とある臆病者の化物譚 (tunagi)
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EXストーリー
闇鍋


昔、書いた物があったので投稿してみました。
本編とは関係ないifストーリーなので、どうぞ。


山咲は学生寮の自分の部屋にある台所に立ち、様々な野菜等の食材を切っていた。

そして時計を見て、

「そろそろかな」

部屋のインターホンが鳴りだし、山咲はドアを開けた。

 

「いらっしゃい」

「よう」

「お邪魔しま~す」

「うう~、寒ィ~」

「・・・・・・」

ドアを開けた先には上条、インデックス、浜面、一方通行の四人が立っていた。

今日は山咲の部屋で鍋パーティーの日だった。

「あれ? ラストオーダーとミサカワーストは?それに、滝壺さんは?」

「他の妹達と一緒に女子会だそゥだ」

「こっちも似たようなもんだ」

「しょうがないか。さあ、上がって、上がって」

 

四人はぞろぞろと山咲の部屋に入って行った。

「ねえねえちから、今日はどんな鍋をするの?」

「なんと、今日は闇鍋だよ」

「闇鍋って?」

「ようは、ごった煮ってとこかな」

「なンでまた闇鍋なンだ?」

「一度やってみたかったんだよね」

テーブルの上に皿を並べていく山咲。

「だから好きな食材を持ってこいって言ってたのか。」

「うん。電気を消すから、鍋の中身はお互い秘密だよ」

「なんだかおもしろそうかもー」

「はァー、世にも恐ろしい食ィものだな」

「だな」

テンション高めなインデックスに対し、やや低めな上条と一方通行。

そして、真っ暗な部屋の中楽しい楽しい闇鍋が始まる。

「じゃあいくよ。真っ暗だから気を付けてね」

「うっ、おお」

「いっただきまーす」

最初に食べだしたのはインデックスだった。

「お前躊躇ねえな」

「おっ!!」

「どうしたの!?」

 

 

 

「おいし~い」

 

 

 

と口を動かし始めるインデックス。

そしてインデックスの口から金属を噛み砕くような音が聞こえた。

「イ、インデックス?」

「食い物の音じゃねえぞ、それ」

「あっ!!今度は普通においしい」

「だったら、俺たちもそろそろ食べようか。」

「そうだな。」

「わたし毒見?」

「まあまあ」

「く、食うぞ!!」

他のメンバーも次々と食べだし始めた。

「どう?」

「ん?甘酸っぱくかつクリーミーなお味?」

「こっちは美味しいよ。野菜かな?」

「ああ!?誰だよ。食いかけのバナナ入れたやつ?」

「そりゃ、俺だ。」

「何すんだよ、浜面!!」

「なんでも入れていいのがルールだろうがよ」

浜面が次の食材を口に入れた時だった。

「ん?うっ、あががが」

「浜面!! どうしたの!?」

「あううううううう、な、なんか生きてる!!!!」

闇の中遥の口元を見ていると何かが動いているのが分かる。

「げぇ!!」

「口の中で、う、蠢く気配が」

「な何だ、浜面かよ!?触んなよ!!」

「な、何だよこれ~」

口を動かしながら泣きそうな声で嘆く浜面。

「さぁ?」

「あ、そうだ。箸をつけたものは必ず食べるのもルールだよ」

「う!?あぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ、んぐ」

数分間格闘してようやく飲み込んだ浜面。

「ハァハァハァ。本っ当いい性格してやがるぜ!!!」

こうして、何だかんだで闇鍋パーティーは盛り上がっていった。

「はぁ~おいしかった」

「意外と美味しかったね。出汁がよかったのかな。」

「俺はことごとくハズレを引いたがな」

浜面が青い顔をして言う。

「俺は果物系ばっかりだった。」

上条も少し青い顔をして言う。

「それも闇鍋の醍醐味だよ」

「そうか~?」

「上条、そろそろ電気付けて」

「わかった」

すると、電気が付いた部屋の中で上条はある事に気付く。

周りをキョロキョロしてからみんなに向かって言う。

上「あのさ。電気消えてたから、気のせいかと思ってたけど、さっきから一方通行いなくね?」

「あぁ。俺も多少気になっていたんだけど」

「そう言えば、飯の間一度も死ねだ殺すだ言われてねえな」

皆が一斉に具材のなくなった鍋を見つめた。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「も、もしかして、わたしたちあくせられーたを?」

「な、何言ってんだよインデックス!?」

「はは、あははは、いくら暗闇でもありえないよ」

「じゃあ、なんであくせられーたいないの!?」

皆が青い顔をして、言い合いをして再び鍋を見つめる。

「そ、そんな!まさか!?」

「あ、あの生きてた奴かな?」

「良い出汁聞いてたな」

 

 

「ッ!!!」

 

 

「ぐへっ」

「がっは」

突然、上条と浜面の後頭部に衝撃が走る。

「ンなわけあるか!!!」

「痛って~」

皆が後ろを向くと食べられた筈の一方通行が立っていた。

「一方通行!!今まで何処に行ってたの!?」

「出る時コーヒー買ってくるって言っただろゥが」

「あ~、あまり話さないから、自分で行くなんて珍しいからすっかり忘れてたよ」

「それより、オマエら鍋全部食っちまったンじゃあねェだろゥな?」

「食ったぞ。大将が」

「はっ?ずりぃよ浜面!!ちがうって、みんなで・・・」

一方通行はチョーカー型デバイスを能力使用モードに切り替え指の関節を鳴らしていた。

「バカ二人。鍋に入れ。煮込ンで、食ってやる!!!!」

「「ぎゃあああああああ」」

怒りの形相で二人を追いかけ回す一方通行。

「「うわあああああああ」」

「ま、待て一方通行!!!!」

「や、やめろって!!!」

「山咲、山咲はいいのかよ!?」

「俺は味を整えなくちゃいけないから」

「やったー! また鍋が食べられる~」

「って。協力すんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ—――――!!!!!!!」

 

 



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序章
プロローグ1


皆さん、初めまして、素人ですがよろしくお願いします。


「化け物!!」

 

中学を卒業するまでの間に、幾度なく、そう言われ続けてきた少年がいた。

中国地方の山奥の村にある、人里離れた温泉卿。

その村の中にあるとある温泉宿の入り口に生まれたばかりの少年は捨てられていた。

その後、その宿のオーナーである老婆に引き取られ、彼女の娘夫婦の養子として育てられた。

彼女らはまるで実の子のように赤ん坊を育てていった。

しかし、周囲からの横やりが入り始める。

村の有力者に育てられている少年をやっかみ、危害を加えようとする輩が現れたのだ。

そして、村は少年の特異性に気付く。

小学校に入ったばかりの時、六年生の有名なガキ大将が喧嘩を売ってきた。当時、自分が養子という事実を知らなかった彼は、自分が何を言われているのか解らず、首を傾げるだけだった。

ついに苛立った上級生が一発殴り、よろけた少年の胸倉を掴み上げた。誰もが一方的な虐めになると予感した。その喧嘩は一方的なものとして終わる。ただし、勝敗は皆の予想と逆だった。

それが、彼が「才能」を最初に発揮した瞬間だった。

少年は小学校にあがるまでに、特に何かを鍛えていたわけではない。体質的にも普通で、大岩を持つほどの怪力も手から電気や炎を出せたわけではない。

ただひとつ、「センス」と言うべきものがあるだけだった。

少年は襟首を掴まれた次の瞬間、彼は、上級生にやりかえす事にした。

相手の耳を掴み、勢いおく引きずり落とす。

耳を千切られると本能的に察した上級生が、手を放して思わず身を屈めた瞬間だった。

その鼻柱に、齢六歳の少年の頭突きが叩き込まれた。

 

「があああっ!?」

 

当然ながら、何か知識があったわけではない。

ただ、自分の硬い所を手っ取り早く相手にぶつけようと思っただけだ。

もっとも、入学したての小学生がそう考える自体が異常だった。

そした、まだ幼い少年には「容赦」や「手加減」という概念がなかった。

敢えて、この少年の性格を一つあげるなら  「臆病」  全てがこの言葉に集約される。

少年は臆病が故に、恐怖を嫌った。ただ、それだけの事なのだ。

人一倍恐怖に対して敏感であり、それを人一倍恐れる。

結果として、その臆病さと「才能」が組み合わさった事で、一つの「化け物」が生まれた。

わけの解らないことを言いながら自分を攻撃してきた上級生は、少年にとって恐怖の対象となり得る。

 

恐怖は遠ざけなければならない。自分の前から、消し去らなければならない。

 

少年は本能に従って蹲った上級生を蹴り続けた。

顔面を的確に狙って。爪先を使い、顔を覆う指ごと折り潰すように。指の間から地面に滴る血を見ても、少しも躊躇う事無く。何度も、何度もいつまでも。

その事件を切っ掛けとして周囲から恐れられることになる。

殴り掛かったのは上級生だと言うこともあり、大ごとにはならなかったが少年の人生が捻じれることになる。

数日後、今度は上級生の仲間たちが少年に喧嘩を仕掛けてきた。復讐とは聞こえはいいが、実際は生意気な下級生をとっちめようととしただけだった。中には中学生が混じっていた。

そうした集団に袋叩きにされては、流石に手も足も出ない。そう思われたが…

少年は、最初の一人に殴られ、馬乗りになられた瞬間になんの迷いもなく、相手の目に指を突き入れた。

 

「あああああっ!!」

 

抉れこそしなかったが、目から血を流して叫び喚く仲間を前に、上級生達は一瞬にして恐怖に飲まれた。

悲鳴を上げて転がる仲間に、手近にあった。石を持って追い打ちを掛けようとしている、わずか六歳の少年。

鬼気迫る様子に、彼らは一斉に同じ事を感じた。

目の前にいるのは、自分たちとは違う何かだ。

 

自分たちより頭一つ以上小さい、成長前の子供。

それにもかかわらず、まるでその大きさの狼が熊でも相手にしているかのような感覚だった。すぐに気を取り直して、数人がかりで少年を袋叩きにすれば勝機はあったかもしれない。だが、かれらは少し悪ぶった小、中学生だ。それを求めるのは酷だった。石で歯を叩き折られる仲間を見て、彼らは完全に足が竦んでしまう。

流石にその事件は過剰防衛となり、警察沙汰となった。後に児童相談所に連絡される事態になった。しばらく、彼に手を出すものはいなかったが小学校の卒業間近に彼の噂を聞きつけた不良少年達がちょっかいをかけ始めた。理由は当時の上級生達が成長し、行動範囲を広げていき、交友関係を築き少年の名を口にしてしまったのだ。

そして、面白半分でちょっかいを出した不良達は思い知ることになる。噂の少年は禍々しい成長をとげていた。

十数人の不良たちをたった一人で半殺しにしたのだ。なかには骨が折れて泣き叫ぶ高校生がいた。不良のひとりが彼に向って叫ぶのだった。

 

「化け物!!」

 

中学一年の冬休みのときには、二十歳前後の秋田で有名な暴走族の集団が襲ってきた。怪力自慢の総長らしき男が最初に喧嘩を仕掛けてきた。彼は怪力自慢なのか100キロ近くもあるハンマーを振り回してきたのだった。これが当たってはさすがの少年もひとたまりもない。しかし、少年はそのハンマーの攻撃を尋常じゃないフットワークで次々とよけていった。そして、総長らしき男が次にハンマーを振り上げた瞬間、少年は男の懐に飛び込み彼の膝関節に思いっきり蹴りを入れた。その瞬間男の膝がグシャリと砕けた。

 

「ぐあああああああ!?」

 

彼がよろめいた瞬間、少年はこめかみに一撃を与えて顎にも残りの手で一撃を叩き込んだ。男は泡を吹きながら倒れた。しかし、少年の攻撃はやまなかった。倒れた男の手足を必要以上に踏み続けた。暴走族のみんなが思った、何だあいつは、あのフットワークは人間技じゃない。どうしてあんな動きができる?そして、気絶した相手に躊躇もなく追い打ちを何故掛けられる?本当に人間かあいつは? そして誰かが叫んだ。

 

 

「化け物!!」

 

そして、中学二年の夏休みのころには拳法の達人の二十代の男性が勝負を挑んできた。その場所には少年に喧嘩を仕掛けて負けた不良などが次々と集まってきた。皆が思った。今度こそあいつの負ける姿が拝める。さすがの奴でも勝てないだろう。

その拳法家は数々の大会に優勝してきた本物の実力者だった。少年の噂を聞きつけ勝負を挑んで来たのだ。彼には自信があった。経験もあるし、誰よりも努力をしてきた。負けるはずがない。しかし、また皆の予想は裏切られることになる。

拳法家は即座に仕掛けてきた。少年に強烈な足払いをかけてきた。

 

「ッ!?」

 

地面に倒れた瞬間に顔面に一撃を入れる。

それで、勝負が決まる。拳法家はがっかりした。所詮は噂か、期待外れもいいところだ。しかし、地面に倒れそうになった瞬間に少年は片手で地面を押さえる。そして、片腕の力だけで全身を支え、逆立ちに近い体勢を整えながら胴体を捻った。流れるような動きで足を開き、そのまま身体を回転しながら、足を拳法家の首に絡ませる。

 

「おっ!」

 

足技格闘技であるカポエラのような、逆立ちからの横蹴りが来ると想像していた拳法家にとって、その動きは予想外だった。正しく首を刈るような動きで足を絡められ、そのまま横に倒れそうになる。しかし、すんでの所で抜け出し、バランスを立て直す為に慌てて一歩離れた。一方の少年は」、その、振り払われた動きすら逆に利用し、既に立ち上がっている。間髪入れずに走り出し、猛禽を思わせる眼光で拳法家を睨み付けたまま、体勢を低くしてアスファルトの上を走り抜ける。

クラウチングスタートさながらのダッシュだったが、拳法家はその顔面に膝蹴りを合わせようとした。

しかし、それを読んでいたのか、あるいは相手の動きを見てから常人離れした反射神経を発揮したのか、直前でその身体を起こし、跳躍する。ダン、と拳法家の膝に右足を乗せ、少年はそれを踏み台として身体を上に持ち上げた。

狙いは相手の顔面。

強烈な膝が、拳法家の鼻柱へと向かって放たれたが  拳法家は間一髪で身体を捩じり、その膝を避ける事ができた。

 

「・・・くッ!」

 

少年はそのまま空中で体勢を変え、相手の首に手を伸ばす。

・まれれば、そのまま絞め落とされるだろう。それどころか、落下の勢いを合わせられれば一瞬で脛骨を折られかねない。

 

「うおおッ!」

 

自らの横に転ぶことで、少年の手から逃れる拳法家。

慌てて起き上がるが、その時にはもう眼前に少年が迫っている。

 

「・・・ッ!?」

 

斜め下砲から、アゴに向かって迫る掌底。

それを間一髪で躱した瞬間、斜め上から眉間を狙って、拳下部による鉄槌が振り下ろされるのが見えた。

 

「ちょっ・・・!?」

 

すんでの所で躱す拳法家。相手の攻撃を悉くいなしている為、もしかしたら傍目には拳法家が強いように映っているかもしれないが…

拳法家は、実際必死だった。最初の不意打ちを防がれて以降、彼は防戦一方となっている。

反撃の糸口を掴もうにも、反撃の隙がない。

こ、こいつ…。

しかも、ただ力任せにこちらを殴りつけているわけではない。

掌底や拳を使い分けている時点で、単なる力自慢ではないことが解る。距離を開けようとする拳法家に対し、少年は更に距離を詰めた。

互いの拳も満足に振り回せなく距離、ボクシングならリンチになろうかとうい位置まで密着したところで、少年は身体を捻る。

そして、綺麗に畳まれた肘が、拳法家の顎目がけて差し向けられた。

刃物と同じレベルの脅威を感じた拳法家は、スウェーでそれを躱すが

それを待っていたかのように、反対側の腕が拳法家の喉へと伸びる。

右手でそれを打ち払うも、拳法家は生きた心地がしなかった。

先刻から少年の攻撃は常に全力のものだと思われる。

容赦も躊躇いもなく、こちらの急所などを的確に狙ってきていた。

それでいながら、連撃を繰り出しているというのにまったく疲れた様子が無い。

 

(こいつ、まちがえない!強い!噂は本当だったんだ!)

 

いったいどんなスタミナをしているのだろう。相手の強さを分析しようとしても、その隙すら与えてくれない。

 

(数多の不良や暴走族に勝ってきたなんて話半分だと思っていたが…。これなら、納得がいく…!しかし、変わった小僧だ。)

 

拳法家が見たのは少年の目だった。

鋭く細められたその瞳の中に浮かぶ感情を見透かし、拳法家の中に疑念が浮かぶ。

 

(なんで…俺を圧倒としているお前のほうが、そんなにビビった目をしているんだ?)

 

防戦一方の最中だというのに、思わず笑みがこぼれた。

そして、それは致命的な隙となった。

開いた足の間、股間を蹴り上げに来る少年の足が見えた。

 

(やばッ!?)

 

両手でそれを押さえ込み、寸前で蹴りを止める。

だが、それは少年のフェイントだった。

前屈みになった所で、少年の両手が拳法家の後頭部と顎をガシリと掴む。そして、そのまま首を捻りつつ、地面に押し倒そうとした。

下手に逆らえば、首を骨折しかねない。本能が抵抗を無視させ、拳法家は首を折られぬよう、なすがままに地面に倒された。

即座に顔から手を離され、少年の踵が持ち上がるのが見えた。

 

(ッ、やばい!!)

 

その踵の踏み下ろされる先が自分の顔面だと気づき、全身の毛が逆立った。

 

(これ、死ッッッ・・・!!)

 

 

ゴシャッア

 

観戦していた不良達の顔が青く染まった。

「やっぱあいつは化け物だ!!人間じゃねえ!?」

「化け物!!」

 

もう、何回言われてきたことだろうか。最初に言われた瞬間の事を、少年はもう覚えていない。

仲間の仇討ちの為に。あるいは自分の力を周囲に見せつける武勇伝の一部とする為に。腕に覚えのある荒くれものが、次から次へと周囲の土地からやってきた。少年は、その全てを迎え撃つ。

ただ、少年は怖かっただけなのだ。正しく生きているつもりなのに、自分に理不尽な敵意が向かってくることが、何よりも恐ろしかった。

少年は体を鍛え始める。理不尽な恐怖から身を守る為に。

そうしている間にも噂は広まり続け、とうとう他県から喧嘩を売りにくるものまで現れた。

喧嘩に明け暮れる日々。その恐怖を打ち払う為の鍛錬。

こうして、生まれながらの「才能」に、「鍛錬」と「努力」が積み重ねられたのであ

る。

 

 



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プロローグ2

2話です。


何もかもが理不尽だった。

自分から喧嘩を売ったわけでもないのに、周囲から喧嘩を売られ、挙げ句に喧嘩を売ってきた者たちに怪物だ化け物だと怖れられる日々。

中学三年になる頃には、少年は全てを諦めていた。化け物と呼ばれ続けるまま、ろくでもない人生が続くだろう。世界とは、人生とは、所詮はこんなものだ。僅か15歳の少年にそう信じさせてしまうほど世界は彼に冷淡だった。

 

少年の家族は、障害沙汰を起こす彼の事を見捨てなかったし、何度もかばってくれた。

しかし、相も変わらず理不尽な憎しみと怖れの目だけは自分の体に注がれ続ける。家族の優しさは、逆に少年の心を孤独にした。化け物と呼ばれる自分のせいで、まっとうな人間である家族に迷惑を掛けてしまっていると。自分のような化け物が、彼らに迷惑をかけていることが申し訳無いと。

 

少年は世界に希望を持つことを止め、さりとて絶望することもなく、中身の感じられない人生を送り続けた。 恐らく、今後も一生この状態が続くのだろうと考えながら。

そんな折、少年に一つの転機が訪れる。

九月の下旬のある日、少年は珍しく誰にもからまれることもなく学校から帰宅した。 自分の部屋のテレビを点けた瞬間、少年は取り憑かれたように画面を観続けた。放送されていたのは、学園都市で行われている大覇星祭の中継だった。

学園都市は、簡単に言えば最先端の科学技術の都市で超能力の開発が行われている都市だ。そして、大覇星祭は年に一度学園都市中で行われる合同運動会のようなものだ。

生徒の関係者やただの一般客も開催中は学園都市に入る事ができ、応援・観戦等で開放区域を自由に移動する事ができる。テレビ中継もされる。

ドクリ、と心臓が高鳴るのを感じた。「所詮自分は化け物だ」と孤独を受け入れたと

きに、新たな世界が広がったのである。

喧嘩に明け暮れていた少年は、テレビの窓を通じて世界をみた。

それは、確かに「恐怖」でもあった。少年を怪物たらしめた「臆病さ」は成長する事

である程度落ち着いたものの、完全に消え去ったわけではない。

電撃を操る短髪の中学一年生くらいの女の子が恐ろしい。

鉢巻きをした謎のカラフルな爆発を起こす白い学ランの自分と同じくらいの歳の少年

が恐ろしい。

 

能力者の集団が恐ろしくて仕方がない。得体の知れない科学技術が恐い。

しかし、その衝撃は、彼の心を強く刺激した。好奇心が、恐怖心を上回ったのである。

彼は自分の本音に気が付いたのである。

このまま、自分がただ一人の化け物として生きて死んでいく事が世界がこんなものだと諦めたまま死ぬ孤独こそが、本当に恐ろしいと。

進路を決定しなければならない時期に、彼は育ての親に対し、一つの我儘を言う。

基本的に売られた喧嘩を買ったとはいえ、自分の喧嘩が家族に迷惑をかけていたのは事実だ。

その事に対する罪悪感からか、自分を見捨てくれなかった恩義からか、少年は、今ま

で両親や祖母に我儘らしい我儘は一度も言ったことがなかった。少年は喧嘩漬けの人生とは裏腹に、生活態度そのものは至って真面目だった。

そんな少年が、小学校で喧嘩して以来 初めて、我儘を言った。

学園都市の高校に進学したい。

あまりにも唐突な申し出に、両親は戸惑った。祖母が言う。

「こっちに来て、座りなさい。」

「臆病だったが成長したねえ・・・。」

「自分のやりたいことをして良いんだよ。」

 

そう言って少年に笑う。

結局、その後、祖母の鶴の人声で少年の我儘は聞き入れられた。

そして、化け物と呼ばれた少年が学園都市にやってくる。

諦めかけていた世界と、もう一度向き合うために。

自分の知らない、本当の「化け物」と出会うために。

少年の名は山咲主税(やまさきちから)

彼がこの先、何を見るのかは解らない。臆病な化け物が、学園都市で果たして誰と出会うのか。

あるいは、何を成すのか、成さないのか。それは誰にも解らないが、ただ一つだけ確実なのは学園都市そのものは、どんな人間だろうと来るのを拒まないということだった。

「化け物」と呼ばれた少年と学園都市が交差する時、一つの物語が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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出会い

短いですがどうぞ。


自分が通うとある高校の入学式当日、山咲は寝坊した。急いで着替え、学生寮から出発した。目覚まし時計が不幸にも壊れていたのだった。高校に向かって急いで走り続る。

山咲が学園都市にやって来たのは、一ヶ月前のことだった。田舎から出てきた彼は電車の混雑に驚いた。それが初めに学園都市で抱いた感情となる。ドラム缶型の警備ロボットや掃除ロボット、自動販売機で発売されているよくわからない飲み物など山咲は好奇心でいっぱいになっていた。

学園都市という新天地に期待する事は三つ。

一つは、自分の悪名を知らない土地で普通に過ごせるかも知れないこと。

もう一つはもしそれが叶わず、喧嘩に巻き込まれる事態になってもテレビで見たような能力者が跋扈しているならば、自分は化け物と呼ばれずに済むのではないか。

最後の一つは、この街でならば、全てを諦めていた自分自身の存在に、あるいはこれからの人生に僅かなりとも希望を見出す事ができるのではないか。

 

まだ、自分はこの街を知らない。

こうして学園都市に一人の少年がやって来た。

 

そして、現在に至る。

 

「やばい・・・、入学式早々に遅刻だ!!」

ダッシュで大通りを進む。電車に乗れば間に合うのだが電車通学は校則で禁止されている。律儀に校則を守る山咲だった。変わりに学校が経営する料金が馬鹿高いスクールバスの利用を推奨されている。

当然スクールバスにも乗り遅れてしまった。初日からこんなことで大丈夫なのかと内心思うのだった。

 

突然、どこからか大きな声が聞こえた。

「不幸だー!!何で目覚まし時計が鳴らないんだよ!?ちくしょう!」

そして、その声の主はツンツン頭の少年だった。ツンツン頭は道の右の角から突然飛び出してきた。しかも、ちょうど山咲とぶつかる位置だった。

「あっ!!」

「なっ!!」

しかし、山咲はぶつかる瞬間に思いっきり身体を後方に跳躍させた。一歩、二歩

と、それだけでははまだ足りぬとばかりに、水中で逃げるエビのような勢いで後方へ

と下がる山咲。山咲はツンツン頭に警戒の目を向けた。

「悪い、大丈夫か?」

「お、俺は大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫?」

「俺も大丈夫だ。それにしても、お前すげえ動きだな?何かスポーツでもやってんのか?」

「いや、特には何も。」

「ふーん。それにしては・・・ッて!?それどころじゃねえ!! 入学初日から遅刻なんてシャレにならねえよ。 あ~、くそ不幸だー!!」

ツンツン頭は頭を掻きむしりながら叫んだ。改めて、走りだそうとしたとき、山咲の

方を見た。

「この道を行くってことは、お前俺と同じ高校か?」

「えっ?うん。ちなみに俺も新入生だよ。」

「だったら、こんなとこで突っ立ってないで急ごうぜ!」

「そうだね。急ごう」

二人は同時に走り出した。

「お前名前は?」

「山咲主税。」

「俺は上条当麻。よろしくな」

「うん、よろしくね。」

その日、初めて山咲に人生初の友達ができた。

 

結局、二人とも遅刻をしてしまい。ピンクの髪の幼女先生(身長135センチ・外見十

二歳)に説教をくらったのは言うまでもない。

 

 




小説を書くの難しいですね。


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臆病者(化け物)対超能力者(レベル5)

根性に熱いあの男の登場です。


五月某日、山咲がとある高校に入学してから一ヶ月がたったある日のことだった。

 

彼は、いつものように授業を終え、帰宅していた。

特にする事もなかったので繁華街をブラブラしていたら、六人のガラの悪い兄ちゃん『スキルアウト』達に捕まり路地裏に引きずり込まれて行った。

 

「なあお財布君クン。今ボク達バイト中なんで協力してくんね? クソを殴ると成績に応じて金が入るバイトなんだけど」

「ちなみに黙って財布渡してもぶん殴るから。逃げようとしてもぶん殴るし命乞いしてもぶん殴る。 状況分かった?」

頭が死ぬほど軽い言葉を発する少年に対し、素直に体に嫌な震えが走った。

この時、山咲の脳裏に地元にいたときのことが蘇った。

(ああ、またなのか…)

「ちょっとお財布クン。何黙ってんの?人の話はちゃんと聞こうよ。」

 

この少年達の中で特に強そうな筋肉質な少年がいきなり胸倉を掴み上げた。

その瞬間、山咲は少年の耳を掴み、勢いおく引きずり落とす。

耳を千切られると察した少年が、手を放して思わず身を屈めた瞬間だった。

その鼻柱に、山咲の頭突きが叩き込まれた。

少年は膝をつき潰れた鼻を押さえながら山咲を睨み付けた。

「てっ、てめぇ!!~、がぁっ!?」

そして、膝をついた少年の顎をめがけて山咲の鋭い蹴りが打ち込まれた。

スキルアウトは仰向けに大の字に倒れた。

追い打ちをかけるように山咲の蹴りが顔面を的確に狙って、爪先を使い、顔を覆う指ごと折り潰すように指の間から地面に滴る血を見ても、少しも躊躇う事無く何度も、何度もいつまでも。

 

他のスキルアウト達はその光景を呆然と眺めていたがようやく我にかえり、仲間がやられたことにより一瞬で頭に血が上った。

「や、野郎―!!」

他の五人の少年達が一斉に襲い掛かった。

喧嘩が強かろうがこっちは五人だ。しかも、ナイフ、改造スタンガンといった武器を持っている。負けるはずがないと少年達は全員同じ事を考えていた。

しかし、勝敗はその予想を覆す結果になる。

 

 

 

「い、痛い。」

「助けてくれ。」

「もう、勘弁してくれ。」

「や、やめてくれ。」

「化け物だ。」

 

山咲による圧倒的な勝利であった。少年達はそろって地面に伏していた。

少年達の今の姿は悲惨なものだった。

歯が全部砕かれて口から多量の血が出ているもの、目から血が出ているものや手足の骨が砕かれているものがいた。なかには、鼻水と涙で顔面がしわくちゃになっているものもいた。

しかし、勝者である山咲は今にでも泣き出しそうな子供のような顔をしていた。

(化け物か。久しぶりに聞いたなその言葉。俺はやっぱり化け物のままなのかな?せっかく友達が出来たのに・・・)

(せっかく、学園都市に来たのにこれじゃ昔の頃と何も変わらないよ。やっぱり、俺はずっと独りぼっちなのかな?そんなの嫌だな・・・)

山咲が何もかも諦めかけたときだった。

 

「根性ってモンが足りてねえな、お前。そんなんじゃ誰も満足しねえぞ!!」

唐突に響く大きな声。

山咲が後ろを振り向くと、路地の出入り口辺りに仁王立ちする一つの影。

山咲と同年代くらいの少年だった。服装は白い鉢巻きに白い特攻服のような制服をしていた。

「(なんだろう、この人?今まで喧嘩してきた人は何か違う。)」

山咲は感じたことない威圧感に襲われた。全身に冷や汗が出て、鳥肌がたった。

 

(この人は強い!!)

 

山咲はそう確信した。

「君は一体誰?」

山咲は震える声で尋ねた。

「俺は学園都市のレベル5の一人、七人の内の七番目、ナンバーセブンの削板軍覇という事もある訳だが、そんなのは些細な事だ。今ここで論じるべきは、この俺には怒涛の如く煮えたぎる根性が満ち溢れているという事だーっ!!」

両手を大きく広げ、背中を弓のように反らし、天に向かって吠えるように宣言する削板もしくは謎の根性さん。とういう理論か知らないが、彼の背後がドバーン!!と爆発して赤青黄色のカラフルな煙がもくもく出てくる。

 

「レベル5!?」

 

山咲は驚きを隠せないでいた。レベル5とは学園都市に七人しかいない超能力者であり、この街の頂点に君臨する者達のことだ。そのうちの一人が自分の目の前にいるのだった。

その言葉に黙っていなかったのは、例のナンバーセブンだ。

「のんのん!!だからレベル5だとか、そんなつまんねえ脇道だっつてんだろ!!今ここで重要なのは俺の根性の話!!今からでも遅くない!だからお前もっと俺の話を・・・・

あ痛っ!?」

削板が熱い根性論を話そうとしたときだった。物凄い勢いで突っ込んできた山咲の拳が削板の顔面に突き刺さった。

(痛っ!?硬い!!)

しかし、削板の体は異常に硬く大したダメージは与えられなかった。

不意打ちをして早急に決着をつけようとしたのだが、初めて自分の拳が通じない相手に戸惑っていた。そして、山咲が一瞬固まったときだった。

「だァァァらっしゃァァああああああああああああああああああああああああああ」

ぶちきれたナンバーセブンが叫んだ瞬間、彼を中心に変な爆発が巻き起こった。バウーン!!という特撮的な効果音と共に吹き飛ぶ山咲。

「くっ!!」

だが、彼は空中で体勢を立て直して、何事もなかったように着地した。

「人が話をしている最中に攻撃を仕掛けてくるとは!!許さん!!本物の根性というものを今から思う存分見せつけてくれ・・・・ッ!?」

勝手にテンションが高くなっている削板に異変が起こった。彼の鼻からポタポタと血が垂れているのだ。

「?」

山咲は鼻血が出ていることに驚愕している削板を不思議そうに見つめていた。

(何をそんなに驚いているんだろう?)」

削板が驚いていたのは当然だ。彼は生まれてから一度も鼻血を出したこともないのだから。

銃で心臓を撃たれようが自転車のチェーンロックで殴られようがアイスピックで刺されても痛みはあるがほとんどダメージがなかったのだ。

「へぇー、面白いなお前。」

彼は、目の前にいる少年に対し面白いものを見つけたように笑った。

 

彼らは第七学区にあるとある廃ビルにいた。

流石に怪我人がいる場所で喧嘩をする訳にはいかないので救急車を呼び、場所を移す事にしたのだった。

 

 

「ここなら、誰にも迷惑をかけることもねえな。」

山咲の目の前で目をつぶり腕を組みながら、削板は呟いた。 

「覚悟しろッ!!この俺が貴様の根性を叩き直してやる!!」

目をカッと開いて削板は、大声で叫んだ。

彼の背後がドバーン!!と爆発して赤青黄色のカラフルな煙がもくもく出てくる。

(何だか凄い事になっちゃったな。)

体が恐怖で震えている山咲

(レベル5か。)

初めて自分を殺せるかもしれない相手を前に山咲は、頭の中が恐怖でいっぱいだった。

(怖いな。)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(怖い)

(死ぬのは怖い)

(’ヤ’ラ’レ’ル’マ’エ’ニ’ヤ’ラ’ナ’ク’チ’ャ・・・)

この時、山咲のスイッチは完全に戦闘モードに切り替わった。

「いくぞッ!!」

削板は、何か大技を出すような構えをとった。

「くらえ!!すごいパーン・・・ッ!?」

今にも大技を出そうとした瞬間だった。山咲が削板の懐に飛び込んで思いっきり膝を蹴ったのだった。

体勢が崩れた削板の蟀谷に向かって、山咲の鋭い拳が突き刺さった。

「痛ッ!?」

初めて味わう激痛に一瞬、頭が真っ白になった。

さらに、追い打ちをかける山咲

しかし、削板が動いた。

削板「根性~!!」

大声で叫んだ瞬間、変な爆発が巻き起こった。

 

吹っ飛ばされた山咲だったが、前と同じように体勢を整えて地面に着地した。

だが、その瞬間だった。

 

「すごいパーンチ」

 

今度こそ削板の攻撃が山咲に直撃した。

変な爆発のときよりも吹っ飛ばされた彼は、地面を転がった。

削板が勝利を確信したときだった。

山咲は削板を殴った腕を押さえながら立ち上がった。

彼は削板の攻撃が直撃した瞬間、体を反らしてダメージを減らしたのだった。

「お前、意外と根性があるじゃねえか。俺のすごいパーンチをくらって立ち上がったのはお前を含めて二人目だ。だが、もつ鍋ほどダメージはねえな」

削板は二ヶ月前に喧嘩したスキルアウトの事を思い出した。

「もつ鍋?」

山咲は誰のことだろうと不思議な顔をした。

「だから俺もちょっと根性出す。まぁ、そんな訳だから・・・本気で潰すぞ!!」

直後、ナンバーセブンが取った行動はシンプルだった。

山咲の元へカツッと踏み込み、その顔を掴み、手近なコンクリートの壁へと叩きつける。

それら一連の行動を、音速の二倍の速度で行おうとした。

しかし、顔を掴まれた瞬間、山咲は尋常ではない反応速度で削板の掴んで来ようとした腕に自分の手足を使って関節技を決めた。

負け時と削板も関節技から逃れようとして、決められている腕を振り回したりした。

しかし、山咲は削板の腕から離れようとしない。

ついに削板は自分の腕を山咲ごと地面に叩きつけた。地面にひびが出来るほどの威力だった。

「がッ!!!」

彼の肺から酸素が全部排出された。

山咲の力が緩んだのを削板は見逃さなかった。彼はもう一度腕を振り回した。

山咲は腕からすっぽ抜け、地面に転がるが、すぐに立ち上がった。

 

「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」」

 

 

お互いに息切れを起こし、嫌な汗をかいていた。

 

「お前やっぱりすげえな。俺の肩の関節を外すなんて大した奴だよ」

削板の右腕は人形のようにダラリと下がっていた。

「もっと、俺にお前の根性を見せてみろよーッ!!」

削板が大声で叫ぶと、物凄い勢いで突っ込んできた。

 

 

それからは、暴力の嵐だった。

「技」と「力」のギリギリの攻防だった。一瞬でも気が抜けば、どちらがやられてもおかしくなかった。

(怖いな。)

(怖いけど、何だろう?何だか不思議な感覚がする。)

(怖いはずなのにこの人からは今まで喧嘩してきた人とは違う何かを感じる。)

山咲が一瞬、考え事をしていたときだった。反応が一瞬遅れてしまった。

「あ・・・」

削板の拳が山咲の顔面に突き刺さり、きりもみ状に後方へ吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

今度こそ喧嘩の決着がついた。

 

 

 

 

(う・・・、俺は一体?確か顔面に拳を入れられて、それから?)

少しの間、気絶していた山咲はゆっくりと目を開けた。

「ようやく起きたか。」

隣には削板が同じように地面に倒れていた。

お互いにボロボロの状態だった。

山咲の顔にはいくつもの青アザや切り傷があり、所々が腫れている。特に酷いのは拳で削板の強靭な体を殴ったせいで真っ赤に染まっており、骨が見える寸前だった。

対して、削板は山咲ほどではないにせよ、顔にいくつもの青アザや擦過傷があり、右肩の関節は外れていた。

「俺は、あれだけ殴られて、地面にぶっ倒されるは初めてだったぜ。 おまけに肩は脱臼しちまった。世の中は広いな。ちくしょう。」

「俺も喧嘩で負けたのは、初めてだよ。でも、何だか悔しいけど清々しい気分だよ。」

「何だそりゃ?」

その瞬間、削板と山咲は同時に笑った。

「なあ、一つ聞いてもいいか?」

「何?」

「お前、何で喧嘩をしたとき、あんなにビビった顔をしてたんだ?喧嘩をする奴の顔じゃねえよな?」

「それは・・・」

削板の突然の質問に戸惑う山咲。

「これも何かの縁だ。聞かせてくれねえかお前のこと。」

真っすぐ山咲の事を見てくる削板。

「わかったよ。」

 

山咲は自分が地元にいた頃のことと学園都市に来た理由を話した。

削板は真剣に山咲の話を聞いた。

山咲の話を聞き終わり、削板は目を閉じた。

そして、ムクリと立ち上がった。

「根っ性~!!」

突然、大声で叫んだ。そして、山咲の方に顔を向けた。

「大丈夫だ!!お前にはこの俺に匹敵する根性がある!!それさえあれば、何も怖れることはない!!」

片腕で山咲の肩をガッシリと掴んだ。

「お前は普通だ!!もっと、自分に自信を持て!!お前は出来る奴だ!!俺の感がそう言っている!!」

突然のことで山咲は固まってしまった。

「よし!!決めた!!今日から俺とお前はダチだ!!」

「お前の事が気に入った!!それに、何だか放っておけないしな!!」

「お前、名前は?」

「山咲主税」  

山咲は驚いた顔のまま呟いた。

「よし、山咲!!携帯の電話番号とメルアドを・・・・しまったぁ~!!携帯が壊れている!!」

「あ、俺のも」

あれだけの戦闘で壊れていないほうがおかしかった。

「何!?なら今から買いに行くぞ!!」

「え、ちょっ!?」

動けない山咲を片手で抱えて猛ダッシュで携帯電話を買いに行った。

その後、病院に行き、手当を受けた後、削板と別れて山咲は学生寮に帰ってきた。

そして、ベッドに倒れ込む。そのまま転がって仰向けになり、天井を見ながら呟いた。

「・・・・負けたなあ」

負けた。

ハッキリとそう口にした瞬間、様々な感情が山咲の胸中に渦巻いた。

「生まれて初めて・・・喧嘩で負けたんだよな・・・・俺・・・」

身体中の骨が軋み、肉の中を痛みが走り抜ける。

自分の中で混ざり合う痛みと感情をどう纏めたら良いのか解らず、放心して天井を見つめ続けた。

そのまま十分ほど経過した所で、山咲は呟く。

「悔しいし、嬉しいし、なんだろう、これ」

削板軍覇は、本当に強かった。

あんな人間が本当に実在していた事に、驚きを禁じ得ない。

『お前は、普通だ!!』と言っていた、削板の言葉が頭に響く。

「そうか・・・俺、普通だったんだな・・・」

誰かに負けるという事に、「悔しい」という感情が沸き上がるとは夢にも思っていなかった。

しかし、そんな感情が沸き上がる自分が、嬉しくて仕方がない。

「俺・・・人間でいいのかな」

体中に響く痛みすら、自分が人間だという証明のようで心地よく感じてくる。

「それとも・・・俺も、削板君も、化け物って事なのかな?」

どちらにせよ、山咲は救われた気分だった。

自分は孤独ではない。

世界は退屈な織などではない。

それが解っただけで、生きる価値があると思えたからだ。

 

そして、最後に、この一ヶ月で出会った友人達の顔を思い出しながら、満足そうに微笑み、微睡の中で小さく小さく呟いた。

「俺、この街なら・・・上手くやっていけるのかな・・・・・」

しかしながら、山咲はまだ、気付いてない。

自分が、何をしでかしてしまったのかという事を

 




削板はこんな感じの口調なのかな?


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日常

削板の喧嘩から一晩明けて、朝のホームルーム前の出来事


削板との喧嘩から翌日の朝、山咲は学校へ向かう大通りを歩きながら昨日の病院での出来事を思い出していた。

 

前日の夜、第七学区とある病院内

 

「一体、どうしたんだい?そんなにボロボロで?」

カエル顔の医者が不思議そうな顔して尋ねた。

「ハハハ・・・いや、その、若さゆえの過ちって感じです。」

まさか、別室で手当てを受けている削板と殺し合いの喧嘩をしたなどとは言えずに苦笑いをしながらごまかした。

「ふ〜ん。」

医者は事情を聞かずに適当に答えた。

この微妙な空気を変えたいのか山咲は無理やりテンションを上げた。

「でも、俺ってすごいですよね。こんなにボロボロなのに元気がまだ有り余っていますよ!!根性!!なんちゃって」

 

カエル顔の医者は時間外労働に辟易しつつ

「しかしこの状況下で笑っていられる気持ちは僕には理解できないね?それとも君はあまりの疲労にランナーズハイ状態になっているのかな。とにかく僕に言えるのはだね、一歩間違えれば君の拳は二度と使い物にならなくなっていた可能性があったぐらいかな?」

 

「・・・・・・え?」

 

「目が点になっているね?でもこれは決して不自然な事ではないよ。人間の拳は精密な動きを可能とする分、関節も多くつまり衝撃に弱いんだね?単なる打撃なら額を使った頭突きの方がまだマシという訳さ」

傷ついて痛々しい両拳を見ながら山咲は、その一言にゾッとした。医者の言う事は破壊力が違う。

カエル顔の医者は微妙に患者を脅して大人しくした後に、手っ取り早く山咲の手を包帯でグルグル巻きにしていく。

 

現在、とある高校の校門前

 

(完治まで一週間か・・・)

山咲の両拳の完治まで一週間ぐらい掛かるとのことだった。手を使う激しい運動は勿論、喧嘩など論外である。ちなみに削板は一晩で完治したそうだ。

今日で何回目かの溜息を吐きながら山咲は自分の教室へと入って行った。

顔を腫らし、両拳に包帯を巻いた山咲を見て、上条が近づいてくる。

「どうしたんだ、その顔?」

驚いた表情で尋ねてくる上条に山咲は大きな絆創膏越しに顔の傷をさすりながら言った。

「いやぁ、昨日の帰り道に歩道橋の階段から転んじゃって」

「大丈夫か?てか、本当に階段から転んだのか?」

「本当だって」

上条の問いに適当に誤魔化しながら山咲は自分の席に着いた。

「あれ〜、ザキ君どうしたん?その傷?」

後ろの席にいる180センチもの高身長を誇り、エセ関西弁を喋る青髪が話しかけてきた。

「階段から転んじゃってね」

「本当に〜?実は女の子をナンパしようとしたらその子の逆鱗に触れて怪我したとちゃうの?つれへんやないの〜。どうして僕も誘ってくれへんかったの?」

「いや、違うけど。」

「ええて、ええて隠さんでも。そうや!!今日の放課後一緒にナンパしに行かへん?この僕がいろいろなテクニックを教えてやるさかい!!」

「え?いや、あの・・・」

青髪が変な誤解をしてヒートアップしているとき横から上条が話しかけてきた。

「おいおい、山咲が困っているじゃあねえかよ。」

「やめておけって、どうせまた、失敗するに決まってるんだからよ。」

「なんやと〜、フラグ一級建築士のカミやんに僕の気持ちがわかってたまるかいな!!」

「なんだよ、フラグ一級建築士って?俺だってモテてえよ。」

「ほほーう。それは、喧嘩を売っているってことでええんやなぁ?覚悟はええな、カミやん!!」

「うおっ!?」

青髪が上条に容赦なく襲い掛かる。

「ちょっと、やめなって!?」

 

「ったく、騒々しいぜい、朝ぱっらから」

上条と青髪が取っ組み合いをしていると髪を金髪に染め、地肌に直接アロハシャツを着用し、薄い青のサングラスをかけ、首には金の鎖というオマケつきの土御門がやれやれという顔で現れた。

 

「たかだかナンパくらいで大袈裟にゃあ。ま、舞夏がいる俺には関係ないけれどにゃあ〜」

「あぁ!?舞夏よりも上条さんは寮の管理人のお姉さんがタイプでございますよ」

「僕も今は義妹メイドよりも純白清楚シスターさんやなぁ」

土御門「カミやん、青髪、言ってはならぬことを言ってしまったにゃ〜 舞夏の素晴らしさをその体に叩き込んでやるぜい!!」

 

「上等だ。かかって来い土御門!!」

「僕も負けへんよ~」

「今日がお前らの命日ぜよ!!」

ついに土御門も乱入し、大乱闘を始める馬鹿三人。

(なるほど。これが仲の良い友達同士というものなのか)

何か納得した様子で三人の大乱闘を見る山咲

 

「騒がしいわよ!!あんた達静かにしなさい!!」

 

「「「ぐへッ!!」」」

対カミジョ—属性の少女吹寄制理の制裁を受けた馬鹿三人は一瞬でノックアウトした。

仕事を終えた吹寄は山咲に顔を向けた。

「あんたも大変ね、山咲。毎日あのバカどもに巻き込まれて」

「そうでもないよ。俺、中学の頃まで友達いなかったから、上条君達と友達になって何だか毎日が充実している感じがするんだ。」

「ふーん、そう。所で凄い怪我ね?どうしたの?」

「階段から転んじゃったんだ。」

本日三回目の嘘をつくことになった山咲は若干申し訳なさそうに言った。

「気を付けなさいよ。あっ、そうだ。これ、良かったら食べて。買いすぎちゃって」

吹寄は山咲の机の上に大量の健康食品を置いた。

「これだけあれば怪我の治りが早くなるはずよ。」

「あ、ありがとう。」

山咲は微妙な表情で机の上の大量の健康食品を見ながらお礼を言った。

 

朝のホームルーム時、半泣き状態の小萌先生にも同じように心配されて、昼休みに呼び出され説明するのに時間がかかり、昼食を食べ損なってしまった。

 



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誕生

少し長いです。


放課後の教室内、山咲、上条、土御門、青髪を含むた男子達がグループになって世間話をしていた。

「なあ、知っているか?昨日の夜第七学区の廃ビルで能力者同士の戦闘があったらしいぜ。」

「ああ、知ってるわ。そのビル戦闘の影響で崩壊寸前だったらしいで。ザキ君は?」

「え?い、いや知らないけど。」

山咲は一瞬体がビクッとなったが適当に返した。

「噂じゃあ、レベル5とレベル0が喧嘩していたみたいだにゃあ。」

「マジかよ。で、そのレベルは0どうなったんだ?」

「それがな、そいつ負けはしたけど、レベル5相手に互角の戦闘を繰り広げたらしいぜ。」

マジかよ!!大した奴だなあそいつ。」

汗がだんだんと大量ににじみ出てきた山咲

「でも、そのレベル5どんな奴なんやろうな?チャイナドレスを着た美少女やったらいいなぁ〜」

「馬鹿!!そこは巨乳のくノ一とかだろ!!」

「ああ〜、それもいいなぁ〜 巫女服を着たポニーテール美女なんかもどうや?」

「女の子とは限らないですたい。例えば化け物じみた肉体を持った凶暴な野郎かもしれないにゃ〜。まったく恐ろしいことぜよ。」

『化け物』と言葉を聞いた山咲の顔が青くなってきた。

「おいおい、憶測だけで判断するなよ。結局そういうのって自分の目で判断するしかねえんだからよ。そいつにも何か事情があったかもしれないだろ。」

「そうだなにゃ~ カミやんの言う通りぜよ。ちょっと、言い過ぎたにゃー」

「まったくやで」

「気をつけろよ。ん?どうしたんだ、山咲?」

「ごめん。気分が悪いからもう帰るね。」

「あ、おい!」

逃げるように教室を出ていく山咲を呆然とクラスの男子達が見ていた。

 

 

とある学生寮の山咲の部屋

 

学生寮の部屋に帰って来た山咲はベッドに転がりながら、先ほどの上条の言葉を思い出していた。

「自分の目で判断するしかない・・・・か」

自分は、上条や青髪、土御門の目にはどう映っているのだろうか。

そんな事をふと考える。中学までは、噂で自分の事を知った人間達が多く襲い掛かって来た。

返り討ちにした後は、そんな自分を見て『化け物』と怖れ、怯えた目を向けてきた。

噂を聞いて『倒してやる』と判断した人間が、倒された後に自分を見て怯えていたわけだが、自分の噂と現実には、どのくらい差があったのだろう。

削板軍覇は、予想していたよりも遥かに強く、そして、やはり想像していたよりも人間らしい存在だったと思える。

削板が怒ったのは、自分が必要以上に相手を傷つけていたからだ。

他人のために、怒るというのは、山咲にとってはとても崇高な事に感じられる。

何しろ、山咲は他人のために怒った事がなく、漫画や映画の中でしか見たことのない存在だったから。

(俺は、どうなんだろう?)

(もしも上条君や削板君が誰かに傷つけられたら・・・。あそこまで怒る事ができるんだろうか。)

(会ってまだ日が浅いから、無理かもしれない。)

(でも、時間なんて関係あるのかな?)

(あるんだとしたら・・・・俺はこの先、もっと多くの人と友達になれるのかな。)

(情報って怖いなあ。)

山咲はこれからの不安を抱きながら静かに目を閉じた。

 

 

翌日の夕方

 

山咲は一人で学校の帰り道を歩いていた。

「おーい、山咲。」

後ろから上条が走りながら近づいてきた。

「・・・上条君。」

「どうしたの?」

「それはこっちのセリフだっつうの。どうしたんだよ、お前昨日から変だぞ!」

「別に何でもないよ。」

「何でもなくねえよ!!お前今日一日中顔色が悪かったじゃねえか。心配したぞ。」

今の上条は本気で山咲を心配する顔していた。

山咲の顔を真っすぐ見ながら上条は、

「何か話してくれよ。俺たち友達だろ!!」

(友達・・・・・・)

「わかったよ。」

山咲は自分の過去や削板と喧嘩した事、そして自分の抱えている不安を打ち明けた。

上条はそれを削板と同じように聞いていた。

 

「なるほど。それでお前は悩んでたってわけか」

山咲の告白を聞いた上条は、落ち着いた様子で口を開いた。

「実は俺もさ・・・似たような事を昔言われた事があるんだ。」

「えっ?」

「疫病神さ」

上条は自分の過去の事を山咲に話し出した。

「俺は生まれ持ち『不幸』な人間だった。だからそんな呼び方をされたんだろうな。分かるか、山咲。それは何も子供達の悪意のないイタズラだけではなかったんだ。」

「大の大人までもが、そんな名で俺を呼んだんだ。理由なんてない。原因もない。俺は、ただ『不幸』だからというだけで、そんな名前で呼ばれていたんだ。」

山咲は、息を呑んだ。

上条から、少し表情が消える。

「俺が側にやってくると周りまで『不幸』になる。そんな話を信じて、子供達は俺の顔を見るだけで石を投げた。大人達もそれを止めなかった。体にできた傷を見ても、哀しむどころか逆に嘲笑った。何でもっとひどい傷を負わせないのかと、急き立てるように。」

山咲には、無表情に言葉を紡ぐ上条の表情が読めない。

押し殺す事も出来ないほどの渦を巻く激情が隠れているのだろうか。

「俺が側から離れると、『不幸』もあっちに行く。そんな話を信じて子供達は俺を遠ざけた。その話は大人までもが信じた。そして、俺は一度、借金を抱えた男に追いかけ回されて包丁で刺されたんだ。話を聞きつけたテレビ局の人間が、霊能番組かこつけて、誰の許可もとらずに俺の顔をカメラに映して化け物のように取り扱ったこともある。」

オレンジ色に染まる空は、地獄に燃える炎のようだった。

「それが理由で両親は俺が幼稚園を卒業するとすぐに学園都市へ送った。恐かったんだよ。『幸運』だの『不幸』だのじゃない。そんなものを信じる人間が、さも当然のように俺に暴力を振るう現実が」

「恐かったんだろうな。あの迷信が、いつか俺を殺してしまいそうで。だからこそ、そんな迷信のない世界に俺を送りたかったんだ。」

「それでも、以前のような陰湿な暴力はなくたったけど。この科学の最先端さえ、俺は『不幸な人間』らしい。」

 

  上条の顔は笑っていた。

 

「ああ、確かに俺は不幸だった。」

「この数年間、何度も死にかけたよ。クラスメイトを一列に並べりゃ、こんな不幸な人生を送ってんのは俺だけだろうさ」

「でもさ、俺はたった一度でも後悔しているなんて思ったことなんてない。」

「俺は色んな事に巻き込まれたさ。きっかけはほんの偶然が重なった『不幸』によるものだった。でも誰かを助けたり、救いだしたときに見たんだ。一人分の世界を救った瞬間に。」

「ただの自己満足かもしれない。確かに俺が『不幸』じゃなければ、もっと平穏な世界に生きていられたと思う。」

「けど、そんなもんが『幸運』なのか?自分がのうのうと暮らしている陰で別の誰かが苦しんで、血まみれになって、助けを求めて、そんな事にも気づかずに!ただふらふら生きている事のどこが『幸運』だって言うんだ!?」

山咲は、声を上げる上条を驚いて見た。

「惨めったらしい『幸運』なんていらない!こんなに素晴らしい『不幸』があるのだから!この道は、ずっと歩く。これまでも、これからも、決して後悔しないために!」

「幸運」なんて欲しくない。すぐ側でみんなが苦しんでいる事にも気づけずに、ただ一人のうのうと生き続けるぐらいなら、「不幸」に苦しむ人々にいくらでも巻き込まれてやる。

だからこそ、上条当麻は言う。

「『不幸』だなんて見下すな!俺は今、世界で一番『幸せ』なんだ!!!」

おそらくは、笑みを浮かべて。

獰猛で、野蛮で、荒々しく、上品の欠片もない、けれど、確かに最高に最強な笑みを浮かべて、上条当麻は、宣言した。

「・・・・、」

山咲は、言葉が出ない。

「っと。すまねえ、ちょっと熱くなっちまったな。」

「いや、大丈夫だよ。」

空を見上げて、山咲は小さな溜息を吐きだした。

 

「世の中って、俺の知らない事ばっかりだな・・・」

 

情報に踊らされる以前に、自分は世の中の事を何も解っていなかったような気がする。

山咲は軽く握りしめた拳を見つめながら去年までの自分を思い返した。

『世の中なんてこんなものだ』

そう考え、希望を持たず、絶望もせず、ただ何となく生きてきた。

どう足掻いても化け物呼ばわりされることから逃れなかった自分を疎ましく思っていた。

だが、今日聞いた上条の歩んだ人生は、自分よりも遥かに凄惨だったのではないか?

(俺はただ、人を傷つけただけだ。)

(それなのに俺は、周りのせいにして、ただ拗ねてただけなんじゃないか?)

(上条君は、傷つけられて、ずっと我慢して、それでも諦めなかった。)

ただの運のないお調子者というイメージしかなかった上条について、山咲は素直に尊敬の念を抱く。

(君は凄い奴なんだな。)

(無い物ねだりしてただけなのかな、俺。)

自己嫌悪に陥りかけた山咲は、包帯が巻いてある拳を見ながら思う。

(削板君と殴り合った時、生まれて初めてこの世界は楽しいと思った。)

(削板君は俺の事を『普通』だって言ってたけれど。本当に俺は)

「ねえ、上条君」

「なんだ?」

「俺みたいな、ただ行動で化け物化け物って言われてる中途半端な奴は迷惑なだけなのかな?」

山咲は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「なればいいじゃないか。」

上条は数秒間目を瞑った後に答えた。

「・・・・え?」

それは、予想外の言葉だった。

「化け物になる事を怖れるな。」

「例え俺と同じような『疫病神』になったとしても・・・・それでも、お前はお前だ。」

「世界は広い。人生を信じろ・・・・なんて偉そうな事は言えねえが・・・・例え化け物だろうと、お前を信じてくれる奴や、お前を愛してくれる奴は、きっとどこかに居る。俺や土御門達のようにな。」

上条の頭に浮かぶのは不幸である自分を愛したり信じてくれた両親や先生、友達。

「俺を・・・・信じてくれる人?」

「ああ。俺たちを信じる事を諦めない限り、お前は人であり、化け物でもあり・・・」

「お前はずっと、山咲主税だ!!!!」

「あ・・・・」

上条は笑っていた。

ただそれだけの事で、十分だった。

上条の言葉は、山咲が前に進む為の『きっかけ』、恐らく最高のものだった。

「ねえ、上条君。」

「何だ?」

「俺さ。暴力しか、取り柄がないと思うんだ。」

「・・・・」

「俺は、上条君みたいに強くない。それこそ、いつも現実から逃げてばっかりだった。」

それは山咲の本音だった。

上条の過去を知った今、自分では彼のようにその過去を乗り越えてはこられなかったかも知れないと考える。

上条は心が強い。しかし、自分は心が弱く、ただ、たまたま暴力の才能があっただけだ。

「だけど・・・・なんていうのかな、こんな俺が世界とまた繋がれるきっかけがあるとすれば、やっぱり、暴力しかないんだろうなって思ってる。」

「お前・・・・」

「うん、俺はきっとさ、頭がイカレてるんだよ。」

どこか吹っ切れたように笑うその笑顔は、上条が初めて見る、山咲の最も生き生きとした表情だった。

   「だから、せめてさ・・・後悔がないように生きたいんだ。」  

「俺は、何が正しいのか解らない。これから少しずつ覚えていくよ。」

そして、包帯だらけの自分の手を強く握りしめ、上条に断言した。

「だから、俺はみんなの代わりの手になるよ。上条君や土御門君達、そして困っている人たちがいたら、それを守る為に拳を振るう事にする。」

「・・・・よく、照れもせずにそう言う事言えるな。」

「上条君に言われても。」

「違いねえ。」

二人とも少し照れくさそうに笑った。

「てか、俺たち友達なんだからよ。君付けはやめねえか?」

「それもそうだね。それじゃあ帰ろうか、上条。」

「ああ。」

 

一週間後、昼休みの教室

 

「顔を隠す道具はないかって?」

山咲は人助けの時に顔がバレて自分の周井の人間に迷惑を掛けないように顔を隠す道具を探していた。彼の臆病なところは相変わらずである。

「うん。何かいい変装グッズみたいなものはないかなって」

先週のことがあり、より一層話しやすくなった山咲に対して上条は紙パックのフルーツ牛乳を飲みながら答えた。

「そう言えば、青髪が駅前のディスカウントストアで面白い物を見つけたって言ってたな」

「わかった。ありがとう。早速、青髪に聞いて放課後に行ってみるよ」

「おう」

 

その日の放課後、山咲は第七学区の駅前のディスカウントストアに来ていた。

(あった!!これだ。)

山咲は仮装グッズコーナーで青髪が言っていたお目当ての物を見つけた。

それは、影のように真っ黒な手袋とマフラーだった。

それらが入っているパッケージにはこう表示されていた。

 

 

『怪人スネイクハンズなりきりセット』

 

 

『怪人スネイクハンズ』は数年前に放送された特撮のヒーロー番組だ。

運び屋の主人公が様々なトラブルに巻き込まれ、全身を黒い影に包まれた『怪人スネイクハンズ』に変身して活躍すといったものだ。リアルに再現され、売り出されるも人気は微妙と言わざるをえない仮装セットだ。

 

 

山咲は何か運命的な物を感じ、迷わずレジに向かった。

 

完全下校時刻を過ぎて夜になり、山咲は第七学区の街が見渡せる高台に来ていた。周囲に

は人がおらずこの仮装グッズを試すのには絶好の場所だった。

(普通に首に巻いたり、はめたりすればいいんだよね?)

山咲は恐る恐るそれらを身体に身に着けた。

すると、どんなカラクリなのか山咲の全身を影のようなものが包み込んでいった。

「!?」

今の山咲は黒い影そのものだった。ソレは、ドライアイスの煙のように蠢く影が、そのまま人の形として立ち上がったかのように思える。

次の瞬間

 

 

「———————————————————————————————————————」

 

 

そして、ソレは夜の街を駆け抜けていった。

 

 

柵川中学の一年生でセミロングの髪に桜の髪飾りが特徴の佐天涙子は数人の男たちに絡まれていた。

友達と遊んでいたために日が暮れてしまい、近道をしようと裏路地に入ったらスキルアウトがたむろしていたのだった。

(もう〜・・・どうしてこんな目に)

「なあ、お兄さん達と一緒に遊びに行かない?」

「恐くないからさ。気持ちよくなるだけだから。」

佐天の腕を掴むスキルアウト。

「ッ!?やめてください!!」

強気で訴えるが、スキルアウト達は下品な笑いをしながらいやらしい目で佐天を見る。

「いいから来いって言ってんだろうが!!」

ついに声を上げるスキルアウト。

(誰か・・・誰か助けて!!)

涙を浮かべながら願う佐天、そして、

「なんだ・・・・、ありゃ!?」

全員がそのスキルアウトの向いた方向を見た。

そこには、影を纏った異様なものが立っていた。

その場にいた全員は圧倒的な恐怖を抱いた。

恐怖に耐えかねたスキルアウトの一人が、ソレに向かって鉄パイプを投げつけた。

「なんだぁテメェはぁ!?」

だが、ソレは飛来した鉄パイプをあっさり掴み取るとそのまま、異様なスピードでスキルアウト達に近づいていった。

「死ねこらぁ!」

男の一人が殴り掛かる。だが、ソレは拳を紙一重で躱し、手首を握ってそのまま相手の身体を捻り倒す。

「ぐぁっ!?」

「んだっ!っらぁ!」

言葉にならない怒声を上げ、次々と襲い掛かるスキルアウト達。

しかし、あっさりと叩き付せられていった。

「あなたは一体?」

「俺はただの化け物です。」

ソレは漆黒の闇夜に消えていった。

 

 

山咲は先ほどいた高台に戻っていた。

(不思議だ。)

(この影を纏ってると・・・・いろんなものが、怖くなくなった気がする。)

自分が化け物でも構わないと受け入れ、影を纏った瞬間、山咲の中から『怖れ』は綺麗に消え去っていた。

それは、彼にとって重要なこと事である。

恐怖するからこそ、彼はどのような相手にもやり過ぎてしまう傾向があった。

しかい、薄らいだ恐怖は心に余裕を生み、自然と力を加減することができる。

影を纏っている影響なのか、それとも、上条の言葉が身に染みついたのか、あるいはその両方か。

理由は解らないが、山咲は完全に化け物として振る舞っているこの瞬間・・・確かに、恐怖から解放されていたのである。

削板軍覇と全力で喧嘩をした時とは、また一味違う達成感にあふれていた。

こんなものは錯覚に過ぎないだろう。

誰かの為だろうとなんだろうと、暴力は暴力だ。自分はただ、あの娘を言い訳にして人を殴ったに過ぎない。

それは解っていたが、それでも、山咲は嬉しかった。

悪人でも化け物でも、偽善者でも構わない。

ただ、自分の意志を伴って『化け物』になれたことで、今まで閉じ込められていた世界から一歩外に出られたような気がする。

初めて己の人生を肯定できたような気がして・・・・

山咲は再び、空に響く雄叫びを上げた。

 

こうして、この夜

『化け物』が、派手な産声を学園都市の街に響かせたのである。

その産声は、ネットを駆け巡り——

僅か一日足らずで、一つの「都市伝説」として語られる結果となった。

まるで街そのものが、その怪物の存在を喧伝しているかのように。

 

 

正義の英雄(ヒーロー)!!スネイクハンズ

学校の帰り道、スキルアウトに襲われると何処からか正義の英雄(ヒーロー)スネイクハンズが助けに来てくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し改変しました。


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花飾り

どうぞ。


『スネイクハンズ』の都市伝説が流れて数日が経ったある日の事だった。

二人の女子中学生がファミレスで談笑をしていた。

 

「え~!?当ですか?」

「本当だって!!」

 

一人は頭に花をかたどった髪飾りを大量にしていて、特大のパフェを食べている少女初春飾利。

もう一人はセミロングの黒髪に白梅の花を模した髪飾りをつけている少女佐天涙子。

彼女達はある都市伝説の事を話題にしていた。

 

「だって、信じられませんよ。佐天さんが都市伝説の影男に助けられたなんて」

「だから本当だって言ってんじゃん!」

  「私がスキルアウトに絡まれていたら、いきなり現れてそいつらをシュババっとやっつけてくれたの」

「でも~」

佐天の話にまだ困惑する初春。

佐天はまた、大声で話だした。

「てか、影男じゃなくてスネイクハンズ!」

「名前覚えようよ。」

「そもそも、なんでスネイクハンズって名前なんですか?」

「昔、よく見てたんだけど・・・」

「蛇足って意味なんだって」

「なるほど。それでスネイクハンズですか」

「でも、蛇足ってことは何の蛇足なんですか?」

「全話観たんだけど、結局何の蛇足か最後までよくわからかったんだよね~」

「何ですかそれ」

 

会話終えて初春が再びパフェを食べ始めようとしたときだった。

突如携帯電話がなり始めた。

「はい。もしもし、・・・はい、・・・はい。わかりました。今から急行します。」

 

電話を切ると初春は佐天の方を向き、

「すみません。風紀委員(ジャッジメント)の仕事が急に入ってしまって」

「いいって、さっさと行きなって」

 

「それでは失礼します。」

「うん。また、明日」

 

初春は走って風紀委員第一七七支部へ向かって行った。

 

風紀委員とは学園都市ににおける警察的組織であり、生徒(能力者)によって形成され、基本的に校内の治安維持にあたる。

風紀委員になるには、 九枚の契約書にサインして、十三種の適正試験と4ヶ月に及ぶ研修を突破しなければならない。

風紀委員活動の際には、盾をモチーフにした腕章をつける。

校外での活動は本来管轄外であり、たびたび始末書を書かされている者もいる。

 

初春は第七学区の大通りを歩いていた。

今回初春に言い渡された指令はパトロールだった。最近、第七学区でスキルアウトによる恐喝事件が頻繁に起こっているのでその予防で警備員(アンチスキル)から応援要請が出たのだった。

 

警備員とは風紀委員と同じ学園都市ににおける警察的組織であり、次世代兵器で武装した教員で構成されている。志願制。シンボルマークは三又の矛をモチーフにデザインされている。

構成員が大人なためかこちらの方が職権は上だが、同時に危険度も高い。

教師がメインで構成されていることもあり、メンバーは超能力を持たないが、 暴走した超能力者を取り押さえることも想定し、かなり強力な武装が許されている。

因みに給料なしのボランティア(僅かな特別手当はあるらしい)。

 

「この辺は異常なしですね。」

しばらく道を歩いていると初春はある事に気が付いた。

(ん?あれは・・・)

 

初春は高校生ぐらいの制服を着た男子生徒がガラの悪い数人の男子に路地裏に連れて行かれるのを目撃したのだった。

こういうときは同僚であるレベル4の白井黒子に連絡するのが妥当な判断なのだが、風紀委員になってまだ日の浅い初春は慌ててしまい困惑してしまった。

 

「よしっ!」

急がないとあの男子生徒が酷い目に遭わされると思ったのか初春は覚悟を決めて路地裏に入っていった。

「や、やめてくれ!」

「頼むよ~」

「俺たち金がなくて困ってんだよ」

「だから財布の金全部貸してくれよ。」

「そ、そんな~」

「だから、困っているって言ってんだろうがよ!!」

男子生徒の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけ睨みつけるスキルアウト。拳を振りあげ、男子生徒を殴りつけようとした時、

「そこまでです!!!」

全員が声のした方を向くと初春が風紀委員の腕章を見せるように立っていた。

「風紀委員です!皆さん大人しくしてください!」

初春はこれでスキルアウトが逃げてくれればいいと思っていた。しかし、現実はそう甘くなかった。

「フフッ、アッハハハハハハ!」

「何だよ!?まだ、ガキじゃねぇか!」

「大人しくしてくださいだってよ」

 

スキルアウト達は逃げるどころか初春をバカにし、笑い始めた。

呆気に取られていた初春は表情を元に戻し、さっきより怒気込めた。

「その人を話してください!でないと拘束しますよ!」

「ああ?やれるもんならやってみろ!」

「あうっ!」

初春に腹を立てたスキルアウトの一人が初春に近づき突き飛ばしてしまった。初春は頭を打ったのか気を失ってしまった。

「何だよこいつ!テンで弱いじゃねえかよ。」

「それにしてもこいつ、ガキにしてはいい顔してんな。」

「なんだよ、またそれかよ!?」

「確かにいい顔してんな」

スキルアウト達は下品な顔して言い合った。

そして、気絶した初春を抱え、

「こいつどうする?」

「放っておけ」

男子生徒をその場に残し、初春を抱えたスキルアウトはどこかに消えたしまった。

 

 

ある('')少年(’’)に後をつけられているとも知らずに。

 

 

数分前、スーパーマーケット『体育会系のために!!』前

「少し買い過ぎたかな?」

山咲の左右の手で持っているレジ袋の中には『体育会系のために!!』で買った大量の食材が詰め込まれていて、溢れる寸前だった。

『体育会系のために!!』とは名前のごとく、質より量が特徴の品揃えをしているスーパーマーケットである。

お買い得コーナーには研究費用に補助が付いている実験食材が並んでおり、 名称は宇宙で育てた宇宙ニンジンや遺伝子改良式レタス三号など、怪しさも大爆発。

煽り文句はデンジャラスでゲテモノとしか言えないがお値段が魅力的な商品である。

安心が欲しい人は有機なんたら店に行くべし。マグロの解体ショーをやっている。

今回は特売日だったので大量に買いだめをしておいたのだった。

「もう少し考えて買うべきだったかな?」

パンパンのレジ袋を持ち、独り言を言いながら山咲は帰路に着く。

しばらく、道を歩いているとある光景が目に映った。

花をかたどった髪飾りを大量にしている少女が数人の男達に連れ去られているところだった。

「あれは?」

山咲は急いで保冷機能つきのコインロッカーにレジ袋を預け、彼らを尾行して行った。

 

 

 

 

「ん?ここは?・・・ッ!?」

気絶した初春が目を覚ますと彼女は両手両足を縄で縛られていた。

「おっと、やっと目を覚ましたか。」

「ったく、待ちくたびれたぜ。」

声をした方を向くと初春は数人の男に囲まれていた。一人はビデオカメラを持っていた。

初春は青い顔をしながら震えた声をしながら尋ねた。

 

「な、なにを!?」

「なーに。ちょっとお兄さん達といいことするだけだって」

「大丈夫だって、最初は痛いかもしれないけど後から気持ちよくなるからさ」

「叫んでも無駄だぜ。この廃ビルには誰も来ないからよ」

 

男達は下品に顔を歪ませ初春を見た。そして、一人が初春の制服を脱がせようと手を伸ばした。

初春は涙を流しながら叫んだ。

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「やめてください!!!!」

「おい!大人しくしやがれ!!」

初春は後悔した。あの時、黒子に連絡をして大人しく応援を待っていれば、こんな事にはならなかったと。しかし、時間は戻ってくれない。男の魔の手が制服のボタンに届き、

「だ、誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

初春は大粒の涙を流しながら心の底から叫んだ。そして・・・

 

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

スキルアウトの一人が声を荒げた。その方向を見るとそこには、周囲の光を全て吸い込むような、完全なる影。

揺らめく影を纏い、まるでその空間だけ世界の裏側から食い千切られたかのような『黒』で塗り潰す人型のなにか。

怪人スネイクハンズが立っていた。

スキルアウト達はバットや角材などの凶器を持ちながら尋ねた。

 

「誰だぁ?テメェは?」

「誰だって、聞いてんだよ!」

「おい、こいつ最近ネットで話題になっている奴じゃね?」

「あ、本当だ。」

「こいつの正体、俺たちで暴いてみねぇか?」

「いいねぇ、やろうぜ」

 

男達はスネイクハンズの正体を暴こうと近づいて行った。

そして、バットを持った男が尋ねた。

「おい、その影どんな仕掛けになってんだ?」

「・・・・・」

「黙ってないで・・・。なにか言えやコラー!!」

 

痺れを切らしたスキルアウトの一人がバットで襲い掛かってきた。

しかし次の瞬間その男のバットが瞬時にしてもぎ取られたかと思うと、その先端がスキルアウトの鼻下に勢い良く叩き込まれる。

「がっ!」

嫌な音が部屋に響き渡り、男が鼻と口から血を噴きながら昏倒した。

「や、野郎!!」

次に角材を持った男が襲ってきた。男が角材をスネイクハンズの顔面に叩きつけようとしたが、彼はその横振りを避け、男の頬に一発をいれて怯んだスキルアウトの脳天に自分の踵を角材ごと叩き込んだ。

男は泡を吹きながら前のめりに倒れた。

「そ、そんな。」

「マジかよ」

 

そして、残りの怯えたスキルアウト達に対し—――その『化け物』が、容赦なく黒い双腕(スネイクハンズ)を振り下ろした。

残りのスキルアウトを片付けるのに、そう時間はかからなかった。倒したスキルアウト達はベルトや靴紐を使って両手両足を拘束した。

スネイクハンズは初春をお姫様抱っこして、ビルの外を出ると初春の拘束を解いた。

そして、恐る恐るスネイクハンズに話しかけた。

「あ、あの!!ありがとうございました。」

「・・・・・。」

スネイクハンズは初春の礼の言葉を聞くと背を向け、走りだして行った。

 

 

翌日、ファミレス内

 

「えェェェェェ~!!!!」

「佐天さん!声が大きいですよ!」

初春と佐天は再びいつものファミレスに集まっていた。

「ごめんごめん。つい」

「まさか初春もスネイクハンズに助けられるなんてね」

「私も驚きましたよ。いきなり現れて、スキルアウトをあっという間に倒しちゃったんですから」

「同僚の白井さんは全然信じてくれないんですよ」

「まぁ、都市伝説だしね。」

 

「今度お会いした時は改めてお礼を言いたいです。」

「私も私も!」

 

初春と佐天がスネイクハンズの話で盛り上がっていたとき、ファミレスの外ではとある高校の男子生徒達が歩いていた。

 

「なあ、ゲーセンよらねえか?」

「賛成だぜい!」

「ザキ君、今度こそ負けへんで!」

「ハハハ。お手柔らかに」

 



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第一章 禁書目録
設定


設定資料です。どうぞ。


山咲主税(やまさきちから)

 

性別・・・男

 

身長 ・・・170cm

 

体重・・・一般高校生の平均

 

年齢・・・15歳 (初登場時)

 

誕生日・・・六月十二日

 

出身地・・・中国地方

 

能力・・・不明

 

レベル・・・不明(高くも低くもない程度)

 

ヒーローの種類・・・恐怖を感じながらも、自分が信じる正しい行いをする者

 

所属高校・・・とある高校

 

学生寮の部屋・・・上条の部屋の左隣

 

 

性格・・・性格は臆病な所があるが温和で、地元での経験から人との関わり方は積極的ではないが、人見知りではなく同級生とのコミュニケーションもこなせる。ただし、友人関係への思考や暴力沙汰については一般常識からズレている事も多く、一般的な感覚では空気を読めない事も多い。

 

異常性・・・強いて挙げるなら敏感過ぎる程の恐怖に対する感覚と相手を仕留めるための天性のセンス。後は加減が利かないなど一般的な感覚の欠如。度を越した臆病さから尾行などにすぐに気づいたり、自分や周りへ危害を加えようとする悪意にとても敏感。また暴力などの加減具合が欠如しており、喧嘩などになった際はその臆病さも災いし、完全に危険が無くなる=相手が動かなくなるまで徹底的に攻撃を加えてしまう。喧嘩の際は躊躇いなく相手の急所を狙ったり(小学生時襲い掛かってきた同級生の目を潰そうとした)、上記の様に徹底的に相手を戦闘不能に追い込む(両手両足をへし折るなど)。ただしこの行いに悪意はなく恐怖心に突き動かされた結果の行動である。時にその恐怖心が殺意に変わることも。

 

喧嘩の強さ・・・劇中最強格で、削板軍覇の勘違いで素手喧嘩でタイマンを張った際には敗れはしたものの、削板から『ダウンを取る』、『包帯で腕を吊るす程のダメージを与える』『顔にアザを作る』等、これまで誰も成しえなかった戦果を上げてしまった事で、一夜にして学園都市中に噂が広まる。

このケンカの模様を強いて言うなら、削板が尋常じゃないパワーによる『力』だとすれば、山咲は尋常じゃないフットワークや膝の関節潰しなどによる『技』とも言える。

よって、上条当麻や浜面仕上にとって相性は最悪。

 

作中での行動・・・上条と同じクラスになる。上条と土御門、青髪のエロ話についていけない模様。 ある日、数人のスキルアウトに喧嘩を売られ、返り討ちにして半死半生状態にする。偶然その場面を削板に見られ、削板の勘違いにより戦闘になる。結果、初めて喧嘩に負けて、学園都市に来てよかったと改めて実感する。削板には根性あるやつだと認められ友人になる。後に、当麻と削板の影響を受けて、時々人助けをしている。そのときには、友人やクラスメイトに迷惑をかけないように怪人スネイクハンズ(怪人スネイクハンズについては『誕生』にて参照)に変身している。

スネイクハンズに変身しているときは、ある程度力の加減が可能。

 




後々、設定を追加していく予定です。


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夏休み

ついに禁書目録編です。


七月二十日、夏休みの初日の学生寮の一室

「あ、熱い・・・」

うだるような熱気が支配する自分の部屋で山咲は目を覚ました。

全身汗まみれだった。この暑さを何とかしようとエアコンの電源を点けようとリモコンを操作するが反応がない。

(あれ?)

リモコンのボタンを何度も押すがエアコンに反応がない。どうやら、リモコンではなくエアコン自体に問題があるようだ。

嫌な予感がし部屋中の電化製品を調べたところ八割の電化製品が全滅していた。

「マジデスカ・・・」

唖然とする山咲。

特に冷蔵庫の中身が全滅していることにショックを受けていた。

(せっかく、買いだめして置いた食材が・・・・)

「不幸だ・・・」

隣人であり友人であるツンツン頭の上条当麻が口癖のように嘆く台詞をため息まじりで言う。

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

 

「ッ!?」

突如隣の部屋から上条の悲鳴が聞こえた。

(また、何かあったのかな?)

上条当麻は不幸体質で毎日と言っていいほど、何かしらのトラブルに見舞われる。

(いつもの事だし、上条なら大丈夫か)

上条の悲鳴を特に気にもせず、今日の予定を考える。

(壊れた冷蔵庫やエアコンを何とかするためにも午前中は家電量販店に行こう)

(それから、近くの図書館で夏休みの宿題でもしよう)

山咲は宿題に関しては面倒くさがりであり、夏休みの宿題は時間をかけてするよりも一気にまとめて大量にするタイプである。

ちなみに、成績が下の下の上条と違い山咲は中の上ぐらいなので夏休みを計画的に楽しく過ごすことが出来る。

山咲は夏休みに友人達とどう過ごそうかと頭の中で思い浮かべながら、身支度をして部屋から外に出た。

エレベーターへ向かう通路を歩いていると、後ろからドラム缶の清掃ロボットが通り過ぎて行った。しかし、その後ろから、

「どいて、どいて~!!危ないかも~!!」

長いストレートの銀髪とエメラルドのような緑色の瞳、白い肌に小柄で華奢な体格。

純白の布地に金の刺繍が施され高級なティーカップに似た印象の修道服で、安全ピンだろうかそれを全身につけている見た目が十四から十五ぐらいの女の子が、通り過ぎた清掃ロボットを追いかけて行った。

 

「なんだろう?」

女の子の後ろ姿を不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 

それが人生で一番の不幸なことが起こる始まりだとも知らずに。

 

 

 

その後、山咲は昼過ぎくらいに自分の部屋に戻ってきた。

(少し寝よ。)

家電量販店に行った後図書館で宿題をした疲れが出たのかベッドに横になり眠ってしまった。

「・・・ん」

しばらくして、山咲は目を覚ました。窓を見ると空は燃え上がるような赤色に輝いていた。

「夕方か。少し寝すぎたかな」

夕飯を作ろうと冷蔵庫の中を開けると酸っぱくて、生臭い匂いがしてきた。急いで鼻を手で覆う山咲。

「そういえば、冷蔵庫が壊れているのを忘れてた・・・」

今日で二回目の溜息をすると、

「近くのコンビニに行こう」

コンビニに夕飯を買いに行こうとドアに向かう山咲。そして、ドアノブに手をかけようとしたときだった。

 

「ッ!!!!!!」

 

突如、背中にもの凄い悪寒が走った。

(ドアの向こうに誰かいる!?)

今までにない殺意や敵意を感じた山咲は、恐る恐るドアを押して通路に出た。

そこには、二人の男が向き合い睨み合っていた。

一人は隣人で友人でもある。上条当麻。もう一人は、白人の外国人の男である。歳は十四くらい、身長は二メートルを超えている。服装は教会の神父が着ているような漆黒の修道服。そして、肩まである赤い髪、左右十本の指には銀の指輪がギラリと並び、耳には毒々しいピアス、口の端では火のついたタバコが揺れて、右目のまぶたの下にはバーコードの入れ墨があった。とても神父には見えない格好だった。

 

そして、上条の足元を見ると午前中にすれ違った純白のシスターが血だまりの中に倒れていた。

 



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魔術師

ついに、ステイルとの対決。
長めですがどうぞ。


上条の足元に倒れているシスターのインデックスは背中の腰に近い辺りが真横に一閃されている。

まるで、定規を使って鉛筆で線を引いたように。

 

「一体!?これは!!!!・・・」

状況についていけず、困惑する山咲。殺人現場を見たような気持ちであった。足が震える。

「ッ!?」

「来るな!!山咲!!」

上条が『家の名に隠れてろ』と言わんばかりに吠える。

「目撃者が一人増えたか・・・、まあ、いいさ」

「どのみちやることは変わらないからね」

赤髪の咥えタバコをした神父が面倒くさそうに呟いた。

「テメェ・・・・何様だ!!」

怒りに呼応するように拳を握りしめ、上条は地面に縫い留められていた二本の脚を動かす。目の前の神父を殴り飛ばすために。

「ッ!?ダメだ!!上条!!」

目の前の男は危険だ。今までの喧嘩の経験なのか、山咲には本能で分かる。

静止を無視して、走り出す上条を後ろから追いかける山咲。

「ステイル=マグヌスと名乗りたい所だけど、ここはFortis931と言っておこうかな」

ステイルは口の端を歪めてタバコを揺らしながら呟いた後、まるで自慢のペットでも紹介するように二人に告げる。

「魔法名だよ、聞きなれないかな?僕達魔術師って生き物は、何でも魔術を使うときには真名を名乗ってはいけないそうだ。」

三人の距離は十五メートル。

上条はたった三歩でその距離を半分に縮める。

「Fortis・・・・日本語では強者か。ま、語源はどうでも良い。重要なのはこの名を名乗りあげた事でね、魔術を使う魔法名というよりも・・・・」

さらに二歩、上条は勢いよく通路を駆け抜ける。それを、山咲が後ろから追いかける。

それでもステイルは笑みを崩さない。

「・・・・・・殺し名、かな?」

ステイルは口のタバコを手に取ると、指で弾いて横合いに投げ捨てた。火のついたタバコは水平に飛んで、オレンジ色の軌跡を残す。

「炎よ」 

(Kenaz)

ステイルが呟いた瞬間、オレンジの軌跡が轟と爆発した。

まるで消火ホースの中にガソリンを詰めて噴いたように、一直線に炎の剣が生み出される。

触れてもないのに、それを見ただけで目を焼かれるような気がして、二人は思わず足を止めて両手で顔を庇っていた。

「「ッく!?」」

「発火能力者(パイロキネシスト)!!いや!!・・・・」

山咲は相手が炎を出してきたので、すぐに発火能力者だと思った。しかし、発火能力者(パイロキネシスト)と喧嘩した事がある山咲は、何か違和感を覚えた。

(何か・・・、超能力とは違う!)

「巨人に苦痛の贈り物を」 

(PurisazNaupizGebo)

 

ステイルは笑いながら、灼熱の炎剣を横殴りに二人へ叩きつけた。

それは触れた瞬間に形を失って、火山の奔流のように辺り全てを爆破した。

 

熱波と閃光と爆音と黒煙が吹き荒れる。

「やりすぎたかな?」

ステイルはぼりぼりと頭を掻いた。

眼前は黒煙と火炎のスクリーンに覆われている。

ステイルの作り出す炎剣は摂氏三〇〇〇度もある。人肉は二〇〇〇度以上の高熱で『溶ける』ので二人とも学生寮の壁にべっとりこびりついているだろう。

あの少年達をインデックスから引きはがして正解だったとステイルは内心息を吐く。

しかし、これでは炎の壁が邪魔をしてインデックスを回収できない。

ステイルはやれやれと、首を振りながら、もう一度煙の中を見ながら言った。

「ご苦労様、残念だったね。ま、そんな程度じゃ一〇〇〇回やっても勝てないよ」

 

 

 

「誰が、何回やっても勝てねえって?」

 

 

 

「ッ!?」

ギクリ、と。炎の中から聞こえてきた声に、ステイルの動きが凍結する。

轟!と辺り一面の火炎と黒煙が渦を巻いて吹き飛ばされた。

無傷の上条がそこにいた。

その瞬間、

「がッ!?」

山咲の拳がステイルの鼻柱に叩き込まれノーバウンドで後方へ吹き飛ばされた。

「・・・ったく、そうだよ、何をビビッてやがんだ」

「インデックスの『歩く教会』をぶち壊したのだって、この右手だったじゃねーか」

上条は口の端を歪めて本当につまらなそうに呟く。

「相変わらずその右手は、凄いね」

上条の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)について知っている山咲は改めて称賛する。

「こんなときにしか、役に立たねえけどな」

「つうか、煙が晴れた瞬間に殴りかかるお前も大したもんだけどな」

「はははは・・」

頭の後ろを軽く掻きながら苦笑いする山咲。

「調子に乗るなよ!!」

ステイルは炎剣を生み出しながらこちらを睨みつける。ステイルの鼻からはポタポタと血が地面に滴り落ちる。

腕の袖を使って、鼻の部分を拭うと二人に向かって勢いよく脚を動かし通路を走り抜ける。

二人に近づき勢いよく炎剣を縦に振るう。

今度は爆発さえ起きなかった。

上条が羽虫でも振り払うように右手で炎剣を叩いた瞬間、ガラスが砕けるように粉々になり、虚空に消えていった。

「!!!・・・、あ」

唐突に、ステイルの脳裏に何かが浮かぶ。

インデックスの『歩く教会』を完膚なきまで破壊したのは一体、誰が、どうやって?

そう思い浮かんでいるときだった。

山咲が勢いよくステイルの鳩尾に向かって飛び蹴りをしてきた。

「ッは!?」

肺の中の酸素が一気に排出された。

後方へ吹き飛び大の字に倒れたステイルは何とか意識を保っていた。

山咲が追い打ちをかけようと走り出したときだった。

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

(MTWOTFFTOIIGOIIOF)

 

「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」

(IIBOLAIIAOE)

 

「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」

(IIMHAIIBOD)

 

「その名は炎、その役は剣」

(IINFIIMS)

 

「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」

(ICRMMBGP)

 

ステイルの修道服の胸元が大きく膨らんだ瞬間、服の内側から、轟!という炎が酸素を吸い込む音と同時に、服の内側から巨大な炎の塊が飛び出した。

真紅に燃え盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロしたモノが『芯』になっている。それは人間のカタチをしていた。

真っ黒な重油でドロドロに汚れたような・・・

そんなイメージを植え付けるモノが永遠に燃え続けている。

その名は魔女狩りの王(イノケンティウス)。その意味は『必ず殺す』。

必殺の意味を背負う炎の巨人は両手を広げ、砲弾のように山咲へ突き進む。

「邪魔だ」

ボン!!

山咲の後ろから上条が拳を突き出し、魔女狩りの王(イノケンティウス)を吹き飛ばした。

重油の人型が飛沫となって一面に飛び散った。

しかし、切り札を潰されたステイルは笑っていた。

粘性の液体が飛び跳ねる音が四方八方から響き渡る。

「「!?」」

驚いて二人が一歩下がった瞬間、戻ってきた黒い飛沫が空中で寄り集まり、再び人のカタチを作り上げた。

「・・・再生した!?」

上条が右手を使って消滅させたはずの魔女狩りの王(イノケンティウス)が再び現れ、驚愕する山咲。

炎の中の重油はのたくり、カタチを変え、まるで両手に剣を持っているような形になる。

いや、それは剣ではない。人間でも磔にするような、二メートル以上の巨大な十字架だ。

魔女狩りの王(イノケンティウス)は大きく両腕を振り上げると、ツルハシでも振り下ろすように二人に襲い掛かる。

「ッ!!」

「危ない!!上条!!!」

山咲はとっさに上条を後ろに突き飛ばした。

「あ・・・、山咲~!!!!!!」

次の瞬間、山咲のいる場所に巨大な十字架が轟!と振り下ろされ、爆発した。

熱波と閃光と爆音と黒煙が吹き荒れ、上条は後方へ吹き飛ばされた。

「がああああああああああ!!」

「・・・・・、う」

上条は起き上がり、目の前を見る。

炎と煙が晴れてみれば、辺り一面は地獄だった。金属の手すりは飴細工のようにひしゃげ、床のタイルさえも接着剤のように溶け出している。

壁の塗装は剥がれてコンクリートが剥きだしになっている。

山咲の姿はどこにもなかった。

「おい・・・、山咲、山咲ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

「嘘だろ・・・・」

名前を呼んでも、返事が返ってこないことに顔面が蒼白する上条。

「残念だったね。御覧の通り君の友人は跡型もなく消し飛んだようだ。」

ステイルは再びタバコを咥えながら、そっと微笑む。

「ッ!!・・・・、テメエ!!!」

上条は奥歯を砕くように嚙みしめ、拳を血が出るまで握りしめステイルをギロリ!と睨みつけた。

「馬鹿な男だよ。あのとき、大人しく自分の部屋に戻れば見逃してあげたのに・・・」

口の端を歪めながら言う。

「さて、次は君の番だ。お友達の所に送ってあげるから、そこで大人しくしていたまえ」

ステイルは、面倒くさそうに呟く。

そして、魔女狩りの王(イノケンティウス)に命令する。

『殺せ』と。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「本当に死ぬかと思った・・・・」

山咲は一階下の通路に心臓をバクバクさせながら座り込んでいた。

山咲は魔女狩りの王(イノケンティウス)の十字架が振り下ろされた瞬間、持ち前の異常な反射神経で手すりを飛び越えて一階下に逃げ延びていた。

(早く上条を助けに行かないと・・・)

山咲は乱れた呼吸を整え、立ち上がる。

しかし、ガクガクと脚が震える。

「くそっ!!」

(今でも、上条は命がけで戦っているって言うのに、俺は・・・)

山咲は自分の震える脚を両手で抑えながら唇を嚙みしめる。

(でも、どうやって?)

(恐らくあの炎の巨人は破壊しても何度でも再生する)

(どんなカラクリかわからないけど)

そんなことを考えながら震える脚を動かしたときだった。

(何だろう?これ?)

山咲は床の上に、ドアの前に、消火器の腹等にテレホンカードぐらいの紙切れが貼り付けられていた。

コピー機でも使ったのか、それが何万枚も大量生産されていた。

そして、怪しげな記号が書かれていた。

(そう言えば、あの人魔術や魔術師がどうのこうのって・・・)

山咲は先ほどの会話を思い出していた。

(もしかして、これがカラクリ?)

おそらく建物全体に貼り付けてあるのだろう。

「こんなの、一枚一枚剥がしていたら時間がかかる!!!」

(どうしたら・・・・)

「・・・、なんであんなに炎が噴き出しているのに火災報知器が動かないんだろう」

何気に呟いて、山咲の動きが止まった。

 

 

 

 

「くそッ」

上条は膝をついていた。制服の所々が焦げていて、全身の至る所に火傷をしていた。

「そろそろ、諦めたらどうなんだい?」

「君じゃあどう足掻いても、僕には勝てない」

ステイルはやれやれと言った感じで呟く。

「うるせえ!俺はお前をぶっ飛ばさないと気が済まないんだよ!!」

「インデックスや山咲のためにもな!!」

ステイルの顔を激しい形相で睨みつけながら吠える上条。

「そうかい」

つまらなそうにステイルは返す。

(それにしても、どうする!!)

(さっき、インデックスが言っていたルーンなんてどこにあるか見当もつかねえぞ!!)

上条は、血まみれで機械的に話すインデックスの助言を思い出していた。『ルーン』

を消せば魔女狩りの王(イノケンティウス)は消滅するらしい。

(そんなもん探す暇はねえ、一体どうすりゃいいんだよ!!!)

既に満身創痍であり、焦る上条。

「そろそろ終わりだ」

ステイルが上条に止めを刺そうと魔女狩りの王(イノケンティウス)に命令しようとした。

その時、

建物中に設置された火災報知器のベルが、一斉に鳴り響いた。

「「!?」」

ステイルと上条は思わず天井を見上げる。

取り付けられたスプリンクラーが大量の人工の雨を撒き散らした。

魔女狩りの王(イノケンティウス)には警報装置に触れないように命令文を書いてある。

一体、誰が?

エレベータの開く音が鳴り響き、ステイルは振り返る。

そこには消し飛んだはずの山咲がいた。

 

「山咲!!!」

上条は嬉しそうに声を上げる。

「驚いたね、まさか生きていたとはね」

「なんとかね」

山咲はステイルを真っすぐ見ながら答える。

「これは、君の仕業かな?」

ステイルは自分の頭上を指で指しながら答えた。

「だとしたら」

「・・・、まさか。三〇〇〇度もの炎の塊が、こんな程度で鎮火すると本気で思っているのか!!!」

ステイルは怒りで頭の血管が破けそうになった。

「違うよ。君は学生寮に何ベタベタ貼り付けているの?」

ステイルは思い出す。仕掛けてある『ルーン』はコピー用紙だった事を。紙は水に弱い。子供でも分かる理屈だ。

しかし、後ろにいる魔女狩りの王(イノケンティウス)には何の変化もない。

「は、はは。あははははは!すごいよ君ってば戦闘センスの天才だね!だけど経験が足りないかな、コピー用紙ってのはトイレットペーパーじゃないんだよ。たかが水に濡れた程度で完全にとけてしまうほど弱くないのさ!」

両手を広げて爆発するように笑いながら、ステイルは『殺せ』と叫んだ。

魔女狩りの王(イノケンティウス)は山咲の方へ向き、勢いよく通路を駆け抜ける。

しかし、突然、魔女狩りの王(イノケンティウス)のカタチが崩れ始めた。

「な!?」

その瞬間、ステイルの心臓が一瞬だけ驚きで止まった。

そして、魔女狩りの王(イノケンティウス)は重油のように溶けていった。

「ば、か・・・・な。何故!」

「インクは?」

「コピー用紙は破けなくても、インクは落ちるんじゃないのかな?」

と山咲は驚いているステイルに少し大きな声で答えた。

ついにもぞもぞ動く重油の塊は完全に消えていった。

「い、のけんてぃうす・・・・・魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

ステイルの言葉は、まるで一方的に切られた電話の受話器に叫ぶような声だった。

山咲の足が一歩、ステイルの元へと踏み出される。

「い、の・・・けんてぃうす」

魔術師は告げる。けれど、世界は何も応答しない。

山咲の足がさらに歩き出す。

「いのけんてぃうす・・・・イノケンティウス、魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

世界は何も変化しない。

山咲の足がついに、ステイル=マグヌスの元へ弾丸のように駆け抜ける。

 

「灰は灰に

(AshToAsh)

 

塵は塵に

(DustToDust)

 

吸血殺しの紅十字!!」

(SqueamishBloody Rood)

ステイルは吠えるが何も起こらない。

 

「後ろに気を付けた方がいいよ。」

山咲は走りながら、ステイルに向かって呟いた。

「!?」

ステイルが勢いよく振り向いた瞬間、上条のクソ野郎を殴るための拳が突き刺さる。ノーバウンドで後方へ吹き飛ぶ。

そして、山咲の拳がハンマーを振り下ろすようにステイルの顔面に上から下へ突き刺さり、勢いよく頭を床にぶつけ、ステイルは白目をむいて動かなくなった。

 



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一〇万三〇〇〇冊

遅くなり申し訳ございません。
投稿します。


火災報知器を鳴らしたのか、消防車と野次馬で学生寮はあっという間に人だらけになった。

山咲と血まみれのインデックスを抱えた上条は学生寮を出て人気がない路地裏にいた。

「インデックスちゃんを救急車に乗せる事は出来ないね・・・」

そう呟いたのは先ほどの赤髪神父に止めをさし、上条から簡単にインデックスの説明を受けた臆病者山咲。

学園都市の科学技術や能力開発等の情報は極秘機密に当たるため、警備体制は非常に厳重である。基本的に都市内外は自由に出入りできず、内部の学生でも外出許可を受け取るには申請書類や発信機付きナノデバイスの注射など様々な条件が必要であり、外部の人間は厳重な審査を通った関係業者や学生の肉親にしか許可証が発行されない。

さらに、学園都市外周は高い壁で囲まれ、外壁上部は常に警備ロボットが巡回し、内部も人工衛星や監視カメラなどによって監視されている。コンビニに入るトラック一台にしたって、専用のIDがなければ話にならない。

そんな所に、IDを持たないインデックスが入院したとなれば、あっという間に情報は漏れてしまう。

「・・・けど、だからってこのままほっとく訳にもいかねえよ」

「だい、じょうぶ。だよ?とにかく、血を止める事ができれば・・・」

インデックスの口調は弱々しく、今にも力尽きそうだった。彼女の怪我は包帯を巻いて済む素人レベルを超えている。喧嘩慣れしている二人は大抵自分達で応急処置してしまう。そんな二人でさえ取り乱してしまうぐらい、背中の傷は酷い。

そうなると、頼りになるのはもはや一つしかない。

未だに信じられないが、

「おい、オイ! 聞こえるか?」

上条はインデックスの頬を軽く叩く。

「お前の一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治すような魔術はねーのかよ?」

上条にとって魔術のイメージなんてRPGに出てくる攻撃魔法と回復魔法しかない。

インデックス自身には『魔力』を扱う素質がないから魔術を使う事はできない。

だけど、インデックスから知識を聞き出せば、あるいは・・・。

激痛よりも失血のせいで浅く呼吸を繰り返すインデックスは蒼ざめた唇を震わせ、

「・・・・ある、けど」

一瞬喜びかけた上条。

「君には・・・・無理」

インデックスは、小さく息を吐き、

「たとえ、私が術式を教えて・・・・、君が完全にそれを真似した所で・・・・痛っ、君の、能力がきっと邪魔をする」

上条は愕然と自分の右手を見た。

幻想殺し。

そこに宿る力は、ステイルの炎を完全に打ち消していた。なら、同じようにインデックスの回復魔術を打ち消してしまう。

「くそ!! またかよ!またこの右手が悪いのかよ!!」

「・・・・だったら、俺が!!」

今まで上条とインデックスの会話を黙って聞いていた山咲が口を開いた。

「俺は上条が持っているような特別な右手は持ってないから、打ち消される事はないよ」

「だから俺がやるよ」

「・・・・・?」

インデックスはちょっとだけ黙って、

「あ、ううん。そういう意味じゃないよ」

「「?」」

「君の右手じゃなくて、『超能力者』っていうのが、もうダメなの」

熱帯夜の中、真冬の雪山のように体を震わせて、

「魔術っていうのは、君達みたいに『才能ある人間』が使うためのモノじゃないんだよ。『才能ない人間』が、それでも『才能ある人間』と同じ事がしたいからって、生み出された術式と儀式の名前が、魔術」

「こんなときにナニ説明してんだ!」

「・・・まさか?」

上条が叫んだとき、山咲が何かに気付いた。

「そ、君の考えている通りだよ・・・」

「どういうことだ?」

「分からない?『才能ある人間』と『才能ない人間』は・・・・、回路が違うの・・・。『才能ある人間』では『才能ない人間』のために作られた魔術を使うことはできない」

「なっ・・・、」

「くっ・・・」

二人は絶句した。確かに山咲達『超能力者』は見た目にわからなくても『時間割』を受けている。薬や電極を使い、普通の人間とは違う脳の回路を無理やりに拡張している。体の作りが違うと言われれば、確かに違う。

つまり。この街にいる人間では、彼女を唯一教える『魔術』を使うことはできない。

「ち、くしょう・・・、」

上条は、獣のように犬歯を剥き出しにして、

「そんなのって、あるか。」

「そんなのってあるかよ!ちくしょう、何なんだよ!何で、こんな・・・ッ!!」

「・・・・・・・ッ!!」

山咲は歯を嚙みしめ、拳を握りしめながら、上条の叫びを黙って聞いていた。

(何か・・・、何か方法は!)

(この街には二三〇万もの人々が住んでいるんだ。何かあるはずなんだ!!)

「・・・・あ」

「ねえ、上条 学園都市に住んでいる人々の八割が学生で、二割が大人だよね」

「なんだよ、そんなのあたり・・・・ッ!?」

上条は何かに気付いて、

「おい、確か魔術ってのは『才能のない』一般人なら誰でも使えるんだったな?」

「大丈夫、だけど・・・。方法と準備さえできれば、あの程度、中学生だってできると思う」

インデックスはちょっと考えて、

「・・・確かに、手順を踏み違えれば脳内回路と神経回線の全てを焼き切る事になるけど・・・・、私の名は禁書目録だから、へいき。問題ない」

互いに顔を合わせて、上条と山咲は笑った。

確かに、学園都市には二三〇万人が住んでいる。しかし、超能力開発を受けている学生は八割で、残りの二割は開発を受けていない大人だ。

「・・・あの先生、この時間でもう眠ってるなんて言わねーだろうな」

「確か、夜は遅い方だって言ってたけど・・・」

上条と山咲は一人の教師の顔を顔を思い浮かべる。

クラスの担任、身長一三五センチ、教師のくせに赤いランドセルがよく似合う一人の先生、月詠子萌の顔を。

山咲の携帯電話で青髪ピアスから住所を聞き出すと(青髪ピアスが何で先生の住所知ってたかは謎。ストーカー疑惑あり)、山咲がぐったりしているインデックスを背負って、二人は歩き出した。

「ここだね」

先ほどの路地裏から歩いて十五分という所に、それはあった。

なんて言うか、東京大空襲も乗り切りましたという感じの超ボロい木造二階建てのアパートだった。

 

一つずつドアの表札を確かめ、ボロボロに錆びた鉄の階段を上がり、二階の一番奥のドアまで歩いて、ようやく『つくよみこもえ』というひらがなのドアプレートを見つけた。

二回チャイムを鳴らして上条は思いっきりドアを蹴破る事にした。

ドゴン!

と上条の足がドア板に激突して凄まじい音を立てる。

「ちょっと!上条!!」

だが、ドアはびくともしなかった。律儀にもこんなときまで上条は『不幸』らしく、足の親指の辺りでグキリと嫌な音が鳴り響いた。

「~~~~ッ!!」

「はいはーい、対新聞屋さん用にドアだけ頑丈なんです―。今開けますよー?」

(素直に待ってればいいのに)

と山咲が心の中で思っていると、

ドアががちゃりと開いて緑のぶかぶかパジャマを着た小萌先生が顔を出した。

「うわ、上条ちゃんと山咲ちゃん。新聞屋さんのアルバイト始めたんですか?」

「シスターさん背負って勧誘する新聞屋さんがどこにいるんです?」

上条は不機嫌そうに、

「ちょっと、色々困ってるんで入りますね先生。」

「ちょっ、ちょちょちょちょちょっとーっ!」

ぐいぐい横に押される子萌先生は慌てて上条と山咲の前に立ち塞がるように、

「せ、先生困ります、いきなり部屋に上がられるというのは。いえそのっ、部屋がすごい事になってるとか、ビールの空き缶が床に散らばってるとか灰皿の煙草が山盛りになってるとか、そういう事ではなくてですね!」

「先生」

「はいー?」

「俺が今背中に抱えている娘をみてください」

「うん?・・・・って、ぎゃああああ!?」

「今気づいたんかよ!」

「山咲ちゃんの背中が大っきく怪我してるって所まで見えなかったんです!」

突然の血の色にあわあわ言ってる小萌先生をぐいぐい横に押して上条と山咲は勝手に部屋へ入る。

なんていうか、競馬好きのオッサンが住んでそうな部屋だった。

ボロボロの畳の上にはビールの缶がいくつも転がり、銀色の灰皿には煙草の吸殻が山盛りにされている。

一体何の冗談か、部屋の真ん中にはガンコ親父がひっくり返しそうなちゃぶ台まであった。

「なんていうか。凄いですね先生・・・」

「こんな状況で言うのは何ですけど、煙草を吸う女の人は嫌いなんですー?」

「別にそんな事はないですよ」

「お前も何真面目に答えてるんだよ」

山咲は床に散らばるビール缶を適当に蹴飛ばして場所を開ける。背中の傷が床に触れないように、山咲はインデックスをうつ伏せに寝かせた。

「き、救急車は呼ばなくって良いんですか?電話そこにあるんですよ?」

子萌先生が震えながら部屋の隅を指差す。何故か黒いダイヤル式の電話だった。

「出血に伴い、血液中にある生命力が流失しつつあります」

ギクン、と。山咲と上条と子萌先生は反射的にインデックスの顔を見た。

インデックスは倒れたまま、まるで壊れた人形みたいに顔を横倒しにしたまま、インデックスは静かに目を開けている。

それは月の光より冷たく、時を刻む時計の歯車よりも静かな、人間としてありえないほど完璧な、冷静な瞳だった。

(これがインデックスちゃん?)

始めてみるインデックスの姿に山咲は驚いていた。

「警告、第二章第六節。出血による生命力の流出が一定を超えたため、強制的に『自動書記』で覚醒します。・・・現状を維持すれば、ロンドンの時計塔が示す国際標準時間に検算して、およそ十五分後に私の身体は必要最低限の生命力を失い、絶命します。これから私の行う指示に従って、適当な処置を施していただければ幸いです」

子萌先生はぎょっとしたようにインデックスの顔を見た。

「さて・・・、」

「先生」

「へ?ひゃい」

「今から救急車、呼んできます。先生はその間、この子の話を聞いて、お願いを聞いて、とにかく絶対、意識が飛ばないように。この子、服装通り宗教やってるんで、よろしくです」

子萌先生は顔面蒼白なまま、超真剣にこくこく頷いている。

「なあ、インデックス」

上条は、倒れたままのインデックスにそっと話しかける。

「なんか、俺にやれる事ってないのか?」

「ありえません。この場における最良の選択肢は、あなたがここから立ち去る事です。」

上条は思わず右手の拳を痛くなるほど握り締めた。

上条に、やれる事なんて何もない。

この部屋にいればそれだけで魔術を打ち消してしまう『右手』があるから。

「・・・・じゃ、先生。俺、ちょっとそこの公衆電話まで走ってきます」

「え?電話ならそこに・・・・・」

上条は子萌先生の言葉を無視してドアを開け、部屋を出て行く。

「あっ、上条!!!」

「先生!よろしくお願いしますね!!」

山咲は子萌先生に頭を下げて、上条を追いかけて行った。

 

 

 

 

山咲は夜の街を走っていた。

「上条・・・、一体どこに」

先ほど勢いよく部屋から出て行った上条を探していた。

「あ・・・、いた」

上条は第七学区にある小さな公園のベンチにポツンと座っていた。

山咲に気が付くと、

「情けねえよな」

「神様の奇跡でも打ち消せるくせに、誰一人救える事もできないなんてよ」

上条は自分の右手を見ながら弱々しく口を開いた。

「結局さ。俺は壊すだけなんだよ」

「目の前に傷ついた女の子がいたのに、この右手のせいで助ける事ができないなんて・・・・」

「そんなことない!!!」

山咲は公園全体に響き渡るような声で叫んだ。

そして、上条の顔を真っすぐ見て、

「少なくとも、俺はあのとき上条に救われた。」

「初めてだったんだ」

「家族以外で俺の事本気で心配してくれて、怒ってくれて、励ましてくれて、認めてくれたのは」

「俺は凄くうれしかった。」

「・・・・・・・」

上条は黙って聞いていた。

「この世界もまだまだ捨てたものじゃないって、本気で感じた」

「君が俺の幻想を壊してくれたおかげで変わる事が出来たんだ」

「だから、胸を張れよ! 君のその右手は、幻想を壊すことで誰かを救える事ができるって!!!!」

上条は、短めの息を吐き、

「そうだよな、何こんな事でへこたれてんだ上条当麻!」

「こんな事、いつものことじゃねえか」

「なに弱気になってんだよ、ちくしょう」

先ほどの弱々しい感じから、一変して覇気が戻る上条

「ありがとうな・・・」

頬を軽く掻きながら、少し照れくさそうに言う上条

「そ、そんなことないよ・・・」

先ほどの、自分が珍しく熱い言葉を言ってたいた事を思い出した山咲も少し照れくさそうに返す。

「話が変わるけど、お前よく魔術なんてもん信じたな」

「え?」

「いや、超能力があるのなら、魔術もあるのかなあなんて・・・」

「なんだそりゃ、そんな事言うのこの学園都市の中じゃお前だけだぜ」

「かもね」

互いに顔を合わせて、笑う二人であった。

 

 

 

 

一夜開けると

インデックスは高熱と頭痛に襲われて、布団の中でぶっ倒れていた。

ウィルスによるものではなく、足りない体力を補おうとしているだけらしい。

「・・・で?何だって下ぱんつなんだお前」

「たぶん、熱いからじゃないの?」

淡い緑色のパジャマを着て、おでこに濡れタオルを載っけたインデックスは布団の中の蒸し暑さが許せないのか、片足を布団の横から、でろっと飛び出させている。

子萌先生はおでこの上の生ぬるくなったタオルを水を張った洗面器にじゃぶじゃぶ突っ込みながら、上条の顔を半目で睨みつつ言った。

「・・・上条ちゃん。先生は、いくら何でもあの服はあんまりだと思いました。」

「そうですか?俺的には斬新なデザインでありかと思いましたけど」

今度は山咲の顔を睨みつける子萌先生。

「山咲ちゃん?」

「いや、何でもないです。ごめんなさい」

急に縮こまる山咲。

「てか、何だってビール好きで愛煙家の大人な子萌先生のパジャマがインデックスがピッタリ合っちまうんだ?年齢差、一体いくつなんだか」

「さあ?何十年も離れているとか」

なっ、と子萌先生(年齢不詳)は絶句しかけたが、インデックスが追い討ちをかけるように、

「・・・・みくびらないでほしい。私も、流石にこのパジャマはちょっと胸が苦しいかも」

「なん・・・・、馬鹿な!バグってるです、いくら何でもその発言は舐めすぎです!」

「ていうかその体で苦しくなる胸なんかあったんか!?」

「女性なんだから少しくらいあると思うよ」

「「・・・・・、」」

「?」

レディ二人に睨まれた。上条、反射的に魂の土下座モードへ移行。対する山咲は、何で怒っているの、という不思議な顔をしていた。

「とこで上条ちゃん、山咲ちゃん、結局この子は二人の何様なんですう?」

「妹」

「従妹」

「大嘘にもほどがあるですモロ銀髪碧眼の外国人少女です!」

「義理なんです」

「同じく」

「変態さんです?」

「ジョークです!」

「山咲ちゃん、上条ちゃん」

と、いきなり先生モードの口調で言い直された。

上条と山咲は二人とも黙り込む。まぁ、子萌先生が聞きたがるのも無理はない。ただでさえ得体のしれない外国人を連れ込んで、しかも背中には明らかに事件性を匂わせる刀傷、挙句の果てには『魔術』などという訳の分からないモノの片棒を担がされたのだ。

これで黙って目を瞑ってろと言う方が無理難題というものだろう。

「先生、一つだけ聞いても良いですか?」

「ですー?」

「事情を聞きたいのは、この事を警察や学園都市の理事会へ伝えるためですか?」

子萌先生はあっさり首を縦に振った。何のためらいもなく、人を売り渡すと、自分の生徒に向かって言い捨てた。

「上条ちゃん達が一体どんな問題に巻き込まれてるか分からないですけど」

子萌先生はにっこり笑顔で、

「それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私達教師の役目です。子供の責任を取るのが大人の義務です、上条ちゃん達が危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのです」

月詠子萌はそう言った。

何の能力もなく、何の腕力もなく、何の責任もないのに。

ただ真っすぐに、あるべき所へあるべき一刀を通す名刀のような『正しさ』で、言った。

「本当に・・・・、」

「うん」

この人には敵わないと、上条と山咲は口の中だけで呟いた。

こんなドラマに出てくるような、映画の中でも見なくなったような『先生』なんて、二人は十数年を生きてたそれなりに長い人生の中でもたった一人しか見当たらない。

「先生が赤の他人だったら遠慮なく巻き込んでるけど、先生には『魔術』の借りがあるんで巻き込みたくないです」

上条は真っすぐと告げた。

「だから、後は俺達に任せておいてください」

山咲も微笑んで告げた。

もう、無償で誰かの盾になるような人間が、目の前で傷つく所なんて、見たくなかった。

子萌先生はちょっとだけ、黙った。

「むう。何気にかっこいい台詞を吐いてごまかそうったって先生は許さないんですよー?」

「先生?立ち上がってどこに行くんです?」

「執行猶予です。先生スーパー行ってご飯のお買い物してくるです。上条ちゃんと山咲ちゃんはそれまでに何をどう話すべきか、きっちりかっちり整理しておくんですよ?それと、」

「それと?」

「先生、お買い物に夢中になってると忘れるかもしれません。帰ってきたらズルしないで二人から話してくれなくっちゃダメなんですからねー?」

そう言った子萌先生は、笑っていたと思う。

パタン、とアパートのドアが開閉する音が響き、部屋には上条と山咲とインデックスの三人だけが取り残された。

「・・・・気を遣わせちまったかな」

「うん。そうだね・・・」

何となく。あの企んだ子供みたいな笑顔を見ると、もう『スーパーから帰ってきた』子萌先生は『全部忘れていた』事にしてしまうような気がする。

それでいて、後からやっぱり相談したとしても『どうして早く言わなかったんですか!?先生キレイに忘れてました!』とかぷりぷり怒りながら嬉しそうに相談に乗ってくれるんだろう。

 

 

 

 

その後、上条と山咲は、インデックスから『必要悪の教会』や『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』について聞いた。

「ふぅん。大体わかってきた」

「つまり、あの人たちは君の頭の中にある爆弾を手に入れたい訳なんだね」

世界中にある一〇万三〇〇〇冊もの原典、それを記憶の中で完全に複製した図書館。

それを手にする事は、つまり世界中の魔術の全てを手に入れる、という意味だ。

「・・・、うん」

死にそうな、声だった。

「一〇万三〇〇〇冊は、全て使えば世界の全てを例外なくねじ曲げる事ができる。私達は、それを魔神と呼んでるの」

魔界の神、という意味ではなく、魔術を極めすぎて、神様の領域にまで足を突っ込んでしまった人間という意味の、魔神。

「・・・ふざけやがって」

「・・・・・・・・・・」

上条は奥歯を噛み締めていた。対する山咲は拳を握り締めていた。

インデックスの様子を見れば分かる、彼女だって何も好き好んで一〇三〇〇〇冊を頭に叩き込んだ訳ではない。彼女は少しでも犠牲者を減らすために、ただそれだけのために生きてたっていうのに。

その気持ちを逆手に取る魔術師も気に食わなければ、そんな彼女を『汚れ』と呼ぶ教会も気に食わなかった。どいつもこいつも人間をモノみたいに扱って、インデックスはそんな人間ばっかり見てきたはずなのに。

「・・・、ごめんね」

山咲がインデックスの頭に手を置く。

「なに謝っているの?」

優しく微笑みながら話しかける山咲。

「え?」

「だって。痛い思いをさせちゃったし、怖い思いもさせちゃったし、その・・・・あの、」

予想外の山咲の言葉にインデックスの言葉はどんどん小さくなっていき、最後の方はほとんど聞こえなかった。

それでも、迷惑をかけちゃったから、という言葉を聞いた。

「別に俺達は迷惑だなんて思っちゃいないよ」

「そりゃ確かに教会の秘密や一〇万三〇〇〇冊の魔道書の事は驚いたよ。それに魔術師に殺されかけて、怖い思いもしたよ」

でも、と山咲はそこで一拍置いて

「たった、それだけなんでしょ?」

インデックスの両目が見開かれた。

その小さな唇は何かを呟こうと必死に動くが、言葉は何も出てこない。

「たかが一〇万三〇〇〇冊の魔道書を覚えたぐらいで気持ち悪いとか言うと思った?

魔術師がやってきたら君を見捨ててさっさと逃げ出すとでも考えた?その程度の覚悟なら最初から拾ったりしてないよ」

山咲は真っすぐインデックスを見ながら口を動かした。

山咲と上条は単にインデックスの役に立ちたかった。インデックスがこれ以上傷つくのを見たくなかった。それだけだった。なのに、彼女は山咲と上条の身を庇おうとしても、決して二人に守ってもらおうとはしない。

たったの一度さえ、インデックスから『助けてくれ』という言葉を聞いた事がない。

それは、悔しい。

とてもとても、悔しい。

「山咲の言う通りだ。ちったぁ俺達を信用しやがれ、人を勝手に値踏みしてんじゃねーぞ」

たったそれだけの事。たとえ特別な右手や力がなくても、ただの一般人でも、二人には退く理由がない。

そんなもの、あるはずがない。

インデックスはしばらく呆けたように山咲と上条の顔を見上げていたが、

 

 

 

 

 

ふぇ、と。いきなり、目元にじわりと涙が浮かんだ。

 

 

 

 

 

まるで氷が溶けたようだった。

嗚咽を殺そうと引き結んだ唇が耐えられないようにむずむず動いて、口元まで引き上げた布団にインデックスは小さく噛み付いた。

そうでもしなければ幼稚園児みたいに大声で泣き出すと思うほど、インデックスの目元に浮かんだ涙がみるみる巨大になっていく。

今の今までそんな程度の言葉さえかけてもらえなかったのか、と痛ましく思うと同時に、二人はようやくインデックスの『弱さ』を見たような気がして、少し嬉しい。

だが、女の子の涙をいつまで見ていては超気まずい。

「あ、あーっ、あれだ。ほら、俺ってば右手があるから魔術師なんざ敵じゃねーし!」

「けど、ひっく。夏休みの、補習があるって言った」

「言ったんだ」

「言ったっけ?」

「絶対言った」

「いいんだよ補習なんて。学校側だって進んで退学者を出したいわけじゃねぇ、夏休みの補習をサボりゃあ補習の補習が待ってるだけなんだ、いくらでも後回しにしてもオッケーなんだってば」

「子萌先生が聞いたら修羅場になりそうな台詞だね」

「うるせいやい」

インデックスは目に涙を溜めたまま、黙って上条の顔を見上げた。

「じゃあ、何だって早く補習に行かなきゃとか言ってたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あー」

山咲は危険を察知して、部屋の隅に移動した。

「山咲さん。何で部屋の隅に移動しているのでせうか?」

「予定があるから、日常があると思ったから、邪魔しちゃ悪いなって気持ちもあったのに」

「・・・あ、あっ。あーっ!!!」

「私がいると・・・居心地、悪かったんだ」

「・・・・、」

「悪かったんだ」

「ごめんなさい!!!!!!」

と上条当麻は勢い良く土下座モードへ移行。

インデックスは病人みたいに布団からのろのろ身を起こすと、両手で上条の頭を掴み、巨大なおにぎりにでもかぶりつくように頭のてっぺんに思いっきり噛み付いた。

(あまり、怒らせないようにしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六〇〇メートルほど離れた、雑いビルの屋上で、二人の男女がインデックス達を確認していた。

「楽しそうだよね」

「僕達は、一体いつまでアレを引き裂き続ければ良いのかな」

「複雑な気持ちですか?」

「かつて、あの場所にいたあなたとしては」

「・・・・、いつもの事だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ねーちんとの戦闘です。


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聖人

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
久しぶりの投稿です。すみません、リアルが色々と忙しくて、それではどうぞ。


おっふろ♪ おっふろ♪と上条と山咲の間で、両手に洗面器を抱えたインデックスは歌っていた。

パジャマから安全ピンだらけの修道服に着替えている。

一体どんなマジックを使ったのか、血染の修道服はキッチリ洗濯されていた。

あれから三日経って、ようやくあちこち出歩けるようになったインデックスの願いは風呂だった。

子萌先生のアパートには風呂などという概念は存在しなかった。管理人室のモノを借りるか、アパート最寄りにあるボロッボロの銭湯へ行くという究極の二択しかなかった。

子萌先生は、相変わらず何の事情も聞かずに上条達の事をアパートに泊めてくれた。

敵にマークされた学生寮にのこのこ戻る訳にいかないので居候状態である。

「とうま、とうま」

人のシャツの二の腕を甘く噛みつつインデックスはややくぐもった声で言う。噛み癖のある彼女にとって、どうやらこれは服を引っ張ってこっち向かせる、ぐらいのジェスチャーらしい。

「・・・何だよ?」

上条は呆れたように答えた。

今度は山咲の方を向いて、

「ちから、ちから」

「どうしたの?インデックスちゃん?」

少し恥ずかしそうに答える山咲。

「む。ちゃん付けはやめてほしいかも」

「私は子どもじゃないもん」

少し頬を膨らませ、目を細めながら言うインデックス。

「わ、わかったよ。・・・・インデックス」

「うん!」

「てか、さっきから何回俺達の名前言ってんだよ?」

「別に何でもない。用がないのに名前が呼べるって、なんかおもしろいかも」

たったそれだけで、インデックスはまるで初めて遊園地にきた子供みたいな顔をする。

「ジャパニーズ・セントーにはコーヒー牛乳があるって、こもえが言ってた。コーヒー牛乳って何?カプチーノみたいなもの?」

「そんなエレガントなものじゃないよ。コーヒーと牛乳を混ぜて日本人好みに甘くしたものだよ」

「だから、あんまり期待を膨らませない方がいいかな」

と山咲が言う。

「けどお前にゃデカい風呂は衝撃的かもな。イギリスってホテルにあるみたいな狭っ苦しいユニットバスがメジャーなんだろ?」

「んー?・・・・その辺は良く分かんないかも」

インデックスは本当に良く分からないという感じで小さく首を傾げた。

「どういうこと?」

「私、気がついたら日本にいたからね。向こうの事はちょっと分からないんだよ」

「ふうん。何だ、どうりで日本語ぺらぺらなはずだぜ。ガキの頃からこっちにいたんじゃ、お前ほとんど日本人じゃねーか」

「あ、ううん。そういう意味じゃないんだよ」

インデックスは長い銀髪を左右に流すように首を振って否定した。

「私、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂の中で育ってきたらしいんだよ。どうも、こっちにきたのは一年ぐらい前から、らしいんだよね」

「?」

「らしい?」

上条と山咲が曖昧な言葉に思わず眉をひそめた所で、

「うん。こっちにきたときから、記憶がなくなっちゃってるからね」

インデックスは笑っていた。その笑顔からは裏にある焦りや辛さが見て取れた。

「最初に路地裏で目を覚ました時は、自分の事も分からなかった。だけど、とにかく逃げなきゃって思った。昨日の晩御飯も思い出せないのに、魔術とか禁書目録とか必要悪の教会とか、そんな知識ばっかりぐるぐる回ってて、本当に怖かった・・・」

「じゃあ、どうして記憶をなくしてしまったかも分からない訳だね」

「うん」

記憶喪失の原因なんて大体二つに限られている。

記憶を失うほど頭にダメージを受けたか、心の方が耐えられない記憶を封印しているか。

「くそったれが・・・・」

「上条・・・・」

上条は夜空を見上げて思わず呟いた。

魔術師に対する怒りもあるが、詮のない事とはいえ無力感が襲ってくる。

インデックスが異常に上条と山咲を庇ったり懐いたりする理由も分かってきた。何も分からずに世界に放り出されて一年、ようやく会えた最初の『知り合い』がたまたま、上条と山咲だっただけだ。

上条は、それを嬉しいとは思えなかった。

何故だか知らないが、そんな『答え』は上条をひどくイライラさせる。

「むむ?とうま、なんか怒ってる?」

「怒ってねーよ」

「なんか気に障ったなら謝るかも。とうま、なにキレてるの?思春期ちゃん?」

「そのからだにだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント」

「む。何なのかなそれ。やっぱり怒ってるように見えるけど。それともあれなの、とうまは怒ってるふりして私を困らせてる?とうまのそういう所は嫌いかも」

「あのな、元から好きでもねーくせにそんな台詞吐くなよな。いくら何でもお前にそこまでラブコメイベントなんぞ期待しちゃいねーからさ」

「・・・・、」

「はぁー」

「て、アレ?何で上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫?」

「それと山咲さん、なぜに溜め息を?」

「とうま」

はい、と上条は返事を返してみる。とてつもなく不幸な予感がした。

「だいっきらい」

瞬間、上条は女の子に頭のてっぺんをまるかじりされ、レアな経験値を手に入れた。

 

 

インデックスは一人でさっさと銭湯へ向かってしまった。

「少しは言葉を選ぼうよ」

やれやれと言った感じで言う山咲。

「痛てて・・・・、てか、俺何か悪い事言ったけ?」

「まったく君ってやつは・・・・」

溜息まじりで言う山咲。

「それにしても英国式シスター、ねえ」

暗にい夜道を二人で歩きながら、上条がぼんやりと口の中で言った。

「分かっているとは思うけどインデックスを日本の『イギリス教会』に連れて行ったら、彼女はそのままロンドンの本部へ飛ぶ。」

「だから、もう俺達の出番はないと思うよ。」

「ああ、でも何か胸にチクリと刺さるものがあるんだよな」

「かと言って何か別案があるの?」

「それは・・・」

「インデックスを教会に保護してもらわなければ延々と魔術師に追われ続ける事になるし、インデックスの後を追ってイギリスまで飛ぶっていうのも非現実的だよ」

「わかってるよ」

「わかっているけど、何かイライラするんだよな・・・」

「上条・・・・」

 

 

「あれ?」

 

と、会話が途切れる。

何かがおかしい。山咲はデパートの電光掲示板の時計を見る。

午後八時ジャスト。

「ねえ、上条。この通りってこんな無人だったけ?」

隣にいる上条に聞く山咲。

「そう言えば、まだまだ人が寝る時間でもないはずなのにおかしいな」

何だか辺りが夜の森みたいにひどく静まり返っている。

妙な違和感。

「インデックスと一緒に歩いていた時から、誰ともすれ違っていないよね」

「ああ」

そして、大通りに出た時、違和感は明確な異常にシフトした。

誰もいない。

大手デパートには誰も出入りしていない。いつも狭いと感じる歩道は広く感じられ、車道には車の一台も走っていない。

まるでひどい田舎の農道でも見ているようだった。

 

 

 

「ステイルが人払いのルーンを刻んでいるだけですよ」

 

 

 

ゾン、と。いきなり顔の真ん中に日本刀でも突き刺されたような、女の声。

(気づけなかった。)

その女は物陰に隠れていた訳でも背後から忍び寄った訳でもない。

二人の行く手を遮るように、一〇メートルぐらい先の、滑走路のように広い三車線の車道の真ん中に立っていた。

たった一度瞬きした瞬間、そこに女は立っていたのだ。

「この一帯にいる人に『何故かここに近づこうとは思わない』ように集中を逸らしているだけです。多くの人は建物の中でしょう。ご心配はなさらずに」

女はTシャツに片脚だけ大胆に切ったジーンズという、まぁ普通の範囲の服装ではあった。ただし、腰から拳銃のようにぶら下げた長さ二メートル以上もの日本刀が凍える殺意を振りまいていた。

「・・・・、あなたは?」

「神裂火織、と申します。できれば、もう一つの名は語りたくないのですが」

「もう一つ?」

「魔法名、ですよ」

ある程度予想していたとはいえ、二人は思わず一歩後ろへ下がった。

魔法名、ステイルが魔術を使って上条を襲った時に名乗った『殺し名』だ。

「素直に言って」

神裂は片目を閉じて、

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

ゾッとした。

「・・・嫌だ、と言ったら?」

上条は言った。退く理由は何処にもなかったから。

「仕方ありません」

神裂はもう片方の目も閉じて、

「名乗ってから、彼女を保護するまで」

ドン!!という衝撃が地震のように足元を震わせた。

視界の隅で、夜空の向こうが夕焼けのようなオレンジ色に焼けている。何処か遠く、何百メートルも先で、巨大な炎が炎が燃え広がっているのだ。

「インデックス!!」

「くそっ!!」

二人が反射的に炎の塊が爆発した方角へ目を向けようとして、

 

 

瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってきた。

 

 

「上条、危ない!!!」

異常にいち早く気づいた山咲は上条の学生服の襟首部分を掴み横に移動する。

次の瞬間、巨大なレーザーでも振り回したようにさっきいた上条の場所の空気が引き裂かれた。

驚愕に凍る二人の後ろにある風力発電のプロペラが、まるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断されていく。

「やめてください」

一〇メートル先で、声。

「私から注意を逸らせば、辿る道は絶命のみです」

あまりに速すぎて刀身が空気に触れた所さえ見る事ができなかった。

ドズン、と音を立てて後ろで切り裂かれた風力発電のプロペラが地面に落ちた。

神裂は、閉じていた片目をもう一度開いて、

「もう一度、問います」

神裂はわずかに両の目を細め、「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

神裂の声には、よどみがない。

「・・・・ッ、テメェを相手に降参する理由なんざ・・・」

「何度でも、問います」

瞬、とほんの一瞬だけ、何かのバグみたいに神裂の右手がブレて、消える。

轟!という風の唸りと共に、恐るべき速度で何かが襲いかかってきた。

「「!?」」

まるで、四方八方から巨大なレーザー銃を振り回されるような錯覚。

地面が、街灯が、一定の間隔で並ぶ街路樹が、まとめて工事用の水圧カッターで切断されるように切り裂かれた。

辺りを見回すと一本。二本、三本四本五本六本七本・・・・七つもの直線的な『刀傷』が平たい地面の上を何十メートルに渡って走り回っていた。

「私は、魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

「くっ・・・」

「上条、ここは俺が引き受けるよ。だから君は早くインデックスの所へ」

一歩前を出て、両脚をガクガク震わせながら言う山咲。

「な、何を言ってんだよ!!! 相手は見えもしない速さで仕掛けてくるんだぞ!!!」

「だけど、このままじゃインデックスが危ない!!!」

「俺はかろうじてあの速さについていける。だから俺に任せて」

「・・・だけど」

「俺を信じて」

「くそっ!!」

上条はオレンジ色に焼けている方向へ勢いよく走り出した。

「させると思いますか?」

神裂は両目を閉じて言った。

そして、またも神裂の右手がブレて、七つの斬撃が上条に襲いかかろうとした。

しかし、それは頬や服をかすめる形でスカを喰った。

なぜなら、山咲が勢いよく刀ごと腕を蹴り飛ばしたからだ。

間一髪で蹴りによって軌道がズレ、神裂の攻撃は逸れた。

「行けェェェェェェェェェ、上条ォォォォォォォ!!!!」

上条は振り向きもせずに暗闇の中に消えていった。

「いい覚悟ですね。少年」

神裂は表情を変えずに口を開いた。

(ッ!)

今の一連の流れで再確認する。目の前にいるこの女性が、途方も無いレベルの強敵であ

ると。

山咲は今、身体ごと後ろに蹴り倒すつもりで蹴りを放った。だが、それでも腕の軌道

を僅かに逸らす事しかできなかったのである。

物凄い体感バランスと、頑強な足腰を持っているのだろう。

地元にいた頃、格闘技をやっているという者が山咲に挑んできたときの近い感覚

を覚えている。

だが、方向性は近いが、手応えはまるで違う。

地元で襲いかかって来た自称拳法家はすぐに壊れてしまったが、目の前の女性は、何

度蹴りつけても壊れそうにない。

山咲の中で先ほどから警報が鳴り響いている。

それは、削板軍覇と相対したときとよく似ていた。

(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い)

(こわ・・・い・・・コワイ)

(同じだ)

(軍覇の時と同じだ)

(強い・・・強い強い強い)

(目の前のコノ人は、俺を殺せるかもしれない)」

 

そう認識した瞬間、恐怖が全身を支配する。

殺される前に、仕留めなければならない。

そんな、久方ぶりの感覚が臓腑の奥から止めどなく沸き起こった。

 

一歩間違えれば全てが終わる。

 

そう思うと、山咲は次の一撃を繰り出した。

神裂の喉のあたりに向かって、鋭い手刀を突き入れようとする山咲。

だが、それをバク転で躱し、そのまま数メートルの距離を開ける神裂。

「やりますね。」

「先程の私の『七閃』を逸らすといい、我流ですか?」

しかし、山咲は神裂の問いに答えず次のことを考えていた。

(ああ、逃げたい、逃げたい)

臆病な彼は考える。

ここで走って逃げだして、布団を被って寝ていればどれだけ安堵できるだろうかと。

安心がそこに待っている。

(だけど、ここで逃げたら・・・)

山咲はギリ、と歯を嚙みしめ、足を前と踏み出した。

(上条やインデックスや子萌先生が)

(いや、みんなで逃げたとしても・・・・次は誰か、俺の大事な人がやられるかもしれ

ない)

(それは、もっともっと怖い事じゃないか)」

自分の中で踏ん切りを付け、一瞬で頭のネジを絞め直す。

そして、跳んだ。

相手の虚を突く形で、アスファルトを力強く踏み抜き、身体を一気に加速させる。

体液が背中の方に流れるのを感じながら、山咲はそのまま路上を駆け抜け、そのま

ま斜めに跳躍した。

ガードレールを駆けあがるかのように蹴りつけ、そのまま三メートル程の高さまで跳躍する。

そのまま相手に向かって跳躍し、頭頂部をサッカーボールのように蹴ろうとした。

だが、一瞬早く神裂は身を屈め、その蹴りを躱す。

頭頂部に山咲の靴が僅かに擦れ、チリチリと焦げながら髪の毛が何本か宙を舞っ

た。

今度は神裂が刀を鞘に納めたまま振るって、山咲に当てようとするが片方の足で刀を蹴られて防がれてしまう。

そして、山咲は動きを止める事のないまま勢いのままに神裂へと挑みかかる。

拳の連撃。

肘や足技を交えた怒涛の攻勢を前に、神裂は何度も体勢を崩した。

(中々やりますね。全力ではないといえ私の速さに付いてきますか。し

かし、ここまでです。)

だが、すんでの所で踏み止まり、スピードをあげて流れるような動きで山咲に反撃

を仕掛けてくる。

山咲はそれを経験から来る勘と鍛え抜いた反射神経であしらってきた。

(なっ!?なら、これでどうです!!)

さらにスピードを上げてきた神裂だが、それでも付いてくる山咲。段々とスピードを上げていった神裂はついに全力のスピードを出してしまっていた。

お互いに拮抗状態が続いているように見えるが、山咲はギリギリの攻防だった。

一瞬でも気が抜けば、自分の意識などを簡単に刈り取られてしまうだろう。

そのまま力尽くで刈り取られたのが数カ月前の削板との戦いだ。

しかし、目の前の女性からは軍覇ほどの膂力は感じ無い。

代わりに、格闘技経験によるものか、尋常ならざる当て勘と捌き手でこちらの連撃を

いなし、時に反撃を繰り出して来た。

(考えろ 考えろ考えろ)」

(この人の強さは軍覇程じゃないかもしれない、だけど、それに近い何かだ!)

命の危機すら感じる攻防。

ましてや、相手は二メートル程の刀を持っている。いつ鞘を抜いて使ってくるかわからない。下手な一撃を食らえば致命傷になる。

 

(こいつの動きを止めなきゃ)

そんな攻防の中、山咲は不思議と冷静だった。

(こいつの足を止めろ)

(こいつの腕を止めろ)

(こいつの思考を止めろ)

(こいつの五感を止めろ)

(こいつの呼吸を止めろ)

(こいつの●●を止めろ)

時間がゆっくりと感じられる。

(こいつの●●を止めろ)

地元でチンピラ達と喧嘩していた時には、味わえなかった感覚だ。

(こいつの●●を止めろ)

(こいつの心臓を止めろ)

攻防を繰り返す内に一瞬だけ、敵意が完全なる殺意へと変わった。

刹那、山咲の攻撃が鋭さを増し、相手の顔面に拳による一撃がヒットする。

拳の一撃を受けた神裂は口元から血を流しながら驚愕の表情で山咲を睨みつけていた。

「驚きました。『聖人』としての力を出していないとはいえ私に一撃を入れるとは」

神裂は口元の血を腕で拭って言う。

「『聖人』?」

「しかし、遊びはここまでです。少々本気でいきます。」

神裂がさっきとは比べられないスピードで突っ込んできた。

(ッ、速い!!)

神裂の鋭さを増した拳が山咲に襲いかかる。

辛うじて、避ける山咲だが頬をかすめたのか切り傷が出来ていた。

「七閃。」

そして、七つの斬撃が山咲に迫ってきて、全身にめり込んできた。

「がああああああああああ!!!!」

肉を引き裂く水っぽい音が聞こえた。

山咲はその場でヒザを折って屈んでいた。そして、頭上を見上げる。

真円の青い月を背負う神裂の目の前に、何か赤い糸のようなモノがあった。

七本の鋼糸(ワイヤー)。

「なるほど、道理で見えないわけだ。」

「上条対策ですか?」

「ええ、彼が魔術を無効化する事はステイルから報告で知っていますからね。」

「それでも、私には関係ありませんが」

神裂はつまらなそうに言う。

「それに何より、私はまだ魔法名を名乗ってすらいません」

「もう一度問います。彼女を保護したいのですが?」

「もう、良いでしょう?あなたが彼女にそこまでする理由はないはずです。」

「ロンドンでも十指に入る魔術師を相手に二分も生き残れれば上等です、それだけやれば彼女もあなたを責める事はしないでしょう。」

「・・・、何でですか?」

ヒザを折って屈みながら小さく呟いた。

「あなた、すごくつまんなそうだ。あのステイルって人とは違いますよね。敵を殺すのためらっている。その気になれば俺を殺す事ができたくせに、殺せなかった。あなたはまだためらってくれるだけの『常識』がある人間だ。」

神裂は、何度も何度も聞いてきた。

魔法名を名乗る前に全てを終わらせたい、と。

ステイル=マグヌスは、そんなためらいなど微塵も見せなかった。

「・・・・、」

神裂は黙り込んだ。

「なら、分かってますよね?寄ってたかって女の子を追い回して、刀で背中を斬って、その事がインデックスにとってどんなに恐怖だったか。」

血を吐くような言葉に、神裂は何もできずに耳を傾け続ける。

「知ってますか。あの子、あなた達のせいで一年ぐらい前から記憶が無い事を?一体どこまで追い詰めてしまえばそこまでひどくなってしまうんですか」

返事は、ない。

「何で、ですか?」

「そんな力があれば、誰だって何だって守れるのに、何だって誰だって救えるのに」

「何で、そんな事しかできないんですか」

許せなかった。

そんなにも圧倒的に強い人間が、女の子一人を追い詰める事にしか力を使えない事が。

悔しかった。

まるで、今の自分はそれ以下の人間だと言われているみたいで。

「・・・・、」

沈黙に、沈黙を重ねた沈黙。

山咲は驚いていた。

「・・・・、私。だって」

追い詰められていたのは、神裂の方だった。

言葉だけで、ロンドンで十本の指に入る魔術師は追いつめられていた。

「私だって、本当は彼女の背中を斬るつもりはなかった。あれは彼女の修道服『歩く教会』の結界が生きていると思ったから・・・・絶対傷つくとはずがないから斬っただけ、なのに・・・」

山咲は神裂の言っている言葉の意味がわからない。

「私だって、好きでこんな事をしている訳ではありません」

「けど、こうしないと彼女は生きていけないんです。・・・・死んで、しまうんですよ」

 

 

 

 

「分かって、いただけましたか」

それから、山咲は神裂から自分がインデックスと同じ『必要悪の教会』の一員である事と完全記憶能力について聞いた。

「・・・・・、」

山咲は言葉の意味が分からないでいた。

(八五%?、十五%?おかしい、完全記憶能力にそんなデメリットはないはずだ。)

(演技をしているようには見えない、一体どういう事だ?)

(けれど、今はそんな事を考えるよりも・・・)

山咲は拳を握りしめ、

「何ですか。それ」

ガソリンに火を放つように爆発した。

「ふざけているんですか!あの子が覚えてるか覚えてないかなんて関係ない!分からないようなら一つだけ教えます。俺達はインデックスの仲間です、今までもこれからもあの子の味方であり続けるって決めたんだ!これだけは絶対です!」

生まれて初めてだった。自分の怒りがこんなに爆発したのは

「・・・・、」

「変だと思っていましたよ、単にあの娘が『忘れてる』だけなら、全部説明して誤解を解けばいいだけの話だ。何で誤解のままにしているんですか、何で敵として追い回しているんですか!あなた達は、なに勝手に見限っているんですか!あの娘の気持ちを何だと」

 

 

「うるっせえんだよ、ド素人が!!」

山咲の怒りが、真上から襲いかかってきた神裂の咆哮によって押しつぶされた。

「知ったような口を利くな!!私たちが今までどんな気持ちであの子の気持ちであの子の記憶を奪っていったと思ってるんですか!?分かるんですか、あなた達なんかに一体何が!ステイルが一体どんな気持ちであの子とあなた達を見てたと思ってるんですか!?一体どれほど苦しんで!どれほどの決意の下に敵を名乗っているのか!大切な仲間のために泥を被り続けるステイルの気持ちが、あなたなんかに分かるんですか!!」

あまりの豹変ぶりに驚いて声をあげる前に、山咲の脇腹に神裂の蹴りが入る。

「ぐッ!」

しかし、足が当たる直前に自分の両手で掴み防ぐ山咲。

「私達だって、頑張ったんですよ!春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!思い出を作って忘れないようにたった一つの約束をして日記やアルバムを胸に抱かせて!」

「それでも、ダメだったんですよ」

ギリ、と奥歯を噛み締める音が聞こえた。

「日記を見ても、アルバムの写真を眺めても・・・あの子はね、ゴメンなさいって言うんですよ。それでも、一から思い出を作り直しても、何度繰り返しても、全てゼロに還る」

「私達は・・・・もう耐えられません。これ以上、彼女の笑顔を見続けるなんて、不可能です」

「・・・・、」

「ふざけないでください・・・・、」

次の瞬間、山咲は掴んでいた神裂の足首を思いっきり回した。

ゴキリ、と鈍い音が聞こえた。

「痛っ!!!」

体勢の崩れた神裂に山咲の鋭い蹴りが神裂の水月に突き刺さった。肺に溜め込んだ空気が全て口から吐き出されると同時に地面に倒れる。

そして、追い討ちをかけるように顔面を的確に狙って、爪先を使い少しも躊躇う事無く蹴り続けた。

「ぐッ、がッ」

徐々に神裂の顔が血まみれになっていく。

(こ・・・の、七・・・閃!)

神裂が七閃をくり出そうと指を動かした瞬間、山咲が神裂がの指を思いっきり、踏みつけた。

「ッ!!!」

「そんなものは、アナタ達の勝手な理屈です。インデックスの事なんて一瞬も考えてないじゃないですか!ふざけないでください、アナタ達は諦めた理由をインデックスのせいにしているだけだ!」

「じゃあ・・・・、他に、どんな道があったと言うんですか・・・」

神裂は自分の顔を両手で覆いながら泣きそうな声で呟く。

もう、こんな魔術師には恐怖も緊張もない。

「アナタ達がもう少し強ければ・・・」

山咲は、歯を食いしばり、

「一年の記憶を失うのが怖かったら、次の一年にもっと幸せな記憶を与えてやれば!記憶を失うのが怖くないぐらいの幸せが待ってるって分かっていれば、もう誰も逃げ出す必要がなんてない!たったそれだけの事でしょ!!」

「アナタ達には力がある。なのに何でこんなに無能なんですか」

 

 

 

「そこまでにしてもらおうか」

山咲が声の聞こえた方を振り向くと、赤髪に咥えタバコのステイル=マグヌスが立っていた。

そして、その足元にはボロ雑巾のように親友の上条当麻が横たわっていた。

全身の至る所が火傷状態だった。

「上条!!!!」

「安心したまえ、まだ死んじゃあいない」

「ただし、」

ステイルは横たわっている上条に炎剣を近づけた。

「こいつの命を助けて欲しければ、インデックスをここに連れてくるんだ」

「ッ!!!」

「おっと、少しでもおかしな動きをすれば君のお友達は道路のシミになってしまうよ」

ステイルはタバコを咥えながらにやけて呟いた。

しかし、

「ステイル、今回は退きましょう」

地面に倒れている神裂がステイルの方を向き答えた。

「な、正気なのか神裂!?」

「申し訳ありません。今回だけは退かせてください。」

何処か覇気のない神裂の声に驚くステイル。

「わかったよ」

ステイルはしかたがないと言いそうな顔をして神裂に近づき、肩を貸し立ち上がらせる。

神裂は退く寸前に、

「次こそはインデックスを保護させてもらいます。」

ステイルと一緒に闇夜の道路に消えて行った。

 

 




少し無理矢理の所があるかもしれませんが楽しめて頂いたのなら幸いです。


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