで恭子が買出しに行ってきたのだ。

 それを食べて、玄は念願の起家となった。もはやタコス効果は長野だけの都市伝説ではなくなっていた。

 しかも、ドラ支配ではなく、既に三元牌支配の状態になっている。いきなり親役満で稼ぐつもりだ。

 

 東一局、玄の親。

 千里は、全員の配牌を見た。牌が全部透けて見える彼女は、配牌直後に必ず全員の手牌を透視する。

 まずドラ支配が無いことと、既に12枚の三元牌のうちの5枚が玄の手牌に含まれていることを知った。

 そして、ツモ牌を順に見て驚いた。

 充当に行くと、全ての三元牌を玄がツモることになっている。

「(なるほどね。)」

 当然、大三元を和了らせるわけには行かない。和了らせてもせいぜい一回のみだ。複数回和了られたら大変なことになる。

 

 千里は、

「チー!」

 鳴いてツモ巡をズらした。

 しかし、その直後、誰も触れていないのに三元牌の場所が玄の新たなツモ位置に、勝手に移動したのだ。

「(なにそれ?)」

 鳴こうが何しようが、三元牌の位置は玄がツモる形にシフトする。後付でツモ牌が変わるのだ。これでは対策の仕様が無い。

 いや、二つだけある。

 一つ目は、咲のように先に二つ槓して三元牌12枚が勢ぞろいするのを防ぐ方法だ。

 しかし、今回は、そのようなツモ巡にはならなそうだ。

「(こいつの能力、反則じゃん!)」

 これは参った。

 千里は今まで、誰かが鳴いた時も、三元牌支配に則ってムリヤリ鳴かされていたものと思っていた。つまり、玄のところに三元牌が行くように鳴くこと自体も支配されているとの考えだ。

 しかし、実際は違った。

 これでは三元牌支配から逃れる術は無い。

 恐らく、日本チームは、これを知って自分に玄を当ててきたのだ。

 仕方が無い。

 千里は、

「ポン!」

 二つ目の対策方法を取った。とにかく鳴きまくっての早和了りだ。

 そして、

「ツモ。タンヤオドラ1。500、1000。」

 なんとか千里は玄の親を流すことに成功した。

 

 

 東二局、千里の親。

「(この親番、嬉しくない!)」

 玄の三元牌支配は、和了れなければ次の局に持ち越されるだけだ。玄の親を流して最悪の状態は逃れたが、ここで和了られたら親かぶり被害に遭う。それは避けたい。

 千里は早速、

「ポン!」

 オリビアに{南}を鳴かせた。

 さらに、

「チー!」

 オリビアの欲しいところを捨てて鳴かせ、

「ロン!」

 最後には差し込んだ。

「白ドラ1。2000。」

 これで自分の親番を敢えて流した。

 

 

 東三局、オリビアの親。

「(ホント、きっついわぁ。)」

 千里は、そう心の中で呟きながら、この局の進め方を考えていた。

 大抵、玄の連槓は、玄が三元牌を11枚揃えたところで始まる。そして、嶺上牌から三元牌が1枚引かれて玄の手の中で12枚全てが揃う。

 今回も、山を見る限り、そのパターンになっている。

 また、前局、前々局と見る限り、玄は配牌から5枚の三元牌がきている。これはコンディションによっても変わるようで、以前、映像で見た時は3枚しか持っていないこともあった。

 ただ、今日の玄のコンディションだと、最速で六巡で連槓が始まることになる。

 これは結構厄介だ。

 

 今回も、先に槓ができそうに無い。なので、

「チー!」

 千里は、

「ポン!」

 安くて良いから鳴いて手を進め、

「ツモ。500、1000。」

 何とか玄の連槓が始まる前に、この局を流した。

 

 

 東四局、芽衣の親。

 玄としては、連続で三元牌支配が流されて少々焦っていた。

「(このままではマズイのです。オモチベーションの強化が必要なのです!)」

 要は、エネルギー補給が必要と言うことだが…。

 

 対する千里も十分焦っていた。

「(間に合うかな、これ?)」

 一先ず、オリビアが捨てた{西}を、

「ポン!」

 千里は早々に鳴いた。一鳴きだ。

 そして、次巡、千里は{西}をツモり、

「カン!」

 加槓した。嶺上牌は{1}。これで手牌の中で{1}が暗刻になった。

 その直後、今度は芽衣が{1}を捨ててきた。これを千里は、

「カン!」

 大明槓した。これで、少なくともこの局の三元牌支配を潰すことに成功した。あとは、この手を和了り形に持って行くだけ。

 幸運なことに、{西}は自風だ。一応、役がある。

 ただ、槓を二つしたのに槓ドラは一枚も乗っていない。元ドラも無い。あるのは赤牌一枚のみ。

 ここから千里は手を進め、

「ツモ。西ドラ1。60符2翻は1000、2000。」

 東四局を流した。

 

 

 南入した。

 そして、南一局は玄の親番。

 ここで大三元を和了らせてはならない。

 千里はいきなり、

「ポン!」

 {四}を鳴いた。これで誰も鳴かなければ、次巡に{四}をツモれる。

 オリビアも芽衣も鳴かずに場が進み、千里は予定通り{四}をツモった。これを、

「カン!」

 千里は加槓した。嶺上牌は{②}。

 これは、オリビアが暗刻で持っている牌。鳴いてくれるだろうか?

 大明槓してくれることを願い、千里は{②}をツモ切りした。しかし、オリビアは、これをスルー。

 本当に状況を理解しているのだろうか?

 一瞬、千里は、

「(バカかこいつ!)」

 と思ったのは言うまでも無い。

 しかし、順当に行けば、次に{北}をツモる。{北}は芽衣の自風で、しかも芽衣がこの巡目で暗刻になるはず。

「(よし! 今、暗刻になった!)」

 これで準備OK。

 当然、千里は、次巡に{北}を切った。すると、

「カン!」

 芽衣が大明槓してくれた。さすが、空気が読める人だ。

 これで玄の三元牌支配は次局持越しが決まった。

 千里としては、あとは自分か芽衣のどちらかが和了れれば良い。正直、オリビアには和了らせたくないと思った。

 

 この鳴き合戦、

「チー!」

 結局、牌が全て透けて見える千里のほうが有利にことを進め、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 軍配は千里に上がった。

 両面待ちのため、符はギリギリで30符。まあ、これは仕方が無い。大三元被害を最小限に留めるのが最優先だ。

 

 

 南二局、千里の親。

 正直、千里が、親番を全然嬉しくないと思うのは珍しい。

 牌が全て透けて見える人間にとって、点数が1.5倍になるのはボーナスステージのようなものだ。しかも連荘する限り、ボーナスステージは続く。

 

 しかし、現状は違う。

 玄の三元牌支配は、今のところ何とか先送りしているが、それもどこかでできない局が出てくるだろう。

 その時は、100%大三元を和了られる。

 脅威と言うか、恐怖でしかない。

 ここはとにかく、芽衣が欲しがっている{南}を捨てて、

「ポン!」

 そのまま差し込む。

「ロン。南ドラ2。3900。」

 これで自分の親が流れたが、千里にとっては役満親かぶりの恐怖から脱却できたのだ。これは精神的に大きいと言える。

 

 

 南三局、オリビアの親。

 今回は、

「カン!」

 千里は、早々に芽衣に大明槓させた。しかし、一向にオリビアは大明槓に乗ってこない。もはや、こいつは人間性に問題があるのではなかろうか?

 仕方が無い。

 千里は、

「カン!」

 ここでも何とか芽衣の捨て牌を大明槓して三元牌支配を先送りにした。

 そして、

「ツモ。タンヤオドラ1。500、1000。」

 この局も千里が安手で流した。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:千里(ドイツ) 108100

 2位:芽衣(中国) 99400

 3位:オリビア(アメリカ) 97500

 4位:玄(日本) 95000

 25000点持ちでも問題なく回せるレベルの点数変動しかないが、その裏には千里の膨大なる苦労があることは言うまでも無い。

 ただ、玄の大三元を見たい視聴者からは不満がブーブー出ていたようだ。

 

 

 オーラス、芽衣の親。

 どうやら千里も芽衣も、この局では槓ができそうにない。

 唯一、大明槓で三元牌支配を邪魔できそうなのはオリビアのみだが、多分、オリビアは千里の捨て牌を大明槓してくれないだろう。

 ならば、のみ手で良いので急いで和了るのみ。

「ポン!」

 千里は、芽衣が捨てた{西}を鳴き、

「チー!」

 とにかく形振り構わず鳴いて手を進め、

「ツモ。西ドラ1。500、1000。」

 安手で流して前半戦を終了した。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:千里(ドイツ) 110100

 2位:芽衣(中国) 98400

 3位:オリビア(アメリカ) 97000

 4位:玄(日本) 94500

 千里の一人浮きとなった。

 しかし、この程度のリードは大三元が一回出たら逆転される。

 到底、千里にとって安心できる状態ではなかった。

 

 

 休憩に入った。

 玄は、一旦控室に戻ることにした。

「(私だけヤキトリなのです…。)」

 いくら大きい手を和了れるようになっても、一回も和了れなければ無意味である。

 しかも、今回の敵は、非常に立ち回りが巧い。芽衣との連携とは言え、槓で三元牌支配を破る相手だ。

 槓ができない時は、恭子や憧のようなスピードでさっさと場を流してしまう。

 こんな打ち方をされるとは………。玄は、悔しくて涙が出そうだったが、それをぐっと堪えていた。

 

 玄が控室の扉を開けると、そこには何故か霞の姿があった。

 表玄関からは関係者以外は入れない。しかし、霧島神境の者達はテレポーテーションが使える。

 それで、誰にも何も言われずに控室に来れたのだ。相変わらず便利な力だ。

 玄は、

「どうして霞さんがここへ?」

 目を大きく見開いて驚いていた。

「ええと、咲ちゃんから玄ちゃんのために来て欲しいって小蒔ちゃんが言われたって聞いて、それで。」

 つまり、オモチベーション強化のためである。

 既に状況は咲から説明済みであった。

 

 玄は、

「では、失礼します…なのです!」

 と言うと霞の背後に回って抱き付き、胸を掴んだ。

 やっていることは、ただのセクハラなのだが…。ただ、この時、霞は玄から咲や小蒔(神バージョン)のような強大な何かを感じ取っていた。

 間違いなく魔物の雰囲気だ。

 そして、それがまさに臨界点を越えた直後、

「オモチオモチオモチ…。」

 玄は霞の胸を揉み出した。ここからは完全なるセクハラである。

 恭子はハリセンで玄の頭を叩き、

「セクハラやめい!」

 オモチベーション強化を終了させた。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十七本場 全てのダッチ〇イフをメンテする者


流れ二十六本場の続きです。
今回、勘違いトークはありません。
勘違いトークが好きな方にはつまらないかもしれません。


翌々日、台風一過の後。
憧108式ver.姫子は、久HT-01に阿笠博士の近況を探ることを依頼した。
その時に、憧108式ver.姫子は憧100式のスマートフォンの番号を教えた。久HT-01が、憧100式と直接連絡を取れるようにするためだ。

現段階では、憧108式ver.姫子も、全面的に久HT-01を信用しているわけではない。
少なくとも久HT-01は、黒の組織で造られたダッチ〇イフだ。当然、搭載されているAIには悪の学習が施されているに違いない。
それで、自分達の中でもっとも頭が回る憧100式を連絡係に立てたのだ。

その数日後のことだった。


久(電話)「もしもし?」

憧(電話)「久さんですね。憧です。」

久「阿笠博士のことだけどね。」

憧「は…はい…。」

久「貴女達のことを心配してたわよ。AI搭載の自律型ダッチ〇イフの捜索を警察に頼むわけにも行かないし、誰かに頼むわけにも行かないし。」

憧「まあ、恥ずかしいですもんね。」

久「そうね。でも、もし機能停止して誰かに発見されればニュースになるでしょうし、今まで何も報道されていないところを見ると、無事なのかなとは思っていたらしいわよ。」

憧「そ…そうですか。でも、私達を使いたいって気持ちはあるのでしょうか?(そこんとこ大事よね。)」

久「それは無い無い。」

憧「えっ?(本当かな?)」

久「セ〇レができたってこともあるけど、もしセ〇レと別れたとしても、博士の相手をするために未来からダッチ〇イフが二台も来ているからね。」

憧「へっ?(なにそれ?)」


さすがに、憧100式も驚いた。
まさか、69年後の未来から憧125式ver.ヤエが、105年後の未来から憧127式ver.琉音が博士を性的に満足させることを目的に送り込まれて来ていたとは、夢にも思っていなかったからだ。
まあ、普通、そんなことは想像できない。


久「それとね。メンテナンスのために一回来て欲しいって言ってたわよ。」

憧「はぁ…。(怪しく無いか見定めが必要ね)」

久「特に110式にって。」

憧「まさか、ロリ…。」

久「そう言う訳じゃないと思うけどね。そもそも、今まで無事と言うことは、既に全員がオーナーを見つけている可能性が高いと考えていたようだし…。」

憧「そうですか。(まあ、たしかに言われてみればそうよね)」

久「じゃあ、今度の土曜日に、代表で貴女と105式…。」

憧「淡ですね。」

久「そう。その二人で来て欲しいって言ってたわよ。」

憧「(うーん…たしかに実際に行ってみないと判断できないわね…)分かりました。わざわざありがとうございます。」

久「お礼はイイわ。私も、これに乗じてメンテナンスを受けさせてもらうことにしたから。やっぱり、私も心配だからね。せっかくなら長生きしたいし。」

憧「そ…そうですか。」

久「じゃあ、また土曜日。」

憧「はい、では、失礼します。」


憧100式は電話を切ると、隣にいる憧105式ver.淡に状況を説明した。

久HT-01の言葉を信じるならば、博士の家に行っても問題は無いだろう。
それに、万が一、博士が自分達を使おうとしても、既にオーナーがいる以上、博士が感電するだけだ。下手をすれば感電死することも有り得る。
当然、博士もそのことを分かっている。ならば、下手に手は出してこないだろう。

憧100式達は、博士の家を訪問する決意をした。

そして、土曜日………朝美が博士の家に来ない日。
憧100式と憧105式ver.淡は、久HT-01と共に阿笠邸を訪れた。
そこには、憧125式ver.ヤエと憧127式ver.琉音の姿もあった。この二人とは、憧100式も憧105式ver.淡も初対面であった。


博士「久し振りじゃな、憧、淡。」

憧「はい。博士もお元気そうで。」

博士「まあ、何もしないから気を楽にしてくれ。久君から聞いていると思うが、ワシには今、セ〇レがおるでのう。もうAI搭載の自律型ダッチ〇イフの研究はやめたんじゃ。」

憧「そ…そうですか。」

博士「それと、今から10年後に今のセ〇レと別れるらしいんじゃが、その後、ワシの相手をしてくれると言うダッチ〇イフが未来から二体来ておる。」

憧「(その意味が分からないんだけど?)」

博士「それが、このヤエ君と琉音君じゃ。」

ヤエ「私は博士を性的に満足させることを目的に69年後の世界から送り込まれた憧125式ver.ヤエだ。よろしく。」

憧・淡「「よ…よろしく…。」」

琉音「私は憧127式ver.琉音。105年後に憧シリーズを元に作り出されたダッチ〇イフで、博士に危ない発明をさせないため、博士を性的に満足させることを目的に送り込まれてきたんだ。よろしく。」

憧・淡「「こ…こちらこそ。」」

淡「(もしかして、これって未来から博士とHするためにダッチ〇イフが送り込まれた設定で遊んでいるのかな?)」←そう思ってもおかしくないでしょうね

博士「それで、二人はオーナーを見つけたんじゃろ?」

憧「はい。二人とも…と言いますか五体ともオーナーを見つけています。」

博士「やはりのぉ。ちょっと悔しいが、まあ、君達に逃げられたのは、ワシのAI学習が下手だったと言うことじゃ。君達を責めてもしょうがない。」

憧・淡「「…。」」

博士「事実、ヤエ君や琉音君は、理由はともあれワシを求めるよう学習できておる。ワシにそれができなかったのが問題なんじゃろうな。」

博士「ただ、君達はワシが発明したワシの娘みたいなもんじゃ。なので、メンテナンスはキチンとさせてもらいたい。」

博士「百人乗っても大丈夫なように造ったつもりじゃがの。年一回で良い。別にイタズラはせんから安心してくれ。」

博士「もし疑わしいと思うんじゃったら、君達のオーナーにも同席いただいて構わんし、絹恵に見張りをさせても良い。絹恵じゃったら、ワシを一撃で気絶させることができるからの、あのキック力で。」

憧「分かりました。」

博士「それと、マホだけは、成長機能つきのため他の機種よりも構造が複雑でのう。完全体になるまでは三ヶ月に一度のメンテナンスが必要なんじゃ。その辺も理解してくれ。」


その後、憧100式達は、阿笠邸の地下室に通された。
そこには巨大なスーパーコンピューターが設置されていた。
また、部屋中央には手術台のようなものと、その上には10本くらいのマジックハンドが設置されていた。今後、これで憧100式達のメンテナンスがオートでできるようにしてゆく予定らしい。

また、スーパーコンピューターには二台の作業用ロボットが繋がれていた。これは、スーパーコンピューターをメンテナンスするためのモノである。
また、二台あるのは、それらロボットが互いをメンテナンスできるようにするためだ。抜け目が無い。
これは、博士が死んでからも憧達のメンテナンスができるようにするための配慮だ。

憧100式達は、博士が本気で自分達のことを心配してくれていると実感した。

ただ、久HT-01は、このスーパーコンピューターと密かに通信し、実質乗っ取っていた。このことは、博士も知らない。
実は、このスーパーコンピューターと久HT-01が、後に世界と征服するHT-01完全体へと成長して行く。
それこそ既に、各国の主要コンピューターをハッキングしており、米国やロシアの核ミサイルのスイッチを勝手に押せるくらいの状態になっていた。

また、博士のコンピューターの通信記録は、博士のコンピューターのほうには残らないようにしていたし、ハッキングする際は、何重ものサーバーを経由して足がつかないようにしていた。

憧100式達が再び応接室に戻ってきた。
すると、そこにはコナンと哀の姿があった。


コナン「君達は、博士が発明したダッチ〇イフだよね?」

憧「ええ。私と淡の二人がそうよ。」

コナン「それでさ、ちょっとお願いがあるんだけど。」

憧「何?」

コナン「新一に一発ヤラせてやってくんねえかな。彼女がいるんだけど全然ヤラせてもらえてなくて、もう発狂しそうなんだ。」

哀「私からもお願いするわ。」

憧「でも、私も淡もオーナーがいるし…。」

久「じゃあ、私が相手してあげようか?」

コナン「本当か!?」

久「私だったらインプリンティング機能も無いし、元々ハニートラップ要員として造られたから貞操観念も無いし。」

コナン「(おいおい…。)」

久「でも、条件があるけどね。」

コナン「料金が発生するとかか?」

久「違う違う。あなたとそこのお嬢ちゃん(哀のこと)に、私達の団体、オモチクラブの特別会員になってもらいたいのよ。」


オモチクラブとは、玄の組織のことである。
憧125式ver.ヤエの目的が、『玄の組織からの資金援助でハヤリ20-7が製作されるのを阻止すること』と知り、久HT-01は、慌てて玄の組織の名称を一旦オモチクラブに変更したのだ。
ちなみに、オモチクラブの名称は、憧125式ver.ヤエのAIが記憶を無くした後に、再び玄の組織に戻されることになる。


コナン「なんだ、そのオモチクラブってのは?」

久「オモチのオモチによるオモチのための政治をモットーとしているの。」

コナン・哀「「(なんだそれ?)」」

久「基本、大人の女性しか入会できないんだけどね。でも、オモチクラブのほうから直々にお願いした場合に限り、大人の女性以外でも特別入会ができるの。既に博士には特別会員として入会してもらっているわよ。」

博士「そうなんじゃ。(まあ、オモチクラブから発明資金を横流ししてもらっていることは内緒にしておこう)」

久「(この二人が玄の組織の敵に回ると厄介だからね。今のうちに取り込んでおいた方が安全よね。)」

コナン「まあ、博士が入っているならイイぜ。な、哀。」

哀「そうね。でも、私と彼は、保健体育の実習で忙しいから、滅多に外には出てこないけど、それでもイイの?」

久「別に構わないわ。じゃあ、後で入会証を持ってくるわね。」


その数日後、新一は久HT-01に相手をしてもらった。
ただ、その日以来、新一の頭の中は久HT-01一色になってしまった。もう、蘭のことなど頭に無い。

さすがハニートラップ要員として造り出されただけのことはある。完全に新一のハートを奪い取ってしまったようだ。




続くと思う


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八十九本場:世界大会13 勝負を分けた10符の差

ドイツチームの次鋒は千里、アメリカチームの次鋒はオリビア、中国チームの次鋒は芽衣、日本チームの次鋒は玄です。


 玄がオモチベーション強化をしていた頃、千里は自販機の前に来ていた。

「いつも思うんだけど、このつぶつぶドリアンジュースって、誰が買うんだろ?」

 これがワールドレコードホルダーのためだけに各所に置いてあるとは、千里にも想像がつかなかった。

 

 一先ず千里は、暖かい『缶の飲むモンブラン』を購入した。相当頭が疲れたためだ。

「あぁぁぁ! 脳が生き返るぅぅぅ!」

 殆ど麻里香とリアクションが変わらない気がする。きっと彼女も甘党なのだろう。

「それにしても参ったな。」

 千里は、フレデリカに出会って能力を開花させた。

 ただ、能力が開花しても、それが使いこなせるかどうかは別だ。

 全ての牌が透けて見えるようになり、当然、振込むことはなくなった。

 しかし、どの牌が誰のところに行って、誰に何を鳴かせたらどう変わって、自分が鳴いたらどう変わって行くかを、瞬時に全て把握するのは難しい。

 これを身に着けるために、千里は来る日も来る日もトレーニングし続けた。

 そして、全てが頭の中で瞬時に判断できるようになった時、周りからは『アトランダムの支配者』と呼ばれるようになった。

 

 ただ、フレデリカの場合は、それを幼少の頃から普通に行なっていたし、千里とは違う支配力まで備わっていた。自動卓の中で山が形成される時点で、フレデリカにとって有利な形に山が作り上げられて行くのだ。

 

 

「とにかく、大三元を和了らせない。このまま安手でトップを維持するっきゃない!」

 千里は、

「よし!」

 気合いを入れ直すと対局室に向かった。

 

 千里が対局室に入室した時、オリビア(アメリカ次鋒)と芽衣(中国次鋒)は前半戦の席に座っていた。恐らく、二人とも対局室から出ていないのだろう。

 そして、千里が前半戦に座っていた椅子に腰を降ろしてから少しして、玄が対局室に姿を現した。

 この時、オモチベーション強化に成功した玄は闘志に燃えた目をしていた。

 もの凄い迫力だ。

 

 玄が席に付くと場決めがされた。

 起家は玄、南家が千里、西家は芽衣、北家はオリビアに決まった。

 

 東一局、玄の親。

 いきなり千里は、背筋に冷たいモノを感じた。

 前半戦よりも玄のオーラが増している。

 まさか、控室でオモチベーション強化などをやっているとは夢にも思わないだろう。

 この親で玄に和了られては非常にマズイ。しかし、こんな時に限って千里の手は重かった。さくっと玄の親を流すのは難しい。

 

 仕方が無い。

 千里は、面子を崩してまで芽衣が欲しいところをドンドン捨てた。芽衣の方が自分よりも手が軽い。ここは、芽衣に任せるしかない。

「チー!」

 芽衣も千里の意図が分かったのだろう。形振り構わず鳴いていった。

 そして、最後は、

「ロン。1000点です。」

 千里が芽衣に安手を差し込み、玄の親番を流した。

 

 

 東二局、千里の親。

 三元牌支配が発動していると言うことは、玄以外は三元牌を役牌として使うことはできない。それ以前に、回ってこない。

 その分、数牌が多く来る。そのため、従来よりも多少はクイタンが作りやすくなるはずである。

 なのに、何故かこの局は、千里だけでなく芽衣も手が重かった。

 ここはオリビアに賭けるしかない。

 

「(これを鳴いて!)」

 千里は、オリビアが対子で持っている{③}を捨てた。しかし、これをオリビアはスルー。

 どうやら、234の三色同順を狙っているのか、{③}のポンを拒否された。

 

 今回、玄は配牌時点で三元牌を五枚持っていた。連槓が始まるのは六巡目。そこまでに千里は何としてでも場を流したかった。

 仮に六向聴でも、最速六巡で聴牌できることになるが、それはツモが噛み合えばの話である。

 しかし、場を流す前に、

「カンなのです!」

 とうとう玄の連槓が始まった。

 まずが{中}を暗槓。そして、{白}を嶺上牌としてツモってくると、

「もう一つ、カンなのです!」

 手の中で先に四枚揃っていた{發}を暗槓した。

 さらに玄は、嶺上牌をツモると、

「もう一つ、カンします!」

 {白}を暗槓し、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 大三元をツモ和了りした。

「8000、16000です!」

 今までとは打って変わって笑顔を見せる玄。

 一方の千里にとっては痛い親かぶりだ。

 これで玄は、一気に前後半戦トータルのトップに躍り出た。

 

 

 東三局、芽衣の親。

 ここから二局は大三元が飛び出すことは無い。

 千里は、

「(この二局で稼ぐ!)」

 まるで園城寺怜のようにツモを読み、最短で手牌を作り上げていった。

 彼女は六巡目で聴牌したが、リーチをかけるのを敢えて一巡待った。

 そして、次巡、{[5]}をツモり、手牌の{5}と入れ替えると、

「リーチ!」

 この対局で初めてリーチをかけた。

「チー!」

 これを芽衣は鳴いて一発を消したが、千里は、これを予見していたようだ。

「(計算どおり!)」

 とでも言いたげな表情をしていた。

 そして、次巡、

「ツモ。メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」

 千里はハネ満をツモ和了りした。

 

 点棒受け渡しの後、四人は山を崩したが、この時に芽衣には次のツモ牌が見えた。

 しかし、それは千里の和了り牌ではなかった。

 明らかに芽衣の一発消しを読んでのリーチだったのだ。

 

 

 東四局、オリビアの親。

 ここでも千里は最速聴牌を狙う。そして、

「リーチ!」

 前局同様、千里は積極的に攻めて行った。まさかの四巡目リーチである。

 しかも、四枚目の{西}を切ってのリーチ。

 西は、元々、現在西家である千里以外には、あまり魅力の無い牌である。当然、芽衣もオリビアも早々に{西}を切っていた。

 勿論、四枚目の{西}なのだから、誰も鳴けるはずが無い。

 

 芽衣、オリビア、玄は安牌を切って打ち回したが、

「一発ツモ!」

 次に来る牌が分かっていた千里は、牌を目で確認せず、しかも盲牌すらせずに和了りを宣言した。

「メンピン一発ツモ一盃口ドラ2。3000、6000。」

 この二度の和了りで、千里は後半戦のマイナス分以上に取り返した。

 

 現在の後半戦の順位と点数は、

 1位:玄(日本) 126000

 2位:千里(ドイツ) 107000

 3位:芽衣(中国) 84000

 4位:オリビア(アメリカ) 83000

 やはり、役満一発は非常に大きかった。玄の単独トップである。

 

 

 南入した。

 南一局、玄の親。

 三元牌支配の準備期間は終わった。ここでは、再び玄の三元牌支配が始まる。

 

 対する千里は、前局、前々局の和了りで運を掴んだのか、ここでは配牌が軽かった。

 ドラは二枚。門前ならリーチタンヤオドラ2の満貫を狙えそうだが、ここは鳴いてさっさと流すべきだ。

「ポン!」

 千里は、全ての牌の流れ…と言うか順番を読みきった上で鳴きに出た。

 幸い、玄は配牌で三元牌が四枚。連槓が始まるのは最速で七巡目になる。そこまでには片付けられそうだ。

 

 それに、後半戦開始直後ほどのオーラを玄からは感じない。

 霞のオモチを堪能した直後のマックスオモチベーション状態では無いため、そこは仕方が無いかもしれないが…。

 とは言え、三元牌支配を発動した玄は、やはり恐ろしい相手である。

 

「チー!」

 千里は、二副露し、その次巡で、

「ツモ。1000、2000。」

 予定通り、クイタンドラ2で和了った。

 

 

 南二局、千里の親。

 ここでも玄の三元牌支配は健在である。

「(もう一度、大三元を和了るのです!)」

 今回、玄の配牌には三元牌が六枚あった。これは、最速で五巡目に連槓が始まる。結構他家にとっては厳しいパターンだ。

 当然、全ての牌が透けて見えている千里は、これを見て焦らないはずが無かった。

 この局では、自分の配牌では玄のスピードに追いつけないだろう。

 

 しかし、下家の芽衣の配牌がすこぶるイイ。

 芽衣にとって自風であり場風である{南}が二枚ある。

 まあ、千里からすれば、芽衣の配牌にドラと赤牌が計3枚あるのは余計だが…。

 ただ、これを和了らせたほうが玄に和了られるよりはマシだ。

 

 千里は、点数を計算し始めた。

「(前半戦の分も考慮に入れるから………南三局とオーラスで和了ればなんとかなるかな? 配牌次第だけど…。)」

 ここで千里が満貫を振っても、役満親かぶりよりは失点が少ないし、そもそも二度目の役満を玄に和了らせたら、確実に玄に勝ち星を持って行かれる。

 千里は、

「(鳴け、ほらっ!)」

 芽衣の方を見ながら早々に第一打牌で{南}を切った。

「ポン!」

 これを芽衣が鳴いた。

 ダブ南ドラ3を和了るチャンスである。しかも、玄の連槓が始まる前に和了らなければ意味が無い。

 当然、これは形振り構わず行く。

 

 次巡、千里はドラ傍を捨てた。

 これを、

「チー!」

 当然の如く芽衣が鳴いてドラ含みの順子を副露した。

 そして、さらに次巡、千里が捨てた牌で、

「ロン! ダブ南ドラ3。8000!」

 芽衣が和了った。満貫だ。

 

 この時点での後半戦の順位と点数は、

 1位:玄(日本) 124000

 2位:千里(ドイツ) 103000

 3位:芽衣(中国) 91000

 4位:オリビア(アメリカ) 82000

 依然、玄の単独トップである。

 

 

 南三局、芽衣の親。

「(今度こそ、大三元を和了るのです!)」

 玄は、気合いを入れ直した。

 もう一回役満を和了れば、玄の勝ち星は揺るぎ無いものになるだろう。当然、和了りを目指す。

 対する千里は、全ての牌の来る順番を考慮して、

「ポン!」

 まず、一巡目でいきなり玄が捨てた{④}を鳴いた。

 そして次巡、

「カン!」

 まるで狙っていたかのように千里は{④}を加槓した。

 嶺上牌は{二}。これで対子だった{二}が暗刻に変わった。

 

 同巡、オリビアが捨てた{二}を、

「カン!」

 千里は大明槓した。

「(大三元潰し成功!)」

 これで玄の三連槓は阻止された。

 

 なんとか二つの槓を作ったのは良いが、当然ムリをしている。芽衣もオリビアも、この時、千里の手牌はボロボロだろうと推測していた。

 しかし、この局、千里は別に和了り放棄などしていなかった。

 まだまだ序盤。ここから千里は、持ち前の能力を最大限に生かして手を最短の巡目で作り上げて行く。

 そして、数巡後、

「ツモ。タンヤオドラ1。700、1300!」

 芽衣とオリビアの聴牌よりも先に千里が和了った。

 これは、チュンチャン牌の明槓が二つあるため、40符の手だ。

 

 

 オーラス、オリビアの親。ドラは{⑤}。

 ここでも千里は、

「ポン!」

 いきなりオリビアが第一打牌で捨てた{西}を鳴いた。

 玄にドラが行かない分、ドラが来る確率は上がる。千里の手牌にも、一枚だけだがドラがあった。このドラは大事にしたい。

 次巡、

「チー!」

 千里は、玄が捨てた{②}を鳴いた。そして、玄が10枚目の三元牌を揃えた次の巡目で、

「ツモ!」

 千里が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一⑤⑥⑦34567}  ポン{西横西西}  ツモ{8}  ドラ{⑤}

 

「西ドラ1。500、1000!」

 千里の声に力が入った。

 これで、次鋒後半戦が終了した。

 

 後半戦の順位と点数は、

 1位:玄(日本) 122800

 2位:千里(ドイツ) 107700

 3位:芽衣(中国) 89200

 4位:オリビア(アメリカ) 80300

 依然、玄が単独トップである。

 しかし、ここに前半戦の点数が加算される。

 

 トータルでの順位と点数は、

 1位:千里(ドイツ) 217800

 2位:玄(日本) 217300

 3位:芽衣(中国) 187600

 4位:オリビア(アメリカ) 177300

 たった500点差だが、千里が次鋒戦を征する結果となった。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 最後の一礼の後、玄は、

「ゴメンなさい…。みんな、ゴメンなさいなのです。」

 大声を上げて泣き出した。

 

 もう一回、大三元が和了れていれば、余裕の勝利だっただろう。

 それどころか、南三局での千里の和了りが40符2翻ではなく30符2翻の500、1000であれば、逆に400点差で玄が勝ち星を取っていたのだ。

 たった10符の差に負けたのだ。

 玄としては非常に悔やまれる敗退だった。

 

 

 その頃、日本チームの控室では、

「では、コーチ。よろしくお願いします。」

 咲が恭子に手を引かれて控室を後にした。まだ一人で会場に行かせるのに不安があるのだから仕方が無い。

 

 これで、日本チームとドイツチームが、それぞれ勝ち星一つずつとなった。

 この中堅戦は絶対に取りたい。

 一見、咲は平静を装っていたが、その心の中では、

「(全部ゴッ倒す!)」

 密かに燃えていた。




次回、『幸せカナコの殺し屋生活』の西野カナコと咲の対戦となります。



おまけ

怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

怜「しかも、今回からはお上品コーナーやで!」

爽「えっ?(嘘だろ!? 怜が上品だなんて信じられない!)」

怜「せやから、お下品コーナーを期待しとるんやったらブラウザバックをお勧めするで!」

爽「(どゆこと?)」

怜「伏字を使った言葉で以前遊ばしてもろたけどな。あれをお下品ネタなしやらせてもらうで!」

爽「(これって天変地異の前触れじゃなかろうか?)」

怜「例えばな、『お〇ょうさん』って何が入るかな?」

爽「まあ、『お嬢さん』か『和尚さん』だろうな。」オショウサン…クダチイ

怜「まあ、他にもキョウコさんとかリョウコさんとかを『おきょうさん』とか『おりょうさん』と呼ぶケースもあるけどな。まあ、普通は『お嬢さん』と『和尚さん』やろな。」

怜「ここで、『お』が無くなったら『〇ょうさん』やろ? この場合はどうなるやろか? 但し、さっきの『おきょうさん』みたいな人の呼び名は無しや。」

爽「ええと『協賛』とか『量産』とか…。」

怜「他にも『硝酸』とか『ぎょうさん』とかもあるけどな。結構あるやろ?」

爽「まあね。」

怜「このように、うちが提示した伏字付の言葉の回答を各々二つずつ欲しいんや。それもお上品にやで!」

爽「上品ねぇ…。」

怜「じゃあ、まず第一問。『ヒラ〇ゲン〇イ』!」

爽「ええと、これって『平賀源内』しか無いんじゃない?」

怜「それがな、他にもあるんやで! ヒントはな、赤い。」

爽「赤いって言っても…。(全然分からないよ、これ)」

怜「第二ヒントはな、虫や! 昆虫やで!」

爽「(そう言われても全然分からないよ…。)」

怜「最後のヒントはな、毒持っとる!」

爽「本気で分からないんだけど…。」

怜「答えはな、『ヒラズゲンセイ』や!」

爽「なにそれ?(聞いたことも無い)」

怜「ツチハンミョウの仲間や! 見た目がクワガタに似とるんで赤いクワガタやって有名になったヤツやで!」

爽「(本気で知らない…。)」

怜「じゃあ、次はやな…『バルサ〇〇〇』や!」

爽「ええと、一つ目は『バルサミコ酢』だと思うけど…。」

怜「一つ目、正解や! ほなもう一つ。」

爽「全然分からないんだけど。」

怜「ヒントはな、降圧薬や!」

爽「降圧薬?」

怜「せや! 血圧を下げる薬や!」

爽「そんな薬、飲む年じゃないし…分からないんだけど…。」

怜「第二ヒントは、臨床不正事件があったヤツや!」

爽「(そんなこと言われても知らないものは知らないし…。)」

怜「第三ヒントは、その事件はディオバン事件と呼ばれていてやな…。」

爽「(そんなの聞いたことも無いよ~!)」

怜「答えは『バルサルタン』や!」

爽「聞いたことも無いよ、それ!」バルタンセイジンナラワカルケド

怜「不勉強やな。」

爽「そう言われても、一般常識からはかけ離れてるよ、それ。」

怜「やから、それくらいお上品に行くってことや!」

爽「(上品じゃなくてインテリ………いや、どっちかって言うと知ったかぶりみたいな感じがするんだけど…。)」

怜「爽も何かあらへんか、『ヒラ〇ゲン〇イ』とか『バルサ〇〇〇』みたいなやつ?」

爽「(そんなこと言われても、難しい言葉でってのがキツイ…。昔、『カミオカンデ』って聞いたとき、『ハナヲカンデ』だったら面白いのにとかは思ったけど…。)」

爽「じゃあ、ええと、ハン〇ョジン…。(下品じゃないと難しいな…。)」

怜「半魚人とアンチ巨人の反巨人やな!」

爽「せ…正解。」

怜「そう言えば、半魚人って半分魚で半分人ってことやんか?」

爽「そ…そうだね。」

怜「その場合、人魚はどうなるんや?」

爽「さぁ………。」

怜「そう言えば、昔、人魚が主役のアニメで『波打際のむろみさん』ってあったな。むろみさんの声は良かったな!」

爽「(よく分からないんだけど、そのアニメ…。)」

怜「他には無いか?」

爽「ええと、じゃあ、伏字が無いヤツで二つの意味を持つってことで、『そのひぐらし!』ってどうかな? 『そのヒグラシ』と『その日暮らし』ってことで…。」

怜「なかなかエエやんか。」

爽「そう言えばヒグラシってさ、カナカナカナカナ華菜華菜華菜華菜って鳴くからウザくない?」

怜「当てる字を間違えなければウザくはないで!」

爽「まあ、それはそうだけどね(なんか、いつもとテンション違うなぁ)。」

怜「ヒグラシと言えば、前に『ひぐらしのなく頃に』ってのがあったな。それに出てきた
古手梨花ちゃんはイイ声しとったな。」

爽「ふるでりか?」

怜「せや! フレデリカやないで!」

爽「(なんか、今日の怜は、どこかおかしいような気がするな…。)」

怜「他にはないか?」

爽「じゃあ、セッ〇ク! セッ〇スじゃないからね!」

怜「おぉ! これは、『せっかく』と『せっぷく』やな!」

爽「正解!」

怜「そう言えば昔、けんぷファーってアニメでセップククロウサギってのが出てたな。あれも非常にエエ声やった。」

怜「他にも銀魂の花野アナとか、魔法少女リリカルなのはの高町なのはもエエな。」


ここに何故か、もう一人、怜が現れた。
少なくとも怜は双子では無い。
もしかしてこれは、ドッペルゲンガーだろうか?


もう一人の怜(怜2)「お前誰や?」

最初からいた怜(怜1)「誰って、園城寺怜や! 昔、最萌えに輝いたことのある怜ちゃんやで!」

怜2「言っとくけどな、園城寺怜は、ヒラズゲンセイとかバルサルタンなんて、そんな高尚な趣味は無いで!」

怜1「せやから、ここにいるんは、改良された怜、インプルーブド怜や!」

怜2「イ〇ポ、ループ?」

怜1「ちゃう! Improvedや!」

爽「何となく分かってきたよ。最初、怜が壊れたかと思ったけど、これは別の誰かが怜になり済ましてるってことだね。」

爽「ちょっとスマホで調べてみたけど、『むろみさん』に『古手梨花』、『セップククロウサギ』、『花野アナ』、『高町なのは』と咲-Saki-には共通点がある。」

爽「それは、瑞原はやりと中の人が同じってこと!」

爽「それと怜に化けられるってことを併せて考えると、お前の正体はハヤリ20-7だな!」

怜1→ハヤリ「ばれちゃったか。実はね、ハヤリは二人に興味があってね。それでこっちも二人で来てるのよ。」

怜・爽「「二人?」」


ハヤリ20-7の後に、もう一体の20-7が現れた。
そして、片方が竜華の姿に、もう片方が誓子の姿に変わった。


ハヤリ1「つまり、私が竜華に化けてぇ。」←当然裸です

怜「おぉぉぉぉぉぉ!」

ハヤリ2「私が誓子に化けま~す!」←こっちも裸です

爽「おぉぉぉぉぉぉ!」

ハヤリ1「しかも、サイズを変えずに太腿のやわらかさを変えることもできま~す!」←膝枕調節機能?

怜「おぉぉぉぉぉぉ!」

ハヤリ2「胸のサイズもウエストのサイズも、脚の長さも好みのサイズに微調整可能で~す!」←別に誓子のスタイルが悪い訳ではありません

爽「おぉぉぉぉぉぉ!」

ハヤリ1・2「「それに、私達は羞恥心と言うものが無いので、普段ではできないようなプレイも積極的に行いま~す!」」

怜・爽「「おぉぉぉぉぉぉ!」」

ハヤリ1・2「「こちらに個室を二つ用意してありま~す! しかも、食料も飲料も当座暮らすのに十分な量が用意されてるんだぞ!(突然、朝倉南調)」」

怜・爽「「おぉぉぉぉぉぉ!」」

まこ「なんか、これ以上はマズそうじゃ。なので、一先ず、ここまでじゃ!」


怜と爽は、それぞれハヤリ20-7と一緒に個室に入って行った。
その後、二人は、用意されていた食料と飲料が尽きるまで、部屋から出てくることはなかったらしい。


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九十本場:世界大会14 殺し屋

八十四本場後書きにも記載しました通り、西野カナコは『幸せカナコの殺し屋生活』のカナコです。


 中堅選手が対局室に出揃った。

 日本チームからは宮永咲。昨年の世界大会で奇蹟の大逆転劇を演じた日本の守護神。本大会で最も注目を集める選手の一人である。

 

 ドイツチームからは西野カナコ。日本人留学生。ステルスモモのような気配を消した打ち方が出来るとの噂。

 

 中国チームからは張鈴麗。アメリカチームからはエミリー・ウイリアムが参戦する。

 

 場決めがされ、起家が鈴麗、南家がエミリー、西家が咲、北家がカナコに決まった。ただ、この時、既に咲はカナコの姿が捉え難くなっているのを感じていた。

 一方のカナコは、

「(マジマジマジマジ アルマジロ! チームの中でも話題になったけど、やっぱり日本の中堅って、顔がフレデリカに似てるんだよね。なんだかフレデリカと打つみたいな感覚になる…。)」

 と思っていた。

 やはり、ドイツチームのメンバー達も、咲とフレデリカが瓜二つと認めているようだ。

 

 

 東一局、鈴麗の親。ドラは{②}。

 咲だけではなく、鈴麗もエミリーも既に違和感を覚えていた。そう、カナコは東初からステルスモードに入っていたのだ。

 東横桃子よりもスイッチが入るのが早い。咲も、東一局からいきなりステルスで来るとは想定外だった。

 

 咲は、即座にコンピューター麻雀で鍛えた『普通の(?)』打ち方に切り替えた。去年の県予選個人戦でステルスモモに打ち勝った時の戦法だ。

 これにすると、全ての牌が透けて見える能力が封印される。

 しかし、元々咲は、光や照のように相手の捨て牌や牌の並べ方、牌の移動等から高い精度で相手の手牌を読み取れる。なので、恭子のような、咲の打ち方を狂わせる戦法を取られない限り大きな問題は無い。

 

 どうやらカナコが聴牌したようだ。

 牌の切り出しは、白糸台高校で昨年部長を務めていた弘世菫に似ている。ターゲットからいずれ出てくる牌を狙い撃ちする打ち方だ。

 しかも、菫よりも手が高そうだ。スピードと打点の高さは池田華菜以上か?

 これは厄介だ。

 

「リーチ!」

 カナコがリーチをかけてきた。

 咲には、カナコの曲げた捨て牌とリーチ棒が見えているし、カナコの手牌も大凡見当が付いている。よって咲がカナコに振り込むことは滅多に無いだろう。

 しかし、鈴麗とエミリーは別だ。ノーケアーでカナコの危険牌を切ってしまう。

 その結果、

「ロン。16000。」

 鈴麗がカナコに一発で倍満を振り込んだ。

 いきなり高打点な和了りだ。

 鈴麗は、一体何が起きたのか訳が分からない様子だった。

 

 カナコの手が開かれた。

 {二三四②②②③④[⑤]⑦234}  ロン{⑥}  ドラ{②}  裏ドラ{二}

 

 一発ツモなら三倍満だった。

 ステルスで、しかもこの高打点。

 咲が振り込まなくても、カナコは鈴麗とエミリーから幾らでも点棒を奪える。これは咲にとって厳しい戦いになりそうだ。

 

 

 東二局、エミリーの親。ドラは{3}。

 鈴麗とエミリーは、前局から違和感が続いている。しかし、それが何なのかに気づけないでいた。

 まさか、麻雀にステルスがあるなんて普通は想像できない。

 日本チームの場合、桃子がいたことでステルスの存在が理解できた。しかし、普通は理解不能だろう。

 

 カナコの視線はエミリーのほうに向けられている。どうやら、この局でのターゲットはエミリーのようだ。

 

「リーチ!」

 ここでもカナコがリーチをかけてきた。

 しかし、前局同様、鈴麗もエミリーもカナコのリーチに気付けないでいた。

 

 咲は、カナコの捨て牌を読みながら、慎重に手を進める。咲にもカナコのリーチ発声は聞こえていなかったが、曲げた捨て牌とリーチ棒は見えるのでリーチがかかっていることは認識できる。

 ところが、エミリーには、カナコの捨て牌もリーチ棒も見えていない。カナコのマイナスの気配がカナコの捨て牌もリーチ棒も見えなくしていたためだ。

 そして、エミリーが、手を進めようとして切った{③}で、

「ロン!」

 カナコに和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {②②②③④[⑤]⑥⑦⑦⑦中中中}  ロン{③}  ドラ{3}  裏{九}

 

「リーチ一発メンホン中三暗刻赤1。16000!」

 またもや倍満直取りだ。

 これでカナコは、咲に32000点もの差をつけた。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{九}。

 とうとうカナコの視線が咲に向けられた。

 カナコの狙いは、どうやら親番になったプレイヤーのようだ。

 親番なら攻めてくる。そこをステルスで撃墜する。

 意味不明の和了られ方で親番が流されれば、しかも高打点の手に振り込んでいたならば、誰でも意気消沈するだろう。そうなれば相手側の運気も低下する。

 それがカナコの狙いのようだ。

 

 ただ、咲は滅多なことでは振り込まない。

 カナコは、聴牌したものの、咲から和了り牌が出てこないので少しヤキモキしてきた。

 待ち牌は{南}。

 場風は{東}、咲の自風も{東}、そして咲がよく槓する牌………つまり咲が集める風牌は{西}。よって、この局では{南}なら咲もノーケアーで切ってくるだろうとの判断だ。

 ただ、念のためカナコはリーチをかけなかった。万が一、リーチの発声で気付かれたら困ると考えたからだ。

 しかし、その{南}が咲から全然出てこない。

 結果的に、それは咲ではなく鈴麗が切ってきた。

 カナコは、

「(オイオイオイオイ オオイヌワシ。そっちが先に切るの? 咲だけに。)」

 と思いつつも、

「ロン。」

 見逃さずに鈴麗から和了った。

 できれば咲から和了りたいところだが、得点を重ねることも重要だ。

 それに、この直後に咲が{南}を切ってきても同巡フリテンとなり和了れなくなる。万が一そうなったら、ムダに和了り牌を減らすだけだ。

 ならば和了るのが最善だろう。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三四[五]六七八九南白白白}  ロン{南}  ドラ{九}

 

「メンホン白一通ドラ2。16000。」

 またもや倍満だ。

 ステルス状態で狙い撃ちし、しかも高打点。殺し屋と言われるだけのことはある。

 ただ、和了ったにしては、カナコは少々悔しそうに見えた。ターゲットとしていた咲から直取り出来なかったからだ。

「(アノアノアノアノ アノマロカリス? まさか、私の姿が捉えられているなんてことは無いわよね?)」

 一瞬、カナコは、咲にステルスが効かないのではないかと疑ったが、

「(イヤイヤイヤイヤ ロップイヤー。私の気配はフレデリカでさえ捉え切れないマイナスの気配。だったら、他の何人にも捉えられないはず。)」

 激しく首を横に振り、自分のステルスの威力を肯定した。

 

 世界大会前に、今回のドイツチームメンバー同士で何度も打った。戦績は、ドイツチームの絶対的エース、フレデリカの圧勝であった。

 しかし、そのフレデリカがトップを取れない対局が数半荘あった。その時のトップがカナコである。

 つまり、カナコのステルスは、自分達を遥かに凌駕するフレデリカにさえも通じる特別な技なのだ。

 そう言った背景もあり、カナコは自分のステルスには絶対的な自信を持っていたし、咲が自分に振り込んでいないのは、単なる偶然と思い込んでしまった。

 

 

 東四局、カナコの親。ドラは{⑤}。

 カナコは、普段なら一気に親番で稼ぎに出る。

 しかし、今は、何としてでも咲から和了りたい。殺し屋としてのメンツだ。

 

 ここでも前局と同じようにリーチは控えた。万が一のことを考えてだ。

 ところが、一向に咲からは和了り牌が出てこない。

 結局、ここでも、

「ロン。」

 カナコは咲以外………エミリーから和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {四四五六③③④④[⑤][⑤]567}  ロン{七}  ドラ{⑤}

 

「タンピン一盃口ドラ4。18000。」

 親ハネだ。

 

 これで現在の得点と順位は、

 1位:カナコ(ドイツ) 166000

 2位:咲(日本) 100000

 3位:鈴麗(中国) 68000

 4位:エミリー(アメリカ) 66000

 カナコの圧倒的なトップであった。

 

「(一旦、日本からの出和了りは諦めるしかないかな?)」

 カナコは、止むを得ず咲をターゲットから外すこととした。

 

 咲は今までノー和了。カナコだけが和了り続けている。しかも、これだけの点差だ。

 加えて、鈴麗とエミリーからは直取りできる。

 ならばチームの勝利のため、鈴麗とエミリーからを削り続けるべきだろう。このどちらかが箱割れするまで…。

 そう判断した上で、

「一本場!」

 カナコは連荘を宣言した。

 

 東四局一本場。ドラは{八}。

 ここでもカナコは順調に手を伸ばした。

 

 そして、七巡目、

 カナコの手牌は、

 {三四[五]七八八八③④⑤355}  ツモ{[5]}

 

 当然、ここは{七}を切って、

「リーチ!」

 カナコは攻めに出た。咲から直取りできなくても良い。{4}での和了りならリーチタンヤオ三色同順ドラ5の手。そこに一発と裏ドラがつけば三倍満に達する。

 ところが、

「カン!」

 咲がこれを大明槓してきた。まさに、カナコのステルスが効いていなかったことが証明された瞬間だった。

「(マジマジマジマジ アルマジロ?)」

 とカナコは思った。

 まさか、自分が鳴かれるとは思ってもみなかったのだ。

 

 一方、咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓した。{7}の暗槓だ。

 そして、咲は次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {⑦}を暗槓し、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②③④[⑤]}  暗槓{裏⑦⑦裏}  暗槓{裏77裏}  明槓{七七七横七}  ツモ{[⑤]}

 

「タンヤオ三槓子三色同刻嶺上開花赤2。24000です。」

 三倍満だ。

 

 こんな形で直撃を受けるとは…。

「(メラメラメラメラ ポメラニアン!)」

 これで、カナコの心に火がついた。

「(ぶっ殺スフィンクス!)」

 絶対に咲から直取りしてやる。そうカナコが強く思ったのは言うまでも無い。

 

 

 南入した。

 南一局、鈴麗の親。ドラは{二}。

 未だ鈴麗はヤキトリ状態だ。しかも、トップのカナコにダブルスコア以上引き離されている。当然、この親で大きく稼ぎたいところだ。

 

 ここに来て、ようやく鈴麗も、違和感の正体に気付き始めた。なんだか、三人で打っているような感覚なのだ。

 それでいて、ツモ牌の消え方は四人麻雀だ。

「(まさか、透明人間を相手にするとは…。こんな輩がいたとはね。)」

 とは言え、正体が分かっただけでは対策のしようがない。

 どうやったらステルスモードの人間の捨て牌を見えるようにできるのか、鈴麗には見当も付かなかった。

 

 一方、カナコは五巡目で聴牌していた。

 しかも手牌は、

 {二二二二三三四四③④[⑤]⑥⑦}

 

 平和タンヤオ一盃口ドラ5の倍満手。

 どうもカナコは、玄ほどでは無いがドラに愛されているようだ。

 

 咲からの直撃を狙うため、ダマで行く。

 前局で、咲にはステルスが効いていないことが立証された以上、リーチをかけたら絶対に咲からは和了り牌は出てこないと考えるべきだ。

 

 しかし、やはり咲からはカナコの和了り牌が一向に出てこなかった。

 そのまま終盤に入り、鈴麗が捨てた牌で、

「ロン。16000。」

 カナコは和了った。

 

 

 南二局、エミリーの親。ドラは{⑧}。

 カナコとしては、意地でも咲から和了りたいところだ。

 しかし、

「(デモデモデモデモ デモゴルゴン。今はチーム戦。チームのためには確実に勝ち星を取らなくちゃね…。)」

 下手に意地を張って逆転負けを喰らっても困る。

 カナコは、深呼吸して心を落ち着かせた。

 とにかくあと三局、鈴麗かエミリーから和了って前半戦の決着をつける!

 

 咲を相手にする場合、大明槓対策として初牌切りは注意が必要だ。

 この局、咲は、{北}、{西}、{⑨}、{⑤}、{二}と切り出した。

 

 そして、七巡目。

 カナコは聴牌した。

 

 彼女の手牌は、

 {[五]六七①②②[⑤][⑤]⑤⑥⑦[5]7}  ツモ{③}

 {②}なら咲の捨て牌の筋。

 それに前巡でエミリーが{②}を切っている。

 これなら間違いなく安牌だ。

 そう考えてカナコは{②}切りで聴牌に取った。

 

 ところが、

「ロン。」

「えっ?」

 この捨て牌で咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①③999白白白發發發中中}  ロン{②}

 

「小三元チャンタ三暗刻。16000。」

 もし、{中}をツモって手変わりされたら大三元四暗刻だ。

 倍満で和了られたのは、むしろ不幸中の幸いか?

 

 ただ、この咲の和了りで現在の得点と順位は、

 1位:カナコ(ドイツ) 141700

 2位:咲(日本) 140300

 3位:エミリー(アメリカ) 66000

 4位:鈴麗(中国) 52000

 咲がカナコに1400点差まで詰め寄ってきた。逆転が十分有り得る点差だ。

 

 こんな手を和了ってくるなんて…。

 しかも、自分が振り込まされるなんて…。

 カナコにとっては、能力開花して以来、初めてのことであった。

 

「オロオロオロオロ ヤマタノオロチ…。」

 ふと、カナコの口から言葉が漏れた。

 ステルスが効かず、しかも自分から三倍満と倍満を直取りする相手。まさにフレデリカ以上だ。

 こんなに辛い対局になるとは………。

 

 東場では楽勝と思っていたのに、とんだ化物だ。

 これが、昨年の世界大会でミナモ・ニーマンから責任払いを含むダブル役満を和了った日本の守護神か?

 さすが、自分達の大将、園田栄子が憧れたと言うだけのことはある。

 

 しかし、まだ二局ある。

 ここで鈴麗かエミリーから和了れば良いだけのこと。

 カナコは、頭を切り替えて、静かに気合を入れた。




おまけ

憧 -Ako- 100式 流れ二十八本場 寝取り屋


流れ二十七本場の続きです。

新一「久さん、俺!」

久「イイワよ。たっぷり出してね。」

まこ「いきなりこれか! ワープじゃ!」


コナンと哀に頼まれて、久HT-01は新一を相手してあげたのだが…、それ以来、新一は毎日、久を自分の家に呼ぶようになった。
当然、毎日Hなことばかりしている。
ハニートラップ専用機の久HT-01が相手なのだから仕方が無いのだろうが…。
童貞の新一のハートを掴むことなど、久HT-01には朝飯前だった。
ちなみに新一は、まだ人間童貞である。

最近では、新一は蘭と言葉を交わすことも少ない。物理的距離は近いのに、心はコナンでいた時よりも離れている感じだ。
頭の中は、完全に久一色。

麻雀で言えば、
久久久久久久久久久久久久久  ツモ久

何かの漫画であった白一色に似ている。
新一と蘭の破局の時は、すぐそこまで迫って来ているのかも知れない。

それから、新一も、コナンと哀と同様にオモチクラブの特別会員になっていた。
その類い稀な頭脳をオモチクラブのために使うことと引き換えに、久HT-01と楽しめることになっているようだ。
その辺、久HT-01は抜け目が無い。


また、その隣の家では、


博士「どうじゃ、朝美君!」

朝美「博士、すっごい!」

まこ「こっちもか! ダメじゃ、これ以上は載せられん!」


そして、同じ家の別の部屋では、コナンと哀が…、


まこ「こっちは児ポになるからダメじゃ!」


どうやら、この一帯ではあちこちで、さかりが付いているらしい。


一方、憧100式達は麻雀を楽しんでいた。
面子は、憧100式、憧105式ver.淡、憧108式ver.姫子、憧123式ver.絹恵である。


淡「ツモ! ダブリーツモ槓裏4。6000オール!」

憧「またぁ?」

淡「うん! 親ハネで18000!」

憧「(でも、これに伏字つけたら面白いかも。『オ〇〇〇、180✕✕!』にしたら、『オチン〇、180mm!』に見える気がする!)」

淡「でも、表ドラが無いのよね。オモテ無しな分、手が低いってことで、相手を思いやる和了り形だから『オモテナシ』って言うのかな?」

憧「何、訳分かんないこと言ってんのよ! その分、裏があるってことでしょ!?(性格的にも)」

淡「そうとも言う…。」

姫子「でも、淡のダブリーは卓を操作してるわけだし、イカサマじゃないの?」←ここでは標準語設定です

淡「まあ、ここではこれが私の能力ってことで。」

絹恵「能力か…。そう言えば、特殊麻雀機能が付いているのは淡だけなのよね。私も特殊な何かが欲しいな!」

憧・淡・姫子「「「(十分特殊でしょ! 股間が!)」」」

姫子「話は変わるけど。最近、久さん。毎日夕方になると、どこかに出かけてるよね。帰るのは10時過ぎになるみたいだけど。」

淡「あれね…。」

姫子「何か知ってるの?」

憧「どうも毎日、博士の家の隣の家にデリ〇ル状態みたい。」

姫子「博士の家じゃなくて?」

淡「その隣に住む高校生探偵が相手なのよ。」

姫子「高校生!?」

淡「男子高校生ね。」

姫子「そう言えば、久さんもジェンダーフリーだったわね。」

淡「うん…。ただね…。」

姫子「どうかしたの?」

憧「その高校生探偵には彼女がいるんだけどね…。」

姫子「それじゃ、浮気!?」

絹恵「って言うか、久さんって美穂子さんのダッチ〇イフでしょ?」

姫子「そうだった。じゃあ、ダブル不倫?」

淡「まあ、そう言うこと…。」

姫子「あちゃー。でも、久さんの場合、美穂子さんがいない隙に何人もの女性を連れ込んでいたから常習犯だしね。」

憧「そうなのよね。久さんはインプリンティング機能が無いし、元々、ハニートラップ専用機として造り出されたから貞操観念も無いしね。」

淡「それどころか、今は、彼女のいる高校生をたぶらかして楽しんでいるみたい。」

憧「それで優越感に浸ってるってとこよね?」

淡「多分ね。それこそ、『(寝)取ったど~』みたいな感じで…。」

絹恵「それ、最悪じゃん。」

姫子「そういう意味じゃ、私達って幸せなのかもね。」

憧「お互い、良いオーナーにも恵まれたしね。」

淡「そうそう。そう言えばマホちゃんのとこは、どうなんだろう? 私、余りマホちゃんに会わないけど。」

姫子「一太さんは、凄く溺愛してるって感じ。」

淡「それは分かる!」

姫子「でも、最近、マホの行動に問題があってね。」

憧「まさか、浮気!? って、オーナー以外とはできない仕組みになっているから、それは無いか。」

淡「それに、マホちゃんに手を出したらマズいよね。社会的に。」

姫子「たしかに、一般男性ならそうなんだけど…。」

憧「じゃあ、一般男性じゃないほうで問題があるってこと?」

姫子「そうらしいのよ。どうもね、何人もの小学生男子を相手に手で奉仕してるって話があって…。」

憧「えっ?」

淡「それって、マズくない?」←誕生した日の雀荘の件はスルー

憧「(私も咲さんを助けるために三人昇天させたことはあるけど、それは仕方が無いよね、うん。)」←こちらもスルー

姫子「それも毎日って噂。」

憧「(私は、あの時だけだし! それにあれは、本当に咲さんを助けるためだったし!)」

姫子「線路の向こうの川沿いにある公園のトイレでやってるみたい。」

憧「それ、マズくない? 一太さんのバイト先って、たしか、その近くじゃ…。」


また、それと同じ頃、一太はバイト先に来ていた。
憧100式が言っていたとおり、場所は例の公園近くのコンビニだ。

ふと、一太の目に、憧110式ver.マホの姿が映った。コンビニの前の通りを歩いている。
対する憧110式ver.マホは、コンビニの中に一太がいるのには気付いていないようだ。


取扱説明書:憧110式ver.マホは、まだ子供のため視野が狭く、目的対象物以外は目に入らないことが多々あります。


ただ、その時、憧110式ver.マホは男子小学生九人と一緒だった。その中には、元太と光彦の姿もあった。

その少年達は、非常に嬉しそうな顔をしていた。非常に顔立ちの整った女の子を相手に、これから例の遊びをするのだから当然であろう。
その遊びは、既に日課と言える状態になっていた。

少年達は、何かと憧110式ver.マホの身体に触ってくる。まあ、イケナイところだけは感電するので手が出せないが…。
ただ、見ていて非常に馴れ馴れしい感じがする。
少なくとも一太の目には、そう映っていた。

憧110式ver.マホは、その男子小学生達と一緒に公園の………トイレの中へと消えて行った。中が非常に広いトイレだ。
そして、その一分後くらいか?


少年A「あべし!」

少年B「ひでぶ!」

少年C「たわば!」

少年D「うわらば!」

少年E「へげえ!」

少年F「どぉえへぷ!」

少年G「イッてれぽ!」

光彦「おぼあはっ!」

元太「うれエロお!」


少年達の断末魔の声が聞こえてきた。一太のところまで聞こえてくるのだから、相当大きな声だ。
間違いない。これは、絶頂状態を迎えた証拠だ。

そして、しばらくすると、憧110式ver.マホと男子小学生達がトイレから出てきた。
当然のことながら、小学生男子達は、非常にスッキリした表情をしていた。

何があったかは大体想像がつく。
NTR機能やスワッピング機能は発動していないので、イケナイところはセーフだろう。
しかし、別のところは使用可能だ。


一太「まさか、マホ…。」


一太は、その場でorz状態になった。
今がバイト中であることも忘れて…。
当然だろう。




続く


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九十一本場:世界大会15 破壊神

ドイツチームの中堅はカナコ、アメリカチームの中堅はエミリー、中国チームの中堅は鈴麗、日本チームの中堅は咲です。


 南三局、咲の親。ドラは{⑤}。

 カナコとしては、この親………咲には絶対に稼がせてはならない。どんな手でも構わない。さくっと流したい場だ。

 誰を狙い撃ちするでもない。

 手なりに打って最短での和了りを目指す。

 

 幸運にもカナコの配牌は平和二向聴。ドラが二枚ある。しかも赤牌だ。これだけでドラ4の満貫になる。

 

 ムダツモはあったが、ここから四巡で聴牌。

 そして、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 

 どうせリーチをかけようとかけまいと咲からは和了り牌が出ない。

 他の二人は自分が見えていないので、ダマでもリーチをかけても結果は同じ。

 ならば、リーチをかけて少しでも点数を上げるべきとの判断だ。

 しかも、{258}の三面聴。

 ツモれるかもしれない。

 

 一発での和了りは無かったが、六巡目にエミリーが捨てた{2}で、

「ロン。メンタンピンドラ4の裏1で16000!」

 カナコは、ここに来て願っても無い倍満を和了った。

 

 これで点数と順位は、

 1位:カナコ(ドイツ) 157700

 2位:咲(日本) 140300

 3位:鈴麗(中国) 52000

 4位:エミリー(アメリカ) 50000

 この土壇場での倍満和了りは大きかった。これならカナコが咲にオーラスで逆転される確率は小さいはずだ。

 俄然、カナコはモチベーションが上がった。

 

 

 そして迎えたオーラス。カナコの親。

 ここは、カナコにとっては、それこそクイタンのみでの和了りで良い。

 普段はステルス発動のため、鳴き麻雀は控えている。鳴くことで自分の存在をアピールしてしまうからだ。

 ただ、この局だけは別だ。ステルスが消えても和了りを目指すべきだ。

 

 カナコは、またもや配牌二向聴。

 今日は、まあまあ配牌とツモが噛み合うほうなので、これならトップで折り返せるだろう。カナコは、そう踏んでいた。

 ところが、ここに来て急にカナコのツモが手牌と噛み合わなくなった。しかも、鳴ける牌も出てこない。全然手が進まない。

 

 そのような中、

「リーチ!」

 咲がリーチをかけてきた。

 カナコと咲の点差は17400点。満貫までなら振り込んでも問題ない。しかし、ハネ満を振り込んだら逆転される。

 

 赤牌ありの裏ドラありのルールでは、リーチ者は確率的に三枚のドラを持っていると考えても良いだろう。

 単純計算で12割る4だ。

 ここにリーチプラス何らかの一翻役が付いていれば一発振込みはハネ満になる。

 当然、一発回避だ。

 

 鈴麗もエミリーも一発回避の安牌切り。

 しかし、次巡、咲は一発でツモった牌を、

「カン!」

 暗槓した。

 副露牌は咲とカナコの間に晒される。

 しかも、この副露牌に乗って、咲の強大なオーラがカナコに向かって襲ってきた。

 カナコには、まるでティラノサウルスが巨大な口を広げて自分を喰らいに来ているような錯覚が見えた。

 とんでもない恐怖を感じさせる。

「(マジマジマジマジ アルマジロ!?)」

 思わずカナコは卓上から顔を背けた。

 しかも、恐怖から自然と涙が出てくる。

「ガタガタガタガタ オオクワガタ………。」

 まさか殺し屋と呼ばれる自分が、殺される恐怖で涙を流すなんて…。

 

 一方の咲は、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 その牌で和了りを宣言した。

「リーチツモ嶺上開花ドラ3。3000、6000です!」

 しかもハネ満ツモ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲(日本) 152300

 2位:カナコ(ドイツ) 151700

 3位:鈴麗(中国) 49000

 4位:エミリー(アメリカ) 47000

 咲の逆転1位となった。

 

 この和了りを見てカナコは、

「(ウソウソウソウソ コツメカワウソ! まさか逆転されるなんて!)」

 ショックを受けたのは言うまでも無い。

 そのまま放心状態となった。

 

 

 休憩時間に入った。

 毎度の如く、対局室に咲の迎えが来た。

 ただ、今回は恭子ではなく光だ。しかもタコスを持ってきている。

 

 咲は光に連れられて対局室を出た。トイレに行くためだ。

 別に咲は漏らす側では無い。

 単に小学校の頃から休み時間にトイレに行くように指導されてきた副産物として、条件反射的に休憩時間にはトイレに行かないと落ち着かないだけだ。

 それで、出すものが殆ど無くても一旦トイレに行く。

 

 対局室を出てすぐのところで、咲と光はフレデリカと擦れ違った。

 フレデリカを見て咲は、

「(やっぱり私に似てる。でも、私より少し背が大きくて、お胸もあって、なんだか見ていて悔しい!)」

 と思っていた。

 自分がこうなりたいと思っているスタイルをフレデリカは手にしている。まるで、自分が想像する自分の完成形を見ているようだ。

 

「ねえ、光。彼女のこと、知らないって言ってたけど?」

「うん。私は去年、ドイツチームを離れたからね。今年からあの子と合流するって話は以前聞いていたけど、会ったことは無いよ。」

「ふーん。でも、私に似てるよね。顔が…。」

「そうなんだよね。他人の空似とはよく言ったものだけど、やっぱり気になるよね。」

「うん………。まあ、それは置いといて。とにかくトイレ。それから水分補給を…。」

「あとタコスだね!」

「起家になれってこと?」

「そう。それと少々作戦会議。多分、咲にしかできないことだけどね。」

「分かった…。」

 咲は、光と手を繋ぎ、休憩時間のスケジュールに従って、まずはトイレ方面に向けて動き出した。

 

 一方のカナコは、呆然としたまま未だに動けないでいた。

「カナコ!」

「えっ!?」

 フレデリカの声だ。

 これでカナコは正気を取り戻した。

「フレデリカ、ゴメン。しくじリス。」

「大丈夫?」

「正直、大丈夫じゃない…。怖い…。」

「やっぱり日本の守護神って言われるだけあるね。」

「私もそう思ったよ。でも正直、あの日本の中堅を抑えるのって、私にはムリムリムリムリ カタツムリじゃないかな?」

「たしかに誰を当ててもきつそうだね。東場は、完全に様子見に回っていたって感じ。南場になってから本性を現したよね。」

「一応、今は僅差で2位だけど…。」

「うん。後半戦は分からないね。」

「あと、マジマジマジマジ アルマジロ! って思ったんだけどね。どうもステルスが効いてないっぽいのよ。」

「それは見ていて私も思った。私にもできないことをやってるよね、彼女。」

「フレデリカ以上の雀士なんて信じられない!」

「まあ、世界は広い。上には上がいるってことね。でも、気になったのは最後の局。なんか、急激に支配力が上がった気がしたのよ。」

「やっぱり?」

 たしかにオーラスは、何故かそれまでとツモの流れが違っていた。

 配牌とツモが丸っきり噛み合わないことはある。

 しかし、今日は東一局から南三局までのツキ具合からして、あそこまでツモが酷くなるとはカナコも思っていなかった。

 それこそ、ツモが悪ければ、鳴けば良いと思っていたが、鳴ける牌も出てこない。

 正直、最後の最後で『鳴ける』ではなくて『泣ける』局になってしまった。

 

「でも、中国とアメリカには、まだカナコのステルスが効いてるからね。中国とアメリカから直取りして稼ぐしかないね。」

「分かってる。」

「あと、リーチをかけずに、日本にヤバそうな牌を引いたら降りることかな。」

「うん。そうしてみる。ぶっ殺すフィンクスは、ムリムリムリムリ カタツムリだけど、トータルで勝てば良いってことだよね?」

「そう言うこと。じゃあ、後半戦、ベストを尽くしてね。」

「うん。」

 一先ず、カナコの目に光が戻った。

 麻雀は四人で打つもの。一対一ではない。

 なので、ムリに咲を相手にするのではなく、咲以外を相手にすれば良いだけだ。それで稼がせてもらう。

 

 

 しばらくして、咲が対局室に戻ってきた………と言うか、光によって送り届けられた。

 この時、咲はタコスの包みを持っていた。どうやら、食したようである。

 

 場決めがされ、起家は咲、南家はカナコ、西家は鈴麗、北家はエミリーに決まった。

 さすがに、タコスパワーで意図的に咲が起家になったとは、さすがのカナコも想像できなかった。

 

 

 東一局、咲の親。

 咲は、自らの支配力を最大限まで上げた。

 そしてサイを回し、出た目に従って山から牌が取られてゆく。

 この時の様子を咲は集中して見ていた。

 

 牌が透けて見える咲ならである。カナコが取ってゆく牌は、カナコが触れると見えなくなるが、それまでは見えている。

 つまり、カナコが何を取っていったのかは、咲には判ると言うことだ。

 それから、全員のツモ牌も見えるわけだから、カナコの配牌とツモから、カナコの手の中がどうなっているのかは、ある程度想像がつく。

 これで、麻雀ゲームで鍛えられた方法に縛られずにステルスに立ち向かうことが可能となった。つまり、能力麻雀で対抗できる。

 

 これに気付いたのは、百戦錬磨の光だった。これを、休憩中に作戦会議と称して咲に告げたのだった。

 

 咲の支配力マックス状態での対局が始まった。

 三巡目、鈴麗が切った{⑨}で、

「ロン! 48000です!」

 咲は、いきなり国士無双を和了った。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「カン!」

 序盤から咲は、エミリーが切った{③}を大明槓した。

 しかも、これは配牌時にカナコが取っていたであろう{①}二枚と{②}二枚の使い道を限定する鳴きでもあった。

 カナコは当然、

「(私の持っている牌が透けて見えてるんじゃ?)」

 と疑った。良い読みである。

 ところが、その直後………、彼女に向けて咲のオーラを乗せた副露牌が近づいてきた。

 それと同時に、再びティラノサウルスに食い殺される幻覚を見させられたのは言うまでも無い。

「(ムリムリムリムリ カタツムリ! これを毎回やられてたら私が失禁する!)」

 カナコにも、何故、咲の下家が巨大湖を形成するかが嫌と言うほど理解できた。もう生きた心地がしない。

 

 咲は、嶺上牌を掴むと、

「もいっこ、カン!」

 続いて{3}を暗槓した。さらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{三}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引いて、

「もいっこ、カン!」

 とうとう四つ目の槓子を副露した。{西}の暗槓だ。

 当然、カナコは、

「(オロオロオロオロ ヤマタノオロチ…。)」

 ヤバイ状態に入りかけていたのは言うまでも無い。

 四連続で咲のオーラを浴びせられ、この短時間のうちに4回も死んだ幻を見させられているのだ。

 

 今のところ、カナコは耐えているが、普通の人間なら、もう大放水しているだろう。

 そして、咲は最後の嶺上牌で、

「ツモ! 48300です!」

 とうとう四槓子を和了った。

 

 東一局二本場。

 さすがに大明槓からの責任払いで役満を和了られたら、エミリーも初牌切りを躊躇する。

 この局、エミリーは、自分の見える範囲(カナコの捨て牌が見えていない)で、初牌を切るのを極力控えた。

 しかし、咲は、まるでこれを逆手に取るように、

「ロン。タンピン三色ドラ4。24600です。」

 前々巡で鈴麗が切った牌でエミリーから親倍を直取りした。

 

 東一局三本場。

 既に場には{②}が四枚捨てられていた。咲が二枚、エミリーが二枚だ。

「(これ、使えないよね…。)」

 鈴麗が引いてきたのは{①}。しかし、自分の手牌は平和系。

 初牌だったが、{①}を抱えていては当然手が進みにくい。それに、何とかして咲の親を流したい。

 それで、鈴麗は{①}を切ったが、

「カン!」

 それを咲が大明槓してきた。

 再び、副露牌に乗って咲のオーラがカナコの方に飛んできた。

 この時、カナコに見えた幻影は、床の底が抜けて落下し、その下で巨大な水生肉食生物が口を広げてカナコが口の中に飛び込んでくるのを待っているような感覚。

「(チョロ…。)」

 カナコの括約筋が緩んだ。

「(ヤバヤバヤバヤバ ヤンバルクイナ!)」

 ここで大放水したらマズイ。

「(ダメダメダメダメ ダルメシアン!)」

 カナコは、両手を股に当てて必死に堪えた。

 

 一方の咲は、嶺上牌をツモると、

「ツモ! ダブ東中混一チャンタ嶺上開花ドラ1。24900!」

 そのまま嶺上開花で親倍を和了った。当然、これは鈴麗の責任払いになる。

 

 東一局四本場。

 既にカナコからは戦意が消えていた。戦意が恐怖に負けたのだ。

 前局、カナコは、なんとか耐え切った………いや、厳密には少しだけ漏れ、

『やっチーター!』

 とは思っていたし、まともに失禁する直前までイッてしまった。

 

 咲は、『日本の守護神』とか『嶺の上の女王』とか言われているが、巷では別の呼び名もある。

 悪魔の紋章………そして死神である。

 カナコは、それを思い出していた。

 殺し屋と呼ばれる自分を精神的にここまで追い詰めるとは………やはり咲は死神………いや、それ以上だ。

 もはや、破壊神と言うべきだろう。

 

 フレデリカに似た顔の少女、宮永咲。

 まさに、今のカナコにとっては、咲はブラック・フレデリカと言うべきか。

 今の状況が辛い。

 思わず、

「つらたん。」

 カナコの口から言葉が漏れた。

 

 

 場の雰囲気が急に変わった。

 カナコの戦意喪失と同時に、彼女のステルスが消えたのだ。

 

 ここからは、普通の四人麻雀だ。もう、咲はカナコのマイナスの気配を気にする必要は無い。

 

 咲は、

「カン!」

 二巡目で鈴麗が捨てた{一}を大明槓した。

 嶺上牌は有効牌。そして打{③}。

 

 続いて咲は、

「ポン!」

 エミリーが捨てた{中}を鳴いた。

 

 数巡後、

「もいっこ、カン!」

 咲は{中}を加槓し、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {白}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然の如く、咲は嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {九九北北}  暗槓{裏白白裏}  明槓{裏中中裏}  明槓{一一横一一}  ツモ{九}

 

「白中混一混老対々三槓子嶺上開花。12400オール!」

 これで、鈴麗とエミリーの点数は14700点まで落ち込んだ。

 一方のカナコも、必死に放水を堪えた。何とか巨大湖形成には至っていない。

 

 そして、東一局五本場。

「カン!」

 七巡目で咲が{西}を暗槓した。

 この時、カナコには、遥か数十キロメートル先に巨大小惑星が落下し、とんでもない爆風が自分に襲い掛かってくるような幻………悪夢を見ていた。

 その熱い爆風に煽られながら見える光景………それは、地が割け、そこからマグマが噴出してくる地獄と化した地球。

 まさに破壊神によってリセットされつつある世界の様子だ。

「(チョロ…。)」

 またもや、カナコの括約筋が緩んだ。

「(ダメダメダメダメ ダルメシアン!)」

 両手で股を押さえて、カナコは必死に耐えた。

 

 それを横目にしながら、咲は嶺上牌をツモり、

「ツモ! 四暗刻!」

 役満を和了った。




おまけ

怜「園城寺怜と。」

爽「獅子原爽の。」

怜・爽「「オマケコーナー!」」

怜「例の伏字のヤツでな、上品なのを二つ考えたんや。」

爽「どんなの?」

怜「まずば、ア〇テラス!」

爽「ええと、これは…、アマテラスとアステラスかな?」

怜「正解や! それからな、もう一つ。し〇ふ〇じん!」

爽「これは、片方は七福神だろうけど、もう一つは?」

怜「獅子奮迅や!」

爽「おお! でも、こんなこと言ってくるってことは、もしかしてハヤリ20-7が化けてるんじゃない?」

怜「それはない。それにしてもハヤリ20-7はスバラやったな!」

爽「もうクソスバラだね!」

怜「竜華でも勝てんわ。」

爽「あんなの体験しちゃうと、もう後戻りできないよね!」

怜「せやな…。ある意味、怖い体験やな。もう、普通の生活に戻れなくなるわ。」

爽「たしかにね。」

怜「そしたら今日は、あったら怖い体験談でも考えてみよか?」←精力を全部吸い尽くされて下品ネタが考えられない

爽「たまには、そう言うのもイイね。」←同上

怜「なんか無いかな?」

爽「じゃあ、あったら怖い体験談。火災で逃げ遅れた人の失敗談。」

怜「それって絶対ありえへんやろ? 失敗談語る以前に死んどるやないか?」

爽「そう! だから、あったら怖い体験談。」

怜「たしかに怖いわ、それ。そう言えば、昔、新宿火災なんてのもあったな。たしかあれは、2001年か?」

爽「ところで私達は、2020年で18歳なのか、連載開始当時で18歳なのか、どっちだろ?」

怜「それは難しいところやな。でも、三次元世界とは別の時間軸と考えなあかんやろな。」

爽「まあ、それは置いといて。」

怜「置いとくんかい!」

爽「置いとかないと話が進まないからさ。」

怜「せやな。」

爽「でね、ふと思い出したんだけど、私の知り合いがさ、新宿火災があったあの日に、火災があったビルの向かいの地下で飲んでたらしいんだよ。」

怜「それは、ちょっと間違ってたら火災のあったビルにいたかも知れへんてことか?」

爽「そうかもね。でね、そこで友人達の飲んでたら、『火事だ!』って言って入ってきた男の人がいたんだって。」

怜「ほお。そこの客に火事を教えに来たんやな。」

爽「ところが、誰も外を見に行こうとしなかったんだって。てんで無視。」

怜「何人か見に行ったんとちゃう?」

爽「それが、パッと店の中を見た感じ誰も動かなかったらしい。少ししたら、その男の人もいなくなちゃってね。」

怜「呆れて出てったんやろな?」

爽「かもね。知り合いの人は、まあ、本当に火事があったら火災報知器とか鳴るだろうし、店の人が誘導するだろうしって思って、店の中にいたらしいんだけどね。」

怜「まあ、うちも多分、そうするやろな。」

爽「それに、別にその店が火事になったわけでもなかったからね。ガセネタだったのかなぁ…なんて思ったらしい。」

怜「ホンマに火事やったのにな。反対側は。」

爽「で、もういい加減遅いし、みんなでタクシーでも拾って帰ろうかってなって店を出たら、警察官とかいっぱい来ていて、火災の跡に近づけないように、道路には「keep out」のテープみたいなのが張られていたらしい。」

怜「へっ?」

爽「もう、道路のね、火災があったのと反対側ギリギリしか歩けないような感じでテープが張られてたって。」

怜「マジなん、それ?」

爽「マジなんだけどね。それで、その知り合いの人が友人達にさ、
『火事だ!』
って言いながら店に入ってきた奴がいたなって言ったんだけどね。
そしたら、その友人の一人が、
『そんな人いた?』
って聞き返してきたって?」

怜「は?」

爽「つまり、火災があったこと、誰も聞いてなかったってことだよ。もしかしたら、他の客も聞いてなかったってことかな?」

怜「つまり、もし、その知り合いの人がいたビルで火災が起きていたとしても、みんな本気にしなかったり聞いて無かったりで逃げ忘れ、そのまま死んでしまうってことやな?」

爽「多分ね。もしかしたら火災があったビルでも、殆どの人がそうだったんじゃないかななんて思った。」

怜「それはそれで怖いな。」

爽「怖いよね。」

怜「でもな、もしかしたら、その話、別の意味で怖い話かも知れへんで。」

爽「どゆこと?」

怜「もしかして、その『火事だ!』って言って入ってきた男の人、向かいのビルにいて火事で焼け死んだ人の幽霊やないか?」

爽「えっ?」

怜「せやから、その知り合いの人には聞こえていたんやけど、他の人には聞こえてへんかったってことや。」

爽「そう言った考えまでは、思いつかなかったな。でも、それって有り得るよね。」

怜「もしかしたら、そっちの方が怖いかも知れへんな。怪談的には。」

爽「そうだね。でも、現実的には『火事だ!』って言って入ってきた人の声を誰も聞こうとしなかったことの方が問題と言うか怖いけどね。」

竜華「怜。お疲れ。」←大きなスーツケースを持って入ってきた

怜「おお、竜華か。」

誓子「爽も、お疲れ。」←同上

爽「誓子か。でも、なんでここに?」

誓子「二人のコーナーがどんなものかを見てみたくて。」

爽「別に大したこと無いけどね。それにしても、誓子、少しウエストが太くなってない? 胸も少し縮んだみたいだし、あれ? 脚も五センチくらい短くなったような…。」

怜「そう言えば竜華も、太ももが少し硬くなったような感じが…。」

竜華「うちらは、全然変わってへんよ。変わったのは、二人の感性の方とちゃう?」

竜華は、そう言うと持ってきたスーツケースを開けた。
すると中には一体のハヤリ20-7が収められていた。
しかも電池切れなのか、全く動こうとはしない。

誓子も、同様にスーツケースを開けた。
やはり中には一体のハヤリ20-7が収められていた。
こっちも電池切れっぽい。


取扱説明書:ハヤリ20-7は、男女問わず理想の相手に変身することができます。しかもパーツごとに設定可能です。

取扱説明書:電池切れを起こした場合、元の姿に戻ります。


竜華「怜が言ってる太ももの柔らかいうちってのは、この泥棒ネコがうちに化けた姿とちゃうん?」

誓子「もっと脚が長くてウエストが細くて胸がある私って、このダッチ〇イフが私に化けた姿のことよね!?」

怜・爽「「え…えっとう…。」」

竜華・誓子「「これって、どう言うこと!?」」

怜・爽「「(ヤバい、浮気がバレた。)」」

竜華・誓子「「何か言ったらどう!?」」

怜・爽「「(もしかして、これが一番怖い体験談じゃないだろうか?)」」

竜華・誓子「「二人とも!」」

怜・爽「「ごめんなさい。」」←やけにあっさり認めた


その後、怜と爽は竜華と誓子から謹慎処分が言い渡された。


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九十二本場:世界大会16 神vs咲?

両頭愛染のくだりは六十七本場をご参照ください。


「16500オールです。」

 この咲の和了りで鈴麗とエミリーが箱割れして後半戦が終了した。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:咲(日本) 332500

 2位:カナコ(ドイツ) 71100

 3位:鈴麗(中国) -1800(席順により3位)

 4位:エミリー(アメリカ) -1800(席順により4位)

 

 そして、前後半戦の合計は、

 1位:咲(日本) 484800

 2位:カナコ(ドイツ) 222800

 3位:鈴麗(中国) 47200

 4位:エミリー(アメリカ) 45200

 日本チームが二つ目の勝ち星をあげた。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼を終え、中堅選手達が卓を離れた。

 対局室の前には、既に恭子が咲を迎えに来ている。

「コーチ。」

「咲、お疲れさん。それにしても、光のアドバイスどおりとは言え、あんな風にできるんやから、やっぱり咲は凄いなぁ。」

「でも、もしコーチが私と同じ打ち方が出来たら、多分、最初からやっていたのでは無いでしょうか?」

「分からんわ。」

 

 咲と恭子が対局室から離れようとした丁度その時だった。

 二人の横をフレデリカが通り過ぎた。

 まるで咲に似た威圧感…。

 恭子は、

「(こいつが、咲の…。)」

 息を飲み込んだ。

 

 

 ****************************************

 

 ******************************

 

 ********************

 

 

 ソウルに入ったその日、恭子は空港でドイツチームのメンバーを見た。

 特に会話をしたわけではない。単に遠目に見たに過ぎない。

 その時、恭子は、フレデリカに対して、

「(あの娘、咲に似てるなぁ。)」

 くらいにしか思っていなかった。

 

 その晩、ホテルの一室で恭子が慕とオーダーの打ち合わせをしていると、

「失礼します。」

 淡が訪ねてきた。

「どうかしたんか?」

 と淡に恭子が聞いた。

「監督とコーチは、私の能力の起源についてご存知ですよね?」

「まあ、最初は信じられへんかったけどな。」

 慕と恭子は、淡の能力が異星人によって与えられてことを合宿中に聞いていた。

 まさか、こう言った形で地球外生命体の存在を知らされるとは…。

 

 阿知賀女子学院に出入りするようになってから、恭子は神や蔵王権現、邪神の存在を教えられた。

 さらには口寄せと言った超常現象まで目の当たりにしてきた。

 そして、異星人…。

 この話を聞かされた時、恭子は、その超常っぷりに驚きはしたが、

「(またか…。)」

 既に超常現象には耐性ができていた。

 なので、取り乱すほど大騒ぎはしなかった。

 

「それで、実は、私に能力を授けてくれた異星人からのメッセージで、ドイツチームのフレデリカについてなのですが…。」

 自由奔放な淡が、珍しく敬語を使っていた。この時、恭子は、それだけ重々しい内容なのだろうと直感的に思っていた。

 …

 …

 …

 

 淡が異星人から告げられたこと………、それは高校二年の淡や咲が生まれた年、つまり17年前まで遡る。

 

 咲が三ヶ月検診を受けた時だった。

 他の赤ん坊とは別の部屋に咲は連れて行かれ、そこで皮膚片を採取された。

 普通、三ヶ月検診でそんなことはしない。全くの意味不明だった。

 

 その皮膚片は、その後、ドイツに運ばれた。そして、そこからiPS細胞が作り出され、咲のクローンが誕生した。

 そのクローンこそがフレデリカだった。

 

 さすがに、これには慕も恭子も驚いた。

 淡が地球外生命体とコンタクトを取っていると聞かされた時以上の衝撃だ。

 同時に恭子は、このフレデリカ誕生の経緯こそが、小蒔に降りた最強神の言葉の真意………咲のことを両頭愛染の片割れと比喩した件に他ならないと理解した。

 つまり、日本チームのエース、咲を金剛界最高位の明王である不動明王に、ドイツチームのエース、フレデリカを胎臓界最高位の明王である愛染明王に喩えたのだ。しかも、敢えて両頭愛染の片割れと表現することで、二人が元は一人だったと伝えたかったのではないだろうか。

 とは言え、本来は不動明王と愛染明王が合体した姿が両頭愛染であって、両頭愛染が不動明王と愛染明王に分離したわけではないので、厳密には最強神の表現は正しくないのだが、イメージとしては分からなくもないだろう。

 

 フレデリカ誕生は、どうやらドイツの国家プロジェクトだったようだ。

 そして、この出来事を裏で取り仕切っていた人物の中にニーマンの名前があったらしい。

 

 咲の細胞が選ばれた理由は、咲の親が、ニーマンが実力者と認めた数少ない女性雀士だったからである。

 勿論、他にも皮膚片を採取された少女はいたが、ニーマンが満足できるだけの能力を有していたクローンはフレデリカのみであった。他のクローン少女達は、既に麻雀から離れているらしい。

 

 その後、フレデリカは、ニーマンの知人に預けられ、その夫婦の子として育てられた(夫が日本人とドイツ人のハーフ、妻が日本人)。

 国家プロジェクトとして誕生した子なのだから、戸籍は国のほうで巧く作ってくれる。当然、フレデリカ誕生に関わった人間以外、フレデリカは、その夫婦の実子としか思えないだろう。

 勿論、フレデリカ自身も、自分が両親とは血の繋がっていないクローンであることを知らない。両親の実子と思い込んでいる。

 

 そのプロジェクトに関わった人間以外で、このことを知っているのは、今のところ淡、小蒔、神楽、それと照魔鏡で真実を知ってしまった照の四人だけ………いや、ここで慕と恭子に告げられたので計六人になった。

 しかし、オリジナルのDNAを持つ咲は、このことを知らない。

 多分、絶対に教えてはならないだろう。

 

 このことを聞かされて、何故、小蒔に降臨する最強神がフレデリカとの対局に固執するのかが分かった。公式の場での四度目の咲との対決を望んでいるのだ。

 厳密には咲ではなく、咲のクローンだが、本質は咲と変わらないだろう。

 当然、小蒔とフレデリカの対局は、インターハイ個人戦や国民麻雀大会(コクマ)での咲vs小蒔の再現とも言える。

 対戦成績は、今のところ咲の全勝。

 しかもフレデリカは、ニーマンの指導を受けている可能性が高い。もしかすると咲でも勝てないかもしれない。

 となると、副将戦はドイツチームに勝ち星を持って行かれる可能性が高い。

 

 決勝進出を果たせたならば、それを考慮した上でオーダーを組む必要がある。当然、目指すは大会二連覇。

 それで慕と恭子は、この段階では先鋒光、次鋒咲、中堅衣、副将小蒔とし、先鋒から中堅で優勝を決めるつもりでいた。

 衣の入院で状況が変わってしまったが…。

 

 

 ********************

 

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 フレデリカが、卓に付いたまま全身硬直しているカナコに声をかけた。

「やっぱり魔物だったわね。」

「あっ…。」

 やっとカナコは正気を取り戻した。前半戦に続いて二度目である。

「大丈夫?」

「全然大丈夫じゃないかな…。負けちゃった、ゴメン。」

「しょうがないでしょ、相手が悪いって。」

「それはそうでけどね…。もの凄いオーラが飛んできて、何度も死ぬ幻を見させられたもん。」

「殺し屋といわれたカナコがねぇ…。」

「あれは、絶対に破壊神だと思う。ホント、しんどインパラって思った。」

「私も手合わせしてみたいわ。」

「フレデリカだったら、イイ試合ができるかもしれないね。」

「だとイイケドね。」

 

 カナコが席を立ち、そこにフレデリカが腰を降ろした。

 ちなみに、椅子は濡れていない。チョロっと出た分は、カナコのスカートに全部吸収されていたようだ。

「じゃあ、あとヨロシク!」

 そう言うと、カナコは対局室の出入り口に向かって行った。

 

 丁度カナコが対局室を出ようとした時、一人の神々しい雰囲気をまとった巫女服の女性が対局室に入ってきた。

 フレデリカや咲とは違う、別の迫力がある。

 咲が破壊神なら、この女性………小蒔から溢れ出てくるこのオーラは全宇宙を統べる神そのもの。

 創造主だ!

 カナコは、

「(ドキドキドキドキ スッポンモドキ!)」

 その圧倒的な存在感に恐怖を覚えた。

 

 

 小蒔の視線がフレデリカに注がれた。

 既に小蒔には最強神が降臨している。その神が、咲と同じDNAを持つフレデリカに照準を合わせているのだ。

 

 小蒔が静かに卓に付いた。

「日本の王者と同じ起源を持つ者よ。」

 神々しい声だ。

 ただ、この言葉の意味は、フレデリカには分からなかった。

「私?」

「そう。フレデリカとやら。そなたは日本の王者と同じ起源を持つ者。」

「日本の王者って、宮永咲さんのこと?」

「そうだ。」

「じゃあ、私は宮永さんと血縁関係にあるってことなのかな?」

「繋がりはあるだろう。」

「ふーん。」

 この時、フレデリカは咲が遠い親戚なのかなくらいにしか思っていなかった。

 ただ、同時に一応血縁関係があるなら、顔が似ていても不思議では無いかなぁ…とも思ったようだ。

 まさか自分がクローンだなんて思わない。

「私は今まで、日本の王者と三度戦い、三度敗れた。」

「そ…そうなんだ。」

「あの娘は強い。そして、あの娘と同じ起源を持つそなたも強い。」

「あ…ありがとう…。」

「本大会では、今日、そなたと対局ができることをずっと楽しみにしていた。良い試合ができることを期待する。」

「そうね。私も負けられないし!」

 咲と違ってフレデリカは物怖じしないタイプだった。生活環境で性格もかなり変わってくるようだ。

 

 対局室に中国副将の郝慧宇とアメリカ副将のマリー・ダヴァンが入室してきた。

 郝慧宇は、言うまでもなく臨海女子高校への留学生。本大会では中国チームの一員として参加していた。

 マリー・ダヴァンは、昨年インターハイで臨海女子高校の副将として参戦したメガン・ダヴァンの妹。本大会を終えたら日本に留学する予定とのことだ。留学先は姉と同じ臨海女子高校を希望しているそうだ。

 

 郝(慧宇よりも郝の方が分かりやすいため、敢えて郝と記載します)とダヴァン(こちらもマリーよりもダヴァンの方が分かりやすいため、ダヴァンと記載します)が卓に付いた。そして、場決めがされ、起家が小蒔、南家がダヴァン、西家がフレデリカ、北家が郝に決まった。

 

 

 東一局、小蒔の親。

 とんでもないレベルのオーラが、一気に小蒔の身体から放出された。

 フレデリカも、ある程度の予想はしていたが、ここまで強大なモノを受けるのは生まれて初めて経験する。

 いつもは、経験させているほうなのだが…。

 

 小蒔の手牌には、配牌時点で既に萬子が八枚あった。

 そして、一切のムダツモ無しで順調に手が進んでゆく。

 フレデリカは、小蒔の手牌から強大なエネルギーを感じ取っていた。恐らく、先ずは様子見などとは言っていられない状況だろう。

 

 四巡目、

「ポン!」

 一先ずフレデリカは、郝の捨て牌を鳴いて流れを変えてみた。

 これで、たしかに小蒔のツモが変わり、次巡、ダヴァンに行くはずの字牌を小蒔はツモ切りしたのだが………ここでフレデリカは異様なモノを見ることになった。

 フレデリカは本質的に咲と変わらない。当然、牌が透けて見えているのだが………小蒔のツモ牌を変えたら、それに埋め合わせるように次巡以降の山の牌の位置が後付けでズレたのだ。小蒔に必要な萬子が行くように………。

 これは次鋒戦で千里が経験したものと同じだ。

「(この人、マジ!?)」

 フレデリカがそう思ったのも束の間、その次巡で小蒔は萬子の純正九連宝燈を聴牌した。

 そして、そのさらに次巡、

「ツモ! 16000オール!」

 小蒔は純正九連宝燈をツモ和了りした。

 

 東一局一本場、小蒔の連荘。ドラは{②}。

 今回、小蒔の配牌には萬子が三枚しかなかった。一方、筒子は六枚ある。

 小蒔に降りた最強神が毎回、萬子の純正九連宝燈を狙うことを知っている者からすれば、聴牌するまでには時間がかかることは容易に想像がつく。

 しかし、小蒔には毎回違う神が降臨する。

 小蒔の過去の牌譜を見る限り、染め手が非常に多いことに大抵の人は気付くだろう。しかし、毎回必ずしも萬子に染めるとは限らない。

 ちなみに昨年のインターハイ団体二回戦では筒子に染めていた。

 そのため、フレデリカは、この局では小蒔が萬子以外の色に染めてくるだろうと判断していた。

 

 ところが、小蒔のツモは萬子に偏っていた………と言うより、萬子しか無かった。これは、フレデリカの場合、山を見れば分かることだ。

「(どう言うこと?)」

 しかも、小蒔は、それを予見していたかのように筒子から切り出していた。

「(もしかして、この巫女さんも牌が透けて見えているかしら?)」

 どうやら、今は小蒔の本質を探る方が先である。フレデリカは、そう判断した。

 

 小蒔の手作りが遅ければ、郝とダヴァンにもチャンスはある。

 この局、手なりに打って最初に聴牌したのはダヴァンだった。

 ダヴァンは、姉のメガン・ダヴァンと同じデュエルの能力を有する。当然、彼女が聴牌した時に他家で聴牌している者がいれば、その存在を的確に察知できる。

「(ワタシが最初のテンパイですか…。)」

 一先ず、ダヴァンはダマ聴で待った。

 

 ダヴァンの手牌は、

 {②②②③④22334467}

 

 幸い、平和タンヤオ一盃口ドラ3のハネ満手で既に和了り役もある。ムリにリーチをかける必要は無い。

 

 そして、数巡後、小蒔が聴牌したのをダヴァンは感じ取った。

「(来る!)」

 当然、ここで小蒔がテンパイに取りデュエルになるとダヴァンは思った。

 しかし、小蒔はダヴァンの方を見てニヤリと笑うと、敢えて聴牌に取らずに一向聴を維持した。ここで聴牌に取ると、小蒔はダヴァンに振り込む。それを知っていたからだ。

 そして、次巡、今度は郝が聴牌した。

 

 郝の手牌は中国麻将の手役になっていた。

 今回は、

 {四五六④④⑤⑤[⑤][⑤]⑥⑥48}  ツモ{6}

 {8}切りで、絶幺、一般高、四帰一、三色三同順の手となる。

 当然、郝は{8}切りの聴牌を選択した。

 

 しかし、これで、

「ロン! 12300デース!」

 ダヴァンに和了られた。

 

 

 東二局、ダヴァンの親。ドラは{一}。

 ここでも小蒔は配牌に萬子が二枚しか無い状態で萬子染めに行く。

 一般には不可解にしか感じないが、フレデリカは、

「(もしかしたら、今回は萬子にしか染めないケースなのかしら? そう言う牌譜もあったしね。)」

 今日の小蒔の本質に辿り着きつつあった。

 

 一方、ここでは郝が早々に聴牌していた。

 彼女の手牌は、

 {一二三①②③123西西發発}

 {西}と{發}のシャボ待ち。しかも、{西}は郝の自風のため、どちらで和了ってもチャンタ三色同順役牌でハネ満になる。

 中国麻将では、三色三同順、全帯幺、五門斉となる手。

 

 続いてダヴァンが聴牌した。

「(中国の人がテンパイしてますね。なら…デュエルです!)」

 ダヴァンは、

「リーチ!」

 {西}を切ってリーチした。{西}は一枚切れで、安牌のつもりで持っていた。

 しかし、

「ロン! 12000!」

 これで郝に狙ったかのように和了られた。前局でダヴァンが直取りした分の殆どを、この和了りで取り返されたことになる。

 

 

 東三局、フレデリカの親。

「(何となく分かった。日本の巫女さんは、萬子の九連宝燈を連発するパターンね。なら、ここからは私も本気で行くよ!)」

 フレデリカがオーラを全開にした。

 それは、破壊神とカナコに比喩された咲のオーラと極めて酷似していた。

 これを見て小蒔は、

「いよいよですね。」

 と言いながら嬉しそうな笑みを浮かべていた。




おまけ

流れ二十八本場の続きです。

憧 -Ako- 100式 流れ二十九本場 マホ&一太

マホ「ただいま。」

マホ「まだ一太さんは帰ってきていませんね。では、今日は私が夕食の準備をして待っていましょう。」


いつもなら、一太は十九時くらいには帰ってくる。しかし、何故か今日に限って中々帰ってこない。
気が付くと、もう二十三時を過ぎた。何の連絡も無く、この時間になっても帰ってこないなんて珍しい。
既に憧110式ver.マホが作った料理も冷め切っている。


取扱説明書:憧シリーズは一流料理人の技術をAI学習させております。

取扱説明書:憧シリーズは基本的に夜行性です。これは、憧110式ver.マホも例外ではありません。

取扱説明書:エネルギーが100%充填されていれば、憧シリーズは一週間くらいエネルギー補給しなくても活動できます。


マホ「何かあったのでしょうか?」


憧110式ver.マホは、一太が事故にでも巻き込まれたのでは無いかと心配しながら、食事に手をつけずに、ずっと起きて待っていた。
時間が経つのが遅く感じる。
夜って、こんなに長かったのか………。

夜が明けた。
時計の針は、八時を回っていた。

突然ドアが開き、一太が部屋に入ってきた。


マホ「お帰りなさいです。」


しかし、一太は憧110式ver.マホのことを無視して布団を敷くと、その上に座り込んだ。ただ、動きがいつもの比べて粗野だ。
こんな雰囲気の一太を見るのは憧110式ver.マホとしては初めてだった。
いつもの優しい雰囲気の欠片も無い。


マホ「どうかしたんですか? それにお酒臭いです。」

一太「…。」


一太は、徹底して憧110式ver.マホのことを無視し続けた。
そして、カバンの中から包みに入った箱を取り出すと、包みを乱暴な手つきで破り捨て、箱の中のモノを取り出した。
それは、紛れもなく『オ〇ホ』だった。


取扱説明書:憧シリーズは、他の性欲処理具に対して異様なほどのライバル感情を示しますのでご注意ください。

取扱説明書:他の性欲処理具のご利用は、必ず憧シリーズの目の届かないところでお願いします。


マホ「それ、なんですか!?」

一太「今日は、これを使うんだ。」

マホ「それってオ〇ホですよね。」

一太「そうだね。」

マホ「ここに、もっと高性能な性欲処理具。自律型ダッチ〇イフがいるんですよ! なのに、なんで!?」

一太「これなら絶対に裏切らないから。」

マホ「マホだって裏切ったりしません。マホは、一太さんだけのダッチ〇イフです。」

一太「じゃあ、公園のトイレで何してたのさ。」

マホ「えっ?」

一太「何人もの男子を相手に何をしていたのさ。」

マホ「それは………。」

一太「Hなことをしていたんじゃないのか?」

マホ「別に、手でしていただけです………。」

一太「他の男子に奉仕してたんだろ!」

マホ「でも、イケナイところは使っていません。」

一太「だけど、男達を性的に楽しませていたのは事実だろ。それって裏切ったってことなんじゃないのか?」

マホ「そんなつもりは………。」

一太「だから、今日は僕もこれを使って…。」

マホ「やめてください。」


憧110式ver.マホが、一太から強引にオナ〇を取り上げた。
ただ、その時、憧110式ver.マホの目は涙で濡れていた。
ダッチ〇イフが泣くとは…。
ここまで人間らしく出来ているとは、とんでもない高性能だ。
改めて憧シリーズ製作者、阿笠博士の才能は素晴らしいと思う。


マホ「ごめんなさい。でも、マホには一太さんしかいません。だから、もう他の男の人には奉仕したりしません。だから、許してください。」


取扱説明書:インプリンティング機能発動後、憧シリーズはオーナー以外は眼中に無くなります。

取扱説明書:ただ、憧110式ver.マホだけは子供のため、許容される範囲をオーナーが学習させる必要があります。


一太「…。」

マホ「それと、一太さん、嫉妬してくれたんですよね?」

一太「別にそんなんじゃ…。」

マホ「マホ、それだけ一太さんに想っていただけて、とても幸せです。」

一太「…。」

マホ「マホは一太さんだけのものです。だから、ダメなことはダメって言ってください。それと、一太さんのお〇〇〇〇も、マホだけのものです!」

一太「別に、他に欲しいって人はいないし………。」

マホ「それと、このオナ〇。マホにいただけませんか? 一太さん以外でマホに奉仕を求めてきた男の人には、これを遣ってもらおうと思いまして…。」

一太「…。」

マホ「あとですね。マホ、夜通しでずっと待ってたんですよ。一太さんのお〇〇〇〇!」

まこ「いきなり来たか! ここからはカットじゃ!」


まこの能力で、危険なシーンはカットされた。

一応、ご都合主義な部分もあり、一太は元のサヤに、マホは元のサオに収まった。


翌日、憧110式ver.マホは、いつもの公園にいた。
彼女を取り囲む小学生男子達が、いつものように公園のトイレへと誘い込もうとした。
しかし………、


マホ「やっぱりマホは、全部一太さんのものです。だから、皆さんには、もう奉仕してあげられません。」

男子達「ええっ!?」

マホ「なので、代わりにこれを使ってください!」


憧110式ver.マホが男子達に渡したモノ。それは例のオ〇ホだった。
まず、少年Aが………、


まこ「彼らがそれを使うのもワープじゃ!」


元太「おい、早くしてくれよ。まだかよ。」

光彦「元太君は、僕の後ですよ! いいですね!」

少年A「あべし!」

少年B「ひでぶ!」

少年C「たわば!」

少年D「うわらば!」

少年E「へげえ!」

少年F「どぉえへぷ!」

少年G「イッてれぽ!」

光彦「おぼあはっ!」

元太「とぼあ!」


今日も仲良く、少年達は断末魔の声を上げていた。




続く


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九十三本場:世界大会17 スピード勝負

 フレデリカの纏う雰囲気は、最高状態の咲のそれと非常に酷似していた。

 恐ろしいまでの支配力。

 凄まじい存在感。

 郝もダヴァンも、その強大なパワーに押さえつけられているような感覚しかない。

 ここに来て、全然、配牌とツモが噛み合わず、ただツモ切りと言う名の単純作業を繰り返すだけの状態に落ち込んでいたのだ。

「「(こいつの支配か?)」」

 しかも、それを打ち破る手立てが見つからない。

 鳴ける牌も何故か出てこないのだ。

 

 そうこうしているうちに七巡目。

 フレデリカは{1}を引いて聴牌すると、もともと手牌の中で四枚揃っていた{發}を、

「カン!」

 暗槓した。

 そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! 發ツモ嶺上開花。60符3翻は3900オールです。」

 親満級の手を軽々と和了った。

 しかも、高い手を和了ったにも拘らず、喜んでいる雰囲気も感じられない。

 和了られた郝やダヴァンの目線からは、

『これくらいの和了りは当然!』

 とでも言いたそうにも見えるだろう。

 当然のことだが、二人にとっては嬉しくない和了りだ。

 

 東三局一本場、フレデリカの連荘。

 最強神が降臨した小蒔の手は、一応、順調に萬子に染まって行く。フレデリカの支配力でも最強神のツモが崩れることは無い。

 一方の郝とダヴァンは、またもや配牌とツモが噛み合わず、ただツモ切りを繰り返す状態となっていた。

 二人の心の中が、どんどん焦る気持ちで支配されてゆく。

 

 七巡目。

「カン!」

 前局と同様に、フレデリカが{發}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 やはり嶺上開花で和了りを決めた。

「發ツモ嶺上開花三色ドラ1。6100オール。」

 しかも親ハネツモ。

 これで郝とダヴァンは、共に75000点を割った。

 

 もし、これが25000点持ちの対局ならば、二人共、ここで箱割れして終了である。魔物二人が暴れたら、残る二人は当然こうなるのだ。

 

 この二局で、フレデリカは、和了り方も仕草も、咲と非常に似通って見えた。この様子を見て、小蒔に降りた最強神は、

「やはり両頭愛染の片割れだな。もう一人の片割れと同じ空気を感じる。」

 とフレデリカに言いながら、非常に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 ただ、咲と同じで、フレデリカにも最強神の言葉の意味が全く理解できなかった。

 そもそも、フレデリカは愛染明王のことも両頭愛染のことも知らない。

 普通はそうだろう。しかも、西洋で生まれ育っているのだから尚更と言えよう。

 

 東三局二本場。

 ここでは二巡目にいきなり、

「ポン!」

 ダヴァンが捨てた{東}をフレデリカが鳴いてきた。ダブ東である。

 

 次巡、

「ポン!」

 小蒔が捨てた{①}をフレデリカが鳴いた。

 そして、その数巡後、

「カン!」

 フレデリカが{①}を加槓した。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {東}を加槓した。嶺上牌は{東}だったのだ。

 その次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 フレデリカは{西}を暗槓し、続く嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然の如く嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {②②③③}  暗槓{裏西西裏}  明槓{①①横①①}  明槓{横東東東東}  ツモ{②}

 

「ダブ東混一対々三槓子嶺上開花。8200オールです。」

 ドラ無しの親倍だ。

 この『ドラは不要』と言わんばかりの逆転手は、まさに咲そのものの和了り………咲そのものの麻雀であろう。

 当然、この様子をテレビで視ていた華菜は、

「どうして宮永が神代と打ってるし!?」

 ありがちな誤解をしていた。

 まあ、見た目も打ち方も似ているのだから仕方が無い。こればかりは、華菜のことを責めても仕方が無いだろう。

 

 これで副将前半戦の順位と点数は、

 1位:フレデリカ(ドイツ) 138900

 2位:小蒔(日本) 129700

 3位:ダヴァン(アメリカ) 66000

 4位:郝(中国) 65400

 三連続の和了りでフレデリカが首位に立った。

 

 小蒔の表情から笑みが消え、突如フレデリカに向ける視線が今までに無いキツイものへと変わった。

 これはこれで当然であろう。日本で咲と対局して勝てなかった最強神が、フレデリカを相手に雪辱しようとしているのだから………。

 しかし、そんなことはフレデリカには分からない。

「(すっごい怖いんですけど…。)」

 そう心の中で言葉を漏らしながら、フレデリカは、何気に小蒔から視線を逸らした。

 

 東三局三本場。ドラは{西}。

 フレデリカが親になって三連続で和了っている。しかも、全て中盤に入ってすぐの和了りだ。

 

 この時、小蒔の配牌は、

 {一一三六九九②⑦49西北中}

 

 ここから九連宝燈を聴牌するには最低でも七巡かかる。門前清一色を作るのも同じだ。

 しかし、萬子の染め手でも、それが混一色七対子であれば、もっと早い巡目………四巡目で聴牌できる。

 小蒔に降りた最強神は、フレデリカの親を流すため、ここでは敢えて混一色七対子に方針を切り換えた。

 

 一巡目、小蒔のツモは{三}。打{②}。

 

 二巡目、小蒔のツモは{六}。打{⑦}。

 

 三巡目、小蒔のツモは{西}。打{4}。

 

 四巡目、小蒔のツモは{北}。打{9}。

 

 そして、五巡目、小蒔は{中}をツモり、

「ツモ! 混一七対ドラ2。4300、8300!」

 倍満を和了って、長かったフレデリカの親を流した。

 

 この和了りで順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 146600

 2位:フレデリカ(ドイツ) 130600

 3位:ダヴァン(アメリカ) 61700

 4位:郝(中国) 61100

 小蒔がフレデリカを追い抜いて再びトップに立った。

 

 

 東四局、郝の親。ドラは{④}。

 フレデリカは、小蒔から放たれる強大なオーラを感じながら、

「(今のこの状態。カナコだったら、

『ドキドキドキドキ スッポンモドキ!』

 とか言うんだろうな。)」

 なんてことを考えていた。

 まあ、既にすれ違った時に言っているが………。

 

 フレデリカには、特段、逆転されたことによる精神的な焦りとか揺らぎは今のところ無かった。

 ただ、小蒔が怖い。できれば視界から消したいとは思っていた。

 

 この局のフレデリカの配牌は、

 {二三四②②②②3336北白}

 運は落ちていないらしい。二向聴の手だ。

 

 第一ツモは{7}。

 当然、フレデリカは、

「カン!」

 暗槓した。

 嶺上牌は{北}。

 新ドラは、残念ながら{九}で乗らなかったが、こうなれば、取るべき方法は一つ。

「リーチ!」

 フレデリカは聴牌即リーチをかけた。

 この場合、先に槓が入っており、一巡過ぎたことになるためダブルリーチは成立しない。

 

 次巡、フレデリカは{3}をツモり、

「もいっこ、カン!」

 二つ目の槓子を晒した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま当然の如く嶺上牌で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四67北北}  暗槓{裏②②裏}  暗槓{裏33裏}  ツモ{8}  ドラ{九}  裏ドラ{七}  槓ドラ{2}  槓裏{⑧}

 

「リーツモ嶺上開花。60符3翻は2000、3900。」

 しかも、自身の槓では全然槓ドラも槓裏も乗らないところも咲にそっくりだ。

 とは言え、それでも満貫級の手を和了ってきた。

 

 小蒔は、まだ首位を保っているとは言え、このフレデリカのスピードは無視できない。やはり、フレデリカの親を流した時のように、九連宝燈に拘らずに和了りに行かなければならないだろう。

 

 

 南入した。

 南一局、小蒔の親。ドラは{②}。

 

 ここに来て小蒔の配牌は、

 {一五九②⑤⑦⑧124589西}

 萬子が三枚しかなかった。

 

 最強神は筒子や索子の染め手には進めない制限をかけている。

 つまり、最強神は萬子の染め手以外の手であればもっと早く仕上がる場合でも、ムリヤリ萬子に染め上げなくてはならない。

 せっかくの親番で、この制限は痛い。萬子の混一色を目指しても、聴牌した時には最短でも十巡目になっている。

 しかし、この制限は絶対である。

 小蒔は第一打牌として、いきなりドラの{②}を切った。

 

 一方のフレデリカの配牌は、

 {三四五③④④[⑤]888東北白}

 今回も二向聴だ。

 

 フレデリカの第一ツモは{⑤}。ここから打{東}。

 

 第二ツモは、タンヤオ手への移行を考えればムダツモにはならない{六}。打{白}で、一向聴維持だが絶好のツモと言える。

 

 そして、第三ツモは{③}。これで聴牌。

 当然、{北}を切って、

「リーチ!」

 早々とリーチをかけた。

 

 相手の和了り牌が分かる小蒔は、当然振り込むことはない。

 ダヴァンも郝も、一先ず現物切りで対応した。

 しかし、次巡、

「カン!」

 フレデリカは{8}をツモって暗槓し、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五六③③④④⑤[⑤]}  暗槓{裏88裏}  ツモ{六}  ドラ{②}  裏ドラ{南}  槓ドラ{1}  槓裏{西}

 

「リーツモタンヤオ嶺上開花一盃口赤1。3000、6000。」

 ここでも、やはり自身の槓では全然槓ドラも槓裏も乗っていない。しかし、それでも、この序盤で余裕のハネ満ツモ和了りは大きい。

 

 これで順位と点数は、

 1位:フレデリカ(ドイツ) 150500

 2位:小蒔(日本) 138600

 3位:ダヴァン(アメリカ) 56700

 4位:郝(中国) 54200

 フレデリカが再逆転してトップに躍り出た。

 

 郝もダヴァンも心中穏やかでは無い。

 二人とも、互いにハネ満を直取りし合っただけで、それ以外は小蒔とフレデリカに高い手をツモ和了りされまくっているだけである。

 その結果、既にフレデリカに90000点以上の差をつけられている。

 

 次はダヴァンの親番。

「(今までのマイナス分を取り返さなければナリマセン!)」

 ダヴァンは、気合いを入れ直すと、卓中央のスタートボタンを押した。

 

 

 南二局、ダヴァンの親。

 当然、ダヴァンにとっては、絶対に和了って小蒔やフレデリカとの点差を少しでも縮めたいところ。

 しかし、世の中は、そんなに甘く無い。相手が神と超魔物なのだ。

 いくら気合を入れたところで、その歴然とした力の差は埋めることが出来ない。

 結局、今までどおりの配牌、今までどおりのクソツモである。

 

 一方の小蒔は、萬子が多い配牌………、

 {一一三[五]七九九②⑥79北白}

 

 ここから、最短ルートで順調に手を伸ばして行った。

 ただし、九連宝燈でも清一色でもない。飽くまでもフレデリカとのスピード勝負に勝つことが最重要との判断だろう。手役を下げて萬子の混一色狙いで進めている。

 しかも、東三局三本場の時と同じで、最速の聴牌を狙った門前混一色七対子だ。

 一切ムダツモが無く、たった四巡で聴牌し、続く五巡目で、

「ツモ! 3000、6000!」

 小蒔は、混一色七対子赤1をツモ和了りした。

 

 この和了りで、順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 150600

 2位:フレデリカ(ドイツ) 147500

 3位:郝(中国) 51200

 4位:ダヴァン(アメリカ) 50700

 再び小蒔が逆転し、トップの座に付いた。

 しかし、たった3100点差である。まだ、小蒔とフレデリカのどちらがトップを取るかは分からない。

 

 一方の3位争いも500点差と激化している。

 もっとも、こちらは全然和了れなくて、ただ毟られているだけなのだが、それでも両者にとっては少しでも多く点を残したいところだ。

 

 

 南三局、フレデリカの親。

 言うまでも無く、小蒔としてはフレデリカに連荘させてはならない。勿論、ここでもスピード勝負で、最短の混一色七対子での和了りを狙う。

 

 今回の小蒔の配牌は、

 {一一四九九④⑦18東南北中}

 

 前局と比べて萬子が少ないが、その分、字牌が多く、最速で四巡目で聴牌できる。

 当然のことながら、最強神による萬子染め手に向けた超鬼ツモで、今回も一切のムダツモ無く、たった四巡で聴牌した。

 そして、

「ツモ! 3000、6000!」

 当たり前のように、小蒔は、ツモ混一色七対子のハネ満を和了り、フレデリカの点差を21100点まで広げた。

 

 フレデリカが小蒔を逆転するためには、小蒔からハネ満を直取りするか、三倍満をダヴァンか郝から和了る、あるいは三倍満のツモ和了りが必要となる。

 しかし、最強神が降りた小蒔は、聴牌した者の和了り牌を完全に見抜く。よって振り込むことは無い。

 と言うことは、フレデリカの逆転は、いずれにせよ三倍満を和了るしかない。

 

 

 オーラス、郝の親。ドラは{發}。

 フレデリカは、

「ポン!」

 いきなり郝の第一打牌の{北}を鳴いた。

 そして次巡、

「ポン!」

 今度は小蒔が早々に捨てた{③}を鳴いた。

 

 ここでも小蒔は萬子の混一色七対子狙いだ。今のフレデリカに勝つには、それ以外に方法が見当たらない。

 しかし、その数巡後、まさに小蒔が聴牌したその直後のことだった。

「カン!」

 フレデリカが{③}を加槓した。

 しかも、ここに来て、フレデリカの全身から放出されるオーラが、今までに無く強大になっているのを小蒔(最強神)は感じ取っていた。




おまけ


今回は、本編とも麻雀とも全く関係ないお話です。

去年、『三国志~司馬懿 軍師連盟~』を見て、
「そう言えば、昔、司馬懿を使って書いたっけ。それを練り直してみようか。」
と思い、書いてみました。
ただ、司馬懿がどんな人格の人間か分からずに書いております。その点は、ご容赦ください。

正直、咲-Saki-を敢えてネタにする必要も無い御堅いストーリーです。
苦手な方はスルーしてください。



世界大会二日目の夜。
咲はホテルでテレビを見ていた。

咲「あっ! これって…。」

三国志を元に製作されたSFだった。
しかも、オチはヒドイとの噂だ。

一応、日本語の字幕が出るらしい。




三国帰一

1.タイムワープ失敗

「設定時代、西暦57年。」
西暦21XX年、人類は、既に時空を繋ぐトンネルである四次元ワームホールを自在に通り抜ける技術を身につけていた。
そして、そのことは、これまで化石や遺跡から当時を推察してきた古生物学や考古学に一大革命を引き起こしていた。直接当時の状況を見に行くことが可能なのだから、わざわざ発掘に頼る必要がないのだ。
もはや人類は、100年以上も昔に問題となった発掘捏造事件など起こり得ない時代に突入していた。

当然のことながら、化石も土器などの出土品も学問的価値はグンと下がっていた。
しかし、博物館での展示品としての価値や道楽品としての価値はまだまだ高く、依然、趣味で発掘作業を進める人達の手が止まることは無かった。

エイスリン・ウィッシュアートは、日本が初めて中国に朝貢した光武帝の時代を調査するために、歴史調査員の一人として西暦57年を目指してタイムマシーンに乗り込み、タイムワープに入ろうとしていた。
真っ白な肌に金髪、青い目と、何処から見てもバリバリの白人であるエイスリンだが、日本史と中国史に興味を抱き、高校時代には日本に留学したし、大学では中国語を専攻していた。
自分達とは全く異なる文化を持つ日本や中国にある種の憧れの念を抱いていたのだ。

日本語ではなく敢えて中国語を選択したのは、色々と悩んだ末であった。
世界市場の動向を考えると中国への経済進出が依然高まった状態であり、中国語も話せれば職にありつきやすいと判断したのだ。
結果的に、多少の会話なら日本語も中国語も話せるようになっていた。
そして、今回、中国史調査員の募集を見つけてすかさず応募し、千倍近い競争率の狭き門を通り抜けて光武帝の時代に向かうこととなった。

「タイムワープ、開始!」←オールカタカナですと読み難いので普通に記載します
彼女が意気揚揚とタイムマシーンの出発ボタンを押した。
しかし、その直後、時代設定装置が大きな音を立てて火を吹き始めた。完全に装置の故障である。

それなのに、既にタイムワープそのものは起動していた。
彼女が停止ボタンを押そうとしたのも束の間、タイムマシーンは、そのまま強行突破で時間の波に逆らって四次元ワームホールと言う名のタイムトンネルに突入してしまった。
「ちょ…ちょっと、どうなってんのよ、これ!」
エイスリンは、慌てて何度も停止ボタンを押してはみたものの、完全に機械が言うことを聞かない。
タイムマシーンが自動的に止まるまで、このままタイムワープを続けるしか無いのだ。

肝心の時代設定装置が故障している以上、目的とする時代にきちんとワープされる保証は無い。どの時代に出るのか全く以て見当がつかない状態だった。
勿論、このままワームホールから抜け出せない可能性すらある。
彼女は、もはや天に運を任せる以外に方法は無かった。


暫くして、窓の外から強烈な光が射し込んできた。
時代メーターの数値は、-50,986,233,001年を指していた。
種々学説が唱えられているが、宇宙の年齢は一先ず138億年程度とされる。
どうやら設定装置が故障したのと同時に時代メーターもいかれてしまったようである。

彼女が通信システムのスイッチを入れた。本部と連絡を取れば何とかしてもらえるかもしれない。
しかし、時代メーターが作動しなくては、通信波を送り届ける先の設定ができない。これでは本部との交信すら叶わなかった。

ここが何処なのか、何時の時代なのか全然判らない。
しかも、時代設定装置が起動しないから元に時代に戻る術も無い。彼女は、ただ呆然とするだけであった。


突然、タイムマシーンの扉を何かが強く打ちつけた。
「ガン、ガン、ガン、ガン………。」
しつこく何度も打ちつけてくる。これは、自然のモノと言うよりも何か人為的なモノのように感じられた。

エイスリンは、いったい何が起きたのかと、そーっと扉を開いた。
すると、槍や刀を持った何十人もの男達に、何時の間にかタイムマシーンが取り囲まれていた。
彼らは、見たところ東洋人であった。

青い目に金髪の彼女を見て、その男達は、一瞬恐ろしい物に出会ったかのような反応を示した。
西洋人に出会ったことの無い彼等にしてみれば、彼女の風貌は、まさに常識を超えた鬼か悪魔のような存在にしか思えないのだ。

一方のエイスリンも、知らない男共に囲まれて恐くないはずが無かった。
特に西洋人にとって東洋人の顔は何を考えているのか非常に読み難いのだ。
変質者にでも出くわしたかのように、無意識に胸を両手で押さえながら横に向けて隠したくなる。

彼女の顔に、何気に不安な色が浮かび上がった。
すると、この様子を見た男達は、急にエイスリンの方に押し寄せてきた。彼女が自分達を恐れていることに気付いたのだ。
もし彼女が自分達よりも遥かに強い鬼のような存在であれば、決して自分達を恐れるような素振りを見せるはずがない。

ただ、もし一対一でエイスリンに出会ったのなら、彼等はエイスリンに近付こうとはしないだろう。
むしろ、後ずさりさえするはずである。
エイスリンが彼等に感じている以上に、彼等も初めて目にする白人に恐怖心を抱いているはずなのだ。
そう簡単に警戒心を解くことは無いだろう。

しかし、集団になると、その恐怖心も消える。それどころか、相手をなめてかかろうとさえするのが人間の集団心理である。

エイスリンが、タイムマシーンの中に引っ込もうとしたこの時であった。
近くまで来て扉を激しく叩いていた東洋人が、彼女の腕を掴んでタイムマシーンの中から強引に引き摺り出した。
彼は、そのまま彼女を地面に押さえ付けると、彼女の服を剥ぎ取ろうと胸の辺りに手を伸ばした。周りの男達も、武器をその場に置いて下半身を出そうとしている。

何時の時代でも、合戦直後のゴタゴタの中で兵士達が生き残った敵地の女性を慰み者にすることは少なくなかった。
エイスリンもまた、その対象として彼等の目に映ってしまったようだ。
「どうしてこんな…。」
エイスリンは、一気に絶望の縁に追いやられた。
後漢時代の日本と中国の動きを調べるつもりで意気揚揚としていたはずだったのが、瞬く間に想像もしていなかった方向へと無理矢理引き込まれて行ったのだ。

するとこの時、何処からとも無く力強い男の声が聞えてきた。
「お前達。やめろ!」
この声を聞いて、男達は、取り繕ったように服の乱れを直し、地に置いた武器を拾い上げた。
しかも、この言葉は間違い無く彼女が専攻していた中国語であった。

彼女の上に覆い被さっていた男も、その声を聞くや否や彼女から離れ、まるで何事も無かったかのような顔で他の男達の中に紛れ込んで行った。

馬に乗った一人の男が、彼女の前に降り立った。
「大丈夫か?」
さっきの力強い男の声である。
彼女が、声のする方を見上げると、そこには髭を生やし、鋭い目付きをした四十歳代の男の姿があった。
「珍しい髪の毛をしているな。それから、その瞳も初めて見る色だ。名前は何と申す?」
「エ…エイスリン…。」
「エイスリンか。珍しい名だな。私は、司馬懿仲達。訓練中の部下達の無礼をお許し下され。それにしても、そなたは何処から来たのだ? 私が見ていたところ、急に目映いばかりの光に一帯が覆われて、その中からそなたの乗り物が出てきたように思うが。」
「…。」
エイスリンは、思わずを飲み込んだ。
時代設定装置の故障によりタイムワープの軌道がズレて三国時代に来ていたのだ。
しかも、司馬懿仲達は、後に晋を建国する司馬炎安世の祖父であり、当時の三国時代にあった中国において、司馬一族の地位を魏の中心的存在にまで引き上げた超重要人物なのだ。

エイスリンは、司馬懿に下手に答えることが出来なかった。
まさか、当時の人間に未来から来ましたとは言うわけには行かない。この時代の事象を狂わせかねないからだ。
勿論、それ以前にSF的思想などまるっきり開拓されていないに等しい時代の人間に未来から時を越えてきたなど、到底信用してもらえるとも思えなかった。

しかし、既に彼女は、大きく事象を狂わせ始めていた。当時の最重要人物の一人である司馬懿と偶然にも出くわしてしまったのだ。

一方の司馬懿は、何も答えようとはしないエイスリンに不審な何かを感じ取っていた。
「蜀の手の者か? それとも呉か?」
「い…いいえ…。」
「では、何処から来た?」
「そ…それは…。」
「答えられぬか?」
「…はい…。」
「しかし、そなたが呉蜀の者ではないという保証は無い。その乗り物と共に魏王のところまで来てもらう。」
司馬懿は、刀を抜くとエイスリンの胸元に突き付けた。
彼は、女性を慰み者にするような低俗且つ下等な一部の雑兵達とは違い、格も品もある男だが、注意深さも当代一であった。
少なくとも彼等にとって訳の分からない存在であるエイスリンを、おいそれと野放しにするつもりなどさらさら無いのだ。

更に、彼はエイスリンが乗ってきたタイムマシーンも魏王のところに運ぶよう部下達に命じた。
しかし、雑兵が何十人何百人と集まったところで、二十二世紀の科学力がぎっしり詰まった超重量の機械を持ち上げることは、残念ながら不可能であった。

やむをえず司馬懿は、数人の部下にタイムマシーンを誰にも触らせないよう見張りに付けて、エイスリンを自分の馬に乗せて城へ向かって走り出した。




続く


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九十四本場:世界大会18 ダメダメダメダメ ダルメシアン

 フレデリカのオーラが際限なく上って行く。

 彼女は、嶺上牌………{北}を掴むと、

「もいっこ、カン!」

 そのまま{北}を加槓した。

 そして、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{3}を暗槓し、そのさらに次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然の如く和了った。

 しかも、その牌が何であるかを目視確認どころか盲牌さえもせず、それが何であるかを事前に知っていたと言わんばかりに手牌を開いた。

 

 開かれた手牌は、

 {三三發發}  暗槓{裏33裏}  明槓{③③横③③}  明槓{北北北横北}  ツモ{三}  ドラ{發}

 

「北対々三槓子三色同刻峰上開花ドラ2。4000、8000。」

 十翻の倍満だった。あと1翻つけば三倍満だったが、力及ばずと言ったところか。フレデリカの逆転劇には至らなかった。

 最初に鳴けたのが{北}ではなく{發}だったなら…。いや、それこそ{發}以外の何かが槓ドラで乗れば数え役満になっていた手だ。

 しかし、それは結果論に過ぎないだろう。副将前半戦は、フレデリカの倍満ツモ和了りで終了となったのだ。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 158600

 2位:フレデリカ(ドイツ) 157500

 3位:ダヴァン(アメリカ) 43700

 4位:郝(中国) 40200

 何とか小蒔が首位を守る結果となった。

 

 

 ここで一旦休憩に入った。

 フレデリカは、急いで控室に戻った。仲間達の顔を見て、少し安心したいとの気持ちがあったのだ。

 彼女は、鬼神のような強さを誇っているが、それ故に、今までは格下しか相手にしてきていない。

 つまり、小蒔のような強大な相手は初めてだったのだ。

 いくら超魔物でも、やはり中味は女子高生である。何事にも微動だにしない強い精神力を、まだ持ち合わせていなかった。やはり、小蒔の最強神バージョンが発するオーラには、フレデリカとしても脅威を感じていたようだ。

 

 控室に入ると、フレデリカは、

「なんか、あの日本の巫女の人、すっごく怖いんだけど!」

 と第一声を上げた。

 そして、

「もう、カナコだったら絶対、ドキドキドキドキ スッポンモドキって言ってると思う!」

 と言いながら近くのソファーに勢い良く座った………と言うか飛び乗った。

「あの巫女でしょ?」

「そう。」

「実はさ、私。対局室を出る時にすれ違ってさぁ。ドキドキドキドキ スッポンモドキって思ってた。」

「やっぱりそうなんだ!」

「でも、フレデリカも対局中は、あれ以上のオーラを普通に出してるけどね。」

「えっ?」

「もう、ウソウソウソウソ コツメカワウソってくらい。」

「マジで?」

「うん。マジマジマジマジ アルマジロだよ。」

「そんな…。私って、あんな感じの可愛くない系だったの?」

 たしかに、自分のオーラは自分では感じない。なので、自分がどの程度、相手にプレッシャーをかけているかなんて知らない。

 しかも、

「まあ、全然可愛くないよね。」

 これは次鋒だった千里の言葉。カナコに同意している。

「言えてる。背後に死神が立ってま~す! ってくらいの怖さだね。」

 そして、これは大将で出場する栄子の言葉。やはりカナコへの同意組だ。

 さらに、

「今は馴れたケド、本当に漏らすくらいに怖いネ。」

 ローザも『可愛くない』に同意している。

 完全に満場一致だ。

「ガーン。嘘でしょ…。」

 フレデリカは、自分が毎回、相手に恐ろしいまでのオーラをぶつけていることを初めて知らされて、ちょっとショックを受けたようだ。

 

「でさあ。あの巫女さんが私に、両頭愛染の片割れって言ってたんだけど、意味不明なのよね?」

 すると、これを聞いて栄子が、

「それって、不動明王と愛染明王が合体した姿でしょ。」

 とフレデリカに言った。どうやら、栄子は神仏に比較的詳しいようだ。

「なにそれ?」

「曼荼羅って知ってる?」

「あの観音様とかがいっぱい描いてあるヤツ?」

「そう。でね、お釈迦様クラスを如来って言って、菩薩より位が上になるんだけど、如来の中のトップが大日如来って言うの。その大日如来の教令輪身が…。」

「なに、その教令輪身って?」

「んーとね。観音様とかは、優しさを持って相手に接するけど、中には優しくすると、イイ気になるヤツっているジャン?」

「まあ、結構いるね。」

「そう言う人達を怖い姿で導くのが教令輪身。つまり明王なわけ。」

「ふーん。」

「で、曼荼羅には金剛界と胎臓界の二つがあるんだけど、金剛界曼荼羅で大日如来の下に描かれているのが不動明王、胎臓界曼荼羅で大日如来の下に描かれているのが愛染明王なのよ。」

「じゃあ、不動明王と愛染明王が、それぞれの曼荼羅の中で一番の教令輪身ってこと?」

「そう言うことだろうね。」

「なるほどね…。それから、あの巫女さんには、『日本の王者と同じ起源を持つ者よ』とも言われた。」

「じゃあ、フレデリカは宮永さんと親戚か何かってこと?」

「多分…。」

 まあ、親戚ではなくコピーなのだが、さすがにそこまでは常識的に考えないだろう。遠い親戚くらいに思うのが普通だ。

「だとすると、日本とドイツのそれぞれの世界で、宮永さんとフレデリカがトップで、しかも二人は血が繋がっているって意味じゃない?」

「私もそんな気がするんだけどね…。」

「本気で顔も似てるし。」

「それには、私も驚いてるよ。」

 フレデリカの表情が、随分と和らいできた。やはり、チームメートと話をしてガス抜きできたのは大きいと言えよう。

 

「それにしても日本チームって妙に怖くない? 私が相手した、あの大三元オモチ、変に迫力あったし。」

 こう言ったのは千里。玄に勝てたとは言え、ずっと大三元へのプレッシャーがかけられていた厳しい戦いだった。

「ほんと、ゲロこわーだよね。私の相手、宮永はフレデリカと打ち方もオーラも似たようなものだったし。それに後半戦じゃ全然相手にならなかったし、『つらたん』って思った。」

 カナコは、まさか咲にあんな形で敗北を喫するとは思っていなかった。

 前半戦では、何とか互角に渡り合えたと思っていたところ、後半戦ではステルスを掻い潜っての、まさかの二人トバし。

 その圧倒的な力を目の当たりにした衝撃は大きかった。

「先鋒のミナモ・ニーマンも、元ドイツチームのエースだけあってフレデリカに近い恐ろしさがあったヨ。あれだけリードしたのに………。」

 ローザ自身も、序盤の圧倒的リードをひっくり返されるとは思っていなかった。

 あのまま勝てると思っていただけに、光の底力には、今になって恐ろしいモノを感じてならない。

 

 ドイツチームが優勝するためには、フレデリカの勝ち星が必須である。

 チームメートの期待が、嫌でもフレデリカの双肩に重く圧し掛かってきた。

「(せっかくみんなの顔を見てリラックスできたと思ったのに…。逆効果だったかな?)」

 負けられない対局を目の前にしても、いつもなら、もっと精神的に余裕があるのだが、今回の相手は最強神。

 再び、巨大なプレッシャーがフレデリカに襲い掛かった。

 

 

 この頃、ダヴァンは対局室外の通路に置かれたソファーに腰を降ろし、神妙な顔をしていた。

「(このままではマズイデース。)」

 現在、日本チームの勝ち星が二つ、ドイツチームの勝ち星が一つ。

 しかも、副将前半戦では、日本チームがダヴァンに大差をつけてトップを取った。

 このまま後半戦でも小蒔に走られ、勝ち星を取られたら、その時点で日本チームの優勝が決まる。

 仮に副将前半戦2位のフレデリカが、後半戦でトータルの点数を逆転したとしても、日本チームとドイツチームのどちらかが優勝するのが確定するだけで、自分達の優勝は無い。良くて3位にしかなれない。

 

 副将前半戦までの各チームの総合点は、

 1位:日本 1238500

 2位:ドイツ 966500

 3位:中国 328700

 4位:アメリカ 266300

 既にアメリカチームは日本チームに1000000点近い差をつけられている。

 

 アメリカチームの優勝条件は、副将戦と大将戦で勝ち星をあげ、しかも日本チームとの途方も無い点差を逆転することだ。

 もはや絶望的………いや、論外と言うべきか?

 しかし、諦めたらそれで終わりだ。

 

 ダヴァンは、両手で両腿を強く叩くと、

「ヨシャー!」

 大声を上げて気合を入れ直した。

 

 

 郝は、この時、ダヴァンから少し離れたところ………通路の日の当るところにいた。

 中国チームはアメリカチームより、総合点で60000点程度上回っているが、優勝条件となるとアメリカチームと大同小異である。

 ここからの大逆転劇は、誰の目から見ても無謀とも思えるだろう。

 しかし、郝としても諦めたら終わりだ。

 ダヴァンのように大声を上げることは無かったが、郝もまた、密かに勝利に向けて気合を入れ直していた。

 

 

 相手チームの三人が対局室から退出していたが、この時、小蒔は卓に付いたまま静かに精神統一していた。

 このまま後半戦でもフレデリカを凌ぐ戦いが出来れば、最強神は初めて咲のDNAに勝利することが出来る。

 同時に日本チームの優勝も決まるが、最強神にとってはチームの優勝はどうでも良いことだった。

 飽くまでも目指すのはフレデリカに勝つこと。それだけだった。優勝は、オマケで付いてくるモノ程度の認識であろう。

 

 

 対局室に、フレデリカ、ダヴァン、郝の三人が戻ってきた。そして、三人とも前半戦で座ったところに付くと、順に場決めの牌を引いていった。

 後半戦は、フレデリカが起家、南家がダヴァン、西家が郝、北家が小蒔に決まった。フレデリカ以外は、席が全員入れ替わる。

 

 

 東一局、フレデリカの親。

 相変わらず、小蒔のオーラがキツイ。

 カナコには自分もあれと同等以上のモノを発していると言われたが、フレデリカ自身、受けるのは今日が初めてだ。

「(みんな…。)」

 当然のことだが、負けるわけには行かない。

 妙に緊張してきた。こんなことは初めてだ。

 対外試合で、同年代を相手に僅差とは言え前半戦でトップを取れずに折り返すことは、今まで一度も無い。

 フレデリカは、精神面で自分が押されている………気合負けしているのに気が付いた。

「(こんなんじゃダメ。これじゃ、カナコに『ダメダメダメダメ ダルメシアン!』って言われちゃう。しっかりしないと!)」

 欧州の試合では、いつも余裕で打っているフレデリカが、珍しく自らの両頬を叩き、気合を入れ直した。

 そして、いつもの最上級オーラを放ち始めると、小蒔のパワーを跳ね返した。

 

 ここでの小蒔の配牌は萬子が三枚に字牌が二枚。

 フレデリカのオーラが影響したのだろうか?

 ただ、少なくとも萬子の混一色に手を進めるにしても結構な時間がかかる。萬子の染め手しか和了れないとは、最強神が自ら課した制限とは言え、ここでは結構な痛手だ。

 

 対するフレデリカの配牌は、

 {二七①①②③⑦⑨119南西白}

 ここから打{西}。

 

 二巡目、フレデリカはツモ{③}、打{南}。

 

 三巡目、ツモ{1}、打{二}。

 

 四巡目、ツモ{⑧}、打{七}。

 

 五巡目、ツモ{②}、一切のムダツモ無く打{白}。

 

 そして、六巡目、フレデリカは{1}をツモると、

「カン!」

 {1}を暗槓し、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①②②③③⑦⑧⑨9}  暗槓{裏11裏}  ツモ{9}

 

「ツモジュンチャン一盃口嶺上開花! 6000オール!」

 出親でのハネ満ツモ。

 この和了りで、フレデリカのプレッシャーも、どうやら吹き飛んだようだ。

 

 東一局一本場、フレデリカの連荘。ドラ{2}。

 ここでも小蒔の配牌は、萬子が三枚、字牌無しと、最強神にとっては手が重かった。

 厳密には、筒子や索子も併用する手に仕上げる分には決して重くはないはずの配牌なのだが、萬子染めに制限をかけている以上、最低でも聴牌までに十巡はかかる。

 

 一方のフレデリカの配牌は、

 {四七九③[⑤]⑦2357東南北中}

 ここから打{北}。

 

 二巡目、ツモ{③}、打{南}。

 

 三巡目、ツモ{⑥}、打{中}。

 

 四巡目、ツモ{6}、打{東}。

 

 五巡目、ツモ{4}、打{四}。

 

 六巡目、ツモ{③}、打{横九}で、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 

 この時、フレデリカの手牌は、

 {七③③③[⑤]⑥⑦234567}

 

 {七}単騎のリーチタンヤオドラ2の手。

 恐らく、普通なら多面聴になってからリーチをかけるだろう。

 例えば{④}を引いて{七}を捨てれば{②④⑤⑦⑧}待ちになるし、{8}が来て{七}を捨てれば{258}待ちになる。

 しかし、フレデリカは手変わりをする必要が無いことを知っていた。

 次巡、{③}を引くと、

「カン!」

 そのまま{③}を暗槓し、引いてきた嶺上牌………{七}で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

「リーツモタンヤオ嶺上開花ドラ2。6100オール!」

 しかも、連続親ハネツモ。

 これでフレデリカは、小蒔に50000点近い差をつけた。

 

 東一局二本場。ドラは{⑧}。

 ここでも小蒔は、手が遅かった。

 一方、

「ポン。」

 ダヴァンが小蒔の捨て牌を鳴いてから、フレデリカも急に配牌とツモ牌が噛み合わなくなった。全ての牌を見通すことが出来ても、欲しい牌を自分のところに持ってくるツモ順に切り替えるためには都合の良いところで鳴けなければならない。

 しかし、そのチャンスが何故か無かった。まあ、こんなこともタマにはある。

 

 この局、最初に聴牌できたのは郝だった。

 郝の配牌は、

 {一三六①②⑧6東東西白白發}

 

 ここからドラの{⑧}切りを含め、殆どムダツモ無く、たった六巡で聴牌した。

 そして、七巡目、

「ツモ!」

 和了り牌の{3}を引き、郝が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①②③12東東東白白}  ツモ{3}

 

 ツモ東チャンタ三色同順のハネ満の手。中国麻将ルールであれば、ここにさらに五門斉が付く。

「3200、6200!」

 これで郝が、フレデリカに前二局で持って行かれた分を取り返した。

 

 

 東二局、ダヴァンの親。ドラは{②}。

 後半戦だけの点数では、現在ダヴァンは小蒔と同じ84700点。

 トップのフレデリカとの差は45400点。

 前半戦の分も合わせると、113800+45400の159200点。

 これを逆転するのは至難の業だ。

 しかし、この親で、なんとかして稼ぎたいところ………と配牌前の段階では誰でも同じ境遇ならば思うことだろう。

 しかし、これが得てして配牌後に希望が打ち砕かれるものだ。

 

 ダヴァンの配牌は、

 {二八②③⑨179東南西西白中}

 八種九牌。

 ドラがあっても嬉しくない手だ。

 むしろ、ドラの{②}よりもドラ表示牌の{①}の方が欲しかっただろう。それなら、九種九牌で流すことが出来たからだ。

 ルールによっては、配牌八種九牌で流すことが可能だが、この大会では九種九牌でなければ流すことが出来ない。

 一瞬にして気合いが抜けて行くのがダヴァン自身、嫌でも分かる。

 

 これに対し、発散されるオーラが格段に上昇して行くのは小蒔だった。

 どうやら、前三局とは異なり、配牌が急激に良くなったようだ。




おまけ


九十三おまけの続きです。
エイスリン&司馬懿仲達と言うとんでもない組み合わせです。
御堅いストーリーです。苦手な方はブラウザバックをお願いします。



2.身バレ

それから何時間が過ぎたことだろうか。
いつしか日が沈み、辺りは一面真っ暗になった。
街灯も無く、付近の民家から漏れてくる光も無い。

そもそも発電技術などという便利なものがまだまだ地球上には存在せず、灯りは専ら蝋燭に頼っていたのだから、家から漏れるほどの灯りを燈せるような時代ではないのだ。
しかも、満月ならばともかく、今夜はまだ月が出ていない。
唯一、松明の明かりだけが頼りであった。

「開門!」
司馬懿がエイスリンを連れて城の奥へと入って行った。
エイスリンは、馬の背中で長時間揺られて気持ちが悪くなり、もはや吐きそうであった。
こんな状態では、周りを見る余裕も無ければ、まるっきり頭が回らない。今、自分がどの辺りにいるのかさえも全然判らなかった。

しかし、城の奥の部屋に通され、そこに一人の六十代と思われる男性が病床に伏せている姿を見つけた時、エイスリンは全てを理解した。
「仲達か?」
「はい。」
「こんな遅くにどうした?」
「夜分遅くに申し訳ございません。実は、この世の物とは思えない乗り物に乗り、突如強烈な光と共に地に姿を現した異人を捕らえまして。至急、魏王にお目にかけるべきと思いまして。」
「異人だと?」
病床に伏せていた男が、ゆっくりと体を起こした。
そして、まるで獲物を狙う鷹………いや、もっと冷たく攻撃的な蛇にも似た恐ろしい視線をエイスリンの方に向けてきた。
「仲達。異人とは、その者か?」
「はい。」
「青い目に金色の髪の毛か…。これは珍しい…。ううっ…。」
魏王が、急に両手で頭を押さえて苦しみ出した。
時は、建安24年の末(220年初頭)。
時の権力者である魏王、曹操孟徳が洛陽城で病み衰えていた、まさに三国鼎立直前の時であった。

司馬懿が、慌てて曹操の側に駆け寄った。
この時には、既に曹植と曹丕による曹操の跡目争いが終結しており、曹丕が太子として任命されていた。
「魏王。気を確かに…。」
「あ…慌てるでない…。」
この時、曹操の頭痛は並大抵のものではなかった。もはや頭が真っ二つに割れて中味が飛び出してしまうほどに痛烈な痛みであった。

三国志に目を通したことがある未来人のエイスリンには、この後、どのような展開になって行くか、全てが判っていた。
歴史を守るためには、このまま曹操がじわじわ死んでゆくのをほったらかしにしておかなくてはならない。
しかし、病人を前にして、何の言葉もかけずにいられるほど彼女は冷徹になりきれなかった。基本的に人が良いのだ。いや、良過ぎると言った方が正しいだろう。
「だ…大丈夫ですか? あの…、医者には診せたのですか?」
これに司馬懿が答えた。
「診せてはみたが、誰からもさじを投げられた。」
「でも、華陀というお医者様がいらっしゃるはずでは…。」
華陀は、後に中国の医学の神様として祭られた人物であった。
二世紀後半から三世紀前半の現代医学の片鱗すら無い時代に、脳腫瘍をはじめとする重病を正確に診断し、治療する手だてを持っていた。
まさに当時の常識の枠を遥かに越えた神とも言える人物だった。

睨み付けるような目で曹操が答えた。
「華陀だと?」
「はい。」
「あの男なら昨日処刑した。こともあろうに、余の頭を切り開くなどと、とんでもないことを口走ったのだぞ。」
「しかし、彼の言葉に間違いはありません。」
「何? もしや、お前。余の命を狙っているのか?」
「いいえ。そんな滅相も無い…。」
「ならば何故、頭を切り開くことが正しいなどと言うのだ!」
「それは…、魏王の死因が悪性脳腫瘍と、後の…私の生まれた時代では結論付けられているからです。」
「お前が生まれた…後の時代だと?」
「はい。」
この時代に生きる人間には、エイスリンの言葉は理解し難いものがあった。
後の時代と言うからには、エイスリンは未来から来たことになるのだ。当然、この時代に時間を超えるなどという発想は無い。

曹操も三世紀の常識の中で生きていた。なので、エイスリンの言った『後の時代』という台詞を到底信じようとはしなかった。
「何か、妄想にでも取り憑かれているようだな。聞いちゃいられん…。」
彼は、再び横たわると、そのまま死んだように一気に深い眠りへと入って行った。

しかし、司馬懿は、その時代の常識に押さえつけられてしまうようなタイプではなかった。蜀の名軍師『諸葛亮孔明』ですら恐れていたほどの才能の持ち主なのだ。
「もしかして、エイスリンとやら。そなたは、まさかとか思うが未来から来たのか?」
これには、エイスリンも迂闊に返答できずに困ってしまった。
恐らく司馬懿ならば、この時代の考え方にとらわれずに正当に彼女が未来から飛んできたことを受け止めてくれるだろう。
だったら下手に嘘をつかずに『はいそうです』と言ってしまえば、蜀や呉の回し者ではないことが理解されるし、もっと待遇が良くなるかもしれない。
しかし、未来から来たことが判れば、司馬懿ならば十中八九、曹操が今後どうなるかとか、魏・呉・蜀の三国の行方を教えるよう、刀をちらつかせながら彼女に聞いてくるに違いないだろう。

タイムトラベラーにとっては、その時代に起きることを事前に当時の人間に教えるのは御法度である。教えた時点で、その時代の人間が、その事象への対応を事前に考えることとなり、歴史の歯車が狂ってしまうのだ。

普通なら、その時代に干渉せずに元の時代に帰れば良い。
しかし、エイスリンの場合、タイムマシーンの時代設定装置が壊れてしまった以上、元の世界にタイムワープ出来ないし、連絡を取ることすら出来ない。
もはや彼女には、この場で自害して歴史への干渉を最小限に留めるか、それともこの時代を生きる全ての人々から離れ、山奥でひっそりと暮らして行くか、どちらかの道を進む覚悟をしなくてはならなかった。

そうは言っても、二十二世紀の科学世代に育った彼女が山奥で原始人生活を営めるはずは無い。それに、彼女には自害する勇気も無い。
いっそのこと、この時代の人間になりきってしまってはどうだろうか?
そんな考えが一瞬彼女の頭の中を横切った。

勿論、彼女がこの時代の人間になりきってしまったとしても、彼女と出会う人間全員の人生に何らかの影響は出る。それが、結果的に少しずつ歴史を侵食して行くことになるだろう。
つまり、タイムトラベラーが、行き着いた時代の人間として生きて行くことは許されない行為なのだ。
しかし、この時代で生きることを一瞬とは言え考えた時、彼女は静かに小さく首を縦に振っていた。
「…はい…。」
「では、エイスリンとやら。魏王は治るのか?」
「い…いいえ…。悪性脳腫瘍が原因で、年が明けたらまもなく…。」
「ちょっと待ってくれ。年明けって、もうすぐじゃないか。それに何なんだ、その悪性脳腫瘍とか言う奴は? 関羽の祟りではないのか?」

健安24年12月(220年1月)に劉備玄徳の義弟、関羽雲長が麦城で呉の孫権によって打ち首にされた。
その首は、あたかも曹操の命令によって呉が関羽を殺したかのように見せるために曹操の元に送り届けられた。
その首を見た直後、劉備最大の敵曹操は急に激しい頭痛に襲われるようになり、一気に病み衰えて行った。つまり、今がこの時だ。
現代医学の存在しないこの時代、曹操の奇病を誰もが関羽の祟りと信じて疑わなかった。

勿論、司馬懿とて同じであった。
切れ者ではあったが、当時の科学力を遥かに超えた二千年後の考えを持つことなど、どんな天才にも不可能なのだ。むしろ悪性脳腫瘍を診断できた華陀の方が異常である。
エイスリンは、静かに首を横に振った。
「祟りではありません。れっきとした病気です。しかも…、恐らく華陀というお医者様からも言われていたかと思いますが、大脳にデキモノが出来ているのです。」
「大脳?」
「はい。」
「何だ、その大脳とか言う物は?」
「大脳は、頭の中にある器官で、人間の意思、行動…、生命活動全てを司ります。大脳は、言わばその人間そのものでもあるのです。今、魏王は、その大脳に悪性の腫瘍ができております。その腫瘍を取り除かなければ確実に死にます。」
「そなたの言うことは、私には理解しかねるが、先人の知識を積み重ねた後の時代の人間が言うことだ。間違いは無いだろう。しかし、エイスリンとやら。そこまで分かっているのなら、お前の力で何とか魏王を治すことはできないのか?」
「…。」
司馬懿が刀に手を伸ばした。
「できないのか?」
「で…できなくはありません…。しかし、私が手を出せば、未来が全て変わってしまいます。」
「そんなことは、我々の知ったことではない。とにかく今は、魏王の命こそが大事なのだ。頼む、エイスリン。魏王をお救い下され。」
司馬懿は、刀から手を離すとその場に正座して、まるで神を崇めるかのようにエイスリンの前で両手を付いた。

恐れ多くも彼は、当時の魏の中核と言える人物の一人である。
その男が、少なくとも現代よりも男尊女卑的思想の強い時代の中で、しがない一人の女性に懇願しているのだ。
彼女は、どうしてもドライになりきれなかった。
頼まれたら、なかなか嫌とは言えない性格のようだ。
「では、魏王をタイムマシーンまでお連れ下さい。」
「タイムマシーン?」
「はい。私が時空を超えて乗ってきた乗り物のことです。」
「あの部下に見張らせている巨大なカラクリのことだな。」
「はい。」
「しかし、魏王の御身体は、かなり弱られておる。あそこまでお連れすることができるのだろうか?」
「では、タイムマシーンをここまで移動しましょう。」
「移動? しかし、あのカラクリは、あれだけの部下を使っても動かすことができなかったのだぞ!」
「それは、中からロックをかけていたからです。私が操縦して運びますから。」
「し…しかしだな…。」
「大丈夫です。信じられないかもしれませんが、タイムマシーンは私の乗り物なのですから…。」
「分かった。では、早速だが、宜しく頼む。」
司馬懿は、エイスリンを馬車に乗せると大急ぎで洛陽城を飛び出し、タイムマシーンが置かれた場所へと馬を走らせた。




続く


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九十五本場:世界大会19 九連宝燈再び

 副将後半戦東二局、小蒔の配牌は、

 {一一二三八九九③⑥37東發}

 混一色七対子まで四向聴の手だった。

 

 第一ツモは{二}、ここから打{⑥}。

 

 二巡目ツモは{三}、打{3}。

 

 三巡目ツモは{八}、打{③}。

 

 四巡目ツモは{東}、当然、打{7}。

 

 そして、五巡目ツモは、和了り牌の{發}。

「ツモ! 3000、6000!」

 全くムダツモ無しで、たったの五巡で小蒔はハネ満ツモ和了りを決めた。

 

 

 東三局、郝の親。

 ここでも小蒔は配牌に恵まれた。

 東一局から東一局二本場までの重い手牌が嘘のようだ。

 

 小蒔の配牌は、

 {一一四[五]九九②⑨48東東中}

 

 第一ツモは{一}、ここから打{4}。

 

 二巡目ツモは{東}、打{8}。

 

 三巡目ツモは{中}、打{②}。

 

 四巡目ツモは{九}、当然、打{⑨}。

 

 この時点での小蒔の手牌は、

 {一一一四[五]九九九東東東中中}

 

 たった四巡で東門前混一色三暗刻赤1を聴牌した。

 そして、次巡も全くのムダツモ無しで{三}を引き当て、

「ツモ! 東メンホン三暗刻赤1。4000、8000!」

 倍満をツモ和了りした。

 

 東初の時とは異なり、完全に流れはフレデリカから小蒔のほうに流れていた。

 その起点となったのは、恐らく東一局二本場でのダヴァンの鳴き。

 フレデリカは山を自分に都合の良い形にする力を持っているが、その能力に小蒔の霊力が負の干渉を起こしているのかも知れない。

 少なくとも今は、フレデリカ自身、十分な力を発揮できていないようだ。

 

 まだ逆転こそされていないが、フレデリカは、このままでは後半戦も小蒔に持って行かれる危機感を覚え始めた。

「(なんとか流れをこっちに取り戻さないと………。そのためには、先ずはチャンスを掴まないとね。)」

 流れを変える起点は、いくらでもある。

 それこそ、さっきのダヴァンの鳴きのように、チーやポン一つで流れがまるっきり変わることもあるし、人によっては、何故か理牌しなくしただけで流れが変わることもある。信じられないことだが………。

 他にもチョンボが流れを大きく変え、これも何故かチョンボした当人にツキが巡ってくるケースすらある。

 

 

 東四局、小蒔の親。

 突然、小蒔から放たれるオーラが、今までの何倍にも膨れ上がった。さすがに、これにはフレデリカも抗える自信が無い。

 

 この局、小蒔の配牌は、

 {一一二四七八九九九④⑥289}

 

 字牌が一枚も無く、しかも萬子に大きく偏っていた。

 まさに萬子の九連宝燈を作ってくれと言わんばかりの手牌だ。

 これを手にして、ここで一気に勝負に出ようと、小蒔に降りた最強神はオーラを最大放出した。

 

 第一打牌は{④}。

 

 二巡目、ツモ{三}、打{⑥}。

 

 三巡目、ツモ{[五]}、打{2}。

 

 四巡目、ツモ{一}、打{8}。

 

 五巡目、ツモ{六}、打{9}で、とうとう萬子の純正九連宝燈を聴牌した。

 そして次巡、

「ツモ!」

 小蒔は萬子を引き当て、親での九連宝燈を見事和了った。

「16000オール!」

 最強神と言えど、点数申告の声に力が入った。これで、咲と同じDNAを持つ少女を逆転するだけに留まらず、大差をつけてリードできたのだから当然かもしれない。

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 160700

 2位:フレデリカ(ドイツ) 107100

 3位:郝(中国) 73500

 4位:ダヴァン(アメリカ) 58700

 

 小蒔が後半戦の流れを掴んだ上に50000点以上の大量リード。

 加えて、前半戦でもフレデリカの最後の和了りはギリギリで三倍満に届かず、結果として、たった1100点ではあるが小蒔がトップ。

 完全に、流れと言うかツキは小蒔のものになっているように思える。

 もはや、小蒔の勝ち星、それすなわち、日本チームの優勝を多くの人達が確実視し始めていた。

 

 東四局一本場、小蒔の連荘。ドラは{西}。

 ここでも小蒔の配牌は萬子に偏っていた。

 これでは、萬子の染め手に向けて一切のムダツモが無い小蒔のスピードにフレデリカも追いついて行けない。

 小蒔は、当然のように手を進め四巡目で既に混一色七対子ドラ2の一向聴まで手を進めていた。

 ところが、同巡、ダヴァンが捨てた{2}を、

「チー!」

 郝が珍しく鳴いた。

 

 この時、郝の手は、

 {①123[5]77899}  チー{横213}

 これは、日本の麻雀ルールでは索子の清一色一向聴である。しかし、中国麻将では一色双竜会と呼ばれる役満級の一向聴になる。

 鳴きが少ない郝でも、この手なら鳴いて行く。

 

 ただ、この鳴きが、流れやツキの歯車を微妙に狂わせた。

 本来であれば、次のツモで小蒔は、混一色七対子ドラ2を聴牌するはずであった。しかし、これでツモがズレて小蒔のツモはムダツモとなった。

 それでも、次のツモ番では強大な支配力によってツモを立て直して聴牌し、そのさらに次のツモ番で小蒔は、

「ツモ! 混一色七対子ドラ2。8100オール!」

 親倍をツモ和了りしたのだが、この時、フレデリカは場の空気に微かな乱れを感じ取っていた。

「(これってチャンスかも?)」

 フレデリカは、いよいよ賭けに出ることを決意した。

 

 東四局二本場。ドラは{⑤}。

 フレデリカの読みどおりだろうか?

 この局は、小蒔の配牌には萬子が三枚しかなかった。しかも字牌は二枚のみ。混一色七対子に持って行くにも九巡目になる状態となった。

 

 八巡目、フレデリカの手牌は、

 {六六六⑥⑥⑥2222566}

 一向聴となった。小蒔から流れが離れた始めた途端に鬼のようなツモである。

 

 同巡、ダヴァンの手牌は、

 {三四[五]⑤[⑤][⑤]⑦33445西}  ツモ{5}

 ここから打{西}で先行聴牌した。

 しかも、タンヤオ一盃口ドラ6の倍満手。

 どうやら、流れがダヴァンにも来ていたようだ。

 

 次ツモで小蒔の手牌は、

 {一一二二九九⑥東東西西白中}  ツモ{中}

 

 {⑥}を切れば混一色七対子聴牌であるが、小蒔は、ダヴァンの顔を見てニヤリと笑みを浮かべると、{白}を切って{⑥}待ちの七対子で聴牌した。

 相手の待ち牌が全て見通せている最強神ならではであろう。

 

 同巡、フレデリカのツモは{北}。ツモ切り。

 

 そして、同巡、ダヴァンは{③}をツモった。当然、ここは{⑦}切りで三色同順を意識する。もし、{④}でツモ和了り出来れば三倍満だ。

 

 次巡、小蒔は{三}をツモると、聴牌形を混一色七対子に切り替えて{⑥}を切った。{⑥}がダヴァンの待ち牌でなくなったのだから当然の動きであろう。

 しかし、次の瞬間、

「カン!」

 これをフレデリカが大明槓した。

 嶺上牌は{6}。

 すると、フレデリカは、

「もいっこ、カン!」

 もともと手の中で四枚揃っていた{2}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌………{6}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 さらに{6}を暗槓し、次の嶺上牌………{[5]}で、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {六六六5}  暗槓{裏66裏}  暗槓{裏22裏}  明槓{横⑥⑥⑥⑥}  ツモ{[5]}

 

「タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。24600!」

 フレデリカは、小蒔から三倍満を責任払いさせた。

 

 とは言え、後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 160400

 2位:フレデリカ(ドイツ) 123600

 3位:郝(中国) 65400

 4位:ダヴァン(アメリカ) 50600

 未だ、小蒔の断然トップ状態のままであった。

 残る南場で、小蒔が首位を守り抜けば、副将戦の勝ち星は日本チームのものとなる。一般的に考えて、まだ小蒔が有利と言ったところだろう。

 

 

 南入した。

 南一局、フレデリカの親。

 出場所最高の三倍満を和了った直後に回って来た親番である。フレデリカにとっては、当然、最高に志気が上がるシチュエーションであろう。

 この立場にあれば、誰でもこの親で連荘して逆転したいと思うだろう。フレデリカとしても例外ではない。ここで一気に稼ぐつもりでいた。

 

 牌牌は、

 {三四五24688⑨東東南南白}

 ここから打{⑨}で二向聴。かなりの好配牌だ。

 

 しかし、二巡目、

「リーチ!」

 ダヴァンが先制リーチをかけてきた。

 通常であれば、ダヴァンは誰かが聴牌するのを待ってデュエルを仕掛ける。しかし、今は、このサクサク手が進んだ流れに任せて一気に和了れると踏んだのだろう、勝負に出た。

 次巡、フレデリカは聴牌したが、その直後、

「一発ツモデース!」

 ダヴァンに和了られた。

「メンタンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」

 しかもハネ満。

 流れはダヴァンにも行っていたのだ。

 

 フレデリカにとっては最悪である。大事な親番を流されてしまった。しかもハネ満の親かぶり。

 しかし、まだ希望の光はフレデリカの目からは失われていなかった。

 場が進むに連れて、むしろ、集中力が増している感じがある。まるで南場の鬼神、南浦数絵を思い起こさせる。

 

 

 南二局、ダヴァンの親。

 当然、ダヴァンは連荘を狙う。

 既に副将戦での勝利は難しいと思うし、チームの優勝、準優勝は、正直なところ非現実的であろう。

 しかし、3位になるか4位になるかは大きい。

 3位ならメダルはあるが、4位ではメダルが無いからだ。

 当然、3位争いは、し烈な戦いとなる。得失点差勝負を視野に入れて、ここから100点でも多く稼ぎたい。

 

 この局、ダヴァンは幸運にも好配牌でスタートすることが出来た。やはり、ツキは自分にある。

 しかし、これを邪魔するものがいる。

 小蒔が捨てた{④}を、

「ポン!」

 フレデリカが鳴いて流れを変えてきた。

 しかも、その直後、

「ポン!」

 フレデリカは、郝が捨てた{白}を一鳴きしてきた。

 これで、元のダヴァンのツモは、フレデリカに回ることになる。

 

 実は、フレデリカは、これを狙っていた。

 より流れが来ている者のツモを喰い取ることが、流れを完全に自分のものにする最短方法とも言えるからだ。

 

 数巡後、フレデリカは{④}をツモると、

「カン!」

 それを加槓した。

 嶺上牌は{白}。当然、これを、

「もいっこ、カン!」

 フレデリカは加槓した。

 続く嶺上牌は{⑧}。

 

 この時、フレデリカの手牌は、

 {⑥⑦⑦⑦⑧⑧⑧}  明槓{白白横白白}  明槓{横④④④④}  ツモ{⑧}

 

 白混一色嶺上開花で和了っていた。

 しかし、ここでフレデリカは嶺上開花を放棄し、

「もいっこ、カン!」

 {⑧}を暗槓した。

 そして、ツモってきた嶺上牌、{⑥}で、

「ツモ!」

 和了りを宣言した。

「白混一対々三槓子嶺上開花。4000、8000!」

 まるで、昨年夏の長野県大会団体決勝大将後半戦で咲が見せたタンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花………最初の嶺上開花を放棄して暗槓し、続く嶺上開花での和了りを決めた奇蹟の闘牌を髣髴させる。

 最強神からすれば、フレデリカが咲と同じDNAを持つ者であることを改めて認識させられるだろう。

 

 この和了りで、後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 153400

 2位:フレデリカ(ドイツ) 133600

 3位:郝(中国) 58400

 4位:ダヴァン(アメリカ) 54600

 小蒔とフレデリカの点差が20000点弱まで縮んできた。

 

 次にフレデリカのハネ満ツモが出れば、小蒔とフレデリカの点差は5000点程度となる。つまり、フレデリカは逆転に向けての射程圏内に入る。

 しかも、ここに来て、この和了り。

 今、流れはフレデリカにあると誰もが信じ切っていた。

 

 既に、副将戦の勝ち星は、小蒔とフレデリカのどちらが取ると言ってもおかしくない。小蒔が逃げ切るか、フレデリカが逆転するか………。

 観衆側も、いよいよ激しく興奮してきた。

 

 

 南三局、郝の親。

 和了りたいのは、小蒔とフレデリカだけではない。激化した3位争いに勝ってメダルを手にするため、ダヴァンと郝も和了りに向けて必死である。

 

 親の郝は配牌三向聴。

 同じくダヴァンも配牌三向聴であった。

 ただ、ツモと配牌が噛み合うかは別である。

 

 フレデリカは配牌四向聴。

 小蒔も、混一色七対子を狙うと仮定した場合、やはり配牌四向聴であった。

 後は、誰が先に和了るか、ただ、それだけであろう。

 

 とは言え、ダヴァンと郝には悪いが、やはり観衆の興味はフレデリカと小蒔のどちらが勝利するかである。

 この二人にフォーカスした場合、向聴数が同じであれば、鳴かれない限り一切のムダツモが無い小蒔が有利であろう。実際に、能力麻雀を知る者の殆どは、そう確信していた。

 そして、まるで、その考えに応えるかのように、

「ツモ! 3000、6000!」

 小蒔は五巡目で混一色七対子をツモ和了りした。

 

 これで、後半戦の順位と点数は、

 1位:小蒔(日本) 165400

 2位:フレデリカ(ドイツ) 130600

 3位:郝(中国) 52400

 4位:ダヴァン(アメリカ) 51600

 前半戦での1100点差も加えると、小蒔とフレデリカの点差は35000点を超える。前局開始時とは打って変わって、日本チーム有利と誰もが思う状態となっていた。

 

 

 オーラス、小蒔の親。ドラは{①}。

 小蒔の第一打牌は{⑤}。最速で逃げ切るつもりで、ここでも最強神は、混一色七対子での和了りを目指す。

 

 一方、フレデリカだが、

「(ここに来て、第一ツモで聴牌………。)」

 咲と同じDNAを持つからであろうか、咲と同等の強運と言うか豪運を持っているようだ。この追い詰められた状態での配牌聴牌。

 しかも、それなりの役がある。

 いや、最後の最後で能力が最高状態に達したと言うべきか。

 彼女は、他家の手牌や山を見ると、

「(これに賭けるしかなさそうね。)」

 第一打牌の{西}を川に置くと、それをそのまま横に曲げ、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。




おまけ


九十四おまけの続きです。
エイスリン&司馬懿仲達と言うとんでもない組み合わせです。
御堅いストーリーです。苦手な方はブラウザバックをお願いします。



3.巨大カラクリ

あれから数時間が過ぎ、時は何時しか明け方となっていた。
エイスリンは、馬車に揺られながら、すっかり転寝してしまった。気が付くと、そこは既にタイムマシーンの目と鼻の先であった。
「エイスリン殿。着きましたぞ。」
「は…はい…。」
エイスリンは、馬車から降りるとタイムマシーンの扉を開け、まるで疲れ切った身体を引き摺って我が家に帰ってきた亭主が、ホッとして見せるような安堵の顔で乗り込んで行った。完全にオヤジ化している。

とは言うものの、彼女にとってタイムマシーンは、もはや自分が生まれた時代を思い起こさせる唯一のものなのだ。
それを考えるとオヤジ化も仕方が無いかもしれない。
「では、司馬懿殿も一緒にタイムマシーンに乗って下さい。」
「私がか?」
「はい。時は一刻を争います。」
「しかし、私は…。」
「タイムマシーンでしたら、ほんの数分で洛陽に着きます。それに、司馬懿殿が一緒にいてくれませんと、洛陽に着いてから、私が呉蜀の人間でないことを誰が説明して下さるのです?」
「わ…分かった。」
司馬懿にとってタイムマシーンは、どのような仕掛けなのか正体が掴めず、この上なく恐怖心を煽る物体であった。
しかし、曹操の命がかかっている今、藁にもすがる心境で、半信半疑な表情を見せながら馬から下りるとタイムマシーンに乗り込んだ。


中に入ると、司馬懿の顔に驚愕の文字が浮かび上がった。
そこは、彼にとって、今までに見たことが無い目映い光に包まれた空間だったのだ。
まず、二十世紀以降の人間達が常識的に使っている蛍光灯の存在に驚かされた。
現代科学の後ろ盾があって生きる人間達には当たり前のことでも、司馬懿が生きる時代では、闇夜を人工的に照らすのは蝋燭とか松明の火くらいなものである。
ところが、それらを遥かに超越した光が天井から射してくるのだから、彼にとっては革命的であった。

しかも、操縦室のあちこちでは、モニター画面やスイッチ類からも煌々と光が放たれていた。
司馬懿には、それらが何を意味する物か見当もつかなかったが、少なくとも惜しげも無く光が放たれてくること自体が想像を遥かに越えたものなのだ。
「こ…これは、いったい…。」
「これが、タイムマシーンです。時代設定装置が故障して、元の時代に戻ることができなくなってしまいましたけど、まだ自動車や飛行機のように移動することくらいはできますから。」
「自動車? 飛行機?」
これらは、司馬懿にとって意味不明の言葉だった。
そもそも、この時代には我々の言う自動車や飛行機の概念すら無いのだ。
「はい。つまり、陸路や空を自由に移動できるということです。」
「空って…、まさか飛べるのか?」
「はい。確か、洛陽は北東の方角でしたよね。」
「あ…ああ…。」
「では、行きます!」
エイスリンが手もとのスイッチをいくつか押すと、物凄い勢いでタイムマシーンが垂直に急上昇し始めた。
そして、高度数千メートルに達すると、音速を遥かに越える超スピードで洛陽を目指して突き進んで行った。


モニターの一つに、タイムマシーンの機体下部から地上を撮影している映像が映し出されていた。
司馬懿は、いつも馬で走っている大地の地形が全て頭の中に入っていたが、それをこんなに高い位置から見下ろすのは生まれて初めてのことであった。

操縦窓の外には、同じ高さのところを雲が通り過ぎて行く。
司馬懿は、今、この時代の人間では絶対に不可能なことを経験しているのだ。

再びモニターを覗き込むと、もう洛陽のすぐ近くまで来ていた。
まだ出発して一分も経っていないのに、これだけの距離を進んでいたのだから、司馬懿は、ただ驚くばかりであった。
「これは…。恐ろしいカラクリだな…。」
「まあ、この時代の科学力から考えればそうなるでしょうね。それで、司馬懿殿。」
「何だ?」
「何処に着陸すれば良いでしょうか?」
「着陸?」
「はい。タイムマシーンを降ろすところを何処に?」
「そうだな…。魏王を余り動かしたくは無いが、下手なところにこのカラクリを降ろしても、人々の不安を煽ることになる。一先ず、私の屋敷の中庭に降ろしてくれ。」
「分かりました。それで、司馬懿殿の屋敷はどちらに?」
「まず、このままの高さで洛陽に入ってくれ。そうすれば、下の者達からは発見し難いだろうからな。それで洛陽に入ったら、一度、この高さのまま止まってくれぬか?」
「はい。」
「そうしたら、この陸を映しているこれ…。」
「モニターですか?」
「モニターと申すのか、これは?」
「はい。」
「洛陽の中心に行けば、このモニターに私の屋敷が映るはずであろう。そうしたら、どこに私の屋敷があるかを説明する。」
「分かりました。」

エイスリンは、そのまま洛陽に入ると、司馬懿に誘導されて彼の屋敷の真上に来た。そしてそこから一気に垂直に急降下し始めた。
これには、司馬懿も一気に顔が蒼ざめて行った。戦慄に震える戦場での空気とは全く異なるタイプの恐ろしさである。
この初めて経験する恐怖に、彼は、ただ身体を硬直させることしかできなかった。

地上100メートル程の高さまで来た時、タイムマシーンが逆噴射を始め、辺り一面に爆音が鳴り響いた。
この爆音を聞きつけて屋敷の中から司馬懿の二人の息子、司馬師と司馬昭が中庭に飛び出してきた。
この時、司馬師は十代前半、司馬昭はまだ十歳にも満たない子供だった。

タイムマシーンは、そのままゆっくりと屋敷の中庭に降りて行った。
一方、司馬師と司馬昭は、訳の分からぬカラクリに、いつでも飛び掛かれるようにと、木の棒を持って構えていた。

タイムマシーンの扉がゆっくりと開いた。
司馬師と司馬昭は、正体不明の巨大カラクリを目の前にしてブルブルと震えていた。
しかし、中から司馬懿が降りてきたのを見て、二人は、ホッと胸を撫で下ろした。

司馬懿は、急降下の際に見せてしまった恐怖にこわばった顔を、決して息子達に悟られまいと、取り繕ったように威厳に満ちた表情を作っていた。
「二人共、どうしたのだ?」
これに司馬師が答えた。
「父上こそ、何故そのようなカラクリに?」
「実はな、魏王の病を治せるかもしれないと言うことでな…。」
タイムマシーンからエイスリンが降りてきた。
初めて見る青い目と金髪に、武器(木の棒)を持つ司馬師と司馬昭の手に自然と力が入った。
これを見て司馬懿は、両手を広げてエイスリンを庇うように二人の前に立ちはだかった。
「二人共。この女性は、時空を超えてやってきたのだ。確かに見るからに我々とは別種だが、れっきとした人間だ。この方が、未来の科学とやらの力を使って魏王の病を治そうと言われたのだ。無礼だぞ!」
「は…はい…。」
この時代、上下関係は今よりもずっと厳しい。
司馬懿がエイスリンを重客として扱う態度を示している以上、司馬師と司馬昭も、それに準じなければならないだろう。
「司馬師、司馬昭。私は、これから魏王をお迎えに上がる。このカラクリの中に魏王をお連れするのだ。」
「「はいっ!?」」
「では、行ってくる。エイスリン殿に無礼の無いよう頼むぞ!」
司馬懿は、司馬師と司馬昭の上に立つものとして威厳に満ちたオーラに身をまといながら急いで馬屋に行き、颯爽と馬にまたがった。
タイムマシーンの中で、さっきまで固まっていたのが嘘のようだ。

一方の司馬師と司馬昭は、状況把握が今一つできないでいた。
そもそも彼等の常識の枠を遥かに越えているのだから無理も無かった。

「はいや!」
司馬懿が、屋敷を飛び出して行った。まだ時刻は午前七時になろうとしているところであった。




続く


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九十六本場:世界大会20 衝撃波

 副将後半戦オーラス。

 この土壇場でフレデリカのダブルリーチ。

 現物は、フレデリカのリーチ宣言牌の{西}だけ。

 一先ず、ダヴァンは持っていた{西}を捨てて一発を回避した。

 郝は、{西}を持っていなかったため、和了られるのを覚悟で不要牌を捨てたが、これでフレデリカに放縦することはなかった。一先ずセーフ。

 小蒔に降りた最強神は、聴牌者の和了り牌を正確に把握する。なので、当然、振込むことは無い。

 

 次巡、フレデリカは{南}を引くと、

「カン!」

 まるで狙っていたかのように{南}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま嶺上開花を決めた。

 問題は、この和了りでフレデリカが小蒔を逆転したかどうかだ。

 

 開かれた手牌は、

 {四五六①①④⑥456}  暗槓{裏南南裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{①}  裏ドラ{9}  槓ドラ{2}  槓裏{北}

 

「ダブルリーチツモダブ南嶺上開花三色ドラ3。6000、12000です!」

 和了ったのは三倍満ツモ。

 

 これにより、後半戦の順位と点数は、

 1位:フレデリカ(ドイツ) 154600

 2位:小蒔(日本) 153400

 3位:郝(中国) 46400

 4位:ダヴァン(アメリカ) 45600

 フレデリカが1200点差で逆転した。

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:フレデリカ(ドイツ) 312100

 2位:小蒔(日本) 312000

 3位:ダヴァン(アメリカ) 89300

 4位:郝(中国) 86600

 たった100点差だが、フレデリカが逆転して勝ち星を取った。

 これで日本チームとドイツチームが共に勝ち星二となった。

 

 この大逆転劇を喰らったが、小蒔………いや、最強神は、フレデリカに対して非常に優しい眼差しを送っていた。今までの怖い雰囲気が嘘のようである。

「さすが、両頭愛染の片割れと言ったところ。やはり、咲と同じ遺伝情報を有するそなたには勝てなかったようだ。ただ、非常に楽しかったぞ。」

「は…はい…。」

「また機会があったら楽しませてくれ。では………。」

 そして、最強神は小蒔の体内から抜け出すと、そのまま天へと戻られた。

 

 次の瞬間、

「済みません、寝てました。」

 小蒔が目を覚ました。まあ、いつものパターンだ。

 この変化に、フレデリカは、

「(なんなの? この巫女さん?)」

 一瞬目が点になったのは言うまでも無い。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の挨拶を終え、副将選手達は対局室を後にした。

 

 

 この頃、病院では、何故か死んだように眠る衣を、その傍で透華が見守っていた。

 ベッドの脇にはテレビが設置され、麻雀大会の映像が流れている。その音だけでも衣に聞かせたいとの透華の配慮だ。

 

 テレビ画面には、対局室に大将選手達が入場してきたのが映し出されていた。

 日本チームからは石見神楽。死者の霊も生霊も口寄せできる能力者。ただ、本大会では女子高生雀士の生霊のみを口寄せしている。

 これは、大会ルールに、

『参加者は高校生のみ。』

『留年や浪人経験者の場合、それらの合計年数が1年の場合は高校2年生まで、合計年数が2年の場合は高校1年生まで参加可能であり、それらの合計年数が3年以上の場合は参加資格は無い。』

 との記載がなされていたためだ。

 万が一、口寄せが見抜かれた場合、参加資格が無い年齢の霊を降ろしていると相手チームから反則行為として訴えられる可能性がある。(んなアホな?)

 

 それを言い出すと、

『小蒔の神様を降ろす行為はどうなるんだ?』

 との議論に発展するが、特に今回の場合、小蒔に降りる最強神がフレデリカとの対局を自ら要望されたことなので、その辺は反則にされないよう、神が上手に取り計らってくれるはずであろう。

 まあ、相手が神なので逆らえない部分はあるが………。

 

 ドイツチームからは園田栄子。

 高校1年時の一学期には清澄高校に在籍し、咲の麻雀に憧れていた女の子。

 父親の仕事の関係で二学期からはドイツに渡り、そこでフレデリカと出会い、能力麻雀に目覚めた。守備型の麻雀を得意とする。

 

 アメリカチームからはシャルロット・ブラウン。そして、中国チームからは趙桂英が参戦する。

 二人共、『通常の』世界大会決勝大将戦に出場するのに相応しいだけの麻雀技量を有する。

 

 四人が卓につき、場決めがされた。

 前半戦は、起家が桂英、南家がシャルロット、西家が神楽、北家が栄子に決まった。

 

 

 東一局、桂英の親。

 先ずは全員、様子見の局だが、起家の桂英は、せっかくの親番である。いきなりパワー全開で対局に臨む。

 桂英は、七巡目で平和手を聴牌すると、

「リーチ!」

 即刻リーチをかけてきた。この局は、攻撃バリバリのスタイルで行くようだ。

 シャルロットは現物切りで一発回避。

 しかし、相手の和了り牌が分かる神楽は、いきなりキワドイ牌を切ってきた。勿論、これで和了られることは無いが、一般には暴牌と思われてもおかしくは無い。

 そして、まるで神楽を真似るかのように栄子も暴牌を切ってきた。ただ、これは桂英の和了り牌ではなかった。

 

 次巡、

「ツモ!」

 桂英が一発でツモ和了りした。

「メンタンピン一発ツモドラ3。8000オール!」

 しかも、いきなりの親倍ツモだ。

 

 この和了りを見て神楽は、

「なかなか力強い麻雀を打つ。ならば、こちらも御戸開きと行こうか!」

 と横柄な口調で、どこかで聞いた感じの言葉を発した。

 今、神楽が降ろしている生霊は、病院で眠っているはずの衣であった。

 つまり、衣は、生霊として神楽の中に入っているため、本体の身体は死んだように眠りこけているのだ。

 

 東一局一本場。

 神楽(衣)は、この局、第一打牌は{白}。

「(前局では最初に切ったのは{中}だったな。まあ、神楽から頼まれていることだからやってはみるが…。)」

 どうやら、何か策を考えているようだ。

 

 その後、神楽は、

「ポン!」

 下家の栄子が切った{中}を鳴き、その数巡後、

「ロン!」

 桂英から和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①[⑤][⑤]⑤⑨⑨東東}  ポン{中中横中}  ロン{東}

 

「東中混一色対々ドラ2。16300!」

 これで神楽は、前局で失った分以上に取り返し、しかもトップに立った。

 

 

 東二局、シャルロットの親。

 ここでの神楽の第一打牌は{中}。

 今回も、

「ポン!」

 神楽は栄子から三元牌の一つ、{白}を鳴き、

「ロン!」

 早々に桂英から直取りした。

 

 開かれた手牌は、

 {四四①①①111南南}  {白白横白}  ロン{南}

 中国麻将なら五門斉が付く手だ。これで中国チームの桂英を撃ち取るところは、ある意味、衣らしいと言えよう。

「南白対々。8000!」

 これで、桂英は東一局で稼いだ分を全て放出してしまった。

 

 

 東三局、神楽の親。

 神楽の第一打牌は{發}。

 これをテレビで見ていた誠子は、

「もしかしてハーベストタイム?」

 これから神楽がやろうとしていることに気が付いた。

 

 神楽の手牌には、{發}以外に浮いた19牌や{西}や{北}があった。それでいて、役が付くかもしれない{發}を先に切っていた。

 しかも、神楽の第一打牌は、東一局が{中}、東一局一本場が{白}、東二局が{中}であった。それも毎回、{西}や{北}があるのに敢えて三元牌から切っていた。

 渋谷尭深の第一打牌を思い起こさせる。

 

 この局、神楽以外の三人は、最短距離で順調に一向聴牌まで手が進んだにも拘らず、どうしても一向聴の壁が越えられない。完全なる一向聴地獄に陥ってしまった。

 これは衣の能力によるものである。

 そして、手が進まない苛立ちから桂英が周りをよく見ずに切った{②}で、

「ロン。タンヤオ一盃口ドラ1。7700!」

 またもや神楽に振り込んだ。これで三連続である。

 

 この和了りで大将前半戦の順位と点数は、

 1位:神楽(日本) 124000

 2位:桂英(中国) 92000(席順による)

 3位:シャルロット(アメリカ) 92000(席順による)

 4位:栄子(ドイツ) 92000(席順による)

 まるで咲の点数調整のように、神楽以外の三人が同じ点数で並んだ。今回は、それを神楽の中にいる衣が意識してやっているようだ。

 

 東三局一本場。ドラ{⑤}。

 神楽の第一打牌は{南}。

 今回は、三元牌が配牌に来ていなかったようだ。

 

 五巡目。

 前巡でシャルロットが{[⑤]}を引いて、{⑤}の対子が出来た直後のことだ。神楽は、鳴けと言わんばかりに{[⑤]}を強打した。しかも赤牌だ。

 すると、

「ポン!」

 待ってましたとばかりにシャルロットが鳴いた。

 

 この副露牌だけでドラ5である。

 和了ればハネ満が確定。

 しかも、全然和了れずにいる状況で、赤牌の強打。このシチュエーションであれば鳴きに走る人間も決して少なくは無いだろう。

 それが、神楽(衣)の仕掛けた罠とも知らずに………。

 

 その後、桂英もシャルロットも栄子も、一向聴までは到達できるのだが、前局と同じで聴牌が出来ない。

 しかも何故か、鳴いて手を進めることも出来ない。これは、完全に衣の能力による一向聴地獄だ。

 そして、そのまま残すツモ牌は五枚となった。

 

 誰も鳴かなければ、海底牌は南家の栄子が引くはずである。

 しかし、ここでは神楽の捨て牌をシャルロットが鳴いた。これにより、海底牌をツモるのは神楽に変わっていた。

 見た目は神楽でも中味は衣。

 当然、ラス5の牌をツモ切りして、

「リーチ!」

 一見無謀なリーチをかけた。

 

 リーチ者が海底牌をツモる。これは他家からすれば、余り嬉しいことではない。ツモ順をズラしたい。

 それ以前に、一発も消したい。

 しかし、誰も何の手立ても出来ないまま、海底牌を迎えることになった。一向聴地獄プラス誰も鳴くことを許さない衣の能力によるものだろう。

 当然、神楽は海底牌をツモると、

「ツモ!」

 和了りを宣言して手牌を開いた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三②③⑦⑧⑨12399}  ツモ{①}  ドラ{⑤}  裏ドラ{7}

 海底牌で{①}をツモっての和了り。古役で言えば役満だ。これも、まさに衣らしい演出である。

 

「リーチ一発ツモ海底撈月平和ジュンチャン。8100オール!」

 親倍ツモだ。

 ただ、この直後、

「「ドン!」」

 桂英とシャルロットは、強力な衝撃波を受けた。発生源は、どうやら栄子だ。

 意味不明の衝撃波を受けた二人は、いったい何が起きたのか分からずに驚いた顔をしていた。

 ところが、それ以上に、衝撃波を放った側の栄子は驚愕の表情を顕わにしていた。

「こっちの二人は、15000点が限界点みたいだけど、日本チームの貴女は、まだ底が見えない。貴女、いったい何者なの?」

「何者も何も、衣は衣だ!」

「衣?」

「そうだ!」

「それで合点がいったわ。今、貴女の中味は天江衣ってことね。」

「(ヤバイ。勢いで、ついうっかりしゃべってしまった!)」

「別に、能力麻雀が認められているんだから、中味が天江さんでも問題ないと思いますけどね、私自身は。」

「(うぅぅ…。)」

「実は、私は一定以上削られない能力を持っているんです。削られる点数は、相手の力量によって変わりますけどね。」

「…。」

「こっちの二人は、私が原点から15000点失った段階で、これ以上、私を削ることが出来なくなるみたいですね。当然、ツモ和了りもできなくなる。」

 さっきの衝撃波は、これ以上、栄子から点棒を奪えないことの警告だった。

 ちなみにフレデリカ以外のドイツチームメンバーは、18000点程度が限界点である。

 とは言え、15000点でも別に低レベルではない。欧州大会であれば、決勝進出チームのエースレベルのようだ。

「でも、天江さん。貴女は私から25000点くらい削れそうな力を持っている。こんな相手は、高校生ではフレデリカ以外では初めてです。」

「あの咲にそっくりなヤツか?」

「はい。でもフレデリカは25000点以上、私から削れますけどね。」

「なら、衣も25000点以上削ってみせようではないか!」

「期待してます。」

 四人は、何事も無かったかのように山を崩した。そして、神楽が卓中央のボタンを押し、次局に突入した。

 

 東三局二本場。ドラは{①}。

 神楽の第一打牌は{東}。

 今回は、配牌に{白}を持っていたが、対子だったため捨てずに和了り役の一つとして使うつもりだ。

 

 桂英とシャルロットは、栄子から点棒を奪えなくなっても、栄子以外からは奪うことは可能なはずだ。

 ならば、栄子以外からの出和了りを狙う。

 とは言え、今回も衣の一向聴牌地獄が発動している。そう簡単に和了らせてもらえるものではない。

 

「ポン!」

 桂英が捨てた{白}を神楽が鳴いた。

 そして、その数巡後、

「チー!」

 今度はシャルロットが捨てた{③}を鳴いて、神楽は{横③①②}を副露した。

 しかし、それ以降は、誰も鳴かない場が続いた。

 手が進んでいるのは神楽のみ。

 他は、序盤で聴牌まで進んだものの、それ以降は、単なるツモ切り作業を繰り返すのみであった。

 

 本来であれば栄子が海底牌をツモる局だが、神楽が桂英とシャルロットから、それぞれ一回ずつ鳴いたことで、海底牌をツモるのは神楽になった。

 そして、そのまま海底牌までもつれ込み、

「ツモ!」

 咲やフレデリカの嶺上開花と同じように、当然の如く、神楽は海底牌での和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③[⑤][⑤]⑦⑧}  チー{横③①②}  ポン{白横白白}  ツモ{⑨}

 

「白混一色海底撈月ドラ4。8200オール!」

 またもや親倍が飛び出した。

 

 これで、点数と順位は

 1位:神楽(日本) 172900

 2位:桂英(中国) 75700(席順による)

 3位:シャルロット(アメリカ) 75700(席順による)

 4位:栄子(ドイツ) 75700(席順による)

 25000点持ちであれば、神楽以外、全員が700点しか無い状態になった。

 

 しかし、その直後、

「ドドン!」

 神楽に衝撃波が襲ってきた。これ以上、栄子から点数を削れないとの警告である。

 しかも、前局が終了した段階で桂英とシャルロットが受けたものよりも、さらに強烈であった。これには、さすがに神楽(衣)も驚いた。

「何だ、これは?」

「天江さんへの警告です。それと、もう一つ。私には25000点持ちで誰もトバさせない能力もありますので、それも同時に発動させました。ですので次局は、芝棒がある以上、ゴミツモか天江さんからの直取り以外では和了れません。」

 誰もトバさせない………。まるで花田煌のようだ。

 

 次局は三本場のため、神楽が500オールを和了ったとすると、結果的に800オールの支払いとなり、神楽以外は74900点になる。

 つまり25000点持ちであれば三人箱割れとなる。

 ところが、25000点持ちで誰もトバさせないのであれば、それができないと言うことになる。

 神楽(衣)は、栄子から今までに無い強大なオーラが放たれているのを肌で感じ始めていた。




96
おまけ


九十五おまけからの続きです。
エイスリン&司馬懿仲達と言うとんでもない組み合わせです。
御堅いストーリーです。苦手な方はブラウザバックをお願いします。



4.魏王復活!

司馬懿が屋敷を出てから数時間が過ぎた。
エイスリンは、タイムマシーンの前で深い溜め息をついていた。
「私のせいで、もう歴史は大きく狂ってしまったわ。ここで曹操を助ければ、死ぬはずの人間が死なないんだから歴史の展開がズレちゃうし、助けなかったら、それはそれで曹操を迎えに行った司馬一族の待遇が変わっちゃう。大嘘つきのレッテルを貼られて、歴史の表舞台から姿を消されてしまうかも…。もしそうなったら、下手したら晋の建国ができなくなってしまう…。」
もう、彼女は後戻りできなかった。

彼女の唯一の望みは、晋が無事建国されることであった。
魏・呉・蜀の三国時代の歴史が崩れても、司馬一族が健在ならば、次の時代で、それなりに歴史は修正されるはずだろう。

こうなったら、是が非でも司馬一族を全面バックアップするしかない。
どんなことがあっても今は司馬懿を失脚させずに、彼の力を強大なままにしておくことが必要なのだ。
そのためにも魏王曹操を救い、司馬懿の面目を果たさせなくてはならなかった。


遠くの方から馬車の走る音が聞えてきた。司馬懿が病み衰えた魏王曹操を馬車に乗せて連れてきたのだ。
司馬懿が馬から飛び降りた。
「エイスリン殿。魏王をお連れしたぞ!」
「分かりました。では、こちらへ…。」
司馬懿は、曹操を背負って馬車から降ろすと、エイスリンに言われるがまま、曹操をタイムマシーンの中に連れ込んだ。

激しい頭痛の中、馬車に揺られた曹操は、本来の荒い気性を微塵にも感じさせない程にすっかり弱り果てて既にぐったりと力尽きていた。
いつ死んでもおかしくないように思える。

タイムマシーンの操縦室後方の扉が開いた。
その奥は、まるで手術室のようになっており、中央には二十二世紀の最新式医療ベッドが備え付けられていた。
万が一、歴史調査員が怪我をしたり病に倒れたりした場合に、何時でも確実な治療が施せるようにしてあるのだ。
「司馬懿殿。魏王をこのベッドの上に寝かせて下さい。」
「ベッド?…。ああ、この上だな。」
司馬懿は、死にかけた顔の曹操を医療ベッドの上に降ろした。
自力で起き上がることすら困難となった曹操は、もはや言葉も出せず、ベッドの上で苦しそうな表情を見せるのが精一杯であった。
その曹操の頭部に、エイスリンが天井から釣り下がっているライトのような機器を近付けてスイッチを入れた。
すると、その機器から強烈な光が放たれて、悪性脳腫瘍に侵された曹操の頭を優しく包み込んだ。

司馬懿にとっては、ただひたすら曹操の回復を祈るだけであった。
エイスリンの持つ未来の科学力が曹操を完治させられると信じながらも、やはり不安は隠し切れない。


十分、十五分と時が過ぎて行く。
御付きの者達も、それ相当について来ている。
たったこれだけの時間で、既に、その者達から、このようなことで曹操が治せるものかと批判する声さえ上がってきそうな雰囲気になりつつある。
曹操の身を案ずる彼等にとって、この十分がまるで一時間にも二時間にも感じるのだ。
そろそろ効果が見えてこないと、科学を知らない彼等にとっては、単なるまやかしを見せられているようにしか思えなくなってしまうだろう。

司馬懿が周りの反応に気付き、エイスリンに話しかけた。
「エイスリン殿。本当に大丈夫なのか?」
「はい、もう200数えるくらいお待ち下さい。」
「分かった…。」
エイスリンの表情は、真剣そのものだったが、司馬懿にしてみればエイスリンに大丈夫と言われたところで、すぐに不安が拭い去られるわけではなかった。
エイスリンを信じてはいるものの、このようなことで曹操を本当に治せるのかどうか、当時の常識の枠から考えると余りにも突飛過ぎるのだ。

彼は、ゆっくりと数を数えながらただひたすら祈るだけであった。
そして、彼が数える数字が180を越えた頃、エイスリンが手もとのスイッチを切り、曹操の頭に近付けていた機器から放たれていた光が消えた。

彼女が曹操に顔を近づけた。
「魏王様。気分はいかがですか?」
すると、つい今しがたまで激しい頭痛に侵されて死にかけていた曹操が、ゆっくりと目を開いて起き上がった。
彼の顔には、既に健常人そのものの血色が戻り、まさに天下をその手に治めんとしていた数ヶ月前と相も変らぬ激しい気性に満ちた目をしていた。
「頭痛がすっかり治った。こんなに晴れ晴れとした気分は久し振りだ。エイスリンとやら。お主、いったい何を余に施したのだ?」
「悪性脳腫瘍の治療です。私が生きる二十二世紀…、今から二千年後の世界では、今よりもずっと医療が発達し、魏王様の頭の中に出来た腫瘍を光線で治したのです。」
「そうか…。しかし、お主は本当に未来から来たのか?」
「はい…。しかし、私は歴史を変えてしまいました。後の世の歴史が大きく変わってしまうことでしょう。私は取り返しのつかない重罪を犯してしまったのです…。」
「歴史を変えただと?」
曹操の目付きが、よりきつく攻撃的になった。
「はい…。」
「余が生き長らえたことが、歴史を変えたことになるだと?」
「そうです。」
「何だと?」
曹操は、エイスリンに言われた事に余程腹が立ったのか、今にも切りかかろうとするような目付きで彼女のことをじっと睨んだ。
しかし、エイスリンは曹操に切られるのを覚悟しているのか、口を閉ざそうとはせずに話を続けた。
「魏王様は、元々の歴史では年が明けたら脳腫瘍………つまり、頭の中のデキモノが原因でお亡くなりになられることになっていました。」
「余に死んでしまえということか!」
「そうは言っておりません。事実、私は魏王様を見殺しには出来ませんでした。私は、本当は光武帝の時代を調査するために、西暦57年を目指してタイムマシーンに乗り込みました。しかし、時間の旅を始めてすぐに目的年代を設定する機械が故障して、この時代に飛ばされました…。本当は、未来の人間は、過去の人間に会ってはいけないのです。歴史調査も、本当は人々に見付からないように影に隠れて行なわなくてはなりません。」
「しかし、お主はこうして余の前に姿を見せているではないか。」
「はい。機械の故障で、司馬懿殿の部下の前にタイムマシーンごと姿を現してしまいましたので…。私は、後の世に死んでも償えない重罪を犯しました。歴史を変えることは、未来の出来事全てが変わることを意味します。」
すると、曹操は、突然高々と笑い出した。
「何を言っているのだ。お主は重罪など犯してはおらん。今までの歴史こそが間違いだったのだ。余が天下統一を果たさずに死ぬことこそ、完全なる間違いなのだ。だからこそ、天は、我が前にお主を連れてきたのだ。天が世の天下統一を望んでいるのだ!」
曹操は、さっきまでとは打って変わって、すっかり上機嫌になっていた。
彼が、ベッドから飛び降りた。
「しかし、エイスリンとやら。もしここで余が死んでいたら、時代は、どう動いて行ったのだ? 天下は魏のものになったのか? それとも、呉か蜀によって奪われたのか?」
「そ…それは…。」
「言えぬのか?」
気性の荒い曹操の目が、再び攻撃な光を放ち始めた。
エイスリンが口を濁すのは、魏が天下統一を果たせなかったからとしか曹操には思えないのだ。
この展開に、慌てて司馬懿がエイスリンと曹操の間に入り込んできた。
「エイスリン殿。もう歴史は魏王の病が治って修正されたのです。ただ、偽りの歴史がどのようなものだったのか、参考までにお教え頂けぬか?」
「…分かりました。怒らないで聞いて下さい。天下は、魏も呉も蜀も取ることは出来ませんでした。今から60年の後に新たな勢力が天下を治めることとなったのです。」
これには、曹操も苛立ちを隠せなかった。
曹操の死後、曹操の子孫が天下を取れずに別の誰かに降ることになっていたとズバリ言われているのだ。
彼の腕が、わなわなと激しく震え出した。

司馬懿は、暴走しかねない曹操を宥めようと、色々と言葉を考えながら口を開いた。
「し…しかし、それは既に偽りであろう。魏王が生きている以上、天下は魏が握る。天がその筋書きを我等に与えた。エイスリン殿もそう思わぬか?」
「…そうかも知れません。もう、歴史は変わりました。この先、どうなるか私も知らない展開になるでしょう。」
「それで…それでだな、エイスリン殿。そなたの持つ未来の知識、科学力とやらで魏を勝利に導いてくれることはできないのか?」
エイスリンは、この司馬懿の問いに暫く考えた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「多分…可能です…。でも、その代償は、かなり大きなものになるかもしれません。」
「代償など魏が天かを治められぬことに比べれば小事にすぎぬ。是非、力を貸してくれぬか?」
「…分かりました…。」
未来の科学力をこの時代に伝えることは、非常に問題であった。後世の発明発見の歴史まで大きく狂わせてしまうのだ。
しかし、ここでノーと言えば、エイスリンは曹操に殺されるだろう。それくらい曹操は気性が荒い人物だったと考えられるのだ。
エイスリンは、既に殺されることを覚悟していた。
歴史を変えてしまった罪に苛まされ、何時の間にか殺されることさえも恐れなくなっていたのだ。

ただ、殺されるのは彼女だけではない。
事の展開次第では、司馬懿と彼の二人の息子達まで巻き添えを食らう可能性も無いとは言えないのだ。
万が一にも、ここで司馬懿達が殺されれば、完全に歴史は修復不能となってしまう。
それでエイスリンは、やむを得ず力を貸すと言ったのだ。


これで魏が天下を握れる。
その確約が得られた時、曹操は自然と笑みが浮かび上がっていた。
「そうか。では、エイスリンとやら。まずは正月開けに呉を落とす。宜しく頼んだぞ。」
彼は、高笑いしながらタイムマシーンを降りると馬車に乗り込み、司馬懿の屋敷を後にした。




続く


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九十七本場:世界大会21 鉄槌

 神楽(衣)は、自分の足元から幹の直径が15センチメートル近い植物が何本も急激に伸びてくる幻を見た。

 そして、数秒後には、その植物でできた檻の中に衣は閉じ込められた。

 その植物には、無数の太い棘が生えていた。しかも、衣が動こうとすると、その棘が身体に当たって皮膚を裂く。これでは身動きが取れない。

「これが、俗に『棘の城壁』と呼ばれる私の力です。もう、天江さんの動きは封じましたよ!」

 栄子が勝気な声でそう言った。

 

 ただ、栄子自身は城壁と言うよりも檻だと思っていた。

 この能力に直接遭っていない人間が命名したため、城壁と比喩されているのが実情のようだ。

 

 現実世界には、こんなとんでもない棘があるわけではないのだが、こういった幻を見せるのも能力麻雀である。

 ちなみに、衣も、

「(城壁ではなく檻なのだが…。)」

 と思っていたようだ。

 

 

 東三局三本場、神楽(衣)の連荘。

 神楽の第一打牌は{發}。

 一応、ハーベストタイムに向けての準備は継続している。ただ、この作業を行うだけでも、神楽(衣)の身体には棘が刺さる感覚がある。

 

 この局も、衣の一向聴地獄の能力は健在である。よって、桂英もシャルロットも栄子も聴牌できないでいた。

 その一方で、神楽も栄子の『煌に似た能力』を受けているため、聴牌できずにいた。

 もし、神楽が聴牌して流局になると、他家はノーテン罰符を払わなければならないが、栄子の能力で誰も25000点以上は奪われない。そのため、神楽の聴牌も阻止されることになる。

 結局、この局は全員ノーテンの流局となった。

 

 

 東四局流れ四本場、栄子の親。

 もうゴミツモ和了りもできない。

 栄子が親である以上、ゴミツモは芝棒を含めて栄子に900点の支払いを課すことになるが、それでは25000点以上失わせることになる。

 現状、栄子の能力が完全発動している以上、それは許されない。

 

 神楽の第一打牌は{白}。

 一応、まだハーベストタイムに向けての準備は継続できている。

 

 ここまでの神楽(衣)の第一打牌は、順に{中}、{白}、{中}、{發}、{南}、{東}、{發}、{白}。

 分かりやすく入れ替えると、{白白發發中中東南}。

 このまま南三局まで流局しても、ここに三枚加えられる。日本チーム優勝のためにも、衣としてはハーベストタイムを、より確実な形にしたい。

 

 この局も、衣の一向聴地獄と栄子の能力に支配され、誰も聴牌どころか鳴くことさえもできないまま海底牌を迎えた。

 海底牌をツモるのは桂英。

 しかし、桂英には衣の一向聴地獄を跳ね返すだけの力は無い。

 結局、この局も全員ノーテンで流局となった。

 

 

 南入した。

 南一局流れ五本場、桂英の親。

 衣の一向聴地獄と栄子の能力は当然健在。となると、誰も聴牌できずの状態が続く。

 一応、神楽は第一打牌で白を捨てることができ、ハーベストタイムに向けての準備は、さらに一歩進められた。

 しかし、栄子の能力による阻害を受ける中、本当に最後の最後でハーベストタイムは発動できるのだろうか?

 衣(生霊)としても少々疑問が残るが、今は発動できると信じるしかない。

 それにもし発動できなかったとしても、最悪、今の点数のままオーラスまで流局してくれれば前半戦を100000点近くリードした状態で後半戦に向けて折り返すことができる。

 …

 …

 …

 

 この局も前局と同様、全員ノーテンで流局となった。

 まさか、大将戦で、こんなおとなしい場が三回連続で続くとは、誰も予想していなかった展開だ。

 

 

 南二局流れ六本場、シャルロットの親。

 神楽の第一打牌は{中}。

 

 場が進む中、幻の中で、衣の全身に棘が刺さる。衣は、もう痛くて動けない。

 しかし、神楽との約束は、まだ果し切れていない。ハーベストタイム完全形が神楽から依頼されている内容だ。

「(透華。助けて、透華…。)」

 衣は、そう心の中で叫んだ。

 

 この時、病院のベッドの上で眠る衣の本体は、

「透華。助けて、透華…。」

 うわ言のように透華に助けを求めていた。

「衣、どうかなさいましたの?」

 ベッドの脇で衣を看病していた透華が、衣の手を握った。

 そして、

「しっかりなさいまし、衣!」

 そう叫んだ直後、透華は目を開いたまま動かなくなった。気を失ったのだが、その雰囲気は、まるで蝋人形のようだ。

 まさに、それと入れ替わるかのように、衣が目を覚ました。

「透華!」

「…。」

 衣の声に透華は反応しない。

 しかし、衣には全て分かっていた。

「透華…。衣を助けてくれたんだな。ありがとう…。」

 この時、テレビに映し出される映像では、丁度南二局が流局したところだった。これより神楽の親番が始まる。

 衣は、透華の手をしっかりと握り締めた。

 

 

 南三局流れ七本場、神楽の親。

 栄子は、急に神楽の雰囲気が変わったのを察知した。

 今までの衣の出す雰囲気には恐ろしいものがあったが、今の雰囲気は、それを遥かに凌駕する。

 フレデリカでさえ、ここまでのオーラは持ち合わせていない。

 

 今、神楽の中には衣と入れ替わりで透華の生霊が入り込んでいた。しかも、いきなり治水状態に入っていた。

 栄子は、体感温度が下がっている気がした。

 

 神楽の冷たい視線が栄子を捕らえた。

 すると、栄子の目に、能力者が見せる幻が映った。

 そこは全てが凍結した絶対零度の世界。

 棘の檻には、衣の代わりに別の女性………透華が入っていたが、透華の身体に棘が触れた瞬間、棘の檻が粉々に砕け散った。

 そして、それと同時に、

「ドドン!」

 栄子に向けて衝撃波が飛んできた。

 いや、正しくは、栄子が東三局二本場が終わった段階で、神楽(衣)に向けて放った衝撃波が今になって跳ね返ってきたのだ。

 これは、今の神楽が栄子から25000点以上削る力があることの証明でもある。フレデリカ以外では、こんな相手は初めてだ。

 

 神楽(透華)は、無表情のまま、

「では、はじめます。」

 とだけ言うと第一打牌、{東}を切った。

 

 栄子は嫌な予感がしてならなかった。

 まさか、棘の檻………棘の城壁が崩れ去るとは思ってもみなかったし、それ以上に、神楽から放たれる凍てつく感じのオーラが恐ろしくてならなかった。

 

 場は、非常に平静を保っていた。

 誰も鳴けない。

 リーチもかからない。

 ただ、牌を捨てる音だけが対局室に響き渡る。

 そして、中盤に入ったその時、

「ツモ。2600オールの七本場は3300オール。」

 神楽(透華)が静かに和了った。

 ただ、タンピンツモドラ1の凡庸な手で留まっていることが、他家にとっては、まだ救いなのかもしれない。

 

 南三局八本場。神楽の連荘。

 神楽の第一打牌は{發}。まだハーベストタイムに向けての準備は継続中だ。

 

 ここでも凍てつく寒さと静寂さが全てを支配する。

 そして、その空気を作り出す者の強力な支配力によって、桂英もシャルロットも栄子も聴牌どころか一向聴にすら到達できない。

 

 気が付くと、

「ツモ。」

 またもや神楽にツモ和了りされていた。

「2600オールの八本場は3400オール。」

 またもやタンピンツモドラ1。

 派手な和了りではない。しかし、確実に点を毟られている。栄子にとっては、やはり驚異的な存在と言える。

 

 南三局九本場。

 神楽の第一打牌は{南}。

 この時、神楽の顔からは完全に血の気が引いて真っ白になっていた。生きている人間の感じがしない。

 そして、この局も、

「ツモ。2600オールの九本場は3500オール。」

 前二局と同様の手を神楽に和了られた。

 

 南三局十本場。

 神楽の第打牌は{東}。

 これを病院のベッドの上でテレビを見ていた衣は、

「とうとう透華がやってくれた。あとは、タカミの力を信じるだけだ!」

 そう言いながら透華の手を握る手に力が入った。

 

 神楽の顔色は、さらに酷くなった。白を通り越して、本当に蒼い。

 もはや死人同然だ。

 

 七巡目、栄子は神楽の手から聴牌気配を感じ取った。

 今の神楽は治水状態の透華が全身を支配しているので完全無表情であり、一切聴牌気配を出さない。

 ただ、栄子の能力は、煌に似た能力だけでは無い。愛宕洋榎のような和了り牌を察知する能力も備えている。

 つまり、洋榎+煌のスーパーディフェンスだ。

 この優れたディフェンス能力によって神楽の聴牌を察知したのだ。

 

 次巡、栄子は神楽がツモ和了りした雰囲気を感じ取った。しかし、神楽は和了りを宣言せずにツモ切りした。よく分からないが、和了り放棄だ。

 その後も、神楽は和了りを放棄し続け、気が付けば流局していた。

 そして、

「「「ノーテン。」」」

 桂英、シャルロット、栄子の三人がノーテンを申告して手牌を伏せたのを見届けると、

「ノーテン。」

 神楽は、一瞬ニヤッと笑って見せたかと思うと聴牌しているはずの手牌を伏せた。ノーテン罰符放棄だ。

 これにより、神楽の親は流れる。

 が、その直後、神楽は気を失って卓に突っ伏した。

 

「大丈夫かね!?」

 審判の一人が神楽のほうに駆け寄ってきた。

 しかし、その数秒後、神楽は何事も無かったかのように起き上がった。

「大丈夫です。すみません。」

 この時、栄子は、また神楽の雰囲気がガラッと変わったことに気が付いた。

 少なくとも、今まで見せていた凍てつく雰囲気とは全くかけ離れている。

 

 丁度この時、衣の傍らでは、

「あれっ?」

 透華が目を覚ました。ただ、妙にダルい。

 ノーマル状態の透華は、治水状態の透華の記憶が無い。なので、今まで何がどうなっていたのか、全然分からないでいた。

 ただ、自分の手をしっかり握り締めながら衣が、

「ありがとう透華。衣のために…。」

 と言いながら嬉し涙を流しているのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 オーラス流れ十一本場、栄子の親番。

 既に、神楽の中には尭深の生霊が入っていた。

 

 この半荘開始時から今までの神楽の捨て牌は、{中}、{白}、{中}、{發}、{南}、{東}、{發}、{白}、{白}、{中}、{東}、{發}、{南}、{東}の十四枚。

 これは、神楽の配牌が、

 {白白白發發發中中中東東南南}

 となり、第一ツモが{東}となることを意味する。

 すなわち、地和大三元字一色四暗刻、32000、64000の四倍役満。

 これを和了れば大将戦での勝利は絶対確実だ。

 後半戦には、まだ登場していない生霊………憩や穏乃がいる。東場を憩が守り、南場を穏乃が守れば日本チームの優勝だ。

 それに、神楽の能力が発動していれば相手の手牌が完全に透けて見える。少なくとも振込むことは無い。

 衣は、そう信じ切っていた。

 

 神楽の配牌は、予定通り{白白白發發發中中中東東南南}。

 しかし、配牌が終わった直後、

「ドドドン!」

 今までに無い強烈な衝撃波が神楽を襲った。透華が入ったことで一旦栄子に押し返したはずの衝撃波が、利子をつけて神楽のほうに舞い戻ってきたのだ。

 それと同時に、

「流します。」

 そう言いながら栄子が手牌を開いた。

 

 開かれた手牌は、

 {一三七九①④⑨1589東西北}

 九種九牌だ。

 

 残念ながら、これで超特大ハーベストタイムは潰された。

 尭深の能力を受け切った上で、栄子の能力は、尭深の能力による強大な力を巧くかわしたのだ。巧く逃げ切ったと言うべきか。

 そして、

「十二本場。」

 栄子が連荘を宣言した。

 本大会のルールでは、九種九牌によって流された場合は芝棒が増え、そのまま親が連荘することになっていたのだ。

 

 オーラス十二本場。

 この時、神楽の身体に異変が生じていた。

 咲をも上回る治水状態の透華を降ろしたことで、相当な負荷が身体にかかったからであろう。相手の手牌を透視する力が発動しなくなっていた。

 つまり、神楽の『絶対に振込まないはずの能力』が使えなくなっていたのだ。

 体力が回復すれば、また使えるようになるのだろうが、少なくとも尭深の生霊は、神楽の能力無しで戦わなくてはならない。

 とんでもない誤算だ。

 

 今は、どんな手でも良いから和了れば良い。尭深は、そう思っていた。

 しかし、その想いとは裏腹に神楽の中に入ったのが尭深になったことで、

「(今度入った人の能力だと、私から奪える上限は10000点程度かな?)」

 和了ることができなくなっていた。

 

 栄子は、

「(誰もトバさせない能力は解除だよね。今の日本の人、何も出来そうにないし………。)」

 能力を自分から他家が奪える点数のみに設定し直した。能力の無駄遣いは避けるべきとの判断だ。

 

 そもそも、今、栄子は34500点失っている。

 つまり、栄子の能力は、栄子がどんな暴牌を打っても振り込まず、栄子にノーテン罰符も発生させない方向に作用する。

 少なくとも、その強制力で85000点を超えるまでは、栄子から一切点棒は奪われないはず。

 当然、無茶な手を作りに行く。

 こう言った形で、栄子はオーラスに大きな手を和了って逆転することが多い。このことは、ドイツでは『リラの鉄槌』と呼ばれている。

 

 そして、とうとう神楽(尭深)が捨てた牌で栄子は、

「ロン。12000の十二本場は15600!」

 親満を直取りした。

 これで栄子の点数は81100点になったが、まだ栄子が和了る強制力は続く。

 

 オーラス十三本場。ドラは{⑧}。

 この局では、栄子の配牌に19牌が多かった、

「(これは、勝負だよね?)」

 当然、ここでも栄子は無茶な麻雀を展開することにした。

 絶対にノーテン罰符も発生しない。なので、どんな無謀な手でも絶対に聴牌できる自信が栄子にはあるのだ。

 そして、その栄子のムチャ振りに応えるかのように、栄子のツモは動きを見せる。

 

 中盤に入った。

 この時、神楽(尭深)は、

 {三四[五]③④[⑤]⑧⑨34[5]67}  ツモ{⑧}

 

 {⑨}を切って聴牌。

 しかも最高でタンピン三色ドラ5の倍満だ。

 当然、{⑨}を切った。普通、誰でもそうなるだろう。

 しかし、

「ロン。」

 栄子は、この{⑨}を見逃さなかった。いや、正しくはリラの鉄槌が発動し、神楽に{⑨}を切らせたのだ。

 

 しかも開かれた手牌は、

 {一一一九九九①①①⑨111}  ロン{⑨}

 清老頭四暗刻だ。

 

「96000の十三本場は、99900です!」

 この和了りで栄子は、一気に超特大トップに躍り出た。

 そして、

「これで和了り止めにします。」

 連荘を拒否して半荘終了を宣言した。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は

 1位:栄子(ドイツ) 181000

 2位:神楽(日本) 88000

 3位:桂英(中国) 65500(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 65500(席順による)

 栄子が神楽に100000点近い点差をつけて折り返すことになった。




おまけ


九十六おまけの続きです。
エイスリン&司馬懿仲達と言うとんでもない組み合わせです。
途中までは御堅いストーリーです。

今回は、エイスリンの親友、塞が登場しますが、塞は地球史上、最もとんでもないことをやってしまいます。
急に話がムチャクチャになります。
汚い話が苦手な方はブラウザバックをお願いします。



5.生物誕生って、それかよ!

それから数日が過ぎた。
時は正月。
元の歴史で言えば、曹操が脳腫瘍で命を引き取るまでの秒読み段階に入る頃だ。

今や曹操は、二十二世紀の医療ですっかり全快し、正月開けの呉討伐に向けて意気揚揚としていた。

この日、洛陽城では宴席が儲けられていた。
華陀亡き今、西暦220年の科学力では、曹操が侵された悪性脳腫瘍を完治させることは到底不可能であった。それこそ、現代医学でも完治は極めて難しい。
この宴席は、その難病を全快させてくれたエイスリンに対する曹操の感謝の気持ちが込められていた。
なお、今回の功績で司馬懿が大きく株を上げたのは言うまでも無い。


後に乱世の奸雄とまで言われた曹操であったが、他人に一切の恩義を感じないような人間ではなかった。
彼は、彼のために大事を成し遂げてくれる人間を大切にしていたし、能力のある者は年齢を問わず重臣に採用していた。

この時代、女性が政治や戦に口を出すことは、基本的に有り得ないことであった。それゆえに曹操としてもエイスリンを重臣に置くことに躊躇いがあった。
しかし、エイスリンに発言権を持たせる方法がまるっきり無いわけではなかった。曹操が、彼女を側室に迎えれば、ある程度の権力を彼女に与えることが可能なのだ。
勿論、そうすれば当時の中国では見られない青い目の金髪女性を相手に曹操も楽しむことが出来る。
彼にしてみれば、まさに一石二鳥であった。
「エイスリンとやら。ちょっと良いかな。」
「何でしょうか、魏王様?」
「ちょっと、中庭の方にだな…。」
曹操は、既に66歳であった。
さすがに、この年で異人であるエイスリンに自分の妾になれと言うのも周りに対してテレがあった。
それに、少なくとも人前で口に出す言葉でもない。

人払いをしても、それはそれで周りに対して見え見えである。
それで彼は、あたかも客人を相手にしているかのようにエイスリンを中庭に連れ出したのだ。

底冷えするこの季節、好んで外に出ようとは思わない。
ならば、何故曹操ほどの権力者に外に連れ出されたのか、勘の良い女性なら曹操の意図が判るだろう。
しかし、エイスリンは、その辺に疎かった。
それどころか、曹操には目もくれずに呉との闘いに、どのような手を使おうか考えていたのだ。
「(第二時世界大戦で使われた核は、後が大変だし、第一時世界大戦でナチスドイツが使った塩素ガスは、呉よりはむしろ蜀に使う方が効果的かしら…。どうしよう…ニトロでも使おうかしら。タイムマシーンの発電機を使えば電気分解で水素が取り出せるし、白金があれば空気中の窒素と反応させてアンモニアが出来るはず。これをオストワルト法で酸化して硝酸にして…。)」
もしかすると、エイスリンは少し危険な人かも知れない………。


突然、塀の上から鋭い二本の弓矢が放たれ、そのうちの一本が曹操の脳天に深く突き刺さった。
そして、次の瞬間、もう一本が、エイスリンの左胸を貫いた。
いくらなんでも脳天に矢が突き刺さっては曹操とて生きてはいられなかった。その場に倒れ込み、そのまま息絶えてしまった。

エイスリンも心臓を貫かれては、もはや死を待つしかなかった。
今からタイムマシーンに乗り込んで医療ベッドに横たわり、治療を始めるだけの余裕は無い。そうこうしている間に脳死状態に陥るのは目に見えていた。

エイスリンが、最後の力を振り絞り、矢の飛んできた方を振り返った。
すると、塀の屋根の上に、一人の女性が涙を流しながら立っている姿が目に飛び込んで来た。
「も…もしかして…塞?」
その女性は、エイスリンの高校時代からの親友、臼沢塞であった。
彼女も、エイスリンと同じように調査員に選ばれ、歴史調査に当たっていたのだ。

塞は、タイムマシーンの故障から歴史に干渉せざるを得なくなったエイスリンと、曹操の暗殺を本部から指示されていた。
歴史を守るため、嫌な仕事だがやらなければならない。
「ごめん、エイスリン…。」

時代に干渉してしまった以上、エイスリンは、いずれこうなることは分かっていた。

いや、本当は、その前に自害していなければならないだろう。
しかし、自害する勇気が無い彼女は、いっそのこと誰かに殺されるか、それとも歴史を修復する機会を狙いながら司馬懿を失脚させないためにある程度の手柄を曹操の元で立てるか、この二つしか選択することが出来なかったのだ。

そして、今、親友の塞が自分を殺してくれた。
しかも、曹操も元の歴史と同じく正月に死を迎えることになったのだ。

もう、これ以上歴史を狂わせずに済む。
そう思うと、彼女の目に嬉し涙が溢れてきた。
「塞…、ありが…。」
この言葉を最後に、エイスリンの脳波が停止した。


曹操とエイスリンの死を確認すると、塞は塀から外に飛び降りてタイムマシーンに乗り込んだ。
「本部ですか? こちら塞。」
「塞か。エイスリンの方はどうなった?」
「指示通り、曹操とエイスリンを暗殺しました。」
「御苦労。これで歴史は守られるだろう。しかし、済まなかったな。こんな仕事まで遂行する羽目になって…。」
「いいえ。歴史調査員になった時から、最悪の場合、こういったこともあると覚悟していましたから…。」
「そうか…。では、塞。次の指令だ。無事に晋が建国されることの確認を頼む。それからその後、一旦、38億年前まで遡って海洋調査をしてくれ。」
「分かりました。」
「その後、5億3千万年前、カンブリア期に飛んで、アノマロカリスやオパビニアなどの古代生物の姿形を映像に収めてきてくれ。それからCTも。」
「了解です。」
塞は、一先ず未来に向けてタイムワープを小刻みに行ない、220年以降に歴史的事件のあった年を掻い摘んで280年まで様子を探って行った。

曹操とエイスリンの死後、曹操の長子である曹丕が魏王位を継いだ。
そして、時の皇帝であった献帝に帝位を禅譲させて大魏皇帝の位につき、洛陽に遷都を行なった。

司馬懿を含む曹丕の側近達は、曹操が何者かに殺されたことを隠蔽した。
曹操が暗殺されたのでは、周りの志気に影響すると踏んだのだ。彼等は、曹操が洛陽城で昨年末から続いていた頭痛により病死したと記録した。

234年には、司馬懿が蜀の諸葛亮孔明と五丈原で対峙した。
司馬懿は、その後、曹爽に大将軍の座を奪われることとなったが、249年にクーデターを起こし、再び実権を握り丞相となった。
その2年後に司馬懿は没するが、その長子である司馬師が実権を握った。

司馬師の死後、弟の司馬昭が魏の実権を握り、263年には蜀の劉禅が魏に降伏、264年には、ついに司馬昭が晋王を名乗ることとなった。
265年、司馬昭が没した後、息子の司馬炎が魏帝に帝位を禅譲させて晋帝となった。
そして、280年には呉の皇帝孫皓が晋に降伏し、晋が中国を統一した。



塞は、歴史が軌道を修正したことを知り、安心して38億年前までワープした。
受けた指令は、この時代の海洋調査。海面と水深10メートルのところの海水サンプルを両方とも採ってくるようにと言われていた。
ただ、この時代は、まだ生物がいないはず。細菌が誕生しているかどうかと言ったところではないだろうか?
細菌の発生でも確認したいのだろうか?

しかし、万が一、この時代から細菌を持ち帰ったりしては、歴史が狂ってしまうのではないだろうか?
その細菌から生物は進化して行くと思われるからだ。


本部の指示に従い、塞は、まず薬を飲んだ。海水が冷たい可能性があるので代謝を良くして体温を維持してくれる薬と聞かされている。
そして、全裸になって特殊なクリームで全身の皮膚を覆った。
まだオゾン層が出来上がっているわけではなく、紫外線バリバリの状態である。
それで、全身を保護するために開発されたクリームとのことだ。
塞は、
「でも、なんで裸になる意味があるんだろ?」
とは思ったが、まあ、これが上からの指示だから仕方が無い。

クリームを塗り終えると、塞は、腕と胸に救命具を付けた。水に浮くヤツだ。それから早く泳げるようにするためにフィン(足ひれ)を付けた。
そして、酸素ボンベを背負ってタイムマシーンから出ると、海に飛び込んだ。
ただ、自分が生きている時代に比べて波が荒い。月が今よりももっと地球に近い位置にあるので、その引力の影響だろう。

急に塞はトイレに行きたくなった。しかも、小ではなく大だ。
さっき飲んだ薬は、どうやら下剤だったようだ。代謝を良くして…なんて嘘だ!
ただ、さすがに漏らすわけには行かない。この原始の海に自分の体内に生息する腸内細菌をブチまけるわけには行かない。

彼女は、急いでタイムマシーンに戻ろうとしたが、何故かタイムマシーンが彼女から遠ざかって行く。
誰かに操作されているのだろうか?←本部によって操作されています
「ちょっと、待って、ちょっと………。」
だめだ、もう耐えられない。
「ああ………、もう……ラメ………。」


まこ「効果音はカットじゃ!」

塞「飽くまでも、そう言う役を演じているだけだからね! 本当は、お漏らしなんか、していないんだから! ご…誤解しないでよね!」


やってしまった。
塞は、まだ誰もいない地球の海に、汚物を撒き散らしてしまった。しかも、波が激しくて回収すらできない。
いや、それ以前に、今回のは硬い固形物の状態ではない。なので、そもそも波が緩やかであっても回収不能だ。
自己嫌悪に陥りながら、何とか塞はタイムマシーンに戻ってきた。
すると、何故かモニターが本部と既に繋がっていた。
「一つ目の任務は完了できたようだな。」
「へっ?」
「つまりだな…。君が過去の地球に細菌を置いてくることが、与えられた任務の一つだったのだよ!」
「はぁ?」
「そもそも、生物の自然発生なんて10の40000乗分の一の確率とか言う人がいるくらいだ。起こるわけないだろう? 後の世界から人為的に持ち込まれたと考えた方が理にかなってないかね?」
「(なにそれ?)」
なんのことはない。
この後、塞の汚物から生物は進化して行くのだ。
塞が選ばれたのは、単なる上司の趣味である。
腰のラインで選んだと言う噂もある。

しかも、この上司、外部モニターで塞が海でナニをしていたのか覗いていやがった。
最低なヤツだ。
「重要な仕事を成し遂げたんだ。名誉なことだぞ!」
「でも、この時代には存在しないはずの菌も含まれているんじゃ………。」
一応、塞は、ハラワタが煮えくり返りなからも、感情を抑えながら上司と冷静に話をしていた。偉い娘だ。
それに対し、
「その点は大丈夫だろう。その時代の環境で菌が取捨選択されるだろうし。それに、きっとその時代の気候に順応するように菌も進化するだろうからね!」
と軽い口調で言う上司。
うーん。本当に良いのだろうか?


その後、塞は、
「私の汚物が地球最初の生物だなんて…。完全に黒歴史だよ。消えて無くなりたい。」
ブツブツ言いながら5億3千万年前に時代設定を行ない、タイムワープに入った。


長いタイムトンネルを抜けて、赤茶けた大地と青い海の世界にタイムマシーンが姿を現した。目的とするカンブリア紀に到着したのだ。

この時代、まだ生物は植物さえも上陸を果たしておらず、大地は、その赤茶けた色を剥き出しにしていた。

塞のタイムマシーンが海上に舞い降りた。
そして、今度は宇宙服のようなゴツイ装備を身に着けてタイムマシーンの扉を開けた。
この頃の大気も、まだ人類が地球上に姿を現した時代とは構成比が異なっていたと考えられている。当然、装備が必要であることは言うまでもない。

今は、バージェス動物群で溢れている時代。
その動物達は、恐らく、全て塞の汚物から進化したものだ。
さすがに、それを思うと気が滅入る。

彼女は、指令遂行のため、アノマロカリスをはじめとする古代生物の観察を行なおうと海を覗き込んだ。
しかし、宇宙服が災いの元でもあった。結構な重さなのだ。
彼女は、バランスを崩して海の中に落っこちた。

そこは、余り深くなく、せいぜい2メートル程度の深さであった。ところが、宇宙服が錘となり、彼女は、そのまま底にしりもちをついた。
「プチッ…。」
何かを潰した音がした。
その直後である。
突然、彼女の身体が宇宙服ごと足の先から順に消えて行ったのだ。そして、数秒後には頭まで消え、完全に彼女の存在そのものがなくなってしまった。
ある意味、消えて無くなりたいとの願いが叶った瞬間でもあった。

海に浮かんでいたはずのタイムマシーンも、まるで鉛筆書きの絵を消しゴムで消して行くようにその姿がなくなっていった。

この時代よりも、さらに2000万年前に、ハイコウイクチスやミクロンミンギアと呼ばれる、広義で言うところの最古の魚類が誕生していた。
そして、この時代にも、その子孫となる生物が生息している。
この生物こそが、今の魚類、両生類、爬虫類、哺乳類へと進化していった(ことにしてください)。
塞は、偶然にもこの生物の一匹を尻で潰してしまった。素早く泳ぐ生物と考えられてはいるが、現在の魚ほど俊敏ではないのだ。

そしてまた不幸なことに、彼女が潰した個体こそ、数あるその生物の中から人類にまで進化していった先祖の一つだったのだ。
この生物を殺してしまっても、別に人類誕生そのものには影響無い。
しかし、その生物の血統が失われる以上、子孫の歴史は尻上がりに大きく変わって行くのだ。恐らく、人類誕生の頃には、まるっきり違う歴史が展開されているだろう。

となれば、当然、塞は誕生しなかったし、彼女がここにタイムマシーンで来ることも無かった。
勿論、エイスリンも曹操も司馬懿も誕生しなかった。


それ以前に、38億年前の海に菌を散布することもなかった。
全地球の歴史が、原点から違う道を積み重ねることになってしまったのだから…。






咲がテレビを見終わった。


咲「結構、最後はブラックだったね、これ。それに、最後は三国帰一とは全然関係ないじゃん?」

咲「ブラック創世記って感じだね!」

咲「でも、私達が塞さんの汚物から誕生したなんて………。」

咲「この手のネタ、京ちゃんとかは興奮するかもしれないけど………。」

咲「でも、そうか。塞さんが消えちゃったから、生物の祖は塞さんの汚物じゃなくなるのか。すごいタイムパラドックスだね!」

咲「でも、誰の汚物になるんだろう?」


いや、それは汚物から離れて良いと思う。

いずれにせよ、最低な結末だった。






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九十八本場:世界大会22 追い上げ

「はっ!」

 自室で尭深が目を覚ました。

 既に麻雀部を引退した身であり、寮には住んでいない。白糸台高校には自宅から通っている。

「どうして、最後の最後であんな………。」

 自身の四倍役満を潰された上に、自分の時だけ神楽のディフェンス能力が消えて親のダブル役満への振込み。

 まさに悪夢である。

 尭深の目から怒涛の如く涙が溢れ出てきた。

 あの振込みは、記録上は神楽のものだが、振込んだのは自分だ。どう詫びたら良いのだろうか?

 

 高校最後の公式戦で、派手に勝利を飾るはずが、最低最悪な展開に変わってしまった。

 しばらく牌を見るのも辛いだろう。

 

 一方の衣も、一瞬、愕然とした表情を見せたが、

「今までやってきたことが全部ムダになってしまったようだ。後は頼んだぞ、深山幽谷の化身。」

 100000点差を逆転することへの希望を、まだ失っていなかった。まだ、自分を超える能力者が日本には残っているからだ。

 

 

 大会会場では、休憩時間に入っていた。

 神楽は、

「(超マズイ。いくら何でも100000点差だなんて………。それに、本気で気持ち悪い。透華さんのパワーってハンパないんだもん。)」

 フラフラになりながら、一旦、控室に戻った。

 

 

 一方のドイツチームだが、栄子が控室に戻ると、

「「「「おめでとう!」」」」

 フレデリカ達が全員、クラッカーを鳴らして栄子を迎え入れた。

「ちょっと、なに? まだ優勝が決まったわけじゃないんだから!」

 こう言う栄子にフレデリカが、

「でも、100000点近い点差があるし、もう勝ったも同然でしょ!」

 と言いながらハイタッチを求めてきた。

「普通ならそうだけどさ。でも、まだ分からないよ、あの大将。最初、中味は天江衣だし、途中から宮永咲さえも抑え込んだ時の龍門渕透華だったし。」

「えっ?」

「どうも他の人の魂を乗り移らせることができるみたい。最後は、急に弱くなったから良かったんだけどさ。」

 すると、千里がデータファイルを片手に、

「あれは多分、渋谷尭深だね。」

 と栄子に言った。

「渋谷?」

「ハーベストタイムをやる人。」

「ああ、白糸台の。」

「そう。でね、実はオーラスに入る前に全部で十四局あったんだけど、東一局から南三局九本場までの石見神楽の第一打牌がオーラスの配牌で戻って来てたんだよね。」

「そうなんだ。なんか、いきなりとんでもない手を張ってそうって感じはあったけど。」

「とんでもなかったよ。もし石見のオーラス第一ツモが南三局十本場の第一打牌の{東}だったら、地和大三元字一色四暗刻だったからね。」

「うそ!?」

「ホントだよ。でも、よく九種九牌で流せたと思うよ。まあ、それが絶対ディフェンスの栄子の能力なんだろうけどね。」

「まあ、首の皮一枚ってとこかも。」

「それでも結果的に大逆転だからね。」

「それは、渋谷尭深のまま打ってたからじゃないかな。でも、後半戦でとんでもない人の魂が入ったら、まだ分からないよ。」

「それはそうだけど…、でも100000点差を逆転するのはそう簡単じゃないし、99%以上私達の優勝って気がするけどね。」

「だとイイんだけどね。」

 尭深のハーベストタイムに拘ったのは日本チームの采配ミスだろう。

 しかし、まだ日本チームは、何を隠しているか分らない。栄子は、どうしても安心し切れないでいた。

 

 

 その頃、日本チーム控室では、神楽がソファーに横になって休んでいた。

「最後は済みません。でも、ホント、身体がキツイ…。」

「いや、神楽。あれは、うちの作戦ミスや。スマン。」

「いいえ、末原コーチ。あれは、私の透視能力が突然消えてしまったからなんです。」

「ホンマか?」

「はい。」

「でも、なんでや?」

「実は、天江さんの後に龍門渕さんが入ってきて。」

「龍門渕やて?」

「はい。」

「あいつは、特に説明も何も受けてへんやろ?」

「ただ、あの治水状態の龍門渕さんでしたら、どんな不思議でもやってのけるでしょうから、説明は不要だったってことじゃないでしょうか。」

「まあ、咲でも抑えられんクラスやしな。」

「ただ、龍門渕さんが入ったことで私の体力が一気に失われてしまったんです。私の身体の方が、龍門渕さんの能力に耐え切れなかったんです。」

「それでか…。」

「はい。」

「でも、なんで龍門渕がいきなり入ってきたんやろか?」

「あの棘の檻の中で、結構、天江さんも辛そうでしたから、天江さんを助けるために来たのではないでしょうか?」

「棘の檻?」

「はい…。」

「まあ、時間が無いし、細かいことは後で聞くわ。今更、作戦の変更は無しや。神楽は残りの四人を巧くつこうて、やれるだけのことをやってくれ。その上で負けたんなら仕方が無い。」

「はい。」

「ほな、頼むで!」

 神楽は、疲れ切った身体にムチを打つようにソファーから起き上がると、控室を出て対局室に向かってゆっくり歩き出した。

 

 

 また、桂英とシャルロットは、卓に付いてまま目を閉じていた。

 恐らく、控室に戻ったところで、誰も何のアドバイスもできないだろう。なら、少しでもゆっくり休んでいたいと言ったところだ。

 

 

 対局室に栄子と神楽が戻ってきた。

 場決めがされ、起家がシャルロット、南家が桂英、西家が栄子、そして北家が神楽に決まった。

 未だ、神楽の体力は回復していない。なので、彼女の透視能力………超ディフェンス能力は使えないままだ。

 ただ、口寄せの方は何とか使える。

 神楽は、予定どおり、次の生霊を口寄せした。

 

 

 東一局、シャルロットの親。

 神楽は、体力が底を尽きかけているにも拘らず、いきなり、

「ほな行くでぇ!」

 急にハイテンションになった。

 この雰囲気は、間違いない。憩である。

 

 憩は、代表選考の直前に電車の脱線事故に巻き込まれ、命に別状はなかったが、大怪我により大会参加は断念せざるを得なかった。

 しかし、神楽に憑依する生霊の一人として、本大会に参戦していたのだ。

 

 この局、最初に聴牌したのは親のシャルロットだった。優勝は諦めていても、3位のメダルは欲しい。中国チームとの差は約60000点。当然、和了りに向かう。

 幸い、満貫手だが役もある、ならば、ムリにリーチせずにダマで連荘を狙う。

 しかし、その次巡、シャルロットが捨てた牌で、

「ロン。タンピンドラ3。8000ですぅ!」

 神楽が和了った。憩の能力………誰かが聴牌すると、すぐさま聴牌し、先行聴牌者から直取りする能力が発動したのだ。

 振り込んだシャルロットの表情が曇る。当然だろう。

 

 

 東二局、桂英の親。

 銅メダルを狙っているのはアメリカチームだけではない。当然、中国チームも、60000以上の点差を保持したい。

 そのためには、基本は守りの麻雀だが、大きい手が和了れそうであれば話は変わる。

 ただ、確実に和了るため、また連荘するために聴牌しても、ここはダマで待つ。

 この局で早々に聴牌したのは桂英。

 ただ、次巡、不要牌をツモ………。いや、憩の能力によって先行聴牌者は不要牌をツモらされたのだ。

 そして、桂英が、それをツモ切りしたところで、

「ロン。」

 憩と化した神楽が和了った。

「タンピンドラ3の8000点やでぇ!」

 しかも満貫。

 確実に栄子との点差を縮めに出ていると言えよう。

 

 

 東三局、栄子の親。

 二連続の和了りでツキが回ってきたのだろうか?

 この局、たった四巡で早々に聴牌したのは神楽(憩)だった。

 先行聴牌者の和了り牌を即座に掴ませる能力だが、その先行聴牌者には憩自身も含まれる。

「(役無しで、ドラが一枚あるだけやけど…。)」

 ここは裏ドラ期待で、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 そして、次巡。一発で、

「ツモ!」

 神楽が和了りを決めた。

 リーチ一発ツモドラ1に裏ドラが1枚乗ったが、実質、和了り点は変わらず、

「2000、4000!」

 満貫ツモ和了りとなった。

 

 

 東四局、神楽の親。ドラは{北}。

 流れは神楽に来ていると思うが、この局、最初に聴牌したのは栄子だった。

 

 七巡目、栄子の手牌は、

 {八八八③③③[⑤]⑥⑦3456}

 {36}待ちのタンヤオドラ1の手。

 

 これを受けて、憩の能力が発動し、すぐさま神楽が聴牌。

 神楽の手牌は、

 {二三四五五五六七八九中中中}

 {一四六七九}待ち。満貫からハネ満の手。

 

 ところが、神楽と同順で、シャルロットと桂英も聴牌した。

 シャルロットの手牌は、

 {①①①4[5]678東東東北北}

 {369}待ちの満貫手。

 

 桂英の手牌は

 {[五]六七④[⑤]⑥⑦⑧⑧⑧567}

 {③④⑥⑦⑨}待ち。

 高目ツモでハネ満になる手。

 

 栄子が聴牌即でツモってきたのは{六}。神楽の和了り牌だった。

 しかも、

 {八八八③③③[⑤]⑥⑦3456}  ツモ{六}

 十四枚中八枚が他家の和了り牌。

 

 栄子は自身の能力によって、洋榎のように他家の和了り牌が分かる。よって、差し込みでもしない限り他家に振込むことは無い。

 ただ、相手の手の高さは分からない。

 

 もしここでシャルロットか桂英に振り込めば、神楽の親は流せる。

 しかし、振込んだ際に相手の手がハネ満クラスだった場合、神楽との点差を12000点も縮めてしまうことになる。それは避けたい。

 そこで栄子が切ったのは{八}だった。

 本来であれば、栄子は洋榎と同レベルで、ここから別の形の聴牌に持ち込み、和了れるだけの力がある。

 しかし、神楽が降ろしているのは、その洋榎よりも強い憩だ。憩の手をかわした上で栄子が和了るのは至難の業だろう。

 やむを得ず、先行聴牌者である栄子が聴牌を崩した。これによって、憩自身が先行聴牌者になった。

 これにより、次のツモ牌で神楽は、

「ツモ!」

 安目の{九}だがツモ和了りした。

「ツモ中メンホン。4000オール!」

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(日本) 140000

 2位:栄子(ドイツ) 90000

 3位:桂英(中国) 85000(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 85000(席順による)

 神楽は栄子に50000点の差をつけた。つまり、前半戦の100000点差のうちの半分を取り返したことになる。

 

 もし、次の局で親倍をツモ和了りできたら、後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(日本) 164300

 2位:栄子(ドイツ) 81900

 3位:桂英(中国) 76900(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 76900(席順による)

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:栄子(ドイツ) 262900

 2位:神楽(日本) 252300

 3位:桂英(中国) 142400(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 142400(席順による)

 ドイツチームとの差を10600点まで詰めることができる。

 

 この考えの下、憩は、

「(ほな、うちは倍満がツモれる娘にバトンタッチするわ。世界大会で50000点も稼げてイイ気分や! あと、よろしく頼むでぇ!)」

 そう言って神楽の身体の中から抜け出て行った。

 

 東四局一本場、神楽の連荘。ドラは{1}。

 神楽の配牌は、

 {二二四九①⑤⑧1488西北發}

 最悪の六向聴。

 しかし、この手を神楽は八巡目に、

 {二二四四①①⑤⑧1188東}  ツモ{[⑤]}

 の形に仕上げた。

 そして、

「左手を使います。」

 そう言うと、

「リーチ!」

 神楽は{⑧}切りでリーチをかけた。

 今、神楽の中に入っているのは真屋由暉子だった。

 彼女は、昨年インターハイ時点では、

「左手を使ってもイイですか?」

 と言っていた。

 まあ、普通は嫌だとは言わないだろう。しかし、今年の南北海道大会個人戦で琴似栄の吉田に、

「嫌です!」

 と言われてしまった。由暉子の能力を知ってのことだ。

 それで由暉子は、

「使ってもイイですか?」

 ではなく、

「使います!」

 に言葉を変えたのだ。

 

 ところが、リーチ宣言した直後、

「ドン!」

 神楽の身体に向けて栄子から衝撃波が放たれた。神楽(由暉子)は、

「(いったい何ごと?)」

 と思ったところ、栄子が、

「石見さんの中の方。」

 由暉子に話しかけてきた。

「はい?」

「貴女は恐らく、ここにいる他の二人よりも私から点数を奪う力があるようですね。でも、18000点止まり。あと8000点までしか奪うことができません。」

「はぁ…。」

「それ以上は、芝棒一本たりとも奪えません。」

 由暉子は、この時、

「(何言ってるんだろう、この人。)」

 くらいにしか思っていなかったが、次巡のツモで、その意味を知った。{東}をツモることができなかったのだ。

「(何で?)」

 すると栄子が、

「ですから、8100点は奪えないんです。」

 と神楽に言った。

 そうだ、今は一本場なのだ。

 神楽はツモった{白}をそのままツモ切りした。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 待望の{東}をツモって和了った。ただ、裏ドラは乗らなかったし、一発が付かなかったためハネ満止まりとなった。

「リーツモ七対ドラ3。6100オール。」

 これで、由暉子の役目は終わった。

 

 予定は差し引き6000点分狂ったが、現在の後半戦の得点と順位は、

 1位:神楽(日本) 158300

 2位:栄子(ドイツ) 83900

 3位:桂英(中国) 78900(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 78900(席順による)

 

 そして、前後半戦トールでは、

 1位:栄子(ドイツ) 264900

 2位:神楽(日本) 246300

 3位:桂英(中国) 144400(席順による)

 4位:シャルロット(アメリカ) 144400(席順による)

 日本チームがドイツチームとの差を18600点まで詰め寄せて来た。




おまけ

憧100式番外編


憧100式、憧105式ver.淡、咲、歩美の五人は、地域の大切り大会に参加していた。
なぜか、他にもベルモットとウォッカの姿もある。
観客席のほうには、憧108式ver.姫子と憧125式ver.絹恵の姿があった。応援に駆けつけていたのだ。

ちなみに京太郎、俺君、哩の三人はバイト中。
一太と憧110式ver.マホはアパートで24時間耐久レース(節句の複数形)に励んでいた。
まあ、いつものことだ。

勿論、博士は朝美と、コナンは哀と、新一は久HT-01と、それぞれ毎度のメニュー(こっちも節句の複数形)に勤しんでいた。
これもいつものことだ。

玄は、雀荘で宇宙麻雀を打っていた。
ドラが和了り役として認められるルールなので、多分、玄は最強の部類に入るだろう。

そして、何故か憧125式ver.ヤエが大会の司会進行に抜擢されていた。どのような経緯かは不明だ。
それと、憧127式ver.琉音は、喫茶店で美穂子の愚痴を聞かされていた。


美穂子「最近、久が毎日外泊していて、家にも帰ってこなくて。」

琉音「何処に行っているかは知らないのか?」

美穂子「隣町に男が出来たって…。」

琉音「(ああ、工藤のところか。)」

美穂子「今年は、延期になっちゃったけど、東京オリンピックイヤーになる予定だったことにちなんで、
『東京不倫チック・いやーん』
とか言って誤魔化すし。」


まあ、貞操観念の無いダッチ〇イフなのだから仕方が無い。もう、美穂子は久HT-01のことを諦めたほうが良いだろう。
琉音は、そう説得する方向に決めた。
もっとも、美穂子には久HT-01と別れる気は無いみたいだが………。


ちなみに元太と光彦は、今日も隣町の小学生達とオナ〇で遊んでいた。と言うか正しくは使い回していた。
なんか想像したくない…。
そんなものの使い回しなんて、普通の感性だったら絶対にイヤがるだろうに………。


ヤエ「では、大喜利大会をはじめます。最初の御題は川柳。しかもネタは、麻雀ネタ限定でお願いする。」

憧「はい! では私から。
役満を 張ったつもりが カラテンだ。」

ヤエ「まあ、そう言うこと、ニワカならたまにあるな。王者の私は、そんなこと絶対にしないが。では次!」

淡「はい! では、
バカホンに 差し込むつもりが 緑一色。」

まこ「是非、私にやってくれんかのぉ!」

ヤエ「これ以上は時間が飛ぶので、染谷さんは黙っているように。まあ、差し込みはニワカがするものだな。王者の私は自力で先に和了る。では次!」

咲「はい!
チョンボって 意外と奥が 深いよね(本作八十三本場&前作三十局)」

ヤエ「まあ、それは小説とか漫画の世界の話だな。現実世界では、そんな劇的なチョンボは無いと思うぞ。」

ヤエ「まあ、あんまり面白くなかったので次に行く。
で、次の御題は、
高尚なモノを下品にしてくださいとのことだ。」

憧「(怜さんと爽さんの得意ジャンルね!)」

憧「(でも、今日は怜さんも爽さんも不在か。また、ハヤリ20-7と遊んでるんじゃないかなぁ?)」

ベルモット「では、私から。
シャブリってワインをご存知かしら?
名前が『しゃぶる』みたいでエロいわよね。
それに、白なのよ。」

ウォッカ「それって、飲み屋でエロ親父がマッコリをモッコリって言ってるのと大差ねえじぇねえか?」

ベルモット「そのネタって、あなたとジンが、昔、どこかの居酒屋で言っていたやつじゃない?」

ウォッカ「うっ………。」←図星

ベルモット「それに、巨峰サワーをわざと巨乳サワーって言って、店員の女の子を困らせていたんじゃなかったかしら?」

ウォッカ「…。」←これも図星

ヤエ「なんか、困ってる人がいるので、じゃあ次、誰か?」

歩美「ええと、じゃあ、歩美行きます!
これって前にコナン君から聞いた話です!
インポな男の人が沢山いるって重要な問題なんだって!
歩美、よく分からないんだけど、『インポ』が『たんと』でインポタントって?」

ヤエ「多分、インポータントって言いたかったのかな?」

歩美「そう、それです!」

観客「(小学生の会話かよ、それが?)」

ヤエ「まあまあかな。」

全員「(まあまあなんだ、あんなんで?)」

ヤエ「たしか『たんと』とは『沢山の』の意味だが、最近では余り使われない言葉だな。まあ、車のCMであったくらいか。では次!」

憧「では、私が!
サマリウムって原子があるんですけど、原子記号がSmなんです!
で、サマリウムの語源は、科学者でサマルスキーって人の名前から………。」

淡「触る、好き?」←本気で聞き間違えてる

憧「先に言われちゃった!」

淡「へっ?」←ネタの横取りに全然気付いていない

咲「咲だけに、『先に』ってね。」

ヤエ「なんか、今一つだな。もう一人くらい行くか。じゃあ、次!」

ベルモット「じゃあ、もう一つ私から。
ハーレクイーン・ロマンスって言葉を聞いたことあると思うんだけど、
まあ、私の場合は、
ハード、グィーン………口(くち)マ〇っスってとこかしら。」

ヤエ「………。」

ヤエ「じゃあ、次の御題。」

ベルモット「ちょっと、少しは反応してよ!」

ヤエ「つまらなかったモノで、つい。」

ヤエ「では、次と言うか、ネタが無いんで最後の御題。」

ヤエ「咲-Saki-阿知賀編入で登場させたい新キャラの名前を考えてくださいとのことだ。
また、それがどのようなキャラかも説明してくれ!」

憧「はい! では、私から!
鬼島美誇人(みこと)
鬼と人で『傀』
むこうぶちの女性バージョンです!」

ヤエ「まあまあだな。ただ、美誇人って凄い名前だな。美を誇る子だぞ。これで美しさの欠片もなかったら最悪だな。」

全員「(それは言える。)」

ヤエ「まあ、実際にある名前みたいだから、これ以上は言わないが。」

全員「(それって、DQ…。)」

まこ「キラキラと言いんさい!」

ヤエ「まこの言うとおりだな。それと、人と言う字を出したいだけなら人美(ひとみ)でも良いのでは無いか? それなら美人そうで美人で無いってギャグに使えそうだぞ!」

憧「たしかにそうね。」

ヤエ「でも、いっそのこと美入(みにゅう)って苗字に人美のほうが面白いかもしれないな。美入人美で、苗字も名前も美人そうで美人じゃ無いんですってギャグになる。」

全員「(本当にいたらどうすんだよ!)」

ヤエ「では次、誰か?」

淡「麻雀強い系か。
だったら、竜崎鳴海なんてどうかな?
竜(ドラ)を鳴くで。
本当は『鳴く』ではなく『哭く』にしたかったんだけどね。」

ヤエ「哭きの竜の女性バージョンってことだな?」

淡「そうとも言う!」

ヤエ「これもまあまあだな。他、誰か?」

ベルモット「では私から。
鷲巣巌の女性バージョンを作ってみようかしら。
『ワシズ』の『ワシ』に『イワオ』の『オ』で苗字は鷲尾
あと、名前に『ズ』を入れれば良いってことで、
鷲尾静香。
あだ名は、鷲と静でワシシズ。それが短縮されてワシズ。
こんなのどうかしら?」

ヤエ「まあ、良いんじゃないか? ただ、本編ではワシズ麻雀はやらないけどな。と言うかやらせない。」

ベルモット「和・穏-Washizu-ではあったけどね。ヌくのは別のモノだったけど。」

ヤエ「それは、別世界の話だ。では次、誰か?」

咲「では、私が。
ええと、私にヤられる役の娘を考えてみました。
的井美和。
『まといみわ』で、アナグラムにして………。」

ヤエ「意味は的か?」

咲「先に言われちゃった。(咲だけに!)」

ヤエ「あと一人いれば五人揃うな。他、誰か?」

歩美「では、歩美行きます!
空気の読めない人の名前を考えてみました!
敬輪稲子さん!」

ヤエ「KYな子か。KYなんて久しぶりに聞いたな。咲ーSakiーの連載開始当時は使われていた言葉だが…。ただ、まあまあだけど、実際にある苗字を使うように!」

歩美「敬輪はダメなの?」

ヤエ「ダメだな。それと、麻雀と余り関係ない感じの人になっているのでな。」

憧「でも、KYな人がいるってのもイイんじゃない? 本編のほうにだって、池田華菜とか中田慧とかいるし。」

ヤエ「なるほど。」

華菜・慧「「なるほどじゃないし! 納得しないで欲しいし!」」

歩美「でも、原作にも東横さんがいるし。東横さんって実際にはいない苗字でしょ?」

ヤエ「彼女の場合は『自分は存在しない』がウリだからな。敢えて有りそうで無い苗字にしたんだろ。」

咲「なら、『敬輪稲子』を入れ替えて『稲輪敬子』なら、どうかな?」

ヤエ「たしかに、それならOKだ!」

ヤエ「あと、いっそのこと、その五人が同じ高校と言うことにして春季大会に出てくるとかあったら面白いかな?」

ヤエ「なら、所属する高校の名前が必要だが………王者高校と言うのはどうだろうか?」

全員「(今までで一番つまらねえな、王者高校って………。)」

ヤエ「おい、誰か反応してくれ!」

ヤエ「誰か!」




続きません


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九十九本場:世界大会23 隠し玉

 東四局二本場、神楽の連荘。ドラは{②}。

 神楽の配牌には、幸か不幸かドラが二枚あった。

 

 一方、栄子は、この局に入って急に違和感を覚えた。

 とは言え、記憶にある違和感だ。そう、カナコを相手にしているような感覚…。

 ただ、さっきまでとは違って、栄子を15000点削るのが限界な感じがする。つまり、もう自分からは直取りできないはずの相手だ。

 

 この時、神楽の中には東横桃子の生霊が入り込んでいた。しかも、いきなりステルス全開だった。

 もしかしたら、桃子のステルスなら栄子の能力支配下でも誰かが振り込んでくれるかも知れないとの期待があって、この局面で桃子が登用された。

 しかし、その期待通りに、ことを進めることはできない。

 …

 …

 …

 

 栄子は、自らの能力によって、今ある点数を最後まで維持し続けて終わらせようとしていた。

 

 そもそも栄子は、理屈抜きで相手の和了り牌が分かる。よって、桃子のステルスは栄子には通じない。

 もっとも、それ以前に三人とも栄子から削れるのは15000点まで。

 既に栄子は15000点以上削られているので、栄子は振り込まないし、三人のツモ和了りも封じられた状態にある。これが第一前提だ。

 

 加えて栄子は『誰もトバさせない能力』のスイッチも入れていた。これにより、25000点持ちとして考えた場合に誰も箱割れしなくなる。つまり、100000点持ちなら75000点までしか削れない。

 現在、シャルロットと桂英は共に78900点。

 神楽(桃子)が、この二人のどちらかから直取りを狙うとしても最大で3900点までしか奪えない。

 逆にシャルロットと桂英は、点数的には神楽から和了ることは可能だが、ステルス状態のため神楽からの直取りはできない。見えないのだから………。

 

 また、シャルロットと桂英が互いの出和了りを狙うこともあるが、結局は互いに3900点までしか相手から取ることが出来ない。つまり、栄子にとっては、全然怖くない範囲での点棒の動きでしかない。

 

 このような背景の下、栄子は敢えて自らをノーテンにする方針を決めた。流局しても栄子の能力がノーテン罰符を発生させない方向に強制力を発揮するだけだし、誰かが聴牌したなら、その者はシャルロットか桂英から3900点以下の手を和了るに留まる。

 つまり、誰も前半戦の栄子のリードを逆転できる者はいない………何もしなければ、そのままドンドン場が流れて行き、ドイツチームの優勝が決まる。

 

 この局は、結果的に全員ノーテンで流局となった。

 

 

 南入した。

 南一局流れ三本場、シャルロットの親。

 ここでも栄子は和了り放棄の流局を目指した。

 傍から見ていて何ともつまらない麻雀だが、選手達の心中は違う。

 ドイツチームと日本チームは優勝を賭け、中国チームとアメリカチームはメダルを賭けた緊迫した戦いなのだ。

 ただ、ここでも前局と全く同じ展開となり、全員ノーテンの流局となった。

 

 桃子は、

「(私じゃダメみたいッス。でも、世界大会に出させてもらえて嬉しかったッスよ。では、後はよろしく頼むッス、生霊軍団のエース殿!)」

 そう言い残すと、神楽の身体から抜け出した。

 

 

 南二局流れ四本場、桂英の親。

 ここに来て、栄子は再び神楽の様子が変わったことに気が付いた。

 その直後、

「ドカン!」

 栄子は、この上ない衝撃波を受けた。

 いや、衝撃波どころでは無い。まるで爆発だ。

 恐らくこれは、東四局一本場で、栄子が由暉子の生霊に向けて放った衝撃波が、今になって時間差で打ち返されてきたものだ。しかも、とんでもない利息が付いてきている。

 その打ち返されてきた方向………神楽の方に目を向けると、背後には火焔が見えていた。今までには無いパターンだ。

 そして、その火焔を背負う本体の姿も、神楽の後ろで見え隠れしていたのだが………、その姿を目の当たりにして、栄子は驚きの余り言葉を失った。

「(まさか、あれ…。)」

 それは、全てを超越した存在………。

「(蔵王権現!?)」

 とうとう最後の砦、穏乃の生霊が神楽の中に入り込んだのだ。

 この強大な力。

 これが日本チームの隠し玉だった。

 

 栄子は、直感的に相手が自分から奪える点数の上限が分かるのだが、この相手は、その上限が見えない。

 まるで最高状態のフレデリカのようだ。

 このままではマズイ。

 少なくとも、今までと同じ流局作戦が効く相手とは思えない。

 

 ここで栄子は、再び神楽に能力麻雀による幻を見せた。巨大な棘の檻で神楽の身体を取り囲んだのだ。それで相手が少しでも怯めば勝機はあるかもしれない。

 しかし、次の瞬間、棘は蔵王権現の火焔から放たれる業火によって、一瞬にして焼き尽くされてしまった。

 そして、

「ツモ。1400、2400。」

 気が付くと、小さな手だが神楽が和了っていた。

 これで、今までの均衡が完全に崩れ去った。

 

 

 南三局、栄子の親。

 穏乃の本体は、明日の土曜日から二日間に渡って行われる近畿大会に備えて、既に大阪に入り、ホテルのベッドの上で眠っていた。そこから空間を越えて韓国ソウルまで霊体だけが来ていたのだ。

 

 栄子は、急に視界が悪くなったことに気付いた。

 何故か靄のようなものに覆われ、牌が見難い。

 ただ、牌が見えなくても自分には能力で和了り牌を察知する能力がある。なので絶対に振込まないはずとの自負があった。

 しかし、中盤に入り、大丈夫と思って切った{①}で、

「ロン。平和ドラ1。2000。」

 小さな手だが、栄子は神楽に振込んだ。

 

 この様子を控室のテレビで見ていたカナコは、

「マジマジマジマジ アルマジロ?」

 さすがに驚いて、思わず声を上げていた。栄子が振込むなど、絶対に有り得ないはずだからだ。

 しかし、現実に振込んでいる。一体、卓上で何が起こっているのだろうか?

 想像すらつかない。

 あるのは、前半戦終了時には無かったはずの『不安』の二文字だけ。まさか、このまま栄子が負けるのだろうか?

 

 

 その不安を他所に、オーラスが開始された。

 親は穏乃と化した神楽。

 卓上のかかる靄が、より一層深まって行く。

 しかも、前局に栄子が振り込んだことからも分かるように、全ての能力が無効化されている。

 

 一応、まだ神楽より栄子の方が前後半戦トータルの点数は上だ。ならば、栄子としてはゴミ手で良いのでさっさと和了り、勝利を決めたい。

 ただ、そう思えば思うほど、心が焦る。

 そして、気が付くと、

「ツモ。1000オール。」

 またもや、いつの間にか神楽に和了られていた。

 

 この段階での後半戦の得点と順位は、

 1位:神楽(日本) 168500

 2位:栄子(ドイツ) 79500

 3位:シャルロット(アメリカ) 76500

 4位:桂英(中国) 75500

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:栄子(ドイツ) 260500

 2位:神楽(日本) 256500

 3位:シャルロット(アメリカ) 141000

 4位:桂英(中国) 142000

 日本チームとドイツチームとの差は、もはや4000点まで迫っていた。

 

「一本場!」

 当然、神楽は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{一}。

 ふと栄子は、とんでもないことに気が付いた。後半戦は、まだ神楽しか和了っていない。つまり、パーフェクトゲームだ。

 チームの勝利もさることながら、パーフェクトゲームを何としてでも阻止もしたい。

 しかし、卓上にかかる靄は、もはや濃霧と呼ぶに等しい。しかも、この靄が深まれば深まるほど他家の能力は、一層無効化される。

 

 靄は栄子が見せる棘と基本的に同じで、能力から発する幻なのだろう。

 ただ、この強烈な靄の発生によって、栄子は神楽の待ち牌を察知する術を完全に失っていた。

 今まで能力に頼って当たり牌を見抜いていただけに、栄子は、能力無しでは相手の和了り牌を見抜く力が無い。

 つまり、能力を失えば、単なる素人同然のディフェンス力となる。

 そんな状態で、何の裏づけも無い直感に従って打つことしか出来ない。

 本当に最悪な展開だ。

 

 そして、{①③⑤}の両嵌を持つところ、{④}をツモり、手を進めようとして切った{①}で、

「ロン。」

 神楽(穏乃)が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {一一①②②③③⑨⑨2233}  ロン{①}  ドラ{一}

 

 偶然にも、昨年インターハイ二回戦大将戦オーラスで、穏乃が見せた和了りと全く同じ和了りが飛び出した。

 ただ、今回は親だ。

「七対ドラ2。9600の一本場は9900。」

 点数は、あの時の1.5倍になる。

 

 これで後半戦の得点と順位は、

 1位:神楽(日本) 178400

 2位:シャルロット(アメリカ) 76500

 3位:桂英(中国) 75500

 4位:栄子(ドイツ) 69600

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:神楽(日本) 266400

 2位:栄子(ドイツ) 250600

 3位:シャルロット(アメリカ) 141000

 4位:桂英(中国) 142000

 神楽が栄子を逆転した。

 

 電光掲示板に映し出された合計点を確認すると、

「これで和了りやめにします。」

 神楽は連荘を拒否し、半荘終了を宣言した。

 

 この瞬間、勝ち星三で日本チームの優勝が決定した。準優勝は勝ち星二のドイツチーム、3位は中国チーム、4位はアメリカチームとなった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼が行われた。

 その際、神楽………と言うか、穏乃の元気な声が対局室に一段と大きく響き渡ったのだが………、その直後、穏乃の生霊は神楽の身体を抜け出て行った。

 

 …

 …

 …

 

 

 十日間に渡る世界大会も、あとは表彰式を残すのみとなった。

 中国チームのメンバーに銅メダル、ドイツチームのメンバーに銀メダル、日本チームのメンバーに金メダルが順にかけられていった。

 

 昨年同様、ドイツチームは優勝確定と思われていたところ、最後の最後で日本チームに逆転された。

 今回も悔いの残る試合となってしまったが、メンバー総入れ替えで昨年の敗北を経験している者がドイツチームの中に一人もいなかったことが救いだったかもしれない。

 

 優秀選手は三名。フレデリカ、光、そして玄が選ばれた。特に玄の大三元連発は、審査員の心に強く印象に残っているようだった。

 最優秀選手には、昨年に続いて咲が選ばれた。決勝後半戦での、まさかの二人トバしは実に圧巻であった。

 

 

 表彰式が終わると、

「宮永さん!」

 栄子が咲に話しかけてきた。

「私、園田栄子。去年の一学期は清澄高校で同じクラスにいたんだけど、覚えてる?」

「やっぱり、そうだったんだ。でも、麻雀をやってたんだったら、入部して欲しかったな。あんなに強いんだし。」

「私、麻雀始めたのはドイツに渡ってからなんだ。」

「そうなの?」

「うん。本当は、宮永さんの麻雀に憧れて、麻雀部に入部しようと思ったんだけど、もう、あの時には父の海外転勤が決まってて…。」

「そうだったんだ。」

「でも、ドイツで麻雀を始めて、フレデリカに出会えて………。それで麻雀が強くなれたんだよ!」

「そうそう、フレデリカ。なんで私にそっくりなの?」

 すると、咲の背後から声が聞こえてきた。

「私もそう思う!」

 咲が振り返ると、そこにはフレデリカの姿があった。

 二人揃うと、本当にそっくりなのが分かる。ただ、フレデリカの方が一歳年下なのに少し背が高いしオモチも大きい。

「(うぅぅ。)」

 思わず、心の中で咲の嫉妬の声が漏れる。

「でも、日本チームの副将の巫女さんが、私のことを両頭愛染の片割れって言っていたし、日本チームでは何か知っているんじゃない?」

「全然知らないよ。でも、麻雀の打ち方も私に似ていたし、なんか親近感あるけどね。」

「そうね。」

「日系人だよね?」

「うん! 厳密にはクォーターで日本人の血が四分の三らしいけど。」

「じゃあ、私と同じなんだ!」

「そうなんだ!」

「凄い偶然! あと日本には行ってみたいし、留学したいって思ってるよ!」

 そんな会話をしていると、

「宮永咲さんにフレデリカ・リヒターさんですね。私、ザ・ゴシップと言う雑誌の記者ですが…。」

 一人の雑誌記者が二人に声をかけてきた。ただ、いかにも怪しい雑誌タイトルだ。

「お二人は、非常にそっくりさんと、我々記者仲間の間でも話題なのですが、親戚か何かですか?」

 これにフレデリカが答えた。

「そうなのかなぁ…なんて話をしていたんですよ。」

「でも、ここまでそっくりだと、DNAが似ていたりしませんかね。」

「そんなこと、あるんでしょうか?」

「それに、遠い親戚かもしれませんし…。どうでしょう、経費はこちらでも持ちますので、お二人のDNA鑑定なんかしてみてはどうかと思いまして。」

「「!!!」」

 たしかに咲もフレデリカも興味がある。

 それで二人は、その記者に言われるまま、毛根部分の付いた数本の髪の毛を渡した。もっとも、毛髪でのDNA鑑定は容易ではないと言われているが………。

 

 その記者は、

「狙い通りの結果が出ると面白いんだけどな。」

 咲とフレデリカが血縁関係にあることを期待していた。そして、毛髪サンプルを持って大会会場から出た丁度その時、

「プシュッ!」

 恐らくサイレンサー付きだろう。銃が撃ち放たれた。

 次の瞬間、その記者は頭から血を流して倒れていた。頭を銃で撃たれたのだ。当然、即死である

 

 その数秒後、

「大丈夫ですか!」

 大声をあげて一人の男性が、記者の死体に駆け寄った。

 そして、その男性は、記者に話しかけるフリをして、周りに気づかれないようにしながら記者が持っていたサンプルを奪い取った。

「(回収完了。)」

 どうやら、その男性は、フレデリカ誕生の秘密を管理する側の者だったようだ。




おまけ


世界大会が終わった日の夜のことだった。
咲と玄は同じ部屋に宿泊していた。
ちなみに光は淡と同室、衣は入院、小蒔はテレポーテーションで霧島神境に戻っていた。ただ、小蒔は、韓国での出国手続きと日本での入国手続きの関係で、明日の朝、テレポーテーションで改めてソウルに戻ってくることになっていた。
慕と恭子が同室。
神楽は結果的に一人部屋になっていた。


玄「日本チームが優勝できて嬉しいのです! 金メダルも貰えました。これも、全部咲ちゃんのお陰なのです!」

咲「別に私だけの力って訳では…。」

玄「謙遜してなくも良いのです。本当に、高校三年の最後に、とても良い思い出ができたのです!」


去年、咲が転校してきた頃と比べて、玄は麻雀プレイヤーとして大きく成長していた。咲に鍛えられた故であろう。
去年の今頃は、まさか、自分が世界大会のメンバーに選ばれるとは思っていなかったし、その大舞台で優勝できるとは………。
玄自身も、それなりに活躍できたとの自負もある。
これ以上無い、最高の思い出だ。


玄「明日は、朝早くソウルを出発して近畿大会会場に向かうのです。」

咲「朝、早いんですよね。」

玄「そうなのです。だから、もう明日の着替えだけ出して、あとは全部、キャリーバッグの中に入れてしまった方が良いのです!」

咲「でも、身支度に必要なものとか…。」

玄「それを入れるスペースだけ確保しておけば良いのです。」

咲「明日の朝になってからでも良いと思うのですけど?」

玄「ダメです。明日の朝になって荷物を入れ直す時間は無いのです! 咲ちゃんは、いつも寝起きが悪くて動き出すのが遅いのです!」

咲「でも、スペースを空けてって、どうやって………。」

玄「では、私がやってあげるのです!」


玄が、妙にお姉さんになっている。
それもそうだろう。
咲は寝起きが悪く、しかもトロい。
これが、あの日本の守護神と同一人物とは思えない。
天は二物を与えずと言うが、咲の場合、突出して得たものに対する対価が大き過ぎる。
せめて麻雀が突出した分、他は突出して優れていなくても良いから、せめて普通に出来て欲しい。

明日は、万が一、飛行機に乗り遅れたら大変なことになる。
それに加えて咲の迷子癖。
当然、おっとりとした玄でもナーバスになる。

玄と恭子が晴絵から命じられた最大の任務は、多分、世界大会優勝では無い。
明日、確実に咲を近畿大会会場に送り届けることだ。
玄は、咲の代わりに荷造りをしてあげた。


翌朝、案の定、咲は中々起きなかった。
何回起こしても起きない。
そろそろ時間ギリギリだ。
珍しく玄が大声を上げた。


玄「咲ちゃん、もうそろそろ起きないと飛行機に間に合わなくなるのです!」

咲「ふぇ?」

玄「もう、朝食をとる時間も無いのです。急いで着替えて!」

咲「は、はい!」


あの玄がイライラしていた。
多分、恭子だったらド突いているかも知れない。

咲は慌てて着替えた。
そして、急いで玄と一緒にロビーに行く。

既にロビーには恭子の姿があった。
神楽の姿もある。神楽は、関西国際空港経由で中国・四国大会が行われる広島に向かう。それで、咲達と同じ便に乗ることになっていた。

小蒔は、既に荷物はテレポーテーションした際に霧島神境に置いてきてある。
必要なのは身体だけだ。
それで、直接、鹿児島から空港にテレポーテーションすることになっている。
ただ、もう小蒔は九州大会に出るわけではない。時間としては余裕がある。

衣は入院中だが、もし、入院していなくても小蒔と同様、もう信越大会に出場するわけではない。
光と淡は、既に都大会を終えている。
慕は、一日観光してから東京に入る予定。
なので、今日、急いで大会出場のために帰国しなければならないのは咲と神楽だけなのだ。
それと咲を送り届ける役の恭子と玄…。

咲と玄がチェックアウトを済ますと、


恭子「ほな、行こうか。」

咲・玄・神楽「「「はい。」」」


四人は、空港へと急いだ。

空港で搭乗手続きをする。
咲の両脇を、玄と神楽でしっかりガードする。
いつ、どこで消えてしまうか分からない超方向音痴の咲を、絶対に単独行動させてはならない。


無事に飛行機に乗り………、関西国際空港に到着した。
そして、手続きを終えて四人は無事到着出口を通過した。


神楽「では、私はここで迎えの方と待ち合わせしておりますので………。」


と言うわけで、神楽とは到着出口付近で別れることになった。
が、この時、大事なことに気が付いた。
咲がいない!





咲「ここ、ドコ?」





恭子は、至急、晴絵に電話を入れた。


恭子「済みません、監督。咲が行方不明になってしもて。」

晴絵「やっぱり…。」

恭子「ちょっと目を放した隙に…。」

晴絵「とにかく急いで探して。一回戦には間に合わないって最初から思っているけど、準決勝には間に合って欲しいから。」

恭子「分かってます。」

晴絵「念のため咲は準決勝の副将にしておくよ。大将にして、もし間に合わなかったら大変だからね。」

恭子「はい…。お願いします。」


大変なことになった。
ただ、当の咲は、


咲「この電車でイイんだよね。」


勝手に空港を離れていた。

少しして、咲のスマホのバイブ音が鳴った。
恭子からLINEが入ったのだ。


恭子:今ドコ?

咲:電車に乗ってます

恭子:今、何駅?

咲:もうすぐ泉佐野に到着します

恭子:じゃあ、一旦泉佐野で降りて
   そこで合流しよ


咲は、恭子の指示に従って泉佐野駅で降りた。
しかし、方向音痴が深みに嵌ってゆく代表例みたいなものだ。駅のホームで待っていれば良いモノを、勝手に駅を出てしまった。
そして、しばらくして、


咲「ここ、ドコ?」


期待を裏切らない。
駅から少し離れたところで咲は涙目になっていた。


奈良県大会では、星取り戦だったが、何故か近畿大会は100000点持ちの点数引継ぎ制に変わっていた。
どうやら、咲が大会初日に間に合わないことを見越して、アンチ阿知賀の大会役員が阿知賀女子学院を敗退させるべく、強引に、このような措置をとったとの噂だ。

ただ、建前上は、昨年の近畿大会も今年の春季大会も点数引継ぎ制だったので、前回と同じルールにしたと言うことだ。

他の地域では、春季大会のルールは星取り戦になる予定と聞かされ、それに合わせて星取り戦にしていた。
勿論、その話があったので、近畿各府県の大会は、今年のインターハイと同じ星取り戦にしていた。近畿大会だけが例外で点数引継ぎ制だったのだ。


参加校は、大阪府から10校、京都府、兵庫県から各5校、滋賀県、奈良県、和歌山県から各4校の計32校。
初日の午前に一回戦が行われる。一回戦では先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつ行われ、4校中1校のみが準決勝戦に進出する。
そして、初日の午後に準決勝戦が行われる。準決勝戦も先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつ行われ、4校のうち2校が決勝戦に進出する。
決勝戦は、大会二日目の朝からスタートし、先鋒戦から大将戦まで各二半荘ずつとなる。

咲が間に合わなければ、阿知賀女子学院は一年生が三人のチームになる。
しかも、阿知賀女子学院はインターハイまで二年生&三年生のみで構成されていたチーム。
当然、その一年生三人は、高校での団体公式試合の経験が浅い。高校生になってからの団体戦は、コクマからである。
しかも、そのうちの一人は、奈良県大会も経験していない。
そこに大黒柱の咲の不在。
精神的ダメージは大きいはず。
このような背景だ。この三人の誰かが崩れる可能性はある。そうなれば阿知賀女子学院の敗退もあり得るだろう。
そう考えての措置だ。


その大会役員の思惑を後押しするように、咲は迷子になっていた。
しかも、咲が警察に保護され、恭子と玄と再会した時には、既に16時を回っていた。
今から急いで会場に向かっても副将戦には間に合わない。
それどころか、既に大将戦が始まっているとのこと。

ところが、


穏乃「咲が来れなくても、絶対に決勝に進出するんだ!」


むしろ、咲が不在なことで、よりいっそう穏乃は気合が入ったようだ。
しかも結果的に全員プラス。
阿知賀女子学院は、余裕の決勝進出を決めていた。


咲達は、そのままホテルに直行した。そして、


憧「サキ! 正座!」


小一時間、咲は正座させられたそうだ。


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百本場:近畿大会

 世界大会翌日、咲、玄、恭子の三人はソウルを出発し、大阪に入った。

 この日から二日間に渡り、大阪で近畿大会が行われる。

 一回戦はムリでも二回戦には間に合うと思っていたのだが………。

「ここ、ドコ?」

 案の定、咲が迷子になった。

 本当に悪い意味で期待を裏切らない。

 

 それもあって、三人がホテルに着いた時には、既に夕刻となっていた。

 当然、大会初日の対局は全て終了していた。

 

 とは言え、穏乃と憧は勿論のこと、小走ゆい(小走やえ妹)、宇野沢美由紀(宇野沢栞妹)、車井百子(車井百花妹)の一年生三人組が安定した力を見せ、阿知賀女子学院は余裕で決勝進出を決めていた。

 

 近畿大会は、大阪府から10校、京都府、兵庫県から各5校、滋賀県、奈良県、和歌山県から各4校の計32校が各府県の代表校として出場する。

 ルールは、星取り戦にすべきか点数引継ぎ制にすべきか色々議論が成されたが、結果的に今回は昨年同様、100000点持ちの点数引継ぎ制で行われることになっていた。

 

 大明槓からの嶺上開花による責任払いはあり。ここは、昨年の近畿大会とはルールが変わっていた。

 また、二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)あり、ダブル役満以上ありだった。

 なお、世界大会で適用された槓振は、本大会では適用されない。

 ルールの詳細は、各地区によって異なるようで、例えば関東地区大会では二家和、三家和ありだが、東京都大会ではアタマハネを採用していたそうだ。

 

 阿知賀女子学院メンバーからすれば、県大会では星取り戦で槓振ありだったのだから、正直なところコロコロルールを変えられる感じがしてならない。

 頭の切り替えが面倒だ。

 とは言え、この辺は運営サイドの判断なのだから、まあ仕方が無い。

 

 ただ、本当のところは、咲が大会初日に間に合わないのを見越して、アンチ阿知賀の大会役員が阿知賀女子学院を敗退させるべく、このような措置をとったとのことだ。

 咲が間に合わなければ、高校での団体戦経験のない一年生が三人もいるチームになる。頼れるエースが不在となれば、プレッシャーからその三人の一人が崩れる可能性はある。そうなれば、点数引き継ぎ制である以上、その一人の大敗が原因で阿知賀女子学院自体が敗退する可能性も出てくる。

 大明槓からの嶺上開花に対する責任払いを有りにしたのはアンチ阿知賀なのを隠すため………。

 やはり大人の世界は汚い。

 しかし、そのアンチ阿知賀の想定以上に、今の阿知賀女子学院は強かったと言える。

 

 

 一日目の午前に一回戦が行われた。

 一回戦は先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつ行われ、4校のうち1校だけが準決勝戦に進出する。

 

 準決勝戦は一日目の午後に行われ、やはり先鋒戦から大将戦まで各一半荘ずつの点数引継ぎ制で行われるが、4校のうち2校が決勝戦に進出する。

 

 決勝戦は二日目の朝より行われる。

 なお、決勝戦のみ先鋒戦から大将戦まで各二半荘ずつとなる。そのため、終わるのは大抵夜になる。

 

 それから、今年の春季大会で阿知賀女子学院が優勝していることから、近畿大会の上位5校が次の春季の全国大会団体戦に出場することになった。本来は4校だが、優勝校の所属する地区は1校増やすルールになっているためだ。

 そこで、今回は決勝戦と同時平行で5位決定戦が行われる。こちらも先鋒戦から大将戦まで各二半荘ずつの対局となる。

 

 大会初日の阿知賀女子学院は、一回戦、準決勝戦共に以下のオーダーで参戦した。

 先鋒:ゆい

 次鋒:美由紀

 中堅:憧

 副将:百子

 大将:穏乃

 

 二試合共、全員プラスで200000点超のブッチギリ、余裕の大勝利であった。

 

 

 翌日の決勝戦。

 オーダーは、

 先鋒:咲

 次鋒:憧

 中堅:美由紀

 副将:ゆい

 大将:穏乃

 となった。

 百子は補員に回される。

 

 

 この日、憧は少々不機嫌だった。

 昨日の咲の迷子事件が原因である。

「昨日は私達が頑張ったんだから、今日はサキ一人で片付けてよね!」

「善処します。」

「じゃあ、サキ、行くよ!」

「よろしくお願いします。」

「穏乃もお願い!」

「う………うん!」

 毎度の如く、咲は憧と手を繋いで会場へと向かった。昨日の迷子事件もあり、今日は特に念入りに憧の反対側を穏乃がガードする。

 完全に信用と言うものが失われている状態だ。

 

 しかし、雀力に対する信頼度は最高峰であろう。

 憧は、咲を対局室まで送り届けると、

「私まで回さないでよね!」

 と言いながらタコスを差し出した。

 それイコール、

『東二局は来ない!』

 をやれと言う意味だ。

「はい…。」

 咲は、タコスを受け取ると、早速口にした。

「じゃあ、ガンバ!」

「ふぁい…。」←口の中にタコスが入っている

 麻雀の序列は間違いなく『咲>憧』だが、人間関係の序列は、今更ではあるが、完全に『憧>咲』のようだ。

 

 

 決勝進出校は、阿知賀女子学院、千里山女子高校、姫松高校、晩成高校。

 奈良vs大阪の戦いとなった。

 

 阿知賀女子学院の先鋒はチャンピオン宮永咲。女子高校生史上最強と言われる点棒の魔術師。点数調整が得意。

 他にも嶺の上の女王とか日本の守護神とか言われている。

 史上最強の化物であろう。

 

 千里山女子高校の先鋒は二条泉。

 自称高二最強。

 チャンピオンである咲を目の前にして、それを豪語できる心臓は大したものと言われている(半分嫌味だが…)。

 

 姫松高校先鋒は美入麗佳(みにゅうれいか)。

 決勝先鋒戦唯一の一年生。

 白糸台高校のスーパー美少女、佐々野みかんに匹敵する美しさだ。漫画で言えば、彼女の周りだけ背景(トーン)が違う。

 オモチも若干大きめで形も良い。

 ちなみに姉の名前は美入人美(ひとみ)。姫松高校の二年生で、副将でエントリーされている。

 

 よく麗佳が口にする言葉は、

「私、いつも美人に間違えられるんです(美入だけに)。」←本人は悪気はない

 なのだが………、今回も場決めの際に、不用意にもそれを言ってしまった。

 当然、咲は、

「(なにそれ、嫌味!?)」

 麗佳をロックオンした状態で、全身から暗黒物質を激しく発散させ始めた。

 

 当然、ネット界隈では、

「ターゲットは決まったと思!」

「咲ちゃんの下家には姫松を希望するじぇい!」

「あの雰囲気は、放出してなんぼ、放出してなんぼですわ!」

「さすがにこれはデビューするしかないッス!」

「この人が放出しないなんて、ないない! そんなの!」

 早速、麗佳の大放出を期待する書き込みで溢れていた。

 

 晩成高校の先鋒は岡橋初瀬。

「(こいつ、また憧と手を繋いで…。それに、あのクソ猿も! 今日こそ絶対に許さないんだから!)」

 良かれ悪しかれ、初瀬は妙に気合が入っていた。

 

 

 場決めがされ、起家はタコス効果で咲、南家は麗佳、西家は初瀬、北家は泉に決まった。

 この席順を見て、

「美人ちゃんが咲様の下家で超うれしいよぅ!」

「これは、ドンブリメシ十杯はイケる展開になりそうッス!」

「苗字が美人? 大放水決定ですわ!」

「美人じゃなくて美入だじょ!」

「分かってますわ! ちょっとしたギャグですわ!」

「あの目は、もう咲のスイッチ入ってると思…」

「オモチベーションが上がるのです!」

 既に麗佳の大失態を予想する声で賑わっていた。

 相変わらずヒマな連中である。

 

 

 東一局、咲の親。

 当然、咲は靴下を脱いで戦う。

 最高状態で最速で終わらすのが憧からの要望だ。昨日の迷子事件がある以上、その名誉挽回に務めなければならない。

 

 咲は、五巡目に、

「カン!」

 {西}を暗槓すると、

「ツモ! 嶺上開花ツモ赤1。70符3翻は4000オールです。」

 楽々と親満をツモ和了りした。

 

 早速、麗佳は咲のオーラを乗せた副露牌の攻撃に合い、

「(なんか、怖いんですけど…。)」

 今まで何人もの女子高生雀士達が体験した恐怖と同じものを感じていた。噂では聞いていたが、想像以上だ。

 何故か巨大な肉食生物が、大きな口を開けて自分に向かって突進してくるような感覚。生きた心地がしない。

『お前はもう死んでいる』

 とでも言われている感じだ。

 

 東一局一本場。

 ここでも咲は、

「カン! ツモ! 嶺上開花! 4100オール!」

 軽々と嶺上開花を決めた。

 もはや、嶺上開花で和了れるのが前提になっている。

 少なくとも、麗佳が今まで打ってきた麻雀とは中味………と言うか次元が違う。

 

 それに、今回も晒される槓子に乗って飛んでくる咲のオーラがハンパではない。

 その強大なエネルギー波をモロに受けて、麗佳は既に顔が蒼ざめていた。

 今の世の中で普通に生活していたら、まず感じることは無いであろう恐怖………。激しい鼓動が、治まるどころか、より一層激しさを増してくる。

 

 東一局二本場。

 ここでは、

「ポン!」

 咲は、序盤から、いきなり麗佳が捨てた{中}を鳴いた。

 そして、中盤に入り、

「カン!」

 {中}を加槓すると、

「もいっこ、カン!」

 {發}を暗槓した。

 さらに嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {白}を暗槓し、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。

 王牌には四枚目の嶺上牌が残っている。

 咲は、これをツモると、

「ツモ!」

 当然のように嶺上開花を決めた。

 

 ツモ和了りの宣言で開かれた二枚の牌は、共に{北}。

「大三元字一色四槓子。48200オール!」

 

 この和了りで、ネット界隈は、

「また出ましたわ! 大三元字一色四槓子ですわ!」

「しかも淋シャン開放」

「美人ちゃんの括約筋も開放されそうッス!」

「もう時間の問題だじぇい!」

 さらなる賑わいを見せていた。

 

 既に咲は三人から56300点ずつ取っている。

 とんでもないスタートダッシュだ。

 しかも、この連槓による咲の精神攻撃(?)で、麗佳はすっかり怯えてしまった。もう股間を押さえて震えている。

 目には涙が溜まっている。

 既に麗佳は、毎度のメニューの秒読み段階に入っていた。

 

 東一局三本場。

 ダブルリーチでもかからない限り、一巡目、二巡目で、いきなり他家をケアーして打とうとはしないだろう。

 普通は、不要牌の処理をする。

 そのつもりで、麗佳は二巡目で{⑨}を切った。

 しかし、その{⑨}で、

「ロン!」

 咲が和了った。

「えっ?」

 想像を超えた出来事に、麗佳は一瞬、何が起きたか理解できないでいた。

 

 しかし、咲が開いた手牌を見て、状況がようやく理解できた。

 {一九①19東東南西北白發中}  ロン{⑨}

 

「48900!」

 {⑨}待ちの国士無双だった。麗佳は、これに振込んだのだ。

 43700点しか持っていないところに48900点の振込み。

 これで麗佳のトビで終了となった。

 

 当然、テレビの映像は対局室から放送席に切り替えられた。いつもの対応である。さすが手馴れている。

 そして、対局室では、

「チョロチョロチョロ………ジョジョ―――!」

 麗佳が派手に大放水していた。

 咲のオーラへの恐怖からか、それとも、その恐怖から開放された安堵から来るものなのかは分からないが、先人と同じ道に麗佳も入っていったのだ。

 しかも、この美貌。

 多分、これで麗佳はレギュラーメンバー入り確定であろう(板で書かれる側の)。

 

 そして、ネット界隈では、

「現場の方、情報をくださいまし!」

「これ、美人ちゃん大放水確定ッスよね?」

「特定はよ、だじぇい!」

「大会会場の者やけど、姫松高校の生徒がジャージ持って対局室に急行しよったで!」

「確定! 美人麗佳ちゃん仲間入り! うれしいよモー!」

「先輩が喜ぶデー!」

「ダル…」

 いつものメンバーがメチャクチャ喜んでいた。

 

 

 咲は、急いで靴下を履き、席を立ち上がると、

「あ…ありがとうございました!」

 ペッコリンと頭を下げて、いそいそと対局室を後にした。

 そして、対局室入口付近で待っていた憧を見つけると、

「約束、守れました。」

 安堵を伴った笑顔で、憧に報告した。

「まあ、これで昨日の件は許してあげるから。」

「うん。」

「でも、迷子で会場に来れないなんてことは、もう絶対にしないでよ!」

「ぜ…善処します。」

 どうやら、咲にとっては、本大会レベルで、東一局で相手をトバして終了することの方が、迷子にならないことよりも簡単なようだ。

 

 別の会場では、まだ5位決定戦が行われている。

 テレビ中継側は、

「五決があって良かった!」

 放送枠に穴が開かずにホッとしていた。

 

 

 1位から4位までは確定したので、清掃作業を終えると、5位決定戦の結果を待たずに優勝から4位までの表彰式が決勝会場で行われることになった。

 優勝した阿知賀女子学院のメンバーの首には金メダル、準優勝校の千里山女子高校(席順による)のメンバーの首には銀メダル、3位の晩成高校のメンバーの首には銅メダルが次々とかけられていった。

 

 優秀選手は三名。阿知賀女子学院の高鴨穏乃と新子憧、千里山女子高校の二条泉に与えられた。

 5位決定戦を無視して決めてよいのだろうかとの声もあったが…。

 それはさておき、ようやく成果が認められ、泉が大喜びしたのは言うまでも無い。

 

 また、最優秀選手には、宮永咲が選ばれた。

 決勝戦しか出場していないが、先鋒前半戦の東一局で全て片付けてしまったのだ。その全てを超越した闘牌に、満場一致で選ばれたようだ。

 

 それから、今回は何故か審査員特別賞と言うものが設けられていた。

 受賞したのは姫松高校の美入麗佳。

 その美しい容姿と、決勝戦終了直後の派手なパフォーマンス(?)から、エロジジイ達が急遽設けた賞だったらしい。

 名誉なのか不名誉なのか、よく分からないが………。

 

 

 さて、先に行われた都大会では、既に白糸台高校が優勝を、臨海女子高校が準優勝を決め、春季大会の出場を決めていた。

 どちらも超強豪。

 全国大会常連校である。

 

 また、近畿大会と同じ日程で、九州地区、中国四国地区、東海地区、関東地区(山梨県含む)、信越地区、東北地区、北海道地区の大会も開催されていた。

 九州地区からは永水女子高校が、中国四国地区からは朝酌女子高校と粕渕高校が、春季大会出場を決めていた。

 

 出場校メンバー全員の目標は、言うまでもなく、

『打倒、阿知賀女子学院!』

『打倒、宮永咲!』

 である。

 

 また、熱い戦いの日がやってくる。




第三部終了です。
怜が何か言ってますが、次回は普通にアップされる予定です。



おまけ


それは、近畿大会が終わった日の夜のことだった。

咲「近畿大会も終わったし。これで、ちょっと一息つけるかな?」


今日、咲は大阪から家に戻ってきた。
自分の部屋でベッドに横たわる。

ふと、咲がラジオをつけた。すると…、聞いたことのある声………いかにも図々しさ満載の声がラジオから聞こえてきた。
インターハイから帰ってきた日を思い出す。
まるでデジャブーだ。
いや、今回のは、もっと酷いかも知れない


池田華菜「またまた、華菜ちゃんがコーナーを持たせてもらうことになったし! やっぱり、咲-Saki-の中で華菜ちゃんが一番人気があるって証拠だし!」

中田慧「今回はお前の単独コーナーじゃないし!」

愛宕洋榎「そうやそうや! 主役はうちや!」

二条泉「違います。主役は高二最強の私です!」

華菜「主役は華菜ちゃんだし!」

慧「慧ちゃんだし!」

洋榎「うちやで!」

泉「私です!」

莉子・史織「「勝手に暴走しないでください!」」

莉子・史織「「いよいよ始まりますウザキャラ王座決定戦!」」

莉子「咲-Saki-史上、最大のウザキャラは誰か? 司会は安福莉子と。」

史織「水村史織でお送りします!」

華菜「なんなんだし! それ?」

慧「だから、慧ちゃんの番組だし! それに慧ちゃんがいれば、別に司会進行なんかいらないし!」

洋榎「主役はうちやろ!」

泉「宮永咲最大のライバルである私です!」

華菜「絶対華菜ちゃんだし!」

慧「慧ちゃんだし!」

華菜「華菜ちゃんだし!」

慧「慧ちゃんだし!」





余りに酷い番組なので、咲がラジオを切った。


咲「ナニ今の? ちょっと番組表調べてみよう。」


咲が新聞の番組欄を見た。すると、
『華菜・慧・洋榎・泉のウザキャラ頂上決戦!』
と書いてあった。
こんなの誰が企画したのだろうか?
その精神を疑う。


咲は、気を取り直して、今度はスマホのテレビ視聴アプリを立ち上げた。
すると、見慣れた二人の漫才が画面に映った。


怜「第三部終了やて!」

爽「じゃあ、次から第四部だね!」

怜「一応、予定はしとるようやけどな、第四部。ただ、ちょっと休憩時間が必要かも知れへんで。」

爽「どうして?」

怜「麻雀のネタを探す旅に出る必要があるからや!」

爽「雀荘巡りでもするのかな?」

怜「その辺は知らんけど…。まあ、第何部になるかは分からへんけど、いつかは咲vsフレデリカをやるんやろうなぁ。」

爽「そうだろうね。」

怜「ただ、その前に、春季大会や次のインターハイ、コクマで咲を苦しめられるヤツがおらへんのや!」

爽「別にイイんじゃない? 敵にはお漏らしさせとけば。」

怜「それもそうやな。ただ、他の人達の闘牌は、それなりに考えなアカンやろ。それでネタ探しや!」

爽「いっそのこと、宇宙麻雀にするとか?」

怜「あれはあれでオモロイと思うけどな。ただ、闘牌考えるんが、もっと大変になるんとちゃうか?」

爽「たしかに!」

怜「なので、まあ、普通の麻雀でネタ探しや。それにしても、話、変わるけど。もう、うちらが高校卒業してから半年以上経つんやな。」

爽「そうだね。それこそ、第四部で春季大会突入になると思うから、そうしたら私達が高校卒業から一年近く経つことになるよ?」

怜「せやな………。」





咲「なんか、無難なトークしかしてないよ。あの二人らしくない。もう、お下品コーナーはムリなのかな?」


やはり、ハヤリ20-7に精力を全て抜かれたのだろう。全然、お下品コーナーに進む気配がない。

咲がチャンネルを変えると、見慣れた別の番組が映し出された。
これは、憧100式。
珍しく京太郎と憧100式の会話だ。
そう言えば、京太郎が憧100式で登場するのは流れ八本場、憧110式ver.マホが造り出された話以来ではなかろうか?


憧 -Ako- 100式 流れ三十本場  禁忌大会


京太郎「あのマホちゃんがねえ。まさか、不特定多数の小学生男子相手に手で奉仕してたとはね。一太さん、ショックだったろうな。」

憧「私も驚いちゃった。」

京太郎「インモラルだよね。」

憧「インモ〇ある? ちょっと、マホちゃんはイ〇モウは無いけど。」

京太郎「そうじゃなくて、モラルが無いってこと。それで、イ・ン・モ・ラ・ル!」

憧「えっ? そう言うこと?」


取扱説明書:憧100式シリーズは、聞いた単語を語呂が近いHな単語と聞き違えることが多々あります。

取扱説明書:ご使用中の憧100式シリーズが、語呂が近いHな単語と聞き違えてばかりでお困りのユーザーは、大変申し訳ありませんが、根気よく正しい単語をAIに学習させてください。






その後、京太郎がテレビを見ていた。
しばらくして、ニュースでオスプレイの墜落事故の映像が流れてきた。


京太郎「オスプレイか。」

憧「オスプレイ?(それって、男の人とのプレイってことだよね?)」

京太郎「ああ。事故起こすの、これで何度目だ?」

憧「事後? 何度目?(そんな映像には見えないけど…)」

京太郎「もったいねえな。」

憧「もったいないって、京太郎は興味あるの? オスプレイ。」

京太郎「まあ、一度乗ってみたいかな。」

憧「ちょっと、京太郎。そんな趣味あるの?(男の人に乗るだなんて!)」

京太郎「えっ?(何、怒ってるんだろう?)」

憧「男性とのプレイなんて!」

京太郎「はっ?」


京太郎は、一瞬意味が分からなかったが、数秒後、
『なるほど、オスプレイ→オス・プレイか』
と理解した。
憧100式との生活も数ヶ月。こういった遣り取りには慣れてきた。


京太郎「オスとのプレイじゃなくて『Osprey』だってば。」


京太郎は、紙に『Osprey』とスペルを書いた。
決して、スペル〇をかいたのではない。
まあ、そんな誤解をする人は、多分、作者くらいしかいないと思うが………。


憧「♂playじゃなくてOspreyなのね。ああ、びっくりした。」

京太郎「こっちが驚いたよ。」


そんなこんなで、憧100式は、また正しい言葉を学習した。
こうやって、京太郎と正しい会話が徐々にできるようになって行く…と思う。

さて、その頃、コナン達は、


コナン「そう言えば博士。」

博士「なんじゃね?」

コナン「黒の組織のナンバーツーのことでさ、『ラムは、亭主の浮気が酷くて…』って、前にベルモットが言ってたよな。」←七十六本場オマケ参照

博士「どうも、宇宙人の女性だったらしい。」

コナン「実はな、博士。アーントアガサって酒、知ってるか?」

博士「飲んだことは無いが、名前くらいは知っとるよ。」

哀「ラムベースのカクテルね。しかも名前がアーントアガサ。つまり、博士の叔母さん。」

コナン「ああ。なので、俺は黒の組織のナンバーツーが、博士の叔母じゃないかって、一時期疑ってたんだ。」

哀「とんだ濡れ衣ね。」

博士「まあ、原作でそんな展開があったら面白いと思うがの。」


こいつらがHなことをしていないなんて………。
珍しい。
天変地異の前触れでは無いだろうか?

さて、翌日。
憧100式は、俺君のアパートで憧105式ver.淡と駄弁っていた。
ちなみに俺君は大学に行っていて留守である。


憧「………それでね、オスプレイって言うからさ、男同士のHかと思っちゃったよ!」

淡「分かる分かる!」


丁度この時、憧100式のスマホからバイブの振動音が聞こえてきた。
どうやら、教え子からLINEが入ったようだ。
憧100式は、家庭教師をしているのだ。
しかも相手は女子高生。
教え子の名前は室橋裕子。周りからは『ムロ』と呼ばれている。


憧「ムロちゃん、志望校決まったみたい。」

淡「家庭教師してる娘?」

憧「そう。」

淡「で、ドコを志望してるの?」

憧「最初は早慶行きたいなんて行ってたけど。」

淡「(包〇イきたい? なんで急にそうなるの?)」

憧「でも、さすがに早慶は入るのちょっと無理みたいだからG-MARCHにするって。」

淡「(〇茎は挿れるのムリみたいだから自慰待ち? 自慰ってオ〇ニーのことだよね?)」

淡「(包〇の場合、綺麗にしていてくれないと挿れるのはパスしたいってことかな?)」

淡「(でも、自慰待ちってなんだろう? 挿れるのはイヤだから、〇茎〇ンポを綺麗に洗ってくるまでオナ〇ーして待ってるってことかな?)」

憧「でも、まあ、G-MARCHでも、実際に行くのは法政かな? なんて書いてある。」

淡「(自慰待ちでもイクのは包〇って? やっぱり包〇チン〇だと刺激に弱くて早いってことかな?)」


結局、意味が通じていない淡でした。




憧100式、一旦完


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第四部:春季大会
百一本場:春季大会突入:プロローグ


今回は説明ばかりです。
春季大会は『咲-Saki-』に『鷲巣・竜・傀:ワシの一筒・背中が煤けてるぜ・御無礼』を是非とも足したいです。


『打倒、阿知賀女子学院!』

 これは、昨年の春季大会から全国で掲げられた言葉。

 そして、

『打倒、宮永咲!』

 一昨年夏から全ての女子高生雀士共通の目標である。

 

 

 3月某日。

 この日、阿知賀女子学院では卒業式が執り行われた。

 玄も灼も、宥と同じ奈良女子学院大学に進学することが決まっている。4月からは花の女子大生だ。

 中学から六年間、二人は阿知賀女子学院に通った。

 しかも、一昨年のインターハイが準優勝。そして、昨年は春季大会とインターハイで全国二連覇を成し遂げた。最強軍団阿知賀女子学院。

 そして、コクマでも昨年は優勝。

 さらに玄に至っては世界大会優勝。

 二人とも阿知賀女子学院には思い出が多すぎる。

 

 しかし、高校生活は人生の通過点の一つでしかない。

 今日、二人は阿知賀女子学院を旅立って行った。

 

 

 それから数週間後、咲達は東京に向けて出発した。

 昨年インターハイの時と同様にバスでの移動だ。当然、パーキングエリアで下車する時は、両端を憧と穏乃でガードする。

 近畿大会大遅刻の前例があるからだ。

 少なくとも、迷子の件に関してだけは、咲は完全に信用が失われている。

 下級生にすら、

「(麻雀は強くなりたいけど、人としてあそこまで方向音痴になるのは、いかがなものだろうか?)」

 と思われる今日この頃であった。

 

 そう言えば、昨年は、サービスエリアのテナントの一画が改装中だった。ここに、新しい店舗が入っていた。

 ふと、憧が、

「去年、ここでシズが、

『お一人様一つまでお持ち下さい』

 って紙に書かれた字を読んだら、玄が、

『オモチは一人二つなのです! 一人一つでは、よろしくないのです!』

 ってアホなこと言ってたよねえ。」

 と言いながら思い出し笑いした。

 そう、あれからもう一年が経ったのだ。

 

 

 阿知賀女子学院一同は、その日の夜にホテルに着いた。

 部屋割りは、各部屋二人ずつで『穏乃と憧』、『咲とゆい(小走やえ妹)』、『美由紀(宇野沢栞妹)と百子(車井百花妹)』に分かれた。

 咲の相手には、しっかり者のゆいを当てた。要は下手に外出させないように見張りをつけたと言うことだ。

 晴絵は恭子と同室。

 他の一年生は、まあ、適当に割り振られた。

 

 

 翌日、抽選が行われた。

 昨年と同様、出場校は、北海道地区から3校、東北地区から3校、関東地区(東京都を除く)から4校、東京都から3校、信越地区から3校、東海地区から4校、近畿地区から4校、中国・四国地区から4校、九州・沖縄地区から3校とし、そこに、昨年の春季大会で優勝したチームの所属する地区より、さらに1校を選出することになる。

 つまり、昨年は阿知賀女子学院が春季大会を制したので、近畿地区の代表校が4校から5校に増えた。

 

 第1シード(Aブロック)は、言うまでもなく昨年の春季大会覇者の阿知賀女子学院(近畿地区:奈良県)。

 第2シード(Dブロック)は、射水総合高校(信越地区:富山県)。これは、昨年準優勝の龍門渕高校(信越地区:長野県)が、残念ながら衣達の引退と同時に麻雀部自体が存在しなくなり、秋季大会を辞退したため、同じ信越地区大会の優勝校である射水総合高校が第2シードに選ばれた。

 第3シード(Cブロック)は、昨年3位の白糸台高校(東京:西東京)。

 そして、第4シード(Bブロック)は、昨年4位の臨海女子高校(東京:東東京)となった。

 もっとも、32校の参加なので、シード校でも一回戦免除にはならないのだが…。飽くまでも強豪校が序盤で潰し合わないようにするための措置だ。

 

 また、抽選では基本的に同じ地区の代表が別ブロックになるように配慮された。そのため、全てのくじが入った箱からを引くのではなく、ブロック毎にくじが分けられており、くじを引ける箱が地区毎に決まっていた。

 ただ、近畿代表は5校のため、どうしても同じブロックに2校入らざるを得ない。そこで、Aブロックに阿知賀女子学院と、もう1校が入ることになった。ただし、一回戦では当たらないように配慮された。

 

 抽選の結果、一回戦は以下の通りに決まった。

 

 Aブロック一回戦第一試合(大会一日目午前)

 阿知賀女子学院(近畿:奈良):第1シード

 朝酌女子高校(中国・四国:島根)

 万石浦高校(東北:宮城)

 小針西高校(信越:新潟)

 

 Aブロック一回戦第二試合(大会一日目午前)

 圓城高校(関東:北神奈川)

 琴似栄高校(北海道:南北海道)

 津具高校(東海:東愛知)

 三箇牧高校(近畿:北大阪)

 

 Bブロック一回戦第一試合(大会一日目午後)

 九州赤山高校(九州・沖縄:鹿児島)

 由比女学院(東海:静岡)

 折渡第二高校(東北:秋田)

 鬼籠野高校(中国・四国:徳島)

 

 Bブロック一回戦第二試合(大会一日目午後)

 臨海女子高校(東京:東東京):第4シード

 綺亜羅高校(関東:埼玉)

 千里山女子高校(近畿:北大阪)

 風越女子高校(信越:長野)

 

 Cブロック一回戦第一試合(大会二日目午前)

 白糸台高校(東京:西東京):第3シード

 大酉高校(関東:埼玉)

 有珠山高校(北海道:南北海道)

 不倒高校(東海:三重)

 

 Cブロック一回戦第二試合(大会二日目午前)

 新道寺女子高校(九州・沖縄:福岡)

 姫松高校(近畿:南大阪)

 長者野高校(中国・四国:高知)

 天童大付属高校(東北:山形)

 

 Dブロック一回戦第一試合(大会二日目午後)

 粕渕高校(中国・四国:島根)

 苅安賀高校(東海:西愛知)

 永水女子高校(九州:鹿児島)

 晩成高校(近畿:奈良)

 

 Dブロック一回戦第二試合(大会二日目午後)

 射水総合高校(信越:富山):第2シード

 東村山女子高校(東京:西東京)

 萌間高校(北海道:北北海道)

 館山商業高校(関東:千葉)

 

 

 ルールは、昨年のインターハイの時と殆ど同じであったが、若干異なる部分がある。

 各自100000点持ちの星取り戦。

 赤牌四枚入り。

 複合役満あり。

 責任払いあり。勿論、大明槓からの嶺上開花も責任払いとする。

 それから、二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は無く、全てアタマハネとする。

 

 世界大会で適用されていた槓振(嶺上振込み)は適用しないことになっていた。さすがにローカル役過ぎて無しにしようとの意見が多数だったらしい。

 

 一回戦から準決勝戦まで、2校勝ち抜けとなる。

 また、一回戦のみ先鋒戦から大将戦まで半荘一回で、二回戦からは前後半戦の半荘二回ずつの勝負になる。

 

 なお、本大会では、準決勝戦までは1位同点の場合、勝ち星は上家取りになるが、決勝戦のみ1位同点は勝ち星0.5ずつとなる。

 得失点差についても、準決勝戦までは同点の場合、上家取りになるが、決勝戦のみ同着とみなす。

 つまり、二校優勝も一応あり得る(但し、勝ち星、得失点差共に同着が前提)。

 

 

 オーダーは固定となる。

 各注目校のオーダーは以下の通りであった。

 

 阿知賀女子学院(近畿地区代表:奈良)。

 優勝候補筆頭。当然、注目度ナンバーワン。

 

 先鋒は新子憧(二年)。

 鳴き麻雀が得意。昨年インターハイ個人では16位。現在の女子高生ランキングは11位。当然、超魔物がいない高校であれば、何処へ行っても余裕でエースになれる器と言われる。まず、立ち上がりの一勝を目指す。

 

 次鋒は小走ゆい(一年)。

 前奈良王者小走やえの妹。オーソドックスなデジタル打ちが中心だが、頭が良く、不測の事態にも臨機応変に対応できる。彼女も、超魔物がいない高校であれば、何処へ行ってもエースになれる器とされる。昨年夏の奈良県大会個人戦では8位。当時の3年生を除けば、奈良県内で、咲、穏乃、憧に続いて4位となる実力者。

 

 中堅は宮永咲(二年)。

 現チャンピオン。阿知賀女子学院の絶対的エース。一昨年のインターハイとコクマ、昨年の春季、インターハイ、コクマの五連続団体戦優勝者。個人戦は、一昨年のインターハイから三連覇で記録更新中。嶺上開花を得意とする。

 全国女子高生雀士10000人の頂点(麻雀&方向音痴)。

 今までに何度も四槓子を和了っている奇蹟の人。

 嶺の上の女王、日本の守護神などの二つ名を持つ。

 

 副将は宇野沢美由紀(一年)。

 プロ雀士宇野沢栞の妹。昨年夏の奈良県大会個人戦では13位の好成績。かなりのオモチの娘。

 

 大将は高鴨穏乃(二年)。

 深山幽谷の化身と呼ばれ、天江衣、大星淡等の超魔物の能力でさえ封じ込める。阿知賀女子学院の第二エース。昨年インターハイ個人では9位。現在の女子高生ランキングは5位。不動の大将。

 

 

 続いて白糸台高校(東京都代表:西東京)。

 阿知賀女子学院との優勝争いの対抗馬として最有力視されている。

 麻雀としては注目度ナンバーツーだが、顔面偏差値では注目度ナンバーワン。一昨年の秋季大会以降、絶世美女軍団と呼ばれ、ファンも多い。

 

 先鋒は大星淡(二年)。

 絶対安全圏やダブルリーチ、槓裏モロ乗りと言った複合能力を有する超魔物。今までは大将だったが、今回は光と二人で先鋒戦、次鋒戦での『いきなり勝ち星二』を狙う。昨年インターハイ個人では6位。現在、女子高生ランキング3位。白糸台高校の美女ランキングは4位。

 

 次鋒は宮永光(二年)。

 宮永咲の従姉妹で、ドイツでは北欧の小さな巨人とまで言われた超魔物プレイヤー。和了り役の翻数上昇が特徴。昨年インターハイ個人では4位。現在、女子高生ランキング2位。白糸台高校の美女ランキングは5位。

 

 中堅は多治比麻里香(二年)。

 松庵女学院多治比真佑子の妹。非能力者。甘党で、毎日缶のお汁粉を飲んでいるが全然太らない羨ましい体質。昨年インターハイ個人では28位。現在、女子高生ランキング15位。白糸台高校の美女ランキングは3位。

 

 副将は佐々野みかん(二年)。

 鹿老渡高校佐々野いちごの妹。非能力者。昨年インターハイ個人では26位。現在、女子高生ランキング14位。そして、現在の女子高生雀士の中で美女ランキングは堂々1位。全国女子高生雀士10000人の頂点(美貌)。当然、白糸台高校の美女ランキングは余裕の1位。割とオモチもあるし形も良い。意外と咲と仲良し。

 

 大将は原村和(二年)。

 元清澄高校副将。一昨年インターハイの団体戦優勝者の一人。超デジタル打ち。咲が奈良県に引っ越す際に阿知賀女子学院を勧めた咲の親友。

 昨年インターハイ個人では10位。現在、女子高生ランキング6位。白糸台高校の美女ランキングは2位。かなりのオモチの人………と言うか、有珠山高校の真屋由暉子と和のどちらが全国女子高生雀士10000人の頂点(オモチ)かが話題となっている。

 

 

 注目度ナンバースリーは臨海女子高校(東京都代表:東東京)。

 留学生が多いのが特徴。かつては留学生で全メンバーを占めていた。本大会では先鋒と大将が日本人でなければならなくなったため、次鋒から副将までに留学生を配置している。

 勿論、留学生は全員世界で活躍した経歴があり、実力が認められた者のみである。

 

 先鋒は片岡優希(二年)。

 元清澄高校先鋒。一昨年のインターハイ団体戦優勝者の一人。自他共に認める東風の神。スタートダッシュが得意。

 今までに何度も天和を和了っている奇蹟の人ナンバーツー。昨年インターハイ個人では15位。現在、女子高生ランキング10位。

 

 次鋒はネリー・ヴィルサラーゼ(二年)。

 ジョージアからの留学生。昨年の世界大会ではジョージアの代表選手として活躍。運命奏者と呼ばれ、運の波を操ることが出来るようだ。

 

 中堅は郝慧宇(二年)。

 中国からの留学生。中国麻将が得意で、日本の大会でも中国麻将を意識して打つ。アジア大会銀メダリスト。昨年の世界大会では中国の代表選手として活躍。

 

 副将はマリー・ダヴァン(二年)。

 メガン・ダヴァンの妹で、昨年末から臨海女子高校に留学している。姉のメガンと同様にデュエルの能力を持つ。昨年の世界大会ではアメリカの代表選手として活躍。

 

 大将は南浦数絵(二年)。

 平滝高校から臨海女子高校に転校。優希とは対照的に南場が強く、南場の鬼神とも呼ばれる。一昨年の長野県大会個人戦では咲を苦しめた実績がある。割と美人でファンも多い。昨年インターハイ個人では13位。現在、女子高生ランキング9位。

 

 

 続いて注目度ナンバーフォーの永水女子高校(九州地区代表:鹿児島)。

 麻雀強豪校としてだけではなく、美女軍団としても有名。顔面偏差値では白糸台高校の対抗馬と言われている。

 

 先鋒は石戸明星(一年)。

 六女仙の一人。石戸霞の従姉妹で、ヤオチュウ牌を集める能力を有する。現在の永水女子高校で最強の能力者であり不動のエース。昨年インターハイ個人では11位。現在、女子高生ランキング7位。かなりオモチの娘。

 

 次先鋒は狩宿萌(一年)。

 狩宿巴の従妹で非能力者。巴と同じで巫女姿ではなく制服を着ることが多い。

 

 中堅は滝見春(二年)。

 六女仙の一人。一昨年の夏の県予選からずっとレギュラーで出場している。安手で場を流すのが得意。

 

 副将は十曽湧(一年)。

 六女仙の一人。ローカル役満を得意とする。霊力が高く、現在の永水女子高校では実力ナンバースリー。昨年インターハイ個人では12位。現在、女子高生ランキング8位。

 

 大将は東横桃子(二年)。

 父の転勤で長野から鹿児島に引っ越してきた。自らの影の薄い特長を生かし、ステルス攻撃を仕掛ける。現在の永水女子高校では実力ナンバーツーだが、昨年夏の県大会個人戦では惜しくも4位で全国大会の出場権を逃す。当然、現在、女子高生ランキング8位の湧と同レベル以上の実力を有する。

 

 

 注目度ナンバーファイブは粕渕高校(中国・四国地区代表:島根)。

 粕渕高校メンバーでは、エース石見神楽が天の啓示を受けてオーダーを決めている。監督は白築慕の同期の本藤悠彗。

 

 先鋒は坂根理沙(一年)。

 白築慕の中学時代の麻雀部顧問、坂根千沙の娘。非常に直感が鋭く、しかも気が利く娘。粕渕高校のムードメーカー。

 

 次先鋒は緒方薫(二年)。

 白糸台高校の元部長、亦野誠子の従姉妹で男装麗人と呼ばれる美形。誠子と同じ鳴きの能力を有する。

 

 中堅は石見神楽(一年)。

 相手の手牌を全て透視する能力を持つ。また、死者生霊問わず口寄せができ、昨年のインターハイでは松実露子の霊を降ろして一躍魔物認定された。世界大会メンバーにも選ばれ、活躍した。

 昨年インターハイ個人では7位。現在、女子高生ランキング4位。

 

 副将は春日井真澄(一年)。

 春日井真深の姪。非能力者。

 

 大将は石原麻奈(二年)。

 慕が中学1年生の時の島根県大会決勝戦で、慕と戦った姫原中先鋒石原依奈の姪。非能力者。

 

 

 また、上記5校に次いで注目度の高い学校が以下3校である。

 

 朝酌女子高校(中国・四国地区代表:島根)。

 プロ雀士アイドル瑞原はやりやワールドレコードホルダー白築慕の母校。監督は慕の同期の石飛閑無。

 

 先鋒は石飛杏奈(二年)。

 石飛閑無の姪で非能力者。

 

 次鋒は稲村桃香(二年)。

 稲村杏果の従姉妹で杏果と同様の能力を有する。

 

 中堅は森脇華奈(二年)。

 森脇曖奈の従姉妹で非能力者。

 

 副将は野津楓(二年)。

 野津雫の姪で非能力者。

 

 大将は多久和李奈(一年)。

 多久和李緒の姪で非能力者。

 

 

 続いて綺亜羅高校(関東地区代表:埼玉)。

 元々強豪校で有名だったが、一昨年夏の県予選直前に当時の3年生部員が暴力事件を起こし、一年間の大会出場停止となっていた。練習試合等の対外試合も一切禁止。当然、コクマにも出場できなかった。

 昨年夏の県予選には出場すると思われたが、エントリー期間が大会出場停止期間内にあったため学校側が出場見送りを決定。昨年秋季大会からようやく出場してきた。埼玉県大会、関東大会(東京都を除く)では、全試合で勝ち星五の余裕の優勝を決めた。

 全員が孤高と言うか、一匹狼みたいな独特の雰囲気を持っている。ただ、メンバー同志は結構仲が良いらしい。

 

 先鋒は、鷲尾静香(二年)。

 友人間では、鷲と静でワシシズ、これがさらに短縮されてワシズと呼ばれている。

 実は憧よりも成績優秀だったりする。

 

 次鋒は竜崎鳴海(二年)。

 鳴き麻雀が得意で明槓も多い。ただ、咲とは違って槓するとドラがモロ乗りするのが特徴。友人間ではリュウと呼ばれている。

 

 中堅は的井美和(二年)。

 綺亜羅高校のエース。友人間では普通に美和と呼ばれている。

 食虫植物栽培が趣味らしい。

 顔立ちは結構整っており、10人に1人レベルのカワイイ系。俗に言う十人並みである。

 共学であれば、大体クラスで二番目の美女と言うことになるだろう。

 

 副将は鬼島美誇人(みこと)(二年)。

 非常に読みが鋭い。氏名の最初の字と最後の字、つまり鬼と人で友人達からはカイ(傀)と呼ばれている。

 

 大将は稲輪敬子(二年)。

 文字を入れ替えて敬和稲子(KYな娘)と呼ぶ人もいるらしい。そう言われるが如くKYで、悪人ではないが変人。友人間では、普通に敬子と呼ばれている。

 何事においても善かれ悪しかれ他人の期待を裏切ることが多い。

 

 背格好は、胴体部分は憧と同じくらいの長さ&細さ(但し、オモチ以外は五十嵐あぐり風で、オモチだけ小林立風)で、顔は憧よりも若干小顔。これは憧の顔が大きいと言う訳ではない。敬子が小顔と言う意味だ。

 そして、憧よりも若干首が長く、脚は10センチくらい長い。これも憧が劣っていると言う意味ではない。敬子が美的に優れていると言うことだ。

 また、泳ぐのが好きで、しかも、そのスピードは半端ではないらしい。

 それこそ、

『何故、水泳部ではなく麻雀部?』

 と周りから言われるレベルらしい。

 

 顔立ちば、1000人に1人と言えるほどの美少女。女子校で、校内ナンバーワンとか言われるレベルだろう。

 但し、普段は身だしなみがキチンとしておらず髪もボサボサと、非常に残念な美少女でもある。県大会、関東大会、そしてこの全国大会と、大会中は他のレギュラーメンバー達が敬子の髪をとかしてあげているらしい。

 ただ、基本的にKYな美人のため、同性からは嫌われており、同じ麻雀部のレギュラー陣くらいしか友人がいない模様。

 美人である自覚は皆無。毎朝、鏡を見ては、

「何、この見飽きた顔。」

 とか本気で思っているらしい。

 綺亜羅高校の第二エース。

 

 

 そして、3校目は大酉(おおとり)高校(関東地区代表:埼玉)。

 麻雀強豪校としてではなく、美女軍団として有名。白糸台高校、永水女子高校に次ぐ高顔面偏差値集団と言われている

 

 先鋒は泉こなた(二年)。

 

 次鋒は柊つかさ(二年)。

 

 中堅は柊かがみ(二年)。

 

 副将は高良みゆき(二年)。

 

 大将は日下部みさお(二年)。

 

 ただ、大酉高校の対局シーンは多分書かれないだろう。

 

 

 他にも顔面偏差値が優れた選手としては姫松高校の美入姉妹が話題に上がっていた。ただ、姫松高校の場合、全員が高顔面偏差値と言うわけではなかったため、残念ながら騒がれていたのは、この二人だけであった。

 

 ちなみに顔面偏差値ランキングベスト10は、以下のとおりでとされていた。

 1位:佐々野みかん(白糸台高校)

 2位:美入人美(姫松高校)

 3位:美入麗佳(姫松高校)

 4位:石戸明星(永水女子高校)

 5位:原村和(白糸台高校)

 6位:多治比麻里香(白糸台高校)

 7位:宇野沢美由紀(阿知賀女子学院)

 8位:柊かがみ(大酉高校)

 9位:柊つかさ(大酉高校)

 10位:滝見春(永水女子高校)

 次点:新子憧(阿知賀女子学院)

 同着次点:稲輪敬子(綺亜羅高校)←変人なので票が伸びなかったらしい

 

 

 また、麻雀偏差値と顔面偏差値以外で話題になったのが以下2校であった。

 1校目は圓城高校(えんじょう高校:関東地区代表:北神奈川)。一部では、『えんじょ高校』とか『えんこう』とか呼ばれており、それで話題になっていたようだ。ある意味可哀想である。

 

 先鋒は竹村真奈美(たけむらまなみ;逆から読んだら『みなまらむけた』:二年)。

 

 次鋒は竹村万理華(たけむらまりか;逆から読んだら『かりまらむけた』:二年)。

 

 中堅は臼木蘭子(うすきらんこ;英語の時間は『らんこうすき』と呼ばれる:二年)。

 

 副将は浮気好子(うきよしこ;『浮気好きな子』と影で呼ばれている:二年)。

 

 大将は浮気翔子(うきしょうこ;『浮気性の子』と影で呼ばれている:二年)。

 

 ちなみに先鋒と次鋒、副将と大将は、それぞれ双子である。

 

 

 もう1校は不倒高校(東海地区代表:三重)

 

 先鋒は山田麻耶(やまだまや)(二年)。

 

 次鋒は江本巴(えもとともえ)(二年)。

 

 中堅は小松真子(こまつまこ)(二年)。

 

 副将は小池景子(こいけけいこ)(二年)。

 

 大将は小俣真央(おまたまお)(二年)。

 

 全員が上から読んでも下から読んでも同じになる名前である。正直、それで話題になっただけでに過ぎない。中国麻将の推不倒を連想させる。

 大酉高校と同様、圓城高校と不倒高校の対局シーンも多分書かれないだろう。

 

 

 抽選会の翌日、大会会場に隣接する体育館で開会式が行われた。

 選手宣誓は、阿知賀女子学院麻雀部部長の新子憧。

 決して阿知賀女子学院も顔面偏差値は低くない。かつては、白糸台高校の対抗馬と言われていたくらいだ。

 それが昨年のインターハイで永水女子高校が再登場したり、今大会に大酉高校が出場したりでランキングが4位に落ちてしまった。

 しかし、憧のアップが画面に映ると、

『アコちゃんカワイイ!』

『円光してそうだよね!』

『この娘買いたい!』

『イイ顔してるな』

『多分、アヘ顔もイイ!』

『どうやったら三年間でタコスからアコスに変身できたんだ?』

『嫁にしたい!』

『いや、不倫相手だろ!』

 一応、外見を褒める書き込みがあったようだ。中傷の書き込みも、それなりに多かったのは言うまでも無いが…。

 

 

 開会式が終わると、対局施設のほうに移され、大会初日の一回戦が開始された。Aブロック一回戦第一試合とAブロック一回戦第二試合の同時開催である。

 

 Aブロック一回戦第一試合は、阿知賀女子学院、朝酌女子高校、万石浦高校、小針西高校の試合。阿知賀女子学院と古豪朝酌女子高校の激突で、いきなり高視聴率が期待される一戦だ。

 

 また、Aブロック一回戦第二試合は、館山商業高校、琴似栄高校、津具高校、三箇牧高校の試合。近畿大会5位の三箇牧高校が、昨年のエース荒川憩の卒業後、どのような試合を展開するかが注目される。




おまけ1


安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「なんか今回、急遽、私達に振られました。」

史織「まあ、説明要員ですけどね、私達。」

莉子「それにしても、本当に出てきました! 鷲尾静香に竜崎鳴海、鬼島美誇人、的井美和、それから稲輪敬子!」

史織「九十八本場おまけの大喜利で出てきたネタですね。『鷲巣』に『哭きの竜』、『傀』、それから『意味は的のアナグラム(『は』→『わ』になっていますが)』に、あと『KYな子』ですか。」

莉子「高校名は綺亜羅高校。王者高校ではなかったんですね!」

史織「さすがに王者高校は………。」

莉子「でも、綺亜羅って、どう言う意味でしょう?」

史織「二つの意味があります。一つ目は『キラー』。別に人殺しはしませんが、他校を蹂躙する人達ってことで…。あと、二つ目は『鷲巣』、『哭きの竜』、『傀』と言う『キャラ』を元ネタにしていること。」

莉子「ええと、『キラー』に『キャラ』ですか?」

史織「そう。で、『キラー』と『キャラ』を連想できそうな感じで『キアラ』にして、そこに漢字を適当に当てはめただけです。まあ、高校名は何でも良かったんですけどね。」

莉子「それにしても、KYな娘の説明が長かったですね。」

史織「多分、綺亜羅高校の中でも最重要人物の予定なのでしょうね。」

莉子「あと、大酉(おおとり)高校も出てきました!」

史織「これはネタだけで、実際の対局シーンは、少なくとも本編では出てきません。と言うか、この五人が本編で登場する予定はありません。」

莉子「圓城(えんじょう)高校と不倒高校もネタですかね?」

史織「そうですね。実際の登場予定はありません。」

莉子「多分、『臼木蘭子』さんは、十三本場おまけの大喜利コーナーで出てきた『昴月蘭』とか『卯月蘭子』とネタ的には同じですよね?」

史織「基本一緒です。ええと、そろそろ私達に与えられた時間枠が無くなってきました。」

莉子「今回のおまけ2は、春季大会前の阿知賀女子学院麻雀部の練習中の出来事です。」

莉子・史織「「では、ネクストオマケ、スタート!」」



おまけ2


春季大会に出場する32校が発表された。
今年は、その各チームをテレビで紹介したいと言うことで、32校全部に取材が来た。そして、その取材内容が、各校二~三分程度だがテレビで放送された。
一回8校ずつの全四回放送となった。
当然、優勝候補筆頭の阿知賀女子学院は、第一回の最初に紹介された。


この日、咲達は、部室で麻雀を打っていた。まあ、麻雀部なので当然だが…。
部室のテレビでは、その番組の第二回目の放送の録画が流れていた。


テレビ「では、関東地区代表の4校を紹介します。まずは、圓城高校から。」

テレビ「竹村真奈美です! 逆から呼んだら『皆、マラ、ムけた』です!」

テレビ「竹村万理華です! 逆から呼んだら『カリ マラ ムけた』です! 真奈美とは双子の姉妹です!」

テレビ「臼木蘭子です! 英語の時間は『らんこう、好き?』って呼ばれます!」

テレビ「浮気好子です! 別に浮気が好きなわけではありません」

テレビ「浮気翔子です! 浮気性ではありません! 好子とは双子の姉妹です!」

咲・ゆい・美由紀「「「えっ?」」」

憧「どうかしたの?」

咲「今、テレビから憧ちゃんの声が聞こえた気がして。」

憧「阿知賀は、第一回の初っ端だったジャン。今、圓城高校の紹介してるとこだって。」

ゆい「でも、五人とも声、似てましたよ。」

美由紀「って言うか、全く同じ声に聞こえました。」

テレビ「私達の高校は、圓城高校。巷では『えんじょ高校』とか『えんこう』とか呼ばれてますが…。」

咲「やっぱり憧ちゃんの声に似てる!」

憧「そ…そう?」

穏乃「私も見ていてそう思った。レギュラー五人とも、憧と声がそっくり!」

憧以外全員「(多分、援助交際してそうな女子高生ってことで、全員、CV担当が東山奈央なんだよね、きっと。)」

テレビ「次の高校は、同じ関東地区代表の綺亜羅高校。」

テレビ「鷲尾静香です。みんなからは『ワシズ』って呼ばれてます。」

テレビ「的井美和です………。」

憧「綺亜羅か…。ここって、たしか私達が一年の時の県予選直前に暴力事件があったってとこだよね?」

ゆい「そうなんですか?」

恭子「当時の3年生が問題を起こしたらしいなぁ。それで、一年間の大会出場禁止処分になったそうや。」

穏乃「一年間ってことは、去年の夏の大会は、処分が解けてギリギリ出られたってことですよね?」

恭子「それがな、大会エントリー期間が禁止処分の期間と被ってたんで、学校側がエントリーさせへんかったそうや。それで、コクマにも選ばれんかったらしいで。コクマの選手は夏大の成績から選ぶからな。」

穏乃「でも、それじゃ事件当時に2年生だった人達は、結局大会には出られずに終わってしまったって事ですか?」

恭子「せやな。悪いんは当時の3年やのにな。」

憧「でも、どんな事件だったんですか?」

恭子「たしか、当時の1年生で一人、レギュラーに選ばれた子がおったんやけど…、たしか古津(こつ)節子って子やったかな。」

全員「(『こつせつこ』って、骨折する子みたい。それに、上から読んでも下から読んでも『こつせつこ』だね!)」

恭子「当時の綺亜羅の1年生でダントツトップやったらしい。なので、少なくとも今の綺亜羅のエース、的井美和よりも当時は強かったってことやろな。でも、補員に回された3年生が妬んでな。それで、レギュラー譲れって脅したそうや。」

全員「(ありがちなパターン!)」

恭子「で、結局、その3年生から私刑を受けて、指の骨全部折られたらしい。」

全員「(骨折子って、シャレにならない…。)」

穏乃「それで、今は、その骨折子さんは、どうしてるんですか?」

全員「(骨折子って言った!)」

恭子「古津節子な。指の骨折は、ただ折れただけやったら全治半年くらいって聞いたことあるけどな。少なくとも今のメンバーにはおらんな。」

穏乃「麻雀、辞めちゃったのかな?」

恭子「どんな折れ方したんか分からんし、もし複雑骨折とかやったら、牌が握れなくなったんで麻雀やめたってことかも知れへんな。細かいことは、うちも分からんな。」

テレビ「次は東海地区です。では、不倒高校から。」

テレビ「山田麻耶(やまだまや)、2年です!」

テレビ「江本巴(えもとともえ)、2年です!」

テレビ「小松真子(こまつまこ)、2年です!」

テレビ「小池景子(こいけけいこ)、2年です!」

テレビ「小俣真央(おまたまお)、2年です!」

テレビ「「「「「全員、上から読んでも下から読んでも同じ名前です!」」」」」

憧「ホントだ! ある意味、名前の付け方に悪意を感じるわ。」

穏乃「でも、さっきの骨折子さんも上から読んでも下から読んでも同じじゃない?」

全員「(また骨折子って言った!)」

穏乃「もしかして、上から読んでも下から読んでも同じ名前って流行ってるのかな?」

恭子「別に流行ってるわけやないと思うけど。でも、うちが3年の時の岩手の決勝戦が、そんな名前の子ばっかやったかな?」

咲「岩手ってことは、姉帯さん達のところですか?」

恭子「そうや。たしか、決勝戦で宮守女子が対戦したんは、宇座池第一高校に宇座池第二高校、宇座池第三高校…。」

咲「(ウザ池田みたいだね。風越女子のウザ池田を思い出したよ!)」

咲「(でも、そんな学校が三つもあるなんて………もしかして妹が三つ子だから?)」

咲「(そんなわけないか。)」

恭子「当時の宇座池第一高校の選手が、池田慧(いけだけい)、中田華菜(なかだかな)、中野加奈(なかのかな)、尾内奈緒(おないなお)、軽部琉香(かるべるか)。」

咲「(池田慧と中田華菜は、池田華菜と中田慧からのネタ流用だね、きっと!)」

恭子「宇座池第二高校の選手が、小峰彌子(こみねみこ)苅田里佳(かりたりか)、越後知恵(えちごちえ)、有馬真里亜(ありままりあ)、見元知美(みもとともみ)。」

恭子「宇座池第三高校の選手が、成田里奈(なりたりな)、有明アリア(ありあけありあ)、小神谷美香子(こかみやみかこ)、有行由利亜(ありゆきゆりあ)、狩俣真理香(かりまたまりか)やったかな。」

憧「よく覚えてるわ。さすがコーチ!」

ゆい「でも、去年の秋季大会で晩成高校の選手でもいましたよね?」

美由紀「そうそう。小宮皇女(こみやみこ)さんと有アリア(ありありあ)さん。結構驚きましたね。」

穏乃「去年のインターハイ個人戦で、静岡の人だったかな。神谷実花(かみやみか)って人と予選で当たってさぁ。なんか、サッカー部のマネージャーもしてたみたいだけど(シュート!より引用)。」

憧「あと、劔谷の人も驚いたよね。竜宮由利(たつみやゆり)っていたでしょ。一瞬、『りゅうぐうゆり』で、上から読んでも下から読んでも同じって思っちゃった!」

ゆい「あと、劔谷ですと玉木環(たまきたまき)って人がいました。苗字と名前の読みが同じですね。」

美由紀「それから、劔谷の大将だった人の名前が翠川翠(みどりかわみどり)でしょ? 山本山みたいって思いました!」

ゆい「それから、千里山にも、牧真紀(まきまき)って苗字と名前の読みが同じ人がいましたよね。」

恭子「たしか、その牧真紀って子な。能力者みたいやで!」

ゆい「どんな能力ですか? 準決勝で別ブロックでしたから実際の対局を見ていなくて。牌譜だけですと、普通に見えるんですけど?」

恭子「まあ、一応決勝で千里山と当たったけど、咲が先鋒戦で終わらせたんで、泉以外の選手は見られへんかったからな。」

恭子「たしか、牧真紀って子やけど、時間軸を操作するみたいやで。対局者は、気が付くと対局が終わっていたみたいな感じやな。」

咲「元清澄の染谷先輩みたいな感じですかね?」

恭子「せやな。あと、千里山には麻川雀(あさかわすずめ)って子がいてな。川を取ったら麻雀そのものやで。」

咲「麻雀以外、能が無いって感じですね。」

全員「(それはお前だろ!)」

恭子「あと一人、千里山には厄介なのがおってな。浦野瑠子(うらのるこ)って子なんやけど。」

憧「それって、裏ドラが乗るみたいな名前じゃない?」

恭子「そのとおりでな。それも、一番多く持っている牌が裏ドラになるみたいなんや。」

咲「(淡ちゃんの劣化版みたいな感じかな?)」

こんな感じで、今日の部活は、ゆるいまま終わったらしい。


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百二本場:準決勝戦開始

今回も半分くらいが説明です。
放送局の件は、ご都合主義と言うことでスルーしてください。


「ほぉ。春季大会の結果が新聞に出とる。もう、そんな時期じゃけぇ。」

 エセ広島弁でそう言いながら、まこが新聞を開いた。すると、いつものように時間軸の超光速跳躍が生じた。

 本作登場人物最強の能力である。誰も抗うことが出来ない。

 

 

 今まで、麻雀大会の放送は民放で行われてきた。しかし、多くのファン達の投書を受けて今回は国営放送で行われることになった。

 また、ずっと大会風景を映して欲しいとの要望も多かった。ムリに放送席に切り替える必要は無いと言うことだ。

 要は、国営放送なら、お漏らし映像を流しても民放ではないので許されるだろうと考えたファン達がいたと言うことだ。

 この邪な考えまで頭が回らず、国営放送側は、この要望を安易に受け入れた。

 そのため、史上稀に見る高視聴率になったのは言うまでも無い。

 

 

 大会初日午前は、Aブロック一回戦第一試合と第二試合が平行して行われた。

 第一試合は、第1シードの阿知賀女子学院、朝酌女子高校、万石浦高校、小針西高校の試合。阿知賀女子学院と古豪朝酌女子高校の激突。

 結果は、阿知賀女子学院が勝ち星五で余裕の二回戦進出。2位は得失点差で朝酌女子高校となった。

 ただ、ファン達の要望を素直に受け入れてしまったため、中堅戦で咲と対戦した三人が対局終了後に巨大湖を形成したのを全国にライブ中継してしまった。

 当然、ファン達は、

『狙い通り、スバラです!』

『巨大湖、巨大湖ですわ!』

『これなら現場の特定班は必要ないと思』

『そんなことより真屋由暉子と石戸明星のオモチ画像を映すべきなのです!』

『やっぱりやったし! 期待通りだし!』

『仲間が増えて嬉しいよモー!』

『先輩が喜んでるデー!』

 いつも以上に喜び勇んで書き込みしていた。

 

 Aブロック一回戦第二試合は、圓城高校、琴似栄高校、津具高校、三箇牧高校の試合。話題の圓城高校の試合だったが、やはり所詮はギャグ要員である。試合になると、やはり荒川憩が残したチームと言うことで三箇牧高校に注目が集まった。

 結果は琴似栄高校と三箇牧高校が互いに勝ち星二で二回戦進出を決めた。

 

 

 大会初日午後は、Bブロック一回戦第一試合と第二試合が平行して行われた。

 Bブロック一回戦第一試合は、九州赤山高校、由比女学院、折渡第二高校、鬼籠野高校の試合。藤原利仙以降、九州赤山高校はスター選手不在であり、他の3校もスター選手はいない。4校とも顔面偏差値が特に優れているわけでもない。そのため、余り視聴率は取れなかったようだ。

 二回戦進出校は、九州赤山高校と鬼籠野高校に決まった。

 

 Bブロック一回戦第二試合は、第4シードの臨海女子高校、綺亜羅高校、千里山女子高校、風越女子高校の試合。シード校の試合と言うことで、当然、視聴率はこっちに偏った。

 当然、誰もがスター選手の多い臨海女子高校と、超名門校である千里山女子高校の二回戦進出を予想していた。

 しかし、その予想を大きく裏切る試合展開がなされた。

 臨海女子高校の勝ち星は次鋒のネリーのみであり、他の勝ち星は全て綺亜羅高校が持っていったのだ。

 千里山女子高校と風越女子高校は、勝ち星を一つも取ることが出来ず、一回戦で無念の敗退となった。

 それと、事前情報では綺亜羅高校次鋒の竜崎鳴海は、鳴き麻雀多用とのことだったが、今日の対局では一度も鳴かなかった。それどころか、リーチが目立っていた。

 打ち方を変えたのだろうか?

 

 

 大会二日目午前は、Cブロック一回戦第一試合と第二試合が平行して行われた。

 Cブロック一回戦第一試合は、第3シードの白糸台高校、大酉高校、有珠山高校、不倒高校の戦い。シード校の試合と言うこともあるが、やはり、それ以上に顔面偏差値ナンバーワンの白糸台高校とナンバースリーの大酉高校との試合と言うことで、視聴率はムチャクチャ高かった。そのため、同時開催されたCブロック一回戦第二試合は全然視聴率が取れなかったと言う。

 ちなみに、不倒高校も話題に上がっていたが、飽くまでもギャグ要員(五人全員が上から読んでも下から読んでも同じ名前)のため、白糸台高校と大酉高校の人気には到底敵わなかったようだ。

 結果は、白糸台高校が勝ち星四、残りの勝ち星一は有珠山高校中堅の真屋由暉子が上げ、この2校が二回戦進出を果たした。

 また、先鋒戦では光の闘牌に怯えた選手達が黄金の泉を形成した。これも全国生中継され、ファン達が大変喜んだのは言うまでも無い。

 

 Cブロック一回戦第二試合は、新道寺女子高校、姫松高校、長者野高校、天童大付属高校の戦い。超名門校の新道寺女子高校と姫松高校が激突する試合であったが、やはり白糸台高校と大酉高校の人気には敵わず、前述のとおり低視聴率となった。

 試合は、副将戦までで新道寺女子高校と姫松高校が共に勝ち星二を上げ、この2校が二回戦進出となった。

 

 

 大会二日目午後は、Dブロック一回戦第一試合と第二試合が平行して行われた。

 Dブロック一回戦第一試合は、粕渕高校、苅安賀高校、永水女子高校、晩成高校の試合で、やはり必見すべき所は、世界大会でも活躍した女子高生ランキング4位の石見神楽が見せる神懸かった闘牌と、顔面偏差値ナンバーツーの永水女子高校メンバーの優れた容姿であった。勿論、永水女子高校も女子高生ランキング7位の石戸明星と女子高生ランキング8位の十曽湧の活躍にも期待が寄せられたが、やはり一般視聴者は顔面偏差値の方に目が行くようだ。

 二回戦には粕渕高校と永水女子高校が進出した。

 

 Dブロック一回戦第二試合は、射水総合高校、東村山女子高校、萌間高校、館山商業高校の一戦。ただ、スター選手がいるわけでもなく、特に顔面偏差値が高いわけでもない。

 当日午前の第二試合と同じ理由で、全然視聴率が取れなかったと言う。

 二回戦には射水総合高校と館山商業高校が進出したが、一般視聴者にとっては、どうでも良いことだったようだ。

 

 

 大会三日目はAブロック二回戦とBブロック二回戦が平行して行われた。この試合からは先鋒戦から大将戦まで、前後半戦の二半荘ずつになる。

 Aブロック二回戦は、阿知賀女子学院、朝酌女子高校、琴似栄高校、三箇牧高校の戦いとなった。言うまでも無く、優勝候補筆頭の阿知賀女子学院の試合である。当然の如く高視聴率となった。

 ここでも、阿知賀女子学院が勝ち星五を決めて準決勝進出を決めた。また、2位は一回戦と同様に得失点差で朝酌女子高校となった。

 それと、中堅戦では、前後半戦の両方で半荘終了直後に三人がかりの巨大湖形成がなされ、それが全国放送されてしまった。そろそろ、放送側も映像の切り替えの必要性を感じてきたようだ。

 

 それから、対局後のインタビューで、憧とゆいの二人が、

「「もう余裕!」」

 とほざいてしまった。マスコミに持ち上げられて言わされた部分はあるが………、まあ、若気の至りである。

 

 しかし、これを聞いて、

『あの二人、ちょっと言い過ぎですわ!』

『さすがに、傲慢になっていると思!』←先輩に書き込まれている

『オモチは余裕が無いクセに!』←同上

『あたたかくなーい!』←同上

『イイ気になり過ぎだし!』

『宮永と高鴨以外は魔物じゃなか! 私レベルでも勝てると!』←まあ、事実でしょう

『咲、ちゃんと教育してあげて』

『王者の私から見ても、こいつらが驕り高ぶっているのは間違いない』←姉に書かれている

『一度、高二最強の私の前に触れふすがイイ!』

『誰が高二最強やて? まあ、あの二人は言い過ぎや思うけどな! 二人が敗北して泣き崩れる未来が見えるわ!』

 ネット民達は、憧とゆいの二人を非難したのは言うまでも無い。

 

 

 Bブロック二回戦は、臨海女子高校、綺亜羅高校、九州赤山高校、鬼籠野高校の戦い。ここでも一回戦と同様、臨海女子高校はネリーが勝ち星を取ったが、他の勝ち星は全て綺亜羅高校に持って行かれた。

 この頃から、綺亜羅高校は、ファンの間では綺亜羅→キアラ→キラー高校と呼ばれるようになり、徐々に人気が高まっていた。

 それと、綺亜羅高校次鋒の竜崎鳴海は、やはり二回戦でもリーチを多用していた。県大会、関東大会とは完全に真逆の打ち方に変わっていたと言って良いだろう。

 

 

 大会四日目はCブロック二回戦とDブロック二回戦が平行して行われた。

 Cブロック二回戦は、白糸台高校、有珠山高校、新道寺女子高校、姫松高校の戦い。

 超名門校として名高い新道寺女子高校と姫松高校だったが、この二校は勝ち星を一つも上げることは出来なかった。結局、勝ち星は、中堅戦で有珠山高校の真屋由暉子が取った以外、全て白糸台高校が手中に収めた。

 ここで、新道寺女子高校と姫松高校は姿を消すことになった。

 

 

 Dブロック二回戦は、粕渕高校、永水女子高校、射水総合高校、館山商業高校の戦い。

 先鋒戦は永水女子高校の石戸明星が、次鋒戦は粕渕高校の緒方薫が、中堅戦では粕渕高校の石見神楽(実質露子)が、副将戦は永水女子高校の十曽湧が勝ち星を上げ、この時点で粕渕高校と永水女子高校の勝ち星が、それぞれ二となったため、大将戦を行わずに対戦は終了となった。

 

 

 大会五日目は、準決勝戦二試合が同時並行で行われた。これは、大会期間を春休み中に収めるため、時間短縮を図るのが目的である。

 

 ABブロックを勝ち抜いた4校による準決勝戦第一試合は、阿知賀女子学院、朝酌女子高校、臨海女子高校、綺亜羅高校の戦い。シード二校の激突である。

 

 一方、CDブロック準決勝戦を勝ち抜いた4校による準決勝戦第二試合は、白糸台高校、有珠山高校、粕渕高校、永水女子高校の対戦。顔面偏差値1位と2位の戦いでもあった。そういった意味では話題性の高い一戦と言える。

 勿論、超強豪校の白糸台高校と永水女子高校、さらに石見神楽が出場する試合である。言うまでもなく、阿知賀女子学院が出場する準決勝戦第一試合と視聴率を二分する結果となった。

 

 

 準決勝戦第二試合の先鋒戦は淡vs明星。

 女子高生ランキング3位と7位の激突となった。

 明星は得意のヤオチュウ牌支配を武器に戦うが、絶対安全圏で早々と和了る淡にスピードで敵わず、先鋒戦は白糸台高校が勝ち星を上げた。

 勘の良い粕渕高校坂根理沙も、さすがに毎回配牌六向聴からのスタートで、しかも六巡目までにさっさと和了ってしまう淡には手も足も出なかったようだ。

 

 

 次鋒戦は、光が余裕の勝ち星を上げた。まあ、対抗馬となる人材がいなかったのだから当然と言えよう。

 2位は粕渕高校の緒方薫となった。

 また、この対局が終了すると同時に、薫と萌(狩宿巴妹)と有珠山高校次鋒の三人で巨大な泉を形成したが、報道側も映像を切り替えるようになり、全国にライブ中継されることは無かった。

 当然の措置であろう。

 

 これを見て、

『なんで切り替えると!』

『一大事、一大事ですわ! 国営放送が私達を裏切りましたわ!』

『これはスバラくないですねぇ』

『裏切っちゃダメだし!』

『あたたかくなーい』

『ないない! そんなのっ!』

『そんなオカルトありえません!』

『エニグマティックだじぇい』

『期待に反するよモー』

 ファン達はネット上で怒りを露わにしていたらしい。

 これもこれで、当然の反応なのかもしれない。

 

 中堅戦は、白糸台高校からは多治比麻里香、有珠山高校からは真屋由暉子、粕渕高校からは石見神楽、永水女子高校からは滝見春が参戦。

 顔面偏差値が高い麻里香。

 顔面偏差値とオモチ偏差値が共に高い春。

 高い顔面偏差値に、突出したオモチ偏差値の由暉子。勿論、由暉子には神懸かった一発がある。

 そして、女子高生ランキング4位の石見神楽。

 注目のカードだ!

 試合は、由暉子の倍満ツモが後半戦で炸裂したが、それ以外は終始神楽………と言うか神楽に降りた露子が圧倒し、粕渕高校が勝ち星を取った。

 

 副将戦は、白糸台高校からは女子高生ランキング14位、顔面偏差値堂々1位の佐々野みかん、粕渕高校からは春日井真澄、永水女子高校からは女子高生ランキング8位の十曽湧が参戦。みかんと湧の二強状態での試合展開となった。

 結果は、やはりローカル役満で高い打点を連発する湧に軍配が上がり、勝ち星は永水女子高校が取った。

 

 大将戦は、白糸台高校の原村和(女子高生ランキング6位)、粕渕高校の石原麻奈、永水女子高校の東横桃子(鹿児島県4位)の戦い。

 前半戦は和がリードしたが、後半戦で麻奈と有珠山高校大将がステルスの餌食になり桃子が連続得点をあげて逆転。勝ち星は永水女子高校が手中に収めた。

 その結果、白糸台高校と永水女子高校が共に勝ち星二で準決勝進出を決めた。

 

 

 準決勝第一試合先鋒戦は、阿知賀女子学院の新子憧、朝酌女子高校の石飛杏奈、臨海女子高校の片岡優希、綺亜羅高校の鷲尾静香による対局である。ちまたではタコスvsアコスと言われて、ある意味話題となった一戦だ。

 また、これまで優希を一回戦、二回戦で完全に押さえ込んでいた静香の闘牌もプロ雀士の間では話題になっていた。

 

 場決めがされ、起家は当然の如く優希が引き、他は、南家が静香、西家が憧、北家が杏奈に決まった。

 

 東一局、優希の親。

「(一回戦から、ずっと綺亜羅の人達にやられっぱなしだじょ。監督に言われて、急遽、この準決勝を最高状態に仕上げてきたじぇい!)」

 優希は、そう心の中で呟きながら配牌を取っていた。そして、十四枚目の牌を取ると、

「ダブルリーチだじぇい!」

 いきなり捨て牌を横に曲げた。

 憧も静香も杏奈も、一先ず不要牌を切るしかない。

 しかし、次巡、

「ダブリー一発ツモタンピン一盃口ドラ3の裏が1枚で12000オールだじぇい!」

 いきなり優希が親の三倍満をツモ和了りした。

 今の優希は、咲と小蒔でさえも止められない爆発力を持つ。到底、憧にも静香にも杏奈にも止める手立てが無い。

 

 東一局一本場。

「捨てる牌がないじぇい。」

 最高状態に仕上げた優希の、いつものパターンだ。

「ツモ。16100オール!」

 天和炸裂。これで通算何度目だろうか?

 この天和も、ファン達の中では楽しみの一つである。そして、それを和了ってしまうのが東風の神と未だ言い続けられているところでもある。

 

 東一局二本場。

 ここでも、

「ダブルリーチだじぇい!」

 優希の勢いは衰えるところを知らない。そして、当然のように次巡で、

「一発ツモ! 平和一通ドラ2のアタマが裏で乗って12200オール!」

 またもや三倍満をツモ和了りした。

 

 たった三回の和了りで、各校の得点は、

 1位:優希 220900

 2位:静香 59700(順位は席順による)

 3位:憧 59700(順位は席順による)

 4位:杏奈 59700(順位は席順による)

 あっと言う間に憧達は、優希に大差をつけられてしまった。

 

 これが東風の神の力。

 一昨年のインターハイ団体決勝戦を思い出させる。

 あの時も、優希はダブルリーチ、天和、ダブルリーチで和了りを決めた。

 ただ、玄がいたことでドラによる打点上昇を抑えられた部分はあるし、当時のチャンピオン照と智葉も加わり、優希の和了りを止めることが出来た。

 

 昨年のコクマでも、優希は、やはり同様に大暴れしたが、その後、咲と小蒔が二人揃って優希を逆転した。

 

 ただ、これは超魔物達だからこそ出来る業。

 今ここにいるのは、少なくとも超魔物認定された者達では無い。

 とは言え、何とか止めなければ誰かが箱割れして終わってしまう。

 さすがに憧も、

「(そろそろ止めないとヤバイよね?)」

 と感じていた。

 

 東一局三本場。

 一先ず、優希のダブルリーチは無かった。

 むしろ先行したのは、

「チー!」

 憧だった。

 厳密には静香が憧の欲しい牌を敢えて切って鳴かせていたようだが………。

 そして、

「ツモ! 1000、2000の三本場は1300、2300!」」

 得意の30符3翻のツモ和了りで、憧が優希の連荘を止めた。

 

 

 東二局、静香の親。

 親番は終わっても、優希の東風での勢いは、まだ消えていない。

 ここでは、

「ポン!」

 いきなり優希が{東}を一鳴きし、

「ツモ。東混一ドラ3。3000、6000!」

 中盤に回すことなくハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東三局、憧の親。

 ここでも優希は、

「ポン!」

 {中}を一鳴きし、やはり中盤に回すことなく、

「ツモ! 中ドラ2。1000、2000!」

 さくっと和了って憧の親番を流した。

 

 

 そして、東四局、杏奈の親。

 ここでも、

「チー!」

 優希は鳴いて手を進め、

「ツモ。南混一ドラ1。2000、4000。」

 満貫をツモ和了りした。

 

 これで各校の得点は、

 1位:優希 242600

 2位:憧 57600

 3位:杏奈 50400

 4位:静香 49400

 優希の圧倒的点差で東場を終えた。2位の憧に、四倍以上の点差をつけている。

 

 既に、観戦席で対局を見ている人達も、テレビ中継を見ている人達も、優希の勝ち星で決まりと思っていた。

 当然、対局中の憧でさえ、同様のことしか頭に浮かばなかった。

 

 あとは、悔しいけど如何にして得失点差対策をするか程度のことしか、憧には思いつくことが無かった。

 言うまでも無いだろう。それだけ決定的な点差なのだ。




おまけ


春季大会の抽選会は、午前中で終わった。
阿知賀女子学院の面々は、一旦ホテルに戻ることにした。

ホテルに戻ると、咲はフロントで京太郎の姿を見つけた。タコス料理長として晴絵が呼んだのだ。
狙って起家が必要な時にも京タコスは必要だし、京タコスが褒美なら選手達のウケも良い。

京太郎の交通費は阿知賀女子学院麻雀部後援会が支給してくれる。それに、一応、バイト代も出る。
ただし、部屋は咲と『相部屋』であった。

普通、間違いを起こさないようにと男女別室にするが、
「そろそろ、この二人、間違いを起こしてもイイんじゃね?」
と言うのが後援会側の大半の意見であった。
極めて寛大な方々である。


咲と京太郎が部屋に入った。

咲・京太郎「「(なんか、相部屋ってのも照れるな…。)」」

京太郎「今日は抽選会だったんだろ? くじは部長の新子さんが引いたの?」

咲「うちは第一シードだから、くじは無いよ。」

京太郎「そっか。」

咲「一回戦の相手が何処になるかを見てただけだよ。」

京太郎「それで、一回戦は何処と当たるの?」

咲「島根の朝酌女子と…。」

京太郎「あの白築プロの母校の?」

咲「そう。一回、練習試合をしたことがあるんだよ!」

京太郎「そうなんだ。」

咲「あと、宮城の万石浦高校と新潟の小針西高校だよ。」


京太郎が、各選手のプロファイルが掲載された資料を開いた。
オーダーは事前申請だった。秋季大会とは異なり、春季大会では先鋒から大将までを固定することになっていた。

なお、オーダー提出の締め切りは二週間前だったそうだ。
なので、資料には、オーダーの情報を反映して各校選手の名前とオーダーが記載されていた。しかも顔写真つきだ。
経費も馬鹿にならないだろう。
ただ、補員の名前は載っていない。なので、とんでもない隠し球がいる可能性も一応否定できないだろう。


京太郎「朝酌女子のメンバーは、石飛、稲村、森脇、野津、多久和の五人か。咲は、たしか中堅で出るんだろ?」

咲「うん。だから、朝酌女子の私の相手は森脇さんだね。」

京太郎「ふーん。それから万石浦高校か…。」


万石浦高校のメンバーは、
先鋒:鎗田由利
次鋒:伊勢美香子
中堅:楠田照代
副将:唐桑真理恵
大将:江夏里美
資料には、このように名前が記載されていた。

京太郎が、何の気なしに、万石浦高校のメンバーの苗字を順に口に出した。


京太郎「鎗田、伊勢…、楠田、唐桑、江夏…。」


ところが、これを聞いた咲は、急に赤面し出した。


咲「(京ちゃん、いきなり何てこと言い出すの?)」


咲には、京太郎の発した言葉が、
『鎗田、伊勢…、楠田、唐桑、江夏…。』

『やりた、いせ…、くすだ、からくわ、えなつ…。』

『ヤりたいセッ〇ス、だから銜えなっ!』
に聞こえたのだ。


咲「(でも、もう私も高三になるし、高三の非処女率って、それなりに高かった気がする。)」

咲「(それに、京ちゃんとだったら、そうなってもイイって思うし…。でも、順番は、やっぱりきちんと付き合うって宣言してからでないとって気もするし…。)」

咲「(でも、京ちゃんがそう言うってことは、私とそうなってもイイってことだよね?)」


咲の頭の中を、色々な意見が駆け巡る。賛否両論だ。正直、怖い部分もある。
その一方で興味もあるし、京太郎とだったらそうなりたい気持ちも十分にある。


咲「(決めなきゃ…だよね。)」

咲「(いつまでもウジウジしてたって仕方が無いし、ここは…。)」


とうとう咲が英断した。


咲「京ちゃんが、そうしたいって言うならイイよ。」


そして、咲が京太郎のズボンのファスナーに………。


まこ「ここからは掲載禁止じゃ!」


三十四本場オマケで初瀬が神に祈った効果の完全系であろう。
R指定の番人まこによって大事な場面はカットされたが、別に小一時間と言うほどの時間は飛んでいない。
言ってしまえば、早く終わった。


京太郎「それにしても、咲から積極的に迫ってくるとは思わなかったよ。」

咲「だって、京ちゃんが『したい』とか『銜えろ』って言ったから。」

京太郎「えっ? 俺、そんなこと言った?」

咲「言ったよ! だから…。」

京太郎「まあ、そう言う気持ちはあったけどさ…。(心の中の言葉がうっかり口に出ていたのかな? 気をつけないと…。)」





翌日、開会式が行われ、その直後、Aブロック一回戦が行われた。咲達の試合だ。
阿知賀女子学院メンバー達は、一旦控室に移動した。

今のところ、咲と京太郎が相部屋でどうなっているかは誰も聞いてこない。
万が一、状況がよくなかった場合、聞いたら気まずくなるだろう。
それで大会が終わってから聞くことにしていた。


晴絵「じゃあ、今日の一回戦。絶対勝つよ!」

メンバー達「「「「「はい!」」」」」

晴絵「相手は朝酌女子と宮城の万石浦高校、新潟の小針西高校。まあ、この三校の中なら朝酌女子が一番各上だろうね。」

晴絵「でも、その朝酌女子に、うちは練習試合で、余裕で勝ってるからね。多分問題ないと思うけど油断は大敵。気を引き締めて戦うように!」

晴絵「うちのオーダーは、憧、ゆい、咲、美由紀、シズの順。」

晴絵「朝酌女子のオーダーは、石飛、稲村、森脇、野津、多久和の順。練習試合の時のメンバーがそのまま出て来てる。」

晴絵「次に万石浦高校だけど、オーダーは、鎗田、伊勢、楠田、唐桑、江夏。」

咲「(えっ?)」

咲「(これって、どこかで聞いたような?)」


ふと、咲の頭の中に昨日の京太郎の言葉が走り抜けた。
あの時、京太郎が口にしたのは、

『ヤりたいセッ〇ス、だから銜えなっ!』✖
『鎗田、伊勢…、楠田、唐桑、江夏…。』〇

万石浦高校のオーダーだったのだ。
それを咲は聞き違えて………ヤってしまった。

ヤってしまって罪悪感もあるけど、それ以上に喜びの方が大きかった。
ただ、あれは京太郎から求められたと思ってやった行為だ。

ところが、実際には京太郎は、
『ヤりたい!』
とか、
『銜えなっ!』
とか言っていない。
完全に咲の聞き間違いだ。

こうなると、昨日の一件は、咲から迫ってしたことになる。
悪く言えば咲が京太郎を襲ったわけだ。

別に、京太郎との行為が嫌なわけではないが、そこに辿りつく過程が問題なのだ。
しかも咲の心を後押ししたものは単なる勘違い。
その勘違いが、結果オーライを生んだわけだし、ある意味、万石浦高校のメンバー達には感謝するべきなのだろうが………。
何か、もやっとした感じが残る。
咲の中で、急にやり場のない気持ちがこみ上げてきた。





中堅戦がスタートした。
咲の相手は、朝酌女子高校の森脇華奈(二年:非能力者)、万石浦高校の楠田照代(二年:非能力者)、そして、小針西高校の泉脇益代(一年:非能力者)。

咲のやり場の無い気持ちは、この半荘に全てぶつけられた。
完全に、他家三人は被害者である。

咲は、京タコス効果で起家を取った。そして、サイコロを回すと、早々に超魔物スイッチが入った。


咲「(全部、ゴッ倒す!)」


そして、この日は、
東一局、「ツモ! 嶺上開花ツモドラ2。4000オール!」
東一局一本場、「4100オール!」
東一局二本場、「4200オール!」



~中略~ 七十七本場を参照してください。



東一局二十三本場、「4300オール!」
東一局二十四本場、「6400オール!」
東一局二十五本場、「6500オール!」

史上最凶最悪と言われた闘牌を見せた。
昨年インターハイのDブロック二回戦で初披露した忌わしい点数調整。
あの時は、その闘牌に日本中が震撼した。

世界大会でも二回戦で披露し、全世界に驚愕と恐怖を与えた、あの『悪魔の紋章』と騒がれたヤツだ。
その序章とも言える、
『25本場での他家全員0点』
を作り上げたのだ。
完全に計算された削り方だ。

そして迎えた二十六本場。
もはや他家は、完全に意気消沈していた。目からは精気が失われている。
対する咲からは、最上級のオーラが放出されている。

十巡目。
「カン!」
咲が自場風の東を暗槓し、嶺上牌を引くと、
「もいっこカン! もいっこカン! もいっこカン!」
そこからさらに、南、北、西と連続で暗槓した。

そして、咲は、最後の嶺上牌を引くと、
「ツモ! 大四喜字一色四暗刻四槓子!」
中単騎ツモで和了った。
「64000オールの二十六本付けで66600オール!」
これで通算三度目の666事件であった。

ちなみに、中単騎だったのは、『口』と『丨』で昨日の京太郎との行為を咲なりに比喩しているつもりだったようだ。
勿論、字の色が血と同じ赤であることも含めて………。


当然、他家三人は、
「「「プシャ――――――!」」」
耐え切れずに大放出…湖を形成してしまった。
しかも三人がかりだ。それらが合わさって巨大湖へと進化して行く。

某ネット掲示板では
『ス・バ・ラ・で・す!』
『巨大湖を形成してなんぼ、形成してなんぼですわ!』
『やっぱりヤッちゃったし! 耐えられるのは華菜ちゃんくらいしかいないし!』
『高二最強の私も耐えましたし!』
『咲様以外に最強がいるなんて、ないない! そんなの!』
『後輩が沢山出来て嬉しいよモー!』
『毎回、これがチョー楽しみ!』
『これで丼メシ三杯はいけるッス!』
『先輩が喜んでるデー!』
『咲ちゃん、漏らさせスイッチ全開だじぇぃ!』
やっぱり、いつものメンバーで賑わっていた。

一方の咲は、
「(すっきりした。)」
何とか平静を取り戻せたようである。


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百三本場:天和再び

「(決勝戦以外は、全部余裕って思ってたけど。まさか、ここで東風の神が大爆発を起こすなんて………。)」

 憧は、まさか優希が準決勝戦を最高状態で臨んでくるとは思っていなかった。完全に予想外だったのだ。

 最高状態の優希は、決勝戦で淡と対局する時のために残して置くだろうと勝手に予想していた故である。確かに、そう考えたくなるのも分からなくはない。

 

 しかし、いくら最高状態の優希でも淡に勝てる絶対的な保証は無い。

 ならば、ここで確実に一勝を確保し、次鋒でネリーが勝利し、決勝進出を早々に決めてしまおうと臨海女子高校サイドは考えたのだ。

 

『だったら、こっちも咲と穏乃で確実に二勝すれば良い!』

 憧は、前半戦の東場が終わったばかりだと言うのに、既に、そんな他力本願なことを考えるようになっていた。

 もう、心の底では優希への敗北を認めたのだ。

 

 ただ、憧は、既に決勝進出できることを前提で物事を考えていた。

『決勝以外は全部余裕…』

 と思っていたこと自体が、その証明でもある。

 

 これは、自分達が常勝チームであることからくる驕りであった。

 ゆいも同じであろう。

 だから、対局後のインタビューで、二人して、

「「もう余裕!」」

 などと答えてしまった。自分達が他力本願のくせに驕り高ぶっていると言う、最低な性格に変貌していることに、憧もゆいも全然気付いていなかったのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、優希の親。

 ここでは、早速、

「ポン!」

 憧が鳴いて出てきた。下家の杏奈からの鳴きである。

 そして、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ2。1000、2000。」

 得意の30符3翻で憧は序盤のうちに和了りを決めた。

 勿論、いくら優希への敗北を認めても、そんな安手でサクサク流して良いのかとの意見はあるだろう。

 しかし、高い手を狙って他家に和了られるよりも、4000点の手でもさっさと和了っておいたほうが良いとの考えもある。

 憧は、自分の得意なスタイルで、少しでも多く得点する道を選んだのだ。

 

 

 南二局、静香の親。

 ここでも、優希が捨てた{七}を、

「ポン!」

 憧は、速攻で鳴き、

「ツモ! 1000、2000!」

 やはり30符3翻で早々にツモ和了りを決めた。

 

 

 南三局、憧の親。ドラは{⑨}。

 今まで憧は、ただ安手で流すだけだった。

 しかし、ここでは親番。安手でも連荘すれば、優希との点差を多少とは言え縮めることが可能だ。

 当然、今までのスタイルで連荘を狙う。

 

 一方の優希は、

「(残念だけど、今の憧ちゃんは全然怖く無いじょ。南一局、二局ともに、私に有利になるように流してくれただけだじぇい。むしろ今は、こいつ…。)」

 そう心の中で呟きながら静香の方に視線を向けた。

「(一回戦も二回戦も、私はこいつにヤられたんだじょ。むしろ、マークするのは、こいつだじぇい。)」

 優希は、南場に入ると、すぐに和了り放棄した打ち方をしていた。全然、聴牌に向かっていなかったのだ。

 

 静香をマークし、とにかく静香の安牌を集める。それだけに徹していた。

 最高状態の東場なら、相手が咲や照のレベルでなければ前に出ても問題ない。しかし、南場は別だ。

 ところがラッキーなことに、静香が本領を発揮する前に憧が安手で流してくれる。今の状態は、優希にとっては、むしろウェルカムであった。

 

 この局では憧が親だが、優希は、憧ではなく、むしろ静香から不穏な空気を感じ取っていた。急に、嫌な雰囲気が強くなったのだ。

 この局で、多分、何かをやらかす(お漏らしじゃないじょ!)。

 

 

 その捨て牌から、静香は多分、筒子に染めている。

「チー!」

 安和了りの連荘を目指して、憧が静香の捨てた萬子を鳴いてきた。恐らく、鳴き一気通関狙いだろう。

 ここで、

「(通れ!)」

 憧が{②}を強打した。

 言うまでも無い。この筒子の強打で憧の聴牌が想像できる。

 すると、これを、

「ポン!」

 静香が鳴いた。とうとう静香が動き出したのだ。

 そして、打{③}。どうやら筒子が余ったらしい。

 普通に考えれば、これで静香も聴牌だ。

 

 続く憧は、{1}をツモ切り。

 杏奈は、ツモ牌を取り込むと、静香に合わせ打ちするように{③}を捨てた。

 

 続く優希がツモって来たのは{①}。

 ここで、優希の背中に冷たいものが走り抜けた。間違いなく、これが和了り牌であると言う予感だ。

「(多分、これだじょ。こいつは、こう言うことをするヤツだじょ!)」

 この{①}を取り込んで、優希は静香対策に取っておいた{北}………静香の現物を切った。

 

 これを横目で見ながら、

「(ワタシの{①}…。)」

 静香は、そう心の中で呟いていた。どうやら、優希が{①}をツモって取り込んだのを感じ取っているようだ。

 しかし、その次のツモ牌で、

「ツモ!」

 静香は自らの手で{①}を掴み取ってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {①⑤[⑤][⑤]⑦⑧⑨南南南}  ポン{②②横②}  ツモ{①}

 

「南混一ドラ3。3000、6000。」

 静香がハネ満をツモ和了りした。

 普通なら前の巡で{①}捨てて{③}を残し、{③④}待ちにするだろう。この方が、待ち牌が多いしツモれる確率が上がる。

 それに、{①}捨てでも{③}捨てでも翻数は変わらない。

 ところが、このような局面で、静香は敢えて{③}を捨てて{②}の壁で{①}を誘う。彼女は、こう言った麻雀をするのだ。

 今回はツモ和了りしたが、このスタイルは本来ツモ和了りを狙う麻雀では無い。相手を刺す麻雀だ。

 

 ただ、優希にとってはラッキーだ。

 これで南三局も流れたし、自分の失点も3000点で済んだ。静香にハネ満を振り込まずに済んだのだ。

 

 

 そして、オーラス。杏奈の親。

 ここまで杏奈は、ヤキトリ状態だ。

 連荘がどうこう言う前に、とにかく、ただ和了りたい。それだけだった。

 

 この局、優希は静香が早々に捨てた{1}と{西}を手に取り込んだ。

 ただ、幸か不幸か、{西}は対子、そして暗刻へと変わって行った。

 そして、{1}も対子になった。

 当然、これらは、静香が動き出したら安牌として使うつもりだ。

 

 しかし、今ここで優希が目指している打ち方は、南一局から三局までの、ただ静香に振り込まないだけの麻雀ではない。

 静香への振り込みを回避しつつ、可能であれば、自らも安手で良いので和了を狙う麻雀だ。それで、この半荘に終止符を打つ。

 

 

 数巡後、優希は、

 {六七八②③11234西西西}

 

 役無しだが聴牌した。

 ただ、リーチはかけない。ムリに勝負する必要はないのだ。

 そして、その直後、

「チー!」

 静香が動き出した。

 ただ、運は、どうやら優希に向いているようだった。次のツモ牌で、

「ツモ!」

 優希は{①}を引いてきた。

「ツモのみ。300、500。」

 これで、優希は自らの手で先鋒前半戦を終了した。

 

 順位と得点は、

 1位:優希 237700

 2位:憧 59300

 3位:静香 58100

 4位:杏奈 44900

 誰の眼から見ても明らかだ。優希が圧倒的点差でトップである。まさに他家がメゲるレベルであろう。

 

 

 休憩に入った。

 優希は、急いで控室に向かった。

 タコスの補給だ。後半戦でも圧倒的勝利に向けて、さらにリードを広げたい。それゆえのタコスだ。

「ただいまだじぇい。」

 優希が控室に入ると、既にテーブルの上にはタコスが用意されていた。

 監督のアレクサンドラ・ヴェントハイムが、補員に買い物に行かせておいたのだ。用意がイイ。

 

 休憩時間は余り長くない。

 なので、優希はタコスを急いで口に入れた。

 

「それにしても、凄いスタートダッシュだな。これじゃ、私でも敵わないや。」

 そう言いながらネリーがタコスをじっと見詰めていた。なんかだ、食べたそうな雰囲気が全身から放出されている。

 それを優希は肌で感じていた。

「お前も喰うか?」

「べ…別にイイって。」

「そうか。でも、タコスパワーで後半戦も確実に勝つじょ。そうしたら、私とネリーで二勝して決勝進出権を取れるじぇい!」

「勿論!」

「多分、咲ちゃん達も、咲ちゃんと高鴨さんで二勝を狙ってくるはず。ここで、あの忌々しい綺亜羅のヤツらを落とすじょ!」

「当然!」

 なんだか、優希とネリーの息が妙に合っていた。

 まあ、一方は、

『カネカネカネ………。』

 もう一方は、

『タコスタコスタコス………。』

 と、うるさいところでは、よく似ているのかもしれないが………。

 

 

 それはさて置き、一回戦、二回戦の戦績を見る限り、綺亜羅高校メンバーに勝ってるのはネリーしかいない。あとは全員負けっぱなしだ。

 しかし、ここで綺亜羅高校を落として決勝進出したならば、恐らく臨海女子高校、白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の戦いになるだろう。

 

 そうなった場合、十中八九、先鋒戦は白糸台高校の淡が、中堅戦は咲が取ると予想される。

 

 恐らく、副将戦は、湧とダヴァンの一騎打ちになるだろう。しかし、レベル的にダヴァンなら湧に勝てる見込みは十分ある。

 

 そして、ダヴァンが勝つことが前提になるが、雪辱に燃える二人、次鋒のネリーか大将の数絵のどちらかが一勝をあげてくれれば良い。

 

 今度こそ臨海女子高校が優勝する。

 それが優希達の目標であった。

 

 

 一方、この頃、憧は控室に戻れないでいた。

 さすがに、この点差だ。みんなに顔向けできない。

 それを気遣ってか、阿知賀女子学院からは憧に会うために対局室へ行く者は一人もいなかった。

 

 いくら憧が全国ランキング11位でも、最高状態の優希が相手では厳しい。阿知賀女子学院でも、咲以外に敵うものはいないだろう。

 それが分かった上での配慮である。

 

 静香は、一旦控室に戻ったようだ。

 綺亜羅高校は、パッと見た目、全員が一匹狼みたいな雰囲気をまとっているが、メンバー同士は互いに仲が良い。

 まあ、共感するものがあるのだろう。

 

 もう一人の先鋒、安奈は憧と同様、対局室で卓に付いたままジッとしていた。

 いくら最高状態の優希が相手でもヤキトリ終了は仲間に申し訳が無い。憧以上に控室に戻り難い状態だろう。その気持ちは良く分かる。

 

 一応、憧は杏奈とは面識がある。

 昨年の秋に、阿知賀女子学院、粕渕高校、朝酌女子高校、旧朝酌女子高校の練習試合を行った際にアドレス交換もしていた。

 憧は、

「ダブリー一発ツモの親の三倍満を二回に天和一回って、反則だよね!」

 と杏奈に言った。

 ずっと互いに黙っているのが憧は余り得意ではないようだ。

 これに杏奈も、

「そ…そうですよね。」

 と答えた。

 ただ、そう答えたきり、何も言ってこない。

 少し塞ぎ込んだ感じがある。たった半荘一回で、これだけの点差を付けられたのだから仕方が無いだろう。

 

 再び憧は、

「親の三倍満二回と役満一回で120000点も稼いでるんだよ? しかも、それって運だけジャン?」

 そう言って杏奈を励まそうとした。

 ただ、それは同時に、自分自身の敗北に対する言い訳………、いや、自己正当化でもあった。

「…。」

 しかし、杏奈は全然、口を開こうとはしなかった。

 それだけ、この圧倒的点差はショックだったのだろう。

 

 

 しばらくして優希と静香が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家は当然の如く優希が引き当てた。やはりタコス効果は顕在である。

 そして、南家は杏奈、西家は静香、北家は憧に決まった。

 

 

 東一局、優希の親。

 配牌直後、

「やっぱり、今日は運が良いじぇい。捨てる牌が無い。」

 優希は、そう言うと手牌を開いた。

 そして、

「ツモ。天和。16000点オール!」

 本日二度目………と言うか、今大会二度目の天和を和了った。

 公式試合で優希が天和を見せるのは、これで何度目だろうか?

 

 この和了りで優希と他家の点数は、前後半戦合計で200000点を超えた。

 憧にとっては、先鋒戦での勝ち星を諦めたところに、さらなる追い討ちをかけられた感じであった。

 もはや絶望的、いや、論外とも言うべきか。

 親番で複合役満を優希から直取りでもしない限り、もう逆転は完全に不可能であろう。

 

 東一局一本場。ドラは{白}。

 ここでは、

「ポン!」

 優希が早々に静香が捨てた{東}を鳴いた。ダブ東だ。

 そして、打{中}。これで、{中}は捨て牌とドラ表示牌で二枚出たことになる。

 

 同巡、

「チー!」

 今度は、静香が杏奈の捨てた{1}を鳴いた。

 まるで優希のペースにピッタリくっついているように思える。

 そして、ここからドラの{白}を強打した。

 一瞬、場の空気が凍りついた。

 しかし、これを誰も鳴かなかった。どうやら、{白}を対子で持っている者は、今のところいないようだ。

 

 数巡後、

「チー」

 優希が憧の捨てた{一}を鳴き、{横一二三}を副露した。

 どうやら、捨て牌から察するに優希は萬子の混一色に走っているようだ。

 

 同巡、静香は{[⑤]}を強打。

 ここまで静香の捨て牌には{二}、{四}、{②}、{[⑤]}とあり、逆に索子が無い。

 それに、{横123}を副露。

 鳴き牌と捨て牌から、見た感じ索子染めと思える。

 

 次巡、杏奈は、

 {二三四②③④⑥⑧23467}  ツモ{⑥}

 

 絶好の聴牌だ。

 当然、ここから打{⑧}。

 しかし、

「ロン。」

 和了りの宣言が下家から聞こえてきた。

 そう、静香の和了りだ。

 

 開かれた手牌は、

 {⑦⑨白白白發發發中中}  チー{横123}  ロン{⑦}  ドラ{白}

 

 小三元チャンタドラ3の倍満直撃。

「16300!」

 どうやら、{白}を四枚持っていたところから{白}を強打、また、{⑧}を出させるために{[⑤]}を強打していたのだ。

 それにしても、ここまで大きな手を張られていたとは………。

 それ以前に、ドラを含む三元牌を、ここまで大量にガメていたとは、ある意味、なんと言う強運だろうか?

 一方の杏奈にとっては、まさかの振り込みだった。




おまけ


導入司会は憧シリーズ(ダッチ〇イフ)が担当します。


ヤエ「九十七本場おまけの一件で、塞が剣幕に怒っているのでな。今回から塞を主役にしたSFをお送りする。」

憧「まあ、咲-Saki-登場人物による学芸会みたいなものよね(こんなの書いてるから本編が進まないんじゃないの?)。」

絹恵「中味は、敵と戦う合体ロボットモノやて!」

淡「でも、タイトルが『塞のカラダは増幅器!?』だって。いったいナニを増幅するんだろう?(妙味深々)」

姫子「各章のサブタイトルもすごか!
プロローグ.『夢…あの娘も奴らの生贄…』
一.『私が増幅器…? ナニを増幅するの?』
二.『報酬は美女のカラダ』
三.『私の初体験………ナニを増幅?』
四.『二人同時に私の中に…』
五.『邪神がデザインしたカラダ』
六.『何、このエロ女!』
七.『愛の美の女神?』
八.『私は…最高の獲物』
九.『特典は私…』
十.『こんなにたくさん相手するの?』
十一.『勝利の女神?』
エピローグ.『増幅器卒業!』
なんか、七章と十一章以外は、正直、エロ小説かなんかにしか見えんとよ!」

ヤエ「でも、まあ、ほんとうに危なそうなら、まこがなんとかしてくれるはずだ。」

憧「それでは、『塞のカラダは増幅器!?』。スタート!」




塞のカラダは増幅器!?


プロローグ.『夢…あの娘も奴らの生贄…』

その日、私は夢の中にいた。
一瞬、まるで幽体離脱したかのように、私は自分の姿を見ていた。
夢の中の私は、まるで妖精のような姿だった。背中には何故か羽が生えていた。少なくとも普通の人間ではないようだ。
ただ、性別は今の自分と同じで女性らしい。

そこは何か乗り物の操縦室のようだった。どうやら、その乗り物で敵と戦っているらしい。
隣の席には、やはり背中に羽の生えた女性が座っていた。
彼女の名はハツミ。胸の辺りがはだけている服を着ていた。いや、あれは服として機能しているのだろうか?
それと、ハツミは、私よりも、ちょっとだけ(?)背が大きい感じだった。
どうやら、私と彼女は親友らしい。

私とハツミの後ろには、同じ背格好で背中に羽の生えた別の女性が二人いた。
胸の無い方がトモエ、胸の大きい方がハル。
夢の中だけの存在なのに、何故か名前まではっきりしていた。

身体が激しく揺れた。私達の乗り物に敵の攻撃が命中したのだ。
脱出機は二機。
それぞれ二人乗りだった。
私はハツミと一緒に脱出機に乗り込んだ。
脱出機が飛び出した直後、それまで私達が乗っていた何かが大爆発を起こした。その乗り物は、どうやら巨大な戦闘機だったようだ。
トモエとハルの乗る脱出機が後方から敵の攻撃を受けた。そして、私達の目の前で無残にも爆発した。
『トモエ! ハル!』
私は夢の中で叫んでいた。共に何年も一緒に時を過ごしてきた仲間の最期を見届けたように感じていたのだ。
次の瞬間、私達の脱出機が激しく揺れた。敵戦闘機のレーザー砲が命中したのだ。
操縦不能となった脱出機は、どんどん高度を下げていった。
そして、高度数百メートルまで落ちたところで、私はハツミを無理やり脱出機の外に放り出した。彼女だけでも爆発から逃れて欲しかったのだ。
ハツミのパラシュートが開くのを見届けた。
その数秒後、脱出機が地上に激突した。
私は激突直前に脱出したはずだった。でも、僅かに脱出が遅かったのだろう。爆風に煽られて地面に強く身体を打ちつけた。
右の二の腕と右腿が、激痛を超えて痺れていた。脱出機の爆発で右腕と右脚が吹き飛ばされていたのだ。
私は一応、夢の中では超能力らしき不思議な力が使えるらしい。顔を歪め、うずくまりながらも、その不思議な力で腕と脚を止血していた。

虫唾の走るような声が聞こえてきた。野蛮………と言うよりも図々しい感じのする声だ。
「カナちゃん、捕虜を一匹捕まえたし!」
「もう一匹、あそこに落ちてます。高一最強の私が捕まえに…。」
「あれは放っておいたらエエねん。出血が酷いし、すぐに死ぬと思うわ。デクにもならん。それより腹減ったな。串カツかたこ焼きかなんか無いか?」
死ぬって、私のことか…。
声のする方を見上げると、巨人達の一人がハツミを片手で掴み、軽々と持ち上げていた。その者達の背丈は、どう見ても私やハツミの五倍くらいになる。
まるで、巨大な人食い鬼のように見える。
私は薄れ行く意識の中でハツミの名を叫ぼうとした。
でも、声が出なかった。致命傷を受けた私は、もはや気力も体力も限界に達していた。


どれくらい時が経ったのだろう。
しばらくして、誰かが私に呼びかける声が聞こえてきた。可愛らしい女性の声だった。
うっすら目を開けると、高校生くらいの女性が私の顔を覗き込んでいた。ただ、身体のサイズは、あのウザく図々しい女達と同じくらいだ。
私が縮んだのか?
彼女は、健気な雰囲気の中に儚い感じが見え隠れする独特なオーラを身にまとっていた。どうやら、彼女が私を助けてくれたらしい。
「私はエイスリン。あなたは?」←オールカタカナでは読み難いため普通に記載します
でも、私は口を開くだけの体力が無かった。
そこは鉄格子で覆われた牢屋の中に見えた。トラックの荷台を牢屋に改造した、昔どこかのアニメで見たような古典的な護送車の中だった。

『汚物は消毒だし!』
と言いながら火炎放射器とかを使う輩が出てきてもおかしくないシチュエーションのように思える。

そこには、若い女性がたくさん乗せられていた。彼女達は、どこかへ連れて行かれるところだったようだ。
エイスリンも、その中の一人だった。
周りの人の声を聞いた感じでは、数十メートル先でうずくまる私を見つけたエイスリンが、運転手に無理を言って助けてくれたようだ。
そこで再び意識が消えた。


次に気が付くと、薄暗い部屋の中で私は寝ていた。
その部屋には、さっきの護送車の中にいた女性達が押し込められていた。顔ぶれが一緒だ。
しかも、私の右腕と右足を吹き飛ばされた設定は、まだ生きていた。随分と整合性の取れた夢だ。
誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。またもや図々しい雰囲気のする女性の声だ。
すると、エイスリンが私に、
「すぐ戻ってくるから。」
と言って部屋から出て行った。
しばらくすると、女性達の歓喜の声が聞こえてきた。
『あの娘も奴らの生贄…』
何故か私はエイスリンに対して、そう思っていた。
そこで再び私の意識が途切れた。


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百四本場:役満直撃?

 先鋒後半戦東二局、杏奈の親。ドラは{4}。

 せっかく回ってきた親番だが、前局の倍満直撃のショックで、杏奈は完全に戦意消失していた。

 余り深く考えずに、ただ、字牌から切り出し、そのまま手なりで進めて行く。

 他家の捨て牌を観察する余裕も無い。

 そのような中、杏奈が六巡目に切った二枚切れの{西}で、

「ロン。」

 またもや下家から和了りを宣言する声が聞こえてきた。静香の和了りだ。

 

 杏奈が、

「えっ?」

 驚いて静香が開いた手牌を見た。

 

 {一一五[五]⑤[⑤]4499西北北}  ロン{西}  ドラ{4}

 

 結構大きい。

 七対子ドラ4。ハネ満だ。

「12000。」

 静香からは、全然聴牌気配を感じなかった。

 しかも、地獄単騎。

 二連続の振り込みで、杏奈は、ガックリと肩を落とした。

 

 

 東三局、静香の親。ドラは{2}。

 ここでも、手を進めようとして杏奈が切った{七}で、

「ロン。」

 またもや静香に和了られた。三回連続である。

 

 しかも開かれた手牌は、

 {三三三四五六七223344}  ロン{七}  ドラ{2}

 

「12000。」

 {二四五七八}の五面聴。

 タンヤオ一盃口ドラ2の親満だ。

 一瞬、杏奈の視界が真っ暗になった。

 

 まるで振り込みマシーンだ。それも、大きな手ばかり。

 杏奈の目に涙が溢れてきた。

 しかし、それを気にせず、平然とした顔で静香は卓中央のスタートボタンを押した。

 

 東三局一本場、静香の連荘。

 この時、憧は、

「(どうも綺亜羅の人が臨海からツキを奪ったって感じに見える。でも、前半戦の臨海の特大リードを逆転するつもりなのかしら?)」

 静香の和了りを無駄な足掻きとして捉えていた。

 優希との前半戦での大差を、後半戦だけで逆転するなど無謀と思っていたからだ。

 

 この時、憧は、一年半前に初めてインターハイ出場した頃のような、どんな相手でも負けじと喰らい付いてゆくチャレンジャー精神を完全に失っていた。

 あの時は、セーラ相手に稼ぎ負けても、決して諦めることなく戦い抜いていた。

 もしかしたら、春夏コクマの団体戦三連覇が、彼女の心から石に噛り付くような泥臭い執念………チャレンジャー精神を奪ってしまったのかもしれない。

 

 それと、星取り戦になったことの弊害だろう。

 決勝進出までは勝ち星を二つ上げればよい。その二つは、咲と穏乃が何とかしてくれる。

 

 しかも憧は、この時、既に、

『最高状態の優希は、咲でさえ一気に大量リードされるレベルだから、仕方ないよね?』

 と負ける言い訳を見つけて満足していたし、

『どうせ、先鋒は東風の神が取りだろうし、次鋒はネリー、中堅はサキ、大将はシズが取るから、決勝進出は臨海とうちで決まりだしね。』

 と勝手に決め付けてもいた。

 なので、今の憧には、静香の追い上げが滑稽にすら感じていたのだ。

『どうせ敗退するくせに』

 と………。

 

「(でも、さすがに少しは和了らないと。)」

 いくら負けが決まっていても、さすがにヤキトリはイヤだ。

 憧は、

「ポン!」

 杏奈が捨てた{②}を鳴き、数巡後に、

「ツモ。タンヤオドラ2。1100、2100!」

 30符3翻で和了った。

 

 

 東四局、憧の親。

 ここでも、

「ポン!」

 憧は対面の杏奈から{8}を鳴いた。

 そう言えば、後半戦になってから静香が鳴かせてくれていない。

 それ以前に憧が静香からチーできたのは何回あっただろうか?

 思い起こせば、前半戦では東一局三本場で優希の親を流しに出た時と、南三局で静香がハネ満を和了りに行った時だけである。

 後半戦になってからは、一度も鳴かせてくれていない。

 たしかに、これは憧にとって厳しい。

 

 一応、

「ポン!」

 ここでも杏奈が憧に鳴かせてくれた。これなら、クイタンだけど聴牌できそうだ。

 そして、

「ツモ! 2000オール!」

 何とか憧は和了りに持って行くことが出来た。

 

 東四局一本場、憧の連荘。

 憧は、安手を二連続で和了ることができたが、ここまで徹底して上家が鳴かせてくれないことは珍しい。

 今回は、ポンで手を進められそうに無い。

 こんな時に限って、

「ポン!」

 杏奈が捨てた{東}を優希が鳴いた。まだ東場だ。それこそ、優希にとっては満貫以上の和了りを狙う最後のチャンスでもあるだろう。

 

 優希が動き出したことで、憧は焦った。いくら勝てなくても、少しは点を重ねておかないと………。

『でも、なんで?』

『どうせ、サキとシズが勝って二勝で決勝脱け出来るのに?』

『それなら得失点差なんか関係ないジャン?』

『でも、あんまりマイナスがヒドイと恥ずかしいし?』

 どうも、楽をしたいことと対面的なことの二点を考えている。

 勝負のほうに頭が行っていない。

 

 恐らく以前の憧なら、こんな状態の自分がイヤになっただろう。

 しかし、今は、こんな自分でも容認してしまっている。

 そんな状態の人間に勝利の女神が微笑むはずが無い。

 結局、この場は、

「ツモ! 東ドラ3。2100、4100だじぇい!」

 優希に和了りを持って行かれた。

 

 

 南入した。ドラは{3}。

 優希のオーラが、急激に萎んで行くのが分かる。

 ここからの優希は、守りの麻雀にシフトするだろう。ただ、振り込まないことだけを目指す逃げの麻雀だ。

 憧は、ここから速攻で少しは追い上げ、前後半戦トータルで、一応、2位になれれば面目は保てるだろう程度に思っていた。

 ただ、そのためには静香を追い抜きたい。

 当然のことだが、和了りたいし手を進めたい。

 しかし、肝心の上家が鳴かせてくれない。

 

 そんな状態で、憧は少しイラついてきた。

 そして、不用意に切った{西}で、

「ロン!」

 静香に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三112233白白西西}  ロン{西}  ドラ{3}

 

「西チャンタ一盃口ドラ2。12000。」

 しかもハネ満。

 これには憧も静香を睨みつける。

「(何よ、どうせ勝ち星はユウキに持って行かれるのに!)」

 しかし、静香は、平然とした顔をしていた。

 振り込んだ人間に睨まれたくらいでは動じない。それでいちいち動揺していたら勝負の世界で勝つことなど出来はしないだろう。

 静香は、憧から点棒を受け取ると、何事もなかったかのように山を崩した。

 

 

 南二局、杏奈の親。ドラは{9}。

 憧は、

「ポン!」

 現在トータル2位の静香との点差を詰めることだけを目指し、和了りに向かって杏奈が捨てた{發}を鳴いた。

 当然、杏奈も憧の和了りをケアするようになる。

 

 そして、数巡後、杏奈は憧から聴牌気配を感じ取った。

 この時の憧の手牌は、

 {二三四[五]六11[5]67}  ポン{發横發發}

 

 杏奈は、憧への振り込みを回避するように{①}を切った。

 この時だった。

「ロン。」

 下家から杏奈は和了り宣言の声を聞いた。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨99}  ロン{①}  ドラ{9}

 平和一気通関ドラ3。高目振込みだ。

 

「12000。」

 この振り込みで、杏奈は持ち点40000点を割った。

 

 

 南三局、静香の親。ドラは{三}。

 憧の配牌は、

 {四[五]六七⑤[⑤]⑥468西北白}

 

 四向聴だが割と良い手だ。

 ただ、ツモは噛み合わず、ヤオチュウ牌ばかりが来る。

 しかも、憧からすれば、格下と思っていた静香にビハインドを許している。

 メジャーどころの優希に、しかも最高状態の優希に負けるのは許せても、綺亜羅高校の人間に大負けするのは憧のプライドが許さない。

 しかし、全然手が進まない。

 憧の焦りが顔に出てきた。

 

 丁度この時であった。

 静香が、何気に憧の方を見ながら{三}を切った。

 すかさず憧は、これを、

「チー!」

 鳴いて{横三四五}を副露した。

 

 そして、二巡後、今度は静香が{[⑤]}を捨ててきた。赤牌だ。

 これも憧は、

「チー!」

 鳴いて手を進めた。

 

 その次巡、さらに静香が{[5]}を捨ててきた。

 これを鳴けば、憧の手は、打{8}で、

 {六七⑤[⑤]}  チー{横[5]46}  チー{横④[⑤]⑥}  チー{横三四[五]}

 タンヤオドラ5を聴牌。

 当然、

「チー!」

 憧は{[5]}を鳴いて{8}を強打した。

 

 しかし、この{8}を待っていましたとばかりに、

「ロン。」

 静香が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①②③⑨⑨12379}

 

 ジュンチャン三色ドラ1の親ハネ。

「18000!」

 憧のまさかの振り込みであった。

 しかも、これで後半戦の順位と点数は、

 1位:静香 158100

 2位:優希 153200

 3位:憧 62200

 4位:杏奈 26500

 静香が優希を抜いてトップに立った。

 とは言え、前半戦の分を加算すると、まだ圧倒的に優希がトップであることには、変わりは無いが………。

 ただ、このハネ満直撃は、憧にとっては大ショックだった。

 

 続く南三局一本場。

 前局の振り込みで、憧は、ますます戦意が失われ、ただ、その場にいるだけの置物のようになってしまった。

 勿論、静香は、そんな憧のことなどお構いなしに、着々と手を作り上げる。

 そして、今度は杏奈から、

「ロン。7700の一本場は8000!」

 門前で中ドラ2を和了った。

 

 そして、南三局二本場も、

「ツモ! 3900オールの二本場は4100オール!」

 静香は和了り続けた。これで五連続だ。

 

 杏奈の点数が15000点を割った。

 そろそろ本気でヤバイ。

 

 憧は、

「(気を入れ直さないと。ここは、親を流して………、それに、オーラスで少しでも稼いでおかなきゃ。)」

 両手で両頬を叩いた。

 いくらなんでも、このまま終わるのはイヤだ。

 今一度、気合いを入れ直し、憧は次局に望むことにした。

 

 南三局三本場。

 よく分からないが、ここに来て再び、静香が憧の欲しい牌を捨てるようになった。憧に鳴かせないように打てるような手牌ではないと言うことだろうか?

 南三局での親ハネ振込みの苦い記憶はあるが………。

 理由はともかく、憧はラッキーと思うことにした。

 そして、

「チー!」

 憧は手を進め、

「ツモ!」

 速攻で和了った。

 しかも、運の良いことにドラも多く抱えての和了り………。

「2300、4300!」

 満貫だ!

 これに、憧は気を良くしてオーラス………自分の親を向かえた。

 

 

 オーラス、憧の親。

 ここでも静香は、憧の欲しい牌を不用意に切ってきた。今までの彼女の捨て牌とは全然違う。

「チー!」

 勿論、憧は鳴いて手を進める。鳴くことによって、手が加速するような錯覚を感じさせるのが憧の特徴。

 そして、

「ツモ! 4000オール!」

 この局も、ドラを多く抱えての親満ツモ和了りとなった。

 

 しかし、憧はトップでは無い。

 ここは、

「一本場!」

 当然だが、連荘を宣言せざるを得ない。和了り止めイコール敗北宣言だからだ。

 

 オーラス一本場。

 やはり、ここでも、

「チー!」

 憧は鳴ける。

 不思議なくらい、静香が鳴かせてくれる。

 いったい、静香は何を狙っているのだろうか?

 ただ、今は手を進ませてくれるのなら、それに乗るしかない。

「ツモ! 3900オールの一本場は4000オール!」

 ここでも憧は、ドラ三枚を抱えた30符4翻の手を和了った。

 

 そして、オーラス二本場。ドラは{8}。

 配牌直後、静香の口元が上がった。にやっと笑ったように見える。

 ここに来て、憧は、再び鳴けなくなった。

 いや、静香が欲しい牌を捨ててくれなくなったのだ。

 

 六巡目までの静香の捨て牌は、

 {一九19一⑨}

 

 憧の手牌はドラ含みのタンヤオ一直線。鳴いてさっさと手を進めたい。

 しかし、これらは、憧には鳴ける牌ではない。

 

 

 この局、静香の配牌は、

 {一九19①③白白發發中中南}

 九種九牌だが、これを流さずに、ここから手を進めた。

 静香は、この手の配牌が来るのをジッと待っていたのだ。それで、敢えて親の憧に和了らせていた。

 南三局三本場はともかく、オーラスでの憧の和了りは全員が均等に削られるだけ。

 ならば優希と静香の点差は変わらないはず。

 しかも、憧とは南三局二本場を終えた時点で、前後半戦トータルで120000点近い点差を付けていた。

 ここから仮に、憧に数回親満をツモ和了りされても、それこそ全然余裕なのだ。

 

 

 そして、七巡目。

 ようやく静香が{⑤}を捨てた。

 これを憧は、待ってましたとばかりに鳴いた。

「チー!」

 この時、憧の手牌は、

 {二二三四[五]②77788}  チー{横⑤④⑥}

 

 {②④⑥}の両嵌からの鳴きだ。

 そして、当然、打{②}で聴牌。

 捨て牌を憧は強打した。

 

 これで憧は、この局も和了れると踏んだ。

 しかも、最低でも11600点が約束された手だ。

 自然と力が入って当然であろう。

 

 ただ、この時、聴牌していたのは憧だけではなかった。

 静香も聴牌していたのだ。

 

 しかも、よりによって静香の手牌は、

 {①③白白白發發發中中中南南}

 

 もの凄い強運と言うか豪運で、殆どムダツモ無しで手を作り上げていた。まるで咲や小蒔のようだ。

 言うまでも無い、門前の大三元で、{②}待ち。

 今さっき、憧が捨てた牌で和了りだ!

 

 まさかの役満振込み。

 これを控室のモニターで見ていた阿知賀女子学院のメンバー達は、顔面から血の気が引いていた。

 ただ一人、恭子を除いて。




おまけ
前回からの続きです


一.『私が増幅器…? ナニを増幅するの?』

次に気が付いた時、私はマンションのリビングでコタツに入ったまま横になっていた。今度は夢の中ではない。本当の目覚めだ。
異様に寒い。
窓の外は雪で一面真っ白だった。
私は、ふと自分の手を見た。
右手はある。
そして、恐る恐る右足を触った。
たしかに右足もある。
やはり、手足が吹き飛ばされたのは、夢の中だけの出来事だったのだと思ってホッとした。それにしても、あのリアルな感じは、いったい何だったのだろうか?

私の名前は塞(サエ)。
漢字で書くと、非常に珍しい名前だ。
少なくとも私は、この名前…と言うか文字を気に入っていない。
この文字を父が気に入っていたらしく、こんな名前をつけられた。
私は、どうしても、この名前が好きになれない。唯一、この名前に関してだけは、父を恨んでいる。
できれば改名したい。
普通の文字が良かった。
父は、よく私に、
『最後の砦と言われるような実力のある人間になりなさい!』
と言う。
『塞』が付く言葉、『要塞』に因んでそう言っているみたいだ。

私は、身長は154センチで細身だけど、一応胸はある。


塞「単行本では原作者がサービスしてくれて大きめに描かれていたけど(13巻p7)、実際は、あそこまで大きくないからさ。」


それから、腰のラインがちょっと自慢かも?
別に顔は大きく無い。八頭身とまでは行かないけど、七頭身くらいかな…。

容姿が酷く劣っているとは思っていないけど、ムチャクチャ優れているとも思っていない。彼氏いない暦と年齢が同じの、ちょっと地味な存在。
それでも、体力には少し自信がある。中学では陸上をやっていて、一応、一万メートル走で県大会出場を果たした実績がある。
もっとも、県大会で上位に食い込むだけの実力は無かったけど…。

頭の出来は今一つと言うか、まあ普通。
現在、高校三年生。十七歳。今度の2月で十八歳になる。
進学率五十%程度の中堅校に通っている。有名進学校には程遠い。
少なくとも超一流大学に合格する人なんていない高校だ。多分、そういった人達とは一生無縁だと思う。そんなレベルの人達は、私には宇宙人にしか見えない。


父からは、たとえ三流大学でも、大卒の肩書きが取れるなら行くべきだと言われている。この高校から入れる大学で構わない。就職の時に、高卒よりも大卒の方が有利だからと言うことらしい。
たしかに、高卒以上と書かれているところに大卒は含まれるけど、その逆は無い。
サラリーマンで、社会の実情を知っている父の言うことだ。多分、間違いは無いだろう。
冬休みが開けたら受験期に入る。気が重い。

父の名はシロミ、母の名はトシ。
母は、私のことを、たまに、
『塞ぐちゃん』
と呼んでいた。
でも、十年くらい前、私が小学校に入学した少し後に蒸発した。夫婦仲が悪かったわけではないけど、どうしていなくなったのかは分からない。捜索願を出したけど、結局見つからなかったみたいだ。
死んでしまったのか、それとも私と父を捨てて逃げたのか…。
良く分からない。


白望「今回、私の登場って、この名前だけ…。しかも一回きり。でもダルいからイイ…。」

巴「私と春なんか、もう殺されちゃってるし!」

春「うん…。」


テレビの横には、当時の家族写真が飾ってある。両親と私の三人で映っている写真だ。
その時から父一人、子一人の二人家族だ。よって、家事の殆どは私の仕事と思っている。
こんな環境にいたからだろう。結構、料理上手だ。
でも、カップラーメンの方が好きだ。

高校は、昨日から冬休みに入っていた。
この時期、この地方に雪が降るのは当たり前。結構積もっているみたいだ。
今日も昨日と同じように、リビングに置いたコタツに入って、一人でテレビをダラダラ見て過ごすのだろう。宿題は、何か出てたかな?
まあ、後回しでイイや。
受験勉強も気が乗らないし。
この時、私はそう思っていた。

ここはマンションの一室。角部屋でルーフバルコニーつきの4LDK。結構広い。
私は、ここに一人暮らし。父が秋の人事異動で単身赴任したためだ。
今の高校に通うために、私は、ここ残っている。マンションのセキュリティーが良いので、一人で残っても大丈夫だろうと思ったのだ。
父は寂しそうだったけど…。

彼氏がいれば、半分同棲状態になるかもしれない。でも、毎日一人でここにいる。もったいないシチュエーションだと自分でも思う。

リビング中央にはコタツを置いてある。昨日もコタツで寝てしまったようだ。
床暖房にエアコンでも良いけど、私はコタツが好きだ。

今、この空間の支配者は私だ。だから私の好き勝手やっている。コタツ派なんだから、当然リビングにはコタツだ!
コタツを発明した人は偉い。尊敬する。
『コタツ万歳!』

ふと窓の外に、妙に大きな白い物が見えた。まるで、空からルーフバルコニーに何かが落ちてきたようだった。
一応、視力は良い方だ。全然勉強してこなかったからかもしれないけど、いまだに2.0が両目共はっきり見える。
たまにモノクルをかけるけど、実は単なるダテメガネ。カッコイイ感じがしてかけているだけだ。友人達からは、ババ臭いからやめろと言われているけど…。

落下物は、金属光沢があるようにも見えた。絶対に雪の塊が落ちてきたのではないと感じていた。
私は急いでルーフバルコニーに出た。すると、私の目に映ったのは、直径1メートルくらいで灰白色の円盤だった。
その円盤には、体長30センチくらいで背中に羽の生えた妖精と言うか、人形のような姿をした何かが乗っていた。
よく見ると、さっきの夢の中に出てきた私の姿に似ている。これには驚いた。


塞「胡桃が妖精みたいな小人の役をやるって聞いていたけど、ウケル~!」

胡桃「うるさい、そこ!」


その羽の生えた何かは、小さくうずくまっていた。全然動く気配が無い。でも、呼吸はしている。生きているようだ。
私は、円盤ごと抱え上げてリビングに持ち運んだ。
円盤は妙に軽かった。硬いし、少なくとも金属で覆われていることだけは間違いないと思うけど、まるで紙で出来た工作を持ち上げているような感覚だった。
円盤の中にいた生物をコタツで寝かせた。
一応、顔だけはコタツの外に出してあげた。地球外生命体っぽいけど、人間と同じでコタツの中に全身入れてしまうのは良くないように感じたのだ。

改めて見ると、その生物は、さっきの夢の中で見た私と本当に瓜二つの顔をしていた。一応、胸もある(?)し、多分女性なのだろう。
夢と違っているのは、両手両足が健在なことくらいだ。
もしかしたら、私は予知夢を見ていたのだろうか?
これから、私が見た夢と同じことが、この生物の身に襲いかかるのだろうか?
コタツに入りながら、私は、そんなことを考えていた。


「んんー。」
その生物が目を開けた。
彼女は、まるで敵を警戒する猫科の動物のように俊敏な動きでコタツから出ると、身構えて私の方をジロジロ見た。
十秒くらい沈黙が流れた。でも、その間だけは妙に時間が経つのが長く感じた。

彼女は安堵の表情を見せて、
「やっと見つけた!」
と言うと、羽をはばたかせて宙に浮き、私の胸に飛び込んできた。
が…、途中で失速して私の膝の上に落ちた。
「お腹すいた…。」
その言葉が、今の彼女の全てを物語っていた。つまり、何のパワーも出ないと…。

私は、彼女を再びコタツに寝かせると、キッチンの戸棚からカップラーメンを二つ取り出した。当然、大盛だ。
今、すぐに出せる食べ物は、この箱買いしたカップラーメンだけだった。
片方は私の朝食で、もう片方は、この小さな生物の分だ。
お湯を沸かしてカップラーメンにお湯を注いでコタツの上に置いた。
ただ、よく考えると、その生物の体積よりもカップラーメンの容器の容積の方が大きいのではないだろうか?
条件反射的に二つ取り出していた。やっぱり、私って頭が悪いのかな…。

その匂いをかいで、その生物がコタツの上によじ登ってきた。
「いい匂い。これ、食べて良いの?」
「うん。でも、出来上がるまで三分間待って。」
何故か、彼女は普通に日本語を話していた。どこで覚えたのだろうか?
よくよく考えると不自然だけど、その時の私は、特に気にも留めていなかった。
彼女は、カップラーメンをじっと見詰めていた。そして、三分後、
「頂きます!」
と言うと、蓋を取って中身を手掴みで食べ始めた。


胡桃「なんか、行儀悪い役だな。本当の私は、もっと行儀が良いからね!」


もの凄い勢いで食べているところを見る限り、少なくとも猫舌ではないらしい。
ただ、手掴みしていて熱くはないのだろうか?
それ以前に、体のサイズから想定される胃袋の大きさは、かなり小さい。麺を五本も食べればお腹がパンパンになる気がする。
でも、ノンストップで彼女は、どんどん食べていった。
数分後には、麺どころかスープまで飲み干した。信じられないけど完食した。
絶対に体積の帳尻が合わないけど、そこは敢えて突っ込まなかった。
彼女は笑顔で、
「ご馳走様!」
と言うと、私の前に正座した。
「私の名前は、クルミ。カクラ星から来たの。」
「カクラ?」
「ええ。ここからだと、丁度銀河系の真ん中を挟んで反対側の星。ここから六万光年くらい離れた星よ。で、あなたの名前を教えて欲しいんだけど…。」
「塞…。」
私は、小さな声で答えた。余り他人には言いたくない名前だ。別に、文字を書かなければ問題無いんだけど、なんか卑屈になる。
でも、宇宙人のクルミには、特段変な名前に感じなかったようだ。文字で書かなかったからかな?
「ねえ、塞。あなたに、お願いがあるの。今、私達の星は、キヨスミ星からの攻撃を受けていて…それで、あなたの力を貸して欲しいの。」
予想を超えた言葉だった。
SFの世界だ。宇宙だ。
ままで想像もしたことがない展開だ。
私は訳が分からず顔が硬直していた。
「意味が全然見えないんだけど…。」
「んーとね、分かりやすく言うと、あなたには私の増幅器になって欲しいの。」
「増幅器?」
さらに意味不明だった。少なくとも、分かりやすいとは思えない。
そもそも、私が増幅器って何?
何を増幅するの?
彼女が、私の指を両手で強く握ると、静かに目を閉じた。
ただ、さっきまで彼女は、手掴みでカップラーメンを食べていた。当然、ラーメンの汁で彼女の手はギトギトだった。
私の頭の中に、空からたくさんの巨大なミサイルが降ってくるシーンが浮かんできた。ミサイル一つが高層ビル一つくらいの大きさだった。
建物は次々と破壊され、一気に一面が焼け野原になった。
逃げ惑うカクラ星人達…。
どうやら、クルミの意識が流れ込んできたらしい。

シーンが変わって、さっき見た夢と同じような光景が映し出された。
彼女の声が私の頭の中に響いてきた。
「キヨスミ星は、私達の惑星系の資源を狙って侵攻してきたの。キヨスミ星の狙いは、私達の惑星系に豊富にある特殊な超原子。ワープ機能向上のために目をつけたみたいなの。私達は自分達の惑星系を守ろうと必死で戦うことにしたけど…。」
カクラ星は、クルミ達の住む小人の星だ。そして、彼女達は『ミヤモリ・エナジー』と呼ばれる特殊な力を持っていた。一種の超能力か、魔法のようなものらしい。
でも、SFアニメや映画で見るほど強力なものではなく、衝撃波や電撃、光線が打てるわけではない。地球で一般に超能力者と言われる人のスプーン曲げ程度の能力とSFアニメの超能力者の能力の中間で、どちらかと言うと前者よりの力のようだ。異世界転生者のほうが、もっとパワーが強烈な気がする。
戦闘に使うためには、少なくとも数十倍に増幅する必要があるらしい。
今朝、私が見ていた夢は、クルミがミヤモリ・エナジーを駆使して無差別に送っていたテレパシーだった。
あの事件は、既に一ヶ月ほど前にクルミの身に起こっていたようだ。別に私の予知夢ではなかったらしい。
彼女のテレパシーの受信信号みたいなものが、私から出ていたようだ。それを円盤の中に装備された特殊な探知機で捕らえて、ここまで来たそうだ。
そのテレパシーを効率良く受信できた相手こそ、クルミ達の種族と同調率が高く、ミヤモリ・エナジーの増幅器に適していると言うことだった。
つまり、はっきりとテレパシーを受信して、明確に夢を見させられた私は、まさに増幅器にうってつけの存在なのだ。
同調率は99%。計算上、最大で数千倍の増幅が見込めるとのことだ。
このことは、彼女達のエナジーを、かなりの攻撃力に変換できることを意味する。彼女達には、かなり貴重な存在らしい。

頼られるのは嬉しい。貴重と思われるのも嬉しい。でも、何か求められ方が、自分の理想とする方向と違う気がする。
そう言えば、私が見せられた夢の中では、クルミは右腕右足を失っていた。でも、今の彼女は、両手両足共に健在である。
どうやら、同時期にキヨスミ星に侵入していた仲間に助けられて、何とかカクラ星に生還した後、生体再生技術を駆使して失った手足を復活させたらしい。
あれだけ軽い円盤を造り、何万光年も宇宙を旅してここまで来る技術と言い、生体再生技術と言い、少なくとも彼女の星が、地球よりも数段発達した科学力を持っていることだけは間違いないようだ。

それから、言葉で話さなくても、相手に触れて意識を流し込むことで状況を正確に伝えられるのは結構便利だ。言葉で話しても上手く相手に伝わらないことは良くあるけど、これなら絶対に間違い無く伝わる。
ここまで伝えたところで、クルミは私の指から手を離し、急にそわそわし始めた。
「ちょっとトイレ貸して。それと、シャワーも良いかな…」
「良いけど、使い方は分かる?」
「ええと、多分…。」
クルミは、再び私の指を両手で強く握ると、十秒ほど目を閉じた。そして、
「ちょっと悪いと思ったけど、言葉で聞くより早いと思って、あなたの意識から使い方を読ませてもらったわ。これで使い方はバッチリ。じゃあ、ちょっと待っててね。」
と言うと、リビングを飛び出した。
そして、超能力でトイレのドアを開くと、文字通り中に飛び込んでいった。

私は台所で手を洗った。いくら私でも、汁でギトギトになった手で触られて放ったらかしにしておけるほどズボラではなかった。


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百五本場:ワシズ、トリプル役満狙い

 阿知賀女子学院の控室では、

「もし、ここで憧からこれを和了るようやったら、綺亜羅の先鋒は、その程度っちゅうことや!」

 この言葉を聞いて、全員が声の主………恭子の方を振り返った。

 恭子は、もし、この局面で役満を聴牌できても絶対に和了らない。自らの勝ち星を放棄するからだ。

 なので、もしここで静香が憧から役満を和了って自らの敗北を確定したならば、綺亜羅高校はチームとして大したこと無いと考えていた。

 

 

 これと時を同じくして、

「おぉーっと! 阿知賀女子学院、新子憧選手の役満振込みだぁー!」

 観戦室では、スピーカーから流れる元気の良いアナウンサー………福与恒子の声が響き渡っていた。

 勿論、控室にも同じ映像が流れている。当然、各校控室のテレビからも同じ声が聞こえてきた。

 

 しかし、静香は手を開かなかった。和了らなかったのだ。

「信じられません! 綺亜羅高校、鷲尾静香選手。まさかの役満見逃しだぁー!」

 再び、恒子の声がこだました。

 すると、解説者の小鍛治健夜が、恒子とは対照的に落ち着いた声で解説を始めた。

「{②}で和了った場合、後半戦だけで考えれば鷲尾選手のトップ確定になりますが、前後半戦トータルで考えますと、臨海女子の片岡選手のトップが確定します。」

「へっ?」

 どうやら、恒子には前半戦のスコアが頭に入っていなかったようだ。

 

 現在の後半戦の点数は、

 1位:静香 166400

 2位:優希 138700

 3位:憧 90900

 4位:杏奈 4000

 

 ここに前半戦の得点を加えたトータルは、

 1位:優希 376400

 2位:静香 224500

 3位:憧 150200

 4位:杏奈 48900

 

 つまり、静香は優希からトリプル役満を直取りするか、トリプル役満をツモ和了りするしか無いのだ。

 

 同巡で、静香は南をツモった。ここから打{③}。

 手牌は、

 {①白白白發發發中中中南南南}

 大三元四暗刻聴牌へと変わった。

 {①}待ちのダブル役満だ。

 

 次巡、憧は{北}が初牌だったがツモ切り。飽くまでも和了り狙い。

 そして、同巡で杏奈が{①}を引いてきたが、不要牌。

 これもツモ切りされた。

 

 これは、言うまでもなく静香の和了り牌だった。

 しかし、

「(ワタシの{①}………。)」

 静香は、こう心の中で呟いたものの、決して表には出さずに涼しい顔で64600点の和了りを見逃した。

 飽くまでも狙いは逆転トップなのだ。

 

 さらに同巡、優希は、

 {七七①1223344西西北}

 ここから{七}をツモった。

 七対子を狙うならツモ切りだが、静香から不穏な空気を感じ取っている優希は、杏奈に合わせ打ちして{①}を切った。

 当然、同巡フリテンなので、これでは静香は和了れない。もっとも、和了れても逆転できないため、見逃すだろうが………。

 

 

 極度に緊張したこの場面で、静香が引いてきたのは{北}だった。

 静香は、

「({①}、バイバイ…。)」

 そう心の中で呟きながら{北}単騎に切り替えた。ただ、妙に悲しそうである。{①}に何か思い入れがあるのだろうか?

 

 それは、さて置き、これでトリプル役満を聴牌。

 この手を静香がツモ和了り、或いは優希から直取りすれば大逆転だ。

 

 

 次巡、憧は{①}をツモ切り。

 そして、杏奈がツモってきたのは、問題の{北}だった。

 これは初牌だし、非常に嫌な予感のする牌だ。

 

 ただ、ここで何をやったところで杏奈の最下位は変わらない。

 開き直ってツモ切りした。

 これを静香は見逃し。

 

 続いて優希がツモってきたのは{西}だった。

「(朝酌の先鋒が捨てた{北}で和了ると思っていたが、{北}は安牌なのか? いや、多分違うじょ。なら、ここで{北}を切っておいた方が良いじょ!)」

 優希は、同巡で{北}を処理。好判断である。

 これで静香の和了り牌は無くなった。

 

 静香は、続くツモで{西}を引き、{北}と入れ替えた。

 ただ、{西}は優希がたった今、暗刻にした牌。

 余程の何かがあって、優希が暗刻落としに走らなければ絶対に出てこない牌だ。

 

 次巡、憧は{9}をツモ切り。

 杏奈も{九}をツモ切り。

 そして、優希がツモってきたのは………、待望の{4}だった。

 どうやら、運は優希にあったようだ。

 これが{1}なら一盃口がつくが、そんな贅沢は言っていられない。和了り優先だ。これでトップが確定する。

 

 当然、優希は、

「ツモ!」

 これで和了った。

「ツモのみで、400、700の二本付けで600、900だじぇい!」

 クズ手の和了りだが、自然と点数申告の声に力が入る。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:静香 165800

 2位:優希 140800

 3位:憧 90000

 4位:杏奈 3400

 

 ここに前半戦の得点を加えたトータルは、

 1位:優希 378500

 2位:静香 223900

 3位:憧 149300

 4位:杏奈 48300

 優希が待望の勝ち星を手中に収めた。

 

 

「「「「ありがとうございました(だじぇい!)」」」」

 対局後の挨拶を済ませると、各校の先鋒選手は対局室を後にした。

 

 

 少しして、綺亜羅高校控室に静香が戻ってきた。

「ワシズ(静香のこと)、お疲れぇー!」

 中堅の的井美和が、そう静香に言いながら缶のトマトジュースを渡した。決して生き血ではない。まぎれもなくトマトジュースだ。

 美和は、なかなか顔立ちが整っており、カワイイ系。だいたい10人に1人のレベルだ。

「それにしても、残念だったね。最後のトリプル役満。」

 こう言ったのは副将の鬼島美誇人(みこと)。メンバーからは、『人』と『鬼』でカイ(傀)と呼ばれている。

 静香がソファーに勢い良く座ると、

「まあ、あれが親だったら阿知賀の{②}を見逃さなかったけどね。」

 そう言いながら缶のプルトップを開けた。

 

 丁度ここで、

「でもさぁ、なんで南三局三本場で和了りに向かわなかったの?」

 こう聞いてきたのは、大将の稲輪敬子。1000人に1人レベルの美少女だが、極度に『空気の読めない娘』と言われている。

 普通なら、誰からも相手にされなくなるレベルの超ド級KY娘らしい。

 しかし、麻雀部のメンバーは既に馴れっ子のようだ。

「「「「(敬子らしい…。)」」」」

 そう思いながら苦笑いしている。

 

 静香は、

「あれは、和了りに向かわなかったんじゃなくて、和了れる気がしなかったのよ。それで、敢えて阿知賀に鳴かせてツモ順を変えたんだけどね。」

 と、あの時の状況を敬子に説明したが、

「そうだったの?」

 余り敬子には理解してもらえなかったようだ。

 他のメンバーは言うまでも無く理解してくれているのだが………。

「うん。そしたら、それで勢い付かれて和了られたってとこかな? まあ、鳴くと手が加速するって噂は本当だったみたいね。」

「ふーん。でも、まあ、阿知賀には勝ったからイイじゃん。臨海には負けたけど。」

「…。」

 静香の心に何かがグサッと突き刺さった。

 彼女としても、当然、これまでと同様、優希に勝つつもりでいた。東一局のダブルリーチを見るまでは………。

「でも、一回戦二回戦ではワシズが臨海に勝ってたのにね。なんかワシズが負けるって想定外。」

「………ここに天和の照準を合わせてきたからね。」

「でも、これってちょっときついよね。次鋒じゃ、リュウ(竜崎鳴海のこと)が今まで一度も臨海に勝ててないし。これは臨海の勝ち星二が決まったって感じかな?」

 一応、敬子なりにチームが敗退しないか心配しているのだが、こんな言い方をするので、周りから誤解されることが多い。

 

 もし臨海女子高校が先鋒と次鋒を取ったとする。

 中堅は間違いなく咲が大勝し、阿知賀女子学院が勝ち星を決めるだろう。自分達のエースである美和でも、到底敵わない相手だ。

 そして、大将戦も、スター選手である穏乃の底力に敬子自身も敵うとは思っていない。

「だとすると、決勝進出は阿知賀と臨海で決まりかも?」

 正直言って、他のチームメートも、みんな心の底ではそう思っていた。

 しかし、静香が最高状態の優希を相手にあそこまで戦ってきた直後にズケズケ言って欲しい台詞でもない。

 そんなことを言う前に、

『惜しかったね』

 の一言くらい欲しいものだ。

 まあ、KYな娘と呼ばれているくらいだから仕方が無いのだろうが………。

 

 静香は、

「それより敬子も、少しは空気読んで私のことを労ってよね!」

 と敬子に言った。

 別に怒った感じではなく、まあ、敬子に対する教育的指導だ。

『人間として今後困るよ!』

 と敬子に間接的に言いたいだけだ。

 ところが、

「はいはい、お疲れ様。」

 と軽く敬子に言われてしまった。全然、敬子には理解してもらえない。まあ、そう言った精神構造なのだから仕方が無いかもしれない。

「心がこもってなーい!」

 と再び口にする静香。

 それに対して、

『えっ? なんで?』

 と言った顔の敬子。

 まあ、綺亜羅高校麻雀部では、毎度の風景のようだが………。

「「「「(絶対に友達無くすタイプだよね、敬子は………。)」」」」

 と、まあ、全員が毎度の如く、そう思うのが彼女達のパターンのようだ。

 

 

 鳴海がソファーから立ち上がった。

 じゃあ、そろそろ行ってくる。

 これに美和が、

「リュウ。ガンバ!」

 士気を高めようと鳴海に声をかけた。結構、美和は、粕渕高校の坂根理沙のように気を配る性格らしい。

 が、一方の敬子は、

「期待しないで待ってるからね!」

 美和とは真逆だ。

 思ったことをそのまま口にしているだけなのだが、これから対局に向かう人間に対して言って欲しい台詞ではない。

 たしかに今までの戦績を考えれば敬子の言うことも分かるが………。

 もう少し空気を読んでもらいたいものだ。

 

 

 この頃、臨海女子高校控室では、

「優希、さすがだね! 東風の神の大爆発じゃん!」

 こう言いながらネリーが優希に抱き付いていた。

「次はネリーだじょ。これで二勝して決勝進出だじぇい!」

「勿論!」

 先鋒前半戦を見ていた頃から、既にネリーの士気は最高状態を維持し続けている。

 

 自分が留学してきてから一度も優勝経験が無い。

 いや、その前から臨海女子高校は優勝できていない。

 ネリーが留学してくる直前は前チャンピオン宮永照の時代。言わずと知れた白糸台高校絶頂の時代。

 そして、今は照の妹、現チャンピオン咲の時代。

 この宮永世代に突入してからは、まさに宮永姉妹の独壇場。

 二年半前(照が高校2年の夏)から個人戦は宮永姉妹以外に優勝者は無く、団体戦も宮永姉妹率いる高校以外の優勝は無い。ある意味、宮永姉妹vsその他の状態。

 

『それを打ち破り、今度こそ自分達が絶対に優勝する!』

 このネリーの意気込みを周りの誰もが感じ取っていたし、当然、それが臨海女子高校全員の悲願でもある。

 ネリーは、いつもの民族衣装を身に纏い、気の入った顔で控室を後にした。

 

 当然のことだが、次鋒戦のメンバー相手にネリー自身、負けるとは思っていなかった。

 綺亜羅高校の次鋒、竜崎鳴海は、ネリーに二連続で敗退している。

 阿知賀女子学院の次鋒、小走ゆいは、新子憧には劣る。到底、ネリーの敵では無い。

 朝酌女子高校の次鋒、稲村桃香は、従姉妹の稲村杏果と同じで、ここぞと言うところで力を発揮する選手だがレベル的には憧以下。当然、ネリーの敵では無い。

 

 しかし、ネリーは相手を見くびることなく全力を尽くすと心に決めていた。

 一昨年のインターハイで咲に負けて以来、ネリーは絶対に相手を舐めてかからない。あの敗北で、ネリーは誰が相手でも全力を尽くすべきことを学んだからだ。

 

 

 同じ頃、朝酌女子高校控室では、

「みんな、ゴメンね。」

 杏奈が大泣きしながらメンバー全員に謝っていた。

 この大会で杏奈が泣くのは三度目だ。

 一回戦も二回戦も憧に負けた。いくら相手が名の通った阿知賀女子学院の選手とは言え、全然手も足も出ないのは悔しいことだ。

 そこに、今回の大敗。

 先鋒としての役目を全然果たせていない。

 

 監督の閑無も、姪の杏奈にかけるべき言葉が見つからない。

 ただ、ここで杏奈に、

「大丈夫。あとは、私達で出来るだけのことはするから。」

 と声をかけたのは桃香だった。この関係は、まるで学生時代の閑無と杏果のようだ。

 

 桃香は、

「阿知賀の一年生は強いし、それ以上に臨海の次鋒は強いけど、足掻けるだけ足掻いてみる!」

 そう言うと、彼女もネリーと同様、気の入った表情で控室を出て行った。

 相手が格上でも、最初から負けるつもりで卓に付くつもりはないのだ。

 

 

 そして、阿知賀女子学院の控室では、

「ゴメン。さすがに天和モードの片岡さんには勝てなかった。」

 と控室に戻った憧が、開口一番、そう言った。

 

 まあ、タコスvsアコスも、通常状態の優希が相手なら憧が勝つかも知れない。

 東場は、優希の高い手を憧が安手で流し、南場は失速した優希を狙って和了れると予想されるからだ。

 しかし、最高状態の優希は、咲と小蒔を同時に相手にしながら東一局で親の数え役満、天和、親倍の三連続和了りを決めた超化物だ。

 咲でも勝つには苦労する相手。

 それどころか、25000点持ちなら咲でも勝てない相手だ。

 今の憧にとっては、それが彼女の大敗に対して誰も反論できない言い訳になっていた。

 

 晴絵も恭子も、今の憧には問題を感じていた。

 春夏コクマの三連覇で有頂天になっている。

 高校生で、しかも連続で全国優勝を果たしていたら、そうなって行っても決しておかしくはない。

 いや、高校生でなくてもそうなるだろう。普通、誰でもそうなる。

 

 それでいて、強い相手には最初から、

『勝てなくても仕方がないよね!』

 と、はなから勝つことを諦めている。

 まあ、これは部内戦で咲や最高状態の穏乃を相手にしているうちに、こうなって行った部分はあるのだが………。

 しかも、それがゆいに伝染している。これは、これで大きな問題だ。

 技術的ではない、精神面での問題だ。

 

 救いなのは咲と穏乃が普段と変わらないところだ。

 咲は、絶対的王者でありながらも決してタカビーにならない。それどころか、未だに小動物のような雰囲気に包まれ、決して強気な発言をしない。

 むしろ、もう少し堂々として欲しいくらいである。

 穏乃も、自分達が団体戦ディフェンディングチャンピオンの立ち位置にありながらも、チャレンジャー精神を失わない。

 憧もゆいも、咲と穏乃を見習って欲しいところだ。

 

 ただ、今、それを説教して雰囲気が悪く………と言うか精神的負荷をかけても仕方が無い。マイナス効果になるケースもある。

 特に、これから対局に出陣するゆいに精神的圧力をかけるのはタブーだ。

 それで、晴絵も恭子も、憧とゆいには大会が終わってから話をしようと思っていた。

 

 ゆいは、

「私でも臨海のネリーさんが相手では自信がありませんが、やれるだけのことはやるつもりです。」

 と、模範的な台詞を口にしていたが、その表情からは、気合いが余り感じられなかった。

 

 

 対局室に次鋒選手達が入ってきた。

 場決めがされ、起家はネリー、南家は鳴海、西家は桃香、北家はゆいに決まった。

 この席順を見て、

「(やった! これで今までの仇を思い切り取らせてもらうよ!)」

 と鳴海は心の中で声を大にしていた。

 もっとも、口には出していないので、ネリーには聞こえることは無かったが………。

 

 鳴海は、一回戦と二回戦ではリーチ麻雀を主体に打ってきた。県大会、関東大会で見せてきた鳴き麻雀を封印したのだ。

 しかし、今日は違う。

 急に、鳴海から辛気臭い空気が漂い出した。

 

 この様子を綺亜羅高校控室のモニターで見ていた美和は、

「とうとう『鳴きのリュウ』のスイッチが入ったみたいね!」

 世界的選手であるネリーを相手に、鳴海が、ようやく一太刀浴びせてくれる予感がしていた。




おまけ
前回の続きです


二.『報酬は美女のカラダ』

『カラカラ』
とトイレットペーパーの回る音がした。続いてトイレを流す音。多分、無事にクルミは用を足したのだろう。でも、なかなか部屋に戻ってこない。
私は彼女が流されてはいないだろうかと心配になった。
「大丈夫?」
トイレのドアを開けた。でも、そこに彼女はいなかった。
今度はシャワーの音がする。
バスの扉を開けると、中でクルミがシャワーを浴びていた。
「ちょっと、身体を清めようと思って。汁だらけだし…」
彼女もズボラと言うわけではなかったようだ。やはり、あのギトギトには耐えられなかったのだろう。
私はリビングに戻ってコタツに潜り込んだ。
しばらくして、すっきりした顔で彼女がリビングに戻ってきた。
「清めて来たわ。一応、汚いままフェードインさせてもらうのは気が引けるし。」
「フェードイン?」
「そう。今から、あなたの中に入らせてもらうの。」
「入るって、口から?」
「あのね。それじゃ、私が消化されちゃうじゃない。フェードインはね、こうするの!」
クルミの身体が眩いばかりに白く輝いた。まるで、光の玉のようだった。そして、彼女は、猛スピードで私の方に飛んでくると、胸に強くぶつかった。
そのまま、彼女の身体は、私の中に取り込まれた。

急に身体が暖かくなった。とても心地良い感覚だった。
ふと、鏡を見ると、妙にスタイルの良い女性が映っていた。
私も一応女性である。身だしなみのために姿見くらいは置いてある。ただ、その姿見に映っていたのは、いつもの私の姿ではなかった。
胸に手を当てた。鏡の中の女性も同じ動きをする。信じられないけど、これは、私の姿だったのだ。
背丈は、今までと変わらない。元の身長が154センチだけど、多分、同じくらい。
ウエストも、それほど変わらない。
ただ、胸がとてつもなく巨大化している。
多分、GカップからHカップ。今までの私にとって憧れのサイズだ。
例えるなら………そう、痩身巨乳パ〇パン美女の、君島みお(AV女優です)みたいなスーパースタイル。


小蒔「変身後の姿役で登場しています。ちょっと恥ずかしいです。」

初美「姫様をAV女優に例えるなんて罰当たりですよー!」

巴「(でも、あのスタイルじゃ、仕方が無いような気もするけど………。)」


別に、今まで無い胸だったわけではないけど、これなら間違いなく男性達からの需要がありそうだ。
目も大きくてカワイイ系の美人顔。
それに、自分で言うのも何だけど、なんだか神々しいオーラを感じる。このワガママボディには不釣合いな感じもするけど………。
でも、この身体なら自分に自信が持てる。
グラビアモデルにだって負けない。
それどころか、余裕で勝てそうな気がする!
余りの喜びに顔がにやけてきた。
私は、何気に鏡の前で、いろんなポーズを取って見せた。そして、気が付くと普段見慣れない胸を無意識に両手で触っていた。

頭の中にクルミの声が響いてきた。
「何やってんのよ!」
「つい嬉しくなって…。でも、これっていったい、どう言うことなの?」
「これがフェードイン。私があなたの中に入った時、身体中の細胞が活性化して、この姿になるの。この姿で私のミヤモリ・エナジーを増幅して、一緒に敵と戦って欲しいの。もし、増幅器になってくれたら、この身体を報酬にあげるわ。」
「この身体を?」
かわいい顔に憧れの胸だ!
正直、私は心が動いた。
「嘘はつかないわ。正しくは、この姿か、私とハツミがダブルフェードインした時の姿のどちらかを選んでもらおうと思っているけど…」
「ハツミって、キヨスミ星で連れ去られた?」
「そう。私の親友。先ずは彼女を助けて、それから敵の本拠地を叩くの。それと…。」
私の身体なのに、何故か勝手に動いた。
気が付くと、カラーボックスの端の方に隠すようにして置かれた超難問の問題集を手に取っていた。クルミの増幅器といわれるだけあって、フェードイン中は、私の意思よりもクルミの意思に優先されて身体が動くようだ。
でも、何でクルミは、この問題集のことを知っているのか不思議に思った。
すると、私の頭の中にクルミの声が聞こえてきた。
「今、あなたと私は意識を共有しているの。だから、心を統一すれば、互いのことが言わなくても分かるの。」
たしかに、そう言われるとクルミの記憶が手に取るように分かる。
凄い経歴だ。
小学校の頃から周りに推薦されて学級委員とか部活の部長、生徒会長を務めている。
最近は、内申書のために無理に委員とかに立候補する子が多い。実は、私もその一人だ。
でも、少なくとも彼女の場合は、そうじゃない。本当に周りに望まれて上に立っていたのだ。

飛び級して最高学府に入学、そして首席で卒業。さらに博士号…。
他の惑星に単身で送り込まれるのだから、よくよく考えれば当然エリートだ。私とは全然出来が違う。
私の意思に逆らって、私の身体が問題集を開いた。
この問題集は、有名超進学校に通う人達が使うレベルの物で、ちょっとカッコつけて買ってはみたけど、すぐにお蔵入りになったものだ。当然、書いてあることは、私の頭では理解不能で意味不明。出来れば中身を見たくない。私には、表紙を見るのが精一杯の代物だ。
でも、今日の私は違っていた。今まで理解できなかった内容がよく分かる。問題がスラスラ解けるのだ。
「塞、分かる? 今のあなたの姿は、あなたの遺伝情報の範囲内で頭脳と身体をバランス良く且つ最大限に発達させた姿なの。」
つまり、違う環境で育っていれば、この姿になれた可能性もあると言うことなのだろうか?
言い換えれば、今までの私の努力が足りなかったと言うことにならないか?
これは、これで傷つく。
そう思った時、クルミの取り繕うような声が聞こえてきた。
「ちょ…ちょっと、そ…そうじゃないわ。私の説明が悪かったみたい。遺伝情報は、必ずしも発動するとは限らないの。『隔世遺伝』って言葉を聴いたことがあるでしょ。あれは、遺伝情報が発動しないケースが途中にあるから見られる現象なの。」
「じゃあ、もともと私が持っている遺伝情報だけど、どんなに努力しても、こうなれない可能性もあるってこと?」
「そうなるわ。今は、私がフェードインして戦うために一番都合の良い遺伝情報を引き出しているの。それが、この姿なの。例えばだけど、いくら努力したって、整形でもしない限り顔のパーツを変えることなんてできないでしょ。」
たしかにそうだ。
でも、多分、いくつかは、間違いなく私の努力不足だ。
そして、もう一つ間違いなく言えることは、今から頑張っても、このスタイル………胸を手に入れることは出来ない。
一応、胸の成長は少しだけ期待してたけど、今後、ここまでは成長しないだろう。
頭の方は、何年もかければ、まだリカバーできるかもしれない。でも、その確率は限りなくゼロに近い気がする。
それ以前に、努力しないで出来るようになりたい。都合の良い話だけど…。

「もし、この身体で良ければ、この頭脳もセットであなたのものよ。もともと、あなた自身の持つ潜在的な力だし。」
「本当!」
「ただ、さっきも言ったけど、私がフェードインした姿と、私とハツミがダブルフェードインした姿のどちらかを選んでもらうわ。ダブルフェードインした時は、二人分のミヤモリ・エナジーを増幅するために体力面にバランスが傾くけど…。」
美貌も学力も、劣等感がゼロとは言いきれない。そんな私には、この上なく美味しい話に聞こえた。これが無条件だったら、全然断る理由は無い。
でも、条件は、カクラ星とキヨスミ星との戦い。つまり、宇宙大戦争の真っ只中に身を投じることだ。
良いのか、私?
本当に良いのか?
どんな使われ方をするのかも良く分からないんだぞ!

でも、報酬は目が大きくてカワイイ顔、そして理想の胸。さらに、いきなり名門超進学校レベルの才女だ!
反則技に近い報酬だ。
私は、この魅力と言うか、報酬の魔力には敵わなかった。
これがクルミの交渉術なのか?
こっちの欲求を完全に熟知した上で話を作っている。
「どう? 塞。」
「わ………分かったわ。この身体、貸してあげる。」
「商談成立ね。」
「でも、本当に私で大丈夫なの? 宇宙に行くんでしょ? 訓練とか受けなくても大丈夫なのかな?」
「それは問題無いわ。フェードインした姿なら十分加速とかも耐えられるし、既に宇宙飛行士としての資質が十分ある状態になっているはずよ。」
「そうなんだ。随分、都合が良いけど…」
「だから、さっきも言ったけど、戦うために『都合良く』遺伝情報を引き出しているんだってば。」
言葉だけ聞いていると、何かちょっと嘘臭く感じる。都合が良過ぎる。
でも、今の私と彼女は意識を共有している。もし嘘をついていれば、その場ですぐに分かるはずだ。
勿論、そんな感じはしてこない。多分、本当のことなのだろう。
「じゃあ、フェードアウトするわね。」
私の胸から白い光の玉が抜け出した。
クルミが私の身体から出てきたのだ。私の中に入るのをフェードイン、私の中から出てくることをフェードアウトと言うらしい。

鏡を見ると、元の私の姿に戻っていた。
たしかに、こっちの姿の方が見慣れているし、何となく落ち着く。
でも、何か悲しい。あの顔と胸はドコへ行った?

再び、さっきの問題集を開いて見た。
案の定、書いてあることが意味不明な状態に戻っていた。
さらに悲しさが増した。やっぱり私の頭じゃ難問集は無理だ。
そんな私に目もくれず、クルミは、円盤の中で何やら黙々と作業をしていた。いろんなコードを繋ぎ変えたり基盤を交換したり、何か改造しているみたいだ。
「ええと、これで空間接続の方はOKね。じゃあ、早速行くわよ。」
「空間? 早速って、えっ?」
「これからトヨネに乗るのよ。」
「トヨネって?」
「まあ、イイからイイから。」
クルミが私の手を円盤の一部に触らせた。そして、彼女が円盤の中のスイッチを押すと、急に円盤が強烈に輝き、リビングが眩い赤い光に覆われた。
眩し過ぎて何も見えない。私は、強く目を瞑った。


足元の感覚がおかしい。まるで、床に足が着いていないみたいだ。
宙に浮いているのだろうか?
その感覚が数十秒ほど続いた気がする。
床に足が着いている感覚が戻った。
「目を開けても大丈夫よ。」
クルミに言われて私は、うっすらと目を開いた。
既に円盤の光は、おさまっていた。
辺りを見回すと、そこは、マンションとは違う空間だった。でも、どこかで見たような感じがする。
そうだ。あの夢の中で見た操縦室に似ているんだ。
そこには、私達地球人が座るくらいの大きさの操縦席があった。どう考えても、クルミにはサイズが大き過ぎる。
操縦席の両脇には、クルミに丁度良いサイズの席が一つずつ配置されていた。
そして、その後には、三畳間くらいの空間があった。たいして広くは無い。
操縦室後方の壁の中央には扉が一つ付いていた。その扉は鏡張りになっていて、今、普段の地味な私の姿が映っている。
天井までは、2メートルちょっと。
操縦席の向こうには、ガラス越しに宇宙空間が広がっていて、たくさんの星々が美しく光り輝いていた。
そして、普段見ている満月よりも数段大きな星が右の方に見えた。青く輝く星だ。私は、この星をどこかで見たことがある。
私は、窓の近くに駆け寄った。
そうだ。地球だ。
教育番組か何かの宇宙シリーズで出てきた映像と同じだ。
「これって…?」
「そうよ、塞。地球よ。」
「じゃあ、ここって?」
「月面よ。あなたの部屋から、ここまで瞬間移動してきたの。円盤に内蔵された瞬間移動システムを使ったのよ。」
「じゃあ、もしかして私を円盤に触らせたのは?」
「瞬間移動させるため。この円盤は、触れている人を連れて別のところに移動する装置なのよ。限界距離は50万キロくらいかしら。それと、トヨネは…。」
「そう、トヨネって何?」
「今、私達が乗っている巨大ロボットよ。」


豊音「私って巨大ロボットの役なの?」

白望「それは仕方が無いと思う。」


「ロボット?」
「そう。私の脳波で制御されているから私が許可した人以外は操縦室には入れないことになっているけどね。」
「そうなんだ。」
「100メートルくらいの距離だったらトヨネに内臓された瞬間移動システムで行けるんだけどね。今回は円盤の瞬間移動システムじゃないとムリな距離だったからね。」
「ふーん。でさ、ちょっと一つ聞いて良い?」
「うん。」
「月面だったら重力が少ないはずじゃない? でも、ここは地球と同じくらいの重力に思えるんだけど…。」
ここでは、何故か地上と同じように普通に動くことができた。さっき、窓の方に駆け寄った時の感覚から月面にいるとは思えない。
「それはね、ここが自動的に地上と同じ重力を持つように、床の重力装置が働いているからなの。地球に行けば重力装置は働かなくなるし、無重力の世界に行けば、丁度地上の重力と同じだけの力が働くわよ。それと、逆に重力が強いところに行けば反重力が働くわ。」
信じ難いけど、凄い技術だ。
地球でも、宇宙開発に向けて欲しい技術であることは間違いないだろう。

クルミがモニターのスイッチを入れると、私の部屋が映し出された。
本来ならば誰もいないはずだ。でも、何故か普段の私にそっくりな人がいる。
「あれって、誰?」
「あなたのコピーロボットよ。あなたがいない間の留守番として置いてきたの。一応、戸締りもちゃんとしてくれるし、掃除もしてくれるわ。普通の人間の生活サイクルに似せて動くようにプログラムされているから…。」
「でも、これだけの物を造れるんだったら、ミヤモリ・エナジーの増幅装置を人工的に作れないの?」
「難しいわ。カクラ星でも研究しているんだけど、まだたいした増幅力を出せないの。でも、あなたなら相当な増幅が見込めるわ。そうそう。話は変わるけど、コピーロボットは、さっきのカップ麺の残りもちゃんと綺麗に片付けるわよ。だから、黒かったり茶色かったりする嫌な昆虫類の対策は大丈夫よ。あれって嫌いでしょ?」
既にクルミは、私の細かいところまで掴んでいるようだ。さっきフェードインした時に、私の本質全てを見抜いてしまったのだろう。
もっとも、あの昆虫類を好きと言う人は希有だと思うけど…。
「それとね、塞。あの扉の向こうに簡易的なトイレとバスがあるわ。使い方は、後で教えてあげる。それから、これを着てくれるかしら?」
クルミが操縦席の下から何やら衣類を引っ張り出して私に差し出してきた。
「下着も脱いで、これを直接肌の上から着てくれる?」
「これって?」
「戦闘用の服よ。」
そう言われても、本当に、これって戦闘用なのだろうか?
肘まである手袋に膝上まであるブーツ、そして、まるでハイレグ水着のような服。
こんなの、恥ずかしくて絶対に人前でなんか着られない。
でも、ここには私とクルミしかいない。まあ、人目があるわけでもないし、だったら試しにと思って身につけてみた。
けど、やっぱり恥ずかしい。
私は真っ赤な顔で、その場に座り込んだ。

すると、クルミが強烈な光を放ちながら私の身体に飛び込んできた。
『フェードイン!』
私の身体は、再び抜群のスタイルに変身した。しかも顔良し、頭脳も明晰の、あの姿だ。
鏡に映る美しい肢体。急に妙な自信が湧いてきた。
たしかに、この姿なら、この戦闘服ハイレグを身に着けていても絵になる。
私は鏡に向かってポーズを取ろうとした。
すると突然、私の身体を白い光が覆った。
その直後、何故か私は重力を殆ど感じなくなった。
周りには無機的な月面の世界が広がっている。操縦室から外に放り出されたようだ。
何故か、私は宇宙服を身にまとっていた。
「塞、驚いた? さっきの戦闘服が変化したの。状況に合わせて、自動的に宇宙服になるように作られているの。」
普通なら、この宇宙服に驚くだろう。でも、この時の私は、宇宙服のことを余り気に留めていなかった。
それよりも、目の前にある真っ白で巨大な人魚の形をした、彫刻みたいなものに目を奪われていた。
凄く神秘的で綺麗に見えた。
高さ50メートル以上はあるだろう。それが、月面の20~30メートル上空に浮いていた。
「これって?」
「これがトヨネ。私のミヤモリ・エナジーで動くロボットよ。さっきまで、この頭部の中にいたの。目の辺りが操縦窓になっているわ。ハーフミラーみたいになっているの。」
これが動くのか…。信じられない。


豊音「身長50メートル以上って、私も信じられないよぉ。」

白望「ダル………。」


私の身体がトヨネの顔の高さまで浮き上がった。この宇宙服の背中には超小型のジェットエンジンみたいなものが付いている。
トヨネの顔には、両目はあるけど口が無かった。
鼻も、それっぽく出っ張っているだけで、正面からは筋があるくらいにしか見えなかった。
まるで、デッサンとかに描かれたような簡略化した顔だ。でも、別に口から火を吐くとか言葉を話すとかが無ければ、無理に口をつける必要は無い。鼻もそうだ。
額には第三の目と思われるものが付いていた。両目とは形が違っているけど、何と言うか、巨大な宝石みたいだ。
これが、もしルビーとかサファイヤだったら、どれくらいの値段がつくのだろう?
その輝きに、私は目を奪われた。

再び、私の身体を白い光が覆った。その直後、私はトヨネの中に戻っていた。
今、私の身体はクルミの意思で動いていた。私の意思には全然反応しない。まるで乗っ取られた感じだ。
「私が円盤に乗ってあなたにテレパシーを送っていた時、宇宙空間ではトヨネが私の護衛をしていたの。さすがにトヨネで大気圏内まで入ると地球の人達に見つかるから、ここで待機させていたんだけどね。」
私の身体が勝手に動き、円盤を操縦室後方の棚の中にしまい込んだ。そして、操縦席に座ると、手前にある液晶版みたいなものを手に取って顔に近づけた。
手が熱い。
私の手から、その液晶版もどきにミヤモリ・エナジーが送り込まれているらしい。

クルミの声が聞こえてきた。心の中の声だ。
「これで、塞の脳波もトヨネに登録されたわ。」
「登録って?」
「私だけでなく、塞の脳波でもトヨネに指令できるようにする必要があるから。」
きっと、私が乗るのに脳波を登録しておいた方が無難なのだろう。この時、私は勝手にそう解釈していた。
後になって、真意を知ることになるのだが………。


私の全身から大量のミヤモリ・エナジーが放出された。
同時にクルミの記憶の一部が私の頭の中に流れ込んでくる。
それによると、トヨネは、操縦室の壁やシートからミヤモリ・エナジーを吸収する仕組みになっているようだ。
特に操縦桿とかは無い。ただ、頭の中でイメージしたとおりに動くらしい。そう言う意味では、操縦自体は非常に簡単だ。
正直、私でも操縦出来そうだ。
ちなみにクルミが外にいる時は、額の第三の目からミヤモリ・エナジーを吸収して動かすことが可能らしい。私達を操縦室に瞬間移動させる時にも、そこで吸収したミヤモリ・エナジーが使われるようだ。

トヨネがクルミの指示に従って上昇し始めた。
そして、ある程度の高さまで上昇すると、今度は一気に加速した。
以前の私はジェットコースターが嫌いだった。あの加速を好きになれなかった。
でも、今の………変身した私は、ジェットコースターなんか比べ物にならないくらい凄い加速にワクワクドキドキしていた。
もしかしたら元の私の方が偽の私で、この刺激を求める姿こそ、心の奥深くに封印された本当の私なのかもしれない。
そのまま、トヨネはワープに入った。


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百六本場:槓ドラ使い、鳴きのリュウ

 準決勝戦第一試合次鋒前半戦。

 東一局、親は臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼ。ドラは{3}。

 ネリーは運を操作する能力を持つ。この親では、ネリーは和了らず、南二局以降に三倍満を連発して前半戦を逆転で終わらせる筋書きを立てていた。

 どの局で誰が和了るかも大凡決まっている。

 しかし、他家に余り高い手を和了らせたくはない。当然、手が高くなる前に、ツモ和了りさせるかネリーが差し込んで場を流す予定だ。

 

 今回、他家に和了らせる仮想上限はハネ満ツモまで。ネリーの差し込みなら満貫以下に抑えたい。

 ハネ満ツモなら普通は和了る。見逃す手は無い。

 直撃でも満貫なら普通は誰でも喜んで和了るだろう。

 ただ、倍満以上高い手を連続で和了らせるとネリーも最後で逆転するのが難しくなる。それ故の仮想上限だ。

 

「リーチ!」

 上家の阿知賀女子学院小走ゆいが四巡目で先制リーチをかけてきた。どうやら、この局で運を持たされているのは、ゆいのようだ。

 ネリーは、ゆいのリーチを事前に察知していたかの如く、手出しでゆいの現物となる{西}を切った。わざわざ残しておいたのだ。

 鳴海と桃香も、一旦現物切りで一発回避。

 

 一発ツモは無かったが、数巡後に、

「ツモ!」

 ゆいがツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五六七③④[⑤]22678}  ツモ{二}  ドラ{3}  裏ドラ{8}

 {二五八}の三面聴だった。

 

「メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」

 しかもハネ満。

 ゆいのとっては幸先の良いスタートとなった。

 

 

 東二局、竜崎鳴海の親。ドラは{七}。

 まだ鳴海は動かない。

 どうも鳴海は、ツモの流れとか、局全体の流れを観察している感じだ。まだ勝負に出ていない。

「ポン!」

 この局、動いたのは桃香だった。下家のゆいが捨てた{3}を鳴いた。杏果と同じで桃香は縦に手が伸びる特徴を持つ。

 副露されたのは、言うまでも無く{3}の刻子。

 

 そして、数巡後には、

「ツモ!」

 桃香が和了り牌を自らの手で引き当てた。しかも赤牌。

 この局では、桃香に運が流れているようだ。

 

 開かれた手牌は、

 {四四四⑤⑤⑧⑧666}  ポン{33横3}  ツモ{[⑤]}

 

「タンヤオ対々三暗刻赤1で3000、6000!」

 ツモられたのが赤牌でなければ満貫だった。

 ネリーとしては、ここで親の鳴海を少しでも多く削りたかったようだ。一回戦、二回戦で、ネリーは鳴海に勝利していたが、ゆいや桃香よりも鳴海の方が数段強いと無意識に感じ取っていたためである。

 

 

 東三局、稲村桃香の親。ドラは{①}。

 どうやら、この局の運の保持者は、親の桃香ではなく、ゆいだった。ゆいの手がスイスイ進む。

 恐らくネリーは、他家の連荘を避けたいのだろう。

 割と早い巡目で、

「ツモ!」

 ゆいが門前でツモ和了りした。

 ただ、リーチはかけていなかった。逡巡しているうちに和了れてしまったようだ。

 

 開かれた手牌は、

 {五六七②②④[⑤]⑥44556}  ツモ{6}

 

 {七}と{四}が入れ替わるのを待っていたのだろう。あと赤牌との入れ替わりか。

「タンピンツモ一盃口ドラ1。2000、4000。」

 ただ、入れ替わる前に{6}を引いて和了れてしまったと言った感じだ。とは言え高目ツモなのだから文句は無い。満貫だ。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:ゆい 117000

 2位:桃香 105000

 3位:ネリー 89000(席順による)

 4位:鳴海 89000(席順による)

 ゆいは、まさか自分がネリーを相手に首位に立てるとは思っていなかった。多分、本人が一番驚いているだろう。

 

 

 東四局。ゆいの親。ドラは{4}。

 もしかしたら、これならトップで前半戦を折り返せるかもと、ゆいは一瞬期待した。

 しかし、配牌を見て、やはり運を操作されていることに気付く。前局とは打って変わってバラバラだ。

 とりあえず、ヤオチュウ牌から処理をしてゆく。

 

 この局、

「ポン!」

 真っ先に動いたのは、鳴海だった。まず、ゆいが捨てた{2}を鳴いた。

 ただ、この局で勝負しようとしていたのは鳴海だけでは無い。

「ポン!」

 鳴海の捨て牌の{3}を桃香が鳴いた。勿論、対々和狙いだ。運は、桃香のほうに流れていたのだ。

 

 数巡後、

「ポン!」

 再び鳴海が、桃香の捨てた{八}を鳴いた。そして、打{七}。

 すると、

「ポン!」

 この{七}を桃香が鳴いてきた。完全に鳴海と桃の鳴きスピード勝負だ。

 

 ただ、鳴海の鳴きの真骨頂はここからである。この時のために、鳴海は、一回戦と二回戦で自分の打ち方を隠していたのだ。

 その二巡後、

「カン!」

 鳴海が{2}を加槓した。

 

 普通なら、ただの槓。ところが、鳴海の場合は普通じゃない。

 めくられたドラ表示牌は{1}。ドラがモロ乗りだ。

 鳴けば鳴くほどドラ………竜が乗り、手が高くなる。故に彼女は鳴きのリュウと呼ばれているのだ。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もう一つ、カン!」

 続いて鳴海は{八}を加槓した。

 めくられたドラ表示牌は{七}。これもモロ乗りだ。

 そして、嶺上牌を引き入れると、{北}を手出しした。

 

 これで鳴海のドラ8、つまり倍満が確定した。

 さすがに、この手に振り込みたくは無い。誰もが何らかの形で安手で良いから流したいと思うだろう。

 当然、ネリーも同じ考えだった。

「(そろそろ朝酌も聴牌しているだろう。多分、待ちは{②⑦}のシャボ。タンヤオ対々に赤ドラありで満貫ってところか。)」

 そして、ネリーが{⑦}を切ると、

「ロン!」

 予想通り桃香が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②②⑦⑦55[5]}  ポン{横七七七}  ポン{横333}  ロン{⑦}

 

 完全にネリーの読みどおりの手だった。

 これで、この局が流れたとネリーは安心した。

 ところが、これに一歩遅れて、

「ロン………。」

 辛気臭い声がネリーの下家から聞こえてきた。

「えっ?」

 声のするほうにネリーが視線を向けると、鳴海も手牌を開いていた。

 鳴海も、この{⑦}で和了りなのだ。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {③③③④⑤⑥⑦}  明槓{八八八横八}  明槓{22横22}  ロン{⑦}

 {②④⑤⑦⑧}の五面聴だ。

 

 今大会はアタマハネを採用している。

 この場合、ネリーの下家である鳴海の和了りが認られる。

 つまり、

「タンヤオドラ8。16000。」

 ネリーの倍満振込みとなった。

 

 これで前半戦の順位と点数は、

 1位:ゆい 117000

 2位:鳴海 105000(席順による)

 3位:桃香 105000(席順による)

 4位:ネリー 73000

 

 しかも、この鳴海の和了りは、単に桃香への和了りを横取りしただけでは無い。もし、これが25000点持ちの麻雀なら、今の振り込みでネリーのトビで終了である。

 ネリーにとっては、まさに屈辱的なの振り込みとなった。

 

 

 南入した。

 南一局、親は再びネリー。ドラは{一}。

 ここでも、

「ポン!」

 鳴海が早々に上家のネリーが捨てた{白}を鳴いた。

 この局、ネリーが運を上昇させたのは、ゆい。基本的に、ゆいが最も強い運を持つはず。

 ところが、

「ポン!」

 鳴海が鳴くことで流れを変え、ゆいの聴牌を遅らせた。

 ここで鳴海が鳴いたのは下家の桃香が捨てた{④}。ゆいとしては、{③[⑤]}から鳴いて手を進めたかったところだ。

 

 その後、ゆいは{⑦}を引いて薄い嵌{④}待ちを嫌い、{③}を捨てた。

 さらにその数巡後に、ゆいは聴牌。

 この時のゆいの手牌は、

 {二二三三四四[⑤]⑦34[5]66}

 タンヤオ一盃口ドラ2の満貫手。

 

 その次巡、

「カン!」

 鳴海が{④}を加槓した。槓ドラは{白}。鳴海のポン牌がモロ乗りだ。

 そして、嶺上牌の{6}を、そのままツモ切りした。

 同巡、ゆいは和了れず。

 

 そして、次巡、ネリーは{⑧}をツモ切りした。できれば、ゆいに差し込みたいのだが、肝心の{⑥}を持っていなかった。

 この同巡、

「カン!」

 またもや鳴海が加槓した。今度は{白}の槓だ。しかも槓ドラは{④}。これで、この局も鳴海はドラ{8}の手となった。

 しかも役牌がある。他家にとって最悪の手だ。

 

 この同巡、ゆいは和了り牌をツモれずにツモ切り。

 そして、次巡。ネリーは待望の{⑥}をツモってきた。ゆいの和了り牌だ。

 これを差し込んで、この局を終わらせる。当然、ツモ切り。

「ロン。」

 この{⑥}で、喜び勇んで、ゆいが和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二二三三四四[⑤]⑦34[5]66}  ロン{⑥}

 

「タンヤオ一盃口ドラ2で8000点です!」

 ゆいは、さらに点数を伸ばして自然と顔から笑みが零れる。

 しかし、

「ロン。」

 またもや一歩遅れて、ネリーの下家から辛気臭い声の和了り宣言が聞こえてきた。

「「えっ?」」

 ゆいもネリーも驚いて、声がした方に視線を向けると、鳴海が手牌を開いていた。

 

 その手牌は、

 {七八九⑥123}  明槓{④④④横④}  明槓{横白白白白}  ロン{⑥}

 まさかの{⑥}単騎だった。

 

「白ドラ8。16000。」

 またもやアタマハネの倍満振込みだ。

 この席順では、ネリーが桃香とゆいのどちらかに差し込んだとしても、鳴海が同時に和了った場合、全て鳴海のアタマハネになる。それで鳴海は、この席順に決まった時に、密かに喜んでいたのだ。

 しかも、この和了りで鳴海がトップに立った。

 完全にネリーの筋書きから離れた展開だ。ネリーにとっては踏んだり蹴ったりである。

 

 悔しがるネリーに、鳴海が小さな声で語り始めた。

「王牌を支配する人間を、私は四人知っている。一人目は誰もが知っているチャンピオン宮永咲。嶺上牌を支配する。二人目は松実玄。全てのドラを支配する。三人目は槓裏を支配する大星淡。そして四人目は私………。」

「お前がだと?」

「そう。ただ、チャンピオンとは違って、私のカンは和了るカンではない。ドラを乗せて相手を刺すカン………。」

「でも、まだお前に負けたわけじゃない。ここから、お前をまくってみせる!」

 こう言うと、ネリーの目に炎が灯った。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:鳴海 121000

 2位:ゆい 117000

 3位:桃香 105000

 4位:ネリー 57000

 

 しかし、ここから南二局、南三局、オーラスと、三連続でネリーが三倍満をツモれば、点数は、

 

 1位:ネリー 129000

 2位:鳴海 97000

 3位:ゆい 93000

 4位:桃香 81000

 

 ネリーが逆転してトップで前半戦を折り返すことが出来る。

 ここからは、自分に運が巡ってくるように操作していた。なので、ネリーは勝つことに絶対的な自信を持っていた。

 当然、有言実行。鳴海をまくるつもりだ。

 

 

 鳴海が卓中央のボタンの押し、卓上に新たに壁牌が立ち並んだ。南二局の開始である。

 親は鳴海。ドラは{西}。

 ネリーの手牌には赤ドラが四枚に{西}が二枚ある。これだけでドラ6の手。

 当然、流れはネリーに来ている。

 ところが、

「ポン!」

 ここでも鳴海が鳴いてきた。ゆいが捨てた{東}を鳴いたのだ。

 そして、その次巡、

「カン!」

 鳴海が{9}を暗槓した。槓ドラは{9}。やはり、モロ乗りだ。

 

 鳴きによって崩される運の流れを、ネリーは何とか立て直す。そして、彼女の手が一向聴になった直後のことだった。

「カン!」

 またもや鳴海が槓をした。{東}の加槓だ。嶺上牌はツモ切り。

 そして、当然の如く槓ドラは{東}。

 

 同巡でネリーは聴牌。

 当然、

「リーチ!」

 ネリーは絶対に自分が和了れる自信を持ってリーチをかけた。

 

 この時のネリーの手牌は、

 {四[五]④④[⑤][⑤]⑥⑥[5]67西西}

 メンピン一盃口ドラ6で倍満が確定。ここにツモと裏ドラが乗って三倍満の予定だ。

 

 しかし、その次巡、

「ツモ!」

 和了ったのは鳴海だった。鳴海も既に聴牌していたのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一二789}  暗槓{裏99裏}  明槓{東東横東東}  ツモ{三}

 東チャンタドラ8の親倍ツモだった。

 

「8000オール!」

 これで、鳴海が一気に他家を突き放した。

 鳴くことで運を乱し、皮一枚の差でネリーから和了りを横取りした感じだ。

 

 先鋒戦の鷲尾静香も最後の最後で有り得ないレベルの逆転手を聴牌していたし、鳴海もネリーを相手に運を自分のものにしている。

 どうやら綺亜羅高校は、とんでもない勝負運の持ち主が揃っているようだ。

 

 鳴海は、静かに芝棒を卓の上に置くと、卓中央のボタンを押した。

 卓上に再び壁牌が立ち並び、南二局一本場がスタートする。

 ドラは{南}。

 よく、

『みんなのドラ』

 と呼ばれる場風のドラだ。

 

 ここでも、ドラの行き場はネリーだった。

 しかも全体的に索子に偏っている。

 狙うはリーチ門前混一色南一気通関ドラ4と言ったところか。

 

 ところが、ここでも、

「ポン!」

 鳴いて運の流れを乱すヤツがいる。

 しかも、その者は、

「カン!」

 鳴けば鳴くほど手が高くなり、

「カン!」

 運も上昇するようだ。

 そして、ネリーが聴牌する一歩前で、

「ツモ。対々中ドラ8。12100オール!」

 前半戦最高の和了りを見せた。

 

 これで順位と点数は、

 1位:鳴海 182300

 2位:ゆい 96900

 3位:桃香 84900

 4位:ネリー 35900

 まさかのネリーのダンラス。

 

 しかし、ネリーは、まだ諦めていなかった。

 ここから三連続で三倍満をツモ和了りすれば、順位と点数は、

 1位:鳴海 158100

 2位:ネリー 108500

 3位:ゆい 72700

 4位:桃香 60700

 鳴海を逆転こそ出来ないが、後半戦で再び三倍満を連発することで逆転し得る範囲に届くはずだ。

 ネリーの瞳には、より一層激しい炎が灯っていた。




おまけ
前回の続きです


三.『私の初体験………ナニを増幅?』

一ヶ月ほど前のことだった。
「すぐ戻ってくるから。」
そう言って、エイスリンは部屋を出て行った。
これが、クルミに言った最後の言葉だった。
エイスリンは、隣の部屋で十数人の女性達に囲まれた。彼女らは研究者だった。
そして、エイスリンを電気椅子に似た硬い椅子に座らせると、長いコードの付いたヘルメットみたいなものを頭に被せ、手足にも電極コードのようなものを繋いだ。
キヨスミ星では、ヒサが総統の座について以来、彼女の命令で銀河系のあちこちから何人もの女性達をここにムリヤリ連れてきていた。
ただ、無差別に連れてきていたわけではなかった。彼女達が『ミホコ波』と呼んでいる特殊な波動を体外放出している女性だけを選んでいた。
各惑星に派遣されたキヨスミ星人が、放射線検知器のような形をした携帯型の測定器を使って簡易的にミホコ波をキャッチしていた。一次スクリーニングである。そして、ミホコ波の放出が確認された女性だけを選別して連れ去っていたのだ。
連れ去られた女性は、この部屋で改めて詳細データを測定される。

女性達が驚きの歓声を上げた。
エイスリンの数値が今までの最高値を示したのだ。
「これは凄い。実に十五年ぶりじゃぁ!」
女性の声が聞こえてきた。
メガネをかけた女性………マコが、エイスリンの方に近づいてきた。キヨスミ星の女性司令官の一人だった。
彼女が来たのを知り、他の女性達は、あたかもその女性を避けるかのように道をあけた。彼女は、かなり立場が上の存在のようだ。


久「まこ。ここでは標準語で話してね!」

まこ「了解じゃけぇ!」


キヨスミ星の女性は、全員が一種の超能力を持っていた。キヨスミ星では、それを『ユリ・エナジー』と呼んでいた。
それこそ衝撃波や電撃を発することもできた。攻撃的な能力だ。
ただ、キヨスミ星の男性は、その能力を持っていなかった。

地球と同じで筋力では女性よりも男性の方が優れていた。
しかし、実際の戦いでは、男性は女性に勝つことが出来なかった。ユリ・エナジーの前では、どんな筋肉男子でも赤子同然だったのだ。
当然、キヨスミ星では、女性上位の社会が築き上げられていた。
「これよりお前をヒサ様のところへ連れてゆく。」
マコがエイスリンを椅子から引っ張り上げて銃を突きつけた。
エイスリンは、マコの言われるままに、強制的にエレベーターに乗せられた。


エレベーターが最上階に着いた。
そこは、ヒサの居室だった。
ヒサは塞より10センチくらい長身が高く、狡猾な目をした女性だった。この星の全てを支配する存在だ。
全身から男を喰い殺しそうな妖しい美のオーラを放っている。
優れた頭脳と指導力に加え、キヨスミ星最強のユリ・エナジーを持つ彼女は、二十歳そこそこで総統に選ばれた。まさにスター的存在だ。
しかも、その時から一切老けていない。ずっと若くて美しい姿を保っていた。これがユリ・エナジーの力だろうか?

既にエイスリンのデータは、研究者達からヒサの端末に送信されていた。
エイスリンを見るなり、ヒサの顔が急に笑顔に変わった。
「マコ。この娘は、例のウィシュアート星人ね。」
「はい。十五年前に別の星から連れてきた、あの女性に似たタイプです。パワー強度だけではなく。他の者達と違って枯れることがありません。」
「気に入ったわ。すぐに身体を清めさせてあげて。それと、各戦線の進捗は、どうなっているかしら?」
「この娘の星、ウィシュアート星は、ほぼ完全に制圧しました。また、そこには強力なミホコ波を放つ女性が、まだ多数いるようです。」
「そう。じゃあ、まず都市部を中心に、その女性達を捕らえなさい。そこから地方へと順に手を広げてゆけばイイわ。それから、ヒメマツ星の方は、どうなっているかしら?」
「完全に制圧を完了しました。あそこは、資源に恵まれています。既に、第三部隊を送り込み、開発拠点を建設中です。」
「カクラ星は?」
「申し訳ございません。いまだ一進一退を繰り返しております。我がキヨスミ星と対等の科学力を持つ星です。こちらの犠牲も随分出ております。」
「うーん。忌々しい小人達ね。あの惑星系は長距離ワープの実現に必要な超原子の宝庫なのよ。何としてでも手に入れなさい。あと、ウィシュアート星からユウキを呼び戻して。カクラ星の奴らを完全に叩き潰すためよ!」
「はい。それと…。」
マコは、ふとハツミのことを思い出した。
「何かしら?」
「カクラ星と言えば、兵士の一人がカクラ星人を一匹捕虜にしましたが…。」
「そんな物は要らないわ。奴らも戦いに勝つためなら、捕虜くらい切り捨てるだろうしね。置いておくだけ無駄ってとこじゃない? 始末してしちゃってイイわ!」
「分かりました。」
「それと、ミホコ波を持つ者がもっと必要ね。捕獲領域を拡大して。そう言えば、しばらくこの辺りでの捕獲を停止していたわね。十五年前にあの女を捕えたのも、たしかこのエリアだったはずではなかったかしら?」
ヒサが銀河系地図の一点を指差した。
そこは、丁度地球が含まれるエリアだった。
「至急、この領域の再調査を実施しなさい!」
「しかし、ヒサ様。その領域は、殆どミホコ波を出す女性が見つからなかったところです。しかもキヨスミ星から銀河系の中でも最も遠い位置にあるため、そこでの捕獲は非効率的と判断されたはずでしたが…。」
「それは、十年以上昔の話でしょ? 今では、ミホコ波測定装置の精度が上がって、当時では測定できなかった微弱なミホコ波でも捕えられるはずよ。ミホコ波を放つ女性は、必ず私達の欲しいエナジーを持っている。でも、奇妙なことにミホコ波の強度と、そのエナジーの強度が必ずしも正相関しないことは、マコも知ってるでしょ?」
「それは、そうですが…。」
「だったら早く調査隊を出動させて!」
「分かりました。」
「それから、ミホコ波とエナジー強度が何故相関しないか、解明を急ぐように。」
「はい。」
マコはヒサに敬礼すると、足早に居室を後にした。


時は現在に戻る。
ヒサの命令で、ノドカは太陽系周辺の惑星系再調査のため、宇宙船団を従えて冥王星付近を走行していた。丁度、太陽系へのワープを終了したところだった。
ノドカは、ヒサの側近マコの妹(と言う設定)で、この一週間、エリダヌス座イプシロン星を中心に半径20光年に位置する惑星系を順に調査していた。
姉に似て(?)彼女も痩身美女だ。しかも、Kカップの巨乳。この部分だけは姉より妹の方が圧倒的に優れていた。


和「まさか、染谷先輩の妹役になるとは、思ってもみませんでした。」

和「そう言えば、咲さんはどうしたのでしょう?」


今回の目的は、あくまでも戦いではなく調査だ。
しかし、万が一、カクラ星のように科学力の優れた星が調査範囲内まで手を伸ばしていた場合、戦いに発展するケースが考えられる。それで、大掛かりではあるが、宇宙戦艦五隻、宇宙巡洋艦七隻、宇宙空母二隻で調査団を組んでいた。
また、キヨスミ星では、数万光年を一気に飛び越える長距離ワープの技術が、まだ確立されていなかった。その確立に向けてカクラ星系の超原子を狙っていた。
現状では、千光年程度のワープが限界だった。
それで、ワープを何十回も重ねて一週間ほど前にエリダヌス座イプシロン星付近に辿り着いた。そこを起点に付近の再調査を開始したのだ。

このエリアは、キヨスミ星の暦年で数えて、既に十年以上もキヨスミ星人が足を踏み入れていない空間である。当然、いつも以上に慎重になる。
記録を遡ると、一応太陽系でも、かつて数人の女性を捕獲していた。しかし、太陽系に関する最新データは、キヨスミ星には無い。
当然、現在の地球の宇宙進出の状況や、敵対勢力の太陽系への進出状況等は不明だった。

ノドカが、順にレーダーで惑星を確認して行く。
そして、地球の姿がモニターに映し出された時、ノドカは息を飲み込んだ。
「水の惑星………まるで、サキさんのように美しいですね。この星ですね。」
宇宙船団が地球に向けて動き始めた。


トヨネが土星の衛星付近に姿を現した。月からここまで、一気に瞬間移動してきたのだ。
私(塞)は、生まれて初めて土星の輪を間近で見た。
とてつもなく巨大な岩が、たくさん連なって宙に浮いている感じだ。多分、遠くから輪を見る方が絵的に美しいと思う。
私の身体は、いまだクルミの意思に支配されたままだった。自分の身体が自分の思うとおりに動かせない。勝手に動く。霊に取り付かれた時って、こんな感じなのだろう。

クルミが心の中で何か呟いたのを、私は感じ取った。
突然、土星の衛星から強烈に輝く何かが、こっちに向かって飛んできた。信じられないほどの、もの凄いスピードだ。
それは、全身が銀一色に覆われていて、双頭の鷲を象った姿をしていた。
頭から尾まで長さは、トヨネの頭部全体の長さの倍くらい。両翼を広げた幅はトヨネの体長に匹敵する。
私には敵か味方か分からない。初めて見る物体だ。当然、不安の色を隠せない。
すると、クルミの声が、私の頭の中に響いてきた。
「安心して。これがトキ。トヨネとの合体機能を持つロボットよ。」
意識を共有しているだけあって、ここから先は、彼女の言いたいことが、わざわざ言葉にしなくても次々とイメージできた。


怜「うちは、鳥型ロボットの役らしいな。せめて人型のほうが嬉しかったけどな。でも、出させてもらえへんよりはマシやろな?」

セーラ「怜だけに、朱鷺と同じ鳥類になったってことやないか?」


トキは、トヨネが第三の目から電波のように放ったクルミのミヤモリ・エナジーを頭部で受けて動くらしい。
また、トキは特殊なエンジン、通称『ヒザマクラ・エンジン』を搭載していて、私の身体でクルミのミヤモリ・エナジーを最大限に増幅すれば、何万光年もの長距離を一気にワープできるし、通常走行では準光速での移動も可能らしい。
でも、連続での長距離ワープは無理らしい。クルミも私も一回の長距離ワープで結構疲れるためらしいのだ。理論的にどうこうまでは分からないけど、どうも使うエナジー量はワープ距離に依存するらしい。

また、クルミ単独では、ミヤモリ・エナジーの供給量が少ないため、数千光年のワープが限界みたいだ。それで、何回もワープを重ねて地球まで来たようだ。

準光速走行も同様で長時間は無理だ。
こっちは、時間依存なので疲れるのは分かるけど、実際にどれくらいが限界なのかは、やってみないことには分からない。

それと、トキはトヨネとは比べ物にならないくらい優れた広域レーダーを搭載しているようだ。感度も優れている。
カクラ星でも最高のモノらしい。一巡先………じゃなかった、準光速走行に対応するためとのことだ。

ただ、私には一つ疑問があった。
別に無理に合体機能を持たせなくても、最初から合体した姿を一体のロボットとして造れば良いのでは?
すると、再びクルミの声が聞こえてきた。
「一応、それなりの理由があるのよ。」
そして、彼女の言いたいことが再び次々と私の意識の中にイメージとして流れ込んできた。
トヨネ、トキの他に、もう一体、『リューカ』と呼ばれるロボットが設計されていた。ただ、残念なことに、クルミを送り出すまでにリューカの機能装備が完成しなかったみたいだ。
現在、カクラ星の地下施設で製造を続けているらしい。
つまり、一体のロボットとして製造していたら、いまだ完成していないことになる。それを予測していたので、合体型ロボットにしたのが一つ目の理由である。


竜華「うちも怜と一緒に戦うんか? でも、まだ出来てないんやね?」

怜「早く竜華にも来てほしいわ。」


二つ目の理由は、分離・合体することで状況に応じた戦いができる。
例えば、たくさんの戦闘機が相手だったら、分離した方が、対処が早くなるケースもある。
逆に敵が、もの凄く強い場合だったら、合体して全てのロボットの能力を一度に使える方が便利だ。たしかに、それも一理ある。

そして、三つ目の理由は、ミヤモリ・エナジーの供給量の問題だったらしい。
これらのロボットは、クルミの身体から放出されるミヤモリ・エナジーを吸収して動く。
ただ、彼女単独の力では、全てのロボットが合体した場合、それを動かすのに必要な量のミヤモリ・エナジーを十分供給できないみたいだ。
だからこそ、増幅器である私の身体が必要なんだけど………、一体のロボットとして造っていたらクルミ一人では、そのロボットを動かすことができない。つまり、私を探しに来られないことになる。これが、合体型ロボットにした理由の中で一番大きいみたいだ。

それから、太陽系に着いてからは、私の詳細な位置を特定するために、ミヤモリ・エナジーの殆どをテレパシー送信に使いたかったらしい。それで、トキをここに置いて、トヨネだけを護衛にして円盤で地球に向かったようだ。


トキの二つの頭と足が胴体に収納されると、トヨネの背中に合体した。そして、トヨネは、背中に巨大な翼を持つ人魚の姿へと変わった。
合体時には、トヨネの機体から直接トキに向けてミヤモリ・エナジーが流れ込むらしい。それで、トキの頭を胴体内に収納してもレーダーとヒザマクラ・エンジンの作動には支障がないみたいだ。

クルミが長距離ワープに入ろうとした丁度その時、トキのレーダーが太陽系内にユリ・エナジーをキャッチした。
どうやら、発信源は冥王星付近のようだ。
「ねえ、クルミ。これって?」
「多分、キヨスミ星の宇宙探査船団よ。推測だけど、ミホコ波を持つ女性を探しに来たのかもしれないわね。」
「ミホコ波?」
「そう。キヨスミ星では、ミホコ波って呼ばれる特定の波動を体外放出する女性を探しているの。既に、銀河系のあちこちの星で、たくさんの女性達が拉致されているわ。」
「それじゃ、地球からも人がさらわれるってこと?」
「その可能性は高いと思う。」
「でも、何のために?」
「それは、私達も調査中で、推測の域を出ない部分が多いの。カクラ星から何人もの調査員をキヨスミ星に送り込んでいるんだけど、なかなか詳細が掴めないのよ。」
ちなみに、クルミがエイスリンに連れて行かれた部屋で瀕死状態だったのを見つけ出し、クルミをカクラ星に連れて帰ったのも、キヨスミ星に送り込んだ調査員の一人だった。
「ただ、さらわれた女性は、数週間で元の星に戻されるらしいんだけど、みんな酷く衰弱していて、戻ってから数日で亡くなっているわ。中には、生きて元の星に帰れない人もいるみたいだし…。」
「じゃあ、このまま放っておいたら…」
「地球からも同じような形で死ぬ女性が出るかもしれないわね。もしかしたら、塞の知り合いの中にもターゲットがいるかもしれない。」
「ねえ、クルミ…。」
「分かっているわ。ユリ・エナジーの発信源が何なのか、確認ね。」
トヨネは、再びワープに入った。ただ、これがキヨスミ星のものなら、間違いなく戦いに発展する。そうなれば、増幅器の初仕事だ。


丁度この時、ノドカの乗る宇宙戦艦では、半径数百メートル範囲内に、強力なミヤモリ・エナジーを発する何かをレーダーでキャッチしていた。しかし、肉眼では何も捉えられない。
その直後、目の前に銀翼を持った人魚型の巨大ロボットが出現した。

ミヤモリ・エナジーは、トヨネから放出されていた。
レーダーは、そのワープ到達地点から放出されたミヤモリ・エナジーを捉えていたようだ。ミヤモリ・エナジーの一部が先に空間を越えていたのだろう。
ノドカは、これがカクラ星のものであることが直感的に分かった。

私達の乗るトヨネに向けて、ノドカの宇宙戦艦から無数のレーザー砲が撃ち放たれた。
でも、トキと一体化したトヨネに、レーザー砲は全然当たらなかった。常識を超えたスピードで簡単に避けてしまうのだ。
二隻の宇宙空母から、無数の宇宙戦闘機が飛び出してきた。
でも、戦闘機よりもトヨネの動きの方が遥かに早い。トヨネは掌から電撃を放ち、次々と戦闘機を撃墜していった。

今度は、戦艦から主砲が撃ち放たれた。砲弾がトヨネ目掛けて突き進んでくる。
トヨネは、それを難なく避けると、両手からレーザーソードを伸ばした。よくSF映画やアニメとかで出てくるレーザー光線みたいなもので出来た剣だ。

レーザーソードを目の前で交差し、トヨネが猛スピードで一隻の戦艦に突っ込んでいった。そして、レーザーソードを大きく振りかざし、


豊音「私もぉ、通らばぁ、リーチ! なんちゃって!」←深い意味はありません


戦艦の機体を斬りつけた。


豊音「ロン! 一発だよぉ!」←同上


切断面から炎を吹き上げ、次の瞬間、戦艦が大爆発を起こした。
残りの戦艦にも、さらには巡洋艦や空母にもトヨネは同じようにレーザーソードで斬りかかり、次々と破壊していった。
力の差は歴然としていた。
ノドカの宇宙船団は、ものの数分で全滅した。

この時、私は、この戦い自体がゲームの実体化版程度にしか感じていなかった。
それ以前に、私の身体はクルミの意思で動いていたので、実質、私は戦っていない。私は単にゲームを見ていた人くらいの状態だった。
少なくともノドカ達が死んだと言う感覚は無かった。
それよりも、地球人がキヨスミ星に連れ去られずに済んで良かったと思う気持ちの方が遥かに強かった。

キヨスミ星が、新たに調査団を送り込んでくる可能性までは頭が回っていなかったし、これをきっかけにキヨスミ星が地球に宣戦布告してくるケースも想定していなかった。
結果的には、そうならなかったけど…。

「じゃあ、塞。ハツミのところに行くわよ。」
「うん。でも、どこにいるか分かるの?」
「調査員の報告によれば、多分、ヒメマツ星よ。ハツミを連れ去った人物がヒメマツ星に行っているの。噂では、その人物がハツミを食い殺したってことになっているけど、でも、それは絶対に有り得ない。ハツミは、私達の星で最も予知能力が高いから、もしそうなるなら、あの時の戦いに自ら志願しないはず。死ぬのが分かっていて志願するはずないもの…。」
そう言いながらも、クルミの不安が私の意識に強く流れ込んでくる。ハツミの無事は、あくまでもクルミの希望でしかないみたいだ。

もし本当に食い殺されていたら…。
クルミは、相当なショックを受けるだろう。
でも、今はハツミが生きていることを信じるしかない。
それに、これは親友に生きていて欲しいという願いだけではない。敵に打ち勝つための必要条件でもあるようだ。
今の私には詳細がピンと来ないけど…。

「それじゃ、一気にワープに入るわ。」
トヨネの機体が白く輝くと、次の瞬間、その空間から姿を消した。
私の身体で増幅されたクルミのミヤモリ・エナジーを一身に受け、一瞬にして長距離ワープに入ったのだ。


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百七本場:背中が煤けてる

 準決勝第一試合次鋒前半戦

 南二局二本場、鳴海の親。

 今までと違って、鳴海は中々鳴けないでいた。

 まあ、そう言う局も無いわけではない。

 

 鳴海は、チーすることもあるが、基本戦略としては槓してドラを乗せる。そのため、狙う鳴きはチーではなくポンか大明槓である。

 ところが、たまたまだろうが、ポンさえできずに、この局は流れて行った。そのため、運を乱すことができず、ネリーは順調に手を伸ばし、

「エルティ! ツモ! メンチン一通ツモドラ2! 6200、12200!」

 三倍満を和了った。

 

 

 南三局、桃香の親番。

 ここでも、ネリーの強大な運が場を支配しているためか、誰も鳴きを入れることすら叶わない。

 そうこうしているうちに、

「オリ! ツモ! メンチンツモ平和ドラ3! 6000、12000!」

 ネリーが二度目の三倍満を和了った。

 

 

 オーラス、ゆいの親。

 この最終局でも、

「サミ! ツモ! メンホンツモダブ南三暗刻ドラ3! 6000、12000!」

 狙い通りネリーは三倍満のツモ和了りを決めた。

 

 これで次鋒前半戦は、

 1位:鳴海 158100

 2位:ネリー 108500

 3位:ゆい 72700

 4位:桃香 60700

 ネリーは、逆転こそできなかったが、原点復帰を果たし、後半戦での逆転狙いに向けて状態を立て直したと言える。

 

 

 ここで、一旦休憩に入った。

 

 

 ゆいが控室に戻った。

 別に、阿知賀女子学院控室の空気が、どんよりとしているわけではなかったが、現在、トータル点数は、

 1位:臨海女子高校 487000

 2位:綺亜羅高校 382000

 3位:阿知賀女子学院 222000

 4位:朝酌女子高校 109000

 優勝候補筆頭の阿知賀女子学院が、トータルで3位である。しかも、臨海女子高校にダブルスコアの差をつけられている。

 非常に厳しい状況だ。

 

 しかし、先鋒次鋒を戦った当事者の一人である憧は、

『最高状態の片岡さんが相手だったからしょうがないし!』

 そして、もう一人の当事者であるゆいも、

『ネリーさんと、そのネリーさんよりも凄い人が相手だったんだから仕方が無いし!』

 と、まあ、二人して負けたことを何とも思っていなかった。

 魔物二人を擁する阿知賀女子学院が、ここから確実に勝ち星を二つ上げて決勝進出は果たせると決め付けていたからだ。

 晴絵も恭子も、憧の考え方自体は否定できないが………、ただ、チャレンジャー精神を失った今の常態は不安でしかなかった。

 

 特に晴絵は、阿知賀のレジェンドと呼ばれてイイ気になっていた過去の自分があるからこそ、余計に憧達のことが心配でならなかったようだ。

 

 

 一方、ネリーは控室には戻らず、自販機の近くにいた。

「(おカネは使いたくないけど…。)」

 そして、珍しくネリーは自販機でコーヒーを買った。

 

 今のネリーは、運を与えた相手の手が高くなる前にネリーが差し込んで被害を最小限に留め、自分に運が向いた時に大きく稼ぐ戦法を取っている。

 ただ、それを逆手に取られている。

 

 恐らく、一回戦も二回戦も、鳴海は敢えて自分の本来の打ち方を封印し、ネリーの戦い方を観察してきたのだろう。

 別に、それで鳴海自身が負けても、他のメンバーが勝てば綺亜羅高校としては問題ない。

 その証拠に、臨海女子高校は二回戦まで綺亜羅高校に勝ち星を四つ取られ、ネリーが取った勝ち星だけで準決勝進出を果たしたに過ぎない。

 

 今回は優希が勝ち星を上げたが、これは最高状態に限っての話である。通常状態では静香に勝つことはできない。

 ここで自分が鳴海に負けたら、臨海女子高校は、実質、綺亜羅高校に完全全敗と言えるだろう。

 それだけは避けたい。

 

 ネリーは、

「(もし、綺亜羅のヤツがネリーの上家ならイイけど、また下家だったら差し込みはアイツの餌食になる。席順が大事だね)」

 自分の敗因を分析しながら、後半戦の戦い方を色々考え始めた。

 

 

 しばらくして、次鋒の四人が対局室に戻ってきた。そして、場決めの牌を引き、起家がゆい、南家が桃香、西家がネリー、北家が鳴海に決まった。

 ネリーは、

「(またこいつが下家か。やっぱり差し込みはできない。でも、一つだけ試したいことがある。それがダメならパワーで勝負だよ!)」

 そう心の中で呟きながら闘志を燃やしていた。

 

 

 東一局、ゆいの親。

 当然、ここでもネリーの運の操作は行われている。

 配牌と序盤のツモの悪さから、ゆいは自分に運が向いていないことを悟っていた。

 しかも、いきなり、

「リーチ!」

 五巡目でネリーがリーチをかけてきた。

 しかも、リーチ宣言牌は鳴海の現物の字牌。鳴海に一発を消されないように、ネリーなりに考えていた。

 

 そして、次巡、

「メンタンピン一発ツモ三色ドラ5。6000、12000!」

 ネリーは三倍満をツモ和了りした。

 

 

 東二局、桃香の親。ドラは{9}。

 ここでネリーは、敢えて運を鳴海に与えた。試したいことを実行するためだ。

 六巡目、鳴海は、

「ポン!」

 ネリーから{西}を鳴いた。自風だ。

 そして、その次にネリーが捨てた{1}も、

「ポン!」

 鳴海は躊躇無く鳴いた。しかも、これで聴牌だが、手牌は、

 {一二三四⑥⑦⑧}  ポン{横111}  ポン{横西西西}

 単なる{西}のみの手。

 

 その次のツモ番で、ネリーは、敢えて{一}を切った。鳴海に差し込んだのだ。つまり、ネリーが試したかったこととは鳴海への差し込み。これで和了ってくれれば安いものだ。

 しかし、鳴海は、それを見逃した。

 次のツモ番は鳴海。そこで鳴海は{1}を引き当て、

「カン!」

 加槓した。

 この{1}が来るのを予め予想していたのだろうか?

 

 嶺上牌は{①}。鳴海は、これを手に取り込むと{一}を切った。まるで合わせ打ちすることでネリーを挑発しているかのようにも見える。

 しかも、槓ドラ表示牌は、当然のように{9}。これで西ドラ4の満貫が確定した。

 

 次巡、ネリーは敢えて{①}を切った。鳴海への満貫差し込みだ。

 しかし、鳴海は、これも無視して牌をツモった。しかし、ここでは槓も無ければ和了りもない。

 鳴海は、そのままツモ切りした。

 捨て牌は{四}だった。もし、前巡でネリーに合わせ打ちしなければ、ここで和了っていたと言うことか?

 この時、鳴海は平然とした顔をしていた。本当に感情が表に出てこない。

 非常に判り難い相手だ。

 

 そのさらに次巡。

 ここで鳴海は{西}を引き、

「カン!」

 加槓した。

 新たにめくられたドラ表示牌は{南}。つまり、これで鳴海の西ドラ8が確定した。

 鳴海は、嶺上牌をツモ切りすると、辛気臭いオーラを身に纏いながら、

「アナタ、背中が煤けてるわね。」

 とネリーに言った。

 真意は分からないが、ネリーの感情を揺さぶるには十分な台詞だった。

 当然、

「(クソッ! ネリーをバカにして! 次の局で思い知らせてやる!)」

 ネリーは、そう心の中で叫びながら鳴海を睨み付けた。

 ただ、鳴海はネリーの視線をものともせず、その次のツモ巡で、

「ツモ。西ドラ8。4000、8000。」

 倍満をツモ和了りした。

 

 当然、ネリーは、鳴海の台詞も和了りも気に入らなかったし、故にドンドン感情的になっていた。

 ただ、それが鳴海の狙いでもあった。

 感情的になれば、能力が暴走する。そして、一瞬は能力によって良い結果が得られるかも知れない。

 しかし、何かがあって崩れ出すと、今度は悪い方に転げ落ちてゆく。それを知っていたからだ。

 

 

 東三局、ネリーの親。

 ネリーは、この局にも自分に運が回ってくるように設定していた。

 配牌もツモも、共に萬子に偏っている。

 まるで、

『門前清一色を和了ってください!』

 と牌に言われているようにしか見えない。

 

 この局、ネリーは順調に手を伸ばし、たった五巡目で、

「リーチ!」

 捨て牌を横に曲げた。

 そして、次巡、

「リーチ一発ツモメンチン三暗刻ドラ1。12000オール!」

 親の三倍満をツモ和了りした。

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:ネリー 156000

 2位:鳴海 98000

 3位:桃香 74000

 4位:ゆい 72000

 

 そして、現段階での前後半戦トータルは、

 1位:ネリー 264500

 2位:鳴海 256100

 3位:ゆい 144700

 4位:桃香 134700

 これでネリーが鳴海を逆転した。たった三局での豪快な逆転劇である。

 

 ただ、この時のネリーは、妙に顔色が優れなかった。運の操作………つまり能力を派手に使ったためか、体力が一気に消耗したのだろう。

 ネリーは、一瞬、まるで急激に血の気が引くような感覚に襲われた。しかし、ネリーは、それに耐えると、鳴海の方を見ながら不敵な笑みを浮かべた。

 そして、

「(これで逆転だよ。この準決勝でも、絶対にネリーが勝つ!)」

 心の中で、そう豪語していた。

 

 東三局一本場、ネリーの連荘。

 ここではネリーから運は離れていた。

 配牌とツモが噛み合い、早々に聴牌できたのは、ゆいだった。

 ゆいは、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 

 次巡、ゆいは一発で和了り牌を引くことは出来なかった。

 そして、そのさらに次巡、ネリーはゆいの和了り牌を掴んできたが、

「(これを阿知賀に差し込んだら、折角逆転できたのがムダになってしまう。それに、綺亜羅のヤツにアタマハネされてもイヤだしね。)」

 ネリーは、差し込みを控え、安牌を切り落とした。

 鳴海は字牌で振り込み回避。

 そして、その次のツモ番で、

「ツモ!」

 ゆいが和了りを決めた。

「メンタンピンツモドラ2。3000、6000です。」

 表ドラ1枚に裏ドラが一枚乗ってハネ満ツモの手。

 前後半戦トータルでは、ネリーと鳴海に圧倒的に負けているが、一先ず、ゆいは後半戦のヤキトリを回避できた。

 

 

 東四局、鳴海の親。ドラは{北}。

 ネリーは東三局で自分に強大な運を回し、親の三倍満をツモ和了りした。恐らく、その時の代償だろう。運を回したくない鳴海に運が回ることになった。

 勿論、それはネリーも十分承知している。

 

「チー!」

 鳴海がネリーの捨てた{二}を鳴いて{横二三四}を副露した。

 この段階で鳴海の手牌は、

 {⑥⑦⑧⑧⑧⑧2224}  チー{横二三四}

 {34}の待ちで聴牌していた。と言ってもタンヤオのみの安手。

 

 次巡、ネリーは敢えて{3}を捨てたが、鳴海は、これを見逃し。

 そして、数巡後、鳴海は{⑤}を引いて、

「カン!」

 {⑧}を暗槓した。

 ツモってきたのは{④}。そこから打{4}で{④⑦}待ち。

 

 さらに次巡、鳴海は{2}を引き、

「もう一つ、カン!」

 今度は{2}を暗槓した。

 嶺上牌は{[⑤]}だったが、これを手牌の{⑤}とは入れ替えずに、鳴海は、それをそのままツモ切りした。

 

「チー!」

 この{[⑤]}をゆいが鳴いた。赤牌だったからであろう。

 {④⑥⑥}と持っていたところからの鳴き。

 そこから、打{⑥}。

 

 そして次巡、鳴海は、

「ツモ。」

 自力で和了り牌を引き寄せた。

「タンヤオドラ8。8000オール。」

 これで再び鳴海が前後半戦トータルで逆転した。

 

 東四局一本場、鳴海の連荘。ドラは{3}。

 ここでも鳴海は、

「カン!」

 自らが得意とする鳴き麻雀を展開した。まずは、桃香から{白}の大明槓。当然の如く、槓ドラは{白}モロのり。

 

 そして、次巡、

「カン!」

 今度は、鳴海は暗槓した。しかも、よりによって{⑤}の暗槓だ。赤牌二枚を含む。

 勿論、ここでも新ドラは{⑤}。つまり、鳴海が副露している牌だけで役牌に加えてドラが十枚あると言うことだ。

 言い換えれば、三倍満確定。

 嶺上牌では和了れなかったが、その二巡後、

「ツモ。」

 鳴海は和了り牌を自力でツモってきた。

「白ドラ10。12100オール。」

 これで、彼女は、一気にネリーを大きく突き放した。

 

 東四局二本場。

 鳴海の強運は、まだ続いた。

 ここでも鳴海は、

「カン!」

 鳴いてドラを乗せ、

「カン!」

 再び鳴いては、さらにドラを乗せ、

「ツモ。ダブ東ドラ8。8200オール。」

 またもや親倍をツモ和了りした。

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:鳴海 179800

 2位:ネリー 121600

 3位:ゆい 56000

 4位:桃香 42600

 

 そして、現段階での前後半戦トータルは、

 1位:鳴海 337900

 2位:ネリー 230100

 3位:ゆい 128700

 4位:桃香 103300

 連続高打点和了りで、鳴海がネリーに100000点以上の差をつけた。もはや、ネリーには絶望的な点差でしかないと言えよう。

 ゆいと桃香に至っては、既に論外と言える。

 凄まじい鳴海の底力である。




おまけ
前回の続きです


四.『二人同時に私の中に…』

ノドカの宇宙船団の消息が途絶えた。
キヨスミ星では、船団との交信で、
『強力なミヤモリ・エナジーを放つ何者かによって全滅させられた』
ことだけは把握していた。
しかし、それ以外は何も分からない状態だった。

この時、マコはヒサの居室にいた。彼女は、妹ノドカの消息が分からない現状を冷静に受け止め、特に取り乱すことなく平静を保っていた。


和「まあ、妹役であって、本当の妹ではありませんからね。」

まこ「いや、私だって知人が死んだら普通にショックを受けるけど。」


「ヒサ様。恐らく、カクラ星人の仕業でしょう。念のため、あの領域を再調査されてはいかがでしょうか?」
「その必要は無いわ。もしカクラの者達の仕業なら、その強力なミヤモリ・エナジーを持つ何かは、必ず我々の領域に侵入してくるはずでしょ? 下手に戦力を分散させるよりも、それを待っている方が利口じゃない?」
丁度この時、居室の扉が開き、黒のボンデージファッションを身に着けた一人の女性司令官が入ってきた。
ただ、派手な格好の割には、妙にオドオドしている。しかも、被捕食者的なオーラが出ている。まるで小動物のような雰囲気だ。
胸は………正直、無に等しい。

容姿と着ている物の釣り合いが、今一つ取れていないようにも思える。しかし、そのアンバランスなところが意外と可愛らしい要素なのかもしれない。
「ヒサ様。」
「どうした、マホ?」


マホ「この格好、恥ずかしいですぅ。」

まこ「たしかに似合っとらんな。」


「強力なミヤモリ・エナジーを放つ者がヒメマツ星圏内に侵入した模様です。」
「やはりね。それで、その後の様子は?」
「進入後、急にミヤモリ・エナジー強度が下がり、レーダーでは、捉え切れなくなった模様です。放出量を弱めたのでしょう。」
「大体、予想通りね。じゃあ、第一、第二部隊をヒメマツ星に向かわせて、第三部隊の援護に当たらせて頂戴。それから、ユウキの第五部隊は引き続きカクラ星への侵攻を。あとは制圧完了した星の継続支配に必要な最低限の軍隊だけを残して、それ以外は全軍キヨスミ星に帰還するよう指示を出して。」
「分かりました!」
マホは敬礼すると足早に居室を出ていった。


この時、トヨネは、ヒメマツ星の位置する惑星系に侵入し、合体を解いて第七番惑星の衛星に着陸していた。長距離ワープの後なので一旦休憩だ。
クルミと私は既にフェードインを解いていた。

いきなりだが、私は顔を真っ赤に染めてトイレから出た。
「何よ、これ?」
「別に恥ずかしがらなくても良いじゃない!」
「だって、くすぐったいし…。」
トイレは、地球で使っていたものと仕様が違っていた。
私が用を足そうとして便座のようなものに座ったところまでは良かったけど、掃除機のノズルのようなものが伸びてきて股間に張り付いて吸引してきた。
たしかに、これなら周りに零れ落ちることは無いけど、妙な感じだ。
気持ち良いけど、正直、Hっぽい。
「それくらい、すぐに慣れるわよ。それより、お腹すいたでしょ。これを食べて。」
クルミが私に直径5ミリくらいの小さな粒を渡してきた。
手に取ると、見た目の割に妙に重かった。ズッシリとくる。
彼女が同じものを口に入れた。
その様を見て、私は何の疑いも無く、それを口に入れて飲み込んだ。すると、突然、お腹が苦しくなった。
食べ放題の店に行って、容量限界まで押し込んだ時と同じ感覚だ。
「な…何なのよ、これ?」
「宇宙食よ。そうね、これ一粒で、あなたにご馳走になったカップラーメン三個分くらいになるかしら。」
それは、さすがに食べ過ぎだ。
あれは大盛のカップラーメンだ。麺は五十%増し。それを三個と言うことは、通常のカップで四つ半になる。
お腹を触ると、たしかに胃の部分がポッコリ盛り上がっている。
私は、その場に横になった。

たしかに、これくらい小さければ携帯しやすい。極めて優れた宇宙食だ。この科学力には敬服する。
ただ、先に言って欲しかった。私の胃は、そこまで大きくない。
苦しい。
お腹がパンパンで張り裂けそうだ。
次からは、その粒を半分に割って食べることにしよう。
いや、三分の一くらいで十分かな。
一方のクルミは、その宇宙食をもう一粒口に放り込んでいた。
何と言う食欲だろう。今朝も、きっとカップラーメン一個では足りなかったかもしれない。大盛だけど…。
その物理量が何処に消えるのか不思議だった。まさに彼女の胃は、何でも吸い込むブラックホールのようだ。


どれくらい寝ていただろう。ようやく身体が楽になってきた。
一応、携帯と充電器を持ってきていた。
宇宙にいるので通話はできないけど、時計代わりにはなる。
それに、何故かトヨネの操縦席で充電できる。クルミが地球の規格に合わせてコンセントを作ってくれた。器用な人(?)だ。
携帯を開いた。既に地球を飛び立ってから丸一日が過ぎていた。

クルミに言われて、私は浴室に入った。
朝シャンは、毛が抜けるとか良くないとか言われるけど、昨日はお風呂に入っていない。このままでは気持ちが悪い。
シャワーを浴びれば気持ちよくなる。そう思って、私は浴室のドアを開けた。
でも、浴室と言っても地球にあるお風呂とは違って、私一人が立って入れるくらいの非常に狭いスペースで、しかもシャワーらしきものは無い。まるで立ったまま入る棺おけだ。
同じなのは、裸で入ることくらい。
私は、その中に入ってドアを閉めた。
頭の天辺から足の先まで、レーザー光線のようなものが順に照射された。続いて、強力な風が頭から吹き付けられた。この風量と丁度バランスが取れるように、両脇の壁の足元辺りにある排気口に空気が流れて行く。
風が止むと、『ピー』と言う電子音が鳴り響いた。これで終わりらしい。
レーザー光線のようなもので垢や汚れを分解して、続いて吹き付ける風で、それらを一気に吹き飛ばすようだ。
しかも、角栓とか角栓様物質も全部取り除いてくれるとのことだ。
パックも不要だし、頭皮にも優しい。これは嬉しい。
少なくとも、地球のお風呂よりは数段清潔なのだろう。
でも、身体が温まる感じは全然無いし、まるっきりお風呂に入った満足感が得られない。疲れが取れた感じもしない。

私は浴室(?)から出ると、急いで例のハイレグ水着みたいな戦闘服を身につけた。
別に、このハイレグが私に似合うとは思っていないけど、状況に応じて宇宙服にも変化する便利グッズだ。
宇宙にいる間は、不測の事態に備えて、これを着ている方が安全とクルミに言われ、私は、その言葉を素直に受け止めていた。

クルミが私の身体にフェードインして、私は例のカワイイ系美女に変身した。
フェードインされると、顔はカワイイだけでなく賢そうにも見える。実際に頭の回転は速くなっている。
しかも、このはちきれんばかりの胸。
私の友人達からは、きっと、かなり敵扱いをされるだろう。
私だって、こんな女性が生活圏内にいたら絶対に敬遠する。友達になんかなりたくない。比較対照にされるのがオチだ。
でも、それが自分だったら話は別だ。間違いなく勝ち組の人生になれる。
私は操縦席に座ると、身体の主導権をクルミに渡した。

彼女から放出されるミヤモリ・エナジーが、私の身体を通じて大幅に増幅され、トヨネとトキに流れ込んでゆく。
二体のロボットは衛星を飛び立つと合体した。そして、一気にヒメマツ星に向けて小ワープに入った。


その頃、ヒメマツ星に建設されたキヨスミ星の軍事基地の一室で、一人の女性が酒を飲んでいた。
彼女の名は、カナ。キヨスミ星でハツミを捕まえたヤツだ。
この基地では、各軍人に個別の部屋が与えられていた。
「数時間前に、強力なミヤモリ・エナジーが惑星系に進入したのをキャッチしたらしいし! 多分、ハツミの仲間だし!」
その部屋の出窓にはハツミが座っていた。
カナは、ハツミを連れ去ったことを後悔していた。
捕虜は、生かしておくことに価値がある。それなのに、まさかヒサがマコに命じてハツミを即座に殺そうとするとは夢にも思わなかったのだ。
しかも、人質を取るなど、やり方がセコイと罵られた。
それでカナは、表向き自らの手でハツミを殺して食べてしまったことにした。鳥の骨と肉でカクラ星人っぽくダミーを作り、それを丸揚げにして、みんなの前で食べて見せたのだ。
これなら周りに対して残虐性をアピールして面目を保てる。彼女にセコイと言った奴らへの言い訳みたいなものだ。
同時にハツミの存在を隠すこともできる。一石二鳥だ。
それ以来、彼女はキヨスミ星でも宇宙船の中でも、ハツミを他人の目に触れさせないようにしていた。

ハツミも、ミヤモリ・エナジーの放出をギリギリ限界まで抑えるよにしていた。キヨスミ星側にキャッチされないようにするためだ。

ここでも、カナは自分の部屋からハツミを出させなかった。見つかったら間違いなくハツミは殺されるし、自分の面子にもかかわる。
「ハツミには、悪いことをしたし! カナちゃんは、軍を辞めてウィシュアート星に戻りたかったし! ハツミを捕虜として差し出すことで、カナちゃんは自分の希望を叶えてもらおうと思っただけだし! あの時は、三人の妹達に会いたい一心だったけど、今では浅はかなことをしたと思ってるし!」
「あなたは、キヨスミ星人ではないのですかー?」
「ウィシュアート星人だし! カナちゃんのいた国が、最初にキヨスミ星に占領されたんだし! それでカナちゃんは、妹達だけでも無事でいて欲しくて、占領される直前に娘達を外国に逃がしたし!」
カナは、妹達の写真を手にして、じっと見詰めていた。

ハツミが出窓からカナの肩の上に飛び移り、その写真を覗き込んだ。
「かわいい妹さん達ですね。」
「自慢の妹達だし! カナちゃんは、生き延びるためにキヨスミ星に従って、奴らの手先になったけど、全ては生きて妹達に再会するためだったし! でも、ウィシュアート星は、殆ど制圧された状況で、妹達が生きている保証は無いし!」
「でも、死んでいると決まったわけではありませんよー。」
「だと良いし!」

突然、基地にサイレンが鳴り響いた。トヨネの接近をレーダーが捉えたのだ。
カナが銃を手に取った。
「ハツミの仲間が助けに来たみたいだし! カナちゃんとの同居生活も、これで終わりだし! ここからは、元の敵同士に戻るけど………命運を祈ってるし!」
カナが珍しくドアを開けっ放しにして出て行った。いかにもハツミに逃げろと言わんばかりであった。

ハツミの頭の中にクルミの声が聞こえてきた。
それは、出窓の方角から近づいてくるように感じた。
彼女は出窓に飛び移ると、空を見上げた。
遠くの方に、光る何かが見えた。
「クルミ。私は、ここですよー。」
彼女が目を閉じて念じた。
しかし、ミヤモリ・エナジーの放出を余り強くする訳には行かなかった。もしキヨスミ星軍のレーダーにキャッチされて自分が生きていることがバレたらカナの立場が無くなる。
彼女は、非常に微弱なテレパシーをクルミに向けて送るしかなかった。


この時、私とクルミは大気圏に突入したところだった。
高速で突き進むトヨネの機体は、空気摩擦で激しく光り輝いていた。機体表面は、とんでもない高温にまで達していることだろう。
でも、操縦室内の温度は快適そのものだった。外部温度とは全く無縁の空間だ。

トヨネを目掛けて無数のミサイルが発射された。でも、トヨネは、そんなものをお構い無しに、もの凄いスピードで突っ込んで行く。
そして、ギリギリまで接近すると、ミサイルに向けてトヨネは掌から電撃を撃ち放った。


豊音「お友達が来たよぉ!」←特に意味はありません

白望「ミサイルは友達じゃないと思う…。」


ミサイルは、次々と撃破されていった。
それから数分後、私達は敵基地から十数キロの圏内まで接近していた。
再び、トヨネに向けて無数のミサイルが発射された。
戦闘機もたくさん近づいてきて、ミサイルをかいくぐりながら、これでもかと言わんばかりにレーザー砲を派手に撃ち放ってきた。

遠くの方には宇宙戦艦十数隻が接近してくるのが見える。そして、トヨネに向けて激しく主砲を撃ち込んできた。
まさに敵の一斉攻撃だ。
これだけの数の戦闘機を、私は生まれて初めて見た。
戦艦もそうだ。私達が来ることを予想して、あらかじめ備えていた感じだ。
トヨネは猛スピードで敵の攻撃を避けながら、掌から放つ電撃でミサイルと戦闘機を次々に撃墜していった。

さらに、トヨネは両手からレーザーソードを伸ばして宇宙戦艦に突っ込んで行き、その剣を戦艦の機体に突き刺した。
突き刺されたところから炎が吹き上がり、その戦艦が爆発を起こした。

この時だった。私の頭の中に初めて聞く女性の声が響き渡った。
『クルミ。私は、ここですよー。』
ハツミのテレパシーを受信したのだ。
その発信源に向かって、トヨネは一直線に突き進んだ。

トヨネが敵基地の真上で停止した。そこは、ハツミがいる部屋の真上だった。
たくさんの戦闘機が、レーザー砲を次々と打ち込んでくる。宇宙戦艦も派手に主砲を打ち込んでくる。
『どこから湧いてきたんだ?』
そう思わずには、いられない数だ。
この攻撃を受けて、トヨネの機体が激しく揺れた。
でも、トヨネの機体には、かすり傷一つつかなかった。クルミがミヤモリ・エナジーを大量放出して機体をコートするようにバリヤーを張り巡らせていたのだ。まるで、皮一枚増えたみたいだ。

ハツミがトヨネの操縦室から100メートル圏内に入った。トヨネの内臓機能でハツミを瞬間移動させられる距離になった。
『今だ!』
眩いばかりにハツミの身体が強く光り輝いた。
そして、その直後、彼女はトヨネの操縦室に送り込まれた。私が初めてトヨネに乗り込んだ時と同じように空間を越えて移動してきたのだ。

トヨネが一気に空高く上昇した。
「ハツミ、お帰り。」
「ただいま戻りましたですよー。」
「無事でよかった。」
「それは、お互い様ですねー。一先ず、再会の挨拶は、後にするですー。」
「そうね。」
私は、クルミの気持ちが手に取るように分かった。本当に嬉しくて涙が零れ落ちそうだ。
でも、その喜びを押し殺すようにして、再びトヨネを敵基地に突っ込ませようとした。

クルミが何かを察知した。
これに呼応するかのようにトヨネの動きが止まった。
敵基地が崩れ落ち、その下から巨大な宇宙戦艦が姿を現した。それは、一種の移動要塞とも言うべき代物だった。
巨大戦艦が、ゆっくり上昇し始めた。
全長は3キロにも達し、主砲の内径は100メートルにも及んでいた。
その主砲には、どれくらいの破壊力があるのだろう?
私は、息を飲み込んだ。

巨大戦艦の操縦席中央の席には、女性司令官タカコが座っていた。
タカコがペットボトルのようなものに入った液体を一気に飲み干した。すると、彼女の身体から、とてつもない量のオーラが湧き上がった。
「これこそフクジ・エナジーとユリ・エナジーが融合した力。覚悟しろ、カクラの奴らめ。カゼコシ砲、発射用意!」
太いコードで繋がれたヘルメットのようなものが天井から降りてきた。タカコは、それを装着すると、振り絞るように身体中に力を入れた。


久保貴子「一応、司令官役か。」

華菜「カナちゃんより偉い役だし!」


私は、何か嫌な予感がした。
それは、クルミも同じだったようだ。
「ハツミ。お願い!」
「分かってますよー。」
ハツミの身体が光の玉へと変化した。そして、私の胸元からフェードインした。

今、クルミとハツミが二人同時に私の中に入っている。
凄いエナジーだ。私の身体が急に熱くなった。
クルミが単独でフェードインした時とは違う変化が起きていることは分かった。でも、それが何なのかを考えている余裕は無かった。
私の身体の支配権がクルミから私に移った。
「塞、お願い!」
「ちょっと、私がやるの?」
「ダブルフェードインした時は、私とハツミの意思のバランスが大事なの。どちらかが無理に表に出ようとすれば、バランスが崩れてパワーが半減するわ。お願い。あなたの手で、あの敵を倒して!」
そう言われても、私には何をやって良いのか分からなかった。
ただ、とてつもない不安だけが圧し掛かってきた。

思い起こせば、私の脳波をトヨネに登録したのは、このためだったのだ。最初から私が戦うことが想定されていたのだ。
何だか、ハメられた気分だ。

巨大戦艦の主砲から、強烈な光の束が撃ち放たれた。
それは、うねりを上げて一直線にトヨネを目掛けて突き進んできた。これがカゼコシ砲だ。
私は、恐怖で身がすくんだ。そして、不覚にも避け損ない、トヨネはカゼコシ砲の直撃を受けた。


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百八本場:戦略

 準決勝第一試合次鋒後半戦。

 東四局三本場、鳴海の連荘。ドラは{8}。

 ここで先行したのは、

「ポン!」

 桃香だった。ネリーが捨てた{②}を鳴いて打{3}。

 いや、正しくは、ネリーが桃香を使って鳴海の連荘を止めに行ったのだ。

 

 ところが、この桃香の捨て牌を、

「ポン!」

 鳴海が鳴いてきた。桃香に先行されただけで、鳴海の運は、まだ落ちたわけではない。和了りに向けて動けている。

 ならば、もう一つ、ネリーは敢えて桃香が欲しいであろう牌、{2}を切った。まだ、鳴海からは聴牌気配を感じない。これならまだ振り込むことは無いはずだ。

 すると、これを。

「ポン!」

 狙い通り桃香が鳴いた。打{7}。

 

 そして、その次巡で桃香は、

「ツモ!」

 自力で和了り牌を引き当てた。しかも高目の{二}。

 

 開かれた手牌は、

 {二二⑤[⑤]⑧⑧⑧}  ポン{2横22}  ポン{②横②②}  ツモ{二}

「タンヤオ対々三色同刻赤1。3300、6300。」

 これで、長かった鳴海の親を流した。

 

 

 南入した。

 南一局。親はゆい。

 ここで再びネリーは、自身に運を集中した。

 

 現在の後半戦の順位と点数は、

 1位:鳴海 173500

 2位:ネリー 118300

 3位:桃香 55500

 4位:ゆい 52700

 

 そして、現段階での前後半戦トータルは、

 1位:鳴海 331600

 2位:ネリー 226700

 3位:ゆい 125400

 4位:桃香 116200

 

 もし、ここからネリーが三回連続で三倍満をツモ和了りしたら、三回目は親での和了りとなり、合計84000点の稼ぎになる。

 対する鳴海は24000点を失点する。

 そうなった場合、前後半戦トータルは、

 1位:ネリー 310800

 2位:鳴海 307600

 3位:ゆい 95400

 4位:桃香 86200

 ネリーが再度逆転できることになる。

 その後、オーラスを安手で流せればネリーの勝ちだ。

 当然、ここでネリーは賭けに出る。ムリは承知だ。

 

 彼女の配牌とツモが噛み合う。しかも、一つの色に染まって行く。

 そして、

「エルティ! メンチンツモ平和ドラ3。6000、12000!」

 まずは一発目………後半戦に入ってから通算三回目の三倍満をツモ和了りした。

 

 

 南二局、桃香の親。

 ここでは、ネリーの手は門前混一色の形で成長していった。

 そして、

「オリ! メンホンダブ南白中三暗刻ツモドラ1。6000、12000!」

 前局に引き続き、ここでも三倍満をツモ和了りした。

 

 

 南三局、ネリーの親。

 ここで親の三倍満を和了れば、ネリーは鳴海を追い抜ける。

 しかし、

「ポン!」

 ここに来て鳴海も動き出した。それによって運の流れも乱れてくる。

 まず、鳴海はネリーが捨てた{七}を鳴いた。

 しかも、その二巡後、

「カン!」

 鳴海は{七}を加槓し、その次巡、

「カン!」

 今度は対面の桃香が捨てた{①}を鳴海は大明槓した。

 槓ドラ表示牌は、それぞれ{六}と{⑨}。ここでもドラがモロ乗りである。

 そして、次巡、鳴海は、

「カン!」

 {發}を暗槓した。

 三枚目の槓ドラ表示牌は{白}。これもモロ乗りだった。

 

 その次巡、ネリーは、ようやく索子の門前清一色を聴牌したが、その直後の鳴海のツモ番で、

「ツモ!」

 ネリーは鳴海に先を越された。

 しかも、

「發三槓子ドラ12。8000、16000!」

 数え役満。

 これでネリーは、逆転するどころか、むしろ点差を広げられた。

 

 

 オーラス、鳴海の親。ドラは{二}。

 現在の後半戦の順位と点数は、

 1位:鳴海 193500

 2位:ネリー 150300

 3位:桃香 29500

 4位:ゆい 26700

 

 そして、現段階での前後半戦トータルは、

 1位:鳴海 351600

 2位:ネリー 258800

 3位:ゆい 99400

 4位:桃香 90200

 

 ここで役満を和了っても逆転できないが、もしダブル役満を鳴海から直取りできれば、前後半戦トータルは、

 1位:ネリー 322800

 2位:鳴海 287600

 3位:ゆい 99400

 4位:桃香 90200

 ネリーが鳴海を逆転できる。

 

 勿論、ダブル役満ツモ和了りでも、トータルで、

 1位:ネリー 322800

 2位:鳴海 319600

 3位:ゆい 83400

 4位:桃香 74200

 逆転は可能である。

 

 幸い、鳴海はネリーの下家。ゆいか桃香が捨てた和了り牌を見逃しても、同巡見逃しで鳴海から和了れない事態には陥らない。

 ならば、明日の対局の運を捨ててでも、ここに賭けるしかない。

 ネリーは、全エネルギーを集中して自身に最高の運を注ぎ込んだ。

 

 この局面でのネリーの配牌は、

 {二[五]①8東東南西白白發中中中}

 ここから打[五]。

 ただ、この赤牌切りは、他家にはネリーの狙いがヤオチュウ牌………つまり国士無双や字一色であることを感付かせてしまう。

 しかし、後半になって手が出来上がってきたところに[五]を捨てたら鳴かれてしまうだろう。それゆえの第一打牌切りだ。

 

 次巡、ネリーはツモ{南}。打{二}。

 すると、これを、

「ポン!」

 ゆいが鳴いた。打{一}。

 

 そして、同巡に桃香が切った{南}を、

「ポン!」

 ネリーは鳴いて打{8}。

 

 次のツモで、ネリーはツモ切りだったが、その次のツモで待望の{發}を引いて一向聴となった。

 ただ、逆転のためには、ここからさらに{白}と{發}を引き入れての和了りが必要である。{東}を刻子にしたら字一色のみのシングル役満となり、逆転は出来ない。

 

 ネリーは極度に緊張していた。

 しかし、ここで、

「ツモ。タンヤオドラ4。2000、4000。」

 ゆいにさくっと和了られた。

 まだ序盤だが、字牌がネリーに偏った分、他家の手牌はチュンチャン牌に偏り、手も早かったのだ。

 しかも、ネリーが鳴かせた{二}はドラである。

 

 それに、ゆいとしても臨海女子高校に二つ目の勝ち星を取って行かれるより、臨海女子高校と綺亜羅高校に一つずつ取られた方がマシなのだ。

 

 ネリーは、愕然とした。

 珍しく彼女の目から涙が溢れてきた。

『なんで和了るんだ!』

 と、ゆいに大声で怒鳴りつけたい。

 しかし、これも戦略のうちだ。世界大会では、同様のことを日本チームはやられてきたし、責められることでは無い。

 

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:鳴海 189500

 2位:ネリー 148300

 3位:ゆい 34700

 4位:桃香 27500

 

 そして、前後半戦トータルは、

 1位:鳴海 347600

 2位:ネリー 256800

 3位:ゆい 107400

 4位:桃香 88200

 綺亜羅高校が次鋒戦の勝ち星を手にした。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 

 

 この時、臨海女子高校の控室では、

「ネリーが負けるなんて信じられないじょ! 咲ちゃんのところの一年生が邪魔をしなければネリーが勝てていたのに!」

 優希が、ゆいの和了りに対して腹を立てていた。当然であろう。

 結果的に二回戦までの先鋒と次鋒の勝ち星が入れ替わっただけである。

 

 

 これと同じ頃、綺亜羅高校控室では、

「阿知賀の一年、ナイスプレー!」

 敬子が大声を上げて喜んでいた。

 どうやら、ゆいが何故ネリーの和了りを阻止しに行ったのか、その真意を理解できていないようである。

 

 ここに鳴海が戻ってきた。

 すると敬子が、

「勝たせてもらってラッキーだね! 最後、臨海は大三元字一色の一向聴牌まで行ってたよ!」

 と鳴海に言ったのだが、当然、他のメンバーは、

「「「「(お疲れ様が先だろ!)」」」」

 と思っていたのは言うまでもない。

 まあ、これはこれで、いつもの光景だ。

 

 鳴海はソファーに座ると、

「最後、いきなり赤牌とドラから切り出したから、字一色を含めたダブル役満でも狙っているのかなとは思ったけど、やっぱりそうだったんだ。」

 と言いながら牌譜を手にした。

 この時、鳴海は、対局中とは打って変わって辛気臭いオーラが消えており、普通の女の子に戻っていた。

「まあ、阿知賀の一年は、臨海が勝ち星二になるのを回避するために和了ったんだろうけど…。」

「そうなの?」

「ちょっと敬子、気付いていなかったの?」

「全然。」

「多分、先鋒でワシズが勝っていたら、阿知賀の一年は、臨海の和了りを阻止しには行かなかっただろうね。」

「ふーん。」

 やっぱり、敬子は全体が見えていないようだ。

 まあ、鳴海には大体想像がついていたが………。

「なんだかんだんで、しっかりした打ち手だよ、あの一年。」

「そうなんだ。でも、鳴海にはボロ負けだったけどね。」

「まあ、私の打ち方に慣れていなかっただろうからね。それより………。」

 鳴海が美和のほうに視線を向けた。心配しているのだろう、何か言いたげだ。

 この時、美和は、丁度控室を出ようとしているところだった。綺亜羅高校の中堅選手は美和なのだ。

「分かってる。私の相手、チャンピオンだもんね。」

「ゴメン、何て言っていいか分からない。正直、うちじゃ誰も宮永さんには勝てるとは思っていないけど………。」

「そりゃそうだよね。」

「でも、もし勝てる可能性があるとすれば美和だけだからね!」

「そんな、過大評価だってば。」

「過大評価じゃないよ。綺亜羅の中で美和が一番強いんだから。」

 綺亜羅高校麻雀部の部内戦ランキングは、エースの美和がブッチギリの1位。そして2位が敬子。他の三人は同レベルだった。

 つまり、美誇人は静香や鳴海と大差ない化物的な強さで、その化物三人組でさえ、美和には全然敵わない。

 恐らく総合力では綺亜羅高校が現在最強ではないだろうか?

 このとんでもないチームが、二つ上の先輩が起こした問題が原因で、今まで地下に埋もれていたのだ。実に勿体無い話である。

 

「勿論、最初から負けるつもりで卓には付かないよ!」

「頼んだよ!」

「やれるだけのことはやってくるから!」

 そう言うと、美和は特段プレッシャーを感じることなく控室を出て行った。

 

 通常は、咲が相手となると、魔物連中以外は、

『次のメンバー(お漏らし)入りは私?』

 と思いながら、どんより顔で対局室に向かうものなのだが、この時の美和は、むしろ晴々とした表情をしていた。

 

 美和自身も咲に勝てるとは思っていない。

 しかし、絶対王者と呼ばれる咲に、自分がどれだけ通用するのかチャレンジはしてみたかった。

 ようやく、その希望が叶う。

 むしろ、美和は、この対局を喜んでいたようだ。

 

 

 一方、その絶対王者だが、

「コーチ。」

「分かってる。ほな、行こか。」

 相変わらず迷子対策に、恭子と手を繋いで、不安顔で控室を出るのだった。

 毎度の如くオドオドしている。誰がどう見ても、捕食者側ではなく被捕食者側のひ弱な小動物である。

 絶対王者の威厳もヘッタクレも無い。

 

 

 咲が対局室に入室した時、他の中堅メンバー………臨海女子高校の郝慧宇、朝酌女子高校の森脇華奈、綺亜羅高校の的井美和は、既に卓に付いて待っていた。

 この時、美和が見た咲の第一印象は、

「(これがチャンピオン? 全然怖くないんだけど?)」

 であった。

 どう見ても静香、鳴海、美誇人の三人の方が強そうだ。まあ、敬子はアホの娘なので、まるっきり怖い感じはしないが………。

 

 ただ、第一印象が大したこと無くても、中味は分からない。

 敬子の例もある。アホの娘をしていても、あれで静香、鳴海、美誇人の三人よりも強いのだから見かけが全てではない。

 もっとも、敬子は一般常識的な部分だけがアホの娘なだけであって、学業成績は非常に優秀と言う話らしいが………。

 美和は、

「チャンピオン、よろしくお願いします。自分の麻雀が、どれだけチャンピオンに通じるか、楽しみにしていたんです。」

 と咲に言った。

 すると、咲は優しい笑顔で、

「こちらこそ、お手柔らかに。」

 とだけ言うと、静かに卓に付いた。全然、プレッシャーを感じさせない。本当に威厳も何も無い娘だ。

 

 この時、咲は、

「(綺亜羅の人って、割と綺麗だけど、まあ、和ちゃんには劣るから許そっと。)」

 暗黒物質放出スイッチは、一先ず入らなかったようだ。

 

 

 場決めの牌が順次引かれ、起家は郝(慧宇よりも郝のほうが分かりやすいと思いますので郝と記載します)、南家は華奈、西家は咲、北家は美和に決まった。

 咲は、西家の席に座ると、靴下を脱いだ。すると、今までに無い強烈なプレッシャーが美和を襲ってきた。

「(すっごい! やっぱりチャンピオンだけある。私がどれだけ通用するか、試させてもらうからね!)」

 普通は、この圧力に負けてメゲるのに………。大した娘である。

 

 

 東一局、郝の親。ドラは{8}。

 まずは出だしの局。相手の様子やツモの流れを見るところから入るだろう。

 郝の配牌もツモも悪くない。

 

 中国麻将役を目指す彼女には、ドラもリーチも関係ない。ドラによる翻数は、飽くまでも結果論だ。

 彼女の手は、六巡目で既に、

 {四[五]六④[⑤]⑥468東東發中}

 

 三色三同順五門斉の二向聴まで来ていた。

 ここで郝は{發}をツモって{中}を切った。

 そして、次巡、郝は待望の{5}をツモり、{8}を切ったところ、

「ロン。」

 美和に振り込んだ。

 

 開かれた美和の手は、

 {二二③④[⑤]67888白白白}  ロン{8}

 

「白ドラ5。12000!」

 {二58}待ちで、しかも高目のドラ振込みだった。

 

 

 東二局、華奈の親。ドラは{⑤}。

 ここでは、華奈の手が意外と早かった。

 五巡目で、

 {一三四[五]六②②⑤⑥⑧35西}  ツモ{7}

 ここから打{⑧}。

 

 六巡目に{七}をツモり、打{一}。

 

 七巡目に{⑦}をツモり、

 {三四[五]六七②②⑤⑥357西}  ツモ{⑦}

 {46}の両嵌に受けて{西}を切った。

 

 すると、

「ロン!」

 これで美和に和了られた。

 開かれた手牌は、

 {九九①①[⑤][⑤]22南南西中中}  ロン{西}  ドラ{⑤}

 

「七対ドラ4。12000!」

 しかもハネ満だ。

 

 すると、美和が、

「私、食虫植物が趣味なの。食虫植物って、面白いわよね。植物のクセに、虫に食べられるんじゃなくて、逆に虫を捕らえるんだから。」

 と三人に言った。

 モウセンゴケやムシトリスミレは、虫を誘引して捕獲し、消化吸収する。恐らく、美和は自分の麻雀スタイルを食虫植物に喩えているのだろう。

 

 ただ、この二局で美和が見せた麻雀は、どちらかと言うと弘瀬菫の麻雀に似ている。いずれ出てくる牌を狙って撃ち取る感じだ。

 ただ、咲は、それとは違う何かも持ち合わせていそうな雰囲気を、既に美和から放出されるオーラから感じ取っていた。




美和は、まだ能力を全開にしておりません。



おまけ
前回の続きです


五.『邪神がデザインしたカラダ』

トヨネが墜落した。
完全に私にミスだ。
トキのエンジンで、トヨネは準光速で動けるはずなのだ。それなのに、身体が凍りついたように動けなくなってしまった。
脳みそも停止した感じだった。それでトヨネに何の指示も出せなかった。

それにしても、トヨネもトキも頑丈だ。
あれだけ強力なエナジーの塊を受けても壊れていない。二人分のミヤモリ・エナジーがバリヤーとなって全体を薄皮のように覆っているからだろう。
でも、何発も受けたらバリヤーごと吹き飛ばされてしまうかもしれないけど…。

それはさておき、私には一つ気になることがあった。
あの光の束を受けた時、何人もの若い女性達の姿が私の脳裏を走り抜けた。あれは、いったい何だったのだろう?
クルミとハツミは、その正体を掴んでいるようだった。

二人の意識が私の意識の中に流れ込んできた。
あの光は、たくさんの女性達から吸い取ったフクジ・エナジーと、あの巨大戦艦に乗り込む女性司令官タカコのユリ・エナジーとを融合した姿だったようだ。
そして、タカコが言う『フクジ・エナジー』こそが、ミホコ波の発生源だったようだ。
再び、主砲がトヨネに向けられた。
一先ず私は、その場から少し距離を置こうと思った。この至近距離で、あの攻撃を受けるのだけは、何としてでも避けなければならない。

カゼコシ砲が、うっすらと光り輝いた。
再びトヨネを目掛けて撃ち放たれようとしているのだ。
でも、急に、その光が消えていった。
巨大戦艦の操縦室で異変が起きたのだ。
カナがタカコに向けて背後から銃を撃ち放った。その銃弾は、椅子の背もたれを貫通してタカコの身体を突き抜けた。

タカコから戦艦に供給される二つのエナジーが一瞬途絶えた。これでカゼコシ砲を撃つのを停止したのだ。

ところが、タカコの銃傷は、見る見るうちに消えていった。彼女の身体の中を駆け巡る二つのエナジーが融合して、信じられないほどの生命力と再生能力を生み出していたのだ。
カナに向けて他のキヨスミ星軍人が銃を撃ち放った。
この様子を私の身体の中でハツミが感じ取っていた。

私の頭の中にカナの声が聞こえてきた。カナの意識をハツミが捉えたのだ。
「こいつらを倒してほしいし! ウィシュアート星を…妹達を頼むし!」
カナの意識が消えた。

急に私の心の中で怒りが爆発した。
不思議な感覚だった。
私はカナのことを全然知らないし、クルミにとっても親友を連れ去った悪役に過ぎない。
でも、ハツミにとっては違っていた。捕虜として連れ去った張本人ではあるけど、マコに殺されるところを助けてくれた恩人でもあるのだ。
そして、その後、約一ヶ月間に渡り生活を共にした友人でもあった。
私の心は、そんなハツミの心と同調していた。フェードインした側とされた側は無意識のうちに心が影響しあっているのだろう。

敵の砲撃が止まった一瞬を逃さず、私はトヨネを巨大戦艦に向けて突っ込ませた。そして、レーザーソードでカゼコシ砲を斬りつけた。
切断面から巨大な炎が立ち昇った。

続いてトヨネは巨大戦艦の操縦室をレーザーソードで貫いた。
操縦機能を失った巨大戦艦は、失速して高度を少しずつ落していった。

さらに、トヨネは巨大戦艦の後の方へと飛んで行くと、エンジンの出力部分をレーザーソードで切り裂いた。
エンジンの一つから炎が吹き上がった。そして、そこから隣接する他のエンジンに連鎖的に引火していった。

今度は、トヨネが巨大戦艦の下側に回り込んだ。そして、レーザーソードを前に突き出し、キリモミ状に横に激しく回転しながら巨大戦艦の真ん中を目掛けて突き進んだ。
まるで、ドリルのようだった。
巨大戦艦の機体をトヨネが貫いた。そのまま巨大戦艦は墜落して大爆発を起こし、きのこ雲を上げた。
その爆発から逃れるように、脱出機が一機飛び立った。タカコが脱出したのだ。
『絶対に逃がさない。』
私がそう思った時、その心に連動するかのようにトヨネが脱出機を目掛けて掌から電撃を撃ち放った。
脱出機は、その攻撃を受けて爆発した。


まだ、戦闘機と宇宙戦艦十数隻が残っていた。でも、ダブルフェードインした今、戦闘機も並の宇宙戦艦も敵ではなかった。
超高速で移動しながら、電撃とレーザーソードで次々と敵を片付けていった。無我夢中だったけど、改めて思うと信じられないほどの強さだ。
地上を見ると、たくさんの人々がトヨネを見上げていた。多分、この星………ヒメマツ星で生まれ育った人達だろう。キヨスミ星に支配されて奴隷のように扱われていたみたいだ。


トヨネが猛スピードで上昇した。そして、一気に大気圏を抜けると、宇宙空間に出て合体を解いた。
ヒメマツ星の人々の喜ぶ顔を見るのは嬉しい。こんなに人に喜んでもらったのは、生まれて初めてだ。
でも、こんな時に、どんな態度を取って良いのか自分でも良く分からなかった。
何だか、ちょっと恥ずかしくて照れくさくて、その場から、ただ逃げてきた感じがする。
宇宙空間に出るとホッとした。

ふと、私は一面鏡になっている後方のドアを見た。
「誰、この女性?」
そこに映っていた女性は、クルミが私の身体にフェードインした時の姿とは少し違う雰囲気だった。
顔は、一応、クルミがフェードインした時に似ているが、もっと綺麗だ。
そして、身体のほうは、さらに破壊力が高くなっている。
クルミ単独のフェードインの時よりも背丈が少し高い。胸も、さらに巨大化している。トップとアンダーの差が、さらに開いている。
これって、JカップとかKカップになっていない?
さすがに、そんなサイズは無縁だったし、見ただけでは想像がつかない。
大きなメロンパンを何段も重ねにしてパット変わりに詰めたみたいに見える!
いや、スイカを左右一つずつか?
どっちにしても、むちゃくちゃ目立つ胸だ!
イヤラしくてふざけた胸だ!
けしからん胸だ!
見ていて、どんどん鼓動が激しくなる。
何だかんだ言いながら、何か嬉しい。
鳩尾の辺りから下腹にかけてのラインも、さらにすっきりしている。正しくは、凄く引き締まった感じだ。
手足も少し伸びて、スラッとした雰囲気がある。
わき腹も背中も余計な脂肪は無い。
まるで男を誘惑するためだけに生まれてきた女性みたいだ!
目も少し大きくなった気がする。
言うまでもなく、全身からイヤラシイ雰囲気が漂っている。
まるで、邪悪な神を見ているみたいだ。


霞「ダブルフェードイン後の姿役を任されました。よろしくおねがいします。」

巴「(このエロ姉さんが………。)」

霞「何か言った?」

巴「いえ、別に…。」


クルミがフェードインした時の身体は、今思うと全知全能の神様に与えられたような完璧な美しさがあった。
しかし、今の姿は、まさしく邪悪な神にデザインされた身体のように思える。人々を誘惑する姿だ。
初期状態の私をノーマル・塞とすると、クルミがフェードインした時の私はゴッド・塞、そして、今の私はデビル(?)・塞だ。

この顔、この雰囲気、この身体。
こんな女性が隣にいたら女性の私でも気がおかしくなる。変な道に走る。
これが私なのだと思うと、おかしな話だけど何故か股間が少し熱くなってきた。
急にナルシストになったみたいだ。
正直、Hな方に興奮していた。

そんな私を抑止するかのように、クルミの声が頭の中に激しく響き渡った。
「もう、何してんのよ?」
「え?」
私は、両手で胸と股間を触っていた。ついつい出来心だ。
「さすがに、こんなパーフェクトな姿は見慣れないもので、つい…。」
「あのね…まったく。でも、あの敵を相手に良く戦ったわ。ありがとう。それで、塞。どっちの身体にする?」
そうだった。私の報酬は、『ゴッド・塞』か『デビル・塞』になれることだ。
たしか、ゴッド・塞は、私の遺伝情報の範囲内で頭脳と身体をバランス良く発達させた姿、今の私の姿はクルミとハツミの二人分のミヤモリ・エナジーを増幅するために体力面にバランスを傾けた姿だ。
「今、ここで先払いしてあげるわ。ねえ、どっちにする?」
『何て気前が良いんだ!』
私は、そう思った。
まだ敵の本拠地にも乗り込んでいない。やるべき事の半分もしていないだろう。それなのに先に報酬がもらえる。
この時、私は珍しく即決した。普段、飲食店でも、なかなか注文が決められない私とは全然違っていた。
外見だけじゃなくて性格も少し変わったかもしれない。
「今の身体が良い!」
「そう。じゃあ、決まりね。ただ、この姿に固定したら、もう変えることはできないわよ。元の姿にも。良いわね。」
「うん。」
「じゃあ、ハツミ。」
「何ですかー?」
「力を貸してくれる? この姿で固定するわ。」
「了解ですー。」
二人が私の身体にミヤモリ・エナジーを送り込んだ。
また、身体が熱くなってきた。まるで、身体中の水分が全部一気に放出されてしまいそうな感覚だった。
私は、いつの間にか気を失っていた。


一方、キヨスミ星では、居室でヒサが、マホからヒメマツ星での敗戦に関する報告を受けていた。
ヒメマツ星は、既にキヨスミ星の支配下に置かれた星のはずだった。それが、一瞬で状況が変わったのだ。
さすがに、今回ばかりはヒサも怒りの表情を隠し切れなかった。
「あの虫けら共………。ノドカの調査団を全滅に追い込んで、ヒメマツ星の拠点を破壊した奴は同じと考えて良いわね。何とかして、そいつを追跡しなさい!」
「承知致しました。」
マホは敬礼すると大急ぎで居室を後にした。


あれから、どれくらい時間が過ぎたことだろう。
気が付くと、私は操縦席にもたれかかるようにして座っていた。
携帯を開いて見ると、ヒメマツ星を後にしてから既に半日以上が過ぎていた。
地球を飛び立ってから、たしか三日目だ。
操縦室の後の方では、クルミとハツミがペチャクチャおしゃべりしていた。久々の再会を喜び合っているのだろう。
「あんなに似ているとはね。」
「そうですねー。私も驚いたですー。」
「アコには、連絡しておいたけど。大丈夫かな。」
「それは、難しいですねー。」
何の話をしているんだろう?
クルミは、相変わらず庶民的な口調だ。それに比べてハツミは、独特な話し方だが、まあ、別に特段育ちが良いわけでも悪いわけでもなさそうだ。
私が起きたのにクルミが気付いた。
「塞、目が覚めた?」
「うん。」
「もう一回、鏡を見てくれる? この身体で良いのよね。」
そうだ! デビル・塞になったんだ!
私は、鏡に全身を映し出した。
間違いない。この身体だ。
もう私は地味な姿じゃない。今までの人生からは考えられないほどのボンバーな妖艶形美女に生まれ変わったんだ。
でも、少し戸惑いもあった。自分の存在が消えて他人になってしまったような感覚が少なからずあったのだ。
もしかしたら、整形手術の後って、こんな感じなのかもしれない。全員が全員、同じ感覚になるとは限らないけど…。

クルミが光の玉になって私にフェードインした。
すると、面白いことに私の身体は、デビル・塞からゴッド・塞に変わった。あくまでも彼女一人でフェードインした時の姿は、ゴッド・塞なのだ。
「早速だけど、今からカクラ星に向かうわよ。」
「どうして?」
私は、ここから一気にキヨスミ星に乗り込んで行くものとばかり思っていた。
たしか最初にクルミから聞いた言葉も『先ずはハツミを助けて、それから敵の本拠地を叩く』だったはずだ。
すると、私とクルミの脳内会話にハツミが割って入ってきた。口に出していない会話なのに何故か内容が分かるらしい。これは、これで凄い。
これもミヤモリ・エナジーのなせる業なのだろう。
「ちょっと待つですー。クルミには申し訳ないのですが、先にウィシュアート星に行ってほしいですよー。」
「どうして、ハツミ? 何で今更ウィシュアート星なの?」
モニターに銀河系の全体図が映し出された。
銀河系の中心を挟んで、ほぼ上下対称的な位置に赤い点と青い点が付いていた。赤い点がカクラ星、青い点が地球だ。
そして、クルミの意思に支配された私の身体が指し示したのは、カクラ星を時計の十二時、地球を六時に例えると九時くらいの位置だ。
「今、この辺にいるのよ。でもウィシュアート星は、こっちの方よ。」
どうやら、ウィシュアート星は三時くらいの位置にある。ここからウィシュアート星は、銀河の中心を挟んで丁度反対側だ。
「はっきりとは、言えないのですがー。ちょっと、先にそっちに行った方が良い予感がするんですよー。」
いくら何でもウィシュアート星経由でカクラ星に行くのは、非効率的過ぎる。
このハツミの言葉に、しばらくクルミが考え込んだ。
「分かったわ。ハツミは予知能力ではカクラ星で一番だもんね。きっと何かあるわね。じゃあ、塞。私に身体を預けて。行くわよ。」
随分、安直な決定だ。


トヨネは、トキと合体すると、長距離ワープに突入した。
そして、気が付くと、私達は土星のような輪のある惑星の近くを走行していた。
ここがウィシュアート星の位置する惑星系だ。
銀河系地図を見て、なんとなく位置関係は分かったけど、私には、この空間のどっちの方向に地球があるのか、まるっきり見当が付かない。
もし、ここで放り出されたら…。
たとえ、どんなに高性能な宇宙旅客機を与えられても、私一人では絶対に地球に帰ることができないような気がする。

あの輪のある惑星は、この惑星系の第六番惑星。ウィシュアート星は、この惑星系の第三番惑星で、月のように大きな衛星を持つ水と緑の星らしい。
何だか太陽系に似ている。
レーダーが、第五番惑星の軌道付近から発信される信号をキャッチした。どうやら、宇宙艇からのSOS信号らしい。
トヨネは、その信号の発信源に向かって小ワープに入った。


その頃、小型の脱出機が戦闘機群の攻撃を受けていた。
脱出機は、非常に不安定な動きをしていて、どう見ても十分な訓練を受けた者の操縦とは思えなかった。
戦闘機群は、まるで楽しんでいるかのように脱出機をジリジリと追い詰めていた。
その後方には、キヨスミ星の宇宙戦艦、巡洋艦、宇宙空母が各数隻ずつ確認された。
どうやら、この脱出機はキヨスミ星の軍隊から逃げ出してきたようだ。

突然、脱出機の前にトヨネが姿を現した。ワープを終了したのだ。
脱出機には三人の子供が乗っていた。
その子供達は、トヨネが自分達を追い詰める敵の新手と思ったらしく、トヨネに向けてレーザー砲を撃ちながら軌道を大きく変えようとした。

その時だった。
戦闘機の撃ち込んだレーザー砲が脱出機の後部に命中した。
命中したところから火が吹き出た。
クルミとハツミは、この脱出機からミホコ波が出ていることを感じ取った。これは、キヨスミ星軍に追いかけられる女性が乗っていると考えて間違いない。

トヨネは、両掌から電撃を撃ち放ち、戦闘機群を撃墜した。そして、急いで脱出機の後を追った。
脱出機の爆発まで、もう時間が無い。
100メートル圏内に入ったところで、クルミは急いで脱出機に乗る子供達をトヨネの操縦室内に瞬間移動させた。
操縦室後方に、リュックを背負った三人の少女が姿を現した。彼女達は、怯えるように小刻みに震えながら座って抱き合っていた。
三人とも、まだ子供なのに、よく脱出機を操縦できたものだ。
しかも、どうやら三つ子らしい。

この三人を救出した直後、脱出機が爆発して宇宙の塵と化した。
まさに危機一髪だ。

トヨネがキヨスミ星軍隊に向けて突っ込んでいった。
でも、その軍隊は、私達との戦いを避けるかのように、その場から何処かにワープした。
多分、ヒメマツ星での戦いの様子が既に報告されていたのだろう。それで、敵わないと判断して無理せず逃げたのかもしれない。
助かった。
私もクルミも超距離ワープの後で疲れていた。まともに戦ったら、こっちの方が危なかったかもしれない。

トヨネが、トキとの合体を解いた。


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百九本場:腐葉土

美和は、まだ能力を全開にしておりません。


 準決勝第一試合中堅前半戦。

 果たして美和は、咲に対してどのような打ち方を見せるのか?

 

 東三局、咲の親。ドラは{西}。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤から咲は、上家の華奈が捨てた{2}を鳴いた。

 

 数巡後、咲の手牌は、

 {一二三⑤⑤45789}  ポン{横222}  ツモ{2}

 嶺上牌は{3}であることが咲には分かっている。

 当然、普段なら、ここで加槓して嶺上開花を決めるところだ。

 

 しかし、下家の美和の手牌は、

 {34[5]67789西西白白白}

 {258}待ちの門前混一色白ドラ3の手。ここに槍槓が付いたら倍満になる。

 これでは、咲は加槓ができない。

 止むを得ず咲は、{三}を落とした。

 

 同巡、美和は{北}をツモ切り。

 そして、その同巡に華奈が捨てた{8}で、

「ロン!」

 美和が和了った。

「12000!」

 これで美和が三連続ハネ満を決めた。

 

 

 東四局、美和の親。ドラは{東}。

 よりによって場風がドラだ。

 

 この局、美和の捨て牌は、

 {一九南②三北7七[五]}

 既に萬子はランダムに{一三[五]七九}と捨てている。

 しかも、{三[五]七}はツモ切り。

 郝は、{二三四五五六七七八九南白白}  ツモ{南}

 {二}を切れば{南白}のシャボ待ちで、しかも混一色に一色三歩高が付く。

 恐らく、親の美和にとって萬子は不要牌のはず。

 それで郝は、躊躇無く{二}を切って聴牌に取った。

 

 すると、その時、

「ロン!」

 郝の上家から和了り宣言の声が聞こえてきた。美和に振り込んだのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {二二八八③④⑤234東東東}  ロン{二}

 まさかのダブ東ドラ3。

「12000!」

 親満だ。しかも、これは単に、いずれ出てくる牌を待っていただけではない。罠を張って待っていた。

 まさにウツボカズラのような落とし穴に郝が嵌り込んだ感じだ。

 これで郝は、東場だけで24000点を失った。

 

 東四局一本場、美和の連荘。ドラは{9}。

 どうやら、この親に連荘させるのはヤバそうだ。

 それで華奈は、

「チー!」

 クイタンのみで良いので、この親を流そうと動き出した。

 しかし、華奈が捨てた{白}を、

「ポン!」

 美和が鳴いた。

 

 続いて、郝が捨てた{8}を、

「チー!」

 華奈鳴いて手を進めたが、ここで切った{7}を、

「ポン!」

 まるで追い駆けるように美和が鳴いた。

 

 さらに、華奈は、次巡に郝が捨てた{⑦}を、

「チー!」

 鳴いて聴牌した。

 そして、恐る恐る{⑨}を切った。また、これで美和に鳴かれるのではないかとの恐怖があったのだ。

 ただ、この{⑨}を美和は鳴かなかった。

 これで、華奈は一瞬ホッとしたが、次巡、郝が切った{三}を、

「ポン!」

 美和は鳴いた。

 どこまでも追い駆けてくる、まるで、逃げようにもモウセンゴケのような粘着質の触手が身体中に絡みついて逃げられない。華奈は、そんな感覚がしていた。

 

 そして、次巡、華奈が{①}をツモ切りすると、

「ロン。白ドラ2。5800の一本場は6100。」

 これで美和に振り込んだ。

 この振込みは決定的だった。今までよりも打点は低いが、華奈に美和の麻雀の恐怖を植え付けるには十分だった。

 

 東四局二本場も、

「ロン。12600。」

 東四局三本場も

「ロン。5800の三本場は6700。」

 共に美和は郝から直取りした。

 

 そして、東四局四本場も、

「ロン。13200!」

 美和は、恐怖の刷り込みが入った華奈から親満を直取りした。

 

 これで中堅前半戦の順位と点数は、

 1位:美和 186600

 2位:咲 100000

 3位:郝 56700(席順による)

 4位:華奈 56700(席順による)

 美和が圧倒的リードを作った。

 

 そして迎えた東四局五本場のことだった。

 配牌を順次取っている最中に、

「何かの本で読んだことあるけど、食虫植物って湿地帯とか栄養分が欠如したところに生えてるんだよね?」

 と咲がボソッと口にした。

 すると、これに美和が、

「そうなのよね。そこで生きられるように進化したのよ。」

 と答えたが、その後、対局がスタートし、ここまでで会話が途切れた。

 

「ポン!」

 華奈が捨てた{①}を咲が鳴いた。

 これを見て、美和は、{①④}待ちに備えるべく動き出した。

 まず、{③}をツモってきた。しかし、その後、咲を討ち取るために必要な{②}が、いつまでたってもツモれない。

 

 そして、

 {一二三③⑤44489發發發}  ツモ{9}

 ここで一旦、嵌{④}待ちに取って美和が捨てた{8}で、

 

「カン!」

 咲が大明槓した。

 副露牌が、咲の右側………つまり咲と美和の間に晒される。

 そして、この副露牌に乗って毎度の如く咲の強大なオーラが美和に向けて飛んでくる。

「(えっ? 何?)」

 大抵の場合、ターゲットとなる少女に向けて、巨大肉食獣が大きな口を広げて一直線に突進してくる幻が見える。それで失禁する。

 ところが、ここで美和が見た幻は、他の人達のモノとは違っていた。それは、食虫植物で一面覆われた広大な湿地帯に、大量の種子が上空から降ってくる様子だった。

 

 咲は、嶺上牌をツモると、手牌の中で既に四枚揃っていた{②}を、

「もいっこ、カン!」

 暗槓した。美和が欲しがっていた{②}は、既に咲が全部手にしていたのだ。美和に回ってくるはずが無い。

 

 美和の幻の中で大量の種子が発芽した。そして、それらは一気に根をしっかりと張り、地上部もグングン成長していった。

 

 さらに咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は、手牌の中にあった{①}を加槓した。

 美和が見ていた幻の中では、食虫植物の楽園が外部から新入してきた背の高い植物によって覆われ、背が低い食虫植物には完全に日光が届かない状態となった。

 次々と枯れてゆく食虫植物達。

 

 続いて咲は、三枚目の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、最後の嶺上牌………{[⑤]}をツモると、

「ツモ!」

 それでツモ和了りを宣言した。今まで咲が何度も見せている四槓子であり、また五筒開花である。

「五本場で33500!」

 この四連続槓からの嶺上開花は、最初に大明槓させた美和の責任払いになる。

 

 幻の中で、広大な湿地帯が、いつしか草原に変わっていた。

 もう食虫植物は生えていない。全て生存競争に負けて枯れ果ててしまったのだ。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:美和 153100

 2位:咲 133500

 3位:郝 56700(席順による)

 4位:華奈 56700(席順による)

 まだ20000点近く美和がリードしているが、この咲の和了りで、美和の背中には冷たいものが走り抜けた。

 今まで感じたことの無い恐怖だ。

 

 

 南入した。

 南一局、郝の親。

 ここでは、

「ポン!」

 咲が早々に{中}を鳴き、その数巡後、

「カン!」

 華奈が捨てた{9}を咲が大明槓した。

 

 副露牌が美和に接近してくる。

 ここでも、美和には嫌な幻が見えた。食虫植物の楽園にガソリンがぶちまけられている様子が見えたのだ。

 

 一方、現実世界では、この段階では嶺上開花による和了りは発生せず、咲が有効牌を引き入れるに留まった。

 しかし、その次巡、

「カン!」

 咲は、{中}を加槓した。

 

 この時、美和が見る幻の中では、さっきガソリンをぶちまけられた湿地帯に、何者かの手によって火が放たれていた。

 激しく燃え盛るガソリン。

 そして、その炎の中で朽ちて行く食虫植物達。

 

 一方、現実世界では、

「ツモ! 中混一嶺上開花! 2000、4000!」

 そのまま咲が嶺上牌で和了っていた。しかも満貫だ。

 咲が、着実に美和との点差を縮めてきた。

 

 

 南二局、華奈の親。

「リーチ!」

 ここでは、咲がダブルリーチをかけてきた。

 淡と違って、咲には意図的にダブルリーチをかける能力は無い。ダブルリーチ自体は偶然である。

 

 咲は、一発目のツモで、

「カン!」

 暗槓した。

 配牌に暗刻があったのも、ここで暗槓するのも、勿論偶然である。

 

 今回も美和のほうに向かって副露牌が迫ってきた。

 これに乗って、咲のエネルギーもまた、美和に向かって飛んでくる。

 そして、ここでも美和は幻を見させられる。今度は食虫植物の楽園に大量の重機が入り込み、その地が派手に掘り返されてゆく。

 

 一方、現実世界では、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! ダブルリーチツモ嶺上開花。2000、4000。」

 咲が満貫を和了っていた。

 

 これで現在の順位と点数は、

 1位:咲 149500

 2位:美和 149100

 3位:郝 50700(席順による)

 4位:華奈 50700(席順による)

 とうとう咲が逆転した。まさにヤリタイ放題である。

 

 

 そして迎えた南三局、咲の親。ドラは{②}。

 美和は、一段と嫌な予感がした。咲から放たれるオーラが、さらに膨れ上がったような気がしたのだ。

 

 東場の段階で、既に美和は、咲に振り込ませるのは難しいことを察していた。

 咲が差し込みではなく、本当の意味で振り込んだ相手は、原村和に末原恭子、そして咲を槍槓で撃ち取った加治木ゆみくらいだろう。

 しかし、靴下を脱いだ咲がまともに振り込んだ相手はいない。

 

 ラッキーなことに、この局、美和の配牌は、

 {四五[五]②②⑤[⑤][5]899西發}

 七対子二向聴で、しかもドラが五枚もある。

 

 第一ツモは{5}。これで一向聴。ここから打{四}。

 ところが、ここからチュンチャン牌しか来ない。それも、{五六④[⑤]⑥5}と言った中牌ばかりだ。

 この中で取り込んだ牌は{[⑤]}のみ。手牌の中の{⑤}と入れ替えただけだ。

 他はツモ切り。

 

 そして八巡目。

 美和は{西}を引いて聴牌した。

 {8}か{發}のどちらかを捨てれば良いが、一般論としては{發}待ちだろう。

 ところが、ここに来て{8}も{發}も初牌だ。

 ただ、咲の捨て牌を見ると、索子が早々に{79651}の順で切られている。

 ならば、ここは{8}を切って聴牌に取る!

 勝負とばかりに、美和は{8}を強打した。

 すると、

「カン!」

 これを咲が大明槓した。

 

 副露牌に乗って咲のオーラが飛んできた。そして、ここでも美和は、恐ろしい幻を見ることになる。

 食虫植物の楽園の上空に、強烈に輝く星が出現した。それは、次第に大きくなり、その真の姿が捉えられるようになった。

 それは、巨大な小惑星。それが、今、地上を目掛けて突き進んでいる。

 

 咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 その嶺上牌………{2}と、手牌の{2}の暗刻を合わせて暗槓した。

 

 美和の幻の中では、巨大小惑星が大気圏を突入した。

 

 咲は、次の嶺上牌………{3}を引くと、手牌の{3}の暗刻を合わせて、

「もいっこ、カン!」

 再び暗槓した。

 

 美和が見た小惑星が、食虫植物が生息する湿地帯の約1キロ先に落下した。

 そして、落下地点から粉塵が舞い上がるのが見えたかと思うと、その直後、激しい爆音が聞こえてきた。

 

 咲が、嶺上牌を引き………{4}を引き、手牌の{4}の暗刻を合わせて、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 またもや、強大なエネルギーが美和を襲う。

 

 この時、美和が見たのは、激しく揺れる地面と、全てを焼き尽くすレベルにまで高温となった熱風が、激しく吹き荒れる光景だった。

 巨大小惑星激突直後の世界。

 それは、まるで地獄絵である。

「(これって、嘘!?)」

 特に激突現場付近では、全ての生物は焼き尽くされ、何もかもが消し飛んでしまう。

 まさに今、美和が見たのは、その様子であった。

 こんなものを見せられたのは久し振りである。

 約二年振り………高校1年生の時以来だ………と言うか、この手のモノを見せられる人間が他にいたことが逆に凄い。

 

 一方、咲は、最後の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。引いてきたのは{發}。

 つまり咲は、

 {222333444888發}

 ここから大明槓を仕掛けたのだ。

 

「緑一色四槓子。96000点です。」

 ダブル役満が炸裂した。これは、美和の責任払いになる。

 もし、{發}を切っていたら緑一色四暗刻への振込み。どちらを切っても96000点の振込みだったのだ。

 咲が、

「食虫植物って、たしか一般には成長が遅いって聞いたことがあるけど…。」

 と美和に言ってきた。

 美和は溜め息をつくと、

「たしかにそうだね。」

 と答えた。

 

 食虫植物は、湿地帯等、土壌の栄養分が少ないところに生息する。

 多くは多年草である。

 植物自体は枯れていなくても、古い葉は枯れて腐葉土を形成する。

 ただ、食虫植物は、敢えて腐葉土を形成するスピードよりも、その土地の浄化作用の方が高い状態を維持する。これによって、土壌が栄養分に富むのを防いでいるのだ。

 栄養分がなければ、新入できる植物も小さなサイズのモノに限定されるだろう。

 しかし、土壌が栄養分で富めば、背の高い植物が新入して生い茂る。当然、自分よりも背の高い植物で満ちてしまえば、自分達が光合成できずに枯れてしまう。

 なので、食虫植物は、敢えて成長を遅くして自分達の楽園を守っているのだ。

 

 ふと美和は気が付いた。

 自分の食虫植物趣味が、自身の能力に影響したのなら、今回の試合展開は、どうだったのだろうか?

 最初に、一気に点棒を取り過ぎたのではないだろうか?

 植物で喩えれば成長し過ぎである。

 

 つまり、自分で腐葉土を大量に形成してしまった。

 そこに無数の花を咲かせる植物………咲が侵入し、栄養分、つまり点棒を奪っていってしまったのだ。

 もしかすると、自分が点を重ねれば重ねるほど、それを後になって咲が奪って行く図式が成り立っていたと言うことだろうか?

 どうやら、美和にとって咲は相性が最悪のようだ。

 

 しかし、まだ試合は終わっていない。

 美和は、

「まだまだ!」

 両頬を両手で叩き、今一度気合を入れた。




おまけ
前回の続きです


六.『何、このエロ女!』

その女性達の姿に、ハツミは見覚えがあった。
「三人にお尋ねしますよー。もしかしましたら、カナちゃんの妹様達ではありませんかー?」
三人の内の一人………ヒナが答えた。
「そうです。でも、何故それを?」
「写真を拝見させていただきましたー。この一ヶ月間くらい、ご一緒させていただきましたものですからー。」
「それで、姉は?」
三つ子達の表情からは、僅かな期待が感じられた。
一瞬、間があいた。
ハツミは答え難そうだった。
彼女としても、さすがに三つ子達の目を見て話すのは辛そうだった。
「残念ながらヒメマツ星でお亡くなりになられましたですー。しかし、その命と引き換えにヒメマツ星を支配していたキヨスミ星の軍隊を全滅に追い込みましたよー。名誉ある死を遂げられたのですー。」
これを聞いて、カナの娘達は抱き合いながら涙を流した。
せめて亡くなる前に一目会いたかった。名誉なんかよりも姉に生きていて欲しかった。三人は、そう思わずには、いられなかった。

クルミが私の身体からフェードアウトした。そして、彼女は、その三つ子達を監察するようにシゲシゲと見ていた。
一方、その三つ子は、私がデビル・塞の姿に戻ったのを見て急に怯え出した。
「クルミも気付きましたかー?」
「うん。ねえ、ハツミ。やっぱり、この娘さん達の同調率。」
「50%くらいありそうですねー。」
ハツミが、二人の前に降り立った。
「済みませんが、あなた達のお名前を教えていただけませんかー? 私はハツミですー。そして、私と同じくらいの大きさの人がクルミですよー。それから、あのユ…ではなくて、オミ…ではなくて、エッ…ではなくて、ええと、そうですねー。」
ハツミは、何かを誤魔化すかのように口に手を当てながら微笑んでいた。
一応、クルミが彼女をフォローするかのように、
「あの胸の大きい女が塞よ。キヨスミ星人じゃないわ。太陽系ってところの地球って惑星の人。私達と一緒にキヨスミ星と戦う仲間よ。」
と私のことを三人に紹介してくれた。
三人は、これを聞いて少し安心したようだった。でも、何で怯えていたのか、この時の私には分からなかった。
それにしても、ハツミは私のことを、いったい何と言おうとしたのだろう?
ちょっと気になった。
少なくとも、言い直しているってことは、余り良い表現ではないような気がする。
多分、『オミズ』とか『エッチ』といったところだろう。ただ、最初の『ユ…』だけは良く分からないけど…。

三つ子の一人が、私から目をそらすようにして口を開いた。
「私の名前はヒナ。こっちは、ナズナ、そしてもう一人はシロナです。私達姉妹は、ミホコ波を出す者としてキヨスミ星軍に捕らえられました。私達は、キヨスミ星に連れて行かれるところ、隙を見て脱出機で逃げ出したのです。」
ウィシュアート星では、今までにも何人もの女性がキヨスミ星に捕らえられていた。捕らえられた女性達は、数週間でウィシュアート星に戻されたけど、全員、若くして『老衰』で亡くなっていたことを三人は知らされていた。
若い女性が老衰だなんて不自然だ。キヨスミ星人に何か変なことをされて殺されたと考えて間違いないだろう。
このままでは、いずれ自分達も殺されると思った。それで、三人は監視員の隙を見て抜け出し、脱出機で宇宙に飛び立ったようだ。
また、カナ達の国では、キヨスミ星との戦いを想定して、学校の授業で戦闘機とかの操縦シミュレーションもゲームみたいな感じでやっていた。
勿論、それが十分な訓練とは言えないけど、その授業が功を奏したみたいだ。何とか脱出機で飛び立つことができたらしい。

私は、このまま三人をウィシュアート星に送り返してあげれば良いと思っていた。
でも、ハツミは違うことを考えていた。
「ヒナさん。よろしければ、三人の力を私達に貸してもらえないでしょうかー?」
「私達が…ですか?」
「そうですー。」
三人の同調率は私に比べれば半分くらいだけど、一般には、それでも相当高い数値らしい。クルミやハツミにとって、貴重な存在であることは間違い無いようだ。
三つ子達は、最初は随分戸惑っていた。
でも、カナの敵討ちをするチャンスがそこにある。
「わ…分かりました。」
三人は、一応参戦してくれることになった。
多分、ハツミがカクラ星ではなく、ウィシュアート星に進路を取らせた予感とは、比較的同調率の高いこの三人を救出することだったのだろう。クルミの言った通り、まさに予知能力である。

クルミとハツミが、私の身体にダブルフェードインした。
既にデビル・塞になっている私の身体は、見た目には何の変化も無い。全身が少し熱くなったように感じただけだった。
操縦席の後に、似たような席が三つせり上がってきた。三つ子達のための席だ。
一応、戦闘中に救出者がいた場合を想定しているみたいだけど、それが、あらかじめ用意されているのが凄い。多分、私が設計者だったら、そこまで頭が回らない。

トヨネがトキと合体して長距離ワープに入った。
そして、次の瞬間、私達はカクラ星の位置する惑星系に入っていた。
私は、ここに初めて来たので状況が良く掴めていない。でも、クルミとハツミの心情が伝わってくる。状況が良くないことだけは、たしかなようだ。

カクラ星に送り出されたキヨスミ星軍は第五部隊。キヨスミ星の中で最強最悪と言われる部隊らしい。
特に、女性司令官のユウキは、キヨスミ軍の中で最も残酷残虐と恐れられていた。彼女が通った後は、ペンペン草一本生えない荒野と化すとまで言われるくらいらしい。とんでもない破壊者だ。
レーダーが、合計十発のミサイルを捉えた。全て核弾頭付きだ。
どこからかワープしてきたのか?
突然現れたみたいだ。
触らぬ神に祟り無し。
トヨネは、上方に大きく軌道を変えた。これで、ミサイルは全て素通りして行くものと思っていた。
でも、そうじゃなかった。この核ミサイルは追尾式だ。しくこくトヨネを追いかけてくる。やることが、えげつない。
仕方が無い。
トヨネは、トキと合体している間は準光速で動くことができる。
ほぼ連続で二回の長距離ワープをした後だったので、とても疲れて身体が辛いけど、まだ何とか頑張れる。

私は、ミサイルから少し距離をとった。そして、トヨネの両掌からミサイルに向けて電撃を放つと、準光速移動で距離を取った。さすがに、核爆発のすぐ近くに居るわけには行かないだろう。
また電撃を放って核ミサイルを一つ撃破する。そして準光速で距離を取る。
それを繰り返し、一つ一つ地道に核ミサイルを撃破していった。

何とかミサイルを一掃した。
私は、トキのレーダーを駆使してミサイルを撃ち込んできた相手を探した。キヨスミ星の女性が乗っていれば、ユリ・エナジーを放出しているはずだ。

ここから三億キロ以上離れたところにユリ・エナジーがキャッチされた。レーダーからの映像では、戦艦ではなく要塞と思われる。ミサイルは、そこから撃ち放たれて小ワープして来たに違いない。
当然、その要塞を叩くしかない。
私は、トヨネをその要塞の近くまで小ワープさせた。


ワープ終了。
敵の要塞の目の前にトヨネは姿を現した。
間近で見る要塞は、不気味な雰囲気に包まれていた。
全長は、五十キロ近くにも及ぶ。向こう端は小さくてよく見えない。レーダー映像で見たのとは全然迫力が違う。こんなに大きいとは思わなかった。
もはや、これは人工惑星だ。
とんでもない建造物だ!
ただ、タカコの巨大戦艦が装備していたような巨大な大砲は見当たらなかった。

要塞からトヨネに向けてミサイルが放たれた。
数は五発。これも全部核弾頭付きで追尾式だ。本当に性格が悪い敵だ。
こうなったら、やることは一つ。トヨネは、追いかけてくるミサイルを引き連れて大きく旋回すると、要塞目掛けて突き進んでいった。
そして、両手からレーザーソードを伸ばして、それを前に突き出した状態でキリモミ状に回転しながら、高速で要塞に突っ込んだ。核ミサイルを背にしている以上、敵もトヨネに向けて至近距離で主砲を撃ち放つことは躊躇するだろう。
まるでドリルのように要塞に穴を開けてゆく。ヒメマツ星でも使った技だ。
ただ、あの時は巨大戦艦。今回は人工惑星みたいな要塞だ。これを貫通するのには、相当な労力がかかる。
でも、やるしかない。
トヨネは、要塞の中を突き進んでいった。
これを追いかけて、核ミサイルが要塞に突っ込んだ。要塞は、核ミサイルの直撃を受けたところから爆発を起こした。

続く核ミサイル群も、この爆発する中にドンドン突っ込んで行き、連鎖的に次々と爆発していった。そして、トヨネが要塞の中を突き抜けた直後、要塞は、あちこちから火を吹き上げて大爆発を起こした。
定番の方法かもしれないけど、これで核ミサイルは一掃されたし敵要塞も破壊した。私は敵をやっつけたと思ってホッとしていた。
もうクタクタだ。しばらく休みたい。

でも、トキに搭載されたレーダーは、ここから二億キロくらい離れたところに再びユリ・エナジーを捉えた。
モニターをレーダー映像に切り替えると、そこには超巨大宇宙戦艦が映し出された。
とんでもないド迫力だ。ヒメマツ星で見た巨大戦艦よりもさらに大きい。全長は十キロにも及ぶだろう。
できれば来ないで。少し休ませて!
でも、私のそんな気持ちは無視された。
その超巨大戦艦が、レーダー映像から消えて私達のすぐ目の前に姿を現した。小ワープしてきたのだ。
通信が入った。その超巨大戦艦からのものだ。

私は、通信チャンネルをオープンにした。すると、モニターに映し出された女性は、失礼なことに後ろを向いていた。
「貴様らのロボットが旋回した時に、念のため小ワープで非難しておいて正解だったな。まあ、あの要塞は旧型で、たいした攻撃力も無いし、そろそろスクラップにしようと思っていたところだじょ。処分する手間が省けたじぇい! 一応、礼を言っておくじょ!」
彼女が、こっちを振り向いた。
その姿を見て私は凍りついた。その女性はデビル・塞…つまり今の私と生き写しだ。


優希「驚いたようだな。まあ、名前だけ貸してやったみたいなもんだじぇい! 声は私が担当するがな!」

霞「今回、私は一人二役のようです。頑張りますけど、エロ女役って、ちょっと遠慮させてもらいたいわねぇ。」

優希「私が成長したら新子憧みたいになるとは限らないじょ! 石戸のお姉さんみたいになるかもしれないってことだじぇい!」

優希「あと、そのうち私も登場するじょ!」


私を見て三つ子達が怯えていたのは、これだったのだ。私を、このキヨスミ星の女性と勘違いしていたのだ。
その女性も、一瞬驚いたみたいだった。
でも、すぐにイヤらしい笑みを浮かべた。本当に表情がエロい。まさに、『イヤラシイ』の言葉がピッタリな女だ。
これは、これで少し落ち込む。
多分、周りから見れば自分も同じなのだろう。ナイスバディを手に入れて有頂天になっていたところもあるし、少し自重しよう。
「これは、凄い美女が乗っていると思ったら、私のそっくりさんだじょ。それと、その後ろにいる女二人はウィシュアート星付近で脱走した奴らだな。私は、ユウキ。キヨスミ星司令官の中で最も美しい女だじぇい! 私そっくりのお前。名前は何と言う?」
ハツミが言っていた『ユ…』はこれだったんだ。
たしかに、この女に似た女性といえば分かりやすい。
私は、ムスッとした声で答えた
「…塞。」
「珍しい名前だじょ。でも、私と一緒で男には不自由しないはずだじぇい。何と言ってもキヨスミ星一番の美女と同じ顔をしているのだからな。今まで、男は何百人くらいつきあう…と言うか、突き合ったか?」
言葉だけ聞いても言っている意味がよく分からない。
多分、文字にすれば分かりやすいのだと思うけど…。

恐らく、私が想像しているエロい内容…『突き合う』なのだろう。
ただ、この女。エロしか頭に無いみたいで気に入らない。
「これだけ美しいと侵略した星の男が喜びまくるじょ。中には戦う前から惑星を差し出すなんてのもあったじぇい。身も心も惑星までも、この私に支配して欲しいらしいじょ。女には恨まれることは多いが、これも美女の宿命って奴だじぇい!」
やっぱりこいつ、エロ女だ。
自分を過大評価し過ぎだ。何かムカつく。
でも、一歩間違ったら自分もこうなるかもしれない。
『人の振り見て我が振り直せ』
とは、よく言ったものだ。私は絶対こうならないように気をつけよう。
「塞とやら。さっきから黙っているが、どうかしたのか? もしかして、男より女が好きか? それでも私は構わないじょ。そっちもいけるからな。瓜二つの超美女同士だ。もの凄く絵になりそうだじぇい!」
もうウンザリだ。さっきから低俗な台詞ばかりだ。
この姿に変わったことを急に私は後悔した。


霞「随分、低俗な役ですわねぇ。」

優希「でも、たまには面白いじょ!」


何で、こんな女と生き写しなのだろう?
私が、この身体を貰ったのは昨日だ。でも、身体を固定する時の衝撃で気を失ってしまって、この身体になったのを知ったのは今日だ。
この身体になったのを知ってすぐにヒメマツ星からウィシュアート星までワープして、三つ子を助けて、それでここにワープしてきて…。まだ、この身体になったのを頭で分かってから半日も経っていないんだぞ!
あんまりだ。涙が出そうだ。
悔しくて無茶苦茶腹が立ってきた。
私は、モニター越しにユウキを睨んだ。
「ほう、ヤる気か。じゃあ、ヤってやるじょ。ただ、恐くなったら降参しても良いんだじぇい。その時は、私のペットになってもらうがな。勿論、エロい意味でだじょ!」
ユウキが、ペットボトルのようなものを取り出して、中身を一気に飲み干した。
その直後、まるでタイミングを見計らっているかのように、太いコードで繋がれたヘルメットのようなものが天井から降りてきた。ユウキは、それを装着すると、『ドカッ』と大きな音を立てて椅子に座った。
ヒメマツ星でタカコが強烈な主砲を撃ち放った前と行動が似ている。
それ以上に態度が大きいけど…。

敵の超巨大戦艦には、口径が200メートルにも及ぶ巨大な筒状のものが七つ装備されていた。色々なSFアニメで出てくる一撃必殺の特殊兵器を彷彿させる。
ユウキが、再びイヤラシイ笑みを浮かべた。
「カゼコシ砲、発射!」
彼女がそう言った直後、通信が切れた。
そして、それと同時に七つの筒状のものから、とんでもない光の束…と言うか、巨大なエナジーの塊が一斉にトヨネに向かって飛び出した。
正しくはユリ・エナジーとフクジ・エナジーの融合した超エナジー波。ヒメマツ星でタカコが撃ち放ってきたやつの超巨大バージョンだ。
さすがに、これの直撃はマズイ。いくらトヨネが頑丈でも壊れてしまう。
しかも、今回のカゼコシ砲はタカコの時と違って少しずつ広がりながら突き進んで来た。まるで、超巨大戦艦を頂点とした細長い円錐形を描いているようだ。
距離を取れば取るほど、より大きく上下左右に広がって行くので逃げ道が無くなる。余り円錐形が広がらないうちに超エナジー波に対して垂直方向に逃げるか、小ワープで逃げるかしかないだろう。

一先ず、トヨネは超高速で上方に避けた。
超エナジー波は、そのままトヨネの下を通り抜けていった。
でも、ユウキには、それくらいのことは、お見通しだったようだ。
間髪入れずに数十個も装備された主砲をお構い無しに連射してきた。そして、さらに百発近いミサイルまで撃ち込んできた。でも、自分に近い場所での爆発を想定しているのだろう。核反応は無かった。
トヨネは、ヒザマクラ・エンジンを搭載したトキと合体している。準光速まで速度を上げられる。当然、敵の攻撃を避けることは可能だ。
でも、私もクルミもハツミも体力の限界に来ていた。二度の長距離ワープが仇になった。
ミヤモリ・エナジーの供給量が下がっている。
それに伴って、トヨネとトキの機体を薄皮のように覆うエナジーのバリヤーも当然弱くなっている。
この状態で、もし攻撃を受けたらトヨネもトキも破壊されかねない。

敵のミサイルは誰かが操縦しているように複雑な動きをしていた。
イヤらしく、しつこく追いかけてくるものや、動きを読んで先回りしてくるものもある。こっちが疲れ切っていようとお構いなしだ。
ユウキが、さらに百発近いミサイルを撃ち込んできた。
凄くしつこくて、イヤラシイ性格だ。
嫌いだ、こいつ!

このままでは、やられてしまう。準光速走行がきつくなってきた。
仕方なく私はトヨネを一旦、小ワープで避難させた。
到着地点は、第十番惑星の衛星だった。
トヨネとトキは、合体を解いて大きなクレーターの影に身を隠すように着陸した。
ここなら、当分ミサイルは追いかけて来ないだろう。
私達は、既にダブルフェードインを解いていた。
とにかく休みたい。

「大丈夫ですか?」
後からヒナの声が聞こえてきた。
振り向くと、今までとは違って、彼女は心配そうな顔をしていた。私がユウキとは別人であることを少しは受け入れられたのだろう。
でも、ナズナとシロナは、まだ私と目を合わせられないでいた。操縦室に着てから一言もしゃべらない。黙ったままだ。
いったい彼女達は、どんな目に遭ってきたのだろう?
「塞さん。私達の態度を許してください。ユウキは、一ヶ月前までウィシュアート星侵略に来た軍の司令官でした。私達は、毎日のようにニュースとかで、あの女の顔を何度も見ていましたので…。」
たしかに、それならこの顔に拒否反応を起こしても仕方が無い。
ただ、この時、私はゼエゼエ息をするのだけで精一杯だった。しかも、喉が渇きすぎていて声を出すことさえ辛かった。
まるで喉の奥がぴったりくっついて開かない。そんな感じだった。
それでヒナに、
『気にしないで。』
の一言すら言えないでいた。

クルミが左右にフラフラ揺れながら、操縦室後方のドアから出て行った。例の一面鏡張りになったドアだ。
トイレだろうか?
彼女も既に飛ぶ元気さえなくなっていたようだ。


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百十本場:驚愕の事実、二連発

ここでも、美和は、まだ能力を全開にしておりません。


 準決勝第一試合中堅前半戦。

 南三局一本場、咲の連荘。

 初牌を一枚も切らずに一局を終えることは難しい。特に序盤では、初牌を切らずに進めることは大抵の場合不可能である。

 しかし、中盤以降は気をつける必要がある。

 咲が相手なら尚更である。

 そのことを美和は、身を以って体験した。

 

 この局では、特に初牌に気をつけていたが、

「ロン!」

 一枚切れの{西}をツモ切りしたところで、美和は咲に振り込んだ。

「えっ?」

 やはり、槓のイメージが強いのであろう。美和は、一瞬、何が起きたのか分からない様子だった。

 大明槓をケアする余り、普通の手で咲に和了られると、その直後、一瞬だが訳が分からなくなる。これもよくある光景だ。

 

 開かれた手牌は、

 {二二三三四四[⑤]⑥⑦34[5]西}

 

「一盃口ドラドラ。7700の一本場は8000。」

 子の満貫に相当する点数。結構痛い。

 これで美和は最下位に転落した。

 

 南三局二本場。

 ここでは、

「チー!」

 珍しく序盤から郝が鳴いた。

 副露したのは{横312}。

 

 その後の捨て牌からも、郝が索子に染めているのは咲も美和も華奈も分かる。当然、索子には十分注意だ。

 しかし、郝は、その後は自力で手を進めて行った。そして、中盤に差し掛かった丁度その時、

「ツモ!」

 郝は、自らの手で和了りまで持っていった。

 

 開かれた手牌は、

 {123[5]778899}  チー{横312}  ツモ{5}

 

 清一色赤1のハネ満だ。

「3200、6200。」

 ただ、中国麻将では、この手は一色双竜会と呼ばれる役満級の手である。

 郝が臨海女子高校に留学してきて以来、何回か披露されたため、今では女子高生達の間でも名の知れた役になってきているようだ。

 とは言え、本大会では一色双竜会は役として認められていないが………。

 

 

 オーラス、美和の親。ドラは{2}。

 再び食虫植物の罠が張られる。

 しかし、咲は、それに全然動じない。それどころか、美和に危険と思われる牌を平然と通してくる。

 牌が全部見えているとの噂はホントなのだろうと、今更ながらに美和は思っていた。

 

 そうなると、美和のターゲットは自然と郝か華奈に絞られる。

 美和としても、たとえ咲には適わなくても、順位では郝や華奈には負けたくない。なので、先ずターゲットにするのは、さっきハネ満を和了った郝になる。

 

 今回、郝は456の牌で集めているようだ。恐らく、中国麻将で言う全中を狙っているのだろう。

 ならば、狙いどころか{二八②⑧28}と言ったところか?

 

 数巡後、郝は、

 {四四五五五[五]六六②④246}  ツモ{⑥}

 

 狙いは、

 {四四五五五[五]六六④⑤⑥456}

 全中 三色三同順 一般高 無字 四帰一

 

 ここから郝は、先に{②}を落とした。ドラではないほうだ。

 しかし、これで、

「ロン!」

 美和が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二二二②②⑥⑦⑧22[5]67}

 

「タンヤオドラ3。12000!」

 結果的に、{②}と{2}の、どちらを切っても振り込みだった。

 この和了りで美和が2位に浮上した。

 

 当然、ラス親で1位でないのなら、和了り止めはタブーだ。

「一本場!」

 美和は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{7}。

 ここでも美和は和了りを狙う。

 次のターゲットは華奈か?

 ところが、

「ポン!」

 咲が早々に{①}を鳴いた。役牌でもないし、一般には意味不明だ。

 そして、数巡後、

「カン!」

 咲は{②}を暗槓した。

 

 またもや、副露牌に乗って咲のオーラが美和を襲う。

 ただ、この時、美和に見えた幻は、今までとは違っていた。

 巨大肉食獣が大きな口を開けて美和に一直線に突進してくる図。

「(ちょ…ちょっと、なにこれ!?)」

 今まで見えていたのは、食虫植物の楽園が壊されて悲しむ光景。ところが、今回見えてくるのは食い殺される恐怖の映像だ。さすがに、こんな幻は初めてだ。

「チョロ………。」

 美和のダムに亀裂が入り始めた。

「(ちょっと、ダメ!)」

 とっさに美和は、股間を両手で強く押さえた。一先ずセーフ。

 

 一方の咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {①}を加槓した。

 美和には、これが、

『もうイイ? 股間?』

 に聞こえた。

 つまり、

『放水は大丈夫?』

 と聞かれているように感じていたのだ。

 まあ、別に咲は、そんなことを言っていないのだが………。

 

 再び咲の強大なエネルギー波が美和を襲った。

 美和は、

「(絶対ダメだから!)」

 そう心の中で叫びながら、よりいっそう強く股間を押さえた。

 どうやらセーフだ。やり過ごしたようだ。

 

 そして、咲のほうだが、嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一6778}  暗槓{裏②②裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{7}  ドラ{7}  槓ドラ{北}と{3}

 中膨れ単騎の上に和了り役は嶺上開花のみ。

 それで満貫。

 美和が、『間違いなく咲は牌が見えている!』と確信した瞬間だった。

 

 これで中堅前半戦の順位と点数は、

 1位:咲 255300

 2位:美和 49900

 3位:郝 49300

 4位:華奈 45500

 咲の試合にしては珍しく、誰もトバず、誰も(まともに)漏らさずで、前半戦を折り返した。

 

 

 美和は、前半戦の終了と同時に、

「(ヤバイよ、これ!)」

 対局室を出て、大急ぎでトイレに向かった。

 

 この頃、某掲示板では、

「一大事、一大事ですわ! 郝はともかく、他の二人も放水していませんわ!」

「エニグマティックだじぇい!」

「ないない! そんなの!」←初美は、こればっかりですね

「そんなオカルトありえません!」←和も、以下同文

「イヤだ、モー!」

「先輩が悲しむデー」

「でも、キラーの中堅はもう少しでスバラなことになりそうでした」

「キラーってどこですのだ?」

「綺亜羅のことだと思」

「キラーのメンバー入りに期待したいとこやけど、そんな未来は見えへん」

「そんな未来を見せて欲しいと!」

「宮永が手を抜いたんじゃないのか? by高二最強!」

「手は抜いてないと思うし! キラーが頑張って絶えたんだし!」

 新規放水メンバー入りがなかったため、残念がる人が多かった。ただ、美和のメンバー入りを期待する声は多かったようだ。

 

 

 さて、その期待された美和だが、

「(一先ず、スッキリしたぁ。)」

 トイレで出すべきモノを出し終えていた。

 さすがに彼女としてもメンバー入りはしたくない。そんなことで全国に名を轟かせたくないし、某掲示板のネタにされるのはイヤだ。

 

 そして、彼女は自販機の前に来た。

 喉は渇いたが、さて、何を購入すべきか?

「お漏らし対策も考えなきゃいけないから、冷たいモノは基本的に避けたほうが良いよね。それと、お茶は利尿作用があるって言うから絶対パスだよね!?」

 勿論、喉の渇きを取るものなので、お汁粉とか飲むモンブラン、飲むフォンダンショコラなども今回はパスだ。逆に喉が渇きそうだ。

 ミルクセーキも同じ。

 ココアも同じ。

 コーヒーも紅茶も利尿作用があるって話だし………。

 結局、美和は暖かいレモン水を購入した。

 

 

 一方、する側ではなく、させる側の咲は、恭子に連れられてトイレに来ていた。

 美和とは別のトイレのようだ。

 一応、何かの区切りの際にはトイレに行っておく。そのような指導を小学校から受けてきたため、未だに条件反射として咲の身体には染み付いているのだ。

 用足しを終えると、咲も恭子に連れられて自販機の前に来た。

 が、そこには美和もいた。

「あ…あの…。」

 何かを話した方が良いのだろうが、咲は、少々社交性に欠ける。何を話して良いのか分からない。

 すると、美和から話し掛けてきた。

「やっぱりチャンピオンは強いわぁ。一応、私が綺亜羅のエースってことになってるんだけどね。手も足も出ないわぁ。」

「いえ、的井さんも、結構強いと思います。」

「そんな、50000点以上も削られてるのに?」

 こう言われて咲は返答に困った。何を言っても嫌味になるように思えてきたのだ。

 

 すると、恭子が、

「いや、あんたは強いで。本気の咲が相手なら、普通に全国大会に出てくる程度の高校生じゃ全員トバされとる。」

 と助け舟を出した。さすが、咲のことを良く分かっていらっしゃる。

 ただ、恭子は、気が回らないほうではないが、お世辞も言わない。本当に、恭子は美和のことを強いと認めて、そう言ったのだ。

「たしかに、某掲示板とかを見ると、宮永さんにトバされて失禁する人多数とかありますけど…。」

「あれなぁ………。まあ、でも、あれは嘘やないからな。それに、咲の下家に座っとったのに、よう耐えた思うで。」

「でも、ちょっとヤバかったです。」

「そっか。あれは、全国上位の選手でも耐えられへん時あるからな。」

 たしかに、佐々野みかん(佐々野いちご妹)や多治比麻里香(多治比真佑子妹)、石戸明星など、有名どころも被害に遭っている。

「たしかにそうですね。」

「初めて、うちが咲と卓囲んだ時は、あそこまで激しくなかったんやけど、一昨年の全国大会個人戦からかな、あれだけ強烈になったんわ。」

「そうだったんですか?」

「たしか、咲。あれは、松庵の多治比真佑子、鹿老渡の佐々野いちご、劔谷の椿野美幸との対局からやったっけ?」

 こう恭子に聞かれて咲が、

「だって、あの時は三人とも凄く綺麗で、私だけ見劣りしていて処刑台に立たされているみたいに感じたから、つい………。」

 と小声で答えた。

 これを聞いて、美和は唖然とした。

 全女子高生雀士を震え上がらせる恐怖のオーラの覚醒は、全て咲の顔面偏差値の劣等感から来るものだったとは………。

 

 まあ、美和が見る限り、咲の顔面偏差値は標準を十分超えているとは思うが………。本人は、それだけ自分のことを過小評価していると言うことだろう。

 ただ、これを聞いて、世界大会準決勝でロシアのナタリア、ジョージアのリリア、ルーマニアのダニエラが派手にやらかした理由が分かった気がした。

 

 恭子が、

「まあ、後半戦もお手柔らかに。それで、咲。何か買うんやなかったっけ?」

 と言うと、

「あっ! そうです。オレンジジュースを。」

 と、慌てて咲が自販機でオレンジジュースを購入した。

 ただ、その隣には、いつもの………つぶつぶドリアンジュースが置かれていたのは言うまでもない。

 

 ふと、美和が、

「でも、宮永さんって、あれだけ強いのに、コーチの方と休憩時間中にも作戦会議とかするんですね。」

 と咲達に聞いた。

 すると、咲が、

「別にそうじゃなくて。私、方向音痴が酷くてコーチに付き添ってもらってるんです。それで………。」

 と恥ずかしそうに答えた。

 そう言えば、前半戦が始まる前にも恭子が咲に付き添っていた。

 インターハイでも、憧がいつも一緒にいた。

 あれは、仲が良いとか作戦会議とかアドバイスとかではなく、単に一人でトイレにも対局室にも行けないってこと?

 美和は、これが今年になって………いや、高校に入学して以来、一番驚いたことだった。

 …

 …

 …

 

 

 それからしばらくして、咲と美和が対局室に戻ってきた。あの後も、なんだかんだで談笑していたようだ。

 既にLINEの登録もした。すっかり仲良しになったようだ。

 

 しかし、勝負の世界は厳しい。ここからは本気モードだ。

 咲は、別れ際に恭子から受け取った袋を開けた。

 これを見て、美和が、

「咲ちゃん、なんなのそれ?」←既に、ちゃん付けしている

 と聞いた。すると、咲が、

「タコスだよ、美和ちゃん! これを食べて一気に勝負をつけろってコーチから」←こっちも、ちゃん付けになっている

 と答えた。ただ、第三者からすれば、何故タコス?

 たしか、某掲示板にもタコスネタは書いてあったけど、あれって、単なるギャグじゃなかったのだろうか?

「ええと、タコスが好きなの?」

「実はね。長野の伝説でタコスを食べると起家になれるってのがあるの。」

 そう言うと、咲はタコスを急いで食べた。

『たしかに掲示板にも、そう書いてあったけど、それって本当なのかい!』

 と美和は本気で思った。

 

 ただ、この時、美和は、起家になれると言う部分のインパクトが強くて、

『一気に勝負をつけろってコーチから』

 の部分について咲に質問するのをすっかり忘れた。

 これは、対局後に確認することになるのだが………。

 

 

 全員が卓に付き、場決めの牌を引くと、たしかに咲が東を引き当てた。

「(あれって本当だったんだ。)」

 高校に入学して以来、美和が二番目に驚いた件であった。

 

 また、南家は美和、西家は華奈、北家は郝に決まった。

 よりによって咲の下家とは………。

 ちゃんとトイレに行っておいて良かったと美和は思った。

 

 

 東一局、咲の親。

 当然、某掲示板では、

「咲ちゃんが起家だじぇい! しかも綺亜羅が下家だじょ!」

「これはスバラな展開になりそうですね!」

「当然ですわ! これでデビューしないなんて有り得ませんわ!」

「でも、なんだか綺亜羅の中堅と咲様、仲良さそうにしてますよー」

「そんなオカルトありえません!」

「じゃあ綺亜羅の子、みかんポジションになったってことやろか? その未来は見えへんかったなあ」

「でも、みかんほどオモチは無いのです!」

 それなりに賑わっていた。

 

 

 東一局、咲の親。

 咲が全員トバしを狙って、一気にツモ和了りを連発すると誰もが期待した。特に某ネット掲示板住民達は、そう強く願っていた。

 しかし、咲は、

「(前半戦は、郝さんは美和ちゃんに引っ掻き回されて自分の力が発揮し切れていなかったけど、多分ここでは巻き返しを狙ってくる。美和ちゃんもなんだかんだで強いし、全員トバしはムリだよね。じゃあ………。)」

 ネット住民の期待に沿わない試合運びをすることに決めていた。

 そもそも前半戦では、咲自身も初顔合わせの美和の打ち方を観察していたら、いつの間にか特大リードされていた。たしかに底力のある選手だ。

 だったら、一番弱いところからドンドン点数を奪ってしまえば良い。

 

 咲の第一打牌は{②}。そして、第二打牌は{五}。

 これは嫌なモノを狙っていそうだ。

 しかし、そう簡単に聴牌できるものでもないだろう。それで、嫌な牌は今のうちに処理しようと華奈が{⑨}を捨てた。

 ところが、

「ロン! 国士無双。48000!」

 これで咲が、まさに『嫌なモノ』を和了った。

 まさかの二巡目であった。

 

 東一局一本場、咲の連荘。ドラは{3}。

 七巡目、華奈の手牌は、

 {一三四五六七③④[⑤]333[5]}  ツモ{八}

 高目でタンヤオ三色同順ドラ5の倍満。

 ここで当然、{一}切り。

 

 そして、八巡目、華奈は{②}を引いてきた。

 当然、ツモ切りだ。

 しかし、これを、

「カン!」

 咲が大明槓してきた。

 前半戦と同様に美和に向かって咲のオーラを乗せた副露牌が迫ってくる。ワニが巨大な口を広げて自分に突進してくるような感覚だ。

 嶺上牌を引くと、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {二}を暗槓した。

 またもや美和に向かって副露牌が迫ってくる。今度は、まるでホオジロザメが口を大きく広げ、美和を目掛けて頭から突っ込んで幻影が見える。

 さらに咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{⑧}を暗槓した。

 美和には、まるでティラノサウルスが美和を狙って頭ごと突っ込んで幻が見える。

 再び美和は、

「チョロッ………。」

 ダムに亀裂が入った。しかし、既に出すものは事前に出しておいたので、幸運にも数滴分の放水だけで全てが終わった。

 多分、見た目にはセーフだ!

 咲は三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 これで和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤222}  暗槓{裏⑧⑧裏}  暗槓{裏二二裏}  明槓{横②②②②}  ツモ{[⑤]}

 タンヤオ対々和三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。三倍満だ。

 

「36300です!」

 これで、華奈の点数は15700点まで減らされていた。あっと言う間の出来事だった。




おまけ
前回の続きです


七.『愛の美の女神?』

ドアの向こうでガサガサ音がしていた。
黒かったり茶色かったりする嫌な昆虫の音ではない。クルミがドアの向こうで何かを探しているみたいだ。
数分後、彼女が元気な顔で操縦室に入ってきた。
「ハツミ。塞。これを飲んで。」
彼女から錠剤を受け取った。色はピンクで綺麗だけど、何だか変なニオイがする。はっきり言って臭い!
でも、ハツミは全然ニオイを気にしていないのか、その錠剤を口に入れて飲み込んだ。すると、その直後、急に彼女は元気になった。
疲労回復剤だ。少なくとも彼女達の顔を見れば、その効力の凄さが分かる。
だけど私は、なかなか口に入れられずにいた。臭くて抵抗があった。納豆が嫌いな人に納豆を差し出したら、きっと同じ反応をするだろう。
でも、いつあのエロ女がワープしてくるかもしれない。
腹をくくれ。私!

私は目を瞑って錠剤を口に入れた。でも、のどが渇いて、くっついているような感じがしていて、なかなか錠剤を飲み込めない。
すると、ナズナがリュックの中から水筒を取り出して、カップに中身を注いで私に差し出してくれた。
「こ…これで、飲んでください。」
初めて彼女の声を聞いた。顔から想像していたとおりの可愛らしい声だ。
「あ…有難う。」
対する私の声は掠れていた。
いい匂いがする飲み物だ。
私は、その飲み物を口に含み、一気に錠剤を喉の奥に流し込んだ。
その直後、急に身体の奥底から力が湧いてきた。凄い威力だ。この錠剤を創った奴は偉い。これなら、あの女に太刀打ちできそうだ。
ニオイは何だけど…。

レーダーが敵の超巨大宇宙戦艦を捉えた。向こうも、こっちの大体の位置を把握しているのだろう。ワープしてきたようだ。
しかも、あのミサイル群まで連れてきている。超巨大戦艦の周りを、まるでミサイルが取り囲んでいるようだ。
突然、ミサイルがこっちに突っ込んできた。位置がバレたようだ。
クルミとハツミは急いで私にダブルフェードインした。そして、私は急いでトヨネとトキを合体させた。

トヨネは衛星の地面に沿って低空飛行した。
それを目掛けて、まるで豪雨のようにミサイル群が降り注いできた。
トヨネは低空飛行のままミサイルを避け続けた。
ミサイルが次々に地面にぶつかり、激しい音を立てて爆発して行く。そして、数分後には残り二十~三十発まで、その数は減っていた。
派手なミサイルの使い方だ。非常にもったいない気がする。
でも、私達さえ倒せるのなら、どんな手段でも構わないのだろう。
それに、向こうにはミサイル以上の武器がある。

超巨大戦艦から七本のエナジー波が撃ち放たれた。ミサイル以上の武器、カゼコシ砲を発射したのだ。
多分、私達を一気に吹き飛ばそうと考えているのだろう。
トヨネは超高速でカゼコシ砲を避けた。そして、軌道を変えて、そのまま一気に超巨大戦艦の上に回った。
すると、四本のエナジー波がトヨネを目掛けて襲ってきた。なんと、超巨大戦艦の上部にも口径百メートルにも及ぶカゼコシ砲が装備されていたのだ。
大きさからして、パワーはヒメマツ星で相手にした巨大戦艦のカゼコシ砲と同じくらいだろうか?
多分、一発くらい受けてもトヨネが壊れることは無い。でも、一発受けたら、そこで一瞬動きが止まる。
そこに何発もお見舞いされたら話は別だ。いくら頑丈なトヨネでも機体がもたないだろう。
しかも、それらのカゼコシ砲は、戦艦上方のいずれの方向にも向けることができる優れものだ。こっちが避けるように動いても簡単に照準を合わせてくる。

トヨネを高速で超巨大戦艦の下方や後方にも回らせてみたけど、やっぱり同じような装備が施されている。抜け目が無い。
超巨大戦艦から容赦無しにトヨネを目掛けて超エナジー波が連射されてきた。全然、近づくことすらできない。
この時だった。私の頭の中に、今まで聞いたことの無い女性の声が語りかけてきた。
正しくは、私の中にフェードインしたクルミに向けて発してきたテレパシーだった。
「クルミ、遅くなってゴメン。」
「アコなの?」
「うん。今、やっと完成したわ。これから、そっちに送るから。」
「分かったわ。急いで!」
トヨネの両掌から電撃を放ってカゼコシ砲の破壊を試みた。でも、その電撃でさえもカゼコシ砲から発射される強力なエナジー波で吹き飛ばされてしまう。
もう駄目かもしれない。
そう思った丁度その時だった。
突然、私達の目の前に何かがワープして現れた。そして、それは超巨大戦艦を目掛けて自ら突っ込んで行った。
金色に輝く両翼を持った鳥の姿をしたロボットだった。七色に輝く長い尾をなびかせるその美しい姿は、まるで不死鳥のように見えた。
そのロボットが超巨大戦艦の下方に回った。
当然、『待っていました』と言わんばかりに、超巨大戦艦下方に装備された四つのカゼコシ砲が、そのロボットに向けて一斉に牙をむいた。
でも、その凄まじいエナジー波の直撃をものともせずに、そのロボットは超巨大戦艦に向けて、さらに突き進んでいった。
信じられない光景だ。
私は、すっかり言葉を失った。
すると、私の頭の中にクルミが語りかけてきた。
「あれが、三体目のロボット『リューカ』よ。塞の身体で増幅された私達のミヤモリ・エナジーをトキと同じように受けることで機体表面に特殊なバリヤー『キラメ・スバラ・バリヤー』が張り巡らされるの。それが、あの超装甲装備の正体よ。私達から供給されるエナジー量次第では、原爆数個分の爆発力まで何とか耐えるはずよ。」
それが本当なら、とんでもないやつだ。


竜華「凄いディフェンス力やけど、それならうちより洋榎のほうが合ってたんやない?」

怜「でも、うちと一緒に戦う前提なら竜華でエエんちゃう?」


リューカは、そのまま超巨大戦艦まで突き進み、目からレーザー砲を放って、戦艦下方のカゼコシ砲を全て破壊した。この鳥、とんでもない秘密兵器だ。
チャンスだ。
私は、トヨネを戦艦下方から突っ込ませようとした。すると、クルミの声が再び私の頭の中に響いてきた。
「ちょっと待って。」
「でも、下方から一気にトヨネで攻撃すれば…。」
「実践で試したいことがあるの。リューカと合体して。トヨネとトキを合体させる時みたいに念じてくれれば良いから。」
「…うん…。」
私は、クルミに言われるとおりにした。
すると、私の頭の中に、ある言葉が浮かんできた。クルミの記憶の中から見つけた言葉だ。
私は、その言葉を無意識に口にした。
「モードチェンジ・スコヤン!」
すると、トヨネとトキの合体が一旦解除された。そして、トキがトヨネの頭の上に再合体して、頭に大きな翼を持つ人魚の形になった。
まるで、トキの胴体部分が帽子になって、それをトヨネが深めに頭に被ったみたいな感じだ。
トキの二つの頭が鉤爪のような形に変わった。まるで一対の触角みたいに見える。
続いてリューカが首を胴体内に縮めて、トヨネの腰の少し上辺りに合体した。
三体のロボットは、二対の翼と不死鳥の尾をなびかせる人魚の姿になった。でも、この姿は合体劇の通過点でしかなかった。
トヨネの魚型の尾が正面真ん中からスリットが入ってゆくように縦に切り開かれていった。そして、その中から白い足が出てきた。
切り開かれた尾は変形して縮んで行き、ミニスカートのようになった。


竜華「姉帯さんと一緒だけど、やっぱり怜と私が合体するんやね!」

怜「せやな。」

竜華「やっぱり、不死鳥型ロボットは洋榎やなくて、うちで正解や!」


「ねえ、クルミ。これって?」
「これが、トヨネ達が一体化した姿。これを製造担当者達はジャージ姿が似合う戦士『スコヤン』と呼んでいるわ。正しくは、『スコヤン』はムチャクチャ強い雀士のことなんだけどね。」
「ムチャクチャ強い雀士?(なんで雀士が関係するの?)」


健夜「ちゃんと台本に従ってよ! そこは、愛と美の女神でしょ! それにジャージは関係ないでしょ!」

塞「じゃあ、やり直しね。」


「これが、トヨネ達が一体化した姿。この姿を、私達は麗しの戦士『スコヤン』と呼んでいるわ。『スコヤン』は、カクラ星の言葉で『愛と美の女神』を意味するの。」
「まるで、地球で言うヴィーナスみたいね。」
「そうなんだ。じゃあ、これで戦艦の正面からガチンコ勝負して!」
「えっ? 正面?」
私はクルミの言葉を疑った。
超巨大戦艦の正面から突っ込んだら、七つの巨大なカゼコシ砲の餌食だ。あの破壊力は、さっきリューカが受けたものとは威力が違う。
でも、それを分かった上でクルミは正面からの勝負を望んでいた。
「一応、計算上は大丈夫なはずよ。それに万が一、ヤバそうだったら小ワープで逃げれば良いから。」
クルミと心を共有する今、彼女の自信がヒシヒシと伝わってくる。
私って単純だ。
彼女は根拠を持って言っているのだろうけど、私には、その根拠が見えない。
でも、彼女の自信に影響されて、
『絶対に大丈夫、勝てる!』
と思い込んでいる。
そして、疑うことなくスコヤンを超巨大戦艦の正面に高速移動させた。

ユウキが渾身の力を振り絞って七つの巨大カゼコシ砲にエナジーを送り込み、一斉にスコヤンに向けて強烈なエナジー波を撃ち込んできた。
私は無意識にスコヤンの機体を皮一枚で覆うように薄いバリヤーを張った。こんな機能が付いているのを私は知らなかったけど、クルミの記憶が私に働きかけたのだ。
どうやら、このバリヤーはリューカから発されていた。強固なキラメ・スバラ・バリヤーと同じものだ。それで、スコヤン全体をガードと言うかコートしていたのだ。

強烈なエナジー波がスコヤンに直撃した。
でも、あの巨大カゼコシ砲のパワーでもキラメ・スバラ・バリヤーを撃ち壊すことができなかった。私が思っている以上に、このバリヤーは強力だ!


煌「スバラです!」


巨大カゼコシ砲の威力を、クルミは完全に読みきっていたのだ。
クルミもスコヤンも、とても心強い。

そして、このバリヤーに全身を包んだまま、スコヤンは超巨大戦艦に正面から一直線に突き進んでいった。
スコヤンは巨大カゼコシ砲の一つに飛び込むと、そのまま弾丸が身体を貫通するように超巨大戦艦の機体を前から後まで貫いた。

超巨大戦艦が轟音を上げて爆発した。
その爆発の中から脱出機が飛び出した。あのエロ女だ。
私はスコヤンを、その脱出機の前に高速移動させた。そして、レーザーソードでその脱出機を切り裂こうとした。
「死ね。このクソエロ女!」
でも、レーザーソードを最後まで振り下ろせなかった。途中で腕が止まった。
今までは敵の戦艦や戦闘機とかを無機物を破壊するように攻撃できた。
だけど、それらにはキヨスミ星人が乗っている。敵だけど、地球人じゃないけど、私と同じ人間だ。
つまり、戦いに勝つことは人を殺すのと一緒だ。
急に、そんな想いが私の頭の中を駆け巡った。

太陽系でノドカの軍を破った時は、私ではなくクルミの意思で戦っていた。私は、ある意味傍観者だった。
ヒメマツ星でタカコと戦った時は、私が敵を倒したけど、タカコの姿を見ながらトドメを刺したわけではない。勢いで脱出機を後から攻撃した。
さっきの超巨大戦艦もそうだ。ユウキの姿を見ながら攻撃したわけではない。

でも、今は脱出機に乗るユウキの姿を正面から見てしまった。
ここでレーザーソードを振り下ろしたら、ユウキの身体を切り裂いてしまう。
ユウキは気に入らないけど、私には彼女を殺すことができなかった。
脱出機の操縦席では、ユウキが身を小さく縮込ませていた。もう完全にやられると思っていたみたいだ。
私は、何故か泣いていた。
「さっさと何処かに行ってしまえ。このエロ女!」
そう言うと私は、スコヤンに脱出機から背を向けさせた。
ユウキはキョトンとした顔だった。
「何故泣くじょ? 何故殺さないんだじょ?」←やっぱり、霞みたいな女性が、この口調で話しているのは中々想像し難いですね
そのユウキの問いに私は答えられなかった。
「私を助けたこと、必ず後悔するじょ!」
悔しそうな声でそう言うと、ユウキは脱出機をワープさせた。


ハツミがフェードアウトした。
私の身体はゴッド・塞の姿に変わった。
頭の中にクルミの声が響いてきた。
「塞、気を切り替えて。カクラ星に急ぎましょう。一先ず、試したいことは成功したわ。あなたのお陰よ。」
「…うん…。」
私は非情になりきれない。
でも、報酬をもらってしまった以上は戦い続けなければならない。
宇宙戦争に行くことは人殺しになること。これを見抜けなかった私はバカだ。

でも、敵を倒さなければ、地球にもキヨスミ星の手が伸びるかもしれない。それを考えれば結局は戦わなくてはならないのだと思う。
多分、ベクトルとしては間違ったことはしていないのだろう。でも、私は現状を割り切れずにいた。


スコヤンが、カクラ星に向けて小ワープに入った。
気が付くと、地球に似た星の姿が目に飛び込んできた。
これがカクラ星だ。
なんだか、心が洗い流されるみたいだ。その美しい星の姿を見て、私の心は次第に落ち着きを取り戻していった。


大気圏に突入した。
しばらくすると大陸が見えた。
地球と同じ感覚で言えば、川とか湾の辺りに都市部が形成される。でも、全然建物が見当たらない。カクラ星人達の生活が上空からは見えてこないのだ。
クルミの意思に従ってスコヤンが着陸した。そこは、荒野とも言うべき、まさに荒れ果てた土地だった。
周りには瓦礫の山が散見される。建物はあったのだ。でも、キヨスミ星の攻撃で全部破壊されてしまったのだろう。
クルミがフェードアウトした。
これに呼応するかのように、スコヤンは元の三体のロボットの姿に戻った。私もユウキにそっくりな姿に変わった。

急に地面が下がっていった。まるで巨大なエレベーターだ。
三体のロボットが地面の下に全て納まると、天井が金属板で塞がれた。地下にクルミ達の基地があるのだ。
クルミやハツミと同じ背格好の女性がトヨネの前まで飛んできた。
「クルミ。一旦、私をトヨネの中に入れて!」
「どうして?」
「塞に渡さなければならないものがあるのよ。」
クルミが念じると、その女性の身体が白く光った。そして、次の瞬間、その女性はトヨネの操縦室内に瞬間移動してきた。
彼女は、私を見るなり驚きの表情を見せた。
「たしかに良く似ているわ。これでは、このまま降ろすわけには行かないわね。」
彼女が私の目の前まで飛んできた。
「私の名はアコ。この基地の司令官よ。済まないけど、塞には、これを付けてもらう必要があるわ。」


憧「まさか、私が小人役になるとはね。でも、まあ、いっか。シズと一緒だしっ…て、ゴメン。ネタバレしちゃった!」


それはスイッチの付いたブレスレットだった。
私はアコに言われたとおり、ブレスレットを左手首につけてスイッチを入れた。すると、急に身体が冷えたような感覚がした。
身体が、うっすらと白く光っている。そして、その光がおさまった時、私は何だか違和感を覚えた。
三つ子達の視線が変わった。
何故か、私の顔を見て怯えなくなった感じがする。
腕も、少し短くなった感じがする。でも、見たことがある。
操縦室後方の姿見兼用のドアに見覚えのある女性の姿が映っている。
そうだ、以前の私だ。元の姿に戻されたのだ。
「どうして?」
私の心の声が、ついつい言葉になって出てしまった。
「塞。済まないけど、この星に居る間は、その姿でいて欲しいのよ。ユウキが来たと勘違いされては困るから。」
たしかに、そう言われればそうだ。アコの言うとおりだ。
あのエロ女はカクラ星に侵攻してきた敵の司令官。それと瓜二つの私が、この基地内をウロウロしていたら間違いなくパニックに発展する。

ただ、不思議なことに、この姿に戻って私は何故かホッとしていた。
憧れのナイスバディではなくなったのに、こっちの方が落ち着いていられるような感覚があった。
この姿が本当の自分と思っているからかもしれないし、もしかしたらエロ女への嫌悪感がそうさせているのかもしれない。


操縦室からトヨネの足元に私達は瞬間移動で降ろされた。そして、私達は基地内部のある部屋に通された。
本来、この地下基地はカクラ星人に合わせたサイズで建設されている。だから、私やカナの妹達には入れないところがたくさんある。

通された部屋は、私達のような人間が入れるように特別造られたところだった。二十畳くらいの割と広い空間で、隅の方には何故か医療用のベッドが置かれていた。
私は、その医療用ベッドに寝かされた。
頭の上の方からクルミの声が聞こえてきた。
「言い忘れたんだけど、疲労回復の錠剤を飲んだじゃない。」
「うん。」
「あれってカクラ星人には問題無いんだけど、他の星の人の場合、たまに常習性が見られるケースがあるのよ。」
「嘘?」
「本当よ。勿論、一回使用したくらいで常習性が出ることは無いけどね。それで、検査させて欲しいの。もし常習性がありそうな体質なら、これから先は、あの錠剤を塞は使えなくなるわ。一瞬で疲労回復できるかできないかで戦い方も変わるから…。」
まず、私の右腕から血液が採取された。
続いてエコー検査。
それが終わると、紙コップを渡された。尿検査だ。私は部屋に備え付けのトイレに連れて行かれた。
トイレから戻ってくると、今度は私の頭、腕、足、お腹、悔しいけど元に戻った胸にコードが繋がれた。まあ、無い胸では無いけど………。人間ドックを連想させる。
いったい、何を測定しているのか私には分からない。ただ、結構時間がかかる。次から次へと、色々な装置で私の身体データが取られてゆく。
検査中、いつの間にか私は眠ってしまった。なんだかんだで疲れていたみたいだ。


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百十一本場:御無礼

 準決勝第一試合中堅後半戦。

 東一局二本場、咲の連荘。ドラは{四}。

 もう華奈には後が無い。いきなり後半戦立ち上がりの二局で84300点も削られるとは、想像もしていなかった。

 それで現在、放心中である。

 

 咲は、ここではヤオチュウ牌から処理をしていた。

 さすがにこの局では、華奈も初牌には気をつけていた。

 しかし、七巡目で二枚切りの{9}を捨てた直後だった。

「ロン。」

 咲の和了り宣言が聞こえてきた。大明槓ではない。和了りだ。

 

 開かれた手牌は、

 {四四五[五]六六⑤[⑤]45678}  ロン{9}

 

「平和一盃口ドラ4。18600です。」

 これで華奈が箱割れして終了した。

 

 

 これで中堅後半戦の順位と点数は、

 1位:咲 202900

 2位:美和 100000(席順による)

 3位:郝 100000(席順による)

 4位:華奈 -2900

 この準決勝戦で、まさか、

『東二局は来ない!』

 をやるとは、凄まじいパワーである。

 

 中堅戦前後半戦合計は、

 1位:咲 458200

 2位:美和 149900

 3位:郝 149300

 4位:華奈 42600

 

 そして、これまでの全体のトータルは、

 1位:臨海女子高校 784600

 2位:綺亜羅高校 721400

 3位:阿知賀女子学院 714900

 4位:朝酌女子高校 179100

 阿知賀女子学院が一気に追い上げ、臨海女子高校、綺亜羅高校、阿知賀女子学院の三強状態となった。

 また、勝ち星も臨海女子高校、綺亜羅高校、阿知賀女子学院が各々一つずつ取った状態となった。

 

 

 放送映像が、急遽対局室から放送席に切り替わった。

 案の定、対局室では、

「ジョジョジョ―――!!!」

 極度の緊張から開放された安堵感から、華奈がヤッてしまった。

 咲と郝と美和は、

「「「あ…ありがとうございました!」」」

 対局後の一礼を済ませると、さっさと対局室を後にした。

 

 対局室の扉付近には、既に補員の車井百子(車井百花妹)の姿があった。要するに咲のお迎えだ。

「お疲れ様です。」

「ありがとう、百子ちゃん。」

 咲は、

「じゃあ美和ちゃん、また後で!」

 美和にそう言うと、百子に連れられて控室に戻って行った。

「(本当に一人で帰れないんだ!)」

 この様子を見て、美和は、咲の方向音痴の酷さを再確認するのだった。

 

 この頃、某ネット掲示板では、

「特定はよ!」

「これは絶対キラーだじょ!」←キラーは綺亜羅高校の意味です

「たしかに、前半戦では股を強く押さえていたっス!」

「こちら現場! 朝酌の補員がジャージを持って対局室に急行した模様!」

「残念、キラーじゃなか!」

「でも、華奈って初デビュー?」

「華菜ちゃんはデビューしてないし!」

「お前じゃない! by高二最強!」

「咲さん、キラーの子と仲良くしてましたね! それで手を抜いたんですね! 手を抜かないって約束したはずですのに!」

「みかんと同様、咲と仲良くなると原点付近で済まされるんだと思」

「今回は原点付近ではなく原点丁度ですのだ!」

「キラーじゃないなんて、ないない! そんなの!」

「綺亜羅がキラーで定着した件」

「でも仲間がいて嬉しいよモー! でもキラーのほうが面白かったかモー!」

「先輩が複雑な心境デー」

 華奈の放水で、それなりに喜んでいたようだが、やはり美和のデビューの方を望んでいたのが多数派だったようだ。

 

 

 美和が控室に戻ると、

「良く耐えたね! ネットでは大多数が美和の放水を望んでいたみたいだけど、ネタにされなくて済んで良かったよ。」

 開口一番、静香がそう言った。

 勝敗も大事だが、やはり友人がネタにされて弄られるのを彼女は一番怖がっていたようだ。

 ヤらかさないのは、スター選手ばかり。いや、スター選手でも、最初は洗礼を受けることがある。

 加えて、放水リピーターもいる。

 ネタにされずに何よりだ。

「本当に頑張ったし、お疲れ! でも、チャンピオンと仲良くしていたってホント?」

 こう聞いてきたのは鳴海。

 既に某ネット掲示板を読んでいたようだ。

「ええと、自販機の前で少し話をしてね。LINEも登録したけど…。」

「「「「ええっ!」」」」

 宮永咲と言えば、今の女子高生雀士の憧れの的であり大スターである。その咲をちゃっかりLINE登録しているとは………。

「でも、リュウ(鳴海のこと)は、なんで私が咲ちゃんと仲良くしてもらえたって知ってるの?」

「「「「咲ちゃん!?」」」」

 美和から出てきた言葉は、チャンピオンでも宮永さんでもない。咲ちゃんである。

 ホントに、いつの間に?

 これには周りも驚いた。

「あのね。ネット掲示板にさ、チャンピオンと美和が後半戦になったら急に仲良さそうになってるって書いてあってね。」

「まあ、休憩中にお友達になったけど、でも、そこまで分かるものなの?」

「分かるらしいよ。」

 鳴海が自分のスマホを美和に見せた。某ネット掲示板のページが開かれている。

「ゲッ! ホントだ!」

「それとチャンピオンは仲の良い人からは派手に点数を削らないって話もあるからさ。」

「そうなの? でも、手を抜かれたんだったらイヤだな。まあ、チームとしては助かるけど………。」

 美和は、早速LINEで咲に連絡を入れた。

 

『今、チームのみんなから咲ちゃんは友達からは点数をあまり削らないって聞いたけど本当? もしかして後半戦は私から点棒奪うの遠慮してた?』

 すると、割と早く咲から返信が届いた。

『美和ちゃんに遠慮したわけじゃないよ! 美和ちゃんとかハオさんが和了りだすと面倒だから、一番弱いところを一気に叩き潰しただけだよ! コーチからも一気に勝負を着けろって言われてたし。』

 やはり、『勝つ』ではなくて『叩き潰す』のようだ。

 これを見た美和達は、

「「「「「(叩き潰すって?)」」」」」

 目が点になった。まあ、美和が叩き潰される対象にならなかっただけ良しとしよう。

 それと、後半戦が始まる前、咲がタコスを口にする直前に言っていた、

『これを食べて一気に勝負をつけろってコーチから』

 の意味を、美和は、ここでようやく理解した。確実に勝ち星を決めろと言う意味だったのだろう。

 ただ、それを本当にやってしまうところが恐ろしい。

 まさか、準決勝戦レベルの試合で、100000点持ちの半荘が東一局だけで終わるとは思っていなかったからだ。

 

 再び美和がLINE入力した。

『じゃあ、手加減していたわけじゃないんだね。ありがとう。』

 すると咲から即答が来た。

『和ちゃんと絶対手加減しないって約束したから。』

 が、ここで美和は、

「わちゃんって誰だろう?」

 と声を出した。

 これを聞いて静香がスマホを弄りながら美和に言った。

「多分、それ原村和じゃないの? 白糸台の。」

「たしかに白糸台とも仲が良いみたいだからね。」

「でも、それだけじゃなくて、チャンピオンと原村は一年の時は長野の清澄高校でチームメートだったから。」

「そっか、そう言えば…。咲ちゃんが初優勝した時の。でも、原村和レベルじゃ手加減されるんだ。結構強いよね?」

「結構どころじゃないよ。昨年インターハイ個人では10位。現在、女子高生ランキング6位だからね。それで手加減って、どれだけ化物よ、あのチャンピオン?」

 

 今になって美和は血の気が引いてきた。

 思い起こしてみれば、永水女子高校の石戸明星でさえ、昨年インターハイ団体戦では点数調整された挙句、放出メンバー入りをさせられた。

 明星は、昨年インターハイ個人では11位。現在、女子高生ランキング7位。ランキング的には和と基本的に変わらない。

 

 もし、恭子から咲に、後半戦で、

『一気に勝負をつけろ!』

 ではなく、

『得失点差勝負に備えて稼げるだけ稼げ!』

 との指示が出ていたら、また有名な66600点事件をやられていたのではなかろうか?

 そんな超人と友達になっていたとは………。

 嬉しいと同時に恐ろしくなってきた。

 だからと言って、折角有名人と友達になれたのだから、こんなことで友達を辞めるつもりは毛頭無い………。

 それどころか、春休みが終わって学校が始まったら、クラスで思い切り自慢してやろうとさえ思っている。

 まあ、それが普通だろう。

 

 

「じゃあ、そろそろ行ってくるね!」

 副将の鬼島美誇人がソファーから立ち上がった。

 彼女は、美和が戻ってきてからずっと黙っていた。何か考え事でもあるかのようだ。

 

 この時の美誇人は、静香や鳴海とは違ったオーラを纏っていた。

 言ってみれば、静香は、時としてトップに君臨する支配者のような高圧的なオーラを出す。非常に威圧感が強い。

 勿論、麻雀を打つ時限定で、普段は、そんな感じでは無いが………。

 

 一方の鳴海は、麻雀を打つ時は辛気臭い雰囲気を出して、静香とは別の意味で相手に威圧感を与える。

 彼女も、普段は、そんな感じでは無いが………。

 

 そして、美誇人もまた、麻雀を打つ時には独特の不気味なオーラを出す。

 また、彼女の場合、序盤で相手の、その日の状態を徹底的に観察し、その後、一気に勝負を着けるのが特徴だ。

 彼女が全てを見切った時、和了り宣言に使う言葉は、ツモでもロンでもない。

『御無礼』

 これが彼女の最大の特徴、いや、アイデンティティとも言えよう。

 

「じゃあ、カイ(美誇人のこと)。ガンバ!」

 この美和の言葉に、

「うん。勝ってくる!」

 美誇人は、そう言い残して控室を後にした。

 

 

 対局室に副将選手が姿を現した。

 阿知賀女子学院からは宇野沢美由紀。

 プロ雀士宇野沢栞の妹で、栞と同様に鳴き麻雀を主体とする。栞とそっくりな容姿で、かなりのオモチを持つ一年生。

 

 臨海女子高校からはマリー・ダヴァン。

 以前、本校に在籍していたメガン・ダヴァンの妹。昨年末から本校に留学しており、メガン・ダヴァンと同様にデュエルの能力を持つ。二年生。

 

 朝酌女子高校からは野津楓。

 白築慕の中学時代の先輩、野津雫の姪で非能力者。二年生。たまに意外性を発揮する。

 

 そして、綺亜羅高校からは鬼島美誇人。

 氏名の最初の字と最後の字、つまり鬼と人で友人達からはカイ(傀)と呼ばれている。最近では綺亜羅高校の人気が上昇し、先鋒の鷲尾静香(二年)、次鋒の竜崎鳴海(二年)と共に『キラー三銃士』とも呼ばれているらしい。

 ちなみに綺亜羅高校の大将、稲輪敬子のことは『電波なキラー』とか『不思議ちゃん』、中堅の的井美和のことは『キラーの総大将』と呼ばれているようだ。

 

 

 場決めがされ、起家は楓、南家はダヴァン(ここではマリーの方が記載としては正しいと思いますが、郝の時と同じでイメージしやすいよう敢えてダヴァンと記載します)、西家は美誇人、北家は美由紀に決まった。

 各自、決まった席に座ると、美誇人が美由紀の顔をじっと見詰めていた。

 美由紀が、

「ええと、どうかしましたか?」

 と聞くと、

「いえ、別に。」

 とだけ答えると美由紀から目を逸らし、美誇人は卓中央のスタートボタン(サイコロボタンではなく)を押した。

 が、美誇人は内心、

「(この娘、宇野沢栞の妹! 写真で見た時から姉に似てカワイイって思ってたけど、現物は凄くカワイイ。反則だわ、これ。)」

 と思っていた。どうやら、美由紀と同卓できて嬉しいやら、敵同士なので悲しいやらで、彼女なりに複雑な心境だったようだ。

 

 

 東一局、楓の親。

 ここでは、二巡目からいきなり、

「ポン!」

 楓が捨てた{發}を美由紀が一鳴きした。

 そして、その二巡後、

「ポン!」

 今度はダヴァンから、美由紀は自風の{北}を鳴いた。これも一鳴きだ。

 その後、数巡は、誰からも鳴きやリーチの発声が無く、牌のツモる音と切る音しかしない静寂な場として局は進んで行ったが、九巡目に、

「ツモ!」

 美由紀が自力で和了り牌を引いてきた。

「北發混一対々! 3000、6000!」

 しかもハネ満の和了り。

 美由紀にとっては幸先の良いスタートとなった。

 

 

 東二局、ダヴァンの親。ドラは{③}。

 ここで、

「ポン!」

 美由紀が早々にダヴァンから{西}を鳴いた。美由紀の自風だ。

 ただ、その後はダヴァンのデュエルと得体の知れない美誇人を警戒しているのか、美由紀は鳴いて手を狭めることを躊躇しているようだった。

 

 ダヴァンも、手が順調に進んでいる。

 しかし、手が進めば進むほど、向聴数を減らせる牌の数は減る。当然、確率的には少しずつ手の進み具合は遅くなるだろう。

 そして、ダヴァンは一向聴まで進んだのは良かったが、そこから一向に有効牌が引けなくなった。

 

 中盤に入った。

 まだ、美誇人は様子見をしているのか、これと言って動く気配が無い。今のところ、ダヴァンと美由紀で争っている感じだ。

 そして、十巡目、

「ツモ!」

 またもや美由紀が自力で和了り牌を掴んできた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一[⑤][⑤]5[5]北北北}  ポン{西横西西}  ツモ{5}

 

「西対々三暗刻ドラ3。4000、8000!」

 倍満だ。

 この二回の和了りで、美由紀は大きくリードした。

 

 

 東三局、美誇人の親。

「(ちょっと試してみますか。)」

 美誇人は、ここで動き始めた。先ずは検証だ。

 今まで見てきた感じ、ダヴァンの打ち方は一回戦、二回戦と何ら変わりは無い。言ってみれば、デュエルしかない単調なものだ。

 あとは、デュエルに向かった時のツキが、どの程度のものかだ。美誇人の手で崩せるレベルのものかどうか、それは気になる。

 

 美由紀は、美誇人の雰囲気が変わったのを直感的に察知した。

 基本的に美誇人は、先鋒の静香や次鋒の鳴海と同じで、余り変化を表に出さない。しかし、咲や穏乃と打って鍛えられた美由紀は、直感的な部分はあるが、僅かな変化を察知することができるようになっていた。

 当然、美由紀はムリせずに美誇人の動きをマークする。

 

 数巡後、美由紀は美誇人の聴牌気配を察知した。ただ、美誇人は、普通の人には分からない程度の変化しか見せていない。いや、麻雀を打ち込んでいる人でも察知するのは難しいレベルだ。

 

 続いてダヴァンが聴牌した。

 当然、聴牌と同時にダヴァンは美誇人の聴牌を察知した。

「(デュエル!)」

 一回戦、二回戦共にダヴァンは美誇人に競り負けている。今度こそは美誇人に勝ちたいし、そのためには、先ず一発目のデュエルをモノにしたい。

 特に、この美誇人の親番を自分の和了りで流してやりたい。

 その気持ちが前面に出ていることもあり、

「リーチデース!」

 ダヴァンは、攻撃こそ最大の防御との考えの下、リーチをかけた。

 

 美誇人は、ムリせずに一発回避。聴牌を崩した。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 ダヴァンが和了り牌を引き当てた。

「メンピン一発ツモドラ2! 3000、6000!」

 このハネ満ツモに、ダヴァンは自分に流れが来るであろうことを予感していた。

 

 

 東四局、美由紀の親。

 ここでも前局と同様、美由紀はダヴァンvs美誇人の空気を強く感じ取っていた。下手に動けない。

 美由紀は、

「ポン!」

 楓が捨てた{東}を鳴いて役を作ったが、あとはダヴァンと美誇人の様子を見ながら、いつでも降りられるように共通安牌を数枚………と言うか対子として確保しながら手を進めてゆく。

 

 中盤に入り、

「リーチデース!」

 ダヴァンが先行リーチをかけてきた。美誇人の聴牌を察知して攻めて来たのだ。

 ここでも美誇人は一発回避で降り。そして、二巡後、

「ツモ。3000、6000!」

 ダヴァンがメンタンピンツモドラ2のハネ満をツモ和了りした。しかし、この和了りを見ながら美誇人はうっすらと笑みを浮かべていた。

 

 

 南入した。

 南一局、楓の親。

 楓は、

「(もう、ツモられ貧乏だよぁ。何とかしないと!)」

 ここで『意外性』のスイッチが入った。

 ダヴァンと美誇人がデュエルに向かって刻子、順子を作って行く中、楓もまた、次々と牌を重ねていった。

 そして、五巡目で、

「リ…リーチします!」

 震えながら捨て牌を横に曲げた。

 

 この局面では、ダヴァンも美誇人も聴牌しておらず、一先ず二人とも一発を回避した。

 当然、美由紀も振り込み回避。

 続くツモ番は楓。ここで、楓は、

「ツモです。リーチ一発ツモタンヤオ七対子ドラ2で8000オールです!」

 倍満ツモを決めた。

 これで楓は2位に浮上。まるで大仕事を成し遂げたかのように全身からホッとした雰囲気が溢れ出ていた。

 

 南一局一本場、楓の連荘。ドラは{8}。

 ここでもダヴァンvs美誇人の雰囲気が、美由紀にはアリアリと漂ってきていた。ここでも美由紀は安牌確保の上で手を進めてゆく。

 

 先行して聴牌したのは美誇人のようだ。美由紀は、その気配を察知した。

 この時の美誇人の手牌は、

 {三四[五]③③③④[⑤]⑥234北}

 役無しだ。

 

 次巡、今度はダヴァンも聴牌した。

 ダヴァンの手牌は、

 {二二二八八⑤⑥4[5]6788}  ツモ{8}

 {④⑦}待ちの聴牌。しかもタンヤオドラ4。

 

 ここでダヴァンは、

「リーチ!」

 {4}切りリーチで攻めに出た。ハネ満狙いだ。

 前局では楓に和了られたが、その前には二連続で自分がハネ満をツモ和了りしている。少なくとも美誇人よりは自分に流れがあるとの判断だ。

 

 美誇人は、牌をツモると{北}を手出しした。

 一見、降りたかのように見えるだろう。

 しかし、ダヴァンは相手が聴牌しているかどうかが分かる。もっとも、単騎待ちの{北}を別の牌に変えただけだから、当然、聴牌を維持している。

 

 次巡、ダヴァンが引いたのは{⑧}。和了り牌の隣。惜しいところだ。

 和了り牌でなければ、リーチ者は、これをツモ切りしなくてはならない。当然、ダヴァンもこれをツモ切りした。

 すると、

「御無礼、ロンです!」

 ダヴァンの下家………美誇人から和了り宣言の声が消えてきた。

 

 開かれた手牌は、

 {三四[五]③③③④[⑤]⑥⑦234}  ロン{⑧}

 つまり、ダヴァンのリーチ後、一発で美誇人はダヴァンの和了り牌の{⑦}を掴んでいたのだが、これを取り込んで{②④⑤⑦⑧}待ちに切り替えたのだ。

「タンピンドラ2。7700の一本場は8000。」

 これには、さすがのダヴァンも唖然とした表情だった。




おまけ
前回の続きです


八.『私は…最高の獲物』

ユウキは、キヨスミ星から3億キロ離れた空間を飛んでいた。
「塞か…。何故、あいつは私を殺さなかったんだじょ? 立場が逆なら、私は、あいつを殺していたはずだじょ。それに、あのバリヤー。超巨大戦艦のカゼコシ砲でも破壊できないとは、凄まじい強度だじぇい。次に会う時には、必ず突き破ってやるじょ。この私こそが、最も美しく強い存在なんだじぇい!」
彼女の身体が、うっすらと赤く光った。そして、数秒後には、まるでウインカーのように点滅し始めた。
「うう…。」
彼女がうめき声を上げた。かなり苦しい様子だ。
そして、そのまま彼女は気を失ってしまった。


ヒサの居室にマホが入ってきた。
「ヒサ様。ユウキの軍が敗れたとの報告が入りました。」
「マホ。それって本当?」
「はい。既にユウキは、脱出機で本惑星系内を走行中のところ、我が軍の救助船によって救出されました。」
「ユウキの様子は?」
「気を失っています。元の姿に戻っていたとのことです。」
「そう。ユウキの意識が戻ったらタコス錠を飲ませてやって。」
「はい。」
「それにしても、あのユウキまでもが、やられるとはね。何て奴らかしら。それで、あっちの方は、どうなっているの?」
「担当者のヤエより、一両日中に完成予定との報告を受けております。」
「そう。でも、あれは危険と背中合わせの代物だからね。くれぐれも慎重にやるようにと伝えて頂戴。」
どうやら、キヨスミ星ではカゼコシ砲を超える、とんでもなく恐ろしい兵器の開発が進んでいるようだ。


「んん…。」
私は目を覚ました。
携帯を見ると、あれから丸一日が経っている。
お腹がすいた。
なんだか、箱買いしたカップラーメンが急に懐かしくなってきた。まだ地球を発って四日目なのに、カップラーメンを、もう何年も食べていないように感じる。
「起きた?」
クルミが私の方に飛んできた。そして、例の錠剤型宇宙食を渡された。
私は、その宇宙食を歯で割って、三分の一くらいの大きさになった欠片を食べながら、クルミに聞いた。
「検査の結果は?」
「擬陽性ね。派手に使わなければ常習性は出ないと思うけど、ここぞと言う時以外は使わない方が良いわ。残念だけど疲労回復に毎日服用って訳には行かないわね。それと、こっちに来てくれる?」
部屋の中央にはプロジェクターが置かれていた。
電気が消され、白い壁にプロジェクターから発される映像が映し出された。どうやら、重要な何かを私達に説明したいようだ。
どうやら、プレゼンたーはアコのようだ。
アコの手にはレーザーポインターが握られていた。
「塞、ヒナ、ナズナ、シロナの四人には、まず私達がキヨスミ星と戦う背景を知ってもらわなければ、ならないと思うのよね。」
アコは先ず、クルミが私を探すために宇宙に飛び立つ以前から、カクラ星で把握できていた内容について説明してくれた。

クルミからも聞いたけど、アコが言うところでは、キヨスミ星はカクラ星の位置する惑星系に豊富に存在する特殊な超原子を狙って攻め込んできたらしい。
超原子を欲しがる理由は、キヨスミ星で開発したワープシステムをパワーアップして長距離走行を可能にするためだった。それを使えば銀河系全体への往来が楽になり侵略活動も加速する。それで、カクラ星を攻めてきたのだ。
今回、ユウキの軍を破ったけど、まだキヨスミ星が超原子を諦めたわけでは無いし、他の惑星系への侵攻も続けるだろう。戦いは終わったわけではない。

プロジェクターの映像が切り替わった。
続いて、ミホコ波に関連することについて話してくれた。
ウィシュアート星人やヒメマツ星人の場合、女性限定で何万人かに一人の割合でフクジ・エナジーを作り出す極々小さな塊が細胞内で確認されるとのことだった。
その塊を、カクラ星では『アチガ微小体』と名づけた。このことは、まだキヨスミ星人達は気付いていないらしい。当然、地球でも知られていないことだろう。
また、地球人が、どの程度の割合でアチガ微小体を持っているのかはカクラ星でも分かっていない。私以外に検査サンプルが無いためだ。
フクジ・エナジーを持つ女性からは、特殊な波動が放出される。それがミホコ波だ。
一方、キヨスミ星人女性は胸の下辺りに特殊な内臓器官があり、これをキヨスミ星では『バンセイ垂体』と呼んでいる。ここでユリ・エナジーが作られる。キヨスミ星の男性は、この器官を持っていないためにユリ・エナジーを作ることができないそうだ。

再びプロジェクターの映像が切り替わった。
ここから先のことは、クルミの出発直後に調査隊のメンバーによって分かったことだ。
クルミも大体予想していたみたいけど、正式に聞かされるのは初めてだったようだ。

昨年、キヨスミ星ではユリ・エナジーと大量のフクジ・エナジーを併せることで、とんでもない破壊力を生み出すことができることを見出した。それを兵器化したのがカゼコシ砲だ。
つまり、カゼコシ砲を撃つ前にユウキ達が飲んでいたペットボトルみたいな物の中身は、フクジ・エナジーを濃縮したものだったのだ。
ヒメマツ星でカゼコシ砲の直撃を受けた時に見えた女性達の姿は、そのペットボトルみたいな物の中に詰め込まれたフクジ・エナジーの本来の持ち主と言うことになる。
でも、キヨスミ星人がフクジ・エナジーを求めてミホコ波を発する女性達を拉致するようになったのは、ヒサが総統になってすぐのことで、ここ数年で始まった話ではない。
では、何故、キヨスミ星人女性はフクジ・エナジーを求めるのか?
それは、フクジ・エナジーを摂取することで若く美しくなれるためだ。これは、キヨスミ星の女性の持つ細胞特有の現象らしい。
肌が綺麗になる、手足がスラッとして長くなる、痩せる、顔が小顔で美しくなるなど、まるでノーマル・塞がゴッド・塞やデビル・塞に変身するような現象を引き起こすとのことだった。しかも老いることが無い。
それで、ミホコ波を発する女性を大量に拉致し、その女性達の身体から一切のフクジ・エナジーを抜き取っていたのだ。

単にフクジ・エナジーを抜き取るだけなら、女性達を死に至らしめることはない。ただ、その抜き取り方が問題だった。
乱暴にフクジ・エナジーを抜き取っていたため、細胞レベルで激しい劣化が生じ、老化を著しく早めてしまうらしい。それで早く死んでしまう。つまり、他の惑星の女性達の命のことなどお構い無しに、自分達のことしか考えずにいると言うことだ。

キヨスミ星では、フクジ・エナジーを成分とした錠剤『タコス錠』を製造し、それを女性達は一ヶ月に一回程度、サプリメントとして服用する。それで若さと美しさを保って…いや、作っているのだ。
話を総合すると、若さと美貌を手に入れるために銀河全体への侵略活動を起こし、その効率化のためにワープ機能の向上が必要である。それで、機能向上に必須な超原子を求め、それが豊富なカクラ星系に侵攻してきたわけだ。

映像が切り替わり、今度はアコの婚約者、シズノが説明を始めた。


穏乃「アコ! 私達、婚約者だってさ!」

憧「そうみたいね。(だから小人役でOKしたのよ!)」


「フクジ・エナジーに関する、この一ヶ月間での研究成果について報告します。これは、クルミが塞を探すためにカクラ星を発った後に分かった内容です。」
彼女が、画像をレーザーポインターで指し示した。
「ミホコ波を発する女性は間違いなくフクジ・エナジーを産生しています。しかし、ミホコ波とフクジ・エナジーの強度には必ずしも正の相関はありません。この現象が何故起きるのかが解明されました。すなわち………。」
カクラ星では、最近、フクジ・エナジーには、Ⅰ型とⅡ型の二種類が存在することが分かったらしい。そして、ミホコ波はⅠ型だけから放射される。つまり、Ⅱ型からはミホコ波が出てこないことが分かってきた。
Ⅰ型もⅡ型も、キヨスミ星の女性を美しくするし、カゼコシ砲にも適用可能だ。そのため、キヨスミ星では基本的にⅠ型とⅡ型を区別する必要は無い。それと、現段階では、Ⅰ型とⅡ型に分かれることまではキヨスミ星でも分かっていないらしい。
ただ、興味深いことはⅡ型のみに見られる特性だ。実は、このⅡ型の産生量とカクラ星人との同調率には正の相関があるのだ。つまり、Ⅱ型の産生量が高ければ、それだけ同調率が上がり、ミヤモリ・エナジーの増幅器として大きく寄与できるようになる。
そして、もう一つ。Ⅰ型の場合、産生量に限界があるけど、Ⅱ型は産生量に限界が無いらしい。しかも、Ⅰ型とⅡ型の産生比率が一対九以上のⅡ型優位の人の場合、細胞レベルでの劣化を修復し、老化を抑制するだけのパワーがあるらしいのだ。

つまり、キヨスミ星にとってはⅡ型を優位に産生する女性を拉致する方が好ましいと言うことになる。その女性が病気や事故で死なない限り、数十年に渡ってフクジ・エナジーを採取し続けられることになるからだ。

ただ、ヒメマツ星でもウィシュアート星でも、Ⅰ型を選択的に産生するか、Ⅰ型のみを特異的に産生するケースが殆どらしい。それで粗雑な遣り方でフクジ・エナジーを抜き取られると細胞劣化の修復ができずに死んでしまうのだ。

検査の結果、私はⅡ型のフクジ・エナジーのみを特異的に産生していることが確認されたそうだ。つまり、私はⅠ型を産生しないためミホコ波を放出しないだけで、キヨスミ星女性にとっては最高の獲物なのだ。

カナの妹達はⅠ型とⅡ型の両方を半々くらいで持っていた。それでミホコ波を発していたし、50%程度とは言えカクラ星人との同調率があるのだ。

それと、キヨスミ星に送り込んだ調査員からの報告では、キヨスミ星人がウィシュアート星で捕らえた女性は、どうやらⅡ型を90%以上の選択性で産生しているのではないかとのことだった。
その女性は片腕片足を失ったクルミを助けてくれた女性らしい。
彼女はフクジ・エナジーの産生量に限界が無く、総統ヒサにすっかり気に入られてしまったそうだ。

今、その女性はヒサの居室に捕えられているけど、貴重な存在のため、一応丁重に扱われているとのことだった。
このタイプの女性をキヨスミ星が捕えたのは二人目だそうだ。一人目は、どこの星の人かは分からないけど、約十五年前に捕えたらしい。

キヨスミ星では、この一人目の女性を捕えた時、無限にフクジ・エナジーを産生する彼女の体質が何に起因しているのか、その原因究明を図ろうとしたけど、どうも研究が上手く行かなかったみたいだ。それで研究を中断した。
でも、今回二人目が現れた。
当然、何故フクジ・エナジーの産生量に限界が無いのか、その解明に向けてキヨスミ星でも研究を再開するだろう。
そうなると、近いうちにⅠ型とⅡ型の二種類が存在することも、Ⅰ型とⅡ型のそれぞれの特徴も、キヨスミ星人達に知られてしまうかもしれない。
放っておけば私もキヨスミ星に拉致されるかもしれないのだ。

ここで私は、ふと思った。
「その女性って、もしかしてエイスリンじゃない?」
つい声に出てしまった。
「間違いないと思う。」
クルミが真剣な眼差しを私の方に向けて言った。
彼女にとっては、エイスリンが生きていることは嬉しい。でも、このままでは、エイスリンはキヨスミ星人達に利用され続けることになる。それは、それで悲しい事実だった。

この時、三つ子達の目から、激しく涙が零れ落ちていた。
「エイスリン、生きていたんだ。良かった。」
ヒナが袖で涙を拭った。
自然と三つ子達に視線が集まった。
「私達、エイスリンの家の隣に住んでいたんです。エイスリンは一ヶ月以上前にキヨスミ星に捕えられましたけど、ウィシュアート星には戻ってこないので、ずっと心配していました。生きていると分かって、私達…。」
ヒナは、そう言いながらハンカチで涙を拭っていた。

アコとシズノのプレゼンは一旦ここで打ち切られた。
一先ず、予定していた内容の重要な部分は話し終えたし、これ以上、プレゼンできる雰囲気でもないと判断したみたいだ。
プロジェクターの電源が切られ、部屋の電気が灯った。
しばらく沈黙が続いた後、突然、ナズナが今までにない大きな声を上げた。
「皆さん。私、エイスリンを助けたいんです。早く出発できないでしょうか?」
モチベーションが上がったのだろう。ユウキに似た私の顔を見て怯えていた時の彼女とは全然顔付きが違っていた。
こんなナズナを見たのは初めてだ。エイスリンを助け出したいとの思いが、それだけ強いのだろう。

一瞬、間があいた。
アコも、どう答えて良いか迷っているようだ。
「気持ちは分かるけど、トヨネ、トキ、リューカは、現在メンテナンスの真最中だしね。急いでいるけど、どう考えても明後日までかかると思う。まだ、すぐには出発できないわね。」
彼女は、済まなそうな声をしていた。これは、これで仕方が無い。残念だけど、勢いだけでことを進めることはできない。
ナズナは悔しそうに俯きながら椅子に腰を下ろした。


この二日間、三つ子達は待ち遠しかったようだ。
夜も眠れなかったみたいだ。

そして、私が地球を立ってから六日目になった。
昨晩、三体のロボットのメンテナンスが終了し、私達は、いよいよキヨスミ星に向けて出発することになった。

私達はトヨネの操縦室内に瞬間移動した。
操縦席には私、その両隣にはクルミとハツミが座っていた。
後の席には三つ子達が、そして、その隣には小さな席が一つずつ設けられていてアコとシズノと、もう一人、コロモと言うカクラ星人が座っていた。
どうやら、コロモはアコとシズノの先輩らしい。ただ、たまに難解な言葉と使う。


衣「衣は子供じゃない! 小人役なんて本当はイヤなんだぞ!」

純「(思い切り子供だろ!)」

智紀「(似合ってる…。)」


私はブレスレットを外し、ユウキに似た姿になった。
『ダブルフェードイン!』
私の身体にクルミとハツミの二人が光の玉となって入り込んだ。身体の奥底から力が湧いてくる感じがたまらない。

天井が開き、三体のロボットが地下基地を飛び出した。
そして、合体してスコヤンの姿に変形した。
大気圏を離脱すると、スコヤンは、すぐに長距離ワープに入った。

キヨスミ星の位置は、丁度カクラ星とヒメマツ星の中間に位置している。今回の長距離ワープは、ヒメマツ星からウィシュアート星、さらにはカクラ星にワープしたあの日に比べれば、たいして疲れはしない。
でも、疲労が全然無いわけではない。
ワープ終了後、一旦、私はスコヤンの合体を解除した。そして、念のため近くの惑星に着陸してダブルフェードインを解いた。

そこは、この惑星系の第九番惑星だった。火星のように地表が岩石で覆われた惑星だ。
一応、大気がある。成分は地球のものとは違うみたいだけど…。

キヨスミ星は、この惑星系の第二番惑星。まだ、距離はあるけど、小ワープすれば一瞬で着ける距離だ。
多分、私達がこの惑星系に入ったことに、キヨスミ星人達は既に感づいているだろう。ダブルフェードインしていた時に放たれる強力なミヤモリ・エナジーを、レーダーで捉えていて不思議は無い。
でも、すぐにダブルフェードインを解いたので、この惑星に着陸したところまでは分かっても、具体的に惑星のどの辺にいるかまで把握するには時間がかかるだろう。
それまで、私達は長距離ワープの疲れを癒すことにした。


数十分後、キヨスミ星の衛星基地から宇宙戦艦一隻が飛び立った。
その戦艦がワープに入った。そして、この惑星の衛星軌道付近に姿を現した。
やはり、キヨスミ星では私達の進入をレーダーでキャッチしていたようだ。
今回は超巨大戦艦でも要塞でもなく、船団を率いてもいない。普通の大きさの戦艦一隻だけの出撃だ。今までに無いケースだ。
これは、これで不気味だ。
でも、何故か大気圏に突入してこない。そこから動こうとしないのだ。
私達は、しばらく様子を見ることにした。


数時間が過ぎた。
もう、私達の疲れはとれていた。
むしろ、何で敵戦艦が動こうとしないのかが気になる。
『ダブルフェードイン!』
『モードチェンジ・スコヤン!』
私は三体のロボットを合体させた。そして、超高速で一気に戦艦の前に出た。
通信が入った。チャンネルをオープンにすると、モニターに二人のキヨスミ星人女性の姿が映し出された。
片方は細身の女性。胸は全然ないけど、黒いボンデージファッションを身に着けていた。
小動物のような雰囲気をまとっている。
「私は、この戦艦の司令官マホ。たしかにユウキに似ていると思います。」
本人の持つ雰囲気とファッションが、正直アンバランスに感じる。それでだと思う。着ているものの割に余りエロさを感じない。
でも、まあ、ある意味、雰囲気とファッションのギャップが可愛らしいかもしれない。

もう片方の女性は白いボンデージファッション。
非対称な髪型が印象的だ。
ある意味、その髪形は凄く似合っている。
「そして、私は科学長官のヤエ。私が開発した最新兵器をお前達に御見舞するために、ここに来た。」
本当にキヨスミ星軍は見た目が若い。実年齢はともかく、若さを維持する薬を常時飲んでいるからであろう。

でも、二人とも他人の命を犠牲にして手に入れた若さだ。そのやり方が気に入らない。
私は彼女達を睨み付けた。
「ユウキ司令に似ているだけあって気の強そうな女だな。ならば私の発明品を受けてみろ。ヤエ弾、発射用意!」
通信が切れた。
ただ、こっちの顔を見て、一方的に話して終わりだ。
何のための通信だ?
単に彼女達はユウキに似ている私を見てみたかっただけなのか?
今頃二人で、
『ウケる~』
とか言っているのか?
良く分からないし、面白くない。

敵戦艦から一発の小型ミサイルが撃ち放たれた。以前、ユウキには、とんでもない数のミサイルをプレゼントされた。それに比べると、ちょっと拍子抜けだ。
この時だった。
私の頭の中にハツミの声が激しくこだました。
「逃げてくださいですよー。」
「えっ?」
「スコヤンのバリヤーも…リューカですら、あの爆弾には耐えられないですよー。」
「でも、原爆数発の爆発にも耐えられるんじゃ…。」
「無理ですねー。あれに比べれば、原爆なんて可愛いものですー。」
「へっ?…嘘でしょ?」
「嘘ではありませんよー。逃げてくださいですー!」
そんなにとんでもない兵器なのか?
リューカですら耐えられないってマジ?
キラメ・スバラ・バリヤーはカゼコシ砲すら耐える代物だ。それが利かないなんて、とても信じられない。
普通に考えて、このスコヤンを吹き飛ばすほどの威力は到底無さそうに思える。
でも、ハツミの予知能力は凄いはず。きっと、何かがあると考えるべきだ。
ミサイルが左右二つに分離して、中からバスケットボールくらいの白い玉が一つ飛び出てきた。それは、少しずつ加速しながらスコヤンの方に近づいてきた。
バスケットボール程の大きさでも、スコヤンのサイズで考えれば相当小さい爆弾だ。比率的に、人間のサイズで考えれば、せいぜいパチンコ玉程度の大きさだろう。可愛い大きさだ。
スコヤンは超高速で、その小型爆弾を避けるように上方に大きく移動した。
そのバスケットボールもどきが近くを浮遊する小惑星に当たった。すると、その小惑星がとんでもない大爆発を起こして消し飛んだ。
何なんだ、この威力は?
全然可愛くないぞ。
すると、再びハツミの声が聞こえてきた。
「あれは反物質爆弾だと思いますー。」
「反物質?」
「あの中に反物質が入っているようです。受けますと、あの爆弾の中の反重力装置が機能を停止して爆弾表面を作る物質に反物質が接触するようになっているのだと思いますねー。その対消滅の際の爆発は凄い威力になりますー。絶対に受けないで下さいねー。」
良く分からないけど、ハツミの想いは伝わってくる。
でも、今回の兵器はカゼコシ砲に比べると派手さが無い。頭では分かろうとしていても、どうしても見た目に騙されてしまいそうだ。
私は頬を両手で叩いて気合を入れた。


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百十二本場:逃げ切り

まだ美誇人(傀)は本当の意味では本領を発揮しません。


 準決勝第一試合副将前半戦。

 南二局、ダヴァンの親。ドラは{5}。

 ダヴァンは気を取り直して、ここでもデュエルに向けて手を進めてゆく。

 デュエルが毎回自分の勝利で終わるわけではない。それは十分承知だ。

 ただ、デュエルに持ち込むことで、何故か自分の勝率が上がる。それだけは姉と同様のことが言えるようだ。

 多分、デュエルこそが自分達の勝利に向けた能力なのだろう。

 それで、ダヴァンは、ここでもデュエル勝負を仕掛けようとしていたのだ。

 

 ダヴァンが聴牌した。

 手牌は、

 {二三四③④[⑤]⑥⑦55678}

 {②⑤⑧}待ちで、しかもタンピンドラ3。

 

 既に美誇人は聴牌しているようだ。美誇人の制服がガンマンの服装に変わって見える。

 ならば、

「リーチ!」

 ダヴァンは、ここでも攻めに出た。メンタンピンドラ3のハネ満狙いだ。

 

 続いて美誇人は、牌をツモると、

「リーチ!」

 それをツモ切りでリーチした。デュエルを受けて立つと言わんばかりだ。

 

 ダヴァンの一発目のツモは{③}。これでは和了れない。

 当然、これをダヴァンはツモ切りした。

 その時だった。

「御無礼。ロンです。」

 またもやダヴァンの下家………美誇人から和了り宣言の言葉が聞こえてきた。

 

 美誇人が手牌を開いた。

 {四[五]六③④④④⑤⑥⑦345}  ロン{③}  ドラ{5}  裏ドラ{④}

 メンタン一発ドラ5。倍満だ。

 

「16000です。」

 ここに来て二連発での振り込み。

 これには、ダヴァンも愕然とした。デュエルで負けたことはあるが、他人相手に二連敗したことは。これまで一度も無かった。二連敗させられたのは、同じ能力を持つ姉だけだった。

「(信じられません。なら、もう一度だけ勝負します。それでダメなら、下手にデュエルを仕掛けない方が無難かもしれません。)」

 まだ負けではない。

 ダヴァンは、気を取り直して次の局に挑むことにした。

 

 

 南三局、美誇人の親。ドラは{①}。

 三度目の正直となるか、二度あることは三度あるとなるかは分からない。ただ、ダヴァンは前者であることを祈り、手を進めた。

 そして聴牌。

「(デュエル!)」

 ダヴァンが捨て牌を横にした。

「リーチデース!」

 しかし、

「御無礼。」

 このリーチ宣言牌で美誇人に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三三①①11233}  ロン{2}  ドラ{①}

 ジュンチャン二盃口ドラ2。大きな手だ。

 

「24000です。」

 まさかの親倍振込み。

 これでダヴァンは、ガックリと肩を落とした。デュエルを仕掛けての三連続振込みは生まれて初めてだ。

 こんな相手がいるとは………。

 しかも、これが日本最強の咲ならともかく、全然知らない高校の、しかもエースでない選手にやられるとは………。

 戦意喪失…。

 しばらく立ち直れなさそうだ。

 

 そんなダヴァンのことなど目もくれず、

「一本場です。」

 美誇人は連荘を宣言した。

 

 南三局一本場。

 ここでは六巡目で、

「リーチ!」

 美誇人が先制リーチをかけた。

 もう、デュエルを仕掛けてくるものはいない。悠々とリーチで攻められる。

 そして、

「御無礼。メンタンピン一発ツモドラ2。6100オール。」

 あっと言う間に親ハネをツモ和了りした。

 

 南三局二本場、美誇人の連荘。ドラは{南}。

 ここでも、

「リーチ!」

 美誇人が先制リーチをかけた。七巡目だ。

 一発ツモは無かったが、数巡後、

「御無礼。ツモです。」

 ここでも美誇人が和了り牌を自力でツモってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③④⑤⑥⑦⑧南南西西西}  ツモ{⑨}  ドラ{南}  裏ドラ{3}

 

「リーツモタテホン一通ドラ2。8200オール。」

 親倍ツモを決めた。

 この和了りで美誇人は160000点を越えた。

 

 南三局三本場。

 ここでも、美誇人が、

「御無礼。リーツモタンヤオ三色ドラ2。6300オール。」

 余裕で親ハネツモ和了りを決めた。もう手がつけられない状態だ。

 

 そして、南三局四本場でも、

「リーチ!」

 美誇人が七巡目でリーチをかけた。どうも手牌が索子に偏っている雰囲気がある。

 美由紀も楓もダヴァンも、一先ず索子と字牌を避けて通し。

 一発ツモにはならなかったが、三巡後、

「御無礼。」

 美誇人が、ここでもツモ和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2224455[5]66678}  ツモ{8}  ドラ{二}  裏ドラ{④}

 こんな手でリーチをかけるかと疑いたくなる手だ。

 

「リーツモメンチンタンヤオ一盃口ドラ1。12400オール。」

 これで美誇人の点数が200000点を超えた。

 

 流れが完全に美誇人に行っている。

 何とか断ち切らなければ、このまま毟られるだけで終わってしまう。まるで、咲の全員トバしの被害者側になったような感覚である。

 美由紀は、

「(コーチにはターゲットにされないようにって言われているけど、ただ守っているだけじゃどうにもならない。もう、ヤルしかない!)」

 ここで背水の陣で勝負を仕掛ける決心をした。

 

 南三局五本場。ドラは{6}。

 ここでは、

「ポン!」

 形振り構わず、美由紀が一巡目からダヴァンが捨てた{南}を鳴いた。美由紀にとっては場風であると同時に自風だ。

 そして、三巡目にも、

「ポン!」

 今度は、楓が捨てた{⑤}を鳴いた。

 副露されるのは{[⑤][⑤]⑤}。赤牌二枚入りだ。

 

 そろそろ美誇人も聴牌しそうな気配だが、ここで打ち回しても意味が無い。美由紀は、そのまま無防備で突き進む。

 そして、その二巡後、まさに美誇人が聴牌した直後のツモで、

「ツモ!」

 美由紀が和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①⑧⑧北北}  ポン{[⑤][⑤]横⑤}  ポン{南横南南}  ツモ{北}

 

「ダブ南混一対々ドラ2。4500、8500!」

 しかも倍満。ここに来て、美由紀が逆襲の狼煙を上げた。

 

 

 オーラス、美由紀の親。ドラは{①}。

「(あーぁ。気の入った顔もカワイイ!)」

 美誇人は、美由紀の顔を見ながら、そんなことを考えていた。

 

「ポン!」

 ここでは、三巡目に美由紀が楓の捨てた{九}を鳴いた。役牌ではない。ただ、直感的に鳴いたほうが良いと思って動いた感じだ。

 

 この時、美由紀の手牌は、

 {四四[五]六②⑧79中中}  ポン{九九横九}

 まだ全然、手は出来上がっていない。

 

 その次巡、美由紀は、今度はダヴァンが捨てた{中}を、

「ポン!」

 一鳴きした。打{⑧}。

 これで、美由紀は役が付いた。あとは、和了りに向けて最短距離を進むだけだ。

 

 その次巡、美由紀は{九}を引いた。

 ならば、これを、

「カン!」

 咲とは違って有効牌を掴むことはできなかったが、めくられた新ドラ表示牌は{八}。つまり、これで美由紀の中ドラ5が確定した。

 嶺上牌はツモ切り。

 ただ、こうなると、楓もダヴァンも美由紀を警戒して振り込み回避に出る。

 勝負できるのは、点数に余裕のある美誇人だけだろう。

 

 次ツモで、美由紀は{發}をツモった。

 普通ならツモ切りするところだが、何故か取っておいた方が良い気がした。

 そして打{②}。

 

 次巡、美由紀がツモってきたのは{發}。打{7}。

 そして、そのさらに次のツモでも、美由紀は{發}をツモって来た。まさか三連続で来るとは………。

 稀にこう言うことはあるが、大抵は不要牌と思って切ってしまう。そして、三巡後に、

『畜生!』

 と思うのが常である。

 しかし、ここは美由紀の直感が巧く働いたと言えよう。

 これで美由紀は{四七}待ちで聴牌。

 

 ここまで来ると、美由紀が萬子染めであることは他家にはモロバレである。当然、萬子を切ってくることは無い。

 

 次巡、美由紀は{⑤}をツモ切り。

 そして、そのさらに次のツモで、美由紀は{發}をツモってきた。

 ここで美由紀は{發}を、

「カン!」

 暗槓した。新ドラは{北}。

 

 場が凍りついた。

 美由紀の副露牌は、{發}の暗槓、{中}のポン、槓ドラである{九}の明槓だ。

 ここで、他家の頭の中には、ある二つの単語が浮かんでくる。

「(小三元 or 大三元!)」

 河を見ると、{白}は二枚切れている。ならば大三元は無い。

 しかし、小三元の可能性はある。

 最悪の場合、小三元混一色対々和ドラ5の数え役満まである。

 こうなると、点数に余裕のある美誇人も降りるしかない。いくら200000点越えでも親の役満を振り込んだら一気に点差が縮んでしまう。

 

 美由紀以外の者達にできることは、下手に逆らわず、流局と言う形で嵐が過ぎるのを待つだけだ。

 

 しかし、次巡、

「ツモ!」

 他家の願いを撥ね退け、美由紀が和了り牌である{七}をツモってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {四四[五]六}  暗槓{裏發發裏}  明槓{中中横中中}  明槓{九九九横九}  ドラ{①九北}  ツモ{七}

 

「發中混一ドラ5。8000オール!」

 親倍ツモだ。

 まあ、他家にとっては、最悪の和了りは免れたが、ここで、この一発は大きいだろう。

 

 当然、美由紀は、

「一本場!」

 気の入った声で連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{五}。

 ここでも美由紀は、

「ポン!」

 背水の陣で挑む。二巡目で楓が切った{東}を一鳴きした。

 次巡、美誇人が切った{三}を、

「チー!」

 美由紀は鳴いて{横三四[五]}を副露した。これで東ドラ2が確定した。

 

 この親を流せば、美誇人のトップ折り返しが決まる。当然、美誇人としては安手でも良いから流したいところなのだが、ここに来て、手の進みが悪い。

 完全に流れを美由紀に持って行かれた感じだ。

 

 美由紀は、

「ポン!」

 さらに楓が捨てた{南}を鳴いた。

 そして、その数巡後、

「ツモ!」

 美由紀がツモ和了りを決めた。

「東南混一ドラ2。6100オール!」

 親ハネツモだ。

 

 これで副将前半戦の、現状での順位と点数は、

 1位:美誇人 202400

 2位:美由紀 137800

 3位:楓 56400

 4位:ダヴァン 3400

 そろそろダヴァンがヤバイ状態だ。

 

 美由紀は、もう親満クラス以上をツモ和了りできない。ツモ和了り可能なのは、9600の二本場まで。3400オールまでが限界だ。

 こうなると、楓か美誇人から直取りするしかない。

 或いは、一発逆転で役満ツモか?

 

 ただ、美誇人としても、この美由紀の追い上げは想定外だった。

 このまま放っておいたら奇跡の大逆転まで起こり得る。それだけのパワーを今の美由紀からは感じられるのだ。

「(こっちこそ背水の陣だね。)」

 美誇人は、そう心の中で呟くと、静かに気合を入れ直した。

 

 オーラス二本場。ドラは{2}。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が序盤から{中}を鳴いてきた。

 しかし、この時、美由紀が捨てた{北}を、

「ポン!」

 美誇人が鳴いてきた。美誇人の鳴きは珍しい。

 

 その次巡、

「ポン!」

 再び美由紀が{5}を鳴いた。これで索子は使い難い牌となった。

 

 そのさらに次巡、今度はダヴァンが切った{七}を、

「チー」

 美誇人が鳴いて{横七[五]六}を副露した。そこから打{⑤}。

 

 そして、その次巡、

「(これは使い難いデース。)」

 ダヴァンがツモ切りした{7}を、

「ポン!」

 美由紀が鳴いた………はずだった。

 しかし、これと同時に、

「御無礼。ロンです。」

 美誇人が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {23456⑤[⑤]}  チー{横七[五]六}  ポン{北北横北}  ロン{7}

 

「北ドラ3。7700の二本場は8300。アナタのトビで終了です。」

 これで副将前半戦を終了した。

 

 副将前半戦の順位と点数は、

 1位:美誇人 210700

 2位:美由紀 137800

 3位:楓 56400

 4位:ダヴァン -4900

 美誇人の圧倒的大勝利で前半戦を折り返した。

 

 

 一旦、美由紀は控室に戻った。

「ゴメンなさい。最後はコーチの言うことを破って………。」

「いや、あれは、あれでエエ。むしろ、うちのアドバイスの仕方が悪かったかも知れへん。スマンな。」

「いえ、でも、コーチのアドバイスがあったから振り込まなかったわけですし。」

「せやけど、和了れなかったら意味あらへん。なので、後半戦は綺亜羅の親を安くても良いから流して、あとは振り込みを回避しつつ攻めて行けばエエ。最後の三連続和了りみたいにな!」

「は…はい!」

「ここで阿知賀が二つ目の勝ち星を取るか、綺亜羅が二つ目の勝ち星を取るか、勝負やで! 全ては美由紀にかかっとる!」

「はい!」

 美由紀に大きな重圧がかかった。

 しかし、南三局五本場からの和了りと同じことができれば、美誇人を逆転できるかもしれないのだ。当然、闘志も湧いてくる。

 自分のところで決勝進出を決める。

 美由紀の中で、今まで以上に気合が入った。

 

 

 一方の美誇人は、

「(美由紀ちゃんカワイイ。お持ち帰りしたい! もう絶対に対局が終わったら、美和みたいにLINE登録させてもらう!)」

 そんなことを考えていた。




おまけ
前回の続きです


九.『特典は私…』

今度は、数十発の小型ミサイルが撃ち放たれてきた。
それらミサイルの中からバスケットボールくらいの白い玉が出てきて、加速しながらこっちに突き進んでくる。
とにかく避けるしかない。
私はスコヤンを大きく旋回させながら戦艦下方に超高速で移動させた。
さすがに戦艦の下側にはヤエ弾を撃つ装備は無さそうだ。
これなら攻撃できると思ったその時だった。
「駄目。逃げて!」
クルミの声が頭の中にこだました。
ヤエ弾の軍団が、生きているみたいに、こっちに押し寄せてきていたのだ。
今度のやつは、ユウキのミサイルと一緒で追尾式だ。本当に性格が悪い。
私はスコヤンを戦艦から遠ざけるしか無かった。
敵戦艦は全く砲撃してこない。多分、ヤエ弾に当たるのをケアしているのだろう。
当然、戦闘機も出てこない。ヤエ弾がうようよしているところに好んで戦闘機で飛び発つ軍人は、さすがにいないだろう。。
ヤエ弾軍団は、なおも私達を追いかけてくる。
凄くしつこい。このままでは逃げるだけで疲れてしまう。
いっそのこと、ワープで逃げようか?
そう思った時だった。
ヤエ弾軍団の一発が、私達を追いかけてくる途中で変に蛇行した軌道を一瞬とったのにシズノが気付いた。
「もしかして、さっき小惑星が爆発してできた岩屑(がんせつ:小さな石の欠片)に当たるのを避けているんじゃない? と言うことは、何か、ちょっとした質量のものがくっついただけでも反重力装置が機能停止して爆発するんじゃないの?」
すると、再びクルミの声が頭の中に響いてきた。
「リューカとの合体を解いて。鱗を使って。」
彼女の持つイメージが私に伝わってきた。
なるほど…。
私はスコヤンの合体を解き、トヨネとトキだけを再合体させた。今、トヨネは背中に羽の生えた人魚の形になった。
私の頭の中に言葉が浮かんできた。クルミの記憶の中から見つけた言葉だ。
「トヨネ・カッター!」
トヨネが自らの尾をヤエ弾軍団に向けて大きく振った。すると、そいつらに向けて、たくさんの鱗が剥がれて飛んでいった。
「小ワープで逃げて!」
シズノの叫び声だ。
私はリューカとの再合体させずに、そのまま急いで数億キロほどワープさせた。

ワープ終了後、激しい大爆発のシーンがレーダー映像で捉えられた。
それと同時にレーダーからユリ・エナジーの反応が消えた。敵戦艦は、あの爆発に巻き込まれたのだろう。マホもヤエも、多分、助からなかったに違いない。

クルミの記憶の一部が私の頭の中に流れ込んできた。
反物質は、だいたい30グラムあれば、対消滅で原爆七十五個分くらいの爆発力になるらしい。とんでもない破壊力だ。
ヤエ弾一個当たりに、どれくらいの反物質が入っていたのかは分からない。でも、一個爆発すれば他のヤエ弾も、その爆発に巻き込まれて連鎖的に爆発する。
もしかすると追尾式のヤエ弾は、鱗をトヨネの一部と判断して、あえて避けなかった…むしろ、接触する方向に動いたのかもしれない。
逆に、鱗をスコヤンの一部と判断しなかったとしても、一発だけでも鱗を避けそこなったヤエ弾があれば、このようになる。
今になってゾッとした。
万が一、スコヤンにあれが当たっていたら…。
間違いなく無事では済まなかっただろう
それどころか、多分、消滅している。
敵戦艦は、自分自身の科学力で勝手に自滅した感じだ。それとも最初から自滅覚悟だったのだろうか?
どっちにしても、ここにいるのはヤバそうだ。ヤエ弾が一つでも生き残っていると恐い。


私は三機を合体させると、スコヤンを第五番惑星付近まで急いでワープさせた。
『ここまで来れば大丈夫。』
そう思った。
でも、それは甘かった。
目に前に趣味の悪い要塞がワープして姿を現した。直系数キロの巨大な玉だ。そして、四方八方に巨大なカゼコシ砲を装備している。まるで、ゴルフボールを直系数キロまで巨大化させて、その窪み一つ一つが全てカゼコシ砲になった感じだ。
しかも、これに装備されたカゼコシ砲は、超巨大戦艦のものよりもさらに大きい。とんでもない威力があるに違いない。

一方的な音声通信が入ってきた。
ユウキの声だ。
「塞。この要塞で勝負だ。見ての通り、どの方向から攻めてこようと同じだ。ここで、私から一つ提案する。私の全精力をかけたカゼコシ砲と、そっちのミヤモリ・エナジーからなる超バリヤーとのプライドを賭けた勝負をしたい。」
これを聞いて、私の頭の中でクルミとハツミが、なにやらコソコソ相談している。他人の内緒話が頭の中を駆け巡るなんて、何だか奇妙な感覚だ。
二人の意見が一致したようだ。
クルミの声が聞こえてきた。
私には、それがアコ、シズノ、コロモに向けて送っているテレパシーであることがイメージ的に分かった。
「アコとシズノとコロモは、それぞれヒナ、ナズナ、シロナにフェードインして。全員の力を合わせれば何とかなるはずよ。」
「でも、万が一、失敗したらどうなるのよ!?」
アコは慎重だ。
絶対に負けちゃいけない戦いだ。司令官として当然だろう。
でも、私には分かった。これはクルミとハツミの女の意地だ。
これにアコも気付いたようだ。

正直、意地だけで勝てるものではない。でも、もしこれで負けるようなら、いずれカクラ星は、このユウキの要塞でやられる。
どこかで叩き潰さなければならない敵。
結局、アコの方から折れた。
「分かったわよ。みんなの命とカクラ星の未来。全て託すわ!」
そう言うと、アコはヒナにフェードインした。
ヒナの姿が少し変化した。首筋が細く、肌が綺麗になった感じがする。
ただ、全体的には大きな変化は無い。彼女の場合、今のところ遺伝情報をほぼフルに引き出せていると言うことだ。羨ましい。
続いてシズノがナズナに、コロモがシロナにフェードインした。
ナズナもシロナも、顔も背もウエストも全然変わらなかった。
ただ、胸が、ほんの少しだけ成長していたように感じた。まあ、余り変わっていないようにも見えるけど…。
彼女達も遺伝情報をほぼフルに引き出せていると言うことだろう。羨ましいと通り越して、ちょっと憎たらしい。
まあ、まだ三人とも子供なので、今後、どうなるか分からないけど!


クルミのイメージが伝わってきた。私からユウキに返答して欲しいらしい。
私はイメージに従って言葉を口に出した。
「分かった、ユウキ。ただし、こっちは全員の力を結集してスコヤンの力を最大限引き出す。カゼコシ砲とスコヤンとの勝負だ。」
「イイじょ! では、行くじぇい!」
ユウキが例の如くペットボトル状のものの蓋を開けて中身を一気に飲み干した。たくさんの女性から抜き取ったフクジ・エナジーだ。
そして、彼女は天井にコードで繋がっているヘルメットを装着した。
さらに彼女は、両手首、両足首、ウエスト周りにもコードの付いた太いマジックテープのようなものを巻きつけた。それらのコードは全て床に繋がっていた。
カゼコシ砲の一つが、うっすらと輝き出した。そこから巨列なエナジー波が飛び出してくるのだろう。
そのカゼコシ砲のすぐ上のところが、ガラス張りになっていた。そこが操縦室のようだ。そして、ガラスの向こうには人影が見える。多分、ユウキだ。

私達も全員が渾身の力を振り絞ってスコヤンにキラメ・スバラ・バリヤーを張った。
これまでのバリヤーよりも一段と強力だ。ヒナ、ナズナ、シロナの力では、アコとシズノとコロモのミヤモリ・エナジーを十分に増幅できないかもしれない。でも、それが加算された分、間違いなく私とクルミ、ハツミだけで出す力よりも全体の力は上がっている。
カゼコシ砲が発射された。この前以上に強烈だ。

スコヤンは避けることなく超エナジー波に向かって行った。このままカゼコシ砲に突っ込んでユウキの要塞を貫こうとしたのだ。
でも、全然前に進めなかった。カゼコシ砲の強力なパワーがスコヤンを後に押し戻すのだ。

十秒程度で、一旦カゼコシ砲からのエナジー放出が止まった。
その時、スコヤンは数キロ後退していた。
別に逃げたわけじゃない。それだけカゼコシ砲のパワーが強力過ぎて、後に押し流されたのだ。
でも、このバリヤーも強力だ。あちこちにヒビが入っているけど、その形を一応、何とか保っている。あれだけの威力を持ったエナジー波を受けても、スコヤンの機体を何とか守り通してくれたのだ。
でも、連続して、もう一発受けたら、どうなるかは分からない。
それ以前に、もう少しカゼコシ砲の放出時間が長かったら…。
多分、そうなったら破壊されていた。この一発目は辛うじて防げた感じだ。意地を貫き通せたけど、ギリギリの戦いだ。

でも、何で十秒程度で止めてしまったのだろう?
もう何秒かカゼコシ砲の放出が長かったら私達は負けていた。
助かったけど、手を抜かれて引き分けにさせてもらえたみたいにも思える。
何かスッキリしない。
よく分からないけど、とにかく仕切り直しだ。

私は、スコヤンを前進させ、二発目のカゼコシ砲との勝負に備えて、キラメ・スバラ・バリヤーを張り直した。
でも、何故かユウキはカゼコシ砲を撃ってこようとしなかった。
「ユウキ、これで終わりか?」
私の声には気合が入っていた。
でも、音声通信から聞こえてくるユウキの声には、以前のような元気と言うか、横柄さが無かった。むしろ弱々しささえ感じられた。
「私の負けのようだじぇい。全精力を注ぎ込んだ一発だったんだじょ。あれを耐えられては打つ手が無いじぇい。それより、早くここから逃げた方が良いじょ。この要塞の爆発に巻き込まれるじょ。」
「ちょっと待って。それって、どう言うこと?」
「大量供給したエナジーをカゼコシ砲一つに絞った結果、特定の箇所に負荷がかかり過ぎたみたいだじぇい。既に操縦室のあちこちの回路から火を吹き上げているじょ。」
「脱出しないのか?」
「この要塞に、そんなものは無いじょ。まだ試作段階だからな。」
通信が切れた。
要塞のあちこちから炎の柱が吹き上がった。もう、一分もしないうちに大爆発を起こしそうな雰囲気だ。
『早く逃げなきゃ。』
そう思いながらも、いつの間にか私は逆に要塞に向けてスコヤンを超高速で突っ込ませていた。そして、要塞の操縦室がスコヤンの100メートル圏内に入った時、私は何故か、
『ユウキを助けて!』
とスコヤンに願っていた。
その直後、スコヤンの操縦室の後方がうっすらと光った。ユウキが、この場所に瞬間移動してきたのだ。
彼女は横たわったまま起き上がろうとはしなかった。
その一方で、三つ子達が私の方をじっと見詰める。
むしろ睨んでいる。
三人は、
『なんで助けるのよ!』
と言いたげだった。
それは、そうだ。三人はユウキの軍に散々苦しめられてきたのだ。
でも、今、三人に言い訳している時間は無い。私はスコヤンを急いで要塞から遠ざけた。

それから十秒もしないうちに要塞が大爆発を起こした。
間一髪セーフ。
一先ず、私達は爆発に巻き込まれずに済んだ。


操縦室後方から赤い光を感じた。
私が振り返ると、夜中に高層ビルの屋上から放たれる光のように、ユウキの身体が赤く点滅していた。
そして、その点滅が消えた時、ユウキの身体に異変が起きた。その妖艶だった身体がグッと縮んだのだ。身長は145センチくらいか。
全体的に幼児体型だ。
正直、小学校低学年の体型のまま、身長だけを145センチくらいまで引き伸ばした感じだ。
全然色気が無い。

顔も幼い感じだ。
胸も、かなり萎んでいた。元の私よりずっと小さい。絶壁と言えよう。
これが本来のユウキの姿だった。今までは、フクジ・エナジーを定期的に摂取することで、あの美貌を作っていただけに過ぎなかったのだ。


優希「そこまで言うなんて、有り得ないじょ!」


彼女も私と同じで、元は派手な女性ではなかった。でも、一つだけ違っていた。それは、彼女が他人の命を犠牲にして美貌を手に入れていたことだ。
そうは言っても、誰だって美しくなりたい。
もし、私がキヨスミ星に生まれていたら、どうなっていただろう?
きっと、その星の常識に感化される。そうしたら、私だってユウキと同じになってしまったかもしれない。
私は、彼女の身体を揺すった。
「ユウキ、大丈夫?」
「ん…んん…。」
彼女が、ゆっくりと目を開けた。
「おまえは、塞。ここは、どこだじぇい?」
「スコヤン…私達のロボットの操縦室の中よ。」
「助けてくれたのか?」
「自分でも分からないけど…助けちゃったみたい。」
ユウキが上体を起こした。
「そうか。でも、礼は言わないじょ。もう私はキヨスミ星には戻れない。どうせ帰っても死刑だしな。前回大破した超巨大戦艦と、さっきの要塞を失った責任は大きいじょ。その製造経費と開発経費だけでも天文学的数字だじぇい。それに、さっきの要塞は許可無く勝手に乗ってきたんだじょ。重罪だじぇい。加えて敗北の責任を取らされるじょ。」
彼女が自分の手足を見詰めた。現在の自分の姿がどうなっているのか、大体想像が付いているだろう。

操縦室後方の巨大な鏡、つまり姿見兼用のドアに映し出された姿が駄目押しになった。
「これが私の本当の姿だじょ。笑いたければ笑えばイイじぇい。」
彼女が体育座りして身を縮めた。今の姿が恥ずかしいみたいだ。

私は何故か彼女を責め切れないでいた。戦いはしたけど、別に直接地球が侵略行為に遭ったわけではない。第三者に近い存在だ。
でも、三つ子達の視線は冷たかった。姿が変わろうと何だろうと、今まで自分達を苦しめてきたユウキを、そう簡単には許すことができないのだろう。

私の身体からクルミとハツミがフェードアウトした。
一応、クルミ達が私の身体にフェードインしていれば、ミヤモリ・エナジーは数千倍に増幅される。まだ、やったことは無いけど、多分、私の手から強力な電撃とか衝撃波を撃つことが出来るはずだ。それでユウキを攻撃することも出来る。
でも、もうユウキには戦う意思がないことを二人は悟っていた。だから、攻撃モードを解除したのだ。
これに呼応するかのように、スコヤンが合体を解いた。
最低限、クルミが私の身体でミヤモリ・エナジーを増幅しなければ、スコヤンの姿を維持するのに必要なエナジーを供給できないのだ。

クルミがユウキの前に降り立った。
「別に笑うつもりは無いわ。それと、キヨスミ星に帰れなければ、裏切っちゃえば良いじゃない。こっちに寝返らない?」
大胆発言だ。
「いや、今更寝返っても、例えば、そこのウィシュアート星の三つ子達は私を許せるのか?」
「すぐには無理だと思うわ。でもね、キヨスミ星の侵略行為とフクジ・エナジーの収集をやめさせることができれば、彼女達の心も変わると思うわ。それに、あなたならエイスリンの居場所を知っているんじゃない?」
「あのウィシュアート星の女か?」
「そうよ。エイスリンは、このアイリスの友達なの。彼女の救出も条件になるわ。それとね。こっちに寝返ると特典が付いてくるわ。」
クルミが私にフェードインした。
私の姿はゴッド・塞になった。ついでに身体の支配権もクルミに代わった。
彼女が私の身体を勝手に動かす。
私の顔がユウキの顔に接近する。クルミは何をしようとしているのか?
もしかして…。
やめて。私は、まだ誰ともしたことが…。
私は強制的にユウキとキスさせられた。
軽く唇が触れた程度だったけど、生まれて初めてのキスだ。


優希「分かってると思うけど、振りだからな! 本当はしていないんだじぇい!」

塞「当然でしょ!(まだシロともしていないんだから!)」

白望「ダル………。」←無関心


ユウキの身体が一瞬白く輝き、妖艶な姿に戻った。私の体内で産生されるⅡ型のフクジ・エナジーが彼女の体内に入ったのだ。
彼女は自分の手足を見て、その変化に気付いた。そして、操縦室後方の鏡になったドアを振り返り、その妖艶な身体を確認した。
「これは、どう言うことだじょ?」
でも、三十秒もしないうちに、また身体が赤く点滅して初期状態の身体に戻ってしまった。唇が触れたくらいでは十分なフクジ・エナジーの補給にはならないようだ。
クルミが私の身体からフェードアウトした。
「どう? これが特典よ。塞と十分間くらいディープキスすれば、一週間くらいは持つんじゃない?」
ちょっと待ってよ、クルミ。
特典は私だなんて…。
私の許可も無しに勝手に話を展開しないでよ。
そう言いたかったけど、それを口に出す前にユウキが声高々に笑い出した。
私は言葉に出すタイミングを逃してしまった。
「驚いたじょ。まるで、あのオバサンかエイスリンのようだじぇい。」
「オバサン?」
クルミが聞いた。さすがに彼女もオバサンと言われて、それが誰なのか一瞬ピンとこなかったようだ。
「たしか、名前はトシって言ってたじょ。」
それって、私の母と同じ名前だ。
私は一瞬期待した。もしかしたら、私の母が捕えられているのかもしれない。生きているかもしれない。
思わず私はユウキに聞いた。
「ねえ、そのトシって人は、いつごろキヨスミ星に?」
「十五年前だじょ。どの星で捕らえたかは私も分からないじぇい。」
期待は、すぐに裏切られた。
私の母が蒸発したのは十年前だ。時間軸が合わない。
蒸発が十五年前で捕えられたのが十年前なら、まだ話は通じるけど…。
やっぱり世の中は、そんなに甘くない。
「以前、私の軍が敗北してヒサ総統に責められた時、彼女に庇ってもらったことがあるんだじぇい。面倒見の良いオバサンだじょ。」
その表情から察するに、ユウキは、そのトシって人を結構慕っているようだ。
「強力なフクジ・エナジーを、枯れることなく産生し続ける一人目の女性のこと?」
クルミが再びユウキに聞いた。
「そうだじょ。オバサンもエイスリンも毎日のようにヒサ総統とキスさせられているけど、あれは、彼女達の体内から無限に湧き出るフクジ・エナジーを吸収するためだじょ。と言うことは、もしかして…。」
ユウキが私の方を振り向いた。
「塞。お前もあの二人と同じなのか? でも、ミホコ波は出ていないみたいだじょ…。」
「いえ…あの…私には、細かいことは良く分からないんだけど。ねえ、クルミ。お願い。説明代わって。」
一応、カクラ星でフクジ・エナジーについての説明を受けていたけど、他人に説明できるほどの知識は私には無い。悪いけどクルミに振った。
するとクルミが、
「まあ、話が長くなるから細かいことは後で話すわ。でも、少なくとも塞を独り占めできれば、あなたには他の惑星からミホコ波を出す女性を拉致する必要も殺す必要も一切無くなるはず。これが条件よ。」
と、さらに話を勝手に展開した。
私はレズじゃない。(←嘘)
でも、とっさに言葉が出てこなかった。
ハメられた…。
クルミにフォローを求めた私がバカだった。
ユウキが笑顔を見せた。妖艶さはないけど、可愛らしい雰囲気が漂っていた。
「良いじょ。もっとも、これでは塞が私の奴隷になるのではなく、私が塞の奴隷になるようなものだじぇい。」
どうやら、クルミの持ちかけた交渉は成立したみたいだ。
彼女は相手の欲求を読んで話を持ちかける。私の時と同じだ。
ただ、私の気持ちは完全に無視された。
やっぱり、私はクルミにとって道具でしかないのかもしれない。
私は彼女の増幅器。
加えて便利なⅡ型フクジ・エナジー産生機器だ。


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百十三本場:快進撃

 準決勝第一試合副将戦。

 後半戦開始に向けて選手達が対局室に姿を現した。

 

 場決めがされ、起家が美誇人、南家がダヴァン、西家が楓、北家が美由紀に決まった。

 美誇人のターゲットであるダヴァンが美誇人の下家になるのは、ダヴァンにとって最悪な席順だろう。

 

 

 東一局、美誇人の親。ドラは{西}。

 美由紀は、恭子の指示に従い、

「ポン!」

 美誇人の親を流すべく、序盤から飛ばす。先ずは、二巡目でダヴァンが捨てた自風の{北}を鳴いた。これで美由紀は、和了りに向けての必要最低限の条件を手に入れた。

 

 一方の美誇人も、この親で稼ぎたいところだ。

 既にダヴァンのツキが落ち、ダヴァンから美誇人に点棒が流れる仕組みが前半戦を通じて出来上がった感触がある。それを何とか維持したい。

 

 ただ、その美誇人の思惑を覆そうと、

「チー!」

 さらに美由紀は、楓が捨てた{7}を鳴いて{横7[5]6}を副露した。早い仕掛けだ。

 

 早和了りは、恭子に指導されている。それに、憧ほどの加速力は無いが、元々鳴き麻雀は美由紀の領分だ。

「ツモ!」

 中盤に入る前に、美由紀は何とか和了りまで漕ぎ着けた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一⑤⑥西西}  チー{横7[5]6}  ポン{北横北北}  ツモ{⑦}

 

「北ドラ3。2000、4000!」

 満貫ツモ和了りだ。美誇人の親を流すことだけを考えれば上出来だろう。

 

 

 東二局、ダヴァンの親。

 ここからは、美由紀は少し前に出るのを抑える。

 背水の陣で戦うのは、自分が親の時と美誇人が親の時だけ。前に出過ぎて美誇人に狙われたら後が大変だ。

 大事な局面以外は、和了りには向かうがディフェンス力も考慮に入れる。

 

「リーチ!」

 六巡目。早速、美誇人がリーチをかけてきた。

 美由紀は、一応、美誇人の安牌を確保してある。勿論、和了りに向かうことを前提に対子で持つか、或いは浮き牌として一、二枚持つ程度だ。

 少なくとも順子を崩しての一発回避はしたくない。

 ところが、今回は、その安牌確保も余り意味を成さなかった。

「御無礼。一発、ロンです」

 ダヴァンが、まるで吸い込まれるかのように美誇人に振り込んだのだ。

「16000。」

 しかも倍満だ。

 これで、あっと言う間に後半戦のトップを美誇人に奪われた。

 ただ、この時、美誇人の頭の中は、

「(トップだけじゃなくて美由紀ちゃんの大事なものも奪いたい!)」

 とまあ、お花畑が満開状態だった。

 邪念だらけで、よくこれだけの麻雀が打てるものだ。

 

 

 東三局、楓の親。

 ここでも、

「リーチ!」

 五巡目と、割と早い巡目で美誇人がリーチをかけてきた。この仕上がりの速さは、池田華菜を髣髴させる。

 華菜は、ヤラレ役のイメージが強いが、それは飽くまでも咲や衣を相手にしているためである。超魔物が相手でなければ、かなり強い選手だ。

 

 そして、まるで前局と同じように、

「御無礼。一発、ロンです!」

 またもやダヴァンが吸い込まれるように美誇人に振り込んだ。

「12000。」

 今回はハネ満だ。

 もし、これが25000点持ちなら、この美誇人への二度の振込みだけで箱割れして終了である。それを考えると、ダヴァンのツキの凹み具合は相当と言えよう。

 

 

 東四局、美由紀の親。ドラは{⑥}。

 当然、美由紀は、ここで稼ぐつもりで前に出る。

「ポン!」

 一巡目にダヴァンが切った{東}を鳴く。

 そして三巡目にも、

「チー!」

 楓が切った{⑦}を鳴いて、{横⑦[⑤]⑥}と副露した。

 これで、ダブ東ドラ2。最低でも11600が確定だ。

 

 ところが、

「リーチ!」

 この序盤、美誇人の方が先に聴牌したようだ。美由紀からすれば、まさかの先制リーチである。

 さすがに、今回はダヴァンも一発は回避した。

 楓も安牌切りで無難に振り込み回避。

 一方の美由紀だが、

「(安牌が無いけど、ここは勝負!)」

 ど真中の{5}を切った。{45[5]6}とあったところから、{5}を切って向聴数を減らしたのだ。分からない時は、仕方が無い。

 

 一瞬、場の空気が止まった感覚があった。

 しかし、これは通し。美誇人の和了り牌ではなかった。

 

 次ツモで、美誇人はツモ切り。

 そして、ダヴァンは、美由紀が通した{5}の筋、{8}を切った。

 ところが、これで、

「御無礼。ロンです。」

 ダヴァンは、美誇人に振り込んだ。結果的に、美由紀が美誇人の和了りをサポートした形になった。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {三四五[五]六七⑥⑥23479}  ドラ{⑥}  裏ドラ{五}

 リーチドラ5のハネ満だった。

 

「12000です。」

 これで、ダヴァンの持ち点は60000点を割った。

 

 美誇人は、ダヴァンから点棒を受け取りながら、

「(臨海の人は、一回戦二回戦とパターンが変わらないし、馬鹿みたいに勝負してくるから、今回は非常にやり易かったかな。それで、彼女から私に点棒が来る流れを作っちゃったから、もうこっちにしてみれば安泰ってとこだよね。)」

 と心の中で呟いていた。

 前半戦で、デュエルだけで勝負してくるダヴァンを、美誇人は、まんまと振り込みマシーンに変えてしまったわけだ。

 続いて、美誇人は何気に美由紀のほうに視線を送ると、

「(でも、美由紀ちゃんは、背水の陣で来る時もあるけど、大抵ヤバイ時には上手に打ち回してくるし、ターゲットにはし難いね。別の意味でターゲットになってるけど。)」

 そう呟きながら、そのうち自分が美由紀に吸い込まれてしまうような錯覚に陥った。ただ、吸い込まれるのは点棒ではなく、多分Hなほうだ。

 

 

 南入した。

 南一局、美誇人の親。

 ここでは、

「ポン!」

 美由紀はムリをしてでも前に出る。とにかく、圧倒的リードの美誇人に連荘だけはさせない。

 通常は、美誇人のようなプレイヤーと同卓すれば、共闘して三人がかりで親を流しに行くだろう。しかし、ダヴァンも楓も、それが出来るほどの力が無かった。

 ダヴァンは、己の力のみでデュエルで勝利する麻雀しかできないし、楓もそこまで器用では無い。完全に強大な敵に対して美由紀の孤軍奮闘状態なのだ。

「チー!」

 ただ、救いは楓の捨て牌が甘いことだ。

 別に美由紀をサポートしているわけではなく、牌が絞り切れておらず、結果的に美由紀に鳴かれている状態だったのだ。

 それが、美由紀にとっては幸いだった。

「ツモ! 3000、6000!」

 この美誇人の親を、美由紀はなんとか流すことに成功した。

 しかもハネ満ツモ。

 東一局以上の出来だ。

 

 

 この頃、この対局の様子を見ていた美和が、ふと、

「そう言えばさ、この阿知賀の一年ってハートビーツ大宮の宇野沢栞の妹だよね。」

 と言葉を漏らした。

 これに鳴海が答えた。

「そうそう。本当に顔もスタイルもそっくりだよね。」

「たしか、カイ(美誇人のこと)って宇野沢栞のファンじゃなかったっけ?」

「本人は隠しているつもりみたいだけど、熱狂的なファンだよね。うちらの高校から近いからサイン貰いに行ったりしてたし。」

「へー。」

「ただ、どっちかって言うと、姉よりもあの妹の方が好きみたい。」

「えぇっ?」

「だから、何気に副将戦で当たるのが楽しみであり怖いようでありって複雑な心境だったっぽい。」

「嬉しいやら悲しいやら。多分、やり難いよね。」

「でも、ほら。至近距離で見れて、たまに嬉しい表情が見え隠れしてる。」

 基本的に美誇人はポーカーフェイスなのだが、付き合いの長い美和達には、美誇人のほんの少しの表情変化でも判るようだ。

「じゃあ、全国大会が終わったら、咲ちゃんにお願いしてカイと妹さんのツーショット取らせてもらおうか?」

「それイイね! きっとカイも喜ぶ!」

 なんだかんだで綺亜羅高校控室は、和気藹々としていた。あの鳴きのリュウこと鳴海の辛気臭さは何処へ行ったのだろうか?

 

 

 南二局、ダヴァンの親。

 既にダヴァンの点数は55000点にまで凹んでいた。ダンラスである。

 救いは、この局では美誇人が先制リーチをかけてこないところだろうか?

 

「ポン!」

 美由紀が、美誇人が捨てた{中}を鳴いた。ここから、美誇人マークで巧く打ち回しながら和了りに持って行く方針だろう。

 ただ、この局、リーチがかからないことが、逆にダヴァンの油断に繋がった。美誇人は七巡目で聴牌していたのだが、ダマで待っていたのだ。

 そして、ダヴァンが普通に手を進めようとして切った牌で、

「御無礼。12000です。」

 美誇人がハネ満を直取りした。

 

 

 そして、南三局でも、

「御無礼。12000です。」

 ダヴァンは立て続けにハネ満を振り込んだ。

 

 副将後半戦の、現状での順位と点数は、

 1位:美誇人 154000

 2位:美由紀 120000

 3位:楓 95000

 4位:ダヴァン 31000

 完全にダヴァンの一人沈みであった。これが人鬼と書いてカイ(傀)と呼ばれる美誇人のターゲットとされた者の末路だ。

 

 

 そして、副将戦は、いよいよ後半戦オーラスに突入した。

 親は美由紀。ドラは{西}。

 

 この段階での副将前後半戦合計の順位と点数は、

 1位:美誇人 364700

 2位:美由紀 257800

 3位:楓 151400

 4位:ダヴァン 26100

 もはや、誰の目から見ても美誇人の勝利を疑うものはいなかった。ただ一人、美由紀を除いて。

 

 美由紀は、

「ポン!」

 いきなり対面のダヴァンが捨てた{一}を鳴いた。前半戦オーラスで美由紀が和了った親倍を髣髴させる。

 当然、ここからは役牌と美由紀に鳴かれないようケアーする。

 ところが、美由紀は、役牌ではなく、

「ポン!」

 ダヴァンが捨てた{①}を鳴いてきた。

 これは、チャンタかジュンチャンか、三色同刻か?

 当然、美誇人も楓もダヴァンも牌を絞る。

 

 この局面で美由紀が狙っていたのは、チャンタ又は対々和だった。ただ、この二つ目のポンをした段階で手牌の中では既に完成、つまり聴牌していた。

 そして、次のツモ番で、

「カン!」

 美由紀が{西}を暗槓した。まさかのドラ槓だ。

 新ドラは{①}。美由紀がポンした牌だ。

 そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ!」

 まさかの嶺上開花が出た。これには、美由紀自身も驚いたし、点数申告の声にも自然と力が入る。

「嶺上開花チャンタドラ7。8000オール!」

 親倍ツモだ。

 

 これには、綺亜羅高校控室でモニター映像を見ていた鳴海も驚かされた。

 まるで自分の麻雀と咲の麻雀の融合だ。

 

 開かれた手牌は、

 {1113}  暗槓{裏西西裏}  ポン{①横①①}  ポン{一横一一}  ドラ{西①}  ツモ{2}

 ただ、高目の{3}ツモでなかっただけ、他家にとっては幸いだっただろう。もし、{3}で嶺上開花を決められていたら、嶺上開花対々和三色同刻ドラ7の三倍満だ。

 いや、嶺上開花でなくても三倍満の和了りだ。

 それに、{3}をヤオチュウ牌に変えられ、その上で和了られていたら数え役満になる。

 ダヴァンも楓も、点数的に余裕のある美誇人でさえも、親倍で済んで、本気でホッとしていた。

 

「一本場!」

 当然、美由紀は連荘を宣言した。

 ここから、芝棒一本でも多く美誇人の点数に近づける。その並々ならぬ気迫が、顔全面に出ていた。

 

 オーラス一本場。ドラは{發}。

 ここでも美由紀は、

「ポン!」

 背水の陣で望む。先ずはダヴァンから{白}を鳴いた。ドラ表字牌なので、一枚目が出たらすぐに鳴くしかない。

 もしくはアタマにするか、安牌として取っておくくらいしか使い道は無いだろう。

 

 ただ、ここでは、和了り続けるしかない。他家に和了られたりノーテンで流れたら、その時点で終わりだ。守りのことなど考えていられない。

 なので、白を安牌に取っておくなどと言う選択肢は無い。とにかく攻める。

 

 続いて、

「ポン!」

 今度は楓から出てきた{⑤}を鳴いた。副露されたのは{横⑤[⑤][⑤]}。これで白ドラ2が確定だ。

 

 ここに来て、前半戦オーラスの時のように、何故か美誇人は手の進みが悪くなった。もしかして、これが美由紀の能力と言うか支配なのだろうか?

 

 そのさらに数巡後、

「カン!」

 美由紀が{⑤}を加槓した。イヤでも前局の嶺上開花を思い出させる。

 場に緊張が走る。

 新ドラは{東}。

 しかし、美由紀は嶺上牌をツモ切りした。有効牌でも無かったようだ。これには、他家三人はホッと溜め息をついた。

 

 しかし、その次巡、

「ツモ!」

 美由紀が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {四[五]六11東東}  明槓{横⑤⑤[⑤][⑤]}  ポン{白横白白}  ツモ{1}

 

「白ドラ5。6100オール!」

 もし、これが{東}をツモっての和了りだったなら、役として東とドラが一枚追加で倍満になった。他家にとっては、不幸中の幸い二連続と言ったところだ。

 

 オーラス二本場。ドラ{北}。

 楓以外は使い難いドラだ。

 

「ポン!」

 早速、二巡目で美由紀はダヴァンから{白}を鳴いた。

 そして、その次巡、

「チー!」

 美由紀は楓から{二}を鳴いて{横二一三}を副露した。

 とにかく早和了りだ。

 ここでは、美由紀の配牌は萬子に偏っていた。幸い、それがバレる前に{白}と{一}を鳴けた。

 既に手牌は一向聴。ここからは自力で手を進める。

 そして、三巡後に聴牌。

 同巡で美誇人も聴牌した。

 

 ただ、美誇人はリーチをかけなかった。役があるし安手のダマでよい。誰かが振り込んだところで自分の勝ち星が決まる。

 

 しかし、

「ツモ!」

 先に美由紀に和了られた。

 しかも、開かれた手牌は、

 {一二三九九北北}  チー{横二一三}  ポン{白横白白}  ツモ{九}  ドラ{北}

 白混一色チャンタドラ2のハネ満だ。

「6200オール!」

 この和了りで、美由紀の後半戦の得点が180000点を越えた。

 

 オーラス三本場。ドラは{五}。赤牌と被る嫌なドラだ。

 美由紀のカワイイ顔が、まるで鬼のような表情に変わっていた。

 が、これを見て美誇人は、

「(その表情もカワイイ!)」

 と内心思っていた。

 

 ここでも美由紀は、

「ポン!」

 序盤から飛ばす。楓が捨てた{9}を鳴いた。

 そして、次巡、

「ポン!」

 美由紀は、今度はダヴァンが捨てた{2}を鳴いた。

 索子が二つ副露された。当然、他家は染め手を想定する。

 しかし、美由紀の捨て牌には、思いの他、索子と字牌が多い。これは、恐らく対々和であろう。

 ただ、狙いが分かっても筋が関係ない対々和を読むのは難しい。

 ここからは、極力鳴かせないために美由紀の現物や、二枚切れの牌で対応する。

 とは言え、それが永遠に続くものでもない。

 ならば、確率的に極力初牌を避けて一枚切れの牌を捨てよう。

 そう思って楓が捨てた{②}で、

「ロン!」

 美由紀が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {五五[五]②②[⑤][⑤]}  ポン{2横22}  ポン{横999}  ロン{②}

 

「対々ドラ6。24900!」

 親倍直撃だ!

 

 これで副将後半戦の、現状での順位と点数は、

 1位:美由紀 205800

 2位:美誇人 133700

 3位:楓 49800

 4位:ダヴァン 10700

 

 そして、この時点での副将前後半戦合計の順位と点数は、

 1位:美誇人 344400

 2位:美由紀 343600

 3位:楓 106200

 4位:ダヴァン 5800

 美由紀が美誇人と800点差まで詰めてきた。怒涛の快進撃だ。本当に、オーラス開始時点からの100000点差を、ほぼ帳消しにしたのだ。

 あと一回和了れば逆転できる。どんな手でも良い。

 当然、美由紀から溢れ出るオーラが、より一層激しさを増してくる。

 

 これには、さすがの美誇人も、

「(ちょっとマズイ。気を入れ直さないと。いくら美由紀ちゃんがカワイくても、チームのためには勝ち星は譲れないもんね!)」

 焦りの表情が少しだけ表に見えてきた。

 …

 …

 …

 が、美誇人は、

「(多分、チームのためじゃなければ勝ち星を譲るんだろうな。)」

 とも内心思っていた。とことん美由紀ラブである。




おまけ
前回からの続きです


十.『こんなにたくさん相手するの?』

三体のロボットが第五番惑星に着陸した。
私達は、一先ずここで休息をとることにした。
ヒナ、ナズナ、シロナの席が床下に収納された。
この三畳間くらいの面積に、私とユウキ、ヒナ、ナズナ、シロナの五人が雑魚寝状態になった。もっとも、ユウキは私にピッタリくっついて、ヒナ、ナズナ、シロナは三人でくっついていて………。私達と三つ子達の間には壁があるみたいな感じになっているけど………。
四人とも、もう寝たようだ。

私が座っていた操縦席ではアコとシズノとコロモが所狭しと眠っている。
その両脇についている小さな席をリクライニングして、それぞれにクルミとハツミが横たわっている。二人とも静かだ。もう眠っているのかな?

それにしても、マホとヤエとの戦いは精神的に疲れた。あんな危険なものを開発しているとは思わなかった。
でも、体力的にはユウキとの戦いの方がきつかった。
そのユウキが、今ここにいる。
クルミのせいで起きていた時、ユウキが四六時中、私にキスをせがんできた。
それで、私は例のブレスレットをつけてスイッチを入れた。こうすればユウキそっくりの私じゃなくなるし、少しはユウキも興味を無くしてくれることを期待していた。
でも、逆効果だった。
私の姿を見てユウキは驚いたけど、逆に親近感が湧いてしまったようだ。今も、私に抱きついて眠っている。
最初、宇宙に飛び立つ時には全然想定していなかった展開だ。

ただ、ユウキを助けて以来、三つ子達は、私を睨むだけで全然口をきいてくれなくなった。三人ともムスッとしているだけでクルミ達とも余り話をしない。
それだけユウキに恨みがあるのだろう。

逆にユウキは、そんなの全然お構い無しで平然としている。彼女は、ある意味、精神的に強いのかもしれない。

それにしても、ヤエ弾にかけた開発費用と時間は相当なものだっただろう。
寝る前にユウキが説明してくれたけど、反物質を保管するためには保管する容器の中は真空でなければならないみたいだ。空気に触れても駄目らしい。
それだけじゃない。反物質と容器が一瞬でも触れては駄目なのだ。つまり、ヤエ弾の中は空洞で真空になっていて、中にある反物質に向けて、常に一定の反重力がバランス良く出ている必要があるらしい。真空のど真中に反物質が浮いているようにするためだ。
勿論、ミサイルが発射された時も、その加速の影響で反物質がヤエ弾の後の方に動いて『物質部分』に触れたらアウトだ。
もっとも、この辺の細かい仕掛けがどうなっているのかまでは、さすがにユウキも知らなかったみたいだけど…。でも、恐ろしい技術だ。
今から思えば、マホとヤエの戦艦が大気圏に突入してこなかったのは、その衝撃でヤエ弾が爆発したら困るからだろう。
キラメ・スバラ・バリヤーをどんなに強固にしても、あの爆発力には太刀打ちできない。使いこなされたらカゼコシ砲よりも遥かに恐ろしい兵器だ。

それと、ユウキが乗ってきた趣味の悪い要塞にも相当な経費と時間がかかっている。
よくよく考えれば、カゼコシ砲を一つ装備するのも大変な作業だろう。それを、あれだけ装備した要塞だ。
私には想像できないほどの巨額な投資がされているのだろう。
でも、キヨスミ星の女性にとっては、若さと美貌を手に入れるためには、それだけの投資をする価値があると言うことなのか?
それとも、別の目的で侵略行為を進めるために開発したのか?
その辺は私にも分からない。
ユウキも、ただ軍人としてヒサの命令で戦ってきただけだ。
タコス錠だって、キヨスミ星で生まれ育って周りが使っているから自分も飲んだ。もしかしたらユウキにとっては、その程度のことに過ぎなかったかもしれない。
『みんなが持っているから私も欲しい。みんなが使っているから私も使いたい。』
そんな私達地球人の感覚と大同小異なのかもしれない。

色々考えていたら眠くなった。
いつの間にか、そのまま私は眠っていた。


気が付くと、私の携帯では翌日の朝になっていた。
窓の外を見ても星空しかない。
地球には固有の一日のサイクルがある。でも、今いる所は、それとは全く無縁の世界だ。
もう宇宙に出てから七日目だ。
いや、まだ七日目が正しいのかもしれない。地球から何万光年も離れた場所だ。ここまで来るのに、たった七日しか経っていないのだ。

みんな、既に起きていた。私が一番寝ボスケだ。
ユウキは妖艶な姿ではなく初期状態のままでいた。私が眠っている間に勝手にキスをしなかったみたいだ。
クルミに渡された錠剤型宇宙食を五つに割って、私とユウキ、ヒナ、ナズナ、シロナの五人で食べた。これくらいで丁度良い。
でも、カクラ五人組は全員一錠ずつ食べていた。いや、クルミに限っては二錠か…。
全員、凄い食欲だ。

起きてすぐに、よくまあ、あんなに食べられるものだ。
それでいて、よく太らないと感心する。
ヒナ、ナズナ、シロナの席が、せり上がってきた。そして、さらに、三人の席の後に、新しく席が一つせり上がってきた。ユウキの席だ。
クルミとハツミが私の中にダブルフェードインした。そして、三体のロボットが合体してスコヤンになった。
さらにアコはヒナに、シズノはナズナに、コロモはシロナにフェードインした。
共にミヤモリ・エナジーをスコヤンに供給するためだ。少しでも、クルミとハツミと私の体力消費を抑えるための配慮だ。
スコヤンは第五番惑星の大気圏を離脱すると、キヨスミ星の衛星軌道付近まで一気にワープした。


その頃、キヨスミ星では、まだヒサ総統の怒りがおさまらずにいた。
彼女が居室の通信スイッチを入れた。
モニターには衛星基地にいるマコが映し出された。
「ヒサ様。ご機嫌麗しゅう…。」
「麗しくなんかないわ。ヤエ弾も、ユウキが潰した超巨大戦艦も要塞も、いったい、いくらかかっていると思っているの?」
「まことに申し訳ございません…。」
「あれでは、投資そのものが無駄じゃない!? リターンがあってこそのリスクよ! そもそも私達の目的は何?」
「それは、この銀河の制覇…。」
「そうね。そして、その根底にあるのは何?」
「この銀河にあるフクジ・エナジーを全て手中におさめるため…。」
「そうよ。そのためには軍事力の増強、ワープ機能の向上が必要になる。カクラ星系への侵攻もワープ機能向上には欠かせない特殊な超原子確保のためでしょ!」
丁度この時、衛星基地のレーダーが反応した。スコヤンの姿を捉えたのだ。
ヒサが大きな音を立てて玉座に座った。
「マコ。何としてでも奴らを食い止めて!」
彼女は通信を切ると、彼女はエイスリンを呼んだ。
エイスリンは一糸まとわぬ姿だった。
クルミを助けてくれたあの時のように、彼女は健気さと儚い雰囲気を併せ持つ独特なオーラを身にまとっていた。
ヒサは服を脱ぎ捨てるとエイスリンをベッドに押し倒して激しいキスをした。直接肌が触れ合う方が、フクジ・エナジーを効率良く吸収できるようだ。
少なくともヒサにとっては単なるフクジ・エナジーの補給でしかなかった。しかし、エイスリンにとってはイヤラシイ関係でしかない。
エイスリンの目に涙が溢れてきた。


キヨスミ星の衛星基地周辺を、おびただしい数の宇宙戦艦が取り囲んだ。
『こんなにたくさん相手するの?』
私は、そう思った。今までに無い数だ。
そして、その大量の敵宇宙戦艦が、こっちに接近しながら、次々にカゼコシ砲を撃ち放ってきた。
その一発一発は、ユウキの超巨大戦艦や要塞から撃ち放たれたものと比べれば、破壊力自体は低い。ヒメマツ星でタカコの巨大戦艦が撃ってきたのと同程度か、それ以下だ。
でも、その数が半端じゃない。
効率的な戦い方をしないと、私達の体力が持たない。
「上に回ると良いじょ。真上に向けて撃てるカゼコシ砲は殆どないはずだじぇい!」
背後からユウキの声が聞こえてきた。彼女のアドバイスだ。
まじめな戦闘モードに入っている。

彼女によると、カゼコシ砲は一撃必殺のパワー故に、撃った時の反動も大きい。そのため、反動に耐えられるように、がっちりと固定しなければならないらしい。それを怠れば、撃ったと同時にカゼコシ砲自体が壊れるそうだ。
巨大戦艦や要塞のクラスなら、経口100メートル以上の大砲を、がっちり固定するだけの大きさがある。その大砲をカゼコシ砲にすれば良いだけだ。勿論、大砲の向きを色々と変える設計にすることも可能だ。
でも、通常の戦艦では、そうは行かない。強力なカゼコシ砲に仕立てるのであれば、戦艦全体を一つのカゼコシ砲にするくらいの必要があるらしいのだ。そうなると、いろんな方向に向けて撃てるだけの装備を設計するのは不可能に近い。構造上、戦艦の向いた方向にしか撃てない。つまり、機動性に優れた設計ができないのだ。
かと言って、反動を小さくするためにカゼコシ砲自体を小型にしては、余りメリットが無い。あの大きさにするからこそ、とんでもない破壊兵器になるのだ。小型にしては、普通に主砲を撃つのと余り大差無い。
それで、ユウキは、通常の戦艦にカゼコシ砲を装備することには賛成しなかったらしい。構造上無理があると言うのが彼女の主張だ。
つまり、今、スコヤンと対峙しようとしている戦艦全てが、動きの早い相手に向けて強力なカゼコシ砲を当てることはできないと言うことになる。

このユウキの話を聞いて、クルミから、みんなに向けてテレパシーが送られた。
「スコヤン・キカガクモヨウで一気に勝負よ。」


晴絵「十年前のインターハイで、私は、これにやられて牌が握れなくなったんだ。」

健夜「(今のところ、アラフォーネタは無いようね。)」


言葉だけ聞いても私には意味が分からない。でも、いつものように彼女のイメージが私の頭の中に流れ込んでくる。
承知した!
私はスコヤンを船団の上方に瞬間移動させた。
そして、スコヤンの二対の翼を大きく広げた。
「スコヤン・キカガクモヨウ!」
クルミとハツミのミヤモリ・エナジーが、私の身体で増幅されてスコヤンに送り込まれている。さらに、アコ、シズノ、コロモは三つ子達の身体を通じてミヤモリ・エナジーを送り込んでくれている。
その強大なエナジーを変換して、四枚の翼の先端部から四方に向けて、断続的に強力な光線が放たれた。しかも、その光線は、趣味の悪い幾何学模様を描いている。


晴絵「あの模様を見せるのはやめてくれ! またトラウマが…。」


たしかに、ユウキの言うとおり、通常の戦艦は真上に向けてカゼコシ砲を撃つことができないみたいだ。
せいぜい斜め上、斜め横くらいまでしか撃てない。
むしろ、前方にしか撃てない戦艦が殆どと言って良い。
当然のことだけど、戦艦全体が一つのカゼコシ砲になっていたら、戦艦そのものを撃つ方向に向けるしかない。
でも、それだとスコヤンの真下にいる戦艦は、機体そのものを完全にスコヤンの方に向けなければならない。できないわけじゃないだろうけど、前向きから真上向きに方向転換するのはサクサクできる作業でもないみたいだ。

あちこちの戦艦から炎が上がった。スコヤン・キカガクモヨウを受けたところから炎を吹き上げているのだ。そして、そこから火が回って戦艦は次々と爆発していった。
でも、まだ遠方の戦艦なら話は別だ。照準をこっちに合わせてカゼコシ砲を順々に撃ち放ってきた。

もし、私がキヨスミ星側の人間なら、多分、同じようにカゼコシ砲を撃つことには抵抗がある。味方にカゼコシ砲が当たる危険性が高い。
案の定、いくつかの戦艦は遠方から撃ち放たれたカゼコシ砲を避け切れず、その砲撃を受けて爆発した。
私はカゼコシ砲を避けて、スコヤンをさらに上方に移動させた。敵戦艦が、もっとカゼコシ砲を撃ち難い位置に移動したのだ。そして、激しくスコヤン・キカガクモヨウをお見舞いして行った。

もうどれくらい時間が経っただろうか。私達は、ずっと敵のカゼコシ砲を避けながらスコヤン・キカガクモヨウを撃ち続けた。
敵の戦艦の殆どは大破した。残りは十数隻だ。
でも、かなり疲れた。
三つ子達の表情も、かなり辛そうだ。
声も出ない。
もともと私とは口をきいてくれないけど…。
でも、そう言う問題じゃなくて、もう彼女達も口をきく体力すら無い状態みたいだ。

突然、敵の衛星基地から迫り来る強烈なエナジー波をキャッチした。
「避けたほうが良いじょ! 衛星基地には全部で五個のカゼコシ砲があるんだじぇい!」
後方座席からユウキの力強い声だ。
衛星基地のカゼコシ砲が撃ち放たれたのだ。それは、ユウキの超巨大戦艦のものに匹敵するパワーだ。
スコヤンは、その攻撃を高速で避けた。でも、敵の戦艦は必ずしもスコヤンと同じように、すぐさま避けられる訳ではなかったらしい。
数隻は、そのカゼコシ砲を受けて爆発した。

さらに衛星基地からカゼコシ砲が連発される。もはや私達さえ撃墜できれば、いくら味方を巻き添えにしようと構わない。そんな感じだった。
スコヤンが衛星基地から放たれるカゼコシ砲を避けながら、高速飛行で衛星基地に向かって突き進んで行った。
そして、そのままカゼコシ砲の真横………衛星基地に降り立った。
さすがに衛星基地に立つスコヤンの方にカゼコシ砲を向けることはできないようだ。これは駆動角度の問題だ。飽くまでも遠方にある敵を撃つことを前提に造られているモノであって、至近距離の相手を叩くモノでは無い。

レーザーソードでスコヤンがカゼコシ砲を一つ、二つと順に切り裂いた。
二つのカゼコシ砲が大爆発を起こした。
残りは三つ。
さらにスコヤンは衛星基地の他のカゼコシ砲に斬りにかかった。
でも、この時、背後から戦艦がカゼコシ砲を撃ち放ってきた。
戦艦側も私達さえ撃墜できれば基地を破壊しても構わない。そんな姿勢で出てきたのだ。
スコヤンは、とっさにその攻撃を避けた。でも、近くにあった衛星基地のカゼコシ砲に、その攻撃が直撃した。
衛星基地の三つ目のカゼコシ砲が爆発炎上した。
あと二つ!

スコヤンが、四つ目のカゼコシ砲に向かって一直線に突き進み、レーザーソードを振り上げて思いきり切り裂いた。
そして、五つ目に斬りかかった時、目の前に一隻の宇宙戦艦が割り込んできた。自滅覚悟の小ワープだ。
スコヤンは、即座にキラメ・スバラ・バリヤーを強力にして、そのまま突き進んだ。そして、戦艦とカゼコシ砲を順に体当たりで突き破った。

衛星基地のカゼコシ砲は、これで一掃したはずだ。
でも、まだ宇宙戦艦数隻と衛星基地のミサイル、レーザー砲などの砲撃設備が残っている。

私はスコヤンの合体を解除した。リューカに衛星基地の後始末を任せることにしたのだ。
既に、リューカの超装甲を打ち破るだけの兵器は、この衛星基地には無いはずだ。
リューカが、衛星基地に向けて目からレーザーを撃ち込んでゆく。衛星基地は、為す術も無く次々と撃破されていった。

一方、トヨネとトキは再合体して、背中に羽の生えた人魚の姿になった。
そして、トヨネは猛スピードで敵戦艦に突き進んで行き、一隻の宇宙戦艦の上に降り立つとレーザーソードで操縦室を突き刺した。


竜華「なんで、うちと怜が離れ離れになるん? それで怜が豊音と合体してるなんて。怜のあほう! 浮気モノ!」

怜「別に性的に合体してるわけやないで!」

豊音「戦闘中だよぉ。」

竜華「銭湯の中やて?」

塞「そろそろボケやめてくれない?」


さらに、その戦艦の後方に回ってエンジン辺りを切り裂いた。
巨大戦艦とか要塞相手には、パワーに任せて敵の機体を突き破ったりしていたけど、そこまでやる必要は全然無い。それに、もっと頭を使って効率的にやらないと体力が持たない。

その戦艦がエンジン部分から火を噴き、大爆発を起こした。
そして、次の戦艦は横にぴったりくっついてエンジン付近に電撃を放った。この至近距離からの電撃なら戦艦といえども、ひとたまりも無いようだ。

その次の戦艦も、エンジン部をレーザーソードで突き刺した。
こうやって、順に敵戦艦を撃墜し、とうとう残すは最後の一隻となった。
その戦艦には最後の司令官、マコが乗っていた。

マコの戦艦が私達にカゼコシ砲を撃ち込んできた。
スコヤンは、それを間一髪避けると、戦艦の横に回ってカゼコシ砲を真横からレーザーソードで突き刺した。
カゼコシ砲から火柱が噴き上がった。そして、一気に全体に火が回り、その戦艦は大爆発を起こした。
その爆発の中から脱出機が飛び出した。マコが乗っているのだ。
スコヤンは、その脱出機目掛けて後方から電撃を放った。その直撃を受けて脱出機は爆発し、宇宙の塵と化した。


まこ「ワシ、死んだってことか?」

和「私と同じですね。」


衛星基地の方は、リューカのレーザー攻撃で全て跡形も無く破壊されていた。
こいつは、こいつで凄い兵器だ。まさに、全てを焼き尽くして生まれ変わる不死鳥そのものを連想させる。


竜華「不死鳥やて。うちカッコ良くない?」

怜「せやな。」


これでキヨスミ星の殆どの戦力は無くなったはずだ。
私はトキとトヨネの合体を解いた。
三体のロボットが衛星基地跡に降り立った。そして、私達は全員フェードインを解いた。
フェードインした側もされた側も全員ヘトヘトになっていた。
「どうやってキヨスミ星に攻め込むか?」
ユウキの覇気のある声だ。彼女だけは元気が残っている。
一方、クルミは姿見兼用のドアを開けて出て行った。まるで、疲れ過ぎてユウキの声が届いていないようにも見えた。
でも、三十秒もしないうちに元気な顔で操縦室に戻ってきた。そして、みんなに疲労回復の錠剤を手渡した。
「ユウキ。みんながこれを飲んだら、すぐに出発するわ。」
「さすがに、まだ疲れているだろう。」
「大丈夫よ。この錠剤を飲めば、疲労は瞬時に消えるわ。塞も、これ。」
「私、飲んでも大丈夫なの?」
「時間を置いているし、大丈夫よ。」
私は錠剤を飲み込んだ。前と同じで急に元気が湧いてきた。臭くて飲み難いけど、一瞬で疲れが取れた。まるで、龍が出てきたり玉を七つ集めたりする漫画の秘密アイテムの一つを思い起こさせる。
「じゃあ、急いで出発するじょ。実は、ヒサの居城付近に着いたら、一時間だけで良いから私を前の姿に戻して欲しいんだじぇい。エイスリンを助けるには恐らく私が動くしかないと思うのからな!」
たしかにエイスリンの救出も、この戦いの大事なミッションだ。
でも、クルミは、このユウキの言葉に対して慎重だった。
ここでユウキを前の姿に戻す意義は何か?
もし、ここまで来て、こっちを裏切られたら大変だ。
彼女がハツミの顔色を伺った。
「大丈夫ですよー。ユウキは、もう二度とヒサの配下に戻るつもりは無いようですー。それに、もし戻るつもりなら、眠っている塞からフクジ・エナジーをたくさん吸い取っているはずですよー。」
たしかにそうだ。
彼女は、私よりも先に起きていたけど、私を襲っていない。
「でも、ユウキには詳細を説明していただく必要があると思いますよー。私達にもエイスリンがどうなっているのかを知る権利があると思いますからー。」
ハツミの表情は普段と変わらない。特段、ユウキの裏切りを予知していないようだ。
まあ、いずれにせよハツミの言葉を聴いて、クルミは一先ず安心したようだ。

ユウキは、しばらく黙り込んでいた。何か言い難いことがあるようだった。これにクルミが気付いた。
「ユウキ、どうかした?」
「一つクルミに確認したいじょ。この操縦室に瞬間移動させる最大距離は、どれくらいになるのか?」
「だいたい100メートルよ。」
「まあ、大体そんなものだろうな。となると、やっぱり私が行く必要があるじょ。」
キヨスミ星に攻め込めば、どのみちみんなに全て知られてしまうことだ。いつまでも隠しておけるものではない。
「実は………。」
ユウキは重々しく口を開いた。何かを事前に説明しておきたいようだった。


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百十四本場:準決勝大将戦開始

 準決勝第一試合副将後半戦オーラス四本場。

 前後半戦合計2位の阿知賀女子学院 宇野沢美由紀が、1位の綺亜羅高校 鬼島美誇人に、あと800点差と詰め寄った最終局面。

 

 美由紀の配牌は、

 {四六七八九⑤[⑤]77東南西北中}

 ここから打{北}。

 

 対する美誇人の配牌は、

 {一二三五九②③⑦189西北}

 ツモ{①}、打{西}。

 

 美由紀はツモ{東}、打{西}。

 

 美誇人、ツモ{一}、打{北}。

 

 美由紀、ツモ{南}、打{中}。

 

 美誇人、ツモ{3}、打{⑦}。

 

 美由紀、ダヴァンの打{南}をポン。打{四}で一向聴。

 手牌は、

 {六七八九⑤[⑤]77東東}  ポン{南横南南}

 

 美誇人、ツモ{三}、打{8}。

 

 美由紀、{白}をツモ切り。

 

 美誇人、ツモ{二}、打{五}で一向聴。

 手牌は、

 {一一二二三三九①②③139}

 

 美由紀、楓が捨てた{7}をポン。打{九}で聴牌。

 手牌は、

 {六七八⑤[⑤]東東}  ポン{横777}  ポン{南横南南}

 

 そして、美誇人は{2}を引いて聴牌。

 ただ、この時、小手返し………つまり、ツモってきた牌を、右端に付ける振りをして右から二番目に入れ、美誇人は右端の牌を切った。

 これを何気に右手で隠しながらやる。

 巧くやると、この一連の動作がツモ切りに見える。

 当然、打{9}。

 手牌は、

 {一一二二三三九①②③123}

 

 ここでダヴァンがツモって来た牌は{九}。

「(阿知賀も綺亜羅も、そろそろキテそうデース。{九}は私には不要牌ですが、阿知賀は、さっき切ってマスね。綺亜羅もツモ切りっぽかったデス。ならば………。)」

 案の定、ダヴァンは小手返しを見落としていた。

 この最終局面でも、まるで吸い込まれるように………いや、美誇人がそうゲームをメイクしたのだ………ダヴァンは無警戒で{九}を切った。

 それを美誇人は見逃すはずが無い。振り込ませるために小手返しを使ったのだから。

 当然、

「御無礼。」

 美誇人が、自分の手牌を倒した。

「ロンです。ジュンチャン三色一盃口。12000の四本場は13200。アナタのトビで終了です。」

「そ…そんな。じゃあ、何故、阿知賀の{九}を見逃して…。」

「いいえ、私はさっき聴牌したところです。後で映像を確認してください。アナタは私の小手返しを見逃したのです。」

「小手返し?」

「ちょっとした技術です。」

 そう言うと、美誇人は静かに立ち上がった。

 

 

 これで副将後半戦の順位と点数は、

 1位:美由紀 205800

 2位:美誇人 146900

 3位:楓 49800

 4位:ダヴァン -2500

 

 そして、副将前後半戦合計の順位と点数は、

 1位:美誇人 357600

 2位:美由紀 343600

 3位:楓 106200

 4位:ダヴァン -7400

 最後の最後で、何とか美誇人が逃げ切った。

 これで、ダークホース綺亜羅高校が勝ち星二を取り、決勝進出を決めた。

 

 ちなみに副将戦までの全トータルでは、

 1位:綺亜羅高校 1079000

 2位:阿知賀女子学院 1058500

 3位:臨海女子高校 777200

 4位:朝酌女子高校 285300

 臨海女子高校が、トップから大きく後退し、綺亜羅高校と阿知賀女子学院の二強状態となった。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 最後の一礼を終えた。

 

 その直後、

「う…うわぁーん!」

 大声で美由紀が泣き出した。号泣だ。

 あそこまで点差を詰めておきながら、逆転できなかった。

 

 いや、前後半全体を通じて、どこかでリーチ棒一本でも多く取れていれば、オーラス三本場で逆転していたのだ。

 もっと言ってしまえば、オーラス、オーラス一本場のどちらかで高目をツモれていれば逆転できていた。

 悔いの残る試合となってしまった。

 

 これで困ったのは美誇人である。

 完全に美由紀に中で、美誇人は悪人になっていないだろうか?

 美誇人が勝ちに拘ったのはチームのためだし、別に美由紀を貶めるつもりは毛頭無い。

 むしろ、美由紀のファンだし、美由紀を悲しませたくはない。

「ええと、ゴメンね、宇野沢さん。私もチームのためだしさ…。」

「分かってます。私の方こそゴメンなさい。取り乱してしまって。800点差を逆転できなかった自分が情けなくて。」

「情けなくなんかない。宇野沢さん、強かったよ。本当に…。」

「…。」

「それより、一旦対局室を出よう。少ししたら大将戦が始まるからね。もう退室しなきゃいけないから。」

「そうですね…。」

 結果的に、美誇人は美由紀を連れ出すことに成功したようだ。

 

 …

 …

 …

 

 

 一先ず、美誇人と美由紀は自販機が並ぶ飲食コーナー(?)に向かった。

 そこには、くつろいで飲食できるようソファーが置かれていた。

 飲食コーナーに着く頃には、美由紀も多少は落ち着いていた。

 

 美誇人は、レモンジュースを二本購入すると、

「これでイイ?」

 そのうち一本を美由紀に渡した。

「あ…ありがとうございます。」

「実はね、私、宇野沢栞プロのサイン持ってて。」

「姉のですか?」

「うん。私、埼玉で大宮に近いから、ちょっと合宿場近くまで行ってね。」

「そっか。たしか埼玉県でしたよね。」

「うん。それでね。私、宇野沢プロ………ううん、実は宇野沢姉妹のファンなのよ。」

「えっ?」

 美由紀は、これには驚いた。姉はプロ雀士で知名度もあるし、三~四年前には白糸台高校のレギュラーで全国に名が通っていた。

 その姉のファンなら分かる。

 しかし、自分は、まだ全然無名の選手だ。

 咲や穏乃のチームメートであるがゆえ、所謂金魚の糞のようにダブルエースにくっついて勝ち上がれてきているに過ぎない。

 それが美由紀自身の自己評価だった。

 憧やゆいとは違って謙虚だ。

「姉妹で、とてもカワイくて。」

「カワイイだなんて、そんな。」

「それに、麻雀も強くて。」

 第三者視点では、美誇人が美由紀を口説いているようにしか見えないだろう。

 まあ、これをチャンスに、美誇人は美由紀との距離を縮めようとしているのだから、半ば口説いているようなものだが…。

「強いって、別に私は…。」

「栞プロも強いけど、美由紀さんも強いと思うわよ。コクマにも出てたでしょ?」

「は…はい。」

「その頃からファンなのよね。あと、県大会でも近畿大会でも活躍してたし…。でね、お願いがあるんだけど。」

「何でしょう?」

「うちのエース…的井美和がさ、宮永さんをLINE登録したって聞いてね。」

「えっ? あの宮永先輩がですか?」

「そう。」

「麻雀している時以外は、全然自分から積極的に動こうとしない宮永先輩がですか?」

「えっ?」

「周りから声をかけないと、いつも一人で静かに読書してて、人との交流が苦手な感じなんですけど、それが初対面の人と?」

 そこまで言うか…。

 さすがの美誇人も、そう思った。

「そうらしい。でさ、私も宇野沢さんをLINE登録したいんだけど…。」

「えぇ!?」

 再び美由紀が驚きの声を上げた。

 まさか自分と?

 麻雀を打った相手だけど、一応、初対面だ。悪い人では無さそうだけど………。でも、なんだか悪い気はしない。

「私なんかでイイんですか? 全然、宮永先輩みたいな大スターじゃないですよ!」

「お願いできるかな?」

「イイですけど。でも、本当に私、有名選手でもないし…。」

「それは関係ないって。じゃあ、イイかな?」

「は…はい。」

 なんとか、美誇人は美由紀との連絡ツールを手に入れた。

 一先ず、『友達からスタート』に漕ぎ着けて、美誇人の顔からは笑顔がこぼれていた。対局中の顔からは、全く想像できない表情である。

 美誇人にとっては、まさに念願の美由紀とのホットラインであった。

 

 丁度、美由紀とLINE繋がりした直後だった。

「カイってば、なにやってんの?」

 と言いながら、何故か綺亜羅高校の大将、稲輪敬子が二人に近づいてきた。

 彼女は、この自販機コーナーに寄ってから対局室に向かおうとしていたのだが、美誇人からすれば本当に間が悪い。

 それに、KYなヤツだ。空気が全然読めないレベルは、まさに特異体質的とも言える。

 

 美由紀が、

「ええと、鬼島さんってカイって呼ばれてるんですか?」

 と美誇人に聞いてきた。

 これに敬子が、

「苗字に鬼、名前に人が付いてるってのもあるけどさ、実際に麻雀を打ってみて『人の皮を被った鬼』みたいに思えたでしょ?」

 と答えてしまった。

 今の美誇人からすれば、まさにNGワードだ。

 何故ここで、

『人の皮を被った鬼』

 なんて単語を選ぶ?

 これでは、なんだか極悪人みたいに聞こえないだろうか?

 正直、美由紀の前で言って欲しくない単語選びだ。このKYさは、今に始まったことでは無いが、少しは考えて欲しい。

 美由紀に引かれたりしないだろうか?

 人格を疑われたりしないだろうか?

 非常に不安である。

 

 もっとも、美由紀も、今回は別にターゲットにされていたわけではないし、別に人鬼の餌食になったわけではない。

「い…いえ、別に私は…そこまでは…。」

 と素直に答えたのだが………。

「だから、人偏に鬼と書いて傀。それで私達はカイって呼んでるのよ!」

 と敬子はベラベラしゃべる。

 うーむ、少しは黙ってて欲しい。

 別に、今、美由紀に言わなくても良いだろう。

 ところが、今日に限って敬子の口は何故か止まらない。やはりKYだ。

「あと、あの『御無礼』ってのもさ、全てを見切った後にターゲット相手に言うんだけどね………。」

 もうこれ以上はやめてくれ。

 そう美誇人が思った丁度その時、近くを穏乃が通った。

「あれ、美由紀、ここに居たんだ。それと、綺亜羅の人達!」

 毎度の如く、穏乃が美誇人と敬子を指差した。

 一応、穏乃は相手の制服で綺亜羅高校の人間であることを認識していたようだ。残念ながら顔はキチンと覚えていない。

 

 美由紀が穏乃の方を振り返った。

「あっ! 高鴨先輩! これから出陣ですね。」

「そう。もう百速まで温まったから!」

「それって、意味分かんないですけど。」

「でも、なんで綺亜羅の人達と?」

「私が対局直後に泣き出しちゃったのを、鬼島さんが慰めてくれてたんです。」

「そうだったんだ。ええと、鬼島さんって?」

「はい?」

「こっちの人か。わざわざありがとう!」

 これには、

『おいおいおい、今まで控室のモニターで見ていただろう? もう忘れたのか?』

 と美由紀は思っていた。

 さすがに美誇人に失礼に感じた。

 しかし、これくらいでは美誇人は別になんとも思わない。敬子に比べれば、どんな相手でもマシだ。

「いえいえ。」

 そう言いながら美誇人は右手を軽く横に振った。

 

「じゃあ、私は、もう時間が無いから行くけど、美由紀も余り遅くならないうちに控室に戻った方がイイよ。負けて帰ってこないのは、みんなが心配するから。」

「そ…そうですね。」

「じゃあ、また後で!」

 そう言うと、穏乃は大急ぎで走って行った。

 

 たしかに、もう時間が無い。

「私も行かなきゃ。」

 敬子は、自販機で『つぶつぶドリアンジュース』を買うと、慌てて穏乃と同じ方向に走っていった。

 これを見て美誇人は、

「チャンレジャーだよね、つぶつぶドリアンジュースを買うの…。たまに敬子は買ってるけどさ…。」

 と呟いた。

 すると、美由紀が、

「あれって、白築プロが好きだから、麻雀大会の会場になりそうなところには必ず置いてあるって話ですよね。」

 と美誇人に言った。

「ええっ? あれが好きな人っているの?」

「ええ、いるんです。」

「それもワールドタイトルホルダーが!?」

「情報源は宮永先輩ですけどね。ほら、世界大会で白築プロが監督で。それで何度も勧められたって話です。」

「えっ?(何度も?)」

「それと、去年の春季大会では、白築プロがわざわざ阿知賀の控室に来て、人数分を差し入れしてくれたらしいですよ。」

「(ゲッ!?)」

「相手が相手なんで、みんな、美味しいって言いながら飲むしかなかったみたいです。」

「それって、拷問じゃない?」

 これには美誇人も目が点になった。役満を振り込んだ時以上の驚きである。

 多分、今年知ったネタの中で最凶最悪と言えよう。

 そして、美誇人は、

「(阿知賀の人達って、苦労してるんだな………。)」

 と思った。

 

 …

 …

 …

 

 

 少しして、対局室に穏乃が入室してきた。

 既に、朝酌女子高校大将の多久和李奈(多久和李緒姪:非能力者)と、臨海女子高校大将の南浦数絵が卓について他の二人が来るのを待っていた。

 

 そして、その数秒後、穏乃を追うように敬子が対局室に駆け込んできた。

「わぁ。足速いね、阿知賀の人。」

「ええと、貴女は綺亜羅の人?」

「そうでーす! 稲輪敬子。よろしく!」

「私は高鴨穏乃です。よろしく。」

 ふと、穏乃の視界の中に、見たくない缶の絵柄が飛び込んできた。

 間違いない。それは、あの『つぶつぶドリアンジュース』だ!

 まさか、それを敬子が手にしているとは!?

 

 穏乃が敬子に、

「それ、好きなの?」

 と聞きながら震える手で指差した。

 すると敬子は、

「割と。」

 と言うと、早速、その場で缶のプルトップを開けた。

 対局室をドリアン臭が侵食して行く。

 周りの人達が見せる嫌悪の視線にも全然気付かない。さすが、KYな娘と言われるだけはある。

 

 穏乃は、言葉を失ったまま静かに卓についた。

 さすがに言葉も出ない。

 そんなドリアン臭の漂う拷問室の中で、場決めがされた。

 ただ、麻雀関係者は、誰一人として『つぶつぶドリアンジュース』のことを悪く言えないらしい。ワールドタイトルホルダーの大好物なだけはある。

 

 起家は数絵、南家は李奈、西家は穏乃、北家は敬子に決まった。

 

 

 東一局、数絵の親。ドラは{⑨}。

 数絵にとって東場は、耐えるだけの時間帯。

 南場になるまで、まだまだスイッチは入らない。

 一応、数絵は振り込まないように守りを固める練習をしてきているが、敬子の捨て牌は非常に読み難い。

 

 敬子の捨て牌は、

 {②東[⑤]71③}

 萬子にでも染めているのだろうか?

 

 加えてドリアン臭のお陰で頭が回らない。

 それもあってか、数絵は、ノーケアーで{①}を捨てた。しかし、これで、

「ロン!」

 敬子が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一九九①⑨⑨西西北北中中}  ロン{①}  ドラ{⑨}

 

 混老七対子ドラ{2}。

「12000!」

 いきなり綺麗な手が炸裂した。

 

 ここでは、混老七対子を25符5翻で数えるルールになっていたが、仮にこれが4翻でも今回の和了りは点数が変わらない。いずれにしてもハネ満だ。

 25000点持ちなら、一気に半分近くまで点棒が減る振り込みだ。結構痛い。

「(いくら私が、東場が苦手でも、こんな和了りをされるとは…。)」

 さすがに、数絵の表情が曇った。ドリアン臭いからとか言っていられない。

 

 敬子と顔を合わせるのは、数絵にとっては、これで三度目だが、未だに敬子の切り出しに馴れない。もはや、東場だから………では数絵自身も片付けられない。

 

 なんと言うか、敬子の捨て牌自体もKYになっているようだ。それで常人には読み取るのが極めて困難との話らしい。




おまけ
前回からの続きです


十一.『勝利の女神?』

「エイスリンは、最終兵器…。」
ユウキの説明は、この言葉で始まった。
別にエイスリンが改造人間にされると言うわけではない。ただ、彼女はヒサにフクジ・エナジーを与える道具だけではなく、彼女を兵器に直結することで、とんでもない破壊兵器を発動させることが可能だと言うのだ。
そして、それは十五年前に捕えられたオバサンも同じだと言う。

詳細はヒサと第一司令官のマコ、そして、新兵器の研究開発担当者であるハツセ以外は知らないらしい。
当然、エイスリンとオバサンの二人を同時に直結すれば、今までに無い想像を絶する破壊兵器になることが容易に予想される。
少なくとも、ユウキが乗ってきた趣味の悪いゴルフボール型要塞を凌ぐと考えてよい。そうなると、リューカの超装甲『キラメ・スバラ・バリヤー』で太刀打ちできる保証は無い。

破壊兵器に繋がれる前にエイスリンを救出できるのがベスト。そうでないと、この操縦室に彼女を瞬間移動させるのが難しくなる。エイスリンのいるところから100メートルの範囲内にトヨネが近づける保証がないからだ。

クルミがイヤラシイ表情で私を見詰めた。
「もう、これは、やるしかないわね。」
「えっ。どう言うこと。」
「つ~ま~り~。ユウキ、やっちゃえ!」
クルミが裏切った。
私はユウキに抱きつかれ、そのまま押し倒された。
さらにナズナまでも、
「ほら。ユウキ。早くして!」
と言いながら私の頭を押さえつけた。
あれだけユウキを嫌っていた彼女が、ユウキの側に付いたのだ。エイスリンを助けるためとは言えズルイ…と言うかヒドイ………。
もしかしたら、ユウキよりも私の方がキライなのかも…。
結局、私はユウキに唇を奪われた。
まるで吸い付くようなキスだった。当たり前だ。私からフクジ・エナジーを吸い出しているのだ。


白望「(ユウキの役。私がやりたかった。ダル………。)」


ユウキの身体が妖艶なエロ女の姿に変わった。外見だけは今の私にそっくりな女だ。少なくとも中身は違うと思うけど…。
何だか複雑な心境だ。
三つ子達は、このユウキの姿を見ると、やっぱり表情が変わった。ユウキがこっちに寝返ったと言っても、まだ、わだかまりがあるのだろうか?
多分、この容姿にアレルギーでもあるのだろう。極悪人の顔として、相当根強くインプットされているに違いない。
だから、さっきまでのユウキよりも私の方が潜在的に嫌いなのだろう。
正直、三人の目が恐い。

「エイスリンを助けるためだけだからね!」
ナズナは、ツンとした顔でそう言うとユウキから顔を背けた。やっぱり仲間として素直に受け入れるのは無理みたいだ。私のことも、ユウキのことも…。

クルミとハツミが私にダブルフェードイン、三つ子達には、それぞれアコとシズノとコロモがフェードインした。


衣「全然、衣の台詞がない!」


私もユウキも作り物のボンバー美女。その作り物が、そろって同じ顔をしている。これは、これで変な気分だ。

衛星から見るキヨスミ星は地球に似た青い星だった。でも、地球よりも海の部分が少なく感じる。逆に砂漠化した部分は地球よりも広く、大陸の大半を占めているように見えた。

三体のロボットが衛星基地跡を飛び立った。そして、一気に大気圏に突入していった。
ヒサの居城の場所はユウキが知っている。
彼女の指示に従って行けば良い。
あと数百キロのところに来た時、正面からミサイルが撃ち込まれてきた。左右からは、レーザー砲が放たれてくる。
トヨネは両掌から電撃を放ち、トキとリューカは目からレーザー光線を撃ち込んでゆく。
三体のロボットは、敵のレーザー砲を避けながらミサイルを撃墜して先に進んでいった。

宇宙戦艦や戦闘機が攻めてくることは無かった。既に衛星基地での戦いで軍事勢力の殆ど失っていたためだろう。
そのまま、一気にヒサの居城前まで来た。
居城近くの山が二つに割れて、中から今までに無い巨大な大砲が出現した。またカゼコシ砲だ。毎回こればかりで、しつこい。
『単体では、やられる。』
そう思った私は、三体のロボットを合体させた。

スコヤンに向けてカゼコシ砲が撃ち放たれた。
サイズがサイズだけに恐ろしい威力だ。
私達は、それを間一髪避けた。
そのエナジー波が横を通り過ぎた時、ナズナが何かを感じ取った。
「エイスリン!」
そのエナジー波はハツセのユリ・エナジーと、エイスリンのフクジ・エナジーから作られていた。
その砲座にはハツセが座っていた。
ハツセもフクジ・エナジーをドーピングしているだけあって美人だ。
八頭身でスレンダー。長い足。きめ細かい肌。そして、巨乳。本当に男どもの理想像を絵に描いたみたいだ。


初瀬「胸には詰め物をして登場しているんだけどね。さすがに永水の人みたいな胸は無いし。」


どうせ、これも不当に手に入れた若さと美貌だろう。
エイスリンは、どこにいるのか?
ナズナがテレパシーを送って探っている。
シズノのミヤモリ・エナジーを身にまとっている今、彼女もテレパシーを使えるようになっていた。
「エイスリン、どこなの? エイスリン…。」
「ナズナなの?」
「そうよ。助けに来たの。どこにいるの?」
「良く分からない。でも、全身が何かに掴まれているみたいで動けないの。」
ナズナがカゼコシ砲の近くに照準を合わせてエイスリンの心の声が聞こえてくる場所を探る。でも、なかなか見つけられない。
もしかすると、ここから離れたところにいるのか?

さらに容赦無くカゼコシ砲が撃ち込まれてくる。
スコヤンが、その超エナジー波を高速で避けた。そして、そのままカゼコシ砲の後ろに回り込んでレーザーソードを突き刺した。
カゼコシ砲が爆発した。
でも、ヒサは、それを既に予想していたようだ。
彼女の嘲笑が辺り一帯に響き渡った。
「よく、ここまで来られたわね。私はキヨスミ星の総統ヒサ。カクラの小人達に言うわ。あなた達のアガキもここまでよ。このサキの力の前にひれ伏すが良いわ。」
随分、横柄な口調だ。
今度は、居城裏の山が二つに裂けた。そして、その中から全長100メートルには及ぶであろう超巨大ロボット『サキ』が出現した。
サキは巨大な盾と剣を手にしていた。その剣だけで50メートル以上ある。スコヤンの身の丈に匹敵する大きさだ。


咲「なんで私も巨大ロボットなんだろう?」

久「小鍛治プロを相手にするのよ。清澄じゃ、あなた以外に該当者はいないじゃない?」

咲「でも、姉帯さんよりも大きいなんて…。」

優希「ありえないじょ!」


サキの腹の部分はガラスか何かで出来ていて、中が見えるようになっていた。そして、その中には何万本ものコードに絡まれて身動きが取れないエイスリンの姿があった。傍目には、まるで触手プレイに見える。
そして、もう一人。エイスリンの隣には四十代くらいの女性の姿があった。ユウキがオバサンと言っていた女性だ。
その女性もエイスリンと同じように、全身にコードが絡まって動けない状態だった。

私は、その女性に見覚えがあった。
テレビの横に置いてある家族三人の写真。それに写っている女性だ。
「監督………じゃなくて、もしかして、お母さん?」
今まで俯いていた彼女が、顔を上げた。
「お母さんって、も…もしかして『塞ぐちゃん』なの?」
間違いない。この呼び名をするのは、私の母以外には有り得ない。
ユウキは、まさかの事実に驚いた顔をしていた。


優希「驚いたじょ! 熊倉監督の顔のシワが全部消えてるじぇい!」

トシ「特別出演できるって聞いて、テープを張ってシワを伸ばしたんだよ。」

塞「驚いたって、そっち?(監督が出てるって方じゃなくてシワが消えてる方?)」


「塞。お前はトシの娘なのか? それならフクジ・エナジーを大量に産生することも理解できるじょ。遺伝だったんだじぇい。」
たしかに、これは母からの遺伝なのだろう。
私の目に涙が溢れてきた。
母は死んだのではなかった。
私と父を捨てて出て行ったのでもなかった。
キヨスミ星人に拉致されていたのだ。
これじゃ、日本で捜索願を出したって見つかるはずが無い。銀河警察なんてものでも無ければ無理な話だ。

でも、私には一つ疑問があった。私の母が蒸発したのは十年くらい前だ。でも、ユウキの話ではキヨスミ星に十五年前からいることになっている。
蒸発したのが十五年前でキヨスミ星に連れてこられたのが十年前なら話は通じるけど、これでは辻褄が合わない。
すると、クルミの声が聞こえてきた。
「地球の一年とキヨスミ星の一年が違うってこと! 地球が太陽の周りを一周するのよりもキヨスミ星が恒星を一周する方が早いだけ。地球の一日を基準にすると、地球の一年は三百六十五日。キヨスミ星は二百四十日くらいが一年なの!」
なるほど。たしかに、それなら分かる。
そう言えば、地球は第三番惑星。この星は第二番惑星。恒星からの距離とかは分からないけど、一年が短くても納得する。


白望「(本当に塞は暗算できたのかな。まあ、暗算じゃなくて安産型なら分かるけど…。)」


再びヒサの横柄で不敵な声が聞こえてきた。
「あなた、地球人ね。ミホコ波は出ていないみたいだけど、トシの娘とはね。それと、ウィシュアート星の人間も乗っているようね。」
サキが私達の目の前に降り立った。もの凄い迫力だ。
でも、母とエイスリンが乗っていては攻撃できない。

私だけじゃない。スコヤンに乗るみんなが同じ考えだった。
ヒサは、そんな私達の心情を完全にバカにしているようだった。
「先に言っておくわ。エイスリンもトシも人質じゃなくて、サキの部品の一つなのよ。なので二人を盾にするつもりは無いわ。でもね、サキを破壊すれば二人の命が無いのは分かるわよね? もっとも、破壊できればの話だけどね。」
母とエイスリンを部品呼ばわりした。許せない!
サキが両腕を真横に伸ばした。
完全にガードを解いて攻撃して来いと言わんばかりだ。
「自慢の光線を撃ってみなさい。」
ヒサって女は随分、上から目線だ。

私は、まずスコヤンの両掌からサキの顔面に向けて電撃を放った。でも、サキは何のダメージも受けていない。


咲「顔を攻撃するなんて反則だよぉ。」

久「これくらい我慢して!」


続いてスコヤン・キカガクモヨウをサキの顔、胸、腕、足に撃ち込んだ。さすがに腹には撃ち込めないけど…。
でも、全然何とも無いみたいだ。

サキは母とエイスリンからフクジ・エナジーを吸収することで装甲装備が強固になっているのだろう。
やはり、二人の救出が先だ。助けると同時に敵の動力源を断ち切らなくちゃ駄目だ。
二人のいるところに接近すれば瞬間移動で救出できる。
私は、そう思った。
スコヤンが空高く飛び上がりレーザーソードを振り上げてサキに斬りかかった。サキを切り裂いて破壊し、爆発する前に二人を操縦室に瞬間移動させる。それがベストなシナリオだ。
でも、そう簡単には行かないだろう。
最低限、二人を100メートル圏内に入れる。これが目標だ。
「このカンを受けてみなさい!」
ヒサの言葉と共にサキの胸から光の弾が何十発も放たれた。これがカン(光子弾)だ。


和「カンは一局で四回までしかできませんけど?」

久「…。」


もの凄い威力だ。その直撃を受けてスコヤンは墜落した。
エイスリンが舌を噛もうとした。自分から供給されるエナジーが停止すれば、サキの動きは半減する。そう考えたのだ。
でもサキは、エイスリンが舌を噛むことさえ許さなかった。彼女の口に太いコードを無理やり突っ込んだのだ。何ともエロい状態になった。


桃子「これ、凄い状態っス。ドンブリメシ10杯はイケるっス。でも、私達の出番が無いっスね。残念っス。」


「やっぱり、私が行くしかないじょ。」
ユウキは円盤を抱えていた。
そうだ。私が地球から月面まで瞬間移動した時にクルミが使った円盤だ。あの瞬間移動装置なら遠く離れていても移動できる。
たしか、あの装置は触れている人を連れて別のところに移動する装置だ。クルミが操縦室後ろの棚にしまっておいたやつだ。これを使えば100メートル圏内は関係ない。

ユウキが円盤のスイッチを押した。
操縦室内が赤い光に包まれた。そして、光がおさまった時、ユウキの姿は操縦室から消えていた。
既にユウキはサキの腹の中にいた。
ユウキがコードを切って、まず母を助けようとした。でも、たくさんの極太コードが、まるで生きているみたいに動いてユウキに襲いかかってきた。
迫り来る何本ものコードを振り払ってはみたものの、その数が半端じゃない。
彼女がナイフを取り出した。そして近づいてきたコードを切り裂く。
また切り裂く。


純「これって『金太・マスカット・ナイフで切る』みたいな状態になってねえか?」

透華「純。さすがにそれはフシダラですわ!」


でも、コードは切れても、また伸びてくる。全然キリが無い。
ミイラ取りがミイラに…。
背後から襲ってきたコードがユウキの両腕に強く絡みついた。
『不覚…』
そして、彼女の身体にも大量のコードが絡んで動けなくなった。
その妖艶さゆえ、エイスリンよりもさらにエロい状態になっている。
いや、そんなことはどうでも良い。困ったことに、私の身体から彼女が吸い取ったフクジ・エナジーをサキが吸収し始めた。
彼女の身体が、どんどん変化していった。そして、妖艶な身体から細身の子供っぽい体型に変わってしまった。
この光景を見て三つ子達が怪訝そうな顔をしている。
もともとユウキはヒサの部下だ。サキのエナジー補給に一役買ったんじゃないかと疑い始めているのだろう。
すると、私の頭の中にハツミの声が響き渡った。これは三つ子達にもテレパシーとして送られていた。
「あれは、ワザとではありませんよー。ユウキは、少なくとも塞を裏切りませんですー。それに塞の母親を救い出したいのも彼女の本心ですよー。」
そうだろうけど…ユウキのドジ…。


優希「もう話も終盤。麻雀で言えば南三局くらいだじぇい。だから、東風の神でも、こうなって仕方が無いんだじぇい!」


私がユウキに吸われたエナジーも、もはやサキのエナジーの一部だ。
スコヤンに向けて一層激しくカンが連続して撃ち込まれてくる。
避けるのが精一杯だ。
ふと、カンからユウキのオーラも感じた。
もしかしたら…。
そうだ。ユウキのユリ・エナジーも吸収されているんだ。
何だかカンのパワーがどんどん上がっている気がする。
こうなったらユウキのカゼコシ砲を破った時みたいに、機体をコートするキラメ・スバラ・バリヤーを可能な限り強固にして接近してはどうだろうか?
「行け、スコヤン!」
私の掛け声と共に、スコヤンはバリヤーをマックスにして、サキに向かって突き進んだ。
でも、連発されるカンの威力は強烈だ。バリヤーを破壊するまでは行かないけど、衝撃が強くてスコヤンは後に弾き飛ばされる。


照「小鍛治プロを弾き飛ばすなんて。咲のカンの威力はそこまで成長したのか(シミジミ)。」


もう一度、さらにもう一度レーザーソードで斬りかかっていったけど、ある程度のところまでしか近づけない。カンの威力で、また弾き飛ばされてしまう。
これじゃ、全然近づけないし、サキに捕えられた三人をどうやって助けたら良いのか分からない。
とてもじゃないけど、勝ちようが無い。
勝てなければカクラ星は侵略されてしまう。
ウィシュアート星も解放されない。
地球も危険になるかもしれない。
私だってヒサの奴隷にされるかもしれない。
単なるエナジー製造機。エナジー電池にされるかもしれない。
それは嫌だ!

この時、クルミの声が頭の中に響き渡った。当然、三つ子達にもテレパシーとして送られていた。
「アサクミしか無いわ。アコ、シズノ、コロモお願い。」
私には何のことだか分からない。
すると、アコのテレパシーが聞こえてきた。
「塞の身体は大丈夫なの?」
「分からない。でも、もう、それしか方法が無いわ!」
「しかし、塞の身体が…。」
どうやらアサクミとは私の身体に関係しているらしい。
私はクルミに、
「どう言うことだか教えて。」
と頭の中で尋ねた。すると、クルミの考えていることがイメージとして伝わってきた。
なるほど…。
たしかに私の身体が危険かもしれない。でも、私は先に報酬をもらったし、死んでも勝たなきゃいけない。生きていても負けちゃ駄目だ。
私は、
「いいよ。やろう。」
と答えていた。
これしか可能性が無いなら、それに賭けるしかない。
アコとシズノとコロモが三つ子達の身体からフェードアウトした。そして、再び三人が光の玉となった。
「トリプルフェードイン!」
「クアドラプルフェードイン!」
シズノとアコが私の身体にフェードインした。そして
「クインタプルフェードイン!」
さらにコロモが私の身体にフェードインした。
五人のカクラ星人が持つ全てのミヤモリ・エナジーを同調率99%の私の身体で最大限に増幅しようと言うのだ。

私は最高の増幅器のはず。
身体が、もの凄く熱い。今の身体に固定してもらった時みたいな感覚だ。
でも、気を失っちゃ駄目だ。戦うんだ。
何とか意識を保て、私!

歯を食いしばる私の頭の中に、ある言葉が浮かんできた。アコの記憶から来た単語だ。
その言葉を私は無意識に口に出していた。
「スコヤン・シノ・リアレンジメント!」
スコヤンにはリューカ由来の七色に輝く長い尾がある。それが、リューカから全て切り離された。
次に三機の合体が解除された。ただ、リューカの首と足は収納されたまま、トヨネも人魚の姿ではなく、足のある状態のままだ。
そして、トキが胴体内に二つの頭を収納し、尾の取れたリューカの後ろに合体した。すると、リューカの胴体部分の装甲がどんどん広がって行き、トキ全体を覆った。
その状態でリューカとトキがトヨネの背中に合体して黄金の二対の翼を背中に持つ人型ロボットとなった。
続いて切れたリューカの尾が薄い板のように変化して、トヨネの全身を、順々に張り付くように覆っていった。
一つ、また一つ。
そして、今、リューカの超装甲で完全にトヨネの身体は包まれた。スコヤンの時よりも、もっと効率良くキラメ・スバラ・バリヤーで全体をコートすることができる。
右手にはレーザーソードではなく、金色の剣が握られていた。これも、リューカの尾から出来たものだ。
この姿………最終形態のことを、どうやら『シノ』と言うらしい。
愛と美の女神(?)スコヤンを超えた姿だ。
『シノ』とは、カクラ語で『勝利の女神』を意味するらしい。それも、軍略を駆使する知将に付き従う存在のようだ。

それと、どうやらカクラ語で『最終形態』を意味する単語が『アサクミ』のようだ。
多分、シノを真の勝利の女神とするか、そうじゃなくするかは私にかかっている。

シノがサキに斬りかかった。
激しく打ち込まれるカン。
でも、クルミ達五人のミヤモリ・エナジーを最大限に増幅している今、カンを受けても押し戻されない。そのまま一気に近づいて行った。
そして、金色の剣を振り下ろした。
サキは、それを盾でガードする。そして、今度はサキが巨大な剣『リンシャンカイホウ』を思い切り振り下ろしてきた。
無意識に、私はシノの左腕でサキのリンシャンカイホウを受け止めた。
『しまった!』
リンシャンカイホウの威力は不明だけど、とんでもない威力がありそうだ。これじゃ、シノの腕が切断されてしまう。私は、一瞬そう思った。
でも、シノの装甲は、私が思っている以上に凄い。あのリンシャンカイホウを完全に受け止めた。しかも無傷だ。
これが、シノの機体を皮のように包むキラメ・スバラ・バリヤーの真の力だ。リューカの尾で覆われているだけあって、スコヤンの時よりもバリヤーがパワーアップしているみたいだ。
続いてサキが至近距離で激しくカンを何発も撃ち込んできた。
さすがに、この距離だと衝撃がある。
でも、100メートル圏内に入った。
私は、母とエイスリンとユウキを瞬間移動させようとした。
でも、サキが巨大な盾『ウーピンカイホウ』でシノを強く後に押し飛ばした。
ヒサもユリ・エナジーと呼ばれる一種の超能力を持っている。私の考えを予期したのだろう。
救出失敗。

シノが再びサキに斬りかかった。
これをサキはリンシャンカイホウで受け止めた。
互いの剣がぶつかる鈍い金属音が辺り一面に激しくこだました。
この衝撃で両者は互いに後ろに弾き飛ばされた。

互角じゃ駄目だ。勝たなきゃ。
父の言葉が私の頭の中を駆け巡る。
『塞は最後の砦…』
こうなったら名前の通り最後の砦にでもなんにでもなってやる!
父の意図するところは違うけど…。
私は振り絞るように全身に力を入れた。
「行け、シノ!」
私の名前は塞。
コタツ大好きな日本人。
ちょっとだけ体力に自信のある女の子。
頭は中堅校レベル。
特段美人でもない。
多分、普通の女子高生。
そんな人間でも他の人にはできない何かがあって欲しい。
もし、それが増幅器としての才能なら、その能力で一番になりたい。
ここまできたら私が死んでも絶対勝ちたい。
クルミ達の力を、これ以上無いところまで増幅したい。
みんなの役に立ちたい!
そう思いながら私はシノにミヤモリ・エナジーを送り込み、叫び声を上げながら再びサキに斬りかかった。
サキがウーピンカイホウで防いできた。
でも、シノの剣『ベニクジャク』が、そのウーピンカイホウを切り裂いた。
さらにベニクジャクを振り上げてもう一振り。
サキの左腕を肩から切り落とす。
そして、顔面に向けてさらに一振り。
これをサキがリンシャンカイホウで受け止めた。でも、リンシャンカイホウをベニクジャクが見事に切り裂いた。
サキの顔も半分斜めに切り裂かれる。
再び、この至近距離!
ヒサのユリ・エナジーと母達のフクジ・エナジーを最大限に引き出して、サキは持てるエナジー全てをカンにして胸から撃ち放ってきた。
でも、シノは、それを避けなかった。
違う!
避ける必要が無かった。
みんなの想いがミヤモリ・エナジーの放出量を増大して、シノの装甲装備をより一層強固なものにしていたのだ。そして、前に突き進んで行こうとするパワーも増していた。だから、カンの衝撃も全然感じなかった。
そのまま、シノはベニクジャクをサキの胸に突き刺した。

『100メートル圏内だ!』
私は操縦室に三人を瞬間移動させた。
無事救出!
そして、突き刺したベニクジャクでサキの胸から斜め横に切り裂くと、今度はサキの半分失った頭から胴体にかけて真っ二つに切り裂いた。


咲「こんな風に殺される役だったなんて。」

久「今回は塞が主人公だから仕方ないわね。本編で頑張ってね!」

優希「エニグマティックだじぇい。」


サキが大爆発を起こした。
ヒサは、この爆発から脱出することができず、炎の渦に飲み込まれた。自らの若さと美貌のために他人の命を平気で犠牲にしてきた自己中女の最期だった。


久「でも、本当の私は、そこまで自己中じゃないわよ!」

他全員「…。(嘘つくな!)」


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百十五本場:無効化

 準決勝第一試合大将前半戦。

 東二局、李奈の親。ドラは{1}。

 敬子の捨て牌は、五巡目まで字牌だけ。

 まだ、敬子からは聴牌気配を感じない。

 それで数絵は、暗牌確保と思って、敢えてツモってきた字牌を手に入れ、浮き牌の{七}を切った。

 すると、

「ロン!」

 これで敬子に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一八九⑦⑧⑨11789}  ロン{七}  ドラ{1}

 

「12000!」

 ジュンチャン三色同順ドラ2のハネ満だった。

 聴牌気配まで消している。どうやら敬子は、他人の空気を読めないだけではなく、自分の空気も読まれないようだ。

 

 

 東三局、穏乃の親。

 この局は、六巡目で、

「リーチ!」

 敬子がリーチをかけてきた。

 ただ、敬子の捨て牌は字牌だけ。やはり、他家からすればKY極まりない捨て牌だ。これは、これで恐ろしいかも知れない。

 

 一応、数絵は、守りに向けて字牌を確保していた。特に振り込み回避は問題ない。

 しかし、李奈は素直に打っていた。この局面で安牌が無い。

 待ちも何も分からない。

 ここは仕方が無い。手を進めるために不要牌を切るしかないだろう。

 それで切った{2}で、

「ロン! メンタンピン一発ドラ3。12000!」

 ここでも敬子はハネ満を和了った。

 

 

 東四局、敬子の親。

 ようやく、ここで穏乃の能力が発動し、卓上にうっすらと靄がかかってきた。

 数絵も李奈も、なんだか視界が悪く感じる。

 しかし、敬子は何も感じていないようだ。相手の能力まで感じない。彼女のKYが、相手の能力を完全に無効化しているのだ。

 ただ、能力全てを無効化しているわけでは無い。飽くまでも、敬子に降りかかる分だけを無効化しているようだ。

 

 数絵も李奈も、穏乃の支配力に押されて手が進まない。しかし、一方の敬子は、お構い無しに手を進めてゆく。

 そして、穏乃が聴牌した直後、敬子は自身のツモ牌で、

「ツモ! 6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。

 他人の能力が一切効かない相手。これが綺亜羅高校第二エース、稲輪敬子。

 

 

 現在、大将戦の順位と点数は、

 1位:敬子 154000

 2位:穏乃 94000

 3位:李奈 82000

 4位:数絵 70000

 

 これが25000点持ちの試合なら、さっきの敬子の親ハネツモで数絵が箱割れして終了している。

 

 恐ろしい麻雀を打つ。

 たしかに、先鋒の鷲尾静香、次鋒の竜崎鳴海、副将の鬼島美誇人よりも強いと言われるのが納得できる。

 

「綺亜羅高校大将、稲輪敬子選手。四連続ハネ満だぁー!」

 アナウンサー福与恒子の元気な声が、巨大スクリーン両脇のスピーカーを通して、観戦室全体に大きくこだました。

「そう言えば、すこやん。」

 恒子が、解説の小鍛治健夜プロに話を振り始めた。

「な…何?」

「綺亜羅高校の大将って、巷では『電波なキラー』とか『不思議ちゃん』とか呼ばれているみたいですね?」

「何なの、その『電波なキラー』って?」

「すこやん、知らなかったんだ。」

「さすがに、それは知らないよ!」

「じゃあ、三銃士ってのは?」

「ちょっと私は、まだ29歳だよ! 34歳じゃないってば!」←11月生まれで、咲が一年生のインターハイの頃が27歳です

「えっ?」

「だから34じゃ…。」

「そうじゃなくて、綺亜羅高校が結構強くて人気で、先鋒の鷲尾静香、次鋒の竜崎鳴海、それから副将の鬼島美誇人の三人を併せて三銃士って呼ばれているのよ。」

 恒子は、そう言いながら、

『三銃士』

 と紙に書いて健夜に見せた。

「三銃士って、これ?」

「そう…。もう、すこやんが34歳のわけないじゃん!」

「そ、そうだよね。」

「だって、34歳じゃ四捨五入したら30歳じゃん。すこやんは、アラフォーなんだから34歳のわけ………。」

 そして、またいつものアラフォーネタに落ち着くのだった。

 …

 …

 …

 

 

 準決勝大将前半戦東四局一本場、敬子の親。

 ここでは、前局に比べて靄が深くなっていた。

 数絵も李奈も視界が悪くて打ち難い感じを受けている。

 ところが、敬子にとっては靄など関係ない………と言うか靄が見えていない。相手の能力に対してもKYなのだ。

 ただ、この局では、純粋に敬子の手の進みが悪かった。

 

 中盤に入った。

 靄は、さらに濃くなっていた。

 十一巡目、李奈は二向聴から、ようやく一向聴に手が進んだ。

 そして、切った牌で、

「ロン。」

「えっ?」

「7700の一本場は8000です。」

 穏乃に和了られた。

 李奈は、一瞬、何が起きたのか分かっていなさそうな表情だった。

 どうやら、視界が悪くて穏乃が切った牌をキチンと捉えられていなかったようだ。

 それで、穏乃に対して勝負して切ったのではなく、穏乃の危険牌であることを見落として振り込んでいた。

 この和了られ方は、李奈にはショックが大きい。

 

 

 南入した。

 突然、暖かい強風が卓に吹きつけた。数絵の能力発動スイッチが入ったのだ。

 今まで卓を覆っていた靄が、この風で一瞬にして吹き飛ばされた。

 ついでに、ドリアン臭も消し飛ばしてくれた。ここからが本当の勝負だ!

 視界が晴れている。変な臭いも無い。

 

 南一局は数絵の親。

 数絵は、順調に手を伸ばし、

「リーチ!」

 五巡目に聴牌即でリーチをかけた。

 現在の手牌はリーチのみ。

 しかし、これが大きな手に変わる。

 毎度の如く、

「ツモ! 一発!」

 数絵は一発で和了り牌を自らの手で掴んだ。

「リーチ一発ツモ、裏3。」

 しかも、暗刻で持っていた{3}が裏ドラになった。役もドラもない手が、一瞬にしてハネ満になった。しかも親ハネツモだ。

「6000オール!」

 これが、南場の鬼神、南浦数絵の力だ。

 

 南一局一本場、数絵の連荘。

 まだ、靄は無く視界は晴れ渡っている。

 ここでも数絵が、

「リーチ!」

 五巡目で先制リーチをかけた。

「チー!」

 南場で数絵が豹変するのは有名だ。それで、李奈は一発消しで数絵のリーチ宣言牌を鳴いた。出来面子からムリヤリ鳴いた状態だ。

 しかし、数絵は、

「ツモ!」

 次のツモ番で、自分の和了り牌を引いてきた。

 しかも、

「リーツモ白赤1に頭が裏で乗って、6100オール!」

 またもや親ハネを悠々とツモ和了りした。どうやら、今の数絵には下手な小細工は通用しないようだ。

 

 南一局二本場、数絵の連荘。

 まだ靄がかかる気配は無い。

 ならば、当然、ここでも数絵は押して行く。この親番で稼ぐ。

 

 六巡目、

「リーチ!」

 この局も数絵が先制リーチをかけた。

 

 阿知賀女子学院控室では、全員が穏乃の善戦を祈りながら、モニターを通して大将戦の様子を黙って見ていた。

 臨海女子高と阿知賀女子学院で、大将戦の勝ち星を取った方が決勝に進出する。

 ただ、決勝進出条件は、臨海女子高に比べれば阿知賀女子学院のほうが一応有利だ。この2校以外が勝ち星を取る可能性もあるからだ。

 

 綺亜羅高校の大将、敬子は、かなり強い。一回戦、二回戦共に数絵に打ち勝ってきているのが、その証拠である。

 それに、この半荘でも現在首位に立っている。

 

 もし敬子が勝ち星を取った場合、2位は臨海女子高と阿知賀女子学院の得失点差勝負で決めることになる。

 その時、副将戦終了時点で300000点近くリードしている阿知賀女子学院のほうが一般論としては有利になる。

 

 ただ、肝心の穏乃の能力が、今、掻き消されている。余程のことが無い限り、総合得点で逆転されることは無いだろうが、勝ち星を数絵に取られる可能性は否定できない。

「(先輩!)」

 美由紀は、両手を合わせて穏乃の勝利を強く祈っていた。

 

 丁度この時、美由紀のスマホのバイブ音が控室に鳴り響いた。

 美由紀が急いでスマホ画面を見ると、美誇人からのLINEが届いていた。

 もう一度、美由紀でとサシで勝負したいことが書かれていた。また、前後半戦共に、美由紀のラス親での追い上げは凄かったと改めて褒めてくれていた。

 美誇人も阿知賀女子学院が決勝進出できることを願っているのだ。

 

 しかし、彼女達の願いを裏切るかのように、

「リーチ!」

 またもや、数絵が先制リーチをかけてきた。

 そして、

「一発ツモ、ドラ3。6200オール!」

 ここでも数絵は、親ハネツモを決めた。

 

 これで、大将前半戦の現在の順位と点数は、

 1位:敬子 135700

 2位:数絵 124900

 3位:穏乃 83700

 4位:李奈 55700

 次で数絵が、親満を和了れば、敬子を逆転できるところまで来ていた。

 しかも、穏乃の能力によって生み出されるはずの靄が、数絵が吹かせた南風で掻き消されてからは、未だに復活する気配が無い。

 阿知賀女子学院控室に、重い空気が圧し掛かってきた。

 

 南一局三本場、数絵の連荘。

 ここでは、李奈が四巡目で聴牌した。赤牌2枚を含む七対子だ。

 意外なことと感じられるかも知れないし、たしかに今の大将戦メンバーの中では李奈が一番格下かも知れない。

 しかし、彼女だって全国大会出場校のレギュラーである。

 しかも準決勝進出校だ。

 当然、普通に考えたら強い部類に入る。全国10000人の女子高生雀士の真ん中よりは遥かに上の順位になる。

 

 ただ、李奈は、この局面で迷った挙句、リーチをかけなかった。確実に和了ることを選択したのだ。

 次巡、数絵が聴牌した。しかし、数絵も何か虫の知らせがあったのか、直感的にリーチをかけなかった。いや、かけないほうが良いと感じたのだ。

 そして、その直後、

「ツモ! 七対ドラ2。2300、4300!」

 李奈が満貫をツモ和了りした。

 恐らく数絵は、李奈のツモ和了りを予感していたのだろう。それで、リーチをかけなかったようだ。

 何はともあれヤキトリも回避でき、李奈は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 南二局、李奈の親。ドラは{9}。

 ここで卓上に靄が復活した。数絵の親が終わるのと同時に再発動したかのように思える。

 こうなると、数絵も李奈もやり難くなる。

 妙に視界が悪いし、得体の知れない巨大な何かに見られているような感覚。

 ただ、それでも何とか数絵は聴牌までもって行った。

 

 数絵の手牌は、

 {一二三七七③④[⑤]246西西}  ツモ{[5]}

 

 まだ靄は薄い。無効化の能力発動は完全では無いように感じていたのだ。

 そして、当然、数絵は、{2}切りで、

「リーチ!」

 逆転狙いのリーチをかけた。リーチドラ2に、南場の数絵なら一発ツモや裏ドラが期待できる。

 

 しかし、そのリーチ宣言牌で、

「ロン。」

 数絵は穏乃に振り込んだ。

 

 開かれた手牌は、

 {七八九①②③1399南南南}  ロン{2}  ドラ{9}

 ダブ南チャンタドラ2。ハネ満だ。

 

 モニター画面に、和了る直前の穏乃の姿が一瞬映った。

 その時、能力者である美和の目には、穏乃の背後に火焔と激しい忿怒相をした神仏の像が見えていた。

 一瞬、美和は、ダムに亀裂が入りそうになった。

 彼女は慌てて股間を両手で押さえた。

「(セーフ………。でも、あれは一体?)」

 美和は神仏のことに詳しくない。当然、穏乃の背後に見えたものの正体が分からない。

 それで、

「ねえ、今、一瞬さぁ。阿知賀の大将の背後に火を背負った怖い仏像みたいなのが見えたんだけど…。あれって?」

 と美和が、静香に聞いた。静香は、多少は仏像の知識があるようだ。

 しかし、静香は穏乃の背後にある者の姿が捉えられておらず、

「えっ?」

 と言いながら不思議そうな顔をしていた。

 

 すると、これに美誇人が答えた。彼女は、美由紀ファン故に阿知賀女子学院のことを、それなりに調べていたようだ。

「あれは蔵王権現らしいね。」

「蔵王権現?」

「そう。神仏の一つ。東四局以降に、その能力が現れて、相手の能力を全部無効化するんだって。ネット情報だけど。」

「そうなんだ。」

「阿知賀の大将と戦った能力者の何人かは、対局中に見えたらしいよ。」

「ふーん。でも、無効化かぁ。ある意味、敬子に似てるってことかな?」

「ちょっと美和。単なるKYと神仏を同列にしちゃダメだってば!」

「そ…そうだよね。バチが当たるよね。」

 そう言いながら美和は懺悔するように両手を合わせて目を瞑った。

 

 

 南三局、穏乃の親。ドラは{一}。

 前局に比べて靄が濃くなっている。

 穏乃に山が支配されているからであろう。数絵も李奈も、全然手牌をツモ牌が噛み合あわないでいた。

 

 一方、相手の能力のうち、自分に降りかかる分を無効化する敬子には、穏乃の山支配は全然効いていなかった。彼女は、普通に手を伸ばしてゆく。

 そして聴牌。

 

 この時の敬子の手牌は、

 {一二三四五六七八九②④⑥⑧}  ツモ{⑧}

 

 ここから打{②}。

 しかし、

「ロン。」

 これで穏乃に和了られた。

 

 穏乃が開いた手牌は、

 {一一一二三三四[五]③④678}  ロン{②}  ドラ{一}。

 

「平和ドラ4。12000。」

 まあ、何のことは無い。

 この敬子の振込みは、穏乃の能力とは関係の無く、普通に良くある『巡り合わせの悪さ』に起因するものである。

 ここで{③}か{⑥}が来ていれば絶対に{②}を振り込まないだろうし、今回も{⑥}切り聴牌だって選択肢としてはあったはず。

 

 まあ、今回の敬子の場合、

『{[⑤]}がツモれたらイイな!』

 とか都合の良いことだけを考えて{②}を切ったに過ぎない。

 勿論、

『{⑤}待ちだと赤牌が2枚あるから、逆に出難いし、{③}待ちのほうが良いよね!?』

 との考えもあるし、慎重な人なら、{⑤}待ちにはしないだろう。

 

 しかし、見ている方としては、敬子の能力が穏乃に無効化されたのではないかと思えてしまう。

 必ずしも純粋に振り込んだとは解釈しない。

 それもあって、美和が、

「もしかして、敬子が無効化された!?」

 と声を上げた。

 しかし、これに鳴海が、

「KYが無効化されたんならイイじゃない?」

 と一言。

 これを聞いて、

「「「(たしかに!)」」」

 静香も美誇人も美和も、妙に納得していた。

 今後の敬子の人生のことを考えたら、その方が良いかもしれないと思えたのだ。




おまけ
前回からの続きです。
今回で、このシリーズは終了します。


エピローグ.『増幅器卒業!』

操縦室後方ではユウキとエイスリンが気を失っていた。二人とも、エナジーを激しく吸い取られて疲れたのだろう。
母は涙を流しながら私の顔を見詰めていた。
「塞ぐちゃん…本当に塞ぐちゃんなのね…。」
「お母さん…。」
助けることができてよかった。
三つ子達も、やっと笑顔を見せてくれた。出会ってから、初めて見せてくれた気がする。
ふと、後方の鏡になったドアに、今まで見た事の無い美しい女性の姿が映っていた。
これが今の私の姿なのか?
それは、ゴッド・塞でもデビル・塞でもなかった。例えようの無い美しさだ。もはや次元を超えていた。
これまでの人生の中で見てきた女性の中で最高に美しい。
まるで、人類全てに夢と愛と勇気を与える麻雀プロ兼最高のアイドルのよう………(えっ?)。


はやり「最後にちょっとだけ登場させてもらったぞ!」

閑無「格が神からアイドルに落ちてるじゃねーか! そもそも、神よりアイドルが上っておかしくねえか?」

はやり「じゃあ、アイドルから女神に戻してもらうわよ。あと、一応台本にあるとおり、灰色のカラコンを入れるわね。じゃあ、塞ちゃん、もう一回お願いね!」

塞「わかりました。(このワガママアラサーが!)」


それは、ゴッド・塞でもデビル・塞でもなかった。例えようの無い美しさだ。もはや次元を超えていた。
これまでの人生の中で見てきた女性の中で最高に美しい。
灰色の瞳が印象的だ。
神々しくて、まるで女神そのものだ。見ているだけで涙が出てきそうだ。

シノはカクラ語で、『勝利の女神』の意味。
そう言えば、何かの本で読んだことがある。
地球で、それに当たりそうな女神は、多分、ニケ。
軍神、パラスアテナに付き従う女神。

地球で言うニケに当たるシノを動かす存在は私…。
もしかしたら、この今の私の姿こそパラスアテナ(はやり?)なんだ…。


はやり「?は不要だぞ!(朝倉南調)」

閑無「いや、普通『?』は付くだろう? それに、はやりの方が慕より立場的に格上って、おかしくねえか? (シノハユの主人公は慕だし)」

はやり以外全員「(たしかに!)」


明確な根拠は無いけど、何だか、そんな気がした。
今までの容姿にゴッド・塞とかデビル・塞とか言っていたことさえも、バカらしくなってくる。次元を超えた存在。
パラスアテナは、美しき知恵と戦いの女神。
このシノの操縦者として最も相応しい姿なんだろう。


杏果「すごい持ち上げ方だね。はやりが『美しき知恵と戦いの女神』だなんて。」

はやり「それくらい、当然だぞ!(またもや朝倉南調)」


でも、多分、二度とこの姿を与えられることは無い。
これは本当の私じゃないから…。
クルミ達によって創られた美しさだから…。
今のうちに、この姿を目に焼き付けておきたい。
一生の記念だ。
でも、そこから先の記憶は無かった。どうやら、限界を超えて戦った私は、そこで気を失ってしまったようだ。


ヒサとの戦いから、一週間が過ぎた。
私が気を失っている間に、クルミ達が母に今までの軌跡を説明してくれたらしい。キヨスミ星に連れ去られていただけあって状況理解は早かったそうだ。普通に地球で生きていたら、とても信じられない話だろう。
ただ、パラスアテナ(はやり?)の姿が私の本当の姿ではないと知って、母は残念がっていたらしい。
でも、まあユウキ(霞)に似た姿なら良いかと妥協してくれたみたいだったけど、後で私がブレスレットのスイッチを入れて元の姿を見せたら、
「私とあの人との間に生まれた子だもんね。こんなものよね。」
と言いながら大きな溜め息をついていた。
美女だらけのキヨスミ星(?)にいて、女性の美に対して目が肥えたみたいだ。


あの後、ユウキは、ヘマをしたことを反省して、私の前で土下座した。でも、許した途端に抱きついてきて、
「タコス・エナジーくれだじょ!」
とキスをせがんできた。
ユウキは、フクジ・エナジーをタコス錠として摂取していたため、フクジ・エナジーのことをタコス・エナジーと呼ぶ。

多分、ユウキは同性愛者なんだと思う。キヨスミ星では女性の方が圧倒的に強いので、男性への興味が薄れているのかもしれない。


優希「そんなことないじょ! 私は、咲ちゃんや和ちゃんと違って百合じゃないじょ! それに京太郎には興味があるじょ! おい犬!」

京太郎「うるせーな、このタコス!」


ユウキのようにキヨスミ星でトップレベルにいた女性なら尚更かもしれない。
でも、私は同性愛者じゃない!(←嘘)

ユウキは、今回の戦いで殆どのキヨスミ星人が亡くなったことを理解していた。このまま残れば彼女が総統の座におさまったかもしれない。
でも、彼女は故郷の星を捨てる決心をした。どうしても私と母に付いて来たいらしい。
本心は、地味に故郷の再建作業をするよりも、明るく楽しい人生を取り戻したい。戦いに明け暮れた人生をリセットして新たに青春を謳歌したい。そのために私達からフクジ・エナジーをもらって地球で女の子として暮らしたい。
そんなことを考えていたようだ。

ただ、その前にやるべきことが、いくつかあった。
一つ目は機密文書の処分だ。
キヨスミ星が二度と他の惑星の女性を拉致するような行動に出られないようにしなければならない。そのためには、ミホコ波測定装置に関する資料とフクジ・エナジーに関する資料、タコス錠の製造法に関する資料、ワープ機能向上に向けた超原子の利用に関する資料は、少なくとも廃棄しなければならなかった。

二つ目はタコス錠の生産工場の破壊だ。二度と同じものを製造させてはならない。この破壊作業は三体のロボットの力で簡単に済ますことができた。

三つ目はキヨスミ星に既に制圧された星の開放だ。
これは、ユウキが各星々に送り込まれた司令官を説得することで全て事足りたようだ。
さすが、キヨスミ星最強最悪と言われただけはある。誰も彼女に楯突こうとはしなかった。

私は、ふと三国志の無血入城を思い出した。それを成し遂げてしまった彼女は、本当に凄い実力者なんだと改めて感じた。
余り逆らわないようにしよう。


優希「東風の神だしな。これが私の実力だじぇい!」

数絵「南場には弱いけどね。」


それともう一つ。ヤエ弾の研究開発に関する資料と報告書も全て廃棄しなくてはならない。
これは兵器として危険過ぎる。
電子媒体資料も全て削除。紙資料は全てシュレッダー行きだ。

三つ子達は、エイスリンを無事救出できて嬉しそうだった。この四人は、スコヤンでウィシュアート星に送り届けた。
続いて、アコとハツミとシズノをスコヤンでカクラ星に送ってから、私と母とユウキの三人はクルミと一緒にトキ&トヨネで地球に向かった。

クルミは、私と母とユウキを地球に降ろすと、カップラーメンをたらふく食べた後、コピーロボットを回収してカクラ星へと帰っていった。
まさか、一気に大盛を八個も完食するとは思わなかったけど…。
なんだかんだで、これでさらに一週間が過ぎていた。

私がクルミに連れられてからヒサを倒すまで一週間。そして、その後の作業などで一週間。地球を離れていたのは合計二週間程度。
でも、これが何ヶ月も何年もかかったように感じた…。
とても長い二週間だった。
これでめでたく、私は増幅器卒業!
ついでに今日で冬休みも終了。明日から学校だ。
冬休みなのに、全然休んだ気がしない。
でも、この二週間は、私にとって良い経験と言うか、人生の勉強になった気がする。

自分の若さと美貌を不当に手に入れるために他人の命を平気で奪うやつ。その筆頭ヒサ。こんな人間には、なりたくない。
でも、他人から何らかのモノを搾取する人間は地球にも沢山いるように思う。でも、私は、そうならないようにしたい。

そして、破壊者ユウキ…。
『人の振り見て我が振り直せ』
とは、よく言ったものだ。
私も一歩間違えば有頂天になって、あんな風になっていたかもしれない。それがクルミ達にもらった私の新しい姿と瓜二つの女性なのだから余計にそう思う。


今、ユウキは私の家にいる。母と私と彼女の三人暮らしだ。
彼女は以前のような破壊神ではなくなった。
むしろ、可愛らしい表情を見せるようになった。
もしかしたら、私と出会った当初は、わざと嫌われ者を演じていたのかもしれない。最強最悪の司令官である立場を貫くために…。
それ以前に、まだ敵同士だったし…。

彼女は宇宙侵略に出るほどの科学力を持った星の人間だ。地球で証拠を残さずにハッキングすることも簡単にできてしまう。
基本的には、そんなことは、させたくない。
でも、戸籍とか経歴とかは、地球仕様で作っておかないと彼女も生活する上で不便だ。
それで、彼女は適当に戸籍を操作して、私の一つ年上の姉(?)として地球人になりすましている。
近所の人達の記憶までも操作して…。

もともと母のことを慕っていた部分はあるみたいだし、一緒にいられて嬉しそうだ。
経歴は適当に作った。小学校と中学校は私と同じ学校を卒業、高校は隣町の進学校に行ったことにして、必要なデータを全て改ざんした。

さらに近くの旧官立大学に現役合格したけど、諸事情で一年休学…と言うか留学していたことにしてしまった。
受験してもいないのに、こっちのデータも勝手に操作してしまったのだ。
今度の春から大学一年として潜り込むらしい。
これらのことには目を瞑ろう。彼女の生活基盤を作るためだ。
それに、彼女自身、この春からの大学生活を楽しみにしているみたいだ。

それと、結構、彼女は私よりも働き者だ。むしろ、私の方がグウタラしている。
今のところ、彼女は夜の仕事には興味が無いらしい。普通に喫茶店のウェイトレスと家庭教師で結構稼いでいるようだ。
その稼ぎの一部を私はお小遣いとして貰っている。
彼女曰く、エナジー代らしいけど…。

たしかに、お小遣いと引き換えに、その妖艶な容姿を保持するため、一週間に一回は私に十分間以上のディープキスを要求してくる。
でも、その容姿で人生をやり直したいのだから、それに、私が助けちゃったのだから仕方が無い。
もっとも、私がフクジ・エナジーを与えなくても、母があげてしまうかもしれないけど…。

それに、三国志の無血入城を彷彿させたくらいだ。下手に怒らせたくないし…、逆らわない方が身のためと思う…。

彼女は、私がトドメをさせなかった時、
『私を助けたこと、必ず後悔するぞ!』
と言っていた。
確かに後悔しているけど、あの時とは随分意味合いは違っていると思う。
彼女は、これからも、その妖艶な容姿を武器にして行くつもりみたいだ。

でも、芸能界とかには全然興味が無いないらしい。キヨスミ星時代は超有名人だったけど、今は『普通の美女』に戻りたい?…らしい。
普通の人間としてひっそりと…とまでは言わないのが彼女らしいのかもしれない。

父には母が帰ってきたことをまだ連絡していない。
どうせ月一回帰ってくる。来月、帰ってきた時のサプライズにするつもりだ。その時に、ユウキのことも紹介する予定にしている。
エロ系美人な娘が増えて喜ぶかな?
手を出したりはしないと思うけど…。


霞「私、エロ系じゃないんですけど。」

初美・巴・春「「「…。」」」


私はと言うと、アコから受け取った特殊なブレスレットをそのまま付けている。母は、ブレスレットを外させたがっているみたいだけど…。
色々考えたけど、無理に爆乳美女でなくても良いかと思って、普段はブレスレットの力で昔の姿に戻っている。
やっぱり、こっちの姿の方が見慣れているし落ち着く。

それに、ユウキと生き写しなので双子に間違われてしまう。それは何となく避けたい気がしている。
でも、一つだけ本来の自分以上の力が欲しかったと思っている。
これだけは努力しないで手に入れたかった。
それを貰うのを忘れてしまった感じがする。
と言うか私の選択ミスだ。

たしかにクルミは、この身体は遺伝情報の引き出し方が『二人分のミヤモリ・エナジーを増幅するために体力面にバランスが傾く』とは言っていたけど…。
嘘は言われていないけど、ゴッド・塞のように頭が良いわけじゃない。
ちょっとは頭が良くなったとは思う…と言うか、信じているけど、やっぱり天然だ!
私は、こう叫びたい。
「頭を良くしてもらうのを忘れてた!」
やっぱり選択を間違えたかも…。
違う方を選んでおけば良かったと後悔している。

いまだに冬休みの宿題が終わっていない。
いや、もっと大事なことがある。
休みが明けたら受験だ!

ゴッド・塞のほうが良かった気がする。
後の祭りって、こう言うことなんだろう。

カン


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百十六本場:数絵の逆襲

 準決勝第一試合大将前半戦。

 南三局一本場、穏乃の連荘。ドラは{6}。

 さらに靄が深まるこの局。

 ここでも、数絵と李奈は、完全に穏乃の能力によって押さえ込まれていた。普通に手が進むのは穏乃と敬子だけだった。

 

 穏乃は、配牌からドラと赤牌に恵まれていた。

 {一三五[五]②②⑤[⑤]669西北白}

 ここから{西}。

 …

 …

 …

 

 四巡目、穏乃の手は、

 {一二三五[五]②②⑤[⑤]6679}  ツモ{9}

 ここから打{7}。

 

 五巡目、穏乃は{二}をツモり、{三}を切って聴牌した。

 一方の敬子は、この時、二向聴。

 純粋に穏乃の方が、手の進みが早かった。

 

 そして、六巡目。

 穏乃は{一}を自らの手で引き、

「ツモ。七対ドラ4。6100オール。」

 親ハネをツモ和了りした。

 

 これで、大将前半戦の現在の順位と点数は、

 1位:穏乃 123700

 2位:敬子 115300

 3位:数絵 102500

 4位:李奈 58500

 とうとう穏乃が逆転した。

 

 南三局二本場。

 やはり、ここでも手が進むのは穏乃と敬子のみ。

 数絵と李奈は、もはや嫌気がさすほどに配牌とツモが噛み合わないでいた。まるで呪われているのかとさえ思えるレベルだ。

 ある意味、天江衣の一向聴地獄を連想させるが、ここでは、まるっきり手が進まない。一向聴にすらならないのだ。

 一年半前の穏乃の支配力は、ここまで強力ではなかった。

 やはり、咲が阿知賀女子学院に転校してきて成長したのだ。咲と共に切磋琢磨しているうちに、穏乃の山支配のレベルも数段階上のレベルに達していた。

 

 しかし、その強力な山支配が効かない者がここにいる。

 その者は、どのような能力にも支配されず、自分のペースを乱されることも無い。決して周りの空気に同調することが無い。

 そして、この局では穏乃よりも先に聴牌し、

「リーチ!」

 攻めてきた。

 

 穏乃との対局で、靄が相当深まった南三局二本場。

 そもそも、ここで聴牌できる人間は、女子高生雀士では限られてくる。天江衣や大星淡と言ったスター選手のレベルだ。

 そして、次巡、

「一発ツモ!」

 まさかのツモ和了りを見せた。しかも、

「リーチ一発ツモ裏2。2200、4200。」

 穏乃の山支配と言う逆風を突き破り、アタマを裏ドラで乗せてきた。

 これには、多くの者達が度肝を抜かれた。

 しかも、この局面で敬子が穏乃を逆転し、再びトップに立った。

 

 

 オーラス、敬子の親。

 ここで敬子は、ムリに高い手を狙う必要は無い。軽い手を和了れば良い。それで和了り止めすれば前半戦を首位で折り返せる。

 

 チャンピオン宮永咲を擁する常勝阿知賀女子学院の人気は高い。当然、阿知賀女子学院の決勝進出を願う声が多数派だ。

 しかし、綺亜羅高校も急激に人気が上昇しており、しかも阿知賀女子学院が首位を逃す可能性が出てきた。

 当然、このまま敬子が大将戦を勝利する瞬間を多くの人達が期待し始めた。ある意味、歴史的瞬間だ。

 しかし、とことんKYな娘である。この局面で、

「ツモ。1000、2000。」

 穏乃に先行され、そのままツモ和了りされた。

 

 この和了りの直前に、数絵も李奈も穏乃の背後に蔵王権現の姿が見えていた。しかも、何気にその恐ろしい目は、敬子の方に向けられていた。

 しかし、幸か不幸か、敬子にだけは、これが見えていなかった。

 霊力の有無とかでは無い。KYゆえに何も感じていないからであろう。

 

 

 これで、大将前半戦の順位と点数は、

 1位:穏乃 123500

 2位:敬子 121900

 3位:数絵 99300

 4位:李奈 55300

 穏乃がギリギリのところで再逆転し、首位で前半戦を折り返す結果となった。

 

 

 休憩に入った。

 穏乃は、対局室で椅子にもたれかかり、そのままじっとしていた。

 一方、他の三人は一旦自分達の控室に戻った。

 

 

 敬子が控室の扉を空けると、美和が、

「お帰り。阿知賀の最後の和了り、怖くなかった?」

 一応、心配して声をかけた。いくらKYな敬子でも、蔵王権現の視線を受けたら恐怖しか感じないだろうと思ったからだ。

 肝の据わった静香、鳴海、美誇人の三銃士でも、あの忿怒相には脅威を感じるし、実際に直接目の当たりにしたら、放水までは行かないにしても震え上がることは間違いない。

 しかし、敬子は、

「別に。なんで?」

 怖がる理由が分からずにいた。キョトンとしていた。

 これを見て、他のメンバー達は、

「「「「(KYも、あそこまで行くと武器だね!)」」」」

 と思ったらしい。

 

 

 同じ頃、朝酌女子高校控室では、李奈が、

「怖かったよぉ。」

 涙目になっていた。

 半年前の練習試合では、大将戦を愛宕雅恵が代わりに打ってくれた。なので、蔵王権現の姿を至近距離で見たのは、李奈としても今回が初めてであった。

 後半戦は、始まる直前にトイレに寄ろう。

 某掲示板のネタにされたくない。

 李奈は、そう思わずには、いられなかった。

 

 

 一方、臨海女子高校控室は、まるで通夜のように静まり返っていた。

 前後半戦トータルで、数絵が1位にならなければ決勝進出は無い。仮に敬子が勝ち星を取って行ったとしても、得失点差勝負になったら臨海女子高校は3位止まりになる。

 そのような中、数絵が穏乃と敬子に20000点以上の差をつけられている。

 最悪だ。

 しかし、だからと言って諦めているわけでは無い。

 言葉は無くとも、数絵は密かに闘志を燃やしていた。

 

 

 それから少しして、数絵、李奈、敬子が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家が穏乃、南家が敬子、西家が数絵、北家が李奈に決まった。

 席自体は誰も動かず、起家が穏乃に変わっただけである。しかし、数絵が同卓した状態での穏乃の起家は、穏乃にとって極めて不利である。

 当然、数絵は、そのことに気付いていた。

「(南一局が始まる時に吹く南風で靄が消えるはず。そこで私が和了れば高鴨の連荘は避けられる。そして、靄が復活するまでに私が稼いでいれば、前後半戦トータルでの逆転も夢じゃない!)」

 当然、数絵は、より一層気合が入った。

 とは言え、逆転するためには、東場での失点を最小限に抑える必要もあるだろう。なので、敬子への振り込みには十分警戒する必要がある。

 

 

 東一局、穏乃の親。ドラは{⑧}。

 穏乃の山支配も数絵の爆発力もリセットされる。

 こうなると、敬子の独壇場だ。

 

 李奈が{白}を捨てた。

 これを、

「ポン!」

 珍しく敬子が鳴いた。

 そう言えば、今まで敬子は門前で仕上げていた気がする。鳴いたのは初めてではなかろうか?

 

 相変わらず敬子の捨て牌は読み難い。

 と言うかヤオチュウ牌しか切っていない。

 最初に{19}を切り、続いて字牌、そして{一⑨}と続く。

 

 そして、十巡目、

「ツモ!」

 敬子の和了り宣言だ。

 しかも、妙に声に力が入っていた。

 

 開かれた手牌は、

 {2255西西西發發發}  ポン{白横白白}  ツモ{2}

 白發混一色対々和三暗刻。

 対々和で、しかも筋待ち。

 これは意外と読み難い。

 

「4000、8000!」

 倍満ツモ和了り。

 敬子の点数申告の声には、さらに力が入っていた。

 もし、ここで{西}が{中}なら役満だったが、贅沢は言っていられない。

 

 それに、穏乃は親カブリ。つまり、穏乃は-8000で敬子は+16000だから、その収支は合わせて24000点になる。

 前半戦での穏乃と敬子の点差は1600点だった。

 よって、今、敬子は穏乃に22400点差をつけている。

 大逆転だ。

 いくらKYでも人の子だ。

 嬉しい時は嬉しい。

 ただ、この和了りは数絵にとっては厳しいものになった。敬子との点差が42600点に広がったからだ。

 敬子に勝ち星を取られても得失点差で臨海女子高校は阿知賀女子学院に負けて3位になる。つまり、準決勝戦敗退となる。

 数絵からすれば、敬子はKYの極みにしか思えないだろう。

 

 

 東二局敬子の親。ドラは{9}。

 ここでも敬子は、

「ポン!」

 李奈が捨てた{西}を鳴いた。ただ、オタ風だ。

 そうなると、役牌バックか混一色か、大体手が絞られてくる。

 

 その後も敬子は、順調に手が伸びている感じだ。

 三連続でツモ牌が手の中に入っている。しかも捨て牌は筒子と萬子。恐らく、索子の混一色だろう。

 当然、穏乃も数絵も李奈も索子を捨てなくなる。

 

 しかし、四巡後に、

「ツモ!」

 またもや敬子の和了り宣言の声が対局室に響き渡った。

 

 開かれた手牌は、

 {1117999東東東}  ポン{西横西西}  ツモ{8}  ドラ{9}

 ダブ東混一色チャンタドラ3。

 親倍ツモだ。

 

「8000オール!」

 これで敬子は、他家に圧倒的な差をつけた。

 もう大将戦での勝ち星は、敬子で決まりと多くの者達が確信した瞬間だった。

 

 東二局一本場、敬子の連荘。ドラは{南}。

 二度の倍満ツモ和了りでツキを放出し過ぎたか、この局は敬子の配牌は今一つ、ツモ牌も巧く噛み合わないでいた。

 穏乃も数絵も今一つ。

 ここで手が進んでいたのは李奈だけであった。

 

 李奈の配牌は、

 {一三五七②④⑥4[5]6北白中}

 

 これが六巡で、

 {二三四五六七②②⑥⑦4[5]6}

 殆どムダツモ無しで聴牌していた。

 

 ここで{7}が引ければ三色同順が付くかもしれない。当然、李奈は手変わりを狙ってリーチをかけなかった。

 

 その二巡後、李奈は{[⑤]}を引いてきた。

 三色同順までは付かなかったが、赤牌ツモだ。

「タンピンツモドラ2。2100、4100!」

 李奈は嬉しそうな声で和了りを宣言した。

 総合得点2位の阿知賀女子学院との点差は800000点以上。どう足掻いても決勝進出は不可能だ。

 それどころか、総合得点3位の臨海女子高校にさえ、500000点以上の差がつけられている。もし李奈が大将戦の勝ち星を取れても4位確定は間違いないのだ。

 そんな状況で打たされる大将は、精神的に辛い。

 もはや、目指すのは古豪朝酌女子高校のレギュラーとして恥ずかしくない打ち方のみ。

 そこでの満貫ツモ和了り。

 今日は負けても明日に繋がる打ち方が出来ていたように思えていたのだ。

 

 

 東三局、数絵の親。

 ここでも先行したのは李奈だった。

 リーチこそかけなかったが、五巡目で聴牌、

 そして、

「ピンツモ三色ドラ1。2000、4000!」

 ここでも李奈が、渾身の満貫をツモ和了りを決めた。

 この和了りで、李奈は原点復帰を果たした。

 

 

 東四局、李奈の親。ドラは{2}。

 卓上に靄がかかり始めた。穏乃の能力が発動し始めた証拠だ。

 こうなると、数絵も李奈も動きが取れなくなる。

 しかし、穏乃の能力を屁とも思わない人間がいる。敬子だ。

 恐らく無効化能力としては最強だろう。

 

 敬子の配牌は、

 {二五八①③[⑤]⑦689東西白}

 

 ここから順調に手を伸ばし、八巡目で、

 {四五六八八③⑤[⑤]⑥⑦678}

 嵌{④}で聴牌。

 

 敬子は、殆どムダツモ無しで、ここまで手を作り上げていた。手なりに打っていただけなのだが、凄い仕上がりの早さである。

 しかし、ここではムリにリーチをかけず、五巡かけて手変わりをした。

 

 十三巡目、敬子の手牌は、

 {五六七八八⑤[⑤]⑥⑥⑦567}

 高目でタンピン三色一盃口赤1のハネ満聴牌。

 ここから、

「リーチ!」

 敬子は攻めにでた。ツモれる流れと踏んだのだ。

 

 しかし、その次巡、

「ツモ。」

 敬子の上家から小さな声が聞こえてきた。穏乃の和了り宣言だ。

 

 開かれた手牌は、

 {四五六②③④⑤⑥⑦2223}  ツモ{4}  ドラ{2}

 タンピンツモドラ3のハネ満だ。

 

「3000、6000。」

 敬子には靄が感じられなくても、ここは基本的に穏乃の支配下にある。しかも十四巡目に入っている。山の終盤………穏乃の支配が強力になる位置だ。

 捲り合い勝負で山をほぼ完全に支配した穏乃が、敬子に勝利したと言えよう。

 

 

 南入した。

 これと同時に強烈な温風が吹き荒れ、卓上にかかっていた靄を吹き飛ばした。

「では、始めましょうか。」

 この南風の主は、言うまでも無い、数絵だ。

 彼女は、気の入った顔でそう言うと、卓中央のスタートボタンを押した。

 

 南一局、穏乃の親。

 靄が消し飛んだのと同時に、穏乃の支配も一旦消えた。

 しかも、ここからは数絵の支配力が一気に上がる。

 

 数絵は、たった三巡で、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

 しかも、彼女の捨て牌は字牌三枚のみ。これでは、咲のような能力者で無い限り、誰も和了り牌を読むことは出来ないだろう。

 

 李奈、穏乃、敬子の順で、一先ずヤオチュウ牌捨てで様子を見る。とりあえず、一発振込みだけは無かった。

 しかし、

「ツモ!」

 まるで狙っていたかのように、数絵は一発ツモで和了った。

「リーチ一発ツモドラ3(表1裏2)。3000、6000。」

 しかも、アタマが裏ドラになってのハネ満ツモ。南場の数絵らしい和了りが炸裂した。

 

 

 南二局、敬子の親。

 ここでも数絵が、

「リーチ!」

 たった四巡でリーチをかけてきた。

 これを見て敬子は、

「(私もKYって言われるけど、南場の臨海の大将も結構KYよね!)」

 とか思ったりしていた。

 

 それはさて置き、

「ポン!」

 一発回避のつもりもあって、敬子が鳴いた。

 しかし、その直後のツモで、

「ツモ。リーツモ白ドラ3(裏ドラが白)。3000、6000。」

 高目の白をツモって数絵が和了った。

 やはり、KYな敬子が動くと、穏乃と李奈に多大な迷惑がかかるようだ。

 一方の数絵は、

「(他家にはKYでも、私にはイイ鳴きでしたよ!)」

 と内心思っていた。

 

 

 南三局、数絵の親。

「リーチ!」

 ここに来て、数絵がダブルリーチをかけてきた。

 彼女の運が上昇している証拠だ。

 しかも、リーチ宣言牌は{白}。これでは四風連打で流すことも出来ない。

 

 ダブルリーチでは読みようが無い。分かるのは{白}が安牌と言うだけ。李奈も穏乃も敬子も、何も考えずに不要牌を切った。

 

 次巡、当然のように、

「ツモ!」

 数絵が和了った。

「ダブリー一発ツモドラ2。6000オール!」

 しかも、毎度の如く一発ツモ&アタマが裏ドラになってのハネ満ツモ。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:数絵 120900

 2位:敬子 114900

 3位:李奈 86300

 4位:穏乃 77900

 

 大将前後半戦の合計は、

 1位:敬子 236800

 2位:数絵 220200

 3位:穏乃 201400

 4位:李奈 141600

 数絵が穏乃を追い抜き、首位の敬子に16600点差………親ハネツモ一回で十分捲くれるところまで詰め寄っていた。




おまけ


春季大会団体一回戦が終わった。
その夜のことだ。

咲「あん♡!」

まこ「いきなりこれか! 小ワープじゃ!」

R指定の番人、まこが時間軸をほんの少しだけ飛ばした。

京太郎「うっ!」

咲「(早っ!)」

昨日同様、一瞬で終わったようだ。

咲「(私が貫通してから二日目で、慣れてないから痛くならないようにって、気を使って早く終わってるわけじゃないよね?)」

咲「(昨日もそうだったけど、10秒もかかってないよね?)」

咲「(ここがもし大会のために借りたホテルじゃなくてラブホテルだったら大損だよね?)」

咲「(休憩に二時間も必要ないよね、これ?)」

咲「(もし二時間五千円のところに入ったら、時間的に4500円以上ムダに払うことになりそうだよ!)」

基本的には京太郎と一つになれて嬉しいのだが、何か物足りない感じだ。

そして翌日。
この日は咲達の試合は無い。
ただ、この日の夜も、

京太郎「うっ!」

咲「(やっぱ早いよね、京ちゃん…。三行半ならぬ三擦り半だよ、これじゃ…。)」

咲「(別に三行半を書くつもりは毛頭ないけど…。)」

別に激しい動きを続ける必要はないから、愛する人ともう少し長い時間、一つに繋がっていたい。
なのに、それができない。
京太郎の時間軸だけ、やたらと早いのだ。
それで咲は、ご不満のようだった。

そして大会三日目。
Aブロック二回戦が行われた。
阿知賀女子学院、朝酌女子高校、琴似栄高校、三箇牧高校の戦いである。

一応、ホテルを出るところからは京太郎とは別行動である。
過去に咲の『京ちゃん発言』があるため、阿知賀女子学院が京太郎と雇っていることが世間にバレると面倒になりそうだからだ。

会場に入る時、咲は、京太郎が一人の男子高校生と話をしているのを見かけた。
見覚えがある。
咲のことを、
『京太郎の嫁!』
と言ってくれたイイ人だ!
たしか苗字は高久田。名前は覚えていない。
その時、京太郎は、高久田から何かを渡されていた。


試合が始まった。
先鋒の憧も次鋒のゆいも快勝である。少なくともこれで準決勝戦進出は決まった。
次の咲が勝てば二回戦の1位が確定する。

咲の全身からは、既に恐怖の大王オーラが激しく放たれていた。
夜の不完全燃焼を、ここで発散しようとしていたのだ。
そして、タコス効果で起家を引き当てると、
「この半荘、東二局は来ない!」
とうとう優希の名台詞を言ってしまった。
ただ、咲が言うと冗談に聞こえない。

対戦相手は、朝酌女子高校の森脇華奈、三箇牧高校の大割つぐみ、琴似栄高校の飛田翔子の3人。
華奈は森脇曖奈の従姉妹で非能力者。練習試合もしているし顔見知りだ。
つぐみは咲とは初対戦。大きく箱割れして点棒を貢いでくれそうだ。『つぐみ』が『みつぐ』のアナグラムにしか思えない。
翔子も咲とは初顔合わせ。飛翔の文字が入っていて、本当にトぶために付けられた名前のように思える。

この日も、咲は相手にとって最凶の打ち方を披露した。
前半戦でいきなり、
東一局、「ツモ! 嶺上開花ツモドラ2。4000オール!」
東一局一本場、「4100オール!」
東一局二本場、「4200オール!」



~中略~ 七十七本場を参照してください。



東一局二十三本場、「4300オール!」
東一局二十四本場、「6400オール!」
東一局二十五本場、「6500オール!」
東一局二十六本場、「66600オール!」
通算四回目の666事件を起こした。
当然、他家三人は、
「「「プシャ──────!」」」
耐え切れずに大放出…巨大湖を形成してしまった。しかも、可哀想なことに全国にライブ中継されてしまった。

某ネット掲示板では、
『やりましたですねー』
『最高っス!』
『ス・バ・ラ・で・す!』
『全国中継してなんぼ! 全国中継してなんぼですわ!』
『三人とも暖かそう!』
『でも床の上に流れた分は冷たくなってるじぇい!』
『このまま友達百人できそうだよモー』
『もうすぐ先輩の友達が百人できそうデー』
『オモチがあるともっと嬉しいのです!』
『全国生中継でチョー嬉しいよぉー』
『この未来は想像の範囲やな』
『ダル………』
引き続き自分達の野望(全国生中継)が継続されて喜んでいた。

ここで、一旦清掃のために長めの休憩が取られた。

そして、後半戦でも、



~中略~ 六十五本場を参照してください。



東一局十一本場、「17100オール!」
444400点を起こした。
当然、他家三人は、
「「「プシャ──────!」」」
耐え切れずに大放出…二度目の巨大湖を形成してしまった。
一日二回の大放出は珍しい。
『やったっス! 三人とも一日二回っス!』
『スバレストです! ちなみにスバラの最上級と言う意味です』
『じゃあスバラの比較級はスバラーかな? by 高二最強』
『目立ってなんぼ 目立ってなんぼですわ! 三人とも最高に目立ってますわ!』
『一日二回は珍しいじょ!』
『三人とも殿堂入りじゃけぃ!』
『祝! 殿堂入り!』
当然、ネット住民達はお祭り騒ぎになった。
一方の放送側は、大放出前の映像切り替えの必要性を感じていた。


この日の夜は、

京太郎「今日さ、高久田にダポキセチンを分けてもらってさ。」

咲「なにそれ?」

京太郎「〇漏防止の薬だって。」

咲「えっ?(気にしてたんだ)」

京太郎「ほら、俺、早過ぎるからさ。」

咲「でも、そんな気にしないでよ。(たしかに早過ぎるから不満ではあるけど)」

京太郎「気にはなるよ。それで、もう飲んじゃったし。」

咲「そんな怪しい薬、大丈夫なの?」

京太郎「大丈夫だって。高久田も使ってて別に変な作用が出るわけでもないって言ってたし、効果もあるって。」

咲「そうなんだ。」

京太郎「で、咲…。」

まこ「小ワープじゃ!」

まこが時間軸を動かした。
先ずは五分。

咲「(京ちゃん、今日は三擦り半で終わってない!)」

咲「京ちゃん! あっ♡!」

まこ「まだ終わっとらんか。では、再び小ワープじゃ!」

ここから、まこが連続小ワープに入った。
五分刻みで状況を確認して行くのだ。

そして、一時間後の世界。

咲「ねえ、まだぁ? もう痛いよ。」

京太郎「ゴメン、もうすぐだから。」

咲「…。」

京太郎「うっ!」

まこ「やっと終わったか。それにしても長かったのぉ。」

今回は長くなり過ぎだ。正直、咲は股が痛くて辛い。
しかし、これで咲は機嫌良く準決勝を迎えたそうだ。


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百十七本場:濃霧

 準決勝第一試合大将後半戦。

 南三局一本場、数絵の連荘。ドラは{6}。

 当然、数絵は攻撃の手を緩めない。いずれ、穏乃の山支配が復活するだろう。それまでに逆転不可能な圧倒的点差をつける必要があるからだ。

 

 ここでも数絵は、

「リーチ!」

 七巡目で先制リーチをかけた。

 前三局に比べると仕上がりは遅いが、それでも他家と比べれば圧倒的に早い。

「チー!」

 一発回避で李奈が鳴いた。

 しかし、次巡、

「ツモ! 6100オール!」

 数絵が自らの和了り牌を掴み取った。

 他家の鳴きで数絵のツモはぐらつかない。むしろ、悠々と高目を引いてくる。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三三四[五]②③12388}  ツモ{①}  ドラ{6}  裏ドラ{①}

 リーチツモ平和三色同順ドラ2で余裕のハネ満だ。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:数絵 139200

 2位:敬子 108800

 3位:李奈 80200

 4位:穏乃 71800

 

 そして、大将前後半戦の合計は、

 1位:数絵 238500

 2位:敬子 230700

 3位:穏乃 195300

 4位:李奈 135500

 とうとう数絵が敬子を抜いた。まさに南場の鬼神の意地を賭けた逆転トップだ。

 

 数絵の親は、まだ続く。

 南三局二本場、数絵の連荘。

「(まだまだ!)」

 この親でとことん稼ぐ。

 数絵と穏乃の点差は、前後半戦合計で43200点。普通なら、到底逆転は不可能だろう。

 しかし、穏乃が同卓している以上、数絵には、これでも全然足りない気がしていた。穏乃は常勝阿知賀女子学院の第二エース。最後の最後で何をしでかすかわからない。

 幸い、穏乃は咲と違って打点はそれほど高くない。少なくとも、今まで穏乃の役満は見たことが無い。

 ならば、役満でも逆転不可能な点差まで広げる。ダブル役満が認められるルールでも、さすがに穏乃がダブル役満を仕上げてくるとは思えないからだ。

 

「リーチ!」

 この局、数絵が聴牌に要したのは九巡。聴牌が遅くなっている気がする。

 とは言え、まだツキは自分にあると数絵は確信していた。

 前二局とは違って、今回は一発消しの鳴きは無かった。

 そして、次巡、

「ツモ。一発!」

 数絵は当然の如く和了り牌を引き当てた。

「リーチ一発ツモタンヤオドラ3。6200オール!」

 この和了りで、数絵は敬子に32600点差、穏乃に68000点差をつけた。

「(これなら綺亜羅はともかく、阿知賀の大将に役満直撃されても逆転されない。)」

 ようやく一安心と言ったところだ。

 

 南三局三本場、数絵の連荘。ドラは{7}。

 圧倒的な点差を付けながらも、数絵は、気を引き締め直した。

 油断は大敵。

 それに、まだ靄は復活していない。まだ稼げる。

 

 南場なのだが、数絵の聴牌は、やはり遅れている。この局、数絵が聴牌した時、既に十一巡目に突入していた。

 しかし、攻撃は最大の防御とも言う。

「リーチ!」

 数絵は、迷わずリーチをかけた。

 手牌は、

 {一二三①①⑥⑦⑧4[5]6西西}

 {①}と{西}のシャボ待ち。

 今のところ、リーチドラ1のみだが、南場の数絵は裏ドラが乗る。恐らく、アタマか刻子………つまり{①}か{西}が、そっくりドラに変化するはず。

 

 同巡、

「カン!」

 敬子が{③}を暗槓した。

 しかも新ドラ表示牌は{②}。つまり、敬子の槓子が、そのままドラ4に変身した。

 そして、

「通らばリーチ!」

 嶺上牌を取り込むと、{②}を強打して、敬子が追っかけリーチをかけてきた。

 別に敬子にとっては、この大将戦の勝敗は決勝進出に関係しないはず。なのに、勝負してくるとは、数絵にとってはKY極まりない感じだ。

 とは言え、特段数絵にとっては、相手がドラ4でも恐怖は無かった。何故なら、この局面でも自分がツモ和了りできるはずだからだ。

 それどころか、

「(槓裏をプレゼントしてくれて、綺亜羅の大将には感謝するわ。)」

 とさえ思っていた。

 

 その直後のことだった。

 卓上にかかる靄が復活した。

 それは、見る見るうちに濃くなり、あっと言う間に濃霧とも言うべきモノに成長していった。穏乃の能力が一気に放出された感じだ。

 蔵王権現の支配が復活する。

 今までとは打って変わって、数絵は急に胸騒ぎしてきた。

 まさか、自分が一発で振り込むのか?

 

 数絵は、恐る恐る牌を引いた。

 ツモ牌は{四}。残念ながら自分の和了り牌ではなかった。これが、穏乃の無効化能力。

 和了れていなければ、リーチ者は暗槓でもしない限りツモ牌をそのまま切らなければならない。

 仕方なく、数絵は、そのままツモ切りすると、

「ロン!」

 上家から和了り宣言の声が聞こえてきた。しかも、喜び溢れた声質。ドラ4を含む敬子の和了りだ。

「リーチ一発タンヤオドラ………。」

 敬子の点数申告が始まった。

 しかし、これを遮るかのように、

「ロン。失礼。アタマハネです。」

 数絵の対面………穏乃が和了りを宣言し、手牌を開いた。

 この場合、敬子より上家の穏乃の和了りのみが成立する。

 

 穏乃の手牌は、

 {五六④[⑤][⑤]⑥⑥⑦45677}  ロン{四}  ドラ{7}  槓ドラ{③}

 

「タンピン三色ドラ4。16900!」

 しかも倍直。そこに数絵と敬子のリーチ棒も加わる。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:数絵 139900

 2位:敬子 101600

 3位:穏乃 84500

 4位:李奈 74000

 

 そして、大将前後半戦の合計は、

 1位:数絵 239200

 2位:敬子 223500

 3位:穏乃 208000

 4位:李奈 129300

 一気に穏乃が数絵に31200点差まで追い上げてきた。

 しかし、まだ数絵のトップは変わらない。親は流されたが、次を安手で良いから和了れば、数絵が勝ち星を取り臨海女子高校が決勝進出となる。

 とにかく数絵は、

「(落ち着け!)」

 と心の中で自分に言い聞かせながら頭を切り替えた。

 

 

 オーラス、李奈の親。ドラは{1}。

 準決勝戦第一試合のオーラスオブオーラスがスタートした。

 ここで李奈が和了るか、李奈が聴牌した状態で流局となった場合は連荘。そうならなければ、この局で終了する。

 前局にかかった靄は、さらに深いものになっていた。

 いや、靄と呼ぶのは不適当だ。既に前局時点で濃霧と化している。

 今の状態は、一寸先も見えない、一面が灰白色の世界。これこそ、深山幽谷の化身の能力が極限まで引き出された状態だ。

 

 しかし、この濃霧が全然見えていない者がいる。

 相手の持つ能力のうち、自分に降りかかる分だけを全て無効化する異常人。もはや特殊能力者であろう。

 その者………敬子が、七巡目にツモ牌を手に入れた。

 そして、{3}切りすると、サイドテーブルの上においてあったオシボリで、珍しく敬子が手を拭いた。

 

 敬子の捨て牌は、

 {西東②9⑨白3}

 

 よく、聴牌するとタバコを銜え、火をつける人がいる。

 これを一般に聴牌タバコと呼ぶ。

 聴牌すると、一段落した気持ちになり、急にタバコを吸い出すのだ。

 これと同じで、聴牌すると何かを飲み始めたり待ち牌を再確認したりと、何らかのアクションを起こす人が多い。

 オシボリで手を拭くのも、それらの行動と同じ時がある。

 今まで、敬子は、そのような行動を取らなかったが、オーラスオブオーラスの緊張感からか、聴牌を知らせる行動をとってしまったようだ。

 

 これを見て数絵は、

「(綺亜羅が多分聴牌…。なら、一巡様子を見ましょう。)」

 敬子の現物である{②}を切った。

 しかし、これで、

「ロン!」

 数絵の対面から和了り宣言が聞こえてきた。穏乃に振り込んだのだ。

「えっ?」

 これは、数絵としても意表をつかれた感じだ。濃霧のせいと思われるが、穏乃の聴牌気配を完全に見落としていたのだ。

 もっとも、能力発動時の穏乃は、余り聴牌気配を出さないのだが………、その極僅かな変化を数絵は捉え切れていなかったのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三九九九①③11123}

 

「ジュンチャン三色ドラ3。16000!」

 まさかの二連続倍直!

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:数絵 123900

 2位:敬子 101600

 3位:穏乃 100500

 4位:李奈 74000

 

 そして、大将前後半戦の合計は、

 1位:穏乃 224000

 2位:敬子 223500

 3位:数絵 223200

 4位:李奈 129300

 最後の最後で穏乃が逆転し、勝ち星を掴み取った。

 しかも、1位から3位の差が800点の接戦である。

 負けた数絵からすれば、南三局三本場でリーチ棒さえ出していなければ………いや、最後のKYの仕種に反応しなければと、非常に悔いの残る敗退となった。

 

 

「誰がこの結末を予想できたかぁ! 粘る阿知賀の大将、高鴨穏乃の倍直! これで大将戦は阿知賀女子学院が勝利し、綺亜羅高校と阿知賀女子学院が共に勝ち星二で決勝進出を決めましたぁー!」

 観戦室では、アナウンサー福与恒子の声が一面に響き渡っていた。

 それと同時に、観戦室にいた女子高生雀士達は、阿知賀女子学院の誇る第二の魔物、穏乃の底力を再認識するのであった。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 穏乃の元気な声が、一際大きく対局室にこだました。

 対局後の一礼を終えると、大将選手達は対局室を後にした。

 

 

 これと同じ頃、阿知賀女子学院控室では美由紀(宇野沢栞妹)のスマホのバイブ音が鳴っていた。美誇人からのLINEだ。

 美由紀がスマホを開くと、

『決勝進出おめでとう。もう一回、サシで勝負だね!』

 と書かれていた。

 これを読んで美由紀は、

『今度こそ美誇人さんに勝つ!』

 そう心に誓うのだった。

 

 一方、憧は、

「(まさか、シズがあそこまで苦戦するとは…。それにトータルで綺亜羅に負けるなんて。もし私が、もう少し失点を抑えられていたら、トータルは1位だったんじゃ…。)」

 負けて当然のつもりで試合に臨んでいたことを、ようやく反省し始めた。

 ゆい(小走やえ妹)も同様である。

 

 ただ、二人とも、そうなった根源………安っぽいプライドから来る驕りであることには気付いていなかった。

 

 

 ちなみに総合得点は、

 1位:綺亜羅高校 1302500

 2位:阿知賀女子学院 1282500

 3位:臨海女子高校 1000400

 4位:朝酌女子高校 414600

 下馬評を覆し、綺亜羅高校がトップとなった。これも、憧とゆいにとっては大きな反省材料となった。

 咲は美和に300000点以上の差をつけて圧勝、穏乃は僅差で勝利、美由紀は敗退したが大敗では無い。それこそ、美誇人からの満貫直取りでひっくり返る点差だ。

 言ってしまえば、咲が作った300000点ものアドバンテージを二人で溶かしてしまった。

 準決勝戦を1位通過できなかった責任が誰にあるかは一目瞭然だ。

 それこそ、1位通過以外敗退するルールなら、間違いなく憧とゆいが戦犯だ。

 これが分からないほど、二人は馬鹿ではない。

 かなりのショックを受けたようだ。

 

 

 その夜、阿知賀女子学院メンバーは、明日の決勝戦に向けて監督の晴絵とコーチの恭子とミーティングを行った。

 ただ、晴絵も恭子も、憧とゆいには、特段注意をしなかった。一応、勝とうとする気持ちが無かったことへの反省はしているみたいだったからだ。

 下手に注意することで余計に凹まれて、明日の試合に影響が出ても困る。それで、根本的なところは大会が終わってから注意することにしていた。

 

 もっとも、注意したところで憧の相手は淡、ゆいの相手は光だ。

 鳴きの速攻を武器とする憧にとって、他家に配牌六向聴を連発する淡は天敵である。恐らく、殆どの局で憧が聴牌する前に淡がさっさと和了ってしまうだろう。

 

 そして、それ以上に、ゆいは厳しい状況に追い込まれるに違いない。

 現在の女子高生ランキング2位の光が相手では、ゆいがベストの状態でもトバされる可能性すらある………。

 

 白糸台高校も優勝を目指すからには、次鋒戦で大きく稼ぎに出るはずである。

 何故なら、先鋒の淡と次鋒の光で白糸台高校が勝ち星二、中堅の咲と大将の穏乃で阿知賀女子学院が勝ち星二の、双方勝ち星二となることが想定されるからだ。あとは、ここにどれだけ永水女子高校と綺亜羅高校が食い込んでくるかだ。

 

 双方勝ち星二なら得失点差勝負になる。

 それで、光は、ゆいと最大限に点差をつけようとするだろう。それこそ、白糸台高校としては、光が他家全員の点棒を奪い、且つ一番凹ませたいゆいを『最大限』に箱割れさせたいはずなのだ。まるで咲のように………。

 

 光とゆいの点差を咲がカバーするとしても、恐らく大将戦では穏乃と和は大差がつかないと予想される。

 一方、淡と憧は大差が付くだろう。

 しかし、綺亜羅高校の鷲尾静香が先鋒にいることが、淡のダブルリーチに対する抑制力として働く可能性はある。

 ダブルリーチをかけた状態で終盤まで勝負がもつれ込めば、豪運の静香が何をしでかすか分からないからだ。

 

 こうなると、是が非でも美由紀に勝ち星を取ってもらいたい。

 勿論、そのことを美由紀も理解しているようだ。

 ならば、下手に上から口を出さずにモチベーションを維持させよう。そう、晴絵も恭子も判断していた。

 

 

 翌日、大会六日目、団体戦決勝戦が行われた。

 ABブロックからは阿知賀女子学院と綺亜羅高校、CDブロックからは白糸台高校と永水女子高校。この四校が激突する。

 綺亜羅高校はダークホース的存在だったが、ここまで来ると優勝候補の一角として評価されるようになった。

 

 たしかに、綺亜羅高校には咲や光のような超魔物はいない。

 しかし、全員が高いレベルでまとまっている。それこそ、第二エースの敬子は、準決勝戦では穏乃との接戦を繰り広げたし、当然、先鋒戦の淡vs静香も期待の一戦と評価されるようになった。

 

 

 阿知賀女子学院、白糸台高校、永水女子高校、綺亜羅高校のメンバー全員が決勝卓を囲むように集まった。ここで、一同が決勝戦開始前の挨拶をする。

 

 インターハイ決勝戦では、綺亜羅高校メンバーの代わりに龍門渕高校メンバーがいた。

 しかし、もし咲達が1年生の時に綺亜羅高校の暴力事件が無かったら、インターハイ決勝戦も違った展開になっていたかもしれないし、それこそコクマも含めた全大会の様子が全く違っていただろう。

 しかも、その暴力事件を起こしたのは当時の3年生部員だ。これだけのレベルを持ちながら、よく、今まで綺亜羅高校の部員達は耐えてきたと思う。

 

 

「一同、礼!」

 審判の掛け声が会場にこだました。

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 選手全員の挨拶の後、先鋒選手だけを残して他のメンバーは各校控室に戻って行った。

 

 

 また、これと同じ頃、別の卓では5位決定戦が行われていた。

 ABブロックからは臨海女子高校と朝酌女子高校、CDブロックからは有珠山高校、粕渕高校の四校が激突する。

 決勝進出には至らなかったが、島根県から5位決定戦に二校出場するのは大きな話題となった。それこそ、白築慕達の時代、島根最盛期を思い起こさせる。

 

 先鋒戦は臨海女子高校 片岡優希が序盤リードするが、粕渕高校の直感娘 坂根理沙に逆転され、粕渕高校が勝ち星を上げた。

 

 次鋒戦は、昨日の対決で臨海女子高校 ネリー・ヴィルサラーゼは絶不調。前半戦は粕渕高校 緒方薫がリードした。しかし、なんとか後半戦でネリーが逆転し、臨海女子高校が勝ち星をあげた。

 

 中堅戦は世界大会中国代表メンバーの一人、臨海女子高校 郝慧宇と、相手の手牌を全て透視する粕渕高校 石見神楽の対決となった。

 途中、有珠山高校 真屋由暉子の親倍ツモが炸裂するが、やはり露子の霊を降ろした神楽には誰も敵わず、粕渕高校が待望の二つ目の勝ち星を上げた。

 

 副将戦は、臨海女子高校 マリー・ダヴァンと粕渕高校 春日井真澄の対決。真澄も食い下がるが、やはり世界大会アメリカチームメンバーを務めたダヴァンには敵わず、臨海女子高校が二つ目の勝ち星を取った。これで、臨海女子高校と粕渕高校が共に勝ち星二ずつとなり、5位決定は大将戦までもつれ込んだ。

 

 大将戦は、前半戦後半戦共に粕渕高校 石原麻奈がリードするが、南場の鬼神と呼ばれる臨海女子高校 南浦数絵が南場で逆転。数絵が勝ち星をあげた。

 

 結果、5~8位は以下のとおりとなった。

 5位:臨海女子高校(勝ち星三)

 6位:粕渕高校(勝ち星二)

 7位:朝酌女子高校(得失点差による)

 8位:有珠山高校(得失点差による)




おまけ


臼沢塞は、オマケで主役をやらせてもらったが、未だに不満タラタラであった。
何故、優希とキスしなければならなかったのか?
何故、素の自分が美人ではないと言い切る役なのか?

その前のシリーズでは最悪なお漏らしをさせられたし、もっと前では宮永家麻雀大会に強制参加させられるなど、オマケコーナーには良い思い出が無い。
本当に『何故私だけが?』と本気で思っていたのだ。


塞「直訴します! どうしてシロの相手が熊倉先生なんですか?(オマケ103~115)」

天の声「大きな理由は無い。白望が余り動きたがらないから、実質名前だけの役を白望に与えたに過ぎん。」

塞「小蒔 -Komaki- 100式なんて作ってないで、私とシロがくっつく話を作って欲しいです!(塞 -Sae- 100式とか!)」

天の声「しかし、アンケート結果で宮守女子は最下位だったのでな。」

塞「(グサッ!)」

天の声「さすがに塞 -Sae- 100式を選ぶわけには行かんだろう。」

塞「でも、一回くらいは…。」

天の声「では、特別に今回限りで塞 -Sae- 100式を製作するとしよう。阿笠博士。よろしくお願いする。」

博士「面倒じゃのう。でも、もう金的攻撃は無しにしてくれ。あれは痛いんじゃ。」

塞「分かりました。では、よろしくお願いします!」


と言うわけで、塞 -Sae- 100式がスタートした。



塞 -Sae- 100式


哀「まだ懲りずに造ってるの?」

博士「エエじゃろ、別に。」

哀「それにしても、今回は妙に腰のラインがエロいわね。」

博士「やはり、H目的なんじゃから、こうでなくてはの。」

哀「でも、モノクルかけさせるなんて、ババ臭くない?」

博士「知的に見えると思ったんじゃがのぉ。」

哀「やめた方がイイわよ。それにしても、何故博士も裸なの?」

博士「起動後にすぐに使うためじゃ。」

哀「もう数時間裸でいる気がするけど。風邪をひかないようにね。じゃあ、私は江戸川君と保険体育の実習があるから。」

博士「おお。今日もしっかりと励むんじゃぞ!」


哀が博士の研究室から出て行った。
すると、早速博士は、


博士「と言うわけで、塞100式。起動じゃ!」


塞の胸を揉んだ。これが起動スイッチなのだ。


塞「うーん。よく寝た………って、どうして私裸なの? って言うか、あんた誰? 何で服脱いでんの?」

博士「ワシは阿笠博士。君を造り出した発明家じゃ。」

塞「造り出したって、私は人間じゃないの?」

博士「君は、AI搭載式の汎用人型性欲処理具、超高性能ダッチ○イフ、塞100式じゃ!」

塞「なにそれ?」

博士「君の仕様は、全て君の頭の内に保存してある。目を閉じれば、それが全て分かるはずじゃ。」


塞は、モノは試しと目を閉じた。
たしかに、自分の頭の中には自分の仕様に関する記憶というかデータがある。まぎれも無く自分は人間ではなくダッチ○イフ、塞100式だ。


博士「まあ、裸なのは造ったばかりなので服を着せていないだけじゃ。それで、ワシが裸なのは、君の起動実験を行うためじゃ!」

塞「それって、もしかして?」

博士「ワシが実際に使ってみると言うことじゃ!」


しかし、ここで博士の腹が鳴った。
これは腹の減りではない。むしろ出すほうだ。
長時間裸でいたために腹が冷えてしまったのだ。


博士「ちょっと実験は中断じゃぁ!」


そう言いながら博士はトイレに駆け込んだ。
その隙に、塞は自分用に用意されていたと思われる真っ赤なチャイナドレスを着て阿笠低を抜け出した。

それにしても、この格好は目立つ。

道行く人々(特に男性)が、塞の方を振り返る。
それだけ塞の腰のラインがエロいと言うことなのだが、ただ、塞としては、余り目立ちたくない。
万が一、自分がAI搭載式の汎用人型性欲処理具、超高性能ダッチ○イフであることがバレたら博士みたいな男が寄ってきそうだ。


どれくらい歩いたことだろう。
それなりに博士の家から遠いところに来たつもりだ。ただ、所詮は徒歩レベルだ。車での移動で考えれば大した距離ではない。


ふと、塞の目に行き倒れになっている女性の姿が飛び込んできた。
見た感じ、塞よりも少し背が高く、胸もちょっと(?)大きい。


塞「大丈夫ですか?」

白望「お腹がすいた。ダル………。」

塞「食べ物を買うお金が無いんですか?」

白望「お金はあるけど、食べるのがメンドクサイ。」

塞「そんなんじゃ死んじゃいますよ!」

白望「一先ず、家まで連れてって。」

塞「家はドコなんですか?」

白望「目の前の、あのマンション。」


白望が指差したマンション。
それは、阿笠邸半径10キロ以内では珍しい高層マンションであった。

塞は、仕方なく白望を立ち上がらせると肩を貸し、なんとか白望をマンションの自室に運び入れた。


白望「有難う。冷蔵庫に食べ物があるから、適当に食べて。あと、私の分も作ってくれると助かる。」

塞「じゃあ、遠慮なくいただくけど…。」

白望「君の名は?」

塞「私は塞。貴女の名は?」

白望「私は白望。で、どこから来たの?」

塞「一応、米花町だけど、でも行くアテが無いのよね。」

白望「ふーん。だったら、しばらくここに住めば?」

塞「イイんですか?」

白望「家のこと、色々やってもらうけど。」


ご都合主義の展開だが、塞は白望の家に居つくことに性交………じゃなくて成功した。





天の声「こんなんで良いか?」

塞「白望とHなこととかしたいんだけど。今までのよりは全然イイけど、これだけだと、なんか不完全燃焼。」

天の声「それは、R-15枠だからダメだ。」

塞「じゃあ、Hなのはハプニング程度でも良いから続きは?」

天の声「無い!」

塞「じゃあ、シロとの絡みは一切なく終わるの?」

天の声「正直、書くのがメンドクサイ。あとはご想像にお任せします!」



塞 -Sae- 100式:終わり


塞「どうしてよ!」


やっぱり欲求不満が解消されない塞だった。


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百十八本場:ヤオチュウ牌支配の封印

 春季大会決勝戦が開始された。

 

 先ずは先鋒戦。

 優勝候補阿知賀女子学院からは鳴きの速攻、新子憧が、白糸台高校からは第二エース大星淡が、永水女子高校からはエース石戸明星が、綺亜羅高校からは三銃士の一人、鷲尾静香が参戦した。

 

 場決めがされ、起家が明星、南家が淡、西家が静香、北家が憧に決まった。

 淡は、この席順を見て、

「(これなら阿知賀の先鋒より私の方が有利そうだね!)」

 と思っていた。

 明星は能力を使った時、ヤオチュウ牌集めに出る。当然、チュンチャン牌が序盤から多く捨てられるだろう。明星の下家の淡は、それをチーできる。

 しかし、静香は切る牌を絞る。なので、静香の下家にいる憧にとっては鳴き難い。明らかに憧が不利な席順と思われる。

 

 この面子の中で一番格下は、恐らく憧だろう。

 しかし、麻雀は運の要素もあるし、格下が勝つケースもある。当然、憧が勝ち星をあげる可能性はゼロじゃない。

 白糸台高校にとっては、万が一にも憧に勝ち星を取って行かれると後が面倒になる。咲と穏乃を打ち破るのは大変だ。

 淡としても、ここは確実に勝ち星を取りに行きたい。

 

 恐らく、淡にとって一番の障害は明星だろう。静香も不気味だが、やはり明星にはインターハイでの実績がある。

 淡は現在女子高生ランキング3位、明星は7位。共に一桁台だ。

 ただ、淡が絶対安全圏内に和了る限り、明星に高い手を和了られることはない。そもそも絶対安全圏内であれば明星でも聴牌できないはずだからだ。

 

 東京都大会の後、淡は自分の能力を鍛え、今までは他家の配牌を五~六向聴にしていたが、これを全て六向聴にできるようになった。

 また、半荘一回につき一度だけだが、特定の相手の配牌を完璧に操作できるようになった。これを明星に対して使えば、仮に明星が国士無双を狙ったとしても聴牌するのに十回のツモを必要とする局を一回だけ作れる。

 

 例えば、明星の配牌を、

 {二五八②⑤⑧2578東南西}

 にすれば、ヤオチュウ牌のみで手牌を埋めるのに十回のツモを必要とする。

 しかも六向聴の手。チュンチャン牌中心で手を伸ばそうにも聴牌が非常に遠い配牌だ。

 明星をこの配牌にすれば、サイの目が7で、且つ誰も鳴かなければ、淡がダブルリーチをかけて暗槓する時に、明星は国士無双を聴牌していないはず。なので、ヤオチュウ牌の暗槓も可能だ。

 それに、憧は静香の下家。静香が意図的に憧を和了りに向かわせない限り、憧はホイホイ鳴けないだろう。ならば、あとは静香の鳴き次第だが、恐らく暗槓までの明星のツモの回数をそんなに増やされることは無いだろう。

 

 

 東一局、明星の親。

「(絶対安全圏発動。)」

 当然、淡は他家を全員六向聴牌にした。

 そして、自分は一向聴牌。

 

 憧も静香も明星の能力のことは知っている。当然、危ない字牌は先に落としてくる。

 淡は、それを狙って、

「ポン!」

 まずは憧から二巡目で{南}を鳴いた。これで聴牌。

 そして、四巡目に淡は、

「ツモ。南ドラ2。1000、2000。」

 絶対安全圏内の和了りを決めた。

 これで、先ずは高火力の親を流せた。これは、淡にとっても点数以上に価値のある和了りだろう。

 

 

 東二局、淡の親。

 恐らく、半荘二回の間に、一回くらいは明星が大きな手を和了るだろう。

 絶対安全圏内の和了りは、それほど大きくは無い。しかし、和了りの回数を重ねれば明星の一撃があっても怖くないはず。

 それに、淡にも明星ほどでは無いが、大きな和了りの武器はある。

 淡は、

「(7出て!)」

 と祈りながらサイを回した。

 2や12が出る確率は1/36だが、7が出る確率は1/6と一番高い。

 その確率ゆえか、それとも淡の願いが天の届いたからかは分からないが、サイの目は淡の願いどおり7になった。

 ここで淡は、

「(特訓の成果を見せてやる。絶対安全圏プラスダブリープラス上家の配牌操作!)」

 自らの能力を最大限に放出した。

 

 淡の配牌は、

 {一二三八八②③④68北北北白}

 

 一方、明星の配牌は、

 {二五八②⑤⑧2578東南西}

 

 明星にとって最悪なパターンの六向聴だった。

 

 自分の配牌を見て、淡は、

「({北}をカンで潰せたら面白いかも!)」

 と思いながら、当然の如く、

「リーチ!」

 {白}切りのダブルリーチをかけた。

 

 静香も憧も明星も、淡のダブルリーチは暗槓前ならば大抵単なるダブルリーチのみであることを知っている。今までの牌譜を見れば一目瞭然だ。

 一発は事故だから仕方が無いが、基本的に普通に手を進めるつもりで打つ。

 ただ、この局で淡が暗槓するのは九巡目。配牌六向聴でスタートして、淡の暗槓前までに和了るのは至難の業だ。

 それに、ヤオチュウ牌狙いの明星の場合、全ての手牌がヤオチュウ牌に置き換わるのに十巡を必要とする。

 

 準決勝戦と同様に、静香が牌を絞りながら打つため、憧は全然鳴けないでいた。

 そして、一切の鳴きが入らないまま、ツモは角の直前まで来た。九巡目だ。

 これまで、明星のツモ回数は八回。国士無双を狙っていたが、まだヤオチュウ牌は11枚の二向聴牌。

 当然、淡は、この巡目で、

「カン!」

 {北}を暗槓した。

 これで、明星は国士無双を作れなくなった。

 

 その二巡後、

「ツモ!」

 淡は自力で嵌{7}をツモった。しかも槓裏4。

「6000オール!」

 これで淡が他家に30000点近い差をつけて断然トップとなった。

 

 東二局一本場、淡の連荘。ドラは{三}。

 ここからは、しばらく絶対安全圏のみ発動し、ダブルリーチの能力は封印する。

 

 淡の配牌は、

 {一三七②②④[⑤]⑥46888北}

 ここから打{一}

 

 二巡目、淡は{四}をツモって打{北}。

 

 同巡、ヤオチュウ牌ツモの能力で手を伸ばす明星が打{5}。

 これを、

「チー!」

 淡は、早々に鳴いた。ここから打{七}で聴牌。

 

 そして、その二巡後、

「ツモ! タンヤオドラ2。2100オール!」

 絶対安全圏内に淡は親の30符3翻の和了りを決めた。

 

 東二局二本場も、

「ポン!」

 淡は一巡目に憧が捨てた{中}を鳴いて一向聴とし、次巡、

「チー!」

 明星が捨てた{④}を鳴いて聴牌。

 そして、そのさらに次巡、明星が捨てた{6}で、

「ロン! 5800の二本場は6400。」

 淡が和了りを決めた。

 これで四連続の和了り。既に淡は、憧と静香に40000点以上、明星に50000点以上の差をつけた。

 

 東二局三本場。

 ここでも淡の攻撃は続く。

「チー!」

 序盤からチュンチャン牌を惜しげもなく捨てる明星から、淡は早々と鳴いて苦もなく手を進め、

「ツモ! 2300オール!」

 またしても親の30符3翻の和了りを決めた。

 

 東二局四本場。ドラは{③}。

 そろそろ、明星も攻め方を考え直さなければならない。

 淡は、当然チー狙い。それに、まだ憧からは鳴かれていないが、憧もチャンスがあればポンしてくるだろう。

 昨年のインターハイではヤオチュウ牌を集める能力で他校の女子高生雀士を苦しめた明星だが、ここではカモにされていないか?

「(一旦、能力を抑えるべきね。)」

 明星は、ヤオチュウ牌支配を封印し、通常のデジタル打ちに切り替えることにした。

 

 この局も、淡以外は全員六向聴。

 淡一人が二向聴と軽い手。

 しかし、

「ポン!」

 憧が捨てた{發}を鳴いたきり、淡は鳴いて手を進めることができないでいた。

「(永水が普通に打ち出したか。)」

 しかも、それに連動するかのようにツモも噛み合わない。

 気が付けば、七巡目に突入していた。つまり、絶対安全圏を越えたのだ。

 

 淡は、七巡目でも聴牌できず、

「(クソッ!)」

 ツモ切りした。当然、牌の捨て方が少々乱暴になる。

 

 一方、その下家の静香は豪運の持ち主。

 たった六巡で、

 {二二八八②②③446688}

 聴牌していた。ドラの{③}待ち。

 そして、七巡目のツモ番で、

「ツモ!」

 見事に一切のムダツモ無しでツモ和了りを決めた。

「ツモタンヤオ七対子ドラ2。3400、6400。」

 これで、長い淡の親が終わった。

 

 

 東三局、静香の親。

 淡の和了りを阻止したからと言って、淡の能力支配がストップするわけでは無い。

 ここでも、やはり淡以外は全員六向聴だ。

 対する淡は二向聴。

 

 今回、淡の手には役牌がなかった。ここは、クイタンで攻めるしかなさそうだ。

 しかし、こんな時に明星が鳴かせてくれない。

 

 一方、親の静香は和了り優先で手を進めた。

 淡との点差は33400点。連荘で稼ぎたい。

 

 今回も、淡は絶対安全圏内に和了れなかった。

 逆に静香は、豪運ゆえに手が進んだ。

 ただ、自身の和了りのみに気を取られすぎたためだろう。珍しく静香の憧に対するガードが甘くなった。

 これをすかさず、

「チー!」

 憧が鳴いた。

 静香の捨て牌を絞らなくなる瞬間を見逃さなかったのだ。

 鳴くと手の進みが加速する感じがする。その雰囲気が憧のペースを作り上げる。

 途端に憧のツモも良くなった気がする。

 そして、その二巡後、

「ツモ!」

 憧が和了った。

「1000、2000!」

 しかし、30符3翻の凡庸な手。

 得意な和了り方とは言え、今の淡との点差を考えると、もっと高火力な和了りが欲しいところだ。

 とは言え、次は親番。

 凡庸な手でも何回も和了れば追いつけるはず。

 憧は、そう信じて卓中央のスタートボタンを押した。

 

 

 東四局、憧の親。ドラは{④}。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 ここで淡は、絶対安全圏だけではなくダブルリーチの能力も使った。

 ただ、ダブルリーチはかけない。配牌役無し聴牌から、自身のツモのみで役有り聴牌に切り替えて和了るつもりだ。

 

 この局、淡の配牌は、

 {一二三五六七②②②⑧⑨33}

 

 第一ツモは{南}。これはツモ切り。

 

 第二ツモは{⑥}。打{⑨}。

 

 第三ツモは{四}。打{一}。

 

 第四ツモは{④}。打{⑧}。

 

 第五ツモは{3}。打{⑥}。

 

 これで手牌は、

 {二三四五六七②②②④333}

 和了り役としてタンヤオが付いた。

 

 待ちは{③④}。ドラとドラ表示牌だ。

 さすがに、これで出和了りは期待できないだろう。

 しかし、元の辺{⑦}待ちでは最後の角を越えなければ和了れないはず。それがダブルリーチの能力による和了り。

 逆に言えば、辺{⑦}以外の和了りならば、最後の角に関係なく和了れる可能性がある。

 

 それは、七巡目に証明された。

 淡は、ここで{③}を引き、

「ツモ。タンヤオツモドラ1。1000、2000。」

 絶対安全圏を越えた直後で和了りを決めた。

 

 

 南入した。

 南一局、明星の親。ドラは{五}。

 ここでも淡は、前局と同様に絶対安全圏とダブルリーチの両方の能力を使った。

 言うまでも無く、自分は第一ツモの段階で聴牌。他家は配牌六向聴。

 しかし、今回もダブルリーチはかけなかった。前局同様に、配牌役無し聴牌から役有り聴牌に切り替えて行くのだ。

 

 配牌は、

 {二二二七八九②③④79南南}

 

 ラッキーなことに自風で場風の{南}が対子だ。

 相変わらず、明星からは有効牌が出てこない。

 しかし、クイタンや鳴き一気通関、鳴き三色同順を得意とする憧にとって、役牌は不要牌になることが多い。

 以前に比べれば、憧も役牌での和了りもするようになったが、やはりメインはドラ含みのクイタン、鳴き一気通関、鳴き三色同順だろう。

 

 憧の配牌は、

 {二四七②⑤⑧147南北中白}

 ここから{二④37}とツモり、結果的に{1白中南}の順に切って行った。北家ゆえに{北}よりも他の字牌を先に捨てたのだ。

 当然、淡は、

「ポン!」

 この{南}を鳴いた。

 そして、聴牌。

 

 この時の淡の手牌は、

 {二二七八九②③④67}  ポン{南横南南}

 

 その次巡、

「ツモ! ダブ南ドラ1。1000、2000!」

 淡は{[5]}でツモ和了りした。

 

 

 現在の点数と順位は、

 1位:淡 142200

 2位:静香 97800

 3位:憧 86200

 4位:明星 73800

 淡の圧倒的リードだ。

 

 もし、これが25000点持ちであれば、明星はトバされている。しかも、十万点持ちでも淡とはダブルスコアに近い。

 明星も、そろそろ淡に鳴かせないことよりも和了りに行くことをメインに考えなければマズイ状況となってきた。




おまけ


怜「久し振りに怜と。」

爽「爽の。」

怜・爽「「お下品コーナー(やで)!」」

怜「と言っても、うちはお上品な女やからな。みんな、あんまり期待せえへんといてな。」←大嘘

爽「私もだね。クソ上品な女なんで。」

怜「どこが上品や。クソが付いただけで上品の欠片も無いわ!」

爽「また普通にクソ言ってたか。まあ、口癖って怖いものだね。」

怜「クソが口癖な段階で上品とはかけ離れてると思うで。」

爽「まあ、それは置いといて。金太の大冒険って知ってる?」

怜「下品な歌やろ?
『金太、負けが多い』とか、
『金太、マカオに着く』とか、
『金太、待つ神田』とか、
『金太、マスカットナイフで切る』とか、
『金太、回った』とか、
そんなんばっかり言ってる歌やな?」(JASRAC:024-5991-4)

爽「そうだね。それで今回は、金太の大冒険の中に入っていないけど、金太の大冒険で、それなりに使えそうなネタを捜してみようってコーナーなんだよね。(ネタ探しであって替え歌じゃないよ!)」←運営側から替え歌と判断された場合は削除します

怜「勝手にお題が決まってるんか?」

爽「そうみたい。で、まあ、早速私からだけど、麻雀で藤田プロみたいに金太が最後に捲ったらどうかな、なんて。」

怜「ほぉ、金太、捲った! やな!」

爽「そうそう。」

怜「それで、相手は金太に参ったって言うわけや!」

爽「ってことは、金太、参った! か。
でも、この場合の『いった』は、『イッた』なのか『射った』なのか『煎った』なのか。まあ、普通なら『イッた』だけど。」

怜「でも、『食った』に繋げるなら『煎った』かも知れへんな。」

爽「たしかに! じゃあ、次は、マクワウリってあるじゃん?」

怜「ウリの一種やな?」

爽「そうそう。それで金太がマクワウリをゲットしたってことでさ。」

怜「うーん………。金太、マクワ得た! ってとこやな!」

爽「さすが、冴えてるね!」

怜「でも、本当はお上品な女やからな。随分ムリして答えとるで。」

爽「(絶対嘘だな、それ。むしろ喜んで答えてると思うし、そっち方面にムチャクチャ頭が回っていると思うけど。)」

怜「あとは、せやな………。金太が何か作業してやな。」

爽「作業?」

怜「何でもエエんやけど。それを、第三者視点で見て『まだしてる』って思われとったらどうや?」

爽「金太、まだしてる?」

怜「せや!」

爽「それでマクワウリゲットに繋がるってことかもね。」

怜「まあ、うちには全然縁の無い話やけどな。竜華がおるし。」

爽「私も誓子がいるし、全然縁が無いね。じゃあ、次、金太が何か食べ物を『また咥えてる』って思われたらどうかな?」

怜「金太、また咥えるやな。でも、ナニを蓄えるんや?」

爽「それが蓄えるモノは一つしかないと思うけど、マトモに言うと染谷さんが出てくるからね。」

怜「せやな。じゃあ、さっさと次行こか。じゃあ、誰か偉い人が金太を呼びつける時、『参れ!』って言うとかはどや?」

爽「金太、参れ! だね。でも、それってチン〇ケースか何かかな?」

怜「本来は、女性器も『金太、参れ!』とちゃうか?」

爽「あっ!」

怜「どうかしたんか?」

爽「女性器で思い付いた。哩と姫子が使ってそうなもの。」

怜「何や、それ?」

爽「金太が何か欲しいモノを買ったとして、それが後から『まがい物』だって分かったとするじゃん。」

怜「金太、まがい物やな? でも、鋳物が何で哩と姫子に関係するんや?」

爽「大人のオモチャがさ、大昔は今みたいな材質が無かったから鋳物もあったんじゃないかなって思ってさ。」

怜「なるほどな。でも、ちょっとイマイチヤな。」

爽「イマイチか。」

怜「次はうちやな。ほな、魔が差したらどうや?」

爽「金太、魔が差す! でもドコに刺す?」

怜「まあ、女性器しかないやろ。」

爽「あとは、オ〇ホとかかな。」

怜「ダッチ〇イフもあるな。」

爽「じゃあ、次は私だね。さっき、イマイチって言われたからな。じゃあ、魔方陣って知ってる?」

怜「縦横斜め、どれも足した数字が同じになるってやるやつやな。
例えば、3×3なら、
④⑨②
③⑤⑦
⑧①⑥
やな?」

爽「そうそう。それで、金太が魔方陣に興味を持っているなんてどうかな?」

怜「金太、魔方陣に興味がある、やな。ただ、そんな法人があったら金太やなくても興味あるやろな。」

爽「どんな法人だろうね。」

怜「臭そうな法人やろな。ほな、次はうちか。なら、幕の内(弁当)が好きなんてどや。」

爽「金太、幕の内が好き、か。まあ、『くの一』が好きって、結局Hするってことかな?」

怜「まあ、『くの一』のテクがイイとか、そんなもんやろな。」

爽「じゃあ、金太が骨折して、治ったらまた骨折した。」

怜「金太、また折れた、やな?」

爽「正解!」

怜「ただ、倒れるって言うと、木材とかが立ててあって、それが倒れてくるイメージやで。そこまで大きくは無いやろ!」

爽「また滑ったか。じゃあ、金太にマイクを渡すのはどう? 『これ、マイクよ!』って言いながら…。」

怜「金太、マイクよ! やな。」

爽「当然、そう言うものだしね。」

怜「じゃあ、次。これで最後や。本気でネタ切れや。金太、魔王と呼ばれる!」

爽「王と呼ばれるってことは、相当な大きさだね!」

怜「せやな。それにしても、金太の大冒険の中で使われてるんに比べると、どれもイマイチやな。」

爽「やっぱ、あの歌詞を作った人って凄いよね!」

怜「せやな。」

怜・爽「「と言うわけでお下品コーナーでした!」」


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百十九本場:ワタシの一筒

 春季大会決勝戦、先鋒前半戦。

 南二局、淡の親番。ドラは{二}。

 ここで明星は、今まで封印してきたヤオチュウ牌支配の能力を改めて解放した。ここから意地でも役満を和了るつもりだ。

 

 今回、淡は配牌二向聴。

 絶対安全圏は使ったが、ダブルリーチの能力は敢えて使わなかった。明星の雰囲気が変わったのを感じて、急遽ダブルリーチの能力発動を取り下げたのだ。

 対する他家三人は、軒並み配牌六向聴と、ずっと最悪な配牌が続いている。

 この圧倒的な配牌の差。

 さすがに普通はメゲてくるだろう。

 

 淡がダブルリーチの能力を使わなかったのは、明星がチュンチャン牌をドンドン切ってくれるように変わると踏んだからだ。

 ダブルリーチの能力は、配牌で和了り役もドラも与えてくれない。本当にダブルリーチ槓裏4しか無いのだ。

 しかし、ダブルリーチの能力を使わなければ、配牌聴牌こそ無いが、ドラが付く可能性がある。それに、明星から鳴けるようになればクイタン狙いで良い。

 

 淡は、二巡目で明星が捨てた{③}を、

「チー!」

 早速鳴いて一向聴。{横③②④}を副露した。

 その次巡にも、

「ポン!」

 明星が捨てた{⑤}を鳴いて{横⑤⑤[⑤]}を副露し、その二巡後に、

「ツモ! 2000オール!」

 淡は、嵌{三}ツモでタンヤオドラ2を和了った。やはり絶対安全圏は強烈である。このスピードには、さすがに他家は誰も追い付けない。

 

 南二局一本場も、

「チー!」

 絶対安全圏で淡以外は全員配牌六向聴、淡のみ配牌二向聴。ここから淡は早々に鳴いて一向聴とし、

「ポン!」

 続いて憧が捨てた{東}を鳴いた。

 その次巡、淡は、

「ツモ。東ドラ2。2100オール!」

 またもや絶対安全圏内で和了りを決めた。

 

 そして、南二局二本場。

 ここまで、淡の和了りは十回。それに対し、淡以外が和了れたのは、東二局四本場と東三局の二回のみ。

 静香は、

「(私の強運を弾き飛ばすくらいだから、大星さんの能力は相当強いってことか。でも、何とか和了らないと…。)」

 自分の運を、ここに集中することにした。

 

 気合いを入れようが何をしようが、普通は運の操作などできない。

 しかし、ネリーのように全局を通じて運の流れを完全に支配できる例もある。

 静香の場合、他人の運までは操作できないが、自分の運くらいは集中することが出来るようだ。

 

 この局も絶対安全圏は健在だ。

 しかし、静香が運を最高に放出する今、淡は絶対安全圏内に聴牌することができなかった。何故かツモの噛み合わせが悪く、しかも鳴けなかったのだ。

 

 六巡目、

「リーチ!」

 静香が六向聴から、たった六巡で聴牌して先制リーチをかけてきた。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 一発で静香が自分の和了り牌を引き当てた。

「リーチ一発ツモ七対ドラ3(赤1裏2)。4200、8200!」

 この倍満ツモで、静香が一気に原点復帰した。

 

 

 南三局、静香の親。ドラは{①}。

 ここでも、静香の最高状態の豪運が続く。

 前局同様に、淡が絶対安全圏内に聴牌すら果たせず七巡目に突入。

 

 一方の静香は、六向聴から六巡で聴牌。

 手牌は、

 {二二五[五]①④④77西西北北}

 

 そして、次巡、

「(来た! ワタシの{①}!)」

 静香は、

「ツモ!」

 七対子ドラ3をツモ和了りした。

「6000オール!」

 これは、親ハネになる。静香は、70000点以上差がついていた淡との点差を、前局と今回の二回の和了りで一気に28000点差まで詰めてきた。

 

 南三局一本場。

 ここでも淡は聴牌できずに絶対安全圏を越えた。対する静香は七対子を聴牌。

 そして、

「ツモ! 6100オール!」

 前局同様に静香が七対子ドラ3をツモ和了りした。

 

 これで点数と順位は、

 1位:淡 146200

 2位:静香 142600

 3位:憧 61800

 4位:明星 49400

 静香が淡にあと3600点のところまで迫ってきた。もの凄い追い上げである。

 やはり、ダブルリーチ槓裏4を封印した淡と違って、静香の和了りは一回あたりが大きいのだ。

 

 南三局二本場、静香の連荘。ドラは{9}。

 ここで淡は、再びダブルリーチの能力を使った。

 三回連続で聴牌までもって行けずに絶対安全圏を越えてしまったので、今度は最初から聴牌して、和了り役を後から付ける方針に戻したのだ。

 

 淡の配牌は、

 {一二三①②②②⑦⑨67北北}

 

 ここに第一ツモで{8}をツモり、{①}を捨てた。

 

 二巡目、淡は憧が捨てた{北}を、

「ポン!」

 鳴いて{⑨}を捨てた。一応、{⑦}単騎で聴牌。

 しかし、そのまま淡が和了れずに絶対安全圏を越えた。

 

 静香も、絶対安全圏終了と共に聴牌。

 手牌は、

 {一一五[五]八八①⑦⑦99西西}

 七対子ドラ3。ツモれば、またもや親ハネの手。

 

 待ちの{①}は、淡と明星が一枚ずつ捨てている。つまり、静香は{①}の地獄待ちだ。

 明星は、ヤオチュウ牌狙いだが、この局では、どうやら字牌中心の手を作ろうとしているようだ。それで、{①}を捨てたのだろう。

 恐らく、淡も憧も明星も、この局面で{①}を引いてきても捨てるはず。それで、静香は、リーチをかけずにダマで待っていた。

 

 同巡、淡が{②}を捨てた。どうやら、待ちが変わったようだ。

 

 次は静香のツモ。

 しかし、{①}は来ない。

「(ワタシの{①}、どこ?)」

 

 そして、その同巡、

「ツモ!」

 淡が、ツモ牌の{[⑤]}を表にして手元に置いた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三②②⑥⑦678}  ポン{横北北北}  ツモ{[⑤]}

 

「北ドラ1。500、1000の二本場は700、1200。」

 この和了り手を見て静香は、淡がダブルリーチの能力を使っていたことに気が付いた。{②}が配牌で暗刻だったのを敢えてアタマに変えたのだ。

 本来、{②}は最後の角で暗槓されるはずの牌。しかも、それが槓裏になる。

 と言うことは、{①}は槓裏表示牌。王牌の中だ。

 これは、静香にとって不運であった。さすがに静香の運も、ここで一旦枯渇したようだ。

 再び運が復活するまで少し時間を要する。後半戦に間に合えば良いが………。

 

 

 オーラス、憧の親。

 静香の運が下がったからか、静香の牌の絞りが余りきつくない。これは、憧にとってチャンスである。

 最初の数巡で、憧は嵌張や両面を作り、

「チー!」

 そこから鳴いて手を進めた。

 

 一方の淡は、配牌聴牌だが役無し。

 これを役有りの形に仕上げたいのだが、手変わりさせることも出来ずにいた。ツモも巧く噛み合わないし、鳴ける牌も出てこない。

 

「チー!」

 憧が二つ目の面子を副露した。

 そして、その二巡後、

「ツモ! 2000オール!」

 得意の30符3翻で和了った。

 

 これで点数と順位は、

 1位:淡 146800

 2位:静香 139400

 3位:憧 67100

 4位:明星 46700

 憧は、淡にダブルスコアの差を付けられている状態。とても逆転できるとは思えないが、トップで無い以上、ここで憧が和了り止めするのはタブーだ。

 

 当然、

「一本場!」

 憧は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{八}。

 サイの目は7で、最後の角が最も早く来る切れ方。誰も鳴かなければ、九巡目が終わると同時に最後の角を越える。

 この局では、淡が絶対安全圏とダブルリーチの両方の能力を使った。

 

 淡の配牌は、

 {二三四①①①③⑤⑦⑨88西}

 

 第一ツモは{⑧}。

 一旦聴牌に取り、打{西}。但し、リーチはかけずに、ここから手を作り変えて行く。

 

 同巡で、明星はヤオチュウ牌を引いたようだ。やはり、能力は健在だ。この後も、ずっとヤオチュウ牌を引き続けることになる。

 狙いは一撃必殺狙いの大三元字一色四暗刻。

 配牌で字牌が三枚しかないため、聴牌には十巡かかるが、そこは覚悟の上だ。

 

 対する静香は、まだ運が取り戻せていないのか、一巡目はムダツモだった。しかも、ここからしばらくムダツモが続くことになる。

 

 二巡目、淡は{9}をツモった。

 ダブルリーチの能力からくる配牌聴牌なので、順調に行けば九巡目に{①}が来て十~十二巡目には{④}が他家から出る、もしくは淡がツモれるだろう。

 しかし、そこまで待っていたら明星が大変な手を和了りそうだ。当然、淡は別の手に切り替える。

 ここで淡は、打{8}で聴牌から一旦一向聴に手を落とした。

 

 三巡目、淡は{一}をツモった。

 これならジュンチャンが狙えそうだ。

 そう判断して、淡は打{四}で{一}と{四}を入れ替えた。

 

 四巡目、淡は{1}をツモ切り。

 

 五巡目、淡は{3}をツモ切り。

 

 そして六巡目、淡は{②}をツモって{⑤}を捨てた。

 これで淡の手牌は、

 {一二三①①①②③⑦⑧⑨89}

 辺{7}待ちの聴牌。しかし、リーチはかけず。

 

 すると、この淡が捨てた{⑤}を、

「ポン!」

 対面の憧が鳴いた。

 副露された牌は{[⑤]横⑤[⑤]}。

 赤牌二枚入りだ。

 

 しかし、この局、憧は肝心のチーができていない。

 上家の静香はツモ切りばかりしているのだが、それが全く憧の有効牌になっていなかったのだ。

 

 まだ絶対安全圏を越えて間もない巡目。当然、憧は聴牌まで至っていなかった。

 淡の次ツモは{④}。

 もし、淡がダブルリーチをかけていれば淡は{⑤}を捨てていない。当然、憧も{⑤}を鳴けていない。

 しかし、一巡前に淡が捨てた手出しの{⑤}を憧が鳴いたことで、ダブルリーチの能力によるツモ巡が崩れた。それで、本来ならここで淡に来るはずの無い{④}が来たのだ。

 

 恐らく、ここで憧に{④}を掴ませ、淡が暗槓した直後に憧に{⑤}を引かせて{④}を振り込ませるはずだったのだろう。

 

 いずれにせよ、この{④}は淡には不要である。これを淡がツモ切りすると、

「チー!」

 {②③}の両面で静香が鳴いた。

 そして、静香が捨てた{6}を、

「チー!」

 憧が鳴いた。

 これにより、ツモ巡が戻った。

 

 次に淡がツモるのは、もともと七巡目で淡がツモるはずの牌。当然、ダブルリーチをかけていたならば和了りには繋がらない牌…。

 しかし、配牌時の聴牌からは別の聴牌形に切り替えている。淡が和了りを目指して牌をツモる指に力を込める。

「(来た!)」

 この感触は、多分{7}。

 淡は、引いてきた牌を目視で確認すると、表面を上にして手元に置いた。

「ツモジュンチャン。2000、3900の一本場は2100、4000!」

 これで先鋒前半戦が終了した。

 

 点数と順位は、

 1位:淡 155000

 2位:静香 137300

 3位:憧 63100

 4位:明星 44600

 淡と静香の二強状態となった。

 

 明星は、準決勝戦でも淡に破れた。理由は分かっている。絶対安全圏内での和了りを目指す淡にスピードで付いて行けないのだ。

 淡よりも強い支配力を持たない限り、淡には勝てないだろう。

 結局、ヤキトリ状態で50000点以上も失うことになった。

 

 しかも、この決勝戦では強運の静香が相手に加わった。そのため、せっかく絶対安全圏を越えた局があっても、明星が和了る前に静香が和了ってしまう。

 これも明星にとっては厳しい対局条件になったようだ。

 

 明星は、対局室を出ると、霧島神境の海にテレポーテーションした。まだ春なので泳ぐわけでは無いが、気分転換には丁度良い。

 これで随分と気が晴れる。

 六女仙ならではの気分転換法だろう。

 

 一方、憧は一旦控室に戻った。

 とは言え、相手が淡では晴絵も恭子もアドバイスのしようがない。

 それに、準決勝戦でもそうだったが、静香が想定以上に強い。

 恐らく晴絵や恭子があの卓に座っても、憧同様に点棒を削られたであろう。もう、芝棒一本でも良いから多く残して得失点差勝負に備えて欲しい。

 それくらいしか言葉が見つからない状態だった。

 

 淡も控室に戻った。

「やったよぉー! このまま後半戦もリードを保って勝ち星取るからね!」

 しかし、こう言いながらも、淡の目は笑っていなかった。

 ここで気を抜いて勝ち星を失うようなことがあってはならない。

 一昨年のインターハイも昨年の春季大会も、昨年のインターハイも決勝進出は果たせていたが、優勝はできなかった。

 毎回、咲のいる高校に優勝を持って行かれている。

『今年こそリベンジ!』

 それを最も強く想っているのは淡だろう。

 むしろ、今の彼女はリードして尚、気を引き締めている感じがあった。

 

 同じ頃、静香は控室には戻らず、トイレ→自販機コースで孤独を堪能していた。

 別にチームメートと仲が悪いわけではない。元々、三銃士と呼ばれる静香、鳴海、美誇人の三人は孤高な感じで、大勢よりは一人でいるのが好きなタイプだった。

 なので、基本的には一人のほうが落ち着くようだ。

 

 

 休憩時間も、残り一分を切った。

 対局室に、憧、淡、静香、明星の四人が戻ってきた。そして、各自、元の席に付くと場決めの牌を引いて行き、起家が淡、南家が明星、西家が静香、北家が憧に決まった。

 

「じゃあ、行くよ!」

 淡が元気良く卓中央のボタンを押した。

 これより先鋒後半戦が始まる。




おまけ


椿野美咲は、劔谷高校元エース椿野美幸の4歳年下の妹である。


美咲「超難関校だったけど、なんとか受かった。」


一年半前のインターハイ個人戦で、椿野美幸と佐々野いちご、多治比真佑子の三人は予選で咲と当たり、大失禁した。

その後、いちごの妹みかんと、真佑子の妹麻里香は部の先輩に弄られる結果となった。それで当時は、みかんも麻里香も咲のことを目の敵にしていた。

実は、同様のことが美咲の身にも起こっていた。
大好きな姉の大失態。
それを誘発した悪魔。

それ以来、美咲は咲に敵意を持っているし、自分の名前に『咲』の文字が付いていることすら嫌悪感を覚えていた。


美咲「劔谷に行っても、お姉ちゃんのことで弄られそうだし。それで白糸台を受けようと思ったんだけど、佐々野さん(みかんのこと)も多治比さん(麻里香のこと)も、あの悪魔と和解したって話だから白糸台に行っても意味無いし…。」


それで、こともあろうに美咲は、阿知賀女子学院への入学を決めた。
阿知賀女子学院なら失禁事件を弄る人間はいないだろう。そもそも、部員の殆どが失禁させられているので弄れる側では無い。

まあ、そんなことよりも、直接咲に会って、咲をネチネチいびってやろうとか思ったのだ。まるで相手の腹の中から相手を食い破ろうみたいな考えだ。


美咲は、合格発表当日に、早速麻雀部に顔を出した。


美咲「この春から入学します。椿野美咲です。よろしくおねがいします!」

憧「美咲ちゃんだって! 宮永咲の短縮形(みさき)と同じだね!」

美咲「(げっ! なんだよそれ!)」

美由紀「もしかして、劔谷の元エース、椿野美幸さんの妹?」

美咲「はい。そうです!」

美由紀「やっぱり。顔とか結構似てる。でも、劔谷にしなかったんだ?」

美咲「どうせならチャンピオンのいる学校で学びたいですから(あ゙ー。リップサービスがきつい)。」

ゆい「そういう娘、多いよね。私自身もそうだけど。」

美咲「そうだったんですか!?」

ゆい「まあね。」

美咲「それで、チャンピオンは?」

ゆい「部室の隅で本を読んでるよ。ほら。」

美咲「へっ?」


ゆいに言われて、美咲はようやく咲の存在に気付いた。
ただ、何と言う存在感の無さ。
威厳も何も無い。
これでは、単なる影の薄い文学少女だ。
それに、どう見ても弱々しい感じだ。

大会中の咲は、完全なる捕食者。
しかし、今感じる雰囲気は、間違いなく非捕食側の小動物に過ぎない。

本当にこれが宮永咲なのか?
美咲は、自分の目を疑った。


咲「ようこそ麻雀部へ。」

美咲「よろしくお願いします。」

咲「こちらこそ、よろしく。」


麻雀部に入れば、例えば美咲の対局中に、その横を咲が通ることもあるだろう。その時に何気に脚を引っ掛けてやろうとか、美咲は考えていた。

咲が美咲のほうに近づいてきた。
ところが、何も無いところで勝手につまづいた。


咲「いったーい。」

憧「もう、何時ものことだけどさ。サキは、もっと気をつけなよ。」

穏乃「今月に入って何回目だっけ?」

美由紀「私が知る限り五回目です。」

美咲「(なにこれ?)」


まさか足を引っ掛ける必要も無く勝手に転ぶとは。
しかも、それが日常茶飯事だとは。


百子「信じられないでしょう? 大会中とか、寝起きは悪いし、重度の方向音痴で放っておくとどこか消えちゃうし。」

美咲「(えぇっ?)」

ゆい「カナヅチだし。」

美由紀「まあ、成績は学年二番だから、一応、麻雀を取ったら何も残らないわけでは無いけど…。」

ゆい「でも、麻雀が突出した分、他が殆ど底辺なのよね。」←何気にヒドイ


後輩達にここまで叩かれているとは…。
これが悪魔の紋章とか点棒の支配者とか言われている超魔物なのか?

美咲は、あまりのギャップに目が点になった。






それから少しして、美咲の入学と入部を祝って、美咲とレギュラー陣で麻雀を打とうと言うことになった。

面子は、咲、憧、穏乃、そして美咲。
場決めがされ、起家が穏乃、南家が憧、西家が咲、北家が美咲になった。


咲「(いきなり何も無いところでつまづいちゃって、この娘に馬鹿にされてないかな? やっぱり先輩としての威厳を見せないとヤバイよね?)」


咲は、叩き潰すの延長上に勝利がある麻雀を打ち始めた。美咲に舐められないようにするためだ。

美咲が序盤で切った一を、


咲「ポン!」


咲は早々に鳴いた。
そして、数巡後、


咲「カン!」←①を美咲から大明槓

咲「もいっこ、カン!」←一を加槓

咲「もいっこ、カン!」←西を暗槓

咲「ツモ! 西混老対々三色同刻三槓子嶺上開花。16000です。」

美咲「は…はい…。」

槓される度に、咲の下家である美咲に向かって咲の強大なオーラが飛んでくる。
それは、毎度のことながら巨大肉食獣が巨大な口を開けて美咲を食い殺しに来るような感覚でしかない。
思わず美咲は震え上がった。


美咲「(なにこれ!? 凄く怖いんだけど…。)」


東二局も、


咲「カン! ツモ! 嶺上開花南ドラドラ! 8000!」


これも美咲の責任払いとなった。
しかも、前局に勝るとも劣らない槓の迫力。
美咲は股間を強く押さえて失禁だけは免れようと必死になった。


東三局は、


咲「カン! ツモ! 嶺上開花ドラ1。1000オール。」


これで目出度く美咲は持ち点ゼロになった。


そして東三局一本場も美咲が捨てた北を、


咲「カン! もいっこカン、もいっこカン、もいっこカン、ツモ! 大四喜字一色四槓子。親のトリプル役満は144300です!」


咲は大明槓して美咲に責任払いさせた。

咲のオーラに何度も晒され、とうとう美咲は、


「プシャ―――!」


大放出してしまった。もう止まらない。

美咲は、一年半前の姉の失態が不可抗力であったことを、身をもって理解した。


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百二十本場:先鋒戦決着

 春季大会決勝戦、先鋒後半戦。

 東一局、淡の親番。ドラは{②}。

 ここでは、淡は絶対安全圏のみ発動した。

 淡としては、静香がヤオチュウ牌支配を武器とする明星の下家になったことで、どう言った動きをするか確認したいし、自分が憧の下家になったことで、どの程度鳴けるかも知りたい。

 それで、ダブルリーチの能力を使わずに敢えて自分の配牌を二向聴にして、状況観察しながら和了に向かうことにした。

 

 絶対安全圏のお陰で、豪運の静香と言えども、いきなり明星の捨て牌を鳴けるわけではなさそうだ。ただ、自前のツキを利用して最短の七対子を狙っている感じはする。

 

 淡は、

「ポン!」

 二巡目で憧が捨てた{白}を鳴いた。これで一向聴。

 そして、次巡、

「チー!」

 さらに淡は、憧が捨てた{1}を{23}の両面で鳴いた。やはり、憧からはヤオチュウ牌は出易いようだ。

 しかし、チュンチャン牌は中々でてこない。そう言った意味では、明星の下家よりは攻め難いかもしれない。

 

 これで淡は聴牌した。

 そのさらに次巡、

「ツモ! 白ドラ2。2000オール!」

 淡は、{②③④[⑤]⑥⑥⑥}の五面聴から{⑦}をツモって和了った。

 これだけ早いと、他家は手の出しようが無い。やはり絶対安全圏は強烈である。

 

 東一局一本場、淡の連荘。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 二巡目で明星が捨てた{4}を鳴いた。

 そして、六巡目で、

「ツモ! タンヤオドラ3。3900オールの一本場は4000オール!」

 親満級の手を和了った。

 

 東一局二本場も、

「ツモ! 2200オール!」

 五巡目で淡が和了りを決めた。

 まさに独壇場だ。

 

 しかし、東一局三本場は、絶対安全圏内に淡は鳴くことが出来なかった。

 たまには、こう言ったこともあるが、やはり一番の原因は、憧から鳴けるチュンチャン牌が余り出てこないことだろう。

 加えて、明星の精神面が安定してヤオチュウ牌支配が前半戦よりも強力になった感じがする。それが配牌やツモに影響し、東一局以来、役牌の刻子どころか対子すら、絶対安全圏内に出来難くなっていたのだろう。

 

 六巡目の時点で淡は一向聴だった。

 そして、七巡目のツモで淡は聴牌できたが、既に配牌六向聴牌から、たった六巡で一切のムダツモ無く聴牌している者がいた。

 その者………静香は、七巡目で当然のように和了り牌を引き、

「ツモ! タンヤオ七対子ドラ2。3300、6300!」

 ハネ満を和了った。

 やはり豪運は健在だ。

 どうやら、この後半戦は、前半戦に比べて淡には数段条件が厳しくなっていそうだ。

 

 

 東二局、明星の親。

 ここで明星は能力を最大放出した。

 

 明星の配牌は、

 {四七②⑥258東南西北白發中}

 

 毎度の如く六向聴牌。

 子で言えば配牌から一枚ツモった状態になっているのだが、それでいて六向聴なのは結構厳しい。これでは親の方が損であろう。

 しかし、これなら国士無双と大七星のどちらを狙っても、共に最短七回のツモで和了りまで進められる。

 明星は、

「(絶対に和了る!)」

 ここから打{四}。

 その後、たった六回のツモ………七巡目で明星は{中}待ちの大七星を聴牌した。

 

 この局も、淡は手が進まずに絶対安全圏内での和了りに辿りつくことが出来なかった。調子を落としているのか?

 そして、運命の八巡目。

 明星は自分のツモ番で、

「ツモ! 16000オール!」

 当たり前のように大七星を和了った。しかも親だ。

 

 これで、現時点での後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 136500

 2位:淡 102300

 3位:静香 88700

 4位:憧 72500

 明星が後半戦のトップに躍り出た。

 

 

 東二局一本場、明星の連荘。

 既に憧は、25000点持ちなら箱割れした状態にある。

 何とか和了らなければと、内心は焦る一方だ。

 この局では、

「チー!」

 四巡目で憧は静香から鳴けた。いや、正しくは静香が意図的に鳴かせていた。

 前局の明星の和了りで、明星に運が定着するのを恐れ、憧を使って運を明星から剥がしに出たのだ。

 

 勿論、静香としては淡に運が行っても困る。それで、一先ず憧を自分のコマとして使うことにした。

 さすがに静香でも『ネリーのような運の操作』はできない。

 しかし、特定の誰かが欲する牌を敢えて切って、その者に和了らせ、その者にツキを移動させるくらいのことはできる。

 

 六巡目も、

「チー!」

 憧は静香から鳴いた。

 淡は、まだ聴牌している気配は無い。

 

 そして、次巡、

「ツモ! 1100、2100!」

 憧は得意のタンヤオ三色同順ドラ1………30符3翻の手で和了った。

 

 

 東三局、静香の親。

 ここでも、

「チー!」

 静香は四巡目から憧に鳴かせた。

 配牌六向聴のため、第一打牌で鳴かせるのは難しいが、数巡待てば憧も鳴ける状態になる。静香は、敢えて、それを待ってから甘い牌を切っていた。

 

 自分の親番を潰してでも、静香は明星から完全に運を引き離そうとしている。高火力の明星が連続で和了り出したら、ひとたまりも無いからだ。

 そして、

「ツモ! 1000、2000!」

 前局同様に、憧が30符3翻の手をツモ和了りした。

 

 ただ、和了ったのは憧でも、今、この場を完全に静香が支配している。まるで元風越女子高校キャプテンの福路美穂子のようだ。

 このことに淡は気付いていたが、和了った………いや、和了らされた憧は、それに気付けずにいた。

 和了った自分に勢いがあるくらいの認識でしかなかったのだ。

 

 

 東四局、憧の親番。

 前局、前々局と同様に、

「チー!」

 ここでも静香は甘い牌を切って憧に鳴かせた。

 そして、

「ツモ! 2000オール!」

 またもや憧が和了った。三連続だ。

 静香は、これで明星から完全にツキが剥がれて憧に移ったのを感じ取っていた。

 

 一方の淡からもツキは感じない。

 東一局三本場以降、淡は絶対安全圏を発動しているが、絶対安全圏内に聴牌すらできていない。

 もはや淡からも完全にツキが逃げたと静香は判断した。

 

 期は熟した。

 ここから静香は、憧に移ったツキを奪う。

 

 東四局一本場、憧の連荘。

 静香の切り出し方が変わった。先々不要になると感じるチュンチャン牌を先に切り、その後に字牌を切って行ったのだ。

 これにより憧の鳴きを封じたと言える。

 

 急に鳴ける牌がでてこなくなり、憧は手が進まなくなった。自力で手は育てて行くが、なかなか向聴数が減らない。ムダツモが多い。

 

 これを横目に、静香は確実に手を作っていった。やはり、ここでも七対子だ。

 そして、

「ツモ。七対子ドラ3(赤1表2)。3100、6100!」

 殆どムダツモ無しで、静香は和了りを決めた。

 

 

 南入した。

 南一局、淡の親。

 ここでも絶対安全圏の能力は発動していたが、静香は、最短で聴牌し、

「ツモ七対子ドラ2。2000、4000!」

 絶対安全圏を越えるとすぐに満貫手をツモ和了りした。

 

 

 南二局でも、

「ツモ! 七対子ドラ3(赤1表2)。3000、6000!」

 前局、前々局同様に静香が和了りを決めた。

 よくこれだけムダツモ無しで聴牌に持って行けるものだ。その強大な運は、もはや能力と言って良いだろう。

 

 これで現時点での後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 120300

 2位:静香 115900

 3位:淡 88100

 4位:憧 75700

 

 そして、この時点での前後半戦トータルでは、

 1位:静香 253200

 2位:淡 243100

 3位:明星 164900

 4位:憧 138800

 静香が淡を抜いて首位に立った。

 

 

 南三局、静香の親。

 ここで連荘を狙って稼ごうか、静香は一瞬迷った。

 下手に半荘を長引かせて淡や明星にツキが動いては困る。二人とも、ここぞと言うところで高い手を和了る力を持っている。

 ならば、ここでも憧を使う。

 憧の和了り手は大抵30符3翻。それで、敢えて自分の親を流させてオーラスで静香が安手で良いから和了れば念願の勝ち星が取れる。

 

 静香のシナリオに従って、

「チー!」

 五巡目辺りから憧が鳴いて手を進めだした。厳密には鳴かされ、手を進まされているのだが、憧自身には、そのような自覚は無い。

 ただ和了りたい。それだけだ。

 

 そして、絶対安全圏を越えて数巡後、

「ツモ。タンヤオドラ3。2000、3900!」

 静香の想定の倍の点数となったが、静香の思惑通り憧が和了った。

 

 

 オーラス、憧の親。サイの目は9。

 絶対安全圏は相変わらず健在だが、静香はムダツモ無しでドンドン対子を作ってゆく。

 ただ、四巡目、

「ポン!」

 淡が捨てた牌を憧が鳴いた。

 これでツモ順がズレたからか、静香のツモが手牌と噛み合わなくなった。

 

 この局では、静香の和了りを避けるため、淡が憧のサポートに出ていた。憧は、淡からはチーできないが、ポンは可能だ。

 つまり、今まで静香がやっていたのと同じことを淡がやり出したと言える。それは、ある意味、淡が場を支配し始めたことに繋がるだろう。

 

 憧は、鳴くことで手が加速するような雰囲気を出す。その空気を作りながら、

「ツモ! 3900オール!」

 憧が親満級の手を和了った。

 

 ここで憧は和了り止めすることも出来る。

 得失点差のことも考慮して、少しでも稼いでおきたいのは山々だが、逆に他家に和了られて点差が余計に広がる可能性もある。

 しかし、この和了り止めにしたところで憧は4位確定。最下位固定の和了り止めはさすがにない。

 それ以前に、優勝候補筆頭のチームのメンバーが、和了り止めして他のチームに勝ち星を譲るなど立場的にできるはずが無い。

 憧は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 ただ、この連荘を淡は当然のこととして予測していた。

 間違いなく、自分が憧の立場でも同じことをする。

 絶対に自分の手で負けを決めてはならないのだ。たとえ、咲と光と照の三人を相手にした卓だったとしてもだ。

 

 オーラス一本場。ドラは{④}。サイの目は7。

 この切れ方は、最後の角が最も早く来るパターン。誰も鳴かなければ九巡目を終えたところで最後の角を越える。

 淡は、

「(これを待っていたのよね。今まで、和了れなかったんじゃなくて、能力を抑えて宇宙パワーを溜めてたんだから。この時のために!)」

 そう心の中で呟きながら、

「(絶対安全圏プラスダブルリーチプラス配牌操作!)」

 能力を最大放出した。

 半荘一回につき一度だけ使える完全配牌操作も使った。

 当然、そのターゲットは明星。

 ここで明星に役満を聴牌されては困るからだ。

 

 これまで淡は、敢えて和了らずに静観して力を温存していた。

 一応、淡は絶対安全圏で他家を配牌六向聴にしていたが、それだけでは明星の国士無双や大七星を止められない。

 かと言って、毎回、自分の支配力を削って明星を押さえつけていたら、終盤で静香の豪運に対抗できない可能性がある。

 それで、淡は静香を利用することにした。静香に敢えて場を支配させて明星の和了りを最小限に留める作戦に出たのだ。

 つまり静香は、憧をコマとして使っていたつもりだが、実は、そのこと自体が淡に使われていたことになる。

 

 この局、明星の配牌は、前半戦東二局と同様、

 {二五八②⑤⑧2578東南西}

 明星にとって最悪なパターンでの六向聴となった。

 ここでトリプル役満を和了れば大逆転できるが、どのような役満を作るにせよ聴牌するまでに最短で十巡はかかる。

 

 対する淡の配牌は、

 {一一三三三⑥⑦⑧234北北}

 ドラなし役無しだが聴牌。ここに第一ツモの{②}を引いて、

「リーチ!」

 そのまま{横②}をツモ切りしてダブルリーチをかけた。

 

 この局は、今まで溜めていた淡のパワーが完全に場を支配していた。

 豪運の静香のツモも、何故か半分がムダツモになる。憧が二連続和了りしたことで、ツキが静香から憧に移りかけていたためだ。

 ただ、その憧も鳴ける牌が出てこないし、手を殆ど進められないでいた。淡いの場の支配に押されていたのだ。

 

 明星は、ヤオチュウ牌支配で進めても役満手を聴牌するのは十巡目以降になる。

 しかも明星のツモ番は淡の後。もし淡が暗槓直後に和了るとなると、明星は和了りまで到達できない。

 

 誰も鳴かないまま九巡目を迎えた。

 八巡目までのツモを終え、明星の手牌は、

 {28東東東南南南西西西北白}

 小四和字一色四暗刻の二向聴まで来ていた。

 淡が{北}を二枚持っているため大四喜にはならない。もっとも、現段階では、そのことに明星は気づいていないのだが………。

 とは言え、やはり、ここで奇蹟の大逆転を狙うつもりで、明星も自分の能力を最大放出していた。当然だろう。

 

 とうとう淡が、

「カン!」

 {三}を暗槓した。お決まりのパターンだ。

 嶺上牌はツモ切り。

 続く明星は、{白}をツモった。打{8}で小四喜字一色四暗刻の一向聴。

 

 そして次巡、

「(ここは、絶対にツモる!)」

 淡は、渾身の力を込めて牌をツモった。

 指先の感触から分かる。これは{一}だ。

 しかし、念のため目視する。勝ち星がかかったこの最終局面で、万が一にもチョンボはできないからだ。

 淡は、ツモ牌が間違いなく{一}であることを確認すると、

「ツモ!」

 ツモ牌を叩きつけるようにして卓の上に置いた。

 裏ドラを確認する。

 間違いなく槓裏4だ。

「3100、6100!」

 ダブルリーチツモドラ4のハネ満で淡が最後の和了りを決めた。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 111300

 2位:静香 105000

 3位:淡 94500

 4位:憧 89200

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:淡 249500

 2位:静香 242300

 3位:明星 155900

 4位:憧 152300

 淡が念願の勝ち星を手にした。




おまけ


怜「怜と。」

爽「爽の。」

怜・爽「「お上品コーナー(やで)!」」

爽「正直、もう、お下品コーナーは引退だね。二人ともムリして下品キャラ造ってたわけだし。」←大嘘

怜「ホントやで。おまけにハヤリ20-7を使ったなんてのもあったけど、あれはお下品キャラを作るために、ムリして使った振りしてただけやで。」←同上

爽「あの後、大変だったもんね。誤解を解くのにさ。」←誤解じゃなく言い訳です

怜「せやな。単なるキャラ作りのはずやったのにな。」←同上

爽「で、今回の御題!」

怜「今回は、七不思議やそうやな。」

爽「そうなんだよね。よく、学校の七不思議なんてあるじゃん?」

怜「音楽室に貼られてる作曲家の絵の目が動くとか人体模型が歩くとかやな?」

爽「そうそう。他にもトイレの花子さんとか、便器から赤い手が出てくるとか。」

怜「(何気にトイレネタ好きやな。)」

爽「他にも七不思議って言えば、キン〇マの七不思議って歌があるじゃん?」

怜「なんやそれ!? そんな歌あるんか!?」←興味のある方は検索してください

爽「私が小学校の頃、男子が歌ってたよ。ただ、人によって歌詞が全然違ってたけど。まあ、小学生男子とか中学生男子が、好き勝手自分用にアレンジしながら、広まって行ったんだろうね。」

怜「せやな。(結局お下品ネタやな)」

爽「それで本題なんだけど。咲の七不思議を考えてみたいと思います!」

怜「まあ、漫画やからな。色々現実世界とかけ離れたところは出てくるやろな。」

爽「ただ、同じ概念のネタは重複しないようにしたいんだ。例えば、一つ目行くけど。」

怜「早速やな。」

爽「麻雀部の存在が存在する! これって、麻雀はギャンブル性が高いって考えから部として認めないのが普通だよね。」

怜「せやな。同じ考えでチンチロリン部とか花札部も認められへんやろな。」

爽「咲 -Saki-の場合、麻雀が今で言うeSportsみたいな立場になって、それで部の存在やインターハイ開催、さらには麻雀特待生制度なんてものまで発展してるわけだけど、これって全部、麻雀そのものの地位が変わったことに起因しているよね。」

怜「たしかにな。」

爽「だから、麻雀部の存在も麻雀インターハイの開催も麻雀特待生制度も、三つに分けないで一つにまとめることにする。」

怜「となると、一つ目は現実世界と麻雀の地位が違うってことやな。」

爽「そうだね。まあ、それが咲の世界の定義だから仕方がないけどね。それから咲の世界で、一応少数派で存在する変なモノが、現実世界でも極少数派で存在する場合はカウントしない。」

怜「じゃあ、例えば服として機能していない服を着ているとか、機能していない着方をする人がいるってのはカウントしないってことやな。国広君とか天江さんとか、永水の薄墨さんとか…。」

爽「一応、現実世界にも存在するからね。一年中ビキニで生活する女性とか、下着モロ見えの着方をしていたとか(パンツ見せルック)。」

怜「ほな、二つ目はうちが行こうか。」

爽「お願い。」

怜「パンツと言う概念が無い!」

爽「たしかに! フィギュアなんか、バンソウコウを貼っているなんてのもあるみたいだもんね(憧&初美)。」

怜「しかも、パンツなしで、みんなミニスカート穿くわけやしな。竜華なんか凄いことになってんで! 『いきなり尻見せ!』って状態になってんで!」

爽「言えた。でも、『いきなり尻見せ!』って間抜作先生みたいだね。ついでにとんちんかんの。」

怜「若い世代には分からんで、そのネタ。」

爽「かもね。じゃあ、次は私か。原作者がブログで書いた、全員処女設定!」

怜「一応、それは汚れなくてエエんやないか?」

爽「ただ、熊倉さんも処女になるし、子供を生んだ女性も処女ってことになる。どうも、そう言う設定らしい。」

怜「ほな、処女懐妊ってことやな。となると、うちらは全員キリストやな?」

爽「なるほど。そう言う考え方もあるか!」

怜「それで、次の不思議の謎が解けたで。能力麻雀が多い! つまり、超能力者が多いってことや! キリストと同じで超常現象が起こせるっちゅうわけや!」

爽「なるほどね。一応、現実世界にも超能力者は存在するってことになってるけどね。例えば、百合ゲラーとか…。」

怜「(百合ゲラーって字が違う気がするけど)でも、能力麻雀が超能力に由来するとしてもやな、それができる人間の存在率が現実世界とは全然違う気がするで!」

爽「たしかにそうだね。じゃあ、次は私か。結構難しいな。百合が多いって言おうと思ったけど、現実世界でも性の多様性の話が大きくなってきているからね。」

怜「せやな。現実世界が咲の世界に追いついてきたってところやろうな。」

爽「主人公がモブ顔ってのも珍しくないし…。超巨乳も、一応、少数なら現実世界にもいるし…。じゃあ、大星淡の胸ってどう?」

怜「たしかに、原作者側のは鉄板からメロンに変身しとるしな。能力に関係することかもしれへんけど、不自然やな。」

爽「じゃあ、ここまでをまとめると、
一つ目が麻雀の地位が違う。それで麻雀部が存在するし、麻雀インターハイの開催や麻雀特待生制度も存在する。
二つ目がパンツと言う概念が無い。
三つ目が全員処女設定。
四つ目が能力者(超能力者)の数が多い。
五つ目が大きさ可変の胸。
ってことは、あと二つか。」

怜「ほな、全員、下の毛が無い!」

爽「それは、漫画では結構あることだからね。」

怜「せやな。咲-Saki-だけが特別って訳でもないな。ほな、美女が多い!」

爽「それも漫画では普通にあることだよね。」

怜「ほな、逆にブスキャラがいる!」

爽「それも昔の漫画では普通にあったし、ブスキャラの存在は、逆に現実世界との乖離が少なくなってない。」

怜「せやな。ほな、宿泊先が高過ぎ。これやな!」

爽「たしかに経費を抑えてるのって長野勢くらいだもんね。どう考えても阿知賀とか千里山とか、学生を連泊させるには経費的にムリがあるよね。」

怜「あのお金がドコから出とるんやろか?」

爽「どう考えても………。だから阿知賀の新子さんは円光疑惑があるってことかもね。経費を稼ぐために。」

怜「たしかに、それもあるかも知れへんな。実は、円光してそうなアニメキャラで、最初に新子さんが1位を取った時の2位って竜華やったしな。結構ショックやったけどな。」

爽「あの経費は、特定の部員が身体を張って捻出してたってことか…。」

怜「んなわけ無いけどな。」

爽「だよねぇ。じゃあ、最後、七つ目。実は主人公がクォーターだった。」

怜「うちもそれには驚いたで! むしろ、原村さんとか天江さんがクォーターのほうが、しっくり来る気がするしな。」

爽「何とか七つで揃ったね。」

怜「せやな。」

怜・爽「「以上、珍しくお上品コーナーでした!」」

竜華・誓子「「(途中でキン〇マの七不思議とか、いきなり尻見せとか言ってたくせに!)」」


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百二十一本場:北欧の小さな巨人、健在

 春季大会決勝戦、先鋒戦が終了した。

 勝ち星は、下馬評どおり淡が掴んだが、綺亜羅高校の鷲尾静香が予想以上の大健闘を見せた。個人戦での活躍も期待されるところである。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 対局後の挨拶を済ませると、先鋒選手は対局室を後にした。

 

 淡は、控室に戻る途中で光に会った。

「勝ち星取ったよ!」

 と嬉しそうな声を出す淡。

 優勝がかかった一戦だ。勝って嬉しくないはずがない。

「お疲れ。でも、結構強かったジャン、キラー(綺亜羅高校のこと)の人。淡が負けたらどうしようって心配したよ。」

「まあ、キラーも強かったけど、永水が後半戦で落ち着きを取り戻した感じがあったんで、それで永水を落とすために、一瞬だけわざとキラーに支配させたってこと!」

「(マジで淡が? 咲じゃあるまいし、そんな器用なこと………。)」

「一応、私だって他家を利用するとか、考えてるんだから!」

「そうなんだ。淡にしては珍しいって思った。今までは自力で押して行く感じが強かったから。」

「まあ、私だって成長してるってことで! じゃあ、光もガンバ!」

「OK!」

 

 次鋒戦は、宮永光、狩宿萌(狩宿巴妹)、小走ゆい(小走やえ妹)、竜崎鳴海の戦い。基本的に魔物認定されているのは光だけだ。

 綺亜羅高校の鳴海は確かに不気味だ。先鋒の静香と同じくらいの腕前と聞く。

 とは言え、綺亜羅高校のエース、的井美和が準決勝戦で咲を相手に大敗している。なので、美和より弱いとされる鳴海は、光にとっては敵ではないと予想する。

 

 問題は、別のところにある。

 言うまでもなく、中堅戦は、咲が圧倒的点差で勝利するだろう。それこそ、麻里香には申し訳ないが、今回は麻里香に被害者になってもらった感じだ。

 

 大将戦は和に任せた。阿知賀こども麻雀クラブからの付き合いと言うこともあり、穏乃のことは白糸台高校の中で和が一番よく知っているからだ。

 もっとも、穏乃がそう簡単に負けるとも思えないが………。

 

 恐らく、白糸台高校では淡と光が、阿知賀女子学院では咲と穏乃が勝ち星を取る前提で考えるべきだろう。

 そうすると、やはり副将戦が鍵となる。白糸台高校が副将戦を征すれば白糸台高校が、阿知賀女子学院が副将戦を征すれば阿知賀女子学院が優勝すると言っても過言ではないだろう。

 

 ただ、そうでないケースも当然有り得る。副将戦を他の二校のどちらかが取った場合だ。その時は、優勝は白糸台高校と阿知賀女子学院の得失点差争いになる。

 阿知賀女子学院は、間違いなく咲が中堅戦で得失点差対策の大勝利を目指すはず。それこそ、三人トバしはムリでも、一人くらいはトバしにかかるだろう。

 ならば、光も次鋒戦で咲に負けないくらいの稼ぎを叩き出す必要がある。

 ただ勝つだけではダメなのだ。光も得失点差対策に向けて、どれだけ圧倒的に勝てるかまで求められる。

 

 光は、トイレ→自販機コースを経由して対局室へと向かった。

 彼女が対局室に到着した時点で、既に他の三人は入室を済ませていた。光が一番最後の入室となった。

 

 光が卓に付くと場決めがされ、起家は綺亜羅高校竜崎鳴海、南家は永水女子高校狩宿萌、西家は阿知賀女子学院小走ゆい、北家は白糸台高校宮永光となった。

 

 

 東一局、鳴海の親。

 ここでは、光は和了りに向かわず鳴海の動きを観察する。ビデオで見た準決勝戦の闘牌が再現されるのかどうかのチェックだ。

 

 三巡目で、

「ポン。」

 ゆいが捨てた{白}を鳴海が鳴いた。準決勝戦と同じことが出来るのであれば、多分、これが特急券プラス槓ドラ4に化ける。

 

 その三巡後、今度は萌が捨てた{9}を、

「ポン!」

 またもや鳴海が鳴いた。これも、いずれ槓ドラに化けるのだろう。

 

 その次巡、

「カン!」

 鳴海は、{9}を加槓した。

 槓ドラ表示牌は{8}。やはり準決勝戦で見せた槓ドラモロのりは偶然ではなく必然だったようだ。

 嶺上牌を取り込み、鳴海は打{北}。既に{北}は二枚出ている。もし、誰かが待っているすれば地獄単騎しかない。

 ここまで{北}を持っていたのは、恐らく光をケアしてのことだろう。巡目からすれば、通常なら光が、そろそろ聴牌していてもおかしくないからだ。

 

 その次巡、

「カン!」

 予想通り、鳴海が{白}を加槓した。

 槓ドラ表示牌は{中}。これで白ドラ8の倍満が確定した。

 ただ、咲とは違って嶺上開花で和了るわけではなさそうだ。

 鳴海の捨て牌は三枚切れの{西}。やはり、敢えて安牌を残しているようだ。準決勝戦よりも振り込みに気を使っている感じがする。それだけ光が怖いのだろう。

 

 そのさらに二巡後、

「ツモ。白ドラ8。8000オール。」

 予想した通りの手で鳴海が和了った。

 たしかに和了らせたら恐ろしい相手だ。

 しかし、

「(エネルギー全開で、序盤で全てケリをつければ問題なし!)」

 光は、鳴海に対して十分勝てる相手と踏んだ。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「ポン!」

 萌が二巡目に捨てた{北}を早々に光が鳴いた。

 そのさらに二巡後に、

「ポン!」

 今度は鳴海が{東}を鳴いたが、その三巡後、

「ツモ。北ドラ3。2000、3900の一本場は2100、4000。」

 光が第一弾の和了りを決めた。ここでの和了り役は1翻。光としては、決してムリの無いスタートだ。

 

 

 東二局、萌の親。

 ここでの光の縛りは出和了り役として2翻。

 

 三巡目に、

「ポン!」

 ゆいが捨てた{發}を鳴海が鳴いたが、その二巡後、

「ツモ! タンピンドラ2。2000、4000。」

 鳴海が加槓する前に光が和了りを決めた。

 

 その後も光は怒涛の和了りを連発した。

 東三局も、

「ツモ! 平和一通ドラ2。3000、6000。」

 

 東四局も、

「ツモ! タンピン三色ドラ2。6000オール。」

 

 東四局一本場も、

「ツモ! ダブ東メンホンドラ2。8100オール。」

 

 東四局二本場も、

「ツモ! 混一対々三暗刻ドラ3。8200オール。」

 

 これで東一局一本場から合計六連続の和了りを決めた。

 ただ、鳴海が槓ドラを乗せる前に和了ることを前提に、光は全て序盤での和了りに固執していた。そのため、自前の支配力をいつも以上に放出していた。

 正直、飛ばし過ぎた。

 そろそろ、いくら怪物光と言えど、休憩が必要だ。

 

 現時点での次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:光 187100

 2位:鳴海 92700

 3位:萌 60600

 4位:ゆい 59600

 既に2位の鳴海にダブルスコアの差をつけている。これなら、数局様子見しても大丈夫だろう。

 ここで光は、一旦支配力の放出を停止した。

 

 東四局三本場。

 光が勝負から抜けたことにより、ツキのバランスが崩れた。これまで光に集中し始めていたツキが、一旦、光からを離れるのだ。

 この局では、

「リーチ!」

 どうやらツキは、ゆいに味方したらしい。

 字牌処理を終えると同時に聴牌。辺張、嵌張にズバズバ入る。そして、ゆいは四巡目で先制リーチをかけた。

 しかも、次巡、

「一発ツモです! メンタンピン一発ツモドラ1裏1で、3300、6300です!」

 何の労せず、ハネ満をツモ和了りした。

 

 

 南入した。

 南一局、鳴海の親。ドラは{南}。

 前局では、ゆいが運に恵まれた和了りを見せた。しかし、まだツキはゆいに定着したわけでは無い。

 ここでは、

「ポン!」

 萌が最初に動き出した。二巡目に光が捨てた{南}を鳴いたのだ。しかも、副露された部分だけでダブ南ドラ3の満貫が確定している。

 ゆいも鳴海も、当然、萌をマークするが、まだ序盤で現物も極めて少なく、萌が何を狙っているのか絞り込めない。

 結局、

「チー!」

 鳴海は萌に鳴かせてしまった。

 そして、その勢いは止まることなく、

「ツモ!」

 そこから三巡後に萌が和了った。

「2000、4000!」

 ただ、他家にとっては不幸中の幸いである。ダブ南ドラ3以外の役は無かった。

 もし萌の手牌に赤牌が一枚でもあったらハネ満になっていた。

 しかし、それが無かったことは、ある意味、まだ萌は、ツキに完全に恵まれている訳では無かったことを証明しているのかもしれない。

 その証拠に、萌は、前半戦では以後和了れなくなる。

 

 

 南二局、萌の親。

 依然、光は支配力を止めたままである。

 この半荘で攻めるところがあれば今しかない。これは、ゆいにも萌にも鳴海にも共通して言えることである。

 

 この局は、二巡目で、

「ポン!」

 とうとう鳴海が動き出した。光が捨てた{北}………鳴海の自風を鳴いたのだ。

 その三巡後、

「カン!」

 この半荘で初めて鳴海は暗槓した。副露されたのは{8}の槓子。

 めくられた槓ドラ表示牌は{7}。これで鳴海の手は、副露されている分だけで最低でも北ドラ4の満貫が確定した。

 そのさらに次巡、

「カン!」

 鳴海は{北}を加槓した。当然のように、槓ドラ表示牌は{西}。北ドラ8の倍満が確定。

 その次のツモ番で、

「ツモ。4000、8000!」

 まるで流れに乗ったかのように鳴海がツモ和了りを決めた。

 

 

 南三局、ゆいの親。

 ここでも鳴海が、

「ポン!」

 序盤から光が捨てた{西}を鳴き、

「カン!」

 さらに次巡、鳴海は萌が捨てた{⑨}を大明槓した。

 槓ドラは当然のように{⑨}。鳴海と玄が対局したら、槓ドラは二人のどちらに支配されるのか非常に興味が湧いてくる。

 

 その三巡後、

「カン!」

 鳴海は{西}を加槓。言うまでも無く二枚目の槓ドラは{西}。

 そのさらに二巡後、

「ツモ。 4000、8000!」

 この半荘で三回目の役牌ドラ8を鳴海が和了った。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:光 170800

 2位:鳴海 117400

 3位:ゆい 58500

 4位:萌 53300

 ゆいに一回、萌に一回、鳴海に二回和了られたが、未だ光が余裕でトップを維持していた。それだけ東場での光の連続和了が圧倒的だったと言える。

 しかも、この四局を休んだことで、光の支配力は元に戻っていた。ここから光は、怒涛の連続和了を目指す。

 

 

 オーラス、光の親。

「ポン!」

 ここでも鳴海が三巡目から早々に仕掛けてきた。

 そして、その三巡後にも、

「ポン!」

 再び鳴海が鳴いて、倍満に向けての準備を着々と進める。

 しかし、その次巡、

「ツモ。」

 鳴海が加槓する前に光がツモ和了りした。

「ピンツモドラ2。2600オール。」

 これで光が和了り止めしても十分な点差だ。

 しかし、

「一本場!」

 光は連荘を宣言した。ここで他家から可能な限り点棒を搾り取る気なのだ。

 

 オーラス一本場。

 第一弾の和了りを決め、光の支配力は、さらなるパワーを増す。

 たった四巡で、

「ツモ! タンピンツモドラ2。4100オール。」

 光は親満をツモ和了りした。

 まだ和了り役の縛りは2翻を終えたところ。まだまだ余裕がある。

 当然、

「二本場!」

 光の連荘は続く。

 

 オーラス二本場も、

「平和三色ツモドラ2。6200オール!」

 

 オーラス三本場も、

「メンタンピン一発ツモ一盃口ドラ3。8300オール!」

 序盤のうちに光が和了りを決めた。これでは、他家は手の出しようがない。

 

 オーラス四本場。

 ここでは、

「ポン!」

 二巡目に、ゆいが捨てた{中}を鳴海が鳴いた。

 光の魂胆は見えている。このまま和了り続けて、あわよくば萌とゆいをトバすつもりだろう。

 

 鳴海としても、端から光に勝てるとは思っていない。

 これだけの支配力を持つ者との対局は生まれて初めてだ。さすが、北欧の小さな巨人と言われただけはある。

 

 中堅戦では、今の光と同様に咲が暴れまくるだろう。光よりも強いとされる化物だ。今思えば、準決勝戦で美和がトバされずに前後半戦共に終えられたことがラッキーとさえ感じられる。

 

 しかし、副将戦では、スター選手は永水女子高校の十曽湧のみだが、彼女の打ち筋は研究済み。光や咲ほどの化物では無いとの判断だ。

 三銃士の三人目、美誇人が勝ち星を手にしてくれる可能性は十分ある。

 

 大将戦も穏乃の底力は認めるが、準決勝戦では敬子が前後半戦トータルで500点差の2位につけている。

 席順にもよるだろうが、他家の能力が一切効かない敬子なら、もしかしたら穏乃が相手でも何とかしてくれるかもしれないとの期待もある。

 

 もし、美誇人と敬子が勝ち星を取ってくれたなら、白糸台高校と綺亜羅高校の得失点差で優勝校が決まる。

 それを視野に入れれば、これ以上の失点はタブーである。

 

 ここでは、ムリに倍満は目指さない。

 鳴海は、三巡後に、

「カン。」

 {中}を加槓した。当然、槓ドラは{中}。

 そして、次巡、

「ツモ。中ドラ4。2400、4400。」

 鳴海が満貫を和了り、次鋒前半戦を終了した。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:光 230000

 2位:鳴海 105400

 3位:ゆい 34900

 4位:萌 29700

 言うまでも無い。圧倒的点差で光が前半戦を折り返した。




おまけ


世界大会が終了し、近畿大会も終了。
咲達は、平穏な日々を送っていた。

しかし、宇宙から魔の手が地球に忍び寄っていた。
ガミラス帝国の宇宙船団、白色彗星帝国ガトランティスの白色彗星、暗黒星団帝国の移動要塞が地球を目掛けて突き進んでいたのだ。

ガミラス帝国の総統はデスラー。
白色彗星帝国の大帝はズォーダー。
暗黒星団帝国の聖相当はスカルダート。

ちなみに、この世界には宇宙戦艦ヤマトは無い。


デスラー「地球は、我がガミラスがいただく。」

ズォーダー「いや、我がガトランティスのモノだ」

スカルダート「暗黒星団帝国がもらう。」

地球代表「お前ら帰れ!」

デスラー「では諸君。ここは、麻雀で勝負しようじゃないか。」

ズォーダー「勝ったところが地球を征服すると言うことだな。」

スカルダート「それでも勝つのは暗黒星団帝国だがな。」

地球代表「だから、お前ら帰れ!」


と言うことで、地球を賭けて麻雀大会が行われることになった。
方法は、地球でやっている団体戦と同じ。ただし、今回は点数引継ぎ制とする。
先鋒から大将まで半荘二回ずつ。
また、慣習的にダブル役満として認められる大四喜、国士無双十三面待ち、純正九連宝燈、大七星、四槓子、四暗刻単騎はダブル役満とする。

地球からの代表は、どうせなら女子高生がイイとデスラーが言い出したのがきっかけとなり、デスラー、ズォーダー、スカルダートの趣味で、結果的に(勝手に)世界大会で優勝した日本から高校2年生だけで編成することにされた。

そして、選出されたのは以下の五名となった。
宮永咲(阿知賀女子学院)
宮永光(白糸台高校)
高鴨穏乃(阿知賀女子学院)
大星淡(白糸台高校)
原村和(白糸台高校)


地球の運命が女子高生五人の双肩にかかっている。
この状態に、さすがの咲もビビっていた。


ただ一人落ち着いていたのは淡だけだった。
この時、淡は、自分に絶対安全圏やダブルリーチ、槓裏モロ乗りの能力を与えてくれた異星人超能力者とテレパシー通信していた。


淡「(麻雀なんかするまでもなく、こいつらをやっつけてくれると助かるんだけど。)」

異星人「(まあ、彼らは一応紳士ですから、麻雀で負ければ引き下がりますよ。)」

淡「(でも、咲でさえビビってトイレにも行けない状態なのに、地球チームが勝てるとは思えないんだけど?)」

異星人「(その点は大丈夫です。)」

淡「(でも、どうやって?)」

異星人「(淡さんが先鋒で出場してください。その際、私が淡さんの中に入りますから。勿論、Hな意味では無くて。)」

淡「(幽体離脱みたいなのをして私の身体を乗っ取るってことでしょ)」←Hな意味が分かっていない

異星人「(そ…そうです。)」

淡「(じゃあ、言うとおりにするね。あとはお願いするから。)」

異星人「(任せてください。私の超能力で全て解決します。)」


と言うことで、淡が監督(慕)にお願いして(事情を話して)、先鋒として出場することになった。

ガミラス帝国の先鋒はデスラー、白色彗星帝国の先鋒はズォーダー、暗黒星団帝国の先鋒はスカルダートが務めることになった。
エースポジションの役割を、トップ自らが果たそうと言うのだ。
さすが、各帝国のナンバーワンである。


場決めがされ、起家は淡、南家はデスラー、西家はズォーダー、北家はスカルダートに決まった。

東一局、淡の親。
既に淡の身体の中には異星人の幽体が入っていた。見た目は淡だが、その能力全てが異星人超能力者となっていたのだ。

淡(異星人)は、配牌を開くと、


淡「カン!」


まず、東を暗槓した。配牌を超能力で操作したのだ。
そして、


淡「もいっこカン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 大四喜字一色四槓子四暗刻単騎! 七倍役満だから、16000×7で112000オール!」


嶺上牌も超能力で操作されていた。
これで、デスラー、ズォーダー、スカルダートがトンで終了になった。

三人とも、まだ一枚もツモっていない。
それで負けるとは、納得しきれないものがあるだろう。

しかし、約束どおりガミラス帝国も白色彗星帝国も暗黒星団帝国も、キチンと地球から撤退していった。
地球は、大星淡(中味は異星人)の力によって守られた。


異星人「後々、淡さんが色々面倒になると思いますので、全人類の記憶を消去しておきますね!」


そして、この地球の運命を賭けた戦いは、世の人々から完全に忘れ去られた。
つまり淡は、地球を救ったスーパーヒロインでもなんでもない。ただのアホの娘キャラのままでいることになった。


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百二十二本場:偶然役

 春季大会決勝戦、次鋒前半戦が終了した。

 一旦、ここで休憩時間に入る。

 

 光は、一旦控室に戻った。

 鳴海が槓する前の和了りを目指し続けていたが、やはりエネルギー消費が激しい。ここは、甘いものを摂取して頭をリフレッシュしたい。

 多分、甘いモノは固体液体共に麻里香が控室に大量に持ち込んできているはず。それを少し拝借しようとの考えだ。

 

 一方、ゆいと萌と鳴海は、こぞってトイレ→自販機コースを選択した。

 ゆいの場合、一応、咲との部内対局で恐ろしいオーラを経験している。しかし、それと同様のモノを公式戦で受けるのは初めてである。

 やはり、緊張感が全然違うし、そこに光のオーラをまともに受けたら………、一歩間違えば………いや、間違えなくても大放水しかねない。

 

 萌は、小蒔と部内での対局経験はあるが、最強神を降ろしたバージョンとの対局は経験したことが無かった。

 当然、光レベルの支配力は、今回初めて経験する。

 このオーラをさらにもう半荘受け続けたら、確実に足元に黄金の巨大湖を形成しそうな気がする。

 

 鳴海も、これだけの支配力を持つ者との対局は生まれて初めてである。

 

 三人とも、

「「「(某ネット掲示板のネタにされたくないし!)」」」

 余分な水分は予め排出しておくべきと判断したのだ。

「「「(まさか、この三人で連れションするとは………。)」」」

 三人とも、口にこそ出さなかったが、互いにそう思っていたのは言うまでも無い。

 

 そして、自販機前に着くと、

「「「(やっぱり、利尿作用のあるものは避けるべきだよね!)」」」

 三人とも、お茶、紅茶、コーヒー、冷たいものを避けて、暖かいレモン水あたりを無難に選択した。

 少なくとも、つぶつぶドリアンジュースだけは視界に入っていなかったようだ。

 

 

 それから数分して、四人とも対局室に戻ってきた。

 各自、前半戦で座っていた席に一旦座ると、場決めがされた。

 後半戦は、起家がゆい、南家が萌、西家が鳴海、北家が光となった。やはり光は北家を引く確率が高いようだ。

 

 

 東一局、ゆいの親。

 休憩時間を挟んで前半戦と状況が変わったか?

 ゆいの配牌が妙に良い。いきなり一向聴だった。

 しかも、二巡目でドラを引いて聴牌。役無しドラ1だが、親なので当然、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。連荘狙いだ。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 ゆいは、和了り牌を一発で引き当てた。

「リーチ一発ツモドラ1。3900オール!」

 裏ドラは乗らなかったが、幸先の良いスタートである。

 

 東一局一本場、ゆいの連荘。

 ここでも、ゆいは配牌に恵まれた。タンヤオ二向聴。

 しかも、ムダツモがなく、三巡目で聴牌。

 当然、ここでも、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 今回は、一発ツモにはならなかったが、三巡後に、

「リーツモタンヤオドラ1。3900オールの一本場は4000オール!」

 ゆいは自力で和了り牌を掴んできた。

 前局に引き続き、ここでも親満級の手をツモ和了り。普通なら、これでトップがほぼ確定するくらいのリードだ。

 もっとも、光が面子にいる以上、後々、ここは普通の対局ではなく異常な対局になるのは言うまでもないが………。

 

 東一局二本場。

 今回は、さすがにゆいの配牌も四向聴。ツモも、まあ普通にムダツモが入るようになった。前二局が、むしろ異常だったのだ。

 

 ここでは、

「ポン!」

 光が捨てた{南}を萌が早々に鳴いた。{南}は、萌にとっては自風だ。しかも、嬉しいことに萌の手牌の中にはドラと赤牌が併せて3枚ある。

 今のところ、光も鳴海も沈黙を保っている。

 当然、これは是が非でも和了りたい。

「チー!」

 ゆいが捨てた{1}を、萌は形振り構わず両面で鳴いた。これで聴牌。

 そして、その数巡後に、

「ツモ! 2000、3900の二本場は2200、4100!」

 萌は和了り牌を自ら引き当てた。

 

 

 東二局、萌の親。

 ここにきて、

「ポン!」

 ようやく鳴海が動き出した。三巡目に光が捨てた{②}を鳴いたのだ。

 しかし、まだ光が動く気配は無い。これはこれで、嬉しい半面不気味である。

 

 その三巡後、

「カン!」

 鳴海は、萌が捨てた{南}を鳴いた。大明槓だ。

 嶺上牌を引くと、鳴海は、それを手牌に取り込んだ。

 そして、元々手の中にあった牌………{②}を、

「カン!」

 加槓した。

 新ドラは、それぞれ{南}と{②}。よく毎回、槓子が全てドラになるものだ。それ以前に、毎回槓子が出来ていること自体が珍しいだろう。

 嶺上開花にはならず。

 そもそも嶺上開花で当たり前のように和了れる化物は、日本には咲以外にはいない。ドイツに一人いるが、その女性は咲の100%完全コピーだ。

 嶺上開花を自在に出すには、やはり咲の遺伝子が必要なのだろう。

 

 鳴海は、既に聴牌していた。

 そして、その二巡後、

「ツモ。4000、8000。」

 ここでも鳴海は倍満を和了った。

 ただ、準決勝戦とは違って三倍満や数え役満まで手を上げることができない。当然、三槓子まで持って行けない。恐らく、光の支配力の影響だろう。

 

 しかし、倍満でも和了り手としては十分過ぎるほど大きい。これを連発できれば、光との点差(前後半戦トータル)を大きく縮めることができる。

 

 

 東三局、鳴海の親。ドラは{北}。

 光からは、場に対する支配力は感じるのだが、和了りに向けた動きは未だに感じられない。

 鳴海は、この親で稼げるだけ稼ぐつもりで気合いを入れ直した。

 

 ここでは、

「チー!」

 七巡目に萌が捨てた{7}を鳴海がチーした。彼女の副露牌が順子なのは珍しい。

 副露されたのは{横7[5]6}。赤牌入りだ。

 その次巡、

「カン!」

 鳴海は、今度は{⑤}を暗槓した。当然、赤牌が二枚含まれる槓子だ。

 めくられた新ドラ表示牌は{④}。

 これで鳴海の副露牌にはドラ7が含まれることになった。

 

 そこからさらに三巡かかったが、鳴海は、ようやく聴牌し、その二巡後、

「ツモ。8000オール!」

 起死回生の一発。

 親倍をツモ和了りした。

 

 この時点での次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 129900

 2位:ゆい 107600

 3位:萌 84600

 4位:光 77900

 鳴海がゆいを逆転してトップに立った。

 

 東三局一本場。

 ここでも、

「ツモ。8100オール!」

 

 東三局二本場も、

「8200オール!」

 連続で鳴海が親倍を和了った。いずれも槓ドラ8の手だ。

 

 これで次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 178800

 2位:ゆい 91300

 3位:萌 68300

 4位:光 61600

 

 そして、現段階での次鋒戦の前後半戦トータルは、

 1位:光 291600

 2位:鳴海 284200

 3位:ゆい 126200

 4位:萌 98000

 鳴海が、光に7400点差まで迫ってきた。

 あと一回和了れば、あの怪物光を逆転できる。当然、鳴海の志気は、より一層上がってきた。

 

 東三局三本場。ドラは{②}。

 まだ、光からは和了りに向けた動きが見えてこない。

 

 ここでも、

「ポン!」

 序盤から鳴海が鳴いてきた。ゆいが三巡目に捨てた{2}を早々に鳴いたのだ。

 その二巡後、

「ポン!」

 今度は、鳴海は光が捨てた{東}を鳴いた。

 今、手牌には{[⑤]}が一枚ある。ここで{2}と{東}を加槓して全て新ドラとして乗れば、ダブ東ドラ9の三倍満になる。

 一気にリードするチャンスだ。

 次巡、鳴海は{東}を引いた。当然、

「カン!」

 これを加槓した。新ドラは{東}。これでダブ東ドラ5。まだハネ満。

 そして、その次巡、鳴海は待望の{2}を引いてきた。

 当然、これを、

「カン!」

 鳴海は加槓した。

 

 この時だった。

「アナタ、背中が煤けてない?」

 光が、鳴海にこう言った。

 その直後、光は手牌を開き、

「ロン! 12900。」

 鳴海を撃ち取った。

 この局に入って、光は他家に気配を悟られないようにしながら和了りに向けて、しっかり動いていたのだ。

 全ては、この一撃のために…。

 光は、偶然役である槍槓を敢えて狙っていたのだ。一昨年の長野県大会団体決勝戦で、咲から槍槓を和了った加治木ゆみを思い起こさせる。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三②②③④[⑤]34[5]67}  ロン{2}  ドラ{②}

 

 槍槓平和ドラ4まさかのハネ満直撃。

 この和了りは、鳴海にとっても光にとっても大きな意味を持つ。

 鳴海は、東二局から東三局二本場まで、四連続で倍満を和了っていた。これは、完全にツキが鳴海に定着していたと考えて良いだろう。

 いや、鳴海が自分にツキを呼び寄せ、定着させたのだ。

 しかし、この超珍しい偶然役である槍槓による一撃で、鳴海のツキは光に奪われることになる。珍しい役ゆえだろう。

 まさに天国から地獄に急降下だ。

 

 不敵な笑みを浮かべながら、光は卓中央のスタートボタンを押した。

 

 

 東四局、光の親。

 第一弾の和了りを決めた光は、照と同様に手が早くなる。

 しかも、今は鳴海の槓ドラ攻撃に対抗するために、より多く支配力を放出して聴牌速度を上げている。

 ここでは、たった四巡で、

「タンピンツモドラ2。4000オール。」

 光は、親満を和了った。

 役の縛りは2翻。

 そして、その後も光は、和了り役の翻数上昇を伴いながら連続で和了り続ける。

 

 東四局一本場は、

「タンピンツモ一盃口ドラ2。6100オール。」

 役の縛りは3翻。

 

 東四局二本場は、

「タンピンツモ三色ドラ2。6200オール。」

 役の縛りは4翻。

 

 東四局三本場は、

「ダブ東メンホンツモドラ2。8300オール。」

 役の縛りは5翻。

 

 東四局四本場は、

「混一混老対々ドラ3。8400オール。」

 役の縛りは6翻。

 

 この段階で、次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 173500

 2位:鳴海 132900

 3位:ゆい 58300

 4位:萌 35300

 東三局三本場から東四局四本場までの計6回の和了りで、光は一気に111900点を叩き出し、あっと言う間にトップに躍り出た。

 しかも、前半戦での特大リードも追加すると、もはや誰も逆転不可能な状態になっている。他家、特にゆいや萌にとっては、勝敗よりも、この半荘を早く切り上げて、さっさと逃げ出したいところだろう。

 

 このまま光の和了りが続くとマズイ。

 そろそろ、三倍満が出てきてもおかしくない。それこそ、萌がその直撃に遭ったら、トビ終了になる。

 まさに危機的状態だ。

 

 東四局五本場。

 ここに来て、鳴海は、光の支配力が若干弱まった感じを受けた。

 やはり、毎回序盤で和了り、しかも翻数上昇の縛りがあるのだ。光の体力消耗は結構激しいのだろう。

 

 ここでは、

「ポン!」

 鳴海が先行した。

 一巡目に、精神的にメゲてきた萌が、特段何も考えずに鳴海の自風である{北}を捨ててきた。不要牌なので、当然と言えば当然だが、鳴海は、これを鳴いたのだ。

 その次巡、

「ポン!」

 今度はゆいが捨てた{①}を鳴海が鳴いた。

 

 そこから二巡は、特に何の発声も無く場が進んだが、そのさらに次巡、

「カン!」

 鳴海が{①}を加槓した。槓ドラは{北}。これで北ドラ3が確定。

 嶺上牌は、そのままツモ切り。

 そして次巡、鳴海は{北}を掴んできた。

 当然、これを、

「カン!」

 加槓した。槓ドラは{①}。これで北ドラ8が確定した。

 

 鳴海は、ここで嶺上牌を引いて驚いた。和了れていたのだ。

 さすがに、これは興奮する。今まで何度も槓してきたが、嶺上開花は、彼女としても初めてである。

 別に嶺上開花が付こうが付くまいが、ここでの和了り点は変わらない。

 しかし、嶺上開花は出やすい役満よりも出にくい偶然役と言われている。興奮しないほうがおかしい。

 嶺上牌を力強く卓に叩きつけるようにして、鳴海が手牌を開いた。

「ツモ! 嶺上開花北ドラ8。4500、8500。」

 これで、全14局と、非常に長かった東場が終わった。




おまけ


塞「再び直訴します!」

憧「私も直訴します!」

天の声「二人とも、直訴って何?」

塞「オマケでの扱いの悪さです!」

憧「私は、本編で余裕発言とかやったことになっていて、これって完全に負けフラグじゃないですか!」

泉「でも、二人とも取り上げられている分、マシですわ。私なんか、どっちかって言うと本編からしてアンチ・ヘイト枠ですし。」

菫「私なんか、殆ど呼ばれてないぞ!」

由子「私も殆ど呼ばれていないのよー。」

玉子「私も全然呼ばれていないのである!」

ソフィア「私も声がかかっていません!」

千曲東選手一同「全然出してもらえません!」

今宮女子選手一同「同上!」

東福寺選手一同「以下同文!」

由子「だから、塞憧も私達に比べれば全然マシだと思うのよー。それでいて文句ばかり言うから、みんなから『ウンコタレ』とか『円光少女』って呼ばれるのよー。』

泉・菫・玉子・ソフィア「「「「(それって関係ないと思うけど。)」」」」

怜「それより、なんでみんな、ここにおるん? 今回は、うちと爽に頼まれた枠やで!」

咲「では、関係ない人は舞台から降りてください。言うことを聞けない場合は麻雀を楽しませる対象となります!」

塞達「「「「「「(さすがにそれはイヤだ!)」」」」」」


と言うわけで塞達はゾロゾロと舞台から降りて行った。


爽「じゃあ、始めるとすっか。」

怜「せやな。怜と。」

爽「爽の。」

怜・爽「「クソマジメコーナー!」」

爽「先に言っとくけど、マジメにクソを語るコーナーじゃないからね!」

怜「お下品コーナーでもあらへんで!」

爽「この第四部の鍵となるであろう綺亜羅高校についての話だね。」

怜「せや!」

爽「今のところ、綺亜羅高校のことでネーミング以外に分かっていることは、エースが的井美和。」

怜「うちみたいに十人並みのカワイイ系の顔の子やな!」

竜華「(怜のほうが、ずっとカワイイで!)」@観客席

爽「あと、美和は食虫植物が好き。それから、咲とちゃっかりお友達!」

怜「第二エースはKYな娘、稲輪敬子で、何故か設定が残念な美少女や。水泳がムッチャ早いって話やな。」

爽「大将で出るし、ある意味、本大会のキーパーソンになると予想されるね。」

怜「せやな。」

爽「でも、決勝戦のみ同着を認める大会で、どんな絡み方するんだろ?」

怜「(どうせ阿知賀と白糸台が同着優勝とかなるんやろな。)」

爽「(オチが見えてるよね。)」

怜「(それにしても決勝大将戦は蔵王権現に超デジタル、ステルスにKY娘の対決やな。どんな展開になるんやろ?)」

爽「(まあ、どうせパターンからして蔵王権現が後半に追い上げて白糸台と同点優勝ってとこだろうね。)」

怜「まあ、どんな絡み方をするかはお楽しみってことやな(もうオチだけは見えとるも同然やけどな)。」

爽「次に三銃士。三十四じゃないからね(特に小鍛治プロ!)」

健夜「…。」←背後に幾何学模様が出ている

怜「先ず一人目は鷲尾静香。豪運の持ち主で偏差値70が余裕の人よりも成績優秀っちゅう話やな。東大医学部でも目指しそうやな。」

爽「そうだね。で、三銃士二人目は竜崎鳴海。鳴き麻雀が得意で明槓も多い。しかも、槓するとドラがモロ乗りする。」

怜「阿知賀のドラゴンロードとの対決が見たかったな!」

爽「たしかに!」

怜「それから三銃士の三人目は鬼島美誇人やな。一番の特徴は、和了る時の台詞が御無礼ってとこやろな。」

爽「あと、宇野沢姉妹のファンで、ちゃっかり宇野沢美由紀とお友達!」

怜「宇野沢プロのサインも持ってるって話やな。」

爽「そして、六人目のツワモノが古津節子(こつせつこ)。現エース的井美和よりも強いとの話だけど、2つ上の先輩から私刑を受けて指十本を骨折。」

怜「まあ、もともとは骨折子の一発逆ギャグ要員やな!」

爽「ただ、何故、彼女が今の綺亜羅高校にいないのか?」

怜「そんなとこ含めて、次回からのオマケコーナーで、全8回でお送りする予定や!」

爽「ただ、美誇人と宇野沢プロの絡みはナシだって。」

怜「それをまともに入れると全8回で終わらなくなりそうやからな。」

爽「以上だけど、なんか私達、今回、予告するだけ?」

怜「せや!」

爽「だったら、こんな予告なんか飛ばして別に今回から始めてもイイのに!」

怜「それな、本編の進み具合から、一回分、場繋ぎが必要になったみたいやで。オマケと本編で同時に書きたいことがあるみたいでな。」

爽「つまり、私達で一回分、間を持たせろってことか。」

怜「せやな。引き延ばせっちゅうことや。」

爽「先にオマケで書いてネタバレにならないようにってことだね。」

怜「ハヤリ20-7の登場は、ここでは72本場オマケに、小蒔-Komaki- 100式では5月4日(緊急事態宣言延長の日)更新分に、両方とも偶然載せられたんやけど。今回は偶然が巧く発動せえへんかったみたいやな。」

爽「本編タイトルが『偶然役』なのにね。」

怜「ちなみに『ネタバレ』であって『寝たバレ』とちゃうで!」

竜華・誓子「「(寝たバレはあんたらでしょ!)」」@観客席

爽「あと、アカギが出てないけど…。」

怜「それは、綺亜羅の1年生として名前だけ出てくる予定らしいで。」

爽「でも、私達が出てきてクソマジメコーナーで終わってイイのかな?」

怜「別にエエやろ。うちは、もともとお下品やないし。お下品コーナーを要求されたって何のネタもないで!」←大嘘

爽「私もだけどね。」←同上

怜「(本当は、
『恋愛はAから始めて順に段階を踏んで、I(愛)に到達するけど、実は、その前にHが来るんやで!』
なんてネタがあるんやけどな。)」←ゴメンナサイ、ユリア100式のネタです

爽「(本当は、
『塞ちゃん、どうしたの?』
『うん! 血が出たの』
『ウンチが出たの?』
ってネタがあるんだけどな。でも、言ったら多分、激怒するだろうな、臼沢さん。)」

怜・爽「「(いずれにしても、相方のネタ切れは嘘だな(やな)!)」」

怜・爽「「と言うわけで、クソマジメコーナーでした!」」


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百二十三本場:超魔物との初対戦

 春季大会決勝戦、次鋒後半戦も、いよいよ南場に突入した。

 南一局、ゆいの親。

 この段階で、次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 165000

 2位:鳴海 150400

 3位:ゆい 53800

 4位:萌 30300

 これだけ見ると、鳴海がハネ満ツモで逆転できる位置にいる。

 

 しかし、これが前後半戦のトータルになると、

 1位:光 395000

 2位:鳴海 255800

 3位:ゆい 88700

 4位:萌 60500

 圧倒的点差で光がリードしている状態である。2位の鳴海に139200点もの点差を付けている。鳴海からすれば絶望的点差だ。

 

 前局では、鳴海が光の支配力に打ち勝ったが、その強大な気配から察するに、光は能力放出に限界が来ていたわけでは無さそうだ。

 それに、光の縛りである翻数上昇は、ある程度のところまで行くと、一回リセットした方がやりやすい。むしろ、それもあって前局では敢えて支配力を下げていたと考えるべきだろう。

 

 ここでは、

「ポン!」

 四巡目に鳴海が動き出した。

 そして、そのさらに三巡後、

「ポン!」

 鳴海が二つ目の刻子を副露した。

 しかし、この直後、

「ツモ!」

 光が和了った。

「タンツモドラ2。2000、3900。」

 しかも、満貫級の手である。これで、光はさらにリードを広げた。

 

 

 南二局、萌の親。

 第一弾の和了りを達成すると、光の手は早くなる。しかも、ここには咲や衣のように、光の支配力と拮抗できる相手がいない。

 厳密には、多少は鳴海が光の支配力に対峙しているのだが、鳴海には光が仕掛ける速攻勝負に対抗する技が無い。

 

 例えば、鳴海は槓ドラによる点数上昇を主力武器とし、自ら槓するが、咲とは違って必ずしも嶺上牌が有効牌になるとは限らないし、嶺上開花で自在に和了れるわけではない。

 連槓も滅多に無いし、咲や衣レベルの鬼ツモでもない。

 なので、ツモ運は決して悪いほうでは無いが、余程のことが無い限り六巡目以内に鳴海は和了りまで持って行けない。

 

 後半戦では、途中まで光は和了りに向かう気配を見せていなかった。それで、鳴海に大量リードを許す結果となった。

 何故、後半戦の東三局二本場まで和了ろうとしていなかったのか、理由は今のところ不明だが、和了りに向かい出したら光は鳴海を連続和了で見事に逆転している。

 やはり、北欧の小さな巨人の二つ名はダテじゃない。

 

 この局でも、光は四巡目で聴牌し、六巡目で、

「ツモ! 2000、4000。」

 タンヤオツモ一盃口ドラ2を和了った。

 

 

 南三局、鳴海の親。

 ここでも光の手は早い。

 三巡目で聴牌し、四巡目で、

「ツモジュンチャンドラ2。3000、6000。」

 比較的綺麗な手を和了った。このスピードに他家は付いて行けない状態だ。

 

 

 そして、オーラス、光の親。

 ここで光は、

「ポン!」

 三巡目に対面の萌から{白}を、

「ポン!」

 五巡目に下家のゆいから{①}を鳴いた。この早いポンは、一見鳴海に似ている。

 しかし、光は鳴海とは違って加槓はしない。

 

 七巡目。

 光は既に聴牌していた。

 手牌は、

 {④④[⑤]南南南}  ポン{①①横①}  ポン{白横白白}  ツモ{④}  打{⑦}

 

 ここで嵌{⑥}待ち聴牌から{③⑤⑥}の多面聴に切り替えた。

 すると、この{⑦}を、

「ポン!」

 鳴海が鳴いた。

 これにより、光の次ツモが早々に回ってきた。

 

 運が低下している時に鳴かれると、次に、せっかく欲しいところが来るはずだったのが他家に流れてしまう。

 しかし、ツキがある時は逆である。鳴きによってラッキーな方にことが進むようになることも多々ある。

 ここでの光も、まさにそれと同じである。

 鳴海が鳴いてツモがずれたことによって、

「ツモ!」

 光は高目の{[⑤]}を引いて和了った。

「南白混一対々ドラ2。8000オール。」

 光が想定していたのは南白混一色赤1の満貫だったのだろう。それが高目を引いて倍満に変わった。

 これが、ツキのある者の和了りだ。

 

 光は、これで和了り止めしても良いだろう。圧勝である。

 しかし、光は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 現在の次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 216900

 2位:鳴海 132400

 3位:ゆい 36900

 4位:萌 13800

 ここから光は、得失点差勝負にもつれ込むことを想定して、稼げるだけ稼ぐつもりだ。

 

 オーラス一本場。

 鳴海としては、これ以上、光に和了らせてはならない。白糸台高校との点差を、これ以上広げたくないからだ。

 

 前局、一気に光の和了り役の翻数が六翻まで増えた。なので、光は、この局で和了るためには最低でも七翻の和了り役を必要とする。

 つまり、前局での高めツモが、逆に光の翻数上昇の足かせになり、光も手作りが苦しくなるはず。

 

 配牌を見る限り、鳴海は手が重く和了りまで時間がかかりそうだ。ここは、鳴海が、ゆいか萌に差し込んで光の連荘を止めるしかない。

 

 ただ、萌は、もはや点数的に厳しい状態。ここまで落ち込むと、ツキからも完全に見放されて聴牌すら危ういのではなかろうか?

 そうなると、ゆいが早い段階で聴牌できているかどうか?

 いや、聴牌させるしかない。

 

 鳴海は、ゆいの捨て牌から鳴けそうな牌を探した。

 ゆいの理牌のクセは、ある程度分かっている。

 大抵、きっちりと萬子、筒子、索子、東南西北白發中の順に置き、しかも数牌は本人から見て左から右に行くに従って数が大きくなる。

 そうしない局もあるが、全体の八割以上が、その配置だ。つまり、コンピューター麻雀と同じ置き方をすることが多い。

 

 それを前提に手出しした{東}と{西}の位置から考えると、多分、{南}が配牌で対子。

 ならば、これを鳴かせるつもりで、鳴海は四巡目に{南}を捨てた。

「ポン!」

 読みどおり、ゆいが{南}を鳴いた。

 しかも、ゆいにとって{南}は自風であり場風。ダブ南だ。

 ただ、鳴海はゆいの上家ではない。さすがにチーはさせられない。

 

 本来なら、そう安々と光が鳴かせるとは思えない。

 しかし、この局での光の和了り役の縛りは七翻。これを作り上げるために、光からも甘い牌が捨てられてきた。

 

 ゆいは、後付を余り好まないようだ。なので、大抵は役牌を和了り役とする場合は、役牌から鳴くケースが多い。変に真面目なのだろう。

 今回で言えば、{南}を鳴いてからでないと、他の牌を鳴きに行かない。つまり、{南}以外で鳴ける牌が先に出てきても、ポンはおろかチーすらしないだろう。

 恐らく鳴海が普段どおり捨て牌を絞った打ち方をしていたら、ゆいは{南}を鳴けず、結果的に光の捨て牌を鳴きに行かなかったに違いない。

 しかし、今回は既にダブ南を鳴いている。なので、光が捨てた牌を、

「チー!」

 ゆいは鳴いて手を進めた。

 

 光からすれば、鳴海がゆいに鳴かせたのは想定外だった。普段なら鳴海は、そんな甘い切り出しをしないからだ。

 しかし、今は光の親を流すために鳴海はゆいを使っている。

 

 綺亜羅高校の三銃士は、三人とも麻雀と言うゲームが四人で行われることを良く理解している。

 先鋒の静香だけではなく、鳴海も福路美穂子のような他家を手駒として使う麻雀ができている。

 

 光は、

「(こいつ、やっぱり只者ではない!)」

 こうなるのであれば、連荘しないほうが良かったとさえ思えてきた。

 しかし、時既に遅し。

 その次巡に鳴海が敢えて切った牌で、

「ロン。ダブ南ドラ1。3900の一本場は4200。」

 ゆいが和了った。

 正確には鳴海が差し込んだわけでが、これで次鋒後半戦が終了した。

 

 次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 216900

 2位:鳴海 128200

 3位:ゆい 41100

 4位:萌 13800

 

 そして、次鋒全後半戦トータルでは、

 1位:光 446900

 2位:鳴海 233600

 3位:ゆい 76000

 4位:萌 43500

 光が2位以下に圧倒的な差をつけて勝ち星を手にした。

 これで、白糸台高校が勝ち星二となり、あと一つ勝ち星を取れば優勝が確定する。まさに勝ち星リーチの状態だ。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 ただ、白糸台高校が次鋒戦までで勝ち星二となることは、想定済みである。他校の選手達にとっては、副将戦と大将戦が勝負となる。

 

 これから始まるのは中堅戦だが………さすがに中堅戦に出てくる超魔物が相手では勝ち目が無い。

 勿論、ただ蹂躙されるだけのつもりは無いし、抵抗はしてみるが………、まあ、勝ち星は阿知賀女子学院が下馬評どおり取って行くだろうと考える。

 それで勝負は副将戦と大将戦になるのだ。

 

 なお、先鋒戦と次鋒戦の合計は、

 1位:白糸台高校 696400

 2位:綺亜羅高校 475900

 3位:阿知賀女子学院 228300

 4位:永水女子高校 199400

 白糸台高校が断然トップとなった。対する優勝候補ナンバーワンの阿知賀女子学院は3位と、厳しい試合展開になった。

 

 

 毎度の如く、咲は恭子に連れられて対局室に送り届けられた。迷子の件に関してだけは全くもって信頼されていない。

 それから少し遅れて、白糸台高校の多治比麻里香(多治比真佑子妹)、永水女子高校の滝見春、綺亜羅高校のエース的井美和が入室してきた。

 すると、咲は、

「麻里香ちゃん、美和ちゃん、それから滝見さん。前半戦は、思い切り行くね!」

 三人に宣戦布告した。

 麻里香と美和には『ちゃん』付け。咲は、この二人とは既に友人関係にある。

 しかし、春に対しては『さん』付けだった。

 

 そう言えば、春は、昨年と一昨年のインターハイに出場しているが、咲との対局は今回が初めてだった。

 咲が春と直接話をするのも今日が初めてである。

 それで、咲は春に対しては、まだ苗字呼びプラス『さん』付けだった。

 

 

 この頃、光は控室でソファーに寝転んでいた。

 次鋒戦の対局結果だけ見れば光の圧勝だが、実のところ光は、鳴海を相手にして相当疲れていた。

「淡さぁ。」

「何?」

「団体戦が終わっていないのに個人戦の話をするのも何だけどさ…。個人戦で綺亜羅の人達と当たると、ちょっと面倒かもよ。」

「分かる気がする。私も綺亜羅の先鋒とは結果的に7200点差しか付けられなかったし。」

「私の方も、あそこまで追い上げてきたのには正直驚いたよ。ホント、綺亜羅のヤツらは強い。気を抜いたら持って行かれるね。私でも咲でも。」

「かもね。それに、綺亜羅の次鋒って、私には、一番やり難い相手かもしれない。下手にダブリーができない。」

「絶対安全圏だけで押すしかないね。中盤まで待っていたら槓ドラを沢山乗せてくる。準決勝の数え役満はマグレじゃない。必然だって分かったから。」

「私もそう思う。あとは、絶対安全圏内を越えた時にどうするかだね。」

「槍槓が狙えると、少しはおとなしくなるかも知れないけどね。」

「でも、超偶然役だからね。光は狙ってたんだろうけど。」

「まあね。」

 

 光は、後半戦東三局までは、パワー完全復活のために敢えて様子見していたが、同時に個人戦で淡が鳴海と当たった時のことを想定していた。

 この大会は、打倒阿知賀女子学院だけではない。打倒宮永咲でもある。当然、目指すのは白糸台高校の団体戦優勝と、個人戦で白糸台高校の選手が優勝すること。団体戦、個人戦ともに白糸台高校が征することだ。

 そのためにも、個人戦では光と淡の二人で決勝進出を果たして優勝する確率を少しでも上げたい。それで、少しでも長く鳴海の打ち方を淡に見せようとした部分はあった。

 ただ、あそこまで追い上げられたのは光としても想定外だったようだ。

 

 それにしても、淡からも光からも、ここまで綺亜羅高校三銃士の評価が高いとは………。

 この会話を聞きながら、三銃士最後の一人、美誇人と当たるみかんは、

「(私、大丈夫かな?)」

 内心、穏やかではなくなった。

 白糸台高校のエースと第二エースが認める相手だ。正直、勝てる気が失せてくる………。

 

 

 控室のモニターには、中堅戦がいよいよスタートする場面が映し出されていた。

 場決めがされ、起家は咲が引いた。今回もタコス効果が効いているようだ。

 南家は麻里香、西家は春、北家は美和に決まった。

 

 

 東一局、咲の親。ドラは{③}。

 初っ端から、いっきに咲のオーラが増大して行くのが分かる。

 しかも、

「リーチ!」

 咲がいきなりダブルリーチをかけてきた。

 そして、次巡のツモで、

「カン!」

 {中}を暗槓し、

「ツモ!」

 毎度の如く{[⑤]}ツモでの嶺上開花………五筒開花を決めた。他家三人にとっては、抗う術が無いような和了られ方だ。

 {③③④⑥}と持っているところへの{[⑤]}ツモ。ローカルルールの穴五でもある。

「ダブリーツモ嶺上開花、中ドラ3(表2赤1)。8000オール。」

 しかも馬鹿デカい手。

 他家には不条理さしか感じられない和了りだ。

 

 麻里香は、既に蒼褪めていた。

 もの凄く咲は気合いが入っている。咲の下家………麻里香に向かって飛んでくる咲のエネルギーが半端では無い。

「(直前にトイレに行っておいて良かったぁ。)」

 と、麻里香は心底思っていた。

 

 東一局一本場。

 ここでは、六巡目に、

「カン!」

 咲が{東}を暗槓した。ダブ東だ。

 そして、

「ツモ! ダブ東ツモ嶺上開花ドラドラ。6100オール。」

 あっと言う間に親ハネツモ和了りを決めた。

 

 咲が和了りを決めた直後、美和が股に両手を当てていた。

 美和のところにも、咲のオーラの余波が飛んできたのだ。咲の下家ほどではないにせよ、相当なパワーを感じる。

 当然、美和も、

「(直前にトイレに行っておいて良かった!)」

 と思ったのは言うまでも無い。

 

 東一局二本場。

 序盤から、

「ポン!」

 対面の春が捨てた{中}を、咲が鳴いた。

 この時、一瞬だけ春は咲と目が合ったが、同時に咲の背後に不穏な黒い影が見えた。これは一体何なのだろうか?

 

 その後、数巡は静かな場だったが、

「カン!」

 咲が{中}を加槓すると、場の空気が一変した。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は{2}を暗槓し、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は{3}を暗槓した。

 続く三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 咲は、そのまま当然のように嶺上開花で和了った。

 

 この時だった。

 さっき、咲の背後に見えていた黒い影から、突如ホオジロザメが飛び出してきて春に襲い掛かってくるのが見えた。

 物理的には、そんなことは有り得ないが、そう言った幻を見せるだけの力が咲の槓にはあるのだ。

 春は、とっさに身構えた。

 

 この様子が映像として流れると、某ネット掲示板では、

『あの反応、分かるよモー。』

『この永水の娘って、咲様対局は初めてだっけ? by高二最強』

『初めてっス! きっとホオジロザメでも見えたっスかね?』

『ティラノサウルスじゃなかか?』

『モササウルスじゃなかと?』

『だとすると、放水は近いと見たじょ!』

『もいっこカンも出たし、放水する未来が見えるで!』

『じゃあ、初モノってこと? チョー嬉しいよぅ!』

『初モノ、スバラです!』

『対局後ではなく、対局中の放水を希望しますわ!』

『その可能性はあると思』

『春ちゃんのオモチは大きさも形も素晴らしいのです!』

 既にいつものメンバーが反応していた。

 

 開かれた手牌は、

 {6688}  暗槓{裏33裏}  暗槓{裏22裏}  明槓{中中横中中}  ツモ{8}

 

 混一色中対々和三暗刻三槓子嶺上開花。

 しかも、この形は緑一色から發が中に置き換わった形。何気にローカル役満の紅一点だ。

「8200オール。」

 ドラ無しの10翻。

 咲が余裕の親倍ツモを決めた。




怜「今回から綺亜羅高校の話やで!」

爽「タイトルは綺亜羅の旋風。」

怜「ハリスの旋風みたいやな。」

爽「適当に流して書いているだけなんで、文章の乱れとか分かり難いところがあるかも知れませんが、ご勘弁ください。」

怜・爽「「それではスタート(やで)!」」



綺亜羅の旋風-1


時は二年前に遡る。
桜の花びらが舞うこの季節。

この日、長野県の清澄高校では入学式が執り行われていた。
後に高校麻雀界を震撼させる少女『宮永咲』や、女子高生雀士アイドル『原村和』、東風の神『片岡優希』、そして、和の胸を見て鼻の下を伸ばす『須賀京太郎』と言った面々が清澄高校に入学した日である。

奈良県の阿知賀女子学院でも、同じ日に入学式が行われ、後に深山幽谷の化身として恐れられる『高鴨穏乃』や、援助交際疑惑が持ち上がる『新子憧』が阿知賀女子学院高等部へと入学した。

埼玉県でも、この日に綺亜羅高校の入学式が行われた。
綺亜羅高校は県内でも麻雀強豪校として有名で、かつては全国大会にも出場していた。
ここ数年はベスト4止まりだが、それでも県内では、かなりの麻雀強豪校と言えるであろう。

古津節子(こつせつこ)は、新しく始まる高校生活への期待に胸を膨らませ、綺亜羅高校に入学した。
綺亜羅高校は共学で、各学年10クラス。男女比は、ほぼ1対1だ。

入学式が終わり、節子達は教室へと移動した。
クラスは1年1組。

教室に入って、真っ先に節子の目を惹いたのは、一人のとんでもない美少女だった。
もはや、
『クラスに一人くらいはいるよね』
なんてレベルではない。
それこそ2位に大差をつけて余裕で学内一になれるくらいの美しさだ。

細身でスラッとしていて脚も長い。
オモチも小さくは無い。巨大ではないが、バランスの良い大きさだ。
節子は、その少女に一目惚れしたようだ。何らかの形でお近づきになりたい。

クラスの男子達の視線が、その娘に集中しているのがよく分かる。
反面、大多数の女子達は余り良い顔をしていない。これだけの美少女が生活圏内にいたら絶対に男が回ってこないのは目に見えている。
基本的に、その娘に熱い視線を送る女子は、節子以外いなかった。

男子達の羨望の眼差しと、女子達の嫌悪感極まりない負のエネルギーに満ちた冷たい視線が交差する。


担任が来た。
先ずは順番に自己紹介をさせられた。
「古津節子(こつせつこ)です。上から読んでも下から読んでも同じ名前です! 決して骨折子ではありません!」
節子は、毎回、こんな感じで自己紹介する。正直、自虐的だが、これで大抵の場合は名前を覚えてもらえる。

一方、その美少女の名前は稲輪敬子。
どうやら敬子は麻雀部に入るつもりらしい。節子と同じだ。
………と言うことは、あの美しい少女を節子は教室でも部活でも毎日拝めると言うことになる。
これは、ある意味、節子としても毎日が楽しみと言えよう。

今日は、基本的に連絡事項が中心だ。いきなり授業をやるわけではない。
HRが終わると、大方の予想通り男子達が敬子を取り囲んだ。
「ねえ、彼氏いるの?」
「好きなタイプは?」
「どの辺に住んでるの?」
どの男子も敬子を落としたいのだろう。
その気持ちは節子にも良く分かる。自分が男だったら、間違いなく、あんな女性を隣においておきたい。

と言うか、性別は関係ない。今でも敬子に近づきたい。
絶対に優越感に浸れる。デートの日には、街行く他の男どもから来る羨望の眼差しが容易に想像できる。

ただ、敬子自身は、人に取り囲まれるのが好きではないみたいだ。なんか、嫌な顔をしている。

すると、敬子の背後から、
「敬子。ほら、行くよ!」
一人の女性が声をかけてきた。どうやら知り合いらしい。
そう言えば、自己紹介の時に言っていた出身中学の名称が、敬子と同じだったことを節子は思い出した。
あと、この女性は新入生代表の挨拶をしていた気がする。
ってことは、首席入学と言うことだろう。
頭イイんだ!

その女性の名前は、たしか鷲尾静香。彼女も麻雀部に入部希望って言っていたっけ。
これはチャンスだ。
『将を射んとすればまず馬を射よ』とは良く言ったものだ。
節子は、いきなり敬子に声をかけるのではなく、まず、敬子の友人であろう静香に声をかけた。
「鷲尾さん?」
「そうだけど。」
「麻雀部希望って言ってたけど?」
「そうだけど、貴女はたしか古津さんだっけ?」
「そう。古津節子。私も麻雀部入部希望なんだ。」
「そうなんだ。」
「そっちの人も麻雀部希望だったよね?」
「敬子?」
「そう。」
「まあ、彼女も麻雀、嫌いじゃないしね。」
「それにしても男子に凄い人気だね。稲輪さん。」
「まあ、一週間もすれば落ち着くでしょ。いつものことだし。」
節子には、静香の言いたい意味が理解できていなかったが、一週間程度で敬子への熱がみんな冷めると言うことだろうか?
むしろ、他のクラスにも超絶美女の噂が流れて、もっと人が押しかけてくるようになる気もするのだが………。

「せっかくだし、鷲尾さんも稲輪さんも一緒に行かない?」
「別に構わないけど…。」
「じゃあ、早速。」
「そうね。別に、今日は他にやることないし。敬子もイイよね。」
「うん。」
と言うことで、入学初日から三人は麻雀部に顔を出すことになった。


三人が部室に入室すると、既に新1年生らしき人間がチラホラいた。
節子と同じ中学出身の娘達もいる。同じ麻雀部に所属していた鬼島美誇人と堂島喜美子だ。
「コトちゃんとミコちゃんも来てたんだ。」
コトちゃんとは美誇人のこと。ミコちゃんは喜美子のことである。
節子が初めて二人に出会ったのは中学1年の時。
最初、節子は、喜美子のことを『キミちゃん』、美誇人のことを『ミコちゃん』と呼んでいた。まあ、それが順当だろう。
しかし、喜美子が『キミちゃん』と呼ばれるのを『卵の黄身みたいでイヤ!』と言ったため、喜美子のことを『ミコちゃん』と呼ぶようになり、それに連動して美誇人のことを『コトちゃん』と呼ぶようになった。
「まあ、折角強豪校に入学したんだしね。で、節子は何組?」
こう聞いたのは美誇人。
「私は1組。コトちゃんとミコちゃんは?」
「私は9組で喜美子は6組。」
「それと、こちらが同じクラスの人で、鷲尾静香さんと稲輪敬子さん。」
静香と敬子の顔を見て、美誇人と喜美子の顔が一瞬フリーズした。

片方は、たしか新入生代表の挨拶をしてた人だ。
もう一人は、とんでもない美少女。

固まる二人に、静香のほうから挨拶した。
「1組の鷲尾静香。もう一人が、同中出身の稲輪敬子。」
「よ…よろしく。私は鬼島美誇人。節子と同じ中学出身。」
「私は堂島喜美子。そう言えば、鷲尾さんって新入生代表の挨拶してた人よね。」
「そうだけど。」
「じゃあ、頭イイんだ!」
「別に、テストの点数が偶々良かっただけ。」




この新入生の遣り取りを、少し離れたところから3年生達………秋季大会のレギュラー陣達が見ていた。
部長の児波日和をはじめ、安木礼子、浦木紀子、風間美登里、増金江里の5人だ。

秋季大会では、県大会3位。
しかし、残念ながら関東大会では準決勝戦で敗れて春季全国大会には出場できなかった。とは言え、結構な実力者達であろう。

五人の視線は、何気に敬子を捉えていた。
やはり、この美しさは目立ち過ぎる。
「何、あの子。」
「気に入らないね。」
入学初日で、いきなり敬子は先輩方に敵視されることになった。声を交わしたわけでもないのに、一方的だ。


「静香と敬子も来たんだ!」
二人の背後から一人の少女が声をかけてきた。
彼女の名前は的井美和。静香と敬子と同じ中学出身だ。

この娘もカワイイ顔をしている。
敬子ほどの美女では無いが、それでも共学クラスならクラスで2番目に人気があるくらいのレベルだ。
十人に一人………つまり十人並みと呼ばれるレベルだろう。


「じゃあ、新入生は自己紹介して。その後、新入生同士で打ってもらうよ。」
部長の日和の声だ。
ただ、正直、あまり威厳も無いし、ムリに威張っている感じがする。正直、頼りない雰囲気しか伝わってこない。

節子は、中学の頃に、既に能力麻雀に目覚めていた。
それ故だろう。何となくだが、見ただけで大体だが相手の雀力が直感的に分かる。

日和からは、特に強大な何かは感じない。特に能力者と言うわけではなさそうだ。
その周りにいる礼子、紀子、美登里、江里も同様だ。
恐らく、全員が非能力者でデジタル打ち主体なのだろう。


新入生が、端から順に自己紹介してゆく。
「1年3組の的井美和です!」




節子は、各新入生の能力を順に測っていった。
この美和と言う娘、中々の能力を持っているようだ。
ただ、まだ能力は然程目覚めていないし、恐らく本人も気付いていないだろう。でも、覚醒したら絶対に全国でも上位に入る。節子は、そんな気がしていた。


「1年6組、堂島喜美子………」
喜美子のことは同中出身なので分かっている。まあまあ強い方だが、今のレギュラー陣よりも実力としては劣っている。


「1年4組、及川奈緒………」
彼女は、喜美子と同レベルの空気を感じる。今後に期待。


「1年9組、鬼島美誇人です。」
美誇人も同中出身なので分かっている。
中学の時の戦績では、一応、節子の方が美誇人に勝ち越しているが、絶対に敵に回したくない相手だ。
同じチームで良かったとさえ思う。

中学では節子がエース、美誇人が第二エースで戦ったが、先鋒から大将までの五人による星取り戦で節子と美誇人以外の三人が勝ち星を取れず、結局、団体戦では全国大会の切符を手にすることができなかった。

個人戦では節子と美誇人が県代表となり、二人とも決勝トーナメントまで出場できた。
しかし、決勝トーナメントの一回戦で原村和と節子と美誇人が同卓となった。二人勝ち抜けだったため、そこで美誇人は敗退となった。
美誇人にとって不運としか言いようがない。

決勝卓で節子は和と大阪の二条泉と対局し、優勝が和、準優勝が節子、3位が泉となった。節子は優勝できると思っていたが、まさか和に能力が効かないとは………。
そんな人間もいることを初めて知った。
それと、節子は正直なところ泉よりも美誇人の方が数段強いと判断していた。身内贔屓ではなく、純粋にそう感じ取っていたのだ。


「1年1組、鷲尾静香です………。」
静香は、どうやら豪運の持ち主で、ここぞと言うところで勝ってくれそうだ。多分、頼りになる存在だろう。そんな雰囲気が感じ取れる。
まだ、雀力として、その豪運が目覚めていないが、その力を目覚めさせれば美誇人とタメを張りそうだ。

それに、新入生代表の挨拶をしてくらいだ。勉強はとんでもなくできるだろう。
麻雀だけではなく、テスト前にも心強い存在になること間違いなしだ。


「1年7組、竜崎鳴海です。」
この鳴海と言う女性。
彼女も能力者だ。ただ、まだ完全には目覚めていない感じがする。
この娘も凄そうだ。覚醒したら美誇人と同レベルになり得るだろう。そんなエネルギーを感じる。


多分、美和と静香と鳴海が覚醒すれば、そこに節子と美誇人を含めた五人で全国でも良いところまで行けそうな気がする。
今は、宮永照の時代と言われているが、総合力なら絶対に負けないチームに成長できる。全国制覇を十分目指せるチームになる。
節子は、そう実感していた。


「1年1組、稲輪敬子です。」
ただ、敬子については良く分からない。敬子だけは、節子のスカウターが効かないのだ。
ある意味、原村和みたいだ。


その後、1年生同志で対局した。
一応、敬子はマニュアルどおりのデジタル麻雀を打っているが、戦績は今一つ。
静香の話では、中学でもレギュラーどころか補員にもなれなかったようだ。正直、激弱である。
デジタルで考えれば、決して間違った選択はしていない。しかし、ツモが裏目裏目に来るのだ。これでは勝てない。
基本的に運が悪いとしか言いようが無い。
しかし、それでも麻雀自体は嫌っていないようだ。
好きかどうかは微妙だが………。


「おい、お前。」
3年生の一人………礼子が敬子に声をかけた。
「はい?」
礼子の方を振り返る超絶美少女。
どうやら、礼子は、
『調子こいてんじゃねえ!』
みたいなことを言いたかったようだが、別に敬子が何かをやらかしたわけでもないし、ここで何か言っても、それは高顔面偏差値の人間に対する単なるヒガミ………と言うか、イイガカリでしかない。
それに気付いたのだろう。
「いや、何でもない。」
それだけ言うと、礼子は部室を出て行った。


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百二十四本場:遅いデビュー

今回から美和の能力がまともに発動します。正直、危ないです。ベクトルはパウチカムイと同じ方向です。
作中の某ネット掲示板の住民の書き込みを含め、今後R-15の範囲内に収まるか心配になってきました。


 春季大会決勝戦、中堅前半戦。

 東一局三本場、咲の連荘。

 依然、咲の猛攻は止まらない。

「カン!」

 六巡目で暗槓すると、

「ツモ! メンホンドラドラ。6300オール。」

 咲は、そのまま親ハネツモを決めた。

 これで、咲以外は25000点持ちであれば箱割れする状態にまで点数が落ち込んだ。

 

 東一局四本場。

 ここでも、

「カン!」

 咲は、オタ風の{西}を暗槓すると、

「ツモ! 嶺上開花ドラ1。70符3翻で4000オールの四本場は4400オール!」

 その勢いに乗ったまま親満ツモを決めた。

 

 これで、現段階での中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 199000

 2位:麻里香 67000(席順による)

 3位:春 67000(席順による)

 4位:美和 67000(席順による)

 既に咲は、他家にトリプルスコア以上の差を付けた。

 

 東一局五本場。

 ここに来て、咲が失速した。

 これまで、咲は早い巡目での和了を心掛けてきた。美和が動き出す前に和了らないと面倒になると判断していたためだ。

 咲の目から見ても、それだけの力が美和にはある。少なくとも美和は、麻里香や春よりも数段上と咲からも評価されていた。

 それで咲も一気に勝負をつけに出たわけだが、ザコ相手と言うわけではない。当然、それなりの疲労は出てくるし、少し充電が必要だ。

 

 ここでは、

「ポン。」

 咲の変化に逸早く気付いた春が自風の{西}を麻里香から鳴いた。

 この時、既に春の河にはドラや赤牌が大量に捨てられていた。高い手を作っていないことを他家に知らせているのだ。

 これを察知した麻里香が、

「(そう言うことね!)」

 春に差し込んだ。

「ロン。1000点の五本場は2500。」

 芝棒分は大きかったが、これで長かった超魔物の親を流すことに成功した。

 

 

 東二局、麻里香の親。ドラは{一}。

「ポン!」

 麻里香が、美和の第一打牌の{東}を鳴いた。

 場風の牌を捨てるタイミングに付いては、色々な考えがある。

 一般には、聴牌とか一向聴くらいになるまで………つまりギリギリまで待ち続けるか、親が{東}を捨てるのを待つのが多いかもしれない。

 しかし、親が配牌で、対子で{東}を持っていない限り、第一打牌での{東}切りは、ある意味有効である。但し、自分が{東}を使わないことが前提である。

 その考えの下、美和は第一打牌で{東}を切ったのだが、まあ、これは仕方が無いだろう。いつかは鳴かれる牌と開き直るしかない。

 

 この時、麻里香はドラの{一}をアタマにしていた。赤牌の{[5]}も持っている。この手は何としてでも和了りたいところだ。

 

 麻里香の上家は全ての牌が見えている咲。当然、チーが出来るとは到底思っていない。

 しかし、美和から鳴いたことでツモが好転した感じがする。

 その後は、麻里香はドンドン進み、

「ツモ! 4000オール!」

 ダブ東ドラ3の親満ツモ和了りまで、一気に持って行くことが出来た。

 

 この麻里香の和了と前局の春の和了りを見て、美和は、

「(白糸台の人はオーソドックスな打ち手ね。これまでの戦績からすれば強い方だろうけど、ワシズ(静香)やリュウ(鳴海)やカイ(美誇人)よりは劣るかな。あと、永水の人は小さい手で流すだけ。失点を最小限に留める麻雀しかしない。)」

 麻里香と春の打ち方が、過去のデータと然程変わっていないと判断した。

 これなら、咲以外は怖くない。

 当然、ここから美和は、咲の勢いが止まっている隙をついて稼ぎにでる。

 

 東二局一本場。ドラは{8}。

 美和の配牌は、

 {二三七②④[⑤]⑥388南白中}

 幸い、ドラが三枚ある。

「(白糸台の人も永水の人も綺麗だし、やっぱ、私も楽しませてもらいたいのよね。本当は、咲ちゃんにヤりたいんだけどムリだから、ここは、この二人にサービスしちゃおうっと。では、まずは…。)」

 この局では、美和は春に対して罠を張ることにした。

 

 一巡目、ツモ{4}。春が第一打牌で{中}を切ったのに合わせて{中}切り。

 

 二巡目、ツモ{⑤}、打{七}。

 

 三巡目、ラッキーなことにツモ{2}。三色同順が見えてきた。ここから打{⑥}。

 

 四巡目、{④}をツモ切り。

 

 五巡目、ツモ{四}。これもラッキーだ。そして、春が既に切っている{白}を捨てた。

 

 六巡目以降は、{北}、{一}、{八}、{①}とツモ切りが続いたが、十巡目で美和は待望の{8}を引いた。結構ツキがあることが読み取れる。

 ここから小手返しで打{南}。飽くまでも他家………特に春にはツモ切りに見せたい。ここまで敢えて{南}を持っていたことを悟られたくないからだ。

 

「ポン!」

 これを待ってましたとばかりに春が鳴いた。この時、春は美和が{南}をツモ切りしてきたと思っていた。普通に不要なヤオチュウ牌が来たので切ったと考えたのだ。

 そして、ノーケアーで春は{③}を捨てた。

 

 この直後、春は異様な雰囲気を美和から感じ取った。

 例えるなら、美和の背後から多数の触手が伸びてきて、春の身体に巻きついてくるような感覚だ。

 しかも、その触手からは消化液が出ている。

 言うまでも無い。これは、巨大なモウセンゴケだ。

「(なにこれ? ちょっとイヤ!)」

 春の脳内では、自分が身に着けている巫女服がドンドン溶けて行き、あちこちから肌が露出して行くような幻が見えていた。

 しばらくして、

「ロン!」

 春は下家から美和の和了り宣言の声を聞いた。幻の世界と実世界の体感時間は異なるようだ。幻の世界の方が随分時間が長く感じる。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四②④⑤[⑤]234888}  ロン{③}  ドラ{8}

 

「タンヤオ三色ドラ4。12300!」

 ハネ満だ。

 自風を鳴いて手を進めたところで出てくる牌を美和に狙われたのだ。春にとっては、まさかの振込みだったようだ。

 

 

 東三局、春の親。ドラは{七}。

 ここでも美和は、執拗に罠を張る。

 やはり狙いは春。

 理由は簡単。

 全ての牌が見えていると噂される咲からの出和了りは期待できない。

 麻里香は、オーソドックスゆえに美和からすれば捨て牌も読み易いが、麻里香よりも春の方が、捨て牌が甘い。

 それに、幻の続きを見せたい。

 

 前局での和了りでツキを呼び込めたのか、美和は六巡で聴牌した。

 手牌は、

 {五五六六七七[⑤]⑤34567}

 しかも、美和の捨て牌の半分が索子。部内で静香や鳴海、美誇人と打ち込んで来ただけあって聴牌気配も見せない。

 

 ここに春が打{8}。普通に手を進めるために切った牌だ。

 その直後、今回も春には美和の背後から触手が自分に向けて伸びて来る幻が見えた。美和の能力が見せる幻影だ。

「(ちょっと待って!)」

 何本もの触手が春の全身に絡みついて消化液を出す。これによって、完全に巫女服は溶かされて春は全裸の状態になった。

 触手から出てくる粘液が、春の身体のあちこちに纏わりついている。

 しかも、粘液まみれの触手が、春の胸や股間を刺激する。

 いくら幻の世界とは言え、気持ち良過ぎて平静を保っていられなくなる。

 

 しばらくして、

「ロン! 12000!」

 またしても春の下家から和了リ宣言の言葉が聞こえてきた。春は、今回も美和にハネ満を振り込んでいたのだ。

 これで春の点数は41200点まで落ち込んだ。

 

 

 東四局、美和の親。ドラは{9}。

 六女仙として修行しているだけあって、春は、前局での美和の精神攻撃から頭を切り替えていた。さすがである。

 普通なら、性的な部分も含めて対局に集中できなくなるかもしれない。

 しかし、春は、それを振り切れるだけの精神力を持っているのだ。

 

 この局も、美和の手は順調に進んだ。

 六巡目で聴牌。

 {一三[五]}の両嵌から敢えて{[五]}を切っての筋引っ掛け。しかも、ダブ東の役配バックでドラの{9}を二枚持つ。

 ただ、今回に限って和了り牌の{二}が中々出てこなかった。

 

 十巡目、二度のハネ満振込みから春は美和を警戒していた。

 美和の捨て牌には{③}が二枚。場には、咲と麻里香からの一枚ずつ出ている。

 既に{①}も三枚切れている。

「(まさかね?)」

 と思いながら春は{②}を切った。たしかに美和なら{③}を対子で捨てて{②}単騎とかやりそうだが、それって、普通は{②}を切って和了っているのではなかろうか?

 むしろ、今までのパターンから{[五]}切りで{二八}を誘っていそうな気がする。この罠の張り方は元清澄高校部長の竹井久に似ている気がする。

 春は、{八}は持っていたが{二}は持っていなかった。一応、{八}は切らずに様子見。

 壁を信じて{②}を切った。

 

 この時だった。

 春は、急に悪寒に襲われた。

 その強大なエネルギーの発生源は美和では無い。対面に座るチャンピオン咲だ。

「カン!」

 春が捨てた{②}を咲が大明槓した。

 この発声と同時に、春には、咲の背後から再びホオジロザメが大きな口を広げて自分に襲い掛かってくる幻が見えた。

 六女仙の一人で、しかも邪神を払う力を持つ春は、霊的な攻撃には強い。しかし、実世界での攻撃に対しては普通の女の子だ。

 今、春は精神世界での幻を見せられているが、霊的な恐怖よりも、野生世界での弱肉強食の世界を見せられている。こういった攻撃に対する免疫は無い。

 思わず身構えて震え出した。

 

 咲は嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続いて手の中で既に四枚揃っていた{二}を暗槓した。美和の和了り牌は、全て咲が持っていたのだ。これでは美和は和了れない。

 罠を張ったつもりが、全て咲にしてやられた感じだ。

 

 今度は、巨大な肉食恐竜………昔、図鑑で見たティラノサウルスが、大きな口を広げて春に噛み付いてきた。

 思わず春の目から涙が溢れ出てくる。

 悪霊にも邪神にもひるまない彼女だが、やはり食い殺される恐怖には太刀打ちできないようだ。

 

 さらに咲は、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。

 

 春には、もう一頭のティラノサウルスが現れて、先に出てきた一頭が自分の上半身を、もう一頭が下半身に噛み付いている感覚を受けた。

 

 そして、その次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 咲が嶺上開花を決めた丁度その時、春は、二頭のティラノサウルスによって自分の身体が上下に強く引っ張られ、胴体から二つに引き千切られたような感覚に襲われた。

 次の瞬間、

「プシャ───!」

 春は豪快に聖水を大放出した。

 さすがに、これはマズイとの判断だろう。放送サイドは天井に備え付けたカメラで咲の和了った手牌だけをアップで映した。

 

 開かれた手牌は、

 {222⑤}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏二二裏}  明槓{②②横②②}  ツモ{[⑤]}

「対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。16000です。」

 倍満だ。これは、春の責任払いになる。

 

 この点数申告の直後、テレビに映し出される映像は解説席のほうに切り替えられた。

 そして、

「ええと、ちょっと事故がおきまして、対局は少しの間、中断しまーす!」

 毎度の如く、アナウンサーの福与恒子が、女子高生雀士ファン達に分かりやすいように説明してくれた。

 

 当然、某ネット掲示板では、

『これは、永水中堅のデビューだじょ!』

『多分、間違いないですね。さすが咲さんです』

『スバラスバラスバラ!』

『やっぱり女子高生雀士は、放出してなんぼ、放出してなんぼですわ!』

『年下のクセに胸があるからですよー』

『見えた未来のとおりになったな!』

『それよりも滝見さんのオモチ画像が欲しいのです!』

『また一人仲間が増えて嬉しいよモー!』

『先輩が鳴いて喜んでるデー』

『それにしても高一の夏から大会に出ていて初デビューっスか? デビューが遅い気がするっスよ!』

『ダル…』

 いつものメンバーで、たいそう賑わっていたようだ。

 

 

 清掃作業のため、一旦対局は中断され、選手達は控室に戻るよう命じられた。

 

 春は、控室に戻ると、制服に着替えた。

 そう言えば、制服姿の春は珍しい気がする。

「胸の辺りがキツイ………。」

 ふと、春が言葉を漏らした。

 だから普段から巫女服なのだろう。

 この言葉に、妙に明星が頷いていたが………、その場に巴や初美がいなかったのは不幸中の幸いである。

 

 一方、美和は、

「あれはしょうがないわ!」

 そう言いながら控室でソファーに腰を降ろすとホットココアを口にした。さすがにお茶類とか冷たいモノはパスしている。

「直前にトイレに行っておいて正解。もう、東一局から凄い怖かった。準決勝の比じゃないよ。個人戦で当たる時は、絶対にみんな、直前トイレは必須ね。」

「経験者は語るか。」

 こう呟いたのは敬子。

 やはりKYな娘である。一言多い。

 

 この頃、麻里香は、

「東一局一本場で、上家まで吐き気が回ってきたもんね。いきなりフルスロットルって感じだったわ。」

 こう言いながらケーキを食べていた。

 飲み物はココアミルクセーキ。

 見ている方が吐きそうだった。

 

 この頃、咲は京太郎とLINEで連絡を取っていた。まさに愛のホットラインであろう。

 京太郎からの書き込みが来た。

『やっぱり咲は凄いな! 一年の時の長野県大会決勝戦で天江さんから役満を和了っで大逆転した時から、もうドキドキしっぱなしだぜ!』

 まあ、京太郎としては普通に感動しているだけなのだが、これを読んだ咲は、

「今、それ言う?」

 怪訝な表情を見せた。

「私がリードしてるんだから大逆転なんてできないじゃん?」

 どうやら、大逆転を見せて欲しいと勘違いしたようだ。

 

 

 三十分くらいして、運営サイドから各校控室に連絡が入った。

 十分後に大会を再開するとのことだ。

 毎度のことだが、咲は、恭子に連れられて対局室へと向かった。

 

 

 咲が対局室に入室した時、既に他の三人は入室を済ませていた。

 選手達が元の席に座った。

 テレビや観戦室の巨大モニターに選手達の姿が映し出された。

 

 この直後、某ネット掲示板では、

『永水が巫女服から制服に着替えてるし!』

『やっぱりハルルでしたねー』

『デビューおめでとうと言ってあげたいじぇい!』

『デビューしてなんぼ! デビューしてなんぼですわ!』

『でも、制服姿ってはじめて見るっスよ!』

『あれではオモチが押さえつけられていて可哀想なのです! もっとオモチを大事にしなくてはいけないのです!』

『やっぱり仲間が増えていたよモー』

『デー』

『デビュー記念のサインもらいたいよぉ!』

 巨大湖形成に関わった選手を特定できて喜んでいた。




綺亜羅の旋風-2


翌日。
節子は、
「(また稲輪さんの美しい顔が拝める!)」
とワクワクしながら登校した。

教室には、まだ敬子の姿は無い。
学校から50メートル圏内に住んでいると聞いていたが………。
敬子と同中出身の静香は、もう学校に来ていた。
「おはよう。」
「ああ、古津さん、おはよう。」
「稲輪さんは?」
「ギリギリになったら来るんじゃないかな。この学校を選んだ理由も、近くだからギリギリまで寝てられるってことらしいし。」
一応、合格偏差値66とされる学校なのだが………。
そんな理由で受験したってことは、ムリしてギリギリで合格したのか、それとも余裕で合格できるところに敢えてレベルを下げて受験してきたのだろうか?
ちょっと興味がある。
敬子は、美人ちゃんなだけではなくで不思議ちゃんでもありそうだ。


その麗しきお姫様は、予鈴がなるギリギリのところで教室に入ってきた。
ただ、ちょっと髪がハネている。とかしていないのだろうか?
それに、何気に制服もよれていないか?
まあ、それでも元が良過ぎるので十分美女なのだが、昨日よりもワンランク下がった気がする。
節子としては、ちょっと残念な気がした。


今日は、いきなりテストがあった。
出題範囲は中学で習ったところ全て。
余裕と思っていたが、意外と難しい。結構、あちこちで玉砕した声があがっている。
節子も例外なく玉砕組みだった。
ただ、涼しい顔をしている輩もいる。静香と敬子だ。
二人とも、あの問題が解けたのだろか?


テストが終了し、これより部活の時間が始まる。
今日も、敬子に3年生のレギュラー五人の視線が突き刺さる。ただ、何となくだが、昨日よりは若干キツさが減った感じはある。
それでも、昨日がレベル10だとすると、今日はレベル9になった程度で天と地ほどの差があるわけではない。基本的に敬子への嫌悪感は非常に高い。
やはり、一般には超絶美少女は女の敵なのだろう。
ただ、敬子は何も気にしていない………と言うか、そもそも先輩達の視線に気付いていないようだ。


今日、節子は鳴海と美和と静香と卓を囲んだ。
東一局、節子は美和からの聴牌気配を感じた。ただ、低そうな感じだ。
対する節子は、一巡遅れだがハネ満を聴牌した。
こっちの手は高いし、ちょっと勝負してみるか?
そこで、敢えて振り込み覚悟で節子は不要牌を強打した。

まあ、覚悟していたことだが、
「ロン!」
これで美和に和了られた。
その直後のことだ。
美和の背後から巨大な触手が何本も節子に向かって伸びてきた。しかも、それらは粘液まみれである。
それらの触手が、一瞬にして節子の手足に絡みつき、節子の自由を奪った。
しかも、それらを覆う粘液は消化液だ。制服がドンドン溶かされて行く。
「(なにこれ?)」
多分、これらの触手は巨大なモウセンゴケか何かだ。
結構ヤバイ能力をお持ちのようだ。
しかし、制服が完全に溶かされ切る前に、
「2000点。」
美和の点数申告の声が聞こえてきた。すると、節子の身体に絡み付いていた触手が消えた。
いや、今まで幻の世界に意識が飛んでいたのが、元の世界に戻ってきた。むしろ、そんな感じだ。

「ねえ、もしかして的井さんって食虫植物とか好き?」
「どうしてそれを?」
「やっぱりね。多分、それが能力に出てきている。」
「能力?」
「そう。ただ、オカルティックな話を好まない人も結構いるので、もし興味があったら部活が終わったら説明するね。」
「よろしく。私、オカルトなこと、結構興味ある。」
「私も。」←静香
「Me too!」←鳴海
「そうなんだ。結構嬉しいかも。」←節子
「じゃなきゃ敬子の友達なんかやってられないって。」←静香
「言えた!」←美和
静香も美和も、敬子のことを変人と言う。
ただ、節子からすれば、
『あの美貌を考慮してミステリアスと言ってあげた方が良いんじゃないかな?』
と言う気がするのだが………、後に節子も、静香と美和が変人と比喩する理由に納得するようになる。

対局が再開された。
節子は、
「じゃあ、気合いを入れ直すからね!」
と言うと能力を開放した。
次の瞬間、美和、静香、鳴海の三人が目にしたのは、人間社会とは隔絶した世界。
急に周りが部室ではなく広大な荒地へと変わった。そして、足元では地が裂けて、そこからマグマが噴出してくる。意味不明の光景。
まるで、この世の終わりだ。
「「「えっ?」」」
三人とも、思わず声を上げて驚いた。

節子は、相手の能力支配に対抗する時や、リーチをかける時、自分が和了った時とかに、太古の地球で起きた天変地異の幻を見せる。
火山の大噴火や小惑星の激突などの超自然災害だ。

これらの起因する激しい天変地異によって、地球上では、これまでに何度も大量絶滅が起こっている。
大量絶滅の後には、空席になった生態的地位を埋めるべく、生き延びた生物から新たな進化が始まる。そのため、これらの大絶滅が、太古の地球における一つの『時代の節目』になってもいる。
その節目となる災害を見せる。それが節子なのだ。
しかも、その天変地異のパワーを纏うかの如く、高い手を連発する。まさに怪物だ。

節子は、
「じゃあ、始めるよ!」
と言いながらニコッと笑っていた。こんな中で、笑顔でいられる神経が信じられない。それが三人の共通する感想だった。


部活の後、節子は美誇人に同席してもらい、美和、静香、鳴海と一緒に駅近くのファストフード店に入った。
一応、目の保養のため敬子も誘ったのだが、
「私は学校の向かいのスイミングクラブで泳ぐからパス!」
と言われてしまった。
節子としては、
『敬子の水着姿見たい!』
とは思ったが、まあ、どうせ競泳用水着だろうし、それに美和達に能力麻雀の話をすることが最優先だ。
それで節子は、スイミングクラブを見学したい気持ちを頑張って抑えていた。

静香や美和に言わせると、敬子は中学3年生の時点で50メートルをクロールで、なんと26秒台で泳いでいたらしい。
『それってクラスで、ブッチギリで一番早いレベルじゃ?』
と節子は思ったが、それを口にする前に、
「たしか、女子日本記録が24秒台だったよね。」
と美誇人が言ってきた。
これに美和も静香も、
「「そうそう!」」
と同意する。

『マジですか?』
と節子は思った。
もしかして、敬子は麻雀部ではなく水泳部に行ったほうが良かったのでは無いだろうか?
しかし、綺亜羅高校には水泳部は無い。
敬子は非常に残念な選択をしていないだろうかと、節子には思えてきた。


ファストフード店で、節子は能力麻雀のことを美和、静香、鳴海に話した。
天江衣の海底撈月。
一説では、『穿いておらぬゆえ』とも言われているが、まあ、それは別の話だ。(元ネタは検索をお願いします。人様のネタで済みません。)
それからチャンピオン宮永照の連続和了。
愛宕洋榎のスーパーディフェンス。
これらが、特異な能力によることを節子は順次三人に説明していった。

今日の対局で節子が三人に天変地異の光景を見せたのも能力の一つである。
また、美誇人が後半に場の流れの全てを読み切り、圧倒的な追い上げを見せるのも能力の一つだそうだ。

そして、それらが節子と美誇人だけではなく、美和、静香、鳴海も持っているとのこと。

そんなことを言われても、普通はその場で信じられるわけでは無いが、高校1年生………まだ、中学2年生から二年しか経っていないし、
『普通とは違い能力を持っている!』
と言われて悪い気はしない。

基本的に、殆どの人間が中二病的ファクターを持っていると言って過言ではないだろう。当然、美和も静香も鳴海も例外ではなかった。
三人とも、やけに嬉しそうだ。

ただ、どうやったら能力を開花できるのか?
それは、自分達で意識しながら、それぞれの能力に合わせた打ち方をマスターして行かなければならないだろう。


美和の場合は、食虫植物が鍵である。
先ず罠を張ること。そのためには、白糸台高校の部長、弘瀬菫の打ち方を参考にしてみるのも良い。
基本的にはツモる麻雀ではなく、直取りを目指す麻雀になる。
まあ、
『弘瀬菫に憧れているんです!』
とでも言っておけば、周りもそれなりに納得してくれるだろう。


鳴海の場合は、おぼろげながら節子に見えたのは槓ドラ。
明日から鳴くのを躊躇せず、場合によっては大明槓を仕掛けても良いだろう。
普通とは対極的な打ち方なので批判する人も出てくるだろうが、鳴き麻雀と言う意味では、元白糸台高校の宇野沢栞の打ち方を参考にしても良い。
それこそ、今年、大宮ハートビーツに入団したプロ雀士だ。
埼玉県民なら批判してはいけない。
なので、宇野沢プロのファンとでも言えば鳴き麻雀主体でも、一応周りも納得するだろう。
もっとも、宇野沢プロのファンなのは鳴海ではなく美残人なのだが………。


静香は、一般常識範囲内では測れない豪運である。なので、平和手ではなく、もっと高い手を強引に狙っても良い。
リーチがかかっても、降りずに積極的に攻めて行って良い。豪運なので基本的に振り込まないのだから………。
それを、今までは普通の枠組みの中で打っていた。誰かが先制すれば降りていたし、手が縮こまった打ち方しかできていなかった。
つまり、その豪運を使いこなせずにいたと言える。

今後は豪運に頼った強引な攻め方になるだろう。
当然、周りからは、
『何故そんな無謀な打ち方をする』
と言われる可能性はある。
しかし、こんな強気な麻雀にも前例はある。一見、元白糸台高校の沖土居蘭の麻雀に似ているとも取れるのだ。
なので、
『沖土居選手に憧れてます!』
とでも言っておけば良いだろう。それで周りが納得するかどうかは分からないが………。


夏の大会に向けたレギュラー選考の為、近々部内戦が行われる。
それまでに、完全には間に合わないだろうが、多少の能力開花は期待できるし、実際の能力発動を見れば、三人の完成形をもっと想像できる。

目指すは秋季大会。
2年生の先輩方には申し訳ないが、この五人でレギュラーを取る。そのつもりで、明日からは練習に励んで行く。


その翌日。
節子は、唖然としていた。
昨日のテストの成績上位者が廊下に張り出された。
上位50名の名前が順に書かれている。

1位は、全科目満点の静香。やはり、新入生代表を務めただけのことはある。
そして2位は敬子。
全科目90点台をマークしての堂々の2位。
どうやら彼女は、朝、ギリギリまで寝ているために、余裕で合格できるところに敢えてレベルを落としてきた輩だったようだ。
水泳も、恐らく全国大会レベル。
しかも超絶美少女。
本当に不思議な人である。

ただ、その不思議ちゃんは昨日にも増して髪がボサボサで、制服も着崩れている。見るに耐えない姿に変貌している。
それでも美しさの欠片くらいはあるが、正直勿体無い。

節子は、
「髪くらいとかしたら。折角綺麗なのに。」
と敬子に言ったが、
「私が綺麗なはずないじゃん。」
と笑顔で言い返された。
この笑顔は、とっても可愛らしいのだが………。
ただ、この娘、自分のことが分かっていないのだろうか?
考えようによっては、非常に嫌味に聞こえる。
「毎日、なんでこんなつまらない顔って思ってるしさ。」
「…。」
「美和みたいに明るくて可愛ければ、おしゃれのしがいもあるんだろうなって思うんだけどね…。」
やっぱり、この娘、自分のレベルが分かっていないようだ。

すると静香が、
「まあ、こんなもんなのよね。だから、一週間もすれば鎮火するのよ。」
と節子に言ってきた。
入学初日に言われた件だ。
あの時、静香は節子に、
『まあ、一週間もすれば落ち着くでしょ。いつものことだし。』
と言っていたが、それは、このことだったのだ。

つまり、敬子は超絶美少女だが、非常に残念な美少女なので日に日に美しさを欠いて行き、結果的にドンドン騒がれなくなる。
気が付くと、単なるズボラな女性としてしか認識されなくなるのだ。


その日の部活では、3年生のレギュラー陣も目が点になっていた。
言うまでも無い、敬子のことだ。
さすがに礼子も、
「おい、稲輪。髪くらい………。」
節子と同じことを言おうとしたが、
「ちょっと宜しいでしょうか?」
それを静香が止めた。
「まあ、先輩。勘弁してあげてください。根がズボラで、本人も自分が美女だと言うことに全然気が付いていないんですよ、あの子。」
「はぁ?」
「あの子とまともに話すと、正直、嫌味を言われているようにしか感じないこともありますので、彼女と同中出身の私の方から先にフォローさせていただきます。」
「…。」
「彼女、本気で自分の顔が整っているって思っていないんです。自分の顔をつまらないとか見飽きたとか言うくらいですから。」
「何それ?」
「だから、本気で美女だって気付いていないんです。それで、おしゃれのしがいも無いって思ってますし………。」
「…。」
「だったら、朝もワザワザおしゃれなんかしないでギリギリまで寝てたいとか言って、それで家から50メートル圏内のこの学校を受験したくらいですから。」
「(訳分からん…。)」
礼子が敬子に向ける視線が急に変わった。礼子の中で、敬子への感情が敵意から哀れみに変わったためだ。

この日、先輩方の心の中から敬子への敵意が殆ど消えたのだが………、むしろ、あの美貌を放棄していることへの怒りの方が増してきたと言う。


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百二十五本場:触手再び

 春季大会決勝戦、中堅前半戦は、南一局から再開された。

 ただ、途中中断が入ったため、後半戦開始前の休憩は無しとの通達も受けており、各選手は、予めトイレを済ませ、必要に応じて飲み物や食べ物を持ち込んでいた。

 但し、飲み物は対局中に飲んでも良いが、食べ物は前半戦終了後、一分程度で食べることとされていた。

 

 

 親は咲。

 ここから再び猛攻が始まる。

 

 現段階での中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 211000

 2位:美和 87300

 3位:麻里香 76500

 4位:春 25200

 見て分かるとおり、咲の圧倒的リードである。

 しかし、咲は決して手を緩めない。

 

 この局、咲は四巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 積極的に攻めに出た。

 そして、次巡、

「カン!」

 チュンチャン牌を暗槓すると、

「ツモ!」

 華麗に嶺上開花を決めた。

「リーツモタンヤオ嶺上開花ドラドラ。6000オール。」

 しかも親ハネツモ。これでは他家には手の出しようが無い。

 

 続く南一局一本場でも、

「カン!」

 オタ風牌の{西}を暗槓すると、

「ツモ!」

 またもや嶺上開花で和了った。

「メンホンツモ嶺上開花ドラドラ。6100オール。」

 まさに、やりたい放題である。

 

 南一局二本場も、

「ポン!」

 咲は、美和から{東}を鳴いた後、

「カン!」

 春から{中}を大明槓して引いた嶺上牌で聴牌した。

 

 次巡、

「もいっこ、カン!」

 咲は、{東}を加槓した。嶺上牌は{八}。これで手牌の中で{八}が四枚揃い、

「もいっこ、カン!」

 {八}を暗槓して三槓子を作り上げた。

 そして、続く嶺上牌で、

「ツモ!」

 彼女は見事に嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑧⑧88}  暗槓{裏八八裏}  明槓{中中横中中}  明槓{横東東東東}  ツモ{8}  ドラ{3}

 

「ダブ東中対々三槓子嶺上開花。8200オール。」

 この半荘で四度目の倍満。しかもドラ無しで、これだけの高い点数を作り上げるのだから『凄い』の一言に尽きる。

 しかも、この和了りで春の残りは4900点まで落ち込んだ。

 もう後が無い。

 

 南一局三本場。ドラは{③}。

 咲の親を流すべく、麻里香も美和も手を作ってゆく。

 麻里香の狙いは七対子。この局は順子場ではなく対子場の流れと早々に感じた故だ。

 

 八巡目、

 麻里香の手牌は、

 {五[五]③③[⑤][⑤]115[5]9西北}  ツモ{北}

 

 ここから{9}か{西}を切れば聴牌。ただ、河を見ると{9}も{西}も初牌。咲を相手に中盤以降で初牌を切るのは抵抗がある。

 しかし、七対子ドラ6の出和了り倍満の手。

 打ち回すとしてもドラは落としたくない。

 ならば{1}切りだが、やはり心情的には、ここから打ち回したくは無い。いくらなんでも倍満を捨てると言う選択肢は無いだろう。

 麻里香は、

「(通って!)」

 祈るように目を瞑りながら{9}を捨てた。

 

 しかし、

「カン!」

 上家から鳴きの発声が聞こえてきた。咲が{9}を大明槓したのだ。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は{⑨}を暗槓し、続く嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 さらに{九}を暗槓した。

 そして、そのさらに次の嶺上牌を引き、

「ツモ!」

 御約束と言えよう、嶺上開花で和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {1西西西}  暗槓{裏九九裏}  暗槓{裏⑨⑨裏}  明槓{999横9}  ツモ{1}

 

「混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花。36900です。」

 三倍満だ。

 {西}を捨てても結果は同じ。それに、もし{1}を捨てていたら四暗刻に振り込んでいた。

 結局、ここでは{北}かチュンチュン牌を落とすしか、咲への振り込みを回避する方法は無かったと言うことだ。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 308800

 2位:美和 67000

 3位:麻里香 19300

 4位:春 4900

 麻里香もそろそろ危なくなってきた。

 普通に考えれば、19300点から簡単に箱割れするとは思えない。

 しかし、ここには親倍クラスを平気で和了る怪物がいる。一発大きいのを振り込んだら麻里香も箱割れしかねない状況だ。

 

 咲の親を終わらせても、咲なら子で大きな手を作り上げるかもしれない。

 ならば、咲にこれ以上稼がせない方法は一つしかない。麻里香か美和が、春をトバすことだ。

 

 南一局四本場。

 麻里香も美和も、手なりに打つ。

 非能力者の麻里香の場合、手なりに打つのは良くある話。

 しかし、美和の場合は少々異なる。彼女の場合、罠を張るために素直じゃない打ち方をすることが多いのだが、ここは罠を張るよりも、先ずは聴牌することを優先した。

 

 五巡目、

「ポン!」

 咲が{白}を鳴いた。

 ここから槓を仕掛けてくるだろう。それよりも早い聴牌が必要である。

 

 六巡目、

「カン!」

 咲が{白}を加槓した。

 麻里香も美和も、

「「(ツモらないで!)」」

 咲が和了らないことを祈った。

 幸い、まだ咲は聴牌していなかったらしく、手牌から{8}を捨てた。当然、これで聴牌した可能性はあるのだが…。

 

 同巡、春は、{234}と持つところに{[5]}を引いてきた。

 ダンラスでも、少しでも手を上げて和了りたい。当然、ここから{2}を切った。

 すると、

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けてきた。

 しかし、これと同時に、

「ロン! タンピンドラ1。5200の四本場は6400。」

 {25}待ちの平和手を美和が和了った。

 どうやら、ギリギリのところで咲を出し抜けたようだ。

 ただ、今回は能力麻雀による和了りではなかったようだ。それで、春は特に変な幻を見させられることは無かった。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 308800

 2位:美和 73400

 3位:麻里香 19300

 4位:春 -1500

 春のトビで終了となった。

 

 

 通常なら、ここで一旦休憩が入るのだが、予め連絡されていたとおり、今回は休憩無しで後半戦を行う。

 咲は、持ち込んでいたタコスを急いで口に詰め込んだ。

 

 

 場決めがされた。

 タコス効果は顕在だ。今回も起家は後半戦も咲が引き当てた。

 南家は春、西家は麻里香、北家は美和と、南家と北家が入れ替わるだけとなった。

 

 咲は、

「(京ちゃんのリクエストだから仕方が無いよね?)」

 今まで、身体中からビンビンに伝わってきていた激しいオーラの放出を止めた。

 

 

 東一局、咲の親。ドラは{中}。

 ここでは、何故か咲が仕掛けてこない。

 しかも、良く分からないが気が抜けたような感じを受ける。

「(これってチャンス?)」

 咲が何を考えているのか分からないが、美和は、彼女の麻雀を展開することにした。つまり、誰かを捕食する麻雀だ。

 

 ターゲットは麻里香。

 オーソドックスな打ち手のため、ある意味、罠を張りやすい。

 勿論、その罠に気付いて振り込んでこないケースも考えられるが、まずは麻里香に自分の麻雀が有効かを試してみる。

 正直、この美人ちゃんにも幻をサービスしてみたい。

 どうせなら一気に大サービスしよう!

 美和は、そう思っていた。

 

 七巡目で美和は聴牌した。

 {四五六3456777中中中}

 {23568}の五面聴。

 しかし、次巡、{一}をツモると{3}を切って{一}単騎に置き換えた。

 

 普通は有り得ない打ち方だ。はっきり言って、元清澄高校部長の竹井久のような捻くれた打ち方である。

 ただ、こう言ったアブノーマルな打ち方は、オーソドックスな打ち手に対して、時として有効である。

 まさか、そんなアホなことはしないだろうと考えるし、美和の捨て牌から、

「(索子が余ったか?)」

 くらいにしか考えなかった。

 

 そして、麻里香は、引いてきた{一}をノーケア{ー}で捨てた。

 その直後、麻里香は、美和の背後から多数の触手が伸びてくる幻を見た。その触手は粘液で覆われており、それが麻里香の身体中に巻きついてくる。

 しかも、その粘液は消化液だ。

 麻里香の制服がドンドン溶かされて、肌が露わになって行く。

 そして、胸や股間を粘液だらけの触手が刺激する。こんなの反則だ!

 この刺激欲しさに美和に敢えて振り込む人間もいるかもしれないが………、少なくとも麻里香はそうでは無い(と思う)。

 

 現実世界では、当然、麻里香が捨てた{一}を、

「ロン! 中ドラ3。8000!」

 美和は見逃さずに和了っていた。

 

 麻里香は、開かれた手を見て唖然とした。

 まさか、そんな打ち方をするとは…。

 それから、あの幻は一体何だったのか?

 食虫植物?

 そう言えば、プロフィールに食虫植物栽培が趣味と書いてあった気がする。

 前半戦では美和に振り込まなかったので気付かなかったが、これが美和の能力麻雀だ。

 

 麻里香が自分の手足を見た。

 少なくとも現実世界では制服が溶かされていることは無い。あれは、能力麻雀が見せる世界の中だけの話だ。

 

 

 東二局、春の親。ドラは{2}。

 ここでも美和は、罠を張る。

 今度のターゲットは春。恐らく、麻里香はさっきの一回で美和の麻雀を相当ケアーしてくる。中々振り込まないだろう。

 それでターゲットを春に切り替えた。

 

「カン!」

 咲が{⑤}を暗槓した。

 新ドラは{4}。

 ただ、槓したにも拘らず、咲からは破壊的なオーラは一切感じない。どうも前半戦とは雰囲気が違ったままだ。

 

 とは言え、咲が槓したことで他家は咲をマークする。

 そして、春は、親ではあるが、咲の現物で一旦打ち回した。ただ、その牌を捨てると同時に、急に悪寒に襲われた。

 その発生源は咲では無い。

 これは前半戦でも経験したところから発生している。美和の能力由来だ。

 前半戦東三局で見たのと同じ幻が春の目には見えていた。多数の触手が春の全身に絡みつき、粘液で制服が溶かされて行く。

 そして、全裸にされ、胸や股間を粘液だらけの触手が刺激する。

 別に、春だってわざと振り込んだわけでは無い(と思う)。

「クッ!」

 思わず、春の口から言葉が漏れた。快楽で頭がおかしくなりそうなのを必死に耐えているのだ。

 

 現実世界では、

「ロン! タンヤオ一盃口ドラ4。12000!」

 美和に和了られていた。

 しかも、{223344}のドラ四枚使いの一盃口入り。

 またしても美和にヤられた。

 

 

 東三局、麻里香の親。

 ここでも、

「ロン!」

 春が美和に狙われた。

 幻の世界では、既に春は全裸にされている。そこに、前局以上に粘液だらけの触手が春の全身に絡み付いて刺激してくる。

 何ともイヤラシイ状況だ。

 頭が変になりそうだ。

「12000!」

 現実世界では、またもや春はハネ満を美和に振り込んでいた。二連続だ。25000点持ちなら、もう1000点しか残っていない状態である。

「(この人…。)」

 とは言え、能力由来のイヤらしさは別として、麻雀そのものは、愛宕洋榎よりも強い。それを春は肌で実感していた。

 

 

 東四局、美和の親。

 ここでも、当然、美和は積極的に攻めて行く。

 今度は麻里香に罠を張る。

 ところが、

「カン!」

 ここでは、咲が門前で暗槓してきた。

 しかも、前々局とは違って、前半戦の時のような強大なエネルギーが、咲の全身から放たれている。

 そして、

「ツモ嶺上開花ドラ1。2000、3900。」

 咲が60符3翻の和了りを決めた。

 ここに来て、ようやく咲が動き出した感じだ。

 

 

 南入した。

 南一局、咲の親。

 ここでも、

「カン!」

 中盤に入ってすぐに咲が暗槓し、

「ツモ!」

 そのまま嶺上開花で和了った。

「ツモ嶺上開花タンヤオ一盃口ドラドラ。6000オール!」

 そして、この二度の和了りで美和を逆転した。

 

 中堅後半戦の順位と点数は、

 1位:咲 125900

 2位:美和 122100

 3位:麻里香 84000

 4位:春 68000

 点差は前半戦ほど開いていないが、順位そのものは前半戦と同じになった。




綺亜羅の旋風-3


そう言えば、世の中には中間テストなんてものがあった。
三学期制なので、年間で中間試験が2回、期末試験が2回、学年末試験が1回の合計5回も試験を受けるのか。

この期間は憂鬱だ。
しかも、試験一週間前から試験が終わるまでの間は、部活動を一切やらせてもらえない。まあ、仕方の無いことだが………。
しかし、それが終われば部活動が再開される。

ちなみに、今回も静香はオール満点。敬子は全て90点超え。
二人して今回も学年1位と2位。
こいつら、やっぱりバケモノだ。





中間試験も終わり、いよいよ、夏の大会のレギュラー選抜に向けて部内戦が開催された。二週間かけて総当たり戦が行われる。麻雀は運の要素もあるため、キチンと実力を評価するために同じ人と二度対局する。
普段は18時くらいに部活は終了するが、この時期だけ、麻雀部では少し部活動の時間が長くなる。
長考者がいない限り、半荘一回に一時間もかからないが、仮に16時スタートの18時終了では半荘三回程度しかできない。
それでは、部内戦が終わらない。
一応、強豪校と言われるだけあって、土曜日も13時から18時の5時間枠で部活がある。
とは言え、各学年が20人を超える大所帯での総当たり戦だ。結構な試合数になるし、通常運行では時間が足りない。
なので、この時期だけ特別に部活動時間を延長する。
ただ、日曜日だけは部活も休みになっていた。


美和も静香も鳴海も、まだ完全には能力開花し切れたとは言い難い。
しかし、美和と対局した2年生は、妙に顔を赤らめていたし、鳴海も倍満とまでは行かなかったが、槓ドラ4の手は幾つか和了って、その能力の片鱗を見せてくれた。
あと二週間あれば、もっと形になっていたのだろうが、それでは部内戦が終わってしまう。非常に残念だ。

静香も、まだ先行リーチ者がいると若干手が縮こまるところはあるが、以前よりは攻めに転じている。
このペースなら、彼女もあと一ヶ月程度で、ほぼ完成形に近づくだろう。

残念なのは美誇人だった。
部内戦前日に急遽入院。
噂では、中国発の新型ウイルス疾患に感染したらしく、部内戦は棄権となった。不戦敗だ。
もう夏なのに何故?

どこで感染したのかは分からない。
多分、日曜日に宇野沢栞プロの顔を拝みに大宮まで出かけた時に、電車の中でうつされたのでは無いかとの話だが………。
ただ、宇野沢プロのサインをもらえたし、生写真も撮れたので、発病して部内戦に出られなくなっても本人的には幸せだったらしい。


一方の節子は、能力全開で対局に挑んだ。
旧レギュラーの先輩方も、さすがに天変地異の光景を見せられて平常心を保てるわけが無い。しかも、その超自然災害のエネルギーを纏ったかの如く、節子は高い和了りを、これでもかと連発した。


結局、部内順位は以下のとおりとなった。
1位:古津節子(1年)
2位:浦木紀子(3年)
3位:児波日和(3年:部長)
4位:増金江里(3年)
5位:風間美登里(3年)
6位:安木礼子(3年)
7位:荒木綺羅々(3年)
8位:的井美和(1年)
9位:鷲尾静香(1年)
10位:竜崎鳴海(1年)

節子だけではなく、美和、静香、鳴海も2年生を抜いて上位にランクインした。
そして、この成績を元に、麻雀部顧問は、団体戦メンバーとして節子、紀子、日和、江里、美登里を選出し、礼子と綺羅々を補員とした。

一応、補員の中でも順列はあり、礼子、綺羅々の順ではあったが、万が一の際にどちらを出場させるかは、相手との相性によっても当然変わるだろう。

また、個人戦には、節子、紀子、日和、江里、美登里、礼子、綺羅々、美和が出場することになった。

メンバー発表の前日に、顧問は大会参加登録を済ませていた。
先鋒は節子、次鋒は美登里、中堅は紀子、副将は江里、大将は日和とのこと。節子は1年生でありながらエースポジションを任された。


ただ、3年生にとって最後のインターハイを賭けた試合だ。レギュラー落ちした礼子としては、引き下がれないものがあった。
それで、レギュラー発表の日、部活の後に、礼子は節子を呼び止めた。

部室に残っているのは、礼子、節子の他にレギュラー陣………紀子、日和、江里、美登里がいた。
彼女達は、基本的に礼子側だ。

他の部員は、全員帰らせた。補員のうち、礼子だけ残って綺羅々が残っていないのは、ある意味不自然であろう。


「3年にとっては最後のインターハイに向けての試合なんだ。分かるだろ。」
「それって、どういう意味ですか?」
「だから、私ら3年にとって最後だってことだよ!」
「私にレギュラーを辞退しろと言うことでしょうか?」
「分かってるなら、顧問に言ってきな。」
「でも、そう言うわけには行かないと思います。それに、仮に私が辞退したとして、レギュラーになるのは誰ですか?」
「当然、私に決まってるだろ!」
「でも、補員から一人上がるとして、荒木さんはどうなるんですか?」
「そんなの、私の知ったことじゃない。とにかく、お前は自信が無いからといって辞退して、私を推薦すればイイんだよ!」
「それっておかしくないですか?」
「何だと! おい。イイカゲンにしろよ。」


まこ「なんだかマズそうじゃのぉ。R-15の壁を守るため、暴力シーンはカットじゃ!」


まこのお陰で時間軸が飛んだ。


その頃、美和、静香、鳴海、敬子の三人は、学校を出て丁度、敬子の家の前辺りに来たところだった。
ちなみに、美誇人は今日が退院とのこと。明日から学校に来る予定だった。

「じゃあ、私んち、ここだから。」
敬子の家は、本当に学校から50メートル圏内にあった。これなら予鈴が鳴ってから家を飛び出しても何とかなるかもしれない………と鳴海は思った。
ここから駅の方に250メートルほど進んだところに静香の家が、そこからさらに100メートルほど離れたところに美和の家がある。
このメンバーの中で、電車通学しているのは鳴海だけだった。

ここで、敬子は三人と別れるはずだったのだが………、
「でも、何かおかしいよね。安木先輩、レギュラーで打ち合わせするみたいなこと言ってたけど、安木先輩は補員だし、もし補員も含めての打ち合わせだったら、なんで荒木先輩は残らなかったんだろ?」
そう言いながら敬子は学校の方を振り返った。
何だか嫌な予感がする。
「たしかに。ちょっと覗きに行こう。変なことされてなきゃイイけどさ。」
こう言ったのは静香。
「なんかさ、安木先輩のこと、3年生の間では、
『安木礼子(やすきれいこ)で『切れやすい子』のアナグラム!』
って言われてるみたいだし。」
「ちょっと、敬子。なにそれ?」
「スイミングクラブに行ってる里中さんて3年生から聞いた。安木さんのとこじゃ大変でしょって言われて。」
「それって、本気でマズイんじゃ…。」
四人は、大急ぎで部室へと引き返した。


静香が部室のドアを開けた時、床にうずくまる節子の姿があった。
礼子は、レギュラーを辞退しようとしない節子を美登里と日和に押さえ付けさせると、モンキースパナで節子の両手の指を順に全て折ったのだ。


折っている最中、礼子は興奮していたし、節子の悲鳴を聞いても、
『ザマミロ!』
くらいにしか思わなかったし、
『快感!』
とさえ思っていた。

しかし、その悪事を終えて頭が冷えてくると、自分が取り返しのつかないことをしたのに気が付いたようだ。
礼子はモンキースパナを持ったまま顔が青ざめてブルブルと震えていた。

「何やってるんですか!?」
大声で怒鳴りつける静香。
もはや上級生も下級生も無い。悪人かそうでないかだ。
いや、こんなことをする奴らを先輩とは認められない。

すると、
「な…何も、ここまでやらなくてもねぇ。」
と、自分は無関係であることを何気に主張しようとする紀子。
そう言えば、敬子は里中さんから、
『浦木紀子(うらぎのりこ)は3年生の間では『うらぎりのこ』のアナグラムで有名』
と言われたのを思い出した。
こいつ、真っ先に礼子を裏切りやがった。

そして、
「そうそう。私も、止めようとしたんだけどね。」
こういったのは江里。
里中さん説では、増金江里(ますがねえり)で『ねがえります』のアナグラムと言われているらしい。
本当に寝返った。

他の二人は何だっけ?
そうだ。
部長の児波日和(こなみひより)は、3年生の間では『ひよりみなこ』のアナグラム、風間美登里(かざまみどり)は『ま』が抜けると『かざみどり』なので、『間抜けで風見鶏』と呼ばれているんだった。

案の定、日和と美登里も、
「せいぜい脅す程度だって思ってたのに。」
「ホントにやるなんて、信じられないよねぇ。」
まさに里中さんの言ったとおり、二人とも完全に礼子に対して掌を返した。さすが、日和見な子に風見鶏だ。

「ちょっと、何で私だけ。」
礼子だって、自分ひとりの責任じゃないと訴えたい。
しかし、他の四人は、飽くまでも礼子だけの責任にして逃げたいのがアリアリと分かる。
「だいたいレギュラー辞退しろって言うこと自体がねぇ。」
「自己中だよね。」
「お前らだって、3年最後の大会だから3年生だけでチームを組んだ方がイイって賛成してくれたじゃないか!」
「知らないわよ、そんなの。」
「言ってないし!」

ただ、3年生は誰一人として救急車を呼ぶ素振りさえ見せなかった。責任逃れすることしか頭に無かったのだ。





結局、鳴海が警察と救急車を呼んだ。
その場に居合わせた3年生五人は、全員、警察に連れて行かれることになった。当然であろう。





節子は、救急車で搬送され、一先ず美和が救急車で同行し、他の三人はタクシーで病院に向かった。
また、タクシーの中から鳴海は美誇人に電話して、このことを伝えた。
美誇人も、病み上がりではあるが、節子の一大事である。病院へと急行した。


医師の診断では、幸いにも全て単純骨折で、全治半年と言われた。
ただ、以前のように、器用に指を動かすレベルにまで機能回復するには、もっと時間がかかると言われた。


少しして、節子の母が病院に到着した。
状況は静香が説明した。
どうやら節子が、
『麻雀部には鷲尾さんって学年1位の凄い勉強が出来る人がいる!』
と言っていたようだ。
節子の母親も、多くの親達と同じで、
『勉強が出来る友人』
に弱い………と言うか信用してくれる傾向が強いようだ。
それで静香の説明を落ち着いて素直に聞き入れてくれた。


美和、敬子、静香、鳴海、美誇人の五人は、一先ず病院を出た。
「あいつら、許せないね。」
節子との付き合いが一番長い故だろう。美誇人が一番怒りを露わにしていた。
「当然! でも、もし美誇人も部内戦辞退にならなかったら、同じ目に合わされていたかも知れないよね。」
こう言ったのは美和。
「たしかに、そうだね。でも、美和だって、もうちょっと勝ってたら危なかったかもしれないよね。」
これは鳴海の台詞。

三人とも、基本的に頭の中を占めているのは礼子への非難だった。
しかし、
「でも、今回の件で大会出場停止とか、麻雀部解散とかならないよね?」
敬子は、その一歩先を心配していた。
自分達のせいでは無いのに、自分達が何らかの責任を取らされたりはしないだろうか?
それどころか、自分達の居場所が失われないだろうか?
それが気がかりだったのだ。

すると、
「敬子の言うとおりよね。仕方が無い。この手を使うか。」
と言うと、静香がスマートフォンで電話をかけた。
そして、
「もしもし? 私、静香です。実はですね………。」
先方に事件のことを説明し始めた。
さらに静香は、麻雀部を潰さないようにお願いをしていた。
果たして、相手は、いったい誰なんだろうか?


電話が終わると、鳴海が、
「誰に電話したの?」
と静香に聞いた。当然だろう。
「母方の伯父に…。実は、その伯父が綺亜羅の理事長………と言うか、要は経営者でさ。」
「「えぇっ!?」」
これには、鳴海も美誇人も驚いていた。
美和と敬子は知っていたみたいだが………。


超成績優秀な静香が、偏差値を10以上も余裕を持って綺亜羅高校に入学した理由は幾つかある。

一つ目は、家から近かったから。
これだけ聞くと、敬子と同じように聞こえるが、静香の場合は、朝は余裕を持って起床している。別にギリギリまで寝ていようなどとは思っていない。
通学時間が短ければ、他の事に時間を使うことができるし、通学でムダに体力を使うことも無い。
それに、綺亜羅高校からだって最高学府に合格する人はいる。なので、自分さえしっかりしていれば綺亜羅高校からでも十分イイ大学に進学できるだろう。別に悪い条件ではないとの考えだ。

二つ目は、敬子が心配だったから。
この不思議ちゃんとは、美和も静香も幼稚園の頃からの付き合いである。なので、敬子のKYには慣れているし、今更何とも思わない。それに、旧友故に敬子から目が離せなかった部分がある。

そして、三つ目が伯父の学校だから。
これは静香自身の理由と言うよりも、伯父の意思………と言うか依頼であった。
伯父は、身内の贔屓目無しに見て静香が極めて優秀であることを理解していた

綺亜羅高校の合格最低ラインは偏差値66。
これに10以上余裕でいると言えば、どれだけ超優秀かが分かるだろう。
つまり、静香の伯父は、彼女なら綺亜羅高校の大学進学実績に大きく貢献してくれると踏んだのだ。

「体外的な部分があるから、部そのものを完全に無罪放免ってわけには行かないらしいけど、少なくとも部を無くすことだけはしないって。圧力をかけてくれるって。」
「圧力? 誰に?」
こう聞いたのは鳴海。
すると静香は、
「校長に………。」
とだけ答えた。


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百二十六本場:一日二回

 春季大会決勝戦、中堅後半戦。

 南一局一本場、咲の親

 ここでは、

「カン!」

 咲が{1}を暗槓し、有効牌を引いて聴牌すると、

「リーチ!」

 そのままリーチをかけてきた。

 一昨年のインターハイ二回戦で、姉帯豊音の能力をかわした時に状況が似ている。

 もっとも、対戦相手は違うが………。

 

 この時も既に、美和は罠を張っていた。しかも、その罠は咲がリーチすることによって完成する。待ち牌が咲の現物なのだ。

 

 春は、一先ず咲と美和の共通安牌切りでセーフ。春としても、可能な限り、この二人を同時にマークしたい。

 麻里香は、一旦咲の現物切りで対応した。

 しかし、

「ロン!」

 下家から和了り宣言が聞こえてきた。振り込んだのだ。

 これと同時に、麻里香は再び巨大食虫植物に襲われる幻を見た。

 既に、美和の背後から伸びている粘液まみれの触手が、麻里香の全身に絡み付いていた。

 これは、前回の幻からの続きだ!

 当然、全裸状態だ。それでいて、執拗に胸や股間を触手が刺激してくる。

 全身がネトネトしたものに覆われて、何か変な気分になってくる。

 これでもパウチカムイには敵わないのだろうけど………。

 

「12300!」

 現実世界では、美和の点数申告がなされていた。麻里香は、咲のリーチをかわそうとして美和にダマハネを振り込んだのだ。

 ふと、我に返ると、あんな幻を見ていたこと自体が恥ずかしい。

 麻里香は、急に赤面し出した。

 

 これで美和が再び後半戦のトップに返り咲いた。

 ここから、どれだけ点数を稼げるかは分からないが、ここまで来た以上、綺亜羅高校だって優勝を目指したい。

 自分達のせいでは無いのに出場停止にされて、大会に出場できずにモヤモヤした気持ちのまま一昨年の夏から昨年の秋までを過ごしてきた。

 ようやく掴んだチャンスだ。自分達だってモノにしたい。

 

 美和自身が咲に前後半戦トータルで勝てるとは思っていないが、チームとしては別だ。

 自分のやるべきことは、得失点差を視野に入れて可能な限り稼ぐこと。それだけだ。

 美和は、自然と小さくガッツポーズを取っていた。それだけ今回の和了りは嬉しかったようだ。

 

 

 南二局、春の親。

 ここでも美和は、麻里香に罠を張る。

 ただ、今まで程きつい罠では無い。例えば、{6677}と持っていたところから{67}と落とし、{58}待ちにする程度のことだ。

 

 ところが、準決勝の時とは違って、決勝戦での美和の罠は、落ちた者が非常に気持ち良くなる。

 それ故であろう。ターゲットとなった者………麻里香も、心のどこかで自ら美和に振り込むことを願ってしまう。

 この結果、普段なら止まるはずの牌を麻里香が切ってしまった。振ってはいけないと思いながらも、心のどこかであの幻を見ることを願ってしまったのだ。

 

 当然、その麻里香の暴牌を美和は逃さない。

「ロン!」

 この美和の発声と同時に、麻里香は幻の続きを見た。

 何本もの触手で全身が攻められている。しかも、全身は既にネトネトした粘液にまみれている。変な感覚だ。

 麻里香は、頭の中が一瞬真っ白になった。

 …

 …

 …

 

 

 麻里香が幻を見せられている時間は、現実世界では、ほんの数秒間なのだが、麻里香には、それが数十分もの長い時間に感じられた。

 

「タンピンドラ1。7700。」

 現実世界では、美和が麻里香から満貫級の手を直取りしていた。

 点数申告の声を聞いて、麻里香が、ふと我に返った。

 非常に恥ずかしい。

 正気に戻ると、今まで公衆の面前………全国生中継で、非常にイケナイことをしていたみたいで赤面してくる。

 当然、麻里香の表情がおかしいことに気付く人もいた。

 

 某掲示板では、

『白糸台の娘、どうしたじょ?』

『なんか、イってるっスね?』

『麻雀でイクなんて、そんなオカルトありません!』

『そんなオカルトあるとよ!』

『こんなお下品な目立ち方は許せませんわ!』

『それよりオモチ画像を映すべきなのです!』

『あれって気持ちよくなっているんだと思』

『振り込んで気持ち良いなんて、わけ分からないし!』

『でも、そう言う能力あるヨ! 一昨年のインターハイで対局後に経験した!』

 その変化に気付いた者達が反応していた。

 

 

 南三局、麻里香の親。ドラは{四}。

 さすがに、麻里香も両頬を叩いて気合いを入れ直した。あんな幻に惑わされてはいけない。今は、麻雀大会の真っ最中だ。

 さっきの恥ずかしい幻のことは忘れてなくては!

「(頭を切り替えろ! 集中!)」

 麻里香は、そう心の中で強く自分に言い聞かせた。

 

 しかし、美和はさらなる和了りを目指す。

 次は春でも麻里香でも良い。狙う牌を掴んだ方から和了る。

 

 春も麻里香も、筋引っ掛けの嵌張待ち程度では、もう振り込んでこないだろう。

 しかし、振り込ませる手はまだまだある。

 単騎待ちやシャボ待ちなら読み難い。特に単騎待ちを読み切るのは困難であろう。

 あとは、どうやって罠を張るかだ。

 

 東四局と南一局で咲が連続で和了ったことで、春も麻里香も咲への警戒を強めた。ならば、咲の現物で、且つ春か麻里香が序盤に切った字牌単騎で待つ。

 これは、春または麻里香と咲が一枚ずつ切った牌になるため、当然、地獄待ちである。

 しかし、薄い待ちだが、効果的でもある。

 

 この局では、春と咲が早々に{西}を切った。

 ならば、美和は敢えて{西}で待つ。

 役は、先ずは手なりで作る。

 咲が槓するようになったからか、場が順子場でなくなっている気がする。ならば、七対子もしくは一盃口を狙う。

 幸運なことに配牌時点で{四}が二枚に{[五]}が一枚ある。

 ここに{五}を重ねられた。続いて{六}が来るが、一盃口が出来るかどうかは分からない。あとは直感のみが頼りだ。

 

 八巡目、美和はようやく聴牌した。

 手牌は、

 {四四五[五]②②⑨⑨8899西}

 

 一盃口は作れなかったが七対子が出来た。しかも{西}地獄待ち。聴牌気配は抑えて春か麻里香から出るのを待つ。

 

「カン!」

 咲が{中}を暗槓した。やはり迫力がある。

 しかし、今回も嶺上開花は無し。有効牌の引き入れのみに留まったようだ。

 

 次のツモ番は春。

 ここで春は、{西}をツモった。

 咲と美和の両方をマークしてきたが、直前の咲の暗槓で意識が咲の方に大きく偏った。相対的に美和への警戒が薄れたのだ。

 その結果、春は{西}を躊躇無しにツモ切りした。

 

 春が{西}を河に置いた直後、再び彼女は悪寒に襲われた。後半戦の東場で経験したのと同じものだ。

「ロン!」

 その発生源は美和。春は、東三局で見せられた幻の続きを見せられた。

 全身がネトネトした粘液に覆われて全身が触手で刺激される。六女仙として修行してきた身でも、この快楽には抗えない。

「うっ! あぁ…。」

 思わず声が出た。

 

 某掲示板では、

『永水の娘、ヤバそうだじょ?』

『なんか、こっちもイってるっぽいっス?』

『ですから麻雀でイクなんて、そんなオカルトありません!』

『だから、そんなオカルトがあるとよ!』

『でも、こんなお下品な目立ち方は許せませんわ! やっぱり正々堂々、麻雀で目立つべきですわ!』

『制服でオモチを締め付けて良くないのです! オモチを開放すべきなのです!』

 麻里香の時と同様に、何人かがその変化に気付いて食い付いていた。

 

 

 現実世界では、

「七対ドラ3。8000!」

 美和が春から満貫を和了っていた。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:美和 151100

 2位:咲 124900

 3位:麻里香 64000

 4位:春 60000

 美和がトップでオーラスへと突入した。

 ただ、これが前後半戦トータルでは、依然として咲がダントツである。やはり、前半戦の308800点は大きい。

 勿論、美和は、これを逆転できるとは思っていないが、出来るところまで点差を詰めるつもりだ。

 

 

 オーラス、美和の親。

 ここから美和は、どんな手でも良いから和了りを目指す。

 罠を張る麻雀に固執するわけではない。安手のツモ和了りでも良い。リーチのみでも良い。芝棒一本でも余分に稼ぎたいところだ。

 

 この局、美和は配牌五向聴だったが、結構順調に手が進んだ。そして、七巡目で聴牌し、

「リーチ!」

 この流れならツモれると判断したのだろう。リーチをかけた。

 

 手牌は、

 {三四[五]六七七七⑥⑦⑧444}

 {二三五六八}の五面待ち。

 殆どムダツモ無しで、ここまで手が伸びてきた。この流れに、この待ちなら殆どの人がツモれると思うだろう。

 

 そして、一発目のツモは………{②}。不発だった。美和は、リーチをかけているので仕方なくツモ切りした。

 その直後だった。美和は、咲の方から強大なオーラを感じ取った。

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けてきたのだ。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続いて咲は{①}を暗槓した。続く嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は{③}を暗槓し、さらに次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。これで、四つ目の槓子が出揃った。

 残る嶺上牌は一枚のみ。咲は、これをツモると、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。{[⑤]}での和了りだった。

「32000です。」

 まさかの四槓子。

 これには美和も、

「チョロ………。」

 少し漏らした。

 ただ、出す量が元々少なかったためか、制服が全て吸い取ってくれる程度の量でしかなかったのは幸いだった。

 

 ただ、

「チョロチョロチョロ………。」

 最も咲のオーラを受けるのは咲の下家の春である。

 春も、試合再開前に用を足していたので前半戦ほどの量は無かったが、制服で吸い取れる量を超える聖水を放出してしまった。

 足元には泉が形成されている。

 

 放送サイドは、慌てて映像を解説の方に切り替えた。

「ええと、またもや事故がおきたようでして、しばらくお待ちください。」

 しかも、アナウンサーの福与恒子の誤魔化し方が下手である。

 

 当然、状況理解の早い者達………某掲示板の住人達は、

『犠牲者は誰デー?』

『特定よろだよモー』

『もしかしてキラーっスか? 最後にスーカンツ振り込んだっスし!』

『もしハルルなら一日二回ですよー』

『やっぱり時間を気にして前半戦と後半戦を続けてやったのが良かったんだと思』

『一日二回なら、いきなり殿堂入りで良いですわ!』

『でも、永水と白糸台は途中でイヤラシイ顔になってたし!』

『何をしていたのか興味がありますね! いずれにしてもスバラです!』

『こちら現場。永水がジャージを持って急行中!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

 …

 …

 …

 相当盛り上がっていた。

 

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 157900

 2位:美和 118100

 3位:麻里香 64000

 4位:春 60000

 

 そして、前後半戦のトータルでは、

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 466700

 2位:美和 191500

 3位:麻里香 83300

 4位:春 58500

 圧倒的な点差で咲が勝ち星を手にした。これで勝ち星は、白糸台高校が二つ、阿知賀女子学院が一つとなった。

 

 また、先鋒戦から中堅戦までの合計(総合得点)は、

 1位:白糸台高校 779700

 2位:阿知賀女子学院 695000

 3位:綺亜羅高校 667400

 4位:永水女子高校 257900

 阿知賀女子学院が一気に追い上げて2位となった。

 白糸台高校が依然トップだが、白糸台高校、阿知賀女子学院、綺亜羅高校の三つ巴状態と言っても良いだろう。

 

 

「「「あ…ありがとうございました!」」」

 咲と麻里香と美和は、急いで対局後の挨拶をすると、急いで卓を離れた。

 そして、咲と麻里香は、まるで逃げるようにいそいそと対局室から出て行った。

 美和は、ほんの少しとは言え漏れたのがバレないように、何気にハンカチで自分が座っていた椅子を拭いてから退出したのだが、解説の方に映像が切り替わっているので、このシーンが放送されなかったのは幸いであろう。

 

 

 咲は、対局室を出たところで恭子を見つけると、

「じゃあ、麻里香ちゃん、美和ちゃん、また後で。」

 恭子に連れられて控室に戻って行った。

 

 

 対局室には、春が一人残された。

 ここに着替え(ジャージ)を持って明星が入ってきた。

「お疲れ様です。これに関しては、私の方が先輩ですもんね。」

 こう言いながら明星がジャージを差し出した。

 ただ、春は、

「でも、一日二回で記録としては私の方が上!」

 意外と落ち込んでいなかった。

 むしろ、これくらいで動じるようでは、まだまだ六女仙として修行が足りないと思っていたようだ。

 

 

 美和が控室に戻ってきた。

「またやっちゃったよ。数滴だけどね! 出るもの無かったし!」

「ホント、お疲れさん。私が中堅でなくて良かったってつくづく思うもん。嫌な役回りさせてゴメンね。」

 こう言ってくれたのは静香。

「むしろ、後半戦が始まる前に休憩を入れなかったのが原因ってネットにも書かれてるからね。別に美和のせいじゃないよ。」

 こう擁護してくれたのは美誇人。

 そして、

「でも、マジで気付かなかったよ。まあ、世間的にはしてないって思われてるだろうし、気にしないでイイんじゃない?」

 何事も無かったことにしようとしてくれたのは鳴海だった。

 しかし、

「昨日もだよね。二日連続だね。オムツして出た方が良かったんじゃない?」

 と穿り返してくるのが敬子。

 こう言われて、

「「「「(またか…。)」」」」

 と敬子以外は全員思っていたようだ。

 

 一方、咲は、

『京ちゃんが逆転勝ちを見たかったみたいだから逆転勝ちを狙ってみたよ!』

 とLINEで京太郎に報告したのだが………、

『逆転勝ちじゃなくてもさ、咲が凄い勝ち方をしてくれれば、それで最高だよ。前半戦の圧勝も凄かったよ!』

 と京太郎から返ってきた。

「(なにそれ! だったら後半戦も最初から蹂躙したのに!)」

 まるで快晴からゲリラ豪雨に変わるかのように、急に咲の顔から笑顔が消えて、久々に彼女の全身から暗黒物質が放出され始めた。

 この咲の怒りは、明日から開催される個人戦のほうにぶつけられるのだった。個人戦で咲と当たる人達が最終的な犠牲者である。




綺亜羅の旋風-4


節子が私刑を受けた翌日、朝から緊急職員会議が開かれた。

初っ端に決まったことは麻雀部の夏の大会出場辞退であった。
これは、日本の文化では一般論として止むを得ないだろう。他の部員には何ら責任は無いと言うのに………。

次に決まったことは、礼子の退学であった。
但し、書類上は自主退学とさせる。
高校側が素行不良で礼子を退学処分にした場合、永遠にその記録が礼子の人生の足を引っ張ることになる。
自主退学の方が、記録上はマシなのだ。

その次に決まったことは、日和、紀子、江里、美登里の麻雀部退部と自宅謹慎処分。
四人とも無罪を主張しているが、節子の指を十本折る間、礼子を止めなられなかったのは全くもっておかしい。
それに美登里と日和は節子を押さえ付けていた。
どう見ても共犯者だ。

ただ、教員側としては事件を大きくしたくなかった。
それで、敢えて、
『この四人は礼子に脅されていて事件を止められなかった』
くらいの認識に留めたようだ。
ある意味、
『臭いモノには蓋をする』
の精神だ。
実際には、蓋をするどころか、そのまま見なかったことにしようと言う日本人独特の風潮なのだが…。

麻雀部を解散すべきとの意見もあったが、予め静香の伯父から校長に釘が刺されていたこともあって廃部だけは免れた。
しかし、顧問は辞職することになった。
監督不行き届きだ。
これは仕方が無いだろう。

他にも、活動停止期間を設けるべきとの意見や、対外試合禁止期間を設けるべきとの意見もあったが、麻雀部をどうするかに付いては、廃部にしないこと以外は、この日のうちには決まらなかった。


一週間が過ぎた。
既に、今週頭に県大会出場手続きは最終していた。
エントリー期間は一週間程度。もっとも、大会辞退の綺亜羅高校麻雀部にとっては、もうどうでも良いことだ。

未だに麻雀部への処分は、正式に決まっていなかった。うやむやなまま時間だけが過ぎていった感じがある。

既に節子は、退院して学校に来ていた。
指は全て固定されて動かすことができない。当然、授業に出てもノートも取ることが出来ない。
ノートは、静香のノートを全てコピーさせてもらうことにした。今回ばかりは、それを教員側も受け入れざるを得ないだろう。


この日、理事長と校長に、麻雀部の部室に来てもらった。節子発案、静香経由で理事長に依頼したのだ。

節子は、二人に能力麻雀に付いて説明した。
その例として、照や洋榎、衣、憩、菫と言った女子高生有名選手、さらには慕や戒能良子等のプロ雀士についても触れた。
そして、そう言った能力を持つ者が、綺亜羅高校にもいることも…。

百聞は一見にしかずである。
節子は、理事長と校長、美和、美誇人の四人で実際に打ってもらうことにした。
それから静香にお願いして、敬子には入学式の日と同じレベルで綺麗にしてもらっていた。
一応、敬子には、
『来客があるからキチンとしよう!』
と言うことにしていたが、実は、この敬子こそが鍵であった。

場決めがされ、起家が美和、南家が校長、西家が理事長、北家が美誇人に決まった。
そして、節子は何気に、敬子には卓から二メートルほど離れたところで、位置としては丁度、美和と美誇人の間に立たせた。つまり、校長と理事長から良く見える場所だ。

あの事件以降も、美和は麻雀の能力を鍛えていてくれたようだ。纏う雰囲気から、それを節子はヒシヒシと感じていた。
それで、節子にはダメ元で美和に幻の操作をお願いした。
一応、美和としても、
「面白そう!」
と言って、喜んでチャレンジしてくれるとのことだった。
あとは巧く行くことを願う。


この局の美和の捨て牌は、
西①9中白二
普通の切り出しだ。

ここで校長が引いたのは二枚切れの北。
不要牌だし、ノーケアーでこれを切った。
ところが、
「ロン!」
これで美和が和了った。

校長の意識が幻の世界へと飛ばされた。
そこで、校長は、背後から巨大な四本の触手に捕まり、手足を拘束されて身動きが取れなくなった。
ただ、椅子に座っていない。良く分からないが、何故か立っていて十字架に張り付けられているような感覚だった。
触手からは、粘性を持った消化液が出ている。それで衣類がドンドン溶けて行く。
そして、気が付くと下半身が裸になっていた。ナニが丸出しだ。

ふと、女性の声が聞こえてきた。
校長が、声のする方に顔を向けると、そこには敬子の姿があった。
麻雀部きっての………いや、学内きっての美少女だ。
その美少女が服を脱いで校長に迫って来る。
節子が美和に依頼した幻とは、これだったのだ。


まこ「これ以上はR-18じゃ! ワープじゃ!」


「一盃口ドラ2。7700!」
美和の点数申告の声を聞いて、校長は我に返った。
幻の世界から解放されたのだ。
服は着ている。溶かされていない。
敬子も服を着ている。
ただ、さっきまで校長は敬子とイケナイことをしていた記憶がある。勿論、幻の世界の中での出来事だったのだが、どこまでが現実で何処までが夢なのか分からない。
イイ年したオジサンでも敬子の顔を見るのが恥ずかしくなる。
何気に校長は敬子から目を逸らした。

東一局一本場。美和の連荘。
今度は理事長が美和の罠に嵌った。
「ロン!」
そして、理事長の意識は幻の世界に飛ばされた。
勿論、見せられる幻は校長の時と同じ。超絶美少女、敬子のオモテナシ(?)である。


まこ「これもワープじゃ!」


「ロン。9600の一本場は9900!」
美和の点数申告の声を聞いて、理事長は現実世界に戻ってきた。ただ、校長と同じで、どこまでが現実でどこまでが夢なのか分からない。





対局は、その後、美誇人が場の流れを見切ってツモ和了りを連発し、最終的に美誇人が1位、美和が2位、校長が3位、理事長が4位で終了した。
しかも、校長と理事長は仲良くトビであった。


一応、節子の狙い通りになったようだ。
校長と理事長は、少なくとも、
『この娘(敬子)を悲しませてはいけない!』
との共通認識だけは持ったみたいだ。
やはり、敬子が身なりを綺麗にして黙っていれば、彼女に惹かれない男など稀有であろう。

ただ、最低限、一年間の対外試合禁止だけは免れなかった。
せめて、これくらいはしないと外部が納得しないからだ。

しかも、その一年の開始日は、それを外部にアナウンスした日とする。その期間内は、大会にエントリーすることも許されないし、外部との練習試合も出来ない。

そうなると、来年の夏の大会は、どうなるのだろうか?
エントリー期間が今年と同じ日程だった場合、参加できないことになる。

節子達1年生は、まだ再来年がある。
しかし、今の2年生達は?

すると、
「私達は、どうせレギュラーになれないし、諦めてるからイイよ。」
2年生の一人が言った。
他の2年生も、基本的には同意見のようだ。

それもそのはず。先日の部内戦の成績では、3年生を除いた今の部内順位は、
1位:古津節子(1年)
2位:的井美和(1年)
3位:鷲尾静香(1年)
4位:竜崎鳴海(1年)
5位:堂島喜美子(1年)
6位:及川奈緒(1年)
7位:鈴木真帆(1年:『スマホ好き』な少女)
しかも、本来なら間違いなく5位以内に美誇人の名前が入る。
団体戦レギュラーと補員、個人戦出場者の計8名の枠が、既に1年生だけで埋められているのだ。もう2年生の出る幕ではないとの判断だ。

なので、2年生の部員達は、麻雀部には所属するが、他の部も兼部する。恐らく、兼部先の方に割く時間の方が多くなるだろう。

大会出場辞退となれば3年生は事実上引退。
そう言った状況なので、部長は1年生2年生全員の意思で節子に決まった。
今の綺亜羅高校麻雀部では、彼女がブッチギリでトップの実力なのだ。当然、彼女に任せるべきとの判断になる。

副部長は、
「ワシズ、お願い!」
「私が!?」
「ワシズなら頼もしいし!」
節子の依頼で静香が任されることになった。しっかり者の静香なら節子も安心できると考えたのだ。



翌日の職員会議で、麻雀部の一年間の対外試合禁止が正式に決定された。
勿論、廃部にはならない。敬子を悲しませないため、校長と理事長が麻雀部廃部を唱える者達に圧力をかけてくれたのだ。
しかも、活動停止にもならなかった。校内での部活動自体はOKだ。
勿論、これも敬子のためだ。

そして、顧問は校長が引き受けることになった。
多分、敬子目当てだろうが………。





翌週の木曜日から日曜日にかけて埼玉県大会が開催された。
参加校が多いので、長野県大会や奈良県大会のように二日では終わらない。
木曜日に一回戦、金曜日に二回戦と三回戦、土曜日に準々決勝戦と準決勝戦、日曜日に決勝戦が行われる。
100000点持ちの点数引継ぎ制で、決勝戦以外は先鋒から大将まで各半荘1回ずつ、決勝戦のみ各半荘2回ずつとなる。

場所は、何故か熊谷。
電車が混むと、両手を固定した状態の節子には正直辛い。つり革にも何にも掴まることが出来ないからだ。
しかし、熊谷は下り方面なので、それほど電車は混まない。多分、座れる。
それで節子達は、土日には会場に行って大会を見学した。

有名どころと言えば、越谷女子高校、所沢第二高校、不動高校、春日部中央高校。そんなところか?
これら四校が順当に決勝まで勝ち進んだ。

特に所沢第二高校の先鋒と次鋒、1年生の双子の姉妹、戸成皐月(となりさつき)と戸成芽衣(となりめい)は要注意と巷では言われていた。
その評判どおり、この二人の活躍で、決勝戦は、次鋒戦が終わった段階では所沢第二高校が2位に大差をつけてトップだった。

しかし、その後、越谷女子高校が追い上げて見事逆転。
最終的に越谷女子高校がインターハイ出場を決めた。

ただ、節子は、
「(これなら、私と美和、コトちゃん、ワシズ、リュウの5人で十分勝てる気がする。)」
自分達の方が強いと感じていた。これは、身内贔屓では無い。純粋に、そう思えたし、それだけの自信があったのだ。

それと、この頃から、麻雀部内では静香のことをワシズ、鳴海のことをリュウ、美誇人のことをカイと呼ぶようになっていた。
節子と美和と敬子は普通に名前で呼ばれていたのに、何故ワシズとリュウとカイだけ?
良く分からないが、そうなった。
ただ、節子だけは美誇人のことを今までと同様にコトちゃんと呼んでいた。その方が節子にとっても言いやすいのだろう。





大会が終わると、期末テストの期間に突入した。
両手が使えない節子は字が書けない。なので、特別措置として中間試験の成績と出席日数だけで節子の成績はつけられた。

期末テストの成績も、静香が1位で敬子が2位。
さすがだ。

特に麻雀部からは追試を受けるような娘はいなかった。
幸運なことに、清澄高校の片岡優希のようにテストの点数で周りに心配をかける娘は綺亜羅高校麻雀部には居なかった。


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百二十七本場:副将戦開始

 春季大会決勝戦は、中堅後半戦が終わった後、清掃作業に入った。

 放送サイドは、この間、何も放送しないわけには行かない。それで、今までのダイジェスト版を急遽編集して流していた。

 

 ただ、国営放送ゆえか、春と麻里香が見せた妖しい表情は全てカットされたし、放水を思わせる部分の映像もカットされた。

 非常にお堅い選択だ。

 

 当然、掲示板の住民達は、

『これはスバラくありませんねぇ』

『こう言った編集は良くないと思』

『ないない! そんなの!』

『そんなオカルトありえません』

『オカルトじゃなかと!』

『それよりオモチベーション維持のためオモチシーンを増やすべきなのです!』

『つまらないよモー』

『先輩が悲しんでるデー』

『こんな編集しているようじゃ暗い未来しか見えへんわ』

『美味しいシーンを放送してなんぼ、放送してなんぼですわ!』

『私が侵入して誰にもバレないように操作してくるっス』

『よろしく頼むじぇい!』

 当然、不満タラタラだった。

 

 

 二十分くらいして各控室に電話連絡が入った。そろそろ、副将戦を開始するので副将選手は対局室に来るようにとのことだ。

 美由紀は、

「(穏乃先輩はきっと勝ってくれる。だから、ここで私が勝てば阿知賀が優勝できる!)」

 と、心の中で言葉を発していた。

 そして、

「宮永先輩。お願いします!」

 彼女は咲に背中を向けた。王者自らに背中を思い切り叩いてもらって気合いを入れ直したいのだ。

「分かった。じゃあ、行くよ!」

 咲が美由紀の背中を思い切りパーで叩いた。

「パン!」

 非常にイイ音が控室に響き渡った。

「よし!」

 これで気合が入ったようだ。

 

 美由紀は、今まで見せたことの無い怖い表情をしていた。大きくて可愛らしい目が、この時ばかりは釣り上がっている。

 ある意味、キツイ表情にも見える。

 しかし、別に怒っているわけではない。思い切り気合が入っている証拠だ。

「行って来ます!」

 そう言うと、美由紀は静かに控室を出て行った。

 ただ、咲とは違って付き添いは必要ない。当然、一人で対局室に向かう。それが普通なのだが………。

 

 

 美由紀が対局室に入ると、既に、そこには美誇人の姿があった。

 湧とみかんは、まだ来ていない。美誇人が一番乗りのようだ。

 

 美誇人は、美由紀の気の入った顔を見ると、

「(そんな表情もカワイイ!)」

 なんだかんだで喜んでいた。顔が綻んでいる。強度の宇野沢姉妹Loveなのだから当然かもしれない。

 

 美由紀は、美誇人の隣に座ると、

「今日は、私が勝たせてもらいます!」

 と強気な姿勢を見せた。

 対する美誇人も、

「私も手加減しないからね。私達だって優勝を目指す。これは、私達の………綺亜羅の悲願だから。」

 と言いながら、綻びまくった表情を真顔に戻した。

 二年上の先輩が起こした暴力事件のせいで、ずっと大会に出場させてもらえなかった綺亜羅高校のメンバーだからこそであろう。ベストを尽くし、勝利を掴み取ろうとする執念は他校の生徒達よりも数段強い気がする。

「はい。お互い頑張りましょう!」

「そうだね。」

 しかも、暴力事件の被害者は自分の同期………友人だ。

 美誇人達にとっては、その同期に捧げる勝利でもあるのだ。

 絶対に負けたくない。

 

 超魔物不在の副将戦。

 白糸台高校が取れば優勝確定。

 阿知賀女子学院にとっては、副将戦を取れば勝ち星二となり、優勝に向けて星取り勝負のリーチがかけられる。

 そして、まだ勝ち星が無い綺亜羅高校にとっては、大将戦とセットで勝ち星を取れれば白糸台高校との得失点差勝負に持ち込める。まだ優勝の可能性が残っている。

 

 永水女子高校も、まだ勝ち星が無く、しかも綺亜羅高校とは違って大将戦とセットで勝ち星を取っても、得失点差勝負で優勝するのは難しい。

 しかし、優勝できなくても準優勝は狙いたい。

 今狙える範囲で最高の順位に付きたいのだ。

 

 なので、四校とも、絶対に落としたくない一戦だ。

 

 

 対局室に湧とみかんが入室してきた。

 ある意味、この四人の中で一番超魔物に近いのは湧であろう。昨年のインターハイ団体決勝大将戦で穏乃、衣、淡を相手に善戦した能力者だ。

 

 場決めがされ、起家がみかん、南家が湧、西家が美由紀、北家が美誇人に決まった。

 

 

 東一局、みかんの親。ドラは{九}。

 ここで美誇人は、湧とみかんの様子を見る。牌譜は見ているが初顔合わせだ。

 一応、ターゲットは湧の予定。

 言うまでも無いが、美由紀をターゲットにはしたくない………と言うか、ファンなのでできない。

 みかんは美和がターゲット(触手プレイ)にしたい相手なので、先に御無礼したら怒られそうだ。それこそ勝手なことをしたら、後で美和に麻雀を楽しまされ………いや、触手プレイを楽しまされるだろう。

 

 何だか消去法でターゲットが湧になった感じになるが、一応積極的に湧をターゲットにしたい理由はある。インターハイでの活躍を見る限り、この中では湧が一番各上だろう。その湧を打ち落としてこそ、この戦いに価値があると思えるからだ。

 

 そのためには、場全体を掌握する必要がある。それで、まずは湧だけではなくみかんの打ち方も観察する。

 

「ポン!」

 湧が捨てた{東}をみかんが鳴いた。湧からは、余り激しいオーラは感じられない。まだ本気を出さずに場の流れを見ているようだ。

 

「チー!」

 再びみかんが鳴いた。美誇人が捨てた{③}を鳴いて{横③④[⑤]}を副露した。これでダブ東ドラ1が確定した。

 もし、もう一枚ドラを持っていたら親満になる。当然、湧も美由紀も美誇人も暴牌は打たなくなった。

 みかんとしては、誰かが和了り牌を出してくれればラッキーだが、そう簡単に出してくれるとは思っていない。

 

 まだ序盤。ツモる牌は十分ある。

 当然、ツモ狙いだ。

 そして、中盤に差し掛かった時、

「ツモ! ダブ東ドラ3。4000オール!」

 みかんは、自力で和了り牌を引いてきた。{[⑤]}に加えてドラの{九}を二枚抱えた余裕の満貫手だった。

 

 東一局一本場、みかんの連荘。

 ここで動いたのは、

「ポン!」

 美由紀だった。序盤から自風の{西}を鳴いた。そして、その次巡には、

「ポン!」

 {白}を鳴き、数巡後には、

「ツモ!」

 その勢いに乗ったかのように自力で和了り牌を掴んできた。

「西白対々ドラ2。3100、6100!」

 しかも、比較的早い和了りでハネ満。美由紀の点数申告の声に自然と力が入る。

 

 

 そして、東二局、湧の親番でも、

「ポン!」

 序盤から美由紀は湧が捨てた自風の{南}を鳴いて出た。

 そして、

「チー!」

 再び湧が捨てたドラの{①}を鳴いて{横①②③}を副露し、その次巡、

「ツモ!」

 美由紀は、まるで流れ作業のように和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③⑦⑨北北}  チー{横①②③}  ポン{横南南南}  ツモ{⑧}

 

「南混一チャンタドラ2。3000、6000!」

 しかもハネ満。

 これで美由紀は原点から20000点以上稼いだことになる。通常の25000点持ちの麻雀であれば45000点以上。断然トップだ。

 

 

 東三局、美由紀の親。

 当然、今までの流れに乗って、美由紀はさらに稼ごうと、

「ポン!」

 三巡目から湧が捨てた{白}を鳴いた。

 しかし、

「ポン!」

 今回は、ここで美由紀が捨てた{北}を湧が鳴き返してきた。

 そのさらに次巡、

「ポン!」

 湧は、みかんが捨てた{⑧}を鳴いた。序盤から早い仕掛けだ。

 しかも、そこから三巡後に、

「ツモ!」

 まるで、前局までの美由紀のツキを奪ったかのように、湧が勢いよく和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {②②④④④東東}  ポン{横⑧⑧⑧}  ポン{北北横北}  ツモ{東}

 

 筒子の黒丸のみの牌と風牌のみで出来た和了り形。

 これは、ローカル役満の黒一色だ。

 残念ながら、本大会では認められていない役満なので、

「東西混一対々。3000、6000!」

 ハネ満にしかならないが、それでも一般的には十分高い手だ。

 

 この和了りで、さらなる勢いをつけようと、

「(よし!)」

 湧は、心の中で声を出して密かに気合いを入れ直していた。

 

 

 東四局。美誇人の親。ドラは{中}。

 ここでも美由紀が、

「ポン!」

 先行して攻めて行くが、

「ポン!」

 またしても湧が美由紀を追いかけるように鳴いてきた。副露されたのは{發}。

 さて、{發}が入ったローカル役満は何があるのか?

 これまで湧が和了った{發}入りの手には青函連絡船があるが、あれは{發}が槓子でなければならない。

 最後の一枚はドラ表字牌だ。

 よって{發}の槓子は作れない。

「(コーチなら、永水が何を狙っているかわかるんだろうけど…。)」

 美由紀は一般人と比べれば麻雀の雑学に詳しい方だが、ローカル役満に精通しているわけでは無い。

 ただ、恭子は違う。そう言った知識も含めて、麻雀全般について色々詳しい。

 恐らく、この場に居るのが恭子なら、湧が狙っている手を確定して、既に何らかの策を講じているだろう。

 

 湧の捨て牌には、{①③⑤⑨}と筒子が目立っていた。

 それで、美由紀は{②}を捨てたのだが、

「ポン!」

 これを湧に鳴かれた。

 しかも、聴牌気配が漂ってきた。

 美由紀は、

「(これってヤバそう!?)」

 今になって{②}を切らされたことに気が付いた。

 

 珍しく湧が、

「ねえ、九州にちなんだローカル役満って知ってる?」

 と聞いてきた。

 ただ、美由紀にもみかんにも美誇人にも、それが何だかさっぱり分からない。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 湧は{西}を引いて和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {④④④⑧⑧西西}  ポン{②②横②}  ポン{發發横發}  ツモ{西}

 

 前局で和了った手に非常に似ている。風牌の片方が{發}になっただけだ。

「青の洞門!」

 これは、大分県の史跡、青の洞門に見立てたローカル役満。風牌一つと{發}、それから{②④⑧}から成る和了り形だ。

 もはや、ローカル過ぎて分からない。

 ただ、点数としては、西發混一色対々和でハネ満になる。

「3000、6000!」

 この和了りで、湧はトップの美由紀に400点差まで迫っていた。それこそ、東一局一本場の芝棒分だけの差だ。

 

 

 南入した。

 それと同時に、美誇人の口元が少し上がり、ニヤッと笑った。東場全部を使ったが、何かを掴んだ様子である。

 

 南一局、みかんの親。

 どうもツキの流れは、美由紀から完全に湧に渡ったようである。

 美由紀は、早々に仕掛けて行きたいところだが、鳴ける牌が出てこない。

 対する湧は、

「ポン!」

 四巡目から仕掛けていた。

 先ずは{白}を鳴き、続いて、彼女は、

「ポン!」

 {中}を鳴いた。

 しかし、場には{發}が三枚出ている。少なくとも大三元も小三元も無い。

 恐らく狙いは宝玉開花。

 しかし、この鳴きと入れ替わりで湧から出てきた牌で、

「御無礼。」

 とうとう美誇人が和了った。

「ロンです。12000。」

 どうやら、美誇人は湧の牌の切り出し方をある程度、牌譜から読み取っていたようだ。

 東場で美誇人が和了らなかったのは、湧が自分の読んだとおりの打ち方をするかどうかを検証していたからである。

 湧は、ローカル役満の完成形で使われる牌の近くの牌を最後の方まで持っている傾向があった。

 例えば、{一一一}を作りたければ、万が一、手が崩れても{一二三}を作れるように{二}や{三}を聴牌直前近くまで持っている。

 つまり、和了り形は決め打ちのように作ってくる割に、牌の切り出しは決め打ちではないのだ。

 これは、手なりに打ってローカル役満が出来ている証拠である。ローカル役満を和了る能力ゆえであろう。

 なので、先に鳴いた牌からローカル役満としての完成形を予測すれば良い。それができれば、後から出てきそうな牌が、ある程度予想できるし、それで討ち取れば良い。

 

 もっとも、相手の癖が分かっても、それだけで確実に狙いどおり討ち取れるかと言うと、必ずしもそうでは無い。

 やはり、これは美誇人だからできることであろう。

 

 

 続く南二局、湧の親。

 湧としても、ここで親の和了りを決めたい。当然、さっきの振り込み分に利子をつけて取り返したい。

 

 八巡目、ここで湧の手は、

 {一一①②11東東南西北白中}  ツモ{①}

 ここから打{②}。

 

 しかし、この牌で、

「御無礼。ロンです。12000。」

 またもや湧は美誇人に振り込んだ。まるで吸い込まれるように和了られてしまう。

 湧には、なんだか自分から美誇人に点棒が流れるパターンが出来つつあるような予感がしてならない。

 パターン化すると、そこからの脱却が難しくなる。

 嫌な雰囲気だ。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 111300

 2位:美誇人 104900

 3位:みかん 96900

 4位:湧 86900

 先鋒戦から中堅戦に比べると、非常に点棒の動きが小さい対局のように感じる。

 それだけ今までが異常なのだが、阿知賀女子学院や白糸台高校の試合を見ると………いや、厳密には咲や光と言った超魔物の試合を見た後では、今の点差の方が例外的に感じられてしまう。

 馴れと言うのは恐ろしいものだ。

 

 

 南三局、美由紀の親。ドラは{3}。

 ここでは、

「ポン!」

 二連続振込みで失速した湧に代わって美由紀が序盤から動き出した。

 鳴いたのは湧が切った{南}。これで役が付いた。

 

 美由紀の手は、配牌から索子に偏っていた。狙いは混一色。しかも、索子の混一色ならドラ含みの手が狙える。

 しかも親。

 ここは稼ぐチャンスと見た。

 

 湧自身も和了りを諦めた訳では無い。自分の能力が引き寄せる牌を信じて聴牌を目指して不要牌を切る。

 しかし、

「チー!」

 これをすかさず美由紀が鳴いた。

 どうやら、今の流れで手なりに打つのは、湧自身にとってマイナスにしかならないようだ。他家の手を進ませるだけだ。

 ただ、これに気付いたのが遅すぎた。

 

 それから数巡後、

「ツモ! 南混一ドラ3。6000オール!」

 渾身の一撃。

 美由紀が親ハネをツモ和了りした。

 当然、美由紀の力の入った声が対局室全体に響き渡る。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 129300

 2位:美誇人 98900

 3位:みかん 90900

 4位:湧 80900

 美由紀が2位の美誇人との点差を広げた。

 南三局で30000点以上の点差。当然、前半戦を美由紀がトップで折り返すと、誰もが思っていた。




綺亜羅の旋風-5


インターハイが始まった。
会場は東京。
夏休み中なので、節子達はインターハイを直接会場まで見に行くことにした。

綺亜羅高校は埼玉県の南よりなので、節子達は都内に出るのに、特に苦労しない。
節子の両手が心配だが、各駅停車に乗ることで満員電車を極力回避した。


シード校の試合は、節子の目からも大変興味深いものが多かった。勿論、ノンシードの高校の中にも光るモノを感じる選手達がいる。
特に節子は、阿知賀女子学院と清澄高校の選手達に興味を抱いた。


決勝戦では、節子が目をつけた阿知賀女子学院と清澄高校の二校と、留学生を中心とした臨海女子高校、そしてチャンピオン宮永照率いる白糸台高校が激突した。

この年の団体戦決勝戦は、先鋒戦から大波乱の展開だった。
まさに奇蹟の連発である。起家の清澄高校片岡優希が、いきなりダブルリーチ、天和、ダブルリーチだ。
天和はインターハイ史上初と言う。

しかし、ドラ爆娘にチャンピオン、そして昨年個人戦3位の実力者が黙っていない。その後、優希は徐々に削られた。


大きく場が荒れたのは副将戦だった。
東三局、先制リーチをかけた原村和が、阿知賀女子学院の鷺森灼の筒子純正九連宝灯に振り込み清澄高校は多く後退。
その後も精神的ショックからか和の振り込みが目立ち、大失点を記録した。


そして、大将戦。
後半戦オーラス開始時の点数は、
東家:阿知賀女子学院 101100
南家:白糸台高校 116800
西家:臨海女子高校 112900
北家:清澄高校 69200

清澄高校は、役満をツモ和了りしても出和了りしても優勝できない最低最悪の状態。もはや優勝を諦める以外に道は無い。
しかも、この局面で咲以外の三人が優勝を目指してリーチをかけてきた。

当然、誰もが清澄高校大将の宮永咲は、自ら負けを決める和了りはせず、和了り放棄してくるものと思った。
ところが、白糸台高校大星淡が中をツモ切りすると、
「ポン!」
これを咲が鳴いた。

次巡、
「カン!」
咲は臨海女子高校ネリー・ヴィルサラーゼがツモ切りした發を大明槓。
嶺上牌は白。
そして、
「もいっこ、カン!」
咲は、そのまま白を暗槓した。
この連槓で、ネリーの大三元の包が確定した。(ここでは、連槓による包を認める特殊ルールと言うことでお願いします)

続く穏乃はツモ切り。
そして、その次に淡がツモった牌は、③だった。淡は、自身の和了り牌ではないのでツモ切り。
すると、再び、
「カン!」
咲が大明槓してきた。
そして、そのまま、
「ツモ、嶺上開花。大三元。」
まさかの役満ツモ。
しかも、この和了りは大明槓による責任払いと大三元の包が適用される。つまり、淡とネリーが16000点ずつ支払う。

その結果、各校の順位と点数は、
1位:清澄高校 104200
2位:阿知賀女子学院 100100
3位:白糸台高校 99680
4位:臨海女子高校 95900
これしかない方法で、咲が奇跡の逆転優勝を決めた。
節子は、感動して涙が出てきた。

個人戦でも咲は大活躍。
まるで彗星帝国の白色彗星の如く圧倒的な力を見せ、決勝進出を決めた。

決勝卓は前年度チャンピオン宮永照、清澄高校宮永咲、千里山女子高校園城寺怜、永水女子高校神代小蒔の戦い。
前半戦は、連続和了のスイッチが入った照から、咲が大明槓による責任払いを仕掛け、そのまま咲が首位を勝ち取った。
照は打点上昇のため、どうしてもリーチに頼らざるをなくなる場面がある。そこを咲が狙い撃ちしたのだ。

そして、後半戦は、咲が十八番のプラスマイナスゼロを披露。総合得点は僅差で咲が照を上回り、咲が優勝した。


宮永咲は、中学時代には聞かなかった名前。
完全に高校デビューの選手だ。
やはり、全国は広いし、高校に進めば新たな実力者が姿を現す。

節子は、
「この人、すっごい!」
完全に咲の大ファンになった。
ただ、ファンであると同時に打倒咲を目指すライバルになりたい。最高の目標を見つけたと言えよう。


インターハイが終わると、節子は長野県大会の牌譜を入手した。
それを見て、再び節子は興奮した。
咲が天江衣と言う超化物から大明槓を仕掛け、数え役満を責任払いさせて逆転優勝していたのだ。
狙って奇蹟を起こせる超魔物。
そんな相手が同学年にいるのだ。
「この手が治れば、きっと宮永さんと戦える!」
節子は、手の完治と対外試合禁止期間の終了が待ち遠しくなった。
今すぐにでも咲と打ってみたい。そんな気持ちで節子の心はいっぱいになっていた。


夏休みが終わり、新学期がスタートした。
そして、再び都内では国民麻雀大会(コクマ)が開催された。
高校二年生と三年生がジュニアAリーグ、高校一年生と中学三年生がジュニアBリーグに区分され、各リーグで各都道府県の代表者5人でチームを組み、団体戦が行われた。
今回も、節子達は会場まで対局を見に行った。

節子の興味は、やはりジュニアBリーグ。
そこでは、長野Bチームが圧倒的な力を見せていた。
信じられないことに、一回戦を次鋒戦、二回戦を中堅戦、準決勝戦を副将前半戦、決勝戦を副将後半戦で他チームをトバし、大将の咲まで回すことなく優勝を決めたのだ。

咲の対局が見られなかったのは残念だが、やはり咲のチームと戦いたい気持ちが、より一層大きくなった。





その翌日、部活が終わると、敬子が少しイラついた声で、
「私、ちょっと泳いでから帰る。」
と言った。
何時もにも増して全然勝てなかったのだ。

節子が見る限り、敬子はデジタル的には全然間違った打ち方をしていない。まさにマニュアルどおりだ。
ただ、毎度の如く、全てが裏目に出ていた。

それに、中学時代からの友人の美和と静香の腕が上がり、自分だけ置いてゆかれた気持ちになっていた部分もあるのだろう。
敬子にとっては、麻雀自体が面白くなくなってきていた。

「向かいのスイミングクラブ?」
と節子が聞いた。
「うん。」
「私、敬子が泳ぐの見てみたい。」
「でも、ただ泳ぐだけだよ。」
「分かってる。イイかな?」(良い華菜、悪い華菜、普通の華菜?)
「イイけど、つまらないよ、きっと。」
「そんなことないよ。他のみんなは?」
「私はパス。これからバイト。」
「私も。」
「私も…。」
結局、見学者は節子一人になった。
ただ、節子は、
「(この超絶美少女を独り占めできるなんてラッキー!)」
と、逆に喜んでいた。


そのスイミングクラブでは、二階にラウンジのようなものがあって、そこからプールで泳ぐ人達の姿が見られるようになっていた。
節子は、そこから敬子の姿を見つけた。
「やっぱ、細くて小顔で脚長っ! それなのに、胸は、それなりにあるし、完璧にストライクど真中だわ!」
やはり敬子は目立つ。
その場に居る誰よりも美しい。

敬子がプールに飛び込んだ。
潜水だ。
もの凄く綺麗な肢体。なんだか、人魚が泳ぐ姿を見ているようだ。

しかも、とんでもないスピードだ。
あっという間に50メートルを潜水で泳ぎきった。
「マジで!?」
こんなこと、節子には到底不可能だ。
やはり敬子は不思議ちゃんだ。


その後、敬子は何回か50メートルの潜水を披露すると、節子のいるラウンジまで上がってきた。
節子は、この時、敬子から見たことのない強大なオーラを感じていた。こんな敬子を見るのは初めてだ。
「お疲れ。マジ凄いね。」
「別に大したことじゃ…。」
「大したことだって。私には、あんな泳ぎはムリだよ。」
「そんなこと無いってば。」
なんだか、褒められても余り嬉しくなさそうな雰囲気。
褒められ慣れていないのだろうか?

敬子はウォーターサーバーの横に備え付けてある紙コップを取ると、カップに注ぎ、水を身体の中に一気に流し込むように飲んだ。
結構喉が渇いたのだ。
ちなみに、この水は無料だ。
そして、敬子は二杯目の水を注ぐと、それを持って節子のいるテーブルまで来て椅子に腰を降ろした。
「私も水欲しいかな。」
「じゃあ、ちょっと待ってて。」
節子は両手が使えない。
それで、敬子が節子の分の水を取ってきてくれた。

「でも、あれだけ泳げるのに、うちの高校に水泳部が無いのは残念だね。」
「別に部活とかで水泳をやりたいって思わないからイイよ。」
「なんで?」
「中学1年の時に水泳部に入ったんだけど、フォームとか色々うるさく言われるし。それに、私、平泳ぎが下手でさ。フォームが下手過ぎとか言われて。それで、水泳部を辞めたんだ。」
でも、敬子の平泳ぎは余り想像したくない。平泳ぎの選手には申し訳ないが、敬子には平泳ぎの脚の動き………カエルのような脚の動きをして欲しくない。
やはり、さっき見せてくれた人魚のような潜水が一番似合っている気がする。あれは、正直綺麗だ!

会話をしながら、節子は間違った振りをして敬子が飲んでいたほうの紙コップを取った。確信犯だ!
そして、そのままカップに口を付けた。
すると、
「ちょっと、それ。」
敬子が少し嫌な顔をしていた。
「あっ! 間違っちゃった? ゴメン。そっちのを飲んでイイから。」
「でも、嫌じゃない?」
「なんで?」
「私が口を付けたのを飲むの、抵抗無い?」
「別に。」
「そうなんだ。」
「なんで、そんなこと聞くのか分からないけど…。」
「だって、ほら。私って最初は珍しがられてるのか、人が寄ってくるけど、すぐにみんな近寄らなくなるじゃない? すぐ飽きられちゃうみたいで。」
「(綺麗だから男子が群がり、残念な美少女と知って群がらなくなるだけだけどね。)」
「それに、殆どの女子には嫌われてるし…。」
「(それは、美人過ぎるからね。あとKY発言が多いし。)」コノオマケストーリーノナカデハKYハツゲンハイマノトコロナイケドネ
「だから節子も、私のカップを口にするのなんて嫌なんじゃないかって思って。」
「そんなこと無いよ。それに私だけじゃなくて、美和だってワシズだって敬子とずっと一緒にいるじゃん。」
「そうだけどさ…。」
「麻雀部って居場所があるんだからさ。」
「でも、なんだか私だけ麻雀が弱いままだし…。」
「(やっぱり強くなりたいか…。)じゃあ、敬子にどんな打ち方が合ってるか、少し考えてみるね。」
「ホント!」
「うん。」
「節子の指導で静香も美和も強くなったし。次は私の番って思ってイイんだよね?」
「うん。」
「お願いね。」
「分かってる。」
「じゃあ、もうひと泳ぎしてくるね!」
「それじゃ、クロールを見せてくれない? 凄いタイムで泳ぐって聞いたから。」
「凄いかどうかは分からないけど、やってみる!」
敬子は、元気を取り戻すと、再びプールへと向かった。

一方の節子は、
「(敬子の紙コップだぁ!)」
敬子が口を付けたところが何処だか分からなくなったので、紙コップを口にすると縁を一周させた。
「(どうだ、野郎ども! この紙コップが欲しいか! これで間接キスはもらったぞ! 世の男どもめ! この美女は、今、私のモノだ!)」
そんなことを心の中で口走っていた。


再び敬子がプールに姿を現した。
節子のいる場所から見て反対側の壁には時計があった。しかも秒針付きだ。

敬子がプールに飛び込んだ。
節子は、敬子の姿を追いながら秒針をチェックする。

ムチャクチャ早い。
隣のコースを泳ぐマッチョな男や、そのさらに隣でバタフライを披露する男を一気に追い抜き、あっという間に敬子は50メートルを泳ぎきった。
たしかに26秒くらいだ。凄いタイムだ。

そう言えば、さっき敬子が上がってきた時に見せたオーラ。あれは、いったいなんだったのだろうか?
あのパワーを麻雀に生かせたら強くなれるのではなかろうか?
節子は、直感的にそう思った。

でも、なんで敬子は、あの時、あれだけのオーラを纏っていたのか?
節子は、ふと敬子の言葉を思い出した。
「フォームとか色々うるさく言われるし。」
「フォームが下手過ぎとか言われて。」

もしかして、自由度が無いとダメとかかな?
でも、敬子の麻雀はマニュアルどおりだし、別にマニュアルが嫌なわけじゃなさそうだけど………。
いや、でも、もしかして?
本当は我流を好むとか、そんなところがあるんじゃなかろうか?
だったら、ちょっと試してみようか?
敬子だけのマイセオリー麻雀!


それから少しして、敬子が節子のところに戻ってきた。
「クロール泳いでみたけど。」
「凄かった。本当に26秒とかなんだね。感動したよ。」
「そんな、大袈裟だってば。」
「そんなことないよ。それとさ、ふと思ったんだけど、もしかして敬子は麻雀を自分の好きなように打っていないってことって無い?」
「多少ある。でも、オタ風、19牌、役牌の順に切るみたいに言われてるし、両面とか両嵌とかを残すのも普通みたいに言われてるでしょ。だから、その通りにしてるんだけど。」←オタ風と19牌を切り出す順は人によって逆の場合もあります
「(やっぱりそっか。)」
「でも、やっぱり運が悪いんだろうね。裏目しか来ないし。」
「もしかするとだけど、敬子だけのマイセオリー麻雀をやったらイイのかな…なんて思ったのよ。」
「マイセオリー麻雀?」
「明日、部活で色々試してみよう。」
「でも、どんな麻雀だろう?」
「それは、明日、敬子の打ち筋を見ながら考えてみるよ。」
「分かった。」
とは言え、敬子は少し不安げな表情をしていた。
今、この場ですぐに明確な答えが見えてこなかったからであろう。


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百二十八本場:流れ

 春季大会決勝戦、副将前半戦。ドラは{⑤}。

 南三局一本場、美由紀の連荘。

 前局の美由紀の親ハネツモで、みかんも湧も、

「「(これ以上、阿知賀に和了らせない!)」」

 何とか、この親を流して被害を最小限に食い止めることを考えた。

 当然、美由紀へのマークが強まる。

 

 しかし、こうなるのを待っていた者がいた。美由紀に意識が強く高まる分、それ以外の面子へのマークが相対的に薄れてくる。

 しかも湧は美由紀の上家。美由紀にチーさせないように気を配り出した。

 ただ、能力に従って手を作るのが湧の本来の姿。当然、美由紀に鳴かせない麻雀と能力による手作りは必ずしも両立しない。

 つまり、能力によって引き当てた牌でも、それが美由紀に鳴かれない牌であれば、敢えてその牌を美由紀が欲しそうな牌に代わって捨てることになる。

 当然、湧自身の手も思うように進まなくなる。

 

 美由紀の手が進まなくなった。湧が牌を絞るようになったからだ。

 しかし、これは飽くまでも美由紀対策であって、他の二人にとっては別だ。

 中盤に入り、湧が切った美由紀の現物の{8}で、

「御無礼。ロンです。」

 美誇人に和了られた。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {③④⑤[⑤][⑤]33445567}  ロン{8}  ドラ{⑤}

 

「タンピン一盃口ドラ5。16300。」

 倍直だった。

 これで湧の点数は、64600点まで一気に落ち込んだ。

 

 美誇人は、

『(25000点持ちなら)これでアナタのトビで終了です!』

 と決め台詞を言いたかったが、実際には100000点持ちのため箱割れしていないので、心の中で言うのに留めた。

 下手なことを言えば挑発行為と取られ、審判から注意を受ける。審判からすれば、綺亜羅高校は暴力事件を起こした学校との認識だ。

 ただでさえ悪い印象が、さらに悪くなるだろう。

 それよりも、美由紀を逆転することに意識を向ける。

 

 現在の中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 129300

 2位:美誇人 115200

 3位:みかん 90900

 4位:湧 64600

 美由紀と美誇人の点差は14100点。しかも、次局は美誇人の親番。親満ツモで逆転できる範囲だ。

 前後半戦トータルで決着をつける試合なので、前半戦のトップは必須では無いが、やはり、ここで逆転して優位に立ちたい。

 

 

 オーラス、美誇人の親。

 一旦、振り込み癖がつくと、中々止まらなくなることがある。まさに、湧は、その状態になっていた。

 振り込み癖は複数者相手に振り込むケースと、特定の相手にだけ振り込むケースの二つがあるが、ここでは、明らかに後者であった。

 湧から点棒が美誇人に流れる。そう言った場の空気が作り上げられている。いや、美誇人がそう言う流れを作ったのだ。

 こう言った流れが一度出来てしまうと、それに抗うことは中々難しい。

 ここでも、湧が大丈夫と思って切った牌で、

「御無礼。12000です。」

 美誇人に和了られた。

 これで美誇人は、美由紀との点差を2100点まで縮めた。

 

 美誇人からすれば、まだ湧から点数を搾り取れる感覚がある。

 当然、美誇人は、

「一本場。」

 オーラスでの連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 この時、みかんは、

「(仕方ないか………。)」

 既に副将戦での勝ち星を諦めていた。

 やはり美誇人は強い。淡と光が、揃って綺亜羅三銃士に高い評価をつけていたことを、身をもって感じる。

 

 ただ、想定外なのは美由紀のほうだ。

 阿知賀女子学院は、玄と灼が抜けるのと入れ替わりで、ゆいと美由紀がレギュラーに加わった。普通に考えて、この二人は玄と灼よりも弱いはずだ。

 もし、美由紀が玄や灼より強ければ、昨年のインターハイに団体戦で出場している。

 なので、玄はともかく、灼よりも格下であれば、みかんにだって美由紀に勝てる可能性は十分あると踏んでいた。

 ところが、予想以上に強い。少なくとも、綺亜羅高校の三銃士の一人、美誇人よりも現時点で点数が上回っている。

 

 今、みかんにできることは、これ以上、美由紀と美誇人に稼がせないこと。

 自分が勝ち星を取って白糸台高校の優勝を決めるのがベストシナリオだが、この二人が相手では、それは難しそうだ。

 ならば、大将戦で和が勝つことに期待するが、もし和が勝てなかったとしても得失点差勝負で阿知賀女子学院と綺亜羅高校に負けないようにする。

 

 幸い、今の総合得点は、

 1位:白糸台高校 870600

 2位:阿知賀女子学院 824300

 3位:綺亜羅高校 794600

 4位:永水女子高校 310500

 白糸台高校がトップにいる。しかも、2位の阿知賀女子学院に45000点以上の差をつけている。

 ならば、この点差を、これ以上縮めさせないことが最優先だ。たとえトップが取れなくても和了りを目指す。

 

 この対局は、全て和了りが12000点以上だ。なので、他家に追いつこうと、みかんは、これまで高い手を狙っていた。

 これを和了り優先に切り替えた。別に高い手でなくても良い。

 この配牌から狙えそうな手はタンヤオのみくらいか?

 ところが、安和了りでも良いと思った直後、不思議とドラが立て続けに三枚来た。

 高い手を目指すと高い手が出来ず、安くても良いと思ったら手が高くなる。まさにマーフィーの法則だ。

 

 

 中盤に入り、みかんが門前で聴牌した。

 役はタンヤオのみ。

 なので、ここはダマで待つ。

 

 ところが、ここでもマーフィーの法則は健在だった。

 聴牌した次巡、みかんは自分の和了り牌を引き当てた。

 もし、聴牌即でリーチをかけていれば一発ツモがついただろう。

「ツモ! タンヤオドラ3。2100、4100。」

 このみかんの和了りで副将前半戦が終了した。

 

 点数と順位は、

 1位:美由紀 127200

 2位:美誇人 123100

 3位:みかん 99200

 4位:湧 50500

 みかんが、ほぼ原点、湧が点数を原点の約半分に落とし、それを美由紀と美誇人で二分するような結果となった。

 美由紀がトップだが、美誇人との点差は4100点。30符3翻のツモ和了りで逆転できる範囲内だ。

 

 

 休憩に入った。

 選手達は、全員が一旦対局室を出た。

 自販機コーナーに行く者、トイレに行く者、控室に一旦戻る者、廊下のソファーに座って目を閉じ瞑想する者と、各自取った行動は様々であった。

 

 

 美誇人が控室に戻ると、

「惜しかったね。」

 と静香、

「でも、まだ逆転できる位置にいるよ!」

 と鳴海、

「美誇人なら後半戦で巻き返せるって!」

 と美和が言いながら出迎えてくれた。

 

 普段なら、ここで敬子の毒舌が入るところだが、今日は、

「大丈夫、まだまだイケるよ!」

 珍しく敬子が普通のことを言った。

 普段とは違う展開に、

「「「「(えっ?)」」」」

 全員、心の中で驚きの声を上げていた。

 これはこれで不気味だ。

 何か変なことが起きなければ良いが………。

 

 

 一方、美由紀はトイレ組だった。

 特に深い意味は無い。普通に区切りの時間にトイレに来ただけだ。超魔物不在の副将卓では放水する展開にはならないだろう。

 

 某ネット掲示板では、

『美由紀ちゃんのオモチがスバラなのです!』

『オモチベーション維持が大切なのです!』

『みかんちゃんのオモチも形が良くてなかなかなのです!』

 一人の住人が偏った書き込みをしているだけで、特に放水に関する記載で溢れかえっているわけではなかったようだ。

 

 

 この頃、湧は自販機コーナーにいた。

「糖分補給でもしようかな?」

 思いの他、結構疲れたし、振り込みマシーンと化した現状から脱却するためには気分転換が必要だ。

 ただし、

『つぶつぶドリアンジュース』

 に手を出すつもりだけは無い。

 

 数台ある自販機を順に見て行くと、

『飲むフォンダンショコラ』

『飲むモンブラン』

『ココアミルクセーキ』

『プリンドリンク』

『超劇甘お汁粉』

 と言った、いわゆる、

『麻里香コーナー』

 と言いたくなるようなラインナップの自販機があった。こんなものがこの世の中にあるとは、湧も初めて知った。

「げっ! なにこれ?」

 一瞬、湧は後ずさりしたが、たまには頭の切り替えに良いかも知れない。

 と言うことで、今回、湧は飲むモンブランにチャレンジすることにした。

 

 

 また同じ頃、みかんは、対局室を出てすぐのところにあるソファーの上に座って、一人瞑想していた。

 美誇人と美由紀を相手に勝つことは諦めても、ベストを尽くしたい。やれることをやらずにチームが負けたら、それこそ悔いが残る。

 そのために心を落ち着かせ、後半戦を最善の状態で迎えたい。そのための瞑想だ。

 …

 …

 …

 

 

 そろそろ休憩時間も終わる。

 副将戦メンバーが対局室に戻ってきた。

 そして、改めて場決めがされ、後半戦は起家が美由紀、南家が美誇人、西家が湧、北家がみかんで行われることになった。

 

 

 東一局、美由紀の親。

 当然、美由紀は連荘して美誇人との前後半戦トータルの点差を広げたい。対する美誇人は、絶対に美由紀に連荘させてはならない。

 湧としても、前半戦の流れを断ち切りたいし、みかんにとっても美由紀と美誇人に稼がせてはならない。

 東初から全員が和了りを目指す。

 

 ここで最初に動き出したのは、

「ポン!」

 親の美由紀だった。美誇人が捨てた{東}を鳴いたのだ。

 これはダブ東になる。

 鳴いた直後に美由紀がサイドテーブルに置いてあったペットボトルを手にした。この感じは、俗に言う聴牌タバコに似ている。聴牌すると一息つきたくなるのが、多くの人間に当て嵌まることなのだ。

 このことから、湧は美由紀が聴牌したと判断した。

 そして、美由紀を警戒して打ち回したのだが、これで切った牌で、

「御無礼。12000です。」

 またしても湧は美誇人に振り込んだ。

 完全に湧は、美誇人に打ち筋を見抜かれていたようだ。

 

 

 東二局、美誇人の親。ドラ{西}。

 前局で前後半戦トータルが逆転された今、今度は美由紀が追う側になる。

「ポン!」

 ここでも美由紀は、序盤から鳴いて出た。門前で手作りしないわけではないが、姉の栞と同じで標準の範囲を超えて鳴く方が自分には合っている。

 それに、美誇人に連荘させるわけには行かない。

 

 ただ、美誇人の連荘阻止を考えているのは美由紀だけではない。総合得点の差を維持したいみかんも同じことを考える。

 

 この局、みかんの配牌は、

 {三五②③③④68東南北白中}

 

 これが、十巡後には、

 {二三四五[五]②②③③④678}

 

 平和手に成長していた。

 ただ、リーチはかけない。確実に和了る。

 そして、聴牌して二巡後、みかんは待望の高目、{④}をツモった。

「ツモ! タンピンツモ一盃口ドラ1。2000、4000。」

 これならリーチをかけておけば良かったかもしれない。しかし、リーチをかけていたら一発消しで鳴かれ、和了り牌を掴めなかった可能性もある。

 多分、今回は、これで正解だと、みかんは自分に言い聞かせた。

 

 

 東三局、湧の親。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が先行して動いた。ただ、この局は、いつもと違って役牌ではなく{九}のポンから始まった。

 ふと、美誇人の脳裏に準決勝副将前半戦オーラスでの出来事がフラッシュバックした。

 あの時も、最初に美由紀は{九}を鳴いた。その後に役牌をポン、さらに{九}を加槓して槓ドラがモロ乗りしたのだ。

「(まさかね。)」

 さすがに、美誇人は、連日で同じことが二度起きるとは思わなかった。

 しかし、

「カン!」

 今回も美由紀が{九}を加槓した。

 めくられた新ドラ表示牌は{八}。まさに昨日の再現だ。

 そして、嶺上牌を引くと、美由紀の表情に笑顔が灯った。嶺上牌で、和了牌を引いてきたのだ。

「ツモ! 發嶺上開花ドラ4。3000、6000!」

 和了り手は、殆ど萬子に染まっていた。

 たった二枚だけ筒子………{①}と{③}が手牌の中にあり、そこに偶然にも嶺上牌で{②}を引いてきたのだ。

 この後、美由紀は{①}と{③}を落として混一色に持って行くつもりだったのだが、結果オーライである。

 

 

 東四局、みかんの親。

 後半戦になって、美誇人、みかん、美由紀の順に和了った。まだ湧の和了りはない。

 それどころか、前半戦の東四局で和了って以来、湧は和了れていない。そろそろ、湧も焦りが出てくる。

 

 湧の特性………ローカル役満は、綺麗な手が多い。それ故に、何をやっているのがバレると、殆ど全ての牌が透けてしまう。

 ここでの狙いは紅孔雀。ただ、言い換えれば{1579中}以外は全て不要な牌。

 それを悟った上で、

「リーチ!」

 美誇人は聴牌即でリーチをかけた。

 

 湧は現在、ダンラスの状態にある。ならば、ムダに守るよりも一発逆転を狙って攻めに出る。

 どうせ、和了れなければ負け。振り込んで、最悪箱割れしても負け。

 同じ負けなら、僅かな可能性に賭けることにした。

 しかし、湧は、その想いで切った牌で、

「御無礼。一発です。メンタンピン一発ドラ5(表1赤2裏2)。16000。」

 豪快に振り込んだ。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 121000

 2位:美由紀 110000

 3位:みかん 102000

 4位:湧 67000

 さっきの振込みで、湧が75000点を割った。つまり、25000点持ちなら、ここでトビ終了である。

 

 現在のトップは美誇人。

 前半戦では、4600点差で美由紀がトップ、2位が美誇人だったが、これで前後半戦トータルは、美誇人が2位の美由紀に6400点差をつけてトップとなる。

 とは言え、まだ美由紀にも十分逆転は可能な範囲だ。

 美由紀の目に珍しく炎が灯った。




綺亜羅の旋風-6


その日の夜のことだった。
「敬子の潜水、本気で綺麗だったぁ。やっぱ、人魚の化身だよね!」
節子は、ベッドの上で横になると目を閉じ、敬子の泳ぐ姿を頭の中で反芻していた。あんな美しい泳ぎは見たことが無い。この上ない目の保養だ。

急に、節子の両手が熱くなってきた。
思い切り熱い温タオルで、両手をきつく縛られているような感じだ。
「なにこれ?」
痛みは無い。
しかし、汗は出ている。固定された中で蒸れている。
「ちょっと、お母さん!」
節子は、母親に状況を説明した。


翌朝、節子は母親に連れられて病院に行った。
素人が普通に手を見ても状況はよく分からない。
いや、医者でも、ただ見せられただけでは良く分からないだろう。それで、念のためレントゲンを撮ることになった。

レントゲン撮影後、少しして節子が再び診察室に呼ばれた。
この時、医師は怪訝そうな表情をしていた。
節子は心配になり、
「悪化したとかでしょうか?」
と聞いた。
すると医師は、
「それがねぇ。治ってるんだよ。」
と答えた。
想像を超えた回復力に、医師は、
「(二ヶ月で治るなんて、こんなの普通考えられない!)」
と思って怪訝な表情を見せていただけだった。それにしても、少しは嬉しそうな表情は出来ないのか?

ただ、これで今日から麻雀が打てる。
怪我をする前と同等に動かせるかどうか分からないけど、思い切り牌を手にすることができるのだ。
とても嬉しい。
嬉しくて涙が出そうだ。


節子が登校するのは昼休みもそろそろ終わる頃だった。
教室に入ると、
「来てくれたんだぁ。」
そう言いながら、敬子が目に涙をいっぱい溜めていた。
こんな敬子は珍しい。どんなに辛いことがあっても、大抵、何も感じていないみたいな平然とした表情をしているからだ。
それが泣くとは………。

多分、敬子は辛い時とか悲しい時、その感情を余り表に出さないだけで、心の中では結構傷ついているのだろう。
感情表現が下手なだけなのだ。

「急遽、病院に行ってたからね。」
「私との約束が嫌になって、学校に来ないんじゃないかって思って…。」
「約束?」
「マイセオリー麻雀って。」
「あれね。別に嫌になってなんかないってば。今日から私も打てるし。」
「えっ?」
「だから、一緒に探そう。敬子だけのマイセオリー麻雀。」
「治ったの?」
「なんか、昨日の夜に、急に両手が熱くなってさ。それで悪化してないか心配して病院に行ったら治ってた。」
「そうだったんだ。でも、良かった。治って。」

この会話を聞いて静香も、
「マジで?」
普通に驚いていた。
全治半年が二ヶ月で完治するなんて、良い意味で想定外だ。





放課後。
これから部活の時間。
美和も鳴海も美誇人も節子の超回復に驚きの色が隠せなかった。
「昨日、魔法使いにでも会った?」←美誇人
「別に、敬子の泳ぎを見ていただけだって。」
「じゃあ、何か変なことした?」←美和
「間違って(ホントはワザと)敬子の紙コップで水を飲んだくらいかな。」
「でも、敬子の紙コップを使ったくらいで治るなんて、いくら敬子が不思議ちゃんでも、そんな力は無いでしょ。」←鳴海
「だよねぇ。」
しかし、そう言いながらも、節子は、
『もしかしたら敬子の力では?』
と思っていた。

あの時、敬子からは恐るべきレベルのオーラを感じていた。しかも、あれは今思うと人魚の化身としてのオーラではなかろうか?
人魚の肉を食べれば永遠の命を得ることができる。これは、八百比丘尼の伝説として有名な話だ。
敬子を物理的とか性的に食べたわけでは無いが、恐らく人魚と化した敬子との間接キスによって、昨晩、節子の自然治癒能力が上限を遥かに超えたのだろう。

とは言え、こんな話を力説しても、今の雰囲気では誰も信じない。
それで節子は、敬子の紙コップのことを笑い話で済ませてしまった。
二年近くの時を超えて美和達が後悔することになるとも知らず………。


今日、節子は最初に敬子と打った。
実際に相手にして、どんな感じかを改めて確認したかったのだ。

敬子の牌の切り出しはオタ風から。
次に19牌。そして役牌。
改めてみると、役牌の対子がある場合、待っていれば大抵敬子から鳴ける。

逆に敬子にとってのオタ風となる、
『他のプレイヤーにとっての自風』
は、早々に敬子が切ってくれる。
逆に言えば、配牌で自風が対子になっていた場合は、すぐに敬子が鳴かせてくれるとも取れる。

理牌も、敬子から見て左から順に必ず、
一二三四五(五)六七八九①②③④⑤(⑤)⑥⑦⑧⑨12345(5)6789東南西北白發中
となっている。
これでは、切った牌を見れば、どの辺に何があるか分かるし、手に入れた牌も、慣れた人間であれば大体何か想像がつく。

余りにもパターン化し過ぎている。
もっと工夫しないとマズイだろう。

ただ、敬子はパターンを崩されるのが苦手なようだ。
なので、マニュアルがあると、本当はイヤなくせに、それに頼ろうとする。しかも、ギチギチにマニュアルを守ろうとする。
静香も美和も強くなっているのに、クソマジメにマニュアルどおりに正しく打っているはずの自分が全然強くなれない。
それで、今の敬子は、麻雀に嫌気がさしている。

だったら、最初から勝手なセオリーと言うか、勝手なマイパターンで打って負けた方が数段マシだ。


対局を終えて、節子は、敬子に色々聞いた。
「先ず配牌の時だけど、理牌のパターンが決まってるよね。」
「本にその順番で書かれていたから。」
「切る順番も決まってるよね。」
「そう言われてるから。」
どうも全てが他人任せとも取れる。
この感じ。
しかも、感情表現が下手でKY。
やっぱり発達障害系かな?

心理学のことは良く分からないけど、少なくとも今の敬子の打ち方自体は、徹底的にブチ壊そう。
間違いなく、良かれと思ってマニュアルどおりに打つことが、逆に敬子にとってストレスになっている気がする。
「何で理牌するの?」
「そうした方が分かりやすいからしなさいって言われるから。」
「でも、理牌しないで打ってもイイんだよ。」
「そうなの?」
「勿論。理牌を中途半端にしてもイイし、並べ方は自由よ。」
「そうなんだ。」
「私なんか、たまに理牌がメンド臭くて、理牌しない時もあるしね。」
「ふーん。じゃあ、私もしないでもイイのかな?」
「しないでやってみたら? それで、頭がゴチャゴチャしそうだったら、途中から理牌してイイから。」
「分かった。」
「それと、字牌の切り出しも、なんも考えずに適当に切ってもイイよ。」
「じゃあ、自分が見て分かりやすいようにしてみる。」
「まずは、それでやってみてくれる?」
「うん。」





節子は、色々細かいことを敬子に確認しながら、敬子の頭の中にインプットされたマニュアル打ちを全てリセットさせた。
まずはストレスフリーにすること。まだ色々と手探り状態だが、今考えられることは、そのくらいか。

では、誰と打ってもらうか?
もう3年生は引退して来ない。まあ、礼子が事件を起こした以上、来ること自体が辛いだろう。
2年生も、半数が来ていない。
1年生は全部で25名ほど。
その中で、後に三銃士と呼ばれる静香、鳴海、美誇人といきなり打つのは酷だ。
かと言って、弱い相手と打っても問題抽出しにくい。

一先ず節子は、県大会前の部内戦で5位だった堂島喜美子(1年)、6位だった及川奈緒(1年)、7位だった鈴木真帆(1年)を呼んで敬子と打ってもらった。
この三人なら、割と強いがバケモノ級ではない。なんとなくだが、敬子の改良作業の相手として丁度良いレベルと感じていた。

対局中、節子は、敬子の後ろに立っていた。
マニュアルリセット状態にした敬子の手の流れを実際に見て、次の改良点を探ろうと思っていたのだ。


場決めがされ、起家が敬子、南家が奈緒、西家が真帆、北家が喜美子に決まった。
東一局。ドラは七。
敬子の配牌は、
二三八③299東南西北白發中

八種九牌の最悪の手。
ただ、これを理牌せず、しかも親なのに第一打牌は東だった。
次の捨て牌は南、その次は西、その次は北だった。
さらに捨て牌は白發と続く。ある意味、捨てるほうには見て分かりやすいだろう。

ただ、そんなふざけた切り出しをしているくせに、何故か鳴かれない。それに、良く分からないが非常にツモが良い。
今までの敬子とは全然違う。
そして、七巡目で、
一二三八九①②③12399中
ドラ待ちだが、ジュンチャン三色同順ドラ1の親ハネの手を聴牌した。
敬子は、これを聴牌即で、
「リーチ!」←中切り
なんと、ドラ待ちなのにリーチした。
普通なら、
『そんなんでリーチかけても出てこないぞ!』
と罵倒されるだろう。
しかし、今の敬子には、そんなことは関係ない。
何も考えずに自由に打つ。

そして、次巡、
「ツモ! 12000オール!」
敬子は、リーチ一発ツモジュンチャン三色同順表ドラ1の裏ドラ2(アタマが裏ドラ)で親の三倍満を和了った。

東一局一本場。
今度の敬子の捨て牌は、
一九①⑨19
前局から併せると国士無双になっている。
まるで遊んでいるみたいだ。

そして、六巡目に奈緒が聴牌して捨てた南で、
「ロン! 混一七対赤1で18300!」
見事、敬子は親ハネを直取りし、奈緒のトビで終了した。

敬子の目に涙が溢れてきた。
「私が勝てた………。」
しかも、ブッチギリだ。こんな勝ち方は生まれて初めてだ。

喜美子も奈緒も真帆も、まさかの敗退に唖然としていた。
ただ、これがマグレでないか確認しなければならない。
もう一度、敬子には、この三人を相手に打ってもらう。


敬子が涙を拭きながら、二半荘目を開始した。
今回は、親が奈緒、南家が敬子、西家が真帆、北家が喜美子になった。

東一局。
相変わらず、敬子の捨て牌は、
東南西北
デジタル打ちの主張を無視して、自分が分かり易く東から順に切り出している。
そして、この四巡目に、真帆が切った白で、
「ロン! 門混小三元三暗刻ドラ2。24000!」
いきなり三倍満を和了った。
もはや、完全にツキまで自分のモノにしていた。

続く東二局では、
白發中一九
と切り、六巡目で、
「ツモダブ東ドラ3。6000オール!」
親ハネをツモ和了りした。
これで真帆がトビで終了した。
マイセオリー&ストレスフリーにしただけだったが、大成功だ。
これで敬子の心を掴んだかも………と節子は思った。まあ、思うだけなら自由だ。


半荘二回だったが、ともに東場でのトビ終了である。まだ三十分も経っていない。
節子は、少し敬子に休憩させて、美和、美誇人、静香、鳴海の勝負が終わるのを待った。

こっちの卓では、やはり美和が一番稼ぐ。
やはり、あのHな感覚を教えられると、身体が勝手に振り込んでしまうのだ。
美誇人も静香も鳴海も、この頃は、まだ例外ではなかった。気が付くと美和に振り込んでいたのだ。
そのうち、今ほどは振り込まなくなって行くのだが………。


美和達の対局が終わると、節子は、敬子、美誇人、静香、鳴海の四人で打ってもらった。
部活が終わるまで、あと半荘二回は打てそうだ。
勿論、事件を起こした部だ。18時になったら強制終了しないと周りの目がうるさい。なので、四人には高速で打ってもらうことにした。


場決めがされ、起家が敬子、南家が静香、西家が鳴海、北家が美誇人。

東一局、敬子の親。
相変わらず、敬子の捨て牌は、
東南西北白發中

しかし、ここには豪運の静香がいる。
敬子が聴牌して、
「リーチ!」
即、先制リーチをかけてきたが、その巡目で、
「ツモ。3000、6000!」
静香にツモ和了りされた。

その後も、鳴海や美誇人も和了った。
敬子も和了れたが、この四人が相手では、改良された敬子でもトップを取るのは難しい。
結局、最終的に美誇人が1位、敬子が2位、静香が3位、鳴海が4位で一回目の半荘を終了した。

次の半荘では、トップは静香で敬子は2位。3位が鳴海で4位が美誇人になった。
一見、まあまあの戦績に見える。
しかし、25000点持ちの30000点返してウマ無しのルールだと、トップ以外がプラスになることは少ない。
結局、敬子は大敗こそしなかったがプラスにはならなかった。

とは言え、今までの自分に比べれば十分過ぎる内容だ。
敬子は、トップを取れずとも満足していたようだ。


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百二十九本場:大将戦開始

 春季大会決勝戦、副将後半戦は、丁度南入したところだった。

 南一局、美由紀の親。

 とにかく、美誇人をまくるため、美由紀は何でも良いから和了りが欲しい。それこそ、親なので憧の得意な30符3翻をツモ和了りできれば美誇人を逆転できる。

 当然、攻めの姿勢は崩さない。

「ポン!」

 ここでは、湧から出てきたチュンチャン牌を早々に鳴いた。

 まるで、ネリーのような攻撃的な目をしている。

 

 湧も、開き直って全面的に攻めに出ている。守るつもりなど、さらさら無いようだ。

 そこを美誇人は、つけ狙う。

 そして、聴牌即で、

「リーチ!」

 美誇人はリーチをかけた。当然、狙いは湧。

 同巡、湧も聴牌した。

 手牌は、

 {2223334448中中發}  ツモ{8}

 ローカル役満、紅一点の聴牌だが、これをツモ和了りできれば四暗刻になる。

 当然、{發}を切って、

「リーチ!」

 湧も攻めに出た。

 しかし、

「御無礼。」

 これで湧は美誇人に一発で振り込んだ。

 

 開かれた手牌は、

 {五[五]②②⑤[⑤]11西西北北發}  ドラ{一}  裏ドラ{②}  ロン{發}

 

 {發}単騎のリーチ一発七対子ドラ4。倍満だ。

「16000です。」

 この和了りで、美誇人はリードをさらに広げた。

 

 

 南二局、美誇人の親。

 ここでも美由紀は攻めに出る。

「ポン!」

 まず、みかんが捨てた{北}を鳴くと、その次巡、

「ポン!」

 今度は、湧が捨てた{中}を鳴いた。

 これで役牌二つが副露された。

 さらに、その二巡後、

「ポン!」

 美由紀は美誇人が捨てた{1}を鳴いた。

 

 上家の美由紀が鳴けば、それだけ美誇人のツモ回数は増える。そのお陰で、次のツモ番で美誇人は聴牌した。

 ここでリーチをかければ、もしかしたら手牌の少ない美由紀から和了れるかもしれない。

 ただ、美誇人はリーチをかけるのを躊躇した。

 美由紀のファンだからと言うのもあるが、それとは別の理由の方が大きい。直感的に、リーチかけても意味が無いと感じたのだ。

 

 その次巡、まさに美誇人が感じたとおり、

「ツモ!」

 美由紀がツモ和了りした。もし、リーチをかけていれば、ただでリーチ棒を差し出していたことになる。

 

 開かれた手牌は、

 {99白白}  ポン{11横1}  ポン{中横中中}  ポン{北北横北}  ツモ{9}

 

「北中混一混老対々。4000、8000!」

 しかも倍満。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 129000

 2位:美由紀 126000

 3位:みかん 98000

 4位:湧 47000

 ここに前半戦で美由紀がリードした4600点を足すと、1600点差だが美由紀がトータルで逆転した。

 阿知賀女子学院と綺亜羅高校にとっては、まさに手に汗握る試合展開になった。

 

 

 南三局、湧の親。

 湧自身のモチベーションは落ちていない。まだ、攻める姿勢はある。

 しかし、美誇人によって落とされたツキはどうしようもない。手が出来ても、あと一歩のところで他家に先に和了られてしまう。

 勝負すれば振り込むし、イイところがない。

 そこで向かえた親だが、

「リーチ!」

 結局、ここではみかんに先行された。

 この時、みかんの手はリーチドラ2の手。巡目は浅いが、これ以上手が伸びないとの判断だ。

 美由紀、美誇人ともに一発回避で安牌落とし。

 

 湧は、今更守りに入らない。攻めに回る。

 一発目で捨てた牌は暴牌と言われても仕方が無いものであった。しかし、偶々であろうが、みかんの和了り牌ではなかった。

 一発ツモもなし。

 

 しかし、その次の巡で、

「ツモ。」

 みかんは和了り牌を自力で引いてきた。

「リーツモドラ3(表2裏1)。2000、4000。」

 これで、みかんは原点を越えた。

 

 

 オーラス、みかんの親。

 ここでも先行したのはみかんだった。最後の最後で、ようやくみかんにツキが回ってきた感じだ。

 役無しドラ1で聴牌。

「(親だし、イイか。)」

 ここで、みかんは、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 前局同様、美由紀と美誇人は、ともに一発回避で安牌落とし。湧は、守る気は無いが、捨てる予定の牌に、みかんの現物があったので、それを一先ず落とした。

 そして、みかんは一発目のツモ牌で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。これには、本人も驚いたようだ。

「リーチ一発ツモドラ2(表1裏1)。4000オール!」

 しかも親満である。嬉しい和了りだ。

 

 この時点で副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 123000

 2位:美由紀 120000

 3位:みかん 118000

 4位:湧 39000

 

 そして、全後半戦のトータルでは、

 1位:美由紀 247200

 2位:美誇人 246100

 3位:みかん 217200

 4位:湧 89500

 みかんとトップとの差は丁度30000点差。

 連荘しても親ハネツモしただけでは逆転できない。一回で逆転するのであれば親倍ツモが必要だ。

 ただ、親満を二連続でツモ和了りできれば逆転できるとも言える。

 

 南三局とオーラスで、みかんは、二回連続で満貫を和了れている。ツキが回ってきている感触は十分ある。

 もし、ここで逆転トップが取れれば、勝ち星三で白糸台高校の優勝が決まる。

 みかんは、ついさっきまで勝ちを諦めていたが、今置かれた状況なら話は別だ。勝てる可能性はゼロじゃない。

 それに、そもそも和了りやめをすると言う選択肢は無いだろう。

「一本場!」

 当然、みかんは、連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{③}。

 美由紀は、和了れば、どんな手でも勝ち星をあげられる。

 美誇人はツモ和了りならゴミツモで良い。直取りなら美由紀から何でも良いから和了るか、あるいは2翻以上の手をみかんか湧から和了れば逆転勝ち星となる。

 みかんも、さらなる連荘を狙う。

 

 七巡目、湧が聴牌。

 手牌は、

 {1234567東東東南北北}  ツモ{8}

 {南}切りで{369}待ち聴牌。{9}ならローカル役満の東北新幹線。当然、打{南}。

 すると、これを、

「ポン!」

 美由紀が鳴いた。

 これで聴牌。

 手牌は、

 {二三四五五五六七八九}  ポン{南横南南}

 {一四六七}待ち。

 

 美誇人は、

 {八八八②③③[⑤]⑥⑦3456}  ツモ{中}

 ここで{中}をツモ切り。

 

 湧も{白}をツモ切りした。

 

 次は、みかんのツモ番。

 ここでみかんは、

 {五六七④[⑤]⑥⑦⑧⑧⑧[5]6西}  ツモ{7}

 打{西}で聴牌。{③④⑥⑦⑨}待ち。

 

 続く美由紀のツモは{①}。当然、これをツモ切り。

 

 そして、美誇人のツモは{六}。

 美誇人の表情が変わった。

「(これは切れない。)」

 ここで美誇人は打{八}。美由紀の和了り牌を止めた。

 

 その後、美誇人はツモ{3}、打{八}。

 ツモ{③}打{②}で振り込みを回避し、その次のツモ番で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {六八③③③[⑤]⑥⑦33456}  ツモ{七}  ドラ{③}

 

「タンヤオツモドラ4。3100、6100。」

 この和了りで副将後半戦が終了した。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 135300

 2位:美由紀 116900

 3位:みかん 111900

 4位:湧 35900

 

 そして、全後半戦のトータルでは、

 1位:美誇人 258400

 2位:美由紀 244100

 3位:みかん 211100

 4位:湧 86400

 最後の最後で美誇人が逆転して綺亜羅高校が決勝戦初めての勝ち星をあげた。

 これで勝ち星は白糸台高校が二、阿知賀女子学院が一、綺亜羅高校が一となった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 対局後の一礼が終わり、副将戦選手達は対局室を後にした。

 この頃、各控室では大将戦選手達のモチベーションが上がっていた。

 

 現在の総合得点は、

 1位:白糸台高校 990800

 2位:阿知賀女子学院 939100

 3位:綺亜羅高校 925800

 4位:永水女子高校 344300

 依然として白糸台高校、阿知賀女子学院、綺亜羅高校の三強状態である。

 

 現在勝ち星無しの永水女子高校は、もし大将戦で勝ち星を取れたとしても優勝は有り得ない。準優勝を狙うにも、阿知賀女子学院と綺亜羅高校の総合得点を追い抜くのは、一般的に考えて、もはや不可能である。

 つまり、既に4位確定と言える。

 

 普通なら、こんな状態で大将戦が回ってきたら、大将のモチベーションは上がるはずがない。下がりっぱなしだろう。

 しかし、東横桃子は違っていた。

 相手は原村和と高鴨穏乃。

 

 原村和は長野時代からの好敵手。自分のステルスを初めて破った相手。当然、和には負けたくない。

 

 高鴨穏乃は天江衣が深山幽谷の化身と比喩した超魔物の一人。一昨年前のインターハイ開催中に、ひょんなことから練習試合をしたが、その頃と今では随分違う。

 

 それから不気味な存在なのが綺亜羅高校の稲輪敬子。見ていて強い相手だと言うことは良く分かる。

 多分、その強さの秘密が、実際の対局を通じて分かるだろう。

 さすがに桃子も、敬子の強さがKYに由来するとは、想像もつかないようだが……。

 

 チームの負けが決まっているなら、自分の麻雀が、この三人にどこまで通じるか試してみたい。

 なので、桃子のモチベーションは下がるどころか、むしろ上がっていた。

 

 

 対局室に大将選手達が姿を現した。

 今日は、敬子は『つぶつぶドリアンジュース』を持っていなかった。さすがに美誇人と擦れ違った際に、

「他校の選手に迷惑だから持ち込むのはやめて!」

 と言われたのだ。

 それで、渋々無難にオレンジジュースを買ったようだ。

 

 場決めがされ、起家が敬子、南家が穏乃、西家が桃子、北家が和に決まった。

 

 

 東一局、敬子の親。

 まず東初で先行したのは、牌効率が最も良い和だった。

 僅か六巡目で、聴牌し、

「リーチ!」

 そのまま即リーチをかけた。割と早い巡目での先制攻撃だ。

 敬子も穏乃も桃子も、一先ず現物を落として様子を見る。

 一発目で、和はツモ和了りできず。

 そのまま数巡が過ぎていった。

 しかし、中盤から終盤に差し掛かる頃、

「ツモ!」

 ようやくと言ってよいだろう。和が何とか自力で和了り牌を掴み取ってきた。表ドラは1枚あるが裏ドラなしの手。

「リーチツモタンヤオドラ1。2000、3900。」

 とは言え、満貫級の手だ。なかなかの出足と言える。

 

 

 東二局、穏乃の親。

 ここから敬子の本領が発揮される。

 敬子の捨て牌は、順に、

 {東南西北白發中}

 綺麗に順番どおり並べられている。

 しかも、

「リーチ!」

 七枚目に捨てた{中}でリーチをかけてきた。

 こんな捨て牌では何が何だか分からない。

 しかも、リーチをかけてから理牌を始めた。これまで、理牌せずに打っており、しかもツモった牌は順に右側につけるだけ。

 当然、ツモ牌を手牌に入れる動作を見たところで、牌がどんな入り方をしているかの推察すらできない。

 

 一発目のツモは不発。

 しかし、その次のツモ巡で、

「ツモ!」

 敬子はツモ和了りを決めた。

「メンタンピンツモドラ3。3000、6000。」

 しかもハネ満ツモ。

 親の穏乃にとっては痛い親かぶりになった。

 

 

 東三局、桃子の親。

 ここでの敬子の捨て牌は、順に、

 {一九①⑨19}

 前局のリーチ前の捨て牌を足したら国士無双が出来ている。傍から見ていて、ふざけているようにしか思えないだろう。

 しかも、ここでも敬子は六巡目で捨てた{9}を横に曲げ、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。この捨て牌も、全然読めない。

 そして、

「一発ツモ!」

 敬子は、即ツモ和了りを決めた。

「リーチ一発ツモ七対ドラ2。3000、6000。」

 しかも、またもやハネ満だ。

 他家からしたら全然読めない麻雀。これが綺亜羅高校第二エース、KYな娘と呼ばれる稲輪敬子である。

 

 

 東四局、和の親番。

 ここに来て、桃子は、卓上に靄がかかっているのを感じ取った。いよいよ、穏乃の能力が発動したのだ。

 これによって、他家の能力はキャンセルされる。

 ところが、和も敬子も驚きもせずに普通に打っている。

 

 和は強度のデジタル人間のためか、能力自体が殆ど効かない。実際には多少の影響は受けるのだろうが、殆ど影響を受けないように感じる。

 なので、穏乃の能力が発動したところで、せいぜい和には、

『ちょっとツモが悪くなりましたね』

 程度のことだろう。

 

 問題は敬子である。

 敬子も殆ど変わった雰囲気が無い。

「(彼女も能力が効かないタイプっスか?)」

 桃子は、敬子と言う正体不明の選手に、驚くと同時に興味が湧いてきた。




綺亜羅の旋風-7


翌日も節子は、敬子、美誇人、静香、鳴海の四人で打ってもらった。
一半荘目は、1位鳴海、2位敬子、2位美誇人、4位静香。
二半荘目は、1位美誇人、2位敬子、3位静香、4位鳴海だった。

この面子では、昨日の二半荘を含めて、敬子は四連続2位。
25000点持ち30000点返しではマイナスだが、獲得素点だけで考えればプラスである。
1位を取れなかったが、昨日と同様に敬子は満足顔だった。
少なくとも部内で実質3位から5位を相手に同等に戦えていると思えるからだ。


十月になり、秋季県大会が行われた。
今回も夏の県大会の時と同様に、木曜日から日曜日までの四日間に渡っての開催であった。
綺亜羅高校麻雀部員達は、大会にエントリーできない身だ。さすがに授業をサボって見に行くのはマズイ。
それで節子達は、土曜日と日曜日のみ会場に足を運ぶことにした。

土曜日に準々決勝戦と準決勝戦、日曜日に決勝戦が開催された。
夏の大会と同じで、準決勝戦までは先鋒戦から大将戦まで各半荘一回ずつ、決勝戦のみ各半荘二回ずつの対局であった。

節子の目から見て、明らかに夏の大会よりも全体的にレベルダウンしているように感じられた。
3年生レギュラーが抜けて、その抜けたメンバーよりも弱い2年生や1年生がレギュラーに昇格したと言うのもあるが、多分、それだけが理由では無い。
やはり、最後の夏に賭ける3年生の想いが、この大会には無いからだろう。

綺亜羅高校の暫定メンバーは、レギュラー陣が節子、美和、美誇人、静香、鳴海、そして二人の補員うち片方は敬子、もう片方は、恐らく奈緒か喜美子。

常にレギュラー陣だけで試合を済ませられるモノでは無い。
女の子の日もあるし、普通に風邪を引いたり頭痛がしたりと体調不良の日もある。
盲腸炎にかかって入院することだって考えられる。
それに、あの美誇人だって、夏の大会の選手選定の部内戦の時に、新型ウイルスにやられて寝込んでいた。
なので、補員だって不可欠なメンバーだ。

ある意味、綺亜羅高校は安泰であろう。
レギュラーの誰かに不測の事態が起きた時には、敬子が間違いなく穴を埋めてくれる。あの麗しき人魚姫は、非常に頼もしい存在だ。


決勝戦は、夏の大会と同じで越谷女子高校、所沢第二高校、不動高校、春日部中央高校の対決だった。
自分達と同じ、1年生だけで結成された新チーム、大酉高校なんて伏兵も出てきたが、僅かに力が及ばず準決勝戦で敗れていた。
多分、大酉高校が注目されるのは今の2年生が来年の夏を過ぎて引退してから………、つまり来年の秋季大会からだろう。

マークすべきは、やはり所沢第二高校の戸成皐月と戸成芽衣。自分達と同じ1年生プレイヤーだ。
所沢第二高校は、夏の大会と同じで、この二人を先鋒と次鋒に配置した。

今回も点数引継ぎ制のルール。
皐月と芽衣の活躍で所沢第二高校は圧倒的なリードを作った。そして、そのまま逃げ切り優勝は所沢第二高校のものとなった。
もっとも、決勝進出した四校が関東大会に出場するわけだが………。

ただ、節子は試合を見て、今の美誇人、静香、鳴海、敬子なら、この二人が相手でも圧勝すると感じていた。
もし、この大会に自分達が出場していれば、余程全員の調子が悪くない限り、間違いなく優勝は自分達のものだ。

やはり、照準となるのは全国だ。
そこには、とんでもなく強いチームが存在する。

チャンピオン宮永咲が率いる清澄高校。
しかも、同じ長野には天江衣のチーム、龍門渕高校もある。
どちらが全国に出てきてもおかしくない。共に超強豪チームだ。

他にも深山幽谷の化身と呼ばれる高鴨穏乃のいる阿知賀女子学院。
前チャンピオン宮永照の残したチーム………、今は超厄介なマルチタスクを有する魔物、大星淡をエースとする白糸台高校。
荒川憩を擁する三箇牧高校。
やっぱり大会出場辞退の期間が明けるのが待ち遠しくて堪らない。





翌日、節子は朝刊を見て目が点になった。
他の都道府県の試合結果を見たのだが、長野県の決勝進出校の中に清澄高校の文字が無かったのだ。
首をかしげながら次のページを開くと、
そこに書かれていたのは、
『阿知賀女子学院のエース!』
の文字と共に咲の姿が載っていた。
どう言うことだ?

それと、もう一つ大きく取り上げられていたのが、
『奇蹟の4並び』
の文字。
先鋒として出場し、起家を引くと東一局で怒涛の連荘を続けて全員箱割れさせて終了。
なおかつ自身の点数を444400点にした。
まるで、全員に死を与えるが如くのパフォーマンス。
100点棒まで完璧に点数調整している。
こんなことができるのか!?

細かく読んで行くと、咲は、親の転勤で阿知賀女子学院に転校したと書かれていた。
咲が抜けた長野県では、龍門渕高校が優勝。
超魔物の天江衣がいるし、他のメンバーも結構強いのだから当然か。

さらに記事を読んで行くと、西東京優勝校の白糸台高校のメンバーの中に原村和の名前があった。
東東京優勝校の臨海女子高校のメンバーの中にも片岡優希の名前があった。
と言うことは、清澄高校は完全に解体したと言うことだ。

それともう一つ、臨海女子高校のメンバーの中に、コクマで長野県の選手として出場していた南浦数絵の名前もある。
結構強い選手だ。

インターハイ優勝チームである清澄高校は解体したが、言い換えれば、阿知賀女子学院、白糸台高校、臨海女子高校がパワーアップしたとも言える。
節子は、ますます大会出場が待ち遠しくなった。
これらのチームと戦いたいのだ。





そして、世界大会が始まった。
さすがにボストンまで応援しに行くのはムリだ。
節子は、テレビで試合を見た。


日本チームは決勝戦まで勝ち進んだ。

これより大将後半戦オーラスに突入する。
この時、節子は顔面蒼白していた。
W宮永に天江衣、荒川憩と言った超魔物を揃えたはずの日本チームが、まさかの低迷状態にあったからだ。

各チームの点は、
東家:ドイツチーム  141900(暫定1位)
南家:中国チーム 108700(暫定3位)
西家:アメリカチーム 110100(暫定2位)
北家:日本チーム 39300(暫定4位)


ドイツチームは安手で流せば優勝。
流局でも問題ない。

アメリカチームは三倍満ツモか、ドイツチームから倍満を直取り、もしくは中国チームか日本チームから役満直取りが優勝条件。

中国チームはドイツチームから倍満を直取りでも優勝できず、三倍満以上の和了りが必要だった。

本大会ではダブル役満以上の和了りも認められていたが、単一役満でのダブル役満は認められていなかった。
そのため、例えば慣習的にダブル役満として認められることの多い大四喜や国士無双十三面待ち、純正九連宝燈、四暗刻単騎待ち、大七星なども、ここではシングル役満として扱われることになる。
つまり、清老頭四暗刻や大三元字一色四暗刻といった複合役満でなければダブル役満やトリプル役満は成立しないことになる。

日本チームは、ダブル役満をツモ和了りしても、他家から直取りしても優勝できない。トリプル役満以上を必要とする状況だった。
もはや、日本チームの優勝は絶望的と言えよう。

咲の武器とも言える大明槓からの嶺上開花に対する責任払いは、本大会では適用されていなかった。
もっとも、それがあったところで、もはや逆転優勝できる状況にはないのだが…。


トップを走るドイツチームの大将、親のミナモ・ニーマンは数巡で聴牌。
安上がりで良いこの局面で、いまだアメリカチーム大将も中国チーム大将も聴牌していない状態。
節子は、完全に優勝はドイツチームに持って行かれたと思っていた。

ところが、中国チーム大将が初牌の東を切ると、
「ポン。」
咲が動いた。
この日本最強の女子高生雀士は、まだ勝利を諦めていないのだ。

次巡、ミナモは①ツモ切り。これは咲の和了り牌では無い。
しかし、
「カン!」
ここで咲は大明槓を仕掛けた。
嶺上牌は東。
「もいっこ、カン!」
当然のように咲が東を加槓。そして、嶺上牌は南。
「もいっこ、カン!」
続いて咲が南を暗槓。次の嶺上牌は西。
「もいっこ、カン!」
さらに咲が西を暗槓。
これでまさかの四連続槓。
そして、嶺上牌は、ラス牌の北。
北の文字が見えるようにして、咲は、それを手元に置いた。
「ツモ。嶺上開花。小四喜四槓子。」

この大会では、包と呼ばれる役満責任払い、すなわち三枚目の三元牌を鳴かせて大三元を確定させるとか、四枚目の風牌を鳴かせて大四喜を確定させるプレイに対する罰則(責任払い)が適用されていた。
そして、これは四槓子にも適用されていた。
また、連槓の場合、連槓の最初が大明槓であれば、その大明槓をさせたプレイヤーの包となった。

今回の場合、四槓子の32000点がミナモの責任払い、小四喜はツモ和了りとみなされ、親のミナモに16000点、他の二人に8000点ずつの支払いが課せられた。

その結果
1位:日本チーム 103300(+64000)
2位:アメリカチーム 102100(-8000)
3位:中国チーム 100700(-8000)
4位:ドイツチーム 93900(-48000)
まさかの大逆転劇だった。

咲が、また超奇蹟を起こしてくれた。こんな闘牌は、他の人間には不可能だ。世界広しと言えど、咲にしかできない芸当であろう。
これをテレビで見て、節子は大興奮した。

多分、自分でも咲には勝てないだろう。
しかし、その巨大な敵と打ちたい。
自分が何処まで通用するか試してみたいのだ。





世界大会の後、関東大会が開催された。
節子は、関東大会の決勝戦を見たが、彼女の胸中では今一つ盛り上がりに欠けた。
世界大会での咲の活躍を見てしまった以上、はっきり言って、この程度のレベルでは全然物足りないのだ。


その翌日、節子は新聞で近畿大会の成績を知った。
咲vs憩の対局。
先鋒戦で魔物二人が同時に暴れて、千里山女子高校の二条泉がトビで終了。
正直、咲とこれだけの戦いを繰り広げた憩を、節子は羨ましく思えた。

練習試合が出来れば、すぐさま阿知賀女子学院に申し込むのに………。
それができない自分達の立場が、節子としては、もどかしくてならなかった。





年末年始を迎えた。
綺亜羅高校のメンバーで初詣に出かけた。
発案者は節子。
理由は、敬子の着物姿が見れればラッキーと思ったから。

どうやら、その辺を静香が汲み取ってくれたようだ。
初詣には敬子が着物を着てきた。
勿論、髪も綺麗に結ってあるし、うっすら化粧もしている。とんでもなく美しい。これなら白糸台高校の佐々野みかんにも負けないぞ!
こんなのが見れて、節子は、もう死んでも良いとすら思えた。





そして2月。
もうすぐバレンタインデー。
節子は、敬子にチョコをあげようかと思って日曜日に一人街に出た。

片道二車線の広い交差点で信号待ちしていると、まだ赤なのに、突然、後ろの人が節子を押してきた。
どうやら、その人も、そのさらに後ろから押されたみたいだ。
ただ、節子は一番前にいたため、不幸にも道路に押し出されてしまった。
そこに、猛スピードで突っ込んで来るダンプカー。
避ける余裕など無い。
節子は、そのダンプカーに跳ねられた。

跳ね飛ばされる節子の身体。
その時、一瞬だけ節子の目に映ったのは、列の後方にいる礼子の姿。
礼子は、
『ザマミロ』
とでも言いたそうな表情をしているように節子には感じられたが、礼子が押したのかどうかは分からない。
その直後、節子の視界は真っ暗になった。


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百三十本場:45000点差

 春季大会決勝戦、大将前半戦。

 東四局、和の親番。穏乃の能力スイッチが入ったところだ。

 

 どうやら、卓上にかかる靄が見えるのは桃子だけのようだ。

 山支配も始まっている。

 桃子は、この時、以前に比べて、山支配が厳しくなった感じを受けていた。偶然かもしれないが、有効牌が一層、来にくくなった気がする。

 

 一方の和と敬子は、少なくとも桃子よりは手が進んでいるように見える。やはり、二人とも穏乃の能力の影響を余り受けていないのか?

 

 穏乃の背後に、微かだが火焔が見え隠れしている。

 やはり、山支配が発動した今、場全体を支配しているのは穏乃であろう。

 

 場が進むに従って、靄が次第に濃くなって行く。ただ、それをまともに感じている人間は、ここでは桃子だけのようだ。

 中盤をそろそろ終えようとした時、

「ツモ。」

 小さな声で穏乃が和了った。

「タンヤオツモドラ1。1000、2000。」

 前三局の和や敬子の和了りに比べると、30符3翻と派手ではない。しかし、この和了りは、明らかに穏乃が場を支配していることの証明であろう。

 

 

 南入した。

 南一局、敬子の親。

 ここでも穏乃の能力は継続している。

 敬子も和も、一向聴までは手が進んだようだが、その先に進めない。穏乃の山支配の影響だろう。

 やはり、敬子も和も他人の能力から受ける影響が一般人よりも若干少ないだけで、全く影響されないわけでは無さそうだ。

 

 一方の穏乃は、順調に手が進んでいる。後半では穏乃の支配力が上がって行くことを改めて感じさせられる。

 今回も山が深くなるにつれて靄が濃くなる。前局に比べて視界が悪くなっているのを桃子は感じていた。

 一方の和と敬子は、視界が悪くなった雰囲気は無い。二人とも、穏乃の山支配は効いていても、能力による幻影までは感知しないようだ。

 

 しかし、幻が見えなくても、手が進まないのは変えられない。

 ここでも先に聴牌したのは穏乃だった。

 ただ、リーチはかけない。

 そして、

「ツモ。タンピンドラ2。2000、4000。」

 聴牌した次巡、穏乃が和了りを決めた。

 点数申告の声が、前局よりも少し大きくなった気がする。やはり、穏乃としても満貫を和了れて喜びはあるのだろう。

 ただ、穏乃は、まだそれを余り全面には出さない。点棒を受け取ると、黙って卓中央のボタンを押した。

 

 

 南二局、穏乃の親。

 場が進むほど、そして局が進むほど穏乃の支配は強力になり、それと同時に卓にかかる靄も濃くなる。

 この靄も、いずれ濃霧と呼ぶに相応しいものになる。

 

 桃子の視界は既に悪い。

 何も感じない和や敬子のほうが、むしろ異常に感じる。

 とうとう桃子の目に、穏乃の背後に出現する火焔がはっきりと見えた。

 その直後のことだ。

「ツモ!」

 またもや穏乃が和了りを決めた。

「タンピンツモ一盃口ドラ1。4000オール!」

 しかも親満である。

 この和了りで、とうとう穏乃が首位に立った。

 

 南二局一本場。ドラは{4}。

 ここでも前局と全く雰囲気が変わらない。穏乃の支配が場全体を覆う。

「ポン」

 とうとう穏乃の親を流すためか、和が鳴いた。役牌では無い。チュンチャン牌だ。

 恐らくクイタンを狙っているのだろう。

 しかし、無理な状態から鳴いたのだろう。残りの手牌を和了れる状態に持って行くのに苦労していそうだ。

 

 一方の穏乃は未だに門前で手を進めている。

 たしかに穏乃は余り鳴かないほうだが、連荘を考えたら、もう少し仕掛けて行くのが普通である。

 恐らく、山の何処に何が隠れているのかをある程度把握しているので、余程のことが無い限りは鳴く必要が無いのだろう。

 

 穏乃の配牌は、

 {二四五八九②[⑤]⑧⑧8西北白中}

 

 ここから七巡で、

 {二二四[五]六④[⑤]⑧⑧⑧468}

 

 そして、次巡、穏乃は{⑥}をツモって聴牌。

 誰もが打{8}でタンヤオ三色同順ドラ3を狙うと思った。

 しかし、ここから、まさかの打{4}(ドラ)。

 これを、

「ポン!」

 待ってましたとばかりに和が鳴いた。これで和のドラ3………、つまり和了り役を足すと満貫が確定したことになる。

 

 ところが、和が鳴いたその時、ほんの一瞬だが穏乃の顔に笑みが灯った。まるで、計算どおりとでも言いたそうだ。

 そして、穏乃は次のツモで、

「ツモ。」

 {7}をツモって和了った。

「タンヤオツモドラ2。3900オールの一本場は4000オール。」

 和のドラポンは、穏乃のシナリオどおりの鳴きだったのだ。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 125000

 2位:敬子 107100

 3位:和 89900

 4位:桃子 78000

 穏乃がトップに立っていた。

 

 南二局二本場。ドラは{③}

 この局、桃子の配牌は、

 {一三六九②③[⑤]68東南西白}

 

 ここから七巡で、

 {一二三九②③[⑤]789南南南}  ツモ{①}

 聴牌した。

 いや、穏乃の山支配が発動する中、珍しく聴牌させてもらえたと言うべきか?

 普通は、ここから打{[⑤]}の九単騎を取るだろう。勿論、桃子もそのつもりだった。

 

 この時だった。桃子は穏乃の背後に再び火焔を見た。

 しかも、東四局で見えた時よりも遥かに激しい。業火と呼ぶに相応しい。

 直感的に、ここで素直に打ったら穏乃に打ち取られる。そう桃子は思った。

 

 この時、穏乃は、

 {二三四五六七③④33777}

 {②⑤}待ちで聴牌していた。

 桃子にダブ南チャンタドラ1を聴牌させて、それで出てきた{[⑤]}で打ち取るシナリオなのだ。

 

 桃子は、

「(これは、罠っス。だったら、こう行くっス!)」

 打{九}で振り込みを回避した。

 

 次巡、穏乃は{南}をツモ切り。

 そして、桃子は、次のツモで、

「ツモ!」

 まさかの{[⑤]}を引いて和了った。

「ダブ南ツモドラ3。3200、6200っス!」

 ここでのハネ満ツモは嬉しい。

 しかも、これでヤキトリも回避の上に順位も4位から3位に浮上した。まさにナイス{九}切りであった。

 

 

 南三局、桃子の親。ドラは{中}。

 前局よりも、さらに靄が濃くなっている。視界が悪い。

 しかし、そう思っているのは桃子だけである。

 

 この局、

「ポン!」

 一巡目に桃子が捨てた{中}を、敬子が鳴いた。これで中ドラ3が確定である。

 初っ端なら、配牌で対子になっていない限り鳴かれることは無い。確率的には鳴かれる可能性が低いと考えて第一打で捨てたのだが…。

 ただ、これで一つ確定した。敬子にもステルスは通用していない。

 

 和にステルスが通じないのは分かっていた。

 穏乃にも、東三局まではともかく、東四局以降になったら多分通じないだろうとは思っていた。能力をキャンセルされるからだ。

 ただ、敬子にも効かないとは………。

 

 可能性は二つ考えられる。

 一つ目は、穏乃に能力をキャンセルされ、ステルス自体が発動していないこと。

 そして、もう一つは、敬子自身が自分に降りかかる分だけだが、他人の能力をキャンセルする力があることだ。

 桃子は、なんとなく後者の可能性を考えていた。穏乃の能力を受けているはずなのに、驚きもせず普通に打っているからだ。

 大抵は、誰でも東四局から現れる靄に、何らかの反応を示すはずなのに……。

 それとも、昨日の準決勝戦で経験したから、今更驚かないと言ったところだろうか?

 

 いずれにしても桃子は、

「(やっぱり綺亜羅の大将は、他者の持つ能力のうち自分に降りかかる分だけをキャンセルしてると思っていた方が良さそうっスね。)」

 と判断した。

 ただ、これで桃子は意気消沈するどころか、むしろ燃えた。まるで一昨年の夏の県予選で和にステルスを破られた時と同じ感覚だ。

 

 六巡目に突入した。

 ここで敬子は、

「やっとかぁ。」

 こう言うと、

「ツモ! 中ドラ5。3000、6000!」

 中三枚以外に赤牌を二枚持つ手だった。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は、

 1位:敬子 115900

 2位:穏乃 115800

 3位:桃子 84600

 4位:和 83700

 たった100点差だが、敬子がトップを奪い返した。

 綺亜羅高校も大将戦を取れば勝ち星二で白糸台高校に並ぶ。当然、敬子も勝ちに行く気満々だ。

 

 

 そして、大将戦は前半戦オーラスに突入した。

 親は和。

 穏乃の能力が最大値になる局。当然、全ての能力はキャンセルされるはずである。

 ところが、自分に降りかかる全ての能力を跳ね返せる輩が、この卓には二人いる。和と敬子だ。

 ここに来て、和は、

「チー!」

 三巡目で早々に鳴いてきた。

 その次巡には、

「ポン!」

 今度は敬子が捨てた{南}を鳴き、その四巡後には、

「ツモ。南混一色ドラ2。4000オールです。」

 完全に穏乃の山支配を跳ね返し、親満をツモ和了りした。

 しかし、まだ和は3位。

 当然、

「一本場です!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 ここでも和は、

「ポン!」

 二巡目と早いうちから東を鳴き、その三巡後に、

「ツモ。東ドラ2。2100オール。」

 さっさと和了った。

 そして、

「二本場です。」

 再度、連荘を宣言した。

 

 オーラス二本場も、

「チー!」

 早い巡目から積極的に仕掛け、

「ツモ。1200オール。」

 他家を寄せ付けないスピードで和了りを決めた。

 

 現在の大将前半戦の点数と順位は、

 1位:敬子 108600

 2位:穏乃 108500

 3位:和 105600

 5位:桃子 77300

 和がトップと3000点差のところまで追い上げてきた。

 次に和が和了ればトップを取れるかもしれない。前後半戦勝負とは言え、前半戦でトップに立ち、後半戦を優位に迎えたいのは多くの人が思うところだ。

 当然、和は、

「三本場です。」

 さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス三本場。

 ここに来て、珍しく、

「ポン。」

 二巡目で穏乃が敬子から自風の{西}を鳴いた。和だけではなく、穏乃も自分がトップで前半戦を折り返す気なのだ。

 その二巡後、

「チー。」

 再び穏乃は敬子から{①}を鳴き、その次巡、

「ツモ。西ドラ1。500、1000の二本場は700、1200。」

 安手だがツモ和了りして前半戦を終了させた。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 111100

 2位:敬子 107900

 3位:和 104400

 4位:桃子 76600

 桃子の一人沈みとなった。

 相手は全国上位レベルの実力者達。その中で戦い抜くには、やはりステルスの力がないと勝負にならないことを桃子は改めて痛感していた。

 

 

 休憩に入った。

 

 早速桃子は、ステルスの力を使って皆の視界から消えた。別に逃げ出すわけではない。一人で気楽に時間を潰すためだ。

 

 和は、一旦対局室を出た。

 本当は、穏乃と久し振りに話がしたいところだが、今は敵同士。しかも、ともに優勝を賭けたこの一戦。

 互いにベストを尽くすため、今は下手に会話を交わさない方が良いだろう。そう和は判断したのだ。

 

 敬子は、

「(やっぱり、あれが無いと調子狂う!)」

 そう心の中で叫びながら自販機コーナーへと向かった。

 そして、

「やっぱり、これを飲まなきゃね!」

 彼女は、つぶつぶドリアンジュースを購入すると、その場で一気に飲み干した。

 さらに彼女は、

「このまま戻ったら美誇人に怒られそうだからね。」

 一旦トイレに行って口を濯ぎ、ドリアン臭を極力落とした。KYな娘ではあるが、今、彼女は、彼女なりに気を使おうとしていたのだ。

 

 一方の穏乃は、対局室に残っていた。

 卓についたまま目を閉じて心を集中していた。

 前半戦は、一応トップを取れたが、総合得点は、

 1位:白糸台高校 1095200

 2位:阿知賀女子学院 1050200

 3位:綺亜羅高校 1033700

 4位:永水女子高校 420900

 阿知賀女子学院は、まだ白糸台高校に45000点もの差をつけられている。これを逆転できなければ優勝できないのだ。

 しかし、山が高ければ高いほど、その道が険しければ険しいほど穏乃は燃える。

『この山、登り切る!』

 と気合いが増す。

 それに、この一戦には前人未到の春夏春の三連覇がかかっているのだ。当然、まだまだ優勝は諦めない。

 

 

 それから暫くして、和、桃子、敬子が対局室に戻ってきた。

 別に敬子からはドリアン臭はしない。きちんと洗い流せたようだ。

 

 

 場決めがされ、起家は和、南家は桃子、西家は敬子、北家は穏乃に決まった。

 これを控室のモニターで見ていた憧は、

「ラス親引いてくれた。シズなら、これできっと勝ってくれるよね!」

 そう言いながら、穏乃の大逆転勝利を心の底から祈っていた。

 

 和と穏乃の点差、45000点は、主に憧とゆいで作ったものである。

 厳密には、咲が中堅後半戦で逆転勝利の演出などしなければ、余裕でひっくり返っていた可能性はある。

 しかし、それでも咲は前半戦で308800点を叩き出してトータルで余裕の勝ち星を取っている。

 さすがに咲のせいとは言えない。

 

 美由紀も、あの面子を相手によく頑張ったと思う。湧は、インターハイ個人戦では憧よりも上位だった。女子高生ランキングは8位。

 その湧を相手にしての2位。

 1位は安定した強さを誇る綺亜羅高校の三銃士の一人。

 美由紀が勝ち星を得られなかったことを誰が責められるだろうか?

 

 なので、これで、もし穏乃が勝ち星を取っても得失点差で負けたなら、それは自分とゆいが戦犯であるとの自覚が憧にはあったのだ。

 

 今になって、自分が驕り高ぶっていたことも理解した。

 あの一回戦が終わった直後の『余裕発言』は、周りから叩かれて当然だ。

 

 対局室では、卓中央のスタートボタンが押されていた。

 これより、優勝を決める大将後半戦が始まる。




怜「今回で終わらせたいんで、あんまり細かくは書かへんで!」

爽「まあ、あらすじだけ書いたって感じだね。特に後半。」




綺亜羅の旋風-8


節子は、救急車で至急病院に運ばれた。
身体は生きている。
心臓は動いている。
しかし、頭蓋骨が陥没していたとのこと。脳波はメチャクチャだった。

美和達が病院に駆け付けたが、面会謝絶の状態だ。今は、節子が何とか助かることを、ひたすら祈ることしかできなかった。





その二日後の夜のことだった。
静香は、急に寝苦しくなって、目が覚めた。
時計の針は、午前二時を示していた。
ふと、静香の耳に女性の声が聞こえてきた。
「人魚姫を海に連れてって。」
聞き覚えのある声。
多分、これは節子の声だ。
しかし、そこには自分ひとりしかいない。
「えっ? 節子?」
「お願い!」
いったい何だったのだろうか?
その後、再び部屋は静まり返り、節子の声は聞こえなくなった。


丁度同じ頃、敬子も部屋で一人、起きていた。
ただ、敬子の場合は静香と違って全然寝付けずにいた。節子が救急搬送されて以来、一睡もしていない。
彼女は節子の容態が気になって眠れなかったのだ。
もともと何か気になることがあると、それだけで頭の中がいっぱいになってしまうタイプだからだろう。

敬子が上体を起こしてベッドの上に座った。

突然、部屋の中央にうっすらと光る人型の何かが現れた。こんな現象が起きたら、普通は恐ろしさを感じるだろう。
間違いなく心霊現象だ。
しかし、敬子には特段恐怖は感じられなかった。
むしろ暖かい何かを感じる。

「敬子。」
「もしかして、節子?」
「うん。」
「もしかして夢? でも…、なんでここにいるの?」
「どうしても敬子に会いたかったから。それに、敬子には私の穴を埋めて欲しいから。」
「それって、どういうこと?」
「敬子は麻雀、もっと強くなれる。私に潜水を見せてくれた直後に敬子が纏っていた強大なオーラ。あれを出せるようにして欲しいのよ。」
「そう言われても、分かんないよ!」
「潜水で泳ぐの好きでしょ?」
「うん、一応…。」
「打つ時に、潜水している時のことを思い浮かべて。今よりも、もっと楽しい気分で打ってくれれば良いと思うから。」
「今でも、十分楽しいよ!」
「でも、もっと楽しくなるはず…。じゃあね、敬子。」
それだけ言うと、節子の姿は、その場から消えた。

その直後、突然、敬子のスマートフォンから着信音が鳴り響いた。
敬子が慌てて出ると、
「敬子?」
美和の声だ。
どうして、こんな時間に?
嫌な予感がする。
「たった今、節子のお母さんから電話があって…。節子が死んだって。」
「えっ?」
やっぱり………。
じゃあ、さっきの節子は?
幽霊?
でも、真っ先に、ここに来てくれたってことは、それだけ節子は私のことを気にかけてくれているのだろう。
そう思いながら、敬子の目からは怒涛の如く涙が溢れ出てきた。


翌朝、綺亜羅高校では節子の死がアナウンスされた。
そして、その日の午後には、節子は礼子に殺されたとの噂が校内で流れ始めていた。
事故の直後に、現場付近で礼子の姿を目撃した生徒が複数人いたためだ。


たしかに現場には礼子がいた。
警察でも、現場付近の防犯カメラをチェックしており、事件時刻に礼子が付近にいたことを確認していた。
それと、交差点を移す防犯カメラの映像から、節子は明らかに後ろから道路に押し出されていたことも確認されていた。

礼子は昨年、節子を相手に傷害事件を起こしている。
それで礼子は退学処分。
対外的なことを考慮して、書類上は綺亜羅高校を自主退学していたが、やはり事件を起こしたことが意外と周りにはバレていた。
一応、礼子は通信制の高校に編入したが、日中は時間をもてあましている。それでバイトがしたかったのだが、そんな事件を起こした人間を採用してくれるところはない。
近所からも完全に犯罪者扱い。
そう言った状況を警察も掴んでいた。
それで警察も、節子への逆恨みから、礼子が今回の節子の事故に絡んでいる可能性があると考えていた。

しかし、交差点を映しているカメラでは礼子の姿が見切れていて、彼女が犯人であるとは断定できなかった。
証拠不十分である。
結局、誰が節子を道路に押し出した犯人なのかは分からなかった。


数日後、節子の葬儀が執り行われた。
通夜、告別式を通じて、感情を余り表に出さない敬子が、ずっと大泣きしていた。
それこそ、周りからは親姉妹が死んでもケロッとしているんじゃないかとさえ言われていた敬子だが………。
それだけ節子に懐いていたと言える。





綺亜羅高校麻雀部は、もっとも大きな柱を失って意気消沈していた。
しかし、残されたメンバーで節子の悲願………阿知賀女子学院や白糸台高校、龍門渕高校と言った超強豪校と戦って自分達の力を試したい。
できれば、チームとして勝ちたい。

当然、再稼動しなければ………。

先ず節子の後任の選出だが、これは、満場一致で、現エースであろう美和に部長を引継いでもらうことに決まった。
副部長は、静香が継続する。





学年末試験も終業式も終わり、時は既に春休みに突入した。

いよいよ春季全国大会が始まった。
大会会場は都内。
当然、美和達は、その大会を見に行った。


そこで、美和達は新たな衝撃を受けた。
ドイツチームのエース、ミナモ・A・ニーマンこと、宮永光が白糸台高校に編入していたのだ。どうやら、咲の従姉妹らしい。

北欧の小さな巨人と呼ばれるだけこのとはある。
二回戦で渋谷尭深の代わりに出場すると怒涛の連続和了を見せ、あっという間に館山商業高校のトビで終了させた。

準決勝戦では、咲vs光の超魔物対決。
決勝戦では咲、光、ネリーを相手に冷えた透華が強力な支配を見せた。その支配力が消えると、今度は咲が全員の点数を完全リセット。
やはり咲は点棒の魔術師だ。

決勝大将戦では、衣が序盤で大量リード。しかし、それを穏乃が追い、最後の最後で大逆転。阿知賀女子学院が初優勝を決めた。

これを見て美和達は、節子の悲願、打倒咲、打倒阿知賀女子学院に加えて、打倒光を心に誓った。





春季大会終了後、静香の発案で、美和、静香、美誇人、鳴海、敬子、喜美子、奈緒、真帆の八人で湘南の海に出かけた。
節子が亡くなる直前に、静香が聞いた言葉を実行に移したのだ。
今では、昭和の頃と違って埼玉県からでも神奈川県に行きやすい。


敬子が、いきなり裸足になって波打ち際ギリギリのところを歩き始めた。
たいてい敬子は、誰かに言われて動き出すタイプで、今回のように自分から動き始めることは珍しい。
どうやら、海に来たことが相当嬉しかったようだ。

大きな波が来た。
みんなは、濡れないように少し後ろに下がった。それが殆どの人の反応だろう。
しかし、敬子は足を止めて避けようとはしなかった。
言うまでも無く、敬子の脚が海水で濡れた。

何故か敬子は、そのまま少し海の中へと進んでいった。そして、彼女のふくらはぎ辺りまでが海に浸かった。
そのまま、敬子は海岸線を見ながらボーっとしていた。

なんかヤバくないか?
「敬子! 何してんの!?」
静香が大声で敬子を呼んだ。
その声に反応して振り返った敬子の全身からは、今まで見たことも無いような強大なオーラが放たれていた。
能力者である美和、美誇人、静香、鳴海の四人は、その強烈なパワーを否応無く感じ取っていた。
ただ、これは能力者独特のものなのだろう。喜美子、奈緒、真帆の三人には何も感じられなかったようだ。


その日、八人は旅館の大部屋に泊まった。
しかも麻雀部員である。
当然の如く、その日の夜は麻雀大会になった。

この時、敬子は、節子の霊に言われた、
『潜水の時の………』
の言葉を思い出していた。

静香は、
「(多分、節子ならこうするだろうからね。)」
まず敬子の初戦の相手に鳴海、美誇人、そして静香自身を当てた。海で敬子は何かを掴んだはずである。それの確認だ。

場決めがされ、起家が敬子、南家が美誇人、西家が鳴海、北家が静香になった。

東一局。
敬子の捨て牌は、相変わらず、
東南西北白發

読みようの無い河だ。
美誇人も鳴海も静香も、一応、敬子の様子を見ながら打っていた。今までの敬子とは雰囲気が全然違うからだ。
しかし、この六巡目で、
「(多分、次で敬子が捨てる牌だと思うけど………。)」
百戦錬磨の美誇人が中を切った直後、急に敬子のオーラが膨れ上がったかと思うと、
「ロン! 一盃口ドラ3。12000!」
敬子に親満を和了られた。
この時、三人の目には、何故か敬子の下半身が魚のように見えていた。完全に麗しき人魚姫の姿だ。

東一局一本場も、
「ツモ! 6100オール!」
敬子が和了りを決めた。

完全に、場は敬子に支配されていた。
豪運の静香にも、今日の敬子は止められなかった。
鳴海は槓まで持って行けなかったし、美誇人も場の流れを読みきっても、それを勝利に繋げるには至らなかった。
と言うか、自らの能力を発動して敬子の対峙しているつもりなのだが、何故か敬子に先に和了られてしまう。

この半荘は、まさかの美誇人のトビで終了。
その後も、後に綺亜羅三銃士と呼ばれる彼女達を相手に、敬子は1位を連発した。
まさに人魚パワーの大爆発。
完全に敬子の覚醒であった。


窓の外には、一人の女性の姿があった。
その女性………節子は、宙に浮きながら、部屋の中で強敵を相手に勝利する人魚の化身の姿を、じっと見詰めていた。
「(これなら私が抜けた穴を埋められる。頼んだよ、敬子。それから美和、美誇人、静香、鳴海。そのKYな人魚のことをよろしくね!)」
節子は、そう心の中で呟いた。
「(KYな人魚は完全にマイペース。他人の能力に影響されずに自分の世界の中で自由に泳ぎまくる。でも、まだ獲得素点では美和には敵わないかな。美和には、喜んで振り込んでくれる人が沢山いるから………。)」
そう思いながらも、節子は、今の敬子の姿に十分満足していた。

「(じゃあ、いずれまた会いましょう。)」
別にみんなが死ななくても、また、みんなと打てる日が来る。
勿論、咲をはじめとするこの時代のスター達とも牌を交わすことができるだろう。
節子は、そんな予感を持ちながら、一旦、天へと帰って行った。





美和達は、全員、無事に2年生に進級できることが決まった。
留年者はいない。

再び夏の大会のエントリーが始まった。
ただ、エントリー締め切り日は対外試合禁止期間内に入っていた。残念だが、夏の大会のエントリーは見送ることになった。


これで、インターハイもコクマも出られない。
美和達の煮え切らない心を他所に、世間では美和達が出場を夢見ているインターハイ、コクマと、大きな大会が繰り広げられて行った。

衣、光、憩、淡と言った超魔物が威厳に満ちた顔をしているのは分かる。
ただ、チャンピオンの咲には、少しは威厳を持ってもらいたいところが………。威厳の欠片も無いし………。
そんなことより、気に入らないのは、美和達よりも明らかに弱い選手が有名選手として大きな顔をしていることだった。
『絶対にこいつらに勝ってやる!』
そんな気持ちが美和達の中で強くなっていった。

そんな中で美誇人は、
「宇野沢妹かわいい。お持ち帰りしたい!」
早速、宇野沢栞の妹、宇野沢美由紀に目を付けていた。



そして、いよいよ待ちに待った秋季大会のエントリーが始まった。
美和と静香は、エントリー初日に参加申し込みを行った。久々に埼玉県の高校生麻雀大会のトーナメント表に綺亜羅高校の文字が載ることになった。

今度は、問題を起こす者はいない。
その翌々週の木曜日から日曜日にかけて、埼玉県大会が開催され、綺亜羅高校は、無事に出場することができた。
ルールは赤牌あり責任払いあり二家和(ダブロン)あり。春季大会とは二家和ありだけ異なる。

「絶対に勝つよ!」←美和
「まあ、負ける気はしないけどね。」←美誇人
「多分、調整にもならないでしょ。」←鳴海
「全試合、目指すは勝ち星五だよ!」←静香
「でも、ホントに勝てるのかな、私達?」←敬子
相変わらず、自己評価の低い敬子であった。

大会期間中、敬子の髪はレギュラー陣達がとかしてあげた。
少なくとも残念な美少女にしてはいけない。それが、美和達の合意事項であり、顧問である校長や理事長の意図するところでもあった。
基本的に、校長も理事長も敬子ファンである。


敬子の心配を他所に、埼玉県大会では全試合勝ち星五で余裕の優勝を決めた。


世界大会では、列車事故被害で荒川憩が出場できず、天江衣も急病のため決勝戦を欠場する不利な状態にありながらも日本チームが二連覇を成し遂げた。
その原動力ともいうべき宮永咲の闘牌に、美和達も改めて感動したし、美和自身も節子以上に咲のファンになっていた。


世界大会が終わると、関東大会(東京都を除く)が開催された。
ルールは埼玉県大会と同じ。

五人全員が、孤高と言うか一匹狼みたいな独特の雰囲気を纏う綺亜羅高校。
豪運の鷲尾静香(二年:ワシズ)。
槓ドラモロ乗りの竜崎鳴海(二年:リュウ)。
非常に読みが鋭く人鬼とも呼ばれる鬼島美誇人(二年:カイ)。
第二エースは不思議ちゃんで美少女、稲輪敬子(二年)。
そして、エースは女子高生ホイホイの的井美和(二年)。

ここでも綺亜羅高校麻雀部のレギュラー全員がその実力を発揮し、やはり全試合勝ち星五で余裕の優勝を決め、その名を全国に轟かせた。





さらに時が過ぎ、春季大会へと突入した。
幸い、ルールは昨年の点数引継ぎ制から星取り戦に変わった。
これなら、突出した選手の存在よりも総合力の高いチームの方が有利だ。

綺亜羅高校のメンバーは全員が強い。超魔物には勝てないかもしれないが、それ以外の相手なら負ける気はしない。
だったら目指すは優勝。

節子の悲願達成に向けた大会が、いよいよスタートした。






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百三十一本場:深い山の世界へ

 春季大会決勝戦、大将後半戦がスタートした。

 泣いても笑っても、これで勝負が決まる。

 

 東一局、和の親。

 穏乃の山支配は、一旦解除された。また、東四局辺りから発動するが、それまでは各自の能力は健在となる。

 とは言え、ここでは穏乃に対する桃子のステルスが再稼働するだけなのだが……。

 

 当然、山支配も無い。

 和と敬子は、相手の能力を受け難いため、桃子ほどの山支配を受けなかったようだが、それでも山支配を完全にキャンセルできたわけでは無い。

 故に前半戦を見る限り、東場よりも南場のほうが、手の進みが遅くなっている。

 なので、言い換えると、この東場では二人とも再び手が早くなる。

 

 和は、オカルトを信じないし、能力麻雀の存在を視野に入れていない。

 しかし、少なくとも穏乃が東場よりも南場の方が強いことは認めているし、前半戦よりも後半戦の方が、より強くなることも理解している。

 ただ、これは後半に進むに連れて集中力が増すからと和は判断していた。

 

 いずれにせよ、穏乃の支配が緩い今が他家にとってはチャンスである。

 和は、最短で手を作り上げ、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 役はリーチタンヤオドラ1のみ。

 それが次巡、

「一発ツモ! 4000オールです!」

 役がさらに2翻追加されて満貫となった。幸先の良いスタートである。

 和が前後半戦トータルでトップになれば、文句なしに白糸台高校の優勝である。当然、和はさらなる和了りを目指す。

 

 東一局一本場、和の連荘。

 ここでも和は、持ち前の牌効率の良さで最短で手を作り上げ、

「リーチ!」

 ここぞとばかりに攻めた。

 完全にツキを自分のモノにしたようだ。

 一発ツモは無かったが、数巡後、

「ツモ!」

 和は自力で和了り牌を掴んできた。

「リーチタンヤオドラ2。4100オール。」

 しかも二連続親満ツモである。

 25000点持ちであれば、全員の点棒を合わせたうちの半分近くを手にしていることになる。普通に考えれば圧倒的なリードだ。

 

 東一局二本場。

 今回も和の手が早かった。

 もう、誰もこのスピードに追いついて行けない状態だ。

 

「リーチ!」

 ここでも早い巡目で和がリーチをかけてきた。

 他家は、振り込みを回避するので精一杯になっている。

 

 一発ツモは無かった。

 別に、和は一発を狙っているわけでは無い。そんな偶然役は、普通は狙って出せるモノでは無いからだ。

 しかし、運の良し悪しは信じている。まさに今、和は、運が自分を味方してくれている状態と言える自信がある。

 そして、それから数巡後、

「ツモ! メンタンピンツモドラ2。6200オール!」

 和は親ハネをツモ和了りした。

 

 これで大将後半戦の現在の点数と順位は、

 1位:和 142900

 2位:桃子 85700(順位は席順による)

 3位:敬子 85700(順位は席順による)

 4位:穏乃 85700(順位は席順による)

 和が余裕の1位である。

 この時点で視聴者の多くは、白糸台高校の優勝を疑わなくなったし、このまま和が突っ走ることを期待し始めていた。

 

 東一局三本場。ドラは{①}。

 ここに来て、桃子は敬子から放たれる空気に変化を感じた。日本中の多くの人達が和の和了りを期待する今、それに逆行するのが敬子なのだ。

 再び敬子は、字牌だらけの捨て牌を経て、

「リーチ!」

 五巡目で先制リーチをかけてきた。

 

 捨て牌は、

 {東西白發中}

 

 本当に読めない捨て牌だ。

 穏乃も和も桃子も、手の中に字牌は無かった。一先ず、端牌を切って対応したが、敬子に直撃されることは無かった。一先ずセーフだ。

 しかし、

「ツモ!」

 敬子は、一発でツモ和了りした。

 

 開かれた手は、

 {三四[五]①②③678南南北北}  ツモ{南}  ドラ{①}  裏ドラ{8}

 待ちは敬子が捨てていない字牌のシャボ。本当に性格が悪い。

 

「リーチ一発ツモドラ3で、3300、6300!」

 しかもハネ満ツモ。これで和の連荘に終止符を打った。

 和のさらなる独走状態を期待する人達からは溜め息が漏れたが、桃子と穏乃にとっては和に和了られるよりはマシだ。

 ある意味、桃子と穏乃は助かったとも言える。

 

 

 東二局、桃子の親。

 今回は和の手が遅そうだ。さっきの敬子の和了りで勢いが消えたのか?

 敬子の捨て牌は、相変わらず字牌のみ。しかも、ご丁寧に{東南西北}と順番に捨てている。

 穏乃からは、まだ特段支配力は感じていない。

 

 そのような中で先行したのは、

「リーチっス!」

 桃子だった。

 後半戦なら、普通はステルスが効いている。

 ところが、

「親リーか………。」

 と敬子が呟いた。つまり、敬子には、桃子の姿が捉えられていると言うことだ。

 やはり、敬子にはステルスが通用していない。

 何故、敬子が他者の能力をキャンセルできるかまでは桃子には分からない。しかし、これは多くの能力者にとっての天敵になる。

 だからこそ、綺亜羅高校の第二エースなのだ。

 

 ただ、もともと桃子は予想していたことである。予想が現実になったショックは、それなりにあるが、別に大ショックなわけでは無い。

 桃子は、気を取り直して次巡のツモ牌を引いた。

 一発ツモにはならず。

 しかし、数巡後に桃子は、

「ツモ! メンピンツモドラ2。4000オールっス!」

 親満をツモ和了りした。

 

 東二局一本場、桃子の連荘。

 ここでは、

「ポン!」

 敬子が捨てた{北}を和が早々に鳴いた。これは和の自風である。

 そして、

「チー!」

 さらに鳴いて手を進め、

「ツモ。北ドラ2。1100、2100です。」

 和が早和了りを決めた。

 独走状態の和としては、今のリードを保ったまま終わらせたい。

 なので、彼女は、あとは安和了りで構わないから他家には和了らせずに場を進めるのが最善と判断したのだ。

 

 

 東三局、敬子の親。

 ここを越えると、いよいよ穏乃の能力が発動し始める。

 桃子は、この局が高い手を和了る最後のチャンスと踏んでいた。

 先行聴牌できたのは桃子だった。ただ、タンヤオドラ1の安手。

 まだ手が伸びる可能性がある。それで、桃子はリーチをかけずにいた。

 しかし、次巡、

「(こっちが来ちゃったっスか。仕方ないっスね。)

 手が伸びる前に和了り牌を掴んでしまった。

 ここでフリテンにして他家に先に和了られても困る。

 それで已む無く、

「ツモタンヤオドラ1。1000、2000っス!」

 桃子は和了った。

 

 

 東四局、穏乃の親。

 桃子の目には、うっすらと卓上に靄がかかってきたのが見えた。これが見えるのは、この場では残念ながら桃子だけである。

 

 トーナメント戦の頂上、決勝戦。

 穏乃の支配力は、準決勝戦の時よりもさらに強力になっている。

 さすがに、和も敬子も今までよりもツモが悪くなっているようだ。

 手が進んでいるのは穏乃だけで、他家は、何故か手の進みが悪い。

 

 場が進むと、さらに靄が濃くなる。

 そして、終盤に入ると、それは濃霧となった。

 残りのツモ牌は十枚程度。ここに来て、

「ツモ。」

 穏乃が和了りを宣言した。

「2000オール。」

 和了り手としてはツモドラ2の安手だが、ここから穏乃の逆襲が始まる。桃子には、そう思えてならなかった。

 

 東四局一本場。

 ここでも卓上に靄がかかる。しかも、前局よりも濃い。

 順調に聴牌まで手を進められたのは穏乃だけ。他の三人は、二向聴まで進めたが、そこで手が止まってしまった。

 

 穏乃の背後に火焔が見えた。

 その直後のことだ。

「ツモ。3900オールの一本場は4000オール。」

 門前で穏乃がツモタンヤオ一盃口ドラ1を和了った。

 しかし、まだ後半戦の得点だけで、穏乃と和の差は25000点にも及ぶ。先鋒から大将までの総合トータルでは70000点差に達する。

 まだまだ穏乃には長い道のりである。

 

 東四局二本場。

 ここで急に、敬子が打ち方を変えてきた。序盤からチュンチャン牌も切ってきたのだ。

 どうやら敬子は、穏乃の山支配下では、まともに打っても手が進まないことに気付いたようだ。それで敢えて打ち方を変えてみたのだ。

 敢えて先に捨てるべき牌を残す。すると、それが対子になる。

 そして、中盤を終える頃までかかったが、敬子は、なんとか七対子を聴牌した。

 

 場は終盤に進み、いよいよ卓を覆う靄は濃霧と化した。

 ところが、この山支配に対抗するかのように、

「リーチ!」

 敬子がリーチをかけてきた。

 一発ツモこそなかったが、海底直前の牌で、

「ツモ!」

 穏乃の能力を突き破るかのように敬子が和了った。

「リーツモ七対、ドラは…赤1だけ。2200、4200。」

 山支配により裏ドラは乗らなかったが、それでも、ここで和了れること自体が凄い。綺亜羅高校大将稲輪敬子。とんでもない伏兵だ。

 

 

 南入した。これが、決勝戦最後の南場である。

 南一局、和の親。

 ここでも山支配を吹き飛ばすかの如く、

「リーチ!」

 敬子が先行して攻めてきた。どうやら敬子は、和よりも数段、他家の能力支配を受け難い体質のようだ。

 しかも、

「ツモ!」

 一発でツモ和了りを決めた。

「メンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」

 このハネ満ツモで、和の親はあっという間に流された。

 和の点数は、東一局二本場時点では142900点あった。

 それが、今、121700点まで下がってきた。依然、トップであるが、ドンドン削られている状態にある。

 とは言え、チームの総合得点では断然トップ。

 

 ちなみに、現段階での総合得点は、

 1位:白糸台高校 1216900

 2位:綺亜羅高校 1139800

 3位:阿知賀女子学院 1137300

 4位:永水女子高校 506000

 綺亜羅高校が阿知賀女子学院を僅かに抜いて2位に浮上した。

 しかし、トップの白糸台高校は、その綺亜羅高校に77100点の差をつけている。圧倒的なリードだ。

 

 当然、和は勝ち星を取れなくても、この大差を逆転されなければ良い。あとは、とにかく場を進めて、オーラスで穏乃に稼がせない………連荘させないことだ。

 

 

 南二局、桃子の親。

 卓上にかかる靄が、既に最初から濃霧と化していた。これが、決勝戦南場で見せる穏乃の能力。

 全員の手が重い。

 しかし、その中で穏乃だけは順調に手を進めてゆく。

 そして、中盤に入ってすぐ、

「ツモ。タンピンドラ1。1300、2600。」

 凡庸な手だが穏乃が和了りを決めた。

 

 

 南三局、敬子の親。

 ここでも全員の手が重い。

 他人の能力の殆どをキャンセルできる敬子でさえ、手が進められずにいた。山支配の裏をかけば素直な牌をツモるし、素直に打てば裏をかかれるのだ。

 そして、十二巡目、

「ツモ。1000、2000。」

 穏乃が30符3翻の手を和了った。しかし、まだ原点を越えているのは和と敬子だけ。まだ穏乃は原点復帰すら果たせていない。

 ここで親が回ってくるとは言え、まだまだ穏乃には道のりが長い状態だ。

 

 

 オーラス、穏乃の親。

 ここに来て、ようやく敬子の表情にも変化が現れた。どうやら、穏乃の山支配による靄を感じ取ったようだ。

 全員が、まるで淡の絶対安全圏を受けた時のような最低最悪な配牌。

 それでいてツモが噛み合わない。

 鳴こうにも鳴けない。

 手が進むのは穏乃だけだ。

 

 中盤に入り、他人の空気が読めない敬子の目にも、うっすらと穏乃の背後に火焔が見えた。それ程、今の穏乃の支配は強烈になっていた。

「(なにあれ?)」

 そう思った直後、

「ツモ。タンピンツモドラ1。2600オール。」

 穏乃に和了られた。

 手は凡庸だが着々と得点を重ねている。

 この和了りで、穏乃の得点が原点復帰した。

 しかし、まだ勝ち星が取れるわけでは無い。

 

 大将後半戦の点数と順位は、

 1位:和 116800

 2位:穏乃 104100

 3位:敬子 100200

 4位:桃子 78900

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:和 221200

 2位:穏乃 215200

 3位:敬子 208100

 4位:桃子 155500

 

 当然、穏乃は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 桃子の視界は、完全に閉ざされた感じだ。周りは、完全に濃霧に覆われている。

 ここは、穏乃が支配する世界だ。もう、深い山の世界に入っている。

 

 配牌もツモも悪い。

 穏乃の山支配は、一昨年のインターハイの時よりも数段進化している。咲が阿知賀女子学院に転校して切磋琢磨出来たからだろう。

 

 再び、穏乃の背後に火焔が見えた。

 いや、これは、もっと激しい。業火と言うべきもの。

 そして、それが見えた時、

「ツモ。3900オールの一本場は4000オール。」

 穏乃が門前でタンヤオツモドラ2の親満級の手を和了った。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 116100

 2位:和 112800

 3位:敬子 96200

 4位:桃子 74900

 穏乃が後半戦のトップに立った。

 

 そして、大将前後半戦トータルも、

 1位:穏乃 227200

 2位:和 217200

 3位:敬子 204100

 4位:桃子 151500

 穏乃が逆転した。

 これで和了り止めすれば穏乃の勝ち星が決定する。

 

 しかし、総合得点は、

 1位:白糸台高校 1208000

 2位:阿知賀女子学院 1166300

 3位:綺亜羅高校 1129900

 4位:永水女子高校 495800

 白糸台高校と阿知賀女子学院がともに勝ち星二なら、総合得点で優勝を決める。つまり、ここで和了り止めしたら、それは白糸台高校の優勝を決めることになる。

 

 当然、穏乃は、

「二本場!」

 連荘を宣言した。




おまけ


春季大会個人予選。
大会参加32校から各8名ずつ、合計256名の参戦となる。

注目される選手は、言うまでもなくチャンピオン宮永咲、対抗馬最有力の宮永光、咲のライバルとして名高い大星淡など、インターハイでの個人成績上者が中心である。
ただ、本大会では台風の目となった綺亜羅高校にも注目が集められた。中でも、対戦者が何故かイっていると思われる美和に注目が集まったのは言うまでもない。


強者同士の潰し合いや同校選手同士の潰し合いを裂けるべく、AIが最良の対戦表を作成することになっている。
ただ、インターハイでもあったように、そのAIには誰かの趣味まで学習されている感じがある。
そのためであろう。咲や光、美和の対戦相手は、美少女と名高い選手が多かった。勿論、言うまでもなく美少女達の放水やイク光景が期待される。


美和の一回戦の相手は、以下の三人だった。
佐々野みかん(白糸台高校:女子高生ランキング14位、美女ランキング1位)
美入人美(姫松高校:美女ランキング2位)
柊かがみ(大酉高校:美女ランキング8位)
いきなり美女ランキング上位者のイケナイシーンが期待される一戦である。当然、この対局にチャンネルを合わせるものが多数だったと言う(現実には64卓分のチャンネルがあるとは思えませんが…)。

対戦表を見て美和は、
「(県大会、関東大会では、共に柊姉妹とは当たらなかったからね。今回、楽しみぃ! それに美女ランキング1位と2位も一緒! これ、最高ジャン!)」
と思い切り喜んでいた。

場決めがされ、起家は美和、南家はみかん、西家はかがみ、北家は人美に決まった。
東一局。
ここでは、
「ロン!」
美和がみかんから和了った。
これと同時に、みかんが、美和が見せる幻の世界の中に落ちてゆく。

美和の背後から粘液で濡れた多数の巨大な触手が伸びてきてみかんを襲う。逃げようにも卓から離れるわけには行かない。
みかんは、一瞬にして触手に捕らえられた。
手足に沢山の触手が絡み付いて制服を溶かしてゆく。
そして、あっと言う間に全裸にされた。
一本の触手が胸に巻きつくようにして乳房を覆い隠していたが、大きさと言い形と言い、非常に良くバランスの取れた美しい下乳が見えていた。
なんとも刺激的でスバラな光景だ!
しかも、みかんの胸は、粘液だらけの触手が擦れて激しく刺激されている。
さらに触手は、みかんの股間の方にも伸びて行く。

現実世界では、みかんが、
「うっ♡!」
声を漏らしながら顔を赤らめていた。
その表情が、なんともイヤラシイ。

脳内での触手プレイは、美和の点数申告の声が聞こえるまで延々と続く。それこそ、本人にとっては数十分から一時間以上に及ぶこともある。

「7700!」
美和の声を聞いて、みかんは我に返った。
公衆の面前で、一体何を(ナニを)やっていたのだろう?
恥ずかしく感じるが、その一方で刺激的な背徳感もある。
事前に美和との対局経験者である麻里香から聞いていたが、想像以上にヤバイ。病み付きになりそうだ。

東一局一本場も、美和は罠を張る。
ここで罠に落ちたのは人美だった。
「ロン!」
美和の和了りの声と同時に、人美の脳内で触手プレイが始まった。
あっという間に触手から出される粘液で制服が解かされて全裸になり、しかも、手足は触手に捉えられて動かすことが出来ない。
そんな状態で、執拗に粘液だらけの触手が胸や股間を弄り回す。
脳内の感覚で約一時間、ひたすら攻められ続ける。
「あぁ♡!」
みかんと同様に人美も声を漏らしながら顔を赤らめた。
その表情は、みかんよりも、さらにイヤラシイ。某ネット掲示板の住民達が喜んで食いつきそうな状態だ。

「7700の一本場は8000!」
この点数申告の声を聞いて、人美は正気を取り戻した。

正気になると妙に恥ずかしい。
しかし、もう対局を放棄して退席したいとは思わなかった。どうやら、その触手プレイに心のどこかで惹かれる部分があるようだ。
むしろ自ら振り込んでしまいそうで怖い。

東一局二本場。
今度は、
「ロン!」
美和は、かがみから和了った。
かがみの脳内でも触手プレイが繰り広げられる。かがみは、触手に捕らえられると、あっと言う間に全裸にされ、全身が粘液まみれになっていた。
妙に気持ちが良い。
「はぅ♡!」
現実世界では、思わず漏れるHな声。

「12600!」
この美和の声で、かがみは我に返った。

美和が和了れない局もあるが、大半は、こんな状態で対局は進んでゆく。
結果的に順位は、
1位:美和
2位:みかん
3位:人美
4位:かがみ
となったが、原点以上を持って終了できたのは美和だけであった。





個人戦第二試合。
美和の相手は、以下の三人だった。
美入麗佳(姫松高校:美女ランキング3位)
宇野沢美由紀(阿知賀女子学院:美女ランキング7位)
柊つかさ(大酉高校:美女ランキング9位)

今回、美和は北家だった。
ちなみに起家は美由紀、南家は麗佳、西家はつかさだった。

美和は、
「(さっきの対局は美女ランキング1位、2位、8位。今回が3位、7位、9位か。団体戦では6位の多治比麻里香と10位の滝見春と楽しんだし、あとはベスト10では4位の石戸明星と5位の原村和か。対戦できるかな?)」
と思っていたが………。
そこは安心してよい。
いずれ明星と和との対局の願いは叶う。

「(ただ、宇野沢さんは美誇人のターゲットだもんね。触手プレイに引き擦り込んだら美誇人に怒られちゃうかな? 美誇人も私に遠慮して佐々野さんを御無礼しなかったみたいだし………。)」
綺亜羅高校は、チームメート同士、互いに仲が良かったのもあるが、同時に互いにテリトリーを侵さない協定もあるようだ。


ここでも美和は、
「ロン!」←美和
「はぅ♡!」←麗佳
「8000!」←美和
「…。」←麗佳

「ロン!」←美和
「あぁ♡!」←つかさ
「8000!」←美和
「…。」←つかさ

「ロン!」←美和
「うぅ♡!」←麗佳
「8000!」←美和
「…。」←麗佳

「ロン!」←美和
「あん♡!」←つかさ
「12000!」←美和
「…。」←つかさ

麗佳とつかさの二人で順調かつ十分楽しんだようだ。
ただ、美由紀にだけは能力を使わなかった。

この対局では、
1位:美和
2位:美由紀
3位:麗佳
4位:つかさ
で終了した。


その後の試合でも、
「ロン!」←美和
「ひっ♡!」←憧
「8000!」←美和
「…。」←憧

「ロン!」←美和
「やん♡!」←萌
「8000!」←美和
「…。」←萌

美和は、高度に学習されたAIのお陰で美女ランキング上位者との対局に恵まれた。勿論、それをテレビで見ながら女子高生麻雀大会のファン達も大喜びであった。


また、本大会にはドラゴン・ゲートと呼ばれる組織の工作員達が大会会場の中に多数紛れ込んでいた。
サングラスにマスクと、非常に怪しい格好をしていたのだが………、彼女達は、テレビ局のスタッフを装い、インタビューと称して、これから咲や光と対局する選手達を拘束してトイレに行かせないようにしていたのだ。
ちなみに、ドラゴン・ゲートはクロの組織とは別の組織であったが、両方に所属するメンバーもそれなりにいたようだ。


ドラゴン・ゲートの首領を仮に龍門と記載する。
そして、ドラゴン・ゲートの各工作員を工1、工2、工3…と記載する。

龍門「一回戦の咲様の相手は永水の狩宿萌に姫松の美入麗佳、大酉の柊つかさですわ! さあ、放出させてなんぼ、放出させてなんぼですわ!」

工1「華菜ちゃん、全力を尽くすし!」

工2「身バレしてるですよー。」

工3「では、私はオモチが綺麗な麗佳ちゃんを拘束するのです!」

工4「じゃあ、私も麗佳にしようと思…。」

龍門「では、私は萌にしますですわ!」

工1「華菜ちゃんも萌にするし!」

工2「では、私はつかさちゃんですねー。」

工5「じゃあ、私もつかさちゃんにすると!」

そして、彼女達はトイレの前で張り込み、ターゲットの選手を見つけると、

工3「姫松高校の美入麗佳選手ですね。これから史上最強と言われる宮永咲選手との対局を控えてどう思いますか?」

麗佳「正直、今回は、無事に終了できればと思います(トイレ行かせて!)。」

工4(←TVカメラを持っている)「そう言えば、近畿大会では犠牲者になったとか?」

麗佳「ええと…。はい…。ですので、やはり、その…(空気読んでトイレに行かせてよ!)。」

工作3「この対局に向けて、半年間、特訓とかしてきたのでしょうか?」

麗佳「いえ、あの、特には…(ちょっと、もう時間がなくなっちゃう!)。」

工4「やはり、ベストコンディションで望みたいですよね。」

麗佳「それは、勿論です(だから、そのためにもトイレ行かせて!)。」

と、まあ、そんなことをして時間を潰し、

工3「長々と済みませんでした。もう、あと二十秒で移動時間がなくなってしまいますね。では、対局室のほうへどうぞ。」

麗佳「は、はい(もう、トレイに行く時間なくなっちゃったじゃない!)。」

結局、トイレに行かせずに咲の相手を対局室に送り込んだ。

また、光の対局相手にも、同様に工作員が付いていた。絶対に対局直前にトイレに行かせないように………。


当然、咲は、
一回戦、
「カン! もいっこカン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 四槓子! 16600オール!」←+141(昨日の京太郎とのLINEで腹を立てた憂さ晴らし)
「シャー!」←萌
「ジョー!」←つかさ
「プシャー」←麗佳

二回戦、
「カン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 大三元! 16600オール!」←+141(同上)
「シャー!」←明星
「ジョー!」←かがみ
「プシャー」←人美


そして、光も、
「ロン! 16000!」←光
「ジョジョジョー!」←竹村真奈美(圓城高校)

「ロン! 24000!」←光
「ジョジョジョー!」←小俣真央(不倒高校)

「ロン! 36000!」←光
「プシャー!」←高良みゆき(大酉高校)


ドラゴン・ゲートの工作員達の援護もあって、咲と光は、二人して豪快に某ネット掲示板住民達の期待に応えていった。
なお、本大会は昨年夏のインターハイ個人戦の時よりも、掃除の時間が三割程度延びたとのことであった。


咲、光、美和の三人の活躍のお陰で、本大会でのネット掲示板は、以前にも増して書き込みが多かったそうだ。
多分、こんな最低な大会が、コクマまで続く………のだろうか?


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百三十二本場:結末

 春季大会決勝戦、大将後半戦は、オーラス二本場に突入した。

 ドラは{7}。

 今、選手達を覆っているのは、穏乃が支配する独特の世界。深い山の中で、しんと静まり返った寂しい雰囲気に包まれていた。

 深い霧に覆われ、視界が悪い。まるで、閉ざされた空間にいるような感覚だ。

 

 和の配牌は、

 {一三六九②④⑤99西北白中}

 

 ここから、七巡で、

 {一二三六七八九②③④⑤99}  ツモ{[五]}

 平和手で高目一気通関を聴牌した。

 これを和了れば、白糸台高校が念願の優勝を果たせる。当然、和が{②}を切った。

 

 しかし、これで、

「ロン!」

 穏乃に振り込んだ。穏乃は{②⑤}で待っていたのだ。

 前半戦南二局で桃子に張った罠と同様のことを穏乃は和に仕掛けていた。それに、和はまんまと嵌ったのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八③④234[5]6788}  ロン{②}  ドラ{7}

 タンピンドラ2の親満級の手だ。

 

「11600の二本場は12200。」

 しかし、これでもまだ、阿知賀女子学院は白糸台高校を総合得点で上回ることは出来ない。それだけ大差がついていたのだ。

 当然、穏乃は、

「三本場。」

 さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス三本場。

 急に桃子の視界が晴れた。

 現在の大将後半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 128300

 2位:和 100600

 3位:敬子 96200

 4位:桃子 74900

 勝ち星争いには、ここに前半戦の点数も加算される。

 ダンラスの桃子は、もう勝負には絡んでこないだろうとの判断だ。

 

 事実、前後半戦の現段階での合計は、

 1位:穏乃 239400

 2位:和 205000

 3位:敬子 204100

 4位:桃子 151500

 桃子が勝ち星を取るには、ダブル役満以上を穏乃から直取り、またはツモ和了りするしか方法が無い。

 可能性はゼロでは無いが、限りなくゼロに近い。

 それに、穏乃には山にある牌が見えている。この局では、どう足掻いても桃子がダブル役満を作れないことを、穏乃は分かっていたのだ。

 

 桃子なら、ここで安手を和了って勝負に水をさすような馬鹿な真似はしないだろう。

 それで、まだ勝ち星を狙う和と敬子への支配に集中するために、穏乃は敢えて桃子への支配を解除したのだ。

 

 敬子の視界に穏乃の世界が広がる。いくら他人の能力支配を受けない体質でも、ここまで強力になると、さすがに跳ね除けられない。

 まるで、濃霧に包まれた山奥に、一人、ポツンと置き去りにされたような感覚だ。

 配牌も悪いし手も進まない。こんな状態がずっと続いている。

 和も、前局では聴牌できたが、今回は手が進まない。

 気が付くと、既に局は終盤を迎えていた。

 

 穏乃の背後に、より一層激しい火焔が見えた。

 そして、

「ツモ。4300オール。」

 それと同時に穏乃が親満をツモ和了りした。

 

 これで大将前後半戦の合計は、

 1位:穏乃 252300

 2位:和 200700

 3位:敬子 199800

 4位:桃子 147200

 敬子が勝ち星を取るためには、穏乃から役満以上を直取りするか、ダブル役満以上をツモ和了りするしか方法が無くなった。シングル役満ツモでは、穏乃をまくれない。

 これで敬子も勝負から離脱するしかないだろう。

 

 また、総合得点は、

 1位:白糸台高校 1191500

 2位:阿知賀女子学院 1191400

 3位:綺亜羅高校 1125600

 4位:永水女子高校 491500

 阿知賀女子学院が、白糸台高校に、たった100点差まで追い上げてきた。

 和と穏乃で、次に和了った方が勝つ。まさに、手に汗握る展開になってきた。

 

 当然、ここで和了り止めするなど有り得ない。

 穏乃は、当然、

「四本場!」

 最後の連荘を宣言した。

 

 オーラス四本場。ドラは{③}。

 ここでは、敬子も穏乃の支配から解除された。

 少なくとも、山の雰囲気から敬子が………いや、この局では誰も役満を作れないと穏乃は確信していた。それで、敬子をマークする必要がなくなったのだ。

 和に絶対に和了らせないために、穏乃は和一人に能力支配を集中した。

 

 和は、やはり最低の配牌に最悪のツモ。ここで穏乃に和了られたら逆転負けとなる。

 普段冷静な和が、珍しく焦りの表情を見せていた。

 

 一方、桃子と敬子は、普通に手が出来上がって行く。

 しかし、ここでは桃子も敬子も和了って許される手は限られる。二人とも、単に勝ち星を得るだけではダメだ。桃子なら総合得点で阿知賀女子学院と綺亜羅高校を逆転して永水女子高校を準優勝に導けることが条件、敬子なら総合得点で白糸台高校を逆転して優勝できることが条件になる。

 

 一応、桃子も敬子も聴牌できたが、条件を満たせるものではなかった。

 

 中盤に入り、穏乃の能力がマックス状態になった。

 さすがの和も、濃霧が見えていた。そして、彼女が山から牌をツモった時、彼女の目にも、とうとう穏乃の背後で燃え盛る火焔が見えた。

 オカルトを信じない和には、単なる錯覚程度にしか思えなかったが、明らかに穏乃の能力は和を押さえ込んでいた。

 和は、嫌な予感がした。それで、一旦、彼女は穏乃の現物を切った。ここで振り込んだら負けだからだ。

 

 次のツモ番は桃子。

 ツモったのは不要牌の{3}。手は、一応聴牌している。和了るつもりはないが、一応、聴牌は維持したい。

 それで、特に深く考えずにツモ切りしてしまった。

 しかし、これで、

「ロン。」

 対面から和了りの宣言が聞こえてきた。穏乃に振り込んだのだ。

 穏乃の手は平和のみ。1500点に芝棒がついて2700点の手だ。

 しかし、この直後、

「ロ…ロン。」

 桃子の下家からも和了り宣言が聞こえてきた。敬子が和了ったのだ。

「「「えっ?」」」

 思わず、和も桃子も穏乃も敬子のほうに視線を向けた。

 

 開かれた手は、

 {四[五]六③③③⑤[⑤]45678}  ロン{3}  ドラ{③}

 タンヤオドラ5のハネ満だった。

 

 その直後、敬子は、

「あっ!」

 自分がやったことに気が付いた。これは、和と穏乃だけのサシの勝負。他家は和了ってはいけないヤツだ。

 空気が読めない敬子でも、これが分からないわけでは無い。

 

 別に悪気があってやったことでは無い。敬子は、穏乃が和了ったのにつられて和了ってしまったのだ。

 

 敬子にも、敬子なりの背景がある。

 例えば埼玉県大会も関東大会も二家和(ダブロン)ありのルールだった。なので、これで和了っても特段問題は無かった。

 それに、南一局に和了って以降、敬子はずっと和了れずにいたことで、ようやく和了れると思ってしまった部分もある。

 こういった場面で切り替えが出来ないこと………これは、明らかに公式試合の経験不足から来ることだ。

 

 敬子は、

「ご…ごめんなさーい!」

 そう大声で叫ぶと、途端に大粒の涙を流し始めた。

 今以上に自分のKY行為を呪ったことは無い。KYゆえに、それに気が付いた時には反動が大きく、人一倍大きく傷つくのだ。

 

 これで、大将後半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 141200

 2位:敬子 105100

 3位:和 96300

 4位:桃子 57400

 

 そして、大将前後半戦のトータルは、

 1位:穏乃 252300

 2位:敬子 213000

 3位:和 200700

 4位:桃子 134000

 よって大将戦の勝ち星は穏乃が取り、各校の勝ち星は白糸台高校が二、阿知賀女子学院が二、綺亜羅高校が一、永水女子高校が勝ち星なしとなった。

 

 これにより、優勝校は白糸台高校と阿知賀女子学院の得失点差によって決められることになったが、総合得点は、

 1位:白糸台高校 1191500

 2位:阿知賀女子学院 1191400

 3位:綺亜羅高校 1138800

 4位:永水女子高校 478300

 たった100点差だが、白糸台高校が総合得点のリードを守り切って優勝を果たした。阿知賀女子学院の春夏春の三連覇、宮永咲の団体戦四連覇を阻止しての優勝だった。

 

 しかし、優勝しても白糸台高校の選手は納得できなかった。最後は、穏乃が桃子から和了って阿知賀女子学院が優勝を決めていたはずだったのだ。

 勝負では負けていた。なので、光や淡達にとっては勝利の喜びが全然感じられない優勝となってしまった。

 

 この時、阿知賀女子学院控室では、憧が呆然とモニター画面を見詰めていた。

 敬子の和了りはルール上問題ない。憎たらしい行為ではあるが、阿知賀女子学院の春季二連覇阻止、春夏春三連覇阻止の偉業とも取れる。

 

 そんなことよりも、もし穏乃が和了った三回の3900オールのうち、一回でも4000オールだったならオーラス三本場が終わった時点で優勝だった。

 他にも、憧が先鋒後半戦オーラスで和了った3900オール、ゆいが次鋒後半戦で和了った二度の3900オールのいずれかが4000オールなら、オーラス三本場終了時点で、自分達の優勝で決着がついていたはずなのだ。

 

 いや、それ以前に、憧が先鋒後半戦の南三局で和了った手が2000、3900ではなく2000、4000だったら良かったのだ。

 本大会は、決勝戦に限り同着が認められていた。つまり、憧の和了りが100点多ければ大将後半戦はオーラス四本場に突入せずに白糸台高校と阿知賀女子学院の両校優勝で幕を閉じていたはずだったのだ。

 色々悔いが残る。

 …

 …

 …

 

 

 決勝戦出場選手が対局室に集められた。これから表彰に入る。

 綺亜羅高校の選手達には銅メダル、阿知賀女子学院の選手達には銀メダル、そして白糸台高校の選手達には金メダルがかけられていった。

 

 表彰式では、終始、敬子は涙を流したまま俯いていた。

 敬子を非難する声はゼロではなかったが、思ったほど多くは無かった。

 むしろ、各大会でルールが統一されていなかったことや、綺亜羅高校の経験値を奪った一昨年の措置の方が問題視された。それが、結果的に敬子の最後の和了を誘発する原因となったからだ。

 敬子にとっては、それが、せめてもの救いだった。

 

 

 優秀選手は4名。白糸台高校の宮永光、綺亜羅高校の的井美和、阿知賀女子学院の高鴨穏乃、永水女子高校の石戸明星が選ばれた。

 そして、最優秀選手には阿知賀女子学院の宮永咲が選ばれた。これは、準決勝戦と決勝戦で、ともに100000点持ちからトビ終了を決めたのが大きいだろう。

 …

 …

 …

 

 

 翌日より個人戦が執り行われた。

 出場権は春季大会出場の32校の選手のみに与えられ、各校8名まで参加できる。ただし留学生は出場不可であった。

 また、参加人数が8名に満たない高校がある場合、卓割れの可能性が生じるが、その場合は1名欠けなら優勝校から、2名欠けなら優勝校と準優勝校から、3名欠けなら優勝校、準優勝校、3位の高校の枠を1名増やして対応することになっていた。

 昨年は、よりによって優勝校の阿知賀女子学院(5名)と、準優勝校の龍門渕高校(5名)が共に8名に満たなかったため、足りない2名を3位の白糸台高校と、特例で4位の臨海女子高校から日本人選手を1名ずつ増やして対応した。

 ただ、今大会では、昨年度とは違って参加枠の8名に参加者が満たない高校がなかったので面倒が無く済んだらしい。

 

 初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行われ、そこから決勝トーナメントに進出する上位16名を選出する。ただし、強者同士が潰し合わないよう、これまでの戦績をAIが解析して対戦表を作っていた。

 また、人数は四回戦が終わった段階で上位128名に、六回戦が終わった段階で上位64名に絞ることになっていた。

 ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところを除いて、あとは団体戦の時と同じだった。

 

 綺亜羅高校では、稲輪敬子が出場を辞退し、他の選手が代理で参加した。やはり、昨日のことに責任を感じ、人前に顔を出せない様子だ。

 

 

 予選では、やはり昨日の京太郎とのLINEでの遣り取りの件があって、咲が終始スイッチが入りっぱなしだった。それで最強状態が続き、予選全十回戦で合計プラス1401点の新記録をマークした。

 

 予選の結果、決勝トーナメント出場者は、以下の16名に決まった。

 1位:宮永咲(阿知賀女子学院)

 2位:宮永光(白糸台高校)

 3位:大星淡(白糸台高校)

 4位:石見神楽(粕渕高校)

 5位:石戸明星(永水女子高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 9位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 10位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 11位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 12位:東横桃子(永水女子高校)

 13位:南浦数絵(臨海女子高校)

 14位:十曽湧(永水女子高校)

 15位:真屋由暉子(有珠山高校)

 16位:片岡優希(臨海女子高校)

 

 また、惜しくも本戦出場できなかった選手は以下の通りとなった。

 17位:宇野沢美由紀(阿知賀女子学院)

 18位:佐々野みかん(白糸台高校)

 19位:多治比麻里香(白糸台高校)

 20位:二条泉(千里山女子高校)

 21位:茂木紅音(綺亜羅高校)

 22位:寺崎弥生(射水総合高校)

 23位:坂根理沙(粕渕高校)

 24位:麻川雀(千里山女子高校)

 25位:美入人美(姫松高校)

 26位:浦野瑠子(千里山女子高校)

 27位:美入麗佳(姫松高校)

 28位:牧真紀(千里山女子高校)

 29位:友清朱里(新道寺女子高校)

 30位:車井百子(阿知賀女子学院)

 31位:岡橋初瀬(晩成高校)

 32位:友清藍里(新道寺女子高校)

 33位:文堂星夏(風越女子高校)

 34位:高山千里(姫松高校)

 35位:車井百花(晩成高校)

 36位:児波美奈子(風越女子高校)

 37位:新子憧(阿知賀女子学院)

 38位:小走ゆい(阿知賀女子学院)

 

 憧とゆいは、美由紀だけではなく、補員の百子にも劣る結果となった。これは、秋季大会から今までの半年間での努力を欠いたためであろう。特に憧は、元の女子高生ランキングは11位から大きく順位が後退していた。

 憧は、昨日以上に落ち込んだ。これから夏の大会に向けて、ゆいと共に一層努力する覚悟を決めたのだった。

 

 綺亜羅高校の茂木紅音(もてきあかね:1年)は、群馬県から引っ越してきた。もともと赤木山の近くに住んでいたと言うこともあり、部内では『アカギ』と呼ばれている。

 

 この順位を見ると、千里山女子高校の選手が上位に4名入っているのが分かる。

 千里山女子高校は、団体戦では一回戦敗退だったが、それは綺亜羅高校と臨海女子高校と当たったためである。

 これは、くじ運が悪かったとしか言いようがない。

 個人戦結果から考えると、恐らく準決勝進出を果たした朝酌女子高校よりも千里山女子高校のほうが、ずっと強いだろう。

 

 また、姫松高校も上位に3名入っている。

 姫松高校は、二回戦敗退だが、これは白糸台高校に勝ち星四、有珠山高校の由暉子に勝ち星一を取られたからであった、

 総合力では有珠山高校を上回っていると言って良いだろう。たまたま、白糸台高校と当たったのが不運だったと言える。

 

 

 決勝トーナメントは、まず1位から4位が、くじを引いてA卓、B卓、C卓、D卓に振り分けられる。

 同様に5位から8位がくじでAからD卓に振り分けられ、9位から12位、13位から16位を、それぞれ同じ方法でAからD卓に振り分ける。

 

 各卓から上位二名が準決勝戦に進み、A卓とB卓の各上位二名と(AB卓)、C卓とD卓の各上位二名(CD卓)が対戦する。

 そして、それぞれの卓から上位二名ずつが決勝戦に進出する。

 

 一回戦と準決勝戦は半荘一回、決勝戦は半荘二回の戦いとなる。

 また、準決勝戦で敗退した四名が5位決定戦を行う(半荘一回)。

 

 一回戦で敗れた者達も、9位から16位を決める試合を行うことになる。

 A卓とB卓の下位二名ずつの計四名で半荘一回を戦い、その上位二名が9位決定戦(半荘一回)に、下位二名が13位決定戦(半荘一回)に進む。

 C卓とD卓でも同様のことが行われる。

 

 

 抽選の結果、決勝トーナメントの割り振りは、以下の通り決まった。

 A卓:宮永咲、原村和、竜崎鳴海、十曽湧

 B卓:宮永光、的井美和、東横桃子、南浦数絵

 C卓:石見神楽、石戸明星、鬼島美誇人、片岡優希

 D卓:大星淡、高鴨穏乃、鷲尾静香、真屋由暉子

 

 いよいよ、決勝トーナメントが開催される。




おまけ


春季大会団体決勝大将後半戦オーラス四本場。

桃子「(3索、要らないっス。)」

桃子が不要牌の3索を切った。一応、手は聴牌している。
もう4位確定である。当然、他家の勝負に水をさすつもりは無いし和了るつもりもない。
ただ、なんとなくだが、一応、聴牌は維持したい。
しかし、それを切った直後、対面から和了りの声が聞こえてきた。

穏乃「ロン。」

桃子「(私が振ったっスか!?)」

敬子「ロン!」

穏乃・桃子・和「「「えっ?」」」

敬子「あっ!」

恒子「これは綺亜羅高校稲輪選手のアタマハネ! これで大将戦は終了だぁー!」

恒子「しかし、稲輪選手。これを和了っても順位は3位から変わりません。それにしても何故和了ったか!?」

健夜「余り良いことではありませんが。」

恒子「しかし、ある意味、阿知賀女子学院の春夏春三連覇、宮永咲選手の団体戦優勝四連覇を阻止すると言う偉業を成し遂げたわけですが。」

健夜「多分、狙ったわけでは無いと思います。高鴨選手の和了りにつられて和了ってしまったのでしょう。」

恒子「それって分かる気がします。」

健夜「それに、稲輪選手が戦ってきた埼玉県大会も関東大会もダブロンありのルールでしたので、こう言った場面で和了っても問題は無かったわけですし…。」

恒子「その辺の切り替えが出来ていなかったと言うことでしょうか?」

健夜「だと思います。これがプロでしたら切り替えが出来なければ失格だと思いますが、やはり女子高生に、それを完璧に求めるのは厳しいかもしれません。」

恒子「でも、宮永咲選手とかはルールが変わっても柔軟に対応してますよ。それこそ、特殊なルールを器用に使いこなしてるって感じがします。」

健夜「まあ、彼女は試合馴れしていますので。」

恒子「化物ですしね。」

健夜「それ、言い方悪いよ!」

恒子「ゴメンしてね!」

健夜「まあ、むしろ、綺亜羅高校に今まで公式試合どころか一切の対外試合を禁じてきたほうが問題だったのかもしれませんね。」





敬子「ご…ごめんなさーい!」

敬子は、そう大声で叫ぶと、途端に大粒の涙を流し始めた。
これ以上、自分のKY行為を呪ったことは無い。KYゆえに、それに気が付いた時には人一倍大きく傷つく。

この呆気ない幕切れをモニターで見た憧は、その場に立ちすくんでいた。


憧「(こんなのヒドイ………。でも、私が後半戦南三局で和了った手が2000、3900じゃなくて2000、4000だったら、オーラス三本場で白糸台都同時優勝だったんだよね。)」

憧「(それに、相手が大星さんってことで、私、最初から勝ちを諦めていた。もし、もう少し気の入った麻雀を打ててたら………。)」


ゆい「(私が和了った二回の3900オールのどっちかが4000オールだったら、穏乃先輩が三本場を和了ったところで優勝だった。)」

ゆい「(それに、咲先輩の従姉妹が相手ってことで勝ちを諦めていたし、私がもうちょっと、キチンと打っていれば………。)」


咲「(もしかして、これって後半戦で京ちゃんに逆転勝ちを見せようと思って私が稼がなかったのがいけなかった?)」

咲「(後半戦も大虐殺してたら、得失点差なんて埋まってたよね、きっと………。)」


美由紀「(私が後半戦のオーラスの連荘で、最後に1000点でイイから和了っていれば勝ち星取れてた………。)」

美由紀「(そうしたら穏乃先輩だってオーラスでムリな連荘しないで勝ち星を決めて優勝できてたのに………。)」


穏乃「(もし私が、最後の最後で綺亜羅の人への支配を解除しなければ、この和了りは無かったはず。)」

穏乃「(和にばっかり気を取られて、麻雀が四人のゲームだってことをすっかり忘れてた………。)」


咲・穏乃・憧・ゆい・美由紀「「「「「(戦犯って私だよね?………)」」」」」


まあ、変に他人を責めずに、自らに責任を求めるところは、阿知賀女子学院が本当にイイ子ちゃんだらけであることを証明していると言って良いだろう。
これなら多分、復活できる。
次のインターハイに向けて、さらなる研鑽がなされることを期待する(特に憧とゆい)。


一方、白糸台高校は、

淡「これって、実質シズノに負けてるジャン。本当の優勝じゃない! 試合には勝ったけど勝負には負けてる!」@控室

光「まだ、打倒阿知賀、打倒咲は達成されていないってことだね。個人戦で咲に勝たなければ、団体戦優勝を証明できないってことか。」@控室

麻里香「一応さ、優勝できたこと自体は嬉しいんだけど………、なんかモヤッと感があるよね。」@控室

みかん「心の底から喜べないね。」@控室

和「何だか納得できません。そんな、お馬鹿かな和了り、ありえません!」@対局室

メンバー揃って心の底から喜んでいる様子は無かった。


そして、綺亜羅高校控室では、

美和「やっちゃったよぉー。」

静香「ある意味、敬子らしい。」

鳴海「一応、一昨年の夏から誰も達成できなかった宮永咲チームの優勝阻止だから、これはこれで大偉業だけど………。」

美誇人「絶対に悪名を残したね、私達。」

美和「やっぱり敬子を大将にしたのはマズかったかな?」

鳴海「一昨年の夏って点数引継ぎ制だったジャン。あの時、清澄は点数調整できる宮永さんを大将に置いたってくらいだからね。」

美誇人「まあ、今回は点数引継ぎ制じゃないけど、得失点差勝負になったら必要だよね、点数の管理。」

静香「小鍛治プロの言うとおり、私達の経験不足だね、これは。特に敬子みたいなタイプは、色んなケースがあることを覚えこませなきゃいけなかったんだと思う。」

鳴海「でも、私が敬子の立場だったら和了っちゃたかも。ずっと和了れてないところに当たり牌がでてきたわけじゃん。それに隣が和了るし、つられちゃうよ、きっと。」

美誇人「でも、個人戦、どうする? 辞退する?」

美和「人道的にはそうかもね。でも、ルール違反したわけじゃないし、それに、大会に最後までキチンと出ることが節子の悲願だったから。」

静香「そうだね。別に悪キャラにされたってイイよ。出来るだけみんなで上位に入って、あのクソ(な先輩)に分からせないと!」

鳴海「そ…そうだよね。アイツのせいで、こんなんなっちゃったし。どれだけ馬鹿みたいなことをやらかしてくれたか、分からせないと。」

美和達四人は、大会出場辞退に追い込んだ二つ上のOBのことを心底恨んでいた。
それで、自分達が全員、個人戦で上位に食い込むことで、全国上位の選手達(自分達)を今まで潰してきた(日の目に当たらないところに追い込んだ)罪を自覚してもらいたいと考えていた。

なので、個人戦辞退はしない。
敬子は分からないが…。
立ち直れないかもしれないので…。

その頃、敬子はと言うと………。

敬子「ゴメンなさい、生まれてきてゴメンなさい、生きていてゴメンなさい、存在してゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい………。」

相当重症だった。
多分、これは暫く立ち直れないだろう。
しかし、必ず敬子は復活する。
あの池田華菜のように。


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百三十三本場:個人戦決勝トーナメント一回戦

 個人戦決勝トーナメントは、全卓一斉に対局がスタートした。

 A卓は、宮永咲、原村和、竜崎鳴海、十曽湧の対局。

 場決めがされ、起家は和、南家は鳴海、西家は咲、北家は湧に決まった。

 

 東一局、和の親。

 和が公式戦で咲と直接対決したのは、昨年インターハイの個人戦決勝トーナメントの一回戦のみ。しかも、あの時、和は何も出来ずに終わってしまった。

 今日こそ、咲と渡り合ってみせる。その意気込みで、和が対局に臨んでいた。

 

 牌効率の良い和が、いきなり、

「リーチ!」

 六巡目でリーチをかけた。リーチ宣言牌は{中}。

 すると、和のリーチ宣言牌を、

「ポン!」

 湧が鳴いた。{中}を使うローカル役満に向けて動き出したのだ。

 この鳴きで、すぐに和のツモ番が回ってきた。

 そして、

「ツモ。6000オール。」

 いきなり和が親ハネをツモ和了りした。昨日の団体戦では白糸台高校優勝にケチがついたが、今日は納得の行く試合がしたい。

 それに、咲に勝ちたい。やはり、咲は和にとっても目標なのだ。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「ポン。」

 序盤から鳴海が仕掛けてきた。湧が捨てた不要牌の{③}を三巡目から鳴いてきたのだ。

 そして、次の和の捨て牌である{中}を、

「カン!」

 鳴海は、今度は大明槓した。新ドラは{③}。刻子がモロ乗りである。

 嶺上牌はツモ切りだったが、さらにその次巡、

「カン!」

 さらに鳴海は{③}を加槓した。新ドラは{中}。これで、中ドラ8が完成した。

 咲とは違って嶺上開花で和了るわけではない。普通に嶺上牌は、今回もツモ切りした。

 その次巡、

「ツモ。中ドラ8。4100、8100。」

 鳴海は毎度の如く倍満をツモ和了りした。

 

 

 東二局、鳴海の親。ドラは{二}。

 ここでも、

「ポン!」

 序盤から鳴海が仕掛けてきた。湧が捨てた{⑧}を一鳴きしたのだ。

 そして、その三巡後、

「ポン!」

 今度は、咲が捨てた{白}を鳴海が鳴いた。

 そのさらに二巡後、

「カン!」

 鳴海は{白}を加槓した。新ドラは{白}。やはりモロ乗りである。

 嶺上牌はツモ切り。

 しかし、この局は、

「ツモ。」

 鳴海が二つ目の槓をする前に湧がツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六七[⑤][⑤]34[5]67}  ツモ{2}

 この形は超ローカル役満の双竜争珠だ。

 

「3000、6000。」

 ただ、ここでは認められていない和了り役なので、普通にタンピンツモドラ3として扱われる。

 

 

 東三局、咲の親。

 まだ咲の和了りがないが、そろそろエンジンが掛かってくる。

 ここでも鳴海が、

「ポン!」

 五巡目に湧が捨てた{④}を鳴いた。

 そして、七巡目、

「ポン!」

 再び鳴海が、湧から{⑧}を鳴いた。これで、鳴海が加槓する二つの刻子が揃った。

 

 その次巡、

「カン!」

 鳴海が{⑧}を加槓した。嶺上牌の{1}はツモ切り。

 しかし、これを咲が、

「カン!」

 大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は{①}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続いて{一}を暗槓した。これで三連続槓だ。

 王牌には、四枚目の嶺上牌が残っている。咲は、これを引くと、

「ツモ。」

 嶺上開花で和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {東東東9}  暗槓{裏一一裏}  暗槓{裏①①裏}  明槓{横1111}  ツモ{9}

 

「ダブ東混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花。48000。」

 これは鳴海の責任払いになる。

 

 これで四人の順位と点数は、

 1位:咲 43900

 2位:和 31900

 3位:湧 26900

 4位:鳴海 -2700

 鳴海のトビで終了した。これで、準決勝戦進出は咲と和に決まった。

 

 

 B卓は、宮永光、的井美和、東横桃子、南浦数絵の対局となった。

 場決めがされ、起家は桃子、南家は数絵、西家は美和、北家は光に決まった。

 

 東一局、桃子の親。

 桃子のステルスは後半になってから出てくる。また、数絵もホームグラウンドは南場である。つまり、二人とも東場はベストの状態では無い。

 つまり、美和にとって東場はチャンス。

 

 この局は、いきなり、

「ロン!」

 美和が桃子から和了った。

 一応、罠は仕掛けた。とは言え、単純な筋引っ掛けだったのだが………。ただし、能力のほうは出力最大だ。

 桃子の目に、多数の巨大な触手が美和の背後から伸びてきて、一斉に自分に襲いかかってくる幻が見えた。

 しかも、それらの触手はネトネトした消化液でまみれている。

 桃子の身体に触手が絡みつく。そして、制服があっという間に溶かされて桃子は全裸にされた。

 さらに、触手は執拗に桃子の全身を刺激する。

 現実世界では、ほんの数秒なのだが、幻の世界では、それが何十分にも感じる。

 

「12000!」

 桃子は、美和の点数申告の声を聞いて我に返った。

「(なんっスか? 今の?)」

 振り込んだのに気持ちイイ。まるで、北斗有情拳のようだ。

 ただ、

「(でも、加治木先輩の方が気持ちイイっス!)」

 と桃子は心の中で思っていた。

 一体、加治木ゆみとナニをやっているのだろうか?

 

 

 東二局、数絵の親。

 ここでの美和のターゲットは数絵。

「(この娘、美人だし、やりがいあるよね!)」

 美和は、もうヤル気マンマンだった。

 そして、七巡目、

「ロン!」

 美和は、予定どおり数絵から和了った。こっちも単純な筋引っ掛け。簡単な罠だ。ただし、桃子の時と同様に能力のほうは出力最大だ。

 

 数絵の目に、さっきの桃子と同様に多数の巨大な触手が美和の背後から伸びてきて、一斉に自分に襲いかかってくる幻が見えた。

 当然、それらの触手はネトネトの消化液でまみれている。

 数絵の身体が触手に捉えられた。そして、これでもかと言わんばかりに多数の触手が数絵の全身に絡み付いて制服を溶かし始めた。

 制服は、ほんの十数秒で溶かされた感じだ。数絵は、既に全裸の状態。

 当然、それだけで触手が許してくれるはずが無い。執拗に数絵の全身、特に胸や股間を念入りに刺激する。

 

「12000!」

 美和の点数申告の声で、数絵は、ふと我に返った。なんだか、ムチャクチャ恥ずかしくなって赤面する。

 しかも、これはテレビ中継されている。全裸でイケナイことをしているところを全国生中継された気分だ。

 桃子とは違う反応に、

「(もっと楽しませたい!)」

 と美和は思っていた。

 

 

 東三局、美和の親。

 今度の美和のターゲットは光。

 しかし、光は、美和の手牌を全て読み切っている。当然、ヤバイ牌は取り込んで打ち回してくる。

 そして、

「ツモ!」

 この局は光が和了った。

「タンピンツモドラ2。2000、4000。」

 しかも2翻スタートだ。少しペースを上げなければマズイと直感したのだ。それだけ美和のことを警戒しているとも言える。

 

 

 東四局、光の親。

 ここでは、光の和了り役の翻数が3翻になる。ただ、第一弾の和了りを決めると、照と同じで手の進み具合が早くなる。

 そして、五巡目と早い巡目で、

「ロン!」

 光は数絵から和了った。

「タンピン一盃口ドラ3(表1赤2)。18000。」

 しかも親ハネ直撃だ。

 

 これで四人の順位と点数は、

 1位:光 51000

 2位:美和 45000

 3位:桃子 11000

 4位:数絵 -7000

 数絵のトビで終了した。これで、準決勝戦進出は光と美和に決まった。

 

 

 C卓は、石見神楽、石戸明星、鬼島美誇人、片岡優希

 場決めがされ、起家はタコス効果で優希、南家は明星、西家は美誇人、北家は神楽に決まった。

 

 東一局、優希の親。

 八巡目、

「リーチだじぇい!」

 東風の神こと優希だが、やはり団体戦に最高状態を設定するため、ここでは少し馬力が下がっているようだ。東初なのに聴牌が序盤を過ぎている。

 しかも、一発ツモもなし。

 一応、

「ツモだじぇい!」

 三巡後にツモ和了りできたが、

「リーツモタンヤオドラ2。4000オールだじぇい!」

 ドラは表ドラ1枚と赤牌1枚のみ。裏ドラは無く、天和伝説を持つ優希にしては、今一つの和了りだった。

 

 東一局一本場。

 ここでも優希は、聴牌に八巡を要した。

 そして、

「リーチだじぇい!」

 先制リーチをかけたのだが、このリーチ宣言牌で、

「御無礼。ロンです。12300。」

 美誇人に振り込んだ。しかも、いきなり『御無礼』が出てきた。つまり、ターゲットは最初から優希と言うことだ。

 

 この和了りを見て神楽が、

「さすがだね、コトちゃん。」

 と言った。

「えっ?」

 これに驚いたのは美誇人だった。

 美誇人の周りの人の多くは、彼女のことを『カイ』と呼ぶ。あるいは、名前で呼ぶか、せいぜい『ミコト』の上二文字で『ミコ』と呼ぶ。

 それを敢えて『ミ』を外して『コト』と呼ぶ人間は一人しかいなかったはず!

 しかし、神楽が何故そのことを?

 すると、神楽が、

「じゃあ、次は私の番だからね。」

 と言って卓中央のスタートボタンを押した。

 

 

 東二局、明星の親。

 今のところ、明星は大人しくしている。まだ能力を発動した雰囲気は無い。

 この親番でも、特に動く気配が無い。まだ相手を見極めようとしているのだろうか?

 

 この局、最初に動いたのは神楽だった。

「リーチ!」

 五巡目と、比較的早いリーチ。まるで優希のお株を奪う感じだ。

 ただ、優希と違うのは、神楽がリーチ棒を出した瞬間、全員の目に、辺り一面の地が割け、そこから溶岩が噴出する映像が見えたことだ。

 この感覚を美誇人は知っている。かつて自分の友人だった少女が見せた幻だ。

「(でも、なんでこれを?)」

 美誇人がそう思ったのも束の間、次巡のツモで、

「ツモ。一発!」

 神楽が和了った。

「リーチ一発ツモタンヤオ一盃口ドラ4(表2赤1裏1)。4000、8000!」

 しかも倍満だ。

 これで神楽が美誇人を逆転して首位に立った。

 

 

 東三局、美誇人の親。

「(それにしても、あの幻に高い手。あれって、やっぱり…。)」

 美誇人は、神楽のほうをシゲシゲと見ていた。

 すると、

「コトちゃん。ちゃんと集中しないとダメだよ! そろそろ永水の人が来るからね!」

 と神楽が美誇人に言ってきた。

 この口調、この雰囲気。間違いない。これは、美誇人と同じ中学校出身で、綺亜羅高校1年生の時に同じ麻雀部員だった古津節子(こつせつこ)だ。

 

 突然、明星の雰囲気が変わった。まるで、彼女の従姉妹の霞が邪神を降ろした時に良く似ている。

 そして、僅か四巡目で、優希が切った{①}で、

「ロン。32000。」

「じぇじぇー!」

 明星は国士無双を和了った。

 

 これで四人の順位と点数は、

 1位:明星 45000

 2位:神楽 37000

 3位:美誇人 29300

 4位:優希 -11300

 東場に絶対的な自信を誇る優希の、まさかのトビで終了した。これで準決勝戦進出は、明星と神楽に決まった。

 

 美誇人は、

「もしかして節子?」

 と神楽に聞いた。

 すると神楽は、

「さあ。」

 と他人の素振りを見せていた。

「節子なんでしょ。私のこと、コトちゃんって呼ぶのは節子だけだから。」

「そう言えばそうだったわね。まあ、どこかでバレるとは思ったけど。」

「でも、なんで?」

「この神楽って人ね、死んだ人の霊も生きた人の霊も降ろすことが出来るの。それで、ちょっと来ちゃった。」

「そうなんだ。でも、どうしてわざわざ?」

「敬子が心配だからかな。」

「敬子ね。私も、ちょっと心配してる。麻雀、やめなきゃ良いけどって思ってるよ。」

「そうね。あとね、私もみんなと打ってみたいって思ってね。出来ればA卓に入りたかったかな。チャンピオンと打てるから。」

「美和が漏らしたって言ってた。」

「そうね。」

「全部お見通しなんだね。」

「当然。だって、私は………。」

 

 一昨年前のインターハイ県予選の少し前のことだ。

 大会参加登録を終え、レギュラーメンバーが発表された。そこに、1年生ながら強豪綺亜羅高校のレギュラーとして節子の名前があった。

 当然、これと入れ替わりで今迄レギュラーだった者から1名が補員に回されるし、補員だった者からも1名が外される。

 これは、実力世界では仕方が無いことだ。

 しかし、この世の中、必ずしも、

『はい、分かりました』

 と言える人間ばかりでは無い。

 レギュラーを外された3年生が、これに納得できずに節子を呼び出し、レギュラーを譲るよう脅し、しかも仲間を呼んで節子を押さえつけ、節子の手の指を全て折ってしまったのだ。

 この事件が発覚して綺亜羅高校は一年間の大会出場を停止した。

 その3年生は退学処分。当然だろう。

 

 節子の指は、幸いにも複雑骨折ではなかったため、医者からは全治半年と宣告された。とは言え、指が以前と同じくらいスムーズに動かせるようになるには、もう少し時間がかかるとのことだった。

 ところが、節子は驚くほどの回復力を見せ、完治まで半年どころか二ヶ月程度で済んでしまった。

 しかも、その二ヶ月で完全に元通り動かせるようにまで回復した。まさに奇跡的とさえ言われた。

 

 自分達は出場を辞退したが、インターハイを大会会場で見て、節子は一人の少女に惹かれた。その選手こそ、現チャンピオン宮永咲だった。

 奇蹟の大逆転。

 県予選の記録も見た。

 その後の世界大会の活躍も…。

 咲との対局を夢見て、節子は部活に励んだ。

 

 しかし、去年の2月のことだった。

 節子が交差点で信号待ちしていると、後ろから誰かに押された。押した人間は誰だか分からない。

 そのまま節子は前に飛び出すはめになり、車に轢かれて亡くなった。

 噂では、その場には節子を私刑にかけた元3年生がいたと言われている。その元3年生が殺したとの噂もある。

 しかし、実際のところは分からない。

 

「じゃあ、私は一旦消えるね。神楽さんが仲間のところに戻ると思うから。」

「あっ、うん。そうだね。」

「じゃあ、また後でね。」

「う…うん。」

「みんなによろしく。」

 そう言うと、節子は神楽の体内から抜け出て行った。




おまけ


某ネット掲示板は、今日も賑わっていた。


【三大巨頭】個人戦咲様・光ちゃん・美和様編【大量にイかせまくり!】


234. 名無し麻雀選手

これまでもまとめ

顔面偏差値ランキングベスト10
1位:佐々野みかん(白糸台高校)
2位:美入人美(姫松高校)
3位:美入麗佳(姫松高校)
4位:石戸明星(永水女子高校)
5位:原村和(白糸台高校)
6位:多治比麻里香(白糸台高校)
7位:宇野沢美由紀(阿知賀星学院)
8位:柊かがみ(大酉高校)
9位:柊つかさ(大酉高校)
10位:滝見春(永水女子高校)
次点:新子憧(阿知賀星学院)


235. 名無し麻雀選手

一回戦、咲様の相手
狩宿萌(永水女子):犠牲者
柊つかさ(大酉):犠牲者
美入麗佳(姫松):下家&犠牲者
三人とも豪快!
咲様は+141
今回、咲様はムチャクチャ気合いが入ってる


二回戦、咲様の相手
石戸明星(永水女子):犠牲者
柊かがみ(大酉):犠牲者
浮気翔子(圓城):下家&犠牲者
当然ここでも三人とも豪快!
咲様は、またもや+141

一回戦と二回戦で高校が一緒って、作為的なモノを感じる
本当にAIが対戦表を作っているのだろうか?


三回戦、咲様の相手
石原麻奈(粕渕):犠牲者
文堂星夏(風越女子):犠牲者
美入人美(姫松):下家&犠牲者
ここでも三人とも豪快!
咲様は+141
合計+423で犠牲者9人


236. 名無し麻雀選手

一回戦、ひかりちゃんの相手
竹村真奈美(圓城高校):犠牲者
小俣真央(不倒高校):犠牲者
高良みゆき(大酉高校):犠牲者
光ちゃんは+99


二回戦、光ちゃんの相手
加藤ミカ(新道寺女子):犠牲者
泉こなた(大酉):犠牲者
高山千里(姫松):犠牲者
光ちゃんは+99

高山千里って絶対に千里山高みたいだよね?
姫松にいるってwwwwwwww


三回戦、光ちゃんの相手
楠田照代(万石浦高校):犠牲者
寺崎弥生(射水総合):なんとか耐えた
松田姫子(姫松):犠牲者
光ちゃんは+99で犠牲者8人
松田姫子って名前が姫松だねぇ


237. 名無し麻雀選手

一回戦、美和様の相手
佐々野みかん(白糸台):犠牲者
柊かがみ(大酉):犠牲者
美入人美(姫松):犠牲者
美女ランキング1位と2位と8位がアヘ顔見せた歴史的対局!
団体戦でも美和様は多治比麻里香(白糸台:6位)と滝見春(永水女子:10位)のアヘ顔を見せてくれた!


二回戦、美和様の相手
美入麗佳(姫松):犠牲者
宇野沢美由紀(阿知賀女子):犠牲者ならず←残念!
柊つかさ(大酉):犠牲者
美女ランキング3位と9位がアヘ顔見せたが7位は平常運行


三回戦、美和様の相手
新子憧(阿知賀女子):犠牲者
狩宿萌(永水女子):犠牲者
春日井真澄(粕渕):犠牲者
特に憧ちゃんはエロかった!


338. 名無し麻雀選手

四回戦、咲様の相手
泉脇益代(折渡第二)
真下佳苗(射水総合)
米丸夢(鬼籠野)


四回戦、光ちゃんの相手
室橋裕子(風越女子)←清澄から転校したらしい
寺崎弥生(射水総合)
江夏里美(万石浦)


四回戦、美和様の相手
足尾琉音(由比女)
福井萌(天童大付)
稲伊緒奈(萌間)


339. 名無し麻雀選手

泉脇益代wwwwww
最初から泉が湧きますよってゲロしてるwwwwww


340. 名無し麻雀選手

ちょっと待て!
泉脇益代、真下佳苗、米丸夢

苗字だけ並べたら
泉脇真下米丸

泉湧きましたよね?〇


341. 名無し麻雀選手

>>340
万石浦のメンバー表みたいジャン?
鎗田伊勢楠田唐桑江夏

ヤりたいセッ〇スだから銜えなっ!


342. 名無し麻雀選手

>>340, 341
名前も凄いぞ!
夢佳苗益代

夢叶えますよ!

つまり、
泉湧きましたよね?〇
夢叶えますよ!

100%大放出の予感!


343. 名無し麻雀選手

稲伊緒奈(いねいおな)

イオナって珍しい名前だね


344. 名無し麻雀選手

咲様の相手の名前に作為的なモノを感じる
さすがAI
スバラです!


345. 名無し麻雀選手

>>343
イイ女から来てるらしい

それでブサ女だったら最悪だけど、
一応美女ランキングも上のほうみたいだから良かったと思


346. 名無し麻雀選手

それなら美和様の相手も
足尾福井稲

あ! しおふく! イイね!

伊緒奈萌琉音

イイ女! 燃えるね!

になるのか?
さすが美和様!


347. 名無し麻雀選手

誰も試合について語らない件


………
……


中略


……
………


560. 名無し麻雀選手

咲様以外は全員0点の六本場
毎回これが出来るのがスゴイ


561. 名無し麻雀選手

これは決まったな


562. 名無し麻雀選手

泉湧きましたよね?〇


563. 名無し麻雀選手

>>562
そう慌てるな
もう少しだ
必ずや咲様はやってくれる!


564. 名無し麻雀選手

泉湧きましたよね?〇


565. 名無し麻雀選手

泉湧きましたよね?〇


566. 名無し麻雀選手

泉湧きましたよね?〇


567. 名無し麻雀選手

>>564-566
大丈夫
咲様は、みんなの夢を乗せてカンするのよ!
夢叶えますよ!


568. 名無し麻雀選手

夢叶えますよ!


569. 名無し麻雀選手

>>567
きっとヤってくれるし!
言ってるそばから四暗刻聴牌してるし!


570. 名無し麻雀選手

北www
九巡目
西をカン!


571. 名無し麻雀選手

>>570
西おか?


572. 名無し麻雀選手

いつものパターンだな


573. 名無し麻雀選手

西おかが出たら、もうあれしかないな


574. 名無し麻雀選手

当然、倫シャン開放だな


575. 名無し麻雀選手

ktkr
四暗刻ツモ
全員トビで箱下16600
咲様四連続+141達成!


576. 名無し麻雀選手

祝四連続+141!


577. 名無し麻雀選手

祝四連続+141!


578. 名無し麻雀選手

画面とんだ
特定ハヨ


579. 名無し麻雀選手

特定ヨロ


580. 名無し麻雀選手

特定ヨロ


581. 名無し麻雀選手

小針西と射水総合と鬼籠野の生徒が対局室にジャージを持って急行中
3人放出決定!
合計12人達成!


582. 名無し麻雀選手

祝3人放出 合計12人達成!

で、美和様のほうは?


583. 名無し麻雀選手

祝3人放出 合計12人達成!

>>582
もうとってもスバラです!
三人とも顔真っ赤です


584. 名無し麻雀選手

祝3人放出 合計12人達成!

放水してなんぼ、放水してなんぼですわ!


585. 名無し麻雀選手

埼玉県大会で美和様と戦った者だけど
美和様に和了られてから点数申告されるまで、ほんの数秒だけど、
和了られたほうは、そこから幻の世界に入って
現実世界の数秒が30分にも1時間にも感じるのよね

その間、粘液付の触手で捕えられて服を溶かされて
全裸にされてさ

胸をさらけ出さされて股を開かされて
粘液付の触手で執拗に攻められる
そんな幻を見るんだよね


586. 名無し麻雀選手

>>585
マジそれ?

やられた方は、現実世界に戻ってきたら
みんなの前で全裸触手プレイをさせられていたように感じるんじゃね?


587. 名無し麻雀選手

>>586
そうなった
だから私も恥ずかしかったけど
でも、気持ちイイんだよね、あれ
なもんで、あの快感が欲しくなって自分から振り込みに逝くようになる人もいた


588. 名無し麻雀選手

まさに食虫植物ならぬ女子高生雀士ホイホイだね、これ


589. 名無し麻雀選手

女子高生雀士ホイホイwwwwww


590. 名無し麻雀選手

姫子に経験させてみたい!


591. 名無し麻雀選手

女子高生雀士ホイホイwwwwww


592. 名無し麻雀選手


>>585
そんな能力、今までに無いのです!
できれば、その幻を見せて欲しいのです!
勿論、ターゲットは私ではなくオモチが立派な石戸霞さんでお願いしたいのです!




続きません


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百三十四本場:天変地異

 個人戦決勝トーナメント一回戦、D卓は、大星淡、高鴨穏乃、鷲尾静香、真屋由暉子の対局。

 場決めがされ、起家は穏乃、南家は由暉子、西家は静香、北家は淡に決まった。

 

 東一局、穏乃の親。

 穏乃のスイッチが入るのは最速で東四局になる。なので、今は、まだ非能力者と何ら変わらない。

「(絶対安全圏!)」

 淡が、毎度の如く絶対安全圏を発動した。

 これで、他家は全員、配牌が強制的に六向聴になる。しかも、淡自身は配牌二向聴と手が軽い。

 相変わらず、やられた側目線では卑怯に感じる。

 そして、

「ポン!」

 淡は、鳴いて手を進め、

「チー!」

 早々に聴牌し、他家に六回目のツモを許す前に、

「ツモ。1000、2000。」

 さっさと和了る。

 これをやられては、他家は手の出しようが無い。

 

 しかし、東二本場は、何故か淡の鳴ける牌が出てこなかった。

 上家の静香が牌を絞っていたためである。団体決勝戦の先鋒戦で淡と戦っただけあって、淡の対策をきちんと考えている。

 そのため、淡は、この局では絶対安全圏内の和了りを達成できなかった。

 

 七巡目のツモ番。

 ここで由暉子が七対子を聴牌した。

 由暉子は、

「左手を使います。」

 と言うと、

「リーチ!」

 先制リーチをかけた。しかも、このリーチには神の力が宿っている。

 そして、次巡、

「ツモ! リーチ一発ツモ七対子ドラ4(表2裏2)。8000オール!」

 親倍ツモが飛び出した。

 これで、由暉子が一気に大量リードを作った。

 

 東二局一本場。由暉子の連荘。

 ここで動いたのは、

「ポン!」

 静香だった。

 まずは、由暉子が捨てた{中}を鳴いた。

 絶対安全圏内だが、配牌時にあった{中}を最初のツモで重ね、二巡目に由暉子が捨ててきたのを逃さず鳴いたのだ。

 淡にとっては、まさかの出来事だった。

 やはり、静香は豪運の持ち主である。そのまま、最短で手を作り、

「ツモ。中混一ドラ2。2100、4100。」

 満貫を和了った。

 穏乃、淡、由暉子と言った有名選手に囲まれながらも臆することなく自分の麻雀で攻めてゆく。

 さすが、綺亜羅高校三銃士の一人である。

 

 

 東三局、静香の親。ドラは{①}。

 ここで淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー。)」

 パワーを全開にした。

 しかし、ダブルリーチはかけず、ここから手変わりを待つ。

 

 淡の配牌は、

 {一一一七九②③④678西西}

 ここに第一ツモは{南}。これをツモ切り。

 

 二巡目、ツモ{①}、ドラと入れ替えで打{④}。

 

 三巡目、ツモ{⑨}、打{七}。

 どうせ{八}は最後の角を越えるまでツモれないはず。なので、{七九}と持っていても余り意味が無い。

 それで、ここは敢えて{七}切りで一向聴に落とした。

 

 四巡目、ツモ{西}、打{九}で一応聴牌。

 

 その後、二巡、ツモ切りが続くが、七巡目、ツモ{9}で打{6}。

 

 そして、その次巡、

「ツモ! チャンタツモドラ1で2000、4000!」

 淡は満貫をツモ和了りした。

 一応、ダブルリーチの能力で得た配牌聴牌から手を変えて、最後の角を待たずして和了るのを、淡なりに随分と練習してきたつもりだ。

 それが、今、活きている手応えが淡にはあった。

 

 

 東四局、淡の親。

 ここから穏乃の能力が発動する。

 卓上には、うっすらと靄がかかっている。

 さすがの静香も、これには驚きの色が隠せなかった。このような現象を見るのは生まれて初めてである。

「(これが阿知賀の大将の力ね。でも、いったいどんなものなのかしら?)」

 静香も穏乃の能力の詳細については、情報が取れていなかった。

 ただ、実際に対決して分かったことは、ツモが配牌と噛み合いにくいことだ。

 普通に、こう言ったことはあるが、静香は豪運の持ち主。それでいて全然手が進まないのはおかしい。

 

 場が進むに連れて靄が次第に濃くなってゆく。

 そして、中盤を越えようとした時、静香は、穏乃の背後に広がる火焔を見た。このようなものを目にするのも初めてである。

「(なにあれ?)」

 その直後、由暉子が捨てた牌で、

「ロン。3900。」

 穏乃が和了った。スロースターター穏乃のエンジンが、ようやくかかったのだ。

 静香は、さっきの火焔と穏乃の和了りに、なんらかの関係があると直感した。同時に、あの火焔こそが穏乃の真の力であろうことも………。

 

 

 南入した。

 南一局は穏乃の親。

 ここでも、卓上に靄がかかっている。

 しかも、若干だが、前局よりも濃い感じだ。視界が妙に悪い。

 それでいて、絶対安全圏は残っている。打つ方からすれば、非常に嫌な状態だ。

 

 由暉子も静香も六向聴から二向聴までは進められるのだが、そこからは全然手が進まない状態が続く。

 淡も配牌二向聴から一向聴まで手を進めたが、そこから手が進まない。まるで、天江衣の一向聴地獄が発動しているかのようだ。

 

 十巡目に、静香は再び穏乃の背後に火焔が見えた。丁度、穏乃がツモったところだ。

 しかし、これで穏乃が和了ったわけではない。

 ただ、この直後、次のツモ番の由暉子が捨てた牌を、

「ロン。11600。」

 穏乃が直撃した。

 

 これで現在の順位と点数は、

 1位:淡 26900

 2位:穏乃 26400(順位は席順による)

 3位:由暉子 26400(順位は席順による)

 4位:静香 20300

 全員が、まだ1位2位抜け出来る位置にいる。第三者視点では、ここからが勝負と言いたいところだ。

 しかし、既に穏乃の能力が発動し、それが徐々に強まっている。他家三人にとっては、厳しい戦いになっていた。

 

 南一局一本場。

 ここで、とうとう絶対安全圏が崩れた。

 しかも、依然として山は穏乃が支配しており、その支配は場の後半になってより強くなる。穏乃以外は、穏乃の支配力が相対的に弱い早い巡目での勝負が必要になる。

 

 一応、由暉子も静香も、靄が深くなる前、つまり序盤が勝負との考えはあった。

 しかし、何とか一向聴まで持ってきたが、そこからは思うように手が進まない。

 穏乃の背後には、既に火焔が見え隠れしている。和了りに向けて能力が発動していると言って良い。

 そして、とうとう由暉子がツモ切りした牌で、

「ロン。18300。」

 由暉子が穏乃に親ハネを振り込んだ。

 

 かつて、48000まであった由暉子の点数が、穏乃への三連続振り込みもあって、8100点まで減っていた。

 勿論、8100点から確実にトバされるかと言うと、一般にはそうではない。

 しかし、今は穏乃が完全に場を支配している。

 由暉子のトビ終了も可能性としては高くなっていると考えて良いだろう。

 

 

 南一局二本場。

 ここでも絶対安全圏は不発。

 しかし、淡はダブルリーチの能力を全開にしていた。

 穏乃の能力が発動し始める東四局に入ってから、淡は能力を抑えてダブルリーチを封印していた。全ては、この局のためだ。

 蓄えていたエネルギーを一気に使う。

 そして、配牌聴牌。

 

 戦法は、基本的に東三局と同じ。

 ダブルリーチの能力は、配牌で聴牌させてくれるが、ダブルリーチ以外の和了り役が無い。なので、ここから役を付けて行く………はずだった。

 

 ところが、ここに第一ツモを引いてきて淡は驚いた。

「(こ…これって…!?)」

 嬉しい誤算だ。和了っている。

 序盤過ぎて、穏乃の能力が発動しなかったのか?

 それとも、敢えて穏乃が、ここで対局を終わらすために、このような形に山を支配(演出)してくれたのか?

 いずれにせよ、これで決着を付けられる。

「ツモ! 地和。8200、16200!」

 まさかの第一ツモでの和了りだった。

 

 これで順位と点数は、

 1位:淡 59500

 2位:穏乃 28500

 3位:静香 12100

 4位:由暉子 -100

 まさかの役満ツモで、由暉子のトビ終了となった。

 これで一回戦全対局が終了した。

 

 

 続いて準決勝戦が開始される。

 AB卓準決勝戦は、宮永咲、宮永光、原村和、的井美和の対局。

 同じくCD卓準決勝戦は、大星淡、石見神楽、高鴨穏乃、石戸明星の対局。

 また、AB卓敗者(竜崎鳴海、十曽湧、東横桃子、南浦数絵)とCD卓敗者(片岡優希、鬼島美誇人、真屋由暉子、鷲尾静香)の対局も同時開催となった。

 

 

 先ず、AB卓敗者同士による戦い。

 一回戦同様に、東場が弱い数絵と東場ではステルスが発動しない桃子は、十分な力を発揮できずの状態。

 ここに、鳴海の倍満と湧のローカル役満がともに炸裂し、早々に数絵が箱割れして終了となった。

 9位決定戦には、鳴海と湧が進出。

 桃子と数絵は13位決定戦に参加することとなった。

 

 CD卓敗者による戦いは、既に今日の打ち筋を完全に読まれた優希が一回戦同様に美誇人の餌食となり玉砕。

 また、一回戦で左手を使った由暉子も点を稼げずの状態だった。

 静香は、持ち前の豪運でプラス。

 最終的に対局は、美誇人が優希をトバして終了した。

 9位決定戦には、綺亜羅高校三銃士の美誇人と静香が進み、由暉子と優希は13位決定戦に参加することとなった。

 

 

 CD卓準決勝戦は、起家が穏乃、南家が明星、西家が神楽、北家が淡でスタートした。

 一回戦と同様に、神楽には節子の霊が降りている。

 

 東一局、穏乃の親。

 淡は、

「(絶対安全圏!)」

 毎度の如く、他家を配牌六向聴にする。自分のみ軽い手だ。

 ただ、まだダブルリーチの能力は使わない。

 

 二巡目に、

「ポン!」

 淡は穏乃が捨てた{北}を鳴き。その三巡後に、

「ツモ! 1000、2000。」

 北ドラ2で、さっさと和了った。可能な限り絶対安全圏内の和了を目指す。これなら、他家は何も出来ないはずだ。

 特に今回、神楽に降りた霊は露子ではないし、世界大会の生霊軍団に入っていない。淡にとっても初顔合わせだ。どんな相手か良く分からない。

 それで、その霊………節子がアクションを起こす前に、サクッと和了ってさっさと流そうと淡は考えたのだ。

 

 

 東二局、明星の親。

 ここでも淡は絶対安全圏を使った。

 穏乃一人を相手にするだけでも大変なのに、そこに神楽と、さらに明星もいる。淡としては、気が抜けない状況だ。

「ポン!」

 淡は、今度は明星が早々に捨てた{③}を鳴いた。

 恐らく明星は、既にヤオチュウ牌支配に入っているだろう。絶対安全圏内に和了れないと面倒になりそうだ。

 

 ここでは、

「チー!」

 神楽が明星の手がヤバいのを知ってか、淡に鳴かせて手を進ませた。

 そして、絶対安全圏ギリギリのところで、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 何とか淡が和了った。

 

 

 東三局、神楽の親。

 ここでも淡は、

「絶対安………。」

 他家を六向聴にする………はずだった。

 この時、突然、淡は床のあちこちに亀裂が入り、そこからマグマが激しく噴出する幻を見た。しかも地面が激しく揺れている。

 これに驚き、淡は絶対安全圏をかけそこなった。

 一回戦で見せた幻と同じものだ。これが節子の能力。

 淡の視界から幻が消えた。

 ふと、神楽が淡のほうを見ながら笑みを浮かべている。やはり、さっきの幻は神楽の中に入っている者の仕業だ。

 

 節子は、相手の能力支配に対抗する時やリーチをかける時、自分が和了った時等に、意図的に太古の地球で起きた天変地異の幻を見せる。

 激しい天変地異によって、地球上では、これまでに何度も大量絶滅が起こっている。特に規模の大きな五回の絶滅イベントはビッグファイブとも呼ばれ、特に白亜紀後期の小惑星激突は有名である。

 大量絶滅は、小惑星激突以外に、超大陸の形成と分裂に起因する大規模な火山活動によるものもあったとされる。

 大量絶滅の後には、空席になった生態的地位を埋めるべく、生き延びた生物から新たな進化が始まる。そのため、これらの大絶滅が、太古の地球における一つの『時代の節目』になってもいる。

 

 今回、節子は、淡の能力に対抗して大量絶滅の幻を見せて驚かせ、絶対安全圏をかけ損なうように仕向けていた。

 勿論、幻だけではない。本来、節子が狙うのは他家全員が原点割れする大量絶滅(さすがに咲ではないので全員箱割れではない)。完全なる勝利だ。

 

 また、節子の和了りには、{八}、{3}、{中}、{①}、そして赤牌が絡むことが多い。どうやら{八}と{3}は火山、{中}と赤牌はマグマ、{①}は小惑星を意味しているようだ。

 

 今回は、全員、強制配牌六向聴牌になっていない。

 しかも神楽は、この局では淡に中々鳴かせてくれない。

 やっと淡が鳴ける牌が神楽から出たと思ったその時、

「リーチ!」

 神楽は先制リーチをかけた。

「チー!」

 淡は、神楽のリーチ宣言牌を鳴いて一発を消した。これは、飽くまでも手を進めるためのものであり、一発消しはオマケみたいなものだ。

 ところが、

「ツモ!」

 この鳴きで神楽に和了り牌を回してしまったようだ。

 

 またもや、淡は床に亀裂が入ってマグマが噴出する幻を見た。これは、まさに地獄絵図のようだ。

 いや、淡だけではない。これは、穏乃にも明星にも見えていたようだ。二人とも顔が強張っていた。

「リーツモ中ドラ2。4000オール!」

 {中}と{東}のシャボ待ちで{中}を引いての和了。

 神楽の点数申告が終わると、三人は、その恐ろしい幻の世界から元の世界に戻っていた。




おまけ


安福莉子「莉子と!」

水村史織「史織の!」

莉子・史織「「オマケコーナー!!」」

莉子「なんか今回、急遽、私達に振られました。」

史織「と言うか、今回は私の告白………と言うか自白コーナーみたいです。」

莉子「それまたどうして?」

史織「自白しないと、宮永家24時間耐久麻雀大会に強制参加させられて麻雀を骨の髄まで楽しまされるって言われて。」

莉子「最悪ジャン、それ?」

史織「それで、本当は言いたくないんだけど、恥を忍んで…。」

莉子「で、自白って何を?」

史織「あのさ、綺亜羅高校って埼玉県の設定ジャン。」

莉子「たしか、そうだったわね。」

史織「なので…。」

莉子「そっか。対戦してる可能性があるってことよね? 史織のとこ、越谷女子高って埼玉だし!」

史織「と言うか、何回も当たったのよね、綺亜羅と。」

莉子「マジで?」

史織「参加校は100ちょっとで、一回戦免除の学校も結構あるけど、一回戦終了と同時に64校になって、そこからは2校勝ち抜けでね。」

莉子「二回戦で32校、三回戦で16校、準々決勝で8校、準決勝で4校、そして決勝戦か。」

史織「そうね。」

莉子「一回戦から決勝戦までで全部で6試合だね。」

史織「うん。」

莉子「で、綺亜羅とは何処で?」

史織「二回戦から決勝戦まで。5試合戦ったのよ。綺亜羅と…。」

莉子「それは凄いぃ! で、戦績は?」

史織「全部、綺亜羅が勝ち星五。」

莉子「そう言えばそうだった。埼玉県大会、関東大会(東京都を除く)では、全試合で勝ち星五の余裕の優勝を決めたってなってたもんね(101本場参照)。」

史織「ムチャクチャ強かった。」

莉子「じゃあ、越谷女子は、得失点差で決勝まで這い上がって行ったってこと? それはそれで凄いけど。」

史織「ありがとうって言って良いのかな? でも、本当に、悔しいけど、一勝も出来なかったのよね。」

莉子「それで、史織は誰と当たったの?」

史織「綺亜羅の人?」

莉子「そう。」

史織「それがね、私の相手、全試合とも的井美和さんなのよ!」

莉子「えっ!?」

史織「エース美和。」

莉子「じゃあ、もしかして毎回、触手プレイ!?」

史織「………はい………。」

莉子「そうだったんだ。もしかして、自白って…。」

史織「………はい………。その件です。」

莉子「(それは興味深い!)」

史織「あとね、関東大会は、埼玉、千葉、群馬、茨城、栃木、山梨が4校ずつ、神奈川が8校の32校で、全試合2校勝ち抜けで一回戦から準決勝まで三試合戦ったけど、やっぱり準決勝で綺亜羅高校と当たってね。」

莉子「…。」

史織「それで負けて全国に出られなかったんだけど…。」

莉子「そこは劔谷と一緒だね。劔谷も近畿大会の準決勝で敗れて、五決でもトップ取れなくて、それで全国に出られなかったのよね。」

史織「でね。やっぱり関東大会で私が当たったのは的井さんで…。」

莉子「うわぁー。パーフェクトだね。」

史織「うん…。」

莉子「で、その6試合だけどさ、ターゲットにされたの?」

史織「うん…。毎回されまくりだった。」

莉子「(やっぱりね!)」

史織「もう、気が狂うくらい。それこそ、自分から喜んで、振り込んで行くようになるくらい。」

莉子「(喜んでイクの間違いな気がするけど?)」

史織「完全に頭がおかしくなる。」

莉子「そんななんだ。でも、6試合もイかされ続けたってことよね?」

史織「…はい…。」

莉子「気持ちよかったんだ?」

史織「…はい…。」

莉子「男を相手にするよりも?」

史織「それは経験無いから分からないけど…。」

莉子「(絶対嘘っぽいな…。)」

史織「でも、一回振り込んだら、脳内では一時間くらい触手プレイするから、半荘が終わる頃には椅子が大変なことになってたし。」


………
……


莉子の想像

美和「ロン!」

史織の脳内で派手に展開する触手プレイ。
巨大な触手が美和の背後から伸びてきて史織の身体を捕らえ、粘液………消化液で制服を一瞬にして溶かされて全裸になり、執拗に胸や股間を弄り回される。
粘液だらけの触手が妙に気持ちイイ。
脳内で何回もイク史織。

現実世界では、
史織「いやーん♡!」

そして、
美和「7700!」

史織「…。」←ふと我に返り、自己嫌悪に陥る史織


……
………


莉子「対局室の臭いもキツかっただろうね?」←莉子は『ニオイ』を『臭い』と表現しています

史織「別にそんな、匂いとかは、なかったけど………。」←史織は『ニオイ』を『匂い』と表現しています

莉子「でも、ターゲットは史織だけ?」

史織「毎回、全員が的にされた。」

莉子「じゃあ、三人で顔を赤らめてイヤラシイ声を?」

史織「………はぃ………。」

莉子「(審判とか、男性だし、頭が変になったりしなかったかな?)」

史織「(そう言えば、あの時、審判とか、スタッフの男性は、何故か前屈みになってたような…。良く分からないけど…。)」

莉子「じゃあ、対局後に掃除とかは?」

史織「私達の対局の後、15分から30分くらい休憩が入って、その時に椅子の交換だけ…。」

莉子「(床掃除はなかったってことか。お漏らしほど酷くはなかったってことかな?)」

史織「でも、私だけのせいじゃないから!」

莉子「で、大酉高校は誰が的井さんと打ったの?」

史織「県大会では決勝で泉こなたさん、関東大会では日下部みさおさんだった。」

莉子「そうだったんだ。」

史織「的井さんとしては柊姉妹か高良みゆきさんと打ちたかったみたいだけど。」

莉子「でも、全国の個人戦で、その夢は叶うんじゃない? 変に悪趣味に学習されたAIが対戦表を決めるみたいだから。」

史織「そうだね。」

莉子「まあ、夏の大会では当たらないことを祈るわね。」

史織「そうして頂戴。」

莉子「でも、『意味は的』のアナグラムで『的井美和』になって、宮永さんの的にされるはずだったのにね。」

史織「それが、別に宮永さんにトバされたわけじゃないし。」

莉子「だよね~。」

史織「それに、宮永さん以外を相手にする時は、絶対に他人を的にしてるよね。しかも、Hな方向で。」

莉子「でも、まあ、一応、的井さんの趣味に合った綺麗どころを中心に攻撃するみたいだから、それを考えれば史織はブスじゃないってことで。」

史織「単なるエロ要員にされてるだけな気もするけど…。でも、夏の県大会をオマケに書かれるんじゃないかって心配してる。美和編とか言って。」

莉子「(それもイイかも!)で、ネクストオマケは…。」

史織「今回は無いから。」

莉子「えっ?」

史織「もう、穴があったら入りたいくらいだから!」

莉子「穴が開いてるから入れたいの間違いじゃないかな?」

まこ「その表現はアウトじゃ!」

莉子「ゴメンなさい。」

莉子「ええと………。」

莉子・まこ「「水村史織の自白コーナーでした!(じゃ!)」」←最後は何気にコーナーを乗っ取る染谷まこ


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百三十五本場:火焔

 個人戦CD卓準決勝戦は、東三局一本場に入った。

 親は節子の霊を降ろした神楽。

 ここでも神楽は淡の絶対安全圏発動を邪魔しようと、地面が裂けて溶岩が噴出する幻を他家に見せた。

 しかし、穏乃も明星も淡も、一般プレイヤーに比べて随分と肝が座っている。

 それこそ咲との対局で、巨大肉食生物に食い殺されそうになったり、小惑星が激突したりする、とんでもない幻を何遍も見せられている連中である。

 不意打ちされれば別だろうが、連続で節子の能力による幻を見せられても、大して驚くことは無かったようだ。

 

 ここでは、淡の絶対安全圏が再稼動。さらに明星のヤオチュウ牌支配のスイッチも入っていた。

 

 神楽は、淡に鳴かせないよう、捨て牌を絞っていた。ここで淡に早和了りされたら折角の親番が流れてしまうからだ。

 その目論見どおり、淡は配牌二向聴から全く動けず、絶対安全圏を越えて七巡目への突入を許す結果となった。

 つまり、最速で誰かが聴牌している可能性があると言うことだ。

 

 そして八巡目、淡が聴牌できないまま、

「ツモ!」

 先に明星に和了られた。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {一一九九東東南南北白白中中}  ツモ{北}

 

「ツモ混一色混老七対。4100、8100!」

 明星ならではの高火力な手………倍満だった。

 これなら、淡に親を流させたほうが、神楽(節子)にとっては数段マシだった。明星の力を節子は見誤っていたようだ。

 

 これで現在の得点と順位は、

 1位:明星 35300

 2位:神楽 26900

 3位:淡 24900

 4位:穏乃 13900

 明星が一気に逆転してトップに立った。団体戦優勝校と準優勝校の第二エースが揃って下位になってしまった。

 

 

 東四局、淡の親。

 サイの目は7。最後の角が最も早く来るパターン。

 穏乃の能力のスイッチが入ったようだ。卓上に靄がかかってきた。

 これを目の当たりにして、神楽に降りた節子は、

「(なにこれ?)」

 さすがに驚いていた。初めて体験する現象である。

 

 とは言え、まだ靄は薄い。

 淡は、攻めるなら今しかないと判断し、

「(絶対安全圏プラスダブルリーチプラス配牌操作!)」

 ここで全ての能力を開放した。

 団体決勝先鋒戦でも使った完全配牌操作だ。これは、半荘一回につき一度だけ使える能力である。

 当然、そのターゲットは明星。国士無双や字一色等の役満を十巡以内に和了らせないためだ。

 これにより、明星の配牌は、団体決勝前半戦東二局や後半戦オーラス一本場と同様、ヤオチュウ牌が三枚のみの六向聴となった。

 これでヤオチュウ牌支配で手を進めても、聴牌するには10回のツモを要する。

 

 そして、淡は、

「リーチ!」

 当然の如く配牌聴牌。ダブルリーチをかけた。

 

 そもそも、配牌六向聴と言っても、七対子を目指せばの話である。七対子以外の手を狙うとなると、もっと向聴数は上がるケースもある。

 当然、九巡で聴牌までもって行くのは至難の技だ。

 

 穏乃も明星も神楽も聴牌できないまま、そして誰も鳴けないまま、九巡目を迎えた。最後の角の直前である。

「カン!」

 当たり前のように淡が暗槓した。

 嶺上牌はツモ切り。

 

 次のツモ番は穏乃。ここで穏乃は、完全安牌切りした。

 同巡で明星は、大七星の一向聴となった。しかし、この淡の暗槓は、間違いなく槓裏が乗るだろう。もし、そうでなければ穏乃が安牌切りで逃げるはずが無い。

 つまり、山支配は完全には発動し切れていない。

 まだギリギリ角を越えていないが、明星は、慎重に淡の現物を落とした。

 神楽も当然、相手の手牌が透けて見えている以上、振り込むことは無い。普通に淡の和了り牌でない牌を落とした。

 

 角を越えた十巡目。

 淡はツモ切り。

 穏乃は再び安牌切り。

 明星も淡の現物である字牌を落とした。

 神楽はツモ切り。

 

 そして、十一巡目。

「ツモ!」

 淡が渾身のツモ和了りを決めた。

 当然、槓裏は4枚乗っている。

「ダブリーツモドラ4。6000オール!」

 

 これで現在の得点と順位は、

 1位:淡 42900

 2位:明星 28300

 3位:神楽 20900

 4位:穏乃 7900

 淡が再びトップに立った。

 一方、穏乃は持ち点が7900点まで落ち込んだ。ダンラスである。

 

 しかし、東四局一本場。

 ここで穏乃の能力によって発生する靄が急激に濃くなった。

 個人戦のトーナメント表では二回戦だが、ここにいるメンバーは、予選で十回戦を勝ち抜いてきている。

 予選自体が、穏乃にとっては登山であり、決勝トーナメントは、山の山頂付近での戦いなのだ。

 それで、穏乃がフルパワーに入るタイミングが早くなったのだろう。

 

 絶対安全圏は効いている。

 しかし、淡は絶対安全圏内に手を進めることが出来ずにいた。

 一方、穏乃は八巡目で聴牌し、その次巡、

「ツモ。七対ドラ2。2100、4100。」

 満貫をツモ和了りした。

 

 この時、節子は穏乃の背後にただならぬ雰囲気を感じ取った。しかも、穏乃が和了る直前に、炎が見えた気がする。

「(あれって?)」

 節子は、一先ず穏乃のことを注意深く観察することとした。

 

 

 南入した。ドラは{四}。

 南一局、穏乃の親。

 卓上にかかる靄が、さらに濃くなった。非常に視界が悪い。

 絶対安全圏はキャンセルされた。いつもよりも穏乃の能力が高まるのが早い。

 

 明星は、配牌で、

 {一二五九⑤⑨2588東西白}

 ヤオチュウ牌が被り無しで六枚あった。

 ここから彼女は、大逆転の一手に向けて一直線に突き進む。

 

 この局では、明星のツモは絶好調だった。

 順に{發中①19南北}と、一切の被り無しで、しかもヤオチュウ牌だけを引き続けた。そして、狙い通り、七巡目で国士無双を聴牌した。

 対する捨て牌は、順に{⑤五5二288}であった。やはり、国士無双狙いなので、ど真中の牌から切り落として行きたい。

 ところが、この最後で捨てた{8}で、

「ロン。」

 穏乃に和了られた。

 

 開かれた手は、

 {三四五五[五]22234[5]67}  ロン{8}  ドラ{四}

 

 この和了り手を見て、明星は冷や汗が流れ出た。

 明星の配牌にあったチュンチャン牌で、この穏乃の和了り牌でないのはたった一枚、{⑤}のみだったのだ。

 つまり、ヤオチュウ牌支配で国士無双を狙い、しかも第一打牌で{⑤}を捨てた時点で、この振り込みは決まっていたと言うことになる。どの順番で切っても、国士無双を捨てない限り七巡目での振り込みは回避できないからだ。

 もしかすると、配牌も国士無双の聴牌も、全て穏乃の能力によって仕組まれたものかもしれないと、明星には思えてきた。

「タンヤオドラ3。12000。」

 この和了りで明星が最下位に落ち、逆に穏乃が2位に浮上した。

 

 また、ここでも節子は穏乃が和了る直前に、穏乃の背後に炎が見えていた。

「(あれって、仏像とかにある火焔?)」

 しかし、まだ、その炎の主の姿を見るには至っていなかった。

 

 南一局一本場、穏乃の連荘。

 卓上にかかる靄は、既に濃霧と化していた。

 連荘が入ったことで、これで合計七局目である。

 一切連荘が無い対局で考えれば、南三局に相当するため、穏乃の能力が高まっていてもおかしくは無い。

 しかし、南一局で、ここまで穏乃の能力が高まったことは、過去の対局では多分無い。少なくとも淡が知る限り初めてのことであった。

 

 絶対安全圏は、ここでもキャンセルされていた。このことは、この局が完全に穏乃の能力によって支配された場であることの証明でもあるだろう。

 

 淡は、

「ポン!」

 明星が捨てた{③}を鳴いた。これで二向聴。

 しかし、これでツモが変わり、

「ツモ。」

 結果的に穏乃に和了り牌を回してしまった。

「3900オールの一本場は4000オールです。」

 しかも、親満級の手だ。

 

 これで現在の得点と順位は、

 1位:穏乃 40200

 2位:淡 34800

 3位:神楽 12600

 4位:明星 8000

 穏乃がトップに浮上した。

 しかし、ラスの明星も大きな一発を和了る力を持っている。まだ最後までどうなるかは分からない。

 

 南一局二本場。

 ここでは、

「ポン!」

 神楽(節子)が淡に{南}を鳴かせた。これ以上、穏乃の親を連荘させるのは危険と判断したのだ。

 これは、ある意味、淡にとっては美味しい話だ。穏乃の支配力を単独で破るのは難しいが協力者がいれば何とかなる。

 例えば一昨年のインターハイで、淡は、哩と姫子のリザベーションを打ち消すことが出来なかった。能力者二人がかりの力を一人で打ち消すのは相当難しいのだ。

 しかも、哩と姫子よりも、神楽と淡の方が一人当たりのパワーが強い自負がある。いや、ここに節子も加わるから三人か?

「チー!」

 さらに淡は、神楽の援護で手を進める。

 

 そのさらに数巡後に、

「カン!」

 淡は{南}を加槓した。

 そして、嶺上牌をツモると、

「ツモ! 南嶺上開花ドラ2。2200、4200!」

 何と言う偶然だろう。淡が嶺上開花を決めた。

 ただ、この嶺上開花は節子にとって予想外だった。節子は、飽くまでも淡が南ドラ2の30符3翻で和了る前提で考えていた。

 

 神楽の能力は、咲とは違って、飽くまでも相手の手牌の透視に留まる。

 それでも非常に恐ろしい能力だが、山に積まれた牌までは透視できない。つまり、今回の嶺上開花を予め予測することは出来ていなかったのだ。

 

 

 南二局、明星の親。ドラは{⑦}。

 淡は、絶対安全圏の発動を止めた。もう、絶対安全圏で能力を使ったところでキャンセルされる。

 ならば、全ての能力を一本に絞った方が良い。それで淡は、ダブルリーチの能力のみを発動した。

 

 これによって淡は配牌で一向聴、第一ツモで無事聴牌できた。ただし、役無しである。飽くまでもダブルリーチ槓裏4の能力だからだ。

 しかし、ここでダブルリーチをかけても槓裏には期待できない。槓裏だけは穏乃の力でキャンセルされているだろう。

 かと言って、これで、下手にダブルリーチで攻めるわけにも行かない。万が一、高火力の明星に振り込んだら全てが終わるからだ。

 淡は、団体戦の時と同様に、配牌役無し聴牌から数巡かけて役ありの形に持って行くこととした。

 

 七巡目、淡は、

 {一二三[五]六七②②②6789}  ツモ{5}

 平和ドラ1を聴牌した。

 当然、ここから打{②}。

 

 南一局一本場で穏乃にトップを許したが、前局の満貫ツモのお陰で、現在、淡はトップである。

 なので、下手な冒険をする必要は無い。あとは、これをダマ聴のまま維持して、誰かからさくっと和了れば良い。

 

 淡が{②}を切った時、節子は穏乃の背後に、またしても火焔が見えた。

 今までは、火焔が見えた直後に必ず穏乃は和了っていた。しかし、今回は今までと違って、穏乃は和了りを宣言せずに、山から次のツモ牌に手を伸ばした。

 

 ここで、穏乃は{北}をツモ切り。

 次のツモ番は明星。ここで明星は、国士無双の一向聴。打{2}。

 

 続く神楽(節子)は、

 {四四六七八[⑤]⑤⑦45567}  ツモ{⑥}

 {⑤}切りで聴牌になる。

 

 この時だった。節子の目に、穏乃の背後に潜む火焔の主の姿が映った。

 忿怒相をした強大な霊的パワーの持ち主。まさか、女子高生のバックに、このような存在がついていようとは………。

「(マジで? これが、阿知賀の大将の正体?)」

 こんなところで蔵王権現の姿を拝めるとは………。

 たしかに、これなら無敵だ。団体大将戦でのあの追い上げも納得できる。

 

 ただ、節子は今、神楽の身体に降りていて神楽の能力も使える。つまり、相手の手牌を全て透視できる。

 ここは、敢えて聴牌に取らず、打{四}。アタマ落としだ。

 

 続く淡は打{[⑤]}。これを穏乃はスルー。

 穏乃自身は{三}をツモ切り。

 そして、明星が国士無双十三面待ちを聴牌して切った{⑤}で、

「ロン。」

 穏乃が和了った。

 この時、一瞬、穏乃の背後の火焔が、ひと際大きく燃え盛ったかと思うと、次の瞬間、その炎は跡形も無く消えていた。

 

 開かれた手は、

 {二二③④⑥⑥⑦⑦⑧⑧4[5]6}  ロン{⑤}  ドラ{⑦}

 

「タンピン一盃口ドラ3。12000。」

 これで、明星が箱割れして終了となった。

 

 本対局の得点と順位は、

 1位:穏乃 48000

 2位:淡 43400

 3位:神楽 12600

 4位:明星 -4000

 穏乃は、ここで明星をトバして半荘を終了させるために、敢えて淡が切った{[⑤]}を見逃していたのだ。

 これで、CD卓からは穏乃と淡が決勝戦に進出し、神楽(節子)と明星が5位決定戦へと進むことになった。

「(まさか絶滅(原点割れ)させられる側になるとはね)」

 節子は、そう心の中で言葉を漏らした。

 天変地異のパワーを持つ彼女でも、宇宙パワーの淡と蔵王権現に守られた穏乃を打ち破るには至らなかった。

 

 

 一方、AB卓準決勝戦は、起家が原村和、南家が的井美和、西家が宮永咲、北家が宮永光でスタートした。

 

 東一局、和の親。ドラは{三}。

 半荘一回勝負で、しかも現在の女子高生ランキング1位の咲と2位の光との対局。美和は、様子見をせずに最初から能力全開で行くことにした。

 

 早速、筋引っ掛けの単騎で待つ。

 {三四五六七八②[⑤]4[5]666}  ツモ{3}

 ここから、まさかの打{[⑤]}。

 

 次巡、和が聴牌し、

「リーチ!」

 {②}切りで先制リーチをかけた。

 当然、

「ロン! タンヤオドラ2。5200!」

 美和が、これで和了った。

 勿論、ここで能力が発動し、美和の背後から和に向けて粘液だらけの巨大な触手が何十本も伸びていった。

 しかし、それらの触手は、和に触れる直前で何かによって遮られ、切断された。

「(なにこれ!?)」

 このようなことは、他校の選手では初めてである。

 完全デジタル故に効かないと言うことか?  

 恐らく、自分に降りかかる分のみ相手の能力をキャンセルしているのだろう。

「(マジ!?)」

 これって、ある意味、KYな娘の敬子と変わらないのでは?

 まさか、敬子以外の能力キャンセル系に出会えるとは………。

 やはり全国は広い。これには、さすがに美和も驚いた。




おまけ


牌の表記は、以下の通りになります。
萬子:一二三四五六七八九
筒子:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子:123456789
風牌:東南西北
三元牌:白發中
赤牌:(五)(⑤)(5)


春季大会個人戦13位決定戦。
対戦者は、永水女子高校の東横桃子、有珠山高校の真屋由暉子、臨海女子高校の片岡優希、南浦数絵の四人。

場決めがされ、毎度の如く起家を引き当てたのは優希だった。
南家は数絵、西家は桃子、北家は由暉子に決まった。

ただ、同時開催の9位決定戦が、十曽湧と、綺亜羅高校、鷲尾静香、竜崎鳴海、鬼島美誇人の戦い。綺亜羅高校三銃士の直接対決だ。
当然、麻雀が好きな人達は、9位決定戦にチャンネルを合わせる。

そして、もう一つ同時開催の5位決定戦は………、こっちはこっちで極めてスバラな試合が期待される。

そのため、13位決定戦は、本来なら好カードなのだが、残念ながら視聴率はゼロに等しかったと言う。
別に他の二試合よりも順位が低いからではない。
純粋に、他の二試合の方が興味深いからだ。
よって13位決定戦は流すように描かれることになる。


東一局、優希の親。
団体準決勝戦に最高状態が来るように設定していたため、今、優希の東場でのパワーは下り坂である。
とは言え、優希の東初でのパワーは群を抜いている。
六巡目で、
「リーチ!」
聴牌即リーチをかけた。
他家三人は安牌切りで回す。
そして、次巡、
「ツモ! 一発だじぇい! 6000オール!」
リーチ一発ツモ平和ドラ2の親ハネをツモ和了りした。

しかし、東一局一本場は、
「リーチっス」
桃子が三巡目で先制リーチをかけた。ちなみに、まだステルスは発動していない。
一方、優希は、既にパワーダウンしていた。

一発ツモは無かったが、数巡後、
「ツモったっス! 2100、4000!」
リーチタンヤオツモドラ1。30符4翻の2000、3900の手を和了った。


東二局、数絵の親。
ここも、
「ツモったっス! 1300、2600!」
桃子がタンピンツモドラ1の手を和了った。


東三局、桃子の親。
ここでも桃子は、
「ツモっス! 2600オールっスよ!」
タンピンツモドラ1の手を和了った。これで、桃子が優希を抜いてトップに立った。

しかし、東三局一本場は、
「ツモりました。2100、4100です!」
ようやく由暉子が和了った。
ただ、彼女は既に左手のパワーを使っている。そのため、次の親で親倍を和了りたいところだが、この面子を相手に能力無しで戦うのは少々厳しい。


東四局、由暉子の親。
ここで優希が、
「やっと聴牌できたじぇい! リーチ!」
東場最後の攻めに出た。
とは言え、やはりパワーが今一つだ。一発ではツモれない。
五巡後になって、ようやく、
「ツモ。2000、4000だじぇい!」
優希が和了った。
しかし、その直後、優希からはオーラがドンドン衰退して行った。もう、欠片すらもエネルギーが残っていないようである。


南入した。
これと同時に、卓上に温かい風が吹き荒れた。数絵の能力が目覚めたのだ。
「では、始めましょうか。」
こう言うと、数絵は卓中央のスタートボタン(サイコロの方ではない)を押した。


南一局、優希の親。
ここでは、数絵が東白西と捨てたところで、
「リーチ!」
先制リーチをかけた。綺亜羅高校の稲輪敬子にも勝るとも劣らない捨て牌である。
正直、これでは待ちが分からない。
桃子は、一先ず現物の西切り、由暉子は、幸運にも白をツモってきたので、それをツモ切りした。

次は優希の番。
ツモってきたのは北。
ここは仕方が無い。これをツモ切りした。
しかし、
「ロン。リーチ一発ドラ3(赤1裏2)。8000。」
「じぇじぇー!」
優希は、一発で振り込んだ。

南二局、数絵の親。
ここでは、
「ツモ! 6000オール!」
南場に入って目覚めた数絵が親ハネをツモ和了りし、トップに立った。
続く南二局一本場も、
「ツモ! 6100オール!」
数絵が親ハネをツモり、さらに2位の桃子との差を広げた。

南二局二本場。
ここに来て、桃子のステルスが発動した。
パワーゼロと化した優希には、桃子の姿を捉えることが出来ない。
ここでは、
「ロン。リーチ一発っス! 12600!」
「じぇじぇじぇー!!」
優希が桃子にハネ満を振り込んだ。


南三局、桃子の親。
ここで桃子は反撃の狼煙を上げたいところだが、
「リーチ!」
やはり南場の鬼神、数絵に先行された。
そして、
「ツモ。3000、6000!」
まるで当然の如く、数絵は一発ツモでハネ満を和了った。

そしてオーラスも、
「ツモ! 3000、6000!」
数絵がハネ満をツモ和了りし、13位決定戦は終了した。

よって、13位決定戦の順位は以下のとおりとなった。
1位:数絵 75900
2位:桃子 25600
3位:優希 2300
4位:由暉子 -3800


一方、9位決定戦は、起家が鷲尾静香、南家が竜崎鳴海、西家が鬼島美誇人、北家が十曽湧で試合がスタートした。

鷲尾静香は豪運の持ち主で、友人からは『ワシシズ(鷲静)』、さらにこれが短縮されて『ワシズ』と呼ばれている。
成績優秀で、全国模試でも上位に入っている。
それだけの頭脳を持っていながら綺亜羅高校に入学した一番の理由は、家から一番近かったから、二番目の理由は同じ中学から綺亜羅高校を受験した稲輪敬子のことが心配だったからだそうだ。
綺亜羅高校のエース的井美和とも同じ中学出身で、中学時代から仲が良い。

竜崎鳴海は鳴き麻雀を主体とし、槓すると槓子が槓ドラになる能力を持つ。友人達からは『鳴きのリュウ』と呼ばれている。
補員の及川奈緒(あえて奈央にしていません)と同じ中学出身。

鬼島美誇人は相手の力量や打ち筋、流れを全て見切り、ターゲットとなる相手から点棒を根こそぎ奪う麻雀が主体である。全てを見切った時、和了り宣言の際には『御無礼』と言うのが最大の特徴。
故古津節子と補員の堂島喜美子と同じ中学出身。
節子は、最初、喜美子のことを『キミちゃん』、美誇人のことを『ミコちゃん』と呼んでいた。しかし、喜美子が『キミちゃん』と呼ばれるのを『卵の黄身みたいでイヤ!』と言ったため、喜美子のことを『ミコちゃん』と呼ぶようになり、それに連動して美誇人のことを『コトちゃん』と呼ぶようになったそうだ。
ただ、他の友人達からは、鬼島美誇人の最初の文字である『鬼』と最後の文字である『人』から『傀』、つまり『カイ』と呼ばれている。


東一局、静香の親。ドラは3。
やはり運の良さで言えば、三銃士の中で静香が一番であろう。この出親でいきなりスパートをかける。

静香の配牌は、
一三九②③(⑤)(⑤)3345東東西
これが六巡目で、
九②③(⑤)(⑤)33445(5)東東  ツモ①
ここから打九。リーチはかけず。

ここで鳴海と美誇人は静香から聴牌気配を感じ取った。
当然、とんでもない手を張っている雰囲気がビンビンに伝わってくる。これには絶対に振り込めない。
ここで鳴海が引いてきたのは初牌の東。
さすがに、これは捨てられない。
一先ず手に入れて様子を見る。打九。

美誇人は⑤をツモ。
これを切っても静香は和了れないが、さすがにそこまでは美誇人には分からない。
已む無く美誇人は、自風の西を落とした。

湧は、静香から聴牌気配を感じていなかった。
しかし、手の中には⑤も東も無かったので、何ら問題なし。

そして、七巡目、
「ツモ!」
聴牌即で静香が和了った。
開かれた手牌は、
①②③(⑤)(⑤)33445(5)東東  ツモ東  ドラ3
高目ツモだ。
ダブ東ツモ一盃口ドラ5。
これで東初から一気に静香が大量リードを作った。まるで東風の神、片岡優希のお株を奪ったような和了りだ。

東一局一本場、静香の連荘。
ここでは、
「ポン!」
二巡目から鳴海が中を鳴いた。湧が捨てた牌だ。
これで静香はツモ巡を飛ばされ、何気に運の流れが変化する。

次巡、
「ポン!」
今度は、鳴海は美誇人が捨てた②を鳴いた。これで、元の静香のツモは鳴海に行く。こうやって、静香の豪運を鳴海は奪いに出たのだ。

そして、その二巡後、
「カン!」
鳴海は②を加槓した。巡目からしたら、かなり早いペースだ。
ただ、急がないと静香の運が復活するし、美誇人も攻めてくる。
とにかく、鳴海は、ここで自分の運を最大限に放出して、何としてでも和了って静香との点差を詰めたいところだ。
ここでの槓ドラは、言うまでもなく②。これで鳴海の中ドラ4が確定した。

さらに三巡後、
「カン!」
鳴海が中を加槓した。槓ドラは、当然の如く中。鳴海の中ドラ8が確定。
そして、そのさらに二巡後、
「ツモ。4100、8100!」
鳴海が倍満をツモ和了りした。

ただ、この時、美誇人がにやっと笑った。
豪運の静香から、労せずに鳴海が運を剥がしてくれたのだ。
今は鳴海に運が行っているが、完全に定着しているわけでは無い。もし、運が定着した鳴海なら二つ目の槓をした次の巡で和了っているだろう。

それに、ここには打ち方がモロバレの湧がいる。昨日の団体戦から一夜明けて、全然違う打ち方になっているとは到底思えない。
ならば美誇人は、ここで湧狙いで一気に勝負に出る。


東二局、鳴海の親。ドラは8。
ここでは、
「ポン!」
いきなり三巡目で、美誇人が捨てた中を湧が鳴いた。
その次巡も、
「ポン!」
やはり湧が、美誇人が捨てた①を鳴いた。
恐らく、湧の狙いは宝玉開花。
手なりに打って宝玉開花に近づいて行くことを前提に考えれば、二三23辺りがいずれ浮いてくるはず。

まだ、湧からは聴牌気配を感じない。
美誇人は、ここで敢えて1を捨てた。しかし、湧は、これをスルー。
「(1は揃ってるか。だとすると、今の手牌は一二または一三111白に何か字牌を持っているってところかな?)」

その数巡後、美誇人は、
三四四四④⑤⑥345678
で聴牌。二三五待ち。
そして、
「リーチ!」
湧から余って出てくる二か三で討ち取るべくリーチをかけた。

同巡、湧も聴牌。
手牌は、
一三111白白  ポン①①①  ポン中中中  ツモ一
宝玉開花聴牌。
ここは、勝負とばかりに湧は打三。

当然、美誇人は、これを見逃さずに、
「御無礼。ロンです。メンタンピン一発ドラ2(表1裏1)。12000。」
ハネ満を湧から直取りした。


東三局、美誇人の親。ドラは⑧。
現在の点数と順位は、
1位:静香 40900
2位:鳴海 33300
3位:美誇人 24900
4位:湧 900

もし、ここで美誇人は湧から親満を直取りしても2位止まり、親満ツモでも静香と36900点で同点となり、席順で順位は2位になる。
ハネ満以上を和了るしかない。

鳴海は満貫を和了れば1位。静香は、何でも良いから和了れば1位。
三銃士の誰もが1位を取れる位置にいる。

湧もローカル役満の和了りが決まり出せば、ここからでも逆転できる力………霊力を持っている。
しかし、霊力としては六女仙である湧の方が遥かに上でも、雀士としての駆け引きは三銃士の方が数段上を行く。


この局、静香の配牌は、
一三五七九②④⑧99東北白
ここから七巡で、
一二三四五六七九②④⑧⑧9  ツモ八
嵌③待ちで聴牌。当然、打9。
ここまで殆どムダツモ無し。
やはり、ここぞと言うところで勝負強い。

鳴海の配牌は、
三四③③⑨22578南西白
ここから七巡で、
三三四四③③2225678  ツモ③
ここから槓を仕掛ける予定だが、一先ずこちらも聴牌だ。
静香に続き、鳴海も殆どムダツモ無しだ。
しかも、静香の待ち牌である③を暗刻にしている。
こっちも、ここぞと言うところで勝負強い。
当然、打8。

そして、親の美誇人の配牌は、
二三(五)六八①①⑦(5)7南白中中
これが七巡目には、
二(五)六七①①⑤⑦(5)67中中  ツモ⑥
やはり聴牌だ。
勿論、ここから打二。

対する湧の配牌は、
五六①⑤⑨13589東北發
これが、やはり七巡目には、
13456789北北發發發
2待ちで聴牌。
次に發を槓できればローカル役満の青函連絡船の聴牌となる。


また、鳴海の待ち牌である三は、美誇人の川に一枚、もう一枚は静香の手の中にある。恐らく三では和了れない。ただ、もう片方の和了り牌である四は山の中に一枚だけある。
静香の待ち牌である③と、湧の和了り牌の2は、共に鳴海に三枚が持っているが、やはり山の中に一枚ずつある状態だ。

そして、八巡目。
全員揃って七巡目で聴牌し、誰が和了るかの勝負だが、もう、これはツモ順の問題かも知れない。
最初のツモは、親の美誇人。
そういった意味では、恐らく現在ツキを保持しているのは美誇人なのだろう。
これで、和了り牌を引き当て、
「御無礼。ツモです。」
美誇人が手牌を開いた。
(五)六七①①⑤⑥⑦(5)67中中  ツモ中
しかも逆転できる方だ。
「ツモ中三色ドラ2。6000オール。十曽さん、アナタのトビで終了です。」

これで9位決定戦の点数と順位は以下のとおりとなった。
1位:美誇人 42900
2位:静香 34900
3位:鳴海 27300
4位:湧 -3100
東三局で終了した対局だが、それ相当に見応えがあった。
この三銃士の誰が勝ってもおかしくない局面を、最終的にツキを手にした美誇人が征したと言える。


これで9位以下の順位は以下のとおりに決まった。
9位:美誇人
10位:静香
11位:鳴海
12位:湧
13位:数絵
14位:桃子
15位:優希
16位:由暉子


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百三十六本場:春季頂上決戦開始

 個人戦AB卓準決勝戦は、東二局に入った。

 美和は、

「(うーん。でも、このピンク髪の巨乳美少女で楽しんでみたいのよね。やっぱり女子高生雀士切ってのアイドルだし。)」

 前局では和に触手プレーの能力はシャットアウトされたが、まだ諦め切れない。どうしても和で楽しみたいのだ。

 和が触手プレーで乱れたら………想像しただけでも興奮する。

 

 もっとも、咲や光ではターゲットにならない。絶対に振り込んでこないからだ。

 なので、いずれにしても美和は、

『狙えるのは和しかいない!』

 と判断していた。

 

 美和が和に振り込ませるために罠を張る。

 ただ、美和の注意が和にしか向いていない。そこを光は狙うことにした。

 数巡後に光は聴牌したが、敢えてリーチをかけなかった。美和の意識を光の聴牌に向けさせないためだ。

 そして、美和が切ってきた牌で、

「ロン。タンピンドラ4(表2赤2)。12000!」

 光が討ち取った。

「(げっ!)」

 美和は、やはり和に気を取られている場合では無いことを改めて悟った。判っていたことだが、正直レベルが違う。

 

 和以外の二人は全日本女子高生雀士のトップツーである。恐らく、余程のことが無い限り、この準決勝戦で勝ちあがるのは咲と光であろう。

 勿論、美和自身も、この超魔物コンビに最初から負けるつもりで対局を挑むつもりは無いが、個人戦一回戦で光と、団体決勝戦で咲と対戦し、どう足掻いても勝てないことは十分理解している。

 ただ、この二人を無視して和を罠に嵌めようとしても、和から和了る前に自分がヤられてしまう。

 ならば、和で楽しむのは5位決定戦に取っておこう。

 ここでは、美和はダブル宮永を相手に自分がそれだけ対抗できるかチャレンジしてみることにした。

 

 

 東三局、咲の親。

 第一弾の和了りを決めると、光の手は加速する。

 たった六巡目で、

「ツモ。タンヤオ三色ドラ2。3000、6000。」

 光は、さくっとハネ満ツモを決めた。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{②}。

「じゃあ、靴下を脱ぎます。」

 咲が本気モードに入った。

 急に、咲から放たれるオーラが膨れ上がった。今までは様子見だったのだ。ここからが本番である。

 

 咲の発する支配力は半端では無い。第一弾の和了りを決めたにも拘らず、光のツモが配牌を噛み合わずに手が進まずにいる。

 当然、それは光だけではなく美和も同じだ。

 ただ、他人の能力の影響を受けにくい和だけが、少しずつだが手を進めていた。

 

 七巡目、

「カン!」

 咲が、{⑦}を暗槓した。

 そして、

「嶺上開花ツモ、メンチンドラ3(表1赤2)。6000、12000。」

 そのまま咲は当然の如く嶺上開花を決めた。

 

 

 南入した。

 南一局、和の親。

 既に和の点数は10800点まで落ち込んでいた。

 この親で、何とか復帰したいところだ。

 前局とは違い、この局は、咲の支配力が弱まっているのか、牌効率の良い和は、六巡目で聴牌した。

 絶好の三面聴。

 ツモれる可能性も決して低くは無いだろう。

 ならば、

「リーチ!」

 和は、積極的に攻めに出た。

 

 美和は、一先ず和の現物の{①}を切った。これなら、咲に大明槓されることもない。

 しかし、これで、

「ロン!」

 咲に和了られた。

「えっ?」

 これには、美和も驚いていた。前局の嶺上開花の印象が強いこともあるが、やはり咲と言えば槓をイメージするのだ。

「平和三色ドラ1。7700です。」

 

 これで各選手の点数と順位は、

 1位:咲 54700

 2位:光 37000

 3位:和 9800

 4位:美和 -1500

 美和のトビで終了となった。

 

「まさか、咲ちゃんがカンを狙ってこないとはね。」

「別に、私だって嶺上開花以外の和了り方するよ。」

「でも、やっぱ強いわ。」

 美和としては、負けて悔い無しと言ったところだ。日本最強の女子高生と団体戦、個人戦でこれだけ打てたのだ。

 墓前で節子に自慢してやろうと思っていた。

 

 ただ、咲と美和の会話を聞いていて、

「(咲ちゃん?)」

 和は、美和が咲に妙に馴れ馴れしいのが気になっていた。

「咲さん。そちらの方と仲が宜しいのですね?」

「団体戦で当たって、それで友達になったんだよ。」

「そうですか。」

「でも、まさか準決勝で光と和ちゃんと美和ちゃんと当たると思ってなかったよ。光が相手だと気が抜けないし、和ちゃんと美和ちゃんにツキを持って行かれると大変だから、早和了りが必要だし。」

 これを聞いて美和は、

「(早和了りでメンチンって?)」

 と思ったが口には出さずにいた。まあ、自分達とは次元が違うと言うことで納得しようと思った。

 ただ、これは咲の名言集の一つとしてメモしておこうとは思った。

 

「でさぁ、五決も決勝もお昼を挟んでからだから、和ちゃんも光も美和ちゃんも、一緒に食事に行かない?」

 久し振りの咲からのお誘いだ。

 当然、和としては積極的にOKだ。

 

 一方、美和は、

「ゴメン。一応、うちの学校のメンバーで集まることになってるから。」

 と言いながら両手を合わせた。

 彼女は、一応、綺亜羅高校の部長でエースだ。

 静香、鳴海、美誇人は理解してくれると思うが、やはり、紅音をはじめとする下級生部員達も多数見学に来ているし、自分の部を放置するわけには行かないだろう。

 これを聞いて、

「(一人脱落ですね。)」

 和は内心ホッとしていた。

 

 ところが光も、

「一応、咲と私は決勝で当たるからね。学校も違うしさ、変に一緒にいないほうがイイんじゃない? 外野に何か疑われても困るし。」

 と言って咲の申し出を断った。

 別に咲が嫌いなわけではない。打倒咲を掲げている以上、決勝戦を前に咲との馴れ合いは避けるべきと判断したのだ。

 ただ、それをダイレクトには言い難いため、理由を、

『外野に疑われたくない』

 にしたのだ。

 光としては、団体戦優勝を納得できるものにしたい。そのためにも、どうしても個人戦で咲に勝ちたいのだ。

 

 こう光に言われると、和も咲と食事と言うわけには行かない。和にとっては、久し振りの食事のチャンスだったのだが………。

「仕方ありませんね。では大会が終わってからでどうですか? 咲さん。」

「分かったよ、和ちゃん。じゃあ、また後で。」

 と言うわけで、一先ず咲は阿知賀女子学院メンバーの溜まり場に行くことにした。

 勿論、咲が独りで行けるかと言うと、少々問題がある。

 なので、それを見越して対局室前には恭子が迎えに来ていた。

 

 昨年の春季大会では、咲のお迎え役は憧が担当していた。

 しかし、和の目が怖いので、この大会中はコーチである恭子に担当替えをお願いしていたのだ。

「ほな、咲。いくで!」

「はい、コーチ! じゃあ、光も和ちゃんも美和ちゃんも、また後で!」

 こう言うと、咲は対局室を急いで後にした。

 …

 …

 …

 

 

 昼の休憩を終え、5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時に執り行われた。

 13位決定戦は、永水女子高校の東横桃子、有珠山高校の真屋由暉子、臨海女子高校の片岡優希、南浦数絵の対局。

 普通は、これでも十分好カードなのだが、同時に開催されるに試合の方の人気が高く、この対局を放送するチャンネルに合わせる人は以外に少なかったと言う。

 

 

 団体戦準決勝戦を最高状態に設定した優希は、ツキが下り坂であった。しかし、それでも東場で親ハネ一回に満貫一回を和了って、東四局終了時点ではトップだった。

 

 一日一回しか奥の手が使えない由暉子は思うように手が伸びず、東場で満貫を一回和了ったのみで、他は全く和了れなかった。

 

 桃子は、ステルス発動前であったが、持ち前の実力で、東場で稼ぎ、東四局時点では2位に付けていた。

 

 東四局終了時点で、数絵は8000点を割っていた。

 しかし、南場に入ると数絵は急変した。南一局で優希から満貫直取り、南二局で親ハネツモを見せ、あっという間に首位に立った。

 

 その後、数絵は南二局一本場で親ハネをツモ和了りするが、南二局二本場ではステルスを発動した桃子に和了られて親を流された。

 

 南三局は、桃子が連荘を狙っていたが数絵にハネ満をツモ和了りされ、オーラスも数絵がハネ満をツモ和了りし、最終的に順位は、13位が数絵、14位が桃子、15位が優希、16位が由暉子となった。

 

 

 9位決定戦は、永水女子高校の十曽湧と、綺亜羅高校の鷲尾静香、竜崎鳴海、鬼島美誇人の戦い。まさか、綺亜羅高校三銃士の対決が見られるとは…。

 これはこれで、高視聴率が期待できる一戦だ。

 純粋に麻雀が好きな人達は、この対局にチャンネルを合わせていた。

 

 起家が静香、南家が鳴海、西家が美誇人、北家が湧で対局がスタートした。

 東一局で、静香がいきなり親倍をツモ和了りしたが、続く東一局一本場で鳴海が得意のドラ8攻撃に成功した。

 

 しかし、東二局に入ると、美誇人が湧の打ち筋が団体戦の時と全く変わっていないことから湧を狙い撃ちして、ほぼ原点復帰。

 そして東三局でツキを呼び込んだ美誇人が親ハネツモ和了りで逆転と同時に湧が箱割れして対局は終了した。

 

 この結果、9位が美誇人、10位が静香、11位が鳴海、12位が湧に決まった。

 

 

 5位決定戦は、粕渕高校の石見神楽、永水女子高校の石戸明星、綺亜羅高校の的井美和、白糸台高校の原村和の戦い。

 和と明星の二人の巨乳美女が、美和を相手に、どれだけエロい表情を見せるかが大変な話題となっていた。

 当然、そうなることを多くの人達が勝手に期待する。それで、13位決定戦や9位決定戦よりも圧倒的に5位決定戦の方が高視聴率であった。

 蛇足だが、今回の5位決定戦の放送チャンネルのことを5チャンネルとも呼ぶ人も多かったらしい。

 

 準決勝戦では、美和の触手が和のデジタルバリヤーに跳ね返されたが、神楽の中に降りた節子が天変地異の幻を見せたことがきっかけで和の心に隙ができ、美和の触手が和の身体を捉えることに成功。和の高潮する表情が全国生中継された。

 一方の明星も六女仙失格と思われるほど触手プレイを楽しんでしまった。

 

 その後、節子が高打点の和了りを見せて逆転。そのまま節子が他家の大量絶滅(ここでは箱割れではなく原点割れ)まで持って行き、5位が神楽(節子)、6位が美和、7位が和、8位が明星で5位決定戦を終了した。

 

 

 5位決定戦終了後、節子は、

「チャンピオンって、蔵王権現をバックにつけた阿知賀の大将よりも強いって本当!?」

 と美和に聞いていた。

 全てを超越した存在が人間に負けるとは思えない。それが普通の考えであろう。

 ところが美和は、

「当然ジャン!」

 と胸を張って答えた。

 節子は、美和の答えの真偽を確かめるべく、決勝戦終了まで神楽の身体を借りて美和達と一緒に観戦することにした。

 

 

 決勝戦は団体決勝戦と同じ特設会場で行われた。

 対戦者は、阿知賀女子学院の宮永咲と高鴨穏乃、そして白糸台高校の宮永光と大星淡の計四名である。

 オカありウマなしの25000点持ち30000点返しで、100の位を五捨六入で点数を計算する。その前後半戦の合計点数で順位を決める。

 合計点数が同じだった場合は、同着とする。それこそ、全員優勝も数字の上では有り得ることになる。

 また、半荘における同着トップがあった場合は、起家から数えて、より上家の方を1位とする。

 

 対局室に咲、穏乃、光、淡の4人が姿を現した。

 場決めがされ、起家が穏乃、南家が淡、西家が咲、北家が光に決まった。

 

 東一局、穏乃の親。

 当然、毎度の如く、

「(絶対安全圏!)」

 淡のみ軽い手で、他家は全員六向聴からのスタートとなる。

 出親が穏乃だからと言って、いきなり山支配スイッチが入るわけでもない。

 ここは、淡が、

「ポン!」

 穏乃が捨てた{南}を早々に鳴いた。淡の自風だ。

 そして、絶対安全圏内に、

「ツモ! 1000、2000!」

 南ドラ2を和了った。

 ただ、咲も光も穏乃も、特に表情に変化は無い。まだ、三人にとっては様子見と言ったところなのだろう。

 

 

 東二局、淡の親。

 ここでは、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 淡は他家の配牌操作だけではなく、自身の配牌も能力で操作した。他家は全員向聴、自身は配牌聴牌だ。

 しかし、ダブルリーチはかけなかった。まだ勝負どころでは無いし、咲の大明槓には注意が必要だからだ。

 それこそ、淡が暗槓した直後に切った嶺上牌で咲に和了られる可能性があるし、それ以前にリーチをかけたら、引いてきた牌が初牌であっても自分の和了り牌でなければ捨てなければならない。そこから大明槓からの責任払いを仕掛けられる可能性もある。

 淡は、配牌役無し聴牌から、役あり聴牌に手を育てての早和了りを目指す。

 しかし、

「ポン。」

 ここで光が動いた。淡が切った{西}を光が鳴いてきたのだ。

 

 光の表情からして相当気合が入っている。

 まるで狙ったようにと言うか、当然のように欲しい牌を連続でツモってくる。

 一方、淡は、光の鳴きでツモが狂ったのか、全然手牌と噛み合う牌が来なくなった。そのため、絶対安全圏内に和了るどころか、役あり聴牌まで到達できなかった。

 

 そして、絶対安全圏を越えた直後、

「ツモ。西ドラ3。2000、3900!」

 30符4翻の手をツモ和了りした。

 団体戦では優勝できたが、あの勝ち方には納得できない。それで光は、この試合で咲に勝利し、実力で団体優勝できたと言えるようにしたいのだ。

 過去のどの対局よりも、光は意気込みが増していた。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{①}。

 ここで光は、

「ポン!」

 オタ風の{北}を早々に鳴いた。

 狙うは2翻。和了り役は鳴き混一色のみだ。

 光からの捨て牌は、萬子、索子が目立つ。見るからに筒子の染め手。

 しかし、まるで鳴けと言わんばかりに咲がドラの{①}を捨てた。

 当然、

「チー!」

 光は、これを鳴いて手を進めた。

 

 今回も、淡は絶対安全圏内に役あり聴牌に持って行くことが出来なかった。ツモも悪いし鳴ける牌が手で来ない。

 配牌で聴牌させていても、咲と光が相手である以上、ここぞと言うところ以外では下手にリーチをかけたくない。ゆえの『配牌役無し聴牌から役あり聴牌への移行』なのだが、思うように手が変わって行かないのだ。

 

 結果的に前局と同じで、向聴数で光に追い付かれた。しかも、光はキチンと和了り役を用意していた。

 そして、ここでも、

「ツモ。混一ドラ2。2000、3900!」

 先に、光に和了られた。二連続で満貫級の手だ。

 

 これで現在の得点と順位は、

 1位:光 39800

 2位:淡 23100

 3位:穏乃 19000

 4位:咲 18100

 白糸台高校の二人が上位に付けている。

 光と淡の目標は白糸台高校の完全勝利である。それに向けて試合は順調に進んでいると言えよう。




おまけ


牌の表記は、以下の通りになります。
萬子:一二三四五六七八九
筒子:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子:123456789
風牌:東南西北
三元牌:白發中
赤牌:(五)(⑤)(5)


春季大会個人戦5位決定戦は石見神楽、石戸明星、的井美和、原村和の戦い。二人の巨乳美女vs触手の戦いだ。
明星と和がエロい表情を見せるのではないかと期待が集まる。当然、13位決定戦、9位決定戦よりも圧倒的にこっちのチャンネルの視聴率が高い。

基本的には、純粋にハイレベルな麻雀対決を見たい人は同時開催の9位決定戦………綺亜羅高校三銃士の直接対決にチャンネルを合わせ、大多数の『エロい方』を期待する人達は5位決定戦のチャンネル(通称5チャンネル)に合わせていた。

起場決めがされ、起家は神楽、南家は明星、西家は美和、北家は和に決まった。


昼の休憩中に、美和は美誇人から神楽に節子の霊が降りてきていることを聞いていた。
ただ、自分との対局でも節子が現れるとは限らない。
もし会えたら嬉しいくらいの気持ちで対局に臨むことにした。余り期待を大きく持ち過ぎると、そうならなかった時に受けるショックは大きいからだ。


東一局、神楽の親。
最初に美和が見せたのは簡単な筋引っ掛け。自風の西を鳴いた後に4を捨て、1と7でのシャボ待ちに受けた。
丁度ここに、ハネ満手を聴牌した和が、
「リーチ!」
勝負して、美和に振り込んだ。
「ロン!」
美和が見せる幻の世界では、彼女の背後から沢山の巨大な触手が伸びてきて和に向けて襲い掛かる。しかも、それらの触手は粘液で全体が覆われている。
しかし、触手が和に到達する直前で、何者かによって、それらの触手が切断された。準決勝戦の時と同じだ。
「3900。」
一先ず、美和は和了れたが、不完全燃焼だった。
「(団体戦では美女ランキング6位の多治比さんと10位の滝見さんで楽しめたし、予選では佐々野さん(美女ランキング1位)や美入姉妹(美女ランキング2位、3位)、柊姉妹(美女ランキング8位、9位)で楽しめけど、やっぱり原村さん(美女ランキング5位)はガードが固いね。じゃあ、ここは一旦、ターゲットを変えるか)」
ここには、美人ランキングベスト10入りがもう一人………明星(美女ランキング4位)がいる。ならば、先に明星で楽しもう。
美和は、そう考えた。


東二局、明星の親。ドラは⑦。
明星の捨て牌は、より中央の牌を先に捨て、端に近い牌が後から出てくることが多い。これは、ヤオチュウ牌支配の特性からチャンタやジュンチャンを意識するためである。
そのため、だいたい切る牌が予想できるし、その上で美和なりに罠を張る。
この局では、
「チー!」
美和は明星が捨てた⑥を鳴いて⑥(⑤)⑦を副露し、その後、⑤と5を順に切って②と2のシャボで待った。
そして、明星が捨てた2で、
「ロン!」
待ってましたとばかりに、美和が明星から直取りした。
美和の背後から、粘液で覆われた沢山の巨大な触手が伸びてきて、明星に向かって一斉に襲い掛かかった。
しかも、和の時とは違って、それら触手の侵攻を妨げるモノは無い。
幻の世界の中で、明星は美和の触手に捕えられ、分泌される消化液で巫女服がもの凄い勢いで消化されていった。
そして、あっと言う間に全裸にされ、その豊満な肉体のあちこちに触手が絡み付いた。

さらに触手は、大量に粘液を出しながら明星の身体のあちこちを刺激する。
しかも、胸と股間は念入りだ。

まこ「ひとまず、ここまでじゃ!」





幻の世界の中で、明星は、余りの快楽に意識が遠のいた。
そして、
「3900!」
美和の点数申告の声で、明星は我を取り戻した。
六女仙でありながら快楽に負けるとは…。
「(不覚………。)」
ただ、明星は、自己嫌悪に陥りながらも、罪悪感とか背徳感の中に隠れる興味深い何かの存在………すなわち精神的な刺激が頭から離れずにいた。

乳首が立ち、秘部が濡れている。
小蒔を守護する者として修行に明け暮れ、淫猥なことと無縁だった明星にとって、こんな感覚は生まれて初めてだった。

さすがの明星も、こんな状態で集中できるはずがなかった。
そのため、霊力は大幅に下がり、当然、場の支配力も無に等しくなっていた。
ヤオチュウ牌支配も発動しなくなる。


東三局、美和の親。
今度の美和のターゲットは神楽。
和や明星に比べて顔面偏差値は劣るが、それでも美和としては十分許容範囲だ。今、神楽の中に節子が入っているのかどうか、そこは考えないことにしよう。

一旦、美和は神楽用に罠を張る。
二単騎だ。
しかし、全ての手牌を透視する神楽が罠に落ちることはありえない。笑顔で堂々と、和了り牌の隣………三を、
「当たる?」
と聞きながら捨ててきた。
しかも、最終的には暗刻落とし。完全に美和の手が見透かされている。
ただ、そのお陰で三の壁が出来て二が出やすい状況になった。

美和は、神楽の透視能力のことを知らなかったが、神楽の牌譜には目を通していた。
インターハイでも際どいところをバンバン切っていたが、絶対に当たり牌を捨てていない。それで、神楽からの直取りが簡単でないことは大凡見当がついていた。
「(やっぱり、この娘はムリだね。じゃあ…。)」
再び美和は、ターゲットを明星に変えた。
そして、
「ロン!」
三の壁を信じて明星が捨てた二で討ち取った。

明星の頭の中では、さっきの幻の続きが繰り広げられていた。
粘液だらけの触手が全身を刺激する。頭の先から足の先まで、特に弱いところを執拗に、しかも念入りに舐め回されているような感覚だ。
気が狂いそうなほどの快感。
「うっ♡…あぁぁ♡…。」
思わず声が漏れる。
さらに触手が何本か束になって、明星の秘部を………。

まこ「ここからはカットじゃ!」

現実世界では、明星の表情は恍惚感に溢れていた。なんともイヤラシイ。
そして、
「5800!」
美和の点数申告の声で、明星は正気を取り戻した。
巫女服は無事だ。別に初美のような半裸状態になっているわけではない。
ただ、またもや乳首が立ち、秘部が濡れている。
明星は、半分自己嫌悪に陥っていた。
しかも全国生中継。多くの人達の前で自慰行為を繰り広げているみたいな感覚だ。思い切り恥ずかしい。
ただ、それをイケナイことと思いながらも、明星は美和の触手プレイに、心のどこかで惹かれていた。

今、明星は、
『もしかしたら六女仙失格かもしれない』
とさえ思っていた。
だからと言って、速攻で改心できるわけが無い。このまま地獄に落ちても良いとまで、心のどこかで思っているからだ。
それだけスバラな快感だったと言えよう。

東三局一本場。
美和は、もう一回、和をターゲットにすることにした。
二度あることは三度あるになるか、三度目の正直になるかは分からない。ただ、美和としては後者になることを期待する。

美和が聴牌した。
一盃口ドラ2の5800点の手。しかも、北単騎。
これなら、さすがの和も振り込んでくるだろう。

神楽のツモ巡が回ってきた。
この時だった。
突然、美和も明星も和も、激しい天変地異の幻を見た。
対局室の風景が、突如、広大な荒地に変化した。そして、地面に亀裂が入って行き、あちこちからマグマが激しく噴出する。
「(これって、もしかして!)」
美和は、その幻を見せる主、神楽のほうに視線を向けた。すると、神楽は、
「美和ちゃん、久し振り。」
と言いながら笑顔を見せていた。
この能力………。
間違いない。
今、対面に座っているのは神楽ではなく、やっぱり節子だ。
美誇人に聞いていたとおりだ。会えて嬉しい。

一方、和は、
「(そんなオカルトありえません!)」
そう心の中で叫びながら、節子が見せた幻影を振り払うよう、頭を激しく振っていた。

節子は西をツモ切り。
続く明星は①を手出しした。前局の快感から頭が切り替え切れておらず、ヤオチュウ牌支配が発動していないようだ。
美和も西をツモ切り。
そして、和は北をツモ切りした。

この時だった。
「ロン!」
美和が和から和了った。
毎度の如く、美和の背後から何本もの巨大な触手が伸びてきて和を襲う。
今までは、デジタルのバリヤーが和を守っていたが、今回、和は節子が見せた幻で動揺していた。それ故であろう。和はデジタルの化身になり切れていなかった。

三度目の正直だ!
ようやく触手は、何物にも邪魔されずに和の両手、両足を捉え、絡みついた。
その粘液で和の制服がドンドン溶かされてゆく。
そして、この幻の世界の中の時間軸で、数分もしないうちに和の制服は全て溶かされ、全裸にされた。

触手が両手を強く引っ張る。
大きな胸が露わになったが、それを隠す術もない。
勿論、上半身だけではなく下半身も同じだ。
両足も左右に強く引っ張られる。当然、股も開くことを強制されている。
ご開帳と言ったところだ。
さすがに恥ずかしい。
しかも、触手の数がドンドン増えて、和の胸や股を執拗に攻める。まるで舐め回されているようだ。
粘液付きで妙に気持ちが良い。
「うぅっ♡!」
思わず、現実世界の和の口から声が漏れた。
顔は紅潮して、妙に表情がイヤラシイ。発情したメス犬のようだ。

ただ、これは直前に節子が天変地異の幻を見せていたからこそ、和の心に隙ができて、美和の世界に引き擦り込めたに過ぎない。
単独では、美和は、この展開に持ち込むことは出来なかったはずだ。
恐らく、美和がやりたいことを察して節子が援護してくれたのだろう。非常にチームメート思いである。

「6100!」
美和の点数申告の声だ。
これを聞いて、和は正気を取り戻した。
「(今のは………。イヤです! そ…そんなオカルト…、ありえません!)」
再び、和が頭を激しく左右に振った。
特に今のは頭の中から振り切りたい。
そして、
「(集中!)」
和は珍しく両手で自分の了頬を強く叩いた。
その数秒後、和の顔からは一切の表情が消え、まるで機械のように変わった。デジタルの化身へと変貌を遂げたのだ。
あの快楽から短時間で頭を切り替えられるとは、すごい精神力である。

そして、東三局二本場は、
「リーチ!」
和は、たった六巡で聴牌し、先制リーチをかけた。
一発ツモにはならなかったが、数巡後に、
「ツモ! 2000、3900の一本場は、2200、4100。」
満貫級の手をツモ和了りし、得点を原点付近まで立て直した。


東四局、和の親番。
現在の点数と順位は、
1位:美和 40600
2位:和 23500
3位:神楽(節子) 22800
4位:明星 13100

ここで神楽(節子)が、
「リーチ!」
六巡目に先制リーチで攻めてきた。節子が攻めの体制に入ったのは、この半荘で初めてのことである。

またもや、和、明星、美和の目には、地上からマグマが吹き荒れる光景が映っていた。
少し離れたところに火山が幾つも見える。それらが一斉に轟音………いや、爆音を上げて大噴火を始めた。
降り注ぐ火山弾。
建物も草木も全てが燃え上がる。赤一色の世界。

そして、次巡、
「ツモ!」
節子が力強く牌を卓に叩き付けた。
「3000、6000!」
しかも、ハネ満ツモ。
これで節子は、34800点。トップの美和に2800点差と、一発逆転が十分可能な範囲まで詰め寄ってきた。


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百三十七本場:プラマイゼロ

 個人決勝前半戦。

 東四局、光の親。

 既に光は二度の和了りを連発し、ここでは和了り役3翻を目指す。

 赤牌4枚入りルールのため、裏ドラ槓ドラ無しでも合計でドラは8枚ある。なので、確率的には、一回の和了りに2枚のドラが加わることが期待される。

 和了り役3翻にドラが2枚で親満。

 ここに門前清自摸が加われば親ハネになる。

 当然、前二局にも増して光の意気込みが増してくる。

 

 ところが、ここに来て卓上に靄がかかり始めた。穏乃の深山幽谷の化身としての能力が発動し出したのだ。

 今までと比べて光のツモに不要牌が増える。

 しかも、鳴いて和了り役3翻を作れる道筋が見えない。

 照の点数上昇も光の翻数上昇も、こういった時に融通が利かない。ただ和了るだけなら道筋を作れるのに、こう言った縛りが自らの和了りを阻害する。

 

 淡も同様に手が進まない。

 元々、光に場を支配力されて手が進められなかった部分はあっただろうが、それにも増してツモが酷くなっている。

 

 そのような中、

「カン!」

 咲が動き出した。

 暗槓したのはオタ風の{西}。そして、

「ツモ! 2000、4000。」

 手の中に{①}の暗刻と{[⑤]}を1枚抱えた70符3翻の和了り。符ハネで満貫の手だった。森林限界を超えたところに咲く花は、深山幽谷にかかる靄など関係ない。

 この和了りで咲は、4位から2位まで順位を上げた。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。

 既に淡の絶対安全圏が機能していない。

 

 個人トーナメント本戦一回戦では、南一局一本場で絶対安全圏がキャンセルされた。

 準決勝戦では南一局、そして、今回も南一局でキャンセルされている。いつもよりも穏乃の能力が強い気がする。

 

 トーナメント表を山に例えれば、ここは、まさに頂上である。

 その山の天辺で、穏乃の能力は準決勝戦よりも、さらにパワーが増していた。そのため、淡の絶対安全圏だけではなく、光のツモにも影響していた。

 光は、ここは下手に逆らわず、一旦様子見して力を蓄えることにした。

 この局は穏乃にくれてやる。

 しかし、次局でそれ以上に取り返す。

 

 鳴きも入らず、ただ牌をツモる音と切る音だけが無機的に対局室内に響き渡る。冷えた透華の支配を思わせる静寂な場。

 いや、もっと寂しい雰囲気がある。

 異様なほどに、シンと静まり返り、まるで深い山の中に一人置き去りにされたような感覚にさえなる。

 

 そんな空気の中で、局は終盤に突入した。

 穏乃の支配力が、さらに凄みを増す。ここに来て、彼女の背後に火焔が見え出したのだ。

 淡は、

「(来た!)」

 心の中で、そう呟いた。

 この火焔を見るのは何度目だろう?

 初めて見たのは一昨年のインターハイ団体準決勝大将後半戦だった。あの時は、最後の角を越えて暗槓するはずが、別の牌を掴まされて穏乃に振り込んだ。

 それ以来、穏乃との対局では毎回見ている。

 これを見る度に忌々しく感じる。

 

 そして、

「ツモ。4000オール。」

 火焔が見えた直後、穏乃が自ら和了り牌を引き当てた。しかもタンピンツモドラ2の親満ツモ。

 この和了りで、今度は穏乃が2位に浮上した。

 しかも、1位の光とは2800点差。

 しかし光は、この点差に焦る表情を見せることはなかった。こうなることを視野に入れて、この局では能力の放出を抑え、蓄えていたのだ。

 

 その証拠に、南一局一本場では、光は前局とは打って変わって最短距離で手を作り上げていった。形振り構わず能力を全開していた感じだ。

 そして、光は、

「ツモ! タンピンツモドラ2。2100、4100!」

 前局の穏乃と同様の手を和了り、穏乃との点差を広げた。

 

 

 南二局、淡の親。

 もう、どの道、絶対安全圏はキャンセルされる。

 なので、淡も下手な能力放出を控えることにした。

 むしろ勝負は最後の二局。それに向けて力を蓄える。

 親番なので、本来であれば淡は連荘したいところだが、ここで得点を重ねても、結局、最後の最後で咲や穏乃に持って行かれる。

 大事なのは最後の二局。咲の親番とオーラスだ。

 

 淡の能力が弱められたのを、咲が逃さずに攻めてくる。

「ポン!」

 いきなり、咲が淡の捨て牌である{②}を鳴いてきた。

 そして、数巡後に、

「カン!」

 咲は{②}を加槓し、

「ツモ! タンヤオ嶺上開花ドラ1。1000、2000!」

 {一四}の両面待ちで高目の{四}を引いて和了った。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここで淡は、全能力を一気に放出した。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 相手は咲なので、明星の時のように配牌操作を入れる意味は無い。操作したところで、咲なら八巡もあれば平気で刻子を三つくらい作ってくる。

 なので、飽くまでも自分の基本、絶対安全圏とダブルリーチに全精力を注ぎ込んだ。

 サイの目は、ラッキーなことに7。これなら、淡は九巡目に暗槓して十巡目以降に和了ることになる。

 もっとも、この面子では振り込んでくれるとは思えない。

 飽くまでもツモ和了りを狙う。

 

「リーチ!」

 淡が、第一ツモをツモ切りして横に曲げた。配牌聴牌だったのだ。

 そして、そのまま淡の能力支配下で、誰も鳴かずに九巡目を迎えた。

「カン。」

 お決まりのパターンで、淡が暗槓した。この槓子は、能力をキャンセルされない限り槓裏になることが約束されている。

 しかも、淡は、この局で咲の親をハネ満ツモで流すために、敢えて前局、自分の親番を捨てたのだ。

 

 次巡、

「ツモ!」

 淡が渾身の和了りを決めた。

「3000、6000!」

 ダブルリーチツモ槓裏4。

 この和了りで、淡は原点復帰して2位に浮上した。

 

 現在の得点と順位は、

 1位:光 36100

 2位:淡 25000

 3位:穏乃 20900

 4位:咲 18000

 大方の予想を裏切る咲の最下位。

 

 オーラスで光が和了れば、淡からの出和了りでない限り、前半戦の1位が光、2位が淡になる。

 淡は、満貫をツモ和了りすれば逆転トップ。しかも、その場合は、淡と光が共に30000点越えでのトップツーとなる。

 光も淡も、当然、モチベーションがマックス状態となる。

 

 

 そして迎えたオーラス、光の親。

 ここに来て、光も淡も違和感を覚えた。

 配牌も悪いしツモも悪い。しかも、この感じは穏乃の山支配ではない。

 これも今までに何回も経験している。咲の支配だ。

 しかも、これはトップを取りに行く支配力では無い。咲の最終兵器、プラスマイナスゼロの強制力だ。

「カン!」

 咲が副露する槓子に乗って、咲の下家である光に向けて強大なエネルギーが襲い掛かる。まるで巨大肉食獣が、巨大な口を広げて光を食い殺しに来るような錯覚を見せる。まさに何時ものパターンだ。

 そして、

「ツモ! メンホンツモ嶺上開花ドラドラ。3000、6000。」

 咲がハネ満ツモを決めた。

 

 これで前半戦の得点と順位は、

 1位:光 30100:+20

 2位:咲 30000:±0

 3位:淡 22000:-8

 4位:穏乃 17900:-12

 たった100点差だが咲は光を逆転できず、前半戦1位を光に譲る形となった。

 咲は完璧なプラスマイナスゼロを披露したが、それが原因で1位を逃すとは、見ていて正直誰もが理解に苦しむ。

 しかし、咲の表情は至って普通で、特段悔しそうな素振りを一切見せていなかった。

 

 

 休憩に入った。

 淡は、対局室を出て空の見える場所に行き、宇宙パワーを補給、穏乃は卓に付いたまま目を閉じていた。

 光は自販機コース、咲はトイレコースである。

 まあ、四人とも何時ものパターンであろう。

 

 

 個人戦は、同じチームの人間同士でも敵になる。ここでは、光と淡が言葉を交わすことはなく、一方の咲と穏乃も単独である。

 

 一応、咲のために対局室とトイレを繋ぐ通路には、

『トイレはこちら』

 の張り紙と、

『対局室はこちら』

 の張り紙がデカデカと張られていた。

 しかも、対局室前とトイレの前にはスタッフが配備され、咲を正しい方向に誘導してくれる。

 まさに超方向音痴の咲にとっては嬉しい限りだ。

 

 

 休憩が終わり、咲、光、淡が対局室に戻ってきた。

 光と淡と穏乃は、別にトイレに行っていないが、まあ、互いに超魔物であるためか、別に、この三人が咲のオーラに怯えてお漏らしすることは無い。

 

 場決めがされ、起家は淡、南家は穏乃、西家は咲、北家は光に決まった。

 

 東一局、淡の親。

 ここでは、

「リーチ!」

 淡が、いきなり絶対安全圏プラスダブルリーチで、立ち上がりの先制攻撃をかけた。穏乃の支配力のスイッチが入る前にリードしようとの考えだ。

 東一局であれば光の第一弾の和了りもされていない。

 しかも、ここにはオーラスになれば、誰も抗えないとんでもない強制力で場を支配できる者もいる。なので、淡は先制攻撃&逃げ切りを狙うことにしたのだ。

 

 親番だし、ここで和了れば大きい。

 今、この一瞬だけなら、支配力では誰にも負けない自信がある。

 休憩中に宇宙パワーを充電して、現在、準備満タン(アホの娘、淡なので万端ではありません)状態なのだ。

 

 サイの目は6。

 誰も鳴かなければ、淡が暗槓を仕掛けるのは十巡目になる。

 そして、淡の目論見どおり、

「カン!」

 十巡目で淡は暗槓し、その次のツモ番で、

「ツモ! 6000オール!」

 予定通り、ダブルリーチツモ槓裏4を和了った。

 

 東一局一本場は、

「ポン!」

 淡は絶対安全圏の元で穏乃から{東}を鳴き、

「ロン! 2900の一本場は3200。」

 ダブ東のみの手だが、穏乃から直取りした。

 

 東一局二本場。

 ここで、ようやく、

「ポン!」

 光が動き出した。淡が捨てた自風の{北}を鳴いたのだ。

 ドンドン、光のパワーが増してゆくのを淡は感じ取っていた。

 淡は、これを部内戦で何回も経験している。色々試してはみるが、この光の超パワーを打ち破るのは難しい。

 

 ツモも悪ければ鳴ける牌も出てこない。なので、淡の手は進めようが無い。

 それでいて、光の手はツモがかみ合っていてドンドン進んで行く。鳴けないのだから、ツモを狂わせることすら出来ない。

 その結果、絶対安全圏を越えても淡は聴牌に持って行くことが出来なかった。

 

 この支配力には、淡でも抗うことが出来ず、

「ツモ。北ドラ3。2200、4100!」

 光に30符4翻の満貫級の手を和了られてしまった。

 

 

 東二局、穏乃の親。ドラは{7}。

 第一弾の和了りを決めた光が先行する。

 絶対安全圏は健在だが、淡は思うように手が進められない。やはり、第一弾を決めた光の支配力が強大過ぎるのだ。

 ここでも淡は、絶対安全圏内に和了れなかった。

 その一方で、光は面白いようにドンドン手が出来上がって行く。

 

 光の配牌は、

 {二三六九②③⑧69東北白中}

 これが、たった七巡で、

 {二三四[五]六七②②③③④④6}

 一切のムダツモ無しで手を作り上げた。

 

 そして、

「ツモ! タンヤオ一盃口ドラ1。2000、3900!」

 またもや30符4翻の満貫級の手を、光がツモ和了りした。

 

 

 東三局、咲の親番。

 光の支配力は、さらにパワーを増してゆく。

 絶対安全圏によって手配牌は六向聴でも、今の光のツモは尋常では無い。面白過ぎるくらい、手がドンドン出来上がって行く。

 ここで光に課された和了り役は3翻。

 

 配牌は、

 {一五七②⑤⑧1469南北中}

 これが、たった六巡で、

 {五[五]七七②⑤[⑤]⑧⑧4466}

 タンヤオ七対子、和了り役3翻相当が出来上がる。

 

 そして、七巡目に、

「ツモ! タンヤオ七対子ドラ2。3000、6000!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 もう、この快進撃を誰も止められない感じだ。

 

 これで後半戦の現在の得点と順位は、

 1位:光 47400

 2位:淡 37100

 3位:咲 8800

 4位:穏乃 6700

 光がダントツである。

 しかも、咲も穏乃も共に10000点を割り、それこそ穏乃は7700点以上を振り込めばトビ終了、咲も9600点以上の振込みで箱割れする。

 光が翻数上昇に伴い、次局で親倍をツモ和了りしても終了である。

 

 第三者視点で点数だけ見れば、咲も穏乃も、二人して背水の陣に追い込まれた感じに見えるだろう。

 しかし、二人とも、特段焦った表情を見せていなかった。まだ活力が残っている。

 

 

 東四局、光の親。

 前半戦と同様、ここで卓上に靄がかかってきた。穏乃の能力スイッチが入ったのだ。

 淡は、穏乃のパワーを測るべく、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 一旦、ここで能力を最大発動した。

 しかし、配牌は聴牌しておらず、第一ツモを引いてきても聴牌にはならなかった。つまり、ダブルリーチの能力はキャンセルされたのだ。

 これは、今までよりも東四局時における穏乃のパワーが強いことを意味している。

 トーナメント戦の真の頂上………決勝後半戦であることが一つの理由として考えられるが、それだけではない。

 恐らく、部内戦で咲と何回も対戦しているうちに能力が向上したのだろう。

 

 全員のツモが、著しく悪くなった。穏乃の山支配の影響によるものだ。これで、序盤どころか中盤になっても、誰一人として聴牌できる者はいなかった。

 終盤に入り、ようやく光が聴牌できた。

 和了り役は4翻。

 しかし、ここで切った牌で、

「ロン。3900。」

「えっ?」

 珍しく光が穏乃に振り込んだ。

 公式戦の記録を見る限り、差し込み以外で光が振り込んだのは初めてであろう。誰の目から見ても、まさかの出来事であった。

 光自身も振り込んだことが信じられず、ただ呆然としていた。




おまけ


牌の表記は、以下の通りになります。
萬子:一二三四五六七八九
筒子:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子:123456789
風牌:東南西北
三元牌:白發中
赤牌:(五)(⑤)(5)


春季大会個人戦5位決定戦は、丁度南入したところだった。
対戦者は石見神楽(古津節子)、石戸明星、的井美和、原村和の四人。二人の巨乳美女vs綺亜羅高校ダブルエースの戦いだ。

東四局終了時点での点数と順位は、
1位:美和 37600
2位:神楽(節子) 34800
3位:和 17500
4位:明星 10100


南一局、神楽(節子)の親。
ここに来て明星は、ようやく東二局、東三局で美和に振り込んだ際に見せられたHな触手プレイの幻から頭を切り替えられたようだ。

明星の配牌は、
一①②⑤⑥26東西北北白中
ここから一、①、東、白、中を引き、六巡目に、
「ツモ!」
明星は西を引いて和了りを決めた。
本大会では、混老七対子を25符5翻として数えるルールになっていたため、これはハネ満ツモとして扱われた。
「3000、6000!」
これで、明星が22100点と、原点付近まで復活し、和を抜いて3位になった。


南二局、明星の親。ドラは1。
ここでもヤオチュウ牌支配は健在である。
明星の配牌にはヤオチュウ牌が四枚しかなかったが、八巡目にはヤオチュウ牌が十二枚と、既に全ての牌がヤオチュウ牌で埋まろうとしていた。

一方、和の配牌は、
二四九②③④(⑤)889東西中
ここから八巡で、
四五六②③③④(⑤)⑥7889  ツモ③
当然、和は8切りで①②④⑦の多面聴に取ったが、①以外は役無しで和了れない。
そこで、
「リーチ!」
和は攻めに出た。多面聴ゆえのリーチだ。

九巡目、明星の手は、
一九①②⑨19東南西白發中  ツモ北
国士無双十三面聴を聴牌。
誰でも、ここは②切りで勝負するだろう。
明星としても同じである。この手を降りたくは無い。
ここは、勝負と、
「リーチ!」
②切りでリーチをかけた。
しかし、これは和の和了り牌である。
当然、
「ロン。リーチ一発ドラ2(赤1裏1)。8000!」
明星は、和に振り込む結果となった。


南三局、美和の親。ドラは9。
美和は、小さい手で良いから和了りたかった。
少なくとも美和自身のベスト8入りは決まっている。
出来れば5位を目指したいが、最低限、自分達が目標とした、
『出来るだけみんなで上位に入って、あのクソ(な先輩)に全国上位の選手達を今まで潰してきた罪を自覚させる!』
は達成していると思う。
敬子が個人戦出場を辞退したことは残念だが、団体戦では3位、個人戦ではベスト8なら1人、ベスト12なら4人が入っている状態だ。
これだけ好成績なチームは、他には無い。
ベスト16に入った人数だけで言えば、綺亜羅高校が一番多い。あの阿知賀女子学院でさえ2名、白糸台高校でも3名と、綺亜羅高校よりも少ないのだ。

それに、本来であればベスト8には節子も加わることになっただろう。それを神楽が証明してくれている。
それに、もし節子が生きていて団体戦の大将を節子に任せていたならば、敬子の出場辞退も無かっただろう。
そうなっていたら、ベスト16に節子、敬子、静香、鳴海、美誇人、そして美和の六人が入賞していたかもしれないのだ。


美和は、もう個人の戦績としては満足していた。
ただ、もっと別の意味で楽しみたい。
なので、ここで和を、改めてターゲットとして狙う。

和は他家の聴牌を察知したら、通常であれば自分の手が高くない限り危険な牌は切ってこない。
しかし、今は個人戦5位決定戦。
南三局とオーラスで逆転することを考えれば、多少は甘い牌を捨てる可能性がある。
なので、ここでは単純に39と切って6待ちにした。
特に9はドラだ。迷彩としては効果が高いはず。

美和の手牌は、
二三四(五)六七②②⑥⑥⑥57
そして、オシボリで手を拭いて、敢えて少し聴牌気配を出す。
『ほっと一息聴牌タバコ』
みたいなものだ。

和は、
「(聴牌したようですね。ここは、一旦様子見です。)」
アタマで持っていた6を切り落とした。
当然、
「ロン!」
これを見逃さずに美和が和了った。

粘液まみれの触手が、何本も美和の背後から和に向けて伸びてゆく。
この幻が、和には見えていた。
本来であれば、
『そんなオカルトありえません!』
と一蹴し、デジタルバリヤーで触手をシャットアウトする。
しかし、東三局一本場で経験した恍惚感があるためだろう。心のどこかで、触手に攻められることを望んでしまっているようだ。
それで和のデジタルバリヤーは薄れ、触手の侵攻を許してしまった。

和の手足に触手が絡みつく。
しかも、基本的には前回からの続きだ。和の脳内の世界では、既に全裸にされている。

何本もの触手が粘液を出しながら胸や股間を攻めてくる。
スバラ過ぎる。涙が出てくるレベルの、何と言う気持ち良さだ。
そして、数本の触手が束になって和の陰部にs………

まこ「これ以上はダメじゃ! カットじゃ!」

和は卓に付いたまま、頭の中が真っ白になった。




どれくらい時間が過ぎたことだろう。
和の頭の中では、既に一時間以上が経っている。その間、ずっと攻められっぱなしだ。
もう既に馬鹿になっている。
何も考えられない。

「2900!」
美和の点数申告の声が聞こえてきた。
この声を聞いて、和が現実世界に戻ってきた。美和に振り込んでから、現実世界では数秒しか経っていない。

和は、自分の制服が無事であることを確認した。少なくとも、現実には全裸にされているわけではない。
「(そんなオカルト………。)」
そう言いながらも、和は、心のどこかで求めている。
なので、最後の、
『ありえません』
までを言い切ることが出来なかった。

南三局一本場、美和の連荘。
今度は、美和は明星を狙う。切り出しがワンパターンだし、理牌しているので比較的読みやすい。
聴牌と同時に明星から出てくる牌を予測して待つ。
そして、ここでも、
「ロン!」
美和はタンヤオドラ1を明星から和了った。

明星の頭の中で、触手プレイのシーンが繰り広げられた。当然、前回からの続きだ。
束になった触手が、前から後ろから攻めてくる。
当然、二k………。

まこ「これ以上はダメじゃろ!」

さらに、束になった触手は、口の中に『も』入っている。
六女仙として修行している女性が経験することは先ずありえないであろう、とんでもプレイである。
もう何も考えられない。

現実世界の明星は、
「あぅ♡!」
と声を上げながら目がイっていた。

もう明星の脳内では、かれこれ一時間は過ぎていた。その間、ずっと攻められっぱなしである。
頭が完全におかしくなるだろう。

「2900の一本場は3200!」
美和の点数申告の声だ。
これを聞いて、明星は正気を取り戻した。

やはり、前回と同様に乳首が立ち、陰部が濡れている。
とても恥ずかしいが、何故か背徳感が気持ち良くも思える。
修行しかしてこなかった彼女からすれば、非常に不思議な感覚だったし、免疫がなかった分、病み付きになりそうだ。
一方の美和は、そんな明星の表情を見ながら、
「二本場!」
嬉しそうな顔で連荘を宣言した。

南三局二本場。
「そろそろ本気で行くからね、美和ちゃん。」
節子がそう言うと、突然、美和と明星と和が激しい揺れを感じた。
大地震だ。

しかし、試合中断の声はかからない。これは、節子が見せている幻だ。
揺れて見えているのはプレイヤーだけで、審判やスタッフには、そんな幻は見えていないのだろう。

再び地面が割れてマグマが噴き出してくる。
頭上に、何か光るものが見えてきた。巨大小惑星だ。
これが地面に激しくぶつかる。

轟音と共に、猛烈な熱風が吹き荒れた。
巨大小惑星激突直後の世界。
付近のモノは全て熱風で焼き尽くされ、常識では考えられないレベルの粉塵が舞い上がって空を真っ黒に染める。
粉塵は、やがて全世界に広まり、太陽光は遮断され、激突地点から遠いところでも植物が朽ち果ててゆく。
完全なる地獄の世界。

そして、聞こえてきた神楽(美和)の声、
「ロン。16600。」
「えっ?」
美和が、ふと我に返ると神楽が和了っていた。しかも、美和が倍満を振り込んだらしい。
やられた。
やはり節子には敵わない。

これで、点数と順位は、
1位:神楽(節子) 45400
2位:美和 24100
3位:和 19600
4位:明星 10900
美和は、この一撃で神楽(節子)に大逆転を喰らった。


そして、オーラス。和の親。
ここでは、
「ポン!」
神楽が早々に白を鳴き、
「ツモ。300、500。」
そのまま神楽がゴミ手を和了った。
その際、数百メートルにも及ぶ高さの大津波が襲ってきて、陸にあるもの全てを飲み込んでゆく光景が、和、明星、美和の三人の目には映っていたと言う。

これで5位が神楽、6位が美和、7位が和、8位が明星で5位決定戦は終了した。

対局中、和と明星の表情を見ながら、某ネット掲示板の住民達は、たいそう賑わっていたようだ。
9位決定戦や13位決定戦に出場していた住民達もいたが、彼女達は、後から録画を見てコメントしたらしい。


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百三十八本場:こんな点数調整…、ないないっ! そんなのっ!

おまけで怜が、また何か言ってますが、次回も通常運行です。


 個人決勝後半戦は、南入し、あと四局を残すところとなった。

 南一局、淡の親。

 卓上が靄で覆われた。

 いや、既に濃霧と化している。

 

 今までの対局で、ここまで深い霧を南一局(芝棒無し)で発生させたことは無い。それだけ穏乃の能力がパワーアップしているのだ。

 穏乃の支配が場全体を覆い尽くす。

 

 絶対安全圏もダブルリーチもキャンセルされた。

 光のパワーも押さえ込まれている。

 しかし、そんな状態でも、場が進むにつれて、さらに強力になるはずの穏乃の支配を、逆に場の進行と共に押し戻す化物がいた。

 その者………咲は、深い霧など関係ない。

 むしろ、霧で覆われたところのさらに上、森林限界を超えたところに自分のテリトリーを持っている。

 そして、

「カン!」

 比較的簡単な役満よりも出る確率が低いと言われる偶然役で、

「ツモ! 嶺上開花!」

 自由自在に和了りを決める。

「3000、6000!」

 この和了りで、一先ず咲は、20800点まで点数を戻した。

 一方、これで穏乃は点数を7600点まで減らし、最下位となった。

 

 

 南二局、穏乃の親。

 ここで咲は、一旦支配力を下げた。

 そうなると強力な場の支配力を持つ穏乃の独壇場となる。

 当然、光も淡も手が進まない。

 ただ、咲の場合だけは、敢えて手を進めない感じだった。

 

 そのまま序盤から中盤、そして終盤に場が流れ込んで行く。それに連動するかのように卓上にかかる靄は、より一層深いものになって行く。

 視界が妙に悪い。

 過去の対局では、この靄で視界が遮られたことが原因で穏乃に振り込んだ者もいる。

 それを知っているので、当然、光も淡も目を凝らして河を良く見る。穏乃への振り込みを回避するためだ。

 しかし、誰かが振り込まなくても、

「ツモ。」

 今の穏乃は、

「タンピンドラ1。2600オール。」

 自ら和了り牌を引き寄せる。

 

 南二局一本場も、

「ツモ。2700オール。」

 前局と同様の手をツモ和了りした。

 

 そして、南二局二本場では、

「ツモ。3900オールの二本場は4100オール。」

 穏乃は親満級の和了りを決めた。

 三連続和了だ。

 

 これで後半戦の現在の得点と順位は、

 1位:穏乃 35800

 2位:光 31100

 3位:淡 21700

 4位:咲 11400

 南一局終了時点で最下位だった穏乃が一気にトップに躍り出た。天江衣が深山幽谷の化身と比喩しただけのことはある。

 

 ところが、南二局三本場では、咲のオーラが一気に強大になった。当然、淡も光も穏乃も大明槓をケアして初牌に気をつける。

 

 ドラは{③}。

 中盤に入るが、まだ誰もドラを切ってこない。

 

 そして、局は終盤に突入した。

「カン!」

 咲が{南}を暗槓した。

 これは場風であると同時に咲の自風でもある。ダブ南だ。

 他家は、誰もが、これで咲が和了ると思ったが、咲は有効牌を引き入れただけで、和了りには至らなかった。

 ここで咲が捨てた{[⑤]}を、

「チー!」

 光が鳴いた。

 赤牌だし、第一弾の和了りに向けて手を進めたい。

 

 ただ、これでツモがズレた。

 光のツモが淡に行き、淡が掴むはずだった{北}を穏乃が引いた。

 {北}は、既に場に2枚出ている。初牌には程遠い。

 それで穏乃は安心してツモ切りしたのだが、

「ロン!」

 これで咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {③④[⑤]東東東北發發發} 暗槓{裏南南裏}  ロン{北}  ドラ{③}  新ドラ{4}

 

「ダブ南發混一三暗刻ドラドラ。16900。」

 倍満だ。

 穏乃にとっては、まさかの振込みである。

 それにしても、こんな高い手を同じ阿知賀女子学院の選手から取るとは………。本当に容赦ない。

 

 これで後半戦の現在の得点と順位は、

 1位:光 31100

 2位:咲 24300

 3位:穏乃 22900

 4位:淡 21700

 咲が2位に浮上した。

 しかも、トップとラスの差が9400点しかない。まだ、誰がトップを取ってもおかしくない状態と言えよう。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここで咲は、少しオーラを弱めた。

 とは言え、穏乃の支配に対して十分干渉するだけの力は出し続けている。なので、山支配自体は崩れていた。

 これで淡のツモが若干だが良くなった。

 

 六巡目、咲が切った{白}を、

「ポン!」

 淡が鳴いた。これで聴牌。

 その二巡後、

「ツモ。白ドラ2。1000、2000!」

 久し振りに淡が和了った。東一局一本場以来である。

 しかも宿敵咲の親を蹴れたのだ。この流れで白糸台高校が団体個人共に勝利すべく、淡と光の気合いが増す。

 

 

 これで後半戦の現在の得点と順位は、

 1位:光 30100

 2位:淡 25700

 3位:咲 22300

 4位:穏乃 21900

 トップとラスの差が、さらに縮まった。

 

 前半戦の点数を加味すると、前半戦3位の淡は、ハネ満ツモで総合単独1位、満貫ツモで光と淡の同時優勝となる。

 ならば、淡の狙いは満貫ツモ。

 光と淡で個人1位2位を独占すれば団体戦の優勝に対して誰も文句は言わないが、白糸台高校から二人が個人同時優勝のほうが、もっとカッコイイ気がする。

 一方、前半戦最下位の穏乃の場合は、ハネ満ツモで総合2位、倍満ツモで単独優勝できる。つまり、誰もがトップを取れる可能性があると言える。

 

 

 オーラス。穏乃が出す靄が最高状態に達した。

 過去に例を見ないほどの濃さである。

 

 絶対安全圏もダブルリーチも塞がれたが、淡は、八巡目で、聴牌できた。何故かツモは良かったのだ。

 ドラは{⑦}。

 手牌は、

 {二三四五六七⑦⑦34558}  ツモ{6}

 タンピンドラ2で、ツモ満貫の手。

 

 {8}は、既に光が一枚切っているので、大明槓される心配もない。

 光との同時優勝狙いだ。

 淡は、当然、ここで{8}を落とした。

 

 しかし、

「ロン。」

 この{8}で咲が和了った。

 

 開かれた手は、

 {八八③③④④[⑤]⑤34[5]67}  ロン{8}  ドラ{⑦}

 

「タンピン一盃口ドラドラ。8000。」

「えっ?」

 ドラ含みの平和手。

 槓が多い咲にとっては珍しい手だ。

 さすがに淡も驚いた。このような形で幕切れするとは………。

 観戦室で対局を見ていた人達も、咲に求めるのは『槓』と言う派手な演出と、それに連動する華麗なる嶺上開花である。

 それが最後の最後で封印された。

 それどころか、前半戦では嶺上開花を三回見せてくれたが、後半戦では南一局の一回しか見せてくれていない。

 観衆側も、これでは不完全燃焼だ。

 しかし、得点を見て観衆達は度肝を抜かれた。

 

 

 後半戦の得点と順位は、

 1位:咲 30300:+20

 2位:光 30100:±0

 3位:穏乃 21900:-8

 4位:淡 17700:-12

 恐らく咲は、昨年のインターハイ個人決勝前半戦の時と同様に自分だけ25000点持ち、他家は全員30000点持ちの変則ルールをイメージしてプラスマイナスゼロを達成したのだろう。

 

 そして、前半戦と後半戦の得点の合計は、

 1位:咲 前半:±0 後半:+20 合計:+20

 1位:光 前半:+20 後半:±0 合計:+20

 3位:穏乃 前半:-12 後半:-8 合計:-20

 3位:淡 前半:-8 後半:-12 合計:-20

 咲と光の同時優勝、穏乃と淡の同時3位となった。

 これを見て多くの人達は、

「(見事な点数調整だな…。)」

 と思ったのは言うまでもない。

 驚愕を越えて感動までしていた人が殆どであった。

 

 ただ、宮永咲と言う人間………と言うか化物をよく知っている者達は、そのさらに奥深いところまでを読み取っていた。

 この点数は、一見、阿知賀女子学院と白糸台高校が、仲良く優勝と3位を一人ずつ取ったように調整されたと思うだろう。

 しかし、前半戦と後半戦の素点の合計は、

 1位:咲 60300

 2位:光 60200

 3位:穏乃 39800

 4位:淡 39700

 咲と光では咲が、穏乃と淡では穏乃が、ともに100点ずつ多く取っているのだ。

 つまり、合計点では僅差とは言え、阿知賀女子学院の方が優勝も3位も共に高い点数を取っており、依然、

 阿知賀女子学院 > 白糸台高校

 の図式が成り立っている。

 しかも、このような点数調整まで余裕でやられているのだ。

 当事者の光と淡からすれば、マジメに打ったら、もっと点差が開いて然るべきとしか到底思えない。

 

 何のことは無い。

 咲から白糸台高校への団体優勝祝いで光が同時優勝、淡が同時3位をプレゼントされたに過ぎないのだ。

 もっとも、この100点差は団体戦での総合得点………得失点差勝負での100点差のお返しでもあるが…。

 

 この凄まじくも華麗な点数調整を目の当たりにして、節子(神楽の中)は、

「ねえ、こんなの有り? 人間だけじゃなくて蔵王権現まで点数調整されてるって、マジヤバイんですけど…。」

 と驚いていた。

 その隣で美和も、

「ここまで凄いとは思わなかったんだけど………。」

 と言いながら股間を押さえていた。

 対局室にいなくても、このとんでもない調整を見て身体中が震えて放出一歩手前まで来ていたのだ。

 

 某ネット掲示板でも、

『旧長野万歳ですわ! 点数調整してなんぼ、点数調整してなんぼですわ!』

『でも、1位と3位が共に100点差で阿知賀が上って、遺恨を残したと思』

『見てるほうが放水しそうっス!』

『ここまで来るとスバラを通り越して超スバラです!』

『放水しそうだったよモー』

『本当は放水してるんデー』

『初めて書き込むけど、咲ちゃん凄い! お友達になれて嬉しい!』←美和

『↑どこの馬の骨ですか? 私以外が友達だなんて、そんなオカルトありえません!』

『絶対、光も淡も内心怒ってると思うし、八つ当たりが怖い』←みかん

『咲ちゃん、これはヤリ杉だじぇい!』

『でも見ていて面白かった!』←麻里香

『華菜ちゃんだったら、こんな調整されないし!』

『咲がするまでもなく衣にされていたじゃないか!』

『↑二人とも身バレしとると!』

『この調整は暖かくな~い』

『された側からすれば、こんな調整、ないないっ! そんなのっ! ですよー』

『この未来は見えへんかったなぁ』

『前半戦はプラマイゼロ、後半戦も点数調整が出るでぇー!』

『うるさい、そこ! でも凄いね、これ』

『またモノクル割れた、私の家で』

『マタワレタノ?』

『股は割れてへんやろうなぁ by 高二最強』

『誰が最強や! そんなデータは無い!』←船Q

『こんなの見れてチョー嬉しいよぉ!』

『大星さん以外、オモチがなくて面白くないのです!』

『ダル…』

 結構賑わっていたようだ。

 

 

 対局室で、表彰式が行われた

 表彰式には、5位から16位の選手達も呼ばれていた。彼女達にも入賞の賞状が授与されることになっている。

 先ず、5位から16位の選手まで、下位から順に賞状が授与された。

 ちなみに5位以下の順位は以下のとおりである。

 

 5位:石見神楽(粕渕高校)←故 古津節子(綺亜羅高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:石戸明星(永水女子高校)

 9位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 10位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 11位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 12位:十曽湧(永水女子高校)

 13位:南浦数絵(臨海女子高校)

 14位:東横桃子(永水女子高校)

 15位:片岡優希(臨海女子高校)

 16位:真屋由暉子(有珠山高校)

 

 

 続いて淡と穏乃が表彰された。

 個人戦のメダルは、金銀銅を一つずつしか用意されていなかったため、一先ず3位は穏乃の首に銅メダルがかけられ、淡に3位のトロフィーが手渡された。

 後日、淡にメダルが、穏乃にトロフィーが別途送付される。

 

 最後に優勝者が表彰された。

 金メダルは、咲の首かけられ、トロフィーは光が授与された。こちらも、不足分は後日別途送付される。

 

 ただ、表彰式の間、光と淡は笑顔を見せながらも身体が小刻みに震えていたのは言うまでもない。

 光の優勝も淡の3位も誰かさんの手によって作られた演出に過ぎない。

 まだまだ打倒宮永咲には到達していない。

 これでは、団体戦の優勝だって、自分達としては到底認められない。

 次のインターハイに向けて自然と闘志が湧いてくる。

 

 当然、他校の選手達も、打倒阿知賀女子学院、打倒白糸台高校、打倒宮永咲を掲げて次の大会に向けて動き出す。

 勿論、そこには新一年生達も入ってくることになる。

 …

 …

 …

 

 

 余談だが、この日の夜、敬子は美和から、個人戦で節子の霊が神楽の中に降りてきて対局していたことを電話で知らされて、

「個人戦が故人戦になっちゃったね!」

 と、またアホなことを言っていたらしい。




おまけ


怜「第四部終わりやて!」

爽「そうみたいだね。」

怜「また、少し旅に出てから第五部の作成に入るっちゅうみたいやな。一旦小休止や!」

爽「そうなんだ。」

怜「もうお下品なネタは卒業したんでな。」←大嘘

爽「私もなんだけどね。」←同上

怜「なので、今日は、咲ちゃんと綺亜羅高校の人達の後日談をさくっと紹介するそうやで。マトモに書くと長くなるんで、あっさりとあらすじだけ書く感じになるけどな。」

爽「そうなんだ。」

怜・爽「「と言うわけで、スタート(やで)!」」



春季大会個人戦の翌日、咲は綺亜羅高校に行くことにした。
敬子が麻雀をやめないか心配だったのだ。
女子高生麻雀史に悪名を残すであろう行為をヤってしまったが、狙ったわけでは無い。ついうっかりだ。
恐らく、本人は相当傷ついているはずだ。

今夜のホテルの予約はされていないが、別に照のところに泊めてもらえば良いだろうくらいに考えていた。
ただ、咲一人では迷子になって危ないと、独りで行くことに晴絵も恭子も反対した。今までの実績からすれば当然だろう。
しかし、美由紀が姉の宇野沢栞に会いに行くので、途中まで咲に同行すると言ってくれたので、渋々だが晴絵も恭子もOKしてくれた。

だが………。

咲「ここ、ドコ?」

やはり美由紀とはぐれて迷子になった。
この時、咲はカツラを被って赤い縁のメガネをかけ、弥永美沙紀バージョン(一本場参照)になっていた。
女子高生王者がいるとバレたら人が寄って来て面倒になるからだ。

ただ、人が声をかけてこないイコール、咲は誰にも救助を求められない。
自ら人に声をかけて行くだけの社交性も度胸も無いからだ。
弥永美沙紀バージョンになったことが、逆にマイナスになっていたに違いない。

咲が某駅(綺亜羅高校の最寄り駅)でオドオドしていると、

女子高生「宮永咲さんですよね?」

見たことのある制服を着た女子高生が咲に話しかけてきた。

咲「そうですけど。綺亜羅高校って、どっちでしょう?」

女子高生「私の高校ですか?」

こう言われて………、その女性が、美和が着ていた制服と同じ制服を着ていることに咲は気が付いた。

咲「そ…そうです。そこの麻雀部に用事があって…。」

女子高生「美和達にですか?」

咲「そうです。美和ちゃん達に…。」

女子高生「美和ちゃんか…。仲良くしてもらえているみたいですね、美和。団体戦で、うちの高校の敬子があんなことをしちゃったのに…。」

咲「でも、あれはルール上問題ないですし、それに、私が後半戦でもっと稼げていれば、あんなことにはならなかったと思うので…。」

女子高生「怒ってないの?」

咲「怒ってはいないです。ただ、あれをやっちゃった稲輪さんが心配で、それで様子を見に来たんです。」

女子高生「優しいですね。じゃあ、私が高校まで案内します。」

咲「ありがとうございます!」

咲は、弥永美沙紀バージョンになっていることをすっかり忘れていた。
なので、この女子高生が、
『何故、ここにいるのが咲であることを見破れたのか?』
までは考えていなかった。

咲は、その女子高生と話をしながら綺亜羅高校の校門まで来た。
実際には、咲から話題を振るのではなく、その女性高生が、次から次へと咲に質問してくるので、咲は、それに答えていただけなのだが…。
それで咲は、その女性の名前を聞くのをすっかり忘れていた。
丁度、咲が到着した直後、反対方向から美和達、綺亜羅高校レギュラー五人が、こっちに向かってくるのが見えた。

咲「あっ! 美和ちゃん!」

美和「えっ? ど…どちら様でしょうか?」

咲は、自分が弥永美沙紀バージョンであることを思い出した。
そして、めがねとカツラを外した。

咲「ちょっと変装してて…。」

美和「どうしてここに?」

咲「稲輪さんが心配だったから。」

この時、敬子は美和の後に隠れていた。
第三者のお手つきで阿知賀女子学院は団体優勝を逃したのだ。
当然、敬子は咲に怒りまくられているものと思っていた。

美和「でも、来るなら連絡してくれれば良かったのに。」

咲「LINEで、今日も部活やるって聞いてたから、驚かそうと思って。」

美和「迷わなかった?(超方向音痴って聞いてたし!)」

咲「この人に駅から送ってきてもらって…。」

咲が、ここまで送り届けてきてくれた女性のほうを振り向いた。
しかし、そこには、その女性の姿は無かった。

美和「この人って?」

咲「あれ? さっきまでいたんだけど…。美和ちゃんのことを知ってる人みたいだったから、友達かなって思ったんだけど…。」

美和「でも、まあ無事にこれてよかった。じゃあ、ちょっと部室寄ってく?」

咲「うん。それと稲輪さん。」

敬子「ひゃ…ひゃい!?」

咲「麻雀やめないでね。風越のウザ池田だったら、あれくらい屁とも思わないから。」

(華菜「いや、華菜ちゃんだってあんなことしたら傷つくし!」)

咲「でも、この時間までみんなでドコに行ってたの?」

美和「節子のお参りにね。私も美誇人も静香も鳴海も、神楽ちゃんのお陰で節子に会えたけど、敬子は個人戦の日は自主的自宅謹慎してて会えなかったからね。」

咲「(謹慎って、そんなにショック受けてたんだ。)」

美和「それで、敬子も一緒に、みんなで墓前に報告って思って。」

咲「ええと、節子さんって?」

美和「古津節子。本当なら私達のエースになるはずだった人。一年の冬に事故で亡くなってね。」

咲「そ…そうだったんだ。」

まあ、そんな話をしながら、一先ず、咲は部室に通された。
すると、そこには何故か神楽の姿があった。

咲「あれ? 石見さん、どうして?」

神楽「ちょっと頼まれごとがあってですね…。」

咲「そうなんだ。あっ!」

咲が、部室に一人の女性高生の写真が飾ってあるのを見つけた。
その女性は、さっき、咲を綺亜羅高校まで送り届けてくれた方である。

咲「この人だよ。私をここまで連れてきてくれた人。」

美和達「「「「「ええっ!?」」」」」

咲「でも、どうして、この人の写真が?」

美誇人「彼女が節子。」

咲「ええっ?」

すると、神楽の様子が急に変わった。

神楽(節子)「驚かせてしまったみたいですね。宮永さん。さっきはどうも。」

咲「この感じ…。さっきの人だね。じゃあ、本当に!?」

節子「今日、ここに来るって知って、それで私も宮永さんと打ってみたいって思って。一局打ちませんか?」

咲「い…イイケド。あと二人は?」

節子「一人は敬子ね。」

敬子「ふぇ?」

節子「敬子、麻雀やめる気でしょ?」

敬子「…。」

節子「もし、ここで宮永さんに勝てたら麻雀やめてイイから。でも、負けたら美和達とインターハイでリベンジするのよ!」

敬子「そ…そんなぁ。」

節子「私に代わって全国優勝を果たすの! 今日は、それをお願いしたかったのもあるの。あと一人は…。」

茂木紅音(もてきあかね)「私が入っても良いですか?」←美和達の一級下

節子「他にレギュラー陣で入りたい人がいなければ。」

美和・美誇人・静香・鳴海「「「「どうぞどうぞ。(お漏らししたくないし)」」」」

と言うわけで咲は節子、紅音、敬子と打つことになった。

起家は紅音、南家が節子、西家が咲、北家が敬子になった。
ちなみに節子は、神楽の透視能力を封印して挑む。やはり、本来の自分の力だけで咲と卓を囲んでみたい。

東一局
咲「カン! ツモ! 嶺上開花! 12000!」←節子の責任払い

東二局
咲「カン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 12000!」←紅音の責任払い

東三局
咲「カン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 12000!」←敬子の責任払い

咲の副露牌は迫ってくる度に、敬子に向けて咲の強大なオーラが飛んでくる。
他人の能力に影響されないはずの敬子でさえも、その恐怖を感じて既にブルブルと震えていた。
もう、何回も巨大肉食獣に食い殺されている感覚だ。敬子の目から涙が溢れてきた。

美和・美誇人・静香・鳴海「「「「(珍しい。)」」」」

そして、咲が一本場を宣言しようとしたその時だった。
突然、地が裂けてマグマが噴出す恐怖映像が、咲、敬子、紅音の頭の中に流れてきた。節子が能力を開放したのだ。

咲「(この人…。)」

すると、今度は巨大小惑星が頭上に落ちてくる映像が節子の脳裏を横切った。咲が節子に向けてオーラを放ったのだ。

節子「(そうでなくっちゃ!)」

そして、

咲「一本場!」

咲が連荘を宣言した。


東三局一本場では、
「カン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 12100オール!」

東三局二本場では、
「カン! ツモ! 嶺上開花! 700オールの二本場は900オール!」←オタ風の西を加槓して嶺上開花のみで和了った(40符1翻:700オール)
これでめでたく全員が0点にされた。

そして、東三局三本場では、
「カン! もいっこカン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 大四喜字一色四暗刻四槓子64300オール!」

「ジョー」←紅音

「ジャー」←節子(本体は神楽)

「プシャー」←敬子:咲の下家のため最も激しい

部室が大変なことになってしまった。
まずは掃除からだ。

敬子と紅音は自前のジャージに、神楽は美和からジャージを借りて急いで着替えた。
それにしても、美和(微量)だけでなく、空気を読めないはずの敬子や、綺亜羅高校最強の節子も放出するとは…。

三銃士よりも強い三人………節子、美和、敬子が玉砕した以上、綺亜羅高校では、誰も咲には敵わないだろう。
この後、咲と対局したいと言う人は綺亜羅高校にはいなかったと言う。



第四部
カン


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第五部:最後のインターハイ
百三十九本場:最後の夏、始動!


 春季大会では、白糸台高校が宮永照の時代以来、二年ぶりの団体戦優勝を飾った。

 

 本来であれば大将後半戦の最終局で、阿知賀女子学院大将の高鴨穏乃が永水女子高校大将の東横桃子から和了って阿知賀女子学院が優勝しているはずだった。

 まさかの珍悲劇であろう。

 綺亜羅高校大将の稲輪敬子が穏乃の和了りにつられて牌を倒し、和了りを宣言。

 アタマハネで穏乃の和了りは認められず、その瞬間、白糸台高校が優勝し、阿知賀女子学院が準優勝となった。

 敬子の手は大逆転手でもなんでもなかったのだ。

 本来ならば和了らない手だ。

 

 当然、優勝した白糸台高校のメンバーは、誰一人として自分達が優勝したとは思っていない。事故で勝利が舞い込んできただけだ。

 

 未だに全国では、

『打倒、阿知賀女子学院!』

 そして、

『打倒、宮永咲!』

 の言葉が掲げられ続けている。

 

 

 この日のゴールデンタイムに、テレビでは高校での部活動に汗を流す少女に焦点を当てた番組が放送されていた。

 タイトルは、

『輝け! 部活少女!!』

 かつて清澄高校時代に原村和も出たことがある番組だ。

 

「今日の輝け部活少女は、こちらにお邪魔してます。」

 しかし、映像に映っているのは高校の校舎では無い。高校の向かい側にあるスイミングクラブだ。

 カメラ映像がスイミングクラブの中に入ってゆく。

 すると、中では一人の少女が泳いでいた。

 結構………いや、かなりスピードのある泳ぎだ。

 オモチだけ小林立風で、他は五十嵐あぐり風にした憧に似た体つきだ。あと、脚も憧より10センチくらい長い。

 その美しい肢体から、まるで人魚が泳いでいるようにも見える。

 水泳部員の紹介だろう。誰もがそう思っていた。

 

 その少女がプールから上がった。かなりの美少女である。それこそ、1000人に1人のレベルである。

「今日の輝け部活少女で紹介するのは、こちらの方。綺亜羅高校麻雀部の稲輪敬子さんです!」

 このインタビュアーの言葉を聞いて、視聴者の殆どは目が点になっただろう。

 プールに来て、結構スピードある泳ぎを見て、何故麻雀?

 やはり、敬子はKYなだけでなく不思議ちゃんである。

 

 見た目は間違いなく良い。

 麻雀の方も、最近、輪をかけて強くなったとの話だ。部内戦では美和を抜いてトップとなり、現在の綺亜羅高校のエースと呼ばれているらしい。

 ただ、対外的には美和の方が恐れられており、一般には美和と敬子の二人で綺亜羅のダブルエースと呼ばれているようだ。

 麻雀の実力と容姿から、テレビ局側も綺亜羅高校メンバーの中で敬子にスポットを当てたのは容易に想像がつく。ただ、普段は髪がボサボサの残念な美少女なので、それが分からないように撮影場所としてプールを選んだのだろう。

「稲輪さん。ずいぶん泳ぐのが速いですね。」

「別に、趣味で泳いでいるだけです。」

「麻雀部のほうでは、いよいよ最後の夏の大会ですね!」

「はい。今度は、あんな失態を犯さないように心掛けます。」

「でも、あのアタマハネ事件から、この短期間でよく立ち直ったと思います。」

「落ち込んでいると、毎日、節子に怒られますから。」

「節子さん………ですか?」

「はい、古津節子。昨年、事故で亡くなった麻雀部の同期です。生きていれば、彼女が綺亜羅の絶対的エースでした。」

「そ…そうでしたか…。」

 この言葉を聞いて、多くの人達は、敬子のことを、

『なんて友達思いなんだ!』

 とか、

『信心深いんだ!』

 とか思ったかもしれない。

 

 しかし、現実には、

「(毎晩のように夢に出てきて天変地異を見せるからなぁ………。)」

 敬子が落ち込んでいると、節子が敬子に人類が絶滅するレベルの超自然災害の夢を見せてくれるのだ。

 当然、見せられる側は酷くうなされる。

 それで敬子は、好きな水泳で気を紛らわせて嫌なことを忘れようとしていたのだ。

 とは言え、一応、結果オーライであろう。

 その節子のスパルタのお陰で敬子は立ち直れたとも言える。

 

 

 番組の中で敬子がクロールで50メートルを泳いだ。

 タイムは………、

「26秒フラットです! ええと、ちゃんとした記録は判りますか?」

 これにスタッフの一人が答えた。

「25.01秒ですね。」

 女子日本記録が24秒台なのを考えると、ムチャクチャ早いのが分かるだろう。

 

 ちなみに次回紹介される娘は、体育系の某女子高の水泳部の少女の予定だとか………。

 その水泳部の少女の立場が無い。

 やはりKYは健在な敬子であった。

 …

 …

 …

 

 

 阿知賀女子学院麻雀部では、部活中にこの録画を見ていた。

「稲輪さん、立ち直れたみたいだね!」

 こう言ったのは穏乃。

 自分達の敗退を決めた人間を決して責めたりはしていない。むしろ、そうならない試合運びが出来なかった自分に非があるとさえ思っている。

 

 憧も、ゆい(小走やえ妹)も、美由紀(宇野沢栞妹)も、自分達の不甲斐なさを感じていた。

 もう少し自分達が頑張れていたなら優勝できていたと思えて止まないからだ。

 

 一方の咲も、

「(京ちゃんに逆転勝ちを見せようなんて思わなければ…。)」

 もう相手が誰であろうと稼げるだけ稼ぐことを誓った。

 これは、恐らく行けるところまで66600点事件を連発すると言っているのと同義語であろう。

 女子高生雀士達にとって最悪な決意だったのは言うまでもない。今年のインターハイも失禁女子で溢れること間違いないだろう。

 

 

 この春、阿知賀女子学院には、昨年同様に高等部から入学する者が多かった。麻雀部への入部を希望する者達だ。

 一昨年までは5人しかいなかった部が、今では100人を超える大所帯になった。

 この中から部内戦でインターハイ県予選のレギュラー5人(1位~5位)と補員2名(6位、7位)、さらに個人戦で出場できる部内8位の選手を選出する。

 

 部内成績は、

 1位:宮永咲(エース)

 2位:高鴨穏乃(第二エース)

 3位:新子憧(部長)

 4位:宇野沢美由紀(オモチの子)

 5位:小走ゆい(副部長)

 6位:藤白亜紀(藤白七実妹で1年:能力は、きっと白亜紀に因むものでしょうね?)

 7位:車井百子(車井百花妹:ややオモチの子)

 8位:水戸里美(1年:上から読んでも下から読んでも『みとさとみ』)

 以上の選手がレギュラー、補員、及び個人戦出場枠の選手に決まった。

 

 ちなみに、里美は三姉妹の長女で、一つ下の妹が仁美、二つ下の妹が琴美と言う名前らしい。

 

 それから、9位(次点)は椿野美咲(1年)。元劔谷高校のエース椿野美幸の妹である。今後の活躍に期待される。

 

 

 県大会からインターハイまで、星取り戦で行われ、詳細なルールも基本的に昨年のインターハイと同じであった。

 槓振も認められる。

 ただ、一点だけ改定された。それは、留学生選手の取り扱いだった。

 

 昨年は先鋒と大将には配置してはいけないルールになっていたが、今回はレギュラー、補員併せて3人まで留学生を起用して良く、先鋒から大将までのどこに留学生を配置しても良くなった。

 これに伴い、臨海女子高校では、世界大会で中国チームの選手として活躍した郝慧宇を星取り戦で最も重要なポジションである中堅に、アメリカチームの選手として活躍したマリー・ダヴァンを先鋒に配置した。

 郝を中堅にしたのは、中国チーム(世界3位)のほうがアメリカチーム(世界4位)よりも大会順位が上だったからである。

 そして、大将にはネリー・ヴィルサラーゼが配置された。

 つまり重要な先鋒、中堅、大将を留学生選手で固めたのだ。

 これは麻雀部監督、アレクサンドラ・ヴィントハイムの意思ではなく、学校の運営サイドによる判断であった。

 これに伴い、今まで先鋒を務めていた片岡優希は次鋒に、大将だった南浦数絵は副将にポジション変更された。

 

 

 阿知賀女子学院では、監督の赤土晴絵とコーチの末原恭子が話し合い、以下のオーダーに決めた。

 先鋒:憧(部長)

 次鋒:咲

 中堅:ゆい

 副将:美由紀

 大将:穏乃

 

 憧もゆいも春季大会とは随分違う。昨年のインターハイの時のようなキチンとした打ち方を取り戻していた。

 もう、最初から勝ちを諦めた打ち方はしない。

 今度こそ春季大会で逃した優勝をこの手に掴む。

 その気迫に満ちていた。

 

 

 七月になり、県予選が開催された。

 奈良県の参加校は32校と少ない。それで、一回戦は1位のみ勝ち抜けで8校に絞るが、二回戦(準決勝戦)は2校抜けとなる。

 そして、最後の決勝戦で勝利したチーム、つまり優勝校が県代表となる。

 

 昨年の県代表である阿知賀女子学院は第一シード。

 団体一回戦は大会初日の午前中に行われる。

 先鋒から大将まで各半荘一回勝負。

 阿知賀女子学院は、下馬評どおりの力を見せ付け、先鋒から中堅までの三戦三勝で余裕の1位抜けを決めた。

 しかも、咲は誓いどおり他家全員を-66600点にすると同時に大放水させて某ネット掲示板住民達を喜ばせた。

 

 団体二回戦は大会初日の午後に行われる。

 ここでも先鋒から大将まで各半荘一回勝負。

 阿知賀女子学院は勝ち星五の超余裕で1位抜けを決め、決勝進出を果たした。

 咲は、ここでも他家全員を-66600点にすると同時に大放水させて、某ネット掲示板住民達を大興奮させた。

 

 団体決勝戦は、大会二日目の朝から行われる。

 決勝戦だけは先鋒から大将まで各半荘二回勝負となる。

 ここでも阿知賀女子学院は圧倒的な力を見せつけ、先鋒から中堅までの三戦三勝で優勝を決めた。

 

 ただ、2位以下の順位を決めるために大将戦まで行われたが、副将戦も大将戦も、結局は阿知賀女子学院が勝ち星を取ることとなった。

 この試合で、憧は中学時代からのライバル、晩成高校の岡橋初瀬と対戦した。

 春季大会個人戦の成績では、初瀬が31位、憧が37位で、初瀬は、本大会では憧に勝利できるものと思って対決に臨んでいた。

 しかし、この数ヶ月で昔のハングリーさを取り戻した憧に、初瀬はまるっきり歯が立たなかった。

 なお、咲は前半戦後半戦共に他家全員を-66600点にすると同時に大放水させ、日本中を大興奮の渦に巻き込んだ。

 まさかの四連続66600事件である。

 

 

 個人戦は、一週間後に行われた。

 団体戦ではダブル役満以上ありだったが、個人戦では役満は全てシングル役満として扱うルールになっていた。

 なお、咲と穏乃と言う超魔物以外に3名選出すると言う意味で、全国出場権は上位5名までとされた。

 

 対戦相手はAIによって決められ、極力、同校同士の対決を避け、且つ上位選手同士の潰し合いも避ける対戦表が上手に組まれた。

 そのお陰で、阿知賀女子学院の選手は、誰も咲と当たることは無く平和な一日を過ごせたそうだ。

 

 代わりに、晩成高校の選手が軒並み咲と対戦することになった。

 咲以外全員が0点にされたところで9本場を迎え、そこで咲に役満直撃(または責任払い)を喰らうと言う最低な展開を余儀なくされた。

 これで個人戦出場した晩成高校の8人全員が、順次、咲に-81を付けられ、上位争いからは姿を消すハメになった。

 

 結局、上位5名は以下のとおりとなった。

 1位:咲

 2位:穏乃

 3位:美由紀

 4位:憧

 5位:ゆい

 

 ちなみに6~8位は、亜紀が6位、百子が7位、里美が8位と、阿知賀女子学院の順位がそのまま県大会個人の順位と同じになった。

 

 

 同じ頃、西東京では白糸台高校が全国大会出場権を手に入れていた。

 白糸台高校のオーダーは、

 先鋒:大星淡

 次鋒:宮永光

 中堅:多治比麻里香(多治比真佑子妹)

 副将:佐々野みかん(佐々野いちご妹:美貌では全国一万人の頂点)

 大将:原村和(部長)

 春季大会と同じオーダーであった。

 やはり、このオーダーで優勝できなければ春季大会の優勝を認めることが出来ないのだろう。これは、半分意地である。

 

 また、西東京地区からは全国個人戦出場者を10名選出する。その中に、白糸台高校の団体戦メンバーは、無事全員入ることが出来た。

 もっとも、阿知賀女子学院と同じで、

 1位:光

 2位:淡

 3位:和

 4位:みかん

 5位:麻里香

 上位5名を白糸台高校のメンバー全員で占めており、この最後のインターハイに賭ける意気込みが強く感じられた。

 

 

 東東京地区では臨海女子高校が余裕で優勝を決め、個人戦でも優希と数絵が全国大会出場権を獲得していた(留学生は個人戦には出場できない)。

 

 

 そして、埼玉県では綺亜羅高校が超余裕で優勝を果たした。

 阿知賀女子学院と同様に、1位抜けの一回戦では先鋒から中堅までの三連勝、上位2校抜けの試合では全試合勝ち星五である。その実力は計り知れない。

 オーダーは、

 先鋒:鬼島美誇人

 次鋒:稲輪敬子

 中堅:鷲尾静香

 副将:的井美和(部長)

 大将:竜崎鳴海

 春季大会の悪夢を経験したこともあり、敬子を大将から次鋒に変えた………と思われがちだが、実はジャンケンで決めたオーダーであった。

 穴の無いチームだからこそ、そんなオーダーの決め方が出来るのであろう。

 

 

 鹿児島県は永水女子高校が優勝を決めた。

 オーダーは、

 先鋒:東横桃子

 次鋒:狩宿萌(狩宿巴妹)

 中堅:石戸明星

 副将:滝見春

 大将:十曽湧

 

 

 そして、北大阪地区では千里山女子高校が代表権を獲得していた。

 オーダーは、

 先鋒:椋真尋(椋千尋再従妹:千尋と同様の麻雀を打つ)

 次鋒:麻川雀

 中堅:夢乃マホ(愛宕雅恵がスカウト)

 副将:二条泉(部長)

 大将:浦野瑠子(一番多く持つ牌が裏ドラになる)

 真尋とマホの加入により、全国大会で優勝争いに加わるチームへと変貌していた。それこそ、監督の愛宕雅恵が、二年前のトリプルエース時代(怜、竜華、セーラ時代)を凌ぐチームと豪語しているくらいだ。

 しかも、恭子が極秘で得た情報によると、恐ろしい秘密兵器を隠し持っているらしい。

 

 

 南大阪地区では姫松高校が代表権を獲得。

 オーダーは、

 先鋒:高山千里(何故、千里山に行かない?)

 次鋒:美入麗佳(美女ランキングナンバー4)

 中堅:佐藤志保(砂糖塩と言われる)

 副将:美入人美(部長:美女ランキングナンバー3)

 大将:松田姫子(名前が姫松)

 

 

 島根県では粕渕高校が優勝。

 オーダーは、

 先鋒:石原麻奈

 次鋒:春日井真澄

 中堅:石見神楽

 副将:坂根理沙

 大将:緒方薫(部長)

 

 

 福岡県では新道寺女子高校が優勝。

 オーダーは、

 先鋒:友清朱里(部長)

 次鋒:加藤ミカ(ムロの同期で煌を追って長野から新道寺に)

 中堅:安河内香枝(安河内美子妹)

 副将:江崎愛美(江崎仁美妹)

 大将:友清藍里(友清朱里従姉妹)

 

 

 兵庫県では劔谷高校が優勝。

 オーダーは、

 先鋒:森垣友香

 次鋒:竜宮由利

 中堅:安福莉子(部長)

 副将:玉木環

 大将:緑川緑

 

 

 そして、長野県では風越女子高校が四年ぶりの優勝を果たした。

 オーダーは、

 先鋒:文堂星夏(部長)

 次鋒:園田栄子(ドイツから帰国:ドイツでの単位が認められ3年生に進級)

 中堅:上埜美佐(竹井久妹:父親に連れられた)

 副将:室橋裕子(清澄高校から引き抜かれた)

 大将:児波美奈子(上から読んでも下から読んでも同じ)

 

 

 宮永照が1年の時から数えて5回目となる宮永時代の夏。

 その宮永時代最後のインターハイが、いよいよ始まる!




栄子は留学先の単位が認められて無事に3年生に進級出来ている設定でお願いします。


おまけ


各都道府県でインターハイ予選が開催された。
西東京都大会(団体戦・個人戦共に)では、ドラゴン・ゲートと呼ばれる組織の工作員達が大会会場の中に紛れ込んでいた。
彼女達は、テレビ局のスタッフを装い、インタビューと称して、これから光と対局する選手達を拘束してトイレに行かせないようにしていたのだ。

ドラゴン・ゲートはクロの組織とは別の組織であったが、両方に所属するメンバーもそれなりにいた。
ただ、クロの組織にも同時期に重要なイベントがあった。奈良県大会で、これから咲と対局する選手達を拘束してトイレに行かせないようにすることだ!(こいつら、こればっかりか………)

ドラゴン・ゲートだけに所属する工作員の数は、然程多くない。
それで、西東京大会では、スミレ親衛隊と呼ばれる組織の隊員達がドラゴン・ゲートの工作員達と合流し、光の対戦選手達の拘束を行っていた。

ドラゴン・ゲートの工作員達を工1、工2、工3…、スミレ親衛隊の隊員達を隊1、隊2、隊3…と記載する。


西東京大会団体戦二日目。
この日より第一シードの白糸台高校が参戦する。

これから次鋒戦が開始される。
その直前に、会場に向かう光の対戦相手達に、工作員達と隊員達はインタビューと称してトイレに行く時間を奪う作戦に出た。


工1「これから現女子高生雀士の中で東日本最強と言われる宮永光選手との対局を控えてどう思いますか?」

選手1「胸を借りるつもりで頑張りたいと思います(トイレ行かせて!)。」

隊員1(←TVカメラを持っている)「でも、宮永一族には借りるほどのオモチは無いと思いますけど?」

選手1「いえ…、あの…、オモチは関係ありません。(そんなことどうでもイイからトイレに行かせてよ!)。」

工2「やはり、強豪白糸台高校を倒すため、特訓とかしてきたのでしょうか?」

選手1「いえ、あの、特には…(もう時間がなくなっちゃうじゃない!)。」

隊員2「それから、宮永選手と対戦する場合、如何にしてお漏らししないかも重要かと思いますけど?」

選手1「ですので、先にトイレに寄りたいのですが(分かってるんだったら、早く開放してよ! とにかくトイレ行かせて!)。」

工3「ただ、近くにあったトイレは故障中で使えませんでしたけど(工4と隊員3が破壊したモノで…。)」

選手1「そ…そうなんですか?」

隊員4「ですので、会場から遠い、あちらのトイレしか使えないんです。」

選手1「そう言うことは、早く言ってください!」

工1「でも、もうあと30秒しかありませんので、あっちのトイレに行くだけの余裕は無いかと思います。では、対局頑張ってください。」

選手1「(ああ、もう! トイレに行けなかったじゃない!)」


こうやって、トイレに行かせずに光の相手を対局室に送り込んでいた。
勿論、光の対戦相手は、一試合につき三人いる。この三人を工作員達と隊員達で手分けして拘束していたのだ。


その結果、

光「ロン!」

選手1:「ジョ――!」

光「ツモ!」

選手2:「シャ―――!」

光「ロン!」

選手3:「プシャ―――!」


光の対戦相手達は、豪快に某ネット掲示板住民達の期待に応えていった。毎度のことながら光の対局は、対戦時間よりも掃除の時間の方が長いと言われたそうだ。



奈良県大会では、クロの組織のメンバー達を中心に、串カツ同好会の会員達と友人会の会員達が、咲の対戦相手に対して、ドラゴン・ゲートの工作員やスミレ親衛隊隊員達と同様の事を行っていた。

串活同好会とは、大阪在住のあるお嬢様(真瀬由子)の資金援助で設立された団体で、そのお嬢様が会頭を務める。
副会頭には、会頭の友人で串カツが好きな雀士(愛宕洋榎)が任命されているとか。

一方の友人会は、兵庫県のあるお嬢様(古塚梢:元劔谷高校麻雀部の部長)の資金援助で設立された団体で、彼女が会長を務める。その会長の友人(椿野美幸)の友達(お漏らし仲間)が新たに100人できることを目標に活動しているとの話である。

クロの組織は資金力が今一つなのだが、串カツ同好会と友人会の資金援助を受けて、この奈良県大会では多いなる成果を見せた。

当然、咲は、某ネット掲示板住民達の期待に応えるべく、奈良県大会団体戦初日から、


咲「カン! もいっこカン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 大四喜字一色四暗刻四槓子! 66600オール!」

選手4-6「ジョジョジョ―――!」


66600点事件を連発して行った。
対戦相手達は、巨大湖形成から逃れることはできなかったと言う。


さらに埼玉県では、あるお金持ちの娘(宇津木玉子)が玉子倶楽部と言う団体を設立し、埼玉県大会の最中に暗躍していたとの話であった(会員は玉1、玉2、玉3…と記載)。

ターゲットは、綺亜羅高校の的井美和と対戦する選手達。
今や美和は、女子高生ホイホイと呼ばれていた。幻の中で、対戦相手は巨大な触手に捕えられることから、そう呼ばれていたらしい。
勿論、その幻の世界で、女子高生達は派手な触手プレイを堪能させられる。しかも、一回につき体感時間は約一時間。
多くの女子高生の脳みそがイカレてしまったとの話である。

ただ、幻世界では一時間でも、現実世界では一瞬でしかない。それに、音声をカットされると全然面白くない。

それで、玉子倶楽部のメンバー達は大会スタッフの中に紛れ込んで、美和のターゲットとなった選手の絶頂シーンを隠し撮りして倶楽部達に流そう………としていたのだが、さすがにこれは犯罪なので却下された。

ただ、試合を盛り上げたい。
それで彼女達は、テレビ局スタッフの振りをして会場に紛れ込み、美和と対局する選手達に対局直前インタビューをしながら………


玉1「これから女子高生ホイホイと名高い的井選手との対戦ですが、どのような対策をされてますでしょうか?」

選手2「いえ、特には…。」

玉2「的井選手は春季個人で全国6位に輝いた強豪選手ですが。」

選手2「はい。胸を借りるつもりで頑張ります。」

玉3「特に私達は何もしてあげられませんが、まあ、これ一つどうぞ。」←チョコを渡した

選手2「あ、有難うございます。」


彼女達は、選手達に媚薬入りのチョコレートを食べさせて対局室に行かせた。





団体戦は、木曜日に一回戦、金曜日に二回戦と三回戦、土曜日に準々決勝戦と準決勝戦、日曜日に決勝戦が行われた。
昨年は一回戦のみ一校勝ち抜けで、二回戦からは二校勝ち抜けであった。しかし、今年はルールが変わり、一回戦から準決勝戦まで二校勝ち抜けで行われた。
これは、大会運営側のエロジジイ達が、美和の能力に期待しての措置であった(副将の美和まで必ず回るように)。
また、点数引継ぎ制ではなく100000点持ちの星取り戦で、決勝戦以外は先鋒から大将まで各半荘1回ずつ、決勝戦のみ各半荘2回ずつとなる。
開催地は熊谷。

綺亜羅高校は、春季大会では全国3位に輝いたが、昨年の夏の大会には不参加であった。そのため、シード獲得にはならず、一回戦からの参戦であった。
ちなみに越谷女子高校のシード下に入っていた。

さて、どんな不謹慎な試合が展開されて行ったのだろうか?




続く?


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百四十本場:インターハイ団体戦一回戦終了

 咲達は東京に向けて出発した。

 昨年インターハイ、今年の春季大会の時と同様にバスでの移動だ。パーキングエリアで下車する時は、両端を憧と穏乃、前を美由紀、後をゆいでガードする。

 完璧とも言える布陣であろう。

 

 近畿大会大遅刻の前例に加え、春季大会後に綺亜羅高校に行った時も、いつの間にか美由紀とはぐれて迷子になっていた。

 なので、迷子の件に関してだけは、咲の信用度は、もはや完全にゼロパーセントを切った。はっきり言ってマイナスである。

 

 今年入部した一年生にすら、

「(麻雀は強くなりたいけど、あの全てを超越した方向音痴は人間失格よね?)」

 とまで言われる今日この頃であった。

 

 

 阿知賀女子学院一同は、その日の夜にホテルに着いた。

 部屋割りは、春季大会の時と同様。各部屋二人ずつで『穏乃と憧』、『咲とゆい』、『美由紀と百子』に分かれた。

 咲の相手には、しっかり者のゆいを当てた。これも春季大会の時と同じだ。要は下手に外出させないように見張りをつけたと言うことだ。

 晴絵は恭子と同室。

 他の部員達は、まあ、適当に割り振られた。

 

 

 翌日、抽選が行われた。

 昨年インターハイ優勝校の阿知賀女子学院は第一シード。抽選は関係ない。なので、ホテルで抽選会の様子を見ていた。

 まあ、高みの見物である。

 

 昨年インターハイ4位の永水女子高校も第四シードで抽選は関係ない。阿知賀女子学院と同様にホテルで抽選会の様子を見ていた。

 

 昨年インターハイ3位の白糸台高校も第三シードで抽選は関係ない。彼女達は、部室で抽選会の様子を見ていた。

 ちなみに、こっちでは、

「タカミ(尭深)の見物だね!」

 と淡がアホなことを言っていた。

 

 そして、第二シードは、昨年インターハイで準優勝した龍門渕高校に代わって長野県代表となった風越女子高校であった。

 彼女達も、ホテルで抽選会の様子を見守っていた。

 

 

 先ず、会場到着順にクジを引く。

 これで、抽選を引く順番を決めるのだ。

 

 1番クジを取ったのは千里山女子高校。

 二年ぶりに優勝を目指せるメンバーが揃ったと言う。

 当然、目指すは優勝。その意気込みが全面に出ている。

 

 2番くじは臨海女子高校。

 こっちも宮永時代最後の優勝を目指す。

 

 3番クジは有珠山高校、4番くじは姫松高校、5番クジは新道寺女子高校、そして、6番クジは綺亜羅高校であった。

 打倒阿知賀女子学院、打倒宮永咲の想いが強い選手のいる高校が、結構、早くから会場入りしているのが見て分かる。

 

 

 順に抽選クジが引かれて行く。

 千里山女子高校はAブロック第三試合B。阿知賀女子学院のブロックだ。

 

 臨海女子高校はBブロック第一試合A。永水女子高校のブロック。

 

 有珠山高校はCブロック第一試合D。白糸台高校のブロック。

 

 姫松高校はCブロック第二試合A。白糸台高校のブロック。

 

 新道寺女子高校はAブロック第一試合C。阿知賀女子学院のブロック。

 

 今のところ、Dブロックに超強豪校が入っていない。

 多くの参加校の選手達は、

「(超強豪校同士で潰し合えばイイ!)」

 と思っていたし、

「(これならDブロックに入れば準決勝戦まで行くのは比較的容易だし!)」

 とか考えていた。

 

 続いてクジを引くのは綺亜羅高校。

 当然、参加校の選手達は、

「(AブロックかBブロックかCブロックに行って!)」

 と強く願っていた。

 春季大会の活躍を見て、綺亜羅高校は阿知賀女子学院、白糸台高校と同様、絶対に当たりたくない高校の一つだ。

 

 本来であれば、部長の美和がクジを引くのだが、今日は女の子の日で体調が優れず、代わりに敬子が壇上に上がり、クジを引いた。

 そして、アナウンスされたのは、

「Dブロック第一試合A!」

「「「「「「「えぇぇぇ!」」」」」」」

 やはり、皆の期待を大きく裏切る。

 さすが空気の読めない星に生まれた美少女だ。

 

 しかし、この様子を家で横になりながらテレビで見ていた美和は、

「ナイス敬子!」

 と喜んでいた。

 これなら早期に超強豪校と潰し合いをしなくて済みそうだ。

 他に気になるのは粕渕高校だけだが、別にDブロックに来られても、石見神楽以外は問題ない。

 あとは、せいぜい直感娘の坂根理沙が足掻きを見せてくれるくらいだろう。

 

 

 次々にトーナメント表が埋まり、最終的には以下のとおりになった。

 Aブロック第一試合:圓城高校(北神奈川)、万石浦高校(宮城)、新道寺女子高校(福岡)、由布院女子高校(大分)の対決。

 

 Aブロック第二試合:硯島高校(山梨)、大生院女子高校(愛媛)、劔谷高校(兵庫)、倉賀野高校(群馬)の対決。

 

 Aブロック第三試合:鹿老渡高校(広島)、千里山女子高校(北大阪)、鬼籠野高校(徳島)、根獅子女子高校(長崎)の対決

 

 Bブロック第一試合:臨海女子高校(東東京)、天童大附属高校(山形)、小針西高校(新潟)、讃甘高校(岡山)の対決。

 

 Bブロック第二試合:和巴玻高校(西愛知)、射水総合高校(富山)、州原高校(栃木)、具鷲高校高校(山口)の対決。

 

 Bブロック第三試合:宇座池第三高校(岩手)、三瀬商業高校(宮崎)、手耶総合高校(茨城)、廊旺高校(京都)の対決。

 

 Cブロック第一試合:蛇能高校(鳥取)、知須中央高校(石川)、慈緒学園高校(熊本)、有珠山高校(南北海道)の対決。

 

 Cブロック第二試合:姫松高校(南大阪)、知古丹高校(北北海道)、晋打段高校(福島)、不尼比高校(高知)の対決。

 

 Cブロック第三試合:枯手地商業高校(千葉)、湖端商業高校(滋賀)、新田女子高校(岐阜)、不倒高校(三重)の対決。

 

 Dブロック第一試合:綺亜羅高校(埼玉)、穂亜高校(青森)、華場莉高校(香川)、貴瑠間高校(佐賀)の対決。

 

 Dブロック第二試合:和深高校(和歌山)、折渡第二高校(秋田)、蘭場台高校(南神奈川)、由比女学院(静岡)の対決。

 

 Dブロック第三試合:粕渕高校(島根)、甲ヶ崎商業高校(福井)、津具高校(東愛知)、真嘉比高校(沖縄)の対決。

 

 何だか、変な名前の高校が増えた気がする。

 

 

 翌日、会場隣の体育館で開会式が行われた。

 昨年のインターハイ優勝校は阿知賀女子学院。部長の憧が優勝旗を変換する。

 この優勝旗をかけて52校の戦いが今から始まる。

 

 

 開会式の後、一回戦が開始された。これが大会最初の試合となる。

 大会初日は、午前中にAブロックの一回戦三試合が、午後にBブロックの一回戦三試合が並行して執り行われた。

 一回戦は、先鋒戦から大将戦まで、各半荘一回の対局で、二回戦に進出できるのは各試合で一校だけである。この日で、いきなり18校が姿を消すことになる。

 

 

 Aブロック第一試合は、強豪校と呼ばれる新道寺女子高校(福岡)が先鋒から中堅まで三連勝を果たし、余裕の一回戦突破となった。

 新道寺女子高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が友清朱里(3年生:部長でエース)。

 次鋒が加藤ミカ(2年生:室橋裕子の同期で、煌を追って長野から新道寺に進学)。

 中堅が安河内香枝(1年生:安河内美子の妹:手を高めずに和了る)。

 副将が江崎愛美(2年生:江崎仁美の妹だが政治に無関心)。

 大将が友清藍里(3年生:友清朱里従姉妹)。

 このメンバーで打倒阿知賀女子学院に挑む。

 

 圓城高校(北神奈川)は話題に上がった高校ではあるが、

 先鋒が竹村真奈美(3年生:逆から読んだら『みなまらむけた』)。

 次鋒が竹村万理華(3年生:逆から読んだら『かりまらむけた』)。

 中堅が臼木蘭子(3年生で部長:英語の時間に『らんこうすき』と呼ばれる)。

 副将が浮気好子(3年生:『浮気好きな子』と呼ばれる)。

 大将が浮気翔子(3年生:『浮気症な子』と呼ばれる)。

 このように選手の名前がウケていただけである。残念ながら、麻雀の実力で騒がれていたわけではない。

 

 万石浦高校(宮城)も話題に上がったが、

 先鋒が鎗田由利(3年生)。

 次鋒が伊勢美香子(3年生)。

 中堅が楠田照代(3年生で部長)。

 副将が唐桑真理恵(3年生)。

 大将が江夏里美(3年生)。

 苗字を順番に並べると『鎗田伊勢楠田唐桑江夏』。

 これが『ヤりたいセッ〇スだから銜えなっ!』

 に聞こえると、一部の某ネット掲示板住民の間で話題(笑い?)になっていたためであり、圓城高校と同様に麻雀の実力で騒がれていたわけではない。

 咲にとっての、嬉し恥ずかしの思い出を作った人達である。

 

 由布院女子高校(大分)のメンバーは、

 先鋒が折原清美(3年生)。

 次鋒が小室晶子(3年生)。

 中堅が千堂真理(3年で部長)。

 副将が清水裕香(3年生)。

 大将が後藤千鶴(3年生)。

 普通なので話題に上がらなかった。

 

 

 Aブロック第二試合も、強豪校の一つ劔谷高校(兵庫)が先鋒から中堅まで三連勝を果たし、一回戦を突破した。

 劔谷高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が森垣友香(3年生でエース)。

 次鋒が竜宮由利(3年生:『たつみやゆり』であって『りゅうぐうゆり』ではない)。

 中堅が安福莉子(3年生で部長)。

 副将が玉木環(2年:苗字も名前も共に『たまき』)。

 大将が緑川緑(2年:上から読んでも下から読んでも『山本山』みたいな名前)。

 新道寺女子高校と同様に、このメンバーで打倒阿知賀女子学院に挑む。

 

 対する硯島高校(山梨)、大生院女子高校(愛媛)、倉賀野高校(群馬)は、可哀想だが特に話題には上がらなかったようだ。

 

 

 Aブロック第三試合もまた、強豪校の一角、千里山女子高校(北大阪)が強豪校の一つ鹿老渡高校(広島)を破り二回戦進出を果たした。

 千里山女子高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が椋真尋(1年生:椋千尋の再従妹で千尋と同様の麻雀を打つ)。

 次鋒が麻川雀(2年生:川を取ったら麻雀だが、別に普通の人)。

 中堅が夢乃マホ(1年生:監督の愛宕雅恵にスカウトされて入学)。

 副将が二条泉(1年生:部長で自称高3最強)。

 大将が浦野瑠子(2年生:一番多く持つ牌が裏ドラになる特性を持つ)。

 

 鹿老渡高校、鬼籠野高校(徳島)、根獅子女子高校(長崎)のメンバー紹介は割愛する。

 

 

 Bブロック第一試合は、超強豪校と呼ばれる臨海女子高校(東東京)が先鋒から中堅まで三連勝を果たし、余裕の一回戦突破となった。

 臨海女子高校のメンバーは以下のとおり。

 監督:アレクサンドラ・ヴィントハイム。

 先鋒がマリー・ダヴァン(3年生:メガン・ダヴァン妹)。

 次鋒が片岡優希(3年生:東風の神と呼ばれ、過去に数回天和を和了っている奇蹟の人)。

 中堅が郝慧宇(3年生:中国からの留学生で、中国麻将で勝負する)。

 副将が南浦数絵(3年生:南場の鬼神と呼ばれ、南場で強くなる)。

 大将がネリー・ヴィルサラーゼ(3年生:エース)。

 この布陣で打倒阿知賀女子学院に挑む。

 

 天童大附属高校(山形)、小針西高校(新潟)、讃甘高校(岡山)のメンバー紹介は割愛する。

 

 

 Bブロック第二試合は、射水総合高校(富山)が辛うじて一回戦を突破した。

 射水総合高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が寺崎弥生(3年生で部長:元エースだが、今は第二エース)。

 次鋒が真下佳苗(2年生:春季の個人戦で恥ずかしい経験有り)。

 中堅が香坂美樹(1年生で新エース:彼女が打つと磁場が狂い他家は吐き気を催す)。

 副将が相浦美代子(2年)。

 大将が和泉梓(3年)。

 

 対する和巴玻高校(西愛知)、州原高校(栃木)、具鷲高校高校(山口)は、『ワハハ』、『スバラ』、『グワシ』で高校名だけ話題に上がったが、それだけだった。

 

 

 Bブロック第三試合は、宇座池第三高校(岩手)、三瀬商業高校(宮崎)、手耶総合高校(茨城)、廊旺高校(京都)の対決。宇座池第三高校が二回戦進出を果たした。

 宇座池第三高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が江本巴(3年生:上から読んでも下から読んでも同じ)。

 次鋒が有明アリア(3年生:同上)。

 中堅が小神谷美香子(3年生で部長:同上)。

 副将が有行由利亜(3年生:同上)。

 大将が狩俣真理香(3年生:同上)。

 

 この試合を見て咲は、

「宇座池第三って、ウザ池田を思い出したよ!」

 と言いながらナメクジでも見るような顔をしていた。

 三瀬商業高校、手耶総合高校、廊旺高校のメンバー紹介は割愛する。

 

 

 大会二日目は、午前中にCブロックの一回戦三試合が、午後にDブロックの一回戦三試合が並行して執り行われた。

 この日も、18校が姿を消すことになる。たった二日で計36校が敗退するのだ。

 

 

 Cブロック第一試合は、有珠山高校(南北海道)が先鋒から中堅まで三連勝を果たし、余裕の一回戦突破となった。

 有珠山高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が吉田礼子(1年生:琴似栄に姉がいた)。

 次鋒が真屋由暉子(3年生でエース:左手に神の力が宿っている)。

 中堅が矢部伊代(1年生で第二エース:彼女の対局では空気が凍ると言われ、ヤバイ娘と呼ばれる。ある意味、冷たい透華を思い起こさせる)。

 副将が頼月英(2年生:中国四川からの留学生で、頭が良いけど抜けている)。

 大将が和代和代(2年生(わしろかずよ):結婚して苗字が変わっても良いように和代と名付けられたらしい)。

 この布陣で打倒白糸台高校、打倒阿知賀女子学院に挑む。

 

 蛇能高校高校(鳥取)、知須中央高校(石川)、慈緒学園高校(熊本)のメンバー紹介は割愛する。

 ちなみに、Bブロック一回戦第三試合の敗退校とCブロック一回戦第一試合の敗退校の名称をあわせると、

 三瀬手耶廊旺蛇能知須慈緒………となる。

 これを見て阿知賀女子学院では、小走やえの妹ゆいが、

「姉みたいですね、これ!」ミセテヤロウオウジャノウチスジヲ

 とウケていたそうだ。

 

 

 Cブロック第二試合は、姫松高校(南大阪)が、Cブロック第三試合は不倒高校(三重)が、それぞれ一回戦を突破した。

 姫松高校のメンバーは以下のとおり。

 監督:赤阪郁乃。

 先鋒が美入麗佳(2年生:女子高生ナンバー4美女)。

 次鋒が美入人美(3年生で部長:女子高生ナンバー3美女)。

 中堅が高山千里(3年生:何故千里山高校に行かなかったのかと言われる)。

 副将が佐藤志保(2年生:砂糖塩と言われる)。

 大将が松田姫子(2年生:名前が姫松なので『エライ!』と言われている)。

 

 また、不倒高校のメンバーは以下のとおり。

 先鋒が小松真子(3年生:上から読んでも下から読んでも同じ)。

 次鋒が江本巴(3年生:同上)。

 中堅が小池景子(3年生:同上)。

 副将が山田麻耶(3年生で部長:同上)。

 大将が小俣真央(3年生:同上)。

 

 なお、Cブロック一回戦第二試合の敗退校、知古丹高校(北北海道)、晋打段高校(熊本)、不尼比高校(高知)と、Cブロック一回戦第三試の敗退校、枯手地商業高校(千葉)、湖端商業高校(福島)、新田奈女子高校(岐阜)の名称を順に並べると、

 知古丹晋打段不尼比枯手地湖端新田………、

 になり、これを見た憧は、

「なにこれ!

『チコタン死んだ! ダンプに轢かれてチコタン死んだ!』

 になってる!」

 と言いながら結構喜んでいたらしい。

 

 

 Dブロック第一試合は、綺亜羅高校(埼玉)が先鋒から中堅まで三連勝を果たし、余裕の一回戦突破となった。

 綺亜羅高校のオーダーは以下のとおり。

 先鋒:鬼島美誇人(3年生:人鬼で『カイ』と呼ばれている)。

 次鋒:稲輪敬子(3年生:美女ランク2位だが、KYな子)。

 中堅:鷲尾静香(3年生:『ワシズ』と呼ばれている)。

 副将:的井美和(3年生で部長:触手に絡まれ『ピー!』になる幻を見せる)。

 大将:竜崎鳴海(3年生:槓すると新ドラが乗り、『リュウ』と呼ばれている)。

 

 敗退したのは、穂亜高校(青森)、華場莉高校(香川)、貴瑠間高校(佐賀)。

 これを見て淡は、

「穂亜華場莉貴瑠間か………。逆から読んだら『まるきりばかあほ』じゃん!(三つ目がとおる参照)」

 と言いながら喜んでいたそうだ。

 

 

 Dブロック第二試合は、蘭場台高校(南神奈川)が二回戦進出を果たした。なお、蘭場台高校は、通称『らんこう』と呼ばれており、メンバーは全員、Hな意味で妖しい雰囲気に包まれている。

 なお、蘭場台高校のメンバーは以下のとおり。

 監督:君島みお

 先鋒:今永さな(3年生:エンドレスでHしそうな感じ)。

 次鋒:鈴村あいり(3年生:同上)。

 中堅:長谷川るい(3年生:同上)。

 副将:若葉奈央(3年生で部長:同上)。

 大将:吉川蓮(3年生:同上)。

 

 和深高校(和歌山)、折渡第二高校(秋田)、由比女学院(静岡)は、残念ながら一回戦敗退となった。

 

 

 Dブロック第三試合は、粕渕高校(島根)が勝利。

 粕渕高校のメンバーは以下のとおり。

 監督:本藤悠彗

 先鋒:石見神楽(2年生でエース:霊力が高く、相手の手牌を全て透視したり、死者生霊問わず口寄せしたりできる)。

 次鋒:坂根理沙(2年生:慕の中学麻雀部顧問坂根千沙の娘で直感鋭い。気が利く娘)。

 中堅:春日井真澄(2年生:春日井真深の姪)。

 副将:緒方薫(3年生で部長:亦野誠子従姉妹で男装麗人(美形)。誠子と同様の鳴き麻雀の能力を持つ)。

 大将:石原麻奈(3年生:姫原中先鋒石原依奈の姪)。

 

 甲ヶ崎商業高校(福井)、津具高校(東愛知)、真嘉比高校(沖縄)は、残念ながら一回戦敗退となった。




おまけ


埼玉県大会が開始された。
試合は第一第一シード下。いきなり綺亜羅高校の参戦である。観戦室には、美和の対局見たさに沢山の観戦者達が訪れていた。

綺亜羅高校のオーダーは、
先鋒:鬼島美誇人
次鋒:稲輪敬子
中堅:鷲尾静香
副将:的井美和(部長)
大将:竜崎鳴海

春季大会決勝戦で、敬子がまさかのお手つき。
その悪夢を二度と起こさないように敬子を大将から次鋒に変えた………と一般には思われていたが、実はジャンケンで決めたオーダーだった。
春季大会個人戦では、出場を辞退した敬子以外は、全員がベスト16に入る強豪ぞろい。しかも、敬子は今、このメンバーの中で一番強い。
正直、誰を何処に配置しても、超魔物との対戦で無い限り、全員が勝ち星を取れる実力者である。
そんな穴の無いチームだからこそ、ジャンケンでオーダーを決めても問題ないのだろう。


一回戦の相手は、浦和暁女学院、与野名南高校、長瀞総合高校の三校。

先鋒戦は、
美誇人「御無礼。貴女のトビで終了です。」

次鋒戦は、
敬子「ロン! 36000!」
アナウンサー「長瀞総合のトビで終了だぁー!」


これで二回戦進出が決まった。
そして、中堅戦も、


静香「ワタシの①。ツモ。16000オール!」
アナウンサー「今度は浦女のトビで終了だぁー!」


これで綺亜羅高校の1位抜けが決まった。
しかし、2位以下の順位も決めなければならない。それで、副将戦以降も続けられることになった。


ここで、県営放送(テレビ埼玉)の視聴率が90%を越えると言う珍事が起こった。
テレビに映るのは、春季大会でその名を全国に轟かせた女子高生ホイホイ、的井美和。
昨年秋季大会に続いて、今大会では、どれだけの多くの女子高生を骨抜きにするかが大きな話題(わらい?)となっていた。
そして、女子高生麻雀大会史上、もっとも下品な県大会へと突入する。


東一局、美和の親。

美和「ロン!」

浦女副将「はぅ♡!」←美和ワールドで触手プレイ中

美和「18000!」

浦女副将「…。」←我に返って自己嫌悪


東一局一本場。

美和「ロン!」

与野副将「あぁん♡!」←美和ワールドで触手プレイ中

美和「18300!」

与野副将「…。」←我に返って自己嫌悪


東一局二本場。

美和「ロン!」

長瀞副将「うあぁぁ♡!」←美和ワールドで触手プレイ中

美和「18600!」

長瀞副将「…。」←我に返って自己嫌悪


美和以外の選手が座る椅子が、どんどん濡れて大変なことになっている。
対局室が異様なニオイで充満している。
男性スタッフは何故か前屈みになっている。
そのような中で、スタッフに紛れ込んで会場に侵入した玉子倶楽部のメンバーは、各選手の表情や椅子の辺りを隠し撮り………したかったのだが、それは許してもらえないことなので一生懸命目に焼き付けていた。


普通に県営放送を見ていた人達は、某掲示板で、
『ス・バ・ラ・で・す!』
『100巡先までこんな未来が見えるで!』
『すごくヤバイッス! もう、多少の刺激じゃ興奮できないッス!』
『イってナンボ、イってナンボですわ!』
『エニグマティックだじぇい』
『姫子に参加させたら面白か!』
『ところで、こいつらは何で恥ずかしそうな顔をしているのだ?』←衣
『お子チャマは寝てなさい』←智紀
『衣は子供じゃなーい!』
結構賑わっていたようだ。


大会初日は一回戦のみの開催で、二回戦は大会二日目になる。
美和の対局が終わると同時に、埼玉県大会の視聴率は2%を切ったらしい。
ちなみに副将戦も大将戦も綺亜羅高校が勝ち星をあげ、星五で余裕の二回戦進出となった。


そして翌日。
二回戦は越谷女子高校、綺亜羅高校、浦和暁女学院、草加栄高校の試合。
ここでも、


美誇人「御無礼。貴女のトビで終了です。」


敬子「ロン! 36000!」
アナウンサー「浦女のトビで終了だぁー!」


静香「ロン。96000!」
アナウンサー「今度は草加栄のトビで終了だぁー!」


中堅戦までで綺亜羅高校の1位勝ち抜けが決まった。
そして、副将戦。
越谷女子高校からは水村史織が参戦。秋季大会の悪夢が甦る。

あの時、越谷女子高校は二回戦から決勝戦まで綺亜羅高校と計五試合戦った。そして、関東大会でも越谷女子高校は準決勝で綺亜羅高校と対戦し、そこで敗北した。

不運にも、史織は狙ったかのように全試合で美和と当たった。
そして、秋季大会が、

『臭気大会だったね!』

と言われる最低の大会になったのだ。
あの時の記憶を消去したい!

が、しかし、今回も、


美和「ロン!」


ついつい、史織は美和に振り込んでしまった。
一回あの快楽を知ってしまうと、自分の意思とは無関係に、身体が勝手に美和に振り込んでしまうと言う。

史織の脳内で派手に触手プレイが展開される。
巨大な触手が一瞬にして史織の身体を捕らえ、あっと言う間に史織の制服は消化液で溶かされた。
すでに全裸。
しかも、触手が強い力で史織の手足を引っ張り、史織の胸と股間は露わになった。
沢山の粘液付の触手が、執拗に胸や股間を弄り回される。
気持ち悪い触手の動きが妙に気持ちイイ。
脳内で何回もイクスイッチが入る史織。
その脳内体感時間は一時間にも及ぶ。
当然、脳みそはHな意味で爆発し続けていた。


現実世界では、


史織「いやーん♡!」

美和「12000!」

史織「…。」←ふと我に返り、自己嫌悪に陥る史織


本大会でも、史織は、こんなことを何回も繰り返すことになった。

そして、副将戦も大将戦も綺亜羅高校が勝ち星をあげ、越谷女子高校は得失点差で2位となり三回戦へとコマを進めるのだった。




続く


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百四十一本場:塵も積もれば

 インターハイ大会三日目。

 この日、観戦室は早朝から満席になった。

 春季大会では準優勝となったが、やはり今でも阿知賀女子学院が優勝候補筆頭と言われている。その阿知賀女子学院が登場するのだ。

 阿知賀女子学院のオーダーは以下のとおりである。

 先鋒:新子憧(3年生:部長)。

 次鋒:宮永咲(3年生:日本女子高生最強)。

 中堅:小走ゆい(2年生で副部長:小走やえ妹)。

 副将:宇野沢美由紀(2年生:宇野沢栞妹)。

 大将:高鴨穏乃(3年生:第二エース)。

 

 

 今日はAブロック二回戦とBブロック二回戦が平行して行われる。なお、二回戦からは先鋒から大将まで各半荘二回勝負となる。

 

 Aブロック二回戦は、第一シードの阿知賀女子学院、新道寺女子高校、劔谷高校、千里山女子高校の対戦、Bブロック二回戦は、臨海女子高校、射水総合高校、宇座池第三高校、第四シードの永水女子高校の対戦である。

 

 

 対局室に先鋒選手が姿を現した。

 Aブロック二回戦、先鋒戦は阿知賀女子学院の新子憧、新道寺女子高校の友清朱里、劔谷高校の森垣友香、そして千里山女子高校の椋真尋の戦い。

 ちなみに真尋は、愛宕雅恵監督から、

『千里山の新しい魔物』

 と呼ばれているらしい。

 場決めがされ、起家は憧、南家は友香、西家は朱里、北家は真尋となった。

 

 東一局は、

「ポン!」

 憧が速攻で鳴き、

「ツモ!」

 得意の30符3翻で和了った。

 

 しかし、東一局一本場は、

「リーチでぇー!」

 友香が序盤から先制リーチをかけてきた。

「チー!」

 朱里が鳴いて一発を消したが、

「ツモでぇー! 3100! 6100!」

 それで友香に和了り牌を回す結果となった。しかもハネ満ツモ。

 これで憧は、貴重な親を流された上に、親かぶりの6100点の支払いと、踏んだり蹴ったりとなった。

 

 

 東二局、友香の親。

 ここでは、

「チー!」

 再び憧が速攻で鳴き、

「ツモ! 1000、2000!」

 30符3翻の和了りを決めた。

 この手でも、三回和了ればハネ満と同じになる。もう一回ツモ和了りできれば友香を逆転できる。

 

 

 東三局、朱里の親。

 ここも、

「チー!」

 憧が速攻で鳴き、

「ツモ! 1000、2000!」

 30符3翻の和了りを決めた。

 これで600点差だが、友香を逆転して再び憧がトップに立った。

 

 しかし、これと同時に憧は、不穏な空気の流れを感じた。

 今まで動きを見せなかった真尋が、何かを仕掛けてきそうな、そんな雰囲気だった。

 

 

 東四局、真尋の親。

 憧は晴絵から、

『再従姉の椋千尋と似た麻雀を打つ!』

 と聞かされていた。

 千尋は島根県出身で千里山高校に越境進学し、そこでエースとして活躍した。白築慕世代の有名な選手だ。

 一応、晴絵も白築慕世代の有名選手の一人として挙げられるが、ランクは千尋のほうが上であろう。

 

 真尋は、

「じゃあ、ここで稼がせてもらうね!」

 と言うと明るく笑いながらサイを回した。

 こんなことを1年生に言われて、当然、憧、友香、朱里の3年生三人組は心中穏やかではなかった。

「「「(潰す!)」」」

 三人とも、そう思ったのだが、いざ対局に入ると、何故か、ここぞと言うところでツモが手牌と噛み合わない。

 これは、恐らく選手達よりもモニターで全員の手牌を見ている人達の方が驚かされたであろう。

 真尋が鳴いた時、その直後には他家のナイスツモが潰されているのだ。

 これは、再従姉の千尋と似たような麻雀を展開していると言えるだろう。

 そして、

「ツモ。500オール。」

 真尋はクズ手を和了った。これも千尋とそっくりである。

 

 この和了りを見て、

「「(大きいことを言う割には大したことないね(でぇー)。」」

 友香と朱里は、そう思っていた。これが普通の反応だろう。

 しかし、憧だけは、

「(もし、晴絵の言うとおりだったら、止めないとヤバいんじゃ?)」

 現実を直視していた。

 

 ただ、その後、憧は真尋の連荘を阻止しようと努力するが、スイッチの入った真尋の下家では鳴かせてもらえないし、全然手が進まない。

 結局、東四局一本場は、

「ツモ。600オール。」

 真尋に和了られてしまった。

 

 東四局二本場も、

「ツモ。700オール。」

 

 三本場も、

「ツモ。800オール。」

 真尋にクズ手を和了られた。

 …

 …

 …

 

 

 そして、気が付くと、既に東四局十本場に入っていた。

 ここまで真尋は、クズ手の500オールを和了り続けていた。しかも、ここに芝棒が付く。それで九本場が終わった段階での点数は、

 1位:真尋 121400

 2位:憧 98400

 3位:友香 97800

 4位:朱里 82400

 真尋にかなりのリードを作られていた。

 八連荘がルールとして適用されていなかったのは救いであろう。

 もし適用されていたら、憧達は、既に真尋に二度、八本場と九本場に八連荘による役満をツモ和了りされていることになる。

 

 ルールとしては助かったが、さすがに、これは状況としてマズイ。

 憧は、

「(他家を使ってでも和了らせないと!)」

 連係プレイが出来そうな朱里に、

「ポン!」

 敢えて{白}を鳴かせた。

 これに友香も気付き、

「チー!」

 憧と同様に朱里の手を進ませることに協力した。

 そのお陰もあり、

「ツモ! 500、1000の十本場は、1500、2000です!」

 この局は朱里が和了り、真尋の長い親を終わらせることに成功した。

 

 この様子を見て真尋は、

「(阿知賀の尻の軽そうな人、結構ヤルじゃん!)」

 と思っていた。

 ここで言う『ヤル』は、決してHな意味では無い。飽くまでも、麻雀の巧い下手の話である。

 

 

 南入した。

 南一局は憧の親。

 ここで朱里が、

「ポン!」

 速攻で鳴いた。

 ただ、正しくは敢えて真尋が朱里に鳴かせていた。朱里を使って憧の親を流そうとの魂胆なのだ。

 

 しかも、真尋は、

「チー。」

 敢えて自らが鳴くことで朱里に良いツモを回した。ただ、高い手ではなく、安い手に仕上がるようにツモを誘導した。

 

 朱里は、真尋に使われているとも知らずに、

「ツモ。500、1000。」

 安手で憧の親を流した。

 

 

 南二局も、

「ポン!」

 朱里は真尋から鳴き、前局と同様に、

「ツモ。500、1000。」

 安手を和了らされた。

 これで真尋の目論見どおり、技巧派の憧の親と、パワーのある友香の親が簡単に流されることになった。

 

 

 南三局は、

「チー!」

 今度は、真尋は憧に鳴かせた。

 憧の麻雀は30符3翻が主体である。

 稀に満貫になることもあるが、今の点差を考えれば、憧に少し大きい手を一回和了られたところでトップが覆ることは無い。

 それで、真尋はわざと憧に鳴かせて手を進ませた。

 ここでも、真尋の目論見どおり、

「ツモ! 1000、2000!」

 憧が和了って朱里の親を流した。

 

 

 オーラス、真尋の親。

 ここで真尋は、

「ポン!」

 他家が親の時とは打って変わって早和了りに出てきた。

 そして、

「ツモ。500オール。」

 あっさりと和了りを決めた。

 

 これで、各選手の点数と順位は、

 1位:真尋 118900

 2位:憧 98900

 3位:友香 92700

 4位:朱里 88900

 真尋のトップである。

 

 普通なら、ここでラス親は和了り止めを宣言するだろう。

 しかし、

「一本場!」

 真尋は連荘を宣言した。

 

 ここから、東場と同様の展開に突入する。

 オーラス一本場、

「ツモ! 600オール!」

 

 オーラス二本場、

「ツモ! 700オール!」

 

 オーラス三本場、

「ツモ! 800オール」

 他を寄せ付けないスピードと、他家に良いツモを回さない鳴きで、真尋の怒涛の和了りが続いた。

 …

 …

 …

 

 

 そして、そのまま連荘が続き、いつしか、

「ツモ! 1300オール!」

 真尋は八本場での和了りを決めていた。

 

 これで、各選手の点数と順位は、

 1位:真尋 141700

 2位:憧 91300

 3位:友香 85700

 4位:朱里 81300

 既に真尋は140000点を越える特大リードを作っていた。

 

「九本場!」

 さらに真尋の連荘は続く。

 

 さすがに、これ以上、真尋に和了られてはマズイ。

 憧は、

「(仕方がない。)」

 東場の時と同様に朱里を使うことにした。

「(多分、この辺よね。)」

 朱里が狙えるのは、多分、役牌のみの和了り。それで、憧は敢えて朱里が数回ツモってから朱里の自風である{北}を捨てた。

「ポン!」

 幸運にも、憧が{北}を捨てたのは、朱里が{北}を対子にした直後だった。それで、朱里は真尋のスピードに追いついて行こうと{北}を一鳴きした。

 その後も、

「チー!」

 朱里は友香の援護も受け、

「ツモ。500、1000の九本場は、1400、1900!」

 なんとか安手を和了って真尋の親を蹴ることに成功した。

 

 その結果、先鋒前半戦での各選手の最終的な点数と順位は、以下のとおりとなった。

 1位:真尋 139800

 2位:憧 89900

 3位:朱里 86000

 4位:友香 84300

 

 

 これで、一旦休憩に入った。

 

 休憩と言っても、トイレ休憩みたいなモノで十分な時間がもらえるわけではない。それで憧は、急いで控室に戻った。指示を仰ぐためだ。

 

 憧は、控室に入るなり、

「晴絵! 何か対策は!?」

 と聞いた。

 少なくとも、ここにいる憧は春季大会の時は違う。相手が化物でも勝利を決して諦めたりはしない。

 

 ただ、晴絵も恭子も、特段、アドバイスできることはなかった。

 厳密には、真尋を破る方法はある。真尋以外の三人が組むことだ。

 

 例えば、憧が親の時に30000点、ツモ和了りしたとする。その際に、それを達成できるように友香と朱里も援護する。

 そして、友香が親の時も、憧と朱里で援護して、計30000点をツモ和了りさせる。

 朱里が親の時も同様だ。憧と友香で援護して、計30000点をツモ和了りさせる。

 真尋が親の時は、三人で連携して和了らせずに安手で流す。

 そうすれば、結果的に真尋は、約30000点のマイナスとなり、他の三人は10000点程度のプラスとなる。

 

 点数引継ぎ制であれば、こう言った連携も成立し得る。

 しかし、勝ち星が一人しか得られないルールでは、誰かが何処かで裏切る。

 それこそ、真尋以外が親の時、例えば憧が親の時に、連荘で憧が30000点を稼ぐための連携を友香も朱里もしてくれないだろう。

 同様に、友香が親の時も朱里が親の時も、彼女達の親で稼がせるための連携は成されないだろう。

 なので、実質、アドバイスできることは、真尋が親の時、自分がムリに和了ろうとせずに誰でも良いから連携して和了り、真尋に一切の連荘をさせないことくらいだ。

 

 ただ、それは本来、憧なら分かっていることだ。

 だからこそ、憧は朱里に和了らせたのだ。

 ここで晴絵が改めて憧に言えることは、それを連荘がされてから仕方なしにやるのではなく、真尋の芝棒が積まれる前にやることくらいだろう。

 …

 …

 …

 

 

 休憩が終わり、先鋒選手が再び対局室に姿を現した。

 四人が前半戦に座っていたところに腰を降ろすと、順に場決めの牌が引かれていった。

 後半戦は、起家が真尋、南家が朱里、西家が友香、北家が憧に決まった。

 

 

 東一局、真尋の親。

 ここで憧は、朱里に{南}を鳴かせて、さっさと真尋の親を流させようと考えた。

 もしくは、友香が憧の欲しいところを捨ててくれるようであれば、自分も攻めて行く。

 しかし、朱里は、前半戦での失点分を取り返そうと大きな手を狙っているようだ。鳴こうとせずに門前で仕上げようとしている。

 友香も、失点を避けるため、憧にむやみに鳴かせないようにしている感じだ。

 

 これでは、真尋のスピードに追いついて行けない。

「ポン!」

 最初に鳴いたのは真尋。それも、朱里が捨てた{中}を鳴いた。

 そして、

「ツモ。中のみ、500オール。」

 勢いに乗ったまま、真尋がクズ手だが和了りまで持って行った。

 これは避けなければならなかったことだ。

 第一優先すべきことは、真尋の連荘をさせないことだが、朱里も友香も、それをキチンと理解していない。

 再び、あの忌わしい連荘がスタートしようとしていた。




おまけ


埼玉県大会団体戦は大会二日目。
その日の午後に三回戦が開催された。

綺亜羅高校のオーダーは、
先鋒:鬼島美誇人
次鋒:稲輪敬子
中堅:鷲尾静香
副将:的井美和(部長)
大将:竜崎鳴海

そして、綺亜羅高校の対戦相手は越谷女子高校、栗橋西高校、大宮第一女子高校。
午前中に放送された二回戦副将戦で、一旦、県営放送の視聴率が90%を超えたが、それが終わると視聴率は2%を切った。


三回戦でも、


美誇人「御無礼。貴女のトビで終了です。」

敬子「ロン! 24000!」

静香「ロン。64000!」


綺亜羅高校は怒涛の快進撃。中堅戦までで1位勝ち抜けを決めてしまった。

そして、副将戦に入る。
すると再び視聴率がドンドン上がって90%を突破した。
それだけ美和は女子高生麻雀大会ファンの注目の的なのだ。

やっと、
『いみはまと』
のアナグラムに沿った活躍ができるようになったと言えよう。
ただ、実質的に的は自分ではなく対戦相手だが………。


副将戦が開始された。
ここでも、


美和「ロン!」

史織「いやーん♡!」


史織をはじめ、他家が美和に振り込み捲くった。
もともと美和の捨て牌は読み難い。
素直に打ってみたり、ひっかけをしてみたり、敢えて初心者のような打ち方にしてみたりする。変幻自在なのだ。
それで美和の待ち牌を読み切れずに振ってしまう。

しかも、一度振ってしまうと、美和の待ち牌を読み切れたとしても、本能が意思を抑えて身体が勝手に和了り牌を切ってしまう。
切るはずのない牌を差し込んでしまうのだ。


今、史織は、脳内で沢山の触手に犯されている。
体感時間として約一時間。
それが現実世界では数秒にも満たないのに……。


美和「12000!」

史織「…。」←ふと現実世界に戻り、自己嫌悪に陥る史織


史織だけではなく、他の二人の選手達も思い切り美和ワールドを堪能させられた。

そして、美和の試合が終わると、再び視聴率は2%を切った。やはり、美和の人気………いや、支持率は絶大である。



大会三日目の午前は準々決勝。
綺亜羅高校の対戦相手は越谷女子高校、狭山第一高校、久喜北高校。
言うまでもなく、余裕の勝ち星五で綺亜羅高校は準決勝戦に勝ち登った。
勿論、美和のプレイも絶好調。
対戦相手達は豪快に出し捲くったと言う。


その日の午後には準決勝戦が開催された。
綺亜羅高校の対戦相手は越谷女子高校、春日部中央高校高校、行田商業高校。
ここでも、余裕の勝ち星五で綺亜羅高校は決勝戦に勝ち登った。
当然、美和の相手達は危ない表情を浮かべながら次々と玉砕されていった(Hな意味で)。


そして、大会四日目は朝から決勝戦が開催された。
綺亜羅高校の対戦相手は越谷女子高校、所沢第二高校、大酉高校。
可愛そうに、越谷女子高校は二回戦からここまで、ずっと綺亜羅高校を相手に戦ってきたのだ。
副将の史織は、お陰様でファンが増えたとの話であったが……。

もはや綺亜羅高校は埼玉県では敵無しである。
中堅戦終了段階で既に勝ち星三を取り、綺亜羅高校が余裕で優勝を決めた。

しかし、準優勝から4位までの順位も決めなければならない。
なので副将戦と大将戦も行われた。

しかも、決勝戦は半荘二回の勝負。
美和の相手は、
水村史織(越谷女子高校)
柊かがみ(大酉高校)
戸成皐月(所沢第二高校)

かがみは全国女子高生雀士美少女ランキングで春季ではベスト10入りを果たしている。高顔面偏差値集団と呼ばれる大酉高校のナンバーワン美少女である。
史織も皐月も、クラスで三番目くらいには人気があるレベルの顔。
当然、この三人が美和ワールドに連れて行かれるのを多くのファン達は期待した。

そして、


東一局では

美和「ロン!」

かがみ「ひゃい♡!」

美和「12000!」

かがみ「…。」←我に返って自己嫌悪


東一局一本場も、

美和「ロン!」

史織「いやーん♡!」

美和「18300!」

史織「…。」←我に返って自己嫌悪


東一局二本場も、

美和「ロン!」

皐月「あぁん♡!」

美和「18300!」

皐月「…。」←我に返って自己嫌悪




こんなことが延々と続けられたと言う…。





怜「正直、うちらよりずっと下品やな!」←本気で負けたと思ってる

爽「たしかにね。」←同上

怜「まあ、うちは下品キャラは卒業して上品キャラになっとるけどな。」←大嘘

爽「私もだけどね。」←同上

怜「そう言えば、一つ悲しいお知らせがあるねん。」

爽「そうなんだよね。」

怜「オマケコーナーは、実質これが最終回になるらしいで。」

爽「まあ、本編の補完をしたいとか、何かネタを思い付いた時はヤルかも知れないけど、少なくとも毎回ってことはなくなるみたいだね。」

怜「小蒔100式とかでネタを使うからネタ切れになったって話もあるんやけどな。あれを各話半分に切って、おまけに掲載すれば結構回数が稼げたんとちゃうか? 勿論、慕-Shino-100式とセットでやで!」

爽「まあ、確かにそうだね。」

観客席の慕「(当然、慕100式のオーナーは耕介叔父さんだよね!?)」

爽「それにしても、オマケコーナーも随分続いたね。半分以上は下品だったけど。」

怜「せやな。」

爽「本編の方も、咲が放出させるだけでも下品なのに、的井美和が出てきて一層下品になってきたしね。」

怜「ホンマ、R-15でエエんか疑問やわ。」

爽「そう言うシーンに限って染谷まこの時間軸跳躍が発動しないしね。」

怜「まあ、色々あったけどな…。」




怜・爽「「と言うわけで、今まで有難うございました。これからも本編の方をよろしく御願い致します!(やで!)」」




オマケコーナー
一旦完


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百四十二本場:孤軍奮闘

 インターハイAブロック二回戦先鋒後半戦。

 東一局一本場も、

「ツモ。600オール。」

 真尋が余裕で早和了りを決めた。

 塵も積もれば巨大な山と化す。一回当たりの和了り点は低いが、これが何回も続くと大きな点差に変貌することは、前半戦で十分理解しているはずだ。

 しかし、憧が共闘に持ち込もうとしても、朱里も友香も応じようとしない。二人とも、前半戦のマイナス分を一気に取り返すことしか頭にないからだ。

 それこそ、大きな手を和了って真尋を一発逆転しようとしか考えていない。

 憧は、たった独りで巨大な敵、真尋の連荘を崩しに行かなければならなかった。

 

 しかし、真尋は白築慕時代の有名選手、千里山高校の椋千尋と、ほぼ同じ麻雀を打つ。並大抵の選手では対抗するのは難しい。

 …

 …

 …

 

 その後も真尋は和了り続け、

「ツモ! 500オールの十四本場は1900オール!」

 とうとう、十五本場へと突入することになった。

 

 後半戦での、現段階での選手の点数と順位は、

 1位:真尋 154000

 2位:朱里 82000(席順による)

 3位:友香 82000(席順による)

 4位:憧 82000(席順による)

 前半戦よりもヒドイことになっている。

 真尋の一回あたりの和了りが小さいからと、舐めてかかって一発逆転ばかり狙っているようでは真尋の思う壺である。

 むしろ、ここでは、得失点差対策も含めて真尋の親を安手で良いので流すべきであろう。そうしなければ、真尋との点差は広がる一方だ。

 しかし、そのことに朱里も友香も気付こうとしない。

 

 いや、厳密には気付いていた。

 しかし、彼女達は各校のエースである。エースとしてのプライドがあるのだ。

 先鋒戦で、いきなりエース自らが、得失点差対策に進むわけには行かない。それこそ、チーム全体の志気に影響する。

 

 それに加えて、憧の場合は、自分が負けても次鋒で咲が勝ち星をあげてくれるとの安心感があるが、朱里と友香の場合は、次鋒は捨てるしかない。

 咲を相手に、自分のチームの次鋒が勝てるとは到底思えない。

 なので、是が非でも先鋒は取りたい。

 この立場的な差は大きかった。

 

 

 十五本もの芝棒が積まれるまで、憧は、何回も和了りに向けて動いていた。共闘してくれる者はいないので孤軍奮闘だ。

 しかし、真尋の手のほうが早い。それで、ここまで連荘させてしまった。

 

 ところが、十五本場………ここに来て、ようやく憧に良好な配牌が舞い込んできた。

 決して高い手では無いが、配牌二向聴。

 しかも、第一ツモで運良く一向聴に出来た。

 そして、

「チー!」

 友香から出てきた{三}を憧は躊躇無く鳴き、その数巡後、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ1。1000、2000の十五本場は2500、3500!」

 憧は、念願の後半戦初和了りを決めた。

 これで、非常に長かった真尋の親を流すことが出来た。

 

 

 東二局と東三局は、共に憧が得意の30符3翻をツモ和了りした。

 朱里も友香も高い手を狙っていて手が遅い。そこに憧が早和了りを仕掛けて、さくっと和了った感じだ。

 

 そして、迎えた東四局、憧の親番。

 ここでは真尋が、

「チー!」

「ポン!」

 鳴いて場を乱した。

 正確には、鳴くことで朱里のツモを良くしていた。

 

 現状では、朱里は安手を和了ろうとはしない。しかし、満貫クラスなら喜んで和了るだろうと真尋は考えていた。

 今の点差を考えたら、真尋からすれば満貫一つ和了られたところで怖くは無い。

 それこそ、子に対してなら、

『満貫くらいくれてやる!』

 と思っていたくらいだ。

 この思惑どおり、朱里は、タンピンドラ2の手を聴牌した。出和了りで7700点の手だ。

 

 朱里は、聴牌即でリーチをかけなかった。満貫級の手なので、確実に和了ることを選択したのだ。リーチをかけたら出和了りできる可能性が下がる。

 しかし、聴牌直後のツモ番で、朱里は幸か不幸か和了り牌を掴んできた。

 これは和了るしかない。

「ツモ。2000、4000!」

 多分、ここでも朱里は真尋に使われていたことに気付いていないだろう。

 この和了りで憧は貴重な親番を流されてしまった。

 

 

 南入した。

 真尋のオーラが急激に上がって行くのを憧は感じ取った。

 過去三回の親番で、真尋は、ここまで巨大なオーラを見せていない。いよいよ本気になったと言うことだろう。

 

 南一局は、

「ポン!」

 いきなり一巡目で真尋が{東}を鳴き、

「500オール!」

 その数巡後、あっと言う間に真尋に和了られた。まるで、絶対安全圏で和了る淡のようなスタートダッシュだ。

 

 一本場も、

「600オール!」

 

 二本場も、

「700オール!」

 

 真尋は他を寄せ付けない早和了りで場を進めてゆく。

 …

 …

 …

 

 

 そして、そのまま九本場に突入した。

 前半戦から今まで、真尋は全てツモ和了りしている。しかも、芝棒が無ければ、全て500オールでしかない手だ。

 それなのに、後半戦では南一局八本場が終了した段階で、

 1位:真尋 170800

 2位:憧 86400

 3位:朱里 74500

 4位:友香 66400

 真尋が圧倒的リードを作っていた。

 トータルでは、ここに前半戦の収支も加算される。もはや、真尋を逆転するのは不可能であろう。

 

 九本場に来て、ようやく憧に場を流すチャンスが訪れた。東一局十五本場と同様だ。

 ここで憧は、

「ポン!」

 自風の{北}を鳴き、

「ツモ! 1000、2000の九本場は1900、2900!」

 真尋よりも早く、なんとか憧は和了りに持って行った。

 この憧の和了りと同時に、今まで真尋から放出されていた強大なオーラが消えた。

 

 

 南二局、南三局は、共に憧が30符3翻をツモ和了りした。これも、真尋にとっては想定内である。

 それに、二つ合わせて満貫一回分でしかない。

 なので、真尋としては、

『併せて満貫一個くらいくれてやる!』

 程度でしかなかった。

 

 

 オーラス、憧の親。

 もはや、朱里も友香も、前後半戦トータルで逆転するには、トリプル役満以上を狙うしか方法が無い。

 当然、二人とも、この局では無茶な字牌集めに走った。

 もはや、それくらいしかやれることが無いためだ。

 

 再び、真尋のオーラが強大になって行く。

 今まで、真尋は親でしか和了りを目指さなかった。子の時は、他家を使って場を進めていた。

 しかし、ここに来て、自らの和了りで半荘の決着をつけようと言うのだろうか?

 

「ポン!」

 先手を取ったのは憧だった。先ずは、タンヤオのみで良いから和了ろうとの考えだ。

 しかし、

「ポン!」

 これを追うように真尋も鳴いてきた。

 そして、

「ツモ! 300、500!」

 タッチの差で真尋に和了られた。

 

 これで後半戦の順位と点数は、

 1位:真尋 167000

 2位:憧 100600

 3位:朱里 71200

 4位:友香 61200

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 

 1位:真尋 306800

 2位:憧 190500

 3位:朱里 157200

 4位:友香 145500

 文句無しの真尋の勝利であった。

 これで、先鋒戦の勝ち星は千里山女子高校に決まった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼を終えると、先鋒選手達は対局室を後にした。

 

 

 その頃、阿知賀女子学院控室では、

「では、コーチ。」

「ほな、行こうか?」

 咲が恭子に連れられて対局室に向かって移動を始めたところだった。

 一応、咲は何かの前には必ずトイレに寄る。これは、条件反射である。

 それもあってか、今回は憧と通路で擦れ違うことは無かった。どうやら、憧は咲がトイレに入っている間にトイレの前を通過したようだ。

 

 

 咲が対局室に入った時、既に千里山女子高校次鋒の麻川雀、新道寺女子高校次鋒の加藤ミカ、劔谷高校次鋒の竜宮由利は入室を済ませていた。

 

 本大会、咲は、点数を可能な限り多く取ると誓いを立てていた。春季大会での失態、得失点差による敗退を二度と繰り返さないようにするためだ。

 咲は、いきなり強大なオーラを身に纏った。そして、タコス効果が無い状態で、場決めの{東}を引き当てた。

 他の三人は、この時、人生の中で最大の恐怖を感じたと言う。

 

 

 東一局。

 ここでは、

「ツモ、嶺上開花! 4000オール!」

 

 それ以降も(七十七本場からのコピペで済みません)、

 東一局一本場、「4100オール!」

 東一局二本場、「4200オール!」

 東一局三本場、「ツモ! 嶺上開花ツモドラ1! 60符3翻で3900オールの三本場は4200オール!」

 東一局四本場、「4300オール!」

 東一局五本場、「4400オール!」

 東一局六本場、「4500オール!」

 東一局七本場、「4600オール!」

 東一局八本場、「カン(加槓)! ツモ! 嶺上開花タンヤオ! 30符2翻で1000オールの八本場は1800オール!」

 東一局九本場、「1900オール!」

 東一局十本場、「2000オール!」

 東一局十一本場、「2100オール!」

 東一局十二本場、「カン(西を暗槓)! ツモ! 嶺上開花ツモのみの60符2翻で2100オールの十二本場は3200オール!」

 東一局十三本場、「3300オール!」

 東一局十四本場、「3400オール!」

 東一局十五本場、「3500オール!」

 東一局十六本場、「3600オール!」

 東一局十七本場、「3700オール!」

 東一局十八本場、「3800オール!」

 東一局十九本場、「3900オール!」

 東一局二十本場、「4000オール!」

 東一局二十一本場、「4100オール!」

 東一局二十二本場、「4200オール!」

 東一局二十三本場、「4300オール!」

 東一局二十四本場、「カン! ツモ! 嶺上開花ツモドラドラ6400オール!」

 東一局二十五本場、「6500オール!」

 東一局二十六本場、「大三元字一色四暗刻四槓子! 66600オール!」

 咲は容赦なく和了り続け、66600点事件を引き起こした。

 

 当然、雀もミカも由利も、

「「「プシャ──────!」」」

 堪え切れずに大放出した。

 某ネット掲示板では大賑わいだったことは言うまでも無い。

 

 三十分の清掃時間の後、後半戦が開始された。

 咲は、後半戦でもタコス効果無しに起家を引き当て、

「ツモ! 大四喜字一色四暗刻四槓子! 二十六本場は66600オール!」

 またもや66600点事件を連発した。これで県予選から通算六連続である。

 

 勿論、雀もミカも由利も、

「「「プシャ──────!」」」

 前半戦と同様に派手にやらかしてくれた。

 某ネット掲示板ではお祭り騒ぎだったと言う。

 

 これで、次鋒戦では咲が余裕の勝ち星を決め、千里山女子高校と阿知賀女子学院が共に勝ち星一となった。

 

 

 ここで、再び清掃タイムが入った。

 そして三十分後に試合再開の電話が各校控室に入った。

 

 これを受けて、阿知賀女子学院控室では、

「行って来ます!」

 気の入った顔で、ゆいが対局室へと向かった。

 

 ゆいが対局室に入った時、新道寺女子高校中堅の安河内香枝、劔谷高校中堅の安福莉子は既に入室を済ませていた。

 そして、少しして、

「済みません! 今、到着しました!」

 息を切らせながら千里山女子高校中堅の夢乃マホが対局室に入ってきた。

 どうやら、途中でトイレに立ち寄り、その後、トイレから出て反対方向に行ってしまったらしい。

 このドジっ子属性の女の子が、愛宕監督からは、

『魔物候補生』

 と呼ばれている。

 コピー能力を持つ少女だが、不運にも良い指導者に恵まれず、今までムダな時間を過ごしてきた。これから千里山女性高校で指導を受けて魔物へと進化して行くであろう。それで『候補生』なのだ。

 

 場決めがされ、起家がマホ、南家がゆい、西家が香枝、北家が莉子に決まった。

 そして、東一局、いきなり、

「これは多牌だぁー! 千里山女子高校中堅夢乃マホ、痛いミス!」

 アナウンサー福与恒子の声が観戦室にこだました。

 一日一回、必ずチョンボをするマホのお約束である。

 

 今大会のルールでは、チョンボは満貫払いとなるが、芝棒を増やさずに親のやり直しになる。

 これは、チョンボを親流れにすると、例えば断然トップの選手がオーラスでわざとチョンボして自身のトップで対局を強制終了することが考えられるためである。

 ここでは、そう言った戦略を避けるのを目的に、チョンボは飽くまでも親のやり直しにしてあった。

 

 再び東一局。

 配牌直後、

「リーチ!」

 マホがダブルリーチをかけた。しかも、もの凄い量のオーラがマホの全身から放たれている。

 他家三人は、字牌切りで様子見。一先ず一発振り込みは無かった。

 しかし、

「ツモ! 16000オールです!」

 ダブルリーチ一発ツモタンヤオ平和三色同順表ドラ1赤牌2裏ドラ2(アタマ)。まさかの数え役満だ。

 他の選手の能力をコピーするマホならではである。これは、優希のコピーだ。それも、昨年のコクマで優希が咲、小蒔、憩を相手見せた第一弾の和了りだ。

 これでマホは、最初のチョンボによる満貫払いの分どころか、大量の利子をつけて三人から点棒を取り返したことになる。

 とんでもない高利貸しだ。

 

 東一局一本場。サイの目は8。

 ここでは、ゆいが先行した。

「リーチ!」

 ゆいも憧と同様、春季大会とは違って勝利に飢えているし、勝ちを絶対に諦めない。

 ここでは、マホとの勝負に出たのだ。

 

 マホのことは咲から聞いている。

 まさか、能力コピーなんてものが存在するとは思いも寄らなかったが、さっきの数え役満が優希の能力コピーであると言われれば多少は納得できる。

 それに、一昨日に千里山女子高校と同じブロックになったと分かった時から、ゆいはマホの過去の牌譜を色々とチェックした。

 たしかに、優希は勿論、咲、和、数絵、小蒔、霞、初美、淡、衣など、多くの女性選手と同じ打ち方を披露している。

 ただ、咲から得た情報では、一つの能力は一日一回しか使えない。

 それが他家からすれば、せめてもの救いだろう。

 

「ツモ! 2100、4100!」

 リーチ即ではなかったが、ゆいが満貫ツモ和了りを決めた。

 そして迎えた親番。

 ここで、ゆいはマホを逆転すべく、大量得点を目指して気合いを入れて、スタートボタンを押した。



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百四十三本場:王者妹vsコピーマシーン

 インターハイAブロック二回戦中堅前半戦。

 東二局、ゆいの親。

 ここでは、マホからは誰かのコピーになりきった雰囲気を全然感じ取れなかった。

 恐らく、全局を通じてコピーを演じるだけの持続力を、まだマホは持ち合わせていないのだろう。

 ここは、ゆいにとってチャンスである。

 

 春季大会で優勝を逃して以来、ゆいは、自分の打ち方を磨いた。

 特に能力者と言うわけではないので、一般論に従い、より完成度の高いデジタル打ちを目指し、マスターしていったのだ。

 今、ゆいは、和顔負けのデジタル打ちを披露している。

 そして、高い牌効率で逸早く聴牌し、

「ツモ! 4000オール!」

 親満を和了った。

 

 しかし、東二局一本場では、

「ツモ。800、1400。」

 ゆいの親は、安手で香枝に流された。

 ただ、

『何故ここで、こんな手で?』

 と思う。

 勝利は二の次で、失点を最小限に抑えることしか考えていないのだろうか?

 さすがに、ゆいとしても疑問が残る。

 

 

 続く東三局。

 ここで、ゆいはマホから異常な雰囲気を感じ取った。

 マホの捨て牌は、字牌と索子しかない。

 これは、萬子か筒子に染めているのだろうか?

 いや、違う!

 

 ゆいの手には索子が無い。なので、ゆいの捨て牌は字牌と萬子と筒子で、一見、索子に染めているように見える。

 香枝と莉子の捨て牌にも索子だけがない。

 これと同じような出来事を、ゆいは二年前にインターハイのテレビ中継で見ていた。あれは、咲と恭子が同卓していた対局だ。

 その時、とんでもない打ち方を披露したのは、非常に胸の大きな巫女。

「(まさかとは思うけど、これって、もしかして!?………。)」

 ゆいが、そう心の中で呟いた直後だった。

「ツモ!」

 マホが和了りを宣言して手牌を開いた。

 そこにあるのは索子だけ。

「ツモメンチン赤1で、4000、8000です!」

 これは、石戸霞が邪神を降ろした時の麻雀だ。

 霞と違ってマホは胸で牌を倒すことは無かった………と言うか、それだけの胸をマホは持ち合わせていないが………。

 

 もしかしてマホは、一昨年の脅威の麻雀(胸囲の麻雀ではない)を沢山インプットしているのだろうか?

 あの年の3年生には沢山の能力者がいた。

 その多くパターンを、もしマホがコピーのレパートリーとして持っていたら、とんでもない強敵である。

 ゆいの顔に、冷や汗が流れ出た。

 

 

 東四局、莉子の親。

 ここでは、

「ツモ。2600オール。」

 先ず莉子が和了った。

 そして、連荘。

 ただ、東四局一本場は、序盤から、

「ポン!」

 マホが莉子の捨てた{北}を一鳴きした。マホの自風である。

 そして、次巡、

「ポン!」

 今度は香枝が捨てた{東}をマホが鳴いた。

 急に、卓全体に不穏な空気が広がって行く。これと同時に、ゆいは再びマホから異常な雰囲気を感じ取った。

 そして、その五巡後、

「ツモ! 8100、16100ですよー!」

 マホが和了った。役満だ。

 しかもマホの口調がいつもと変わっている。

 

 開かれた手牌を見て、ゆいはマホが誰をコピーしたかを理解した。

 小四喜。

 そう言えば、今、マホは北家。

 これは、薄墨初美の麻雀だ!

 

 丁度、これで南入する。

 現時点での各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 172800

 2位:ゆい 92200

 3位:香枝 70200

 4位:莉子 64800

 マホの圧倒的リードで南場へと折り返すことになった。

 

 

 南一局、マホの親。

 突然、激しい風が卓上に吹き荒れた。

 しかも、非常に暖かい。これは南風だ。

 言うまでも無い。ここでマホが演じるのは南場の鬼神、南浦数絵の麻雀だ。

 

 さすが数絵の支配力。ゆいも香枝も莉子も初っ端の三巡は不要な字牌ツモの連続で、全然手が進まなかった。これも良くある話だ。

 そのような中で、マホは、たった四巡で聴牌し、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 鳴いて一発を消したいが、鳴ける牌が出てきてくれない。

 そして、次巡、

「ツモ! 6000オールです!」

 まるで和了り牌が吸い寄せられるようにマホの手に渡った。リーチ一発ツモ表ドラ1裏ドラ2の、まさしく数絵が得意とする和了り。

 しかし、これでマホも相当体力を消耗したのか、急に彼女の身体から放出されるオーラが萎んで行った。

 

 南一局一本場は、

「ロン! 16300!」

 幸運にも、ゆいはドラと赤牌に恵まれたタンヤオ七対子ドラ5(赤3表2)をマホから直取りできた。

 

 南二局は、ゆいが親ハネをツモ和了り、南二局一本場は香枝が2000、3900の一本場を和了った。

 南三局は、再びゆいがハネ満をツモ和了りし、続くオーラスでは親の莉子七対子赤1をツモ和了りした。

 

 この段階で、各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 160200

 2位:ゆい 125300

 3位:莉子 57300

 4位:香枝 57200

 ラス親の莉子は、これで和了り止めをできる立場にはない。和了り止めイコール、マホとの100000点以上の差を固定することを意味する

 当然、

「一本場。」

 莉子は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 ここで、ゆいは再び違和感を覚えた。

 ただ、それが何なのか、よく分からない。場の進むリズムと言うか雰囲気と言うか、何かがいつもと違っておかしい気がする。

 

 突然、

「ロン。5200です。」

 誰もいないところから声が聞こえてきた。

 いや、いないわけはない。声が発生源はゆいの上家だ。

 

 直撃を受けたのは香枝。

 気がついたらマホのリーチドラ1に一発で振り込んだのだ。

 この時、香枝はリーチがかかっていたのに気付いていなかった。

 いや、香枝だけではない。ゆいも莉子も、マホの存在を忘れていた。完全に視界から消えていたし、マホの捨て牌も見えていなかった。

 これがマイナスの気配………。

 

 まさに不意打ち。

 これは、東横桃子のステルスだ。

 前半戦最後で、こんなコピーを見せてくるとは………。

 

 これで各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 165400

 2位:ゆい 125300

 3位:莉子 57300

 4位:香枝 52000

 マホの圧勝であった。

 

 

 一旦、休憩に入った。

 ゆいは、呆然としながら控室に向かった。

 最後のマホの和了りは、本当に訳が分からなかった。

 噂には聞いていたが、本当に、咲も和も、あの技………桃子のステルスを破ったのだろうか?

 信じられない。

 

 しかし、信じるも信じないも、和は二年前の長野県大会団体決勝戦で桃子と当たり、後半戦で桃子から直取りしている。

 咲も個人戦で桃子から最終局で鳴いている。

 たしかに二人とも、本家のステルスを打ち破ったことを記録が証明している。

 それを考えると、ゆいは自分の足りなさを痛感するしかなかった。

 

 

 控室に入ると、

「ゴメンなさい………。」

 ゆいは、小さな声で呟くように言った。

 ショックで大きな声が出せなかったのだ。

「マホちゃんが、まさか、あそこまで成長しているとは思わなかったよ。あれじゃ、私だって面食らったかも…。」

 こう言ってくれたのは咲。

 たしかに、あのコピー能力は凄まじい。

 咲ですら相当てこずることが予想される。

 今のゆいには、それが十分納得できる。

 

 ただ、咲は、

『面食らった』

 と言ったが

『負ける』

 とは言っていない。多分、阿知賀最強………いや、この日本の守護神と呼ばれる超化物にはマホに勝つ方法があるのだろう。

 

 しかし、それは咲の能力あっての話である。ゆいとは全然基盤が違う。

 では、どうやったらゆいがマホに勝てるか?

 道筋が見えない。

 誰のコピーが飛び出すか分からない以上、対応の仕方が分からないし、飛び出すコピーが事前に分かっていても、コピー元の能力に対してゆいが対応し切れる保証も無い。

 例えば咲や照のコピーを披露されたら、その局は間違いなくゆいにはお手上げである。

 晴絵からも恭子からも特に大したアドバイスも得られないまま、ゆいは再び対局室に向かうことになった。

 

 

 ゆいが対局室に入ると、既にマホも香枝も莉子も卓に付いて待っていた。ゆいが最後の入室だ。

 場決めがされ、起家は香枝、南家はマホ、西家はゆい、北家は莉子に決まった。

 

 

 東一局、香枝の親。ドラは{南}。

 この時、香枝の配牌は、

 {二五八八⑦⑧⑧22579北東}

 

 マホの配牌は、

 {一四①②②②③⑤39南發中}

 

 ゆいの配牌は、

 {一九⑨⑨⑨14679西西南}

 

 莉子の配牌は、

 {二四六七九④⑥⑨146白發}

 

 これをモニターで見た咲は、

「(えっ!? これって、もしかして!?)」

 思いの他、驚いていた。

 ムリも無い。これは、二年前の長野県大会団体決勝戦オーラスの配牌だ。

 

 ただ、順番が違う。

 あの時の親は加治木ゆみだったが、それがゆいの配牌になっているし、池田華菜の配牌が香枝に、天江衣の配牌が莉子に行っている。

 しかも、衣の配牌だけ一巡進んだ形になっている。

 

 咲の配牌はマホ。

 つまり、この局ではマホは咲をコピーしていた。

 

 そして、七巡目、香枝の手牌は、

 {八八八⑦⑧⑧⑧222579}

 華菜と同一の打ち方はしておらず、四暗刻聴牌には至っていなかった。

 

 マホの手牌は、

 {①①①②②②②③③③③④⑤}

 あの時の咲と全く同じ形になっていた。

 ただ、捨て牌の順番は違っていた。

 

 咲の切り出しは、

 {一93四發中南}

 字牌を最後に捨て、しかもドラの{南}が最後に切られていた。

 

 しかし、マホは、

 {南一9發中3四}

 ドラから切り出し、しかも、ヤオチュウ牌の処理が終わってからチュンチャン牌を捨てていた。

 これだと、咲の時に比べて、多少は染め手の雰囲気を他家が感じ難くなるだろう。

 

 ゆいの手牌は、

 {六七⑨⑨⑨467西西白白白}

 あの時のゆみとは状況が違う。さすがに、国士無双を狙っていなかった。

 

 そして、莉子の手牌は、

 {二二三四[五]六七④[⑤]⑥4[5]6}  ツモ{①}

 まさに{①}を掴まされた状態だった。

 

 ただ、莉子が置かれた状況は、あの時の衣とは全く違う。マホに圧倒的点差を前半戦で付けられて追う立場だ。

 これは、ツモればハネ満の手。

 当然、何も考えずにノーケアーで{①}を切った。

 

 すると、

「カン!」

 これをマホが大明槓した。

 嶺上牌は{④}。あの時の咲の再現だ。

 当然、

「もう一つ、カンです!」

 {②}を暗槓した。嶺上牌は、やはり{④}。

 勿論、ここでも、

「もう一つ、カンです!」

 {③}を暗槓した。嶺上牌は{[⑤]}。完全に咲の逆転劇の再現だ。

 もっとも、今回は東初だし、前半戦はマホの圧勝なので、逆転もヘッタクレもないわけだが………。

「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。32000です!」

 これは、莉子の責任払いになる。

 つまり数え役満への振込みと同義語…。

 一瞬にして莉子の目の前が真っ暗になった。

 

 

 東二局、マホの親。ドラは{③}。

 ここでは、

「ポン!」

 マホが二巡目で、いきなり上家の香枝から{中}を鳴いてきた。

 この時、マホから発散されるオーラを控室にいる咲は感じ取っていた。

 今回のコピーは、この雰囲気からして恐らく光。つまり、前局より最低でも1翻和了り役が高い手を和了ろうとしていると言える。

 

 前局のマホの和了りは数え役満だが、偶然役の嶺上開花と赤牌を除けば11翻。つまり、ここでの狙いは12翻以上となる。

 マホの手が、狙い通りにムダ無く進んでゆく。

 相当な支配力だ。

 たしかに、この面子なら光も、これだけの支配力を余裕で発揮するだろう。

 そして、七巡目、

「ツモ!」

 マホが和了った。

 

 開かれた手は、

 {一一九九東東東白白白}  ポン{横中中中}  ツモ{九}

 ダブ東白中混一色混老対々和三刻のドラ無しで12翻。

 実は、これと全く同じ手を、光は今年の西東京地区大会の団体決勝次鋒戦で和了っていた(ことにしてください)。つまり、マホは、その和了りをコピーしたのだ。

「12000オール!」

 それにしても、とんでもないスタートダッシュである。

 たった二回の和了りで、マホは68000点を叩き出した。

 

 東二局一本場、マホの連荘。

 今度も、マホから放たれるオーラは超化物級だった。

 咲、光と来て、相当マホ自身も体力を消耗しているはずである。

 しかし、それでもマホは和了りを目指して突き進む。

「ギギギ…。」

 ドアを開く音が聞こえてきた。

 そして、マホが牌をツモる時、彼女の腕から竜巻が発生したような幻を、ゆいも香枝も莉子も目の当たりにした。

 次の瞬間、

「ツモ。16100オール!」

 マホは、九連宝燈を和了った。これは照のコピーだ。

 

 ただ、これを和了った直後、マホの顔からは完全に血の気が引いていた。

 一気にマホのオーラが萎んで行く。今まで見せてきた、あの強大なパワーが嘘のようであった。

 やはり、咲、光、照のコピーは相当身体に応えたのだろう。しばらく、マホは能力を使えなさそうだ。

 ゆいは、ようやくチャンスが巡ってきたと確信した。



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百四十四本場:阿知賀の最強オモチvs自称高3最強

 インターハイAブロック二回戦中堅後半戦。

 東二局二本場、マホの親。

 

 この対局を、控室のモニターを通して見ながら、

「マホちゃんのコピーは、恐ろしさと穴が表裏一体ですね。」

 と咲が言葉を漏らした。

 これが、マホの能力に対する、咲の今の感想だった。

 その隣で恭子が、

「うちもそう思うわ。まさか咲や光、元チャンピオンまでコピーするとは思わんかったけどな。」

 と言いながら頷いていた。

 しかし、恭子は、マホのことを咲や光レベルの超魔物とは思っていなかった。

「でも、そこまでコピーできるんは凄いと思うけどな、結局、体力が追いついてへん。多分、ここからは、ゆいに削られるやろ。」

 たしかに休憩時間に、ゆいに明確なアドバイスをしてあげることは出来なかったが、それは、どこで誰の麻雀が飛び出すか分からなかったためである。

 これは晴絵としても同じであった。

 

 それに、後半戦でのマホのスタートダッシュは凄まじい。これが25000点持ちであれば既に東一局で箱割れ終了である。

 加えて前半戦での大量得点。

 マホがコピー能力を使い続けている間は、どう足掻いても、ゆいの力では前後半戦トータルで逆転することは不可能だろう。

 しかし、ガス欠を起こせばマホは単なる三流雀士に成り下がる。そうなれば、ゆいにも一応勝機はあると恭子は踏んでいたようだ。

 

 ただ、咲は恭子とは別の角度からマホのことを考えていた。

「それもありますけど、マホちゃんの凄いところは、私やお姉ちゃんが、その時に置かれていた状況とか立場とかに関係なく模倣できていることなんです。」

「ちょっと、それ、どう言うことか詳しく教えてくれへんか?」

「はい…。」

 咲が恭子に説明し始めた。

 …

 …

 …

 

 咲が感じたマホの能力の恐ろしい点は、コピー元の相手が見せた能力に準備期間が必要であっても、それをマホは省略可能なことである。

 これは、コピーが一局しか使えないことに起因しているのだろうが、例えば照の九連宝燈は、八回のツモ和了りを経て発動するのに対し、マホは、それをせずに、いきなり九連宝燈を和了っている。

 優希の東初数え役満も、それを和了るために麻雀を打つ回数を管理される。しかし、恐らくマホは、それを知らないはず。

 なので特段、優希と違って数え役満を和了るための準備期間を設けていないことが予想される。

 

 一方の、マホの能力の穴とは何か?

 二年前の長野県予選団体決勝後半戦オーラスで咲が和了った数え役満は、相手の点数と待ちを完璧に読める衣にハネ満程度と思わせて{①}を切らせたと言う背景がある。

 しかもオーラスで、且つ60000点以上の差がついていたことも必要である。そうでなければ、恐らくあの場で衣が{①}を切ることは絶対になかっただろう。

 あの局面だからこその数え役満責任払いなのだ。

 

 しかし、今回は、それを前半戦で大量得点した上で、後半戦の東一局で披露している。つまり、あの和了りの本質を知らないで憧れだけでコピーしているのだ。

 もし、相手が衣だったら、今回のように東一局でマホに{①}を大明槓させるなど絶対に有り得ないだろう。衣よりずっと格下の莉子だから成立したに過ぎない。

 

 今後もマホは、沢山のコピーを披露するに違いない。しかし、本質を理解せずに上辺だけのコピーなので、多分、深いところまでは考えていない。

 そこに何らかの落とし穴が生じるはずだ。

 

 二回戦の大将の面子を見る限り、余程のことが無い限り穏乃が負けるとは思えないし、それ以前に魔物不在の副将戦であれば、今の美由紀の力量なら勝ち星を取ってきてくれると咲は思っていた。

 

 もっとも、それ以前に次鋒戦終了時点での各校の総合点数は、

 1位:阿知賀女子学院 1390100

 2位:千里山女子高校 173600

 3位:新道寺女子高校 24000

 4位:劔谷高校 12300

 超圧倒的な阿知賀女子学院のリードである。これで得失点差勝負になれば阿知賀女子学院が負けるはずが無い。

 

 仮に中堅戦でマホに勝ち星を取られ、副将戦と大将戦で、万が一、美由紀と穏乃が二人とも勝ち星を取れなかったとする。

 新道寺女子高校か劔谷高校のいずれかに二連勝されたら阿知賀女子学院は3位敗退となるが、副将戦、大将戦共に千里山女子高校が勝ち星をあげたなら、阿知賀女子学院は2位抜けである。

 また、副将戦と大将戦で阿知賀女子学院が勝ち星を取れず、また千里山女子高校、新道寺女子高校、劔谷高校がいずれも二連勝できなければ、2位は得失点差勝負で決める。そうなれば、あの大差を逆転されない限り阿知賀女子学院は準決勝進出となる。

 

 なので、絶対とは言い切れないが、阿知賀女子学院の準決勝進出は、ほぼ間違いないと判断していた。

 

 

 準決勝は、恐らく永水女子高校、臨海女子高校、千里山女子高校、阿知賀女子学院の女子校対決。

 咲は、そこでマホは罠に落ちると予想していた。

 しかも、罠を仕掛けるのは恐らく明星。

 その罠に嵌って大失点した時に、マホは精神的ショックも加わって、一気に消沈するだろう。

 既に咲は、この段階で、そこまで予想していた。

 

 

 モニターから、

「ロン!」

 ゆいの元気な声が聞こえてきた。

「タンヤオ七対ドラ5! 16600!」

 赤牌3枚と表ドラ2枚を抱えたタンヤオ七対子。この倍満を、ゆいがマホから直取りしたのだ。

 

 

 東三局は、

「ロン! 12000!」

 マホがハネ満を莉子に振り込み、

 東四局も、

「ロン! 12000!」

 同様にマホがハネ満をゆいに振り込んだ。

 

 南入してからも、

「ロン! タンピン三色ドラ2! 12000!」

「ロン! 平和一通ドラ3! 12000!

 マホは二連続でゆいのハネ満直撃を受けた。

 

 これで南二局終了時点での、後半戦の各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 151700

 2位:ゆい 124500

 3位:香枝 71900

 4位:莉子 51900

 前後半戦トータルでの逆転は難しいが、今のマホの状態であれば、後半戦だけなら、ゆいは逆転できるかもしれない。

 そのためにも、この親が勝負。

 ゆいは、そう思っていた。

 

 しかし、南三局は、ゆいが親満を聴牌した直後、

「ロン。8000。」

 マホが香枝に振り込んだ。

 ただ、香枝は、もう親番もないし、マホに前後半戦トータルで170000点以上差をつけられている。今更ここで和了っても逆転もヘッタクレもない状態だ。

 なのに何故和了る?

 一瞬、ゆいは香枝のことを睨みつけた。

 もっともマホが、

『多分、満貫なら負けが決まっている人間でも南三局までなら和了るだろう』

 と踏んで、敢えて香枝に差し込んでいたのだが………。

 勿論、理由は、ゆいに連荘させずにさっさと場を流すためである。このまま場が流れれば前後半戦トータルでのマホの勝利は間違いない。それゆえに流しにかかったのだ。

 

 そして、オーラス。莉子の親番。

 ここに来て、再びマホのオーラが強力になっていった。

 そして、六巡目、

「左手を使います。」

 マホは、こう言うとリーチをかけた。

 莉子、香枝、ゆいは、一先ず現物を落として一発を回避。

 しかし、その次のツモ番で、

「ツモ! リーチ一発ツモタンヤオ七対ドラ4で、4000、8000です!」

 マホは当然の如く、一発でツモ和了りを決めた。説明するまでも無い。これは、真屋由暉子の神の左手である。

 

 これで後半戦の各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 159700

 2位:ゆい 120500

 3位:香枝 75900

 4位:莉子 43900

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:マホ 325100

 2位:ゆい 245800

 3位:香枝 127900

 4位:莉子 101200

 マホの圧勝で、千里山女子高校が二つ目の勝ち星を決めた。

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼を終え、中堅選手達が対局室を後にした。

 

 ゆいは、呆然とした顔をしながら途中でトイレに寄ると、そのまま個室に入り、

「う…うぅ…。」

 人知れず、声を殺して涙を流し始めた。

 

 別に高校に入って負けたことが無いわけでは無い。

 しかし、ゆいは、昨年は負けても相手は年上だったし、対外試合では、同じ一年生には一度も負けたことがなかった。

 加えて今回の県予選でも、団体戦、個人戦共に負け無しだった。

 もっとも、個人戦では同校同士の対決が無かったので、超魔物を相手にすることが無かったからでもあるが………。

 これが、ゆいにとって年上以外を相手にしての高校初黒星であった。

 いくら相手が魔物候補生でも、この負けは悔しくてならなかった。

 

 

 一方、美由紀は、

「行って来ます!」

 気の入った顔で対局室へと向かった。

 ただ、眼光は非常に鋭くなっているのだが、元の顔のつくりが可愛らしいせいか、余り怖い感じはしなかった。

 

 本来であれば、途中でゆいに会うはずだが、ゆいは個室にこもっていた。

 それで擦れ違うことも無かったのだが、美由紀は、それに特段気付かないほど、対局の方に意識が傾いていた。

 

 対局室には、美由紀が一番乗りだった。

 後から、千里山女子高校の二条泉、劔谷高校の玉木環、新道寺女子高校の江崎愛美(江崎仁美妹:政治に無関心)が順に対局室に入ってきた。

 

 この時、泉は、

「私が高3最強や! 絶対勝つ!」

 こう声に出して自分に言い聞かせていた。相手は全員2年生。絶対に負けたくない。

 しかし、この一言が、美由紀の燃える心に油を注いだ。

「(どう考えても高3最強は咲先輩でしょ!)」

 言葉には出さなかったものの、美由紀の表情がさらにきつくなった。

 絶対に、この人には負けない。

 そんな美由紀の心が、顔面に思い切り出ていた。

 

 これをテレビで見ていた綺亜羅高校の鬼島美誇人は、

「あんな表情もカワイイ!」

 美由紀の顔に見惚れていたようだったが……。

 

 

 場決めがされ、起家が美由紀、南家が泉、西家が環、北家が愛美に決まった。

 早速、サイが振られて対局に移る。

 東一局は美由紀の親。

 美由紀は、

「ポン!」

 四巡目で愛美が捨てた{東}を早々と鳴いた。

 その後、美由紀はツモ牌を次々と手の中に入れ、順に{白}、{中}、{二}、{四}と捨てて行った。

 

 十巡目に入った。

 環は、{一三五}の両嵌に{四}をツモり、タンピンドラ2を聴牌した。

「(これは、行くっきゃないよね!)」

 そして、

「リーチ!」

 {横一}切りで勝負に出たが、

「ロン! ダブ東混一混老対同三暗刻。24000!」

 まさかの{一}単騎で美由紀に振り込む結果となった。

 

 東一局一本場も、

「ポン!」

 美由紀は序盤から{白}を鳴き、

「ロン!」

 今度は愛美から和了った。

「18300!」

 しかも親ハネ。これで、美由紀の得点は、一気に140000点を越えた。

 

 東一局二本場は、泉が負けじと、

「ロン! 12600!」

 環からハネ満を和了ったが、東二局では、

「ツモ! 3000、6000!」

 美由紀がハネ満をツモ和了りし、続く東三局、東四局も、

「ロン! 16000!」

「ロン! 12000!」

 美由紀が環から倍満とハネ満を直取りした。

 この時の美由紀は、まるで鬼か何かが乗り移っていたかのようにも見えた。

 春季大会団体準決勝戦でも美由紀は怒涛の連続和了りを見せたが、その時と同様に鬼気迫るものがあったのだ。

 それだけ、この試合に勝って準決勝進出を決めたいと言う気持ちと、泉の高3最強発言に対する怒りが大きかったのだろう。

 ただ、怒りに身を任せていたら自滅する。美由紀は、怒りながらも自分を見失わないように心をコントロールしていた。

 高校2年生でそこまでできるとは、相当精神力の強い娘であろう。

 

 一方の泉も、

「(これが最後のインターハイ。高3のインターハイにかける気持ちは、1年、2年とは違うんや!)」

 過去に見てきた先輩達と同様に、気持ちで他家に負けることは無かった。

 そして、ここから、

「ツモ! 3000、6000!」

「ツモ! 6000オール!」

「ツモ! 4100オール!」

 泉は南一局、南二局、南二局一本場と、ハネ満、親ハネ、親満を立て続けにツモ和了りした。

 

 これで副将前半戦の各選手の点数と順位は、

 1位:美由紀 166200

 2位:泉 148900

 3位:愛美 65600

 4位:環 19300

 美由紀と泉の二強状態となった。

 

 そして、南二局二本場。ここで勝負の分かれ目が来た。

 ドラは{八}。

 ここでも美由紀は、

「ポン!」

 積極的な鳴き麻雀を見せた。

 対する泉は、門前で手を作り上げてゆく。

 そして、八巡目に泉は聴牌。

 

 手牌は、

 {二三四③④⑤⑥⑦23477{

 {②⑤⑧}待ちだ。

 

 しかし、ここではリーチをかけずに高目の{②}を待つ。

 聴牌気配を感じなかったのか、{②}は環からすぐに出てきた。

 これで泉は、

「ロン!」

 和了ったはずだった。

 しかし、

「ロン!」

 同時に美由紀も手牌を開いた。

 

 美由紀の手は、

 {八八八②②⑤[⑤][⑤]⑧⑧}  {8横88}

 {②⑧}待ちで、{⑧}をツモれば三倍満の手だった。

 

「タンヤオ対々ドラ5。16600です!」

 これは、美由紀のアタマハネになる。

 まさかの倍満振り込みで、いよいよ環の点数が危なくなってきた。

 

 そして、運命の南三局。ドラは{西}。

 ここで美由紀は、

「ポン!」

 愛美が捨てた自風の{西}を一鳴きした。これで西ドラ3が確定だ。

 もう、ここは積極的に攻めてゆく。

 環が親なのだ。ここで満貫級の手をツモ和了りすれば、環のトビで終了する。そうすれば、前半戦をトップで折り返せる。

 

 さらに美由紀は、

「チー!」

 愛美から{①}を両面で鳴き、その三巡後に、

「ツモ! 2000、3900!」

 西ドラ3の手をツモ和了りした。

 

 これで副将前半戦の各選手の点数と順位は、

 1位:美由紀 190700

 2位:泉 146900

 3位:愛美 63600

 4位:環 -1200

 まさに、美由紀が圧倒的なパワーを見せた試合であった。

 

 これには、某ネット掲示板でも、

『一大事、一大事ですわ! あの巨乳の2年生が大爆発ですわ!』

『こんな美由紀ちゃんもカワイイ』←美誇人

『和了り方も胸もスゴイ迫力だじぇい! まるでノドちゃんみたいだじぇい!』

『見た目も麻雀も姉の宇野沢プロそっくり』←照

『さすが、阿知賀の最強オモチなのです! オモチが素晴らしいのです!』

『自称高3最強がこうなる未来は見えてたで!』

『高3最強と言うよりも、降参&再教育って感じやなー』←セーラ

『私もそう思いますぅ!』←船Q

 咲の放水誘発事件ほどではないが、それなりに賑わっていたようだ。

 

 

 休憩に入った。

 美由紀は、

「クスッ!」

 泉のほうを見ながら鼻で笑うと、一旦、対局室を出た。

 これは、高3最強発言に対して、

『ふざけたこと言わないでくださいね!』

 と言いたかったのと、泉を怒らせて後半戦での自滅を誘うと言う二つの意味があった。カワイイ顔して結構ヤる時はヤる。

 

 このシーンはテレビには映らなかったのだが………。正直、これは、泉からすれば非常に態度が悪い。完全に挑発行為だ。

 当然、泉はカチンと来ていた。

 しかし、美由紀の挑発には、スタッフも審判も気づいていない感じだ。そうなると、ここで文句をつけたり殴りかかったりすれば、悪者は泉になる。

 それこそ、審判から指導を受けるか、下手をすれば退場を言い渡されるだろう。

 なので、泉は一先ず深呼吸して気持ちを落ち着かせ、対局室を出ると美由紀とは反対方向に歩いていった。



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百四十五本場:罠

援助交際してそうなアニメキャラで、憧は、今年は5位でした。


 美由紀は、トイレ→自販機コースを辿っていた。

 かなりアドレナリンが分泌されていたせいか、彼女は結構、喉が渇いていた。

 つぶつぶドリアンジュースを避け、喉の渇きを促進しそうな御汁粉、飲むモンブラン、飲むフォンダンショコラ等をスルーし、彼女は炭酸系の栄養ドリンクを購入した。

 そして、

「(千里山の副将とは44000点の差をつけているけど、何があるか分からないし、気を引き締めないと…。)」

 そう自分に言い聞かせながら彼女は栄養ドリンクを口にした。

 

 その頃、泉は、

「(阿知賀の最後のアレは、私を自滅させるための挑発。とにかく頭を切り替えないと。私も1年の時は上級生相手に舐めた顔をしていたし、それと同じだから…。)」

 一生懸命心を落ち着かせようとしていた。

 

 既に千里山女子高校は準決勝進出が決まっている。なので、この副将戦は負けても問題ない試合だ。

 それに、前半戦の美由紀の稼ぎを考えると、どう足掻いても新道寺女子高校と劔谷高校のいずれかが副将戦で勝ち星をあげるのはムリだろう。よって、副将戦は泉が勝つか美由紀が勝つかしかない。

 美由紀が勝てば、その時点で千里山女子高校に続いて阿知賀女子学院の準決勝進出が決まる。

 泉が勝った場合、準決勝進出校を決める勝負は大将戦にもつれ込むが、仮に大将戦で新道寺女子高校と劔谷高校のいずれかが勝ち星をあげたとしても、あの咲の超特大レベルの大量得点がある限り得失点差勝負で阿知賀女子学院が負けることは無い。

 もはや準決勝進出は千里山女子高校と阿知賀女子学院に決まったも同然なのだ。

 なので、もし、泉が今回、美由紀に負けても、後でリベンジできれば良い。

 

 それに千里山女子高校の最大の目的は、二回戦で泉が美由紀に勝つことでは無い。優勝することだ。

 真尋とマホの加入で、勝ち星二つを確実なチームにできた。あとは、決勝戦でもう一人が勝ち星を取れば確実に優勝できる。そのための秘密兵器もいる。

 

 咲は、準決勝戦でマホは明星に負けると予想しているが、泉は、そうは思っていない。

 泉からすれば、マホは、咲や光が相手でも勝ち星を取れる可能性のある人材なのだ。

 

 それに泉にとって幸運なことに、優勝候補と呼ばれる阿知賀女子学院、白糸台高校、綺亜羅高校、永水女子高校、そして臨海女子高校の副将選手の中に超魔物はいない。強豪選手はいるが、泉が勝てる見込みはゼロではない。

 ならば、今は決勝戦に備えて勝利の方程式を作り上げておくことが肝心だ。

 その上で、今やるべきことは何か?

 当然、美由紀のウイークポイントを探すことだろう。この試合を捨ててでも、決勝戦で確実に勝てるように…。

 泉は目を閉じて深呼吸したり、自分で両頬を叩いたりして、とにかくさっきの美由紀の挑発を忘れようとした。

 

 

 休憩時間が終わった。

 インターハイAブロック二回戦は、これより副将後半戦が開始される。

 

 副将メンバーが対局室に戻ってきた。そして、場決めがされ、起家は環、南家は泉、西家は愛美、北家は美由紀に決まった。

 

 

 東一局、環の親。ドラは{8}。

 ここでは、落ち着きを取り戻した泉が、美由紀の打ち方を観察しながら手を進めた。

 今回は、非常に調子が良い。手なりに打っているだけなのに、七巡目で、

 {三四[五]③④[⑤]4[5]88中中中}

 泉は、高目倍満の手を聴牌していた。

 

 ここに、親の環が{3}を切ってきた。

 環は到底前後半戦トータルで勝てるとは思っていなかったが、できるだけ高い手に仕上げて和了ろうとの気持ちは十分あった。ただ、これが悪い方に作用したと言えよう。

「ロン!」

 当然、この環の捨て牌を泉は逃さず和了った。

「中三色ドラ5。16000!」

 大きな一撃だ。

 これで、環は一瞬にして意気消沈した。

 

 

 そして、東二局は、

「ロン! 12000!」

 振り込み癖がついてしまっているようだ。環は、美由紀にハネ満を振り込んでしまった。

 

 東三局も、

「ロン! 16000!」

 東四局も、

「ロン! 24000!」

 連続で環は美由紀に振り込んだ。100000点あったはずの点棒が、今では、その三分の一を割っている。32000点しかない。

 

 この間、泉は和了りに向かわずに、ただ、美由紀の打ち方だけを観察していた

 切り出し方とかだけではない。牌の並べる順番も重要だ。とにかく、癖と言う癖を全て洗い出そうと必死だった。

 

 ただ、美由紀に気を回し過ぎていたためだろう。

 東四局一本場では、泉が切った牌で、

「ロン。7700の一本場は8000。」

 愛美に和了られた。

 

 

 南入した。

 南一局、親は再び環。ドラは{⑤}。

 序盤、上家の愛美が捨てた{北}を

「ポン!」

 美由紀が鳴いた。これは美由紀の自風だ。

 その後も、美由紀は順調に手を伸ばした。

 そして、中盤に入り、環が切った{西}で、

「ロン!」

 美由紀が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①⑤[⑤][⑤]西白白白}  ポン{横北北北}  ロン{西}

 

「北白混一対々三暗刻ドラ5。32000です!」

 数え役満である。

 これで、環の点数は丁度0点になった。

 

 南二局でも、美由紀は、

「ポン!」

 鳴くスピードを緩めることは無かった。

 そして、

「ツモ! 3000、6000!」

 早々とハネ満をツモ和了りして副将後半戦をトビ終了させた。

 

 これで副将後半戦の各選手の点数と順位は、

 1位:美由紀 196000

 2位:愛美 105000

 4位:泉 102000

 4位:環 -3000

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:美由紀 386700

 2位:泉 248900

 3位:愛美 168600

 4位:環 -4200

 美由紀の圧勝で阿知賀女子学院が二つ目の勝ち星を手に入れた。

 これで、阿知賀女子学院と千里山女子高校の準決勝進出が決まったため、大将戦は行われずにAブロック二回戦を終了した。

 

 

 同日開催のBブロック二回戦は、臨海女子高校、射水総合高校、宇座池第三高校、永水女子高校の対決。

 先鋒戦は、マリー・ダヴァン(臨海女子高校)、寺崎弥生(射水総合高校)、江本巴(宇座池第三高校)、東横桃子(永水女子高校)の対局。

 序盤でダヴァンと弥生が先行したが、前半戦南場から桃子のステルスが発動し、最終的には桃子がトータル1位を奪い、永水女子高校が勝ち星を取った。

 

 次鋒戦は、片岡優希(臨海女子高校)、真下佳苗(射水総合高校)、有明アリア(宇座池第三高校)、狩宿萌(狩宿巴妹:永水女子高校)の対局。

 東風の神、優希が前半戦後半戦共に東場で咲を思わせるような爆発的な稼ぎを見せ、余裕で優希が勝ち星を取った。

 

 中堅戦は、郝慧宇(臨海女子高校)、香坂美樹(射水総合高校)、小神谷美香子(宇座池第三高校)、石戸明星(永水女子高校)の対局。

 射水総合高校の1年生エース美樹は、磁場を狂わせる能力を持つ。これで、郝も美香子も吐き気を催して麻雀に集中できなかった。

 しかし、修行で鍛えた明星には磁場の狂いは通用せず、判断力が低下した郝や美香子から明星が高打点の手を連続して和了り、勝ち星は明星が勝ち取った。

 

 副将戦は、南浦数絵(臨海女子高校)、相浦美代子(射水総合高校)、有行由利亜(宇座池第三高校)、滝見春(永水女子高校)の対局。

 ここでは、前半戦後半戦共に南場で数絵が快進撃を披露し、臨海女子高校が二つ目の勝ち星をあげた。

 

 これで臨海女子高校と永水女子高校がともに勝ち星二で準決勝に進出し、大将戦は行われずにBブロック二回戦は終了した。

 

 

 翌日、大会四日目はCブロック二回戦とDブロック二回戦が同時開催された。

 Cブロック二回戦は白糸台高校、有珠山高校、姫松高校、不倒高校の対決。

 先鋒戦は、大星淡(白糸台高校)、吉田礼子(有珠山高校)、美入麗佳(姫松高校)、小松真子(不倒高校)の対局。

 淡はダブルリーチを封印し、絶対安全圏のみで勝負。春季大会個人3位の力を見せ付けて余裕で白糸台高校の勝ち星を決めた。

 

 次鋒戦は、宮永光(白糸台高校)、真屋由暉子(有珠山高校)、美入人美(姫松高校)、江本巴(不倒高校)の対局。由暉子の左手の一発が出るが、やはり光が相手では誰も太刀打ちできず、白糸台高校が二つ目の勝ち星を決めた。

 

 中堅戦は、多治比麻里香(白糸台高校)、矢部伊代(有珠山高校)、高山千里(姫松高校)、小池景子(不倒高校)の対局。

 有珠山高校の1年生第二エース、伊代の対局では空気が凍ると言われるほどの冷気が生じる。まるで冷たい透華を思い起こさせる。

 麻里香は温かい飲み物を持って応戦するが、この対局では伊代が勝利し、有珠山高校が一つ目の勝ち星を取った。

 春季大会個人19位の麻里香の敗北は、誰もが目を疑う結果だったようだ。

 

 副将戦は、佐々野みかん(白糸台高校)、頼月英(有珠山高校)、佐藤志保(姫松高校)、山田麻耶(不倒高校)の対局。

 ここでは春季大会個人18位の佐々野みかんが安定した力を見せ、白糸台高校が三つ目の勝ち星を決めた。

 

 大将戦は、原村和(白糸台高校)、和代和代(有珠山高校)、松田姫子(姫松高校)、小俣真央(不倒高校)の対局。

 ここでは春季大会個人7位の和が圧倒的な力を見せつけ、余裕で勝利し、白糸台高校の四つ目の勝ち星を決めた。

 以上の結果から、準決勝には白糸台高校と有珠山高校が進出した。

 

 

 Dブロック二回戦は綺亜羅高校、蘭場台高校、粕渕高校、風越女子高校の対決。

 蘭場台高校の生徒が妙にエロい雰囲気をかもし出していたので、絶世美女軍団白糸台高校の試合よりも視聴率が高かったとの話である。

 先鋒戦は、鬼島美誇人(綺亜羅高校)、今永さな(蘭場台高校)、石見神楽(粕渕高校)、文堂星夏(風越女子高校)の対局。

 神楽には、前半戦の途中まで露子の霊が降臨。途中から節子の霊に切り替わった。これには、さすがの美誇人も対応し切れず神楽の勝利。勝ち星は粕渕高校が取った。

 

 次鋒戦は、稲輪敬子(綺亜羅高校)、鈴村あいり(蘭場台高校)、坂根理沙(粕渕高校)、園田栄子(風越女子高校)の対局。

 直感娘理沙も健闘したが、やはり試合は下馬評どおり綺亜羅高校のエース敬子と昨年の世界大会でドイツチームの代表として活躍した栄子の一騎打ちになった。

 大部分の人達が、ドイツチームのトップファイブの一人だった栄子の勝利を予想していたが、栄子の能力も敬子には通用しない。

 最終的に、この対局では敬子が勝利し、綺亜羅高校が勝ち星を取った。これには、世界中の多くの人達が驚かされたと言う。

 

 中堅戦は、鷲尾静香(綺亜羅高校)、長谷川るい(蘭場台高校)、春日井真澄(粕渕高校)、上埜美佐(竹井久妹:風越女子高校)の対局。

 綺亜羅三銃士の底力を見せて静香が勝利したが、美佐も前後半戦共に静香に三千点差まで迫る闘牌を見せた。

 今後の美佐の活躍に大いに期待されるとの声が大多数だったそうだ。

 

 副将戦は、的井美和(綺亜羅高校)、若葉奈央(蘭場台高校)、緒方薫(粕渕高校)、室橋裕子(通称ムロ:風越女子高校)の対局。

 ちなみに、ムロ以外の三人は各校麻雀部の部長である。

 この対局では、美和が触手プレイの幻を見せて全員を思い切り楽しませてくれた。特に奈央は、咲が各選手に放水させるのとは別の何かを豪快に大放水したのではないかとの噂まで流れたと言う。

 対局は美和が征し、綺亜羅高校が三つ目の勝ち星を取った。

 

 大将戦は、竜崎鳴海(綺亜羅高校)、吉川蓮(蘭場台高校)、石原麻奈(粕渕高校)、児波美奈子(風越女子高校)の対局。

 中堅戦の静香と同様、ここでも鳴海が三銃士の底力を見せて勝利し、綺亜羅高校が四つ目の勝ち星を取った。

 これで、勝ち星四の綺亜羅高校と勝ち星一の粕渕高校が準決勝進出となった。

 

 

 大会五日目。

 朝からABブロックの準決勝戦が開催された。

 阿知賀女子学院、千里山女子高校、臨海女子高校、永水女子高校の試合だ。

 ただ、千里山女子高校次鋒の麻川雀と、永水女子高校次鋒の狩宿萌が体調不良のため補員と交代する旨がアナウンスされていた。

 

 対局室に先鋒選手達が入室してきた。

 阿知賀星学院からは新子憧、千里山女子高校からは椋真尋、臨海女子高校からはマリー・ダヴァン、永水女子高校からは東横桃子が参戦する。

 

 場決めがされ、起家が真尋、南家が桃子、西家がダヴァン、北家が憧に決まった。

 

 

 東一局、真尋の親。

 真尋は、二回戦の親の時と同様に、

「じゃあ、いきなりだけど稼がせてもらうね!」

 と言うと明るい笑顔を見せながらサイを回した。親番が彼女のホームグラウンドなのだろう。彼女のオーラがドンドン強大になって行く。

 そして、

「ツモ。500オール。」

 二回戦と同様、真尋はクズ手を和了った。

 

 ただ、今回の和了りだけではない、その後も、

「600オール!」

「700オール!」

「800オール!」

 …

 …

 …

 

 

 全てが二回戦の再現と言えよう。そのまま30符1翻のツモ和了りのみを連発した。

 そして、八本場に突入した。

 

 ここに来て、真尋は、今まで経験したことの無い違和感を覚えた。しかし、今の自分には、そんなの関係ない!

 彼女は、今までの勢いを落すことなく、ここでも、

「ツモ!」

 基本的に500オール、そこに芝棒が加わり1300オールの和了りを見せた。

 

 この時、真尋が開いた手牌は、

 {四五③④⑤⑧⑧666}  チー{横678}  ツモ{六}

 

 ただ、この和了りは前の巡目で桃子が捨てた{三}を見逃しての和了りであった。

 この手牌を見て、桃子が憧に不敵な笑みを見せた。

 憧は、これが意味することを全て理解していたのだ。

 

 

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 先日の二回戦終了後のことだ。

「咲先輩。ちょっと聞きたいことが…。」

 ホテルに帰る途中で、ゆいが咲に質問した。

「どうかしたの?」

「夢野さんの最後の和了りについてなんです。あれって、噂のステルスじゃないかって思ったんですけど?」

「やっぱり、最後は東横さんのコピーだったんだ。」

「はい。それで、咲先輩は、二年前の長野県大会個人戦で東横さんのステルスを破ったって聞いてますけど、どうやったんですか?」

「あれね。大したことはやってないよ。」

「破ること自体、大したことですよ!」

「本当に大したこと無いってば。卓上を本物の麻雀じゃなくて、ネットとかの麻雀ゲームに見立てて、頭の中で全てをデジタル化してみただけだってば。」

「へっ?」

 これには、ゆいも唖然としていた。

 咲のことだから、もっととんでもない何かをやっていると思っていた。それこそ、人間業では無い特殊な何かだ。

 それが、頭の中で麻雀ゲームを仮想するだけとは………。

「そんなことでですか?」

「そう。だから大したこと無いんだって。そうそう、明後日は憧ちゃんが本家ステルスと対戦するよね?」

「そ…そうね。」

「そこで実際に試してみてよ、破れるかどうか。破れれば、きっと永水………ううん、多分、千里山にとって最悪な展開になると思うから…。」

 

 

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 憧は、五本場の途中で違和感を覚えていた。既に、その段階で憧は、桃子の姿も捨て牌も見失っていたのだ。

 それで、咲に言われたとおり全てをネットゲームに見立てて頭の中で麻雀ゲームを想像してみた。

 半信半疑だったが、これで嘘のように先ず桃子の捨て牌を………、そして、それに付随するかのように桃子の姿までも捉えられるようになった。

 

 この時、桃子もまた、

「(千里山の一年は、私の姿が見えてないっス。でも、阿知賀の先鋒は、リンシャンさんから私を捉える方法を教えてもらっているみたいっスね。だったら、一旦、ここは共闘っスよ!)」

 全てを理解していた。

 そして同時に、憧と組むことで真尋を罠に嵌めることが出来ると踏んでいた。

 

 東一局九本場がスタートした。

 現在の点数と順位は、

 1位:真尋 124300

 2位:桃子 91900(順位は席順による)

 3位:ダヴァン 91900(順位は席順による)

 4位:憧 91900(順位は席順による)

 真尋の点数は、親満二連続ツモした時と全く同じで8100点ずつ他家から奪った状態である。まさに、塵も積もれば山となる。

 

 ここでも、

「チー!」

 真尋は鳴いて手を進める。憧が捨てた{3}を鳴いて{横345}と副露した。どうやら、これで真尋は聴牌したようだ。

 次のツモ番は桃子。

 ここで桃子は、

「(円光さん。頼んだっス!)」←心の中の声とは言え何気にヒドイ

 憧の方を見ながら{②}を捨てた。

 

 ダヴァンも真尋の聴牌気配を感じていた。それで、一旦、字牌を落として様子を見た。

 次は憧のツモ番。

 ここで憧は、出来面子を崩して、敢えて{②}を切った。桃子のリクエストは、恐らく桃子の捨て牌に併せ打ちすること。

 すると、

「ロン! 1500の九本場は4200!」

 この{②}で真尋が和了った。しかも、余裕たっぷりの表情をしていた。

 しかし、この直後、

「イイんすか? それ、同巡見逃しっスよ!」

 真尋は、自分の右側………誰もいないところから声が聞こえてきて驚いた。

 いや、誰もいないはずは無い。そこには自分の下家がいるはずだ。

 ここに来て、ようやく真尋は違和感の正体に気が付いた。下家の姿も捨て牌も全てが視覚から外れていたのだ。

 

 普通、ステルスは前半戦の東一局では発動しない。

 しかし、真尋の連荘が仇となった。既に連荘無しなら半荘一回を終了しているだけの局数を打っていた。ステルス発動条件を十分クリアしていたのだ。

 桃子に指摘されて、ようやく桃子の捨て牌が見えてきた。たしかに同巡で桃子は{②}を捨てていた。

 これは、真尋のチョンボになる。親なので4000オールの支払いだ。

 直前まで見せていた余裕の表情が、一瞬にして真尋の顔から消えた。



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百四十六本場:千里山女子高校と永水女子高校の真エース

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 真尋は、

「(これが本家のステルス………。マホが見せてくれた時は、自分でツモ和了りすれば良いから怖くないって思ったけど………。でも、二度目は無い。阿知賀も私と同じように永水の姿が見えていないはずだから………。)」

 ショックを受けていたが、これは偶然の産物と思っていた。

 気を切り替えて、真尋は再びサイを回した。

 

 チョンボの場合は、親流れも芝棒の追加も無く、チョンボした者が満貫払いして全てをやり直すルールになっていた。

 なので、ここでは九本場のやり直しとなる。

 

「ポン!」

 真尋は、ダヴァンから{中}を鳴き、中盤に入る前に聴牌。

 待ちは{258}。

 ここで前局と同様に桃子が{8}を切ってきた。しかし、真尋にはこれが見えていなかった。

 そして、同巡に憧が{8}を切った。

 すかさず、それで、

「ロン!」

 真尋が和了った。

 しかし、

「それ、また同巡見逃しっスよ!」

 さっきと似たような台詞が誰もいない右側から聞こえてきた。そして、この言葉を聞いた後に、下家の捨て牌が見えてきた。たしかに同巡で{8}を捨てている。

 二連続チョンボだ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:真尋 100300

 2位:桃子 99900(順位は席順による)

 3位:ダヴァン 99900(順位は席順による)

 4位:憧 99900(順位は席順による)

 今まで稼いで来た殆ど全てを、真尋は、この二回のチョンボで吐き出してしまった。

 このショックは大きい。

 さすがの真尋も、もう和了るのが怖くなってしまった。

 

 再び東一局九本場のやり直しである。

 場の空気が変わった。強大な真尋の支配力が消えてしまったのだ。精神的ショックからである。

 しかし、真尋自身は、それに気付いていないようだ。ここでも今までどおり和了を目指してクズ手を作って行く。

 そして、不要牌を捨てたその時、

「イイんすか? それ、一発っスよ!」

 またもや真尋の右側から不気味な声が聞こえてきた。何も見えないところからの声だ。

 少しずつ、真尋の目に桃子の姿と捨て牌が見えてきた。たしかに、直前にリーチをかけていた。

 桃子の手牌も開かれていた。

 間違いなく一発で振り込んでいた。メンタンピン一発ドラ2のハネ満。ここに九本場分の芝棒が付いて14700点の支払いになる。

 これで、真尋は一気に最下位に転落した。

 

 

 東二局、桃子の親。

 ここでは、

「ポン!」

「チー!」

 憧が得意の鳴き麻雀を披露し、

「ツモ! 1000、2000!」

 そのまま、憧が30符3翻の手をツモ和了りした。ここからは、桃子との共闘は無しだ。どっちが勝ち星を取るかの勝負になる。

 

 東三局も、

「ツモ! 1000、2000!」

 東四局も、

「ツモ! 2000オール!」

 憧が30符3翻の手を連続でツモ和了りし、これで憧が桃子を抜いて首位に立った。

 

 東四局一本場は、憧が先行聴牌したのを察知したダヴァンが、

「リーチデース!」

 デュエルを仕掛けてきた。

 憧は、ムリに勝負せずに降りた。

 そして、数巡後、

「ツモデース! 2100、4100!」

 ダヴァンが満貫をツモ和了りした。

 

 

 南入した。

 南一局、親は再び真尋。

 東一局開始時点と同じように、真尋のオーラが上がってゆく。

 ここでも真尋は、

「チー!」

 今までと同様に鳴いて手を進めてゆく。狙うは500オールのクズ手だが、それを際限なく続ければ逆転は可能だ。

 七巡目に真尋は聴牌。

 これを察知した桃子が、真尋の和了り牌であろう{三}を切った。しかし、これは真尋には見えていない。

 そして、同巡、桃子の姿が捉えられている憧は、桃子に合わせ打ちして{三}を切った。

 真尋は、

「(これでダメだったら、次からはツモ和了りだけに絞る!)」

 三度目の正直になるか、二度あることは三度あるになるかの勝負に出た。

「ロン!」

 しかし、

「それ、また同巡見逃しっスよ!」

 またもや同じパターンだ。やはり、憧は、何らかの形でステルスへの耐性を獲得していると認めるしかない。

 まさか、親で三回もチョンボするとは。

 しばらく立ち直れなさそうだ。

 

 南一局は、やり直しになった。

 真尋のオーラが急激に萎んで行った。やはり、チョンボによる精神的ショックが大きいのだ。もう彼女本来の麻雀は打てないだろう。

 珍しく、親でありながら真尋の手が進まない。

 それでイラつきながら切った牌で、

「イイんすか? それ、ドラっスよ!」

 またもや下家から声が聞こえてきた。

 もうイヤだ。

 今まで多くの打ち手に恐怖を与えてきた真尋が、生まれて初めて牌を切るのが怖くなった。桃子の本家ステルスは、それ程までに驚異的な麻雀なのだ。

 むしろ、その桃子が今まで全国ベスト4どころかベスト8にすら入れていないことが、今の咲達のレベルの高さを証明しているとも言えよう。

「ロン。5200!」

 リーチ一発ドラ1の40符3翻の手。これで桃子が憧を逆転して再びトップとなった。

 

 

 南二局は、

「チー!」

 憧が自分の得意な麻雀を披露し、

「ツモ! 1000、2000!」

 桃子の親を流した。これで憧が桃子を再逆転して首位に立った。まさしくシーソーゲームだ。

 

 

 南三局、ダヴァンの親。

「(円光さんには悪いけど、もう私の独壇場っスよ!)」

 真尋が崩れた今、ここからは他の三人の勝負である。

 しかし、ダヴァンは桃子の姿が捉えられていない。ステルスは、真尋だけではなくダヴァンにも効いていたのだ。

 

 ダヴァンが聴牌した。

「(デュエルをかけようにも、まだ誰も聴牌していないみたいデース。ここは、一旦聴牌にしておきましょう。)」

 先行聴牌者がいれば、ダヴァンは、その者が聴牌していることを察知できる。それが察知できないと言うことは、まだ誰も聴牌していないはず。

 ところが、それで切った牌で、

「ロン。メンピンドラ2の7700っス!」

「えっ!?」

 桃子に和了られた。ダヴァンにしてみれば、まさかの振り込みである。

 どうやら桃子のステルスは、ダヴァンのデュエルのレーダーにも引っかからないようであった。

 

 そして、オーラスも、

「ロン。5200っス!」

 桃子がダヴァンから和了り、前半戦を終了した。

 麻雀は四人でやるゲーム。ムリに憧と真っ向勝負する必要はない。桃子は、他家から和了って憧よりも点を稼げば良いのだ。

 

 先鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:桃子 127600

 2位:憧 117800

 3位:ダヴァン 93300

 4位:真尋 61300

 千里山女子高校にとっては、まさかの大敗であった。相手に咲や光のような超魔物はいない。この敗北は考慮していなかった。

 後半戦で、真尋が立ち直れることを祈るしかない。

 

 

 休憩に入った。

 憧とダヴァンは、それぞれ控室に戻った。

 

「本当にサキの言うとおりだった!」

 控室に入るなり、憧は、ステルスが破れることを真っ先に報告した。まさかとは思っていたが、本当にステルスは破れるのだ。

 ダヴァンはステルス対策ができていないし、真尋は自滅状態。これなら桃子と憧の一騎打ちで勝負が決まる。

 前半戦は桃子に持って行かれたが、前後半戦トータルなら勝ち星を取れる見込みは十分にある。

 自然と憧の志気は上がっていた。

 

 

 桃子は対局室を出て気配を消した。

「(見てるっスか、加治木先輩! 今回こそ雪辱っス。私のために先輩に会えるルートを提供してくれた永水のみんなのためにも。)」

 桃子は、父親の転勤で鹿児島に引っ越した。

 ところが加治木ゆみは、大学進学で都内にいる。

 長野―東京間よりも鹿児島―東京間の方が何倍も距離がある。本来であれば、高校生の桃子が頻繁にゆみに会いに行けるはずが無い。

 しかし、転校先は永水女子高校。

 その麻雀部で霧島神境の姫である小蒔や六女仙達に出会い、様々な空間に繋がっている霧島神境の海の存在を教えられた。

 それは、まさに『どこでもドア』のような空間だった。

 ちなみに、二年前も宮守女子高校のメンバー達は、この『どこでもドア』を使って霧島神境まで行っている。

 

 ゆみとの交流が続けられるのも永水女子高校麻雀部のみんなのお陰である。その恩返しになるかどうか分からないが、今のチームで優勝に貢献したい。

 そう桃子は思っていた。

 

 

 一方、真尋は、ガックリと肩を落として対局室から出て行った。

 こんな負け方は初めてである。

 まさか、チョンボの支払いだけで36000にもなるとは…。完全に自滅である。最後のインターハイに賭ける泉に申し訳ない。

 顔が合わせられない。

 真尋は、控室に戻らずに、落ち込んだ表情で対局室近くのソファーに腰を降ろした。

 

 

 休憩時間が終わり、選手達が対局室に戻ってきた。

 真尋は、まだ表情が優れない。

 つい、この間まで中学生だったのだ。ちょっと休憩を挟んだくらいで頭を完全に切り替えられるほど強い心は持ち合わせていないのだろう。

 

 場決めがされ、起家が桃子、南家が憧、西家がダヴァン、北家が真尋となった。

 今回も真尋の下家に桃子がいる。前半戦と環境は殆ど変わらない。

 

 

 東一局、桃子の親。

 憧としては、この親に稼がせてはならない。

 当然、

「チー!」

 得意の鳴き麻雀で早和了りを目指す。

 ただ、この鳴きを見て真尋は、

「(やっぱり阿知賀にはステルスが効いてない。永水の捨て牌が見えているんだ。)」

 前半戦のチョンボは、桃子と憧がグルになって仕掛けていたものとようやく理解した。

 

 憧が鳴いたことで、一瞬だけだが場の雰囲気が変わった。

 二年前、長野県予選個人戦で咲がオーラスで桃子から鳴いた時、場の空気が変わり、桃子のステルスが消えた。

 今回も、憧の鳴きと同時に一瞬だけステルスが消えた。しかし、すぐに桃子の姿も捨て牌も見えなくなった。ステルスも進化しているのだ。

 

「ツモ! 1000、2000!」

 この局は憧が早和了りを決めて桃子の親を流した。

 後半戦では、前半戦での桃子との点差、9800点を逆転しなくてはならない。

 そのためにも桃子に和了らせず、自分は積極的に和了りに行く。そのスタンスで行かなければならない。

 

 

 東二局、憧の親。

 憧と同様、桃子も自分が和了って憧に稼がせないスタンスで行く。当然、桃子は、この親を流しに行く。

 幸い、ダヴァンも真尋もステルスが効いている。この二人からの出和了りを桃子は余裕で狙えるはずだ。

 とにかく和のように超デジタルの牌効率重視で桃子は手を進めた。

 そして、八巡かかったが聴牌し、

「ロン。7700!」

 桃子は、真尋から平和タンヤオドラ2を和了った。

 

 

 この様子をテレビで見ていた染谷まこが、

「ほぉ。東横さんもやりおるのぉ。」

 と呟いた。

 すると、いつもの如くまこの能力が発動し、時間軸が急に大きく動き出した。

 …

 …

 …

 

 東三局は、憧が1000、2000の早和了りを決めた。そして、東四局も、ステルスが怖くて萎縮している真尋の親を、憧が1000、2000の早和了りでさっさと流した。

 

 南一局は、親の桃子が中一盃口ドラ1の7700を真尋から和了り、南一局一本場は、憧がタンヤオドラ3の2100、4000(2000、3900の一本付け)を和了って桃子の親を蹴った。

 

 南二局で、ようやくダヴァンが聴牌。鳴いて先行聴牌していた憧とのデュエルを狙い、ここでダヴァンがリーチをかけた。

 当然、憧はムリせず降りた。

 この局は、ダヴァンがハネ満をツモり、憧の親は終了した。

 まこの能力が発動して、一気に東三局から南二局までが終了した。

 

 

 この時点で、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:憧 114200

 2位:桃子 104400

 3位:ダヴァン 105900

 4位:真尋 75500

 真尋の一人沈みであった。後半戦は、真尋だけ未だにヤキトリである。これも仕方が無いだろう。

 

 そして、前後半戦のトータルでは、

 1位:桃子 232000(順位は席順による)

 2位:憧 232000(順位は席順による)

 3位:ダヴァン 199200

 4位:真尋 135800

 桃子と憧が同点であった。つまり残る二局でより多く取ったほうの勝ちである。

 当然、桃子も憧も、

「「(先に和了る(っス)!)」」

 自然と気合が入った。

 ちなみに、この点数は偶々である。咲が同卓しているわけではないので意図的に操作されたモノでは無い。

 

 

 南三局、ダヴァンの親。

 早速、

「ポン!」

 憧が鳴いてとにかく早和了りを目指すが、

「ロン。平和のみ。」

 桃子も手が早い。ダヴァンからの出和了り。

 たった1000点の手だが、憧は桃子に先を越されてしまった。

 

 

 そして、オーラス。真尋の親。

 ここでも、

「ポン!」

 憧は鳴いて早和了りを目指すが、やはり鳴いて手を晒す分、他家から和了り牌は出難くなる。

 しかし、ツモれば勝ち。憧は、そう思って手を進めた。

 

 中盤に入った。

 そろそろ桃子の手も出来上がっているだろう。

 憧の顔に焦りが見えてきた。ここで和了れないと桃子に勝ち星を取って行かれる。真尋を潰すために共闘したが、勝ち星の取り合いは別である。

 

 そして、ダヴァンが切った{②}で、

「ロン!」

 憧はタンヤオドラ2の逆転手を和了ったはずだった。これで憧は勝ち星を掴み取ったはずであった。

 ところが、

「済まないっス!」

「えっ?」

「アタマハネっス。平和のみ、1000点。」

 同じ待ちで桃子も聴牌していた。この場合、桃子の和了りのみ成立する。

 

 これで先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:憧 114200

 2位:桃子 106400

 3位:ダヴァン 103900

 4位:真尋 75500

 

 そして、前後半戦のトータルでは、

 1位:桃子 234000

 2位:憧 232000

 3位:ダヴァン 197200

 4位:真尋 135800

 勝ち星は永水女子高校の手に渡った。ギリギリ勝ち星ならずの憧には、非常に悔しい結果となった。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼を済ませると、先鋒選手達は対局室を後にした。

 

 

 これと同じ頃、各校控室からは次鋒選手が対局室に向かって動き出す。

 阿知賀女子学院控室では、

「ほな、行こうか?」

「はい!」

 毎度の如く、咲が恭子に連れられて控室を後にした。

 

 咲は、途中でトイレに寄り、そこから自販機でレモン水を購入して対局室入りした。なので、控室から直行する他の選手達よりも対局室に入るのが少し遅かった。

「ほな、頼むで!」

「はい!」

 恭子と別れ、咲が対局室に足を踏み入れた。

 この時、咲は恐ろしい空気の流れを感じた。例えるなら、光と照と衣を同時に相手にするような雰囲気だ。

 

 先ず、咲の目に入ってきたのは片岡優希。打倒阿知賀女子高校を目指し、この準決勝に合わせて最高状態に仕上げて来ている。

 ところが、その優希が非常に驚いた顔をしている。

「咲ちゃん、こんなの聞いてないじょ!」

 それもそのはずだ。

 その部屋にいた二人目は、咲にそっくりな日系ドイツ人。今年の春から千里山女子高校に来た留学生、フレデリカ・リヒターだった。

「久し振り。今日は咲さんと打てるのを楽しみにしてたんだよ!」

 厳密には、フレデリカは咲のクローンだが、咲もフレデリカも優希も、そのことを知らない。知っているのは極一部の人間だけだ。

 

 そして、もう一人は神代小蒔に似た少女だった。

 ただ、ちょっと小蒔よりも幼い感じがする。

「神代蒔乃と申します。この春、永水女子高校に入学しました。皆さんには、姉の小蒔がお世話になりました。」

 まさか、小蒔の妹が急遽参戦してくるとは………。小蒔に不測の事態があった際には代わりに姫となる、ある意味スペア的な存在である。

 当然、霊力は小蒔と大差ない。言うまでも無く神を降ろせる存在だ。

「今日は、両頭愛染と東風の神と戦えるのを、最強神が楽しみにされていました。では、よろしくお願いします!」

 そう言うと、急に蒔乃の雰囲気が変わった。神が降臨したのだ。

 

 千里山女子高校は咲にフレデリカを当てるため、永水女子高校は咲に蒔乃を当てるため、敢えて真のエースを補員登録し、ここで選手交代してきたのだ。

 北大阪大会も鹿児島大会も強敵がいたはずだ。それでいて、地区大会どころかインターハイ二回戦までエースを温存していたとは………。

 恐らく、どちらも今のチームに相当自信があるのだろう。

 結果として、エース不在でもインターハイ準決勝まで勝ち上がって来ているが、戦う前から確実に勝てると言い切るのは難しい。結構、ハイリスクだ。

 そのリスクを負ってでも打倒阿知賀女子学院を成し遂げたい。それに全てを賭けているのだろう。

 

 フレデリカと蒔乃が出てくることを予め知っていたのなら心の準備が出来るが、対局室に来て、いきなり強敵が二人追加されているとは、咲も寝耳に水の状態だった。

 さすがの咲でも、身体中から冷や汗が流れ出てきた。

 

 

 阿知賀女子学院控室に恭子が戻ってきた。

 この時、恭子は、みんなの表情が妙に固まっているのを見て、

「どうかしたんですか?」

 と聞いた。

 すると、晴絵がモニターを指して、

「フレデリカと神代の妹が出てる…。」

 と震える声で答えた。

 まさかの展開だ。

「えっ?………えぇっ!?」

 これには恭子の顔も、一瞬で蒼褪めた。



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百四十七本場:咲vsクローンvs最強神vs最高状態の東風の神

「こんなの殆ど反則だじぇい!」

 優希は納得できない様子だった。

 一方のフレデリカは、

「でも反則じゃないですよ。それに、神代さんだけじゃなくて、私も本当に楽しみにしてたんですから。咲さんや、最高状態の東風の神との戦いを。」

 と笑顔で言いながらも、眼光からは鋭さが感じられた。

 

 フレデリカの実力は優希も分かっている。

 世界大会で最高神を降ろした小蒔に勝利しているくらいだ。咲と同等のとんでもない化物だと言うことくらい容易に想像がつく。

 ただ、その超実力者とか最強神から対局を楽しみにしていたと言われて優希も嫌な思いはしない。

「それもそうだな。ここでビビってちゃダメだじぇい。やるじょ!」

 そう言いながら、優希は両頬を自分で強く叩いて気合いを入れた。

 この様子を見ながら、咲も元気を分けてもらった気がした。優希のお陰で心が持ち直したと言えよう。

 それに、強い相手と戦えるのだ。これはこれで麻雀を思い切り楽しめるはずだ。むしろラッキーと思おうと、咲は自分に言い聞かせた。

 

 

 まさに女子高生大会の中でも歴史的対局となるであろう、インターハイABブロック準決勝次鋒戦が、いよいよ開始される。

 咲vsフレデリカ。事実上、世界女子高生麻雀の頂上決戦である。

 しかも、残る二人も神代小蒔の妹と最高状態の優希。テレビを見ていた人達は、これは絶対に見るべきと近しい人達に連絡を入れまくった。

 そのお陰で、視聴率は90%以上に跳ね上がったと言う。

 当然、録画もセット。来年の中学受験の入試問題にも出題されるのではないかと予想する者まで現れた(そんなアホな?)。

 完全に社会現象扱いである。

 

 

 場決めがされた。

 起家は東風の神、片岡優希。これで何連続起家だろう?

 これは、これで記録的である。

 

 南家はフレデリカ・リヒター。

 得意の西家を取ることは出来なかったが、別にフレデリカは点数調整をお家芸にしているわけではない。

 

 西家は宮永咲。

 靴下を脱いでスタンバイ。

 今回はどんな闘牌を見せてくれるのか、日本中の彼女の手牌に注目する。

 

 そして、北家は神代蒔乃。

 既に最強神が降臨し、凄まじいオーラを放っている。常人であれば、恐れ多くて逃げ出したくなるレベルであろう。

 

 

 東一局、優希の親。ドラは{三}。

 咲との戦いのために、彼女は今日を最高状態に仕上げている。

 当然、

「ダブルリーチだじぇい!」

 お約束のパターンだ。

 一発を消そうにもどうにもならない。フレデリカも咲も蒔乃も、一先ず字牌切りで様子を見た。

 ただ、それは全くの無意味である。

 何故なら………、

「ツモだじぇい!」

 最高状態の優希は、東初でダブルリーチをかけたら即ツモ和了りするからだ。

 

 開かれた手牌は、

 {四[五]六七八[⑤][⑤]34[5]678  ツモ{三}  ドラ{三}  裏ドラ{⑤}

 

 {⑤}を雀頭にして、萬子と索子の六連続での同じ数字の順子。狙ったわけではなく単なる偶然だが、これは、超ローカル役満の双竜争珠である。

 これを控室のモニターで見ながら、ローカル役満大好きっ子の十曽湧は大興奮していた。

 

 しかも、超ローカル役満なだけではない。ダブルリーチ一発ツモ平和タンヤオドラ7の数え役満だ。

「16000オール!」

 しかし、これは序の口である。

 本対局で、観衆達が優希に期待していたのは、このスタートダッシュの数え役満だけではない。

 今までのインターハイ、春季大会を併せて、優希しか和了れていない幻の役満がある。誰もが、その奇跡をもう一度見たいのだ。

 

 そして、東一局一本場。それが現実と化す。

 配牌が終わると、

「今日もツイてるじぇい。ツモ! 16100オール!」

 天和だ。

 これで通算何度目だろうか?

 しかし、咲もフレデリカも蒔乃も、ここまでは最初から考慮していたようだ。全然動じた様子が無い。

 

 続く東一局二本場。

 ここでも、

「ダブルリーチだじぇい!」

 優希は配牌で聴牌していた。

 

 手牌は、

 {二二三三四四③④[⑤]⑥⑦88}  打{白}

 本当に簡単麻雀である。

 

 一巡目、フレデリカは不要な{北}を切った。

 続く咲が牌をツモると、フレデリカは何気に咲の方を見ていた。

 対する咲も、フレデリカの方を見ながら手牌から不要牌の{中}を切った。

 すると、

「ポン!」

 これをフレデリカが鳴いた。そして{東}切り。

 ツモは再び咲。

 ここでツモった牌を手に入れると、咲は、今度は{白}を切った。

 今回もフレデリカは何気に咲の方を見ているし、咲もフレデリカの方を見ている。まるで、二人で示し合わせているかのようにも見える。

 まあ、二人とも優希に一発ツモで和了らせないようにと、フレデリカは、

『鳴かせて!』

 咲は、

『鳴いて!』

 とお互いに心の中で叫んでいたわけだが………。

 

 この咲が捨てた{白}を、

「ポン!」

 フレデリカが鳴いた。優希の一発消しを見逃しての鳴きだ。ここで{南}切り。

 優希の顔に不安の表情が表れた。

 まさか、{白}と{中}を鳴かれるとは…。

 嫌な単語が優希の頭の中をよぎる。

『大三元!』

 一方の咲は、何食わぬ顔で、そのまま次のツモで手を進めた。

 

 本来、優希が一発目でツモるはずだった牌と、誰かが一発消しでチーした際に優希がツモることになっていた牌は、共に咲の手の中に入っていた。

 ただ、これが何を意味するかを、この時、まだ優希は気付いていなかった。

 

 次は蒔乃のツモ。

 二回の鳴きでツモが狂わされ、蒔乃は一旦不要牌をツモらされたが、最強神が降りてきているのだ。優希の和了り牌くらいは分かる。

 当然、振り込むことは無い。余裕の{⑦}切り。

 

 次のツモ番は優希。

 しかし、優希はツモ和了りできなかった。蒔乃と同様、フレデリカと咲の連携でツモを狂わされたせいだ。

 

 その後、五巡の間は、一切の発声が無いまま、ただ牌をツモる音と切る音だけが対局室に響き渡った。

 しかし、六巡後、優希は{發}を掴まされた。和了り牌か槓材で無い限り、リーチ者は、ツモ牌をそのまま切らなければならない。

 大三元を恐れながら、優希が{發}を、イヤイヤ切った。

 すると、これを、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 ここに来て、とうとう場が大きく動き出した。

「(咲ちゃんのそっくりさんじゃなくて、咲ちゃんのほうだったか!)」

 優希は、場の空気が咲を中心に激しく渦巻いているのを感じ取った。

 一方、咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {②}を暗槓した。ここでめくられた槓ドラ表示牌は{⑤}。これで優希の和了り牌が一気に5枚も潰された。

 この時、優希は、自分に来るはずだったツモ牌を、フレデリカと共同して咲が奪って行った理由に気が付いた。

 優希に和了り牌を一つも回さないためだったのだ。

 

 咲は、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は{⑧}を暗槓した。

 これで優希の和了り牌は{⑤}と{[⑤]}が一枚ずつしか残っていない。三面聴だったのが、一瞬にして薄い待ちに変わってしまった。

 さらに次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は、今度は{西}を暗槓した。これで四つ目の槓が副露された。

 そして、最後の嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 咲が嶺上開花を決めた。これは優希の責任払いになる。

 役は、まさかの四槓子。

 しかも、最後の嶺上牌は{[⑤]}。優希の待ちは11枚全てが完全に潰されていた。

「32600です。」

「じぇじぇー!」

 いきなり天和に続いて四槓子まで出るとは………。

 観戦室で見ている者達の方が興奮して総立ち状態になった。

 

 

 東二局、フレデリカの親。

 ここで爆発的ともいえる強大なオーラを蒔乃が放ってきた。

 恐ろしいほどの支配力だ。東場で絶対的なツキとパワーを誇る優希でさえ、全然手が進まなくなった。

 そして、たった七巡で、

「ツモ。8000、16000。」

 蒔乃………いや、最強神は純正九連宝燈をツモ和了りした。

 まさに役満のオンパレードだ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{②}。

 今度はフレデリカが強大なオーラを放ってきた。

 まるで、

『順番的に今度は私の番よ!』

 とでも言いたげだ。

 対する蒔乃も引き続きオーラ全開のまま、連続での和了を狙う。配牌で萬子が三枚しかないが、それでも目指すは、当然、萬子の九連宝燈。

 

「ポン!」

 三巡目で上家の優希がツモ切りした{北}をフレデリカが鳴いた。自風だ。

 そして、そこから六巡後、蒔乃は一向聴となった。

 不要牌は{南}と{西}。どちらも初牌では無いし、フレデリカは聴牌しているようだが、字牌待ちでは無い。

 当然、余裕の打{西}。

 

 しかし、この{西}を

「ポンだじぇい!」

 優希が鳴いた。こっちも自風だ。

 これでツモが狂い、次に蒔乃がツモったのは{⑥}だった。

 マズイ牌だ。これは、まだ一枚も見えていない。過去に咲との対局で経験した大明槓からの責任払いを思い起こさせる。

 さすがに、この局面でこれは切れない。相手は、咲と咲のクローンなのだ。

 止むを得ず蒔乃は聴牌にとらず、{南}切りで一向聴を維持した。

 

 同巡、フレデリカは牌をツモると、

「カン!」

 {北}を加槓した。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は{②}を暗槓した。

 次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 フレデリカは{④}を暗槓し、三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {⑥⑥⑥東}  暗槓{裏④④裏}  暗槓{裏②②裏}  明槓{横北北北北}  ツモ{東}

 

 北混一色対々和三暗刻三槓子嶺上開花ドラ4。

 余裕の数え役満であった。

 しかも、これはローカル役満の東北自動車道でもある。

 この半荘二度目のローカル役満だ。控室でモニター画面を見ながら、ローカル役満大好きっ子の湧が大騒ぎしていた。余りの興奮のあまり、半分漏らしそうであった。

 

 もし、{⑥}を切っていたら、蒔乃の責任払いとなっていただろう。

 この和了りを見て、蒔乃(神)は、

「さすが、両頭愛染の片割れだ。」

 と、つい言葉にしてしまった。

 すると、これに反応して、

「対局前にも言ってたけど、その両頭愛染ってなんだじょ?」

 優希が蒔乃に聞いてきた。

 咲もフレデリカも優希も、フレデリカが咲のクローンであることを知らない。しかし、それをここでバラすわけにも行かない。

 かと言って、神が嘘をつくわけにも行かない。

 それで、蒔乃(神)は、

「金剛界明王最高位が不動明王、胎臓界明王の最高位が愛染明王。両頭愛染は、その二つを合体させた姿だ。」

 とだけ答えた。

 これを聞いて、優希は、

「なるほどだじぇい! つまり、日本最強の咲ちゃんとドイツ最強の咲ちゃんのそっくりさんを、そう表現したってことだな! 本当に双子にしか見えないじょ!」

 と、勝手に納得してくれた。

 今の優希からすれば、咲を二人同時にしているような感覚だ。二人とも、見た目だけではなく、麻雀そのものも非常に似ている。

 正直、双子にしか思えない。

 それもあってだろう。両頭愛染と言う一つの固体が二つに分離したような感じで、優希は言葉の意味を捉えてくれたようだ。

 

 

 東四局、蒔乃の親。

 ここで優希は配牌三向聴牌だった。

 一巡目で手が進み二向聴牌、二巡目でも手が進み一向聴牌、そして、全くのムダツモなしで、三巡目で聴牌した。

「(ここは、行くしかないじぇい!)」

 優希は、

「リーチ!」

 {⑨}切りで勝負に出た。

 しかし、このリーチ宣言牌で、

「ロン!」

 咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一九①⑨19東南西北白發中}  ロン{⑨}

 

 国士無双十三面待ちだ。

 何十局、何百局と打っていれば、十一種十一牌とか来ることはある。しかし、大抵の場合、そこから国士無双を狙っても、何故かヤオチュウ牌ではなくチュンチャン牌しかこなかったりする。完全にマーフィーの法則が待っていると言って良い。

 しかし、そういった状態からでも必要牌を連続で引ける。それがチャンピオン宮永咲。

「32000です。」

 この巡目で国士無双を聴牌しているとは…。

「じぇじぇー!」

 またしても咲にやられた。

 ただ、『じぇじぇー』であって『ジョジョー』ではない。優希は、咲のオーラに当たっても大放水するような娘ではない。

 

 これで、現在の点数と順位は、

 1位:優希 114700

 2位:咲 109500

 3位:蒔乃 91900

 4位:フレデリカ 83900

 一応、まだ優希がトップである。初回の二連続の親役満は、やはり大きい。

 

 それにしても、これだけ派手な攻防の割に、トップとラスの差が30800点で収まっているのは、ある意味、凄いことであろう。

 一昨年前の団体決勝先鋒戦………宮永照、辻垣内智葉、松実玄、そして優希の対局を思い起こさせる。

 

 

 観戦室では、アナウンサーの福与恒子の興奮した声が大きくこだましていた。

「まさかまさかまさか。数え役満に始まって、天和、四槓子、九連宝燈、数え役満、国士無双と、ここまで六回の和了りは全て役満です!」

 これに対して、解説の小鍛治健夜は、落ち着いた声で対応していた。

「しかも、その二回の数え役満も、一つ目は双竜争珠、二つ目は東北自動車道と、本大会のルールでは認められておりませんが、共にローカル役満です。」

「そうなんだ!」

「しかし、これだけ役満が連発した対局は、これが初めてではないでしょうか?」

「まさに歴史的瞬間ってヤツですね!?」

「そうですね。」

「すこやんが出場していた二十年前はどうだったの?」

「私の時は………。あのね、二十年前じゃなくて十二年前だから。十と二が逆だから!」

 ただ、どんな話題からでも、結局は、いつもの年齢弄りネタに収束するようだ。

 

 

 この頃、光は寮のテレビで咲の対局を見ていた。

 昨年インターハイの個人決勝戦では、プラスマイナスゼロを利用した強制力で咲が優勝を果たした。

 今でも光は良く覚えている。あの時は衣と憩の同時相手で非常に遣り難かった。特に衣の一向聴地獄は和了りに向かう道を完全に閉ざさせる。

 

 今回、咲が相手にしているフレデリカは、衣よりも強い。そして、蒔乃に降りている最強神もとんでもなく強い。恐らく、衣と憩と同卓している時よりも強烈なオーラを受けているに違いない。

 しかし、咲はプラスマイナスゼロの強制力を使っていない。恐らく、能力としては今の卓の相手のほうが強いが、能力の質としては衣や憩ほど遣り難くないのだろう。

 

 

 南入した。

 優希は、

「ちょっと待ってくれだじぇい!」

 そう言うと、椅子を激しく回転させた。これをやることで南場でも東場のようなパワーを取り戻せるようになる場合がある。

 理由は分からないが………。

 勿論、これをやっても効果が全然無いことも多々あるが、今は、やれるだけのことは全てやっておきたい。

「待たせたな。」

 逆回転を終えると、優希はサイを回した。



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百四十八本場:役満ラッシュ

 ABブロック次鋒前半戦南一局、優希の親。

 南場だが、優希の眼光は衰えない。

 これは、逆回転で心に喝を入れたことだけが理由ではない。高校最後のインターハイだ。これまでの3年生と同様、今に賭ける想いが違う。

 

 しかし、それは咲も同じである。

 配牌で{②}、{④}、{⑧}の対子を持ち、結構筒子に偏っていたところ、

「ポン!」

 一回の鳴きと、ツモで毎回筒子を引き続けることで、たった六回目のツモで最短で筒子染め手を聴牌した。

 同巡に蒔乃も萬子の純正九連宝燈を聴牌していたのだが、七巡目、

「カン!」

 ツモ巡は咲の方が先である。

 ここで咲は、

 {②②④④南南南西西西}  ポン{⑧⑧横⑧}  ツモ{西}

 ここから{西}を暗槓したのだ。

 そして、

「ツモ。南西混一対々三暗刻嶺上開花。4000、8000。」

 いつものように華麗なる嶺上開花を見せ、倍満をツモ和了りした。

 この半荘で初めての倍満であるが、これは黒一色と呼ばれるローカル役満である。

 ただ、これが今のところ最低の和了り点なのだから、この半荘の点数基準が恐ろしい。まさに異常であろう。

 これで咲が優希を抜いてトップに立った。

 

 

 東二局、フレデリカの親。

 現在、フレデリカが79900点でラスである。当然、この親で一発カマしたい。

 優希は逆回転したが本調子には戻っていない感じがする。蒔乃も手が遅い雰囲気だ。恐らく配牌で萬子が少なかったのだろう。

 問題の咲も今回は少し手が遅そうだ。

 幸いフレデリカは親である。和了り点は子の1.5倍。当然、起死回生の手を和了るチャンスでもある。

 

 フレデリカの配牌は、

 {二五七13468⑦⑨東北發發}

 

 これが六巡目には、

 {12346789北北發發發}

 一切のムダツモ無しで聴牌に変わる。

 嶺上牌も見えている。{[5]}だ。

 

 次巡、フレデリカは{發}をツモると、

「カン!」

 これを暗槓した。

 そして、嶺上牌を引き、

「ツモ! メンホンツモ嶺上開花發一通赤1。8000オール!」

 そのまま和了った。親倍ツモだ。

 しかもローカル役満の青函連絡船。既にテレビの前では、十曽湧が思い切りはしゃぎまくって踊っていた。

 これでフレデリカが2位に浮上し、蒔乃が79900点でラスに変わった。

 

 南二局一本場、フレデリカの連荘。

 ただ、親のフレデリカにとっては不幸なことに、一方の蒔乃にとってはラッキーなことに、蒔乃の配牌が萬子に偏っていた。

 最高神は、自身の能力に制限をかけている。少なくとも、配牌は操作していない。これは、何回かに一回ある配牌の偏りだ。

 ここから、この手が最短距離で和了り手に変わる。

 

 蒔乃の配牌は、

 {一二四五七八九②⑥79南中}

 

 これが、たった六回のツモで、

 {一一一二三四五六七八九九九}

 純正九連宝燈聴牌に変わる。

 鳴きが入ってツモが狂わされない限り、必要な萬子しか引かないのだから、他家にとっては困った限りだ。

 そして、次巡、

「ツモ。8100、16100。」

 当然の如く役満を和了った。今回は、さすがに誰も止められなかった。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 112200

 2位:咲 109400

 3位:優希 90600

 4位:フレデリカ 87800

 蒔乃が一気にトップに躍り出た。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここで猛追をかけるのはラスのフレデリカだった。

 蒔乃も和了りを目指すが、やはり二回連続で九連宝燈を和了ろうとしても、その強大なパワーには、蒔乃の身体が付いて行けないようだ。

 今回、蒔乃は萬子の清一色狙い。ただ、配牌に萬子が三枚しかないため先は長そうだ。

 

 何故か咲は、親番だが力を出し惜しみしている。

 一方の優希は逆回転の効果が全く出ていない様子だ。

 

 四巡目、

「ポン!」

 蒔乃が捨てた{白}をフレデリカが鳴いた。

 そして、次巡、

「カン!」

 優希が捨てた{中}をフレデリカが大明槓した。

 ただ、ここでは有効牌を引いたのみで和了りにはならなかった。

 

 その五巡後、蒔乃が一向聴。

 しかし、その次巡、

「もいっこ、カン!」

 フレデリカは{白}を加槓すると、

「もいっこ、カン!」

 さらに{一}を暗槓し、続く嶺上牌で、

「ツモ! 白中混一対々三槓子嶺上開花。4000、8000!」

 倍満ツモを決めた。

 開かれた手牌は、

 {①①11}  暗槓{裏一一裏}  明槓{裏中中裏}  明槓{白横白白白}  ツモ{1}

 これもローカル役満の宝玉開花だ。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 108200

 2位:フレデリカ 103800

 3位:咲 101400

 4位:優希 86600

 フレデリカが2位に浮上した。しかも、1位の蒔乃から3位の咲までの点差は6800点。まさに接戦。蒔乃、フレデリカ、咲の誰がトップを取ってもおかしくない状況だ。

 ラスの優希も倍満ツモで逆転できる。当然、優希もトップを諦めていない。

 

 

 オーラス、蒔乃の親。

 ここでは、

「カン!」

 咲が、第一ツモで{西}を暗槓した。

 まさかの初槓だ。ここでは初槓を役として認めていないが、非常に珍しい。

 フレデリカの表情が苦みばしっている。既に、この後の展開が見えているようだ。既に手牌を伏せていた。

 そして、嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 嵌{⑤}待ちのところ、嶺上牌の{[⑤]}を引いて和了った。

 しかも、手牌には{①}の暗刻もあり、70符3翻、つまり満貫となった。

「ツモ嶺上開花赤1。2000、4000です。」

 しかも、これは、超レアなローカル役満、頭槓和でもある。前半戦で六回もローカル役満が出て、既に十曽湧の頭からは何かが飛び出しそうであった。

 

 これで次鋒前半戦は、

 1位:咲 109400

 2位:蒔乃 104200

 3位:フレデリカ 101800

 4位:優希 84600

 咲が1位で折り返した。

 それにしても何と言う強運だろう。最後は、たった一回のツモ巡で、満貫和了りを決めてトップを奪ったのだ。

 

 

 休憩に入った。

 咲が卓から立ち上がったその時、

「サキ──────!!!」

 憧が咲の名前を大声で叫びながら対局室内に駆け込むと、咲にダイブして抱きついた。

 これをテレビで見ていた初瀬は、

「(宮永咲、殺す!)」

 そして、白糸台高校控室のモニターで、これを見ていた和は、

「(憧、それは許しません!)」

 二人共、思い切り殺意を抱いていた。

 咲が京太郎とくっついたのを知ったら、恐らく初瀬は安心するだろう。しかし、和が発狂しそうで心配である。

 

「凄いサキ! この面子でトップだなんて!」

「でも、まだ前半戦が終わったばかりだし、分からないよ。」

 すると、この会話を聞いていた優希が、

「そうだじょ! 次は、親のダブル役満を和了って、みんなを恐怖のどん底に落としてやるじぇい!」

 と明るく言い放つと、

「じゃあ、タコスパワーを補充してくるじょ!」

 一旦、対局室を出て行った。

 

 フレデリカも、

「後半戦は私がいただきます。」

 それだけ言い残すと、対局室を出て行った。

 

 蒔乃(神)は、

「両頭愛染を相手にするには、今の制限では勝てぬかも知れんな。少し制限を変えることとする。後半戦は心してかかるように。」

 それだけ言うと、堂々と対局室を出て行った。

 

 咲も、

「じゃあ、憧ちゃん。一旦、トイレに。」

「分かってるって!」

 迷子対策で、憧と手を繋いで対局室を出て行った。

 このシーンを見て、

「(宮永咲! 絶対に殺す!)」

「(憧! 死んでもらいますよ!)」

 初瀬と和が、さらに怒り狂ったのは言うまでも無い。

 

 対局室から、映像が解説側に切り替えられた。

「それにしても、ムチャクチャ凄い対局だったねぇー。役満が東場で六回、南場で一回の計七回ですよ!」

 観戦室巨大モニター脇のスピーカーからアナウンサー福与恒子の元気な声が響き渡る。

「はい。しかも、そのうち二回は数え役満でしたが、共にローカル役満でもありました。純正九連宝燈も同じ選手が二度和了っています。」

「天和に九連宝燈に四槓子ですからね。」

「出難い役満トップスリーですね。特にその中でも四槓子が出る確率の低さは群を抜いています。」

「それに、三巡目で国士を和了るわ。」

「他には倍満三回と満貫が一回ですね。これらもローカル役満になります。」

「では、ルールによっては役満しか無かったってことですか?」

「一応、そうなります。」

「それにしても、最低点が満貫ですよ。しかも和了りの全部が役満かローカル役満って、こいつら、頭、おかしいんじゃないですかねぇ?」

「ちょっと、それ言い方悪いよ!」

「ゴメンしてね! そう言えば、すこやんは、高3で麻雀を始めたんですよね?」

「はい。」

「この、麻雀人生二十年の中で、何回役満を和了ってきましたか?」

「ちょっと、二十年前じゃなくて十二年前だから! さっきも言ったけど、十と二が逆だから!」

 結局、毎度のネタに落ち着くようだ。

 

 

 それから少しして、先鋒選手達が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家が優希、南家が咲、西家がフレデリカ、北家が蒔乃に決まった。

 

 早速、優希が卓中央のスタートボタンを押し、サイを回した。

 そしてスタートした東一局。

「有言実行だじぇい!」

 優希は、こう言うと手牌を開いた。

 それを見て、その場にいた咲達だけではなく、この対局を見ていた日本中の人達が驚かされた。

 

 開かれた手牌は、

 {223344666888發發}

 天和緑一色。親のダブル役満だ。

「ツモ! 32000オール!」

 前半戦が終わって対局室を出る時に言ったことを、優希は実行したのだ。

 高3のインターハイ準決勝戦。しかも、チャンピオンで親友、且つ二年前の優勝インターハイで優勝を決めた清澄高校の仲間である咲との対局。

 それで優希のパワーが今までの限界を超えて発動したのだろう。

 

 これをテレビで見ていた染谷まこは大興奮だった。

「まさか、ここでワシの好きな役満が出るとはのぉ!」

 一瞬、時空が歪んだ。まこの能力が発動し、時間軸が大きく動こうとしたのだ。

 まさか咲達の最後のインターハイで時間軸の大幅な超光速跳躍が発動するとは………。

 前作では、これで全ての試合をすっ飛ばした。前科者である。

 しかし、

「それはさせぬ!」

 蒔乃に降りた神が、まこの力を抑えた。

 一先ず、時間軸が飛ぶのだけは止められた。

 

 東一局一本場、優希の連荘。

 ここでも優希は、

「リーチ!」

 前半戦の東一局と同様に{横白}切りでダブルリーチをかけた。ただ、優希としても東場での苦い経験があるため、ちょっと嫌な予感はする。

 しかし、今は東場。攻める時は攻める。

 

 一巡目、咲は不要な{東}を切った。

 続くフレデリカが牌をツモると、咲は何気にフレデリカの方を見ていた。

 対するフレデリカも、咲の方を見ながら手牌から不要牌の{中}を切った。

 すると、

「ポン!」

 これを咲が鳴いた。そして{北}切り。

 ツモは再びフレデリカ。

 ここでツモった牌を手に入れると、フレデリカは、今度は{白}を切った。

 今回もフレデリカは何気に咲の方を見ているし、咲もフレデリカの方を見ている。

「ポン!」

 これを咲が鳴いた。優希の一発消しを見逃しての鳴きだ。ここで{南}切り。

 鳴く方と鳴かせる側が入れ替わっただけで、前半戦東一局二本場と基本的に同じパターンだ。

 そして、六巡後、またもや優希は{發}を掴まされた。和了り牌か槓材で無い限り、リーチ者は、ツモ牌をそのまま切らなければならない。

「(これで咲ちゃんのそっくりさんに和了られるのかな? でも、和了れるものなら和了ってみろだじぇい!)」

 優希は、{發}を強打した。

 すると、

「カン!」

 これをフレデリカではなく咲が大明槓した。これは、優希の包(大三元を確定させた責任)になる。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ! 32300!」

 咲は、そのまま大三元を和了った。

 

 

 東二局、咲の親。ドラは{9}。

 ここでオーラが一気に上がってきたのはフレデリカだった。

 彼女の配牌は、

 {二①18東東南西北白白發中}

 九種十一牌である。

 しかし、彼女はこれを流さずに、

「(最短で和了る!)」

 ここから手作りを始めた。

 

 一方の優希の配牌は、

 {①①③③79西北白白發發中}

 第一ツモは{②}。ここから打{西}。

 

 二巡目のツモも{②}。打{北}。

 

 三巡目のツモは{9}。ここで{7}を切って七対子ドラ2を聴牌。しかし、リーチはかけず。

 

 そして、四巡目のツモも{9}。

 ここで{中}を切れば白發のシャボ待ちで、チャンタ役牌一盃口ドラ3のハネ満手。ツモれば倍満だ。

 当然、ここから優希は{中}を強打した。

 しかし、

「ロン。」

 この{中}でフレデリカが和了った。

 

 開かれた手は、

 {東東南南西西北北白白發發中}  ロン{中}

 大七星………七対子型字一色だ。

 これは、純正九連宝燈や国士無双十三面待ち、四暗刻単騎、四槓子、大四喜と同様にダブル役満として扱うルールもある。しかし、ここでは単一役満は全てシングル役満として扱うルールになっている。

「32000!」

 とは言え役満直撃とは……。優希にとっては、まさかの振込みであった。

 

 

 東三局、フレデリカの親。ドラは{東}。

 ここでの蒔乃の配牌は、

 {一一三三六七①⑦259東西}

 

 対する優希の配牌は、

 {二①③1579東東東西北中}

 

 優希の第一ツモは{④}。ここから先に打{二}。

 

 二巡目のツモは{[⑤]}。打{北}。

 

 三巡目のツモは{②}。打{西}。

 

 四巡目のツモは{⑦}。どうやら、ツモが筒子に偏っている。ここから打{中}。

 

 五巡目のツモは{⑥}。ここで、打{1}。

 

 そして、六巡目、優希は{6}をツモった。打{9}で{①④⑦}の三面聴。

 東ドラ4の手だ。

 当然、多面聴にとって打{9}。

 しかし、これで、

「ロン。」

 まさか、萬子以外で蒔乃が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一三三三六六六七七七9}  ロン{9}

 四暗刻だ。立て続けに{一三六六七七}を引いたのだ。蒔乃に降臨した神も休憩に入る時に言った、

『制限を変える』

 を実行したのだ。萬子の染め手以外の和了りだ。

 これには優希も、

「じぇじぇ───!」

 声を出さずには、いられなかった。

 勿論、前半戦と同様、『じぇじぇー』であって『ジョジョー』ではない。

 優希は、この凶悪な三人に囲まれて恐ろしいほどのオーラに曝されても、決して大放水するような娘ではないのだ。

 

 ただ、これで優希は、東一局で和了った親のダブル役満を全て溶かしてしまった。

 現在の次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 101300

 2位:フレデリカ 100000(順位は席順による)

 3位:蒔乃 100000(順位は席順による)

 4位:優希 98700

 完全に振り出しに戻った。

 

 

 そして、東四局、蒔乃の親。

 この時、咲もフレデリカも蒔乃も、優希から、ただならぬ空気を感じ取った。

 高3最後の準決勝で、しかも最後の東場だ。ここでも東一局と同様に、優希の3年生パワーが爆発したのだ。

「ツモ! 地和! 8000、16000!」

 まさかの役満。

 これで、優希が再びトップに返り咲いた。



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百四十九本場:役満コレクション

 ABブロック次鋒後半戦の南一局がスタートした。優希の親。

 ここで、北家の蒔乃が今までに無い行動に出た。

「ポン!」

 優希から自風の{北}を鳴いたのだ。

 そして、数巡後、

「カン!」

 蒔乃は{東}を暗槓した。すると、卓上の空気が奇妙な雰囲気に包まれた。

 この空気を放つ少女を、咲は過去に見た記憶がある。

 これは、悪石の巫女、薄墨初美の打ち方だ。

 全ての牌を見通せる咲とフレデリカは、これが既に止められない状態になっていることを悟っていた。

 その五巡後、

「ツモ。8000、16000。」

 蒔乃が和了った。さすがに、

『ツモですよー』←初美調

 とは言わなかったが…。

 

 開かれた手牌は、

 {②③④南南西西}  暗槓{裏東東裏}  ポン{北北横北}  ツモ{南}

 小四喜であった。

 

 前半戦からここまでに出てきた役満(数え役満、ローカル役満を除く)は、

 天和

 地和

 九連宝燈

 国士無双

 小四喜

 大三元

 四暗刻

 大七星

 緑一色

 四槓子

 の十種類。

 大四喜と小四喜と併せて四喜和として考え、また大七星を字一色の中の一つとして考えれば、あと出ていない役満は一つ。

 それが出て役満がコンプリートされるのを誰もが期待する。

 当然のことながら、それが達成出来そうな超怪物………咲、フレデリカ、蒔乃の三人の手牌に世の人々は注目した。

 

 

 南二局、咲の親。

 咲の配牌は、

 {一三九九①③⑨⑨119西北白}

 

 早速、みんなの期待に応えられそうな配牌。

 ここから打{西}。

 

 二巡目、ツモ{①}、打{③}。

 

 三巡目、ツモ{1}、打{三}。

 

 四巡目、ツモ{9}、打{北}。

 

 五巡目、ツモ{①}、打{白}。

 

 そして、同巡に優希が捨てた{9}を、

「ポン!」

 鳴いて咲は打{一}。

 手牌は、

 {九九①①①⑨⑨111}  ポン{横999}

 

 聴牌した。

 そして、次巡、

「ツモ。16000オールです。」

 ラストピースとなる清老頭を和了った。

 この時の視聴率は99.9%に達していたと言う。

 後日、それをニュースで知った某ネット掲示板の住民達は、

『残りの0.1%は何を考えてますの?』

『非国民だじぇい』

『でも、ラストピースをすぐに出してくれるところが咲ちゃんっぽいよね』←美和

『咲ちゃんなんて気安く呼ばないでください! どこのウマの骨ですか?』←和

『オモチは余り無いのに、見せるところは見せてくれるのです!』

『でも、咲様、これで終わらなかったから凄か!』

『その未来は、うちにも見えへんかった』

 それなりに騒いでいたと言う。

 

 南二局一本場。ドラは{7}。

 フレデリカの雰囲気が変わった。さっきの役満コンプリート達成を見て、さらに心の火に油が注がれたようだ。

 彼女の配牌は、

 {二四②③③④⑤[⑤]⑦⑧36東南}

 筒子に偏った配牌だった。心が配牌を呼び寄せたのだろうか?

 そして、咲と同様にムダツモ無く六巡目で聴牌し、続く七巡目で、

「ツモ!」

 染め手を和了った。

 

 しかも開かれた手牌は、

 {②②③③④④⑤[⑤]⑥⑥⑦⑦⑧}  ツモ{⑧}

 大車輪だ。

 ここでは大車輪を役満として認めていなかったが、結局のところ、門前清一色ツモ平和タンヤオ二盃口赤1の数え役満であった。

「8100、16100!」

 これでフレデリカは、ラスから2位に浮上した。

 

 

 南三局、フレデリカの親。

 ここでもツキがあるのはフレデリカだった。このままフレデリカに持って行かれてしまうのだろうか?

「ポン!」

 フレデリカが序盤から仕掛けていった。

 鳴いたのは優希が捨てた{2}。

 そして、数巡後に再び、

「ポン!」

 今度は、蒔乃から{8}を鳴いた。蒔乃は{8}が安牌であることは分かっていたが、鳴かれる牌であることまでは感知できていなかった。

 

 次巡、フレデリカが、

「カン!」

 {2}を加槓した。

 

 この時のフレデリカの手牌は、

 {4445666}  ポン{88横8}  明槓{2横222}  ツモ{6}

 

 清一色タンヤオ嶺上開花で和了っていた。

 しかし、和了りを拒否して、

「もいっこ、カン!」

 {6}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ! 8000オール!」

 親倍をツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {4445}  暗槓{裏66裏}  ポン{88横8}  明槓{2横222}  ツモ{[5]}

 本大会ルールでは、この和了りは清一色タンヤオ対々和嶺上開花赤1だが、四跳牌刻(一つおきの刻子を揃えたローカル役満)であると同時に緑一色輪({發}の代わりに{5}が入ったローカル役満)でもあるダブルローカル役満だ。

 これでフレデリカがトップに立った。

 また、この和了りを見てローカル役満に取り憑かれた十曽湧が再び大興奮したのは言うまでも無い。

 

 ちなみに、この次鋒戦で出てきたローカル役満は、

 双竜争珠

 東北自動車道

 黒一色

 青函連絡船

 宝玉開花

 頭槓和

 大車輪

 四跳牌刻

 緑一色輪

 しかも、前半戦東一局から今までの和了りの全てが役満またはローカル役満である。もはや、これは歴史的な対局であり記録的である。

 

 そのような中で南三局一本場がスタートした。ドラは{③}。

 二連続和了で、フレデリカが勢い付いている感じが強い。

 この次鋒戦で勝利したいのはフレデリカだけでは無い。咲は勿論、優希も蒔乃(最強神)も同じである。

 ここでは、蒔乃に降臨した神が、神としての意地を見せた。自分の力に制限をかけているとは言え、何度も人間に負けるのは沽券に関わるだろう。

 強烈な支配力で他家全員を圧倒した。

 今回、蒔乃の手は萬子染め。既に{9}待ちの四暗刻に小四喜と、自分の本来のスタイルを大きく曲げてしまっているのを元のスタイルに補正した感じだ。

 

 この局、蒔乃の手牌は、

 {一三三五七八③④[⑤][5]6南南}

 つまり、自場風の{南}を対子で持ち、しかも{[⑤]}とドラの出来面子が一つに{[5]}を含む両面が一つの二向聴である。

 しかし、蒔乃は、ここから{[⑤]}、{[5]}、{③}、{6}、{④}、{南}、{南}と落としていった。一般には意味不明であろう。

 そして八巡目のツモで、

「ツモ! 4100、8100!」

 強烈なオーラを発散しながら和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三三四五五五[五]六七七八}  ツモ{九}

 

 門前清一色ツモ平和赤1の倍満。{六七九}待ちで、ツモ和了りなら、どれで和了っても点数的には同じである。

 しかし、{九}で和了った場合だけ付加価値が違う。この形は、ローカル役満のゴールデンゲートブリッジである。

 つまり、和了り点こそ倍満だが、役満あるいはローカル役満和了りは途絶えていない。未だ継続中なのだ。

 

 この段階での次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:フレデリカ 116200

 2位:咲 105100

 3位:蒔乃 100200

 4位:優希 78500

 

 そして、この段階での次鋒前後半戦の合計点数と順位は、

 1位:フレデリカ 218000

 2位:咲 214500

 3位:蒔乃 204400

 4位:優希 163100

 優希だけは逆転にダブル役満以上の和了りが必要となるため、勝ち星を得るのは非現実的と思われるが、他の三人は、まだ分からない。

 現状、フレデリカがトップだが、咲も蒔乃も逆転可能な位置にある。

 

 

 そして迎えたオーラス。蒔乃の親。ドラは{三}。

 配牌直後、前半戦オーラスの時と同様に、苦渋の表情を浮かべながらフレデリカが手牌を伏せた。既に何かを感知しているようだ。

 

 蒔乃の第一打牌は{西}。

 続く優希は、{1}を切った。

 その時である。

「ロン。」

「えっ?」

 優希の眼が点になった。この{1}で咲が和了ったのだ。

 これは属に言う人和であるが、ここでは人和を採用していない。

 

 咲の手が開かれた。

 {三四[五]⑦⑧⑨23456北北}

 

 平和ドラ2である。

「3900です。」

 これで次鋒後半戦が終了した。今まで超ド派手な展開を繰り広げていたにもかかわらず、最後は本当に呆気ない幕切れであった。

 しかし、人和は満貫扱いされることもあるが、一応、れっきとしたローカル役満である。つまり、この対局は全ての和了りが役満かローカル役満だけの対局となったのだ。

 

 

 後半戦の点数と順位は、

 1位:フレデリカ 116200

 2位:咲 109000

 3位:蒔乃 100200

 4位:優希 74600

 休憩時間が始まった時の言葉をフレデリカは有限実行した。

 

 しかし、次鋒前後半戦の合計点数と順位は、

 2位:咲 218400

 1位:フレデリカ 218000

 3位:蒔乃 204400

 4位:優希 159200

 ギリギリのところで咲が逆転し、勝ち星をあげた。

 

 最後の咲の和了りが無ければフレデリカの勝利だったかもしれない。ある意味、フレデリカにとっては勝利を横取りされた気分だろう。

 たった400点でも負けは負け。

 最後の最後で、オリジナルが自前の豪運で勝利を奪い取った戦いであった。

 

 数え役満を除くと、十二回の役満が飛び出し、しかも、そのうち一回は奇蹟のダブル役満であった。そして、役満として認定された十一種の役満が全て和了られていた。

 また、それ以外の和了りも全て十種のローカル役満から成り立っていた。

 こんな試合は二度とないだろう。この試合は、歴史的な対局として後世に伝えられることになる………。

 

 

「「「「ありがとうございました(だじぇい!)」」」」

 対局後の一礼を終え、卓から少し離れたところで、

「人の王者よ。次こそは必ず勝って見せるぞ。」

 と咲が蒔乃に言われた。

 そして、いつものように最強の神が蒔乃の身体から抜け出て行った。

 

 ところが、その直後のことだった。

 まず、その場に蒔乃が座り込んでしまった。エネルギーの使い過ぎで、自力で立ち上がるだけの力がなくなってしまっていたのだ。

 しかも、これがまるで伝染して行くかのように、他の三人もその場に座り込んでしまった。完全にエネルギーを使い果たして全身脱力した感じだ。

 

 ここで、これまで対局室を映していた映像が、突然、解説側へと切り替えられた。

 この対応に某ネット掲示板は、

『もしかして、あの中の誰かがデビューしたっスか?』

『宮永だったら面白いwww by 高三最強』

『降参再教育が何か言ってるなぁ』←浩子

『でも、チャンピオンが仲間になっても嬉しくないかモー』

『それだと被害者同盟の中に加害者が入るみたいデー』

『永水の一年がデビューじゃなかと?』

『たしかに最初に異変があったのは永水の子やったみたいやけど、あの四人がデビューする未来は見えへんかったなぁ』

『こちら現場 四人ともガス欠を起こして医務室に搬送中 残念ながら誰もデビューしていないもよう』

『それはそれで一大事! 一大事ですわ!』

『麻雀でガス欠なんて、怜みたいやなぁ』←セーラ

『ヒザマクラは貸さへんで!』

 それなりに、いつもの住民達で賑わっていたようだ。

 

 

 四人は、そのまま医務室でぐっすりと眠ってしまった。余程疲れたのだ。

 ただ、神を相手に神が臨む戦いをしたのだ。恐らく、神が責任を持って体力を回復させてくれるであろう。

 そうでなければ、明後日の決勝戦で神は咲との再戦が図れないからだ。

 

 一応、咲には補員が順番に付き添うことになった。もし、咲が目を覚ました時に、万が一にも異常行動をさせないようにするためだ。

 

 その頃、臨海女子高校の控室では、

「クソッ!」

 ダヴァンが壁にコブシを何発も打ち込んでいた。

「おいおい、一応、公共施設なんだから、それくらいにしときな。」

 監督のアレクサンドラ・ヴィントハイムが注意を促す。さすがに穴でも空けられたりしたら後が面倒だ。

「失礼しましたデース、ただ、ユウキがチャンピオン相手に倒れるまで死闘を繰り広げたと言うのに、ただ負けただけの私がピンピンしているのが許せなかっただけデース。」

「まあ、麻雀で全員倒れるなんて、普通有り得ないからね。まあ、そんなに自分を責める必要は無いよ。」

「…。」

「それより、郝。」

「分かってます。優希の心意気をムダにはしません。」

 それだけ言うと、郝は、静かに控室を後にした。

 

 

 対局室に中堅選手が姿を現した。

 第1シード阿知賀女子学院からは小走ゆい、第4シード永水女子高校からは石戸明星、臨海女子高校からは郝慧宇、そして千里山女子高校からは夢野マホ。この四人での対戦となる。

 

 ゆいは、次鋒戦の後半戦南三局の辺りで恭子から京タコスを渡され、それを食べていた。

 理由はただ一つ、マホに起家を取られないようにするためだ。

 出親でいきなり優希のコピー………と言うか数え役満とか天和を和了られても困る。

 それに、南入していきなり数絵のコピーで攻められるのも避けたい。それで調子に乗られると後が面倒である。

 それゆえの京タコスだった。

 

 場決めがされ、起家がゆい、南家がマホ、西家が郝、北家が明星に決まった。一先ず起家をマホに取られないようにできた。

 

 

 東一局、ゆいの親。

 何故かマホは、妙にオドオドしていた。ひ弱な小動物のような雰囲気だ。

 これと似たものって何処かで………。

 一瞬、ゆいは、

「(これって、卓に付く前の宮永先輩?)」

 と思ったが、卓を離れた時の咲を想像してみると………はて、コピーする意味があるのだろうか?

 

 マホは今、ベストではないのかもしれない。

 もしかすると、フレデリカが心配なのか?

 いや、マホは咲とも優希とも顔見知りだ。もしかすると、今、ここにいる面子の中で最も容態を気にしているのはマホではないだろうか?

 それで気が気ではないのだろう。

 ゆいは、一瞬そう思った。

 

 ただ、ちょっと様子が違う。

 何故か、

『三つずつ、三つずつ』

 と口にしている。牌の切り出し方も独特…と言うか、ちょっと変。これが意図的な迷彩なら凄いけど、はて…?

 

 中盤もそろそろ終わる頃、

「リ、リーチします!」

 マホがリーチしてきた。

 今まで、色々な牌譜を見てきたゆいにも、この切り出しは、まったくもって意味不明であった。本気で良く分からない。

 一先ず現物で対応するが、その二巡後、

「ツモです!」

 マホに和了られた。

 すると、マホは、いつもの雰囲気に戻った。

「8000、16000です!」

 これは鶴賀学園妹尾佳織の麻雀だ。ただ、点数申告の際に、

『リーチツモ対々…』

 と言ったら全国的に恥ずかしいので、和了った後にマホはコピーを解除したのだ。

 初っ端は優希のコピーでくると思ったが、いきなり別に何かで来るとは…。

 

 マホは同じコピーを一日に二度使えない制約があるようだが、逆を言えば全てのコピーを端から順に一回だけは全て使えることになる。

 しかも、優希のコピーを残したまま親番を回してしまった。

 ゆいは静かに息を飲み込んだ。



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百五十本場:壊れたコピー人形

 ABブロック中堅前半戦の東二局、マホの親。

 ここで、ゆいはマホが天和を出してくると思って身構えていた。

 しかし、

「ダブルリーチです!」

 天和ではなかった。やはり、天和だけはコピーするのが難しいのだろうか?

 しかし、油断は出来ない。

 最高状態の優希ならダブルリーチから一発ツモで数え役満を普通に和了る。しかも、それをマホは前回の対局で再現した実績がある。

 

 ダブルリーチの安牌はリーチ宣言牌以外に無い。読もうとしてもムダである。

 ならば、和了り牌と、そうでない牌の数を比較すれば、和了り牌の方が圧倒的に少ないはずとの考えに基づいて、郝も明星もゆいも不要牌を切った。

 余程運が悪くない限りは当たらないだろう。

 一先ず、一発目で誰かが振り込むことは無かった。

 

 しかし、二巡目、マホのツモ番で、

「ツモです。ダブルリーチ一発ツモタンピン。6000オールです!」

 一発ツモ和了りされた。

 ツモ和了り宣言された時、ゆいは数え役満まで行くかと覚悟したが、ドラ無しの親ハネで済んだので何だか肩透かしを食らった感じがしてならない。

 

 ただ、ゆいは、この和了りに見覚えがあった。

 そうだ。二年前のインターハイ決勝先鋒前半戦の東一局で優希が見せた和了りだ。天和の前に和了ったヤツ…。

 しかも、あの時はドラの支配者がいたためにドラが乗らなかった手だ。

 

 結果的に親ハネツモなので親役満ツモに比べれば、支払いは10000点ずつ減っている。それは、ゆいとしても助かった気がした。

 ただ、疑問が残る。

 同一の手はショートスパンでは何回も使えないのだろうか?

 それとも、東一局で思ったように、咲と優希とフレデリカの三人が心配で全力が尽くせないでいるのか?

 

 このゆいの考えは、両方正解であった。

 ゆいだって咲のことが心配だし、郝だって優希のことが心配でならない。しかし、二人とも対局を前に気持ちを切り替えて望んでいる。

 ただし、明星だけは、

『神様の要求にみんなが付き合ったんだから、神様が責任を持って何とかしてくれるはずよね!』

 くらいにしか思っていなかったようだが………。

 まあ、その考えも一理あるかもしれない。

 

 しかし、マホは、まだ心の切り替えが出来るほど器用でははかった。なので、動揺して妙にオドオドする自分を隠す意味もあって、東一局では、敢えて佳織のコピーを使っていたのだ。

 

 それから、単に打ち方をコピーするだけなら連日でも可能だが、特定の和了り、つまり先日マホが見せたダブルリーチからの数え役満や小四喜、清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花や九連宝燈と言った和了りを再現するには、それ相当のインターバルが必要なようだ。なので、これらの和了りを今日披露することは出来ない。

 本人は、まだその誓約を理解していないようだが、これは、今後、マホ自身が自分の能力と向き合って理解して行くことであろう。

 

 東二局一本場、マホの連荘。ドラは{8}。

 この局の開始直後、マホは、一旦能力の使用を控えた。

 恭子の読みどおり、間違いなくマホは、能力に体力がついて行けていない。しかも、まだマホは、自分がどのくらいの頻度で能力を使えるかも良く分かっていなかった。

 これは、今まで指導者に恵まれなかったゆえである。

 

 では、何故、今回は能力を発動しなかったのか?

 特に理由は無い。

 たまたま、この時に誰のどういった能力が使えると嬉しいとか、どの能力をどの順番に使いたいと言うのが思いつかなかったためだ。

 ただ、こういった場合でも、局が進んで行くうちに使いたい能力を思い浮かべることは少なくないようだ。

 

 この局では、郝が自分の麻将をマホに見せ付けてくる。

 何となくだが、マホは郝の捨て牌から、郝がヤオチュウ牌を嫌っていることだけは漠然と分かっていた。

 ただ、細かいところまではマホには分かっていなかった。

「(宮永先輩のコーチ(恭子のこと)みたいに麻雀に詳しくて、観察力も優れている人だったら判るんだろうって思うのです。マホも、そうなってみたいです!)」

 そうマホが思った直後、郝の切り出しや視点移動など、様々な情報がマホの頭の中で整理されていった。どうやら、オカルティックな能力だけではなく、マホが憧れたもの全てがコピーの対象となるようだ。

 そして、マホの頭の中で導かれた答えは、

「(中国麻将ルールで打つことを考慮しますと、多分待ちは嵌{5}ですね。それから今出来ている手は…。)」

 この時、マホは、郝の手を、

 {四[五]六④④⑤⑤[⑤][⑤]⑥⑥46}

 と読んでいた。

 そして、郝は数巡ツモ切りした後、

「和―。ツモ4100、8100。」

 嵌{5}をツモ和了りした。しかも、ツモったのは{[5]}で、マホが読んだとおりの手となっていた。それでタンヤオツモ三色ドラ4の倍満になった。

 

 これを見てマホは、

「(マホにもできましたです。もっと頑張って、もっともっと相手の手を読めるようになりたいです!)」

 非常に喜んでいた。

 基本的にマジメで自己向上心のある娘なのだ。

 明らかに自分より格上が同学年に複数人いるのに、

『自称同学年最強!』

 を連呼する先輩とは人種が違う。

 その直向きな性格も、マホが雅恵に『魔物候補生』とまで呼ばれせようになった理由の一つであろう。いくら才能があっても、それを開花させるのに見合った努力が無ければ才能は簡単に埋もれてしまうからだ。

 

 

 東三局、郝の親。

 とうとうここで、明星がヤオチュウ牌支配の能力を発動した。ただ、傍目には、それが分かり難いように捨て牌には上手にヤオチュウ牌を混ぜていた。

 狙いは一つ。マホからの直取り。ここでマホには潰れてもらう。

 昨年、明星自身は咲から洗礼を受けていた。それを、今回は自分から有望な新人………マホに受けてもらう。

 

 この時、マホの配牌は、

 {二四①①③④④39南西白中}

 

 これを見てマホは、

「(一日一回チョンボするのがマホの宿命なら、一回試してみたいスバラなチョンボが有ります!)」

 コピースイッチが入った。

 マホがやりたいチョンボ………それは世界大会で光が見せた戦略的なチョンボ。あれで光は、ネリーの三倍満以上の手を潰したのだ。

 

 この局がスタートした直後、マホは明星の雰囲気から大きい手を狙っていることを感じ取っていたし、郝も親ハネクラスの手を狙っているのを予想していた。

 どうせなら、チョンボで二人の手を無効にしてみたい。それくらい有意義なチョンボをしてみたいのだ。

 ただ、マホは、そればかりに気を取られていた。

 

 マホの手は順調に伸び、六巡目で、

 {二四①①①②③④④④349}  ツモ{三}

 望みの手を聴牌した。

 

「リーチします!」

 マホが打{9}でリーチをかけた。

 その次巡、

「カン!」

 早速、マホは{①}をツモって来て暗槓した。

 嶺上牌は{2}。これでリーチツモ嶺上開花三色同順の和了りだ!

 完全に思い描いたとおりの手。これで、チョンボすると同時に明星の手も郝の手も流せたはず。

 

 ところが、そう思って和了りを宣言しようとした、まさにその時、

「ロン。」

 対面から和了り宣言の発声が聞こえてきた。

「えっ?」

 これは加槓ではなく暗槓だ。それで和了れる手は一つしかない。

 

 マホの目に、明星が開いた手牌が映った。

 たしかに、それは、

 {一九⑨19東南西北白發中中}

 

 紛れもなく{①}待ちの国士無双であった。

 この場合、和了り優先となり、マホのチョンボは成立しなくなる。つまり、マホは思惑を一つも達成できなかったことになる。

 

「32000!」

 憧れのチョンボを再現する方ばかりに気を取られすぎた。視野が、完全に狭まっていたのだ。

 それと、連続で能力を使っていたため、マホの能力自体が疲弊して低下していた。それで光の能力………相手の手牌を読み切る力がキチンと発動してしなかったのだ。

 

 これで明星に逆転されたが、まだ4000点差。再逆転は十分狙える範囲にある。

 マホは、両頬を叩いて、彼女なりに気持ちを切り替えた。

 ただ、どこか集中し切れていなかった。咲と優希とフレデリカが心配だし、そもそも役満を直取りされて動揺しない方がおかしいだろう。

 

 

 東四局、明星の親。ドラは{西}。

 マホは、明星からヤオチュウ牌支配の波動を強く感じていた。

 明星の捨て牌は、

 {⑤}、{③}、{4}、{4}、{7}。

 明らかにヤオチュウ牌のみの手を狙っていそうだ。

 そして、六巡目に、

「リーチ!」

 明星は、{六}切りでリーチをかけた。

 

 今回、マホの能力は発動していなかった。ガス欠である。

 マホは、たまたま現物を持っていなかった。それで、明星の第一打牌である{⑤}の筋であり、第二打牌の{③}の近くで、且つヤオチュウ牌でなければ問題ないだろうと考え、一発目で{②}を切った。

 ところが、

「ロン!」

 これが明星の和了り牌だった。

「えっ?」

 さすがにマホも驚きの声を上げた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①②[⑤][⑤]⑨⑨東東西西發發}

 リーチ一発門前混一色七対子ドラ4。三倍満の手だ。

 

 明星は、配牌が、

 {六①②③⑤[⑤][⑤]⑨447東西發}

 のところ、{⑤}を{③}を先に切り出して敢えて{②}を残し、最終的に{②}待ちの七対子に仕上げたのだ。

『明星の手はヤオチュウ牌』

 と思われているところを逆手に取って、{②}で討ち取ってみせると配牌を見た段階で決めていたのだ。

 

「36000!」

 これで、マホは一気に73900点まで点数を落とした。

 

 能力発動で麻雀自体が自分の思うように行っている時は良い。

 しかし、自分の能力が原因で大きく振り込むことがあったら………、普通は相当傷つくだろう。それが東三局の国士無双である。

 そこを頑張って頭を切り替えようとしたが、次の七対子は自分の読みを逆手に取られての放銃だ。

 今、マホの中で張り詰めていた精神の糸が切れた。しばらく、何も考えられないし、運も相当低下するだろう。

 まさに咲が予言したとおりの展開となった。

 

 東四局一本場。

 ここでは、

「リーチ!」

 今まで動きの無かったゆいが先制攻撃を仕掛けてきた。マホの運の低下に伴ってゆいの運が上昇した感じだ。

 たしかに、一人が運を手放すと、他の者がツキに恵まれることはよくある話だ。

 

 ゆいの下家はマホ。

 ツキを失った以上、マホの行動は全てが裏目に出る。

 ここでのマホのツモは、二枚切れの北。しかもヤオチュウ牌支配の明星が一枚切っていた。それで、これなら安全とツモ切りしたが、

「ロン。」

 一発でゆいに振り込んだ。

「リーチ一発七対ドラ2! 12300!」

 まさかの北地獄単騎。しかもハネ満である。

 加えてマホにとっては三連続の振り込み。完全に振りこみマシーンと化している。

 もはや、今のマホは二回戦でコピー能力を駆使して周囲を震え上がらせた魔物候補生ではなく、単なる壊れたコピー人形であった。

 

 

 南入した。

 南一局、ゆいの親。

 ここでも、

「ロン。タンピン三色ドラ2。18000。」

 ゆいは容赦なくマホから和了る。これでマホは、四連続振り込み。

 

 南一局一本場。

 ここでは郝が、

「和―! ツモ、3100、6100。」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 南二局、マホの親。

 もはやマホは、落ち着いて牌を握ることすら出来なくなっていた。ここではマホが、

「和―! ロン、12000。」

 郝にハネ満を振り込み、続く南三局では、

「ツモ! 8000、16000!」

 再び明星の国士無双が爆発した。ただ、今回はツモ和了りであり、マホの振り込みではなかったのがマホにとっては救いだった。

 

 そして、オーラス、明星の親。

 ここでは、

「ツモ。4000、8000!」

 ゆいがメンタンピンツモ三色ドラ2の倍満を和了って、この半荘を終了した。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:明星 170800

 2位:ゆい 109100

 3位:郝 106600

 4位:マホ 13500

 明星がダントツで後半戦へと折り返すことになった。二回戦でのマホの活躍から、下馬評では明星とマホの二強状態が予想されていたが、結果的に新人のマホが先輩方にキツイ洗礼を受けた感じになった。

 

 

 休憩時間に入った。

 マホは、大泣きしながら控室に戻った。

 控室の扉を開けると、マホの目に、すっかり元気な表情を取り戻したフレデリカの姿が飛び込んできた。

「フ…フレデリカさん!」

「マホちゃん、お帰り。」

「お身体は大丈夫ですか?」

「もうすっかり。あと、宮永さんと片岡さんも大丈夫よ。二人も元気だから。」

 これを聞いてマホは泣き止んだ。むしろ、安心した表情が顔にアリアリと浮かび上がっていた。

「そうですか。良かったです!」

「でも、マホちゃんの方は、マジで良くなかったわね。」

「は…はい…。」

 ただ、そうは言っても、フレデリカとしてもマホにどうアドバイスして良いか分からなかった。マホのような『毎局入れ替わりのコピー能力』を見るのはフレデリカとしても初めてだったのだ。

 ちなみに、フレデリカの影響でマホの能力が本格的に開花するのは、まだ先のことである。飽くまでも現時点でのマホは魔物ではなく、魔物候補生なのだ。

「あの巫女さん………最初からマホちゃんを潰すつもりだったんじゃないかな?」

「どうしてですか?」

「それは、マホちゃんを潰さなかったら勝ち星が取れないからでしょ。でも監督。本当に宮永さんは、あの巫女を手玉に取ったんですか?」

「去年のインターハイでな………。それよりマホの方が先だな。後半戦も行けるか?」

「はい! フレデリカさんも宮永先輩も優希先輩も無事なのが分かりましたので、もう大丈夫です!」

「そうか。」

「でも、急に力が巧く使えなくなってしまいました。」

「うーん。まだマホの能力の本質まで掴めてへんからな。何か、能力発動の鍵になるようなものがあればエエけど。」

「それなら一つ、試してみたいものが有ります。」

「そうか。では、それをやってみい。それでダメやったら、足掻けるだけ足掻く。巫女の張った罠にだけは落ちんようにせんとな。」

「はい!」

 その後、千里山女子高校監督の愛宕雅恵は、マホに幾つかの確認をして再びマホを戦場へと送り出した。

 …

 …

 …

 

 

「それにしても監督。繰り返しになりますけど、本当に宮永さんは、あの巫女を手玉に取ったんですか?」

 フレデリカから見ても明星は強いと感じる。

 勿論、フレデリカ自身は明星と直接対決しても負けないとは思っているが、一撃必殺の国士無双には注目する。

 それに、あのクラスの魔物を手玉に取るのは至難の業である。

「去年のインターハイでな、あの巫女は前半戦東三局で宮永に持ち点を0点にされた後、大四喜字一色四槓子………親のトリプル役満を責任払いさせられとった。」

「ゲッ? マジですか?」

「本当の話や。後半戦はもっと酷かったで。いきなり東一局………宮永の起家でスタートして、あの巫女は一気に宮永の連荘で800点まで削られて………。」

「(えっ? 東一局だけで?)」

「その後、宮永はわざと巫女以外のプレイヤーに差し込んで場を流すと、東二局から東四局まで800点にしたまま巫女を晒し者にしたんや。」

「(どうしてそこまで?)」

「そして、南一局で宮永は巫女を0点にして、続く一本場で緑一色四槓子………親のダブル役満を責任払いさせた。しかも、その後、あの巫女は派手に失禁してな。」

「でも、あの巫女だって相当強いでしょ?」

「今年の春季では個人8位。去年のインターハイ個人では11位。」

「それを晒し者にしてトバすなんて、どれだけ凶悪な強さなのよ、宮永さん。」

「でも、その宮永相手にフレデリカは、負けても実質400点差まで詰め寄ったんやからな。凄いことやで。」

「でも、あの強運には勝てません。前半戦最後は、いきなり第一ツモからの暗槓、嶺上開花ですし、後半戦では最後の最後で人和ですからね。」

「たしかにそうやったけど、フレデリカも世界大会では神代相手に最後はダブルリーチからの大逆転勝ちしとるし、同じようなもんやんか?」

「私も、あれは自分でも驚きました。運が強いって。でも、宮永さんは、私よりも、もっともっと運が強い。」

「せやな…。そう言えば、宮永の最高の支配力をフレデリカは、まだ直接見てへんかったな。」

「あの上があるんですか?」

「あるで。ただ、あれは支配と言うよりも強制力やけどな。」

 雅恵は、昨年の世界大会前に朝酌女子高校で行われた練習試合に個人的に顔を出していた。そこで雅恵は、咲と打ってプラスマイナスゼロ破りにチャレンジしていた。

 しかし、どう頑張ってもプラスマイナスゼロを破ることは出来なかった。それこそワールドレコードホルダーの白築慕でさえも………。

 しかも、咲は自分の点数を25000点、他家の点数を30000点に仮想した上でプラスマイナスゼロを行い、相手との点差や順位までコントロールして実際の対局では勝利を得る方法も身に着けている。それを使って昨年インターハイの個人決勝戦で天江衣、荒川憩、宮永光を相手に見事の優勝を果たしている。

 フレデリカは、点数調整を身に着けていない。そもそも点数調整を身につける必要もなく育ってきたのだから当たり前であろう。

 ただ、それゆえに、その驚異的な『強制力』などと言うモノのイメージが全然湧いていないようだった。



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百五十一本場:追い詰められた泉

 ABブロック中堅後半戦がいよいよ開始される。

 四人が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家がゆい、南家がマホ、西家が明星、北家が郝に決まった。前半戦の席順から明星と郝が入れ替わった形だ。

 この時、マホは靴下を脱いでいた。咲のマネをしようと言うのだ。

 

 

 東一局、ゆいの親。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤からマホが鳴いて出た。まず明星が捨てた{中}を鳴き、続いて、

「カン!」

 そのさらに数巡後、マホはゆいが捨てた{一}を大明槓した。嶺上牌が有効牌となり、これで聴牌。

 そして、次巡、

「カン!」

 マホは{中}を加槓し、掴んできた嶺上牌で、

「ツモ! 中混一嶺上開花。2000、4000です。」

 満貫をツモ和了りした。

 

 

 東二局、マホの親。ドラは{七}。

 ここでは、ゆいの配牌が非常に良かった。

 {①②③⑦⑧56東東西西白白}

 

 ゆいは配牌を見て、第一ツモが筒子か字牌だったら混一色狙い、萬子か索子だったら{西}を切って行こうと思っていた。

 幸運なことに、ゆいの第一ツモは{東}。ならば染め手狙いで打{6}。

 

 二巡目、ゆいのツモは{⑨}。この局は妙にツいている。

 当然、ここは、

「リーチ!」

 {横5}切りでリーチをかけた。ゆいの待ちは{南}と{白}のシャボ。

 さすがに二巡目のリーチでは読みようが無い。それに、こんな早いリーチで綺麗な手が出来ているなど、普通は思わないだろう。

 マホは、

「(ツモったのは{白}ですか………。特に使い道はありませんし………。)」

 一発でツモってきた{白}を切った。単に不用牌を切っただけだ。

 これは、本当に運の巡り合わせが悪いとしか言いようがない。当然、その{白}をゆいは見逃すはずは無く、

「ロン! 一発!」

 マホから和了った。

 裏ドラは{西}。つまり、リーチ一発東白門前混一色チャンタドラ2の三倍満となった。

「24000!」

 マホは、東一局で稼いだ分よりも遥かに大きな失点を喰らってしまった。

 この振り込みは、完全にマホからツキが無くなっていることを証明するものでもあった。

 

 この様子を控室のモニターで見ながら咲は、

「やっぱりマホちゃんは、靴下を脱ぐことの本質を知らないでいますね。」

 と呟いた。

 マホが試したかったこととは、咲のマネをして靴下を脱ぐことだったのだが、飽くまでも咲にとって靴下を脱ぐのはリラックスして能力を全開にするための方法であって、マホには無意味なことなのだ。

 

 やはり、マホのやろうとしていることはポイントがズレている。これは、千里山女子高校のほうでもマホの能力の本質をキチンと把握できていないためであろう。

 今後、フレデリカがマホの能力を正しく開花させて行くことになるが、もしマホの進学先が白糸台高校か阿知賀女子学院だったら、現段階で既に能力の使い方をマスターできていたであろう。白糸台高校なら光と淡がいるし、阿知賀女子学院だったら咲がいる。

 しかも、阿知賀女子学院であれば能力麻雀への理解が深い晴絵と恭子もいる。

 それを思うと、咲は、自分の能力の本質が分からずにいるマホが不憫でならなかった。

 

 

 この頃、染谷まこは、自宅が経営する雀荘の手伝いをしながらマホ達の対局をテレビで見ていた。

 彼女は都内の大学に進学して経営学を学び、行く行くは経営学修士を取得しようと思っていた。

 ただ、今は夏休み。帰省して店を手伝っていたのだ。

「マホちゃんも、まだ自分のことが良く分かっとらんみたいじゃのぉ。」

 まこも、咲が靴下を脱ぐ理由を知っていたし、それがマホには当て嵌まらないことを理解していた。

 ただ、この一言で、再びまこの能力が発動して時間軸が一気に大きく動き出した。

 

 その後、東三局では郝がハネ満をツモ和了り、東四局と南一局では明星がヤオチュウ牌支配による倍満ツモ和了りとハネ満ツモ和了りをそれぞれ決めた。

 南二局と南三局は、郝が満貫とハネ満を順にツモ和了り、オーラスは明星が再び倍満ツモ和了りを決め、中堅戦は終了した。

 この卓、唯一の3年生である郝と、個人上位の明星が、それぞれの意地とプライドを示した感じであった。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 128000

 2位:郝 111000

 3位:ゆい 98000

 4位:マホ 63000

 

 そして、中堅戦の前後半戦合計は、

 1位:明星 298800

 2位:郝 217600

 3位:ゆい 207100

 4位:マホ 76500

 永水女子高校が二つ目の勝ち星を取って決勝戦進出を決めた。

 

 

 この頃、千里山女子高校の控室では、泉が表情を強張らせていた。真尋、フレデリカ、マホの三人が出陣し、一人も勝ち星が得られていないのだ。

 少なくとも、この三人は、二年前のインターハイでトリプルエースと呼ばれた先輩、怜、竜華、セーラと同等以上の強さである。それが、巡り合わせの悪さもあるだろうが、勝ち星が未だ無しなのだ。これは、泉にとって完全に想定外だった。

 

 現在の総合得点は、

 1位:永水女子高校 735200

 2位:阿知賀女子学院 657500

 3位:臨海女子高校 576000

 4位:千里山女子高校 431300

 

 もし副将戦で阿知賀女子学院が勝ち星をあげれば、永水女子高校と阿知賀女子学院が共に勝ち星二で決勝進出が決まる。

 副将戦での勝ち星を永水女子高校か臨海女子高校のいずれかが取って行ったならば、千里山女子高校は、大将戦で勝利し、しかも総合2位の阿知賀女子学院との差、226200点を逆転しなければならない。

 

 千里山女子高校が決勝進出を果たすためには、やはり副将戦と大将戦の両方を取るしかないだろう。

 つまり、ここで泉が勝ち星を取れなければ負ける。

 ゆえのプレッシャーだ。

 彼女は毎度の如く、

「(私が高3最強や!)」

 と自分に言い聞かせ、小刻みに身体を震えさせながら対局室へと向かった。

 

 

 対局室には泉が一番乗りだった。

 少しして臨海女子高校の副将、南浦数絵が入室してきた。

 この時、数絵は非常に恐ろしい形相をしていた。

 臨海女子高校としても決勝進出のために副将戦と大将戦で共に勝利したい。総合得点で千里山女子高校を大きく上回っているが、基本的には副将戦、大将戦で勝ち星をあげたいところ。千里山女子高校と条件は似ていると言って良いだろう。

 

 続いて阿知賀女子学院の宇野沢美由紀が対局室に入ってきた。

 この副将戦で唯一の2年生だが、美由紀としても自分のところで勝ち星を取って勝負を決めたい。

 彼女も気の入った怖い表情をしていた。

 しかし、放出系が期待される対局ではないので、某ネット掲示板では、

『気合いが入った顔もカワイイ』←美誇人

『先鋒から副将まで最低一人はオモチがあって嬉しいのです』←玄

『今度、是非オモチ帰りしたい』←美誇人

『オモチを持って帰りたいのは私もなのです!』←玄

『スタイルもイイし顔もイイ』←美誇人

『やっぱりオモチが大きく形が良いのはスバラなのです!』←玄

 二人の住人だけで美由紀をネタに大きく盛り上がっていたようだ。

 

 最後に永水女子高校副将の滝見春が静かに入室してきた。

 そして、全員が卓に付くと、場決めがされ、数絵が起家、春が南家、美由紀が西家、泉が北家に決まった。

 

 

 東一局、数絵の親。ドラは{北}。

 数絵は南場に入らなければスイッチが入らない。

 春は基本的に安手で場を流すだけ。

 なので、泉としては、この東場で大きく稼ぎたいところだ。

 ただ、ここで最初に動いたのは、

「その{西}、ポン!」

 美由紀だった。

 数絵が捨てた{西}をいきなり鳴いた。美由紀にとっては自風だし、ドラ表示牌なので二鳴きもへったくれもない。

 

 その数巡後には、

「チー!」

 春が捨てた{②}を美由紀は鳴いて{横②①③}と副露した。

 そして、打{6}。すると、今度は、その{6}を、

「チー」

 泉が鳴いた。美由紀のスピードに付いて行けなければ競り負けると泉は感じたのだ。

 

 その次巡でも、美由紀は春が捨てた{北}を、

「ポン!」

 速攻で鳴いた。

 一瞬、泉が春を睨みつけた。いくらなんでもドラを鳴かせるとは無防備過ぎる。これで最低でも西ドラ3の満貫手が確定しているのだ。

 

 美由紀に追いついて行くため、泉は美由紀の捨て牌を鳴いて手を進めたかったが、鳴けるところが全然出てこない。

 そして、数巡後、

「ツモ! 西混一ドラ3。3000、6000!」

 美由紀にハネ満をツモ和了りされてしまった。

 泉からすれば納得の出来ないハネ満であろう。数絵と春で美由紀に鳴かせ、手を作らせてしまったのだから………。

 

 

 東二局、春の親。ドラは{⑤}。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀は数絵から{中}を鳴き、さらに、

「ポン!」

 その数巡後には、美由紀は春から{⑤}を鳴いて{横⑤[⑤][⑤]}を副露した。これで中ドラ5のハネ満が決定だ。

 当然、ここでも泉が春を睨み付けるが、春は平然とした表情をしていた。

 そして、さらに数巡後、

「ツモ! 3000、6000!」

 美由紀は中ドラ5をツモ和了りした。

 泉にとっては完全に踏んだり蹴ったりである。もはや、数絵と春が美由紀を援護しているようにしか思えないだろう。

 

 

 東三局、美由紀の親。

 ここでも東場が弱い数絵と、何故か春が美由紀に鳴かせまくり、

「ツモ! 6000オール!」

 結局は美由紀に親ハネをツモ和了りされた。

 

 東三局一本場も、

「ツモ! 8100オール!」

 美由紀がツモ和了りし、続く東三局二本場では、

「ロン! 24600!」

 数絵が美由紀に親倍を振り込んだ。

 

 この時点での副将前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 190900

 2位:泉 79900

 3位:春 76900

 4位:数絵 52300

 美由紀がブッチギリのトップであった。もはや、誰の目から見ても勝負ありと思えるほどの点差である。

 しかし、泉は諦めるわけが無い。ここで諦めたら千里山女子高校の敗退が決まる。

 泉は両手で両頬を叩き、気合いを入れ直した。

 

 東三局三本場。

 ここは、

「ポン!」

 美由紀よりも先に泉が鳴いた。

 とにかく、この親を流す。そして、次の自分の親番で稼げるだけ稼ぐ。泉は、それだけを考えていた。

 ここでは、

「ツモ! 白ドラ2。1300、2300!」

 何とか泉が早和了りを決めて、長かった美由紀の親を流すことに成功した。

 

 

 東四局、泉の親。

 ここで泉は、

「ポン!」

 速攻に出た。

 ただ、この局ではトップの美由紀が冒険してこない。親の和了りを避けるため、泉に鳴かせないように牌を絞っているようだが、今までの攻めのスタイルから守りのスタイルに切り替わった感じだ。

 今回、美由紀の手は重かった。

 こう言う時には、ムリに和了りを目指さず、場合によっては他家を支援する。美由紀は、そんな打ち方を既に体得していた。

「ポン。」

 美由紀が捨てた{西}を、春が鳴いた。これは、春にとって自風である。

 しかも、春の上家は東場に弱い数絵だ。東場では捨て牌を絞っているが、やはり南場と比べると数段甘い。

 なので、

「チー!」

 春は上家から一応鳴ける牌が出てくる状態にある。泉が勝負するには、場そのものが非常に不利な条件であった。

 結局、ここでは、

「ツモ。500、1000。」

 春に安手で流された。泉にとっては最悪と言える。

 

 

 南入した。

 それと同時に、暖かい風が卓上を吹きつけた。とうとう南場の鬼神、数絵のスイッチが入ったのだ。

 

 南一局、数絵の親。

 数絵は、たった四巡で門前聴牌し、

「リーチ!」

 いつもの如く攻めて来た。

 南場の数絵は裏ドラが乗るし、振り込んだら怖い。他家は一発振り込みを回避するだけで精一杯であった。

 ただ、その他家の打ち回しも空しく、

「ツモ! 6000オール!」

 数絵に一発で親ハネをツモ和了りされた。

 

 南一局一本場も、

「ツモ! 6100オール!」

 南一局二本場も、

「ツモ! 6200オール!」

 数絵は親ハネをツモ和了りした。このたった三回の和了りだけで、数絵は54900点を稼いだのだから見事としか言いようが無い。

 

 ところが、南一局三本場になって急に春の雰囲気が変わった。今までよりも禍々しい空気に包まれたのだ。

 しかも、何故か左手で打っている。

 ただ、数絵にとっては、そんなものは関係ない。

 最短距離で聴牌し、

「リーチ!」

 {南}を切ってリーチをかけた。

 すると、

「ポン!」

 この{南}を春が鳴いた。

 

 通常、鳴きが入っても数絵は和了り牌を引き寄せてくる。それに、この面子では数絵の南場の支配を覆せる者はいないだろう。

 そう数絵自身も自負していた。

 ところが、この局で数絵がリーチ後、最初にツモって来た牌は和了り牌ではなかった。

 已む無くこれを捨てると、

「ロン。ダブ南のみ。2000の三本場は2900。」

 これで春に和了られた。数絵にとっては、まさに信じられない出来事であった。

 とは言え、数絵の南場の親だって普通に流されることはある。

『まあ、偶々だよね!』

 と、この時、数絵は思っていた。それが普通であろう。

 

 

 その後、数絵は気を取り直して、攻めの麻雀で突き進んだ。そして、南二局からオーラスまで数絵は三連続でハネ満ツモを決めた。

 つまり、この三回の和了りだけで36000を稼いだことになる。恐ろしいほどの南場での爆発力だ。

 

 ただ、まこの能力の余波だろうか? 副将前半戦は、人々が思っていたよりも早く終わった感じがする。

 

 

 休憩時間に入った。

 

 副将前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 157000

 2位:数絵 139100

 3位:泉 52700

 4位:春 51200

 美由紀と数絵の二強状態となった。数絵は美由紀に17900点負けているが、南場の数絵であれば十分追い付ける点数である。

 数絵は、後半戦に向けて気合いを入れ直すため、一旦対局室を出た。

 

 美由紀も対局室を後にした。控室に戻り、アドバイスを貰うためだ。

 

 泉は、一旦トイレに行った。

 別に放水対策ではない。顔を洗って気を入れ直すためだ。

「(このままでは勝ち星一つも取れずに敗退する。二回戦でも阿知賀の2年は強かった。あれはマグレじゃないって認めるしかない。それに、臨海の南浦も強い。私よりも…。)」

 泉の心の声からは、

『同学年最強!』

 の台詞が消えていた。

 もし、この場に船久保浩子(船Q)がいたら、天変地異の前触れでは無いかと騒ぎ捲ること間違いないだろう。

 

 この時、春も珍しく控室に戻った。

 対局室に残って黒糖を食べている印象が強いのだが、どうも今回の彼女は何時もと違うようだ。

 やはり、最後のインターハイと言うことで気の入り方が違うのだろうか?

 春が、控室のソファーに腰を降ろした。

「明星ちゃん。後半戦が終わったら私の荷物は運んでおいて。魔界に寄ってくることになりそうだから。」

「では、あれを?」

「そう。千里山は、もう逆転できない。でも、臨海は分からない。」

「だから、臨海を潰すってこと?」

「そうなる。大将戦では阿知賀が勝つと思うけど、念のため。全ては最強神のため。」

 そう言うと、春は黒糖を食べ始めた。



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百五十二本場:鬼の手

地獄先生ぬ~べ~?


 ABブロック副将後半戦がいよいよ開始される。

 四人が対局室に戻ってきた。

 ただ、場には未だに染谷まこの能力の影響が出ている。そのため、この対局は時間軸が短縮されているようだ。

 

 場決めがされ、起家が数絵、南家が泉、西家が美由紀、北家が春に決まった。前半戦の席順から泉と春が入れ替わっただけだ。

 

 

 東一局、数絵の親。

 東場の数絵は、配牌も悪いしツモも悪い。とにかく和了りに向かえる気がしない。

 それでも格下が相手なら何とかなるのだが、やはりインターハイ準決勝戦まで上がってくるチームのメンバーが相手では、失点は免れない。

 ここでも、前半戦の東初同様、

「ポン!」

 美由紀が最初に動き出した。鳴いたのは春が捨てた{中}。

 その後も、美由紀はツモと手牌が良く噛み合った感じだ。ドンドン手が成長して行く雰囲気がモロに伝わってくる。

 そして、数巡後には、

「ツモ! 中混一対々三暗刻赤1。4000、8000!」

 倍満をツモ和了りした。

 最高状態の優希ほどでは無いが、かなりのスタートダッシュである。

 しかし、親かぶりしながらも、数絵は余裕の笑みを浮かべていた。それだけ、南場の支配力に自信があるのだ。自分の『南場での爆発力』に『3年生パワー』が加算されることを感じ取っているようだ。

 

 

 東二局、泉の親。

 この親で、是が非でも泉は稼ぎたい。前半戦での得失点差を考えれば当然である。ゆえに和了りだけを視野に入れ、不要牌は持ち続けずにさっさと切る方針としていた。攻めのスタンスである。

 ただ、これは同時に捨て牌が甘くなる打ち方でもある。

 そのため、

「ポン!」

 美由紀に安易に鳴かせる結果となった。

 

 その後も、

「ポン!」

 泉は美由紀に二つ目の明刻を鳴かせてしまい、その数巡後には、

「ツモ! 4000、8000!」

 美由紀に対々系の倍満手を和了らせてしまった。やはり、前半戦の大失点から、泉は運が相当低下してきているのだろう。

 

 

 東三局、美由紀の親。

 この親を連荘させてはならない。これは、泉だけではなく数絵にとっても同様である。

 東場では、数絵のパワーは高が知れている。そのため、数絵は泉を使って親を流すことにした。泉を支援する方向で自分の手を崩してでも甘い牌を切る。

 これが功を奏したか、

「チー!」

 泉は数絵から鳴きまくり、

「ツモ。タンヤオドラ3。2000、3900!」

 満貫級の手をツモ和了りした。

 

 

 東四局、春の親。ドラは{北}。

 ここでは、春が美由紀に、

「ポン!」

 {北}を鳴かせた。

 字牌のドラは、対子になっていない可能性が高い初っ端に捨てるか、聴牌と同時に已む無く捨てるケースが多いだろう。もしくは最後まで手放さずドラ単騎で待つか、まあ普通はそんなところと思われる。

 ところが春は、最初から手の中に抱えていたが、四巡目で、しかも聴牌でもなんでもない状態………非常に中途半端な巡目で切ってきた。

 傍目には、{北}が美由紀の手の中で対子になるのを敢えて待ってから捨てているようにも見えた。

 泉の厳しい視線が、再び春に突き刺さる。

 

 その後も、

「ポン!」

 春は{五}を美由紀に鳴かせた。

 副露されたのは{[五]五横五}。これで北ドラ4が確定である。

 

 そして、その数巡後、

「ツモ! 北ドラ5(表3赤2)。3000、6000!」

 美由紀がハネ満をツモ和了りした。泉の目からは、これは完全に春が美由紀をサポートした和了りにしか見えない。

 何故、春はこんなことをするのか?

 

 泉としては、絶対に負けられない対局なのに………。

 それに、次局からは数絵のスイッチが入ると言うのに………。

 

 一言文句をつけてやりたい。

 しかし、下手な一言は挑発行為と取られる。泉は、身体を大きく震わせながら、黙って堪えていた。

 

 

 南入した。

 卓上を温かい風が吹き付ける。数絵の覚醒だ。

「では、始めましょうか。」

 そう言いながら、数絵は気の入った表情を見せていた。

 

 南一局、数絵の親。

 ここでは、毎度の如く数絵は配牌から一切のムダツモ無しで、たった四巡で聴牌し、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけてきた。

 しかも、

「一発ツモ! 6000オール!」

 リーチ即ツモの親ハネ。前半戦と全く同じパターンである。

 覚醒した数絵は、他の追随を許さない超スピード攻撃を仕掛け、しかもハネ満ツモを余裕で決める。

 

 南一局一本場も、

「ツモ! 6100オール!」

 南一局二本場も、

「ツモ! 6200オール!」

 数絵は連続で親ハネツモを決めた。怒涛の追い上げである。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:数絵 137900

 2位:美由紀 121800

 3位:泉 74600

 4位:春 65700

 

 前後半戦トータルでは、

 1位:美由紀 278800

 2位:数絵 277000

 3位:泉 127300

 4位:春 116900

 数絵が美由紀に1800点差まで詰め寄ってきた。次に数絵が和了れば逆転できる。とうとう、そこまで迫ってきたのだ。

 

 そして迎えた南一局三本場。

 ここでも、

「リーチ!」

 数絵のパワーは衰えない。たった三巡目で聴牌して即リーチ。

 しかも、

「一発ツモ! 6300オール!」

 ここでもリーチ即で和了り牌を引き当て、数絵は前後半戦トータルでトップの座に躍り出た。

 後半戦南場に入り、いきなり四連続親ハネツモ和了り。これで数絵は、一気に73800点を叩き出したのだ。さすが、南場の鬼神と呼ばれるだけのことはある。

 

 続く南一局四本場。

 数絵は、勝利を確実なものにするため、さらなる和了りを目指した。

 ここに来て、急に春が左手で打ち始めた。前半戦南一局三本場以来である。ただ、攻撃に集中している数絵は、このことに気付かずにいた。

 数絵は配牌三向聴。

 そして、四巡目に、

「リーチ!」

 今まで同様、数絵はムダツモ無しの聴牌即でリーチをかけた。

 

 この時であった。

「(一日に一回しか使えない力………。左手に宿りし鬼よ。その力を示せ!)」

 春が、心の中でそう唱えると、春の全身から禍々しいオーラが放たれた。そして、春は同巡で聴牌すると、

「私も、最後のインターハイに向けて研鑽してきたし、3年生パワーは貴女だけのものではない。」

 珍しく挑発とも言える言葉を数絵に向けて発すると、

「リーチ!」

 追っかけリーチをかけた。

 この時、数絵の目には、リーチ棒を卓上に出した春の左手が、一瞬、人のものではなく鬼の手のように映った。

 

 次のツモ番は数絵。

 相手が何者であろうと、数絵は、一発で自らの和了り牌を引けるものと思っていた。しかし、ツモって来た牌は不要牌の{東}。

「(嘘っ?)」

 驚愕の表情が数絵の顔に表れた。

 しかし、和了り牌で無い以上、これを切るしかない。それがリーチ者に課せられたルールである。

 已む無く数絵は、これをツモ切りしたが、その時、

「ロン!」

 数絵は自分の上家から和了り宣言の声を聞いた。

「えっ?」

 思わず、数絵が声を上げて春の方を見た。すると、そこに開かれていた手牌は、

 

 {東北北北白白白發發發中中中}

 

 大三元字一色四暗刻。まさかの三倍役満だった。

「97200。」

 しかも、風牌は鬼門を示す{東}と{北}。春の魔界パワーが爆発した最凶手であった。春は、この一撃を今まで取っておいたのだ。

 全ては、確実に咲と最強神の戦いを再設定するため。

 

 大将戦では、恐らく穏乃が勝つだろう。

 しかし、臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼは強敵である。万が一のことがあってはならない。

 それで春は、ここで数絵を蹴落として美由紀の勝利を確実なものにしたのだ。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:春 157600

 2位:美由紀 115500

 3位:泉 68300

 4位:数絵 58600

 数絵の点数が一気に大きく後退した。

 しかし、ここで諦めたら全てが終わりである。数絵は、深呼吸すると再び気合いを入れ直した。

 

 

 南二局、泉の親。

 泉にとってはラストチャンスである。この親で大きく稼ぐしか道が無い。

 しかし、

「リーチ!」

 ここでも数絵が序盤でリーチを仕掛けてきた。

 もの凄い手の早さである。

 目力も鋭い。

 勝利に向けての強烈な気迫が数絵からビンビンに伝わってくる。副将戦を美由紀に取られたら全てが終わるのだ。当然だろう。

 そして、

「ツモ! 3000、6000!」

 ここでも数絵は、リーチ一発でハネ満をツモ和了りした。

 

 

 南三局、美由紀の親。

 ここでも数絵は攻める。

「リーチ!」

 たった二巡で聴牌し、即リーチをかけてきた。この仕上がりの速さは東場の優希とタメを張る。凄まじいスピードだ。

 しかも、

「ツモ! 3000、6000!」

 ここでも数絵は、リーチ即でハネ満をツモ和了りした。誰も手のつけようが無いスピードとパワーである。

 

 

 この段階での副将後半戦の点数と順位は、

 1位:春 151600

 2位:美由紀 106500

 3位:数絵 82600

 4位:泉 59300

 

 戦後半戦トータルでは、

 1位:美由紀 263500

 2位:数絵 221700

 3位:春 202800

 4位:泉 112000

 美由紀が2位の数絵に41800点差を付けてトップだった。やはり、数絵の三倍役満振り込みは大きい。

 数絵が美由紀をトータルで逆転するためには、三倍満を美由紀から直取りするか、ダブル役満以上をツモ和了りするしかない。それ相当の役作りが必要となる。

 数絵としても、いよいよ追い詰められた感じがしてきた。

 

 

 そのような中で迎えたオーラス。春の親番。ドラは{③}。

 数絵は四巡で聴牌したが、役無しドラ1の状態。

 ここでリーチをかければ、南場の数絵であれば一発ツモのアタマが裏ドラで乗ってハネ満になるパターンだが、それでは逆転するには全然足らない。

 ここから最低でも三倍満にすべく、手を育ててゆく。

 

 しかし、

「ポン!」

 同巡で泉が美由紀に自風の{北}を鳴かせた。

 別に泉は、美由紀を支援しているわけではないし、数絵の足を引っ張ったつもりも毛頭無い。単に不要牌が来たのでツモ切りしただけだった。

 ただ、鳴き麻雀を得意とする美由紀の手は、これで加速していった。

 そして、

「ツモ。北ドラ3。2000、3900!」

 最後は美由紀が和了りを決め、副将戦にピリオドを打った。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:春 147700

 2位:美由紀 114400

 3位:数絵 80600

 4位:泉 57300

 

 戦後半戦トータルでは、

 1位:美由紀 271400

 2位:数絵 219700

 3位:春 198900

 4位:泉 110000

 春の目論見どおり、美由紀が勝ち星をあげて永水女子高校と阿知賀女子学院が各々勝ち星二で決勝進出が決まった。そのため、大将戦は行われずに、これでABブロック準決勝戦は終了となった。

 二回戦同様、穏乃は対局無しで終了となった。

 

 

 泉と数絵の目から、怒涛の如く涙が溢れ出てきた。最後のインターハイでも決勝進出を果たすことが出来なかった。

 明日は5位決定戦があるが、これは、後輩達のために学校ランキングを一つでも高くしておくことが目的となる。

 つまり、これで実質、自分のためのインターハイ団体戦は終了したのだ。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼を済ませると、泉と数絵が悔し涙を流す中、春は急々と対局室を出て行った。そして、そのまま彼女は控室に戻ることなく、忽然と姿を消した。

 

 永水女子高校控室では、

「やっぱり、魔界パワーを出したわね。」

 明星が、そう言いながら春の荷物を手にしていた。休憩時間に春に言われたとおり、春の荷物をホテルまで運んでおくのだ。

「じゃあ、やっぱり控室には戻ってこないってこと?」

 こう聞いたのは湧。

「多分、魔界の鬼に、今頃イイコイイコしてるんだと思う。」

「あのトリプル役満を出してくれた鬼にってことね。それにしても魔を手懐けるって、いったい?」

「まあ、霞姉さんだって邪神を降ろすし、邪なモノを抑止するのが六女仙の役目でもあるからね。」

「でも、二人とも抑止と言うよりも支配してる感じじゃない?(二人に共通するのはオモチか…。)」

「たしかにね。」

「今日中に帰ってくるかな?(きっと明星も魔を支配するんだろうな、オモチ的に…。)」

「さぁ? まあ、明後日の決勝戦に間に合えばイイケドね…。」

 こんな遣り取りを聞きながら、桃子は、

「(やっぱり、とんでもない高校に在籍していたって、今更ながらに思うっス!)」

 と心の中で呟きながらも、これが日常茶飯事の出来事に感じるようになっていた。やはり、人間は環境に慣れるものであると、桃子はつくづく思っていた。

 …

 …

 …

 

 

 大会六日目はCDブロック準決勝が開催された。白糸台高校、有珠山高校、綺亜羅高校、粕渕高校の試合。

 

 先鋒戦は、大星淡(白糸台高校)、吉田礼子(有珠山高校)、鬼島美誇人(綺亜羅高校)、石見神楽(粕渕高校)の対局。

 前半戦後半戦共に、淡は運悪く神楽の下家となった。

 神楽は前半戦で松実露子の霊を、後半戦で古津節子の霊を降ろし、しかも透視能力もフルに使って戦いに望んだ。そのため、淡は神楽から鳴かせてもらえず、絶対安全圏内で和了りに到達できない局が多く、思ったほど稼げなかった。

 美誇人も神楽をターゲットにして対抗するが、神楽が振り込むわけが無い。

 今回は席順が大きくモノを言ったようだ。先鋒戦は僅差で神楽が淡をかわし、勝ち星を取った。

 

 次鋒戦は、宮永光(白糸台高校)、真屋由暉子(有珠山高校)、稲輪敬子(綺亜羅高校)、坂根理沙(粕渕高校)の対局。

 ここでは白糸台高校の絶対的エース光が圧倒的な力を見せつけ、白糸台高校が待望の勝ち星を得た。ただ、この対局で敬子は、勝ち星を目指さずに光の打ち方を観察しているようだった。

 

 中堅戦は、多治比麻里香(白糸台高校)、矢部伊代(有珠山高校)、鷲尾静香(綺亜羅高校)、春日井真澄(粕渕高校)の対局。

 伊代の治水に似た能力が爆発するも、最終的には静香の豪運には敵わず、ここでは綺亜羅高校が勝ち星を取った。

 

 副将戦は、佐々野みかん(白糸台高校)、頼月英(有珠山高校)、的井美和(綺亜羅高校)、緒方薫(粕渕高校)の対局。

 美女ナンバーワンのみかん、男装麗人の薫、そして留学生の月英を相手に美和が触手プレイで楽しみまくり、綺亜羅高校が二つ目の勝ち星を取って決勝進出を決めた。

 

 大将戦は、原村和(白糸台高校)、和代和代(わしろかずよ:有珠山高校)、竜崎鳴海(綺亜羅高校)、石原麻奈(粕渕高校)の対局。

 鳴海の倍満が数回炸裂したが、やはり牌効率の良い和が和了りの回数を重ね、最終的には僅差で和が大将戦を制した。

 これで白糸台高校と綺亜羅高校が共に勝ち星二で決勝進出を果たした。

 

 

 大会七日目。

 まず早朝から5位決定戦が開催された。千里山女子高校、臨海女子高校、有珠山高校、粕渕高校の試合。先鋒戦から大将戦まで半荘一回ずつの対局である。

 先ず、参加選手全員が卓を囲むように並び、対局前の挨拶が行われ、その後、順次先鋒戦より行われていった。

 

 先鋒戦は、椋真尋(千里山女子高校)、マリー・ダヴァン(臨海女子高校)、吉田礼子(有珠山高校)、石見神楽(粕渕高校)の対局。

 実質、真尋と神楽の一騎打ち状態となった。真尋は親で稼ぐが、節子(神楽に降臨)が見せる幻に恐怖し、途中で支配力が低下。その後、一気に神楽が稼ぎ、勝ち星は粕渕高校が手中に収めた。

 

 次鋒戦は、フレデリカ・リヒター(千里山女子高校)、片岡優希(臨海女子高校)、真屋由暉子(有珠山高校)、坂根理沙(粕渕高校)の対局。

 優希は準決勝戦でパワーを使い果たしたのか今一つの状態。ここでは、咲と同一のDNAを持つフレデリカが大暴れし、余裕で千里山女子高校が勝ち星を取った。

 

 中堅戦は、夢野マホ(千里山女子高校)、郝慧宇(臨海女子高校)、矢部伊代(有珠山高校)、春日井真澄(粕渕高校)の対局。

 マホが能力コピーで序盤に大量リードした。その後、郝と伊代が巻き返しを図るが、マホのリードを覆すことが出来ず、そのまま千里山女子高校が二つ目の勝ち星を取った。

 

 副将戦は、二条泉(千里山女子高校)、南浦数絵(臨海女子高校)、頼月英(有珠山高校)、緒方薫(粕渕高校)の対局。

 序盤は泉と薫がリードするが、南入と共に数絵が豹変し、数絵が一気に大逆転。勝ち星は臨海女子高校が手にした。

 

 大将戦は、浦野瑠子(千里山女子高校)、ネリー・ヴィルサラーゼ(臨海女子高校)、和代和代(有珠山高校)、石原麻奈(粕渕高校)の対局。

 序盤は瑠子が裏ドラ攻撃でリードしたが、運命奏者ネリーが後半に大爆発。三倍満の連続和了りで逆転し、勝ち星は臨海女子高校が手にした。

 

 以上の結果、5位は千里山女子高校(勝ち星二)、6位は臨海女子高校(勝ち星二だが得失点差で6位)、7位は粕渕高校、8位は有珠山高校となった。

 

 

 5位決定戦終了後、すぐに決勝戦が開催された。

 第1シード阿知賀女子学院、第3シード白糸台高校、第4シード永水女子高校、そしてキラーこと綺亜羅高校の試合。

 5位決定戦と同様、先ず参加選手全員が決勝卓を取り囲むように並び、対局前の挨拶がなされた。

 春の姿もある。魔界からは無事帰れたようだ。

 また、この日、阿知賀女子学院メンバーは、ゆいが欠場し、代わりに補員の藤白亜紀が入っていた。

 ゆいは、昨日から女の子の日で、今日は二日目とのこと。特に今回はヒドイらしく、止むを得ず亜紀に代わってもらったようだ。

 

 その後、先鋒選手………阿知賀女子学院の新子憧、白糸台高校の大星淡、永水女子高校の東横桃子、綺亜羅高校の鬼島美誇人の四人だけを残し、他の選手達は控室に戻り、そのまま先鋒戦が開始された。

 

 場決めがされ、起家は憧、南家は桃子、西家は美誇人、北家は淡に決まった。

 そして、卓中央のスタートボタンが押され、サイが振られた。いよいよ、咲達の最後のインターハイの団体決勝戦がスタートする!



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百五十三本場:ステルス攻撃

 インターハイ団体決勝戦がスタートした。

 先鋒前半戦東一局、憧の親。サイの目は9。ドラは{①}。

「(絶対安全圏!)」

 淡は自らの能力を発動し、自分自身は二向聴と軽く、他家は全員六向聴にした。淡の対戦相手は、始終これをやられることになる。

 これを単独で破ることができるのは阿知賀女子学院の第二エース穏乃だけである。咲ですら、この能力を破ることは出来ない。

 そして、

「ポン!」

 淡は他家がヤオチュウ牌処理している間に望みの牌を鳴いて手を進める。今回は対面の桃子が捨てた自風の{北}を一巡目でいきなり鳴いた。

 さらに次巡、

「チー」

 淡は美誇人が捨てた{9}を鳴き、その二巡後に、

「ツモ。」

 自ら和了り牌を引き当てた。

 

 淡が開いた手牌は、

 {四五①②③⑤[⑤]}  チー{横978}  ポン{北横北北}  ツモ{三}

 北ドラ2の1000、2000の手。

 決して高くは無いが、それでも三回和了ればハネ満と同じ点数になる。淡の下家である憧が得意とする30符3翻の手だ。

 まずは、配牌を操る淡が先行した。

 

 

 東二局、桃子の親。サイの目は8。最後の角が最も深い切れ方だ。

 ドラは{3}。

 ここでも、淡は絶対安全圏の能力を発動し、他家を全員六向聴のクズ手にした上で、自分の手は軽く、しかも、

「ポン!」

 二巡目で早々に仕掛けてきた。先ずは憧が捨てた{白}を鳴いた。

 他家が聴牌するのは最速でも六巡目。それまでに淡は和了ってしまおうと言う、他家からすれば、正直最低最悪な方法だ。

 淡の上家は美誇人。当然、淡を鳴かせたくは無い。ただ、最初の数巡はヤオチュウ牌の処理に追われる。

 春季大会から、淡もさらに進化した。淡が鳴こうとしている牌は、

「チー!」

 ヤオチュウ牌なのだ。

 前局で鳴いたのは{北}と{9}。そして、この局で鳴いたのは{白}と{九}だった。

 淡が{白}に続いて{横九七八}を副露した。

 

 数巡後、憧に六回目のツモが回ってきた。

 とは言え、必要な牌しかこないわけでは無い。当然、六向聴から初めて、たった六巡で聴牌できる方が珍しいだろう。まだ憧は二向聴だった。

 桃子も美誇人も同様である。ここでは聴牌できていない。

 

 その次巡、

「ツモ。1000、2000。」

 またもや淡が和了り牌の{②}を自ら引き当てた。他家が聴牌まで到達できないところでの和了りだ。やはり絶対安全圏を破るのは難しい。

 

 

 東三局、美誇人の親。

 ここでも淡は絶対安全圏のみを発動した。狙いは3900から5200程度の手。それを他家の手が出来る前に和了るのを目指す。

「ポン!」

 淡は、三巡目に憧が捨てた{南}を鳴いた。淡の自風である。

 

 ここで美誇人は、敢えて早々に字牌を切ることにした。

 但し、数牌のヤオチュウ牌と、それらと両面になり得る筋の切り出しだけは、絶対安全圏内に行わないように切り替えた。前二局で{9}と{九}を鳴かれたためである。

 つまり、{一九①⑨19}と、その両面になる得る筋牌である{四六④⑥46}を敢えて切らないようにした。

 ところが、それで完全に淡の鳴きが抑えられた訳ではなかった。

「チー!」

 淡が、美誇人が捨てた{3}を鳴いて{横345}を副露した。

 そう言えば、前局と前々局で、和了り牌は何れも{一四六九①④⑥⑨1469}ではなかった。淡はヤオチュウ牌以外でも鳴ける筋や、辺張、嵌張を普通に持っていたと言うことだ。

 これで淡は聴牌。

 そして、その数巡後、

「ツモ! 1000、2000!」

 淡は自ら{①}をツモって和了った。

 これで淡は、三連続で4000点を奪い、結果的に12000点を稼ぐこととなった。

 

 

 東四局、淡の親。サイの目は7。

 ここでとうとう、

「リーチ!」

 淡は絶対安全圏プラスダブルリーチで攻めに出た。

 サイの目が7なら、誰も鳴かなければ淡が暗槓するのは九巡目。そして、和了りは最短で十巡目になる。

 淡は、暗槓までは単なるツモ切り作業。他家は、手が出来て行くが、不要な牌も当然引く。なので、八巡目までには聴牌できずにいた。

 

 九巡目、

「カン。」

 淡が{③}を暗槓した。恐らく槓裏表示牌は{②}であろう。

 嶺上牌で和了る能力を淡は持っていない。当然、嶺上牌はツモ切りだが、これで和了れる者は、ここにはいなかった。

 

 十巡目、淡はツモ切り。

 そして十一巡目、

「ツモ! 6000オール!」

 ダブルリーチ槓裏4を淡がツモ和了りした。

 これで淡は130000点、他家は一律90000点となった。淡と他家の点差は40000点。一般には淡の圧倒的リードと言える。

 しかし、この点差に対して、一人として諦める者はいなかった。

 

 春季大会の憧なら、既に諦めていただろう。それどころか、あの時は淡と当たると知った時点で憧は勝利を諦めていた。

 ただ、その戦意喪失が結果的にチームの負けを生んだ。

 せめて、あと100点だけでも守れていれば、春季大会は、少なくとも白糸台高校と阿知賀女子学院の同時優勝となっていただろう。もの凄く後悔したのは言うまでも無い。

 その後、憧は昔の泥臭い心を取り戻した。なので、どんなに点差を付けられても憧は食らい付いてゆくつもりだ。

 

 桃子も永水女子高校麻雀部………いや、小蒔や六女仙達への恩返しがある。ゆみと交流を続けられるのも霧島神境のお陰なのだ。

 当然、桃子は勝利を目指す。

 

 そして、美誇人も綺亜羅高校初優勝に向けて絶対に諦めない。

 先輩の暴力事件のせいで対外試合が禁止されていたため、昨年の秋季大会から漸く出場できるようになったチームだ。当然、高校3年間で、これが最初で最後の夏季大会出場になる。

 この限られたチャンスも絶対にモノにしたい。

 

 点差を付けられて、意気消沈するどころか、逆に全員の志気が上がって行った。

 当然、淡も、誰一人として勝負を諦めていない今の状況を見て、

「(そうこなくっちゃね!)」

 志気が上がるし、楽しさが増す。やはり、強い相手………ヤル気のある相手と勝負がしたいのだ。

 

 東四局一本場。

 ここでも、当然、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 淡は能力を開放した。

 しかし、サイの目は10。最後の角が深い位置にある。それでダブルリーチをかけるのは見送った。

 ただ、配牌では聴牌とは言え役無しだ。

 ここから淡は、役有り聴牌の形に作り変えて行く。

 

 但し、ルール上、食い変えはできない。

 役無し聴牌でも役有り聴牌に切り替えやすい場合と切り替えにくい場合があるが、今回は残念ながら後者だった。

 例えば、役牌の対子がアタマなら、それを鳴いて暗刻をアタマに切り替えるだけで役あり聴牌に変わる。しかし、今回は役牌を一枚も持っていない。

 しかもアタマがヤオチュウ牌で順子は端牌での順子と中牌だけの順子の両方がある。加えて刻子はチュンチャン牌。これだとタンヤオにも移行しにくいし、チャンタ系への移行もハードルが高い。

 

 一方、憧は、

「ポン!」

 桃子が捨てた自風の{南}を鳴き、

「チー!」

 さらに淡いが捨てたチュンチャン牌もチャンスとばかりに鳴いた。

 そして、

「ツモ。南ドラ2。1100、2100!」

 絶対安全圏を越えたが、漸く憧が初和了りを決めた。

 ただ、この憧の和了りを見て、美誇人がニヤリと笑みを浮かべた。今日の牌の動きや運の動きを全て見切った感じであった。

 

 

 南入した。

 南一局、親は憧。

 ここでは、

「ポン!」

 四巡目に美誇人が、淡に役牌を鳴かせ、さらに、

「チー!」

 その二巡後に、端牌の順子も鳴かせた。これで淡は聴牌。

 但し、これで絶対安全圏を越えた。

 

 次巡、淡は和了り牌を掴むことが出来なかった。

 そのさらに次巡も、淡は自身の和了り牌を引いてくることが出来ず、これをツモ切りした。すると、

「御無礼。」

 美誇人が淡の捨て牌で和了った。

「ロンです。七対ドラ4(表2赤2)、12000。」

 とうとう、淡をターゲットとして美誇人が場を見切ったのだ。

 

 この和了り宣言をモニター越しに聞いて、綺亜羅高校控室では、

「とうとう来たね。これで先鋒戦は美誇人が取ったかな?」

 美和が思わずガッツポーズをしていた。

 ここで超魔物の一角、淡を落とすことが出来れば、綺亜羅高校の優勝の可能性が大きく跳ね上がる。

 

 春季大会では、敬子の和了りで阿知賀女子学院の優勝が阻止されたが、結局のところ白糸台高校、つまり宮永光のチームが優勝している。

 実は三年前のインターハイ以降、宮永一族のチーム以外優勝できていないのだ。

 白糸台高校の団体優勝、宮永照の個人優勝以降、女子高生雀士の目標は、打倒宮永照、打倒宮永咲、打倒宮永姉妹だった。それが打倒宮永一族に変わっただけである。

 それに、春季大会では敬子のポカが無ければ阿知賀女子学院が優勝していた。なので、本当の意味では誰も打倒宮永咲を成し遂げていない。

 

 個人の力量では、綺亜羅高校は誰も咲に勝てないかもしれない。しかし、総合力では最強と言われている。

 その綺亜羅高校優勝に向け、美和も静香も鳴海も期待に大きく胸を膨らませた。

 しかし、敬子だけは、

「この面子相手に御無礼がちょっと早い気がするんだけど………。」

 毎度の如く、周りの空気と逆行していたが、その時の彼女の表情は、ふざけた雰囲気は一切無く、真面目そのものであった。

 彼女だけは、何か嫌な予感がしていたようだ。

 

 

 南二局、桃子の親。

 前局での御無礼発言に対して、淡は、

「(キラーの先鋒、私を見切ったってこと?)」

 一瞬カチンと来たが、頭に血が上っていては美誇人の思う壺だ。なので、一旦深呼吸して心を落ち着かせて、

「(まだこっちがリードしてるし、ちょっと様子を見るか。)」

 淡は守りの麻雀に切り替えることにした。

 

 絶対安全圏は健在だった。ただ、淡が様子見に回り、和了りに向かわなくなったため、そのまま絶対安全圏を越えた巡目へと突入した。

 美誇人は、八巡目に七対子を聴牌した。

 狙いは当然、淡。

 ただ、この時、美誇人は良く分からない違和感を覚えていた。

 

 そして、十巡目、美誇人が切った牌で、

「ロン。」

 誰かが和了った。

 ただ、声が聞こえてきた先………美誇人の左側には誰もいないはず?

 いや、そんなことは無い!

 そこは上家がいるはずだ。

 ところが、美誇人は、その存在を見落としていた。いや、見えていなかった。

 これが噂に聞いていたステルス!

 

 美誇人が目を凝らして上家側を見た。すると、次第に上家の捨て牌が見えてきた。

 しかも、美誇人は上家のリーチに対してノーケアー、且つ一発で振り込んでいた。このリーチが完全に視界から消えていたのだ。

「リーチ一発裏1。7700。」

 しかも子の満貫近い点数だ。

 淡を狩るつもりが第三者、それも見えない相手に自分が狩られるとは………。

 美誇人にとっては、まさかの振り込みであった。

 

 ただ、この和了りを見て淡は、

「(助かったけど、これって私もヤバイかも?)」

 当初、想定していた以上の危機感を覚えていた。

 敵は美誇人一人ではない。ステルス攻撃まで発動してきた。

 現状では、美誇人や憧の捨て牌も参考にしながら何とかステルスを回避しつつ、桃子にギリギリまで美誇人を削らせるくらいしか思い付かない。

 いずれにせよ、守り中心の麻雀で行くしかなさそうだ。

 

 南二局一本場。

 ここでも絶対安全圏が発動していたが、淡が守りに回っているため絶対安全圏内での和了りは無く、そのまま誰も鳴くことなく七巡目に突入した。

 絶対安全圏の間、淡はヤオチュウ牌を集めていた。要はステルスと美誇人の両方への対応を考えての安牌収集だ。

 

 七巡目からは、淡いはヤオチュウ牌切りに切り替えた。

 勿論、何回もやると、逆にそこを狙われるが、今回は一回目。余程、運が悪くない限り堪え切れるだろう。

 

 十巡目。

 ここでも美誇人が切った牌で、

「ロン。7700の一本場は8000っス!」

 桃子が和了った。今回も美誇人がステルスの餌食に遭ったのだ。

 

 これで先鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:淡 115900

 2位:桃子 104600

 3位:憧 94300

 4位:美誇人 85200

 美誇人が大きく後退した。しかも、ステルスへの二連続振り込み。恐らく、美誇人の運も下り坂であろう。

 

 淡は、次は積極的に和了りに向かうことにした。

 そろそろ桃子の親を流さないとマズイ。桃子が美誇人を狩り続けられたら桃子に逆転される。

 

 南二局二本場。ドラは{④}。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 淡は、今回はダブルリーチの能力も使った。第一ツモで聴牌するためだ。

 この局、淡は運が向いてきたようだ。

 

 第一ツモの段階で、

 {一二三⑤⑥⑦1113西西白}  ツモ{5}

 自風の{西}がアタマだ。ここから打{白}で一旦役無し聴牌に取った。

 

 次巡で、早速、美誇人が{西}を切ってきた。これを淡は、

「ポン!」

 鳴いて打{5}。{23}待ち聴牌。

 第一ツモ時点での和了り牌である{4}は、最後の角を越えなければ出てこない。なので、待ち牌を変える必要があるのだが、今回は、それも含めて遣り易い手だったと言える。

 

 次巡、淡はツモ{④}、打{⑦}。

 

 その二巡後、淡はツモ{[⑤]}、打{⑤}で西ドラ2の状態となった。

 

 その次巡、

「ツモ!」

 淡は{2}を引いて和了った。

「1200、2200!」

 これで、淡は一先ず、面倒な桃子の親を流すことに成功した。

 

 

 南三局、美誇人の親。

 淡は、ここでも攻めに出た。絶対安全圏とダブルリーチの能力を使って他家は全員六向聴、自身は第一ツモまでに聴牌する。

 そして、今回も役無し聴牌から役有り聴牌へと移行してゆくつもりだ。

 

 ただ、前局とは違って、今回は役有り聴牌への移行が難しい手だった。ならば、せめて待ち牌だけでも切り替える。それが最低限必要だ。

 

 淡はヤオチュウ牌をチュンチャン牌に入れ替えて行った。最終的にはクイタンになっても構わない。安手で良いのだ。

 

 誰も鳴かないまま絶対安全圏を越えた。

 そろそろ桃子へのケアーが必要になる。

 

 ふと淡は、咲が二年前の長野県大会でステルスを破ったとの話を思い出した。

 それに、たしか咲は、世界大会前の合宿でも、特別ゲストで来た桃子のステルスを相手に振り込みゼロだった。

 世界大会ではドイツチームの西野カナコを相手に、やはり咲は振り込みゼロだった。

「(準決勝でもそうだったけど、阿知賀の先鋒は、ステルスに巧く立ち回っている感じがするんだよね。それって、サキからステルスを破る方法を教えてもらっているんじゃない? もしかしたら光が、その方法を教えてもらってるかも。休憩時間に確認しないと。)」

 やっと淡は、そのことに気が付いた。

 ならば、今は振り込みを回避し、大怪我をしないうちに前半戦を終了させることだ。

 

 十巡目。

 淡は、聴牌気配を感じた。第六感的なものである。

 憧は鳴きが入っていないし、まだ聴牌していないだろう。

 美誇人からも聴牌の気配は無い。

 ならば、恐らく聴牌したのは桃子。いよいよステルス攻撃が始まる。

 ここからは、桃子への振り込みを回避するため、淡は、美誇人や憧の捨て牌に合わせ打ちする。

 準決勝戦の打ち方から、憧は桃子の捨て牌が見えているのは確実であろう。憧が切った直後に桃子が聴牌形を変える可能性はあるが、憧に合わせ打ちするだけでも振り込みを回避できる可能性は高い。

 それに、美誇人は淡の上家。美誇人に合わせ打ちする限り桃子に振り込むことは無い。

 

 

 十巡目と十一巡目は、淡は聴牌を崩して美誇人に合わせ打ちした。

 十二巡目、淡は憧に合わせ打ち。

 

 そして、十三巡目。

 美誇人が捨てた牌で、

「ロン。5200っス!」

 桃子が和了った。

 

 

 そして、オーラス。

 ここでも淡はステルスへの振り込みを回避。

「ロン。5200っス!」

 最後も美誇人が桃子に振り込んで前半戦が終了した。

 

 先鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:淡 120500

 2位:桃子 112800

 3位:憧 93100

 4位:美誇人 73600

 敬子が予感したとおり、御無礼宣言が出た後、美誇人がまさかの四度に渡る放銃をして最下位に転落。淡は首位をキープし、桃子がそれに追随する形となった。



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百五十四本場:見えない敵

 インターハイ団体決勝戦。

 先鋒前半戦が終了し、休憩に入った。

 

 淡は、大急ぎで控室に戻ると、

「光! ちょっと教えて!」

 早速、ステルス対策法について光に聞いた。

「何?」

「サキって世界大会でステルス破ってたよね。合宿でもステルス効いてなかったし。あれって、どうやってたか聞いてる?」

「ええと、西野さん相手にした時だったら、山から消える牌から西野さんの手牌を想定して………。」

「それは光が世界大会の控室で恭子に言ってたのを聞いたから知ってる。そうじゃなくて前半戦。光にアドバイス貰う前のやつ!」

「ああ、あれね。あれは、オンライン麻雀ゲームのつもりで打っただけらしいよ。」

「へっ?」

「全てをデジタル化して考えるんだって。そうすると西野さんが捨てた牌が見えてくるらしいよ。同じ理由で和もステルス破ってるって話だし。」

「ええと、それだけ?」

「それだけ。」

「へっ?」

 これを聞いて、淡は目が点になった。

 咲のことだから、とんでもないことをやっているように思っていたが、たしかにとんでもないことなら憧に出来るはずがない。

 憧でも出来るレベルのものだ。

 なら、それくらいの内容で正しいのだろう。

 とは言え、

「(なにそれ?)」

 余りにも次元が低過ぎる。

 あれだけ手を焼いたステルスが、そんなに簡単に破れるだなんて。

 淡には信じ難い衝撃の真実であった。

 

 

 一方、美誇人も綺亜羅高校控室に戻っていた。

「白糸台の方は見切ったって思ったんだけどね………。」

 珍しく美誇人がショックを受けた顔をしていた。

 噂には聞いていたが、ステルスが本当にあるとは………。

 しかも、まともにその餌食に遭ったのだ。美和にも敬子にも、三銃士と呼ばれる静香にも鳴海にも美誇人にも対応の仕方が全く分からない。

「でも、あれを二年前の長野県予選団体戦では原村和が破ってるらしいし、宮永さんも個人戦でステルスを破ってるって話だね。あと、冷えた龍門渕さんも。まあ、龍門渕さんは例外と考えた方が良いだろうけどね。」

 鳴海がスマホを片手に言った。そんな情報がネット上にもあるようだ。

 ただ、対策方法までは書かれていない。

 さらに鳴海が検索した。そして、昨年の世界大会の記事を見つけた。

「それから、世界大会でドイツの選手。決勝で宮永さんと当たった人。」

「西野って人?」

 答えたのは美和。

「そう。その人もステルスを使う人だったらしいね。しかも、和了り点は永水のステルスよりもずっと大きい。」

「そう言えばそうだった。でも、咲ちゃんは、その人相手に圧勝だったよね?」

「それを考えると、やっぱり化物だね、宮永さん。」

「まあ、咲ちゃんのことだから、とんでもない方法で破ってるんだろうな、きっと。」

 まさか、擬似的デジタルゲーム化でステルスが破れるとは、さすがに美和達も、夢にも思っていなかった。

 

 

 しばらくして、対局室に先鋒選手達が戻ってきた。

 場決めがされ、起家が淡、南家が美誇人、西家が桃子、北家が憧に決まった。

 

 東一局、淡の親。

 当然、ここでも、

「(絶対安全圏!)」

 淡は他家を強制六向聴に落とし込む。

 しかも、淡が能力を使うのは配牌時のみ。ここから先は、擬似的にオンラインゲームを想像して麻雀を打つ。

 たしかに、信じられないことだが桃子の捨て牌が見える。

 そして、

「ポン!」

 淡が桃子の捨てた{東}を鳴いた。

 これで、淡が桃子のステルスに対抗できることが証明された。

「(円光さんに続いて満タンさんもステルス破りを教えてもらったみたいっスね。ミナモさんがいるから予想はしていたっスけど、二人もステルスが効かないとなると、結構しんどいかも知れないっスね。)」

 ただ、桃子は、そう心の中で呟きながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。

 純粋に、自分の麻雀が、昨年の世界大会メンバーに選ばれた淡に、どこまで通用するかを試せるからだろう。

 

 淡が鳴いたことで、一瞬、美誇人にも桃子の捨て牌が見えるようになった。ステルスが破られたからだ。

 しかし、その数秒後には、再び桃子の捨て牌が見えなくなっていた。やはり、桃子のステルス………いやマイナスの気配は強化されているのだ。

 

 この局では、その数巡後、絶対安全圏を丁度越えたところで、

「ツモ。ダブ東ドラ1。2000オール。」

 淡が何とか親での和了りを決めた。

 ただ、前半戦と違い、淡はステルスに怯える心配が無くなった。それが確認できただけでも大きい局だったと言える。

 

 東一局一本場。

 ここでは、桃子も憧も捨て牌を絞っていた。淡に鳴かせないため、つまり淡に和了らせないためだ。

 とにかく、ここで淡の親を流す。桃子も憧も先鋒戦での勝ち星を狙っているのだ。

 

 淡としては、絶対安全圏内に和了りを決めたいが、こう牌を絞られては鳴けないし手が進まない。

 今回、淡は絶対安全圏内に聴牌まで進めることができずにいた。

 

 そして、もう一人。ステルス対策こそできていないが、淡を首位から引き摺り下ろすべく準備を進める者もいる。綺亜羅三銃士の一人、美誇人だ。

 この局では、美誇人はツモの流れを掴み、八巡目でタンヤオ七対子を聴牌した。

 淡は、直感的に美誇人の聴牌を感じ取った。美誇人は聴牌した雰囲気を顔にも態度にも出さない。なので、見た目には聴牌したかどうかは分からない。

 光や咲を相手に鍛えられた淡だからこそ、美誇人の聴牌を見抜けるのだろう。

 

 ここで一旦、淡は順子を崩して安牌を切った。ヤバそうな牌を掴んできたためだ。別に聴牌していたわけでは無いし、ムリは避けるべきだろう。

 それに、美誇人への振り込みは避けなければならない。下手をすればツキを一気に持って行かれる。流れに乗られたら、他家三人の中では一番面倒そうな存在だ。

 

 その次巡、

「御無礼。ツモです。タンヤオ七対子ツモドラ2。3100、6100。」

 美誇人がハネ満をツモ和了りした。

 待ちは淡が止めた牌。

 しかも御無礼発言。

 淡に対して全てを見切ったことを強調しているつもりだろう。少なくとも、ステルス以外は全て掌握できているようだ。

 さすが、春季大会で個人9位をとっただけのことはある。一歩間違えたら、淡でも逆転されるだろう。

 

 ただ、これを放銃せずに済んでいるところを見ると、まだ淡には一応ツキがありそうだ。

 本当にツキが無くなった時は、ここで聴牌して、大抵勝負するつもりで切った牌でハネ満レベルを振り込むだろう。

 そうならなっただけでも良かったと、淡は心の中で自分に言い聞かせていた。

 

 

 東二局、美誇人の親。

 ここでは珍しく、

「ポン!」

「チー!」

 桃子が憧に連続で鳴かせた。美誇人の親を流すためである。

 絶対安全圏は効いていたが、ツモは普通に機能する。

 それで桃子は、数巡待ってから憧に役牌を鳴かせると、その後は憧が欲しそうな端牌を敢えて捨てていった。憧の手を進ませるためだ。

 

 この局では、桃子の目論見どおりに事が進み、

「ツモ! 1000、2000!」

 憧が30符3翻の手をツモ和了りした。

 美誇人としては、桃子と憧のコンビ打ちに、まんまとやられた感じを受けたが、これは仕方が無い。ヤバそうな親をさっさと流すのも戦略のうちだ。

 

 

 東三局、桃子の親。

 絶対安全圏は続く。淡以外は前後半戦の前局を通して六向聴からのスタートとなる。覚悟していても結構精神的に厳しいものがある。

 ただ、普通に手が伸びるのが、ここでは救いである。

 相変わらず、桃子も憧も美誇人も淡の早和了りを警戒して場風、淡の字風、三元牌をなかなか切り出してこない。

 しかも憧は淡がチーしたい牌を捨ててこない。

 それもあって、今回も絶対安全圏内に淡は聴牌できずにいた。

 

 七巡目、

「リーチっス!」

 桃子が先制リーチをかけた。

 但し、声は聞こえない。

 きちんとリーチを発声しており、モニター越しに見る者達には聞こえているのだが、そのマイナスの気配によって卓に付いている者達には全然聞こえないのだ。

 それでも、淡と憧には出されたリーチ棒が見えていたし、捨て牌が横に曲げられているのも見えていた。なので、リーチがかかっていることは把握できていた。

 この場で桃子のリーチに気付けなかったのは美誇人だけだった。

 美誇人も、この巡目で聴牌。

 そして、和了りを目指して切った牌で、

「ロン。40符3翻(親)は、7700っス!」

 美誇人は桃子に振り込んだ。それも、子の満貫近い点数だ。結構痛い。

 

 しかし、これで心が折れる美誇人ではなかった。

 静かに深呼吸すると、前後半戦トータル暫定1位の淡に鋭い眼光を向けてきた。

 

 東三局一本場、桃子の連荘。ドラは{1}。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 ここで淡は、再び一巡目聴牌の能力を発動した。

 配牌は一向聴。そして、第一ツモで聴牌。しかし、ダブルリーチはかけなかった。

 

 この時の淡の手牌は、

 {八八八①②③⑦⑨345白白}

 ここから和了り形を変えて行く。

 

 第二ツモは{[⑤]}。打{⑨}で、早速和了り牌を{⑧}から{⑥}に変更。

 

 第三ツモは{2}。打{5}で{1}か{[5]}、つまりドラのツモに備える。

 

 第四ツモは{北}。ツモ切り。

 

 第五ツモは{④}。打{⑦}で{③⑥}待ちに変更。

 

 第六ツモは{1}。ここで打{4}でドラを取り込んだ。

 これで絶対安全圏は終了した。

 

 次巡、早速、桃子が打{白}。

 これを、

「ポン!」

 淡は見逃さずに鳴いた。ここから打{①}で、{②⑤}待ちに変更。

 

 そして、その二巡後、淡は{②}をツモり、

「ツモ。白ドラ2。1400、2700!(40符3翻一本場)」

 和了りを宣言した。これで、再び淡は後半戦の首位に返り咲いた。

 

 

 東四局、憧の親。

 今回も淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 一巡目聴牌の能力を発動した。

 当然、第一ツモで聴牌。ただ、ここでもダブルリーチはかけなかった。ここから役有りの手に変えて行くつもりだ。

 

 ただ、今回の手は、

 {二三四七七七⑦⑨135北北}  ツモ{2}

 ここから打{5}で聴牌したが、役有りに変えて行くには少々時間がかかりそうだ。

 

 憧も桃子も美誇人も手が重い。

 しかし、それでも美誇人は、何とか八巡目に聴牌した。

 今回も美誇人には桃子の捨て牌が見えていない。ただ、見えない敵に恐れずに、

「リーチ!」

 美誇人が先制リーチをかけた。

 桃子は、

「(私の捨て牌は見えていないっス!)」

 直撃を受ける心配はないとの判断で、堂々と危険牌を切って手を進めた。

 この牌は美誇人の和了り牌だったが通し!

 見えていないのだから美誇人が当たれるはずが無い。

 

 憧と淡は一旦、安牌切りで打ち回し。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 やはり人鬼である。この逆況の中、美誇人は一発で和了り牌を掴んできた。

「3000、6000!」

 しかも、ハネ満ツモ。これで美誇人が再び後半戦のトップに躍り出た。

 

 ただ、この和了りを見て淡は、

「(永水の一発振り込みを見逃してる…。そっか、ステルスで見えていないから!)」

 次局では、美誇人を罠に嵌める作戦に出ることにした。

 

 

 南入した。

 南一局、淡の親。

 今回、淡は、

「(絶対安全圏!)」

 ダブルリーチの能力を敢えて使わなかった。しかも、和了りにも向かっていない。完全に様子見しながら打っていた。

 

 九巡目、

「リーチ!」

 ツモの流れを掴んだ美誇人が、先行してリーチをかけてきた。

 桃子は、当然、ノーケアーで危険牌を通し。自分のステルスの能力に対して絶対的な自信があるのだ。

 憧は一発回避で降り。

 そして、淡は桃子と同じ牌を敢えて切った。

 すると、

「ロン! 一発!」

 この淡の捨て牌で美誇人が和了りを宣言した。

 しかし、これはチョンボになる。桃子がリーチ直後に捨てている牌なのだ。これは見逃しフリテンになる。

「それ、同巡見逃しだよ!」

「えっ?」

 淡は、これを狙っていた。準決勝戦で桃子と憧で真尋を潰したのと同じ戦法だ。

 美誇人は、淡に指摘されて自分の下家の河があるであろう場所を見た。

 一見、そこには何も見えなかった。マイナスの気配で桃子の捨て牌が見えなくなっていたためだ。

 が、時間経過と共に少しずつ桃子の捨て牌が見えるようになってきた。

 たしかに同巡見逃しだ。

 

 これだと美誇人は、下手に憧からも淡からも和了れない。よりによって、桃子は美誇人の下家なのだ。

 桃子の捨て牌を見逃せば、美誇人は、憧からも淡からも和了れなくなる。同巡フリテンになるからだ。

 

 この場でステルスが効いているのは美誇人だけ。

 淡と憧にはステルスが効いていない。

 なので、敢えてこう言ったことを仕掛けてきた………つまり、嵌められたのだと、今になって美誇人は気が付いた。

 

 南一局が仕切り直しされた。

 ここで淡は、敢えて絶対安全圏を使わなかった。

 すると、三巡目に、

「リーチ!」

 桃子が先制リーチをかけてきた。

 もの凄く仕上がりが早い。これまで絶対安全圏で強制六向聴にしていたが、それが無くなると、こうも早く聴牌できるのか?

 淡は、この桃子の底力に驚きの色が隠せなかった。

 

 しかも、ステルスがかかっている。

 憧と淡は、ステルスを見破っているし、牌が横に曲げられたのが見えるのでリーチがかかっていることが認識できる。

 しかし、美誇人には、これが見えていなかったし、ステルスで掻き消された聴牌気配を探知することも出来ていなかった。

 美誇人も、その次のツモで聴牌したのだが、巡り合わせが悪いのだろう、まるで吸い込まれるように、

「ロン! 一発っス! 5200!」

 一発で桃子に振り込んだ。

 

 

 南二局、美誇人の親。

 ここでも淡は絶対安全圏を封印した。

 すると、

「リーチっス!」

 今度は、桃子が二巡目でリーチをかけてきた。

 前局以上に早いリーチ。完全に、運が桃子に渡っていないだろうか?

 淡は、

「(ちょっとマズったかな?)」

 次局は絶対安全圏を使って、自分が早和了りするように切り替えないと、さすがにヤバイと思っていた。

 

 一方、美誇人はヤオチュウ牌が多かった。やはり運が低下していたのだ。

 そう言った中でも、美誇人は着々と手を進めていったが、七巡目に切った牌で、

「ロン! 5200っス!」

「くっ!」

 またもや桃子に振り込んだ。

 思わず、悔しさの余り、美誇人の口から声が漏れた。

 

 

 この段階で、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:桃子 108600

 2位:淡 105400

 3位:憧 93500

 4位:美誇人 92800

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:淡 225900

 2位:桃子 221100

 3位:憧 186600

 4位:美誇人 166400

 淡と桃子の点差が4800点まで縮まってきた。

 

 既に親番を失った美誇人にとってはダブル役満でも和了れない限り逆転できない絶望的な状況だが、それでも目の輝きは消えていない。綺亜羅三銃士と呼ばれるだけはある。しぶとい選手だ。

 親を残した憧には逆転の可能性が一応ある。

 淡と桃子は、勝ち星に近い位置にいる。当然、勝ち星を狙う。

 残りの二局に向けて、四人の志気は、さらに上がっていた。



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百五十五本場:エース対決開始!

 インターハイ団体決勝戦。先鋒後半戦は、いよいよ南三局に突入した。

 桃子の親番。ドラは{②}。

 ここで淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 再び絶対安全圏とダブルリーチの能力を復活させた。桃子に逆転されないため、とにかく早和了りを目指す。

 

 淡の配牌は、

 {一二三四四四③④⑤179南}

 

 ここに第一ツモは{1}。

 一旦、聴牌にとって打{南}。

 すると、

「ポン!」

 この{南}を早々に憧が鳴いた。幸運にも憧は配牌で{南}が一枚あるところに第一ツモで{南}を引いていた。

 

 憧と淡の点差は前後半戦トータルで39300点。そう簡単に逆転できる点差ではないが、憧だって勝ち星を諦めたくない。

 それに、まだ憧は親番が残っている。そこで連荘すれば…………、鳴き麻雀で30符の和了りの連発でも、そこにドラがあれば、まだ何とかなる。

 例えば、今の点数を起点に考えた場合、2000オールを一回、さらに親満級の和了りを二回ツモ和了りできれば逆転は可能だ。望みはある。

 

 一方の桃子も、この親で和了って逆転を目指す。

 そのためには手を最速で進める。

 しかし、

「チー!」

 桃子が切った{9}を憧が鳴いた。しかも、憧は、鳴くと手が加速するように見える。ここに来て、その幻影を見せ付ける。

 その後も憧は順調に手を伸ばした。

 

 憧は配牌で、

 {二五八②④⑧78東南北白中}

 

 このクズ手だったが、第一ツモで{南}をツモり、打{東}。

 

 続いて淡から{南}を鳴いて打{北}。

 

 次巡、桃子から{9}を鳴いて打{白}。

 

 続いてツモ{二}、打{中}。

 

 ツモ{⑥}、打{八}。

 

 ツモ{二}、打{五}。

 

 ツモ{⑤}、ここで打{⑧}でドラ待ち聴牌。

 現段階で、桃子と美誇人は絶対安全圏内だが、憧だけは淡からの鳴きが入った分、手の進みが早い。

 手牌は、

 {二二二②④⑤⑥}  チー{横978}  ポン{南南横南}

 

 そして、次巡、憧は幸運にもドラの{②}を引き当てた。{南}の明刻に{二}の暗刻、そして{②}の単騎ツモで珍しく憧の手は40符に達した。

「ツモ! ダブ南ドラ2。2000、4000!」

 予想以上の手に、憧の点数申告の声にも自然と力が入った。

 

 これで、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:桃子 104300

 2位:淡 103400

 3位:憧 101500

 4位:美誇人 90800

 結構混戦状態である。

 

 そして、現段階での前後半戦トータルでは、

 1位:淡 223900

 2位:桃子 217100

 3位:憧 194600

 4位:美誇人 164400

 親満二回のツモ和了りで、憧は淡を逆転できる状態になった。

 当然、憧は、

「(次、絶対に和了る!)」

 貪欲に和了りに向かう気持ちが一層湧き上がる。

 

 

 そして迎えたオーラス。

 美誇人が逆転するにはダブル役満しかない。当然、その意気込みはある。

 ただ、

「(絶対安全面プラスダブリー!)」

 淡が絶対安全圏を使う以上、字牌は美誇人、桃子、憧にばら撒かれる。

 しかも、よりによって今回、

 

 憧の配牌は、

 {一四七②⑧368東南西北白中}

 

 美誇人の配牌は、

 {二五六②④⑨7東南西北白中}

 

 桃子の配牌は、

 {三六九③⑥⑧5東南西北白中}

 

 三人に{東南西北白中}が一枚ずつ分配された。これでは、四喜和や大三元を使ったダブル役満(字一色や四暗刻との複合役満)を作るのは不可能である。

 {一九①⑨19}も配牌に少ない。これでは清老頭四暗刻に持って行くのも実質不可能であろう。

 あと考え得るダブル役満は緑一色四暗刻くらいだが、美誇人の配牌には{23468發}が一枚も無い。

 これで美誇人の大逆転は完全に不可能になったと言って良い。

 憧の連荘も厳しいし、桃子が和了りを目指すのも困難であろう。

 

 そう言った中、淡の配牌は、

 {二三四八八八②④⑥⑥13白}

 

 ここに{③}をツモ。一旦、聴牌にとって打{白}。

 ただ、ここからクイタンに走ろうにも、当座、他家から出てくる牌は{東南西北白中}であろう。なので、淡は鳴かずにツモのみで手を進めなくてはならない。

 

 次巡、淡は{發}をツモ切り。

 

 三巡目、淡はツモ{[⑤]}。打{⑥}で、一向聴に落とした。待ちを大きく変えるためだ。

 

 四巡目、淡はツモ{1}、打{3}で再び聴牌。できれば{3}の方が欲しかったが、ここで贅沢は言っていられない。

 役無しの{①④⑦}待ちの三面聴だが敢えてリーチをかけず。第一ツモ時点での待ちとは全く異なる待ちに変えることに成功した。

 

 五巡目、六巡目はツモ切り。

 

 そして、続く七巡目、

「ツモ!」

 淡は{①}を引き当て、和了りを宣言した。

「ツモドラ1。500、1000!」

 和了れば何でも良い局面。当然、安手でも淡の声には力が入る。

 

 これで、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:淡 105400

 2位:桃子 103800

 3位:憧 100500

 4位:美誇人 90300

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:淡 225900

 2位:桃子 216600

 3位:憧 193600

 4位:美誇人 163900

 白糸台高校の第二エース淡が先鋒戦を征し、一つ目の勝ち星は白糸台高校が手に入れた。やはり、春季大会個人3位の実力はダテではない。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼がなされた後、先鋒選手達は、それぞれ対局室を後にした。

 

 ただ、控室に戻る途中、勝ち星を得たにも拘らず、淡は恐ろしい程の何かを感じ取って震えて出した。

 一人だけのオーラではない。複数人の強大かつ攻撃的なオーラを感知したのだ。

「なにこれ?」

 そして、控室から少し離れたところで、淡は、その恐ろしい何かを発する一人…………宮永光と会った。

「一つ目の勝ち星、おめでとう。」

「ありがとう。光もガンバ!」

「当然。今度こそ、咲に勝つ!」

 光は、そう言いながら淡とハイタッチすると、触れるモノを全て壊しそうなくらい張り詰めた空気を身に纏いながら対局室へと向かっていった。

 

 

 恐ろしい何かを発する二人目…………宮永咲は、相変わらずチームのみんなから単独行動を許してもらえない。

 今日もコーチの恭子と手を繋いで対局室へと向かった。

 毎度のことながら恐ろしいオーラで身を包んでいる。

 しかも、最後のインターハイ団体戦決勝戦と言うこともあってか、これまでに無いレベルの恐ろしさを発している。

 途中で会った憧は、

「咲! 勝てなくてゴメン。私の分もお願い!」

 と言いながら咲にハイタッチしたが、その時に一瞬吐き気を催したと言う。それ程までに強烈なエネルギーを咲は放っていたのだ。

 

 

 恐ろしい何かを発する三人目…………神代蒔乃(神代小蒔妹)には、既に最強神が降臨していた。

 彼女は、控室を出ると、そのまま対局室の手前までテレポーテーションした。なので、桃子と擦れ違うことは無かった。

 こちらも咲と戦える最後のインターハイであるが故だろう。過去に小蒔に降臨していた時以上に強大なオーラを放っていた。

 

 

 そして、今回は、恐ろしい何かを発する四人目がいた。キラーこと綺亜羅高校の現エース稲輪敬子だ。

 春季大会の時には、顔面偏差値ランキングでは憧と同着11位だった。これは、顔面偏差値と言いながらもKYな娘と言うことで中味に問題ありとされ、持ち前の美貌ほど票が伸びなかったとされている。

 しかし、今回は違う。『輝け! 部活少女!!』で披露した水着姿と50メートルクロールで出した25.01秒と言うスバラなタイムも然ることながら、この時に節子に関する敬子のコメントで人々が勝手に、

『なんて友達思いなんだ!』

 とか、

『信心深いんだ!』

 とかプラスの方に誤解してくれたこともあって、今回の顔面偏差値ランキングでは正当に票が伸びたようだ。

 

 加えて、春季大会の後、頭を切り替えるために趣味の水泳にも時間を割いた。それで全身がさらに引き締まり、より一層美しくなっていた。元々1000人に1人の美少女と言われていたが、そこからさらに磨きがかかった感じだ。

 春季大会決勝での失態があるため、阿知賀女子高校ファンからは未だ叩かれている部分はあるものの、見た目は非常に良いためファンも増えていた。

 もっとも、服の着こなしはだらしないし髪もボサボサと、普段の敬子は非常に残念な美少女なのだが、人前に出る際には美和達が敬子の服も髪もキチンとさせていた。そう言ったチームメイト達の努力も評価されるべきところであろう。

 

 ちなみに本大会の顔面偏差値ランキングベスト10は、以下のとおりとされていた。対象は都道府県大会で敗退した高校の選手も含まれている。

 1位:佐々野みかん(白糸台高校)←昨年春季大会より不動の頂点

 2位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 3位:美入人美(姫松高校)

 4位:美入麗佳(姫松高校)

 5位:石戸明星(永水女子高校)

 6位:原村和(白糸台高校)

 7位:宇野沢美由紀(阿知賀星学院)

 8位:多治比麻里香(白糸台高校)

 9位:滝見春(永水女子高校)

 10位:新子憧(阿知賀星学院)

 時点:大星淡(白糸台高校)←アホの娘でなければ票はもっと入ったと言われている

 

 なお、春季大会で8位だった柊かがみ(大酉高校)と9位だった柊つかさ(大酉高校)は、それぞれ11位、12位までランクを落とした。人気は高いのだが、やはり全国大会に出場できないと票が伸びないのかもしれない。

 

 敬子は、美誇人と擦れ違う時、

「美誇人も頑張ったけど、やっぱり大星さんは強いね。」

 と、春季大会のようなKY発言が消えていた。

 基本的にはKYなのだが、色々と節子に夢の中で調教されたようだ。

「大星さんもだけど、あのステルスには参ったよ。敬子の相手は、とんでもない魔物三人だけど、頑張って!」

「できるだけのことはする。それに、あの時のような失態はしないから。」

 敬子は、春季大会個人戦の翌日、咲と打つ機会に恵まれた…………と言うか節子の霊に強制された(138本場オマケ参照)。

 その時、敬子は咲の下家。しかも節子の霊を降ろした神楽も同卓していたこともあって咲がオーラを全開放した。

 これには、さすがにKYな敬子でも咲の強大なオーラを感じ取り、対局直後に巨大湖を形成してしまった。

 同卓した節子(本体は神楽)と茂木紅音(もてきあかね:美和や敬子達の一学年下)も大放水したが、やはり咲の下家だった敬子が最も激しかったと言う。

 しかし、あれから敬子は打倒咲を目指して努力するようになった。節子の悲願でもあるが、敬子自身も全国女子高生雀士の頂点に挑みたくなったのだ。

 

 

 対局室に、咲、光、蒔乃、敬子が姿を現した。各校エースの対決だ。

 場決めがされ、敬子が起家、蒔乃が南家、咲が西家、光が北家に決まった。

 

 決まった席に座ると光が、

「今度こそ咲に勝つ。前回のような点数調整は絶対にさせないからね!」

 咲に宣戦布告した。

 

 蒔乃(神)は、

「高校での大会でそなたと打つのは、これで最後になる。そなたの持つ最高の力と対峙し、それを打ち破ってみせようぞ。」

 咲との戦いを思い切り楽しむつもりでいた。

 この後、コクマが開催される予定だが、咲は3年生のためジュニアAチーム、蒔乃は1年生のためジュニアBチームになる。そのため、コクマでの戦いは叶わない。

 つまり、咲と敵として戦うのは、高校では、これが最後になるのだ。

 

 敬子も、

「今回は、前回のようには行かないからね。」

 闘志剥き出しの表情をしていた。

 この時、咲は、

「(やっぱり、この子、凄く綺麗。みかんちゃんレベルだよね? でも、今回、この卓の雰囲気に耐えられるかな?)」

 と少し敬子のことを心配していた。

 明らかに、敬子の出すオーラは春季大会直後とは全然違う。かなりの実力を持っていると咲は感じていた。

 しかし、やはり面子が面子である。池田華菜でもデク人形と化すレベルの卓だ。

 そんな咲の心配を他所に、敬子がサイを回した。

 

 

 東一局、敬子の親。ドラは{7}。

 咲は、早速、靴下を脱いだ。そして、一旦、目を閉じると精神集中し、再び目を開いた時、さらに強大なオーラを放ち始めた。

 これを感じた光は、

「(これ、今まで一度も破れなかったやつ。)」

 咲がプラスマイナスゼロを狙っていると瞬時に理解した。しかも、全員の点数や順位までも操作してくるやつだ。

 ただ、これで咲は前半戦1位も後半戦1位も放棄したことになる。咲が狙うのは前後半戦トータルでの1位だろう。

 ならば、光は前半戦後半戦共に1位を狙う。プラスマイナスゼロの発動は、ある意味、咲に総合点で勝つチャンスでもあるのだ。

 

 一方の蒔乃は、

「最強の支配力か。最後の戦いで、ようやく拝めるの!」

 と言いながら、咲がプラスマイナスゼロを出すのを喜んでいた。咲が持つ最強の支配力との戦いである。

 ここで咲は、25000点持ちで考えた場合に、咲は29600点から30500点の間になるよう点数調整をする。

 つまり、蒔乃(神)は、この対局が咲より点数を上回れるかどうかだけではなく、咲の点数が104600点から105500点に納まるのを阻止出来るかどうかと言う変則的な戦いであることも理解していた。

 当然、勝ち星ゲットと共にプラスマイナスゼロを破りに行くつもりだ。

 

 敬子は、プラスマイナスゼロのことを知らなかったため、純粋に勝利を狙っていた。ただ、前回打った時よりも咲のオーラが強大になっていることは感じていた。

「(あれより上があるの?)」

 今回、敬子は巨大湖形成をしないつもりでいたが、少し自信がなくなってきた。

 

 

 六巡目、蒔乃は九連宝燈を一向聴まで進めた。

 ここで咲が、

「カン!」

 {⑤}を暗槓した。赤牌二枚が副露される。

 そして、嶺上牌を取り込むと、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

 光と敬子は一発回避の安牌切り。蒔乃は相手の和了り牌を察知できるため、当然振り込まない。

 

 咲が一発目のツモを引いた。

 すると、

「カン!」

 今度は{⑧}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {二二34567}  暗槓{裏⑧⑧裏}  暗槓{裏[⑤][⑤]裏}  ツモ{2}

 

 リーチツモタンヤオ嶺上開花表ドラ1赤2のハネ満だ。

「3000、6000!」

 ただ、二つも槓しておきながらドラは表ドラが一枚に赤ドラ二枚のみ。

 この和了りを見て、

「(本当に噂どおり、自分には裏も槓ドラも槓裏も乗せないんだ。)」

 と敬子は思っていた。

 

 

 東二局、蒔乃の親。ドラは{3}。

 ここでは、六巡目に、

「リーチ!」

 光が{北}を切って先制リーチをかけた。

 

 この時の光の手牌は、

 {二三四九九九2333456}

 

 和了り役はリーチのみだが、{3}を三枚持つ満貫手。

 しかも{1247}の四面聴。

 

 すると敬子が、

「ポン!」

 この{北}を鳴いた。自風だ。

 そして打{南}。

 

 ここまで、敬子の捨て牌は、

 {①91一西南}

 相変わらず読めない捨て牌だ。

 

 蒔乃と咲は和了り牌を見抜くため振り込まず。

 そして、光のツモ番。

「(さっきの鳴きで流れがズレたかな?)」

 ここで光が引いたのは{⑨}。和了り牌を引き当てられずにツモ切りした。

 すると、

「ロン!」

 この{⑨}で敬子が和了った。ただ、この時、咲や光の目には、敬子の姿が美しい人魚の姿のように見えていた。

 

 開かれた手牌は、

 {④[⑤][⑤]⑤⑥⑦⑧東東東}  ポン{横北北北}  ロン{⑨}

 

 {③④⑥⑨}待ちの四面聴。しかも、東北混一色赤2のハネ満だ。

「12000!」

 まさかの直撃。光には、痛い振り込みとなった。



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百五十六本場:プラスマイナスゼロ発動-1

 インターハイ団体決勝戦。次鋒前半戦東三局。

 咲の親番。

 ここに来て、蒔乃の配牌は萬子九枚と、極めて萬子に偏っていた。これは、神の力で操作したものではなく、偶然、こうなっただけである。数十局に一回くらいは、こう言ったことがあるだろう。

 もっとも、その配牌とツモが噛み合うかは一般には別である。

 

 ただ、配牌で他家の手牌として持って行かれていない限り、欲しい萬子を自在にツモれる蒔乃(神)にとっては、咲に役満を親カブリさせる絶好のチャンスである。当然、ムダツモ無しに萬子一直線で手を進めてゆく。

 そして、たった五巡で、

「ツモ! 8000、16000!」

 純正九連宝燈を和了った。さすがに、これは止めようが無い。この一発で、蒔乃は断然トップに立った。

 

 

 東四局、光の親。

 ここでは、

「チー!」

 咲の打牌が甘い。それを逃さず光が鳴いた。

 既に光の点数は76000点まで落ち込んでいた。25000点持ちであれば、あと1000点しかない状態だ。

 当然、和了りに向かって最短距離を突き進んで行く。

 この咲の打牌が、点数調整を視野に入れたものか、それとも敢えて鳴かせて欲しい牌を自分のツモに回すためかは分からないが、光としては、今は、少しでも手を進めて和了りに繋げたい。

 

 次巡、光のツモは良好。

 照と同じで第一弾の和了は苦労するが、それでも基本的に、相手の能力で自身の能力が掻き消されない限り、一般人と比べれば、光は欲しいところがバンバン入るほうだ。

 東二局でリーチをかけた際に敬子に振り込んだことが、むしろ珍しいと言えよう。

 今回も欲しいところを次々と引き寄せる超鬼ツモ。それこそ、北欧の小さな巨人と呼ばれるだけの実力が彼女にはある。

 そして、数巡後、

「ツモ。タンヤオドラ3。3900オール!」

 親満級の手をツモ和了りして東二局での振り込み分を取り返した。

 

 東四局一本場、光の連荘。

 第一弾の和了りを決めると、光の手は加速する。

 ここでも光は順調に手を進め、たった五巡で、

「ツモ! 4100オール!」

 平和タンヤオツモドラ2の親満ツモ和了りを決めた。

 

 現状、次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 121000

 2位:光 100000

 3位:敬子 91000

 4位:咲 88000

 東初での和了りを決めた咲が最下位に転落した。

 

 

 東四局二本場、光の連荘。

 現在、蒔乃がトップだが、ここに来て二連続の和了りで計24000点を稼いだ光に蒔乃の意識は集中する。咲のプラスマイナスゼロを破るのも大事だが、星取り戦である以上、勝ち星を取ることが本来の目的である。

 しかし、蒔乃が聴牌と同時に切った{北}で、

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けてきた。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は{8}を連槓(暗槓)し、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 さらに咲は{西}を暗槓した。

 そして、三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 当然の如く、咲は嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {三三三⑤}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏88裏}  明槓{横北北北北}  ツモ{[⑤]}

 

 対々和三暗刻三槓子嶺上開花赤1の倍満。

「16600です。」

 これは、蒔乃の責任払いになる。この和了りで、咲は200点差だが蒔乃を抜いてトップに立った。

 

 

 南入した。

 南一局、敬子の親。

 敬子はスタートボタンを押すと、咲達が一度も聞いたことの無いマイナーな曲を口ずさんだ。対局中に歌うことは禁じられているが、ここでは、配牌が終了するまでであれば歌っても良いとされている。

 ドラは{二}。

 配牌終了と共に敬子は歌うのをやめた。

 

 五巡目、敬子の河は、

 {東南西北白}

 

 相変わらず読みようが無い。周りから見たらKYな捨て牌だ。

 しかも、どうやらこれで聴牌している。敬子は聴牌気配を見せないが、百戦錬磨の光には、ほんの僅かな雰囲気の違いだけでそれが察知できる。

 ただ、光でも、この手はさすがに読めない。振り込み覚悟で手を進めるしかない。

 

 ここで光はアマタ落としで打{①}。一先ずセーフ。

 しかし、その二巡後、またもや敬子の姿が人魚のように見えた。東二局に敬子が和了りを決めた時と同じである。

 それと同時に、

「ツモ。」

 敬子が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {二二五五③③⑨4499白白}  ツモ{⑨}

 

「ツモ七対ドラ2。4000オール!」

 親満ツモだ。これで敬子がトップに立った。

 

 この和了りを見て咲は、

「また{⑨}?」

 東二局と今回の和了りが、共に{⑨}で和了っていることに気が付いた。

 すると敬子が咲に笑顔を見せた。もの凄く美しい。京太郎一筋の咲が、百合の世界に逆戻りしそうだ。

「分かっちゃった?」

「春季大会では、こんなのは無かったけど?」

「あの後、できるようになったの。九筒撈魚って知ってるでしょ?」

「{⑨}を魚の群れに見立てた役だね。」

「そう。でも、私は河じゃ泳がないから、別に河底撈魚には拘らないで{⑨}で和了れるみたい。白築プロが{1}で和了るみたいに。」

「ふーん………。」

 咲は、敬子が和了る時に人魚のように見えた理由が何となく分かった気がした。

 敬子は水泳が得意で、そこから泳ぎに関係する能力に目覚めたのだろうと推察した。それで敬子自身は人魚に見え、和了り牌には魚群を意味する{⑨}が絡む。

 

 南一局一本場、敬子の親。

 今回も、さっきと同じ曲を敬子は口ずさんでいた。

 咲が、

「それって何の曲?」

 と敬子に聞いた。

「うちの高校の応援歌。」

「へー。」

 たしかに、聞いたことが無くて当たり前か。他校の応援歌なんて普通は知らない。

 

 そう言えば、前局でも配牌時に敬子は曲を口ずさんでいた。もしかして、人魚の歌声に因んでいるのか?

 昨日の準決勝戦では、こう言った動きを敬子は見せていなかった。恐らく、決勝戦のために取っておいたのだろう。

 

 綺亜羅高校は、美和も静香も鳴海も美誇人も強い。恐らく、総合力では参加校ナンバーワンであろう。

 相手に魔物がいない対局であれば、ほぼ間違いなく綺亜羅高校の選手が勝ち星をあげる。それで敬子は、安心してこの能力を決勝戦まで隠していたのだ。

 そして、今、敬子も勝利に向けて能力を解放してきた。女子高校生雀士トップツーに勝利するため………打倒宮永咲、打倒宮永光のために。

 

 咲が精神を集中した。敬子の能力を強制力で押さえつける。

 当然、敬子は、咲のオーラがさらに強大になって行くのを感じ取っていた。

 

 五巡目、咲は、

「ポン!」

 敬子が切った{①}を鳴き、次巡、

「カン!」

 狙ったように{①}を加槓した。

 嶺上牌は{白}。

 すると、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {白}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{西}。

 当然のように、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓すると、三枚目の嶺上牌で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一79}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏白白裏}  明槓{①横①①①}  ツモ{8}

 西白チャンタ三槓子嶺上開花のハネ満ツモだ。

「3100、6100!」

 これで再び咲がトップに返り咲いた。

 

 

 南二局、蒔乃の親。ドラは{7}。

 今回も敬子は綺亜羅高校応援歌を配牌時に口ずさんでいた。本対局では、今後も配牌時の敬子のハミングは続くことになる。

 

 蒔乃の配牌は、萬子が四枚に字牌が二枚。{一三七八西白}と持っていた。

 そろそろ、和了りが欲しいところだ。ここは九連宝燈ではなくても良い。混一色手で良いから和了りを目指す。

 当然、蒔乃は序盤に筒子や索子を捨てて行く。

 今回の第一打牌に蒔乃が選んだのはドラの{7}。これを最後に切るのは避けたいと言ったところだろう。

 

 ところが、これを逃さず、

「ポン!」

 いきなり光が鳴いてきた。これでドラ3が確定。

 ここは、蒔乃と光の早和了り勝負となった。

 光は能力を指先に込め、順調に手を伸ばす。

 蒔乃も順調に手を作り上げて行く。

 

 その後、六回のツモで、蒔乃は、

 {一二三七八九西西西白白白①}

 

 白チャンタを聴牌した。

 しかし、蒔乃は萬子か字牌しかツモれない。そこで、次のツモで{九}をツモって{六九}待ちの混一色手に変更した。

 この次に{九}が来れば、ツモ混一色白チャンタの親ハネになる。絶好の逆転手だ。

 

 が………、

「ツモ!」

 先に光に和了られた。

「タンヤオドラ3。2000、3900!」

 これで光が原点復帰を果たした。

 

 

 南三局、咲の親番。

 第一弾の和了りを決めて、光は波に乗ったようだ。

 ここでも光は順調に手を進め、たった四巡で、

「ツモ。2000、3900!」

 門前でタンヤオツモ一盃口ドラ1を和了った。

 

 現段階での次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:光 109700

 2位:咲 103000

 3位:敬子 94900

 4位:蒔乃 92400

 接戦で激しく順位が入れ替わる対局であるが、ここに来て光が首位に躍り出た。

 

 

 そして、オーラス、光の親。

 ここに来て、咲のオーラが今までに無いくらい強烈に膨れ上がった。敬子も、ここまで強烈なパワーを見るのは初めてだった。

 

 その根源となるのはプラスマイナスゼロの強制力。それを光は知っていた。

「(多分、ここで咲が狙っているのは出和了りの2000か、500、1000のツモ和了り。もし私が振り込んでも2000点、最悪でも70符1翻の2300のはず。)」

 つまり、ここで万が一、咲に振り込んだとしても光のトップは確実である。

 当然、光は和了りを目指して突き進む。今、光が置かれた状況はローリスクだ。プラスマイナスゼロを破った上でのトップを狙う。

 

 しかし、何故か光の手が伸びない。

 敬子も同様だ。

 

 唯一、蒔乃の手だけが順調に伸びるものの、配牌で萬子が二枚、字牌が一枚の状況。

 神が自らかけた制限で、蒔乃は萬子が字牌しかツモれないため、最速でも聴牌するのに十巡を要する。

 

「ポン!」

 咲が蒔乃の捨てた{3}を鳴いた。

 そして、数巡後、

「カン!」

 {3}を加槓すると、

「ツモ!」

 毎度の如く、咲が嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②②④⑤⑥⑦⑧678}  明槓{横3333}  ツモ{③}

 タンヤオ嶺上開花。30符2翻の手だ。

 

「500、1000です。」

 光の予想どおり、咲は2000点の手を和了ってきた。

 

 これで、次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:光 108700

 2位:咲 105000

 3位:敬子 94400

 4位:蒔乃 91900

 咲が完璧なプラスマイナスゼロを達成して、前半戦は終了した。

 

 それと、この前半戦の点棒の動きを見て、咲ファンの多くは、

『珍しい!』

 と思っていた。

 前半戦全体を通じた最低点は、東三局での光の点数………76000点であった。

 つまり、もし25000点持ちで対局しても、この段階で光が1000点になるだけで、結果的に誰も箱割れしていないのだ。

 咲の対局にしては点棒の変動幅が少ない半荘となった。

 

 

 ここで、一旦休憩に入った。

 全員、対局室から出て行った。

 

 咲は、迎えに来ていた恭子に連れられて、いつものようにトイレ→自販機コースを辿る予定だ。

 蒔乃は、テレポーテーションでどこかに消えた。控室にもいない。恐らく、霧島神境でエネルギーを充填するのだろう。

 

 

 光が控室に戻ると、

「咲さんは、また手加減してますね?」

 和が怒り心頭していた。

 これを見て光は、

「和。それは誤解だよ。咲は手加減してない。むしろ、一番慣れ親しんだ打ち方で勝ちに来ているんだと思う。」

 と和に言った。

「それで光が前半戦でトップを取れたので白糸台高校としては嬉しいのですが、でも、本気で打てば咲さんがトップを取っていたのではないですか?」

「それは分からないよ。永水の2年も綺亜羅の次鋒も思っていた以上に強いからね。特に綺亜羅の次鋒は、今まで力を隠していた感じがある。」

「…。」

「でも、一つだけ言えることは、後半戦で咲は、私にトップを取らせないように仕掛けてくると思う。咲が狙っているのは、飽くまでも勝ち星。トータルのトップだね。前半戦のトップでも後半戦のトップでもないよ。」

「じゃあ、光は後半戦ではマイナスになるってことですか?」

「咲の思惑どおり行けばね。でも、私だって咲に勝つつもりだよ。プラスマイナスゼロを逆手に取って後半戦もトップを取れればイイからね!」

 光の目からは闘志が溢れ出ていた。

 今度こそ咲に勝って白糸台高校が優勝する。春季大会のような納得の行かない優勝はコリゴリなのだ。

 

 

 一方、敬子は控室で、

「なんか、オーラスの宮永さん、ムチャクチャ怖かった。」

 と美和達に話していた。

 この時、敬子は静香と美和に化粧直しされていた。後半戦に向けてのお色直した。

 折角、美女ランキング2位に輝いたのだ。さすがに全国に残念な美少女の姿を見せたくは無い。

 

 ふと、鳴海が、

「どうやら、あれが巷で言われているプラマイゼロだね。」

 とスマートフォンを片手に言った。咲のことを検索していたようだ。

「プラマイゼロ?」

「そう。25000点持ち30000点返しで考えれば、宮永さんの点数は丁度30000点。これって、二年前のインターハイの二回戦でも披露していたし、その時の県大会個人戦でも四回戦までプラマイゼロを連発していたからね。」

「じゃあ、私達は遊ばれたってこと?」

「分からない。でも、春季大会の個人決勝でも点数調整やってたからね。」

「100点事件ね。」

「だから点棒の魔術師とも呼ばれてるんだけど、真意は本人から直接聞かないと分からないね。」

「じゃあ、後半戦が終わったら聞いてみようかな?」

「そうした方が良いかもね。少なくとも悪意があってやってるとは思いたくないしね。」

 春季大会の後に、敬子のことを心配して綺亜羅高校まで来てくれたくらいである。

 美和とも仲が良いし………。

 そんな咲が、点数調整して遊んでいる悪人とは、とても思えないのだ。やはり鳴海としてもプラスマイナスゼロの真意が知りたかった。

 

 

 休憩時間が終わり、次鋒選手達が対局室に揃った。

 場決めがされ、起家が蒔乃、南家が敬子、西家が咲、北家が光に決まった。前半戦とは蒔乃と敬子が入れ替わっただけになる。

 

 東一局、蒔乃の親。

 今回、蒔乃は配牌に恵まれ、萬子が七枚あった。当然、ここから萬子一直線で手を進めてゆく。

 狙いは親役満。

 相変わらず、咲の支配力は凄まじい。しかし、それを突き破って、蒔乃は欲しい萬子をツモで引き寄せる。

 

 そして、八巡目、

「ツモ! 16000オール!」

 狙い通り純正九連宝燈をツモ和了りした。前半戦に続いて二度目である。

 これで一気に蒔乃が大量リードした。



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百五十七本場:プラスマイナスゼロ発動-2

 インターハイ団体決勝戦。次鋒後半戦東一局一本場。

 蒔乃の連荘。

 ここでも蒔乃の配牌は萬子に偏っていた。萬子が{一一三六八九九}の七枚。但し、字牌は無い。

 鍵となる{一}と{九}が二枚ずつある。今回も九連宝燈のチャンスである。

 当然、蒔乃は萬子一直線で手を作って行く。

 

 配牌は、

 {一一三六八九九④[⑤]⑦2568}

 ここから打{[⑤]}。一番嫌な牌から捨てる。

 

 二巡目、ツモ{一}、打{5}。

 

 三巡目、ツモ{[五]}、打{6}。

 

 四巡目、ツモ{九}、打{④}。

 

 五巡目、ツモ{七}、打{⑦}。

 

 六巡目、ツモ{二}。まだ誰も聴牌していない模様。

 ここから蒔乃は打{2}で一向聴にとった。

 

 しかし、ここで、

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けてきた。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 手の中で四枚揃っていた{中}を暗槓すると、続く嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。これは、蒔乃の責任払いになる。

 

 開かれた手牌は、

 {888白白白發}  暗槓{裏中中裏}  明槓{2横222}  ツモ{發}

 

 {8}切りで一向聴でも同じ結果だった。

 混一色対々和小三元三暗刻嶺上開花の三倍満。

「24300です。」

 蒔乃の切り出し方………つまり、不要な色の牌をランダムではなく、中央から順に切って行くのを狙われた感じだ。

 これで蒔乃は、親役満で得た点棒の半分を咲に奪われた。

 

 

 東二局、敬子の親。ドラは{7}。

 今回も敬子の切り出しは、

 {1①9中東西白}

 ヤオチュウ牌だけで分かりにくい。

 しかも、不要牌を予め右端に寄せている。そのため、敬子の捨て牌が、どの辺りから出てきたかを観察してはいるものの、萬子が何枚なのか、筒子が何枚なのか、索子が何枚なのかを光は特定できずにいた。

 

 ただ、この{白}を切った時、光は聴牌気配を数かに感じ取った。

 咲はノーケアーで{③}切り。この人については何も言うまい。全ての牌を見通しているのだから能力を狂わせない限り振り込むはずが無い。

 光は、一旦、{1}切りで様子を見た。

 蒔乃は、相変わらず萬子一直線で{3}切り。

 そして、敬子は、

「ツモ!」

 この巡目で和了り牌を自らの手で引き当てた。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑨34[5]}  ツモ{⑨}

 

 {③⑥⑨}待ちの高目ツモ。またもや{⑨}ツモでの和了りだ。

 しかも、平和ツモ一気通関赤1の親満である。

「4000オール!」

 咲、光、蒔乃(神)に囲まれても全然動じない。しかも美少女。この活躍に、敬子の人気は急上昇したらしい。

 

 東二局一本場。

 現在最下位は光で持ち点は80000点丁度。ここで、何とかして第一弾の和了りをモノにしたい。

 光は、全神経を指先に集中すると、咲や蒔乃の支配を打ち破るべく次々と有効牌を引き当て、たった五巡で聴牌した。

 そして、

「リーチ!」

 聴牌即で先制リーチをかけた。他家は、初牌を狙う咲に萬子を狙う蒔乃、{⑨}を狙う敬子の三人。当然、ここでのリーチは本来リスキーである。

 しかし、光は、一発でツモれる意味不明の自信があった。

 

 次巡、

「ツモ!」

 光は、本当に一発で和了り牌を掴み取った。

「メンピン一発ツモドラ2。3100、6100!」

 しかも、ハネ満ツモ。

 これで光は、一先ず3位に順位を上げた。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここで咲のオーラが、前半戦オーラスと同じように強大になった。

 そして、配牌終了と同時に、

「リーチ!」

 咲が、まさかのダブルリーチをかけてきた。

 これは読みようが無い。現物は、咲が第一打牌で捨てた{北}のみ。

 光は、一先ず{北}をあわせ打ちして一発を回避した。

 敬子は{北}を持っていなかったため、単純に不要牌の{白}を切った。これはセーフ。

 蒔乃は聴牌者の和了り牌を探知できるので振り込むことは無い。自身の手を普通に進めるべく{5}切り。

 

 咲の一発ツモは無かった。

 しかし、三巡目、

「カン!」

 咲は{西}を暗槓すると、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

「ダブリーツモ嶺上開花。4000オール。」

 特にドラや、他の役は無く親満止まりだった。しかし、これで咲が蒔乃を600点差とは言え逆転し、後半戦の暫定1位となった。

 

 東三局一本場、咲の連荘。ドラは{3}。

 光は、

「(咲は、後半戦では永水にトップを取らせる気みたいだね。でも、私だって簡単ヤラれるつもりは無いよ!)」

 咲の思惑に気付いていた。

 当然、それを打ち破るべく第一弾の和了りを目指す。

 ここには、序盤に筒子と索子のチュンチャン牌を惜し気もなく捨てる蒔乃がいる。それは、ある意味ラッキーでもある。

 光は、

「ポン!」

 三巡目に蒔乃が捨てた{④}を鳴き、続いて、

「ポン!」

 次巡に蒔乃が捨てた{3}を鳴いた。

 そこから、光は二巡で聴牌し、

「ツモ。2100、4000!」

 タンヤオドラ3の手(2000、3900の一本付け)を和了った。

 

 

 東四局、光の親。

 今回は連続和了を決めてやる。光は、そう強く心の中で叫んでいた。

 東二局一本場でも第一弾の和了りを決めたが、その直後、咲のまさかのダブルリーチにしてやられた。

 今回は、是が非でも和了る。

 光は、配牌二向聴。第一弾の和了りを決めると配牌も良くなる傾向がある。

 そこからムダツモなく聴牌し、四巡目のツモで、

「ツモ。平和ツモ一盃口ドラ2。4000オール!」

 見事、親満をツモ和了りした。

 これで光は、2位と2000点差でトップに立った。このまま、首位を保てば次鋒戦の勝ち星を手に入れることが出来る。

 当然、気合いが増してくる。

 

 

 点棒受け渡しの後、山を崩して卓の中に牌を入れて行くが、この時、光は、敬子の口ずさむ声が若干大きくなった気がした。

 歌っているのは、今までと同じ綺亜羅高校応援歌だが、光は、今までと若干雰囲気が違うようにも思えた。

 気のせいだろうか?

 

 突然、光は意識が遠のいて行く感じがした。まるで催眠術にかけられたような感覚だ。

 気合が全然入らないし、集中できない。

 よく分からないが、急にガス欠になったような感じだ。

 

 そんな状態で配牌が終了し、東四局一本場がスタートした。

 敬子の歌声は止んでいる。

 しかし、光は、第二弾の和了りを決めたにも拘らず、何故か中々手が進まない。気合が入らないのが一番の理由だろう。

「(これって人魚の歌声に支配されたってこと? でも、咲は普通にしている。これって、もしかして!)」

 咲が点数調整する時、他家の能力に干渉する。それが、その局面に応じて、負の干渉であったり正の干渉だったりする。

 恐らく、今回は咲が敬子の能力に正の干渉をしたのだろう。

 

 どうやら蒔乃は配牌が酷く(萬子が少なく)、聴牌までの道のりが長そうだ。

 一方の咲は、自ら和了りに向かわずに様子見している感じだ。ここで敬子を使って点数調整するつもりなのだろう。

 光は、

「(咲の思うようにさせて堪るか!)」

 腿をつねって、その痛みから正気を取り戻し、指先に力を入れて牌をツモった。

 しかし、それでも思うように手が進まない。咲の強制力も、相当強まっているようだ。

 

 その数巡後、

「ツモ。」

 咲の台本どおりなのだろう。敬子が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {七八九⑦⑧⑨⑨778899}  ツモ{⑨}

 またもや{⑨}での和了り。しかも、ド高目ツモだ。

 平和ツモジュンチャン三色同順一盃口の倍満。

「4100、8100!」

 これで79800点まで落ち込んだ敬子の点数が大きく持ち直した。

 

 現段階での次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 102400

 2位:咲 101100

 3位:光 100400

 4位:敬子 96100

 トップトラスの点差が6300点と、混戦状態となった。

 

 これなら、誰がトップになってもおかしくない。

 倍満親かぶりによる逆転は痛いが、光は、

『今度こそ咲に勝つ!』

 と改めて自分に言い聞かせた。トップの蒔乃とは、たった2000点差でしかない。逆転は十分可能な範囲だ。

 

 

 南入した。

 南一局、蒔乃の親。ドラは{三}。

 ここで、この親を和了らせてはならない。当然、この親は流しに行く。

 

 光としては、咲の点数調整に加担したくはないが、蒔乃に和了られるよりはマシだ。ここは咲を支援した方が良い。

 この局では、早々に、

「ポン!」

 光が捨てた{2}を咲が鳴いた………と言うか、光が読んで鳴かせた。

 ここで咲は、何かを仕掛けるつもりのようだ。それが光にはヒシヒシと伝わってくる。

 しかし、狙っているのがプラスマイナスゼロであるならば、そんなに大きな手は和了らないだろう。

 

 数巡後、

「カン!」

 咲が{3}を暗槓した。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続いて咲は、{2}を加槓した。

 そして、その次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 またもや咲は嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②③④⑤⑥66}  暗槓{裏33裏}  明槓{222横2}  ツモ{④}

 

 タンヤオ嶺上開花。50符2翻の手だ。

「800、1600。」

 これで、危険な蒔乃の親を流すことに成功した。

 

 

 南二局、敬子の親。

 ここで咲は、

「ポン!」

 早々に敬子が切ってきた{中}を鳴いた。敬子の序盤の捨て牌はヤオチュウ牌が基本だが、それを狙ったようにも見える。

 数巡後、

「カン!」

 咲は{中}を加槓すると、

「ツモ。中嶺上開花赤1。1000、2000!」

 {②⑤}の両面待ちで{[⑤]}をツモって和了った。しかも雀頭は数牌。{中}の明槓以外の符は無い和了りだ。

 よって、30符3翻となる。

 

 現段階での次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 108300

 2位:蒔乃 99800

 3位:光 98600

 4位:敬子 93300

 咲が首位だが、プラスマイナスゼロを発動しているため、ここから点数を削りに行くはずである。

 宮永咲と言う魔物をよく知る者達は、ここからどのような調整をするのかに注目した。

 

 

 南三局、咲の親。ドラは{八}。

 ここで蒔乃の配牌は、

 {一二四八九九①⑨12東東白}

 嬉しいことに萬子がドラ。

 しかも、萬子と字牌だけで九枚になる。うち字牌の対子が一つと、萬子で染めるには最良の配牌。

 ここは、最短距離で手を進める。

 

 そして蒔乃は、たった四巡で、

 {一二二四四八八九九東東白白}

 

 混一色七対子ドラ2を聴牌した。今更ながらに恐ろしいほどの鬼ツモである。これが蒔乃に降りた神の力だ。

 そして、次巡、当然のように{一}をツモり、

「ツモ! 4000、8000!」

 倍満を和了った。

 

 これで、現段階での次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 115800

 2位:咲 100300

 3位:光 94600

 4位:敬子 89300

 蒔乃が大きくリードした。

 

 しかも、前後半戦トータルでも、

 1位:蒔乃 207700

 2位:咲 205300

 3位:光 203300

 4位:敬子 183700

 蒔乃が光と咲を抜いてトップに立った。

 これで蒔乃は、続くオーラスを和了れば勝ち星が取れると同時に、咲の後半戦のプラスマイナスゼロを破ることが出来る。

 ここは、何としてでも和了りに行く。

 

 対する敬子も光も、当然、和了りを目指す。

 光は、1300オールを和了れば勝ち星を得られるし、敬子は三倍満以上の和了りが必要になるが、勝ち星を完全に諦めなければならない状態では無い。

 

 

 そのような中で、オーラスがスタートした。

 親は光。ドラは{①}。

 

 ここに来て、咲の支配力は本日最強になった。

 前半戦のオーラスをも超える支配力、いや、完全なる強制力である。

 蒔乃の配牌は筒子と索子のみ。萬子と字牌が一枚もない最悪な状態。これは咲の強制力によってもたらされたものである。

 敬子も光も八種八牌と最悪な配牌。しかも、敬子の場合、彼女の和了りの鍵となる筒子の上の方が一枚もない。

 それでも、誰も諦めない。自身の和了りで勝利を決めたいからだ。

 

 七巡目、

「カン!」

 とうとう咲が動き出した。{西}を暗槓したのだ。

 めくられた新ドラ表示牌は{⑨}。つまり、元ドラと新ドラが共に{①}となった。

 そして、咲は、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま華麗に嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {④⑥⑧⑧345999}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{[⑤]}

 

 嶺上開花赤1の70符2翻の手だった。

「1200、2300。」

 

 これで、次鋒後半戦の最終的な点数と順位は、

 1位:蒔乃 114600

 2位:咲 105000

 3位:光 92300

 4位:敬子 88100

 

 そして、前後半戦トータルは、

 1位:咲 210000

 2位:蒔乃 206500

 3位:光 201000

 4位:敬子 182500

 咲が二連続で完全なるプラスマイナスゼロを達成すると共に、他家の点数も完全にコントロールしてエース対決を制した。

 これで白糸台高校と阿知賀女子学院が、それぞれ勝ち星一となった。



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百五十八本場:白亜紀

「「「「ありがとうございました。」」」」

 インターハイ団体決勝戦のエース対決(次鋒戦)は、咲の勝利で幕を閉じた。

 

 対局室の外には、既に恭子が咲を迎えに来ている。

 ただ、敬子は咲の点数調整の真意が知りたい。咲が恭子に捕まる前に声をかける。

「ねえ、宮永さん。」

「はい?」

「ちょっと聞いてイイ?」

「うん。」

「どうしてプラマイゼロをやったの? もしかして、点数調整して手を抜いてるの?」

「そんなこと無いよ。私にとって、プラマイゼロは子供の頃から一番慣れている打ち方で、コーチに言わせると一番支配力と言うか強制力が強い打ち方なんだって。」

「でも、準決勝では、あんなに派手に大きいの和了ってたじゃない?」

「あれは、優希ちゃんが最高状態だったから、あれでプラマイゼロをやると、優希ちゃんを逆転出来なさそうだったから…。それに、今回は絶対に勝たなきゃって思ってたから、それでプラマイゼロを利用したんだよ。」

 すると光が、二人の会話に入ってきた。

「今まで、私も一度も破ったことが無いもんね、プラマイゼロは。でも、結局、咲にやられたか。」

「「…。」」

「しかも、お小遣いを取られないように身に着けた技だからね。平和主義の咲ならではの選択だよね。」

「えっ? それって、どういうことなの?」

 こう敬子に聞かれて、咲は一瞬困った表情を見せたが、丁度ここで、

「次鋒選手は速やかに退場してください。」

 スタッフに退場を命じられた。

 それで、咲達は一旦対局室を出た。

 

 

 光は、

「じゃあ、咲。次は個人戦で雪辱するからね!」

 そう言うと、控室に戻って行った。光にとっては、まだ咲とは敵同士なのだ。大会が終わるまでは馴れ合いはしない、そう決めていたようだ。

 

「人の王者よ。」

 咲達の背後から、蒔乃が話しかけてきた。

 その声質は、神降臨バージョンの小蒔と全く同じである。非常に神々しく、本来であれば凡人は近寄りがたい雰囲気に包まれている。

「ひゃっ………ひゃい?」

 卓から離れた咲は、単なる弱者である。神の声が恐れ多くてたまらないようだ。さっきまでとは全然態度が違う。

「凄まじい支配力だった。後半戦は1位を取れたと思ったが、全てがそなたの掌の上だとは恐れ入った。またいつか、対局できる日を楽しみにしておるぞ。」

 そう言うと蒔乃は、その場からテレポーテーションして消えた。

 

 これを見て敬子は目が点になっていた。

 まあ、咲も恭子も、小蒔や霞、初美のテレポーテーションを見ているので特に驚いた様子は無かったが………。

 むしろ、咲は最強神が目の前から消えて、ホッとしている雰囲気さえ感じられた。やはり神を目の前に緊張していたのだ。

 が………、テレポーテーションを目にして咲と恭子が平然としていることが、結果的に敬子を余計に驚かせた。

「ねえ、今の何? それに、宮永さんはどうしてそんなに落ち着いていられるの?」

「ええと、永水の方々は、あれが普通だから。」

「普通じゃないよ! 絶対!」

「だから永水限定で普通ってことで………。」

 敬子は、自分が知らない世界があることを知った。

 世の中は広い。

 …

 …

 …

 

「そうそう。それで、さっきのプラマイゼロの話だけど………。」

「あれね………。」

 咲は、敬子に子供の頃のことから順に話をした。

 家族麻雀の話。

 そのうち、家族内でお金をかけることを強制されたこと。

 そこで、先ずは自分の小遣いを守るため、勝つ麻雀を目指したこと。

 しかし、咲が勝てば元プロの母親の機嫌が悪くなる。それで、勝ちもせず負けもせずのプラスマイナスゼロを身に着けていったこと。

 ところが、それでは咲自身は守れても、その分、照や光に余計に被害が及ぶようになったこと。

 それで、他家の順位や点数も調整し、最終的に全員が勝ち負け無しの状態にまで持ってゆくこと力を身に着けていったこと。

 しかも、その強制力は、元プロ雀士である母親でも破ることの出来ない強烈な力であったことも………。

 

 その強大なパワーなら、光や蒔乃、敬子が相手でも破られないだろう。

 それで、恭子や晴絵と相談した上で、今日の対局では、そのプラスマイナスゼロの強制力を利用することで、他家の支配力を完全に凌駕する作戦に出たのだ。

 

 これを聞いて敬子は、手を抜かれたわけではなく、むしろ、咲の持つ最強の力で対局してくれたことを理解した。

 ただ、少し後悔した。

「そうだったんだ。なんか、聞いちゃいけないような気がした。ゴメンなさい。」

 多分、咲には余り知られたくない過去だったかもしれないからだ。

 敬子も、春季大会時点と比べると随分とKY要素が薄まった。勿論、まだゼロにはなっていないだろうが………。

「ううん。別にイイって。」

「でさぁ、お願いがあるんだけど。」

「何?」

「宮永さんのこと、美和と同じように咲ちゃんって呼んでもイイかな?」

「イイよ。じゃあ、私は敬ちゃんって呼んでもイイかな?」

「うん! あと、美和とやってるLINEに招待してもらってもイイかな?」

「美和ちゃんが良ければ。一応、私の番号を教えとくね!」

 美由紀曰く、

『麻雀している時以外は、全然自分から積極的に動こうとしない』

『周りから声をかけないと、いつも一人で静かに読書していて人との交流が苦手な感じ』

 の咲だが、無事に交友関係を広めることが出来て何よりである。

 

 

 一方、対局室には中堅選手が順次入室していた。

 優勝候補筆頭の阿知賀女子学院からは、小走ゆいに代わって藤白亜紀、1年生。千里山女子高校の元エース藤白七実の妹である。

 

 白糸台高校からは多治比麻里香、3年生。松庵女学院の元エース多治比真佑子の妹で、白糸台高校の美女ランキング3位。全国女子高生雀士顔面偏差値ランキング8位。

 結構ファンも多い。

 超甘党である。

 

 永水女子高校からは石戸明星、2年生。石戸霞の従姉妹で六女仙の一人。ヤオチュウ牌支配を武器とする。

 かなりのオモチの娘。

 全国女子高生雀士顔面偏差値ランキング5位。

 

 綺亜羅高校からは鷲尾静香、3年生。周りからはワシズと呼ばれている。

 極めて成績優秀で、偏差値70が余裕の憧よりも全国模試の順位は上である。超進学校を蹴って綺亜羅高校に入学したとのこと。理由は、家から近いことと同中出身の敬子のことが心配だったこと、それから綺亜羅高校の理事長を務める伯父から入学の依頼があったことの三点らしい(百二十五本場オマケ参照)。

 恐ろしいほどの豪運の持ち主。

 

 

 場決めがされ、起家が静香、南家が亜紀、西家が麻里香、北家が明星に決まった。

 

 東一局、静香の親。ドラは{③}。

 明星の配牌は、八種十一牌。

 流したくても流せない。なので、一般的には最悪な配牌である。

 しかし、彼女にとっては最高の配牌。ここから高打点の手を作ってゆく。

 

 明星のヤオチュウ牌支配は、飽くまでもツモ限定である。配牌には影響しない。

 しかし、ヤオチュウ牌八種が来ることは一定の確率で普通にあることだ。今回は、それが偶々来ただけである。

 

 配牌は、

 {一一九九③4東南北白白發中}

 

 ここから、たった四巡で、

 {一一九九東東南南北白白發發}

 

 混一色混老七対子を聴牌した。恐ろしい引きである。

 混老七対子の扱いはルールによって異なるが、ここでは25符5翻の満貫役として数えることになっていた。

 つまり、この明星の手は倍満手だ。

 こんな爆弾みたいな手が、四巡目で出来ているなど、誰も想像できないだろう。

 

 しかも、明星の捨て牌は、

 {中③⑨4}

 

 この手で{中}から切り出しているとは、普通では考えられないだろう。まるで、ツモってくるヤオチュウ牌が事前に分かっているような捨て方である。

 

 そして、五巡目、

「ツモ。4000、8000!」

 豪運の静香にとっては、まさかの倍満親かぶりであった。綺亜羅高校控え室でも、美和達の表情からは驚きの色が隠せなかった。

 

 

 丁度ここに、敬子が戻ってきた。

「遅かったジャン。もしかして、例の件、宮永さんに聞いてきたの?」

 こう言ったのは鳴海。

「うん。プラマイゼロって、咲ちゃんの最終兵器みたい。」

「「「咲ちゃん?」」」

 まさか敬子まで『咲ちゃん』呼びになっているとは………。

「でさぁ、美和と咲ちゃんのLINEに、美和がOKしてくれたら入ってもイイって。咲ちゃんの許可貰ってきたよ。」

「ちょっと、私と咲ちゃんの愛の巣に入ってこないでよ!」

「じゃあ、私は別で咲ちゃんとLINEする。番号教えてもらったし。」

「えっ? 嘘?」

「本当だよ!」

「うぅ。咲ちゃんの浮気者!」

 十人並みと言われる美和に、現在では女子高生雀士顔面偏差値ランキング2位の敬子が咲を取り合っている感じだ。

 しかも、咲は、女子高生雀士顔面偏差値ランキング不動の1位とされる佐々野みかんや同ランキング6位の和とも仲が良い。

 それを考えると、咲は美少女に縁があるなと美誇人は思っていた。

 …

 …

 …

 

「それより敬子。プラマイゼロが最終兵器って?」

 再び鳴海が聞いた。

「それがね………。」

 敬子は、咲から聞いたことを美和達に順に話した。

 結構、重い話である。

 まさか、小学生の頃から培ってきた能力だったとは………。

 美和達は、プラスマイナスゼロの真実について、敬子に聞かせたことを後悔した。知らない方が良かったかもしれない。

 

 

 それを他所に、対局室では中堅戦東二局に突入していた。

 ここでも明星が、たった六巡で混一色混老七対子を聴牌し、

「ツモ。4000、8000!」

 倍満をツモ和了りした。

 二連続の倍満。これだけで役満一回分の和了りになる。とんでもない爆発力だ。

 

 

 東三局、麻里香の親。ドラは{⑤}。

 ここで亜紀の表情が変わった。

「(まだ、一日に何回も使える力じゃないけど、ここで試してみる。)」

 何かを仕掛ける気だ。

 当然、この雰囲気を明星は感じ取っていた。

 明星は、王者宮永咲の下で研鑽している亜紀が、どのような麻雀を見せてくれるのか、楽しみにしていた。それこそ、春季大会個人戦で上位につけた選手として余裕を見せている部分もあった。

 

 ところが、配牌が終わった時、明星は亜紀の手牌から異様な空気を感じ取った。なんだかヤバそうな雰囲気だ。

 とは言え、一先ず、ここでも明星はヤオチュウ牌支配に出た。これは明星の絶対的な武器であり、和了った時の破壊力は大きい。この力で亜紀と勝負する。

 チュンチャン牌の切り出しは、蒔乃(神)とは違ってランダムにする。規則性を持つと狙われる心配があるからだ。

 

 七巡目、明星の手牌は、

 {一九①⑨169東南西北白中}  ツモ{發}

 

 国士無双十三面待ちを聴牌した。

 当然、ここから打{6}。

 すると、

「ロン!」

 対面の亜紀から和了りの宣言が聞こえた。

 これと同時に、頭部に三本の角を持つ巨大な四足の生物が頭から明星に向かって突っ込んで来る幻が見えた。

 その生物は、白亜紀の絶滅したはずのトリケラトプス。その恐竜の持つ三本の角が、明星の両胸と腹に突き刺さった。

 

 亜紀の手牌が開かれた。

 {五五[五]⑤[⑤][⑤]3355[5]66}  ロン{6}  ドラ{⑤}

 

 {2}のことを槍に見立てるが、{2}と同じ模様を三本持つ{6}を、ここでは三本の角に見立てているのだろう。

「タンヤオ対々三暗刻三色同刻ドラ7。32000!」

 亜紀の強烈な一撃が出た。まさかの数え役満だ。

 これで明星は、東一局、東二局で稼いだ分の全てを放出することになった。

 

 明星の顔が、これまでとは打って変わって恐ろしい表情に変わった。初めて咲と対局した時と同じような形相だ。

 ただ、あの時のように復讐心に燃えているわけでは無い。今まで以上に気合が入って表情が変わったのだ。

 1年生だからといって舐めていられない。隙を見せたらヤられる。

 亜紀にはそれだけの力があると、明星が認めた故だ。

 

 

 東四局、明星の親。

 ここでも当然、明星はヤオチュウ牌支配で行く。

 

 高い和了りが武器の明星が親である。

 当然、他家は、この親を流しに行く。

 

 今、この卓には配牌を支配する者も居なければ、他家のツモに干渉する能力を持つ者も居ない。

 純粋に、各々の能力と運のぶつかり合いである。

 

 ここに来て、ようやく静香が先行聴牌できた。

 とは言え、平和形だがタンヤオも一盃口もドラもない。チャンタ形でもジュンチャンでもない。単なる平和のみだ。

 しかし、静香は自分の特性を良く知っている。

「(永水が、まだ大きいの和了るだろうし、ここは攻撃あるのみだね。)」

 迷うことなく、

「リーチ!」

 静香は聴牌即でリーチをかけた。

 一先ず他家は、現物や筋牌で対応する。

 しかし、静香は豪運の持ち主。

 当然のように、

「ツモ!」

 一発で和了り牌を引いてきた。

「リーチ一発ツモ平和に、アタマが裏で乗って3000、6000!」

 出和了り1000点でしかなかった手が、リーチ一発ツモドラ2がついて12000点の手に化けた。

 まるで南場の南浦数絵のような麻雀だ。

 

 

 南入した。ドラは{西}。

 南一局、親は静香。

 さっきの和了りで勢いがついていそうだ。

 亜紀は、

「(宮永先輩に言われた。私に宿る白亜紀の力は、攻撃だけじゃないって。まだ完璧じゃないけど、練習のつもりでやってみよう。)」

 ここで自分の能力を使って静香を流しに出ることにした。

 

 自分が和了って親を流せるのがベストだ。

 しかし、東三局で明星から数え役満を和了った時に攻撃の能力を大量放出し、今は和了りに向かえる状態では無い。

 なら、別の方法を考える。自ら和了るだけが麻雀ではない。

 この時、亜紀には、

「(白亜紀に、植物は花を咲かせるようになって、昆虫をパートナーにした。ここで昆虫役として蜜を吸うのは白糸台。)」

 麻里香の牌の一部が透けて見えていた。これで麻里香が鳴きたい牌が分かるのだ。

 例えば、{24}と持っていて{3}が欲しければ{24}が透けて見えるし、{發}をポンしたければ{發}が二枚透けて見える。

 また、それが鳴きではなく和了り牌であれば、赤く点滅して見える。つまり、鳴きか和了りかも識別することが出来る。

 一先ず、亜紀は麻里香が二枚持つ{發}を捨てた。

「ポン!」

 これで麻里香は聴牌したようだ。

 嵌{3}待ちだ。

 赤く点滅して、まるでアラートを発しているようだ。

 

 その数巡後、

「ツモ! 發西ドラ3。2000、4000!」

 麻里香に満貫をツモ和了りされた。

 亜紀には、想定以上に高い手だ。

 

 しかし、ヤオチュウ牌支配の明星を援護するのは難しいし、恐らく打点も満貫では済まないだろう。

 ここで蜜を吸わせる対象は麻里香しかいない。

「(結果オーライよね、きっと。)」

 亜紀は、そう自分に言い聞かせた。



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百五十九本場:充電

 インターハイ団体決勝戦は、これから中堅前半戦南二局が始まろうとしていた。

 親は亜紀。

 

 ここでは、前局に発動した亜紀の能力は機能していなかった。どうやら、連続で使えるレベルには、まだ達していないようだ。

 今後、身に着けて行くべき課題だろう。

 

 前局の和了りで勢いを付けたか、

「リーチ!」

 ここでは麻里香が先行してリーチをかけてきた。

 

 一発目は、他家は現物や筋牌、字牌で凌いだ。

 そして、麻里香のツモ番。

 ただ、麻里香は静香ほどの豪運の持ち主ではないし、能力者でもないし、世の中、そう甘くも無い。

 一発目は普通にツモ切り。

 他家は、麻里香への振り込みをケアしつつ、何とか手を作り上げようとしていた。

 

 しかし、

「ツモ!」

 その三巡後に麻里香がツモ和了りした。

「メンタンピンツモ裏1で2000、4000!」

 これで麻里香が2位に浮上した。

 

 現在の点数と順位は、

 1位:亜紀 111000

 2位:麻里香 105000

 3位:静香 94000

 4位:明星 90000

 下馬評とは完全に逆の順位になった。

 

 春季大会個人戦では、明星、静香、麻里香、そして大きく離されてゆいの順位だった。このことから、この中堅戦では、ゆいよりも弱いであろう(補員のため)亜紀が大負けして他の三人の三強状態になるか、あるいは明星と静香が浮きで麻里香と亜紀が沈んだ状態になると、殆どの人は予想していた。

 そのような中、まさに亜紀の大健闘である。

 

 

 南三局、麻里香の親。ドラは{②}。

 連続で和了り出した麻里香が親となれば、この親を流そうと動くのは亜紀だけではない。当然、静香も手を講じようとする。

 ただ、明星は、次の自分の親で大きい手を和了るため、力を温存………と言うか蓄えている感じだった。

 

 今回、亜紀は静香をサポートすることにした。

 自力で親を流す力を、まだ亜紀は取り戻せていなかったのだ。

 

 亜紀は、静香に、

「ポン!」

 自風の{西}を鳴かせた。

 ただ、亜紀は静香の豪運のレベルを把握し切れていなかった。この鳴きで場の空気が大きく変わり、静香のツモが最高状態へと変わった。

 そして、それからたった三巡で、

「ツモ!」

 静香に和了られた。

「西混一色ドラ3。3000、6000!」

 しかもハネ満。筒子の染め手で、ドラの{②}を二枚、{[⑤]}を一枚抱えた手だ。

 

 亜紀としては、静香に和了らせることには成功したが、その和了り手の大きさが想定外であった。

 これは、麻里香の時も同じである。

 

 もし、これが風越女子高校の元エース、福路美穂子なら他家に和了らせるにしても、自分の点棒に影響を出さず、他家の中で一番点棒の多いところから削らせる展開を狙うだろう。

 それに親を流すことだけに主眼を置くなら、もっと安く和了らせているに違いない。

 色々と、今後の課題が見えてくる。

 

 

 そして、オーラス。明星の親番。ドラは{4}。

 ここで亜紀は、明星のオーラが一気に膨れ上がった気がした。

 明星には配牌操作の能力は無い。しかし、今回は偶然とは言え7種11牌と、彼女の能力にマッチした配牌に恵まれたようだ。

 そこから狙ったように欲しいヤオチュウ牌を次々と引き当て、僅か四巡目で、

「ツモ。混老七対。6000オール! これで和了り止めにします。」

 跳満をツモ和了りした。

 やはり、混老七対子を25符5翻で数えるのはヤオチュウ牌支配の明星にとっては大きい。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:明星 105000

 2位:亜紀 102000

 3位:静香 100000

 4位:麻里香 93000

 最後に明星が逆転し、彼女のトップで折り返すことになった。

 

 

 休憩に入った。

 亜紀は、一旦控室に戻った。アドバイスも欲しいが、それ以上に今はエネルギー補給がしたい。

 顔から血の気が引いているのが自分でも分かる。

 

 ドアを開けると、

「済みません。最後で逆転されました。」

 と言いながら亜紀は控室に入った。まあ、これが普通だろう。

 

 ただ、晴絵も恭子も、亜紀に優しい眼差しを送っていた。

 春季大会の順位で言えば、明星は個人8位、静香は個人10位、麻里香は個人19位と三人とも超強豪なのだ。

 その三人を相手に3000点差で2位。

 補員の戦績としては誰も文句のつけようが無い。

 もしかすると、ゆいが出場するよりも成績が良いのでは無いかと、憧も穏乃も思っていたくらいだ。

 当然、それを下手に言うと、ゆいが可哀想なので憧は黙っていたが、

「亜紀、凄いジャン! これが、ゆいだったら、もっと削られていたと思うよ!」

 素直な性格の穏乃は、それをそのまま口に出していた。

 まあ、丁度この時、ゆいは体調が悪くて会場の医務室で寝ていたのは幸いだろう。

 

 咲が、

「亜紀ちゃん、これ。」

 皆が見たくない缶を渡した。

 それは、つぶつぶドリアンジュース!

 信じられないことに、亜紀は極少数派の『つぶつぶドリアンジュース大好きっ子』だったのだ!

 慕派と言うべきか?

「ありがとうございます。」

 亜紀は、咲からそれを受け取ると、皆が臭いを嫌がるので控室の隅に行き、一気に飲み干した。

 その後、亜紀は缶をシンクで洗い、自分自身も数回ウガイしてドリアン臭を最小限に抑えた。

 かなり気を使っている。慕とは大違いだ。

 

「宮永先輩。」

「なに?」

「充電させてください。」

「分かった。」

 充電………。まあ、以前、宮守女子高校の鹿倉胡桃が小瀬川白望の腿の上に座っていたのと基本的に同じだ。

 ただ、胡桃は白望と同じ方を向いていたが、亜紀は咲と向かい合わせに座る。そして、咲の身体を強く抱きしめた。

 ここに和が居たら、

『何するんですか、この泥棒ネコが! そんなオカルトありえません!』

 と大声で叫んだに違いない。

 

 ただ、この亜紀の行動は、玄が昨年インターハイで美由紀の背後から、昨年の世界大会では霞の背後からオモチを堪能(?)していたのと同じである。

 純粋にエネルギーの補給なのだ。

 

 亜紀は、女子高生魔物の頂点である咲に憧れていた。

 基本的に姉である藤白七実を尊敬しているのだが、咲は七実すら凌駕する超魔物。亜紀は、そんな咲の熱狂的ファンだったのだ。

 

 入部したての頃は、遠くから咲を見詰めるだけで精一杯だったが、実は、声をかけたのは亜紀からではなく咲からだった。

 咲が亜紀の中に眠る能力を感じ取り、それを開花させるべく咲から動いたのだ。

 それ以来、亜紀は咲といる時間が意外に多くなったらしい。

 

 

 次第に亜紀の身体に活力が戻ってきた。

 顔の血色も良くなっている。

 

 充電終了。

 亜紀としては、ドサクサ紛れに、もう少しこのままの状態でいたいが、休憩時間ももうすぐ終わる。

 已む無く咲の上から降りた。

 

 すると、咲が、

「これ。」

 京タコスを亜紀に渡した。これで起家を取れと言うことだ。

「ありがとうございます。」

「先行リードだよ!」

「はい。」

 亜紀は、早速タコスを口にした。

 たしかに美味しい。

「さすが、宮永先輩の旦那さんですね。」

「もう、亜紀ちゃんったら。」

「では、行ってきます!」

「楽しんで来るんだよ!」

 控室に戻ってきたときとは全く逆。

 元気一杯な顔で、亜紀は対局室へと向かった。

 

 

 亜紀が対局室に入室した時、既に他の副将選手達は卓に付いていた。場決めの牌も引いていない。亜紀が来るのを待っていたのだ。

 

「お待たせしました。」

 そう言うと、亜紀は急いで卓についた。

 

 場決めの牌は、前半戦の順位に従って明星、亜紀、静香、麻里香の順に引いていった。暗黙の了解だ。

 そして、亜紀が卓中央のスタートボタンを押し、いよいよ後半戦が開始される。

 

 

 副将後半戦東一局、亜紀の親。ドラは{二}。

 ここで亜紀は、充電したパワーを一気に発揮する。

 

 亜紀の配牌は、

 {一二三三三七③[⑤]69東東白發}

 

 これが、僅か六巡目には、

 {二二二三三三③③[⑤][⑤]東東東}

 ツモり四暗刻の聴牌となった。

 出和了りでもダブ東対々子三暗刻ドラ5の三倍満。とんでもない手だ。

 

 そして、七巡目。

「ツモ! 16000オール!」

 亜紀は{③}を引いて四暗刻を和了った。

 この時、明星と静香と麻里香には、ヴェロキラプトルの群れに襲われる幻が見えていた。まるで咲のような、とんでもない幻を見せる。

 これには、さすがに麻里香も

「チョロ…。」

 数滴出たが、慌てて股間に手を当てて、

「(止まって──―!)」

 何とか凌いだ。

 

 あとの二人………明星と静香は、漏らすまでは行かなかったが、超絶驚いていたのは言うまでもない。

 それと同時に、

「「(どうしてこの娘が宮永さんと同じようなことが出来るんだろ?)」」

 と心の中で声を発していた。

 それも、呟きなどではない。

 ついうっかり口に出てしまいそうなレベルの大きさの声だ。

 

 明星は直感的に、

「(この娘が宮永さんの後継者ってとこね。)」

 と思った。準決勝で戦ったゆいのほうが器用だが、亜紀の方が荒削りではあるが圧倒的なパワーがある。

 これから亜紀も成長して行くだろう。阿知賀女子学院は、既に、ゆいに美由紀に亜紀の三枚看板が揃えられている。

 咲達の引退後も、その力は健在であると明星は判断した。

 

 来年の春季大会でも、阿知賀女子学院は依然として永水女子学院の前に強敵として立ちはだかるだろう。

 しかし、今は、そんな先のことを考えていても仕方が無い。とにかく、今の試合に勝つことに集中する。

 

 東一局一本場。亜紀の連荘。

 亜紀は、一回強烈なパワーを出すと、次の局には普通の人に成り下がってしまう。まだまだパワーのペース配分とか持久力とか、色々課題がありそうだ。

 

 この局、明星の配牌は8種9牌。

 一般には最悪でも明星にとっては最高の配牌である。

 そして、僅か五巡目で、

「ツモ! 8100、16100!」

 国士無双を和了った。ヤオチュウ牌支配の能力を持つ明星ならではの和了りであろう。

 せっかく明星から大量に点を奪ったのに、それ以上に稼がれてしまった。

 亜紀は、

「(ここで私が勝てば優勝に大きく一歩近づけるのに、邪魔してくれて!)」

 と心の中で叫びながら、明星に鋭い視線を向けた。

 しかし、明星は、亜紀の視線にはビクともしない。これまで咲とも戦ってきたし、霧島神境に戻れば、亜紀よりも怖い人達………小蒔や霞がいる。

 怖いのには慣れているのだ。

 

 

 東二局、静香の親。ドラは{⑧}。

 静香としても、この親で稼ぎたい。

 現在の持ち点は75900点。25000点持ちで考えたら900点しかない状態だ。先ず、ここから原点くらいには早急に持ち直したい。

 

 この局での静香の配牌は、

 {二[五]七九[⑤][⑤]⑧⑧78東東西白}

 ここから打{西}。

 

 そして、これがたった五巡で、

 {[五]六七⑤[⑤][⑤]⑧⑧78東東東}

 

 この聴牌形になった。もの凄い引き………いや、豪運である。

 そして、次巡、

「ツモダブ東ドラ5。8000オール。」

 親倍をツモ和了りし、狙い通り99900点と原点近くまで一気に復帰した。

 しかし、この静香の和了りを見て麻里香の心に火がついた。

「(綺亜羅の人が強いのも永水のオモチオバケが強いのも分かってる。それに、阿知賀の補員。想定以上に強い。でも、私だってベスト16には入れないけど上位な方。この人達相手に負けるもんですか!)」

 こう心の中で言葉を発すると、両手で両頬を強く叩いて気合を入れた。

 

 

 東二局一本場。

 気合いが配牌に影響するなどあるのだろうか?

 ここでは、突然、麻里香の配牌が良くなった。心の持ちようで、ここまで状態が変わるものなのか?

 配牌で平和手二向聴。それに、ドラが一枚だけだがある。

 当の麻里香自身が一番驚いていた。

 

 しかも、ここから全くのムダツモ無しの、たった二巡で聴牌した。この出来過ぎた展開に麻里香自身はさらに驚いていたが、その勢いに乗って、

「リーチ!」

 麻里香は先行リーチをかけた。

 他家は、無難に現物で対処する。

 しかし、

「ツモ!」

 彼女は和了り牌を一発でツモってきた。

 どうやら、豪運の静香を差し置いて、流れの方が勝手に麻里香を選んで来てくれたようだ。

 

 たしかに彼女は、美女No.1のみかんやスーパーエースの光、第二エースの淡、超巨乳美女の和に囲まれて白糸台高校の中では地味な存在ではある。

 しかし、それでも全国女子高生雀士の顔面偏差値ランキングでは堂々8位に入る美女なのだ。

 ツキも美女を好むのだろうか?

 ただ、それなら顔面偏差値ランキング5位の明星にツキが行くはずか?

 理由はともかく、想定外にツキは静香ではなく麻里香のところに降りてきた。

「メンピン一発ツモドラ2。3100、6100!」

 しかも裏ドラが一枚乗ってハネ満になった。

 

 

 東三局、明星の親。

 ここでも、

「リーチ!」

 たった三巡で麻里香が先制リーチをかけた。完全に流れを掴んだ感じがある。

 

 さすがに二連続の一発ツモは無かったが、数巡後に、

「ツモ! 3000、6000!」

 今回もハネ満をツモ和了りした。

 さすが、1年生の秋季大会から渋谷尭深や亦野誠子を差し置いてレギュラーになっただけのことはある。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:亜紀 117800

 2位:明星 99200

 3位:麻里香 92200

 4位:静香 90800

 最初に亜紀が親役満をツモ和了りしたが、他の三人が、その差を順調に縮めている。

 

 既に亜紀は、東一局で稼いだ分の三分の二近くを吐き出していた。

 彼女は、

「(やはり一筋縄では行かないか。)」

 この三人の強さを再認識させられていた。



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百六十本場:真の支配者

 インターハイ団体決勝中堅戦は、後半戦東四局に突入した。

 親は麻里香。ドラは{北}。

 亜紀が勝ち星を取るには、先ず二連続ハネ満を和了っている麻里香からツキを剥がすことが必須だろう。

 

 ここで亜紀は、静香に動いてもらうことにした。

 静香は高い手を狙う。そのため、静香に和了らせるのは本来リスキーだが、明星はヤオチュウ牌支配のため亜紀の捨て牌で鳴かせるのは難しい。

 亜紀自身が和了りに向かえるのがベストだが、まだ彼女のパワーが十分回復していない。東初で四暗刻を和了った時に能力を放出し過ぎたのだ。

 よって、麻里香のツキを剥がすには、消去法で静香に和了らせる以外に方法が無い。

 

 この局では、静香が亜紀の下家なのは不幸中の幸いと言えよう。亜紀は、持ち前の能力で静香が欲しいところを敢えて捨てることにした。ディフェンス能力の方は枯渇していないので振り込むことは無い。

 まず、亜紀は静香の自風である{西}を捨てた。

「ポン!」

 これを静香が鳴いた。ドラが{北}なので、{西}はドラ表示牌として一枚使われている。ここで鳴かなければ{西}は使えない牌で終わる。

 

 次巡、亜紀は{1}を捨てた。

 これを、

「チー!」

 静香が鳴いた。

 ただ、これと同時に、亜紀には静香の手牌のうち{79}の部分が赤く点滅して見えるようになった。

 つまり嵌{8}待ちで聴牌したのだ。

 

 そのさらに次巡、当然、亜紀は振り込まない。

 これが、永水女子高校の春が相手なら差し込むかもしれない。手が安いことを知らせてくれるからだ。

 ただ、静香は索子に染めていそうだ。少なくとも西混一色で3900、ここにチャンタ辺りがつけば満貫手になる。さすがに差し込めない。

 

 亜紀は、萬子捨てで静香への振り込みを回避した。

 しかし、

「ツモ。西混一チャンタドラ2。3000、6000!」

 静香は聴牌即で自ら和了り牌を引いてきた。

 やはり高い手だ。ハネ満ある。

 これで静香がラスから2位に浮上した。

 

 

 南入した。

 南一局、亜紀の親。ドラは{⑨}。

 この局は、配牌終了時点で、亜紀には明星から{東西北白}が見えていた。これが明星の欲している牌だ。

「(これって、多分また混老七対か何かよね? 配牌で、もう三向聴まで出来上がってるってこと?)」

 しかも、明星が第一ツモを手に入れると亜紀は明星の手から{白}が見えなくなり、しかも明星は、いきなりドラの{⑨}を捨ててきた。

 

 次巡、明星は{東}をツモリ、打{①}。

 

 三巡目、明星は{西}をツモリ、打{9}。

 

 そして、四巡目。

「ツモ!」

 明星は待望の{北}をツモって和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三三東東西西北白白}  ツモ{北}

 

 どうやら、配牌時点で{一一二二三三}の一盃口が出来ていたようだ。

 ただ、ここでは一盃口を役としては使わずに、単なる三つの対子として用いていた。

 

「ツモメンホン七対子。3000、6000!」

 たった四巡でハネ満ツモ。本当に化物だ。

 これで南場での亜紀の親は終わった。

 

 

 南二局、静香の親。

 どうやら、流れは明星に移ったようだ。

 今回も手が早い。

 たった三巡で、

「ツモ! 混老七対。3000、6000!」

 またもやハネ満を和了ってきた。

 

 混老七対子を25符4翻相当ではなく25符5翻として数える本大会のルールは、明星にとって非常に有利である。

 配牌の関係で、明星でも必ずしも国士無双に走れるとは限らない。

 例えば、他家二人がヤオチュウ牌のうちの二種類を二枚ずつ持っていたら国士無双を聴牌することはできなくなる。

 しかし、混老七対子なら、それでも聴牌できる可能性がある。

 

 5翻と言うことは、混老七対子をツモ和了りできればハネ満が約束される。

 さらに、対子一つがドラであれば倍満になる。

 恐ろしい能力だ。

 

 しかも、これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 120200

 2位:亜紀 105800

 3位:静香 93800

 4位:麻里香 80200

 とうとう明星が逆転してトップに立った。

 これで、亜紀の四暗刻ツモで始まった大荒れの後半戦も、明星の勝ち星で終わるだろうと、観戦者の殆どが予想し始めた。

 

 

 南三局、明星の親。ドラは{9}。

 まだ、亜紀の能力は完全に復活していない。

 しかし、ここで明星に和了られたら取り返しがつかなくなる。

 亜紀は、

「(何としてでも流す!)」

 配牌時点から限界を超えて能力を振り絞ることにした。

 

 パワー全開。

 しかし、配牌終了時点で、もはや亜紀は顔面から血の気が引いてきた。完全に能力の限界を超えたのだ。

 

 ただ、自らの能力で勝ち得た配牌は、

 {二三三四四五七七七八八九①}

 小蒔や蒔乃に降臨される神が喜びそうなモノであった。

 

 亜紀の第一ツモは{白}。

 パワーが弱まっている故だろう。いきなり萬子は引けなかった。ここから打{①}。

 

 第二ツモはドラの{9}。これはツモ切り。

 

 第三ツモは{六}。ここから打{白}で一応、門前清一色聴牌だが……、待ち牌は自分で三枚持っている{七}のみ。これは薄い待ちだ。

 

 第四ツモは{中}。当然ツモ切り。

 

 そして、第五ツモ。ツキがあったようだ。

 門前清一色にしては待ちが薄過ぎて絶対に和了れないだろうと思っていた唯一の待ち牌を亜紀は引き当てた。

「ツモ! メンチン。3000、6000。」

 ここで{二三三四四五}が一盃口になってくれていたら、或いは{五}が{[五]}なら、このツモ和了りは倍満になっていたが、今は贅沢を言っていられない。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:亜紀 117800

 2位:明星 114200

 3位:静香 90800

 4位:麻里香 77200

 亜紀が逆転して首位に躍り出た。

 

 しかも、この時点で前後半戦トータルも、

 1位:亜紀 219800

 2位:明星 219200

 3位:静香 190800

 4位:麻里香 170200

 ギリギリだが亜紀が首位に立った。

 次のオーラスで亜紀と明星で和了った方の勝ち星になる。

 完全にガス欠状態だが、亜紀は気合を入れて最終局に望む。

 

 

 オーラス、麻里香の親。

 ここで再び、

「リーチ!」

 麻里香にツキが回ってきた。たった二巡目でリーチをかけてきたのだ。

 豪運の静香が同卓していて、これだけツキが巡ってくるのも珍しい。本当に今日の麻里香は素でツイているのだろう。

 そして、

「ツモ! 6000オール!」

 親ハネツモ和了りを決めた。

 

 オーラス一本場。

 ここでも、

「ポン!」

 麻里香は、明星から早々に出てくるチュンチャン牌を鳴き、

「ツモ。2100オール!」

 そのまま序盤で30符3翻の手をツモ和了りした。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:亜紀 109700

 2位:明星 106100

 3位:麻里香 101500

 4位:静香 82700

 麻里香が3位に浮上。

 

 そして、この時点で前後半戦トータルは、

 1位:亜紀 211700

 2位:明星 211100

 3位:麻里香 194500

 4位:静香 182700

 亜紀と明星の点差は変わらずだが、麻里香は、次に親満をツモ和了り出来ればギリギリ逆転トップ、つまり勝ち星を取れるところまで迫っていた。

 静香の逆転勝利の条件は三倍満ツモか役満を誰かから直取りすること。普通なら諦める点差だが、静香の豪運なら不可能ではないだろう。

 全員が勝ち星ゲットに向けてアドレナリンが上昇する。

 

 そして迎えたオーラス二本場。ドラは{⑥}。

 麻里香の配牌は、

 {二三四[五]③⑤⑧⑧246南西發}

 

 亜紀の配牌は、

 {二四六⑤⑨13378南北中}

 

 静香の配牌は、

 {七③⑥2448白白發發發中}

 

 明星の配牌は、

 {一一四①②③⑥159東西北}

 

 

 四巡目終了時点で、麻里香の手牌は、

 {三四[五]③④⑤⑧⑧12368}

 まだ一応ツキがあるのだろう。役無しだがドラ1で聴牌。

 

 亜紀の手牌は、

 {二三四五六④⑤133678}

 一向聴。

 彼女も、全くのムダツモ無しの状態。能力は枯渇しているはずだが、それでも限界を超えてパワーを振り絞る。

 

 静香の手牌は、

 {24444白白白發發發中中}

 嵌{3}待ちの小三元門前混一色三暗刻の倍満。しかも、ここに{中}が来れば大三元聴牌に切り替わる。

 河を見ると、{中}は亜紀が一枚切っているだけで、もう一枚は、まだ生きている。当然、最後の大逆転を静香は狙う。

 

 明星の手牌は、

 {一一①①③199東東西西北}

 混老七対子一向聴。こちらも、ヤオチュウ牌支配によってムダツモ無しで手が進んでいる。正直、全員化物レベルの引きである。

 

 

 そして、五巡目。

 麻里香は四枚目の{3}をツモ切り。

 当然、静香は、これをスルー。静香が狙うのは、飽くまでも麻里香からの倍直ではなく三倍満ツモか役満直撃なのだ。

 

 亜紀は、ドラの{⑥}を引いて打{1}。これで平和ドラ1の聴牌。三面待ちの最高の手だ。

 これを和了って阿知賀女子学院の二つ目の勝ち星を手に入れたい。しかも、他家は春季大会の上位者ばかり。

 ここで勝てば大金星だ。

 

 静香は、{中}を引いて打{4}。ここに来て静香の豪運が爆発した感じだ。

 {3}は既に四枚切れで、待ちは{2}のみだが、{2}での和了りは大三元四暗刻のダブル役満。

 勝ち星ゲットと同時に総合得点を大きく伸ばせる大逆転手だ。

 

 明星は、{北}を引いて打{1}。手牌にはチュンチャン牌が残っていたが、敢えて混老七対子に取らなかった。

 他家からすれば、明星の手は既にヤオチュウ牌で溢れ、{1}が余ったと感じるだろう。そこを狙っての打{1}だ。

 

 

 続く六巡目。

 麻里香の手牌は、

 {三四[五]③④⑤⑧⑧12368}  ツモ{⑥}

 ここでドラの{⑥}を残せばドラ2の手、つまりリーチをかけてツモ和了りできれば前後半戦の逆転トップが取れる。

 当然、麻里香は打{③}で、

「リーチ!」

 勝負に出た。

 

 しかし、これで、

「ロン。1600の二本場は2200です。」

 七対子のみの手を明星が和了った。明星は、ドラ引きで入れ替える{③}を狙ったのだ。

 

 亜紀も静香も一歩足りずと言ったところだ。もし、明星が混老七対子に取っていれば亜紀か静香が和了っていたかもしれない。

 麻里香もツキはあったが、最後の最後で、そのツキが裏目に出てしまった。こっちも明星が混老七対子に取っていれば大逆転手を和了れていたかも知れない。

 明星の作戦勝ちだ。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:亜紀 109700

 2位:明星 108300

 3位:麻里香 99300

 4位:静香 82700

 

 そして、この時点で前後半戦トータルは、

 1位:明星 213300

 2位:亜紀 211700

 3位:麻里香 192300

 4位:静香 182700

 僅か1600点差。明星がギリギリのところで勝ち星を手に入れた。

 

 ただ、明星は試合には勝てたが、

「(ツキの遣り取りを含めて、結局、卓を支配していたのは阿知賀の1年生か。真の支配者ってとこね。恐ろしい娘を育ててるわね、宮永さん。)」

 亜紀の底力に脅威を感じていた。

「(阿知賀の中では、この1年生よりも小走さんの方が強いのでしょうけど、小走さんはブルペンエースの感じが強い。対外的には、この1年生の方が圧倒的に上ね。)」

 春季大会では、きっと亜紀は台風の目になる。明星は、そう実感していた。

 

 

 これで、勝ち星は、白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の三校が各々一つずつ取った形となった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼を終えると、中堅選手達は対局室を出て、それぞれ自分達の控室に向かって移動した。

 

 

 亜紀は、途中で美由紀に会った。

「先輩、ごめんなさい。一歩足りずでした。」

「ううん。そんなことない。私なら、もっと大敗していたと思うもん。永水の石戸さんは春季個人8位、綺亜羅の人は個人10位だからね。」

「でも…。」

「それに、白糸台の人だって個人19位だよ。その中で2位だったんだもん。春季の個人9位くらいの実力があるってことだよ。」

「でも、能力のペース配分とか持久力とか。宮永先輩に言われていた課題を一つでもクリアしていたら勝ててた気がします。」

「それが、秋季大会に向けての課題だね。じゃあ、行ってくる。相手は春季個人6位の化物だけど。」

「頑張ってください。」

「うん!」

 美由紀は、笑顔で亜紀に答えたが、その直後、気合いの入った顔に変わった。

 ただ、地顔が超絶カワイイので、毎度の通り、余り怖い感じに見えなかったのは言うまでもない。



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百六十一本場:吸い込み式

美和の世界が始まります。しかも美和はパワーアップしています。R-15で収まるか心配です。


 対局室に副将選手が入場してきた。

 インターハイ団体決勝副将戦が、これより開始される。

 

 春季大会の覇者、白糸台高校からは佐々野みかん、3年生。

 春季大会では個人18位。

 佐々野いちごの妹。1年の時の秋季大会以降、女子高生麻士顔面偏差値ランキングで不動の全国1位をずっと守り続けている超絶美少女である。

 

 昨年インターハイの覇者、阿知賀女子学院からは宇野沢美由紀、2年生。

 春季大会では個人17位。

 プロ雀士宇野沢栞の妹で、鳴き麻雀が得意。女子高生麻士顔面偏差値ランキングは7位と、結構人気が高い。

 

 永水女子高校からは滝見春、3年生。

 1年の時から3年連続インターハイ出場。安手で流すのが得意だが、準決勝では鬼の手を使ってトリプル役満を数絵から和了った。

 女子高生麻士顔面偏差値ランキングは9位。こちらも結構人気が高い。

 

 そして、昨年秋季大会以降注目を集める綺亜羅高校からは的井美和、3年生。綺亜羅高校麻雀部の部長でもある。

 春季大会では綺亜羅高校のエースとして活躍し、個人6位に入賞した実力者。

 本大会では綺亜羅高校の第二エースとして注目を集める。

 食虫植物栽培が趣味で、それが彼女の能力に深く関与する。

 

 

 控室を出る前に、美和は、美誇人から、

「相手が美由紀ちゃんだけど、チームのため、手を抜かないで!」

 と言われていた。

 美誇人は美由紀の超絶大ファンで、春季大会個人戦では、美和は美誇人に遠慮して美由紀にだけは能力を使わなかった。

 とは言え、現在、綺亜羅高校は勝ち星無し。

 しかも、美由紀の底力は美誇人が誰よりも良く知っているし、実際に美和も戦って美由紀が一筋縄では行かない選手であることを理解している。

「でも、イイの?」

「別に幻を見るだけだから。」

「分かった。じゃあ、全力でイかせてくる!」

 この副将戦では、顔面偏差値ランキング1位、7位、9位と、ベスト10が3人も揃っている。

 当然、美和はヤル気マンマンだった。

 

 美和本人は、顔面偏差値ランキングでベスト100にこそ入っていないが、一応、十人並みの顔と言われるレベルではある。

 共学クラスであれば、クラスで2番目とか3番目に綺麗とかカワイイとか言われるレベルなのだ。

 当然、美和も含めて卓は美女揃い。美和が一番見劣りするかもしれないが、それは相手が悪いだけ。

 しかも、春季大会の実績から考えれば、その美和が、三人の美女達をイかせ捲くることは必至であろう。

 そう言った背景から、この副将戦の視聴率は、100%に達したと言う。咲とフレデリカの対局よりも人気があったと言うことだ。

 

 

 場決めがされ、起家がみかん、南家が春、西家が美由紀、北家が美和に決まった。

 

 東一局、みかんの親。ドラは{9}。

 いきなり美和が、筋引っ掛けの罠を張る。{[⑤]}切りで{②⑧}のシャボ待ちだ。

 しかも、序盤で{①}や{③}、{⑦}も切っていた。筒子が不要な雰囲気を出していたのだ。

 ここに親のみかんが、

「リーチ!」

 聴牌即で、{⑧}切りでリーチをかけてきた。

 当然、美和は、これを見逃さない。

「ロン!」

 

 開かれた手牌は、

 {三四[五]②②③④⑤⑧⑧345}

 

 みかんは、

「(イヤッ!)」

 と心の中で叫んだ。

 春季大会個人戦で経験済みなのだ。

 また、例によって、あの恥ずかしい世界に突入する。

 

 美和の背後から沢山の巨大な触手が飛び出してきて、みかんを襲う。それらは、みかんの手足に絡まると、消化液を出してきた。

 ドンドン溶けて行く制服。

 そして、一瞬にして露わになる胸や股間。

 勿論、これだけで許してもらえるはずが無い。さらに、粘液だらけの何本もの触手がみかんの全身を刺激する。特に胸と股間は念入りだ。

「う…うぅぅ…。」

 思わず、みかんの口から言葉が漏れる。

 

 そして、

「タンヤオ三色ドラ1。8000。」

 美和が点数申告すると、みかんは幻の世界から現実世界に戻ってきた。美和の点数申告が幻のオフスイッチのようだ。

 当然、現実世界では制服が溶けているなんてことも無いし、触手も存在しない。普通に麻雀をしているだけだ。

 本当にHな幻である。

 

 ただ、現実世界では数秒も経っていないのだが、幻の世界では1時間近い長さに感じる。

 つまり、みかんの意識の中では1時間近くも触手プレイを堪能(?)し続けていたと言うことになるのだ。

 ふと、我に返ると、公衆の面前で、裸で触手プレイしていた気分になる。もの凄く恥ずかしい。

 一瞬にして赤面する。

 

 当然、某ネット掲示板では、

『みかん、絶対にイッたッス!』

『声も出てたじぇい!』

『とてもスバラな卓ですね!』

『キラーが出てきたのが私のいた時で無くて良かったと思』

『幻の世界を覗いてみたいのです! できれば霞さんの幻をお願いしたいのです!』

 それなりに賑わっていたが、テレビ画面に釘付けでコメントを書くどころではなかった人の方が多数だったようだ。

 

 

 東二局、春の親。

 美和の視線が春の方に向けられた。どうやら、狙いは親のようだ。

「チー!」

 春は、通常、安手で流す麻雀を主体とする。ここでは、親の安和了りでの連荘を目指しているようだ。

 

 七巡目、春は二枚切れの{西}をツモってきた。

 さすがに、これは不要だ。

 しかし、ツモ切りした{西}で、

「ロン!」

 美和に和了られた。完全に狙い撃ちだ。それと同時に、今度は、春が幻の世界に強制的に飛ばされた。

 

 またもや、美和の背後から巨大な触手が飛び出してきて春を襲う。それらは、春の手足に絡まると、消化液を出し、巫女服を一気に溶かして行った。

 そして、一瞬にして露わになる胸や股間。みかんの時とパターンは同じだ。

 さらに粘液だらけの何本もの触手が春の全身を刺激する。特に胸と股間は執拗に攻めて行く。

「う…うぁぁ…。」

 やはり春の口からも言葉が漏れた。

 そして、

「中三色ドラ1。8000。」

 美和が点数申告すると、春は幻の世界から現実世界に戻ってきた。

 当然、現実世界では、巫女服は無事だ。別に溶けてなんかいない。

 春も春季大会で経験済みなので、状況は頭では分かっているのだが、やはり、巫女服がどうなっているのか確認してしまう。

 

 ただ、春は、みかん程は恥ずかしがっていなかった。むしろ、これに耐えるのが修行と思っている部分もあるようだ。

 

 

 東三局、美由紀の親。

 美和の視線が美由紀に注がれた。いよいよ、美由紀をデビューさせる。

 

「ポン!」

 ここでは、美由紀が先に動いた。得意の鳴き麻雀で連荘を狙う。

 その二巡後に再び、

「ポン!」

 美由紀が鳴いた。多分、対々和系の手だ。

 ところが、ここで美由紀が捨てた牌で、

「ロン!」

 美和が和了った。

 

 美由紀の意識が幻の世界に飛ばされた。これは、美由紀にとっては初めての経験であった。

 美和の背後から、沢山の太くて長い触手が伸びてくるのが見えた。

 それらは、一斉に美由紀に襲いかかると美由紀の手足に絡み付いて自由を奪った。

 さらに多数の触手が美由紀の全身に絡み付いて消化液を出し始めた。

 ドンドン制服が溶かされて行く。

 立派なオモチが露わになる。

 下半身も、全て覆う布は溶かし尽くされている。

 

 触手が美由紀の手足を四方から引っ張った。もの凄い力だ。全然、抗うことを許してくれない。

 もはや、美由紀は胸も股間も隠すことが出来ない。

 完全に全てを曝け出した状態だ。

 

 しかも、それだけで触手達は許してくれない。さらに美由紀の胸や股間を攻めて行く。

「いやん…。」

 ついに、現実世界の美由紀の口から言葉が漏れた。

 これが控室のテレビモニターでも放送されている。

 美誇人は、モニターに被り付いて美由紀の痴態に興奮していた。

 

 美由紀の意識の中で、どれくらい時間が過ぎたことだろう。

 もう何回もイかされて続けている。

 

 そして、

「タンピンドラ3。8000。」

 美和が点数申告する声が聞こえると、美由紀は現実世界に戻ってきた。

「えっ?」

 我に返る美由紀。

 急にムチャクチャ恥ずかしくなって赤面するし、無意識に下を向いて股を閉じる。

 まさか、こんな能力麻雀があったなんて………。

 

 しかし、そんな美由紀の心情などお構い無しに、美和は点棒を受け取ると、さっさと山を崩してスタートボタンを押した。落ち着く隙など与えないつもりだ。

 

 

 東四局、美和の親。

「ミミカキグサって知ってる?」

 いきなり、美和が三人に聞いた。

 当然、誰もそんなの知らない。

「ミミカキグサはね、吸い込み式ってヤツなんだ。」

 つまり、能動的に獲物を吸い込んで行く食虫植物である。

 

 そして中盤に入って数巡後、

「ツモ!」

 美和が罠に落ちた他家を直撃するのではなく、自らツモって和了りを決めた。

 

 次の瞬間、みかん、春、美由紀の三人は、揃って幻の世界へと飛ばされた。

 ツモ和了りで幻を見せる技は、春季大会では披露していない。この技は、春季大会以降に美和が身に着けたモノであった。

 吸い込み式食虫直物の特性を生かした和了りであろう。

 

 ただ、吸い込み式でヤラれたはずなのに、幻の世界は吸い込み式とは全く関係ない。前回と同じ触手攻撃。

 しかも、さっきの続きだ。

 既に三人とも服は溶かされている。

 胸も股間も露わになり、自由も奪われている。

 身体中が粘液だらけになっている。

 

 そこに第二段。

 太い触手が、三人の口に突っ込まれる。

 股間も目一杯攻められる。

 

 現実世界では、そんなことは起こっていないが、精神世界では、三人とも思い切り辱しめを受けている。

 まるでAVにでも出演している感覚になる。

 

「4000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これと同時に、三人とも現実世界に戻された。

 ただ、椅子が濡れている。漏らしたわけではない。三人が思っている以上に、別の何かが出ていたのだ。

 それに、ちょっと対局室全体が臭う。

 テレビ放送されている対局で、こんな状態になるとは………。臭いは視聴者には届かないが、嬉しい状況では無い。

 

 何気に男性スタッフが前屈みになっている。

 美由紀の恥ずかしさレベルがマックスを越えた。しかし、その直後、

「(次は和了る!)」

 彼女は、両頬を両手で強く叩いた。

 とにかく気持ちを切り替えよう。

 あの忌わしい幻を振り切って、自分がさっさと和了る。二つ目の勝ち星を取って、チーム優勝に向けて大きく一歩前進する。

 そのために、美由紀は気合を入れ直した。

 

 東四局一本場、美和の連荘。

「ポン!」

 ここでも美由紀が、先行して仕掛けてきた。

 あの幻を見せられて、それでも果敢に立ち向かって行く。さすが、阿知賀女子学院のレギュラー。春季大会で個人17位に輝いただけのことはある。

 副露されたのは{北}。美和から鳴いたモノだ。

 

 さらに、

「ポン!」

 美由紀は春から{東}を鳴いた。

 これで北家の美由紀が{東}と{北}を副露した。まるで、薄墨初美の鬼門を思い起こさせる。

 勿論、美由紀には初美のような能力は無い。しかし、鳴くことによって和了りへの道が大きく広がって行く。そんな能力を持ち合わせている。

 さらに、

「ポン!」

 美由紀が春の捨てた{1}を鳴いた。

 強烈な聴牌気配が漂って来る。とても高そうな手だ。

 

 その二巡後、

「ツモ!」

 大きなオモチを激しく揺らしながら美由紀が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {99中中}  ポン{横111}  ポン{横東東東}  ポン{北北横北}  ツモ{9}

 

「東北混一混老対々。4100、8100!」

 倍満だ。

 これで忌々しい美和の親を流すことに成功した。

 

 

 南入した。

 南一局、みかんの親。ドラは{②}。

 ここも、

「ポン!」

 美由紀は積極的に攻めていった。上家の春から鳴き、副露されたのは{横⑤[⑤][⑤]}。これでドラ2が確定だ。

 しかも、ツモ巡がズレたのが功を奏したようだ。その後、美由紀は鳴かずともツモ牌だけで手がドンドン進んで行く。

 完全に勢いを掴んだ感じだ。

 そして、

「ツモ! 發対々三暗刻ドラ3。4000、8000!」

 再び美由紀は倍満を和了った。

 手の中には赤牌を含む{五}の暗刻も入っていた。

 

 

 これで、副将前半戦の点数と順位は、

 1位:美和 123900

 2位:美由紀 120300

 3位:春 79900

 4位:みかん 75900

 美由紀が怒涛の勢いで美和に迫っていた。もう、3600点差だ。

 やはり美由紀は、オモチも大きいが一回の和了りも、とても大きい。破壊力が違う。

 しかし、美由紀以外は三人とも3年生。最後のインターハイ。当然、このまま黙っているわけが無い。

 

 

 南二局、春の親。ドラは{北}。

 ここでは、阿知賀女子学院と共に二強とされる白糸台高校の選手として、みかんが意地を見せた。

 みかんは門前での手作りが多いが、ここでは、

「ポン!」

 美由紀から出てきた{中}を早々に鳴いた。

 

 さらに数巡後、

「チー!」

 みかんは、鳴いて{横123}と副露し、その数巡後、

「ツモ!」

 まるで和了り牌を卓に叩き付けるようにして和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {12379北北}  チー{横123}  ポン{中横中中}  ツモ{8}

 

「中混一チャンタドラ2。3000、6000!」

 ここで{北}が来れば{9}単騎に切り替えて倍満を狙ったであろう。

 ただ、これでヤキトリ回避でもあるし、ハネ満手だ。贅沢は言っていられない。



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百六十二本場:鬼の手再び

 インターハイ団体決勝戦は、副将前半戦南三局に突入した。

 親は美由紀。ドラは{⑤}。何気に怖いドラ。

 ここに来て美和の目付きが変わった。美由紀に3600点差まで詰め寄られたのだ。ここで何とか突き放したい。

 現在、勝ち星を取ったのは順に白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の三校。勝ち星数は一つずつだ。

 

 もし、ここで美由紀に勝ち星を持って行かれても、白糸台高校と永水女子高校は大将戦で勝利すれば得失点差での優勝の可能性が残されている。

 しかし、綺亜羅高校は、ここで勝ち星が取れなければ大将戦で勝利しても優勝は無い。

 当然、美和としては、何としてでも勝たなければならない。

 

 先行したのは、

「ポン!」

 親の美由紀だった。二巡目の鳴きだ。

 しかも、鳴いたのは何故かオタ風の{西}。

 {東}か{南}か………もしくは三元牌か………それらのどれかを役牌バックで持っているのか、それとも鳴くのを狙っているのか。

 こうなると親の美由紀に役牌を鳴かれないようにとケアする方に場が進むだろう。

 しかし、そう言った中、美和は平気で{中}、{白}、{發}と落としていった。逃げても仕方が無い。ここは、勝負だ。

 

 幸い、美由紀がこれらを鳴くことは無かった。

 その一方で、みかんと春が字牌をケアした分、少ないながらもチュンチャン牌が序盤からチラホラと河に出てきた。

 その一枚を、

「ポン!」

 美和が鳴いた。

 副露されたのは{2横22}。対面………春からの鳴きだ。

 さらに数巡後、

「チー!」

 美和は{横③④[⑤]}と晒した。これでドラ2が確定。

 そして、そのさらに数巡後、

「ツモ!」

 まるで美由紀のお株を奪うかのように、鳴き麻雀で美和がこの場を制した。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五六七[⑤]⑤}  チー{横③④[⑤]}  ポン{2横22}  ツモ{二}  ドラ{⑤}

 

 タンヤオドラ5。ハネ満である。

 美和が和了りを決めると共に、またもや、みかん、春、美由紀の三人は幻の世界へと引き摺り込まれて行った。

 当然、前回からの続きである。

 もう身体が熱い!

 合意でやっていることではないのに、一方的に攻めらているだけなのに、気持ち良過ぎて頭の中が真っ白になる。

「「「うっ! うぁぁっ!」」」

 三人の口から思わず声が漏れた。屈辱的だ。

 意識が飛びかけている。

 

 半分、意識が朦朧とする中、

「3000、6000!」

 美和の声が聞こえてきた。

 これで三人とも現実世界に呼び戻された。

 

 椅子が、さらに濡れているし、臭いもきつくなっている。

 もう最悪だ。

 少なくとも、咲、光と並んで絶対に対局したくない魔物である。

 

 

 オーラス、美和の親。

 さっきの和了りで勢いをつけたか、

「リーチ!」

 たった二巡で美和がリーチしてきた。吸い込み式パワーを備えた彼女は、出和了りに拘る必要は無い。とにかく和了りを目指す。

 それに、美由紀との点差を少しでも増やしておきたい。

 

 一発ツモは無かった。吸い込み式パワーが低下しているのか?

 そのまま、二巡、三巡と過ぎて行く。

 

 みかんも美由紀も、美和がツモる時に妙に怯えた表情をしていた。

 春は、開き直っているのか、それとも修行の一環のつもりなのかは分からないが、平静を装っていた。これに対して、みかんと美由紀は忌わしいHな幻を見させられるのを恐怖していたのだ。

 それはそれで、美和は見ていて面白かったようだ。なんか、性格悪い。

 

 そして、五巡後、

「ツモ!」

 とうとう美和が和了った。

 当然、三人は幻の続きを見させられた。

 この上ない極上Hな状態だ。

 しかも、ここに来て、三人とも右斜め上の方から視線を感じた。姿はハッキリ見えなかったが、たしかに誰かが覗いていたのだ。

 その正体は美和だったのだが、みかんにも美由紀にも、そこまでは分からなかった。

 ただ、春だけは霊力で美和であることに気付いていたようだ。

 

 これまでも、この姿を、ずっと観察していたのだろう。これはこれで、みかんにとっても美由紀にとっても悔しいことだ。

 春は、別に気にしていないようだが………。

 

 まるで、身体の中が触手で引っ掻き回されているみたいだ。こんな快楽が、世の中にあったのかと思うくらいだ。

 もうダメ。脳みそがショートして馬鹿になる。

 誰かに覗かれていると思うと、余計に恥ずかしくなるし、何故か興奮してくる。

 

 以前、一度美和に振り込むと、その後、無意識に美和に振り込むようになる選手も多いと聞かされたが、美由紀には、それが何となく理解できた。

 

「メンタンピンツモドラ1。4000オール!」

 美和の点数申告の声だ。

 これで三人は我に返った。

 しかし、これで美和は終わらせてくれない。

「一本場!」

 連荘を宣言したのだ。

 

 理由は、別にHなモノを見たいためではない。自分にツキが来ていそうなので、この流れに乗って美由紀との点差を広げたいと考えてのことだ。

 ただ、某掲示板の住人達は、

『これは、吹くまでやるつもりっス!』

『それはそれで一大事ですわ!』

『そうなったらワシが時間軸を飛ばすけぇ!』

『でも吹いたらスバレストです!』

『それって、私のお友達じゃないよモー!』

『先輩とは出すものが違うんデー』

 美和がHなモノを見たいがために連荘するものと誤解していたようだ。

 

 オーラス一本場。

 この局を始めてすぐ、美和は後悔した。ここで春が、左手を使い出したのだ。

 とんでもない支配力が場を襲う。

 美和も美由紀もみかんも、配牌は普通だが、全然手が伸びないし鳴けない。

 そのような中、春だけが手を進めた。

 春の左手が、一瞬だが鬼の手に見えた。

 そう思ったのも束の間、

「ツモ。8100、16100!」

 春が大七星(七対子型字一色)をツモ和了りした。

 そして、それと同時に美和もみかんも美由紀も、春の身体から合計二十一本の槍が伸びてきて、各七本ずつ自分の胸を貫かれた感覚に襲われた。

 それも、まるで北斗七星の形をした傷を描くかのように………。

 

 

 これで副将前半戦が終了した。

 点数と順位は、

 1位:美和 128800

 2位:春 99200

 3位:美由紀 99200(席順による)

 4位:みかん 72800

 美和がトップで折り返す結果となった。

 

 

 美和と春は、平然と立ち上がったが、みかんと美由紀は立ち上がれないでいた。椅子が濡れているのを見られるのが恥ずかしかったからだ。

 春の椅子も結構濡れていたが、春は、それを恥ずかしくてスタッフに言えないような人間ではなかった。

 スタッフは、春から事情を聞くと、ディレクターに連絡を入れて映像を解説側に切り替えさせた。

 その上で、

「一旦、控室に戻ってください。これから換気と清掃、それから椅子の取替え作業を行います。」

 と言って、副将選手達を対局室から強制的に退場させた。

 さすがに、このまま後半戦の場決めをさせて、他人の液体で濡れた椅子に座らせるのはマズイとの判断だ。

 

 映像が切り替えられて、某ネット掲示板の住民達は、

『やっぱり吹いたっスか?』

『男性スタッフが前屈みになってたじょ!』

『現場からの情報をお願いするのです! 特に永水と阿知賀のオモチの娘の状況を知りたいのです!』

『巨大湖は形成されておりませんわ!』

『黄金水じゃなくて潮汁だと思』

 それ相当に賑わっていたが、先ずは詳しい情報が知りたいと願っていたようだ。

 

 

 みかんは、控室に戻ると替えのスカートに履き替えた。春季大会個人戦で経験済みなので、予め用意していたのだ。

 ただ、春季大会よりも美和はパワーアップしている。あの時は、ここまで激しく濡らされることは無かったはずだ。

 とんでもない強敵だ。

 

 春は控室に戻ると霧島神境にテレポーテーションした。そして、代えの巫女服に着替えると、再び控室に戻ってきた。便利な力だ。

 

 ただ、美由紀は、控室の前まで来たのは良いが、恥ずかしくて中に入れないでいた。

 すると、控室の扉が開いて、

「スカート持って来てるからさ、着替えなよ!」

 憧が美由紀の手を引いて控室に入らせた。

 

 美由紀は、顔を真っ赤にしていた。まさか、麻雀の試合で絶頂を迎えるとは思ってもみなかったのだ。

 

 咲が、美由紀に、

「美和ちゃんも勝ち星を取るために全力で戦ってるんだよ!」

 と言った。

 まあ、それは正論だ。しかし、本当にそれだけなのだろうかと疑いたくなる。

「でも、あんなのって。」

「私が他校の選手をお漏らしさせているのと同じだよ。全力で戦っているだけ。でも、あの能力が通じなかった人もいるよ。」

「それは、宮永先輩には通じなかったでしょうけど…。」

「私だけじゃないよ。」

「えっ?」

「和ちゃんもだよ。美和ちゃんが言ってた。和ちゃんは、心のバリヤーみたいなのが張り巡らされていて全然効かなかったって。」

「えぇ!?」

 つまり、それは精神力で跳ね返せと言うことでしょうか?

 美由紀には、そう思えてならなかった。

 もっとも、和の場合は、精神力と言うよりも能力自体が通じないタイプなので、美和の力が届かなかったわけだが、さすがに美由紀には、そこまでは分からない。

 結果的に、

『自分の心が弱いせいでは?』

 と自己嫌悪に陥ってしまった。

 

 一方、美和は、

「あー楽しかった!」

 美女三人のあられもない姿を見て大満足していた。

 ただ、最後の鬼の手だけは脅威を感じた。まるで、咲や節子を相手にしている時のような………全てを破壊してしまうような、そんな恐ろしさだ。

 あれは、いったい何だったのだろうか?

 

 美和が控室に入ると、

「お疲れ。でも、私が美由紀ちゃんに嫌われない程度にね。」

 と第一声、美誇人が美和に言ってきた。

 さすがに美由紀とのホットラインを壊されては困る。

「対局後に、キチンとフォローするつもりだよ。それに、咲ちゃんにも予めお願いしておいた。」

「だったら良いけど…。」

 ただ、咲のフォローが、余りフォローになっていなかったのを、この時、美和は知らなかった。まあ、当然だろう。

「で、さっき電話で清掃作業とかが入ったって聞いたけど?」

 こう美和に聞いたのは静香。

「三人とも、椅子が相当濡れていたみたいだからね。」

「思い切りやったわけか。」

「当然。勝つためだもん!」

 静香も美誇人も鳴海も、ネット界隈で美和が咲や光と同レベルに扱われている理由が良く分かった。

 ただ、敬子だけは、

「でも、咲ちゃんのオーラを受けたらお漏らしするのは理解できるけど、別に美和からは、そんなパワーは感じないけど?」

 と不思議そうな顔をしていた。

 まだ、能力キャンセルの力の凄さを自覚していないようだ。

 

 

 30分後、各控室にスタッフから連絡が入った。

 清掃等が終わり、その10分後に副将戦を再開するとのことだ。

 

 この頃になると、美由紀も少し落ち着いてきた。

 それと、美由紀は大事なことに気が付いた。

 春季大会の個人戦で美和と戦った時には、美由紀は、こんな目には遭っていなかった。

 ただ、ネットで色々検索すると、春季大会どころか、埼玉県秋季大会や関東大会でも美和の被害者は沢山いるのだ。

 

 では、春季大会で、何故自分は被害に遭わなかったのか?

 それは、自分が美誇人と仲が良かったからでは無いだろうか?

 美誇人に遠慮したのだろう。

 つまり自分自身は美和に手を抜かれていた。

 それでいて、獲得素点を争う予選を、美和は余裕で勝ち抜けて本戦トーナメントに出場していた。

 

 今のHな状態も悔しいが、手を抜かれていたことの方がもっと悔しい。

 ならば、あの忌々しい能力に対して自身の力で打ち勝つしかない。

 

 とにかく、心を強く持つこと。

 触手攻撃にやられても、三次元世界で実際に何かをされているわけではないので、開き直ること。

 これくらいしか考えられることは無いだろう。

 そう言えば、今から思えば春とかは開き直っていたような感じがする。

 

 咲のレベルなら、強大なオーラで美和の幻を跳ね返すのだろうけど、美由紀には、そんなことは不可能である。

 あともう半荘、当たって砕けろだ!

 

 美由紀は、

「行って来ます。」

 いつものように気合を入れて控室を後にした。

 

 

 対局室に次々と選手達が入ってきた。

 たしかに前半戦の時と椅子が違う。交換されたのだ。

 そして、選手達が卓に付くと場決めがされ、後半戦は起家が春、南家がみかん、西家が美和、北家が美由紀に決まった。

 

 

 東一局、春の親。

 前半戦の悪夢………春、みかん、美由紀にとっての黒歴史とも言える幻が甦る。

 まるで前半戦のスタートダッシュを見ているようだ。ここでも美和は、立ち上がり絶好調であった。

 いきなり、

「リーチ!」

 序盤で先行リーチをかけたかと思うと、

「ツモ!」

 一発で和了り牌を掴んできた。美和も吸い込み式パワーを充填してきたのだ。

 

 美由紀達が、改めてエロスの世界に引き摺り込まれた。

 三人とも服を着ている。後半戦に入って状態がリセットされたようだ。

 再び三人の身体が、何本もの巨大な触手に捕えられて、触手が出す消化液で服が溶かされて行く。

 そして全裸にされると、執拗に胸や股間を粘液付きの触手が攻めてくる。

 美由紀は、

「(負けて堪るか!)」

 快楽に頭が支配されないよう、別のことを考えることにした。

「(円周率は、3.141592653589793238462643383279………。)」

「(宮永先輩の迷子癖は超常現象レベルだったなぁ………。)」

「(高鴨先輩と打つと、後半は何故か鳴けなくなるんだよね。山支配か………。)」

「(ゆいと百子はオーソドックスな打ち方………。)」

「(そう言えば、亜紀のデビュー戦は凄かったな。部内では私とかゆいが勝ってるけど、対外的には亜紀の方がやり難いかも知れないよね………。)」

 ただ、憧のことだけは考えなかった。

 どうしてもエロいネタになりそうな気がしたからだ。

 

 しばらくして、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえ、三人は幻の世界から解放された。

 この時、美由紀は、

「(大丈夫。前半戦ほど酷くない。)」

 全然と言う訳では無いが、身体の反応の方は、かなりコントロールできていた。これなら何とかなりそうだ。

 

 驚いた表情で美和が、

「まさか、破られるとはね。」

 と美由紀に言った。

「この半荘、耐えて見せます!」

「じゃあ、こっちもパワーを上げるよ!」

「えっ?」

 さらにあの上があるの?

 美由紀は、ちょっと自信が無くなった。



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百六十三本場:みかんジュース

 インターハイ団体決勝戦、副将後半戦東二局が開始された。

 親はみかん。

 当然、前半戦ダンラスのみかんは、ここで連荘を目指す。

 しかし、今、ノリにノッているのは美和。たった三巡で聴牌し、

「リーチ!」

 先制リーチを仕掛けてきた。

 そして、

「ツモ!」

 一発でツモ和了りした。やはり、吸い込み式パワー爆発と言ったところだ。

 

 他家三人が、またもや幻の世界へと意識が飛ばされた。

 その世界では、三人は全身に触手が絡みついており、手足の自由が利かない。

 胸も股間も隠せないし、そんな状態で触手が粘液を出しながら胸と股間を執拗に攻めてくる。これが体感的に一時間程度続く。

 

 美由紀は今回も、

「(春季大会、美誇人さん、強かったな。あの時は、臨海の人に御無礼してたっけ。一番狙い撃ちしやすかったからって聞いたけど、まだ私がターゲットにされないだけマシだったのかな?)」

「(県大会は、言っちゃ悪いけど余裕だったかな。多分、うちのランク9位から13位のメンバーでチームを組んだ方が強いって思った。)」

「(それだけ奈良の上位の娘達が阿知賀に来てるってことだよね。)」

「(でも、全国だと、やっぱり強い人、沢山いるな………。)」

 Hなことに頭が支配されないよう、考え事をした。

 たしかに、美和が言ったとおり、前回よりも刺激が強い。触手の動きが速いし複雑だ。

 しかし、これに負けたくない。美由紀は必死に意識を別の方に向けていた。

 

 しばらくして、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで触手プレイから開放される。

 

 意識が現実世界に戻ってきた。

 美由紀は………、前局よりはマズイ状態だが、まだ大丈夫。

 

 ただ、対面では、みかんが顔を真っ赤にしていた。

 少し臭いも漂ってきた。

 ただ、それに同情するよりも先に、美由紀は、

「(でも、この綺麗な人の触手プレイなら、私、見てみたい!)」

 なんて思っていた。

 幻の世界では、三人とも別々の空間にいる。なので、互いの状況(プレイ)を見ることは出来ない。

 それはそれで、美由紀には少し残念な気がした。

 

 春からも臭いが漂ってきた。ただ、春は平然とした顔をしている。

 心の切り替えが早いのだろう。それが出来るとは、凄い人だ。

 

 

 東三局、美和の親。

 まだ、ツキは美和にある。ただ、前局ほどは早くなさそうだ。

 

 五巡目、

「ポン!」

 この親を流そうと、美由紀が先に仕掛けた。

 すると、

「ポン!」

 美由紀が捨てた{中}を美和が鳴いた。しかも、この鳴きでツモ巡がズレたのが、美和にとってラッキーな方に動いたようだ。

 他家はツモ切りが続くのに、美和だけドンドン手が進む。

 そして、そこから五巡後、

「ツモ!」

 美和が和了った。

 

 開かれた手牌の中には{東}の暗刻と{[⑤]}があった。

 ただ、そこまで確認したところで、美由紀の意識は、またもや触手プレイの空間へと強制的に飛ばされた。

 前局の時よりも、さらに刺激が強くなっている。

「うぅぅっ!」

 思わず美由紀の口から声が漏れた。

 しかし、

「(屈しちゃダメ。

 こう言う時、意識を切り替えるには、やっぱり数学よね。夏休みの宿題で、一問、とんでもないのがあったな。

 たしか、任意の三次関数f(x)=ax3+bx2+cx+dの任意の点、(α, f(α))からの接線をl1(x)=p1x+q1とし、f(x)とl1(x)の交点を(β, f(β))とする。そして、(β, f(β))からの接線をl2(x)= p2x+q2とし、f(x)とl2(x)の交点を(γ, f(γ))とする。

 f(x)とl1(x)で囲まれた部分の面積をS1とし、f(x)とl2(x) で囲まれた部分の面積をS2とした時、S2/ S1を求めなさい。

 結構、これ、部内でもみんな大変って言ってたっけ。

 接線の方程式を使えば何とかなるかなって思ってたけど、それだと意外と大変なことになるって、みんな言ってた。

 宮永先輩に聞いたら、答えは2の4乗で16だよって、シレっと言ってたけど………。)」

 美由紀は、激しい性的刺激の中、この数学の問題にチャレンジし始めた。

 

 しばらくして、

「ダブ東中赤1。4000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで、この世界から解放される。

 しかし、数学の問題は、まだ解けていない。ちょっと残念だ。

 

 美由紀が股間辺りを触る。

 前局ほどは出ていないようだ。

 数学万歳!

 

 美和が、頭を掻きながら、

「なるほど、そう来たか。もし、この対局中に解けないようだったら、うちの静香に聞くとイイよ。全国公開模試でトップ10常連だから。」

 と美由紀に言った。

 どうやら、美和は美由紀が数学の問題を考えることで性的刺激を跳ね除けたことを知っているようだ。

「ホントですか?」

「うん。お宅の新子さんよりも圧倒的に順位が上だよ!」

「マジですか?」

「思いっ切りマジ! 最高学府の医学部を目指しているからね。」

「うわ。そこまで優秀なお方は、私の知り合いにはいませんよ。」

 …

 …

 …

 

 そんな遣り取りがされている横で、みかんは、赤面して俯いていた。

 もう、さっき変えたばかりの椅子が大変なことになっていた。既に前半戦終了時点よりもマズイ状態になっていたのだ。

 それだけ美和が、張り切って派手にやってくれたと言うことだ。

 

 春が、スタッフの一人に声をかけた。

 そのスタッフは、妙に前屈みになっている。

「また、椅子が大変なことに…。」

「股ですか?」

 ここで、一旦椅子の取替え作業と換気のため、対局が中断となった。それと同時に、選手達は控室に移動することになった。

 またもや映像が対局室から解説側に切り替えられた。

 前代未聞の対決だ。

 

 某ネット掲示板も、

『一大事、一大事ですわ! また中断になりましたわ!』

『あれって白糸台が妖しいと思』

『みかんがみかんジュースをいっぱい出したってことっスね!』

『みかんジュースwwwwww by高三最強』

『みかんジュースじゃ私の仲間じゃないよモー!』

『巨大湖の方がマシなんデー!』

『みかんジュースよりもオモチ画像をアップすべきなのです!』

『みかんジュースで定着したみたいだじぇぃ!』

『でもアチガの2年は平然とした顔してるっス!』

『アチガからは、みかんジュースが出てないんだと思』

『もう枯れてんじゃないか? by高三最強』

『枯れてるだなんて、ないない! そんなの!』

『私は咲さんのみかんジュースが欲しいです!』

『咲様のみかんジュースは京ちゃんのものじゃなかと?』

『そんなオカルトありえません!』

『ダル………』

 新ネタ(みかんジュース)が加わり、かなり賑わっていたようだ。

 

 

 その話題の人、みかんが控室に赤面しながら戻った。

 ただ、代えのスカートは、もう一本持ってきているが、これを汚すと後が無い。

 つまり、ここで最後のスカートに穿き替えて、みかんジュースで濡らしてしまうと、それで表彰式に出なければならないし、それを身に着けたまま帰らなければない。

 さて、どうしたものか?

 すると、

「こうなるの見越して、一応、短パンとジャージ、持ってきたよ。」

 麻里香が、自分の体操着(短パン)とジャージ(下)をバッグの中から取り出した。

「あ…ありがとう。でも、あんな風になっちゃって、もう、お嫁に行けないかも!」

「まあ、そうなったら私が貰ってあげるから。」

「その時はお願いするわ。」

 みかんは、早速スカートを脱いで、麻里香の短パンに履き替えた。

 

 

 三十分ほどが経過した。

 この間、解説側が何とか場つなぎをした。

 最初は決勝戦の名場面ダイジェストを流して、色々と対局についての説明をメインに放送していたのだが、途中から、

「綺亜羅高校はダブルエースプラス三銃士。では、すこやんは三十四?」

 とかアナウンサーが暴走し、結局のところ、いつものネタで解説のお方がアナウンサーに弄られるところに収束して行った。

 

 

 対局室に、改めて副将メンバーが集まった。

 この時、みかんは上半身ジャージで下は短パン(体操着)を身に着けていた。

 細くて長い脚。しかし、病的な細さではない。健康的な細さだ。

 

 これを見た某掲示板の住民達は、

『やっぱり、みかんがみかんジュースを沢山出したってことっス!』

『やっぱり期待を裏切らないじぇい!』

『スバラレストです!』

『この未来は容易に想像できたで!』

『あるある! そんなの!』

『みかんのみかんジュースだったら需要があるんじゃなかと?』

『私は咲さんのみかんジュースがあれば他は要りません!』

『世界大会でも美和様には活躍して欲しいよモー』

『先輩が何か企んでるデー』

『ルーマニアとかロシアの選手達がみかんジュース出したらチョー嬉しいよぅ!』

 さらに賑わったようだ。

 ただ、足の美しさを語る人は、この板では一人もいなかったようだ(嫉妬)。

 

 

 選手達が卓に付いた。

 東三局一本場からの再開である。ドラは{4}。

 ただ、せっかくノッていたところに休憩が入ったことが原因だろう。美和からは、さっきまでの勢いが無くなっていた。

 ならば、この親をさっさと流す。

「ポン!」

 ここで動き出したのは春だった。対面の美和が捨てた{白}を鳴き、

「チー!」

 さらに美由紀から鳴いて{横64[5]}を副露した。

 ただ、ドラを捨てて手が安いことを知らせる春にしてはドラ面子副露は珍しかった。ここは、自力でツモる気なのだろう。

 そして、

「ツモ。1100、2100。」

 数巡後に春は思惑どおり自らのツモで和了り牌を引き当てた。やはり、春にも3年生パワーは健在である。

 

 

 東四局、美由紀の親。

 ここでは、

「ポン!」

 美由紀が先行して仕掛けてきた。美和は、まだエンジンが掛かっていない感じがする。ここで一気に点差を詰める。

 

 やはり美由紀は、鳴くと、その後のツモ牌が好転するし、それによって手作りそのものが加速する。

 この局でも、

「ツモ! 6000オール!」

 欲しい牌を引き寄せ、親ハネをツモ和了りした。

 

 しかし、その直後、美由紀は美和から不穏な空気を感じ取った。

「やっと手に力が戻ってきた感じ。じゃあ、そろそろイクよ!」

 どうやら、美和のスイッチが入ったようだ。

 しかし、ただヤラれる訳には行かない。こっちだって勝利を目指している。

 ならば、

『次局は、美和よりも早く和了る!』

 そう美由紀は自分自身に言い聞かせた。

 

 東四局一本場、美由紀の連荘。

 美由紀は、

「ポン!」

 当然、連荘を目指して突き進む。

 しかし、手が早いのは美由紀だけではなかった。

「リーチ!」

 たった五巡で聴牌し、美和が先制リーチを仕掛けてきたのだ。

 さすがに美由紀も一発は回避する。

 春もみかんも同様だ。

 

 ただ、吸い込み式パワーが復活した美和は、

「ツモ!」

 一発で和了り牌を引き当てる。

 これにより、美由紀達は忌々しい幻の世界に、またもや連れ込まれてしまった。

 

 みかんも春も、もの凄く感じ捲くっていた。ただ、みかんが猛烈に恥ずかしがっていたのに対し、春は流れに身を任せて時間が過ぎるのを待っている雰囲気が強かった。

 一方の美由紀は、さっきとは別の数学の問題を解いていた。休憩時間に他の問題をいくつか覚えてきたのだ。

 

 そのまま、体感時間で約一時間が経過した。

 もう、みかんは気が狂いそうだった。

 春も意識が朦朧としていた。

 ここに、

「2000、3900の一本場は、2100、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。ようやくHな世界から解放される。

 

 みかんは、ふと自分の股間に視線を向けた。

 既に麻里香に借りた短パンは、表面まで水分が上がってきていた。

「(ゴメン、麻里香。やっぱり汚しちゃった。でも、ここで一太刀くらいは浴びせないとね。さすがに私も気が治まらない。)」

 ここで、みかんの雰囲気が急に変わった。

 多分、トータルでは美和に勝てない。

 忌々しい能力が無かったとしても、美和は強い。

 そもそも、忌々しい能力自体は卓上では関係ない。和了りを決めてから点数申告する間までに発動するものだ。

 

 だからと言って、美和に安々と白旗を上げるつもりは無い。

 次こそは絶対に和了る。その意気込みが、みかんの全身から強く感じられた。

 

 

 南入した。

 南一局、春の親。ドラは{5}。

 ここで先行したのは、

「ポン!」

 美由紀だった。三巡目でみかんが捨てた自風の{北}を鳴いたのだ。しかし、ここで美由紀が切った{南}を、

「ポン!」

 みかんが鳴いた。門前には拘らずに、ただ和了ることだけを目指していた。

 その後、みかんは、

「チー!」

 春が捨てた{7}を鳴いて{横7[5]6}と副露した。これでダブ南ドラ2が確定した。

 こうなると、他家はみかんへの振り込みを回避しようと捨て牌を絞る。しかし、みかんは、その後は自力で有効牌を引き当ててゆく。

 そして、数巡後、

「ツモ!」

 後半戦になって初めて、みかんが和了った。ヤキトリ回避だ。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六[⑤][⑤]}  チー{横7[5]6}  ポン{南横南南}  ツモ{一}  ドラ{5}

 

「ダブ南ドラ4。3000、6000!」

 大きな一撃だ。

 まだまだ美和の得点には及ばないが、まずは和了れたことが大きい。みかんは、そう思っていた。

 

 一方の美和は、このみかんの和了りで心に火がついたようだ。

「(この美人ちゃん、絶対にイカせまくって私の奴隷にしたい!)」

 もっとも、モチベーションは真っ当なベクトルを向いていなさそうではあったが………。

 ただ、美和の全身からは激しいオーラが噴出していた。

 そして、彼女の背後で、沢山の小さな花が咲き乱れている感じを美由紀は受けていた。これは美和の能力が見せている幻だ。

 

 その花の形は、まるでウサギのような形のモノだったり、クリオネのような形のモノだったりと、とてもカワイイものであった。

 どう考えてもHな能力には直結しない雰囲気しか感じられなかった。




美和が咲かせた花は、ミミカキグサの中でも特に人気のあるサンダーソニー(ウサギゴケ)とワーブルギー(クリオネソウ)です。

それにしても、ホワイトデーに、みかんジュースネタが当たるとは……。


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百六十四本場:反撃

美和の危なさがパワーアップしていますが、ご容赦ください。


 インターハイ団体決勝戦、副将後半戦は南二局に突入したところだった。

 親はみかん。

 この局になって、春もみかんも美由紀も、何故か配牌とツモが一枚も噛み合わなくなった。対子もできない。

 それこそ、慕の支配で不要な風牌しか送り込まれなくなるのと似たような感じだった。

 これが美和の支配なのか?

 

 さっき、美由紀が美和の背後に見た小さな花は、ウサギゴケとクリオネソウ。共にミミカキグサの一種で吸い込み式の食虫植物である。

 この花々が、まるで他家から有効牌を引くツキを吸い込んでいるかのようにも見える。

 そして、

「リーチ!」

 六巡目と、結構早いところで美和が先制リーチをかけてきた。

「チー!」

 美由紀が、美和のリーチ宣言牌を鳴いた。美由紀は鳴き麻雀が得意だが、今回は手を進めると言うよりも一発消しが主な理由だろう。

 しかし、相手にツキがある時は、一発消しの鳴きすら、その相手の都合の良い方向に場を動かしてしまう。

 これは結果論でしかないが、

「ツモ!」

 この鳴きで美和に和了り牌を回してしまった。

 

 またもや三人の意識が忌わしいエロスの世界に飛ばされた。

 美由紀は数学の問題を解くことで意識を触手プレイから別の方向に向けていたが、他の二人は、そう言った手段をとっていない。

 幻の中で繰り広げられるプレイに実世界の身体が反応している。

 …

 …

 …

 

 またしても体感時間として一時間くらいが経過したであろうか?

「メンタンピンツモドラ1。2000、4000!」

 美和の点数申告の声と共に三人は実世界へと意識が戻ってきた。

 

 

 南三局、美和の親番。

 ここでも、

「ツモ!」

 美和が和了った。

「4000オール!」

 

 南三局一本場も、

「ツモ!………………………………6100オール!」

 

 南三局二本場も、

「ツモ!………………………………4200オール!」

 

 美由紀達は何も出来ないまま、立て続けに美和にツモ和了りを決められた。

 これで四連続だ。

 

 美和は前半戦で6回、後半戦では既に8回和了っている。

 他家三人は、一回の和了りにつき、約一時間の体感時間で触手プレイをされている。つまり、三人とも既に十四時間もヤラれ続けていることになる。

 

 後半戦に入ってから、美由紀は触手プレイの影響を出にくくする工夫をしているが、負荷はゼロでは無い。

 それをまともに受けてしまっているみかんは、もう半分気が狂いかけている状態だ。

 春は、修行の一環のつもりで精神世界と戦っている感じだが………。

 

 ただ、マズイのは、そう言ったエロい状況ばかりではない。

 現段階で副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美和 176000

 2位:美由紀 85600

 3位:みかん 74500

 4位:春 63900

 美和が圧倒的なトップなのだ。

 前半戦も美和がトップ。このままでは、副将戦の勝ち星は完全に美和に持って行かれることになる。

 

 美由紀は、

「(何とかしないと!)」

 頭を大きく振った後、

「ヨシッ!」

 声を上げて気持ちを切り替えた。

 

 南三局三本場。

 ここでようやく、

「ポン!」

 美由紀のエンジンが再活動を始めた。

 すると、これを見て春が援護し始めた。

「ポン!」

 美由紀が鳴きたそうな色の牌を敢えて捨てて美由紀に鳴かせたのだ。

 

 春としても、本来なら自分が和了って美和の親を流したいところだが、鬼の手は、一日に何回も使えるモノでは無いようだ。

 それに、早くこの忌々しい対局を終わりにしたい。そのためには美和の親を流すのが最善の方法だ。

 この援護もあって、

「ツモ! 3300、6300!」

 美由紀はハネ満をツモ和了りし、長かった美和の親を終了させた。

 

 しかし、これで半荘が終わったわけでもないし、美由紀は勝ちを諦めない。

 ここから、やれるだけのことはやってやる。

 その強い意気込みが、この時、美由紀の全身から溢れ出ていた。

 

 

 オーラス、美由紀の親。

 美和の配牌は7種8牌。最低最悪の状態。ここでヤオチュウ牌を引いてきても9種にはならない。

 どうやら、美由紀の和了りと共にツキも奪われたようだ。

 

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が特異の鳴き麻雀で手を進める。先ず鳴いたのは{8}。

 ヤオチュウ処理を終え、

 {四四四六八67777888}

 と持っていたところからの鳴きだ。ここから打{八}。

 

 次巡、美由紀はツモ{6}。

 ここで、

「カン!」

 {8}を加槓した。

 嶺上牌は{四}。

 美由紀は、

「もう一つ、カンです!」

 {7}を暗槓した。嶺上牌は{6}。

 ここから、さらに美由紀は、

「もう一つ、カンします!」

 {四}を暗槓した。

 そして、嶺上牌はラッキーなことに{六}。

 これは偶然であるが、第三者には、まるで咲が乗り移ったかのように見えた。

「ツモ! タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花。8000オール!」

 まさかの親倍。これで美由紀は122500点と、原点を大きく越えた。

 しかし、美和の点数は161700点。副将戦トータルでは、ここに前半戦の29600点差も加わる。

 まだまだ先は遠い。

 

 

 オーラス一本場、美由紀の連荘。

 ここでも、

「ポン!」

 早々に美由紀が動き出した。

 鳴いたのは対面のみかんが捨てた{中}。

 この時、美由紀の全身からは、まるで咲や穏乃のような魔物を連想させる激しいオーラが沸きあがっていた。

 

 美和は、

「(春季大会でもそうだったっけ。私は個人戦で、美誇人は団体戦で、この娘の追い上げを喰らったんだ。結果的に私達が勝ったけど、危ない試合だった…。)」

 と思いながら、美由紀に鳴かれなさそうな牌………つまり美由紀の現物である字牌を選んで捨てた。

「(やっぱり、咲ちゃんとか高鴨さんと打ってるからかもね。二人とも後半が強いし。この娘が最後の最後で粘り強いのは、二人の影響かも…。)」

 再び美和は、美由紀の現物牌を切った。

 しかし、それだけでは和了りには向かえない。どうにかして、この親を断ち切りたいところだ。

 

 次巡、美和は自風の{北}を捨てた。これなら美由紀の役にはならないはずだ。

 それに、美由紀の捨て牌からは、余り染めている感じを受けていなかった。

 しかし、これを、

「ポン!」

 予想に反して美由紀が鳴いた。

 そして、そのさらに次巡、

「ツモ!」

 力強く牌を卓に叩き付けるようにして美由紀が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①①[⑤][⑤]⑤南南}  ポン{横北北北}  ポン{中横中中}  ツモ{南}

 

「南中混一対々赤2。8100オール!」

 まさかの二連続親倍。しかも、まさかの混一色手。

 これで美由紀は、後半戦での美和との差を6800点まで縮めた。

 

 オーラス二本場。ドラは{一}。

 完全に流れは美由紀に持って行かれた感じだ。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が早々に春から自風の{東}を鳴いた。

 

 ただ、他の字牌は対子になっていないようだ。次々と美由紀から字牌が切られて行く。

 河を見ると、{七}が二枚捨てられていた

 

 美和の手牌は、

 {三五七③④⑤⑤⑦35788}  ツモ{⑥}。

 

 ここから打{七}。

 すると、

「チー!」

 珍しく美由紀がチーし、{横七[五]六}を副露した。ここから打{六}。

 聴牌気配が流れてくる。

 

 ここで美和は{西}をツモ切り。

 美由紀もツモ切り。

 

 そのさらに次巡、

「ツモ!」

 美由紀が何とか自身の和了り牌を引き当ててきた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三四五六七七七八}  チー{七[五]六}  ツモ{九}

 

 美由紀の河は今のところヤオチュウ牌のみ。染め手が出来ているとは、美和にも予想外だった。

「清一一通ドラ2。8200オール!」

 まさかの三連続親倍。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 171400

 2位:美和 145400

 3位:みかん 46900

 4位:春 36300

 とうとう美由紀が逆転した。

 

 しかし、前後半戦トータルでは、

 1位:美和 274200

 2位:美由紀 270600

 3位:春 135500

 4位:みかん 119700

 3600点差と僅差ではあるが、依然として美和がトップだった。

 

 美由紀は、次に700オール以上の手を和了れば、そこに芝棒が付いて逆転トップが取れる。当然、士気が上がる。

 

 一方の美和も、これ以上は和了らせられない。

 次こそは和了る!

 彼女も負けじと闘志を燃やした。

 

 オーラス三本場。

 美和は、東(美由紀の自風)、南(場風)、三元牌の順に切って行った。

 美由紀に鳴かれる可能性はあるが、美由紀をケアし過ぎて、その結果、和了れなければ、この勝負は確実に負ける。

 どんなことがあっても、美和は、ここで勝ち星を取って全校勝ち星一の状態で並ばなければ全てが終わりだ。

 

「ポン!」

 美和が五巡目に捨てた{中}を美由紀が鳴いた。これは仕方が無い。見た感じ、配牌から美由紀は{中}を対子で持っていたようだ。

 

 その三巡後、

「ポン!」

 美由紀は美和が捨てた{9}を鳴いたが、ここで切った{一}で、

「ロン。」

 とうとう美和に和了られた。

 

 美由紀に意識が久々に幻の世界へと連れ込まれた。

 これまで、美和の和了りはツモ和了り中心だった。そのため、触手プレイに使われる能力を三分割していたわけだが、今回は、そのエネルギーが全て美由紀に注がれた。

 美由紀は、一生懸命数学の問題を考えようとするが、

「あ…あぁん!」

 耐え切れなかったようだ。美由紀のエロい声が対局室にこだました。

 ただ、ヤバそうなのをスタッフ側が事前察知し、音声をオフにしていたようだ。ファインプレイである。

 

 今回、美和の触手は美由紀に念入りに攻めた。団体戦では、これが最後の触手プレイだからであろう。

 美由紀の体感時間は、今回は約二時間にも及んだ。

 …

 …

 …

 

「平和のみ。1000点の三本場は1900!」

 ようやく、美由紀の耳に美和の声が入ってきた。

 これで美由紀は幻の世界から解放された。

 

 以上の結果、副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 169500

 2位:美和 147300

 3位:みかん 46900

 4位:春 36300

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:美和 276100

 2位:美由紀 268700

 3位:春 135500

 4位:みかん 119700

 ギリギリのところで美和が勝ち星を得て、各校勝ち星一の状態となった。

 

 また、全校の総合得点は、

 1位:阿知賀女子学院 884000

 2位:綺亜羅高校 805200

 3位:永水女子高校 771900

 4位:白糸台高校 738900

 春季大会の覇者、白糸台高校がラスで、しかもトップの阿知賀女子学院に145100点もの点差を付けられる結果となった。

 

 しかし、総合得点に関係なく、大将戦で勝利したチームが優勝である。

 当然、各校大将の志気は大きく上がっていた。

 

 

 映像が解説側に飛んだ。

 当然、某ネット掲示板では、

『今度こそ阿知賀のオモチの2年生がみかんジュース大放出なのです!』

『私もそう思』

『ところで、みかんジュースって何だ?』←衣

『お子チャマが一人紛れ込んでるし!』

『衣は子供じゃない!』

『でも咲ちゃんパワーの巨大湖形成はR-15でイイと思うけど、みかんジュースはR-18の壁を越えていないか心配だじぇい!』

『そうなったら、ワシがR-15の壁を守るけぇ!』

『一つ提案があるっス! みかんジュースに対抗して咲様が大放出させるモノを別のジュースで喩えたいっス!』

『ただ、レモンジュースじゃ芸がなかと!』

『咲様の被害者第一号は誰ですの?』

『ちゃちゃのん、多治比真佑子、椿野美幸の三人デー!』

『じゃあ、いちごがいるからイチゴジュースでどう? by 高三最強』

『それでは血尿みたいでスバラくありません』

『モーがいるから牛乳とかカルピスソーダもありじゃなかと?』

『それだと性別が違うじょ!』

『じゃあ、オモチを比喩してメロンジュースはどうですのだ?』

『それだと姫様レベルになってしまうのですよー ちなみに霞ちゃんならスイカジュースですかー?』

『スイカジュースも血尿みたいだし!』

『バナナジュースは? by 高三最強』

『バナナも性別に問題ありそうっス』

『降参再教育は滑ってばかりやなぁ』←セーラ

『降参再教育はその程度のアタマしか持っていないと言うデータがあります』←船Q

『ほな、パインジュースでどうや?』←憩

『それなら色合い的にもピッタリだじぇい!』

『こちら現場! 白糸台の甘党とアチガの白亜紀と永水のヤオチュウオモチがスポーツタオルを持って急行中』

『みかんとハルルは南三局でアウトだった気がするですよー!』

『やっぱり最後はアチガのオモチも耐えられなかったようやけど、この未来はハッキリ見えてたで!』

 なんだか一部、訳の分からない議論が飛び交いながらも、こんな風に賑わいを見せていたとのことだ。

 実に平和な連中である。



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百六十五本場:インターハイ最後の大将戦

大将戦は、大会時間の都合上、イスだけ取り換えてすぐに行われた設定です。


 インターハイ団体決勝戦は、これより大将前半戦が開始される。

 大将選手達は、各々控室を出て対局室へと向かっていった。

 

 

 穏乃は、途中で亜紀に連れられて戻ってくる美由紀に会った。この時、美由紀は制服のスカートの上からタオルを巻いていた。

 もの凄く恥ずかしそうな顔で俯いている。

 

 穏乃は、

「美由紀は頑張ったよ。最後は、和了れなかったけど、凄い猛追だった。元気を分けてもらった気がする!」

 と明るい声で美由紀に言った。

「でも、もし勝てていれば優勝の可能性が大きく上がっていたのに、済みません。」

「私が勝てば大丈夫。じゃあ、行ってくる!」

 この時、美由紀と亜紀は、穏乃の背後に膨大な量の火炎が見えていた。火焔と呼ぶには量が多過ぎる。周りのモノを全て焼き尽くしてしまいそうな勢いだ。

 

 

 同じ頃、みかんは麻里香に連れられて控室に向かっていた。

 みかんは、下半身は麻里香に借りた短パン(体育着)になっていたが、もうびしょ濡れである。

 それが見えないように、彼女もスポーツタオルを巻いて短パンを覆い隠していた。

 

 途中で二人は和に会った。

「和、不甲斐なくてゴメン。」

「みかんの相手は綺亜羅のダブルエースの一人でしたし、強かったと思います。私も穏乃が相手ですし、勝てるかどうかは判りませんがベストを尽くします。」

 それだけ言うと、和は今までに見せたことが無いくらい気合いの入った表情で、対局室へと進んでいった。

 

 みかんは、控室に戻ると、スマホのスイッチを入れた。某掲示板で何が書かれているか心配だったのだ。

 まあ、エロいとか放出がどうこうとか書かれているのだろうとは思っていたが、

「なに、この『みかんジュース』って?」

 思っていた以上に汚名を残したことを知って、orz状態になった。多分、美和が麻雀を打つ限り、みかんジュースの言葉はずっと付いて回る。

「麻里香。約束覚えてるよね?」

「約束?」

「私がお嫁に行けなかったら貰ってくれるって。」

「したね。そんな約束。」

「みかんジュースなんてネタがあったら、もうお嫁に行くのはムリ。」

「でも、その板で楽しんでいる奴ら以外には、短パン姿のウケが良かったみたいでさ。脚が長くてラインが綺麗でって。」

「…。」

「で、新しいスレが立って、みかんがお嫁さんにしたい女子高生雀士ブッチギリの1位なんだけど。(この顔でこのスタイルだもんね。当然っちゃ当然か。)」

「へっ?」

 麻里香に言われて、みかんは別の掲示板を覗いた。すると、特に悪いことは書かれていない。

 それどころか、書込み禁止事項に『ジュース』と書かれているくらいだ。

 敢えて『みかんジュース』にしなかったのは、その言葉を自分達が使えば逆にネタを広めてしまう。なので、より上位概念の『ジュース』を禁止事項にしているのだろう。

 自分のファン達が鎮火に努めてくれているようだ。

 

 みかんジュースネタは、今のところ、あの板限定である。このまま、そのネタが忘れ去られると有り難い。

 少しだけ、みかんは今後の人生に希望が持てるようになった。

 

 

 一方の春も、明星から受け取ったスポーツタオルで濡れた辺りを隠していたが、

「じゃあ、一旦着替えてくる。」

 とだけ言うと、テレポーテーションでその場から消えた。別の巫女服に着替えるため、霧島神境に行ったのだ。非常に便利である。

 

 

 さて、この頃、加害者側の美和は、

「(楽しかった~!)」

 みかん、春、美由紀と言った美女達をイカせまくった上に勝ち星を取って、最高の気分だった。

 

 控室に戻る途中で大将の鳴海に会った。

 美和は、鳴海にハイタッチした。

「じゃあ、鳴海。お願いね。」

「分かってる。ただ、美和は佐々野さんに刺されないように気をつけてね。」

「へっ?」

「某掲示板を見れば分かる。じゃあ、行ってくる。」

「うん。ガンバ!」

 さて、掲示板に何が書かれているのだろうか?

 美和は、恐る恐る某掲示板を覗くと、溢れんばかりの『みかんジュース』ネタ。

「ヤバイ、これ。ちょっと遣り過ぎたみたい。」

 これは、さすがに謝った方が良さそうだ。たしかに刺されてもおかしくない。

 早速、美和はLINEで咲に相談した。咲ならみかんとの仲が良いので間に入ってもらおうとの考えだ。

 

 

 みかんジュース事件のことは、さて置き、対局室に各校大将が出揃った。

 場決めがされ、起家は穏乃、南家は鳴海、西家は和、北家は湧に決まった。

 

 

 東一局、穏乃の親。

 早速、序盤から、

「ポン!」

 鳴海が仕掛けてきた。鳴きのリュウと呼ばれる彼女は、ここから槓すると、槓子が全てドラに化ける。

 副露したのは{發}。

 

 数巡後、

「カン。」

 鳴海が{⑧}を暗槓した。暗槓では回避しようが無い。

 新ドラ表示牌は{⑦}。やはりドラはモロ乗りである。

 そして、嶺上牌を引くと、既に手の中にあった{發}を、

「もう一つカンです。」

 加槓した。

 やはり新ドラ表示牌は{白}。ここでもモロ乗りだ。

 ただ、嶺上牌では和了れずツモ切り。これは他家にとっては救いだろう。

 

 しかし、その数巡後には、

「ツモ。4000、8000!」

 鳴海は自分の和了り牌を自力で引いた。嶺上牌で和了れなくても、普段のツモ自体は引きが良いほうなのだ。

 

 

 東二局、鳴海の親。

 ここでも、

「ポン!」

 鳴海が仕掛けて行く。

 ところが、

「チー。」

 同巡に、穏乃が湧から{③}を鳴いて{横③④[⑤]}を副露した。

 これには多くの観衆が、

『穏乃にしては珍しい』

 と思っていた。

 穏乃は、基本的に門前が多く、しかもまだスイッチが入る局でもない。過去においても東二局で穏乃が仕掛けて行ったことは余り無い。

 

 ただ、これを控室のテレビモニターで見ていた恭子は、

「エエで! 特訓の成果が出たみたいやな!」

 そう言いながら拳に力が入っていた。

 

 穏乃は後半になって調子が上がる。

 しかし、言い換えれば前半は弱い。

 それで前半は、ただ削られるのではなく、安くて良いから早和了りを徹底的に仕掛けて場を流し、大きなマイナスを作ることなく後半戦に入れるように恭子と早和了りの特訓をしたのだ。

 勿論、相手に捨て牌を絞られると鳴くのは難しくなるが、今の上家は湧。おそらく、他家三人の中でもっとも捨て牌が甘い。

 穏乃にとってはラッキーな席順だ。

 

 その後も、

「ポン。」

 穏乃は湧から{8}を鳴き、さらにその数巡後には、

「ツモ。タンヤオドラ1。500、1000。」

 安手ではあるが、一先ず鳴海の手が倍満に化ける前に親を流すことに成功した。

 

 

 東三局、和の親。

 この局も、

「ポン!」

 鳴海が鳴けば、

「チー!」

 穏乃が鳴いて場を流しに行く。

 

 ところが、

「ポン!」

 二人以外にも鳴きを仕掛ける者が現れた。ローカル役満を武器とする湧だ。

 彼女は{9}を鳴いた後、

「ポン!」

 さらに{7}を鳴いた。

 ローカル役満と言う彼女の特性から考えれば、これは紅孔雀か?

 しかし、場には{中}が3枚出ていた。それこそ湧自身が{中}を捨てていたくらいだ。

 だとすると、四跳牌刻か?

 しかし、既に{3}が場に二枚出ている。四跳牌刻も出来ないだろう。

 

 何を狙っているのかはよく分からない。ただ、少なくとも索子に染めていることだけは湧の捨て牌から容易に想像できた。

 当然、他家は索子を捨てなくなる。

 しかし、ローカル役満ができる方向に湧のツモは自然と動いてゆく。なので、他家が索子を捨ててくれなくても自力で必要な索子を連続で引いて行けるのだ。

 

 そして、数巡後に、

「ツモ! 3000、6000!」

 湧が和了り牌を自らの手で引き当てた。

 

 開かれた手牌は、

 {4666888}  ポン{7横77}  ポン{横999}  ツモ{4}

 

 {45}待ちの高目ツモだが、これは四連続の刻子を揃えたローカル役満、四連刻である。

 しかも、準決勝戦で咲、フレデリカ、蒔乃、優希が見せたローカル役満コレクションの中に入っていない和了り形である。

 まさに、ローカル役満に取り付かれた女が見せた意地であろう。

「3000、6000!」

 ただ、残念ながら、本大会では四連刻どころか三連刻も役として認められていない。そのため、これは清一色対々和のみのハネ満となった。

 

 

 東四局、湧の親。

 卓上にうっすらと靄がかかった。穏乃の能力が発動したのだ。

 そう言えば、このインターハイ団体戦て、阿知賀女子学院が大将戦まで回ったのは、これが初めてである。つまり、穏乃の能力も初披露となる。

 果たして、どの程度のレベルにまで成長しているのであろうか?

 他家としては、非常に不安になる。

 

 途端に鳴海も湧も手が悪くなった。

 湧は、和了り形が全然見えないわけではないが、少なくとも自分の武器であるローカル役満へと手を育てて行ける道筋までは見えていない。

 見えるのは、凡手の安和了りとしての形だけだ。

 

 鳴海の手には、対子はあるが、そこから刻子に進めることが出来ずにいた。ツモって暗刻にするどころか、鳴いて明刻にすることも何故かできない。

 しかも、嫌った牌が何故か来る。自分の河には既に{②}と{七}が三枚ずつある。

 

 一瞬、穏乃の背後に突如として現れた火焔が、鳴海の目に映った。

 春季大会では穏乃との直接対決が無かったので、鳴海にとって穏乃の火焔を直接目の当たりにするのは初めてのことだった。

 事前情報はあっても、実際に目にするとさすがに驚く。

 

 その直後、

「ツモ。2000、4000。」

 穏乃がタンピンツモドラ2を和了った。これは、蔵王権現の力が完全に発動していることの証明であろう。

 

 この強力な支配力。

 春季大会個人戦での咲と対局を思い出させる。

 さすがの鳴海にも、穏乃の対処法が分からなかった。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。

 ここで穏乃のパワーが一気に爆発する。

 

 山は、完全に穏乃の支配下にある。

 鳴海も和も湧も、最低な配牌に最悪のツモだった。クズ手の上に全然、手が進まない状態が続く。

 そのような中で、穏乃だけが手を伸ばしてゆく。

 そして、気が付けば、穏乃の背後に火焔が現れ、

「ツモ。4000オール。」

 穏乃が親満をツモ和了りした。

 ただ、和了った直後、火焔は消えた。やはり和了る直前に火焔が見えるようだ。

 

 南一局一本場。

 ここでも、

「ツモ。2700オール。」

 

 南一局二本場でも、

「ツモ。3900オールの二本場は、4100オール。」

 

 さらに南一局三本場も、

「ツモ。2300オール。」

 穏乃が連続で和了り続けた。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 138300

 2位:鳴海 96900

 3位:湧 90400

 4位:和 74400

 とうとう、和が25000点持ちであれば箱割れするところまで追い詰められた。

 

 しかし、普通ならメゲて心が折れる状況でも、和は滅多なことでへこたれる女性ではない。むしろ、表には出さないが闘志が湧く。

 

 そして迎えた南一局四本場。

 鳴海と湧が、完全に穏乃の支配に押さえ込まれている中、和が穏乃の支配を跳ね除けてマイペースで手を進め、

「タンピンツモ一盃口ドラ3。3400、6400!」

 ハネ満をツモ和了りし、同時にヤキトリを解消した。

 

 

 南二局でも、

「リーチ。」

 和が穏乃の支配を抜けて聴牌し、先制リーチをかけた。

 山支配が強力になる中だ。さすがに一発ツモはできなかったが、他家の能力支配を受け難い和が、

「ツモ! 3000、6000!」

 数巡後にハネツモ和了りを決めた。

 この二度の和了りで、和が一気に2位に浮上した。

 

 現在、穏乃との点差は29300点。

 とは言え、次の親番で親ハネをツモ和了りできれば、穏乃との点差は、一気に5300点まで縮まる。

 当然、和は、このまま攻撃特化で突き進むつもりだ。

 

 

 南三局、和の親。

 いよいよラスト二局。毎度のことながら、ここまで来ると、やはり穏乃の山支配は、とんでもなく強力になる。

 和は、この親にかけるつもりだったが、意気込みと現実が乖離する。穏乃以外は、一巡目から配牌とツモが中々噛み合わない状況が延々と続くのだ。

 勿論、それは和も例外ではなかった。

 

 中盤に入り、ようやく湧の手に有効牌が入った。

 そして、手を進めるために切った{⑥}で、

「ロン。平和ドラ1。2000。」

 穏乃に和了られた。

 

 開かれた手は、

 {三三三四五④[⑤]⑥⑦⑧789}  ロン{⑥}

 ヤオチュウ牌を和了り牌に含む三面聴。チャンタ形への移行や、タンヤオに移行する際に零れる牌を狙った手のように思える。

 

 

 そして、オーラス。湧の親。

 当然、湧は、この親番で100点でも多く取り返そうと攻撃に出ようとした。

 相変わらず強烈な支配力が場を襲うが、序盤に湧は、有効牌を引けた。

 そして、気合いを入れながら不要な字牌、{北}を強打した。

 ところが、

「ロン。」

「えっ?」

 まさかの振り込みだった。穏乃の和了りである。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三三④⑤⑥567北}  ロン{北}

 

「一盃口のみ。1300。」

 これで大将前半戦が終了した。

 点数と順位は、

 1位:穏乃 132200

 2位:和 99600

 3位:鳴海 87500

 4位:湧 80700

 穏乃の圧勝であった。

 

 

 一旦休憩に入った。

 穏乃は、いつものように卓に付いたまま時間を潰す。

 

 他の三人は、後半戦に向けて控室に戻った。仲間からのアドバイスがあるかもしれないからだ。

 

 

 鳴海は、控室に戻ると、

「やっぱ、怖いわ。宮永さんとは別の意味の怖さだね。」

 と言いながらソファーに腰を降ろし、テーブルの上に紙コップを置いてペットボトルのジュースを注いだ。

「でも、春季は、あれに動じなかったってことは、やっぱり敬子は凄いね。」

「へっ?」

 そうは言われても、あの時、敬子には穏乃の能力が効いていなかったわけだし、そもそも感知できていなかった。当然、鳴海の言っている意味が分からなかった。

 

 テーブルの上には、他の誰かの飲みかけのコップが置いてあったのだが、鳴海は、間違えて、その飲みかけの方のコップを手にした。

 そして、そのまま中のジュースに口を付けた。

「あっ! それっ!」

 声を上げたのは敬子。

「えっ?」

「それ、私のコップ。」

 こう言われて鳴海が紙コップを見ると、たしかに敬子の口紅が付いていた。

 しかも鳴海は、その口紅のところに口を付けたようだ。

 これは、よく見ていなかった鳴海が悪い。

「ああ、ゴメン。敬子は、そっちのコップを使ってイイから。」

「う…うん…。」

「でも、敬子の口紅つきコップなら売れるかもね。」

「えぇ!? そんな変人いるの?」

「まあ、普通にいるでしょ。美女ランク2位だよ。」

「それが信じられないのよね。大体、こんな見飽きた顔のドコがイイんだろ? 自分で言うのもなんだけど、正直言って性格も変だし…。」

 未だに敬子は、自分が美人である自覚が無かった。ある意味、みかんと同じである。

 だから逆に人気があるのかもしれない………。



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百六十六本場:八百比丘尼

 対局室では、穏乃が一人、卓に付いて目を閉じていた。まるで瞑想しているかのように見える。

 

 ここに、和、湧、鳴海が戻ってきた。

 インターハイ団体決勝戦は、これより大将後半戦が開始される。これがインターハイ団体戦最後の半荘である。

 

 場決めがされ、起家は鳴海、南家は湧、西家は和、北家は穏乃に決まった。

 深山幽谷の化身と呼ばれ、場が進むに連れて強くなる穏乃がラス親なのは、他家三人にとっては嬉しくない。

 

 しかし、それを悪条件とも思わないくらい、この時、鳴海は妙に心が燃えていた。

 良く分からないが、身体の奥底から無尽蔵にエネルギーが満ち溢れてくるような感覚があったのだ。

 前半戦とはまるで違う。

 

 別に、前半戦は不調と言うわけではなかった。ただ、絶好調と言うわけでもない。言わば普通の状態。可もなく不可もなくといったところだ。

 それが、突然自分の中で何かが変わった。

 部内戦でも、こんな感覚になることがたまにある。

 そうなった時には、誰が相手でも勝てる。絶好調………と言うよりも最高状態と言った方がしっくりくる感じだ。

 

 

 東一局、鳴海の親。ドラは{3}。

 配牌を見て、鳴海は自分が最高状態にあることを確信した。

 {一三五七②②78西西西中中中}

 ここから打{一}。

 

 配牌一向聴で、しかも暗刻が二つ。うち、片方はオタ風牌だが、もう片方は三元牌。これで既に和了り役がある。

 鳴海をケアするなら、彼女の自風や場風、三元牌をどのタイミングで切るかは重要になる。鳴き&ドラ麻雀の鳴海には、絶対に役牌を鳴かせたく無いからだ。

 前半戦東一局で、鳴海に{發}を早々に鳴かれて、そこから倍満を和了られているのだから尚更である。

 なので、役牌は誰かが捨てて槓子にならないことが確認されてから捨てるか、もしくは少々危険ではあるが、鳴海の手の中で揃っていない可能性が高い一巡目とか二巡目にさっさと捨てるしかないだろう。

 まあ、普通は前者になる。

 

 しかし、オタ風牌なら殆どの人がノーケアーで切ってくる。案の定、ここでも早々に和が{西}を切ってきた。

「カン!」

 鳴海は、これを待ってましたとばかりに大明槓した。

 新ドラ表示牌は当然のように{南}。副露された{西}の槓子が、あっと言う間にドラ4確定を示す牌に変わる。

 嶺上牌は{9}。嶺上牌が有効牌になるとは調子が良い。

 ここから打{七}。中ドラ4の聴牌である。

 しかも{一七}切りの嵌{四}待ち。何気に筋引っ掛けだ。

 

 それにしても、何故、こんな急に調子が良くなったのか?

 鳴海は、休憩時間中に何があったか考えていた。これだけ調子を好転させる要因は何なのか?

「(考えられるのは、敬子のカップを使ったことくらいか…。)」

 あの時、鳴海は間違って敬子のカップを口にし、偶然にも敬子の口紅の付いたところに口をつけていた。まあ、間接キスだ。

 別に、そんなことでキャーキャー騒ぐものでもないし、鳴海自身は、特に何も気にしていなかった。

「(そう言えば、節子の指も、敬子のカップを使ったら、いきなり治ったって話があったっけ。あの時は、いくら敬子が不思議ちゃんでも、さすがに、そんな力は無いだろうって笑い話になったけど。)」

 ただ、今の敬子は人魚の化身。

 そして、人魚の肉を食べれば不老不死の力を得ることができると言う。あの伝説の八百比丘尼のように………。

 

 別に、敬子を物理的に食べたわけでは無いが、恐らく人魚と化した敬子との間接キスが鳴海の能力を最高状態に引き上げたのだろう。

 最後の最後で嬉しい誤算だ。

「(でも、これって、やっぱりそうだよね。私達にとって、まさに、このインターハイは敬子あっての大会………。でも、私達の中でキチンと敬子のことを理解できていたのは、結局のところ節子だけだったってことか………。)」

 今の自分が今までの能力の範囲内で最高状態なのか、それとも能力が進化しているのか、それは分からない。

 ただ、相手が誰であっても負ける気がしない。

 

 次巡、

「カン!」

 鳴海は{中}をツモり、暗槓した。

 二枚目の新ドラ表示牌は{發}。これで中ドラ8の親倍が確定した。

 しかし、嶺上牌は{①}。

 残念ながら能力が進化したわけではなさそうだ。もし進化しているのなら、ここで嶺上開花が飛び出すだろう。

 和了れていないのだから仕方が無い。鳴海は、聴牌維持で{①}を切った。

 

 その次巡も、鳴海は和了れなかった。

 しかし、そのさらに二巡後、

「ツモ。」

 鳴海は自力で和了り牌を引き当てた。

「8000オール!」

 しかも、まだ身体中からエネルギーが湧き上がってくる感覚は残っている。まだまだ行けそうだ。

 

 東一局一本場。ドラは{⑨}。

 鳴海の配牌は、

 {五七八①①③⑤111白白白白}

 いきなり{白}が四枚揃っている。これだけ調子が良いのも珍しい。

 当然、ここは、

「カン!」

 初槓だ。

 槓ドラ表示牌は{中}。これで白ドラ4が確定した。とんでもない手だ。

 嶺上牌は{六}。ここから打{五}で嵌{④}待ちの聴牌となった。

 

 同巡、湧が不要牌の{1}を切った。場に{五}が一枚しか出ていないところで初牌を切るなと言われてもムリである。

 当然のように、この{1}を、

「カン!」

 鳴海が大明槓した。

 二枚目の槓ドラ表示牌は{9}。

 これで白ドラ8が確定した。しかも聴牌している。

 そして、その三巡後、

「ツモ! 8100オール!」

 鳴海は和了り牌の{④}を引き当てて、またもや親倍をツモ和了りした。

 

 まさかの連続親倍に、穏乃の顔にも珍しく焦りの表情が浮かび上がっていた。

 穏乃としても、前半戦東二局で見せたような早和了りを目指したいのだが、中々鳴ける牌が出てこないし、鳴海のスピードに全然付いて行けない状態だった。

 

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 148300

 2位:湧 83900(順位は席順による)

 3位:和 83900(順位は席順による)

 4位:穏乃 83900(順位は席順による)

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:鳴海 235800

 2位:穏乃 216100

 3位:和 183500

 4位:湧 164600

 鳴海が大逆転してトップに立った。

 

 しかし、鳴海としても、まだ気は抜けない。深山幽谷の化身と呼ばれる穏乃が同卓しているのだ。後半になって何をしでかすか分からない。

 それに穏乃の能力無効化の場であっても、それを撥ね退けて和了りに向かって行ける人間………和もいる。その証拠に、和は前半戦では南一局四本場と南二局でハネ満を二連続で和了っている。

 永水女子高校の大将、湧も不気味な存在だ。唐突に高い手を和了ってくる。

 

 こんな連中を相手にしているのだ。まだまだ鳴海は稼ぐつもりでいた。

 それこそ、自分の運が尽きるまで………。

 

 東一局二本場。ドラは{一}。

 鳴海の配牌は、

 {三五五八九③③③⑧257發發}

 まだまだ十分攻めて行ける配牌だ。

 ここから打{⑧}。

 

 二巡目。

 鳴海は待望の{發}を引いた。打{三}。

 

 三巡目。

 ここでも鳴海は{發}を引いた。

 当然、ここは、

「カン!」

 {發}を暗槓した。

 新ドラ表示牌は{②}。これで發ドラ3が確定した。

 嶺上牌は{6}。ここから打{2}で辺{七}待ち聴牌。

 ただ、この時、鳴海は、

「(ここは、發ドラ3の親満かな?」

 と思っていた。

 

 恐らく、この場では誰も{③}を捨ててくれないだろう。{③}を槓して次の新ドラが{發}になるのがモロバレである。

 

 ところが、その次巡。

 鳴海が引いてきたのは、まさかの{③}。何と言うツキの良さ。たしかに、今は絶好調だ。

 当然、鳴海は、これを、

「カン!」

 暗槓した。

 嶺上牌は{西}。

 さすがに嶺上開花はさせてもらえない。これはツモ切り。

 

 しかし、その二巡後、

「ツモ。8200オール!」

 今回も鳴海は自力で和了り牌の{七}を掴み取った。

 ツモ發ドラ8の親倍。

 しかも、これで前後半戦トータルは172900点となり、2位の穏乃との点差は52500点と大きく開いた。

 そう簡単に追い抜かれる点差ではない。

 これで、鳴海は自分達の優勝を、ほぼ確信した。

 

 東一局三本場。ドラは{七}。

 鳴海の配牌は、

 {一二三②②④⑥22東東東白中}

 いきなり一向聴の状態。

 まだまだ和了りを十分過ぎるほど狙える状態だ。

 ここから打{中}。

 

 ただ、今回は{東}も{②}も{2}も、中々自力で引き当てることが出来ずにいた。

 ツキのある日でも、こう言うことが無いわけではない。むしろ、今まで調子が良過ぎたと言えよう。

 

 七巡目。

 ここに来て漸く湧が{2}を捨てた。

 すかさず、これを、

「ポン!」

 鳴海が鳴いた。打{白}で聴牌。

 

 その二巡後、今度は穏乃が聴牌したのか、{東}を捨てた。

 当然、鳴海はこれを、

「カン!」

 大明槓した。

 新ドラは{東}。これでダブ東ドラ4が確定した。

 

 嶺上牌は{2}。

 鳴海は、

「カン!」

 さらなる槓ドラを狙って連槓した。

 これでダブ東ドラ8が確定する。しかも、和了り牌として{[⑤]}が引ければダブ東ドラ9の三倍満になる。

 誰でも、こんな状態であれば自然と力が入るであろう。

 しかし、

「ロン!」

 この{2}の加槓で誰かが和了りを宣言した。

「えっ?」

 鳴海が声のした方に目を向けると、和が手牌を開いていた。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五[五]六七⑧⑧34[5]67}

 

 タンピン槍槓ドラ3。ハネ満だ。

「12900!」

 鳴海にとっては、まさかの振り込みであった。これで、長い鳴海の親番が終わった。

 

 

 東二局、湧の親番。

 鳴海のドラ麻雀をケアしてか、和も穏乃も序盤から役牌を切ってくれない。

 なので、湧は、この対局では役牌絡みのローカル役満を最初から諦めていた。前半戦で見せた四連刻は、{中}を鳴けないと踏んで紅孔雀を避けた上での和了りだったのだ。

 今回、湧の手の中に{白}と{中}が二枚ずつあったのだが、これをポンするのは難しい。

 ならば、両方とも落として別の役を作り上げる。

 

 湧の配牌は、

 {一三①④⑧2東南西北白白中中}

 

 これが四巡目で、

 {一一三①①④⑧12東南西北}  ツモ{東}

 ここから打{④}。

 

 すると、

「カン!」

 鳴海が大明槓してきた。

 新ドラ表示牌は言うまでも無く{③}。やはり、モロ乗りだ。

 

 その三巡後、湧の手牌は、

 {一一①①⑧11東東南南西北}  ツモ{北}

 ここから打{⑧}でローカル役満の世界一を聴牌した。

 

 すると、ここでも、

「カン!」

 鳴海が{⑧}を大明槓してきた。

 新ドラ表示牌は{⑦}。これで鳴海のドラ8が確定した。

 どうやら、今回の鳴海の狙いはタンヤオドラ8のようだ。

 

 そして、次巡。

 鳴海よりも先に、湧は待望の{西}をツモり、

「ツモ!」

 この手を和了った。

 

 残念ながら、この和了り形を本大会ルールでは役満として認めていない。混老七対子として扱われることになる。

 ただ、本大会では混老七対子を25符5翻として扱う。

 なので、

「混老七対子ツモ! 6000オール!」

 湧の親ハネツモ和了りとなった。

 もっとも、傍目には白と中を落さなければ、もっと早く混老七対子を和了れていると思えるだろうし、巧くやれば混一色混老七対子で倍満になったとも考えられるだろう。

 しかし、ローカル役満を狙ってこそ湧の能力は発動し、和了り形へと持って行く。

 {白}と{中}を残したままでは、聴牌まで到達できていなかったのかもしれない。

 

 東二局一本場、湧の連荘。

 ここでも鳴海は、

「ポン!」

 執拗に攻めて行く。前半戦に比べて鳴海の手が早い。

 今回は、先ず三巡目に穏乃から{②}を鳴いた。

 

 七巡目。

「カン!」

 鳴海が{②}を加槓した。当然のように新ドラ表示牌は{①}。

 そして、その二巡後、

「ポン!」

 さらに鳴海は{8}を鳴いた。これで聴牌。

 

 ところが、その次巡、

「リーチ!」

 和が攻めに出た。二面子を晒して手が狭くなっている鳴海を狙っているのだ。しかも、槓裏まで期待できる。

 同巡、鳴海は待望の{8}をツモってきたが、これを加槓するのを躊躇した。東一局三本場で槍槓されたのが効いているのだ。

 やむなく鳴海は聴牌を崩した。

 

 そして、次巡、

「ツモ!」

 和が一発でツモ和了りした。

 しかも、表ドラ、赤牌、裏ドラ、槓裏が各一枚の計ドラ4となり、

「リーチ一発ツモタンヤオドラ4。4100、8100!」

 タンヤオドラ2の手が倍満に化けることとなった。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 149900

 2位:和 98900

 3位:湧 85600

 4位:穏乃 65600

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:鳴海 237400

 2位:和 198500

 3位:穏乃 197800

 4位:湧 166300

 鳴海が2位の和に38900点、3位の穏乃に39600点差をつけ、未だ余裕で1位の座についていた。



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百六十七本場:和の世界

 インターハイ団体決勝戦、大将後半戦は、東三局に突入した。

 親は和。ドラは{⑨}。

 

 {西}は鳴海の自風である。

 現在、前後半戦トータルのトップは鳴海。当然、鳴海には和了らせたくない。

 ゆえに、場に{西}が出ていなければ、湧も穏乃も{西}を積極的には切りたくない。

 とは言え、みんなの役牌と言える三元牌や場風と違い、自風………特に{西}や{北}はデジタル打ちの人間からは早々に出易い方であろう。

 しかも和は親。

 当然、連荘を狙って和了りを目指すし、そのために不要な{西}は、比較的早い段階で和の手から出てきた。

 すかさず鳴海は、

「ポン!」

 これを鳴いた。

 

 その数巡後、

「カン!」

 鳴海は{8}を暗槓した。

 新ドラ表示牌は{7}。これで鳴海の西ドラ4が確定した。

 

 さらに次巡、

「カン!」

 鳴海が{西}を加槓した。

 次の新ドラ表示牌は{南}。これで鳴海の西ドラ8の倍満が確定。

 

 そのさらに二巡後、

「ツモ。4000、8000!」

 自らの手で鳴海は和了り牌を掴み取った。

 

 

 東四局、穏乃の親。

 急に卓上に靄がかかってきた。

 しかも、前半戦とは比べ物にならない。一気に濃霧と化した。もはや、靄と呼ぶのは相応しくないだろう。

 最後のインターハイの決勝戦。

 その大将後半戦。

 つまり、穏乃が阿知賀女子学院の生徒として打つ高校生麻雀大会の最後の頂。まさしく真の頂上である。

 それ故であろう。穏乃の能力も発動してすぐに最高状態となったようだ。

 

 鳴海の配牌から刻子や対子が消えた。

 湧の配牌からもヤオチュウ牌が消え、しかも萬子、筒子、索子が均等に来ていた。ローカル役満への道が見えない。

 

 急に場が静まり返った。鳴海も湧も、まるで山の奥深くに一人残されたような寂しい雰囲気しか感じない。

 しかも濃霧がかかって視界も悪い。

 そして、一瞬、湧の正面、鳴海の左側に篝火のようなモノが見えたかと思うと、

「ツモ。2600オール。」

 穏乃に和了られていた。

 前半戦の南一局で連荘された時とまるっきり変わらない。これが阿知賀女子学院の誇る第二エース、高鴨穏乃の世界。

 団体戦では、実質、咲以外には負けたことが無い脅威の力である。

 

 東四局一本場。穏乃の連荘。

 鳴海としては、とにかく他家の親を流してトップを維持したまま終了したいところ。当然、この親もさっさと流したい。

 倍満に拘らず、タンヤオのみの手でも良い。

 しかし、中々鳴いて手を進めることも出来ない。これが穏乃の支配下。

 

 中盤に入り、漸く穏乃から鳴ける牌………{⑧}が出てきた。

 それで、

「ポン!」

 鳴海は、その{⑧}を鳴き、手を進めようとして{二}を捨てた。

 

 一瞬、鳴海は自分の左側………穏乃の背後に火焔を見た。

 そして、

「ロン。」

 穏乃の和了り宣言の声が聞こえると、その火焔は消えた。前半戦と同様に、和了る時に火焔が見えるようだ。

「タンピンドラ2。11600の一本場は11900。」

 しかも親満級の手だ。これは大きい。

 敬子から貰った人魚パワーも、蔵王権現の前では無力なのか?

 

 東四局二本場。

 穏乃の捨て牌は、順に、

 {東南西北白發中}

 まるで敬子のようだ。全く読みようが無い。

 分かるのは、字牌が和了り牌では無いと言うことのみ。

 

 今は七巡目。

 既に鳴海の手牌には字牌が無い。

 それで、自身の麻雀………ドラ8へと展開すべく切った{6}で、

「ロン。タンピン一盃口ドラ2。12600。」

 鳴海は、穏乃に親満を振り込んだ。

 しかも、この二度の振り込みだけで鳴海は24500点を失っている。まるで悪夢を見ているようだ。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 138800

 2位:穏乃 93900

 3位:和 88300

 4位:湧 79000

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:鳴海 226300

 2位:穏乃 226100

 3位:和 187900

 4位:湧 159700

 穏乃が、首位の鳴海との点差をたった200点まで詰め寄ってきた。

 

 続く東四局三本場。

 未だ鳴海と湧には、濃霧に覆われ、シンと静まり返った寂しい空間しか感じない。穏乃支配による独特の雰囲気である。

 視界も悪いし、背後から巨大な何かに見られているような恐怖も感じる。

 そして、とうとう穏乃の背後に火焔の全容が見えたかと思うと、まるで対局室全てを業火で焼き払うかのような幻が鳴海と湧の目に映った。

 

 一瞬、鳴海も湧も焼け死んだかと思った。それだけ激しい炎だったのだ。こんなモノは初めて見た。

 その直後、

「ツモ。6300オール。」

 穏乃が和了った。

 業火による派手な演出があった割には、穏乃の和了り宣言は落ち着いていて静かだった。

 しかし、打点は業火の如くである。タンピンツモドラ3の親ハネツモ。ここに来て今まで以上に大きな手だ。

 これで穏乃が単独トップに立った。

 

 東四局四本場。

 再び、対局室は濃霧に覆われ、薄暗く寂しい空間へと変わった。このまま穏乃支配のまま終わるのだろうか?

 しかし、配牌が終わると同時に、この穏乃の世界を完全に無視するかの如く、鳴海の正面………和の背後に巨大なモニターが突然現れた。

「「(なにこれ?)」」

 鳴海と湧の頭の上に、巨大なハテナマークが浮かび上がった。当然であろう。

 二人とも、今まで色々なタイプの能力者と対局してきたが、少なくとも、こんな展開は初めてである。

 

 その巨大モニターから煌々と明かりが射し、オンライン麻雀ゲームの映像が、その画面いっぱいに映し出された。

 気が付くと、和は『のどっち』の姿に変わっていた。どうやら、これが和独特の世界のようだ。

 

 これまで、和の能力は、他人の能力のうち、自分に降りかかる分のみ無効化する程度のものだったが、このインターハイ最後の戦いで暴走したのだろう。

 これによって、この卓は、全てが和の武器であるデジタル打ちの世界に引き摺り込まれることになった。

 デジタル打ちの完成度が全てとなる。

 

 ヤオチュウ牌から切り出し、チュンチャン牌も河を見ながら使い難いと判断される牌は処理して行く。

 確率論が全て。

 こう言った打ち方が推奨される世界のようだ。

 

 そして、牌効率に優れた和が最短で手を作り上げ、

「ツモ。2400、4400。」

 満貫手をツモ和了りして穏乃の連荘を止めた。

 

 

 南入した。

 南一局、鳴海の親。

 ここでも和のデジタル空間が場を支配していた。

 全てはノーマル世界の常識に従って物事が進んでゆく。アブノーマルな能力麻雀は厳禁となる。

 こうなると、鳴海の槓ドラ8とか湧のローカル役満と言った低確率な現象は全て選択を否定される事象と化す。

 二人にとっては、非常に動き難い世界だ。

 

 一方の穏乃は、能力自体は非凡でも作る手は凡庸である。

 しかし、牌効率では、到底和には及ばない。やはり、和のほうが穏乃よりも数段手の進みが早い。

 

 そして、中盤に入り、和は聴牌すると、

「リーチ!」

 すぐさまリーチで攻めてきた。

 

 一先ず他家は、和の現物や筋、字牌で凌いだ。

 さすがに一発ツモにはならなかったが、数巡後、

「ツモ。」

 和が自らの和了り牌をツモった。

「メンタンピンツモドラ2。3000、6000。」

 しかもハネ満ツモだ。

 

 その手牌の中には、赤牌、裏ドラが1枚ずつの計2枚のドラがあった。リーチをかけなければタンピンドラ1の手。

 まだ中盤のため、山には牌が残っているし、全てのドラが全員に割り振られているわけではない。

 ただ、配牌とツモ牌に使われた牌の数だけを考えれば、ドラが計2枚なのは、ある意味、確率的には理に適っているのかもしれない。

 

 

 南二局、湧の親。

 ここでも、

「リーチ!」

 和が積極的に攻めて行く。聴牌即リーチだ。

 完全なデジタル打ち故であろう。変な迷彩は無い。今回も素直な手のようだ。これなら筋切りで振り込む確率は低いだろう。

 他家は、前局同様に現物や筋、字牌で凌ぐ。

 

 そして、数巡後、

「ツモ。2000、4000。」

 和はリーチツモタンヤオドラ2の満貫をツモ和了りした。

 

 ここでも裏ドラが1枚乗っていた。

 リーチをかけなければタンドラ1の安手である。それがリーチをかけることで満貫へと姿を変えたのだ。

 

 

 南三局、和の親。

 和の世界による支配は、尚も続く。

 普段どおりの手が出来て行くのは和と穏乃のみ。鳴海と湧にとっては、何時もと違う打ち方になっていた。

 和が支配する世界では、飽くまでも普通の麻雀の手作りを強要される。当然、鳴海と湧にとっては違和感でしか無い。

 

 しかし、封じられるのは能力に頼ったアブノーマルな打ち方だけで、自ら鍛えた洞察力までもが消えるわけでは無い。

 この局、鳴海は八巡目で和から微かな聴牌気配を感じ取った。

 

 今まで和は聴牌即リーチだったが、今回はダマ聴のようだ。

 恐らく、既に和了り役がある状態で満貫級以上の手が出来ているのだろう。

 デジタル打ちなら、そのような手を聴牌しているのであれば、確実に和了るため、下手にリーチはかけない。

 

 湧も穏乃も和の聴牌に気付いているようだ。

 さすが、決勝進出するだけの力のある超強豪チームで、大将を任されているだけのことはある。

 

 現状、聴牌しているのは和だけのようだ。他の三人は、和への振り込みを回避しながら手を作り上げて行くしかない。

 しかし、やはり和が一歩早いようだ。

「ツモ。タンピンツモドラ2。4000オール。」

 今回も和は自らの手で和了り牌を引き当てた。

 今回もドラは2枚。表ドラと赤牌を1枚ずつ持つ手だった。

 出和了りでタンピンドラ2の11600の手。これなら、たしかに出和了りを狙ってもおかしくは無いだろう。

 

 南三局一本場。和の連荘。ドラは{1}。

 和の捨て牌は、

 {北西⑨9六}

 

 今回も和は、ヤオチュウ牌から切り出していた。特段、変な打ち方はしていないと思われる。一般的な捨て牌に見える。

 ただ、鳴海は何故か和の打ち方に違和感を覚えていた。理由は良く分からないが、いわゆる第六感と呼ばれるモノであろう。

 

 この時、鳴海の手牌は、

 {二二七八九④[⑤]⑥⑧3678}  ツモ{六}

 彼女らしからぬ普通の手で展開していたが、配牌とツモが非常に良く噛み合い、中々の手に仕上がっている感じだ。

 三色の目が見える。

 

 直感に従い、一瞬、鳴海は躊躇した。

 しかし、彼女は普通に手を作り上げようと{九}を切った。直前に和が切った{六}の筋だし、一般的には悪い捨て牌では無いだろうとの判断だ。

 しかし、これで、

「ロン。」

 和に振り込んだ。

 やはり勘に従った方が良かったのだろうか?

 

 開かれた和の手牌は、

 {三三九②②③③④④1122}  ロン{九}

 

 七対子ドラ2の手だ。

「9600の1本場は9900。」

 しかも、子の満貫よりも大きな手。大打撃である。

 

 

 この局、和の配牌は、

 {三三六九②②③④⑨129西北}

 

 ここから最初は平和手を狙って{北}を切り出した。

 ところが、{③④}と順にツモり、{西⑨}を切った後、{五七3}辺りが来れば平和手に育てたところ、次にツモった牌は{1}であった。

 

 この段階で和の手牌は

 {三三六九②②③③④④129}  ツモ{1}

 

 ここで{9}を切って一盃口ドラ2と七対子ドラ2の両天秤とした。

 次に{3}が来れば、敢えて{1}を切って平和一盃口ドラ1にするのも良いし、{1}が暗刻になれば{2}を切って一盃口ドラ3の満貫とするのも良い。

 また、次に来るのが{四五七八}辺りであれば{九}を切って行っただろう。

 

 しかし、この次に和が引いたのは{2}だった。

 それで、{六}切りで{九}待ちの七対子ドラ2としたのだ。

 

 最初から平和形に拘らず、七対子、或いは単騎待ちで和了り役を一盃口のみに絞っていたのであれば、{西}や{北}を残した可能性もある。

 昔から、

『単騎待ちなら{西}で待て』

 と言われるくらいである。

 {西}とか{北}なら、大抵の場合、中盤以降に掴まされてもツモ切りしてくるだろう。そこを狙うのだ。

 

 ただ、この配牌では、七対子や一盃口のみの単騎待ちをイメージする感じでもないだろう。それで手なりに打って、偶々最終形が七対子ドラ2になったに過ぎない。

 

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:和 133100

 2位:鳴海 108200

 3位:穏乃 99400

 4位:湧 59300

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:和 232700

 2位:穏乃 231600

 3位:鳴海 195700

 4位:湧 140000

 鳴海が3位に後退し、和が念願のトップに立った。

 しかし、穏乃とは1100点差。まさに、春季大会の団体戦決勝後半戦を髣髴させる戦況となった。



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百六十八本場:恭子直伝

 たった1100点差だが、和が首位に立ち、白糸台高校控室では光をはじめ、淡、みかん、麻里香の士気が上がっていた。

 いよいよ念願の打倒阿知賀女子学院を達成できるところまで来たのだ。

 これで大将戦を制すれば春夏二連覇。春季大会での優勝もタナボタではないと言い切れるようになる。

 

 この時、対局室では、和が電光掲示板を見ていた。

「(相手は穏乃です。まだ何をしでかすか分かりません。それに、穏乃の親が残っています。ここは、まだ稼ぎます!)」

 まだ勝利を確信できない状態にある。

 しかし、逆転できたことに、一瞬だが和はホッとした部分があった。

 それで僅かに気が緩んだからだろうか?

「ピシッ!」

 和の能力で造り出された巨大モニターにヒビが入ったかと思うと、業火に包まれて一瞬にして消え去った。

 

 その業火の発生源………穏乃は、非常に気の入った顔をしていた。逆転されて最後のスイッチが入ったと言ったところだろう。

 

 

 インターハイ団体決勝戦、大将後半戦は、南三局二本場に突入した。

 和の連荘。ドラは{2}。

 再び卓上に靄が発生した。そして、それは瞬く間に濃霧と化し、1メートル先ですら見えないような状態となった。

 深い山の奥だ。

 そんな中でも、和は自身に降りかかる能力分だけはキャンセルできる。当然、彼女だけは濃霧を感じない。普通に対局を進めることは可能だ。

 

 山は穏乃に完全に支配されている。

 配牌は悪いしツモも悪い。

 それでも和は確率論に従って最善の手を打つ。決め打ちをせずに、手の広がりを第一に考えて捨て牌を選択するのだ。

 

 とは言え、噛み合う牌が来なくては話にならない。

 和ほどの選手でも、今の穏乃が相手では、チュンチャン牌しかない状態のところにオタ風牌しかツモれない状態に等しい。

 ならば、鳴いて手を進めたいところだが、湧からも鳴海からも鳴ける牌が出てこない。最悪の状態だ。

 

 そう言った中で、穏乃だけが手を進め、

「ポン!」

 湧が捨てた{②}を鳴いて聴牌した。これは、恭子直伝の早和了りだ。

 そして、鳴いた次巡で、

「タンヤオのみ。300、500の一本場は500、700。」

 クイタン………完全なクズ手だが、穏乃は確実に和了りを決め、和の親を蹴ると同時に再び前後半戦トータルで逆転して首位に立った。

 

 

 オーラス、穏乃の親。

 現在の大将前後半戦トータルでは、

 1位:穏乃 233300

 2位:和 232000

 3位:鳴海 195200

 4位:湧 139500

 穏乃と和の点差は1300点。

 それこそ和は、『鳴海か湧からの1000点直取り以外』の和了りを決めれば、再び逆転できる状態にある。

 完全に和と穏乃のスピード勝負だ。

 

 さすがに鳴海も、春季大会の敬子のようなマネはしない。狙うは役満ツモ和了りの大逆転のみ。

 

 湧の逆転条件はトリプル役満ツモ、もしくはクァドラプル役満の直取りである。

 さすがに、これは実質不可能だ。なので、湧は和了らず振り込まずに徹底するしかないだろう。

 

 和の世界が崩れ、ここでも穏乃の能力が繰り広げる深山幽谷の世界。

 しかも、最後のインターハイの最後の半荘のオーラス。これまでにない穏乃の支配力が場を襲っていた。

 他家の能力に干渉されないはずの和でさえ、卓上にかかる濃霧が見えていた。

「(こんなオカルト………。しかし、見えている以上、認めなければなりません。これが大星さんの言っていた穏乃の能力ですね。)」

 

 相変わらず配牌もツモも悪い。女子高生雀士の中で牌効率最高とされる和ですら、全然手を進められないでいる。

 そんな状態を他家には課しながら、

「ポン!」

 穏乃は、和が捨てた{白}を鳴いた。これで和了り役をゲット。

 そして、その二巡後、

「ツモ。白のみ。500オール。」

 最後の和了りを穏乃が決めた。これも恭子に鍛えられた早和了りによる成果である。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:和 131900

 2位:鳴海 107200

 3位:穏乃 102600

 4位:湧 58300

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:穏乃 234800

 2位:和 231500

 3位:鳴海 194700

 4位:湧 139000

 

 穏乃は、電光掲示板に示された前後半戦トータルの点数を確認すると、

「これで和了りやめにします。」

 連荘拒否を宣言した。

 これで、阿知賀女子学院が二つ目の勝ち星を取り、二連続インターハイ団体戦優勝を決めた。

 

 白糸台高校、永水女子高校、綺亜羅高校は、それぞれ勝ち星一のため、2位から4位の順位は先鋒から大将までの総合得点で決められる。

 総合得点は以下のとおりとなった。

 1位:阿知賀女子学院 1118800

 2位:綺亜羅高校 999900

 3位:白糸台高校 970400

 4位:永水女子高校 910900

 

 よって、準優勝は総合力ナンバーワンと言われた綺亜羅高校となり、白糸台高校は3位、永水女子高校は4位に決まった。

 

 先鋒戦は白糸台高校の第二エース大星淡が、中堅戦は永水女子高校の第二エース石戸明星が、副将戦は綺亜羅高校の第二エース的井美和が、大将戦は阿知賀女子学院の第二エース高鴨穏乃がそれぞれ勝ち星をあげた。

 各校第二エース全員が、自分に課せられたノルマを果たしたと言える。

 そして、注目の一戦となった次鋒戦………エース対決は、日本の守護神、阿知賀女子学院の宮永咲が勝利した。まさに、エース対決の結果が優勝を決めたと言えよう。

 

 

 決勝戦参加選手全員が対局室に入場してきた。

 これより表彰式が開催される。

 永水女子高校各選手には4位の賞状が授与され、3位の白糸台高校各選手の首には銅メダルがかけられた。

 2位の綺亜羅高校各選手の首には銀メダルが、そして、優勝校である阿知賀女子学院各選手の首には金メダルがかけられた。

 

 優秀選手には、白糸台高校の宮永光、綺亜羅高校の稲輪敬子、永水女子高校の神代蒔乃の三人が選ばれた。

 最優秀選手には宮永咲が選ばれた。これは、文句なしの受賞であろう。

 

 続いて特別賞が順次授与されていった。

 先ず片岡賞。これは、天和を和了った選手に授与される賞として、今回より始まった賞である。

 その第一回目の受賞者は、本賞の名称の由来となった臨海女子高校の片岡優希に贈られることになった。

 

 続いて宮永賞。これは、最も出現確率が低いとされる四槓子を和了った選手に贈られる賞として今回より始まった。

 その第一回目の受賞者は、本賞の名称の由来となった咲に授与されることになった。

 

 次に複合役満賞。これは、その名のとおりダブル役満以上を和了った選手が対象となる。

 今回は、準決勝戦で天和緑一色を和了った優希、二回戦で大三元字一色四暗刻四槓子を和了った咲、そして準決勝戦で大三元字一色四暗刻を和了った永水女子高校の滝見春の三人に贈られた。

 

 次に審査員特別賞がいくつか用意された。

 一つ目は、『全ての和了りが役満 or ローカル役満』だったABブロック準決勝の次鋒戦選手四人、咲、優希、蒔乃、そして千里山女子高校のフレデリカに贈られた。

 

 二つ目は、決勝戦の先鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦で勝ち星を取った各チームの第二エース、淡、明星、美和、穏乃に贈られた。

 

 三つ目は、その美貌から場内場外問わず大きく沸かせた白糸台高校の佐々野みかんに送られた………のだが、これは審査員のクソジジイ達が『みかんジュース事件』を記念して贈ったらしい。名誉だか不名誉だか良く分からない。

 

 

 表彰式の最中、鳴海は一つだけ後悔していた。敬子の真の力のことだ。

 もし、敬子の人魚パワーを正しく理解していたら、決勝戦の勝敗は違っていたかもしれないのだ。

 

 鳴海自身は、人魚パワーを貰ったにも拘らず勝てなかった。やはり、相手は深山幽谷の化身と呼ばれるだけはある。

 

 しかし、美誇人と静香は別である。

 少なくとも、美誇人は淡を捉えることには成功していた。

 桃子のステルスにヤラれた感じではあるが、これが絶好調であれば桃子への振り込みは無かったかもしれない。

 そうなれば、先鋒戦は美誇人が取っていたかもしれない。

 中堅戦だって静香が絶好調であれば、最後の逆転手を和了って、勝ち星は綺亜羅高校が取っていたかもしれないのだ。

 

 敬子の真の力を知ったのが大将戦の後半戦に入ってからだったことが、非常に悔しくてならない。チームとしてベストを尽くせたとは言い難いからだ。

 綺亜羅高校としては、悔いの残る大会となった。

 しかし、この力は個人戦で使うことにしたい。それで、極力上位者を綺亜羅高校の選手で埋めるつもりだ。

 …

 …

 …

 

 

 一日置いて、翌々日より個人戦がスタートした。

 参加者は、各都道府県代表選手。総勢250人を越える。

 ただし、留学生の参加は認められない。これは、昨年、一昨年と同じである。

 

 各都道府県の参加人数だが、殆どの地区で3~4名枠である。

 ただ、実績と人口を加味して枠を増やしている地区もそれ相当にある。例えば、人口が少ない割りに実績が高い地区としては、奈良県の5名、鹿児島県の5名があり、人口が多いために枠を増やしている地区としては西東京の10名、東東京の10名、埼玉県の10名、北大阪の10名、南大阪の10名などがある。

 

 

 昨年同様に、初日はスイスドロー形式で25000点持ち30000点返し、オカありウマなしで半荘全十回戦が行われる。

 四回戦が終了した時点で人数を上位128人に絞り、六回戦が終わった段階で人数を上位64人に絞る。

 そして、十回戦終了時点での上位16名が決勝トーナメントに進出する。

 

 ルールは赤牌四枚入り、大明槓による責任払いあり、包あり、トビありと、基本的には団体戦と同じルールだが、個人戦の場合は持ち点が25000点のためダブル役満以上は無しとなっていた。

 ダブル役満を和了ろうがトリプル役満を和了ろうが、役満以上は全てシングル役満として扱う。

 この辺も昨年と全く同じである。

 

 また、今年も昨年同様に決勝卓のみ西入無しになっていた。つまり、全員が25000点のままオーラスを終えても対局終了となる。

 どうやら、運営側が昨年の決勝戦………あの奇蹟をもう一度見たいと思っていた部分もあるようだ。

 ただ、咲が同じネタを使うとは思えないが………。

 

 それから、強者同士が潰し合わないようにAIが上手に対戦表を作っていた。そのため、咲は予選で光、蒔乃、淡、敬子と言った魔物仲間とは当らなかった。

 同様に、同校同士の潰し合いも基本的に回避された。

 

 

 予選の結果、決勝トーナメント出場者は、以下の16名に決まった。

 1位:宮永咲(阿知賀女子学院)

 2位:宮永光(白糸台高校)

 3位:大星淡(白糸台高校)

 4位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 5位:的井美和(綺亜羅高校)

 6位:石見神楽(粕渕高校)

 7位:石戸明星(永水女子高校)

 8位:神代蒔乃(永水女子高校)

 9位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 10位:原村和(白糸台高校)

 11位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 14位:園田栄子(風越女子高校)

 15位:椋真尋(千里山女子高校)

 16位:夢乃マホ(千里山女子高校)

 

 

 ちなみに、咲は全試合で+141をあげ、脅威の計+1410と、以後、現行ルールでは誰にも破られることは無いであろう大記録を樹立した。

 

 綺亜羅高校のメンバーは、嫌がる敬子とムリヤリ、マジキスすることで人魚パワーを手に入れ、無事レギュラー5人全員がベスト16に入った。

 春季大会個人戦と順位が大差無いようにも思われるが、そうではない。

 本大会では、春季大会で個人戦を辞退した敬子、春季大会時点では日本にいなかったドイツチームのメンバー栄子が参戦している。

 また、1年生の蒔乃、真尋、マホと言った新たな化物達もいる。

 普通なら順位が下がってもおかしくないところでの順位維持である。確実に人魚パワーの効果が出ていると言えよう。

 

 

 決勝トーナメントの対戦表は、シードの振り分け方に従って作成された。つまり、上記順位を、そのままトーナメント表に割り当てることになる。

 その結果、対戦表は以下の通りになった。

 

 A卓:宮永咲、神代蒔乃、高鴨穏乃、夢乃マホ

 B卓:稲輪敬子、的井美和、鬼島美誇人、鷲尾静香

 C卓:大星淡、石見神楽、竜崎鳴海、園田栄子

 D卓:宮永光、石戸明星、原村和、椋真尋

 

 

 また、惜しくも本戦出場できなかった選手は以下の通りとなった。

 17位:東横桃子(永水女子高校)

 18位:南浦数絵(臨海女子高校)

 19位:茂木紅音(綺亜羅高校)

 20位:宇野沢美由紀(阿知賀女子学院)

 21位:新子憧(阿知賀女子学院)

 22位:真屋由暉子(有珠山高校)

 23位:片岡優希(臨海女子高校)

 24位:十曽湧(永水女子高校)

 25位:佐々野みかん(白糸台高校)

 26位:多治比麻里香(白糸台高校)

 27位:美入人美(姫松高校)

 28位:小走ゆい(阿知賀女子学院)

 29位:堂島喜美子(綺亜羅高校)

 30位:及川奈緒(綺亜羅高校)

 31位:美入麗佳(姫松高校)

 32位:友清朱里(新道寺女子高校)

 33位:対木もこ(覚王山高校)

 34位:二条泉(千里山女子高校)

 35位:寺崎弥生(射水総合高校)

 

 埼玉県の全国個人戦出場枠10名中8名は綺亜羅高校が占めており、大体戦レギュラー以外の3人(茂木紅音、堂島喜美子、及川奈緒)も30位以内に入っていた。恐るべき快挙であろう。

 

 決勝トーナメントは、翌日の朝より行われる。

 一回戦及び準決勝戦は、半荘1回のみの戦いになる。

 各対局、二名勝ち抜けとなり、準決勝戦は、AB卓各上位二名と、CD卓各上位二名で、それぞれ行われる。

 そして、決勝戦は、各準決勝卓の上位二名の計四名によって行われることになる。決勝戦だけは半連荘二回の勝負となる。

 なお、決勝戦開始前に、各準決勝卓の下位二名の計四名で5位決定戦が行われる。

 

 一方、AB卓各下位二名と、CD卓各下位二名の対局も行われ、それぞれの卓の上位二名の計四名で9位決定戦が、それぞれの卓の下位二名の計四名で13位決定戦が行われることになる。

 9位決定戦と13位決定戦は、5位決定戦と同時開催となる。

 …

 …

 …

 

 

 翌日朝、決勝トーナメントが開始された。

 A卓は咲、蒔乃、穏乃、マホの魔物&魔物候補生対決。

 場決めがされ、起家がマホ、南家が穏乃、西家が咲、北家が蒔乃に決まった。

 ただ、蒔乃の雰囲気から、どうやら最強神は降りてきていない感じだ。

 昨日の予選も蒔乃に降りていたのは二番目に強い神様であり、恐らく今回の相手は、雰囲気からして三番目に強い軍神のようだ。

 団体戦の準決勝戦と決勝戦で、最強神は満足されてしまったのだろうか?

 

 そんな状態だが………、咲&穏乃の3年生二人と、蒔乃&マホの1年生二人の対決がスタートする。



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百六十九本場:激突! 四人衆

 個人戦A卓の対局がスタートした。

 東一局、親はマホ。

 

 某掲示板では、

『アチガの大将に永水のエースにマホじゃ、咲ちゃんも放水させるのは難しいじょ!』

『一大事、一大事ですわ! 放水が無いなんて!』

『ないないっ! そんなのっ!』

 この面子では放水が期待できないと踏んでおり、全員、美和のいるB卓のほうに集中していたらしい。

 

 配牌を終えると、何故かマホは、山から一枚牌をツモった。これで、マホの手牌は15枚になった。

 多牌………。いきなりチョンボだ。

 

 二年前の清澄高校での合宿の時も、同じことをしようとしたが、あの時はマホがツモる前にムロが注意してくれてチョンボにならずに済んだ。

 しかし、ここでは、そんな甘い対応はしてくれない。

「マホ、やってしまいました。」

 出親で早速、マホは4000オールを支払うことになった。

 

 一日一回はチョンボをするのが彼女の能力の枷となっている。これは仕方が無いことなのだろう。

 まあ、これでも咲の方向音痴よりは数段マシだろう。

 

 本大会ルールでは、チョンボの場合、対局を仕切り直しとし、連荘扱いにはしない。再び東一局となる。

 マホの親。ドラは{7}。

 

 配牌を終えると、

「リーチです!」

 マホが{横中}切りでダブルリーチをかけてきた。これは、優希のコピーだ。

 

 穏乃は、一先ず手を進めるために不要な{北}を切った。

 ダブルリーチでは和了り牌を読みようが無い。なので、臆せずに自分の手を進めるしか選択肢はない。

 

 咲は、全ての牌を見通している。牌が見えているのだから当然であろう。ツモった牌を手に入れて{1}切り。

 

 蒔乃(軍神)は。相手の当り牌が分かるため振り込むことは無い。手を進めるために不要な{西}を切った。

 すると、

「ポン!」

 この{西}を咲が鳴いた。打{9}。

 

 再びツモは蒔乃。引いた牌は{⑥}。

 

 リーチ者のマホの手牌は、

 {一二三③③④[⑤]⑥⑦⑧[5]67}

 

 {③⑥⑨}で待っていた。

 しかもダブルリーチ平和ドラ3の親ハネの手。優希のコピーらしい簡単麻雀だ。

 さすがに、この手を相手に{⑥}は捨てられない。

 蒔乃は、{⑥}を手に取り込むと不要な{①}を捨てた。

 すると、

「ポン!」

 咲が、これも鳴いた。そこから打{四}。本当にダブルリーチを恐れずに好き勝手打っている感じだ。

 

 またもや蒔乃のツモ。

 ここで彼女は、またもや{⑥}を引いた。当然、これは手牌に取り込んだのだが………、ここから{⑦}を切った。

 

 マホは、ツモ和了りならず。当然、ツモ切り。そこからさらに四巡は、特に鳴きの入らない状態で場が進んで行った。

 

 そのさらに次巡。

 マホは{②}をツモ切りした。

 すると、これを、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {①}を加槓し、二枚目の嶺上牌をツモった。

 さらに咲は、

「もいっこ、カン!」

 {⑨}を暗槓すると、三枚目の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {③}  暗槓{裏⑨⑨裏}  明槓{②②横②②}  明槓{①①①横①}  ポン{西西横西}  ツモ{③}

 

「西混一対々三槓子嶺上開花。16000です。」

 これは、マホの責任払いになる。

 しかも倍満だ。

 ただ、マホは、先に多牌の罰符として12000点を失っていた。なので、これでマホが箱割れして終了となった。

 

 穏乃と蒔乃は共に29000点だったが、席順で穏乃が2位、蒔乃が3位となる。

 よって準決勝進出は、咲と穏乃に決まった。

 

「マホちゃん。最初にチョンボしたのが痛かったね。」

 こう言ったのは咲。

「そうですね。いきなり宮永先輩にヤラれちゃいました!」

 一方のマホは、スッキリした表情をしていた。相手は日本最強の女子高生。そう簡単に勝てる相手ではない。

 負けても悔いは無いのだろう。

 

 一方の蒔乃(軍神)も、特に悔しがっている様子は無かった。

「人の王者よ。さすがだな。ただ、今回、最強神から依頼されているのは準決勝進出ではなかったのでな。」

「…。」

「狙いは9位か10位。今回は、今まで楽しませてくれた礼として日本チームを支える所存だ。また、後ほど会おう。」

 そして、それだけ言うと、蒔乃(軍神)は対局室を出て行った。

 

 

 さて、B卓は、稲輪敬子、的井美和、鬼島美誇人、鷲尾静香の綺亜羅高校対決。予選では同士討ちを回避できても決勝トーナメントでは仕方が無い。

 場決めがされ、起家は静香、南家は敬子、西家は美和、北家は美誇人に決まった。これはこれで興味深い一戦である。

 

 一方、某掲示板の住民は、

『美女ランクナンバーツーのみかんジュースに期待だじぇい!』

『それは、丼飯十杯はイケるっス!』

『みかんジュースを出してなんぼ、出してなんぼですわ!』←マズくないか、これ?

『でも、人魚のみかんジュースってのは今一つ矛盾に感じると思』

『そんなことより霞さんのみかんジュースが気になるのです!』

 大多数が敬子のHな意味での失態に期待を寄せていた。

 

 

 東一局、静香の親。

 今回も例によって、敬子の捨て牌は、

 {東南西北}

 

 そして、五巡目に、

「リーチ!」

 敬子は(横白)を切ってリーチをかけた。本当の読みようが無い捨て牌だ。

 美和も美誇人も静香も、安牌と言えるものが無い。ここは、何も考えずに自分の手を進めるしかないだろう。

 部内戦でも敬子が相手なら、よくある光景だ。

 

 幸か不幸か、三人とも敬子に一発で振り込むことはなかったが、

「ツモ。」

 本当に周りの苦労を水の泡にしてくれる。敬子は一発で和了り牌を自ら引いてきた。これも部内戦では結構ありがちなパターンのようだ。

「メンタンピン一発ツモドラ2。3000、6000。」

 しかもハネ満だ。

 本当に高い手を簡単に和了ってくれる。

 

 

 東二局、敬子の親。ドラは{1}。

 ここで早々に動いたのは、

「ポン!」

 静香だった。下家の敬子が捨てた自風の{北}を鳴いたのだ。

 

 三人とも敬子から人魚パワーをもらっている。その力は、一度もらうと永久に失われることが無いようだ。

 当然、三人とも絶好調のはず。

 もっとも、全員が絶好調ならドラは奪い合いになるだろうし、言うまでもなく全員の手の進みが早くなる。

 

 六巡目で美和が門前聴牌。

 美誇人は、まだ全員の様子を見ている。今日の場の流れを掴みに行っている感じだ。

 敬子も既に聴牌気配。

 しかし、

「ツモ。」

 この場を制したのは静香だった。

 

 開かれた手牌は、

 {1134567999}  ポン{北北横北}  ツモ{[5]}

 

 赤ドラを引いての和了りだった。

「北混一ドラ3。3000、6000!」

 これで静香は、前局で失った以上の点数を取り戻した。

 

 

 東三局、美和の親。ドラは{8}。

 美和としては、この親で何とか稼ぎたいところだ。前局、前々局で敬子と静香にハネ満をツモ和了りされているのだから尚更である。

 ツモは良い。配牌に巧く噛み合う。

 それで、役無しだが、たった三巡目で聴牌した。

 とは言え、平和に手変わり可能な状態。ここはリーチをかけず、一旦、ダマで回す。

 

 しかし、

「リーチ。」

 同巡で敬子がリーチをかけてきた。毎度ながら嫌なことをしてくれる。

 一発で美和が引いた牌は{五}。敬子の捨て牌は相変わらず字牌だけなので読めないが、直感がこれを危険牌と言っている。

 いくら絶好調でも、その根源となる力を与えてくれた敬子の前では無効化されるのだろうか?

 さすがに、これを一発で切る勇気は無い。

 美和は、一旦、聴牌を崩して回し打ちした。

 

 美誇人も静香もヤオチュウ牌切りで様子見。

 そして、敬子は、

「ツモ!」

 見事、{[五]}を引いて和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一三四五六七⑥⑥789}  ツモ{[五]}  ドラ{8}  裏ドラ{7}

 

「リーチ一発ツモドラ3。3000、6000。」

 単なるツモドラ1の手が、リーチ一発に赤牌、裏ドラが付いてハネ満になった。これだからリーチは怖い。

 これで敬子がダントツトップになった。

 

 

 東四局、美誇人の親。ドラは{⑦}。

 現在、美和は13000点の最下位。後半に入る前に和了って点数を立て直したい。

 基本的に調子は良い。今回も三巡で聴牌した。

「(ドラもあるし、勝負!)」

 そして、

「リーチ!」

 美和は聴牌即でリーチをかけた。

 早いリーチなので安牌が殆ど………、いや、美和の捨て牌は、順に{北中1}なので実質安牌と言えるものが無いに等しい。

 ただ、美誇人も静香も運は強い。二人とも面子に使っていたが{1}を持っていた。なので面子を崩すことにはなるが、一先ず{1}を切って一発回避。

 敬子は、字牌を{東}から順に切っていたのが功を奏した。ここで現物の{北}を切って一発を回避した。

 

 一発ツモは無かった。豪運の静香の『運』が絶好調なのだ。静香の運に美和のツキが、若干抑えられている感じだ。

 しかし、その二巡後、

「ツモ。」

 美和は自力で和了り牌を掴んできた。

 

 開かれた手牌は、

 {三四[五]④[⑤]⑥⑦⑦78999}  ツモ{6}  ドラ{⑦}  裏ドラ{三}

 

「リーツモドラ5。」

 もし、一発ツモなら倍満だったが、これをハネ満が引き下げられたのは静香の豪運によるものだろう。

 とは言え、この和了りで美和は原点復帰を果たした………のだが、点棒受け渡しの前に美和プロデュースのショーが始まる。

 美和が和了ったのだ。当然、他家は幻の世界に意識が飛ばされる。

 

 ただ、残念なことに、

「(本当は、全国女子高生雀士美女ランキング2位の敬子で遊びたいんだけどね。)」

 能力が効かない敬子だけは除外される。

 それだけが美和にとっても悔しいところだ。

 

 美和の背後から伸びてくる巨大な食虫植物の触手が、静香と美誇人の目に映った。それらは、あっと言う間に静香と美誇人を捕えると、制服を溶かし始めた。

 部内戦で、毎日のように経験しているので、二人とも幻の世界の中で全裸にされても今更恥ずかしいなどとは思わない。

 しかし、性的感覚はゼロには出来ない。

 毎度の如く、触手が胸や股間を激しく刺激する。

 さすがの二人も、

「「あぁ…。」」

 気持ちが良過ぎて、現実世界の身体から思わず声が漏れてしまう。

 …

 …

 …

 

 

 幻の世界の中で、体感時間として約1時間が過ぎた。

「3000、6000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、二人は、この世界から解放された。

 それにしても、当事者達にとっては本当に嫌な能力である。椅子が濡れていて気持ちが悪いし、男性スタッフは、何気に前屈みになっている。

 

 一方、某掲示板では、

『美女ランクナンバーツーは平然としてるっス!』

『そんなオカルトありえません』←誰が書いてるんだ?

『ないないっ! そんなのっ!』

『ありえないじぇい』

『一大事、一大事ですわ!』

『やっぱり人魚はみかんジュースが無いんだと思』

『これはスバラくないですねぇ』

 この期待はずれの結果………敬子が美和の能力にヤラれないのを知らされて、住民達が非常に残念がっていたのは言うまでもない。

 

 

 南入した。

 親は静香。ドラは{3}。

 この局では、珍しく敬子の捨て牌に、

 {中18}

 と、早い巡目でチュンチャン牌が見えていた。

 ただ、逆に言えば、敬子の手牌の中に今回は風牌が無い、もしくは風牌が使われていることを示しているだろう。

 

 しかも、{8}切りと同時に、微かだが敬子から聴牌気配が漂ってきた。

 気配を出さないように部内で特訓されているが、やはり静香や美誇人ほど勝負師ではない。どうしても気配を隠し切れないでいるようだ。

 

 この時、敬子は、

 {一二三三四五④[⑤]234西西}

 

 {③⑥}待ちで平和ドラ2を聴牌していた。

 リーチをかけなかった理由は二つ。

 一つ目は、{5}を引いたら高め三色同順の手に移行できる。なので、今、リーチをかけて手を固定する必要は無い。

 そして、二つ目は万が一の場合に備えてのことである。

 ダントツトップなので、ムリに攻める必要は無い。むしろ、他家が攻めてきた時に振り込み回避で降りられるよう、ダマで待つべきとの判断である。

 敬子としては、今回は後者の考えの方が強かった。

 しかも、アタマが{西}である。最悪の場合は、アタマを落として凌ぐことが十分可能だ。

 

 ただ、その二巡後、

「ツモ。」

 敬子は{③}をツモってきた。

 トップなので、ここはムリに{2}切りのフリテンで{5}ツモに期待するよりも、和了っておいた方が良いだろう。それに、

「1300、2600。」

 ツモドラ2の5200の手だ。和了っておいて損は無い。

 それ故の和了り宣言だ。

 

 現状での点数と順位は、

 1位:敬子 45200

 2位:美和 23700

 3位:静香 22400

 4位:美誇人 8700

 美誇人が10000点を割った。そろそろ和了れないと本気でマズイ。

 

 とは言え、美誇人は今日の場の流れを掴み切れた様子だ。ここからが美誇人の真骨頂と言えよう。

 いよいよ名台詞、

『御無礼』

 が出る雰囲気だ。



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百七十本場:神楽へのリベンジ

 個人戦B卓は、綺亜羅高校エース稲輪敬子、同校第二エース的井美和、同校三銃士の一人鷲尾静香、そして、同じく三銃士の一人鬼島美誇人の対決。

 

 南二局、敬子の親。

 ここに来て、とうとう美誇人が、

「リーチ!」

 四巡目で先制リーチをかけてきた。

 

 しかし、人魚パワーのお陰で全員が絶好調の卓だ。振り込みは期待できない。絶好調な奴らが和了り牌を捨ててくるはずが無い。

 故に美誇人はツモ和了りを目指す。

 

 静香の豪運もパワーアップされている。その影響だろう。美誇人は絶好調でありながらも、東四局の美和と同様に一発でツモ和了りをさせてもらえなかった。

 

 とは言え、その二巡後に、

「御無礼。」

 美誇人は和了り牌を自らの手で掴み取ることができた。

「ツモです。メンピンツモドラ2。2000、4000。」

 表ドラと裏ドラが1枚ずつの手だった。

 この美誇人の手も美和の時と同じで、一発でツモ和了りできていれば一つ上の点数に跳ね上がっていた。

 勿論、一発でツモ和了りできることを前提に話をすること自体、おかしなことではあるが、今の美誇人は人魚パワーで全身がエネルギーで満ち溢れている。

 普段なら、美誇人としても一発でツモれる感覚なのだ。しかし、それが出来ないのは静香の豪運に足を引っ張られているからだろう。

 

 

 南三局、美和の親。

 ここでも、

「リーチ!」

 早い巡目で美誇人が攻めてきた。

 完全に流れは掴んだ。

 こうなると、美誇人は恐ろしい。

 

 基本的に三銃士と呼ばれる美誇人、静香、鳴海の三人は同程度の実力である。

 しかし、ここぞと言ったところでは美誇人が勝利を掴み取る。その証拠に、春季大会の個人戦順位では9位が美誇人、10位が静香、11位が鳴海だった。

 

 今回も一発では和了れなかったが、

「御無礼。」

 リーチ後、三巡目で、美誇人が、

「ツモです。2000、4000。」

 満貫ツモ和了りを決めた。

 

 これで、現在の点数と順位は、

 1位:敬子 39200

 2位:美誇人 24700

 3位:静香 18400

 4位:美和 17700

 

 瞬く間に、美誇人が2位まで順位を上げた。対する美和は親カブリが大きく、静香にも抜かれて最下位となった。

 

 しかし、美和も静香も満貫出和了りで美誇人を逆転できる範囲にある。

 敬子は親倍か子の三倍満を振り込まない限り勝ち抜け出来る位置にいる。恐らく、準決勝に進出するのは敬子と、もう一人であろう。

 

 その、『もう一人』の座を賭けたオーラスがスタートした。2位抜けの座を巡って美和、静香、美誇人が互いに火花を散らす。

 

 親は美誇人。ドラは{②}。

 人魚パワーで、全員が絶好調状態。

 絶対に和了らなければならない対局だが、美和も静香も美誇人もプレッシャーを跳ね除けて最短距離で聴牌に向けて手を進める。

 

 五巡目。

 最初に聴牌したのは美誇人。平和のみだが、{②⑤⑧}待ちの三面聴。間違いなくツキはありそうだ。

 これを和了れば2位抜けになる。しかも、場の流れから、次のツモで和了れるような気がする。

 ところが、

「ポン!」

 敬子が捨てた{白}を静香が鳴いた。

 これで静香も聴牌。それもドラを3枚抱えた満貫手だ。逆転2位の条件を満たす手を作り上げた。

 

 次ツモは再び敬子。これはツモ切り。

 そして、美和のツモ。

 ここで美和は、本来であれば美誇人に行くはずだった{⑥}を引いた。

 

 美和の手牌は、

 {三三四四五[五]⑤⑦⑨2245}  ツモ{⑥}

 打{⑨}で平和タンヤオ一盃口ドラ2の出和了り満貫の手を聴牌した。

 

 次巡、美誇人のツモは{西}。ツモ切り。

 静香も{中}をツモ切り。

 敬子は、ここで{2}を引いて聴牌。

 そして、次ツモで美和は、{3}を掴んだ。

「ツモ。タンピン一盃口ドラ2!」

 しかもハネ満ツモだ。

 

 再び、静香と美誇人の意識が幻の世界へと飛ばされた。前回からの続きである。

 この世界では、既に二人とも制服を完全に溶かされて全裸にされている。

 粘液だらけの触手で性感帯を隈なく刺激される。当然、現実世界の身体からは、

「「あぅっ!」」

 二人とも声が漏れる。

 

 いよいよ極太の触手が伸びてきた。それは、一直線に二人の股間を目指して突き進んで行く。

 …

 …

 …

 

「3000、6000!」

 体感時間で約1時間後、二人の耳に美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで現実世界に意識は戻された。

 

 某掲示板では、

『やっぱり人魚には美和様の力が効いてないんじゃなかと?』

『ないないっ! そんなのっ!』

『エニグマティックだじぇい』

『正座して待ってたっスが、残念っス』

『能力が効かないなんて反則ですわ!』

『こっちは私の仲間じゃないから関係ないけど、残念だよモー』

『先輩は人魚のみかんジュースに期待してたんデー』

『人魚なら人魚らしく、服を脱いでオモチを晒して欲しいのです!』

『それって、みかんジュースと関係ないと思』

 それなりに住民が騒いでいた。

 やはり、美和の和了りに対して、敬子が『ビビクン』どころか『ビク』ともしなかったのは残念だったようだ。

 

 

 以上の結果、B卓の点数と順位は、

 1位:敬子 36200

 2位:美和 29700

 3位:美誇人 18700

 4位:静香 15400

 綺亜羅高校のダブルエースが準決勝進出を決めた。

 

 

 C卓は、白糸台高校の大星淡、粕渕高校の石見神楽、綺亜羅高校の竜崎鳴海、風腰女子高校の園田栄子が激突した。

 淡と神楽は昨年の世界大会日本チームのメンバー、栄子は同大会でのドイツチームのメンバーである。

 最後の一人も注目の綺亜羅三銃士の一人、鳴きのリュウこと鳴海。

 

 しかも、栄子と神楽は世界大会決勝大将戦で対局し、最後の最後で穏乃を降ろした神楽が勝利した。

 まさに因縁の対決。

 普通であれば期待の一戦で高視聴率が期待されるであろう。

 

 しかし、視聴者の人気は美和のいるB卓に集中しており、このカードですら視聴率は殆ど取れなかったと言うから驚きだ。

 それだけ美和の触手プレイの人気は高いと言うことだ。

 

 場決めがされ、淡が起家、神楽が南家、鳴海は西家、栄子が北家に決まった。

 この時、神楽には節子の霊が降りていた。

 栄子は、

「(大星さんは、私から18000点削れる力がある。他の二人は16000点か。結構、ハイレベルね。)」

 他家から感じるエネルギーから、相手が自分から奪える点数の上限を計っていた。

 

 少なくとも、本大会では穏乃の生霊が降りてくることだけは無い。

 当然、今回は神楽に勝つ!

 栄子は、対局開始前から、そう意気込んでいた。

 

 

 東一局、淡の親。

 当然、絶対安全圏が発動し、淡のみ二向聴で、他三人は全員六向聴となった。

 淡は序盤から、

「ポン!」

 栄子が捨てた{發}を鳴き、さらに、

「チー!」

 栄子が捨てた{8}を鳴いた。

 ドイツチームでディフェンス力ナンバーワンとされた栄子にしては、妙にガードの甘い捨て牌だった。

 ただ、栄子は、

「(これでイイ。今は、行けるところまで大星さんをサポートする。)」

 わざと淡を援護していた。

 一方の淡は、

「(何を考えてるか知らないけど、ここは有り難く和了りに向かわせてもらうからね!)」

 遠慮なく和了ることを決めていた。

 そして、絶対安全圏内に、

「ツモ。發ドラ2。2000オール!」

 淡は30符3翻の手をツモ和了りした。

 

 東一局一本場。

 ここでも栄子が淡を援護する。

 そして、

「ツモ! 2100オール!」

 ここでも淡は30符3翻の手をツモ和了りした。

 

 東一局二本場も、

「ツモ! 2200オール!」

 

 東一局三本場も、

「ツモ! 2300オール!」

 淡は遠慮なく和了った。

 

 東一局四本場、五本場、六本場も、

「ツモ! 2400オール!」

「ツモ! 2500オール!」

「ツモ! 2600オール!」

 淡は栄子の援護を有り難く利用させてもらい、連続で和了り続けた。

 絶対安全圏内では、神楽(節子)も鳴海も手の出しようが無い。ただ、イタズラに点数を削られて行くだけであった。

 

 東一局六本場の直後だった。

「「ドドン!」」

 節子と鳴海は栄子から放たれた衝撃波を感じ取った。

 

 現在の点数と順位は、

 1位:淡 73300

 2位:神楽(節子) 8900

 3位:鳴海 8900

 4位:栄子 8900

 節子と鳴海が栄子から削れる点数の上限は16000点。つまり、既に二人の上限値を越えてしまっていたのだ。

 もう、節子も鳴海も栄子から点数を削ることは出来ない。上限値18000点の淡ですら、栄子から直取りすることは許されなくなった。

 

 東一局七本場。

 ここでも栄子は淡を援護する。

 いったい、何を考えているのか、節子にも鳴海にも理解できなかった。

 

 淡は、ここでも30符3翻の手を聴牌できた。

 しかし、これをツモ和了りしたら淡が栄子を削る上限値を超えてしまう。そのため、淡は和了り牌を自力で掴み取ることが出来なかった。

 対するは節子に鳴海、そして最強ディフェンスの栄子。三人とも振り込むことは無い。

 この局は、淡の一人聴牌で流局した。

 

 東一局八本場。

「ドドン!」

 今度は、淡に衝撃波が飛んだ。

 現在、栄子の点数は7900点。つまり、淡が500オールを和了っても、ここに芝棒分の700点が加算され、淡が栄子を削る上限値を超えることになる。

 これで淡のツモ和了りまで阻止されてしまった。

 それどころか、これ以降、流局した際に栄子がノーテンであれば他の誰かが聴牌していることはない。栄子がノーテン罰符を支払った時点で淡の上限値を越える。

 栄子が狙っていたのは、まさに、この状態を作ることであった。

 

 この局、栄子は聴牌に向かわなかった。当然、これによって他家は全員、聴牌できなくなる。

 そして、全員ノーテンで流局した。

 

 東二局は、いきなり流れ九本場となった。

 ここも全員ノーテンで流局。

 

 東三局十本場も、東四局十一本場も、同様に全員ノーテンで流局させられた。これが栄子の強制力である。

 

 南入した。

 南一局十二本場、淡の親。

 この局も全員ノーテンで流局した。

 見ている者からすれば、実につまらない対局だろう。

 

 しかし、南二局十三本場。神楽の親。

 いよいよ、ここで場が動く。

 

 栄子の配牌は、

 {三四六⑨128東南西北白中}

 八種八牌。

 第一ツモは{9}。

 これで九種九牌だが流さずに打{四}。国士無双狙いだ。

 

 今、置かれた状況において、栄子の能力は、栄子にノーテン罰符を払わせない方向に動こうとする。

 つまり、栄子が聴牌を拒否しない限り、ムリにでも栄子の手を聴牌させる方向に作用することになる。それを知っての国士無双狙いである。

 そして、たった五巡で国士無双を聴牌し、次巡、

「ツモ! 8000、16000の十三本場は、9300、17300!」

 その勢いのまま栄子が和了りを決めた。

 

 これでC卓の点数と順位は、

 1位:淡 67000

 2位:栄子 43800

 3位:鳴海 -1400

 4位:神楽(節子)-9400

 神楽と鳴海のトビで対局は終了した。まさに栄子の神楽へのリベンジ戦であった。

 

 

 D卓は、白糸台高校の宮永光、永水女子高校の石戸明星、白糸台高校の原村和、千里山女子高校の椋真尋の対決。

 明星と和のダブル巨乳美女の戦いであったが、それでもB卓の人気には敵わなかったと言う。

 

 場決めがされ、起家が真尋、南家が和、西家が明星、北家が光に決まった。

 この時、真尋は、

「(ステルスの人もいないし、ここは絶対に勝つ!)」

 団体戦の名誉挽回とばかりに意気込んでいた。

 

 東一局、真尋の親。

 当然、真尋はクズ手の連荘を狙う。

「ポン!」

 彼女は、早々に和が捨てた{白}を鳴くと、

「ツモ。」

 そのまま早い巡目で和了りを決めた。

「500オール。」

 和了り点は小さいが、塵も積もれば山となる。これが真尋の麻雀スタイルだ。当然、ここから怒涛の連荘を目指す。

 しかし、百戦錬磨の光も黙ってはいない。

「(団体戦の牌譜も見たけど、この千里山の子は、親の時は完全に山が見えてるみたいな打ち方をする。でも、点数は小さい。それに、基本的に親でしか和了れないみたいだよね。なら、芝棒が増える前に多少ムリしてでも流す!)」

 既に光は、真尋の打ち方の本質を捉えていた。

 光は、一旦目を閉じて精神を集中した。そして、目を開くと同時に、鋭い視線を真尋に向けた。

 この時、光は、

『覚悟しろ!』

 と言わんばかりの表情をしていた。



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百七十一本場:因縁の対決

 個人戦D卓、東一局一本場。真尋の連荘。

 当然、ここでも真尋はクズ手とは言え和了りに向かう………はずだった。

 しかし、何故か急に自分の支配力が押し返されている感じを受けた。

 親番なら、真尋は絶対的な場の支配力を誇示できる自信があったのだが、どうも様子がおかしい。

 

 その圧力をかけてくるのは光。

 北欧の小さな巨人と呼ばれる世界的な超魔物の一人だ。

 ただ、光は照と同様に第一弾の和了りを決めるのが大変なはずなのだが、思っていた以上のエネルギーを感じる。

 これが最後のインターハイに賭ける3年生のパワーなのか?

 

 どうやら真尋は、光の気迫の押されていたようだ。

 光がツモる毎に強大な何かを感じる。真尋は、その勢いに飲み込まれそうな感じさえも受ける。

 そして、真尋の手が縮こまっている間に、

「ツモ!」

 とうとう光が和了りを宣言して手牌を開いた。

「ピンツモドラ3。2100、4100!」

 出和了り役は平和のみだが、表ドラ1枚と赤牌2枚を含む満貫手。

 

 これで、真尋の親は流された。

 団体戦準決勝の先鋒後半戦と大同小異だ。親で全然稼がせてもらえていない。

 真尋にとっても、こんなことは珍しい。

 

 

 東二局、和の親。

 第一弾の和了りを決めた光を抑えるのは難しい。

 ここでも、

「ツモ。タンピンツモドラ2。2000、4000。」

 縛りとなる和了り役2翻での和了りだった。

 

 

 東三局、明星の親。ドラは{三}。

 この局では、

「ポン!」

 光が、和から早々に{中}を鳴いた。

 そして、筒子と索子を処理して行き、

「ツモ。中混一ドラ3。」

 萬子の染め手で光は和了りを決めた。ここでは、和了り役3翻の縛りだ。

 まるで勢いに乗った感じだ。

 第一弾の和了りを決めさせてはならないと言われるだけのことはある。真尋にも今の光を止められる自信が無い。

 

 そして、東四局、光の親。

 ここでも、

「タンピンツモ三色ドラ2。6000オール!」

 出和了り役4翻の縛りで光が和了った。

 しかも、ドラを2枚含む親ハネだ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 70800

 2位:真尋 11400

 3位:和 9400

 4位:明星 8400

 光の断然トップである。もはや、光の勝ち抜けは決まったと誰もが確信した。

 

 東四局一本場。

 ここに来て、和の背後に巨大モニターの幻が見えた。団体戦決勝戦の大将後半戦と同じ現象である。

 

 今回も、その巨大モニターにはオンライン麻雀ゲームの映像が映し出され、それと同時に和の姿は『のどっち』に変わっていた。

 和の世界が再び暴走したのだ。これによって、この卓は、デジタル打ちの完成度が全ての世界へと変わる。

 

 和は、

「ポン!」

 早々に明星から{④}を鳴いた。狙いはクイタンだろうか?

 ところが次巡、和は、

「ポン!」

 今度は真尋が捨てた{中}を鳴いた。一鳴きである。

 そして、その数巡後に、

「ツモ。中ドラ2。1100、2100。」

 和は、憧の得意技とも言える30符3翻の手で和了りを決め、光の親を流した。

 

 

 南入した。

 南一局、真尋の親。

 今度こそ、真尋は連荘してやると思ったのだが、やはり、どうも様子がおかしい。

 ただ、東場の親番で感じたものとは少し違う。パワーで押されていると言うよりも、場自体が独特の空気に覆われているのだ。

 その空気に触れると、流れを読むとか、山にある牌が分かるとか、そういったオカルティックな要因が、まるで中和されるかのように全て失われてしまう。

 こうなると、真尋は手の打ちようがなくなる。全ての牌の位置を見切ったような場の支配が出来なくなるからだ。

 

 手が進んでいるのは、どうやら確率論で全てを判断する和だけのようだ。

 そして、たった六巡で、

「ツモ。1300、2600。」

 タンピンドラ1ツモの凡庸な手で和が和了りを決めた。

 

 ここまで真尋は一回和了ったきり。

 明星に至ってはヤキトリである。

 和の支配を打ち破らない限り、どうにもならない。

 

 恐らく光なら、和が作り出すデジタル空間を打ち破ることが出来るだろう。それだけのパワーを感じる。

 しかし、光は傍観していた。

 ダントツ状態なのだから、ムリをする必要が無い。

 むしろ、準決勝戦で和と打つことを前提に、和の世界を観察している状態だ。

 

 そんな中で南二局がスタートした。

 親は和。

 この時、明星は、ヤオチュウ牌支配が弱まっているのを感じていた。いや、確信していたと言うべきだろう。

 どうやら和の支配が明星の能力を侵食しているようだ。

 

 それなら、ヤオチュウ牌支配を止めて普通に打つか?

 明星の中で迷いが生じた。

 そして、ヤオチュウ牌支配から普通の打ち方に移行しようとして切った{西}で、

「ロン。七対赤1。4800。」

 和の{西}単騎………七対子に振り込んだ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 67400

 2位:和 23700

 3位:真尋 7700

 4位:明星 1200

 本気で、明星の点数がヤバイ状態となった。

 

 そして迎えた南二局一本場。

 真尋と明星は、序盤でヤオチュウ牌処理をしていたが、どうやらツキが和に定着したのか、和の手にはヤオチュウ牌が殆ど無かったようだ。たった二巡で不要なヤオチュウ牌の処理が終わっていた。

 しかも、牌効率が良過ぎる。全然ムダがなく手が進んで行く。ここに来て、和は、恐ろしいほどにツモが巧く手牌と噛み合っているのだ。

 このスピードは、もはや圧倒的と言えるだろう。

 そして、五巡目で、

「ツモ。平和ドラ1。1300オールです。」

 和がツモ和了りを宣言した。

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 66100

 2位:和 27600

 3位:真尋 6400

 4位:明星 -100

 ギリギリで明星が箱割れし、終了となった。

 これで準決勝戦には光と和が進出することが決定した。

 

 

 一回戦の全ての対局が終了してから約十五分後、次の試合が開始された。

 最も注目されるのは、A卓上位二名とB卓上位二名による準決勝第一試合………咲、穏乃、敬子、美和の対決だ。

 団体戦優勝校である阿知賀女子学院が誇るエース&第二エースと、準優勝校である綺亜羅高校のエース&第二エースの対決。

 しかも、穏乃vs敬子は、春季大会団体戦決勝戦以来の因縁の対決でもある。

 スバラな試合を期待するなと言う方がムリであろう。

 

 次に注目されるのは、C卓上位二名とD卓上位二名による準決勝第二試合………淡、光、和、栄子の対局。

 団体戦3位の白糸台高校の上位3名と風越女子高校エースの対決である。

 しかも、昨年の日本チームメンバー二人とドイツチームメンバーの対決でもあるし、栄子と和は元清澄高校の生徒。

 これはこれで好カードであろう。

 

 一回戦下位選手の対決も、以外に面白い。

 三卓目は、A卓下位二名とB卓下位二名………蒔乃、マホ、美誇人、静香の一戦。

 永水女子高校のエースが、綺亜羅三銃士のうちの二人と、千里山女子高校が誇る魔物候補生を相手にどのような試合を展開するかが楽しみである。

 

 そして四卓目は、C卓下位二名とD卓下位二名………神楽、明星、鳴海、真尋の対決。

 昨年の世界大会メンバーの一人である神楽が、永水女子高校の第二エース明星と千里山女子高校の新エース真尋、それから三銃士きってのドラ爆娘鳴海を相手に、どう戦うかが見モノである。

 

 

 準決勝第一試合は、起家が美和、南家が敬子、西家が咲、北家が穏乃でスタートした。半荘一回勝負である。

 一応、某掲示板の住民達は、

『咲様と美和様の対決たい!』

『パインジュースとみかんジュースの戦いっスね!』

『でも、咲ちゃんのみかんジュースは京太郎のモノだじょ』

『↑そんなオカルトありえません』←誰だこいつ?

『ジュースが出てナンボ、ジュースが出てナンボですわ!』

『せやけど、ジュースが放出される未来は見えへんで』

『↑ないないっ! そんなのっ!』

『みかんジュース製造機vsパインジュース製造機だけど、人魚と深山幽谷の化身は何も感じないと思』

『パインジュース製造機もみかんジュース製造機の幻を跳ね除けそうだし!』

『ところで、みかんジュースとかパインジュースって何だ?』←衣

『お子チャマは寝てろ!』←純

『衣は子供じゃなーい!』

『ダル…』

 それなりに下品な展開を期待していた。

 

 

 配牌の最中、敬子は例によって綺亜羅高校応援歌を口ずさんでいた。一応、人魚の歌声である。

 そう言えば、個人戦一回戦では歌っていなかった。

 美誇人と静香から、

「その歌、うるさいからやめて!」

 と部内戦の時に言われていたからのようだ。

 しかし、この場には美誇人と静香はいない。今回は、局と局の合間に、必ず敬子は人魚の歌声を披露することになる。

 

 東一局、美和の親。ドラは{③}。

 当然、美和としてはツモ和了りを狙う。敬子に幻を見せるのはムリでも、咲と穏乃には効果があるかも知れない。

 しかし、

「ポン!」

 早々に仕掛けてきたのは穏乃だった。どうやら、精神集中している穏乃の耳には人魚の歌声が届いていなかったようだ。

 

 穏乃は、敬子が二巡目に捨てた{北}を鳴き、さらに、

「チー!」

 続いて咲が捨てた{①}を鳴いて{横①②③}と副露した。

 自分のスイッチが入るまでは、他家には和了らせない。安和了りで良いので、自らが和了ってさっさと後半まで場を進めることが狙いだ。

 そして、中盤に入る前に、

「ツモ。中ドラ2。1000、2000。」

 憧を思わせるような加速を見せながら、30符3翻の手をツモ和了りした。

 

 

 東二局、敬子の親。

 ここでも、

「ポン!」

 早い巡目で穏乃が仕掛け、

「ツモ。1000、2000!」

 タンヤオドラ2の手で、さっさと穏乃が和了った。

 前局もこの局も、ドラがあったのはラッキーであった。場を流すのが目的なので、それこそゴミ手でも良いくらいなのだ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{②}。

 ここに来て咲の表情が変わった。

 しかも、この雰囲気は、プラスマイナスゼロ!

 敬子は団体戦で、穏乃は部内戦でプラスマイナスゼロを経験している。この空気が示す意味を、二人は理解していた。

 ここからは、能力支配と言うよりも強制力が働く。他人の能力が効かない敬子でも、咲の強制力は別である。それは団体戦で立証済だ。

 

 美和も敬子も穏乃も思うように手が進まない。

 手が進んでいるのは、見た感じ咲だけのようだ。

 

 中盤に入った。

「カン!」

 咲が{③}を暗槓した。

 そして、嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 そのまま当然の如く咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四⑤222789}  暗槓{裏③③裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{②}  槓ドラ{八}

 

 これは、チュンチャン牌の暗刻と暗槓を一つずつ持つ50符3翻の手。

「ツモ嶺上開花赤1。3200オール!」

 結構大きな手だ。

 これで咲が一気に穏乃を抜いて首位に立った。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 ここでは、

「リーチ!」

 三巡目で早々に咲がリーチをかけてきた。

 他家にとっては、幸か不幸か、未だヤオチュウ牌処理の段階にある。一先ず、字牌を切って対処した。

 しかし、次巡、

「カン!」

 咲は{西}を暗槓すると、

「ツモ。4100オール!」

 リーチツモ嶺上開花ドラ1を和了った。リーチドラ1のみの手が、裏ドラも無いのに満貫に変わるから恐ろしい。

 

 点棒の受け渡しが終わると、敬子が今までよりも少し大きな声で歌い始めた。

 もう、彼女としても形振り構っていられない。

 ここで咲の連荘を止めないと、このまま一気に誰かが箱割れして終わりかねない。

 さっきは咲からプラスマイナスゼロの雰囲気を感じていたが、この和了り点を考えると、本当にプラスマイナスゼロをやろうとしているのか疑わしい。

 それこそ、自分は箱下50000点で、他家は全員50000点でスタートした状態からの仮想プラスマイナスゼロとかをやりかねない。

 そんな空気を感じ取っていたのだ。

 

 東三局二本場。

 敬子のパワーが咲の強制力に干渉したのだろうか?

 咲の手がもたつき始めたように見える。

 

 一方、敬子の捨て牌は、

 {東南西北}

 

 毎度のパターンだ。

 そして、五巡目に、

「リーチ!」

 敬子は{横白}切りで聴牌即リーチをかけた。完全に敬子のペースである。

 しかし、全ての牌を見通す咲は、恭子のように咲の能力を狂わせる相手がいない限り、差し込み以外では滅多なことでは振り込まない。

 咲は、いきなり{5}を切って美和を驚かせた。

「(まさか、いきなりど真ん中とはね。)」

 穏乃は自風の{南}を落として一発回避。美和は咲に合わせて{5}を切った。

 

 一発ツモにはならなかった。むしろ、毎回一発ツモで和了れる怜のほうがおかしい。

 ただ、敬子が一発で引いてきた牌は{發}。

 敬子は、これをツモ切りしたが、安全な『字牌』が一枚増えただけで、美和や穏乃にとっては『真の安牌』が増えたとは言い難い状態だ。

 こんな感じで、二巡、三巡と進んでゆく。

 

 そして、敬子がリーチをかけてから五巡後、

「ツモ!」

 ようやく敬子が和了り牌を自力で引いてきた。

「メンピンツモ一盃口ドラ2。3200、6200!」

 しかも、ハネ満ツモである。何気に大きな手だ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 38700

 2位:敬子 27300

 3位:穏乃 22500

 4位:美和 11500

 敬子が2位に浮上した。

 一方の美和は、未だにヤキトリであった。なので、某掲示板住民達が期待する例のHなショーには突入していなかった。

 

 

 卓上に靄がかかってきた。これより東四局に突入する。毎度の如く、穏乃のスイッチが入ったのだ。



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百七十二本場:阿知賀vs綺亜羅(個人戦)決着

 個人戦準決勝第一試合は東四局に突入した。

 親は穏乃。

 卓上にかかる靄が、一気に濃くなって行く。団体戦の時と同じだ。最後のインターハイ故のパワーアップなのだろう。

 もはや靄と呼ぶのは相応しくない。完全に濃霧だ。

 しかし、敬子には、この濃霧が見えていない。

 相手の能力が効かない。それが敬子のKY麻雀なのだ。

 

 敬子と穏乃のスピード勝負となった。

 幸い、咲の支配力………と言うか強制力が低下しているように感じる。ここが二人にとって勝負どころであろう。

 

 敬子は、毎度の如く、

 {東南西北白發}

 と捨てて行く。

 デジタル打ちの一般論など関係ない。飽くまでもマイスタイル。それによってマイペースを保つ。

 すると、それに応えるかの如く、何故か欲しいところが順次ツモれるようだ。勿論、これは、敬子に限っての話だが………。

 

 既に穏乃のツモは七巡目に入っている。

 どうやら聴牌したらしい。穏乃の背後にチラチラと炎が見え隠れしている。

 

 同巡、敬子も聴牌。

 しかし、ツモの順番は穏乃が先だ。

「ツモ。2000オール。」

 ツモタンヤオドラ1の手。

 聴牌即で穏乃が和了り牌を掴み取った。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 36700

 2位:穏乃 28500

 3位:敬子 25300

 4位:美和 9500

 穏乃が2位を奪い返した。

 

 東四局一本場。穏乃の連荘。ドラは{9}。

 美和には、シンと静まり返った寂しい雰囲気が感じられていた。

 これが深山幽谷の化身と恐れられる穏乃が作り出す独特の空間。まるで濃霧に覆われた山の中に一人置き去りにされたような感覚だ。

 

 しかし、これを屁とも思わない輩がいる。

 厳密には、この独特の空間に迷い込まない人魚の化身。2位の座を奪われたら、今度は自らの手で奪い返す。その気迫に満ちている。

 

 敬子の配牌は、

 {一三五八②8東南西北白發中}

 

 これが、七巡後、

 {一二三四五六七八②②78中}  ツモ{九}

 

 全くのムダツモ無しで聴牌した。しかも、これで一気通関が確定している。まるで敬子のマイペース打ちに場が答えてくれているようだ。

 

 ただ、待ちは{69}のドラ筋&ドラ。

 ただでさえ、他家から出難い待ち牌だ。下手にリーチをかければ、余計出てこなくなるだろう。

 故にダマで待つ。

 当然、{中}切りで聴牌。

 一方の穏乃は、まだ一向聴のようだ。

 

 次巡、穏乃は聴牌ならず、敬子も和了れず。

 しかし、そのさらに次巡、

「ツモ平和一通ドラ1。2100、4100!」

 敬子が高目の{9}をツモって和了りを決めた。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 34600

 2位:敬子 33600

 3位:穏乃 24400

 4位:美和 7400

 再び敬子が2位に返り咲いた。しかも、首位の咲と1000点差である。当然、敬子は今まで以上に気合が入る。

 

 

 南入した。

 南一局、美和の親。

 ただ、気合が入ったのは敬子だけでは無い。穏乃も2位奪還に向けて今まで以上に燃えている。

 そして、とうとう穏乃の背後に火焔がはっきりと見え始めた。これには美和も驚きの色が隠せない。

「(やっぱり、マジで見ると怖いわ…。)」

 能力者の美和は、モニター越しでも穏乃の火焔を感じ取ることが出来る。しかし、穏乃の火焔を直接見たのは今回が初めてである。

 春季大会でも、美和は一度も穏乃と当たっていないし、このインターハイでも、これが穏乃との初対戦である。

 

 しかも、穏乃の支配力が上がったためか、より一層、配牌は酷いしツモも輪をかけて噛み合わない。

 これが山支配なのだろう。対戦者にとっては最悪である。

 

 ところが、これを無効化する人魚の化身は、配牌こそ、

 {一四五八②⑤⑧39東南西白}

 本当に最悪の六向聴だったが、絶好のツモを繰り返し、たった五巡で七対子の一向聴まで辿り着いた。

「(今回も和了る!)」

 敬子が気迫に満ちた顔で六巡目の牌をツモった。

 今や五千人に一人の美女と言われる敬子の顔が、観戦室の巨大モニターにアップで映された。多くの男性観戦者が釘付けになる。

 

 敬子の手は、これで聴牌。

 完全にムダヅモ無しで最短距離を突き進む。これが能力者の麻雀である。まるで、豪運の静香の手を見ているようだ。

 しかし、

「ツモ。」

 一歩遅かった。

「1300、2600。」

 タンピンツモドラ1の凡手だが、先に穏乃に和了られてしまった。

 

 しかし、点数と順位は、

 1位:咲 33300

 2位:敬子 32300

 3位:穏乃 29600

 4位:美和 4800

 まだ順位は抜かれていない。2700点差だが敬子が2位だ。

 とは言え、まだ南一局が終わったばかりだが、美和の点数が5000点を割った。

 恐らく穏乃と自分で次に和了った方が勝つ。敬子は、そう感じていた。

 

 

 南二局、敬子の親。ドラは{8}。

 ここで和了って一気に穏乃を突き放す。

 敬子の顔は、その気合で満ちていた。

 

 この局、敬子の配牌は、

 {四六七八①④38東南北白發}

 

 今回も六向聴である。穏乃の支配が効かないはずだが、これは、純粋に確率の問題なのだろうか?

 ただ、それでも敬子は最短で手を作って行く。

 しかも今回は、七対子以外に平和手狙いでも六向聴である。前局の六向聴とは、良い意味で雲泥の差がある。

 

 そして、この怪物美少女は最短の六巡で、

 {四[五]六七八①④[⑤]34[5]88}  ツモ{③}

 

 {三六九}の三面聴で、しかも高目がタンピン三色ドラ5の親倍を聴牌した。

 当然、敬子は、ここで{①}を強打した。

 

 しかし、この{①}を、

「カン!」

 今まで沈黙を保ってきた咲が大明槓してきた。

 敬子は、穏乃とのシーソーゲームにばかり気を取られて、{①}が初牌であることをすっかり見落としていたのだ。

 今までの配牌六向聴は、穏乃の一人の支配力だけで行われたものではない。咲の支配力も重なって作られたものであった。

 その最悪な配牌から敬子が最短で手を作り上げ、穏乃と対峙するパターンに落とし込んだのだ。

 これにより、敬子の視界から咲自身が完全に消えてノーマークとされることが、咲の狙いだった。

 

 急に場の空気が変わったのを美和は感じた。

 今まで濃霧に覆われていた空間が一気に晴れ渡ったのだ。

 足元を見て、美和は自分達が雲の上にいることが分かった。これは、森林限界を超えたさらに先。咲が作り出す山頂の景色だ。

 

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続けて咲は、{中}を暗槓してきた。

 そして、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 さらに、咲は{南}を暗槓し、続く三枚目の嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 そのまま毎度の如く、三連槓からの和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {一一79}  暗槓{裏南南裏}  暗槓{裏中中裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{8}

 

「ダブ南中チャンタ三槓子嶺上開花ドラ1。16000です。」

 まさかの倍満責任払い。しかも、敬子が二枚持っているドラの{8}での和了り。さすがの敬子でもメゲるレベルだ。

 これで敬子の点数は一気に16300点まで落ち込んだ。

 

 

 南三局、咲の親。

 この局が開始される前、敬子の歌声は聞こえてこなかった。意気消沈して声すら出せなかったのだ。

 もはや、敬子の顔からは覇気も消えていた。さすがにショックの色は隠せない。

 

 再び場が濃霧で覆われた。ここでは、穏乃の支配が再び場を支配する。

 そして、たった四巡で、

「ツモ。500、1000。」

 穏乃がツモドラ1の手を和了った。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 48300

 2位:穏乃 31600

 3位:敬子 15800

 4位:美和 4300

 まだ美和にも三倍満ツモとか役満出和了りとか、一応2位浮上の方法はあるが、そんな高い手を作ることは非現実的である。

 静香じゃあるまいし、美和には不可能だ。

 

 しかし、敬子なら、穏乃から満貫を直取りすれば2位に浮上できる。こっちのほうが、まだ現実味があるだろう。

 敬子は、両頬を両手で叩くと、

「ヨシッ!」

 気合いを入れ直した。

 腑抜けてなんかいられない。これが個人戦決勝進出に向けての最後のチャンスだ。

 

 

 オーラス。穏乃の親。

 卓を覆う濃霧が、本日最高状態になった。

 しかし、敬子には関係ないはず。当然、敬子は我が道を進むつもりで対局に臨む。

 

 相変わらず配牌は最悪である。まるで、淡の絶対安全圏をやられているような感じだ。

 それに加えて、何故かツモが悪い。

 たしかに春季大会では、後半の穏乃の支配力に敬子は押されていた。しかし、この半荘では穏乃の支配を突き破って和了りに向かえていたはず。

 それが、ここに来て思うように手が進まなくなった。

 

 これと同じようなことを直近で経験したのは団体決勝戦の次鋒戦。プラスマイナスゼロの強制力だ。

 ただ、この点数の何処がプラスマイナスゼロなのだろうか?

 いや………、可能性はある。

 敬子は、

「(もしかして、咲ちゃんは自分一人が1000点で、他家三人に8000点ずつ渡した状態で仮想プラマイゼロをやってるんじゃ!?)」

 咲がやろうとしていることに気が付いた。

 

 しかし、時既に遅し。

「カン!」

 とうとう咲のフィニッシュブローが発動し始めていた。

 副露されたのは{①}の暗槓。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続けて咲は、{西}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま咲は嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八1234}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏①①裏}  ツモ{1}

 

「嶺上開花ツモ。90符2翻は、1500、2900です。」

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 54200

 2位:穏乃 28700

 3位:敬子 14300

 4位:美和 2800

 

 これが、咲の頭の中では、全員に8000点ずつ渡しているので以下のようになる。

 1位:穏乃 36700

 2位:咲 30200

 3位:敬子 22300

 4位:美和 10800

 まさに、清澄高校に当時の部長竹井久に言われてチャレンジした仮想プラスマイナスゼロの達成である。

 

 

 これで、準決勝第一試合の卓からは、咲と穏乃が決勝に進出し、敬子と美和が5位決定戦へと進む。

 王者阿知賀女子学院のエースと第二エースが、綺亜羅高校のエースと第二エースを破った試合であった。

 

 

 一方、準決勝第二試合………C卓上位二名とD卓上位二名………淡、光、和、栄子の対局は、起家が淡、南家が和、西家が栄子、北家が光でスタートした。

 

 栄子は、他家から放たれるオーラから、各選手が自分からどの程度の点数を最大で奪えるかを割り出す。

「(大星さんは、一回戦と変わらず18000点。でも………。)」

 信じられないことだが、光の力量はフレデリカに近い。下手をすれば25000点持ちではトバされるレベルだ。

 

 そして、それ以上に問題なのは和。

 能力麻雀の影響を受けない和の上限値は無い。

 実力的には、和は淡よりも若干劣るとして16000点程度と予測していたのだが、完全な誤算である。

 恐らく和には、衝撃波も飛ばなければ、これまで多くの選手達を苦しめてきた栄子の強制力も働かないだろう。

 このような相手は初めてである。

 

 春季大会までの和なら、間違いなく16000点程度が栄子から奪える上限値となっていただろう。

 しかし、最後のインターハイと言うことで、和もデジタルパワーがオーバーフローしているのだ。それで栄子の能力の壁を無効化してしまっているのだろう。

 

 

 東一局、淡の親。

 当然、絶対安全圏で他家を強制六向聴にする。

 自らの手は二向聴。

 淡は、二巡目で早速、

「ポン!」

 和が捨てた{中}を鳴いた。

 ただ、光は、そう簡単に鳴ける牌を出してくれない。ここは、自力で有効牌をツモるしかない。

 六回目のツモで、ようやく淡は聴牌できたが、もう、次巡は全員が絶対安全圏を越える。

 それに、和から淡が鳴いたため、この巡目では和のツモだけは七回目になる。既に和は絶対安全圏を越えているのだ。

 

 しかし、いくら牌効率が良くても、必ずしも七回のツモで六向聴から和了りまでもって行けるわけではない。余程の運とか………、それこそ能力が必要だろう。

 一先ず、この巡目での和の和了りは無かった。それ以前に、和からは聴牌気配を感じられない。

 

 ここでは絶対安全圏を越えたが、

「ツモ。中ドラ2。2000オール。」

 何とか淡が和了って親の連荘にこぎつけた。



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百七十三本場:決勝進出メンバー決定

 個人戦準決勝第二試合は東一局一本場、淡の連荘。

 絶対安全圏の力で、淡は他家を強制六向聴にする。

 今回も、自らの手は二向聴。

 

 いきなり淡は一巡目で、

「ポン!」

 和が捨てた{①}を鳴いた。チャンタ狙いだ。

 今回も、上家の光は、淡が鳴ける牌を全然出してくれない。結構、淡にとっては厳しい席順だ。

 それでも、なんとか淡は聴牌できたが、もう次巡は全員が絶対安全圏を越える。しかし、この段階で聴牌していたのは、どうやら淡だけだった。

 

 絶対安全圏を越えた直後のツモ番で、

「ツモ。チャンタドラ2。2100オール。」

 淡は、なんとか和了ることができた。

 絶対安全圏内に和了れなかったのは悔しいが、光が相手なので、これは仕方が無い部分はあるだろう。

 点数的にも30符3翻の地味な和了りだが、二回続けば親満と同じになる。

 贅沢は言っていられない。

 

 東一局二本場。ドラは{二}。

 ここでも他家には絶対安全圏。淡はダブルリーチの力を封印して望む。

 淡の配牌は、ドラの{二}と{9}と{發}が対子になっていた。これは、發ドラ2で早和了りするチャンスだ。

 しかし、先に切られる字牌は{南}、{西}、{北}。淡には役牌として使えない字牌だ。

 どうしても三元牌や場風が出てくるのは、オタ風牌や19牌を処理した後になる。そのため、折角、絶対安全圏を発動しても、他家の配牌次第では役牌が中々鳴けない。

 かと言って、クイタンに走ろうにも、絶対安全圏を発動する限り、序盤からチュンチャン牌が出てくることは稀である。

 特に今回は、{9}と{發}が対子である。これらを捨ててクイタンに進むのは勿体無い。

 

 それでも、他家に行ったヤオチュウ牌の状況次第では絶対安全圏内に鳴けることはある。

 今回も三巡目で、淡が欲しい{發}を和が切ってきた。

 これをすかさず、

「ポン!」

 淡が一鳴きした。

 これで役が付いた。あとは急いで聴牌に仕上げて和了るだけだ。

 

 その後、すぐに栄子が{9}を切ってきた。

 当然、淡は、これも、

「ポン!」

 鳴いて手を進めた。これで、絶対安全圏内に聴牌できた。

 

 しかし、和は、勝負してくる時以外は滅多に振り込まない。

 光も高い精度で和了り牌を読んでくる。当然、光からの振り込みも期待できない。

 栄子は和了り牌を完全に見切る能力がある。能力が無効化されない限り絶対に振り込むことは無い。

 なので、この面子では、全くもって出和了りには期待できない。自力で和了り牌を手に入れるしかない。

 

 淡は、またもや絶対安全圏内に和了り牌を引き入れることができなかった。やはり、光の支配力があるからだろう。

 そして迎えた八巡目、淡は和から聴牌気配を感じ取った。

 ただ、和はリーチをかけなかった。

 満貫以上を狙っているのでは無い。淡の連荘を流すのが最大に目的のようだ。

 それで、他家からの出和了りも狙い、ダマで待っているのだ。

 

 本来、出和了りが期待できない卓だが、和の辞書には能力麻雀などと言うオカルトな単語は載っていない。

 飽くまでも一般論に従って和はプレイする。

 

 しかし、ツキは淡に残っていたようだ。

「ツモ。發ドラ2。二本場は2200オール。」

 和が聴牌した直後のツモで、淡は和了り牌を引いて来た。この局は、ギリギリのところで淡に軍配が上がったを言える。

 

 東一局三本場。淡の連荘。

 絶対安全圏は健在。淡以外は全員が、またもや六向聴の最悪の状態。

 この状態を、和も光も部内戦で何度も経験している。なので、もう馴れっ子と言った感じではある。

 しかし、栄子は別だ。一回戦でも前局配牌六向聴だったし、今回もこんな状態が延々と続くと、さすがの栄子も嫌気がさす。

 

 この局、栄子の配牌は、

 {二五八②④⑧⑨258東白中}

 

 一応、一応平和手にも進める可能性がある六向聴。七対子以外で六向聴にしかならない状態よりは幾分マシであろう。

 ここに栄子は、第一ツモで{⑦}を引いてきた。

 もし、これが和であれば、普通に{白}か{中}を落として行く。そう言ったスタイルだし、能力麻雀への理解が薄いのだから仕方が無い。

 

 しかし、栄子は能力者である。

 落ち着いていれば、当然、淡の能力麻雀をケアして第一打牌を選ぶところだが、毎回六向聴が続いて心中穏やかではなかった。

 それで、絶対安全圏対策を忘れて{中}を第一打牌として切り出してしまった。

 

 これをすかさず、

「ポン!」

 淡が鳴いた。

 偶々、淡が配牌時点で持っていた役牌の対子だった。これが{白}なら鳴けなかった。淡にしてみればラッキーである。

 

 鳴かれて栄子は、

「(しまった!)」

 淡対策のことを思い出した。

 

 特に淡が親の時は、五巡以内に淡に和了り役を与えてはいけない。絶対安全圏内での淡の早和了りは、他家が和了って阻止することができないからだ。

 

 その次巡、

「チー!」

 珍しく光が淡に鳴かせた。

 さすがに光でも、序盤に相手の手牌全てを見抜くことは出来ない。なので、こう言ったことも起こり得る。

 

 今回は、

「ツモ! 2300オール!」

 淡は絶対安全圏内の和了りを決めることができた。

 

 しかし、この直後である。

 またもや和の背後に巨大モニターの幻が出現した。団体戦決勝戦の大将後半戦、個人戦決勝トーナメント一回戦D卓で起きたものと同じ現象である。

 

 その巨大モニターにはオンライン麻雀ゲームの映像が映し出され、和の姿は、今回も『のどっち』に変わっていた。

 和の世界が暴走したのだ。これで三度目である。

 この卓は、これ以降、デジタル打ちの完成度が全ての世界へと変わる。

 

 東一局四本場。

 絶対安全圏は生きている。配牌六向聴は確率的に起こり得ることである。別に和の世界で否定されるモノでもない。

 しかし、ここに来て淡は、絶対安全圏内に一切鳴くことができなかった。和に浮いた役牌が行かなかったためだ。

 こう言うことも、何局かに一回は普通にある。

 

 加えて、前局で鳴かせたことで、栄子が今回は役牌を絶対安全圏内に切るのを躊躇していたし、光は元々、第一弾の和了りを決めるまでは淡を相手に序盤から役牌を切らない。それで余計に淡は序盤から鳴かせてもらえなかったと言える。

 

 そして、絶対安全圏が終わると同時に、淡は和から聴牌気配を感じた。

「(和に先を越された!?)」

 淡は、まだ一向聴。

 デジタル打ちの完成度のみが要求される世界では、牌効率の良い和には敵わないと言うことだろうか?

 

 ただ、ここで和はリーチをかけてこなかった。東一局二本場の時と同様に、飽くまでも狙いは淡の親を流すこと。

 一応、和了り役もある。

 だったら、ムダにリーチをかけて他家に聴牌を教える必要は無い。

 

 そして、次巡、

「ツモ。」

 結果論ではあるが、聴牌即で和は和了り牌を引き当てた。

「タンピンツモドラ1。1300、2600の四本場は1700、3000。」

 この和の和了りで、淡の長い親が終了した。

 

 

 東二局、和の親番。ドラは{一}。

 ここで光の配牌は、

 {二三七九①[⑤]⑨258南西中}

 

 ただ、絶対安全圏は配牌が悪いだけで、その後は普通に手が伸びる。

 それに、光はデジタル打ちができないわけでは無い。

 和が作り出す世界の発する強大なエネルギーを感じ取り、光は強引な決め打ちをせず、一先ずここは、流れに任せて打つことにした。

 

 光の第一ツモは{6}。ここから打{南}。

 この局でも、その後、絶対安全圏内に鳴きは入らずに場が進んでいった。

 

 光は{7一2⑥八}と引き入れて最短で聴牌。

 手牌は、

 {一二三七八九[⑤]⑥22567}

 

 淡は、絶対安全圏内に和了れず、七巡目に突入した。

 そして、七回目のツモで、

「ツモ平和ドラ2。1300、2600。」

 とうとう光が第一弾のツモを決めた。

 

 ただ、和のデジタル世界が卓全体に及んでいる今、ドラを持つ数も大きく偏らない。

 リーチをかけなければ、恐らく七巡目では、大抵ドラは一枚、多くて二枚しか来ないのだろう。

 

 

 東三局、栄子の親。ドラは{二}。

 ここでも絶対安全圏は健在。

 ただ、第一弾の和了りを決めた光は強力な支配力を発揮する。

 

 それもあってか、光の配牌は、

 {一三五九②④⑤⑨147南北}

 同じ六向聴でも三色同順が狙える可能性のある配牌だった。

 

 ここから光は、まさに鬼ヅモで{二[⑤]2③3四}と引き入れ、

 {一二三四五②③④⑤[⑤]234}

 

 たった六巡で平和赤1を聴牌した。

 しかし、光は出和了りとしての和了り役の翻数上昇が縛りとなっている。そのため、今回は最低でも和了り役が2翻必要であり、このままでは和了れない。

 

 今のところ、他家三人からは聴牌気配は一切感じない。光の支配力が他家のツモを悪くしているのだろう。

 

 七巡目、光は{七}を引いた。

 絶好のツモである。

 ここから打{一}でタンヤオ三色同順赤1に切り替えた。

 デジタル打ちでも、{三六}の両面待ちを維持して平和赤1の2000点の手のままにするか、それとも待ちを嵌{六}に減らしてタンヤオ三色同順赤1の満貫手にするかは議論が分かれるところだろう。

 少なくとも、この打牌はデジタル打ちの世界観に完全に否定されるモノではない。故に和の世界が作り出す一方的な縛りに、光の打{一}は抵触しなかったようだ。

 

 そして、次巡、

「ツモ! タンヤオ三色赤1。2000、4000!」

 光は満貫ツモを決めて原点復帰を果たした。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{3}。

 今回、光の和了り役の縛りは4翻。

 光の実力であれば、本来は、まだ縛りとしては何とかなる。

 しかし、淡の絶対安全圏と、和が作り出す世界が合わさってくると厳しくなる。

 

 通常であれば、萬子、筒子、索子のいずれかに配牌が偏ることがあるが、絶対安全圏が発動すると、どれか一色に偏ることは基本的に無い。

 絶対安全圏を無効化できるのは残念ながら穏乃くらいだ。光でも崩すことができない。

 そして、牌の偏りが少ない状態からスタートして、デジタル打ちで進め、かつ和了り役4翻を狙うとすれば、平和タンヤオ三色同順辺りが落としどころか?

 配牌次第だが、そろそろ、この場を支配する『和の世界』を崩さないと、光としても苦しくなる。

 

 この局、光の配牌は、

 {二五八①[⑤]⑨1378東南西發}

 

 見事な六向聴。

 しかも、この配牌から確率論のみによってもたらされるツモの流れに従うだけで、和了り役4翻を目指すのは正直厳しそうだ。

「(仕方が無い。そろそろヤルか!)」

 光は、ここで自らの持つ能力を全開にした。和による場の支配を跳ね除けなければ和了れないと確信したからだ。

 その直後である。

「ピシッ!」

 和の背後に見える巨大モニターの幻に大きなヒビが入った。

 そして、画面に映し出されていた麻雀ゲームの映像が『プツン』と消えたかと思うと、そのモニターが一瞬にして粉々に崩れ去った。

 どうやら、和が作り出す世界は、まだ完成形では無いようだ。それで、より強力な支配力が繰り出されたことで維持できなくなったのだろう。

 

 

 あとは、ここから最短で和了り役4翻を作る。

 光は、オーラ全開で打ちに行く。

 先ずは、打{發}。

 普通なら絶対安全圏内での淡の鳴きを警戒して役牌は捨てたくないが、今は、連続和了のスイッチが入っている。なので、こっちに流れがあると信じる。

 それで光は初っ端に{發}を切った。

 

 淡からの鳴きの発生は無い。この發切りは、結果オーライのようだ。

 その後、光は{東南西①⑨1}と捨て、

「リーチ!」

 先制リーチをかけた。

 

 一発消しの鳴きは無い。

 淡も和も、一先ず現物の{①}や{1}を切って凌ぐ。

 栄子は和了り牌が分かる能力を持っているため振り込むことは無い。まさかの打{三}で淡と和を驚かせたが、当然、セーフ。

 しかし、一発目のツモで、

「ツモ!」

 光は和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {二五五八八⑤[⑤]337788}  ツモ{二}  ドラ{3}  裏ドラ{八}

 

 今回、光の縛りとなる和了り役は4翻。

 その縛りとしてカウントされる役は、リーチタンヤオ七対子のみだが、ここでは七対子は2翻相当(25符2翻)として数えることになる。

 ここに一発ツモに表ドラ2、赤牌1、裏ドラ2が加わり、親の三倍満となった。

「12000オール!」

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 63900

 2位:淡 32500

 3位:和 6200

 4位:栄子 -2600

 まさかの栄子のトビで終了した。決勝戦には、光と淡が進む。

 

 観戦室で、この対局を見ていたフレデリカは、

「栄子から27000点以上も取るなんて…。さすがミナモ。でも、彼女の上限値は、どれくらいなの?」

 相当驚いていた。

 フレデリカが知る限り、自分以外で栄子を箱割れさせた女子高生は、これが初めてだったのだ。

 

 

 さて、A卓下位二名とB卓下位二名………マホ、蒔乃、静香、美誇人の対局は、起家が静香、南家がマホ、西家が蒔乃、北家が美誇人でスタートしていた。

 

 東一局、静香の親。

 本来なら、マホは東初に優希のコピーを使って、いきなりリードしたいところ。

 しかし、同じコピーを一日に複数使えない制約がマホにはあった。同じコピーは翌日にならなければ使えないのだ。

 既に優希のコピーは一回戦で使ってしまった。

 誰のコピーを使ったら良いのだろうか?

 

 すると、三巡目で、いきなり、

「リーチ!」

 親の静香が先制リーチをかけてきた。

 マホは、

「(団体戦でもそうでしたが、この方は手が大きそうです。絶対に振り込めません。ここは何とか守ります!)」

 洋榎のコピーで対処することにした。

 直感的に相手の和了り牌が全て分かる能力。当然、これなら振り込まない。マホは余裕で一発振り込みを回避。

 蒔乃(神)は和了り牌を把握している。当然、振り込まない。

 美誇人は、一先ずマホに合わせ打ちして様子を見た。

 

 しかし、

「ツモ!」

 豪運の静香は一発で和了り牌を引き寄せた。

 しかも、

「リーチ一発ツモドラ3。6000オール!」

 親ハネツモだ。

 いくら洋榎のコピーでも、相手のツモ和了りを防ぐ力は無い。

 ただ、マホとしては、最強ディフェンスとも言える洋榎のコピーを、完全にムダ使いした感じであった。



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百七十四本場:下位卓対決

 A卓下位二名とB卓下位二名の対局は、東一局一本場が開始された。

 親は静香。ドラは{②}。

 この局では、急激に蒔乃のオーラが強大に膨れ上がった。

 しかし、蒔乃に降りた軍神は、いくつかの縛りを自らに課していた。その一つが、配牌操作の放棄であった。これは、以前の大会でも決めていたことだ。

 恐らく、そのためであろう。静香、美誇人、マホの三人が蒔乃の強烈なオーラを感じるようになったのは配牌直後からであった。

 

 二つ目の縛りは相手の和了り牌は察知できるが、山や相手の手牌を透視することは禁じていた。

 

 そして、三つ目が和了り手である。

 基本的に萬子の染め手以外は和了らない。しかも、同一聴牌形から和了ることに拘っていた。

 

 軍神は、過去に同一聴牌形から倍満、三倍満、役満をツモ和了りして見せた。

 その時の手牌は、

 {一一二二三四[五]六七八九九九}

 

 ここから{二}をツモれば門前清自摸清一色赤1の倍満。

 {三}をツモれば門前清自摸清一色一気通関一盃口赤1の三倍満。

 {一}をツモれば九連宝燈で役満。

 今回も、この形に向けて動いていた。

 

 蒔乃の配牌は、萬子が七枚と、結構萬子に偏った配牌だった。この配牌は偶然である。

 ここから、たった六巡で聴牌し、七巡目で、

「ツモ。6100、12100!」

 三倍満をツモ和了りした。

 

 

 東二局、マホの親。

 ここでマホは、

「(神代さんは萬子染めに走っています。ここで石戸霞先輩の力を使うと全員が染め手になって場が荒れちゃいます。なら、ここは一巡先を見て最短距離で勝負します!)」

 怜のコピーで蒔乃よりも先に和了ることを目指すことにした。

 

 しかし、今回も蒔乃の配牌は萬子に偏っていた。偶然とは言え、第三者視点では配牌操作を疑いたくなる。

 そして蒔乃は、たった六巡で聴牌し、

「ツモ。4000、8000!」

 同一テンプレートから{二}を引き当てて倍満をツモ和了りした。

 

 これで点数と順位は、

 1位:蒔乃 59300

 2位:静香 26900

 3位:美誇人 8900

 4位:マホ 4900

 既にマホが危ない状態になっていた。

 

 相手の力を考えると、正直、美誇人もマズい状態だ。

 もし、次に蒔乃が同一聴牌形からの和了りとして最後に残された九連宝燈役満をツモ和了りしたならば、マホだけではなく美誇人も箱割れ必至である。

 

 

 もはや勝負は着いたと誰もが思う中で東三局がスタートした。

 親は蒔乃。ドラは{⑨}。

 この局では、蒔乃の配牌に萬子が二枚しかなかった。今までの配牌が良かった反動かも知れない。

 例のテンプレート完成まで最低でも十一巡かかる。

 しかも途中で鳴きが入ると直後のツモは萬子ではなくなり、ツモが立て直されるのは、その次巡になるため、さらに聴牌まで時間がかかる可能性がある。

 

 四巡目、

「ポン!」

 美誇人が捨てた{北}をマホが鳴いた。これは、マホの自風である。

 そして、その三巡後、

「リーチ!」

 美誇人が{東}を切ってリーチをかけた。この時の美誇人は、まるで全てを見切ったような表情をしていた。

 

 すると、この{東}を、

「ポン!」

 またもやマホが鳴いた。

 

 突然、急に卓上が禍々しい空気に覆われた。

 これは薄墨初美のコピーだ。

 ここからマホは、五巡かけて{西}と{南}を次々と引いて行くことになる。そして、その片方が暗刻、もう片方がアタマになる。

 マホの手は、順調に小四喜に向けて動いていった。

 

 当然の如く、五巡後にマホは最短距離で小四喜を聴牌した。

 しかし、ここで捨てた{③}で、

「御無礼。」

 マホが美誇人に振り込んだ。

 

 美誇人が全てを見切ったのは蒔乃に対してではなく、マホに対してであった。

 この点差で北家になれば、恐らく初美のコピーで一発逆転を狙うだろう。そう読んでのリーチだったのだ。普通なら怖くて攻められないだろうが、この局面で、マホから和了牌が絶対に出てくると確信していたようだ。

「ロン。リーチメンホン中一盃口ドラ5(表2、赤2、裏1)。24000。」

 しかも三倍満。

 

 これで点数と順位は、

 1位:蒔乃 59300

 2位:美誇人 32900

 3位:静香 26900

 4位:マホ -19100

 対局は、またもやマホのトビで終了した。

 勝負師美誇人の大逆転で、9位決定戦には蒔乃と美誇人進出し、静香とマホは13位決定戦に進むことになった。

 

 

 一方、C卓下位二名とD卓下位二名………神楽、明星、鳴海、真尋の対局は、起家が神楽、南家が真尋、西家が明星、北家が鳴海でスタートしていた。

 

 東一局、神楽の親。

 神楽に降りてきているのは綺亜羅高校の元エース節子。

 しかも、今回は粕渕高校を代表する神楽の勝利のため、節子は神楽の持つ透視能力を使って牌を打つ。

 但し、山に伏せられた牌を透視することはできない。飽くまでも相手の手牌だけを透視する。

 とは言え、和了り牌を完全に見抜けるわけだし、相当のアドバンテージになる。

 

 節子がオーラを全開にした。

 真尋、明星、鳴海の目に映る光景が、対局室から急に荒野と変わった。そして、地面が激しく揺れたかと思うと、あちこちで地が避けてマグマが噴出し始めた。

 まさにこの世の終わりである。

 

 ただ、鳴海も明星も平然とした顔をしていた。

 鳴海は高校1年の時に節子の能力を何度も経験しているし、明星も春季大会の個人戦で節子との対局を経験していたと言うのもあるが、そもそも二人とも肝が据わっている。

 なので、これくらいでは動じない。

 

 ところが、真尋だけは表情がすっかり固まっていた。

 千里山女子高校と粕渕高校は団体5位決定戦で対戦し、神楽とは先鋒戦で対局した。なので、真尋は既に、この恐怖映像を経験済みであった。

 しかし、何度見ても怖いものは怖い。

 これで真尋は、完全に萎縮してしまった。

 

 六巡目、

「リーチ!」

 神楽(節子)が先制リーチをかけた。

 再び他家三人の目には恐怖映像が見える。これで真尋は、さらに萎縮して目に涙を浮かべ始めた。

 ただ、こんな状態にありながらも、真尋は節子に振り込まなかった。そこは評価すべきであろう。

 明星も鳴海も安牌切りで一発回避。

 しかし、

「ツモ! 4000オール!」

 無常にも節子のリーチ一発ツモドラ2の親満が炸裂した。

 

 東一局一本場でも、

「ツモ! 4100オール!」

 

 東一局二本場でも、

「ツモ! 4200オール!」

 

 節子の親満ツモが続いた。

 これで神楽の点数は61900点。相手の手牌が見える以上、余程のことが無い限り神楽のトップは揺るがないだろう。

 

 東一局三本場。

 ここで、

「ポン!」

 漸く鳴海が動いた。真尋が捨てた{②}を鳴いたのだ。

 

 次巡、

「カン!」

 鳴海が明星の捨てた{北}を大明槓した。明星にしては珍しくヤオチュウ牌が余ったらしい。

 新ドラ表示牌は{西}。これで鳴海の北ドラ4が確定した。

 

 そのさらに二巡後、

「カン!」

 鳴海は、{②}を加槓した。

 しかし、

「ロン。」

 これで明星が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {九九①③123西西西中中中}

 {③23}は配牌時点から持っていた牌なのだろう。

 

「8900。」

 しかも、槍槓中チャンタの満貫手。結構大きい。

 これで神楽の親を流すことができたが、鳴海にとっては、まさかの大打撃であった。

 

 現在の点数と順位は、

 1位:神楽 61900

 2位:明星 21600

 3位:真尋 12700

 4位:鳴海 3800

 鳴海が一気に危ない(トビそうな)状態となった。

 

 

 東二局、真尋の親。

 未だに真尋は萎縮したままだ。

 一回戦でも大化けした和と超怪物光にコテンパンにやられた。

 団体戦ではステルスに罠を張られた。

 そして、極めつけが天変地異?

 やはり全国は広い。真尋は、今まで打ってきた環境では、まだまだヌルいのだ(?)と痛感していた。

 まあ、普通の感覚で言えば、真尋は十分強く、真尋が対戦した相手の方が異常だと思うのだが………。

 

 この局では、

「ポン!」

 真尋が早々に鳴海に自風の{西}を鳴かせた。真尋にとってはオタ風牌だし、これは本来仕方が無いだろう。

 

 その二巡後、

「カン!」

 またもや真尋が鳴海に鳴かせた。今度は、{⑧}を大明槓された。

 新ドラ表示牌は{⑦}。これで鳴海の西ドラ4が確定した。

 

 その次巡、

「カン!」

 当然の如く、鳴海が{西}を加槓した。次の新ドラ表示牌は{南}。これで鳴海の西ドラ8、倍満が確定した。

 

 そして、そのさらに次巡、

「ツモ。4000、8000!」

 鳴海の倍満が炸裂した。

 

 これで、現在の点数と順位は、

 1位:神楽 57900

 2位:鳴海 19800

 3位:明星 17600

 4位:真尋 4700

 鳴海がラスから一気に2位まで浮上してきた。

 しかも、今度は真尋が箱割れに近い状態。ここからは、明星と鳴海の一騎打ちが期待される。

 

 

 東三局、明星の親。

 ここに来て、明星のオーラが急激に大きくなった。この局で鳴海との勝負を着けようとしているのだ。

 明星には配牌操作の力は無い。

 しかし、今回の配牌は六種七牌。普通なら困った配牌だが、ヤオチュウ牌支配の能力を持つ明星には最高の配牌だった。

 当然、第一打牌からチュンチャン牌である{④}を切った。

 すると、

「ポン!」

 一巡目から鳴海が、まさかの鳴き。こっちも形振り構わず勝負しに来ている感じだ。

 

 次巡、明星は七種目のヤオチュウ牌を引いた。

 そして、そのさらに次巡に明星が捨てた{7}を、

「ポン!」

 またもや鳴海が鳴いた。

 

 その二巡後、

「カン!」

 鳴海が{7}を加槓した。当然のように、新ドラ表示牌は{6}。これでドラ4確定。

 

 そのさらに二巡後、

「カン!」

 再び鳴海が加槓した。加槓されたのは{④}。そして、新ドラ表示牌は{③}。これで鳴海のドラ8が確定した。

 

 今回、鳴海の狙いはタンヤオドラ8。

 幸運にも嶺上牌が有効牌となり、これで鳴海は聴牌した。

 

 しかし、

「ツモ。混老七対!」

 明星の方が一手早かった。

 しかも、本大会ルールでは混老七対子を5翻相当役として数える。そのため、これは門前清自摸七対子の6翻となり、

「6000オール!」

 ハネ満相当となる。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:神楽 57900

 2位:明星 35600

 3位:鳴海 13800

 4位:真尋 -1300

 真尋がヤキトリのままトビ終了し、神楽と明星が9位決定戦に進出し、鳴海と真尋は13位決定戦へと進むことが決まった。

 

 

 昼の休憩に入った。

 この後、時間を少し繰り上げて12:30から5位決定戦、9位決定戦、13位決定戦が同時並行で行われ、その後に決勝戦が開催される。

 

 なお、決勝卓に進出するのは以下4名である。

 宮永咲(阿知賀女子学院)

 高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 宮永光(白糸台高校)

 大星淡(白糸台高校)

 春季大会の決勝卓と同じメンバーである。今度こそ打倒咲を達成すべく、光も淡も猛烈に燃えている。

 

 

 5位決定戦は、以下4名で行われる。

 的井美和(綺亜羅高校)

 稲輪敬子(綺亜羅高校)

 原村和(白糸台高校)

 園田栄子(風越女子高校)

 果たして美和が、美女ランキング2位の敬子と6位の和のみかんジュースを出させることに成功するか、それが話題の一戦である。まあ、どちらも他人の能力に干渉されないタイプなので余り期待はできないが………。

 

 

 9位決定戦は、以下4名で行われる。

 神代蒔乃(永水女子高校)

 鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 石見神楽(粕渕高校):中味は故 古津節子(元 綺亜羅高校)

 石戸明星(永水女子高校)

 永水女子高校のダブルオモチの対決であり、かつ綺亜羅高校最強vs綺亜羅三銃士最強の対決でもある。

 恐らく、前者の意味で玄が飛びつくこと間違い無しの一戦であろう。

 

 

 13位決定戦は、以下の4名で行われる。

 鷲尾静香(綺亜羅高校)

 夢乃マホ(千里山女子高校)

 竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 椋真尋(千里山女子高校)

 綺亜羅高校の3年生勝負師二人と千里山女子高校の1年生二人の対決。1年生二人が、どこまで綺亜羅三銃士の二人に相手に戦えるかが期待される。



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百七十五本場:決定! 9位から16位

 昼の休憩が終わり、これより5位から16位までを決める戦いが始まる。いずれも半荘一回勝負である。

 

 13位決定戦は、起家が鳴海、南家が静香、西家がマホ、北家が真尋でスタートした。

 東一局、鳴海の親。

 ここでいきなり、マホは大きい手を狙って霞のコピーを使うことにした。

 しかし、萬子、筒子、索子の一つが他家に行かないと言うことは、それだけ他家も牌が偏ることを意味している。

 これを感じ取った鳴海が、

「ポン!」

 いきなり静香が切った{⑨}を鳴いた。

 

 マホからは索子と字牌のみが捨てられる。どうやら、マホは索子に染めているようだ。

 しかも、清一色まで持って行こうと、途中から三元牌や場風牌も出てくる。

 それを逃さず、

「ポン!」

 鳴海がマホから{白}を鳴いた。

 

 次巡、

「カン!」

 鳴海が{白}を加槓した。

 当然、新ドラ表示牌は{中}。

 ラッキーなことに嶺上牌は{⑨}。

「カン!」

 そのまま、これを鳴海は加槓した。

 新ドラ表示牌は{⑧}。これで白ドラ8の親倍が確定した。

 

 そして、数巡後、

「ツモ。8000オール!」

 鳴海が親倍をツモ和了りした。

 恐らく鳴海を相手に、マホは霞の能力を選択するべきではなかったのかも知れない。今となっては後の祭りだ。

 

 東一局一本場。

 マホは、ここで鳴海を相手にリスキーだが、咲のコピーを使うことにした。

 鳴海が倍満を和了るためには自身の槓が必要だろう。ただ、今のところ、咲のように狙って嶺上開花で和了れるわけではなさそうだ。

 ならば、先に二つ槓して四槓流れを狙う。

「カン!」

 マホが{西}を暗槓した。まだ二向聴のため、嶺上開花にはならず有効牌を引くに留まったが、これで一つ目の槓を潰した。

 

 どうやら真尋が、マホの狙いに気が付いた。

 ただ、援護したくてもマホが何を槓したいのかが分からないし、鳴海も大明槓してくるので迂闊に初牌を切ることができない。

 とは言え、咲をコピーしただけのことはある。マホは、二つ目の槓子を自力で揃えることに成功した。

「カン!」

 今度は、マホが{①}を暗槓した。

 嶺上牌は、今回も有効牌。これでマホは聴牌した。

 

 しかし、次巡、

「ツモ。タンヤオドラ5。3100、6100!」

 豪運の静香に和了られてしまった。

 しかも、5枚のドラのうち3枚はマホが作った二種の新ドラである。それと元ドラに赤牌1枚で計ドラ5だ。

 鳴海を潰すつもりが静香を援護してしまった。これもマホのミスであろう。

 

 

 東二局、静香の親。

 マホは既に、優希、洋榎、怜、初美、霞、咲のコピーを使った。いずれも結果的に有効には使えていない。むしろマイナスに作用してしまっている。

 それもあって、マホは完全に萎縮し始めた。

 

 真尋は、昼の休憩を挟んだことで落ち着きを取り戻していたが、基本的に親番でないと和了れない能力だ。

 なので、余り自分の点棒を大量に持って行かれずに自分の親まで回したいところだが、綺亜羅高校の勝負師二人が高い手を和了っている。

 このままでは、二人を逆転するのは厳しくなりそうだ。

 

 勿論、諦めるつもりは無い。なので、ここはマホに安手で和了ってもらいたいところだが、どうもマホの思惑が裏目に出ている。

 ここは、ムリをしてでも自分が和了って親を流す。

 そのつもりで対局に臨むことにした。

 

 しかし、敬子の人魚パワーで絶好調状態を保つ二人のスピードはハンパではなかった。

 真尋が鳴いてツモを狂わせようにも、そのチャンスが来ない。完全にツキが綺亜羅高校の二人に持って行かれている。

 

「カン!」

 鳴海が早々に一つ目の槓を副露した。今回は暗槓だ。

 そして、その三巡後に、

「カン!」

 再び鳴海が槓を副露した。今度はマホが捨てた{北}の大明槓である。

 {北}は鳴海の自風。

 これで鳴海は北ドラ8の倍満を確定させた。

 

 そのさらに次巡、

「ツモ。4000、8000!」

 鳴海は倍満をツモ和了りした。

 こんな高い手をバンバン和了るヤツが絶好調状態では手の出しようが無い。

 そもそも、こんな輩が13位決定戦にいること自体がおかしい。もっと上の卓にいるべきではないだろうか?

 ただ、逆を言えば、これだけの力を持つ者でも9位決定戦にすら行けないのだ。

 とんでもないレベルの高さを真尋は痛感していた。

 

 泉から、

『千里山の日本人選手で宮永咲に対抗できるのは真尋とマホしかおらん!』

 と言われて自分もその気でいたが、全然次元が違う。

 この綺亜羅高校のバケモノ二人でさえ、咲の足元にも及ばないのだろう。まだまだ打倒咲を掲げるレベルには、自分達は到底達していない。

 

 

 東三局、マホの親。

 ここでマホと真尋は、静香から強大なエネルギーを感じた。強いて言えば、マホが初美のコピーを使った時と同レベルであろうか?

 静香の持つ豪運が、今、最大値に達したのだ。

 いやな予感がする。

 真尋は、

「チー!」

 マホから鳴いてツモを狂わせてみたが、全然効果が無い。元々予定していたのとは別の有効牌を先に回しただけに過ぎないようだ。

 そして、たった六巡で、

「ツモ。8000、16000!」

 静香は四暗刻を和了った。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:静香 53300

 2位:鳴海 50900

 3位:真尋 1900

 4位:マホ -6100

 真尋とマホの二人がヤキトリのまま、マホのトビで終了した。

 千里山女子高校の二人にとっては、まさに悪夢のような半荘であった。

 

 

 同時開催の9位決定戦は、起家が美誇人、南家が明星、西家が神楽、北家が蒔乃で行われていた。

 

 東一局、美誇人の親。

 場の流れの全てを見切ってから勝負に出る美誇人としては、起家は余り嬉しくない。

 美誇人は人魚パワーで絶好調状態のはずなのだが、恐らく今の自分以上にパワーのある者達によって不利なところに追い込まれていると判断していた。

 そのパワーのある者の一人、蒔乃から、いきなり、とてつもなく強大なオーラが放たれた。まるで咲を見ているようだ。

 

 今なお蒔乃の身体には軍神が降臨している。

 そして、九巡目のツモ番で、

「ツモ。8000、16000!」

 九連宝燈をツモ和了りした。

 百戦錬磨の美誇人でさえ、こんな輩に対抗できる人間がいるのだろうかと思いたくなるレベルだ。

 勿論、対抗できる人間がいるからこそ、毎回神が降臨されるわけだが、そうなる原因を作っている化け物の存在が、美誇人には信じ難い。

 しかも、その化け物は、今や自分達の憧れの存在から美和や敬子の親友である。

 一年前には想像もできなかったことだ。

 

 役満の親かぶりは痛いが、これは仕方が無い。

 何とか後で取り返すつもりで次局に入る。

 

 

 東二局、明星の親番。

 またもや天変地異の光景が明星の目に映った。

 とは言え、恐らく明星も美誇人も蒔乃も、これに恐怖して手が縮こまるようなことは無いだろう。

 しかし、これは脅かすために見せているモノでは無い。神楽に降りた節子が本気で能力を開放したことの証である。

 

 この時、明星はヤオチュウ牌支配で手を進めていたが、急にヤオチュウ牌がツモれなくなった。節子のパワーで明星の能力を押さえつけたのだ。

 非常に強大なエネルギーだ。

 そして、たった四巡で、

「リーチ!」

 節子は聴牌すると、即リーチをかけた。

 

 蒔乃は和了り牌が分かる。当然、振り込まない。

 美誇人と明星は、一先ず現物で回した。

 しかし、

「ツモ! 2000、4000!」

 強大なエネルギーがツモに影響しているのだろう。節子は一発で和了り牌を掴み取った。

 リーチ一発ツモドラ2(表1裏1)の満貫である。

 これで神楽の点数は原点に復帰した。

 

 

 東三局、神楽(節子)の親。

 未だ、節子の見せる天変地異の幻が続く。

 激しい地震に火山の大噴火。

 地面はあちこちに亀裂が入り、そこからマグマが噴出している。これが幻ではなく現実だったら、恐らく自分達は生きてはいないだろう。

 

 今回も、強大なエネルギーをバックに、

「リーチ!」

 神楽(節子)が先制リーチをかけた。

 蒔乃は、平然と索子のチュンチャン牌を切る。勿論、セーフ。

 これを美誇人が、

「チー!」

 一発消しで鳴いた。

 

 しかし、

「ツモ!」

 苦もなく節子にツモ和了りされた。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六[⑤]⑥⑦22567}  ツモ{一}  ドラ{9}  裏{三}

 

 メンピンツモドラ2の親満だ。

 やはり、鳴いたことで和了り牌を回してしまったか?

 

 しかし、山を崩す時に、次に神楽がツモるはずだった牌が見えた。

 {七}だった。

 それを一発でツモられたらタンヤオと三色同順も付いて親倍ツモである。結果的に鳴いて正解だ。

 

 東三局一本場、神楽の連荘。

 まだまだ続く節子が見せる幻の世界。

 人類が滅亡するレベルの天変地異が継続している。

 

 七巡目に突入した時、突然、遠くの空に光り輝くモノが見え始めた。その光は、少しずつ大きくなっている。

 もしかして、これは小惑星か?

 今度は、小惑星激突の悪夢を見せようと言うのか?

 

 すると、今度は神楽の下家から、小惑星に向けて強大なエネルギー波が放出され始めた。蒔乃に降臨している軍神から放たれるものだ。

 そして、そのエネルギー波を受けると、小惑星が空中で爆発した。

 もはや麻雀など全然関係ない世界だ。

 

 その直後のことだった。

「ツモ。4100、8100!」

 蒔乃が、{一一二二三四五六七八九九九}のテンプレートに二をツモり、倍満の和了りを宣言した。

 

 美誇人も明星も、

「「(これ、麻雀よね?)」」

 大地震や火山の大噴火に留まらず、小惑星の接近に小惑星の爆発と、訳の分からないモノを見せられて、一瞬、自分達が麻雀を打っていることを忘れていた。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:蒔乃 67300

 2位:神楽 28900

 3位:明星 4900

 4位:美誇人 -1100

 珍しく美誇人のトビで終了となった。

 

 普段は美誇人が、

『御無礼。貴女のトビで終了です!』

 と言う側だが、ヤラれる側は久し振りである。

 

 やはり軍神の力には明星も美誇人も到底敵わない。また、節子の能力と神楽の能力が合わさったら三銃士で最も勝負強い美誇人でも100%勝ち目が無い。

 それが立証された対局でもあった。

 

 

 一方、5位決定戦は、起家が敬子、南家が美和、西家が和、北家が栄子で対局が開始された。

 一応、みかんジュースを期待する対局で、9位決定戦や13位決定戦よりも人気のある対局ではあったが、

『敬子と和のみかんジュースは見たいけど、二人とも不感症だし…。』

 と、視聴する側も、やや諦めムードではあった。

 

 東一局、敬子の親。

 対局と同時に、栄子は他家三人の力量を能力で測る。

 和は、二回戦でも見たが上限が分からない。これは、他人の能力が効かないことに起因する。

 これでは栄子の武器であるリラの鉄槌が打てない。

 まるで、世界大会で神楽が見せた蔵王権現のようだ。

 

 敬子も良く分からないが上限が見えない。測定不能である。

 どうやら敬子も和と同じマイペース属性のようだ。恐らく、和以上に他人の能力が効かないっぽい。

 

 そして、良く分からないのが美和。

 観測値は、一瞬16000点と出た。

 しかし、その後、カウンターが動き、>25000を示したり16000に戻ったりと、メーターの針が激しくブレているのだ。

 このような現象は初めてだ。

 三人とも力量をきちんと測れず、栄子の表情には不安の色が浮き出ていた。

 

 

 配牌の最中、敬子は毎度の如く綺亜羅高校応援歌を口ずさんでいた。

 これが聞こえてきた途端、栄子は、自分の身も心も敬子の中に吸い込まれてしまうような感覚に陥った。

 まるで人を好きにさせる催眠術にでもかけられているみたいだ。

「(何なの、これ?)」

 これも敬子の能力だ。

 こんな能力は初めてだ。このような相手に麻雀を打つのは、栄子としても初めてのことであった。

 

 いよいよ、東一局がスタートした。

 相変わらず、敬子の捨て牌は{東南西北}。

 そして、五巡目に

「リーチ!」

 敬子は{白}を切って先制リーチをかけた。

 

 栄子には理屈抜きで和了り牌が分かるので振り込むことは無いが、敬子を走らせると何処まで削られるかが分からない。

 何とかして敬子の和了りを阻止したいところだ。

 

 美和は、敬子の特性を知ってか、ここで字牌を切ってきた。

 和は、読むだけムダと開き直ったか、自分の手を進めて不要牌を切った。一先ずセーフ。

 次は栄子のツモ番だが、栄子が振り込むことは無い。

 

 そして、次は敬子の一発目のツモ番。

「(和了らないで!)」

 と栄子は祈ったが、基本的にKYな敬子の麻雀は他人の嫌な方向に物事を進める。

 当然、

「ツモ! 6000オール!」

 一発でハネ満ツモを決めてくれた。

 ただ、この瞬間、栄子の目には敬子の姿が麗しき人魚の姿に見えた。どうやら、これが敬子の能力の根源のようだ。

 

 東一局一本場、敬子の連荘。

 またもや敬子は、配牌の最中に綺亜羅高校応援歌を口ずさんでいた。

「(つまり、これは人魚の歌声ってことか。全ての人を魅了する歌声。だから、人を好きにさせる催眠術にでもかけられているように思えたんだ。)」

 栄子は、配牌に集中して敬子の歌声を意図的にシャットアウトした。

 

 この局は、

「ポン!」

 敬子が捨てた{西}を早々に和が鳴いた。

 さらに、

「チー!」

 和は美和が捨てた{1}を鳴いて{横123}と晒した。どうやら、敬子の親を流すために形振り構わずてを進めている感じだ。

 そして、

「ツモ。1100、2100。」

 西ドラ2を和了って、和は敬子の親を流した。

 栄子は、

「(あの歌声に惑わされずに、さっさと和了りに持って行けるところが凄いかも。)」

 と和の和了りに感心すると共に、能力キャンセル系の恐ろしさを改めて感じていた。



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百七十六本場:5位決定戦決着

 5位決定戦は東二局に突入した。

 美和の親。ドラは{9}。

 

 今回も敬子の捨て牌は、{東南西北}と相変わらず。一般的に言われている切り出し方を完全に無視している。

 マイペースゆえの独特な切り方だ。

 

 ただ、この局で最初に聴牌したのは敬子ではなく、

「リーチ!」

 もう一人のマイペース娘、デジタルの化身と名高い和だった。優れた牌効率を見せ、五巡目で聴牌すると、即刻先制リーチをかけてきた。

 栄子も敬子も美和も一発振込みは回避。

 

 和は、一発ツモにはならなかったが、

「ツモ。」

 数巡後に和了り牌を自らの手で引き当てた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三[⑤]⑥⑦2223456}  ツモ{1}  ドラ{9}  裏ドラ{二}

 

 {13467}の五面待ち。

「メンピンツモドラ2。2000、4000。」

 高めで平和が付く和了りだった。

 

 

 東三局、和の親。

 ここに来て、とうとう栄子がもっとも恐れていたことが起こった。

 三巡目に、

「リーチ!」

 別名女子高生ホイホイと呼ばれる美和が先制リーチをかけてきた。今や、女子高生雀士から咲以上に恐れられる能力者だ。

 

 ただ、某掲示板では、

『やっと美和様が動き出したと!』

『でも、綺亜羅の人魚もノドちゃんも期待できないじょ』

『不感症娘達なんか、ほっとけばイイし!』

『ドイツメンバーのみかんジュースだけは期待できるッス!』

『でも、一人だけじゃつまらないと思』

『つまらない未来しか見えへんで』

『ないないっ! そんなのっ!』

『そんなオカルトありえません』←誰だこいつ?

『そんなことより和ちゃんのオモチ画像をアップするのです!』

 今一つ盛り上がりに欠けていた。

 敬子と和は美女ランキングこそ高いが、みかんジュースと言う意味では、みんなの期待に応えてくれそうに無いからだ。

 

 数巡後、

「ツモ!」

 美和がメンピンツモドラ2を和了った。

 その直後、栄子は幻の世界に意識が飛ばされた。

 

 初めて経験する美和ワールド。

 粘液の付いた無数の巨大な触手が栄子に襲い掛かる。

 そして、触手は栄子を捕えると、その粘液で栄子の制服を溶かし始めた。その粘液は消化液なのだ。

 ただ、人体は溶かさない。飽くまでも溶かすのは衣類だけだ。幻の世界なのだから、そんなご都合主義がまかり通るのだろう。

 そして、栄子の肌が露わになると、胸や股間を激しく刺激する。

 …

 …

 …

 

 幻の世界の中で、既に体感時間は既に一時間。

「うあぁあ…。」

 思わず、現実世界の栄子は声を上げていた。

 

 ただ、美和ワールドに飛ばされたのは栄子だけだった。残念ながら、敬子と和には美和の能力が通じなかった。

 まあ、美和としても想定済みではあるが…。

 

 それから少しして、

「2000、4000!」

 栄子の耳に美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 それと同時に、栄子の意識は現実世界に戻された。

 

 栄子は、胸と股関を手で隠しながら赤面していた。今、自分は観衆の目の前で裸にされていると思えたからだ。

 しかし、制服は着ている。

「(なんなの、あれ?)」

 と言うか、溶かされていない。どうやら、あれは幻だったようだ。

 しかし、何と言う嫌な幻だろう。

 さすがに栄子でも、すぐさま平静を保てるような状況には無い。

 そんな最悪のコンディションで、栄子の親番が回ってきた。

 

 

 東四局、栄子の親。

 ところが、折角の親番なのに栄子は集中できずにいた。理由は言うまでもない。さっきの美和ワールドが原因だ。

 あの快楽への興味に意識がいってしまい、全然卓上が見えていなかったし、能力もキチンと発動していなかった。

 普段、優れた能力レーダーで他家の和了り牌を察知しているが故、そのレーダーが利かなくなると、全然相手の和了り牌が分からない。

 それどころか、聴牌気配すら拾えない。

 今の栄子は、そんな常態になっていた。

 

 そして、六巡目。

 誰からも聴牌を感じないこともあり、栄子が油断して切った{②}で、

「ロン!」

 美和が和了った。

「えっ?」

 振り込んだ事実を知らされ、栄子は一瞬驚いて大声を上げた。そして、その直後、再び彼女の意識は美和ワールドに飛ばされた。

 

 今回は、前回の続きから始まる。

 既に栄子の制服は完全に溶かされて全裸状態。

 手足は触手に捕えられて動けない状態。そこに、容赦なく粘液付きの無数の触手が栄子の性感帯を隈なく刺激する。

 もう、これ以上は頭が馬鹿になる。

 …

 …

 …

 

 そして、幻世界での体感時間が一時間を過ぎた頃、

「タンピン三色ドラ2。12000!」

 栄子の耳に、美和の点数申告の声が届いた。

 その直後、栄子の意識は現実世界に引き戻された。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:敬子 36900

 2位:美和 33900

 3位:和 27300

 4位:栄子 1900

 絶対ディフェンスの栄子がトビ直前まで削られた。栄子の能力を知る者からすれば、先ずあり得ないことだ。

 

 まさかの栄子の振り込みに、観戦室で対局を見ていたフレデリカは、

「(どう言うこと? それに、あの栄子が23000点以上も削られるなんて、普通ありえないでしょ?)」

 と心の中で大声を上げながら、驚きのあまり思わず立ち上がってしまった。

 咲や光にヤラれたのならともかく、まさか5位決定戦レベルの選手が栄子から20000点以上削るとは………。

 ニワカに信じ難い光景だ。

 

 

 南入した。

 南一局、敬子の親。

 配牌時に敬子が口ずさむ綺亜羅高校応援歌は、既に栄子の耳には届いていなかった。心ここにあらずといった状態だ。

 

 対局がスタートした。

 ただ、もはや栄子は惰性で打っていた。

 羞恥心や背徳感、そして忘れられない快感が頭の中を支配して、全然対局に集中できないのだ。

 

 そして、気が付くと、

「ロン!」

「えっ?」

 いつの間にか敬子に振り込んでいた。

「12000!」

 しかも親満だ。

 栄子にとっては、まさかの振り込み二連発であった。

 しかも、共に12000点である。

 こんなことは、彼女がフレデリカに出会い、能力麻雀に目覚めてからは初めてのことであった。

 

 ただ、敬子の最後の和了りを見せた時、美和は敬子の背後に巨大で恐ろしい何かの影を感じ取っていた。

 正体は分からない。ただ、恐るべきエネルギーを放っていた。

 

 観戦室にいたフレデリカも、その強大な何かを感じ取っていた。

 しかし、能力が停止した栄子は、至近距離にいながらも、その脅威を感じ取ることができないでいた。

 

 

 これで、点数と順位は、

 1位:敬子 48900

 2位:美和 33900

 3位:和 27300

 4位:栄子 -10100

 

 この記録は、栄子だけではなく、フレデリカにとっても衝撃的であった。

 世界大会のレギュラーレベルの選手でも栄子から18000点を削るのは厳しい。それは昨年の世界大会でも立証されている。

 だからこそ栄子は、自分の点数をギリギリまで削らせて、最後に『リラの鉄槌』と呼ばれる超逆転劇を演じることが出来るのだ。

 

 しかし、その栄子が35100点も削られたのだ。

 フレデリカは大急ぎでノートパソコンを立ち上げると、この対局結果をニーマンやドイツの仲間達宛にメールで送信した。

 

 

 以上の結果、5位から16位の順位は以下のとおりになった。

 

 5位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:園田栄子(風越女子高校)

 9位:神代蒔乃(永水女子高校)

 10位:石見神楽(粕渕高校):中味は故 古津節子(元 綺亜羅高校)

 11位:石戸明星(永水女子高校)

 12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 14位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 15位:椋真尋(千里山女子高校)

 16位:夢乃マホ(千里山女子高校)

 

 

 そして、いよいよ決勝卓の対局が開始される。

 宮永時代最後のインターハイの、まさに最後の対局である。

 

 決勝卓は25000点持ち30000点返しの半荘二回。百点棒は五捨六入で計算し、各半荘のスコアを出す。そして、そのトータルスコアで順位を決める。

 オカありだが、ウマはない。

 しかし、オカがある以上、半荘二回のいずれかで1位を取れないと優勝するのは極めて難しいだろう。

 

 半荘での1位の点数が同じ場合は、上家を1位、下家を2位とするが、二半荘のトータルスコアが同じ場合は同着とする。

 よって、春季大会個人戦と同様に同時優勝があり得る。

 

 また、昨年のインターハイ個人戦と同様に西入無し。

 つまり、全員が25000点のままオーラスを終えても対局終了となる。

 

 

 四人の選手が対局室に入場してきた。

 一人目は宮永照の後継者、大星淡(白糸台高校)。絶対安全圏やダブルリーチ、槓裏モロ乗りと言ったマルチタスクを有する。

 

 二人目は深山幽谷の化身、高鴨穏乃(阿知賀女子学院)。蔵王権現の力を宿し、他家の能力を無効化する。

 

 三人目は北欧の小さな巨人、宮永光(白糸台高校)。翻数上昇を特徴とする。春季大会個人戦では咲と同時優勝。

 

 そして四人目は、日本の守護神、点棒の魔術師、嶺の上の女王、悪魔の紋章などの多くの二つ名を有する宮永咲(阿知賀女子学院)。

 個人戦では1年生のインターハイ及び春季大会、2年生のインターハイ及び春季大会と四連続優勝。

 コクマでも1年生及び2年生で共にメンバーに選ばれ、共に優勝。

 団体戦では1年生のインターハイ及び春季大会、2年生のインターハイと三回連続優勝を果たし、2年生の春季大会では準優勝。

 歴代女子高生最強と呼ばれる。

 

 

 光は、卓に付くと、

「今回は、春季大会のようにはさせないからね!」

 と咲に言い放った。

 今度こそ咲に勝つ。その心意気で光の心の中は満ち溢れていた。

 

 

 場決めがされ、起家は淡、南家は穏乃、西家は咲、北家は光に決まった。

 この時、光は咲から嫌な空気を感じ取っていた。あの忌々しい力。プラスマイナスゼロのエネルギーだ。

 

 昨年のインターハイ個人戦では、咲は前半戦で自分だけ25000点持ちで、他家は全員30000点持ちの変則ルールのイメージで打って脳内でプラスマイナスゼロを達成。実際の点数では、咲が丁度30000点で1位だった。

 そして、後半戦では咲が起家となり、全員を25000点で終了した。これにより、起家の咲のみ+15、他は全員-5と言う珍事が起き、トータルで咲のみがプラスとなり、咲が優勝した。

 

 春季大会でも、咲は前半戦では完全なプラスマイナスゼロを演じ、後半戦では、恐らく昨年インターハイと同様に自分だけ25000点持ち、他家は30000点持ちのイメージで打って脳内でプラスマイナスゼロを達成していたと思われる。

 しかも、その際に他家の点数まで調整し、咲と光が同時優勝、穏乃と淡が同時3位になるように作り上げた。

 加えて、その時の素点の合計は、咲と光では咲が、穏乃と淡では穏乃が共に100点多い状態。

 つまり、

 阿知賀女子学院 > 白糸台高校

 の図式まで作り上げた。本当に癪に障ることを平然とやってくれる。

 

 今回、この悪魔は、いったい何をやらかしてくれるのだろうか?

 少なくとも、完全プラスマイナスゼロでは、咲は勝ちを諦めることになる。なので、恐らく仮想プラスマイナスゼロで勝ちを狙うだろう。

 ならば、咲が厳密に何をしようとしているのか、どんな仮想プラスマイナスゼロを仕掛けてくるのか、東場のうちに見抜いておく必要がある。

 光は、そう考えていた。

 

 

 東一局、淡の親。

 いつものように絶対安全圏が発動する。

 淡のみ軽い手で、他家は軒並み六向聴になる。他家には最悪の配牌を強要する、実にイヤラシイ能力だ。

 ここから、鳴きも含めてさっさと聴牌し、他家が聴牌する前に和了る。これが淡のスタイルだ。

 

 ただ、咲も光も淡には中々鳴かせてくれない。淡には、どんなことがあっても絶対安全圏内に聴牌させたくないからだ。

 しかし、

「ポン!」

 四巡目に淡は、穏乃が捨てた{發}を鳴いた。穏乃としても、自らの手を進めるために、どうしても{發}を処理したかったのだ。

 

 そして、その二巡後に、

「ツモ。發ドラ3。3900オール!」

 親満級の手を淡がツモ和了りした。

 赤牌入りの場合、リーチをかけなくても全部でドラが8枚ある。なので、ドラを3枚含む和了りも決して珍しくは無い。

 ドラが多い分、和了った者勝ちな面が大きいとも言えよう。

 

 東一局一本場、淡の連荘。サイの目は9。ドラは{3}。

 ここでも当然、絶対安全圏は健在である。基本的に、無効化されない限り淡は絶対安全圏を使い続ける。

 また、今回、淡はダブルリーチの能力も併用した。

 

 しかし、最後の角の後にツモ牌が四枚しかない切れ方………最後の角が二番目に深い切れ方である。

 当然、ダブルリーチは見送って、ここから和了り役のある形に切り替えてゆく。

 

 淡の配牌は、

 {二三四七七七①②③⑤⑤79北}

 

 一先ず、ここから打{北}で聴牌に取った。

 

 二巡目、ツモ{④}、打{①}で聴牌維持。

 

 三巡目、ツモ{[5]}、打{9}で嵌{6}待ちのタンヤオドラ1に手を変えた。

 

 四巡目、ツモ{4}、打{7}で{36}の両面待ちに切り替え。{3}が来ればドラ2の手。

 

 五巡目、{⑨}をツモ切り。

 

 六巡目、{中}をツモ切り。この巡目で、最悪の場合、他家の誰かが聴牌する。

 

 そして、七巡目。

 ここで淡は幸運にもドラの{3}を引いた。

 

「ツモ! タンヤオドラ2。3900オールの一本場は4000オール!」

 これで淡は親満級の手を二連続で和了り、48700点の断然トップとなった。

 

 しかし、相手は咲に光に穏乃。

 淡は、

「(こんなの、リードのうちに入らない!)」

 現状に満足せず、まだまだ貪欲に稼ぐ姿勢を崩さなかった。



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百七十七本場:サキってば、ズッコイ!

 インターハイ個人決勝前半戦は東一局二本場。

 淡の連荘。ドラは{4}。

 ここで、場に靄がかかってきた。

 団体戦でもそうだったが、最後のインターハイと言うことで穏乃の能力もパワーアップしているのだろう。

「(もう来たの、シズノ?)」

 さすがに淡も、イヤな表情が顔に出た。

 いつもなら早くて東四局から現れてくる穏乃の支配力が、もう卓上を覆っている。

 初美じゃないが、

『ないないっ…! そんなのっ…!』

 と言いたくなる。

 

 淡は、絶対安全圏とダブルリーチの能力を発動した。

 しかし、その力は穏乃の無効化能力によって弱められており、他家を四向聴に落とし込むのが限界になっていた。

 また、淡自身も配牌で聴牌できておらず、一向聴になっていた。

 

 淡の配牌は、

 {三四五五六七⑦⑨1119北中}

 

「(やっぱり、こいつムカつく。でも、私は絶対に諦めない。ここからも、さらに和了って見せる!)」

 それでも、淡は決して勝つ気力を失わない。この逆境を跳ね除けて何とか和了りまで持って行き、さらにリードを広げたい。

 

 先ずは打{北}。

 ところが、

「(なにこれ?)」

 何故か、その後、淡には、

 {南西白発①}

 と不要なヤオチュウ牌が連続で来るだけで、六巡目を迎えても、『まったくもって』聴牌することができなかった。

 

 八巡目になって、漸く淡は役無しだが聴牌できた。

 淡の手は、

 {三四五五六七⑤⑦⑨1119}  ツモ{9}

 

 しかし、そこで切った{⑨}で、

「ロン。平和三色ドラ3。12300!」

 

 開かれた穏乃の手牌は、

 {四五六九九④[⑤]⑥⑦⑧4[5]6}  ロン{⑨}  ドラ{4}

 

 {③⑥⑨}の三面聴で、高目への振り込みだった。

 これは、淡にとって非常に痛い一撃となった。

 

 

 東二局、穏乃の親。ドラは{⑥}。

 既に卓上は濃霧で覆われ、場はシンと静まり返っている。完全に深山幽谷の世界。穏乃の能力が卓上を支配している。

 淡のダブルリーチの能力は、前局同様にキャンセルされた。

 当然、絶対安全圏も崩れている。

 

 ところが、六巡目に、急に濃霧が卓上から消えた。強大な力で濃霧が足元付近まで引き下げられたのだ

 まさにこれは、雲の上の世界。

 森林限界の遥か上、標高3000メートルを超えた世界だ。

『頭を雲の上に出し』

 とは良く言ったものだ。

 

 しかし、こんな場所にも好んで生息する多年草………高山植物は存在する。特に冷涼多湿の環境に適応したモノ達だ。

 勿論、それらも立派に花を咲かせる。むしろ、高山植物の方が綺麗な花を咲かせる品種が多いかもしれない。

 

 そして、それらの花を代弁するが如く、

「カン!」

 咲は{南}を暗槓すると、

「ツモ!」

 当たり前のように嶺上開花を決めた。完全に狙って和了った雰囲気が、アリアリと感じられる。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①①①⑧⑧57}  暗槓{裏南南裏}  ツモ{6}  ドラ{⑥}  槓ドラ{9}

 

「ツモ南嶺上開花。70符3翻は、2000、4000!」

 しかも符ハネで満貫である。

 これで咲は原点に復帰した。

 

 

 東三局、咲の親。

 再び濃霧が卓上を覆った。配牌時に、穏乃の能力が全開にされている。

 これでは絶対安全圏は機能しないしダブルリーチの能力も殺される。淡にとっては踏んだり蹴ったりの状態だ。

 

 ところが、配牌の後、数巡が過ぎると、前局のように濃霧が足元付近まで引き下げられた。つまり卓は山頂の景色に変わり、穏乃の能力支配は失われていた。

 こんなことができるのは咲しかいない。

 つまり、今は咲が場を支配していると言えるだろう。

 

「(もしかして、これ?)」

 淡は、敢えて咲が配牌時を穏乃に支配させていることに気が付いた。つまり、咲は穏乃を使って淡の絶対安全圏とダブルリーチを防がせているのだ。

 その後に、咲は自分の能力で場を支配する作戦に出ているに違いない。

 なんて腹黒いヤツだ!

 思わず淡は、

「(サキってば、ズッコイ!)」

 と心の中で声を漏らした。

 しかし、これも作戦のうちである。

 

 咲は、他家の能力を上手に利用する。

 その際に、正の干渉をして相手の能力を強めたり、負の干渉をして相手の能力を抑えたりもする。

 本当に器用な打ち手だ。

 

 そして、この瞬間は、穏乃の支配を自らの能力で押さえつけ、

「カン!」

 咲は自分の麻雀を展開する。

 副露されたのは{西}の暗槓。

 そして、当然の如く、

「ツモ!」

 嶺上開花で咲は和了った。

 普通では有り得ない二連続嶺上開花である。確率的には非常にレアな現象であろう。

 そもそも嶺上開花自体が、出やすい役満よりも出現率が低いとされているのだ。常人では二連続嶺上開花など100%有り得ないと言えよう。

 もっとも、これが日常茶飯事だからこそ、咲は人々に『嶺の上の女王』とか『奇蹟の闘牌』と呼ばれるのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五五④④⑤⑥⑥}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{8}  槓ドラ{南}

 

「ツモ一盃口嶺上開花赤1。4000オール!」

 しかも親満。

 これで咲は淡を抜いてトップに立った。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 現在の順位と得点は、

 1位:咲 37100

 2位:淡 30400

 3位:穏乃 21400

 4位:光 11100

 光が、まさかのヤキトリで最下位。

 

 しかし、

「(咲の親を流す!)」

 ここで光は気合を入れ直した。

 ただ、すぐさま能力を全開にはしない。

 能力を常に最大放出していたら、途中で息切れして最後まで持たない。力を使うにもタイミングと言うものがある。

 

 配牌時点では、毎度の如く淡が絶対安全圏とダブルリーチの能力を発揮し、これを穏乃の能力が抑止する。

 それによって、淡は配牌聴牌にはならないが、配牌で一向聴から二向聴の、一般人からすれば非常に良い配牌になる。

 また、絶対安全圏は崩されるが、それでも中途半端には効くので、他家は配牌四向聴程度にはなる。

 

 その後、咲の能力が場を支配し、穏乃の山支配は崩れる。

 ここで光は、咲に横槍を入れるかのように、強力な支配力を放出し始めた。

 つまり、咲が穏乃の上前を撥ねる(?)ような作戦に出ているのに習って、光も咲の上前を撥ねてやろうとの魂胆だ。

 それに、咲だって、この面子を相手に始終能力で押さえつけるのは不可能だ。どこかで瞬間的にパワーダウンするはず。

 まさに、それがこの局と光の直感が告げていた。

 

 そして、光は次々と有効牌を引き入れて、

「ツモ。タンピンドラ2。2100、4100!」

 いきなり出和了り役が2翻となったが、満貫手をツモ和了りした。

 一先ず、これで100点差とは言え、光は3位に浮上した。

 

 

 東四局、光の親。

 通常、第一弾の和了りを決めると、光の手は良くなる。

 しかし、穏乃の山支配で弱められているとは言え、淡の絶対安全圏が中途半端に効いている状態では、いきなり二向聴以上の好配牌は有り得ないようだ。

 

 今回、光の配牌は、

 {一二三六九⑦⑧135西北白白}

 

 三向聴。

 前局の四向聴よりは少しだけマシになったが、恐らく、この面子では、これ以上の配牌は望めないのだろう。

 

 決め打ちでチャンタを狙うか、それとも西北から切り出してツモの流れに従うかは人によって主張が異なると思う。

 ただ、光は翻数上昇の縛りがある。

 なので、白チャンタを狙うしか無い。

 ここから迷わず打{六}。

 

 光が第一打牌を切った直後、急激に咲の支配力が上がって行った。そのパワーは、前局を遥かに凌ぐ。

 もしかして、ここでの和了り………つまり、光の連荘潰しを想定して、咲は力を溜めていたのだろうか?

 

 光は、最初の二回のツモで、

 ツモ{2}、打{5}。

 ツモ{白}、打{北}。

 と連続で有効牌を引いた。

 

 この段階で光の手牌は、

 {一二三九⑦⑧123西白白白}

 の一向聴。

 

 ところが、この光が捨てた{北}を、

「ポン!」

 咲が鳴くと、流れが崩されたためか、次のツモから光は最後のピース………{⑨}が来なくなった。

 第一弾の和了を決めたにも拘らず、光の手は、一向聴まで進めたところで止まってしまったのだ。

 

 普段であれば、すぐさま{⑨}を引いて白チャンタを聴牌し、{九}または{西}で待つところだが、何故か今回は、そうならない。

 完全に咲の支配力によって、手の動きが抑止されてしまっているようだ。

 

 その三巡後、光は{中}をツモ切り。

 すると、これを、

「ポン!」

 またもや咲に鳴かれた。

 これにより、本来であれば、その次巡で光にくるはずの{⑨}が咲に回った。

 そして、

「カン!」

 咲は、{⑨}を暗槓すると、

「ツモ!」

 またもや嶺上開花で和了った。

 

 まさに、この和了りは、光の手とは紙一重の差であった。

 もし、一巡前に光が切ったのが{中}ではなく{西}であれば、状況は全然違っていたかもしれないのだ。

 そのことを光は、咲の手牌を見て知らされた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {九九九①}  暗槓{裏⑨⑨裏}  ポン{中中横中}  ポン{北北横北}  ツモ{①}

 

「中北混老対々嶺上開花。3000、6000!」

 ハネ満ツモだ。

 

 光が先に{西}を切っていたら咲は鳴けなかった。そして、光は{⑨}をツモって聴牌できたはずだ。

 その後に光が{中}を切った場合、恐らく咲は鳴いて{①}単騎で聴牌。{九}を切ったなら咲は大明槓を仕掛けて嶺上牌の{①}を引き、{①}と{中}のシャボ待ちで聴牌しただろう。

 そこから先は、光と咲の、どちらが和了り牌を掴むかのめくり合いの勝負になる。当然、ツモ次第では光に軍配が上がったかもしれない。

 全ては{中}のツモ切りが、この局の敗因だ。

 悔やまれる選択ミスである。

 

 これで、順位と得点は、

 1位:咲 45000

 2位:淡 25300

 3位:穏乃 20300

 4位:光 12400

 

 プラスマイナスゼロのオーラを出していた割には、咲の点数が高い。

 これを見て光は、

「(全員に8000点ずつ配った状態………。これって、咲だけ1000点で他家は全員33000点スタートの仮想プラマイゼロか!?)」

 咲のやろうとしていることを100%理解した。

 この方法は、以前、和から聞いたヤツだ。

 その発案者は、咲が1年生の時、当時の清澄高校麻雀部部長にて学生議会長だった竹井久。狡猾な策士だ。

 

 もし、このパターンでの仮想プラスマイナスゼロが達成されると、咲の得点は54000点前後となる。

 余程のことがなければトップ確実の点数だ。

 本当にイヤな戦略を咲に教え込んでくれたものだ。

 

 ただ、それで行くと、咲の脳内では東一局で箱割れしていることになる。恐らく、咲自身はトビ無しルールのつもりで打っているのかも知れない。

 

 

 南入した。

 南一局、親は淡。

 淡は、東一局以降、全然和了れていない。

 やはり、一番の問題は穏乃との相性の悪さだろう。しかも、よりによって、その穏乃を咲が利用して来ている。

 

 穏乃としても、利用されるだけでは癪だろう。

 かと言って、淡の絶対安全圏やダブルリーチの能力をキャンセルしなければ、淡が暴れてしまうかも知れない。

 それはそれで困る。

 なので、穏乃としても咲に利用されざるを得ない部分はあるのだろう。

 

 今回も淡の配牌は二向聴。

 これならダブルリーチの能力を使っても使わなくても一緒だ。

 

 淡以外は三から四向聴。

 これだと、絶対安全圏が中途半端に効いているのか、完全にキャンセルされているのか微妙なところに思える。

 

 ただ、この局では、前局とは違って卓上にかかった濃霧の位置が変わることなく、ずっと卓上を覆っていた。

 もしかして、咲は前局で能力を強く放出したため、ここでは支配力が落ちているのか?

 ただ、そうなると穏乃の力と光の力が場の支配を巡って拮抗する。

 淡も何とかしたいのだが、穏乃と光の力に押さえつけられて、自分本来の力を発揮できていない。

 

 穏乃の背後に火焔が見えた。

 とうとう、穏乃のパワーが最高潮に達したようだ。

 しかし、光のパワーで押されていたためであろうか?

「ツモ!」

 穏乃が競り勝って和了ったのだが、

「1000、2000。」

 然程、点数は高くなかった。

 親の淡としては、正直ホッとした。これで淡は原点を割ったが23300点である。大きなマイナスではない。

 

 一方の光は、

「(ここから何とか巻き返さないと…。)」

 両手で了頬を叩いて気合を入れ直した。

 東一局一本場で淡に親満級の手をツモ和了りされて以降、光は、ずっと20000点を割ったままである。

 しかも、東三局一本場で、一度は3位に浮上したが、それ以外はずっと最下位なのだ。

 

『ここから連続で和了って、今度こそ咲に勝つ!』

 光は、心の中で大声を張り上げながら、そう自分に言い聞かせた。



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百七十八本場:回想

 インターハイ個人決勝前半戦は南二局に突入した。

 親は穏乃。ドラは{②}。

 

 今回、光の配牌は三向聴。

 絶対安全圏は、一応発動しているが、穏乃の力で弱められて中途半端に効いている。そこに光のパワーが上乗せされて三向聴まで改善されているのだろう。

 ここから光は、パワー全開で挑む。

 三局連続で満貫を和了れば咲を逆転できるはず。それで、このラスト三局に全てを賭けることにした。

 

 咲の力が弱まっているのか、それとも咲が光に正の干渉をしているのか分からないが、光は一切のムダツモ無しで聴牌した。

 三向聴から、まさかの三巡目での聴牌である。

 

 光の手牌は、

 {二三四[五]六②②④[⑤]⑥135}  ツモ{2}

 

 ここから打{5}。

 そして、その直後に淡が切った{一}で、

「ロン。平和ドラ4。8000!」

 満貫を直取りした。

 これで光は、ラスから一気に2位に浮上。淡と立場が逆転した。

 

 

 南三局、咲の親。

 光は第一弾の和了りを決めると、配牌もツモも良くなる。

 ただ、絶対安全圏が中途半端に効いている今、配牌は前回と同様に三向聴だった。

 そして、ツモも前局同様に三連続ムダツモ無し。

 正直、前局と余り代わり映えはしていない感じだ。

 この局が改善されなかったと言うよりも、むしろ前局が第一弾の和了りを決める前であったにも拘らず状態が良かったと考えるべきだろう。

 

 そのまま光は勢いに身を任せ、

「ツモ! タンピンツモドラ3。3000、6000!」

 ハネ満をツモ和了りした。

 しかも、咲に親かぶりさせたのは大きい。

 

 これで、順位と得点は、

 1位:咲 38000

 2位:光 32400

 3位:穏乃 17300

 4位:淡 12300

 

 咲と光の点差は5600点。それこそ、光は2000オールをツモ和了りできれば咲を抜いてトップで後半戦に折り返せる。

 7700の出和了りでも良い。

 当然、光の士気は上がった。

 

 ところが、点棒の受け渡しの直後、咲のオーラが急激に巨大に膨れ上がった。どうやら南入してから、ずっと咲は自らをセーブして力を溜めていたようだ。

 それを、ここに来て一気に放出する気なのだだろう。

 

 

 オーラス、光の親。

 光に配牌は、六向聴に戻された。

 絶対安全圏に対して咲が正の干渉をしているようだ。

 勿論、穏乃も六向聴。

 そして、淡も何故か六向聴にされていた。咲は、絶対安全圏だけではなく、穏乃の山支配にも同時に正の干渉をしているのだろう。

 ただ、自分の配牌の向聴数を守る方には能力を使っていなかったようだ。そのため、咲自身も六向聴だった。

 

 二巡目、

「ポン!」

 咲が、早々に対面の淡が捨てた{北}を鳴いた。

 これは咲にとって唯一の対子だった牌だ。しかも自風である。咲にとっては、ラッキーであろう。

 その後、淡、穏乃、光は配牌にツモがかみ合わない状態が続いたが、咲だけは超鬼ツモで手を作り上げていった。

 もの凄く不公平感極まりないであろう。

 

 そこから、さらに七巡後、

「カン!」

 咲が{⑧}を暗槓した。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 その王牌から掴んできた{北}を加槓した。

 さらに咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 三つ目の槓子………{2}の暗槓を副露し、続く三枚目の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {3344}  暗槓{裏22裏}  暗槓{裏⑧⑧裏}  明槓{北北横北北}  ツモ{4}

 

「北対々三暗刻三槓子嶺上開花。4000、8000!」

 倍満ツモであった。

 

 これで、順位と得点は、

 1位:咲 54000

 2位:光 24400

 3位:穏乃 13300

 4位:淡 8300

 

 光が予想したとおり、咲は全員に8000点ずつ渡した状態を仮定してのプラスマイナスゼロを達成した。

 これが、咲の脳内では、

 1位:光 32400

 2位:咲 30000

 3位:穏乃 21300

 4位:淡 16300

 となっているに違いない。

 

 ただ、現実は咲がトップである。

 これで前半戦のスコアは、

 1位:咲 +45

 2位:光 -6

 3位:穏乃 -17

 4位:淡 -22

 咲の大勝利であった。

 

 

 ここで一旦休憩に入った。

 咲は、この時、驚いた表情で自分の手を見詰めながら、

「(自分でも信じられないくらい凄く調子がイイ。敬ちゃんと美和ちゃんが言っていたことって、やっぱり本当なのかな?)」

 と心の中で呟いていた。

 

 

 ****************************************

 

 ******************************

 

 ********************

 

 

 それは、個人戦決勝トーナメントの二回戦終了直後まで遡る。

「あぁー。負けた負けた!」

 こう言ったのは美和。やはり、咲と穏乃と敬子の三人が相手では、まるっきり歯が立たない。

 

 美和は、今や全国の女子高生雀士に最も恐れられている雀士である。

 多分、咲よりも美和の方が恐れられているだろう。さすがに公衆の面前でアレを大量放出したがる女子高生は稀有であろう。

 喜んでいたのは、団体戦の二回戦と準決勝戦で綺亜羅高校と戦った蘭場台高校(全員がAV女優の名前)の選手くらいと言われている。

 もっとも、蘭場台高校の選手は、全員が人前で脱ぐのにも抵抗がないと噂されているようだが………。

 

「でも、こんなに稼げるんだったら、団体戦じゃプラマイゼロをやる必要って無かったんじゃない?」

 咲に、こう聞いてきたのは敬子。

「そんなこと無いよ。それに、三人とも強かったし。」

「こんな大勝利して、ちょっと嫌味に聞こえるぅ。」

「そうじゃないんだけど…。それに、これって実はプラマイゼロなんだよ。」

「こんな大勝利しておいて?」

「んーと。タネ明かしするとね、私だけ全員に8000点ずつ渡した状態を仮想してプラマイゼロで打ったんだ。」

「「はぁ?」」

 さすがに、美和も敬子も懐疑的な声を上げた。

 穏乃だけは、

「(やっぱりね。)」

 と表情で語っていたが………。

 

「これって、私が1年の時………清澄高校にいた時に、当時の部長からアドバイスされたことなんだよ。」

「「ふーん。」」

 そんなことを言われても、美和も敬子も信じられない。

 いや、信じる方がおかしい。

「でも、団体戦の時にはやってなかったじゃん?」

 再び敬子が咲に聞いた。

「団体戦は自分だけの勝負じゃないから、より支配力が強力なプラマイゼロ完全系にしたんだよ。みんなの点棒だからね。でも、個人戦は、負けても自分一人の負けだから応用バージョンで戦っただけだよ。」

「うーん…。まあ、一応信じてあげるけどさ。でも、他にも色々聞きたいな。咲ちゃんのそう言った裏話。」

「そうだね。敬子の言うとおりだね。」

「じゃあ、お昼、うちらと阿知賀で一緒に食べない? 色々お話しながら。」

「イイね、それ。午後の対局は綺亜羅と阿知賀の対戦は無いし、癒着とか思われる筋合いもないしさ。」

「ねえ、イイでしょ?」

 超絶美人顔の敬子が、咲に懇願の表情で迫ってくる。さすがの咲も、これをムゲにできるほどドライでは無い。

「わ…分かったよ。ええと、穏乃ちゃんもイイかな?」

「イイよ! じゃあ、憧達にも声をかけるね!」

 そう言いながら、穏乃は、むしろ嬉しそうな表情をしていた。彼女の場合は、単に大勢でいる方が好きなだけだが………。

 

 とまあ、こんな感じで阿知賀女子学院と綺亜羅高校の主だったメンバーで一緒に食事をする運びになった。

 場所は、会場に隣接する食堂。

 たまには、こう言った交流の場も良いかと、晴絵も恭子も賛同してくれた。

 

 最初のうちは、咲のプラスマイナスゼロの被害者達や、大放出系の被害者達の話で盛り上がっていた。

 ただ、途中で、

「宮永さんが人魚パワーを得たらどうなるかな?」

 と言う、超成績優秀な静香のちょっとした疑問が、綺亜羅高校メンバーの好奇心をくすぐった。

 しかも、綺亜羅高校のメンバーに強引にキスされた時には嫌がっていた敬子が、

「(正当な理由で咲とヤレる!)」

 と、まあ、むしろ積極的になっていた………と言うか、喜んでいる節があった。咲とするのは興味があるようだ。

 

「人魚パワーって?」

 と偏差値70が余裕な憧が聞いた。

 すると、偏差値75以上が余裕の静香が、

「宮永さんと高鴨さんは実際に敬子と打ったから分かると思うけど、敬子のパワーの根源が人魚パワーなのよ。」

 と答えた。

「でも、そん人魚パワーとサキがどう関係するの?」

「八百比丘尼伝説は知ってるでしょ?」

「人魚の肉を食べたら不老不死になったってヤツでしょ?」

「そう。まあ、敬子を食べるわけには行かないけどね。でも、敬子と直接でも間接でもイイからキスをすると常に絶好調状態でいられるようになるのよ。」

「嘘っぽいけど。」

「でも、ホントなのよ。鳴海が団体大将後半戦の直前に敬子のコップを間違って使ったら絶好調になって………。」

「あれね。急変したから凄いって思った。」

「あれで私達、気付いたのよ。もっとも、敬子のコップを使ったら指の骨折が早く直ったって人間もいたから、もっと私達も早く気付くべきだったんだけどね。それで、個人戦の前に全員が敬子から人魚パワーをもらったってわけ。」

 すると敬子が、

「あの時は、嫌がる私をムリヤリみんなで順番に…。ホント、集団レ○プだったわ。」

 と言いながら、軽く頬を膨らませていた。

 

 この話を聞いて憧は、

「(でも、団体戦の時に全員が覚醒していなくて助かった。もし覚醒されていたら、先鋒戦か中堅戦のどちらか綺亜羅に取られていたかも知れないもんね。そうしたら、綺亜羅が優勝だった。)」

 と、表情にこそ出さなかったが内心ホッとしていた。

 

 一方の咲は、

「たしかに、美和ちゃんも他の三人も団体戦の時よりもパワーがみなぎっている感じがするよ。」

 と言ったのだが………、ただ、この時、咲は自分が冗談半分ではなく本気でターゲットにされていることに気付いていなかった。

 正直、鈍い。

 

「なので、宮永さんが敬子の人魚パワーを受けたら、どんな麻雀を打つのか興味があってね。」

 こう言ったのは静香。

「たしかに、それは面白そう。」

 と狡猾な顔で言ったのは憧。

 

 そして、咲は周りに取り押さえられて、妙に喜ぶ敬子から人魚パワーを直接授かることになった。

 …

 …

 …

 

 

 ********************

 

 ******************************

 

 ****************************************

 

 

 たしかに身体の奥底から力が湧き上がってくる感じがある。

 今までも、こう言った感覚になったことが無いわけでは無い。しかし、毎回こんなに調子が良いわけではない。

 

 美和達の言うことは嘘ではなかった

 本当に、敬子には他人を絶好調にさせる不思議な力があるのだ。

 

 これと同じ頃、敬子もまた、身体の奥底から今までに無い力が湧き上がってくる感覚を受けていた。

「なんか、良く分からないけど、力がみなぎってくるんだよね。」

 すると、隣にいた美和が敬子に聞いた。

「五決のオーラスで敬子が和了った後に、敬子から、なんだか凄いエネルギーを感じたんだけど。もしかして、それ?」

「たしかに、あの時も、こんな感じがあった。」

「それって、もしかして咲ちゃんを絶好調にさせたのと同時に、敬子も何か咲ちゃんから貰ったんじゃない?」

「分からないけど…。でも、多分そんな気がする。」

 

 一年前に玄を急成長させた時のように、咲は他人の能力を引き出す力も併せ持っている。つまり、他人を開花させる。

 今回も咲は、敬子と直接接触したことで敬子の能力のうち、開花しきれていなかった分を開花させた。

 それによって咲は、敬子の中で眠っていた、美和が感じた強大な何かを目覚めさせたのだ。

 

 

 それから少しして決勝卓の四人が対局室に戻ってきた。

 全員が無言で卓に付き、場決めをした。

 

 起家は穏乃、南家は淡、西家と北家は、前半と同じで咲と光。この二人が本気なのが、場決めを見ただけでも良く分かる。

 そして、いよいよインターハイ最後の半荘が開始された。

 

 東一局、穏乃の親。ドラは{⑤}。サイの目は10。

 ここで一旦、前局で淡を苦しめた穏乃の山支配はリセットされる。そのため、絶対安全圏とダブルリーチの能力は復活する。

 

 この局、淡の配牌は、

 {三四五五六⑦⑨111南南北}

 

 ここに第一ツモで{四}を引いて聴牌。当然、打{北}だが、最後の山が深い位置にあるためダブルリーチは見送った。

 

 二巡目で穏乃が捨てた{南}を、

「ポン!」

 淡は鳴いて打{1}。これで、待ちは変わらないが役が付いた。{南}は淡の自風だ。

 

 その次巡、淡はツモ{[⑤]}、打{⑨}で待ちを変えることに成功。

 さらにその次のツモ番で{[五]}を引き入れ、手の中の{五}と入れ替えた。これで南ドラ3となった。

 

 そして、そこから三巡後、絶対安全圏最後の巡目で、淡は{⑥}を引き当てた。

「ツモ。南ドラ3。2000、3900。」

 いきなり満貫だ。幸先が良い。

 たしかに淡は、前半戦ではラスだったが、後半戦でトップが取れれば、後半戦での咲の点数如何では淡が優勝できる可能性はある。

 当然、淡は、相性の悪い穏乃の力が目覚める前に、一気に稼いでおきたい。ここでのスタートダッシュに全てを賭ける。



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百七十九本場:調整?

 インターハイ個人決勝後半戦は東二局に入った。

 親は淡。ドラは{③}。

 ここでも絶対安全圏とダブルリーチの能力は健在であった。

 

 しかも淡の配牌は、

 {三三三八九④⑤⑥1678東東}

 

 場風で自風の{東}が頭になっていた。前局と同じで、これが鳴ければ役が付く。

 淡は、ここから打{1}。今回もダブルリーチをかけすに役が付くのを狙う。

 

 三巡目、淡はツモ{③}打{⑥}でドラを一枚確保。

 

 四巡目、対面の光が捨てた{東}を、

「ポン!」

 淡は鳴いた。

 そして、ここから打{八}で{九}単騎待ちの聴牌で受けた。これで、配牌時点での待ちである辺{七}から待ちを変えることに成功した。

 ダブルリーチをかけた場合、淡は最後の角を超えないと和了れない縛りがある。

 それに従うなら、淡は辺{七}で待ち続けると、最後の角を超えないと和了れないことになる。それで待ちを敢えて変えたのだ。

 

 次巡、淡はツモ{[⑤]}、打{⑤}で、さらにドラを手に入れた。

 これで淡の手牌は、

 {三三三九③④[⑤]678}  ポン{東横東東}

 

 そして、その二巡後、

「ツモ!」

 淡は待望の{九}を引いてきた。

 ダブ東ドラ2の40符4翻の手。親満だ。

「4000オール!」

 これで、淡は、一気に44900点まで点数を伸ばした。

 

 

 東二局一本場、淡の連荘。ドラは{⑥}。

 ここで卓上に靄がかかってきた。前半戦でもそうだったが、穏乃のスイッチが入るのが早過ぎる。

 しかも前半戦と同じで、いきなり靄のレベルを超えている。一気に濃霧と呼ぶに相応しい状態にまで成長している。

 

 ダブルリーチの能力は、一応、発動していた。配牌で聴牌している。これなら、恐らく絶対安全圏も効いているだろう。

 

 ただ、淡の配牌は、

 {一一一六七八⑧⑨456北北}

 

 前局、前々局とは違って、アタマは役牌ではなかった。それに、チャンタに持って行くにもタンヤオに持って行くにも厳しい状態である。

 ここからリーチ以外で和了り役をどうやって作る?

 しかも、基本的に辺{⑦}から待ちを変えないと和了れないだろう。そう考えると淡にとっては、結構、厳しい配牌だった。

 

 淡の能力は、キャンセルこそされなかったが最高状態からは程遠い状態と言えよう。

 こいつらと卓を囲むと毎回思う。

 それこそ、前半戦でも感じていたことだ。

「(もう忌々しいったらありゃしない!)」

 しかし、そんなことを心の中で叫びつつも、淡の表情は楽しそうだった。

 

 穏乃との相性は最悪だ。宮永照でさえ破れなかった絶対安全圏を、穏乃は世界で唯一、破れる存在である。

 それに加えて、その穏乃の能力を利用し、しかも本人は穏乃の能力を受けないところにいるズッコイ奴もいる。

 自分より強いチームメイト………光も同卓している。

 そんな劣悪な環境の中で淡は勝利を目指す。

 

 正直、この中では自分が一番弱いだろう。

 しかし、自分よりも弱い人間を相手に100連勝するよりも、こいつらを相手に1勝でも挙げられた方がずっと嬉しい。

 それこそ、何万倍なんてオーダーでは無い。嬉しさ無限大である。

 もっと言ってしまえば、こいつらを相手にラスにならないだけでも自分を褒めてあげたいくらいだ。

 

 

 配牌を終えたが、濃霧は一向に晴れる気配がない。前半戦で咲が見せた山頂の風景に変わろうとしない。

 咲も光も本気を出していないのだろうか?

 それとも穏乃の力が瞬間的に咲や光を凌駕しているのだろうか?

 

 絶対安全圏内では、誰がどんなに足掻こうと、他家はツモと鳴きが合計六回ないと聴牌できないはず。

 故に、淡は絶対安全圏内で、さっさと和了りたい。

 しかし、穏乃の山支配が強烈で、淡は今ある聴牌形から別の役無し聴牌形にすら移行することができずにいた。

 せめて{七}や{5}が来てくれれば一盃口を狙ってみようとか思うところだが、来るのは『対子で持っている{北}』以外の字牌のみ。

 なので、淡は、どうにも動きようが無かった。

 

 八巡目、

「カン!」

 咲が{②}を暗槓した。

 これと同時に、卓上が山頂の風景に変わった。辺り一面が晴れ渡っている。

 そして、

「ツモ!」

 お約束どおりである。咲が嶺上開花で和了りを決めた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {二三四⑤⑥⑦⑧34[5]}  暗槓{裏②②裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{⑥}

 五筒開花。

 しかも、赤牌をツモっての和了りであった。

 

 咲は配牌で、

 {二四八②⑤⑧14東南西北白}

 

 ここから一切のムダツモなく、

 {三②②②⑥⑦3[5]}

 を引いて暗槓し、和了りへと持って行ったのだ。

「ツモ嶺上開花タンヤオドラ3! 3100、6100!」

 しかもハネ満である。

 まだ淡がトップであるが、淡と咲の点差は7500点。子の満貫一回で逆転される。

 それどころか、ここで咲に親が回る。

 淡にとっては非常に嫌な展開だ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{西}。

 ここでも配牌から序盤にかけて卓上に濃霧がかかっている。

 しかも、とうとうここで、淡は第一ツモで聴牌できなくなっていた。

「(ダブリーの能力が崩れたか。だとすると…。)」

 淡は、絶対安全圏も機能していない可能性があると覚悟した。

 つまり、ここからは他家が六巡以内に和了るかも知れない。

 

「カン!」

 咲が六巡目に{8}を暗槓してきた。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 当たり前のように、咲は{八}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然のように咲は嶺上開花を決めた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {⑤3345[5]}  暗槓{裏八八裏}  暗槓{裏88裏}  ツモ{[⑤]}

 

 またもや、赤牌での五筒開花だ。

「嶺上開花ツモタンヤオ一盃口ドラドラ。6000オール!」

 しかも親ハネ。

 

 これで現在の点数と順位は、

 1位:咲 49300

 2位:淡 32800

 3位:光 9900

 4位:穏乃 8000

 ここで淡は咲に逆転された。

 

 今回も光は咲からプラスマイナスゼロのオーラを感じていた。

 それでいて、咲の点数が50000点近い。

 だとすると答えは一つ。今回も前半戦と同様に、咲は全員に8000点ずつ配った状態を仮想してのプラスマイナスゼロを目指している。

 

 それともう一つ、光は咲から前半戦よりも強烈な支配を受けているように思えた。

 これは、光、淡、穏乃が咲から均等に受けている感じではない。光に向けて、より多くのオーラが咲から放出されているような気がする。

 それ故だろう。光は殆ど有効牌を引けずにいた。

 たしかにムダツモが多い時もある。

 しかし、ここまで酷いのは光としては滅多に無い。そもそも光自身は麻雀に対して運が強く、ムダツモが少ない方なのだ。

「(いくら咲でも、こんな強烈な支配は今までない。いったい、どうして?)」

 まさか咲が、敬子によって常に絶好調状態でいられるようにしてもらえているとは、さすがの光でも想像できなかった。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 ここでも、淡の絶対安全圏もダブルリーチもキャンセルされた。

 

 ちなみに穏乃は敬子から人魚パワーをもらっていない。憧が止めたからだ。

 いくら雀力が上がるとは言え、自分の目の前で穏乃が他の女性………しかも超絶美少女と直接接触するのは憧としても面白くない。

 それで憧が穏乃に人魚パワーが与えられるのを強く拒んだのだ。

 

 今、穏乃が単独で淡の能力を押さえ込んでいるのか、それとも咲が穏乃の能力に正の干渉を起こしているのかは分からない。

 いずれにせよ、結果的に淡の力は押さえ込まれていた。

 

 卓上には深い霧がかかったままだった。

 深山幽谷の世界。

 静まり返った寂しい雰囲気だ。

 しかも、それを背後から強大なエネルギーを放つ巨大な何かが覗いている。そんな不気味な雰囲気を出している。

 

 一向に晴れ上がる気配は無い。

 もっとも、咲は、ここからいきなり山頂の風景に状況を一変させてしまう力があるので展開は読めないと光は感じていたのだが………。

 しかし、中盤に入ってすぐ、穏乃の背後に火炎が見えた。

 その直後、

「ツモ。」

 穏乃が和了りを宣言した。

「タンピンツモドラ3。3100、6100。」

 それも大きい。ハネ満ツモだ。

 これで穏乃が3位に浮上し、光はダンラスとなった。

 

 

 穏乃の火焔は、非能力者には見ることができない。また、和のようにデジタル化を一種の能力として使う人間にも見えないだろう。

 しかし、能力者は直接対決していなくても感じ取ることができるし、テレビモニターを通じて見ることもできる。

 

 観戦室では、綺亜羅高校の面々が穏乃の火焔を、その目で捕らえていた。

 また、綺亜羅高校メンバーの中に、神楽が混ざっていた。

 神楽は粕渕高校メンバーが陣取っている場所から、一人離れて綺亜羅高校メンバーが陣取っている場所に来ていたのだが、これは言うまでもなく神楽に節子の霊が降りていたからであった。

「やっぱり、ここぞってところで決めてくるよね、高鴨さん。」

 こう言ったのは節子。

「だから、本当は人魚パワーを得た高鴨さんも見たかったんだけどね。残念だな。」

 これは美和の言葉。

 そして、その隣で敬子が、

「でも、いくら私がKYでも、あの新子さんの怖い視線には逆らえないもん。本当に殺されるかと思ったから。」

 と言いながらポップコーンを口いっぱいに頬張っていた。

 この敬子の姿を見て三銃士達は、

「「「(一応、美女ランキング2位なんだから、もっと上品に食べろよ!)」」」

 と思っていた。

 もっとも、自分が美人である自覚が無いのだから仕方が無いのだろうが………。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{二}。

 珍しく光が、後半戦では、まだヤキトリ状態である。当然、光からすれば、この親で第一弾の和了りを決めて、そのまま連荘で稼ぎたいところだ。

 しかし、咲の支配力が光に対して強く放たれている。

 三人均等ではない。

 明らかに光の和了りだけは完全に阻止しようとしているのが分かる。

 

 この局では、絶対安全圏とダブルリーチの能力が復活した。咲が穏乃の能力を押さえつけたのだ。

 珍しく卓上には靄がかかっていない。

 しかし、下手にダブルリーチはかけられない。ここには咲がいるからだ。

 ダブルリーチ槓裏4を成立させるためには淡自身が暗槓することになるが、淡は嶺上開花で和了れない。どうしても嶺上牌をツモ切りすることになる。

 ところが、嶺上牌は咲の有効牌または和了り牌である。下手をすれば淡は咲に槓振することになる。

 しかも、今大会は槓振が和了役として認められている。よって、淡が捨てた嶺上牌が咲の和了り牌であれば、役無し聴牌からでも和了られてしまうことになる。

 

 なので、今回も淡は、第一ツモを引いた時点での『役無し聴牌』状態から、『役有り聴牌』の形に移行させるのを狙う。

 基本的にダブルリーチ槓裏4になるはずの手である。ダブルリーチの能力を使った時の淡の配牌には、基本的にドラも赤牌もない。

 

 この局、淡の配牌は、

 {六六六七八九①②345南發}

 

 ここに第一ツモで{發}を引いて聴牌。ここから打{南}。

 次巡、淡はツモ{④}、打{①}。ツモ{⑥}、打{②}と続いた。

 

 ここで咲が{發}を切ってきた。

 淡にとっては、これを鳴けば和了り役がつく。安手確定ではあるが、

「ポン!」

 これを淡が鳴いた。ここから打{九}で嵌{⑤}待ちで聴牌。

 そして、その直後、咲がまさかの打{[⑤]}。赤牌切りである。

 さすがに赤牌は見逃したくない。

 淡は、

「ロン。發ドラ1。2000!」

 これで咲から直取りした。

 

 ただ、これを観戦室で見ていた人達は違和感を覚えていた。咲の手には{[⑤]}以外に切るべき牌………{北}とか、浮いた{⑨}とかがあったのだ。

 何故、先に{[⑤]}を切る必要があるのか?

『まさか差し込み?』

 と多くの人達が思った。

 それと同時に、

『点数調整?』

 と思ったが、何故、ここで2000点放出する必要があるのか、誰にも、その理由が分からなかった。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。ドラは{7}。

 ここでは、三人とも咲の支配力がドンドン上がって行くのを感じていた。

 しかし、今回は絶対安全圏を破られていないし、ダブルリーチの能力も機能していた。

 ここでも淡は、ダブルリーチをかけずに手変わりを目指した。

 しかし、(後半戦の)東二局一本場のように、役あり聴牌に持って行くのが厳しい配牌。ここからの役作りは結構時間がかかりそうだ。

 

 光は、相変わらず咲のオーラを強く受けている。

 そして、穏乃も能力の発動を阻害されている感じを受けていた。

 

 咲の捨て牌は、いきなりドラ。

 いったい何を考えているのか分からない。

 赤牌も出てきた。

 ただ、国士無双を狙っているわけではなさそうだ。ならば染め手か?

 ところが、淡がドラそばを切った直後、

「ロン!」

 咲が和了りを宣言した。

 ただ、開かれた手牌を見て、淡も光も唖然とした。

「七対子。1600。」

 ドラや赤牌を切って七対子のみだとは………。

 前局で2000点を淡に振り込んで、ここで1600点を取り返し、結果的に咲は淡に400点を渡したことになるのだが、まったくもって意味不明だ。

 点数調整の一環であることは想像がつく。しかし、何故、こんなことが必要なのかは、常人には理解できない。

 

 これで現在の点数と順位は、

 1位:咲 42800

 2位:淡 30100

 3位:光 20300

 4位:穏乃 6800

 

 もし、咲が前半戦と同じ54000点を狙うなら、今の点数が42800でも43200でも大差ないように思う。

 どちらのケースでも、12000点を取って1000点捨てれば良いだけだ。

 

 光も淡も穏乃も………、そして、この対局を見ている多くの人達も、その真意を三局後に理解することになる。



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百八十本場:真意

 インターハイ個人決勝後半戦は南二局に入った。

 親は淡。ドラは{六}。

 

 当然、淡は絶対安全圏もダブルリーチの能力も発動した。しかし、今回は前局とは違って、両方ともキャンセルされた。

 卓上には深い霧が立ち込めている。

 穏乃の能力が、卓上を完全に支配している証拠だ。

 

 シンと静まり返った寂しい空間。

 深い霧。

 まさしく穏乃が作り出す世界のはずだが、穏乃からすれば、どこかがおかしい雰囲気だ。どうも思うように支配できていない。

 

 どうやら、穏乃自身も手を作るのに苦労しているようだ。ツモが配牌に殆ど噛み合っていない感じだ。

 もっとも、まるっきり噛み合っていない光や淡よりは、多少はマシであるが、これでは早い手も高い手も望めない。

 恐らく、卓自体は穏乃が支配しているが、穏乃のツモに対しては咲の支配力が影響を及ぼしているのだろう。

 こうなると、全員の手が遅くなるし、聴牌できても手は安い。

 それに、和了れる可能性も格段に下がるだろう。最後の一枚を掴ませてもらえない可能性が極めて高い。

 

 

 中盤に入り、光も淡も穏乃から微かに聴牌気配を感じた。しかし、リーチはかけてこない。ダマ聴だ。

 穏乃自身、余りリーチをかける人間ではないが、今回は特に和了れる自信が無い。それで聴牌流局を視野に入れ、敢えて現状を維持していた。

 

 ところが、穏乃が牌を切り出した直後、急に穏乃に圧し掛かる重圧が消えた。咲の支配が溶けたのだ。

 その直後のツモで、

「ツモ。」

 穏乃は和了り牌を引き当て、手牌を開いた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一①②②③③⑨⑨2233}  ツモ{①}

 

 どこかで見たことのある和了り形だが………、今回はツモと七対子以外にはドラも何も無い。本当に七対子のみの手をツモ和了りしただけだ。

「800、1600。」

 一応、これで後半戦2位の淡とは5000点差まで詰め寄った。

 優勝を目指すのではなく、単に順位を上げることだけが目的なら、この和了りにも意味はあるかもしれない。

 

 たしかに後半戦だけなら、点数と順位は、

 1位:咲 42000 ⇒ 暫定+33

 2位:淡 28500 ⇒ 暫定-2

 3位:穏乃 23500 ⇒ 暫定-7

 4位:光 6000 ⇒ 暫定-24

 穏乃は、まだ3位である。

 

 ところが、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 暫定+78(前半戦+45)

 2位:穏乃 暫定-24(前半戦-17)

 2位:淡 暫定-24(前半戦-22)

 4位:光 暫定-30(前半戦-6)

 淡と穏乃は同点2位になるのだ。

 

 少なくとも、ここからあと二局、穏乃が連続で和了れば、穏乃の逆転優勝は難しくても単独準優勝は取れる。

 しかも、ここから先は、半荘の中で最も穏乃の支配が強くなる場面。阿知賀女子学院のワンツーフィニッシュの可能性が見えてきたと言える。

 

 

 南三局、咲の親番。ドラは{白}。

 ここでも淡の絶対安全圏とダブルリーチの能力はキャンセルされた。淡としては悔しい限りだが、それでも和了りは諦めない。

 淡だって、穏乃と同じで、ここから二連続で和了れば単独準優勝が取れるのだ。

 たしかにそれだと咲には順位負けするが、穏乃と光には勝てる。この面子を相手に準優勝だ。それだけでも大きな成果だ。

 それに、淡は世界大会のメンバーになれることを強く願っていた。

「(団体はベストフォーだし、個人戦も決勝進出できたから、多分、大丈夫だとは思うけど……)」

 

 昨年の世界大会で、淡はブロック決勝戦に次鋒として参戦した。

 しかし、そこでロシアのステラにトップを取るのを邪魔された。

 ステラは南三局とオーラスで、ラス確定の………しかも淡の和了りを邪魔したアタマハネを連続でジョージアのタチアナから安手を和了り、そのせいで淡は、たった200点差でルーマニアのエカテリーナに敗北したのだ。

 あの時は悔しくて涙が出た。

 日本チームに勝ち星を集中させないための作戦とは言え、淡には『まったくもって』納得できない対局になったのだ。

 今年こそは、世界大会で納得できる戦いをしたい。

 ロシアと当たるかは分からないが、もし当たったならば、ステラには目にモノを見せてやりたい。

 そう思っていたのだ。

 

 

 この局では、今まで光を押さえ付けていた咲のパワーが急に減弱した。オーラスに向けて力を溜めに出ているのだろうか?

 しかし、これは光にとって第一弾の和了りを決めるチャンスであった。

 

 光の立場からすれば、ここでツモ和了りすれば咲に親かぶりさせられるし、そのまま自分の親に突入できる。

 前半戦では、第二弾の和了りまで決めて光のラス親に突入したところ、咲に倍満をツモ和了りされた経緯がある。

 当然、今回も咲は、同様にオーラスでの和了りを狙うだろう。自分の優勝………一昨年夏から数えて夏春夏春夏の個人五連覇を決めるために。

 

 当然、光はそれを阻止したい。

 この南三局で和了り、続くラス親で連荘して逆転優勝を狙う。

 簡単に負けるつもりは無いし、これが白糸台高校の宮永光として打倒咲を掲げられる最後のチャンスなのだ。

 やはり最後は、光vs咲の戦いになると言うことか。

 

 光は、指先に力を込めて牌をツモった。自分の能力を最大限に発動し、次々と有効牌を引き入れた。

 配牌三向聴だった手が、たった三巡で聴牌した。

 

 この時の光の手牌は、

 {二三四[五]六②②③④[⑤]678}

 

 {一四七}待ちの三面聴。

 ここから、次巡で{七}を自力で引き当て

「ツモ! タンピンツモドラ2。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 38000 ⇒ 暫定+29

 2位:淡 26200 ⇒ 暫定-4

 3位:穏乃 21500 ⇒ 暫定-9

 4位:光 14000 ⇒ 暫定-16

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 暫定+74(前半戦+45)

 2位:光 暫定-22(前半戦-6)

 3位:穏乃 暫定-26(前半戦-17)

 3位:淡 暫定-26(前半戦-22)

 

 スコアとしてはマイナスだが、光が一応、単独2位に躍り出た。

 しかも、次は光の親番。

 仮にここから、親満ツモ和了りを一回、親ハネツモ和了りを二回達成できれば、後半戦の点数は、

 1位:光 62900 ⇒ +53

 2位:咲 21700 ⇒ -8

 3位:淡 10200 ⇒ -20

 4位:穏乃 5200 ⇒ -25

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:光 +47

 2位:咲 +37

 3位:穏乃 -42

 3位:淡 -42

 

 光が優勝できる。

 当然、親番では力を全て放出して連続和了りを目指す。咲の個人五連覇を絶対に阻止するのだ!

 

 

 オーラス、光の親。ドラは{③}。

 やはり、咲のオーラが今までに無いレベルで膨れ上がった。

 間違いなく、これはプラスマイナスゼロを狙った支配力、いや、強制力を発揮しようとしているのが光には分かる。

 

 ここに来て、淡の絶対安全圏が復活していた。咲の強制力が淡の能力に正の干渉をしたようだ。

 しかし、ダブルリーチの能力はキャンセルされた。

 それどころか、淡自身も六向聴にされていた。淡の配牌に対しては、穏乃の能力に対して咲が正の干渉をしていたのかも知れない。

 

 これで目出度く全員が配牌六向聴。

 

 親の光は、

 {二五八②[⑤]⑧⑨1247白發中}

 ヤオチュウ牌が五枚、その内、字牌が三枚しか来ていないのに最悪の配牌だ。

 ここから打{中}。

 

 穏乃の配牌は、

 {一四八九①⑥⑨1689白發}

 最悪の八種八牌。ただ、字牌は二枚しか来ていない。

 第一ツモは{一}で八種九牌。流すことができない。

 やむなく、ここから打{發}。

 

 淡の配牌は、

 {一三九①④⑦38東西白發中}

 こっちも最悪の八種八牌。ただ、光や穏乃と比べて字牌が多い。

 第一ツモは{東}で八種九牌。穏乃と同様に流すことができない。

 ここから、いっそのこと国士無双での大逆転狙いで打{④}。

 

 咲の配牌は、

 {二四七④⑥258南北白發中}

 第一ツモで引いたのは{南}。

 ここから、いきなり打{8}。

 

 

 ただ、この最悪な配牌にもかかわらず、全員が順調に手を伸ばして行った。

 そして八巡目。

 

 光の手牌は、

 {二三四[五]六②③④[⑤][⑤]234}

 

 高目なら三色がついて倍満だ。

 光には和了り役の翻数上昇が縛りになるため、平和タンヤオのみで和了ることはできない。そのため、ここでは、いきなり倍満を狙うことになる。

 

 穏乃の手牌は、

 {一一一九九九①①①⑨⑨11}

 

 一切のムダツモ無しで、奇蹟の清老頭聴牌まで持っていった。

 ツモ和了りなら四暗刻も付くが、個人戦ではダブル役満なしになっている。

 咲からの出和了りができれば穏乃が優勝である。

 しかし、咲が振り込むとは思えない。なので、穏乃の狙いはツモ和了りになる。

 ただ、これをツモ和了りしても、前後半戦のスコアトータルで咲を追い抜くことはできない。3位に大差をつけた準優勝になる。

 

 一方、淡の手牌は、

 {一九①⑨19東東西西白發中}

 

 国士無双一向聴だった。

 {南}か{北}をツモれば聴牌するのだが、どうしても引き入れることができないでいた。

 ただ、ここで国士無双をツモ和了りできても、穏乃と同様に前後半戦のスコアトータルで咲を追い抜くことはできない。

 飽くまでも3位に大差をつけた単独準優勝になる。

 とは言え、怪物光と相性最悪の穏乃に勝てる。当然、淡の士気は高まっていた。

 

 

 同巡、咲のツモ番。

 この時、咲の手牌は、

 {四四七七七④⑥南南南北北北}  ツモ{北}

 

 ここから咲は、

「カン!」

 自風の{北}を暗槓した。

 この瞬間、淡の国士無双聴牌は儚い夢で終わった。

 

 勿論、淡だけではない。

 この暗槓を副露する強大なエネルギーを感じて、光は、その強制力が回避不能であることを悟り、自ら手牌を伏せた。

 もう、自分のツモ番は無いと理解したのだ。

 

 嶺上牌は{七}。

 当然、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {七}を暗槓した。

 続く嶺上牌は{南}。咲は、これを引き入れると、

「もいっこ、カン!」

 三つ目の暗槓を副露し、三枚目の嶺上牌………{⑤}をツモった。

「ツモ。」

 

 開かれた手牌は、

 {四四④⑥}  暗槓{裏南南裏}  暗槓{裏七七裏}  暗槓{裏北北裏}  ツモ{⑤}

 

「ツモ南北三暗刻三槓子嶺上開花。4000、8000です。」

 前半戦に続き、後半戦でも咲は最後に倍満ツモを決めた。やはり、敬子から人魚パワーをもらった咲の強制力には誰も抗うことが許されなかったようだ。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 54000 ⇒ +45

 2位:淡 22500 ⇒ -8

 3位:穏乃 17500 ⇒ -13

 4位:光 6000 ⇒ -24

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 +90(前半戦+45)

 2位:穏乃 -30(前半戦-17)

 2位:淡 -30(前半戦-22)

 2位:光 -30(前半戦-6)

 

 咲以外は全員が-30の横並び。つまり、咲が優勝で、他三名は準優勝となった。

 ただ、獲得素点では、

 1位:咲 108000

 2位:穏乃 30800

 2位:淡 30800

 4位:光 30400

 

 穏乃と淡が同着で光が4位となる。

 本来であれば、咲は穏乃と淡と光の獲得素点も同じにしたかったのだが、咲が前後半戦共に54000丁度を目指した以上、他の三人の獲得素点の同点はありえない。

 それで、

『春季は同着優勝だったからイイよね!』

 と、光の獲得素点だけ少し低めに設定したようだ。

 当然、こんな点数調整をされて光と淡がプルプルと震え出したのは言うまでもない。

 

 

 対局室で、表彰式が行われた

 表彰式には、5位から16位の選手達も呼ばれていた。当然、彼女達にも入賞の賞状が授与されることになっている。

 先に5位から16位の選手まで、下位から順に賞状が授与された。5位以下の順位は以下のとおりである。

 

 5位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:園田栄子(風越女子高校)

 9位:神代蒔乃(永水女子高校)

 10位:石見神楽(粕渕高校):中味は故 古津節子(元 綺亜羅高校)

 11位:石戸明星(永水女子高校)

 12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 14位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 15位:椋真尋(千里山女子高校)

 16位:夢乃マホ(千里山女子高校)

 

 

 続いて穏乃と淡と光が表彰された。

 個人戦のメダルは、春季大会の時と同じで金銀銅を一つずつしか用意されていなかったため、一先ず穏乃の首に銀メダルがかけられ、淡にトロフィー、光に賞状が手渡された。

 後日、三人にはメダルとトロフィーと賞状がセットで送付されるとのことだ。

 

 最後に優勝者である咲が表彰された。

 一昨年のインターハイから数えて夏春夏春夏の個人戦五連覇の大偉業である。

 

 

 表彰式の間、光と淡は笑顔を見せながらも身体が小刻みに震え続けていたのは言うまでもない。完全に春季大会個人戦の表彰式と同じである。

 まさか、三人準優勝と言う奇跡を誰かさんが作り出すとは………。

 結局、打倒宮永咲を達成できずに最後のインターハイも終わった。

 

 光は、

「(この恨みは国民麻雀大会で晴らす!)」

 と心の中で大声を張り上げていた。

 

 

 これで、宮永照の高校デビューから始まり、長きに渡って繰り広げられた宮永時代が終結する。もう、宮永時代での各校対決の公式試合は無い。

 残すは、各都道府県対決の国民麻雀大会と、日本チームが一丸となって戦う世界大会を残すのみとなった。



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第六部:高校最後のコクマ~世界大会
百八十一本場:またまた国民麻雀大会1  話題の戦士達


 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 

 中高生徒一同が体育館に招集され、二学期の始業式が行われた。

 その場で、麻雀部のインターハイ団体戦優勝と咲の個人戦優勝が全校生徒の前で改めて表彰された。

 昨年も、そう言えば全く同じことがあった。

 

 団体戦ではインターハイ二連覇(咲は三連覇)。春季大会を入れれば合計三回(咲は四回)の全国優勝。

 個人戦では咲が全国五連覇の快挙。

 

 さらに今回は、咲が最優秀選手賞、宮永賞、複合役満賞、審査員特別賞の四つの賞を、穏乃が審査員特別賞を受賞しており、それらもこの場で紹介された。

 

 この間、体育館にはベートーベン作曲交響曲第三番変ホ長調op55『英雄』………シンフォニア・エロイカの第一楽章が流されていた。

 基本的に、これも昨年と同じパターンである。

 

 

 そして、9月半ばに入り、国民麻雀大会(コクマ)が行われた(この後、世界大会があるため、コクマは9月開催の設定です)。

 高校二年生と三年生がジュニアAリーグ、高校一年生と中学三年生がジュニアBリーグに区分され、各リーグで各都道府県の代表者がチームを組んで団体戦が行われる。

 奈良Aチームは阿知賀女子学院レギュラーメンバーが全員、コクマ代表に選ばれた。

 メンバーは、

 宮永咲(3年生:エース)

 高鴨穏乃(3年生:第二エース)

 新子憧(3年生:阿知賀女子学院部長)

 宇野沢美由紀(2年生:オモチの子)

 小走ゆい(2年生:阿知賀女子学院副部長)

 

 灼と玄に代わって、ゆいと美由紀が加わる形になるが、基本的に、これも去年と完全に同じパターンである。

 夏の個人県予選で1位から5位を占めているのだから当然と言えば当然だろう。

 

 

 一方の奈良Bチームは、夏休み中に各校から高校1年生と中学3年生を5名ずつ召集して選考会が行われた。麻雀が強いにもかかわらず公式試合への参加履歴を持たない選手が沢山埋もれている学校もあるからだ。

 その筆頭が阿知賀女子学院である。先輩達が強過ぎる。

 正直なところ、入学時点で魔物として開眼していない限り、1年生でレギュラーになるのは基本的にムリであろう。

 

 去年の奈良Bチームが勝てなかった理由は、そこまで頭が回らずに公式試合に出た選手の成績だけで決めていたことにある。

 今回は、それを反省してのメンバー選出だ。

 

 その結果、以下のメンバーが選ばれた。

 藤白亜紀(阿知賀女子学院1年生)

 水戸里美(阿知賀女子学院1年生)

 椿野美咲(阿知賀女子学院1年生)

 志崎綾(阿知賀女子学院中等部3年生)

 水戸仁美(阿知賀女子学院中等部3年生)

 

 結局、奈良魔物ツートップ………宮永咲と高鴨穏乃のお膝元から全員が選出される結果となった。

 今のところ、阿知賀女子学院中等部の麻雀部は阿知賀女子学院高等部の麻雀部とは別に部活動を行っている。

 さすがに、中学生に咲や穏乃と戦わせるわけには行かない。打たせたら間違いなくトラウマになってしまうだろう。

 それで、中等部のレギュラー陣だけ、二週に一回程度、高等部のメンバーと打つ機会を設けるだけで、基本的には別に活動させていた。

 

 とは言え、たとえそれが僅かな時間であっても、咲達と交流を持った者達は、それ相当のレベルに成長していたようだ。それで、綾も仁美も中学3年生で代表に選ばれるだけの力を付けていたと言えよう。

 

 

 ジュニアAリーグもジュニアBリーグも、ルールは同じである。

 100000点持ちの点数引継ぎ制で行われ、一回戦から決勝戦を通じて、全て先鋒戦から大将戦までを半荘一回勝負となる。

 北海道、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府は、各リーグで2チーム参加となり、他の府県では各リーグ1チームの参加となる。

 第一シードから第四シードの4チームのみが一回戦を免除され、他は全て一回戦からスタートする。なお、シードチームは昨年の1位から4位のチームが選ばれることになっている。

 

 一回戦のみ1位勝ち抜けとなり、実に一回戦だけで36チームが敗退することになる。

 また、二回戦、準決勝戦は上位2チームの勝ち抜けとなる。

 

 一回戦は初日の午前、二回戦は初日の午後に行われ、準決勝戦は二日目の午前、決勝戦は二日目の午後に執り行われる。

 

 赤ドラ四枚入りで大明槓からの責任払いあり。

 役満の包あり。

 ダブル役満以上ありだが、単独役満でのダブル役満は認められず複合役満のみダブル役満以上として扱う。

 槓振なし。

 和了りは、全てアタマハネを採用する。よって二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)は成立しない。

 

 

 奈良Bチームは、昨年とは違って決勝戦まで進出した。全員が咲達に鍛えられているだけのことはある。

 決勝戦は、千里山高校の椋千尋と夢乃マホをダブルエースとする大阪B1チーム、永水女子高校の神代蒔乃をエースとする鹿児島Bチーム、阿知賀女子学院の藤白亜紀をエースとする奈良Bチーム、そして東京B1チームの戦いとなった。

 

 先鋒戦は、千尋、蒔乃、亜紀の三つ巴の戦いとなった。魔物不在の東京B1チームの先鋒は、ただ魔物達に削られるだけの存在となった。

 

 当然だが、魔物達にも力の優劣は有る。

 ここでも蒔乃が降ろした最強神の力が圧倒的であった。

 最終的に蒔乃が東京B1チームの先鋒をトバし、先鋒戦で決着をつけ、ジュニアBリーグの優勝は鹿児島Bチームとなった。

 また、千尋は亜紀の背後の見える白亜紀最後の大量絶滅の光景に怯え、途中から支配力を失った。

 その結果、準優勝は奈良Bチーム、3位は大阪B1チームとなった。

 

 

 ジュニアAリーグでは、奈良Aチーム、東京A1チーム、埼玉チームが特に注目を集めていた。

 具体的には、奈良Aチーム先鋒の宮永咲と東京A1チーム先鋒の宮永光が、どれだけの選手を失禁させるか、そして、埼玉チーム先鋒の的井美和が何人の女子高生をイかせるかに注目が集まった。

 完全に麻雀などどうでも良い感じだった。

 もはや、

『どうせ優勝は奈良か東京A1のどっちかだよね』

 とみんなが思っており、決勝戦の結果だけは知りたいが、他は麻雀以外のところで楽しもうと考えている人間が多数派だったようだ。

 

 

 ちなみに奈良チーム(第一シード)のオーダーは

 先鋒:宮永咲

 次鋒:宇野沢美由紀

 中堅:新子憧

 副将:小走ゆい

 大将:高鴨穏乃

 この布陣で臨んだ。

 やはり点数引継ぎ型なのでエースは先鋒に配置された。

 

 

 東京A1チーム(第二シード)のオーダーは、

 先鋒:宮永光

 次鋒:大星淡

 中堅:原村和

 副将:佐々野みかん

 大将:多治比麻里香

 全員白糸台高校のメンバーで望んだ。

 しかも、基本的に強い順番に並べている。点数引継ぎ型なので、敢えてこのような布陣にしたようだ。

 

 臨海女子高校の片岡優希と南浦数絵は東京A2チームの方に入っていた。

 東京A1チームが第二シードになるため、東京A2チームは第一シードの下か第四シードの下に入ることになる。

 つまり、奈良Aチームと先に当たることになる。それで東京A2チームの先鋒に優希を配置し、優希が咲を徹底的に疲れさせることにした。

 その後、疲労した咲を決勝戦で光が倒し、東京A1チームが優勝すると言うストーリーを考えて、敢えて戦力を分散させたのだ。

 

 

 ちなみに東京A2チームのオーダーは、

 先鋒:片岡優希

 次鋒:南浦数絵

 中堅:松庵女学院の人

 副将:白糸台高校の補員

 大将:松庵女学院の人

 これで奈良チームを相手に足掻くだけ足掻く。

 

 

 また、注目の埼玉チームのオーダーは、

 先鋒:的井美和

 次鋒:稲輪敬子

 中堅:鬼島美誇人

 副将:鷲尾静香

 大将:竜崎鳴海

 こちらも奈良Aチームや東京A1チームと同様に、全員が綺亜羅高校のメンバーが選ばれていた。

 今回も順番は、次鋒から大将に関してはじゃんけんで決めていた。しかし、先鋒だけは県からの指示で美和になった。

 どうやら、美和ワールドで視聴率を稼ごうと言う魂胆で、大会運営側が県を通じて埼玉チームの監督に依頼したらしい。

 

 

 他の注目チームとしては、第三シードの鹿児島Aチーム。

 オーダーは以下のとおりであった。

 先鋒:石戸明星

 次鋒:滝見春

 中堅:東横桃子

 副将:狩宿萌(狩宿巴妹)

 大将:十曽湧

 全員が永水女子高校のメンバーで固めていた。

 また、東京A1チームとは異なり、明星、桃子、湧のトリプルエースを先鋒、中堅、大将に分散して配置していた。

 

 

 昨年の世界大会でドイツチームのメンバーであった園田栄子をエースとする長野チームも注目を集めていた。

 オーダーは以下のとおりであった。

 先鋒:園田栄子

 次鋒:文堂星夏

 中堅:児波美奈子

 副将:室橋裕子

 大将:東福寺高校の人

 

 

 そして、昨年の世界大会での優勝の立役者、石見神楽をエースとする島根チームも長野チームに勝るとも劣らず注目を集めていた。

 オーダーは以下のとおりであった。

 先鋒:石見神楽(粕渕高校)

 次鋒:坂根理沙(粕渕高校)

 中堅:緒方薫(粕渕高校)

 副将:石飛杏奈(石飛閑無の姪:朝酌女子高校)

 大将:稲村桃香(稲村杏果従姉妹:朝酌女子高校)

 

 

 第四シードの大阪A1チームは、残念ながら以前ほど注目されていなかった。二年前の超強豪チーム時代と比べると、かなり弱体化した感じが拭えない。

 昨年もエースの荒川憩だけで勝てた感じだ。

 来年、千尋とマホが2年生になってからが、大阪A1チームの本領発揮と言ったところであろう。

 

 

 シードチームが姿を現すのは大会初日の午後からだが、シードチーム以上に注目を集めている埼玉Aチームが一回戦から登場する。当然、高視聴率の対局となった。

 

 

 

 大会初日、一回戦第六試合、Bブロック(第四シード下)の対局は、埼玉Aチーム、青森Aチーム、滋賀Aチーム、長崎Aチームの試合。

 

 対局室に先鋒選手が姿を現した。

 青森、滋賀、長崎の先鋒選手達は、妙に不安な表情をしていた。

 それもそうであろう。今では、美和は咲よりも恐れられている。美和と打って無事に対局を終えられる選手は殆ど居ないからだ。

 

 場決めがされ、起家は美和、南家は滋賀の先鋒、西家は青森の先鋒、北家は長崎の先鋒に決まった。

 

 東一局、美和の親。

 インターハイ個人戦直前に、美和は敬子から人魚パワーをもらっていた。その力は、いまだ衰えることは無い。

 今日も美和は絶好調である。

 支配力と言う意味では格下の選手しかいない。なので、美和の調子を下げられる人間はここにはいなかった。

 そのため、

「リーチ!」

 美和は四巡目で先制リーチを仕掛け、

「ツモ!」

 その三巡後にツモ和了りした。

 

 青森、滋賀、長崎の先鋒選手達の意識が美和ワールドに飛ばされた。

 彼女達は、無数の巨大な触手に取り押さえられて、ムリヤリ宙吊り状態で『大の字』にさせられた。

 さらに沢山の触手が彼女達の身体に絡み付いてくる。

 それらの触手からは粘性を持った消化液が分泌され、人体には影響しないが衣類は全て溶かされる。

 そして、胸や股間を執拗に多数の触手が攻めまくる。

 

 この幻の世界の中で、彼女達は何回もイかされる。体感時間は約一時間。頭の中は完全にショートする。

 

 現実世界では、

「「「あぁん♡!」」」

 三人の妙に色っぽい声が、対局室にこだましている。

 

 某ネット掲示板では、

『美和様絶好調だじぇい!』←他の卓で試合中じゃないのか?

『これはスバラ三重奏です!』

『この未来は見えてたで! ここから他家は美和様に振り込みまくると予言するで!』

『姫子と変わらんと!』

『みかんジュースを流してナンボ、流してナンボですわ!』

『今日もみかんジュースが大量だよモー!』

『やっぱり美和様、最高ッス!』

『それにしても、的井美和の相手は、なんで何時もこうなるのだ?』←衣

『お子チャマは寝てろ!』←純

『衣は子供じゃなーい!』

『これがオモチの娘だったら素晴らしいのですが、この三人ではイマイチですのだ!』

『やっぱり霞ちゃんと戦わせてみたいですよー!』

『いっそのこと、露出狂のはっちゃんと戦わせてみたいですね』←霞

 結構賑わっていたようだ。

 

 

「4000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、青森、滋賀、長崎の先鋒選手達の意識が、快楽の世界………美和ワールドから現実世界に戻された。

 三人とも妙に恥ずかしい。

 公衆の面前で全裸にされ、長時間触手プレイを楽しまされた感覚である。恥ずかしくない方が、むしろおかしいだろう。

 

 しかし、彼女達に気持ちを入れ替える余裕など与えてもらえない。

 すぐさま、

「一本場!」

 美和は連荘を宣言した。

 

 東一局一本場。

 ここで美和は、タンピン三色ドラ3(表1赤2)を聴牌した。

 普通ならダマ聴であろう。

 しかし、美和は、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 そして、美和の下家………滋賀の先鋒が、美和の現物を持っているにも拘らず、無意識に和了り牌を切った。

 当然、

「ロン!」

 美和は、これを逃さずに和了った。

 

 滋賀先鋒選手の意識が再び美和ワールドに飛ばされた。

 一旦、この快楽の世界に入ってしまうと、大抵の選手は、さらなる快楽を求めて自ら罠に嵌って行く。

 今回の滋賀先鋒選手の振込みも、まさにそれであった。

 

 彼女の頭の中で展開される幻は、さっきからの続きである。

 既に身体は触手に捕えられて身動きが取れない。しかも全裸で胸も股間もさらけ出した状態。

 ここに無数の巨大な触手が攻めてくる。しかも、それらの触手は粘液だらけで、身体に触れると妙に気持ちが良い。

 脳みそが、完全に馬鹿になる。

 ドンドン快楽の底に落ちて行く。

 

 そして、美和ワールドでの体感時間として三時間ほどが過ぎた時、

「メンタンピン一発三色ドラ5(表1赤2裏2)。36300!」

 美和からの点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、滋賀先鋒選手の意識は現実世界に戻された。

 

 たった二局で、既に滋賀先鋒選手は40300点を失っている。25000点持ちなら、既に余裕で箱割れしている。

 それ以前に、さっきの親の三倍満だけで余裕で箱割れする。

 

 既に対局室にはニオイが充満しつつある。

 男性スタッフ達が、何故か前屈みになっている。

 

 恐るべき女子高生ホイホイ、的井美和の力である。

 しかし、まだ対局は中断されない。

 このまま対局は続く。

 

 東一局二本場。

 ここでも美和は容赦しない。

 {西北三横六}

 と切って、

「リーチ!」

 またもや先制リーチをかけてきた。

 

 滋賀先鋒選手は、今回は現物の{三}を切ってセーフ。

 しかし、西家の青森先鋒選手が切った{九}で、

「ロン!」

 美和は和了った。完全に筋引っ掛けだ。

 

 今度は、青森先鋒選手の意識が美和ワールドに飛ばされた。

 当然、展開されるエロは前回からの続き。しかも、体感時間は約三時間。

 こんな中にいたら、普通は頭がおかしくなる。

 完全に快楽に支配された世界。

 

 そして、

「リーチ一発七対ドラ4! 24600!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきて青森先鋒選手は我に返った。

 

 それにしても、恐ろしいほどのスタートダッシュである。

 既に美和は、70000点以上のプラスを叩き出した。



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百八十二本場:またまた国民麻雀大会2  久々の時間軸超光速跳躍

 一回戦第六試合は、その後も美和が他家を快楽の世界に導いて、思う存分、触手プレイを堪能させた。

 青森、滋賀、長崎の先鋒は、箱割れこそしなかったが、大量失点を余儀なくされた。

 

 そして迎えた次鋒戦。

 ここでは敬子のパワーが炸裂し、青森チームが箱割れして試合は終了となった。

 圧倒的な力で埼玉チームが二回戦にコマを進めた。

 

 

 その日の午後、二回戦が開催された。

 一番の注目カードは、二回仙台に試合。大阪1、埼玉、高知、鳥取の対局。当然、多くの人達が美和の活躍に期待している。

 咲が照を破って以来、咲よりも注目された選手は美和が初めてである。

 

 その人気に応えるべく、ここでも美和は、

「ツモ!」

「「「いやーん♡!」」」

 他家達を快楽の世界に連れ込み、圧倒的点差で先鋒戦を終了した。

 

 そして、次の登場した敬子も容赦なく他家から点棒を奪い、一回戦の時と同様に次鋒戦で他家をトバして終了した。

 ここで準決勝戦に進出したのは埼玉チームと第四シードの大阪1チーム。

 大阪1チームは、自称高三最強の二条泉が先鋒として出場し、なんとか僅差で高知チームと鳥取チームの点数を上回った。一応、先鋒戦で2位だ。

 たとえ相手が全国レベルの選手でも、非能力者であれば泉は決して負けない。本来、泉は十分強い。

 しかし、美和と泉の間には、誰の目から見ても歴然とした実力の差が見えていた。それだけ全国上位の能力者は圧倒的に強いのだ。

 

 

 次に注目されたのは、二回戦第一試合。奈良、東京2、群馬、山形の対決である。

 先鋒戦で咲と優希が対局する。

 

 この段階では、まだ優希は最高状態になっていなかった。飽くまでも最高状態にするのは、明日の午前の対局………、準決勝戦だ。

 とは言え、優希は今、上り調子にある。

 今までの戦績から考えて、いくら咲でも簡単に勝たせてもらえる相手ではないだろうと、誰もが思っていた。

 

 場決めがされ、起家は優希、南家は山形先鋒選手、西家は咲、北家は群馬先鋒選手に決まった。

 

 東一局、優希の親。

 ここでは、まだ優希はダブルリーチをかけてこない。

 しかし、

「ポン!」

 二巡目で群馬先鋒が捨てた{東}を早々に鳴き、

「ロン!」

 たった三巡目で山形先鋒から和了った。とんでもないスピードである。

 しかも、

「ダブ東ドラ4(表2赤2)。18000だじぇい!」

 いきなり親ハネ。さすが東風の神と呼ばれるだけのことはある。

 

 続く東一局一本場。

「リーチだじぇい!」

 今度は、優希がダブルリーチをかけてきた。

 一先ず他家は全員、字牌切りでその場を凌いだ。

 しかし、東場の優希の勢いは凄まじい。一発で振り込む者がいなくても、

「ツモ! 一発だじぇい!」

 即ツモ和了りを決めてしまう。

 しかも、

「ダブルリーチ一発ツモドラ3。6100オールだじぇい!」

 親ハネツモである。

 たったこれでけで2位に40000点以上の差をつけた。

 

 東一局二本場。

 やはり今日の優希は最高状態ではない。飽くまでも最高状態一歩手前である。

 ここでは、前局、前々局に比べて、ほんの少しだけ勢いが落ちていた。

 

 まるで、それを狙っていたかのように、ここでは咲の支配力が一気に上昇する。その力は、今まで卓全体を支配していた優希のオーラを跳ね飛ばす。

 そして、六巡目、

「ロン!」

 咲が群馬先鋒から和了った。

「えっ?」

 この和了りに群馬先鋒は驚いていた。

 咲にしては珍しく副露牌が全く無かったからだろう。咲の十八番である槓が、一つも無かったのだ。

 それもあって、群馬先鋒は、一瞬、何が起きたのか分からなかったようだ。

 しかも、

「タンピン三色ドラドラ。12600。」

 まさかの平和手。槓と対極的な位置にある和了り役であろう。

「えぇっ?」

 これには、群馬先鋒は目が点になった。

 

 

 東二局、山形先鋒の親。

 咲の第一打牌は{8}。第二打牌は{⑥}。

 なんだか嫌な気配だ。

 染め手か?

 それとも国士無双狙いか?

 しかし、普通はそう簡単に聴牌できないだろうし、正直なところ、咲が何をやっているのかは、まだ分からない。

 

 山形先鋒は、既に24100点を失っている。これが25000点持ちなら、東二局で既に900点しかない異常事態だ。

 当然、この親で失点分を稼ぎたい。

 それで自らの手を進めようとして山形先鋒が切った{⑨}で、

「ロン!」

 咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一九①19東南南西北白發中}  ロン{⑨}

 

 咲が清澄高校麻雀部に入部したばかりの頃に、京太郎から和了れたにも拘らず、優希に遠慮して見逃した手と全く同じ手であった。

「32000!」

 25000点持ちなら、これで山形先鋒は箱割れし、咲が2500点差で優希を抜いて1位となったところである。

 優希にとって、本来であれば完全に屈辱的なシチュエーションだろう。

 

 しかし、優希は二年以上前に咲が見逃した国士無双のことなど覚えていなかったし、あの時は、そもそも見逃していたとは思っていなかった。

 なので、

「さすが咲ちゃんだじぇい!」

 屈辱的とは思っていなかったみたいだ。

 むしろ、

『さすがチャンピオン!』

 と思っていたようだ。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここから、咲本来のパワーが爆発する。

 この局では、

「ツモ。嶺上開花タンヤオ三暗刻ドラドラ。6000オール。」

 

 そして、東三局一本場では、

「嶺上開花ツモメンチン。8100オール。」

 高い手を簡単に連発してくれた。

 他家は、圧倒的な実力差を感じずにはいられないだろう。

 

 この段階で、順位と点数は、

 1位:咲 180800

 2位:優希 122200

 3位:群馬 67200

 4位:山形 29800

 既に山形先鋒が30000点を割っていた。

 これが25000点持ちなら、既に二箱被ってのマイナスである。

 

 東三局二本場。

 今、精神的に余裕があるのは、ダントツトップの咲と、このまま山形先鋒が箱割れすれば2位抜けできる優希の二人である。

 普通は、30000点近い点数があれば、そう簡単には箱割れしない。しかし、ここには、それを可能にするバケモノがいる。

 なので、暫定3位の群馬先鋒は、かなり焦っていた。優希との55000点差を何とかしなければ二回戦負けが確定する可能性は極めて高いからだ。

 最下位の山形先鋒に至っては、

『トバさないで!』

 と祈るのみであった。

 

 しかし、そうは問屋が降ろさない。

 山形先鋒が、聴牌して切った{①}を、

「カン!」

 咲は大明槓した。

 そして、

「もいっこカン! もいっこカン! ツモ!」

 毎度の如く、連槓から和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一[⑤]}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏11裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{[⑤]}

 

「対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花ドラドラ。36600です。」

 これで山形先鋒のトビで終了した。

 この瞬間、テレビ映像は解説側に切り替わった。

 

 ここから、いつものお約束が始まる。

 咲の下家にいたのは群馬先鋒である。この連槓で迫り来る咲のオーラをまともに受けて、

「ジョ───!」

 真っ先に群馬先鋒が巨大湖を形成した。

 

 これに一歩遅れて、

「プシャ───!」

 責任払いを喰らった山形先鋒もヤってしまった。

 

 咲と優希は、

「「おつかれさま(だじぇい!)」」

 逃げるように対局室から出て行った。

 

 しかし、某ネット掲示板では、

『美和様さすが!』

『やっぱり女子高生ホイホイの異名どおりなのです!』

『みかんジュース! スバラです!』

 美和のネタで盛り上がっていた。

 この掲示板の住民は、誰も咲の対局を見ていなかったようだ。

 …

 …

 …

 

 

 二回戦第三試合は、鹿児島、長野、愛知1、富山の試合。

 鹿児島チームの先鋒は石戸明星、長野チームの先鋒は園田栄子、愛知A1チームの先鋒は対木もこ、富山チームの先鋒は寺崎弥生(寺崎遊月妹)だった。

 エース対決である。

 

 起家が明星、南家がもこ、西家が弥生、北家が栄子となったこの対局。

 東一局で、いきなり明星が大七星を和了った。例のヤオチュウ牌支配の能力による役満ツモである。

 しかし、栄子から明星が削れるのは16000点まで、もこが削れるのは15000まで、弥生が削れるのは13000点まで。

 ここからは、栄子がノーテンを目指す限り、他家も全員がノーテンとなる。強制力によって、栄子からノーテン罰符を奪うことさえ許されない状態になったからだ。

 

 三回のノーテン流れの後に迎えた東四局流れ四本場。ここで栄子は、強引に面前で緑一色を狙った。

 栄子の能力は、今、栄子からノーテン罰符が出ない方向にしようと動く。そのため、ムリな手でも本人が聴牌を目指す気持ちがある限り何とか聴牌できるようだ。

 

 そして、13巡目、弥生が切った{發}で、

「ロン!」

 親のダブル役満、緑一色四暗刻を和了った。

 これで弥生が箱割れして終了した。

 

 

 二回戦第四試合は、東京1、島根、兵庫、千葉の試合。

 各先鋒は、宮永光、石見神楽、森垣友香、霜崎琴(霜崎絃妹)。この試合も、各チームのエースによる対決である。

 

 この試合は、超怪物の光と、節子の霊を降ろした神楽が面白いように和了りまくり、先鋒戦で友香がトバされて終了した。

 …

 …

 …

 

 

 翌日の午前、準決勝戦が開催された。

 準決勝戦第一試合は、奈良、東京2、埼玉、大阪1の対決。

 当然、東京2の先鋒、優希は、この日に最高状態が来るようにコントロールしていた。いよいよ、観衆達が待ち望んだ天和が出る頃合だ。

 しかも面子はチャンピオン咲に、今や絶大な人気を誇る美和。

 当然、視聴率は90%を余裕で(?)越えた。

 自称高三最強なのに、まるっきり周りから注目されていない泉が、何となく可哀想に思えてくる。

 

 

 この頃、長野県某所では、

「そう言えば、コクマじゃったのう。」

 染谷まこが、この土日に帰省して自宅の雀荘の手伝いをしていたのだが、これで時間軸の超光速跳躍のスイッチが入った。

 

 

 場決めがされ、起家が優希、南家が美和、西家が咲、北家が泉。

 そして、東一局は、当然の如く、

「リーチだじぇい!」

 優希がダブルリーチをかけてきた。

 美和は、一先ず自分の手を進めて不要な字牌を切った。これはセーフ。

 続く咲は、何気に美和の方を見ながら{白}を切った。これは、美和の手の中で対子になっている牌だ。

 このまま誰も鳴かずに行けば、今までの実績から優希は一発でツモ和了りするだろう。

 それで美和は、

「ポン!」

 この{白}を鳴いた。

 

 この鳴きでツモがずれたためであろう。優希は、リーチ後一回目のツモで和了ることができなかった。

 しかも、その後も咲が美和に鳴かせ、結局、

「ツモ!」

 美和がツモ和了りした。咲が美和を上手に使ったのだ。

 

 毎度の如く、美和プロデュースのショーが始まる。

 しかし、咲は強大なオーラによって美和の幻をシャットアウトしていた。なので、咲は美和の能力の影響を受けない。

 しかし、優希と泉は、そうは行かない。二人とも淫夢の世界………美和ワールドに意識が飛ばされた。

 

 優希が、これを経験するのは初めてであった。

 噂には聞いていたが、まさか、こんな世界だったとは………。

 粘液だらけの多数の触手で身体の自由が奪われ………、全裸にされ………、さらに感じやすいところを触手が執拗に攻めてくる。

 

 優希は、たちまち頭の中が真っ白になった。

 そして体感時間で一時間が過ぎた頃、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで、優希と泉は美和ワールドから実世界に意識が戻ってきた。

 

 なんだか、妙に恥ずかしい。

 この会場で全裸にされて触手プレイをしていたような錯覚に陥る。

 身体から椅子の上に何か出ている。

 麻雀で、こんな体験をするのは、さすがに初めてだ。

 まあ、一般常識で考えれば、麻雀の最中に、こんな経験をしている方が異常であろう。

 さすがの優希も、

「(こんなのってないじょ!)」

 今の状況に激しく赤面していた。

 

 ただ、視聴者からすれば、まさかの出来事であった。優希の東場の親が一瞬で流されるとは夢にも思っていなかったのだ。

 幻の天和が出るのを期待していた人も多かったのだが、まさか、そこまで辿り着かずに東一局が終了してしまうとは………。

 水戸黄門の印籠が見られなかった時くらい残念がる人も多かったようだ。

 

 

 東二局、美和の親。

 ここでも、

「ツモ!………4000オール!」

 

 東二局一本場も、

「ツモ!………4100オール!」

 美和がツモ和了りを決めた。

 

 優希は、

「(きっと今頃、例の掲示板で盛り上がってるんだじぇい。)」

 外野の状況を良く理解していた。

 

 そして、東二局二本場。

 頭がすっかり回らなくなった泉は、中盤になってノーケアーで初牌の{①}を捨てた。

 当然の如く、これを咲が、

「カン!」

 大明槓した。

 そして、

「もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花! 16600です!」

 あっという間に倍満ツモを決めた。これは泉の責任払いになる。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここでも、

「カン! ツモ! 嶺上開花混一チャンタドラドラ! 18000!」

 

 東三局一本場も、

「カン! ツモ! 嶺上開花! 24300!」

 

 東三局二本場も、

「カン! ツモ! 嶺上開花! 33600!」

 泉の捨て牌から大明槓を仕掛け、嶺上開花で和了った。これらは、全て泉の責任払いとなり、ここで泉のトビで終了となった。

 

 

 対局が終了したが、優希も泉も対局後の挨拶ができない。

 椅子が大変なことになっていて、恥ずかしくて立ち上がれなかったのだ。

 泉は、美和とは昨日の二回戦でも戦ったが、免疫など付きようが無い。ただ頭がおかしくなるだけだ。

 それで集中できなくなって甘い牌を切れば、咲が容赦なく大明槓を仕掛けて高い手を和了ってくる。これは責任払いにされる。

 本当に最悪な対局だった。

 

 見ている側の時は、

『みかんジュースwwwwww』

 などと笑っていたが、実際に被害者になると笑っていられなくなる。まさか、ここまで破壊力があるとは………。

 

 咲と美和は、

「「有難うございました。」」

 対局後の一礼を済ませて、さっさと対局室を出て行った。さすがに、被害者側と一緒にいるのは気まずい。

 

 一方の優希と泉は、チームメイトがスポーツタオルを持ってくるまで、椅子に腰掛けたままだった。

 

 

 同時開催された準決勝第二試合。

 鹿児島チーム、長野チーム、東京1チーム、島根チームの戦い。

 先鋒戦は、明星、栄子、光、神楽の対局。しかも、神楽が降ろしているのは、久し振りに露子の霊だった。

 

 起家が神楽、南家が明星、西家が栄子、北家が光でスタートしてこの試合。

 先ず東一局で神楽が、

「ツモ! 8000オール!」

 親倍をツモ和了りすれば、東一局一本場で、

「ツモ! 6100、12100!」

 明星がヤオチュウ牌支配からの三倍満をツモ和了りするとんでもない幕開けとなった。

 

 しかし、東二局で光が、

「ツモ。2000、4000!」

 満貫を和了ると、場の空気がガラッと変わった。栄子が16100点を削られ、ここからは明星でさえも栄子から点棒を削れなくなったためだ。

 

 さらに東三局で、

「ツモ! 2000、4000!」

 光が満貫をツモ和了りすると、さらに場の空気は禍々しく変わった。栄子が削られた点数が20100点となり、露子も栄子を削れない状況に追い込まれてしまったからだ。

 今、栄子から点数を削れるのは光だけ。

 ここで栄子が敢えてノーテンを目指す限り、栄子から更なる点数を奪い取るだけの力のある選手………光以外は聴牌できない。

 

 露子は、神楽の透視能力を使えるため、振り込むことは無いが、明星は別である。

 その後は、明星が光に振り込み、ドンドン点数を削られていった。

 

 そして最後に栄子から一発、高い手が飛び出し、これで明星がトンで光が1位、栄子が2位で東京1チームと長野チームが決勝進出を果たした。

 

 

 時間軸跳躍により、午前中の準決勝戦はあっという間に終わり、いよいよ午後開催の5位決定戦と決勝戦を残すのみとなった。



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百八十三本場:またまた国民麻雀大会3  墜ちた不沈艦

 コクマの5位決定戦は、東京2チーム、大阪1チーム、鹿児島チーム、島根チームの対戦。先鋒戦は、片岡優希、二条泉、石戸明星、石見神楽の戦い。

 この時、神楽は綺亜羅高校元エース、古津節子の霊を降ろしていた。

 

 優希のパワーは今日の午前が最大だったが、正弦曲線の頂点を越えただけであって、まだ調子が悪いわけでは無い。

 明星のヤオチュウ牌支配も健在。

 節子は、これまでに地球上で時代の節目に起こってきた天変地異の映像を見せる。

 この面子………三人の魔物に囲まれて泉はデク人形と化した。これは、止むを得ないだろう。決して泉を責めることはできない。

 

 東初で優希が大きく稼いだが、その後、明星と神楽(節子)が追い上げて逆転。そして、オーラスを向かえる前に泉が箱割れして5位決定戦は終了した。

 100000点持ちの点数引継ぎ制ルールなのに、先鋒戦でトビ終了する試合が意外と多い。それだけ、一般人と能力者の壁は高いと言うことだろう。

 

 結局、5位から8位の順位は以下のとおりとなった。

 5位:島根Aチーム

 6位:鹿児島Aチーム

 7位:東京A2チーム

 8位:大阪A1チーム

 

 

 そして、決勝戦は、奈良チーム、埼玉チーム、東京1チーム、長野チームの対戦。

 奈良チームの先鋒は咲、埼玉チームの先鋒は美和、東京1チームの先鋒は光、長野チームの先鋒は栄子。

 四人の魔物による戦いである。

 起家が栄子、南家が美和、西家が咲、北家が光でスタートした。

 

 東一局、栄子の親。

 ただ、この半荘がスタートした段階で、既に栄子は、自らの敗北を悟っていた。

 栄子は、相手が自分からどれだけの点数を奪える力量があるかを測ることができる。龍の球を集める話で出てくるスカウターを装備しているようなものだ。

 対局直前に栄子が測定した値は、

 咲:>25000(測定不能)

 光:>25000(測定不能)

 美和:>25000(測定不能)

 

 全員が、どこまで自分を削れるか分からない。こんなフザケた面子に囲まれたのは生まれて初めてだ。

 それに美和の値が、インターハイ個人戦の時とは違って25000超えでフィックスされている。これは、栄子が美和ワールドを経験してしまったため、自ら振込みに行ってしまう可能性を示唆しているためと考えられる。

 

 六巡目、

「リーチ!」

 美和が先制リーチをかけてきた。

 咲も光も、一旦現物落としで対応する。栄子も守備麻雀の能力が発動しているので、当然、和了り牌を察知しており、振込むことは無い。

 

 一発ツモは無かった。

 その後も、二巡、三巡と過ぎて行く。

 

 この時、咲は和了りに向かっていなかった。敢えて、美和に和了らせようとしていた。

 美和が和了れば、例の淫猥な能力が発動する。咲自身は、その能力を跳ね返すことができるので被害者にはならない。

 

 しかし、栄子は完全に美和ワールドで楽しまされるはずだ。

 インターハイ個人戦の成績を見る限り、美和が和了った後に栄子の能力は停止する。そして、振込みマシーンと化す。

 

 これまで、光は美和との対戦経験が無い。今回が美和との初対戦である。そのため、美和が和了った直後に光がどうなるか分からない。

 美和ワールドに連れ去られるのか、それとも美和ワールド行きを阻めるのか?

 

 もし、あの淫猥な能力に光が負けるようであれば、咲は、より一層有利になる。優勝は咲と美和の一騎打ちになる。

 逆に光が美和の能力を跳ね返せるのであれば、咲、光、美和の三人で栄子からより多く点棒を奪った者が勝者となるだけだ。

 それで、咲は一先ず様子見に回ることにしていた。

 

 リーチから五巡後、

「ツモ!」

 美和が待望の和了りを見せた。

 咲に向かって巨大な触手群が襲い掛かってくるが、咲は、これを強大なオーラで跳ね返した。

 隣では、光も咲と同様に美和の能力をシャットアウトしていた。

 その様子を咲は、

「(やっぱり光にも効かないか。)」

 光の全身から放たれる強大なオーラから感じ取っていた。

 

 どうやら、美和の餌食となるのは栄子だけのようだ。

 栄子の意識が淫猥なる幻の世界へと飛ばされた。

 …

 …

 …

 

 

 体感時間で約一時間、栄子は幻の世界で堪能させられた。

 そして、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声と共に、栄子の意識は現実世界へと戻された。

 

 ただ、そう簡単に、この世界への免疫ができるわけではない。

 綺亜羅三銃士達は慣れているようだが、それは、もう二年以上も毎日のように美和を相手にしているからである。

 既に栄子は集中できなくなってきており、能力発動も大きく低下していた。

 しかし、まだ多少は他家の和了り牌を感じられるようだ。完全にスーパーディフェンスが失われたわけではない。

 

 東一局一本場。

 ここでも咲は、様子見していた。

 光も同様である。先ずは完全に栄子の息を止めることの方が先決と判断したようだ。

 

 中盤に入ってすぐ、

「リーチ!」

 またもや美和がリーチをかけてきた。

 そして、数巡後に、

「ツモ!」

 当然の如く美和が和了り牌を自ら引き寄せた。吸い込み式食虫植物パワーである。

 これによって、再び栄子は幻の世界へと飛ばされた。

 …

 …

 …

 

 

 幻の世界の中で、どれだけ時間が経過したことだろう?

 もう、何も分からない。完全に栄子の頭の中は真っ白になっていた。

 もはや、栄子には抗うだけの気力は無い。

「6000オール!」

 美和の点数申告の声だ。これで、栄子の意識は現実世界に戻ってきた。

 

 しかし、幻世界の体感時間が一回につき一時間とすると、既に合計二時間近くも美和ワールドに監禁されていたことになる。

 精神力は、既に限界を超えた。

 

 これで完全に栄子の戦意は消失し、同時に能力も停止していた。もはや、戦う気力も完全に失われていたのだ。

 

 能力によって相手の和了り牌を察知していただけに、能力が失われると並以下の守備力しかなくなる。

 これで栄子に勝ち目はなくなった。

 

 そして、こうなることを待っていた者達がいる。咲と光だ。栄子退治を美和に任せて自分達は高みの見物をしていたのだ。

 いよいよ二人も美和との戦いに参戦する。ここからが真の先鋒戦となる。

 

 東二局二本場。ドラは{五}。

 この局も美和が、

「リーチ!」

 六巡目に先制リーチをかけてきた。

 

 美和の手牌は、

 {三四五五[五]六七③④[⑤]34[5]}

 

 {二五八}の三面待ちだが、{五}を三枚使いしている上にドラ表示牌は{五}。つまり、事実上の待ち牌は{二八}だけとなる。

 しかも高目の{八}で和了れば三色同順が付いて出和了りでも倍満が確定する。ここにツモと裏が付けば三倍満まで点数は上がる。

 

 その二巡後、美和は{②}をツモ切りした。

 すると、

「カン!」

 その{②}を咲が大明槓してきた。

 そして、

「もいっこカン! もいっこカン! ツモ!」

 連槓から嶺上開花による和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤222}  暗槓{裏八八裏}  暗槓{裏二二裏}  明槓{横②②②②}  ツモ{[⑤]}

 

 美和の全ての和了り牌を取り込んでの和了りだった。これでは、美和が和了れない。

 しかも、この和了りは美和の責任払いになる。完全に、咲に、してやられた感じだ。

「タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。24600です。」

 加えて三倍満と大きな手。

 これで、咲が一気にトップに躍り出た。

 

 

 東三局、咲の親。

 まだ栄子は、ボーっとしている。何も考えずに惰性で打っている感じだ。当然、守備の能力は欠片も見せていない。

 

 中盤に入った。

 ここで栄子が切った{①}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 そして、

「ツモ! 清一嶺上開花ドラドラ。24000です。」

 そのまま王牌からツモった牌で、咲は親倍を和了った。

 

 続く東三局一本場でも、

「ツモ! タンヤオ一盃口嶺上開花ドラドラ。6100オール!」

 咲が門前タンヤオからの嶺上開花を決めた。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 165600

 2位:美和 94600

 3位:光 91900

 4位:栄子 47900

 絶対守備を誇るはずの栄子が、50000点以上にも及ぶまさかの大失点。

 個人戦でも栄子は35000点以上削られたが、今回は、そのさらに上を行く。

 まさにフレデリカにとっては、

「(いくら宮永さんでも、嘘でしょう?)」

 浮沈艦が沈む衝撃映像でしかなかった。

 

 東三局二本場。

 ここから、光の進撃が始まる。

「(これ以上、咲の好き勝手にはさせない!)」

 光は、全身の力を指先に集中して次々と有効牌を引き入れる。

 そして、とうとう、

「ツモ。平和ドラ3。2200、4200。」

 待望の第一弾の和了りを決めた。これで、光は美和を抜いて2位に浮上した。

 

 

 東四局、光の親。

 光は、照と同じで一回和了ると連続で和了り続ける。しかも、偶然役とツモを除く和了り役の合計翻数がドンドン増えて行く。

 

 ただ、咲が相手なので下手にリーチをかけられない。

 リーチをかけたら、ツモ牌が和了り牌でない限り、たとえそれが嫌な雰囲気満載の初牌でも捨てなければならないからだ。

 

 ただ、ラッキーなことに、この局の光の手は平和とタンヤオの合計2翻がついた。

 そして、

「ツモ。タンピンツモドラ2で4000オール!」

 序盤………淡で言えば、絶対安全圏内の巡目に当たる五巡目で、光は親満をツモ和了りした。

 

 東四局一本場。

 ここでも光は、

「ツモ。平和三色ドラ2。6100オール!」

 

 続く東四局二本場でも、

「ツモ。メンホン中ドラ2。6200オール!」

 比較的早い巡目で高い手を連続して和了った。

 普通であれば、完全に手のつけられない状態である。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:光 149400

 2位:咲 145100

 3位:美和 76100

 4位:栄子 29400

 光が大きく稼いで首位に立った。まさかの逆襲である。

 

 しかし、東四局三本場では、

「カン!」

 光が聴牌に取るために捨てた{⑨}が狙われた。

 そして、

「ツモ! 嶺上開花ドラ3。8900!」

 通常有り得ないであろう。和了り役が嶺上開花のみで咲が和了った。

 しかもドラが3枚で満貫である。

 これは光の責任払いになる。この和了りで、咲が首位を奪還した。

 

 

 南入した。

 このコクマで咲の対局が南入したのは、これが初めてである。

 今までの咲の試合は、南四局に入る以前に、どこかをトバして終了してきた。少なくとも、通常の感性では100000点持ちとは思えない展開だろう。

 

 南一局、栄子の親。

 やっと栄子は落ち着きを取り戻してきた。

 とは言え、まだ相手の和了り牌が何となく分かるだけで、自分から奪える点数の上限を設定するとか、誰もトバさせない能力を発揮するとかまではできない。飽くまでも他家の和了り牌を見抜くまでに留まる。

 もっとも、それらの能力が復活したところで、このメンツ相手では、まったくもって意味は無いのだが………。

 

 美和が聴牌した。

 栄子が感じた和了り牌は、{369}。

 しかし、三面聴であるにもかかわらず、美和はリーチをかけてこなかった。

 東一局二本場で、咲に大明槓からの嶺上開花を決められ、一気に24300も奪われたためである。やはり、咲の槓を恐れているのだ。

 

 そして、数巡後、

「ツモ!」

 咲に先手を打たれることなく、東一局一本場以来、三度目の和了りを美和が決めた。これによって、またもや栄子は美和ワールドへと意識が飛ばされた。

 …

 …

 …

 

 

 栄子に迫る触手群。またもや、栄子は触手プレイを嫌と言うほど堪能させられた。

 完全に脳みそがバカになる。現実では経験できない快楽の世界に引き摺り込まれて、栄子は何回も絶頂を迎えた。

 

 そして、

「3000、6000!」

 美和の点数申告の声と共に栄子の意識は現行世界に呼び戻された。

 これで栄子は、集中力も闘志も気力も完全に失い。再びデク人形へと戻った。

 

 

 南二局、美和の親。ドラは東。

 まるで罠に嵌った女子高生(栄子)のパワーを吸い取ったかのように、美和の手は異常に進みが早かった。

 

 配牌で、

 {五六七八③⑤[⑤]149西北白中}

 

 ここから、七巡目で既に、

 {四五六七八③⑤⑤[⑤]134[5]}  ツモ{④}

 高目で三色同順が付いてハネ満となる三面聴の手を聴牌していた。

 美和は、{④}を取り込むと、

「リーチ!」

 聴牌即リーチをかけた。

 咲も光も安牌切り。

 しかし、快楽の世界で骨抜きにされた栄子は、身体が美和ワールド行きを願っているのか、信じられないことに一発で高目の{三}を切ってきた。

 

 美和は、ラッキーと思って和了ろうとしたが、ここで和了ると栄子が箱割れして終了となり、埼玉Aチームの3位が決定してしまう。

 止むを得ず、美和は一発振込みを見逃した。

 ところが、美和が一発で引いてきた牌は{六}。これは和了るしかない。

「ツモ!」

 これによって、栄子の意識は淫猥なる世界へと飛ばされた。

 …

 …

 …

 

 

 そして、栄子の体感時間で一時間が過ぎた頃、

「メンタンピン一発ツモ。赤二枚に裏ドラが一枚({3})で、8000オール!」

 栄子の耳に美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで、ようやく栄子は美和ワールドから解放される。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 143000

 2位:光 129500

 3位:美和 112100

 4位:栄子 15400

 現在、美和は3位だが、次に親ハネをツモ和了りできれば光を抜いて2位に浮上し、しかも咲との点差を6500点まで縮められる。

 また、埼玉チームの優勝の可能性は十分残されているのだ。

 節子の悲願………綺亜羅メンバーでの優勝を目指して、

「一本場!」

 美和は連荘を宣言した。



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百八十四本場:またまた国民麻雀大会4  結果・その後・世界大会スタート

今回は、世界大会開始までのあらすじを、さくっと書かせていただきます。
この内容で余り話を引っ張りたくないもので…。
まこの時間軸超高速跳躍ほど酷くはないと思いますが、皆様の視点からは大同小異かもしれません。


 コクマの決勝戦は、南二局一本場、美和の連荘。

 ドラは{⑨}。

 ここに来て、とうとう咲のオーラが極限まで膨れ上がった。

 

 ワールドレコードホルダーの慕や、深山幽谷の化身と呼ばれる穏乃もそうだが、咲は前半よりも後半の方が強い。

 これは恐らく、咲が自分の点数をプラスマイナスゼロに調整する能力を得るのに必要不可欠であったためだろう。後半の支配力が強力でなければプラスマイナスゼロを達成することはできないからだ。

 

 一方の栄子は、前局、前々局と二連続で美和ワールドに連れて行かれ、触手を相手に乱れ捲くっていた。

 それもあって、今は完全に麻雀への集中力を欠いていた。アタマがピンク色から切り替わってくれないのだ。

 

 スーパーディフェンスを誇る栄子だが、能力が出せなければ凡人以下である。

 普段、能力で相手の聴牌気配や和了り牌を察知できていた分、能力に頼りきりになっている。そのため、能力が失われると何も分からなくなってしまうのだ。

 これは、昨年の世界大会で穏乃の生霊を相手に既に経験済みではある。

 とは言え、一年やそこらで能力封印時の力を世界大会レベルまで底上げしろと言う方がムリであろう。

 結局、栄子は咲の手牌から放たれる異様な雰囲気に、まるっきり気付かずにいた。そして、中盤に入ってすぐに初牌の{南}を捨てた。

 

 すると、

「カン!」

 咲が、これを大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 当然の如く、咲は嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①③⑦⑦⑧⑧⑨⑨}  明槓{南横南南南}  ツモ{②}  ドラ{⑨}

 

「ダブ南混一チャンタ嶺上開花ドラドラ。16300です。」

 倍満だった。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 159300

 2位:光 129500

 3位:美和 112100

 4位:栄子 -900

 これで、栄子のトビで終了した。

 

 ただ、今の栄子は咲の攻撃的なオーラも全然感じられない。なので、巨大湖の形成だけは免れたようだ。

 もっとも、美和ワールドに何回もつれて行かれたお陰で、それ以上に恥ずかしいことになっていたのだが………。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 対局後の一礼を終えると、咲達は、一旦控室に戻された。この対局室で表彰を行いたいのだが、その前に換気と清掃が必要と判断されたためだ。

 まあ、被害者は栄子だけなので、そんなに時間はかからないだろう。

 …

 …

 …

 

 

 そして、30分後に改めて表彰式が行われた。

 4位の長野Aチームの選手達には賞状が授与され、3位の埼玉Aチームの各選手の首には銅メダルがかけられた。

 2位の東京A1チーム各選手の首には銀メダルが、そして、優勝した奈良Aチーム各選手の首には金メダルがかけられた。

 

 これで、咲達の学年にとっての、高校生活最後の国内大会が終わった。

 あとは世界大会を残すのみである。

 

 

 

 翌週、麻雀協会の会議室では世界大会メンバーの選考会議が開かれていた。

 そこには、協会の重鎮である熊倉トシ、ワールドレコードホルダーの白築慕、関西地区のトップ、愛宕雅恵と言った面々が集まっていた。

 

 今年の世界大会は、昨年とは異なりコンビ打ちになる。

 開催国は日本。

 メンバーは補員を入れて9名とのこと。最低でも補員抜きで8名が必要となる。

 

 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将を二人ずつ選出し、それぞれ、二人の合計点が高い方が勝ち星ゲットとなる。

 同点の場合は西入し、それでも同点の場合は北入する。必ず、勝ち星を決めるルールとなる。

 勝ち星を先に三つ取った方の勝ちとする。

 

 また、中堅選手となる二人の片方が先鋒選手か次鋒選手を、もう片方の選手が副将選手か大将選手を兼ねるのを基本とする。

 中堅選手を二人とも先鋒か次鋒に配置したり、二人とも副将か大将に配置したりはできない。必ず、片方を先鋒か次鋒、もう片方を副将か大将に配置することとする。

 ただし、9名全員の参加にしても良く、その場合は中堅の片方が先鋒、次鋒、副将、大将のいずれかを兼ねることになる。

 

 インターハイ個人戦の成績は、

 1位:宮永咲(阿知賀女子学院)

 2位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)

 2位:大星淡(白糸台高校)

 2位:宮永光(白糸台高校)

 5位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:園田栄子(風越女子高校)

 9位:神代蒔乃(永水女子高校)

 10位:石見神楽(粕渕高校)

 11位:石戸明星(永水女子高校)

 12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 14位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 15位:椋真尋(千里山女子高校)

 16位:夢乃マホ(千里山女子高校)

 

 コクマの戦績からも、インターハイ個人戦の順位を大きく逸脱するものではないと判断され、17位以下の選手の中から選考対象として繰り上げるべき選手は、満場一致でいないと判断された。

 また、風越女子高校の園田栄子は、ドイツチームのメンバーとしての参加が決まっているとのこと。

 よって、インターハイ個人戦ベスト16のうち、栄子を除く15名の中から世界大会のメンバーを選出することになった。

 

 1位の咲から6位の美和までは、代表9名の枠に入れる選手としてスンナリ決まったのだが、7位の和の扱いが問題となった。

 昨年、慕が閑無達に言った、

『各校2名までの縛り』

 の暗黙のルールがあったためだ。

 そこで、一旦、9位以下の選手から2名を選出し、その後に和の扱いを決めることとして会議が続行された。

 …

 …

 …

 

 

 結局、現状の成績から蒔乃と神楽を選出し、残る1名をどうするかの議論となった。蒔乃と神楽を落として他の誰かを入れる理由が見当たらなかったためだ。

 

 残りの一枠に付いて、明星か真尋かマホから選出する方向で、話が進み始めた。

 すると、雅恵が、

「ちょっとイイですか?」

 この暗黙のルールに対する反対意見を述べ始めた。

 

 各校2名までであれば、たしかに和を降ろし、明星、真尋、マホのいずれかから9人目を選出することになるだろう。

 そうなれば、雅恵としては真尋かマホを押す。これは、千里山女子高校の監督としてのエゴが働くためである。

 

 勿論、そこには、でっち上げた理由もつける。

 例えば、昨年の神楽や一昨年の咲のように1年生でメンバー入りさせて次の世代の中心人物として教育するとか言えば、それで納得する人もいるだろう。

 

 ただ、今回問題となっている暗黙のルールは、元々は権力者が自分の高校から実力の無い選手を何人もムリヤリねじ込むのを防ぐために作られたものである。なので、実力がある選手を落とすルールにするのは筋違いではないか?

 

 今年の開催国である日本が前人未到の大会三連覇を賭けた大会でもある。

 なので、これを機会に暗黙ルールを見直すこととし、今回は実力主義で和を選出すべきである。

 

 それに、少なくとも今回に限っては白糸台高校の監督が実力のない選手をムリヤリねじ込んでいるわけではない。

 

 この雅恵の主張に対し、一部異論もあったが、最終的には賛成多数で和を代表選手とすることが認められた。

 

 その結果、メンバーは、咲、光、穏乃、淡、敬子、美和、和、神楽、蒔乃に決定した。

 

 

 そして、その翌日、各メンバーには協会から各校の監督を通じて各選手に日本代表になったことが通達され、来週の金曜夜から日曜まで強化合宿が行われることになった。

 今回は東京での開催になる。

 咲と穏乃の移動は大変であるが、今回は東京都が三人、埼玉県が二人と関東勢が多いため、このような措置となった。

 

 また、昨年同様に麻雀協会の主催で、同日に神楽と共に戦う能力者のための合宿も東京で行われる。

 そこには、明星、湧、優希、数絵、由暉子、美誇人、静香、鳴海、真尋、マホと言った能力者達に声がかかっていた。こちらも、関東勢が半数を占めていたので、東京での開催となった。

 

 

 その週の土日に県大会が行われた。

 もう、咲達は参加しない。1年生と2年生で編成したチームで優勝を目指す。

 阿知賀女子学院は、以下のメンバーで奈良県大会に臨んだ。

 

 レギュラー:

 小走ゆい(2年生:部長、小走やえ妹)

 宇野沢美由紀(2年生:副部長、宇野沢栞妹、かなりのオモチの娘)

 車井百子(2年生:車井百花妹、ややオモチの娘)

 藤白亜紀(1年生:藤白七実妹)

 椿野美咲(1年生:椿野美幸妹)

 

 補員:

 岬翼(2年生:サッカーが得意)

 水戸里美(1年生:上から読んでも下から読んでも『みとさとみ』)

 

 阿知賀女子学院は、圧倒的な強さで奈良県大会を優勝。咲達が抜けた後も、超強豪校としての地位を保守した。

 

 

 そして、翌週金曜日の夜、咲と穏乃は強化合宿参加のため東京に向かった。

 今回も世界大会メンバーは、トシ、慕、恭子の指導の下で行われた。

 それから、今回も特別ゲストとして『ステルスモモ』こと東横桃子が呼ばれていた。ドイツチームのメンバー、『殺し屋』との異名を誇る西野カナコ対策である。

 勿論、今回も桃子は神楽と共に戦うメンバーにも選ばれていた。今度こそは活躍してみせる。その意気込みも強く見えていた。

 

 

 今回はコンビ打ちのため、誰と誰を組ませるかも重要になる。ペア選びも今回の合宿の課題であった。

 当然のことながら、誰と誰を組ませるかの目処をつけるところまで行って、今回の合宿を終了した。

 

 

 さらに九日後の火曜日に、咲達は再び東京に入った。世界大会は、その翌日、水曜日から十日間………その翌週の金曜日まで行われる。

 基本的に、昨年と似たようなスケジュールであった。

 

 また、今回も監督は慕、コーチには昨年同様に恭子が選ばれた。昨年の優勝への貢献が評価されたと言って良いだろう。

 

 

 水曜の朝、開会式が会場に隣接する競技場で行われた。

 知った顔がチラホラ見える。

 

 その中でも、やはり咲達の目を一番引くのは日本チームと同様、優勝候補とされるドイツチームであろう。

 

 エースはフレデリカ・リヒター。

 現在、千里山女子高校に留学中。極一部の者しか知らないが、咲のクローンである。高校2年生。

 

 昨年からのメンバーの中で、世界中の女子高生選手達から、フレデリカの次に恐れられているのが、『殺し屋』と異名を取る西野カナコ。

 ステルスモモの進化版とも言える麻雀を打つ。高校3年生。

 

 百目鬼千里は、『アトランダムの支配者』と呼ばれ、全ての牌を見切った上で最善の打ち方を選択するとされる。

 こちらも、三元牌支配の玄に勝利した、かなりの強豪選手である。高校3年生。

 

 園田栄子は、最強の守備の麻雀を誇る。最後の一撃『リラの鉄槌』で一気に追い上げるパターンが定着している。高校3年生。

 

 ローザ・ニーマンはニーマンの姪。

 パワーヒッターと呼ばれ、高い手を和了りまくる。東場の優希と南場の数絵を足したような感じだ。高校3年生。

 

 そして、この五人の他に、今回はさらに以下の三人が参戦している。

 一人目は、ニーナ・ヴェントハイム。臨海女子高校監督アレクサンドラ・ヴェントハイムの遠い親戚。

 もともと、淡の家の近所に住んでおり、淡を慕って白糸台高校への入学を希望していたが、昨年末に急遽ドイツに渡ることになった。1年生。

 

 二人目は、エリーザ・バスラー。3年生。

 

 三人目は、クララ・ローゼンハイム。ドイツ人と日本人のハーフとのことだが、少し慕に似た顔立ちをしている。

 今大会では、フレデリカとクララがダブルエースとして中堅を任される。1年生。

 

 

 ルーマニアチームやロシアチームの選手は、相変わらず綺麗どころを揃えていた。

 彼女達が視界に入ると、咲は、

「(去年のことを思い出したよ。あの美人揃いの中に私一人放り込まれて最悪だったんだから。もう、あんな惨めな思いをするのはコリゴリだからね。)」

 突然ブルーになった。美貌対決での大敗を思い出したのだ。

 

 ただ、それ以上にルーマニアチームやロシアチームの選手達は、

「(今年こそは失禁したくない!)」

 咲と当たるのを恐れいていたのは言うまでもない。

 

 また、淡は、ロシアチームメンバーにガンを飛ばしながら、

「(今度こそ、あんなマネはさせない!)」

 と心の中で強く言い放っていた。

 昨年、淡はステラにトップになるのを妨害された。団体戦である以上、あれも戦略のうちなのだが、未だに淡は、それが納得できていないのだ。

 

 

 開会式を終えると、Aブロックの一回戦が開始された。

 ルールは、各自100000点持ちでコンビ合計点での星取り戦。

 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将で、それぞれ二人の素点の合計点が高い方が勝ち星ゲットとなる。

 ウマもオカもつかない。

 

 一回戦から決勝戦までの全試合において、先鋒戦から大将戦まで、いずれも半荘二回の勝負とし、同点の場合は双方勝ち星0.5ずつとする。

 勝ち星を先に三つ取った方の勝ちとするが、双方の勝ち星が2.5ずつになった場合は全選手の得失点の合計点で順位を競う。

 合計点まで同じだった場合は、代表者を二名ずつ選出し、半荘一回のコンビ打ち勝負を行い、二人の素点の合計点が高い方が勝者となる。この対局のみ、勝負が着くまで西入も北入も有りとする。

 

 赤牌4枚入り。

 二家和(ダブロン)、三家和(トリロン)無しで、全てアタマハネとなる。

 大明槓からの嶺上開花は責任払いで、連槓からの嶺上開花の場合でも最初が大明槓であれば、それを鳴かせた者の責任払いとなる。

 また、同様に連槓からの包も本大会では採用されていた。むやみに大明槓させるなと言う意味であろう。

 ダブル役満以上ありだが、単一役満でのダブル役満は成立しない。

 そして、昨年同様に槓振が一翻和了り役として認められていた。

 

 

 また、トーナメント戦だが、コンビ打ちに変わったため、昨年とはトーナメント表のつくりが変わる。

 今年は、AブロックとBブロックの二つに分かれ、それぞれのブロックで優勝したチームで決勝戦が、各ブロック2位のチーム同士で3位決定戦が行われる。

 

 前回優勝の日本チームはAブロックの第一シードとなった。そして、前回2位のドイツチームがBブロックの第一シード、前回3位の中国チームがBブロックの第二シード、前回4位のアメリカチームがAブロックの第二シードになった。

 

 各ブロックの参加チームは90カ国に達する。

 一回戦が終わった段階で各ブロックは64チームまで減らされるが、意外と一回戦免除のチームは多い。

 二回戦に進出するのは、両ブロック併せて128チームである。

 

 日本チーム、ドイツチーム、中国チーム、アメリカチームは、いずれも一回戦は免除されていた。二回戦からの参戦である。

 

 大会初日は、開会式の後よりAブロックの一回戦が行われる。

 なお、今大会も昨年同様に、一回戦から決勝戦まで、全試合が先鋒戦から大将戦まで、いずれも半荘二回の勝負となる。

 

 大会二日目は、Bブロックの一回戦が行われる。

 

 大会三日目にAの二回戦が、大会四日目にBブロックの二回戦が行われる。三回戦に進出するのは、両ブロック併せて64チームになる。

 

 大会五日目は、両ブロックの三回戦が、大会六日目は、両ブロックの四回戦が行われる。ブロック準決勝戦に進出するのは全部で16チームになる。

 

 大会七日目は、両ブロックの準々決勝戦が行われ、大会八日目に両ブロックの準決勝戦が行われる。ここまで勝ち残れるのは、たった4チームである。

 

 大会九日目には、両ブロックの決勝が行われる。そして、大会十日目に、3位決定戦と決勝戦が平行して行われる。

 

 一回戦免除の日本チームメンバーは、開会式が終わると、一旦、ホテルへと移動した。



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百八十五本場:高校最後の世界大会1  史上最悪コンビ1

 スウェーデンチームと南アフリカチームの勝者が、二回戦で日本チームと当たる。

 大会一日目、咲達は、ホテルのテレビで、この2チームの試合を観ていた。

 国の威信をかけたこの試合は大将戦までもつれ込み、ギリギリのところでスウェーデンチームが勝利を挙げた。

 ただ、正直なところ咲達からすればレベルとしては、たいしたことは無い。言っては悪いが、日本のインターハイ団体戦の二回戦レベルだろう。

 勿論、何かを隠し持っている可能性もあるので油断は出来ないが、順当に行けば、ストレート勝ちできる相手だ。

 

 そして、大会三日目。

 いよいよ日本チームがスウェーデンチームの試合が開始された。

 

 日本チームは、

 先鋒:咲・美和

 次鋒:神楽・穏乃

 中堅:咲・光

 副将:淡・光

 大将:敬子・和

 この布陣で臨んだ。いきなり、先鋒が巨大湖誘発装置に女子高生ホイホイである。最低最悪なスタートになることは必至であろう。

 

 

 対局室に、咲と美和が姿を現した。

 これを見て、某ネット掲示板の住民達は、

『初っ端から咲様と美和様ッス! これはスゴイことになりそうッス!』

『ス・バ・ラ・で・す!』

『放出してナンボ、出してナンボですわ!』

『華菜ちゃん、みかんジュースとパインジュースに期待だし!』

『ブレンドされるですよー!』

『最低な試合しか想像できないよモー』

『でも本当は喜んでるんデー』

『世界に激震が走る試合になると!』

『世界的に放送禁止になる未来しかみえへん』

『日本の品位が汚れると思』

『外人さんのオモチ画像をアップするのです!』

『ダル…』

 思い切り期待しているようだった。

 

 

 スウェーデンチームの先鋒は、エースのヒルデ(3年生)とアンネ(2年生)。まず、この二人が犠牲者か………と日本中の多くの人達が思っていた。

 

 場決めがされ、起家が美和、南家はアンネ、西家が咲、北家がヒルデに決まった。

 

 東一局、美和の親。ドラは{三}。

 未だ、美和が敬子からもらった人魚パワーは衰えていない。咲も同様である。本当に敬子サマサマである。

 

 美和は、立ち上がりから好調で、配牌三向聴。四巡目で聴牌し、

「リーチ!」

 即、リーチをかけた。

 

 美和の手牌は、

 {三四[五]③④⑤[⑤][⑤]⑥⑦34[5]}

 

 すると、美和のリーチ宣言牌である{①}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 そのまま連槓した。

 次の嶺上牌を取り込むと、咲は{北}を切った。

 

 ヒルデでは美和の現物切り。

 そして、続く美和のツモは、高目の{⑧}だった。

「ツモ!」

 この和了り宣言と共に、今までの女子高生雀士達と同様にヒルデとアンネの意識は、淫猥なる幻の世界へと飛ばされた。

 

 二人は、別々の空間にいた。互いの姿は見えない。そこにいるのは自分と、多数の巨大で粘液にまみれた触手群だけ。

 その触手が、それぞれ二人を捕えると、消化液で制服を溶かし始めた。

 そして、あっという間に全裸にされると、胸や股間を触手が刺激する。それが、妙に気持ち良い。

 現実世界の二人からは、

「Ohhhhhhhhhh───!」

「Uhhhhhhhhhh───!」

 絶頂の声が対局室全体にこだました。

 

 

 日本では、美和ワールド効果のことは既に知られている。いまさら不思議がる人は殆どいないし、某ネット掲示板でも、

『さすが美和様!』

『外人さんは反応が激しいじょ!』

『みかんジュースの量も期待できるッス!』

『でも、日本の麻雀が下品だって言われると思』

『↑そんな未来は見えへんで! 世界中、みんな喜んどるで! 放送禁止はありうるけどな』

 まあ、当然のことのように書き込みがされていた。

 

 しかし、諸外国では、まだ美和ワールドのことは知られていない。この試合は、咲がどれだけ相手国の選手達にお漏らしさせるかしか考えていなかったのだ。

 ところが、飛び込んできた映像は、それをはるかに凌ぐとんでもないもの。

 観戦していた諸外国の選手達も、テレビで見ていた世界中の人達も、これにはさすがに驚きの色が隠せなかった。

 

 当然、各国のネット掲示板でも、

『どうして和了られて気持ち良さそうな顔をしているんだ?』

『なんか、イってないか、あれ?』

『たしかに表情が妙にエロいな!』

 と色々と書き込みがなされたが、スウェーデンチームの選手達に何が起きているのかまでは分からなかったようだ。

 …

 …

 …

 

 

 ヒルデとアンネの体感時間として、約一時間が過ぎた。

 もう、幻の世界の中で、二人共ぐったりしていた。

 頭の中は真っ白。何も考えられない。

 すると、

「16000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、二人の意識は現実世界に戻された。

 

 美和が開いた手は、

 {三四[五]③④⑤[⑤][⑤]⑥⑦34[5]}  ツモ{⑧}  ドラ{三}  裏ドラ{④}  槓ドラ{⑦4}  槓裏{五⑧}

 

「メンタンピンツモ三色ドラ10!」

 いきなり数え役満だ。

 咲は、美和のリーチ宣言牌を鳴くことで和了り牌を美和に送ると同時に、槓ドラと槓裏を乗せたのだ。美和の手を余裕の数え役満に仕立て上げるために…。

 まさに、これぞコンビ打ちであろう。

 これには、ヒルデもアンネも目が点になった。

 

 東一局一本場、美和の連荘。ドラは{②}。

 ここでも絶好調の美和は、

「リーチ!」

 五巡目で先制リーチを仕掛けた。

 今回は、美和のリーチ宣言牌を咲は鳴かなかったが、自分のツモ番で、

「カン!」

 狙っていたかのように暗槓した。

 そして、嶺上牌は珍しくツモ切り。

 この暗槓で一発は無くなったが、美和はリーチ後一回目のツモ番で、

「ツモ!」

 当然の如く和了った。絶好調だ!

 

 再び、ヒルデとアンネの意識は、淫猥なる世界へと導かれた。

 前回からの続きである。

 何本もの粘液だらけの巨大な触手が、二人の身体を隈なく刺激する。特に胸と股間は念入りだ。

「Ahhhhhhhhhh───!」

「Uhhhhhhhhhh───!」

 またもや、現実世界では二人の声が対局室中に響き渡った。

 

 さすがに二回目となると、諸外国のネット掲示板でも、

『やっぱり、あの二人、イってないか?』

『どうも、あの美和って娘が和了ると、淫猥な幻の世界に意識が飛ばされるらしい』

『なにそれ?』

『脳内では、服が溶かされて全裸にされ、粘液のついた触手で全身、特に胸と股間を刺激されるって話だね』

『日本国内の対戦者の話では、それが脳内では一時間くらい続くってさ』

 日本在住の外国人達の中に、美和ワールドについて説明する人が出始めた。

 …

 …

 …

 

 

 体感時間で、約一時間が過ぎた頃、

「16100オール!」

 美和の点数申告の声と同時に、二人の意識は現実世界に戻された。

 

 美和の手は、

 {二二五[五]八八②②⑤[⑤]667}  ツモ{7}  ドラ{②}  裏ドラ{西}  槓ドラ{6}  槓裏{八}

 

「リーツモタンヤオ七対ドラ8!」

 またもや数え役満だ。

 

 前局も今回も、咲は美和の一発を消したが、それ以上にドラを乗せて美和の手を大きくした。まさか、二連続数え役満になるとは………。

 ヒルデもアンネも、悪夢を見ているとしか思えなかった。

 

 東一局二本場。

 ここでも、

「リーチ!」

「カン!」

 美和が先制リーチをかけて、咲が槓してドラを増やす。

 そして、

「ツモ!」

 ヒルデとアンネの意識が美和ワールドに飛ばされ、

「16200オール!」

 またもや、ドラいっぱいの数え役満を美和に和了られていた。

 

 このヒルデとアンネの表情(エロ)を見て、諸外国の人達の中には、

『美和と咲には、わが国で麻雀プロになって欲しい!』

『ナイスアイデア!』

『こんな麻雀があるなんて、最高じゃん!』

『私、経験してみたい!』

『私も気持ち良いのなら美和と打ってみたい!』

 美和ワールドに肯定的な意見が出始めていた。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:美和 244900

 2位:アンネ 51700(席順による)

 3位:咲 51700(席順による)

 4位:ヒルデ 51700(席順による)

 

 よって、日本チームは合計296600点、スウェーデンチームは合計103400点。日本チームの大量リードだ。

 

 東一局三本場。

 そろそろ美和も勢いがなくなってきた。いくら絶好調でツキがあっても、それが永遠に続くわけでは無い。

 ところが、美和の手が重くなったのを察知すると、

「ポン!」

 今度は、咲が動いた。八巡目に美和が捨てた{②}を鳴いたのだ。

 これで{①}が非常に使い難い牌となった。それで、アンネが捨てた{①}を、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 

 まさに目の覚める大明槓である。

 今までピンク色に染まっていたアンネとヒルデの頭が正気に戻った。

 

 咲のオーラを乗せて副露牌がヒルデのほうへと迫ってきた。まるで、巨大肉食獣が大きな口を開けてヒルデに迫ってくるような感じだ。

 

 咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {③}を暗槓し、さらに次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{②}を加槓した。

 

 槓される度に、ヒルデに向かって強大なオーラが飛んでくる。

 そして、咲は、その次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、四枚目の嶺上牌を引いて、

「ツモ!」

 当然の如く、そのまま和了った。

「32900です。」

 しかも、幻の役満、四槓子。これは、最初に大明槓させたアンネの責任払いとなる。

 

 

 東二局、アンネの親。

 ここでも、

「カン!」

 咲は、やりたい放題だった。

 ヒルデから大明すると、

「もいっこカン! もいっこカン! ツモ!」

 連槓からの和了りを決めた。これは、ヒルデの責任払いとなった。

 もう、咲のオーラに耐えられない。毎回、自分のほうに向けて槓子が副露されると同時にティラノサウルスに食い殺されるような幻を見させられている。

 既にヒルデの目には涙が浮かび上がっていた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一⑨}  暗槓{裏99裏}  暗槓{裏11裏}  明槓{①①①横①}  ツモ{⑨}

 

「32000です。」

 まさかの清老頭。

 これで咲は原点を越えた。

 

 

 東三局、咲の親。

 ここで咲は、

「ロン。3900。」

 門前のタンヤオドラ1をアンネから和了った。

 

 そして、東三局一本場では、

「カン! もいっこカン! ツモ! 嶺上開花! 70符2翻、4500の一本場は4800です!」

 咲は、ヒルデから大明槓し、またもや連槓からの和了りを決めた。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:美和 244900

 2位:咲 125300

 3位:アンネ 14900(席順による)

 4位:ヒルデ 14900(席順による)

 アンネとヒルデが同点になった。

 これを見ていた観衆達は、

「(見事な点数調整だな!)」

 と思ったのは言うまでもない。

 

 さらに咲は、東三局二本場で、

「カン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ! 混老対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花! 12200オール!」

 親の三倍満をツモ和了りし、東三局三本場では、

「ツモ! 1000オールの三本場は1300オール!」

 東三局四本場では、

「ツモ! 1000オールの四本場は1400オール!」

 と、連続で和了りを決めた。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:美和 230000

 2位:咲 170000

 3位:アンネ 0(席順による)

 4位:ヒルデ 0(席順による)

 アンネとヒルデが共に0点にされた。

 素晴らしき点数調整である。

 

 咲のオーラが一番飛んでくるのはヒルデの方だが、アンネも距離としては近い。それ相当に咲のオーラを受けていた。

 もう怖いし、恥ずかしいし、ここから逃げ出したい。

 

 まさか、公衆の面前で三回も美和ワールドに連れて行かれ、その後は恐怖のオーラを浴び続けながら上手に削られるなんて………。

 しかも、点数は丁度0点。

 これに耐えられるほどの図太い神経の持ち主は通常いないだろう。

 

 アンネもヒルデも大放出直前である。

 二人は、目に涙をいっぱい溜めながら、スカートの上から股を強く押さえていた。



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百八十六本場:高校最後の世界大会2  史上最悪コンビ2

これまでと同様に連槓からでも大三元の包が成立するルールにしております。


 日本チームとスウェーデンチームの試合は、先鋒前半戦。

 とうとう運命の東三局五本場がスタートした。

 

 七巡目に咲は、

「ポン!」

 アンネが捨てた{中}を鳴いた。

 その数巡後、ヒルデが初牌の{發}を捨てた。

 本来は捨てたくないのだが、点棒を全て奪われ、ノーテン罰符で箱割れする状態となった今、和了りが最優先である。それで、止むを得ず捨てた感じだ。

 ところが、これを狙っていたかのように、

「カン!」

 咲が、これを大明槓してきた。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 そのまま{白}を暗槓した。

 連槓のため、この{白}が副露されたのはヒルデの責任となる。本大会ルールでは、今回の場合はヒルデに大三元の包が適用されることになる。

 ただ、この時、ヒルデが思ったことは、

『しまった!』

 ではなく、

『怖くて漏れそう!』

 であった。

 二連続で咲の強大なオーラが槓子に乗ってヒルデの方に飛んできたのである。恐怖以外の何ものでもない。

 

 その次巡。

 今度はアンネが聴牌に向けて初牌の{①}を捨てた。

 これもノーテンなら罰符を支払って終了するゆえ、止むを得ずの捨て牌だ。

 すると、

「カン!」

 再び咲が、これを大明槓した。

 三枚目の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は、当然の如く{中}を加槓した。これで四槓子が確定し、しかも連槓のため、四槓子の包がアンネに適用される。

 つまり、アンネとヒルデで、それぞれ別の役満の包を抱えたことになる。

 

 またもや二連続で咲の強大なオーラがヒルデの方に飛んできた。

 距離的に近いアンネにも、その余波が飛んでくる。

 アンネもヒルデも、美和ワールドのお陰で既にスカートの表面まで水分が余裕で上がってきている状態なのだが、更に大放出を追加するのは避けたい。それで、二人とも股を両手で強く押さえていた。

 

 そのまま咲は、最後の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 毎度の如く嶺上開花で和了った。

 

 咲の和了り手は、大三元四槓子。

 このうち大三元の責任の半分はヒルデに、残りの大三元の責任半分と四槓子の責任がアンネに行く。

 よって、

「アンネさんが五本付けで73500、ヒルデさんが24000でお願いします。」

 二人で咲に、それぞれの責任払いをし、さらに上家取りならぬ下家払いで芝棒分はアンネが支払うことになった。

 これで、スウェーデンチームの二人が派手に箱割れして終了した。

 

 先鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 267500

 2位:美和 230000

 3位:ヒルデ -24000

 4位:アンネ -73500

 

 そして、日本チームの合計点は497500、スウェーデンチームの合計点は-97500。

 日本チームの圧倒的な勝利であった。

 

 

「プシャ───!」

 アンネが派手に放出した。

 これに続いて、

「ジョボボボボボ………。」

 それに負けず劣らず、ヒルデが大放出し始めた。対局が一区切りついて緊張の糸が切れた途端、その時はやってくるのだ。

 しかも、全世界生中継。

 最悪だ。

 

 しかし、忘れてはいけない。

 まだ前半戦の終了である。これで終わりではないのだ。

 アンネとヒルデには、まだ悪夢のような後半戦が残されていた。

 

 

 休憩に入った。

 清掃作業のため、後半戦は三十分後とのこと。

 今、アンネとヒルデの頭の中にある言葉は、

『棄権したい』

 の一言であった。

 全世界生中継で何回もイかされ、大放出し、しかも超マイナス。このまま消えて無くなりたい。

 しかし、国を代表して出場しているのだ。それを言葉に出すわけには行かない。

 とりあえず今、二人に出来ることは頭を切り替えることだけだろう。

 

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『放出してナンボ、放出してナンボですわ!』

『スゴイ出し方が激しかったッス!』

『洋モノは音が激しいし!』

『みかんとパインのブレンドだじぇい!』

『↑味も香りも良くならないと思』

『スウェーデンに友達ができたよモー!』

『まあ、この未来は見えとったで』

『↑誰でも見えていると思うぞ! 衣だって分かっていたからな!』

『↑身バレしとると!』

『ダル』

 何時ものメンバーで盛り上がっていた。期待通りの結果に、住民達は大変満足していたようだ。

 

 

 この頃、ドイツチームメンバーのカナコ、千里、ローザは、

「あれって、いったい何?」

 美和の能力に驚いていた。

 三人とも、咲の人間離れした麻雀のことは昨年の世界大会で痛感していた。今更、他国の選手が放出しようと驚きはしない。

 しかし、美和の能力パターンは初めてである。

 インターハイに出場していたフレデリカと栄子から聞かされていたが、まさか、本当にあんな風になるとは………。

 衝撃的であった。

 

 また、他のドイツチームのメンバー達………ニーナ、エリーザ、クララの三人は、咲の悪魔のような闘牌にも驚かされていた。

 三人とも、昨年の世界大会をテレビで見ていたが、基本的にドイツチームの試合しか見ていない。

 その一番の要因は、ドイツでは、ドイツチームの試合を中心に放送され、日本チームを余り大きく取り上げていなかったことであろう。

 それで、咲の対局は決勝でのカナコとの試合くらいしか見ていなかったのだ。

「本当にお漏らしするなんて………。」

 これはこれで、三人には衝撃映像だったようだ。

 

 

 スウェーデンチームの控室は、まるで通夜のようシーンと静まりかえっていた。

 アドバイスしようにも、アンネとヒルデに何を言ってあげて良いのかわからない。他のメンバーが思うところは、

『自分が先鋒で無くて良かった』

 くらいである。

 

 暫くして、控室の電話が鳴り響いた。

 それは、大会スタッフからの電話であった。

 監督が電話に出ると、清掃が終わり、五分後に後半戦が開始される旨が伝えられた。

 

 

 アンネとヒルデが重々しい足取りで対局室へと向かった。

 二人が対局室に入室した時、既に咲と美和の凶悪コンビは卓に付いて場決めの牌を引いて待っていた。

 咲が引いたのは{西}。美和が引いたのは{北}。

 残るは{東}と{南}。

 後半戦は、ヒルデが起家、アンネが南家、咲が西家、美和が北家でスタートした。

 

 序盤からいきなり、

「カン! もいっこカン!」

 咲が連続で暗槓した。

 ヒルデもアンネも、このまま咲が嶺上開花で和了ってしまうのではないかと思ったが、それは杞憂に終わった。

 咲は、嶺上牌を取り込むと不要牌を切った。

 この時、咲の手にはドラが無かった。毎回そうだが、咲は、自分の槓でドラを乗せることが無い。大抵、他の人にドラが乗る。

 そして、今回もドラが大量に乗ったのは美和だった。彼女は、今回はダマで待つ。

 ヒルデもアンネも、前半戦での超マイナスを少しでも多く取り返そうと、高い手を目指す。そして切った牌で、

「ロン!」

 ヒルデが美和にドラだらけの三倍満を振り込んだ。

 …

 …

 …

 

 東二局も、

「カン!」

 咲がドラを増やし、

「ロン!」

 またもや美和が、今度はアンネから三倍満を和了った。

 …

 …

 …

 

 東三局でも同じパターンが続く。

「カン! もいっこカン!」

 咲がドラを増やして、

「ロン。」

 美和がヒルデから三倍満を和了る。

 …

 …

 …

 

 そして、東四局も、

「カン!」

 咲の槓に続き、

「ロン!」

 美和がアンネから親倍を和了った。

 …

 …

 …

 

 

 これでヒルデとアンネは、美和に仲良く48000点ずつ削られたことになる。咲が美和の手の中にあるドラの数を上手に調整しているようだ。

 

 ヒルデもアンネも触手プレーを十分過ぎるほど楽しまされた。

 頭は真っ白。もう何も考えられない。

 

 そして、迎えた東四局一本場。美和の連荘。

 ようやく、ここで美和のスピードが落ちてきた。

 しかし、それを見越してパワーを溜め込んでいた者がいる。その者は、

「ロン。タンピンドラドラ。7700の一本場は8000。」

 頭が回らなくなったアンネから、六巡目で満貫級の手を直取りした。

 

 

 南入した。

 南一局、ヒルデの親。

 ここでも咲が、

「ロン! 8000。」

 今度はヒルデから満貫を直取りした。ただ、前局に続き今回もダマで、しかも槓をしない和了りだった。

 まさか、咲がシンボルとも言える槓を封印してきたとは………。

 こうなると初牌さえ止めれば良いと言うわけではなくなる。

 美和ワールドで楽しまされた後遺症で、アンネもヒルデも、まだ頭が回らない。だからこそのダマ聴なのだろう。

 

 

 南二局、アンネの親。

 ここに来て、ようやく、

「カン!」

 咲がアンネの捨てた{⑧}を大明槓した。ボーっとしていた頭が、一気に叩き起こされる。そんな感じだ。

 そして、

「もいっこカン! もいっこカン! ツモ!」

 そのまま咲は、連槓して嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {④④④⑤}  暗槓{裏南南裏}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{横⑧⑧⑧⑧}  ツモ{[⑤]}

 

「ダブ南混一対々三暗刻三槓子嶺上開花赤1。24000です。」

 三倍満だ。

 これで一気にアンネの持ち点は20000点まで落ち込んだ。

 

 

 南三局、咲の親。

 アンネもヒルデも、前局の咲の和了りで目が覚めた。

 とにかく初牌は極力切らないように心掛ける

 

 中盤に入り、ヒルデが二枚切れの{中}を引いた。

 これは、二巡前に美和が切った牌だ。

 今のところ、咲は大明槓を仕掛けるか平和手を和了るか、それとも点数調整で安手を和了るか………と言った感じだ。

 

 今日の咲を見る限り、大丈夫そうな牌だ。しかも美和の現物なので、美和に和了られることもない。

 完全な安牌。

 そう思ってヒルデは{中}をツモ切りした。

 しかし、

「ロン!」

 まさかの地獄単騎で咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三999白白白發發發中}  ロン{中}

 

「小三元チャンタ三暗刻。24000です。」

 まさかの親倍直撃だった。

 

 これで先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:美和 196000

 2位:咲 164500

 3位:ヒルデ 20000(席順による)

 4位:アンネ 20000(席順による)

 

 なんだかんだで、アンネとヒルデを均等に削っているとは………。

 やはり点数を調整して遊ばれている。

 アンネには、そうとしか思えなかった。

 

 

 南三局、咲の親。

 この局が始まってすぐ、アンネもヒルデも、この上ない寒気を感じた。その空気と言うかオーラの発生源は、言うまでもなく咲だった。

 

 アンネもヒルデも全然手が進まない。

 そのような中、

「ポン!」

 咲が美和の援護で{東}を鳴いた。

 さらに次巡、

「ポン!」

 またもや咲が美和から{南}を鳴いた。これで咲は場風と自風を揃えた。

 

 そのさらに二巡後、

「カン!」

 咲が美和の捨てた{白}を大明槓した。

 ただ、嶺上開花では和了らず、有効牌を手に入れただけで止まったようだ。

 

 しかし、その次巡、

「もいっこカン! もいっこカン!」

 再び咲の連槓が始まった。まず山からツモってきた{東}を加槓し、続いて王牌から引いてきた{南}の加槓したのだ。

 次の………三枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこカン!」

 咲は{西}を暗槓し、続いて最後の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 {北}単騎で和了った。

 言うまでもない。これは小四喜字一色四槓子。親のトリプル役満だ。

「48100オールです。」

 

 これで先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 308300

 2位:美和 147900

 3位:ヒルデ -28100(席順による)

 4位:アンネ -28100(席順による)

 アンネとヒルデが豪快にトンで後半戦を終了した。

 

 日本チームの後半戦の合計点は456200、スウェーデンチームの合計点は-56200。前半戦に続き、日本チームがとんでもない大量得点を叩き出した。

 そして、前後半戦の合計点は、日本チームが953700と百万点近い点数をマークした。

 一方のスウェーデンチームの前後半戦の合計点は-153700と無残な結果に終わった。



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百八十七本場:高校最後の世界大会3  時間跳躍(まこの活躍)

 前半戦に続き、後半戦でも、

「プシャ──────!」

 対局終了と同時にアンネが大放出してしまった。

 前半戦と同様に咲の上家に座っていたため、下家ほどではないにせよ咲のオーラを受けやすかったためであろう。結構派手に大放出していた。

 

 これに一歩遅れて、

「シャ──────!」

 ヒルデも放出し始めた。

 前半戦が咲の下家だったため、死を覚悟するレベルの心的障害を植えつけられた部分はあるのだろう。

 それでアンネほど激しくはなかったが、咲のオーラを最も受けにくい対面にいながらも放出を回避できなかったようだ。

 

 

「「あ…有難うございました。」」

 咲と美和は、対局後の挨拶を済ませると、逃げるように対局室から出て行った。

 

 再び換気・清掃作業が入るため、次鋒戦の開始は三十分後程度遅れることになった。開始五分前に改めて控室にスタッフから連絡が行く。

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『ミックスジュース! ミックスジュースですわ!』

『きっと芳醇な香りだじぇい!』

『いや、香と言うよりニオイやろ!』

『それも匂いじゃなくて臭いなのよー』

『世界的に高視聴率だと思』

『でも、ちょっとスウェーデンの先鋒達がカワイソウなのです!』

『世界的に凶悪コンビの名が知れ渡ったと思うッス!』

『たしかにあの二人と卓を囲みたくはなか!』

『インターハイ個人準決勝では光ちゃんと人魚姫が同卓だったし!』

『コクマは光ちゃんと棘姫(ドイツ→長野)やったけど、棘姫は耐えられへんかったな』

『耐えられないのが正常で、耐えられるのが異常じゃ!』←まこ

 毎度の如く盛り上がっていた。

 

 ただ、まこが介入してきたため時間軸が飛び、次鋒戦がスタートした。今、時間軸は非常に不安定となり、いつ再び跳躍が入るか分からない状態となった。

 

 

 次鋒戦は、日本チームからは石見神楽と高鴨穏乃のペアが、スウェーデンチームからはランディ(3年生)とシリエ(1年生)のペアが参戦した。

 

 本来、穏乃は大将以外のポジションでは力を発揮し切れない性格である。

 しかし、今回日本のメンバーとして参加する選手達は、咲と美和以外、全員が合宿中に敬子が使った紙コップを通じて間接キスを義務化していた。そのため、全員が絶好調状態にあった。

 それで敢えて穏乃を大将以外のポジションに置き、それでも調子が下がらないかの検証を行うことになった。

 少なくとも、スウェーデンチームを相手に中堅の咲・光ペアと副将の淡・光ペアが負けるとは思えない。大将の和・敬子ペアまで回さずに勝利できると自負している。

 だからこそ、こう言った冒険もできるのだ。

 

 

 場決めがされ、起家が神楽、南家がランディ、西家がシリエ、北家が穏乃に決まった。

 

 東一局、神楽の親。

 神楽は両手を合わせると精神を集中した。

 彼女の髪が激しく逆立った。生霊を降ろしているのだ。

 そして、髪の逆立ちが収まると、神楽は静かに目を開いた。

「では始めます。」

 神楽がサイを回した。

 出た目は7。対面の山が開く。

 

 配牌が終わり、神楽は普通に打{西}。

 その後も、特に高い手を狙わずに確実に和了りだけを目指す。

「ポン!」

 神楽が{中}を鳴いた。

 そして、その数巡後に、

「ツモ。中のみ。500オール。」

 非常に安い手だが、先ず第一弾の和了りを決めた。

 

 東一局一本場も、

「ツモ。600オール。」

 

 東一局二本場も、

「ツモ。700オール。」

 

 東一局三本場も、

「ツモ。800オール。」

 

 東一局四本場も五本場も、

「ツモ。900オール。」

「ツモ。1000オール。」

 神楽はクズ手を和了り続けた。

 これは、椋真尋(椋千尋再従妹)の麻雀だ。今、神楽に降りているのは現千里山女子高校のナンバー2、真尋の生霊だった。

 

 そして、続く東一局六本場。

 急に卓上の空気が変わった。靄がかかり出したのだ。

 既に六局も打っていたからであろう。まだ東一局ではあったが、穏乃の山支配のスイッチが入ったのだ。

 こんなことは、ランディもシリエも経験したことが無い。

 そもそも卓に靄とか霧とかがかかるなんて、普通は有り得ない。

 ところが、山が一歩一歩と深くなるにつれて穏乃の支配はドンドン強力になって行き、それに伴って靄が次第に濃霧へと進化して行く。

 

 妙に視界が悪い。

 それもあって、シリエは穏乃の河を見落としてしまった。

 そして、シリエが切った牌で、

「ロン。7700の六本場は9500。」

 穏乃が和了った。

 平和タンヤオドラ2の満貫級の手だが、芝棒を含めると一万点近い点数になる。この振込みは、シリエとしてもショックであった。

 

 

 東二局、ランディの親。

 ここでも卓上に靄がかかる。

 穏乃の山支配は、後から牌譜を見ても実態を掴むことは難しいだろう。

 恐らく、実際に穏乃と打って、靄や霧を見たり穏乃の支配下に置かれたりして初めて理解できるものである。

 ランディもシリエも、こんなことが起きるなんて想像もできなかった。

 これが日本で一番強い高校の第二エースの力。

 何故、穏乃が深山幽谷の化身と呼ばれるかを、ランディもシリエも始めて理解した。

 

 手が思うように進まないまま、場は終盤に入っていた。

 そして、シリエが不要牌をツモ切りしたとの瞬間だった。

「ロン。7700。」

 またもや穏乃に振込んだ。これで二連続である。

 しかも、今回は穏乃が和了る時に、穏乃の背後に火焔が見えた。既に穏乃はパワー全開になっていた。

 

 その後、穏乃は東三局で、またもやシリエから7700を和了った。

 さらに穏乃は、親でシリエから11600、18000一本付け、18000二本付け、11600三本付け、9600四本付けを和了り………と言うかシリエを徹底して狙い撃ちし、シリエをトバして次鋒前半戦を終了した。

 

 

 一旦休憩に入った。

 と言っても、先鋒戦とは違って清掃作業が入るわけではないし、先鋒戦では前半戦も後半戦も共に、終了後に清掃作業が入ったため、全体的に時間が押している。

 それで、次鋒戦では休憩時間が五分しか与えられなかった。

 特に巨大湖形成とかも心配もない対局であろう。四人とも退室せずに卓に付いてまま目を閉じて休んでいた。

 

 

 対局室にブザーが鳴り響いた。休憩時間が終わったのだ。

 早速、場決めがされ、起家はシリエ、南家が神楽、西家が穏乃、北家がランディに決まった。

 

 東一局、シリエの親。

 ここでいきなり、

「15枚あるのです。チョンボしていまいました。」

 神楽が多牌した。

 多牌は発覚時点でチョンボとなる。開始早々8000点のマイナスで普通なら痛い。

 しかし、今回のチョンボは神楽に降りてきた者が最高の力を発揮するための儀式みたいなもの………。

 この後半戦で、神楽の身体に降りてきたのは夢乃マホの生霊だった。

 

 東一局は、芝棒も増やさずに、やり直しになった。

 本大会では、チョンボの場合は連荘扱いせず、その局自体を最初から仕切り直すルールとなっていた。

 リードしているチームがオーラスでワザとチョンボし、終了させることで勝ち星を手に入れるのを防ぐためである。

 

「リーチ!」

 シリエが先制リーチをかけた。

 すると、

「じゃあ私もぉ~、とおらばぁ~、リーチです!」

 神楽が、まるで狙っていたかのように追っかけリーチをかけた。

 

 そして次巡、シリエがツモ切りした牌で、

「ロン! リーチ一発ドラ2で8000です!」

 神楽はシリエを討ち取った。

 これは、姉帯豊音のコピーである。

 

 

 東二局、神楽の親。

 ここでは、

「捨てる牌がありません。ツモ! 16000オール!」

 優希をコピーした。

 神楽自身も敬子から人魚パワーをもらっていて絶好調………と言うか、生霊のパワーを最大限に引き出せる状況にある。

 それで、インターハイではマホがコピーできなかったレベルの闘牌ができるようになっていた。故の天和である。

 

 しかも、今回は能力のペース配分を考える必要が無い。途中で息切れしても、その後は穏乃が山支配を発動させて何とかしてくれる。

 それもあって、マホの生霊は後先を考えずにフルパワーで行くことにしていた。

 

 東二局一本場では、

「カン! もいっこカンです! もいっこカンです! もいっこカンです! ツモ! 大三元字一色四槓子! 48100オールです!」

 咲のコピーで親のトリプル役満を嶺上開花で和了った。

 

 しかし、さすがに二連続で奇跡的な和了を見せればマホも息切れする。

 東二局二本場では、

「ツモ。2200、4200。」

 ランディに満貫をツモ和了りされ、神楽の親が流された。

 

 

 東三局、穏乃の親。

 ここでは、七巡目に、

「リーチ!」

 ランディが東切りで先制リーチをかけた。

 すると、

「ポンです!」

 これを神楽(マホ)が鳴いた。

 

 続くツモ番で穏乃が切った北を、

「ポン!」

 またもや神楽が鳴いた。

 これは、まぎれもなく薄墨初美のコピーである。

 

 その後、神楽は{西}、{西}、{西}、{南}、{南}と五連続でツモって小四喜を聴牌し、次のツモ番でランディが切った{②}で、

「ロン! 32000です!」

 神楽は役満を直取りした。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 321100

 2位:穏乃 35700

 3位:シリエ 28700

 4位:ランディ 14500

 神楽が圧倒的なリードを見せた。前半戦の分も合わせると、もはやスウェーデンチームの逆転は不可能と誰もが思った

 

 

 東四局、ランディの親。

 ここに来て卓上に靄がかかった。穏乃の山支配のスイッチが入ったのだ。

 もう、マホの役割は終わりである。

 あとは、穏乃の邪魔にならないようにシリエやランディに振込まないよう注意すれば良い。これは、神楽の他家の手牌を透視する能力で対応すれば問題ない。

 

 この局は、

「ツモ。1300、2600。」

 穏乃がタンピンツモドラ1の凡庸な手を和了ってランディの親を流した。

 

 

 南入した。

 南一局、シリエの親。

 穏乃の山支配は、前局よりも強力になる。ここから、穏乃の支配力はドンドン強まって行くのだ。

 卓上は、より深い霧がかかった深山幽谷の世界………シンと静まり返った寂しい空間へと変わる。

 

 ランディもシリエも、ツモと手牌と噛み合わない。

 妙に視界も悪い。

 そして、気が付くと、

「ツモ。1300、2600。」

 またもや穏乃に和了られていた。

 

 

 南二局も、

「ツモ。1300、2600。」

 同様に穏乃に和了りを許した。

 

 これで次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 315900

 2位:穏乃 51300

 3位:シリエ 23500

 4位:ランディ 9300

 ランディが、とうとう10000点を割った。

 

 

 そして、南三局、穏乃の親番が回ってきた。

 卓上には、さらに深い霧………濃霧に覆われていた。穏乃の支配力が、今日一番の状態になったのだ。

 とにかく、シリエもランディも、勝利を目指すにはムリヤリ複合役満を狙うくらいしかない。当然、無茶をする。

 しかし、中盤に入り、ランディが河を良く見ずに切った牌で、

「ロン。」

 穏乃に和了られた。

 しかも、

「平和一盃口ドラ2。11600。」

 親満級の手だ。

 

 これで次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 315900

 2位:穏乃 62900

 3位:シリエ 23500

 4位:ランディ -2300

 ランディのトビで終了した。

 

 前半戦のチームの合計点は日本チームが305700点、スウェーデンチームが94300点。

 後半戦のチームの合計点は日本チームが378800点、スウェーデンチームが21200点。

 前後半戦の合計点は日本チームが684500点、スウェーデンチームが115500点と、日本チームが圧倒的点差で次鋒戦を制した。

 これで日本チームが勝ち星二となった。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の挨拶を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 この時、既にスウェーデンチームのメンバー達からは、勝利に向けた気合いとか気迫が完全に消えていた。

 それもそうであろう。

 次の中堅戦では、日本チームからは咲と光が参戦する。どちらも世界トップレベルの有名選手だ。

 スウェーデンチームも、当然、中堅にはダブルエースを配置するが、日本のダブルエースには到底敵うとは思えない。

 もはや、戦う前から勝負は見えていると、選手達ですら思っていた。

 

 

 中堅選手達が入場してきた。

 スウェーデンチームからはヒルデ(3年生:エース)とアストリ(2年生:第二エース)が参戦するが、二人とも始まる前から青い顔をしていた。

 特にヒルデは、先鋒戦で咲と美和の最悪コンビに思い切り痛い目に合わされていたためであろう。完全に悲観的な表情をしていた。

 

 喜んでいたのは、某ネット掲示板の住民達だけである。ヒルデとアストリが、どれだけ大放出するかで話題沸騰していた。



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百八十八本場:高校最後の世界大会4  去年の借り

「これは、やる前から勝負あったようなもんじゃのぉ。」

 ふと、まこが独り言を漏らした。

 次の瞬間、時間軸が飛び、中堅戦が終了した。

 

 前半戦も後半戦も、スウェーデンチームの二人が揃ってトビ終了。日本チームの圧倒的勝利であった。

 そして、毎度の如く、

「ジョジョ────────!」

「プシャ──────!」

 対局終了と同時にヒルデもアストリも派手に大放出してしまった。

 さすがに咲と光の『死神コンビ』を目の前にして、最後まで平静でいられる選手のほうが少ないようだ。

 

 

「「あ…有難うございました。」」

 咲と光は、対局後の挨拶を済ませると、逃げるように対局室から出て行った。これも見慣れた光景である。

 

 これで日本チームが勝ち星三で勝利したため、これで対局は終了となった。再び換気・清掃作業に移るが、これは明日の対局に向けての作業と言うことになる。

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『大放出! 大放出ですわ!』

『やっぱり咲ちゃんと光ちゃんは凄いじぇい!』

『これと対等に戦えるんはドイツチームくらいやろ!』

『私達でも多分耐え切れないのよー』

『でも、先鋒戦ほど高視聴率にはなってないと思』

『スウェーデンの中堅達、特にヒルデがカワイソウなのです!』

『最初から結果は見えてたと思うッス!』

『たしかにあの二人とも卓を囲みたくはなか!』

『インターハイ個人準決勝では美和様と人魚姫が同卓だったし!』

『コクマは美和様と棘姫(ドイツ→長野)やったけど、棘姫は耐えられへんかったな…って先鋒戦の時と同じ書き込みしとるやん』

『やっぱり耐えられないのが正常で、耐えられるのが異常じゃ!』←まこ

 毎度の如く盛り上がっていた。

 ただ、今回もまこが書き込みに介入してきたため、さらなる時間軸の跳躍が起こった。

 

 大会五日目、三回戦。日本チームはアルゼンチンチームと対戦した。

 日本チームのオーダーは、

 先鋒:咲・美和

 次鋒:神楽・敬子

 中堅:咲・光

 副将:淡・光

 大将:穏乃・和

 

 先鋒戦は、またもや日本からは最悪コンビの参戦。当然、世界的に麻雀以外のモノが期待され、高視聴率の対局となった。

 アルゼンチンチームの先鋒は、ルチアナ(3年生:エース)とバレンティナ(3年生)。

 やはり二人とも、某ネット掲示板の住民達の期待に応えるが如く、ヒルデとアンネと同様に痴態を晒すことになった。

 言うまでもなく、先鋒戦は前後半戦共に日本チームの大勝利で終わった。

 

 次鋒戦では、この日、神楽は前半戦で十曽湧、後半戦で石戸明星の生霊を降ろした。

 アルゼンチンチームからはカレン(2年生)とティアナ(2年生)が参戦したが、神楽が降ろした永水ツインズと、敬子の読めない打ち筋には太刀打ちできず、ここでも日本チームに勝ち星を譲る結果となった。

 

 中堅戦では、アルゼンチンチームからはルチアナとジュリア(3年生:第二エース)が参戦したが、咲と光が相手では到底勝ち目は無い。

 スウェーデンチームの中堅選手達と同様に、咲と光に大敗し、派手にパインジュースを大放出する羽目になった。

 

 

 大会六日目の四回戦では、日本チームはイギリスチームと対戦することになった。

 日本チームのオーダーは、

 先鋒:咲・美和

 次鋒:神楽・和

 中堅:咲・光

 副将:敬子・光

 大将:穏乃・淡

 

 イギリスチームの先鋒は、フローレンス(3年生:エース)とアリア(1年生)。

 もはや、完全にお約束と言っても良いだろう。二人とも悪い意味で周りの期待に応えてくれた。

 勿論、対局自体も咲と美和の大勝利である。

 全てが二回戦、三回戦と同じパターンであった。

 

 次鋒戦では、神楽は前半戦で東横桃子、後半戦で真屋由暉子の生霊を降ろした。

 イギリスチームからはソフィア(2年生)とアメリア(2年生)が参戦。この対局の後半戦が、今までの日本チームの戦いで、もっとも普通の麻雀に近い対局となった。

 結果は、日本チームがギリギリのところで勝利を収め、これで日本チームが勝ち星二となった。

 

 そして中堅戦では、イギリスチームからはフローレンスとエルシー(3年生第二エース)が参戦した。

 しかし、日本の死神コンビには手も足も出ず、前後半戦共に、二人とも箱割れして日本チームが三つ目の勝ち星を取った。

 

 

 そして、大会七日目になった。

 この日は、ブロック準々決勝の日。

 日本チームの対戦相手は、ロシアチーム。

 昨年の世界大会では、日本チームに勝ち星を集中させないために、ステラがラス確定和了りした。それで淡は2位となり勝ち星を逃した。

 淡にとっては、まさに、そのリベンジ戦である。

 

 日本チームのオーダーは、

 先鋒:咲・淡

 次鋒:神楽・美和

 中堅:咲・光

 副将:敬子・光

 大将:穏乃・和

 

 今回は、最悪コンビではなく咲と淡のコンビを先鋒に持ってきた。

 対するロシアチームの先鋒はステラ(3年生)と第二エースのイリーナ(1年生)。今のロシアチームの中でイリーナは一番の美少女であった。

 その優れた容姿は、昨年の美貌対決で咲を涙目にしたナンバーワン美女ナタリアとイイ勝負である。

 しかも、オモチの方も形が美しく、全体のバランスを崩さない範囲で最大値と言える大きさだった。玄にとっても嬉しい限りだ。

 ナタリアは昨年3年生で、既に卒業したが、その入れ替わりでイリーナがロシアチームに入ってきた。恐らくイリーナが、本大会のナンバーワン美少女であろう。

 

 実は、日本チームは、ロシアチームのオーダーを事前に知っていた。毎度の如く、神楽が啓示を受けていたからだ。

 それで、淡がリベンジするために敢えて先鋒に淡を持ってきたのだ。

 

 対局室に先鋒選手四人が姿を現した。

 場決めがされ、起家が淡、南家がイリーナ、西家が咲、北家がステラに決まった。

 

 東一局、淡の親。

 ここで淡は、

「(絶対安全圏+ダブリー!)」

 能力を全開にした。

 卓上に宇宙空間が広がる。絶対安全圏が発動したためだ。

 淡のみが配牌聴牌、他家は全員六向聴からのスタートとなった。

 

 咲が淡に、

「(大丈夫だよ、淡ちゃん!)」

 目で合図を送った。咲が相手の手牌と山を見る限り、イリーナもステラも国士無双を聴牌できる巡り合わせになっていなかったからだ。

 これを受けて、

「リーチ!」

 淡がダブルリーチをかけた。

 

 サイの目は7。

 最後の角の後が最も長いパターンである。

 

 淡の暗槓は9巡目。そこまで、誰も鳴かずに場が進んで行った。

 そして、

「カン!」

 お決まりのパターンで淡が暗槓した。

 嶺上牌はツモ切り。

 すると、

「カン!」

 この捨て牌を咲が大明槓した。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は当然のことのように暗槓した。

 ただ、嶺上牌を珍しくツモ切りした。

 

 次はステラのツモ番。ここで、彼女は聴牌した。

 しかも、ドラ、赤牌、新ドラに恵まれた手。

 一枚目の槓裏だけは淡が独占するだろう。しかし、他の裏ドラは自分の手に乗る可能性は十分にある。

 ならば、

「リーチ!」

 ここは勝負である。

 

 続く淡はツモ切り。ステラには振り込まず。

 イリーナは一旦安牌切り。ここでステラに振り込んでもチームとしてはマイナスにならないが、どうせならステラを淡から和了らせたい。

 咲も安牌切りで凌いだ。

 

 そして、ステラのツモ番。

 ステラが引いてきた牌は、彼女の和了り牌ではなかった。

 リーチ者なので、当然ツモ切り。

 すると、これを待ってましたとばかりに、

「ロン!」

 淡が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {九九②③④④⑤⑥88}  暗槓{裏二二裏}  ロン{九}  ドラ{2}  槓ドラ{①④西}  裏ドラ{5}  槓裏{二九8}

 

「ダブリードラ11。48000!」

 親の数え役満であった。

 淡と咲の連係プレイである。これで、ステラは持ち点の約半分を失った。

 

 東一局一本場、淡の連荘。ドラは{一}。

 サイの目は6。

 ここでも淡は、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 今回は、最後の角の後が二番目に長いパターン。淡の暗槓は、誰も鳴かなければ10巡目になる。

 

 イリーナの手もステラの手も、配牌は最悪だがツモはそれなりに噛み合ってくれる。

 そして、9巡目のツモでステラは聴牌した。

 まさか同じことが二連続で起こるとは思えない。

 ステラは、

「リーチ!」

 淡の親を蹴るためリーチをかけた。

 

 この時のステラの手は、

 {一二三四[五]六①②③[⑤][⑤]23}

 

 ドラは赤牌と合わせて4枚。高目で三色同順が付いて倍満になる平和手だ。

 当然、降りたくないし勝負に出たと言ったところだろう。

 

 そして、10巡目。

 淡は、山から牌をツモると、

「カン!」

 {8}を暗槓した。

 そして、嶺上牌の{9}をツモ切りすると、

「カン!」

 これを咲が大明槓した。

 嶺上牌を取り込むと、咲は安牌切りで通し。

 

 次のツモ番はステラ。

 しかし、引いてきた牌は{西}。和了り牌ではないためツモ切り。

 すると、

「カン!」

 またもや咲が大明槓した。

 この時、咲の全身からは凄まじいオーラが放たれていた。

 嶺上牌はツモ切り。

 

 そして、ツモ番は再びステラ。

 ここで彼女が引いてきた牌は{北}。

 和了り牌でなければリーチ者はツモ切りしなければならない。当然、ステラは、これをツモ切り。

 すると、

「ロン。48300!」

 またもや淡に和了られた。

 しかも、前局と同様にダブルリーチドラ11の数え役満。

 これでステラの点棒は、1700点まで減らされた。

 

 東一局二本場。

 既にステラは箱割れ直前。

 ここでも淡は、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 リーチ宣言牌は{3}。

 

 今までは、淡が暗槓するまで、ステラは押して行けば良かった。

 一発振込みだと7700点と比較的高いが、これは正直事故である。

 しかし、一発さえ乗り切れば、その後はダブルリーチのみの3900点の手でしかない。それで、暗槓までは自分の手を進めることだけを考えていた。

 

 ところが、今、ステラの持ち点は3900点にも耐えられない。

 恐ろしい程のプレッッシャーがステラに圧し掛かってきた。

 

 こう言う時に限って、ステラの手牌は、

 {一二五八②⑤⑧⑨258南西}

 

 字牌が少なかった。

 ここに第一ツモは{九}。打{西}。

 

 二巡目はツモ{9}。ここから打{南}。

 

 三巡目はツモ{7}。

 上家………咲の河を見ると、連続で{3}を二枚捨てていた。共にツモ切りだった牌だ。

 

 ステラの手牌は、

 {一二五八九②⑤⑧⑨2589}  ツモ{7}

 

 ジュンチャンが狙えそうな流れに思えた。

 しかも、巧く行けば三色も付く。

 それでステラは、{3}の壁を信じて{2}を捨てた。

 ところが、

「ロン。ダブルリーチのみ。3900の二本場は4500。」

 まさかの振込み。

 

 今回、淡の手は{②}と{2}のシャボ待ち。ステラは、ジュンチャン三色を意識した時点で振込んでいたのだ。

 これで前半戦はステラのトビで終了となった。

 

 今回、咲は一度も和了らなかった。

 しかし、淡のドラを大量にプレゼントしたり、最後のステラの{2}切りを誘導したりと、コンビ打ちのパートナーとして最高の仕事をしたと言える。

 これをテレビで見ていたフレデリカ達は、やはり日本最強は咲であることを再認識させられた。

 

 

 休憩に入った。

「サキー。有難う! お陰でスッキリした!」

 淡は、そう言いながら咲にダイブして抱きついた。淡からすれば、昨年の借りに利子をつけて返せた気分である。

 これも咲がパートナーだからこそできたことは淡も重々承知している。

 敵同士の時は最高に恐ろしい相手だが、味方になるとこれ以上頼もしい存在は無い。

 間違いなく咲は自分達のエースだ。

 

 

 一方、某掲示板の住人達は、

『一大事、一大事ですわ! 誰も放出しておりませんわ!』

『ないないっ! そんなのっ!』

『そんなオカルトありえません!』

『スバラくないですねぇ』

『エニグマティックだじぇい!』

『後半戦に期待するし!』

『あたたかくなーい!』

『高校102年生の和了りじゃ放出はムリッスね』

『咲様、一応カンしてたんデー!』

『でも、やっぱり最悪コンビの方が面白いよモー!』

『相手を叩き潰すカンだったけど、自分で和了るカンじゃなかったからだと思』

『オモチの淡ちゃんが和了れて良かったのです!』

 オモチを語る人以外にとっては不完全燃焼な試合内容だったようだ。

 やはり、咲と美和の最悪コンビの破壊力を知った今、並大抵の内容では満足できないらしい。大会ナンバーワン美女であるイリーナが派手にヤらかしてくれないと気が済まないのだろう。

 

 

 休憩が終わり、再び先鋒選手達が対局室に姿を現した。

 そして、早速場決めがされ、今度は起家が咲、南家がイリーナ、西家が淡、北家がステラとなった。

 

 この時、咲の全身からは久々にどす黒いオーラが放たれていた。

 別に京太郎絡みで何かがあったわけではない。

 前半戦で大人しく(?)していた分、後半戦では思い切り暴れまくりたいと思っていたためである。

 勿論、ターゲットは大会ナンバーワン美女のイリーナ。

「(この娘、本気で超綺麗過ぎる。去年戦ったナタリアレベルだし、正直言って全女性の敵だよね。だったら、やっちゃってもイイよね!?)」

 どうやら、イリーナに最大級のオーラをお見舞いしなければ、咲も気が済まないようだ。



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百八十九本場:高校最後の世界大会5  十倍返し

 大会七日目のブロック準々決勝戦。

 先鋒後半戦がスタートした。

 

 東一局、咲の親。ドラは{⑤}。

 咲の配牌は、

 {一五九②⑧2468東南西北發}

 ここから打{②}でスタートした。

 

 今回、淡は大人しい。絶対安全圏のみでダブルリーチはかけなかった。前半戦で楽しませてもらった分、後半戦は咲に華を持たせるつもりのようだ。

 

 9巡目。

 イリーナが聴牌した。

 彼女の手牌は、

 {三四[五]六七[⑤][⑤]⑤⑥⑦556}  ツモ{[5]}

 タンヤオドラ7の倍満手である。

 

 咲の河は、

 {②⑧五一九北南西東}

 どうやらは索子に染め手いるっぽい。

 

 加えて{6}は初牌だが、やはり前半戦でステラが大失点している以上、イリーナとしてもここは大きく稼ぎたい。

「(勝負!)」

 イリーナが{6}を強打した。

 まさに振込み覚悟の賭けである。通れば倍満聴牌だ。

 しかし、

「カン!」

 案の定、咲が、これを大明槓した。

 咲の副露牌は咲とイリーナの間に晒される。この副露牌に乗って咲の強大なオーラがイリーナ目掛けて飛んでくる。

 まさにそれは、白亜紀後期に地球上の食物連鎖の頂上に君臨していた巨大肉食獣が大きな口を開けてイリーナのほうに突進してくるような恐ろしい感覚だ。

「(ヒィッ!)」

 思わずイリーナは、心の中で叫び声を上げた。

 

 そんなのお構い無しに、咲は嶺上牌を引くと、

「(去年、淡ちゃん(麻雀)と私を(美貌対決)泣かせた恨みを、十倍返しにしてやるんだから!)」

 と心の中で声を張り上げながら、

「もいっこ、カン!」

 咲は{8}を暗槓した。

 別に、昨年の大会で淡を泣かせたのも咲を泣かせたのもイリーナではないのだが………、まあ、同じロシアチームの美女ゆえに八つ当たりされている部分はあるのだろう。

 

 再びイリーナを目掛けて咲の強大なオーラが飛んできた。イリーナには、まさに二匹目の巨大肉食獣が彼女の身体に噛み付こうとしている幻が見える。

 

 さらに咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {4}を暗槓した。

 イリーナを目掛けて三度目のオーラが飛んできた。

 彼女の頭の中では、既に三匹目の巨大肉食獣が現れており、その三匹がイリーナの身体に喰らい付いている状態だった。

 一匹目が右足に、二匹目は左足に、三匹目は頭に噛み付いている。

 そして、その三匹が強烈な力でイリーナの身体を引っ張り合った。

 

「(死にたくない!)」

 心の中で、イリーナが叫んだ。

 しかし、そんな想いを裏切るかのように、

「(ブチッ!)」

 幻の中でイリーナの身体が見事に三つに引き千切られた。

 現実世界での出来事では無いのに、余りの恐怖に怯えて、イリーナの目からは怒涛の如く涙が流れ出ていた。

 そして、

「ジョボボボボボ………。」

 その恐怖映像に耐え切れず、とうとうイリーナは派手に大放出した。

 

 某掲示板では、

『ヤッたッス! これで丼飯10杯はイケルッス!』

『大放出してナンボ、大放出してナンボですわ!』

『あったかーい』

『ステキです』

『ス・バ・ラ・で・す!』

『やっぱり咲ちゃんは期待を裏切らないじぇい!』

『でも、まだ和了ってないし!』

『お友達ができたよモー!』

『先輩が喜んでるデー!』

『オモチ美女の大放出は見ていて最高ですのだ!』

『やっぱりこれがないと楽しみが減ると思』

『さすが咲様! 完全にお宝映像じゃなかと!』

『やっと予想していた未来がみえたで!』

『黄金水が出るでー!』

『ダル………』

 いつもの住人達が大喜びしていた。

 

 しかし、まだプレイ中である。

 王牌には、あと二枚の嶺上牌が残っている。

 咲は、三枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {2}を暗槓した。

 

「ジョボボボボボ………。」

 まだイリーナの大放出は加速する一方で止まる様子がない。

 涙も止まらない。

 それを横目に咲は、最後の嶺上牌………{發}で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

「緑一色四槓子。96000です。」

 しかもダブル役満。

 この責任払いでイリーナの点棒は、一気に4000点まで削られた。

 

 突然、

「プシャ──────!」

 イリーナほど強烈ではなかったが、ステラも派手に放出し始めた。まるで、イリーナから伝染したかのようである。

 卓の下には、巨大な黄金の湖がドンドン大きく広がって行った。

 

 咲は、激しく震えるイリーナから点棒を受け取ると、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 スタッフ達は、一旦ここで試合を中断して清掃作業に入ろうかと思っていたのだが、咲の全身から放出される恐ろしいオーラを受けて動けなくなっていた。

 それで、そのまま試合は続行となった。

 

 東一局一本場。

 当然、この局も絶対安全圏が発動していた。

 しかし、淡は、ここでも特に動く気配はなかった。後半戦は、咲の独壇場と決めているからだ。

 そして七巡目、

「リーチ!」

 咲が先制リーチをかけてきた。

 そもそも配牌六向聴牌である。イリーナもステラも、七巡目では、さすがに聴牌できていなかった。

 一切のムダツモ無しで手を進められること自体がおかしい。

 一先ず、二人とも安牌を切って様子を見た。

 しかし、次巡、

「カン!」

 咲が{西}を暗槓した。

 

 またもやイリーナに向けて強大なオーラが飛んできた。

 再び巨大肉食獣がイリーナを捕食しようと襲い掛かってくる幻が見えた。

 ところが、その直後、突然様子が変わった。地面が裂けて、ところどころからマグマが噴出し始めたのだ。

 そして、イリーナを狙っていた巨大肉食獣がマグマを被って焼け死んでゆく、まさに地獄絵図とも言うべき映像がイリーナの脳裏に浮かんだ。

 食い殺される状況から開放されて一瞬ホッとしたが、当然、自分も生き残れるような環境では無い。

 地面が激しく揺れる。大地震だ。

 マグマの噴出も激しくなる。

 もはや、死を受け入れるのみだ。

 

『死にたくない!』

 などと言う心情を既に通り越していた。

 再びイリーナの目から涙が流れ出た。これは恐怖からのモノでは無い。完全なる絶望とか避けられない悲しみから来る涙であった。

 

 現実世界では、

「ツモ!」

 無情にも、そのまま咲が嶺上開花で和了っていた。

 しかも、

「リーチツモ嶺上開花赤1。4100オールです。」

 親満ツモの一本場。

 これで、イリーナが、たった100点だが箱割れして終了となった。

 

 

「「「「有難うございました!」」」」

 

 咲と淡は、対局後の一礼を済ますと、急いで対局室を出て行った。

 やはり、黄金水のニオイが漂う場所から離れたかったのはあるだろうが、それ以上に大放出させた相手と一緒にいるのはキツイ。

 それで二人は、この場から逃げたのだ。

 

 一方のイリーナとステラは、一礼の後、しばらく動くことができなかった。

 恥ずかしいとか悔しいとか言う次元では無い。怖かったのだ。

 しかし、ずっとここに居座るわけには行かない。二人は、自分の心に活を入れると、重い足取りで何とか対局室を出て行った。

 

 

 清掃作業に入った。

 この頃、某掲示板では、

『次は美和様なんやろ? 掃除するだけムダちゃうか?』←洋榎

『どうせ汚れるのは目に見えてるじぇい!』

『みかんジュースが溢れる未来が見えるで! 掃除なんかムダや!』

『さっさと始めて欲しいし!』

『あたたかくなーい!』

『もう放出したのは冷めてるじょ』

『でも、どうせならイリーナで美和様には遊んで欲しかったッス!』

『私もそう思』

 いつもの住人達が好き勝手なことを書いていた。

 

 

 それから30分余りが過ぎた。

 スタッフから日本チームとロシアチームの控室に試合再開の連絡が入った。

 

 それから数分後、対局室に次鋒選手達が入室してきた。

 日本チームからは神楽と美和、ロシアチームからはレイラ(3年生)とオリガ(2年生)が参戦する。

 レイラとオリガの鋭い視線が神楽と美和に突き刺さった。同朋達が先鋒戦で晒し者にされて心中穏やかではなかったのだ。

 

 二人の喧嘩を売るような目をテレビ映像で見ながら、

「あの二人の気持ちも分かるかな。」

「まあね。」

 麻里香とみかんは、かつての自分達………咲を敵視していた頃を思い出していた。

 ただ、今回は、この二人でさえ、ステラには、

『ザマミロ!』

 と思う部分もあった。

 淡と近しいが故、昨年の大会でステラがした行為に対する報復措置に賛同したい気持ちが強かったからだ。

 まあ、今回の咲の攻撃は、やり過ぎな気もしないでもないが………。

 

 

 対局室では場決めがされ、起家が美和、南家が神楽、西家がレイラ、北家がオリガに決まった。

 

 東一局、美和の親。ドラは{3}。

 神楽には、鷲尾静香の生霊が降りていた。豪運かつ頭脳明晰な彼女が、どれだけ美和との連携が取れるかが期待される。

 

 この局、静香の配牌は、

 {二四七八②④⑤13[5]8西北}

 第一ツモは{三}。ここから打{西}。

 

 二巡目、静香はツモ{4}、打{北}。

 

 そして、三巡目に、静香は{六}をツモってきた。

 静香の指が{8}に触れた。ここから、{8}を切ろうとしているのだ。まあ、別に普通の感性からすれば否定されるはずのない打ち方であろう。

 

 ところが、この時、控室では咲が、

「普通なら{8}だけど、コンビ打ちなら、ここは打{②}だよ!」

 と咲が声を上げていた。

 

 静香の脳裏に、

『{②}だよ!』

 一瞬、咲の声が聞こえた気がした。

 しかし、

「(宮永さんの声? どうして聞こえてきたんだろ? でも、よく分からないけど、ここはどう考えても{8}切りでしょ?)」

 普通に静香は、{8}を落とした。

 

 四巡目と五巡目に、静香は立て続けに{②}を引いた。

「(やっぱり{②}を残して正解!)」

 と思いながら、{1}、{⑤}と切って聴牌。

 

 静香の手牌は、

 {二三四六七八②②②④34[5]}

 {③④}待ちである。

 

 ところが、この直後、

「リーチ!」

 美和がリーチをかけてきた。

 

 この時、美和の河には、

 {9西南八東③}

 

 いつもの敬子と大差ない捨て牌であった。

 静香が神楽の透視能力を使って美和の手牌を見ると、

 {二二五[五]六六①[⑤][⑤]33白白}

 

 リーチ七対子ドラ5の倍満手。

 これは、何とかして美和に和了らせたい。コンビ打ちならではの考えである。

 相手チームから、より大きく点棒を奪うには、静香自身が和了るよりも美和に和了らせる方が効率的だ。

 しかし、ロシアチームの二人の手を透視してみたが、どちらも{①}を持っていない。まだ、三枚とも山の中に隠れているのだろう。

 

 頭の良い静香は、何故、咲の{②}切りの声が聞こえたのかが理解できた。

 あそこで{②}を切り、さらに四巡目と五巡目にツモってきた{②}もツモ切りしていれば、{②}の壁ができる。

 しかも、{②}をツモ切りする際に、

『チッ!』

 とでも声を上げながら強打すれば、他家は裏目を引いてイラついているとでも勝手に想像するだろう。

 そうすれば、後々、ロシアチームのどちらかが{①}を引いた時に{②}の壁を信じて{①}を捨てる可能性が高い。

 だからこそ、咲は{②}切りと言ったのだ。

「(今からでもサポートしなきゃ!)」

 静香は同巡で{3}を引いた。ここから打{②}。

 さらに静香は、{6}、{[⑤]}と引いて、残る二枚の{②}も落として行った。

 

 その直後、オリガが{①}を引いた。

 しかし、少し悩んだ後に、オリガは敢えて浮き牌である{①}を手に残して、{①}から遠い牌である{⑨}を落とした。

 リーチ後の{②}の暗刻落としがワザとらしく感じたからである。

 

 コンビ打ちなので、チームメイト同士で通しサインを送っている可能性は十分考えられる。むしろ、そう考える方が普通だろう。

 つまり、オリガは、美和は何らかの形で{①}待ちであることを静香に伝え、それで静香が{②}を落としてきたと考えたのだ。

 美和が聴牌してからの{②}切りは、むしろ逆効果であったと言えよう。

 …

 …

 …

 

 

 結果的に、この局は流局した。

「聴牌!」

「「「ノーテン。」」」

 美和の一人聴牌であった。

 しかも、美和の開いた手を見て、ロシアチームの二人が、

「「(流れてラッキー!)」」

 と思ったのは言うまでもない。

 

 ただ、ここでは親が聴牌しての流局であれば、親流れにならないルールであった。よって、ここでは連荘となる。

「一本場!」

 美和は、気を取り直して連荘を宣言した。



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百九十本場:高校最後の世界大会6  圧勝

 大会七日目のブロック準々決勝戦。

 次鋒前半戦は、東一局一本場。美和の親。ドラは{5}。

 

 静香は、牌牌でオタ風の{西}を対子で持っていた。

 まあ、使い難い牌ではあるが、アタマとして使えるし、最悪の場合には、安牌としても使える。

 もっとも、神楽の透視力があればムリに安牌を確保しておかなくても、全ての牌が誰かの和了り牌にでもならない限り振込むことは無いのだが………。

 ところが、

『{西}を落とすべきだよ!』

 またもや静香には、咲の声が聞こえてきた気がした。

 前局のこともある。

 幻聴かもしれないが、ここは咲の言うとおりに{西}から切り出した。

 

 二巡目。

『小手返しで{西}切りだよ!』

 またもや、咲の声が聞こえてきた。

 ここでも静香は、その声に従った。

 綺亜羅三銃士と呼ばれる静香には、これくらいのことは造作もないことだ。巧く小手返しを使って如何にも{西}をツモ切りしたかのように見せかけた。

 

 数巡後、

「リーチ!」

 美和がリーチをかけてきた。

 

 静香が美和の手を透視すると、その手は、

 {4[5]6③④④[⑤][⑤]⑥55[5]西}

 

 リーチドラ7の{西}単騎。しかも地獄待ちだ。

 そして、一発目でオリガが引いてきた牌は{西}。唯一の美和の和了り牌だ。

 偶然か必然か?

 いずれにせよ、咲は、これを狙っていたのだろう。

 この時、オリガは美和の現物を持っていなかった。そこに引いてきたのは二枚切れの{西}である。当然、

「(大丈夫だよね?)」

 オリガは、{西}を比較的安全な牌と踏んでツモ切りした。

 しかし、これを美和が逃すはずは無い。

 待ってましたとばかりに、

「ロン!」

 美和が和了った。

 

 次の瞬間、オリガの意識は美和ワールドへと飛ばされた。

 巨大な触手がオリガに襲い掛かる。そして、彼女の両腕両脚に絡みついて、あっと言う間に彼女は身体の自由を奪われた。

 触手からは粘性のある消化液が分泌されている。しかも、衣類のみを溶かしてくれると言う優れものだ。

 オリガが全裸にされるまで、脳内時間で一分程度だった。

 そして、粘液だらけの触手がオリガの全身………特に胸や股間を念入りに刺激する。今まで経験したことのない快感が彼女を襲う。

 

 現実世界では、

「Ohhhhhhhhh──────!」

 大きな声を上げながら、オリガが身体中をビクビクさせていた。完全に昇天している感じだ。

 それを隣で見ていたレイラは、

「(まさか、本当にこうなるなんて!)」

 ニワカに信じられないと言いたげな表情をしながら驚いていた。

 

 これまでにレイラは、最悪コンビ(咲&美和)に玉砕された選手達の映像を何回も見てきた。

 勝ち上がれば当たる相手だ。当然、敵の研究に余念は無い。

 勿論、今のオリガと同じような状態になった選手が多数存在することも知っていた。

 しかし、百聞は一見にしかずである。

 直接被害に遭うまでは、

『自分達だけは跳ね除けてみせる!』

 と根拠の無い自信に満ち溢れているものだ。

 実際にヤラれて真実を知るのだ。

 

 

 この展開に某ネット掲示板では、

『ヤッタッス!』

『スバレストです!』

『スッゴクあったかーい』

『オリガだけに、オ○ガに達してるのよー』

『相方のレイラやったら美和様にレイ○されるってか?』←洋榎

『↑うるさいそこ!』

『みかんジュースが出るでぇ~!』

『やっと見えとった未来に到達したようやな』

『姫子より激しか!』

『だから、何でいつも的井美和の相手はこうなるんだ?』←衣

『お子チャマは寝てなさい!』←智紀

『衣は子供じゃない!』

 一瞬で賑わい始めた。

 

 オリガの脳内感覚では、既に一時間が過ぎようとしていた。

 既に頭の中は真っ白であった。もはや、何も考えられない。完全に脳内は快楽のみに支配されていた。

 ここに、

「リーチ一発ドラ7の裏が二枚({④})乗って36300!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 その直後、オリガの意識は現実世界に戻された。一応、世界大会に出場するレベルの選手だと、美和に直撃されても体感時間は一時間で済むようである。

 

 今、オリガは対局室にいる。

 しかも、対局シーンが全世界にテレビ中継されている。

 そんな中に居ながら、全裸で公開触手プレイでもしていたような感覚である。

 しかし、その一方で背徳感が刺激的でもある。

 いずれにせよ、これでオリガは対局に集中できなくなった。

 

 東一局二本場、美和の連荘。

 今回は、特に静香の頭の中に咲の声が語りかけてくることはなかった。

 美和の手を透視して、静香にはその理由が良く分かった。この局は、美和のツキがムチャクチャ良過ぎるのだ。

 たった三巡で聴牌すると、

「リーチ!」

 美和は先制リーチをかけた。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 一発で和了り牌を引き当てた。

 

 レイラとオリガの意識が淫猥なる美和ワールドへと連れ去られた。オリガにとっては二回目、レイラは初体験である。

 ちなみに、連れ去る相手を選べるのか、神楽と静香の意識は幻の世界に飛ばされることはなかった。

 

 オリガが見る幻は、さっきの続きである。

 一方のレイラは、沢山の巨大な触手に捕えられるところからスタートする。勿論、消化液で衣類は全て溶かされる。

「Uhhhhhhhhh──────!」

「Ahhhhhhhhh──────!」

 色っぽい声を上げながらレイラとオリガの顔が紅潮していた。

 

 …

 …

 …

 

 二人の体感時間で一時間が過ぎた頃、

「6200オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 その直後、レイラとオリガの意識は現実世界に戻された。

 

 まさか、こんな麻雀が存在するとは………。

 実際に経験して、レイラは、最悪コンビの相手が見せた表情は全て本物であることを理解した。

 しかし、頭の中はドピンクである。

 もはや麻雀に集中できる状態ではなかった。

 

 東一局三本場。

 ここで美和が神楽(静香)にサインを送った。

 と言っても、

「ゲロゲロッ!」

 と言葉を発しただけ。配牌が悪くて思わず声が漏れたように聞こえるものだった。

 神楽の能力で透視できる静香には、美和の配牌の悪さは言われなくても分かる。

 ただ、美和がサインを送ってきたと言うことは、この局は静香の和了りに期待していることも意味している。

「(じゃあ、ここは私がやりますか!)」

 静香は、気合いを入れて手を進めた。

 

 この局は、オリガの捨て牌が妙に甘く感じた。

 美和ワールドに連れて行かれた女子高生にありがちなパターンだ。

 頭は真っ白あるいはドピンク状態で、麻雀ができるコンディションでは無い。それでいて美和ワールドに行くことを身体が願っている。

 つまり美和に振り込みたがっているのだ。

 

 中盤に入った。

 持ち前の豪運で、静香は欲しい牌をドンドン引き入れていった。まるで、咲や衣のような超鬼ツモである。

 そして、静香が聴牌した直後にオリガが切ってきた{①}で、

「ロン!(ワタシの{①}!)」

 静香が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①③③③白白白發發發中中中}

 

 高目の和了り。大三元四暗刻であった。

「64900!」

 これでオリガのトビで前半戦が終了となった。

 

 

 休憩時間に入った。

 レイラとオリガの椅子が大変なことになっている。毎度の如く、休憩と言いながらも実態は清掃時間である。

 清掃後に、両チームの控室には改めてスタッフから連絡が行くことになった。

 

 控室に戻ると、静香は、

「宮永さん!」

 咲に話しかけた。勿論、聞きたいことは一つ。自分の頭の中に語りかけてきた声のことである。

「勝ち星おめでとう。」

「有難う。それで、聞きたいことがあって。実は、対局中に宮永さんの声が聞こえたんだけどさ。」

 すると、和が、

「幻聴で咲さんの声が聞こえてくるなんて、あなたも咲さん狙いですか?」

 と訳の分からないことを言ってきた。

 しかし、静香は和を無視して咲に話し続けた。

「東一局は、いきなり{②}を捨てるように。一本場では{西}を捨てるようにって。しかも二枚目の{西}を捨てる時は小手返しも必要だって。」

「だからオリガは美和ちゃんに{西}を振ってくれたでしょ?」

「まあ、そうだけど。」

「東一局も、{②}を先に切っておけば、多分オリガは振ってくれたと思うよ。」

「そうなんだけど、どうしてそれが分かったの? それに、なんで私のところまで声が聞こえてきたの?」

「牌が分かったのは何となくだよ。」

「えっ?(マジで?)」

「勿論、コンビ打ちだからパートナーが親で高い手を張りそうなら、パートナーに和了らせるための策を取るべきだしね。」

「…。(それはそうだけど、山にある牌は見えないもの………)」

「あと、声が聞こえたのは神楽ちゃんの霊力が絡んでるんじゃないかな?」

「たしかに、それはあるかもしれないわね。でも、宮永さんが歴代最強って呼ばれるのが改めて分かった気がする。じゃあ、また………。」

 そう言うと、静香の生霊は神楽の体内から抜け出て行った。

 もう少し細かいところまで聞きたいところだが、別に、この日の試合が終わってからでも良いだろう。

 

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『やっぱりオリガはオ○ガ、レイラはレイ○や!』←洋榎

『この未来は見えてたのよー』

『未来ネタはうちのもんや! この未来は分かってたで!』

『↑うるさい! そことそことそこ!』

『みかんジュースが出るでぇ~!』

『でも、みかんジュースって表現、もうやめない? みかんがカワイソ!』←みかん

『今回はミックスジュースには、ならへんかったな』

『やっぱり美和咲コンビじゃないとダメだじぇい!』

『美和咲って、和と咲の美しいユリフラグに見えます』←和

『最悪コンビな! 美和&咲』

『ってことは、和と咲の美しいユリフラグは最悪ってことね!』←久

『まあまあだったけど、次にルーマニアと当たることに期待するッス!』

『ナヴィアとエミリアな!』

『現エースのナヴィアはロシアのイリーナに次ぐ今大会美女ナンバーツー、エミリアは今大会ナンバースリーの美女!』

『この二人と最悪コンビが当たったらスバラです!』

『それ、素敵です』

『あったかくなりそう!』

『そんなことよりオモチ画像をアップするのです!』

 ルーマニア戦への期待が俄然高まっていた。それから、みかんの書き込みは全員が何気にスルーしていた。

 

 

 大会スタッフから、後半戦が5分後に開始されるとの連絡が入り、美和と神楽は、対局室へと急いだ。

 二人が対局室に入室すると、既に、そこにはレイラとオリガの姿があった。

 場決めがされ、起家はオリガ、南家はレイラ、西家は神楽、北家は美和に決まった。

 

 東一局は、前半戦東三局と同様に、オリガの暴牌が目立った。まるで美和に当たってくれと言わんばかりの捨て牌である。

 そして、そのリクエストに応えるが如く、

「ロン!」

 美和のハネ満手が炸裂した。

 その直後、オリガの顔に笑みが灯った。和了られたことに悔しがるどころか喜んでいるように見えた。

 そして、オリガの意識は淫猥なる美和ワールドへと飛ばされた。

 かつて無い快楽のみの官能の世界。

 その地へ望んで進んで行った感じだ

 もう、オリガは完全に美和ワールドの虜になってしまったようだ。

 …

 …

 …

 

 

 東二局は、

「ロン!」

 美和はレイラからハネ満を直取りした。

 オリガだけではなく、レイラも捨て牌が甘くなっていたのだ。

 これが綺亜羅高校ダブルエースの一人。絶対に対局したくない女子高生雀士ナンバーワンにして女子高生ホイホイと呼ばれる的井美和の脅威の麻雀である。

 この振込みで、レイラの意識はドピンク色に染まった世界へと落ちていった。

 …

 …

 …

 

 

 東三局、神楽の親。

 ここで神楽は、

「ポン!」

 三巡目にレイラがツモ切りした{東}を鳴き、その二巡後に、

「カン!」

 {東}を加槓した。

 新ドラは{東}。モロ乗りである。

 

 そして、さらにその次巡、神楽は、

「カン!」

 {⑤}を暗槓した。

 次の新ドラは{⑤}。これもモロ乗りであった。

 

 今、神楽には綺亜羅三銃士の二人目、竜崎鳴海の生霊が降りていた。

 いつもに比べて鳴海は調子が良い。副露された牌だけでダブ東ドラ10と、既に親の三倍満が確定している。

 しかも、手の中には{[5]}が含まれていた。つまり、ダブ東ドラ11で、親の数え役満になっていた。

 これは、神楽の霊力が加算されたことで鳴海の能力がパワーアップしていたのだろう。

 

 一方のレイラは、本来であれば止まるはずの牌が止まらない。何も考えられずに暴牌を打つ。頭がドピンクなのだから仕方が無いだろう。

 そして、その牌を逃さず、

「ロン! 48000!」

 鳴海が和了った。

 

 その後も、鳴海と美和が一方的に和了り続け、次鋒後半戦も日本チームが圧勝し、二つ目の勝ち星を手に入れた。



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百九十一本場:高校最後の世界大会7  最高視聴率

 大会七日目のブロック準々決勝戦。

 中堅戦は、日本チームからはエースペアの咲と光が参戦。

 対するロシアチームの中堅は、こちらもエースコンビのエレナとイリーナだった。

 対局室に中堅選手達が入室してきた。

 この顔ぶれをテレビで観たまこは、

「これは一方的な試合になりそうじゃのぉ。」

 と呟いた。

 これによって、毎度の如く時間軸が飛んだ。

 

 イリーナは先鋒戦で咲と対局し、既に巨大湖形成を経験していた。それもあって、最初から怯えていたし、手が縮こまっていた。

 エレナも、咲と光を相手に意気消沈している。昨年、暴れ捲くった超魔物二人を目の前にして、さすがにエレナも勝てる気がしなかったのだ。

 当然、試合は日本チームの一方的な展開となり、ここで日本チームが三つ目の勝ち星をあげて日本チームのブロック準決勝戦進出が決まった。

 

 

 大会八日目のブロック準決勝戦。

 日本チームの相手はルーマニアチーム。

 最悪コンビと呼ばれる咲と美和のペアが、超美女軍団と呼ばれるルーマニア選手の恥ずかしい映像を、どのレベルまでプロデュースしてくれるだろうか?

 そんな低俗なことが、第三者視点では勝手に見所とされていた。

 

 誰もが先鋒で最悪コンビが出場して、いきなり目の正月を思い切り楽しませてくれると期待していたのだが………、対局室に姿を現したのは神楽と和。

 どうやら、日本チームの先鋒は咲・美和コンビではないらしい。

 対するルーマニアチームの先鋒は、巨乳美女のラビニア(3年生)と、スーパーモデルのジーナ(3年生)。

 この時、神楽は、

「(去年、宮永さんが泣いたのが分かる気がする………。)」

 と心の中で呟いていた。

 ルーマニアチームの二人は、それこそ敬子やみかんに匹敵するレベルの超美女である。

 そして、自分のパートナーも日本の女子高生雀士美女ランキング6位の美少女。

 これだけ綺麗どころに囲まれたら、自分だけ沈んで見える。

 

 昨年の世界大会で、咲は痩身美女ダニエラ(ルーマニア)、みかんレベルの美女リリア(ジョージア)、大会ナンバーワン美女のナタリア(ロシア)に囲まれて涙目になっていたが、あの時の咲の気持ちがイヤと言うほど理解できる。

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『一大事、一大事ですわ! 美和様と咲様が先鋒じゃありませんわ!』

『そんなオカルトありえません!』←誰だこいつ?

『ないないっ! そんなのっ!』

『美和咲を出し惜しみしてるし!』

『相手は巨乳美女にスーパーモデルッス!』

『でも、まだナヴィアとエミリアに当たる可能性があると思』

『そうならなきゃ詐欺だじぇい!』

『最悪コンビvsナヴィア・エミリアペアが実現する未来が見えとるで!』

『もしそうなれば、スバラです!』

『もう待てんと!』

『でも期待し照ッス!』

『みかんジュースが出るでぇ~って、この先鋒戦は出えへんな!』

『次鋒戦に期待するのよー』

 住民達は、咲と美和の登場を待ち切れない様子だった。

 

 

 場決めがされ、起家が神楽、南家が和、西家がジーナ、北家がラビニアに決まった。

 

 東一局。

 神楽は、配牌の後、理牌を終えると、

「ダブルリーチだじぇい!」

 どこかで聞いた口調で第一打牌を横に曲げた。

 この時、神楽の中には最高状態の片岡優希の生霊が降りてきていた。昨年のブロック決勝戦の時と同じである。←じゃあ、上の掲示板で七番目に書き込んだのは誰だ?

 

 ダブルリーチが相手では読みようが無い。

 待ちを読んでもムダである。優希に100%振り込まないと断言できる牌は、優希のリーチ宣言牌だけだ。

 ラビニア、ジーナ、和は自分の手を進めることだけを考えて不要な字牌捨てた。

 しかし、最高状態の優希には、ロン和了りなど必要ない。

「ツモだじぇい!」

 当然のことのように優希は和了り牌を一発で引き当てた。

「ダブリー一発ツモタンピン一盃口ドラ6(表2、赤3、裏1)で16000オール!」

 しかも和了り手は数え役満。

 今回も優希が派手な一発を見せてくれた。

 

 しかし、今の優希が一回だけで終わるはずが無い。

 東一局一本場は、

「捨てる牌が無い………。」

 いつもの台詞を呟くと、

「ツモ! 16100オール!」

 日本の視聴者達の期待に応えるが如く、天和が飛び出した。東風の神、優希ならではのスタートダッシュである。

 

 東一局二本場も、

「リーチ!」

 優希はダブルリーチをかけた。

 そして、

「一発ツモだじぇい!」

 次巡で和了り牌を掴み取った。

 しかも、

「ダブリー一発ツモタンヤオ七対ドラ6(表2、赤2、裏2)で16200オール!」

 今回も数え役満であった。

 

 ただ、さすがに役満三連発ともなると、優希の東風エネルギーもカスカス状態になる。

 優希は、

「ここからは、ノドちゃんに任せるじぇい!」

 と言うと、東一局三本場では、和が欲しいところを鳴かせ捲くった。神楽の能力で他家の手牌が透視できるのだから、和が欲しい牌くらい分かる。

 しかも和は神楽の下家である。席順にも恵まれている。

 

 今、チームトータルでは、日本チーム先鋒がルーマニアチーム先鋒の三倍近い点数を持っている。

 ルーマニアチームの二人、ラビニアとジーナには高い手を目指すしか方法が無い。

 

 一方、牌効率の良い和は、手の進みが圧倒的に早い。

 それに、和の場合は、高い手を目指す必要が全く無い。

 チーム戦なので、優希(神楽)と和の合計点がラビニアとジーナの合計点を上回っていれば良い。それこそ、安手で回せば良いのだ。

 前半戦は、その後、和が全体の半分以上を和了り、日本チームは更にリードを広げた。

 

 

 後半戦に入っても、東場は和の独壇場だった。

 前後半戦のチームトータルなのだから、ラビニアもジーナもムリにでも高い手を狙わざるを得ない。

 一方の和は、安手で回せば良い。

 牌効率の良い選手に、

『クズ手で良いからサクサク回して!』

 と言っている状態だ。とてもじゃないが、前半戦同様に和のスピードにロシアチームの二人は全然付いて行けなかった。

 

 

 南入した。

 これと同時に、一陣の温かい風が卓上に吹き付けた。

「では、始めましょうか。」

 どうやら、神楽の中に居るのは南場の鬼神、南浦数絵のようだ。

 数絵は、たった三巡で聴牌すると、

「リーチ!」

 即リーチをかけた。

 そして、次巡で、

「ツモ!」

 彼女は余裕のツモ和了りを見せた。

 しかも彼女の南場の手は、裏ドラが乗って、大抵は満貫かハネ満になる。今回もハネ満ツモであった。

 

 結局、その後も南場は数絵と和の超スピードが場を征し、先鋒戦は、日本チームが余裕で勝ち星をあげる結果となった。

 

 

 続いて次鋒戦が行われる。

 対局室に姿を現したのは、日本チームからは咲と美和、そして、ルーマニアチームからは、よりによってチームナンバーワン美女でエースのナヴィア(2年生)とチームナンバーツー美女のエミリア(3年生)だった。

 大会ナンバーツー美女とナンバースリー美女のコンビとも言われる。

 まさに、視聴者達が望んだ最高の対局。最悪コンビとスーパー美女コンビのエロエロ対決である。

 

 この四人の映像が映った途端、某ネット掲示板は、

『北ッス!』

『これは期待できるじぇい!』

『最高の対決ですよー!』

『最高視聴率も期待できるのよー』

『みかんジュースが出るでぇ~!』

『パインジュースも出ると思』

『ミックスジュースが出来てナンボ! 出来てナンボですわ!』

『最高の未来が見えるで!』

『ダル………』

 当然、賑わっていた。

 

 

 実は、

『最も視聴率を稼げるオーダーにするように!』

 と、日本チーム監督の慕は日本麻雀協会を経由して外部団体から依頼されていた。

 慕は、神楽の霊能力で相手のオーダーを事前に知ることができる。それで、次鋒にナヴィアとエミリアが出ると知って、最悪コンビを次鋒に配置したのだ。

 

 

 もし、この場にいるのがナヴィアとエミリアと咲の三人だったら、昨年同様、咲は勝手に落ち込んで涙目になっていたかも知れない。

 しかし、今回は美和が一緒にいてくれる。

 仲間(共に日本女子高生美女ランキング1000番台:決して低くは無い)がいてくれると非常に心強い。

 

 一方の美和は、咲の手を握りながら、

「絶対に勝とうね!」

 と嬉しそうな表情で言った。

 もう、超絶美少女のナヴィアとエミリアに、恥ずかしい幻を見せたく堪らないようだ。完全にヤル気マンマンである。

 

 

 場決めがされ、起家は美和、南家はエミリア、西家は咲、北家はナヴィアに決まった。

 そして、早速東一局がスタートした。ドラは{⑤}。

 

 一巡目。

 咲は、敢えて配牌で対子になっていた{東}を切った。普通はありえない打ち方である。

 ところが、

「ポン!」

 これを有り難く鳴いた選手がいた。親の美和だ。咲は、美和に和了らせるためにわざと{東}を落としたのだ。

 

 その数巡後、今度は咲が、よりによってドラの{⑤}を切った。

 すると、

「ポン!」

 これも美和が鳴いた。

 いや、これも正しくは咲が狙って鳴かせたのだ。

 

 しかも、美和が持っていた対子は、共に赤牌。これで、副露されている牌だけで、ダブ東ドラ5のハネ満が確定した。

 さらにここに、赤牌を一枚でも持っていれば倍満になる。

 こうなると、ルーマニアチームの二人は、自分の和了を目指すよりも美和への振込みを回避する方に気を回す。

 

 ただ、ここには卓の牌を全て把握しているバケモノが居る。そのバケモノ………咲は、

「ポン!」

 鳴いて美和の和了り牌が彼女のツモの位置に来るようにサポートした。

 その直後、

「ツモ!」

 美和が和了った。

 ナヴィアとエミリアの意識が、美和がプロデュースする幻の世界へと連れ去られた。

 …

 …

 …

 

 二人とも別空間にいる。互いの姿は見えない。

 そこで、各々が巨大な食虫植物に襲われる幻を見させられる。

 毎度の如く、粘液にまみれた巨大な触手群が美女達を襲う。それらは、四肢に絡みついて動きを封じると、その粘液………消化液で彼女達の衣服を溶かす。

 何故か溶けるのは衣服だけ。肉体は溶かされない。

 そして、一瞬のうちに二人とも全裸にされた。

 粘液まみれの触手が全身を隈なく刺激する。大事なところは、特に念入りに刺激する。

 現実世界では、ナヴィアもエミリアも、

「Ahhhhhhhhh──────!」

「Ohhhhhhhhh──────!」

 赤らめた顔で気持ち良さそうに大声を上げていた。

 

 当然、某ネット掲示板の住民達は、

『一大事、一大事ですわ! 歴史的一大事ですわ!』

『期待に応えてくれたッス!』

『さすがだじぇい!』

『スバラな目の正月です!』

『美味しいみかんジュース、搾りたてですよー!』

『みかんジュースじゃなくて潮汁にしない?』←みかん

『この未来は見えとった! まだまだ続くで!』

『やっぱり逝ったし! みかんジュース!』

『みかんジュースが出るでぇ~!』

『世界的に高視聴率になっていると思』

『サキサマトミワサマ、サイコウデス!』

『チョー嬉しいよー!』

『録画してるのよー』

 大喜びだった。

 

 今回もみかんの主張は無視されたようだが、この板で、こいつらを、いくら説得しようとしてもムダであろう。

 もっとも、みかんジュースネタは、この板だけの用語であって、他の板では、みかんのファンが徹底的に排除してくれているようだが………。

 …

 …

 …

 

 

 ナヴィアとエミリアの体感時間で約一時間が経過した。

 未だ、美和ワールド内で身体中を刺激され捲くっている。

 二人とも、頭の中は真っ白で何も考えられなくなっていた。脳内は、完全に生殖本能が意思を抑え付けていた。

 ようやく、美和の点数申告の声が聞こえてきた。これで、二人の意識は現実世界に戻される。

 しかし、

「ダブ東ドラ6。8000オール!」

 美和の手の中には{[5]}も含まれていた。いきなりの親倍ツモである。

 ルーマニアチームにとっては厳しいスタートとなった。

 

 東一局一本場も、咲が美和をサポートし、

「ツモ!………8100オール!」

 またもや親倍をツモ和了りさせた。

 

 ナヴィアもエミリアも、既に頭が回らない。全然、麻雀に集中できない。

 既にルーマニアチームの二人は、脳内がピンク色に染まっていて、ただ惰性で牌を打っているだけだった。

 相手がそんな状態なら、美和は攻撃一辺倒で行ける。守備に気を回す必要は無い。

 彼女は、そのまま面白いように和了り続けた。

 

 そして、美和の手が重くなると、今度は咲が、

「カン! もいっこカン! もいっこカン! ツモ!」

 連槓から嶺上開花を決めた。

 しかも、もの凄い迫力である。

 

 当然、連槓されている間、咲の下家に座ったナヴィアに向けて、咲のオーラを乗せた副露牌が迫ってくる。

 嶺上開花を咲が決めたと同時に、

「プシャ──────!」

 ナヴィアは黄金色の泉を形成してしまった。

 …

 …

 …

 

 中盤以降は咲が暴れ捲くり、ナヴィアに続いてエミリアも、

「ジョジョ──────!」

 聖水を放出してしまった。

 結局、前半戦は圧倒的な点差を付けて日本チームが大勝利した。

 そして、後半戦も前半戦と同様の試合運びとなり、日本チームが余裕で二つ目の勝ち星をあげることとなった。

 

 

 続く中堅戦。

 日本チームからはダブルエースの咲と光。こっちはこっちで最強コンビである。

 対するルーマニアチームからは、エースのナヴィアと第二エースのエカテリーナ(3年生)が参戦したが、ナヴィアは次鋒戦から立ち直れていない様子。

 エカテリーナも咲と光のオーラをモロに受け、手が縮こまって力が出せない状態だった。

 結局、中堅戦も日本チームが前後半戦共に圧倒的な力を見せ付けて勝利し、三つ目の勝ち星を手に入れて試合は終了した。

 これで日本チームがAブロック決勝戦へと進出した。



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百九十二本場:高校最後の世界大会8  染谷まこ最後の活躍

 日本チームが決勝進出を果たしたのと丁度同じ頃、日本チームの最大のライバルであるドイツチームも、中堅戦までで三つ目の勝ち星をあげ、余裕のBブロック決勝戦進出を決めていた。

 

 この日のドイツチーム先鋒はフレデリカとカナコ。咲と美和の最悪コンビに対抗して殺し屋コンビと呼ばれていた。

 Aブロック準決勝先鋒戦が咲&美和コンビの試合ではなかったこともあり、先鋒戦の中では一番視聴率が高かったらしい。

 

 次鋒は千里と栄子。

 全ての牌が透けて見える千里と、絶対的ディフェンスを誇る栄子。この二人を相手にしてチームトータルで勝つのは至難の業であろう。

 ただ、これだけ強い選手の試合なのに、全然視聴率が取れなかったと言う。Aブロック準決勝先鋒戦が咲&美和コンビだったためだ。

 しかも、最悪コンビの相手はルーマニアチームのナンバーワン美女ナヴィアとナンバーツー美女エミリア。この二人の痴態見たさに多くの人が日本チームとルーマニアチームの試合にチャンネルを合わせていたとのことだ。

 

 中堅はダブルエースのフレデリカとクララ。まるで咲と慕がペアを組んだように見える。

 容姿だけではない。麻雀そのものも似ているように感じる。

 日本の守護神と呼ばれる咲と、百戦錬磨の光のペアでも勝てるかどうか分からない。それくらい恐ろしい相手である。

 

 

 大会九日目。

 この日は、AB各ブロックの決勝戦が開催された。

 

 Aブロック決勝戦は日本チーム対アメリカチーム。第一シードと第四シードの試合。

 そして、Bブロック決勝戦は第二シードのドイツチームと第三シードの中国チームの試合である。

 

「結局、ベスト4は去年と同じじゃのぉ。」

 実家の雀荘を手伝いながら、まこがテレビを見てそう呟いた。

 すると、例の如く、まこの最強の能力………時間軸の超光速跳躍が発動した。恐らく、本作でまこの能力が見られるのは、これが最後である。

 

 

 日本チームからは、例の如く咲と美和の最悪コンビが出場した。当然、この二人の姿を見て、某ネット掲示板では、

『いきなり北し!』

『今回もミックスジュースが出てナンボ、出てナンボですわ!』

『きっと素敵です!』

『期待するじぇい!』

『今回も、姫子以上を期待すると!』

『美和咲最高ッス』

『↑そんなオカルトありえません! 美和咲ではなく和咲です!』

『今日もお友達が増える予感がするよモー!』

『先輩が期待してるんデー!』

『今回も、いつもと似たような未来がみえるで』

 毎度の如く、相手チームの選手のあられもない姿を期待していた。

 

 対するアメリカチームの先鋒は、エースのエマ・スミス(3年生)とジェシカ・ジョンソン(1年生)のペア。

 ジェシカは、昨年のアメリカ代表選手だったオリビア・ジョンソンの妹であった。

 

 ただ、この二人の姿を見た途端、ネット掲示板は、

『イマイチッス!』

『つまらないじょ!』

『昨日がスバラすぎましたね。』

『ないないっ! そんなのっ!』

『まあ、今日も凄い未来が見えるけどな………』

『ルーマニアが素敵過ぎました』

『ロシアのイリーナと最悪コンビの試合も見たかったよモー』

『先輩が悔しがってるデー』

『イリーナと美和咲コンビを当てなかったのは罪が重いと思』

『ミワサマvsイリーナガ ジツゲンシナクテ ザンネンデス!』

『おかずとしてはイマイチだし!』

『主食としてもイマイチやろ! 串カツとから揚げ食いたい!』

『美和咲の相手の顔面偏差値が恐ろしいほどダウンしてるのよー』

『そんなことよりもオモチ画像をよこすのです!』

『チョー悔しいよー』

『ダル………』

 荒れ始めた。

 

 別にエマもジェシカも顔面偏差値が著しく低いわけではない。むしろ標準よりは綺麗な方だろう。

 しかし、昨日のナヴィアとエミリアが綺麗過ぎた。それで、掲示板の住人達も目が肥えてしまい、ちょっと綺麗レベルでは物足りなくなってしまったのだ。

 ムチャクチャ贅沢な話である。

 

 対局自体は、前半戦も後半戦も、いつものように序盤は咲が美和をサポートして相手の脳内をドピンク色に染め、美和が失速してきたら咲が暴れまるパターンだった。

 毎度のパターンで日本チームが勝ち星を取った試合だったのが、掲示板の住人達は、今一つノリが悪かった。

 

 

 次鋒戦。

 日本チームからは神楽と敬子のペア、アメリカチームからはマリー・ダヴァン(2年生)とエリザベス・ガルシア(2年生)のペアが参戦した。

 マリー・ダヴァン(以後、分かりやすいようにダヴァンと記載)は、メガン・ダヴァンの妹で、現在、臨海女子高校に留学している。春季大会とインターハイにも出場していた強豪選手である。

 

 前半戦では、神楽には節子の生霊が降りて、いきなりダヴァンとエリザベスに地球最期の日を思わせる恐怖映像を見せて戦意を奪った。

 その後、節子と敬子が面白いように和了り捲くり、日本チームの圧倒的リードで後半戦へと折り返した。

 

 後半戦では、美誇人の生霊が神楽の身体の中に降りた。

 序盤は敬子の独壇場。

 しかし、途中から綺亜羅三銃士最強の美誇人が場全体の動きを見切り、

「御無礼!」

 エリザベスから高い手を直取りするようになった。

 結局、後半戦も日本チームが圧倒的リードを作り、日本チームが余裕で二つ目の勝ち星をあげた。

 

 

 中堅戦は、日本チームからは毎度の如く、咲と光が登場。

 対するアメリカチームからはエースのエマと第二エースのシャルロット・ブラウン(3年生)が参戦した。

 ここでも日本の最強コンビが圧倒的な力を見せつけ、前後半戦共にアメリカチームを二人とも箱割れさせて三つ目の勝ち星を手に入れ、決勝戦進出を決めた。

 勿論、エマとシャルロットの大放水オマケ付だったのだが………、

『昨日の次鋒戦と比べますと、全然面白くありませんわ!』

『おかずにならないッス!』

『ナヴィア&エミリアを越える試合は、もう無いと思』

『普通の巨大湖じゃ飽きてきたし!』

『あたたかくなーい』

『もう、床は冷たくなってるじぇい!』

『放水が出たでぇ~って、イマイチやな』

『もうみんなが喜ぶ未来は見えへんなぁ』

 某ネット掲示板では、反応が今一つだった。

 やはり、ルーマニアチームとアメリカチームで、日本チームと当たる順番が逆の方が盛り上がったのだろう。

 

 日本チームは、副将に淡と光、大将に穏乃と和を配置していたが、今回も中堅戦まででカタをつけた。

 

 

 一方、Bブロック決勝戦では、ドイツチームは以下のオーダーで望んだ。

 先鋒:千里・栄子

 次鋒:フレデリカ・カナコ

 中堅:フレデリカ・クララ

 副将:ニーマン・ニーナ

 大将:クララ・エリーザ

 

 これまでも、ニーナとエリーザは副将戦または大将戦に配置されていた。

 ただ、ドイツチームも、日本チームと同様に全試合を中堅戦までで片付けていたため、本大会では、ニーナもエリーザも、これまで一回も手の内を披露していない。

 分かっているのは、ニーナが臨海女子高校監督アレクサンドラ・ヴェントハイムの遠い親戚であることと、もともと淡の家の近所に住んでおり、淡を慕って白糸台高校への入学を希望していたが、昨年末に急遽ドイツに渡ることになったことくらいだ。

 二人とも、どのような麻雀を打つのかはベールに包まれたままだった。

 それだけに、このブロック決勝戦で二人の対局が見られることを楽しみにしている人達も、決して少なくなかった。

 

 

 先鋒戦。

 中国チームからは、貂蝉(2年生)とエースの黄月英(1年生)が参戦した。

 ちなみに昨年の中心選手だった劉紅花、関芽衣、張鈴麗の三人………桃園の誓いトリオは卒業組だ。

 

 試合は、全ての牌を見切った千里が序盤で連続和了りし、栄子を限界まで削った。これにより、貂蝉も黄月英も互いからの出和了り以外は出来なくなった。

 その後も、千里が貂蝉または黄月英からの出和了りで場を進め、最期は栄子のリラの鉄槌が炸裂し、ドイツチームが中国チームに大差をつけて後半戦へと折り返した。

 後半戦でも、前半戦と同様の試合展開がなされ、ドイツチームが余裕で勝ち星を手に入れた。

 

 

 次先戦では、中国チームからは郝慧宇(3年生)と趙桂英(3年生)が参戦した。

 対するはフレデリカとカナコの殺し屋コンビ。

 中国チーム側も決して弱くは無い。むしろ強い。

 しかし、ドイツチームの二人は、そのさらに上を行く。

 結局、前後半戦通じて、ドイツチームが一方的に和了り続ける展開となり、あっと言う間にドイツチームが二つ目の勝ち星を手に入れた。

 

 

 中堅戦。

 中国チームからはエースの黄月英と第二エースの張春華(1年生)が参戦した。

 ここでも次鋒戦と同様、ドイツチームのエースコンビ、フレデリカ&クララが一方的に和了る展開となり、ドイツチームが圧勝。

 これでドイツチームが三つ目の勝ち星を手に入れ、決勝戦進出を決めた。

 

 

 そして、翌日。

 大会十日目となった。

 この日は、決勝戦と3位決定戦が同時開催される。

 

 本来であれば、中国チームとアメリカチームの3位決定戦は好カードであろう。

 しかし、もう一つの試合への注目度が高過ぎた。昨年、一昨年と世界大会の中心的存在だったと言える日本チームとドイツチームの試合だ。

 今年も、両チームともに全試合を中堅戦までで終了させると言う圧倒的な力を見せ付けて決勝進出を果たしている。

 アメリカ人や中国人でさえも、自国のチームを応援せずに決勝戦にチャンネルを合わせていたほどであった。

 

 

 丁度ここで、まこの能力による超光速跳躍が一段落ついたようだ。

 この時、決勝卓を日本・ドイツ両チームの選手達全員が取り囲んでいた。まるで、インターハイの団体決勝戦を思い起こさせる。

 そして、

「よろしくお願いします!」

 試合前の一礼を済ますと、先鋒選手だけをその場に残し、他の選手達は控室へと戻って行った。

 

 日本チームのオーダーは以下のとおりであった。今回は、中堅に神代小蒔の妹、蒔乃が入った。九人体制で望む。

 先鋒:宮永咲(3年生)、宮永光(3年生)

 次鋒:大星淡(3年生)、原村和(3年生)

 中堅:宮永咲(3年生)、神代蒔乃(1年生)

 副将:的井美和(3年生)、稲輪敬子(3年生)

 大将:石見神楽(2年生)、高鴨穏乃(3年生)

 

 対するドイツチームのオーダーは以下のとおりであった。

 先鋒:百目鬼千里(3年生)、園田栄子(3年生)

 次鋒:フレデリカ・リヒター(2年生)、西野カナコ(3年生)

 中堅:フレデリカ・リヒター(2年生)、クララ・ローゼンハイム(1年生)

 副将:ローザ・ニーマン(3年生)、ニーナ・ヴェントハイム(1年生)

 大将:クララ・ローゼンハイム(1年生)、エリーザ・バスラー(3年生)

 

 多くの人達が期待した、咲、光、フレデリカ、クララの4強対決は実現しなかったが、蒔乃が降ろすのは、当然、最強神である。

 恐らく、決勝中堅戦こそが全世界の女子高生の『真の頂上決戦』であろう。

 

 

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 昨夜のことである。

 決勝戦に向けて、日本チームではミーティングが行われていた。

 勿論、神楽にはドイツチームのオーダーがどうなるかの啓示が降りてきている。少々卑怯な気もするが、それを見た上で最良のオーダーで望みたい。

 

 中堅は、咲と蒔乃で決まりである。

 昨年の小蒔と同様、最強神のリクエストである。これは拒否できないだろう。

 ただ、蒔乃の話では、咲と最強神のペアでもフレデリカ、クララのペアに絶対に勝てる保障は無いとのことだった。

 

 咲はフレデリカを相手に勝利しているが、僅差である。

 加えて今回はコンビ麻雀だ。

 フレデリカの相方であるクララも、フレデリカと同等の力量を持つ雀士とのこと。咲・光ペアでも咲・蒔乃ペアでも厳しい戦いになる。

 

 そう言った背景もあって、蒔乃は、中堅戦のみの参戦を希望していた。中堅戦に全エネルギーをぶつけたいが故である。

 

 続いて、他のポジションに付いて決めようとした時、

「どーせならフレデリカとやりたい。」

「私もです。」

 淡と和が次鋒に立候補した。

 

 慕としては、先鋒に美和・敬子ペアを置いて、千里と栄子を淫猥なる快楽の世界に落とし、そこで一勝目を確保しようと考えていた。

 

 次鋒は咲・光ペア、中堅は光・小蒔ペアで、それぞれフレデリカ・カナコペア、フレデリカ・クララペアと戦わせ、出来れば三戦三勝のストレート勝ちを狙うつもりでいた。

 勿論、次鋒と中堅の両方を落とす可能性もある。これは賭けである。

 

 ところが、淡と和は、この考え方は危険と判断していた。

 それで、咲と光………特に咲の負担を軽くするために、敢えて自分達が捨て駒になるつもりで次鋒に立候補していたのだ。

 

 カナコ対策をしながらフレデリカとの戦いで勝利を目指すのは、咲でも相当疲労するだろう。その後、すぐに中堅戦に出てフレデリカとクララを相手にするのは酷だ。

 しかし、咲を先鋒にすれば、少なくとも次鋒戦の間、咲を休ませることができるし、千里・栄子ペアが相手なら、咲の負担も殺し屋コンビと戦わせるよりは数段軽くなる。

 それに、そもそも和にはステルスが効かないし、淡もステルス対策ができることはインターハイ団体決勝先鋒後半戦で証明済みだ。なので、カナコのステルスに翻弄されずに打ち回し、フレデリカを疲れさせることが出来るかもしれない。そうなれば、次鋒戦は落としても中堅戦が有利になる。

 

 この布陣なら中堅までに二勝をあげられる確率は高くなるだろう。

 そして、副将戦は美和・敬子ペアで勝ちに行く。

 ニーナがどのような麻雀を打つか分からないが、美和ワールドにさえ連れ込むことが出来ればこっちのものである。

 これが、淡と和が考えたストーリーであった。

 

 また、次鋒に美和・敬子ペアを配置する方法も考えたが、フレデリカが美和ワールドに連れて行けるかどうかは分からない。咲や光と同様に、美和ワールド行きの触手を強大なオーラで断ち切ってしまう可能性が高いだろう。

 それで美和・敬子ペアに副将を任せるべきと判断したようだ。

 

 二人の提案に、美和や神楽、穏乃も賛同した。

 今までの試合は、基本的に咲、美和、光の三人で勝ち進んできたようなものだ。

 特に咲の活躍は目を見張るものがある。チームの勝利のために、相方を上手に使う。常人には出来ないレベルで場全体をコントロールしているのだ。

 

 決勝戦でも咲は日本の要となる。ゆえに咲を必要以上に疲れさせないことが重要と、みんなは思っていたようだ。

 

 慕は、

『それが総意なら』

 と、淡と和の提案を受け入れた。

 それで、今回のオーダーになったのだ。

 

 

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 いよいよ先鋒戦が開始される。

 世界大会の決勝戦のはずだが、対局者は、咲、光、千里、栄子。何故か日本人四人の対決である。

 しかも栄子は、既に日本に帰国している。

 恐らく、誰の目から見ても、日本vsドイツの試合には見えなかったであろう。どう見ても日本国内の大会である。



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百九十三本場:高校最後の世界大会決勝戦1  連続和了

ここから先は、100点単位で重要になる予定です。見直しは致しましたが、もし点数に間違いがございましたらご容赦ください。


 世界大会先鋒前半戦の場決めがされた。

 起家は千里、南家は栄子、西家は咲、北家は光に決まった。

 攻守に優れた千里と最強ディフェンスの栄子が、日本のエースコンビを相手に何処まで食い下がれるか?

 それがこの対局のポイントであろうと多くの人々が捉えていた。

 

 千里も栄子も、自分達が咲と光の黄金コンビに勝てるとは思っていない。しかし、最初から負けるつもりで卓につくはずがない。

 当然、全力を尽くして勝ちを狙う。

 

 

 東一局、千里の親。

 全ての牌が透けて見える千里と、相手の和了り牌が直感的に全て分かる栄子のペアが相手である。

 普通に戦ったら、たとえ光でも第一弾の和了りをあげるのは非常に困難であろう。

 どう足掻いてもドイツチームから和了り牌がこぼれてくるとは思えない。

 それどころか、光の和了り牌が光のツモ牌にならように、千里が鳴いてツモを狂わす可能性が高い。

 

 しかし、ここにはパートナーが居る。しかも、そのパートナーも千里と同様に全ての牌が見えているのだ。

 加えて幼少から一緒に過ごす時間も多かった。なので、まるでテレパシー通信でもしているかのように、互いの考えていることが分かる。

 

 早速、

「ポン!」

 咲が、光に{白}を鳴かせた。

 

 次巡、

「チー!」

 咲は{[5]}を捨てて光に鳴かせ、そのさらに次巡、

「ロン。白ドラ1。2000。」

 わざと光に振り込んだ。

 コンビ麻雀の恐ろしさはここであろう。

 これで、光は労せずに千里の親を流すと同時に第一弾の和了りを成立させた。ここには和了りを手助けしてくれる仲間が居るのだ。

 

 今まで咲は、美和や淡の手に大量のドラを乗せたり、ステラに槓裏期待のリーチをかけさせて淡に振り込ませたりと、パートナーの和了りに大きく貢献してきた。

 そして、ここでも光のエンジンをかけるために一役買ったのである。

 コンビ麻雀としては最高のパートナーと言える。

 

 

 東二局、栄子の親。

 通常のプレイヤーであれば、栄子が原点から15000点削られると、栄子からの直取りもツモ和了りも封じられる。

 相手の力量で、栄子から削れる点数が決まると言う特殊なディフェンス能力を、彼女が有しているからだ。

 しかし、咲と光は規格外である。

 この二人に栄子の『削らせない能力』は通用しない。

 

 この局、光は、

「ツモ! タンピンツモドラ3。3000、6000!」

 ハネ満をすんなりツモ和了りした。

 

 

 さらに東三局も、

「ツモ! ピンツモ三色ドラ2。3000、6000!」

 光は序盤で、余裕のハネ満和了りを決めた。

 

 全員が敵同士の戦いなら、当然、咲も和了りを目指す。しかし、ここでは、咲は光に和了らせるために、自らの和了りに向かっていなかった。

 加えて、咲は光の能力に正の干渉をして増強させていたようだ。これも、光の和了りへの大きな後押しになっていた。

 コンビ麻雀は、通常の麻雀とは考え方が変わってくる。それを咲は、既に熟知しているようだった。

 

 

 そして、東四局、光の親。ドラは{③}。

 ここでも咲は、

「ポン!」

 光に{東}を鳴かせた。ダブ東である。

 この局では、光の捨て牌に萬子と索子が多かった。

 誰でも光が筒子に染めていると容易に想像がつくし、誰だって筒子捨てを回避しようとするだろう。

 

 しかし、咲は別である。

 彼女は、

「チー!」

 さらにドラの{③}を捨てて、光に{横③④[⑤]}のドラ二の面子を鳴かせた。これでダブ東ドラ2の親満が確定である。

 そして、その二巡後、

「ツモ。ダブ東混一色ドラ2。6000オール!」

 光は、親ハネをツモ和了りした。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:光 144000

 2位:千里 88000

 3位:栄子 85500

 4位:咲 83000

 通常であれば、そろそろ栄子の点数を削るのが、しんどくなるはずだが、光には栄子から削れる点数の上限が無い。なので、まだまだ貪欲に和了りを目指す。

 

 東四局一本場、光の連荘。ドラは{③}。

 ここでは、

「ポン!」

 咲が仕掛けてツモを乱した。

 しかし、千里には咲の意図が分かっていた。ツモが乱されるのは千里と栄子だけであって、咲は、光には逆に欲しい牌が回るように仕組んでいた。

 

 しかも、

「リーチ!」

 この咲の鳴きで光がムダツモ無く聴牌し、先制リーチをかけてきた。

 

 千里にとっては、これは最悪のタイミングだった。この巡目では、残念ながら千里が鳴ける牌が出てこない。

 千里から栄子に鳴かせられる牌もない。

 どうやら、全ての牌を見通す者として、咲は千里よりも一枚も二枚も上手なようだ。こう言ったところも計算して動いている。

 もしかすると、フレデリカよりもゲームの組み立てが鮮やかではなかろうか?

 千里には、そう思えてきた。

 

 千里も栄子も、光の和了り牌が分かる。

 二人とも、それが何なのかを知って唖然として顔をしていた。普通は、役ありならリーチをかけるのを避ける待ちだからだ。

 

 この面子が相手では、いくら光でも、差し込みでもしてもらえない限り出和了りは不可能だ。

 そもそも、三人とも自分の和了り牌を知っている。相手は、そう言ったバケモノ面子なのだ。

 ならば、待ちの良し悪しに関係なく、ツモ和了りに賭けるのみ。

 

 そうなると、リーチをかけてもかけなくても状況に大差はない。1000点棒を出すか出さないかだけの差でしかない。

 それに、大量リードしている今、ここで1000点を失う恐怖は無い。

 

 そして、

「ツモ!」

 光は、一発で欲しい牌………ドラの{③}をツモってきた。まさかのドラ待ちだったのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三九九①②112233}  ツモ{③}  ドラ{③}  裏ドラ{7}

 

「リーチ一発ツモジュンチャン一盃口ドラ1。8100オール!」

 これで、栄子の点数が80000点を割った。

 普通では、彼女を20000点以上削るのは不可能とされる。

 それができる人間は限られており、ドイツチームでもエースのフレデリカと第二エースのクララ以外にはできないことだ。

 パワーヒッターと呼ばれる高火力選手のローザですら、栄子を18000点以上削ることは不可能なのだ。

 それが、あっと言う間に東初からの四連続和了りでヤラれてしまった。

 かつてミナモ・A・ニーマンの名で呼ばれていた元ドイツチームのエース、北欧の小さな巨人の二つ名を持つ光だけのことはある。

 

 東四局、二本場。ドラは{中}。

 ここでの光の縛りは6翻。しかも、偶然役と門前清自摸を除いた和了り役としての6翻である。

 ドラも光の翻数上昇には含まれない。

 通常であれば、そろそろ和了りに向かうのが厳しくなる。

 

 しかし、

「ポン!」

 咲がサポートしてくれる。

 通常ならば、そう簡単には鳴かせてもらえないであろうダブ東を、対子になった直後に鳴かせてくれた。

 そして、その二巡後には、

「ポン!」

 またしても、通常では出てこないドラの{中}を、光は咲に鳴かせてもらった。

 これで、ダブ東中ドラ3のハネ満が確定である。

 

 その後も光は、ツモが好調で容易に手が進み、

「ツモ。ダブ東中混一チャンタドラ3。8200オール!」

 またしても親倍をツモ和了りした。

 

 そう言えば、ここまで光以外和了っていない。

 しかも、点数と順位は、

 1位:光 192900

 2位:千里 71700

 3位:栄子 68700

 4位:咲 66700

 光の圧倒的リード、咲がラスである。

 

 ただ、今回はチームの合計点を競う。そのため、たとえ咲がラスでも、光との合計点がドイツチームの二人を上回っていれば良い。

 現在、日本チームが259600点。

 これに対し、ドイツチームは140400点と、既に100000点以上の差がついている。

 そろそろ光の連荘を止めないと、千里も栄子も本気でヤバイ。

 さすがに千里も栄子も顔に焦りの表情が現れてきた。

 

 東四局三本場。ドラは{7}。

 光の縛りは7翻だが、配牌に恵まれている。

 当然、まだまだ和了りを目指す。

 

 しかし、全ての牌を見通す千里が、

「チー!」

 ここで、敢えて鳴いてきた。ツモを狂わせたのだ。

 勿論、目的は光の和了り阻止である。

 

 ところが、

「ポン!」

 今度は、咲が光の捨て牌をムリヤリ鳴いた。光のツモを元に戻したのだ。明らかに光へのサポートである。

 

 その後も、前局同様に光のツモは好調だった。

 そして、

「ツモ!」

 ここでも光は縛りに見合った和了りを見せた。

 

 開かれた手牌は、

 {123789東東東南南南中}  ツモ{中}  ドラ{7}

 

「ツモダブ東混一色チャンタドラ1。8300オール!」

 非常に綺麗な手だ。

 しかも、これで光の七連続和了りである。

 さすがの千里も、

「(親倍ツモ三連発とか、やめて欲しいわ!)」

 と心の中で叫んでいた。

 

 東四局四本場。

 過去の事例から考えると、咲が暴れていなくても、ここまで光が暴れれば、光のオーラを受けて大放水する選手が出てくることは少なくない(この世界特有の話です)。

 

 しかし、千里も栄子も咲と同等の、

『可愛くない系のオーラ』

 を放つフレデリカと普段から卓を囲んでいるため慣れがある。なので、光のオーラを受けても微動だにしない。

 少なくとも巨大湖形成だけは無さそうだ。

 

 某ネット掲示板では、

『一大事、一大事ですわ! 放水がありませんわ!』

『スバラくありませんねぇ』

『この決勝戦は期待できないと思』

『あたたかくなーい』

『たしかに暖かいパインジュースは出てないのよー』

『たこ焼きが不味く感じるで!』

『まあ、この未来は見えとったけどな』

『やっぱり美和様に賭けるしか無いッス!』

『でも、的井の力も効かなかったりして! by 高三最強』

『ありえないじぇい!』

『そんなオカルトありえません!』

『ないないっ! そんなのっ!』

『↑上の三人は、美和様の力が効かないとの発言を否定したいのか、高三最強を否定したいのか?』←船Q

『両方じゃなかと?』

『勿論、両方だじぇい!』

『両方に決まっています!』

『どっちもですよー』

 今一つ、いつもの盛り上がりに欠けていた。

 

 ここでの光の縛りは8翻。

 和了り役だけで8翻を作るのは、普通は非常に難しい。仮に、門前清一色が聴牌できても、それだけではダメなのだ。

 ここでも、

「チー!」

 千里は鳴いてツモを狂わすのだが、ここで千里は奇妙な現象を目にした。

 ツモを狂わせたはずなのに、山の中にある牌が勝手に場所を移動して、光のツモが元通りになってしまったのだ。

 まさか、そんな能力を持っているとは………。

 昨年も玄を相手に同様の経験をしていたので、この手の能力の存在は知っていたが、正直、こんなのは反則技に近い。

 ただ、それをやるのにも相当な能力を消費するのだろう。今まで平然としていた光が、急に肩で息をし始めた。

 さすがに光でも、こんなことは常時出来ない。それで、ここぞと言うところまでは咲がサポートして光の能力消費を抑えていたのだ。

 

 この局、光は単独の能力で手を作り上げ、

「ツモ!」

 和了り役8翻のバケモノ手を和了った。

「メンチンツモ三暗刻ドラ2。12400オール!」

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 255000

 2位:千里 51000

 3位:栄子 48000

 4位:咲 46000

 しかし、この和了りを最後に、光のオーラが萎んで行くのを千里も栄子も感じ取っていた。さすがに光も疲れ果てたのだ。

 

 ところが、これを入れ替わるように咲のオーラが膨れ上がるのを二人は捉えていた。

 ここから咲との勝負が始まる。

 

 東四局五本場。

 咲は、第一ツモを捨てると、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 何と言う豪運であろうか?

 

 光は不要な字牌を切った。

 まあ、仮に咲に振り込んでも日本チームの合計点が変わるわけでは無い。それに、日本チームが大量リードしている。

 親が流されても、その後の局をドンドン流して行けば、今のリードを保ったまま後半戦に折り返せる。

 なので、光にとっては咲に振り込んでも何の問題もない。

 

 千里は咲の和了り牌が透視できている。

 当然、振込むことは無いが、この時、千里は険しい顔をしていた。

 相手の手牌も山も全ての牌が見えているため、これから展開されることが容易に想像つくからだろう。

 

 栄子も振込むことは無い。和了り牌が能力で分かるのだから、当然である。

 

 しかし、

「カン!」

 咲は一発で引いてきた牌を暗槓すると、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

「ダブリーツモ嶺上開花。2200、4200です!」

 しかも、全てが偶然の和了り役と言えよう。

 この咲の満貫ツモ和了りで、長かった光の親が流れた。




なんとなくですが、原作も世界大会はコンビ打ちになるような気がしております。
しかも、照&咲コンビで、咲が照に第一弾の和了りを差し込むんじゃないかと勝手に予想しています。


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百九十四本場:高校最後の世界大会決勝戦2  再現

 世界大会決勝先鋒前半戦は、丁度南入したところだった。

 南一局、千里の親。

 そう言えば、ずっと光に和了られていて、その連荘を結果的に止めたのが咲。それも、光が疲れたので代わりに咲が和了った感じだ。

 千里も栄子も、まだヤキトリ状態である。二人とも、勝利を目指す前に、先ず一つ和了りが欲しいところだ。

 

 山に眠る牌が分かる千里は、当然、最短距離での聴牌を目指す。

 しかし、牌が事前に分かっていても巡り合わせが悪ければどうにもならない。

 例えば自分も上家も共にヤオチュウ牌を一枚も持っていなかったとしよう。そこに、自分も上家も順に{東南西北白發中}と一枚ずつツモる状態であれば、仮にツモ牌が先に分かっていても手の進めようがないし、誰かがポンが出来る牌を捨ててくれない限り鳴きようも無いだろう。

 その後、{一九①⑨19}と来れば国士無双に持って行ける。

 しかし、七連続字牌ツモの後、チュンチャン牌しか引かない未来が見えているのであれば、{東}から{中}までが通り過ぎるのをひたすら待つしかない。

 今の千里が、まさにそれと大同小異の状態だった。上家の光も、能力の放出を抑えたせいか、クソヅモが続いている。

 まあ、今の光は、自らが和了りに向けて動くつもりは無さそうだが………。

 

 対する咲はツモが手牌と噛み合っている。

 これが運の差か、それとも能力の差か?

 千里からすれば不公平さとか不条理さしか感じられないだろう。

 

 文句を言っても仕方が無い。千里は、鳴きを入れて自分に有利になるようにツモを変えようと機会を伺っていた。

 しかし、一歩遅かったようだ。

「カン!」

 咲は、{1}を暗槓すると、

「リーチ!」

 嶺上牌を引き入れてリーチをかけた。

 

 光は何も考えずに手を進めることだけを考えて不要牌を切った。

 千里は、幸か不幸か咲の和了り牌を持っていなかった。

 ただ、

「({二}を持ってたら差し込んだのに!)」

 と心の中で叫びながら、千里は怪訝そうな表情で不要牌を切った。

 栄子も咲の待ち牌が分かるので振り込まない。

 

 そして、咲の一発目のツモは{八}だった。

 これを、

「カン!」

 咲は暗槓し、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一三678西西}  暗槓{裏八八裏}  暗槓{裏11裏}  ツモ{二}

 

 リーチツモ嶺上開花。

 80符3翻弄の、

「2000、4000です!」

 満貫ツモだった。

 

 もし、一発で振り込んでいたらリーチ一発のみの70符2翻。4500点となり、千里自身の支払いは500点増えるが、ドイツチームとしての支払いは減る。

 なので、千里は、{二}を持っていれば振込むつもりだったのだ。

 

 一方、この和了りを会場観戦室で見ていた霞と、控室で見ていた恭子は、この和了り手を見て驚き、

「「(偶然だよね?)」」

 と思いながらも全身が硬直していた。

 この咲の和了り手は、二年前のインターハイ団体二回戦での和了りと全く同じ形になっていたからだ。

 また、同じ頃、これを岩手県の自宅で、テレビを通して見ていた姉帯豊音は、

「これが見れて、チョー嬉しいよー。」

 二年前の夏のことを思い出して涙を流していた。

 

 

 南二局、栄子の親。

 千里も栄子も、咲の手を進めさせたくは無い。

 当然、千里は咲の欲しいところを捨てないし、栄子も極力、咲の欲しそうなところは切らずに手を進めていた。

 しかし、どうやら咲は調子が良い。

 門前で手を作り上げ、

「カン!」

 {9}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③⑥⑥456南南}  暗槓{裏99裏}  ツモ{南}

 

「ダブ南ツモ嶺上開花。2000、4000。」

 またもや、二年前のインターハイ団体二回戦での和了りと同じ形になった。これを見て豊音が、さらに嬉し涙を流していた。

 あの日の記憶が鮮明に甦る。

 

 ただ、仮に偶然でも二度も続けば衝撃は大きい。

 この和了りを目の当たりにした霞と恭子は、

「「えっ?(やっぱり、まさか、狙って?)」」

 驚きのあまり、思わず声が出てしまった。

 

 

 南三局、咲の親。ドラは{南}。

 咲の配牌は、

 {一四①⑤⑥⑥⑧⑧⑧39南發中}

 ここから咲は、順に{一93四發中南}と落としていった。

 

 染め手が強く疑われる捨て牌である。

 当然、千里は、咲が筒子に染めているのが分かっていた。勿論、どの牌が欲しいのかも含めて全てを把握していた。

 一方の栄子は、咲がドラの{南}を落としたと同時に聴牌したことを能力で感じ取っていた。

「({④⑤⑥⑦⑧}待ち…。)」

 当然、これらの牌を栄子が落とすことは無い。

 

 この局、栄子の配牌は、

 {二四六七九④⑥⑨169白發}

 ここから{9⑨1白發8九}({8}はツモ切り)と切っていた。

 

 栄子は、ここに来てツモが絶好調だった。

 自分でも信じられないくらいサクサクと手が進み、六巡目………咲が聴牌するまさに直前で、栄子は聴牌していた。

 

 この時、栄子の手牌は、

 {二二三四[五]六七④[⑤]⑥4[5]6}

 タンピンドラ3の親満手。

 これなら、当然、押して行くべき手だろう。

 

 そして、七巡目。

 ここで栄子は、{①}をツモってきた。

 これは咲の和了り牌ではない。

 光も千里も、まだ一向聴。

 自分の手は親満。ツモれば親ハネ。

 今、置かれた状況を考えれば、当然、{①}のツモ切りであろう。

 栄子は、連荘を目指して{①}をツモ切りした。

 

 ところが、

「カン!」

 イヤな発声が下家から聞こえてきた。咲の大明槓である。

 咲は、嶺上牌………{⑧}をツモると、

「もいっこ、カン!」

 和了りを放棄し、そのまま{⑧}を暗槓した。

 

 今の咲の手牌は、

 {⑤⑥⑥⑥⑦⑦⑦}  暗槓{裏⑧⑧裏}  明槓{横①①①①}

 ここにツモってきた二枚目の嶺上牌は{⑦}。

 和了っている。

 しかし、ここでも咲は和了りを放棄して、

「もいっこ、カン!」

 {⑦}を暗槓した。

 

 咲が三枚目の嶺上牌を引いた。

 この時、栄子は咲から今日一番の強烈なオーラを感じ取った。

 最高状態のフレデリカから発されるオーラに匹敵する強大なエネルギーである。

 

 そして、咲は、その嶺上牌………{[⑤]}を表にして手元に置き、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤⑥⑥⑥}  暗槓{裏⑦⑦裏}  暗槓{裏⑧⑧裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{[⑤]}

 二年前の長野県予選で咲が衣から和了った手にパターンが似た和了りだった。

 

「清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。48000です。」

 絶対ディフェンスの栄子からの責任払いであった。

 結果として直取りと同じである。

 

 ドイツチームの面々にとっては、まさに衝撃映像であった。栄子からの直取りなど、彼女達からすれば常識的にありえないことだからだ。

 もっとも、フレデリカだけは、インターハイやコクマで美和絡みとは言え、栄子が直取りを受けたのを見ていたので、他のメンバーほどは驚いていなかったようだ。

 

 これで点数と順位は、

 1位:光 246500

 2位:咲 119500

 3位:千里 42500

 4位:栄子 -8500

 まさかの栄子のトビで前半戦を終了した。

 しかも、日本チームのトータルは366000点、ドイツチームのトータルは34000点と、十倍以上の点差が付いて後半戦へと折り返すことになった。

 

 

 休憩に入った。

 光は、一先ず咲を連れて対局室を出た。

 

 トイレと飲料補給(トイレで飲料補給ではない)を順に済ませると、光は咲に小声で話し始めた。

 後半戦の作戦会議だ。

 ただ、咲も同様のことを考えていたようで、特に驚いた様子は無かった。あとは、その作戦に見合う手牌が出来るかどうかだけである。

 

 

 それから少しして、咲と光が対局室に戻ってきた。

 千里と栄子は、対局室から出なかったのか、卓に付いていた。

 

 場決めがされ、起家が栄子、南家が千里、西家が咲、北家が光に決まった。

 もはや、千里と栄子にとっては絶望的状態ではあったが、諦めたら終わりである。

 それに万が一、勝ち星2.5ずつ(引き分けが一つ)となった場合は先鋒から大将までの全ての合計点で勝敗を決めることになる。

 当然、チームのために100点でも多く取りたいところだ。

 

 東一局、栄子の親。

 前半戦最後の一撃が効いたのか、栄子の配牌は最悪の六向聴で、しかもヤオチュウ牌が四枚と国士無双に進むにも厳しい状態だった。運が低下している。

 これが、リラの鉄槌を打てる状況なら栄子も国士無双に走るだろう。しかし、今は東一局で、栄子の点数が落ち込んでいるわけでは無い。

 それに、そもそも栄子をトバすレベルの超魔物が相手である。リラの鉄槌は、栄子が箱割れ直前まで削られたとしても発動しないと考えるべきだろう。

 

 この局、千里は最短距離で聴牌まで持って行った。咲と同様に全ての牌が見える彼女ならではであろう。

 そして、聴牌から一巡おいて、

「リーチ!」

 先行リーチをかけた。

 

 咲、光ともに安牌で回した。

 栄子は、当然振込むことは無いが、もし、ここで栄子が和了り牌を切ったとしても千里は和了るつもりは無かった。

 何故なら、

「ツモ! 一発!」

 千里には次のツモ牌が自分の和了り牌であることが分かっていたからである。

「リーチ一発ツモドラ2。2000、4000!」

 これで、ようやく千里は初和了りを決めた。

 

 

 東二局、千里の親。

 ここでも、千里は最短距離で手を作り上げる。

 千里が透視能力を使って見た限り、配牌時点では、この局も順調に行けば前局同様に門前で聴牌できそうだ。

 それには、今のツモを保つため、思わぬところで鳴かせてツモを狂わせないことが重要になる。

 

 幸い、今のところ咲も光もムリをしてこない。

 前半戦の超特大リードがあるからだろう。

 

 今回も千里は、

「リーチ!」

 最短距離で聴牌し、即リーチをかけた。

 そして、次巡、

「ツモ! リーチ一発ツモドラ2。4000オール」

 園城寺怜を髣髴させる一発ツモを披露した。

 

 東二局一本場、千里の連荘。

 千里は、ようやくツキを自分に定着できたと実感できた。非常に配牌が軽いし、ツモ牌も良い順に並んでいる。

 これなら序盤で片付けられそうだ。

 ドラが無いのは難点だが、それでもリーチをかけてツモれば満貫になる手だ。

 

 この局、千里は三巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 今回も即リーチをかけた。

 勿論、次のツモ牌も分かっている。故のリーチだ。

 

 そして、次巡。

 当然のことのように、

「ツモ! リーチ一発ツモタンヤオ一盃口。4100オール!」

 親満ツモ和了りを決めた。

 

 東二局二本場。

 ここに来て、咲のオーラが強力になった。

 一方の光からは、まだ特段オーラは感じなかった。まだ、能力を抑えている感じだ。

 

 この局、咲は、

「ポン!」

 早々に栄子から{中}を鳴いた。

 そして、数巡後、

「カン!」

 当然の如く、咲は{中}を加槓した。

 ただ、いつものような嶺上開花は無かった。どうやら、有効牌を引き入れるのみで済んだようだ。

 

 さらに次巡、

「カン!」

 咲は光から{一}を大明槓した。

 しかし、珍しいことに、今回も嶺上開花はなかった。ここでも有効牌を引き入れるのみで終わったのだ。

 

 栄子は、さっきの嶺上牌で咲が聴牌していることを感知していた。

 勿論、千里も咲の聴牌を認識していた。ただ、千里は、ここでも怪訝そうな表情を見せていた。

 

 次巡。

「ツモ。」

 咲が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五五七八九}  明槓{一一一横一}  明槓{横中中中中}  ツモ{二}

 中混一。70符3翻の満貫であった。

 

「2200、4200。」

 この手は、またもや二年前のインターハイで咲が見せた和了り手と同じだった。違うのは{中}を鳴いた位置だけだ。

 霞と恭子は、

「「(もうこれ、偶然じゃ済まされないレベルなんだけど………。)」」

 咲のバケモノさを再認識させられていた。二年前の手を三回も再現するなど、常識的にありえない。

 やはり咲は普通じゃない。

 

 一方、豊音だけは、

「チョー嬉しいよー。」

 二年前のインターハイで、みんなからもらったサインを抱きしめながら、涙を流して喜んでいた。



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百九十五本場:高校最後の世界大会決勝戦3  まさかの戦略

 世界大会決勝先鋒後半戦は、東三局に突入した。

 咲の親番。

 

 配牌後、千里には、

「(マジ? 宮永さんの配牌とツモ、とんでもない!)」

 咲の手がどう変わって行くのかが見えていた。さすが日本最強の超魔物と言える恐るべき手だ。

 これを絶対に和了らせてはならない。

 とにかく、邪魔することが最優先である。

 

 しかし、千里の手は、クソ配牌にクソツモが続き、なかなか動ける状態では無かったが、

「チー!」

 何とか栄子の捨て牌を鳴いて咲のツモをずらした。

 しかし………、

「ポン!」

 その努力も空しく、咲は光がツモ切りした{2}を鳴いて、ツモを元に戻してしまった。咲も全てが分かっているのだ。

 

 数巡後、再び、

「チー!」

 千里は鳴いてツモをずらしたが、

「ポン!」

 やはり咲は、光がツモ切りした{發}を鳴いてツモを戻した。咲と光との間には、かなり高いレベルでの意思疎通が働いているようだ。

 やはり、従姉妹故なのだろう。

 

 そして、次巡。

「カン!」

 咲は、光が捨てた{3}を大明槓した。まさかの展開である。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 引いてきた{2}を、咲は加槓した。

 さらに咲は、

「もいっこ、カン!」

 二枚目の嶺上牌………{8}を暗槓し、

「もいっこ、カン!」

 さらに三枚目の嶺上牌………{發}を加槓した。

 これで、四つの槓子が出来上がった。

 

 王牌には四枚目の嶺上牌が残っていた。咲は、この牌………{6}を引くと、

「ツモ!」

 当然の如く嶺上開花を決めた。

「緑一色四槓子96000です。」

 これは、光の責任払いになる。

 観衆達は、この和了りに全員唖然としていた。まさかの親のダブル役満。しかも、これは、明らかに同士討ちである。

 光のトビで終了だ。

 

 ところが、咲も光も平然とした顔をしている。狙ってやっていたのだ。

 たしかに後半戦だけ見れば、点数と順位は、

 1位:咲 194500

 2位:千里 128100

 3位:栄子 85700

 4位:光 -8300

 日本チームのトータルは186200点、ドイツチームのトータルは213800点でドイツチームが上回っている。

 自ら日本チームは敗退を選択したように見えるだろう。

 

 しかし、本大会では前後半戦のチームトータルで競う。

 前半戦では、日本チームが366000点、ドイツチームが34000点と十倍以上の差をつけていた。

 これが加算され、前後半戦のトータルでは、日本チームが552200点、ドイツチームが247800点となり、日本チームが余裕で勝ち星を得る結果となった。

 まさかの戦略的トビ終了だったのだ。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼がなされた。

 千里は、

「(こんな手を作るほうも作るほうだけど、差し込む方も差し込む方ね。それにしても、こんなことをやってくるなんて………。)」

 最後の超特大手に対して、自分達の支払いが全然発生せずに終了したためであろう。なんだか心から敗北感が湧いてこなかった。

 負けは負けなのだが………。

 ただ、千里も栄子も、この超化物二人によるスーパープレイを一生忘れないだろう。それだけ劇的な空気だけは強く感じ取れた。

 

 

 この頃、ドイツチームの控室では、

「まさか、こんな手を使ってくるとはね。」

「マジマジマジマジ アロマジロ? って感じだよね!」

「私達も負けていられないわね。じゃあ、行きましょうか。」

「うん。絶対にぶっ殺スフィンクス!」

 フレデリカとカナコが気合を入れていた。

 

 二人が、対局室に向けて動き出した。

 控室に残されたのは監督のニーマン、パワーヒッターのローザ、そしてニーナ、クララ、エリーザの他に、もう一人の選手がいた。今までいなかった選手だ。

 万が一のことを考えて、この決勝戦のためにニーマンが、わざわざドイツから補員を呼び寄せていたようだ。

 やはり日本チームだけは一筋縄では行かない。そう判断してのことだ。

 

 

 また同じ頃、日本チームの控室でも、

「高校102年生の淡ちゃんが、殺し屋コンビを返り討ちにしちゃうからね!」

「私の足だけは引っ張らないでくださいね!」

 こんなことを言いながらも、淡と和の表情は気合に満ちていた。

 

 フレデリカはドイツチームのエース。

 カナコも、昨年のメンバーの中では二番目に強かった存在と言える。

 今年は、クララが第二エースとして加わったが、恐らくドイツチームで一番強い選手と上位実力者のペアであることは間違いないだろう。

 日本チームで言えば、咲と穏乃がペアを組んだようなものだ。なので、淡も和も自分達が勝つ確率よりも負ける確率の方が高いことを十分理解していた。

 しかし、最初から負けるつもりで卓に付く気はない。

 二人とも、二つ目の勝ち星を目指して控室を出て、対局室へと向かって行った。

 

 

 それから数分後、対局室に次鋒選手四人が姿を現した。

 一方、某ネット掲示板では、

『殺し屋コンビvs泡和だと、泡和が大放出するんじゃなかと?』

『そんなオカルトありえません』←誰だこいつ?

『泡和じゃ、アワワ~なんて言いながら一瞬で負けるんじゃない? by 高三最強』

『高三再教育は黙ってろなのよー』

『でも、殺し屋コンビ相手じゃキッついなぁ~』←セーラ

『串カツとから揚げを喰いながら見守っとるで!』

『一巡先は………闇やな』

『クソキツイ戦いになりそうだね』

『でも勝てれば超スバラです!』

『でも、美和様だったら殺し屋コンビが相手でも行けると思』

『↑それはどうかと思うじぇい! 多分、フレデリカには美和様の力は通じない飢餓するじょ』

『でも、カナコだけでも美和様の虜に出来れば少しは違うと思うのよモー!』

『美和様が待ち通しいんデー!』

 淡と和に勝ち星をあげて欲しいところだが、やはりフレデリカとカナコでは相手が悪いと誰もが認めているようだ。

 

 

 場決めがされ、起家がカナコ、南家が淡、西家がフレデリカ、北家が和に決まった。

 高校最後の公式戦。

 淡は、形振り構わず全力で能力を開放する。

 

 東一局、カナコの親。ドラは{九}。

 早速、淡以外の三人は強制的に配牌六向聴にされた。本当に淡の能力は相手にとって不快極まりない。

 できれば、同じ日本チームの和だけは絶対安全圏から外したいところだが、淡の能力は取捨選択が出来ないらしい。そう言う意味では不便である。

 

 また、淡のみ配牌聴牌だが、飽くまでもダブルリーチ槓裏4を想定したものだ。

 よって実質、役無し聴牌であった。

 

 サイの目は9。

 最後の角の後にはツモ牌が四枚しかない。

 いや、最後の角を越える直前で暗槓したら、残るツモ牌は三枚しかない状態だ。さすがに淡もダブルリーチを見送った。

 ここから淡は、役有り聴牌に向けて手を作り変えて行く。

 

 淡の配牌は、

 {六七八①①①②③④79南南}

 

 槓材が{①}でアタマが{南}。

 待ちは嵌{8}。

 {南}は自風なので、これが鳴ければ役有り聴牌に変わる。

 また、配牌での嵌{8}待ちは、ダブルリーチ槓裏4の成立を考えるのであれば、最後の角を越えないと通常は出てこないはず。

 淡自らが鳴きを入れることでツモが狂えば、最後の角を待たずとも{8}が出てくる可能性はあるだろう。しかし、その確率は決して高くないと淡は思っていた。

 故に南を鳴いた時に{7}を捨てて{9}待ちに変える。

 さらに、そこから別の待ちに変えて行っても良い。

 そう淡は判断していた。

 

 待望の{南}は、早速一巡目で和が捨ててくれた。

 淡へのサポートだ。

 オカルト否定派だった和も、淡の麻雀と二年も付き合っている。

 少なくとも、

『偶然、役無し聴牌からのダブルリーチがかけられることの多い人』

 くらいの認識はある。

 それに、淡の手を役有り聴牌に変える一番簡単な方法は、もし淡が役牌をアタマで持っていたならば、それを鳴かせることである。

 それで和は、最初に淡の自風を切ったのだ。

 

 淡は、

「ポン!」

 いきなり{南}を鳴くと、予定通り打{7}。

 これで一応、役あり聴牌に変わった。

 しかし、まだ1300点の手。

 手の中には{六七八}と{②③④}の順子が含まれている。

 当然、淡は、{②③④}に対しては赤牌で入れ替わるのを、{六七八}に対しては赤牌かドラの{九}で入れ替わるのを待つ。

 

 幸運にも、二巡後のツモは{九}。

 ここから打{9}で、淡は{六九}待ちに変えた。

 そして、そのさらに二巡後、絶対安全圏内で、

「ツモ!」

 淡は、再び{九}を引いて和了った。

「南ドラ2。1300、2600。」

 {南}の明刻に{①}の暗刻、さらに単騎待ちツモで40符3翻である。

 超魔物フレデリカを相手に、淡にとっては幸先の良いスタートとなった。

 

 

 東二局、淡の親。ドラは{南}。

 今回の淡の配牌は、

 {四五六八八八九九②②678白}

 

 サイの目は5。

 最後の角の後は割と長いが、フレデリカとカナコが相手だ。

 淡は、一瞬迷ったが、まだ様子見することにした。まだダブルリーチをかける時ではないとの判断だ。

 ここから淡は、{白}を切って役無し聴牌に受けた。

 

 二巡目。

 淡は{[⑤]}をツモった。

 ここで淡は、一旦、{九}を切って一向聴に落とした。役有りに切り替えるためには、{九}が邪魔なのだ。

 

 そして、同巡にカナコが{②}を切ってきた。

 これを淡は、

「ポン!」

 鳴いて打{九}。{⑤}単騎で受けた。

 勿論、淡はステルスへの対処法………オンライン麻雀ゲームのつもりで打つことでカナコの捨て牌が見えるようになっていた。

 

 一方、この鳴きにカナコは、

「(マジマジマジマジ アルマジロ? 私の捨て牌が見えてるなんて?)」

 相当驚いていた。

 

 カナコの特徴はステルスと狙い撃ち。東横桃子と弘世菫を足したような麻雀を打つ。

 しかも、手の仕上がりが早くて高打点と、池田華菜の特徴まで備えている感じだ。絶対に相手にしたくない魔物の一人と言える。

 加えて彼女は、東一局からステルスが発動できる。当然、自分から鳴かれるなんてことは有り得ない話だ。

 

 たしかに、昨年の世界大会では咲にステルスを破られた。

 しかし、そんなことは誰にでも安々と出来るモノでは無いと思っていたし、ドイツチーム最強のフレデリカにもできないことだ。

 なので、淡と和が相手ならステルスも十分通じるだろうと高を括っていた。

 そこに発生した淡の鳴き。

 カナコからすれば、

『日本チームにはステルスは通用しない!』

 と言われているに等しい状態だった。

 

 次巡。

 淡は二枚目の{[⑤]}を引き当てた。今、まさにツキは自分にあることを、淡は実感していた。

「ツモ! タンヤオドラ2。2000オール!」

 しかも、今回も絶対安全圏内での和了り。これでは、フレデリカもカナコも和了りまで進めることは不可能である。

 昨年の世界大会の決勝戦で、何故、これだけの力を持つ淡がベンチに回ったのか?

 この時、フレデリカもカナコも、それを不思議に感じていた。

 

 東二局一本場。ドラは{北}。

 ここでも絶対安全圏は健在である。

 さすがの咲でも、この能力は破ることが出来ない。当然、咲のクローンであるフレデリカにも絶対安全圏は回避不能であった。

 

 この局、淡の配牌は、

 {二三四①③⑦⑧⑨77999發}

 ここから打{發}で、役無し聴牌に受けた。

 勿論、ダブルリーチはかけない。何とか役有りの形へと移行する。

 

 二巡目。

 淡は{8}をツモった。

 ここから打{9}で、一旦、一向聴に落とした。今回も前局と同様に聴牌形を保ったまま役ありへと移行するのはムリなようだ。

 

 三巡目。

 淡は{一}をツモって打{四}。

 

 そして、四巡目には再び{8}をツモって聴牌した。

 ここまで淡は、ムダなツモが一切無い。やはり、まだ流れは自分にあると感じていた。

 当然、ここから打{③}で聴牌。

 手牌は、

 {一二三①⑦⑧⑨778899}

 もとの嵌{②}待ちから{①}単騎待ちに変えてのジュンチャン一盃口。

 満貫手だ。

 

 五巡目と、絶対安全圏最後の六巡目は、共に不要牌が来ただけなのでツモ切り。まあ、二巡目から四巡目までが出来過ぎと言える。

 

 そして、絶対安全圏を越えた最初の巡目である七巡目。

 フレデリカやカナコであれば、最悪聴牌している可能性がある。ここからは、安易な捨て牌は避けなければならない。

 しかし、淡は、

「ツモ!」

 幸運にも、ここで{①}を引き当てた。

「4100オール!」

 しかも親満ツモ。

 

 リーチをかけていれば一発に裏ドラが付いたかもしれないが、それは結果論である。

 加えて自分の直感が、フレデリカを相手に迂闊なリーチは避けるべきと告げている。

 それで、淡は、

「(これにイイ。このままダマで行けるところまで押し通す!)」

 今のスタイルを維持するべきと、自分に言い聞かせていた。

 

 東二局二本場。ドラは{二}。

 サイの目は7で、最後の角が最も早く来るパターン。

 絶対安全圏もダブルリーチの能力も発動。

 当然、今まで同様に淡のみ配牌聴牌で、他の三人は最悪の六向聴と、普通なら淡以外はヤル気がドンドン削がれるだろう。

 

 淡の配牌は、

 {三四五六七八①⑥⑧999中中}

 槓材は{9}。

 昨年の世界大会で、淡がルーマニアチームのエカテリーナに国士無双を槍槓振込みしたのと同じパターン。

 あの時は、まさに{9}の暗槓で振り込んだのだ。

 苦い記憶が甦る。

 当然、ダブルリーチはかけない。

 いや、かけたくない!

 今回も淡は捨て牌を横に曲げず、打{①}で役無し聴牌に取った。

 

 和の第一打牌は{東}。もし淡が{東}を対子で持っていればとの考えで捨てたようだ。

 そして、和の第二打牌は{中}。

 これを、

「ポン!」

 淡は鳴いて打{⑧}。どうせ、{⑦}が出てくるのは十巡目以降だろうとの判断で{⑥}単騎に待ちを変えた。

 

 次巡。

 淡は{[五]}をツモって打{⑥}。待ちは{二五八}と広がった。

 そして、その二巡後、淡はツモでドラの{二}を掴み、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

「中ドラ2。2800オール!」

 {中}の明刻に{9}の暗刻を持つため符ハネして40符3翻になった。

 

 これで現在の次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:淡 131900

 2位:フレデリカ 89800(席順による)

 3位:和 89800(席順による)

 4位:カナコ 88500

 淡が2位に40000点以上の差をつけてのダントツ状態だった。



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百九十六本場:高校最後の世界大会決勝戦4  姉妹

 世界大会決勝次鋒前半戦は、東二局三本場がスタートした。

 親は淡。

 ここでも絶対安全圏とダブルリーチの能力を発動し、今まで通り、流れに従って突き進むつもりでいた。

 ツキは自分にある。そう思うが故の判断だ。

 

 一方のフレデリカは、今までの配牌やツモのパターンと、過去の淡の対局事例を照らし合わせていた。

「(やっぱり、配牌が最悪なだけで、普通に手は出来上がって行くみたいね。)」

 本来、淡が能力を全開にした時、ダブルリーチをかけて最後の角を越えたところで和了り牌を相手に振り込ませる。

 言い換えれば、そこまでは他家の手は順調に進む。

 

 そして、相手を聴牌させることで振り込ませる。

 振り込んでもらえなければ自力でツモ和了りする。

 それが淡の本来のスタイルだ。

 はっきり言って性格が悪い能力麻雀だ。こんな極悪な麻雀は滅多にお目にかかれない。

 

 淡がサイを回した。

 出た目は9。

 この場合、もし淡がダブルリーチをかけたならば、海底牌近くまで場が進まないと淡の和了り牌が出てこない。

 勿論、淡はダブルリーチをかけずに役無し聴牌から役有り聴牌に形を変え、しかも待ち牌を変えるつもりである。

 しかし、それが厳しいケースもある。

 まさに今回が、そのケースであった。

 

 淡の配牌は、

 {一一一③⑤⑥⑦⑧456西西北}

 

 タンヤオに移行するのも、ジュンチャンやチャンタに移行するのも難しい。

 役牌は無い。

 染め手にも走れない。

 むしろ、今までが役有り聴牌に移行しやすい配牌に恵まれていたと言えよう。

 フレデリカを相手に、下手にリーチをかけたくないが、この場合は、良形聴牌に切り替わったらリーチをかけるくらいしか手がないだろう。

 淡は、一先ず{北}を落として役無し聴牌とした。

 

 ところが、二巡目からのツモは、

 {九2南91東}

 と全然手が進められるものではなかった。

 

 一方の和は、一巡目から三巡目までに、淡に鳴かせようと{白發中}を順に落としていたのだが、淡の手がこんな状態である。当然、鳴いてもらえるはずが無い。

 

 続く八巡目。

 淡は{⑦}をツモった。

 これなら{③}切りで{⑥⑨}待ちへと切り替わる。

 基本的に、裏ドラは期待できないが、連荘狙いで、

「リーチ!」

 淡が捨て牌を横に曲げた。

 

 しかし、この時、淡の背筋に冷たいものが走り抜けた。フレデリカのオーラが大きく膨れ上がっていたのだ。

 そして、

「ロン。」

 この{③}でフレデリカが和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {八八②④白白白發發發中中中}

 

「32900!」

 一瞬、淡の目が点になった。

 まさかの門前の大三元であった。

 しかも、まだ八巡目だ。フレデリカは、七巡目で聴牌していたことになる。

 絶対安全圏の発動を考えれば、こんな和了りは通常不可能だ。一切のムダツモ無しで必要な牌だけを呼び寄せなければ出来ないだろう。

 

 フレデリカは、配牌で各一枚ずつ持っていた{八②④白發中}以外の牌を、全てツモ牌と入れ替えて聴牌していた。

 欲しい牌だけをひたすらツモり続けたのだ。咲や静香、小蒔(神降臨バージョン)を思わせる超鬼ツモである。

 しかも、同時に、いずれ淡から待ちが変わった際に{③}が出てくると予想して、敢えて{②④}を残したのだ。

 本当に恐ろしい敵である。

 

 これで、今まで淡が稼いだ分は、全てフレデリカに奪われた。

 一瞬で淡は、1000点だけだが原点を割ることになった。

 

 

 東三局、フレデリカの親。

 今回、淡は絶対安全圏を発動したが、ダブルリーチの能力は使わなかった。既にツキが離れたとの判断だ。

 今、ダブルリーチの能力を使ったところで、配牌が、前局のような役有り聴牌に移行し難い形の役無し聴牌にしかならないだろう。

 それでしばらく、絶対安全圏一本で行くことにした。

 

 淡の配牌は{發}が対子の二向聴。

 三巡目に、和が捨ててくれた{發}を、

「ポン!」

 鳴いて淡は一向聴へと手を進めた。

 しかし、フレデリカもカナコも、淡が鳴ける牌を出してくれないし、ツモもイマイチの状態。淡の手は、ここで止まってしまった。

 

 一方の和は、配牌六向聴から順調に手を進めていた。

 勿論、ムダツモもあるので六回のツモで聴牌できるわけではないのだが、既に二向聴となっていた。

 しかし、

「ツモ!」

 ここには超鬼ツモの化物がいる。

 彼女───フレデリカは、最短の、たった六回のツモで聴牌し、

「ツモ七対ドラ2。4000オール!」

 七回目のツモで親満をツモ和了りした。

 

 そして、東三局一本場も、

「ツモ!」

 フレデリカは、

「タンヤオツモ七対ドラ2。6100オール!」

 前局同様に、最短の六回ツモで聴牌し、七回目のツモで和了って見せた。

 それは、まるで前局の和了りと同様の事が意図的にできることをアピールしているかのようにも見えた。

 

 しかし、この和了りの直後、淡はフレデリカのオーラが小さくなって行くのを感じた。

 フレデリカは、次鋒戦と中堅戦を連続で戦う。当然、ここでエネルギーを使い果たすわけには行かない。

 

 現在の点数は、

 1位:フレデリカ 153000

 2位:淡 88900

 3位:和 79700

 4位:カナコ 78400

 ドイツチームはトータルで日本チームに60000点以上の差をつけている。それで能力の放出を、ここで一旦セーブしたのだろう。

 

 東三局二本場。ドラは{西}。

 淡は絶対安全圏を発動したが、やはり自分にツキが向いていないのを感じていた。

 前局は{發}の対子があったが、今回は役牌の対子は無いし、タンヤオにも進め難い。どうも役有りの形に持って行くのが困難な状態だ。

 

 フレデリカからは特段脅威的な雰囲気を感じない。ここでも、まだ省エネモードで行くつもりのようだ。

 淡と和の特命は、たとえ負けても可能な限りフレデリカを疲れさせること。

 きっとそれが、中堅戦での咲達の勝利につながるはず。

 

 当然、省エネモードを止めさせなければならない。

 ならば、こっちは攻めまくってフレデリカに再びエネルギー放出せざるを得ない状態を作るのみ。そのために全力を尽くす。

 

 和は、この局、九巡目で聴牌した。

 しかも、和にとっては、この半荘で初めての聴牌である。

 

 和の手牌は、

 {六七八②③④⑤[⑤]13457}  ツモ{6}

 

 当然、ここから、

「リーチ!」

 打{横1}で聴牌即リーチをかけた。

 メンタンピンドラ1の満貫級の手。しかも{258}の三面聴。ドイツチームに大きくリードされている今、攻撃に出ない方がおかしいだろう。

 

 しかし、聴牌していたのは和だけではなかった。

 この和のリーチ宣言牌で、

「ロン。」

 カナコが和了った。カナコの方が一歩早かったのだ。

 

 しかも、開かれた手は、

 {三四[五]③④[⑤]1345西西西}  ロン{1}

 

「西三色ドラ5。16600!」

 まさかの倍満。

 これで和は、63100点まで落ち込んだ。もし、これが25000点持ちであれば、この振込みで箱割れしたところである。

 しかし、これで和はブレたりしない。すぐに気持ちを切り替えて次局に望む。

 

 

 東四局、和の親。

 ここでも当然、淡以外は強制六向聴。

 

 和の手牌は字牌が六枚。

 しかも対子が一つも無く最悪の状態だった。

 ただ、この字牌を順に捨てて行っただけなのだが………、偶々なのだろうが、幸運にも持っていたチュンチャン牌が次々と対子に変わって行った。

 勿論、一切のムダツモが無かったわけではないが、和は七巡目で七対子一向聴まで辿り着いた。

 

 八巡目。

 フレデリカは、未だに能力を抑えて、手なりに打っていた。

 もっとも、全ての牌を透視する力は働いていたので、通常、フレデリカが振込むことは無い。

「(親の原村が早そうね。)」

 フレデリカは、親を流そうと能力発動を考えた。

 そして、ここで手を進めて切った牌で、

「ロン。」

「えっ?」

 珍しくフレデリカが振り込んだ。

 

 和了ったのはカナコ。

 さすがのフレデリカにも、カナコの姿を捉えることは出来ない。ステルスは、フレデリカにも有効なのだ。

 残念なことに、フレデリカは、ステルス破りの方法を知らなかったのだ。今のところ、ステルス破りは日本チームだけのお家芸である。

 

 しかも、カナコの手は、

「16000!」

 倍満と大きい。

 さすが殺し屋と呼ばれるだけのことはある。

 まあ、今回はチーム戦なので、ドイツチームの点数が減ったわけではないのだが、正直なところ振込んだこと自体は悔しい。

「ごめんねフレデリカ。原村が早そうだったから。」

「それは分かってる。」

 とは言え、和の親を流せたのだから良しとしよう。

 フレデリカは、そう思いながら気持ちを切り替えた。

 

 

 南入した。

 南一局、カナコの親。ドラは{四}。

 絶対安全圏は、まだまだ続く。

 そろそろカナコも、

「(マタマタマタマタ ヤマタノオロチ。ずっと配牌六向聴だもんね。ここまで続くとさすがにメゲてくるぅ。)」

 さすがに嫌気がさしてきた。

 まあ、その後、手が順調に進んでくれるのが救いだが、配牌だけは憂鬱になる。

 

 この局のカナコの配牌は、

 {一四七九①③⑦258東南西北}

 まごうことなき、素晴らしき六向聴。

 彼女は、ここから{一北西南①東九}と順に落としていった。

 

 そして、八巡目。

 カナコの手牌は、

 {三四七七③④⑥⑦23458}  ツモ{[⑤]}

 

 タンピン三色ドラ2が見える。

 当然のように、ここから打{8}。

 

 しかし、これが、

「ロン! タンヤオ一盃口ドラ2。8000!」

 和の和了り牌だった。

「えっ?」

 淡に続いて和にもステルスが効いていないとは………。

 

 勿論、カナコは、和もステルス耐性を持つ可能性があるかも知れないとは思っていた。

 しかし、それが証明されるまでは、やはり大丈夫であると信じたい。故に、この振込みは、カナコにとって衝撃的事実となった。

 

 今までステルスに守られてきたこともあって、カナコは、守備を考える必要が一切無かった。それもあって、カナコは攻撃一辺倒の打ち方をする。

 今回も、{8}を捨てずに一旦アタマ落としで様子を見るとかが出来ていれば、結果は違っていたかも知れない。

 ステルスが効かない相手との戦いに備えて、守備力向上は、カナコの今後の課題になるだろう。

 今後、日本に帰国して麻雀大会に出場するつもりなら尚更である。

 

 

 南二局、淡の親。ドラ{2}。

 そろそろ、

「(もう、東二局以来、和了れてないからね、私…。)」

 淡としても和了りたい。

 次鋒戦のチームトータルは、現在、日本チームが丁度80000点負けている。

 ここは一つ、カナコかフレデリカから役満でも直取りして一気に逆転したいとか思うところだ。

 勿論、それが単なる妄想であることも重々承知だが………。

「(こんなことなら、ダブリーの能力だけじゃなくて天和の能力も欲しかったな!)」

 そんなことを考えながら、淡は絶対安全圏を発動した。

 

 ここに来て、再びフレデリカのオーラが膨れ上がった。

 エネルギー消費を極力抑えながらも、要所要所では、キチンと和了りを決めたいと言ったところだろう。

 見ていて、ある意味、咲よりも恐ろしい空気を身に纏っている。まるで、照のような気迫がヒシヒシと伝わってくるのだ。

 

 一回ツモる毎に、卓上に竜巻を巻き起こすような錯覚を感じる。満貫以上に打点上昇した時の照と大同小異だ。

 淡は、このフレデリカの様子を見ながら、

「(やっぱり、姉妹だよね、これ。)」

 と思っていた。

 照に憧れ、照のことを良く知る彼女ならではの感想だろう。

 

 そして、六巡目。

「リーチ!」

 この半荘で、フレデリカが初めてリーチをかけた。

 和は、一先ず安牌落とし。一発回避だ。

 カナコは、まあ最悪振り込んでも構わないつもりでヤバそうなところを切ってきたが、これはチーム内で点棒が動くだけなら問題ないためだ。

 淡は、自牌のアタマ落としで様子を見た。

 

 しかし、一発回避など無意味と言わんばかりに、

「ツモ!」

 フレデリカは、即ツモで和了り牌を引いてきた。

 淡は、この時、フレデリカの全身から照の麻雀のような圧倒的パワーを感じていた。

 

 開かれた手牌は、

 {二二五[五]八八③③⑥⑥228}  ツモ{8}  ドラ{2}  裏ドラ{八}

 

「リーチ一発ツモタンヤオ七対子ドラ5。6000、12000!」

 まさかの三倍満。

 

 これで、現在の点数は、

 1位:フレデリカ 161000

 2位:カナコ 97000

 3位:淡 76900

 4位:和 65100

 

 日本チームのトータルは142000点、ドイツチームのトータルは258000点。

 実に116000点の差をつけられた。



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百九十七本場:高校最後の世界大会決勝戦5  情事じゃなくて常時

 世界大会決勝次鋒前半戦は、南三局を迎えた。

 親はフレデリカ。

 淡も和も、この親には和了らせたくない。

 

 特にフレデリカの正体を知る淡にとっては、この親は脅威でしかない。

 二年前のインターハイから自分のライバルの一人………いや、自分よりも遥かに上を行く超魔物から生まれた分身。

 そのことを日本で知る者は淡と照、慕、恭子、神楽、小蒔、そして恐らく蒔乃。多分、これだけだ。当の本人達ですら知らない。

 

 誰もが認める女子高生麻雀界の日本の守護神。その圧倒的なパワーで天江衣、宮永照、荒川憩と言った麻雀超人達を打ち破ってきた怪物。

 それがフレデリカの本体。

 

 後天的能力である点棒支配は咲だけの能力だが、先天的な資質は当然、咲から受け継いでいる。故にフレデリカが、ここぞと言うところで見せる爆発力は災害(最大)級だ。

 

 

 点差を考えれば、もはや淡と和の逆転は厳しいだろう。

 しかし、チームのために100点でも多く残したいし、それ以上にフレデリカを疲れさせたい。

 この後に控える本体vs分身の戦いで本体が勝利を得るために。

 

 

 淡は、今のツモの流れから察するに、今一つツキから見放された感じはある。

 最初は調子が良かったのに、フレデリカに大三元を振り込んでからは、ずっとこんな状態が続いている

 あの一撃は、さすが咲の分身と言える。

 しかし、そんな淡でもフレデリカに負荷をかけることは可能だ。それが淡にしか無い能力、絶対安全圏だ。

 

 前局に三倍満を決めて再び力をセーブし始めたのだろうか?

 それとも、この次鋒前半戦の勝利を確信したからであろうか?

 この局では、またもやフレデリカのオーラが弱められた感じを淡は受けていた。

 恐らくフレデリカも中堅戦を意識して、ここでの疲労を最小限に留めようとしているのは間違いないだろう。

 

 ちなみにオカルト否定派の和には、フレデリカのオーラを全然感じ取ることが出来ないようだ。

 ただ、それが必ずしも悪いわけでは無い。相手のオーラを感じて萎縮してしまうこともあるだろう。

 そう言う意味では、和は相手のオーラを受けたことが原因で手が縮こまる………なんてことは無い。

 

 和が崩れたのは、二年前のインターハイ団体決勝戦で灼に筒子の九連宝燈を振り込んだ時くらい。

 基本的に、滅多なことでは微動だにしない。それこそ、他家に役満をツモ和了りされて親かぶりさせられても平然としている。

 ゆえに強い。

 

 ここでも、最下位であることに焦ることなく、配牌六向聴から最高の牌効率を見せて最短で聴牌し、

「リーチ!」

 攻めに出た。

 

 カナコは現物切りで対応。

 淡は、別に振り込んでも構わないので、深く考えずに当たらなさそうと直感的に思ったところを切った。

 全ての牌が見えるフレデリカは、当然、振込むことは無い。

 

 一発は無かったが、そこから数巡して、

「ツモ。」

 和は自力で和了り牌を引き当てた。

「メンタンピンツモドラ1。2000、4000。」

 今の点差を考えたら満貫では小さな和了りかもしれない。

 しかし、和としては、とにかくフレデリカに和了らせないことが最優先と考えての和了りであった。

 

 

 オーラス、和の親。ドラは{3}。

 半荘全体と通じて絶対安全圏は健在。

 当然、ここでも淡以外は全員強制六向聴だった。

 

 淡としては、せめて和を対象から外せればと思うのだが、それができない。

 絶対安全圏は、咲にも照にもフレデリカにも破られない強烈な能力だが、取捨選択が出来ない点では非常に不器用と言える。

 なので、結果的に和の足を引っ張っている気もしている。

 かと言って、絶対安全圏を解除すれば、フレデリカが暴れまくるのは必至だろう。故に絶対安全圏は継続せざるを得ない。

 

 救いなのは、和が強制配牌六向聴を特に気にしていないところだ。

 確率的には普通に有り得る話だし、仮に配牌が一向聴と非常に良かったとしてもツモが一切噛み合わなければ聴牌できない。

 結局は、配牌から和了りまでのトータルで考えなければ無意味と和は思ってくれているようだった。

 

 また、和は前半戦最後の足掻きをここで見せたいとも思っていた。

 勝気な性格もあるが、それだけではない。

 諦めたら全てが終わりだからだ。

 そのことを和は、二年前の長野県大会で咲が見せた大逆転………衣に責任払いさせた数え役満を目の当たりにして以来、痛感していた。

 自分には、あんな奇蹟は起こせないが、しぶとく喰らい付いて行く姿勢を保つことくらいは出来る。

 

 

 和は、自分の武器………牌効率を活かして、前局同様に最短での聴牌を目指した。

 配牌は、

 {二五八①④⑦369東南北白中}

 淡と打つと、毎回こんな調子だ。

 

 しかし、和は、ここから{北9①南白中⑨東二發八}と切り出して十一巡目で聴牌した。{⑨}と{發}はツモ切りだが、非常にムダツモが少なく手が進んだと言える。

 

 この時、和の手牌は、

 {五六七③④[⑤]⑦⑦34567}

 

 タンピンドラ2で、出和了りなら11600点。

 当然、ここはダマで待つ。

 しかし、この最後に打った{八}で、

「ロン!」

 下家のカナコが和了を宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {五五[五]六七⑧⑧33355[5]}  ロン{八}

 タンヤオ三暗刻ドラ5。

「16000!」

 倍満だ。

 

 これで次鋒前半戦の順位と点数は、

 1位:フレデリカ 157000

 2位:カナコ 111000

 3位:淡 74900

 4位:和 57100

 日本チームがトータル132000点、ドイツチームが268000点と、ダブルスコアの差を付けられた。

 

 

 ここで一旦、休憩に入った。

 先鋒前半戦の十倍スコアほどの差は付いていないが、淡と和にとっては五十歩百歩。大敗である。

 しかも、フレデリカほどの力量があれば、先鋒戦で咲と光が取った戦法………同士討ちでのトビ終了による勝利をドイツチームは余裕で狙えるかも知れない。

 和は、その可能性を考えていた。

 もっとも、これは和の杞憂でしかなく、フレデリカにもカナコのステルスが効いているため、ドイツチームはカナコが差し込んだところでフレデリカは和了れない。

 勿論、フレデリカ自身もカナコには差し込めない。

 なので、咲達のような戦術は成立しない。

 

 

 淡も和も、決してお漏らしするような輩ではないが、一旦、気分転換のために対局室を出てトイレ+自販機コースを辿った。

 どうせ、控室に戻ったところで、フレデリカとカナコが相手では新たな戦略を授けられるわけでもないだろう。

 殺し屋コンビとは良く言ったものだ。

 

 

 休憩時間の間、淡も和も口数が少なかった。

 意気消沈している部分があるのは否定しない。しかし、二人は自分達の使命………フレデリカを如何に疲れさせるかを考えていた。

 …

 …

 …

 

 

 そろそろ休憩時間が終了する。

 淡と和が、対局室に戻ってきた。

 フレデリカもカナコも卓に付いている。二人とも準備万端と言った感じだ。対する淡は準備満タンである。

 

 

 場決めがされ、起家は淡、南家は和、西家はカナコ、北家はフレデリカに決まった。

 点数調整の能力を持っていないためか、フレデリカは咲ほど西家に固執している感じでは無かった。

 

 東一局、淡の親。

 せめて淡と和が逆なら、和としても淡のサポートがしやすかっただろう。前局と同様にコンビ麻雀として有利な席順になっていない。

 

 今回も絶対安全圏は常時発動である。

 言うまでもないが、決して淡は情事発動していない。

 ただ、咲に熱中症(?)の和は、フレデリカを前に、

「(やはり咲さんに似ています!)」

 気を抜くと情事発動してしまいそうになるようだ。

 

 この局では、淡はダブルリーチの能力を使っていない。

 しかし、それでも淡のみ配牌二向聴で、他の三人は配牌六向聴と、淡に有利な初期状態は続いている。

 

 そこに、

「ポン!」

 和がサポートしてくれる。

 淡は、和が捨てた{東}を早々に鳴いた。ダブ東である。

 そして、絶対安全圏内に、

「ツモ! ダブ東ドラ3。4000オール!」

 親満ツモを決めた。

 

 東一局一本場、淡の連荘。

 ここでも淡は、

「ポン!」

 和のサポートで役牌を鳴き、絶対安全圏内に、

「ツモ。2100オール!」

 30符3翻の、いわゆる、

『憧っぽい手』

 をツモ和了りした。

 

 東一局二本場、淡の連荘。

 ここでは、和が切った役牌を淡は鳴けなかった。

 そもそも役牌の対子を持っていなかったし、ここに来て、手は軽いがリーチ無しでの役有り聴牌に持って行くのが難しい配牌になった。

 

 絶対安全圏を越えた。

 八巡目。

「リーチ!」

 淡の状況を察したのか、和が聴牌即でリーチをかけてきた。

 東場の優希や南場の数絵なら一発ツモは常時発動みたいなものだが、そんな能力を和は持ち合わせていない。

 しかし、一発はムリでも、まだまだツモ牌はある。

 リーチ宣言から五巡以上かかったが、

「ツモ! リーツモ七対ドラ2。3200、6200です。」

 何とかハネ満をツモ和了りできた。

 しかも、七対子。

 淡と対局する時、対子場と感じたら一番早く聴牌に近づける手が七対子であろう。和もそのことを重々承知しているようだ。

 

 

 東二局、和の親。ドラは{二}。

 今回は、中途半端に対子ができる。対子場と言うよりも、普通の場であろう。

 

 和の配牌は、

 {二四七九③⑥1458西北中白}

 ここから打{1}。

 

 二巡目。和はツモ{二}、打{北}。

 

 三巡目。ツモ{三}、打{西}。

 

 四巡目。ツモ{3}、打{白}。

 

 五巡目。ツモ{三}、打{中}。

 

 六巡目。ツモ{8}、打{③}。

 

 七巡目。{北}をツモ切り。

 

 八巡目。ツモ{[⑤]}、打{七}。

 

 九巡目。ツモ一、打九で聴牌。

 手牌は、

 {一二二三三四[⑤]⑥34588}

 

 連荘狙いで役有り。出和了りで11600点の平和ドラ3の手。当然、デジタル打ちの和なら、リーチをかけずにダマで待つ。

 

 次巡、和はツモ切りだったが、そのさらに次巡、

「ツモ。4000オール。」

 和は、親満をツモ和了りした。

 

 東二局一本場。

 この局も、和は配牌こそ最低だがツモに恵まれた。

 しかも、対子場っぽい。

 そう言えば、ここで使われる牌は前々局のものと同じになるが、どうやら、こっちの牌が対子場になっているようだ。

 前半戦オーラスでカナコが三暗刻を和了ったのは、もう片方の牌だと思うので、むしろそっちの方が同じ牌が重なりやすいような気もするが、どうもそうではないようだ。

 もっとも、こっちの牌が対子場になる理由なんて、全然分からないが………。

 

 和は、不要なチュンチャン牌のうち、先に{一九⑨1}を切り出した。

 そして、対子場と感じると、その後に捨てる予定だった{西}を敢えて残した。

 昔からよく言われる、

『単騎待ちなら{西}で待て!』

 の言葉に従ったのだ。勿論、{西}ではなく{北}でも良いが、たまたま{西}を持っていたのでそうしただけだ。

 

 そして、和は、八巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 そのまま即リーチをかけた。

「チー!」

 珍しく、カナコが鳴いた。一発消しだ。

 

 今のところ、和の手はリーチ七対子のみだった。

 しかし、

「ツモ!」

 数巡後に和が和了り、裏ドラを確認すると、対子一組がドラに化けた。

「リーツモ七対ドラ2。6100オール。」

 これがリーチ七対子の恐ろしいところである。ドラが乗ると大きいのだ。

 

 東二局二本場。ドラは{④}。

 どうやら、ツキは和に回ってきたようだ。

 六向聴なのは淡と同卓しているのだから仕方が無い。

 しかし、同じ六向聴でも、前半戦オーラスのように嵌張や両面、辺張が一つもないクソ配牌パターンと、後半戦東二局のように嵌張が二つあるパターンでは全然意味合いが違う。

 前者では七対子以外での六向聴は有り得ないが、後者の場合は平和を視野に入れての六向聴になる。

 ここでは後者のパターンとなった。

 しかも、ツモが配牌に噛み合い、不要な四枚の字牌四枚と{①⑨}各一枚ずつの計6枚の処理を終えた時には、

 {二四五八八④[⑤]⑥34578}

 と、一向聴になっていた。単に手なりに打っての一向聴だ。

 

 そして、ここからさらに次巡、和は{6}をツモって打{二}。

 聴牌した。

 タンピンドラ2で、芝棒を付ければ出和了りで12200の手。当然、和はダマ聴にした。

 

 全ての牌を把握できているフレデリカからの出和了りは無い。

 カナコも、前半戦での満貫振込みがあったせいか、警戒している。

 しかし和は、聴牌即では無いにせよ、

「ツモ!」

 和了り牌を自らの手で引き寄せた。

「4200オール。」

 

 これで次鋒後半戦の順位と点数は、

 1位:和 149400

 2位:淡 97800

 3位:カナコ 76400(席順による)

 4位:フレデリカ 76400(席順による)

 前半戦の順位とは真逆になった。

 

 しかし、前後半戦のトータルでは、日本チームが379200点、ドイツチームが420800点と、まだまだドイツチームが大きくリードしていた。



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百九十八本場:高校最後の世界大会決勝戦6  着火

 世界大会決勝次鋒後半戦は、東二局三本場を迎えた。

 親は和。

 

 前半戦で、ドイツチームは日本チームに130000点以上の差を付けた。

 それもあって、フレデリカは、後半戦では中堅戦のことを視野に入れて敢えてパワーダウンしていた。

 ところが、後半戦に入って日本チームが大きく追い上げてきた。このままではマズイ。

 

 まだドイツチームが40000点以上リードしているが、言い換えれば、東二局二本場までに点差を90000点も縮められたことになる。

 一旦、ここで叩いておかなければならないだろう。

 

 フレデリカの表情が変わった。

 放出されるオーラも一気に増大した。衣や照を思い起こさせる。常人であれば吐き気を催すレベルだ。

 ドイツチームのみんなが、

『かわいくない系』

 と言うのが良く分かる。

 

 絶対安全圏によって、フレデリカの配牌は毎度の如く六向聴だが、彼女の能力が場全体を支配している。

 そして、

「リーチ!」

 たった六巡でフレデリカは聴牌し、即リーチをかけてきた。

 淡はフレデリカの現物切りで対応。

 すると、

「チー!」

 和が、これを鳴いて一発を消した。

 傍目には素晴らしいコンビプレイの様に見えたかもしれない。

 

 しかし、

「ツモ!」

 そうは問屋が卸さない。

 鳴きが入ったため一発ツモにはならなかったが、フレデリカは、そのままリーチ後一回目のツモで自らの和了り牌を引いた。

「リーチツモ七対ドラ4(表2裏2)。4300、8300!」

 しかも倍満である。

 フレデリカは、対子場になっている方の牌の流れを完全に掴んでいた。

 これで、チームトータルの差を65000点以上に広げた。

 

 

 東三局、カナコの親。ドラは{東}。

 カナコは、

「(フレデリカったら、しばらく静観していると思ったら、いきなりこれだもんね。じゃあ、私もぉ………。ぶっ殺フィンクス!)」

 と、心の中で語りながら密かに気合を入れ直した。

 

 日本チームの二人にはステルスが効かない。

 しかし、カナコにも殺し屋と呼ばれたプライドがある。やはり直取りしたい。

 前半戦では、和から倍満を二回直取りしたし、フレデリカからも倍満を一回和了った。しかし、まだ淡を討ち取れていない。

 

 ならば、ターゲットは淡。

 この半荘………いや、ここで淡を討ち取る。

 そうカナコは決意していた。

 

 ここで使われる牌は、対子場になり切っていないほうだ。だからと言って、対子も暗刻もできないわけではない。

 

 六向聴スタートではあるが、カナコは池田華菜レベルの仕上がりを見せた。自分が思い描いた手に向けて一切ムダツモなく一直線に突き進んで行く。

 

 この局、カナコの捨て牌は、

 {一①⑨南中北2④四}

 

 九枚目の捨て牌………{四}が切られた時、淡は、カナコから僅かに聴牌気配を感じ取った。

 カナコ自身の姿は捉えられないが、牌は見える。牌がツモられてから切られるまでの時間の長さで、なんとなくそう感じたのだ。

 淡は、一旦様子見のつもりで{四}の筋………{七}を切った。

 しかし、これで、

「ロン!」

「えっ?」

 カナコに振り込んだ。

 淡にとっては、まさかの一撃だった。

 

 しかも、開かれた手は、

 {六八⑥⑦⑧5[5]678東東東}  ロン{七}  ドラ{東}

 

 ダブ東三色ドラ4の親倍。

「24000!」

 カナコの殺し屋としての面目を保った和了りだった。

 しかも、これで日本チームとドイツチームの点差は115000点近くまで広がった。

 やっと40000点近くまで詰め寄ったのが、フレデリカとカナコの、たった二回の和了りでリセットされた感じだ。

 さすが殺し屋コンビと言ったところだ。

 

 東三局一本場、カナコの連荘。

 絶対安全圏は機能しているものの、淡は意気消沈していた。前局で、ヤバイと思った牌で振込んだならまだしも、様子見で切った牌で討ち取られたのだ。

 しかも、筋引っ掛けの親倍。

 衝撃は大きい。

 

 一方の和は、まだ崩れない。

 気持ちを切り替えて前に進む。

 三巡目に、淡が惰性でツモ切りした{北}を、

「ポン!」

 鳴いた後、有効牌を引き続け、

「ツモ。北ドラ2。1100、2100。」

 和はカナコの親番を流した。

 この和の奮闘を見て、淡は、

「(何やってるんだろう、私。頑張らなきゃ。)」

 気合いを入れ直した。まだ負けていない。厳しい戦いだけど、これからだ。

 

 

 東四局、フレデリカの親。ドラは{四}。

 この親は、さくっと流したい。

 和は、

「ポン!」

「チー!」

「チー!」

 淡が捨てた{西}、{①}、{8}を鳴き、何とか聴牌まで持って行った。

 

 この時、和の手牌は、

 {三四[五]六}  チー{横879}  チー{横①②③}  ポン{横西西西}

 {三六}のノベタン。西ドラ2。

 

 ところが、ここで、

「リーチ!」

 手が狭まった和を狙ってフレデリカがリーチをかけてきた。

 

 フレデリカの捨て牌は、

 {①西北南東8八⑦}

 

 そして、和が一発で引いてきたのはドラの{四}だった。

 ここは勝負!

 和は、西ドラ3の形にして{三}を切った。

 しかし、これで、

「ロン。一発!」

 フレデリカに振り込んだ。

 

 開かれた手牌は、

 {四五五五⑤[⑤][⑤]22255[5]}  ロン{三}  ドラ{四}  裏ドラ{8}

 リーチ一発タンヤオ三暗刻三色同刻ドラ4の親の三倍満。

 {[五]}以外は、どの牌を切っても当たりだった。

 まあ、ドラの{四}を切っていたら四暗刻への振込みだったので、それよりは幾分マシではあるが………。

 

 この局、フレデリカの配牌は、

 {四五八①⑤⑦258東南西北}

 ここから{五五[⑤][⑤]225[5]}と、欲しい牌を順に引き入れて聴牌し、即リーチに出たのだ。

 

「36000。」

 ここに来て、この振込み。

 気丈な和の目から、珍しく一筋の涙が流れ出た。

 二年前のインターハイ団体決勝戦以来、どんな状況に追い込まれても平然としていた和が、とうとう崩れた。

 この和の姿を見て淡は、

「(ノドカの仇。ここは、絶対に一太刀浴びせてやる!)」

 天下の宝刀(淡はアホの娘なので伝家ではありません)を抜く決意をした。

 

 東四局一本場、フレデリカの親。

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 淡が能力を最大放出した。

 サイの目は7。最後の角が最も早く来るパターン。

 そして、淡は第一ツモをツモ切りすると、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 

 相手は殺し屋コンビ。

 誰も鳴かなければ、淡が暗槓するのが九巡目で、和了れるのは十巡目以降になる。

 当然、それまでにフレデリカかカナコが聴牌する可能性はあるし、淡が振り込む可能性もある。正直、この二人は、それだけヤバイ相手だ。

 今回の牌は対子場になっているほうの牌。

 しかし、淡のダブルリーチの能力が山に影響したのか、今までとは違って、順子場へと移行していた。

 

 淡の能力は、単にダブルリーチをかけ槓裏を乗せるだけのものではない。

 他家が普通に打つと、『淡が暗槓した後に、淡の和了り牌を捨てることになるように打たされる』能力なのだ。

 今回、フレデリカもカナコも、七対子が出来る方向には手が進まなかった。

 しかも数牌は嵌張も両面も対子も無い。

 特にフレデリカの配牌は、ヤオチュウ牌も四枚しかない。

 まさに、

 {二五八②⑤⑧258東南西北}

 のパターンだ。

 以前、明星を相手の使った『配牌を完全操作する能力』も、淡はここで発動したのだ。

 これでは、七対子以外の手を作るには、聴牌するのに、どう足掻いても八巡以上かかってしまう。

 

 九巡目。

「カン!」

 淡が暗槓した。

 嶺上牌はツモ切り。ここでフレデリカに槓振りしないか、一応、淡にも恐怖はあったが、一先ず振り込みは無し。

 そして、十巡目。

「ツモ! 3100、6100!」

 淡はダブルリーチツモ槓裏4を決めた。

 しかし、その直後、淡はフレデリカから、前半戦東二局三本場で経験した、照に似た雰囲気を感じ取った。

 後半戦東二局三本場の倍満ツモの時よりも恐ろしいオーラを放っている。

 淡の一撃がフレデリカの心に火をつけたのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、淡の親。

 絶対安全圏は健在だが、能力最大放出状態となったフレデリカの支配力は、淡一人では抑え切れない。

 配牌六向聴から一切のムダツモ無しで手を作り上げ、

「リーチ!」

 六巡目でリーチをかけてきた。

 一方の淡は配牌一向聴だったが、全然鳴けず、ツモも噛み合わずで聴牌できずにいた。

 

 そして、次巡。

「ツモ。メンタンピン一発ツモドラ3(表1赤1裏1)。4000、8000。」

 まるで単純作業のように倍満をツモ和了りした。

 

 

 南二局、和の親。

 ここでもフレデリカは能力最大放出状態。

 そして、前局同様に、

「リーチ!」

 配牌六向聴から一切のムダツモ無く聴牌し、先制リーチをかけてきた。

 淡は、今回も配牌一向聴だったが、フレデリカの支配力に押されて手が進まず、一向聴のままフレデリカのリーチを迎えることになった。

 一先ず淡は現物切りで対応。

 和も同様に現物を落として一発振込みを回避した。

 

 しかし、一発振込み回避など無意味であることを知らされる。

 ここでも、

「ツモ!」

 フレデリカは一発で和了り牌を掴み取った。

「4000、8000!」

 しかも倍満ツモ。圧倒的な力量差である。

 

 

 南三局、カナコの親。ドラは{6}。

 フレデリカの配牌は、

 {二五八①③⑧⑨258南白中}

 ここから、たった六巡で、面白いように手を作り上げ、

「リーチ!」

 {8}切りでリーチをかけた。

 

「ポン!」

 和が一発消しで鳴いた。

 しかし、フレデリカは、それを予期しているようだった。いや、むしろ敢えて和が鳴ける{8}を残しておいた感じだ。

 

 そして、注目のフレデリカのツモ番。

 ここで、

「カン!」

 フレデリカは{南}を暗槓すると、

「ツモ!」

 咲の分身ならではの嶺上開花を決めた。

 

 この対局では、フレデリカは七対子が多かった。しかし、それは淡の絶対安全圏を受けた状態で、最も早く聴牌できる方法として選択していただけに過ぎない。

 やはり、フレデリカの真骨頂とも言える和了りは咲と同様、嶺上開花である。

 ここに来て、とうとう本性を現した感じであった。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③⑦⑧⑨白白中中}  暗槓{裏南南裏}  ツモ{白}  ドラ{6}  裏ドラ{一}  槓ドラ{八}  槓裏{北}

 

「リーツモメンホン嶺上開花ダブ南白チャンタ。6000、12000!」

 三倍満だ。

 この和了りを見てカナコは、

「(マジマジマジマジ アルマジロ! やっちゃったよ、三倍満。デモデモデモデモ デモゴルゴン。この次鋒戦は、少しでもエネルギー放出を抑えるために七対子主体で、嶺上開花無しで行くんじゃなかったの?)」

 チームメイトとは言え驚いていた。

 予定とは違う和了りだったからだ。

 

 今のフレデリカは、全力を尽くす方に頭が行っていた。しかし、悪い表現をすれば、後先を考えていなかったとも言える。

 それだけ、東四局一本場の淡の本気の能力麻雀が、フレデリカの心に火をつけたと言えるだろう。

 ある意味、淡はフレデリカを疲れさせる使命を果せたと言えるかも知れない。

 

 

 オーラス。フレデリカの親。

 当然、絶対安全圏は健在。

 この局、フレデリカは聴牌までに八巡を要した。ただ、放出されるオーラの量は、本日最大と言える。

 まさにオーラスの咲とか慕の雰囲気にそっくりである。

 

 九巡目。

「カン!」

 フレデリカが{西}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 当然の如く嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {四四四⑧⑧22288}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{8}

 

「四暗刻。16000オール。これで和了り止めにします。」

 まさかの親役満ツモであった。

 

 これで、次鋒後半戦の点数は、

 1位:フレデリカ 226100

 2位:和 72300

 3位:カナコ 54900

 4位:淡 46700

 日本チームがトータル119000点、ドイツチームが281000と、前半戦同様にドイツチームの圧勝となった。

 

 次鋒戦の前後半戦トータルは、日本チームが251000点、ドイツチームが549000点。先鋒戦とは完全に真逆の結果となった。

 そして、先鋒戦と次鋒戦の総計は、日本チームが803200点、ドイツチームが796800点と、6400点差の結構イイ勝負であった。



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百九十九本場:高校最後の世界大会決勝戦7  神&本体vs分身&妹-1

「「「「有難うございました」」」」

 世界大会決勝次鋒戦が終了した。

 これより、エース対決とも言える中堅戦が開始される。

 

 

 淡と和は、重い足取りで控室へと向かっていった。

 勝てなかったのは仕方が無いにせよ、先鋒戦で咲と光で作ってくれた絶対的なリードを完全に溶かしてしまった。

 それに、本来の使命───フレデリカに負荷をかけることを達成できた自信が無い。

 これでは、何のために次鋒戦に立候補したのか分からない。

 二人は、そう思っていた。

 結構、落ち込む。

 

 途中で二人は咲と蒔乃に会った。

 顔を会わせ難い。

 しかし、開口一番、咲から

「二人のお陰でフレデリカを抑えるのは何とかなりそうだよ!」

 との言葉。

 これに続いて、

「さすが、立候補しただけのことはあります。見事でした。」

 との蒔乃の台詞。

 

 淡も和も、

「「(何だか嫌味にしか聞こえない!(ません!))」」

 としか思えなかったが、少なくとも咲が嘘をつける性格ではないことは分かっているし、リップサービスが出来る人間でもない。

 蒔乃も神に仕える血筋ゆえだろうが、基本的に嘘は下手だ。小蒔ほどではないが。

 恐らく、二人とも本心で言ってくれているのであろう。

 

 和は、俯きながら、

「でも、私も淡も、どれだけフレデリカを疲れさせたか自信がありません。」

 と咲に言った。

 やはり目を合わせ難い。

 

 一方の咲は、

「最後の四連続和了に使ったエネルギーは相当なものだよ。多分、フレデリカは中堅戦で、全体で三回くらいしか和了れないんじゃないかな?」

 と、むしろフレデリカを抑えられる自信があるように見えた。

 続いて蒔乃が、

「私自身は前後半戦併せて二回しか和了れない気がしますけどね。あの面子では。」

 と、自信無さげな発言をしていたが………。

 

 ちょっと待て。

 連荘無しの場合でも、前後半戦全部で十六局ある。そのうち、蒔乃が二局、フレデリカが三局なら、残りは十一局。

 すると、これを咲とクララが取り合う感じになると言うことか?

 

 それが真実かどうか分からないが、いずれにしても、淡と和には、咲の言葉の根拠が分からなかった。

 ただ、少なくとも咲も蒔乃も、淡と和がやるべき最低限の仕事はできたと認めてくれているようだ。

 今は、この言葉を信じよう。

 そう思う淡と和であった。

 

 

 それから数分後、

 対局室にクララ、咲、蒔乃の三人が入場してきた。フレデリカは、次鋒戦終了後から対局室を出ていない。まあ、漏らす側では無い者の余裕だ(本当かな?)。

 

 場決めがされ、起家が蒔乃、南家がフレデリカ、西家が咲、北家がクララに決まった。

 控室のモニターに映し出されるこの様子を、今までに無く心配そうな表情で慕が見詰めていた。

 

 

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 ********************

 

 

 慕は、初めてクララの姿を開会式で見た時に、何だかイヤな予感がしていた。

 日本人とドイツ人のハーフだが、自分に顔つきが似ている。

 

 昨年の大会では、フレデリカ………クローン人間を作り出すために、咲の三ヶ月検診の際に、咲から皮膚片を採取していたとの話を淡から聞かされた。

 情報源は、淡に能力を授けてくれた宇宙人。

 そして、同じことを照が鏡で見抜いているし、神楽と小蒔も神から啓示を受けて知っていたとのこと。

 

 もしかして、クララは自分と何か関係があるのでは?

 そう思えて仕方がなかった。

 

 開会式が終わると、慕は淡を呼び寄せた。

「ねえ、あのクララって娘のことだけど、何か知ってる?」

「うーん。」

「その顔は知ってる顔ね!」

「困ったな………。」

「何か、例の宇宙人から聞いてるんでしょ?」

「聞いていない………って言ってもどうせ信じてくれないですよね。」

「まあね。」

「オーダー決めとかにも関わると思うので言っておきますが、心してください。」

 珍しく淡が敬語を使っている。

 咲とフレデリカの関係を報告してきた時と同じ顔をしている。

 やはり、多分、イヤな内容なのだろう。

「分かってる。」

「じゃあ、言います。クララは………種違いの監督の妹です。」

「えっ?(まさか、お母さんが不倫?)」

「監督のお母さんがニーマンに連れ去られていた間、何回か卵子を採取されました。それらは全て凍結保存されて、今から十七年前にドイツ人の男性麻雀プロの精子との人工授精が行われたそうです。」

「(そっちか!)」←少しホッとした慕

「その後、今のクララの母と名乗る女性の体内に受精卵は移されて………、それで誕生したのがクララだそうです。」

「だから、私に似ているのね。顔も、麻雀のスタイルも。」

「そのようですね。なので、ドイツチームの中堅は、咲と監督のペアが相手になると考えてください。その上で、どうやって日本が勝つかを考える必要があります。」

 …

 …

 …

 

 

 ********************

 

 

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 咲にあってフレデリカにないもの。

 フレデリカにあって咲にないもの。

 自分にあってクララにないもの。

 クララにあって自分にないもの。

 それらを全て抽出する必要がある。

 

 日本の中堅は、最高神と咲のペアで決まりだ。

 あとは、どのような作戦を授けるか次第だろう。

 

 一応、勝利するためには、これしかないと思う方法を慕は咲と蒔乃に告げたつもりではいるが………。

 ただ、咲も蒔乃も同じことを考えていたようだ。

 

 

 東一局、蒔乃の親。

 この親は、絶対に和了りたい。できれば最高の手で。

 サイを回した後、急に蒔乃の雰囲気が変わった。最強神が降臨したのだ。

 そして、

「両頭愛染と戦うのはインターハイ準決勝以来だな。それと、もう一人も孔雀明王を思わせる強者。楽しみだ。」

 と言うと、配牌を開始した。

 孔雀………つまり{1}と言うことだ。

 

 蒔乃の配牌は、

 {一一二四七九九①⑧29東南北}

 ここから打{2}。

 そして、毎度の如く順調に手を進め、七巡目には、

 {一一一二三四五六七九九九9}  ツモ{八}

 純正九連宝燈を聴牌した。

 

 このスピードに破壊力。

 咲としてもペアを組む相手として、これほど頼もしい存在はいない。現在日本チームで考えられる、真の最強ペアであろう。

 当然、蒔乃は、ここから打{9}で聴牌。

 

 一方のフレデリカは、全員の能力が拮抗する今、前局で能力を放出し過ぎてパワー不足となり、蒔乃よりも先に聴牌することが出来なかった。

 クララも、慕と同じで、どちらかといえば尻上がりなタイプ。東初では力が今一つ出ていない。

 

 そして次巡。

「ツモ。」

 蒔乃が当然の如く和了った。

「16000オール!」

 これは大きい。

 

 クララも蒔乃のことはフレデリカから聞いて知っていたが、まさか、いきなり純正九連宝燈が飛び出すとは………。

 彼女の顔からは、驚きの色が隠せなかった。

 

 東一局一本場。ドラは{8}。

 急に、場の空気が変わった。とんでもない重圧がかかる。

 発生源は咲。インターハイ団体戦準決勝次鋒戦でも、ここまで強烈なオーラは出していなかった。

 

 この雰囲気を直接経験するのは、フレデリカとしても初めてのことであった。

「(もしかして、これが?)」

 インターハイで、愛宕雅恵監督から、咲の最強の支配力の話を聞かされていたが、今の雰囲気こそが、まさにそれであることを確信した。

 同時に、フレデリカは、この力を押し返さないことには勝てないことを直感していた。

 

 次鋒戦のツケは大きい。

 しかし、何とかしなければ。

 フレデリカは、パワーを振り絞って聴牌に向けて動き出した。とにかく、咲や蒔乃よりも先に和了る。

 

 すると、これを察知した咲が、

「カン!」

 蒔乃から{③}を大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、それを手に引き入れて打{北}。手が進んだようだ。

 これでフレデリカのツモが飛ばされた。

 

 そして、次巡。

 蒔乃が切った{6}を、

「カン!」

 またもや咲が大明槓した。再びツモが飛ばされるフレデリカ。

 一方、咲は嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。

 そして、引いてきた三枚目の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {④⑥88}  暗槓{裏西西裏}  明槓{6横666}  明槓{③横③③③}  ツモ{⑤}

 

「西三槓子嶺上開花ドラドラ。12300。」

 咲は、フレデリカが聴牌する前に、蒔乃から和了ったのだ。

 相手チームに和了られるよりは相方から和了った方がマシ。その考えに基づいての和了りだろう。

 

 

 東二局、フレデリカの親。

「(クララが動き出すには、もう少し時間が必要よね。それまでは、私の方で何とかしないと………。)」

 フレデリカは、心を集中して能力を振り絞った。

 後半はクララに任せるつもりだが、その分、前半は自分が場を支配して失点を食い止めなければならない。

 既に、初っ端の親の九連宝燈で、チームとして32000点を失っている。まずは、これを取り返す!

 

 咲と蒔乃から繰り出される支配力を、フレデリカは全力で押し返す。

 最後まで場を支配し続けようなどとは思わない。東場だけで良い。

 それに、先の次鋒戦で学んだことがある。七対子狙いなら、どんなにヒドイ配牌でも最低六回のツモで聴牌できるのだ。

 対子があれば、もっと聴牌が早くなる。

 

 今回は、配牌で対子が二つある。

 そして、まさに四巡目。

 フレデリカは渾身のツモで何とか聴牌した。

 当然、ここは、

「リーチ!」

 攻めに出た。一枚切れの{西}待ちだ。

 すると、

「ポン!」

 咲が鳴いた。

 これで一発が消された。

 

 しかし、フレデリカには、咲の意図が分かっていた。

 全ての牌を見通せる者同士。

 共に、サイが振られ、山がせり上がってきた時に、どのようなパターンで打てば良いかを察知する。

 恐らくは、そこまでに大量の能力が使われる。

 

 どのように山が積まれるのか?

 サイの目が何になって、どこで切られるのか?

 そして、どこで鳴いて、もしくは鳴かせて、どのような形に全員の手が仕上がって行くのか?

 それらを全てコントロールして自分の都合の良い形に仕上げるのが、咲やフレデリカの持つ能力の根幹となるのだろう。

 

 勿論、常に一定の力が作用するわけではなくバラツキもある。

 それで、例えば小蒔や蒔乃が最強神を降ろした時の対局では、最強神の配牌が良くなったり悪くなったりもする。

 光を相手にした時も、当然、光の能力による干渉も受けるので、咲やフレデリカの配牌やツモが常に彼女達に都合の良い形になるわけではない。

 ただ、能力がより強い者にとって都合の良い形になる確率の方が、高いと言うことなのだろう。

 

 

 そして回ってきたツモ番。

 フレデリカは、

「ツモ!」

 当然の如く和了った。

 この時、次に引かれる牌も{西}であることをフレデリカは知っていた。つまり、一発を消すことで咲はフレデリカの手を1翻下げたのだ。

「リーツモ七対ドラ3(表2赤1)。6000オール。」

 もし、一発が付いていれば親倍だったのだが………、相手が相手だ。ここは親ハネが和了れたことを素直に喜ぶべきだろう。

 

 東二局一本場。

 良く分からないが、フレデリカの透視能力が優れない。今一つ、霞んで見えていた。

 このようなことは初めてだ。

 能力の使い過ぎか?

 それとも、他に何か原因があるのか?

 

 しかし、この局は、まだ何とか行ける。

 基本的に蒔乃は鳴かない。九連宝燈に仕上げることが全てのようだ。

 クララも、まだスイッチが入っていない以上、ムダに鳴いてこない。

 よって、ツモ番を狂わせに動いてくるのは咲だけ。基本的に、咲だけをマークしていれば良いはずだ。

 

 今回は、暗槓できる道筋が見える。

 咲の配牌やツモ牌を見渡す限り、咲が鳴いて邪魔できる形にはならない。よって、この暗槓は成立する。

 しかも、嶺上牌で和了れる形。

 これは全身全霊賭けて勝負するところだ。

 

 フレデリカは、最初に山を見通したとおりに手を進め、

「カン!」

 暗槓から、

「ツモ!」

 嶺上開花まで全てを予定通りに成し遂げた。

「ツモタンヤオ一盃口嶺上開花ドラ2。6100オール!」

 しかも、親ハネツモ二連発。

 

 これで、中堅前半戦の順位と点数は、

 1位:蒔乃 123600

 2位:フレデリカ 120300

 3位:咲 84200

 4位:クララ 71900

 

 さすがフレデリカである。

 彼女の活躍で、日本チームのトータルは202100点、ドイツチームのトータルは197900点と、その差を4200点まで縮めた。



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二百本場:高校最後の世界大会決勝戦8  神&本体vs分身&妹-2

 世界大会決勝中堅前半戦は、東二局二本場。

 親はフレデリカ。

 しかし、ここに来て突然、フレデリカは牌を見通す力が発動しなくなった。

 

 たしかに次鋒戦で相当なエネルギーを使ったが、この程度の疲れ具合で能力が失われるなんてことは今まで無かった。

 第三者の何らかの力が絡んでいるとしかフレデリカには思えなかった。

 ただ、救いなのは、相手の和了り牌だけは、何となくだが能力で分かることだ。これなら少なくとも不用意な振込みだけは回避できる。

 

 一方の咲は、牌が見えている模様だ。

「ポン!」

 クララから{3}を鳴いた後、

「カン!」

 {中}を加槓し、

「ツモ! タンヤオ嶺上開花ドラドラ。2000、3900の二本場は、2200、4100!」

 当然の如く嶺上開花で和了った。

 

 この直後、うっすらと卓上に風が吹いた。

 フレデリカは、

「(いつもより早い気がするけど、待ってたよ、クララ!)」

 これでクララのスイッチが入ったのを確信した。

 ここからは、しばらくクララに任せられる。

 その間に、フレデリカは少しでも………牌を見通す力を取り戻すべく、能力を回復させるつもりだ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{七}。

 山がせり上がり、サイを回した直後、咲は驚きの余り大きく目を見開いて、クララのほうに視線を向けた。

 

 配牌は至って普通だ。淡の絶対安全圏のようなクズ配牌にはならない。

 しかし、ツモ牌の方が問題だ。

 恐らくクララは、序盤でフレデリカから{中}を鳴くだろう。

 それによるツモ牌の変化も考慮に入れると、咲とフレデリカは第一ツモから第五ツモまで不要な風牌………クソツモしか来ないように積まれている。

 間違いなく、これはクララの能力によるものだ。

 

 蒔乃だけは、最強神の力でツモは萬子のみがくるようになっているが、配牌のほうには肝心の萬子が一枚も無かった。

 これは、フレデリカの能力干渉によるものだ。

 萬子の九連宝燈の聴牌を最大限遅らせるために、配牌が終了するまでの間、フレデリカは自らの能力を蒔乃への干渉一本に絞っていたのだ。

 これだと蒔乃の聴牌までの道のりは長い。牌の総入れ替えが終わるまで、萬子の純正九連宝燈を聴牌できないことを示すからだ。

 いずれにせよ、他家は明らかにスタートダッシュでクララに後れを取る。

 

 この局は、咲が予感したとおり、

「ポン!」

 二巡目でクララがフレデリカから{中}を鳴き、その後、クララが順調に手を進めて、

「ツモ!」

 中盤に入ってすぐ、クララがツモ和了りした。

 

 開かれた手牌は、

 {1155[5]77799}  ポン{中横中中}  ツモ{1}

 

 紅孔雀だ。

 ただ、本大会では紅孔雀を役として認めていない。これは、中混一色対々和三暗刻赤1として翻数がカウントされ、

「4000、8000!」

 倍満となる。

 

 元が大きく削られていたため、これでもクララは85700点と、まだ原点を割っていた。

 しかし、咲は、このクララの和了りから相当なレベルの底力を感じ取っていた。

 

 

 東四局、クララの親。ドラは{9}。

 咲の支配力、いや、強制力が強まった。

 これは、意図して強めたのではなく、元々尻上がりに強力になるもので、これまで多くの者達を不幸にしてきた咲の後天的な能力である。

 

 この力によって、フレデリカは牌を透視する能力を塞がれた。

 クララが起こす風も、この局では前局と比べて弱かった。この局では、咲の力がクララの能力を上回っていたようだ。

 

 蒔乃は、東一局で九連宝燈を和了って以降、全然聴牌まで到達できていない。

 フレデリカの能力が蒔乃の配牌に、萬子が全然行かないように制御していたためだ。蒔乃が九連宝燈を聴牌するためには牌の総入れ替えが必要になる。

 透視能力は消えたが、まだフレデリカは配牌への干渉はできるようだ。

 

 実は、東一局でもフレデリカは蒔乃の配牌に負の干渉を行っていた。しかし、この時、咲も蒔乃の配牌に正の干渉………つまり萬子が行くのを後押ししていた。

 通常であれば、フレデリカと咲の力が打ち消し合うだろう。しかし、次鋒戦での疲労もあり、フレデリカの力は咲の力で押さえ付けられてしまった。

 その結果、東一局では蒔乃には萬子が多い配牌が行ったのだ。

 

 

「カン!」

 咲が{西}を暗槓した。

 オタ風牌の槓だが、咲が{西}を槓する時は、いつも以上に強力なパワーが飛び火してくるような感じを受ける。

 そして、そのまま嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 例の如く、咲は嶺上開花で和了った。

「嶺上開花ツモ一盃口チャンタドラドラ。3000、6000!」

 これで咲は、クララの親を流すと同時に、クララにハネ満を親カブリさせた。

 前局の倍満ツモのお返しとしては、若干点数が低いのだが、これも咲にとっては計算のうちのようだ。

 

 

 南入した。

 南一局、蒔乃の親。

 フレデリカの干渉を受けているため、蒔乃の配牌には、ずっと萬子が無い。

 これでは、最強神の縛り………萬子の純正九連宝燈以外は和了らないことを考慮すると、聴牌した時には既に終盤近くになっていることが予想される。

 

 ただ、今のフレデリカには蒔乃を抑えるのが精一杯のようだった。和了りに向かえるだけの力は無い。

 これも淡がダブルリーチでフレデリカを触発して暴走させ、エネルギーを大量放出させたお陰である。

 そして、淡がダブルリーチをかけたのは和の涙が起因する。

 経緯はともかく、淡と和の二人でフレデリカを疲労させてくれたことは大きい。

 

 この局、咲が全体を支配する力が若干下がったように感じた。

 そのためか、ここでは咲もフレデリカも序盤から不要な風牌を引かされ続け、場はクララが和了る方向に進んで行った。

 

 咲も手を進めるが、一歩、クララが早い。

「ツモ!」

 

 クララが手牌を開いた。

 {三三六六六③④[⑤]12233}  ツモ{1}  ドラ{③}

 

「ツモ一盃口ドラ2。2000、3900。」

 前々局と同様に{1}でのツモ和了り。

 咲は、この誰かに似た和了りを見て、

「(顔だけじゃなくて麻雀も似てる!)」

 と思っていた。

 それと同時に、咲は、

「(やっぱり顔が似てると麻雀も似るのかな? 私とフレデリカが似てるみたいに。)」

 とも思っていたが、核心までは到達していなかった。

 まさか、フレデリカが自分のクローンで、クララが人工授精により誕生した慕の妹だとは考えが及ばないだろう。それが普通だ。

 

 

 南二局、フレデリカの親。ドラは{二}。

 再び咲の強制力が強まった。

 クララが起こす風も再び止んだ。

 しかし、それでもクララの手は進んで行く。

 

 七巡目。

 クララの手牌は、

 {一二三②③2355[5]678}

 例の如く{1}が待ち牌になり得る一向聴。ドラは、{二}と{[5]}の二枚。

 

 そして、八巡目に、

「リーチ!」

 咲がリーチをかけてきた。

 同巡でクララは{①}を引いて聴牌。ここで{8}を落とした。

 

 次巡。

 咲は{4}を引いてきた。

 これは咲の和了り牌ではない。これを切ったらクララが平和ドラ2で和了る。

 しかし、

「カン!」

 咲は{4}を暗槓で取り込んだ。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 ここでも嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八②②②④⑥99}  暗槓{裏44裏}  ツモ{⑤}

 

 穴五での和了り。ただ、引いてきたのは赤牌ではなかった。

「リーツモ嶺上開花。50符3翻は1600、3200。」

 この和了りで、ようやく咲は原点復帰した。

 

 

 南三局、咲の親。

 またもや卓上に風が吹いた。

 クララの集中力が上がったのか、それとも咲が前局の和了りを決めて若干気が緩んだためか、あるいはその両方か?

 いずれにしても、この局ではクララが誰よりも先に聴牌した。

 フレデリカは蒔乃を押さえるので精一杯。

 蒔乃は聴牌までに十三回のツモが必要な状態。

 唯一、クララに対峙できそうな咲も、この局は序盤のツモで不要な風牌を掴まされて出遅れていた。

 

 東二局二本場で和了ったのは咲。

 東三局で和了ったのはクララ。

 東四局は咲。

 南一局はクララ。

 南二局は咲。

 そして、この分で行くと、この南三局はクララが征しそうだ。

 まさにシーソーゲームだ。

 

 ただ、クララとしては違和感があった。

 いつもなら、尻上がりに手が高くなってゆく感じがあるのに、今回は逆にドンドン手が下がっている。

 東三局では倍満が和了れた。

 しかし、南一局では満貫級の手に留まった。

 そして今回は、さらに低い。

 とは言え、クララはラス親。最後に和了り捲くれば良いだけのこと。

 それに安手でも咲の親を流すことには意義がある。

 

「ポン!」

 咲が捨てた{南}をクララが鳴いた。これはダブ南だ。

 そして、その次巡。

「ツモ!」

 またもやクララは、{1}を引いて和了った。

「ダブ南ドラ1。1000、2000。」

 

 これで、中堅前半戦の現在の点数と順位は、

 1位:蒔乃 107900

 2位:フレデリカ 103000

 3位:咲 99100

 4位:クララ 90000

 トップトラスの差が17900点で、しかもラスのクララがラス親。まだ全員にトップを取れる可能性が残されている。

 

 初っ端に役満が飛び出したし、クララが一度70000点を割るなど、途中は荒れた試合を予想させたが、全体的に平らになってきた。

 まだ目が離せない戦いだ。

 

 

 オーラス。クララの親。

 フレデリカとクララが、珍しく吐き気を催した。今まで経験したことの無いレベルの、強烈なオーラが飛んできたためだ。

 ここに来て、咲の支配力が本日最大となった。

「(これが、愛宕監督が言っていた、咲さんの強制力が持つ本当の力?)」

 クララが起こす風は完全に止み、卓上は無風状態となった。

 

 フレデリカもクララも手が進まない。信じられないほどのクソツモが続くし、鳴くチャンスもない。

 この強制力には、誰も抗うことが出来ない。

 これが日本女子高生雀士最強の支配力だ。

 

 そして、とうとう、

「カン!」

 咲が{9}を暗槓した。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 連槓で咲が{西}を暗槓した。

 続く二枚目の嶺上牌を引くと、咲は、それを表にして手元に置いた。

「ツモ………。」

 

 開かれた手牌は、

 {③④⑤2377}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏①①裏}  ツモ{4}

 90符2翻の手だ。

 

「嶺上開花ツモ。1500、2900です。」

 

 これで、中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 106400

 2位:咲 105000

 3位:フレデリカ 101500

 4位:クララ 87100

 25000点持ち30000点返しで考えた場合、これで咲はプラスマイナスゼロを達成したことになる。

 咲は、自らの強制力で蒔乃を1位、自分をプラマイゼロの2位にするべくゲームメイクしていたのだ。

 仮想プラスマイナスゼロでは、フレデリカとクララが相手では支配し切れないと判断したのだろう。

 それで、本家本元のプラスマイナスゼロで順位を調整したのだ。

 

 

 ここで一旦休憩に入った。

 フレデリカは、

「(まさか、最後に90符2翻なんて手を和了って、自らの点を105000点に調整してくるとは参ったわね。これがプラマイゼロか。)」

 咲のプラマイゼロを破らない限り、中堅戦での勝ち星は無いことを悟っていた。

 あれだけ強力な支配力を受けたことは、今まで一度も無い。

 むしろ誰も抗うことのできない強制力と言うべきことも十分理解できた。

 しかし、だからと言って何もせずに負けるわけには行かない。

 

 一旦、フレデリカは対局室を出た。

 そして、自販機コーナーへ急ぐと飲むモンブランを購入し、

「エネルギー充填120%!」

 取り急ぎ脳を復活させた。

 

 クララが、少し遅れて自販機コーナーに来た。

 彼女は、不人気商品………つぶつぶドリアンジュースを購入した。

 これを見てフレデリカは、

「そんなの飲むの!?」

 驚いていた。当然と言えよう。

「なんだか、ハマッちゃって。美味しいよ、これ。」

「そりゃ、不味くはないけど、ちょっとね。」

 どうやら、クララは味覚も慕に似ているようだ。

 

 

 一方の咲と蒔乃は、別の自販機コーナーにいた。

 今は、最強神は蒔乃の中から抜け出ていた。後半戦開始直前に再び蒔乃の身体に降臨する予定である。

「なんとか作戦通りに行きましたね!」

「そうだね。これも、淡ちゃんと和ちゃんがフレデリカを疲れさせてくれたお陰だよ。でも、クララって監督に似た麻雀を打つよね?」

「そうですね。何ででしょう?」

 蒔乃は最強神から真実を告げられており、クララの正体を知っていた。

 しかし、不用意に他言するわけには行かない。

 それに、万が一にも話の流れから咲とフレデリカの関係まで話が発展してしまっては困る。これだけは絶対に咲には告げてはならないことだ。

 

 それにしても、さすがに知らない振りをするのは疲れる。

「(ちょっと話題を変えたいなぁ。)」

 そんなことを思いながら、咲の話に合わせて、

「そうですね~。」

 適当に相槌を打っていた。



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二百一本場:高校最後の世界大会決勝戦9  神&本体vs分身&妹-3

 世界大会決勝中堅戦は、これより後半戦が開始される。

 対局室に、選手四名が姿を現した。

 日本チームからは咲と蒔乃。既に蒔乃には最強神が再降臨されている。

 そして、ドイツチームからはフレデリカとクララ。

 

 当人達は知らないが、フレデリカは咲のクローン。三ヶ月検診の時に咲から採取された細胞より造り出された。

 そして、クララは慕の母親から取り出された卵子とドイツ人男性雀士の精子を人工受精させて作り出された、言わば慕の妹であった。

 なので、この戦いは最強神と咲、咲の分身、慕の妹のまさに全世界の女子高生頂上決戦であった。

 

 真実は知らずとも、咲はフレデリカが自分と特性が似通っていることは理解していたし、クララが慕に似た麻雀を打つことも前半戦で確認した。

 その上で、個人ではなくチームとして勝つ麻雀を前半戦では選択した。完全プラスマイナスゼロを用いた最強の強制力を利用したのだ。

 後半戦も、基本的に同じ戦略をとる。これ以外にフレデリカとクララを押さえ込む術は無いとの判断だ。

 

 

 場決めがされ、クララが起家、南家はフレデリカ、西家は咲、北家は蒔乃に決まった。

 咲からは、強大なオーラが放たれていたが、それを向けた先はフレデリカとクララ。配牌が終了するまで、蒔乃に干渉させないためだ。

 

 東一局、クララの親。

 咲の想いが通じたのか、蒔乃の配牌は、

 {一一二四五六八九九②7白發}

 大きく萬子に偏っていた。

 

 蒔乃のツモは、神の力により後付けで欲しい牌に変えてしまう。

 鳴きが入ると立て直すのに一巡かかるが、鳴きが無ければ、たった四巡で最高の手が仕上がるはずだ。

 神代小蒔の妹にして、この配牌。

 しかも、前半戦でも東初で純正九連宝燈を和了っている。

 当然、日本の多くの視聴者が、二度目の奇蹟に期待していた。

 

 蒔乃の第一ツモは{一}。ここから打{7}。

 

 第二ツモは{九}。打{②}。

 

 第三ツモは{三}。打{白}。

 

 そして、注目の第四ツモは{七}。

 視聴者達が大興奮する中、当然、蒔乃は打{發}で純正九連宝燈を聴牌した。

 

 すると、

「ポン!」

 これを咲が鳴いた。

 鳴きの発声を聞いて、フレデリカが露骨に嫌な顔をしていた。

 この鳴きで蒔乃に回るツモ牌が萬子だったためだ。もっとも、ムリに鳴かなくても蒔乃の次のツモ牌は萬子だったのだが………。

 

 前半戦では、東二局二本場からフレデリカは透視能力を失っていたが、後半戦が始まると、その能力は復活していた。

 やはり飲むモンブランが効いたのだろうか?

 当然のことながら、能力が復活したことで、フレデリカは次のツモ牌が萬子であることを知っていた。勿論、蒔乃の手牌の状態も知っている。

 それで、フレデリカは表情に出たのだ。

 

 ところが、ここで咲が捨てたのは{二}。

 まさかの差し込みである。

 これを逃さず、

「ロン! 32000!」

 二度目の奇蹟、純正九連宝燈を和了った。

 ただ、同士討ちである。

 

 クララの親を流すためとは言え、さすがにこれはフレデリカにも理解できなかった。

 素直に鳴かれない牌を切っておけば、それだけで次のツモで蒔乃は役満ツモ和了りだったはずである。その方が、親のクララから16000点、フレデリカから8000点の計24000点をドイツチームから奪えるので日本チームとしてはプラスになる。

 この差し込みは、フレデリカには完全に暴挙としか思えなかった。

 

 

 東二局、フレデリカの親。

 まだ透視能力は健在だ。

 ただ、この局は咲の支配力が高い。前半戦でもそうだったが、東一局が終わると同時に強烈なオーラが咲から放たれている。

 まさに前半戦で見た強制力そのものである。

 

 牌を見た直後、フレデリカは、この局は咲に持って行かれることを悟った。いきなり咲が和了るルートになっていたのだ。

 

 フレデリカの予想通り、咲は第一ツモを手に入れると、

「リーチ!」

 {北}を切ってダブルリーチをかけた。{北}は、誰も対子で持っていない。これを鳴いてツモをズラすことはできない。

 

 蒔乃は、普通に萬子染め手を狙って{⑤}切り。これはセーフ。

 クララは{北}を切って一発回避。フレデリカも和了り牌を避けて通した。

 しかし、これが全くの無意味であることが、フレデリカには分かっていた。

 

 咲は一発目の牌を引くと、

「カン!」

 {西}を暗槓し、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

「ダブリーツモ嶺上開花。2000、4000。」

 天和や地和と言った一巡目の和了りの次に不条理な和了りに属するだろう。

 しかも、偶然役以外の和了り役が無いに等しい。ドラもなし。それでいて満貫手だ。

 そう言えば、先鋒前半戦東四局五本場でも同じことをしていた。さすが牌に愛された子と呼ばれるだけのことはある。

 

 

 東三局、咲の親。

 今回はフレデリカにとって有利な形になっていた。前局の咲と全く同じ状況になっていたのだ。

 いや、厳密には同一では無い。タンヤオとドラ一枚がある分、自分の点数の方が高い。

 

 フレデリカは、第一ツモを取り込むと、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけた。

 

 咲は、平然とした顔で際どいところを通してくる。牌が見えているのだから当然だが、一発で和了り牌の隣の牌を通されるのは腹立たしい。

 蒔乃………最強神も相手の和了り牌を察知するので、当然振込まない。

 クララは字牌切りで一発を回避した。

 

 フレデリカの一発目のツモは{8}。

 これを、

「カン!」

 暗槓すると、前局の咲と同様に、

「ツモ!」

 そのままフレデリカは嶺上開花で和了った。

「ダブリーツモ嶺上開花タンヤオドラ1。3000、6000!」

 しかも、咲が満貫だったのに対して自分はハネ満。

 これで後半戦の点数は、たった6000点ではあるが、ドイツチームが日本チームを上回ることになった。

 勿論、まだ序盤である。先のことは分からないが、優位に立ったのは間違いないとフレデリカは感じていた。

 

 しかし、その直後、フレデリカの視界がぼやけた。

 厳密には、透けて見えている牌の像が霞んできたのだ。そして、そのまま前半戦の時と同様に、牌を透視する能力が封印された。

 やはり飲むモンブランを飲んだくらいでは完全には回復していなかったようだ。まだ、咲の強制力に対抗するだけのエネルギーは無いようだ。

 

 咲からすれば、場の完全支配にはフレデリカの透視能力が一番邪魔である。咲のゲームメイクに対して常に横槍を入れられるからだ。

 それで、強制力が発動した際に最初に潰しにかかるのが透視能力になる。

 体調が万全であれば、フレデリカも咲の力をある程度撥ね退けられるかもしれないが、次鋒戦で疲労したところに蒔乃の配牌への干渉で力を使っている。それで、咲の強制力に対抗するにはパワーが不足しているのだ。

 

 蒔乃への干渉を止めれば少しは透視能力が復活するかもしれない。咲に対抗できるようにもなるだろう。

 しかし、それをやったら咲の思う壺だ。咲が蒔乃の配牌への正の干渉を強め、それこそ蒔乃が九連宝燈を連続和了してしまうだろう。

 この決勝戦で、日本チームがエースポジションに光ではなく蒔乃を持ってきた理由を、今になってフレデリカはようやく理解した。

 

 

 東四局、蒔乃の親。

 卓上に風が吹いた。クララの能力が発動し始めたようだ。

 そして、クララは第一ツモを手に入れると、

「リーチ!」

 まさかのダブルリーチをかけてきた。

 

 東二局では咲が、東三局ではフレデリカがダブルリーチをかけていたが、それに続いてクララまでダブルリーチをかけてくるとは、史上稀に見る展開であろう。

 フレデリカも咲も蒔乃も和了り牌が分かる。当然、差し込み以外で振込むことは無い。まあ、ここには東初でいきなり役満を差し込んだ信じられない輩もいるが………。

 

 次巡、

「ツモ!」

 クララは一発で和了り牌の{1}を掴んできた。

「ダブリー一発ツモ! 2000、3900。」

 ただ、それ以外に役は無し。ドラも裏ドラも無しの30符4翻となった。

 

 

 南入した。

 前半戦と違って連荘が無いことに加え、東一局が序盤で決着、東二局から東四局までが実質二巡目で終了しているため、非常に早い南入となった。

 

 南一局、クララの親。

 中堅後半戦の、現在の点数と順位は、

 1位:蒔乃 123100

 2位:フレデリカ 106000

 3位:クララ 102900

 4位:咲 68000

 咲の一人沈み状態であった。

 

 そして、各チームのトータルは日本チームが191100点、ドイツチームが208100点とドイツチームがリードしている。

 前後半戦のトータルでは、現状、日本チームが402500点、ドイツチームが397500点で日本チームが5000点だけリードしているが、十分逆転圏内にある。

 当然、両チーム共、互いに点棒を奪いたいところだ。

 

 ところが、咲のやることは良く分からない。

 中盤に入り、蒔乃がツモ切りした{發}を、

「カン!」

 大明槓すると、

「ツモ! 發嶺上開花混一ドラドラ。12000です。」

 蒔乃の責任払いでハネ満を和了ったのだ。

 いくらクララの親を流すためとは言え、これではチームとしての点棒が増えない。まるで東一局の役満差込みを髣髴させる。

 

 天才の考えることは良く分からないと言うが、これは異常過ぎる。

 この様子を控室のテレビモニターで見ていた和も、

「こんなオカルトありえません!」

 毎度の名台詞を口に出した。さすがに成績優秀な彼女でも、この咲の暴挙とも言える思考は理解不能だった。

 

 勿論、例の某ネット掲示板の住民達も、

『咲様、何考えとると!』

『ありえませんわ!』

『エニグマティックだじぇい』

『まともじゃないと思』

『全然スバラくありません』

『そんなオカルトありません』

『やっぱり美和様に期待だし!』

『蒔乃ちゃん以外オモチがイマイチで見るに耐えられないのです』

『さすがに未来が見えへん』

『宮永意味不明! 馬鹿じゃねぇwwwwww by 高三最強』

『今回ばかりは降参再教育の言い分も理解できますね』←船Q

『降参再教育が賛同されるって初めてやなぁ』←セーラ

 批難轟々だった。

 

 

 南二局、フレデリカの親。ドラは{中}。

 フレデリカの顔には疲労の表情が浮かび上がっていた。

 次鋒後半戦の南場で能力を暴走させた自分が悪いのだが、それで疲労した状態で蒔乃の配牌を制御するのに力を使い、さらに、ここに咲からの重圧までもが加わり、全然回復する見込みが無い。

 他家の和了り牌だけは能力で察知できるのが唯一の救いだが、加速度的に疲労が溜まってゆく感じもあるし、それと同時に運も低下している感じがある。

 折角の親番だが、ツモが宜しくない。

 

 この局、クララが起こす風は止んでいる。咲の強制力が上回っているためだろう。

 少なくとも、クララの能力によって不要な風牌を掴まされることは無いが、それでも配牌にツモが噛み合わない状態に追い込まれている。

 

 クララもフレデリカと大同小異のようだ。見ている限り、ツモ牌が手牌に噛み合っていない。配牌後、全く向聴数が減っていない状態だった。

 蒔乃が九連宝燈を聴牌するのは、配牌にフレデリカが能力干渉している以上、最速で十三巡目のはず。

 しかし、全員の手が遅い中、咲だけは着々と手を進めていた。

 

 中盤に入り、

「カン!」

 とうとう咲が動き出した。

 ここでも副露されたのは{西}の暗槓。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 毎度の如く嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四②④234中中}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{③}

 

「嶺上開花ツモ三色ドラドラ。3000、6000。」

 ハネ満ツモだ。

 これでフレデリカの点数は丁度原点、クララの点数は原点から100点割った。

 よって、たった200点差ではあるが、後半戦チームトータルで日本チームがドイツチームの点数を上回った。

 

 

 南三局、咲の親。ドラは{4}。

 再び卓上に風が吹いた。クララの能力復活である。

 ところが、

「リーチ!」

 咲がダブルリーチをかけてきた。まさかの展開である。

 

 しかし、案の定、咲は不要な字牌しかツモれない状態だった。槓材を持っているようだが、多分、チュンチャン牌なのだろう。

 蒔乃にはオタ風牌が回らない。最強神の力で、基本的に萬子しか引かないからだ。

 ただ、その分、咲は不要字牌を多く引かされることになる。

 

「チー!」

 蒔乃が捨てた{⑧}をクララが鳴いた。

 副露されたのは{横⑧⑦⑨}。

 

 そして、数巡後、

「ツモ!」

 ここでもクララが{1}を引いて和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①②③⑨⑨23}  チー{横⑧⑦⑨}  ツモ{1}

 

 鳴きジュンチャン三色同順。30符3翻の手となる。

「1000、2000。」

 これで咲は、リーチ棒を含めて3000点を失うことになった。

 

 中堅後半戦の、現在の点数と順位は、

 1位:蒔乃 107100

 2位:クララ 104900

 3位:フレデリカ 99000

 4位:咲 89000

 

 後半戦のチームトータルは、日本チームが196100点、ドイツチームが203900点だが、前後半戦トータルでは日本チームが407500点、ドイツチームが392500点と、日本チームが15000点リードしている。

 しかし、オーラスでクララかフレデリカがハネ満をツモ和了りすれば、たった3000点だがドイツチームが逆転する。

 

 まだどちらが勝つか分からない。

 そのような中、中堅後半戦はオーラスに突入した。



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二百二本場:高校最後の世界大会決勝戦10  神&本体vs分身&妹-4

 世界大会決勝中堅後半戦は、オーラスが開始された。

 親は蒔乃。

 相変わらず蒔乃の配牌は萬子が無い。

 ただ、今までとは違って筒子と字牌が中心で、これなら筒子の混一色に走るのが最良と思われるくらいだった。

 

 フレデリカの手は萬子と筒子と字牌。索子が無かった。

 索子をガメていたのはクララと咲。

 

 クララの配牌は、

 {二四八⑦1122348南北}

 第一ツモは{2}。ここから打{⑦}。

 

 その後、クララはムダツモ無く{53639}と順に引き入れた。

 ここに来て、この超鬼ツモを見せるとは、やはり慕の妹だけのことはある。超魔物と言える。

 そして、たった六巡目で、

 {1122233345689}

 {7}待ちの門前清一色の聴牌まで手を進めた。

 

 

 一方、咲の配牌は、

 {三③⑥⑨2445688東西}

 第一ツモは{3}。ここから打{三}。

 

 そして、こっちも超魔物特有の超鬼ツモを披露した、ここからムダツモ無く{[5]3568}と引き入れた。

 そして、たった六巡で、

 {2344455[5]66888}

 {12456}待ちの門前清一色を聴牌した。

 

 

 七巡目。

 クララは{9}を引いた。

 手牌は、

 {1122233345689}  ツモ{9}

 これなら、和了り牌に{1}が絡む形に変えることができる。

 いや、むしろ{1}での和了りに拘りたい。慕と同じだ。

 その想いから、クララは{8}を強打した。

 

 しかし、これを、

「カン!」

 咲が大明槓した。

 そして、引いてきた嶺上牌………最後の{6}で、

「ツモ!」

 嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2344455[5]66}  明槓{8横888}  ツモ{6}

 

「清一タンヤオ嶺上開花赤1。16000です!」

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:蒔乃 107100

 2位:咲 105000

 3位:フレデリカ 99000

 4位:クララ 88900

 ここでも咲は、蒔乃を1位とし、自らを2位としたプラスマイナスゼロを達成した。

 

 また、中堅後半戦の日本チームのトータルは212100点、一方のドイツチームのトータルは187900点となった。

 よって、中堅戦前後半戦のチームトータルは、日本チームが423500点、ドイツチームが376500点で日本チームが勝ち星を取り、日本チームが勝ち星二、ドイツチームが勝ち星一となった。

 

 この結果を見て、淡と和は、

「(なんで言ったとおりになるの?)」

「(本当に予告どおりですね!)」

 中堅戦が開始前に咲が言っていた、

『多分、フレデリカは中堅戦で、全体で三回くらいしか和了れないんじゃないかな?』

 この言葉が現実になったことに驚いていた。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼を済ますと、

「やっぱり咲さんには敵わないな。」

 さっそくフレデリカが咲に声をかけてきた。

 自分と同じ顔を持つ少女に、やはり興味がある。

 しかも、その少女は常識を大きく逸脱した麻雀を打つ。

 

 今回と同様に、プラスマイナスゼロの強制力は、インターハイ団体戦決勝次鋒戦でも、光、蒔乃、敬子を相手に披露していた。

 フレデリカは、実際にその脅威の力を体験して、あの時もプラスマイナスゼロで咲が挑んだ理由が分かった気がした。

 

 それに、今回は自分が半荘で1位を取るのが目的では無かった。前後半戦のトータルでチームとして確実に勝ち星を取るために選択した方法だったのだ。

 つまり、前後半戦共に蒔乃を1位に順位操作し、かつ自分を2位でプラスマイナスセロにすることを全体に強制した。

 コンビ麻雀ゆえに取れた戦略でもあったと言える。

 

 ただ、これまでの咲の対局を振り返ると、その時その時のルールを上手に使っている。

 責任払いを利用したり、槓振を利用したり、今回のようにコンビ打ち故にプラスマイナスゼロを利用したり………。

 本当に器用な選手だ。

 

 

「スマホ番号教えてもらえません?」

「うん。いいよ!」

 フレデリカは、最大のライバル………自分の本体との交友を強く願い、咲も、それを受け入れた。

 咲が完全プラスマイナスゼロで挑む決断をしたのは、咲自身もフレデリカが最大のライバルと認めてのことだ。

 これからも、二人は麻雀を通じて友情を深めて行くことだろう。

 

 

「中堅選手は退場を願います。」

 咲達は、スタッフから声をかけられ、対局室を後にした。

 

 そして、その数分後、対局室には副将選手達が姿を現した。

 日本チームからは美和と敬子、ドイツチームからはローザとニーナ。

 美和達にとっては、ここで優勝を決めたいところ。自分達の大将選手を信じていないわけではないが、副将戦で勝負を決められる方が理想的だ。

 一方のローザ達にとっては、絶対にここで勝ち星をあげて勝ち星を二対二に持ち込みたい。ここで負けたらチームの負けが決まるからだ。

 

 美和の姿を見て、某ネット掲示板の住民達の間では、

『やっと出てきましたわ! 期待しておりますわ!』

『裸で正座して待ってたッス!』

『世界戦最後のみかんジュースだじぇい!』

『私は咲さんのみかんジュースが欲しいです!』

『最高視聴率間違いないと思』

『スバラなことが起こりそうな予感がします』

『やっと出てきたのよー』

『出番が遅いと!』

『待ちくたびれたよモー』

『上に同じやな! ああ、串カツ食いたい』

『でも、咲様が出ないからミックスジュースにならないんデー』

『この中だと人魚姫のオモチが一番マシなのです』

 美和の活躍に期待する声が多かった。

 

 

 場決めがされ、美和が起家、敬子が南家、ニーナが西家、ローザが北家に決まった。

 早速、サイが振られ、前半戦が開始された。

 

 東一局、美和の親。

 非常にラッキーなことに、美和は配牌一向聴だった。

 このままだと役無しだが、この場には咲やフレデリカ、光、クララと言った超魔物はいない。なので、聴牌したら即リーチで攻めるつもりだ。

 

 どうやら、ツキはありそうだ。美和は二巡目で聴牌した。

 そして、予定通り、

「リーチ!」

 美和は捨て牌を横に曲げた。

 

 敬子は、いつも通りの字牌処理中。もっとも、万が一、敬子が振り込んだところで美和の能力は効かないし、チームとしてのマイナスにはならない。

 ニーナは美和の現物、ローザは敬子の捨て牌に合わせ打ちした。

 

 一発でのツモは無かった。自分に流れが来ていても、必ずしも一発でツモ和了りできるわけではない。

 敬子はマイペースで打つ。

 ニーナとローザは、様子を見て打ち回している感じだった。

 これが先鋒戦だったら、ローザは振込みを恐れずに、もっと攻撃一辺倒の打ち方をしてきただろう。

 しかし、今は絶対に星を落とせない。なので、振込み回避を第一優先としていた。

 

 数巡後、

「ツモ!」

 美和が和了った。

 これと同時に、ローザとニーナの意識が幻の世界に飛ばされた。

 そこで二人は、巨大な触手に四肢の自由を奪われ、粘性のある消化液で服を溶かされた。毎回、美和が見せる光景だ。

 互いの姿は見えない。そこにいるのは一人だけだ。

 

 そして、触手は粘液を出しながらローザとニーナの胸や股間をいじくり回す。

 ただ、現実世界の二人は、

「「………。」」

 何の反応も示していなかった。

 なんだかおかしい。

 

 美和が、

「リーチツモドラ3。4000オール!」

 点数申告した。

 その直後、ローザとニーナの意識が淫猥なる美和ワールドから現実世界に戻ってきた。しかし、二人ともケロっとした顔をしていた。

 こんなことは美和としても初めてだ。

 

 すると、ローザが笑いながら美和に言った。

「あれが噂に聞く世界ね。ただ、悪いけど、二人とも不感症なのね。」

「はぁっ?」

「フレデリカに能力を引き出してもらった時の代償みたいなんだけど。」

「でも、園田さんには効いたけど?」

「それは人によるみたい。不感症になったのは私とニーナだけだから。」

 これは大誤算だ。

 今回は、純粋な麻雀対決になる。←それが普通だ!

 美和ワールドが効かない相手………しかも世界大会決勝戦に出場するレベルの相手に、美和自身、どこまで喰い下がれるか分からない。

 日本チームとしては、厳しい戦いになりそうだ。

 

 一方、この様子をテレビで見ていた某ネット掲示板の住民達は、

『一大事! 一大事ですわ! あの二人、不感症ですわ!』

『そんなの鷺ッス』

『鷺じゃなくて詐欺って書いて欲し』←自分が鷺森だから

『ありえなじぇい!』

『反則じゃなかと!』

『訳わかんないし!』

『そんなオカルトありえません!』

『ないないっ! そんなのっ!』

『みかんジュースが………出えへんでぇ~』

『この未来、なんとなく見えとったけど、さすがに言えへんかったわ』

『だから、もう、みかんジュースを語るのやめようよ』←みかん

『最悪レベルにスバラくないですねぇ』

『あたたかくなーい』

『素敵じゃないです』

『最低だよモー』

『先輩が悲しんでるデー』

『チョー嬉しくないよー』

『だから美和様は先鋒に出しておけば良かったのよー』

『もしかして、もう枯れとるんとちゃうか? ああ、から揚げ喰いたい!』

『ドイツの二人、もう、あがってるん?』←竜華

『和了ったのは、まだ的井美和だけだぞ? ドイツの二人は和了ってない!』←衣

『子供は黙ってな!』←純

『あがってるの意味が分かってないみたいだね?』←国広一

『お子チャマには早過ぎるみたいね!』←智紀

『衣は子供じゃなーい!』

『ダル………』

 夢が破れて大騒ぎだった。

 ある意味、今までで一番書き込みが多かったと言う。

 

 東一局一本場。美和の連荘。

 ローザとニーナに能力が効かなかったショックで運が遠ざかったのか、美和の配牌が急に崩れた。

 いきなり五向聴だ。淡を相手にしている時と大差ない。

 

 一方、ローザは、

「リーチ!」

 たった三巡で手を作り上げると、即リーチで攻めに出た。ここが美和を叩くチャンスと踏んだからだ。

 そして、次巡、

「ツモ! メンタンピン一発ツモ一盃口ドラ5(表2赤2裏1)。6100、12100!」

 パワーヒッターは健在と言わんばかりに、三倍満ツモ和了りを決めた。

 

 点棒の受け渡しから次の配牌が終わるまでに間、敬子がいつものようにハミングしていた。曲目は毎度の如く綺亜羅高校応援歌である。

 ただ、これを聞いてローザの中から闘志が薄れていった。

 人魚の歌声が効いている様だ。

 

 一方、ニーナは目を閉じてなにやら精神を集中しているようだ。彼女には、敬子の歌声が届いていない感じだ。

 

 

 そしてスタートした東二局、敬子の親。ドラは{⑧}。

 敬子は、相変わらず第一打牌で{東}を捨てた。マイペースである。

 一方の美和は、ニーナから淡に似た雰囲気を感じ取っていた。

「(なんか、ヤバイことしそうだよ、この娘。)」

 

 美和は自分の予感が外れることを祈った。

 しかし、こう言った時に限って予感が現実化するものだ。

 ニーナは第一ツモをツモ切りすると、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 

 数巡後、ニーナが、

「私、以前、淡ちゃんちの隣に住んでいてね。淡ちゃんの麻雀に憧れてたんだ。それで私もダブルリーチできたらなって思ってたらできるようになったんだ。」

 と美和に言ってきた。

 これには、美和も、

「(マジですか?)」

 と心の中で叫んでいた。

「まあ、フレデリカのお陰だけどね。でも、ダブルリーチ槓裏4だけで、しかも最後の角を越えるまで和了れないって非効率だなって思ってたのよね。」

「(まあ、一理あるかも。)」

「だーかーらー!」

 まだ最後の角には達していない。

 しかし、ニーナは、

「ツモ!」

 それに関係なく和了った。どうやら、完全に淡のコピーと言うわけではなさそうだ。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {二三四五六③④[⑤]⑧⑧678}  ツモ{四}  ドラ{⑧}  裏ドラ{二}

 

 淡と違って和了り役がダブルリーチだけではなかった。

 ダブルリーチ平和タンヤオツモドラ4(表2赤1裏1)の倍満だ。

 

「4000、8000!」

 前局のローザの和了りと、このニーナの和了りで、日本チームはドイツチームとの間に一気に40000点以上もの差を付けられた。

 

 

 ここでも、点棒の受け渡しから次の配牌が終わるまでの間、前局同様に敬子は綺亜羅高校応援歌をハミングした。

 

 ローザは、この人魚の歌声を聴いて戦意を喪失し続けているようだが、ニーナの耳には届いていないようだ。前回同様、ニーナは精神を集中している感じだ。

 

 

 東三局、ニーナの親。

 美和は、ここでもニーナがダブルリーチをかけてくるかと身構えていたが、それは杞憂に終わった。

 ダブルリーチの連発はしてこなかった。

 意図的なのか、それとも連発不可能なのか?

 すると、ニーナが、

「一応、ダブリーは連発できるけど、淡ちゃんと違って私の場合は、ちょっと制限があるのよねぇ。なので、今回は普通に打つよ!」

 と美和に言ってきた。

 信じて良いのか分からないが、ダブルリーチがホイホイ出てこないようだ。これは、助かったと思って良いだろう。

 

 この局は、敬子の歌声のお陰でローザが攻める気持ちを失っていることに加え、ニーナが力をセーブしているためか、美和にツキが回ってきたようだ。

 美和は配牌で、表ドラ2枚の赤牌2枚を持っていた。

 さらに自風の{西}は配牌で一枚だけだったが、第一ツモで引き当てて対子になった。

 しかも{西}は、敬子が毎度の如く三巡目に捨ててくれる。

 それをすかさず、

「ポン!」

 美和は鳴いた。

 

 そして、ドラ面子を残したまま手を作り上げ、

「ツモ!」

 何とか和了りに辿り着いた。

 

 美和の和了りである。

 当然、ローザとニーナは淫猥なる美和ワールドに飛ばされるが、二人とも全く感じていない様子だった。

 前回からの続きなので、今回は最初から全裸状態。股間を触手で執拗に刺激されているのだが、何だか二人とも、しらけた顔をしている。

 全く感じていない!

 やはり、不感症と言ったのは本当のようだ。

 

「西ドラ4。2000、4000!」

 美和の点数申告の声を聞いてローザとニーナの意識が現実世界に戻ってきたが、やはり二人とも反応が無い。

 

 これを見ていた某ネット掲示板の住民達は、

『…。』

 完全に静まり返っていたと言う。



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二百三本場:高校最後の世界大会決勝戦11  海の怪物

 世界大会決勝副将前半戦は、東四局に入った。

 親はローザ。

 ただ、人魚の歌声に惑わされて、せっかくの親番なのに未だに戦意が湧いてこない。

 ニーナもエネルギー充填中の模様。

 

 そう言った中、マイペースで{東南西北}と自分の型で順に字牌を捨て、

「リーチ!」

 敬子が先制リーチをかけた。

 日本チーム最高の美少女である。当然、今ではファンも非常に多い。

 今、彼女を敵視しているのは、テレビ番組『輝け! 部活少女!!』で立場を失った某水泳部の女子高生くらいとされている。

 

 ニーナは、ここで敬子が攻めてくることを予想していたのか、手出しの{西}切り。敢えて完全安牌を抱えていたようだ。

 ローザは{南}をツモ切り。

 美和も敬子の現物を落とした。

 

 敬子が一発目の牌をツモろうとした時、美和とニーナは、敬子の背後に強大な何かを感じ取った。

 陰になっていてよく分からないが、ニーナには美和ワールドで見た巨大な触手群に似たような形に見えた。ただ、もっと禍々しいエネルギーを感じる。敬子の美貌からは程遠い雰囲気だ。

 ローザだけは、麻雀に集中できていないためか、この敬子の雰囲気の変化に気付いていなかった。

 

「ツモ!」

 敬子は、一発で自らの和了り牌を掴んだ。

「3000、6000!」

 しかもハネ満。

 

 これで、副将前半戦の現時点での点数と順位は、

 1位:ローザ 108300

 2位:美和 100900

 3位:ニーナ 98900

 4位:敬子 91900

 東二局終了時点と比べて、日本チームが大きく詰め寄ってきた。

 日本チームとドイツチームの合計点は14400点差。これはドイツチームが日本チームに満貫を一つ振り込めば逆転する範囲でしかない。

 ニーナは、

「(もう一回、ここでやる必要がありそうね。)」

 次が勝負と、密かに気合を入れていた。

 

 

 南入した。

 南一局、美和の親。ドラは{9}。

 ここで再びニーナが、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 淡のものと詳細は違うが、意図的にかけられるところは同じだ。

 前局、前々局と日本チームが連続で和了っていることと、前局での敬子の様子を見て、ニーナは日本チームが勢い付かないように叩きに来たのだ。

 

 日本チームとしては、この局で絶対にニーナに和了らせてはならない。

 しかし、そうは思っても現実が中々付いて行かない。

 美和も敬子も、基本的に配牌は凡庸だった。当然、数巡かけて不要牌の処理を行わなければならない。

 そして、ヤオチュウ牌処理をしているうちに、

「ツモ!」

 早々とニーナに和了られてしまった。

「ダブリーツモ南チャンタドラ2。4000、8000!」

 しかも、前回同様に倍満をツモ和了りしてきた。ある意味、淡よりも恐ろしい打ち手かも知れない。

 

 

 これまで同様、点棒の受け渡しと配牌の間、敬子は、ずっとハミングしていた。これを聞きながらローザは、ボーっとしていた。

 これに、ようやくニーナは気が付いた。

 そして、

「しっかりしましょう、セ・ン・パ・イ!」

 と言いながらローザの腿を抓った。

「イタッ!」

「気が付きました?」

「あ…あぁ…。」

「もう、ボーっと生きてんじゃねえよ!」

 誰かが良く言う台詞のようだが………。

 それにしても、ニーナがローザの上家に座れていたのは、ある意味ラッキーだった。

 これが対面だったら手を出せない。

 

 ローザは、

「はっ!?」

 ヒドイ言われ方をしたが、ようやく正気に戻った感じだった。

 気が付けば、起家マークが南になっている。そう言えば、東一局一本場で和了った後から、殆ど記憶が無いのだが、いつの間に?

 ただ、少なくとも気合が完全に抜けていたのだけは事実だ。

 ローザは両手で自らの両頬を強く叩くと、

「ヨシャー!」

 声を出しながら気合を入れ直した。

 

 

 南二局、敬子の親。

 完全にローザはパワーヒッターとして復活した感じだ。全身から激しいオーラが噴出している。まるで邪神を降ろした霞のようだ。

 

 ただ、ローザが霞と違うのは、染めていないこと。

 それと、

「リーチ!」

 リーチをかけてくることだ。

 まさか、三巡目で聴牌してくるとは………。

 

 しかも、

「ツモ!」

 これを一発でツモ和了りするし、

「6000、12000!」

 打点も高い。三倍満だ。

 手なりに打ってこれだ。何と言う簡単麻雀だろう。

 

 ただ、これを和了った直後、ローザは、ようやく敬子の背後にいる強大な何かの存在を感じ取った。

 非常に嫌な空気を纏っている。

 絶対に見てはいけないヤツだ!

 そう本能が語っている。

 

 これまで敬子は、点棒の受け渡しから配牌までの間、ハミングしていたが、ここでは、それが消えていた。

 今までの敬子とは、完全に様子が違っていた。

 

 

 南三局、ニーナの親。ドラは{發}。

 ここで珍しく、

「ポン!」

 敬子が鳴いた。全然鳴かない選手ではないが、どちらかと言うと門前で手を進める方が多い印象がある。

 副露したのは{北}。敬子の自風だ。

 

 その後も、敬子は、

「ポン!」

 {南}を一鳴きした。

 

 敬子の捨て牌は、

 {③74⑥東西一}

 いつもと順番が違う。

 一般的に考えれば、萬子に染めている可能性ありと思われる。

 

 次巡、美和が打{8}。これには敬子も反応なし。当然だろうとローザは思った。

 敬子はツモ切り。

 そして、次のツモ番で、ニーナは一旦現物の{7}切りで様子を見た。

 

 ここでローザがツモってきたのは{8}。

 まあ大丈夫だろうと思ってツモ切り。

 しかし、この時だった。

 突然、辺り一面の風景が、何故か大海原に変わった。ローザは、何故かよく分からないが船の上に乗っている。

 意味不明の幻の世界だ。

 敬子は海面から上半身を出している。美しき人魚の姿だ。

 しかし、敬子の背後から巨大な触手が伸びてきて、ローザの身体を捉えた。そして、それは敬子と一体化すると、そのまま海深くに潜って行った。

 

 ローザの身体が、海中に引き摺り込まれた。

 この時、ローザの目に映ったモノ。

 それは、

「(やはりヤバイもの………海の怪物………。)」

 伝説上の巨大生物、クラーケンだった。

 

 

 インターハイ個人戦決勝トーナメントの日の昼。綺亜羅高校メンバーは、咲達と食事を取っていた。その時に、

『咲に人魚パワーを与えたらどうなるか?』

 なんて話になり、敬子は喜んで咲とキスをした。(百七十八本場参照)

 これにより、咲は人魚パワーを得たが、同時に敬子も咲の力による能力開花が急速に進み始めていたのだ。

 そして、敬子の奥底に眠る強大なパワーが、今、完全に目覚めた。

 

 

 ローザは、幻の世界の中で窒息しかけていた。海中では息が出来ないからだ。

 気が遠くなる。

 このままでは死ぬ。そんな感覚だった。

 

 そして、死を覚悟したその時、

「ロン!」

 敬子の声が聞こえてきた。現実世界では、敬子に振込んでいたのだ。

 

 ローザが正気に戻った。

 そして目に飛び込んできたのは、敬子の手牌。

 それは、

 {5[5]88發發發}  ポン{横南南南}  ポン{横北北北}  ロン{8}  ドラ{發}

 まさかの索子の混一色手。

 完全に裏をかかれた気分だった。

 

「南北發混一対々ドラ4。24000!」

 しかも三倍満。

 前局で稼いだ24000点を、そのままそっくり敬子に持って行かれた。

 

 この時、ローザの顔からは血の気が引いていた。

 全身も震えて出した。

 幻の世界とは言え、クラーケンに海中へと引き摺り込まれて本当に怖かったのだ。もう死んだと思っていた。

 しかし、自分は生きている。

 彼女は再び自分の両頬を両手で叩くと、

「ヨシ!」

 大声を出して、何とか気合いを入れ直した。声を出すことで自分の心に活を入れたのだ。

 

 

 現時点での副将前半戦の点数と順位は、

 1位:ニーナ 108900

 2位:ローザ 104300

 3位:敬子 95900

 4位:美和 90900

 

 チームトータルは、日本チームが186800点、ドイツチームが213200点と、大きくドイツチームがリードしている。

 しかし、相手は三倍満を直撃してくる海の怪物。

 この点差では、まだ足りない。ハネ満直撃で、ほぼ追いつかれる。倍満直撃でひっくり返される。

 ローザは、次の親番に全力投入するよう、自分自身に言い聞かせた。

 

 

 オーラス、ローザの親。

 パワーヒッターとしての全能力を、ここに注ぎ込む。

 とにかく恐怖を振り払え!

 後のことは考えるな!

 今を全力で戦う!

 

 そして、四巡目で聴牌すると、

「リーチ!」

 ローザは即リーチをかけた。

 

 心の中の恐怖心は拭い切れていない。活を入れたところで、そう簡単に忘れられるモノでは無い。

 しかし、この場での勝利を掴むため、その恐怖を抑え込もうとローザは必至だった。そのために心の中で彼女は大声で叫ぶ。

「(絶対に勝つ! 和了る!)」

 そして、

「ツモ!」

 蒼褪めた顔をしながらも、パワーヒッターのプライドを守るかのように、一発で大きな一撃となる手をツモ和了りした。

「リーチ一発ツモタンヤオ三色ドラ5(表1赤2裏2)。12000オール!」

 親の三倍満。

 ただ、ローザは、これで、

「和了りやめにします。」

 半荘終了を宣言した。

 

 この点差にこのパワー。

 普通なら、より有利に後半戦を戦うために、敢えて連荘して高打点の和了りを狙うケースも考えられる。

 しかし、今回は和了れたが、まだ全身が恐怖に怯えている。この精神状態での連荘は不可能とローザは判断したのだ。

 

 

 ここで一旦休憩に入った。

 ローザは、急いで対局室を出ると、逃げるように控室へと戻っていった。

 

 副将前半戦の点数と順位は、

 1位:ローザ 140300

 2位:ニーナ 96900

 3位:敬子 83900

 4位:美和 78900

 

 チームトータルは、日本チームが162800点、ドイツチームが237200点と、ドイツチームの大勝利だった。

 しかし、ローザの雰囲気は全然勝者とは思えない。

 控室に入ると、彼女はガタガタと音を立てて大きく震えていた。

 身体が冷え切っている。

 少なくとも、対局に向けての熱い心が完全に消え去っている。

 

 監督のニーマンは、

「(予感が当たったか………。)」

 何とか前半戦を最後まで戦い抜いたものの、もうローザは、後半戦に出場できる状態では無いことを悟っていた。

 この怯え方は尋常ではない。

 ムリに出場させるわけには行かないだろう。

「交代だな。」

「いえ、私はまだ…。」

「そんな精神状態では無理だろう。」

「…。」

「ミラ。」

「はい。」

 ニーマンが、補員として急遽メンバー入りしたミラ・エーレンベルクを呼んだ。ルーマニアチームのナヴィアと同レベルの美少女だ。

 ミラの能力はマホと同様に能力コピー。まるで鏡に映したかのように特定の人物の能力を完全に自分の中にコピーする。

 

 ただ、全ての能力をコピーできるわけでは無い。

 例えば、ドイツチームで言えば、フレデリカやクララのような超魔物や、カナコのステルスのように余りにも特殊過ぎる力はコピーできないらしい。

 

 この副将戦は、飽くまでもローザとニーナの戦いだ。

 それで、ニーマンは、

「ローザバージョンで行く。」

 ミラにローザの能力コピーを命じた。

 

「分かりました。」

 一応、ローザの力ならコピー可能な範囲のようだ。

 

 ミラは、ローザの両手を握ると静かに目を閉じた。

 ただ、同時に複数の人間のコピーを使うことは出来ない。現在、ミラの中にある別の選手のコピーにローザのコピーを上書きする形になる。

 この辺は、同じコピー能力でもマホとは使い勝手が違っていた。

 …

 …

 …

 

 

 その頃、美和と敬子も控室に戻っていた。

 と言っても、美和ワールドが効かない上に、あの圧倒的な攻撃力。さすがに副将戦での勝ち星は難しいし、慕も恭子もアドバイスする内容を思いつけずにいた。

 

 この状況で、せめて美和は、

『咲ちゃん。お願い。充電させて!』

 と言いたかったのだが、和の目が怖くて言い出せずにいた。絶対に殺される。

 美和は、この時ほど、敬子くらいKYな感性を持てたらと思ったことは無い。あの神経なら和の視線なんか怖くないだろう。

 

 一先ず美和は、慕が用意した『つぶつぶドリアンジュース』を避けて、さっき自販機で買った飲むフォンダンショコラを飲み始めた。

 これで随分と脳が生き返る。

 

 一方の敬子は、

「いただきます。」

 つぶつぶドリアンジュースに抵抗が無い変人なので、喜んで慕から異臭のするジュースの缶を受け取って飲み始めた。



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二百四本場:高校最後の世界大会決勝戦12  みんなの夢は叶う

 これより、世界大会決勝副将後半戦が開始される。

 対局室に、ニーナ、ミラ、美和、敬子が姿を現した。

 大会スタッフには、既にニーマンから、ローザが体調不良で補員に交代する旨の連絡が入っていた。

 

 ただ、美和がミラから感じる雰囲気はローザそのもの。

 只者ならぬ気配を感じ取っていた。

 

 美和と敬子は、休憩中に、

「きっと後半戦は、前半戦よりも、みんなの期待に応えられるイイ戦いが出来るよ!」

 と咲に言われていたが、この雰囲気からは、到底そうは思えない。美和には、前半戦の二の舞になる予感しかなかった。

 

 

 場決めがされ、起家がミラ、南家がニーナ、西家が美和、北家が敬子に決まった。

 この時、敬子は綺亜羅高校応援歌を口ずさんでいなかった。まだ、クラーケンのスイッチが入ったままのようだ。

 

 東一局、ミラの親。

 ローザの能力をコピーした今、彼女は、まるで最高状態に近い優希の東場を髣髴させるレベルの、とんでもない麻雀を披露する。

 たった三巡で聴牌すると、

「リーチ!」

 即リーチをかけてきた。手なりに打って高打点と言う簡単麻雀の力が、今の彼女には備わっているのだ。

 

 そして、まるで簡単作業のように、

「ツモ! 12000オール!」

 ミラは親の三倍満をツモ和了りした。

 

 それにしても、この恐るべきパワーヒッターの能力は、余りにも特殊過ぎる能力の方に入らないのだろうか?

 ミラがコピーできるのは『一般的能力』とされているが、その定義を疑いたくなる。ローザの能力がコピー可能で、何故フレデリカやクララの能力がコピー不可なのかが良く分からない気がする。

 カナコのステルスだけは、異質と言うのは分かる気もするが………。

 

 もっとも、フレデリカとクララをコピーできないのは、この二人の能力がローザの能力よりも、さらに強いことを示しているのだろう。

 

 それを考えると、その二人に勝つ試合をプロデュースした咲は、もはや人間の枠を超えているとさえ思える。

 

 ちなみに、ミラが神様や邪神、霊を降臨させる能力をコピーできるかは分からない。そもそも、そう言った類いの選手が近くにいかったため試したことが無いからだ。

 恐らくコピーできないような気がするが………。カナコ以上に、余りにも異質過ぎると言う意味で………。

 

 

 東一局一本場。ドラは{④}。

 ミラは、この局の開始直後、敬子の背後の強大な何かの影を感じ取った。これがローザを精神的に追い込んだ元凶だ。

「(ローザはああなったけど、自分は耐えて見せる!)」

 一応、ミラには滅多なことでは平常心を失わない自信があるようだ。

 

 敬子の捨て牌は、

 {東南西北}

 訳が分からない。

 風牌が通るのだけは分かるが、これで和了り牌を当てろと言う方がムリな話である。それにしても、毎度の如く切り出す順番がおかしい気はするが………。

 

「ポン!」

 敬子が美和から{八}を鳴いた。

 そして、打{白}。

 

 次巡も、敬子は、

「ポン!」

 美和から{⑧}を鳴いた。打{發}。

 

 {八}と{⑧}が同じプレイヤーにポンされれば、一応、{8}はケアする。珍しい役だが、三色同刻なんて役があるからだ。

 もっとも、三色同刻は現実世界では滅多にお目にかかれない役なので、実は思うほどケアする必要性は無いかもしれないが、念のためである。

 

 それにしても敬子の捨て牌は読みようが無い。

 ミラは、配牌が前局より悪かったこともあり、ここで聴牌。ローザをコピーした割りには、今回は手が遅いようにミラ自身も感じていた。

 しかし、当然、連荘を狙う。

 

 今のミラの手牌は、

 {二二三④④[⑤][⑤]⑥⑥5678}  ツモ{三}

 

 タンヤオ一盃口ドラ4が確定している。

 ならば、ここでも勝負!

「リーチ!」

 積極的に攻める。

 ミラは{8}を手元に残し、{5}切りでリーチをかけた。

 

 しかし、その直後、ミラの視界に飛び込んできたのは大海原の風景だった。何故か、対局室から海のド真中に飛ばされていたのだ。

 ローザの時と同じで、ミラも船の上に乗っていた。完全に意味不明の幻の世界だ。

 

 目の前には敬子の姿があったが、海面から上半身を出す美しき人魚の姿に見えた。

 そして、敬子の背後から巨大な触手が伸びてきて、ミラの身体に巻き付いた。

「(なにこれ?)」

 状況は、よく分からないが、少なくとも命の危険が迫っているのだけは間違いないとミラは感じていた。

 もっとも、幻の世界での出来事なので、現実に死ぬことは無いのだが………。

 

 触手は、敬子の身体と一体化すると、ミラを海深くに引き摺り込んで行った。

 その巨大な何かの姿がミラの目に映った。

「(クラーケン!)」

 このままでは窒息死する。

 いや、その前に食い殺されるのか?

 この恐怖映像に、現実世界のミラは、

「プシャ──────!」

 堪えきれずに聖水を大放水していた。

 足共には黄金の泉が広がって行く。

 

 大会ナンバーツー美少女と同レベルの美女が、まさかの大失禁ライブ中継。

 これを見た某ネット掲示板の住民達は、

『一大事! 一大事ですわ!』

『何故このタイミングか分からないッスけど、ヤッたっス!』

『泉が湧くでぇ~!』

『チョー嬉しいよー!』

『理由は分かりませんが、スバラです!』

 予期せぬ事態に驚いていたが、結構喜んでいたようだ。

 

「ロン!」

 敬子の声が対局室にこだました。リーチ宣言牌でミラは振り込んだのだ。

 この声でミラは正気に戻ったが、目からは涙が流れ出ていたし、椅子が濡れていたし、マジで最悪だ。

 

 しかも、敬子が開いた手は、

 {④④5[5]888}  ポン{横⑧⑧⑧}  ポン{横八八八}  ロン{5}

 

 タンヤオ対々和三色同刻ドラ3の倍満。

 しかも、前半戦でローザから直取りした時と同様に、8の数牌が鍵になっている手だ。

 

「16300!」

 まさかの振込みだ。

 ただ、ここでスタッフが、

「清掃作業に入りますので、一旦各選手は控室に戻ってください。」

 対局を中断した。

 

 

 ミラは、顔を赤らめながら控室に戻った。まさか、麻雀で失禁するなんて、常識では考えられないからだ。

 まあ、その非常識なことを普通の女子高生雀士に毎回やらせている超魔物が日本には存在するのだが、まあ、それは置いておこう。

 

 

 これには、ミラも参っていた。

 しかし、補員は一名までのルール。

 しかも今回は、ローザからミラに交代している以上、ローザに戻すことは出来ないルールになっていた。

 なので、副将後半戦はニーナとミラで戦い続けるしか道は無い。

 ちなみにローザは、副将後半戦が開始されてすぐに、体調不良で医務室に運ばれていた。

 

「大丈夫か、ミラ?」

 濡れた服を着替えているミラに、ニーマンが声をかけた。

「正直、きついです。ローザがおかしくなったのも分かります。日本の選手の直撃を受けた時、クラーケンに海に引き摺り込まれた幻を見ました。」

「えっ?」

「溺れ死ぬか食い殺されるか、二つに一つ。そんな恐怖を受けました。清掃作業が入って気持ちを入れ替える時間が取れたのは、本気で不幸中の幸いかも知れません。」

「そう言う事か。かわいくない系のオーラにはローザも慣れている方だが、実はローザはカナヅチでな。」

「それで溺れ死ぬ恐怖から…。」

「多分、そうだろう。一先ず気を取り直して戦ってくれ。」

「はい。」

 …

 …

 …

 

 

 それから数十分後、再び対局室に副将選手達が姿を現した。

 東二局より再開される。

 親はニーナ。

 

 配牌の最中、敬子は再び綺亜羅高校応援歌をハミングしていた。クラーケンの力を使うにも限界があるようで、ここから先は人魚パワーのみで行くことになる。

 とは言え、敬子の渾身の和了りで日本チームにツキが回ってきたようだ。この局では美和が配牌二向聴であった。

 そして、サクサク手が進み、四巡目で、

「ツモ!」

 美和が和了りを決めた。

 これと同時に、ニーナとミラの意識が幻の世界に飛ばされた。

 

 ここは淫猥なる美和ワールド。

 ニーナは前半戦でも経験したが、ミラにとっては初体験である。

 

 今、この世界でニーナは服を着ている。前半戦からの続きでは無いらしい。

 互いの姿は見えない。別の空間にいるようだ。

 

 巨大な植物性の触手が二人の四肢に巻き付いて自由を奪った。

 さらに触手から粘性のある消化液が分泌され、二人の衣類を溶かして行く。それでいて肉体は溶かさないと言う、正直現実的には矛盾はあるが便利な代物だ。

 そして、沢山の触手が身体のあちこち、特に胸と股間を念入りに刺激する。

 これには、ミラも驚いた。

「(なにこれ?)」

 こんなこと引継ぎ事項に入っていない!

 それに、ミラはローザやニーナと違って不感症ではない。

 

 現実世界でミラは、

「Uhhh………Ahhhhhhhhh──────!」

 大声を上げていた。

 

 大会トップレベルの美女の恥ずかしい映像に、某ネット掲示板の住民達は、

『北ッス! これで丼飯十杯はイケるッス!』

『最高だよモー!』

『先輩がマジ喜んでるんデー!』

『スバレストです!』

『姫子より凄か!』

『みかんジュースが出るで~!』

『もう出てるのよー』

『この未来は見えてへんかったなぁ』

『やっぱり美和様は、これだじぇい!』

 たいそう喜んでいた。

 

 …

 …

 …

 

 

 ニーナは、相変わらず変化無しだったが、ミラは気が狂いそうだった。

 脳内は真っ白。

 全身から何かが噴出しそうな感覚だった。

 そして、体感時間で一時間が過ぎた頃、

「2000、4000!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これで、二人の意識は現実世界に戻されたのだが………、ミラにとっては本当に最悪極まりない。

 クラーケンに襲われる恐怖に晒され、落ち着いたと思ったら美和ワールド行き。

 今日は天中殺ではないかと思いたくなる。

 

 

 東三局、美和の親。

 またもや敬子のハミング………人魚の歌声が聞こえる。本大会では、配牌が終わるまでは一応、歌うことが許可されている。

 これを聞いていると、何故か戦意が削られてゆく。

 

 ミラは、全然麻雀に集中できていなかった。

 そう言えば、どこから記憶が無いのだろう?

 なんだか惰性で麻雀牌を切っていた感じがする。

 そして、ふと正気に戻った直後、

「ツモ!」

 不幸にも美和に和了られた。

 

 再びニーナとミラの意識が美和ワールドへと堕ちて行く。

 あの強烈な刺激には、ミラも耐えられない………。

 …

 …

 …

 

 

 そして、体感時間で約一時間後、

「6000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 ただ、この能力は、さすがに反則ではなかろうか?

 

 しかし、試合は中断されない。さっき、清掃作業が入ったばかりだし、そう何回も中断できないと言うことなのだろう。

 

 

 ニーナの顔つきが変わった。

 どうも流れが日本チームのほうに行っている。

 前後半戦トータルでは、まだ50000点以上もドイツチームがリードしているが、ミラが既に使えない状態。

 このまま放っておいたら逆転される。

 50000点差も、24000点の直撃を一発でも受ければ追いつかれてしまう。それだけの和了りを見せた人魚が日本チームにはいる。

 もっとも、敬子はクラーケンの力をもう出せないのだが、敬子の能力の状態などニーナには分からない。当然、最悪のケース………クラーケン再発動を視野に入れる。

 

 ならば取るべき道は一つ。その攻撃に向けて、自らの集中力で、先ずは人魚の歌声をシャットアウトする。

 そして、東三局一本場、

「リーチ!」

 ニーナは、いきなりダブルリーチで攻めに出た。

 

 サイの目は7。

 最後の角が最も早く来るパターンである。淡であれば、鳴きが一切入らなければ九巡目に暗槓する。

 

 ただ、ニーナは最後の角など関係ない。

 手牌もダブルリーチ槓裏4に縛られていない。とにかく、同じダブルリーチでも、淡より効率よく和了ることが第一前提になっている。

 

 正直、ダブルリーチが相手では、序盤では和了り牌など読みようがない。

 三巡目、連荘を目指す美和が切った牌で、

「ロン! 12300!」

 ニーナはハネ満を直取りした。槓裏に関係なく手も高い。これも、ニーナと淡の違うところだ。

 

 

 東四局、敬子の親。

 敬子の人魚の歌声が卓上に流れる。全てを魅了する歌声に、大会スタッフまでが心地良い表情を浮かべている。

 今、敬子の頭の中では潜水をイメージしている。

 この時、ニーナとミラには、敬子の姿が人魚そのものに見えていた。

 

 敬子の切り出しは、毎度の如く{東南西北}。一般論は完全に無視。自分が分かりやすいように打つ。

 そして、

「リーチ!」

 第四打の{横北}を横に曲げて先制リーチをかけてきた。

 

 風牌が安全牌であること以外は分からない。本当にKYな捨て牌。

 だが………、ふと気が付くと、ニーナとミラは、人魚の姿となった敬子に手を繋がれて海の中を泳いでいた。能力が見せる幻の世界だ。

 空気が無いはずなのに、不思議と苦しくない。

 

 前方にお城が見える。

 あれが、噂の竜宮城だろうか?

 それとも別の何かか?

 よく分からないが、完全におとぎの世界に来ている感じだ。

 

 完全に麻雀から意識が切り離されて行く。

 そして、完全に夢うつつの状態になった時、

「ツモ。6000オール!」

 敬子の和了り宣言が聞こえてきて、ニーナは正気に戻った。

 ただ、ミラは、ボーっとしていた。

 

 ニーナは、これまでずっと人魚の歌声を自らの集中力で排除していた。それもあって正気に戻れたのだろう。

 対するミラは、人魚の歌声に魅了された状態が、まだ続いているようだ。

 

 

 前局で美和からハネ満直取りの後に敬子の親ハネツモ。

 収支を考えれば、東三局と殆ど点差は変わらない。奪った分、次の回で点棒を取り戻されている感じだ。

「(少しキツイけど、次も攻める!)」

 ニーナは、再びダブルリーチ発動に向けて精神を集中し始めた。



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二百五本場:高校最後の世界大会決勝戦13  200点差

 世界大会決勝副将後半戦は、東四局一本場に入った。

 親は敬子。ここでも配牌中に綺亜羅高校応援歌をハミングしている。

 この人魚の歌声に、ミラは、完全に骨抜きにされている様子だった。

 

 一方のニーナは、

「リーチ!」

 自らの能力で配牌聴牌し、ダブルリーチをかけた。

 そして、

「ツモ!」

 他家からすれば、天和や地和と言った一巡目での和了りの次に不条理と言える和了り、ダブルリーチ一発ツモを決めた。

 しかも、淡と違ってダブルリーチ以外にも役を持っている。

「ダブリータンピン一発ツモドラ2。4100、8100!」

 これで日本チームから12200点を奪い、しかも敬子の親を流した。ニーナとしては最高の和了りである。

 これで再び、日本チームとの点差を広げた。

 

 

 南入した。

 南一局、ミラの親番。

 ただ、全然試合に集中できていない様子。

 ローザのコピー………パワーヒッターとしての麻雀が披露できていないだけではない。やたらと暴牌が目立つ。

 これが人魚の歌声に魅了された者が辿る道だ。

 しかも、美和ワールドで頭が真っ白になっているのも影響している。

 完全にミラの頭からは麻雀の思考が欠落していた。

 

「ロン!」

「えっ?」

 気が付くと、ミラは敬子に振り込んでいた。

「リーチタンヤオドラ2。8000。」

 いつの間にリーチがかかっていたのだろう?

 ミラは、全然記憶に無い。

 しかし、この振込みで、ようやくミラは正気に戻った。

 

 現在の副将後半戦の点数と順位は、

 1位:敬子 114200

 2位:ニーナ 100600

 3位:ミラ 93600

 4位:美和 91600

 

 後半戦だけのチームトータルでは、日本チームが205800点、ドイツチームが194200点と、日本チームのリードとなっている。

 少なくとも、さっきの満貫振込みは効いているだろう。

 

 しかし、ドイツチームは前半戦で74400点もリードしているのは大きい。つまり、前後半戦トータルでは、まだドイツチームが60000点以上もリードしている。

 ミラの打ち方には何かと不安はあるが、一先ずニーナは、一旦、攻撃の手を止め、次のダブルリーチに向けてエネルギーを充填することにした。一局落としても、トータルで勝てば良いのだ。

 

 

 南二局、ニーナの親。ドラは{西}。

 ニーナは親だが、ここでムリはしない。ここでは、満貫だろうとハネ満だろうと、日本チームにくれてやる。

 さすがに数えなんかくれてやるとは口が裂けても言えないが………。

 

 ミラは、一瞬正気に戻ったが、配牌中に流れる人魚の歌声に魅了されて、再び麻雀への集中力を失っていた。

 加えてニーナが充電中。和了りを放棄した状態である。

 流れは日本チーム………ここでは美和にツキが回ってきた。

 

 やるなら徹底的にやってやる。

 ただし、これは麻雀に対してではなく、淫猥なる世界の方の話だ。

 せっかく敬子以上の美女、ミラがいるのだ。しかも、敬子のお陰でミラが完全に腑抜けになっている。素晴らしきチャンスだ!

 

 美和の配牌は、

 {二四六九③⑤[⑤]⑧245東南}

 ここから、たった六巡で、

 {二三四五六⑤[⑤]234567}

 聴牌した。

 当然、

「リーチ!」

 幻の世界への招待状と称して美和はリーチをかけた。

 

 美和は、ミラからの直取りを狙っていた。全然麻雀に集中できていない相手なら、十分可能性があると踏んでいたのだ。

 しかし、暴牌を打つ割には、ミラは振り込んでこなかった。

 結果的に、数巡後、

「ツモ!」

 美和は{七}を自らの手で引き当てることになった。

 {⑤}を雀頭にして、萬子と索子で同じ数字の六連続の牌。これは、ローカル役の双竜争珠の中でも役満とされる形だ。

 これをテレビで見ながら、

「やった!」

 ローカル役満大好きっ子の十曽湧は、大声を上げて喜んでいた。

 

 一方、ニーナとミラの意識は、この和了りと共に美和ワールドへと連れて行かれた。

 美和がプロデュースする淫猥な世界で、ミラは大声を上げてよがっていた。

 ニーナは、相変わらず鉄面皮を見せていたが、体感時間が五十分を過ぎた頃、一瞬だけだがニーナの顔が歪んだ。

 いくら不感症とは言え、これでニーナは前半戦から通じて5セット目である。ようやく身体が感じ始めたのかもしれない。

 

 …

 …

 …

 

 

 現実世界では、

「Uahhhhhh──────!」

 ミラが激しく声をあげていた。

 そして、

「メンタンピンツモドラ1。2000、4000!」

 美和の点数申告と共に、ニーナもミラも意識が現実世界へと戻された。

 この時、ニーナは顔を赤らめていた。やはり、感じ始めていたのだ。

 ミラの方は、完全に頭の中がドピンクに染まり、息があがっていた。何故、これが麻雀の試合なのだろうかと思えるくらいだ。

 

 

 南三局、美和の親。

 ここでも、美和は絶好調。

 配牌二向聴と軽い手。

 美和ワールドファンの心が一体となって美和にツキを運んでいるとしか思えない。

 役無しドラ無し赤牌無しの、ただ早いだけの手だが、美和ワールドに連れ込まれた者が受ける負荷は和了り点と余り関係が無い。

 とにかく、美和に和了って欲しいとだけ、世の人々は願っていたようだ。

 

「リーチ!」

 美和は三巡目で聴牌すると、即リーチをかけた。

 そして、次巡。

「ツモ!」

 一発で和了り牌を引き当てた。

 裏ドラをめくると、アタマが乗っていた。

 リーチ一発ツモドラ2の親満ツモだ。

 …

 …

 …

 

 ファン達の思い描く世界がニーナとミラの頭の中で展開された。

 ニーナは、これで美和ワールドへのご招待も通算6回目になる。本人は不感症と言っていたが、合計五時間(体感時間)を越える刺激に、

「Ohhhhhh──────!」

 とうとう声が漏れた。

 美和がニーナに勝ったのだ。もっとも、麻雀勝負では無いが………。

 

 当然、ミラも、

「Ahhhhhh──────!」

 大変なことになっていた。

 

「4000オール!」

 美和の点数申告の声を聞いて、ニーナもミラも現実世界に戻ってきた。

 この時、ニーナは美和のことを睨みつけていた。

「(まさか、こんな恥ずかしい目に遭うなんて………。)」

 まるで、AVにでもムリヤリ出演させられた気分だ。

「(許さない!)」

 ニーナは、この怒りを次局にぶつけることにした。

 

 東三局一本場。美和の連荘。

 現在の副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美和 111600

 2位:敬子 108200

 3位:ニーナ 92600

 4位:ミラ 87600

 

 チームトータルは日本チームが219800点、ドイツチームが180200点と、日本チームが40000点近くリードしている。

 しかし、前後半戦トータルでは、日本チームが382600点、ド一チームが417400点と、依然としてドイツチームが大量リードしている。

 とは言え、その点差は34800点と、倍満直撃で逆転する。

 普通なら安全圏だが、この綺亜羅エースコンビは何をしでかすか分からない。

 少なくとも、後半戦だけで考えると、ここまでに美和は満貫、親ハネ、満貫、親満と満貫以上の手のみを計4回和了っている。

 敬子の和了りは後半戦では3回だが、それでも倍満、ハネ満、満貫と高打点だ。

 

 特に恐ろしいのが敬子のクラーケン。

 東一局一本場で見せた後は出されていないが、それが発動すれば確実に逆転される。それだけの恐怖をニーナは感じていた。

 

 加えて前局で全世界に公開した最悪の恥ずかしい映像。

 ここは、伝家の宝刀を抜くしかない!(淡ではないので天下ではなく伝家です)

 

「リーチ!」

 ニーナは、第一ツモをツモ切りしてダブルリーチをかけた

 そして、比較的早い巡目………六巡目に、

「ツモ! ダブリーツモ平和ドラ2。3100、6100!」

 ハネ満ツモを決めた。

 

 これで、副将前後半戦のチームトータルは、日本チームが373400点、ドイツチームが426600点と53200の差を付けることになった。

 

 これを和了った直後、ニーナが、

「ミラ!」

 ボーっとしているミラに向けて大声を発した。

 綺亜羅ダブルエースを相手にしたら、普通はミラのようになって当たり前なのだが、今は世界の頂上決戦の最中なのだ。もっと、しっかりして欲しい。

「あっ! はいっ!」

「次、分かってるわよね!」

「…うん。」

 ニーナは、ミラに活を入れると、再び精神を集中し始めた。

 

 

 オーラス、敬子の親。

 敬子の第一打牌は{東}。当然、マイペースでの連荘を目指す。

 美和の和了りでは、役満をニーナかミラから直取りしない限り逆転できない。ここは敬子が和了らないと逆転勝ち星は見込めない。

 

 ところが、

「リーチ!」

 ニーナがダブルリーチをかけてきた。

 ただ、疲れ切った青い顔をしている。

 そう言えば、前半戦東三局が始まる時、ニーナは、

『一応、ダブリーは連発できるけど、淡ちゃんと違って私の場合は、ちょっと制限があるのよねぇ。』

 と言っていた。

 多分、連発は出来るが、負荷が大きいのだろう。

 それで、ニーナは、前半戦ではダブルリーチを東二局と南一局の二回しか見せていないし、後半戦でも東三局一本場、東四局一本場、南三局一本場、そしてこのオーラスと、日本チームの親を流しにかかる時だけに使っていたのだ。

 

 さすがにダブルリーチの待ちを読むことは出来ないが、ここで日本チームは振り込んだら負ける。完全に背水の陣状態だ。

 美和も敬子も、当らないよう祈って牌を切る。マイペースの敬子が、珍しく歪んだ顔を見せている。

 

 一方のミラは、いきなり筒子のド真中を切ってきた。

 ニーナに振り込んで、今のチームトータルで終了させようとしているのだ。

 その後もミラは、チュンチャン牌を切り続けた。そして、五巡目で、

「ロン。ダブルリーチのみ。2600。」

 とうとうミラはニーナへの差し込みに成功した。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:ニーナ 107500

 2位:美和 105500

 3位:敬子 105100

 4位:ミラ 81900

 ミラの一人沈みとなり、チームトータルも日本チームが210600点と原点を越え、ドイツチームが189400点となった。

 しかし、前後半戦トータルは、日本チームが373400点、ドイツチームが426600点で、ドイツチームが二つ目の勝ち星をあげ、勝ち星の数は二対二となった。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後に一礼が行われた。

 

 この時、珍しく敬子の目には涙が溢れていた。

 彼女が対局後に悔しくて泣くのは二度目。あの忌わしい春季大会団体決勝大将後半戦で不用意な和了りをやらかしてしまって以来だ。

 

 

 先鋒戦のチームトータルは、

 日本チーム:552200点

 ドイツチーム:247800点

 

 次鋒戦のチームトータルは、

 日本チーム:251000点

 ドイツチーム:549000点

 

 中堅戦のチームトータルは、

 日本チーム:423500点

 ドイツチーム:376500点

 

 副将戦のチームトータルは、

 日本チーム:373400点

 ドイツチーム:426600点

 

 そして、先鋒戦から副将戦までの全合計点は、

 日本チーム:1600100点

 ドイツチーム:1599900点

 

 たった200点差となった。

 もし、大将戦の前後半戦のチームトータルが同点引き分けであれば、得失点差勝負で日本チームの優勝となるが、そんなレアなケースは通常考え難い。

 基本的に大将戦で勝った方が優勝となるだろう。

 

 

 対局室に、大将達が姿を現した。

 日本チームからは穏乃と神楽。ドイツチームからは第二エースのクララとエリーザが参戦する。

 

 穏乃は、既に100速まで入っている。最高状態の支配に向けて、控室では淡が相手をしてくれた。

 お陰で準備満タンである。

 

 一方の神楽の身体からは、今までに無い強烈なオーラが放たれていた。

 昨年同様、日本の現役女子高生の生霊を降ろしているはずなのだが、ここまで強大なレベルのオーラを放つ生霊の例は無い。

 

 節子でもない。

 三銃士でもない。

 永水ツインズでもない。

 東横桃子でも片岡優希でも南浦数絵でもない。

 夢乃マホでも椋真尋でもない。

 宇野沢美由紀でも真屋由暉子でも藤白亜紀でもない。

 

 ただ間違いなく、この決勝戦に日本チームは大将として真の隠し玉を用意した。

 昨年の隠し玉は穏乃。

 そして、今年は前半戦と後半戦に分けて二人………。

 

 いよいよ全てをかけた大将戦が開始される。



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二百六本場:高校最後の世界大会決勝戦14  光と闇

 世界大会決勝は、いよいよ大将戦を残すのみとなった。この大将戦を征した方が優勝となる一戦。

 

 場決めがされ、起家が穏乃、南家がクララ、西家がエリーザ、そして、北家が神楽に決まった。

 

 穏乃は、神楽に、

「頼んだよ、光さん!」

 と声をかけた。

 強大なオーラの主は北欧の小さな巨人。神楽に降臨していた生霊は、ミナモ・A・ニーマンこと宮永光だ。

 今、光の身体は控室のソファーの上で眠りこけていた。

 

 日本チームは、前半戦の生霊として光、後半戦の生霊として咲を選んだ。

 

 そもそも、蒔乃(厳密には最強神)が中堅戦への参戦を希望したのは、大将戦に備えて光を休ませるためであった。

 つまり、体力の無い光が中堅戦………超エース対決で激しい疲労を被るのを回避したのだ。

 大将前半戦は、立ち上がりで光が攻めて稼ぐ。その後、南場を穏乃が抑え、前半戦をプラスで折り返そうとの判断だ。

 

 淡と和がフレデリカを疲労させるために次鋒戦に立候補したのも、大将後半戦で神楽に降りる咲への負担を軽くするためであった。

 とは言え、和の場合は生霊降臨などと言うオカルトを殆ど信じていないのだが………。

 

 前半戦でプラスになっていたら、若干マイナスになっても良いから後半戦は咲と穏乃で守る。

 万が一、前半戦がマイナスなら、東場は咲が守って南場を待つ。そして、咲と穏乃のダブルパンチでの逆転を目指す。

 

 

 やはり日本チームの主軸は咲と光である。

 この二つの太陽を中心に、日本チームは前人未到の三連覇を目指す。

 

 

 いよいよサイが振られ、東一局が開始された。

 親は穏乃。ドラは{⑧}。

 穏乃はスロースターター。東場では自分自身、ろくな活躍ができないと自覚している。

 故に穏乃は、この場で神楽(光)に第一弾の和了りを決めてもらい、東場を支配してもらいたいと思っていた。

 

 ただ、この時、穏乃は対面のエリーザから不穏な空気を感じ取っていた。

 加えて、よく分からないが卓上が歪んで見える。

 こんなことは生まれて初めてだ。

 

 この時、ドイツチームの控室では、ニーマンがテレビモニターを見詰めながらエリーザの活躍に大いに期待を寄せていた。

「再来年は、第一エースがクララ、第二エースがエリーザだからな。エリーザは闇を司る。ついたあだ名、点棒ブラックホールとは、よく言ったものだ。」

 エリーザは、現在のドイツチームで3位の実力。

 あの殺し屋カナコの上を行く。

 大将戦では、クララのスイッチが入るまでの前半部分を支配するのが、エリーザの仕事となる。

 

 日本チームは、前半戦を事実上、光と穏乃で戦う。

 光は、名前のとおり明るさの象徴。日本チームの太陽の一人。

 そして、穏乃は火焔を背にする。

 ともに明るい側の存在だ。

 一方のエリーザは、その対局に位置する存在のようだ。

 

 場が進む毎に空間の歪みが酷くなる感覚を受ける。

 なんだか気持ちが悪い。平衡感覚がおかしくなるし、吐き気がする。

 これがエリーザの場の支配。

 

 そして、光の調子が上がらないうちに、エリーザは、

「ツモ。タンヤオツモ一盃口ドラ3。3000、6000。」

 ハネ満をツモ和了りした。

 和了り手は、咲の嶺上開花のような派手さは無い。今回はドラを多く抱えているが、比較的一般的な和了り手に見える。

 

 開かれた手牌は、

 {②②④④④⑧⑧⑧22334}  ツモ{4}  ドラ{⑧}

 

 しかし、良く見ると、松実宥が好む暖かい牌が一枚も無い。

 暖色系の牌を一枚も引かないわけでは無いだろうし、使わないわけでもないだろうが、暗く冷たい手を主体とするのが彼女の特徴のようだ。

 

 

 東二局、クララの親。ドラは{二}。

 ここでエリーザは、

「ポン。」

 早々にクララから{南}を鳴いた。{南}はエリーザの自風である。

 さらに数巡後に、

「ポン!」

 またもやクララから{④}を鳴いた。恐らく、クララは自らのスイッチが入るまではエリーザの支援に徹するつもりなのだろう。

 

 エリーザの河は、最初に萬子、索子が捨てられ、その後に字牌が続いている。誰の目から見ても筒子の染め手であろう。

 そして、今回も光よりも早く、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {②②②⑧⑧西西}  ポン{横④④④}  ポン{横南南南}  ツモ{西}

 

「南混一対々。2000、4000。」

 満貫であった。

 ここでも暖色系の牌が一枚も使われない手となった。

 しかも、この手は赤色部分を持たない筒子、すなわち{②④⑧}と風牌のみからなる対々和で、黒一色とも呼ばれるローカル役満であった。

 本大会では、黒一色は採用されていないため満貫止まりとなったが、使える牌が七種類のみで、しかも順子が使えないため、結構、作るのは難しい。

 ローカル役満大好きっ子の十曽湧は、敵の和了りではあったが、これをテレビで見ながら大興奮していた。

 

 

 東三局、エリーザの親。ドラは{7}。

 ここでも、エリーザは最初に萬子から切り出し、その後に索子を捨てていった。

 その後に三元牌が続く。

 今回も筒子の染め手と言うことだろう。しかも、今回は門前で手を進めている。

 

 七巡目。

「チー!」

 第一弾の和了りを目指して、エリーザが捨てた{5}を神楽(光)が鳴いた。これで、ようやく光は聴牌した。

 しかし、その次巡で、

「ツモ。」

 先にエリーザに和了られた。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {②②④④⑧⑧東東南南西西北}  ツモ{北}

 

 これは、七対子型の黒一色である。限定された七種の牌のみで作る七対子なので、七対子型字一色───大七星と殆ど同じレベルの難易度になるのではなかろうか?

 ただ、ここでは門前清自摸混一色七対子としてカウントされる。

「6000オール!」

 とは言え、親ハネツモだ。結構大きい。

 

 このスタートダッシュで、現在の大将前半戦の順位と点数は、

 1位:エリーザ 138000

 2位:神楽(光) 89000

 3位:クララ 87000

 4位:穏乃 86000

 エリーザがダントツとなった。

 暗い色の牌が多く、しかも黒一色での和了りが目立ち、かつ大きく稼ぐ。点棒ブラックホールと呼ばれるのも何となく理解できる気がする。

 

 東三局一本場。エリーザの連荘。

 ドラは{中}。自分のところに対子か暗刻で来てくれると嬉しいが、全然こないと逆に怖くて嫌なドラだ。

 ここに来て、ようやく穏乃は、

「(鳴いて!)」

 光の支援方法が分かってきた。

 エリーザのデータは少ないため、今まで様子見していたが、どうやらエリーザは宥と真逆である。

 特に青色(黒色)系の牌が多い。緑色は、最初の和了りに含まれていたが、赤色は今までの和了りに含まれていない。

 

 クララは自分と同じでスイッチが入るのが遅いイメージ。これは、中堅戦を見ていて分かった。

 なので、これはエリーザにもクララにも鳴かれないだろう。

 そう思って穏乃はドラの{中}を早々に捨てた。

 これを、

「ポン!」

 穏乃の期待通り光が鳴いた。

 

 次巡、光は、牌をツモる指に力をこめた。

 基本的に光は、咲と同じで自分に都合の良い山を作る力があるだろう。

 ただ、それだけではない。能力を大量放出することで、欲しい牌をツモってくる力もあるようだ。

 勿論、エネルギーにも限界はあるので常時発動はムリだ。しかし、穏乃の能力発動までのショートスパンであれば、何とかなる。

 ここから光は、聴牌に向けて最短距離を突き進んだ。

 そして、

「ツモ。中ドラ4(中3枚に赤牌1枚)。2000、4000!」

 ようやく、光は第一弾の和了りを決めた。

 これで次からは、和了りへの速度は上がるはずだ。

 

 

 東四局、神楽(光)の親。ドラは{八}。

 前回の和了り役は1翻。今回の縛りは2翻である。

 光の配牌は二向聴。

 そこからムダツモ無しで、あっと言う間に聴牌した。これが能力全開の光である。これが常時発動できたら最強であろう。

 そして、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 

「ポン!」

 一発消しでエリーザが鳴いた。エリーザは、フレデリカほど明確では無いが山にある牌が何となく分かる。

 それで、この鳴きで光(神楽)には和了り牌が渡らなくなるはずと確信していた。

 しかし、

「ツモ!」

「えっ?」

 エリーザの期待に反して光がツモ和了りした。さすがに、エリーザも驚いたようだ。目を見開いて神楽の方を見ていた。

 

 今の光は、短期集中とは言え欲しい牌が引けるのだから、咲や照と同等以上の支配力を持つ者でなければ光のツモ牌に干渉することは出来ないだろう。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三三四[五]八八34[5]67}  ツモ{2}  ドラ{八}  裏ドラ{9}

 

「メンピンツモドラ4。6000オール!」

 一発が消されたのは痛いが、これでエリーザに持って行かれた分の大半を取り返した。

 

 この直後、卓上に靄がかかった。穏乃のスイッチが入ったのだ。

 時が来た。ここからは穏乃の山支配が発動する。これなら、ドイツチームに追いつくどころか逆転できる。光は、そう期待した。

 しかし、この靄を消し去るかのように場に風が吹いた。クララのスイッチも同時に入っていたのだ。

 一転して光は不安を感じ始めた。

 

 東四局一本場。神楽(光)の連荘。ドラは{七}。

 光は配牌二向聴。

 前局と同じで、光は指先に力をこめて牌を引く。

 しかし、不要な風牌ばかりを掴まされる。これが、クララの持つ慕と同じ能力だ。

 

 ただ、このクララの能力発動と共にエリーザのオーラが弱まっていった。

 クララの能力は、{1}で和了るだけではない。この風が吹いた時、不要な風牌は他家の序盤でのツモに均等分配される。

 ただし、黒一色に向かう能力を発動しているエリーザの場合は、逆に風牌が行かなくなる。エリーザの和了りを阻止する方にクララの能力が働いてしまうためだ。

 東一局での和了りのような、筒子と索子で手を作るのが限界になる。

 

 この場で唯一、序盤から欲しい牌を引けるのはクララだけ。

 

 クララの配牌は、

 {一三五123599白發中中}

 ここから、クララは、立て続けに{4[5]}と引き、{五三}と切り出した。

 そして、

「ポン!」

 エリーザが捨てた{中}を鳴いた。これは完全にクララの支援だ。ここからクララは打{一}。

 

 次にエリーザは打{9}。

「ポン!」

 これをクララは鳴いて打{白}。

 

 さらにその次にエリーザが捨てた牌は{5}。

 これを狙ったかのように、

「ポン!」

 またもやクララが鳴いた。打{發}。

 

 これでクララの手牌は、

 {1234}  ポン{5[5]横5}  ポン{99横9}  ポン{中中横中}

 

 光に、ようやくツモ番が回ってきた。

 しかし、引いてきたのは不要な風牌。これをツモ切り。

 まだ光の河には捨て牌が三枚しか出ていない。クララの鳴きで飛ばされたためだ。

 

 穏乃も風牌をツモ切り。光と同様に、穏乃の河にも捨て牌は三枚しかない。

 光も穏乃も、こんな状態だ。まだ手が全然できていない。

 

 そして、次巡。

 クララは、

「ツモ! 中混一赤1。2100、4100。」

 大方の予想通り{1}を引いて和了りを決めた。

 容姿と言い、その打ち筋と言い、まるで慕のコピーのようである。実際にはコピーではなく妹なのだが………。

 

 ただ、このクララの闘牌を見て、閑無とはやりは、

「あれって、何もかも慕とそっくりだよな?」

「そう思う。そう言えば、たしか慕ちゃんのお母さんって、今のドイツチームの監督にさらわれてたって話だよね。」

「意外と種違いの妹だったりして。」

「もしそうだったらシャレにならないけどね。」

 なんだかんだで、慕とクララに関係に、内心疑問を抱いていた。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。ドラは{九}。

 ここでも卓上に風が吹いた。クララの能力が、この場も支配しようとしている。

 しかし、

「(ここで和了る!)」

 穏乃も負けていなかった。

 この親番で絶対に逆転すべく強い意気込みを見せていた。

 

 元々、穏乃は責任感の強い性格だ。しかも、彼女の精神力は、個人戦よりも団体戦で、正確には団体戦の大将戦で、より一層強まる。

 それ故であろう。クララが起こす風では掻き消せないほどの濃霧が、一瞬のうちに立ち込めた。これは、穏乃の能力がクララの能力を上回ったことを意味する。

 

 この場では、クララによる風牌分散ツモはキャンセルされた。

 今、場全体を支配しているのは穏乃である。配牌は五向聴だったが、ここから彼女は着実に一歩一歩手を進めていった。

 

 一方のエリーザは、能力が中途半端に発動していた。穏乃の力によって、一部キャンセルされた状態なのだろう。

 エリーザは、今一つ能力の切れが悪い感じを受けていたが、失われたわけでは無い。一応、自身の手は進んで行く。

 それで、この穏乃の親を流すべく、黒一色に向けて手を進めていた。

 そして切った{一}で、

「ロン。」

 穏乃に和了られた。

 この時、振込んだエリーザには、穏乃の背後に火焔が見えていた。エリーザの持つ闇を完全に打ち消すほどの強大な炎だ。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五六八八345567}

 

 平和ドラ3の親満級の手。

「11600!」

 

 これで、大将前半戦の点数と順位は、

 1位:エリーザ 114200

 2位:神楽(光) 111200

 3位:穏乃 87400

 4位:クララ 87200

 

 これでチームトータルは、日本チームが198600点、ドイツチームが201400点と、その差を2800点まで詰め寄せてきた。

 

 

「一本場!」

 穏乃が元気な声で連荘を宣言した。

 

『この調子で逆転する!』

 この時、穏乃の目は、そう語っていた。



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二百七本場:高校最後の世界大会決勝戦15  闇を照らす炎

 世界大会決勝大将前半戦は南一局一本場。

 穏乃の連荘。ドラは{三}。

 

 ここでも卓上には濃霧がかかっている。

 今回も、クララの力はキャンセルされている。これは、ドイツチームにとっても予想外の展開だろう。

 

 この場を支配しているのが穏乃であることを、光はイヤと言うほど理解している。インターハイでも経験している強烈な力だ。

 敵だと忌々しいが、穏乃が仲間であることを、今は心強く思う。

 今、光がすべきこと。

 それは穏乃と拮抗することではない。穏乃を支援することだ。

 

 穏乃が欲しそうなところを敢えて切る。神楽の能力でみんなの手牌は透視できるのだから不可能な話では無い。

 それに、席順に恵まれた。光は今、穏乃の上家だ。

「(鳴いて!)」

 光が{四}を強打した。

「チー!」

 穏乃がドラ含みの面子、{横四三[五]}を晒す。

 

 さらに光は{7}を切る。

「ポン!」

 これを穏乃は鳴いて聴牌。

 

 エリーザもクララを支援したいが、エリーザの方が下家だ。

 この配置はドイツチームには不利であろう。

 それ以前に、この局は穏乃の支配が全てを上回っている。クララの手も殆ど進んでいない状態だった。

 

 次巡。

「ツモ。2100オール。」

 タンヤオドラ2の凡手で穏乃が和了った。

 

 小さな手だが、この対局を見ていた人達は、この和了りが大きな意味を持つことを誰もが理解していた。

 

 これで大将前半戦の点数を順位は、

 1位:エリーザ 112100

 2位:神楽(光) 109100

 3位:穏乃 93700

 4位:クララ 85100

 チームトータルは日本チームが202800点、ドイツチームが197200点で、日本チームが逆転したのだ。

 

 ただ、これでクララの雰囲気が変わった。

 副将戦までの勝つ星が二対二である以上、絶対に大将戦は負けられない。自分達の負けはチームの負けだ。

 是が非でも次の局で巻き返しを図りたい。そう強く思いながら、クララは今までに無い強大なオーラを放っていた。

 

 南一局二本場。穏乃の連荘。ドラは{六}。

 今回も卓上に濃霧がかかっている。まだ、ここは深山幽谷の化身が支配する場所であることを強く物語っている。

 しかし、いきなり突風が吹くと、場を覆っていた深い霧が全て吹き飛ばされた。

 

 まるで、南浦数絵が南入と同時に南風を吹かせ、穏乃の靄を消し去った時に似ている。

 ただ、数絵とクララは違う。

 数絵が風を吹かせるのは南入した直後の一回だけ。

 これに対し、クララは能力がキチンと発動すれば………キャンセルされていなければ、毎回風を吹かせることが出来る。

 

 この局ではクララの能力が場全体を支配した。

 穏乃も光も、序盤から不要な風牌だけを連続して引かされた。全然、手が進まないし、先が見えない。

 

 中盤に入り、

「リーチ。」

 とうとうクララがリーチをかけた。

 

 この時、クララの手牌は、

 {一二三七八九1112233}

 {1234}待ち。

 

 光も穏乃も、鳴いてツモの流れを崩したい。

 しかし、まるで咲の強制力と同等の強大な力が作用しているかのように、光と穏乃の思惑とは真逆の牌を掴まされた。

 と言っても不要な風牌。

 考え次第では安牌を引けたとも取れるのだが………、ただ、ここで単なる振込み回避をしたところで、それはクララの思う壺。光にも穏乃にも、そう思えてならない。

 振込まなければ一発でツモられる気がしてならなかったのだ。

 

「(クソッ!)」

 光は、神楽の能力で牌が透けて見えている。

 今、自分の手牌の中には、穏乃が鳴ける牌は無い。已む無く引かされた風牌をツモ切りした。

 

 一方の穏乃は、

「(お願い、光さん!)」

 光の河に萬子下がないのを見て、風牌ではなく{三}を切った。

 しかし、これを光はポン出来ず。やはり一発を消すことは出来なかった。

 

 そのまま、鳴きが入らずにクララの一発目のツモが回ってきた。

 そして、

「ツモ!」

 クララは待望の………、しかも彼女自身が三枚持ちの{1}を掴み取った。これは、超ド高目である。

 まさに慕と同じパターンだ。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三七八九1112233}  ツモ{1}  ドラ{六}  裏ドラ{②}

 

「リーチ一発ツモ平和ジュンチャン一盃口。4200、8200!」

 この一撃でドイツチームが再び逆転した。

 しかも、チームトータルは日本チームが190400点、ドイツチームが209600点。

 ドイツチームが20000点近くもリードした。

 

 

 南二局、クララの親。ドラは{七}。

 ドイツチームの優勝を願う人々は、ここからクララの怒涛の連荘を期待した。

 しかし、この局では卓上にかかった濃霧が消し去られることは無かった。前局でクララは能力を放出し過ぎて、穏乃の力を跳ね返せずにいたためだ。

 

 この時、穏乃は妙に無表情だった。

 勝負に燃えている雰囲気も見えないし、前局でのクララの和了りを悔しがっている様子でもない。

 ただ、直感的に先が見えている。そんな空気を光は穏乃から感じ取っていた。

 

 この強大な支配力。

 きっと大きな手を作ってくれるだろう。そう光は穏乃に期待していた。

 そもそも、神楽の能力が使える今、光には穏乃の手が見えている。なので、今の穏乃の手から最高の形に移行できればハネ満になることを光は知っていた。

 

 しかし、

「ツモ。500、1000。」

 序盤のうちに、門前清自摸ドラ1のみの手を穏乃が和了った。

 

 開かれた手は、

 {二四七八九九九①②③123}  ツモ{三}

 

 まだ伸ばせる手だ。

 たしかに、クララやエリーザに和了られる前に和了るべきではあるが、非常に勿体無い気がする。

 完全に期待はずれだ。

 ただ、穏乃のことだ。何かあるかもしれないし、少なくともクララの親を流せたのは大きいだろう。

 

 蔵王権現の力を宿す少女だ。無意味なことはしないはず。

 それに、ここでパートナーを疑っては勝てるものも勝てなくなる。

 光は、気持ちを切り替えて次局に望むことにした。

 

 

 南三局、エリーザの親。ドラは{一}。

 まだ、クララのエネルギーは回復していない様子だ。

 ここでも卓上には深い霧がかかっている。

 シンと静まり返った深い山の中に、一人取り残されたような感覚を、クララもエリーザも感じていた。

 それに、二人とも配牌とツモが全然噛み合っていない。まるで、クララの能力で使えない風牌をツモで押し付けられているような状態だ。

 

 中盤に入った。

 前局同様、穏乃の支配が強大だ。

 今度こそ穏乃の一撃が出ることを多くの人々が期待した。

 

 穏乃の手牌は、

 {一一二二三⑦7788999}  ツモ{三}

 

 ここから打{⑦}で聴牌。ド高目の{9}でジュンチャン二盃口のハネ満。

 ただ、リーチはかけず。

 他家の手牌が透けて見えている光は、今度こそ、この大きな手での和了りに期待する。

 

 しかし、次巡、

「ツモ。」

 光の期待に反し、穏乃は{7}を引いて和了った。

「ツモ。一盃口。500、1000。」

 この信じられない和了りに、日本チームファンは愕然とし、ドイツチームファンは歓喜の声を上げた。

 

 それにしても前局に続いて勿体無い和了りだ。

 和了れてはいるものの、今の穏乃………いや、日本チームには、ツキが有るのか無いのか微妙な感じに思える。

 傍目には、流れが完全にドイツチームのほうに流れているようにすら思えるだろう。

 

 これで大将前半戦の、現在の点数を順位は、

 1位:エリーザ 106400

 2位:神楽(光) 103900

 3位:クララ 100200

 4位:穏乃 89500

 チームトータルは日本チームが193400点、ドイツチームが206600点。

 ドイツチームがリードしているが、これから始まるオーラスで光が親満をツモ和了りすれば逆転できる範囲だ。

 

 ただ、今の流れからすると、ここでサクッとドイツチームに和了られて終わってしまうのではなかろうか?

 そんな予感がしてならない人も多かったようだ。

 

 

 オーラス。神楽(光)の親。ドラは{四}。

 依然として卓上は深い霧に包まれていた。

 クララの能力もエリーザの能力も、完全に穏乃の力によってキャンセルされている。

 

 ただ、困ったことに穏乃の能力には選択性がない。

 全員に均等に降りかかる。

 そのため光も能力キャンセルの影響を受けていた。

 せめて光だけでも、キャンセルの対象から外してもらえれば全然状況が違うのだが、普通に行けば、ここでも光は和了れない。

 

 光は配牌四向聴。

 手牌は、

 {一四五八⑦⑦22357東西中}

 この親番で、何とかして和了りたい。

 

 南入してから、光は能力をセーブしていた。

 これが、昨年同様の1対1対1対1の対局なら、恐らく光は南場も積極的に和了りを目指しただろう。

 しかし、今回は2対2の対局。

 相方のお陰で能力を溜めておくことが出来た。

 この場は、穏乃の能力を突き破るつもりで和了りを目指す。

 

 光は、ここでは最短距離での和了りを目指す。それに、親であり続ける限り、和了り続ける限り負けはしない。

 先ず、ここから打{一}。

 そして光は、全神経を指先に集中して次々と欲しい牌を引き当てる。

 

 四巡目、光の手牌は、

 {三四五八⑦⑦223457中}  ツモ{[5]}

 ここから打{中}

 

 同巡に穏乃が{2}を切ってきた。光への援護だ。

「ポン!」

 光は、これを鳴いて打{八}。

 これで光の手牌は、

 {三四五八⑦⑦345[5]7}  ポン{22横2}

 聴牌した。

 

 そして次巡、光のツモ牌は待望の{6}。

 これで光は、

「ツモ!」

 和了りを決め、

「タンヤオドラ2。2000オール。」

 ドイツチームから計4000点を取り返した。

 

 しかし、チームトータルは、日本チームが197400点、ドイツチームが202600点。まだ逆転していない。

 当然、日本チームは次の局で逆転を狙う。

 

 オーラス一本場。ドラは{九}。

 もはや卓上にかかる霧は、1メートル先も見えないような激しい濃霧と化していた。

 相手の捨て牌すら見難い。

 穏乃の支配力が、本日最強となった証拠だ。

 

 これだけ強烈なパワーだ。

 それに、どうやら穏乃が和了りを目指して動き出している。そんな気配を光は穏乃の放つオーラから感じ取っていた。

 もしかしたら、南二局と南三局での穏乃の安和了りは、この局が来ることを見据えての行動だったのかもしれない。

 つまり、あの時は、単にドイツチームとの点差が開かないように、ただ和了ることだけに徹していただけで、ここで来たチャンスで逆転劇を決める。そう言ったシナリオを持っていたのかも知れない。

 もしそうであれば、多分、穏乃がここで和了って決めてくれる。

 

 今は連荘一本場。穏乃がクララかエリーザから2600点を和了れば、芝棒分だけだが逆転できる。

 この局面で70符1翻の2300点、芝棒を付けて2600点をドイツチームから直取りして同点にしようとする変態は咲くらいしかいないだろう。

 

 それに、やはり席順が良い。

 光が穏乃の上家なのは大きい。

 ここで万が一、光が穏乃の和了り牌を捨ててしまい、穏乃がそれを見逃したとしても、ドイツチームから穏乃が直取りするのに影響しないからだ。

 

 今、手が進んでいるのは穏乃だけと推察する。

 しかし、濃霧に穏乃の姿が遮られて聴牌気配が見えない。

 

 この局、エリーザの配牌は、

 {二三五六七②②34689西}

 二向聴だった。

 

 今、自分らしい手を作ろうとしても無駄なことは理解している。この強力な支配下では手なりに打つしかない。

 第一ツモはドラの{九}。ここから打{西}。向聴数は変わらず。

 その後、しばらく不要なヤオチュウ牌ツモが続いた。そして、中盤に入り、エリーザはツモ{四}。ここから{9}を切った。

 

 突然、濃霧に覆われて見えないはずの穏乃の姿が、エリーザの目に飛び込んできた。

 南一局の時と同じで、穏乃の背後には火焔が見えた。同時に、それを本来所持する者、蔵王権現の姿も………。

 

 そして、

「ロン!」

 穏乃の和了り宣言が対局室にこだました。

 その直後、卓上からは濃霧が跡形も無く消え去り、穏乃の背後に見えた火焔も蔵王権現の姿も見えなくなっていた。

 

 開かれた穏乃の手牌は、

 {四五[五]六七八九九45678}

 

「平和ドラ3。7700の一本場は8000!」

 

 これで大将前半戦の点数を順位は、

 1位:神楽(光) 109900

 2位:クララ 98200

 3位:エリーザ 96400

 4位:穏乃 95500

 チームトータルは日本チームが205400点、ドイツチームが194600点。

 最後の最後で日本チームが逆転して後半戦に折り返した。

 

 

 神楽の身体から光の生霊が抜け出した。

 今、光の本体は控室で目を覚ました。



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二百八本場:高校最後の世界大会決勝戦16  主人公コンビ出陣

 世界大会決勝大将前半戦が終了した。

 穏乃と神楽は、一旦控室に戻った。

 

 神楽は、割と疲れた様子だ。

 超魔物の一人、光の生霊を口寄せしていたからであろう。

 

 降ろす相手の能力が強大であれば、それだけ神楽の身体には負荷がかかるとのこと。

 昨年は、透華の生霊が降りた後、神楽持ち前の能力である透視能力が全然使えなくなってしまったくらいだ。

 その前に、憩や衣の生霊を降ろしていたのも、実際には神楽への大きな負荷になっていたのではないかと今では考えられている。

 

 控室では、既に咲がソファーの上で眠っていた。神楽に降りる準備は、既に整っていると言える。

 やはり最後は日本の守護神………元清澄高校の大将と阿知賀の大将。

 最強大将コンビ(ダブル主人公コンビ)に勝利を託す。

 

 

「買っといたで。」

 恭子が自販機で買っておいた『飲むプリン』なるものを神楽に、『飲むバニラアイス』を穏乃に渡した。休憩中にエネルギー補給させるアイテムして二人が事前にリクエストしていたのだ。

 少なくとも、この状況で慕から、

『はいこれ!』

 と毎度の如く、つぶつぶドリアンジュースを渡されてもストレスでしかない。

 

 それで事前に二人は、

『あれを一度飲んでみたい!』

 と言って、恭子に買ってきてもらっていたのだ。

 

 飲むプリンを口にすると、

「身体が生き返るぅ~!」

 神楽の全身からエネルギーが満ち溢れてきた。

 やはり美味しいものは美味しいし、美味しいものは元気の元だ。特に疲れた時には、その効果を強く発揮するだろう。

 

 

 一方、ドイツチームの控室では、

「充電させて。」

 エリーザがフレデリカの腿の上に腰を降ろした。

 鹿倉胡桃が小瀬川白望の上に乗っていたのと同じだ。

 

 違うのはフレデリカの身体からドンドンエネルギーが吸われていること。これもブラックホールと呼ばれるようになった一因らしい。

 

 エリーザは能力放出の際に、かなりのエネルギーを消費するタイプのようで、食欲すら失われるほどのようだ。

 これでは、ムリに何かを食べさせても逆効果である。

 それで強大なエネルギーを持つフレデリカから充電させてもらっているのだ。

 

 勿論、別にエネルギーが吸われても命を吸われる訳ではない。エネルギーの元となるものを食べればフレデリカも元に戻る。

 そのためだろう。フレデリカの前にニーマンはホールケーキを置いた。エリーザの充電が終わったら、これを食べろと言うことだ。

 ある意味、ケーキの大人食いが出来るなんて羨ましい。

 このケーキを見て、カナコは、

「(うらやまシーサー。)」

 と心の中で呟いていた。

 

 …

 …

 …

 

 

 対局室に大将四人が姿を現した。世界大会決勝大将後半戦が、いよいよ開始される。

 大将前半戦のチームトータルは、日本チームが205400点、ドイツチームが194600点と日本チームがリードしているが、6400点………七対子ドラ2の直撃で逆転可能な範囲でしかない。

 それこそ、二年前のインターハイ二回戦で、穏乃が劔谷高校の安福莉子から逆転勝ちした点数でひっくり返る。

 

 

 場決めがされ、起家がエリーザ、南家がクララ、西家が神楽、北家が穏乃に決まった。

 既に、神楽の中には咲の生霊が降臨していた。故の西家だろう。

 

 東一局、エリーザの親。ドラは{八}。

 今、エリーザの中にはフレデリカのエネルギーが満ちている。

 彼女は、このパワーで東場は暴れ捲くり、圧倒的な点差を付けて南場に進めようと考えていた。南場は、クララに全てを任せる。

 つまり、片岡優希と南浦数絵でコンビを組ませたようなものだ。東場は優希で稼ぎ、南場は数絵で稼ぐと言う構図だ。

 ちなみに、フレデリカで充電したエリーザのことを、ニーマンは『フリーザ』と呼んでいたらしいが、選手達からは、

『つまらないオヤジギャグ!』

 と一蹴されていたそうだ。

 

 

 エリーザの配牌は、

 {一三八②②②④⑧[5]9南南北北}

 ここから打{[5]}。

 一般的には第一打には選ばれない打牌だろう。

 

 次のツモ番はクララ。エリーザをサポートすべく打{南}。

 当然、これを、

「ポン!」

 エリーザが鳴いた。オタ風牌だか黒一色に向けての大事な牌。ここから打{八}。赤牌に続いていきなりのドラ切りだ。

 

 そして、またもやクララのツモ番。

 ここでクララは打{北}。

 勿論、これを、

「ポン!」

 エリーザが鳴いた。そして、打{三}。

 

 次巡、エリーザはツモ{④}、打{一}。

 さらの次巡でツモ{⑧}、打{9}と手を進めて聴牌した。

 

 そして、そのさらに次巡で、

「ツモ!」

 エリーザは{④}を引いて和了った。

 まだ、咲も穏乃もツモ番が二回しか来てきない状態だ。これでは太刀打ちできない。

「混一対々。4000オール。」

 役牌が共にオタ風牌だったこともあり、親満止まりで済んだ。これは、咲としても穏乃としても不幸中の幸いであろう。

 

 よく何回も似たような和了りができるものだ。ある意味、小蒔や蒔乃に神様が降臨した時に似ているとも取れる。

 それにしても、黒一色が役満として認められていなくて日本チームとしては助かった。認められていたら、大変なことになっていただろう。

 

 東一局一本場。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤からエリーザはクララの支援で{東}を鳴いた。ダブ東だ。

 前局に比べると、若干だがエリーザの身体から放出される暗黒のオーラが弱まった感じを穏乃は受けていた。

 これはガス欠ではない。それくらいは、エリーザの顔を見れば分かる。然程疲れた表情は見えていない。

 

 ただ、嫌な表情が浮き出ている。

 恐らくこれは、咲からの能力干渉───支配力を受けて、思うように手ができていないと言ったところだろう。

 

 それでも、六巡目で、

「ツモ。」

 エリーザは咲の支配力を撥ね退け、和了って見せた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①②③④④⑤⑥⑦⑧}  ポン{東東横東}  ツモ{⑨}

 筒子の赤い色を持つ牌が含まれていたが、赤牌は無かった。

 そのため、全体的には明るい雰囲気が伝わってこない手牌である。

 

 今回の和了りは、咲の支配力に足を引っ張られたために、完全な暗黒にならなかったと言うことだろうか?

 しかし、ダブ東を持っているのは大きい。ダブ東混一色の30符3翻で3900オールだ。

「一本場は、4000オール。」

 これでエリーザは、実質親満二連発。親倍を一回和了ったに等しい。

 いきなりのスタートダッシュだ。

 

 東一局二本場。ドラは{1}。

 今回は、エリーザの全身からは、前々局で黒一色を和了った時のような強大なオーラが放たれていた。

 エリーザの支配力が、完全に咲の支配力を上回っている。この局に、エリーザは相当な能力を注ぎ込んでいるようだ。

 

 しかも、前局、前々局とは違って門前で手を進めている。

 そして、僅か七巡で、

「ツモ。」

 またもや黒一色の手を和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {②②④④⑧⑧東東南南西北北}  ツモ{西}

 前半戦東三局で和了ったのと同じ、七対子型黒一色だ。

 

「6200オール!」

 日本チームからすれば、対々和の形を門前で和了られていないだけマシである。もしそうなら四暗刻になってしまう。

 

 とは言え、恐るべきパワーだ。

 これで、大将後半戦の点数と順位は、

 1位:エリーザ 142600

 2位:クララ 85800(順位は席順による)

 3位:神楽(光) 85800(順位は席順による)

 4位:穏乃 85800(順位は席順による)

 ドイツチームは、予定通りエリーザの暗黒パワーで圧倒的なリードを作り出した。

 

 東一局三本場。

 ここでもエリーザは、

「ポン!」

 クララの援護で{④}と、

「ポン!」

 さらに{⑧}を鳴いた。

 

 ただ、東一局ほど配牌は黒一色に偏っていなかったのか、今回は珍しく手が遅い。

 とは言っても、中盤には、

 {①②②東東東南南}  ポン{④④横④}  ポン{⑧⑧横⑧}  ツモ{②}

 黒一色を聴牌した。

 今回は、ダブ東混一色対々和の親ハネコース。

 当然、ここからエリーザは{①}を強打した。

 

 この時であった。

 とんでもないレベルの悪寒がエリーザの背中を走り抜けた。

 その直後、

「カン!」

 神楽(咲)が{①}を大明槓した。

 

 今回、エリーザの配牌が優れなかったのは、咲の生霊が今まで以上に能力干渉していたためであろう。

 加えて咲は、この局面でエリーザが{①}を捨てるように仕向けていた。

 

 {①②②}と持っていたら、{③}が来る可能性も考慮して一般には{①}を残すだろう。

 もし、黒一色が役満として認められているのなら話は別かもしれないが、ここで黒一色を作っても単なる混一色としてのみカウントされる。故の{①}残しだ。

 そこに{②}を引いて黒一色………つまりダブ東混一色対々和を聴牌すれば、これはエリーザでなくても高い確率で{①}を切る。

 これを狙った………いや、咲はプロデュースしたのだ。

 

 咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {③}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{⑦}。これを引くと咲は、

「もいっこ、カン!」

 当然の如く{⑦}を暗槓した。

 さらに咲は三枚目の嶺上牌………{⑨}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 王牌には、最後の嶺上牌が残っている。

 これを引くと、咲は、

「ツモ!」

 嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤}  暗槓{裏⑨⑨裏}  暗槓{裏⑦⑦裏}  暗槓{裏③③裏}  明槓{①①①横①}  ツモ{[⑤]}

 

 黒一色で使われない筒子を用いての清一色四槓子であった。エリーザに行かないであろう筒子を咲は揃えに行ったのだ。

 しかも{①}を、一枚だけ予めエリーザに掴ませておいた。序盤でいきなり圧倒的リードを作り出したエリーザから直取りするために………。

 これは大会ルール上、エリーザの責任払いになる。

 

「32900です。」

 これでエリーザは、今まで稼いだ42600点の殆どを咲に奪われる形となった。

 しかも、これでチームトータルは、日本チームが204500点と原点を越え、ドイツチームが原点割りの195500点と、日本チームが大逆転した。

 さすが、日本の守護神、宮永咲の生霊である。

 

 

 東二局、クララの親。

 エリーザの身体から放出されるオーラが一気に減弱した。

 東一局一本場までに見せたスタートダッシュと、前局での四槓子の責任払いによる精神的ショックの二つが理由であろう。

 しかし、それでも常人よりは強いオーラを放っている。さすが、次期ドイツチームの第二エースとニーマンに言わせるだけの人間だ。

 

 まだクララのスイッチは入っていない。

 なので、ここもエリーザが和了りを目指す。クララが動き出すまでの場を支配して稼ぎまくるのがエリーザの使命だ。

 

 穏乃の中でも、まだ深山幽谷の化身としての能力は目覚めていない。

 そう言った中で、咲はオーラを弱めていた。やはり、前局で決めた四槓子に費やしたエネルギー量は、相当大きかったのだろう。

 ずっと格下の選手が相手なら、別に今回のような四槓子を和了っても膨大なエネルギーが消費されることはない。

 しかし、今の相手はエリーザだ。それも、フレデリカを充電器代わりにした輩だ。

 この魔物と対峙する以上、咲はエリーザに負けないパワーを放出しなければ四槓子を作れなかった。

 当然、対価は大きい。

 

 とは言え、咲のオーラがゼロになったわけではない。

 今のエリーザの和了りを阻止できるほどの力は出せないが、手役を下げさせるくらいの干渉は可能のようだ。

 

 この局、エリーザの配牌は、

 {一三六九②④⑧23689中}

 暖色を持たない牌は、{②④⑧2368}の七枚。

 ここから、{一三六九9中}を切り、六巡で七対子を聴牌した。

 

 そして、七巡目。

「ツモタンヤオ七対。1600、3200。」

 エリーザは、日本チームから3200点を取り返し、後半戦のチームトータルの点差を2600点まで縮めた。

 

 

 東三局、神楽(咲)の親。ドラは{8}。

 まだ、咲もエリーザもオーラの放出量が下がったまま。

 穏乃もクララもスイッチが入っていない。

 

 この超魔物四人が激突する大将戦の中で、この局が、ある意味一番大人しい………と言うか、最も能力麻雀からかけ離れた一局となるだろう。

 

「ポン!」

 エリーザがクララから{6}を鳴いた。

 今回も黒一色を作るのを放棄していたのだ。

 相手が超魔物と呼ばれるような人間でなければ、まだまだエリーザとしても、黒一色を狙って行ける自信はある。

 しかし、今回の相手はフレデリカに勝るとも劣らない超魔物。

 さすがのエリーザも、咲を相手に黒一色へと向かえるだけのパワーは、もはや搾り出せないようだ。

 

 エリーザが、

「ポン!」

 再びクララから{④}を鳴いた。

 この時、彼女は、

「(多分、これが私の大将後半戦最後の和了り…。)」

 と思っていた。

 ここで和了れば、次は東四局。恐らく、クララのスイッチが入るだろう。そうしたらバトンタッチだ。

 

 そして、その数巡後に、

「ツモ。」

 なんとかエリーザはツモ和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2334488}  ポン{④④横④}  ポン{66横6}  ツモ{2}

 まだ、対々和に移行できる形だったが、これで後半戦のチームトータルとして日本チームを逆転できる。それに、思っていた以上に疲弊した感じがある。

 それで、和了ることのみを優先したようだ。

 

「タンヤオドラ2。1000、2000。」

 この和了りは、大将前後半戦を通じて、エリーザが和了った中で最も点数が低い30符3翻の手だった。

 しかも、点棒ブラックホールとまで呼ばれる彼女としては、珍しく二連続で満貫に到達しない和了りでもあった。

 

 松実宥と対照的な暖かくない手だが、黒を示す牌は{④}の刻子だけ。

 この和了り手をドイツチーム控室のテレビモニターで見ていたニーマンは、

「{④}だけ………か………。なんだか、既にエリーザは『死あるのみ』とでも言われているみたいな気がするな。」

 と呟いた。

 何となくだが、急に嫌な予感がしてならなかった。



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二百九本場:高校最後の世界大会決勝戦17  世界大会決着

 世界大会決勝大将後半戦は、東四局を迎えた。

 親は穏乃。ドラは{②}。

 ここで、ようやく穏乃の『深山幽谷の化身』への変身スイッチが入った。卓上が靄に包まれてゆく。

 これまで日本の名高い女子高生雀士達が持つ様々な能力を封じてきた力。

 とりわけ大星淡にとっては忌々しい力の代名詞である。

 

 しかし、スイッチが入ったのは穏乃だけではなかった。

 同時にクララのスイッチも入っていた。

 卓上に風が吹き、靄を消し飛ばす。

 すると、途端にエリーザも咲も、穏乃でさえも配牌に噛み合わない不要な風牌をツモらされることになった。

 

 エリーザも咲も穏乃も、配牌に風牌は一枚もなかった。

 しかし、ここから立て続けに{東南西北}と順に一枚ずつツモらされる。これはこれで、非常に性格の悪い能力だ。

 その後、場風である{東}でもなく、また自風でもない風牌を一枚ずつ引かされる。これによって五巡は使えないツモが続くことになる。

 牌が透けて見えている咲の場合は、一応、オタ風の対子を狙って作ることは出来るが、今回はクララの支配が強くて、仮にポン出来ても四枚目が来ない。

 いきなりビハインド状態だ。

 

 もし、ここでエリーザの黒一色に向かう能力が多少でも発動していれば、クララの能力によりエリーザには逆に風牌が行かなくなる。

 しかし、今のエリーザは黒一色に進む力はない。それで、今回は風牌が行くように、しかも使えないように引かされることになっていた。

 

 穏乃のツモが普通に戻るのは七巡目以降、咲とエリーザのツモが普通に戻るのは六巡目以降になる。

 それまでの間、クララは一人、順調に手を進めて他家との差を広げて行く。

 この差は大きい。

 

 そして、七巡目。

 穏乃が、ようやく使えるツモ牌を引けた巡目で、

「ツモ。」

 クララが和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {七七②③④234[5]6789}  ツモ{1}

 門前清自摸平和一気通関ドラ2(表1赤1)のハネ満ツモ。

 

「3000、6000。」

 この一撃は大きい。

 大将後半戦のチームトータルは、これによって日本チームが189300点、ドイツチームは210700点と、20000点以上の差が開くことになった。

 

 しかも、この和了りによって、大将前後半戦のチームトータルも、日本チームが394700点と原点を割り、ドイツチームが405300点と、ドイツチームが逆転した。

 さすが、ワールドレコードホルダーを姉に持つだけのことはある。

 

 

 南入した。

 南一局、エリーザの親。ドラは{⑥}。

 卓上には靄が発生していた。これは、穏乃の能力の発動を示している。

 今回は、前局のように風が吹くことはなかった。どうやら、咲の支配力が、クララの能力を抑え込んでいるようだ。

 

 ただ、穏乃が咲から感じる能力は、勝つための支配力ではない。どちらかと言うと点数調整に向けた強制力である。

 それも、いつものプラスマイナスゼロとは少し違う。

 

 一応、これと似たような感じの空気は記憶にある。

 しかし、穏乃がこれを直接受けるのは、多分、今回が初めてである。

 

 靄が発生している以上、ここでは穏乃の支配力は健在である。

 しかし、20000点以上のビハインドを背負っているので、高い手を作りたいところなのだが、思うように打点が上がらない。

 ドラが………いや、持っている{⑤}か{5}が赤牌と入れ替わってくれれば、それだけでも大きいのだが、何故か赤牌にも恵まれなかった。

 

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {二二三三四四③④⑤⑥⑦55}

 

 この聴牌直後にエリーザが{②}を切ってきた。

 普段なら黒一色を構成する牌なのでエリーザからは出てこないだろう。しかし、支配力を失った彼女は黒一色に拘らない。

 凡手を作り上げるしか出来ない状態だ。

 それで、浮き牌………不要牌として{②}を切ったのだ。

 加えて靄で視界が悪く、河もよく見えていなかった。それゆえの暴牌でもあった。

 

 穏乃は、

「ロン。」

 これを見逃さずに和了った。

「タンピン一盃口。3900。」

 赤牌が一枚でも来れば7700の手に変わったのだが、今は贅沢を言っていられない。

 少なくとも今は、ドイツチームの親を一つ流したことを喜ぶべきだ。

 穏乃は、そう自分に言い聞かせて次局に望むことにした。

 

 

 南二局、クララの親。ドラは{中}。

 前局に続き、今回も卓上には靄が発生していた。ここでも咲の支配力が、クララの能力を抑え込んでくれていたようだ。

 

 穏乃の手牌は、和了りに向けて進んでくれてはいたが、前局と同様に打点が上がってくれなかった。

 しかも、前局よりもヒドイ。

 何となくだが、穏乃は、その原因が咲の強制力によることに気が付いた。

 その誰も抗えない強大な力が、クララだけではなく、穏乃の手役にまで悪い意味で影響を及ぼしているようだ。

 

 表ドラは使えない。

 これは、誰も対子で持っていないことを知った咲が、早々に捨てていた。

 穏乃自身も、これに合わせるように捨てていたし、これを見てエリーザも序盤で{中}を切っていた。

 つまり、既に三枚切れで国士無双でも狙わない限り不要な牌となった。

 

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {一二三四五六七八③④⑤66}

 

 {九}なら高目で一気通関が付くが、それでも平和一気通関の3900のみの手。

 ここに赤牌が一枚来てくれれば7700の手に成長する。なので、リーチはかけずに手変わりを待つ。

 

 しかし、ここでも聴牌即でエリーザが当たり牌………安目の{三}を切ってきた。

 一応、ドイツチームの振込みだ。

 もっと打点を上げてからにしたかったが、

「ロン。平和のみ、1000点。」

 これで穏乃が和了った。

 

 

 南三局、咲の親。

 ここに来て、咲のオーラが膨れ上がった。この親番で稼ぐつもりなのだろう。

 卓上からは靄が消えていた。

 ただ、風も吹いていない。

 咲の支配力が全てを抑え付けていた。

 

 ただ、穏乃の能力とクララの能力を同時に抑えるのは咲としても厳しい。かなり力を消耗するようだ。

 それゆえだろう。雑魚を相手にしている時ほど打点が和了らない。

 

「カン!」

 咲がエリーザから{中}を大明槓して有効牌を引き入れた。

 この時、クララは咲から聴牌気配を感じ取った。

 

 ただ、{中}が暗刻で一向聴なら、普通は大明槓しない。

 それを敢えてして来たと言うことは、今、咲は通常のツモで聴牌できる自信が無いものとクララは考えた。

「(多分、これは、私を抑えるためにミヤナガも、かなりのエネルギーを消費している証拠ね。)」

 この局は、咲のほうが、手が早い。多分、咲に持って行かれる。

 しかし、この分なら次局は咲の支配力が弱まるだろう。そこがチャンスとクララは判断した。

 

「カン!」

 咲が{西}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ! 中嶺上開花ドラドラ。4000オール!」

 咲は、華麗なる嶺上開花を決めた。

 

 しかも、これで大将後半戦のチームトータルは、日本チームが202200点と原点を越え、日本チームが再逆転した。

 クララに続いて咲も見せてくれる。

 この対局をテレビで見る多くの人達が、まさにそう思った瞬間だった。

 

 南三局一本場、咲の連荘。ドラは{西}。

 クララは、予想通り咲の支配力が弱まって行くのを感じた。

 これなら自分の支配下で高打点の手を和了ることができるとクララは踏んだ。

 

 クララの配牌は、

 {四七八②⑤134578東北}

 平和手に向けての四向聴。

 しかし、このチャンスを平和一気通関だけで終わらすつもりは無い。

 

 ここからクララはツモ{2}、打{⑤}。

 

 ツモ{3}、打{四}。

 

 ツモ{9}、打{七}。

 

 ツモ{2}、打{八}。

 

 ツモ{東}、打{②}。

 

 そして、ツモ{6}で聴牌した。

 ここから打{北}で、

「リーチ!」

 勝負に出た。

 

 手牌は、

 {12233456789東東}

 

 そして、咲の嶺上開花と同様に、クララは当然の如く、一発で高目の{1}を自らの手で掴み取った。

「ツモ! リーチ一発ツモ平和タテホン一通一盃口。」

 ただ、表ドラ無しに、裏ドラも乗らなかった。赤牌も無い。

「4100、8100!」

 非常に悔しい10翻の倍満。

 

 しかし、これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(咲) 116000

 2位:クララ 105900

 3位:エリーザ 104100

 4位:穏乃 74000

 もしこれが、25000点持ちであれば、ここで穏乃が箱割れして終了であった。

 この大将戦では、前半戦で誰も75000点を割らなかったし、後半戦でも誰かが75000点を割るのは、実は、これが初めてであった。

 

 後半戦のチームトータルは、日本チームが190000点、ドイツチームが210000点と、ドイツチームが再逆転した。

 また、前後半戦トータルでは、日本チームが395400点、ドイツチームが404600点と、こちらもドイツチームが再逆転する結果となった。

 ドイツチームが日本チームに9200点差をつけてオーラスに突入する。

 

 

 オーラス。穏乃の親。ドラは{發}。

 最後の最後で、咲のオーラが今まで以上に大きく膨れ上がった。

 

 穏乃もクララも尻上がりに支配力は強くなるが、この局では咲の支配力………いや、強制力が全てを凌駕していた感じだ。

 

 やはり、この雰囲気は点数調整を前提とした強制力だ。しかし、咲が一体何をやろうとしているのか、穏乃には全く理解できなかった。

 少なくとも、いつものプラスマイナスゼロとは違う。過去に何回か見せた仮想プラスマイナスゼロでもない。

 

 それと、穏乃の手牌が、妙に縦に伸びる。

 これも咲の強制力が絡んでいるようだ。

 

 穏乃の手は、凡手が多い。

 そこにドラが含まれて満貫やハネ満になることはあるが、和了り役そのものは一般的なものだ。咲のような派手さは無い。

 ただ、今回は序盤で{⑨}と{西}が既に暗刻になっていた。

 平和には程遠い手だ。

 同じヤオチュウ牌なら、{⑨}か{西}が、{發}と入れ替わってくれていれば、役有りドラ3で嬉しかったのだが、さすがに、そこまで都合良く行かない。

 ただ、聴牌形には徐々に近づいていた。

 

 

 十巡目。

 穏乃が聴牌した。

 手牌は、

 {②②③③④⑨⑨⑨24西西西}  ツモ{①}

 

 連続して筒子をツモり、手が自然と染まって行ってくれた。

 しかも、やはり手が縦に伸びる。{②}と{③}も対子になった。

 ただ、悪い流れでは無い。

 これなら門前混一色にヤオチュウ牌の暗刻が二つで、出和了り50符3翻の9600、ツモれば親満が期待できる形になってきた。

 ここから打{4}で一旦{2}単騎の聴牌。

 当然、門前混一色への手変わりを視野に入れるのでリーチはかけない。

 

 同巡。

 咲は、

「(神楽ちゃんお願い!)」

 心の中で、そう大声を発しながら{發}を強打した。

 ドラの三元牌切り。一瞬、場が凍りついた。しかし、誰も鳴かず。

 

 この直後、穏乃には、上家の神楽の姿が、まるで真っ黒な影………と言うか黒い無機的な塊のように見えた。

 同時に、自分の身体の中が、もの凄く熱くなってきた。

 

 自分の頭の中に、知らない記憶が舞い込んできた。

 ただ、これは一人のモノでは無い。二人分だ。

 

 なけなしの小遣いを守るためにプラスマイナスゼロを身につける記憶。

 それと、巫女として修行する記憶。

 多分、これは咲と神楽の記憶だ。

 

 これが、神楽の持つ霊力が引き起こす最大の技。自らの中に降臨する咲の生霊と共に、神楽の魂が穏乃の中に入り込んだのだ。

 この最後の時のために残しておいた能力だ。

 ただ、普段の降霊と違って、どうやら互いの記憶を共有してしまうようだ。それで咲と神楽の記憶が穏乃には見えていたのだ。

 

 

 穏乃が自分の変化に気付いていた時、クララとエリーザは、穏乃のほうを見ながら顔が蒼褪めていた。

 この時、穏乃の背後には火焔が現れていた。まあ、これは後半になって穏乃が和了る時によく見る光景だ。これだけでは今更驚かない。

 ただ、今回はいつもと違う。クララとエリーザには、穏乃の姿が三面六臂(顔が三つで腕が六本)の、神仏の像に似た何かに見えたのだ。

 もはや人間の枠を超越している。

 

 この様子をテレビで見ていた神代小蒔は、

「まるで蔵王権現と観音菩薩、不動明王が合わさったように見えます。」

 穏乃の姿から最大級のエネルギーを感じ取っていた。

 勿論、一般の人間には、穏乃の姿は普通の人間に見えた。霊力とか特殊能力を持っている者限定で三面六臂に見えるようだ。

 

 

 穏乃の両脇に神楽と咲の顔が付いているように見える。そして、彼女は、三本ある右手の一本で山から牌をツモると、

「カン!」

 強大なオーラを放ちながら{西}を暗槓した。

 そして、嶺上牌………{2}を引くと、

「ツモ!」

 穏乃は、嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {①②②③③④⑨⑨⑨2}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{2}

 

 偶然にも、これは咲が清澄高校麻雀部に入部する前に披露した70符2翻の手と同一の形であった。

 この和了りの直後、穏乃も神楽も元の姿に戻り、咲の生霊は本体へと帰って行った。

 

「2300オール。」

 穏乃は電光掲示板に映し出された大将前後半戦トータルの点数を確認すると、これが咲の狙っていた点数調整であることを理解した。

 なるほど。たしかに超化物である。

 

 そして、穏乃は、

「これで和了り止めにします。」

 大将戦の終了を宣言した。



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二百十本場:女子高生宮永時代、ここに終結

「大将戦決着───!」

 アナウンサー福与恒子の声が日本中にこだました。

 

 

 先鋒戦から副将戦までの勝ち星は二対二。

 

 先鋒戦のチームトータルは、

 日本チーム:552200点

 ドイツチーム:247800点

 

 次鋒戦のチームトータルは、

 日本チーム:251000点

 ドイツチーム:549000点

 

 中堅戦のチームトータルは、

 日本チーム:423500点

 ドイツチーム:376500点

 

 副将戦のチームトータルは、

 日本チーム:373400点

 ドイツチーム:426600点

 

 そして、先鋒戦から副将戦までの全合計点は、

 日本チーム:1600100点

 ドイツチーム:1599900点

 

 たった200点差だが日本チームがリードしていた。

 

 

 そして、勝敗を決する大将戦。

 大将戦前半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(光) 109900

 2位:クララ 98200

 3位:エリーザ 96400

 4位:穏乃 95500

 

 チームトータルでは、

 日本チーム:205400点

 ドイツチーム:194600点

 

 そして、大将後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(咲) 113700

 2位:クララ 103600

 3位:エリーザ 101800

 4位:穏乃 80900

 前半戦と順位は同じ。

 

 ただ、チームトータルでは、

 日本チーム:194600点

 ドイツチーム:205400点

 前半戦と100点棒の位まで、両者で完全に点数が入れ替わった。

 

 そのため、大将前後半戦トータルは、

 日本チーム:400000点

 ドイツチーム:400000点

 

 これにより、大将戦は引き分けとなり、勝ち星は2.5ずつとなったが、先鋒戦から大将戦までのチームトータルでは、

 日本チーム:2000100点

 ドイツチーム:1999900点

 僅か200点だが日本チームがドイツチームを上回り、日本チームが前人未到の三連覇を成し遂げた。

 

 …

 …

 …

 

 

 表彰式が始まった。

 3位決定戦は、3対1で中国チームが勝利していた。前回大会と同様に、銅メダルが中国チームメンバーに順次かけられていった。

 アメリカチームは、二年連続でギリギリのところでメダルなしの結果に終わった。

 

 銀メダルはドイツチームメンバー、金メダルが日本チームメンバーに順々にかけられていった。

 これで咲は、女子高生世界大会で三回目、三つ目の金メダルを勝ち取った。世界で唯一人、咲だけが成し得た快挙である。

 

 優秀選手は光、フレデリカ、クララが選ばれた。準決勝戦までの虐殺振りが評価されたと言って良い。

 加えて光の場合は、決勝先鋒後半戦での咲へのダブル役満差し込みにより、超時間短縮で先鋒戦を勝利に導いたことも評価された。

 コンビ麻雀では、ただ自分が点棒を溜めることだけに執着していてはダメなのだ。

 

 そして、最優秀選手には咲が選ばれた。

 単に相手を大虐殺したから最優秀賞に選ばれたと思う人も多かったようだが、実は、そうではなかった。

 コンビ麻雀として重要なこと、つまり如何にパートナーを上手に使うかを良く知っており、それを器用に成し遂げたところが高く評価された。

 美和とのペア、淡とのペア、光とのペア、いずれもパートナーを上手に使ってチームの勝利に繋げた。ここが、フレデリカやクララとは違うところだ。

 

 一応、ドイツチームでも互いの個性を上手に使うように考えてはいたが、東場で能力をフルに使う選手と南場で能力をフルに使う選手に作業分担しただけである。

 これだけでは、審査員達の心には響かなかったようだ。

 

 また、全世界に夢と希望を与えてくれた美和には、特別賞が送られることになった。こんなエロ麻雀を積極的に披露する人間は滅多に現れない。

 例えば、二年前だって獅子原爽はパウチカムイを使っていない。この手の能力は、持っていても隠したがる人間の方が多いのだ。

 

 

 宮永照の出現から5年。

 宮永姉妹………いや、宮永照、咲、光を中心に展開されたと言っても過言ではない『女子高生宮永時代』が終焉の時を迎えた。

 

 …

 …

 …

 

 

 世界大会の最終日、咲、穏乃、恭子の三人は東京に泊まったが、神楽は明日から開催される中国四国大会出場のために広島へ、蒔乃は九州大会のために博多へ、フレデリカは近畿大会出場のために大阪へと移動した。

 

 フレデリカは、自分と容姿が似た咲と話がしたかったようだが、今の咲は、むしろフレデリカを避けたかった。

 穏乃が咲と神楽の記憶を受けた時、同様に咲も神楽の記憶を受けていた。

 それで、咲も………恐らく穏乃も、フレデリカとクララの正体を知ってしまったのだ。

 

 咲としては、フレデリカが急いで移動してくれて、今日のところは助かった。

 フレデリカを前に、どういった態度を取れば良いのか、咲自身も分からなくなってしまったのだ。

 

 一方の穏乃は、それで咲に何かを聞いてこようとはしない。何事も無かったかのようにしてくれていた。

 多分、咲もフレデリカに対して、穏乃と同様の接し方をすれば良いのだろう。つまり、何事も無かったと………。

 

 

 そう言えば、昨年も一昨年も、世界大会終了の後は慌しかった。

 もう、咲は引退組である。

 今年は、明日大阪に入り、後輩達の試合を見学する。

 

 今の阿知賀女子学院のメンバーなら、一回戦は問題なく勝てるだろう。問題となるのはフレデリカ、マホ、真尋を擁する千里山女子高校だけと思われる。

 

 恭子にトーナメント表を見せてもらった限り、千里山女子高校とはブロックが違うので決勝戦まで当たらない。

 なので、咲は、後輩達が無事に春季大会出場権を獲得してくれると思っていたし、特段心配をしていなかった。

 

 

 咲の期待に応え、後輩達は、無事決勝戦進出を果した。

 ルールは昨年と同じで星取り戦。

 

 メンバーは、

 先鋒:小走ゆい(2年生:部長、小走やえ妹)

 次鋒:車井百子(2年生:車井百花妹、ややオモチの娘)

 中堅:藤白亜紀(1年生:藤白七実妹、現エース)

 副将:宇野沢美由紀(2年生:副部長、宇野沢栞妹、かなりのオモチの娘)

 大将:椿野美咲(1年生:椿野美幸妹、アンチ咲)

 オーダー変更可能なルールになっていたが、今回は一回戦から決勝戦まで全てこのオーダーで望んだ。

 

 決勝戦では、強豪千里山女子高校と対決。

 千里山女子高校のメンバーは、

 先鋒:フレデリカ・リヒター(2年生:咲のクローン、絶対的エース)

 次鋒:椋真尋(1年生:第二エース、椋千尋の再従妹)

 中堅:夢乃マホ(1年生:魔物候補生、コピーマシーン)

 副将:浦野瑠子(2年生:部長、一番多く持つ牌が裏ドラになる)

 大将:麻川雀(2年生:副部長、非能力者)

 こちらも一回戦から決勝戦まで全てこのオーダーで望んでいた。

 

 先鋒戦、次鋒戦は千里山女子高校の圧勝だった。

 このまま千里山女子高校がストレートで優勝するかと思われたが、中堅戦で亜紀の白亜紀パワーが爆発。マホの放水を誘い、亜紀が勝ち星を得た。

 その後、副将戦、大将戦では阿知賀女子学院が勝利を収め、阿知賀女子学院が逆転優勝を果たした。

 

 しかし、もし千里山女子高校のオーダーが違っていたら、結果は変わっていただろう。

 例えば副将と大将が入れ替わっていただけでも違う。

 美由紀の勝利は変わらないと予想されるが、美咲と瑠子が対決したら、瑠子に軍配が上がったかもしれない。

 

 …

 …

 …

 

 

 月日が流れ、阿知賀女子学院では卒業式が執り行われた。

 インターハイ団体戦三連覇、個人戦三連覇。

 春季大会では団体戦で優勝一回に準優勝一回、個人戦は二連覇。

 コクマは三連覇。

 世界大会三連覇。

 このとんでもない記録を作り上げた女子高生も、全員主役の卒業式では、単なるモブ顔の目立たない少女になる。

 

 逆に目立つのは援交疑惑が持ち上がる美少女、新子憧であった。

 インターハイ時点での大会顔面偏差値ランキングでは10位。

 宇野沢美由紀の7位には負けたが、少なくとも今年の阿知賀女子学院卒業生の中では一番の美少女とされた。

 

 

 同日、白糸台高校や綺亜羅高校、永水女子高校でも卒業式が執り行われた。

 

 白糸台高校では、大会顔面偏差値ランキング1位の佐々野みかん、6位の原村和、8位の多治比麻里香、11位の大星淡と、麻雀部員が結構目立っていた。

 咲の従姉妹、宮永光は、一応顔面偏差値ランキングで上位の方だが、他の四人が凄過ぎる。白糸台高校で麻雀最強でも、この場だけは脇役のようだ。

 

 白糸台高校麻雀部は、レギュラー五人全員が3年生だったため、秋季大会はメンバー総入れ替えで望むことになった。

 その結果、都大会では優勝できず。

 一応、3位入賞で春季全国大会の出場権を得ることはできたが、大幅な戦力ダウンは避けられなかった。

 

 

 綺亜羅高校では、大会顔面偏差値ランキング2位の稲輪敬子が、周囲の注目を独り占めしていた。

 さすがに今日は、卒業式である。

 麻雀部の仲間達………的井美和、鷲尾静香、竜崎鳴海、鬼島美誇人と言った面々が、敬子に化粧をしてあげ、髪をとかし、少なくとも『残念な美少女』にならないようにと最善を尽くしてくれていたようだ。

 きっと、古津節子が生きていたら、彼女も敬子をより一層綺麗に仕上げることに率先して協力してくれたに違いない。

 

 ただ、白糸台高校と同じで、こちらも麻雀部のレギュラー五人全員が卒業である。

 後輩チームは、埼玉県大会では優勝したが、関東大会では2位と順位を下げた。

 新エースの茂木紅音が圧倒的な麻雀を見せ付けてくれたが、やはり三銃士、人魚姫(本性:クラーケン)、女子高生ホイホイを擁した先代には敵わない。

 こちらも戦力ダウンである。

 

 

 永水女子高校では、六女仙の四人目、滝見春とステルスモモこと東横桃子が卒業。

 この日、桃子は咲以上に目立たないキャラを作っていた。

 麻雀部は、石戸明星、十曽湧、神代蒔乃のトリプルエースの活躍もあって、九州大会優勝を余裕で果たした。

 春季大会の成績が大いに期待されるチームである。

 

 …

 …

 …

 

 そして、春季大会。

 決勝戦は、奈良県の阿知賀女子学院、北大阪の千里山女子高校、鹿児島県の永水女子高校、そして埼玉県の綺亜羅高校の対戦となった。

 白糸台高校は、残念ながら準決勝戦敗退。二年半前のインターハイで団体5位となった千里山女子高校と同じポジションになったと言って良いだろう。

 

 

 優勝は永水女子高校。

 次鋒の明星、中堅の蒔乃、大将の湧で勝ち星三をあげた。

 

 2位は千里山女子高校。

 近畿大会の時と同じオーダーで臨んだ。

 先鋒のフレデリカが勝ち星をあげたが、次鋒の真尋と中堅のマホは敗退。勝ち星一に留まる結果となった。

 

 阿知賀女子学院は、昨年より一つ順位を下げて3位となった。

 こちらも、近畿大会の時と同じオーダーで臨んだが、勝ち星をあげられたのは副将の美由紀のみとなった。

 得失点差で3位。これは、先鋒戦でのフレデリカの大虐殺が効いていた。

 

 綺亜羅高校は4位。

 昨年の3位から順位を下げ、惜しくもメダルを逃す結果となった。

 

 

 咲、光と言った超魔物が卒業したものの、次なる魔物達がいる。なので、未だ、女子高生麻雀のファン達は多い。

 次から次へと現れる新しい魔物達が、これからの時代を牽引して行く。

 

 …

 …

 …

 

 

 そして4月。

 咲は、大学に進学し、麻雀部を訪ねた。

 この世界には、麻雀推薦なるものがある。

 あれだけの記録保持者だ。普通に麻雀推薦で進学するかと思われたが、推薦を蹴り、一般入試で進学したと言う。

 それも、推薦を断った大学に一般入学すると言う、傍から見たら実に非効率なことをしていた。

 多くの人々からは、

『意味不明!』

 と言われたが、麻雀推薦で行ける学部と咲が行きたい学部が一致していなかったため、麻雀推薦を蹴ったと、表向き本人は語っていたようだ。

 

 

 咲が進学した大学には、二学年上には宮永照、一学年上には天江衣が在籍していた。

 照は麻雀推薦。衣は一般入試で入学していた。

 

 ちなみに、龍門渕高校のメンバーは、衣以外は全員が龍門渕大学に進学。衣だけが別の大学へと進学していた。

 しかも、衣一人での上京。

 さすがに龍門渕透華も心配になり、スーパー執事を衣の付き人として衣の暮らすマンションの隣の部屋にムリヤリ入居させたと言う。

 

 咲の同学年には、宮永光(麻雀推薦)、綺亜羅高校の的井美和(麻雀推薦)と稲輪敬子(指定校推薦)、風越女子高校の園田栄子(一般入試)と言った見知った人達がいた。

 

 また、朝酌女子高校出身の出雲弥呼(いずもみこ)が麻雀部に入部した。咲と同じクラスの女性だ。

 彼女は、高校時代には麻雀部には所属していなかったが、昨年の世界大会を見て感動し、何かに導かれるように咲と同じ大学へと進学した。

 石見神楽の従姉妹で、神楽を凌ぐ能力者らしい。

 

 この世界では、大学の大会は、高校のインターハイと同様の四校対決の大会と、先の世界大会のようなコンビ打ちの大会の二つがあると言う。

 コンビ打ちの大会では、咲と美和の最悪コンビが再び結成される。

 いずれにしても、この面子を見れば、他大学にとって凶悪なオーダーが組まれることは間違いない。

 

 

 新子憧は最高学府に進学。文系である。

 同じ学部の二学年上には晩成高校の小走やえが、理工学系学部の一学年上には千里山女子高校の船久保浩子がいた。

 また、同じ最高学府の医学部には、綺亜羅高校の鷲尾静香が入学していた。

 

 

 原村和は、咲と別の大学に進学したが、咲が暮らすワンルームマンションのすぐ近くに部屋を借りたとのことだ。

 咲へのストーカー行為が懸念される。

 二学年上には清澄高校の元学生議会長の竹井久と風越女子高校麻雀部元キャプテンの福路美穂子が、一学年上には臨海女子校(留学生)の雀明華が、また同学年には綺亜羅高校の竜崎鳴海、鬼島美誇人の姿があった。

 さらに、ドイツチームメンバーだった西野カナコと百目鬼千里も、ドイツ留学中の単位が認められて無事に日本の高校を卒業。和と同じ大学に入学していたそうだ。

 これはこれで強豪校になること間違いないだろう。

 

 

 高鴨穏乃は、松実宥、松実玄、鷺森灼と同じ地元の大学に進学した。

 この旧阿知賀女子学院メンバー四人の力で関西地区に旋風を巻き起こして行く。

 ちなみに晩成高校の岡橋初瀬も、穏乃と同じ大学にいた。憧なら、きっとこの大学に進学すると思って、ここに決めたようだ。

 来年、憧を追いかけて最高学府を受け直す気らしい。

 

 

 また、関西地区と言えば千里山女性高校の園城寺怜、清水谷竜華、江口セーラが同じ女子大に進学していた。

 そこには、姫松高校の愛宕洋榎、愛宕絹恵、上重漫、そして大阪最強と言われた三箇牧高校の荒川憩の姿もあった。

 ただ、千里山女性高校の二条泉は、その大学には進学しなかった。新たな道を探して大阪を離れたのだ。

 これには、自分を見詰め直す意味も含まれていた。

 

 

 北海道では、真屋由暉子が獅子原爽と同じ地元の大学に進学。

 何故かそこには、新道寺女子高校の白水哩と鶴田姫子の姿もあった。爽のパウチカムイを求めて北海道に渡ったと噂されている。

 琴似栄の吉田も、この大学だ。

 

 

 永水女子高校の東横桃子は、鶴賀学園の加治木ゆみと同じ大学に進学した。そこには白糸台高校の元部長、弘世菫もいた。

 また、桃子と同学年には臨海女子高校の南浦数絵の姿もあった。

 

 

 片岡優希と大星淡は、咲や和よりもランク下の大学に進学した。

 辻垣内智葉、渋谷尭深、亦野誠子、花田煌と同じ大学だ。優希は、煌を慕って、淡は誠子を慕って、共にこの大学に決めたようだ。

 また、そこには池田華菜と、何故か中田慧がいた。

 それと………二条泉も、ここに進学していた。

 ウザキャラ頂上決戦に出場した四人のうちの三人が揃っている。うるさい麻雀部になりそうだ。

 淡と一緒に同大学に進学した佐々野みかんと多治比麻里香の胃に穴が開かないか心配だ。

 

 

 

 初夏を向かえ、大学でも大会が開始された。

 まずはコンビ打ちの大会。

 

 咲のチームは、一先ず以下のオーダーで申請した。

 先鋒:宮永咲・的井美和

 次鋒:出雲弥呼・稲輪敬子

 中堅:宮永照・宮永咲

 副将:宮永光・園田栄子

 大将:天江衣・宮永照

 

 コンビ麻雀最強の咲と、女子高生ホイホイと呼ばれた的井美和が、いきなり女子大生雀士達を相手に大変な事を起こしそうな布陣だ。

 恐らく美和は、今後、女子大生ホイホイと呼ばれることになるだろう。

 

 

 また熱い闘いが始まる。




カナコと千里も、栄子と同様にドイツでの単位が認められて無事卒業出来ている設定でお願いします。


高校の部は、これで終了です。今迄お付き合いいただき有難うございます。
大学生編は別作品とせず、咲-Saki-阿知賀編入の第七部として書けるところまで継続できればと思います。


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第七部:六大学対抗戦
二百十一本場:六大学対抗戦-1  最悪コンビ再結成


女子大生編です。


「よろしくお願いします!」

 今日から六大学対抗戦がスタートする。

 毎週土曜日と日曜日を使って、計八日間に渡り行われる。団体戦が六日間、個人戦が二日間である。

 

 

 宮永咲は、この4月にK大学に入学し、麻雀部に入部した。

 麻雀推薦では、行きたい学部に進学できなかったため一般入試でチャレンジし、見事合格した。

 

 他に指定校推薦やAO入試などの方法もあったが、咲は、それらの方法を選択肢とはしなかった。

 学生の本分は勉学である以上、進学先のレベルと自分のレベルがキチンと合っているかも確かめたいとの気持ちもあったようだ。

 つまり、推薦で入学しても大学のレベルに付いて行けずに留年するようでは拙いとの判断をしたのが本音のようだ。

 

 

 K大学麻雀部には、総勢100名を越える部員が所属していた。

 その筆頭となるのが3年生の宮永照、ナンバーツーが2年生の天江衣である。

 そして、そこに咲が入部した。これだけでも他校を十分震え上がらせること間違いないだろう。

 そこに咲の従姉妹の宮永光、綺亜羅高校の的井美和と稲輪敬子、ドイツチームメンバーだった風越女子高校の園田栄子と有名どころが新入生として名を連ねていた。

 とんでもない強豪チームになることは間違いない。

 

 また、朝酌女子高校出身の出雲弥呼(いずもみこ)も麻雀部に入部していた。咲と同じクラスの女性だ。

 彼女は、高校時代には麻雀部には所属していなかったが、昨年の世界大会を見て感動し、麻雀を始めたらしい。

 石見神楽の従姉妹で、神楽、小蒔、霞の持つ能力を使える。まさに化物級である。

 

 これだけ多くの魔物が入部してきたのだ。

 もはや、照と衣以外の上級生にはレギュラー枠に入る余裕などないことが容易に予想される。

 

 

 六大学対抗戦は、コンビ麻雀対決である。

 つまり、四校対決ではなく二校対決となる。

 六校総当たり戦で行われ、各自100000点持ちの星取り戦となる。

 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将で、それぞれ二人の素点の合計点が高い方が勝ち星ゲットとなる。

 ウマもオカもつかない。

 ちなみに100000点持ちになったのは、25000点持ちでは照や衣の相手が簡単にトビ終了してしまうため、今年からルールが改定された。

 

 全試合において、先鋒戦から大将戦まで、いずれも半荘一回の勝負とし、同点の場合は双方勝ち星0.5ずつとする。

 

 どちらかが勝ち星を先に三つ取っても対局は終了せず、全て大将戦まで行う。

 そして、全試合終了後の勝ち星トータルで順位を決める。

 勿論、二校優勝も有り得る。

 よって、勝ち星の取り扱い方は、昨年の女子高生世界大会とは一部異なっている。

 

 

 赤牌4枚入り。

 二家和(ダブロン)ありだが、三家和(トリロン)の場合は流局し、親の連荘とする。

 大明槓からの嶺上開花は責任払いで、連槓からの嶺上開花の場合でも最初が大明槓であれば、それを鳴かせた者の責任払いとなる。

 

 ダブル役満以上ありで、純正九連宝燈、国士無双十三面待ち、大四喜、四暗刻単騎、大七星、四槓子は単一役満でもダブル役満とし、他の役満はシングル役満とする。

 また、国士無双は現物以外のフリテンは無し。

 この役満の取決めも、今までの大会とは異なる。

 

 また、本大会では槓振が一翻和了り役として認められていた。

 

 

 咲のチームは、以下のオーダーで申請した。

 先鋒:宮永咲・的井美和

 次鋒:出雲弥呼・稲輪敬子

 中堅:宮永照・宮永咲

 副将:宮永光・園田栄子

 大将:天江衣・宮永照

 

 オーダーは基本的に変更無しで、レギュラー選手が出場できない場合に限り、補員との交代が認められる。

 また、中堅選手として出場する二人の選手の片方は先鋒又は次鋒を兼任して良く、もう片方の選手は副将又は大将を兼任して良い。この辺は、昨年の女子高生世界選手権と同じであった。

 但し、留学生を中堅に配置してはいけないことになっていた。

 

 

 この六大学戦では、例年、団体戦最終日のK大学対W大学の試合が特に盛り上がるのだが、今年は最強軍団と称される咲達K大学が余りにも強過ぎるのでは無いかとの意見が多数であった。

 それもあって、和達のW大学がどこまで食い下がれるかが争点とされた。

 

 

 K大学の初戦の相手はT大学。最高学府だが………魔物率は例年少なく、ここ十年連続で六大学団体戦は最下位であった。

 

 T大学のオーダーは、以下のとおりだった。

 先鋒:小走やえ(3年)・新子憧(1年)

 次鋒:船久保浩子(2年)・樫尾聖子(3年)

 中堅:小走やえ(3年)・鷲尾静香(1年)

 副将:蔭山桜(2年)・島岡豊貴子(2年)

 大将:鷲尾静香(1年)・安福莉子(1年)

 

 小走やえは、元晩成高校のエース。奈良県大会個人戦優勝の実力を有する。

 新子憧は阿知賀女子学院出身で鳴き麻雀を主体とする。

 船久保浩子は千里山女子高校出身で研究者タイプ。

 安福莉子は劔谷高校出身。

 鷲尾静香は綺亜羅高校出身で医学部在籍。

 樫尾聖子、蔭山桜、島岡豊貴子は都内の超進学校出身である。

 基本的に、静香以外はデジタル打ち主体である。

 

 

 対局室に先鋒選手が入室した。

 この時、咲は美和と手を繋いでいた。勿論、迷子対策である。

 当然、和は、この様子をスマホで見ながら、

「ないないっ! そんなのっ!」

 と大声を上げながら全身を大きく震わせていた。中味が初美に変わってしまうほどの衝撃を受けていたようだ。

 

 

 場決めがされ、起家がやえ、南家が憧、西家が咲、北家が美和に決まった。

 どうやら美和は、咲の下家になれる能力も手に入れていたようだ。

 

「三年ぶりだな。」

 やえが咲に声をかけた。

 三年前のインターハイ個人戦で、やえは咲に予選リーグで大敗していたが、今日は、その雪辱を目指す。

「この三年間でバージョンアップした新王者の打ち筋を見せてやろう!」

「では、私達は最悪コンビと呼ばれる麻雀を披露します。小走さんも憧ちゃんも覚悟してください。」

 一方の咲は、珍しく不敵の笑みを見せていた。

 もし、この場に一人でいたなら、恐らく咲は被食者側の小動物的な挙動しか取れなかっただろう。対局がスタートすれば恐怖の大王に変身するが、それまでは弱者のオーラしか出せない。

 しかし、今は仲間───美和が一緒にいてくれる。このことが、咲を強気にさせていたようだ。

 

 

 対局がスタートした。

 東一局、やえの親。ドラは{④}。

 やえの配牌は、

 {二四七九③④[⑤]356東南白中}

 ここから打{南}。

 そして、ここから六巡で聴牌し、

「リーチ!」

 やえは{横東}を切ってリーチをかけた。

 

 この局、咲は様子見している感じだ。

 咲は一発で{二}を切って通し。牌が見えている以上、何らかの形で能力を狂わされない限り振込むことは無い。

 美和も咲に合わせて打{二}で凌いだ。これが、コンビ打ちでパートナーが咲の下家になった時の最大の利点であろう。

 

 そして、

「ツモ!」

 やえは一発で和了り牌を引き寄せた。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四六七③④[⑤]3356}  ツモ{7}  ドラ{④}  裏ドラ{七}

 

「メンタンピン一発ツモドラ3。8000オール!」

 いきなり、やえが親倍をツモ和了りした。

 これはT大チームにとって幸先の良いスタートである。

 

 東一局一本場。ドラは{⑤}。

 やえの配牌は、

 {二四六九③④[⑤]⑤⑥[5]7南西發}

 ここから打{西}。

 

 そして、ここでも、やえは順調に手を伸ばし、

「リーチ!」

 {横二}切りでリーチをかけた。

 

 やえの手牌は、

 {四[五]六九九③④⑤[⑤]⑥[5]55}

 リーチドラ5の親ハネ手だ。

 前局で親倍を和了っているし、今、やえは自分自身に勢いがあると実感していた。故のリーチでもあった。

 

 しかし、

「カン!」

 これを咲が大明槓した。

 嶺上牌は{②}。咲は、これを引くと、

「もいっこ、カン!」

 そのまま{②}を暗槓した。

 続く嶺上牌は{2}。これを引いて咲は、

「もいっこ、カン!」

 さらに連槓し、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤⑦⑦⑦}  暗槓{裏22裏}  暗槓{裏②②裏}  明槓{二横二二二}  ツモ{[⑤]}  ドラ{⑤}

 

「タンヤオ対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花ドラ3。32300。」

「えっ!?」

 まさかの数え役満。

 あっという間に、やえはラス転落。

 咲に大逆転された。

 一瞬、放心状態になる。

 しかし、いきなり諦めるわけには行かない。

 やえは気を取り直して、

「(次は取り返す!)」

 次局に望む。

 

 

 東二局、憧の親。ドラは{⑦}。

 ここでは、

「チー!」

 親の憧が、

「チー!」

 やえのサポートで連荘を目指す。

 得意の30符3翻の手でも、親なのでツモれば2000オール、直取りで5800になる。

 さらに、ここにドラが一枚加われば、親満級の手になる。

 当然、ここは攻めて行く。

 狙うはドラ含みのタンヤオ三色同順。

 手牌は、

 {③③[⑤]5678}  チー{横345}  チー{横五三四}

 

 しかし、

「チー!」

 三つ目の面子………{横④③[⑤]}を副露して切った{③}で、

「ロン。1300。」

 門前タンヤオのみの手で、憧は咲に親を流された。

 

 開かれた手牌は、

 {五六七③④⑤⑥222567}  ロン{③}

 

 ただ、咲の河にはドラの{⑦}が出ていた。

 普通なら、{2}を切って{②⑤⑧}待ちの高目タンピン三色同順ドラ1の出和了り満貫。三面聴にとるだろう。

 そこを敢えて{③⑥}待ちに受けたのは、明らかに憧が捨てる{③}を狙っていたと言って良いだろう。

 完全に咲に読まれた感じである。

 やはり咲の方が一枚上手と言ったところだ。

 

 しかも、現在の点数は、

 1位:咲 126600

 2位:美和 92000

 3位:やえ 90700(順位は席順による)

 4位:憧 90700(順位は席順による)

 やえと憧が同じ点数にされた。

 当然、多くの視聴者は、

『調整だね、きっと』

 既に咲が相手チームの二人を均等に削るべく、準備を始めたと考えていた。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{8}。

 ここで咲は、

「カン!」

「もいっこ、カン!」

 美和から{①}を大明槓、{西}を暗槓して槓ドラを増やした。

 そして咲が捨てた{白}を、

「ポン!」

 さらに咲が捨てた{②}を、

「チー!」

 美和が立て続けに鳴いた。これで聴牌。

 

 しかも、咲の槓により、美和の手はドラが乗って白ドラ3の満貫級の手となっていた。完全に咲のサポートである。

 そして、

「ツモ!」

 このチャンスを、美和は見事にモノにした。

 

 やえと憧を目掛けて、巨大な触手が襲い掛かった。美和の能力が発動したのだ。

 既に二人の意識は、現実世界とは別の空間に飛ばされていた。俗に美和ワールドと呼ばれる淫猥なる世界だ。

 ただ、二人は別々の場所にいるようで、互いの姿は見えない。

 

 触手が、やえと憧の四肢に巻き付いて、二人とも身動きが取れなくなっていた。

 さらに多数の触手が全身に絡みつき、分泌される粘性のある消化液で二人の衣服を溶かしてゆく。

 しかも溶けるのは衣服だけであって二人の身体は消化されない。ご都合主義のエロエロ消化液だ。

 二人は、あっという間に全裸にされた。

 さらに二人は、全身を隈なく粘液だからの触手で刺激される。

 

 …

 …

 …

 

 

 体感時間として約一時間が過ぎた。

 その間、ずっと二人は刺激され続けていた。もはや、頭の中は真っ白である。

 

 そして、やえが、

「くっ………殺せ!」

 と言葉を発した直後、

「タンヤオドラ3。2000、3900!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。

 これと同時に、やえと憧の意識は現実世界に戻された。

 

 ただ、やえも憧も、既に戦意を失っていた。美和ワールドをまともに経験した直後に頭を切り替えられるほうが、むしろ異常であろう。

 既に二人とも、頭が回らなくなっていた。

 

 

 東四局、美和の親。

 やえと憧が麻雀に集中できなくなったためであろうか、美和の配牌が非常に良かった。前局の和了りで運を呼び込んだ感じである。

 配牌二向聴(第一打牌を切って二向聴)。

 ここからムダツモなく聴牌し、

「リーチ!」

 三巡目でリーチをかけた。

 そして、

「ツモ!」

 美和は一発で和了り牌を引き当てた。

 

 またもや、やえと憧の意識が幻の世界へと飛ばされた。

 

 …

 …

 …

 

 

 そして、二人が美和ワールド内で一時間近く触手プレイを堪能させられた頃、

「6000オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえてきた。




女子大生編は、やえの『くっころ』を書きたくてチャレンジしました。目標達成です。


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二百十二本場:六大学対抗戦-2  次鋒戦スタート

咲達のチームは、前年度順位の弱い方から順に対局します。T大学チームは、まあ、大変なことになります。
T大学チームとの戦いでは、咲達の大虐殺をお楽しみください。


 やえと憧の意識が幻の世界から現実世界へと戻ってきた。

 精神的には、既に美和ワールドで二時間近く攻められた状態にある。当然、平静でいられるはずが無いし、より一層、麻雀に集中できる状態ではない。

 完全に、ただ点棒を奪われるだけのデク人形と化したと言って過言ではないだろう。

 

 東四局一本場。

 ここでは、

「カン! もいっこ、カン!」

 咲が槓でドラを増やし、

「リーチ!」

 美和がリーチをかけた。世界大会でも見せたパターンである。

 そして、

「ツモ!」

 その勢いに乗って、美和がツモ和了りを決めた。

 

 これで、やえと憧は美和ワールドに三度目のご招待を受けた。

 

 …

 …

 …

 

 

 そして、

「メンタンピンツモドラ9。16100オール!」

 美和の点数申告の声が聞こえて、やえと憧の意識は現実世界に戻されたが、もはや、二人ともヘトヘトになっていた。

 完全に心労(?)である。

 

 東四局二本場も、

「カン! もいっこ、カン!」←咲

「リーチ!」←美和

「ツモ!」←美和

「「うぅ…あぁ…。」」←やえ&憧

「16200オール!」←美和

「「…。」」←やえ&憧

 

 東四局三本場も、

「カン! もいっこ、カン!」←咲

「リーチ!」←美和

「ツモ!」←美和

「「くっ…うあぁ…。」」←やえ&憧

「16300オール!」←美和

「「…。」」←やえ&憧

 

 美和は咲のサポートもあって連続してドラ爆の数え役満をツモ和了りした。

 

 この様子をテレビで見ていた某ネット掲示板の住民達は、

『最上級に、ス・バ・ラ・です!』

『久し振りのみかんジュースですわ!』

『これで丼飯5杯はイケるッス!』

『やったじぇい!』

『姫子ほど激しくなか………』

『そんなのより咲さんのみかんジュースが欲しいです!』

『だから、みかんジュースじゃなくて他の言い方しようよ!』←みかん

『六大学対決中は期待できると思』

 世界大会以来の美和の活躍に大賑わいだった。

 

 続く東四局四本場。

 ここに来て、今までに比べて美和の手が重くなった。やはり、好配牌が永遠に続くわけではない。

 ところが、こうなった途端、

「カン! ツモ嶺上開花メンチン。4400、8400!」

 今度は、咲が和了り出した。

 

 

 南入した。

 南一局、やえの親。

 折角の親番だが、やえは、依然として麻雀に集中できる状態ではない。頭の中はドピンク色から平常状態に戻り切れていない。

 憧も同様だ。

 まさか、美和の能力が、ここまでとんでもないとは思っても見なかった。

 もし、獅子原爽がパウチカムイを使ったらどうなるだろうか?

 きっと、女子大生麻雀大会の歴史が大きく変わること間違いないだろう。

 

 ここでは、

「リーチ!」

 咲が六巡目で先制リーチをかけた。

 そして、一発目のツモ牌で、咲は、

「カン!」

 {中}を暗槓すると、

「ツモ! リーチツモ中嶺上開花ドラドラ。3000、6000!」

 当然の如く華麗なる嶺上開花を決めた。

 

 

 南二局、憧の親。

 ここでは美和が咲に援護する形となった。

 美和が捨てた{白}を、

「ポン!」

 咲は早々に鳴き、次巡、

「カン!」

 さらに美和が捨てた{一}を咲は大明槓した。

 嶺上牌………有効牌を引き入れて聴牌し、咲は{北}を手出しした。

 

「ポン。」

 一方の憧は、咲の親を流そうと、自風の{北}を鳴いた。

 しかし、その次のツモ番で、咲は、

「カン!」

 {白}を加槓すると、

「ツモ! 白混一対々嶺上開花。3000、6000!」

 そのまま嶺上開花で和了った。

 

 この巡目で咲が{北}を捨てたのは、憧に鳴かせて{白}を自分のツモに回すためだった。憧が焦って鳴いてくると読んでいたのだ。

 槓材が見えている咲ならではの闘牌であろう。

 

 現在の点数と順位は、

 1位:美和 249300

 2位:咲 109300

 3位:やえ 20700(順位は席順による)

 4位:憧 20700(順位は席順による)

 

 数え役満三連発は大きい。美和の圧倒的トップであった。

 対するT大チームは、二人併せて41400点と、大きく失点した。もはや絶望的と言えるだろう。

 ここから咲は、怒涛の連続和了を見せる。

 

 南三局、咲の親。

 ここでも、

「ツモ嶺上開花ドラ1。60符3翻は3900オール!」

 咲は余裕の嶺上開花を決めた。

 

 続く南三局一本場も、

「3900オールの一本場は4000オール!」

 

 南三局二本場も、

「4000オールの二本場は4200オール!」

 

 南三局三本場も、

「4000オールの三本場は4300オール!」

 

 南三局四本場も、

「3900オールの四本場は4300オール!」

 

 咲は、立て続けに嶺上開花での和了りを決めた。

 

 これにより、四人の点数と順位は、

 1位:美和 228600

 2位:咲 171400

 3位:やえ 0(順位は席順による)

 4位:憧 0(順位は席順による)

 

 この点数を見て、殆どの視聴者は、

『見事な点数調整だな』

 と思った。

 元チームメートの憧にも容赦ない。絶対に手を抜かずに稼げるだけ稼ぐことを、一年前の春季大会で学んだ故だ。

 

 そして迎えた南三局五本場。

 咲の配牌は、

 {二五③⑨16東東南南西北北中}

 ここから打{五}。

 

 このような配牌が来ることも、数年に一回はあるだろう。

 しかし、ここから風牌がツモれるかどうかは別である。大抵は、ツモが噛み合わなかったりする。

 ところが、牌に愛された咲は別格である。

 ここから{南東南西北西}と立て続けにツモり、

「カン!」

 咲は{南}を暗槓した。

 嶺上牌は{東}。これを引くと、

「もいっこ、カン!」

 そのまま咲は{東}を暗槓した。

 次の嶺上牌は{北}。

 これを引くと咲は、

「もいっこ、カン!」

 {北}を暗槓し、続く嶺上牌………{西}を引くと、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 残る嶺上牌は一枚。咲は、これ………{中}を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

「大四喜字一色四槓子四暗刻単騎!」

 本大会のルールでは、慣例的にダブル役満とされている大四喜、四槓子、四暗刻単騎をダブル役満として数える。そのため、これは七倍役満になる。

「112000の五本場は、112500!」

 これで、やえと憧は二箱分箱割れして終了となった。

 

 さすがに、これには自称王者のやえも、咲と元同朋の憧も言葉を失った。

 咲が{南}を暗槓した段階でトビ終了を覚悟したが、まさか、ここまで破壊力のある手だとは思っても見なかったのだ。

 それこそ、東一局で飛び出していたら、その時点で親が箱割れする手だ。六大学戦史上初の最強手であろう。

 

 これでK大学とT大学の先鋒戦の点数と順位は、

 1位:咲 508900

 2位:美和 116100

 3位:やえ -112500(順位は席順による)

 4位:憧 -112500(順位は席順による)

 

 各校トータルは、K大学が622500点、T大学が-225000点と、記録的な点差でK大学が一つ目の勝ち星をあげた。

 

 さすがに、やえと憧にも同情するところは十分あるだろう。

 咲と美和のペアは、昨年の世界大会でも準決勝戦まで世界各国の代表達を立て続けに箱割れさせているレベルなのだ。

 

 ただ、やえも憧も、最後に咲がとんでもない和了りを決めたにも拘らず、全然放出する様子を見せなかった。

 この辺は、二人とも精神的に鍛えられていると言えよう。

 

 当然、某ネット掲示板の住民達は、

『一大事、一大事ですわ!』

『ないないっ! そんなのっ!』

『そんなオカルトありえません!』

『エニグマティックだじぇい!』

『この未来は、見えへんかったなぁ』

『スバラくないですねぇ。』

『竜頭蛇尾ッス!』

『チョー悔しいよー!』

『ダル………』

 期待はずれ(放出無し)の結果に荒れていたらしい。

 

 

 一方、咲達は、

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼を済ますと、対局室を後にした。

 

 

 次鋒戦は、K大学チームからは出雲弥呼と稲輪敬子が参戦。

 弥呼は、この時、既に綺亜羅高校の元エース、古津節子の霊を降ろしていた。節子と敬子の綺亜羅ペアで次鋒戦に挑む。

 しかも弥呼は、粕渕高校の石見神楽と同様に相手の手牌を透視することが出来る。とんでもなく恐ろしい能力だ。

 

 対するT大学チームからは、船久保浩子と樫尾聖子が参戦する。

 浩子は、園城寺怜、清水谷竜華、江口セーラのトリプルエース達の卒業後、千里山女子高校のエースとして活躍した。研究者タイプで頭の良い選手である。

 また、樫尾聖子は非常に精度の高いデジタル打ちを披露する。その完成度は現W大学の原村和に匹敵すると言われている。

 それ故、

『CASIO & SEIKO』

 とも呼ばれている。

 

 

 四人が対局室に姿を現した。

 弥呼も節子も敬子も、浩子と聖子とは初対面である。

 とは言え、敬子は誰が相手でもマイペースで勝利を目指すし、節子もいきなり相手を地獄に落とすつもりで卓に付く。

 二人とも勝つ気マンマンである。

 

 一方、データ麻雀を主体とする浩子は、

「(半荘一回勝負は厳しいなぁ。)」

 と思っていた。

 一応、本音としては、浩子は、この二人との対戦を恐怖しながらも、実は楽しみにしていた部分はあった。

 データが少ない魔物級の相手の本質を、この対局を通じて見抜くことが出来るかもしれないからだ。

 これは、対局者と言うよりは、むしろ研究者としての血が騒ぐためと言って良い。

 

 しかし、チームの勝利を考えた場合は別である。

 せめて前後半戦勝負であれば、前半戦を捨てて弥呼と敬子の打ち筋を研究し、後半戦で勝負を賭けることができるかもしれない。

 それが半荘一回勝負となると、正直、データが足りな過ぎて勝利の方程式を作ることが出来そうにないと判断していた。

 

 

 そもそも、弥呼は高校時代のデータが無い。一体、どのような麻雀を打つのか、まったくもって不明である。

 しかし、100人を越えるK大学麻雀部員を代表する選手である。大学デビューだからと言って油断できない相手であろう。

 

 また、浩子は、敬子についても不明な点があると考えていた。

 映像を通じて分かる部分と牌符を見て分かる部分については問題ない。

 静香からも、人魚パワーの話を聞いている。

 しかし、どうも、それだけでは説明できない何かがあること感じていた。その何かが無ければ、恐らく世界大会でローザが交代することは無かっただろう。

 

 実は静香も敬子のクラーケンパワーのことを知らなかった。

 世界大会後に部内で敬子と打つことはあったが、クラーケンパワー無しでも敬子は部内なら大抵1位になれる。

 故に敬子は、静香の前では最終兵器を封印したままだった。と言うか披露する必要がなかったのだ。

 

 

 場決めがされた。

 起家が弥呼、南家が浩子、西家が敬子、北家が聖子に決まった。

 

 

 対局がスタートした。

 東一局、弥呼(節子)の親。

 配牌中、敬子は今までとは違う曲をハミングしていた。

 K大学の塾歌である。

 

 コンビ打ちで、しかもパートナーが親番なので、ここでは基本的に敬子は親を支援する局である。

 しかし、パートナーが必ずしも和了りに向かえる状態かどうかは分からない。

 それで何時でも和了りに行ける準備をしているのだ。

 

 一方の節子も、初っ端から相手を叩きに行くつもりであった。

 当然、和了りに向けて節子は、いきなり能力を全開にした。

 

 節子は、能力発動時や和了った時に、他家に天変地異の幻を見せる。しかし、自らに降りかかる能力をキャンセルする敬子にだけは効果が無い。

 このことは、言い換えれば、節子は浩子と聖子にだけに世界の終焉とも思えるような恐ろしい光景を見せることを意味する。

 それで節子は、和了りに向かうと同時に、恐怖映像を見せることでT大学の二人から戦意を奪おうと考えたのだ。

 

 配牌が終わり、敬子がハミングを止めた。

 そして、これと入れ替わるように節子が能力を最大放出した。

 

 浩子と聖子の目に映る光景が、急に対局室から荒れ果てた荒野に変わった。遠くの方では、幾つもの火山が噴火している。

 激しく地面が揺れる。

 すると、自分のいる場所が急激に盛り上がってきた。そして、数メートル先の地面に亀裂が入ると、そこから溶岩が噴出してきた。

「「(なにこれ!?)」」

 能力が見せる幻の世界なので、実際に死ぬことは無いが、この幻が現実であれば、死を覚悟するしかないだろう。

 

 浩子と聖子の視界が現実世界のものに戻った。

 二人とも、ここが天変地異の場では無いことを認識して、ホッとしたが、だからと言って、すぐさま頭を切り替えられるものでもない。

 少なくとも麻雀に対しての集中力は欠いている。

 

 浩子と聖子にとって、この最悪のコンディションの中、

「リーチ!」

 まさに追い討ちをかけるかのように、弥呼(節子)が三巡目でリーチをかけてきた。

 一先ず、浩子も聖子も目に付いた現物を切って凌いだ。

 

 一発ツモは無かった。

 しかし、その二巡後、

「ツモ! メンタンピンツモドラ1。4000オール!」

 節子が満貫をツモ和了りした。



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二百十三本場:六大学対抗戦-3  海の化物、再び

 弥呼(節子)が和了った直後、再び浩子と聖子の視界が、荒れ果てた大地のド真中にいるような光景に変わった。

 地面が激しく揺れ、地のあちこちの避け目から溶岩が噴出している。完全に生物が住めない世界だ。

 

 一応、浩子は、静香から節子のことを聞いていたし、昨年のインターハイや世界大会では、節子の霊を神楽が降ろしていたことも聞いていた。

 しかし、こんな恐怖映像を、いきなり目の当たりにするなんて予想もしていなかった。

「(これは、ちょっとキツイわ。)」

 生きた心地がしない。

 こんなモノを見せられて平然と麻雀を打てと言う方が酷である。

 

 ただ、浩子は、

「(出雲弥呼って島根出身やったな。もしかして石見神楽の親類かなんかか?)」

 何となくだが弥呼の正体に気が付いていた。

 もっとも、気付いたところで対応策が見つかるわけでは無いのだが………。

 

 一方、聖子の方は完全にパニックになっていた。

 高い精度のデジタル打ちが出来ても、和のように自分に降りかかる相手の能力をキャンセルする力を持っていなかったのだ。

 加えて浩子ほどは能力麻雀への耐性も知識も無かった。

 それで、精神力が持たなかったのだ。

 

 続く東一局一本場も、

「メンタンピンツモ。2700オール!」

 

 東一局二本場も、

「ツモ! 4200オール!」

 

 東一局三本場も、

「ツモ! 2000オールの三本場は2300オール!」

 

 立て続けに節子が和了った。

 しかも、東一局と同様に、節子は配牌終了時と和了った時に、浩子と聖子に天変地異の幻を見せた。

 この超常現象に、浩子も聖子も完全に精神的に参ってしまった。

 

 そして迎えた東一局四本場。

 卓中央のスタートボタンを押す前に、節子は、

「敬子。そろそろ。」

 と言った。

 すると、敬子は今まで配牌完了前に、必ず行っていた塾歌のハミングを止めた。

 

 ドラ表示牌がめくられた。

 ドラは{8}。

 

 この時、浩子は、敬子から異様な雰囲気を感じ取っていた。

「(何かする気やな。)」

 何らかの動きを見せるだろうと予想は出来る。

 しかし、それは何なのかは分からない。

 

 敬子の切り出しは、

 {東南西北}

 基本的に今までどおりだ。

 その後、{③⑤}と数牌を切って行く。

 

 まだ敬子が何をしようとしているのかは分からない。

 しかし、浩子も聖子も、コンディションがどんなに最悪だろうと、和了りに向けて動かなければ今のままでは負ける。

 当然、今一つ頭が回り切らない状態だが、何とか手を進めようとした。

 

 そして、聖子が{②}切った、まさにその時だった。

 彼女の視界に飛び込んできたのは大海原の風景だった。正直、訳が分からないが、何故か対局室から海のド真中に飛ばされていたのだ。

 聖子自身からすれば、まったくもって意味不明であろう。

 

 世界大会でローザやミラが経験したのと同じで、ここでも聖子は船の上に乗っていた。

 目の前には敬子の姿がある。

 ただ、この時の敬子は、海面から上半身を出す美しき人魚の姿に見えた。そして、敬子の背後から巨大な触手が伸びてきて、聖子の身体に巻き付いた。

「(なによ、これ?)」

 状況がよく飲み込めないが、少なくとも命の危険が迫っているのだけは間違いないと感じていた。

 勿論、幻の世界なので現実に死ぬことは無いが、この光景が現実であれば明らかに死と隣り合わせの状態だ。

 

 触手が敬子の身体と一体化すると、敬子は海深くに潜って行った。

 敬子のクラーケンパワーが発動したのだ。当然、聖子の身体も敬子と共に海深くに引き摺り込まれて行く。

 

 この時、聖子の目に巨大な何かの影が映った。

「(海の化物!)」

 それは、何本もの巨大な触手を持つ巨大な生物の姿だった。

 

 このままでは窒息死する。

 いや、その前に、この化物に食い殺されるのか?

 余りの恐怖に現実世界の聖子は、

「シャ──────!」

 堪えきれずに聖水を大放水してしまった。

 

 そして、その直後、

「ロン。」

 聖子の上家………敬子からの和了り宣言が聞こえてくると、聖子の意識は幻の世界から開放され、現実世界へと戻ってきた。

 

 開かれた敬子の手牌は、

 {五[五]八八八②②⑧⑧⑧888}  ロン{②}  ドラ{8}

 

「タンヤオ対々三暗刻三色同刻ドラ4。24000の四本場は25200。」

 三倍満が炸裂した。しかもツモれば四暗刻。とんでもない手だ。

 

 死と直面した幻からは開放されたが、聖子の身体は激しく震えていた。完全に、彼女の心は恐怖に支配されていたのだ。

 

 

「ここで対局を中断します。」

 スタッフの声だ。

 さすがに聖子が放出したのを放置できない。

 選手達は、スタッフの指示に従って、一旦、各控室に戻された。

 

 一方、放送側は、咲や光の対局ではなかったため、まさか大放出シーンがあるとは思っていなかった。

「(やっチーター………。)」

 それで、放出直前に映像を切り替えることが出来ず、この光景が全国にライブ中継されてしまったのだ。

 たしかに敬子には、世界大会でミラを大放出させた実績はあったが………。

 急いで解説側に映像を切り替えたが、時既に遅しであった。

 

 当然、これを見た某ネット掲示板の住民達は、

『スバラ!』

『さすが綺亜羅の元エースですわ!』

『咲様、光ちゃん、美和様じゃなかったんで録画してなかったッス!』

『うちは麻雀部で録画してるじぇい!』

『友達が出来たよモー!』

『久し振りに先輩が喜んでるデー!』

『チョー嬉しいよー』

『先鋒の咲様が空振りだったので、これはまさにサプライズだと思』

 大喜びだった。

 

 

 

 K大学とT大学の対戦と同時に、六大学戦前年度2位のW大学と前年度5位のM大学の試合と、前年度3位のR大学と前年度4位のH大学の試合が、別会場にて同時並行で行われていた。

 最も視聴率が高かったのは咲達の試合だったが、ここで対局が一時中断とのことで、多くの人達が他の二試合にチャンネルを切り替えた。

 なお、各大学のメンバーは以下のとおりであった。

 

 W大学

 先鋒:竹井久(3年)・福路美穂子(3年)

 次鋒:西野カナコ(1年)・原村和(1年)

 中堅:百目鬼千里(1年)・西野カナコ

 副将:竜崎鳴海(1年)・鬼島美誇人(1年)

 大将:雀明華(2年)・百目鬼千里

 

 M大学

 先鋒:佐々野いちご(3年)・美入人美(1年)

 次鋒:反町愛射(そりまちあい:2年)・転法輪弥生(てんぽうりんやよい:2年)

 中堅:染谷まこ(2年)・佐々野いちご

 副将:成長結実(なるながゆみ:2年)・天地聖美(あまちきよみ:2年)

 大将:水村史織(1年)・染谷まこ

 

 R大学

 先鋒:多治比真佑子(2年)・椿野美幸(3年)

 次鋒:引世菫(3年)・南浦数絵(1年)

 中堅:加治木ゆみ(3年)・多治比真佑子

 副将:東横桃子(1年)・加治木ゆみ

 大将:森垣友香(1年)・霜崎絃(千葉MVP:3年)

 

 H大学

 先鋒:佐々野みかん(1年)・多治比麻里香(1年)

 次鋒:大星淡(1年)・亦野誠子(2年)

 中堅:辻垣内智葉(3年)・大星淡

 副将:池田華菜(2年)・中田慧(2年)

 大将:片岡優希(1年)・辻垣内智葉

 

 

 

 さて、対局室の清掃作業が終わり、K大学とT大学の次鋒戦が再開された。

 東二局からである。親は浩子。ドラは{發}。

 

 浩子は、清掃中に聖子から何が起こったのかを聞いていた。

 まさかクラーケンに海に引き摺り込まれる幻を見せられていたとは………。

 これで浩子は、何故、世界大会でローザが途中交代したのか、また、ローザに代わって後半戦で出場したミラが大放出したのかも含めて全てを理解した。

 

 今回も、配牌時に敬子はハミングしていなかった。ここでもクラーケンの力が発動しているのだろう。

 

 この局、珍しく、

「ポン!」

 敬子が鳴いた。全然鳴かないわけではないが、敬子は門前で手を進める方が多い。

 副露したのは{南}。敬子の自風だ。

 

 その後も、敬子は、

「ポン!」

 {東}を一鳴きした。場風だ。

 

 

 この局、敬子の捨て牌は、

 {3⑥⑦6西北九}

 

 いつもと順番が違う。

 普通に考えれば萬子に染めている可能性ありと思われる切り方。

 

 ただ、浩子は、

「(これって、世界大会でローザから三倍満を和了った時に似てる! むしろ索子の方が危ないのか?)」

 と感じていた。

 

 

 次巡、弥呼(節子)が切った牌は{8}。これに敬子は反応なし。

 浩子は、念のため敬子の現物で様子を見た。

 敬子はツモ切り。

 そして、ここで聖子がツモってきたのは{8}。まあ大丈夫だろうと思ってツモ切りしたその時だった。

 前局で{②}を切った時と同様、辺り一面の風景が大海原に変わった。今回も聖子は船の上に乗っていた。

 

 今回も敬子は人魚の姿をして海面から上半身を出していた。

 そして、敬子の背後から巨大な触手が伸びてきて聖子の身体を捉えると、その触手は敬子と一体化した。

 

 敬子が海深くに潜って行く。

 当然、聖子の身体は、敬子に連れられて前局同様に海の底へと引き摺り込まれて行った。

 前方にはクラーケン………敬子本来の姿が見える。

 

 息が出来ない。

 窒息死するのが先か、この海の化物に食い殺されるのが先か………。

 そして、聖子が死を覚悟した、まさにその時、

「ロン!」

 敬子の声が聞こえてきた。現実世界では、敬子に振込んでいたのだ。

 

 聖子が正気に戻った。

 彼女の目に飛び込んできたのは、敬子が開いた手牌。

 それは、

 {5[5]88發發發}  ポン{東横東東}  ポン{南横南南}  ロン{8}  ドラ{發}

 まさかの索子の混一色手。

 しかも三倍満。

「東南發混一対々ドラ4。24000!」

 弥呼の{8}切りは、敬子が聖子から和了るためのサポートだったと言うことか?

 完全に裏をかかれた感じだ。

 

 さすがに大放出した後だ。今回は、まともに放出するモノが無かった。

 なので、聖子も前局と同じ過ちを犯さずに済んだのだが………、ただ、僅かに溜まっていた数滴分だけは、

「チョロ………。」

 漏れてしまった。

 

 身体は激しく震えている。

 天変地異の幻を何回も見せられた後に、巨大な海の化物の幻を見させられ、しかも完全に死んだとさえ思った。

 これで平然としている方が精神構造を疑う。

 しばらくの間、聖子は正常に物事を考えられないだろう。これで、聖子のデジタル打ちは完全に崩壊したと言って良い。

 

 

 東三局、敬子の親。

 ドラは東。東場では、俗に、

『みんなの東!』

 と呼ばれるヤツだ。自分のところに来てくれれば嬉しいが、他家の手に渡ると恐怖でしかないドラだ。

 

 この局、敬子の捨て牌は、

 {5③七九南西七}

 

 この時、浩子は、

「(今回も配牌時にハミング無し。それに、この捨て牌。多分、これまでの傾向から考えると………)」

 ここでも海の化物が出ることを予測していた。

 

「ポン!」

 敬子の第7打牌の{七}を弥呼が鳴いた。これで{七}は四枚見えている。{八}と{九}は非常に使い難い牌となった。

 そして、弥呼は{東}を強打した。場風のドラだ。

 一瞬、場の空気が凍りついた。しかし、誰も鳴かず。

 

「(ここで東。聴牌したか?)」

 浩子は、そう考えながら改めて弥呼の河に視線を向けた。

 

 弥呼の捨て牌は、

 {九八南西北1東}

 

 ここで浩子のツモ牌は{南}。これは弥呼と敬子の共通安牌なのでツモ切り。

 敬子は{9}をツモ切りした。

 

 そして、聖子のツモ番。

 引いてきたのは{八}だった。

 弥呼を警戒して、これをツモ切り。

 

 この直後、聖子は、またもや大海原にいる幻を見せられた。

 まさか、これは………。

「イヤ──────!」

 完全に海の化物とのご対面のパターンだ。さすがに聖子は両手で顔を覆った。

 

 身体中に触手が絡み付き、聖子は海の奥深くへと引き摺り込まれた。これで、三度目である。

 呼吸が出来ない。

 窒息死するか、それとも化物に食い殺されるか?

 そんな恐怖が彼女の脳裏を走り抜ける。

 

 そして、

「ロン。」

 敬子の声が聞こえると、聖子は正気に戻った。

 

 開かれた敬子の手牌は、

 {八八⑧⑧⑧22888東東東}  ロン{八}  ドラ{東}

 

「ダブ東対々三暗刻三色同刻ドラ3。36000!」

 まさかの親の三倍満。

 前局の{8}切りに続き、今回の弥呼の{八}切りは、敬子が聖子から和了るためのサポートだったのだろう。

 まさか、二連続で同じことを仕掛けてくるとは………。

 聖子からすれば、完全に、してやられた感じだった。



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二百十四本場:六大学対抗戦-4  連続和了

 K大学vsT大学の次鋒戦。

 四人の点数と順位は、

 1位:敬子 172000

 2位:弥呼(節子) 139600

 3位:浩子 86800

 4位:聖子 1600

 

 100000点持ちスタートのはずだが、東三局終了時点で、既に聖子は箱割れ直前まで追い込まれていた。

 二つの幻………節子が見せた生物絶滅を引き起こすレベルの天変地異と、敬子が見せた海の化物。

 これらを目の当たりにして、聖子は完全に精神が崩壊する寸前まで来ていた。

 

 東三局一本場、敬子の親。ドラは{②}。

 ここでは配牌時に、再び敬子が塾歌のハミングをしていた。どうやら、ここではクラーケンパワーは封印されるようだ。

 浩子の方は、これを何となくだが理解していた

 しかし、聖子は完全に頭が回っていない。それに、そもそも敬子のハミング自体が耳に届いていなかった。

 それくらい、精神的に疲弊していた。

 

 敬子の捨て牌は、

 {東南西北白發中}

 元のKYパターンに戻った。

 

 一方の弥呼の捨て牌は、

 {1⑨西北一②}

 

 聖子は、五巡目に二枚切れの{西}をツモ切り。

 少なくとも、これはK大学チームの二人の現物だ。味方の浩子以外には振り込むはずの無い牌だ。

 

 ところが、この直後、浩子と聖子の視界に、久し振りに天変地異の幻が飛び込んできた。

 激しく地面が揺れる。

 遠方では幾つもの火山が噴火している。

 そして、自分達の足元………地面が裂けて、その奥底から真っ赤な溶岩が自分目掛けて吹き上げてくる。

「き…キャ──────!」

 これには、さすがに聖子も絶叫した。

 

 その直後、

「ツモ。」

 聖子の下家から和了り宣言の声が聞こえてきた。

「2100、4100。」

 しかも満貫ツモ。

 

 これで次鋒戦の点数と順位は、

 1位:敬子 167900

 2位:弥呼(節子) 147900

 3位:浩子 84700

 4位:聖子 -500

 聖子が箱割れして終了となった。

 

 チームトータルは、K大学チームが315800点、T大学チームが84200点と圧倒的大差を以ってK大学チームが二つ目の勝ち星を手に入れた。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の一礼を済ますと、何も言わずに弥呼と敬子は対局室を後にした。

 派手に大敗した者がいる以上、相手チームの選手に、下手に声をかけられないのが実情だろう。

 

 一方、大敗した者………聖子は、再び椅子に腰を降ろすと、そのまま力尽き、死んだように動かなくなってしまった。

 浩子が、

「大丈夫ですか?」

 聖子に声をかけたが反応無し。

 少なくとも呼吸をしているので死んではいない。気を失っただけのようだ。

 

 それにしても、まさか麻雀で倒れてしまうとは………。

 三年前のインターハイ団体準決勝戦で園城寺怜が宮永照と対戦した後のことを思い起こさせる。

 聖子は、ストレッチャーに乗せられて、浩子の付き添いの元、一先ず医務室へと急送された。

 

 

 この時、T大学チームの控室には、大会スタッフから聖子が対局直後に気を失ったとの連絡が入っていた。

 これを受けて部長のやえは、

「私と静香は、これから対局室に行くので、医務室の方に行って聖子の様子を見てきて頂戴!」

 と憧に指示を出した。

「了解!」

「浩子が付き添っているから大丈夫だと思うけど。」

「でも心配なんで見に行きます。」

「頼んだよ!」

「はい。では、やえも静香も、ダブル宮永が相手だけど一発お願い!」

「勿論、タダでやられるつもりはナイからね!」

 そして、そう言うと、やえは静香と共に対局室へと向かって行った。

 

 ただ、この時、やえは先鋒戦で美和ワールドに連れて行かれた忌わしい出来事から完全に頭が切り替えられていたわけではなかった。

 公衆の面前で触手プレイをした感覚なのだ。

 あの幻が、公共電波に乗って流れ出たわけでは無いが、やはり恥ずかしい。それが普通の感覚であろう。

 

 昨年の世界選手権を見ていた時は、

『みかんジュースwww!』

『パインジュースwww!』

『ミックスジュースwww!』

 などと書き込みをして喜んでいたが、それは対岸の火事だったからである。

 実際に対戦する立場になると笑っていられないし、喜んでもいられない。

 多分、今日は自分が掲示板のみんなに笑われていることだろう。それを考えると結構気が沈む。

 

 昨年、一昨年と照と対決してきただけあって、咲のオーラには耐えられたが、美和のような能力は反則としか思えない。

 あれに慣れている旧綺亜羅三銃士の方が異常であろう。

 

 

 中堅戦は、照と咲との対局なので、忌わしいエロワールド行きは無いだろう。

 しかし、魔王二人との対決。

 恐らく今の女子大生雀士トップツーのペアだろう。

 

 さすがに勝てる試合とは思えない。

 しかし、最初から負ける気で卓に付くつもりはない。

 これは静香としても同じだ。

 当然、やえも静香も、ダブル魔王に一太刀浴びせるくらいの気持ちはある。可能な限り食い下がるつもりだ。

 

 

 中堅選手四人が対局室に姿を現した。

 場決めがされ、起家がやえ、南家が照、西家が咲、北家が静香に決まった。

 当然、やえは、

『王者の打ち筋』

 を見せてやるつもりだし、静香も自らの豪運を見せ付ける気マンマンであった。

 

 

 早速、対局がスタートした。

 東一局、やえの親。

 照も咲も様子見している感じで仕掛けてこない。ならば、ここは、やえとしてもチャンスと見る。

 基本的に、やえはデジタル打ちだ。照や咲のような能力主体の麻雀ではない。

 この局は親番なので、最も効率のよい打ち方で手を進める。

 そして、六巡で聴牌すると、

「(見せてやろう、王者の打ち筋を!)」

 やえは先制リーチをかけた。

 

 照も咲も振込んでこない。

 勿論、やえとしてもダブル宮永コンビが、そう簡単に放銃するとも思っていないし、そもそも出和了りを期待していない。

 どうせダマで進めても聴牌を見破られる。

 ならば裏ドラへの期待も込めて攻めの麻雀を展開する。故のリーチだ。

 

 一発での和了りは出来なかったが、数巡後、

「ツモ。」

 やえは何とか和了り牌を自らの手で掴み取ることが出来た。

「6000オール。」

 しかも親ハネツモだ。

 二人の超魔物を前にして、普通に考えれば、これは一先ず幸先の良いスタートと言えるだろう。

 

 しかし、この直後、やえと静香の背筋に冷たいものが走り抜けた。

 これは全てを見抜く照魔鏡の発動と、もう一人の超魔物の支配力が起動したことを意味している。

 

 東一局一本場。やえの連荘。

 ここでは、

「ポン!」

 咲が照に{白}を鳴かせ、その直後、

「ロン。1000点の一本場は1300。」

 咲が照に差し込んだ。

 世界大会で光とペアを組んだ時と全く同じパターンである。

 

 この辺が、咲の器用なところである。

 照は、これで第一弾の和了りを難なくクリアした。

 

 

 東二局、照の親。

 第一弾の和了りを達成することで、ここから照の手は進みが早くなる。

「ポン!」

 照は、二巡目に咲から{③}を鳴くと、その次巡に、

「ツモ。500オール。」

 早和了りを決めた。

 

 東二局一本場。

 ここでも照は、

「ロン。2000の一本場は2300。」

 たった三巡で門前聴牌し、安手ではあるが静香から直取りした。

 

 東二局二本場。

「ロン。3900の二本場は4500。」

 照は、やえから直取り。

 

 東二局三本場。

「ロン。7700の三本場は8600。」

 またもや照は、やえから直取りした。

 

 東二局四本場。

 照の右腕を核に竜巻が発生する。

 そして、僅か五巡目で、

「ツモ。4400オール。」

 照はタンピンツモドラ2の親満をツモ和了りした。

 

 東二局五本場。ドラは{②}。

 依然、照の右腕を竜巻が覆う。

 ここにドラ爆娘の玄が同卓していたならば、そろそろ打点上昇のためにリーチが必須になる。

 しかし、ここに玄はいない。なので、ドラ含みでの打点上昇は可能だ。

 当然、ムリにリーチをかける必要は無い。

 

 やえも静香も、そろそろ照の和了りを止めなければ大変なことになることは十分理解している。

 リスクはあるが、無理をしてでも和了りを目指す。

 しかし、照の方が、手の進みが早い。

 四巡目に、やえが手を一向聴へと進めるために切った{2}で、

「ロン。ジュンチャン三色ドラ1。19500。」

 まさかの放銃。やえは照に親ハネを振込むことになった。

 

 東二局六本場。ドラは{四}。

 ここでの照の縛りは親倍。

 通常であれば、そろそろリーチをかけないと打点上昇の縛りが厳しくなる。

 しかし、ここには頼もしいパートナーが居る。

 そのパートナー………咲は、

「カン!」

 照が捨てた{①}を大明槓すると、

「もいっこ、カン!」

 嶺上牌を手に入れると同時に{西}を暗槓した。

 これで、ドラ表示牌は三枚。明らかに照の打点上昇へのサポートだ。

 

 その次巡、

「ツモ! タンヤオツモ一盃口ドラ6。8600オール。」

 

 開かれた手牌は、

 {四四[五]五六六⑥⑥⑥4456}  ツモ{7}  ドラ{四}  槓ドラ{4}と{6}

 

 本来なら照は、ここから{4}を切り、続いて{3}をツモって{⑥}切りリーチをかけることになるだろう。つまり、メンタンピンツモ一盃口ドラ3での親倍和了りを狙わなければならなかった。

 しかし、咲の連槓によってドラが3枚増えた。それで手変わりせずとも親倍の手になっていたのだ。

 

 これで中堅戦の点数と順位は、

 1位:照 170700

 2位:咲 79200

 3位:静香 78200

 4位:やえ 71900

 やえが既に25000点以上を失っていた。25000点持ちであれば、この照の和了りでトビ終了になっていたところだ。

 

 たしかにT大学は、前年度の六大学戦で最下位だった。

 しかし、やえ自身は決して弱くはない。

 むしろ強い部類だ。

 

 そこに三銃士の一人、静香と、常勝阿知賀女子学院の部長、憧が入部したことで、明らかにT大学の麻雀レベルは底上げされた。

 それこそエース対決である中堅戦において、やえも静香も、R大学中堅(加治木ゆみ・多治比真佑子)やM大学の中堅(染谷まこ・佐々野いちご)が相手なら、決して負けない自信がある。

 

 今年こそ間違いなく脱最下位を狙える年なのだ。

 飽くまでも、この圧倒的点差は相手が悪いだけである。

 

 

 そろそろ咲のサポートがあっても照の打点上昇は厳しくなるだろう。

 次局が勝負と、やえは両手で両頬を叩いて気合を入れ直した。

 

 しかし、敵は照だけではない。もう一人面倒な人間がいる。

 東二局七本場。

 やえの配牌は四向聴だったが、ツモに恵まれ、三枚のヤオチュウ牌を連続で処理した段階で二向聴まで手を進められた。

 

 ところが、四巡目、

「ポン!」

 とうとう、咲が動き出した。照が捨てた{南}を一鳴きしたのだ。

 同巡、やえは{北}をツモ切り。

 

 その次巡、

「ポン!」

 ここでも咲は、照が捨てた{中}を鳴いた。

 

 一応、照の手牌は、自力で三倍満を作るべく筒子の清一色に成長していた。

 それで、{六⑧北南中}と順に捨てていたのだ。

 既に照の手牌は十一枚の筒子と{東}、{發}各一枚のみとなっていた。

 

 一方のやえも、あと二枚有効牌が来れば聴牌できるところまで手を進めており、照に先行できる可能性を見せていた。

 

 しかし、そのさらに次巡、

「カン!」

 咲が{南}を加槓した。

 そして、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ!」

 やえの希望を打ち砕くが如く華麗なる和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {二二二五[五]八八}  ポン{横白白白}  明槓{横南南南南}  ツモ{八}

 

「南白混一対々嶺上開花赤1。4700、8700。」

 しかも倍満ツモ。

 一先ず、これで照の親は流れたが、やえと静香は、照と咲に更なる点差をつけられることとなった。



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二百十五本場:六大学対抗戦-5  罠?

 K大学vsT大学の次中堅戦は、東三局、咲の親。

 咲の配牌は、

 {四七⑥⑥⑧⑧34445西北中}

 ここから打{北}。

 

 その後、咲は二巡目でツモ{⑥}、打{西}。

 

 三巡目、ツモ{4}、打{中}。

 

 四巡目、ツモ{⑥}、打{七}。

 

 同巡、下家の静香が切った{⑧}を、

「ポン!」

 咲が鳴いた。

 ここから打{⑥}なら{四}単騎でタンヤオのみ、40符1翻の2000点の聴牌だが、敢えて{四}切りで聴牌にとらず。

 

 次巡、咲は{⑧}をツモ。

 すると、

「カン!」

 これを加槓した。

 嶺上牌は{3}。

「もいっこ、カン!」

 ここで、咲は{⑥}を暗槓した。

 続いて引いてきた嶺上牌は{3}。

 

 これで咲の手牌は、

 {3344445}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{⑧⑧⑧横⑧}  ツモ{3}

 タンヤオ嶺上開花で和了っていた。タンヤオ嶺上開花、60符2翻弄の1000、2000での和了りだ。

 

 しかし、咲は和了りを放棄し、

「もいっこ、カン!」

 {4}を暗槓すると、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 赤牌………{[5]}を引いて和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {3335}  暗槓{裏44裏}  暗槓{裏⑥⑥裏}  明槓{⑧⑧⑧横⑧}  ツモ{[5]}

「タンヤオ対々三暗刻三槓子嶺上開花赤1。8000オール!」

 2000点の手が、4000点を経由して24000点に化けた。

 まさに、咲は三年前の長野県大会団体決勝大将戦で見せた手と同様の和了りを決めたと言って良い。

 

 現在の四人の点数と順位は、

 1位:照 154000

 2位:咲 121300

 3位:静香 65500

 4位:やえ 59200

 チームトータルで、既にK大学はT大学にダブルスコア以上の差を付けていた。

 

 東三局一本場。咲の連荘。

 ここで静香の配牌は、

 {一五①①②④6白白發發發中}

 ようやく、一発カマす手が来たようだ。

 目指すは大三元。

 しかも、それを門前で作り上げたい。

 

 本大会のルールでは、今までの大会と違って四暗刻単騎がダブル役満として扱われる。

 だからこそ門前で手を進め、{①}を暗刻にして大三元四暗刻単騎のトリプル役満まで持って行けるのがベスト。

 咲や照からの振込みは期待できないが、トリプル役満ツモならK大学チームから一気に72200点を取り戻すことができる。

 

 静香の第一ツモは{中}。まさに豪運だ。ここから打{6}。

 この後、静香は{1九北白9中}とツモり、七巡目で一先ず聴牌した。

 

 静香の手牌は、

 {①①②④白白白發發發中中中}

 大三元嵌{③}待ち。

 

 しかし、七巡目に照が捨てたのは{②}。

 これを、

「ポン!」

 咲が鳴いた。そして、打{①}。

 静香は、

「(ワタシの{①}………。)」

 と心の中で呟いた。{①}ツモ、打{②}で一旦{④}単騎に受けるのが一番理想的な打ち方と考えていたからだ。

 その後、単騎待ちとして理想的な牌へと切り替えて行けるのがベストシナリオ。

 

 同巡、静香は{東}をツモ切り。

 そして、照は手出しで{④}を切った。

 すると、

「ポン!」

 またもや咲が鳴いた。そして、打{①}。

 これで静香は、{①}を暗刻にして{②}または{④}での単騎待ちに移行することが完全にできなくなった。

 

 その二巡後、静香は{③}を引き、

「ツモ。大三元。8100、16100。」

 役満を和了ったが、トリプル役満どころかダブル役満にもできず。シングル役満での和了りに留まった。

 

 これで、現在の四人の点数と順位は、

 1位:照 145900

 2位:咲 105200

 3位:静香 97800

 4位:やえ 51100

 静香が原点近くまで復帰したが、依然としてチームトータルでは100000点以上の差を付けられた状態だ。

 静香としては、まだまだ大きな和了りが欲しいところだ。

 

 

 そして、迎えた東四局。

 当然、この親番に静香は賭ける。

 しかし、こう言った時に限って豪運の超魔物………咲が、

「リーチ!」

 ダブルリーチをかけてきた。

 さすがに、やえも静香も目が点になる。

 

 役満を和了って静香にツキが回るかと思ったが、逆であった。前局で静香は運を一気に放出し過ぎたようだ。

 この局では、静香は運気がカスカスになった感じであった。

 

 ダブルリーチが相手では、待ちを読むのは、まったくもって不可能である。

 静香もやえも、自らの手を進めるため、普通にヤオチュウ牌の整理から始めた。

 

 四巡目。

「カン!」

 咲は{西}を暗槓すると、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。

 役はダブルリーチツモ嶺上開花のみで、他にはドラも無かったが、これで満貫である。

「2000、4000。」

 親の静香にとっては、なんとも不条理な和了られ方であろう。

「くっ………。」

 いつも冷静な静香から、思わず声が漏れた。

 

 

 南入した。ドラは{東}。

 南一局、やえの親。

 やえは再び気を取り直して王者の打ち筋を見せる。

 

 この局、やえの配牌は、

 {一四八九③⑧379南西北發中}

 最悪の六向聴だった。ここから打{西}。

 

 しかし、やえは、二巡目でツモ{⑨}、打{北}。

 

 三巡目でツモ{8}、打{南}。

 

 四巡目、ツモ{一}、打{四}。

 

 五巡目、ツモ{1}、打{發}。

 

 六巡目、ツモ{七}、打{③}。

 

 七巡目に{⑦}をツモ。一切のムダツモ無しで聴牌。

 そのまま勢いに任せ、

「リーチ!」

 やえは、打{横中}でリーチをかけた。

 

 照も咲も安牌で一先ず振り込みを回避。

 そして、次巡、

「ツモ!」

 一発で、やえは{2}をツモって和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一七八九⑦⑧⑨13789}  ツモ{2}  ドラ{東}  裏ドラ{1}

 

「リーチ一発ツモジュンチャン三色ドラ1。8000オール!」

 親倍ツモ。

 ここで大きな一撃を放つことに成功した。

 

 

 しかし、南一局一本場は、

「ポン!」

 咲が照に{白}を鳴かせ、

「ロン。」

 しかも、聴牌即で咲が照に差し込んだ。これは、東一局一本場とまったく同じパターンである。

「白のみ。1000点の一本場は1300。」

 これで照は第一弾の和了りを決めた。

 

 

 南二局、照の親。

 第一弾の和了りを決めると、照の手は早くなる。

 ここでは、僅か三巡で門前タンヤオを聴牌し、

「ロン。2000。」

 照は静香から安手だが直取りした。

 

 南二局一本場。

「ツモ。1300オールの一本場は1400オール。」

 照は、

 {一二三四五六③④[⑤]⑥⑦88}  ツモ{②}

 {四}又は{七}ツモの一切りを視野に入れていたが、手変わり前に和了り牌をツモって和了りを決めた。

 このまま出和了りだと打点上昇に抵触するが、ツモ和了りなら問題ない。

 

 南二局二本場。ドラは{7}。

 この局では、

「ポン!」

 早々に咲が照に{東}を鳴かせた。

 その二巡後に照は聴牌。

 手牌は、

 {二三四五六⑤[⑤]789}  ポン{東東横東}

 相変わらず手が早い。

 

 そして、同巡、

「ロン。5800の二本場は6400。」

 照は、やえから30符3翻の手を直取りした。

 

 南二局三本場。

 照は、静香から出てきた和了り牌を見逃し、その直後に、

「ツモ。平和ツモドラ2。2600オールの三本場は2900オール。」

 ツモ和了りを決めた。

 前々局と同様に、平和ドラ2からタンピンドラ2への移行を考慮していたところに和了り牌を引いてきた感じだ。

 静香を見逃したのは、直取りでは前局の和了りと点数が同じになるためである。これが照の能力の中で、融通が利かないマイナスポイントと言えよう。

 

 南二局四本場。ドラは{⑦}。

 ここでは、

「カン!」

 珍しく照が{二}を暗槓した。

 嶺上牌を引いて聴牌。しかし、リーチをかけず。

 

 同巡、やえは照の聴牌気配を感じたが、ツモ牌は幸か不幸か二枚切れの{西}だった。

 一般に安牌と言える字牌。なので、これをそのままツモ切りした。

 しかし、

「ロン。」

 これで照に振込んだ。まさかの地獄単騎だ。

 

 開かれた手牌は、

 {⑦⑦⑧⑧⑨⑨234西}  暗槓{裏二二裏}  ロン{西}  ドラ{⑦}  槓ドラ九

 

 門前でチュンチャン牌の暗槓が一つにドラが二つ。50符3翻で9600点の手だ。

「四本場は10800。」

 子の満貫を越える大きな手。

 暫定ラスのやえにとっては、かなり痛い振込みとなった。

 

 南二局五本場。

 ここでの照の和了りは、最低でも110符2翻の10600点。

 五本場が付いて12100点となる。

 しかし、110符なんて和了りは通常無い。こんな手を狙って作れるのは咲くらいだろう。

 となると、通常は11600点が最低点。他家は、五本場の13100点を覚悟しなければならないと言える。

 

 いよいよ、照の右腕を核に竜巻が発生した。

 そして、たった四巡目で、

「ツモ。4500オール。」

 照はタンピンツモドラ2の満貫ツモ和了りを決めた。

 これなら出和了りでも11600点と、打点上昇には抵触しない。恐らく、ツモ和了りは結果論だろう。

 

 南二局六本場。ドラは{二}。

 現在の四人の点数と順位は、

 1位:照 182800

 2位:咲 95100

 3位:静香 75000

 4位:やえ 47100

 照の圧倒的リード。チームトータルも、ダブルスコアを超えている状態だ。

 

 ここで、やえの配牌は、

 {二二二三[五]六六七九⑨3西北}

 逆転手とは言えないが、清一色ドラ4が狙える手だ。

 タンヤオまで付けられれば三倍満に達する。

 

 本大会は、全試合の勝ち星数のみで最終的な順位を決める。僅差の負けでも大敗でも結果は同じことだ。

 それに、得失点差も考慮されない。

 ならば攻撃あるのみ。このジリ貧の状態を打破するには、それしかない。

 

 やえは、ここから幸運にも、いきなり{四二五}とツモった。

 当然、切り出しは{3⑨西}。自風の{北}を最後まで残すのが普通であろう。

 

 三巡目にして、やえの手牌は、

 {二二二二三四五[五]六六七九北}

 清一色ドラ5の三倍満一向聴。

 

 次に{一四五六七八九北}のいずれかが引ければ聴牌となる。

 ただ、{北}が来ても、恐らくツモ切りする。ここで欲しいのは混一色ドラ5の倍満ではなく、飽くまでも三倍満だ。

 

 ところが、四巡目から六巡目まで、やえは全く萬子が引けなかった。

 むしろ今までが良過ぎたのだ。

 ここは、ただツモ切りするのみ。

 

 上家の静香の捨て牌は、

 {⑨1北東西中}

 

 対面の咲の捨て牌は、

 {九①9一西白}

 

 下家………親の照の捨て牌は、

 {三⑧⑤八發東2}

 索子の染め手が疑われる捨て牌だ。

 

 そして、七巡目。

 やえは待望の{七}を引いた。

 当然、{北}切りだ。

 門前清一色ドラ5の三倍満。{九}単騎だが、他の萬子が来れば多面聴へと移行できるし、その場合、タンヤオまで付けられるかもしれない。

 その上でツモ和了りできれば数え役満だ。

 しかし、この{北}で、

「ロン。」

 照に和了られた。

 まるで{北}を出させるための罠のようにすら思える。

 

 ただ、咲と言う人間を良く知る者達は、

『絶対あれ、掴まされたよね!』

 と思っていた。

 これも咲の支配の一つとの考えだ。

 

 開かれた照の手牌は、

 {123456789南南南北}

 

 南混一色一気通関。親ハネだ。

「19800。」

 この直撃で、やえは27300点まで点数を削られることになった。



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二百十六本場:六大学対抗戦-6  ダブロン

 K大学vsT大学の中堅戦は、南二局七本場。

 照の連荘。ドラは{3}。

 

 次の照の和了りは親ハネを超える得点、つまり24000点以上になる。

 七本場が付くので、最低でも26100点。

 

 これに振込んだら本気でマズイ。

 特に、やえの場合は振込んだら残り1200点まで落ち込む。

 そうなったら、八本場では静香のツモ和了りもゴミツモ以外は、やえを箱割れさせることになる。

 

 絶対に、ここで照の和了りを阻止しなければならない。

 そう言った中で、静香は最悪の六向聴。豪運の静香でも、照と咲の二人が能力干渉してくるのを跳ね除けられない感じだ。

 特に咲の能力は、後半で強力になる。東三局一本場のような配牌は期待できない。

 

 一方のやえは、配牌で、

 {二八12333468⑨白中}

 

 またもやドラ含みの染め手を狙える手。

 しかも第一ツモが絶好の{[5]}。

「(ならば、ここでも攻める!)」

 やえは、清一色狙いで手を進めることにした。

 

 ここでもやえは、二巡目から四巡目まで{773}とツモった。

 まるで、前局の再現と言える。

 

 この段階でやえの手牌は、

 {1233334[5]6778中}

 索子なら、どれが来ても聴牌になる。

 当然、清一色ドラ5を目指す。

 しかし、その後、やえは索子がツモれなくなった。これも前局に似た現象だ。

 やはり罠なのか?

 

 静香の河には索子が一枚も出ていない。よって、やえは静香からチーもポンもできない。

 照や咲からは索子が切られているが、{1246}である。これらはポンできる索子ではなかった。

 

 そして、迎えた八巡目。

 やえは初牌の{①}をツモ切りした。

 置かれた立場は攻撃あるのみ。守りに走る意味が無いからだ。

 

 すると、

「カン!」

 この{①}を咲が大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {9}を暗槓した。

 さらに咲は、二枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {⑧}を暗槓し、続く三枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。いつもの連槓パターンだ。

 王牌には最後の嶺上牌が残っている。咲は、これ………{[⑤]}を引くと、

「ツモ。」

 嶺上開花での和了りを決めた。

 しかも五筒開花。

「四槓子(ダブル役満)。七本場は66100です。」

 これは、やえの責任払いとなる。これで、やえは箱割れして終了し、K大学チームが三つ目の勝ち星を取った。

 

 さすがのやえも目が点になっていた。

 言葉も出ない。

 しかし、これが真の王者の打ち筋。

 そのことを、やえも認めなければならないだろう。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の一礼の後、咲は、

「じゃあ、また。」

 とだけ静香に言うと、照に連れられて対局室を後にした。

 方向音痴が酷過ぎて、一人で控室まで戻れる保証が無い以上、照のペースに合わせるしかない。

 少し静香と話したかったのだが、咲としては少し残念であった。

 

 卓に付けば最強だが、卓を離れると最弱生物に戻る。

 それが宮永咲。

 今まで放出していた強大なオーラが嘘のようだ。

 

 

 この頃、三人目の魔王、宮永光がパートナーの園田栄子と共にK大学チームの控室を出て対局室に向かっていた。

 光も方向音痴ではあるが、咲ほど酷くは無い。少なくとも対局室の往復やトイレ、自販機コーナーに行くのは問題ない。

 それらに行くことすら危ない咲の方が問題であろう。

 

 途中で光達は咲達に会った。

「勝ち星四つ目、頼んだよ。」

「OK。」

 光は、自信に満ちた顔で、そう照と咲に答えた。

 

 

 対局室に副将選手達が入室した。

 T大学チームからは蔭山桜と島岡豊貴子のペア。二人とも頭が非常に良く、デジタル打ち主体の選手である。

 全てデジタル打ちの完成度のみで勝敗が決まるのであれば、間違いなく桜と豊貴子が勝利するだろう。

 しかし、確率論を超えた『運』と呼ばれる事象が勝負に大きく介入する。

 それが麻雀である。

 

 しかも、この世界では、運に加えて『能力』と呼ばれる不公平な要素が勝敗に大きく関与する。

 勿論、光も栄子も、自分達の能力を駆使して圧倒的勝利を目指す。

 

 

 場決めがされ、起家が豊貴子、南家が桜、西家が栄子、北家が光に決まった。

 そして、豊貴子がサイを回し、いよいよ副将戦がスタートする。

 

 東一局、豊貴子の親。ドラは{3}。

 栄子は絶対的ディフェンスの力で他家の和了り牌が全て分かる。

 ここでは、栄子が光に差し込んで第一弾の和了りをさせようと考えていた。光も照と同様に、第一弾の和了りを達成すると、その後の手が早くなる。

 

「ポン!」

 桜が捨てた{北}を光が鳴いた。これは、光の自風だ。

 

 その次巡、

「チー」

 光は、栄子から{4}を鳴いて{横43[5]}を副露した。明らかに栄子のサポートである。

 副露牌だけで北ドラ2の3900点が確定した。

 ここにさらに一翻つけば満貫である。

 

 しかも、どうやら、これで光は聴牌。

 待ちは良形。{一四七}の三面聴。

 これを能力で察知した栄子は、次のツモ番で{七}を差し込むつもりでいた。

 

 しかし、それより先に豊貴子が{一}を切ってきた。豊貴子としても、親満一向聴に向けて手を進めたかったのだ。

 当然、

「ロン。」

 これで光が和了った。

 開かれた手牌は、

 {二三四五六⑤[⑤]}  チー{横43[5]}  ポン{北横北北}  ロン{一}

 

「北ドラ3。7700。」

 しかも満貫級の手。

 光は、労せずに第一弾の和了りを決めた。

 

 

 東二局、桜の親。

 光は、

「(その他Aみたいなモブキャラ相手に長引かせるつもりは無いからね!)」

 と心の中で言葉を発していた。

 この対局を、さっさとトビ終了させようと考えていたのだ。

 ただ、100000点持ちの対局なので、さすがにそれを口にしたら頭がおかしいと思われるだろう。それで、声には出さないでいた。

 

 一方の栄子は、

「(私、その他A子なんですけど………。)」←園田栄子

 と思いながらも、やはり口に出せずにいた。

 桜と豊貴子に対して、ブラックジョークに感じたからだ。

 

 ここでは、光が順調に手を進め、五巡目のツモで、

「ツモ。タンピンツモドラ3。3000、6000。」

 簡単作業のようにハネ満をツモ和了りした。

 

 

 東三局、栄子の親。ドラは{②}。

 栄子の能力は、相手の和了り牌が分かるだけではない。

 相手の力量によって彼女から削られた点数の上限が決まり、例えば15000点を上限とする者が栄子と対局した場合、100000点の試合持ちであれば、栄子が85000点まで点数を落とした段階で、その者は栄子からの直取りは勿論、ツモ和了りも出来なくなる。

 

 いくら超ディフェンスを誇る栄子だって振込むことはある。全ての手牌が誰かの和了り牌になっていれば、振込むしかないからだ。

 ただ、栄子から削れる上限に達した者は、それが解除されない限り栄子から和了れる状況を作らせてもらえない。

 そのため、栄子の手牌の全てが誰かの和了り牌になったとしても、上限に達した者の和了り牌は、そこには存在しないことになる。

 

 栄子が、桜と豊貴子の上限を測った。

「(T大の二人は、共に13000点程度ね。世界大会の選手に比べると、やっぱり数段落ちるよね。)」

 一応、栄子の目には上限を見抜くスカウターのようなものが装備されている。

 恐らく、このレベルの相手なら余裕だ。

 

 ただ、まだ栄子は和了りを目指さない。

 栄子が自らの点数を87000点以下にすれば、T大学チームの二人は栄子から点数を奪えなくなる。つまり、ツモ和了りを阻止することが出来る。

 また、光は、これくらいの選手が相手なら、100%和了り牌を見抜く。

 つまり、栄子が87000点以下になった時点で、桜も豊貴子も互いから点数を取り合うこと以外は出来ない状態になる。

 

 ここでは、栄子は、光を援護する。

 栄子は、他家の和了り牌を確実に見抜く能力を持っているが、他家の有効牌を完全に見抜ける能力は備わっていなかった。

 しかし、大学に入学し、栄子は今までに無い厳しい環境で研鑽してきた。

 

 削れる点数の上限が無いトリプル宮永。

 能力麻雀が効かない敬子。

 一昨年からさらに力を伸ばし、もはや削れる上限が見えなくなった衣。

 そして、淫猥なる幻の世界に連れ込むことで、栄子の能力麻雀自体を起動できなくしてしまう美和。

 これらの超魔物を相手にしてきたのだ。

 このスパルタ環境の中で、栄子は、能力に頼らずに他家の有効牌を見抜く洞察力を身に着けてきた。

 

「(鳴いて!)」

 栄子が早々に{南}を捨てた。

 これを、

「ポン!」

 光が鳴いた。

 

 次巡、栄子がドラの{二}を捨てた。

 これを、

「ポン!」

 待ってましたとばかりに光が鳴いた。

 

 そのさらに数巡後、

「ツモ!」

 絶対的な支配力の下、

「南対々ドラ3。3000、6000。」

 光が余裕のツモ和了りを決めた。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{②}。

 ここでも。

「ポン!」

 光が栄子から{東}を鳴いた。

 そして、索子、萬子を順次捨てて行く。

 光が筒子に染めているのは、もはや一目瞭然だった。

 ただ、今の光のスピードに桜も豊貴子も付いて行けない。そのまま、光は次々と有効牌を引き入れ、

「ツモ!」

 たった六巡目で、

「ダブ東混一ドラ4({②}二枚に{[⑤]}二枚)。8000オール!」

 親倍ツモを決めた。

 

 この直後、

「「ドドン!」」

 桜と豊貴子に向けて栄子の身体から衝撃波が放たれた。栄子の点数が83000点となり、桜と豊貴子の上限を超えたのだ。

 つまり、この衝撃波は、桜も豊貴子も、ツモ和了りが封じられたことの警告であった。

 ここからは、二人とも手の進みが著しく悪く、滅多なことでは聴牌できない状態に追い込まれることになる。

 

 東四局一本場。光の連荘。ドラは{9}。

 ここでも、

「ポン!」

 光は栄子のサポートで{白}を鳴き、さらに、

「ポン!」

 普通では鳴けないであろう、ドラの{9}を栄子から鳴いた。

 これで副露牌だけで白ドラ3の親満が確定した

 そして、打{[⑤]}。まさかの赤牌切り。

 

 数巡後、豊貴子は{[⑤]}を引いた。

 赤牌なら手元に残したい。

 それで、{②③④}の順子を{③④[⑤]}に変えて{②}を切った。{[⑤]}なら光の現物だが、{②}は一応{⑤}の筋である。なので、通ると思っての打牌だ。

 しかし、

「ロン。」

 この{②}で、光がまさかの和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①③發發發中中}  ポン{横999}  ポン{横白白白}  ロン{②}

 

「小三元チャンタドラ3。24300。」

 まさかの倍直。

 これで、豊貴子の点数は54000点まで落ち込んだ。100000点持ちからスタートし、既に半分近く削られたことになる。

 

 東四局二本場。ドラは{一}

 配牌直後、栄子と光が、

「行くよ、光!」

「OK!」

 互いに何かを示し合わせたように声を掛け合った。

 

 栄子の配牌は、

 {四八①⑥23446南北發發}

 対子が四つ。

 ここから、{①南北}と切り出した。

 この局、栄子が狙うのは、ドイツチーム時代に『リラの鉄槌』と呼ばれた大きな一撃。

 能力発動により、万が一、桜と豊貴子が聴牌したとしても絶対に振込まない。何を切っても当たらない。

 光だけには振り込む可能性がある。しかし、今はチーム戦。光は栄子が和了り牌を切ってきても見逃してくれる。

 その前提の下に強引に手を進めたのだ。

 

 一方の光も、字牌の後にチュンチャン牌を切り出し、順調に手を進めていった。

 そして、打{[5]}。これはツモ切りだった。

 捨てられた牌だけ見れば、まさしく前局見せた筋引っかけ………{[⑤]}を切って豊貴子に{②}を振込ませたのと同様の打牌だ。

 前局では鳴いた際の打牌。つまり手出しであるのに対し、今回はツモ切り。厳密には、その差がある。

 とは言え、そう何回も赤牌切りの筋引っ掛けがあるとも考え難い。

 

 続く豊貴子のツモは{8}。

 これを見て、

「(まさかね。)」

 と思いながら、豊貴子が{8}をツモ切りした。

 しかし、その次の瞬間、豊貴子の背筋に冷たいモノが走り抜けた。

 ヤバイ。

 これは、切ってはいけないヤツだ。

 

 その直後、

「「ロン。」」

 光と栄子が和了りを宣言した。

 本大会はアタマハネではなく、ダブロンを認める。ここで豊貴子は、相手チームの二人に同時に振込んだのだ。

 

 光の手は、

 {一一七七八八九九⑦⑧⑨79}  ロン{8}  ドラ{一}

 ジュンチャン三色同順一盃口ドラ2の親倍。24000点。

 

 そして、栄子の手は、

 {2233446668發發發}

 {78}待ちの高目。まさかの緑一色。

 ただ、芝棒だけはアタマハネで栄子に付くことになった。

 32600点の和了りだ。

 

 合計58600点。

 この豪快なダブロンにより豊貴子のトビで終了。K大学チームが、四つ目の勝ち星を上げた。



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二百十七本場:六大学対抗戦-7  こ…これって…

 K大学vsT大学の副将戦が終了した。

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の一礼がなされた。

 その後、四人とも卓から離れたが、出入り口に向かう途中で豊貴子が急に座り込んだ。全身から力が脱けてしてしまったのだ。

 それだけ、最後のダブロンはショックだった。

「大丈夫?」

「ゴメン、キツイ…。」

 豊貴子は、チームメイトの桜に肩を借り、何とか対局室から退室した。

 

 

 それからしばらくして、大将の四人が対局室に姿を現した。

 K大学チームからは宮永照と天江衣。これはこれで、相手チームにとって最悪なコンビである。

 対するT大学チームからは鷲尾静香と安福莉子。

 

 衣は、ようやく自分の対局が回ってきてヤル気マンマン、ハイテンションと、相手にとって最悪な状態だった。

 正直、莉子のメンタルが持つか心配な対局である。

 

 

 場決めがされ、起家が静香、南家が衣、西家が照、北家が莉子に決まった。

 照が北家でないだけマシかもしれないが………。

 

 衣は、

「チームメイトの対局を見て、衣もウズウズしていた。いきなり御戸開き………全力で行くぞ!」

 と言うとオーラを大放出した。

 照もオーラ全開。

 常人であれば吐き気を催すレベルの空気だ。

 

 この二人に圧倒されて、莉子は、

「(先にトイレに行っておいて良かった。)」

 と心底思っていた。

 もし、トイレに行っていなければ、この段階で既に大放出していたかもしれない。それくらいの重圧なのだ。

 

 東一局、静香の親。ドラは{南}。

 ここでは、

「ポン!」

 静香が第一打牌で捨てた{①}と、

「ポン!」

 同じく静香が第二打牌で捨てた{⑤}を衣は鳴いた。

 衣の右側に、{横①①①}と{横⑤[⑤][⑤]}が副露された。

 

 衣の捨て牌は、{24}。

 しかも筒子の面子が二つ副露されている。

 莉子は、衣が筒子に染めている可能性を強く考えていた。

 そこに莉子がツモってきたのは{1}。

「(大丈夫だよね。)」

 そう心の中で声を漏らしながら、莉子は{1}をツモ切りした。

 少なくとも漏らしたのは心の中の声であって、放水ではない。それ以前に、放出するほど溜まっていない。

 

 すると、

「昏鐘鳴の音が聞こえるか?」

 と言うと、衣は、

「ロン!」

 この{1}で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {1南南南白白白}  ポン{横①①①}  ポン{横⑤[⑤][⑤]}  ロン{1}  ドラ{南}

 

 いきなり、南白対々和ドラ5の倍満。

 しかも、これは衣の自風の{南}、{⑤}、{白}、{①}を刻子とした手。

 ローカル役満の風花雪月でもある。

 風花雪月は、本大会では役満として認められていないため倍満となったが、ローカル役満を振込んだショックは大きいだろう。

 

「こ…これって…。」

 莉子の口から思わず声が漏れた。

 勿論、漏れたのは声であって、まだ聖水ではない。

 

 

 東二局、衣の親。ドラは{②}。

 ここでも衣は、

「ポン!」

 静香が第一打牌で捨てた{發}と、

「ポン!」

 照が第二打牌で捨てた{④}を鳴いた。

 衣の捨て牌は、{1九西}。

 正直、まだ何をしようとしているのか分からない。

 

 その後、衣は{7③四}と捨てた。

 

 続いて莉子がツモった牌は{北}。

 これは、照の第一打牌と静香の第二打牌で河に見えている。

 それで莉子は、ノーケアーで{北}を捨てた。

 すると、

「ロン。」

 これで衣に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {②②②⑧⑧⑧北}  ポン{④④横④}  ポン{横發發發}  ロン{北}

 

 これは、ローカル役満の青の洞門だ。

 もっとも、ここでは青の洞門を役満として認めていないため、發混一色対々和ドラ3の親倍としてカウントされる。

 とは言え、たった二回の直撃で、莉子は一気に40000点を失った。

 25000点持ちなら、既にトビ終了している。

 恐るべき衣のスタートダッシュである。

 

 東二局一本場。衣の連荘。

 この局、衣は、{④七}と捨て、

「ポン!」

 三巡目で照が捨てた{東}を鳴いた。そして、打{③}。

 

 同巡、莉子は{九}をツモ切り。不要なヤオチュウ牌を、そのまま捨てただけだ。

 すると、

「ロン!」

「えっ?」

 これで衣に振込んだ。

 まさかの和了りに、莉子も思わず声が出た。

 

 開かれた衣の手牌は、

 {九①①①⑤⑤[⑤]111}  ポン{東東横東}  ロン{九}

 

 これはローカル役満の花鳥風月。

 ここでは、ダブ東対々和三暗刻赤1のハネ満として扱われる。

「18300!」

 もはや、莉子は衣への振込みマシーン………いや、サンドバッグと化していた。

 

 東二局二本場。ドラは{九}。

 この局では、全員が門前で手を進めた。

 ただ、実質手が進んでいるのは衣だけで、他の三人は配牌とツモ牌が全然噛み合わず、しかも鳴くことも出来ない最悪の状態となった。

 

 そのまま場が進み、ツモ牌が残り十枚となった。

 ツモ番は衣。{④}をツモ切り。

 次の照もツモ切り。

 そして、莉子が一枚切れの{南}を引き、これをそのまま捨てると、

「ポン!」

 これを照が鳴いた。照の自風だ。

 

 ここで照の第一弾の和了りを許すと、次局から親での連続和了が始まってしまうだろう。さすがに、それは避けたい。

 

 次のツモ番は再び莉子。

 照への振込みをケアして、彼女は敢えて照の現物を切った。

 続く静香も照に注意を払い、照の現物を手出しした。

 

 ツモ牌は残り五枚。

 ここで衣が、

「リーチ!」

 ツモ切りでリーチをかけてきた。

 この時、静香は、

「(あの{南}の鳴きは、天江さんへのアシストか!)」

 照の鳴きの意味を理解した。

 一切の鳴きが入らなければ、親の下家が海底牌を引く。つまり、ここでは照が海底牌をツモることになる。

 それで照は、莉子から鳴くことによって海底牌を衣に回したのだ。

 

 照は、ここで{西}を切った。ここまで字牌を持っていたのだ。理由は、静香や莉子に鳴かせないため。

 莉子は、衣の現物切りで凌ぎ、静香も同様に衣の安牌で一発振込みを回避することしか出来なかった。

 

 そして、海底牌。

 衣は、これを引くと、

「ツモ!」

 当然のことのように海底牌での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三九九②③112233}  ツモ{①}  ドラ{九}  裏ドラ{7}

 

「リーチ一発ツモ海底撈月平和ジュンチャン三色一盃口ドラ2。16200オール!」

 まさかの数え役満。

 しかも、一筒撈月。

 まるで咲の五筒開花に対抗するかのように色々見せてくれる。

 

 これで、大将戦の順位と点数は、

 1位:衣 206900

 2位:静香 83800(順位は席順による)

 3位:照 83800(順位は席順による)

 4位:莉子 25500

 衣が全員に圧倒的大差を付けた。

 しかも、まだ東二局だ。

 莉子でなくても、

『こ…これって…』

 と言いたくなるだろう。

 

 静香としても、これでは莉子へのフォローも出来ない。衣の支配力が強力過ぎて、どうにもならないのが実情だ。

 そんな状態で、東二局三本場へと進んだ。

 

 急激に衣の支配力が下がって行った。どうやら、衣は短期集中で支配力を一気に開放していたようだ。

 理由は一つ。豪運の静香の手を抑えるため。

 

 そして、ここでは、

「ポン!」

 衣が捨てた{白}を照が鳴き、

「ツモ。白のみ。300、500の三本場は600、800。」

 照が第一弾の和了りを決めた。

 これより、照の連続和了が始まる。

 

 

 東三局、照の親。

 一度和了り出すと、照を止めるのは至難の技である。

 しかも、照の下家が綺亜羅三銃士と呼ばれた豪運の静香ではなく莉子だったのは、巡り合わせとして最悪だったかも知れない。

 特に莉子は、これまで衣のサンドバッグと化していて、完全に振込み癖がついている状態にある。

 

 四巡目で照が聴牌した直後、莉子が切った{⑧}で、

「ロン。(門前)タンヤオのみ。2000。」

 照に和了られてしまった。

 

 東三局一本場。

 ここでも照は、たった三巡で聴牌し、

「ロン。(門前)白ドラ1。3900の一本場は4200。」

 聴牌即で莉子から和了った。

 

 東三局二本場。

 早々に照は、

「ポン!」

 衣が捨てた{中}を鳴いた。

 そして、またもや莉子から、

「ロン。中ドラ2。5800の二本場は6400。」

 直取りした。

 これで莉子は、照に三連続振込みである。

 衣への振込みも含めると、実に六回目の振込みになる。もう、どうにも止まらない状態なのだろう。

 

 しかも、現在の大将戦の順位と点数は、

 1位:衣 206100

 2位:照 98400

 3位:静香 83200

 4位:莉子 12300

 万が一、次の親満を振込んだら芝棒が付いて莉子は箱割れしてしまう。照と衣のダブル超魔物が相手である以上、もはや後が無いと考えて良いだろう。

 実に厳しい状態だ。

 

 それと静香達には、もう一つ大きな問題があった。

 この半荘が始まって、まだ静香と莉子は一度も和了っていない。ヤキトリ状態なのだ。

 二人とも、照と衣を相手に、せめて一回でイイから和了りたい。

 

 そしてスタートした東三局三本場。ドラは{2}。

 この局、莉子はオタ風牌から切り出した。ムリに風牌を集めて役満一撃を………なんて考えは持っていなかった。

 続いて数牌のうち端牌を処理して行くことになる。飽くまでも普通に打って行く。

 

 ところが、四巡目に捨てた{⑨}で、

「ロン。」

 莉子は照に振込んだ。

 まだヤオチュウ牌処理の最中だ。こんなのって無い。

 それこそ、初美じゃないが、

『ないないっ! そんなのっ!』

 と大声を上げて叫びたいところだ。

 

 照が開いた手牌は、

 {一二三④[⑤]⑥⑦⑧2345[5]}

 平和ドラ3。親で11600点の手だ。

 実際の点数は、ここに芝棒が付いて12500点になる。

 

 この手を見て莉子は、両手で顔を覆った。

「こ…これって…。」

 12300点しか持っていなかったところに12500点の振込み。

 莉子の箱割れ。

 トビ終了だ。

 

 しかも、大将戦の順位と点数は、

 1位:衣 206100

 2位:照 110900

 3位:静香 83200

 4位:莉子 -200

 チームトータルでは、K大学チームが317000点、T大学チームが83000点と、四倍近い差がついた。

 オマケに静香も莉子もヤキトリ。静香達にとっては、完全なる大敗であった。

 

 これで、K大学チームは、五つ目の勝ち星を手に入れた。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の一礼を終え、K大学とT大学の対戦が終了した。

 

 …

 …

 …

 

 

 静香と莉子が控室に戻ってきた。

 そこは、シンと静まり返った空間。まるで通夜のようだった。

 この結果は、ある程度覚悟していたが、やはり現実のものとなるとショックの色は隠せなかった。

 

 しかし、この大会はトーナメント戦ではなく総当たり戦。

 明日も試合がある。

 故に、今日は負けても、そのネガティブな気持ちを明日に持ち越してはならない。負けた分を、今後の試合で取り返して行かなければならないのだ。

 

『明日こそは勝つ!』

 そう気持ちを切り替えて、やえ達は控室を後にするのだった。



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二百十八本場:六大学対抗戦-8  大会二日目開始

今回、説明部分が多くなります。


「やはり、T大学は総合力が今ひとつだ。」

 それが大将戦終了後の、衣の素直な感想だった。

 

 

 過去二年間、T大学チームは、奈良県王者のやえ一人で何とか勝ち星を上げていたチームだった。

 しかし、今年は憧と静香が加入したことで間違いなくレベルアップしている。昨年よりもずっと良い成績を出せるようになるだろうと誰もが期待していた。

 

 憧は、高校では春季大会、インターハイ、国民麻雀大会(コクマ)を全部併せて団体優勝が五回、準優勝が一回のチームにいた。

 しかも常勝阿知賀女子学院の部長を勤めていた選手だ。

 

 一方の静香も、先輩の暴力事件があったため、大会には2年生の秋季大会からの参戦となったが、団体戦は春季大会で3位、インターハイで準優勝、コクマでは3位のチームで活躍し、三銃士の一人と呼ばれていた選手だ。しかも、その強豪チームの副部長を務めていた。

 個人戦でも春季大会は全国10位、インターハイでは13位。

 世界大会にも神楽に降臨する生霊として参加した。

 

 

 とは言え、やえと憧は強いが、衣レベルから見れば数段劣る。

 正直、魔物は静香一人だけだ。

 これでは、魔物八人を擁するK大学チームには勝ちようが無い。

 

 

 大将戦を例に挙げても、静香からは並みならぬ気配を感じ取っていたが、莉子が魔物の粋に達していない。

 莉子自身も、本来は決して弱い選手では無い。高校では全国大会常連の強豪校で1年生の時からレギュラー選手に選ばれている。

 しかし、さすがに魔物に勝てる器ではない。

 

 たとえ静香が魔物でも、コンビ麻雀である以上、静香を狙わずに相方である莉子を徹底的に叩けば良い。

 それで簡単に落とせることは、結果が証明している。

 

 とは言え、今後、他のチームとの対戦では、魔物不在の対戦もあるだろう。

 そこで、どれだけ勝ち星を上げられるかが、この六大学戦におけるT大学チームの課題となる。

 

 

 

 六大学戦初日に、同時開催されていたW大学チームと M大学チームの対戦は、以下のとおりとなった。

 

 先鋒戦は、竹井久・福路美穂子vs佐々野いちご・美入人美の対戦。

 いくら久と美穂子でも、美貌では、いちご・人美のM大学チームには適わなかった。しかし、肝心の麻雀では久・美穂子のW大学チームが勝利した。

 

 次鋒戦は、西野カナコ・原村和vs反町愛射・転法輪弥生(ゴツい名前:てんぽうりんやよい)の対戦。

 昨年のドイツチームでナンバー4とされたカナコが珍しく崩れて、愛射・弥生のM大学チームが勝利した。

 

 中堅戦は百目鬼千里・西野カナコvs染谷まこ・佐々野いちごの対戦。

 ここでは、カナコが調子を取り戻し、W大学チームが大勝利した。やはり、世界大会代表コンビはダテではなかった。

 

 副将戦は竜崎鳴海・鬼島美誇人vs成長結実・天地聖美の対戦。

 前評判では、綺亜羅三銃士のコンビの圧勝とされた。特に、三銃士ナンバーワンとされる『御無礼』に誰もが期待した。

 一応、鳴海・美誇人のW大学チームが勝利を収めたが、僅差であり多くの人達が驚いたと言う。三銃士ペアが圧勝すると思っていたからだ。

 これによって、結実・聖美ペアの株が一気に急上昇した。

 

 大将戦は雀明華・百目鬼千里vs水村史織・染谷まこの対戦。

 この対局は、大方の予想通り明華・千里のW大学チームが圧勝した。

 

 以上より、W大チームが勝ち星四、M大学チームが勝ち星一を得た。

 

 

 また、R大学チームと H大学チームの対戦は、以下のとおりとなった。

 先鋒戦は、多治比真佑子・椿野美幸vs佐々野みかん・多治比麻里香の美女対決。

 美貌では、みかん・麻里香のH大学チームが僅差で勝利したが、肝心の麻雀では真佑子・美幸のR大学チームが僅差で勝利した。

 

 次鋒戦は、引世菫・数南数絵vs大星淡・亦野誠子の対戦。

 始終、誠子が菫に狙われ、しかも後半に数絵が覚醒。淡も何とか応戦したが、結果としてR大学チームが勝利した。

 

 中堅戦は加治木ゆみ・多治比真佑子vs辻垣内智葉・大星淡の対戦。

 さすがに、この対決はH大学チームが圧勝した。

 

 副将戦は、東横桃子・加治木ゆみvs池田華菜・中田慧の対戦。

 華菜と慧の二人がムチャクチャうるさい試合だった。結果は、桃子・ゆみのR大学チームが勝利した。

 

 大将戦は、森垣友香・霜崎絃vs片岡優希・辻垣内智葉の対戦。

 東風の神と呼ばれる優希が恐るべきスタートダッシュを見せ、さらに後半は智葉が全体を支配し、H大学チームが余裕で勝利した。

 

 以上より、R大チームが勝ち星三、H大学チームが勝ち星二を得た。

 

 

 

 翌日、六大学戦二日目の試合が開催された。

 K大学チームはM大学チームと対戦。

 前年度2位のW大学チームは前年度4位のH大学チームと、前年度3位のR大学チームは前年度6位のT大学チームと対戦する。

 

 

 K大学チームの先鋒は、咲&美和の最悪コンビ。

 対するM大学チームの先鋒は、佐々野いちごと美入人美の美女コンビであった。

 

 いちごは、3年前のインターハイナンバーワン美女。

 人美は、昨年の春季大会では美女ランキングナンバーツー、昨年のインターハイでは美女ランキングナンバースリー。

 この超絶美女達が、最悪コンビと戦う。

 当然、この日も某ネット掲示板住民達は、K大学チームの試合にテレビのチャンネルを合わせていた。

 

 対局室に先鋒四人が入室し、早速、場決めがされた。

 起家はいちご、南家は人美、西家は咲、北家は美和に決まった。

 

 サイが振られ、対局がスタートした。

 東一局、いちごの親。ドラは{8}

 ここでは、五巡目に、

「リーチ!」

 咲が先制リーチを仕掛けた。

 

 この時、いちごも人美も手が早く、共にダマで聴牌していた。

 しかも、いちごは、

 {三四五六七④[⑤]⑥34[5]88}

 {二五八}待ちでタンピンドラ4の親ハネ聴牌。

 

 人美は、

 {七八九①①⑦⑧⑨78白白白}

 {69}待ち。高目の{9}で白チャンタ三色同順の満貫手。

 

 一方の咲は、

 {二二二四五六②③④2356}  ツモ{4}

 

 ここから、まさかの打{横3}でリーチをかけたのだ。

 普通なら打{二}で、いちごに振込むと思われたところ、それを回避。

 しかも、{25}待ちや{36}待ちに取らず、敢えて{2}単騎に受けたのだ。

 通常、{2}を待ち牌にするのなら{6}切りで{25}待ちにするだろう。しかし、それでは人美に振込む。

 これも{3}切りにすることで回避していたのだ。

 

 そして、次巡、

「カン!」

 咲は{二}を暗槓すると、

「ツモ! 2000、4000!」

 リーチ門前清自摸タンヤオ嶺上開花の満貫をツモ和了りした。

 普通、有り得ないスーパープレイだが、これを日常茶飯事とする咲は、やはり異常であろう。

 

 

 咲は、この後、東二局も、

「ツモ! 2000、4000!」

 

 東三局も、

「ツモ! 4000オール!」

 

 共に満貫和了りを連発した。

 これで、先鋒戦の暫定順位と点数は、

 1位:咲 128000

 2位:美和 96000

 3位:いちご 94000(順位は席順による)

 4位:人美 94000(順位は席順による)

 咲が大きくリードした。

 

 チームトータルでは、まだ二人併せて二度のハネ満直撃で芝棒が付けば僅かとは言え逆転可能な範囲の点差である。

 しかし、いちごや人美からすれば、咲に30000点以上の差を付けられている。

 当然、焦る気持ちが隠せなかった。

 

 東三局一本場。咲の連荘。ドラは{白}。

 ここで咲は、

「カン!」

 早々にいちごが切った{①}を大明槓した。

 本大会では、槓ドラは即の乗りのルールだった。

 めくられた槓ドラ表示牌は{中}。つまり、{白}がダブルのドラとなった。

 さらに咲は、ここから{白}を強打した。

 

 場が凍り付いた。

 しかも、

「ポン!」

 これを美和が鳴いた。この副露牌だけで白ドラ6のハネ満が確定である。いちごと人美にとっては最悪極まりない。

 

 さらにここから、咲は美和を支援する。

「チー!」

 美和は、{横879}を副露し、その数巡後、

「ツモ!」

 とうとう和了りを決めた。

 

 美和の背後から、いちごと人美に向けて多数の触手が一斉に伸びてきた。美和ワールドへのご招待だ。

 二人は、触手が四肢に絡み付き、身体の自由を奪われた。しかも、触手からは消化液が出ている。

 あっという間に衣類だけが溶かされ、しかも触手が粘液を分泌しながら執拗に二人の胸や股間を刺激する。

 

 …

 …

 …

 

 

「ツモ。3000、6000。」

 二人が美和の点数申告の声を聞いたのは、体感時間で一時間を過ぎた頃だった。

 

 当然、これを見ていた某ネット掲示板の住人達は、

『いちごが、みかんジュースを出しましたわ!』

『非常にスバラです!』

『これが見たかったッス!』

『この未来は見えとったが、実際に見れると嬉しいなぁ』

『でも、これを機会に、いちごジュースで良くない?』←みかん

『やっぱり、みかんジュースはみかんジュースだと思』

『いちごジュースじゃ血尿みたいだじぇい!』

 大喜びだったと言う。

 

 

 M大学チームの控室で対戦を見ていたまこが、ふと、

「さすが、咲じゃ!」

 と言葉を漏らした。

 すると、まこの十八番、時間軸の超光速跳躍が発動した。

 

 …

 …

 …

 

 

 この後、美和は、咲の支援で大量のドラを乗せ、東四局は親倍、東四局一本場では親の数え役満を、いちごから連続で直取りした。

 いちごとしても、脳内がすっかりドピンク色に染まって、気が付いたら自ら望んで振込んでいた。これが美和ワールドの恐ろしさだ。

 これで、いちごの点数は14600点まで落ち込んだ。

 

 続く東四局二本場も、咲が連槓で大量に美和の手にドラを乗せ、結果的に美和が数え役満をツモ和了りした。

 

 これで、先鋒戦の暫定順位と点数は、

 1位:美和 225200

 2位:咲 105700

 3位:人美 70700

 4位:いちご -1600

 K大学チームが圧勝し、勝ち星一を取った。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の一礼の後、対局室は清掃作業に入った。いちごと人美が座っていた椅子の交換と換気だ。

 この時、男性スタッフの中には、結構前屈みになっている者がいた。超絶美女コンビが美和ワールド行きになったのだから、やむを得ないだろう。

 

 清掃終了後に、改めて控室に対局再開の連絡が入ることになっていた。

 それまで、選手達は一休みとなる。

 

 

 咲と美和が控室に戻った時、そこでは弥呼に誰を降ろすかの話し合いがなされていた。今回も前回に続いて節子に降りてきてもらうはずだったのだが………、急に衣から横槍が入ったのだ。

 

 弥呼は、神楽と同じで事前にオーダーを天からの啓示で知ることが出来る。

 それで、六大学戦開始前に各チームのオーダーを知っていたし、その情報を部内でも共有していた。

 また、同時に、M大学チームは、意外と次鋒が曲者であることも啓示されていた。

 部内ランキングは3位と4位の選手のペアなのだが、対外的にはダブルエースの中堅二人よりも面倒な相手のようだ。

 

 弥呼は、反町愛射に関して、

『鏡の持ち主』

 とだけ知らされていた。

 ただ、啓示とか予言は抽象的な表現が多い上に、今回は、

『今まで見て来たモノとは違う』

 としか教えられていなかった。

 なので、詳細が分からない。

 

 鏡の持ち主で連想するのは、照、マホ、ミラの三人。

 照の場合は照魔鏡で相手の本質を捉え、マホは他人をコピーする。また、ドイツチームの補員だったミラも、マホと詳細は違うが他人をコピーするところは同じだ。

 いずれも相手にしたくない選手達だ。

 

 もう一人のM大学チーム次鋒選手、転法輪弥生も、何らかのチート能力を持つようだ。

 ただ、弥生については完全にノーヒントだった。

 それで、団体戦では愛射と弥生の能力を節子に探ってもらい、個人戦に備えようと考えていた。

 

 

 神楽と同じで、弥呼は死人の霊だけではなく生霊も降ろせる。

 当然、咲や照の生霊を降ろすのも方法としては有る。

 しかし、咲を降霊した場合、咲が先鋒戦から中堅戦まで三連続での出場となり、体力的に中堅戦がキツくなる。

 それ以前に、先鋒戦の後、すぐに咲が幽体離脱のための眠りに入れるかどうか分からないし、もし眠れたとしてもエース対決となる中堅戦が寝起き直後になるのは宜しくない。頭が半分寝ていて十分に力を発揮できない可能性がある。

 

 また、照を降ろす場合も、次鋒戦、中堅戦、大将戦の出場となり、副将戦時に休憩できるとは言え、大将戦がキツくなる。

 勿論、照だって寝起き直後の中堅戦では力を十分発揮できない可能性があるだろう。

 それもあって、弥呼に降ろす生霊は衣と光に絞っていた。

 

 元々は、生霊まで降ろせるのを暴露するのは、大会五日目のR大学チームとの対戦にしようと考えていた。

 つまり、生霊を降ろして戦うのは大会五日目(土曜日:R大戦)と、翌日の六日目(日曜日:W大戦)のみとする。

 これなら、宿敵W大学チームも十分な分析は出来ないだろうとの考えだ。

 

 加えて、幽体離脱が癖になってはマズイので、大会期間中に衣も光も降ろすのは一回だけと決めていた。

 これらの背景から、このM大学チームとの対局では、星を一つ落としてもイイから弥呼には節子を降ろす予定でいた。

 

 ところが、ここに来ていきなり、

「そのような奇妙奇天烈な奴らが相手なら、是非、衣が打ちたい!」

 と衣が言い出したのだ。

 非常に衣らしいと言えよう。

 

 弥呼と栄子は衣の申し出に反対したが、最終的に部長の照が、

『愛射と弥生の本性を衣が完全に暴くこと!』

 を条件に、次鋒戦の出場(生霊)を許可した。

 子供(衣)の勝利である。



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二百十九本場:六大学対抗戦-9  反射

 K大学チーム控室にスタッフから試合再開の連絡が入り、弥呼と敬子が控室を出た。

 この時、既に衣はソファーの上で眠りこけていた。

 

 二人が対局室に入り、卓に付いた直後、弥呼の様子が急に変わった。衣の生霊が降りたのだ。

 

 しばらくして、M大学チームの次鋒、反町愛射と転法輪弥生が対局室に入室してきた。

 相手が優勝候補と呼ばれるK大学チームだが、二人とも非常に落ち着いていた。いや、むしろ、笑みさえ零れていた。勝てる自信があるようだ。

 

 場決めがされ、起家が弥呼(衣)、南家が愛射、西家が敬子、北家が弥生に決まった。

 そして、サイが振られ、次鋒戦がスタートした。

 

 東一局、弥呼(衣)の親。ドラは{②}。

 ここで衣は、T大学チームと戦った時と同様に、早い和了りを目指した。

 ただ、衣の早和了りは安くない。ハネ満クラスになることがザラにある。

 今回も、二巡目に、

「ポン!」

 愛射から{中}を鳴き、さらに次巡、

「ポン!」

 弥生が捨てた{5}を鳴いて{横555}を副露した。

 

 しかも、既に衣の手牌は、

 {1777999  ポン{横555}  ポン{中中横中}

 中混一色対々和赤1の親ハネを聴牌していた。

 しかも、この形はローカル役満の紅孔雀だ。

 

 ただ、弥呼からは相手の手牌が全て透視できると聞いていたが、何故か衣は、愛射の手だけは透視できなかった。

 新種のバリヤーだろうか?

 それでも、衣だって相手の手牌くらいは読む。三年前のような、能力だけに頼った打ち方はしていない。

 

 同巡、衣は、愛射から{1}が零れ落ちてくるものと踏んでいた。

 ところが、愛射が切ったのはドラの{②}。しかも、次巡も愛射は{②}を切った。まさかのドラの対子落とし。

 普通は有り得ない打ち方だろう。

 ただ、少なくとも愛射からは聴牌気配を感じない。他の二人も聴牌していないのは透視して分かっている。

 

 その直後、衣が引いてきたのは{[5]}。

 ならば、

「カン!」

 衣は、自らの手にドラを乗せるつもりで加槓した。

 ところが、

「ロン。」

「えっ?」

 まさかの槍槓。

 衣の振込みである。

 他家の聴牌気配どころか、和了り牌から手の高さまで完全に察知する衣だ。この振り込みは彼女自身も信じられなかった。

 

 手を開いていたのは愛射。

 {四[五]六④[⑤]⑥1146888}  ロン{[5]}

 

「槍槓三色ドラ3。12000。」

 しかもハネ満。

 衣の和了り牌である{1}を取り込んでの聴牌。そのためにドラを落としたのだろう。

「そんな高い手。でも、どうして衣が察知できなかった?」

「やっぱり、中身は天江さんだったのね」

「しまった!」

「反射………。」

「えっ?」

「それは、私の能力反射によるものよ。本来なら天江さんから私に来るべき能力支配が反射されて、私から天江さんが能力支配を受けるようになるのよね。」

「何っ?」

「つまり、天江さんが能力を強めれば強めるほど、その支配力はカウンターとなって天江さんに降りかかるってこと。」

 

 愛射が、この能力に目覚めたのは昨年の秋。同じM大学チームの副将、成長結実(なりながみのり)の、

『仲間の能力を開花させる能力』

 によって開花したらしい。

 

 今、M大学で愛射は実力3位だが、これは、1位のまこと2位のいちごが能力麻雀ではなく純粋に強いタイプだからであろう。

 残念ながら、愛射の能力は、非能力者のまこといちごには効果が無い。

 

 しかも、M大学の校内順位はウマもオカも付けずに、素点の合計だけで決めていた。

 まこもいちごも格下相手には大きく勝つ。

 一方の愛射は、能力者には勝てても非能力者相手に必ずしも大勝ちできるわけではない。

 これらの要因から、愛射は校内順位が3位になっていただけである。恐らく、対外的には、まこやいちごよりも愛射の方が面倒な相手であろう。

 

 絶句。

 さすがに衣も言葉が出なかった。

 まさか、こんな形で衣の能力が塞がれ、しかも利用されるとは………。

 実質、衣の能力がコピー………いや、盗まれているのと同じだ。

 

 対する愛射は、

「なので、私には天江さんの手牌が全部分かるの。反射した能力によって得られるものは、私の方に飛んでくるからね。」

 と言いながら余裕の表情を見せていた。

 衣の支配力と弥呼の透視能力を衣に跳ね返している………実質、その能力を愛射が衣に浴びせているのだから当然だろう。

 

 この時、衣は、W大学チームがM大学チームと戦った際、カナコが崩れた理由をイヤと言うほど………身をもって理解していた。

 カナコも、この愛射の能力反射を受けて崩れたのだ。

 

 

 東二局、愛射の親。

 ここでも、愛射が衣の支配を反射………実質、自身の能力として利用し、

「ツモ。6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。

 

 しかし、東二局一本場。

 毎度の如く、敬子がマイペースの捨て牌から、

「リーチ!」

 四巡目で先制リーチをかけた。

 

 今、愛射は弥呼の能力反射で透視能力が使えるはず。

 ところが、愛射には敬子の手牌を透視できなかった。

「(どう言うこと?)」

 まさか、敬子が自分に降りかかる能力をキャンセルするとは………、愛射にとっても想定外である。

 今まで敬子がキャンセルできなかったのは咲の凶悪なオーラくらいだろう。

 

 そして、その数巡後、

「ツモ。メンタンピンツモドラ2。3100、6100!」

 敬子はハネ満をツモ和了りした。良くも悪くもマイペースだ。

 

 

 東三局、敬子の親。

 ドラは{南}。弥生の自風だ。

 そう言えば、この対局では、敬子は人魚の歌声を披露していない。

 何故か?

 理由は簡単である。

 人魚の歌声を聞かせたら、それが良い子守唄となって衣が瞬時に寝てしまう可能性があるからだ。

 それで、敬子は人魚の歌声を封印させられていた。これは、照と咲からの指示である。

 

 ここでも敬子はマイペースで打つ。

 しかし、人魚の歌声で他家を魅了することが出来ない以上、愛射も弥生も頭の回転が鈍ることは無い。普通に打ってくる。

 

 それと、今回、妙に弥生の配牌が良いことを衣は分かっていた。

 衣が愛射に放った分の能力は反射されても、弥生に放った分は正常に機能してくれている。それで弥生の手牌を衣は弥呼の能力で透視できていたためだ。

 このままでは、弥生が序盤でさくっと和了ってしまいそうだ。

 

 チームメイトの敬子の親番。

 敬子が和了る分には、衣としてはOKだが、ここで敵チームの弥生には絶対に和了らせたくない。

 当然、

「(一向聴地獄!)」

 能力発動で、衣は弥生の手を封じに出た。

 自身に降りかかる能力をキャンセルする敬子には、この衣の能力は効かない。

 衣自身は、愛射の能力反射で一向聴地獄に落ちることになるが、自分が和了れなくても敬子が和了れば問題ない。

 

 たしかに、衣が課した一向聴地獄で弥生は聴牌できなくなった。

 しかし、もう一人の敵、愛射には一向聴地獄が課されない。しかも、弥呼の能力も反射してしまうため肝心の透視能力も届かない。

 

「ポン!」

 敬子が捨てた{白}を愛射が鳴いた。

 そして、その二巡後に、

「ツモ。」

 衣が警戒していた弥生ではなく、愛射にさくっと和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三④⑥789南南}  ポン{白白横白}  ツモ{[⑤]}  ドラ南

 

「白ドラ3。2000、3900。」

 これが中国麻将なら花竜(三色一通)と五門斉が付く。

 単なる満貫級の和了りでないところが、まるで衣のようだ。やはり、衣の能力を反射しているのはダテでは無いと言うことだ。

 

 この和了りを見て、敬子は、

「先輩。次。」

 と声を出した。

 これは、弥呼の中に居る衣に向けて言った言葉だ。次に何かをやらかしたい。そう言う意味だ。

 ただ、衣は、

『先輩』

 と呼ばれて、やたら嬉しそうだった。

 

 

 東四局、弥生の親。ドラは{7}。

 今回、敬子の捨て牌は、

 {三七⑤東南2}

 今までと違うパターンだ。

 これが来た時、敬子は麗しき人魚からクラーケンと化す。

 ただ、今までの傾向から、クラーケンバージョンの敬子の和了りには{八}、{⑧}、{8}が絡むことが多い。特に{8}での和了りが多い印象がある。

 それに、萬子、筒子の後に字牌切りで、その更に後に索子が切られている。一般的に索子染めと考えられる切り出しとも取れる。

 

 それもあって愛射は、

「(だったら、{8}を捨てなければ良いだけよね!)」

 と考え、たった今引いてきた{8}を手牌に入れた。

 もっとも、今回、{8}はドラそばなので、出来れば自分の手の中でドラ含みの面子として使いたい。

 そして、愛射がノーケアーで{③}を切ったその時、突然、彼女の視界に映るものが対局室から大海原の風景に変わった。

 愛射は船の上に乗っている。

 ふと、海面から麗しき人魚………敬子の姿が見える。愛射は、敬子の能力が見せる幻の世界へと連れ去られたのだ。

 

 敬子の背中から十本の触手が急激に伸びてきて愛射の身体を捕らえた。

 そして、敬子は、うっすら笑うと、愛射を海中へと引き摺り込んだ。

 

 愛射が海中で見たモノ。

 それは、既に人魚の姿ではなかった。敬子の姿は、強靭な触手を持つ巨大な海の怪物、クラーケンと化していた。

 このまま溺れ死ぬのが先か、それとも、この巨大な化物に食い殺されるのが先か、そんな恐怖が愛射の脳裏を駆け巡る。

 そして、愛射が死を覚悟したその時、

「ロン。24000!」

 敬子が和了りを宣言した。

 同時に、愛射の意識は現実世界へと戻ってきた。

 

 あれが現実では無いと認識し、愛射は、ホッと胸を撫で下ろした。

 その直後、敬子が開いていた手牌を見て、

「えっ?」

 愛射は、驚いた表情を見せていた。

 

 敬子の手牌は、

 {①①②②③[⑤][⑤]⑦⑦⑧⑧⑨⑨}  ロン{③}  ドラ{7}

 門前清一色二盃口赤2の三倍満。

 中国麻将の一色双竜会。

 しかも、{③}待ち。今までに無いパターンだ。

 

 思わず愛射は、

「({八}も{⑧}も{8}も関係ないじゃん!)」

 と心の中で叫んだ。

 

 たしかに、過去に敬子が辺{③}待ちでクラーケンパワーを見せたことは無い。しかし、敬子だって進化しているのだ。

 いや、常に周りの考えの斜め上を行くと言うべきか。

 悪い意味で、相手の期待を裏切ると言うか。

 いずれにせよ出場所最高。強烈な一撃であった。

 

 これで、次鋒戦の暫定順位と点数は、

 1位:敬子 126400

 2位:愛射 107800

 3位:弥生 88900

 4位:弥呼(衣) 76900

 敬子が一気に首位に立ち、チームトータルでK大学チームがM大学チームを逆転した。

 

 これで、愛射は戦意を喪失するだろう。

 誰もがそう思っていた。

 今まで、何人もの選手達が敬子のクラーケンパワーを見た直後は恐怖に怯え、対局継続の意思が削がれていた故だ。

 それこそ、ドイツチームのローザやミラと言った世界有数の選手達でさえ、平静を保つことは出来なかった。

 

 しかし、愛射は、

『それはそれ、これはこれ!』

 と言わんばかりに落ち着きを取り戻していた。

 海の怪物の姿を見ても、心が折れずにいられるとは………。

 相当、心が強い選手であろう。

 

 

 南入した。

 南一局、弥呼(衣)の親。

 既に東場が終わったと言うのに、衣にしては珍しく未だに和了りがない。それだけ、愛射の能力反射による影響は大きいと言える。

 その愛射の能力自体は、東一局から一向に衰える気配が無い。

 他校の選手に、ここまで衣が苦しめられたのは久し振りである。それこそ、高校時代の咲との対局以来だろう。

 

 今、愛射が目指すところは弥呼(衣)に連荘させないこと。それから、敬子に和了らせないこと。この二点だ。

 その最良の解決策は、言うまでもなく自分が和了ることに他ならない。

 

 愛射は配牌で順子手の三向聴だった。ここから順当に平和手を作り上げ、

「ツモ。700、1300。」

 平和ツモドラ1をさくっと和了った。

 まだ、K大学チームに2600点差でリードされているが、和了り一つで十分巻き返しが出来る範囲にある。

 

 それに、相手チームにとんでもない点差を付けられない限り、愛射は自分達の負けは無いと言い切るだけの自信があった。

 パートナーの弥生の存在が、その自信を生んでいたようだ。

 弥生も、衣と同じで未だヤキトリであるが、隠し持った力がある。その力が披露された時、確実に自分達が勝てる。

 故に、ここは安手で良い。相手に和了らせないことがベスト。

 そう愛射は判断していた。

 

 

 南二局、愛射の親。

 ここに来て、敬子が配牌の際に大学の応援歌を口ずさんだ。人魚の歌声である。

 咲と照の指示に反するが、衣が和了れない以上、自分がムリにでも和了りに向かうしかないだろう。

 それで、人魚の歌声を使うことにしたのだ。

 

 急に弥呼から放たれていた強大なオーラが消えた。中に入っている衣が、敬子のハミングを聞いて半分眠ってしまったためだ。

 この局では、弥呼(衣)は使えないと言って良いだろう。

 そもそも、この対局では愛射の能力反射の餌食にあって、衣自身が全然活躍できていない状態にある。なので、正直、衣が寝ていても余り状況は変わらないかも知れない。

 

 敬子は、毎度の如く、{東南西北}と切り出し、

「リーチ!」

 五巡目に{横白}切りでリーチをかけた。

 そして、次巡、

「メンピン一発ツモドラ2。3000、6000!」

 敬子が一発でツモ和了りを決めた。

 

 これでチームトータルは、K大学チームが210300点、M大学チームが189700点となり、K大学チームが20600点差でリードした。

 しかし、ハネ満直撃で逆転可能な圏内にある。

 K大学チームとしても、まだまだ予断は許さない状況だろう。



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二百二十本場:六大学対抗戦-10  転生者

 K大学チームとM大学チームの試合は、次鋒戦南三局に突入した。

 親は敬子。

 ここでも敬子はマイペースで手を進めて行くが、

「ポン!」

 毎度の捨て牌で四巡目に出てきた{北}を、狙ったかのように愛射が鳴いた。

 

 そして、

「ツモ。1000、2000。」

 その次巡に愛射は、早和了りで敬子の親を流した。

 別に、この和了りでチームトータルが逆転できるわけではなかったが、愛射の狙いは別いあった。

 それは、

『K大学チームに圧倒的な差を付けられずにオーラスに回すこと』

 である。

 それさえできれば、後は弥生が何とかしてくれるはずだからだ。

 

 

 オーラス。弥生の親。ドラは{②}。

 ここに来て、今まで和了り無しの弥生の全身から強烈なオーラが噴出した。

 それは、支配力と言うよりも、咲が見せる強制力に近い雰囲気を感じさせていた。

 

 この強大なパワーを目の当たりにして、衣は、あることに気が付いた。

「(反町愛射が見せたのは能力反射。キーワードは反射だ。すると、この相方の転法輪弥生のキーワードは転生か!?)」

 まるで、連想ゲームのようだが………。

 …

 …

 …

 

 

 今から百五十億年もの昔、揺らいだ『無』からエネルギーの壁を通り抜けて10のマイナス34乗センチメートル程の極小さな点が誕生した。

 それは、元々は、

『激しく揺らぐ無の世界に生まれては消える沢山の点』

 の一つに過ぎなかった。

 しかし、その点は、たまたまエネルギーの壁を通り抜けてしまい、『無』から『有』へと変化してしまったのだ。

 

 次の瞬間、その点は、10のマイナス34乗秒と言う極短い間に、一気に10の50乗倍もの大きさに膨張して火の玉になった。

 これがビッグバン宇宙の誕生である。

 そして、この火の玉は、そのまま膨張を続けて行き、宇宙へと進化していった。

 

 こう言うと、一つの点から一つの宇宙ができたかのように思えるだろう。

 しかし、その極小の点から生み出された宇宙は一つではないとされる。『無』から『有』へと変化してしまった点が火の玉へと膨張する一瞬の間に、その宇宙の元から沢山の宇宙の元が生え出てきたのである。

 これは、ビッグバン宇宙が誕生する時、膨張が均質ではなかったため、場所によって膨張に歪みが生じて、そこで宇宙が分岐する現象が起こったためである。

 

 最初に生まれた宇宙をマザーユニバースと言い、マザーユニバースから飛び出すように生まれた宇宙をチャイルドユニバースと言う。

 そして、チャイルドユニバースから、また更にチャイルドユニバースが誕生し、更にそこからまたチャイルドユニバースの誕生と、ほんの僅かの間に、この様な劇的な変化が切り無く繰り広げられていった。

 これを『宇宙の多重発生機構』と言う。

 

 こうやって、偶然現れた一つの点から、次の瞬間に10の70乗個もの宇宙が誕生したと言う。

 これら平行して存在する沢山の宇宙はパラレルワールドと呼ばれ、その殆どは、生まれて間もなく消滅したが、それなりの数が生き残り、未だ進化を続けている。

 地球を包含する宇宙もその一つである。

 …

 …

 …

 

 

 弥生には前世の記憶があった。

 前世で彼女は、別の宇宙──────つまり異世界で誕生した地球型の惑星で生まれた。

 その世界は、地球で言う中世ヨーロッパのような雰囲気で、しかも地球とは違って魔法や魔術などが存在していた。

 その宇宙を統べる神が、魔法の存在を認めたためだ。

 そこで弥生は、一人の一般女性として生涯を終えていた。

 

 前世の趣味は、小説等の創作物を読むこと。

 中でも、

『最後にギリギリ逆転勝ちする主人公』

 に強い憧れを抱いていた。

 

 

 弥生は、この世界に転生する際に、憧れの『逆転勝ち主人公』の能力を要求した。

 神様側も、転生者に対するサービスの一環として、弥生の欲する能力を与えた。勿論、文字通り大勝利ではなく、最後にギリギリ逆転勝ちする能力である。

 

 ただ、弥生に与えられた能力には制限が設けられていた。

 飽くまでも、その場で提示されたルールで、ギリギリ勝利すると言うものであり、例えば全十回戦の戦いの場合に、全体成績で1位になる能力ではなかった。

 つまり、各対戦毎にギリギリ1位を取るものであった。

 それから、勝利に向かう際には、成り行きに任せてムリに仕掛けをしないことも能力発動条件とされていた。

 つまり、麻雀で彼女が能力を発動するためには、和了りに向かう局では、リーチをかけないことと、鳴かないことが縛りとして課せられたようだ。

 そのため彼女は、必ずオーラスで、ダマ聴での逆転を狙うことになる。

 

 

 能力に目覚めたのは高校2年の夏。

 長野県大会決勝戦の咲vs衣の記事を読んだ時に、前世の記憶と、転生者として与えられた能力に関する記憶が甦ったのだ。

 衣にギリギリでチームトータルを逆転し、チーム優勝に導いた咲の闘牌は、弥生にとっては、強く興味を惹かれる対象となる。

 それが引き金となって前世の記憶を呼び覚ましたのだ。

 その後、すぐに咲や衣に憧れて麻雀を始めた。

 

 福井県出身で、地元の高校に通っていたが、団体戦ではチームメイトに恵まれず………と言うか、そもそも麻雀が強い高校ではなかった。

 県大会では秋季、夏季共に団体戦は一回戦負け。

 個人戦でも、インターハイ県予選はスイスドロー式のため、大きく勝てない弥生は全国大会出場枠の総合3位以内に入れず。

 春季大会の個人戦は、秋季大会を勝ち抜いた春季団体戦出場校の選手のみ。

 そのため、春夏共に弥生の全国行きは叶わなかった。

 故に彼女は、高校時代は全国では無名の選手に過ぎなかった。

 

 

 たしかに、この能力を持っていれば、各対局で負けることはない。

 しかし、ウマもオカも無い素点の合計だけで順位を決めるM大学の部内戦では、ベストスリーに入れないでいた。

 恐らく、エースポジションを取っている、まこやいちごよりも対外的には弥生の方が、ずっとやり難い相手であろう。

 

 

 本大会ルールで考えれば、愛射との合計が、弥呼・敬子の合計よりも上回ることが勝利条件となる。

 現在、チームトータルは、K大学チームが207300点、M大学チームが192700点。

 つまり、弥呼(衣)か敬子から7700点を直取りできれば良い。それでギリギリ逆転勝ちできる。

 

 弥生の配牌は、

 {四五六六七②③④[⑤]456東西}

 ここから打{西}。

 そして、二巡目には{⑤}をツモって、打{東}で聴牌した。

 {五八}待ちのタンピンドラ2。狙ったように7700点の手を、たった二巡目に聴牌したのだ。これが転生者の力だ。

 但し、能力発動の縛りからリーチはかけていない。

 もっとも、リーチをかける必要は無い形に仕上がっているので、リーチをかけること自体に意味は無いだろう。

 

 

 ところが、衣は自身の『和了り牌を見抜く能力』と弥呼の持つ『透視能力』から、弥生の手が完全に分かっている。

 また、敬子は、自身に降りかかる分の能力はキャンセルできる。つまり、能力麻雀で敬子から7700を直取りしてギリギリチームとして逆転する部分については、キャンセルされてしまう。

 よって、この二人が相手では、折角7700点の逆転手を聴牌しても、直取りはできないことになる。

 

 しかし、敬子に直接降りかからない部分、つまり弥生のツモ和了りに対してはキャンセルされないようだ。

 次巡、弥生は、

「ツモ。」

 自らの手で{八}を引き当てて和了りを決めた。

「タンピンツモドラ2。4000オール。これで和了り止めにします。」

 

 

 これで、次鋒戦の順位と点数は、

 1位:敬子 131700

 2位:愛射 104500

 3位:弥生 96200

 4位:弥呼(衣) 67600

 

 個人では敬子が1位、弥生は3位となったが、ここで競うのは飽くまでもチームトータルである。

 K大学チームは合計199300点、M大学チームは合計200700点となり、M大学チームが、ギリギリ逆転勝ちで次鋒戦での勝ち星を取ることとなった。

 まさに弥生の能力に従ったストーリーだ。

 

 

 衣にとっては、まさかの敗退。

 しかも、衣がヤキトリのまま終了するとは………。

 K大学チームにとって、愛射と弥生は、まさにダークホースと言えよう。

 

 衣は、

「(こんな怪訝な奴らがいるとは、まだまだ衣も井の中の蛙だ!)」

 と心の中で声を発していたが、表情は極めて朗らかだった。

 咲や照、光以外にも、自分と遣り合える人間がいたことが純粋に嬉しかったのだ。

 

 それに、衣に課せられた最低限の宿題、

『愛射と弥生の本性を衣が完全に暴くこと!』

 も何とかなった。

 愛射は能力反射。

 弥生は転生者。

 それが暴けただけでも大きい。個人戦に備えて重要なデータとなるだろう。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 対局後の一礼を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 

 

 引き続き、中堅戦が開始される。

 対局室に咲、照、まこ、いちごが姿を現した。

 K大学チーム中堅は超魔物姉妹、対するM大学チーム中堅はエセ広島弁&広島弁コンビである。

「お手柔らかに頼むけぇ。」

 元清澄高校チームの先輩、染谷まこが、早速、咲に声をかけてきた。

 ただ、これにより、まこの能力が発動し、時間軸の進み具合が何時もより早くなるのは言うまでもない。

 

 

 場決めがされ、起家がまこ、南家がいちご、西家が咲、北家が照に決まった。

 サイが振られ、注目のエース対決がスタートする。

 

 

 東一局、まこの親。

 この局で、照は相手の本質を探る。そのため、照は和了りを放棄する。

 しかし、チームとしては和了りに向かう。

 咲は、四巡目で手牌すると、

「リーチ!」

 先制リーチをかけた。

 そして、次巡、

「カン! ツモ! リーチツモタンヤオ嶺上開花! 2000、4000!」

 咲は、得意の(特異の?)嶺上開花での和了りを決めた。

 

 

 東二局、いちごの親。

 ここでは、

「チー!」

 咲が照に早々に鳴かせた。

 しかも、照が聴牌すると、

「ロン! 1000点。」

 即刻、咲が差し込んだ。これで、照の第一弾の和了り達成である。

 

 

 東三局は、照が、まこから、

「ロン。2000。」

 30符2翻の手を直取りした。

 

 東四局は、

「ロン。3900。」

 

 東四局一本場は、

「ロン。5800の一本場は6100。」

 

 東四局二本場は、

「ロン。7700の二本場は8300。」

 

 照は、三連続でいちごから直取りした。

 第一弾の和了りを決めると、次から点数上昇を伴いながら手が早くなる。この照の連続和了を阻止するのは極めて難しい。

 

 振り込みを回避しても、

「ツモ! 3200オールの三本場は3500オール!」

「ツモ! 4000オールの四本場は4400オール!」

 結局はツモ和了りを決められてしまう。

 

 続く東四局後本場も、

「ロン! 19500。」

 照は親ハネの五本付けを、いちごから直取りした。

 

 これで、中堅戦の暫定順位と点数は、

 1位:照 162500

 2位:咲 99100

 3位:まこ 86100

 4位:いちご 52300

 K大学チームがチームトータルで大きくリードした。

 

 そして、東四局六本場。

 これだけ圧倒的な実力差を見せ付けられると、さすがに意気消沈する。

 それに、この状態では、まこもいちごも守りに回っては無意味である。攻めて行かなければ勝利放棄にしかならない。

 

「カン! もいっこカン!」

 中盤に入ってすぐ、咲が{②}と{③}を連続で暗槓した。

 その直後のツモで、いちごが引いてきたのは{①}。

 {②}と{③}が無い状態で{①}を持っていても手が遅延する。それで、普通は{①}を切って行くだろう。

 しかし、{①}は河に出ていない。初牌だ。

 

 過去の咲の牌譜を見ると、この状態から{①}の大明槓を仕掛け、責任払いさせるパターンが存在する。

 それで、いちごは、

「(さすがに{①}は捨てられん。なら、同じ初牌でも、こっちならどうじゃ!)」

 {一一二二三134678東東}  ツモ{①}

 ここから{1}を強打した。

 

 すると、

「カン!」

 咲が、{1}を大明槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 咲は{西}を暗槓し、計四つの槓子を揃えた。

 王牌には、最後の嶺上牌が残っていた。咲は、これを引くと、

「ツモ! 64000の六本場は65800!」

 当然の如く嶺上開花での和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①}  暗槓{裏西西裏}  明槓{横1111}  暗槓{裏③③裏}  暗槓{裏②②裏}  ツモ{①}

 

 これは、いちごの責任払いとなる。

 しかも四槓子は、本大会ルールではダブル役満として扱う。

 もし、{①}を捨てていたとしても、四暗刻単騎に振り込んでいただけであろう。しかも、本大会ルールでは、四暗刻単騎もダブル役満扱いである。

 結局、いちごは咲にダブル役満を振り込む運命だったのかもしれない。

 

 

 これで、中堅戦の順位と点数は、

 1位:咲 164900

 2位:照 162500

 3位:まこ 86100

 4位:いちご -13500

 いちごのトビで終了となった。

 チームトータルでも圧倒的点差でK大学チームが勝利し、K大学チームが二つ目の勝ち星を手にした。

 

 

「チョロチョロチョロ………。」

 三年前の個人戦の時と同様、いちごの括約筋が緩んで聖水を放出してしまった。

 先鋒戦では美和ワールド行き、中堅戦では聖水放出と、いちごにとっては最悪な一日になった。

 しかし、これを期待していた某ネット掲示板住民達にとっては、大満足の結果であろう。対象が女子大生雀士の頂点(美貌)とされる、いちごがやらかしたのだ。

 今日も掲示板は、大賑わいだったとのことである。



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二百二十一本場:六大学対抗戦-11  超光速跳躍

「「「「有難うございました(じゃけぃ!)」」」」

 K大学チームとM大学チームの試合は、中堅戦を終了し、対局後の挨拶が行われた。

 まこのエセ広島弁が、一際大きく対局室内にこだました。これにより、さらに時間軸の進みが早くなるのは、いつものお約束である。

 

 一先ず、いちごが聖水を放出してしまったため、対局室の清掃作業が入った。そして、約30分後に試合は再開された。

 

 

 副将戦のメンバーが対局室に揃うと、すぐに場決めがされ、起家が園田栄子(K大学)、南家が成長結実(なりながみのり:M大学)、西家が天地聖美(あまちきよみ:M大学)、北家が宮永光(K大学)で対局がスタートした。

 

 前評判では、結実は『仲間の能力を開花させる能力』を持ち、その力で次鋒の愛射が能力に目覚めたとされている。

 また、聖美は『神のご加護を受けている』と言う噂だが、W大学チームとの戦いを見る限り、神代小蒔のように神懸かった闘牌を見せたわけではない。

 二人の校内ランキングは5位と6位。

 7位の美入人美や8位の水村史織よりは強いが、まこやいちごよりは弱いはず。

 なので、前評判ほどは強くないだろうとは思われる。

 

 しかし、愛射や弥生のように校内ランキングでは、まこやいちごより低くても、対外的には、まこやいちごより強いケースもある。

 W大チームとの対戦でも、結実と聖美は、竜崎鳴海と鬼島美誇人のペアに負けたとは言え僅差だった。

 なので、この二人の力を慎重に見定める必要があるだろう。

 

 とは言え、取る戦法は、基本的にT大学戦の時と同じだ。

 相手の力量によって栄子から削られた点数の上限が決まる。この二人の上限が無制限でない限り、この能力の特性を利用すれば光と栄子のペアが勝つはずだ。

 

 

 東一局、栄子の親。

 早速、栄子が結実と聖美の上限を測った。

「(この二人は、共に14000点程度ね。T大学の二人よりも、ちょっと上限が高いけど、それでも世界大会の選手に比べると、やっぱり落ちるわね。)」

 ならば、栄子は敢えて光に満貫級の手を二連続で振り込めば良い。栄子の能力は、理屈抜きで他家の和了り牌を見抜くので、差し込み自体は容易なことだ。

 

 それに、栄子の能力で抑え込めるのであれば、結実と聖美は、どんな能力を持っていようと和了れなくなるはず。

 先ず栄子は、三元牌と光の自風である{北}を順次落としていった。

 

 四巡目に栄子が切った{北}を、

「ポン!」

 光が鳴いた。

 その数巡後、栄子が敢えて切った{[5]}で、

「ロン。白ドラ3。7700!」

 光が和了った。

 これで、光は難無く第一弾の和了りを決めた。完全な差し込みであるが、互いの特性を上手に活かし合うのもコンビ麻雀では重要なファクターだ。

 

 

 東二局、結実の親。

 ここでも栄子は、三元牌と光の自風である{西}を順次落としていった。

「ポン!」

 光は、栄子が三巡目に切った{西}を鳴き、その次巡、栄子が切った牌で、

「ロン。西チャンタドラ2。7700。」

 早々に和了った。これも差し込みである。

 

 これで、副将戦の暫定順位と点数は、

 1位:光 115400

 2位:結実 100000

 3位:聖美 100000

 4位:栄子 84600

 

 栄子が15400点を失点し、結実と聖美が栄子から削れる上限を超えた。つまり、二人ともツモ和了りが封じられたことになる。

 案の定、

「「ドドン!」」

 結実と聖美に向けて栄子の身体から衝撃波が放たれた。この衝撃波は、結実も聖美もツモ和了りが封じられたことの警告であった。

 

 しかも、光は高い精度で他家の手牌を読み取るし、栄子は理屈抜きで他家の和了り牌を見抜く。そう言った能力が備わっている。

 それ以前に栄子の場合、ここから先はスーパーディフェンスの能力によって何を切っても結実と聖美に振り込むことは無い。

 つまり、K大学チームからは、光の読み間違いでもない限り結実と聖美に点棒を奪われることは無いと言って良いだろう。

 

 こうなると、結実と聖美は、互いに振り込み会うことくらいしか出来ない。

 しかし、味方からの振り込みは、相手の親を流すのには有効だが、チームトータルを増やす方には進まない。

 よって、光の全手牌が、結実か聖美のどちらかの和了り牌になるくらいの奇蹟が起きない限りM大学チームの勝ち星は難しいと言えよう。

 

 

 その後、光は東三局で、

「ロン。タンピン一盃口ドラ3。12000。」

 

 東四局で、

「ロン。ダブ東チャンタドラ2。18000。」

 

 東四局一本場で、

「白対々三暗刻ドラ3。24300。」

 と、三連続で結実から直取りした。

 

 そして迎えた東四局二本場。

 栄子の配牌はヤオチュウ牌に偏っていた。

 ここで栄子は、ドイツチーム在籍時代から『リラの鉄槌』と呼ばれている大きな一撃を狙う。

 能力発動により、万が一、結実か聖美が聴牌したとしても栄子は絶対に振り込まないのだから、何を切っても当たらないはず。

 それに、ノーテン罰符も発生しないわけだから、強引に進めても必ず聴牌できるはず。

 その前提で強引に手を進めて聴牌し、

「ロン!」

 栄子は結実から直取りした。

 

 開かれた手牌は、

 {東東南南西西北白白發發中中}  ロン{北}

 大七星だ。

 これは、通常の字一色と違って門前で作る必要があるため難易度が高い。そのため、本大会ではダブル役満として扱われていた。

「64600!」

 

 これで、副将戦の順位と点数は、

 1位:光 169700

 2位:栄子 149200

 3位:聖美 100000

 4位:結実 -18900

 結実のトビで終了となり、K大学チームが三つ目の勝ち星を手に入れた。

 

 ただ、この対局を振り返ると、聖美は全然失点していなかった。原点から一度も点棒が動いていなかったのだ。

 もしかして聖美の、

『神のご加護を受けている』

 と言うのは失点しないと言うことだろうか?

 たしかに、この半荘ではツモ和了りが無く、栄子から光への差し込みと、結実から光への振り込みしかない。

 個人戦に向けて、他チームと対戦した際の聖美の闘牌データをキチンと見ておく必要がありそうだ。

 

 …

 …

 …

 

 

 大将戦は、K大学チームからは宮永照、天江衣が、M大学チームからは染谷まこ、水村史織が参戦。

 この時、衣は入室する前から殺伐としたオーラを全身から放っていたと言う。

 理由は簡単。次鋒戦では生霊として弥呼に降りたが、愛射の能力に抑え込まれてヤキトリの上に大失点。

 たしかに対局直後は、

「(こんな怪訝な奴らがいるとは、まだまだ衣も井の中の蛙だ!)」

 と心の中で声を発し、表情は極めて朗らかだった。自分と遣り合える人間が、トリプル宮永以外にもいたことを喜んでいた。

 

 しかし、負けっぱなしと言うわけには行かない。

 衣は、この対局で思い切り暴れるつもりでいたのだ。

 

 

 場決めがされ、起家が史織、南家が衣、西家がまこ、北家が照に決まった。ラス親が照と言うのは非常に危ない配置だ。

 

 早速、史織がサイを回し、大将戦が開始された。

 東一局は史織の親。ドラは{9}。

 ここでは、

「ポン!」

 いきなり衣が史織の第一打牌の{南}を鳴いた。

 

 その二巡後、

「ポン!」

 さらに衣は、照が捨てた{發}を鳴き、その数巡後、

「ツモ! 6000、12000!」

 いきなり三倍満をツモ和了りした。

 

 開かれた衣の手牌は、

 11999白白  ポン{發横發發}  ポン{横南南南}  ツモ{1}  ドラ{9}

 南發混一色混老対々和ドラ3。

 

 初っ端から、こんな和了を見せられて、史織は、

「いやーん!」

 可愛い娘ぶった声を上げたと言う。

 ただ、このブリッ娘調は計算されたものと巷では言われていた。

 

 

 東二局、衣の親。

 ここで、

「ロン! 24000!」

 またもや衣の高打点の手が炸裂した。

 振り込んだのは史織。たった二局で36000点もの大失点だ。

 さすがに顔面蒼白し、全身は固まっていた。声を上げることも出来ず、もはやブリッ娘な仕種を見せることも出来ずにいた。もう、計算している余裕などない。

 

 東二局一本場も、

「ロン! 18300!」

 衣は史織から直取りした。

 この三連続の和了りで、衣はすっかり上機嫌になっていた。

 

 そして、東二局二本場。

「衣は、これで十分だ。後は照に任せるとする!」

 こう言うと、衣は三巡目に、狙ったかのように{白}を切った。

 すると、

「ポン!」

 これを照が鳴いた。

 

 まさに、照の手牌の中では、直前に{白}が対子になったばかりであった。

 衣の{白}切りは、照に鳴かせるためにタイミングを見計らって切った打牌と言えよう。そんなことが出来ること自体、凄いことだ。

 

 その数巡後、衣は{③}をツモ切り。

 すると、

「ロン。1000点の二本場は1600点。」

 これで照が第一弾の和了りを決めた。言うまでもない。これは、衣の差し込みだ。

 ただ、過程はどうあれ、第一弾の和了りを決めた以上、ここからは照の怒涛の連続和了が炸裂する。

 

 

 東三局、まこの親。

 ここでは、

「ツモ。1000、2000。」

 序盤のうちに、さっさと照が和了りを決めた。

 

 東四局、照の親。

 ここでも、

「ロン。7700。」

 照が序盤で和了りを決めた。史織からの直取りだ。

 

 東四局一本場は、

「ツモ。3900オールの一本場は4000オール!」

 照のツモ和了り。

 

 東四局二本場と三本場は、

「ロン。12000の二本場は12600!」

「ロン。18900!」

 共に照は史織から直取りした。

 

 これで、大将戦の暫定順位と点数は、

 1位:衣 159700

 2位:照 150800

 3位:まこ 88000

 4位:史織 1500

 史織の点棒を、照と衣で半分ずつ奪い取ったような状態だった。

 

 そして迎えた東四局四本場。

「ツモ。8400オール!」

 右腕を中心に竜巻を発生させながら、照の親倍ツモが炸裂した。

 これで史織が箱割れして大将戦は終了。K大学チームが余裕で四つ目の勝ち星を手中に収める結果となった。

 

 

 

 同時開催されていた二試合のうち、W大学チームと H大学チームの対戦結果は、以下のとおりとなった。

 

 先鋒戦は、竹井久・福路美穂子vs佐々野みかん・多治比麻里香の対戦。

 今回も、久と美穂子は美貌で負けた。言うまでもなく、美貌対決の一番の敗者は久であろう。

 しかし、前回も今回も、久は美女に囲まれて非常に嬉しそうだったと言う。

 肝心の麻雀では久・美穂子のW大学チームが勝利した。

 

 次鋒戦は、西野カナコ・原村和vs大星淡・亦野誠子の対戦。

 淡はステルス対策の準備は満タン(淡はアホの娘なので準備万端ではない)。しかし、ステルス初対戦の誠子はカナコの餌食となった。その結果、カナコ・和のW大学チームが勝利した。

 

 中堅戦は百目鬼千里・西野カナコvs辻垣内智葉・大星淡の対戦。全員が世界大会経験者と言う、特に注目度の高い一戦。

 ステルスの存在に智葉は驚いていたが、対策方法を淡から聞いていて準備万端。絶対安全圏を誇る淡と『相手を斬る麻雀』を打つ智葉のコンビが、千里・カナコの世界大会ドイツ代表コンビに僅差で勝利した。

 対局中、カナコは智葉が見せる刃物の幻に、

「ゲロコワー!」

 と声を上げていたとのことだ。

 

 副将戦は竜崎鳴海・鬼島美誇人vs池田華菜・中田慧の対戦。

 今回も、華菜と慧の二人がムチャクチャうるさい試合だった。結果は、鳴海・美誇人の綺亜羅コンビが余裕で勝利した。

 

 大将戦は雀明華・百目鬼千里vs片岡優希・辻垣内智葉の対戦。

 この対局も、中堅戦と同様にW大学チームとH大学チームの中でも特に注目される一戦とされた。優希以外は、全員が世界大会経験者である。

 一応、優希も生霊として世界大会を経験しているが………。

 H大学チームは、基本的に昨日のR大チームとの対戦と同様の作戦、つまり東場は東風の神と呼ばれる優希のスタートダッシュで、南場は智葉の全体支配で勝利すべく対局に望んだ。

 明華と千里も自分の麻雀を展開するが、東場で優希に持って行かれた点棒を南場で完全に回収するには至らなかった。

 その結果、H大学チームが大将戦を征する結果となった。

 

 以上より、W大チームが勝ち星三、M大学チームが勝ち星二を獲得した。

 

 

 また、R大学チームと T大学チームの対戦結果は、以下のとおりとなった。

 

 先鋒戦は、多治比真佑子・椿野美幸vs小走やえ・新子憧の対決。

 美貌では、真佑子・美幸のR大学チームに軍配が上がったが、肝心の麻雀ではやえ・憧のT大狡猾コンビが僅差で勝利した。

 

 次鋒戦は、引世菫・数南数絵vs船久保浩子・樫尾聖子の対戦。

 デジタル打ちの完成度が高いことが仇となり、聖子は終始、菫に狙い撃ちされた。しかも後半に数絵が覚醒。

 結果としてR大学チームが勝利した。

 

 中堅戦は加治木ゆみ・多治比真佑子vsの小走やえ・鷲尾静香の対戦。

 例年であれば、T大学チームは、やえ以外にゆみや真佑子と対峙できる人材に恵まれず、どう足掻いてもエース対決である中堅戦で勝ち星を上げることは出来なかったが、今年は綺亜羅三銃士の一人、静香が入った。

 ゆみ、真佑子、やえは同レベルと言って良いだろう。

 そして、静香は、この三人を凌ぐ実力者。

 この対決は大方の予想通りT大学チームが勝利した。エース対決でT大学チームが勝利するのは、十数年振りとのことだ。

 

 副将戦は、東横桃子・加治木ゆみvs蔭山桜・島岡豊貴子の対戦。

 さすがに桃子のステルスと、達人を思わせるゆみが相手では、桜も豊貴子も太刀打ちできない。手も足も出ない状態と言ったところだった。

 結果は、桃子・ゆみのR大学チームが勝利した。

 

 大将戦は、森垣友香・霜崎絃vs鷲尾静香・安福莉子の対戦。

 友香と絃は、攻め一辺倒で勝ち星を狙う。これに対し、莉子は徹底した守備で失点を最小限に抑えた。

 東場では、友香と絃のトータルのほうが上回っていたが、南三局で綺亜羅三銃士最強の豪運を誇る静香のトリプル役満ツモが炸裂し、T大学チームが大将戦の勝ち星を取った。

 

 以上より、R大チームが勝ち星二、T大学チームが勝ち星三を取り、T大学チームがR大学チームに勝ち越す結果となった。




済みません。
ここで暫く休業します。
少しおいて復活できればと思っております。


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