無気力転生者で暇つぶし (もやし)
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神の間

最底辺作家でも辞めません。最早作家と名乗る事すらおこがましい。


「ここは……」

 目を覚ますと、そこは白い世界でした。

 という冗談のような現状に理解が少し遅れる。

 壁があるのかすらわからない程真っ白な空間に、ただ立っていた。過程も原因もはっきりしない。

『お前は死んだ』

 突然何処からともなく、何かボヤけた……聞こえているけど聞いていないような……中性的だが恐らく男性と思われる声が聞こえてきた。

「死んだ……うん、確かに死んだね」

 今一度言葉に出すと実感する。私は確かに、死んでいる。

『本来なら……いや、お前には転生してもらおうと思う』

「転生?っていうか何を言いかけた?」

 本来ならどうなる筈だったのか。

『そーだなぁ……何かやるか。特典?なんか能力みたいなの。欲しいのあるか?一つだけなら付けといてやろう。あ、三つにしてくれ、みたいなゴミ思考すんなよ、シュレッダーかけるぞ』

 厳かな雰囲気は即座に崩れ、飲み会のノリみたいになってしまった。

「ナニソレこっわ。ナマ?生きたままするの?いや、私は死んでるんだろうけども」

『生きたままじゃないと罰にならんだろ。で?何がいい?』

「んー……なんでもいい、っていうのはナシ?」

 一瞬考えるが、あまりに意味の無い事だった。超能力等を知っていても、名前が思い出せないのだから知らないに等しい。つまりこちらから望めるものは無い。

『ならこのカードの中から一枚引け。それがお前の運命だ』

 私の前に十枚程度の真っ白なカードが並ぶ。恐らく私が手に取れば絵柄なり能力名なりが浮かび上がったりするのだろう。

「じゃあ……これ」

 IQ2を下回る程の無思考でカードを手にする。

 因みにIQ2とは男性の絶頂時とほぼ同じらしい……まじ?

『よかろう……お前の運命は【皇帝特権】だ』

 カードには赤い衣装の女性が浮かび上がる。

「こーてー?」

 どっかで聞いた事あるような。

『ま、知ってる、または体験した技術を使いこなす能力だな。マジックを見ればマジシャンに、野球を見ればメジャーリーガーになれる』

「バケモノ認識でよろしい?」

『そうだな。時間の制限はあるが貧弱一般人には丁度いいだろう』

「はーいはい。で?いい加減姿を見せて欲しいんだけど」

『ずっとお前の後ろにいるぞ』

「なっ⁉︎へんたっ……?子供?」

 後ろを振り返ると、おしゃぶりを咥えた子供が一人。他には何も見当たらない。

「後ろ……後ろ。視認できませんねー」

 念の為左右の確認もするけど、一面真っ白なだけ。

 とりあえず子供を抱き抱え揺らしてみる。その顔は恐ろしいほど死んでいて、愉悦に満ちていた。

『うむ……やはり良い。が、無駄な脂肪はいらんな』

「あん?」

 凄くバカにされた。何がとは言わないけどバカにされた。

『おい、上を向くと顔が見えんだろ。ちゃんとこっち向け』

「こっち?」

『そうだ、うむ、割と好みだ。若干老けてるが』

「ひいっ⁉︎」

 抱えている子供から観察されている視線を感じ、思わず子供を投げ捨てる。

「しまった……え?」

 仮にも160センチはある私が投げた子供は、空中で姿勢を整え、ハイハイのポーズで着地した。

「はぁ⁉︎」

 あまりに理解が及ばない。幼稚園児でも体操してる人はいる。鬼才の持ち主で着地が上手い可能性だってあるだろう。だが決して、オリンピック選手だろうとバネの効かない四つん這いでの着地などしようとすら思わない筈だ。

『全く……これだから年寄りは……』

 やれやれ、と言った口調で吐き捨てる声。

「おいおいおい?まさかそれか?幼稚園児さんですか?で年寄りとは誰の事よ⁉︎」

『神を投げるとは全く不敬よな。そしてこの場には俺とお前しかいないぞ』

「はぁぁぁぁ⁉︎神ィ⁉︎そして私が年寄りィ⁉︎」

『うるさいな……老害が騒ぐな。小学生以上はキョーミねーよバーカ』

「……ッ!アナタ……世界に勝てる?」

『あん?』

【縛れ】

 神を名乗る幼稚園児を空中で固定する。まだ私は学生だ、まだ若いし、まだいけるし。

『……お前、自前で能力持ちか』

「知らない。ここに来てから使えるようになってた。でもコレについては良く知ってる。私だけが、コレに触れてきたんだから」

『自信アリか。それも結構だが』

 神を名乗る幼稚園児は私の能力を無視して床に降りる。

 この空間にある大気を固定してたのに……

「ナニソレ」

『ここは俺の世界だ。俺を超える支配者はいない。さぁ、もういいだろ。さっさとそこの門くぐって行ってこい年増』

「門?」

 幼稚園児が顎で示した先、私の後ろに少し大きめの、協会の門の様なものがあった。

 もう年増発言には耳を貸さない。無視だ無視。ロリコンめ。

「ふーん。で、どこに繋がってるとかは教えてくれないの?」

『ん?言ってなかったか?お前が行くのは……いやいいか。教えない方がお前は楽しむだろ?』

「分かってるじゃない」

『向こうでの住居と金は用意してある。生活用品は自分で買え。女の生活は良くわからんからな』

 まー確かに男性からすると馴染み無いものが多いかも知れない。慣れればなんとも無いのだけども。

「おっけーおっけー。至れり尽くせりってやつだね。あ、アレはもちろんあるよね?」

『……』

「おい?」

『刀だけくれてやる』

「なんで私に刀」

『じゃあ無し』

「おっけー刀やったー」

 嬉しいけど嬉しくないよ。違う方だよ欲しいのは。

『棒読みすげぇな』

「どーでもいーでしょショタロリコン」

 ゆっくり門に向かう。

『ショタロリコン?』

「お前の事だバーカ」

 そして走る。見えてるより近そうだけど、念の為。

『けっ、今から殺しとくか』

「もう遅いですよーだ。じゃーね!」

 門に手が触れた。一気に押し開け、飛び込む。

 振り返って精一杯の皮肉を込めて笑ってやると、振り返ったせいかとても聞きたくない言葉が聞こえた。

『あぁ頑張れよ……俺の暇つぶしの為に』

「……は?」




IQ2に関しては本当に気になって夜しか眠れない。


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第1話 価値観

 門をくぐると、そこは夜空でした。

 という冗談の様な状況に理解が遅れる。

「は?」

 確かに飛び込んだけれども。確かに浮いてたけれども。

 ほんの数センチ、普通は高さとは取らない。走ってる人が空を飛んでるとでも言うようなものだ、こじつけ以外の何物でもない。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 そしてその高さがハンパじゃない。人が見えないどころか雲がある。つまり最低でも3桁キロメートル以上の高さにいる。それでもまだまだ下にビルが見えるから……4桁あるかも……ある。

 風圧?空気抵抗?何かはわからないけど顔の肉が寄ってるのが分かる。とんでもなく醜い顔になってる事だろう。髪もバタバタと激しくなびき、見れたものではない。まぁ落下後には全身が醜いモノになってるだろうけども。

 暇つぶしに、とあの神を名乗るショタロリコンは言っていた。つまりアレか?私が落下死するまでの過程を楽しむつもりか?年増は殺すってか?

 ここで能力を使って止まるのは簡単だ。けれどそれはかなり難しい。物質の落下には限界速度があるらしく、それ以上の速度にはならないそうだ。そして恐らく私はその限界速度に達している。

 では能力で全身をコーティングするのはどうか。これは死ぬ。コーティングとは言うなれば強固な鎧を纏うのと同じ。落下すれば当然死ぬ。体内の全てを能力で固定するのなら、ダメージこそあれど形はそのままだから可能性はあるけれど、生物の体内への能力使用はそれなりに条件がある。つまり今は使えない。

「ぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアア!」

 ビルがハッキリ、民家がハッキリ見えてきた!

 視力が良いのなら、走る車の動きすら見えるだろう。私には建物の光と全く見分けがつかないけども。

「にゅっ⁉︎」

 なんか引っかかった!ちょっと減速した!やった!もしかしたら五体複雑骨折でギリギリいけるかもしれない!

「アッはぁぁぁぁァァァァ!」

 それでも勢いは健在。体験したことのない速度が実感と恐怖を増す。

 人間ザクロさんびょーまえー

 にー

 いちー

「ぜろっ!むぽっ⁉︎」

 ぽよん

 ぐしゃっ

「「へ⁉︎」」

「っつ……はぁ?生きてる……うん、手足も……動く。なんで?いや……うん?あっ」

 ナニか柔らかい?ものに着地して地面に放り出された。衝撃は見事に吸収され、ナニかから跳ね返った分だけ地面とハグ。

 手足も多少の痛みがあるだけでダメージは少なく、ちゃんと動く。そんなのはどうでもよくて。人がいた。

「だっ、誰⁉︎」

「こっちのセリフです!」

 今の私と同じくらいの女の子に返される。

 そりゃそうだ。通行人と落下人では落下人の方が怪しいに決まってる。

「私は……」

 名乗ろうとして、一度止まる。本名を名乗るべきか偽名を使うべきか。本名の方が面倒か?いや偽名がバレた時も……

双神詩音(フタガミウタネ)だよ」

 考えるのも面倒だし本名で名乗る。というかまだこの世界は知らないものであるはずだから偽名を本名にもできる。つまり本名であればそれをそのまま本名としても、都合が悪ければ別の名前を用意して偽名としても良いわけだ。この理論だとどう名乗ろうとどうにでもなるのだけれども。

「あなたは?」

 それでは早速。

「わ、私、高町なのはです!」

 尋問だ。

「なるほど高町さん。じゃあ早速で悪いけど、何を見た?この付近で人はいた?それとも誰かに連絡した?」

 目撃者は消さないと。

「う、後ろっ!」

「はっ?ちょっ⁉︎」

 跳んだ瞬間、私の立ってたはずのアスファルトが無くなってた。

 マジ警告だったから跳んだけど、もう少し声と顔が緩かったら私死んでたかも。不審者から逃げる常套手段だよね、注意逸らして全力疾走。逃さないけども。

「なっ、何アレ⁉︎」

 跳んだのは前方、つまり高町さんの隣に立つ事になる。けれど高町さんの方は向かず、私を襲ったナニカを注視する。

 アスファルトを消したのは……こう……スライムの様な、流動体が自立してる……バケモノだ。

 《あれはジュエルシードという願いを叶えるモノが作り出した思念体。取り敢えず君の事は後だ、なのは!》

「言っていいの⁉︎」

 《どうせこの人には隠せないんだ、それに念話が聞こえるなら魔法資質もあるはずだ》

「なるほど!じゃあ……「なるほどね、目撃者は二人と一体か。よし、私の範囲だ」ふぇ?」

 よく分からないけどショタロリコンの声みたいな聞こえ方をした少年の声で大体分かった。

「まずは一体から」

 胸の前から刀を振るう動作をすると、本当に刀が手に握られていた。何故かは分からないけど多分ショタロリコンの計らいだろう。能力でエア刀する気だったけど、好都合。

「はあっ!」

 ヒトガタ相手の先制は取り敢えず脳天から正面を両断。

 感触は正に粘度の高いスライムそのもので、実に気持ちいい。

「あん?」

 《ダメだ!物理攻撃じゃソレは倒せない!》

 切った後から再生して、切ったのに繋がってる。まるで水に刀を通す様な意味不明現象が発生していた。物理じゃ無理?

「触れるのに?」

 反撃が来るけどその動作は速いとは言えないもので、簡単に避けられる。

 すれ違いに更に数発。殴ってきた腕を輪切りにするも直ぐに再生。

 《触れても捉えられないんだ、魔法での攻撃じゃないと!》

「ふーん。アドバイスありがとう」

 自殺願望も良いけど、私から逃げる方法も考えときなよ。触っても捉えられない。そんな概念は私には通用しない。

 刀を能力で補強する。単なる強度強化と、アレを掴めるようにした。

「弱点とかは無さそうだね。アメーバみたいな。じゃあ死ね」

 今度こそ両断し、更に横にも両断。

 後ろ向きに崩れたソレは、数秒しても起き上がってはこなかった。

「す、凄い……」

 《なんて人だ……》

 何を感心してるのか。剣術を少しかじってれば誰でもできるレベルだよ。縦と横に振っただけだし。

「さて、次は肩の動物だね。人は逃げても追跡しやすいし」

 顔は覚えた。名前は忘れそうだけど、いずれ解決する。

「まっ、待って待って!話を聞いてください!」

「うん?なんで?」

「なんでって……」

「理由は単に見られたから。私の生活に支障が出そうな原因は消す」

 空から降ってきた人なんて、それこそ普通ではいられない。

「そ、そう!なんで空から落ちてきたんですか⁉︎」

「だから……それを教えられないから……」

 なにをこんなに必死に問いを重ねてくるのか。時間の無駄だと言うのに。私は早く家を見つけて寝たいのに。

「じ、じゃあ!魔法が使えるのと関係が⁉︎」

「魔法?」

 まほー。使ってないよ。うん。絶対。

「使ってないよ。うん。絶対」

 《じゃあなんで思念体を倒せたんだ?それだけは聞かせて欲しい》

「またこの声……なんで、って聞くけどさ、それに意味はあるの?」

 《魔法以外に手段があるのなら知っておきたい。まだ被害が出るかもしれないんだ》

「まだ?コレは完全に死んでるよ?」

 死から蘇るのならともかく、モノとしてのこれは既に壊れている。思念体というのなら死んでいるという表現でいいだろう。

 《確かにこの一件は落ち着いた。けど他にも多数、同じものがどこかに散らばってる。これと同じか、それ以上になる筈だ》

「ふーん……結構ハチャメチャな世界だ……」

「何か言いました?」

 呟いた事に反応される。

 全く……バケモノだ魔法だ……アニメや漫画の世界にきてしまったんですか私は。

「ううん、なんでも。で?なんだっけ、早く殺してくれだっけ」

「違います!」

 《僕たちに協力して貰えないだろうか》

「はぁ?」

 《この世界、地球には魔法文化が無い。適性を持っていたのがなのはだけで、まだ魔法に触れて間もない。一人だとこの先とても厳しい状況になるかもしれない。君の力があれば「嫌だよ」なぜ⁉︎礼もするし「じゃあ聞くけどさ。私が今『お願いです死んで下さい』って言えば死ぬの?私が助かるし私もお礼はする。けど死なないでしょ?」

 私が態度を緩めるとコレだ。やれ人助けだ情けだなんだ……ソレに意味は無いだろうに……

 というか魔法って文化なのか。アカシックレコードに触れてこちらに戻って来て初めて使えるシロモノと思ってた。

「いい?人間なんて生物に変わりはない。バカはどこまでもバカだし、ゴミはどこまでもゴミだ。私に頼んでる協力、それは本当に、正しい事なの?高町さんを巻き込んで迷惑をかけてるだけなんじゃないの?元々の原因は?その問題の解決は、人の時間を奪ってまで強行されるべきなの?」

 《そ……それは……》

「答えが出ないってのはそう言う事。私は……」

 はぁ……いいや、悩むけど、いっそ言った方が早いだろう。

「私はね、人間が嫌いなの。だからさ、自分の蒔いた種で滅びてくれない?」

「それは言い過ぎなの!」

「うん?」

「ユーノ君だって悪気があった訳じゃない!助けを求めるのだって怪我してて、それでも被害を無くしたいから!私も全然迷惑になんて思ってない!それにいい人だってたくさんいる!」

「……はぁ。呆れた。いい?説教くさくなってわるいけ……ど……?」

「え?」

 視界の隅で、変化が起きた。

 四角い何かが光っただけの、ここが地球の日本だと言うのなら必ず起こり得る現象。窓ガラスを通して外に漏れ出る光と、そこに影となって映る人。

 それは普通だ、なんて事はない。普通なら意識すらしない。ただ、現状は違う。

「ごめん、もうここにはいられない。あなたもトラブルが嫌なら離れた方が良い。多分数分もしないうちに人が来る」

「ふぇっ?」

 この辺り一帯が何故か真っ暗だったから失念してた。いくら夜中とは言え人は起きるし、よく見ればここは何かの病院みたいだ。私が叫んだり出した音で眠りの浅い人が目を覚ましても不思議じゃない。

「く……高町なのは……目撃者はともかく、あの動物を逃すのは……」

 高町さんの言っていた『ユーノ君』とは恐らくあの動物だ。あれだけのバケモノ、私の刀を見て逃げ出さず、かつ命乞いをしていた謎の声。私がバケモノを倒した後も続いていたのだから、指名した高町さんとあの動物以外にはあり得ない。そして高町さんが魔法に触れて間もないと言う事は高町さんではない。

 動物の種類名も分からず、調べるにしても一日か二日は使う。それだけあれば魔法とやらで逃げるには十分だろう。くそっ!

「あぁもうっ!くそっ!」

 できる限りの苛立ちを吐き捨て、最短で無関係と取られそうな場所を目指してデタラメに走る。矛盾とか言うな。

 刀がとても邪魔……というか持ってたら普通に捕まらない?えっとえっと……ん?何このボタン……

「おわっ⁉︎っとっと!」

 柄頭にあった小さなボタンを押すと、鞘込めされた小さなペンダントみたいに変化した。急に小さくなるから落としそうだった。

「どうしたら戻るのコレ」

 見たところボタンは消えてる……鞘は無かったし……抜く?

「おお」

 抜くと戻るのね。鞘も付いてきたし。

 でボタンを押すと戻る……うん、使いやすいじゃない。

 というところで消防車のサイレンが聞こえた。ヤバいヤバい、速いとこ通行人を装わないと。



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第2話 信用

序盤なので少し間隔短く……だんだん長くなります。


 私立聖祥大附属小学校。

 それが、私の通うべき学校らしい。

 あの後は取り敢えずで、近くの川の底に能力で部屋を作って夜を過ごした。流石に小学生体型が夜中に出歩くとロクな事がない。そして明け方から双神の表札を探して、昼前に無事発見した。平日ということもあって、人通りを避けるのも難しくなかった。

「ここホントに私の家なんだよね?ロリコン?見てる?合ってるなら何かしろ」

 あまりにあっけなく見つかった事、一人で暮らすには大き過ぎる四、五人の家族が住む様な一軒家、リビングと思われる部屋に置かれた意味不明な巨大ダンボール。人が住んでいた気配は無いけど、私の家だと言う確証も無いから不安が募る。フタガミウタネと一つでいいから何か書いとけバカ。

 《ここはお前の家だ、家賃も光熱費も無いから好きにしろバーカ》

「あ?」

 何も無いと思いつつダンボールを開けていると紙切れが挟まっているのに気付いた。この文面、そして家賃光熱費無しというバカげた内容は間違いなくロリコンのものだろう。まだ具体的な名前が出てないから不安は残るんだけど。

「んー……?フタガミウタネ……学生証?小学校に?うーわ顔写真も載ってる。でもいいか、これで確証も得たし。取り敢えず整理して必需品買いに行こっか」

 とは言ってもダンボールの中には組み立て式のベッド、学校の制服、必要書類、印鑑、通帳くらいしか入ってない。つまり大体の物は買わないといけない。面倒。

「んー、じゃあすぐ必要じゃないのは後からで」

 買い物してるとつい何を買おうとしてたか忘れるからメモをしておく。

 取り敢えずトイレットペーパーはいるね、一番困る。次にお風呂セット一式、これも無いと困る。服もいる。後は……化粧水とか乳液とクリーム……は若さに任せてみよう。小学生の頃は何もしてなかったし大丈夫でしょ。気にしないし。

「よし、大型スーパー見つければ揃うかな。服なんて今はテキトーでいいし」

 そうと決まればダンボールの後片付けもそこそこに財布を持って外に出る。財布は何故か生前使っていたものがあった。ご都合だ。

 もし、万一の為に刀は小さくして首から下げる。ペンダントだって言えばいくらでも誤魔化せるでしょ、抜けなければ。

 

 ♢♢♢

 

「んー、ちょっとお腹空いたなぁ」

 特に問題なく買い物を済ませ、レジ袋に入れている途中、少しばかり空腹を感じた。

 食品……でもなぁ、もうメモしてたのは買ったし……いいか、めんどくさい。帰ろ。

「んー……?ん?」

 何かよくわからないけど、とても嫌な予感がした。予感というより気配。私の視界には異常は無い……背後……店内で何か……

 と言ってもこの世界で違和感なんて原因なんて一つしかない。恐らく高町さんがいるのだろう。逃げるしかない。

 ダッシュの準備をしつつ人影に隠れながら出口を目指す。スニーキングミッションなんて縁遠い人生だったけど、できないわけじゃない。

「えっ」

 直感でいると思った方を確認すると、高町さんと目が合った。

 私は出口前、高町さんは一番奥。距離にして二十メートルはある。それを、目が合うなんて……見られてた?

「っ!」

 高町さんが親であろう人に断りを入れているのを見て即ダッシュ。人目を気にしている場合じゃない。家バレしたら死ぬ……!

 自宅への二度前の角から周囲警戒、誰にもバレるな……バレそうなら帰るな……

「はっ……はっ……やっと追いついたの!」

 周囲警戒、していたはずなのに。まさか正面からくるとは……背後に意識を回し過ぎた……

「……なんでわかったの?」

「とても怪しい動きだったから。目立ってたよ?」

「……」

 取り敢えず今から逃げても意味が無い。もう既に私の体力は残ってない。息が上がる程度の高町さんからは逃げられない。なので出方を伺う事にした。

「なんで、逃げ……るの?」

 少しこちらを伺う様に覗き込んでくる高町さん。

「あなたと関わると、面倒になりそうだから」

 隠す事ではないので、ストレートに返す。

「私を殺そうとしたのはやめなの?」

「もうあなたを殺すだけのチャンスは無い。さっきの買い物だって、一人で十分なはずだったでしょ?」

 もう高町さんは一人にならない。これはもう間違いない。

「うん……折角だからって誘ったの」

 息を整えて控えめに話す彼女は、今すぐ殺せる程弱々しい。

「ならなんでわざわざ追ってきたの?無視し合えば何も無かった」

「でも、まだお話できてないから」

「議論は終わったし平行線だよ。私は目撃者を消したい、あなた達は私の協力を取り付けたい。もう変わらない。見逃してあげるから帰って」

 幸か不幸か、今なら目撃者無く殺せる状況にある。それを知ってか知らずか、話を続けようとする高町さん。

「帰らない。お話しないと分からないよ、距離を置いても解決しないよ」

「……はぁ」

 頑なにこちらを見つめる目は、一向に諦める様子を見せない。

 無理そうだ。頑固な子どもに言い聞かせる術を持つわけでもない私には、こちらが不利にならない妥協をする他ない。

「分かった。明日の夜、海鳴公園で待ち合わせ。私も生活のリズムってのがあるからね。今日はちょっと遠慮して欲しい」

「……分かったの。明日の夜、海鳴公園で待ち合わせ。うん、覚えた!」

「ユーノ、だっけ?も連れて来てね。ちゃんと関係者全員での話にしよう。二回も同じ話はしたくないし……あぁ、そんな睨まないでよ、言ったでしょ、もう殺したりする気は無いって。一応コレは持っていくけど、やる気は無いよ」

 首に下げてる刀を持って示す。

 全く、あれ程一人になる気が無いフリして、関係者を集めると警戒って……まぁ、分かりやすくていいけどさ。

「じゃ、そう言うことだから。今日は帰ってもらえる?」

「……うん。明日の夜、絶対だよ。信じてるから!」

 そう言って走っていく高町さん。

 どういう思考すれば私を信じられるのか不思議でならない。日時を決めた私ですら私が行くのか半信半疑なのに。そもそも夜って何時?

 或いは、その真っ直ぐな心こそ、普通の人間が持っている感性なのかもしれない。相手の思考を読み切ったつもりを平然と信じられる、愚かな心。

 私は今の時点で高町さんを殺す算段は付けてある。彼女はともかく、以前から魔法を扱うユーノという生物(?)なら、昨夜の私の戦闘から能力の一部でも見抜き、対策として仲間を集めていてもおかしくはない。そうなればこちらも初期の目的を達成するまで。『関係者全員での』……これは私と高町さん、ユーノの三人だけだ。それ以外は認めない。もし第三者を連れて来るなら、即殲滅する。魔法の質はまだ読めないけど、あの系統である限り私を上回ることはない。

「ま、これは今考えても意味無いけどね〜」

 高町さんが視界から消えたのを見て、自分に向けて呟く。

 その後も出来るだけ人目を避け帰宅し、それ以降は外出する事なく眠る事にした。




小学校で学生証はあるのかないのか……私の所は無かった。


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第3話 恐怖

「ーーはい、……はい、これで……あ、そうですね。ーーはい」

「はい。確かに受け取りました。それでは明日の午前八時に職員室にお願いします」

「はい。よろしくお願いします」

 私立聖祥大附属少学校。その校長相手に数分かけて書類等の最終確認をし、無事に受理して貰った。明日からこの学校に編入という形で通う事になる。

「いやー、それにしても凄いねぇ。中学生でもこんなにしっかりと出来る子は中々いないよ」

 私が手続きに一人で来た時は親はどうしただの聞かれたんだけれど、どう答えたものか考えている間にこの校長が来て、『暇だからゆっくりやろう』と言ってきた時にはどうしたものかと。手続きなのだからゆっくりも何も無いはず……と思って怪しんだものの結果としては助かった。書類自体はそう難しいものではないのだけど、所々自分のものと親のもの、別に印鑑が必要だったから困っていた所、どこから取り出したのかこの校長、あっさりと『双神』のハンコを押して受け取ってしまった。

 それ以外は普通の手続き内容だったので、恐らくショタロリコンがやったのだろうけど……まさか人の意識を操るとは……

「はは、いえ、少し慣れているだけです」

 とはいえこの校長、見た目こそ怪しまれてもおかしくない中年男性だが、根は優しいのだろう、ほんわかとした雰囲気が崩れない。なので私も……そのようにするだけ。

「あまり詳しいことは話さなくていいけど、生活の中で困った事があれば私に言ってくれれば、多少の事はするからね。人生無意味な苦労をする必要は無いんだ」

「ありがとうございます」

 恐らく校長……この学校の職員は、私の親がいないと思っている筈だ。それを直接言わないまでも抱え込むなという彼らなりの優しさというやつだろう。実際に親はいないのだけども。

「あぁ、必要以上に時間を使ってしまったかな。まだ準備もあるんだったね。必要なものは全部終わったから、今日はもう大丈夫だよ」

「そうですね……それでは、失礼します」

 軽く頭を下げ、校長室を後にする。その後職員室に挨拶をし、授業中との事なので速やかに帰宅。

 後やる事といえば……食事、かな。思えばこの世界に来てから約二日、何も口にしていない。

「取り敢えず食べられればいいんだけど……」

 取り敢えず家を出てみるが、昼間から子供がレストラン等に入るのは何がどうあっても問題になる。それは避けよう。となると多分なんともないコンビニ……喫茶店……?

 ふと目に付いた喫茶店には『翠屋』と書かれていた。

 折角だし入ってみよう……ピークを過ぎているのかあまり人はいないようだし。

「いらっしゃいませ〜……あら?」

「え?」

 柔らかそうな雰囲気の店員さんが私を見るなり首をかしげる。

「ちょっ、お母さん!もしかしてもしかして!」

「何?そんなに騒いで……あら」

「え?」

 急に声を上げて奥に引っ込んだかと思うとすぐに他の人を連れて来た。そして首をかしげる。え?なんで?

「えーと、白い髪、赤い瞳、落ち着いた雰囲気……ごめんなさいね、お名前をお聞きしていいかしら」

 すっごく、嫌な予感がする。

「失礼、用事を思い出(嫌な予感が)したので帰らせて頂きます」

「あらあら、折角来たんだから何か飲んでいかない?タダでもいいわよ?」

「……」

 回れ右、程ではないものの機械的に踵を返そうとしたところ、それより速く数メートルを超えて抱きつかれた。ここは……高町家、なのか……

「お母さん、いきなり抱きつくとかセクハラだよ⁉︎」

「あらあら、ごめんなさいね。私、高町桃子っていうの。心当たり、ないかしら?」

 この女性、とっても楽しそうな……愉しそうな、笑顔を浮かべている。私の顔から……ほんの、二センチ程の距離で。

「タカマチ……ナノハサンデスカ」

「そうそう♪やっぱり貴女が双神詩音ちゃんなのね〜なのはから聞いたわよ」

「な、何を……?」

 普通の暮らしをする中で、あの夜の話などできるはずがない。例えそれが、家族であろうと。いや、家族だからこそ。

「……剣術、できるんですって?」

 ーーギラッ

「〜〜〜⁉︎」

 注目されている中他の客に聞こえないように、そっと囁いてくる高町桃子。それと同時に、奥の……はじめに接客してくれた女性と、更に奥……恐らく厨房から、肉食獣に近い殺気を感じる。

「ウチに道場があって、剣術をやってるんだけど……アナタ、強いらしいじゃない?」

「え、遠慮しますよ……私、体力無いんで……」

「あら、出来ない訳じゃ、ないのね?」

 捕まえた、という口調と笑顔。

 しまった……遠慮とかじゃなくスッとぼけるべきだった……

「恭也!もう上がっていいわよ!特別客をもてなしてあげて!」

「おっしゃ!」

「お兄ちゃんズルイ!」

「はっはっは、一試合終われば変わってやるさ」

 聞きたくない会話が聞こえてくる。なんだこのテンションは。

 一瞬能力を使って帰る事も考えたが、目立ち過ぎて更に狙われる可能性が増すのでやめておく。人目につくし。既に他の客からは視線釘付けだけども。

「おや、まぁそうか、なのはと同じ年なんだよな。じゃあ、ちょっと来てくれ。後で何かご馳走するから」

 来てくれ、と言う割には腕を掴んで逃す気が無いように思える。後では遅いから今すぐ帰らせて欲しい。

「ごゆっくり〜♪」

 白いハンカチをヒラヒラさせて私を見送る

 高町桃子、あの人は……苦手(ダメ)だ。

「よし、ここだ」

 そして連れられるまま道場まで来てしまった。

 個人のものとは思えない程立派な道場で、少し関心してしまった。

「怪我しないように竹刀がいいかな。好きなの選んでくれ」

「……」

 抗議する事無く、一般的に知られてる長さの竹刀を手に取る。

 どうせ、逃してくれないから。

「じゃあ俺はコレとコレ。ルールは……早いほうがいいだろ?どこでもいいから一本入れたら勝ちってことで。あ、頭は狙わないから安心してくれ」

 手慣れた様子で二本持つ恭也と呼ばれたこの男性は、私と少し距離を置いて構えを取る。二刀流は初めて見た。

「では、始め」

 短く宣言すると、不意打ちをしないようにか二秒程間をとって……消えた。

「っ⁉︎」

「ほう」

 後方左からの、正に力任せに叩きつけられた竹刀を切っ先に左手を添えて受け止める。体格差、筋力差はとてつもなく大きく、両手がビリビリと痺れる。

 何とか防いだものの、私より大きな体が知らぬ間に後ろにいる。それは誤魔化せない恐怖だった。

 更に繰り返される見えない攻撃を、勘任せで何とか防ぐものの、こちらは相手を視認すらできない。負けないまでも、勝つ手段が無い。

 テキトーに打ち込む事は出来ない。こちらからは見えていなくても相手からは私の全てが見えている。狙いを絞らなければすぐ打ち込まれるだろう。その場合、私は下手をすれば死ぬ。

 ……もどかしい。万全なら、人間一人なんて相手にならないのに。

 ある程度行動パターンは読めた。次は恐らく、私の後ろから上段でくる。頭は狙わないって大嘘じゃん。

「……っとお⁉︎」

 恭也が動きを止め、私を探す。

 しかし既に遅い。私は背後から、背中を小突く。

「い……」

「私の勝ち、でいいですか?」

「何をしたんだ?」

「いえ別に。そういうものもあるんだ、とだけ」

 単に私のフェイントでそこにいると見せかけ、死角から背後に回っただけ。縮地、箭疾歩と呼ばれる技術(もの)

「ぶふっ!はははは!いいじゃないか!なのはの言ってた以上だ!よし!これからよろしくな!」

 急に笑いだしたかと思うと、何やら晴れ晴れとした顔で握手を求められる。

 これを受けると、何か……そう、ここに入門させられるような……とてつもない面倒事の予感がする。

「すみませんが、私は剣術とかサッパリなので。流派とかも知りませんし」

「……ん?そうなのか?刀を使ってたって聞いたんだが」

 どこまで話してるのか凄く気になってきた。

「いやその……たまたま、というか……他に無かったというか……」

 具体的な理由が無いため、誤魔化す理由も曖昧になってしまう。

 正直に話せば『神の気まぐれで刀になった』……意味がわからない。神の事は他人に話す気も無いし話したくも無い。

「あの、今日はこれで……」

「え?こっちで連れてきてなんだが、店の方はいいのか?」

「はい。軽く食べようくらいだったので。家でやる事も残ってますので……」

「そうか……それは悪いことをしたな。剣術に関しては抑えが効かなくてな……こればっかりは性分で。次来た時はサービスするから、なのはにも会いに来てやってくれ。お前さんのこと話してる時は、楽しそうな顔してたから」

「はぁ」

 殺されかけて楽しそう……?もしかして高町なのは……あれ程しつこかったのも、私と同じ……?

「ではまたお邪魔します。今日はこれで」

「おう、時間取らせて悪かったな。次も期待してるぜ」

「……」

 笑いかけてきたのに対し、私は無言で礼をして道場を出る。

 高町なのはが私と同じである可能性は……否定できないけれど。肯定するだけの理由が無い。確信が持て無い以上は否定するべきだろう。

「しまったなぁ……」

 翠屋に戻り、外に出ると下校中と思われる小学生が見えた。

 そんなに長い間道場にいた感じはしなかったんだけど……集中してたからかなぁ……明日、何持っていけばいいんだっけ……



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第4話 認識

書くことが無いので軽いキャラ設定でも。
双神詩音(フタガミウタネ)
無気力、無感動、厨二病。
(一応)本作の主人公。好きな事は料理と初心者詐欺。

ソラ
無限の活力、筋力、体力。抑止力。
本作には多分登場しない。多分。
好きな事は救済と初心者詐欺。


「ではこれで今日は終わりです。皆さん、気をつけて帰るように」

「きりーつ、気をつけ、礼」

「「「ありがとうございました」」」

「はい、お疲れ様でした」

 ……なんて事はない。

「ねーねー……ウタネちゃん、だっけ?一緒に帰らない?」

「ん……えっと」

 荷物をまとめていると声をかけられたが、その主の名前も顔も私の知らないものだったので返答に詰まる。

「あ、ゴメン、私かんなっていうの」

それを察してくれたのか、名前だけ教えてくれた。

「あぁかんなさん。ごめんなさいね、この後職員室に行かないといけないから……」

「あ、そうなんだ。転校初日だし何かあるの?」

「うん、ちょっとね」

「そっか、じゃあまた明日ね!」

 気にした風もなく、明るく笑って教室を出る少女。

 期待はしていなかった。何処にでもある普通の生活。

 折角名乗って貰ったのに、それを留める気の無い私は、今夜にでもその名前を忘れてしまうだろう。

 荷物を持って教室を出る。

 小学生の転校初日、聞くだけで想像できる通り、とんでもない質問責めが展開された。よくもまぁ無邪気に人を困らせる。

 この学校、日本にしてはまだマシな方だろう。髪は黒、縛ってくくっての髪型の制限が無い……様に思える。様々な色、髪型があって、白の私がまるで目立たない。前はどうしてたっけ……いいや、覚えてない。

 でも他は一緒だ。学習そのものより外見行動精神を優先して制限する。学校より軍隊だ。あっても無くても大差ない。

「失礼します」

 考えながら歩いていると職員室に着いたのでコンコンとノックをして返答を待たずドアを開ける。

「あぁ、ウタネさん。こっちこっち」

 私を目に止めた教師の内一人が手招きで私を呼ぶ。

 それに少し頷いて教師のとなりに立つ。

「これとこれと……これで良かったかな」

「はい。ありがとうございます」

 A4サイズの紙を数枚受け取る。

「でもこんなのどうするの?」

「前の学校との違いを早く把握しておきたくて。遅れていれば大変ですから」

 紙に書かれている内容は全科目の進行具合。小学三年生なんて私の記憶には一切合切残ってないから何がどうとかサッパリ分からない。だから少しばかり、「手が空いていれば」「大雑把でいいので」等の頼み方と転校生特権で用意してもらえた。なくても出来るのは出来るんだけど……どこから『知っていない』のか知らないと……勉強は価値がないから目立たない程度、平均点より少し上くらいでいい。

「……はい、要望通りです。ありがとうございます」

「ははは、そんな固くならなくていいよ。でもまぁうん、相手に合わせた対応が出来るってのはある種のスキルだ。上手く馴染めそうかな?」

「それは分かりません。努力はしますが」

「うーん、小学生にしては大人びてるね。昔何かあった?」

 この手の質問は色々と困る。真実も虚偽も使えない。というかそんな質問する?

「まぁ……色んな人がいますからね」

「大変だったのかな?」

「楽しかったですよ」

「そう。なら良かった。何かあったら、僕に言ってくれればいいから」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 同じ事を誰かに言われたような……そうだ、校長だ。

 頼ることなんてないからスッパリ忘れてた。

 その後は先生にも仕事あるから、と言うので礼を言って職員室を出て、校門を出ようとして……

「ウタネちゃん?」

 今最も会いたくない人間に出会った。

 その瞬間に意識を切り替える。

「ん……?なんだ?オレの事か?お前誰だ?」

「なっ⁉︎酷いの!なのは!高町なのは!」

 私の平穏を脅かす魔女が走ってくる。

 射程圏内だろうと抵抗のために走る。

「知らねーっつってんだろ!走ってくんな!」

「何その口調⁉︎この前はそんなじゃなかったよね⁉︎」

「うるせーな知らねーっつってんだ!」

 私も逃げるように走るが、体力差で追いつかれるのは以前同様分かりきった事。射程に入った時点で私の負けだ。

「と、止まって!」

「やなこった!」

「じゃないとあの時のこと言いふらすの!」

「わかったよ、ゆっくり話そう?私も別に鬼じゃないしね?」

 優先順位ってのがあって、秘密保持は最優先だよね。

 口調も元に戻し、振り返ってみると……未だ加速を続けるヒトガタが突っ込んでくる。バカかな?馬鹿だろ。

「にゃっ⁉︎」

「ぶっ⁉︎」

 私が止まったのを見たくせに、スピードを落とす事も避ける事もせず追突事故を起こす問題外。

 お陰で私は二メートル程飛ばされる事に。

「っつ……」

「だ、大丈夫⁉︎ご、ごめんなさい!」

「いいよ、多分悪意は無いだろうし。謝るなら私と関わらないで」

 別に非難したいわけじゃない。ただ関わらないで欲しいだけ。だから咎めない。無意味な争いはマイナスしか生まない。

「っ、血が!学校に戻って保健室に行くの!」

「血……あぁ、コレはいいよ。むしろほっといて」

 指摘されて頭を触ってみると、ぬちゃりとした感覚と手に赤い液体が付いていた。

「よくないの!早く行くの!」

 私としてはこのまま帰りたい所なのだけど、普通の人間から見ればやはり大事のようで、私の血が付くのも構わず必死になって私の手を引く高町さん。

 下校時間という事もあり当然ながら人目に付き、なんと保健室の先生が直々に迎えにきた。学校からそれなりに離れてたはずだけど。

「うう……ごめんなさいなの」

「だからいいって。私とあなたの間では何もなかった。会ったことさえない。それでいいでしょ?」

「会ったことさえ⁉︎」

「いいからほら、遅くなると親に心配されるでしょ。ほら早く帰った帰った」

「ーー⁉︎」

 しっしっ、と手を振っていると、背中を針で刺された様に突然体を強張らせた高町さん。

 その様子に先生も少し驚いている。

「ん?どうしたの?」

「せ、先生!ちょっと用事を思い出したので、失礼します!すみませんっ!」

「ちょ、高町さん⁉︎」

 先生の制止も聞かず、ドアも開けっ放しで何処かに走って行ってしまった。

 んん、あれかな。この前のスライムおばけ案件かな。

「先生、私ももう大丈夫なので、高町さんを追ってみます」

「え?大丈夫じゃないですよ⁉︎」

「体は弱いですが傷には強いので。一応明日も見せに来ますので。失礼します」

 動揺している先生を無視して保健室を出る。もちろんドアは閉める。

関わりたくはないけれど、前回を見る限り彼女達で対応するにも無理のあるモノだって出てくるはずだ。死にたくない人間は死ななくていいんだ。一応相手を見るだけ見ておきたい。

 高町さんに追いつくのは至難だけど、魔法なんてキテレツなもの使ってるならいやでも分かる。

「……見つけた」

 しばらく歩くと明らかに周囲と異なる……いわゆる結界と呼ばれるモノ。認識阻害……かな。他人を近付けず隠蔽するのは魔術師なら当然のこと。神秘は秘匿されてこそ神秘。知る者が増えれば増えるだけ威力を落とす。この世界に魔法はないらしいし。

 結界に手を伸ばすと、当然ながら弾かれる。本来ならこの場所にすら人が近付かない様になってるんだろうけど、ソレを認知した私にはその効果は無い。そして、空間を隔てるだけの結界なんて、私には通用しない。

 再び手を伸ばす。その手はなんの抵抗も受けず、水に沈む様な自然さで結界の向こうへ入る。そのまま全身を通し、結界内部へ侵入した。

「……何も無いじゃないーーいや、無いわけないか」

 ため息と同時に爆音。

 確認の為に近寄ってみると……何やら豪邸の庭でやってる様子。

 幸い結界内部では魔法関係者、若しくは当事者以外が遮断されるのか誰もいない。なので豪邸内から二階へ上がり、こっそり様子を伺う事に。

「関わる気は無いとは言え関係性のできた危険は無視できないし……」

 窓から覗き見ると、ノックダウンしてる巨大な生物と高町さん、謎生物のコンビ、後知らない金髪のスク水少女。

 

「ーーん?」

 

 私のいた世界には、小学生が水泳の授業の際に着用し、数々のショタコン、ロリコンを殺してきたスクール水着というものがある。それは市販されている見た目を重視したものではなく、水中での行動に適したーーつまり、競泳用の様なものも含め、速さと軽さを備えたものだ。

 

「ーーんーーん?」

 

 え?あの格好ヤバくない?しかも飛んでる。犯罪臭しかしない。

 念の為、刀を元の大きさに戻しておく。

『ーー……』

『〜〜!』

 何か話してる様だけど聞こえない……屋上の方が良かったかな……

「うーん、甘かったかな?そいっ!」

「えっ⁉︎」

「ウタネちゃん⁉︎」

 突然私のいる窓に向けて何か飛ばされたのを感じ、窓ガラスを破って外に出る。バレちゃった……

「やっほ。隠れてるつもりだったのに……」

 爆裂音と共にさっきまでいた場所が崩壊する。

「ボク達以外の反応はキミか……」

「うん?謎生物くん喋れたんだ?」

「前は念話だけだったかな。一応喋れるよ、魔法関係以外では話さないけど」

「だろうね。で?どうしたらいいかな?帰っていい?」

 魔法だけでも面倒なのに飛ぶスク水少女だ……もうやだ。

「ダメなの!」

「えぇ……」

「……いいですか。ジュエルシードを渡して下さい」

「ん?」

 空からの呼びかけに応じて、見上げるんだけど……いやーヤバいよ。私も水着とか着た事ない訳じゃないけど特殊だったし、こんなに見上げるの初めてだよ。うわぁ……

「ジュエルシード?」

「この前のスライムの時に説明したよね?」

「されたっけ?どうでもいいし忘れた」

「これだよこれ!」

 高町さんが杖?から半透明な石の様なものを出す。

「へぇ……」

 綺麗……

「だ、出しちゃだめだよ!」

 謎生物くんが慌てて制止する。

「っと……スク水少女、速いねぇ」

「……!」

 謎生物くんの制止と同時かそれ以上に速く振り下ろしてきた少女の鎌を刀で受け止める。私に対応されるとは思っていなかったのか、スク水少女が驚いている。服装からスピードタイプってのは分かるよ、うん。しかも恥も外聞も捨て去ってるタイプだ。多分このタイプは多少残ってる最小限?の装甲を外すと最高速になると分かると即外すだろう。分かるよ、男性ならそれでもいい世の中、女性だとそうもいかないのよね。

「じゃあなんだ、貴女が敵か」

 取り敢えず確認。味方とか言い出したらどうしよう……

「……」

 返答無し。じゃあ敵だ。

「高町さん、謎生物くん、一回だけ。一回だけ手を貸すよ。これが終われば後処理と、今後私にそれ関係での接触はしないで欲しい」

 言い終わると深く息を吸い、軽く吐く。

「これって」

「この子を殺す」

 狂信者はいずれ手の届かない場所に行ってしまう。しかも深層心理からの思い込みはどんな拷問をしても変えられない。その前に私が止めてあげないと、大変な事になる。本当に……大変なコトに……ッ!

「ちょっ⁉︎」

 鎌を弾き、刀と鎌の速度差でもって防御の間に合わない心臓目掛けた突きーーは躱された。

 単に退いただけなので地面を蹴り追いすがり、また心臓を狙う。それを今度は飛んで逃げられる。

「ウ、ウタネちゃん⁉︎待って待って!」

「何も殺さなくていいんだ!」

 何か言ってるけど無駄無駄。もう殺す。私がやらないと……やらないとダメなんだ!

「飛んでも無駄、飛行はともかく、空に私が行けないと思うな」

 能力で足の裏にだけ固定した空気を蹴り、空へ走る。

 金髪少女は驚いた顔をするが、すぐに距離を離される。突進が失敗したので私もそこで地面に降りる。

「ふぅ……」

 縮地法でスク水のスク水を見上げる事の出来る真下まで移動し、垂直に駆け上がる。そのスク水、使い物にならなくしてやんよ!

「くっ!」

「くっそ」

 私の速さじゃ足りなかったのか、それとも縮地法を見られたのか、なんか光ってる鎌に防がれる。その鎌いいなぁ……

 俯瞰してたから普通に見えたんだろうか。だとしたらちょっと手間だ。生前は飛んでる相手なんていなかったから。

「バルディッシュ」

 スク水少女が呟くと、押し合っていたはずの少女が私の背後で鎌を振りかぶっている……

「ーー人間がする事に、人間が対処できない筈はない」

 私は背後を見ないまま全力で刀を振る。

 タイミングもバッチリで、鎌の刃の根元を押さえつける形になった。ちょっとズレてたら先端刺さってた。こっわ。

「はあっ!」

 今度は接近戦をご所望なのか、光る玉複数を絡めて斬り合いになる。なんだソレ。魔法か。オッケー。

 カン任せで避けて切って突いて。

 突然目の前から消えて。

「人間は決して消えたりなどしない」

 カン任せに叩きつけて。

 全方位から光る玉を飛ばされて。

「死角など無い」

 全部能力で弾いて。

 相手の攻撃全てを粉砕していく。

「はぁぁぁっ!」

 我慢の限界なのか策が尽きたのか、上段大振りで空中から突撃してくる。受けたら死ぬなぁ……

【地面では水になる】

「っ⁉︎」

「えっ⁉︎」

「ウタネちゃん⁉︎」

 私以外の全員が動揺する。無理も無いけど、私が地面に沈んだからだ。

 土の性質を水の様な流体に変えた。勿論私のいる場所に金髪少女が入ってくれば同じ様に沈む。だって水だから。でも常識に縛られた人間にはそんな発想は無い。ただ私の沈んだ場所から距離を置き注視するだけだ。

「せえいっ」

 同様に地面を流体にし、金髪少女の背後に飛び出すと同時に背中を切り上げる。掛け声に気合が無い……?私の声に感情が無いってよく言われるけど、どうしたら感情って入るの?

「っ⁉︎」

 他から見れば突然現れたと同じ事、前後の状況から内容を推測はできるだろうが、常識では地面を泳ぐという発想は却下される為、対応は遅れる。

「常識も疑わないとね」

 幼女に対して背後からの不意打ち。誇りなんて無駄なものを背負ってる人から非難を受けそうだけど、そんな奴には同じ事をする。何をどうしようと、勝てないのなら意味が無い。

「おかしいね、確かに斬ったのに……それに魔法?なんでだろうね」

 金髪スク水は私に斬られたと認識した瞬間に地面を蹴り、私と距離を置いた。それはつまり、そうするだけの余力があるという事。むしろマントに傷すら無いところを見ると、ダメージは無かったのかもしれないし、その可能性の方が高い。

 そして魔法について。アレはどう見ても生きていないのに、私の能力の対象に取れない。生物では無いのに生きている?そんなはずはない。生きているのならそうと分かるはず。

 答えは出ないけど、状況的には不利になってしまった。向こうの攻撃は私にとって致命傷であるのに対し、こちらからの攻撃は全く、若しくは殆ど効いていない。となればもう防御面では無視してくるだろう。あの速度で攻撃特化されると苦しいものがある。

「はぁ……困ったな……」

 せめてその格好がヤバいと正気になってくれればな……

「はぁっ!」

 先程の僅かな猛攻とは打って変わって、ただただ必死に防御を固めるだけになってしまう。

 金髪スク水も、もはや空中に飛ぶ必要無しと判断したのか、正面からガンガン来る。フェイントすら混ぜてこない。

 一見、相手の攻撃が効かないと分かっていても、単調になれば可能性を与えてしまう……が、こと私相手だと大正解という他ない。

「っ……!」

 自他共に認めるほど、私は体力がない。遅れた左腕を肩から簡単に切断される。

 湿った音と共に地面に落ち、刀の乾いた音が浮いている。体を濡らす血は温かく、深い脱力感に襲われる。

「……⁉︎」

 斬った本人すら驚く程のあっけなさ。それ程に簡単だったはずだ。

 幼女に殺されるのは名誉か否か……否だ。私は、意思を持って殺されるのだけはゴメンだ。

「ウ、ウタネちゃん⁉︎」

「なのは!援護を!僕は治癒するから!」

「わかったの!」

「ダメだ、手を出すな」

 走り出した二人を制する。けれど止まる気配は無い。

 あの二人、今こちらに来ればスク水少女にやられるだろうな……

 二人の間ではその行動は正しいと思ってるんだろう。私からすればいい迷惑なのに。

【止まれ】

「「⁉︎」」

 幸い、今の私には他人の迷惑を振り解く力がある。空気という見えない、感じない鎖に二人を繋いで、右手で刀を拾う。

 能力で止血は万全。腕は後でくっつけよう。

「待っててくれてありがとう。ふぅ……あなた、名前は?」

「……フェイト・テスタロッサ」

「そう、教えてくれてありがとう。私は双神詩音……ウタネでいいよ。じゃあ……あなた、世界に勝てる?」

「?……⁉︎」

 スク水少女の両足を拘束、縮地法で背後に回り込む。

「っ!」

 躊躇いなく鎌を振るスク水少女。

「ん、まだ足りない?」

 それを刀で弾き、両腕も拘束する。

「その鎌、なんだっけ、バルディッシュ?いいモノだ。是非……私にも、貸して欲しいなぁ……一回だけ、それだけでも私は満足するから……重いかな?軽いかな?切れ味はどうかな鋭いかな鈍いかな。どうでもいいねぇ……」

「は、離してっ!」

 必死に身体をよじるけど両手足を固定してるから全く無意味。蛇に睨まれる蛙の様に、死を待つだけの存在と化したフェイト。

「やだなぁ、離すのはあなただよ、フェイト。ほら、ゆっくり……」

「えっ、な、なんで……っ⁉︎手が、勝手に……!」

 能力でゆっくり手を開かせ、刀を地面に刺して両手で受け取る。

「んんー、重い、けど最低限かな?魔法……ホントに不思議だ。生きてるワケないのに非生物(たいしょう)じゃない。おっと……よく切れる。触っただけで切れるなんて……まぁいいや。フェイト・テスタロッサ……あなたはキレイな目をしている……あなたにはもう会えないけれど……今日からは私と一緒に暮らそうね」

 片手で扱うには骨の折れる重量、大きさの鎌。両手で振ればそれはそれは絶望的な死をもたらす事だろう。

「ひっ……⁉︎バ、バルディッシュ!モードリリース!」

「遅い……え……?【消えろ】……空から、何?雷……?ん?フェイト?」

 空から違和感を感じてソレを消したけど、原因は分からず、更に空を見上げた一瞬の内にフェイトも、フェイトから取った鎌も消えていた。フェイト自身がそうしたワケじゃなさそうだったから……協力者かそれに近い者。

「何にせよ……逃げられた」

 右手を下げ脱力し、軽いため息を吐いた。




「ねぇウタネ。初心者詐欺って何?」
「貴女もやるでしょ?『あー、初心者なんでお手柔らかに……』『初心者相手でも手を抜いた貴様の負けだ!』ってやつ」
「あー……初心者を騙すのじゃないのね。した覚えないけど」
「初心者のフリして調子乗ってるヤツ騙すの。後貴女じゃなくて貴女の元になった人の事」
「メタいしひどい⁉︎」
ウタネ以外には一応モデルとなる人物が作者の周りに……


何書けば良いのか……未だに分からない。


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第5話 結合

デバイスって他人が持っても使え……ますよね?
使えないとしても皇帝特権で、という事で。


「ふぅ……」

 私の意識を空へ向け、その隙に魔法でフェイトを離脱させる……やった事自体は簡単だけど、速さが尋常じゃない。一瞬視線を外した間に転移させるなんて、私の知る魔術のレベルで考えるのならかなり高度な……封印指定かそれに近いものになる。実際に封印指定を見た事はないけど……とても厄介だ。

 頭を掻こうとすると頭に感触が無くて、左腕が無い事を思い出す。

「おっと……腕忘れてた」

 落ちた腕を拾い、軽く土を払い、能力を解除。途端に止まっていた血が流れ出すけど、肩の方も解除して強めにあてがい、血管等を能力で細かく固定し、取り敢えず血が流れる様にする。一応これで腐敗はしないけど、実際はまだ切れたままなので後は自然治癒に任せる。というか他に手が無い。

 さて……これからどうしようか……

「ウタネちゃん!」

「ん?」

 高町さんの声で思い出したけど、二人もいたね、そういえば。

「ごめんごめん、忘れてた。でもまぁ……今回は流して欲しい。私はフェイトを仕留められなかった、けれど彼女の目的も果たせていない。多分あなた達では奪われてただろうから、結果として何もなかったという事で……さっきの頼みはまたの機会にするよ。それじゃ」

「まっ、待って!」

「ん?」

「これ解いてから行くの!これ何⁉︎」

「バインドブレイクできないし魔力も感じない……僕達じゃお手上げだ」

「あ」

 そういえば縛ってた。変な体勢で止まってると思ったらそういう事ね。

(ほど)け】

「にゃっ!」

「わーっと!」

 走っていた姿勢のままだったので前のめりに倒れる二人。

 まだ私の能力にも謎が多いな……運動エネルギーは保存されるのか、二人が鈍臭いだけなのか……多分後者かな。

「はい、もういいでしょ。学校に荷物置いたままだし、早めに取りに行きたいんだけど」

「あっ、私もなの!」

 思い出したかのように便乗してくる高町さん。これは絶対私が言わなかったら家帰るまで忘れてた感じだね。

「え、じゃあいい。私は明日早めに学校行くから」

「なんで⁉︎」

「一緒にいたくないから?」

 そんなに驚かなくても……

「なんで⁉︎」

「一緒にいたくないから?」

「なんで⁉︎」

「同じ質問を繰り返すのはバカって証拠だよ。私はそういう無駄な所が嫌いなんだ、どいつもこいつも……」

 下らないことばかり気にかけて、本質を後回し……無関係なソレを見るならともかく、私に関係あることでソレをされると投げ出したくなる。

「ご、ごめんなさいなの……」

「んあ?あーいや、そんなに強く言ったつもりじゃないんだ……今のは気にしないで。でも同行したくないのは嘘じゃないからせめて時間をズラしてくれると嬉しい。もちろん私が後でいい」

「……」

 高町さんが何故かボーっと私を見てくる……すごく気持ち悪い。

「……何?」

 はっきりしない行動に少し嫌味を含めて聞いてみる。何も考えてないとかなら切り捨てる。

「いや、ウタネちゃんって優しいんだなぁって」

 にへっ、と笑う高町さん。

「はぁ……?」

 何を言ってるんだろう?

「だって、成り行きとは言え私たちのジュエルシード集めを手伝ってくれたり、さっきだって私たちを守ってくれたりしたの。ひどい人だったら、私たちを見捨ててたと思うの」

「私が優しい?まさか。それは本当に成り行きだよ。前回は私の身の安全を優先した結果、今回は相手が正体不明だったから。ほら、何一つあなた達の事は考えてない」

 嬉しそうにしてる高町さんには悪いけど、本心から思い付きで行動した結果だと断言する。自分を殺そうとしてた人間をそう簡単に信じるってのもどちらかと言えば狂ってるよね。それとも平和ボケの為せる性格なのか……

「ま、いいや。私の考えはあなた達のイメージに影響しないからね」

 他人から見た私は、私の思考と無関係に構成される。そして、一度持たれたソレを覆すのは、中々に難しい。

 その構成は特に、その他人の都合に良い方向に捉えられる。

「でもウタネ。一つ質問したいんだけど」

「ん?」

「さっきの戦闘、前回とも合わせてかなり手慣れてる様に見えた。その年齢で、しかも魔法文化圏外でそこまでの技術、経験を得られるとは思えない」

「だから?」

「君の経歴、能力を教えて欲しい。協力を申し出ておいて勝手だが、次元犯罪者とすれば見逃せない」

「次元犯罪者?」

「地球で言うと指名手配、それも国際的に取り締まられている者がそれに近い」

 要するにどこに逃げても捕まるほどの極悪人と。犯罪ではないけどやっぱり封印指定が近いかな。

「経歴……ねぇ。普通の家庭に生まれて、普通に育って、普通に暮らしてこれだよ」

「普通って……」

 意図したものとはいえ、あまりに抽象的な経歴に呆れるユーノ。

「文句は言わせない。普通なんて概念を作り出したのはお前達だ」

「……!」

「あ……ごめん、ついクセで……ほんと、ごめん……」

 その反応が許せなくて、つい言葉に出てしまった。普通の概念を作りながら、普通を肯定しながら、普通を拒否する人間。まるで意味の無い、価値の無い無駄な……いや、それは今掘り下げるべきじゃない。

「まぁ……そこまで怪しまれる事はしてないかなー……とは思うよ。そうだね……日常的に自分とその身内で殺し合いをしてた、でいいかな」

 うん……間違ってない。誤解を招き易く嘘はついていない最高の説明。だって殺し合いしてたし。

「うん……ちょっと管理局呼びたくなってきた」

「お縄に着く気はないんだけども……呼びたいなら呼べばいい。魔法機関が魔力も無い一般人をどうこうするとは思えないけど」

「え?」

「え?」

 何故に疑問系?無いよ。無いよね?

「魔力が無い?」

「え?気づいてなかった?ないよそんなの。私は魔法なんてない世界で生まれ育った訳だし」

「いや、あるはずだ。少なくとも念話が聞こえたということは才能がある証拠だ」

「えっマジ?」

「うん。自分で実感できてないだけで、ちゃんと使おうと思えば使えるはずだ。表に出てないから感じ難いけど、魔力を感じるよ」

「ということは、私も魔法ってのが使える?」

「完全な初心者だから、なのはのレイジングハートみたいなデバイスと呼ばれるものを通さないと難しいだろうけど、自分のデバイスさえ設定すれば難しくはないはずだ」

「デバイスってどう入手するの?」

「基本的には魔法文化のある次元世界で作って貰うんだけど……」

「行けないのよね?」

「残念ながら……今のところ手段が無い。ジュエルシードを集め終えれば、ミッドチルダに戻るんだけど……」

「二人では難しいかもしれないから、魔法が使いたいなら手伝え、と」

「うん」

「……参ったなぁ」

 興味はある。価値有りとされたもの全てを一通り体験してはいるけれど、どれも大したことはなかった。私のいた世界基準での魔法は、それこそ世界に数人、下手をすればいないレベルの希少能力。それが使えるのなら、少しの時間は捨ててもお釣りが返ってくるどころか宝くじ当てるレベル……そう思う。

「……分かった。一応協力する。けどそれは最終的なフォローとしてだ。私も今は色々やる事があるの。しばらくは貴女達で頑張る事。無理なら念話?でもなんでも良いから呼んで。死なれても後味悪いし……」

「ほんと⁉︎ありがとう!えと、これからよろしくお願いします!ウタネちゃん!」

「う……」

 本人からすれば好意の表現なのだろうけど……私はこういうテンションが苦手だ……乗れない事もないけど疲れ過ぎる……

「あ、ありがとう。万一にも、という感じだったから、何度か掛け合うつもりだったんだけど……お礼は大したものは出せないよ?」

「うーん……そうね。別に魔法に触れたいなと思っただけなんだけど……お礼っていうなら、そうね……いや、いいや。人に頼るものなんて無かった」

 精々街の案内程度だけど、スーパーならもう見つけてるし他はどうでもいいや。生活用品さえ買えれば問題無い。

「ま、そういう訳で。何かあったら一応知らせてね。ばいばーい」

 振り返り、返事を待たず歩き出す。

 魔法かぁ……夢が広がるね。




ウタネの能力は生物を挟むと効果範囲外となります。つまり生物の体内には本来干渉できません。切るなりするとその部分のみ干渉可能になります。


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第6話 過去と現在

前回のウタネさんの能力について訂正を。
切断などすればその内部に干渉できる、ではなく、切断などすればその内部に入り込める、です。
切断しようが擦り潰そうが『生物』である限り一切の干渉は出来ません。内部に性質変化させた空気等を入れ込み、補強する、と言った事ができます。ペースメーカーやインプラントと似たようなものと捉えて下さい。


「そう、そこでこうだね」

「えと……こう?」

 教えた手順と違うデタラメな歩法を使う高町さん。

 人通りのない山の中の公園だから別にいいけど……街中だと凄い目立つ歩き方してる。させてるの私だけども。

「違う違う、左から出すと次が途切れるでしょ?右からだして左は動かない、そして重心は一切ズラさない」

 ゆっくりと手順を実演して見せる。これを数回してもこの有様だ。

「うー……難しいの……」

「教えてって言ったのはそっちなんだから、とりあえずでも覚えてもらうよ」

 つい先日のフェイト戦、そこで何を思ったのか私に戦闘を教えてほしいと頼む高町なのは。

 私は良いのだけど高町さんは魔力を撃ち出す砲撃タイプらしいので、剣術は使えない。私の能力も一回聞かせてみたけど聞こえないらしい。多分話せれば使えるんだろうけど伝えようが無い。文字に起こすにもどんな風に文字にすれば良いか分からないし。そういう訳で私の使う技術……箭疾歩、縮地と呼ばれる技術を取り敢えず教える事に。

「右、右、左……」

「そうそう。ユーノ、ちょっと実験台になって」

 取り敢えずは手順を覚えたみたいなので実験。できるようになれば即実行。練習だけでは使えないからね。

「う、うん」

「行くよ、ユーノ君」

「見えたら失敗、見えなければ成功。ではどうぞ」

 高町さんと謎生物くんの間は五メートル程。普通に走るなら認知できるけど、多少なり成功すれば分からないはず。

「行くよっ!」

 僅かに高町さんの左足が動く。しかしそれはフェイクで、実際には右足が前に出ている。

 普通の歩法としては間違い、だけどその後は手順通り右足を……

「にゃっ⁉︎」

「なのは⁉︎」

「あーあ」

 右足を低く出し過ぎて躓き、進む事なく地面へダイブした。

 何というか、言葉も無い。

「大丈夫?大丈夫じゃないと思うけど」

「う、うん、ちょっとヒリヒリする」

「なんでそんな軽傷なの⁉︎」

 頭からコケてかすり傷とか普通じゃない。私なら即病院送りだ。

「うーん……ちょっと運動に慣れてない感じだね。普通に走る練習からしようか」

 何故かしっかりしてるから忘れてたけど小学生なんだよね。なら走れなくても……問題か。

「才能無いのかな……」

「無くても問題ないでしょ。時間はかかるけどできるよ」

「そう……かな?ウタネちゃんと違って私はできない事多いよ?」

「はぁ……いい?才能って言うのは、物事を行う際の効率を言うの。世間でいう天才って言うのは、その効率を生まれながらに知ってる人。秀才はそれを後天的に高めた人。効率さえ知るなら、できない事は無いんだよ」

「え……と?」

 やっぱり難しいよね。私にも分かってないし。

「誰かに出来る事は誰でも出来るって事。私達はこれを極めようとしてきたの」

「私達?」

「あー……後二人、同じ考えに納得したのがいるんだ。それはまた今度にしよう」

 今はどうしようもないからね。転生してからというもの一人で暮らすのは中々慣れない。元の世界との連絡手段すら分からないからね。

「う、うん」

「あれ、やけにアッサリだね。貴女の事だからもっと突っかかってくると思ったのに」

「あの、聞いたらまた殺すとか言われそうで……」

 薄く笑う高町さんの表情は僅かに怯えていた。その生き物らしい感情表現に、私はどこか冷めていた。

 当初は気にしていないのかと思っていたけど、どうやら痩せ我慢に近いものだったらしい。私の意思は本当だったし、その辺の形だけのやつとは違うから、それを感じ取ったのかもしれない。いや、小学生ならどちらも同じ様に見えるか。

「別に。魔法ってのに触れるまでは何もしないよ。ジュエルシード集めも緊急時とかなら手伝うし、頼まれればやる」

 我ながら恥ずかしい言葉を良く使えるものだ。以前ならもう……

「うん、ありがとう!」

 にっこり笑う高町さん。うん……やっぱり普通の小学生っていうのはこんな感じに笑うのが普通なんだ。深く関わってしまった以上、やるだけはやろう。

「じゃあまず、走る練習からしようか。家まで走って帰ってね。途中で休んだりコケたりしたら殺すから」

「ヒドイ⁉︎」

「じょーだんじょーだん。まだ時間はあるし……どうする?続ける?やめる?」

「少し休憩……は?」

「いいよ」

「ふぅ〜……疲れたの」

 高町さんがベンチに座って息を吐く。

 平日の学校終わりという事もあって少し日は傾いてきてるけど……後二時間くらいは大丈夫かな。

「ねぇウタネちゃん」

「なに?」

「剣術も、教えてくれないかな」

「は?」

「なのは⁉︎」

 高町さんの発言にユーノも驚いている。私もビックリだ。

「多分今のままじゃ私はフェイトちゃんに勝てない……よね?」

「うん」

 《バッサリ言うね……》

 ユーノが高町さんに聞こえない様にわざわざ念話を使ってくる。

 変に励ましても意味無いし。

「だから、ウタネちゃん程とはいかなくても、近距離もある程度できると可能性が高くなると思うの!」

「うーん……私の場合剣に関してはシロウトなんだよね。ほぼカン任せだから……」

「そこをなんとか!」

「そこって何?教えられない……と言いたいところだけど。近距離で強くなればそれだけ向こうの決定打が減るのは間違いない。という事で知識だけの私で良ければ教えてあげる」

 ぶっちゃけ、高町家の方が剣に関しては……いや、いいや。高町家には関わらない。多分だけど高町さんのお兄さん……燕返し(キシュア・ゼルレッチ)すら使えそうだもん。というか速さに至ってはもう人のモノじゃないし。

 取り敢えず今は高町さんの強化に努めよう。そうすれば私が出向く必要も無くなって、高町さんは自分のしたい事ができる、ユーノも無事……なんだかを集められる。みんなハッピー。

「……」

「ウタネちゃん?」

「ウタネ?どうしたんだ急に?」

「へぁっ⁉︎あ、ごめん、えーと、じゃあレイジングハートの出力限定からだね」

「「へ?」」

「んえ?」

 あれ、なんで?

「剣術はどうなったんだ?」

「そうなの!」

「あ、そうか、私が勝手に考えてただけか。いやさ、高町さんが接近戦をするにしても私にデバイスを作れないって点から、高町さんにも新しくデバイスは作れないんだろーなって思って、レイジングハートのまま熟そうとしてると思ったの。そのままだと耐久力がバルディッシュに追いつかないから、レイジングハート全体を軽く魔力でコーティング、更に撃ち合いの際に魔力を放出する事で威力を上げつつ衝撃を緩和しようとしてたの」

 更にバリアジャケットを軽量化する事で速さに対応、魔力放出によって防御力をカバーする。高町さんのレベルなら装甲をそのままに魔力放出の攻撃サポートより、少しでも自分で動いた方がやり易いと思ったから。

「す、すごいね……やっぱり何か、なのはと同年代とは思えないよ」

 ユーノが驚愕している。

 違うからね。言わないけども。

「だから、前提として物理耐性を上げる必要があるんだけど……レイジングハート、できる?」

 《YES》

「おっけー、じゃあ高町さん、セットアップ」

「う、うん。レイジングハート!セットアップ!」

 高町さんの魔力光と共に衣服が変わる。制服に似たデザインからは想像も出来ないほどの耐久性を備えた魔導師の装備だ。そして飴玉程だったレイジングハートも高町さんの身長程の杖に変化している。

「じゃ……人避けの結界を……」

「あ、そうだね。それは僕がやるよ」

「ありがとう」

 ユーノに結界を張ってもらって、効果を確認してから口を開く。

「よし、じゃあ高町さん」

「はい!」

「私を全力で倒しに来て」

「うん!……えぇ⁉︎」

「ウ、ウタネ!分かってると思うけど魔法無しには……!」

「ふぅ……黙って、やれ。砲撃でもバインドでもなんでもしろ。今から見せるのはお前が理想とするべき剣術だ」

 私の剣術では他人が使えない。皇帝特権を発動して、万人に対する理想……全ての理想となる剣術……を使用する。

「三分で終わるから安心して。さぁ、乙女の加護を!」




ウタネさんの言う燕返しはFate/staynightのアサシンのものと同じで、厳密には第二魔法ではありません。ウタネさんの知識はにわかものです。


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第7話 最強

「ウタネちゃん。なんであの夜来なかったの?」
「私が行くとどうしてもあなた達を殺す未来しか見えなかったから」

というのもありますが投稿前から話し合い部分が何故かトンでました。すみません。話し合いの部分だけ後程挿入しておこうかなと思います。


「お疲れ様。どうだった?」

「……」

模擬戦三分が終了。

感想を聞いたけど座り込んで動かない高町さん。その雰囲気はどちらかと言うと暗いと思う。

「えと……ウタネって、強いね……」

「なんでそんな引いてるの?」

いつまでも答えない高町さんに耐えられなくなったのか、ユーノが口を開く。

模擬戦はいたってフェアだった。私は皇帝特権により『FGOでのセイバー・ランスロット』の技術を使用して、能力は使ってない。高町さんは飛行も含め使える魔法の全てを使った。その上でのこの結果だ。

ただ私にも想定外はあった。まさか地面を蹴るだけで高さ五メートル以上跳ぶとは誰も思わないだろう。私だってビックリした。自分が自分で分からない。そのおかげか今はとんでもなく足が痛い。一応動けない程ではないので無視してるけども必死だ。

「まぁ嫌われるのは慣れてるし……高町さん?おーい、起きないと殺すよ?」

「にゃっ!」

「おはよう」

「おはようなの」

「どうだった?」

「……きゅぅ……」

「えぇ……」

起きたと思ったら直ぐに倒れてしまった。うーん……どうしようか。

「これは……終わりで、いいかな?」

「うん……多分もうダメだと思う……」

ユーノの承諾も得られたので能力で背負っているように見えるように固定する。

「えーっと、もも……美由希さーん!」

お店の裏口に回って高町さんのお姉さんを呼んでみる。決して言い直してなどいない。

「はーい?あら、ウタネちゃん、久しぶり」

呼んですぐにパタパタと出てきてくれた。私を見るなり少し殺気を放ったのは無視しておく。この人が今のところ一番常識人だし。

「どうも。高町さんが張り切り過ぎたみたいで倒れちゃったので届けに来ました」

「あら……そんなに暑くないのにね?ありがとう。どう?お茶していく?ご馳走するよ?」

「えと……」

《少し居てくれないか。話がしたい》

「分かりました。頂きます」

「どうぞ〜♪」

ユーノに言われて承諾する。

「あ、そうだ、分かってると思うけど「いらっしゃいませ♪特等席へどうぞ〜♪」遅かったねごめん」

「謝るなら止めて欲しいし明らかに高町家に行こうとしてるんだけどどうなるんだろう」

ご馳走してくれるなら店内に行くはずなのに私を抱えてその逆をズンズンと進む桃子さん。能力解除した高町さんも含めて2人を片手で担いでスキップするこの人は一体ナンナンダロウ。ゼッタイフツウノヒトジャナイヨ。

「えっと……」

助けを求めて視線を動かすと、ユーノと目が合った。

《一応僕もそっちに行く。桃子さんには悪いけど適当に付き合ってこちらの方に集中して欲しい》

桃子さんの扱いすごいな。暴君の癖に軽いっていう謎。身内ならではかな?

こちらからは念話を返せないので能力でユーノの背中を軽く叩く。少し驚いたようだけど私だと気付いてくれたようだ。

「で、桃子さん。どこ向かってるんですかね?」

「んー?ちょっと私の部屋に行くだけよ?明日には解放するから♪」

口元だけ最高の笑みを浮かべた桃子さんを見た次の瞬間、意識は途切れていた。




いや……序盤から申し訳ないです


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第8話 事後

新年早々ソシャゲに追われる私です。


「多数の力を一人で押し退けられるのなんて……生まれる世界を、間違えたのかも……」

「にゃははは……ほんとにごめんなさい……」

 高町さんがなんとも言えない笑いを浮かべて謝っている。

 いいんだ……所詮私はマイノリティ、弱者なんだ……なんだよぅ、空間固定してるのに突き進んで来るとかよぅ……母は能力無視(暫定)、兄はフィジカル全般、姉はーー?父はーー?想像するだけで背筋が凍る。魔術も無しに埋葬機関と同等の戦力を有していたら……私は平和に暮らせない……くそっ、やりたくなかったけど……

「〜〜♪」

 高町さんに断って、少し離れた物陰で電話をかける。

 すると相手は望んだ通り、すぐに出てくれた。

 《なんだ?というか番号どうした?》

「ようクソショタロリコン。ちょっと高町家について聞きたいんだけども。番号は皇帝特権でやった」

 《高町家だぁ?皇帝特権ご都合過ぎるな》

「アレ本当に元々いる人間?私が来たことによる改変とかそんな感じ?皇帝特権については私も持て余しそうだよ」

 《高町家は元々いるやつらだ。改変はされてないが、それでも元と多少は差が出るだろ。パラレルワールド的な感じだ》

「つまり元々アレに近いのか……わかったじゃあね」

 《まっ……》

 ふぅ〜……スッキリした。

 つまり高町家は元の世界でも大体あんなレベルの強さを持ってて、平然と生活してると……クソが。あんなのが一般だと?普通だと?私の能力すら珍しいで済む程度のものだと?

「……帰って寝よう。分からない事は分からないままでいい事もある」

 というかそもそも頭使うの苦手だからね。苦手というか嫌いというか好きじゃないというか……まあニュアンスだけでも伝われ。

「さて……今の内に逃げ出すか……」

 《ウタネ。逃げようとしているところ悪いんだが、目的を忘れてないか?》

 脱出経路を探していると、それを止める様に念話が聞こえた。

「なんだっけ。桃子さんに遊ばれる?」

 《違う。少し話がしたいと言っただろう》

「少し口調厳しくない?」

 《あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。とにかく、なのはの部屋に来てくれ》

「……わかった」

 話がしたいなんて言ってたっけ……?全然覚えてないや。

「……で、なんだっけ」

 高町さんに桃子さん達を押さえ込んで貰って、その隙に部屋に入って鍵をかけた。

「うん、なのはの特訓を見ての事なんだけど」

「また私の昔の話?話す気無いしそもそもあんまり覚えてないよ」

「いや、もうそれはいい。僕もなのはも君を信用する事にしたから」

「ふーん、へんなの」

「僕らに対し殺意があっても管理局に追われるような犯罪者じゃないと思ってる。まぁそれはいいんだ。それで、なのはに接近戦を教えてどうするつもり?」

 殺意がある相手を一対一で部屋に入れるのもどうかと思うけども。

「どうするって?」

 取り敢えずユーノに向き合う様に腰を下ろす。

 

「なのはの資質ではフェイトに対抗できる程になるとは思えない。それよりは砲撃に集中して伸ばすべきだと思う」

「うん……資質で言うならそうだろうね。でも高町さんのしたい事はそうじゃないでしょ?」

「え?」

「君の助けになる事、自分の力で誰かを守る事。強くなるだけ、敵を倒すだけなら砲撃だけでいい。ひたすら自分の有利に立ち回って、砲撃してればいい。でもそれでは守れない。普通、一人の人間は何か一つしか極められない。なら、したい事をできるようにした方が楽でしょ?」

 ーー『才能だけに従う人間は、機械と何も変わらない』そんな事を言われてた人がいたとか聞いた事がある。

 私は別にそれが悪いとは思わない。だが世界はそれを良しとしない。したい事を優先するという非効率極まりない理屈で動いている。私はそれが許せなくてーー

「ウタネ?」

「あっ?あ、ごめん、というわけだから、フェイト戦においては設置型バインドが有用だよね」

「ごめんまた話が跳んでるよ。僕じゃわからない」

 ユーノが呆れた表情をしている。

 あれ、またどっか説明抜けちゃったかな。

「なのはに出来る事じゃなく、やりたい事をさせるって話まで戻ってよ」

「んー、あ、そうだね。まぁそれは本人だけで考えるものだし、気にしなくていい。高町さんがしたい事を尊重する、ってだけの話だよ」

「そっか……あと一つ。昔の事は聞かないって言ったばかりだけど、やっぱり気になる。現時点では断定できないけど、魔力もフィジカルもなのはが圧倒的な筈なのに、実践ではウタネの方が圧倒的だ。それが分からない」

 ユーノは私の曖昧な説明に納得し、新たな……何度か行っている問いを投げてくる。

「確かに私は、フィジカルだとほぼ全ての人間に劣っている。けど……私は強い。それだけだよ」

「……」

 もう話す事はないとユーノに背を向け、ドアを開ける。

「どんなにスペックが高くても、必ず予兆と死角はある。誰かにできるなら、私にもできるはず」

 同じ人間で差ができるのならば、それは知識や経験によるものだ。それらは再現できない筈は無いし、超えられない筈もない。以前なら特定分野にしか使えない私の理論だけど、皇帝特権を得た今では全てにそれを応用できる。

「やるやらないは勝手だけど、やらなかった人間には可能性すらない。高町さんは進んでやってる。あなたも、()の状態でもできることがあるんじゃない?」

「え⁉︎」

「回復したんなら、せめて魔法関係の時だけでも戻った方が助けになるよ。じゃあね」

「待って!君はどこまで把握してる⁉︎何故僕の事を⁉︎」

 普段の平静を失い、私に追いすがる。

「別に何も知らないしわざわざ調べる気も無いよ。ただ見たところ、生まれもった身体じゃないなとは思ってた。もう長いから帰るよ」

 私は桃子さん以外に礼を言って、図書館へ向かった。




ユーノ君の口調忘れた……ワスレタワスレタ


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第9話 図書館

段々投稿間隔が開いていくと言ったな……あれはマジだ。


『……しょ、こ……!』

 日も傾いてきた頃の図書館、やけに気合の入った声が聞こえる。

 目的とは違う場所だけど、気になったから対象に気付かれない様近付く。

 声を出していたのは車椅子に乗った少女で、少し高い……私なら簡単に届く位置にある本を取ろうと必死に腕を伸ばしていた。

「ねぇ、これでいいの?」

「へっ?」

 足音を立てず、気配を消して目的と思われる本を手に取る。タイトルは見ない。それが礼儀だと思うから。

 相手は本当に私に気付いていなかったのだろう、静寂な空間においてとても目立つ、素っ頓狂な声を上げる。

「だから、本。取りたかったのはこれでいいのって」

「あ、うん。ありがとう……ございます」

 澄んだ目をした少女は呆けた顔のまま本を受け取り、頭を下げる。

「敬語はやめてほしいです。見たところ同年代の様なので敬語を使われるととても違和感があります」

「そっちが敬語やん⁉︎」

「あら、関西弁?この地域では初めて聞いた。まぁいいや、目的の本がそれなら、私はこれで」

「ちょっ、ちょお待ちや!」

「……?まだ何か取る?後大声出すと怒られるよ」

 目的は果たしたので私の目的を探しにいこうとすると、手を掴まれた。

「そーやなくて……時間あるん?良かったらちょっと話さへん?」

「……時間はあるけど、なんで?」

「私、脚がこんなやから学校にも行けへんくて、同年代の友達もおらへんねん。この出会いを哀れみでもええから繋がりとして欲しいんや」

「……そうだね、その脚で普通の学校に通うのは無理がある」

 車椅子なのは車椅子だ。しかしだからといって学校に通えない訳ではない。知識は無くとも理解ある人間がいれば車椅子というだけで学校に通えない訳ではない。ただ、理解ある人間が希少種なのが問題なのだけども。

 この少女は違う。気付いているのだろうか……その脚は、普通じゃないと。

「いいよ、別に哀れむつもりもないから、友人として接してくれれば」

「ほんま⁉︎ありがとう!」

「ただしマナー違反は禁止。私が嫌いだ」

「あ……ごめん……」

 少女がハッとしたように謝る。ようやく通じたようだ。

「じゃ、テーブルがあるところに行こうか」

 立ち話は疲れるし迷惑なので落ち着ける場所まで行こうと車椅子に手をかける。

「えっ、いや、自分で行けるって」

「車椅子は自分で押すと疲れるでしょ。頼れる人がいるなら頼っていいんだよ」

「あ……うん、ありがとう……」

「はいはーい」

 車椅子を押しながら浅く笑う。

 私の目的である本は諦める。少しの辛抱だ。

「私は八神はやて。あなたは?」

「フタガミウタネ。ウタネでいいよ。最近から私立せい……しょうがく?ってとこに通い始めた」

 テーブルに対面するように座り、取り敢えずの自己紹介をする。

「やっぱりおんなじくらいやなー。何年生?」

「確か……三年?」

「なんで曖昧なん?でも三年やったら私とおんなじやな!」

 疑問符を浮かべながらも笑ってくれる八神さん。

 何故と言われても私自身がロクに確認してないからに決まってる。

「そーなんだ?まぁでも学校行けないならあんまり関係ないねー」

「まぁ……せやな……」

 明るかった顔と声が沈む。む、傷つけた?

「あーごめん、嫌味のつもりじゃないんだ。なんなら学校休んで教えてあげようか?私は教える専門じゃないんだけども」

「学校行かんと教えれるん?」

「小学校くらいのなら別になんとも」

「へー……!頭ええんやねー。でも学校休んだらマズくない?」

「んー、それはそれでいいよ。そーゆー人生もアリでしょ」

「やっぱり変わってるなー、車椅子の私に対等に話しかけてきてくれたんもそやけど」

「そう?車椅子以外におかしなトコは見えなかったから、手助けしようと思っただけ」

「車椅子のとこが十分敬遠する理由になると思うんやけど」

「ちゃんと話せるなら問題無いよ。話せないのは問題だけども」

 念話の存在を知らないままだったら完全に匙を投げる対象、それが言語障害や精神障害。というか二人以上の介護を必要とする場合は完全に個人を尊重してる場合じゃないと私は思う。技術があるからと全てを救う事が正しいとは私は思わない。

「ほんでなー、今では病院が第二の家みたいになってるんや」

 初めは話し方とかで大人びてるなと思ってたけど話してみると多分年相応の感性を持ってると思う……気がする。ぶっちゃけその辺分かんないけども。

「いい先生に会えてよかったね」

「うん!感謝してもしきれへん……あ、ごめん、結構時間経ってしもたな」

「あ……もう暗くなってきてるね」

 しばらく雑談していると、日が傾き影が差してきた。小学生の出歩く時間としては限界だろう。

「ごめんな?時間大丈夫やった?」

「ん、いいよ、大した予定は無いし。良かったら家まで押して行こうか?」

「へっ⁉︎いやええよ!そこまで迷惑かけれへんって」

 車椅子の後ろから問いかけると、驚いたのか振り返って拒否する八神さん。

「家バレしたくない?」

「そーゆー訳やないけど……」

「じゃあいいじゃない。今度私の家も教えるから」

 たまに自分の情報を出すから……つまり同じだけモノを出すからという理由を押し通すのを見るけど、その情報の価値は人によって変わるから本当に同じとは限らない。それは押し売りや値切りに等しい行為だ。私は私に甘いからこの場合は信頼を得る為と言い訳するけど、本来は好きじゃない。

「んー……じゃあお願い!」

「はいはーい。じゃあ行くよー」

「おーっ!」

 八神さんは八神さん側の理由ではなく本当にこちらの迷惑を思っていたようで、行くとなれば乗り気になった。

 ぶっちゃけ人の家とか知ってもすぐ忘れるしこっちから行く事ないからね。どうでもいい。

 次に会うことがあれば、普通の友人として振る舞おう。




Q:無印時代に八神さんは海鳴にいます?→いる前提で考えてます。
Q:この時期から《ネタバレ》の《規制済み》で足が動かない?→この時期以前から着実に、という事にしてください。詩音が普通じゃないと確信したのは能力を通して魔力を視たからです。詩音に医療的知識はないです。


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第10話 旅行

私の投稿、全体的に3000〜4000文字(句読点「」など含み)なんですよね。
……自分でくどいなと思ってきたので次から2000程度に抑えられるといいな〜と思います(希望)。締めるの苦手というかなんというか……


『大当たり〜!やーおめでとうございます!特賞のペアチケット!どうぞ〜!』

『おースゲー』

『ホントに当たるんだね!』

 カランカランと軽いベルを鳴らして叫ぶ……組合?のおじさん。周囲にいた人達は当たったのを羨むのではなく見直した……というより、よく出来たものだとでも言うように見ている。

 恐らく当たりなど入っていないと思っている人が大半なのだろう。それを私のような子供に掴ませる事で、特に旅行先で迷惑もなく細々と無駄遣いしてもらい、それを見た他の客に品物を多く買って貰おうという魂胆……と読んでいるのだろう。

「……どうも」

 そのへんはどうでも良いので軽く会釈して受け取り、そそくさとその場を離れる。

 二泊三日の温泉旅行……困ったなぁ。帰り道でため息をつく。

 別に狙った訳じゃない。単に日常品の買い物をしていたらたまたま一定額を超え、福引券を貰った。で、ものは試しと特典『皇帝特権』を発動して回してみた。すると白と赤……モン◯ター◯ールみたいな玉(特賞)が出た。それだけ。

 分かりきった小学校の授業中、まじめに受けるのもバカらしいので暇つぶしにと特典のランクを試してみたところ、オリジナルと多少の差異はあれどA+ランク相当のものと言うことが判明した。このランクだと技術はもちろんの事、肉体面……つまり神性など、生い立ちに関するそのものを会得する事もできる。ただ私も借り物の知識なのでよくわかってないけど……ひたすらに便利である事は確かだ。

「あ、これ今度の連休か」

 学校があるからと行かない理由を作るつもりが狙ったように三連休。こっちに来てから特に何かしたいわけじゃないし……行ってみても良いかなぁ……

 しかしなんだろ……つまんないな……

 

 ♢♢♢

 

 旅行当日。

「うーん、中々豪華なのね」

 相変わらず子供一人で来られるものではなかったけれど、校長の時の様に何故か来られた。認識系をズラしてるんだろうけど、便利なのかなんなのか……ロリコンって過保護なのかな?

 連れられた旅館はそれなりに立派で、生前地元引き篭もりだった私には縁の無い様なものだった。街中の騒がしい旅館と違い、自然の中にあり……良くも悪くも、人目に付きにくい。

「あれ?ウタネちゃん?」

 人目に、付きにくい……

「誰?」

 紫の髪の少女……同級生だろうか。

「同じ学校の生徒なの。ちょっと知り合いでーーあっ!」

「逃げてったわよ⁉︎」

 金髪の少女……こちらも同じだろう。

「ちょっ!待って!待ってぇぇぇ!」

 兎にも角にも全力疾走。

 なんでなんでなんで⁉︎福引なんてそうそう当たるものでもなし、そんなに複数で来られるなんてどんな……あー、普通に旅行かー。

 高町家はそれなりだろうけど、連れ?の二人、金髪と紫色は何処と無くお嬢様って感じの雰囲気だった。同じ学校ともなればアレか、『悪いけど三人用なんだ』みたいなアレがあるという事か。

「どこ行くんだ?」

「……どうも」

 おかしいな、二十メートルくらいはあった上に全力で走ったはずなのにな。

 なんで恭也(このひと)が私の前にいるんだろう……

「高町家はアレですか、特殊訓練でも受けてるんですか?」

「いや?普通に剣術をやってるだけだ」

「普通の人間は二十メートルを一秒で動く事はできません」

 百メートルで速くて十秒。五分の一にして二秒。しかも汗をかいて無いどころか息も上がらず疲労のそぶりがない。オリンピックなんてやりたい放題ではなかろうか。

「ま、取り敢えず合流しようぜ?見た所一人だろ?俺達がいれば何かあっても助けられるし、なのは達といた方が気楽だろ?」

 優しく提案する恭也さん。助けられる事はないし決して気楽ではない。不安で一杯だ。

「……わかりました」

 かといってこの状況で断る理由は無い。強いて言えば魔法関係やらを上げるけど、そんなのは日常に存在しない。ので取り敢えずオッケー、という事にする。

「じゃー行こうか。荷物も持つよ」

「どうも」

 単純なスピード、パワーは明らかに負けている。更に先程の驚異的な速さだ。高町さん達が話してから私を視認するまで数秒あっただろうに、それを踏まえて私が走って三〜四秒で追い抜かれる。前回の事もあるし正面で立ち会って縮地で不意打ちをするという状況ならともかく、逃げるには不利過ぎる。

「なぁ母さん、フタガミちゃんがたまたま一人で来てたんだけど……」

「あらまぁ!ご一緒にどう⁉︎私はいつでも歓迎よ⁉︎」

 なんだこの人。

 その背後には高町さんら三人が控えている……口は上手い方ではないし素直に負けておいた方が良さそうだ……

「……わかりました。ご一緒……させて下さい……」

 不本意極まり無いが、これも仕方がない。後手の三人の方が難敵だ。

 歳上に関しては態度を一貫して対応できる。自分が最年少なら尚更楽だ。自分が最年長ならそれもそれで楽だ。だけども同年代は難しい。特に今の高町さんの様に中途半端な距離感の場合、どう接すればいいのか分からない。コミュ障のつらいところ。

「こちらこそ!恭也!ウタネちゃんの荷物持ってあげなさい!」

「そりゃいいけど、母さんは?」

「私はウタネちゃんと部屋の変更を頼みに行くわ!」

「そんなのできるのか?」

「なんとかなるわよ!」

「そうか……」

 凄まじい勢いだ。息子さん困ってますよ、お母さん。それに絶対無理でしょ。

 

 ♢♢♢

 

「なんという事だ……」

 なんとかなってしまった。

 有無を言わせぬ桃子さんの勢いにお嬢様二人の圧力、たまたま通りかかった変更願い先のお客さんの快諾。それらもろもろの事情により荷物等の移動を私達がする条件付きで部屋の変更ができてしまった。無理を言ってるのだからこの取引はかなり安い。見知らぬ老夫婦、受付の人、面倒に付き合わせて本当に申し訳ない……

「ウタネちゃんウタネちゃん!一緒に温泉行かない⁉︎」

「なのはの友達なのよね?なら私達の事も知っておきなさい!」

「えと……よろしくね?ウタネちゃん」

「うん……えっと……サラダバー!」

 箭疾歩で三人の背後に移動、そのまま走り出す。マナー違反?今は気にすら事じゃない。私にそんな趣味はない!

「まーちーなーさーいー!」

「待てと言われて待つやつがあるか!」

「待ってよぉ〜!」

「うるさい!ほっといてよ!」

「あの事言いふらすよ!」

「おっけーおっけー、みんな仲良くしなくっちゃね。仲良……ぶっ!」

「「「きゃっ!」」」

 数秒離れたところで止まったはずなのに、突進を止めないバカ三人に吹き飛ばされ、ゴン、と壁に激突する。壁へこんでるし、生身の人間なら死んでたかも……こわ。

「だっ!大丈夫⁉︎」

「うん……なんともないから、ほっといてくれると……」

「前もそんな事言って大丈夫じゃなかったの!お母さんに見てもらうの!」

「やめて!桃子さんだけはマジで!お金あげるから!」

 絶対ロクな事がない。確かコレは前に飛ばされた時に出来た傷から頭を能力で補強したんだ。私が自分から使った能力は私が解除しない限り基本的に永続するから、多少の事ではなんともならない。怪しまれるから解除しようかな……でもその場合もういっかい頭切らないとだから……面倒だな。やめとこ。

 そしてもう一つ。今思うと、お金どうなってんだろ。

「あら〜大丈夫?少し横になっておきましょうか」

「……あの、確かに部屋に入ってましたよね?」

 私が走ったのが部屋から数メートル、それから遠ざかるように走って……何回角を曲がったか覚えてないけど、それなりに距離があるはずだ……なんなんだ……高町家……

「えっと……取り敢えず携帯貸して貰えませんか?少し電話したいので」

「あら、いいわよ!一日三十六時間まで使っていいからね!」

「申し訳ないが一台で三十六時間は使えません」

 二台使えば四十八時間、という時間計算をしているのがあった気もするけど……まぁいいや。

「〜〜〜♪」

 ふんふんふーん、と鼻歌まじりにある番号をプッシュ。するとノータイムで繋がる。

 聞かれてはマズイので高町さん達から少し離れて話を始める。

 《何の用だ?》

「ようショタロリコン。そっちにいた時お金用意するって言ってたよね?財布には私の所持金の域を出ないくらいしか入って無かったし通帳らしいものも見当たらなかったんだけど、どうなってんの?」

 《あー……そう言えば何もしてなかったな。面倒だったから》

 アノヤロウ。欠伸してやがるぜ。

「おい、死活問題だぞ。このままだと高町家に居候することに……!」

 多分簡単に居候させてくれるだろうけど、それはダメだ……絶対に……!

 《わかった。旅行中に家のタンスに通帳作って入れておいてやる。口座もな。中身はまず二百万。それから毎月五十万入れる。上限は三百万。それ以上は不自然だ》

「いや、十分なんだけども。うん、まぁオッケー。ありがとう」

 小学生単身で援助無しにそれはおかしいでしょう、どう考えても。

 《お前の餓死なんぞ見ても面白くないからな》

「そうだ思い出したからついでに。学校手続きの時とか校長の様子がおかしかったけどアンタの仕業よね?」

 《ん?校長?あぁ、アレか。流石に親無しは手続きが面倒だろ?》

「役所とかも絡むんだっけ?知らないけど。まぁすんなりいって助かったよ」

 《お前の立場でどうにも出来ん事はこちらから勝手に介入する。それでいいな?》

「はいはーい。どうも。それじゃ」

 返答を待たず携帯を閉じる。くたばれ。




以前表現の幅が狭い、語彙のないラノベってこの上なくつまらないよね、という話をしてて一瞬死んでやろうかと思いました。


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第11話 警告

今回は短めで。ワンシーンしか無いけどそれでもいいのかもしれない


「なぁアンタ」

 一度部屋に戻って温泉に入った後、館内の見学ついでにこの三日のことを考える。

 取り敢えず高町さん達と鉢合わせてしまったのは仕方がないとしよう。流石に想定できる事態ではなかった。

「なぁちょっと」

 単に知り合いと出会っただけならただの旅行。しかしその知り合いがトンデモ一家とお嬢様二人。しかもお嬢様の片方は違和感あるし……

「なぁ……ちょっと……」

 とはいえ三日。魔法関係での面倒事をわざわざ持ち出すほどヤボじゃない……と信じたい。高町さんは普通に話しそうで怖い。

「ねぇってば!」

「うぇっ⁉︎」

 正面から突然大声で叫ばれた。しかも知らない人。

「な、なんですか……?すみません、あの、余所見してて……あの、すみません、本当にごめんなさい……」

 青い目をした、どことなく野性的なオーラを放つ女性だった。

 良い目をしている……と言いたいけど、ヤンキーなら別だ。面倒なく許して欲しい……

「あの、ちょっと用事あるんで……ごめんなさい」

「待ちな」

「……ーー」

 掴まれた肩を落とし、下がった相手の顎を横から殴る。怯んだ所に鳩尾を膝で抉る。更にーー

「ーー……っ!」

 しまった、ダメだ。暴力は問題になる。

 魔法がダメだと意識してたし高町家がいるからつい敏感になってる。

「あん?どうしたんだい?」

「いや……」

「あぁごめん、触られるのがダメだった?」

「そういうんじゃ……」

「……なぁ、いい加減猫被んのやめなよ。わかんだろ?」

 突然探るような表情を浮かべる女性。なんの話……?

「……?」

「フェイト、って言えば分かるかい?」

「……っ⁉︎」

「動揺したね?特徴も一致してるし、やっぱアンタだ。こっちの要求は一つ。ジュエルシード全部渡しな。後悔しないうちに」

 我が意を得たり、とばかりに踏ん反り返る女性。ニヤリと笑い開いた手を出し、さっさと寄越せと言う態度だ。

「……私はその件に関与してない」

「あん?じゃあなんでフェイトはアンタなんかに追い詰められてたんだい?」

「事の成り行きだし、あそこまでする気もなかった」

「そんな話信じられると思うかい?」

「……じゃあ私からの要求だ。これ以上私に関わるな。後悔しないために」

 信じる信じないは人の自由。だから、警告を受け取るかどうかも自由。

「っ!いい加減にしなよっ!」

「っ……!」

 服を掴まれ持ち上げられる。身長差もあって完全に宙に浮いている。

「こっちだって別に力づくで奪ってもいいんだ。出来るだけそっちに譲歩してやってんのにさぁ!」

「……だから」

「いいよ、もう喋んなくて。アンタからは魔力も殆ど感じないし、デバイスも持ってるわけじゃなさそうだ。剣術は凄いらしいけど攻撃力は無いって言ってたし……やっぱ関係ないのかねぇ。おし、今んとこは見逃してやるよ。だけど次邪魔したら容赦しないからね」

「そうしますよ、そうするはずだから」

「ふん」

 睨まれながらもゆっくりと降ろされる。

 そして恐らくだけど。この人はフェイトより上じゃない。そもそも上が下の為に動かないだろうというのもあるけど、フェイトに対する敬愛みたいのを感じる。まぁどうせ戦ったところで魔法使えるだろうし勝ち目は無いんだけども。

「だけど一言、アイツらに言っときな。ジュエルシードを渡せって」

「……わかった。それは伝えておく」

「聞き分け良くて助かるよ。じゃあね」

 女性は軽く飛んで何処かへ消えてしまった。

 正直、ヤバかった……人前で戦うには強すぎる。まぐれうんぬんを装えるレベルじゃない。いや、というより……あれは人なの?

 魔法……ジュエルシードの件が終わればユーノに頼んでどうこうするつもりだけど……敵が私に接触してくるなら近いうちにした方が良いかもしれないな……



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第12話 夜道

ビニールテープって素手で切れますよね?切れません?



「あー……やっぱりいい雰囲気」

 結局最後まで名乗らなかった女性の事を高町さん達に話し、それでもなお戦う意思を二人は見せた。そんな事はどうでもいいけど、今日からすぐ私に魔法を教える事は出来ないそうだった、と言うのが残念だ。なにぶん環境が悪い、旅行が終わってからにしてくれ、だそうだ。

 それはそうだと納得した私は、取り敢えず関わらない旨を伝えて普通に旅行を楽しみ、深夜に散歩している。夜眠れない時は散歩に行くのだけれども、アスファルトと違い土を歩くのは負荷が少なくて助かる。

「ーーー!」

「ーーー………」

「…………!」

 ーー平和な夜を過ごせそうだったのに。

 不幸にも高町さん達らしき話し声が聞こえる場所に来てしまった。

 語気からするに言い争いをしている様子。しかし逆に言えばそれだけで済んでいる。

 ないだろうけどもしかしてを期待して聞き耳を立てる。幸いにも草木が生い茂り気配を消すには十分な環境だ。

「誰だっ!」

「っ⁉︎」

 可能な限り近付いて動きを止めた瞬間、明らかにこちらに向かって声が発せられた。

 バカな、距離は十分あったはずなのに。魔法で周囲を警戒していたのか……?

「隠れてないで出てきなっ!」

「くっそ……!」

 茂みの中からではよく見えなかったけど、飛びかかってきた何かを避ける様に話していた方へ転がり出る。

「ウタネちゃん⁉︎」

「あなたは……」

 高町さん達に当然バレる。更に、さっき飛びかかってきた何かと合わせて、三角形に囲まれる様な形になってしまった。絶対的な経路が無い。そして距離が二メートル前後と近すぎる。

「……分かった。観念する。でも話は聞こえてなかったから状況は分からない。ユーノ、説明お願い」

「あ、ああ」

「昼間私が言った通りさね。ジュエルシードを渡せって事さ」

「昼間……?あの時の女の人か……じゃないね。いや、どこからか状況を俯瞰している……?にしては気配が無さすぎる。魔法ってのはつくづく厄介だ……」

「あん?何言ってんだい?」

 俯瞰の際、必ず出るはずの俯瞰視点特有の気配。それが上空のどこにも存在しない。この場には私を除いて四つの視点。昼間の女性は見えないから、数が合わない。

「ユーノ、発言者の位置は特定できる?私じゃ視点を見つけられない」

「いや……ウタネ、彼女がそうだよ?」

「はえ?」

「まあ認識されてなかったのかい⁉︎なんなんだアンタ!」

「うぇ⁉︎犬が喋ってる⁉︎」

「ユーノくんも喋ってるの……」

「あ、そっか。何がどうなってもおかしくないもんね。ごめんなさい。知らない人とか完全にシャットアウトしてるから……わかんなくって……」

「そうかいそうかい……フェイト!そっちはそっちで思う存分やりな!私はこの生意気なのぶっ叩く!」

「わかった」

「ウタネちゃん、ユーノ君をお願い!」

 二人が頷いて飛んでいく。

 それを黙って見送る私とユーノ、それと女の人らしい動物。

「……」

「何黙ってるんだい?」

「いやぁ……人生楽しそうだなぁって」

「あん?」

「目標があるって事は人生に意味を持たせるって事だ。それを達成するまでとはいえ意味に変わりはない。人はそれを肯定するだけで人なんだ。あの二人、私と違って人を満喫してるよ」

 自分の思うままに行動し、他の全てを後回しにできる。幼さとはそういうものだ。けどそれは決して弱みじゃない。全身全霊って言葉は、責任や評価に引っ張られている大人には使えない言葉だ。どれだけ本気でやってるつもりでも、心の何処かで必ずリミッターがある。人間の若者にだけ使える、強みだ。

「……!へぇ、アンタは違うのかい?」

「勿論違う。私はそんな考え方をしない。ただ、言った筈だけどもう一度言うよ、盗み聞きしようとした事は悪かったと思ってる。だけど私を素直に帰せ。後悔しないように」

 勿論違う。私は見た目こそ小学生だけど、中身は半ば大人だ。責任を取りたくない思いもあるし、他人からの目や評価も気になる。迂闊な行動は取れない。謝って許される世界にもいないし、許される気もない。だから私は関わらない。無関係こそ最大の防御だ。関係ない人間を突然殴ったりするやつは私も殺すが、大抵の悪人でも無関係の人間に何かするにはハードルがある。けど知り合いなら。挨拶代わりにナイフを突き立てる事もあり得るし、脅迫強姦なんてこともある。だから無関係が一番だ。

 ここで逃がしてくれるなら、ユーノだって別に庇ったりしない。勝手にやってもらう。関係無いんだから。ユーノが死ねば高町さんもいずれ同じ。不慮の事故。仕方がない。

 しかし逃がしてくれないなら、それはそれで仕方がない。目撃者を無くすには、目撃者を全て殺すしかない。

「さぁ、どうする?逃がして、くれる?」




夜中に散歩するのは好きです。


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第13話 接触

「逃がして、くれる?」

「わけないだろっ!」

「ウタネ!」

 獣がその能力を使って飛びかかってくる。

 文明の発達に頼った人間には決して使えない運動能力。文明を良しとする人間には決して勝てない能力だ。

「っ⁉︎」

「縮地法、箭疾歩なんて呼ばれる技術。正確には違うけどそんなもの。いくらあなたが速くても、この動きには対応できない」

「くっ、このっ!」

「何度でもいいけど、体力の無駄だよ。あなたがフェイトの使い魔である限り」

 数度の突進を全て背後に回り込む事で回避する。

 ユーノを抱えたままでも十分。ただ、ユーノはついてこれてないみたいだけども。

「……」

「ユーノ?生きてる?」

「……」

「オーケー、死んでるね」

「ふざけやがって……!」

「そう怒んないでよ。逃がしてくれなかったのはあなただし、別に苦しめたりしないか……少し黙ってて貰おうか。あの二人を止めよう。続けるとあの……なんだっけ、あれが暴発する」

 あの……宝石みたいなあれ……なんか名前長いやつ。あれが二人の魔力に押されて暴発しかかってる。雰囲気的にマズい案件でしょ?

【空間固定、縛れ】

 犬の固定って前後両脚だけでいいのかな。首輪もしとく?……いやいいか。

【空間固定、飛べ】

 空中に複数の足場を作る。流石に激しい撃ち合いになってるけど、干渉不可能ではない。

「二人ともストップ!そのままだとマズい事になる!」

「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「シュートッ!」

「……」

 以前変わる事のないピンクと黄色の閃光。さて。

「抉り斬るか。次の衝突に合わせて二人まとめて。ふぅ……」

 皇帝特権、湖の騎士ランスロットの剣術を習得。刀を能力で強化。前回を活かし、魔法を上回る威力と速さでもって二人を斬る。

 フェイトが高速で斬りかかる。それを迎撃する為に砲撃を構える高町さん。衝突は4秒後。私もそれに合わせて足場を蹴り、加速する。

 3、2、1……

 覚悟……繋げてあげるから一度我慢しろ……

「時空管り"ッ……!」

「あ……」

 突如二人の間に現れた謎の黒少年を、真っ二つにしてしまった。あらら……

「えっ、なっ⁉︎」

「ちょっ⁉︎どっ、え⁉︎」

「あー……やべ……落ちちゃった……」

 多分肋骨の下あたりで斬ったんだけど、上半分が落下して海へ……

「フェイト!悪いけどアレ、拾ってきて!」

「えっ⁉︎えっ、うん!」

 私も高町さんも間に合わないし、一応敵だけど人命かかってるからフェイトに頼む。放心状態だったけど叫んだら反応してくれた。

「きゃぁ!なっ、中身が!」

「いいから早く!適当に乗せて!」

「こ、こうでいい?」

 無事海水にされる事なく上半分を拾ってきてくれたフェイトが恐る恐る上を下に乗せる。中身とか言ってるけど能力で保持はしてるから落ちたりはしないと思う。そういえば能力で引っ張り上げれば良かったね。もう終わったからどうでもいいね。

「うん、えーと……」

 接続箇所と内臓位置が変わってないか確認しつつ調整する。

「ウ、ウタネちゃん?何してるの?」

「男のカラダを堪能してる」

「ちょっ⁉︎そんな事してる場合じゃないの!」

「嘘よ嘘。そんな赤くならないの……はい、繋がった。ごめんなさいね、意識、あります?」

「……え?」

 フェイトが素っ頓狂な声を上げる。

 あ、そう言えば直したのフェイトが離脱してからだったっけ。

「ほら、私の腕みたいに繋げたの」

 問題は多分死んだからショタロリコンが手を貸してくれるか否か。多分大丈夫。もしかしたら死んでないかもだし。

「あ、そういえば……腕……」

「うん、ちゃんと動いてるよ。気にしないで。こっちこそごめんね?」

「いや……その、あそこまでなるなんて思ってなくて……ごめんなさい」

 こっちが調子に乗った結果だし謝られても困るんだけど……

「……はっ⁉︎」

「あ、良かった。ごめんなさいね。この二人を止めようとしたのだけれど、余りに突然現れたものですから……二人の代わりになってしまって」

 よし、意識は戻った。次の問題に行こうか。

「「えっ⁉︎」」

「あ……ああ……」

「完全に治ったわけではありませんので、意識がある内に病院へ行かれた方がよろしいかと。内臓などの接続はしましたが、流れた血まで戻したわけではないので、貧血など頻繁にあるかと……」

 確かにこの男の子は時空管理局と言いかけた。管理下にある世界の全てを司るらしいその組織の人間だ。それを事故とは言え問答無用の真っ二つ。死刑か無期懲役あたりは免れないだろう。魔法如きで死にはしないけど、普通の生活は送れない。

 ならばここは事故を装い、かつ治療した事実を叩きつける事で少しでも温情を……

「って!そうじゃない!キミ達はロストロギアをなんだと思ってるんだ!三人とも戦闘行動を中止してついてきて貰おうか!」

 はっと思い直してしまった男の子が迫力ある声と共に私達全員を拘束する。ヤバい、止めようとしたのに対象に入ってる。

「ウタネちゃん……」

 高町さんが私に抵抗するか否かを求めてくる。けどこの状況で取る選択は一つだ。

「いいよ、こうなったら仕方ない。時空管理局ってそれだけ大きい組織なんでしょ?下手に逆らわない方がいい」

「賢明な判断だ」

 黒い少年は少しだけ雰囲気を緩める。

「……ごめん」

「いくよっ!フェイト!」

「なっ⁉︎逃す……うっ」

 狼が叫ぶと拘束をものともせず消えてしまった。フェイトの方は解除したんだろうけど、狼の方、つまり私のは残ったままだ。あの瞬間移動だか転移みたいな魔法には私の能力は効かないのか……困ったな。

「く……貧血……か。どういうつもりだ?彼女らを逃がすつもりだったのか?」

「まさか。さっきまで争ってたのを覚えてない?えっと……なんだっけ、あ、ジュエルシードを持つ彼女たちが敵対してることを危険視して乗り込んできたんでしょ?」

 そうだジュエルシードだ。名前長い。

「……まぁいい、向こうの判断だと思ってやる。だが、君たちには来てもらうぞ」

「はい。ただ、彼女は家族連れなので今晩で解放、ないし仮釈放してあげてください。面倒だ」

「それを頼める立場だと思うな。だが、そちらの態度次第だな」

「そう……高町さん。いい?」

「うん。お話は大事なの」

 相互理解の話では無いと思うけどね。

 さて……ユーノがいるからある程度は話せるけども。私はどこまで聞かれるかな……?




クロノ君って一人称「僕」でよかった……はずです……よね?


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第14話 議論

緑茶がメインか、砂糖がメインか。


「……はい。おおよそは分かりました。ですがジュエルシードを始め、ロストロギアは素人の子どもの手に負える物ではありません。それは分かりますか?」

 時空管理局、アースラ。というらしい単語に誤魔化されてこの女性、緑の長髪で緑茶に砂糖を……いやむしろ緑茶で溶かしている砂糖を飲んでいる奇人の説教を聞かされている。

「……はい」

「……いいえ」

「えっ⁉︎」

「えっ?」

 いいえって答えたら何故か驚かれた。なんで?

「あのくらいの力なら高町さんで十分に制御できていた。フェイトも同様。確かに発現させると面倒かもしれないけど、手に負えない程でもない。『ですが危険には変わりなく』なんていい直したら斬るからね」

「……」

「とにかく、私に交渉の余地は無いよ。組織に入る気なんてサラサラないから。ま、気分次第で協力はするかもだし、高町さん達には付け入る隙はあるかもね」

「にゃっ⁉︎」

「そうだね。ウタネは元々不本意で巻き込んじゃったし……そちらの言い分次第では、考えもある」

 高町を肘でつくと、へにょい驚き方をしてユーノが私の意図を汲み取ってくれた。

 高町さんも頷いて、私に任せてくれる様だ。

「では、どうすると?」

「高町さんとユーノが管理局、というよりこのアースラに所属する。それで今のままジュエルシードに対する全権を持たせる。それなら貴方達は足りない人手も賄え、無駄な損害を出す事なくジュエルシードを手にできる。ユーノがそれでいいならそれでお願いする」

 ユーノはジュエルシード自体に執着は無く、単に被害が出るのを嫌うだけ、高町さんに至ってはその助けがしたいだけ。タダで扱いやすい戦力が手に入るのなら人手の足りない(・・・・・・・)組織としては喜んで受け入れるだろう。

「すみませんが、お断りします」

「なっ⁉︎」

 嘘⁉︎なんだこの緑茶⁉︎どんな思考してんの⁉︎

「なんで……」

「簡単な事です。仮にそう難しくなくとも、命の危険がある事には変わりません。万が一、命を落とす事がなくとも。その後の人生に影響を残す怪我をするかもしれない。ジュエルシード、ロストロギアとはそういう類のものです。そこのクロノも年はそう変わらないでしょうが、キチンと訓練を受け、相応の資格を示しています。できるできないではないのです。それをする、という単純な意思の強さ。それを示すだけの過程、行動が無ければ、どれだけ能力が優れていようとさせる事は出来ません」

「……っ、あまり言いたくは無かったけど、人手不足はどうするつもり?この二人が勝手に集めて来てくれるんだから、これ以上は無いと思うけど」

「……素晴らしい洞察力をお持ちのようですね。確かに、能力と人材という点では二人はとても貴重です。ですが申した通り、ただ能力があるからと、その場しのぎでその道に進ませるのはその二人の人生を潰しかねません。キツい訓練を経て、それでもなおこの道に進むというのなら、私は喜んで歓迎します。ですがその実態を知らぬまま、後で後悔しても遅いのです。出来合いの人員で成り立つ程、この組織は小さくありません」

 この女……資格だの訓練だの面倒な事を……

 少し睨んでみたけど、それを見た上でまだ態度を崩さない。緑茶に入れる砂糖の量も変わらない。それだけ自分の考えが正しいと確信しているのだろう。

「分かった。無理強いはしない。聞いてた限りそんなのが出来る程の組織じゃない。むしろもっと恐ろしいのを想像してたよ。でも、ならどうするの?このままだとジュエルシードはフェイトの手に渡る。高町さんが収集したのはともかく、他が何個あるのか知らないけど、対処できるの?」

 確信しているからこそ、この問題は刺さる筈だ。人手不足な上にフェイトという敵対、ないし競合者。対策は必要なはずだ。

「その点も問題ありません。クロノ」

「はい。じゃあ、これを見てくれ」

 クロノと呼ばれた、私が斬ってしまった少年が空間上に四角いなにかを浮かべる。

「これは……?」

「モニターの様なものと思ってくれ。覗きの様で申し訳ないが、君たちがこれまでに見つけてきたジュエルシードの発現は全てこちらも認知済みだ。これらからジュエルシードの発現位置を予測して、それを上回る最低限の戦力を用意し、発現前に封印する。この方法なら僕一人でも可能だ」

「待って。ならなんでそれまで介入しなかったの?なんで今回に限って介入してきたの?」

「簡単さ。今回ばかりは見過ごせなかった、という事だ。今までも出撃準備はしていたが、君たちだけで済むならなら人員を割かずに済む。あのままジュエルシードが暴発していれば二人はもちろん、ジュエルシード自体もどうなっていたか分からなかったからな」

「お人好し……」

「何か?」

「別に」

 つまり、高町さんでもフェイトでも、全てが1つに集められた所を総取りするつもりだったと。それでも今回は危険と判断し待ったをかけた。魔術師なら二人を見殺しにしてジュエルシードを回収する。この組織はまだ人間寄りの様だ。

「いいな、これからは僕が主に回収にあたる。以上だ」

「……じゃあさ、なんでここまで連れてきたの?」

「できれば君たちには手を引いて貰いたいからだ。今回のような事が起こりかねない様になった以上、次はどうなるかわからない」

「いやなの……」

「なに?」

「私はまだフェイトちゃんとお話できてない!ちゃんとお話するまでやめないの!」

 今まで私に任せていた高町さんが声を荒げる。その目は決意と言うより敵意に近い。

「だめだ。諦めてくれ」

「納得できないの!やめない!」

「納得するかどうかは別の話だ!下手すればその人生を棒に振る事になるんだぞ!」

 売り言葉に買い言葉。二人で勝手にヒートアップしている。

 提督さんも止める気は無い様子。ならばとユーノにも手を出すなと伝える。

「それでもやるの!途中で投げ出したら一生後悔するの!」

「貴様……ッ!分からん奴だな!魔法文化の無い管理外世界の住人が魔法で故障してもそれを誤魔化すしか無いんだぞ!お前は自由を無くし、家族や友人を偽り続けながら病院で一生暮らす事になる!それを止めろと言ってるんだ!」

「っ……」

「お前の様な普通に暮らしてきた人間がいきなり戦場に立ってどうなるか分かってるのか?ただ戦うだけじゃない。その為の犠牲や、その後の人生を踏まえて立たなきゃいけないんだ。お前はお前だけの人生じゃない。お前の親はお前を育てる為にどれだけの金と労力を費やしたと思う?華々しい妄想じゃない、現実的な想像をしてみろ。お前にそれが充分にできるか?そしてそこまでした子供が原因不明の重体を負ってみろ。どう感じるか想像できるか?そのまま数十年、自立するはずだったお前を生かす為に出費も時間もかかり、介護されるはずだった親はお前の介護をしなくちゃならない。お前がそれをどうでもいいと言うのなら止めはしない。勝手に続けろ。だがな、お前が家族や友人を思うならここで引き下がれ。デバイスまでは取らない。ここの連絡先も教える。魔法も時間があれば教えられる。だがそこまでだ。実戦はさせない」

 高町さんに詰め寄って言葉を続けるクロノの目には強い怒りが見えたが、私からすればどうでもいい事だった。自分を生んだのは親の勝手だし、育てたのも勝手だ。怪我するのも勝手だし、死ぬのも勝手。確かにクロノの言い分には一理ある。高町さんはまだ現状とその後を見ていない。ただ感情だけの行動だ。生きてる事を前提とした結果論は……理解しようとする気さえ失せる。

「クロノ。そこまでにしなさい。高町さん、ユーノさん、ウタネさん。今日はここまでです。お時間を取らせてすみませんが、ご帰宅願います」

「……わかりました」

「失礼します」

「次のジュエルシードからは僕も出る。邪魔する様なら敵と認識するぞ」

「……わかったの」

 高町さんは不満たっぷりという顔や雰囲気だったが、あれ程言われれば引き下がるしか無かったようだ。

 その煮え切らない空気のまま、私たちは旅先へ戻される事になった。



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第15話 質問

ストーリーがうろうろしている……


 旅行が終わって数日間。私は彼女たちと会っていない。正確には、互いが互いを避けていた。

 私は元々関わらないようなスタンスを取っていたけれど、別に話をしないわけでは無いし避ける事もしていなかった。高町家は別だけども。

 高町さんはアースラでの一件から明らかに変わった。あの友人二人と私が話していても近寄るどころか姿を消すし、登下校も一人で、以前とは違う道を通っているようだった。

 ユーノからは念話も無い。高町さんに止められてるか、私の様にどうするべきか悩んでいるのだろう。ユーノの目的は高町さんだろうと管理局だろうとジュエルシードが安全に確保されれば達成される。高町さんを巻き込まないだけ、むしろユーノの状況は好転してると言ってもいい。

 学校の授業中にそんなことばかり考えている。その度先生に怒られ、問題を解かされるが、平均の少し上辺りの回答をして黙らせている。私も随分と馴染んだものだ。以前は……生前は、こんな体験はした事がなかったのに……

「おい!聞いとるのかフタガミ!」

「へっ?」

「最近弛んでるんじゃないか?転校生だからってなんでも許される訳ではないぞ。お前の評価は決して高くない」

「はぁ……すみません」

「勉強に関しては十分理解してる様だがな、真面目な態度を身につけないと社会で後悔するぞ」

「はぁ……」

 わざわざ私の席まで来て言いたいだけ言って戻っていく体育会系のゴツい先生。

 これだよ、これ。結果さえだせばいいはずなのに真面目な態度だの礼儀だの目上を敬えだの。反乱を起こさない為の洗脳だよこれ。そんなだから教科書丸暗記の落ちこぼれが量産されるんだよ。

 予想していたとは言え少しイラついたので教師の右足薬指と小指を薄く空気で固定する。一生開かないまま生活しろ。

 あー……つまんない。 いざ自分がその内の一人として体験してみると、ロクなもんじゃない。関わらず見てるだけなら楽しめるのに……

「ではこれで授業を終了する。次の授業は今日やり残した問題から始めるので、ある程度は予習しておくように」

 こうして授業がいつも通り終わる。何の授業だったかすら曖昧なまま半日を無駄に過ごしていく。高町さんは既に消えている。ユーノは連れて来てないだろうし、教室移動も無い。10分暇だ。どうしようか……

「……」

 寝るか。ぼっちの生徒は休み時間寝るのが正解って言ってた気がするし。

「起きなさい」

「寝てないのですけども」

 金と紫のお嬢様……名前は……忘れた。普段から話す人でも名前知らないなんてよくあるしね。名前呼ばないし。

「じゃあさっさと話しなさい。なのはと何があったのよ」

 昨日まで普通にしてたくせに何で今になって……高町さんが何か漏らしたんだろうか。

「別に何も」

「なら何で避けてるのよ」

「別に。私は私から行動する事は稀だから」

 机に突っ伏し、話す気は無いと意思表示する。

「それでも話す機会はあったでしょ?なんでなのはが逃げるのよ」

「知らない。女の子の日が長引いてるんじゃないの?」

「そんな事言わない!今朝なのはが漏らしたわ。あの旅行で何があったの?」

「……」

 机を揺らされる。

 やっぱり漏らしたか。やけにしつこいと思うとそういう事。

「しょうがない。じゃあ聞くけど、どこまで知ってる?」

 顔を上げ、一応は話してみる。

「ほとんど何も。あの旅行で何かあったとしか」

「そう……じゃあ簡単に。高町さんはやりたい事をしてはいけない事だとされて葛藤してる。それだけ」

「なによそれ……ちゃんと説明しなさい!」

「もう無理。これ以上は言えない」

「なんでよ」

「それがルール。そのやりたい事が何かは言えないし、知るべきじゃない」

「ま、まさか……アリサちゃん……なのはちゃんが……」

「え……なに……」

 二人が少し離れ、コソコソ話し始めた。

 数分後、チャイムが鳴り授業が始まった為離れるが、その後すぐに二人で何処かへ消える。私は寝たフリしてた。

 そして午前最期の授業を聞き流し、お昼を食べようとしたところで二人が来る。

「大体話は推測できたわ」

「本当に?精度予想は?」

「まぁ86%はあるわね」

「へー……」

 絶対ハズレだようん。魔術も無いこの世界で魔法なんて結論に達する訳が無い。勘以外で当てられたらもはや読心か未来視系の能力者だよ。

「信じて無いわね⁉︎才女二人が大真面目に考えて出した推測よ⁉︎」

「分かったから怒鳴らないで……聞いてあげるから」

「じゃあ付いてきなさい。人のいない所に行くわよ」

「なんでよ……面倒なんだけど……」

「あら、当てられるのが嫌なのかしら?」

「……はぁ、いかにも小学生の安い挑発だけど、乗ってあげる」

「そうこなくちゃ」

 ニッと笑う金髪お嬢様。

 そのまま二人に連れられ、閉鎖されている屋上への階段の最上階の踊り場へ。

「じゃあ言うわよ」

 金髪お嬢様はクリスマス前の子供のようにウズウズしている。

「どうぞ」

「さてーー結論から言うと、大人の階段を上ったわけね」

 さて、という探偵お決まりのセリフとドヤ顔から始めるあたり、余程自信があったと見える。

「うん?」

 しかし大人の階段、というのが分からない。まだハズレと断定するのは早い。

「まだよ、まだ結論に達するまでの説明があるわ」

「うん……」

 私を指差し、少し仰け反るお嬢様。

 紫お嬢様は既に後悔しているような顔色をしている。何か喋りなよ。

「まずなのはが変わった場所と時間よ。あの時は旅行先という非日常にあったわ。そして、ウタネ。あなたはやりたい事はしてはいけない事、と言った。更にそれは人に言えないものだとも」

「うん」

 旅行を非日常であるという認識ができるあたりその辺の小学生とはレベルが違う。量産型女子大生よりマシな思考をしてる。

「そして私達は、そう、第二次性徴期に入っていてもおかしくない年齢にあるわ!」

「うん……?」

 第二次性徴……性がより現れ始める身体の成長。性に関する発達が顕著になる時期の事。確か七〜九歳程度で始まるはずだったから、小学三年生は普通八か九歳か。なら十分に第二次性徴が現れていい年だね。問題には全く関係無いけども。

「つまり!なのはも恋や性に目覚めた訳でしょ!そしてウタネはそれを偶然か何かで見てしまった。人には中々言い辛いものね。この推測なら現状に当てはまり、あなたの言葉にも説明がつくわ。どう?」

「……はぁ、成る程。たしかに現状に則した堅実な推理だと思う。そう言えるよ」

 しかし現実とは全く違うけどね。

 んー、でもそうかぁ、恋とか性とか……そういう年頃かぁ……

「単なる金持ちと思ってた?驚いたでしょ!」

「うん、凄く大爆笑。所詮はその程度の生物って事よ。じゃあそういう事で。お昼食べないと勿体ないから」

 まぁ実際魔法について勘付かれてないなら一切興味無し。実害は無いから放置、というより逃走したい。私は自慢し合うのに慣れてないならイエス、ノーで答えて終わりにしたい。

「待ちなさい」

 そうは問屋がなんとやら。髪を握られバランスを崩す。

「なによ。髪持たなくてもいいじゃない」

「髪引っ張るくらいしないと止まらないでしょ」

 くそう、よく分かってらっしゃる。そこまで親しくない筈なのに。

「じゃあ何用?」

「腕相撲よ、腕相撲してあなたが負けたら、本当を話しなさい」

「えぇ……」

 こちとら皇帝特権待ちですよ?同じ年で同じ様なレベルの金髪お嬢様に負ける筈無いし……別に受けていいか。何故か負けそうな予感はするけど。

「まぁいいや、一回勝負ならいいよ」

「グッド!さぁすずか、やっておしまい!」

「えぇ⁉︎私⁉︎」

「当たり前じゃない!私より適任よ!すずかだって知りたいでしょ⁉︎」

「そうだけどぉ〜」

 ビシィ!と効果音が見えそうな程金髪お嬢様が紫お嬢様を指差し、そこから少しイチャイチャしている。

 というか大丈夫?紫お嬢様大人しめに見えるけど。

「はい、丁度よくここに机があるから、右手出しなさい」

「はぁ……」

「う、ウタネちゃん、お手柔らかに……」

 右手を組み、金髪お嬢様がその上に手を乗せる。すっごいすべすべした手だ。しっとりとしていて、それでいて不快に感じるベタつきは無く、なんて言うか気持ちいい感じ。

「レディー、ファイッ!」

「……っ!」

 開始と同時に肘にかけられた衝撃たるや。大の大人を相手にしているような……誤魔化しじゃない力を感じる。

 魔力放出で即死は免れたけど、まだ劣勢。というよりこの力じゃ勝ち目ない。

「く……」

 魔力放出を皇帝特権で自然な感じに誤魔化してるけど、紫お嬢様も必死なのは必死そうだ。それが全力を出しているのか、私が耐えているのが信じられないのかのどっちかわからないけども。

 これで確信した。旅行での違和感、この紫お嬢様の資質だ。人間じゃないな?

「……どれ?」

「え……?」

「なんのことよ?」

「紫お嬢様にさせたって事はあなたも知ってるんでしょ。どれよ。言えば素直に負けてあげる。隠すなら勝って帰る」

「なんなの?負けそうだからって意味不明な事言わないで」

「そうまでして隠す気持ちも分かる。高町さんまで知ってるかは知らないけど、二人の間で共有してるのは分かった。私だって秘密は守る。あなた達をどうこうしてトラブルを起こすつもりも無い」

 先に二人についても調べるべきだったんだ。一般人であったとしても、私の生活を脅かす可能性は充分にあるんだから。

「今この勝負が始まってからは高町さんよりあなた達の方が脅威になりうる。ここなら人は来ないなら話しなさい」

 そもそも能力で階段の踊り場から蓋をしてる。絶対に誰も来ないし、見られない。

「だからなにを」

「いいよ、アリサちゃん」

「ちょっ、すずか⁉︎」

「話すよ、ちゃんと話す。私の事よりなのはちゃんが心配だもの。ちゃんとした理由を知っておきたいの」

「えっ、あの推理間違いなの⁉︎」

「なんで当たってると思ったの……?」

「だってあなたが言い出したじゃない!」

 おっとぉ……?ヒートアップですかな?

「アレはちょっと思い付いただけで確信は無かったのにアリサちゃんが無理矢理持っていったじゃん!」

「はいはいだめだめだめ……争うのはやめようか。今は紫お嬢様の事を話してくれればいいから」

 金髪お嬢様が投げた着火剤にしっかり火を付けた紫お嬢様。堪らず仲裁に入る私。

「ごめん……じゃあ一つだけお願いしていい?」

「なに?」

 十数秒で落ち着いて、話の仕切り直し。

「私の話す事を絶対に口外しない事、なのはちゃんの事を正直に話す事を」

「それは二つじゃない……?最初から言ってるでしょ。そっちが正直に話すならそうするって」

「分かった……信じるから」

 言葉だけで信じるとは安いね?

「私……実は……」




文字数が減らない。何故か?
1、不必要な描写や、不必要な文がある
2、場面を切るのが下手
3、そもそもまともに書けてない

多分全部だと思う


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第16話 違和感

場面をどう切り取れば濃く感じられるのか、どの様に書けば分かりやすく描写できるのか。学習し練習していきたい。下手の横好きだとは思うけどもね。


「私……実は……よく分からないの」

「……はい?」

 分からない?

「お姉ちゃん達は夜の一族だとか言ってるけど、あんまり詳しく分からないの……分かると思うけど、人より力が強かったりするくらいしか……」

「ふむ……」

 夜の一族は聞いた事無いけど、夜と聞いて思い付くのは真祖やそれに連なる吸血種ね。日光の下で普通に暮らせるって事は真祖か、それに近いものか……やっべぇ。ちょー強いじゃん。多分それくらいだと私の能力にも張り合ってくるよね……というか魔法はともかく魔術くらい知ってそうなもんだけど。

「じゃああれだ、私の血を定期供給するって事でどうだろう」

「あんたイキナリ何言ってんの?」

「あれ、血がいるんじゃないの?」

 んー?また飛んだ?どこから思考したっけ?

「何をどうしたらそうなったのよ」

 二人ともなんか引いてるね……そんなに不思議かなぁ?普通に会話が噛み合わないことだってあるはずなのに……

「だって紫お嬢様って吸血k……」

 

 ♢♢♢

 

『では教科書の図をノートに写してーー』

 写す気は無いけど教科書は開くだけ開く。なんか見たことあるけど小学校だしそりゃそうか。最近注意される事が多いし、高町さんには避けられてる気がするし……

「ふぁ……」

「フタガミさん?」

「は……すみません」

 むう……教師からの目が厳しくなってる気がするなぁ……

「……」

 そして何故か紫お嬢様も普通に接してはいるものの若干冷たいというか……よく分からないけど、違和感がある。

「ねぇ、私何かした?」

 面倒は嫌いなので、授業終わりに直接聞いてみる。

「えっ?」

「いや、別に。何もないならいいの。ごめんね」

「あっ、ううん、私こそ、何か気に触る事してたらごめん……」

 やはりおかしい。何を……見てる?

「じゃあ私、ちょっと図書館に本返さないといけないから……今日はもう帰えるよ」

 前借りたのが旅行前だから……結構ギリギリかな?こういうのはすぐ忘れるから覚えてる間にやっとかないと面倒になる。

「ちょっと、何言ってんの。まだ昼休みよ?」

「えっ?……あれ?」

 確か昼休みが終わってから2つ授業を聞き流したと思ってたのに……ホントに寝てて勘違いしてたんだろうか。

「んんん?ホントだ……本気で寝てたのかな……」

「さぁ?アンタ授業聞かない癖に後ろの方だから知らないわ。ちゃんとしてないとそろそろ前に移されるわよ」

「だね……せめて起きてる様に努力するよ」

「真面目に受けなさいよ」

「面白くないし……気が向いたらね」

 私、生まれつきかは知らないけど体力無くてね……半日くらい寝てないと十分に起きてられないの……眠たい……

「まぁでも……うん、それが普通だって言うのなら……授業中寝ないようには頑張るよ。寝ないようにする。じゃあ、この昼休みは寝るから……おつかれ」

 大事な何か……紫お嬢様に対する関心が高くはあるけど、正確には分からないな……いいや、なんにせよ(・・・・・)いずれわかる(・・・・・・)




月村家にだけはトラハ設定を濃く残そうと思います。魔法も魔術も無い世界に溶け込む異能って……素敵だと思うから(?)

ひたすらに短くしてみました。


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第17話 才能

第〇〇話 『〇〇』の『〇〇』が思い付かなくなってきた。


 ーー最近、記憶が曖昧だ。

 というより、ズレている。授業を全て終えたと思ったら昼休みだったり、買い物に出かけたと思ったらベッドに横になっていたり。特に学校でのズレ方は異常だ。回数が自覚できるほど多い。何かフェイトの攻撃を受けているのか……単に、私の学校への興味が失せて寝てしまっているのか……

「頭が無いから考えても仕方ないけどねー」

 そう、ただのカン。直感。

 何かされている、でもフェイトではおそらく無い、高町さんというのも否定できる、しかし確実に記憶がズレている。それだけ。でもそれを確信に変える頭は無い。なら、害が無い限り踊っておくのがいい。面倒だから。

「イキナリ何言うてはるん?本読み過ぎちゃう?」

 座っている机の対面から、素直に呆れてる声がする。

「違うから。そもそも本じゃなくて地図だし」

「その方がもっと変やで。なんでわざわざ図書館来て地図やねん」

「地図は持ってないしわざわざ買うのも嫌だから。荷物増える」

「ウタネちゃんパソコンとか持ってへんの?最近は携帯でも正確で見やすい地図出せるで?」

「パソコンかぁ……私はそういうのダメだねぇ。多分使えるけど疲れるから」

 パソコンどころかベッドと冷蔵庫、タンスしかない。十分か。

「そりゃ最初はなぁ。かなり難しい単語並んどるしな……んん?ちょい待ち、使える?持ってへんのに?」

「うん。多分ミス無く使える。カンで」

「カン⁉︎使える訳ないやろ!」

「この地図だって私はカンで見てる。説明できないけど、こうだろうなってのがあるんだよ」

「……ふーん?じゃあここに私が借りていた3冊の本があります。この中の1冊に私の栞がまだ入ってます。どれでしょう」

 はやてが鞄から本を3冊取り出す。当然、その本の存在は今知った。

「それ」

「……アタリ。なんで分かったん?うっすいから厚みとか分からへんと思てんけど」

「さぁ?カンだし」

「うー……納得いかへん……」

「いいじゃん別に」

「ダメやっ!納得は全てに優先するで!ウタネちゃん、五分くらいトイレ籠っときな!準備するから!」

「なんの……まぁいいや、五分ね」

 何かしてると一瞬だけど何もしてないと無限に感じる五分という区切り。天才だと思う。

 とりあえず万一に備えて能力で八神さんの車椅子の数ヶ所をセンサー代わりにする。はやて以外の誰かが触れればそうと私に分かる。

 まぁ特に何もなく五分過ぎたんだけども。

「はい、五分経ったけど」

「オッケーや。15冊!」

「タイトルすら隠してんじゃん」

 机の上には非常用に持っていたと思われる小さめのタオルが被せられた本が並んでいた。

「せやで。ウタネちゃんのカンってやつがどこまでのもんか試したいからな。ウタネちゃんにはこれから「じゃあこれ」……あたり……まだ何するかすら言ってへんのに……」

「ごっ、ごめん、そんなヘコむと思わなくて」

「いや……」

「どんな内容だったの?」

「この本の中の1冊から数行抜き出したメモ……これな、これを見て、どの本のか当てて、ってしようと思てたんやけど」

「私がメモを見る前に当ててしまったと」

「せや……なんかアレやな、漫画とかに出てくる『才能』レベルの精度やな」

「カンが?」

「普通そんな当たらへんで。一回くらいはあるかもやけどそう連続するもんちゃうもん」

「そんなもんでしょ。コレが普通なんて有り得ないし」

「よなぁ。でもなんかコツとか無いん?抽象的でええから」

「カンにコツ……?強いて言うなら観察?私は普通の人は普段見てない部分も見てるらしいから。そのせいかもしれない」

「例えば?」

「カシューナッツって、縦線っていうか割れ目?入ってるじゃん。知らなかったって人結構いたのよね。そんなのすら見えてなかったのは信じられなかったけど。あと10円玉の方が100円玉より大きかったり」

 カシューナッツに限らずアーモンドとかナッツ系は大抵あるんだけど……普通見てるよね?小銭の大小すら分かってない人間がいた時はびっくりしたね、何見て生活してんだか。

「へぇ……ホンマや。ナッツも今度見てみるわ」

「あとは人の動作かな。これは私も教わったんだけど、人の動作は当然始点から終点があるよね。その始点を見ながら生活してる」

「……わからへん」

「うーん……じゃああそこに、立ち読みしてる人いるでしょ?」

 私の左側の本棚にいる女の人を指す。

「緑のモヒカンの人やな?……なんであんな人おるん?」

 緑のモヒカンに青のストライプの入った黒スーツ、膝下数センチの同色スカート、あまり高くないヒールを履いた女の人に驚愕している八神さん。スク水で光る鎌振り回してる子もいるし私の感覚ズレてたけどおかしいね。

「さぁ……?で、あの人は本を途中で閉じて左手で本棚にちゃんと戻して、右足から向こうに歩いていく」

「はい?」

 直後、私の言った通りに歩いていった。

「……いやいやいや、それカンやないやろ。未来予知やで」

「あー……そっか、そうなるか」

 未来予知ってほどでは無いと思うけど……普通の人から見ればこれも一緒か。

「未来予知ならかなりの精度の人がいるんだけどなぁ……数秒か十秒だか忘れたけど」

「ホンマ?ガセちゃうの?」

「違うよー、今いないけど今度紹介してあげる。私のカンより正確だから」

「知り合いなん?」

「んまぁ、そんな感じ」

「やっぱ凄い人らは自然と集まるんかな?私なんてなんもないで」

「そう?車椅子で一人生活するなんて、中々精神力と体力が必要じゃない?私には無理だよ」

「そんな事あらへんよ……こんなもん、誰だってできる」

「私のカンだって誰かはできる。結局さ、得意不得意なんてその個人だけなんだから。あなたのサポートは私がしてあげる」

「うん……ありがとな。私も何かできるようになってみせるよ」

「……うん。それがいいよ」

 人ができる限界なんて……そんなもの。一人でできることなんて……限界があるんだ……

「まず勉強追い付かんとな。よろしく、ウタネ先生!」

「教えるのはあんまり得意じゃないけどね……まぁできるだけ」

「まず数学からやー」

 張り切って参考書を開く八神さん。

 数学なら私もまだ教えやすい……かな?




内容は無いようです。
モヒカンの人はモブなので恐らく二度と出てきません。


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第18話 思考

「えーと……公式は覚えたね。流石の記憶力だね」

 私が作ったテストで64点。中学以上の問題を含むテストでこれは中々だろう。

「まぁそれほどでも?」

 むふー、とドヤ顔をする八神さん。

「ならなんで半分くらいしか解けないのか、わかる?」

「……わからへん」

 そして一瞬で切り替わる。

「それは式の意味を理解してないから。何故こうしてこうなるのか、という原理を分かってないから、公式を使えない。必要なのは本質の理解。それさえできてれば公式を忘れても問題文から答えに辿り着く事ができる」

「んー、なるほどなぁ。でもなぁ、覚えるんはともかく、理解するのは1日とか短時間じゃなかなか無理やで」

「それでもいいの。必要なのは少しでも覚えようとする意志だから。今日覚えられなくても、何度も覚えるまで繰り返せば、それを理解できるわけだからね」

 やろうとする行動と、できないと諦める行動では天地の差だ。俗にプロと呼ばれる人間はその何かに対し一万時間以上は費やしているとされている。つまり本当の、天性の才能でない場合は時間をかけた努力によるものだ。数ある言語の中でも難しい部類に入る日本語を、日本人は何故全員が不自由なく……最近はバカも増えてきたけど……使用できているのか。それは生まれた時から日本語を聞き、日本語を話そうとしていたからだ。1日5時間だとしても2000日、年にして5年と半分くらい。実際には勉強とかしてより時間も密度も高いわけだからもっと早い。

「それにしても小学生のレベルと違くない?」

「まぁ高2くらいの内容かな? 解けてないやつは答えが出ないようにしてるのもあるし」

 x=xy×0x/y、とかね。単に0って入れれば良いけど選択肢に0なんてない。

「……ふざけとん?」

「oh……オコル、ヨクナイ」

「じゃあ普通の問題ならどのくらいなん?」

「全問正解だけど」

「じゃあええやん」

「学校で出る問題なんて記憶の問題だしねぇ……出来る出来ないは覚えられるかどうかだし。だから反復法とか流行ってんのよ。社会やら大学やらは記憶じゃなくて思考だってのに……」

「大学行ったことあるん?」

「お? あ、いや? なんか見てたから……」

「バラエティやろか? 大学生が出てるのは見たことあるけど授業風景は見た事あらへんなー」

「まぁいずれ大学くらい行くでしょ。でも寮だけは入っちゃダメだよ、『大学生だから何してもいい』ってゴミが溢れてるから」

「ウタネちゃんって時々口悪なるよな」

「ん? そう?」

《ウタネ、すまないが今来られるか?》

《……なに?》

《とにかく急いでる、取り敢えずきて欲しい》

《……わかった。下らない事だったら殺すから》

 面倒なタイミングでユーノから念話。

 下らないことでは連絡は取らないだろうし……行くしかない。

「っと、ごめん八神さん、ちょっと用事あるの忘れてた。今日はこれでいいかな?」

「ん? あ、そうでもないつもりやったけど結構おったんやな。うん、ありがとな、勉強教えてくれて」

「また会ったら教えてあげるよ、私でよければね」

「もちろんや、よろしくな、ウタネちゃん」

「うん、家までは送るよ。そのくらいは許される」

 その間に高町さんが死んだらそれはそれで。

「ええよ、急いどんやろ? 襲われても叫びまくるからヘーキやって」

「できるだけ人の多い所通ってね。傍観者効果とかで助けを呼んでも来てくれないかもだし」

 傍観者効果は『他の誰かが助けるだろう』『問題に関わりたくない』『誰もしないなら自分もしなくていい』みたいな心理で、いじめを見ても何もしないみたいな感じのアレ。自己防衛の類いだろうけど、被害者はたまったもんじゃないよね。まぁ、無差別犯を止めに入って自分が刺されるのは誰だって嫌だよねって話。

「傍観者? ん、ウタネちゃんの言うことやからそうするわ。じゃあまたな」

 八神さんからの信頼が痛い。

 せっかくの信頼だから答えるけども。能力で車椅子を覆う。

「うん、気をつけて」

 犯人が、ね。八神さん以外の何者であろうと一定以上の力で車椅子の能力に触れると能力はその場に固定され、車椅子と分離する。後は積極的に餓死してもらえばいい。

 八神さんに手を振って別れる。

 さてさて、ユーノから送られた座標は……海か。泳ぐのは嫌いじゃないけど水着が嫌なんだよねぇ……




テスト内容で口論して図書館出禁になるって話もあったけど長ったらしくなったのでやめました、という話


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第19話 海上

「さぁやってまいりました第2回ジュエルシードグランプリ。今大会では竜巻飛び交う海上ですが、解説のユーノさん、どうなると予想されるでしょうか?」

「真顔で無感動に言わないでくれるかな! 藁にもすがる気持ちで呼んだのに!」

 ある日ある時突然ユーノに呼ばれたと思えば目の前に広がるのは荒れ狂う海と海から上がる竜巻、雷。

 私の知る地球にこんな超常現象は起き得ないし、多分この世界でもそうだろう。

「いやぁありがとうございます。互いに慣れない試合環境の中、どの様に組み立てていくのかが問題になるようです。それでは中継を見ていきましょう」

「中継も何もあるか! アンタ正気かい⁉︎このままじゃフェイトもあのなのはって子も潰れちゃうよ!」

「いやぁありがとうございます、飛び入り解説のアルフさん。確かにこの天候、もし竜巻に巻き込まれようものならバリアジャケット込みでも大怪我は避けられないでしょう。この試合には勝者が現れない可能性もあると言うことですね」

「「だから!」」

「……わかってるよ、二人が危険なのも、アースラとそっちの首謀者からも見られてるのも分かってる。だからあえて和やかに行こうと思ったのに……まぁいいや。二人はなんなの? 小中学生の男子ですらあそこまで戦闘好きじゃないよ?」

 あの黒い子……誰だっけ? 出るって言ってなかった? 

「いや……さぁ?」

「一応こっちは何が何でも手に入れるって感じで来てるけどねぇ」

 フェイトは何かしらの目的があるんだろうけど、高町さんはただの人助けだ。そこまで……助けられてるユーノが引くくらいにまでする必要はない……ないんだ。

「はーあ……どーするー? めんどーだから帰りたいんだけどー」

「……こんなのがホントにフェイトを追いつめたのかねぇ……?」

 呆れたように女性が吐く。できない人に言われたくない言葉ランキングに乗りそうな言葉だ。

「あの二人くらいなら今すぐ止められるけど?」

「へぇ? ホントかい? できないから帰りたいとか言ってんじゃないのかい?」

「……挑発かな?」

「さぁ、どうだろね? まぁこのままならフェイトが全部持ってって終わりだけどねぇ。止める力がありながらみすみす敵を逃したとなれば、管理局は黙ってないんじゃないかい?」

「む……確かに一理ある。別に管理局に入る気もないしどうって事ないけどいちいち追われるのも面倒だ……しょうがない」

 どうせこうなるのは分かってた。

 私が止めるか、互いにズタボロになって、恐らくフェイトが競り勝って逃げる。このどちらか。そして私が来てしまった以上、後者は私の罪になり得る。

 さて……まずどうするか……竜巻は強いけど二人は無視できてるから放っておいて、竜巻を止めに行こう。

「じゃあジュエルシード取ってくるから、待ってなよ」

 取り敢えず刀を抜いて歩いていく。

 二人の魔法がカスろうとも、竜巻に飛ばされた海水や瓦礫が皮膚を裂こうとも。

 私は無造作にジュエルシードへと歩いていく。

 ジュエルシードの場所はユーノに聞いた。無数の竜巻、実に六つ。その全てに一つずつ。

 何も問題は無い。私の能力を持ってして、竜巻を恐れる必要なんてカケラも無い。

「まず、一つ……」

 能力に固定された空気は私の体を覆い、私の体の動きに合わせて変化する。それは車の窓に雨が降るようなもので、轟音がするだけで体のどこにも支障は無い。

 竜巻に完全に体を収めると、その中心となっているジュエルシードに手を伸ばす。

 海水を空まで巻き上げる魔力エネルギーは凄まじく、なるほど超常現象に相応しい力だ。

 それを踏まえて、素手で触れる。私の能力は魔力を通さないから、素手で直接流し込み鎮静化させる。魔法じゃないよ、魔力だから。

「ウタネちゃん⁉︎」

 竜巻の一つを消すと高町さんに気付かれた。というより始めて注視されたというべきかな。まだフェイトの方が強いだろうに。

「あなた達は自由にしてていいよ。ジュエルシードは私が回収する」

「違う! その手! 酷い怪我だよ⁉︎」

「ん……そうだね」

 魔力のダメージで血が流れてたのは知ってたけど、全部終わってから固定しようと見てすらなかった……

 掴んだ右手指4本、それぞれ数カ所の切り傷、爪の割れ、流れる血……ここまで酷いとね、ため息出るわ。まだ五つあるのに。

「全く、管理局の……黒いの。自分で出るとか言いながら何してるのやら」

 二つ目。今度は走って向かう。傷は塞げるけど流れた血やらは戻せない。急がないと動かなくなる。

 右手指3本。血は服を染め上げる程に流れている。

 右手指2本。掴んだジュエルシードを仕舞おうと左手で触れたら指が落ちた。

 やっぱ無理か? 

「あ……」

 肘から先が……落ちた。



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第20話 距離感

ーー泥だらけの夕陽は、とても楽しく、空虚なものだった。


 腕が、肘から、落ちた。

「はぁ……」

「ウタネちゃん⁉︎」

「左はフェイトに肩から落とされるわ右を紫電で肘から落とされるわ、私の右腕の切れ者具合は健在かー……」

「呑気過ぎる⁉︎」

 んー……切れるねぇ……切れてるねぇ……

「フェイト……拾って」

 流石に海水に触れるのはマズい……全く触れなくする事はできても、触れた後消毒するなんてできない。それに、この場で繋がないと誤魔化すのが難しくなる。

「フェイト! 拾って! 海に落ちる前に!」

「っ! バルディッシュ!」

 フェイトが高町さんを放って高速で移動する。その速度は十分に落下速度を超え、私の腕を掴む。

「ありがとう」

「いいけど……大丈夫?」

「うん。前にも言ったけどこのくらいなら全然平気」

 痛いけどね。痛覚遮断とかしたい。

「その……今のは……あの」

「いいよ、そっちのでしょ。前もアレが無かったら貴女が死んでた。それでおあいこ? にしよう?」

「え……うん……」

 さて……意識が薄い……まぁいいや。なんだっけ。そうだ、指だ。指は落ちるの分かってたから能力で保護してるし……事が済むまで沈んでて貰おう。

 で、ジュエルシードか。残り五つ。

「じゃ、ゴメンけどさっきの続きしてていいよ。私はジュエルシードを取る」

「できるわけないでしょ⁉︎」

 高町さんに羽交い締めされ、いとも簡単に止められてしまう。素の力だとこんなに差があるのか……

「もう私がやる! アルフ!」

「いいのかい⁉︎」

「もう意地を通してる場合じゃない!」

「あいよ!」

 それを見たフェイトが事態の早期収束を目指し回収に向かう。

 とはいえ魔力を帯びた竜巻は、それを無視して戦闘できてもそれ自体に突っ込むのは困難。ただの魔力装甲では下手をすれば、あの黒い子の言っていた様な事が今ここで起こる。

「高町さん、管理局からの連絡は?」

「まだ無いの。こっちに来てから繋がらなくて……」

 なら通信阻害か、管理局が嘘を言っていたか。

 どちらにせよどうでもいいけど、黒い子の言う通りになるのも好ましくない。

「じゃあ高町さんはフェイトと協力。今2つこっちが貰ってるから、最悪残りは上げていい」

「えっ⁉︎」

 私が取ったジュエルシードを封印しながら驚く高町さん。

「最後には総取りする。一旦渡すだけだよ」

 真の敵はフェイトじゃない。私を散々邪魔した奴。ソイツの顔を見てからだ。

 というかどの道、フェイトを倒したりこっちに引き入れたとしてもソイツが出てくる。今までフェイトが集めたジュエルシードはソイツが持ってるだろうから、結局ソイツと対面する。ならもう少し情報を集める時間を確保できるようにした方が良い。

「さて、私の役目は終わりかな。ユーノ、管理局が来ても秘密にしといてね」

「秘密? 何を……ちょっ⁉︎どうする気だい⁉︎」

「最終手段。悪用はしないよ、ただ管理局もまだ信用してないから、念のため」

「う、うん。わかった。ただそれは本当に危険なものだから、扱いは気をつけて」

 動揺はしたものの表面的には取り繕うユーノ。管理局が見てるかもというのを思い出してくれてよかったよ。最も、聞かれてても問題は無い、というよりそっちの方が良い。敵にも味方にもなれる距離感を維持しやすくなる。

「分かってる。ありがとう。それじゃ、また」

 気付かれないよう海から指をゆっくり這わせ、人目の付かないところまで移動させる。それを追うように帰っていけばバレずに付け直せる。




生きる事自体に価値は無いけれど、他人との関わりの中で価値を見つけ、教えてあげる事もできるかもしれない。


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第21話 作戦

会話が多いと地の文減るのだけど……難しい


 ロストロギア、ジュエルシード。

 青い宝石にローマ数字を描いただけのように見えるコレは、願うものの願いを叶える力を持つという。

 その力を制御できないものは願いを暴走させ、誤った叶え方であったりを実現する。それは魔法を持つ高町さんやフェイトさえ苦戦させる程の力だ。

「こんなものがねぇ……」

 そんな危険物を、私はベッドで片手に眺めている。

 触った感じも何もなく、本当に見たままのもの。変に重いだとか魔力を垂れ流してるだとかは一切無い。

 以前、というか今日あの海から貰ってきたジュエルシード。ナンバーは11。

 適当にご飯が食べたいだのと願っては見たものの一切動きは無く、早々にこの未知なる物質への興味が無くなりつつある。フェイトが強制発動させたと聞いたけどどうしたんだろう……そんなに膨大な欲望を持ってるとは思えないんだよね、フェイトって。

「あー、つまんない。魔法だの吸血鬼だの色々あるくせにさ。なんか面白い事しないのかね……別に私を巻き込めってんじゃなくて、見せ物みたいな……」

 外から見る人の世界は面白いのに……今こうして退屈な時間を過ごしてる。願ってる間が幸福だって聞いた事もあるけど、それを受け入れてしまってもいいくらいにはつまらない。

「あー、このまま死ぬまで寝てようかなー」

「そうだな。それさえ渡してくれれば寝てればいい」

 世界に向けた愚痴のつもりが、答えが返ってきてしまった。

「……は?」

「……ごめん、流石に管理局を敵にはできなかった……」

「ユーノ、それは仕方ない。それ自体は気に病む事じゃない。問題は、なんで私の家に無断で上がり込んで来てるのかって事だ」

 黒い子にバインドされたユーノと高町さんが部屋の入り口に連れられている。

 黒いのは既に私のベッドのすぐ近くまで来ていた。

「ジュエルシード程のものであれば観測自体は簡単にできる。なのはかフェイトのものになったのであれば別段問題は無かったが、それがどちらでもないとなれば当然動くさ」

「は、せっかくの駒のピンチにすら動かない組織が偉そうに。あの時分かった風に喚いてたのは演技だったの?」

「……言い訳をすればジュエルシードの複数同時起動が想定外だったことや敵からの妨害が予想より手強かったことだが、それについてはどう思って貰っても構わない。結果的には君たちを騙す事になってしまったのだからな。だが、君がそれを持ち出すこともこちらの敵意を買う事に繋がると考えなかったのか?」

 やはり動けなかったのか。管理局相手にそうするだけの力がフェイト……のバックにある。それを超えるのは高町さんでは不可能だ。

「……私が行かなければ、少なくとも高町さんは以前あなたの言った通りになっていたし、下手をすればフェイトもそうだった。だから、最終的にはそっちに渡すんだから貸しておいて、というのは通用しないのよね。つまらない」

「そうだな。なのは達の身の安全については感謝する。だからと言ってそれを許すこともできない」

「お堅いね。私も一応高町さんと同じ扱いなんでしょう? ルールに違反してはないと思うけども。臨機応変にいこうよ」

「それはこちらに許可を得てからの話だ。臨機応変とルール違反は違う。分かったらそれを渡せ。下手に封印せず願いを叶えたらどうするんだ」

「それなのよね、私も帰ってきてからずっと何かしら願ってみてるけど一切動きが無い。つまんないし、この疑問に答えが返ってくれば高町さんに渡すわ」

「……なんだと?」

 毅然としたクロノの表情が崩れる。

「ねーユーノ。これ封印してないよね?」

「う、うん。今の僕じゃ封印できないし、ウタネも無理だ。なのはもフェイトもそれに触ってないんだから、そもそもしようがない」

 封印していないということはただその機能を持つだけだ。つまり今まで通り、願いを叶える力をそのままに。

 なのに、私が何を願っても動かない。流石にこれは解決しておくべき問題だろう。今後のためにも。

「だからさ、この謎を解けばより一歩進めると思うのよ」

「何の一歩だ?」

「……ロストロギアの……解明?」

「質問に質問で返すな。だが……まぁいい。先の件もあって許可が下りた。今回限り、それ限りだ。それ一つだけを今回限りで所持する事を許可する」

「ほんと!」

 仕方ない、とばかりの態度だったが公的に認められた発言。これで自由に持ち歩ける。

「ただし! ここからが重要だ、よく聞けよ。万が一そのジュエルシードを発動させたり、破損、紛失、フェイトに奪われるなどがあった場合」

 人差し指を立て、そこで一度言葉を切る黒いの。

「ばあい?」

「君が全責任を負って裁判に負ける」

「負けるとこまで確定かー……厳しいなぁ……」

「そうなれば君に安息の地は無い。例え管理外世界であっても逃げられはしないだろう」

「うーん……」

 正直な話、魔法について殆ど実感のない私には高町さんとフェイトの魔法がイメージのほぼ全て。管理局がその魔法で、威力が高いだけなら私は負けない。なんなら今まで通りの生活すら可能にできる。

 かといってそうなってもいいという訳でも無い。私にとって何ともなくても、業を煮やした管理局が高町さんに矛を向けるかもしれない。解決はできるけどひたすらに面倒くさい。

「まぁいいや、高町さん、そうなってもいい?」

「えっ? あ、うん……よくわかんないけど」

「じゃあそれで。管理局も大変だね」

 決してこちらも楽なわけではないが、皮肉。

「わかった。くれぐれも注意してくれ。ちなみに僕が来てからの流れは全て録音、録画されている。言い逃れはできないからな」

「ちょっ、そういうのは事前に断るんじゃないの?」

 仮にも女の部屋だぞ。仮にもだけども。

「裁判の日程だが……」

「わかった、オーケー。ただ次からはお願い」

 管理局、割といい性格をしてるかもしれない。

「冗談だ。君が完全に協力してくれると言ってくれればこちらも相応の態度を持つさ……生憎味方以外には厳しくてね。そして、君にもそろそろ覚悟して貰おう。向こうとこちらでジュエルシードが揃いつつある。ジュエルシードの数が確定する近いうち敵……プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサへの攻撃作戦を行う。その際君にも来てもらう。これは強制だ」

「プレシア?」

「元管理局の魔導師だ。研究職もしていた優秀な魔導師だよ。何が理由でこんな事をしてるのかはまだ分からないが、フェイトの本名や紫の魔法での次元跳躍からすぐに引っかかった。最大魔力は記録だけでSS、ハンパで挑んでも即消し炭になる」

「えーと……まだよく分かってないんだけど、魔力量の目安は……」

 確か魔力の保有量と、実戦での2種類のランクがあったよね? 保有量はそのままの意味で、実戦は保有量が少なくても上手さだとかで上がるとか。大抵ランクは変わらないらしいけども。

「うん、僕は今色々忙しくてはっきり分からないが……AAAか AAA+あたりか。君の身近ななのはやフェイトがAかAA程度だろう」

「で、単純に何倍くらい?」

「Aまでと違い、S以上は幅がとても広い。数倍以上の差があると覚悟した方がいいな」

「……作戦内容は?」

「こちらとしてもまだプレシアの目的が分からない。ジュエルシードを集めるだけではなく、その先があると考えて間違い無いとは思うが……それを確かめる為に、プレシアの拠点へ向かう」

「無謀だ……と笑ったら?」

 ライオンにネコが数匹で挑むことだと説明した割に鉄砲玉な作戦。足元もおぼつかない状態じゃあ目的を探るなんてとても不可能だ。

「今君を騙せた事が無謀でないという証明になる」

「は?」

「ふふ……僕たちは囮にもなるのさ。もちろん、死ぬわけにはいかないがな。僕たちが捜索する風に突入し、事実目的を探す。見つかればそれでいいし、フェイトやプレシアに攻撃されれば調査そっちのけで防戦し、時間を稼ぐ。その間にエイミィ……アースラから転移ルートを確立し、魔力を伴わない映像機械を大量にバラまく」

「ふーん……質問。二つ……三つ、いい?」

「ああ。疑問は解消しておくに越したことはない」

「じゃあ。その映像機械ってのは?」

「単純なものだが、地球でも売ってる様なカメラとラジコンだよ。本当に録画だけするロケットさ」

「……そんなの、すぐ落とされるでしょ」

 見た感じ、設置型の自動迎撃とかもできる魔法だってありそうなのにそんなのが役に立つとは思えない。

「ああ。十や百じゃすぐだろうな」

「そりゃそう……んん⁉︎百⁉︎」

「取り敢えずあるだけやったから……数万はある。これを繋げたルート複数から同時に流す。いくら膨大な魔力とはいえこれだけを落とすなら本拠地に絶大なダメージが入る。止めることは不可能だ」

 黒いのが開いたモニターにはGもかくやと言わんばかりの機械の山。敵の戦力が分からないから対処不能なレベルに持ってくのはいいけど……犯罪者それぞれに毎回こんな事してんの? 人材不足ってそういうのが理由じゃない? 

「わかった……なんかすごい疲れた。魔導師は機械も使うのね」

「ん? どういうことだ?」

「んーん。やっぱり私の知ってる魔術師とは違うなって。質問ももういいや」

 彼らは決して、文明に頼ることはしなかった。例外はいたけど、それは魔術師の資質がある『人』だった。この管理局の様に人類と共存する道は、あり得たはずなのに。

「まぁいい……それではこれで失礼する。君はこのままだが……なのはとユーノはどうする?」

「私もここでいいの。家もそんなに遠くないし」

「じゃあ僕もそれで。どうせ付いて行くしね」

「分かった。全員ここで解散だ。帰りにフェイトに襲われるなよ」

「分かってるの。大丈夫」

 高町さんの返答を聞くと拘束を解き、すぐさま光に消えた。

 私と高町さんも特に何も話さず、高町さんとユーノを家から送り出した。

 プレシア・テスタロッサ、と黒いのは言った。フェイトがその子であるなら、目的を聞き出せるかもしれない。

「……バカバカしい」

 私はあくまで不干渉。必要に迫られるか面白くない場合以外は関わらない。義務や責任なんかで動くのは面倒極まりない。

 窓から高町さんが見えなくなったあたりで、私は意識をベッドに沈めた。




クロノの言う機械はハンディカメラに四輪付けた様なものと思って下さい。特にモデルがあるわけでもないので……


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第22話 取引

「いいか! 相手はただの次元犯罪者ではない! 管理局を知り尽くしている上、こちらの総戦力を単独で上回る相手だ! 連携を乱さず、やる事だけに集中しろ!」

「「「はい!」」」

「はい!」

「はーい……」

 アースラにて作戦の確認と発破をかけるクロノに対し、勢いよく返事をする私以外の人たち。

 なんやかんやあって『その時』が来たようで、プレシア・テスタロッサの目的を探る突撃作戦が決定した。ジュエルシードはもう両陣営と私が持ってるので揃ってるらしい。

 フェイトとの交戦はあの海以来無く、互いに不明のままこの調査に至るそうだ。

「ウタネちゃん、頑張ろう!」

「うん……」

「断ったら犯罪者確定の状況で連れてこられても乗り気じゃないだろうけど……僕からもお願いする」

「うん……」

 ジュエルシードを興味本位で借りる代わりに、それを発動、損失などの他、管理局の招集に応じない場合はこの件の全責任を負い裁判に負ける事が確定している。そんな状況で乗り気な奴の気が知れない。

「では現場班はこちらへ、各職員は配置へ。これよりプレシア・テスタロッサの本拠地、時の庭園へ転移、作戦を開始する」

「時の庭園?」

 なにそれ。初めて聞いた。

「説明し……てないな。君を呼んだのはその後だった。元々はミッドチルダにあった遺跡のようなもので、現在は移動要塞のようなものになっている」

「ようなもののようなものね」

 はっきりしろ。

「厳密に話すと長くなるからな。そんな感じのものと思ってくれ。もういいな? 目的の調査と言ったが、プレシアとフェイトを確保できるならそのまましてくれて構わない」

「一応小手調べで、倒せるならそれも有り。なるほど、負けそうな気もする」

「正面から勝とうとは思ってない。できればの話だ」

「おっけー」

 戦力差はアースラ<プレシア。フェイトは高町さんと同じくらいだからそれらを除いたとしても……プレシア本人が出てきた方が圧倒的なはずだ。こちらの策を上回れなかったとしても力押しできるだけの能力はあるらしいのに……

「行くぞ。転移術式は渡したプログラムしてある。このアースラの魔力室のみという限定的な魔法の為、微かでも魔力があれば発動は可能であり、例え結界であろうと阻害されない。絶対に、死ぬな。少しでもマズイと思えば退け。一撃で帰還しても我々は決して咎めないし、否定しない。恥や義務感を感じるな」

「「はい」」

「目的を見つけるって作戦で即撤退も許可か……お人好しは違うねぇ」

「ウタネちゃん!」

「分かってるよ。君たちが死んだらフェイトやプレシアへの決定打が無くなる。ジュエルシードがあるうちは機会があるから、時間をかけても成功させたい……そんなとこでしょ」

「……何が言いたい」

 何度目かわからない黒いのからの視線。

「別に。目的は達成する。安全も考慮する。両方やらなくちゃいけないのは大変だなと思って」

 私なら安全を度外視して確実に突破する。根本的に今回は戦力差が戦力差だからしょうがないんだけども。

「更に安全な策があればそうするさ……現状、これが最善だ」

「ごめんって。ところで、撤退魔法なんだけど、私は」

「君は誰かと一緒にするしかないな。取り残された場合は可能であれば回収に向かうが、無理だったらすまない」

「安全ってなんだろうね」

「なら正式に協力すると言葉にすればいい」

「なんとかしようか。仕方ない」

 局員にしか優しくない正義機関だ。しかも庇護を受けたければ入れとか宗教に近いものを感じる。

「文句は終わりか?」

「うん」

「じゃあ行くぞ。上手くいけば最終決戦だ」

「……へぇ」

 まさか考えを変えるなんてね。

 薄い青の魔力陣の光に呑まれ、景色が一変する。

「たしかに遺跡……のようなものだね。遺跡丸々切り取ってるのか……」

「取り敢えず動力室に向か……ウタネ! 上だ!」

「っ!」

 黒いのに言われる前に察知して、回避可能ギリギリ、相手の軌道修正不可ギリギリまで引きつけ、カンで安全と思った方へ飛ぶ。

「ふ、魔法が使えないとはいえ私に不意打ちは通用しないんだなぁ」

「作戦には引っかかってるけどね」

「そーなんだよねぇ……私だけだとなんとも」

 飛んで起き上がるとフェイトの呆れた声と共に首筋にバルディッシュが置かれていた。フェイトの使い魔……アルフ? の突撃を囮に私を囮に取る作戦だったらしい。

「ウタネちゃん!」

「おっと! 動くとあの子の首が飛ぶよ!」

「っ……」

 アルフが3人を牽制する。

「さ、あの子を解放したければジュエルシードを全部出しな。他は受け付けないよ」

「く……」

「なのは、絶対に出すな。これは命令だ」

「クロノくん⁉︎」

「ジュエルシードを渡してウタネが助かるとは限らない……」

「でも!」

 黒いのは判断に迷い、高町さんはすぐにでもジュエルシードを渡そうと、ユーノは……よくわからない。

「おっと、あの子を犠牲に私たちと戦っても無駄だよ。もうあの鬼婆が支度を終えてるだろうからね。結局助かりはしないさ」

 〈黒いの、聞こえてる? 〉

 圧倒的有利を持ってもアルフに油断は無い。ただ、こちらが撤退するかジュエルシードを渡すだろうと考えていそうでもある。

 〈クロノだ。どうする? 〉

 〈1つだけ策がある。成功するかはあなた達の力によるけど〉

 〈聞かせてくれ〉

 〈………………で、…………に…………を……〉

 〈っ! バカを言うな! できるわけないだろう! 〉

 無茶は承知。しかしこの状況、突破しなければ勝ちはない。



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第23話 決裂

「フェイト・テスタロッサ。ウタネを放し、管理局に投降しろ。今ならまだ軽い刑で済む」

 作戦は伝えた。これが失敗すれば私は死ぬ。

 成功すれば全員助かる。失敗すれば……最悪、全員死ぬ。

「……できません」

「するわけないだろ⁉︎」

 クロノの問いには即座に否定。これは予想通り。

「でなければ我々はプレシア・テスタロッサを確保し裁判にかける事になる」

「はっ! そうかい! 今! この状況で! どうするってんだい!」

「なのは」

「レイジングハート!」

 高町さんがレイジングハートを構え、魔力収束を開始する。

「ちょっ! 何やってんだい⁉︎今すぐやめな!」

「さもないとウタネの首が飛ぶ、か?」

「わかってんなら今すぐやめな!」

「お断りだ」

「っ! 分からず屋さね! フェイト!」

「……! でも……」

 引きこもり犯みたいな挙動のアルフに対し、未だ人を殺す事に抵抗があるらしいフェイト。

 ……まだ予想通り。

「もうやるしか無いんだよ!」

「いいよ、フェイト。あなたはやらなくて。私が勝手に死ぬから」

 ここが作戦の要。いつも思っていた事。それを実現する時が今。だけれども。やはり少し躊躇する。世界が嫌で消えたかったけど、いざそれを前にすると未来を想像する。

 ……でも、私を止める存在はいない。死ぬなら今だ。

「南無三っ!」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「南無三っ!」

 叫びと共に白髪の少女は金の鎌へ命を差し出す。

 高ランク魔導師のデバイスは生身の人間の骨すら易々と切断し、豆腐に包丁を通すような滑らかさを持ってその肉体を分離させた。

「っ〜〜⁉︎」

 金髪の少女が絶句する。

 その使い魔も動揺を隠し切れない。

 それが少女の作戦の内とも知らず。

「今だ! ユーノ!」

 桃色の魔力球の裏で遺跡広場全体に魔法を組み上げていたユーノ・スクライアは、金髪の少女と使い魔を一瞬にして拘束した。

「よし!」

「しまった!」

「なのは! ユーノ! 走れ!」

 拘束を確認すると魔力砲のチャージもそれで切り上げ、すぐさま首を落とした少女へ走り出す。

「後5秒! ユーノ、準備はいいか!」

「勿論だ!」

 クロノが少女の首と体を保持、ユーノはそれを治癒魔法で接続する。

 しかし通常、その程度で死んだ人間は戻らない。死者の蘇生は禁忌であり、実現不可能とされている。いかなる魔法でも不可能で、できたとしても決して表に出る事はない。

 しかしその少女は特例中の特例。魔法とは異なる能力を持ち、その能力は本人が解除しない限り本人が死んでも消える事はない。

「……はっ! 死んだ⁉︎」

「いいや、間に合ったようだ」

「よかった〜」

「全く……なんて作戦だ……」

「まぁまぁ。やってくれると思ってたよ」

 死の淵からの生還であるにもかかわらず、へら、と笑いを零す少女。

 その作戦とは、少女自らが首を刎ね、動揺を誘った隙になのはの収束で意識を外したユーノがバインド、少女が完全に死ぬ前に治癒魔法で存命させるというもの。

 それを可能としたのが少女の能力。本人の意識が無くとも動作する点に賭けた一か八かの勝負だった。

「まじかー……」

「よかった……」

 バインドされたままにもかかわらずもがくわけでもなく感想を漏らす二人。

「さて、余分にバインドしとくかな。暴れても無意味だぞ」

 この僅か数秒の間に人質を奪還し敵を完全に拘束するという逆転劇となった。

「プレシア・テスタロッサ! 見てるんだろ! この通りだ、出てこい!」

 これ以上は無いと踏んだのか、当初の敵の目的を探すという作戦から、プレシア・テスタロッサの打倒……ジュエルシードを巡る事件の収束へと切り替えていた。

『呆れるわ……呆れ果てて言葉も無いわ。だけどさっきの……その子の魔法には興味があるわ』

 幻惑か、あらゆる方向からブレた音質が広場に響く。

「私を拝むことを光栄に思いなさい。そして、そのまま死になさい」

 遺跡へ続く階段の上から、足音を隠す事なく現れる紫の長髪の女性。姿を現わすと共に、音質は通常のそれに変わる。

「っ! それ以上動くな! 先程の逆! こちらに人質がいるんだぞ!」

「だからなんだと言うのかしら」

「なっ……!」

 道端でアリを踏んだ事を咎められたくらい理解不能だと、全く意に介す必要が無いという反応に、クロノも予想外だったのか言葉に詰まる。

 つまりそれは、プレシアがフェイトやアルフを道具としてしか……このような状況では即座に見切りをつけるような、使い捨ての道具としてしか見ていなかったという事。

「フェイトは良くやったわ。半分近いジュエルシードを集めてくれたのだもの。そしてそれを掠め取っているネズミも誘き寄せてくれた……もう十分よ」

「……!」

「助けてあげられればそうしたいけど、バインドを解く前にネズミは逃げてしまう。でも辺り一帯を焼き焦がすだけなら、転移魔法より早く終わるわ」

「目的は何? そうまでしてジュエルシードを狙う理由は?」

 ウタネは刀を出し、牽制とばかりに問う。

「あら、まだ話す気かしら。でもいいわ、どうしようもない命乞い、延命には付き合ってあげましょう。そうね……目的は1つだけ。娘を蘇らせる事、それだけね」

「娘……? フェイトがそうじゃなくて?」

「断じて違うわ。フェイトは私の娘の代用品……所詮、偽物よ」

「クローンってヤツかな。複数の同じ人間を生成する……」

「そう。話が早いのね。さっきは魔法と言ったけど、あなたの力、実に興味があるわ。あなたが望むなら私の実験台として生かしてあげる。どうかしら」

「フェイトに向けて、何か言うことは?」

「あら……謝罪が必要かしら。でも最後だから言ってあげるわ。フェイト、私はね……あなたが生まれた時から、あなたの事が大嫌いだったのよ!」

 階段を下りながら高らかに宣言するプレシア。その顔はとても嬉しそうに見える。

「……、……」

 フェイトは言葉を紡げないまま意識を手放した。

「フェイトッ! この鬼婆! この子は今まで必死にあんたに尽くしてきたのに!」

「ええ、本当によくやってくれたわ。これで全てのジュエルシードを手にできる。さっきも言ったけど、役目としては十分……そろそろ終わりよ」

「ちょっと待って。私の勧誘は?」

「……そうね、返事を聞いていなかったわ。どうかしら、今下手に死ぬより有意義だと思うけど。地球の日本だと……握手、かしら? これで合意としましょう」

 プレシアが階段の下に向けて右手を差し出す。無論デバイスを構える事なく自然体で。

「詳しいね。なるほど、握手……じゃあ」

「ウタネちゃん⁉︎」

「アンタ! 乗っちゃダメだ! 死ぬまで良いように使われるよ⁉︎フェイトの状況が分かんないのかい⁉︎」

 薄い笑いと共に階段を上っていくウタネに対し、静止を促す驚きの声をかけるなのはとアルフ。

 ウタネはそれを無視し、軽やかに階段を上る。

「ふふ……誰しも死は怖いもの。死ぬよりはいいでしょう?」

「そうだね……カクテルクラッシュ!」

「っ! これは……水⁉︎」

「クロノ! 転送! フェイトとアルフも!」

 握手と見せかけプレシアの顔の前を下から通過した右手。

 何も無いように見えるが、プレシアは間違いなく怯んだ。

「しかし……!」

「正義の機関だろ! 民間協力者の1人くらい見捨てて行け!」

「っ……! すまん!」

 数瞬の躊躇の後、階段上のプレシアとウタネを時の庭園に残す結果となった。

「……やってくれたわね」

「私を利用しようとしたんだ、悲願の邪魔くらいじゃ足りないな」

 それを確認すると、互いに一言睨み合う。

「いいわ、なら貴女には死という絶望をあげる」

「その前に、聞いていいかな」

「時間稼ぎはもう無駄よ」

「ううん、純粋な疑問なんだ。さっきの会話や私の魔法に興味があるって言ってたよね。あんな歪んだ願望機で何をするの?」

「……」

「願望を叶える、という点に関してアレ以上のものは少ないだろうけどあるはずだ。娘を蘇らせるにしてもその体が吹き飛ぶかもしれない」

「構わないわ。あの子……アリシアが蘇ると言うのなら、この世のあらゆる苦痛を負っても構わない」

 娘の話題となると言葉は自然と溢れ、その瞳は確固たる意志を持っている。

「……そう。分かった。じゃあ……フェイトのどこが不満?」

「全てよ」

「違うね。あなたはフェイトのそれにトラウマを感じてるだけだ。何かしら過去の……そのアリシアを失った原因にフェイトのそれがあるはず。心当たりはない?」

「……ないわ、あるはずがない。それに何のつもり? 死ぬ前に偉そうにアドバイスというわけ?」

 心当たりの答えは出ない。それを口にしてはいけないと耐える様に目を伏せた。

「別に。ただの親切だよ。私はフェイトが気に入ってる。近年稀に見る綺麗な目だ。そのフェイトがあなたと仲良くしたがってる。原因は明らかにあなたの心だ。その元を辿ればフェイトへの嫌悪感は消えなくとも薄くなり、娘のクローンじゃなく妹と見てあげられるはずだよ」

「殺すわ。あなたも、フェイトも! 管理局も! 結果を急くだけの能無し共! 自分さえ良ければ他は気にもかけないゴミクズ共! 権力だけの機関が! ただ一人の子どもさえ救えないなまくらの倉庫! 踏ん反り返る無能に優秀な者が跪く! そんな不条理は生かしておけないわ!」

 広場を、階段を、遺跡を、紫の電気が覆い尽くす。プレシアとウタネの周りには至らないが……プレシアの狙いである事は確実だ。

「そうだね。そんな社会は滅ぼすべきだ。ただ、その社会で生きていくとはそういう事だ。全ては権力。そういう社会なら力や頭脳より権力だ。力も頭脳もあるあなたが外れたのはあなたが適応できなかったから。それは社会で生きていけない、最下層という事」

「そんな堕落……できるはずがない!」

「だよね。私も同じ。できないことができる、それは崇拝されるべき、というのが私たちの共通の価値観だ。でも世界は違う。世界はそれを拒絶する。恐れたり、ひがんだり、妬んだり……分かるよ」

「だから何⁉︎早く焼いて欲しいのかしら!」

「私と手を組まない?」

「……は?」

 ヒートアップしていたプレシアが、開いた口も塞がらないとばかりに抜けた声を漏らす。

「ジュエルシード。私が1つ持ってる。世界を壊す条件付きなら、あげる」

「……管理局の罠と疑うとは思わないの? そんなあからさまな」

「いやぁ、まさか。私は管理局に協力するなんて言ってないから。たまたま巻き込まれて、追い込まれたから来ただけ。乗るも降りるもどっちでもいいよ。選択権はあなたにある」

「お断りよ。そんな戯言の為に無駄な時間を……消えなさい」

「残念。じゃあ私は帰るよ」

「この状況で帰れるのかしら。管理局から助けは来ない、あなたは魔法が使えない……でしょう?」

「なんだ、バレてたの。それでも……帰るよ、今の私なら簡易化された限定魔法くらいなら起動できる」

 ウタネの足元に魔法陣が描かれる。適性がないウタネには本来あり得ない現象だ。しかし、特典として所有している皇帝特権は短期間ではあるがそれを可能にする。

「バイバイ。今度会ったらよろしくね」

 白の魔法陣に消えるウタネを、プレシアは恨めしそうに睨むだけだった。



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第25話 尋問

インテリジェントデバイスの会話は全て日本語にします。英語はともかくドイツ語?はサッパリなので


「……話せ」

「……」

 数秒、沈黙。

「……早く話せ」

「……」

 更に、数秒。

 たった二人しかいない空間で、話しているのは一人だけ。

「おい、至って真面目な、そして重要な話だ。話せ。素直に話せば今でも遅くない」

 耐えられなくなったのか、無駄な時間を過ごしたくないのか、ついに説得に来たクロノ。それでも私の

「……全てを牛耳る絶対機関だ。執務官との一対一ならなおのこと、あげ足だなんだを気にするのは普通だと思う」

 警察のみを相手にしても一般人は無力なのに管理局相手にどう弁論しても無駄だ。黙秘しか道は無い。

「はぁ……くそ、やめだ。エイミィ」

「はい。ウタネちゃんも飲む? コーヒーだけど」

 クロノが声をかけるとエイミィが颯爽と現れる。

「……毒は」

「ぷっ! 入ってないよ! この尋問だってクロノくんが申し出たんだよ? ウタネは味方だって」

 エイミィはこの空気が見世物であるかのように笑いながら椅子に座り、コーヒーを飲む。

「おい!」

「怒らないの。クロノが正直に話さないとウタネちゃんも正直に話してくれないよ?」

「……クロノ、どういうつもり?」

 クロノとエイミィの態度が正反対で要領を得ない。どうも私を罪に問わない為だとかなんとか。

「ウタネちゃんがプレシア・テスタロッサと二人だけで残った後、音声は拾えなかったけどモニターで映像だけは記録はできてたんだ。で、しばらく話した後モニターが潰されて、ウタネちゃんが使えない筈の転移魔法で戻ってきた……普通に考えたら、ウタネちゃんがプレシア・テスタロッサと手を組んでスパイとして戻してもらったってとこじゃない?」

「ふーん……なるほど」

「だからさ、裁判っていう絶対的な脅しを持つクロノなら真実を暴けるって艦長達を説得したの」

「それはどうも……? 脅し?」

「あ、そうだよー。裁判なんてしないよ。破損とかしたら謹慎とかにはなるけどちゃんとした許可なんだから裁判で負けとか重い罰にはならないよ」

「へぇ……クロノ……良い度胸だ……」

「ま、待て! そうしないとお前は何するかわかったもんじゃないから……!」

「初見の時みたいに真っ二つに割いてやろうか……」

「……!」

 クロノの顔から目に見えて血の気が引く。まぁ普通はそうだよね。

「あ、それなんだけど。あの時は当然こっちでも見てたんだけど、どうやってくっつけたの? ユーノ君の治癒魔法にしては距離が離れ過ぎてたけど。というより手遅れだったけど」

「……それは、正直なところ答えかねる」

 私の能力……と言いたいけど、これは説明に時間がかかる上面倒だし、私自身実態が分かってない。使えるから使える、分かるから分かる、という次元だ。魔法みたいに理解して運用できるから使えるなんてものじゃない。

「いいやダメだ、話せ。自分の身に起きた事は知っておきたいし、管理局へのアンチテーゼなら考えを改める必要がある」

「味方なんじゃなかったの?」

 ダメか……こういう時にどうすればいいか……私は知らない。

「信用したいんだ。信じてるから聞かない、というヌルい話の通る世界じゃない。実際に見たら信用する世界だ。おままごとじゃない……しかし、正直な話、お前が言ったとはいえお前だけ残して撤退というのも、したくなかった」

「理想論だけじゃないのね。すこし見直した」

「そうかい。じゃあ話せ。そうすればプレシアといた間の事は何も無かったと処理してやる」

「……自分の命が助かった理由で管理局が崩壊するかもしれない謎を放置するの? ヌルいんじゃない?」

「じゃあどうされたいんだ! 僕は君が何もしてないと信じている! 君の能力も教えてくれれば信用できる! 管理局は、マイナスを全て潰していくだけの組織じゃないんだぞ!」

 む、その時その時の受け答えは矛盾してたみたいだ。話の組み立てって苦手なんだよね。いろんなの並行してやるタイプだから。

「……わかった」

「じゃあ」

「この件が終われば話す。これは正直ブッとんでる話だ。プレシアに集中した方がいい」

「……エイミィ、どう思う」

「さぁ? 話してくれるって言ってるんだし、それこそ話さなかったら裁判?」

「……はぁ、まあいいだろう。プレシアとは何もなく、魔法も僕の使った魔法陣に魔力を流してたまたま発動した事にしておいてやる。ただしこの事件が終わったら必ず話せ」

「わかった。覚悟しとく。あとヒントだけあげる。集中できなくなるかもだけど前金代わりにはなるでしょ」

「……言ってみろ」

「前切れたところ、もう一度誰かに切ってもらうといいよ」

 今は事件を収めるのが優先だ。社会的に死ぬ訳にはいかない。

「なら少し休んでおけ。二時間後、プレシアに再度襲撃を仕掛ける。フェイトとアルフを失ったプレシア相手なら時間稼ぎも可能なはずだ」

「そんなにすぐ?」

「フェイトもアルフも消耗して動けない。余計な邪魔が無くこちらの消耗も無いのは今しかない」

「フェイトは説得できる。管理局がプレシアの拘束を目的にするなら、プレシアを殺さないなら協力できるはずだ。その方が戦力は高い」

 さっきのまま、私が足止めしてなければ全員やられていた。プレシアを相手にするにはまだ戦力不足だ。

「ダメだ。その辺の犯罪者相手ならそうなるかもしれないが、もし協力したとしても無駄だ。もうフェイトはプレシアに向き合う事すら出来ないだろう」

 ……そこまで精神的にきてたのか。

 人の心の底にある恐怖は拭えない。我が家であろうと暗闇を嫌うように、刺青の強面を避けるように染み付いた恐怖はその行動を制限する。

「……わかった。フェイトはどこ? 会って話すくらいはいいでしょ?」

「会うのはいいが……話せる状況ではないと思う。なのはも手を焼いている」

「わかった。エイミィ、案内お願いできる?」

「おっけー」

 

 ♢♢♢

 

「失礼」

 案内された医務室には、ベッドに寝たままのフェイトと椅子に腰かけた高町さん。アルフは別の部屋にいるようだ。動物の衛生面? まさかね? 

「ウタネちゃん……」

「高町さん、後少しでまたプレシアに挑むらしい。少し外を歩いてくるといい」

「嫌なの。フェイトちゃんといる」

 ……人の説得は苦手なようだ。

「じゃあ直接的に言うけど。私もフェイトと話がしたい。時間ギリギリになるかもしれないから言いたい事言って出てって」

「でも」

「いいから出ろ。クロノにも話はつけてる」

「う……わかったの。あんまり上手く言葉に出来ないけど……フェイトちゃん。私は何があってもフェイトちゃんの味方だよ」

「……」

 フェイトの返事は無く、それに困ったような顔をして部屋を出る高町さん。

 さぁ、ラストチャンスだ。

「フェイト」

「……」

 変わらず返事はない。どころか、呼吸以外動きがない。

「聞こえてないのか、聞く気がないのか、答える気がないのかはどうでもいい。とりあえず、あなたの母親はあなたに対し、娘を殺した原因を見てるに過ぎない。娘が生き返れば対応はまた変わる。それはほぼ確かだ。それで、あなたにはいくつか選択肢がある。まず、私や管理局に協力してプレシアを拘束する。その結果どうなるかは分からないけど、命までは取られないはずだ。それか、このまま寝ててプレシアが私に殺されるのを待つ。そうすればプレシアは次元犯罪者として死に、あなたは強制されていたという事でほぼ無罪。どっちがいい?」

「……」

「なんにせよ、私のお願いはバルディッシュを貸して欲しい。バルディッシュ、聞こえてる?」

《……》

「聞こえてるね。あなたはどうしたい? このままだとフェイトも高町さん達も殺される。私に協力すればフェイトに仇なすプレシアだけを殺せる」

《……》

「選ぶ選択肢なんて無いはずだ。プレシアを殺すにせよ拘束するにせよ、高町さんやクロノじゃ戦力にもならない。あなたが必要だ」

《……》

「あなたに力をあげる。この一戦だけだけど、世界全てを相手にできる力を。あなたの主を守るなら……プレシアには消えてもらわないといけない」

 こっちもこっちで返事が無い……時間が解決してくれるものではない事くらいわかってるだろうに。

「わかった、一応連れて行く。協力するかしないかは任せる……この決定は拒否させない」

 フェイトの枕元に置いてあるバルディッシュを取り、医務室を出る。

 最後の最後まで、フェイトが動くことは無かった。



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第26話 範囲

「よし……」

「管理局もしつこいのね」

「うぉあ⁉︎」

 管理局、リンディの予定した時間、現場を見たクロノが指定した場所に転移したクロノ達。

 時の庭園、プレシア。その目の前に立つ。

「きっ、貴様⁉︎なんのつもりだ⁉︎」

 目の前に危なげな雰囲気を放つ危なげな美人が突然いれば当然、いくら年頃の男の子であろうと驚きが勝ち、数歩を跳び退く。

「あら、ラストチャンスをあげたのよ。今この体を貫けば……バリアジャケットを使用していない私に致命傷を与えられた……残念ね。所詮あなた達はそんなものよ。あなた達の好きなガジェットに押しつぶされて死になさい」

 紫電と共に姿を消したプレシア。その代わりとばかりに至るところから同じ型に思われるガジェットが無数に現れる。

「こんな数……」

「戦力分析が甘かった……ここまでとはな……なのは! ユーノ! 協力して少し持ちこたえてくれ! やはりもう一度撤退する!」

 クロノがB+程度の魔力球を試しにと撃ち込むがピクリともしない。最低でもAAクラスは必要と見たクロノは即撤退の判断を下す。

「了解!」

「ウタネもだ! 今度は僕から離れるな! 数体飛ばしてから撤退するぞ!」

「いいや、そんな時間は無い」

「諦めるな、この数でも発動する時間くらいは稼げるはずだ……」

「違う。今回でプレシアを殺す。撤退してる時間は無い」

「バカを言うな! この状況は計算外だ! 突破どころか耐久もできない!」

「バルディッシュ……お願いね」

《了解》

「なっ……」

「それ……フェイトちゃんの……」

「バルディッシュの許可は得た。コイツらを殺す」

 バルディッシュを持ち、ガジェットに肉薄、無造作に振り切るだけで数体が切断された。

 元の性能に加え、私の能力で固定してある。魔力刃以外には何があろうと傷すら付かない。

「……時間がない。プレシアは何か奥の手を持ってる。動機探しなんてやってる間に殺される」

 さっきプレシアはラストチャンスと言った。ガジェットを突破してプレシアへ辿り着く可能性は低いながら考えていたはずだ。なのになぜラストチャンスと言い切ったのか。魔法についてほとんど知らない私が考えても無駄だけど、ほっとけば多分全員死ぬってのは分かる。

「全部潰す」

 刀では足りない大きさと重さ。バルディッシュは私の理想に近い性能を提供してくれた。

 体に近いガジェットを順に切っていけば、数体が巻き込まれ振った数の数倍が爆発していく。私の体力が切れる頃には、爆発した機械の残骸が山を作っていた。

「さて……いこうか」

「ああ……因みに、今のも録画しているからな。後で話を聞かせてもらう」

「今それ言わなくていいよね。疲れたから帰っていい?」

「術式はガジェットがほぼ消し飛んだ時に解除した。前のように再起動もできないぞ」

「高町さん、撤退しよう」

「ダメなの」

 活躍したのに自由を縛られてる。プレシアもこんな感じだったんだろうな……

 クロノ誘導で遺跡の深部へ歩いていく。先程のガジェットで全てだったのか、道中で妨害が入ることはなかった。

「プレシア・テスタロッサ。もういいだろう」

「本当にしつこいのね。モテないわよ?」

「犯罪者と遊ぶ気は無い! 素直に投降すればまだ刑は軽くなる!」

「お断りよ。もう話す事は無いわ」

 プレシアがデバイスを起動させる。

「クロノ! 高町さん! 防御だ!」

「遅いわ」

 前と同様、瞬く間に広がった紫電は辺り一面を破壊しながらクロノ達を巻き込み、瓦礫に埋めてしまった。

 それにしては気配が無い……死んだ? 

「……私だけ残した理由は?」

「あなただけにはまだ聞いておきたい事があるのよ。やっぱり、手を組まないかしら?」

「しつこいのは貴女じゃない? もうその話は終わったんだよ」

「まだあなたはジュエルシードを持ってる。管理局のモニターも局員も潰した。それでも答えは変わらないかしら? ……あら、心配されてるのかしら。あの子、広場に戻って来てるわよ」

 ……フェイト? しかし広場からここまでは少し遠い。確認などしている暇はない。

「変わらない。貴女はここで殺す」

 土煙の中をゆっくり、瓦礫に躓かないように近づく。

「そう……あなたも終わりよ」

 全方位から紫電が発生する。

 ……それを私は、土煙を硬化して止めた。

「な……」

「終わらない。魔法なんて私に効かないの。本気の私には魔法も物理も無駄……⁉︎」

 突然大きな揺れが起こる。私とプレシアの距離は後三メートル。

 動揺する私に対しプレシアは笑っている。

「……元々、行き詰まっていた試みだったの。ジュエルシードもダメ、可能性のあるあなたもダメ。アリシアのいない世界では、私が生きている意味も無いわ。この時の庭園ごと虚数空間に落とすわ」

「道連れか……」

 今ならまだ殺せる……どうするか……

『許してあげてください。殺すなら、私だけ……』

 フェイト……の様な声が直接聞こえた。念話だろうか……プレシアには聞こえてない様だ。そうだ、フェイトの望みはプレシアと暮らすこと。叶えられるなら叶えよう。

「まさか。死ぬのは私とアリシアだけよ。他はあなた達の転移術式で送ってあげてるわ」

 と思っていたら意外な返事が返ってきた。悪人ヅラも少し抜けて優しさすら見える。

「……使えるんだ」

「私は天才よ? そこらのガキの技術なんて見たらできるわ」

 ふん、とクロノをバカにする。私と同年代の様な仕草がとてもおかしく思えた。

「ならあなたも逃げればいいのに」

「言ったでしょう。もう生きてる意味も無いの。ほら、術式は開いたわ。早く行きなさい」

 プレシアが部屋の中央にある……ポッド? に手を這わせる。あの中にいるのがアリシアなのだろう。

 私の背後に魔法陣が出現したのが分かる。クロノ達はあれでアースラに戻されたのか……

 そんな事を気にする余裕は無い。プレシアの足元に歪みが出来ている。あれが虚数空間というのだろう。まだ行かせるわけにはいかない。

「プレシア!」

 落ちかけたプレシアとポッドを能力で固定する。空気と触れている間は私の自由だ。

「これは……あなたの」

「それが私の能力だ。あらゆる物質を自由にできる。あなたは死なせない。それがフェイトの望みだ。バルディッシュもね」

「離しなさい」

「だからあなたとアリシアは生かしておく。しかし虚数空間にも落ちてもらう。私の能力は虚数空間でもおそらく分解されない……いや、虚数空間の虚数すら能力範囲みたいだ。これで殺さずに済む」

「……とんでもないのを相手にしてたのね。私は」

「いい? 私にパスを繋げて。私が開けるモニターみたいのでいい」

「魔力があって助かったわ……魔力すら無かったら無理な願いね。少し寄って……はい、これなら魔力を少し流せば開くはずよ。分かるわね?」

「うん、ありがとう」

「これから虚数に落とされる相手に感謝されても嬉しくないわ」

「いずれ私が必要な時に引き上げる。それまではアリシアと死んだ気でいる事だ。それが、貴女への罰と、フェイトとバルディッシュの望みを叶える事だ」

「引き上げるなら早めがいいわね。私はもう助からない……不治の病ってやつよ」

「……急いでたのはそれが理由か。分かった。すぐにとは言えないけど、死ぬまでには必ず治す。生きてフェイトともう一度会うんだ」

「……その資格があるかしら」

「あるさ。互いがそうしたいと思う限りは必ず。今は互いが平和を望んでる」

「ありがとう。とても救われた気分よ。あなたにはお礼をしなくちゃね」

「なら、フェイトを可愛がってあげる事だ。彼女の澄んだ目が汚れないように」

「……さよならね」

「うん、さよならだ」

 プレシアとポッドを能力で保護したまま虚数空間へ落とす。

 私の能力の支えを失った実数空間(こちら)との境界は広がり始め、私の足場まで無くなろうとしていた。

『ウタネちゃん!』

「……高町さん?」

「早く避難して! 虚数空間に落ちたら上がってこれないよ!」

「それなら高町さんも早く! こっちまで飛んで!」

 自分の事を後回しに私に警告なんて、余裕だなーと思う。

 術式を起動しながら高町さんを待つ。範囲に入った瞬間転移だ。

「プレシア・テスタロッサは⁉︎」

「もう虚数空間に落ちた! 証拠は無い!」



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A's編
第27話 解放


ーー今日は楽しかったね!
「そうだね」
ーー〇〇くんとか、すごかったねー
「そうだね」
ーーあなたは楽しくなかった?
「楽しかったよ?」
ーーでも、楽しそうじゃないよ


 ──これまでの一連の出来事はプレシア・テスタロッサ事件……PT事件という安直なネーミングで処理された。

 プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサはプレシアの起こした次元震に時の庭園ごと飲み込まれて死んだ事になった。フェイトとアルフは持っていたジュエルシードを全て管理局へ渡し、素直に拘束された。主犯がプレシアであったこと、フェイトの体から虐待の痕が見つかったこと、本人たちの態度などから、事件が事件だから裁判はするにしても実刑はほとんど無いようなものらしい。時間は取るが無罪放免に近い形で解放になるそうだ。

「じゃあ、私から言うことはもう全部だよ。バルディッシュ、ありがとう」

 フェイトには管理局と別に地球の海鳴でプレシアの事を話す事にした。それでも真実は話せないけど。バルディッシュにも真実は黙って貰う様に協力してもらってる。何があっても話したらプレシアを即殺すという条件付きで。

「……ううん。私こそ、ありがとう。私とアルフを助けてくれて」

「違うでしょ」

「え?」

「貴女は私に、母を殺したのはお前だって殴りかからなきゃいけない。プレシアと会いたかった気持ちは殺しちゃいけない」

 プレシアの事を考える余裕は無かったのか、少し笑っていた顔が歪む。

「うぅ……ウタネぇ……母さんは……私を……」

「嫌ってないよ、プレシアはあなたも大切に思ってた。あなたが望むなら、またどんな形かわからないけどきっと会えるよ」

 フェイトの裁判は手を回しに回して半年くらい。プレシアから聞いた症状具合と本人の予想寿命は2年。フェイトと会うことももしかしたらできるかもしれない。問題は、あれだけ進行した病気をどうやって治すかだ。

「うん……うん……! ありがとう……!」

 高町さんを圧倒する程強い少女も、今ではその辺の人と同じ様に感じる。

 これから裁判の手続きやらがあるのに大丈夫だろうか。

「裁判、頑張ってね。終わったらまた会おう」

「うん……頑張ってくる」

「それじゃあ……」

「さよなら、とはいかないぞ。ウタネ」

 踵を返し自宅へ向かおうとするとガッシリ肩を掴まれた。軋むほど。

「……やぁ執務官どの。なんの御用でございましょうか」

「いいや何、君にもまだ返してもらう物と話してもらう事があるだけだ」

「あー! あれね! はい! ジュエルシード! ゴメンゴメン! 忘れてたよ! それじゃあね!」

 ジュエルシードをポケットから出し、クロノに渡す。それでもクロノは離してくれない。

「だから待てと言うに。別に急がないだろう? 尋問部屋でゆっくりしていくといい。手錠と水くらいは出すぞ?」

 爽やかに最低の待遇を言い渡された。

「何故に水⁉︎お茶とか! 尋問ならカツ丼とか!」

「わかった。出すから来い」

「ちがーう! 出しても行かないよ!」

「事件が終われば話すと言っていただろう。忘れたと言っても録画してるからな」

 ピッと空間にモニターを映すクロノ。そこにはクロノ、エイミィと話す私が映されている。裁判の話も。

「く……」

「エイミィ! フェイトを保護、ウタネを拘束だ」

「えっ! ちょっ⁉︎マジ⁉︎」

「話せばすぐ解放するさ。嘱託でもなくただの協力者だしな」

「むー……」

 というか、プレシアと最期の話の時、フェイトは戻って来たんじゃなかったの……? 

 

 ♢♢♢

 

「そら、話せ。エイミィはフェイトと裁判の手続きでいない。なのはもそっちについてる。記録も撮ってない」

 二人で机を挟んで椅子に座る。

 クロノは踏ん反り返って腕を組み、私は机に突っ伏している。

「……切った?」

 あえて必要な事だけを聞く。顔は上げない。ギロチンを落とされようとしても受け入れる事にした。

「ん? あぁ……切れなかったがな」

「私の能力はそれだ。触れた部分を硬質化できる。内臓まで接合してるから、その部分に限ればナイフが刺さっても平気だよ」

「とんでもない能力を隠してたな。効果はいつまでなんだ? しばらく経ってるが。切れた瞬間にまた千切れるのは嫌だぞ」

 衣類が擦れる音。自分の体を触って確認しているのだろう。

「……大丈夫。私が解除しない限り私が死んでもそのままだ」

「お前が消えても能力は残る……か。魔法で無いことは確定的だな。あと……魔術、だったか? それとも違うのか?」

「ん。魔術も魔法も似た様なものだよ。二つに共通点があっても、私の能力とは別物。おっけー?」

「分かった。今僕の体が繋がってるのはお前の能力のおかげで、お前の能力は物質の硬化。お前の言う魔術と魔法は共通点があり、能力とは別物。以上で合ってるか?」

「うん」

 はーあめんどー……無駄な話きらーい。だるーい。

「じゃあ追加だ」

「へ?」

「お前はプレシアが次元跳躍で飛ばした攻撃を触れる事なく防いでいるのが記録されている。今の説明と食い違っているな。どう言う事だ?」

「……あの時のか」

 管理局の監視下だと……記憶に無い。猫の時、フェイトを殺す寸前で入ったプレシアの邪魔と考えておこう。

「納得いく話でなければ裁判だ。偶然だとか触っただとかは無効だからな」

「……話さない、という選択肢は?」

「言ったはずだ、僕は君を信用したい。だから話せ」

「……話せば管理局は私を追跡しようとする。今あなただけが知ったとして、それを秘密にできる? 私と対立せずにいられる?」

「内容は。僕から見て君は管理局と対立したそうに見えない。リンディ艦長も含めみんな君の事についてはあまり興味を示さないからな。僕だけで秘密にすると約束する」

「対立するのは私じゃない。管理局だ。私を恐れるあまり私に牙を剥く。私は能力をそう使う気は無いし、できれば使わずに過ごしたいんだ。管理局は私に不干渉を貫けるのかと聞いている」

「……どう言う事だ? お前はどれだけ強大なものを隠している?」

「いいから答えろ。質問はこっちだ。お前はただイエスと誓うだけ。ほら、約束しろよ。お前らはフタガミウタネに、フタガミウタネの自由を妨げる様な干渉はしない、とな」

「……っ、分かった。この話は僕と君だけのもので、何があっても他言しない。僕自身が命を握られている以上、僕が裏切る事は無い」

「ふぅー……わかった。私の生活を守る事に関しては私も必死だ。その時は容赦無く管理局を潰す」

「……ああ」

 話した所で管理局には手のつけられないものだし、話してしまっても構わないのだけど……勝手に情報や顔が歩くのは面倒だから隠しては起きたい。まぁ、クロノなら大丈夫だろう……

「私の能力は、生きているものを除く全ての物質を自由に扱えるというものだ。プレシアの攻撃を防いだのはその周りの空気を圧縮して消滅させた」

「……僕の体も空気で?」

「そうだね。空気を固定して繋げてる。ナイフや包丁じゃ通らないくらいの硬度はあるはずだ」

「……正直、言葉が出ない。一般人がそんな能力を持つだなんて……」

「だろうね。世界から見ればイレギュラーなわけだし」

「能力の届く距離は?」

「私のいる世界ならどこでも」

「というと……」

「地球なら地球全体。北極にいても南極に干渉できるし、ミッドなら時の庭園があった場所にも可能だ」

「なるほど。確かにそれが露見すれば管理局は君の捕獲、無力化を急ぐだろう。正直な話、僕も一瞬考えてしまうほど」

「でもしなかった、って事は信用してくれた?」

「ああ、言っただろう、秘密にすると。その代わりと言ってはなんだが、この場で見せてくれないか? その能力を」

「どうしたらいい?」

「魔法を消した様にこのペンを消してみてもらいたい」

「まぁいいけど……」

 言われた通り、机に置かれたペンを触れずに、周りの空気を圧縮して消滅させる。

「ふむ……圧縮過程もゆっくり見せて貰って済まないが……最大速度と、発動条件を」

「ねぇ……信用する、と言ったよね? 情報収集と対策に入ってない?」

「……あ」

「……いいよ、嘘はついてなさそうだ。そうね、最大速度は……多分私の考える限り最速じゃない? 見えないくらい。で、発動条件は……今ので分からなかったなら分かんないよ」

「今ので? ペンを消した時になにかしたのか?」

「うん。多分だけどこの能力、誰にでも使えるんだよね。ただ人からは分かんないみたいだしそうなると教えられないし……」

「そんな話をしていいのか? 管理局が拘束して徹底的に調べ上げるかもしれない」

「やりたければやればいいよ。私に殺される前に私の能力を暴けるつもりなら。それに……管理局に不干渉を願うのは身の危険じゃない。生活の平穏のためだ。往来でバカに会いたくないアレと似た感情。わかる?」

「……ああ。すまなかった。気を悪くしないでくれ」

 知らない人間から逃げなきゃいけないなんて想像しただけで面倒だ。相手が最高機関であれば目的の為に人員は惜しまないだろう。面倒。あ、でも管理局って人不足だったような……

『クロノ。お喋りはどうかしら』

「リンディ提督。まぁ、それなりに」

『区切りがついたらこっちに来て貰えますか。フェイトさんの書類の件で色々と』

「分かりました。すぐ向かいます」

『ありがとう』

 モニターから緑砂糖がクロノと少し話をしてすぐに切れた。

 というかさ……この二人、親子なんじゃなかったっけ? 

「すまないがそういう事だ。無駄に話させて悪かった。ここでの会話は秘密にするし、これから君はもう関係の無い一般人だ。君が何かしなければこちらから干渉しない事も約束しよう」

「そう……わかった。こっちも口を出すのはやめとくわ。それじゃあね」

「ああ」

 クロノが部屋を出ると、しばらくして局員が私を地球に解放してくれた。

 それからしばらく、魔法について触れる事は無かった。




プレシアの寿命?進行具合については完全に末期状態であるとします。どのくらいだったかよく分からないので……

一応これで無印編完結とさせて頂きます。
描写が解りにくかったり不足していたりなどあったかと思いますが、ここまで読んで下さりありがとうございます。


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第28話 襲撃者

黒い髪が問う。楽しくはないのかと。
子供が喜ぶよう作られた遊具、子供が喜ぶように計画されたイベント、子供が喜ぶよう味付け、盛り付けられた料理。それらを1日かけて貪っていく子供たち。
「楽しかったよ。とても楽しかった」
ーーでも、全然笑ってない。
「……そうだね」


「眼が……」

 おかしい。能力を見るのは右目だけ、その右目が数日おかしかった。それが突然元に戻った。

 買い物帰りに独り言を堂々と呟く様はまさに精神異常のそれだろう。気にしないしその通りだろうけども。

 最後に能力を使ったのはほぼ半年前……プレシアの事件だ。それ以降ほとんど意識すらしてなかった。

「んー、でもあれか、能力の不調なんて……ほら」

 世界が暗く広がっていく。まるで魔法の結界の様な世界に一人取り残される。

「っと……」

 そしてつま先を地面に喰われる。バランスを取るなど望むべくもなく、顔がアスファルトに吸い込まれた。

「はぁっ!」

「……」

 その直後、風が吹いた。ついでに地面についたおでこも喰われた。そのついでに誰か来た。能力の世界で人がいたのは幸運か。

「あー……その、距離や構えから剣士とお見受けしますが……私の両足首、落として下さいませんかね」

 能力の副作用……というより、この能力の元々。この能力は誰かを殺す能力じゃなくて、私自身を殺す能力だった。能力というより今みたいに突発的に起こる発作。世界の物質……包丁からベッドまであらゆる物が私を喰らう。発作が終われば元に戻るけど……完全に喰われるとどうなるか分からない。

「足首に興味は無い。魔力だけが目的だ」

「魔力を渡せば足首お願いできるんですかね」

 早く切れ。

「……気が削がれるな。何故自傷行為を望む?」

「あー……その、今こんな感じで動けなくて……足首から下が邪魔なんですよね……」

 能力で足首が沈んでるなんて見えてすら無いだろうけど、相手の反応を私が見る事も出来ない。アスファルト以外見えなくなった。

「命を狙われ、自身の自由すら効かぬというのに呑気な……貴様、死にたがりか?」

 話してる内に発作が治まってきた……目線とアスファルトとも距離を置き、足もなんとか引き抜ける。

「ふぅ……いやぁ、失礼しました。えっと……なんでしたっけ、魔力? でもあれですよ、私魔法使えませんよ?」

「……魔法文化の無い世界だ、致し方あるまい。しかしそれとは無関係。魔力は持っているだろう。どうせ使えないのならその魔力、大人しく渡せ」

「ん……渡したいけど、タダではあげたくないし……何か理由が出来るまでお引き取り願えますか」

「では予定通り、力づくだ」

「やめたほうがいいと思うけどなぁ」

「私が勝てば、勿論魔力は貰うが命までは取らん。抵抗は痛みを大きくするだけだ」

「ん〜……どうしても?」

「どうしても、だ」

「はぁ……」

 刀を左手に持ち、右手人差し指を曲げて首に当てる。7回叩く。手を添え、目を閉じて元へ戻す。

「ふぅ……」

 それだけで俺は、対人戦闘へ切り替えていた。

「五分だ。それだけ遊んでやる。満足したら帰れ」

 

 ♢♢♢

 

「ディバイン──バスター!」

「ラケーテン……シュラーク!」

「っ!」

 小さなハンマーの攻撃をギリギリで防ぐ。

「ブチ抜けぇぇぇぇぇ!」

 魔力を編んで作ったシールドも軋みを上げて、今にも突破されそうだ。

 この距離では決定打となる大きい砲撃も使えない。以前の私なら、この時点で詰みだった。だけど。

「最果てに至れ、彼方の世界に、その幻想を現実に!」

 ハンマーの攻撃をレイジングハートで流して避ける。

「なっ⁉︎」

 私はフェイトちゃんとウタネちゃんに助けてもらって! 変わった! 

 箭疾歩で背後に回り込み、砲撃時の様に溜めた魔力を、相手のシールド越しに槍の様に突き刺して解放する。

「レイジングハート・オーバーロード!」

「ぐ……っ!」

 フェイトちゃんの時には速すぎて使えなかったけど、ウタネちゃんに教えてもらった接近戦。ウチでの練習もあってそれなりには戦える! 

「てめぇ、覚悟しやがれ! アイゼン!」

 ゼロ距離でも戦闘不能にまでは追い込めなかったらしく、敵の目には怒りが迸っている。

「負けないっ! レイジングハート!」

 魔力球を複数出し、自分の周りに待機状態にしておく。

『いい? 1秒毎にに5のダメージを出せる人Aと、10秒毎に500のダメージを出せる人B。両者の体力が同じ100の場合、体力50、秒間10のダメージを出せる貴女に倒し易いのはどっちだと思う?』

 単純な計算だと同じ。ダメージの余剰がある分Bの方が強敵と私は考えた。

『結果は当然、どちらも引き分け。けれど小さくてもダメージは蓄積するから、攻撃を避けたりするのを含めてもAの方が疲労も溜まり易く、攻撃を受けやすくなる。Bはその10分の1の頻度。一撃が大きくてもそれさえ避けられれば隙ができるし、牽制して攻撃を遅らせつつこちらの回復も狙える。実質的に相手にして難しいのはAで、貴女は今のところ、Bの方なの』

 そうやってウタネちゃんに教わった。相手を倒すより、まず倒されない立ち回りこそ私みたいな砲撃メインには重要だって! 

「ちっ! 行くぞ! ラケーテン……!」

「そこ!」

「うっ⁉︎」

 相手の攻撃の始点を狙って二発だけ撃ち込む。エネルギーを失い回転が止まり、隙ができる。

 ウタネちゃん程正確には分からないけど、大体は分かるまでには教えてもらった『動きの始点』。作り出す隙は一瞬とはいえど、実戦で使うとどれだけ有効かよく分かる。最小の力で、相手の最大を封じる。その隙に、自分の最善を! 

「しまっ──」

「ディバイン──バスタァァァァァァァァァ!」

 

 ♢♢♢

 

「ほら、五分だ。帰れ」

 互いに無傷のまま、五分が経過した。

 五分前と変化があるとすれば、散らばった薬莢と、襲撃者が息を切らせていることくらいだった。

「まだだ……ベルカの騎士に、負けは無い……!」

「ったく……」

 左手人差し指で首を7回叩き、手を添えて曲げる。

「倒れるまで、押し通る!」

「私が帰れと言ったら帰れ。もう勝てないのは分かったでしょう?」

 状況把握に二秒。攻撃の予感と共に現状を把握し、来たる未来に刀を当てる。

「く……!」

 敵にとって最高のタイミングで攻撃を防ぐ。

「五分……なるほどね」

「なんだ……貴様。戦法が違う。気迫も無くなった。今では微塵も圧力を感じない」

「ん〜……そうね。まぁそうかなぁ。で、どうする? 帰る?」

「馬鹿を言うな。折角の隙だ。頂いていく」

 チャキ、と刀を構えるピンク。対して私は、軽く刀を握るだけ。

「私とやるなら、もう戻れないよ」

 最終警告。もう二度とないことを示す。

「また五分と言い出すのか? もう五分も要らんぞ」

「いいや、五分。それが最後だ……」

 五分後、彼女はもう刀を見る事すら出来ないだろう。



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第29話 未完

白い髪が問う。
「キミは楽しかった?」
ーーうん!
黒い髪は笑う。
「だろうね。キミだけじゃない、全員がそうだったと思うよ」
あらゆる面で配慮がなされた1日を思い返し、尊敬する。
ーーあなたも?


「っ、レヴァンティン!」

「甘い、一見変幻自在の鞭であっても、その攻撃は使用者の行動で決まる。いくら速く長くても、分かっていれば対処出来ない攻撃ではない」

 未来の軌道をなぞるように、演武の様に攻撃を防ぎきる。

「貴様ッ!」

「貴女がいくら非日常の存在とはいえ相手にしてきたのは人間でしょう? なら、私が貴女を超えられない筈はない。いくら接戦であろうと私には勝てない」

 鞭状のそれを剣に戻す女性。

 パワーもテクニックもスピードも魔力も、アースラで見た誰よりも高い。魔力量に関しては高町さん、スピードはフェイトには少し劣るけども。

「さて……」

「くっ、この……!」

 ひたすらに続く攻撃を受け流し続ける事三分弱。そろそろかな……

「はぁっ!」

 スピードやパワーに変わりはないけど、次第に狙いが急所から外れてきている。

「どうしたのお姉さん? そんな狙いじゃ……私は殺せない」

「はっ……は……っ」

 私より体力がある事はまず間違いないのに、体力がある方が息を切らせている。

 私より技術があるはずなのに、技術のある方が攻めきれない。

 私よりパワーがあるはずなのに、パワーがある方が押し負けている。

「せいっ!」

「ぐっ……!」

 少し強めに押し飛ばし、距離を置く。

 優れているはずなのに届かない現実は、その精神を鈍く、それでいて深く、抉り、押し潰していく。

「もういいよ。帰って」

「なに……?」

「それ以上やると取り返しがつかない。まだ間に合う」

 この世界ではフェイトに次ぐ二人目……フェイトは色々あって未遂だけど、このまま続けるなら彼女は剣を見ることすらできなくなる……

「そんなことで、みすみす引けるか……っ!」

「帰れと言ったんだ。三度目は言わせないでよ」

「レヴァンティン……カートリッジ、ロー……」

「言わせないでと言ったんだ。私が帰れと言ったら帰れ。あなたの目的は騎士として死ぬ事じゃ無いはずだ。私に殺されるよりいい死に方がある」

 能力で行動を一瞬止め、言葉を被せる。

「……! 貴様、何を知っている……」

「知らないよ。関係無いし興味も無い。目的のある人間は目的のある人間に殺されるべきだ。私みたいなロクデナシに殺されるべきじゃない」

「……?」

「そら、私は私の生活さえ邪魔されなければ何もしない。家の庭の蟻がいつ死ぬかくらいどうでもいいからね。私の魔力を奪えず帰るか、この場で再起不能になるか。選ぶまでもないでしょ。貴女が帰るか攻撃してくるか、行動するまで待つよ。私はそれを尊重する」

 三分、並みの精神ならもう二度と剣を持てない状態だろう。それでも殺意が衰えないのは自信か、意地か……バカか。

「……っ、く……私はまだ敗れた訳ではない……が、しかし状況が悪い」

「まぁ、それでいいけども。帰る?」

「戦略的撤退だ。目的の半分(…………)は、達成したようだからな。今……お前が言うように……今私に必要なのは結果じゃない。進む意志だ。そこに必ず辿り着こうとする意志さえあれば……いつかは、そこに辿り着くはずだからな」

 最初に言ってた魔力か……半分……半分? 

 そして……辿り着く意志? 

「あん? ちょっと待って、ナニソレ」

「次こそは、お前の魔力を貰うぞ!」

 紫の魔法陣が現れ姿を消したピンク。同時に結界も消えた。

 私の魔力が半分なのか、既に戦いながら抜かれてたのか……もう一人、標的がいたのか。

「クロノッ!」

 唯一に近いくらい使える魔法(?)通信。事態を把握していそうな知り合いの名を叫ぶ。

『ウタネか……先程、なのはが墜とされたとフェイトから連絡が入った』

「っ」

『今はアースラの医務室で休んでいる。命に別状は無いそうだ。このタイミングで連絡という事は君にも何かあったようだな。よかったらアースラで話をしないか?』

「……分かった。敵の情報くらいはあげる」

『すまない』

 モニターが切られ、代わりにクロノの魔法陣が現れる。

 気付かなかったな……しくじった。

 

 ♢♢♢

 

「で?」

 アースラに転送されると、医務室までクロノと歩きながら情報共有をする事に。

「ああ、相手は僕たちとは違うベルカ式という魔法を使う騎士と判明している」

「そう。騎士という点は私の相手と合致してるね」

「そうか……タイミングや場所から同じ組織かチームと考えていいな。そしてベルカ式の特徴だが、ミッド式が中距離から遠距離で単数複数戦を問わないオールラウンダー的なスタイルを持つのに対し、ベルカ式は1対1の対人戦に特化している事が多い」

「うん、飛び道具が全く無かったし、接近戦に特化してるって事ね」

 刀身をバラして鞭の様にするのは接近戦と呼んでいいのか疑問だけども。

「そしてなのはがやられた最大の理由かつベルカとミッドの決定的な違いだが、カートリッジシステムというものがある。君も見なかったか? デバイスに薬莢を装填する所を」

「あぁ、最初にやってた」

「最初に⁉︎カートリッジロード済みベルカ式相手に無事だったのか⁉︎」

「多分高町さんが負けてなければ完成してたんだけどね」

 させる気は無かったけど誠実な態度を示しておく。

「恐ろしいな……いや、それは喜ぶべきだな。カートリッジシステムとは、薬莢に予め込めた魔力を弾く事で、瞬間的に魔力を向上させる事ができるというものだ。これゆえ通常では出せない敵デバイスを破壊する程の破壊力が出せる。しかし扱いの難しさを否定しきれず、徐々にベルカ式は衰退していったのだが……あれ程の使い手がまだ存在するとはな」

 高町さんやフェイトの情報をモニターに並べながら思案している。この様子だと戦力的には良くてギリギリみたいだ。

「いっそ私が全部潰そうか?」

「いや、それも考えたがやめてくれ。問題は戦力だけじゃない。奴らの持つコレだ」

「なにこれ」

「ロストロギア……闇の書だ。相手のリンカーコアから魔力を蒐集し、全てのページが埋まった時、その力を覚醒させる……らしい。過去数回この闇の書による被害が記録されているが、その詳しい実態は不明だ」

 ロストロギアってアレだよね、ジュエルシードと同じ部類の……なんだっけ、なんか……強力な? アイテム? 分からないけど。

「ふーん……つまり管理局はそれをどうにか確保したいわけだ」

「そうだな。どの様な実態であれ危険なのは確かだ。今回で終わらせたい」

「ん? ちょっとまって? 私がそのチーム潰してそれを確保するんじゃダメなの?」

「ダメだ。闇の書は主か本自体、それらを維持する環境が無くなればいずこかへ転生してしまう。あくまで保護だ。殺してしまってはならない」

「じゃあ能力で固定」

「それもやめた方がいいだろう。君はそもそも能力を使い始めると歯止めが効かないだろう。ついやってしまったでは笑い話にもならない」

「む……まぁ確かに。それは状況次第で十分にあり得る結末だ。分かった、余程のこと……私や、誰かの命に届き得る状況じゃない限り控えるよ」

「無理を言ってすまない」

「……辿り着こうとする意志」

「ん?」

「いいや? なんでもない」

 ……まさかね。この世界の事だと信じよう。



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第30話 調理

「僕も楽しかったよ、終わるまではね」
ーー終わったら、楽しくない?
「楽しくない」
ーーなんで?
純粋な黒い髪に、自身を打ち明けるのが躊躇われた。


 ──世の中には二種類の生物が存在する……同じ種族の作り出す社会に適応できる生物と、できない生物である。

 これは、珍しく運動し筋肉痛で寝込んでいた後者の生物の一日である。

 

 ♢♢♢

 

 はー……しまった。

「ふぁ〜……」

 そういえば、2日くらい何も食べてない。ちょうどピンクの人が来てから2日。

 家もお金も困ってないのに面倒だからと食事をサボり、勝手に餓死しかけてるから救えない。そんなので死んだらあのピンクの人怒るかなぁ。

「何作ろう……簡単なのがいいな」

 重い足取りで冷蔵庫を開ける。中には買ったままの野菜や肉。

 量を作れて、保存が効いて、かつコンパクトに食べやすい。そんな理想。全ての料理の究極。保存食の様に薄味でパサパサでなく、生食ほど脂も熱もない。なんなら食べる時に手間もかからないのがいい。

「……やってみよう」

 不可能を可能にする全方面的才能、皇帝特権。

 その内容たるや、壮絶すぎてもはや……言葉には言い表せない程。

「できた」

 内容は覚えてない。材料も覚えてない。調理器具も覚えてない。台所も冷蔵庫も綺麗に整頓され、一切の水滴すらない。

 ただただ冷蔵庫の中が空になって、出来上がったソレがある。

 言うまでもなく、私の数少ない好物の一つ、モンブラン。スポンジの上に濃い黄色のクリームを乗せた簡単な見た目のそれ。大きさにしてテニスボールより一回り小さいくらい。

「問題は、何味なのかよね」

 栗なんて買った覚えはないから、何かで代用している筈。まさかほぼ栗の味を再現するなんて事まで出来るとは思えない……

 数個あるそれの一つを手に取ってみる。

 質感はふわっとしていて、それでも指が食い込まず、指に纏わりつく油っぽさも無い。その割には市販されてるモンブランより重い気がする。

 手につかないのでそのまま口へ運び、軽く一口。触った感触とは裏腹に簡単に噛む事ができ、歯すらいらないのではと思うほど軽い。

「おいしい……」

 初めは少し甘過ぎるくらいの栗、のような甘みがあり、口で転がしているうちに甘さは軽く、一切の後味を消して喉に消えた。慣れた訳では決してない。一口しか食べていないのだから。

「なんだこれ……封印指定だぞこんなの……」

 どこから食べても、どのくらい食べても味が変わらない。濃いめから霧のように消えていく不思議味。後味が水よりないものだから次が軽い。100メートル走より10メートル走を10回する方が精神的に楽なのと同じ感じ。

「これはアレだ、多分栄養もあるんでしょ? 野菜も肉も魚も消えてるわけだから。何をどうすればここまでできるのかはわからないけども」

 八神さんに持っていってあげよう。おやつにでもしてくれれば。

 珍しく自分から外出する予定を立て、必要以外で吸う筈のない外の空気を感じる。手持ちは財布と携帯、さっきのモンブランを入れたトートバッグ。

 はて……流石に手作りお菓子だけで手土産というのはいささか無礼か……んー、一人暮らしで家事も全部やってるって言ってたよね……ちょっと高い包丁とまな板買っていこう。どうせお金なんてほぼ無限に供給されるし。

「んー、行ってきますよ〜……」

 誰もいない、がらんどうに声をかけ、鍵をかける。必要なくてもやっちゃう。万が一の警戒だけは怠らない。ピンクが襲撃して来ないとも限らない。おっさんが忍び込まないとも限らない。まぁべつにどうでもいいけども。

 今日も何処かで事故死させてくれないかとあくびをしながら歩き出した。



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第31話 見舞

「終わった後、あんなものかと思うんだ」
ーー?
「いくら良く考えられたものであれ、その程度に我を忘れるのかって」
ーー楽しめない?
「楽しいから嫌なんだ」
ーー私にはわかんない
「理想だよ、私の思う理想」


「「……」」

 はい。

「どしたんや二人とも」

「何固まってんだ?」

「ん……そうだな。すまない客人。こちらへ」

「あ……どうも」

 はい。

「ほんとどしたん? シグナムもウタネちゃんも固まって。先生呼ぶか?」

「い、いえ主、心配には及びません」

 ナースコールに手をかけた八神さんを制するピンクの人。

「二人して固まってたら心配もするわ。なぁシャマル」

「そうですね。シグナム、少し歩いてきてはどう?」

「む……そうだな、ああ。そうしよう。よろしいですか、主」

「ええよ、ゆっくりしてな」

「はい。ありがとうございます」

 そして黄緑の人に言われるままに外へ出て行くピンクの人。出て行く瞬間の殺気が怖い。

「ごめんなウタネちゃん。シグナムはちょお堅いとこあるからな」

「いや……それはいいんだけど……誰? シグナム? シャマル?」

「あー、うん。私の親戚でな、ちょっと遊びに来てんのや」

「あ、前言ってたおじさんの?」

「え? あー、うん」

 いかにも歯切れの悪い八神さん。

 おかしい。おかしいよ。『援助してくれてるおじさん』のとこにいる『親戚が遊びに来てる』んだよ? あれ⁉︎おかしくない⁉︎

 いやいやいや、おかしいのはそこじゃなくて。名前だよ名前。カタカナじゃん。八神シグナム? おかしいでしょ。明らかにハーフでは無いし? いや? フェイトの事もあるしアリか……? 

「おっけー。把握した。はじめまして、フタガミウタネです。ウタネでよろしく」

「ほら、挨拶しーや。ヴィータ」

「うぇ⁉︎あ、ヴィータ、です」

「私はシャマル。よろしくね、ウタネちゃん」

 赤がヴィータ、黄緑がシャマル、ピンクがシグナムね。多分明日には忘れてる。

「やー、でも元気そうで良かったよ。まさか入院してるなんて」

「うん、心配かけてごめんな? 今はなんともないねんけど」

 これは嘘だ。以前会った時より遥かに脚が悪化してる。物理的じゃなく魔法的。私じゃ対処できないもの。

「へぇ……それで、心配して来てくれたの?」

「そーなんよー。大げさやろー」

「そんな事ねぇよ、はやてに何かあったら大変だろ!」

「やけどなー、まだなんもあらへんし」

 心配するヴィータにも八神さんはケラケラとしている。見た感じそこまで辛そうじゃないけど……どうだろう、

「そうなの? 病院からは30分だけって言われたんだけども」

「そーなん? まぁ倒れて搬送されたからなー。ちょお大きく見とんやない?」

 大きく無い。むしろナメてる。魔法文化も無いし原因すら目処が立って無い状況だろう。それを見てるだけの親戚とは思わない。

「んー、まぁ。何も無いならいいんだ。これ、お土産に」

 片手に持っていた紙袋をベッドに置く。

「ごめんなー、ありがと〜。ん、重いな?」

「うん、病院とは思ってなかったから、包丁とまな板。あと手作りのモンブラン。モンブランは特殊だから嫌なら捨ててね」

「とんでもない! 有り難く頂くよ〜。やー、包丁まで……絶対お返しするな!」

 特殊、という言葉に八神さん以外の二人が反応する。と言ってもそれだけで何もしない。

 喜び笑顔の八神さんはそれに気づいているのかいないのか、ケースの包丁をまじまじと眺めている。

「別にいいよ、食べきれなくなったモンブランのついでだし」

「ついででこれかいな。かっこええなぁ」

「幸いお金は困ってないからね。そろそろ帰るよ」

「うん、ありがとな」

「私、病院出るまで送ってくよ」

「ん? あぁ、ありがとう」

 黙りこくっていたヴィータが突然名乗りを上げる。可愛いねぇ。

「なんやヴィータ、ウタネちゃん気になるか?」

「ん、ちょっとね」

「じゃあウタネちゃん、ごめんけどヴィータよろしく」

「おっけ。じゃあね」

 ヴィータと並んで病室を出て、エレベーターに乗る。

「……どういうつもりだ?」

「ん? なにが?」

「なにがじゃねぇ。管理局が私らを見逃すってのか?」

「あー、前の襲撃、高町さん堕としたのあなた?」

「あの白いのか。手こずったけど負けやしねぇ」

 魔法戦で高町さんに勝てるなら、大抵の職員は相手にもならないだろうし……フェイトやクロノでもギリギリ、ってところかな。シグナムもかなり強いしなぁ……管理局負けるんじゃ? 

「でもあのピンクの人を無傷で撃退した私がこうもあっさりしてると気味が悪いと」

「ま、そんなとこだ」

「三人なら負けない、って余裕のとこ悪いけど。私、管理局の人間じゃないよ」

「あぁ?」

「管理局とは知り合いってだけ。属するとは一言も言ってないし、利害が一致すれば同行する程度の関係なんだ」

 何度か頼んだりもしたけど……決して属しては無い。

 しかし外から見れば属しているに等しいようで、納得は得られないようだ。

「信用すると思ってんのか?」

「信用して欲しいなぁ〜。面倒なの嫌いだし」

 エレベーターを止め、ヴィータを先に降ろす。乗る人がいないのを確認してからその後を追う。

「簡単にはできねぇな」

「どーせアレでしょ、あのモンブランに何かしてると思ってるでしょ」

「そりゃそうだ」

「まー栄養満点腹持ちバッチリ高タンパクで低カロリーなシロモノだけど害は無いよ」

「なんだそりゃ?」

「不思議だよね〜……私もどう作ったのか覚えてないんだ〜」

「ナメてるよな、ナメてんだろ」

 魔力が少し滲む。けどそれは殺意というより怒っているフリと言った体で、こちらを促しているような感じだ。

「怒んないで……ほんとだから……」

 あのモンブラン絶対お肉とかネギとかも入ってるんだよ。買ったはずなのに無くなってたから。

「どうしたら信用してくれる? 私の想像とか全部話せばいい?」

「あ?」

「貴方達、そもそもちゃんとした……その辺にいる人とは違うよね。魔法関係は分かんないけど……それで、八神さんの足を治そうと集まった。あの足は地球の技術じゃ絶対治せない。見たところだけど大抵の治癒魔法も効かないはずだ。それで魔導師から魔力を集め、完全に治癒する魔法を八神さんに使おうとしてる……そんなとこじゃないかな」

「それだけか?」

「んー……だねぇ。あと……そうね、完成間近になったら私の魔力もあげる、ってのでどうかな」

「……」

「八神さんを助けたいってのは本当なんだよ。私が死ぬ気は無いけど、出来るだけ手助けはしたい……その手段を持つのは貴女達だけだから、必要があれば私も使っていい……だめ?」

「ちょっと待て……少し話す」

「うん……」

 ヴィータが考えながら黙り込む。念話で二人と相談してるんだろうと思う。

 決裂は即ち八神さんの身を更に危険に晒す。それを予感しながら返事を待つ。

「取り敢えず、明後日の夜9時、アンタとシグナムがやったとこに来な。私とシグナムでそこに行く。時間に来なかったり、管理局を連れてきたり監視させてたりする気配があれば交渉決裂だ」

「ほんと! ありがとう!」

 取り敢えずオッケー。目的が協力であれ始末であれ約束は取り付けた。

 今日はこれ以上を望めそうにないので素直にお礼を言って帰る。病院が見えなくなる程私が遠ざかってもヴィータはこちらを見ていた。




「おーヴィータ、おつかれ〜。ヴィータも食べよ、ウタネちゃんのモンブラン。ほっぺ落ちそうやわ〜」
「ちょっ⁉︎(シャマル!何食わせてんだよ⁉︎)」
「あの子、料理上手ね〜。はやてちゃんと良い勝負なんじゃないかしら(大丈夫よ、スキャンもしたし、ザフィーラにも食べさせたから)」
「んん……まぁ、シャマルの料理よかマシか……(ザフィーラ毒味かよ、可哀想に)うめぇ!なんだこれ!」
「今度来てくれたらレシピ聞いてみよ。こんなん料理本でも見たことないわ」


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第32話 約束

「僕の思う理想は、思い返しても楽しめるものだ」
ーー今日は、ダメ?
「駄目だね。楽しい理由が分かってしまった。仕組みが分かると操られてたと思ってつまらなくなる」
ーーうん
「少し見れば世界はそんなものばかりだ。僕の理想はそんなものを感じさせない楽しさだ」


「こんばんは」

「……来たか」

 以前と同様、戦装束のシグナムと赤いロリ衣装のヴィータに声をかける。

「ヴィータ、それ可愛いね」

「はやてが考えてくれたんだ。ま、それは後でいい」

「見たところ、本当に一人で来たようだな」

「約束だから」

 紳士的に、約束は守り、裏切り謀反は堂々と捩じ伏せる。

「では、今から私達二人と戦ってもらう」

 ガシャン、とカートリッジが溢れる。

 ヴィータの小型ハンマーからも同じく溢れ、前後に挟まれる形になる。

「結界は十分な範囲を取ってある。制限時間は3時間。時間切れかどちらかのギブアップで終了だ。終了の際は再び此処に戻れ」

「んー……分かった」

 刀を出し、軽く体をズラし、後ろのヴィータを視界に入れる。

「よし……スタートだ」

「ふぅ……早めにギブアップしてよね」

 ジリ、と二人がすり足で間合いを取る。

 私も刀と鞘をそれぞれ持ち、擬似的な二刀流を演出する。

「「はぁぁぁっ!」」

「直線の攻撃で、数が同じなら止められない筈はない」

 シグナムを刀で、ヴィータを鞘で相殺する。攻撃は熟練しているだけにタイミングが同時で、死角から放たれる。こちらはただそれに合わせて防御するだけ。

 状況は二対一でも変わらない。いやむしろ悪化している。二人でも手が届かないとなれば、その精神の磨耗は一人の時の比ではなく……

「うっ……?」

「シグナム⁉︎」

 二分と経たずして、シグナムが剣を落とす。前回からあまり時間が経ってないから引きずったのかも知れない。

 しかし好機。これで終わってくれれば1番いい。

「ヴィータ! 止まるな!」

 ヴィータが続行を躊躇った瞬間にシグナムが叫ぶ。一瞬緩んだヴィータの顔が再び引き締まる。

「っ!」

「えっ? うそ⁉︎」

 攻撃は止まらなかった。それどころか、剣を拾ったシグナムも即座に復帰してくる。

「なんで⁉︎もういいじゃん!」

「そんな逃げ腰でいいのか! 次は殺すと言ったあの威勢はどこへ行った!」

「へぇっ⁉︎殺す⁉︎私よりいい殺され方があるって言ったよね⁉︎」

「それは1度目だろう! 2度目はどうだ! あの大鎌での戦闘は圧倒的の一言だ!」

「……2度目?」

 待ってちょっと。待ってちょ。まっちょ。マッチョマッチョ。

 私がシグナムと会ったのが高町さんが墜とされたあの日、次いで八神さんのお見舞いに行った一昨日。2度目の戦闘は今この場じゃ……? 

「シャマルとザフィーラも呼んだ! 今日この場でカタをつける!」

「待って待って⁉︎なんでそんな話に⁉︎」

「聞く耳持たん! 我々をどこまで知っているのか知らんが、主を知ったからには消えてもらう!」

「シグナム! ヴィータ!」

 混乱の中、上空から更に二人。

「シャマルか!」

「こいつが例のフタガミか」

 先日見た緑の女の人と……犬。

「ペット連れとは余裕だねぇ……」

「ペットではない! 盾の守護獣、ザフィーラだ!」

 数瞬後の悪寒から魔力放出の原理で体を無理矢理跳ばす。元いた場所は白い棘が乱立していた。

「むぅ……四対一かぁ……」

「卑怯とは……言わんな?」

「もちろん。人数でも道具でもなんでも使えばいい」

 そんなもので私に勝てるのなら。

「ふ、聞いていた通りの自信家だな。我ら四人を前にしても揺るがんとは」

「でも、魔力量は前の子とほぼ同じよ。油断しないで」

「行くぞっ!」

 四人が分かれ、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが私を三角形で囲み、シャマルが少し離れて魔法陣を展開している。

 前衛三人……バランス悪いわね。

「まぁでも……」

 三人ですらも変わらない。剣を、槌を、拳と楔を、事前に予感した通りに防ぎきる。たまに来るバインドも反射神経が意識を超えて避けてくれる。そしてなにより……

「たとえ四人でも、向かい合ったその瞬間だけは一人。なら、それを防げないはずがない」

 同時攻撃であろうとも刀と鞘と両足なら耐久が持てば防ぎきれる。そして耐久は能力で完全にカバーできる。

「悪いけど、私は負けないよ」

「ふ、未来が見えていようと、これに耐えられるか!」

 突然三人が引いたと思うと、私の周囲数メートルに可視化されたバインド、魔力球が密集していた。辛うじて視線は通るくらいの、とんでもない密度で。

 あまりにナメてる。プレシア一人にすら劣るようなこんなもの、私の能力に比べれば石ころ程の価値もない。

【壁を】

 空気を固定、厚さ10センチほどの鉄の板を自分の周りに置いた様なもの。2〜3センチならともかく、この強度を貫通するほどの攻撃はこの場に無い。

「ふ、当然防ぐよな。そうだろうとも」

 シグナムが正面から……弓を構えていた。

「コレの威力はそれらの比ではない。油断が過ぎたな。駆けよ、隼ッ!」

 言葉通り、槍の突き、ライフルの銃弾以上の威力を持って炎を纏う矢が能力の壁と接触する。

 鉄を溶かしながら速度を落とすこと無く突破するであろうその矢は……超弾性を得た空気によって減速し、私に到達するころには威力を失っていた。

「なっ……」

 鉄の強度を超えたのは事実。実際に鉄の壁であればメートル単位で置かなければ防げなかっただろう。だけれども、私が壁としたのは強度を増しただけの空気。弾力のあるゴム状にも液体にもできる。

 こんなもの、皇帝特権を使うまでも無い。

「ふーん……ただの魔力だ……なのに実物と変わらない重さがある」

「ふん……なんだ? 何が目的だ」

「……ねぇ、もしかして魔法関係者って頭固い話聞かない人ばっかなの?」

「あんだと!」

「何度も言ってるじゃん、八神さんを治す手伝いがしたいんだって。何度もおんなじ事話すの嫌いなの、面倒だから。次聞いたら殺すよ、八神さんの為に管理局でも敵にして良いって言ってるの。分かった?」

 刀を仕舞う。

 四人は病院でのヴィータの様に黙り込んでしまった。仕方ないので結論が出るまで待つ事にする。

「……いいだろう。信用しよう。ただし、直接的な協力はしない。お前が怪しまれると主に勘付かれる可能性が高くなるからな。たまたま共通の敵に会い、たまたま協力する、それでどうだ」

「おっけー。それで私は管理局に今まで通りの態度で接し、適宜情報を提供する。かつそれとなく八神さんから遠ざける」

「ああ」

「交渉成立だね。じゃあどうしようか、管理局のことだからこの結界には気付いてるよ」

「問題ない。お前は家に、我々は別の次元世界に転移する。ありきたりだが、私たちとお前は会った事はないし、互いの知識も無い」

「分かってるよ。しばらく会えないだろうから八神さんによろしく」

「ああ。お前のお土産を大層気に入っていた。事が終われば、また会ってくれ」

「もちろん」

「シグナム、準備できたわ」

「よし。ではな。約束が果たされる事を期待する」

 互いに魔法陣に入れられ、淡く光って視界が消える。

 居たのは自宅の寝室で、無事転送されたようだ。

 明日からスパイもどきの生活が始まる。そう思うと年甲斐も無く楽しくなる。



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第33話 観察

「楽しさのタネも分からず、何も考えなくて良いくらい楽しめる、それが僕の思う理想」
ーー私はそのくらい楽しかったよ?
「それも人それぞれ。僕はできなかった」
ーーそれは、どんなのだったら満足できる?


「さて。ちょうど一時間だが。話す気になったか?」

「ウタネちゃん……」

「ウタネ、今なら本当に無罪で解放なんだ。プレシア事件では管理局に相当な協力をした事もある。前科にすらならない」

「ウタネ、私からもお願い。ちゃんと話してほしいの」

 クロノ、高町さん、フェイトが机の向こうで拘束された私を見る。

 手は後ろで椅子に括られ、足は机の脚にそれぞれ。動こうとするなら体の前で机を引きずりながら膝と指先だけでの移動になる。それはちょっと辛いし、仮にも女のする動きじゃない。

「だから……覚えがないんですけども……」

 管理局アースラによる最高戦力とも言える三人に尋問されるというのはまぁ。別段アレだよ、知り合いだしなんとも思わないんだけども。

「じゃあもう一度流すぞ、この映像はなんだ?」

 クロノがモニターを開き、映し出される何処かの記録。

 場所は管理局のロストロギア保管庫で、収集したロストロギアの確実な保管、研究を目的に行なっているところだという。

 そこに大きな音と揺れ。天井の一部に穴が空き、土煙と共に立つ白い長髪を雑にまとめ、鋭い目つきの赤い瞳がモニターを見る。

 直ちに警報が鳴り、武装した魔導師が五人ほど向かうが襲撃者の持つバルディッシュを超える大きさの鎌に簡単に撃墜され、向かってくる者がいない事を確認した襲撃者はロストロギアを物色し、いくつかを持って天井の穴から消える。

 以上が、始めと今で二度見せられた映像だ。

「この襲撃者が君であるだろうと言う声が多数、更に分析した結果からも身長体重が君と一致する。言い逃れはもう殆ど出来ない状況だ。だが、奪われたロストロギアは全てが高エネルギー性質であるだけでジュエルシード以上の危険を孕むものでは無いだろうとされている。今出せば全て水に流してくれるよう交渉はしてある。局内での印象は悪くなるだろうがその程度だ。賢明な判断をしてくれ」

 クロノが面倒そうに書類をめくり、こちらに寄越す。内容は映像で奪われたであろうロストロギアのリストや現在私に向けられた処罰。処罰は局員が書き殴ったようで、半年謹慎から死刑まで様々。死刑て。

「……私じゃない可能性は考えてくれない?」

「今のところは皆無だ。何かあるのか?」

「鎌とか顔つきとか? ほら、全然違うでしょ?」

「確かに君は緩みきった顔をしているが、表情を作ることはできるだろう。武器に関してもそうだ、君はフェイトのバルディッシュを完璧に使いこなしていた」

「むー……所詮は法の番人かー……」

「あぁそうだ。一側面であろうと理論が通っていれば犯人だと断定するし、怪しければ拘束する。僕は艦長ほどキレイじゃないからな。怪しきは罰する、もナシではない」

「はぁ……そう。じゃあ私の秘密を知る法の番人さんに聞くけど。全方面から理論が通って本人も自白した場合でも、管理局で私をどうにかできると思ってる?」

 極めて面倒に、夕飯の献立を相談する様に問う。

 立場上仕方ないのは分かってる。だけども彼は私に不干渉を誓った。この拘束は明らかにそれを破っている。であればどうなるか、それを忘れる彼ではあるまい。

「……思わない。君との約束を破っている事も重々承知の上だ。だが、事はそれで収められない範囲まで広がってしまった。アースラの中での事なら僕達でなんとかしてみせるが、本局までとなるとどうしようもない。組織である以上は上に逆らう事は出来ない」

「そう……所詮それが数や権力に頼った結果よね。威張るだけの能無しども、感情だけで動く野生動物。かと言って冤罪食らうのも嫌だから……一ヶ月、最低でも二週間くらい猶予貰えない? その映像の犯人捕まえたら解放されるでしょ」

 やっぱ管理局に属するのは無理ね。上を殺して私がトップになっても……面倒だからいいか。

「犯人をねつ造するのはナシだぞ」

「分かってるよ。そんな事するわけないじゃない、犯罪者じゃないんだもの」

「……一ヶ月は無理だ、二週間なら監視付きでなんとか、というところだな。監視は同じ地球在住ということでなのはとフェイトを付けるという事で大丈夫だろう。後は……いや、大丈夫だ。君が管理局と敵対しない事を心から祈る。上には何とか言ってごまかすがね」

「それはそちら次第だよ……今回のこれはまだ許すよ、そっちの立場もあるだろうからね。高町さん、フェイト、行こうか」

「「え」」

 黙っていた二人が素っ頓狂な顔をする。話聞いてた? 

「保護観察、今からでしょ。私はもう寝たいの。家までついてもらえる?」

「うん……」

 二人に連れられアースラから地球のどこかに転送される。そこからしばらくは黙って歩いていた。

「ねぇウタネ、私はウタネがあんな事するとは思わない。犯人の心当たりはあるの?」

「別にしないとは限らないよ。人も生き物なんだ、家族を殺す人もいる」

「ん……」

「信じ過ぎるのは油断だよ……犯人ね。心当たりはない事はない、けど……」

 あの映像、クロノの言う通り完全に私のそれだ。幻術や化粧じゃない、素の私。けれど私じゃない。しかも鎌なんて持ってない。持ってたらフェイトにバルディッシュを借りたりしない。でもあのバルディッシュの黄色を白にしたようなカラーに大きさ……知ってる。この世界じゃないとすれば神の手が入ってるから……送ってくるなら私の知ってる人間である可能性が高い……となれば私を見つける為に主要機関である管理局との接触は時間の問題か……かつこの世界を知ってるなら八神さんたちの事も知ってる。そっちからのアプローチもある……まずシグナムに連絡して……

「ウタネ?」

「可能性はあるから、対話になったらできるだけ情報を引き出して、要求も出来る限り飲むんだ。無茶な事は言わないはずだから」

「え?」

「ん、多分向こうは貴方達を知ってるから。加減はしてくれるはずよ」

「いやだから、何の話?」

「え? いやだから、犯人が接触して来た時の話」

「……?」

「あれ? 犯人が私じゃなく別にいたらどうしたらいいかじゃなかったっけ」

「え……いや、聞こうとはしたけど、まだ何も言ってないよ? なんで……」

 急に噛み合わなくなった会話に、確認するけどやはりどこかズレてる。

「む……?」

 言ってない? いやでもそうじゃなかったらそんな話はしない筈……

「おかしいね。まぁ私の直感がフェイトの質問を先読みした、くらいでいいと思うよ。前もなんか似たような事あったし」

 前は誰と……んー、忘れた。

「そう……分かった。でも不調なら言ってね? 私たちは監視なんだから。病気ならちゃんと治さないと」

「あなたの思う監視は多分見守りの意味が強いね? クロノの言ってた監視は管理局に対して私を完全に支配できていると見せかけるように演技しろって事だよ。だから私の行動をたまに止めたり、指示しないといけないの」

 私を味方と決めつけているフェイトを諭す。客観の立場からは意味わかんないけどね。

 クロノも何かと悪党だよね。法的な悪ではないけど法になりきれない感じ。

「……ウタネちゃんって、クロノ君と仲良いよね?」

「別に? 親しくはないと思うけど」

「なんか互いを理解して信頼してるって感じなの。私たちとは見方が違うのかなって」

 高町さんが妙な事を言い始める。

 けれど茶化すような雰囲気ではないので、一応は真面目に答えてみる。

「んー……そうだね。確かにクロノは信頼できる。根本の考え方が食い違ってはいるけど、行動指針ではあまりモメないだろうね」

「どうしてそう思うの?」

「彼は自分で管理局の歯車の一つとして動こうと律しているけど、根本が優し過ぎる。犯罪者には容赦無いけど、冤罪の可能性を少しでも感じたら躊躇ってしまう。今の私みたいにね。管理局はやろうとすればなんでも許されるくらいの力がある。優しいからこそ彼は苦しむだろうね」

 他人の苦しみを想像できないほどバカなら、どれだけ楽だっただろうか……彼も、私も。

「自分の思う正しさがあって、世界はそれと違ってて。昨日と変わらない今日を、死ぬまでずっと続けてる世界が間違ってて。そんなさ、捻くれた考えが行き過ぎてるんだよ、特に私はね」

 世間からのズレほど、理解されず自分を追い詰めていく。彼らが想像してもいない悩みは全て、時間や体調が解決するだとか意味の無い言葉で流される。

「……あんまりよくわかんないけど、ウタネちゃんはやっぱり優しいよ。私なんて家族や友達だけで、世界のことなんて心の底ではどうでもよく思ってた」

「普通はそうだよ。自分の見える内が世界なんだ。けどそれで正しい。知らないものは知らない、関係無いものは関係無い。そうでなければ世界はあなた達の言う平和になってるはずだから」

 誰も傷つかない、誰も困らない世界が平和だと世間は言う。私からすれば、そんなのは一面からしか人間を見ていない。

「ウタネちゃんは違うの?」

「私……は違う、かな。あんまり言わないんだけどね。私ね、全生物に消えて貰いたいんだ」

 二人にだけ、今はこの二人にだけ、本音を零す。

 このアクションが今後の管理局と私の距離を決定するだろう。




・もしダンベル何キロ持てる?の世界にソラが転生したら

「フルパワー、100パーセントプラス鬼の貌……全治半年は覚悟してもらうよ」
「「「……」」」


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第34話 もう一度

「わからない。僕の理想は、今この世には無いと思う。分かるものが嫌だから、解らないものを理想にする。言ってしまえば、才能の有り余った人間特有の悩み。ほら、君はまだ世界に馴染んでいるけど、馴染み過ぎた時は今と全く違う」
ーーどう違うの?
「それはそれ。君が何年後か、この事を覚えていたら実感するよ。多分、思い出すことさえできないけどね」


「「え……?」」

 私の告白は、二人を一時的に機能停止させるには十分なものだったらしい。

 硬直を解く為にも、同じように言葉を使う。

「私の望み。目的はそれなんだ。全生物を消すこと」

「なんで……」

「理由は言わないよ。あくまで私の哲学で、私の結論として出たものだから。またきっかけがあれば話すかもね」

「じゃあなんで、ジュエルシード集めに協力してくれたの? 放っておいた方が、その助けになったのに」

「んー、あんまり変わんないからかな。ジュエルシード程度(……)の被害なら確かに大事件だけど、修復できない程じゃない。高町さんとフェイトだけで収集したとしても、その被害を修復するのに二年と要らない。そんなのは転んで膝を擦りむいたってくらいだよ。人を殺すのにそんな擦り傷は誤差にしかならない」

「あれだけのロストロギアが、擦り傷なの……?」

「言ったでしょ、それがあなたの世界。身近な人が数人、地域の人が十数名巻き込まれただけで深刻な被害だと認識してる。そりゃあ人口百人の内二十人の死は重症だよ、人で言うなら片足複雑骨折くらい。けどまだ立てるし、動ける。この世界は数十億と人間がいる。数十人死んだところで誤差の範囲なんだよ」

 一部の国では国民の半分以上が飢餓に苦しむというのに、一部では全てを持て余している。世界は後者が作っているから、前者がどうなろうと大差は無い。

「ヒトは好きなんだよ。別にね、生き様の全てが嫌いなわけじゃない。だったらこうやって話してる内にほら、一刀両断」

 刀を高町さんの首筋に差しむける。

「……!」

 フェイトがバルディッシュを手にするが、私に殺意が無いと見ると引っ込めてくれた。

「でもしない。それをする意味は無いから」

「じゃあ、どうしたいの。ウタネちゃんが私達とは違うのは分かったよ。普通の人の思う普通の平和を望まないっていうのも。でも、それならウタネちゃんの行動は矛盾してる」

「うん。普通はそう思うよね。人を消したいのに人を救う助けをしてる。消したいなら殺して回るべきだと」

「うん」

 高町さんの言いたい事を言葉にすると、それを肯定する様に頷いた。

「それも前提が違う。もし全人類を即座に殺すだけの力があったとすれば。別に一人二人、数百人数千人増えても減っても変わらない。だから、欲しいのは私の哲学への反論なんだ。私の思想は、こう間違っててこれが正しいんだって。人が生きる意味を、価値を」

 世界から水を消したいからと、湖1つを干上がらせても大部分の水である海にはそう影響は無い。それと同じ。

 私の言葉に、高町さんはそれ程間を置かず真っ直ぐに答える。

「ただ周りの人が大切で、楽しく暮らしたいから。他に意味なんて無いよ。自分の人生を自分の思う通りに頑張って、みんな笑って暮らせる生活を目指していく。人生って、そういうのじゃないの?」

「……驚いた。小学生がそんなしっかり人生観を持ってるんだ……」

「ウタネちゃんだって小学生だよ」

「……そうだね。確かにそうだ。でも残念ながら、高町さんのそれは私の価値を覆すものじゃない。確かに生きるだけならそれでいいと思う。立派だよ。だけど……うん、もう言っちゃおう。次は無い。あなたの生きた後はどうなる? あなた達人間が作り上げた文明はどうなる? 普通の人を記憶する人は精々が三代。100年足らずだよ。80年生きたとして、180年。それがあなたという存在の寿命。それに何か価値がある? あなた達人間の作り上げた文明。現代の地球上最大の発展を遂げたけど、後何世紀持つ? いつかは消えて無くなる。氷河期か、地球自体の崩壊か、原因は分からないけど絶対に消える。なら、今の文明に意味はある? いつか消える何かに、必要性を感じられる?」

 私の心の底を、この小学生にぶつける。通算でこの子達の倍以上を生きた私が、対等な立場として胸襟を開く。

「……無くなるのが怖いの?」

「怖い。日々を死ぬ気で生き抜いているのに、それが何の意味も無い。積み上げたものが消える瞬間は死と同義だよ。死を恐れる理由もそれだ。今までの人生が消える事を怖れるんだ。なら、積み上げる前に消えればいい。いずれ価値の無くなる全てを、今ここで──!」

 やはりダメだ、ここで、この地球で。

 私の生まれた場所で無くとも、同じ人間が住んでいる。暮らしている。蠢いている。無意味な活動を続けている。

 そんなもの、今すぐ無くしてみせよう。いずれ来る死の恐怖から解き放とう。

 全てが始まる前に、全てを崩して見せよう。今宵あなた達は救われる。神は私を恨むといいさ。私はこんな人間だ。自分の理屈のために他人を全て否定する──! 

【全て。完全固定、圧縮】

 あらゆる物質を固定する。そのまま地面へ落としていく。

 大気圏は地表へ近付き、山は平たく、ビルは崩れ、木々は軋みを上げる。

 あらゆる全ては、見えない重さに潰れて消える。その様を、私は最後まで見届けて……

 

 ♢♢♢

 

「じゃあウタネちゃん、また明日、学校でね」

「え?」

「だから、学校。もうサボったらダメだよ」

「え……いや……うん」

「私達が付いてなきゃダメなんだから、来てなかったら迎えに来るからね」

「いや……行くよ……ちゃんと」

「うん。じゃあね」

 玄関から遠ざかる二人を、ただ呆然と見つめる。

「え……」

 世界は何も変わってない。まるで私の能力が痛い妄想だとばかりに。

 しかし能力は健在で、今確かに使用できる。

「今度は何……? 会話がズレてるのとはまた違う」

 会話のズレは私の頭が先を行き過ぎただけだ。けどこれはおかしい。まるであの会話を無かった事にされたような……

 考えるだけ無駄か。分からないことはわからない。やる事を1つずつ片付けよう。それが問題解決に繋がる。

(シグナム、聞こえる?)

 取り敢えず、管理局が私を監視下に置いた事を報告しよう。

(……ああ、どうした?)

 三十秒ほどで返事が返ってきた。少し息が乱れているところを見ると、蒐集の帰りだろうか。

(ごめん、別件の事件で、私が管理局に監視される様になった。監視人はシグナムとヴィータがやった女の子二人)

(む……そうか。冤罪であれば仕方ない。むしろそちらにあの二人が付くのであればこちらが動きやすい。その状況を維持できそうか?)

(犯人が出てこない限りはしばらくこのままだと思う。監視と言っても緩めだからこっちはそう動かないけど、そっちに多少は向くかも)

(いざとなればそれも仕方ない。そうなったらお前はどうする)

(もちろん、そっちに。管理局なんかに八神さんを好きにはさせない)

(そうか。負けるつもりは毛頭無いが、そうなったら何もできんぞ)

(いいよ。あなた達がいなくても何かしらはするつもりだったし。医療技術は結局必要なんだ)

(どこか悪いのか? シャマルなら十分な治療ができると思うが)

(うん……また今度会えたら)

(そうか。急ぐならまた声をかけてくれ。管理局と関わらない限り協力しよう)

(ありがとう……そうだ、シグナム。ついさっき、変なこと起きなかった?)

(変?)

(例えば……やったと思ったことがやってなかったとか。時間が戻ったような感覚に囚われたとか)

(……? いや、なんともないな。管理局絡みか?)

(ううん……多分違う、と思う。私の確信もないのにごめん。確証が持てたらまた言うよ)

(……まぁ、いいだろう。それではな)

(うん)

 念話を終え、意識を戻す。

 原因不明、恐らく私以外認識していない能力の介入。そして高エネルギー源のみを強奪した動機。

 分からないか……仕方ない。

 こういう時に使えるものが無いのは不便だな、と思いながら、その不便も普通の人が感じるものだと思うと多少は人間にも同情する。

 意識を切り替え、とりあえず明日寝坊しないよう、様々な紙に埋もれた教科書を発掘する事から始めた。



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第35話 お茶会

「君は、これまでの事をいつか曖昧に忘れて、また僕の前に来るだろう。それがいつかは分からない。再び会えるかも分からない」
ーーどういうこと?
「認識しているのは僕だ。君はまだ無自覚。僕たちはそもそもが他人とは違うんだ。世界に選ばれたと言っても過言じゃない」
ーーどう違うの?私たちは、普通だよ?
「再び僕と会う時、これだったんだと気付くさ。自分の力は、自分では正確に認識しづらいものだから」


「……おはよう」

 寝不足もあり、重い足取りで教室へ入る。

「あ、おはようウタネ」

「ウタネちゃん、おはよう!」

「あら、随分と細ってるわね」

「……おはよう、ウタネちゃん」

「うん……若い子は朝から元気だね……」

 まさか一切触ってない教科書が無くなってたなど思いもするまい。何日サボってたか分かんないけど……不思議。結局はロリコンに用意してもらった。神様ちょー便利。

「何言ってんのよ、あんたも同い年じゃないの」

「んあ、そうだった。そうだ、フェイトはもう学校慣れた?」

「ウタネちゃん……フェイトちゃんが転入したのは一昨日だよ?」

「え、そうなの?」

 大変だねー……転入して何ヶ月かの私が馴染んで無いのに……

「うん。でもなのはも二人もいるから、結構馴染めてると思う」

 私の半年がフェイトの二日に負けた。マジか。

「そう、ならいいじゃない」

 しかしそれで傷付く私ではない。友達がいないのは昔から……いや、好きで一人でいるんだよ、そう、決して友達ができなかったわけではない……

「そうよ、私たちに感謝しなさい」

「アリサちゃん! もう……」

 うんうん。微笑ましい微笑ましい。

 あー……眠たい。お昼前に起きて夕方に寝る生活がしたい。面倒くさい。ぶっちゃけ何もしなくても神が勝手に口座に振り込んでくれるんだから学校なんて行かなくてもいいし管理局に入る必要も無いんだよ。魔法なんてのが無ければ勝ち組なのになぁ……

「えと、ウタネちゃん、おはよう……覚えてる?」

 目の前の年相応の気楽さを妬んでいると、聞いたことのある声が近づいてきた。

「ん? あー、この前誘ってくれた子だよね、ごめんね?」

「かんなちゃん、ロクに学校来てないコイツと知り合いなの?」

 金髪お嬢様が名前を呼ぶ。そうだ、かんなだ。忘れてた。

「転校初日に話してくれたんだよ。職員室に用があって断っちゃったけど」

「へぇ〜、いいじゃない。コイツ器用だから利用(なかよく)しなさいよ。ロクに学校来ないくせに成績優秀だけど」

 金髪お嬢様のニュアンスには敢えてツッコむまい。使えるものなら使ってみろ。

「アリサもそうすれば? 結果出てるのに課題増えるよ」

 満点常連の金と紫お嬢様に遠慮して90半ばくらいでテスト出してるのに学校行ってないだけ課題が増える。クラスの上位五人には入ってるのにおかしいよね。

「……やめとくわ。普通に出席した方が楽ね」

「日本も頭固いからねぇ。中身の無い決まり事ばっか」

 金髪お嬢様と紫お嬢様はかなりの優等生だった筈だ。今が良いなら変えるべきでは無いだろう。

「ウタネ、毒漏れてるよ」

 フェイトに愚痴を指摘される。私のは存在ごと否定するから余り表に出さないのがマナーらしい。フェイトの存在も人間の言う倫理観ではタブーでは? 

「ん……と。ごめんねかんなちゃん。私こんな感じだから」

 とりあえず謝ってはおく。

「うん、よろしくね!」

 挨拶に取られたようで、笑顔で返される。

 そんなやり取りを他数人と繰り返しながら、無駄な授業を聞き流し1日を終える。

「お疲れさま〜」

 つまらん。習い終わった授業を知らないフリして受け直すくらいつまらん。義務教育とかさ、躾とかさ、いる? 本人の美意識じゃないの? 

「ちょ、待ちなさいよ!」

「……なに。学校終わったんじゃないの?」

「違うわよ! 終わったわよ! 終わったからこそ待てって言ってるのよ!」

「……? ちょっとワカンナイ。ニホンゴシャベッテヨ」

 金髪お嬢様の言動が理解できない。他の三人も同様に私を引き止める態度だけど、なんで? 

「キィィィィィェェェェェェェ!」

「アリサ……女の子が人前で出しちゃいけない声出てるよ……」

 図太いのに甲高い奇妙な叫び? を上げ、同じ金髪のフェイトに止められるアリサ。声帯どうなってんのそれ。

「ふん! そうね! フェイトはお淑やかね!」

「アリサちゃん! フェイトちゃんに当たらないで!」

「悪かったわね! 荒くれで! 貴女達淑女とは違うのよ!」

「……で? なんだよ。いい加減にしねぇと切るぞ」

 長くなりそうだったのでいつかのように男口調で話す。随分久しぶりだし私これ慣れないのよね。

「なによ、文句あるわけ⁉︎」

「あるに決まってんだろ。どれだけ待たす気だクソ女」

「何やその言い方ぁ! 堂々と約束すっぽかすアンタに言われたくないわ!」

「……約束?」

 そういう物言いはこちらが絶対的な悪だと錯覚するからやめてほしい。

 まるで久し振りに揃ったからお茶でもしましょう的な約束をしてたみたいじゃないか。んー、この流れ、そんな感じだね。

「ウタネちゃん、みんな久しぶりに集まったから、今日はウチでお茶でもどうかなってお昼話したじゃない」

 そんな感じだった。

「あらそう……覚えてないけども……」

 ホントに? という視線を他三人に向けるも、全て肯定で返される。

「わかった……忘れててごめん……行くよ……」

「そうよ、さっさと来ればいいのよ」

「はいはい……」

 すると颯爽とリムジンが飛んでくる。私待ちか……

「ところでアンタさ」

「ん?」

 リムジンが出た所でいきなり金髪お嬢様に話しかけられる」

「さっきといいたまに口調とか変わるじゃない。あれなんなの?」

「……なに、というか……多重人格」

「トンデモワード出たわね」

「今はなんか無いけど……多重人格歴は結構長いよ」

「ホントなの? 厨二病?」

「んー、今は厨二病」

「なにそれ」

「べつにー」

 若干過去を掘られてる気もするけど、適当な受け流しをしつつ時間を稼ぐ。

(高町さん、管理局の方はいいの?)

(うん……レイジングハートもバルディッシュもまだ修理が完了できてなくて。あと二日くらいは覚悟しておけって)

(そう……)

 ……デバイスの修理に、そこまで時間を要するだろうか? 

 高町さんもファイトも嘘をついている様子は無い。事件の事は気にしつつも、折角の休みは堪能しようといった……いつも通り。そこが気になる。シグナム達に不利になる状況は出来るだけ把握しておきたいけど……

「さ、行きましょ」

 そう考えている内に着いたようで、金髪お嬢様が先陣を切って降りていく。

 ここ確か、紫お嬢様の家だったような……

(……フタガミ、聞こえるか)

(……! シグナム、どうかした?)

 さぁお茶会、というところで思わぬ相手から念話が来る。

 お嬢様たちの話はそこそこに、シグナムとの念話に気を割くことにした。



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第36話 蜘蛛

「僕にとって、理想が遠い。楽しいと、良いと思う理想が遠い」
ーー遠いと、楽しくない?
「その場限りなら楽しいよ、それなりに。でも夜には辛くなる。なんであんなもので楽しんでたんだ、所詮そんなものか、って。理想が遠過ぎて、今が嫌になる。理想は必ず今じゃないから、今が嫌になる」
ーーでも、今しかないよ?
「今じゃなくて良い。でもきっと僕はいつか手にする。理想を手にする。その時まで、僕は……私は、オレは理想を望まない」


(シグナム?)

(すまない、大丈夫か?)

(うん……どうかした?)

(恥ずかしながら手こずっている。ヴィータもザフィーラも手が離せなくてな。少し手を借りたいのだが……)

(別に、それはいいけど……いいの? 私が協力するなら、遅かれ早かれ管理局も来るよ)

 今は私に二人を引きつけてるし、何故かデバイスも修理できてないようだからシグナムたちの追跡に手を焼いてる様だけど、直接となれば一気に手は伸びるはずだ。

(あぁ……それもコイツを蒐集できるならお釣りがくる。お前に管理局の目が回っている分進みも良い。これを逃したくはない)

(……分かった。勝算があるなら乗るよ)

(座標……いや、シャマルに転移させよう。今大丈夫か?)

(いや、今は管理局に監視されてる。管理局にも転移を頼むから、その直前で拾ってくれると誤作動を言い訳にしやすい。できる?)

(……可能だそうだ。では頼む)

(わかった)

 念話を切る。

 これはある種、とても面倒な行動だ。シグナム達は手伝いたい、管理局は敵にしたくない。この板挟み。何故こうなったか……高町さんにジュエルシードの件で手を貸したからだ。フェイトを救う為暴走したジュエルシードを確保したからだ。

 ……他人への無闇な干渉はいつか自分に返ってくる。誰からも嫌われることと同じように、敵対する両者から頼られる事も辛い。こんな事になるのなら、やっぱり家に閉じこもってれば……

(クロノ。見てると思うけど、これは過剰干渉だ。迅速な対応を願う)

 今はそんな場合じゃない。八神さんを救う為だ。多少の苦労は覚悟の上だ。

(見ているが。別にただのお茶会だろう。付き合ってやれよ)

(四人にクロノが覗きしてるって触れ回るよ)

(やめてくれ! そういう女性特有の脅迫はタチが悪い!)

(まぁそういうのあるよね。じゃあお手洗いって別れるから、どっかの曲がり角に置いといて)

(く……わかったよ。その建物を解析させてもらった。トイレまで二回曲がる事になる。二つ目の先に設置しておく。人目がないように頼む)

(あら、お早いね。女の子の家覗くのは手が進むかい?)

(エイミィ、やっぱり転送はナシだ。あと上にも襲撃犯はウタネで確定と伝えてくれ)

(ごめんごめん! 悪かったよ。貸し一つ、私を好きに使っていいから)

(あのなぁ、そう言う言い方を簡単にするもんじゃない)

(ん? いいよ、そういうのでも。多分クロノなら殺されないだろうし)

(なんだ⁉︎殺されるって!)

(さぁね……私は、目的の為ならなんでもするから)

(まぁ、面倒な事件でもあれば手伝って貰うさ。切るぞ)

 クロノに貸し一つという事で話はついた。さぁ、作戦を顔に出さないようにしないと。多分無表情なんだけども。

 言う通り角を二つ曲がり、人気の無い事を確認する。そして魔法陣に足を踏み入れた瞬間、シャマルの魔法に捕まる。

「……は?」

 一応、すっとぼけておく。

 出てきたのは非常に高い湿度の荒野。雲一つない晴天であるにもかかわらず赤みがかった砂地は水気を含み、少しではあるが足を取る。

 およそ生物が繁栄するには過酷過ぎるであろう環境で、当然周囲には一人としていなかった。

 しかし目標はすぐに見つかった。おそらく偶然を装う為少し離して落としたのだろう。いい気遣いだ。

 それでも問題はあり、目標とはシグナムではなく、シグナムが手こずったであろう相手を指すからだ。5キロ程は離れていそうなものなのに大きく見える。

(シグナム、多分そこから5キロくらい離れて着いた。管理局にクレーム入れるからそのバケモノ連れてこれる?)

(あぁ、進路はそちらだ、そう時間はかからない)

(わかった)

 シグナムと繋いだまま、管理局……クロノに繋ぐ。

(ねぇ、これどこ?)

(すまない、何者かにジャミングされて情報が一切こちらに来ていない。どうなった?)

(知らないよ。転移は頼んだけどこんな荒野に捨てろとは言ってない)

(念のためジャミング解除と平行して特定もしておこう。その周囲は何かあるか?)

(えーと、超巨大な活動体と、人型が三……三⁉︎)

 目視と、皇帝特権使用の直感で気配を探る。すると、予想外の気配が存在していた。

(超巨大? なんだそれは)

 当然クロノには異常の方が気になる様子。

(うん……クモだね、蜘蛛。砂の)

(もう少し詳しく)

(砂を固めて形作ったような蜘蛛が、砂に含まれた水分が蒸発した湯気? みたいのを全身から吹き出しながらこっち来るね。結構速いね。大きいからかな)

(こちらはまだ時間がかかりそうだ。対処できるか?)

(わかんない。勝手にやっていい? もちろん能力無しで)

(ああ、すまないが時間を繋いでくれ。防御の為なら使用も許容しよう。こちらの不手際だからな)

(そ、ありがと。じゃあ繋がったらまたお願い)

(ああ。健闘を祈る)

 クロノとの念話を切る。

(シグナム、管理局はまだ此処を特定できてない。存分に過程のねつ造は可能だよ)

(そうか、それは有り難い)

(ただ……私たち以外に、二人いる。味方?)

(いや……ここには私しか来ていない。だからこそお前に連絡したのだから)

(だよね……)

(まだ少し開けるか? 管理局に映像を流されると面倒だろう?)

(……いいや、捕まえよう。その二人も蒐集すればいい)

(できるのか?)

(大丈夫。このバケモノと多少やって、偶然を装って吹っ飛ばされる。そのまま二人を拘束する)

(ふむ……わかった。できる限り私も協力しよう)

(よし……じゃあまず私から……戦いながら合流しよう)

 刀を手にし、最も近い右前脚を目標に加速。同時に振り始め、射程距離に入ると同時に振り切る。

 ズッ、という泥に突っ込んだ様な感触。思った以上に水分を含んでいるようだ。

「それで、切れないのね」

 切った、というより当たって振り切ったのだから切れてた筈なのに、一切キズが確認できない。

「その程度では無理だな。私もしばらく斬り続けてはいたが、ご覧の通りだ」

「シグナム……そう」

 蜘蛛の向こうからシグナムがやってきた。

 カートリッジ込みでとすると対人能力では無理そうね。対城レベルか。

 とは言っても二人とも剣士。それほどの火力は現在望めない。

「よし、一旦こいつは諦めて、魔導師二人を先に行こうか」

「どうする気だ? 距離があるんだろう?」

「コイツに飛ばしてもらおう」

「コイツ、と言ってもな。コイツは一切攻撃してこない」

「いいや、させる。形だけでもして貰えば……」

 取り敢えず良い感じに跳ぶ。テニスのサーブの時のボールみたいに。

「シグナムもそれっぽく!」

「っ、ああ!」

 シグナムも別の方向に飛び、準備完了。

 これなら二人で蜘蛛を攻撃しているように見える……はず。

 更に能力で脚一本をお借りして、私に向けてフルスイングさせていただく。

 そうする事で私は目標の方向に自然に吹っ飛ぶことが出来る。

 そして皇帝特権、砂地での体術を最適化する。

「ほら、そこの二人、諦めな」

 取り敢えず片方へ跳び、能力強化した刀で突く。

「がっ……!」

 仮面を被った男の右肩を貫通し、動きが止まったところで二人目。

「く……」

 しかしそれは対応され、空中へ逃げられる。

「なんのつもり? 管理局?」

「……答えるつもりは無い」

「そう……じゃあ、アナタ達、敵?」

「……答える必要は無い」

「そう。じゃあ敵だ」

 地面に刀を刺し、大振りに振り上げることで砂煙を立てる。

 その隙に攻撃できなかった方へ跳び、腰を切る。

「う……」

「ほら、諦めな……?」

 一人いない。攻撃してくる予感も無い。勘で言うと……逃げられる。

「フタガミウタネ……脅威だ。警戒しておくとしよう」

「くっ、このクソアマァ!」

「闇の書の完成と共にまた会おう」

 砂煙と共に二人が消える。かなり速い転移魔法だ……

(ごめんシグナム。結構な魔導師だった。ダメージは与えたけど逃げられた)

(こちらは撃退できただけ構わないが……管理局の魔導師だった場合どうする気だ?)

(分からない……下手したら捕まる)

(そうか……すまない)

(いいの、気にしないで。私が勝手に突っ走ってるだけ……気を付けて)

(ああ、魔導師だな)

 複数の気配、それもかなりの数。

「時空管理局だ! 闇の書蒐集の現行犯で逮捕する!」

「クロノ⁉︎」

 現れたのはクロノと高町さん、フェイト、その他複数局員。

 プレシア事件の際に見たような顔ぶればかりで、いかに用意してきたかよく分かる。

 数の差は圧倒的で、私たちは行動の間も無く取り囲まれる事になった。



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第37話 拘束

月日は流れ。
揺らめく夕陽に晒された無の荒野で、二人は対峙した。
ふー、と息を吐き、目の前に立つ男を見る。
眼鏡をかけた中肉中背。すぐにも忘れてしまいそうなほどに、至って『普通』と形容される男は、しっかりオレの知識に刻まれていた。


「やっぱり……デバイス修理にそんなに時間がかかるなんておかしいと思ってたんだ」

「謀られた……ということか」

「シグナム、撤退。私があの三人を相手する。貴女が捕捉されるのはダメだ」

「……仕方がない」

 行動の間も無く取り囲まれる。

 私はともかく、シグナムが捕まれば闇の書完成は遠くなる。そうなれば八神さんの麻痺の方が早くなるだろう。逃げるなら、シグナムだ。

「やはり君が協力者か、ウタネ」

「明らかな非戦力を装い、私に付けて……尻尾を出せばすぐ捕まえられるようにと」

「そんな所だ」

「いつからそんな作戦を?」

「そんなことは尋問室でゆっくり話せる。今は……シグナム、君を捕獲する」

 執務官が構えを取ると、周囲もそれに合わせて構える。

 能力は使わないとしても、皇帝特権だけで捌けるかどうか……

(シグナム、シャマルに連絡は?)

(もう取っている。隙があればいつでも)

(なら、一瞬だけ管理局の動きを止める。私が踏み出してから5秒後、何があってもそのタイミングで)

(……ああ。わかった)

「まぁ……そうだね、これで私も犯罪者……」

 右足を出す。ここから5秒。

「フンッ!」

 一瞬でクロノとの距離を詰め、以前切ったところを全力で叩く。ガードされたもののひとまず指揮を止める。

 更に左右の局員を峰打ちで肩を叩き、撃沈。

 更に高町さんとフェイトに牽制。

 ここまでで5秒。能力を使用し、シグナムの周囲以外あらゆる気体の動きを止める。

「行って!」

 転移確認後即能力解除。

 これでシグナムは無事危機を脱し、管理局闇の書事件関係主要戦力は絶体絶命の危機に瀕したわけだ。

「はぁ……クソ。逃げられたか……ウタネ、君には洗いざらい話してもらうぞ。目標捕捉を逃したのは問題だ」

「……さて、何で気を抜いてるの? まだ凶悪犯罪者が戦闘の意思を持ってるのに」

「……!」

 クロノに再び接近、振り下ろした刀は金色に防がれる。

「ウタネ、もう大人しくして。私たちはあなたを傷付けたいわけじゃない」

「……勘違いしてるよ。私は、あなた達の味方になった覚えは無い」

「なのは! フェイト! そこまでだ! 構えるな!」

「「⁉︎」」

 クロノの指示は私にとっても意外なもので、一度距離を取る。

「クロノ執務官!」

「お前たちもだ!」

「……っ!」

 他の全員にも非武装を強制。抵抗が無駄とはいえ、大人しすぎではなかろうか。

「ウタネ。お願いだ。ここは大人しくしてくれ。約束を守れていないのは重々承知だ。だが、闇の書は完成すれば辺りを破壊し尽くしていく兵器なんだ。過去の記録からもそれは明らかだ。あんなものをもう二度と完成させるわけにはいかない」

「……わかったよ。ただし私からは何も話さないよ。大人しく捕まってはあげるけども」

「ああ……」

 私の持つ闇の書についての知識と食い違っている。完成された魔導書は持ち主の思うまま、記録研究の為のものの筈だ。過去数回の記録は一度聞いたけど、兵器なんてのは一度も聞いてない……

 連行はごくスムーズに行われ、無事いつかの尋問室に同じ様に机と椅子に縛られた。しかも紐じゃなくて金属の手錠みたいなやつで。

「ナニコレ」

「超硬合金。僕もよく知らないが管理局で最も頑丈な金属らしい。君を拘束したいと申請したら直ぐに渡してくれたよ」

「ふーん……流石に厳しいね」

「緩すぎるくらいだ。磔にされて拷問されてもおかしくない事をしでかしてるんだぞ、君は」

「何その対応。協会じゃん」

「協会?」

「いや、なんでもない」

「まぁともかく! 相手の情報は話さないだろうから、別のことを聞く。なんで彼女たちに協力した?」

「別に。したいと思ったから。私だって人なんだよ。理論以外で動く事だってたまにはある」

「じゃあウタネ。シグナム達の目的だけでも教えて欲しい。私には、シグナムが悪人には思えない」

「……当たり前だよ。罪人だとしても悪人じゃない。欲しいのは魔力、リンカーコアだけ。無闇に傷付けたり、殺したりなんてしない」

「理由を知ってるの⁉︎ヴィータちゃんも同じ⁉︎」

「理由は一緒だよ。理由も知ってる。けど話したりはできない」

「話せない理由は? 闇の書の主に関わる事だからか?」

「話せばあなた達が迷うことになる。闇の書を確保するか、放置するか、をね」

「……どういう事だ。闇の書を完成させるメリットがあるとでも言うのか」

「さぁね……でもそこなんだ、私が知りたいのは。クロノは前、被害が確認されている、としか言わなかった。でも今回は破壊兵器とまでランクアップしてる。管理局の持つ闇の書の認識は何?」

 クロノ達は、闇の書完成にメリットなど一つもないと言う態度。私は今まで、闇の書による被害は所有者の悪意によるものだと思ってた。闇の書完成と共に所有者のパスが完全となれば所有者への干渉も無くなり、制御下に置かれるものと。

 しかしクロノの返答は、私の認識とは全く別のものだった。

「闇の書は。完成すれば主さえ取り込み、あらゆるものを取り込みながら破壊していく侵食兵器だ。かつてはアースラと同等の船が墜とされている」

「……主でさえ?」

「闇の書の主が生き延びた記録は無い。結果からの判断だが、そう見て間違いないだろう」

 流石に言葉を失う。シグナム達は闇の書の完成は八神さんと闇の書のパスを繋げ、闇の書からの過干渉を無くすものである、と言っていた。

「分かったら理由と、主を教えてくれ。君に構っていた分、闇の書の蒐集は進んでいるんだろう?」

「……ダメだ。教えられない」

 コイツらは、その理由を大義名分に八神さんの全てを奪うだろう。正義の為の最小の犠牲として、最大の敬意という侮辱と共に。

 管理局を敵に回すと彼女たちに言った。それだけは嘘じゃない。例え完成するまでだろうと、彼女の生活を脅かすことは許さない。私が彼女と再び会うのは、この件が終わってからだ。

「何故だ! 主と守護騎士を拘束することで周囲の被害を失くせるんだぞ!」

「知らない……もう放っておいて。1週間くらいご飯食べなくても平気だから、檻に鍵でもかけてればいい……」

 私はもうこれ以上関われない。

 今の私の頭じゃ、解決できない。

 八神さんと管理局、どちらも救えないのなら、もういっそ。どちらも滅んでしまえばいい……

「……わかった。少し頭を冷やせ。その上でどうするか、また今度にしよう。一応エイミィを監視に付けるが、書類上のものだ」

 そうして三人が退室し、私は一人、目を閉じた。



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第38話 方向性

ここでやってたやつは本編のネタバレになるので少しお休み。っていうのすらネタバレになりかねない。思ったより本編の進みが遅かったかこっちが早過ぎました。
後は……前にも書いたかもですがタイトルが被るのが怖いので無くなるかも。思い付く限りは入れようと思いますが。


「ねぇクロノ君、ウタネちゃんの言ってた事、どう思う?」

 闇の書の捜索の為に地球に構えた拠点にて、ティータイムついでに闇の書についての資料整理をしていた所で、突然なのはが口を開く。

「さぁね。なんでフェイトじゃなくて僕に聞くんだ?」

 クロノは資料から目を離さず答える。

「だって、二人とも仲良いじゃない」

「ぶっ! そんな訳ないだろ! どういう神経してるんだ」

 クロノからしても意外すぎる評価に、ついなのはを見てしまうクロノ。

 それを好機と見たなのはは、更に深く言葉を続ける。

「ウタネちゃんも肯定はしなかったけど、そうだと思ってると思うの。そうじゃなかったらクロノ君、犯罪者相手に擁護したりしないの」

「擁護なんてした覚えは無いがね」

「嘘。私も、フェイトちゃんも知ってる。ウタネちゃんの弁護の為に書類まで書いて、自分の立場すら人質にして」

「なっ⁉︎」

 クロノからすれば当然と思っていた、ウタネの権利擁護。

 本来であればロストロギア襲撃の疑惑がかかった時点で本局から手が出てもおかしくは無い事態であるにも関わらず、知り合いの観察のみで自由を与えられたのか。闇の書の守護騎士との繋がりの可能性や、事件収束の鍵となる可能性を示した上で『道具』として上に示し、Aランク魔導師二人を付ける事で完全に管理下に置いていると思わせた。万が一の保険、闇の書の完成とその被害、ロストロギア襲撃犯の取り逃がしという責任問題となった際には、自身の執務官としての全てを返還する、という条件付きで。

 勿論そこまでの行為は権利擁護などでは無い。ただ対価を払って叶えるワガママだ。それをなのはに言われるまでクロノは全く意識できていなかった。

「だから、私たちも必死だよ。できることなら、なんでもする。ここにある資料の通り、闇の書は兵器なのか、ウタネちゃんやヴィータちゃん達が完成させるために管理局を敵にするくらい価値のある物なのかは、私たちには分からない。だからクロノ君の意見を聞きたいの。闇の書の蒐集の阻止は、正しいのかどうか」

「君は凄いな。少し前まで魔法も知らない小学生だったと言うのに、そこまで考えて行動できるとは。なら今のところ、という前提だが話そう。闇の書の完成は阻止するべきだ。守護騎士達の記録に無い感情の表れには注目したいが、それでも闇の書の機能が変わったとは思えない。一度は蒐集を止めて、向こうの話を聞ければと思ってる。その上でどうするかは、向こうの話や態度次第だ」

「今まで通り、でいいんだね」

「ああ。だがこれはあくまで僕の意見だ。現場で直接対峙するのは君たちになるだろうから、君たちが良しとした方向に進んでくれても構わない。より被害を抑え、事件が収束するならそれでいい」

「うん。じゃあ、私はフェイトちゃんに伝えてくる」

「ああ。いつでも出られる様にはしておいてくれ」

「うん!」

 なのはが資料を揃えて出て行った後も、クロノの思考は終わらなかった。

 クロノとしてはウタネの言葉を無視は出来なかった。あれ程までに力を持ち、いざとなれば管理局そのものを消し去ることのできるウタネが、能力の使用を控えて守護騎士に協力した事。

 それについてはいくつか考察ができる。

 一つ。今の闇の書の主が管理局に属していない善人である可能性だ。ウタネが協力しても良いと思える程の人格者で、管理局……または人的被害を出さない事を良しとする者。単に闇の書を完成させ、その転生機能だけを無くす力と精神の持ち主であるのなら。限りなく低い可能性ではあるが、管理局の行いは完全に悪だ。闇の書を助長してさえいる。

 二つ。ウタネが闇の書の主である可能性。ウタネであれば闇の書の機能の理解はそう難しく無いだろうし、守護騎士と協力する事に不思議は無い。また、クロノ達がウタネを擁護している事を知っている為、守護騎士を逃がす事を優先できる。しかしウタネが闇の書を持っているのを見た者はいないし、そもそもウタネは魔力こそ持つものの魔法は使えない。主に選ばれるかと言えば微妙なところだ。

 三つ。主が既にいない可能性。蒐集活動であれ、何かの間違いで主のみが死亡、または重症を負い、それでも闇の書とパスが繋がっている場合。主の危機に感情が芽生えたか、主の指示無しに被害を出すのは愚行であると考えたのか。これは可能性としては低い。無限転生という機能がある以上、そうなれば見切りを付け転生を選ぶのが妥当と考えられる。

 四つ。それら以外。

 この中で四つ目を除外するのであれば、一つ目の可能性が最も高いと言える。だが、クロノの頭……理論ではなく感情はそれを否定する。

 そんな人間がいる筈がないと。闇の書は制御出来ない兵器であってくれと。

「そんな奴がいるなら、なんで前回……! もっと前に……前の主に選ばれなかった! 今更そんな奴が出て英雄ヅラしても……くそ!」

 ダン、と資料を置く。

 理論では、局員としては、法の番人としては、過去の犠牲は必要なものだったとして遺恨を持たず、それで良しとするべきだと。感情での判断は、正しいものでは無いと。

 それでも感情は。大切な人には死んでほしくなかったし、生きて欲しいと思ってしまう。クロノはその優秀さ故に完璧ではあるが、内面の底ではまだ少年の心が捨てきれずにいた。

「はぁ……」

 これではウタネに同じ事を言われるな、と初対面時を思い出す。

 なのはに向けて放った怒声。今でも正しいと確信しているが、今の自分が同じ事を言われて冷静にいられるかと問われると答えに詰まる。

 そこで改めてクロノは自身と他人との距離を痛感する。

「エイミィ、いいか?」

(はーい、なに?)

 クロノの呼びかけに、迅速に反応してくれるエイミィ。

 その行動にクロノは少しだけ安心を覚える。

「いやなに、資料の整理が終わったから処理してもらおうと思ってね」

(あー、なのはちゃんとやってたやつね? 分かった。後でデータ化して保管しとくよ)

「ああ、よろしく頼む」

(じゃあクロノ君暇かな?)

「そうだな。守護騎士が発見されるまではトレーニングでも」

(もー、クロノ君ってば最近ずっとそれじゃない。何? ウタネちゃんにやられてから気が立ってる?)

 クロノは執務官として十分な実力、素質を持っているが、ウタネに斬られて以降、時間さえあれば一人で訓練するようになった。以前にも増して実力を高めようとするその姿には、アースラの局員でも少し怖れる程で、睡眠を全く取らない日もあった。

「バカを言うな。師匠にも言われてるんだ、精進しろと」

(成果は?)

「ああ、いくらか使える魔法も増えたし、純粋な魔力コントロールも速くなった。フェイトのスピードにもついていける」

 クロノのデバイスはなのは、フェイトのインテリジェントデバイスとは違い、AIによる成長をしないストレージデバイスと呼ばれるもの。

 魔法を自動で発動したり、受け答えをする事は無いが、その単純さ故にインテリジェントより処理が早く、使いこなせればインテリジェントデバイスを上回る性能を発揮できる。AIを搭載しないため、安い。

 クロノ自身の魔力コントロールの上昇は、デバイスの差によりなのは、フェイトより効果が大きく、より強くなれる。しかし使える魔法が増えるという事は、それすらも自分で選択し、発動する必要がある。選択肢が多いと咄嗟の判断でミスが生じることもありクロノは必要以上に増やしたりはしなかったが、自分の能力を正確に把握し、確実に増やしていた。

(おー! すごいじゃないのー!)

「……今日はやけにテンションが高いな。何かあったか?」

(いや〜? クロノ君と二人で話すのは久しぶりだからかな)

「そうだったか。まぁ、最近忙しいからな。エイミィも時間ができれば休めばいい……そうだ、お茶でもどうだ? 今ならティーセットも出してるし」

(え! クロノ君がお誘い⁉︎)

「嫌ならいいぞ。片付けるから」

(行く行く! ちょっと待ってて!)

(あ"〜、聞こえるかい、クロノ……)

「ブッ! どうした急に!」

(悪いんだけど、新しく出てきた闇の書の資料を取りに来てくれないかな……僕はもう、一度寝る……)

「おい! 無茶するなと言っただろう! おい寝るな! 無限書庫なんだろうけどそこはどこだ! おーい……参ったな……完全に落ちてる」

「はろー! お待たせクロノ君! あれ、どうかした?」

 ドン! とマナーの足りない入室に、やれやれとため息をつきながら返事をする。

「あぁエイミィ、すまないが無限書庫まで付き合ってくれないか。ユーノが新しい資料を発掘したらしいんだが、何のデータも寄越さず落ちてしまった」

「えー! じゃあどこにいるかわかんないの⁉︎」

「ああ。なのはやフェイトも連れて行きたいが、下手に増やしても遭難者が増えるだけだからな」

 無限書庫はあらゆる書物が収められているとされる故に、その膨大な量を収納する場所が必要になる。一部ではまだ整理されていない場所もあり、登山用の荷物を持った上でチームを組み本を探す、と言うのが一番だ。しかしユーノはその能力から一人で闇の書の書物を探し出してしまった。

 クロノが彼を最後に見たのは、そう言えば、いつだったか……? そう思えば危機感が増し、お茶会などでは無い、という結論に至るまで時間はかからなかった。

「うーん、闇の書は優先だね。お茶会はまた今度にしよう!」

「ああ。事件が終われば付き合うさ」

 二人は速やかに片付けを済ませ、無限書庫の受付に連絡を取るのだった。

「ありがとね。じゃあ先に片付けよう」



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第39話 総力戦 その①

今回もお休み。次回から再開です。


「クロノくーん! 見つけたよー!」

「やっとか……」

 無限書庫での捜索から早二時間。捜索はかなり深い場所に及んでいた。

「二時間で見つかって良かったと言うところか……」

 クロノがエイミィに合流すると、表情筋が全て弛緩したような寝顔のユーノと、闇の書に関連するであろう書物が数冊落ちていた。

「全く……一人でよくもここまで探せたもんだな」

「スクライアの一族はこういうのに向いてる、ってのは聞いてたけど。驚きだね」

「なんだそれ、僕は初めて聞いたぞ」

「えっ、そう聞いたから一人でさせたんじゃないの?」

「いや別に。闇の書について調べたい、と言ってきたんだが、ロストロギア襲撃と重なって忙しかったから入れるようにだけして放っておいたんだ」

「ひどーい! 死んじゃったらどうするの!」

「大丈夫だっただろ?」

「だったけど! 可能性の話!」

「危険な無茶はしないはずだ。いざとなれば一人でも戻ってきてただろうさ」

 クロノはユーノの周りに落ちた本を拾い、パラパラとめくる。

 そこには期待通り、闇の書というワードが入っていた。

「さて……おいフェレットモドキ。起きろー」

「うぅ……う?」

「捜索ご苦労だったな」

 仕事上では無く純粋な労いとしての言葉をかける。

「あぁ、うん。解析は任せるよ……」

「ああ、任された。が、まだ休めないからな。これから君には僕の師匠と会ってもらう」

「師匠……?」

「ああ。連絡はしていたんだが中々時間が取れなくてね。もう少しだけ頑張ってくれ。その後はゆっくりしてくれていい」

「あぁ、頑張るよ」

 

 ♢♢♢

 

「ウタネ、起きてる?」

「……起きてるよ」

 ノックして返事を受け取ると、フェイトは静かに入室し、椅子に座る。

「私、やっぱりさっきの話が気になって。私たちが闇の書を止めるかどうか悩むって、どういう事?」

 濁されたまま終わった問答に納得のいかなかったフェイトは、なのはに仕事を任せ、再び話を始める。

「そのままだよ。特にあなたはね。クロノは多分止めるだろうし、高町さんは……止める。けどフェイト、あなたはもしかしたら」

 少し間を置いて、ウタネが口を開く。その口調は先ほどの投げやりなものと違い、とても穏やかなものだった。

「そう思う理由が知りたい。肝心なところを隠されても、ちっとも迷う理由にならない」

「だから、それで良いんだよ。私はもう、特別何かが無い限り闇の書には関わらない。私の無駄な言葉で影響を与えるのは管理局にも守護騎士達にもフェアじゃない」

「フェアじゃなくていい! 私は何が正しいのか知りたい! もうロストロギアで……被害を出したくないの……」

「……他にもやらなくちゃいけない大事な事があるんだ。闇の書は悪で、管理局は善、それでいいじゃない」

 手足を縛られたそんな状態で何ができる、という言葉を呑み込み、話を引き出す為の次を探すフェイト。

「そんなの分からない。ジュエルシードの時の私から見れば、管理局は悪でしかなかった。だから、シグナム達がどう思ってるのか、知りたいの。シグナム達にもいい方向で解決できるなら、それを探りたい」

「あなたのその優しさは美徳だよ。だけど、そのせいで危険になる事もある。もし私が捕まる時、クロノがいなければまずあなたを狙ってた。誰にでもフォローに来そうな人は面倒だからね。1対1を望むならそれを拒む人から狙うのは自然だから」

「どういう事? 話を逸らさないで」

「違うよ……これはアンフェアな忠告」

「……?」

 ウタネの言葉の真意が読めず、困惑する。決してフェイトに取ってマイナスでは無いはずの言葉なのに、フェイトには不安が立ち込める。

「一つだけ確かな事は、闇の書とロストロギア襲撃の犯人は別人って……っと、高町さんかな」

「え」

「フェイトちゃん! クロノ君の話、伝えに来たよ!」

 ノックもなしに入室したなのは。

 二人はそれを咎めるでもなく、当たり前に受け入れる。

「うん。ありがとう」

「何か話してた?」

 なのはは自分の要件は後でいいと、二人の話を聞こうとする。

「えっと……」

「別に。もしこの事件中に誰かが死ぬなら、フェイトが一番危ないよって」

 一切躊躇うことなくウタネが話す。小学生にとっては決して軽くない、友人の死の可能性を。

 なのはは動揺するでも無く、そう、と一呼吸置いてから質問を返す。

「闇の書で?」

「いいや、ロストロギア」

「犯人を知ってるの⁉︎」

「……多分。確証は無いし直接会った事もないけど、予感はできる。近いうち、あなた達は犯人に会う」

「そんな事……これだけ探しても見つからないんだよ⁉︎」

「フェイトちゃん。ウタネちゃんを信じよう」

「なのは?」

「そして覚悟しておこう。ウタネちゃんの特訓は確実に私に役立つものだった。ヴィータちゃんと戦った時も、そのアドバイスのお陰で完全にやられずに済んだ。闇の書と同時に、その犯人と戦う覚悟を」

「……分かった。まずは我が身を。もう同じ失敗は二度としない」

 大切な人を失う辛さは自分がよく知っていると、それを自分の為に誰かに背負わせるくらいなら、自分が背負ってやろうと意気込む。フェイトにとって、決して優しくはなかった母親でさえ、耐え難いものなのだからと。

「じゃあ、クロノ君からの話をするね。方針としてはまだこれまで通り。闇の書の蒐集を一度停止させて、そこからヴィータちゃん達から話を聞かないかって。被害を抑えられるのなら、現場の判断で臨機応変に、ってとこ」

「これまで通りでいいんだね。分かった」

「……」

「ウタネ? どうかした?」

「いいや。何も──」

(なのは! フェイト! 今どこだ⁉︎)

 突然モニターからクロノの声が響く。

「っ、ウタネちゃんの部屋! 二人ともいます!」

(分かった、守護騎士が捕捉できた。すぐにエイミィと合流して送って貰ってくれ! 総力戦になる!)

 映された映像は局員十名程度が広範囲の結界で守護騎士を包囲している現場だった。

「「はい!」」

 クロノの急ぎの通達と共に二人の意識が引き締まる。今話していた事を実践する機会だ。傷付けず制圧する……実力から見ても難しい所だが、やるしかない。

「もう行くんだね」

「うん。しっかり話を聞きたいから」

「そう……じゃあ」

「なのは! 行くよ!」

「うん! じゃあね! ウタネちゃん!」

 先に部屋を出たフェイトを追って、なのはも部屋を出る。

「……私に気を付けて」

「……え?」

 すでに遠いウタネの声は、何故かなのはの耳にすんなりと入っていた。



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第40話 総力戦 その②

ゴドーワード・メイデイ。神が言語を乱す前、メディアの神言より数ランク上の言語。世界に意味を決定させる、相手が話せないからこそという前提があれど、抵抗不可能の能力者。
そんな奴が、何故かオレの能力にある固有結界の一つ、『偽・無限の剣製』に入りこんでいる。


「クロノくんっ!」

「クロノ! 状況は⁉︎」

 管理外次元世界、地平の果てまで広がる森林の中、色彩の違う場が一つ。

 急ぎ現場へ向かった二人は、指揮官のクロノに現状を問う。

「まだ結界に捕らえている。現状維持でこちらの陣形が緩むか、君たちが出た所を突破するつもりだろう」

 現状はまだ動いていない。それが今の二人には嬉しいことだった。

「クロノ、確認。闇の書は確保する。けど理由次第では方向転換も考える。最大の目的は被害を最小に抑える。合ってる?」

「あ、あぁ。どうした?」

「今度は私たちが、ウタネちゃんに行動で示すの! 私はウタネちゃんに色々助けて貰って、教えて貰って」

「私は過去の呪縛から切り離して貰った。ウタネにとって小さな事でも、私たちにはとても大きい」

「ウタネちゃんの無罪を証明するためにも、ここで必ず!」

「あぁ……そうか。わかった」

 意気込む二人に対し、ウタネの本音を少しとは言え脅迫と共に聞いたクロノはやめたほうがいい、という言葉を呑み込む。ウタネも怒ったとしても能力を全開にする事はないと感じていたし、闇の書解決には二人は必要不可欠だったからだ。

「行くぞ。アルフとユーノも結界維持をしてる。合流しよう」

「うん、行こう」

「あれ? ユーノ君はクロノ君のお師匠様に会いに行ったんじゃ……」

「……それがだな。情け無い話、訓練中に怪我をしただとかで延期になったんだ。教導で怪我するなんて今まで無かったのに」

 師匠ながら気が緩すぎる、と愚痴をこぼしながら移動するクロノ。

 二人もそれについて行き、アルフとユーノ、他局員と合流する。

「結界維持、ご苦労。これから僕とこの四人で内部へ突入、対象の無力化を狙う。それまでよろしく頼む」

「「「了解!」」」

「そして、それぞれ役割を決めよう。なのははヴィータ、フェイトはシグナム、アルフはザフィーラ、ユーノはシャマル。僕は全体的に援護する。異論は?」

「大丈夫!」

「うん、ありがとう」

「アタシも望むとこさね」

「僕も大丈夫だよ」

「よし。では行くぞ! これを最後にする!」

 クロノを戦闘に結界へ突入、外部と少し色彩の違う内部を進む。

 そして、その中心部で四人を視認する。

「……来たか、テスタロッサ」

「はい。あなた達の話を聞くために」

 守護騎士の一人、シグナムがフェイトを見据える。

 その表情に追い詰められたという感情は無く、ただ闘志に満ちていた。

「ここでオメーらをぶっ潰せば、もう邪魔は入んねー。ここが最後だ」

「そうだね。この戦いを最後に、話を聞かせてもらうから!」

 誰が合図をするでなく、マッチアップされた四組が同時に動く。

 クロノは少し高い位置へ飛び、全体を俯瞰する。

 戦況はなのは、ユーノの二人は牽制から落ち着いた立ち上がり。フェイト、アルフは初手から全開の激しい展開だ。この辺り、うまく性格が出てるなとクロノは感じる。そして同時に、自分のするべき事が何かを考える。

 恐らくなのはもフェイトも、アルフさえ援護を望んでいないだろう。自分の力を示す絶好の機会だと譲らないはずだ。その上で援護するのは指揮を下げる。手を出すとしても必要上、つまり窮地に陥った場合のみ。

 そしてユーノだが、互いの拘束魔法による牽制からの牽制。見た感じ恐らくだが、向こう側……シャマルにもそう戦意は無い。他三人の内誰かが決着を付けるまでずっとああしているだろう。ユーノであれば十分に時間を稼げるはずだ。

「よし」

 クロノは中心部から八人を視認できる程まで距離を取ると、援護射撃用の魔力球をいくらか待機させ、自身の周囲に念のため設置型バインドをいくらか置き、戦況を見守る事にした。

 これが最善の方法だと信じて。

 

 ♢♢♢

 

「はぁぁぁぁ!」

「はあっ!」

 剣と鎌、二つの刃物が高速で行き来する。

「レヴァンティン!」

 シグナムが連結刃へデバイスを変形、自身の周囲を切り裂いていく。

「いくら射程が広くとも、今の私の速さなら……!」

「くっ!」

 フェイトは複雑に変化する連結刃の網を掻い潜り、シグナムに接近する。

 振り下ろしたバルディッシュは鞘に防がれるものの、確かな手応えを感じていた。

「やはり、その速度に小細工は後手に回るだけだな」

 シグナムは連結刃を閉じ、レヴァンティンと鞘をそれぞれ左右に持つ。

「しかしその速さを求める故、防御面が疎かだ。当たれば……」

 そして、鞘を柄頭へ当てがい、カートリッジから魔力を流し、デバイスを変形させる。

 半身の構えを取ると、左手には弓となったレヴァンティン、右手には矢が握られていた。

「無事では済まん。その速さを見切った時、私の勝利だ」

 矢は一本ではなく、複数が同時に弓にかけられていた。ただ一撃で終えるのでは無く、その逃げ道さえ塞ごうという魂胆だ。

 そこにあるのは迎え撃つという迎撃の意志ではなく、敗北から遠ざかろうとするだけの逃避だ。以前のシグナムであれば、ただ一本の矢で持って、刺し違えてでもフェイトを確実に捉えようと構えたはず。

 本人も意識しない無意識のそれは、フェイトが活路を見出すに十分な隙であった。

「バルディッシュ!」

 フェイトもカートリッジをロード。装甲を更に薄く、スピードを更に増し、シグナムの周囲を飛び回る。

 連結刃の時より更に二割増しの速度は、百戦錬磨のシグナムといえど気配を察するのが限界だった。

 それでもなお、シグナムは周囲を高速で移動するフェイトを僅かでも捉えた。

「そこだ!」

 経験から先読みした射撃は、フェイトのマントを擦るだけに終わった。

 高速移動中のマントは、常にフェイトの軌道の後方にある。それはつまり、シグナムの経験をフェイトの速度が上回った、という事だ。

「はぁぁぁぁぁあ!」

「くっ、うぉぉぉぉぉ!」

 弓のままのレヴァンティンでギリギリの防御が間に合ったものの、衝撃を受け止める事はできず、木々の中へ落とされる。

「シグナム、あなた……」

 これまで同等にやり合ってきたライバルに競り勝ったというのに、フェイトの顔は困惑に染まっていた。

 なのはがヴィータに敗北したように、これがフェイトにとってのリベンジであるのならまた変わっていたかもしれない。しかし、これまで全く対等、フェイトの経験不足による差だったそれが、今覆った。なのに、一つも喜びを感じていないかのような表情は、シグナムの方に原因があった。

 シュランゲ、ボーゲンというレヴァンティン本来の『剣』としての役割を、悪く言えば果たせない状態での使用。不利な状態での奇策は、更に自身を追い詰める事になるという事も知っていたはずのシグナムだ。実力はほぼ互角、ならば騎士として、正面から受けて立つべきだった。そうしたならば、フェイトの方が上回ったとしても、ギリギリの状態にまで引き込めたはず。誰よりも、フェイトがそれを確信していた。

「ウタネ……」

 シグナムをそこまで追い詰めたであろう人物の名が溢れる。

 フェイトも一度、敵として立ち会ったことがある。ウタネの腕を落としてしまったからか未遂に終わったが、ウタネの戦い方は酷く心にくる。ありとあらゆる動作の先を読まれ、予行演習でもしてきたかのように防がれる。それは、自分など戦うに値しないとでも囁かれるようで、フェイトはただがむしゃらにバルディッシュを振り回すのが精一杯だった。

 恐らくシグナムはそれをほぼ完全に受けたのだと感じるフェイト。ウタネとの戦いではその意志から剣士として戦い抜いたのだろうが、その戦いが終わっても無意識に避ける程影響を残しているのが見て分かる。

 シグナム程の騎士でさえ、剣を手にするのを避けてしまうほどの精神攻撃……フェイトはそんな事をする人間など、過去の歴史からも見たことも聞いたこともない。

 追撃は行わず、シグナムが再び姿を表すのをフェイトはただじっと待っていた。



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第41話 総力戦 その③

オレでは分が悪いな……」
首に左手を当て、7回人差し指でつつき、手のひらを添え、目を閉じて首を左に傾ける。
オレ(・・)が生まれてから幾度と無く繰り返してきたこの動作を、滞りなく完了する。
「……はじめまして、ゴドーワード。()に何か」
自分自身へのバトンタッチとも言える動作は、これ以上無く速やかに私の意識を切り替える。
私にも分かる、異形の魔術師。魔術を用いず、魔術の最終点に辿り着いた男。


「ヴィータちゃん⁉︎話をしようって!」

 シューターを複雑に操作しながら、ヴィータとの対話を諦めないなのは。

「だから! 話す事なんてねーっつってるだろ!」

 適宜シューターを鉄球で撃ち落とし、防戦に回るヴィータ。

「少しでも手伝いがしたいの! ちゃんとした闇の書の解決法を!」

「じゃあさっさと消えてくれ!」

「それじゃ何にも変わらない! 今までの闇の書を知ってるんでしょ⁉︎」

「何の事だ! 意味わかんねー事言ってんじゃねー!」

 二人の会話と戦闘は平行線で、魔力だけを消耗する時間が経つ。

 他の三人も変化が無く、クロノが離れたというのをなのはが感知した程度。

「しゃらくせぇ! 行くぞアイゼン! ラケーテン、シュラーク!」

 ヴィータがカートリッジロード、デバイスを変形させ、回転しながらなのはへ突撃する。

「それはもう……効かないってば!」

 なのはは複数のシューターを上下からヴィータへ撃ち込み、ヴィータの防御を強いる。これにより回転は止まり、元の睨み合いに戻る。

 スピードコントロールを重視したシューターは、ヴィータの鉄球の倍を操作できるなのはにとって武器となり、ヴィータから見れば最悪の相性となる。

「こんなとこで無駄に時間食ってる訳にはいかねぇんだよ!」

 それでもなお負けん気を見せるヴィータ。

 ベルカの騎士に、負けは無し──それだけは、自分の為、仲間の為、そして、主の為にも曲げるわけにはいかなかった。

 しかしヴィータとて不利は分かる。正面から突っ込んでも突破は難しい。

 最善は背後からの強襲だが、相手もそれを警戒していないはずがない。

 であれば一つ。鉄球による面制圧から押し切った所を接近する。

 対するなのは。自身の周囲に常に十六のシューターを待機、八のシューターをヴィータへ向けて牽制。計二十四のシューターをミス無く操作する技量は、クロノの想像を遥かに上回っていた。

 長距離、中距離は確実な有利、接近してもウタネから教わった接近戦。初戦ではカートリッジにより力押しされてしまったが、同等の条件となった以上は押し切られる事もない。得意分野で、油断なく撃墜する。

「アイゼン!」

「レイジングハート!」

 なのはのシューターが十六、ヴィータへ向かう。

 ヴィータはそれと同じ数の鉄球を力一杯撃ち出す。操作性で劣るものの、標的はシューターではなくなのは本人。であればシューターで勝手に相殺してくれる、という寸法だ。

「ん……」

 少し離れた場所でシグナムが苦戦しているのを見るヴィータ。決して負けるなどと思ってはいないが、そこに何か違和感を感じた。

 それを起点に、自分にも何か不調がある、と直感する。原因やどう悪いのかは分からないが、何か、今この状況か何かに致命的欠陥がある事を感じていた。

「しまっ……」

「そこっ!」

「くっ、そぉ!」

 意識を逸らした隙にシューターを受けてしまうヴィータ。

 けれども初弾以外は防ぎきり、爆煙の中から反撃の鉄球を飛ばす。

「なっ……」

 煙が晴れてヴィータが見たのは、先程の倍はあろうかという魔力球の待機状態。

 この時点でなのはは全てのシューターを制御できてはいない上、いくつかは見た目だけのハリボテも存在するが、二十四というただでさえ規格外の数を操作して見せたため、ヴィータにはその全てを警戒の対象にせざるを得なかった。

「シュ──ト!」

 次々と撃ち出されるピンクの砲弾。

 シールドで受けたそれは衝撃を残し、避ければ背後から襲ってくる。

 反撃の余地など微塵も残さない攻撃は、ヴィータに焦りを持たせるに十分な量だった。

「しまっ……」

 シールドが割れ、防御が効かなくなったところに上下左右から襲いくるシューターを、ヴィータはもはや躱せなかった。

「えっ……⁉︎」

「な……テメェ……」

 しかしヴィータは健在、無傷であった。

 仮面を付けた男がヴィータの前で防御を張っていたのだ。

「あっちも無理だ。ここは退け。闇の書は完成させなければならない」

 仮面の男が指差した先には、フェイトに吹き飛ばされるシグナムの姿が見えた。

「誰⁉︎新しい仲間⁉︎」

 なのははそれに動じず、慎重に距離を取る。

「アレは引き受ける。早くしろ」

「っ!」

 仮面の男はそう言うと凄まじい速さでなのはに接近し、周囲の魔力球、クロノから教わっていた設置型バインドを全て砕いた。

「闇の書の完成を邪魔するな。黙って見ておけばいい」

「ぅ……!」

 なのはの眼前に迫る拳、魔力を込めたそれは、なのはのスピードではシールドを張るのに間に合わず……

「う"ぉ"!」

「な……」

「え……」

 空中から落下してきたヒトガタを貫通した。

「えぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

 なのはは叫んだ。臓物を見るのは初めてでは無かったが、それでもそう慣れるものではない。

 男の濡れた拳と、それをいとも容易く受け入れた細身の肉体、赤く濡れる自分のシールド。

 なのはの頭は若干のパニックを起こし、シールドを咄嗟に解除してしまう。

 その隙を男は見逃さず、再び振りかぶった拳でなのはを森へと叩きつけた。

「一人ずつ、そして一人死んだか」

 男は感情も無く呟くと、ヴィータに撤退しろという旨をまた伝え、クロノへ向けて魔力球を飛ばす。

「……おい! なんだテメー! さっきのは……さっきの落ちてきたヤツは!」

 落ちてきたヒトガタは、白い長髪、無駄に細い身体。それが今では赤く染まり、重力によって森へ消えた。

「ウタネじゃねぇか!」




そういえばウタネの見た目とか書いた覚え無いですが、どうしましょうね。
Vividの方は確か載せてたので分からなかった方は参照して下さると助かります。


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第42話 総力戦 その④

「ええ。貴女を始末しに来ました」
偽神の書は静かに告げる。
互いに仁王立ちのまま動かない。
「そう……まぁ。できるならどうぞ」
鎌を取り出し、無造作に降ろす。視線は男の口。彼の言葉が発せられる前に切る。


「フェイト! なのはは無事か⁉︎」

 異常事態を即座に察知し、フェイト達に合流したクロノ。

 気を失いユーノに治癒を受けているなのはと、仮面の男、守護騎士を警戒するフェイトとアルフ。

 その全員が、現状の理解に手こずっていた。

「うん、ユーノの治癒もあるし、大丈夫だと思う」

「向こうはシグナムが同じ、そして、仮面の男と、ウタネ」

 仮面の男に攻撃されたアレは、まず間違いなくウタネであると直感していた。

 もしそうでないとするなら、管理局の結界を超えて来られる新たな勢力となりうる。

「……う」

「なのは!」

「う、うん、フェイトちゃん。大丈夫」

「良かった。次はウタネだ。でも、あの様子だと……」

 ユーノが言い淀む。それも仕方の無い事で、仮面の男の拳は確実に胴体を貫通していた。通常、あれを即死以外では見ることはない。

「分からないな。一度首を落としても生きてたんだ。何かしら対処してあるのかもしれないが……」

「今露骨に動くわけにはいかない、だよね」

「ああ。あの仮面の男、ただ者じゃない。今は僕らが危ない」

 なのはのシューター、バインドを全て把握し破壊する魔法練度と体術。人数差があっても油断はできない上、守護騎士がまだ健在だ。

 結界がある以上当然なのだが、仮面の男と協力する素振りが無いことから、彼らも仮面の男を警戒していると見える。

 シグナムの治癒も終わっているようで、管理局より仮面の男をより警戒していると見られる。

「えっ!」

「どうしたんだい⁉︎」

「ウタネが……」

 フェイトの声にアルフやなのはだけでなく、守護騎士、仮面の男も反応する。

 その視線の先、ウタネが落ちた場所からゆっくりと浮き上がるように飛んでくる。

「ウタネ! 大丈夫なのか⁉︎」

 クロノが近付くことなく声をかける。

「……ちょっとした耐久テストのつもりが、まぁそれはいいが。状況は理解した。じゃあ、お前からだ」

 ウタネが頭上に掲げた右手を仮面の男に向けて振り下ろすと、いつのまにか白い大鎌が握られていた。

「……え」

「お前は要らないな。クロノで十分だ。お前の代わりはしてやるから死ね」

「っ⁉︎」

 ウタネが超速度で仮面の男に接近、躊躇いなく振り下ろす。

 ギリギリで回避するものの、なのは達を相手にしていた時のような余裕が無くなっているのは明らかだった。

「飼い猫風情が出しゃばるんじゃない。世界(ザ・ワールド)

「ぐっ⁉︎グハァァァァ……!」

 ウタネが呟くと、その手には男の右腕、肘から先が切断された状態で握られていた。

「片腕の治癒くらいならできるだろ。さっさと消えろ」

「ぐ……はぁ……はぁ……」

 ウタネが仮面の男に腕を投げ渡し、吐き捨てる様に言う。

 仮面の男は反撃も無駄と判断したのか、迅速に転移魔法で消えた。

 残ったのはウタネと、混乱した現場のみ。

「ウタネ……?」

 フェイトが問う。フェイトだけでなく、その場に残った全員が、今の行動はウタネが取るとは思えなかった。

 ただ一人を除いては。

「本性を現したか、フタガミ」

「シグナムか。久しぶりだな。闇の書は順調か?」

 唯一臨戦態勢を取り、対峙しようとするシグナム。その構えには主の為の仲間では無く、天敵を見据えているような固さがある。

「そんな話をする気は無い! やるなら来い!」

「そんなに怯えるなよ。ロクにレヴァンティンも握れない癖に。また無駄な挑戦をしたのか? 前会った時より酷くなってるぞ」

 少し鋭い目をそのままに、守護騎士を見るウタネ。

「なんだと……!」

「まぁいいさ。過去は水に流して今後を考えようぜ。つまり、闇の書の蒐集だ。さっきの仮面の男に管理局。不安要素が大きくなるばかりだろう」

「どうするつもりだ? 管理局に投降しろとでも?」

「まさか。そんなことしたら殺されるぞ、お前ら。オレの魔力を蒐集させる。なのはやフェイト程では無いにせよ、AA以上はあるはずだ」

 仮面の男を襲った時の殺意はいずこやら。軽い相談事の様に闇の書の完成を促すそれは、仮面の男以上に協力的な態度であった。

「……何が目的だ」

「別に。正しい世界と、ウタネに会う事。オレが望むのはそのくらいだ」

「何……?」

「ウタネに会う、だと……?」

 どこをどう見てもウタネである外見からウタネに会う、という言葉が出れば当然混乱する。人は誰しも、自分にだけは会う事ができない。

「じゃあテメーは何なんだよ! ソックリな顔しやがって!」

「オレの事や、オレの知らない展開がどうして出来上がっているのかはどうでもいい。重要なのはウタネを引きずり出す、ただそれだけだ。クロノ、ウタネを出せ。そうすればオレが管理局に協力してやる」

「なんだと……」

「あっ!」

「どうした?」

「クロノ、私たちの探してた犯人ってもしかして……!」

「っ!」

 フェイトが管理局側にだけ聞こえるように話す。

 クロノはその閃きを即座に真実と結び付けた。

 ──……私じゃない可能性は考えてくれない? 

 ──今のところは皆無だ。何かあるのか? 

 ──鎌とか顔つきとか? ほら、全然違うでしょ? 

 過去交わしたウタネとの問答。ウタネでなく、ウタネに酷似した人物の示唆。

 それは目の前にある人物と共通点を有している。

 大きな白い鎌、少し険しい顔つき、圧倒的な近接戦闘技術。

 ロストロギア襲撃事件、その記録映像の主と一致する。

「それに、ウタネが『私に気をつけて』って」

「どういう事だ……? ウタネではないのか?」

 ますます混乱する頭の中。クロノは現状の最善を選ぶため必死に頭を回していた。

 この時、通信などによる確認……ウタネの拘束部屋を確認しなかったのは、現場の混乱をそのままにした要因だった。

「なんだ、悩む事があるか? なら少し手合わせしようぜ。管理局、守護騎士の合同チーム対オレ。オレを倒せたら闇の書に蒐集させてやるし手伝いもする。管理局には闇の書の解決とその後の嘱託でもしてやろう」

 側から見れば明らかな傲慢さに言葉を失う一同。

 鎌を待つだけ持って構えもしないその様は、まさにウタネのそれと同じに見えるが……そこから感じる戦闘能力。果たしてこの中の、何人が生きて帰れるのか……

「仕方ない! やるぞ! ユーノ、アルフ! 援護を! なのはとフェイトは僕に続け!」

 膠着状態では進まないと、クロノは指示を飛ばし攻撃態勢をとる。

「スティンガーレイ……ファイア!」

 中距離から放たれた超高速の魔法。

 フェイトの速さを持ってしても回避できない速さ、防御貫通能力を持つこの魔法、直撃せずともダメージは必至……のはずだった。

「バリア貫通、高速射撃。まぁ普通はそうだろうな」

「っ⁉︎」

 犯人はその攻撃をいとも簡単に避けていた。それこそ、最低限の動き、という評価以外あり得ない程に。

「チェーンバインド!」

「ディバイン──バスター!」

 両手両足を固定してからの砲撃。

 これも回避不能、ダメージ確定の連携だ。

「いい連携だ。だが足りない」

「な……」

 犯人の手足が一瞬だけ膨張し、バインドを一瞬にして砕き、そのまま砲撃を受けきる。ダメージや消耗した様子は見られない。

「はぁぁぁぁ!」

「ふん、いい速さだ。単調過ぎるがな」

 不意打ち、背後からのバルディッシュを、見る事もなく半身で避け、返しに鎌を一振り。

「きゃぁぁぁっ!」

 バリアは間に合ったものの弾き飛ばされるフェイト。

 この一瞬でクロノ、なのは、フェイトの攻撃を全て完璧に対処した犯人。

 追撃をする様子はなく、むしろ追撃を待っているようにさえ見える。

「……おい! 管理局! そいつは未来を視ている! バラバラで攻撃しても無駄だ!」

「シグナム⁉︎」

 声を上げるシグナムに驚くフェイト。他のメンツもまさかシグナムが助言などとは考えていなかったのか、少なからず驚いている様子。

「未来を視る、だと……?」

「あぁ、バラしたら面白く無いだろうが。まぁいいが。未来、と言ってもごく短い、数秒程度だ。次何をしてくるか、ぐらいだな」

「ザフィーラ!」

「行くぞヴィータ! 叩き潰す!」

「おい! 仲間の言う事を聞いてなかったのか!」

 クロノが怒声を飛ばす。敵であるにも関わらずのそれは、未来を視る能力がウタネと違う……つまり、完璧な別人、ロストロギア襲撃の犯人と確信した為だ。

 ウタネは先読みをカン、つまり予感の類だと説明した。しかし犯人は、未来を視るとはっきり口にした。それは全く別のものだと。

 であれば。クロノが期待していた手加減……ウタネであれば、最悪でも殺されはしないだろうという、最後の期待。

 ウタネを望む以上、同等程度の力を持っていると仮定するのなら。仮面の男を一瞬で撃退せしめた力も含めれば、全滅は覚悟しなくてはならない事だった。

「パワーで押し切れるつもりか? オレはウタネ程非力じゃないぞ」

「ディバインバスター!」

「無駄だ。協力するのは結構だが、フォローでは遅いぞ」

「邪魔してんじゃねぇ! 高町なんとか!」

「今そんな場合じゃないでしょ⁉︎」

 守護騎士が近接、守護騎士を傷付けたい訳ではないなのはやフェイトがそのフォロー、という形で連携の様なものが取れつつ、少しの間打ち合いが続いた。

「っ⁉︎逃げろ! 殺されるぞ!」

 シグナムとザフィーラが犯人に──恐らく能力込みだろうが──押し切られ、それを見たクロノが叫ぶ。

 ユーノやアルフ、シャマルがバインドなどの援護をしているものの、未来を視るというのは本物の様で、攻撃とバインドを同時に避けられる場所を選択して動いている犯人。遥か格下であろうと、この人数差相手にここまで完璧に動ける人間が、管理局にどれだけいるだろうか。小学生の四則演算を数学者が解答するように。それ程までに完璧な動き。教科書通りにいかない事など山程あるが、教科書通りに進めているようなまでの動き。回避から防御、攻撃に反撃。その全てが未来を見て行われているのだとしたら。ウタネ以上の事があるのではないか。クロノの執務官として積み上げた経験はその危険を察知して叫ばずにはいられなかった。守護騎士の、主の為ならば命も投げ出す騎士とは違う、命を守る指揮官としての経験は、この場で誰よりも優れていたクロノだからこその悪寒。

世界(ザ・ワールド)

「フェイトちゃん!」

「WRYYYYYYYYYY!」

 犯人が呟いたその直後には、鎌を大きく振りかぶった犯人がフェイトのすぐ近くに、フェイトをして逃げられない距離で、他の誰にも援護できない程の速さでそこにいた。

 フェイトはその短い時間の中、母との記憶、ジュエルシードを通してのなのは達との思い出を見ていた。その中に、危ないのは貴女だ、狙うなら貴女から狙う、というウタネの言葉も入っていた。

 そして、この事件で誰かが死ぬとすれば、それは自分だと。

 それらによる感情が追い付く前に、その時は訪れる。

 その首に吸い付くように、反応できない事を知っている鎌は容赦なくその軌道を加速し。

 ──ザクッ

 意外なほどに軽い感触でもって、ソレは森へ消えていった。



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第43話 総力戦 その⑤

「ーー」
今!
【縛れ】
「⁉︎」
男の頭の周りを丸々固定。話すどころか呼吸すら不可能なはずだ。
「甘いんじゃない?下位だからってナメてるよ」
箭疾歩で距離を詰め、全力で鎌を振る。狙いは当然、即死を狙える首。
視線をズラし、ノーモーションから加速できる歩法からの一撃は、吸い込まれるように男の首に滑り込み……


「WRYYYYYYY!」

「フェイトちゃん!」

 ──ザクッ

「……!」

 想像より遥かに軽い音を立て森へと落ちていくソレを、無感動に見下ろし──

「────え?」

「あれ? 新顔さん、なんか落ちましたよ?」

 ニィ、と口元を歪めるソレ。

「あぁ……まぁ、お前をどうしても出さないつもりなら、分からなかったな」

 犯人は自分の両腕が抵抗も無く切断された事には一切触れず、痛みどころか喜びの声を発する。

「フェイト〜? 大丈夫?」

 結界上空から、軽い声をかけるウタネ。先程までの緊張感などカケラも感じられない空気を作っていく。

「う……うん」

 救世主の呼びかけにも、思考の追いついていない上目の前に血を流し続ける犯人がいたフェイトにはまともに答えられなかった。

「まったくもう、あなたは何でこんな事するかな?」

「こうした方が早いだろ」

 困った様なセリフを、無表情で放つウタネに、なんでもないセリフを困った様に吐く犯人。

 手には刀が握られ、口調や顔つきもいつもクロノ達が見ていたウタネだった。

「普通に探せば?」

「オレに気付けば逃げるだろ?」

「まさか。あなたに限ってそんな事」

「実際居場所が隠蔽されてたのは事実。管理局の牢に入れられてたとかならともかく、大方外部にお前を見られない様にするためだろ」

「あー……それは……」

 ウタネは、クロノとその近くに開かれたモニターを見て、犯人も同じ様に見る。

《クロノくん! そこにウタネちゃん! いる⁉︎》

「あ、あぁ、さっき来たな」

 モニターから響く怒声にも、困惑しきったクロノには響かず、ただただ肯定のみを示す。ユーノやアルフもモニターを覗き込む。

《なにこれ! 手錠! 足枷!》

「はぁ? 何を……はぁ⁉︎なんだこれは⁉︎AMFの部屋にある鋼鉄だぞ⁉︎なんでこんなにグニャグニャなんだ⁉︎」

 管理局特製の対次元犯罪者用拘束が細身の少女に抜け出されたとあっては驚かないはずがない。

 もっとも、クロノは能力によるものと知ってはいたが、他に教えないという約束を守るつもりで演技をしている。

「というわけで、実際に捕まってたの」

 やれやれ、と肩をすくめるウタネ。

「なにやらかした?」

「あなたがロストロギア強奪した」

「あー、見た目か。にしても……そうか。外に向いたのか」

 気付かなかった、といった体の犯人。そこには既に戦意も無いように見える。

「うん。まあ今はそんな事……どうでもいいよね。さて、どうする?」

「お前に会えたんだ。大人しく投降してもいい……が、それじゃあ捕まっちまうよなぁ? クロノ?」

 ニヤ、とクロノに視線を向ける犯人。

「当たり前だ! ロストロギア襲撃、強奪! 職員への攻撃! 許してくれとは言わせない!」

「だよなぁまいったね……」

 激昂するクロノに、犯人はいたって自然体で返す。

「ロストロギアだけでも返せば? 多少は軽くなるでしょ」

「いやー、返してもいいがもう少しいるんだ。あと二日くらい。だからさ……全員ボコる事にした」

 流れていた血が止まり、森から腕と、握られた鎌があるべき位置まで戻っていく。逆再生の様に繋がった腕は全く無傷であるかの様な動作を確認した。

 再び鎌を握り、殺意を持つ犯人。

「は?」

「あぁ、ウタネは手を出すなよ? 下手すりゃこの世界が持たねぇ」

「?」

「人は、真実を知った時に変化する生物だ。オレがウタネでなかった(……)くらいで、正義の機関が揺らいでる」

「……」

 なにかを示す様な物言いに、ウタネは少し考える。

「だからさ、こいつらボコってオレが入ってやろうってこった」

「なに……?」

「いいだろ? お前ら全員、生きて帰れる上にさっき言った通りオレが管理局に入ってやるっつってんだ、まぁ嘱託でだけど」

「なんだと……!」

「いいじゃねーか、ランクで言うとウタネと同等に近い戦力がちょっとの痛みだけで手に入るんだぞ?」

 普通に話している分警戒が薄くなるが、クロノの読み通りウタネと近い存在である様な事は確からしい。

「く……」

「まぁまぁ、やろーぜ。兎にも角にも、互いの戦力を確認し合う事が信頼への一歩だ」

「うわーシオンが信頼とか言ってる。気持ち悪い」

「テメーより言うだろ似合わねぇことすんな」

「まーいいよ、ホラ」

「っ⁉︎」

 シオンと呼ばれた犯人が大の字に固まる。ウタネの未来を視ることはしなかったのか、あっさりと能力に拘束された。

「取り敢えず私とやろう? 加減はするけど、あなたの能力も知っておかないと。下手に殺されても困るし」

「はー……いいぜ、『世界』」

 世界が止まる。実際がどうであれ、シオンが認識する限りでは他の全ては動く事はない。

(止まった世界では流石のウタネも動けないか……止めてられるのは四秒程度。さて、問題はこの能力。知ってるけど分からない、だな。発作での性質としてあらゆる物が徐々にウタネを呑み込んでいくというものだったが……拘束はされていても身体に干渉されてはない。しかし硬い。パワーでの脱出は不可能と見て良いな。バインドブレイク……も効かない。この世界で習い覚えた魔法という線も消えた。では話してた通り、例の発作が反転したか……)

『直死』

 ソレの視界が切り替わり、世界全体が無数の死で覆われる。

(視えるな。硬度を増しているのかは知らないが元は空気。今のオレになら殺せない事はない)

『投影』

 上空に西洋剣を数本投影し、死の線に沿う様に落とし、拘束を切り殺す。

(ふぅ……残り三秒くらいだが。能力解除だけで終わるのも癪だな。確認だけ、しておくか)

 フェイトの近くを離れ、ウタネと同じ高さまで飛ぶシオン。

 更に数本ナイフを投影、ウタネに向かって投げる。ナイフはウタネから二メートル程度で止まり、運動エネルギーを維持したまま他の物質同様止まる。

(残り二秒……動けない、見えてないのなら回避は不可能。動けるのなら対処は可能。動けず、見えているだけならば回避ないし防御は間に合うはずだ。さぁどうする? タイムアップだ)

 世界が時を取り戻す。停止していたナイフは運動エネルギーを消費するために加速する。

「……」

「……ふっ」

 ウタネは18のナイフを半分避け、半分を撃ち落とす。その数はおおよそ同じ。

「……驚かないんだな」

「別に? 驚くことなんてある?」

「あるさ。オレは自分の力を言ってないし、ロクに見せてないはずだ。なのに何故、お前はナイフを見切れた?」

「見切ったと思う理由は?」

「オレだってバカじゃない。ナイフの数は数えてる。半分ずつ。正確に見切らなきゃできない本数だったはずだ」

「うーん、勘、かな? 私はそうしないと戦えないから」

「……だったな。そうだとも。お前は戦闘に向いてない」

「でも戦える。戦闘をする必要は無い」

「大人しくしてればいい。闇の書なんて面倒に関わるのは違うだろう」

「これまでは今までとは違うんだよ。私だって思う事はあるし、少しの出来心だってある」

「……なんとなく察しは付く。今日の日付は?」

「……? 12月、20日だけど。たしか」

「そうか。お前はどうしたい。闇の書を、管理局を、守護騎士を」

「闇の書の解決方法を知りたい。あなたなら知ってると思って出てきたの。こんなワザワザ敵対するような事しないで、さっさと教えて」

「教えられないが、解決することはできる。だが、その話は後だ」

「……そう。じゃあこうしよう。この攻撃、これを最後にして解散だ」

 ウタネは能力で空気を固め、あらゆる方向から、虫一匹通さない程の密度で槍を作る。

「見えてるんでしょ。この攻撃は逃げられない。死んだりはしないんだろうし、私が制圧して確保した、ってなら私も無実、ジュエルシードの件の借りでロストロギアを返せばなんとか無罪でしょ。分かんないけども」

「そこまで軽い組織とは思えないがな。まぁいい。この槍以降の攻撃が無いってならオレも終わる。ただ闇の書に蒐集はさせてもらう。時間が無い」

「時間……?」

「手伝えないなら、の最終手段だ。気にするな」

「分かった。じゃあ行くよ。【いけ】」

 それぞれの槍が様々な速度でその中心、シオンへ発射される。

 回避不能、防御……あるいは可能かもしれないが、現時点のなのはやザフィーラで不可能。迎撃不能、破壊不能の攻撃。これだけで守護騎士、管理局五名の総戦力を倍以上上回る。

「たしかに、時を止めても逃げ場が無ければ意味が無い。が、時を止める必要は無い。当たる時間を吹っ飛ばせばいい……キング・クリムゾン!」

 槍とシオン以外の全てが崩壊していく。実際にはそう見えるだけではあるが、動かない物質は存在していない事になる。

「時間停止、時間跳躍。この二つで回避できない攻撃は無い……」

 槍はシオンを透過し、槍同士の衝突で加速を止める。それでもなお破壊されないウタネの能力。

「停止時間を認識できたかも知れないが、この中はどうだ。見えるか? 分かるか? どちらでもいいが……さて、これで終わりだな。時は再び刻み始める」

 世界は再び現実を取り戻す。景色はあるがまま、それまで存在していたものを表した。

「……瞬間移動。透過。どっちだろうね」

 変わらず無表情のまま驚きを示すウタネも、約束通り追撃も防御態勢を取る事もしない。

「どっちかと言うなら透過だな。まぁいい」

「これで終わり」

 ウタネとシオンが同時に得物を仕舞う。互いにキーホルダー型、デバイスで言う待機状態のそれを首にかける。

「ああ……シャマル!」

「は、はい!」

「闇の書持ってこい。蒐集させてやる」

 シオンは自分からリンカーコアを取り出し、闇の書にかざす。

 蒐集を終えるとやはり意識を失い、それをウタネが支える。

「……さて、えーと、どうしようか。クロノ」

「く……分かってる。そいつを回収して終わりだ。戦闘は終了する」

「うん、ありがとう。シグナム! 終わり! 撤退して!」

 ウタネが守護騎士を撤退させる。

 結局の所、管理局はチャンスを潰され、守護騎士は逃げ果せた形になる。闇の書の解決を望むクロノにとっても、打倒守護騎士を掲げていた三人にとっても納得し難い結果に終わった。



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第44話 自己紹介

バキ、という音と共に止まる。
「……え?」
男の指が刃に食い込み、今にも砕かんばかりに亀裂を入れている。
更には刃だけで数キロはある鎌のフルスイングを片手で受けきった事になる……
ゴドーワードは絶対言語だけで、身体能力は一般以下のはずじゃ……
「ふむ……想定以上、ですね。驚いている様ですが、なに、私も神から頂いただけです。神の特典……更なる能力を」


「……ふぅ」

 ベッドで目を覚ましたシオンが軽く息を吐く。その時点で現状把握は終了したと見て、私は部屋のドアに手をかける。

「おはよう」

「ああ」

「じゃあ行こうか。クロノが怒ってる」

「怒ることなんて何もねーだろーに」

 手を頭の後ろに組んでダルそうについてくるシオン。

「法の番人様は私たちみたいなのは嫌いなんじゃない?」

「だろーな。オレもオレみたいなヤツいたら許せねぇし」

「クロノ達は、嫌い?」

「嫌いではない、が好きにもなれん。覚悟の質が違う」

「そう……私も嫌いじゃないよ」

「でも迷ってんだろ。アイツらを裏切ってでもはやてを救おうかどうか、どころか、どっちも無くそうとか考えてるな」

「……うん」

 簡単に八神さんの名前が出るあたり、やっぱり全部把握してる。ならどうすれば解決できるのかも知ってるはずだ。私はそれに任せよう。

「そういうのはオレの役割だ。管理局は裏切らない、はやても助ける。両方やる知識と能力が今のオレらにはある」

「……うん、お願い」

 いつもの尋問室に着く。ノックをして返事を待たずにドアを開ける。

 予想通り、クロノと高町さん、フェイト、ユーノにアルフ。

 私達用に二つ、空いている椅子に並んで座る。

「本当にいたんだな。ロストロギア襲撃犯」

「シオンだ。それに誰一人として殺しちゃいねーよ」

「重大犯罪だぞ!」

 淡々と悪びれないシオンにクロノがキレる。

 分かっていたその反応に冷ややかな視線を向けるシオン。

「だからなんだよ。お前ら管理局如きに何ができる。守護騎士を説得? 完成前に主を確保? 闇の書の破壊? できるか? お前らに……あぁ、まさか、オレを逮捕? できるか?」

「なんだと……!」

「わったよ、ロストロギアならもう返す。何も不備はないはずだ。ほら、なのは」

「っと……」

 どこからか取り出した様々なロストロギアを、高町さんに投げ渡す。問題があるとすれば、受け取り損ねたロストロギアに傷が入っていないか、だと思う。

「何が目的だ。何がしたい」

「おいおいユーノ、それを聞くのはオレだぜ。なのはやフェイトがクロノに逆らわないように、オレもお前らに逆らわない。言ったろ? オレは管理局の嘱託になってやるってよ」

「……ますます分からない。初めてウタネと会った時以上に恐怖を感じてる。そうする君の理由と、その裏が欲しい。じゃないと僕は君となのは達を一緒にさせたくはない」

 外側から見ればフェイトを本気で殺しかけた凶悪犯罪者だ。裏切りを前提としていると思っていてもおかしくない。

 ただ私の視点から言わせてもらえば、シオンがそうした可能性はゼロだ。あくまで私を探すという目的があった以上、そんな事をするとは思えない。

「んー、そうだな。目的としては……今は、って事になるが、闇の書の制御だな。今の主を最期の闇の書の主にしようと思う。その裏だが……闇の書の主……」

「まってシオン、それはダメ」

「ダメだそうだ。じゃあそうだな、主の代わりに裏切り者でも教えてやろうか」

「裏切り者……?」

 フェイトが首をかしげる。これまで聞いていた限り、裏切り者の存在なんて言ってなかったような……

「つっても分かるか、クロノ」

「怪しい者はいない。僕とエイミィで関係ある職員は調べたし、監視もしている」

「もっと深く考えてみろ。そして思い出せ……該当するのがいるはずだ。事件に関わりを持っていて、かつそれを憎む理由と可能性があり、対処できそうな力のある……そんなヤツだ。お前なら分かるだろう」

「……ウタネ、前に僕たちが砂地で対峙したのを覚えているか」

「蜘蛛の時かな」

「ああ。君は何らかの……シグナムでも蜘蛛でも無い相手と戦い、逃げられた、そうだろう?」

「うん。そうだね」

「その時なんて言った?」

「……このクソアマ?」

「そう。僕の記憶でもそうだ。そして……シオン、でいいのか」

「ああ」

「君は仮面の男に向けて何と?」

 ニィ、と笑い、正解だと言わんばかりに答えるシオン。

「飼い猫風情がでしゃばるな、だ。流石じゃねぇか」

 ハハハハと手を叩くシオン。

 得た情報は、仮面の男が女性で、何者かの飼い猫……のような存在であるということ。女性に関してはカンだけど、身体の使い方が男のそれじゃ無いように感じた、ってだけの話。飼い猫については分からない。

 それに対し、クロノは納得がいかないようだった。

「該当者はいた。最近になっておかしい点もあった。だが! お前はなんなんだ! なぜそこまで知ってる⁉︎ロストロギア襲撃の際もそうだ、何故あれほど効率的な犯行ができた!」

「うるせーな。教えてやったんだから感謝しろよ。裏切りったってお前から見ての話だしな。まぁ……知ってるさ、知ってるだけ……信用はしてくれねーよなぁ……なのは」

「はい!」

 待機状態の鎌で高町さんを指し、えーと、と前置きをして話す。

「近距離で遊ぶのもいいがお前の本領は砲撃だ。近距離戦ではバインドも狙っていけ。フェイト」

「はい」

 内容は本当に軽いアドバイス。いうなれば私のお節介に対して強くなるための修正。フェイトも同じように指示される。

「お前は良くも悪くも速さが全てだ。だが、もう少し装甲を張れ。ユーノとクロノが暴走するぞ」

「「なっ⁉︎」」

「ぶっ!」

 クロノのユーノが動揺し、即座に理解できた私は吹き出してしまった。なんて面白い事を言うんだ。高町さんのアドバイスは前振りか? 

「ななななななにをいうんだ! ふぇとは今や義妹だぞ⁉︎そんな気一瞬たりとも起こすものか!」

 動揺し過ぎて回らない口で必死に反論するクロノ。ユーノは顔赤くして黙ってる。

 全体の困惑具合を嘲笑う様にシオンのテンションは上がっていく。

「ハハハハハハハハハ! そうだよなぁ! 起こしちゃあエイミィが黙ってねぇもんなぁ! ハハハハハ!」

「それ私も言いたかったんだよ……ってかアルフ」

 対人関係を知り尽くしているかのような話し方で腹を抱えるシオン。それを傍目に溜息をつく。そういえばそんな話前もしたような。

「んあ?」

「私がフェイトを追い詰めた理由、痴女化(それ)止めようとしたからなんだよね。諦めちゃったけども」

「あ、そーなんだ……当時聞いてりゃもっと友好的にしてたなぁ絶対」

「アルフ⁉︎」

「当たり前さね。今は冬だからいいけど、夏になって水泳授業なんて受けてみなよ、フェイトのバリアジャケットより面積広いかもよ?」

「えっ……」

「ハハハハハ! そりゃそうだ! あんま変わったもんじゃねぇけどな! クローンとは言えその年から痴女たぁ姉さんでも手に負えねぇな!」

「「殺す」」

「oh……悪かったよ。クローンの話はしないし痴女とも言わない。ウタネも姉さん呼びは控える」

 躊躇いを感じさせない殺意を前に流石にやり過ぎたと思ったのか、手を上げて降参の構えを取るシオン。物分りが良くてよろしい。

「……そうだ、まず自己紹介でもしてもらうべきだった。シオン、嘱託になるというのならちゃんとした自己紹介などしてもらおうか」

「あー、フタガミシオン、シオンでいい。敬称付けたら殺す。ここに来たのは最近で、ウタネの身内みたいなもんだ。スタイルは近接、対人特化。魔法も一応使えるはずだ。後は……何かあるか?」

「ウタネ、どうだ?」

「……別に。シオンがいいならそっちは好きにすればいい」

 クロノが私に振ってくるけど意図が分からない。私には関係無いと思うんだけども。

「そうか。なら、君の能力を教えてもらおうか」

「あ?」

「ウタネと同等以上を自負するからにはそれなりの何かがあるんだろ。嘱託で信用して欲しいなら話せ」

「ふむ……いいか? ウタネ」

「あなたがいいならいいよ」

 別に私のも話していいけど問題にしたくないだけだし。気にしてたのはソレか。私の能力は秘密にするよう言ってるから、シオンも同じなんじゃないかと。

「わかった。オレの能力は、あらゆる世界の能力を使用する能力だ。同時使用は二つまでの制限と、使用の度身体に負担がかかるから重い能力をずっと使うこともできない、ってくらいだな」

「昨日使った能力は?」

「時間を止める能力、時間を消し飛ばす能力がメインだな。あとは細々と」

「それぞれの説明を」

「めんどくせぇな。止めるのはそのまま止める、時間停止。オレの場合四秒ほど。消し飛ばす……吹っ飛ばす、か。オレ以外の時間を吹っ飛ばし、その過程で起きた事象はオレ以外意識できない……分かるか?」

「えっと……」

「私もさっぱり……」

「昨日のシチュで言うとだな、ウタネの攻撃が当たる直前から能力発動だ。それで、当たった事も世界には認識されないからオレを透過する形で通り抜けていく。認識されてないオレは何かに触れることもできないから、何処へでも自由に動ける……分かる?」

「攻撃を無効化するのか?」

「無効化はしない。攻撃が止まったのはあくまでウタネの攻撃同士の衝突だ。外力は働いていない」

「発動中は何も触れず、すり抜ける……幽霊みたいな感じでいいの?」

「まぁ……そうだな。だから……」

「えっ!」

「こういう事だよ」

「ほー」

 座っていたシオンがいつのまにかクロノ達の後ろに立っていた。

 やっぱり速さでもないね。

「今その気ならお前らを殺せたんだが……どうするよ。信用してくれるかい」

「またやっかいなのが増えたな。お前達が初めから味方だったらと思うと腹が立つよ」

「そりゃどうも。他はあるか?」

「シグナムが未来を見ているって言ってたよね。ウタネの勘とは違うの?」

「全く別物だな。ウタネのカンはマジのカン。第六感なのに対し、オレは情報収集からの予測……ラプラスの悪魔、って知ってるか?」

「いや……知らない」

「あらゆる物質の動きがその次の瞬間に訪れる結果に結び付いているとして、その動きを認識、計算できるなら、過去と未来の全てを見ることができる知性の事だ。不確定性原理により完全に否定されたが、オレはそれに似た事をごく限られた範囲で計算できる」

「えーと……」

「なのはもフェイトも数学には強いだろ。1足す1が2になる様に、筋肉の動かし方だとか今どう動いているかを観察して、次どうなるかを考えるんだ」

 私はこうなるだろうな……っていう予感、反射。ほぼ正確だけど外れることもあるし大まかな事しか分からない。

 けどシオンは観察に基づく正確な予知。場の状況や相手の視線や身体、それ以前の動作などを瞬時に読み取って導き出す未来。

 私の方が遠い未来まで予感できるけど、シオンの方がより正確に見える。

 それらを擦り合わせれば、より正確でより遠い未来を視ることができる。今はできないけどね。

「まー視えねぇヤツにはわかんねぇよ。じゃあアレだ。体感させてやるから模擬戦しようぜ」

「勝手な事を言うな! まだ取り調べ中だぞ!」

「うるせー、ついでだ、守護騎士に勝つ為にも少しだけアドバイスしてやる」

「……っ、二人はそれでいいか?」

「お手柔らかに……」

「私も、お願い。近接ならより参考になる」

「だそうだ。ユーノとアルフはどうするよ。1対4でも構わんが」

 二人の承諾を得て、他二人にも声をかけるシオン。

「い、いや……僕は遠慮しておくよ」

「アタシも……」

「そうか。まぁいい。気が向けば入ってこい」

「待ってシオン、もうやるの?」

「当たり前だ。実戦に練習時間は無い。今闇の書が完成したらどうする気だ」

「むー」

 そんな無駄な時間は作るな、と吐き捨てるシオン。

 でもそれは多分、心構え……覚悟の質、ってやつ。闇の書はまだ完成しない。だからこそ日付を聞いたり、蒐集させたりしたんだ。あるべき世界とズレない為に。

 クロノからリンディ提督に話が行き、空いているので自由にどうぞ、ということらしい。

 私はやる事もないのでついて行くことにした。




未来視は予測で、測定ではありません。黒バス赤司君のエンペラーアイだとか、テニプリの才気煥発の極みだとかと似たようなメカニズムのものと思って下さい。ウタネのカンはFateのセイバーの直感みたいな。


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第45話 模擬戦

私の能力の中で平気で話す男。
鎌を掴んでいた指は離されたのに少しも動けない。少しでも『今』から外れれば……男の言葉に呑まれる予感が止まらない。勝てない……
いや、でも、まだ。
【全て、止まれ】
後ろに跳びながら言葉を使う。
この世界全体、全ての気体をダイヤモンドと同等以上の硬度に固定する。厚さ数キロメートル以上のダイヤの壁。何をどうしても不能なはずだ。
「無駄ですよ。あなたの能力では私の言葉を超えられない」
痙攣すら不可能なはずの中で簡単に歩いてみせる男。
確かに固定してるはずなのに平気な顔を……!
なにより、私の手の内は全てバレてるのに、相手が一切分からない……


「んー? こんなしっかりしてたか? トレーニングルームって」

 壁を触りながら、おかしなものでも見てるかのようなシオン。

「どういう事だ?」

「いや、なんか簡単にぶっ壊れてるイメージあったからな。まぁ気にしないでくれ」

「???」

 部屋は一辺が30メートル、高さ10メートルくらいの直方体のトレーニングルーム。遠距離同士の模擬戦には少し狭いかな、というくらいだけれど、部屋としては十分に広く、鉄筋コンクリート以上の硬度を元々持ち、更に魔法でも強化しているらしい。

 それを知った上ではよく分からない物言いに、私含め一同が首を傾げた。

「始めに言っとくぞ。この模擬戦はお前ら二人へのアドバイスと共に、さっき言ってたオレの能力を試したいのもある。オレも昨日使ったのが初めてだからな。最大限確認作業をしたい。が、飛ぶのはナシな。疲れるから」

 シオンが中央あたりに歩いて行き、鎌のサイズを戻し、軽く構える。

「うん……ウタネちゃんが信用してるなら……私達も信じるよ。闇の書の解決の為に」

 高町さんもフェイトもそれぞれデバイスを構え、シオンと対峙する。

「あぁ……全力で来い。オレを殺す気でな」

 ふぅ、とシオンが息を吐く。私と同じ、切り替えのルーティンだ。

「バルディッシュ」

《了解》

 それを見て開始合図も無しに超速移動から攻撃を仕掛けるフェイト。

「不意打ち襲撃はお手の物か……だが足りない。一人で押すには限界があるぞ」

「く……」

 しかしその速さでは全く意味が無く、スタートのタイミングと速度を読みきっているシオンには簡単に対処される。

 この模擬戦、不利なのはむしろ高町さんとフェイト。

 初動の前から結果を読み取るシオンに対し、遠近コンビでは常に近距離での1対1が揺るがない。ガジェット相手に無双するのではなく、相手一人を確実に対処する戦闘スタイル。シオンの言う通り、シオン相手に一人では限界がある。

 更に未来を視て得た相手の始点、そこを同じ力で押さえた場合。

「え……」

 数度打ち合った末、回り込もうとしたフェイトの動きが止まる。

 シオンが鎌の柄でフェイトの太ももの付け根を押さえると、高速移動していたフェイトが本人の意思に関係無く動きを止めた。

 相手が一人の時だけ使える始点を潰す攻撃。高町さんに少し教えたのはシオンのコレ。始点にあたる点を、その全く逆のベクトルから全く同じ力でぶつけるとどうなるか。運動が止まる。転がってくるボールを蹴り返せば、方向が変わったり威力が増したりして飛んでいく。けどこの打撃でボールを打てば、ボールはその場で止まる。

 高町さんに教えたのは始点だけ。攻撃すれば前者の様に向きやパワーこそ変わるけど反動なんかが残る。対してシオンは何も残さない。

 超高速の近接戦の中、その止まった時間は致命的な隙になる。

 右手の鎌でフェイトを押さえたまま、シオンの拳がフェイトの顔へ吸い込まれる。

「……」

「ウタネはこんな事教えなかったのか? 全力でやれって言ったろ。カートリッジも使って、出来る事全てやれ。次は当てるぞ」

 直前で拳を止め、再開を促すシオン。

「なのは、お前もボケっとしてないでなんかしろ。フェイトだけじゃ能力を使わずに終わるぞ」

「えっうん……全力全開、本気でやるよ。レイジングハート!」

 呼びかけと共にアクセルシューターが十六、待機状態で出現する。

 現状高町さんがコントロールしきれる最大数。威力こそバスターには劣るけど、その小回りの効く牽制力は非常に有効に働く事が多い。なにより、純粋な手数で勝負できるから未来を見ても簡単に対処できるわけじゃない。

「よし……その攻撃は能力無しでは無理だ。数を相手にするのなら、最適は……投影・開始(トレース・オン)

 シオンが天井近くに剣を出現させる。その数は高町さんと同じ十六。

 装飾も無く無骨な短剣ではあるけど、確かな威力を感じさせる。

「行くよ、フェイトちゃん!」

「うん!」

 アクセルシューターとフェイトがシオンの周囲を高速で移動しながら攻撃していく。シオンはその全てを防いではいるけど、反撃までは手が出ない様子。数が多いと……特に生身じゃない、相手へのダメージが見込めないシューターみたいなのが多いと、それに対する反撃も考えないだろう。フェイトに反撃するにも、常に二つはシューターがついて回ってる。度々入れ替わるとはいえ、私と同じようにバリアジャケットの無いシオンには十分な牽制として機能してると思う。

「よし」

 シオンが打ち合いの中で小さく呟く。

 フェイトは気にしてないようだけど、多分その意図はパターンを見切った確信の声。

 私の予想はすぐに正解と告げられる様に、シオンから一番遠かったシューターが四散する。

 動揺する二人。その原因は上空の剣。シューターの軌道に先読みして落として、ジャストタイミングでシューターを捉えている。

 高町さんはそれを踏まえてコントロールするけど、多少の変化をつけた上で、剣はそれを先読みする。

「う……」

「パターンからの派生にも限界はある。なんならいっそ、逆走させるのもアリだったな」

 ついにはフェイトの周囲にいた二つ以外が破壊された。

「因みに、今の軌道の先読みはただの読みで、予知じゃない。流石に意識レベルの……見えないものは読めないからな。そこで、お前はどうするべきだったと思う?」

 そこで一度中断の合図を送って、高町さんに問うシオン。

 その間フェイトはカートリッジの交換など、再開までの準備をしていた。

「連携の問題じゃなく?」

「ああ。お前個人として、シューターの援護以外に何ができたか?」

「……思い付くのは、バインドくらいだけど」

「そうだな。バインドでオレを縛るのは十分に良い戦術だ。ウタネならその発生を予感して避けられるが、オレはそれが出来ない。十分に良い。だが、もっと良い方法があるだろう」

「……?」

「お前も来いよ、この射程距離(エリア)に。最初に言っただろ、一人じゃ限界があるってな。二人で近接、遠近、遠距離の三種の戦法を持て。そして相手が一番苦手とするそれを選べ。目先の一勝の為に末代まで呪われる覚悟でやれ。命を賭けるってのはそういう事だ」

 まるで高町さんが近距離で戦えるかの様なシオンのセリフ。

 私の介入が無ければおそらく、ユーノの考えからしても近距離での戦闘はまずできなかったはず。シオンはそれを読み取ってる……まだ能力を隠してる? 

 しかしまぁ隠してたとしても特にデメリットは無いので放っておく。いちいち説明させるのも面倒だし、覚えられないから。

「わかった……けど、一ついい?」

「ん?」

「シューターの軌道が予測……予知できないって言ってたけど、昨日はバインドも全部避けてたよね?」

「あぁ……あれはお前らがコンビネーションを取ろうとし過ぎたからだな。そりゃ全方位に敵がいれば、それを見る訳だが。不自然な穴、守護騎士三人のコンビネーションでは絶対に出ないであろう穴ができる時がある。それはフェイトだったり、お前のシューターだったりするわけだが、それは簡単に予知できる。だがそれが無い時。それがバインドの発動サインだった」

「それも予測……」

「ああ。あの状況で視えないものはバインドくらいだったからな。視えるだけが全てじゃない」

 シューターや人、それらの未来を見て、それでも不自然なポイントにバインドがくる……そういう予測だと、シオンは言う。

 トランプのババ抜きで、ラスト一組の場合で自分が1枚の場合、相手の2枚のうち1枚は自分の手持ちと同じで、ペアにならない不自然な1枚はジョーカーと断定できると。

「未来視だけでなく、お前のスタイルにも言える事だ。遠距離では負けない、近距離は弱い。ならどうするか。近距離を鍛えるのもいいが、弱点は弱点のまま、それを利用すればいい。近距離のスピード感でバインドを使えるようになれば、そのまま砲撃してもなんら問題無く運用できる。ヴィータなんかには特に効くだろう。シューターをヴィータが突破できるギリギリに調節して、誘い込みバインド……必死に切り抜けた状況が演出で、手のひらの上だったと知ったら……笑えてくるだろ?」

「ゲッスゥ……」

 フェイトに渡すカートリッジを補充していたアルフが引いてる。

 ゲスいのは否定しないけども……あくまで私と同じ愉快犯だし、根は真面目なんだよ。ほんと。

「でも僕達には無い発想だよ」

「そりゃあそうなんだけどさぁ……正面から勝ちたいじゃないのさ」

「ならアルフもシオンに師事すればいいのに。武器以外にも格闘技もそこそこできるよ」

「んーにゃ、やっぱ遠慮しとくかねぇ。フェイト達は事件解決があるからそりゃ勝ってほしいけど、アタシはただ意地の張り合いだからねぇ。言うなればついでさ。いざって時にフェイトの身代わりになれるくらいでいい」

「ふーん……」

 シオンの仕事を増やす勧誘は断られてしまった。

 自力で勝とうってのは良いと思うけど、数百年を戦ってきた騎士が優秀なだけの魔導師や使い魔に負けるとは思えない……なんで高町さんたちはシグナム達と同等に戦えてる? 

 確かに魔力量はズバ抜けてる。戦闘スタイルもそれに合ったもの。管理局をして止められなかった闇の書は、守護騎士はそんなヌルい相手しか狙わなかったのか。

 再開だ、というシオンの声で思考を中断。結局分からないものは分からない。

「二人も混ざれば勝てたかもなのに」

「へぇ? あんな余裕そうなのにかい?」

「余裕だけど、ギリギリなんだ。魔力量は二人の方が多いし、能力も制限があるみたいだから。それに、私と同じで、一発当てれば勝ちだよ」

「そうなのかい?」

「うん。魔法使えるって言ってたけど使う気は無いみたいだし、バリアジャケットみたいなのも無い生身だから。未来視があるからこそ、みたいな余裕だね」

「ウタネはしないの? シオンとは知り合いなんだよね。2対2でもいいんじゃないかな」

「んー……疲れるし、私はそういうの向いてないかなぁ……シオンとコンビネーションなんて取れないし」

「そーだアンタ、もうちょっと体力つけなって。どうにもなんないだろ、そんなんじゃ」

「だから五分なんだよ。五分以上はかけられない。それまでに相手には再起不能になってもらう」

 フェイトは失敗した、シグナムも加減した、蜘蛛や仮面の男には逃げられた……ロクな戦績じゃないな。

 その後はカートリッジの交換などをしつつ、ユーノとアルフと話しながら模擬戦を見ていたんだけど、シオンに挑発されてユーノとアルフは結局参戦する事に。

 絶対やめた方が良いと思うんだけどなぁ……

「シオンー、死なないでねー」

「おうコラ、応援するなら助けろ」

 支援型二人の参戦により未来視の限界をあっさり超え、何十にもバインドで縛られるシオン。

 調子に乗るバカは叩かれる……ってどんな諺だったかな。忘れた。

 ユーノ、アルフによる拘束と、シオンを前後で挟んで収束する高町さんとフェイト。スターライトと、プラズマスマッシャーかな。

「はっはっは、殺す気でって言ってたのは誰かなぁ?」

「あーはいはいオレですよこの野郎!」

「スターライト……」

「あ」

 おいおいおい、死んだわシオン。

 トレーニングルームを隅々まで照らし尽くすピンクと金の魔力球。

 既に射撃体勢に入っている二人に対して、バインドを破壊するたび重ねられ動けないシオン。

「ブレイカァァァァァァ!」

「スマッシャー!」

 一瞬の歪みから、破壊の魔力が放出される。光は数瞬も無くシオンを呑み込む形で衝突し、衝撃波と余剰魔力を撒き散らす。

 補強されている壁は軋み、ヒビ割れ、カケラが落ちる。

 目と耳を塞ぎたくなるほどの光、音。エース二人の全力の純魔力砲は相応しい威力を持ってその周囲を被害に晒していく。

 地震のように続いた崩壊は二十秒近くに及んだ。

 永遠にも思える光の先、ようやく三人を捉えられる様になると、エース二人は肩で息をしていた。

 はぁはぁとデバイスを杖に使い、二人のエースは顔を合わせる。

「……え」

「……あ」

 二人は呆然とした顔で息を飲む。

 シューターの一撃で落ちるはずだったシオンの体は、太陽以上の輝きに消し飛んでしまった。

「あー……シオン死んじゃったかー……」

 闇の書どうしよう。解決策聞いてないよ。

「えっ! ちょっ! 死ッ……⁉︎」

 蘇生魔法とかって無いのかな。治癒すら使えないからわかんないや。



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第46話 帰宅

「ああ、教えてあげます。私の特典は『対終末』という……まぁ、サーヴァントで言うクラススキルの様なものです。終末をもたらす存在への絶対的アドバンテージ。子供向けヒーローのようで少し恥ずかしい気もしますが、私への終末は私を超えられず、全ての終末を私は上回る。私を終わらせる鎌は私が止め、世界を終わらせる能力は私を透過する。私に対して、『殲滅者』であるあなたが上回ることはない」
感情があるかの様に笑う男。恐怖するのはその言動より能力だ……「対〇〇」はある属性に対して有利を得ることのできる特性。体感するとマジに絶望を感じる。
聖ジョージことゲオルギウスは、竜殺しとして竜を持つ相手に対し有利を得る。その攻撃は竜の心臓を持つとされる……直接的なものではない、言うなら『弱い』竜属性を持つ騎士王アルトリアに対してでさえ、擦り傷が致命傷になり得る程のものだ。概念能力に対し物理的な防御は無意味だ。確かに攻撃自体を防ぐのなら効果はあるが、今私が相手をしている人間は私の攻撃を全て無効化し、上位互換とも言える能力を持つ。それが今私を殺しに来ているのなら。一つのミスどころではない。一秒ごとに生かすか死ぬかを決められているようなもの。生殺与奪の奪い合いは既に無い。水槽に置かれた一匹の蟻。見下ろす人間の手には殺虫剤と多量の水。今の私はそれに似る。この状況は私の反撃は無く、私が如何に死から遠ざかれるか、それだけだ。


「……さて、クロノ。この二人を殺人現行犯で訴える。被害者はシオンで、使い魔を使い拘束した上で純魔力砲を叩き込んだ。どうせ見てたんでしょ。ほら、裁判だよ」

《……見ていたのはいたが。あれだけ君を擁護してくれた二人をそう簡単に訴えるか?》

 呆れたような顔と声で返答が返ってきた。

 擁護したのはクロノでしょうに。

「いや、人死んでるし。原型どころかモノが無いよ。私の冤罪とは訳が違くない?」

《む……君からすればそうだろうが、今二人を失うと闇の書の事件解決に支障が……》

 私から手元の資料に目を逸らし、パラパラとめくるだけの動作をするクロノ。

 人手不足は相変わらずの様で、事件真っ最中に主戦力を失うのは流石に厳しい……と言ったところだろう。私もそう思う。だからこそするんだけども。

「法の番人さん。闇の書は私と守護騎士で解決する。だから放っておいて。シオンがヒントを握ってたけどそれが無くなった今、私が管理局に味方するメリットは無くて、シオンを殺されたっていう敵対する理由ができたよ」

 闇の書の蒐集は結構な所まで進んでる。

 このまま管理局が手をこまねいたままであればそう遠くない未来に闇の書は完成する。シオンやクロノの言ってた仮面の男の正体が私に分かってない以上、守護騎士の護衛が優先になる。

《く……しかし》

「しかしだ。オレが死ぬ訳にはいかないんだよなぁ」

「うーわキンモチワルウ……」

 ズゥゥゥン、という耳障りな音と共に私の隣に着地するシオン。着地、というよりは召喚の方が近いかも。

 闇の書完成がなんだか遠のいた気分だ。解決役め。

「うるせぇ黙れ。本気で死ぬかと思ったぞ」

「完全に消し飛んでたのに」

「時を飛ばしても良かったんだがな。なるべく色々な能力を使いたかった。当たる直前から今まで暗黒空間に逃げてただけだ」

 シオンの能力。まだ見えない部分が多いけど、闇の書の解決になるならまだいいか……また今度見せてもらおう。

「色々使いたいってのはわかるよ。だけど暗黒空間って何?」

「オレも知らない。この世界でだと虚数空間でいいんじゃないか。使い勝手がいいわけじゃねぇからもう使わない」

「ふーん……まぁいいや。じゃあ帰ろっか」

 シオンの紹介、模擬戦。多分やる事は全部終わった。じゃあ帰ろう。居続けるのも面倒くさい。

《……訴訟は取り下げる、でいいんだな?》

「うんいいよ。ごめんね」

《いや……僕としては良かったよ》

 管理局が抑えられない戦力が戻ってきて何が良かったのか。あぁ二人の保身か。別に実刑取る気は無かったんだけどね。闇の書が完成するまで拘束できれば。

「それはそうと家あんのか?」

「あるよ」

「アパートか? なんなら建てるか?」

「一軒家。ちゃんとシオンの部屋は空けてるよ」

「ほー」

 そりゃ楽しみだ、とシオンが零してトレーニングルームを出る。

 私もまだ固まってる四人に手を振ってその後を追う。

 特に待ったがかかるわけでもなかったのでしばらく転移などもせず歩く。流石管理局というか結構な広さがある。特に、誰もいない中こうやって黙って歩いてると異様に長く感じる。

「……なのはに近接を教えたのはお前か?」

 先を歩きながら、振り向く事なくシオンが話し始める。

「うん」

「はぁ……まぁいいが」

「なにが?」

「お前も知ってるだろうが、この世界はオレ達の元の世界で言えば漫画やアニメの世界だって事」

「うんまぁ、そんな感じとは思ってた」

「何で干渉した? お前がそんな事を好むとは思えない」

 咎めるような、意外そうな、複雑なニュアンスの問い。

 今となってはシオンに隠し事をするのも容易い事だけど、そうはしない。それは前に進まない選択だから。

 私の思考を肩代わりしてくれるシオンには正直に。

「……殆どはなりゆき。八神さんを助けたいのは個人的」

「はぁ……まぁいい。お前がそうしたいならそうするさ」

 ため息をつきながらも、私と同じ指針を取ってくれる。

 この姿勢とそれに見合う能力。このシオンなくして私はいられない。改めてそう感じさせるシオンには、感謝しかありえない。

「うん……ありがとう」

「で、だ。何が知りたい」

「アナタの能力について。何ができる? どこまでできる?」

「オレの能力は言った通り。何が不満だ」

「あらゆる能力、ってさ。なんでもできるの?」

「……意図が分からない。存在する……オレが知る能力ならなんでも、でいいか?」

 私の質問の意図が読めないのか、実に曖昧な返事をしてくる。

 私の行動は何かシオンの知る原作と違うのだろうか。

「戦闘以外で。私の貰った皇帝特権みたいに料理とか、そういうのも?」

「……ああ。料理だろうと裁縫だろうと可能だな。制限を見なければ万能と言って過言じゃない」

「ありがとう。帰ったらまた見せてよ、色々」

「ん。オレもこれまでを聞きたいからな。どれだけ関わったのかを」

「……ジュエルシードから、って言うなら全部かな……」

「だろうよ。ロリコンもその辺の時期に落とすだろう事はわかってる」

「別に私は。この世界を物語として見ては無いし、自分から変えようとも思ってないよ」

「だとしてもお前は。既にこの時期のなのはに近接を習得させてしまってる上、闇の書の蒐集に加担している。いいか、お前だけに言うぞ。闇の書の完成は12月24日、クリスマスの夜だ。その時点で守護騎士は闇の書に蒐集される。足りなければお前も蒐集させてもらう」

「……え?」

 クリスマス? 騎士も蒐集? 

「ちょっと待って。守護騎士を蒐集なんてしたら……」

「ああ。魔力体である奴らは死ぬ」

「……何それ。なによ、それ」

 聞いてない。巨万の富と不治の病を同時に手に入れた気分だ。

 全てを知って、それを解決出来うるシオンが、その解決を放棄する。別に私の蒐集なんてどうでもいい。そんなので八神さんが助かるならそれが優先だ。蒐集とは言え高町さんがそうだった様に時間が経てば回復はする。けどプログラムから魔力で形作られた守護騎士は文字通り全てを失う。

「それがあるべき世界だ」

「認められない。他の手段を」

「あるにはあるが、ダメだ。奴らの蒐集で持って、その絶望から闇の書は完成する」

「……結局、管理局が正しいと」

「そうだな。実際を体験した奴らの方が客観的事実を知ってる。プログラムの一部でしかないヴォルケンリッターが忘却しているんだ。奴らに聞いてみたか? 闇の書の完成はどんなものか? 誰一人として答えられない筈だ。奴らの動機だって治るかも、という憶測だろ?」

「……」

 確かに、聞いた事は無かった。確かに、明確な正解として彼女らが示したことは無かった。

 八神さんの足が闇の書によるものという事は確かだ。けれど、闇の書を完成させて、八神さんが真に主として覚醒すればそれが治る、というのは憶測。治るかもしれない、治すにはそれしか考えられない、という憶測。

 闇の書が何代も転生を繰り返してきた事、魔力を蒐集する魔導書であり、周囲を破壊する兵器である事。

 管理局と守護騎士で矛盾や食い違いはあった。違う意見で後がないと、どうしても希望的な方に寄ってしまう。当事者がそれで治ると言うのなら、それが正しいと思ってしまう。

「お前はその辺の判断が緩いからな。難問を放置したり感情だけで動くからだ。まぁ今後は安心しろ。今まで通りオレが変わってやる」

「そうだよね……うん。だからシオンに頼ってるんだから……」

「一人になって何か変わったか? オレが要らないなら別に何もしないが」

「いいや、要るよ。これからもよろしく」

「あー。そんじゃあ、後は頼む」

 シオンが顔だけで振り向くと、薄い笑いを浮かべて身体を投げた。

「えっ」

 ちょっとなにこれ。

「えっと……ごめんクロノ」

 取り敢えず私に人を運ぶ力は無いのでモニターを開く。

《……なんだ》

「いや、シオン倒れたから私の家まで送ってくれない?」

《何があった? まさか君がやったんじゃないだろうな》

「まさか。分かんないけど急に倒れたんだよ」

《ふむ……分かった》

 承諾と共に魔法陣が展開、淡い光と共に景色が変わり、自宅前にいる事を認識する。

 シオンも倒れたまま送られている。すんなり送ってくれたって事は帰宅も特に問題無し、と取って良いという事だろう。

 能力でシオンを運び、ベッドだけが置かれた部屋に放置。家具は起きた時に勝手に揃えてもらおう。面倒だし何がいいか分かんないから。

「ふぁ〜あ」

 私も色々動いたし、問題解決の目処がついて気が抜けたのか疲れてきた。

 片付けもせずベッドに入り、一切のストレス無く意識を手放した。




ボックス周回の合間なのでちょっと雑ですが……今更ですね。


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第47話 入れ替わり

「今の内に聞いとく……次は、どこかな」
「無いそうですよ。あなた達にはもう満足したとの事で、あなたの望み通り、死へ」
「……そう」
単調に答える相手に、少しばかり落胆する。
神と私。互いの暇をつぶすだけの生活で、とても良いとは思わなかったけど、関係の無い世界で生きていくのは悪くなかった。私が自分の世界について考え過ぎだったんじゃないかと少しは考えられるようになった。でももう次は無い……そうだ、私達の生涯。間違いだらけの人生を、今までの全てを後悔して、それを良しとして笑って死ぬんだって。


「ウタネちゃーん!」

「学校行くよ〜」

 学生、社会人、自転車、車、バス。

 人間の起こす様々な社会活動の雑音の中、聞き慣れた二人の呼び声が玄関先から聞こえてくる。

 それを聞いて鞄を取り、玄関のドアを開ける。

「よう、待たせたな」

 玄関先の見慣れた二人に声をかけながら、騒々しい世界を見下す。

 同調圧力と多数決の世界の中で、それを絶対とする全ての人間。その考えがウタネを攻撃してるんだ。クソが。

「うん……うん?」

「どうした?」

 イラつきが顔に出たのか、なのはが急に顔をしかめる。

「どうしたって……もしかしてシオン?」

「ああ」

 二人に隠す必要は無いので正直に言う。

「なんで女物の制服着て……」

「フタガミウタネは学校に通うんだろ? なら男物はおかしいだろう」

「ウタネちゃんは?」

「まだ寝てる。本来姉さんはロングスリーパーなんだよ。昼過ぎには起きてるだろうけどな」

 朝起きたら何も無い部屋に押し込まれてたし、ウタネは寝てたし、冷蔵庫の中はモンブランしかねぇしで、取り敢えず生前と同じ生活に戻ったと認識しておいた。

 折角の転生だってのにそれでいいのか分からんが、ウタネがそれでいいならそうしよう、という事で。

「でもウタネちゃん、今までは普通に起きてたよ?」

「オレがいなかったからだろうな。一人しかいないなら一人でやるだろうさ」

「だからって入れ替わりは……」

「んー……」

 左の指で2回首をつつき、左手を首に添えて目を閉じ、左に曲げる。

「別に、私のフリくらいはできるよ。高町さん、これで違和感とかある?」

「にゃっ⁉︎」

 目を開けて喋り方やら表情をウタネに寄せて話してみせる。

 ウタネがこれをできるのかは知らないが、つつく回数……1回から7回でウタネに寄せる精神コントロール。2回くらいなら思想や性格はそのままだが、表向き口調やらでヘマする事は無い。所詮は演技の域を出ないんだが。

 7回ともなれば、ウタネの戦法をほぼ完全に使うことすらできる。

「凄い……声質とか、表情まで……」

「変換資質とか、先天性のは真似できないけどね。ほぼ同じにまではできるよ」

 生前もこうだったしな。むしろオレの役割としてこれが一番大きい。

「取り敢えず行こうか。遅刻するよ?」

「待って!」

「ん?」

 二人の間を通り抜けると、なのはに止められる。

「バレたらどうするの? 私たちがバラしたり、うっかり喋っちゃったりしたら……?」

 切羽詰まった、可能性でしかない問い方。ウタネと同じだと今体感したはずなのにそんな心配が出る意味が分からない。

「なんでそんな心配するの?」

「だって、殺されちゃう……?」

「まさか。ん……そうか。姉さんに殺すとか言われたのか。まぁ安心しろ。今殺されてないならもう大丈夫だし、オレとウタネは顔もほぼ同じだし、指紋だって同じだ。オレは住民登録すらしてないから、二人並ばなきゃオレの存在自体が無い。それにな、オレが学校に行く事でメリットもあるんだぞ」

「メリット……?」

「クロノが頭を痛めてる闇の書、オレならスムーズに進行できるかも……な?」

「「!!!」」

 ただし戦闘も無く平和に終われるとは言ってない。オレの言う進行は原作通りに進むかどうかだ。

「そういうこと。だから秘密にしておいてね?」

 なんだかんだオレも蒐集させてる。あの闇の書が覚醒すればコイツらじゃ太刀打ちできない。いや、オレですらどうか……

 それ故に、その他でのイレギュラーは出したくない。はやてへの見舞いやヴォルケンリッターとの遭遇、そこまではオレの存在以外のズレは起こさないよう行動しなくては。

 あと二日、それで闇の書は完成する。蒐集にズレがあったとしてもオレが多少なり補ったし、ウタネもまだ残ってる。最悪クロノも投げていいだろう。なのはとフェイトは……聞いてないが、両方されてる前提だな。変に話すと面倒だ。

 おそらくは今日、すずかからはやての見舞いはどうかという提案が出る。その日程の調整がオレの最大の仕事だ。暇があればヴォルケンリッターの手伝い、情報収集だな。

「じゃあさ、念話でいいから教えてよ。シオンの能力」

「どうしたのフェイト、情報収集に熱心だね。もう敵対はしないよ?」

「ち、違うよ! 純粋に気になってるんだ。魔法でもないその能力が」

「んー、でもねぇ……大体説明したでしょ?」

「色んな能力があるんでしょ? でも時間を止めたりだとか、飛ばしたりだとか……そういうのだけじゃダメなの?」

 認識できなかった体験からだろう、それ程驚異的な能力以外にどうするつもりだ、という、ある種恐怖からくる問い。

「確かに、汎用的で強いのはその二つなんだけど……なんていうか……希少性、って言うのかな。私たちの基準で言うと神秘なんだけど、同系統の能力が少ない程負荷が大きくなるの。時間を止める……私で言うと四秒くらいだけど、時間を止める、っていうのは結構いるんだ。だから、私一人増えたところでそう差は無い。だけど、時間を消し飛ばす能力は知ってる限り一人だけ。そこに私が入れば二人、単純に二倍になる。それは世界にとって結構な負荷なんだ。それを代わりに私が受ける事になる。だから、基本的に使うのは止める方かな」

 基本的に世界(ザ・ワールド)の使用。原作は五秒から九秒だが、オレが試す限り四秒が限度。対してキング・クリムゾンは三十秒程度と、原作の十数秒を大きく上回る。あくまで使うのが『能力』であるからして、原作の影響を受けないのか……それとも、まだ何かデメリットがあるのか。

 それから能力の説明を出来るだけしながらバスに乗り、無事学校に着く。

「あらウタネ、最近真面目じゃない」

 教室に入るなりアリサに喧嘩を売られる。ウタネならどうするか……ではなく、いかにオレの素に近い対応をするか。ウタネでありつつ、その性格はオレ寄りに見せる為に……

「変かな。たまに気が向くの」

「別に? テストの日だけ来て満点取って帰るよりマシよ」

「満点なんて取ったっけ? アリサの思い込みじゃない?」

「何度かあったわよ。小テストだったかもしれないけど」

「そういう勘違いをする前にアリサはもう少し落ち着いた方が良いよ、ただでさえおっちょこちょいなんだから」

 コイツ、なんとなくゼルレッチの弟子の末裔に似てんだよな。

「なんですって……!」

「はい終わり。すずか、悪いけど宥めといて。ちょっとなのはとフェイトで話があるから」

「う、うん……」

 シャー、と牙を剥くアリサと完全に放心してるすずか。

 オレはそれを無視し、言葉通り二人を連れて教室を出る。

「悪いな、別に用は無かったんだが、面倒だったからな」

「いや、それはいいんだけど……」

「いきなり印象悪くして大丈夫?」

「ああ、アリサはそのへんスッキリしてるからな。軽い喧嘩くらいならむしろ良いコミュニケーションになる。すずかもそれを通していけばいいだろ」

 あんまり覚えては無いが、そう性格の悪い方ではなかったはずだ。テキトーにおだてるとこはおだてて、しっかり自分の意見を言えばちゃんと関係は築けるはず。すずかも典型的なお嬢様として出来上がってるから、IQの低いゴミ以外には十分普通に接するだろ。

「それに……初対面、だよね?」

「……ああ、そういえばそうだな。でも、バレてないだろ?」

 困惑したフェイトの問いに答えるのに少し間が空いてしまった。

 二人に怪しまれるのを考慮してなかったな。あくまで学校でのオレはウタネだ。だからこそウタネの交友関係をそのまま使うし、変に広げたりしない。だからこそさっきの対応だ。しかしこの世界ではなのはとフェイトという正確にオレを認識する同級生がいる。

「別に怪しむのは構わない。どう説明しても不自然だろうからな。だが、今オレと敵対するのは何一つメリットが無いこと、オレが闇の書の解決策を知ってるということも考慮してくれ」

「……うん」

「ならもういいだろ。教室戻るぞ、先生来てる」

 遅刻を取られるのも困るので急いで戻る。ぶっちゃけ管理局就職という最終手段があるから別に義務教育がどうなろうとオレやなのは達にはどうでもいいんだがな。

「フタガミ、今日は真面目だな」

「はぁ……どうも」

 授業を普通に聞いていたら普段は真面目じゃないような対応を教師から受ける。はて、普通に教科書開いてただけなんだが。

 それでも何か違和感があるようなので、教科書を閉じて黒板を見つめるだけの置物へと移行したら注目が減った。姉さん普段なにしてんだ。

《ウタ……シオン、いい?》

 未来を視るまでもなく理解できる授業に暇を持て余していると、なのはから念話が送られてきた。

《あ? どうした? 優等生が授業中に余裕だな》

 なのはの席は前なので視線を向けても反応は無いし、フェイトにバレないよう動くなと指示される。

《余裕は無いけど……じゃなくて、聞きたいことが》

《まだあるのか? 能力については話しただろ》

《じゃなくて。あなた達のこと》

《……あ?》

《ウタネちゃんに聞いてもはぐらかされたりしてたけど、ちゃんと教えて欲しいんだ。あなた達が何者なのか》

《ふむ……》

 姉さんが普通に接しているから考えてなかったが。やはりウタネとシオンでオレ達は分けて見られているらしい。そういったものは不慣れなもので、困った事にどうしていいか分からない。オレはウタネであるからして、オレが何者かと問われればウタネだと答えるしかないのだが……シオンのオレがなのはの納得する答えになるようなものを持ってはいない。

《あなた達には家族がいない。シオンは住民登録すらしてないって言ってたよね。掘り下げる様で悪いけど、ちゃんと聞きたいの。二人とも空から落ちてきた理由や、どこから来たのか、何が目的なのか》

《……家族は知らん。ウタネ本人に聞け。オレの家族はウタネだけだ。他の質問は……信頼の為には答えろってことか》

《うん。ユーノ君やクロノ君、フェイトちゃんが信用しても、答えてくれなきゃ私は信用しない。できない》

《……なら、答えた事を口外するな。オレはお前を信用して答える。お前はオレを信用して口外しない。姉さんにも言わない。約束を反故にした場合は管理局ごと海鳴を潰す》

 原作でのコイツらは信用に値するだけの人格を持ち合わせてる。だからこそオレはこうやってオレとして話してるし、能力まで説明した。

 これは闇の書を解決する為の情報共有であり、この世界が正しいものかを見るテストでもある。コイツがオレの信用を裏切った時、それはウタネに適さない。姉さんが暮らす世界じゃないってことだ。

《わかった》

《どこから来たのか。強いて言えば小川マンションという地獄から。地獄から地上に戻る際、たまたま落ちる事になった。目的は、オレは姉さんの生活を継続させた上で、姉さんの抑止。姉さんは多分、暇つぶしだ》

《……誤魔化してる? からかって遊んでる? 真面目に答えて》

《誤魔化しは少しあるが、嘘はついてない。オレ達は地獄の中で管理されない一般外で生活し、とある事故でここに落とされた。他に何も無い》

 小川マンションなんか行きたくもねぇ。ウタネが住んでたのは普通の一般家庭のはずだ。

《……小川マンション、だっけ。この辺りじゃ聞いたことない》

《信頼の対価はそこまで必要か? 仮面の男の正体、闇の書の解決。これで十分に貢献してると思うんだがな》

《それもクロノ君だけなの。私たちには分からないよ》

《調べてもねーのに分かるわけねぇだろ。二人組、女、猫の使い魔、クロノに関係のある……これだけヒントを出してるんだ、すぐ当たるさ》

《え……》

《じゃあアレだ、闇の書の解決までしっかりオレを警戒してろ。後二日だけどな》

《え……⁉︎》

《大ヒントだ。分かったらオレの話に合わせろよ》

 ガタ、となのはが揺れるが、少し注目を集めただけで授業は継続される。

 顔真っ赤だけどな。

《ちょっ、何⁉︎あと二日⁉︎》

《この情報は姉さんとオレしか知らない。オレとしてもイレギュラーは出したくないからな。だからこれは先行投資だ……あと、心配を一つ消してやる。この事件では誰も死なせない。死ぬとしてもオレだけだ》

 不覚を取るにしろ、誰かを庇うにしろ、死ぬのはオレだけ。それがあるべき世界。

 オレの能力の限界はまだ分からない。ただ重労働程度のダメージが今のところ最大だ。つまり、なのは、フェイト、クロノ、ユーノ、アルフ、ヴォルケンリッターを相手にして尚余力がある……余力は間違いだな。次が持たない。一戦だけ、それ限りの戦闘なら余裕は持てる。が、同じ戦力を二回連続で相手には……難しいかもしれない。

《それって……どういう?》

 それに、オレは相手を完全に把握していたが、コイツらは何も知らない状態だった。能力を認識した上でなら、当然対策される。正式な戦闘訓練を受けている管理局や歴戦の騎士相手に、オレの我流が通用するか……? 未来予想込みで負ける気は無いが、多数相手には防御が最低限望める程度、出来ない事は出来ない。

《……シオン?》

 それに、肉眼で見えない距離なら予知も何もない。ディバインバスターの射程で予知は不可能だ。全方位からバスターなど能力無しでは対処できない。

 この世界の射程基準からすると能力によるエピタフやトト神などを使わなければ予知は難しい。しかし予知のために二つしか同時に使えない枠を割くか? それも状況次第、と言うところか。ならなおのこと、オレの予測はより広範囲で精密で無くてはならない。姉さんの勘に匹敵する程で無ければ、防御を持たないオレにとっては致命的になる。

「じゃあ……フタガミ。3の4と5を答えてみろ」

 オレも姉さんも、魔法攻撃を防御するには能力の使用が絶対だ。勘や予知と能力以外は一般人以下のスペックしか持たないこの肉体は、いとも容易く惨殺される。

「おい……ダメだな。じゃあかんな、頼めるか?」

「あ、はい」

「よし、正解だ。少し早いがここで終わるか。残りは宿題だ。次の授業までにはやってくるように。残り時間は自主勉強だ。先生は一度職員室に行ってくるからな」

《シオンってば!》

《ん?》

「よしよし、いつものペースに戻ってきたじゃないか。課題三倍だ」

「……」

 目の前のゴツい教師がオレの机にテキストを積む。全科目の教科書より多いぞこれ。これの三分の一を普通にしてるのかこの学校は? 小学校だろ? 

《……どうなってる?》

《ウタネちゃんがいい加減サボり過ぎたから……》

《なるほど。まぁいいが。この教師は魔法関係者か?》

《……? ううん、そんな事ないと思うけど》

《そうか》

 この教師、何故か姉さんの能力を受けてる。魔法関係じゃないなら私怨か……姉さんも案外普通の反応するんだな。

 拘束されてる足の指より肝臓の方が悪そうなので放置しよう。直死も使うだけ疲れるし。

 てか授業終わってんのな。教師はわざわざ一度職員室にこの課題とやらを取りに行ったようだ。ご苦労なこった。

「シ……ウタネ? いつもよりボーッとしてるよ? 大丈夫?」

「いいのよフェイト、どうせ真面目にしすぎてオーバーヒートしてるんでしょ」

 うっかりオレを呼びそうになったフェイト、それを見て軽いイジりをするアリサ、まだ自分の席で片付けにモタつくフリをして考え事をしているなのは、それらを優しく眺めるすずか。

 知っているようで何かが違うそれを見ていると、無性に腹が立ってくる。考えるまでもなく、その違いの一因がオレや姉さんにある事。他にもショタロリコンが何らかの手を加えている可能性、オレの知る物語とは違う世界線である可能性。

 何が何でも干渉してやりたい気持ちと、今すぐにでも跡形も無く消えるべきという理性。生前のオレにはあり得なかったこのジレンマ。

 変わらないのはただ一つ。ウタネを生かし続ける事。それに必要な事だけをする。今はいつも通りをするだけだ。

「お嬢様の品をカケラも感じさせない挑発をどうも。すずかやフェイトを見習ったら? もっとマシな人生送れるかもよ?」

「余計なお世話よ!」

「アリサちゃん、そんな話より……」

「う、そうだったわね。すずか、用があるんでしょ?」

「うん。私の友達が入院してるんだけど……クリスマス、用事が無いならみんなでお見舞いに行かない?」

「ああ、前に言ってた……えっと……」

「八神はやてちゃん」

「そう! 可愛いわよね〜。私はいいわよ」

 すずかが名前を言うと、思い出したかの様な態度を取るアリサ。そんなのでいいのか? 

「私も。こっちに来てからそう用事も無いし。なのはは?」

「私も……」

《行けると言え。だがそれ以外に何も言うな》

「大丈夫。私も行く」

「そう。じゃあ私も行こうかな。お邪魔じゃなければ」

「人数が多い方が喜んでくれると思うよ」

 よし。予定通りだ。ここまではいい。

「プレゼントとかどうしよう?」

「バラバラで用意するとかさばっちゃうかしらね?」

「あ、そうだね……じゃあ」

「バラバラでいいと思うよ。病院だったら置いておけるだろうし、要らないなら捨ててくれる」

 プレゼント、と言うより贈り物はバラバラでなければならない……八神はやて。まだ見たことは無いが人となりは知っている。そして、当日はヴォルケンリッターも居ることも。

「あら、ウタネが自主的なんて珍しいわね。いつもなら『あ、じゃあそれで』とか言うのに。でもそうね。子供らしく、思うものを持っていくのも良いと思うわ」

「わ、私もそれがいいと思うの!」

「そうだね。じゃあそう連絡しておくね。明日買い物行こっか」

 なのははともかく、アリサも乗ってくれたのは幸いだったな。比較的発言力のあるやつが乗って、過半数の賛成であれば意見はほぼ通るからな。

 明日買い物、翌日は……と。順調だ。

 バカ四人は歳相応なレベルでプレゼントの話を盛り上げていく。

 今の姉さんであれば仲間入りするのだろうか。なのはの話を思い出す。一度は姉さんに……発作の反転したあの能力を得た……姉さんに命を狙われたと言う。あの能力を持ちながら人を殺さなかったという実績は、平然となのはに言った以上に驚いていた。オレがいなかった分自制できる精神状態にあったのだろうか? 姉さんの心を読む気は無いのでそれは本人のみが知る事だが。

 それより、オレもプレゼントを考えなきゃな。カートリッジでもくれてやろうか。いっそ知らないフリもいいな。ん……? そういえば、姉さんははやてを知ってるのか? クロノに主を教えようとしたとこを止めてきたしな……知ってると見ていいか。

 んー……しまったな。その可能性を想定してなかった。そうなればまた姉さんが闇の書側だと疑われるのか。はやてに先に事情を話して演技……? いや、それもヴォルケンリッターが蒐集してることに繋がってバレる。この時期のはやては真面目だからな。自分を捨ててでもヴォルケンリッターの投降を促すだろう。

 ……まぁいいか。なるようになるだろ。



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第48話 闇の書

「では、お別れです」
死の宣告。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「⁉︎」」
「オラァ!」
「ぐ……」
男が飛ぶ。圧倒的破壊力は男の頰を確実に捉え、力の限り振り抜かれた。
「させない!ウタネを殺すなんて……させるもんか!」
「ソラ⁉︎」
ここは私の世界……私か、神の送ったこの男以外は居られないはずなのに……
「おや、ソラさん。ウタネさんはあなたの敵なのでは?」
「そうだけど!殺す必要は無い!私たちが何もしなければ今まで通り仲良くできるんだよ!なんで簡単に殺そうとするの!」


 来たるクリスマス。

 豪華絢爛にして煌びやかな聖夜。

 キリストを讃える訳でも無く、神聖なる復活を祝うわけでも無く。

 ある個人は片想いを伝えるべく。ある個人は子供へプレゼントを配るべく。ある個人はこの機を逃さんばかりに商売をするべく。

 個人個人が個人の目的の為だけに、その聖夜という日を利用している。

 ……別にそれが、悪い事だとは言わない。キリスト教徒からすれば、ある種不敬に、不快なものに映るかもしれない。だが、ここは有象無象の集合体、日本。あらゆるものから都合の良いものを都合の良い様に取り入れ、都合の悪いものを極端なまでに排除してきた東の果て。

 それはそれで良いのだろう。人の命とは結局のところ、どれだけ幸福になるかという程度のものだ。その頭が中身の無い花畑だったとしても、幸福であるならそれが正解だ。どれだけ緻密な能力を持ち、正に未来を知るまでになったとしても。幸福でないなら不正解、失敗の人生だ。

 ……個人の価値観だが、自分は失敗だ。自己利益の為に世界を破壊していく人間が許せなかった。不快だと言うだけの理由で物事を否定する人間が許せなかった。感情と理論を分離できない人間が許せなかった。

 以前は抑止された行動も、この世界、この能力であれば自由にできる。やろうと思えば、次の瞬間にも人類史を無にする事も……

 

 ♢♢♢

 

「ホラシオン。さっさと動いてよ。いつまで家具組み立てんの」

「うるせぇな。オレが存在を表に出せないんだから一からするしかねぇだろう」

「特典使えないの? 何も山から木を持ってくる事ないじゃない。木くず凄いんだけど」

 両手にノコギリを持って二ヶ所を同時に切断するシオンと、それにより生み出される大量の木くずを眺めながらため息を零す。木くずは全て金色の揺らめきの中に吸われてるとはいえ、せめて外でやってほしい。

「業者に来られても怪しまれるだけだし、今日ははやてにプレゼント渡して戦闘だ。無駄に体力使えねぇ」

「……八神さんに?」

「ああ。バカ四人と見舞いだ」

「ちょっ! なんでそんなの許可したの! シグナム達に言ってるの⁉︎」

「言うわけ無いだろ。鉢合わせないと意味ねぇんだから」

「……それ、シオンが行くの?」

 何が狙いなんだろう。鉢合わせして乱闘……なんてはずはないし。

「いや、お前が行く。オレは物作りだ。まぁ細かい事は任せる。殺意に晒されながらクリスマスを楽しめばいいさ……そうだ、コレもだ」

「……あれ、交換してなかったっけ?」

「模擬戦で使ったままだったからな。ホラ、お前の寄越せ」

「ん。やっぱこっちだよね」

「だな。鎌はデカイから使いにくいんだよ。ま、行ってこい」

 そんな感じでプレゼントらしい包みを渡されて追い出される。

 闇の書に関係するとなれば逃すわけにもいかないので学校へ行く事に。

「ウタネー! プレゼントは持ってきたんでしょうね⁉︎」

 シオンの見る未来を想像しながら歩いていると、高級そうな黒い車……リムジンだっけ? ……の窓から金髪お嬢様が顔を出す。

「あ、うん。これ」

「オッケー! じゃあ学校終わるまで預かっておくわ。いいでしょ?」

「うん。みんなもそうしてるなら」

 金髪お嬢様にプレゼントを手渡し、そのまま車に乗せてもらう。車の中にはほかのみんなのプレゼントらしいものも積んであり、シオンだけ別に用意したようだというのが推測できる。

「喜んでくれるかしらね?」

「きっと喜んでくれるよ。それにしても、テンション高いね」

「それはそうよ! 五人揃って初めてのクリスマスだもの。それに新しいメンバーが加わるかもなんだから!」

 実際六人だけどね。ん? 八神さん入れるなら七人か。でもそれなら守護騎士入れて十一人。去年が金と紫お嬢様、高町さんの3人だとしたら四倍近く……人の繋がりは変化が速いねぇ。

「そんなに楽しみにしてくれてるって知ったらもう泣いちゃうんじゃないかな」

「泣きたければ泣けばいいのよ。それに、すずかの友達だもの。絶対いい子よ」

「うん……そうだね」

 多分今日絶望する事になるだろうけど。一応知らない体で話しておこう。

「お嬢様、到着致しました」

「ありがと。行くわよウタネ!」

「ありがとうございました」

「いえいえ。では放課後、お待ちしております」

「お願いします」

 初老の運転手さんにお礼を言って飛び出したお嬢様を追う。

 放課後は全員送ってもらう感じみたいだね。その方が楽でいい。

 

 ♢♢♢

 

「終わり! さぁ行くわよ!」

「張り切り過ぎぃ……」

「アンタはダラけすぎなのよ! ねぇすずか!」

「えっ、あ、そうだね……?」

 お見舞いに行くだけなのにまるで遠足の様なハイテンションに呆れてると何故か私が責められた。なんで? 

 ジュエルシードや闇の書の為に結構アクティブな事してたつもりだったんだけど……反動かな。

 そういえば課題いっぱい出されてた。サボったんだろうね。

「うん、行こうなのは。今日くらい、ゆっくり楽しもう」

「……うん、そうだね」

「高町さん?」

「何?」

「……いいや、何でも」

 いつのまにか消えた金髪お嬢様を追うように出て行くフェイトと高町さん。少し違和感を覚えたのだけど、多分気のせい。

 放課後で浮かれた教室と比べ、名家出身四人と神の落し物(わたし)は、帰りのHRが終わって五分も経たないうちに金髪お嬢様の車に乗り込んでいた。

 クリスマスという事もあって、通り過ぎる街並みや病院は赤や緑を基調としたイルミネーションに彩られ、盛大で無価値な何かを表現していたけど、それも普通に暮らす人間には当たり前のようで、お嬢様達はもちろん、高町さんとフェイトも何も触れなかった。

 それに、気になる違和感は他にもある。聞いたところでは紫お嬢様は八神さんとはそこそこ長い付き合いだそうだ。それこそ、実家に招く程に。そんな存在である八神さんについて、他の三人はほとんど知らない様だった。いくつか写真を見た程度という、本当に他人の様な。

 学校に行っていないという理由だろうか。足に障害があるから? いいや、そんなことで軽蔑したり差別する人間はこの三人にはいない。それは紫お嬢様も分かってるはずだ。隠したかったのだろうか。なら何故今になってお見舞いに誘う? 

 いや、そもそもだ。紫お嬢様と八神さんの関係だけじゃない。紫お嬢様自体、何かおかしい。確か以前、何かがあったような……

 

 ♢♢♢

 

「さて……そろそろ病院に着く頃か」

 家具を作り続ける事八時間。取り敢えずタンスと机、多少の小物が出来上がった。形だけつくるなら昼前に終わったんだが、バリだったり木の模様だったりをこだわり初めて作り直しを繰り返していたり色々やってたりとこんな時間になってしまった。

 これから闇の書の覚醒まではなるようになってくれて構わない。誰と誰が戦闘して誰がリタイアしようとな。

 原作を原作のまま、という目標はほぼ達成不可能だと認識した。

 人は真実を知った時に変化する……オレが管理局に協力する理由、オレが蒐集させた理由。

 何事も知ること、確認すること、実践することは大切だ。姉さんやなのは達天才と違うオレは地盤を固めていかないとな。

 

 ♢♢♢

 

「「「メリークリスマス!」」」

「……!」

「な……」

 多種多様、そして、予想通りの感情の揺らめき。

 鉢合わせなければ意味が無いというシオンの言葉通り、よりにもよって八神さんの病室で鉢合わせる。紫お嬢様が連絡してたはずなのにこうなるのは、八神さんを守ろうとした故か、シオンの言う……ここが物語の世界だから、だろうか。

「どしたん?」

「あ……すみません、お邪魔でした?」

「い、いえ……ご友人でしたか」

「い、いらっしゃい、みなさん」

 警戒態勢を取ったシグナムがそれを表面だけとは言え取り除く。

 見たところ、この時間にくる様な話は無くて、って感じかな。

 困惑は五人と一人。三人は追い詰められた故に対処法を。二人は衝撃の事実に戸惑いを。全てを殆ど聞かされていた私はどう取り持つべきかと。

「あ、みんなは初めましてだよね、はやてちゃん。手前からアリサちゃん、なのはちゃん、フェイトちゃん、ウタネちゃんだよ」

「はじめまして。アリサ・バニングスです。いきなりお邪魔してごめんなさい。せっかくクリスマスだし、すずかの友達だっていうからサプライズだって」

 アリサが頭を下げ、いかにもお嬢様らしい……ようで、小学生並の思考をのぞかせる。

「ええんよ、来てくれてありがとな。なぁみんな?」

 対して八神さんは笑顔で守護騎士に振る。悪意は無い。

「……」

「ええ、こうして時間を取って頂いたようで。むしろ感謝します。大したおもてなしはできませんが、寛いでください」

「なんやシグナム、そんな事言うんやな?」

「い、いえ……私どもからすれば客人であるので」

「それに、ウタネちゃんは久しぶりやもんな? この前はありがとうな」

「「⁉︎」」

 高町さんとフェイトが首の骨を折らんばかりに振り返って私を見る。守護騎士と蒐集活動してたんだしそりゃ知ってるよ。その辺考慮が足りなくない? でもまぁ、私が話してないって言うのが伝わったかな。

「うん、久しぶり。ごめんね、学校とか色々あって中々来れなくて」

「モンブラン、美味しかった〜! 今度良かったらレシピ教えてくれへん?」

「あ、口に合って良かった。でも作り方は……わかんないんだよね」

「わからへん?」

「忘れちゃって……でもまた作ってくるよ。私も作り方知りたいから」

「???」

 私の不思議な言い方に疑問符を浮かべる八神さん、とその他。

 そりゃあそうだろう。作り方を忘れたと言いながら同じものを作ってくると言い、終いには自分も知りたいなどのたまっている。

 知ったら料理の概念が崩れるだろうな……モンブラン(栗なし)に肉や魚、野菜を含めふんだんに使っているなんて……しかも栗の味や香りがする。意味が分からない。

「あ、そうそう、はやてちゃん」

「ん?」

 せーの、と息を合わせ、金紫お嬢様が手にしたコートをめくる。

 その中には車に乗っていたプレゼント。それに続いて高町さんとフェイトもプレゼントを差し出す。

「お〜! これ私に?」

「もちろん!」

「ありがと〜」

 笑顔で渡すお嬢様方と、部屋に入ってからヴィータに一生睨み付けられてる高町さんとその影にいるフェイト。

「あ、私もこれ。多分大したものじゃないけども」

 思い出した様にシオンに渡されたプレゼントを渡す。

「え、ウタネちゃんも? この前あんな立派なもんもろたのに」

「いいのいいの。要らなかったら捨てる。私との関係はそんな感じでいいでしょ」

「嫌や。もっと仲良くしよーや」

「じゃあ受け取って。断られたら帰るから」

「む……じゃあしゃあないな」

「はやてちゃん……その言い方だと失礼になりますよ……」

「あ」

 シャマルが見兼ねたように割り込んでくる。

 八神さんはハッとして口を押さえるが、日本語弱者の私には何が何だか。

「シャマル、そう言った口出しをするな」

「ええよシグナム。間違いは直してかないかんからな。ごめんなウタネちゃん」

「……? いい、よ? 私も別に気にならなかったし」

 どこが間違ってたんだろ……ダメだな、シオンがいないとその辺も分からないや。

「あ、じゃあみなさん、コートを預かるわ」

「「「はーい」」」

 シャマルがみんなのコートをハンガーにかけていく。

 ヴィータは動かず、こちらを睨んだまま。

「……通信阻害を?」

「……シャマルはバックアップのエキスパートだ。この程度、造作も無い」

「……それに、ウタネは知ってたんだ。闇の書の主を」

「……そりゃあね」

「……なんで教えてくれなかったの?」

「……八神さんの生活を崩す訳にはいかない。その点に関しては必死だった」

「……でも、闇の書を解決しないと」

「……その為に管理局は八神さんを殺す。それは望む所じゃない」

 小声でシグナム、フェイトと話す。

 戦闘も出来ず、管理局に連絡も取れない以上、情報を得ようという判断だろう。

 ……五対ニの状況下だというのに。

 八神さんとお嬢様は楽しそうに話しているが、ヴィータは高町さんを睨みまくり、高町さんはそれに怖気付いている。

「あ、そうだ紫お嬢様」

「なに?」

「何かするの? プレゼント渡すだけ?」

「んー、別に何か考えてたわけじゃないけど……少しはお話していこうかなって」

「じゃあ、飲み物買ってくるよ。ヴィータ、一緒に行こう?」

「なんでアタシが」

「ええやんヴィータ。モンブランのお礼やで」

「はやてが言うんなら……仕方ねぇ」

 嫌がっていたけど八神さんの後押しもあってヴィータと病室を出る。

「……何のつもりだよ」

 開口一番。ほかの人に気を使う事なく話してくるヴィータ。

 管理局の高町さん達にバレた以上、どこで聞かれても知った事じゃないって感じかな。

「別に。高町さんが萎縮してたから」

「違う。管理局を引き連れてどーしよーって聞いてんだ」

「……偶然だったと言っても信用できないよね」

「当然。アンタは本当に闇の書の為に動いてくれてた。多少なり信用してんだ。だからこそ聞きてぇ」

「……シオンに言われたんだ」

「あ? シオンってあの……アンタにそっくりの?」

「うん。なんでも、今日高町さん達と守護騎士が鉢合わせるのは必然だったんだって。シオンがどこまで考えてるかわからないけど、解決法を知ってる。シオンの予定をズラすわけにもいかなかったんだ」

「なんだよそれ……昨日今日で出てきた奴に動かされんのかよ」

「シオンはねー、高町さん達より古い知り合いなんだよ。私の頭脳、参謀みたいな。だからさ、信じて欲しい。この事件、辛い事や苦しい事もあるけど、絶対に救われるって。管理局以上に根拠無いけども」

「……管理局にバレて、アンタもそっち側だ。そんな話は信用できない」

「高町さん達は貴女達が思ってる以上に平和的解決を願ってるよ。まぁでも、情熱だけで方法は全くだけど。それにね、私はまだ、管理局側じゃない」

 これだけは絶対。頑として言う。私は如何なる組織にも付く気は無い。

 例え親を殺した犯人を捕まえてくれても、娘を殺すと脅されても、全世界に狙われる事になっても。人が作る世界に入って行く気は無い。今はあくまで、人として生きていく以上、仕方のない事で。

 正しい、間違いでの秤には無い。そんなのはどうでもいい。

 私が知りたいのは、意味が、価値があるのかどうか。人が生きていく意味はあるのか。人間が存在する価値はあるのか。

 私はノー。だからこそシオンに任せてきた。だからこそ、この世界で人として生きることを選んだ。その答えを確信するまでは、人として生きてやろうと。その答えが見つかるまでは、人でいてやろうと。

「まぁ、そんなのはどうでもいい。はやてを攻撃はしないんだろ?」

「うん、絶対では無いけどね。高町さんやフェイトはこの集まりが終わってから戦う気だと思う。管理局のお偉いさんが八神さんを知れば直接攻撃もあり得るけど……通信阻害が十分なら大丈夫だと思う。というか、私がガードしてるから物理や魔法じゃ傷一つつけられない」

「分かった。一応警戒はするけど、それは信用する。はやての楽しみを邪魔したくねーからな」

「だよね。八神さんには元気になって貰わなきゃ」

「ああ」

「じゃあそういう訳で、ジュース買って楽しもう。何飲みたい?」

「んーそうだなぁ……」

 自販機に着いた私たちは、お札を数枚入れ、交互にボタンを押していく。

 部屋に戻ってジュースを配り、また2時間ほど遊んで解散、という流れになった。

 

 ♢♢♢

 

「よークロノ。順調か?」

 病院に行くのを後回しにし、クロノ邸……ハラオウン邸? わかんねぇけど、クロノに会いに。

「っ! シオンか……何の用だ。帰ってくれ」

 何か作業をしていたらしく、そそくさとモニターを閉じ、資料を纏めるクロノ。

 チラッと見た感じ闇の書のデータだな。原作より遥かに情報収集が遅れているようだ。そのくせ闇の書は原作と比べられないくらいパワーアップしてんだから笑えねぇ。オレのせいだが。

「そう邪険にすんなよ。露出狂のド変態(おまえのいもうと)も死なせねぇからよ」

「おい!」

「なんだよ、殺してほしいのか?」

「言い方だ! 読み方か? ……どっちでもいい!」

「……はぁ? ナニイテンダ?」

 クロノの隣に腰を下ろす。

 何もせず座らせたところを見るとそう嫌われては無いのかもしれない。

「もういい! で、本当はなんだ」

「状況確認だ。ユーノは?」

「……君の情報を信じて僕の師匠とは会わないようにして、単独で無限書庫で調べてもらってる。君が来てからの話だから、殆ど何も出てきてないけどな」

「そうか。まぁいい。で? リーゼ達には何か言ったのか?」

「……いいや。向こうも別にバレてる様な感じじゃ無い。まだ尻尾も見せてないつもりだろう」

「お前としては信じたくねぇよなぁ」

「……だが、仮面の男の能力などを考えると辻褄が合う。取り敢えず、今フェイト達に通信が通らない。何かあるのか?」

 クロノが聞く様な感じで苦情を訴えてくる。大方オレが何かしてると思っているのだろう。確かシャマルなんだけどな。まぁだが、病院内……無関係な人間がいる間は互いに何もしないだろ。ほっとけばいい。

「さぁ? オレの見る限り重要事項からは外れてる。今は師匠さんの対策を講じる方が優先だ。なんなら、オレがやるが」

「それならもう出来ている。一切不要だ」

「ほう?」

「精進しろ、それが師匠の言葉だからな」

 クロノが愛機であるS2Uを握る。クロノほど情に厚い人間が師匠を敵に回した感情は理解できないが……何かしらの葛藤があるんだろう。

「それは変わらねぇんだな」

「ん? なんだ?」

「いいや。そろそろ日が沈むな……そろそろだ」

 辺りはもう暗く、小学生の集まりにしても病院の面会時間にしても丁度良い。この後数分後……オレのひとまずの目標が達成される。

「……?」

「いいかクロノ。やるか、やらないかだ。変な加減をするくらいならオレがやる。師匠だからと躊躇うな。敵は敵だ」

「……ああ。法の番人は反逆者を許さない」

 決意を新たにしたクロノ。

 それを聞くとハラオウン邸を出て、病院へ足を向ける。もう戦闘は始まっているだろうか。いいや、クロノが待機という事はまだだが、急いだ方がいいな……

 

 ♢♢♢

 

「……主を知られたからには、覚悟する必要がある」

「はやてちゃんのお友達でも……」

 ヤバめ。

 病院の屋上。ひたすらに高いこの建物は多少何かあった程度では周囲の目に止まらない、絶好の戦場と言える。

「待って! 私たちは……はっ!」

「てやぁぁぁぁぁぁ!」

 説得しようと前に出た高町さんがヴィータに弾き飛ばされ、フェンスに激突する。

「なのは!」

「……何を待てというのだ。我らの悲願はあと少し」

「テメーらに何の策もねぇのは知ってる。誰も殺しやしねーんだ」

「闇の書を完成させればいいだけなんです。その後は何もしませんから……」

「……!」

 守護騎士が戦闘装束を纏う。先程までの柔らかさは無く、ただ此方を殺す事のみを目的としてる。もちろん、私もその対象だろう。

「ウタネは約束を守ってくれていたようだが……もはやそうも言っていられん」

「私の通信妨害エリアから、もう出す訳にはいかない」

 全力の守護騎士三人相手に、魔法の使えない弱者一人と実力的には劣る二人。

 此方が平和的……互いの生存を目的とするのに対し、向こうはこちらを消す気でいる。さてさて、どうしたものか……

「もうウタネにも頼らない。だからもう、管理局は完全に敵だ」

「はやてのために手を汚したくは無かったけど。はやての命には変えられない……変えられないんだ!」

 ヴィータがカートリッジをロード、炎熱変換の魔力付与で高町さんを叩く。

 爆発と共にフェンスごと焼け、煙が上がる。

 ……コンクリートと鉄が、焼けてる。ヤバい。

「シグナム! 管理局の闇の書のデータは、その結果を示してる! 闇の書はただの兵器なんだ!」

「……テスタロッサ。私がウタネとやる前にお前と出会っていたならば、容易くその首を落とせただろう。お前たちと私たちの差は、カートリッジだけのものではない」

「埋めてみせます。はやてを助けたいのは、私たちも同じだから!」

「ぽっと出が……知った風な口を!」

 シグナムが炎を散らす。デバイスは連結刃。やはり、剣を使う事に抵抗があるようだ。

 ぽっと出は……シオンの事も含んでるかな。

「ザフィーラ! 私たちでウタネちゃんを止めるわよ!」

「ああ!」

 援護系の二人は私を狙うようだ……面倒だな……ザフィーラはいつ来たんだよ。

 負けないまでも、こちらの火力も足りてない。やっぱり私は引き伸ばし役か。

「ふぅ……いいよ、じゃあ……やろうか」

 今朝手にしたばかりの鎌。私の体格や筋力に不釣り合い過ぎるコレは、結果的には私の力不足を補ってくれる。

 ……! 

「違う! 高町さん!」

「えっ!」

「……えっ! バインド⁉︎」

 高町さんに警戒をと叫んだ直後、薄い紫のバインドが高町さんを拘束する。

「なのは……くっ!」

 それを見たフェイトはシグナムと距離を取り、周囲警戒に入る。

「……そこ!」

 フェイトがある空間へ斬りかかり、歪んだ空間から数ヶ所斬られた仮面の男が出てくる。

 でもダメだ。

「フェイト! 二人目!」

「分かってる!」

 フェイトの背後から蹴りかかった二人目を十分な余裕を持って回避した。

 ……シオンの言う通り、私が見た通り、仮面の男は二人組。

 遠近を互いに補い合うことで完璧なコンビネーションを確立していた。

「う……っ」

 遠距離の方の男が指を弾くと、この場にいる全員が高町さんと同じようにバインドされる。

「何を……」

「っ、いつのまに⁉︎」

 近距離の方の男は闇の書を取り出し、蒐集を始める。

 ……シオンの言う通り、守護騎士を。

「そんな……」

「……闇の書の足りないページは、用済みとなった守護騎士自らが埋める……過去にも幾度かあったはぶっ……!」

 蒐集途中で近距離の方の男が吹き飛ばされる。

「出しゃばんなっつったよなぁ。代わりはしてやるってよ」

「シオン……」

「ああ、勘違いすんなよ、ヴォルケンリッター。お前らを助ける気は無い。気に入らねぇだけなんだよな、コイツらのやり方がなぁ……クロノ」

「「ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」

 仮面の男二人がバインドされ変身時の様な光を放つ。

 そこには猫耳の女性が二人いた。

「やはり君たちか……リーゼロッテ、アリア」

「ク、クロノ……!」

「いつから気付いて……」

「正直僕だけじゃ難しかっただろうな。だが、復讐の連鎖は断たなきゃならない……例え、実の親を殺されていてもな」

「「……!」」

 女性二人が恨めしそうにクロノを睨む。

 しかし抵抗は無駄と判断したようで、特に何か反撃をする様子も無い。

「じゃあ死ね。お前らはオレの忠告を無視した。闇の書のページを埋めてくれ」

「「……ぅあああああああああああ!!!」」

 先程の再現……バインドされたまま蒐集される体験をさせられる女性二人。

 数秒の蒐集の後、二人はがっくりと意識を失ったようだった。

「……シオン、後は大丈夫なんだろうな」

「ああ」

「では任せる。ここまで大きな事件の主導権を握る条件だ。人的被害を出せば指名手配は免れんと知れ」

「硬いねぇ」

 クロノは二人を連れて移動し、それ以降はシオンに任せる様子。

「く、この!」

「動くな」

「……!」

 バインドブレイクした守護騎士、高町さん、フェイトを瞬時に再度拘束するシオン。その強度は仮面の男以上のようで、シャマルやザフィーラでさえ苦戦していた。

「さて……じゃあお前らもだ。闇の書完成のために……おっと、そうだそうだ」

「……?」

 守護騎士に闇の書を向けたシオンが何かを思い出した様に本を閉じ、魔法陣を展開する。

 白く輝くそれは、私の勘にアラートを鳴らすには十分な悪意を感じさせた。

「ダメだ!」

「ダメじゃねぇ。こうしないと意味が無い」

「シャマル! 早くバインドブレイク! あなた達は逃げて!」

「え……」

「もう遅い……よう。クリスマスは楽しかったか」

「ウタネ……ちゃん?」

「はやて⁉︎」

「はやてちゃん⁉︎」

 魔法陣には八神さんが座ったまま召喚された。

 ヴィータとシャマルが叫び、周囲の状況に八神さんが理解し始める。

 守護騎士が蒐集活動をしていたこと、高町さん達が魔法関係者であったこと、私が……二人いること。そして、これから起こること。

 どこまで理解できるかはわからない。この場の全員が理解できるはずもない。

 それでも、仮面の男の代わりをするという事は、守護騎士の蒐集。

「このクリスマスは忘れられないクリスマスになる。お前の人生を一変する日だ」

 混乱する場を置いてきぼりにして、闇の書を再び開くシオン。

「ちょっ! 何してん⁉︎ウタネちゃん⁉︎」

「ヴォルケンリッターの蒐集だ。これで闇の書のページは埋まる。クソ猫の分が無ければ危なかったな……良かった良かった」

「何も良くない! 苦しんでる! やめて!」

「断る。ほら、もう現界していられない。この場にヴォルケンリッターは不要だ」

「……!」

 蒐集終了。守護騎士は跡形も無く消えてしまった。つまるところ……死んでしまった、のだろう。

「う……ぁ……ああ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はやてちゃん!」

「はやて!」

 八神さんの足元にあった白の魔法陣が闇に染まる。

「おめでとう、闇の書。ようやく死ねるぞ」

 法外な魔力が爆発する。

 闇色の柱の中に八神さんが放心状態で浮かんでる。

「われは闇の書のあるじなり……われにちからを。ふういん、解放」

 八神さんの手に闇の書が握られる。

 闇の書から魔力が通い、八神さんの体格が変わっていく。

 手足は伸び、それ相応以上に絞られた筋肉。髪は白く伸び、手足にはベルトや謎のライン。

 鋭く開かれた目は紅く。背には黒い羽。

「あぁ……また、全てが終わってしまった……一体幾たび、こんな悲しみを繰り返せばいい……」

 超近距離で見ていた私は……他の三人がどう思ったかは知らないけど……それを、綺麗だと思った。

「はやてちゃん!」

「はやて……!」

「おい! なのは、フェイト! 退避だ! 回避距離を取れ!」

「「……!」」

 頑なに悪役ヅラしてたシオンがバインドを解き、退避を指示する。

 その矛盾した行動に理解が及ばないのか、二人は留まったままだ。

「我は闇の書……我が力の全てを……」

 闇の書のページがめくられ、魔力の収束が始まる。



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第49話 夜の一族

「ですが、いずれ世界の敵となります。現に二つ、物語半ばで潰えた世界がある。次が来てからでは遅いのです。分かりますね?」
「わかんないね!転生させるならまだしも、完全に殺すのは見過ごせないから!」
「……その結果として、あなたも死んでしまうとしても?」
「そうだよ!私の手の届く範囲で誰かが死ぬのは許せない!特異点でだって、私はぐだにもえっちゃんにも、カルデアの誰にも、敵にだって殺させてない!」
人類史を護る抑止力とは言え、誰一人として殺さない心情は特異なことだ。それも、生きながらにして抑止力となり、『死ぬ事無く』転生しているソラだからこそかもしれない。
決して終わりを認めないソラと、決して存続を許さない私たち。正反対であるからこそ分かること、信用できることもある。私がどんな才能、聖人であろうと構わず殺そうとするように、ソラはそんな私でさえ救おうとしてるんだ。
「……では仕方ありませんね。貴女の死、初体験は貴女自身ーー」
「っ!」
根源の死神が足を運び、ソラが構えを取る。ソラの全力の突きは確かに命中した……自身の終わりに対しては、傷の回復も早くなるのか……


「我が力の全てを……」

 法外なまでの魔力収束。

 異常な魔力の放出はそれ自体で異質であり、結界を構築していった。

 掲げた右手の先には色彩を失った世界でなお巨大化していくピンク色。

「フェイト! さっさとしろ! なのはを連れて距離を取れ!」

「……! なのは!」

「でも!」

 自身で直接受けたフェイトはシオンの警告を確かなものと感じたようで、嫌がる高町さんを無理矢理連れて離れていく。フェイトの速度でもアレを避けきるには足りない。

「シオン! 私は⁉︎」

「お前もだ! オレがガードする! 奴らと安全圏まで退避してろ!」

「一人で戦うってこと⁉︎」

「行け!」

 シオンが議論する暇はないとばかりに突き放す。

 確かに闇の書の収束魔力は高町さんのそれを遥かに上回る破壊力を感じさせる。魔力量で言えばまさに桁が違う、と表現できる。

 私の勘では何故か高町さん達が倒れてる。私でもシオンでもない。シオンがまさか二人に攻撃を向けるなんてないし、防ぎきれなかったならシオンも私もアウトなはずだ。

 なら、この攻撃の後に何かある。そしてそれを変えられるのは私。

 今は……闇の書に敵対しよう。

 言葉はいらない。私の行動ならシオンはそれを汲み取ってくれる。今はただ二人を守りに行こう。

 

 ♢♢♢

 

「フェイトちゃん⁉︎こんなに離れなくても!」

「なのはが思ってるより強力なんだ! しかもなのはの何倍かはある! もっと離れなきゃ……」

 太陽とも見まごうほどの輝きを背後に、フェイトは全力で飛ぶ。

 かつて自身で受けた魔法。その火力は目視だけで絶望する。

「あれだけの魔力、海鳴全体が射程になっててもおかしくない……」

「そんなっ!」

 自分の予想は恐らく正しい。フェイトはそう確信しながらも自分が勝つ未来を予想できない。敵を理解した上で、勝機が見出せない。

《前方、150ヤード程に一般市民》

「「!」」

 バルディッシュからの警告。

 恐らく結界に取り残されたのだろう、この場合、早めに探知できて良かったと言うべきか、自分たち含め全滅を覚悟しなければならないか。

 恐らくはシオン達が防いではくれる。しかしどこまでできるか分からない。アレを半分まで減衰させたとしても、カートリッジマガジン一本分でようやく防げるかどうかというレベルだ。

「……なのは、このあたり」

「うん」

 なのはを降ろし、一般市民の探索を始める。

 急がないと防御に回る暇すら無くなる。クロノではないけど、人的被害だけは避けなければならない。

「っ、あのー! すみませーん! 危ないですから、そこでじっとしててくださーい!」

 なのはが一般市民を見つけたようで、声を上げる。

 その先には二人、逃げる様に走っていたようだった。

「なのは……?」

「フェイトちゃん……?」

 取り残されていたのは、よりにもよってアリサとすずかだったようだ。

 見られてしまった……と言っている場合ではない。収束時間から考えてもう時間が無い。この場で一度攻撃を受けるしかない。

「なのは!」

「うん!」

「二人とも、そこでじっとしてて!」

 二人を簡易防御陣へ、その前でシールドを張り、さらにその前でなのはが。シオン達次第だけど、少なくともアリサ達へのダメージは防げるはず。

「二人とも! もっと逃げ……お嬢様⁉︎」

「ウタネ⁉︎アンタまで⁉︎」

 ウタネが必死な様子で走ってきた。

「取り敢えずここは私に任せてもっと遠くへ!」

「シオン一人残してきたの⁉︎」

「それが狙いらしかったし、そんなのいいから早く!」

 ウタネはフェイト以上に警戒しているのか、より遠くへの退避を指示。

「ウタネちゃんも……」

 それを見たすずかは複雑な表情で三人とピンク色を見る。

「紫お嬢様……黙っててゴメン。私はまた別のだけど、この二人は魔法ってやつを使ってる」

「ウタネ! それ言っちゃ……」

「いいの。二人は信用していいと思ってるし、隠して問い詰められるの方が面倒だ」

 秘密主義、他人任せが基本スタイルのウタネがここまで自分から動いたことは今までになかった。あくまでもその場の流れの延長で動く事はあっても、周りを否定してまで自我を押し通す事は。

「高町さんでもアレは防げない! シオンが止めてくれるだろうけど、その後が怖い! 確実な射程外に逃げて!」

「その後……?」

 ウタネの言に困惑を示した直後。ついにリミットを迎えた収束はこちらに向かって放たれる。

 それは真っ直ぐに向かうのではなく、発射から少しした場所から放射状に散っている。散ったそれぞれがディバインバスターを超える火力を持つだろう事は容易に想像できた。そして、それをしているであろうシオンの現状についても。

「シオン……」

 ウタネが声を漏らす。

 いかに信頼が厚いとはいえ、アレを任せてきた事が気にかかるのだろう。

 たっぷり10秒程の時間をかけて消費された魔力は結界内に充満していた。第二弾をすぐにでも、という程に。

「次じゃない! 上!」

「「……⁉︎」」

 ウタネの声に反応して上を見る。そこには既に大量の、赤黒いクナイの様なものが大量に展開されていた。

 この数はもはや対処不能。込められた魔力は容易に防御を貫通するだろう。

 なのはを見ても、焦りより絶望が勝っているという感じだ。

 ウタネはもちろん、この場で一番堅いなのはですら持たないだろうという中、魔導師二人の判断は同じ行動を起こしていた。

 一般市民二人、アリサとすずかを守っていた防御陣を更に強化する、という事。覚悟していた自分たちとは違う、ただ巻き込まれただけの二人は守り抜こうとした結果だった。その行動はクロノの信念に沿うものであり、リンディの言う管理局員としての覚悟を十分に満たしたものだった。

「ちょっ! 何してるのよ!」

「後はウタネに。無事生き残ってね……」

「フェイト⁉︎なのは⁉︎」

 アリサの悲鳴も、クナイによる絨毯爆撃の中にかき消された。

「「きゃぁぁぁぁぁぁあ!」」

 防御陣で防御されているとは言えその衝撃や爆破音は容赦無く少女二人の身を叩く。

 そして、攻撃が終わり、爆炎が残るまでになると周囲を見回す余裕ができる。

「うそ……」

 傷だらけになったなのはとフェイトが地面に倒れ、ウタネは身体の一部が欠損し血を流している。

 ほんの少し前まで談笑していた思い出は遥か昔のように、心を絶望が覆い尽くしていく。

「三人は……私たちの為に、力を使ってくれたんだよね……」

「すずか⁉︎」

「魔法なんていう力と、その秘密を守りながら……それでも最後は、教えてくれたよね……ウタネちゃんは、私の正体にまで迫っていたのに、信用できるって……普通に接してくれてたよね……」

 すずかが防御陣の外へ出る。流れる涙も、全てが無意味と拭い去る。

 先程まであったピンクの球体、それがあった場所を殺意を込めて睨む。

 薄く、薄く。月の姫より遥かにヒトに近付いたとはいえど。同系統に似たその能力。意味を持つ夜であれば、何でもない昼間より力を発揮できる。即ち、時間逆行の魔法。

 自分の為ではなく、傷付いた友人の為、この街の為。巻き込まれてしまった自分の責めて。

「……消えろ」

 冷たい呟きと共に、世界は再び繰り返す。




前回長めだったので短く。


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第50話 闇の書 その2

「ではなく、ウタネさんです。ソラさん。抑止の仕事です。彼女を、あの十字架へ」
「断る!なら私を殺せ!」
対終末の対象外である為、私より少しだけ勝機はあるものの、ソラでさえ不利と言える相手だ。それでも、ソラは退こうとしない。
無理だ……彼に逆らうことは……
【責務」「を」「果たせ】
「……⁉︎」
くるりと彼に背を向け、壊れた扇風機のような歪な動作で私へ向き直るソラ。その表情には困惑のみ。自分の身体が動かせないのが理解できないのだろう。
「ウタネ……」
「ソラさん。あなたは、ただその責務を果たすだけ。抑止力としての働きは、人類を脅かすものを排除すること」


「二人とも、そこでじっとしてて!」

 二人を簡易防御陣へ、その前でシールドを張り、さらにその前でなのはが。シオン達次第だけど、少なくともアリサ達へのダメージは無かったはず。

「四人とも! もっと遠くに離れて!」

「ウタネ⁉︎アンタまで⁉︎」

 ウタネが必死な様子で走ってきた。

「取り敢えず防御は諦めて! ここは私に任せてもっと遠くへ!」

「シオン一人残してきたの⁉︎」

「どう対策する気だったのか知らないけど、そんなのいいから早く!」

 ウタネはフェイト以上に警戒しているのか、より遠くへの退避を指示。

「ウタネちゃんも……」

 それを見たすずかは複雑な表情で三人とピンク色を見る。

「紫お嬢様……黙っててゴメン。私はまた別のだけど、この二人は魔法ってやつを使ってる……って、言わな……?」

「ウタネ! それ言っちゃ……?」

「いや、まぁいいや。広めたら殺すだけだし」

 秘密主義、他人任せが基本スタイルのウタネがここまで自分から動いたことは今までになかった。あくまでもその場の流れの延長で動く事はあっても、周りを否定してまで自我を押し通す事は。

「じゃなくて! 高町さんでもアレは防げない! アレはシオンが止めてくれるだろうけど、その後が怖い! 確実な射程外に逃げて!」

「その後……?」

 ウタネの言に困惑を示した直後。ついにリミットを迎えた収束はこちらに向かって放たれる。

 それは真っ直ぐに向かうのではなく、発射から少しした場所から放射状に散っている。散ったそれぞれがディバインバスターを超える火力を持つだろう事は容易に想像できた。そして、それを至近で防御しているであろうシオンの現状についても。

「シオン……」

 ウタネが声を漏らす。

 いかに信頼が厚いとはいえ、アレを任せてきた事が気にかかるのだろう。

 たっぷり10秒程の時間をかけて消費された魔力は結界内に充満していた。他の魔力を隠すように。

「次じゃない! 上!」

「「……⁉︎」」

 ウタネの声に反応して上を見る。そこには既に大量の、赤黒いクナイの様なものが大量に展開されていた。

 この数はもはや対処不能。込められた魔力は容易に防御を貫通するだろう。

「いいよ。私がやる。はぁっ!」

「すずかちゃん⁉︎」

「すずか⁉︎」

 しかしそれを覆す人物が存在した。

 防御陣から飛び上がり、片腕一振りで全てのクナイを爆散し、実質的にダメージをゼロにした人物が。

「紫お嬢様、やっぱり……」

 最前にいたなのはより前に着地したすずか。

 場が困惑する中で、唯一答えに辿り着いた事のあるウタネが声を漏らす。

「ごめん、ウタネちゃん。ちゃんと話すのが怖くって、前は逃げちゃったの。でも覚悟できた。みんなが話してくれたから、私もちゃんと話そうって、思えたんだ」

 優しい笑顔を浮かべたまま、薄い金の瞳を見せるすずか。

「おい! ウタネ! 何がどうなってる⁉︎さっきのは何だ⁉︎」

「シオン⁉︎闇の書は⁉︎」

 遠くからシオンの叫び声。それに対しありえない、という叫びで返すウタネ。

「今はデアボリックのチャージタイムだ! 誰か近付けば即発動だろうが、勝手に撃つまでもそう時間は無い!」

「ウタネが二人⁉︎」

「うるさい、終わったら話すから黙ってろ。必要な話だけ話したい……ほう、すずか……吸血種か」

 飛んできたシオンがアリサを一蹴、すずかに青い視線を向ける。

「……うん。多分、そうなんだと思う」

「濃いのか薄いのか分からんな。濃いには濃いが凝縮されてる。参拝スキルか。人ではないがまだこの世界のヒトの範疇だ」

「……?」

「能力を使っていても死が視える。人より長いだろうが普通に死ねる……じゃない。さっきのは何だ。時間を戻したのか? 記憶干渉か?」

「……え?」

「時間を戻したの。多分数分、数秒の事だけど」

 周囲の困惑をよそに、すずかが面と向かって答える。

「だな、そう長い時間じゃないが……そうか、そんな事までできるのか……惜しい」

 シオンがチッ、と舌打ちする。

 何に対してのイラつきなのか、本人以外には理解が及ばなかった。

「でもそう易々とは使えないというか……その、疲労が……」

「分かった。お前は予定通りアリサと結界外に退避させる。一度全滅を救ってくれたらしいだけで十分だ」

 闇の書の方を見て、シオンが決断する。

 議論を待たないところを見るにそう時間は無いらしい。

「私も、戦えたら良かったんだけど……」

「血が濃ければな。今のお前だとなのは達より弱い」

「シオン! そんな言い方!」

 なのはがシオンに叫ぶ。戦力云々ではなく、扱いを非難しているのだろう。

「とにかく、クロノ達もこの事態に気付いてる。奴らに転移を頼む。それまではお前ら三人で何とか守れ」

「シオンは?」

「オレはアイツとやる。それが目的だったしな」

 かちゃり、と刀を握るシオン。ふぅ、と細く息を吐くその仕草は、ウタネに近い雰囲気を醸し出している。

「負けるよ」

 先ほどのブレイカー、魔力、それらを総合した判断の結果として、これ以上明確な言葉は無い。

「……どうだかな」

 しかしそれを否定する。自身の能力を持ち、魔法と魔力量に絶対的な差がある以上、勝機は無いはずなのだ。それを否定できる根拠が、無い。

「私の能力は」

「3%以上は必要が無い、と言えば安心か?」

「……そんなものなの?」

 拍子抜け、という体のウタネ。先程のスターライトブレイカーを体感したが故に、それなりの評価はしていたのだが……

「今はまだな。オレと戦う内、ヤツは更に強くなる。それが、オレが管理局に肩入れした理由。オレが蒐集させた理由」

「……?」

「言ったろ、この事件は無事に終わる。死ぬとしてもオレだけだって。それより、クロノとユーノに夜天の書と教えてやれ。闇の書では進まん」

 返事を待たず、シオンは再び闇の書の元へ飛ぶ。

 

 ♢♢♢

 

「デアボリック・エミッション」

「無駄ァ!」

 射程距離に入るや否や放たれた空間範囲攻撃。

 無論受けるわけにはいかない。直死を用いて攻撃そのものを殺す。

「まだ、邪魔をするのか」

「やる事があるからな」

「……ブラッディダガー」

 百を数える無数のダガー。球状にオレを囲うそれは、一切の逃げ場を許さない。

「オレが見たいのはそんなんじゃねぇ」

 時間を跳ばす。十数秒での出来事は無意味となり、攻撃を躱し切った事実だけが残る。

「……⁉︎」

「分かるだろう。分かるはずだ。オレの能力が。魔法じゃない、オレ達だけが持つ能力が」

「……使い道がわからない無用なものという認識だったが。そうか、そう、使うのか」

「やはり認識できてたな」

「お前はまだ理解していない。この力は、強大過ぎる」

「……!」

 気が付けば背後に闇の書を感じる。恐らく時を跳ばした。

 そして初回特典よろしく、忠告だけに留めてくれたのだ。

 ……やはり、能力を知らなければ使えないらしい。

「ザ・ワールド!」

 瞬間、振り向きながら闇の書から離れるように跳び、時を跳ばすのではなく、止める。この静止した四秒間、存分に使ってやる。

「見えているか? 動けるか? どちらも不可だろう。だが認識できている筈だ。オレの能力をそっくりそのまま使えるのなら、一度体験すれば使えるはずだ」

 三秒前。

「さて……どうしてやろうか。一度に使える能力は二つ。ガオンは取り返しがつかないからな……黄金体験(ゴールドエクスペリエンス)

 一秒前。

 封印された初期能力、精神だけが暴走し、全てがゆっくりになる。

 止まった闇の書に一発だけそれを叩き込む。

 そして、時は動き始める。

「……⁉︎」

「遅いか? 動かないか? オレが何をしたか見えたか? 闇の書という偽りの名で忌み嫌われし魔導書よ。お前はこれを手にしている。時間停止と、精神暴走だ。よく覚えておけ」

 自分の体を確認するように動かす闇の書。

 それを効果があると判断してエピタフを発動。ワールドはともかくキンクリは認識できないからな。即対応が必須だ。

「っと……」

「これが、時間停止だな。ブラッディダガー」

 世界が止まる。しかし、同じ世界を使えるオレはその中を自由に動くことができる。

 そして、再び無数のブラッディダガー。今度はオレに集中させるのではなく、乱雑に打ちっ放しの乱反射。ダガー同士が弾き合いながら不規則な軌道で飛び続ける。静止時間の挙動を試しているのか、意図は不明。

 ……完成された闇の書がそんな事をするとは思えない。

 エピタフには、オレが……拘束されている未来が見られる。手段は不明。ただ動けなくなっているだけだ。

 蒐集されている魔法であれば問題無く防げる。見せた能力で拘束に分類できるのは、かなり広義に解釈してゴールドエクスペリエンス。

 だが、そんなのでは……

「っと……」

 乱反射の中、たまにオレに向かってくるダガーを落とす。

 闇の書は位置を少し移動したくらいで、特に何かする様子は無い。

 なんのつもりだ? こんな攻撃が意味を持つことが無いのはわかる筈だが……

「っ……と⁉︎」

 二発目。ギン、と弾いたはずの刀から、シルシルシルという音がした。

「なんだと……」

 無限の回転。まだ見せていない能力がオレを襲っている。しかも必殺のソレだ。打ち消す手段は……逆の回転か、オーバーヘブン……ACT4を撃つ余裕は無い、オーバーヘブンは負担がデカ過ぎる……! 

「……マンダム」

 時間を六秒きっかり戻す。これで当たっていない時間まで戻り、回転も当たっていない状態になる。

 まだ乱反射してはいるが、これはもう当たらないように避ける。

 ……知らないはずのスタンドまで持ち出してきた。ある程度から想定してくるのか? だがそれはそれで良い。過去数百年以上を、最優の魔導書として生きてきた闇の書がどれ程の次元にあろうと問題無い。

 もっと使え。オレの力を。そして見せてくれ。その能力の使い方を。

「スタンド、と言うのだな。こういった能力は。そして……宝具、か」

「……ほう」

「ある程度は理解した。そしてもう一度言おう。この力は、強大過ぎる。使いこなせば歴代の闇の書全てを同時に相手して尚、無傷で勝利するだろう」

「……お前が言うんならそうなんだろうよ。そんな勝負には一切興味ねぇけどな! レグラムカエロラム・エトジェヘナ! 築かれよ彼の摩天! 志向の光をここに示せ! 招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)!」

「!」

 黄金劇場を創造。二人のいる場所だけを劇場が囲う。

 固有結界は大勢持ってるからな……これは結界じゃねぇな。まぁでもそんな感じだしな。負荷が少ないから何でもいい。

 黄金劇場の効果は範囲内の敵の弱体化と自身の強化。これで魔法有り無しの差は多少埋められるはず……

「……無駄だ。お前も、もう眠れ」

「寝るのはお前だけだ。ナハトヴァール。夜天の書とはやてを起こすのはオレの役割じゃないが……結果としてそうなるかも、というだけ。オレがしたかったのはオレの能力の使い方を知りたかった。お前なら手本を見せてくれると信じての事だ。魔法との併用、悪くは無いが思った程では無かった。手が出せなくなるかも、という可能性も想定していたが無駄だった。お前では……競り合いにはなるがオレ達を圧倒はしない」

 ただ能力を使うだけ。ただ魔法を使うだけ。

 他者からすれば無限にも思える魔力量と種類は、それらを単に使えば他を圧倒するレベルだったのだろう。吹けば飛ぶような塵芥に戦闘法など必要無かったのだろう。

 だからこそ。それはオレ達の参考にならない。

 オレ達とコイツは、どこか似ている。絶対的能力を持ち、ただそれを使うだけ。弱い力を使ってどう相手を上回ろうなんて考えもしない。ただ相手の上をいくだけ。もし自分より強い相手がいたら、という想定を全くしていない、する必要が無い。

 ……要らない。そんな事は誰でもできる。戦術を考えると言うことすら思い付かない強さは、それはそれで孤立と言えるだろうが……オレの求めた闇の書はそんなのじゃあない。

「直死──もう終わらせる。はやてを叩き起こして終わりだ」

「そうか。覚悟はできたか」

「黙れ。聞く価値もない」

 

 ♢♢♢

 

「……じゃあ、また。後で必ず、ちゃんと話すから」

 結界から出してもらって、五人で輪を作る。

 初めに話したのは高町さんだった。

「でも信じて欲しい。私もなのはも、ウタネも、嘘をついたり、悪巧みをしてるわけじゃ無いって」

 魔法について。高町さんとフェイトが、必ず話す、と。

「……私も、黙っててごめん。私も同じだから、その……虫がいいようだけど、信じて欲しい」

 吸血種と明言された紫お嬢様は、自分も何も知らないからただ信じてくれと。

「……」

 そして、誰よりも深い秘密を持つ私は、ただ気まずそうに沈黙を。

「……信じるわよ」

「え」

 金色お嬢様の呟きに、意外とばかりに声を漏らす紫お嬢様。

「信じるわよ! アンタ達がどんな能力持ってようが! いいわよ! なのはが悪巧みとかすると思えないし、アンタ達二人もその、魔法の件で知り合って……って感じでしょ⁉︎すずかだって、色々あったけど仲良くしてきたじゃない! この場合、むしろ何にも無いアタシが責められるべきなのよ! 避けられるべきなのよ! それが何よ! 後で言うだの信じてだの! 私に言いふらされると思わないワケ⁉︎それだけで信用するわよ! バカ!」

 今持つであろう感情を爆発させた金色お嬢様。

 その目に溢れんばかりの涙を溜めて、ひたすらに申し訳ない気持ちにさせる。

「……人は、真実を知った時に変化する生き物」

「何のことよ」

「シオン……さっきいた私のそっくりさんの言葉。多分借り物だろうけど、今がそれ。あなたは私達が、同じでないにせよ普通じゃないことを知った。私たちは、紫お嬢様が普通の人間じゃないことを知った。この上で、これからどうするのか。もう今までと同じ関係は望めない。全てを受け入れて、これまでの様にするも良し、全てを否定して、これまでを破棄するも良し。どうするかは、あなたに選択権がある」

「……だから、いいって、言ってるじゃない」

 これからの在り方を考えておく必要はある。知ってしまった以上、それを踏まえた関係でしかいられない。

 でもお嬢様は、それを邪魔だとばかりに否定する。知ったとしても、これまでと同じにできると。

「……そう。ちゃんと話を聞いてからでも遅くない。不安や不満もあるだろうけど、今日はゆっくりしておいて。紫お嬢様も。シオンの言い方だと、夜でも結構疲れるんでしょ。それに……ちゃんと私、見えてる?」

「え?」

「……分かってたの?」

「前もおかしいとは思ってたんだ。どこ見てんのかなって。認識して分かったよ。吸血鬼由来の血の匂いってやつかな」

「うん……」

「ちょっ、ちょっと! どういうことよ! すずかはどうなってるの⁉︎」

 お嬢様が会話を止める。やはり私の言っている意味が分からない様だ。他二人も同様に。

「今は……」

「ウタネちゃん。私が話す。私が、話したいの」

「分かった……」

 説明しようとした私を紫お嬢様が止める。自分から話す、という言葉は嘘ではない様子。けれど不安もある。

「私は今、目が見えてないの。人の気配や空気の流れだけで感じてる」

「「「……!」」」

「あ、でも安心して、一時的なものだから。時間を戻したりだとかはやっぱり、さっきの……シオンの言う、ヒトの範疇。力を使った分、ヒトとしての機能を前借りするの」

 絶句した三人に対し取り繕う様に付け足す紫お嬢様。

 恐らくは視覚、聴覚、触覚。思考や行動にも制限がかかるかもしれない。時間を数秒戻すというだけで、それだけの負荷がかかっている。

 だとしたら。何秒も時間を止め、飛ばし、それと同等の能力を使うシオンにかかる負荷は、どれ程のものだろうか。

「……シオン」

 生前ではあり得なかった、誰かを心配する声が漏れる。

 シオンはあの闇の書を相手にどうしているだろう。もう戦闘としては十分な時間が経った。クロノからの観測も来てない。よほど強い結界だと見るべきだ。

 ……やるしか無いのかもしれない。



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第51話 闇の書 その3

「ウタネ……私を、殺して……」
今の彼の言葉で理解したのか、一瞬の無表情の後、怒られた小学生の様な……拗ねたような、落ち込んでいるような表情を浮かべた。
「無理だよ……」
「殺せ!じゃないと!私が……あなたを……!」
「それでいい。それが、正しいんだよ。きっと」
「嫌だ!私はあなたを殺したくない!」
「いいえ、大丈夫です。あなたはウタネさんを殺さない。ただ、十字にかけるだけです」


「ああああああああああああああああ!」

「……甘い」

「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」

「騎士の技が通じると思うか」

 直死込みの技が尽く防がれ、相殺される。

「六道五輪……」

「無駄だ」

「ぐ……」

 技の発動にすら手間がかかる。

「二重の極み! てやぁぁぁぁ!」

「……苦し紛れか? それ程の力の差があるという事だ」

「ガッ……」

 右正拳突きは握り止められ、お返しとばかりに額に食らう。

 吹き飛ばされアウレアの外壁に叩き付けられる。

「くそ……想定外だ。馴染めばそれ程だったのか……」

 暫く撃ち合った後、初めは押し気味だったのが徐々に押されてきている気がする。原因は不明。恐らくこの劇場も理解し、対応したからと考える。

「馴染む……そうか、お前にはそう見えるのだな。私から見ればまた別だ」

「あぁ……?」

 なんだ……何が違う。

 現状に変化は無し。ヤツが見えない武器や能力を使った形跡は無い。

「まぁ変わらねぇ。ただはやてを起こすまでだ」

 刀を軽く振り、闇の書との距離を見る。

 未だ平気な顔をしてるが、向こうだってオレの能力を使ってる。それなりの反動が来てるはずだ。戦い続ける限り、互いは消耗していく……オレが潰れる頃には、奴らでも何とかなるくらいには持っていけるはずだ。

「ザ・ワールド!」

「無駄だ」

 時間を止める。四秒という時間の中、相手を止められなくともオレにかかる重力等を無視できる。

 それでも闇の書は平然と対処してくる。

「才気煥発の極み……51秒」

「50秒だ」

「っ……」

 時間停止、未来予知、敗北。

「エピタフ……キング・クリムゾン!」

「甘い……!」

「あぁぁぁぁぁ!」

 未来予知、時飛ばし。攻撃を見切られ、防御される。敗北。

 何をしても完璧な対処。時間系能力すら見切ってくる。同程度の能力であるはずなのに……オレの方が能力の使い方を知っているはずなのに……

「はぁ……は、はぁ……」

 何か……糸口を見つけろ。あの余裕かましてる闇の書を死ぬ程後悔させる程の突破法を。

 原作ではなのはが押されていたとはいえ戦えたんだ……知識有り、特典有りのオレが同等にできないはずがない……か。

 そこまで考え、それら全てが術中だった事を、手遅れながら認識する。

「……なるほどな。お前が強くなったわけじゃない、って事か」

「この力は、強大過ぎる」

「あぁ……たしかにそうだ」

 あらゆる動作を封じられ、届くはずが届かない。

 いつも間近で見ていたその力。それを疑うはずも無い。

 蒐集されてないはずのウタネの力……特典でも能力でも無いからオレの中からでも取れたのだろうか。

 ウタネと戦う相手は次第にその行為自体に嫌悪を示し、いずれ得物を見る事にすら拒否反応を起こすようになる……それがウタネの戦闘。神の子と似た能力だが、原理が違う。神の子は自身によるイップスだが、ウタネは相手に対して働く抑止力だ。ウタネが全力を出せば……その能力を解放すれば、世界の存続が危うい。だからこそ世界は対戦相手を苦しめ、束縛し、ウタネを脅かさないよう押し潰していく。ウタネが知ってか知らずか、世界はそうなるよう仕組んでる。

 皮肉なもんだ……世界を救うかもしれないやつを、世界が潰しているんだからな。まるで以前いた社会的。圧倒的理不尽。既に力あるクズを守り、新たな道を開く力無き開拓者を抹殺する。

 ……所詮、成熟した文明はそうなる。

 そんなのが嫌で、力の無いものが無造作に消されていくのが嫌で……

「だからオレが、ウタネ以外に負ける事は許されない」

 エピタフとオレの予知で確定的な未来を擦り合わせる。

 確実な未来と、それに到達するまでの過程。その過程を消し飛ばす。

「キング・クリムゾン!」

 闇の書の背後へ回り込む。そしてこれから行われると予測された様々なカウンター、バインド、その全てを想定し、それら全てを対処可能なコースを選択。

「直死──いっそ死ね!」

 キングクリムゾンの解除と同時に直死の魔眼。

 致命傷程度には持っていけ……! 

「……」

 

 ♢♢♢

 

「クロノ。観測結果は?」

「魔力量SSS。これだけでも破格なのに、シオンの能力まで使えるとなると……正直、手詰まりだ」

「そんな⁉︎」

 なのはが嘆く。けれどそれも覚悟していた事。

 ……自分で手が付けられなくなると分かっててやった可能性はある。私を期待してそうした可能性は十分に考えられる。

「ウタネ、君の意見が聞きたい。シオンと協力でもいい、アレを打倒する手段はあるか?」

「……分からない。でも、可能性があるとするなら、高町さん。あなただ。あなたの砲撃をゼロ距離に近いくらいで全力で撃てれば……抜ける可能性もある」

「シオンでも防御が精一杯だったのに……」

「フェイト、それは少し違う」

「え?」

「攻撃と防御は別だし、戦法と攻撃も別。よく思い出して、シオンが総力戦と模擬戦で使った能力を」

「……えと、時間停止、時間を飛ばす……暗黒空間?」

 高町さんが自信なさそうに並べる。

「そんな感じ。で、どれも攻撃には使ってないでしょ?」

「そう言えば……攻撃はあくまで武器だった……」

「多分シオンは能力を試したいだけで、火力を出すことは目的に無かったんだと思う」

「そうか、それならまだ可能性があるということか!」

「うん。それでも多分、ゼロに近いくらいからじゃないとだけど」

「だからシオンは私に近距離戦を……?」

「さぁ? それは分かんない。楽しそうだったから誘っただけだと思うけども」

 模擬戦では得意な砲撃より、近距離に高町さんを誘ってた。近距離で二人じゃないと勝負にならなかったのか、この展開を見越してのものかは分からないけど……おかげで以前より多少は高町さんの近距離も強くなった。

「だが待て、ウタネ。モニターを見ろ。なんだアレは」

「ん……」

 クロノが示したモニターには、黄金に煌く建造物が空中に存在していた。

「……シオンじゃないかな。能力」

「知らないのか?」

「シオンの使う能力なんて殆ど知らない。でも多分、シオンが使ってる」

 私のカンはそう言ってる。

「シオンは能力を試したいって話、結局はアレも同じ。色んな方向の能力を使いたいからか、ホントに苦し紛れ。まぁでも、シオンだし心配しなくていいよ」

「対策があるのか?」

「無いとシオンは動かないしね。慎重だから《クロノ、私の能力をアテにしてるなら考えを改めて。総力戦の時、シオンは私の能力を二度突破してる》」

「そうか……だが、今援護に行くのは足手纏いだ。あの能力が全力で解放されれば、僕たちに手は無い《なんだと……分かった、すまない》」

「でもクロノ、このまま見てるのは……」

「フェイト、自分が何かしたいという気持ちは分かる。だが、僕たちは管理局だ。言った筈だ、事件の解決を優先する。これは絶対だ」

「でも、このままだとシオンは……」

「それも、僕の知った事じゃない。あくまで彼の申し出で嘱託になり、単独戦闘を買って出た。僕はその時点でそれを知っていた訳じゃないが、それを信じた。瀕死でも生きていれば回収するさ」

「クロノ君! 見損なったの!」

「なんとでも言え。闇の書の強化も、単独戦闘も、シオンの想定通り、思惑の内だ。それをシオンの危機だから止めろと? 利用された相手を擁護する程僕は優しくないぞ」

「……」

「高町さん、クロノの言う通りだよ。シオンは望んでこうなってる。こうなる事を想定してやってたんだ。私たちが邪魔するのはダメだ」

 いい加減に進まない議論に助け舟を出す。私が言えば多少の説得力はあるでしょ。

「だからって見殺しにするの⁉︎」

「うん」

「……!」

「そんな……」

 と思ったら火に油だったかも。やっぱり人と人の会話に私は入るべきじゃないや。

「シオンの企みなんて知らない。管理局の味方もしない。目的はあくまで闇の書の解決と、八神さんの安全。それが優先」

「それでも行く……って言ったら?」

「止めはしないよ。今そこまでする必要は感じない。だいたい……っと、そんな暇はもうないみたい。出るよ」

「え」

 モニターに変化が見えた。私のカンは勝負がついた……シオンが負けたと感じる。

「黄金が消えて……シオン⁉︎」

 黄金を全体で映していたから少し遠いけど、シオンの体が消えていくのが見えた。

「あの様子だとカウンターされたね。まぁいいけど。じゃあクロノ、転移を」

「あのシオンが……ふ、わかった。行ってこい。ユーノからの情報があればこちらから連絡する」

「……? 分かった」

 シオンの負けザマを見たクロノが少し笑う。

 意図は読めないけどそう大した問題じゃないと無視。

 高町さんとフェイトと三人で現地へ跳んだ。

 

 ♢♢♢

 

「……」

「これは……アレか」

 あらゆる反撃を見越して突き立てた筈の死。

 それはある魔法に防がれた、防がれていた。

 原作ではフェイトが受ける筈だった魔法、それがオレの刀の先にある。

「……次にお前は、『お前にも心の闇があろう』と言う」

「お前にも心の闇があろう……っ!」

「は、安心しろ……オレの反撃はねぇ。お前の勝ちだ、後はお前の目的を邪魔する世界と戦えばいい」

「そうか。永遠の眠りの言葉がそれか」

「……はっ」

 消えかけた体から嘲笑を返す。

 アウレアが消えた時点で負けた事は姉さんが認識してるはずだ。後は奴らに任せる。

 ユーノなら夜天の書について十分に調べられるだろうし、奴らの諦めの悪さならはやてを起こすにも十分なはずだ。

 これから見る夢に対しての警戒だけを残し、一度意識を手放す事にした。




キンクリは全世界を跳ばしつつ、キンクリを認識していなければ体験したものとして無視できるもの、ワールドは止められる時間、動ける時間でシオンが4秒、10秒、闇の書が9秒、9秒、ウタネが0秒、無制限という感じで。テキトーな秒数ですけども。


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第52話 闇の書 その4

「ごめんね……ごめん……ごめんなさい……!」
足元から親友の泣き声が聞こえる。私は簀巻きのまま十字架に磔られ、首すら動かせない状態だから姿は見えない。
「なんで貴女が泣くのかなぁ……」
「だって……あんなに仲良くしてきたのに……もっといっしょに居たかったのに……!」
すすり泣く友。しかしその体は任務を遂行すべく、十字架へ薪を積んでいく。それは本人の意思であれ、できればしたくなかったという矛盾したものだ。感情とは本当に不思議なものだと、他人事を考える。


「闇の書さん! 話を聞いて!」

 結界内に転移して、闇の書と接近。それまで闇の書は何をするでもなく、ただ街を眺めていた。

「お前たちは……まだ、邪魔をするのか」

「闇の書さん……」

「お前たちは……私を、その名で呼ぶのか」

 闇の書が右手を掲げる。闇色の魔力が密度を高めていく。

「違う! 本当の名前を、貴女から聞きたいの! シオンから聞いた名前が正しいのかどうか!」

「本当の名前なら、解決策が見つかるかもしれない! だから!」

「……我は闇の書。我が主の望みを叶えるのみ……デアボリック・エミッション」

 二人の呼びかけも意味を成さず、闇の書は行動する。

 右手の先のソフトボール大の魔力球が一瞬大きく、直後に無くなるほどに小さくなると、破壊を伴って広がった。

「んんんんんん⁉︎」

「空間攻撃⁉︎」

「二人とも、私の後ろに!」

 高町さんが前に出てシールドを張り防いでくれた。

 けどさ、完全に呑まれてんだけどコレ大丈夫? なんでダメージ無いの? 

「うううぅ」

「なのは!」

「大丈夫、シオンの分も耐えるから……!」

 攻撃範囲はかなり広く、そこまで広がりきる間はずっと防御しなきゃいけないみたい。

 ……シオンはコレをどう防いだんだろ。底知れない。

 ようやく収まりかけたと思ったら、背筋に悪寒。

「二人とも、散って!」

「「っ⁉︎」」

 二人が左右に避けた所で私に正面から闇の書が突っ込んで来た。

 鎌でガードはするものの、この威力は……! 

「ぅ……! ぁぁぁぁぁ!」

「ウタネちゃん!」

「ウタネ……!」

「次は、お前たちだ」

 

 ♢♢♢

 

「……!」

 目を覚まし、現状を確認する。

 ただ何も無い道場に、見慣れた初見の殺人鬼が正座している。

「お前……いや、言うまい。それは必要ないんだろう」

 絹などという比喩すら無礼になる程の艶のある、肩で無造作に切った黒い髪、中性的ながら整った顔、160程の身長に見事に着こなした白い着物。

 そして、その傍に置かれた一振りの日本刀。

「ええ。ユメの中でしか在り得ないとはいえ、無闇に喚ばれるのも困りものね」

「そりゃ悪いな。オレの未熟だ。全く……オレの闇がこんなモンとはな」

 眼を閉じたまま微笑を浮かべる相手に対し膝と額を床につける。

「別に構わないわ。それに、刺激があると退屈しないわ。こういうのも、悪くないと思うもの」

「……そうか。まぁ、機嫌を損ねてないなら良かったよ」

 顔を上げ、剣道の試合前の様な形で正座で向かい合う。

 姉さんのいない世界で、自分のためだけに力を使う……今まであったようで一度も無かったその機会。

 オレという個人の、唯一最大の望みであるとも言える。

「まぁ、あの子の写し身……私で言う式や織のようなものだものね。断りなんてしないわ」

「……? 別に、アンタと同じモノじゃねぇと思うが……?」

「まぁ、そういうものよね。私もそうだから。でもそう思うのなら、私を知ってるのに口調は変えないのね」

「……まぁ、普通は土下座どころの騒ぎじゃねぇだろうな。姉さんはそぐわねぇし、オレの敬語は逆に侮蔑を孕むからな。オレが気を使わなきゃいけない……オレの能力以下の、庇護下になる存在。傷付きやすいものには優しく触れる。そんな感じだ」

「そう、じゃあ始めましょうか。あなたの望みを叶えるために」

 思った解答と違ったのか、話の続きは無かった。

 相手が優雅に立ち上がると、かつて慣れ親しんだ筈の道場が戦場のような悪寒を持つ。

 一瞬先が無いとさえ思える純粋な殺気。姉さんやオレの能力を持つ闇の書でさえここまでじゃなかったな。

「特典……能力は惜しまないぞ」

「えぇ。ここでなら、デメリットも無いわ」

 相手が無造作に持った刀を鳴らす。

 それは新しいオモチャを買ってもらった子供を思わせる雰囲気を放っていた。

「ふぅぅぅ……よし、じゃあ遠慮無く……行くぞ」

 息を吐き、無いはずの死を確実に視る。

「ふふ」

 時間を跳ばしたその先、刻み始めた一瞬後には刺さっていたはずの死が、防がれる。

 手加減していた実世界とは違う。完全に殺しにいった突きだった。

 背後から右脇腹への片手突き。能力抜きにも強力な一手。

 それをまさか、弾いて返すとは。

「ぶッ……!」

 伸ばした腕を突き刺され、蹴り飛ばされる。

 即座に能力で修復するが、戦力差を実感する。

 オレならさっきので止めを刺した。脅威になり得る使い手は即座に消す。それが生き残る上での基本だ。

 だがアレはそれをしない。どころか回復の時間までゆっくり取ってやがる。

「……バランスを考えるレベルじゃねぇな。やっぱ」

「当たり前よ。子どもの遊びとは違うわ」

 ……闇の書を、この能力を、子どもの遊びか。

「GER……タスクACT4……果たしてアンタは滅びずにいられるのかな?」

 この能力に殴られたもの、向かうものをゼロにする。

 この能力に触れるもの、その全てを望むままに。

 別系統でさえ干渉する以上、何を相手にしてもアドバンテージになる。

 例えそれが、直死の源流であっても。

「オモチャにしては上出来ね。少しは楽しめそうよ」

「アンタ達にはホントに憧れてんだ……そこまで崇高な生き方はできねぇからな」

「そんな事言っても譲らないわよ」

「言っておきたかったんだ。会えるとは思ってなかったからな」

 呆れられるが、本心だ。

 互いに必要とし、けれど頼らない。完全に自分の為にだけ動く生き方。

 多重人格には、簡単そうで難しい。生活の何処かには必ず、違う誰かの形跡がある。それを無視し合える関係は、羨ましい他ない。

 ……その源流であるこの人に言っても、意味は無いかも知れないが。

「そうね。本来私は誰とも会わないはずだけれど……こういう奇跡の類でなら、巡り逢うこともできるわ。そうじゃないと、無いとの同じでしょう?」

「……ああ。やっぱり姉さんとは違うな」

「全くの別人よ。他人の空似ね」

 どこまでも涼しい微笑を浮かべる根源の権化。

「らしいな。確信できたよ。根源じゃねぇのは残念だが」

 姉さんの発作……能力。その規模や性質からそれに近いものかと思っていたが……別ものか。

「……」

「いくぞ、続きだ」

「そうね。早めに行ってあげないと、やられちゃうかも」

 刀を正眼に構え、迎撃の意思を持つ根源。

 不意打ちが効かないのは実証済み、となれば二度同じ過ちはしない。正面から叩き伏せる。

「あぁ」

 本来なら負荷で崩壊する能力を二つ同時に使い、それでも尚勝率不明の相手に向かう。

 全てを打ちのめされたその先に、その対策を見出せると信じて。




やっぱりシオンの特典は変更するべきだった。
魔法そっちのけで宝具だとかスタンドだとかやりだすから。


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第53話 闇の書 その5

「……私は貴女たち生命体にとって、絶対的な脅威であり、敵対するもの。そして、それほどの脅威を無くすには、それ相応の力を持つものでなければならない。それに該当するのは、あらゆる抑止力の中でも貴女しかいない」
どんな時代の英霊も、私の前では脅威とならない。終わってしまっている英霊では、ただの木偶。英霊という縛りから出られない存在では、限界は知れている。今生きて、それを貫き通す意思のある者にしか私を打倒し得ないだろう。その例外は、近くにいるが。


「次は、お前たちだ」

 闇の書がページをめくる。

 選択される魔法は、これまでと同じ、空間範囲攻撃。

「……バルディッシュ、攻撃が始まったら、なのはを連れて離脱。一度距離を置こう。ウタネが危ない」

《了解》

「生と死の狭間の夢……終わりなき夢を。我が主や彼と同じ夢を……デアボリック・エミッション」

「なのは! 撤退!」

「えっ⁉︎フェイトちゃん⁉︎」

 フェイトがなのはの腕を掴み無理矢理離脱させる。

 距離にしておよそ二百メートルの建物の影。闇の書相手に十分とは言えないが、空間攻撃範囲外ではある。

「闇の書の攻撃も読めてきた。固まってたら一撃必殺、バラけてると範囲攻撃、遠くにいれば小型高速攻撃。シオンみたいな同レベル相手には分からないけど、私たち相手にはそれを守ってる」

 飛びながら伝えた、フェイトの考察。

 それはシオンの出した結論とほぼ同義であった。

「……つまり」

「闇の書の攻撃は、複雑な様で単調なんだ。それぞれが強力だから、状況に合わせた魔法を選んでるだけ」

 シチュエーションに合わせた、言わば自動攻撃。そこから相手の手によって魔法を使うという戦法。

「シオンの能力は使ってこないかな」

「それも多分無い。シオンの能力は使う度に負荷がかかるって話だったから、シオン戦でも相当消耗してるだろうし、普通の魔法で足りるならそうしてくるはず」

 完成された魔導書ゆえの、完成された戦法。

 闇の書から見れば最善の攻撃、迎撃も、それを理解する者から見れば単調な、対策の可能な攻撃と見ることができる。

「いくら速くて強くても、先読みできれば対処はできる、だね」

「うん。ウタネやシオンのやってたことを私達がやって、時間を稼ぐ」

 直感、未来予知の二種類の未来視を体感した二人だからこそ、その強みが理解できる。

 瞬間火力も継続火力も遥かに劣るウタネが、何故自分たちと同等程度に戦えるのか。

 未知なる相手であるはずなのに、なぜシオンは多数を相手に完璧な立ち回りが出来たのか。

 それは、二人が持つ未来視の能力であるが故。

「行けそうなら攻撃もする!」

「二人に頼らない! 私たちで闇の書を倒して、はやてを助ける!」

「うん! やろう。二人の分まで、きっと!」

「うん!」

 いない二人の能力を十全に把握しているからこそ、二人はその戦術に踏み切ることができた。いくら理論を見ても、実際に行うのは困難だと言う事を知っている為に、理論だけでの戦術には踏み切れないだろうし、クロノが許可を下すとも思えない。

 実際に未来視の可能性、利便性を見た上での判断。未来を見て対策する事は、素の実力差を補って余りあるということ。

 更に言えば闇の書の消耗。本来ならばSSSの超火力に対抗するのみだった闇の書。シオンの蒐集により新たな能力を得たとしても、その対価として肉体への負荷がかかる。同程度以上の使い手たるシオンのお陰もあってか、相対的な負荷である以上、闇の書にも無視出来ないダメージになる。

 このダメージを踏まえるのなら、思う以上に差は縮まっているのかもしれない。

「行こう。流石に高速攻撃は予感できないから」

「うん」

 再び闇の書の前に姿を見せる二人。

 そして躊躇いなく接近する。

「闇の書さん!」

「話を!」

「……!」

 

 ♢♢♢

 

「……外は、荒れているな。主よ、どうかそのまま、安らかなユメを」

 闇の中で、ソレは呟く。

 ソレは、幾度と無く繰り返したこの結末を、最初と変わらぬ悲しみを感じていた。

 主を取り込み、ただ誤った形で……結果的に、破滅を導く形で望みを叶えるモノに成り下がってしまった我が身を悔い、無能さに打ちひしがれる。

 だが此度は少し、マシだろうと考えていた。

 魔法では無いが、正体不明の能力。使い道さえ分からない、謎の……何も映さない鏡の様なソレ。

 その正体はすぐに分かった。外で戦っている者の能力だ。どうも、次元世界という意味では無い異世界の能力を引っ張って来ている様だった。

 時間を止め、跳ばす。魔法を防ぐのではなく消し去る力。

 初めこそ理解が及ばなかったが、説明を聞けば十全に理解できた。さらには他の能力も。

 外での戦闘に興味は無い。いつか辺りが荒野となるだけだ。

 だが、能力の使い道はある。

 闇の書を闇の書たらしめる原因、ナハトヴァール。これの抑止に活用できる能力も存在していた。これにより主への負担は軽減できると、普通の人間と変わらぬ、穏やかで安らかな最後をと。

 その一方的に優しい願いが、思いが、闇の書としては仇になった。

「……ん」

「ッ……!」

 外での戦闘、未知なる能力の攻撃に時間がかかっている。

 数発は受けた上、相手が使う能力は二つなのに対し、抑止の為に一つ使っている為に有利を取れない。更には負荷。鏡に物を叩き付ける様な強引さで能力をコピーしている為に、魔力量等のスペックとは関係無くダメージになる。

 この負荷が響き、更には闇の書からの侵食も抑止しているため、主の眠りは妨げられる事になる。

「……はっ⁉︎」

「……!」

 数度に続く揺れ。

 遂には有り得ない事象……闇の書の完成後、取り込まれた主が意識を取り戻すという事態が発生してしまった。

「主……どうか、お休みください……」

 言葉も浮かばず、ただこれまでを継続するくらいしかできない。

「だっ、誰⁉︎」

 しかしそれも、此度の主の前には通じない。

「あ……すみません。えと、闇の書の管制人格です」

「はー……あの闇の書が……えらい美人さんやったんやね」

「まぁその……ありがとうございま…….んんっ、ではなく。主、目を覚ましてしまったからには仕方ありません」

「な、なんや……あんな事やこんな事……?」

 はやてが両腕で体を隠す様に抱く。

「違います。騎士たちがそんな事をするとお思いですか」

「騎士……?」

「はい。騎士たちの感情と私は……不純物によりそう深い訳ではありませんが、近しいものがあります。貴女には平穏な人生を送って欲しかった……闇の書についての騎士たちの誤解は謝りますが、この思いは何一つ嘘偽りはありません」

「そか……私のために、無理させよったんやね……」

「いいえ……いいえ! 貴女が気に病む事はありません。全ては私が、闇の書が悪いのです。貴女はただ巻き込まれただけだ。これを恨んでも、貴女が傷付く必要は無いのです。これから貴女を殺してしまう、貴女の人生を奪ったこの私を、恨んで、憎んで、蔑んで下さい……貴女に悲しまれると、私は!」

 これまでを、嘆く。

 無意識に諦めで塞き止めていた懺悔を、主の心に流される。

「……ええよ、それで。なんも悪ない。奪ってなんかない。私は親もおらん、知り合いもおらん。そんな人生は、無いのと同じや。でも闇の書がいたからやってこれた。シグナムたちが来てからはもっと楽しくなった。私のことを真剣に考えてくれて、私の料理を笑顔で食べてくれて。望む以上の幸せを、闇の書からもう貰ってる。謝る事なんか、なんもあらへん」

 足に寄りかかり泣きつく管制人格の頭を撫で、微笑むはやて。

「ですが……主、ナハトが……能力で抑えてはいるものの、既に限界を超えてます! 暴走は免れません!」

「今までは、そうやったんやな。でも、諦めたらあかん。あなたは私の魔導書で、あなたのマスターは今は私や。マスターの言う事は聞かないかん」

 はやての足元に白い魔法陣が展開される。

 闇しか映さなかったその場所に、初めて色が映される。

「魔法の使い方も、わかった。この夜天の書も、わかった。もう闇の書なんて呼ばせへん。私が呼ばせへん!」

「主……!」

「もう能力はええよ。私で止めてる。使える二つ、有効に使お」

「ですが……しかし、どうするのです……?」

「外で誰か戦ってる。協力して貰おう」

「……戦っているのは管理局と協力者です。既に一人倒れました。それに、闇の書の提案に協力するでしょうか。そもそも、協力など頼める立場では……」

「その時はその時や。頼れる人がおるんなら、頼ってええんやで」

 ニコッと笑うはやて。

「外の方! すみません! 八神はやて言います!」

 管制人格を慰め、外に声をかけるはやて。

 その声は、自信に満ちたものだった。

 

 ♢♢♢

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「く……!」

「バスタァァァァァァァァ!」

「……! 防げ」

 二人の攻撃は、功を奏していた。

 闇の書の予備動作を見逃さず、近距離、遠距離を瞬時に切り替え、闇の書の攻撃を発動から止めていく。

 その隙を逃さず、最善の攻撃手段を選んでいく。

 隙を作らない事を優先している為、一撃のダメージは無いに等しいかもしれないが……それでも、反撃を許さない事が第一。

 さらに言えば、少しずつではあるが弱ってきている、という実感が二人にはあった。

「そこ!」

「っ⁉︎」

 始点を殺すシューターは、今やほぼ全ての予備動作を止めるまでになっている。防御が抜けないのは変わらないが、反撃も無い。

 少しずつでも削れて、時間が稼げるなら、という作戦は大きく当たり、必要な時間を稼ぎ切る事に成功した。

「はぁぁぁぁぁ! 最果てに至れ、彼方の王よ! オーバーロード!」

「何ッ⁉︎」

 上空から突撃してきた一閃。

 闇の書は防御するが、シールドの爆発により距離を置いた。

「「シオン!」」

「オレはどうでもいい。姉さんはどうした」

「その……」

 二人に近付いたシオンが問う。

 二人はその解答について考えていた。

「ほらシオン、二人を虐めないの。大丈夫だから」

「ウタネ!」

「ウタネちゃん!」

 ウタネも上がってくる。

 能力で補強していたのだろう、全身が血に濡れているが、流れている様子では無い。

「どこやられた? 治すぞ」

「額と右足。あと胸と肩、それと膝と肋骨、肘もかな。でもいいよ、治したから」

「……まぁいい」

 ウタネの治すはただ固定しただけで実際には繋がって無いのだが、それを踏まえて良しとするウタネに、シオンはため息をつく。

『外の方! すみません! 八神はやて言います!』

「「「!」」」

 反撃を見せなかった闇の書から、声が響く。

 それは闇の書のものではなく、より親しんだ声だった。

「よし、起こしてたみたいだな。二人とも良くやった」

「「え……」」

「あ? どうした?」

「いや、シオンが褒めるなんて思わなかったから……」

「……いいだろ別に。それよりだ。はやて! シオン……はわかんねぇか、ウタネだ!」

『え⁉︎ホンマに⁉︎』

 はやてが驚く。当然なのは達も驚いていたが。

「必要だけを話せ! もうナハトは切り離してるか⁉︎」

 シオンだけは例外で、事を進めるべく最善を選ぶ。

『うん! 暴走も抑えてる、今なら引き剥がせるはずや!』

「よし、十分だ。フェイト、クロノに繋げ」

「う、うん」

《……なんだ》

「見つかったか?」

《まだだが、原典はあった。やはり元の機能はほとんど殺されてる様だ》

「よし、それで引き上げてこっち来い。猫はいらんぞ、ユーノとお前だけだ」

《猫て……わかった、すぐ向かおう》

 通信が切れる。

 そして動きの止まった闇の書を見ながら、シオンが提案する。

「よし、クロノが到着する前にアレを撃つ。耐久はオレの能力もあるだろうし心配するな。カートリッジは残せよ、ノーコストで撃てる最大でいい」

「「うん」」

「姉さ……ウタネは休憩だ。この後に備えてろ」

「……? うん」

 事件の全貌が見えていないウタネには、この後という言葉の真意が伝わらなかった。

 しかしそれを気にするシオンではなく、行動を続行する。

「行くぞ。取り敢えずはやてを救出する」

 シオンが構え、黄金の波紋の中から一振りの西洋剣を取り出す。

「うん!」

「ディバイン──」

 二人はいつか、シオンを消し飛ばした範囲殲滅魔法の構え。

 カートリッジ不使用の分前回より控えめだが、それでも十分な破壊力。

「星よ、大地よ。彼の聖剣をここに許せ。エクス……」

 剣が光る。いや、光が剣に集まり、輝きを増していく。

 それはある種、神秘を形作る工程の様な。

「「バスタァァァァァァァ!」」

「カリバァァァァァァァァ!」

 三つの光が、互いに干渉する事なく闇の書を捉えた。



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第54話 闇の書 その6

「でも……!」
「どうしようもないんだ。できる人がすべき時にやるしかない。私が数回繰り返した短い人生で学んだ事は、どんな世界であっても私の望む世界ではないという事だよ。私と同じ思想に出逢う事も、私の理想を叶える手段も無い。そして、そこの封印指定によって私は今この状況に限り完全に無力化されている。ショタロリコンの権能からすら隔離されてるから、今死ねば転生もなく死ぬ」
抑止力をものともしないのなら磔にもされない筈、と思う人は多いだろう。だけどこの封印指定に限れば別だ。私の能力、シオンの体術を上回る能力に加え、能力を封印する簀巻きセット……シオンも私の能力と判定されるらしく、シオンの力で抜ける事も出来ない。
そして、私に唯一発揮される抑止力、ソラ。しかし私……ウタネではなく、シオンを気に入り、ソラは私をカルデアへ、私はカルデアをこちら側へ、誘い誘われでよく分からない、とても不安定な立ち位置のまま友好を深めてきた。けれどこれで終わり。私の全てがここで終わる。


「やった……⁉︎」

「フェイト、それはフラグだぞ……まぁそうだな。闇の書の原因、暴走プログラムは消し飛ばせたはずだ」

「八神さんは……」

「それも無事だ。すぐ出てくるはずだ」

「そう……」

 

 ♢♢♢

 

「……協力、してくれましたね。それに、倒れた一人も戻って来たようです」

 呆然とした様子で呟く夜天の書の意思。

「やろ。ウタネちゃんは凄いからな! えと……夜天の書、って呼ぶのも変やね。名前……無かったけな。うん。名前をあげる」

 はやてが闇の書に魔力を流す。

 単なる思い付きではあったものの、それは正式な契約と同じ手順を踏んでいた。

「名前……」

「夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの。幸運の追い風。祝福のエール……リインフォース」

 闇の書を正面から捉え、それを優しく受け入れた八神はやて。

 この工程により、夜天の主として真なる覚醒を経ることになる。

「リイン、フォース……」

「私はあなたのマスターで、あなたはもう私の家族や。やから行こう。今まで私らがかけた迷惑の謝罪をしに」

 闇色が剥がれ、光の中に投げ出されるはやて。

「……! はい。新名称、リインフォース認識。管理者権限、正式に使用が可能です」

「うん」

「ですが、謝罪には少し苦労しそうです。切り離された防御プログラムは、闇の書の力を殆どそのまま持っています。暴走するまでに数分足らずです」

 立っているでも浮いているでもない空間で、夜天の書を抱く。

「んまぁ、ウタネちゃんもおるし何とかなるやろ。行こか」

「はい。我が主」

 

 ♢♢♢

 

「アレが闇の書の闇、夜天の書を闇の書たらしめていた防衛プログラム」

「この後の展開は?」

「はやての覚醒、プログラムの破壊だ」

「そう……」

 海の上にある闇色の半球。

 大きい、のだろうけど、正確な大きさが分かりづらい。

 その周囲には大小の触手が伸びていて、それもまた距離感を損ねさせる。

「はやてちゃん!」

 高町さんが声をあげる。

 ベルカの魔法陣から守護騎士と八神さんが姿を現す。

 その見た目は少し色彩が違うようだけど……まぁいいか。

 八神さんは高町さんの声に反応し、ニッコリ笑う。

「守護騎士……生きてたんだ」

「当たり前だ。言ったろ、死ぬとしてもオレだけだって」

「そうだね」

 シオンはここまで予想して動いてくれていた。

 八神さんの事も、高町さん達も守ってくれた。

 そのおかげで、今はみんな喜んでくれてる。あり得なかった再会を噛み締めてくれてる。

 シオンに返るものは何も無いけど、これで良いんだと思う。

「……水を差すようですまないが」

 それも束の間、クロノが新情報を引っ提げてやってきた。

「あの黒いのが防衛プログラムだ。こちらの観測では後五分程で暴走が開始する。アレを無力化したいんだが、今のところ手段が二つある。一つ、このデュランダルによる氷結魔法で凍結させる。二つ、この軌道上に待機しているアースラのアルカンシェルで消滅させる。これ以外に案はあるか。守護騎士と主、シオンに聞きたい」

「えと、一つ目は難しいと思います。主を失ったプログラムは、魔力の塊みたいなものだから……」

「アルカンシェルもダメ! こんなとこで撃ったら、はやての家まで吹き飛んじゃうじゃないか!」

 クロノが示した案は、二つとも否定されてしまう。

「……それに、アルカンシェルが効かない可能性もあるからな」

「え?」

 さらにシオンの追撃。

 ユーノの解説では、辺り数十キロを巻き込んで反応消滅させる……という小難しいもの。

 よく分かんないけど取り敢えず分子レベルで消滅するらしい。

 その説明に高町さん達は納得した様子だった。何故理解できる? 

「だろ、リインフォース」

『ああ。プログラムを切り離した際にシオンの能力もコピーしている。流石に避けきるだけ時間を跳ばせるとは思わないが、とどめにまでは』

 八神さんにシオンが呼びかけると、八神さんのものでない……闇の書が話していたのと同じ声がする。

「だから、まずは奴の力を削ぐ。そしてプログラムのコアのみを摘出、宇宙空間へ転送する」

「そうか、それでアルカンシェルを」

「ああ。宇宙で離れた場所なら地球に被害は無い。だろ?」

「でもよー、さっきの効かないって話はどうなんだよ」

 クロノとユーノが納得したが、守護騎士や高町さん達からは疑問があがる。

「コアだけ抜けるようになるって事は弱ってるって事だ」

「ヴィータ、シオンの能力は使う能力に応じてダメージが入るから、防御を抜けるほどダメージを入れてれば使うことさえできない。だから、アルカンシェルを避けたりはできなくなるって言ってるんだよ」

 能力について補足。

 疑問や違和感は無い方がいい。

「あー! なるほどな!」

「オレの説明そんな分かりづらいか……?」

「シオンの能力の説明は守護騎士聞いてないでしょ」

「あー……そうだったっけか。まぁ取り敢えず、このプランでどうだ。異論反論は歓迎する。迷いや躊躇いは無い方がいい」

 頭をかきながら先を促すシオン。

 この様子だと面倒な話題だったから放置してたみたい。

「アルカンシェルも問題は無い。僕はオーケーだ。騎士たちはどうだ」

「はやての家がふっとばねーなら。なぁ?」

「私もそれで構わない。主はやて、如何でしょうか」

「うん。なのはちゃんもフェイトちゃんもええか?」

「うん!」

「私も」

 全員の賛同が得られた。

 作戦は述べた通り、闇の書の闇、防衛プログラムの力を削ぐだけのダメージを入れ、コアを宇宙空間でアルカンシェルで消滅させる。

「……よし。姉さんはどうだ。聞くまでもないが」

「勿論。私がシオンの作戦を否定した事ある?」

「無いな。勿論……そして」

「始まる……」

 シオンが視線をやると、クロノが呟く。

「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……ナハトヴァールの侵食暴走体。闇の書の……闇」

 ただ黒いだけの球体から柱の様な黒い光が伸び、その実態が現れる。

 ソレは一言で言えば悍しい。異形の物体だった。

 対になる六つの脚、突起や翅など様々な要素を感じさせる胴体。無機物の怪獣を思わせる頭部に、更に上半身だけの女性。

 それが高町さん達を遥かに凌ぐ魔力を放ちながら、急速にバリアを展開する。

「……? アレは……」

 それを見たシオンが眉をひそめる。

「シオン?」

「いや、わからん。だが一撃で分かる。なのは、撃て」

「っ、うん! 行きますっ! レイジングハート!」

 管理局施設を破壊しかねない程の高火力。

 カートリッジ3発を消費して放たれたディバインバスターは、バリアを貫通する事なく消失した。

「嘘⁉︎」

 少なからず自信はあった筈の攻撃結果に、高町さんが声を上げる。

「……ふぅ」

「シオン、アレ何?」

十二の試練(ゴッドハンド)。大英雄ヘラクレスが神の与えた試練を超えた先に得た宝具。Bランク以下の攻撃を無力化し、一度受けた攻撃に対して耐性を得る……相手としては最悪だ」

「さっきのがB以下?」

「神秘の度合いだ。威力じゃない……なのはならスターライトブレイカーで一ついけるくらいだろ」

「フェイトや八神さんは?」

「フェイトもプラズマザンバー……後ファランクスシフトもいけるか。詠唱呪文は神秘を高めるからな。はやては……何でもいい。数百年の歴史と詠唱があれば抜けるはずだ。だが二つに抑えておけ。負担が大きいだろう。終わればリインフォースと分離、リインフォースにやってもらう」

「それで五枚……あと七は?」

「オレが三、リインフォースに四やってもらう。正直、体が持たん」

「回復は?」

「回復魔法なら、私が!」

「いや、いい。ダメージは身体的なものじゃなく、概念的なものだ。魔法治癒では治らん。回復能力もあるが、例外を除いてプラマイゼロだから使うだけ無駄だ」

 シャマルが名乗り出るが、シオンはそれを拒否。

 私の視てる世界と似た概念なのかな。

「まぁそんなのは後だ。バリアを抜いたら元の作戦に戻す。指揮はクロノとシャマルだ。行……」

「え……」

 紅い一閃。

 超高速で何かが通過した。

「……ガハッ」

 シオンの胸にソフトボール大の穴が貫通して、血を流していく。

 隣には私やクロノが居たし、闇の書の闇に近い側に高町さんやフェイト、守護騎士も居た。

 まさか……狙って撃った? 

「シオン⁉︎」

「シャマル! 今度こそ出番や! 急いで!」

「はい!」

「ザフィーラ! ガード固めて!」

「了解だ!」

 場が困惑する。それぞれが出来る限りで動いていたけれど、闇の書の闇に対抗する知識と能力を持つシオンが狙い撃ちされたのはかなりマズい。

 油断なんてしてなかった。他のみんなからすれば格上の相手、八神さんは自身の分身以上、シオンも重々承知の筈。

 更に私のカンも、反応できなかった。

 それでもなお、という事実は、私たちにより一層の警戒を強いることになった。

「は……ぐっ……」

「シオン! 喋らないで下さい。体力も持っていかれてます」

 致命傷なのに動こうとするシオンをシャマルがバインドで押さえつける。

 ただでさえ慣れてない筈なのに、更には少し前までただの人間だった筈なのにここまでする。能力故か気力なのか分からないけど、気持ちとしては十分。

「わっ……てる……んな覚悟で……来てねぇんだ……!」

 それでも尚バインドを砕こうとする。

 あのダメージじゃもう能力は使えない。能力の無いシオンはただ対人の剣術が少し優れているだけのただの人間だ。

 ここに居ていいレベルじゃない。

「……いいよシオン。私が代わる。2だけ頂戴」

「……2は、いらねぇ……だろ……」

「いる。じゃないと守れない。貴方みたいに無駄に抜かれても困る」

「……わかった。許す」

 自分のミスには弱いのか、少しは悩んだものの許可をくれた。

「じゃあおやすみ。クロノ、もうシオンはいいよ。アースラで寝かせといて」

「……大丈夫なのか?」

「私がシオンの割るはずだった三つをやる。みんなも守る」

「わかった。エイミィ」

 シオンが転送される。シャマルの治癒もあったしアースラなら十分だろう。

「……でも、あんな言い方は良くないの」

「ん」

「闇の書をここまで持ってこれたのも、シオンがいたからだよ。私たちが強くなったのも、シオンのアドバイスがあったからだよ。それを無駄だなんて」

「無駄だよ。それまでの積み重ねも、さっきみたいな油断でアッサリ崩れる。あんな瀕死を庇うのはデメリットしかない」

「だからって!」

「死刑は親兄弟に至るまで例外を作らない。戦場に要らないってことはそう言う事だ。覚悟って言うのはこう言う事だよ。まずは出来る事が前提だ」

 昔はどうだとか、これが無ければだとか、そんな空想の話はどうでもいい。

 今、ここで。それができるかどうかのみが意味を持つ。

 確かにさっきまではシオンの価値は大きかったかもしれない。

 でももう動けない。喋るのもやっと。そんなのは金髪お嬢様と一緒。

「クロノ、指揮を。早く止めよう」

「あ、ああ。みんな、シオンの言った攻撃準備だ! 他は援護と同時に魔力を撒け! 収束を早められるように!」

「「「了解!」」」

 クロノの指示で全員が散る。

 各自巻き添えにならないよう、互いの邪魔にならないように。

「じゃあ一枚目は私が行くよ」

「さっきは流したが、策はあるのか?」

「別に。神秘なら、私の能力も対象だろうから」

 クロノに離れてもらい、ふぅ、と息を吐く。

「……2パーセントか……こんなに解放するのは初めてだ……」

 小さく呟き、私の世界を見る。

 高町さんを始め、闇の書の闇ですら存在しない世界。

 赤くフィルターの掛かった物質だけの世界で、私の思うままに姿を変える。

 闇の書の闇を、全体的に囲うほどの槍を空気で作り出す。

 質は鋼鉄、長さは三メートル、数にして三百。

【殺せ】

 即座にバリアへ到達し、音を立てて破壊する。

 神秘は唯一性、秘匿性。誰にも聞こえず、誰にも使えないこの力はその条件を十分に満たしている。

 ついでに周りの触手も刻んで、反撃を潰す。

「よし! 次! なのは!」

「はい! 高町なのは、レイジングハート、行きますっ!」

 闇の書と同等レベルのスターライトブレイカー。

 これも無事バリアを破ることに成功。

「よし、三枚目はまた私……」

「いや、私に任せて貰おう」

「シグナム……」

 三枚目をいこうとしたらシグナムに止められる。

「お前には借りがあるからな。少しは役に立たせてくれ」

「私もだ! 管理局ばっかにやらせっかよ!」

 それにヴィータも加わり、私の担当は埋まってしまった。

「……うん、お願いね」

「行くぞ、レヴァンティン……最大出力だ」

 いつかの様にレヴァンティンが弓へと変化し、魔力の矢が編まれる。

 カートリッジ4発、この形態から消費したのを見るのは初めてかも。

「駆けよ、隼……!」

 一点集中の矢が放たれ、バリアを貫通、爆破する。

 バリアは穿たれた穴からヒビが入り、砕け散る。

「次は私だな、アイゼン!」

 カートリッジ4発、アイゼンが闇の書の闇より大きくなる。

「轟天、爆砕!」

 ヴィータはそれを軽々と振り上げ、ただ全力で振り下ろす。

「ギガント……シュラーク!」

 周囲に波が立つほどの衝撃と共に4枚目が砕ける。

 残り8枚。

「次! フェイト、はやて!」

「はい! フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー、行きます!」

 フェイトも収束完了、二つの魔法を立て続けに発射する。

「連続⁉︎」

「負荷は大丈夫! シャマルさんが治癒してくれてるから!」

 天災とも取れる程の雷の中、5、6枚目が消える。

 フェイトもシャマルに支えられてなんとか耐える。

「はやて!」

「来よ、白銀の風。天よりそそぐ矢羽となれ。石化の槍……ミストルティン!」

 七つの光が闇の書の闇へ向かい、バリアを石化、崩壊させる。

 第一射、無事貫通。

 そこで触手が再生、八神さんに照準を合わせ始める。

「ザフィーラ!」

「我が主へ攻撃など……させん!」

 本人が縛れと叫ぶと、白い楔が触手を刺し、斬り払う。

 ベルカ式拘束術は相手を動かなくするという結果だけを追求したようだ。

「二発目、行くで……賭けや、持ってな……突き立て、喰らえ。十三の牙…… 最果てにて輝ける槍(ロンゴ・ミニアド)!」

 八神さんが杖を構え、雑な構えから突き出すと、黒い風が発射される。

 実物は知らないけど、名前は知ってる。

「それも負荷が! っていうか能力⁉︎」

 台風なんて目じゃない程の風圧はバリアを十分に破壊した上、闇の書の闇の全貌が現れるほどに海面を抉った。

「ふぅ……持ってくれたな。負荷もやけど、シオンにあれだけされて何もできんじゃ面目ないからな」

 それをした八神さんは杖を支えにやっと魔法陣に立っている様な状態にまで消耗していた。

 ……やっぱり、能力の負荷っていうのは一つ使うだけでも相当な消耗なんだ……

「だからって……」

「ええんよ、後のバリアは任せるからな。ちょっと休憩や。リインフォース、ありがとな」

「……いえ。能力行使は無理を言いました。後は私が」

 八神さんから闇の書の擬人化した姿が分離し、八神さんの見た目も元に戻る。

「うん。シャマル、私もお願いな」

「はい。お任せ下さい」

 シャマルが八神さんを抱え、治癒をかける。

 シオンは効かないって言ってたけど、魔力補助でもしてるのかな。

「じゃあ……リインフォース、でいいのかな。お願いできる?」

「ああ。後四枚だな。砕くには問題無いだろう。その後もしっかり頼むぞ」

「それも万全だ。二人も回復するだろうし、僕らも動けるからな」

「頼りにするよ、主の友たち。少し、離れていてくれ」

 指を鳴らすと、夜天の書をめくり始めるリインフォース。

「これ以上の好機。過去にあっただろうか…… 全力でいく。十三拘束解放。円卓議決開始……是は、世界を救う戦いである……約束された勝利の剣(エクス・カリバー)!」

 先のロンゴミニアドと同じ、アーサー伝説からの宝具。

 何も手にしてはいないものの、確かにそうであると認識させる何かがある。

「ぐ……流石に、負荷が大きいな。だが、まだ3枚……神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是この一刺。インドラよ、刮目しろ……焼き尽くせ、日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!」

 自然体のまま、やはり無造作な構えから何かを突き出す。

「ユーノ、アルフ! 防御だ!」

「っ、ああ!」

 背後に太陽の様な灼熱を纏い、それを放出する。

 余波と熱は私たちにも及ぶ程で、二人がかりでようやく防げるほど。

 これも英雄。だと思う。私は知らない。

「──ー! ガッ……!」

「リインフォース⁉︎」

「やっぱ無茶だったんじゃ……!」

 リインフォースが胸を押さえて顔を歪める。

「近寄るな! 大丈夫、大丈夫だ……ただの負荷だ」

「ならユニゾンや! 二人ならまだ抑えられるやろ!」

「いえ、これ以上主に負荷をかける訳にはいきません。アレを破った後も動かなくてはダメなのですから」

 ……シオンはこれと同じくらいの負荷を隠してたのかと思うと、私としては動かずにはいられない。

 他のメンツを守るようにクロノに伝えると、リインフォースに近付いていく。

「私もやるよ、1枚ぐらいなら抜けるから。ね?」

「……そうだな、より被害を抑えるためだ」

「よし」

 近付くのは禁止。遠距離ばかりだったのは接射を避けるためだったりだけど、あと2枚。それを抜けば他の全力でアレを削れる。

【水は空へ。爆ぜろ】

 海水を、水面だけ固定して振動させる。

 そして空気中の水分を固め、全方位から圧縮する。

 神秘は能力そのもの。破壊力は地上全てを潰せる程。

「よし、じゃあごめんね、よろしく」

「ああ。十分だ…… 神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定、全承認。夜天の期限工程、完了。シヴァの怒りを以て、汝の命をここで絶つ……破壊神の手翳(パーシュパタ)!」

 手のひらに収まるほどの小さな光を軽く押し出し、それがバリアに触れると私の攻撃以上の衝撃波が発生する。

 更にバリア内部の女性も甲高い声を上げ、苦しんでいる様に見える。

 バリアは、全て破壊された。

「クロノ!」

「ああ……総員! 全火力集中!」

 陣形は全て整っている。

 上空に高町さん、フェイト、八神さん。

 横から守護騎士とクロノ。

 それぞれが必殺の攻撃準備を完了していた。

「全力全開! スターライト……!」

「雷光一閃、プラズマザンバー!」

 管理局の二人はそれぞれの最大火力を、その性格のままに。

「……ごめんな、おやすみな……」

 一瞬、悲しそうな表情で呟き、即座に殺意を宿らせる八神さん。

「響け終焉の笛、ラグナロク!」

 ユニゾン無し、生身での初戦ではあり得ないほどの魔力行使。

 リインフォースと八神さんの後が心配でならない。

「さぁ、もう一度行くぞ。レヴァンティン」

「これが最後だかんな、アイゼン」

 守護騎士二人もそれぞれ構える。

「「「ブレイカァァァァァァ!」」」

 バリア崩壊から隙を作らず放たれた様々な魔力光。

 同時攻撃はリインフォースの使った能力以上の爆音と衝撃、光で身動きができないほど。

 神秘という概念が無ければシオン以上である事は確実だろうという一撃は、これ以上なく闇の書の闇を蒸発させていく。

「……、見えた、けど……!」

「シャマル?」

「引き抜くには、もう少し力が……!」

 シャマルが円形のモニターのような物を展開し、闇の書のコアと思われるものを映している。

「コレを転送できればいいのね」

「そう。リインフォース、私の力、使えないかしら」

「済まない、流石に神霊級の連発は堪える……」

「みんな! もうちょっと頑張って!」

 シャマルが声を上げる。

 でもそんな必要は無い。

「転送準備は?」

「できてる! けど、あれじゃ……!」

「よっ……と。はい。転送」

 シャマルのモニターに腕を突っ込み、能力で掴んで引き抜く。

 それをユーノ達に差し出す。

「げっ……! アルフ!」

「ああ!」

「「転送!」」

 二人の魔法陣に挟まれたソレは、一瞬にして空間ごと縮む様に消えてしまった。

「……うん」

 ソレを持っていた私の腕ごと。

「まぁいいや。よし」

 能力で死なない程度まで止血。完全に止めると怪しまれる。

「よしじゃないよ⁉︎」

「ごめん! 今すぐ戻す……!」

「戻したらついてくるでしょ。いいよ、シオンに作ってもらうから」

 周りが慌てても気にしない。死ななきゃどうとでもなるのが今の私。

「作る……?」

「ね、リインフォース。腕くらい作る能力あるでしょ?」

「ああ……それは安心していい。回復すれば私が作ろう」

「うん……お願い」

 無事腕の確保もできた。

 あとはアルカンシェルがどうかっていう話だけど……

 〈みんな、お疲れ様! 無事終わったよ! あとは経過観察とか残骸撤去があるけど……ひとまず終了! 〉

「……ふぅ」

 エイミィからの通信があり、気を緩める。

 さて……

「クロノ、八神さんとリインフォースを医療室へ。シオンと同じとこでいいから」

「あ、ああ。みんな、転送する……おい?」

「ん?」

 クロノが周囲を見渡すと、一点で止まる。

 その視線の先には想定通り、意識を失った八神さんと、声をかける守護騎士たち。

「リインフォース、行ってあげなよ」

「……いや、このまま送ってくれ」

「そ。じゃあクロノ。あのままだって」

「分かった。全員の転移を」

 

 ♢♢♢

 

 その後は治療を受けたり、守護騎士たちのチェックだったりが行われ、シオンや八神さんの治癒が終わるまで自由時間とされた。

 闇の書の闇も活動再開は確認されておらず、事件は無事終了との事だった。

 そして、それからは魔法とも離れ、やはりいつも通りの生活に戻ろうとしていた。

「……終わったばかりですまないが、三人とも、話があるんだが」




細々した描写や緊張感の演出ができなかった。
どうしたらいいんだろうねと思うと共に型月要素を取り入れ過ぎだと思いました。


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第55話 終わりと始まり

「封印指定……そうですね。貴女たち……いえ、私が元いた世界ではそういう扱いでしたね。ですがこの世界に時計塔はありません。なので私は単なる一般人……貴女は、違いますがね」
単調な、無感動な声が聞こえる。
ゴドーワード・メイデイ。神が言葉を乱す前に使用されていた、言葉で物事を表すのでは無く、世界に意味を決定させる統一言語を話す。それは二つある私の能力のオリジナルの一つらしい。
「現に私はこうやって死の間際にいるんだからね……というより、貴方がそうさせたんだろうけども」
「あなたには多少なり……いえ、程度で言えば荒耶より期待していたのですがね」


「闇の書を……破壊?」

 場所を移し、街を一望できる公園で明かされる、リインフォースの願い。

 既にクロノを通して管理局からは肯定されているらしいその願いは、肝心の主にだけ届いていないそうだ。

「ああ。プログラムを破壊しても、闇の書がある限り再び、いつか再生するだろう。もうそれを許すわけにはいかない」

 闇の書の闇、ナハトヴァールと呼ばれる防衛プログラムは、闇の書がある限り防衛プログラムを生成し、再び闇の書として暴走を始めるそうだ。

 夜天の書としては、もう完全に修復はされない。

 シオンの能力も、他の世界から引っ張ってくるだけだからこの世界の能力である夜天の書は使えない。

 八神さんを救う手段は、現時点、防衛プログラムが無い状態で闇の書を完全破壊すること。

「でも、そんなことしたら!」

「守護騎士システムは切り離した。消えるのは私だけだ」

 高町さんの指摘にも、少しの後悔に目を染めるだけで返すリインフォース。

 八神さんの生活、自身の過去、自身の未来、世界の平和。

 それらを総合して、自分が消えることが正解だと結論付けてしまったのだろう。

「そんな……今までずっと苦しんできたのに、たったこれだけで消えちゃうなんて!」

「……ありがとう、そんなに私を気にしてくれるのだな。だが他に無い。主も今回の件でようやく解放された。それで十分だ。せめて余計な苦しみを与えないよう、知らぬ内に消えた方がいい」

「……バカにしてる」

 態度を崩さないリインフォースに、少し反発を覚える。

 その思考は、正に私だ。

 自分のせいだと思い込み、迷惑をかけまいと自分を隠し消えてしまう。同級生とすれ違うのさえ躊躇った日々は、本当に正しかったのかと今でも思う。

 だからこそ、正解を探すんだ。死ねばいい、殺せばいいで終わっていいのかどうかさえ、まだ分かってない。

「……」

「八神さんをバカにしてるよ、それ。八神さんはそんな魔導書なんて欲してない。ただ一緒に暮らしてればいいんだ。何かあったなら、また私たちが手を貸す。先行した解決は本人以外納得しない」

 八神さんも、シグナム達がいるだけでとても変わった。

 お嬢様や高町さんと知り合ってから、この事件を通してクロノたちと知り合ってから、どうなるか、それが気にならないはずもない。

「……そうだな。そうかもしれない。だが、次どうにかできるとも限らない」

「我々が信用できないというのか? リインフォース」

 会話を切るように現れた守護騎士三人。

「……! 将……主は……」

「まだ眠っている。シャマルが付いてはいるがな」

「……すまない。お前たちにも迷惑をかけた」

「謝るくらいなら一人で消えようとすんなよな」

「主と話した時間も、そう長くないのだろう」

 ヴィータとザフィーラの言葉にゆっくり頷き、飲み込んでいる。

「……ああ。だがそれでいい。短くとも濃い時間だったと確信しているし、主を喰わずに済んだのは、そのお陰だ。お前たちには本当に感謝している。ようやく私は、望みを得たのだからな……お前たちはもうシステムから切り離されている。これからも、主を頼む」

「……立派だ、とも言い難いな。すまない」

「ありがとう。烈火の将よ。いや、シグナム」

「ああ……主の事は任せておけ」

「ああ……」

 身代わりという表現になる守護騎士達からは、思いはあれど言葉にするのは難しい様だ。

 ……当たり前だ、本来なら消えるはずを生かされて、一人消えようとするリインフォースにかける言葉なんて、無い。

 それでも、この短い時間、それで十分な様子だった。主を想う気持ちは同じ、それを確認したように。

「シグナム! ごめん!」

「あかん! そんな事許せへんに決まってるやろぉ!」

「……主⁉︎」

 坂の下から、泣きながらもこれでもかというほどの速度で車椅子を走らせる八神さんが。

 シャマルも一応付いてはいるけど、追いつけてない……

「ダメ! いやや! 禁止!」

 守護騎士を退け、リインフォースのすぐそばにまで車椅子を寄せた八神さん。

「……主、申し訳ありません。不出来な魔導書は、その願いを聞けないのです」

「ダメや! 暴走なんてどうでもええ、まだ何か探せるはずや!」

「……主」

 駄々をこねる子供を優しくあやすように、ただ呼びかけるリインフォース。

「ウタネちゃん! なんかあるんやろ⁉︎シオンの能力は⁉︎一つくらいあるんやろ⁉︎」

「……ごめん、八神さん。リインフォースからの話を聞く限り、私にも思い付かない。時間を戻したりするにも長過ぎる。単に修繕すればプログラムが復活する」

 私の能力ではとても無理だし、リインフォースにさえ夜天の書の原型が無いとなると、復元もできない。

 上書きされたデータを消すには、元のデータも消さなきゃならない……

「主」

「いやや! これからやのに! あれだけ頑張って、これから……やのに……!」

「主。それで十分です。今私は心から満たされている。主にこれだけ想って貰える魔導書など、世界に二つとあるでしょうか」

「リイン……フォース……」

「はい。あなたがくれた、この世で最も美しい名前です。優秀な魔導師も、騎士たちも、これだけが私のために集まってくれている。それで十分です。私は一生分の幸福を感じています」

「……嘘や。嘘や言うて!」

「八神さん……」

 どちらの望みも万全に叶えられないこの状態。

 救えるのなら、ただ一人。

「シオン。来い」

 声色を殺して呟く。

 五秒と経たないうち、シオンが隣にいる。

「シオン……」

 八神さんが小さく呟いた。そしてじりじりと迫っていく。

「はぁ……身体がまだ万全じゃないんだが……やっぱこうなってたか」

「シオン、お願いや、なんとかして! リインフォースを助けて!」

 頭をかいてため息をつくシオンに八神さんが泣きつく。

 それをシオンは面倒そうに見下ろしていた。

「……オレの知ってるお前は、もっと自分に強かったんだが……変えちまったのは姉さんか。オレの能力だって万能じゃない。出来ることと、出来ないことがある。それくらいは理解しろ」

「……」

 分かっていた、万が一の希望に縋っていた八神さんは、今にも泣き叫びそうな程に顔を歪める。

「シオン、ホントにどうにかならない? 万事解決じゃなくても、ちょっと期間を伸ばしたりだとか……」

「私としては、決心が鈍る事はしたくないのだが……」

「あのなぁ、姉さん……」

「シオン。ホントに、本当に、どうにもならないの?」

 最終警告。シオンの本心を引き摺り出す。

 押して、押して、押す。

 他のみんなもシオンを見つめ、その返答を待つ。

「……闇の書を残す手段はある」

「……え?」

「ホントに?」

「まだ騒ぐな。まだな。はやてとリインフォース、姉さん以外は向こう行け。話は聞いていいが声を出すな。出した瞬間全員殺す」

「「「……」」」

 青い眼で殺意を示すと、あのシグナムでさえ忍び足で隅へ移動した。

 そして木にもたれかかってから話を始めた。

「……手段はある。が、お前ら三人の承諾、つまり同意だ。その同意でもって闇の書を残そうと思う。それはいいか?」

「なんでもええから! お願い!」

「……内容によるな」

「私はいいけども」

「じゃあリインフォース。お前からだ」

「……ああ」

「他二人の同意が得られたとして、お前はこの世界に、どの様な形であれ残る事を望むか?」

 リインフォースに向き合ったシオンが、問う。

「夜天の書と、その管制人格としてか」

「ああ。今と基本的な事は変わらない」

「期間は」

「無期限。主が死ぬまでだ」

「……ああ。望むとも。私の唯一の望みだ」

 神妙な雰囲気のまま、同意を口にするリインフォース。

 シオンはそれに頷き、よし、と返した。

「次だ。姉さん」

「うん」

「姉さんはその手段の工程に噛んで貰う。その際にオレの能力を使うが、姉さんも負荷を受けるかもしれない。失敗は想定していないがその場合、死ぬ可能性もある。それでいいか?」

「待て。それは却下だ。私の為に死ぬ可能性など作る必要は無い」

「でも……いや、そうや。それは違う! 元はと言えば私らの問題や。ウタネちゃんが巻き込まれんでもええ話や!」

 シオンの言葉に二人が反論する。

 どちらも私を気遣ったものだ。自分たちの望みを目の前にしているというのに。

「八神さん」

「……はい」

「私はあなたの為なら管理局すら敵にすると誓ったし、シオンを信じてとヴィータに言った。それは嘘じゃない。あなたを助けたい思いは変わってないんだよ。シオン。いいよ。それで」

「……反論を却下、同意を受ける。最後にはやて。いいか?」

 シオンに投げ、話を進める。

 シオンの言う想定しない可能性なんてあって無いようなもの。あったとしても心配してどうこうなるものじゃない。

「なんでもええで。覚悟はできてる」

「そうか。なら話が早い……この工程によりお前は、夜天の主としての全てを失う」

「……え?」

 まず言葉を失った八神さん。

「話が違う。主が……」

「違わない。オレが提示したのは闇の書とお前がこの世に残り、防衛プログラムの完全消滅を達成する事だ。どのような形で、というのはそういう事だぞ」

「……なら、どうするというのだ」

「工程か……いいだろう。同意はその後でも良い。聞いてよく判断しろ」

「……うん」

 手順説明という形で二人を黙らせたシオン。

 リインフォースから闇の書を受け取り、パラパラとめくる。

「まずお前と闇の書のパスを完全に切り離す。これはリインフォースが内部から可能なはずだ。できなくてもオレがする。これによってお前は夜天の主として全て、プログラムからの侵食の可能性も失う。それを姉さんに繋ぐ。完全にな。それもオレがやる」

「待て。確かに切り離す事は可能だ。だが、正規の主さえ喰い殺すプログラムだ、他に出せばどうなるか……」

「そこも話すから待て。繋いだ後に姉さんの中から防衛プログラムの概念から殺す。それで闇の書もお前もそのまま、プログラムの再生成を無くせる」

「概念を、殺す……?」

「プログラムを消す能力はある程度ある。が、どれもこれも神秘が高過ぎる。手っ取り早いオーバーヘブンなど持っての他だ。世界を騙し続けるどころか書き換えるんだからな。そこで使うのが帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)。姉さんという世界を限定し、プログラムを邪悪として『無かったもの』とする。これは自身には使えないが外で使うには重過ぎる。が、姉さんは何よりもオレに近いから、人間一人分という最小の負荷で発揮できる」

「つまり……私を一度殺して蘇生させるのね?」

「まぁそんな感じだ。能力が終わるまでオレが待たなかったら死ぬ、って感じだな。書き換えるより作り直す方が負荷が小さい」

「ふーん。いいけど。八神さんはそれでいいの?」

「主はやて。一時の感情で判断してはいけません。私さえ消えるのなら、魔法も騎士たちもあなたの元に居続けます。それを失ってまで、ご友人を危険に晒してまで私が必要かどうか、よく考えてください」

 リインフォースが私に対しての八神さんの返答を止める。

 〜まで、どうか。誘導尋問的になってるけど間違ってもない。けど間違ってる。私は殆ど危険じゃないわけだし。

「シオン」

「決まったか?」

「私の魔法なんてどうでもええ。足も治らんでええ。リインフォースがおらな……魔法なんてなんの意味もあらへん! シオン! お願いや! リインフォースを助けて!」

「……いいだろう。全員の同意とする。リインフォース、契約解除を」

「……主、これで、良かったのですね」

 八神さんとのパスを切り、誰のものでも無くなった闇の書がシオンの前に浮遊する。

「もう主ちゃうよ。せやからはやてって呼んでな。リインフォース」

「……はい。はやて」

「敬語もダメや」

「……ああ。わかった」

「うん♪」

 二人の役割は終わり。

 後はシオンと私の番だ。

「姉さん、魔力を流せ。パスを繋ぐ……よし。契約成立だ。これで夜天の主と名乗れる。が、次だ。ウタネという世界を、数瞬とはいえ消し去るものだ、覚悟だけしとけ」

「分かったっての。早くして」

「……世界の歯車を舗装する。今こそ変革の時。今こそ審判の時。この廻剣は悪を経つ──」

 自分が浮いている様な錯覚を持つ。

 それは事実錯覚ではないかもしれない。能力故の実際なのかもしれない。

 自分という、認識されている存在だけが捉えられている、と表現できるかもしれない。

帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)

 すとん、と自分に戻る。

 豆腐のように軽く両断された様な感覚もあり、何もなかった実感もある。

「どうだ? 体や記憶、五感に機能は」

「うん……別段なんとも、ないと思うけど……」

 手を握ってみたり、能力を使ってみたりするけど、特に変わったことは無い。いつもの私だ。

「まぁいいさ、不具合があればまた言ってくれ。それで本題だが、どうだ? プログラムの再生具合は」

「……無いけど。夜天の書のプログラムで何か再生させてた?」

「え?」

「ん? え? 何か変な事言った?」

 シオン以外が驚いた顔で私を見る。

 ……なんで? 何か工程忘れてる? 

「シ、シオン? 記憶ぶっ壊れてない? ウタネちゃん大丈夫なん?」

「ああ、これで良い。言ったろ、概念を殺すってな。元々防衛プログラムなんてモンは夜天の書(……)には無かったのさ。造られた世界の外にいるオレ達はそれを忘れてはないがな」

「闇の書の防衛プログラムの存在を消し、ウタネの存在をゼロから今まで作り上げる……確かに、再生成など有り得ない……」

 リインフォースが顎に手を当て、納得するように呟く。

 他の人はポカーンとしてる。私も。

「これでもうお前らはウタネのものだ。まぁ姉さんが魔法使えねぇから使えるようになるかするかしねぇとなんだが」

「まぁ解決って事でいいのかな」

「そうだな……ふぁ……わり、オレはもう寝るぞ。能力の使いすぎだ。回復するまで学校も行ってくれな」

「分かってるよ。お疲れ様」

 心底怠そうなシオンを労う。我ながらよくやってくれたと思う……一人じゃできなかったからね。

「ふぁ……あ、そうそう、お前らさ、魔法がどうの足がどうの言ってたけどな、コレと関係ねぇからな。魔法は自力で使えるし足もその内治るさ……じゃあな」

 そう言い残して消えるシオン。

 残した言葉はシオンが進んで言うとは思えなくて、祝福なんじゃないかとも思えた。

「……新たな主よ」

「ウタネでいいよ。面倒くさい」

「では、その……その身を危険に晒してまで夜天の書を、はやてを救ってくれた事、感謝してもしきれません」

「……なに、急に」

 誰かの上にも下にも着いたことのない私は、そう言った物言いがとても苦手だ。これからどうこうという訳でもないのに。

「そうまでしてもらって、その、誠に勝手ではあるのですが……守護騎士はどうか、はやてと共に暮らすよう許して頂けませんか。全てを失うという条件は、やはり、その……」

「……何言ってんの」

 あまりに見当違いな申し出についトーンが落ちる。

「そやで、リインフォース。勝手はあかん。たまに遊びに来てくれるだけでも十分やから」

「全くだよ。勘違いもいいとこ」

「……すみません」

 八神さんの言葉も勘違いで、リインフォースが目に見えて落ち込む。

「あなたも行くんだよ。八神さんの家に」

「……え?」

「守護騎士も、リインフォースも、八神さんの家で家族として暮らす。命令だよ」

 そもそも新たに五人も迎える余裕は我が家に無い。

「……ウタネちゃん、ええの?」

「シグナム、八神さんに寂しい思いをさせたら、今度こそ私が殺すよ」

 シオンが帰った今でも公園のすみっこで見ているだけのシグナムに声をかける。

 リインフォースの能力連打を見てると逆らうこともできないんだろうな……

「……ふ、いいだろう、新たな主よ。我ら守護騎士、その命だけは全霊をかけて守ってみせよう」

 今までで一番の不敵な笑みを浮かべる。

 他の騎士も、それだけはと言わんばかりの雰囲気だ。

「そう。それは良かった。じゃあもういいよね。帰ろっか」

「はい。我が主」

「ウタネでいいってば」

「では、ウタネ様で」

「うーん……まぁいいや。よかったね」

 様付けも違う……けどいい、かな。

 リインフォースがいいならそれで。

「……はい。改めて、有難うございます。二人も主を頂いたのも初めてですが、これほど素晴らしい主もまた初めてです。私は、世界で一番幸福な魔導書でしょう」

「そう……それは良かった。八神さんをよろしくね」

「勿論です。その命に限り、我らは何があろうと手を抜かず、反旗を翻す事もないでしょう」

「……だってさ、八神さん。告白だよ」

 そういう志? 誓い? は嫌いなので濁す。

「ちっ⁉︎違いますよ⁉︎」

「なんやリインフォース、やっぱ私のことそんな目で見よったんか?」

「違いますぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 体を隠そうとする八神さんとキャラに似合わず叫ぶリインフォース。

 ……少し前までの緊張感は一切感じられない。

 今日まで管理局と守護騎士の両方で動いた反面、互いの信用を落とし、結局は何もしていない私。それが最後には八神さんから夜天の書を奪う形で解決させてしまった。

 この雰囲気は嫌いじゃないけど、それが正しいのかはまた闇の中。この答えも見つかる事なく忘れていく。それは、私も人間だからなのか。

「じょーだんや、じょーだん。なぁウタネちゃん、この後ヒマか? ウチで軽い宴会みたいのしてもええかなー思てんけど、良かったら」

「……もちろん。シオンも起こすよ」

 折角のお誘い。リインフォースと仲良くするためにも機会はものにしていこう。夜天の書についても聞きたいし。

「や、シオンは流石に無理やろ……なのはちゃんとフェイトちゃんはどうかな?」

 シオンは起こしたら来るよ。

「勿論!」

「私も。クロノは後処理で難しいかもだけど……」

「あ、ユーノ君は大丈夫だと思う!」

「みんな誘いや〜? あ、すずかちゃんたちはどうなんやろ。流石に遅いから無理やろか」

「んーどうだろね。高町さん連絡取れる?」

「うん! 誘ってみる!」

 簡単に話は進み、お嬢様たちも混ざって食事会が行われた。

 私とシオン、八神さんとリインフォースがメインで料理を作り、シグナムとヴィータがメインでシャマルを台所から追放した。

 クリスマスの夜としては十分なものだと思うくらいには楽しいパーティだ。

 ……料理を作った四人の体は、戦闘の負荷でボロボロだという事を除けば。




一応これで、闇の書事件、A's編は終了となります。
続き……日常編か、strikersまで飛ばすかは分かりませんが……を書くか、他の作品に手を出すか。それも分かりません。
この様な駄文に目を通していただきありがとうございました。


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閑話 ウタネ死刑編

A'sあたりからの前書きにちょっとずつ載せてたやつです。
闇の書にウタネも取り込まれてコレと繋げて、みたいのも考えてたんですけどなんかボツにしてました。
やっぱり型月成分多めなので分かりづらいかも……というか私が間違ってるかもですけど。


 揺らめく夕陽に晒された無の荒野で、二人は対峙した。

 ふー、と息を吐き、目の前に立つ男を見る。

 眼鏡をかけた中肉中背。至って『普通』と形容される男は、しっかりオレの知識に刻まれていた。

 ゴドーワード・メイデイ。神が言語を乱す前、メディアの神言より数ランク上の言語。世界に意味を決定させる、相手が話せないからこそという前提があれど、抵抗不可能の能力者。

 そんな奴が、何故かオレの能力にある固有結界の一つ、『偽・無限の剣製』に入りこんでいる。

「オレでは分が悪いな……」

 首に左手を当て、7回人差し指でつつき、手のひらを添え、目を閉じて首を左に傾ける。

 オレ(……)が生まれてから幾度と無く繰り返してきたこの動作を、滞りなく完了する。

「……はじめまして、ゴドーワード。()に何か」

 自分自身へのバトンタッチとも言える動作は、これ以上無く速やかに私の意識を切り替える。

 私にも分かる、異形の魔術師。魔術を用いず、魔術の最終点に辿り着いた男。

「ええ。貴女を始末()しに来ました」

 偽神の書は静かに告げる。

 互いに仁王立ちのまま動かない。

「あら……まぁ。できるならどうぞ」

 鎌を取り出し、無造作に降ろす。視線は男の口。彼の言葉が発せられる前に切る。

「──」

 今! 

【縛れ】

「⁉︎」

 男の頭の周りを丸々固定。話すどころか呼吸すら不可能なはずだ。

「甘いんじゃない? 下位だからってナメてるよ」

 箭疾歩で距離を詰め、全力で鎌を振る。狙いは当然、即死を狙える首。

 視線をズラし、ノーモーションから加速できる歩法からの一撃は、吸い込まれるように男の首に滑り込み……

 バキ、という音と共に止まる。

「……え?」

 男の指が刃に食い込み、今にも砕かんばかりに亀裂を入れている。

 更には刃だけで数キロはある鎌のフルスイングを片手で受けきった事になる……

 ゴドーワードは絶対言語だけで、身体能力は一般以下のはずじゃ……

「ふむ……想定以上、ですね。驚いている様ですが、なに、私も神から頂いただけです。神の特典……更なる能力を」

 私の能力の中で平気で話す男。

 鎌を掴んでいた指は離されたのに少しも動けない。少しでも『今』から外れれば……男の言葉に呑まれる予感が止まらない。勝てない……

 でも、いや、まだ。

【全て、止まれ】

 後ろに跳びながら言葉を使う。

 この世界全体、全ての気体をダイヤモンドと同等以上の硬度に固定する。厚さ数キロメートル以上のダイヤの壁。何をどうしても不能なはずだ。

「無駄ですよ。あなたの能力では私の言葉を超えられない」

 痙攣すら不可能なはずの中で簡単に歩いてみせる男。

 確かに固定してるはずなのに平気な顔を……! 

 なにより、私の手の内は全てバレてるのに、相手が一切分からない……

「ああ、教えてあげます。私の特典は『対終末』という……まぁ、サーヴァントで言うクラススキルの様なものです。終末をもたらす存在への絶対的アドバンテージ。子供向けヒーローのようで少し恥ずかしい気もしますが、私への終末は私を超えられず、全ての終末を私は上回る。私を終わらせる鎌は私が止め、世界を終わらせる能力は私を透過する。私に対して、『殲滅者』であるあなたが上回ることはない」

 感情があるかの様に笑う男。恐怖するのはその言動より能力だ……「対〇〇」はある属性に対して有利を得ることのできる特性。体感するとマジに絶望を感じる。

 聖ジョージことゲオルギウスは、竜殺しとして竜を持つ相手に対し有利を得る。その攻撃は竜の心臓を持つとされる……直接的なものではない、言うなら『弱い』竜属性を持つ騎士王アルトリアに対してでさえ、擦り傷が致命傷になり得る程のものだ。概念能力に対し物理的な防御は無意味だ。確かに攻撃自体を防ぐのなら効果はあるが、今私が相手をしている人間は私の攻撃を全て無効化し、上位互換とも言える能力を持つ。それが今私を殺しに来ているのなら。一つのミスどころではない。一秒ごとに生かすか死ぬかを決められているようなもの。生殺与奪の奪い合いは既に無い。水槽に置かれた一匹の蟻。見下ろす人間の手には殺虫剤と多量の水。今の私はそれに似る。この状況は私の反撃は無く、私が如何に死から遠ざかれるか、それだけだ。

「今の内に聞いとく……次は、どこかな」

「無いそうですよ。あなた達にはもう満足したとの事で、あなたの望み通り、死へ」

「……そう」

 単調に答える相手に、少しばかり落胆する。

 神と私。互いの暇をつぶすだけの生活で、とても良いとは思わなかったけど、関係の無い世界で生きていくのは悪くなかった。私が自分の世界について考え過ぎだったんじゃないかと少しは考えられるようになった。でももう次は無い……そうだ、私達の生涯。間違いだらけの人生を、今までの全てを後悔して、それを良しとして笑って死ぬんだって。

「では、お別れです」

 死の宣告。

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「「⁉︎」」

「オラァ!」

「ぐ……」

 男が飛ぶ。圧倒的破壊力は男の頰を確実に捉え、力の限り振り抜かれた。

「させない! ウタネを殺すなんて……させるもんか!」

「ソラ⁉︎」

 ここは私の世界……私か、神の送ったこの男以外は居られないはずなのに……

「おや、ソラさん。ウタネさんはあなたの敵なのでは?」

「そうだけど! 殺す必要は無い! 私たちが何もしなければ今まで通り仲良くできるんだよ! なんで簡単に殺そうとするの!」

「ですが、いずれ世界の敵となります。現に二つ、物語半ばで潰えた世界がある。次が来てからでは遅いのです。分かりますね?」

「わかんないね! 転生させるならまだしも、完全に殺すのは見過ごせないから!」

「……その結果として、あなたも死んでしまうとしても?」

「そうだよ! 私の手の届く範囲で誰かが死ぬのは許せない! 特異点でだって、私はぐだにもえっちゃんにも殺させてない!」

 人類史を護る抑止力とは言え、誰一人として殺さない心情は特異なことだ。それも、生きながらにして抑止力となり、『死ぬ事無く』転生しているソラだからこそかもしれない。

 決して終わりを認めないソラと、決して存続を許さない私たち。正反対であるからこそ分かること、信用できることもある。私がどんな才能、聖人であろうと構わず殺そうとするように、ソラはそんな私でさえ救おうとしてるんだ。

「……では仕方ありませんね。貴女の死、初体験は貴女自身──」

「っ!」

 根源の死神が足を運び、ソラが構えを取る。ソラの全力の突きは確かに命中した……自身の終わりに対しては、傷の回復も早くなるのか……

「ではなく、ウタネさんです。ソラさん。抑止の仕事です。彼女を、あの十字架へ」

「断る! なら私を殺せ!」

 対終末の対象外である為、私より少しだけ勝機はあるものの、ソラでさえ不利と言える相手だ。それでも、ソラは退こうとしない。

 無理だ……彼に逆らうことは……

【責務」「を」「果たせ】

「……⁉︎」

 くるりと彼に背を向け、壊れた扇風機のような歪な動作で私へ向き直るソラ。その表情には困惑のみ。自分の身体が動かせないのが理解できないのだろう。

「ウタネ……」

「ソラさん。あなたは、ただその責務を果たすだけ。抑止力としての働きは、人類を脅かすものを排除すること」

「ウタネ……私を、殺して……」

 今の彼の言葉で理解したのか、一瞬の無表情の後、怒られた小学生の様な……拗ねたような、落ち込んでいるような表情を浮かべた。

「無理だよ……」

「殺せ! じゃないと! 私が……あなたを……!」

「それでいい。それが、正しいんだよ。きっと」

「嫌だ! 私はあなたを殺したくない!」

「いいえ、大丈夫です。あなたはウタネさんを殺さない。ただ、十字にかけるだけです」

 

 ♢♢♢

 

「ごめんね……ごめん……ごめんなさい……!」

 足元から親友の泣き声が聞こえる。私は簀巻きのまま十字架に磔られ、首すら動かせないから姿は見えない。

「なんで貴女が泣くのかなぁ……」

「だって……あんなに仲良くしてきたのに……もっといっしょに居たかったのに……!」

 すすり泣く友。しかしその体は任務を遂行すべく、十字架へ薪を積んでいく。それは本人の意思であれ、できればしたくなかったという矛盾したものだ。感情とは本当に不思議なものだと、他人事を考える。

「……私は貴女たち生命体にとって、絶対的な脅威であり、敵対するもの。そして、それほどの脅威を無くすには、それ相応の力を持つものでなければならない。それに該当するのは、あらゆる抑止力の中でも貴女しかいない」

 どんな時代の英霊も、私の前では脅威とならない。終わってしまっている英霊では、ただの木偶。英霊という縛りから出られない存在では、限界は知れている。今生きて、それを貫き通す意思のある者にしか私を打倒し得ないだろう。その例外は、近くにいるが。

「でも……!」

「どうしようもないんだ。できる人がすべき時にやるしかない。私が数回繰り返した短い人生で学んだ事は、どんな世界であっても私の望む世界ではないという事だよ。私と同じ思想に出逢う事も、私の理想を叶える手段も無い。そして、そこの封印指定によって私は今この状況に限り完全に無力化されている。ショタロリコンの権能からすら隔離されてるから、今死ねば転生もなく死ぬ」

 抑止力をものともしないのなら磔にもされない筈、と思う人は多いだろう。だけどこの封印指定に限れば別だ。私の能力、シオンの体術を上回る能力に加え、能力を封印する簀巻きセット……シオンも私の能力と判定されるらしく、シオンの力で抜ける事も出来ない。

 そして、私に唯一発揮される抑止力、ソラ。しかし私……ウタネではなく、シオンを気に入り、ソラは私をカルデアへ、私はカルデアをこちら側へ、誘い誘われでよく分からない、とても不安定な立ち位置のまま友好を深めてきた。けれどこれで終わり。私の全てがここで終わる。

「封印指定……そうですね。貴女たち……いえ、私が元いた世界ではそういう扱いでしたね。ですがこの世界に時計塔はありません。なので私は単なる一般人……貴女は、違いますがね」

 単調な、無感動な声が聞こえる。

 ゴドーワード・メイデイ。神が言葉を乱す前に使用されていた、言葉で物事を表すのでは無く、世界に意味を決定させる統一言語を話す。それは二つある私の能力のオリジナルの一つらしい。

「現に私はこうやって死の間際にいるんだからね……というより、貴方がそうさせたんだろうけども」

「あなたには多少なり……いえ、程度で言えば荒耶より期待していたのですがね」

「何に……?」

 自身の感情を持たないはずの男が何やら深い言葉を使う。

「キーワードは『永遠』です。頭の早いキミなら分かるでしょう」

 永遠。

「いいや。さっぱり」

 数瞬置いて出た答えがこれだ。

 私は永遠など考えたこともなかった。いや、永遠なんて無いから、終わりある全てを無くしてしまいたいと──

「……そうか」

「分かりましたか?」

「終わりが無いのなら、それこそが永遠──」

「え……?」

 呟くそれは、正に私の全てを示すに相応しい響きがあった。

「そうです。キミ自身に自覚は無くとも、その片鱗は覗かせていた。いずれ死ぬのだから意味が無い、終わりある生命は不要なものだ、それはつまり、生きとし生ける──常に変化するもの全てを切り捨て、変化しない世界……観測者も、観測される対象もない。それはつまり、永遠なんです」

 我が意を得たり、とばかりに言葉を重ねる偽神の書。

 私はそれを否定できず、受け入れる。

 何故、いなくなって欲しいのに一緒にいたいと思うのか。

 何故、価値の無いものを失う事が怖いのか。

 何故、いつか終わるものを伸ばそうとしているのか。

 それは、ただただ変わっていくことを恐れただけだ。私はそれから逃げていただけだ。

「いずれ終わる進化は尊くなど無い。無駄な足掻きだ。いずれ終わる人生に勝ちも負けもない。全てが失敗だ。いずれ終わる未来に希望など無い。虚無だけだ。そうだ、私は、オレは……僕はいつだってそうだった」

 もう、躊躇わない。

 弱肉強食のルールがある様に。ヒトが自然破壊をやめない様に。

 同じ様に、やる事だけをする。

「ウタネ……?」

 

 

 ──今日も楽しかったね! 

 ──そう、それは良かったね。

 ──◯◯は、楽しくないの? 

 ──僕はダメだ。理想が遠い。楽しいと、良いと思う理想が遠い。

 ──遠いと、楽しくない? 

 ──その場限りなら楽しいよ、それなりに。でも夜には辛くなる。なんであんなもので楽しんでたんだ、所詮そんなものか、って。理想が遠過ぎて、今が嫌になる。理想は必ず今じゃないから、今が嫌になる。

 ──でも、今しかないよ? 

 ──今じゃなくて良い。でもきっと僕はいつか手にする。理想を手にする。その時まで、僕は……私は、オレは理想を望まない。

 

 

「もうダメだ、ゴドーワード。起こしてしまったぞ……この僕を」

 十字架を抉り切り、全ての拘束を解除する。

 ソラの両足だけ固定して、ゴドーワードに歩み寄る。その距離は六メートル。

「ええ。それこそが神の望みですから。ホントウのキミが見たいと」

 まるで自分もそうだ、と言う様な、ピエロの様な歪んだ笑顔。自身を持たない人が見せるこんな顔は、正しく自覚していない本心。同類にこそ理解できる、ヒトならざる愉悦。

「やっぱりそうか。でも感謝しておこうかな。これでやっと、僕は僕のやりたい事をやれる。それが、僕の理想だ」

「それも無意味なのでは?」

「そうだよ無意味だ。でも他がするより価値はある。僕一人で何十億という無駄を消せるんだから」

 能力対象は数を選ばず、射程の概念も無い。いるのなら殺す。それだけの能力。

 それを、刀という一点に集中させる。世界全てを破壊できるエネルギーを、概念を、ただ一振りに。

「それでは私の永遠が果たせない」

「だからこそ、敵対しかない」

 在るモノを保存する、それはソラとこの男に共通する考え方。

 そういう意味では、僕はずっとこの男を前にしていたのかもだ。

「良いのですか? 貴女の能力のオリジナルは私と、別世界の天人でしょう? 材質の変化という唯一性こそ手に入れたものの対象制限を受けている。それでは私に届かない」

「確かに、能力では勝てないさ。多少の互換性こそあれど基本的にはこちらが下位だ。だけど総合的に下位という訳ではない。貴方自身には何一つ強さは無い。ウタネにすら劣りかねないフィジカル、圧倒的技術の差。これらから見ても、貴方の口を封じる可能性はなくもない」

「……成る程、確かにそれはそうです。何も能力のみを競う試合では無い。私とキミの、その全てを賭けた勝負なのだから。確かにそれならば。私の言葉よりキミの速度が速ければ。私を上回りうるかもしれない」

「開始の合図なんてないよ、ソレを話そうとしたら斬る」

 能力では勝てない以上、使わない。男は僕に直接言葉を使えるのに対し、僕は無機物を挟まないといけない。一瞬の勝負で、その隙は致命的だ。

 だが対終末は根源により近い僕には効かない。

 だからこそ、話す前に切る。その口さえ閉じれば男に脅威は無い。

「かつての式君を思い出しますね。実質的な速さに関しては彼女すら上回りそうだ」

 偽神の書の口が微かに揺れる。明らかにこの現在に存在しないはずの動作だ。

 有無を言わせず跳ぶ。視線はソラへ誘導し、少しでも『言葉』を遅らせる……

【死ね】

 唯一。現在で唯一、この能力、この言葉に影響を受けた能力を保有する僕だからこそかもしれない。今まで聞いたことのない絶対的な命令が全身に響く。

「……っ」

「ウタネェ!」

 残り二歩、時間にして百分の一秒も要るまい。その距離を残し、僕は膝をつく。

「なんだ……そんな簡単な命令でいいのか……」

 全身から力が抜け、体温が急速に下がっていくのを感じる。

 ゴドーワードは『場所、人物』『接続詞』『動詞』の三つからなる命令文だと思ってた。【あなた」は「死ぬ】、最速でもこうだと……だけど違う。封印指定はこうなんだ。どこまでも底が見えない。撫でれば殺せる相手が、二歩先に仁王立ちしているのに……これ以上、近付けない……

「嘆くことはありませんよ、双神さん。あなたは間違いなく、今まで私が出会った中で最強だ。だからこそ。私は全力を尽くした」

 全力、か……確かにそうだろう。最速最短にして最高最強の言葉だ。

 この世界に僕がいる以上、彼の言葉には逆らえないし、回避もできない。見誤ったのはこちらだ。武器も射程も無意味だった。

「……封印指定、ゴドーワード・メイデイ。玄霧皐月。有り難う、これで世界は平和だ。どんな悪逆な組織でも、僕や『』に比べれば優しいもの。彼ら全てを束ねても届かない脅威を今、あなたは排除した」

「キミ、いえ、君達は勇敢だ。自分の思うままに世界に立ち向かったのだから。もし私が、僕がいない時にキミが目覚めていたら。想像するに易い」

「僕じゃなくても私ならするさ。現に二つは消えてるはずだからね」

「それでもキミ無しにはあり得ない。ソラ君達を助ける為に使った空間跳躍、それは能力によるものと、キミの力も必要だったはずだ」

「僕があっての能力、僕があっての私だ。それは僕がなくても成立し得る。結果は何も変わらない」

 勝負は付いた。

 後は気の済むまで問答を続けるだけ。

「そうですか。ではそうしておきましょう。最後に何か、ありますか?」

「……では聞こう、ゴドーワード。何故そこまで気づいて、無視しているんだ?」

「……」

 男は無表情のまま、何も話さない。

「空間跳躍が僕の領分と気付いていながら、なぜ僕をウタネだと思っている?」

「……」

 男は、何もしない。

「僕の勝算は絶対だ。僕を相手にしているつもりなら、舐め過ぎているとしか言えないな」

 お望みの空間跳躍により上空、左右から能力によるカマイタチを飛ばす。

「……」

 男は、表情を変える事なく膝をつく。

「……引き分け、ですかね……」

 両腕は肩から落ち、膝裏がパックリ切れているゴドーワードが、現実を理解するのに二十秒を超え、ようやく呟く。

「何故ウタネは右目が見えないのか、何故ウタネとシオンの思考と能力が食い違っていたのか、それは簡単。単に僕の付属でしかないから。ウタネの右目は僕の右目。ウタネには見えてなくても、僕はちゃんと観ていたよ。表に出なくとも、外界から一番遠く、一番近くで観察するにはこうするのが最適だった」

 僕の能力の世界。ウタネには赤く、無機物のみを映すものだったはず。

 映らないものは僕の方へ流れていたから。能力は目がないと制御できないから、使う時は半分だけ視界を譲っていた。

「ウタネのフィジカルが僕より弱かったのは、僕とウタネを同時に維持する必要があったから。二つの精神を維持する為に、肉体は消耗していたんだ。シオンはその逆。シオンは両目ともシオンだ。僕は一切干渉しないからこそ、僕のフィジカルそのままを使える。けれど僕の影響を受けていないから、能力が使えない。なら僕はどうか? 僕から流れたものだから当然、どちらも使える。シオンの剣術や空間転移。距離なんて関係ない。どこにいても関係ない。どう防御しても関係ない。僕がやるといえば成る」

「アナタは二人のオリジナル……長所を合わせただけでなく、本来の空間転移すら所有している……ウタネさんの戦闘時、口癖のように口にした『できないはずはない』という言葉。これは貴女の、現実改変のキーワードですか」

「その通り。頭が早くて助かるよ。と言っても、僕も死ぬ事に変わりはないが。そこの拘束から出た以上は次があるだろ?」

「安心して下さい。実の所、アナタを殺す気など無かったのです。ああいえ、この時点では死にますが、どう転んでも転生させるつもり、という事です」

「はぁ?」

「これも単なる暇つぶし、という訳です。アナタ程のオモチャは、彼には中々無いものなのでしょう」

 根源を捕まえてオモチャとは、随分と傲慢なものだ。

 両儀だったら即キレてるはずだ。

「……神さまだっけ。僕はまだ会ったことはないけど……一度手合わせ願おうかな」

「それも良いでしょう」

「だが、僕はまだ死ぬ気は無い」

「それは不可能です。私の言葉の力、君は完全に理解しているのでしょう?」

 完全に根源では無い……あくまでかなり近いだけの僕は、バベルを無力化はできない。それを改変してしまうと、あらゆる現在が改変される。バタフライエフェクトまで対処出来ないのが難点だ。

「分かってる。今更どんな治癒も蘇生も無意味だと。その上で言う、まだ僕は死なない。『キラークイーン・バイツァダスト』……時間は1時間程巻き戻り、僕以外の死すべき定めの者は死ぬ。後1時間だけいてあげる。そこで僕はあなたの言葉から逃れ、ちゃんと死ぬよ」

 シオンの能力も、しっかり使える。

 負荷なんてのは改変で無くす。わざわざ能力で戻すのは、運命の死を作る為。

「……いいでしょう。私は君を起こすという目的を達成しましたから」

「起こすだけ無駄だったけどね。次の転生ってのがあるとしても、僕が出たのはこの世界。別の世界ではまた起こしてね。この世界は僕が死ぬ前に殺すから」

「……さぁ、どうでしょうね。私には次があるかわかりませんので」

 僕だけに優しいなんて、ご都合な神もいるもんだ。

「その神に言えばいい。ウタネと次の世界で暮らさせてくれって。ウタネは多分オーケーするよ」

「……冗談を。仮にも元教員です。教え子と同年代の子と暮らすなどあり得ない」

「残念。じゃあもういいかな。何せ僕も十数年振りだ、疲れてきた」

「そうですか。ですが良い運動だったのではありませんか」

「そうかもね。でもまた暫くは控えるよ。神の概念さえ変えてしまうと根源に怒られるからね」

「結局、アナタでも人類を消す事はないのですね」

「……まぁ、ソラがいるしね。ソラが死んだ時が、真に僕が解放される時だ。それまでは生きていくよ」

「そうですか……」

「じゃあね。報われない天才さん」

 時間を巻き戻す。

 一通りを同じく行った後、僕はまた、ウタネの底に引っ込んでいくだろう。

 次に体を使う時、ソラが生きている事を信じて。



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第56話  説明旅行

「……なんでオレが……こんな事を……」

 いつか来た、ジュエルシード因縁の地。

 福引き旅行で来た旅館の一室で、シオンがいつもの殺意を交えた目でため息をつく。

 シオンは知らないけど、闇の書戦の際に魔法を説明する、と言ってしまった故に、無理矢理連れてこられた訳。尚お嬢様二人の家の力で貸切。

「えーやんえーやん」

「ていうか、アンタそもそも誰なのよ⁉︎結局ウタネのそっくりさんって事しか分からないんだけど!」

「あ、それ私も聞きたい! ウタネちゃんも信用してるからって聞かなかったけど」

「私も、いいかな?」

 シオンの部屋で、シオンが隅に追いやられている。

 背の低い円形の……ちゃぶ台? みたいな机にお嬢様方、中庭側の窓際に車椅子の八神さんとリインフォース、私は入り口ドアの反対側のすみっこ。

 魔導師三人と金髪お嬢様に迫られ、本題に思い当たったのか嫌悪を消す。

「……説明、しなかったっけか?」

「私を見ないで。覚えてるわけないでしょ」

「だよなぁ……つってもな、そっくりさんでいいんだけどなぁ……」

 私からの返答は期待してなかったのか、説明を組み立てている様子のシオン。

「フルネーム、年齢! 性別! あと魔法とか能力とか! 喋りなさい!」

「なんでお前はそう暑苦しいんだ? バーニングスだからか?」

「なんで伸ばすのよ! 分かってて言ってるわね⁉︎」

 段々とヒートアップする金髪お嬢様。

 私は話を進めるようシオンにサインする。

「当たり前だバカ。話すから黙れ……さて、フルネーム、ねぇ……」

「なんでそこで考えるのよ。偽名は無しよ」

「安心しぃやアリサちゃん。今では心を読めるのはシオンだけやないんや」

「……能力の負荷も考えて欲しい」

 キラン、と顎に手を当て目を光らせる八神さんに、苦労人の表情を浮かべるリインフォース。

 八神さんの足は思いの外回復が早く、杖があれば自力で立つことができ、他の人の介助があれば歩く事が可能な程になっている。リインフォースや守護騎士は、大変だろうその役目を嬉々として行なっている。

 八神さん側に回る事は契約時に許可してるしそれを咎める気は私もシオンも無い。リインフォースは八神さんの家族なんだから。

「シオンでフルなんだよ。付けるならフタガミしかねぇけどな」

「ウタネの家族じゃないの?」

「家族っちゃ家族だが。違うといえば違う」

 この辺、とても難しい問題になる。

 この事件まで私はシオンを見たことが無かったし、向こうもそう。

 けど長い時間を共に過ごして、誰よりも理解し信用してる。

「リインフォース、判断」

「嘘ではない。私の目から見ても、その関係は家族であり、そうで無いと言える」

「そか、じゃあ見た内容全部言って。本人が喋る必要は無いしな」

「しかし、許されているとはいえ主の個人情報を勝手に話すのは……」

 家主に命令され、所有者との板挟みになり、こちらに答えを求めるリインフォース。

「別に……いい、よね?」

「ああ……分かりやすく話してくれるならそれでいい《だが、ロリコンについては伏せろ。最悪全員死ぬぞ》」

「……では。主……ウタネ様とシオン様は、元々一つの肉体を共有していた二重人格に分類されるものだ」

「……え?」

「嘘やろ?」

「本当だ。そしてそれが、なのはやユーノの前に姿を表すほぼ直前、ある事故で分離した、という事だ」

「多重人格……本でしかありえんモンやと思てたけど、実在するんやなぁ……」

「知らなかった……ウタネちゃんにそんな素振りもなかったし……」

「当たり前だ。厨二病じゃあるめぇし、言いふらしたりはしねぇよ。海鳴は頭湧いてんのか」

 シオンがナチュラルに煽りに行く。

 これでもまださわり、息をする様なものだから恐ろしい。

「……! っで? なんで多重人格になったんや?」

 怒りを噛み殺した八神さんが更なる質問を加える。怒らせると情報を得られなくなると考えたのだろう。

「それはオレからも言えん。姉さん、どうだ?」

「うーん、私の弱さになるんだけど、いいかな。確か前に高町さんとフェイトには少し話したし」

「話してもらったっけ?」

「覚えてないけど……」

 話した気がするけど覚えがない様子。

 話してなかったっけ。

「私、生物が嫌いなの。だから逃げるためにシオンに代わって貰ってたんだ」

「簡単過ぎるだろ……もっと環境含めて話せ……いや、いいか。すまん」

「いいよ、金髪お嬢様にも言ったもん、今後の関係をどうするかを考える良い機会だ。いっそ全部話すよ」

 紫お嬢様もシオンもいる。時間逆行の逃げ場も無い。

 この世界に来て初めて、ここまで追い詰められたのも初めてかもしれない。

「……いや、聞いといてなんやけど、無理して話さんでええで……?」

「面倒だから端折るけど、生命のいじらしさとか無価値さとか、そう言うのに嫌気が刺したんだよ。個人が何かを成しても結局死ぬ。集団で何かを成しても追い抜かれ忘れられる。社会で何かを成しても同じ。国も、世界も同じ。結局無くなってしまうのに、なんでそんなに何かをしたいのか、生きていたいのか分からない。だから、私は嫌いなの。それに耐えられなくて、シオンっていう殻に逃げた」

 八神さんの心配する声を無視して、話す。

 無価値、無意味を、問う。生きてる意味を、知りたい。

「……」

 とても簡単に、けど齟齬が起きない程度だと思う独白。

 そんな私を見るシオンの目は、申し訳無さとか、哀れみが滲んでいた。

「……反論は、無かったの? 思い出したよ、反論が欲しいって言ってたの」

 シオンと同じ様な目をする高町さんが、静かに口にする。

 言ったかな。分かんない。私しか知らなかった事実もある様に、紫お嬢様の能力で知らない私の発言もあるのかもしれない。

 ……けど、それも私の意見。答えるだけは答えよう。

「反論は有ったよ。けど私の求める答えじゃない。生きてる価値を問うてるのに、生きてると楽しい事があるだの死んだら悲しむだの……」

「無いなら無いで、なんで生きてんのか、だろ。そこまで言うなら飲み込むな」

 シオンが私に付け足す。

「シオンは、どう思うの? ウタネちゃんとずっと一緒にいたんでしょ?」

「オレもそれは間違っちゃいねぇと思う。何にせよ全て死ぬんだ、最終的な価値なんて何もない」

「の割には違う方針っぽいよなぁ。というか、それが普通なんやろうけど」

「はやてちゃん、どういうこと?」

「多重人格の多くは、心の負荷に耐えられなくなり現れるものだ。生まれつきでないなら尚更……ですよね。すみません、勝手に」

 八神さんにはリインフォースが付け足す。

「……構わん。主従関係でも気を使うな。オレ達はそういうのに慣れてない」

「はい……」

 シオンの厳しいような、優しい一言。

「そうだな、間違っては無いと思うが、一番じゃねぇ。オレはどうにか価値を探したい。カスしかいねぇ人間界で、その中で生きていく事の価値を。ま、それは独裁的なもんだ。人間は嫌いだしな」

 シオンは価値あるもの、つまり、学力腕力技術など、能力あるものだけを残した世界を望む。言うなれば洗練された世界を。

「ウタネちゃんはそれについては?」

「言ったよね、私は生物が嫌いなの。シオンは劣った人間がきらい。私は全ての生物が嫌い。シオンは好き嫌いがあるから分かりやすいだろうけど、私はずっと嫌ってるよ」

 私が望むのは、何も無い、生命活動の無い世界。言うなれば、完成された世界。

「その割には優しいやんか。自分で思ってる事とやってる事が矛盾しとるで」

「優しい……かな? わかんない。それも。シオンが嫌ってる人と違う行動を覚えてるからかもしれないけど、多分元から。八神さんを助けた事を言ってるなら、また別。高町さんとフェイトには言ったかな?」

 全能の神だって気まぐれを起こす。

 なら私だって気まぐれで動くことだって許されるはずだ。

 というか、あのロリコンが私を転生なんてさせなけりゃこんな面倒を被る必要も無かったんだ。ホント私に不利益な事しかしないな。

「えーと……海の水を、だったかな」

「そうだね」

 この発言はあったようで、思い出すように高町さんが答えてくれる。

「うーん? リインフォース、通訳」

「ウタネ様の生物を消すという目的を、海を干上がらせることに置き換える場合の話で、もし海の水を一瞬にして蒸発させる力があるのなら、自分で水溜りを作るのも、誰かが池を埋め立てるのも変わらない、ということだ」

「……ほー。それなら何か、ウタネちゃんは全生命体を一瞬で消す事ができると? 魔法も使えんのに?」

 リインフォースの説明を聞いて、八神さんが何かに思い当たる。

 私を見るその目は、罪人を拷問するなんてレベルでは無いものを放っていた。

「……」

 ヤバいかも。より面倒になりそう。

 それを聞いて他のメンツも根本的なところに行き着いてしまった様子。

「そういえばそうだよね。シオンは能力があっても負荷が大きいって言うけど……」

 高町さん……

「ウタネはそんな事言って無かったし」

 フェイト……

「それに魔法無しで空中戦しよったしな」

 八神さん……

「そう言えば、私と戦った時は地面に潜ってたりした」

 フェイト……

「私とユーノ君を拘束したり」

 高町さん……

「母さんの魔法を消したり」

 フェイト……

「……なぁウタネちゃん。なんか、隠してるやろ」

 十分な疑問の証拠を持って、改めて問われる。

 部屋の視線は、シオンを除いて私に向けられていた。

「シオン、どう思う?」

 答えそうもない私に変わり、八神さんの矛がシオンに向く。

「オレに聞くな。お前らの問題だ。姉さんが良いと言えば良い。悪いと言えば悪い」

「だそうや、ウタネちゃん。もう話さんなんか言わへんよな?」

「……シオン〜」

「知るかよ。というかオレも知らねぇんだ。判断できん」

「うー……分かったよ。話す。でもその前に、リインフォース」

「はい」

「クロノに連絡取って。モニターで」

「……? はい」

 リインフォースがモニターを開き、エイミィと数度やり取りして切り替わる。

『なんだ、事件か?』

「ううん。あのさ、私の能力について話そうと思うんだ」

『……そうか。それはいいんだが……いいのか?』

「うーん、今はシオンもいるし逃げられるかなぁと思って」

『まぁ……そうだな。そこのメンツは管理局に染まってはいないから大丈夫だろうが……モニター越しに僕に話すからには、何処かには漏れるぞ』

「そーゆーのは良いんだ、ちょっとだからね」

『分かった。それなら僕もしっかり聞かせてもらおう』

 現状、シオンが知らないとすれば唯一の理解者であるクロノも入った。

 闇の書に関わった主要な人物は揃った。

 おそらく今回が最後。あの闇の書事件以上の能力行使は無いと踏んでの告白になる。

「なんや? そんな恐ろしいもんなんか?」

「……私の能力は、生物以外の全ての物質の形状、性質などを自由にすることができる」

「……」

 沈黙。一切の音さえ許さないという雰囲気の中、私は続ける。

「これはクロノには話してる。私の平穏の引き換えに、信用してもらう為に」

『ああ』

「そして、この能力は私の右目を通して見る世界でのみ確認できる」

『それは初耳だな』

「うん。でもこれはそう問題じゃない。見てるだけだから。能力の発動についてなんだけど、これは意思を伝える言語である、ということ」

 それっぽい意味で話してるけど、意思は私の意思って事だから話す内容はぶっちゃけ何でもいい。

 燃えろって言っても凍れって思ってれば凍らせることもできる。でも命令形の方が強い気がする。気がするだけだと思うけども。

「……あ、それ聞いた」

「そうだっけ?」

「特訓の時聞いたと思うの。聞こえなかったけど」

「だっけ。まぁそう。この言葉は他人に聞こえないらしいの」

「ちょっと喋ってみなさいよ。あ、何するか言ってからしなさいよ」

「じゃあ、ドアを開ける。いい?」

【開け】

 空気を操りドアノブを捻り、ドアを押す。

 まるで透明人間が開けた様に、すんなりと開く。当然、ドアに近付いた人間は外にも居ない。

「……リインフォース、アレなんや」

 視線をドアに向けたまま、会議が始まった。

「……分からない。1人でにドアが開いた様にしか」

「じゃあすずかちゃんは」

「私もできるけど違うかな……」

「できるんかいな。ほんなら魔導師組は」

「撃って開けるなら……」

「一瞬で開けて戻ってくるなら……」

「ダメやな。ほんならシオン」

「できるがオレの能力には無い」

「あかんな。じゃあダメや。次コレ」

 諦めたように机の上に何かを出す八神さん。

「……これは?」

「鉄」

「うん……それで?」

 鉄の球。野球ボール程度のそれが、何故八神さんの手に……? 

「これをどうにかできるか?」

「どうにか……とは?」

「材質変化とか言ってたやろ? なんかできへんの? 柔らかくとか」

「あぁ……こんな感じ?」

【溶けろ】

 材質をスライム状に。

 球の形はたちまち崩れ、小さな水溜りのような状態はになる。

「うお⁉︎」

「……ウタネ様、触っても……?」

「いいよ。鉄だし」

「か、硬い……?」

 リインフォースがそれを触り、驚いて手を引っ込める。

「そりゃそうだよ、鉄なんだから」

 鉄が硬いのは当たり前。リインフォースの時代からそうだと思うんだけど。

「じゃあコレはなんやねん! なんで溶けたみたいになってんや!」

「なんでって……柔らかくしろって言うから」

「硬いやんけ!」

「うん……鉄だからね」

「わからへん! ウタネちゃんの言ってる意味がわからへん!」

『ウタネ、物質を消したりだとかじゃなかったのか? 実物が無いから少し解りづらいんだが……』

「ん、じゃあちょっと触ってみる?」

『いや、だから物が無いと……』

「はい」

「……??????」

『???』

 溶けた鉄球を持ってモニターからクロノの前へ差し出す。

 ただそれだけなのに、顔に出るほど疑問符を浮かべる周囲。

「どうしたの? 触らない?」

『違う! なんだこの腕は⁉︎』

「……私のだけど。触りたい?」

『違う! どうやってる⁉︎』

「私もあなたの身体に触れてるからおあいこでいいかなと思うんだけども」

 死んでたとは言え生だったし。男の子はそうでもないのかな? 

『聞いてるか⁉︎』

「別に、普通にモニターを通してるだけだよ」

『それが異常なんだよ! これも能力か⁉︎』

 クロノが虫でも見るかのような嫌悪感で拒絶している……ケアはしてるつもりなんだけどな。

「ん、そうだよ。私が認識した世界は繋げられるから。モニターみたいに映像? がリアルタイムで繋がってるなら自由に抜けられる」

「……リインフォース、アレは魔法でできるんか?」

「……魔法だけを、画面の向こうへ飛ばす事はできる。空間跳躍という類だ。が、そう簡単な物ではないし、肉体を飛ばす事はできない……」

 ひそひそと魔導師組が話してる。

 半分くらい聞こえてるからねそれ。

「なぁ姉さん、オレからいいか?」

「うん」

 意外なことにシオンから発言が。

「その能力、オレと分かれてから発現したはずだ。どうやってそう精密に使える? 特訓なんてしないだろう?」

「あー、皇帝特権だよ」

「……なるほど。それでそう使いたがらねぇわけか」

「どういうこと?」

「姉さんの技術は全部偽物……オレの能力に似たようなモンって事だ。お前らの特訓でそういった節は無かったか? 実戦とは違う戦法だとか」

「……あ! 純粋に強い剣術使ってた!」

「あー、アレはランスロットだね。そうじゃないと勝てそうになかったし、高町さん潰すわけにもいかなかったから」

「……ランスロット?」

「アーサー王伝説の登場人物や。顔半分が整い、半分が乱れている不思議な顔立ちをした円卓最強の騎士」

「顔? そんな特徴的なものでは無かったと思うが……」

「あれ? 本はそう書いてたで? 違う伝説なんかな」

 伝説は不確定なようで、顔について食い違い。

 私が知ってるのもシオンと同じだから、整ってると思うんだけど……

「……いや、いい。円卓最強は間違ってないからな。その能力にも制限があって、せいぜい数分なんだよ」

「だから五分で区切ってるの?」

「いや、能力はもっと持つんだけど、体力が持たなくて」

「……まぁ、大方は分かった。物質だけを対象にした何でもありって事やな」

「うんまぁ、そんな解釈でもいいかな」

 明らかに特典と能力に振り回されてるんだよね。

 シオンがいなければ、何もかもが劣っている人間だというのにね。

「なら、あと一つ……ええかな?」

「うん」

「ウタネちゃんの過去について……聞いてええか?」

 いつかの高町さんの様に、少し怯えた質問。

 私がまだ殺すだとか言う存在だと思ってるんだろうか。

「過去?」

「なのはちゃん達には予め聞いてたんやけど、分からん。双神なんて苗字は聞いた事あらへんし、なのはちゃんと初めて会った時は空から落ちてきたらしいやんか。それに二人が分かれた理由とか、能力。聞かせてくれへんかな」

「……」

「やめろはやて。それ以上聞くとお前らの首を飛ばす」

 答えかねる私の代わりに答える。

 でも、私はやっぱり、信用という言葉を重く見てみたい。

「いいよ」

「……!」

 時間が止まる。

 動いているのは、シオンとリインフォースのみ。

「ウタネ⁉︎正気か⁉︎」

 何かを恐れるような剣幕で突っかかってくる。

「……大丈夫。話しても良い。今生きてるなら、多分」

「……まぁそうか……だが……」

 そこでようやくシオンが何を考えていたかに至り、それでも現状は大丈夫だと教えてくれる。

「すみません、どういうことでしょうか?」

 動ける中で唯一の例外が疑問符を浮かべる。当然だけども。

「今となればお前も同類だな。アインス」

「……アインス?」

 リインフォースが首を傾げる。

 八神さんも私も、そんな名前は付けた覚えがないけど……

「ああ。お前、オレ達について仮説は立ててるんじゃないのか?」

「え⁉︎」

「コイツはオレの能力を十分に使って見せた。分かるはずだ」

「……主達は、この世界の人間では無い。と言うことでしょうか」

「……うん」

 具体性に欠くけど、的は得ている。

「隠すつもりだ。下手にバラせばロリコンに殺される」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「確証は無いけどな。本来の筋からもうかなり離れてる。その上主役どもがそれを知ればこの世界はこの世界たり得ない」

「ふーん?」

 首を傾げたところで、時間だ、と呟き、一瞬だけ時間が動く。

「シオン様? この能力は連続して使えないのでは?」

「さっきのがワールドで今はスタプラだ。別能力なら連続して使える。なんなら無限に止める能力もある」

「はぁ……私には、まだ分かりませんが……」

「とにかくだ。お前はもう、オレ達の主従という関係だけでは済まない存在ってことだ」

「……つまり?」

「私は、本来存在しないはず、という事ですね」

「はい?」

「アインスは本来、闇の書と共に消えるはずだった。それをお前が妨害したんだ、ウタネ。そして、後継機としてリインフォース・ツヴァイが開発される予定だった」

 オレにも責任が無いとは言わないと付け加え、ツヴァイの性能を説明するシオン。

 ツヴァイは手のひらサイズで氷属性を得意とするユニゾンデバイス。アインス……リインフォースの後継機として八神家に受け継がれる想いの具現。

「アインスっていうのは、死んだ上での名前?」

「そう。生き延びたアインスがある以上ツヴァイは不要だ。そして、何が言いたいか、分かるな?」

「私は主達と同じ、本来の世界では有り得ない存在、でしょうか」

「ああ。オレが夜天の存続を渋ったのはお前を残すのを躊躇ったからだ。姉さんならなんとでもするが、他人となると保証できないからな」

「構いません。二人が良いと言うのなら、捨て置いて貰っても一切恨みは残しません」

「待って待って! シオンもそんな言い方しなくていいでしょ! リインフォースも負い目を感じる必要はないんだってば!」

「こんな言い方しねぇとお前が理解しないだろ。元を知らねぇお前がこの世界の異常を認識するには、オレから言うしかねぇんだ。お前のせいで死ぬべき奴が死んでねぇ。人の生死は、随分な問題になるぞ」

「……それで、誰が困ったのよ」

「オレだ」

「なら良いよ。問題無いじゃない」

「大アリだ。お前に支配されてねぇんだぞ、今のオレは。不満が募れば隙を見て裏切りをかけるかもしれん」

「ふん、勝手にすればいいよ。そんな負荷だらけの能力で私に勝てるなんて思わないことね。もう割としんどいんでしょ。痩せ我慢だって分かってるからね」

「は、お前の能力が何度この能力に破られてるよ。自分が無敵だと勘違いするのは甘過ぎるぜ」

「お、おやめ下さい! 二人が争っては世界が滅びます!」

「……そうだよ。私もシオンもどうせ人類は滅ぼすんだ。変わらない」

「オレは別に人類が改心するならいいんだがな」

「二人とも……」

「ち、時間だ……さっき何話してたっけか」

「……さぁ?」

 時間は動き出す。

 けれども話の流れを忘れた私達は話す事ができず……数秒、沈黙が場を包む。

「……」

「なぁウタネちゃん。怒らへんから、正直に答えてな?」

 そして沈黙を理解した八神さんが口を開く。

 静かな怒りと静かな殺意を持って。

「……うん」

「なんか能力使こたやろ」

「……はい。時間停止を、はい」

「なんでそんな事するん? やっぱ私らの……クロノ君の言う管理局の敵か?」

「いや……そういうわけでは無いんだけど……むしろその、今回の場合は全面的に味方というか、ねぇ?」

「まぁ、能力を使ったのはオレだが、お前らのためだった、とは言わせてもらう」

「私も理由は話せないが、はやて達のための行動だった」

「むー、リインフォースがそういうなら……」

 なんとか納得してもらえた様子。

 紫お嬢様は、なんか分かってた風だったけども。時間遡行できるなら見えてたのかな。

「それで、なんの話だっけ?」

「ウタネちゃんの過去」

「あーはい。ちょっと話し易く整理するから時間ちょうだい……」



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第57話 説明 続き

偽予告。


ーーじゃあ行くぜ!
ーーマッハキャリバー!
「衝撃の!」
「フルドライブ!」
「ファーストブリットォォォ!」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

対立するは弟子と夫。
あの(皆さんご存知)伝説の決闘が、今ここに。


「ある一人のXジェンダーの子供の話だよ。その子は生まれながらに何かを察する能力のみに秀でていて、意図しないものにも気付けたりしたんだ。その子は親族の死やペット、虫などからいずれは全て死んで、消えてしまう事を幼いながらに痛感した。でもそれはあくまで自分の感情。親に、周囲に言えばどんな反応をされるかは、察するに余りあった。きっと自分はおかしいと、そんな暗いことを考えるなと、解決にならない言葉を使われるんだと。それからは何にも興味を示す事ができなくて、自分を否定する情報だけを集める様になっていった。そうしないと、自分以外の全てが間違ってる様に思えてしまうから。成長していく中で自分の性が現れてくると、それも否定するように、対立の概念……男性性を持って、自分の性をゼロにしようとした。やがてその男性性を維持する時間が長くなっていくと、それ自体が独立して行動できるまでになった。それから暫くは意識を預ける事によって、自分を認識しなくていい様に、世界が自分を認識できないように殻に篭った。その男性性は世間の言う男性らしく、力をつけ、誠実で、知識もあり、偏見も無い、理想になるための努力をした。その努力を隠し、あくまで元の、女性として生活する為に髪を伸ばし、私という一人称を用い、か弱く、家事ができるものとして振る舞った」

 簡潔に、話したつもりだ。

 魔術や発作、転生についてを伏せた上で、私という人間……人格についてを表現するに相応しいと思う。

「それが、ウタネちゃんとシオンやと」

「多重人格、というにはおこがましいけどね。結局自分で自分を騙してただけ。違う自分に頼りきり。嫌な事からはすぐ逃げ出す。そんな人間だよ、私って。Xジェンダーってのも引いたかな、軽蔑したかな。まぁいいけど。それならそれで私は貴方達から距離を置く。言いふらしていじめるのも責めないよ、そういうものだからね」

「姉さん」

「私の長所なんて、ただ勘がいいってだけ。身体も、頭も良くない。病気はしなかったけど、精神だけは取り返しのつかない程病んでた。自分は間違ってる、間違ってるはずなんだって。間違ってないとおかしいんだって」

「姉さん!」

「……なに?」

「もういいだろ。もう前とは違う。コイツらは前の奴らとは違う。そりゃ驚きはするだろう、認識が変わることもあるだろう。だがお前を責めたりはしない。お前を正しいと言ってくれる。お前を肯定してくれる。お前にだって、何処かに居場所を持って良いんじゃねぇか?」

「……らしいよ。みんな。どうかな、この一人芝居。小銭投げるくらいには楽しめる? 見る価値も無いかな」

「全財産投げるわ。それでウタネちゃんが楽になるなら」

「……は?」

「私も投げる。お小遣い全部。少しでも教えてくれたことや、ジュエルシード、闇の書のこと、ウタネちゃんがいなかったら、ダメだったもん」

「私も。ウタネがいなければ、どこかでまだ心に闇を抱えてた。過去に縛られてない私があるのは、ウタネのお陰だよ」

「……は?」

「私は全存在を投げます。夜天の書とはやてを救ってくれた、主のために」

「……は?」

『……はぁ、僕もいいだろう。君のお陰で助かった事もあるしな。給料二ヶ月分くらいなら投げる。三ヶ月はプロポーズだから勘弁してくれ』

「はは、僕もそんなにないけど投げるよ。ジュエルシードの時は本気で助かったからね」

「……は?」

「アタシはそうね、屋敷建てられるくらい投げていいわ。ウタネがいたから、なのはとフェイトは分かり合えたし、私たちとも知り合えたんでしょ」

「私は……うん、私もアリサちゃんと同じくらい工面する。私の異常を知ってても、変わらず接してくれたウタネちゃんになら」

「……は?」

「な。少なくともここのメンツはお前を肯定してくれる。それぞれ理由はあれど、嫌悪の対象にはならないってことだ」

「……わかんない。わからないよ。みんながそこまで言う意味も、シオンがそんなに信用できる意味も」

「意味なんてねぇよ。オレはお前の生活を守る。信用なんてどーでもいいんだよ。それに、お前は事実変わりつつある。他人との敷居は低い方が、今のオレたちにはプラスになるぞ?」

 うーん……シオンの言う事は正論なんだろう。

 私が変わっていってること、今の私たちには他人の裏切りなんて取るに足らない問題であること、ここのみんなが私を拒否しないだろうこと。

 それでも私は、やっぱり答えが欲しかった。その場その場の楽しさより、その先の意味を。

「いや、それもどうなん? シオン」

「うるせぇな、一般障害者は黙ってろ」

「あ! それ差別やで⁉︎」

「オレが治してやったんだからいいだろ。完全に治るまでだ」

「む……それもそうやな。でも恩人やからって何でもできると思わんといてや」

「どうせ身体がどうこうとか言い出すんだろ」

「……心読んだ? エッチ」

「読まなくても分かるわバカ。いいだろ、こうやって姉さんの支えになれるんだ、少しは許せよ」

「……なんやそのイケメン。惚れるわ」

「やっぱ無しだ。はやての全財産没収でこの話は終わりだ」

「そんな殺生なぁ⁉︎六人家族やで⁉︎」

「内五人はこっちで面倒見るから安心して逝ってくれ」

「ごめんてぇ〜なかよーしよーやぁ〜」

「クロノ、家無しが一人出た。正義の機関なんだろ、保護してやれ」

『そうだな、素質もあるし裏の人体実験に回すか……』

「あぁ、丁度身内も今居なくなったそうだ」

『都合がいいな、流石シオンだ』

「『はっはっはっはっはっはっは!』」

「この悪魔どもォォォォォォォォォォォォォォ!」

 三人の内輪漫才が終わる。

 かなーりブラックジョーク的だったと思うけど。本人がいいならいいや。

「はー……いや、笑った笑った。冗談だよ、お前の生活は姉さんがいる限り保障してやる。お前用のデバイスも今設計だけしてるから待ってろ」

 欠伸をしながら、それらしい紙の束を黄金の揺らめきから取り出すシオン。

「……ほ?」

「夜天の書の中からオレの能力だけ抜いたコピーと杖だな。リインフォースとのユニゾン適性も調整するから、その時だけは時間くれ」

「待って待って待って、話飛び過ぎや、私に? デバイス?」

「ああ。闇の書戦で使ったのと同じにするつもりなんだが……嫌だったか」

「いやいやいやいやいや! それはありがたいねんけど……」

「じゃあ何だよ、金は取らねぇから安心しろ。作り直すのも面倒だから文句があるならさっさと言え」

「尚更や⁉︎」

「何が」

「なんでそこまで私にするんや? ウタネちゃんの過去とは関係あらへんやろ?」

「それこそ知るかよ。姉さんがそうしたいってんだ、そうしてやるさ」

「イケメン……!」

「クロノ」

「わーごめんて!」

「姉さんの過去についても分かっただろ、本人がこんな感じだからお前らで変えたいなら何とかしろ。今まで通りでもいい、関係性を変えてもいい、これ以降会うのも御免でもいい。学校で言いふらしてイジメ、リンチも結構だ。こっちはそれに従う」

 こんな感じとは。

「そんな事……するわけないやん、なぁ?」

「うん!」

「勿論」

「そうかい。そりゃどうも。あ、そういえば管理局的にはいいのか、クロノ」

『何がだ?』

「確かデバイス作るのも資格いるんだろ? デバイスマイスターだったか?」

『本気で作るのか……だがまぁ、アースラにも資格持ちがいるのでね、名前だけ借りるのもやむなしだろう』

「ブラックだねぇ、じゃあ遠慮なく借りるぜ。資格取るにも時間かかるからな」

「私は何かしようか?」

「いや? 必要だったら声かける。あ、夜天の書はオレが預かるぞ?」

「うん。どうせ使えないし」

「じゃあそうだな、うん、何もねぇや」

「オッケー」

「それに、お前が夜天の書を持ってないとな。あくまで所有権は八神はやてだ。そうじゃねぇと姉さんが管理局に出向かなきゃいけなくなるからな」

『……管理局に属さない個人がロストロギア保有か、今思えば大問題だな。ウタネ、やっぱり嘱託でもいいから局員にならないか?』

「やらないって言ったよね」

『そこをなんとか。お前らの異常な能力よりそっちの方が管理局には問題として映るかもしれない』

「やだー」

「クロノ、もうはやてを嘱託にして夜天の主と登録しろ。ヴォルケンリッターとリインフォースも付ければ十分だ」

『だがモノが無いんだろ?』

「この旅行から戻れば二日で完成させる。登録時は本物いるだろ。姉さん、悪いがクロノに渡してくれねぇか」

「えーいいの?」

「いいさ、ちゃんと登録すれば良し、無理に奪おうってんなら良い度胸だ、塵も残してやらねぇ」

 殺意でもない、ただ当たり前に管理局との全面戦争を想定するシオン。

 それを無謀と笑うのは管理局だけだ。私は安心して見ることができる程には、シオンの能力の限界は高い。

「……結局はそうなの? 折角仲良く無関係に仲良くできそうなのに」

「元々管理局とオレ達は対等じゃねぇからな。こっちが過ごしやすい様に配慮する限りは下手に出てやろうってだけだ。戦力は桁が違う」

「ふーん……八神さんもそれで良い?」

「二人がええなら。元々私には意見する立場もないしな」

「ふーん? まぁいいや、はい。よろしくね」

 夜天の書をモニターからクロノに手渡し、確認させる。

『ああ……了解した。切るぞ』

「ああ、頼む」

 クロノのモニターが切れる。

「えー……じゃあどうするんだ、アリサ。姉さんについてのアレだろ? もう終わったから出てってくれ」

 それで満足したように、飽きたシオンは退出を促す。

「まだよ」

「後何かあるか? 十分話しただろ……じゃあ、姉さんは右目が見えない。これでどうだ」

「まじで?」

 フェイト。肩落としといて気付かないの……違う、落ちたの左だ。私のミスじゃん。

「……なんでバラすの」

「いいだろ別に。能力より遥かにマシだと思うけどな」

「シャマル呼ぶか? 魔法なら治せるんちゃう?」

「あ、そっか。それは確かに」

「いや、治すな」

「えー? なんで?」

「治るとは思わないが、万一治ると能力を制御できなくなる可能性がある」

「……今の景色が見えなくなるって事?」

「ああ。お前の見てる景色は視力の回復で消える可能性が考えられる」

「えぇ〜……強い能力には絶対弱点があるとか嫌いなんだけど」

 人間は絶対長所と短所があるって考え方、嫌いなのよね。

 根暗を真面目、破天荒を活動的とか言い換えるのとかさ。屁理屈以外の何物でもないじゃん。

 火力が高い技には消費が大きいとかさ。諦めない心が格上を上回るだとかさ。信念がー努力がー友情根性協力過程練習──

「分かってる。強い奴は強い。ザコは天地がひっくり返っても敵わない。それを踏まえた上で、だ。生活も戦闘も困ってねぇんだ、可能性の排除くらいしろ」

「む〜……それもそうか……わかった」

 確かに、皇帝特権は無くならないとはいえこの世界の基準になる魔法が使えない以上能力が無いのは厳しい。しかも能力が消えるだけならともかく発作がまた出てくる可能性すらある。それだけは避けたい。

「よし、じゃあ終わりだな」

「だから! 私たち無視して終わろうとするんじゃないわよ!」

「……なんだよ」

「うやむやになったけどアンタの能力! 話せって言ったわよね⁉︎」

「……言ったな」

「じゃあ話しなさいよ」

「あー、これは姉さんの嫌いな、弱点アリの強力能力になるから遠慮、ってのはアリか?」

「ナシ」

「すずか、お前吸血鬼だろ、そっち説明してやれよ」

「そらしてもダメよ。すずかも聞くかもだけど、まずアンタからよ」

「あー……そうだな、オレの能力……一言で言えば異世界の鏡だ」

 私も助け舟は出さなかったので逃げ場を失ったシオンが諦めた様に話す。

 転生について触れてしまいそうだけど、大丈夫かな。

「は?」

「異世界って概念は分かるか? 漫画や小説に出てくる、今いる世界とは別の価値観や概念のある世界だ」

「そりゃ分かるわよ」

「オレは、その異世界に存在する能力を使う事ができる」

「無敵か! アンタバカ⁉︎」

 唯一のただの人間、金髪お嬢様がキレる。

 ……というかいい加減名前覚えないと怒られそうだな。誰だっけ。

「うるせぇ、最後まで聞け。使う際、オレという概念に異世界の能力の概念をぶつけて、無理矢理コピーするんだ、鏡に映った影を使うんじゃなくて、鏡に能力をぶつけた窪みを使う。だから、オリジナルと全く同じってわけでもない。それは時間を止める時間だったり、テクニックだったりだ」

「その窪みが負荷なの?」

「ああ。負荷って言い方も違うかも知れんがな。オレという鏡に窪み、ヒビが入り、他の窪みを作れなくなる。それがオレの死だ。能力の大きさ……神秘という概念が高いほど、窪みは大きくなる事がわかってる」

 もちろんヒビ以外で死ぬ事もある。能力の負荷で死ぬ場合の話。

「やから、弱点やと」

「ああ……お前らに言うべきじゃないと思うが、オレやリインフォースを使う以上言っておく、この負荷はお前らのエクセリオンやらとはレベルが違う」

「……」

「いいか、特にはやて」

「はい⁉︎」

「さっきリインフォースに心を読む程度の能力を使わせていたようだが」

「うん……能力名はよおわからんけど」

「読心という能力はまぁよくあるもんだ、そう大きな負荷じゃない。が、そんな能力でさえエクセリオンと同じくらいの負荷になる」

 高町さんのエクセリオンモード。聞いただけだけど扱いを少し間違えるだけで本人もデバイスも甚大なダメージを受けるらしい諸刃の剣。

 さっきなんとなく使わせただろう能力がそれ程のものとは考えもしなかった八神さんの顔が青ざめる。

「え……⁉︎」

「シオン様!」

「黙れ、お前の為だ。いいか? オレの能力は鏡に石投げつけてるようなもんなんだ、どんなに小さかろうが、傷は傷。回復までにそれなりの時間はかかるし、下手すりゃ何回かで割れる」

 やめてくれ、というリインフォースの抗議を一蹴、説明を続ける。

「で、でもシオンはあんなに使ってたやんか!」

「ああ使ってたさ、限界ギリギリまでな。だからオレは闇の書を倒す為にリインフォースに半分やってもらうつもりだったし、リインフォースを残すのにも躊躇った。お前は知らないだろうが総力戦の後はぶっ倒れたりもした。そんな能力なんだ、コレは。だからもうオレはそうそう使う気は無いし、必要無い環境を維持していたい」

 八神さんだけを見据え、深く念を押す。

 それだけ、負荷というのは大きいのだと、取り返しがつかないのだと諭す。シオンの能力を持たず、他人に強制できるのは八神さんしかいないから。

「回復魔法も、効かへんのやろ」

「ああ。身体ではなく存在のフレームの様な概念だからな」

「……リインフォース、ごめんかった」

「いや、気にするな。あのくらいであればそう大したものではないし、な?」

「うん……」

「ふ、負荷は連続使用した場合だ! 事件中の様な連続使用でなければ大丈夫だ! こんな事ではやてが気に病む必要はない……!」

 必死に八神さんに非が無いことを説明してるけど、本人が泣きそうな顔してたら意味無い。

「いいんだよ、リインフォース。はやてはそうしておけ。いざって時に家族の無理を押し通す様ならはやては家主失格だ。だから、それでいい」

「しかし……!」

「過保護なんだよ。姉さんの言う家族としてってのは介護しろって事じゃねぇぞ」

「……」

「はやてもそのうち歩けるし、デバイスを持てば魔法も使える。その間できない事を手伝ってやればいいんだよ」

 どっちもどっち。

 私が言っといてなんだけど、正しい形なんて分からない。

 それが分からないままが正しいって意見は、嫌いだ。

「シオン、少し厳しいよ。リインフォースだって闇の書の時に負荷は十分体験してる。分かってて使ったんだから、それでいいじゃない」

「……っ、違う、オレはだな」

「能力も説明した、デメリットも話した。もう魔法については聞いてるんでしょ。ならおしまい。リインフォース、ホントに大丈夫なんだよね?」

「勿論です」

 問題無い。と言いたい。見たところ不調も無いみたいだし、嘘とは思えない。

 因みに、私達に嘘をつく事も許可してる。というかあらゆる行動、八神さんの意思による私への謀反でさえ。まぁもっとも、夜天の書の真の主となってしまった私が死ねば消えちゃうから、それだけは無いんだけど。

 夜天の書の主でなくなり、世界を壊そうとした時には。また戦ってくれると嬉しいな。

「だってさ、八神さん。エクセリオン使って無茶した高町さんが死んでないんだから、全然大丈夫だよ」

「なんか悪意を感じるの!」

「んまぁ、そうだね。高町さんがついこの間まで一般人だったなんて誰も信じないよ」

「酷い⁉︎」

「そう? シオン、言ってあげて」

「……SSランクのプレシアの魔力資質を受け継ぎ、相当な訓練を経たフェイトと初戦から互角程度。数百年の歴史はあるであろうヴァルケンリッターの一人と戦闘、カートリッジ以外での敗因は見当たらず。更にはそれらの中でも最大火力を誇り、最大に近い耐久を持つ。一般人代表、なんか言ってやれ」

「か……わ、こ、この裏切り者ォ!」

 多分知識が無くてもとんでもないレベルだと言うのがわかると思う。

 フェイト戦は魔法に触れてすぐだったし。特訓はしたけどそんなレベルじゃない。

「この前いいって言ってたのに⁉︎」

「うるさいわね!」

「よし。じゃあ解散だ。寝る」

「待ちなさいよ! 言わせるだけで終わり⁉︎」

「終わり。マジでめんどくせーんだよ。なのはの耐久だとかフェイトの露出だとかお前の変態なんて話すだけ無駄なんだよ」

「またその話⁉︎」

 今度はフェイトに飛び火。

 まだ薄いまま、というよりもっと薄くしそうでさえある今日この頃。

「うるせぇな、反論するならバリアジャケットどうにかしてから言え」

「だって、あれ以上防御増やすと減速するから……」

「なのはに縮地教えてもらえ。ウタネの言う分には空中でも使えたらしいから互換は効くだろ。それはそれとしてなんで歩法が空中で使えるんだ? 聞いてから何度か想定したが再現不可能なんだが」

「なんでだろう。私は普通にしたつもりだったんだけど」

 高町さんは不思議そうにするけど、シオンの想定は一切間違ってない。私も未だ信じられない。

 私みたいに足場を作っても意味は無い。相手と同じ高さの、同じ足場にいてこそのものと思ってたのに……事実、私のは空中にいたフェイトに見切られてる。

「分からん。じゃあ……そうだな、ちょっとやってみてくれ。ついでに一般人に魔法も見せればいいだろ」

「ここで? 観光地とはいえ目立つよ」

「あー、安心しろ。それは大丈夫だ。人目には付かない」

 シオンはそう言って、準備だ、と机や荷物を部屋の端に追いやった。



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第58話 続きの続き

「身体は剣で出来ている。血潮は鉄で、心は硝子……幾たびの戦場を超えて、不敗。ただの一度の敗走は無く、ただの一度も理解されない。彼の心は常に独り。剣の丘で勝利に酔う。故に、その生涯に意味は無く。その体は、きっと」

 シオンが刀を出し、謎の詠唱を始めた。

「無限の剣で出来ていた……無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)

 シオンから炎の円が広がり、その熱と光で視界を奪う。

 その次の瞬間には、旅館の部屋とは全く別の風景が広がっていた。

「えっ⁉︎」

「なに⁉︎」

「この魔力……固有結界だね」

 魔法ではない、魔術の延長。

 見たことは無いけど、知識では知っている。心象風景を具現化し、世界軸をズラして世界を造る大魔術。

「ああ。この世界ではコレも異世界の能力だ。負荷はあるがな。ここならオレら以外に見られることなく存分にやれる。投影魔術のパチモンのパチモンだが」

 夕暮れ時の様な明るさなのに、どこか寂しい寒さを持つ、曇りがかった荒野。

 元の能力とはまた似てるだけの同じ力。だけど、それならこの心象風景は何を描いているんだろう。

「ただの結界でよかったんじゃないの? 高町さんとか張れるでしょ」

「……マジか? ユーノとかクロノしかできねぇと思ってたんだが」

「一応できるよ。ユーノ君ほど範囲も時間もないけど」

「私も一応。ジュエルシードの回収は自分でしてたし」

「……そりゃそうだな。で、そのユーノとアルフはどこいんだよ」

 原作とやらの先入観なんだろう、当たり前の事に気付かない筈はないシオンなんだけど。

「夜天の書って事件中に聞いてから……無限書庫に」

「……情報的にはいらなかったしな。余計なことした」

「大丈夫だと思うの。ユーノ君もクロノ君も、細かい歴史を知りたがってたから」

「そうかい……じゃあ取り敢えず、なのは。見せてもらえるか?」

「う、うん」

「フェイト、敵役を頼む。その方がやりやすいだろ」

「分かった」

「「セット・アップ!」」

「わっ……」

 二人がデバイスを掲げ、バリアジャケットを装備する。

「相変わらずなんだけど、一瞬全裸ってなんか面白い様で笑えないよね」

「そうねぇ、私達は同年代だからいいけど、動画撮って値段付ければかなり売れそうね」

 なんとなく、魔法を使えない故の嫌味として出たような言葉に、金髪お嬢様が乗ってくる。

「ああ! いいかもそれ! 二人を狙ってる同級生とかいるんじゃない? それに高値で売れば……!」

「ちょっとした小遣い稼ぎになる! 私、やるわ!」

「「ちょっと⁉︎」」

 思いもよらぬ金髪お嬢様のノリに、白黒魔導師が揃って驚く。

「……嘘だよ。発情した人間ほど醜いモノは無いからね。私としてはその原因を作りたくない」

「んん〜……私は惜しいけど、庶民からすれば十分お金持ちだから我慢するわ。庶民からすればだけど」

 魔法も無し、魔術や他の何かもない金髪お嬢様としては、他の何かでマウントを取らないと気が済まないのだろう。私や高町さんでは届かない資産の大きさ、それが彼女の一番の武器になっているようだ。

「私からすれば金髪お嬢様の方が羨ましいなぁ……困らない資産、美女、勝ち気な性格……」

「な、なによ。私に気を使おうったって無駄よ! アンタも相当可愛いからね⁉︎」

「うぇ⁉︎そんな事無いと思うんだけども……そんな事言われた事無いし……」

「いーや、絶対アンタ狙いの男子は存在するわね。突如転校してきた天然天才美女。これは小説書けるわよ」

「ほー……そんな印象なんだぁ……」

「姉さん! いい加減話進めんぞ!」

 無意味なことが嫌いなだけに、興味無い話題は許してくれないシオン。

 戯れと分かっててもやっぱり、思うところはあるよね。

「あっごめん。うん、シオンも女として生きたかったら彼氏作っていいからね」

「作らねぇよ⁉︎」

「えーホント? 彼女は?」

「作らねぇよ! 変わってるったって性格変わりすぎだ⁉︎」

「じょーだん、じょーだんだよ。大丈夫、そんな風には捉えてないよ……けどゴメンね、こんな私で。シオンがシオンだけで生まれてきたら、別の生き方もあったのにさ」

「……ウタネ。それは違う。オレはお前といられて良かったと思ってる。固執や執着じゃなく、本当に」

「はいはい、二人とも終わりや。それより続きしてくれんかな」

「……ゴホン、すまん。姉さん絡みだとどうも弱い。さて、それじゃあ箭疾歩から行くか……なのは、できるか?」

「うん!」

「5メートルでいいだろ」

「行くよ、フェイトちゃん!」

「うん」

 離れた場所からフェイトに向かって走る高町さん。

 こうして見るとあんまり速くはないんだなぁ……

「これが、オレや姉さんの使う歩法……? 姉さん、ちゃんと教えたか?」

 見終わって説明に入ろうとしたシオンが急に疑問符を浮かべる。

「えっ何その疑問。教えたよ?」

「……まぁいいが。これが箭疾歩。側から見れば何でもないが、正面に立つと一瞬で接近したように感じる」

「ふーん」

「次に空中……これはオレが見たいやつだ。なのは、頼む」

「行きまーす!」

 二人が空へ飛び、さっきと同じ様な事をする。

 その速度は全く違うけど。

「……歩法は使ってるだけだな、それ。縮地というか瞬間移動だな」

「シオンは使える?」

「……(ソル)という技術がある」

「やってみて」

「能力使用になるんだが」

「もう固有結果使ってるしいいでしょ」

「……はいはい。フェイト、悪いがそのまま頼む……」

「うん」

 そのまま、という指示で、空中に浮いたままフェイトが待機。

「ふぅ……」

 シオンが足を開いて腰を落とし、右手の拳を地面に、左手を左膝に乗せる。

 深い息を吐く毎に足が蛇腹状に収縮、胴体が弾む。

 それがどんどん速くなって、十を数えるくらいで湯気? が出始めた。

「……さぁて、いくぞ」

「⁉︎」

 呟いた瞬間に、フェイトの背後にまで回り込んで構えまで取っているシオンが見えた。

「これが剃。なのはが空中でしてるのと同じ種類の移動だ。急加速急停止による過程の欠落。違いはまぁ……見ての通り。相手が錯覚するか、純粋に速いか」

「うぉ……」

 その次の瞬間には元の位置に戻っている。

 確かにこれは……私でもできない。けど。

「その煙……湯気? は何?」

「んぁ……これはゴムゴムの実って能力。全身をゴムにするんだ。悪魔の実って言うんだが、これは鍛えればその概念を強化できる。例えば普通なら焼き切れる電撃も、絶縁体というゴムの概念を強化していれば無力化できるし、今みたいに血流を加速して、普通なら血管を裂く程の血流を維持して身体能力を向上させることができる。オレが剃を使うにはコレが必要なんだ」

「ふーん……じゃあ……脱水、大丈夫?」

「……あ」

「リインフォース、ちょっとシオンに治癒お願い」

「了解しました」

 血流加速の身体強化は、即ち代謝の加速。湯気は体内の水分がそれを維持する冷却の為に使われたものだろう。

 そして、私の体はそういった状態にとても弱い。

「……すまん、お前に迷惑かける気は無かったんだが」

「いえ、このくらいであれば喜んで。返せるものなど、そうありませんから」

「ああ……」

「で。終わり? 他は無いの?」

 シオンの体は闇の書事件で見てる限り相当な耐久だから、ほっといていいでしょ。

「……何がだ?」

「移動手段」

「あるが……まだやれと?」

 シオンが心底嫌な顔をする。

「うん。リインフォースが使いやすくなるだろうし。私だって、知ってれば対応もできる」

「お前は初見でも対応するだろ……まぁいい。そうだな……じゃあこれだ」

 右腕を掲げ、やはりフェイトの方向へ振る。

 すると、シオンがフェイトの側にいる。

「これが、ザ・ハンド……空間剥奪能力。間の空間を削り取り、それが元に戻る事で移動する」

「因みにその剥奪に巻き込まれると?」

「死ぬ」

「ストレートね……」

 何も知らない金髪お嬢様が呆れるほどには分かりやすく凶悪な能力。

 多分、この能力にも私の能力は消されてしまう。ただ性質の違う物質、ってだけだから、絶対無敵にならないのが悲しいところ。

「だからこれはあまり使わない。模擬戦時の暗黒空間も同様だ」

 あの最後のやつか。あれも空間剥奪……

「乱用できるのはこのくらいだな。後は時間停止と時間跳躍。跳躍なのか消滅かは分からんが」

「ふーん」

「能力についてはもういいだろ。後はお前らで魔法見せてやれ」

 シオンが任せた、と役割を投げ、リインフォースがその役割を引き継ぐ。

「……さて、どうしようか。魔法を見せるだけでいいか? 理論やらに手を出すと長くなるが」

 リインフォースがお嬢様に問いかける。

 慣れない様が実に可愛い。

「えと、そうね。時間があるだけお願いしたいわ」

「わ、私も。みんなの事、もっと知りたいから」

「了解だ。なら……なのは、頼めるか」

「はい!」

「これがミッドチルダ式、ミッド式と略される魔法の魔法陣だ。そして、私の足元にあるのがベルカ式。魔法は大きくこの二つに分けられる」

 高町さんとリインフォースがそれぞれ魔法陣を展開する。

「ふむふむ」

「魔法を使うにはリンカーコアと呼ばれる器官が必要になる。これはミッド式もベルカ式も同じだ。先の闇の書事件ではこのリンカーコアを蒐集する事で闇の書への魔力供給を行なっていた」

 これは私にもあるらしいけど使えない。

 けどユーノは使えるはずだって言ってたし、シオンが使えるなら使えない筈はない、という結論で放置してる。

「ほーほー」

「魔法に関しては戦闘スタイルの違いがあり、ミッド式は中遠距離、ベルカ式は近距離に重きを置く事が多い。また、決定的な違いとして、カートリッジシステムというものがある。こんな薬莢に魔力を予め込めておき、デバイスで弾く事で瞬間的火力を高める事ができる」

「デバイス?」

「なのはの持つ杖、レイジングハートや、フェイトのバルディッシュだ。これにも種類はあるが、魔導師は基本デバイスという道具を通して魔法を使う。カートリッジシステムは高い火力の反面、扱いが難しくデバイスや使い手に負担を強いる事になる。これが、ベルカを衰退させた大きな理由の一つだな。ミッド式でも、この二人は強引に入れてしまったが」

 二人が守護騎士に負けた負い目から、デバイス自身が組み込むよう要求したそうだ。

 結果的にというか、それが綱渡りを加速させることになったんだけども。

「ちょっと、それ大丈夫なの?」

「問題が無いわけではないが、二人もデバイスもよくやってるし、シオン様が多少なりカバーしてくれている。それに、もうそうそう無茶をする事はないだろうな」

「嘘ね」

「嘘だね」

「な、なにを……?」

「なのはがそんな事で大人しくする訳ないじゃない」

「もっと行動に制限を設けないと」

「二人とも酷いの⁉︎」

「……面倒な喚き合いはやめろよ。クロノ達も二人の能力に応じて調整すると思うしオレだって多少は協力する。二人がやりたい事をやらせてやれ」

 やっぱりシオンが動く。

 私が無感動なこの情緒的問題も、シオンと同じ。だけど解決策が違う。

「でも」

「心配なら勝手にしろ。そしてよく考えろ。そのお節介が及ぼす可能性を」

「邪魔だって言いたいの⁉︎」

「そうだが?」

「どこが邪魔なのよ! 親友の心配しちゃダメなの⁉︎」

「そこだよ。理論と感情を混ぜる。心配なのは結構だ。心配するのも結構だ。だが、それを本人に突きつけてどうする。ただ本人を迷わせるだけだ」

 私は傍観。だってそれに価値は無いから。見てて終わるなら好きにすればいい。

 シオンは干渉。その感情が嫌いだから、それを無くそうと押し付ける。シオンにとって、人の感情……良くもあり、悪くもある部分は見ていられないから。

「う……」

「姉さんは今この状況について、何も言わない。これまでもそうだったはずだ。やりたい事はやらせて、したく無い事をさせる事も無かったはずだ。それは何故か? 今の人類がそうじゃないからだ。自分都合を押し付けて、結果的な成長を阻害する。安定志向に寄り過ぎて、あるかもしれない成長を潰してしまう。それを良しとするかはお前ら次第。だが、オレや姉さんはこういう考えだ」

「じゃあ何よ。私たちがどうしようとどうでもいいってのね?」

「まぁそうだな。オレが言いたいのは覚悟だ。お前らが友人として、親友としてなのは達を止めるか、親友として、管理局の未来を担うなのは達を応援するか。オレとしては応援する方を選択して欲しい。この先、闇の書のような事件が起こらないとも限らない。そうなるとなのは達だけで、なのは達がいない状況で解決できるとは限らない。管理局は常に人手不足、嘱託でも局員として動ける事が重要なんだ」

「でもシオン、私たちが……」

「オレや姉さんが動けば解決なのは結構だ。できねぇと困る。だが、これはお願いだ。今回でオレも、姉さんも死にかけてる。二人がいなけりゃどうなってたかわからねぇ。だから、姉さんの被害を減らす為に、なのは達を止めねぇでくれねぇか」

 私たちがいれば最悪は避けられる、その進言は却下された。二人とも、死の可能性があった事は確かだから。

 ……だけど、シオンの言葉は、私たちを超える存在への恐怖。私たちが絶対の力を持っているという自信と共に、それが失われることを恐れてる。

「……なによ、結局は自分の為、なのは達を利用しようって腹なのね」

「ああ。オレはオレの身と他の全てを投げ打ってでもウタネを生かす。その為には正直お前らを殺す事も躊躇いは無い」

「っ……」

「が、それは姉さんが望まない。だからしない。代わりに、なのは達にオレ達の仕事を減らして貰おうって事だ」

 私は、平穏に生きていたい。彼女たちを通して、生命の価値を見てみたい。

 シオンの目的は……本心はよく分からないけど、私のそれを邪魔したりはしない。

「二人がそれでいいと思うとでも思ってんの⁉︎ただ数日前に出てきただけのアンタに!」

「……勘違いするなよ、オレはただ二人がしたい事を利用してるだけだ。言うなれば副産物。決してメインじゃねぇ。オレは二人のしたい事を支援する。その結果として姉さんの出動が減る。これって、Win-Winの関係じゃねぇか?」

「ポッと出がしゃしゃり出るんじゃないって言ってんのよ! 二人の何を知ってるの⁉︎私たちの友情は! これまでの繋がりをアンタが簡単に否定できるの⁉︎この前の事件だって! 私たちを蚊帳の外にして!」

 ヒートアップするお嬢様に対し、段々と冷めていくシオン。

 周囲は気付いてないだろうけど、殺意は溜まっていってる。

「できるさ。金持ちだろうと所詮ガキの戯れ。それで誰か救われるのか? その友情とやらで人一人でも救えるのか? 無理だ。ならお前だけならどうだ。その資産でなら何百、何千は救えるだろう。二人も同じだ。魔法を使い、管理局の立場で動くのなら。それこそ数えられない数を救える。どちらが価値を持つか、それはお前ら次第だが。社会は、世界は、その方が意味を持つとする」

「……全体のためなら、個人の感情なんてどうでもいいって言うのね」

「ああ。じゃあ逆に聞くが、個人の感情を社会が容認するのか?」

「それは……できるとは……限らない、けど……一つくらい、いいじゃない‥……ワガママでも、いいじゃない」

「そうか。なら死んでくれ」

「……え?」

 ついに爆発。もうお嬢様を救う手段はシオンを止める事のみ。

 それができるのは……リインフォースだけ。

「お前のワガママを受けてやるよ。なのは達のやりたい事をさせつつ、オーバーワークは絶対にさせない。怪我もさせない、危険にも曝さない。心身共に、絶対の保証をしてやる。代わりに、お前が姉さんのワガママを受けろ」

「っ、シオン!」

「黙ってろ」

「ウタネは……私に、死ねって言うの?」

「違う!」

 突拍子も無い話に、怯えた目を私に向けるお嬢様。

 まだ私はそんな事を望んでない。まだ価値を測れていない。

「違わない。個人を一番押し殺してるのは姉さんだ。お前は二人を危険に晒したくない。姉さんは生物を滅ぼしたい。なら、互いに代わりを担うのが筋じゃあねぇのかね」

「シオン……仲良くするって時に……」

「仲良くするさ。だからってワガママを全て通せると思わない事だ。いやむしろ、仲良くするからこそ真摯的な行動、姿勢が必要だと思うんだがな。これはそこまで傲慢な話か?」

「……いいわ、後始末してくれるってなら……死んであげるわよ」

「「アリサちゃん⁉︎」」

「何にも出来ないままごちゃごちゃ言って迷惑になるなら! 死んで役に立ってあげるわよ! 私の思いは、そう軽くないんだから!」

「まってお嬢様! シオンは本気……」

「もう遅い……」

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」」

 声をかける間も無く、いつかのクロノと同じように両断されるお嬢様。

「……私の……能力も……⁉︎」

 紫お嬢様が困惑する。

「無駄だ。この破幻の瞳は、あらゆる能力を無力化する。オレがお前を視界に入れている限り、時戻しは使えない」

「……っ! このぉ!」

「そして、吸血鬼の能力を無くしたお前は、オレに挑もうとした時点で死んでいる」

「あ……」

 殴りかかった紫お嬢様も同じように地面に落ちる。

「……シオン。どうすんの。まさかこのままなんて言わないよね」

「当たり前だ。今からお前を爆弾にして1時間戻す。お前とオレ以外は記憶を引き継がないからそのつもりでいろ。次は殺さないよう気を付けるさ」

「……次この中の誰かを殺したら許さないから」

 絶対だ。

 元主として、姉として、絶対の命令。

 この世界で私と生きるつもりなら。私に敵対するつもりなら。それを破る事だけは許さない。




「……誰だ」

「警告だ。出てこい。誰だって聞いたんだ。2秒以内に出てこなけりゃ殺す」
「……」
「……なんだ?物質透過か?まぁいいが。最後に聞くぞ、誰だ?」
「……それには答えられない。代わりに、一つ伝言がある」
「いいだろう。姉さん達も寝てる。許してやる」
「では、ドクターの言葉をそのまま伝える……『やぁ、フタガミシオンくん。闇の書事件、ご苦労だったね。最後の短い時間ではあったが見せてもらったよ。実に素晴らしい。プロジェクトFの成果についての情報も欲しいものだが、そんなのは後だ。特に、君の力が欲しい。私と協力して、管理局を、世界を手に入れないか?』……以上」
「くだらねぇ。が、あの事件を見てた?プロジェクトF?お前ら、何を知ってる?」
「それを答えて欲しければ、協力を」
「……お前らについては知らない。ドクターってのは誰だ?」
「それも、同様だ」
「はぁ……チッ、分かったよ、協力してやる。どうせ失敗するだろうけどな」
「了解した。では、機会を見計らってコンタクトを取る。管理局に情報を流せば、命の保証はしない」
「自信アリか。まぁいい。そんなつまんねぇ事はしねぇよ」
「それでは。その言葉、守る事をすすめる」
「……」


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第59話 始まりの道

 ──暫く後。

 高町さんとフェイトは無事管理局員に。

 八神さんも、足が完全に治り次第、守護騎士とリインフォースもそれを期に、という具合で話は進んでいった。

 旅行の後、シオンが八神さんのデバイス制作が少し遅れると言いつつも一週間で作り終えたり、リインフォースと固有結界に篭って能力の試運転をしてみたり、私のモンブランを食べ過ぎてお腹を壊したりした。

「今日はお前が行くのか?」

「うーん、なんか起きちゃったし。たまにはね」

 私は事件後シオンに頼り切りになり、学校が終わって帰って来たシオンに起こされる日々が続いていたりした。基本的に家から出てない。

 ……今思えば何してたんだろ。生前と何も変わってないや。

「そうか……まぁ頑張れよ。オレもこの後のことは知らねーから、最悪1は使っていいぞ」

「過保護かな?まぁ、行ってきまーす」

「おう」

 学校……

 久しぶり過ぎるくらい……

 確か、闇の書事件以降行ってないような……

 そんな、卒業式の朝。

「おはよう、高町さん」

「あ、おはよう! えっと、ウタネちゃん?」

「うん。なんでわかったの?」

「呼び方」

「あー、シオンはなのはだっけ」

 大通りで高町さんに声をかけると、普段入れ替わってるはずなのに看破される。

 呼び方……シオンが徹底しない筈はないんだけど……区別できるように、ワザと? 

「うん。ウタネちゃんもさん付けじゃなくて名前で呼んでほしいの」

「うーん……そうだね、じゃあなのはでいいか。でも区別つかなくなるよ? 自分で言うのも何だけど」

 シオンが気を利かせてしてるとしたら、それを台無しにすることにもなるんだけど。

「いいの。ウタネちゃんはウタネちゃんだし、シオンはちゃんとシオンだから」

「……? まぁ、いいならいいよ」

「うん」

「……管理局の方は?」

 歩き出して、話を聞く。

 一応、秘密の事だから。

「一応卒業後に移住予定。はやてちゃんもちょっと遅れてくるみたい。ウタネちゃんは……どうするの?」

「私は管理局とも魔法とも関係無いよ。こっちで普通の人生ってのを送るつもり」

「でもウタネちゃん、いずれ働かなくちゃいけないんだよ?」

「……」

 ロリコンからの資金援助は継続してる。月五十万が何もせず入ってくる。

 シオンと二人で暮らすにせよ、贅沢しなければ十分に暮らしていける額のはずだ。

「だから、嘱託でもいいから管理局に入らない?」

「入らない」

「でもシオンは入ったよね」

「あー、闇の書の時そんな事……」

 クロノ直属の? 専用? の嘱託だったっけ? なんか手続きすっ飛ばしたって聞いたけど。

「シオンに無理させたく無いと思うなら、ウタネちゃんがそばに居るしかない」

「そんなつもりはなくも無いけども……」

「シオンは私たちの言うことなんて聞いてくれない。シオンの見る世界の為に、私たちや、自分の犠牲すら厭わない。それを抑止できるのは、ウタネちゃんだけなんだよ」

「んまぁ、そうなるように思ってたんだし……でもね、あなた達を曲げたりはそうしない……って、そんな話いる?」

「え」

「シオンがどうしようと関係無い。シオンは私の邪魔はしない。シオンはあなた達に従うらしいし、あれだけの戦力だ、本人のやる気が無いにせよ持っておく価値はあるんじゃないの?」

「戦術的価値としては、万一の危険を孕んでも十分なものがある、とはクロノ君も言ってたよ。裏切りや情報漏洩も、シオンが敵になるなら大差無いって」

「だろうね。闇の書の時、リインフォースが数発が限度だった能力を痩せ我慢とは言え倍以上使ってる。神秘の程度もあるんだろうけど」

 何度か聞いて見たけど、一切具体的な解答はなかった。隠し事は禁じてないけど、都合が悪いならしないと思うし……純粋に、シオンのフレームの耐久性が高い、と判断するしかない。

「客観的な視点から見て、私とシオンはどのくらい差がある?」

「さぁね……まぁ、持久戦にするとして……それでも無理だろうね。フェイトと八神さん、三人で……シオンに攻めさせず、守らせもしない戦い方ができるなら、勝てるんじゃない?」

「でもキングクリムゾンやザワールドは、対応できない」

「そう。その辺りが難しい。シオンに勝とうと思えば、そういった概念能力も対処しなきゃならない。時間だったり、悪魔の実……ゴムだったりね。魔法では無理だ」

 そして、私の能力でも。

「じゃあ、無理?」

「アルカンシェルとかなら、キングクリムゾンの時間以上、ワールドの射程以上の範囲を攻撃できる。アレを目の前で受けて逃げ延びる能力はないんじゃないかな。あったとしても、相当な負荷になると思う。正直、シオンの能力は底が知れない」

「それは……」

「無理だろうね。でもまぁ、シオンはあなた達に従うのは確かだよ」

「信用していいのかなぁ……」

「……んー、難しいよねぇ」

 フェイトを殺しかけ、敵とも味方とも取れない行動を続け、かなり上位になるロストロギア夜天の書を、本来の主人から私へ奪う形で現存させた。

 私の命令一つで守護騎士、リインフォースは八神さんの手を離れる。その戦力は大きい。私としてはそんな気は無いけど、他人が冷静に見てどう思うかは、火を見るより明らかだ。

「ごめん……」

「管理局……魔法関係では関わらないけど、プライベートなら別に遊びに来てもいいから。相談だったりはしてくれていいよ。もしかしたら、暫く姿を消すかもだけども」

「そうだね……ウタネちゃんは元々巻き込まれただけだったもんね。強いからってこれ以上巻き込むのは、勝手だよね」

「そうだね」

「ありがとう。これからはみんなでやっていくよ。こっちにいることは少なくなると思うけど、絶対また会いに行く。また、私に特訓つけてね」

「その時はあなたの方が強くなってるかも分からないけどね。フェイトや八神さん、守護騎士たち……シオンも、仲間として見て欲しい。あなたの様に普通じゃないメンツばかりだけど、ね」

「分かってる。そんなの関係無い。みんな、私の友達で、仲間だよ。ウタネちゃんもね」

「そう、ありがとう」

「うん。管理局は、私の知る限り正義の機関だから」

 誰も差別しない。誰も殺さない。誰も彼も助ける。

 それが正義というのなら、必要だけを残して効率化しようとする私やシオンは悪だ。

 だけど、互いはこうやって共存できる。正義と悪は対立しない。ユーノを助けるためにジュエルシードを集める高町さんと、プレシアのためにジュエルシードを集めるフェイトが対立し、闇の書から世界を救うために動いた管理局と、闇の書から主を守るために動いた守護騎士が対立したように、互いの正義が対立する。

 管理局に入るということは、私の正義と対立するかも知れないということ。

 覚悟は、しておくべきだ。言わずとも、私だけでも。

「おーい! 二人ともー!」

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 卒業式は無事終わり。

 もう戻れない。進み出してしまった道は、変えられないから。




ざっくりですが、A's編も終わり、という事で。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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StrikerS編
第60話 新世代


今回からstrikers編。
空白期をどうしようかと思っていましたが、元々原作を辿りながらのカスなので原作同様飛ばしました。書くとグダるので書く予定はないです。


「スバル、あんまり暴れてると、試験中にそのオンボロローラーがイッちゃうわよ」

「ティアー、ヤな事言わないで! ちゃんと油も差してきた!」

 青髪の少女は体を動かしウォーミングアップを、橙色の少女は銃のチェックをしながら、その時を待つ。

『こほん、えー、おはよう。魔導師試験の受験者二名。揃っているかな?』

「「はい!」」

 ウィン、と開いたモニターから顔を覗かせた銀髪の女性が、確認を取る。

『確認だ、時空管理局、陸士386部隊所属のスバル・ナカジマ二等陸士と、ティアナ・ランスター二等陸士。合っているかな』

「「はい!」」

『所有ランクは陸戦C。今日行うのがBへの昇格試験で間違いないか?』

「はい!」

「間違いありません」

『で、試験官を務めるのが私、八神リインフォース。ランクは、ええと……曹長? 分からないが、まぁそこそこだ』

「はい……?」

『まぁ気にしないでくれ。私は昇格試験は適当に受けてきたからな、どのランクなのかはっきり覚えていないんだ。後で確認して改めて自己紹介させて貰う。さて、それはそれとして、試験の確認だ。ここをスタートし、破壊目標を破壊しつつ十五分以内にゴールを目指す。諸注意は多分Cと変わらない。破壊するものを破壊して、壊さないものを壊さない。時間は最短。現場で働く以上、どの場面でも求められる教訓だな』

「はい!」

『そのルートと、クロノ提督直属の嘱託との模擬戦。さて、どちらにする?』

「「……はい?」」

 予期しなかった選択肢に、緊張もありフリーズする。

『うん、だろうな』

「クロノ提督って、あの……」

「ハラオウン提督? その直属の……?」

『ああ。これは与太話なんだが、クロノ提督とその嘱託が会談していたところ、ステージ作りが面倒だの評価がダルいだのの様々で複雑、かつ解決策の見えない問題が山ほどあり、簡潔にするために昇格試験に模擬戦しようという冗談が出た。しかしそれを聞いた他の局員が、まさかクロノ提督が冗談などと……という噂で祭り上げ、実現せざるを得なかったんだ。クロノ提督の周囲でしか話されてなかったからな。まぁアレだ、別にどっちを選んでも私の印象に変わりはないから、普通のルートを選んでくれてもいい』

「……」

『すまないな、この言い方だと模擬戦へ挑発しているようになる。本当にどっちでもいいんだ、どっちにしようとBへの昇格試験なんだからな』

 申し訳なさそうししながらも、やはり雑な態度が滲むリインフォース。

「えと、でも普通の……」

「模擬戦でお願いします」

「ティア?」

「うるさい。リインフォース試験官、その相手の情報を聞く事は可能でしょうか」

『ああ。こう言った状態だからな。全て開示で良いという事だ。そうだな、基礎ステータスは今モニターに記している通り、君たちより少し小柄だな。戦闘スタイルは近接武器格闘。魔導師ランクにすると陸戦A++くらいかな』

 モニターに顔写真と全身、それぞれのステータスパラメータを表示させ、確認させる。

 そのステータスは今の二人を足しても届かないレベルで纏まっており、参考映像さえ載せられている。

「A++! ティア! ヤバいって!」

「全て、という事ですが。使用魔法についても可能ですか?」

『うん、可能なんだが、無いんだな、これが』

「無い?」

 魔導師試験にはあり得ない情報に、疑問でもないオウム返しになる。

『うん、この嘱託、結構前から属していて、それなりの戦績を残している。正直言って、私より上官になっていておかしくないし、局内ではそう言った扱いをされているんだが、魔法が使えない。だから、嘱託』

「魔法無しで……」

「分かりました。ありがとうございます。やはり、模擬戦でお願いします」

『ああ。スバル・ナカジマも、それでいいかな?』

「あ、はい! えーと……!」

「いいって言いなさい! クロノ提督直属なんて、とんでもないランクよ⁉︎実戦もコネも……あっ」

『はは、いいさ。本人達もその辺は分かってる。受ければ多少は厚意にしてくれるさ。彼らはそこまで階級に拘りが無いからね』

 リインフォースはクロノと嘱託を指したつもりだが、受ける二人にはリインフォースも含まれる様に感じてたまらなかった。

 それほどまでに、この銀髪の試験官には緊張感が無い。

「その……すみません」

『上に行こうという向上心は褒められるべきだ。大きい組織ほど、コネも大事になってくる。チャンスは掴めるなら掴んでいこう。犯罪者はどんな手を使っても捕まえればいいし、どんな手を使われようと負けてはいけないんだ。あ、もちろん私に声をかけてくれてもいい』

「あ、ありがとうございます!」

『さて、どうしようか? 君たちがいいなら、今からでもできるんだが』

「今から? その嘱託の方の準備は……」

『ああ、それは心配いらない。君たちには失礼かと思うんだが……『B? オレが準備なんかすると思うか?』だそうだ。いつでもかかってこい、とな』

「そうですか……わかりました。今からお願いします」

 一瞬不機嫌になりながらも、即開始を申し出るティアナ。

「お願いします!」

 戸惑いながらも、相方の判断に間違い無いと同意するスバル。

『よし、じゃあちょっと移動してもらおうかな。元のルートの会場をそのまま使うから、中央まで』

「「はい!」」

 マップに表示された星型の場所へ向かう二人。

 1対2の戦術を確認しながら、緊張と闘志を高めていく二人。

 その途中、『ふぁ〜あ、あれ、私の局員証……? ああ、一等空尉か…… 更新は一昨日だったか……また二日も講習……ヤダなぁ……』などという試験官のいろいろ不安を残した発言などが開きっぱなしのモニターから漏れていたり、それを聞こえていないフリをしたりした。

 ビル……無人かつ廃屋、錆びれたものが立ち並ぶ中、本来のルートのゴール付近の道路上に、目的がいた。

「……ん、お前らか。受験者二人」

 その小柄な体型に見合わない大きな鎌を杖にして、気怠げな目を向ける白髪。

「「はい!」」

「リインから説明は受けてると思うが、自己紹介。フタガミシオン嘱託局員。まぁなんだ、十五分だったか? でオレに一撃入れれば合格……クロノも無茶な事させる……後で三人で殴り込みにいくか」

「「うぇ⁉︎と、とんでもない!」」

 本気でやりそうな目に、なんとか宥めようとする二人。

「そうか? アイツ落とせば提督だぞ」

「蛮族システムですか⁉︎」

「さぁ? アイツ堅いからなぁ……まぁいいや、お前らも忙しいんだろ。オレは暇だからいいんだが……やるか」

「「……! はい! お願いします!」」

「よし……じゃあリイン」

『……』

「おい、聞いてんのかポンコツ。ちゃんとやれば講習免『それでは、魔導師試験を開始する。ルールは嘱託局員との模擬戦、十五分以内にクリーンヒットで合格、時間を過ぎるか、撃墜されれば終了。問題はないか?』……やれやれ」

「……問題ありません」

「ありません」

『では、始めよう』

 モニターが切り替わり、3カウントのランプが点灯する。

「スタート。来い……」

「スバル!」

「応!」

 ティアナが数発魔力弾をスバルの周りに残し、道路を飛び降りる。

「ふー……一般的な遠近二人組か、それで?」

 その瞬間的な動きにも、目を動かすだけで一切の構えを取らない嘱託局員……シオン。

「ウイングロード!」

 スバルが地面へ拳を当て、無数の魔力路を作る。

 道路を中心に広がっており、上下左右からシオンを囲う形になった。

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ふん」

 直後、ティアナの弾丸と共に突撃したスバルの拳を鎌で受け止めながらスバルを飛び越え、弾丸も回避。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「っ、幻影か」

 着地点に見えたいない筈のティアナを幻影と見破ると、躊躇いなく鎌を振り消滅させる。

「ディバイン……」

「⁉︎」

「バスタァァァァァァァァァ!」

「っ! クソッ!」

 着地と共にバスターを予感したシオンは躊躇いなく道路を飛び降り、そこで初めて驚きを見せた。

「クロスファイヤー……」

「動いてなかったのか……!」

「シュ──ート!」

 着地点に立ち十発程の誘導弾を空中のシオンへ向けて射出。

 魔法が使えない、つまり空中での行動が不可能であると判断しての戦略。とっさの回避で投げ出した身にその後の回避は望めないという判断だ。

「戦略としては……まずまずだ……が、オレを相手にそんなモンじゃあ……なぁ!」

 鎌を一振りで二発、それを三回。残りは少し体を捻るだけで直撃を避けた。

「そんな⁉︎」

「悪くない。決してな。だが……あ、Bか。なら十分かもな。すまん、ランク? がよくわかんなくてよ。まぁ、オレには手が出ねぇってことだ」

「……」

「もう終わりか? まだ十分以上あるが……」

「スバル!」

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「無駄だと言うに……」

「きゃあ⁉︎」

 道路上からの強襲を見る事もせず身を躱す。

「援護するから!」

「うん!」

 数発牽制してティアナがビルの陰へ姿を消す。

 それから援護射撃を交えながらのシオンとスバルの打ち合いがしばらく続く。

 もちろん、スバルの拳がシオンに触れる事は一度として無かったが。

「はぁ……くそ、いい加減諦めろよな」

「全然届かない……ティア!」

「無駄無駄無駄無駄!」

 

 ♢♢♢

 

「始まったね」

「模擬戦選んだんやね……選ぶとは思てへんかったわ」

 ヘリから試験場を見下ろし、予想外の状態を見るフェイトとはやて。

 模擬戦はあくまで冗談、こういう話が出た、くらいで実際にするなど考えても見なかったのだが、一応示しがつかないため説明だけというものだっだのだが。

「突拍子も無い話だしね」

「二等陸士やとクロノ君の直属なんて聞いたら普通腰抜かすで……それにしても、リイン、年々劣化してへん?」

 モニターから様子を見つつ、ため息を漏らす八神はやて。

 模擬戦を現実のものにしたのも、この劣化しつつある魔導書に原因があるのではないかと疑ってみる。

『そうだろうか。まぁ……私は不死身・不老不死・無数の能力であるからして……ヒマなんだな、これが』

 もはややる気は感じられず、この試験もただの暇つぶしのバラエティ番組程度にしか思っていないであろう態度を隠さないリインフォースに、二人は顔を引きつらせる。

「なんか、どこかの誰かに似てるよね……」

「せやなぁ……全く、あの二人がちゃんと管理局に協力してくれればいいのに」

「それは高望みだよ。二人にだって、選ぶ権利はあるんだから」

「そーやけどなぁ……」

 模擬戦相手を務めているシオンと、その相方。

 魔法が使えないにせよその戦力はリインフォースと同等以上であり、是非正式に……と何度も交渉したのだが、『だから、入ったらクロノの特権から離れるだろ』『仕事したくないでござる』という理由で断られている。

 なんとも自己中心的だが、入局して欲しいという思いもそれはそれで自己中心的なので反論はできなかった。

『模擬戦、見なくていいのか? もう消化試合に入ったぞ』

「はや⁉︎」

「ディバインバスター、なのはと同じだ。不意打ちの連発だけど、全部対処されたね」

 即時砲撃、着地点先読みの射撃を超え、全方位からの射撃、ウイングロードからの強襲を全て防ぎ続けている様子がモニターに映し続けられる。

「まぁ、なぁ……あの二人じゃ、というか、私らでも出し抜けるか分からへんもんなぁ」

「私たちが駆け引きしてるのに、手順通りこなされてるみたいで……別の戦いしてるよね」

「あーあー、シオン相手に1対1は……」

「しょうがないよ、遠近のコンビだし、不意打ちが失敗したらそうなるのも」

「でもなぁ……アカンわ。どーすんやろこれ。なのはちゃん、困り果ててるやろなぁ」

「そうだね。勝てなかったから不合格、は厳し過ぎるし」

「実質二人の進路を潰したわけやんか、クロノ君とシオン、とリインは」

『私もか⁉︎』

 想定していなかったかのように驚くリインフォースに冷たく視線を向けるはやて。

「当たり前や。ロクにランク維持もせず犯罪者ボコるだけで昇格試験もスルスル通って……訓練せずダラけてるんやから」

『しかしだな……何故か仕事が減っていくんだ。そう、徹夜でゲームしても全く問題が無くなるくらいには』

「もうそれクビちゃう?」

『マジか……いや、流石にそれは無いだろう、さっき局員証を発見したんだがちゃんと一等空尉と記されている』

「でも更新してへんのやろ?」

『う……そもそも、局員証の更新とはなんだ?』

「それもう持ってへんのと同じやん。更新言うても、魔力値を測ったり、技能テストをして、ランクに見合うかどうかのチェックや。まともにすれば、一時間もかからへんはずなんやけど」

『面倒だな……』

「仕事ないんやろ。シオンが免除してくれるらしいけど」

『うん、試験官をちゃんとやれば、という条件だ。そう難しいものではないな』

「難しそうやなぁ」

 どこをどう見ても試験官の自覚も緊張感も感じさせない魔導書に、主ながら落胆が過ぎる。

 元を辿れば、シグナムと同等以上に自律性があり、明確な行動原理で持って仕事をこなす優秀な管制人格だったはずが……ここ何年かで、正式な主に引っ張られるようにダレてしまった。

「まぁええわ。あの二人、合否に関わらず勧誘行くから、ちょっと残しといてな」

『ああ。合否判定までの時間、待機させておく』

「ほんじゃ、ゆっくり見させて貰おか」

 新戦力への期待と内輪ネタの被害者にしてしまった罪悪感を内に止め、モニターへと意識を集中させた。




9/4
入局したいという思いも→入局して欲しいという思いも、に訂正


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第61話 勧誘

多分三人称のような視点がメインに進めるかと思います。今のところの方針です。


「まぁそんなこんなで、機動六課が設立できたわけや」

「それで、その、二人をフォワードとして迎えたいんだ。色々厳しい仕事になるだろうけど、その分学ぶ事も多いし、昇進の機会だって増える」

「それに、クロノ提督の戯言に付き合わせてしもたんもあるし……どやろか、新人イビリも無い、訓練は少数集中、実戦アリ。二人には、またとない機会やと思うんよ……ん?」

「取り込み中かな?」

 フェイトとはやてが二人を勧誘していると、なのはがひょっこりと顔を出す。

「ええよ、ごめんな」

「うん……で、早速だけど、試験の結果ね。魔力や能力には問題無し。通常のルートを通しても十分に突破可能なものと判断しました」

「!」

「ですが、規定は規定。シオン嘱託局員にクリーンヒットは無し。クリア条件は満たせていません。なので、この試験では不合格とします」

「……はい」

「ですが、彼……シオン嘱託局員にクリーンヒット、という条件はBランク試験には高過ぎる目標と判断しました。なので、試験監督の立場から、リインフォース試験官、クロノ提督へ抗議を行いました」

「えっ⁉︎」

「その結果、クロノ提督の一週間謹慎、リインフォース試験官の魔導師ランクツーランクダウン、権限の一部剥奪が決定しました」

 クロノ・ハラオウン提督は不謹慎な言動という事で、しかし状況が状況なだけに周囲への連帯もあったが、クロノ提督がそれを否定、自分が一人で罰を受ける事を選んだ。

 リインフォースは講習免除。代わりにランクダウン。さらに階級はそのまま、権限が一定期間剥奪される。

「えっ、その……それは、私が模擬戦を選んだから、でしょうか……?」

「まぁ、そうだね。クロノ提督から謝罪も来るだろうし、リインフォース試験官は……挨拶に行けば色々優しくしてくれると思うよ。あんなだしね」

「は、はい……」

「いえ! クロノ提督から謝罪なんて……」

「ええんよ、どうせ内輪もめやしな。顔覚えてもろとき。なんなら私からコネ使てもええんやで? 後リインフォースは気にせんでな。もっと落としてええくらいやから」

「すぐ上がっちゃうだろうけどね」

 リインフォースの実力は認めざるを得ないのか、諦めたような雰囲気の三人。

 実際、リインフォースは主である八神はやてより戦闘面では優れている。暇だからと事件現場へ乱入し、犯罪組織を壊滅させ丸投げするという破天荒な行動を繰り返した結果、重大犯罪専用の爆弾の様な扱いを受けている。そのため、普段の仕事は恐ろしい程に少ない。それこそ、一日中寝ていても問題無いほどに。

 努力を積み上げたなのはやフェイト、はやてとは、対称の昇格状況と言える。

「それに、クロノ提督直々に再試験手続きをさせて貰えるそうだから、明日か明後日には、また試験を受けられるよ。もちろん、二人が良ければ、だけどね」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ、私への返事はその後でええよ。ゆっくり考えて、自分がしたい事するもよし、クロノ提督から紹介してもらうも良し。提督って立場より、クロノ・ハラオウンって人を相手にした方が、印象はええはずや。頑張りなね」

「「ありがとうございます!」」

 

 ♢♢♢

 

「……シオンは、どう思たん?」

「別に。オレに届く事はない」

 はやてが投げた問いに、柱の陰から回答するシオン。

「そんなん誰だってそうやん。なんかあらへんの? 才能が〜とか」

「無い。が、まぁ。フェイト」

「なに?」

「お前とあの青いのは似てる。それくらいだ」

「スバル? なんで?」

「……いいや、別に。忘れてくれ」

「テキトー言うたんか? 思わせぶりな発言だけやと狼少年になるで?」

「知るか。オレを信用するかどうかはお前ら次第だ。こっちから信用してくれなんて言わねぇよ」

 あくまで嘱託。正式に身を置く立場で無い以上、裏切り、離脱は十分にあり得る。それを強調するが、なのは達からすれば理外の発想であるため、それは優しさにも取ることができた。

「じゃあ……あの二人と一緒に戦う事に、不安はある?」

「別に。最悪オレだけでも生き残るからな」

「そう。なら、大丈夫だね」

「シオンも結局はリインフォースを助けてしもたし、根は優しいのよな。二人とも難儀な性格しとるわ」

 にひひ、と笑うはやてに、鋭い殺気が刺さる。

「ふん、なら手始めにお前を殺してやろうか、新部隊長殿」

「ふふ、堪忍や。ええやん、嘱託の立場で隊長なんて、前例無しやで?」

 殺意さえコミュニケーションと分かっているはやては軽く流し、話題を変える。

「隊員がゼロじゃあ長の意味ねぇだろ。そんなんで丸め込まれると思うなよ」

「まぁまぁ、その代わり好きに動けるんだから、いいじゃない」

「あのなぁ……その好きに、ってのはお前の教導手伝ったりフェイトの事務処理手伝ったりこのバカ殺したりだろ? 実質全部隊兼任じゃねぇかよ」

「えっ」

「そうなんだけど……色んな人と関われるし、楽しいと思うよ」

 高町なのは一等空尉。

 航空戦技教導隊第五班。不屈のエース・オブ・エース。

 その宇宙の膨張と同じレベルで成長すると評された才能と、持ち前の前向き、一途な思いで管理局の前線を支えた伝説の一人。

 基本は遠距離だが近距離もそつなくこなし、縮地やバインドを巧みに使い必殺の砲撃へ繋げる熟練者。過去撃墜された記録は一度のみ、その他全てが常人の許容を超えた働きを持って任務を完遂している。機動六課の中でも最高戦力に評される。

「ねぇ?」

「私の方は緊急以外では頼まないから、なのはの手伝いお願いね」

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一尉。執務官。

 なのはの良きライバルであり、親友。とある事件を原因とし二度執務官試験に落ちており、一時期力を落としていたが、三度目で無事合格、再び力を取り戻す。超スピード、超天然、超低装甲、超過保護、超優しい、超極端な人物。近接においては機動六課1と言っても過言では無く、日々シグナムにその座を狙われている。

「ちょっと?」

「教導な……まぁ、模擬戦相手にくらいはなってやるさ。メニューとか考えんのは無理な、面倒だから」

 フタガミシオン嘱託局員。クロノ・ハラオウン提督の直属であり、彼以外の命令を拒否する権利をクロノ提督から授かっている。

 なのは、フェイトを過去に指導、二人を完全に上回る能力を持つ。

 守護騎士四人を同時に、なのはとフェイトを同時に相手取り尚余裕を見せつける。しかし無理はしていたようで、闇の書事件以降それと言った能力を使用した形跡は無い。事実上、機動六課の最大戦力。

「えぇ?」

「勿論。1週間で私たちに追いつけ、なんて無茶言い出しそうだしね」

「聞こえてるぅ?」

「言うつもりだったが。追いつけるだろ」

「えっ、本気? 本気で聞こえてへんの?」

「訓練は急ぎつつ、無理しない程度だよ。体に負担がかからないギリギリ。それ以上は認めないからね」

「じゃあなんや、やりたい放題か?」

「長くなるだろうな」

「うふふふふふふ〜」

「無茶するよりずっといいよ」

「ぐふはふはふはふ……ブッ⁉︎」

 近づくはやてをかかと落としで地面へ沈めるシオン。

 その後横っ腹を蹴り飛ばし、壁にめり込ませる。

「何してんだテメェ。後1ミリでも近づいてみろ、その首と腕、同時に飛ぶぞ」

「へ、へへへへ……じ、じょーだんやんか……へ、へへ……この純粋無垢なはやてちゃんがそんな事するわけ……へへ、そんな睨まんといてや……な、笑って笑って……殺意も……抑えて……消そう……? 隠したまま切るんも無しやで……?」

 八神はやて二等陸佐。機動六課の首謀者。

 闇の書に選ばれる優秀な才能と、ウタネに主権を奪われたまま形だけ手に入れた夜天の書の持ち主。シオンの存在を隠蔽するための表向きの『歩くロストロギア』

 シオンに夜天の書のほぼ完全なコピーと、リインフォースとのユニゾン適性を再調整してもらい、その体裁を保てている。

 長所は高望みした志による統率力と、借りパクしている膨大な魔力、魔法。言わばシオンの影武者。借りを作りつつ何も返せない自分に対してか、それを良しとして何も要求しないシオンに対してか、行き場の無い負い目は限度を超え、態度と性欲が増長した。男性性を得ようとしたウタネに倣い、〇〇〇リ化を目論んでいるが周囲が全力で止めている。

「黙れ。夜天の書の権限無くすぞ」

「それは堪忍や……無くなったら管理局にいられへん……」

「ま、まぁまぁ、はやてちゃんも反省してるし……」

「してねぇだろ。何回目だ? 五回は夜這いかけられてんだが」

「えぇ……」

「はやて……」

 まさかの蛮行につい顔が引きつる二人。

「ちょっ! なんやその目! 汚物を見る様な目ぇせんといてや! 男がしてるよりええやろ⁉︎」

 壁にめり込んだまま泣き喚く部隊長。この様を先程のフォワード二人がみていれば、即座に辞退を申し出た事だろう。

「される側からしたらどっちも一緒だよ……男よりマシだけど」

「流石に寝てる間とかはちょっと……男よりマシだけど」

「なんや、それ。どんだけ男嫌いや」

「えっ! いや、そういうわけじゃ、ないんだけど」

「まぁどうでもいい。オレは帰るぞ」

 飽きてきた、とばかりにあくびをし、帰路に着くシオン。

「なんでよー、ご飯行こーやー」

「あ?」

 無表情のままだったが、それでも威圧には十分な殺意を含んでおり、二等陸佐を涙目にする程度は十分であった。

「じょ、冗談や……また気が向いたら、お願いします……」

「あ、待ってシオン、私車だから送ってくよ?」

「いや、いい。まだ局にいるからな」

「……?」

 帰る、と言いつつ局に残る、矛盾することを残して歩き出す。

「じゃあな」

「うん……」



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第62話 機動六課、始動

 ──コンコン

『はい、どうぞー』

「邪魔するぞ」

「わぁ……」

「すごい……」

「ほんと……」

 ズカズカと上官の前に出る嘱託としてあるまじき行為にお咎めは無く、ただ感嘆が漏れた。

「「「凄い違和感」」」

「うるせぇ黙れ。自分でも分かってんだよ」

 声を揃える三人娘に嫌な顔を隠さないシオン。

「ふっふっふ、シオンもそれを着たって事は、名実ともに私の部下ってことやんねぇ」

「そうだな。爆弾を抱えた気で震えてるといいさ、八神部隊長」

「まぁまぁ、四人で同じ制服なんて、もう随分と久しぶりやん?」

「だったかね。二日以上前のことは覚えてねぇ」

「ふふふふ……ほらほら、はよう入隊挨拶しいや。上官待たせたらアカンで?」

「八神ぃ……」

 自分の権限を持っていようと、殺意は隠さない。それがシオンの性格。

「ふふ」

 それを微笑みで返すはやてに、諦めた様に身を正して敬礼をするシオン。

「チッ、フタガミシオン嘱託、本日より機動六課へ出向となります。クロノ提督から聞いているかと思いますが、嘱託である自分の管理権限は八神部隊長へ譲渡される事になりました。今後、その点をより意識して下さい……これでいいかよ」

「ええよ〜十分や。それにしても、譲渡って……くれるん?」

「ああ、貸すんじゃなくてな。だから機動六課から出ても権限はお前だ。提督権限を失ったんだ、対価は相応に要求するぞ」

 簡単に渡される人の権利。リインフォース同様、扱いたくないランキング上位に入るであろうシオンの扱いに、提督の仕事量から持て余し始めたクロノの厄介払いだった。

「枕?」

「一人でやってろ」

「ヒドイ⁉︎」

「お前らにんなもん要求してどうするよ。三人で百合百合してろ」

「せえへんよ⁉︎せえへん……よな⁉︎」

「え、あ、うん」

「そう……だね」

「えっ、ええ⁉︎なんやソレ⁉︎私だけ除け者か⁉︎七光りは邪魔モンかぁ⁉︎」

 気まずそうに目を逸らす二人に、何かを察したはやてが動揺する。

 実際は単にその手の話に慣れず照れているだけなのだが、性欲マシマシのはやてにはそんな発想自体が無い。

「うるさいぞ売れ残り。さっさと部隊挨拶の準備でもするんだな」

「売れ残りィ⁉︎ええ度胸しとるやんけぇ! シオンも人のこと言えへんやろーに!」

 自尊心がものの数秒で抉られたはやてが爆発する。

 地位も名誉もかなぐり捨ててシオンに一矢報いようと掴みかかる。

「……オレに? そんな話をするのか? 八神……お前、世界に勝てるか?」

「あ……! ストップ! 素が出てる! 管理局ではあかん! ここでは魔法以外禁止や!」

 殺意の底……何があってもお前を殺すという絶対の意思表示に正気を取り戻し、シオンを制止する。

 自分の欲望より管理局、親友二人の命をはやては選ぶことができた。

「……だったな」

 管理局内及び、管理世界では必要に応じた外部戦闘以外での能力使用を禁ずる……それが、クロノが嘱託として雇っている内に出来たルール。そして、魔法が使えない以上、訓練等では生身の戦闘しか叶わない。

 ──コンコン

「はい、どうぞー」

「失礼します……あっ、高町一等空尉、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰してます。そして……フタガミ嘱託員、お初にお目にかかります。グリフィス・ロウランと申します」

 ドアの向こうから、眼鏡をかけた青年が敬礼をする。

 それを見た二人はハッとし、一人は不快感を表す。

「グリフィス君⁉︎」

「前会った時は、あんなにちっちゃかったのに……」

「その節は、色々お世話になりました」

「おいおいおいおい? イチャイチャタイムに悪いが、誰だ?」

 まるで知った仲であるかの様な対応に、全く知らない一人が喧嘩腰で尋ねる。

「グリフィス君は私の副官で、指揮官補佐とか務めてるんよ」

「よろしくお願いします!」

「違う違う違う……現役職なんてどうでもいいんだよ、嘱託のオレからすりゃ全員上なんだからな。それ以前だ、いつから知り合いだ? どういう繋がりだ? それを聞いてんだよ」

「なんや、仲ええからって嫉妬か? 意外に可愛いとこあるやん」

 その言葉の終わりと同時にはやての髪の一部が消し飛び、左前髪が短くなったと同時に、シオンの手には鎌が握られていた。

「うるせぇ、オレが知らない知識だ」

 そしてはやての目からハイライトが消えた。

「えと、そうだね、簡単に言えば、親同士が知り合いで……?」

「嘱託で採用してくれた時にもちょっと」

「──……そんな前で、知らなかったなんて……?」

 魂が抜けた様に倒れ込んだ部隊長を引き気味で見ながら、ザックリと説明する二人。

 そしてシオンは下を向きぶつぶつと独り言を始めた。

「えと、どうかされましたか?」

「いや、すまん。十分だ。悪かったな、別に敵意があった訳じゃない。コイツら口説こうとオレの知ったことじゃねぇから好きにしてくれ」

「い、いえ! とんでもない!」

 グリフィスの声かけに意識を戻し、興味を失ったシオン。

 ──シオンの局員担当にも彼の母、レティが関係しているのだが、『魔法以外は専門外。知ってる仲なら、いざって時にも制御できるでしょ』とクロノが丸投げされる形で引き受け、本人には何も伝えていないためにこの様な事態が出来上がってしまった。

 そのクロノさえ、『闇の書事件以降、より深く付き合った者がいる。今となっては自分より適任だ』とはやてに押し付けたのだが。

「あ、報告してもよろしいでしょうか」

「うん」

 はやての代わりにフェイトが答え、なのはがはやてを揺すって現世に戻す。

「機動六課総名、既にロビーに集合、待機させてあります。宜しければ」

「あ、もうそんな時間か。じゃあ、なのはちゃん、フェイトちゃん、シオン、行こか」

「「うん!」」

「オレもかよ……」

「当たり前や。全部隊兼任やで? ちゃんと挨拶しとかな」

「嘱託だぞ」

「その辺の局員より権限あるくせに何言うてんねん」

「ねぇよ。お前が指示した時だけだ」

「えぇ? クロノ君の時もそうやったん?」

「実際何もしてねぇからな。せいぜい部隊指揮権限だ。やらなかったが」

「できへんの間違いやろ?」

「そうだな……お前、メンタル強過ぎるだろ」

 

 ♢♢♢

 

「お久しぶりです我が……失礼、フタガミ嘱託局員。機動六課『VNA(ブイナ)』所属になりましたリインフォース……陸士です」

 銀髪の女性が、制服を着て礼をする。

 他の者の前で見せるようなだらしなさは無く、主従としての立場を弁えている様ね態度を完璧にこなす。

 しかし自分の肩書きにはやはり無頓着な様で、ハッキリ分かっている部分しか示す事はできなかった。

「確かランクダウンで……いや、いい。局で会うのは久しぶりだな。はやてとのユニゾンはどうだ?」

 その態度に少し苛立ちを滲ませながらも、それがリインフォースなりの誠意だと納得し、話を進める。

「至極すんなりと。数度実行、試行しましたが未だ誤差すら出てません」

「そうか。ならいい」

「はい。それで、これから何か?」

「なのはの教導の手伝いだ。フェイトが自分の部隊を押し付けるからな」

「ふふ……でも引き受けたんでしょう?」

 そこからは態度が砕け、微笑みながらの会話になる。

「メニューは貰ったし、お前もいるからな」

「ああ。任せてくれ。少なくともお前達よりは教導上手なつもりだ」

 大きな胸を大きく張り、自己主張するが、それを気に留める者はこの場には一人もいない。

「その辺はマジに任せるよ、オレ達は戦略とかに向いてない」

「一人で全てできてしまう故の……社会性の欠如か。しかしシオンはそれを克服する為の人格ではなかったか?」

 人類嫌悪、生物撲滅を変えられなかったウタネは、社会には居られない。

 自分を曲げて社会に入るか、社会を否定するしかなかった。けれど、それはウタネの周囲が望まない。ウタネは聡明であったが故に、客観的視点から自分が異常である事を知っていた。どちらが多数で、どちらが少数なのかを。

 自分を殺す事が正解だと理解しつつ、自分を殺しきれなかった甘さ。その結果としてシオンがいた。その矛盾を、板挟みを解決する為に。

「社会に適応はできる。だからこそ今もまだ嘱託として働いていられる。が、戦闘となると別だ。他人が……仲間が邪魔になる。オレの専門は1対1(タイマン)だが……相手が百になるよりも味方が一人増える方が不都合だ」

「それは、シオンの未来予知故か?」

「さぁ。それは分からん。性格だろうな。それに、一人じゃ無理だ。二人で全部って話なんだからな」

 自分一人でできることも、他人が加わることでできなくなる。

 逆もまた、十分に考えられることなのだが、シオンの経験上考えられないことだった。

「……そうか。無駄に詮索も良くないが……私で出来ることがあれば言えよ。お前達は、言わないだろうがな」

「……ふん」

 

 ♢♢♢

 

「あー、やっと来た!」

「すまん、オレ抜きで始めてるもんだと」

 なのはとフォワード四人、他局員一人が既に待機している場に二人が到着、訓練開始のため二人を待っていたようだ。

「最初はみんなのステータスチェックだって言ったでしょ!」

 教導隊制服のなのはがシオンとリインフォースを叱る。

 普段の緩さは無く、教官としての役割演技が真剣だ。

「そうだったか……すまんな、フォワード四人」

「「「「いえ! 大丈夫です!」」」」

「むー……じゃあ、始めるよ。今日はみんなの基礎能力の確認。基本的な項目をこなして、それをデータ化するから」

「ここで?」

「うん。シャーリー!」

「はいはーい」

 シャーリーと呼ばれた局員がモニターをいじると、何もなかった平地にビルなど……スバルとティアナの試験会場の様な廃屋街が出来上がる。

「おぉ……」

「これが機動六課自慢の訓練スペース。なのはさんリインフォースさん監修の、超実戦的訓練場です!」

「いつの間に作ってたんだ? こんなの」

 シオンとフォワード達が驚いていると、リインフォースが製作図のようなモニターを開く。

「うん。これは機動六課フォワード……この四人の勧誘が決まってからだな。二徹くらいだったか?」

「リインフォース! それ内緒!」

「あ、すまない……記憶力に難有りだな」

 なのはに怒られて落ち込むリインフォースだが、管理局全体を見回してもリインフォース以上に魔法の種類がある魔導師はいない。記憶力とはまた別かもだが。

「それじゃあ、さっそく始めようか。模擬戦!」

「は?」

「「「「はい!」」」」

「あれ、リインフォースに聞いてなかった? クロスからミドルレンジのシオンとフィールド外の超遠距離のリインフォースの援護射撃で模擬戦するって」

「聞いてないが」

「言ってませんね」

「言えよ」

「気にしないか忘れるかと思ったんだが」

「間違ってねぇけどな」

 リインフォースとシオンの互いが目線を合わせず投げやりに会話する。

「だそうだ、高町一等空尉」

「あー……まぁ、了承してくれるなら、今回は大目に見ようかな」

「模擬戦て……あの試験とは違うのか?」

「大体一緒だよ。2対4で、クリーンヒットか時間まで」

 呆れて説明するなのはに対し、ふーん、と気のない返答を返すシオン。

「あの……試験とは?」

 エリオから手が上がる。

 試験を受けたのはスバルとティアナ。その試験を他の二人、エリアとキャロは知らない。その質問にリインフォースが答える。

「うん、機動六課の後見人、クロノ・ハラオウン提督が冗談で口にした魔導師試験だ。まさかシオンに挑むバカがいる訳ないとクロノ提督やその周囲で笑い話にしていたのだが……そこの二人が受けてくれてしまってな。見事不合格を得た訳だ」

「「……」」

「まぁ、その後クロノ提督から直々に再試験を受け合格。シオンと事前に戦えたのは大きな収穫だったと私は思っているが、どうだろう」

「はい……戦い方については、多くを得られたと思います」

「まぁ、シオンにコンビ程度で勝てる魔導師は局でも多くない。むしろ撃墜されなかっただけ頑張ったと思う」

「はい……」

 褒められてはいるのだが、腑に落ちないようなティアナ。

「はい、そこまで。模擬戦始めるよ。初期配置から決めるからね」

 文句を言いつつモニターにフィールドマップと配置を表示するなのは。

「スターズはA地点、ライトニングはC地点。ヴィーナスの二人はBとZ。ABCはそれぞれ二十メートルくらい離してて、Zはここから動かないこと。制限時間十五分でシオンへのクリーンヒットでクリア。それ以外はアウト。いい?」

「「「「はい!」」」」

「へい」

「了解だ」

「じゃあ配置について。カウントダウンからスタートだよ」

 シオン&リインフォースvsフォワード四名、スバルとティアナにとってはリベンジとなる模擬戦が始まる。



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オリキャラ・能力設定  シオン

キャラ設定ってあんまり公開するものじゃないのかな?と思っていたのですが、STS初期辺りのフォワード陣の戦力や交流具合がちょっと落とし込むのに時間かかりそうなので。シオンだけ。


双神詩音(フタガミシオン)

 

なのはの同級生なのでSTS時19歳(?)

身長はあまり伸びず、はやてより少し低いくらい。転生時にロリコンにある程度固定されており、能力などを使わないと伸ばせない。

魔力量AA、陸戦A+(能力無し)、SS+(能力有り)……の予定だったが、魔力量ランクの設定が見当たらなかった為魔力量ランク設定は次第に消える。

 

管理局内での立ち位置はA's後からクロノ直属の嘱託。そういうのが実際できるのかどうかは置いておいて直属。クロノが依頼した時のみ局員として任務に当たる。局内は許可制の場で無ければ自由に行動可能。

機動六課の後見となりシオンが配属される際、はやて直属に。

嘱託のままなのはやフェイトと同じく機動六課部隊隊長に就任。メンバーはリインフォースのみ。事実上持て余した二人の倉庫。二人とも全役職兼任。

 

能力

今いる世界『リリカルなのは』では無い世界の能力を使う事ができる。

しかし全く同一ではなく、弱体化(止められる時間が短い、投影の数に限りがある、など)していることや、逆に強化(吹っ飛ばせる時間が長い、宝具の真名解放に宝具そのものが要らない、など)されていることもある。原因はシオンもまだ把握していない。

その能力ごとに『神秘』が設定されており、その分負荷がかかる。

神秘は詰まるところ希少性であり、他に類似能力が少ないほど神秘は高くなる。『一時的にパワーを増加させる』だったり『剣術などの技術』だったりは神秘が低く、『時間を吹っ飛ばす』『人類史上初の剣』だったりは神秘が高い。

また、現実改変や固有結界などは世界からの抑止力があるため神秘に関係無くその規模で負荷がかかる。

(メジャーな作品から能力を引っ張ってくるつもりですが、そういう能力があるんだなぁくらいで大丈夫?かなと。すみません)

負荷は直接的な傷だったり、概念的なダメージだったりする。(どうするかは気分です。すみません)

 

 

 

 

ここから原作作品のネタバレ?です。飛ばして下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで使った能力の原作(第39話の総力戦からA's終了まで、あと冒頭やってた茶番含めて拾える限り)(原作綴りはアウトかもしれないけど)

『ジョジョの奇妙な冒険』

荒木先生の作品。タイトルだけでも聞いた事ある人は多いハズ。

世界(ザ・ワールド)

時間を止める能力。

原作では最大9秒。

・キング・クリムゾン

時間を吹っ飛ばす能力。

原作では十数秒。

色々考えたけどブチャラティでつまずいたので考察というかこの作品での設定はまた本編で使用することがあれば。

・バイツァ・ダスト(負けて死ね)

時間を1時間ほど巻き戻す能力。

初回発動時、使用者と爆弾の両方にキラークイーンが関わる事になる為、初回だけは使用者も記憶を保持する、という設定。実際は知らない。

原作では発動のきっかけとしてとことん絶望する必要がある。特典ではバイツァ・ダストを使うだけなので必要工程は無視。

黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)

生命を生み出す能力。人間を殴れば、その精神だけが暴走し、鋭い痛みをゆっくり受ける事になり、この能力が生み出した生物への攻撃は、そのまま自分自身への攻撃となる。

原作では次第に能力が消えた。ポルポの矢で性質変化説推し。

黄金体験・鎮魂歌(ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム)

この能力に向かうもの、すべての意思、動作をゼロにする。あらゆる攻撃は概念的なものであっても始動すらできず、逃げる動作さえゼロに戻る。物理、概念に関わらず防御の際は全てに自動発動する設定。

原作ではスタンドの矢でスタンドを貫く必要がある。この過程も無視。

(タスク)・ACT4

黄金長方形の無限の回転。その無限のエネルギーにより放たれた意思を遂行するまで止まらない。

原作では馬の走る力を乗せる必要がある。『走る』=『地面を蹴る』=『蹴る』理論でオッケーなのだと思ってる。

・マンダム

ほんの6秒。それ以上長くもなく短くもなく、キッカリ『6秒』だけ『時』を戻すことができる。それが能力。

原作では時計のツマミを戻す事でスイッチが入る。別に能力には関係無い。

・クリーム

バニラアイスクリーム。口内が暗黒空間に繋がるスタンド。アイスクリームが子供の口へ消えるように、あらゆる物質を瞬間的に消滅させる。

 

因みにスタンドが見えるのはシオンとリインフォースのみ。ウタネはカンでそれとなく『あるんだろうな』くらい。はやてはユニゾン時のみ。

 

『TYPE-MOON』

fateや月姫、空の境界。きのこ先生。

知らない人には分かりづらいかも。って言うのがいっぱい。楽しい。

・投影魔術

衛宮士郎の使うもの。本来の投影魔術とは別のもの。

無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)

体は剣で出来ている。原作とちょっと風景違う感じにした。

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

7つの花弁による鉄壁の守り。1枚1枚が古城と同じ強度を誇り、最後の1枚は更に堅い。投擲(飛び道具)に対しては無敵とされ、より防御力が高くなる。

原作では剣でないため消費魔力が剣の倍以上ある。

・直死の魔眼

みんな大好き両儀式。使用者が対象の死を把握している場合、線となって見えるようになる。その線を切れば強度に関係無く切断でき、突き刺せばその物体、生命を殺せる。測定系未来視ならその未来も殺せる。死なないものとかは見えない。使用者以外が線を切っても無意味。

 

・ゴドーワード・メイデイ。玄霧皐。偽神の書。

バベルの塔で神に言葉を乱される以前の言語。

言葉でモノに意味を説明するのではなく、世界に意味を決定させる言語。

世界に認識される側への言語であるため、反論できない全ての生物、物質はこの言葉に逆らえない。

 

 

『ONE PIECE』

みんな大好きONE PIECE。

世界観や設定の説明は要らないと思ってる。

・ゴムゴムの実

悪魔の実。全身余す事なくゴムの性質を得る。

ギア2の使用は2年の修行前後からある程度鍛えなければ扱えないものと判断。シオンの特典ではその辺を無視して『ギア2』という能力のみを使用する。当然負荷はある。

(ソル)

六式。特殊な歩法による瞬間移動と、その派生。

地面を瞬時に10回以上蹴って移動する、と作中で明言。

シオンが使う場合、移動先を自分で確定して、体が勝手に動く、という感じ。

 

 

リインフォースが闇の書の闇に撃ってた宝具は全部飛び道具系のいわゆるビーム的なアレ。

はやてはユニゾンすればリインフォースが使える分の能力をはやて負担で使える。



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第63話 初日訓練

戦力分析は半ば諦めました。


『スタート!』

 モニターから合図が飛ぶ。

 同時に空へ白の魔力弾──恐らくフォワードに合わせた程度の、軽いシューターが二十ほど上がる。

「接近三、移動一……」

 ビルの隙間にそれを目視しつつ、シオンが状況を呟いて把握する。

 当然、その未来についても。

 その未来通り、シオンの背後から正面に向かうウイングロードが敷かれる。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 シオンがいる高架道路の正面からスバルが、ビルの屋上からエリオが同時に攻撃を仕掛ける。

 狙いは魔導師試験と同じく、とにかく初撃を当てる事。

 ティアナの事前の戦略分析はほぼ正確で、スバルとエリオの二人でも正面からの突破は不可能と判断した結果の、攻撃方向をズラした同時攻撃。

 しかもカートリッジ使用による火力とスピードの上乗せで、エリオには更にキャロの援護もある。

 スバルがシオンの左から回り込んだことで、その側への行動はしない。そしてエリオが上と右後ろ側を封殺。避けるなら、右前方しかない。

 ティアナの読みでは──両方とも避けて回避するか、どちらかは当たるだろう──という予測。そして避けたのなら、回避に合わせて先撃ちする自身の射撃が命中するだろう、とも。

 結果から見れば、それはシオンを過小評価し過ぎである、という事になるが。

「……!」

 ビルの合間から覗いていたティアナも、攻撃を止められた二人も言葉が出なかった。

 ただ信じられない、という思いだけが先行する。

「ふぅ……どうした、そのくらいではなのはも落とせんぞ」

 エリオの攻撃を鎌の峰で、スバルの拳をヤクザキックで相殺する。

 シオンのステータスでは拳での反撃は不能だったため蹴りに行ったのだが、それでは片足になるため普通はしない。それを防いだとしても次、また次と次第に遅れることが確実だからだ。

 だがシオンはその常識を覆す。

 魔力放出により加速した、慣性を伴わない機械的動作によってティアナの射撃を鎌で切り裂く。

 シオンの目は『先』を見る。

 この事をフォワード及び機動六課、及びシオンに近しい者以外は知らない。

 更には、その真の実力……その『能力』の存在さえ、外に漏れた例は無い。

 そしてその能力の片鱗さえ、訓練如きで覗かせるレベルにはいない。

「エリオ、キャロ! プランB!」

「「はい!」」

 スバルの声でエリオとキャロが高架道路を飛び降りる。

 シオンはそれを追わない。

「この前のリベンジ、させて貰います!」

「……ふん、できるといいな」

「必ず!」

 スバルを見つめ、それでも構えを取らないシオン。

 四方に注意を払っているとも取れ、どれも脅威に感じていないとも取れる。

「不意打ちは、効かないんですよね!」

「……そうだな」

 上空と道路下からのティアナの射撃。

 軽く身を躱すだけで避けたシオンは、それを機にスバルへ走る。

「お前らの戦術、見せて貰うぞ!」

 シオンがスバルの首目掛けて鎌を振る。

 スピードに合わせた必中の一閃。

「っとと……! ティア!」

「……⁉︎」

 それをスバルは迎え撃つでもカウンターでも無く、背を向けて逃げる。

 ティアナの射撃も威嚇だけで、直撃コースには一発も入っていない。

 それをシオンはただ不可思議な視線で見つめるだけで、追うことはしなかった。

 あくまで模擬戦の条件は、シオンへのクリーンヒットなのだから、去るものを追って罠にハマるより十分に余裕が持てるとの判断からだ。

 その予想は的中し、スバルが途中で慌ててビルの隙間へ身を隠す。

「ふむ……」

 四人が視界から消えた事でシオンは思考を巡らせる。

 見えていなければシオンの予知は使えない。

 知ってか知らずか、シオンの弱点へと踏み込むことができたフォワード四人。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ティアナのシルエットで隠した完全なる不意打ち、背後からのスバルの特攻。

 通常では防御に頼るしかない攻撃だが、それでもシオンはその先を行く。

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっと!」

 すれ違いに拳を躱し、スピードを加速する様に威力を抑えた蹴りをスバルの背中へ。

 自身の想定以上に加速したスバルはバランスを崩すが別のウイングロードへ飛び移ることでバランスを整える。

「ふぅ……なんだ、まだやれるじゃないか」

「今度は勝ちたいので!」

「無理だけどな」

「勝ちます!」

「まぁなのはが幻滅しない程度には頑張れ」

「はい!」

 勢いを殺しきらずそのまま逃げるようにビルの隙間へ消えていくスバル。

 シオンはそのまま動かない。

 構えも取らず、周囲を見回すでもなく、ただ突っ立っているだけ。

 敵意も無く、殺意も無い。

 ただ、訓練のためだけ。勝ちさえ目標に無い、ただ負けないためだけの戦い。

「行きます、フタガミさん!」

「シオンでいい。さんもいらねぇ」

 エリオの背後からの不意打ちを軽く弾き、初めて感情を表現する。

「……はい! シオン!」

「そうだ、それでいい」

 初めてエリオに見せた、承認の笑み。

 それはより闘志となって、エリオからフォワード四人に繋がった。

「……リイン、楽しめそうだ、援護はしてる風だけでいい」

《……了解です。フォワードの計画通りに撃つようにします》

「……ああ、お前でもそれくらいは視えるだろ」

《……十分に。3分ほどなら先打ちできます》

「……最大30秒、3発までだ。ま、そんなにかからないが」

《……了解……あ》

 シオンとリインフォースの念話が終わる。

 なのはが見ている手前、完全に止めるわけではないが、フォワードからしても止まっているも同然の手抜き。

 フォワードの意気込みを買ったシオンが計らう、全力勝負。

「さぁ……なのはに見せてやれ、お前らの強さを」

 構えは無くともやる気を見せるシオン。

 しかし、確かに鎌を握る手に力を込めて。

「……次がラストだ。アタッカー前衛二人はな」

 シオンが鎌を打ち付け、二つの小さな傷を道路に作る。

 今こそ無いが、楽しみの証ではあった。

「……2……1……」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

 ♢♢♢

 

「はい、そこまで」

 全員の目の前にモニターが表示され、行動を中止する。

「……」

「う……」

 必殺を狙った拳と槍は空を切り、それぞれに足刀と鎌が首元に迫る。

 そして退路を断つはずだった射撃二者は、次の動作でどちらかがやられるという確信を強制された。

「何故止める?」

「そりゃあそうだよ、リインフォースは私の隣にいたんだよ、通信丸聞こえ」

「……そういえばそうだな」

 分かってはいたが失念していた、という微妙な感情を示すシオン。

「しかし高町隊長、これはシオンが四人を認めたということでもあってでな」

「それとこれとは話が別。引き伸ばして欲しかったの。でもそれはいいよ。四人の動きやコンビネーションも短い間だけど悪くなかったし」

 リインフォースのフォローも聞く耳持たず。

「じゃあいいだろ」

「四人には、シオンの動きを通じて実戦を感じて欲しかったの。それをこんなすぐ終わらせて……」

「悪かったよ、思ったより面白かったもんでな」

 悪びれないシオンに怒る気も失せたのか、ため息をついてモニターを閉じる。

「フォワードがいいならもうそれはいいよ。後で謝っておいてね」

「……ああ」

「この模擬戦のデータは後で解析して、明日からの訓練に活かします。今日は初日だし、ここまで。フィールドはそのままにしとくから、自由に動き回ったりしてもいいし、すぐシャワー浴びて休んでもいいよ。シオンとリインフォースは相手してあげて」

「「「「はい!」」」」

「「えー……」」

「じゃあ、明日からみんな頑張ろう!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

「「お疲れ様ー……」」

「二人はやる気出そうか……!」

 吐息に殺意を混ぜる高等技術を披露したエース・オブ・エースに対し、殺せるものなら殺してみろと言わんばかりに二人は態度を反転させる。

「「ぅぇい!」」

「もう……! みんな、上官とか気にしなくていいからね。解散!」

「「「「はい!」」」」

 高町なのは一等空尉。

 その高い火力と射程と耐久、箭疾歩による短距離だが捉えられない移動法を持ち、レイジングハートを槍に見立てた近距離戦闘も可能であるオールラウンダー。その全てを真っ向から上回ってくるリインフォース(完全無欠のポンコツ)と、それを持っても倒せないシオン(初見絶対殺すマン)に半ば以上に諦めた態度を示す。

 彼女の真面目な職場と二人の戦力の底を見る時はまだ遠い。



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第64話 ファーストアラート その①

果てなくどうでもいいのでこの話のシャーリーがデバイスに関して話し始めたら暫く飛ばして下さい。果てなくどうでもいいことしか書いてません


「ふぅ……こんなもんだろ」

「うん。そこまで。早朝訓練はこれで終わりね。みんなも、シオンには少し慣れたかな?」

 機動六課が始動してからしばらく。

 フォワードの訓練は当然基礎訓練を基盤とするものだったが、その締めとしてシオンとの模擬戦が定着していた。

 なのはが教える様な基礎や理論をシオンは一切持たないが、それでも実戦訓練としての相手には最適だ。実戦では想定通りはあり得ない事、シオンはそれを踏まえて想定する事、練習での連携と実戦での連携の差、それを感じさせないシオンの動き。

「慣れ……てはいますが。超えられる気がしません」

「ティアナの指揮もかなり形になってきてるよ?」

「ありがとうございます。でも、その。読まれることを想定して作戦を組んでもそれを読まれてて……正直、どうしていいか分からなくなってきてます」

 困った末の掠れた笑いと共に返答するティアナ。

 それになのはも困った様に考え始める。

「そうだね……シオンは特別だからね。作戦だとか個人技だとかで超えるのはちょっと難しいかな。でも、完璧な組織や人なんて存在しない。今はまだダメだけど、そのうちきっと、それが見えてくるよ」

「ふん、いい話に思えるが、お前はソレが見えてて、実行できるのか?」

 少し目付きが悪いシオンが突っかかる。

「……さぁ、どうだろうね」

「シオン、変に突っかかるな。もう十年前とは違う」

「……そうだな。約束は守る。管理局へ反逆はしないし、私闘もしない」

 ブツブツと呟き、意識の切り替えを終えるシオン。それでもまだ全体的に沈んだ雰囲気は変わらなかった。

「ああ。嘱託なんだからな。私の上官らしくしてくれ」

「……ああ、なのは、フォワード、悪かった」

 傲慢さが前に出るシオンが何の嫌味も無く素直に謝るところを見て、フォワードが更に対応に困っていると、キャロのフリードが軽く鳴く。

「……あれ、フリード、どうしたの?」

「なんか、焦げ臭いような……」

「ああ、スバルのローラーだろ」

 皆の疑問にシオンが答える。

「えっ⁉︎あっ⁉︎」

「シオン、わかってたならなんで言わないの」

「別に。わかってると思ってただけだ。メンテもするんだろうとも」

「あっちゃー、無理させちゃった」

 スバルが涙目でローラーを抱え、どうしよう、とティアナ達に訴える。

「それを言うならティアナもキツいだろ。ライトニングはまだマシだが」

「えっ、はい……騙し騙しです」

 ティアナも自分のアンカーガンを見せる。

「うーん。みんな訓練にも慣れてきたし……そろそろ実戦用新デバイスに切り替えかなぁ……」

「「新……」」

「「デバイス……?」」

「まぁ、とりあえず宿舎に戻ろう。フォワードはシャワーでも浴びてくるといい。シオンは私が連れて行く」

「そうだね。じゃあ一旦解散、っていっても道は一緒だし、まとまって移動しようか」

「「「はい!」」」

「じゃあ頼む」

「ああ……全く、十年経っても変わらないな」

 倒れるシオンをお姫様抱っこの要領で抱え、ため息をつくリインフォース。

「えっ⁉︎どうしたんですか⁉︎」

「気にするな、持病だ。体力が無くてな、今のように動いてればこうなる。生身で走ると五分くらいが目安だ」

 早く行こう、と一人で先を進むリインフォース。

「バラすなよ……」

「ええ⁉︎」

「じゃあ今までの訓練とか、試験とか、どうしてたんですか⁉︎」

 ニ対一、四対一を経験したスバルとティアナがシオンに詰め寄る。

「魔力放出、って知ってるかな。お前達の試験の時でも使っていたんだが、魔力を方向を定めて放出する事で加速度を与える技術(スキル)だ。シオンは魔力量だけはそこそこだし、魔法も使わないから、こんな使い方してるんだがね」

「ぶっちゃけ、オレは多人数相手にするのは専門外だからな。本気じゃねぇとは言っても辛いのは辛い」

 二人を退くようにシオンが手を振り、ため息をつきながら答える。

「シオンもそれなりにリミッターかけてるからね。そりゃあキツいよ」

「リミッター、ですか」

「うん、フォワードに渡すデバイスにもかけてるんだけど……デバイスを渡すときに一緒に話すよ。といっても、ただの能力制限なんだけどね」

「一部隊に保有できる戦力は限られているからな。私やシオンも含め、隊長クラスは全員だ」

「えっと……どのくらいかとか、聞いていいですか?」

「うん? ああ、私は……えっと、すまない、なのは」

「もう……いい加減自分のことくらい覚えてよね。リインフォースはAランクまでダウンとはやてちゃんの指示以外で夜天の書の殆どの使用禁止、シオンは魔力量だけだけどBランク、監督者……クロノ提督からはやてちゃんに譲渡されたから、はやてちゃんの指示と緊急時かつ孤立状態での敵襲以外での能力使用禁止」

 説明を後回しにすると言った前言が撤回されている事に、シオン以外の全員が気付くことはなかった。

「なぁ、オレのソレ、言って良いのか?」

「うーん⁉︎ダメだったかな?」

「オレはいいが。コイツらが他言するようならまぁ、例外だよなぁ?」

「う、ゴメン……みんなも、ここだけの秘密にしてね」

「は、はい」

 訓練中の厳しさはなのはには既になく、ただのおっちょこちょいの雰囲気が滲んできていることにフォワードは苦笑いを返す。

「お、あれはフェイトの車だな」

「え?」

 止まった車に歩み寄り、中から見えた顔にフォワードが驚く。

「これ、フェイトさんの車だったんですか⁉︎」

「うん、地上での移動手段だね」

「訓練はどんな感じや? シオンがおるんや、プラン通りやないんやろ?」

「それオレを馬鹿にしてるか?」

「してるよ、どうせいきなり実戦してんやろ」

 ジト目でシオンを見据えるはやて。

 自分が基礎を飛ばして魔導師の完成形(リインフォース)を手にしていたはやては、その飛ばした基礎を埋めるのがどれだけ重要で難しいかをよくしっている。

「正解」

「まぁ、みんな今のシオンにはかなり慣れてきてるし、基礎もしっかりしてるよ。出動は全然大丈夫だね」

「そうかー。まぁなのはちゃんがそう言うならええわ。午後もやろ? 頑張ってな」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「二人はどこに行くんだ?」

「ちょっと六番ポートまで」

「教会本部でカリムと会談や。あ、リインフォース、一緒に来ぃや。夜天の書ってまだ挨拶してへんやろ」

「む、そういうのは苦手なんだが……」

 中間管理職以上の立場とは思えない言い分に、やはり何かを間違えたと後悔するはやてだったが、なんとか言葉を捻り出す。

「恩人にはせめてもの礼儀くらい示すもんやで」

「仕方ないか……済まないがエリオ、シオンを頼んでいいか。もう肩を貸すくらいでいい」

「あ、はい」

 リインフォースがシオンを下ろし、エリオに渡す。

「え……」

「悪いな、歩けるには歩けるんだが」

「あ、いえ……」

「じゃあなのは、デバイスの件は任せる」

 リインフォースがはやての後ろへ乗り込む。

「うん。シャーリーもいるし大丈夫」

「そぉか。ほんじゃ、またな」

 フェイトの車を六人で見送り、フォワードはシャワーへ、なのはは少し別件へ、シオンはロビーへ放置となった。

 

 ♢♢♢

 

「はぁ〜、これが……!」

「ああ、それらが今後お前らが使うことになるデバイスだ。まぁなのは達みたいにリミッターがかかってるからな、次第に解除はするが」

 シャーリーの城、研究室でそれぞれのデバイスを見て感動するフォワードになんとか歩ける程度には体力の回復したシオンが説明する。

「なんでシオンが説明主体なんですか! 開発、調整はこの私です!」

「うるせぇな、少しは手伝っただろう」

「少しは、です! ここしか私が得意になれる場所が無いので戦闘もできる人は黙ってて下さい!」

「へいへい……あ、やべぇ」

 頭を掻きながら引き下がろうとすると顔を引きつらせるシオン。

 誰もその意味がわからなかったが、理解が追いつくのはその直後で十分だった。

「なのはさんはまだ来ないみたいですがシオンが喋る前に全部! 説明します! その子達四機はどれも私、なのはさん、シオンが集めたデータを元にしてそれぞれに合わせた性能に調整されています。データを主に収集したのはシオンとレイジングハートさんで、製作は主に私とシオンです。その子たちはまだ実戦経験がない機体ですが、最新の技術を詰め込んだ最高の機体です! まだリミッターをかけていて最高性能ではないですが、それはあなた達フォワードも同じ! その潜在能力はまだまだ秘められたままです! この機動六課で訓練や実戦を繰り返す内にあなた達は今の何倍も強くなります! 今は自信が無いかもしれませんが、なのはさん達が選んだからにはそれなりの理由と確信があります! 周りが凄いと思うのなら、自分もそれ相応に優れた何かを持っていて、その何かを理由に採用されているはずなのですから! 戦闘ならなのはさんが、事件解決のコツなんかはフェイトさん、権力とエロスは八神変態! 超個人戦技ではシオン! 副隊長達もそれぞれがちょー一流です! その中で揉まれるならレベルアップは必至! 特に意識しなくても周りが引っ張ってくれます! さらに努力しようと思えば機会は山ほど、数え切れないほどあります! シオンのように面倒くさいと思えばそれも大丈夫! やる時にやる事さえやればシオンやリインフォースさんの様な正直ゴミみたいな人たちでも許される部隊です! 管理局員としてやる事をやる意識だけは忘れないように! そしてレベルアップを繰り返し、それに合わせてこの子達もリミッターを外していって、違和感が無いように適宜調整を繰り返し、もうシオンなんて一人で叩きのめせるまでになれます! 正直な話私は努力もクソも無いシオンがデカい態度を取っているのがあまり好ましくないので日々頑張ってきたあなた達フォワードには是非強くなってもらってシオンをこてんぱんにして欲しいと思います! もちろんその為の助力は惜しみません! 個人的にどうしたいなどのご相談を頂ければなのはさんにも相談しますが最大限その意に沿うよう努力します! 表向きはものすっごい真面目で周囲に物腰低い部隊ですがそれはそれ! 自分が重要な立場なんだとプレッシャーを感じる必要はありません! 子供同士の様なフレンドリーな関係で楽しくやっていきましょう! もちろんそれぞれの意思は尊重されますから、上司だろうと嫌なことは嫌と言えばいいです! でも八神変態の奇行は諦めた方がいいかもです! 私もデバイスに関しては熱くなりがちな事がありますので、そうなったら怪我しない程度に殴って止めてもらって大丈夫! でも語らせてくれたりしたらシャーリーさんはとても嬉しいです! あ、でも暫く一人で話してると嫌われるってのは八神変態が部隊挨拶で言ってたと思うので私もあまり喋ったりはしない様にしますが聞きたい事は遠慮しないで聞いて下さいね! あ、私の自己紹介しましたっけ? 取り敢えずシャーリーさんで良いです! シャーリーって呼び捨てでもいいですよ! あ、シオンの話は聞いたかな? シオンを敬称付けて呼ぶとそれはそれは嫌われるからみんなも最初は恐れ多いと思うけどシオンって呼ぼう! あ、全然恐れ多くなんかないか! それはそれとして私はみんなのお姉さんポジションにいられると嬉しいな! それでデバイスのことなんだけど後はなのはさんが来てから細かい調整プランなんかを話そうと思うのでみんなは自分のデバイスに触れてあげたりして下さいね! あ、でもちょっと言っとこうか! ティアナは全体的な性能強化、スバルは威力アップや収納、即時装着だったりの便利性、エリオとキャロはそれぞれの特性を伸ばせるように調整してます! それからカートリッジシステムなんだけど、一応搭載してるにはしてるけど、シオンの手も入ってるから時たまトンデモナイカートリッジ混じってたりするかもしれないんだけど、十中八九爆発したりだとかのマイナス効果は起きないって証言というか録画映像? も撮ってあるからそれが原因で不利益を被ったり怪我したり、最悪死んじゃったらシオンがそれはもう今後あらゆる事件の裁判の被告に立たされて無条件に負けちゃってもう生きてる意味どころかこの世界が存在する意味とかなんで楽しむことなんか考えてしまったんだろうとかそんなレベルで地獄を見ることはもう管理局が滅んでも確定してるから安心してね! もしかしたら勝手にスターライトブレイカー発射されるかもしれないよ! あ、映像といえばシオンの戦闘データってかなり貴重なんだよ! 実戦だとチームを組まないから単独で行っちゃって誰も見てないし、データはクロノ提督が握り潰しちゃってるからどんなスタイルなのか私もこの部隊に入ってみんなの訓練見るまでは知らなかったんだ! 実力差があるとはいえ四人相手に魔法も無しでこれまで無傷ってのは思ってたよりとんでもなかったよね! なのはさんでも魔法有りで回避に専念しないとそこまでできないんじゃないかなと思うよ! ともかくみんなはまだなのはさんやフェイトさんと比べて実戦経験や知識の不足は否めないから当面の間はそれを少しずつ埋めていく訓練になると思うんだ! だからって戦力に考えてないわけじゃないよ! あなた達はこの機動六課とその解散後の管理局の新世代として活躍できる潜在能力を秘めてる! それを引き出し活かすためのこの機動六課と考えて! この部隊でいる時間は短いけどその間の時間はとても有意義で重要なものになるハズだから! 隊長たちはどいつもこいつもバカみたいな戦力で技術能力魔力の全てを兼ね備えてる! ホントの事言えばあの三人いれば部隊二つ分の戦力は確保できるんだけどそれはあくまで戦力! デバイスの修理や開発だったり事件の処理だったり物資の調達やらなんやらは私たちみたいなほかの局員によって成立してるの! 中には魔力を全く持たない局員もいるけど彼女たちもこの六課に採用されるだけの何かを持ってる! 魔法だけが管理局員じゃないのは分かってると思うけどそれを理由にバカにしてる本局の人たちも少なくない! けどみんなもこの六課にいる間はその技術や能力を尊敬して、けどへりくだりすぎない様な関係を築いてくれたらなと思います! ちょうどさっき言ったフレンドリーな関係ね! 友情には三つのUが必要なんだけどそれは関係無いから話さないけど、とにかく互いを敬って、けど自分を下に考えない対等かつ滑らかな関係って事だね! 訓練中とかはなのはさんも厳しいけどお昼とかは結構緩かったりするでしょ? それと同じ! やる時はやる! 休む時は休む! おうとつじゃないけど、なんて言うんだっけ、まあいいや! たまに怒られたりしたとしてもそれは業務上の、正しい成長の為ってことだから、素直に受け入れて修正していく事をオススメします! 人間的に嫌ってる場合にはそんな注意とかしないし、何よりこの部隊に入れてないはずだから! みんなそれ相応の人間性も買われて勧誘されてるんだよ! だから自分は気にかけてもらってるっていう自信を持ってついて行こう! 不安だったら私も相談に乗るし! リインフォースさんなんかは特に相談しやすい一人だと思う! あの人実力と意識がかけ離れすぎて『新入部員なのに練習メニュー決められる! なんで⁉︎』ってくらい抜けてる人だから! 逆にあなた達を上官みたいに思って接してくれると思うの! でもシオンと同じで戦略とかの教えはできないからね! ただ強いだけだから! でもあの人も戦闘データほとんどないんだよね! ホント才能って意味わかんない! 不平等! でもみんなもその才能があるからこそそのランクで採用されたわけだし! さらに私たちみたいな熟練とは言えないけどそれなりにエキスパートなメンバーが味方です! 来年の今頃は今の自分十人は同時に相手にできるほど強くなってる! のは言い過ぎたけど! 三人は相手にできるはずです! 私だとどのくらいになるかの予想は難しいんですけどね! 今渡したデバイスはその一歩! そのデバイスのリミッターも全部外れて、ちゃんと調整した暁にはなのはさん達に肩を並べられる立派なストライカーになれてるはずですから! それを使ってシオンを倒せるようになろう! ふぁいとぉぉぉぉ!!!」

「なれねぇよ。あと早口過ぎて半分くらい読めん。『まだリミッター』までしか読んでねぇ。斬るぞ」

 律儀に、というより半分放心状態でシャーリーの語りを聞き終え、ため息をたっぷり吐いてからゆっくり鎌を突きつける。

「いいか、人に説明する時は単純明快に、かつ要点を踏まえて纏めろ。言葉を厳選して万人に……は無理だからこの場にいる者に容易く理解させてみろ。ほら、もう一度言ってみな」

「うーん……シオンをぶっ潰そう?」

 簡単に自殺に等しい発言をするが、シオンはそれでも突きつけた鎌を動かす事はない。

 これは『私闘禁止』という制約にに入るからこそ何も無かったようなものなのだが、この時点のシャーリーがそこまで頭が回っていたのかは永遠の謎である。

「なるほど頑張ってくれ。管理局の精鋭を全力投入しても無理だけどな」

「よくもそんな口が聞けますね! 管理局歴戦の魔導師はあのアホみたいな戦力のなのはさんでも落とされるほど強いんですからね!」

「……ドンマイ」

「え?」

 反論が来ると構えていたシャーリーは、苦笑いを浮かべ鎌を引っ込めたシオンに対し理解できないという顔をするが、直後のドアが開く音で死を察知した。

「……シャーリー?」

「な……なのはさん……」

「私が……何かな?」

 錆び付いた歯車よりぎこちない動きで振り向いた先には、今にも自分の魔力だけでスターライトブレイカーを撃ちそうなオーラを放つなのはがいた。

「なななななんでも無いですよ⁉︎なのはさんこそこの世の魔王とも言うべき戦力を持ってるって……!」

「魔王……?」

 足音の無いまま、ゆらりゆらりとなのはが近寄る。

「ちちちちちがいます! そう、聖女! 女神! 強く美しいなのはさんこそ時代を統べる象徴となるべきお方です!」

「そう……じゃあ、私に勝てる人……紹介してくれるかな……? 本局には、もういないハズだけど……それとも、シャーリーがやるのかな……?」

 既にレイジングハートはバスターモードでセットアップ。

 バリアジャケットこそ纏っていないもののそのオーラは正に魔王のソレであった。

「おいなのは。人に私闘を禁止しといて自分がする事ないだろ。デバイスの説明してやれ」

「む……そうだね。私たちの事はどうでもいいか。シャーリー、後で屋上」

「ひぃ!」

「さて、じゃあ説明を、とは言ってもリミッターの話はしちゃったのかな? ならもう最新型デバイスってことくらいしか今は言うことが無いんだよね。今までのデータから調整して作ったものだから、ちょっと重かったりするかもだけど変わらないくらいだと思うし、これからの訓練で遠隔調整もできるらしいから──」

 なのはの説明の途中でアラートが響く。

「っ、これって!」

「一級警戒態勢⁉︎」

『みんな! いきなりですまない!』

 フォワードが慌てる中、モニターにリインフォースが映る。

『教会と夜天の書の探知が一致、現場状況も確認できた! レリックと思われる反応だ、現在リニアレールで移動中!』

『なのは隊長、フェイト隊長、シオン、行けるか?』

 偵察隊と思われるモニターに現場の状況が映される。

「私はいつでも」

「私も」

「オレは無理」

『よし、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ! 行けるか⁉︎』

「「「「はい!」」」」

「おう、オレは無視か」

「よーし、いい返事や! 目標は現地でガジェットの制圧、レリックの回収! 隊長は、気ぃつけてな!」

「「……了解!」」

「……行くしかないか」

「……? なにかあるんですか?」

 シオンの気を変えるほどの確認にスバルが疑問を投げるが、シオンではなくリインフォースが答えることに。

『未確認の新型ガジェットが出てくるかもしれない。そうなれば今のフォワードでは太刀打ちできないかもしれないからな』

「……いえ、私たちだけでもいけます!」

 リインフォースがある程度のガジェットの資料を映すが、ティアナが意志を見せる。

『うん、そのつもりだ。あくまで隊長たちは最後の手段だ』

『無駄話してる暇もあらへん。機動六課、出動!』

「「「はい!」」」

 部隊長の指示で配置などの詳細が確認された後、それぞれが最速で現場に向かうことになった。




現場の情報は聞き取れなかったので濁しました。すみません。


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第65話 ファーストアラート その②

「じゃあ確認だよ。スターズは先頭から、ライトニングは後方から、それぞれ中央に向かって制圧。取りこぼしのないように確認してね」

 輸送ヘリでの最終確認。

 移動するリニアレールを前後から挟んで制圧、レリックを回収。それが基本目標。他の指示追加はあれば追って指示、という形になった。

「あったら取りこぼした奴が取りこぼしと一緒になのはに撃たれるからな」

「撃たないよ⁉︎」

「まぁ、一緒にではないがフォローはある。なのはとフェイトが無理でもオレがいる。だからと言って取りこぼしていいワケでは無い。これに失敗するようではまだまだだという自覚を持て。まぁでも初任務だ、八神の顔に泥塗らなきゃセーフだ」

 現場指揮はなのはの立場なのだが、歯に衣着せぬシオンの言い方はより緊張感を高め、かつ必要な情報を無駄なく伝えられるという点からなのはもこういった場面でのシオンの忠言は自分を抑え教わる立場として真摯に聞く姿勢を持つ。

 かつてのそれが、自分の意思を貫ける足掛かりとなったこと、リインフォースというはやての無二の愛機を救った恩師であることから、シオンの価値観には異論は唱えないというある種宗教的な価値観がなのはにはあった。

「「「「はい!」」」」

「シオン! 偵察隊から報告だ! 空から多数、ガジェット反応!」

 操縦席から報告。

 受けたシオンはそう考える事もなく提案する。

「ふむ、じゃあそっちはなのはとフェイトだ。こいつら飛べねぇしな。行けるだろ」

「うん。フォワードは任せるよ」

 価値観は価値観、立場は立場。

 シオンが対等な立場を望むなら自分たちもそうしよう。それがなのは、フェイト、はやて、リインフォースの間での共通理解だった。ついでに言うのなら、守護騎士は名目上はやての管理下であるが、恩人たるシオンには一切頭が上がらない。それでも表向き対等に接してはいるが。

「ああ」

「みんな、心配しないで、思いっきりやってみよう。私も全力でやるから。フェイトちゃん!」

『あと少しでパーキングに到着する。先に出……っ!』

「「「⁉︎」」」

「フェイトちゃん⁉︎」

 フェイトからの通信が突然途絶える。

 管制からは通信妨害である可能性が高いとのこと。

「……リインフォース、お前はフェイトの所へ向かえ。場合によっては使っていい。こっちはこのままいく」

『……わかりました。フェイトを回収して撤退する』

「なのは、一人で行けるか?」

「うん。こっちのフォローまで手が回らないけど」

「なら大丈夫だ。行ってこい」

「了解! 高町なのは、行きます!」

 フォワード達の初任務は、隊長達の助け無し。自力での達成が必須のスタート。

「あの、シオン」

 なのはが完全に接敵したのを見ると、キャロがシオンに声をかける。

「なんだ?」

「私は……どうすればいいのでしょうか」

「……どう、とは? 指示が理解できてないわけではあるまい」

 モニターを見たまま、キャロの話を半分に聞くシオン。

「怖いんです。全力で、というのが」

 下を向き、ボソボソと呟くキャロ。

「キャロ?」

「……そうか」

 エリオが首を傾げても、キャロはそのまま話続ける。

「私が全力を出せば、どうなるのでしょうか」

「別に。部隊からの期待が大きくなる。それだけだが」

「シオンは、私の生まれを知っていますか」

「知らない。聞いてたとしても覚えてない」

「じゃあ、私の能力は」

「竜召喚だろ」

「はい。では、その限界は」

「想定しようと思えばでき……ああ、そんな心配してんのか」

 ここで初めてキャロにシオンが向きを変え、キャロの目を覗く。

 虚無を思わせるハイライトの無い赤い目は、十分にキャロに恐怖を思わせた。

「え」

「お前の力はイイモンだよ。恐ろしい、って恐怖の感情は無知故だ。まぁでも、アレだろ、『強大すぎる力』って言ったんだろ、その村は。なら良いじゃねぇか。ソレが力なら制御できる。その村では扱えないだけで、力なんだ。災害じゃねぇ。だから安心しろ。この部隊はお前を忌み嫌ったりしないし、無理に追い出したりなんかしねぇよ」

「……!」

 シオンは否定しない。

 生まれを読み取ったシオンはそれでもなお肯定する。

「それにな、枠から外れてるだけで追放する、なんてのは田舎者のする事だ。追い出されて正解だぜ。ハハハハハハハハ!」

「シオン、それ言うとクロノ提督に怒られますぜ!」

「あー、すまん。まぁそんな感じだ。だが……お前ら、全力は出すな」

 高笑いから一変、真剣な表情で切り出すシオン。

「「「……え?」」」

「出して六分だ。それ以上必要なら死なない程度に劣勢になれ。フォローに行く」

「な、何故ですか⁉︎特訓の成果を見せる時じゃ……!」

 意気込むティアナに対して、あくまで冷静に返す。

「そうさせてやりたいのは山々だがな。フェイトに妨害があった以上、もっと警戒するべきものがある。だから、出すな。これは命令だ」

「心当たりが、あるんですか」

「……隠してもバレるから言うが、ある。が、何処の誰とは言えん。フェイトやお前らも少なからず関係があるからな……尚更だ」

「フェイトさんも……?」

「それは今気にするな。リインフォースが向かってる。今はこっち、レリックの回収だ」

「でもフェイトさん……」

「黙れ。この任務が終わっても十分悩む時間はある。手遅れには絶対ならない。なったらこの首くれてやる。だから、黙って終わらせろ」

「シオンー、どうせしくじったらクロノ提督に首飛ばされんでしょーが。どっちに転んでも無理ッスよ」

「じゃあお前の首も賭けるか、操縦士。名前は……なんだったか。まぁいいか」

 あくまでフォワードの方を見ながら、言葉だけでのコミュニケーション。

「ヴァイスっすよ! リイン姉さんといい、いい加減覚えてくれないっすかね!」

「すまんな、オレ達は頭が悪いんだ」

 感情も交えない淡々とした返答はヴァイスを諦めさせるに十分だった。

「へーへー! それでいいっすよもう! っと、フォワードたち、無事到着だぜ、覚悟はいいか!」

「「「はい!」」」

「まずはスターズ! 行ってこい!」

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」

「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

「「行きます!」」

 それぞれが降下しながらセットアップ、無事目標に着地する。

「次! ライトニング!」

「……」

「大丈夫だよ。僕たちがついてる」

「……うんっ!」

「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」

「「行きます!」」

 

 ♢♢♢

 

「どーゆーつもりですかい?」

「あん?」

 フォワードがいなくなり、二人残ったヘリで操縦士が口を開く。

「まだフォワードはひよっこだ、この任務だって決して雑務じゃねぇ。なのに六分? そんなんじゃ、下手すりゃ全滅っすよ」

 実際の訓練に関わってはいないものの、ヴァイスはフォワードの訓練を時たま覗き見ていた。

 それは管理局の中でも直接でしか見ることのできないシオンの戦闘を見たかった好奇心もだが、フォワードの身を案じての事だった。

 ヴァイスの知る、機動六課以前のシオンの風評。それは敵に寝返り、幹部にのし上がった上で組織を崩壊させる非道。味方を盾に弾幕を超え、銃弾より速く命を刈り取っていく超戦士。無関係な敵の身内などを人質に取り、精神的に痛ぶった後人質ごと惨殺……そういった正義とは思えない外道を想像していたために、フォワードが心配でならなかったからだ。

「そうならないようにオレが行く」

「だから、なんでそこまでする必要があるんですかって聞いてんですよ」

 しかし、もうその疑いは無い。

 シオンは明らかに覗き見に勘付いている。それでもその事を理由に何か言ってくるわけでも、対応を変えてくるわけでもない。訓練にしても、模擬戦ではなのはに劣らず厳しいところがあるが、基礎の部分には誠実な教官として動いていた。

「理由はさっき言った」

 座席に寝転がり、スターズとライトニングのそれぞれのモニターを眺め、ダルそうな返答でシオンは口を閉じた。

「……」

「……」

「……フェイトさんと、フォワード達に関係ある人物が犯人ね……その犯人が誰か、ってのも教えてくれないんでしょうね」

「ああ」

「そのへんマジにクールですよねぇ、じゃあ、この任務はどうなると思います?」

「別に。終わってみないと何も言えん」

「予想とかねぇんですかい?」

「無いな。オレ達はそういうのも苦手だ」

「ふーん? シオンは戦力分析も正確だし、得意かと」

「……要らないからな。戦術や策略なんて無くても負けないから、そういうのは考えたこともなかった」

「あ〜……そういえば、前にフェイトさんが言ってましたよ、シオンは私たちとは違う、って。単に嘱託だとかそんなんだと思ってたが、戦力の話か」

「どうだろうな。ん、デカいの出てきたな。じゃあ行ってくる」

「へい……って! 生身でか⁉︎」

「他に何がある。それ以外は禁止されてる。じゃあな」

「……マジかよ」

 躊躇い無く飛び降りたシオンを尻目に、ドン引きしたヴァイスが呟いた。



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第66話 ファーストアラート その③

「エリオくんッ!」

 屋根の上から、無力と分かっていながらも叫ばずにはいられない。

 指示された六割の出力。小型のガジェット相手であればAMFを持ってしても問題無く処理できた。しかし、この大型は違う。

 訓練では想定されていない程のパワー、広いAMF。純粋な攻撃力では防御も抜けない。

 そんな球体の大型ガジェットに、相棒たるエリオが磔にされ締め上げられている。

 自分では、何も出来ない。六割の制限が無かったとして、全力を出せただろうか。

 自分の力に対し、非難しない、怖がらない、歓迎すると彼らは言った。

 ──本当にそうか? 

 切迫した状況の中、任務に関係の無い事柄が頭を巡り思考を妨げる。

 こんな時、何をすればいい? 自分は何ができる? 仮初でも優しく微笑んでくれた、フェイトに助けられた同士の大切な人。何をすれば助けられる? 

 ──なにも、できないのではないか? 

 なのはとシオンの訓練も、フォワード四人だったからやってこれた。

 隣で誰かが、同じ辛さと喜びを共有していたから挫けずにいられた。

 シオンは、力なら制御できると言った。だが六割では召喚にすら不備が出る。

 ──自分は、またしてもお荷物なのではないか? 

「やだ……! エリオくん……!」

 ガジェットのアームが屋根を突き破り、エリオを今まさに放り投げんばかりに掲げられる。

「エリオくんっ!」

「──紫電、一閃!」

「え……」

 瞬間、そのガジェットが両断される。

「オーケーだ。よく言いつけを守った」

「シオン……」

 いつもと変わらない態度のシオンがそばに立つ。

「もういいぞ。それで十分」

「私は……なにも、できなくて……」

「無闇に力を使わなかっただろ。その制御ができたのはお前の強さだ。まぁだが、使おうとしたのは少しマイナスだな」

 キャロを認めた少し優しさを覗かせた赤い瞳は、すぐさま目標へと移された。

「えと、あの……」

「いいよ、後で。今は任務を終える。エリオを守ってやれ。落ちないように抱いておくくらいはできるだろ」

「……はい!」

 

 ♢♢♢

 

「さて……スターズ、聞こえるか?」

 ライトニング周辺のガジェットを数体両断した後、スターズへ連絡を取るシオン。

『……はい! こちらスターズ4!』

「戦況は」

『少し……苦戦しています。スバルが頑張ってくれてますが、流石に限度です』

 銃撃音の混じった声。

 爆発が視認できることからまだ距離は遠い。

「わかった。こっちの片付けて行くから後一分待たせろ。潰せるのは潰していいが、現状維持で十分だ」

『一分⁉︎そんな短時間で……り、了解!』

「ふぅ……」

 モニターを切り、戦闘を再開する。

 ただガジェットへ近づき、一振り。ただそれを繰り返す。

 もはや戦闘ではなく殲滅の類に入るほど圧倒的で、瞬間的。リニアレールの半分を埋め尽くしていた三十を数えるガジェットは、同じ秒数程度で全滅していた。

 そのままレリックのある車両を飛び越え、スターズを視認する。

「ふぅ……すまん、半分くらいで済んだ」

 ティアナに対峙していたガジェットを両断し、軽い謝罪を述べるシオン。

「い、いえ! ありがとうございます!」

「気を使うなってんだろ。この状況にさせたのはオレだ。お前らはオレを非難するべきなんだぞ」

「と、とんでもない!」

「だから……くそ、取り敢えず後だ。お前らはオレの合図があるまでここで待機。レリックの確保を頼むからな」

「はい! スバル! こっち来て!」

 シオンが車内へ突入すると、ティアナはスバルを呼び戻し現状維持、車外のガジェットの破壊に集中する。

「わぁああああああ⁉︎ういん……ダメだ! とぉー!」

「きゃあっ!」

 中央に近い車両にいたスバルがガジェットを殴り飛ばしながら飛び出す。

 スバルは六割の制限を使用魔法にも当てはめていたので、スバルの六割以下=そんなに本気じゃない=ウイングロードは使わないはず、という式が成立し、その使用を発動前に中断。結果として崖に飛び出た形になったが、ガジェットの残骸を蹴る事でなんとか車両上に着地することができた。

「こら! なにすんのよ!」

「たはー、ゴメンゴメン! シオンが突撃してくると思うと怖くて」

「あー、なら、いいわ」

「?」

「もうガジェットは全滅したみたい。たった一人で、生身で、あの体力で……はぁーあ! 行くわよ!」

 明らかに怒りを示し、ティアナが車内に入る。

「そんな走らなくても! ティアー!」

「……!」

「どうしたの? ティ……!」

 次の車両に入る事なく立ち尽くした親友を不思議に思いつつもその背中から覗き込み、同様に言葉を失うスバル。

 そこには無残にも十字に斬られ、四等分されたガジェットが転がっていた。

 ガジェットが侵入するために空けたと思われる壁の損傷以外、綺麗なまま。

「ガジェットの……抵抗さえ……?」

「ティア!」

「……!」

 踏み出したティアナが止まる。

 息を飲んで見つめる自身の頭上には、訓練で幾度と無く目にした白い鎌。

「……なんだ、お前らか。合図するっつったろ。あやうく殺すとこだったぞ」

 ゆっくりと鎌を下ろし、短くため息を吐くシオン。

「す、すみません!」

「スバルには支持してないな。お前はいいよ。聞いてない指示なんて守れるわけないもんな」

「いやでも、あの」

「命令違反は、すみませんでした。ですが、なら何故殺さなかったのですか」

 ミスを認め頭を下げる。そしてその後、シオンを睨んで問い質す。

 自動迎撃のガジェットが反撃できない程の速度で斬り回っていたのなら、何故使えない自分ごと切らなかったのかと。

「ティア⁉︎」

「んー? 死にたいのか?」

「いいえ。死んでも叶えたい夢はありますが、死にたくはありません」

「ふーん? ならいいじゃねぇか。お前みたいな目標を持つヤツはな、こんなロクデナシに殺されるべきじゃないんだよ」

 喜ぶ様にシオンが笑う。ニヤつく、という表現が適切かもしれないが。

「それにお前らはなのはの仲間だからな。殺したら怒られるだろ」

 バツが悪そうに言い捨てるシオン。

「シオンって、そういうの気にする人だったんですね」

「そりゃあ気にするさ。なのはの選んだ部下だぜ? その内成長してオレらの仕事を減らしてくれることを期待してる」

「いや……それはなのはさんと関係無いです……」

「あるだろ、お前だってなのはみたいに強くなりたい、ティアナはなんか、叶えたい夢? があるんだろ。そんだけ意欲があればオレの仕事なんて減るさ」

「本気でそう思ってますか?」

「……?」

「この任務だって、六割、たしかに制限はありました。ですが、全力でやっても『こう』はできない自信があります。あのガジェット達相手に、反撃さえ許さないなんてこと、できるようになるとも思えません」

「……なんなんだ? さっきから。オレに反抗ってワケでもねぇだろ」

「いいえ、これは反抗に値する無礼と思って言います」

「ティア……そのへんで……」

 スバルがオドオドしながらも止めに入るが、二人は意に介さない。

 シオンの目を真っ直ぐに睨みつけたまま、ティアナはその口を開く。

「あなた達隊長達は、私に価値があるとでも思っているのですか?」

「ああ」

 即答。そして肯定。

「お前の価値はねぇ……なんつーか、結構なモンだと思うぜ? 他のメンバーと比べて卑下してるみたいだが、お前と同じ射撃ができる奴が何人いる? お前と同じ指揮ができる奴が何人いる? 少なくともフォワードではお前だけだ。魔力を持たない局員だって大勢いる。確かになのはやフェイトのように超一流のブランドは無いかも知れん。でもな、そこに向かう意志があるのなら辿り着ける。八神はその点、お前と同じような心境だっただろうよ」

「あなたや……リインフォースさんは、どうなんですか」

「オレ達は……違うな。強くなってしまった類だ」

「……」

「生きてる世界が酷過ぎて、それでも生きてみようとしたらこうなった。リインフォースは……触れてやるな。あいつも望んであそこまでの力を得たわけじゃない」

「……はい」

「取り敢えず任務だ。愚痴くらい後で聞いてやるよ。ほら、さっさと回収しな」

「はい……」

 その日のレリック回収任務は無事終了。

 フォワードが怪我を負うことも、大きな魔法を使う事もなく、ただなのはとシオンによって場が蹂躙された。



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第67話 ショタでロリコンは普通では

「えっと……昨日はごめんね? あの……色々あって……」

「いえ……フェイトさんが話したくないのであれば、詮索はしませんが……」

 翌日。いつも通りの早朝訓練前に昨日の事について謝罪をとフェイトが参加する。

 フェイトはリインフォースがしっかりと回収していた。任務への合流は『奴らならもう終わってるだろう(合流面倒だな)』と判断したとの事で六課へ戻ったのがシオン達と同じくらいになる。

「おいリインフォース。何があった」

 ティアナが流そうとするが、シオンは単調なままで話を聞き出そうとする。

「シオン!」

「うん、話そうにもな。簡単に言えば何も無かったんだ。だからまぁ、取り敢えずスルーでいいと思う」

「はぁ?」

 シオンが眉を潜める。

「私とフェイトを検査してもいい。別に損傷があるわけでもなく、何かあるわけでもない。本当に何もなかったんだ。細かく話すのは面倒というかな。いやホントに。ほら、何かあったというニュースも無かっただろう?」

「……クソ、めんどくせぇ。なのは、それでいいか?」

「うーん。二人がそうまでして隠したい事があったとして、それがレリックに関係するものなら隠すだけ損なはずだし……私は二人を信用してるから、それでいいと思う。フォワードはどうかな」

「わ、私もなのはさんがいいなら大丈夫です!」

「私は……少し疑いたいですが。他がいいなら大丈夫です」

「僕はフェイトさんに助けてもらった身ですし……」

「私もです」

「甘いねぇ……まぁいい。コトがコトだからな。怪しけりゃ即斬るぞ」

「殺すな、と言っても聞いてくれないんだろうな。フェイト、後で不死身にしてやろう。殺されてからでは遅い」

「死ぬのはお前だけだぞリインフォース」

「む、私は割と本気で不死身だぞ。なんなら究極生命体にもなれる」

「じゃあ細切れにするぞ。子宮だけエリオにくれてやる」

「えぇ⁉︎なんでですか⁉︎」

「そりゃあ……生」

「シオン! エリオにヘンな事言わないで!」

「……ああ、うん。じゃあ胸は八神かキャロに」

「それもだよ!」

「……そうか。じゃあ目……」

「はいシオン。暴走しない。もういいよ、昨日のことはただの不具合。みんなもそれでいい?」

「「「「はい」」」」

「よし、じゃあ今日からの訓練は更にハードになるよ。それぞれのポジションに合わせた訓練だからね。ヴィータちゃんにも今日からは参加してもらうことになるから」

「「「「はい!」」」」

 

 ♢♢♢

 

「エリオとキャロは、なのはやリインフォースみたいに頑丈じゃないし、ティアナやなのはみたいな、相手の射撃を相殺していく事も難しい。だから、まずは撃墜されないように攻撃を回避する能力を身に付けよう」

「「はい!」」

「まずはこうやって……」

 宙に浮くスフィアからゆっくりした射撃が二発、フェイトへ向けて発射される。

 それを、ステップ二回で余裕を持って、かつ確実に回避するフェイト。

「こんな風に……動き回って、狙わせない。狙われやすいところに、長居しない」

 乱雑に立てられた柱のようなものの間をジグザグに走り攻撃を躱していく。

 そしてある程度避けると一度足を止め、攻撃を集中させる。

「あ……!」

 着弾と共にエリオ達が小さく声を出す。

「ね、こんな風に」

 しかしその時にはフェイトは二人の後ろに回り込んでいた。

「え……」

「すご……」

「今のも誰でもできる動きを早回ししてるだけなんだよ。高速になるほどカンやセンスに頼るのは……この人みたいな、とんでもない例外を除いては危ないんだよ。だから、二人はしっかり基礎から身に付けていこう」

「「はい!」」

「この、とんでもない、とはまた……」

 やれやれ、とシオンがため息を吐いた。それが、終わりだった。

「じゃあシオン、ちょっとやってみて」

「ヤだよ」

「高速と低速で二回」

「やだって」

「シオンはスピードじゃなくて時間で終わるんだ。本当に五分。訓練より筋力とか使うから、そうなるんだろうけど」

 フェイトがシオンを無視してスフィアを増やす。数にしてフェイトの倍、30。

「訓練は魔力放出で手抜きだからな。使わないとホントに五分だ」

「はい、じゃあスタート」

 どん、とフェイトがシオンを押す。

 すると当然、フェイトが増やしたスフィアが問答無用でシオンへ攻撃する。

「っざけんな!」

「とは言いつつやるんですね……」

 先程フェイトが説明した、動き回り狙わせない基本を全て無視したその場での連続回避をさも当たり前のようにこなすシオンを呆れながら見る。

「根はマジメだからね。裏切ったりも、ホントはしない。そう信じてる」

「……?」

「ううん、何でもない。シオンは口が悪いだけなんだよって」

「はぁ……」

 それ以上フェイトは口を開かず五分が経過。

 次第にスピードを上げていく五分を無被弾で超えたシオンの息は絶え絶えだった。

「あー……無理」

「じゃあ次、低速でおねがい」

「無理だっつってんだろ」

「フェイトさん、いいですよ、シオンが無理なのは今までの訓練で分かってますし……」

「お? オレを煽ったな? いいぞフェイト、やる」

 自分がバカにされていると感じたのか、震える脚に鞭打って再び五分を開始するシオン。

「えぇ⁉︎すみません! ホントにいいですって! 大丈夫なんですか⁉︎」

「煽られたらその発言を上回るのがオレの信条だ。魔力放出は使うけどな」

「うん。じゃあ、スタート」

「お前らも後でやれよ! クソ!」

 呪いを含む叫びを上げてから、シオンは倒れるまで一言も話さなかった。

 

 ♢♢♢

 

「全く……自分の事くらい把握しているだろうに。また調子に乗ってやらかしたのか」

「うるせぇ……」

 医務室。事件のデータ収集で席を外しているシャマルの代わりにリインフォースが治療(熱中症)を施している。内容は点滴と各部を冷やす氷を適宜替えるだけ。

「普段冷静なクセしてテンションが上がると止まらないのがお前たちの欠点だな。反省しろよ」

「たち、って……オレらがそう見えるのか?」

「二人ともそう変わらない様に思うがな。とにかく、今は寝ていろ。午後の訓練だって放ってきたんだぞ、私は」

「お前、午前何してたっけか」

「うん、私はヴィータと共にスバルの相手だな。より強く、より硬い防御の訓練だ」

「……お前のバリア抜ける奴がいるか?」

 リインフォースの実力を認めつつ、それを計るように問うシオンに、リインフォースは恐らく能力も含めて考察したのだろう、少し長く間を置いて答えた。

「直死なら」

「じゃあ管理局じゃ無理じゃねぇか」

「そう言うな、私だって一応リミッターもかかってるんだ、どうにかなるさ」

「オレらとあいつらは違うからな……適度に合わせてやれよ」

「ふふ、たまにはシオンはそんな事を言うのか?」

「言うだろ、優しいんだから」

 間を置かず、当たり前だと言わんばかりに答える。

「うん、そうだな。そうでなければ私やはやて達を助けたりはしまい」

「その話はすんなって……単にウタネの気まぐれだ」

「そうだとしてもだ。お前たちがいなければ少なくとも私はいなかった。それに……私は、お前たちに正式な入隊で良いのだろう?」

「んまぁ……そうだな。考えとけ。五人目だからな」

「夢物語です。本当に」

「だろうな。オレ達も想定すらしてなかった」

「……私にも、次はあるのでしょうか」

「さぁな。頼んでやろうか?」

「いえ、できれば私は、はやて達と普通の人生を終えてみたいです。その上でまた考えさせてください」

「なら頼んどくよ。八神や騎士は無理だが……まぁ、そうなるのもまだまだ先だろ。ゆっくりでいい」

「……本当にすみません。もしかしたら私は、みんなの邪魔になっているのだと思います」

「あ?」

「あなた達がいなければ死んでいた私です。最近は能力の傲慢も過ぎて怠けているのも分かってはいます。決して少なくない代償を払って生かされている私がこんなでは、良く思うはずもないでしょう」

「それでいいじゃねぇか。なのは達やフォワードよりかなり人らしいぞ?」

「それは……夜天の主としてですか? シオンとして?」

「シオンとして、だ。アイツらを見てみろ、何においても仕事、仕事、仕事だ。まぁ……価値観的に言うからなんだが、アイツらは『時空管理局が保有する犯罪者を捕まえるための手段』だ。あくまでシオンとしての価値観だがな。アイツらは人じゃなくて人材、人財だ。あくまで管理局に使われるモノに過ぎない。その点お前はより人らしい。それじゃ不満か?」

「……作り物の私は、あの生真面目な天才達より人らしいと?」

「ああ。アイツらは自ら進んでこの道を選んだ。今になって思うよ、リンディは実に先見の明に長けていた。もしかしたら、今の様になる事が分かってたのかも知れない。もう暫く会ってはいないが……やめさせておくべきだったか聞いてみたいもんだ」

「リンディさん……私も暫くです。何度か見かける事はありましたが、軽い挨拶くらいで。それで、何とおっしゃっていたのですか?」

「んー、よく覚えて無いんだがな。才能で道を決めるのではなく、苦労と試練を超えて道を進む資格を示せ、みたいな感じだったと思う。今のフォワードと同じくらいだ。奴らは才能故に八神に選ばれ、管理局機動六課の目的達成の為の手段として育成されている。別に否定するわけじゃねぇけどな。個人でやるウタネとシオンとは別の在り方ってだけだ」

「良いか悪いかで言えば、どうなりますか」

「だから、そんなんじゃねぇ。地球で一般企業に入っても同じことだ。それが今の普通なんだよ」

「はぁ……その、そのような事を考えた事が無かったもので……戦乱を生きてきた私には、少し理解が」

「オレも、お前も、本来なら無かった筈の命、存在だ。まぁ、そういう集まりなんだけどな。お前がそうなると決めた以上、そういう価値観は持っとくべきだ。お前が知らないのもいるが……その内会えるだろ」

「その人も同じように強いのですか」

「強い。オレ達に無い強さだ。シオンとウタネ、リインフォースがそれぞれの能力による絡め手の強さだとするなら、本人の……純粋な強さだ。オレ達は希少性での絶対的強さだが、他と同じ土俵でありながら規格外に立った……ズバ抜けた強さ」

「私の能力でも再現不可能なほどに?」

「いいや、できるだろうな。それ相応の神秘だが再現は可能だ。お前はしないだろうが」

「なぜ?」

「……お前が、女だから、かなぁ」

 全てを諦めてリインフォースを眺めるシオン。

「は? 女?」

 なぜ強さから性別の話? というような、全く意表を突かれた表情を見せるリインフォース。

「いや……なんつーか、割とショッキングなんだよな……思い出したくもないが」

 珍しいほどに歯切れの悪い上、これ以上無いほどに悩んでいるのか言葉が続かない。

「???」

「いや、多分……エリオでも嫌だと思うし、クロノやユーノも嫌がる……」

「具体的に言ってくれませんか? なんでしょう、ヒトの形を取らないのでしょうか」

「ヒトだよ。具体的に? は無理だね。自分で確認しな」

「ですから、言っていただけなければ」

「ほぼ雑談だし……長くなるぞ?」

「まぁ、まだ昼間ですし、明日までに終わるのであれば」

「……電話、持ってるか?」

「唐突に何ですか……? モニター通信が当たり前の局では持ち歩いていませんが……はい、作る事は可能です」

「サンキュ。さて……」

 体を起こし、リインフォースの手のひらに現れた携帯電話を受け取り、特に操作する事なく耳に当てるシオン。

「?」

「ああそうだ、固有結界開いてくれ。人がいなけりゃなんでもいい」

「え、はい」

 疑問に首を傾げながらも淡々と詠唱を行い、無限の剣製を展開する。

「お前が開いても景色違うんだな」

「心象風景の具現らしいからな。シオンは確か何も

「とぅるるるるるるるるるる……」

「は?」

 続け様に起こるシオンの奇行に開いた方が塞がらなくなったリインフォースだが、それを無視してとぅるるるるるるるしている。

「もしもし?」

《あ……? ん? 誰だ?》

 出るはずのない電話に出る、リインフォースの聞いたことのない声。

「リインフォースだ。解るだろ」

「え? なに? は?」

 シオンの前に現れた、魔法では無い空間モニター。

 映っているのはひたすらに白であり、向こう側の様子は把握できない。

《……ん、まぁいい。なんだ?》

「コイツもオレら入りしたから。次用意してやってくれ」

《あのなぁ……なんでそう年増ばっかり勧誘するんだ? 年近いからか?》

 落胆するような、呆れるような、責めるような、それでいて無感情な声が聞こえる。モニターから発せられる音声では、性別、年齢、体格などの想定は一切できない。

「全面戦争か? 単に能力的なモンだよ。お前もちったぁ歳重ねりゃどうだ」

《こう見えてお前の数百倍は存在してんだぞ》

「聞きたくなかったなぁソレ」

《趣味の話はどうでもいいだろ。で、なんだ? もう終わらせる気なのか?》

「いいや。知らん。ただ死ぬ前に言っとこうと思っただけだ」

《まぁ……ダメという訳ではないが……多いな……お前らを移すのにすら苦労したんだが》

「そうなのか? 気楽に廃棄処分したと思ってたが」

《空中落下はくぐる時に宙に浮いてたからだな》

「足擦りながら越えろってか」

《ああ。門の下にちょっと段差付けとくから次からは足を軟化してからやるといい》

「できるかバカ。ソコじゃ生身じゃねぇか」

《じゃあ諦めてダイブしろ。死にゃせんだろ》

「あのなぁ、ウタネさんはそりゃあ死なないけどな、シオンさんはお前の気分次第で生身なんだよ。どんな技術でも4桁キロメートルの落下に耐えることはできねぇよ!」

《……そうか、なら》

「シオンさんは能力を永続させる?」

《何度も死ね。生きてる世界線も存在するだろ》

「つれないねぇ」

「その……あの? どちら様……? ですか」

 意味不明な会話に耐えかねたリインフォースが疑問を投げる。

 それにシオンは迷いなく意味不明な解答を示した。

「ん? ああ、ショタロリコン」

「はい? ショタ?」

「いや、ショタのロリコン」

「普通……では?」

「……そういやそうだわ。いや違う、こいつはオレらの数百倍生きてて、JKを年増呼ばわりするゴミクズなんだよ」

「はぁ……」

《黙ってろ。もうJKですらねぇ癖に。それに初見でもJDだったろ》

「ああ! テメェに色欲向けられんのは嫌だからなぁ! 良い成長してやったぜ!」

《……はぁ、まぁいい。リインフォース・アインス》

「はい? アインス?」

《ん? なんだ、ツヴァイはいないのか?》

「あー? 知らないが……? 色々やったんだが……お前、見てたんじゃないのか」

《仕事合間に覗くくらいだ。一々全部把握しちゃいない》

「ふーん? 見られてた気配はあったのに……まぁいいが。死ぬはずだったらしいコイツも救ってしまった。だから……言っていいだろ、コイツも転生させれやれ」

「転生なら経験あります」

「……そういやそうだわ。なんで異常なヤツしかいねぇの?」

《お前が異常だからだろ》

「異常じゃねぇよ、普通の一般人になってるだろ」

《普通の一般人を装わなきゃいけない時点で普通でも一般人でもねぇよ》

「……そういやそうだわ。で、いいんだろ、グダグダすんな」

《お前がいいならいいぞ。なんで無駄話したんだよ》

「わからん。久しぶりだからかな」

《似合わねぇ。まぁいい。じゃあな》

「ああ。時間取って悪かった」

《もしまだ増やすとしても若いのにしろよ!》

「もう増えねぇよ。多分。じゃあもう次まで関わらないからな」

《ああ。こっちで不都合が起きた時だけ繋げる》

「そうしてくれ」

 ブツン、と機械音でもない無機質な重い音と共にモニターが消える。

 シオンは緊張を解くかのようにいつもより長く息を吐く。

「ふぅー……」

「あの、結局のところ、どちら様で?」

「神」

「……はい?」

 ベッドに寝転びながらダルそうに答えた言葉にリインフォースが固まる。

「ロリコン。闇の書事件後の旅行で言ってたやつ」

「……あ、はい。思い出しました。それがさっきの……」

「ああ。あと旅行ん時にも言ったと思うけど誰にも言うなよ。オレ達だけが知っていい存在だ」

「いえ、もちろんですが……」

「ショタでロリコンで暇つぶしに人の命救ってみたり能力プレゼントなんてするおちゃらけだが、力は本物だ。人一人どころかこの世界丸々潰しかねん」

「……はい」

「やっぱり気楽に、ってワケにいかねぇなぁ……すまん、一人にしてくれ。なのは達には言うなよ」

「はい。知るべきでもないでしょう」

「さっき言ってた他のヤツについてはまたいずれな。次かも知れねぇけど」

「……大体分かりました。私と同レベル以上、ということは。それでは、失礼します」

 そして静かにリインフォースが退室すると、また深く息を吐いた。




なんか、もうちょっと……巧く構成したいなぁ……という感じ。


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第68話 ホテルアグスタ

「あんな、シオン」

「ん?」

「勝手に動いてへん?」

「はぁ?」

 仕事へ向かうヘリの中、はやてがシオンへ疑問を投げる。

 今日の仕事内容とも普段の行動とも関連が取れなかった問いに眉を潜めながら聞き返した。

「最近な、変な事件が増えてんのや」

「常日頃から監視しといて何言ってんだ。最近はずっと六課にいただろう。これからも仕事だってのに」

「やんなぁ。せやからな? 心当たりはないかなーって」

「無い。どんな事件だよ。関係無いならほっとけよ」

 ダメ元で当たったようなはやてに、興味が無い事を示してから詳細を聞く。

 本当にどうでもいい事、管理局の魔導師で解決できることならはやてはシオンへ事件の話はあまりしない。それが仕事中にも関わらず話したと言うことは、そうなのだと察した。

「まぁ……ホテルに着くまで、ちょっと見といてよ」

「ん……」

「あの、八神部隊長、私にも見せてもらっていいですか?」

 重要性を感じてかティアナが申し出る。

 それを受けてはやては全員に見えるようにモニターを開く。

「うん。フォワードもちょっと頭の隅に入れといて」

「えーと……基本的に、犯罪組織の壊滅ですね。それも指名手配されるほどの」

「そうなんよ。それ自体は管轄じゃないしまぁええねんけど、それやなくて、下のとこ」

「?」

「あー……」

「そう、このリストの痕跡鑑定は全部、民間人によって行われたもんなんや」

「魔法使用の痕跡無し……なるほどね、それでオレか」

 管理局を持ってして逮捕、解散を狙えない、狙いづらい、危険性が高い、と言った理由がある指名手配の犯罪組織。

 当然、彼らも魔導師である以上、この世界で対抗するには魔法で上回らなければならないはずなのだ。それが、犯罪組織関係者以外の魔法使用の痕跡が全く発見されていない。また、仲間割れの可能性も考えづらい状況であった。

「そう、魔法が使えへん一般人、って点だけやけど、犯罪組織潰せるんならアンタしかおらん」

「心当たりねぇ……」

「ホンマに無いならええんよ、また別の課が捜査するやろしな」

「んー、まぁ現場見ねぇとな。こんな写真じゃサッパリだ」

「現場も残してるには残してるけど……そんなアッサリ?」

「めんどくせぇんだよ。今日はホテル警備だろ。終わってからにしてくれ」

「んー、まーそーやな。それはゴメン」

「今日はユーノも来るから、シオン、変なことしないでね」

「ユーノ……?」

 フェイトが注意を促すが、シオンは疑問符を浮かべる。

「忘れたの⁉︎なのはに魔法を教えた子だよ⁉︎」

「ん……? すまん、二週間くらい会ってない奴は記憶に残らないんだ。まぁ、会えば思い出す……と思う」

「えぇ……」

 あまりに薄情な言いようにフェイトは呆れて追及を諦める。

 それを聞いたなのはもどこか顔が引きつっている様子。

「そう言うなよ、オレだって色々考えてんだから。人の半分くらいしか容量無いからな。どうでもいいのは忘れるんだ」

「要らないデータ八割くらいありそうやな……」

「そうだろうな。お前のエロくらいは割いてるだろうな」

「じゃあ控えめやんな」

「ほぼ全部だよバカ」

「はいはい、もう着くから。シオン、よろしくね」

 シャー! と牙を向いたはやてをリインフォースが、追撃しようとするシオンをなのはが止め、本日の本題へ入る。

「ん? オレ何処の警備?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「知らねぇ」

「地下駐車場とか、地下全般」

「広過ぎねぇか?」

「できるかなーと思って。リインフォースもいるし」

「あー、ならいいよ。了解」

 敷地全ての地下ともなると相当の面積があるのだが、二人にはそう関係の無い問題であった。

 

 ♢♢♢

 

「それで、どうなんだ?」

 担当の地下へ入り、二人きりになったところてリインフォースが口を開く。

「ん?」

「さっきの事件。本当に心当たりは無いのか?」

「あー……まぁ、魔法無しで魔導師を、しかもロストロギア関連の犯罪組織を潰すなんてのは普通無理だ。質量兵器の痕跡も無いみたいだし、本当に生身か近接武器でやったんだろうな」

 ふぁあ、と欠伸をし、面倒そうに髪を指でいじるシオンの話の続きをリインフォースはただただ待つ。

「まぁ……できる奴は知ってる。見た感じはソイツが最有力候補だ」

「なら何故言わない? 今後事が運び易くなるだろう」

「接触する気は無いよ、面倒なだけだ」

「お前たち……いや、私たちか。その一人か」

「まぁな。ぶっちゃけた話、敵だ」

「敵でもカウントするのか?」

「ああ。そういうのは関係無いからな。必要なのは在り方と、戦力だ」

「在り方か。私はどのような?」

「まぁ簡単だ、が……おい、どう視える」

 何かを察知したシオンがリインフォースに能力使用を促す。

「ん?」

「敵だ。事件のな。どうなりそうだ?」

「未来視……エピタフでは、表……正面から。だが陽動だな。本命はここの運搬物だ」

 リインフォースが地下の地図をモニターに写し、場所を示す。

 表の敵戦力も踏まえた上でシオンは戦略を立てる。

「ならお前は表に出て援護だ。戦況に影響が無いくらいで立ち回って、抜かれそうなら一度知らせろ」

「シオンは?」

「オレは本命ってのを止める。尻尾くらい掴みたいもんだ」

「了解」

 要は邪魔なんだな、と言い残し、リインフォースは姿を消す。

「邪魔?」

 それを聞いたシオンは、そう取れるのか、と呟き、それ以降は気にする事なく周囲の警戒へ移った。

 

 ♢♢♢

 

「む、ティアナか。これは……」

 表に出る前、リインフォースは常に未来視を発動させて表の様子を見ていた。

 戦力的にはそう急ぐ必要も無いと考えシオンの視界から出た後はかなりマイペースに歩いていたのだが、十数秒後の未来はあまり良い状況では無かった。

「止めるべきか。うん、ヴィータが止めるなら私が行っていいはずだ」

 キング・クリムゾン。

 時間を消し飛ばし、物質を透過する。これによってリインフォースは建物や木々を全て無視して最短で問題の場へと向かった。

「リインフォースさん⁉︎」

「うん、防げたかもしれないが一応止めに来た」

 スバルの背後に迫るティアナの弾丸を素手で握り潰したリインフォースが気楽に言う。

「ち、違うんです! これもコンビネーションの内で……!」

「ん? そうだったのか。それはすまない」

「えっ、は……はい!」

 拍子抜けしたスバルが事を終わらせようとするが、現実はそう上手くはいかない。

「なワケねーだろ! 完全にティアナの誤射じゃねーか!」

 彼女らの上官かつ鬼コーチ、ヴィータは先の状況を重く見ていた。

 部隊として、チームとしての現場では、その連携が絶対必須であり、誰かの勝手な思惑でそれを乱すことなど論外であること。それは何もヴィータだけではなく、ティアナも十分に理解できているはずだった。だからこそ、ヴィータはそれが許せず吠えた。

「そう言うなヴィータ。本人がこう言うんだ、私が介入してしまった以上、その主張は空想だ」

「ならあそこからどうしてたっつーんだよ!」

 対して先の誤射を全く意に介していないリインフォースとの言い争いになる。

「それこそいくらでもできるだろう。取り敢えず残りを始末しよう。五秒程飛ばしてる。シオンに影響があるかもしれない」

「あ……? 能力か」

「うん。まぁスバルもティアナも続きだ。このペースならあと少しで終わる」

「は、はい……」

 リインフォース

「ダメに決まってんだろ! フォワードは全員引っ込んでろ!」

 結局はヴィータに押され、リインフォースと二人で残りの殲滅に当たることになった。

 

 ♢♢♢

 

「よう、どうだった」

 ガジェットの殲滅後、事後処理をしている中にシオンが顔を出した。

「お前なら見てわかるだろう。ヴィータがキレた」

「お前がキレさせたわけじゃないよな?」

「当たり前だ。流石にそこまで無神経じゃないぞ。それより、そっちはどうだった?」

 どうだかな、とシオンは目を逸らし、ため息を吐いてから答える。

「ああ、なんか変なの来たから追い返した」

「やったのか?」

「いいや、未遂。片腕落としたくらいだな。ただその腕ごと転送されたから多分元通りだろうけど」

「そうか。まぁ何も盗られてないならいいだろう」

 フォワードや他職員に指示をしながらリインフォースが相槌を打つ。

「……その事で、後でまた二人で話そう」

「盗られたのか?」

「いいや。この建物の物は何一つ取られていない。オークションには一切不備が無いはずだ」

「……なるほど。了解です」

 珍しく濁した話し方だと疑問に思うリインフォースだが、その意図することを察し、人目の多いここで話すことを控えた。

「……ああ」

「なら、シオンは休んでいてくれ。現場検証が終わり次第撤退だ」

「そうだな。そういうのは専門外だ……ん、ティアナはどうした」

「ん? ああ、少し席を外してる。なのはが現場にいなかったからと処遇は私が言い渡した。ヴィータもそれでいいらしい」

「何した?」

「うん? 別に。なんだろうな。誤射?」

「なんでわかんねぇんだよ……」

「うーん、別に……そう咎めることでは無いと思うからな」

「まぁ、いいよ。後で現場見せてくれ。何かしらあるだろ、能力」

「うん。紙芝居してやろう」

「なんでそうなる……普通に映像で見せろよ」

「はは、冗談だ。ではまた後で」

「ああ。ご苦労さ……ん?」

 雑談を終え、ホテル内へ向かおうとしたシオンに向かって手を挙げる、優しげな雰囲気の男性が一人。

「やぁ、シオン、リインフォース。久しぶり。全然変わらないね、はは」

「はは……すまん、誰だっけ。知り合いか?」

「……なのはから聞いてはいたけど、ホントに忘れてるんだ……ユーノだよ。ユーノ・スクライア」

 苦笑いを浮かべながらも自己紹介するユーノ。

「ああ、なのはに魔法を教えてたらしいやつか」

「完全に忘れてるね。リインフォースはどうかな。覚えてる?」

「ああ、私は大丈夫だ。私たちの中でも記憶力が壊滅してるのは一人しかいないからな」

「皮肉は結構。その内思い出すよ、悪かったな」

「いいや。むしろこちらが謝るべきだ。まだなのは達を助けてくれて。その、本当に巻き込んでごめん。初めは普通の生活をしたいって言ってたのに」

 ユーノは闇の書事件以降、完全に無限書庫に引き籠るようになり、半年程重装備で書庫篭り、1週間ほど表で冬眠した後、また篭り始めるという書庫の幽霊、妖精の類と化していた。

 初め数回はなのは達も止めていたのだが、何かと籠る姿勢を守り続け、クロノがヒマを見て声をかける程度になっていたのだが、何年目かに無理があると判断したクロノが管理局の仕事と関連した内容の調査を依頼、数日ペースで表に復帰するよう仕向けるなどを繰り返し、何故か今回イベント参加となった。ユーノ自身、オークションは仕事だけで興味は一切無い。

「……」

「え、どうかした?」

「いいや。思い出したよ、ユーノ。やっぱりお前、大したもんだ」

「ん?」

「そうだな。もう無限書庫はいいのか?」

「ああうん、また来週から行こうと思う。ついでに何か調べようか?」

「いいや。私たちからは何も」

「分かった。また何かあったら……そうだな、どこぞの提督にでも言っといて。できるだけ早めに調べるよ」

「ありがとう。無茶はするなよ」

「リインフォースもどう? 無限書庫」

 今では数少なくなった労いの言葉に、ついテンションの上がるユーノだが、リインフォースはその探索内容を知っているために顔を引きつらせる。

 過労死寸前の人間には何気ない労いとあっさりした高カロリー食がよく染みる。

「無茶したくないからな。遠慮しておく」

「そっか。じゃあ、なのは達と話してくるよ。これからも、できれば頼む」

「……改めて言われてもな。この事件中はやるが」

「うん。また今度、ご飯でも行こう。奢るから」

「ああ」

 ユーノが立ち去り、ふぅ、と息を吐いたシオン。

「で、どうする」

「ロビーで寝てる。帰り起こしてくれ」

「了解」

 シオンが様々な関係者を無視してロビーへ入り、隅のソファで寝ようとすると一人が歩み寄ってくる。

「あの」

「……他人行儀だな。ティアナ」

 ソファに寝転び、目を開ける事なく対応するシオン。

 ティアナの声は、どことなく弱々しい震えを含んでいる。

「リインフォースさんから」

「ああ。ミスショットだってな」

「はい。ヴィータ副隊長の言う通り、私の重大なミスです」

「まだ見ちゃいないが。で、なんだ?」

「はい?」

「は?」

「ペナルティはシオンから、とリインフォースさんには言われたのですが」

「……二秒待て」

 そう言ってシオンは一度深呼吸をして、目を開けた。

「理解した。ペナルティは無しでいい」

「え⁉︎」

「ミスショット。としても未遂だ。リインフォースが止めたらしいし、ヴィータもいたんだろ。ならどう転んでも未遂だ」

「指示を無視したミスですよ。それでいいんですか」

「不満か?」

「はい。それとも、そのくらいのミスは想定内ですか」

 眠たそうなシオンに対し、苛立ちを募らせるティアナ。

 それを見てまた二秒ほど考え、それでも正解が思いつかなかったのか頭を掻きながら答える。

「んー、正規の隊長どもがどう考えてんのかは知らないけどな。オレとリインフォースはお前らを戦力としては見ていない。だから、死んでねぇならヨシ」

「お前ら、って……スバル達も同じに見てるんですか。あの才能を」

「フォワードだけじゃ無い。管理局の事を言ってる」

 見当違いだと言わんばかりのシオン。

 しかし事実、フォワード四人がかりでもシオン一人に手も足も出ず、なのは達でさえ必死に訓練と実戦を越えて得た実力と地位を、普段怠けきっているリインフォースが簡単に上回っている。もし同じ様に取り組めば、より差が開く事は確実と想像できる。

「……まさか、なのはさんまで戦力にならないと?」

「ああ。普段見てるなのははな」

「どういう事ですか」

「別に」

「説明して下さい」

「機動六課の目的は?」

「話を逸らすつもりですか。ロストロギア、レリックの回収と封印保護です」

「その障害は?」

「レリックの探知と、敵対組織でしょうか」

「そうだな」

「それが何か?」

「その敵対組織に、お前ら管理局は勝てない」

「……ガジェットは私たちフォワードでも対処可能ですし、今日あった有人操作にも対応できます」

 自身が積み上げた実力だけでなく、仲間や上官、誇りを持つ組織自体も馬鹿にするような言い分に、ティアナは敵意さえ持って反論する。

 その敵意すら意に介さないシオンは、再び目を閉じる。

「あんなモン相手にしてるんじゃ無理だって言ってんだよ」

「敵は、アレを使ってレリックを発見、回収しているのではないのですか」

「それは間違ってないが。アレはただの雑用係みたいなもんで主戦力じゃない」

「何故ですか? そんな話は聞いていません」

「話は終わりだ。他に喋るなよ。リインフォースにはいいが」

「シオン!」

「終わりだ。休んでろ」

「……いずれ、話して貰いますからね」

「必要があればな」

「現場検証へ合流します。お疲れ様でした」

「ああ」

 立ち去るティアナの足音は苛立ちを表現するようにキツく響いた。



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第69話 疑念

「シオン。今、時間ありますか」

「……またお前か。話は終わったってんだろ」

 解散後、日が暮れる頃に再びシオンの前に顔を出したティアナ。

「いえ、あの話は諦めました。また別のお願いです」

「あ?」

「私に、稽古をつけて貰えませんか」

「……なのはの許可は」

 シオンの自室であるため、ベッドに寝たまま話すシオン。

「話してません。それにシオンの都合もあると思います。なので、五分だけ」

「……なんで急に」

 面倒だからやめてくれ、と言わんばかりの口調。

 シオンの傾向からして、黙って手を貸して貰えるとはティアナも思っていない。

「あの後、なのはさんとも話しました。スバル達にも、申し訳ない思いで一杯です。今は、なんとしてもより強くなりたい。そう思います」

「ほーん」

 虚空を見つめ、読めない無表情のまま何も考えていない様な風を装いつつ、事実何も考えず相槌を返したシオン。

 説得は容易で無い、と覚悟してきたティアナはめげずに言葉を続ける。

「その為に、何が最善かを考えました。一人で練習も考えましたが、もっと効率が良いと思って」

「オレの迷惑を無視してかー」

「はい」

「いいよ。強くなりたい理由だとか聞く気も無いし、なのは達にも言わない。ただし日に五分だけだ。他は自分でやれ」

「……! ありがとうございますっ!」

 ダルそうにベッドから起きるシオンに、ティアナは勢いよく頭を下げる。

「そういうのが嫌いなんだ。頭下げる必要ねぇだろ。で、内容は? 決めてんの?」

「すみません……はい。中近距離の平地で模擬戦を」

「了解」

「……あの」

「ん?」

「ホントにいいんですか?」

「何で?」

「いえ、昨日の今日どころか、半日も経たない事で……」

「無茶して仲間に迷惑かけて、凡ミスして、ロクな奴じゃねぇと、マトモにできるようになってから出直してこいと一蹴されると思ってたか」

「……はい」

「シグナムやヴィータならそうだろうな。なのはやフェイトも断ってただろう。けどな、昼に言った通りオレらは違う。目的なんて勝手だからな。できる範囲で協力はする。組織内の御託並べて表面だけの話なんざしたくねぇ。結果として敵対したらそれはそれだ」

「はぁ……」

「そうだな。力を求める姿勢は認めてやるよ。だから、一つ良い事を教えてやろう」

「はい」

「頼れるなら、頼っていいんだ」

 ティアナを指差し、ただそれだけを告げる。

「……それだけ、ですか?」

 その瞬間だけは、いつものシオンとは違う優しさを含んでいるように感じられた。

「ああ。お前は迷惑とわかって頼みに来た。だがそれで正解だ。その迷惑は後で返せばいい。それに……そうだな。お前に今必要なのは正確な理解だ。シャーリーが言ってた事、覚えてるか?」

「えと……」

「お前らは何かしらの理由があってここに誘われたし、その中で入隊以前より遥かに強くなる」

「はい……長過ぎたあれですね」

「ああ。その成果はもう出始めてる事を認識しろ。できないなら以前できた事、今できる事を書き起こせ。当たり前にできる事は認識し辛いが、そうなるには相当の壁がある。お前は上を見過ぎてその壁すら見えてない」

「……はい。一度やってみます」

「模擬戦始める前に軽く言っといてやるよ。お前は入隊前、今日の……弾数覚えてるか? その半分も撃つことすらできなかった筈だ」

「……!」

「それが、ミスショット一つで済んでるんだ。成長だろう?」

「言われてみれば……その通りです。その点だけでも、私は……かなりハイペースで、成長している……」

 ティアナは自分の訓練データなどをしきりにめくり、何度も繰り返し確認している。

 以前の自分と今の自分、以前までの訓練と成長と、今の訓練の成長。決して楽では無く、決して楽しく無い。決して分かりやすい目安があるわけでは無い。

 けれど、確かな成長はそこにあった。スバル達の才能が優れている故に、彼女達の成長が速く、自分は置いていかれている、置いていかれるはずだと思っていた。けれどそれは間違いで、そう思えるほどの成長を見せていた仲間達と同じように、自分も成長していたのだと。

「それが分かれば良い。なのは達はかなり努力してるし、それなりの失敗もしてる。オレからは言わないけどな。行くぞ。寒いのは嫌だからな」

「……すみません。やはり大丈夫です」

「ん?」

「今日の昼、なんならつい今まで、機動六課に……なのはさんの教導に……あなた方の立ち振る舞いに、少なからず反感を覚えていました。こんな場所で、こんな毎日で、ここに居ていいのかって、自分は強くなれるのかって。でももう大丈夫です。もうなのはさんを信じられます。心から尊敬し、ついて行けます」

 手を上げてシオンに敬礼、これまでで一番の笑顔と共に改めて意志を示したティアナ。

 その目は、シオンが一瞬ではあるが任務を忘れて奪いたくなる程の輝きが見えた。

 その心境の変化をシオンは全てを察することはしなかったが、自分が動かなくて良くなった事実だけで良しとした。

「……そうか。ならそれでいい」

《ゴメンシオン! 今平気か⁉︎》

「あ?」

 直後、動かざるを得なくなるような通信が入り、緩みかけていたシオンの顔が険しい殺意を持つ。

《ティアナ? まぁええ、今朝言うてた事件、発生直後で発見された! リインとすぐ向かって欲しい!》

「……了解。ティアナはどうする」

《んー、もう本人に任せる。ヴィーナスの案件やから別にどうこう言わん》

「だそうだ。どうする?」

「行きます。行かせてください」

「わかった。リインフォース。来い」

 声色を殺した命令に、リインフォースが数秒もしない内に隣に立つ。

「こちらに」

「よし。ティアナ、掴まれ。行くぞ」

 ティアナがリインフォースの出現に反応する前にティアナの腕を掴み、リインフォースがなんらかの詠唱を行う。

「へっ? 行くって、掴まってどう──」

 

 ♢♢♢

 

「──⁉︎」

「ここは?」

「どこかの管理外世界らしい。詳しくは私も覚えてない」

「だろうな。まぁオレも聞いても分からんからどうでもいい」

 そう言ってシオンは転移した……およそ人の手が入っているとは思えない密林地帯の一部にある人工物だったものを眺める。

「で、どうだ。現場を見た感想は」

「そうだな。予想通りだ」

「ではほぼ確定という事でいいか?」

「ああ。捕まえればこっちのもんだな」

 リインフォースが建物に空いた穴や、そこに残る血痕などを触っているのを見ただけで断定するシオン。

「凄い破壊の跡……これが、本当に魔法無しで……」

「魔法の痕跡はやはり無いな。私が見ても間違いない」

 資料とは比べ物にならない迫力を持つ破壊痕に、ティアナとリインフォースはただ驚くことしかできなかった。

「何か猛獣ではないかと考えられませんか?」

「ないな。そのへんの傷跡を見ればいい。サイズ的にオレに近い人間の拳だ」「たしかに……とても鋭く、圧倒的ですが……動物の四肢では、この様な指の跡は付かない……」

「よし、もういいだろ。帰るぞ」

「え⁉︎もうですか⁉︎犯人の追跡とかは……!」

「意味ねぇよ。管理局で追えない上に素手で別の管理外世界を行き来してんだから」

「その手段は……」

「それがわからねぇから引くんだよ。でも安心しろ、襲われるのは犯罪組織だけだ」

「何故そう言い切れるんですか?」

「コイツが勝手に動けるのは悪にだけ。お前らみたいな善には勝手に襲わない。まぁ、オレやリインフォースは悪だから、割と不意打ち受けると辛いな」

「リインフォースさんが、悪?」

「ああ。コイツは悪だよ。お前みたいに、兄の目標を達成するなんてヌルいことは考えない」

「おい、それ以上言うな。ティアナ、掴まれ。もう終わりだ」

 

 ♢♢♢

 

「八神部隊長、よろしかったのですか? ヴィーナスを自由にして」

 シオン達が現場へ向かったのを確認した後、一人の局員がはやてに話しかける。

「なんでや?」

「いえ、彼らは管理局の中でも特異中の特異なので」

「なんかする思てん?」

「いえ、まあ……はい」

「せぇへんよ。今は特にな」

「はぁ……そう仰るのであれば、疑いはしませんが……」

 自信満々の部隊長を前に、やはり納得しきれないのか、渋々と引き下がる局員。

 それを見たはやてはやっぱりかー、と小さく呟き、失言と認識する前に死を覚悟した。

「よう。なにがやっぱりなんだ? ん?」

「よ、よぉ……早かったんやな……どおやった?」

「別に資料の通りだったよ。見るまでもなかったな」

「そ、そかー……ティアナとお休み中ごめんやったなー……」

「おう、誤解を招く言い方をやめようか。ティアナとリインフォースも赤くなるな。他局員もだ。それ以上余計な事をすると部隊長の首が飛ぶぞ」

 はやての頭を鷲掴みにし、鎌を首に添えるシオン。

 当然刃物でありバリアジャケットも無いので皮膚は切れ、少し血が流れる。

「「「…………」」」

 この状況からではティアナを含めた一般局員に手出しはできず、リインフォースでさえ確実に救い出せる能力は少ない。

 それを確認した上でシオンは話を続け、はやては至極冷静に答える。

「で、だ。オレ達の信用に疑問があるらしいな?」

「まーそんな感じや。みんな優秀なんやけどそれ故にって言うか。まともなルートを一つとして通ってないヴィーナスはいつか裏切るんやないかって」

「ほぉ……」

「ひっ……」

 シオンが先ほどはやてと話していた局員を睨む。

「そう怯えんなよ。裏切る気なんてサラサラ無いし、面倒事を起こす気はもっと無いんだからな。そうだな……この際だからリインフォース、お前も誓え。セルフギアススクロール」

「ん……何を?」

「なにすん?」

「行動の制限。取り敢えず……そうだな、お前」

「はい!」

 はやての疑問に答え、少し思案したシオンが先ほどはやてと話していた局員を指す。

「この中の誰か指名しろ。全く無関係なのがいい。オレとリインフォース、八神を除いた他の局員だ」

「え、えっと……えっと……」

 この場、管制室には戦闘を主としない局員の殆どがデータ処理や仮眠を取っていたりとで在室している。その中で一人指名、となると何かあってからの責任やヘイトは想像に容易い。

 当然夜であるが当然残業である。万年人手不足は変わらない。

「殺すんは無しやで」

「しねーよ。ただ五秒ほど行動の制限をするだけだ」

「らしいわ。貴重な経験にはなると思うで」

「えー……っと……じゃあ、彼で」

 はやての後押しもあって、一番暇そうにしていた局員を指名する。

 興味があったのか事の運びを見ていたため、あっさりと近寄って来る。

「俺か」

「ん、じゃあリインフォースに名前を教えてくれ」

「ああ」

「誓約は契約後五秒間、右腕を上げておくこと。条件はオレの腕を落とすこと」

「「「⁉︎」」」

「なんやて⁉︎」

「それはいいが……いや、言うまい。トレース……ほら、これだ」

「よし。じゃあこの文面を読み上げて確認しろ。オレが言った通りかどうか」

「『束縛術式……契約成立後五秒間、いかなる手段を持ってしても右腕を下ろす事を禁ずる……条件、双神の名を持つ者の片腕を切り落とす』」

「じゃあそれに血でサインを」

「何のためにそこまでする?」

「別に? この事件解決のため、部隊から信用を得たいだけだが。ほれ、鎌だ。動かない相手を殺すにはもってこいだ」

「そのために腕を?」

「どうせすぐ治せるんだ。いいだろ別に。落とす度胸が無い……ああ、反撃を恐れてるのか?」

「それもある」

「しない。それは嘱託の縛りで不可能だ。すればオレは管理局から指名手配」

「分かった。貸してくれ、サインする」

「ああ」

 局員はリインフォースから文書を受け取ると、鎌の先で指を切りサインをする。

「これでいいのか?」

「ああ。魔力もちゃんと通ってる。あとはオレの腕を落とせば面白くなる」

「腕が下せなくなるんだろ? 本当か?」

「やってみろ」

 右腕を水平に掲げ、切りやすく差し出すシオン。

「恨むなよ」

「当たり前だ」

「「「…………ッ!」」」

 他の局員が息を呑み、目を瞑る人もいる中で一瞬で事は行われた。

「……ぷっ! あはははははは!」

「笑ってる場合か……?」

 右腕は肩から数センチの所で切断され、噴水よろしく血を撒き散らしている状態で爆笑するシオン。

 その視線の先には鎌を持った右腕を聖火ランナーのように高く掲げ、不動の姿勢を保つ局員。

 呆れるリインフォースと、シオンにつられて笑い始めるはやて。感情の整理のつかない局員大勢。

「ぶっふ! おい、下ろしてみろよ、それ……っ!」

「うーむ、私がしても降ろせないな。君、ちょっと手伝ってみてくれ」

「あ、はい……あれ⁉︎ちょっと⁉︎力入れてる⁉︎」

「ぶははははは! 後二秒、体験するならすぐだぜ、あははははは!」

 五秒の間、リインフォースと複数の局員が必死に腕を下ろそうとするも失敗。五秒が経つと鎌が重力に従い勢いよく地面を抉る。

「はー……っ、どうだった? この文書。効果は確かだろ?」

「みたいだな。下ろす気すら起きなかった……」

「そりゃそうだ。制約で縛った事に関してはする気さえ限りなく発生させられないようにする程強力なんだ。五秒じゃなくて一生だったらお前はもう右腕を落とすしか無かったな。さて、じゃあ本題だ。リインフォース」

「ああ」

 リインフォースが新たな文書をシオンに渡す。

 それを一通り見て確認すると、先ほどの局員にまた渡す。

「ほれ、読んでみな」

「はい……『束縛術式……対象:フタガミシオン……フタガミの血を持って命ず。各条件の成就を前提とし、制約は戒律となりて、例外無く対象を縛るものなり……制約:フタガミシオンに対し、機動六課、並びに管理局職員への殺害、傷害、謀反の意図、及び行為を機動六課の管轄下にある限り禁止する……条件:八神部隊長による夜食の奢り』……?」

「で、リインフォース自身」

「これだ」

 今度はリインフォースが直接局員へ渡す。

「『束縛術式……対象:リインフォース……夜天の名の下に命ず。各条件の成就を前提とし、制約は戒律となりて、例外無く対象を縛るものなり……制約:リインフォースに対し、機動六課各隊長の指示または単独かつ管理外世界での敵勢力との戦闘以外での能力使用を機動六課の管轄下にある限り禁止する……条件:フタガミシオンのセルフギアススクロールの条件達成』」

「ん? そんなんでいいのか?」

「うん。私はもうご飯食べたからな」

「ふーん。せっかくなんだから奢って貰えよ」

「そうは言ってもな。普段から割と奢って貰ってるんだ、こんなのでまた出させるのも気が引ける」

「なんだ、オレにも奢ってくれよ」

「なんでや」

「半人前くらいしか食わねぇからほぼ一緒だろ。まぁいい。取り敢えずサイン……よし」

「じゃあ私も。よし、これで契約は完了だな」

「で、私から夜食かいな。んー、これでええか? ビスケット」

 サインを終えたシオンにはやてが机にあった二枚セットで包装されているビスケットを差し出す。

「……まぁ、夜食として認識できないこたぁねぇから……いいだろ」

「それが夜食でいいのか……?」

「さーて、文句ある奴は出てこい。反撃は無いぞー」

「「「……」」」

 契約成立後もさして変わった様子の無い二人を前に反論など出る筈も無く、沈黙が続く。

「無い。それより腕、治した方がいいんじゃないか」

 シオンの腕を落とした局員が沈黙を破り、シオンの落ちた腕を指す。

「ん……そうだな。忘れてた。リインフォース、頼む。ついでに八神の首も治してやれ」

「ああ……あ、はやて。治癒の許可を」

「ん? あ、手間かかるようになってんな。ええよ」

 シオンは大したことでも無いように腕を拾い上げ、肩に押し当てる。

 リインフォースがそこに手を添えると、数秒と経たず指先を動かせる状態まで回復する。

「まー、変わったトコが無いって事は表立っては何もしてへんかったってことや。疑いが晴れてよかったな、二人とも」

「治癒にさえ許可がいるのは面倒だけどな」

「うん、その点に関しては同意だ。疑ったことに関しては何も言わない。そうしておくのが正しい事だからな」

「じゃあ二人は戻ってくれてええよ。おやすみ」

「ああ」

「おやすみ。私はまだ起きてるから、必要があれば呼んでくれ」

「うん。ありがとなー」

 二人が部屋を出ると、一気に空気が緩む。

「やー、殺されるかと思たな」

「全くです……が、シオンさんの血、どうしましょう」

 盛大に落としたせいで盛大に巻き散らかされたシオンの血。

 重要書類もある場で撒き散った血となれば、問題に発展する可能性も考えられるため……

「……リインー」

 退出したばかりのリインフォースを呼び戻すのも当然の流れと言えるだろう。



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第70話 残飯

「じゃあ前言った通り、模擬戦しよっか」

「「「はい!」」」

「「へーい……」」

「そこ! 練習で体力使い切らない!」

 元気良く返事をするフォワードに対し、リインフォースに支えられてやっと立っているシオン。

「無理だっつってんだろーが! オレの体力分かってんだろ⁉︎なんで三時間だ! 五分だっつってんだろ!」

 息も絶え絶えのまま、もはや全ての運動を否定するように吠えるシオン。

「五分の訓練はこの世に存在しないよ⁉︎」

「じゃあ作れよな、エース・オブ・エースさんよ」

「無理だよ⁉︎シオンに合わせてたら誰も何もできないよ!」

 実際五分も動けない人間は歩くところから始めなければならないレベルなのだが、この嘱託に関しては例外中の例外なので議論するだけ無駄な事はなのは達は当然、フォワードも数日で理解していた。

「まぁ、どうせ動くからいいよ。まずはスターズからやろうか」

「「はい!」」

「エリオとキャロは私となのはと見学だな」

「「はい」」

 エリオとキャロが返事をし、なのはもバリアジャケットを解除する。

 すると当然、疑問を持つ当事者が現れる。

「ん? 模擬戦スターズと誰がやんの?」

「お前に決まってんだろ。超実戦主義だろ。やれよ」

「教える専門じゃねーんだけどな」

「教える気もねーくせによ」

「お前も口悪くなったよな……」

「誰かさんのせいでな」

 悪態をついても全く意に介さず反撃してくるヴィータにシオンが折れる。

「オレか……」

「はは、下手に関わるんじゃなかったな」

「はは、夜天の書ぶっ壊してやろうかな」

「はは、それだけはホントにやめてくれ」

「……よし、模擬戦だな」

 面倒になったのか話題を切り替え、リインフォースを一切無視するシオン。

「おい⁉︎冗談ではないぞ⁉︎壊すなよ⁉︎呪うぞ⁉︎」

「なのは、場所はここのままでいいんだよな」

「うん」

「おい!」

「私らって確かシステム自体からは切り離されてんだよなー」

「おいヴィータ⁉︎」

 ノリにノってなのはやヴィータでさえ無視。しかも極秘扱いの夜天の書について軽く口にしている始末。

 普段怖いもの無しとダラけきっているリインフォースも自身の存在がかかれば必死になるようだ。明らかに涙ぐむほどに。

「泣くなら殺すぞ。それにお前、自力で再生する癖に何言ってんだ」

「即死しなくても夜天の書が無くなれば相応に制限がかかるんだぞ。宝具の類が使えなくなったりな」

「じゃあ再生不可なのか?」

「いいや? キングストーンでもなんでも使いまくって残留する」

「残留て。怨霊かよ。てかなんだそれ」

「うん、キングストーンはスタンドや宝具とも違うものでな、出典はわからなかったんだが0フレームで粒子化できたり無限リジェネだったり何度でも蘇ったり不思議なことが起こったりするんだ」

「おう、もう喋らなくていいぞ。理解できん。じゃあスターズ、準備しな」

「「はい!」」

「スルーしないでくれ……」

 

 ♢♢♢

 

「ふぅ……ガッツリやるのは三度目か」

 全体の見渡せるビルの屋上で、鎌を支えにため息を吐くシオン。

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 以前の二度と変わらない、構えのない徹底した待ちのシオンにスバルが突撃する。

「多少は速くなったな。パワーは……オレじゃ無理だな」

 シオンはそれを鎌でいなし、撃ち合いを避ける。

「しかし……」

 シオンの眉間にしわが寄る。

 所詮はいい子ちゃんの形式訓練と思っていた二人の動きが、想定より荒い。

 より正確に言うのなら、ワザと『綺麗な』形から外している。

 実戦での不確定さ、一瞬先の闇の恐怖を、未来を感じるシオンにさえ覗かせる何か。今の二人にはソレが感じられる。

「……」

 今までの二戦ではフェイントと威嚇だけだったティアナの射撃も、より致命を狙っている。首か足を三発に一度、もしくはそれ以上。

 しかし、いかなる不意打ちであろうともシオンはそれを察知し回避する。スバルの突撃もウイングロードかビルの天井を破ってくるしか無い以上、そう警戒にも値しない。

「何がしたい……?」

 

 ♢♢♢

 

「随分と荒れてんな」

「スバルはともかく、ティアナは特に、だね」

 ティアナの射撃目標は隊長達にも察知されていた。

「ごめん、もう始まっちゃってる⁉︎」

「フェイトか。まぁうん。結果は今までと変わらないだろうがな」

 バン、と音を立ててあたかも急いで来た風に見せて本当にあらゆる業務を普段の五割増し程の速度で片付けて駆けつけたフェイトに、リインフォースが手遅れだぞと言わんばかりによう、と手をあげる。

「模擬戦は私がやろうと思ってたんだけど……」

「まぁアイツら三回目だしな。流石にもうやらせねーけど」

「そうだね。手を抜く余裕が無くなってきたと思うから尚更だし、次からは私とフェイトちゃんでやろうか」

「……? あの、回数とか余裕とか、何かあるんですか?」

「ああ、今なら何でもないと思うが……ティアナが仕掛けるな」

 エリオの疑問に答える前に模擬戦の様子が変わる。

 四発の誘導弾を、そう意識を割かないであろう程度の操作性でシオンの周囲を旋回、牽制し動きを封じ、その隙をスバルが何度も狙い、躱される。

 そしてティアナは離れたビルの屋上に姿を晒し、両手での構えから魔法陣を展開。

「収束⁉︎ティアナが⁉︎」

「……」

 驚くフェイトに対し無言で見つめるなのは。

 訓練では殆ど手を付けていない収束砲撃。

 それも当然、なのかが無意識ながらに収束砲撃の訓練メニューを除外していたからだ。ポジションが同じでもタイプが違う、スバルやエリオの火力があれば必要無い、とそれらしい理由をつけて、訓練構成前に外していたもの。フォワードは訓練中、収束という単語すらなのはの口から聞くことは無かっただろう。

「違う」

「あっちのティアさんは、幻影⁉︎」

「本物は⁉︎」

「あっちだ」

 リインフォースの呟きと共に幻影が消失、本物は既にシオンの死角から頭上へ周るようにしてウイングロードを走っている。

「マズい……!」

 リインフォースが歯を噛みしめる。

 未来視でも使ったのだろう、必殺を狙える型から見た二人とシオンの実力差、そしてそこからくる冷酷な結果。

「いいよ、私が行く」

「なのは……」

 跳ぼうとしたリインフォースを制し、バリアジャケットを展開するなのは。

 その声はどこか冷たいものだった。

 

 ♢♢♢

 

「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 頭上からティアナ。

 正面には誘導弾により避けられなかったスバルを鎌で。

 今の状態では確実にどちらかを受ける事になる。それはシオンもはっきり分かっていた。

「……」

 行動に起こさなければならないまでの数瞬、考える。

 このまま受ければ少なくとも無事では済まない。スバルを受ければ受けた部位の粉砕骨折は確実。ティアナは受けた部位の切断。

 リインフォースがすぐに治せるとはいえ、流石に訓練程度でそれは割りに合わない。であればギアを上げて対処するしかない。

 そしてその対処は状況と反応速度からただ一つしかない。

「残念だ」

「……⁉︎っ!」

 やると決めたシオンが呟いた言葉に怯んだスバルが、更に回避行動を取る。

「っ、そう来たか」

「なのはさん⁉︎」

 なのはがビルから撃ったシューターはスバルに回避を促し、ティアナの突撃を回避する時間をシオンに作った。

「えっと……」

「続けろ、何も言われてねぇ!」

「っ! はい!」

 棒立ちするスバルに鎌を振り、再開を促したシオン。

 

 ♢♢♢

 

「リインフォースさん、私、合ってたのかな……」

「うん? いいと思うぞ。ティアナを助けるという点においてだが」

「うん……」

 再開を確認したなのはの目は沈んでいた。

「別に訓練だ、シオンもそれは分かっている。お前の言いたいことも分からんではないが、役割を超えかけている」

「……」

「話がしたいなら終わってからにしてやれ」

「はい……」

 

 ♢♢♢

 

「「ありがとうございました!」」

「うん、お疲れ様。エリオとキャロもコンビネーションがちゃんと取れてたよ」

「「ありがとうございます!」」

 ライトニングとフェイトの模擬戦も終わり、午前の訓練は終了。

「じゃあ午前はこれで終わり。みんな、お疲れ様」

「「「お疲れ様でした!」」」

「反省点とかはまた午後にまとめておくから、お昼食べてきてね」

「「「はい!」」」

「オレもフリーでいいのか?」

「うん。フォワードと一緒にいてくれれば」

「おーけー」

「あー、シオンは午後お休みでいいよ。お昼終わったらリインフォースと戻ってて」

「……? ああ」

 なのはが思い出したように付け加えたのに疑問を覚えるも、特に意味は無く自分を気遣ったものと判断して追及はしなかった。

「じゃあ行こうか。そうだな、今日の模擬戦について話そう。私が奢るぞ」

「「「ありがとうございます!」」」

「毎日奢れよ」

「できるからする、ではないぞ。自分の事は自分でするという前提が無ければ信頼は生まれない」

「お前デスクワークしないから追い出されたんだろ」

「……今週は私が出そう。なんでも好きなだけ食べると良い」

「おー、気前いいねぇ! よかったな!」

 若干表情が硬まりつつも期間を延ばすリインフォース。

 それを無邪気に喜ぶシオンと違い罪悪感はあるようだ。

「えと、いいんですか?」

「えーやんえーやん。リイン、私も奢ってな」

 リインフォースの肩にいるはずのない人の腕がかけられる。

「はやて⁉︎いつから⁉︎」

「んー? 奢るーってとこから」

 フォワードから見ても上官とは思えない程の屈託の無い笑顔でたかりに来る部隊長。フォワードだけでなくシオンもそれを批難する。

「流石エロ狸、金にも煩いのか」

「んーん。お金はいっぱいあんで。わかっとるやろ?」

「そりゃそうだ。なぁ、フォワード」

「「「???」」」

「「人の金で食うメシは美味い!」」

 困惑するフォワードに向けてこの上無いドヤ顔のはやてとシオンが言い放つ。

「私の主たちがこんなのだったのか……いや、割と昔からだな。うん。知ってたさ、ははは……」

 もはや自分が堕落している故、主に対して言葉を持たないリインフォースが乾いた笑いを漏らす。

 もうどうにでもなれ、という程に疲れ切った顔でリインフォースはその場にいた全員にお昼を奢ることになる。通りがかった局員に「おいお前、今からメシか? 出してやるから食える限界まで頼め」という八つ当たりまで行う始末。

 はやてが急用で呼び出されるまでその八つ当たりは続いた。

「んー、じゃあ本題か。模擬戦、どうだった?」

「どーってなんだよ。やりたかったのか?」

 ある程度食が進んだ所で、リインフォースが話を切り出す。

「いや。感想だよ。特にお前の」

「オレぇ?」

「あ、私も聞きたいです。その、無茶した部分もあったので……」

 段々と声が小さくなるティアナ。

 スバル達も興味津々で聴きたがっていた。

「あーうん。取り敢えずお前は死んでたよ」

「え」

「正確に言うとなのはが撃たなきゃオレが二人とも殺してた、だな」

「やはりか」

「あー」

 リインフォースのため息に同意するように声だけ出して食事を続けるシオン。

「えっと、それは……どうして?」

「どうしてもあるかよ。それが実戦だ。そうしたかったんじゃなかったのか?」

「勝つつもりではいました。けど、そこまでは……」

「訓練では想定していない動きだった。当然、無茶や無謀な動きは多かった」

「それでアレだ。なのはが撃たずにスバルがそのままだったら、オレはスバルの拳を蹴りで弾いて刺し殺し、そのままティアナを躱し様に両断。上下だ」

「「……」」

「シオン、そこまで」

「なんだよ。一番キレたいのはお前だろ。そーでもねぇか。教導隊だもんな、毎年毎年別の世代を教えてくんだ、出来の悪い奴の一人や二人、気にしてらんねぇよな」

「シオン!」

「そりゃあ言い過ぎだろ! なのはがどれだけ頑張ってると思ってんだ!」

「その頑張りでさっき二人が死んだ」

「……! なんだよ……組織にゃやっぱりいられねぇってか」

 ヴィータ強く突っかかる。

 なのはを認めている故か、その全てを否定されているような物言いには我慢ならない様子。

「方向が違うっつってんだ。上っ面の組織が嫌いなの、言ってなかったか?」

「聞いてねー」

「なら初めて言うが。上っ面だけで仲良しごっこしてる女どもは嫌いだ。理解したか?」

「できねぇ!」

 ヴィータがシオンの胸ぐらを掴み上げる。

「……立場が分かってるのか?」

「分かってる上でやってんだ! 大人しくしてると思ったらテメェ、私らバカにしたかっただけかよ!」

「……口と数しか勝機が無いからそういった事になる。自分の保身しか考えないから周りが見えない。そのくせ努力することは自分より上を引きずり下ろすことだけ。楽しそうだな、女ってよ」

「〜〜〜〜〜!」

「ヴィータちゃん、もういいよ」

「なのは……」

「みんな、空気悪くしてごめん。午後の訓練はお休みにしよう。また明日、いつもの時間で」

 そう言い残すとなのはが、それについて行くようにフェイトが去っていく。

「はあ……やはり私か。シオンもヴィータもその辺にしろ。フォワードも……特にスターズ、お前たちは悪くない。考え方が違うだけだ。今日は部屋でいろ」

「「「はい……」」」

「シオンは私の部屋だ。すこし頭を冷やせ。ヴィータもなのはと話してこい」

「く……お前ら、悪かったな」

 リインフォースに引き離され冷静さを取り戻したヴィータは目線を合わせず謝罪をし、背を向けて歩き出す。

「……で、オレを連れてって終わりかい」

「そうだ。フォワードも私たちを気にする事はないぞ。また明日から訓練は再開だからな。忘れろとは言わないが、過度に受け取って気に病むなという事だ」

「「「はい……」」」

 そういうとシオンの襟を掴み上げ無理矢理引きずっていく。

 残されたフォワードは誰も話せず、しばらく沈黙していた。

「ね、ねぇティア、これどうしよっか」

「食べてもいいんじゃない。気にしないでって言われたんだから」

「うん……」

 スバルが残された料理を取り敢えずは集めるが、それ以上手が進まない。

 機動六課一番の大喰らいが食欲を無くす程の出来事だったという事だ。

 自分達は勝つためにと努力したつもりだった。それがシオンが相手でも変わらない姿勢だった。けれどそれは大きな間違いで、あの場面が実戦なら死んでいたと聞かされれば意欲も失せる。

「どうした、食わないのか?」

「シグナム副隊長……」

「リインフォースから話は聞いた。無茶をして死にかけたんだとな」

「……はい」

 シグナムがテーブルに座る。

「まぁ、お前たちが食わないなら残りは貰うぞ。私はこれから昼だが、私だけ自腹は不公平だからな」

 そう言ってシグナムはスバルの一食分の半分程度残った料理を前に一瞬顔をしかめ、端から取って口にした。



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第70話 一人目

 夜間にアラート。反応は海上にガジェットドローンの大群。

 今までより速度が速く数は多いがはやて達であれば問題無く処理できる……が、リミッターを使う程でもないということで通常の空戦で各個撃破する事に。

「今回は空戦だから、私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長、リインフォースの四人」

「みんなはロビーで出動待機ね」

「私も行くのか……まぁ、飛べちゃうからな。仕方ないか」

「一応だが指揮はシグナムだ。留守は頼むぞ」

 出撃する四人はそれぞれ臨戦態勢へ意識を整えながら、残るフォワード達へ指示を残す。

「「「はい!」」」

「それから……ティアナとスバル」

「……」

「ティアナとスバルは出動待機から外れとこうか」

「「……!」」

 なのはの口から、直属の部下に向けての戦力外通告。

 当然今日この場限り、という事は誰もが理解できたが、それすら耐えられないほど追い込まれていたティアナがいた。

「うん、よかったな。私に無い休みだぞ」

「実戦で使えない奴は……」

「ん」

「実力差も測れず特攻して殺されるような奴は、使えないってことですか」

「……言ってて分からない? 当たり前のことだよ、それ」

「教導はサボらずやってます。無茶しましたが、指示は聞いています。あなた達を尊敬して追いつきたいと思ってます。私はスバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない。隊長達の様な熟練の技術も持ってない。そして、機動六課が戦う相手も、決して生半可じゃない。そんな場にいるなら、せめて実戦で足を引っ張らない程度になるために努力する事はダメなんですか。少しくらい死にかけてでも強くなろうとしなきゃ、追いつくことさえできないじゃないですか!」

 正面からなのはを見据えた嘆き。

 周囲との力の差を感じ続け、成長を自覚してもなお足りないであろう敵の存在。更には身の丈を弁えない特攻で、模擬戦だというのに援護射撃を必要としてしまった負い目。

 今までのミスはシオンとリインフォースによって見逃されていたため、実質初めての罰に積み重なった罪悪感は耐えることができなかった。

「……そうかもね」

「……なら!」

「でも、やっぱり外れとこう。また落ち着いたら話そう」

「なのはさん!」

 頑なに話そうとしないなのはにティアナが縋るように叫ぶ。

 諦めたリインフォースがなのはを引っ張ってヘリに乗せる。

「シグナム、スバルとティアナを頼む。なのは、もう行くぞ」

「シオンの任務についてったんだよね。それで力不足だと思うのは間違いだよ」

「ヴァイス、出られるか」

『はいよ!』

 リインフォースが出動を強制、なのはをヘリの中へ押し込む。

「明日またちゃんと話そう! 今は気持ちが荒れてるだけだから!」

「行くぞってのに!」

 ヴィータもなのはを引っ張り、無理矢理出撃させる。

 残されたのはフォワードとシオン、シグナムの六人。

「お前達は部屋に戻れ。明日、望み通り話をしろ」

「シグナム副隊長!」

「なんだ」

「……その、私とティアが怒られる事をしたのは、重々承知です。けど、自分なりに努力するのとか、リスクを背負っても勝とうとするのって、そんなにいけない事なんでしょうか!」

 感情を出さず事を見ていたシグナムに、スバルも意見を求める。

 シオンも昼に言いたい事は言ったのか、興味も無さそうに無表情で虚空を見つめている。

「自主練習は構わない。なのはもそれを容認している。お前達がどの様な志を持ってどの様な戦略を持とうが、私は一切関与しない。だが、昼は違うのだろう。自主的な特攻、分かりやすく言えば自殺だ。それは私でも許さない」

「模擬戦です! 怪我は承知でしたがそうなるとは想像さえしないじゃないですか!」

「そうだな。普通、模擬戦ではそんな事態は起こらない。当然、お前らが動くまでなのは達も考えなかっただろう」

「なら!」

「シグナム。寒い。ロビー行くよ」

「……了解。話はロビーで」

 言いたげな視線を背に、シオンとシグナムが屋内へ向かう。

 他に無いためフォワードも後を追う事になった。

 

 ♢♢♢

 

「シャマル先生……」

「はい。大事な話らしいから、私も同席」

 フォワードがロビーに着くと、シオン、シャマル、シグナムの順で座っていた。

 キャロが呼ぶと、軽く手を振って、座るように促した。

「先の話だが、まず機動六課の追うレリック収集の犯人から話す必要がある」

「知ってる通り、機動六課はロストロギア、レリックを収集する犯人より先にレリックを回収、保護する事が目的なのね」

「そしてこれが、ジェイルスカリエッティ。そしてその協力者の疑いがあるフタガミシオン。両者とも居場所は掴めていない」

「「フタ……ガミ」」

「「シオ……ン」」

 シグナムが空間モニターに二人の写真を映すと、フォワードが困惑のおうむ返しをする。

「ああ。シオンはスカリエッティに技術提供、情報漏洩をした疑いがかけられている」

「「「「えええええええええ⁉︎」」」」

「だっ、だったらなんで!」

「管理局の、しかも!」

「機動六課の!」

「隊長クラスにいるんですか⁉︎」

 シグナムの発言にフォワードが立ち上がる。

 戦闘態勢で今にも抜きそうな雰囲気だ。

「……ふ、そんなことに今気付いたのか」

「何故今、私がこの話をしたと思う?」

 シオンの怪しい笑いと、シグナムの真顔がフォワードに恐怖を感じさせる。

「ど、どういう事ですか……シグナム副隊長」

「なのはもテスタロッサも、ヴィータとリインフォースを連れて遠い海の上」

「今から戻るにしても、リインフォースの足止めがあればここには戻れない」

「ここにいるのはひよっこの新人四人と、この隊舎にも戦闘武装の無い局員たち。そしてやはり、こちら側のはやて」

「オレの正体を明かすには、持ってこいだと思わないか?」

「「「「……!」」」」

「セットアップ! スバル、エリオ!」

 ティアナが瞬時にセットアップ、指示を飛ばす。

「「応!」」

「キャロは他部隊に連絡! 応援要請! なのはさん達にも知らせて!」

 キャロは即座に部屋を出ようと走り出す。

「っと! ストップ!」

「すまん! 冗談だ!」

 それを見たシオンとシグナムが焦りながら静止する。

 しかしそう簡単に警戒を解くフォワードでは無い。

「「……」」

「すまない。本当に冗談だ。ほら、レヴァンティンを置く……戦闘はしないし、別に企みがあるわけでは無い」

 シオンもシャマルも、それぞれのデバイスを机に置く。

「じゃあ、説明して貰えますか。シオンについて」

 銃を構えたまま、説明を促すティアナ。

「ああ……本人から頼む。私では難しい」

「三秒以内に話さなければ撃ちます」

「んー、仕方ねぇか」

 シオンは左肘を右手で持ち、左手を首に当て、七回人差し指でつつき、目を閉じて首に手のひらを添えて左へ倒す。

「……ふぅ、えーっと、初めまして? かな? シオンの姉の立場……になる? のかな? とりあえず、フタガミウタネです。記憶欠落してるけど、よろしくね?」

 男口調の傍若無人の嘱託は、女口調のクレイジーな一般人へと立場を変えた。

「「「……はい?」」」



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第71話 三人目

何故か会話が飛ぶ部分があります。元会話を発見次第修正します。すみません。


「「「──はい?」」」

「うん、やっぱりそうだよね。えーっと、ゴメンなさいね? その、なんていうか、成り行きでね……?」

 はい? って。予想はしてたけど、そうだよねー……

「シグナム副隊長!」

 オレンジの子……ティアナ? がシグナムに叫ぶ。

「すまない。企みは無いが、騙していたのは事実だ。コイツはシオンで無く、ウタネだ」

「さっぱり分かりません!」

 だよね。それは分かるけども。

「どこから話せばいいかな。あらすじ……取り敢えず座ろっか?」

 取り敢えず武装解除してもらい、先程のように座ってもらう。デバイスを置くかどうかは任せた。こっちは置いたまま。

「でも、納得しました。最初の訓練の時、女性のような気がしてたので」

「あ、そう言えばエリオ、リインフォースさんから代わってたよね」

 赤い子は薄々勘付いてはいた様子。

「んー? そうなんだ? で、どうだった?」

「お姉さんがいたのは予想外でした……すみません、今まで」

「んじゃなくて。色々触れた? 柔らかかったかな」

 真面目だねぇ。見た感じ普段から男一人っぽいのに。一応シオンいたけども。

「えっ⁉︎あの、そんな事は……!」

「あっはっは、いーよ、ごめんごめん。そーゆーの気にしないからね、軽いジョーク。仲良くしよう。それに多分、胸潰してたし硬かったと思うよ」

 そもそもそんなに大きくないしね。ささやかだよ。

 男だったら胸は盛れるとしてあっちは潰せるのかな? 潰すっていうか……なんて言うの? まぁいいけど。

「え? じゃあウタネさん、シオンの時は触って無かったんです? ずっとだと蒸れたりしてません? 治しましょうか?」

「あー、それはリインフォースに言って毎晩直してもらってたはず。これからもそーしたいけど、戻ったからにはケアくらい自分でやろっか。というか潰さなくていいか」

 シャマルが申し出るけど取り敢えず却下。

 今触った感じ違和感無いし多分ちゃんとやってくれてる。このホルモンバランスガタガタの身体をよく直せるよね。直してるからか。

 さぁすっかり話題がズレたぞ。誰のせいでしょうかねー。

「さてどーしよ。私が話そうか?」

「高町なのは。彼女が魔法と出会ったのは、実に9歳の時。魔法文化の無い世界で、ただ平凡な、平和で幸せな人生を送るはずだった。それが才能だけを理由に魔法に触れ、ただの人助けとして魔法戦を繰り返した」

 座ったままどころか私の問いを聞いたそぶりすら見せず語り始めたシグナム。お? ケンカしますか? こちとら夜天の書の全権握ってますんやぞ? 

 そんな私の心中を誰も察する事はできず、シャマルがモニターを映し、いつ撮ったのかさっぱりの映像が流される。

 ……管理局か。クロノだね。

「シオン⁉︎」

「コイツ……ウタネがなのはと出会ったのも、ほぼ同じ時だ。魔法の扱いに慣れないなのはを、時に助け、導いた」

 時にというかなんだかんだずっとな気がする……気のせい? 

「これ……フェイトさん?」

「フェイトも、あの頃は色々あってね。なんとかって言うのを集める為に、私やなのはと敵対した。二人は才能的に拮抗して、限界まで競り合った」

 折角だから話に混ざってみる。

 そういえば私二人の対決殆ど知らないや。腕落とされた時以外は殆ど見てない気がする。

「そして、殊更無茶をしたのがこのウタネだ」

「腕が……⁉︎」

 どこぞでフェイトに落とされた時や、台風? かなんか……あ、竜巻か。それで腕とか指とか落ちた時とかが映される。

 グロッキーだなぁ……服とか真っ赤だよ。バカかな。

「生身で魔法に挑めば、当然こうなる。コイツの両腕は一度は切り刻まれている」

「まー、後でもっと凄い事したのよ」

「え……」

「自分から、首を……⁉︎」

 赤とピンクの顔が青くなる。

 フェイトに拘束された時。クロノとユーノを信じて身を投げた。

 死ぬ前に治してくれると信じて、死んでも次があると慢心して。

「当然私だけじゃない。この後も私たちが大きく関わった闇の書事件が起きた」

 闇の書事件の時だとまだ私たち、じゃないね。シグナムたち? かな。

「なのはの撃墜とリンカーコアの蒐集、安全性の低いカートリッジシステムの使用……ウタネとシオンの訓練があったとはいえ、途方も無い無茶だ」

「……」

「大きな変化があったのは、これ。なのはちゃんが嘱託として働いていたシオンと、遠征に行っていた時……」

「不意に出現した未確認物体によって、瀕死の重傷」

「……!」

「シオンもなのはだからって任せてたんだろうね。溜まった疲労とダメージは、その不意打ちをまともに受ける事になった」

 これは後から八神さんに聞いたこと。

 当時は地球の家でニート三昧だった私がたまにお見舞いに行くくらいのことだった。だけど、私にさえ正直に辛さを吐き出すことはなかった。目はこれ以上なく泣き叫んでいたのに、それを抑え込んでいた。

「その不意打ち直後、一通りの処置をなのはに施し、シオンは姿を消した」

「罪悪感はあったんだろうね。自分がいたのにって。シオンのお陰でなのはは二年のリハビリで済んだけど、それ以降、私にさえ連絡が無い」

「その二年のリハビリも、これ」

 モニターには包帯でぐるぐる巻き、何本も管を繋がれて立つのもやっとのなのは。

「私やリインフォースも診たんだけど、もう飛べなくなるかも……って状態で」

 シャマルとリインフォースの治療魔法は当時としては破格なものではあったけど、それでも完治は望めなかった。

 当然のことながら、落ちた腕を即座に修復したりできるシオンの……リインフォースの能力なら、そんな事は治せるはずだ。でもシオンはそうしなかった。できたはずをしなかったのには理由がある。そう思って、私もリインフォースもなのはの治療を本人と現代医療に任せた。

 ……どうしようもない状況で、本人が望めば治すつもりではあったけど。

「確かに、意志を通す為に、守る為に強くある必要はある。だがそれは全て実戦での話だ。しかしお前は、お前たちは、あの場面で命を懸ける必要はあったか? 不安定な技を使う必要はあったか?」

「「……」」

「模擬戦の事は、ゴメンね。あの場面は本当は無茶してよかったんだ。でもシオンは不器用だから……それを許さなかったし、酷いことも言った」

「え……? あれはウタネさんが」

 青い子が首を傾げる。

 んー? ああ……説明は面倒なんだけどねぇ。

「あー、うん。あれは私だけどシオンなんだ……って言ってもわからないよね。武器や能力こそ違ってもシオンはシオンだったんだよ。まぁ……シオンが見つかったら改めて紹介するよ。私のことは今まで通りシオンでもいいし、ウタネでもいいから。もちろん敬語も無くていいよ。何にもしてないニートだし」

 この子達の歳とか知らないけど、絶対なのは達より若いよね。それで一緒に戦うっていうんだから……

 それでもやはり理解ができないのか、反応はそれぞれながらパッとしない四人。

「えっとさ、つまりなのはが墜とされた時まで、このポジションにシオンがいたんだ。だけどその件で抜けちゃってね? 私が代理に連れてこられたの」

「つまり、これまで見ていたシオンは、本人ではなく……」

「うーん、そうだね。本人は鎌じゃなくて刀を使うから……」

「そこではありません! 全体の事を言ってるんです!」

 だん、とオレンジの子が机を叩く。

 シグナムさんや、部下が無礼じゃないのかな。怒りなよ。

 そんな願いは届かず、シグナムはいつもの無表情を貫いていた。

「ごめん、怒んないで……武器以外はシオンだよ。それこそ、言動も全部」

「えと、それはどういう……?」

「うーん……シグナム、言っていいかな?」

「貴女についての権限は持ち合わせていない。好きにすればいいかと」

 はやてに何を言われても私は知らんぞ、と言うシグナムの了承を受け、できる限りを話す。

「それじゃあ。さっきもシグナムがちょっと言っちゃってたけど。私、ウタネはシオンの性格、口調、仕草や癖、思想においてまで、全く同じを再現できる。シグナム達の話から、向こうも同じ。どっちがどっち、っていう判断は武器や能力を見るまでは判別できないものと認識しておいてね」

 顔とか違うと思ってたんだけどじっくり見ても分からないらしい。体型とかも一緒だから……ホントに中身だけしか違わない。確か指紋も一緒みたいな事言ってた気がするし。

「全く同じ……」

「そ。だから、確証が無い時に私と会ったら、必ず確認を取って」

「同じ仕草なら、確認のしようがないと思いますが……」

「それは大丈夫。私もシオンも、それぞれ別の能力を持ってる。互いに再現できないのは分かってるから……リインフォースに判断をお願いして。リインフォースなら心を読むこともできる。シオンだったらすぐにわかる……っても、多分殺されない。スカリエッティの側にいてもね」

「何故ですか? どのような企みがあるか分からないんですよね?」

「私は自由に生きてると同時に、誰かを束縛したりしない。だから、リインフォースやシオンにも何も言わない。例え私を殺そうとしてもそれは自由。シオンは知っての通り荒いし、必要なら殺しだってする。けど何よりも信用してる。シオンの企みは、全部私のためだって」

 なんだかんだ言いつつも、結局は闇の書を、八神さんを助けるために動いてくれたシオン。生前もそうだった……今回も、きっとそう。シオンは悪だけど、決して私の敵じゃない。

「……確証は、無いんですよね?」

「うん。リインフォースも同じ」

「なら、どうしようもないのでは?」

「そう? シオンもリインフォースも、一人で機動六課を相手にするくらいは訳ないよ。なのに何もしない。どう? 根拠になるかな」

 私たちから見れば魔法なんて、管理局なんて相手にさえならない。

 けど各々が全力を出す時は世界が終わる(望みを叶える)時だ。だからこんな遊びに付き合って、苦戦して、傷を負ってる。言わばゲーム……所詮はあのロリコンの慰みもの。

「……根拠としては受け取れません。が、一つ」

「うん」

「ガジェットは主力じゃない、という話、ウタネさんは認識していますか?」

「んーん? あぁ、ホテルの時だっけ」

 ホテルの時……は秘密にしよう、って流れじゃなかったかな? 覚えてないからどうでもいいけども。

「はい。シオンでないなら、話してもらえるかと思って」

「んー、それはわかんないかなぁ……なんていうか……シオンの予知? 計算? みたいな感じだし」

「それは知ることができないのか? 我々にとっても重要な情報だ」

 シグナムも知らないって事はやっぱり秘密だったんだろね。

「シオンのと合ってるかわかんないけども。シオンが手を貸してるならガジェットが主力は有り得ない、って感じかな」

「確かにそうね」

「んー、でも。カンだけど。割と近いかも。主力は」

「どういう意味だ? 六課にいるのか?」

「んーん。なんていうか……なんか。あれ。私とシオン的な感じ?」

「なんだそれは」

「まーわかんない、ごめん」

「まぁいい。レリックの蒐集と共に明らかになるだろう」

「総力戦?」

「うん。シャマル、映像ある?」

「あります……けど。え、映します?」

「え、なんで?」

「あっ、はい。分かってます、そういう人でしたね」

「んーん?」

 シャマルが映像を……シオンがクロノ達と守護騎士を同時に相手に無傷で立ち回る映像が映される。

 なんでそんな渋って……あ。

「うーん、なるほどね。部下にこんなトコ見せるのはダメだったね。あっはっは。許してよ」

「ヴィータがいればキレていただろうな」

「シグナムは怒んないの?」

「私とてそこまで幼稚ではない。できん事はできん」

「おほー! 優しい! 初見で足首切り刻んだ人とは思えない発言だ!」

「切ってはいないだろう! そもそもお前が切れと言ったんだ!」

「んー、そうだっけ。記憶力壊滅してて改竄癖までできたかぁ……もうそろそろホントに人でいられなくなるな」

「ヴィーナスを人とは見てないぞ」

「ヴィーナス?」

「お前……シオンの部隊だ。お前に縁ある名前と思っていたのだが、違うのか?」

「んー? ヴィーナス……知らないかも」

「そうか。では認識しておけ。隊員はリインフォースのみ、役割は全部隊兼任だ」

「えー……」

 それ一番多忙な気がする……めんど。

 にしても人じゃないのかー……全身切り刻まれて即復帰したり……闇の書とうんぬん……転生……能力……うん。そう言う捉え方もできるかも。

 もう新人さん達を完全に置き去りにしてるけど気にしない。

 戦いにおいての命の張り方だとか、なのはが横槍入れた理由だとかはもう過去の話になってるけども、まぁそんな後でもできる……この話も後でできるね。じゃあどうでもいいね。両方終わってるしね。

『こちらスターズ1、例の事件の犯人と思しき人物と接触、任意同行の運びとなりました。対応をお願いします』

「例の犯罪組織壊滅事件か。了解、待機しておく」

 シグナムが短く返事をし、通信を切る。

「犯罪組織壊滅事件?」

「お前は知らなかったか。シオンは調査にまで行ったのだが」

「んー……さぁ? 戻る直前とかならわかるけど……」

「そうか。まぁいい。要は指名手配の犯罪組織が何者かによって次々と壊滅させられている事件だ」

「ん? それって良いんじゃないの?」

「誰がしたのかが分からないから問題になっていた。さっきのはその犯人らしい人物が捕まったということだ」

「ふーん……」

 わざわざそんな事するなんて、物好きもいるもんだねぇ。

「ウタネさん、シオンの時? はその犯人に心当たりがあると言っていました。ウタネさんにはありませんか?」

「さぁ……? 多分無いよ。私、二ヶ月も会ってないと忘れちゃうから」

「……」

 えっ、なんで黙るの。

 守護騎士二人までなんか気まずく顔逸らしてるし。えぇ? 

「もうすぐ来るんでしょ。会った方が早いよ」

「そうだな。知っていれば対応を頼む」

「うんー」

 

 ♢♢♢

 

『へいよー! 隊長方、お疲れ様でした!』

「「「お疲れ様です!」」」

「はい、ただいま。ティアナ、スバル……? 何かあった?」

 ヘリから降りたなのはが二人を見ると、何か違和感を覚えたようだけど。多分さっきの話で見方が変わってるからかな。

「「へ?」」

「ううん。なんでも。じゃあ、シオン。彼女をお願い」

 そう言って……ヴィータが拘束してる彼女をヘリから降ろす。

「ほらよ。アンタの処遇はアイツ次第だ」

「はいー」

 ヴィータの後から降りてきた少女? は……凄く見覚えがあった。

「ん? え? さっきシオンって言いました?」

「……久しぶり、ソラ」

「シオン! 久しぶり! 前はウタネと双神詩音だけだったから、スゴイ嬉しい!」

 ヴィータのバインドを引きちぎり、私に抱きついてくるソレ。

「え……はぁっ⁉︎」

 あまりに簡単に壊されたもんだからヴィータが絶句してる。

 当たり前だよね。力だけで魔法破るとかね。うん。

「ちょっ──! 待って! 私! ウタネ!」

「……なんだ。ウタネか。シオンって言うから期待しちゃったじゃない」

「……それより不自然なの聞こえたんだけど。ウタネと双神詩音?」

 一瞬で冷める黒髪の、今の私と大差ない背丈の少女。

 私の身体を気遣ってかこちらに一切力が加わらないように離れた。つま先立ちからどうしたらそんな事ができるかな。

「ん? え……あ、ごめん。それより前って事なのね」

「は?」

「あなた達が経験する未来を通って来た? みたいな? ほら、私はあなたと時間軸とかちょっと違うし?」

「……大体理解したよ。知らなくていい事ってことね」

「うん! まぁいいけどね。それより、探し物は見つかった?」

「いいや。答えはまだだよ」

「……うん。まぁいいや」

 サッパリだけど概要だけわかる。知らなくて良くて、損得ではない事が。

「おい、やはり知り合いなのか?」

「うん。そう。ごめん、さっきは知らないとか言って」

「いや、謝られる事では……」

 シグナムはやっぱりなんか、私に遠慮してる? 

「って! ウタネちゃん⁉︎いつから⁉︎」

 なのフェイが叫ぶ。

「あなた達が出撃してからちょっとして……っと……ソラ、ごめんけど体支えてて」

「うん? うん」

 一瞬身体の力が抜けたようにフラついたからソラに身体を任せる。

 ソラは状態を把握すると素直に支えてくれた。

「取り敢えず久しぶり。この子は大丈夫だから安心して。それより、二年ぶりだっけ、そのせいで身体がちょっとね。動かせない」

「知り合いらしいのは良かったけど……」

「名前はソラちゃんでいいのかな。年とか、生まれとか、聞いていい?」

 なのフェイがソラに話しかける。

 優しげだけど職質のそれだ。完全に警戒してるね。

「ソラでいいですよ、ウタネと元同窓なので。生まれも一緒」

「ん? 同窓なの? 初めて知ったけど」

「うん、らしいよ。私も記憶トンでた」

「ふーん……」

「ホントに知り合い? あやふやすぎない……?」

 まさかの会話になのはが引きながら疑ってる。

 私がそういう人だって……分かってないか。そりゃそうだ。

「んー、じゃあ紹介するよ。この子はソラ。簡単に言うと抑止力。分かってると思うけど怪力」

「抑止とか言っていいの?」

「今いるのだとフォワードは知らないけど他はシオンが信用してたし大丈夫」

「ふーん。ならいっか」

「疑うなら模擬戦でもすればいいよ、多分誰にも負けないけど」

 抑止は良いけどロリコンはダメ。

 ロリコンのは共通認識だったけどそれぞれのはまた別だった。魔術とか言っちゃってるから多分セーフなはず。

「じゃあアタシだな。バインド簡単に壊しやがって」

 模擬戦の単語にヴィータが即反応する。

「怪力ってんならタイプも同じだし、いいだろ」

「うん。ちょうどいいかもね。ソラ、どうかな」

「うん? 別にいいよ。ウチのトップの命令なら聞いちゃうし。他はいない? パワータイプなら比較がしやすいかな」

「……じゃあ、明日の午後。訓練の一環として認めます。ウタネちゃん、それでいい?」

「そっちがいいならいいよ。手間取らせてごめんね」

 まぁこれも総力戦みたいに戦力アップのためと思えば……楽な方だと思う。誰かが死ぬことは無いからね。



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第72話 三人目 その②

 翌日午後。

「はい。じゃあ昨日と午前に話した通り、ソラさんと模擬戦をします。ウタネちゃんが言うには何人でもいいらしいから……ヴィータちゃんと一緒でいいよって人は挙手! なければ私がやる!」

 一応教導なのにプライベートモードななのはがびし! とソラを指す。

 任務中に何かあったらしく、少し灸を添えてやろうくらいの気合いらしい。

「いいねー! 息つく暇もないくらいの極限がいいよ! なんなら全員!」

 指を指し返し、意気揚々と挑発行為を敢行するソラ。

「いいの? 一応なのはは私と同じことできるよ」

「同じぃ? できるわけないでしょ。シオンに聞いてないなら私も言わないけど。じゃあ全員かな! イキナリ出てきてギンギンでゴメンね! 女の子相手だからストレス発散になる!」

「ストレスぅ? あなたがぁ?」

「この世界の犯罪組織だよ。アイツら私のことナメてたしブチ犯そうとしてきたからブン殴ってたの」

「胸ないのにね」

「あっはっはー! アンタもでしょーが! 私はえっちゃんがいいって言うからいいのー!」

「好きだねぇ……」

「いつかこっちに喚びたい! 令呪無いけど!」

「……なんか、嫌な予感した」

「へ?」

「ううん。何でもない。多分もっと先の話。模擬戦しよ」

 なんか、ソラがマジになりふり構わず喚ぼうとする感じがして冷や汗かいた。いやでも……ソラは善だし、しないはず……よね。

「……いいかな? じゃあ構成はソラさんとスターズ、ライトニングチーム。八人いるけど……ホントに大丈夫?」

「うん、多分。ウタネに聞いた総力戦ってのは何人だったの?」

「えーと、私とフェイトちゃん、クロノくんにユーノくん、アルフさんと守護騎士四人だから……九人?」

「それで手を抜いてたんだよね……うん! やる!」

 なのはの心配とは逆に元気満々でそれを望むソラ。

 ソラは死なずに転生し続ける抑止力で、私が死んでる間も常に活動し続けてたはずだし、私の知らない未来や世界でも動いてたとすると、経験値はかなりのものになってるはず。少なくともフォワードに負けるなんてあり得ない。

「じゃあウタネちゃん。スタートとストップだけお願い」

「うん。了解」

「えー、ウタネやんないの?」

「一応あなたの試験でもあるからね。勝ったら私の部隊入りだし、負けたら帰ってもらう」

「帰るってヒドくない?」

 ソラがしょぼくれてる顔をするけど一切関係無い。状況は多分、思ったより切迫してる。

 何故今になってソラがこの世界に送られたのか。シオンが遅れたのは私と身体をわけるためだ。遅れたとしてもシオンから十年近く経ってる。という事は、そろそろ何かあるから……という予想が付く。とくに抑止力のソラがってのが。

「私が6までシオンしてたんだよ? 急にやめたらバレるかもじゃん」

「6……って、なんで7までしなかったの? 成り代わるなら……」

「7まですると完璧にシオンだから、向こうにもわかるの」

 これは嘘。それっぽい理由にしとくべきだったけど。

 闇の書事件が終わるまで向こうが私のマネできるのは知ってたけど私もそうって言うのは知らなかったからね。知った後だと分かるのかな。それなら真偽不明になるから良いけど。

「ふーん……? まぁいいよ。勝てばいいんだよね」

「うん」

「じゃ、それで良し! お願いします!」

 模擬戦は総力戦とほぼ同じ数差……ソラvs機動六課八人。

 ソラが他に連れられる形で訓練場へ。残ったのは私とリインフォース。

「……彼女は?」

 他に聞かれないよう、誰も見えなくなってから小声で話すリインフォース。

 昨日から黙ってると思ったらそれ気にしてたんだ。

「私たちの三人目。抑止力」

「その抑止力という単語は聞きましたが、どのような?」

「うん、人間や世界が作る破滅を防ぐ為の力、かな。ソラは世界の方の人寄り」

 そんなに有名どころではないしね。原典が無いのに独立してる抑止力なんてそうそう無いと思う。というかもう抑止力の定義から外れてそう。

「ではなにか破滅の前兆が?」

「まぁ、私だし」

「はい?」

「ソラは基本的に私に発揮される抑止力なんだよ。前は人類史焼却の抑止してたけどそこが気に入ってるらしくてそこに基本いるんだけどね」

「では……世界を滅ぼす予定が?」

「無いよ。そんなの。でも私は能力使用自体が抑止に接触するからね。普段は自分の外には出せないの」

「そうですか。それはよかった。あるならはやてに報告しなければならないところでした」

「えー、嘘報告はやめてよねー……この事件解決しないよ」

「私が、と言えば出しゃばりでしょうか」

「ううん。シオンが敵ならあなたとシオンでやってもらう。相討ち」

「……そうですか」

 それは想定していたような、提案を飲み込むような間を開けて答えるリインフォース。

「じゃなきゃ抑えられない。私は無理だし、ソラも多分シオン相手は分が悪い。だから、シオンはあなた。で、シオンが強化しただろう相手の主力を私とソラ。六課には悪いけど……期待してない」

 今の六課、どころか管理局では私たちの一人にすら敵わない。それが少なくとも三人は絡む戦いが予想される。いてもいなくても、正直戦況に変わりは無い。

「……分かりました。確かに、この能力は魔導師では太刀打ちできません。私でも使い熟すには至らないので……」

「でも負荷を考えると同じくらいでしょ」

「ですかね……」

「でも私たちである以上、そこの割り切りは必要無いよ。シオンとやりたくないならしなくていい。それも自由」

「まさか。ウタネ様に反旗など。やるならとっくにしてますよ」

「……様付けはやめてってのに」

「ふふ、私なりのささやかな反旗です。こうでもしなければ覚えてくれないでしょう?」

 様付けは抵抗の表現だったようで、本当は私が主になった事も嫌なのかもしれない……まぁ、今となってはどうにもならないんだけども。

『ウタネちゃん? みんな準備できたから、お願い!』

 なのはが通信で知らせてくる。無駄話はあまりできないね。

「ん、はい。じゃあ、レディー……」

 訓練場をくまなく映すだけのモニターがリインフォースにより私の前に展開される。実に九面。そりゃ個人を映せばそうなるけども。

 廃墟街的な訓練場だし、中央にソラを置いて、周囲を円状に八人が配置。

 フォワードはやる気満々って感じだったけど他の四人は総力戦を経験してるからぶっ潰してやるって感じ。シグナムとヴィータは特に。

「ゴー!」

 スタートと同時にソラ以外が走り出す。なのはとフェイト、ヴィータは飛んだ。

 

 ♢♢♢

 

 はいどうも、みんな大好き抑止力ことソラさんだよ! 

 なんやかんやあって何故か模擬戦だね! シオンが九人相手に圧勝したらしいから私も近いことしたいと思うよ! 

 話を聞いた感じウタネは知らないっぽいけどここは『魔法少女リリカルなのは』の世界だね! ロリショタコンに聞いてる限りではこの世界は二回もウタネに壊されてる可哀想なサンドバッグなんだけど何故か普通だね。どうでもいいね。

 ここでの基本戦闘は魔法。私たちTYPE-MOONの価値観から見ると魔法が一般化するわけないとか一般化したら魔法じゃないとか思うんだけどどうやら理論だって作られてる全くの別物らしいね! 唯一の可能性として全員が全員別々の魔法だった場合を想定してたけどそれはなかったよ。そもそも私たちが言う魔法の数はそんなに無いしね。

 じゃあ取り敢えず自己紹介かな? ソラさんです! 死んでないけど転生してまーす。基本的に『Fate/Grand Order』の世界でカルデアに在籍してます。で、自分でロリコンに頼んで移動してもらうか、ロリコンか他の世界に呼ばれたらその世界に移動するーってシステム。今回はロリコンに呼ばれた感じ。元々犯罪組織潰しにこっちの世界に呼ばれてた事もあったんだけど、通話してたみたいで『なんか変だったから行ってこい』ってロリコンに呼ばれてこの世界のストーリーの中心に姿を見せたのです。

 わかってますか? 私はウタネやシオンよりかなりメタな視点で動いてますよー? 経験した時間軸も投稿された作品順ですからねー? 『vividな世界で暇つぶし』も経験してますからねー? わかってますか? わかりますね? 

 まぁなんやかんやで模擬戦、なんだけど! まぁ圧勝だろうね! 

 だってウタネが余裕かましてんだもの! それならウタネが手を抜いてるってことだからね! 

『すたーと』

 さぁ、始まったね。

 円を描くように配置されてた八人……今現在での力量とかは知らないけど、その数年後は知ってる。だから、それを基準に対処すれば良いだけ──

「まずは……」

 速度としてはフェイト、エリオ、スバル。

 純粋に手を抜いてもフェイトかな。だとすれば背後の不意打ちを警戒しつつ! 

「そぉい!」

 飛んできた鉄球を薙ぎ払う。バインド壊したのを怒ってるはずだし、真っ先にくるのは予想できた。

 さてさて。知らないフリはしてるけど元知り合い? ってのがバレないようにしないとなんだよね。ウタネみたく器用じゃないからその辺気をつけないと。

「はぁっ!」

「甘い!」

 バルディッシュの切っ先を身体を捻りながら跳び退て躱す。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「せい!」

 跳んだ先、ウイングロードからスバルが突撃してくる拳に腕だけで合わせ、互いを弾く。

「っと……」

 思いの外スバルの拳が重く、着地で少しバランスを崩す。

「貰った!」

「わけないよね!」

 当然シグナム。

 ビルから飛び降りた最上段の構えは全開の紫電一閃。

 着地に合わせたそれは私の身体を真っ二つにする軌道と殺意を持って振り下ろされ、当然私の拳に止められる。

「はぁぁぁぁ!」

「っ……と……!」

 流石に腕だけでは受けるのが精一杯で、弾き返すまではできなかった。

「く……」

「いいねぇ! まだ様子見ってとこかな。もっと来ていいよ! ウタネと同レベルに見てくれていいから!」

 改めて足を踏ん張ってシグナムを押し返す。

 視界にはスバルとシグナム。ビルの合間に多分フェイトとエリオ。

 まだ見えてないなのは、ティアナ、ヴィータ、キャロ。

 見えてなくても弾は既に飛び交って、少しでも近距離の包囲から出れば撃たれそう。

 まぁ撃たれるっても今飛んでるのなんてガンド程度だし痛くてもダメージにはならない。

「んー、どーしよっか。早く終わりたい? 長く楽しみたい?」

「それに答えるとどうなるというのだ? すぐに終わらせてやるさ」

 戦略を相手に委ねようとするとピンクに即答される。

 すぐかぁ……逃げられると面倒なんだけど。

「よーし! じゃあすぐ終わろう! ちょっと痛くするけどお菓子あげるから許してね! ふんっ!」

 前傾姿勢ぎみで全身に力を込める。

 全身が微弱な魔力を纏う感覚。全ての筋肉を収縮させる感覚。収縮させたまま、纏ったまま自然体へ維持する。

 服の上からはわからないだろうけど、背中に出てる『鬼』が、むず痒く感じる。

「ふぅ……さぁ、やろうか!」

 足を大きく開き、同じように両腕を広げて掲げるファイティングポーズ。

 身長ではスバルにも劣る私だけど、その構えは勝利の確信。フェイトの全速を上回る反射神経は過去の未来で確認済み。

「ふ……それが構えか。いくぞ!」

 シグナムが来る。

 射程に入ると飛び上がり、再び紫電一閃。今度はカートリッジ三発。さっきのそれの倍は威力があるだろう。

「はぁっ!」

 それでも無意味。

 レヴァンティンの刀身を直に殴る。それでもパワーはこっちが上。

 押し返してボディもいいけど……徹底的にしちゃおっか。ウタネの部隊に入るとはいえ今は新参だし。ある程度実力で立場を取りたい。

「……っ⁉︎」

 一度腕を引き、両手で挟むように手刀を入れる。

「武器折りは戦場では常套手段だよね。分かってても壊れるとは思ってないと思うけど」

 レヴァンティンの刀身を真っ二つ。

「ごめん!」

 シグナムの腹を蹴り飛ばしビルに埋める。

 ウタネいるし……シャマル先生なら治せるでしょ。

「さぁ……って!」

 呆然としてるスバルへ走る。

 速度も今なら私が上。

 走り込んだ勢いをそのままにすれ違いに腕を取り、無理矢理な形で一本背負いを敢行し手頃なビルへ投げる。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 これで二人。あと六人。

 けど二人やる間に他の姿は見えなくなった。飛んでいた弾もいつのまにか消えてる。

 隠れて作戦会議か、隙を狙ってるね。

「フンッ!」

 一番近いビルを殴りつけ、壁の一部を瓦礫として引き抜く。

 それを数度繰り返し、ビル一つを大量の瓦礫に変える。

 それを一つ持って。

「せぇい!」

 投げる! 狙いはテキトー、当たれば御の字でひたすら投げる。無くなったら次のビル。それを繰り返し辺り一面を平らになるまで破壊する。

 隠れ場所無くせば流石に出てくるでしょ。

「……! 無茶苦茶しやがる……!」

「お! やっと一人! ちゃんといるようで安心したよー!」

「ずっといるぜ。行け! エリオ!」

 背後から声と音。

 エリオの突撃は想定内。キャロの補助も入ってるだろうし。

「まぁ残念なんだけどね」

「えっ⁉︎」

 ストラーダを振り向いて掴む。

 流石に少し重いけど、右手だけでエリオを空中に止める。

「ウタネと同等に扱って欲しいなって言ったつもりだったんだよ? ウタネにこれが当たるかな?」

「う……っ⁉︎」

「ごめんね。デバイス修理にお金いるならウタネが出すから」

 謝ってから、握り潰す。

 デバイスの支えを失って落ちるエリオを回し蹴りで飛ばす。

 これで三人目。

 そして四人目、ヴィータへ向かって走る。距離はそう離れてない。目視で大体十メートル。今なら二歩で届く。

「な……!」

 足先で爆発させる筋力エネルギーは間合いを即座に潰し、懐へ潜り込む。

「ごめん!」

「……なーんてな」

「っ……とぉ……」

 ヴィータの胸を確実に捉えたと思った拳はピンクのバインドに拘束され、次の瞬間には金色のバインドが全身を包む。

「流石にバカじゃない。昨日ので馬鹿力は分かってた。逆に、それだけなのもな。なら簡単だ、魔法戦に持ち込めばいい」

 ヴィータが余裕をもって離れていく。

 そして、残りの五人が一斉に姿を見せる。

 構えは必殺。スターライトブレイカーではないにせよそこそこの収束砲撃。

 それが、なのは、フェイト、ティアナ。ヴィータはギガントで待機。キャロは誰かの補助かな。最初に飛んでた弾は魔力散布? わざわざ? この攻撃のためだけに? 砲撃の上から潰しに来る気かぁ……一応初見でしょ? 容赦無いね。

「まぁ……でも。それじゃあ足りないね!」

「「「ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」



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オリキャラ・能力設定 ソラ

ソラさんはあまり設定を固めていないので度々変更するかと思いますけど一応今はこの形、という事でよろしくお願いします。


 ソラ

 

 ウタネ達同様TYPE-MOONの世界での価値観を基準としており、カルデアで特異点修正を目的に活動している。

 ウタネ達の幼馴染で、特殊な能力は持たずフィジカルだけの戦闘スタイル。

 圧倒的なパワーのみが取り柄で、それを前面に押し出した戦いを好むが戦闘自体が好きというわけでもない。素手であれば筋力C++を誇り、平均的なサーヴァント戦であれば時間稼ぎ程度なら可能。反面魔術師としてはぐだ男同様下の下で、ガンド一発がせいぜい。

 黒髪ショートで普段は比較的華奢な少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから知識ある方向け。知識無いのにこんな駄作に行き着かないと思いますけど。というかシオンの能力の時点でアレですけど。

 幼少期の双神詩音と幼馴染で、根源にほぼ通じる抑止力。

 身長ははやてと同じくらい。体重は筋力次第で変化。

 基本的な能力は『鬼の貌』と『筋力操作』の二つ。他にも柔術や合気などの武術も使用できるが、特に必要が無い限りは使わない。

 魔術師としての素養は一般的な一代目としても低く、総魔力量も多くない。魔術回路に至っては二本しかない。

 双神詩音に対しての抑止力としてガイアが作り出した人の無意識下での生存したい想いの総意で動く無名のアラヤ。

 カルデアの英霊召喚システムと相性が良く、宝具があれば真名解放に近い事が可能。

 

 詩音がウタネとシオンに体を貸し与える前に現実改変により周囲の地域ごと記憶操作を受けており、どこで生まれ、どのように生活していたかなどは覚えていない。また、抑止力として活動し始めた時期なども覚えていない。記録が残っているのはカルデアでの人理焼却前から。

 抑止力の特性として相手より強くあり、戦闘範囲と認識した場にいる全ての人の合計したパワーを発揮できる。これは単純な筋力だけでなく、魔法や魔術であってもそれ相応の筋力として発揮される。ただし、『』や詩音のように存在としての格が上のもの、真祖や神霊のように根本が人と異なるものは対象に含まれない。守護騎士などは人が作り出したものであるため対象になる。

 更に死ぬ事なく抑止を必要とする様々な世界を行き来するため、その在り方は英霊より星の触覚に近い。また、ウタネ達とは違う時間軸に存在しており、分かりやすく言えばメタな時間軸に存在している。カルデアでの特異点修正はイベントを除けばアガルタの途中で止まっている。反省しなければ。

 

 

 使用能力

 

『鬼の貌』

 出典:グラップラー刃牙シリーズ、範馬裕次郎

 異常に発達した背面の筋肉が鬼の貌を作り出す。これが発現した状態は人の域に無いとさえ言われるほどの破壊力を生み出す。

 ソラは純粋なそれではなく、魔力と筋力の合成で作り上げたもの。物理のみならず魔術的な耐久性も増幅する。

 

『筋肉操作』

 出典:幽☆遊☆白書、戸愚呂(弟)

 自身の筋肉量を操作する能力。ただそれだけ。それだけに筋肉量は尋常ではなく、全開にすれば人とは思えない肉の塊と化す。

 シオン(ウタネ)がリインフォースに言っていたのはこの状態。

 

 その他武術系の技能全般を抑止力としての活動中に習い覚えている。

 性格としてはより純粋な力での勝利(殺すことはしないしさせない)を望み、技術を使うのは他人の領分としている。純粋な勝負でないトレーニングや模擬戦などでは多様に技を使い筋力を使わず、テクニックで遊ぶような部分がある。



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第73話 ソラvs機動六課

「はい、おつかれさま」

「んー、ありがと!」

 ブレイカーを耐え、ギガントシュラークを粉砕し勝利したソラにタオルを渡す。ついでに伸びた服の着替えも。私のだけど。

 でもまだ訓練場なんだけどね。

「どうだった?」

「んー? まぁ、別に? 知ってる相手だし」

 ディバインバスターに相当する砲撃を四方から受けつつヴィータのギカントシュラークを粉砕したとは思えないほど呑気なソラ。

 ソラの知ってる時と比べてどうかってのを聞きたかったけど……面倒だしいっか。

「そっか。じゃあこの事件の事はわかる?」

「それはサッパリ」

「じゃあさっきどれくらいした?」

「40」

 最初で鬼の貌出してたはずだから……収束と砲撃とギガントで……やっぱりなのは達もかなりだね。

 たしかソラって筋力C++だったから……あの五人の火力で筋力Aくらいにはなるのかな。

「ふーん。結構だね」

「スターライトブレイカーだったら60はいるかなって感じ」

 スターライトブレイカーまで知ってる……どこの時代を経験してんだろ。

「取り敢えず……なのは」

「うん……」

「八神さんに報告お願い。例の事件の犯人は私の知り合いで、私が全責任を持って私の部隊に引き入れた、って」

「わかった。はやてちゃんもウタネちゃんの友人なら信用してくれると思うし。でもソラちゃん、一度ははやてちゃんと会う事になると思うからね」

「はい。模擬戦は無茶を言ってすみませんでした。私の行動で損害があればウタネが出しますので」

 ソラが深々と頭を下げる。

「ちょっと⁉︎」

「だって私お金無いし。あるんでしょ? 出してよー」

「……はぁ、良いけど。デバイス修理くらいかな? でも修理とか部隊でやるし要らない……?」

「修理費は大丈夫。シャーリーが喜んでするだろうし。まぁでも、ヴィータちゃんやシグナムにちょっとお詫び入れた方がいいかも……」

 なのはがポリポリと頰をかく。

 模擬戦後は姿を見せず、どうも部屋に引き篭もってしまった様子。

「あ……そうだった。えっと……ウタネ、どうしよう⁉︎」

「知らないよ。プライドのケアなんて私もシオンもいらないから」

「だよね! 役立たず! くっそー、モーさんでもいればなんとかなったかもなのに……」

「津波サーファーの子だっけ?」

「そっちはサモさん。モーさんはセイバー」

「……わかんないや」

「カルデア来なよー。あのカルデアにサモさんはいないけど」

「行かない」

 セイバーだのライダーだの……クラスごとで呼び方が違うらしい。よくわかんないけどね。

「話は聞いたで、ウタネちゃん!」

「おー八神さん、久しぶり?」

「久しぶりやー」

 リインフォースと八神さんが歩いてくる。

 どうも念話で話してると来たいと言ったらしくリインフォースが迎えに行った。

「キミがソラちゃんかーよろしゅう」

「はい。よろしくお願いします。八神司令」

「司令?」

 ソラの敬礼に八神さんが首を傾げる。

「あれ? なんだっけ、ウタネ」

「部隊長、かな?」

 司令ってなんだっけ。もっとお偉いさんかな? 

「あ! それか! すみません!」

「ええよー、一般人さんやもんな、階級も分からんやろ。それよりウタネちゃん」

「おっ……死んだ気がする」

 死んだ気がする。

「私に黙って何勝手に戻ってんねん! シオンとして部隊任務遂行するんやろ! なんでバラした!」

「おほほ……ほほほ……」

 八神さんが私の頬を掴み、右手だけで宙に浮かせる。

 これマジ? 生身? リインフォースとユニゾン……してないね? えぇ? 

「ウタネちゃんに何ができるんや! 戦闘能力だけじゃ意味ないってシオン偽ってたんは誰や? 誰や⁉︎」

「わ、わたし……わたしです……」

「せやろ? ほんでな、ウタネちゃんは一般人や。シオンは私に属する嘱託や。この差は大きいで? わかっとるん?」

「はい……」

 シュベルトクロイツが八神さんの手に添えられ、私の目の前に置かれる。

「厳罰や。撃つで」

「……えぇ……」

 もうチャージが始まり、魔力に直で顔が埋まっていく。

 痛いんだけど。

「はやてちゃん⁉︎」

「なのはちゃん、黙っとき。拡散するで」

「……ウタネちゃん、ごめん」

 うん。この魔法なにかなー……非殺傷であることだけを望むかなー……

「ディバインバスター」

「おっ」

 撃たれた。

 マジで撃ったよ、この隊長。

「あっはははは! マジで撃たれてんの! ガードしてた? してないよね⁉︎あはははははは!」

「ソラ、笑い事じゃない。リインフォース、お願い」

「えぇ。はやて、流石にやり過ぎかと」

 治癒ができて良かった。顔の皮膚焼けてたんじゃないかな。前髪無かったよ。

「ええんや、どうせ死なへんやろ」

「死なないけどさ」

「ウタネちゃんやって言うのは隊長達の秘密にしとくつもりやったのに……」

「でもそれじゃ犯人が追えない。隠しておくには相手が強過ぎる」

 私だってバラさないとフォワードと戦闘だったし、そうしないと主犯を教えられないし。

 正直なところ、ソラが来てくれてほっとしてるくらいだ。

 ソラが潰してきた組織が相手なら六課で十分。フォワードの強化という面でも安心してこなせる仕事だった。けどシオンが敵で、協力相手がプレシアに近いレベルの天才科学者だっていうなら、フォワードは当然なのは達だって互角にあるかどうか。

 落胆してる八神さんには悪いけど、この戦いの戦力は管理局では足りない。

「いーじゃん、私がきたんだし」

「まぁそうだね。ありがと」

「ん……そうくるか。でも、その様子だとまだ甘いね」

「え?」

「タイムパラドックスかもだけど、ゴドーワードって知ってる?」

「んー……知らない、と思う」

 私だけじゃなく周りもわからない様子。この世界のことじゃないのかな。

「やっぱ対面しないと分からないのかな。私もオーガに会うまで知らなかったし……」

 ソラが腕を組んでブツブツと訳の分からないことを。

「なに?」

「ううん、ごめん。やっぱり私たちは同じなんだって確認」

「……? 何を今さら」

「まぁ、あなたが追加したのは別だけどね……」

 それについてはホント申し訳ない気持ちだ。でもなんか見殺しはちょっと私も気が引けたし……

 私を除いたシオンとの二人の関係として持つのであれば他に入って欲しくなかったんだろうなと思いつつ、手を合わせて謝る。

「あ……うん、ごめん。でも流れでさ。悪気があったわけでもないし……シオンもまぁ否定はしなかったから……」

「言い訳無し! 別に責めては無いんだよ、リインフォースさんも悪い人じゃなさそうだし」

「そりゃそうや、ウチのリインやで?」

「まぁ、私たちには善悪カンケー無いけどね! というかウタネが一番悪だしね!」

「はえ?」

「ん? あれ? コレダメだった?」

 私が悪、と言うことになのはがボケる。

「んー? 別に。というかなのはが一番分かってると思ってたよ」

「なんで⁉︎シオンは確かに怖いけど!」

「私、なのはとユーノを殺そうとしたり、フェイトも殺そうとしたし、シグナムも一瞬再起不能にしようかと思ってたし、闇の書事件全体で両方の敵だったり、犯罪未遂なことしかしてないと思うんだけど」

 あと世界潰したりした。紫お嬢様に戻されたけど。吸血鬼で時間逆行できてなんなら魔法より火力出せて……

「紫お嬢様呼ぶ? 私の部隊で」

「なんや急に。すずかちゃん?」

「いや、戦力的に。八神さんの五倍は強いでしょ」

「私今部隊のトップなんやけど」

「事実は事実で受け止められる組織にしなよ。生身で手を抜いて私の魔力放出と同等以上のパワーに時間逆行。予想からその他能力。シオン相手なら私より良いと思うけど」

「魔法関係あらへんやん……しかもいきなり指名手配犯相手にさせるん?」

 んー、それもそうだ。闇の書リインフォースの時は緊急だったけど簡単に対処したけど。んー、やめとこっか。でも私がシオンに不利っていうのは変わらないし……もっと手軽な戦力……

「じゃあ高町家」

「じゃあて」

「ぶっちゃけなのはより強くない? 瞬間移動……そういえばなのはもできたね。私の知ってる地球人は戦闘民族では無かったと思うんだけども」

「確かに高町家は意味分からんな。シグナムが手合わせしたことあるらしいねんけどデバイス込みで勝てへんかったらしいで」

「シオンに治してもらった後で? 意味わかんないけど納得はできるなぁ……って感じ。私の歩法も一回見せてるから……あ、それを無理矢理再現してあの速度なのか……技術を力技で解決させるとそりゃあ瞬間移動になる……」

 そもそも海鳴は私のいた地球には無かったよ……闇の書事件まで地図見に図書館行ったり、シオンが来てからはシオンに聞いたりしたけど。

「取り敢えず戻らないー? 私シャワー浴びたいかもー!」

「あ、そうだ八神さん、コイツ、私の部隊に引き入れるよ」

 相変わらず能天気なソラを指し、管理局の外の存在だと言っておく。

「ん、それはええねんけど……やっぱりアレか、魔法使えへんのか」

「え、魔法使えないとダメなの?」

「ああいや、それは別にええねん。私が何とでもするから。やなくて、実戦的な能力の話や」

「あぁ、認めて貰いたければ見せろってことね」

「そこまでではないんやけど」

「ウタネ、どうかな」

「んえ? 別に? 80までならいいんじゃない?」

「ん。じゃあ」

「えまって、ここではしないでよ。どっか室内で」

 ソラが構えを取るからちょっと後ずさる。

 引き気味な私に対しソラはなんで? と言った顔。

「組織で暫く生きてくんだから人の目は気にしなよ。カルデアと違って普通の人間ばっかりなんだから」

「んー? んー! なるほどね! 死んじゃうかもってことね!」

「違う! 見た目!」

「見た目……?」

 ぽかーん、と口を開けるソラ。

 ソラが通ってきた未来でも私は指摘しなかったのだろうか。確かに対魔力の低い一般人なら80で死んじゃう可能性もあるけどここは管理局。素質が無い人でも常日頃から魔法に触れ、魔力を浴びている。ある程度距離がある限り無差別殺傷は無いだろうけども。けれども、その見た目はとても酷い。ヒドイ。

「とりあえず、今模擬戦したメンツは実力認めただろうし、リインフォースはいいよね。だから、八神さん」

「な、なんや」

「ソラと二人きりでお願い。絶対身体的危害は無いから!」

「ウタネちゃんがそんな必死なんは珍しいなぁ。別にええけど、ソラちゃんはええか?」

「なんか納得いかないけど! いいです! わかりました!」

「お、おう……なのはちゃん、悪いんやけどウタネちゃんとソラちゃん借りてくな」

 私の進言は通り、無事私とソラが八神さんについて行くことに。

 置いてきぼりのなのはとフェイト。自体の把握、情報共有を行うフォワード。能力の予想をしていてそれに行き着いたのか、引きつった笑みを浮かべ見送るリインフォース。そして八神さんに連行されていることに気付いた私。

 その数分後、八神さんと私の叫びが六課を揺らした。



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第74話 機動六課の休日

物語は一歩も進みません。じゃあリリカルなのはじゃなくてもよくね?と言いたくなると思いますので、進むまで待つか、我慢するか、お気に入りなどなどから削除しましょう。


「さぁ!」

 翌日、私の部屋でドンと来い、とソラが手を広げる。

「……なにが?」

 なにしてんのかサッパリな私は思ったままを口にする。

 そして面倒な予感がしてソファに体を沈める。

「だってさ、昨日ははやてが気絶しちゃって色々誤解が出たしさ、今日は休みだってスバル達は遊びに行っちゃうしさ。ウタネとか別にどうでもいいしさ。気晴らしにシオンと遊ぼうかと」

 ソラがカーテンをシャッと開け、休み気分の私にはとても辛い日光が部屋に入り込む。

「そりゃ気絶するよ。60%でもヒトじゃないもん。まぁその意味では私もついてって良かったかな。でももうシオンに変わりはしない。このままウタネとして六課にいる」

「えー? 嘱託はシオンなんでしょ?」

「昔馴染みやフォワード以外は私とシオンの見分けなんてそうつかない。それに、私たちは元々機動六課の部隊じゃなくて雇われだし。とりあえず今日は現状把握と情報共有だ」

「雇う? 私たちを? はぁ?」

「ソラ、八神さんを知ってる口ぶりだけどね」

「ん、まぁね」

「夜天の書の所有権は私。リインフォースも、守護騎士も、私の管轄」

「はぇ? あー、でもなんか、そんな感じだったかな?」

「リインフォースはもうこっち側。次も用意されるらしい」

「んー、まぁ、条件的には? 良いのかな?」

「ロリコンに言って通ってるからオッケー。可愛いし」

「色合い似てるもんねー……自分の理想として見てない?」

「うん? そんな事ないと思うけど。そう思う?」

「思わない。けどここに来て変わったならあり得るかなーって。あ、そうそう、なんで部隊名ヴィーナスなの?」

 今より好き好きしてる世界でもあったんだろうか。

 私が嫌悪以外でそんなに感情出さないと思うんだけども。

「なんでって……知らない。嘱託で動く時からシオンが決めてたらしいから」

「でも今いるのアインスだけなんだよね」

「やっぱりアインスって名前なんだ」

「んあ、そっか、この世界じゃリインフォースのままなんだ」

 シオンにも聞いてたけど、ツヴァイかぁ……見てみたい気持ちもある。この事件終わったらシオンに頼んでみようかな。

「まー呼び方はいいでしょーね。あ、そっか。複数系にしたから?」

「は?」

「一応さ、VNAじゃん、ぶいな。で、S付けてぶいなす。愛と美の女神だよ。シオンにしてはナルシスト気味なネーミング?」

「ふーん。愛と美、ねぇ……」

 まぁそもそも、増えたし。VNAでも無くなってる気もするけども。少なくともリインフォースはハッキリしてないし……まだいっか。揃うまでは。

「みんな美人だし? 私たち全員人類悪みたいなもんだし? ピッタリだと思うよ?」

「私は別に人類悪のつもりは無いよ」

「えー? 人が終わるのが嫌だから滅ぼすってさー、人を憐んでのことじゃないの?」

「……私のは、ただのワガママだよ」

「ふーん? まぁそれはそれでいいや。シオンはあなたを生かすためってのと、『』に憧れてって感じかな」

「さぁね。私がシオンに願ったのは詩音が社会に適応することだけだよ」

「じゃあウタネが適せない原因を取り除くため……はただの殺人鬼だね。おっと、安易に殺人鬼の単語使うと怒られるね」

「憧れてんだっけ。なんか闇の書事件で会えたらしいけど」

「マジで? カルデアにもいるけど……よっぽど気が向いたんだろうね。闇の書程度じゃ無理矢理なんてできないだろうし」

「そうなの?」

「ロストロギアたってもさ、所詮は古今東西の魔法を集めた魔導書なワケよ? 所詮はヒトの延長線。ミッド、ベルカの両方が使えて、魔力SS程度もあれば常人から見ればほぼ近いものにはなるわけさ」

 魔術と魔法のアレだね。再現可能か否か。

「うん」

「でもアナタの……発作の裏返し? その身の能力の一端? は誰にもマネできない。例えこの世界の魔導師を集めても世界中を射程に入れることも、物質の性質を維持したまま変化させるなんて意味わかんない事もできない」

「わかんなくはないでしょ。柔らかいまま硬くする、くらい分かって」

「相反することを同時に存在させる事がそもそも理解できないよ!」

「ならソラの能力も分かんないんだけど。普段は私と変わらないくらいなのになんで急にああなるの? 鬼ってそもそも何?」

「えー……なんでって……力み? 開放のカタルシス? 技を超えた純粋な強さ? それがパワー?」

「聞かれても……」

 ソラの能力解放はそりゃあもうマッスル全振り。

 昨日はビル殴り壊して瓦礫投げるとかしてたけど生木引っこ抜いて投げてた時はもう言葉も無かった。

「まぁ抑止力が人類悪自称してるし気にするだけ無駄か」

「それはわかんないよー? 殺しても転生するなんて癌細胞そのものだし」

「あなた死んでないでしょうに」

「そーだけど! 万一があるじゃん!」

「まぁね……取り敢えず情報出して」

 転生談義が面倒になってきた。やることやって寝たい。

「んー、でもさ、情報共有ったって何も無くない? 相手もハッキリしないんでしょ?」

「うん……まぁ、そこなんだよね。心当たり無い? ココより先の世界も行ってんでしょ?」

「ないよー、そもそもフェイトが犯人側だっていう事件だって知らないしさ、闇の書事件だってシグナム達のこと知っててもその事件を知らないと犯人だーって言えないじゃん」

「ん……それもそうだ。何年後かも分かんないんだよね……じゃあさ」

 確かに、私だって八神さんが闇の書の主だなんて守護騎士と一緒にいる場に出くわさなければ知らないままだった。人と人の裏の繋がりを知らないまま疑うのはキリが無い、か……

「うん」

「もうどっか適当に今までの続けてていいよ。いらない」

 じゃあぶっちゃけソラいらない。

 シオンの様に推理ができないソラはただの筋肉だ。部隊にもリインフォースがいれば十分すぎるくらい機能するし、ソラが事務処理とかできるなんて聞いてない。まして周囲にいたのは非戦闘要員か完成してるサーヴァント。訓練の教官なんて私並に向いてないだろう。じゃあ、いらない。

「酷いね⁉︎」

「戦闘の時は呼ぶから。あとは面倒だからどっか行ってて」

「もっとヒドイ⁉︎都合良い戦闘力か私は!」

「掃除屋ってそうじゃないの?」

「……そうだけど! 私が行ったとこはまだ間に合ってたよ!」

「ふーん」

 抑止力は世界崩壊寸前の事後処理専門と思ってたけど違うのかな。

 まぁ、私は絶対そうならないからどうでもいいんだけども。

「興味なさそー……じゃあさ! アインスと話して来ていい⁉︎私たちについて!」

「いいけど……」

「やった! じゃあね! バイバ──ん?」

 やった! でカーテンを引き千切り、じゃあね! で私の寝てるソファと形だけの事務デスクを蹴り飛ばし、バイバイ、でドアに手をかけようとしたソラが止まる。

 そして丁度よくコンコンとノック。

「はい! どうぞ!」

「勝手に入れるな」

 私の部屋だぞ。

「失礼します。ソラさんいま──ウタネさん⁉︎敵襲ですか⁉︎」

「そこの筋肉だよ。何用?」

 遊びに行ってるはずの青い子が部屋を見てドン引きしてる。後から来たオレンジも。

「私に用?」

「あ、はい! その、休日で申し訳ないんですが、少し手合わせをお願いしたくて!」

「ウチのスバルがすみません!」

「なんで謝んの。というか敬語じゃなくていいよ! 私の方が下だしね! あ、でも私はあんまり敬語使わない! ごめんね!」

 普通に考えたらコイツゴミだよね。マスターとしての立場が完全に板についてる。相手が神でもタメ口なの意味わかんない。ん、ロリコンは神と崇められる要素が無い。そして私も神相手だろうと敬語にする気は無い。純粋に必要ならする。

「んー、でもソイツにせっかくの休日潰してまで相手してもらう価値は無いと思うけど……」

「ひどいねー、近接格闘技なら割と極まってるよ?」

「使えるだけで使わないくせに」

「んふふー! その辺似てるって言われたよ!」

「誰に」

「ホンモノの息子?」

「ナニソレ」

「んふふー。さ、スバル、行こっか」

「あ、はい! お願いします!」

 もうソラと同じ次元での会話は無理かもしれない。いるよね、自分がわかるんだから相手も分かるだろみたいな……シオンなら分かるだろうから私にもわかるだろみたいな……

 言葉を厳選して一言で理解せしめてほしい。

「……えっと」

「ん?」

「ウタネさん、シオンの時のこと、あまり覚えてないとのことでしたけど……私が訓練を希望したの、覚えてますか?」

 オレンジの子がおどおどと聞いてくる。自己紹介は一通りされたけど忘れた。判別はできるからいいよね。

「んー……ごめんね、知らない……と思う。でも言ってたなら私で良ければ代わりはするよ?」

「ホントですか⁉︎」

「う、うん。シオンのせいだし……」

 シオンが敵だとするなら普通の魔導師であってもらっちゃ困るし……

「それ、今日お願いしても大丈夫ですか⁉︎」

 おおう、凄いやる気だぁ……

 うーん、今日かぁ……やるのはいいけど体力がなぁ……

「ちょっと待ってね」

「あ、はい。すみません」

「リインフォース。来い」

 声色を殺して呟く。

 すると隣にはリインフォースが……いなくて、代わりにモニターが開かれた。

《なんだ? 休日だろう?》

 ベッドで身を投げ出しているリインフォースがダルそうに話す。

「あのさ、この子と訓練するから、体力回復お願いできない? それにフォワードが休みなだけで私たちは待機なんだけど」

《真面目だなぁ……まぁ、別にいいぞ。それで出勤ということにしてくれ》

 フェイトから現状報告を受けた限り、リインフォースは年々私に近づいていってるらしい。

「じゃ、終わるまでに来てね」

《ああ》

 通信を切る。

 私は、プライベートはともかく仕事でこんなダラけるだろうか。上司? の通信くらいせめて座る? ……いいや座んないや。そもそも出ないや。

「はい。じゃあ行こっか」

「お、お願いします!」

「そんな畏まらなくても……私は別に殺したりしないから……」

「い、いえ、そうじゃなくて……」

「んー?」

「ホテルの警備の時のこと、本当に気にしてないのかと思って……」

「……気にしてないけど」

 ミスショットだっけね。

「そうですか」

「……え、なに?」

 急になんだ。不意打ちか? 隙見せたら撃つってか? ないぞ? シオンへの恨みはシオンに向けよう? 

「いえ。局内で聞いていたヴィーナスとはイメージが随分と違うなと」

「は? どんな?」

「曰く、単騎で国を滅ぼす。曰く、仲間内でさえ能力を知らず、連絡も最小最短で滅多にない。曰く、高額な報酬でしかその力を振るわない」

「はぁ〜?」

「いえ、実際のところ合ってましたよ。歴戦の魔導師が総手でかかっても手が出ないほど強くて、他人への興味と意欲と記憶力と協調性が無く、働くのが面倒だ、ということで」

「んー、合ってるよ。合ってるけどね? てゆーか誰? そのウワサ」

「部隊長です」

「よし。殺そう」

 なんだアイツ。昔の健気な関西弁少女はどこにいったんだ。私か? 私が闇の書に関与したからか? 奪ったから性根が捻れまくったのか? 

「ちょっ⁉︎殺さないって言ったばかりじゃないですか⁉︎」

「いや、あなたたちを殺さないだけであって八神さんは別だから……!」

 少なくともリインフォースは殺しても死なないと本人が言ったらしいし、ならなんかするでしょ。死んだらソラに代わり……は管理局がカルデアになるからダメで、リインフォースが変身するでしょ。

「ダメです! やっぱりシオンより殺意が軽いじゃないですか!」

「軽くないよ。私たちの平穏は守らないと。だから殺す」

「他にやり方が無いんですか⁉︎」

「あるんだろうけど考えるの面倒。ウワサを否定して回るより元凶を見せしめにした方が早い」

「……先に報告しますよ?」

「指名手配はやめてね。あと裁判」

「切り替え速いですね」

「裁判に関してはね。多分私が管理局で裁判すると0-100で相手が悪くて証拠があっても私が負ける気がするし」

「えぇ……」

 全責任を負って裁判に負ける。そして死刑なり指名手配なり。

「まーいいや。ソラと同じとこでいいよね」

「あ、はい! 切り替え早いですね!」

「……トゲがある?」

「ないです!」

「そ。じゃあいいや」

 絶対良くないけどね。



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第75話 休日 後編

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「せぇっ!」

 青い子とソラの拳がぶつかり合う。違うのは十メートル以上加速をつけた上でカートリッジをロードしたか、ただ拳を突き出しただけか。

「んんー? おぉー! 流石カートリッジ! 三発もあると変わるねぇ!」

 ギュルギュルと回転と軋みを上げるデバイスを見てニィ、と楽しさを隠さないソラ。

 その身体はもうそれはそれは女子力という言葉を起源から否定するように筋骨隆々、バッキバキ。地域のボディビルの大会に出ようものなら初参加で準優勝は確定するであろう超肉体。問題はそれでもまだ半分も無いってことなんだよね。

「それで五角って……! マッハキャリバー!」

「んー? 互角ぅ? ほほっ!」

「えっ⁉︎ええぇ⁉︎」

「スバル⁉︎」

 互角、という言葉に反応して青い子がワザとこけたようにひっくり返る。

「合気、って言うんだ。ここの武術体系には無いのかな? まぁ、思いっきり蹴るから、ちゃんと防いでね? 死ぬから」

 ソラの蹴りは正確に青い子の顔面を狙い、青い子は必死にガードを固める。

「スバル!」

「んー。結構なもんだね、新人にしては」

 壁まで吹っ飛ばされはしたもののすぐ立ち上がり、深手ではないことが分かる。

「お疲れさま! もう結構経ったし一旦休憩しよ! お菓子あげる!」

 そう言ってソラが飴を一つずつスターズに投げ、自分も一つ頬張る。

「ふぅ! ケッコー満足!」

 そう言ってゴリラと形容されても仕方ない筋量をしぼませて顔相応の輪郭と柔らかさを取り戻すソラ。

「はぁ……っ! っつ……強い……」

「まさか……二人がかりで……三十分も……なんて……!」

 息も絶え絶えなスターズ二人。

 私がダウンしてから練習だとかではなく完全に模擬戦してたけど、ソラが40%を解放してスバルの全力を正面から打ち砕いたり、ティアナの射撃を殴り壊し、バインドを筋力だけで破壊し、途中参加のリインフォースも能力無しでは手が出なかった。

「んー、でも結構強いね?」

「それはそうだろう。なのはがあれだけ考えて訓練しているんだ、強くなってなければ困る」

「そういうあなたは……手を抜いてたね?」

 ソラが無感動にリインフォースを見る。加減されるのは不満なんだろうか。その方が楽なのに。

「抜いていたわけでもないが、少し制約があってな。以前は夜天の書だけだったんだが、最近能力にも制限をかけてな。はやての許可が無ければ一般的な魔法しか使えない」

「ああ……そうなんだ? じゃあずっとオッケー……にはして貰えないの?」

「無理だろうな。そもそもそれとは別でリミッターもかかってる。魔法自体もAランク程度だ」

「制限に制限で制限かー……ウタネがいてなんでそんなことになるかな?」

「いたからこそ、という……」

「んん! それもそうだ! 苦労人のリインフォースさんには最高級和三盆を使用した大福をあげます!」

「……さっきの飴もだが、どこに持ってるんだ?」

「ふふー! 乙女の永遠の秘密!」

「リインフォース、探るだけ無駄だよ。透視能力でも解らないから。七不思議。ソラ、私にもなんかちょうだい」

「ん、はい。えっちゃんの可愛さの方が七不思議じゃない?」

「可愛いからで結論が出るじゃん」

 可愛いのは認めるけどソラに話させるとキリが無くて面倒だから早く黙って欲しい。

「それもそう! というわけでリインフォースさん! 英霊召喚システムは知ってます? シオンの能力ならそれ使えるはずなんだけど、私の令呪と繋いで召喚式お願いできません?」

「え……っと、どうしましようか……?」

「令呪? 無かったよね? リインフォース、絶対しないで。あなたみたいのが増える」

 なんで実力あったり権限あったりする私たちはやる気が無いの? 私が一応のトップだからか? 私がそうだからそう感じるだけか? えっちゃんも大概ぐーたらだし。

「うん、なんか魔力集めたら出た。やっぱりずっといるとマスターとして世界に認められるのかも!」

「正規の魔術師でもマスター候補でも職員でもないくせに」

「いいじゃん。カルデアに生身で登ったの多分私だけだよ」

「人類がそれしたら死ぬからね」

「雪山くらい素手で登って」

「全世界の登山家に殺されてしまえ」

「全世界の登山家が私を殺せると思ったら大間違いだよ!」

「そーですか。で? あとは──」

『ライトニング4、緊急事態につき全体報告! 状況報告します!』

 ライトニングのシグナムじゃない方のピンクから報告。

 あっちは真面目に遊びに行ってたはずだし……

「ん」

「へー、やっぱり扱いは魔術に近いねー」

「黙って」

「ごめんー」

 報告は市街地路地裏でレリックと謎の少女を発見したため指示を仰ぐもの。

「ソラ、あの子、知ってる?」

「んー、ちゃんと見ないとわかんないかな。金髪って割とその辺にいるし」

 金髪お嬢様も一応日本人なんだよねー……なんなんだろうねー……私白髪だけどねー……マトモな日本人っぽいのソラだけかも。ソラの生まれどこか知らないけども。

「ん、それもそうだ。八神さん?」

 我らが部隊長へ通信。私が勝手に動くわけにもいかないし。

『報告は聞いたな? じゃあスバルとティアナはソラちゃん連れて現場に合流! リインフォース、先行できるか?』

「許可があれば」

『いっこだけや。無茶はせんでな!』

「了解した。じゃあ、先に行く。ウタネ、いいか?」

「私にまで聞かなくても。あなたが良いと思うならいいよ」

「二人とも、ソラを頼む。応急手当と現場保持は私とライトニングでする」

「「はい!」」

「ある物はタオルと……服か……仕方ない、いくぞ……『ラディカル・グッドスピード』!」

 リインフォースが残念そうにタオルを被り、虹色に全身を輝かせたと思った瞬間に強風が私を叩く。

 ついでにどこかの窓を破り抜けたのだろう、バリーンという音と局員の悲鳴が聞こえる。

「っと……だいじょぶ? 折れてない?」

「ありがと。そこまで脆くない」

 風圧に完全に敗北を喫した私は飛ばされる前にソラに支えられ事なきを得たけどソラの筋力は風圧を全く意に介してないどころか私の体重も無問題のようでビクともせず、背中が鉄棒に打ち付けられたような痛みがする。

「速いねぇアレ」

「見えた?」

「うん。めっちゃシャカシャカ動いてた!」

「速度は?」

「んー、私の全開の反射速度くらい?」

「じゃあもう着いてるかな」

「距離次第だけど多分ね」

 鬼と100%の反射速度って……光速? はっや……

「じゃ! スバルとティアナ! 案内よろしくお願いしまーす!」

「あ……はい!」

「私はどーしよーね。八神さんとこ行こっかな」

「それでいいでしょ。どうせついて来れないし」

「はいはいごめんごめん。じゃあ二人とも、ソイツうるさいけど宜しくね」

「「はい!」」

 三人を送り出し、練習場に取り残される私。

 さて……もう一眠りしようかな。

『ウタネちゃん。サボろうとしよるトコ悪いけどな、ガジェット出てきて外部協力者が名乗り出てくれたから、合流してくれるか?』

「監視してる? 仲良しかな?」

『仲良しやんか。ほんでな、ギンガ・ナカジマって子なんよ。多分知らへんやろけど、スバルのお姉さんや』

「スバル……?」

『そっちかいな! さっきまで一緒におった髪の青い巨乳の子や!』

「あー、スバルって言うんだ。私とソラ以外みんな大きいから区別つかないよ。というか私も普通なら普通にあるくらいだと思うんだけど」

 私もソラもたしかB70くらいだったよ、あ、前世の話ね。死んでからは一切知らない。能力で胸潰してたしシオン偽装中は男物の服だったしでどうでもよかった。ん、こっちのシオンは胸あるのかな。その辺とても気になる。

『……なんか、ソラちゃんやシオンよりウタネちゃんを部隊に置いとくのが不安になってきたわ』

「仲良しなら信用してよー」

『公私混同したらあかんで』

「部隊構成からして公私混同しまくってない?」

『せ、戦力集めただけやから……』

「そっかー。おやすみ」

『やから! 合流してって!』

「んー……わかったよ。ルートちょーだい」

『やる気出してや……ホンマ。じゃあギンガにも言っとくから、合流したらリイン達とも合流してな』

「はいはーい」

 はー……レリックと子どもの保護なんてリインフォースだけで終わらせられそうなのにソラまでいるし……私要らないでしょ……

 

 ♢♢♢

 

「だっ! 誰⁉︎」

 女の子を抱えたキャロが反応する。

 強烈な風と共に現れ周囲をキョロキョロと見回す紫を基調とした滑らかな流線のフォルムをした明らかな不審者にエリオも警戒レベルを上げる。

「……すまない、私だ」

「り、リインフォース、さん?」

 何故そのような姿で、という言葉を飲み込み、その挙動はなんですか、という疑問をリインフォースだからと納得したエリオとキャロ。

「先行する為に速度を出したんだが、タオルと服しかなくてな。しばらくこのままで許してくれ。いや、実際のところかなり失敗したな。後とても全身が痛い。しかしまだマシな部類だったな」

「え……っと、サッパリ話がわからないんですが……?」

「うん、アルター化、アルターという能力でな。物質を再構成する能力なんだが、私が使うと自分の分解はできないし、アルター化した物は解除と同時に能力ともども消えてしまう。つまりだな、コレを解除すると全裸なんだ。これは泣くぞ。夜天の創始者が見たら多分号泣するだろうな。事前の確認が大切だというよい事例だ。手遅れなのが悲しいが」

「えぇ……」

 まさかの欠点に思わず失望が漏れるキャロ。

「いや、エリオが望むなら別段解除してもいいんだが、私もそれなりの地位だからな。全裸徘徊は六課が管理局に潰されかねない。そうなったらはやても泣くな。もしかしたら笑いすぎて泣くな」

「い、いいですよ! そのままで!」

「うん、ありがとう。まだ大丈夫そうだからもう少し遅い能力でも良かったな。判断ミスだ。くそう」

「もう少し、って……報告からまだ二分も経ってないですけど……」

「知ってるか? 光より速いものはこの世に存在しないんだ」

「知ってますけど……光速で来たんですか……」

 人差し指を立てて得意げに言うリインフォース。

「うん。私のことだし正確には少し遅いだろう。ホントに光速だと一般人なんて風圧で死んじゃうからな。私も今全裸の過失で死にたいほど泣きそうなんだが」

「……」

 エリオは耳を澄ませ、少し離れた場所に意識を向けると大事にはならないだろうが混乱の声が聞こえるし、到着時の風圧は自分たちでも身構えなければ耐えられなかった事を思い出す。

 そして、ヴィーナス相手に常識や能力の正体を問うことは無駄だし、一般人の多少の被害で済むのならまだマシなのでは? という結論と、後でフェイトに報告しておこうという決意を持った。是非罰してほしい。

「まぁともかく、休暇だったのにな。なんでこう無駄な犯罪が後を絶たないのだろうか。宝くじより可能性が無いのに。私を全裸にしてまでする必要があるのか? まったく」

 休みを潰された私に勝てると思うのかまったく、と新人の部下の前で堂々と愚痴を漏らすダメな上官ランキングNo.1。

 しかし保護した女の子に完璧な治癒魔法を施す理想的な管理局員ランキングNo.1。

「エリオー! キャロー!」

「スバルさん!」

「げっ……誰?」

「私だ」

「リインフォースさん⁉︎」

「もう面倒だから説明しないぞ。解除したら全裸ってことだけ言っとくが。泣くぞ」

「はぁ」

「あっ……」

 周囲を見ながら来たのか、少し遅れたソラがキャロの抱いている少女を見るなり声を漏らす。

「ん? ソラ、どうかしたか?」

「ん⁉︎ううん! ごめん、なんでもない」

「ウタネに必要な情報なら話してくれ。話せないなら別にいいが。話さないなら服をくれ。お前は一般人だからほぼ無罪で捕まえてやる」

「んー、後でウタネに話すよ。それ以降は任せる。服はあげない」

「了解した。では……シャマルたちも来たな。当然ながら私はあっちに行くぞ。服を取りに帰りたいからな」

「フォワードは現場検証? 私は?」

「お前も現場に残ってくれ。シオンを知っているなら尚更だ」

「もし来たら勝てるかわかんないよ?」

「殺される前に連絡くらいできるだろう。抑止力は使い捨てらしいからな」

「私は抑止力でも座に登録されることはない系の抑止力だから使い捨てにして欲しくない気持ちです」

「じゃあ逃げ帰れ」

「それだ!」

「というわけだ。キャロ、その子を預かろう。いざという時はソラを盾にしろとウタネから伝言だ」

「はい! ……でいいんですか?」

 リインフォースのとんだもない嘘にキャロが遠慮気味に聞く。

「んー、可愛いからイイヨ! おっけー!」

 大して悩むまでもなく使い捨てを選んだソラ。

「局員でないソラに一応の念押しだが、ガジェットはどうしようと勝手だが人は殺すなよ。保護して送れ」

「……私のセリフ! あなた達こそ私の前で殺しができると思わないでね!」

「了解だ。今なら世の男を悩殺できるがな。服が欲しい」

「自信たっぷりだね! ムカつく!」

「完全無欠の夜天の書だぞ。特にこの私は過去最強だ」

「はいはい! 早く帰って!」

「もちろんそのつもりだ。帰るまでに私に連絡なんてしたらキレるからな。緊急連絡もはやてにしてくれ」

 リインフォースはフォワード四人とソラを現場に残しまだ到着していないヘリの着陸地点を先読みして歩き始める。

「……あ、そうだ、ギンガさんとウタネもこっちに向かってるって」

 移動中に受けた連絡をリインフォースのインパクトに負けて報告しそびれたティアナ。

「あ、ガジェット……」

 報告自体を忘れていたスバル。

「リインフォースさん、残ってくれるとよかったですね……」

 全てが手遅れだということを理解したエリオ。

「……まぁ! 私が代わりするよ! 頑張ろう!」

 報告するだけ組織として形になってるな、と思う現場戦闘員の八割が自分勝手に現場を収束させて事後報告もしないカルデア在籍のソラ。

「取り敢えず行くわよ!」

「おう!」

「「「「セット・アップ!」」」」

「それいいよねー……カッコよいー」

 黒髭あたりは絶対喜ぶよなーと思いつついつかデバイスを作ろうと考えるソラだった。




ちなみにソラの相棒にヒロインXオルタを選んだのはヒロインXとXオルタの関係性がウタネとソラに近いかなーと思った次第です。ウタネはカルデアのあるFGOの世界やカルデアは認識していますがヒロインXは知りません。
えっちゃん可愛い。


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第76話 ナンバーズ その①

「はじめまして……ウタネです……」

「はじめまして! スバルがいつもお世話になってます! ギンガ・ナカジマです! よろしくお願いします!」

 ビシ! と敬礼される。

 割と走ってきて結構疲れてる時に元気いっぱいされるとツライ。寝たい。

「えっと……あの、私一般人なんで、そういうのはなくていいです。堅苦しい関係は苦手なもので敬遠している次第でございます。ですのでギンガ・ナカジマさんにおかれましても当面の間は慣れないかと思われますが敬語ならびに敬礼等、管理局内での階級間で行われる上下関係を意識させないようお願いしてよろしいでしょうか」

 威圧だ威圧。誰かにもしたような気がしなくも無いけど覚えてないからいいや。

「わ、わかりました! わかった! ウタネちゃん! よろしくね! これでいいでしょう⁉︎」

「うん」

 流石姉妹、物分かりがいい。妹の方がどうとか知らないけども。

「じゃあスバル達と合流しましょう、位置データはデバイスに貰ってるから」

「了解。遠い?」

「んー、少し?」

「じゃ、コレ」

 モニターを見ながら出た答えは、少し。遠いかどうかを聞いたから少し遠い、でいいだろう。

 というわけで、板に車輪を付けただけの台車を渡す。

「え……っと?」

「スバルと同じスタイルだって聞いて、それなら引っ張れるかなって」

「レリックの運送? べつに素手でも……」

「違う違う。私の」

「はい?」

「それに私が座るか寝るかするから、引っ張って」

「え?」

「スバルと同じ速度で走るなんてしたら即お荷物だし、面倒だししんどいから」

「……今、急激にあなたへ持っていたイメージと株が崩れ落ちてます」

「だろうね。私になってからよく言われる」

「なってから?」

「私の話。妹さんから聞いたらいいよ。話すのは面倒だから」

「わかりました。じゃあお好きにどうぞ」

「寝よっかなぁ……元々サボる気だったし。うん、それくらいは許して」

「振り落とされないでね。下水に落ちると面倒ですので」

「繋げてるワイヤーが切れない限りは大丈夫」

 台車と私は能力で……どうしよう。紐っぽいのでグルグル巻きのイメージでいいか。

「ブリッツキャリバー、ゴー!」

 

 ♢♢♢

 

「はやて! 限定解除許可を! 私一人で空を潰す!」

 ウタネがギンガと合流した少し後、空のガジェット反応が増大、なのはとフェイト、別地点でヴィータとはやてが空に拘束される。

「フェイトちゃん!」

《いるかぁ? フォワードにはウタネちゃんとソラちゃん、ヘリにはリインフォースやで? 実際のとこ、今は二人と私らが一番手薄や》

 砲撃と爆発音の中、自分たちがどう対処するべきかを相談する。

 ガジェットのみであればウタネとリインフォースがいる以上何百何千といようと同じこと。魔力切れがある自分たちが最後になるとはやては考えていた。

 リインフォースは未だラディカルでグッドスピードなまま衣服中毒の禁断症状が出て戦闘どころか話しかけたら殺すオーラを増大させ続けているのだが、それを知るのはフォワードとソラ、ヘリで女の子のチェックを行なっているシャマルと操縦しているヴァイスしか知らない。

「こっちはただの陽動だと思う。ガジェットで私たちを止められるなら十分って感じの。何か嫌な予感がするんだ」

《嫌な予感、ね。最悪の予想としてシオンが敵対するならわからへん、か……最重要はレリックやもんな。よし、フェイト隊長の限定解除を承認、なのはちゃんはヘリの護衛に回って! 私もそっちに行く! ヴィータはフォワードたちと合流や!》

「「了解!」」

《ん? ちょい待ち、それフェイトちゃん大丈夫か? シオンがそっち行ったら死ぬで? 最初に死ぬんはフェイトちゃんやて言われてんちゃうん?》

「それは闇の書の時だけ。以降は言われてないから大丈夫だと思う!」

《ホンマかいな》

「それにシオン相手に全部対応するのはウタネでも無理って言ってたから、戦力はできるだけ固めないと」

《三本の矢、って知ってるか?》

「「?」」

《三本の矢は、一本ずつやと簡単に折れるけど、三本纏めると纏めて折れるって冗談話》

「歴史かな……私は無理なの……」

「わ、私も日本の歴史はあんまり……」

《私らとはいえ戦力固めてもシオンなら一網打尽のチャンスにしかならへんと思うねんけど、どうやと思う?》

「どうだろう。ウタネの言う通りならウタネにだけは敵対しないと思うけど」

《とりあえずよ、多分まだ手遅れじゃねーから、さっきので動かねーか》

《せやなぁ、じゃあフェイトちゃんの限定解除承認で、なのはちゃんと協力して空の制圧お願いできるか? 私はヘリ、ヴィータはフォワードに。出来るだけ単独では動かんように!》

「「《了解!》」」

 

 ♢♢♢

 

「ふーん……人工生命ねぇ……」

「よっぽどどうかしてる連中しか手を出したりしないはずの技術。だけど、スカリエッティが犯人だっていうのなら、その線も納得できる」

「ふーん……どうかしてる技術ねぇ……」

 ガラガラガラガラガラ、と言う音が走る音をかき消して響く。

「今はとりあえずレリックの確保が最優先! その時はウタネちゃんも手伝ってね!」

「ふーん……レリック……ロストロギアねぇ……」

 ガラガラガラ……

 なんか聞いた事ある。なんか、身近なところに近いものがある気がする。

 人工生命、不合理な技術、ロストロギア。繋がれー……記憶を遡って繋げろ……無い記憶を世界から引っ張るんだ……そんなことできたら魔法使いだ……

「あの、ウタネさん……」

「ん?」

「なんでそんな……?」

「だって走るとしんどいし」

 子どもなのに槍持ってなんでそんな走れるかね? アレか? バリアジャケットは重量軽減疲労軽減の効果があるのか? 

「ウタネちゃん! やっぱり普段からしてないことなんでしょ!」

「してるよー……ねぇソラ」

 あ、死んだ。言うんじゃなかった。

「そーだね! ギンガさん? 私が代わりやる!」

 えっちゃんが小石に躓いた時くらい怒ってる気がする。なんだっけ、アキレウス? を純粋に殴り殺す直前までいったらしい。大英雄らしいのにね。不思議なこともあるもんだ。

「ソラちゃん? だっけ? スッゴイ血管浮かんでるけど⁉︎いいのかな? 渡していいのかな⁉︎スバル!」

「ギン姉! その人たちの事は! 任せる! 前方にガジェットいるから!」

 スバルさんや、前を走ってるとこ悪いけど振り向いてみなよ。お姉さんが般若に威圧されてるよ。助けてあげなよ。ついでに私も助けてよ。

「えー! じゃあはい!」

「どーも! 死ねぇ!」

 ヤケになったお姉さんがワイヤーをソラに渡し、ソラがそれを引っ張るだけで私は前方のガジェットの群れに投げ込まれる事になった。

 これ死ぬよ? 殺さずの誓いはどこに? 

「ソラちゃん⁉︎スバル! 行くわよ⁉︎」

「お、おう!」

「ウタネちゃん、ちょっと待ってて!」

「ディバイン……バスタァァァァァァァ!」

 何故か間髪入れずバスターの声。なんで? なんでそうすぐにバスターで解決しようとするの? 

 台車にくくりっぱなしでさ、見事に霊柩車になりそうなんだけども。死んだフリしとくか。罪悪感で死ね。

「あぁ! 一面焼き払われた⁉︎ちょっとスバル! やり過ぎ! ウタネちゃん死んじゃったらどうするの! ウタネちゃん、ウタネちゃーん? あれ? どこ?」

「ギン姉、足元」

「ん……あ! ウタネちゃん! 大丈夫⁉︎」

 頭上から声が……目を開けるとダイナマイツボディーを真下から見上げることになってた。なんだコレ。

「うん。今とても頭が痛い」

「大丈夫ですか? 治療しますよ!」

「じゃあどいてもらって……」

 この人、天然か? それはどうでもいいけど重い。武装のせいかな。能力無かったら多分命に届く重圧だった。

「あ、すみません。フタガミシオンに気を張りすぎてて、ウタネちゃんが緩いもんだから落差でちょっと動転してます」

「そうですか。で、レリックは?」

 八神さんから聞いた話だとこの人は妹よりしっかりしてるはずだから一時的なものと信じたい。

 レリック見つけて落ち着いてから判断したい。

「はい、多分この辺りのはずです!」

「ギンガさん! ふざけるのは終わりです! 手分けして探しましょう! ウタネさんとソラさんもお願いします!」

「はいはーい」

 ティアナだっけ。だいぶ指揮官じみてきたね。

 少し開けた場所でそれぞれレリックを探す。

「んー、ジメジメだぁ」

「は? ロンドン行く?」

「経験値マウントはやめようね。引きこもり相手には特に」

「ありましたぁ!」

「お、ナイスキャロ!」

「早かったね……じゃあ気を付けて」

 こういうのなんだろ。お決まりのパターンかな。この世界に来たばかりやシオンが来たばかりの頃は意識できてたけど、ソラが来たからかな。

「そこだ!」

 ソラがアタリを付けて跳び蹴りをかます。

 当たりはせず壁にクレーターを作ったものの明らかに何かが動いた気配と床を蹴る音が確認できた。

「ウタネ! キャロちゃん守って!」

「了解」

 鎌を出しレリックを拾ったピンク……キャロ、というらしい。覚えておこう……に近付き、皇帝特権で近接格闘に備える。

「それ」

 近付いてくる気配の速度に合わせて先振り。当たらないまでも鎌の範囲から退避した事が感じられる。

「オッケーナイス! もういいよ、私が代わる」

「ん」

 ソラが戻って来たのでチェンジ。私は敵の戦闘不能を狙って動くことに。

「流石ヴィーナス、なんて対応でしょう。こんな方々がスバルの教導をしてくださっているなんて、フェイトさん達には更に感謝しないと」

「ギン姉! 感動は後にして!」

 ホントに大丈夫この人。壊れてない? 

「キャロちゃん、それしっかり持っててね。シオンじゃないみたいだけど荒くなりそう」

「はい!」

「ティアナ、どうする? 管理局的にどう動けばいい?」

「ともかくレリックを保護しながら隊長達と合流でしょうか。敵は確認しておきたいですが。ちなみに、ソラさんならどうします?」

「敵の確認はしたいかな」

「では撤退しながら応戦しましょう。捕獲できれば完璧ですね」

 ソラ達が難しい会話してる。どこまでも追って捕まえればいいのにね。

「ウタネ、取り敢えず地上に出たいんだけど」

「なんで私に言うのかな?」

「階段でも坂道でもなんでもいいから」

 周囲警戒しつつだけど謎の提案がしたかったようだ。無駄だけど。

「いや無理。シオンの許可ないと私は外に使えない」

 全くじゃないけど全身を覆うくらいしかできない。シオン来る前はどうしてたっけ……

 まぁできないこともないんだけど、使う前にやめとかないと歯止めが効かないからね。

「それも制限⁉︎なにしてんの⁉︎」

「んー、決まりごと? ソラだって私の許可いるじゃん」

「ウタネいない時は自由だよ!」

「そーなんだ。まぁいいけど」

 能力で坂道作るくらいならエレベーター作るほうが楽。襲われないしね。まぁそうなったらなったで人が直立不動で上昇する不思議現象になるんだけど。

 そもそもソラって許可しなくても60くらいまで自由なんだよね。じゃあもう許可とか要らなくない? リミッターと同じ扱いじゃん。私と違うよそれ。

「えっと……スバル、ウイングロードお願いできる?」

「えっと……! どう行きますか⁉︎」

「ん、速いほうがいいよね、上」

「ウイングロードは壁貫通できません……」

「じゃあ……ちょっと周囲警戒してて。今襲ってくるほどバカじゃないと思うけど」

「周囲じゃなくて頭上でしょうに」

「ん。20? 40?」

「さんじゅー」

「じゃあそれで。ふぅ」

 肉塊ができあがる。体重どんくらいなんだろ。

「っ⁉︎」

「この揺れは……!」

 ソラが跳ぼうとすると地面が揺れた。

「ソラ、力入れすぎじゃない? 崩れるよ」

「入れてない! 多分さっきの敵だよ! 潰そーとしてんの!」

「あら大変。フォワードとギンガさんは逃げてていいよ。ソラが瓦礫とか受けるから」

「は……はい! 行くわよみんな!」

 ティアナの指示でフォワードとギンガさんが元来た道を戻っていく。

「ウタネは⁉︎あなたいても邪魔なんだけど⁉︎」

「ん? もう動くのしんどいから瓦礫受けるよ。後で掘り起こして。できれば解決後に」

「ふざけんなぁ! もう! そろそろ来るからどうなっても知らないよ!」

「うんー」

 地面の揺れは激しく、原因が近付いて来てる感じもする。真上から何か。

「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うお⁉︎虫だ! オラァ!」

 上から巨大な虫が降ってきて、結構な速度だったけどソラは十分にリアクションしてから拳を振るう。

「……ん、ごめんウタネ、これ貫通するやつだ」

「……は?」

 ソラの拳は虫を支えて止めるのではなく、腹部を貫通して命を止めた。

 その残骸と崩れた瓦礫は容赦無く私とソラを叩き、心を折ってくる。あー、これでシオン関係無かったらマジで骨折り損じゃない? 

「よし、無事みたいだな。コイツの召喚者は上だ。姿を消したが、レリックがある以上まだ来るはずだ」

「ヴィータ副隊長!」

「はーろ。ヴィータ。私、下敷きなんだ。引っ張って」

「げっ、ウタネ……わりぃ。いくぞ、せえのっ!」

「よっと……さて、こんな虫を私に叩きつけた罪は重いね。ソラ、出てきなよ」

「んぃ!」

 巨大な虫はものの見事に吹き飛ばされ、闇の書みたいな色の魔法陣で消える。

「断罪の時間だよ。犯人は上かな? 捕まえに行こうか」

「お、おう……」

「じゃあ私が跳ぶ手間も省けたし、スバル、お願い!」

「ウイングロードッ!」

 よく見る移動経路作成魔法。それが螺旋を描いて上に伸びていき、虫の落ちてきた軌道に道を作る。

「ソラとヴィータが先行して。私とギンガさんが最後行く」

「もう引っ張りませんよ」

「えぇ……じゃあギンガさんも前で。フォワードはレリック落とさないでね」

「「「はい!」」」

「アタシが来た意味ねーな。まぁいい、行くぞ!」

 ソラとフォワードが走り出し、ヴィータは螺旋の真ん中を飛んでいく。

「まだ敵はいると思う?」

 結局残ったギンガさん。それを私に聞いても意味無いよ。何にも考えてないもの。

「レリックを狙ってるんでしょ? なら出てくるの待ってんじゃないかな」

 来ないで欲しいけどね。来てもこの戦力だからあっという間だと思うけど。

『ウタネー! はやくー! 捕まえたよー!』

「……マジで私いらないじゃん」

 穴の向こうからソラの声が響く。

 なんだ? 今さっき走り出したと思ったのは幻覚だったのかな。それとも本気で走った? 跳んだ? 

「さすがヴィーナス……!」

「あなたは少し冷静になって。そんな尊敬の目で見るもんじゃないから」

 基本的にはダメ人間の集まりだぞ。もうほとんどヒトのくくりに無いけど。

 取り敢えず上に上がる。

 犯人は小柄な女の子とさらに小柄な女の子? だった。薄い紫と赤かな。

「ずいぶん早かったね」

「なんか召喚術者? ってやつらしくて。速さもパワーも私が圧倒的だったよ」

「……でしょうね」

 ソラが淡々と言うけれど。普通の女の子とソラの運動能力を比べるのはあまりにかわいそうだ。アリは象に勝てない。

「とりあえず、市街地での危険魔法使用で逮捕だ」

「くっそー! はなせよー!」

「おー、喋るんだぁ」

 人形サイズの赤い子が元気いっぱいに叫ぶ。

「おー、ホントに人みたいだね」

「はなせ! 燃やすぞ!」

「んー、やってみなさーい?」

「くらえ! ……えぇ⁉︎」

「あぁ、ごめんね。私燃えないの」

 ほんとに燃やしてくるとは。服はちょっと焦げたけど。昔能力で補強した部位は傷付けられるもんなら付けてみろって感じ。

「……逮捕は、いいけど」

「ん?」

 だんまりだった紫の子が急に口を開く。

「……大事なヘリは、放っておいていいの?」

「「「⁉︎」」」

 ヘリの護衛はリインフォースが乗ってるのと、八神さんが向かってるらしい。

 ……放っておいてよくない? 

『ウタネちゃん! ヴィータ! 今どこや⁉︎』

 焦った様子の八神さんが用件のみの通信。そんなに切羽詰ってる? 

「はやて⁉︎今フォワードと合流して犯人らしきヤツを拘束してる」

『本命はヘリの子や! 高エネルギー砲撃が確認されてる! 私じゃ間に合わへん! 行けんか⁉︎』

「ヘリ⁉︎こっからじゃもう遠い! リインフォースは⁉︎」

『ヘリは何故か通信が繋がらへん! 妨害受けて気付いてないかもしれん!』

 シオンの計画か……? あの子とあの子が持っていたレリックが本命としても、襲う前に反応察知されるようなことをする……? 

「マジか……! ウタネ! どうにかならねーか⁉︎」

 能力と皇帝特権で空を走ってくにしても距離がありすぎる。更に言うならシオン相手の場合、単純に距離を詰めれば即発射くらいはするだろう。

 最後の手段も……シオン相手と仮定すると意味ないか。

「むりぽよ」

『しばくでホンマ!』




ギンカさんのタメ口?はちょっと難しかったのでウタネ達に対しては基本スバル達と同じだけど敬語も交えて丁寧め、という感じで。
ナンバーズも口調おかしいかもです。特にクアットロとドゥーエ。


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第77話 ナンバーズ その②

「ウソや……」

 なのはのブレイカーに匹敵する威力、熱量を持った砲撃がヘリを捉えた。

 爆音と熱風は離れた場所にいる騎士甲冑を持ってして防御態勢を取らざるを得ないほどで、純粋な破壊力はスターライトブレイカーに匹敵するであろうことがわかる。

 そしてヘリはあくまで輸送用。それを防ぐような装甲は無い。そもそも、ヘリをそこまで頑丈にすると飛ばせない。

 爆煙は長く視界を妨げ、ヘリへの通信も未だ通じない。

「私は、何をしてたんや……」

 事態把握が自分の仕事、役割だ。

 後手に回った時点でシオンには敗北する。分かりきっていたことだ。自分より速く硬いなのはを止めたのは自分。自分が向かうと言ったのも。

 知った時には手遅れだったのかもしれない。シオンを相手にするという本当の意味を、知るのが遅過ぎた。ウタネが何故数年の自由を捨ててまで自分たちに協力してくれたのか。それほどまでにシオンが危険だと分かっていたからではないのか。だからこそ全部隊兼任というハードスケジュールを呑んでくれたのではないのか。自分たちを気遣うあまり、呑気している自分に殺意が向いていたのではないか。当然だ。理解するのが遅過ぎた。

 闇の書も同じだ。知った時には完成寸前。自分は全てを把握できる立場にありながら、手遅れになるまで何も知らず、何もできず、ただ周囲に、敵にも味方にも気を遣わせただけ。夜天の主という借り物の皮を被った、ただの出来損ないの七光り。

 ヘリの一つも守れないで、何が対凶悪犯罪か。何が最高の部隊か。頭である自分がこれでは、無理を言って引き込んだ彼ら彼女らになんと詫びればいいのか。

「ごめん……」

 言葉が見つからない。言葉で済むとも思えない。あの時リインフォースの代わりに自分が消えるべきだった。こんな主がいなければ、みんなはより強い部隊に編成されていたはずだ。知識と判断力と実力を併せ持つ、優秀な隊長の下に。

『はやてちゃん⁉︎無事ですか……⁉︎』

 絶望に打ちひしがれている中、有り得ない通信にハッとする。

「シャマル……? シャマルか⁉︎ヘリは無事か⁉︎」

『ごめんなさい! リインフォースが通信は通さないでくれって聞かなくて! 砲撃は防御してくれてます!』

「……!」

 ヘリからの通信。まだ間に合うと再び顔を上げてヘリへ向かう。

「リインフォース! リイン……ふぉー……す? 誰?」

 爆煙が晴れたヘリを見たはやては、そこにいる何かに呆気に取られる。

 黒と黄色を基調とする全身を覆う装甲。重々しい見た目の通り、ガシャン、と各動作を固定して行なっている。その背後のヘリには焼け焦げ一つなく、その身が砲撃を受け切ったことを証明している。

「俺は悲しみの王子! R! X! ロボライダー!」

「その声、リインフォースか……? なんやそれ」

「キングストーンだ!」

「キングストーン⁉︎」

「例え全てのエネルギー(衣服)を失っても、キングストーンがある限り俺は蘇る(装甲を得る)! 何度でも!」

「どんだけ全裸嫌いなん?」

「ボルティックシューター!」

「無視かいな」

 リインフォースが両手を胸の前にやると、ハンドガンのような銃が握られる。

 そしてそれを砲撃手の方へ無造作に、撃つ。

「あっつぅ⁉︎」

 ノーチャージとは思えない……先の砲撃を上回る暴力が周囲の空間を焦がしながら直進する。直撃したビルは粉砕、カケラ一つ許さず焼却され、鉄筋が焦げた煙が上がる。

「あたって……ない! 逃げられた!」

「逃さん!」

「消えた⁉︎はぁ⁉︎」

 外れた事をはやてが確認する前にリインフォース(?)は姿を消した。

『はやてちゃん⁉︎何の音⁉︎』

「いやわからへん。リインフォースイキイキしとんで。砲撃されて絶望してたんがアホらしくなってきたわ。闇の書もよくよく考えれば私のせいや無いしな。やっぱどうでもええな。おっぱいやおっぱい。シャマル、覚悟しいや」

『はやてちゃん⁉︎頭壊れました⁉︎』

 

 ♢♢♢

 

「防がれた……⁉︎」

「あらー……」

「いやまって! 来る」

「退避!」

 青いボディスーツの二人がハードショットの発射を見る前にビルから迅速に飛び降りる。

 撤退が少しでも遅れれば自分が撃ったエネルギー全てとリインフォースの魔力エネルギーを上乗せしたハードショットにより灰も残らなかっただろう。その点でも自分たちの一芸だけでは無いという優秀さを感じずにはいられない。

「なんなのあの威力⁉︎」

「抜き打ちであの威力……アイツ、ホントに人間か……⁉︎」

 一瞬先まであったはずのビルが焼け焦げている破滅的破壊力に打ちひしがれていると……

クライシス(お前たち)! 悪に生きる道は無いと知れ(服を着て襲ってくるとは良い度胸だ)! 来い(よこせ)!」

 何もなかったはずの空間に突然現れる殺意。

「ひっ⁉︎」

 いかに優秀と自負しようとも、ただの威嚇射撃を避けた程度ではこの任務に不必要だった全裸アルターの取り越し苦労とその後数分放置への悲しみと怒りの処刑人の前では寿命がほんの少し伸びただけだが。

「誰だお前は!」

「俺は怒りの王子! R! X! バイオッ! ライダッ!」

 青い装甲と鋭い刀のようなものを構え、名乗りを上げる。

 その実態は測れないが、先の射撃により相当トンデモナイ戦力であることは二人にも瞬時に理解できた。その射撃がただ接近するまでの軽い威嚇射撃だと知れば心底震え上がるだろうが。

「撤退です♪ IS、シルバーカーテン」

 瞬時に二人の姿が消える。

 しかしそんな事を許す全裸戦士ではない。

「それは逃さん! キングストーンフラッシュ!」

 ベルトのバックルからエネルギーが放出され、逃げだそうとしていた二人の姿が明らかになる。

「「⁉︎」」

「お前らのその能力も、俺には通用しないぞ! バイオブレード!」

 バイオブレードの刀身が輝き、必殺の殺意を帯びる。

 逃げれば背中、向かえばカウンター、投降したなら斬首。即死以外有り得ない状況に陥ってしまったクライシス(人違い)。

「ヘヴィバレル、ノーチャージショット!」

 狙撃手が先の砲撃程ではないが射撃を数発、瞬時に撃ち込む。

 しかしそれは全てバイオライダーの体をすり抜け、背後のビルを破壊する。

「弾が……⁉︎」

「すり抜けた……⁉︎」

「そんな攻撃、今まで何度も受けてきた! 行くぞ!」

『ライドインパルス!』

「⁉︎」

 上空から迫った何者かの攻撃をバイオブレードで防ぐ。

 襲撃者はボディスーツ二人とバイオライダーの間に着地し、バイオライダーと対峙する。

「まさか、初撃を防がれるとはな」

 三人目のボディスーツ。紫のショートカットが驚愕を口にする。

「俺は果てしない戦争の歴史に生きている! そんなもので俺が倒せるか!」

「クアットロ、ディエチ、下がっていろ。お嬢とアギトは既に撤退している。追手が来る前に奴を仕留めて離脱だ」

「トーレ姉さま、ソイツマジにヤバイですぅ!」

「危険……」

「望むところだ。IS、ライドインパルス」

 手足に再び紫の羽のようなものが展開される。

 対峙するバイオライダーは構えたまま動かない。

「はぁぁぁぁぁ!」

「トゥア!」

「ぐっ……!」

 高速機動で背後に回っての足刀。躱すか受けられるかを想定してもまさか完全に後出しで先手を取られるとは夢にも思うまい。最も、バイオライダーが動かなくても攻撃は突き抜けただろうが。

 青い刀身は装甲をいともたやすく斬り裂き、右足首が切断、トーレの機動力は大幅に落ちる。即死させられなかったのはせめてもの救いか。

「トーレ姉さま⁉︎」

「セイン! 手を貸せ! 撤退だ!」

「はいよー」

「なに……⁉︎」

 対峙していた紫のショートカットが地面から突如現れた水色に抱えられ地面に消える。

「さようならー♪ 次は相応の準備をしますのでぇ♪」

 茶髪のメガネが消える前に挑発する。

 その挑発行為が服中毒限界を耐えていたバイオライダーの逆鱗を引きちぎり地雷を踏み抜いた。

「絶対に逃さん! お前たちのアジトに連れて行って(着ている服で妥協するからそれを)貰うぞ!」

 バイオライダーの身体が瞬時に粒子化、セインのIS・ディープダイバーで透過している地面を難無く追う。更には追い付くわけでもなく一定距離を常に維持し続ける。

「マズいって! アイツ何⁉︎っていうか一度に三人は重いんだけど! トーレ姉はともかく二人は走んなよ!」

「セインちゃん! アレから走って逃げるのは殺される!」

「そーだけど! これからどーすんだよー! 逃げ続けても局員が集まってくるぞ!」

「お嬢はどこだ! 術式を先に展開して貰い振り切るぞ!」

「それだぁ! ルーお嬢さま⁉︎転移魔法の準備をしておいて貰ってよろしいでしょうか⁉︎今ヤバい追手がいて即逃げたいんですけど!」

『……わかった。後三秒待って』

「了解です! ありがとうございます!」

 セインはルーテシアへ連絡、撤退の手筈を整える。

 三秒後確実に退避するためにそれまでのルートを頭で考える。とはいってもそう長い時間じゃない。攻撃が来るにせよせいぜいが二度。ギリギリだが躱せないこともない。

「ルーお嬢様におんぶにだっこ! しっかりつかまってて下さいねー!」

 背後の青い処刑人(殺意の塊)から三秒間を稼ぐべく三人を抱えたまま地中を泳ぐセイン。

「とーちゃくっ! お願いします!」

 物陰に気配を消して隠れていた召喚師と融合機に合流する。

「……わかった」

 転移はすぐに行われ、バイオライダーも地上に出る。

「逃げられると思うな!」

『リインフォース⁉︎もうええ! 六課じゃ探知できてへん! 引いて!』

「キングストーンの力を持ってすれば転移を追うことなど造作も無い! 今日壊滅させてやる! これ以上の悪事はこのリインフォースが許さん!」

『だからなんやそれ! ええから! その体潰すんだけは許さんで!』

「む……わかった。これで終わりだ」

『そもそもいっこや言うたやん』

「……一種類ずつしか使ってない」

『屁理屈やんなーそれ』

「うん。ところで服の替えはあるか? まだ全裸なんだが」

『ほー……じゃあヘリ来ぃや』

「了解。制服の替えでもあるのか?」

『んー? リインのストレスは後で解決したるから、先に私のストレスを解消してぇや。シャマルはもうへばってもうてな』

 はやてからナニをされたのか、息が荒く真っ赤になっているシャマルがモニターに映される。

「……うん、別にやめろとは言わないが、日中の勤務時間内では控えようか。私が六課を気遣ったのがバカみたいじゃないか」

『私かてヘリとかみんなのこと想てたのにその後すぐにバカみたいな戦力出してくるもん。アレ威嚇射撃やったら私らどーせいっちゅーねん』

「うん、ボルティックシューターは実際のところ即死武器でもあったんだがな。せめて原型は留めておこうと思ってビルに撃ったんだ。決して外してないからな。命中精度は100%だから。さらにスパークカッターも爆発四散するからやめておいた。なんでこう即死させてしまうんだろうな。能力が強過ぎる」

『……もうええわ。フォワードもなのはちゃんたちの方も終わってるから、今日は戻ろ。データだけはちょうだいな』

「記憶から直接抜き出すとかできないのか。夜天の書」

『非人道的すぎるやろ、それは』

「私が人から抜くことはできるのに私がアウトプットするには私が書くしかないんだな……ツライところだ」

『なんかそういう能力はないん? 許可したるで?』

「うーん……考えた事を紙に書くなんて能力があるだろうか……? 漫画なら超高速があるがあれも自分だしな……テレパシーで記憶を送ってそれを誰かにさせるか? それもなんだかな……仕方ないか。数日以内には終わらせる」

『普通は1日2日でやることやで』

「じゃあ早急に必要な事だけ今日纏めておく。明日話そう」

『了解や』

 モニターが切れ、バイオライダーの姿のまま取り残される。

「……やれやれ、何を考えているのやら」

 ゲル化する気力も無く、歩いて合流を目指すリインフォースだった。




その時、不思議なことが起こった!
ナンバーズをビビらせたかっただけなのに気が付けば打ち切り展開になりかけていた。はやてがいなければ(ナンバーズが)即死だった。


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第78話 それぞれの価値

「……と、まぁ、ええタイミングやな。今日、聖王教会本部、カリムのとこに報告に行くんよ。クロノ君も来るから、なのはちゃんと一緒について来てくれんかな。そこで全部話そう。今後についても」

「うん」

「うん? 私もか?」

 はやての提案に迷わず答えるフェイトと関係ないよな? というリインフォース。

「何言うてん、リインの情報が一番いるんや、絶対来てもらうで」

「うー……全身ガタガタだから今日は寝たかったんだが……」

「私の言ういっこを無視したからや。今度から拡大解釈はナシやで」

「それはすまない……怒りとな、悲しみがな……」

「ホント言うと休ましたいんは山々なんやけど、事が直接的になってきたからな。あんなん見せられてのんびりしとるわけにもいかんのよ」

「わかっている。くそ……シオンはよくこんなのを使うよな」

 度々能力の負荷でダウンしているリインフォースに対しシオンは辛い辛いと言いつつも人前でその負荷が顔を出したのは何でもない模擬戦の後だけ。それ以外は嫌な顔をするだけで能力自体は使っていた。

「シオンか……オリジナルやから、とかじゃないん?」

「確かにそれもあるかもしれない。だが存在容量としては私の方が大きいはずなんだ。闇の書の時も結局最後まで魔法込みの私と張り合った。私が負荷の大きい能力を選び過ぎているだけなのか?」

「どーやろな。ウタネちゃんに使った時はわけわからん理論で負荷が少ないから、とか言ってたしそうなんやない?」

「……まぁ、能力に関して知識の無い私たちで考えても仕方がない。わかった、いつ出発する? 私も同行する」

「んー、なのはちゃんが戻ってるならすぐでもええんやけど……どうやろ」

「連絡してみるね」

 フェイトがモニターを開いてなのはへ通信する。

『う"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!』

『こ、こら、泣かないで! ね?』

「「「……」」」

 モニターの先にはなりふり構わず泣きじゃくる金髪の子ども。先日保護した事件に関連のある重要人物で、聖王教会の検査を終えてなのはが連れてきてのことだった。

「えっと……何の騒ぎ?」

『うぅ……フェイトちゃん、助けて〜』

「……取り敢えず行こか」

「……主を呼んでおきます」

 

 ♢♢♢

 

「あ、部隊長……」

「んー、なんやおもろい展開になってんな?」

 なのはの部屋は阿鼻叫喚、一人の子どもに大人五人が立ち往生をくらう光景。

 急に呼ばれて来たけどなんとも。

「主。私とはやて、なのはとフェイトは聖王教会へ行かねばなりません」

「うん……」

「お願いします」

「しますじゃないよ⁉︎私にも出来ないことはあるからね⁉︎」

「ほら、アレです。なのはから引き離すだけでいいので」

「割と鬼畜かな? 泣いてる子どもと二人っきりにさせる気?」

「しかし主がどうにかせねば事は遅れるばかりです」

「む〜……フォワード……も無理っぽいんだよね」

「「「すみません……」」」

 息を揃えて謝られても。

「はぁ……」

 右手で首を五回つついて目を閉じ、軽く倒す。

 こんなことならソラ呼んどけばよかった。タントウするから! ってトレーニングルームに篭って三時間以上経ってから放ってるけど。タントウって何? 何してんだアイツ。

「よう、オレはシオン。お前、名前なんてんだ?」

 近づいて、かがんで目線を合わせてから聞く。できるだけ、威圧的にならないよう。

「……っ、ヴ、ヴィヴィオ……」

 なのはにしがみ付いてるヴィヴィオが怯えながら答える。

「そうか。なぁヴィヴィオ、なのはは今から大事な仕事があるんだ、お前がくっついてるとそれが遅れて、後からもっと離れなきゃならなくなる。それは嫌だろ?」

「……」

「今離れとけばちょっとの間で済むんだ。けどここでゴネると何日も会えなくなるかもしれない。そうなるとなのはも悲しむ。二人ともが嫌な思いをすることになるぞ?」

「……ん……」

「な? 今日はちょっとだけ、オレと遊ぼうな。食べたいものとかあるか? 絵本でもいいぞ。そのウサギもかわいいもんな。人形ごっこ遊びとかするか?」

「ん……」

 ヴィヴィオがなのはから手を離す。

「よし、いい子だ」

「ありがとね、ヴィヴィオ。ちょっとお出かけしてくるだけだから」

「うん……」

 落ちてたウサギのぬいぐるみを渡し、完全に引き離す。

 今にも泣きそうだが、まぁなんとかなるだろ。

「なにする? 一緒におやつ作ってみるか?」

「うん」

「そうか。何食いたい? 大抵作れるぞ」

「え……ん」

 念話で行っていいぞと伝える。半日くらいなら持つはずだ。

『ありがと。またお礼する』

 なのはがそう言って一同全員が出て行った。せめて一人は残れよおい。マジか。

「決まらないか。ならモンブランとか作ってみるか?」

「うん!」

「じゃあ冷蔵庫から牛乳取ってくれ。他にも食べたいのあったら出していいぞ。なのはのだから遠慮すんな」

「うん!」

 やれやれ……子守なんて何年ぶりだ? もしかしてはじめてか? ん? オレってこの世界来て何年目だ? 

 

 ♢♢♢

 

「ごめんね、お騒がせして」

「いやー、ええもん見せて貰ったよー」

「にしても、ウタネって……」

「なんなんやろねー、一般常識とか社会倫理観以外弱点無いんか? あの子」

「まさかのシオンだしね。意外と子ども好きなのかな?」

「ウタネちゃんができへんからやと思うで? 二人で完全とか言うてたし」

「でも似合わないというか、イメージと違うよね」

「やなぁ、シオンは突き飛ばして黙らせるタイプや思てたわ。けどやっぱり、モンブラン選ぶ辺りウタネちゃんやな」

「「モンブラン?」」

 まさかのウタネの判別法に首を傾げるなのフェイ。

「二人とも知らへんの? ウタネちゃんのモンブランは斜向かいに店出せば翠屋潰せそうなくらい美味しいで?」

「「うそ⁉︎」」

「私と守護騎士が証人や。リインは食べたことある?」

「いや、家で時たま食べているのを見たことはあるが……材料を聞いて食べる気が失せた」

 なんでも経験済み、森羅万象の理に耐性のあるリインフォースが苦い顔をする。

「材料? そういや作り方知らんとか言ってたな。結局分からずや」

「えぇ……」

 菓子職人どころか料理人として致命的な情報になのはが引く。

「うん、なんでもあのモンブラン、栗なんて一切使ってないらしい」

「ゔぇえ⁉︎じゃあなんで⁉︎完璧に栗やったで⁉︎」

「しかもその多くは鳥、豚、魚介類を中心に野菜をふんだんに使用しているらしい」

「えっと……リインフォース? モンブラン、だよね?」

「ああ。喫茶店の人間には信じられないかもしれないが、あのモンブランは肉と野菜が八割だ」

 しかも作り方は本人も覚えておらず、映像記録も全て砂嵐になり一切を知ることができない。

「……なるほど、どうりで栄養状態に変化があるわけや……」

 はやては入院時、妙に肌の張りが良くなったり体調が安定した時期があったのを思い出した。それは確か、ウタネからモンブランをご馳走してもらった次の日からだったような……

「まぁはやての言う通り見た目も味も全く問題ない。普通のモンブランだ。シオンはどうも好物だとは知っていてもその調理法は知らないようだしな」

「流石の効率厨シオンでもそれは止めるやろ……」

「でもウタネに会うために管理局敵にするくらいだし……やりかねないのが怖いね」

「あぁ……そうだ、誰もが幸福であってほしい願いなど、空想のお伽話だ」

「え?」

「ん、どうしたフェイト。急に」

「どうしたも急もリインやで? なんやお伽話って」

「うん? なんの話だ?」

「なのはちゃんも聞いたよな?」

「うん。誰もが幸福であってほしい願いなど、空想のお伽話だ……って」

「……? すまない、口をついて出たようだ。なんだ? お伽話……?」

「大丈夫か? カリムの前で変なこと言わんでな?」

「ああ。大丈夫だ」

 

 ♢♢♢

 

「さて……実際のところどうだった。面白い情報は得られたかな?」

「すみません。レリックをみすみす逃すことになるとは……」

「あーあー、そんな事はどうでもいいんだ、今のところはね。レリックを奪えなかった理由の方が興味がある。やはりウタネかな?」

「いえ。ウタネとは体格が大きく異なります。全身をこのような装甲で覆っていたため確認は取れませんでしたが……私のライドインパルスを捉える速さを持ち、セインのISと同等の能力を保有した上で、圧倒的な火力を持っていました」

「ふむ……興味深い、が! おそらくそれは夜天の管制人格だろう。魔法でない能力なら、彼に聞いてみるのも良い。まともな情報など出てこないだろうがね! マテリアルの方は……まぁ放っておきたまえ。アタリならいずれはこの玉座に戻ることになる。あとはそうだ、ああ、いや。その青い装甲に追われて逃げ帰ったのなら情報は探れないな。優しいルーテシアに聞いてみるとしよう」

「すみません」

「いいとも。どんな目的の協力だろうが、先に動いてしまえば私の勝ちだ。彼は自分の能力を君たちに学習させた。私はまだ解析しきっていないが、我が娘たちは全て対応可能だ。不安は無い。その青い装甲も対策をフィードバックしておいてくれたまえ」

「はい。すぐにでも」

「ふふふふふ……楽しみだ、とても! プロジェクトFは終わらんよ! 管理局も彼も! 我が娘たちには決して勝てない!」

「……IS'(プライム)への切り替えは」

「ああ。もういつでも可能だとも。それほど脅威だったのかな? この青い装甲は」

「……はい。ライドインパルスは完全に見切られていたように思えます」

「祭りの日は近い。大きな花火が上がるといいなぁ!」




使用能力書くの忘れてました。スタンドと宝具だけとは言ってないはず。
・ラディカルグッドスピード
スクライド、ストレイト・クーガーから。情熱思想理念より助手席に女性の方が言えない。
・ロボライダー、バイオライダー
仮面ライダーBLACKRXから。追い詰められると新たな能力を発現する系。このカードは君には使えない。ライダーはフォーゼまでしか見てないのでそれ以降は多分出さない。


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第79話 お試し

文字がくっついていて読みづらい、という意見を頂いたので今回試験的に台詞と地の文とで1行空けてみました。vividの方と同じ感じです。
これについては感想でもメッセージでも意見を頂けると幸いです。内容はともかくできるだけ読みやすい形を目指したいので。
(追記:アンケートも設けました。よろしくお願いします)


「……と、まぁ、彼女たちの戦力は見た感じこのくらい……になる」

 

聖王協会の一室でカリムとクロノ、三隊長の前でモニターに情報を映し解説するリインフォース。

 

「ふーん……トンとか使われてもサッパリなんやけど、0.5トンって言うと魔法でどのくらいなん?」

「そうだな……まぁスバルのディバインバスターくらいじゃないか?」

「パンチ力がそんなレベルかいな。というかパンチ力ってなんなん?」

「まぁ、スペックの指標だ。ちなみに、彼女たちの全力となるとフォワードは即死だろうな」

「ほう」

 

クロノが何故か感心する。

割と良い地位についているクロノが下級も下級、可能性があるだけの新人に謝罪をした件が思いの外ストレスになっていたのかもしれない。

 

「この際というか必要だから言うのだが、私はあの状況、バイオライダー状態でバイオブレードも構えていた。あの時点でならフェイトのソニックくらいなら余裕を持ってカウンター即死させられるんだが、片足を斬るに留まった。多分私以外なら返り討ちにあっていた」

「それ本人の前で言う……?」

 

仮にも執務官であり一部隊の隊長であり機動六課最速(魔法のみの最速。能力込みではシオンとリインフォース、生身ではソラ)を誇るフェイトが声を漏らす。

 

「うん。言わなければならない。フェイトに勝てる魔導師は、特に犯罪者では多くない。というかほとんどいない。なのにそれが少なくとも三人」

「じゃあやっぱり……」

「ああ、シオンが……主犯でなくとも協力しているというのは間違いないだろう。それを踏まえて先の……騎士カリム?でしたか?の予言を考えると、シオンと何者か……おそらくスカリエッティとが協力し、管理局の崩壊を狙っていることはほぼ確定と言っていい」

「……あのシオンが、か」

「クロノ提督、私は闇の書の完成以前のシオン様を知らない。なのは達と違う立場で接していたあなたから動機等、思い当たることはないでしょうか」

 

顎に手をやり考え始めたクロノにリインフォースが促す。

なのは、フェイト、はやての見解では『なのはを墜とした犯人を捕まえ(殺し)に行ったがその技術が面白くて協力している。ウタネはそのくらいでは死なないと思っているのだろう』という快楽犯そのもののイメージに固まっていた。

 

「ふむ……シオンは、あれはあれで義理堅い。ウタネが関係するなら尚更だ。ウタネが心配ないと言うなら問題は無いだろう。使えそうな道具を拾ったから、修理したら持って帰る……くらいじゃないか。シオンが管理局崩壊を望んでいるとは思えない」

「道具……?」

「この魔法でないエネルギー系統、アイエス?と言ったかな。その技術をそっくりそのまま持ち帰ることができればシオンはより強くなる。雑に」

「なるほど。ありがとうございます。では三隊長の快楽犯の線とクロノ提督の強化予定の線で賭けをしませんか?かけるものは……魂、なんてどうです?」

「リイン?正常か?壊れてるか?」

「……多分壊れてるな。昨日からどうもおかしい。服は多めに買い足して三着は持ち歩いているというのに」

 

ヘリの中といい、リインフォースの言葉に混じる言葉。特に脈絡も無い上意味も不明なため放っておく以外に対処ができないのが悩ましいものだった。

リインフォース本人は発言時は無意識らしく、周囲の反応でようやく判別できるレベルだ。

 

「大丈夫ですか?シャッハに部屋を用意させますが」

「ああ、いいえ、大丈夫です。今のところ変な発言以外に症状は無いのて」

「そうですか。はやての家族ともなれば手厚い援助をしますよ?」

「ありがとうございます。しかしそれははやてにお願いします。私は援助を受けられる立場にないので……」

「……」

 

その場どころか、全ての援助を拒否する言い方にはやてが暗くなる。考えられる理由は二つ。闇の書として犯してきた罪の数々。もしくは、ヴィーナスの一員となった自身には本当に必要無いか。後者はともかく、前者は改編した主に全責任を押し付ける事ではやては良しとしていた。リインフォースや守護騎士がどう感じているかは、聞き出したりはしないが。

 

「私の能力でも予言に近いことができればよかったのですが……」

「シオンの予知は使えないし、ってところかな。闇の書事件の時はシオンは全貌を知ってた風だったけど」

「うん、シオンの予知はただ予測の精度が高過ぎるだけの、シオン自身の技能だ。それに闇の書は……シオンは予知でも何でもなく知っていただけだ」

「知ってた……?」

「これ以上は強く口止めされている事項に触れる。すまないが、話せない」

「ならリインフォース。ヴィーナスについて……教えてくれないか」

 

クロノが提案する。

誰にとっても謎でしかないヴィーナス。個人個人との関わりはあれど、その全貌は全く掴めない。

 

「うん……まずヴィーナスというのは間違いだ。名前はブイ、エヌ、エーでブイナと読む」

「ふむ」

「これもあまり喋るべきじゃないがな。はやての後見人ともなればまぁ、信用してもらう為にも話しておこうと思う。最初はウタネだけだった。それからシオン、ソラ……と加わって、それぞれのイニシャルから取ったものなんだが、私もまだ自覚が無いし全員揃ったわけでもないから変更は無かった」

「イニシャル……?ってなんだっけ、フェイトちゃん」

「……頭文字のこと。でもそれでもおかしくない?誰も合ってないと思うけど」

「うん。私たちに名前は関係無いからな。まぁその名前はどうでもいい。私たちは管理局のような組織だったものではなく、全員が対等に力関係を置く。ウタネが上下関係を嫌っているからこうなったそうだ。それに合わせてシオンも敬語を使わせなかったりソラも敬語を使わなかったりしている。かくいう私も、正直申し訳ないがこういった口調が多いのもそのためだ。後はそうだな……何かあるか?」

 

説明がされたのは上下関係と口調のみ。クロノが求めたのはそんなものでは全くない。

 

「組織であるからには何か目的があるのだろう?それも無いか?」

「うん……あるにはあるが、いや、ないか。まぁ、結果が同じだけで手段や動機は全員別だ。まぁなんだ、世界のあぶれ者の集まりだな」

「結果、とは?聞いていいかな?」

「……それが一番話しづらい。とは言え、ウタネを知るならそれに行き着くだろう。私が話していない、と言う事であれば多分問題ない」

「ウタネちゃんが……」

「ウタネが……」

「「「最後の目的とするもの……」」」

 

ウタネ、シオン、ソラ、リインフォース……それらが望み、目的とするもの。

より分かりやすいとしてリインフォースが示したウタネ。その最終目的。

 

「人類……生命の、根絶……?」

 

一番付き合いの長いなのはがまずそれに行き着く。

 

「それだ……!闇の書事件の後、明確に口にしたぞ」

 

クロノやフェイトも同意し、それと結論付ける。

 

「じゃあリインも⁉︎なんでや⁉︎」

「落ち着け、落ち着いてくれ……目的とは言ったが、結果的にそうなるだけだ。それも、行き過ぎてしまった結果だ。そうするつもりはないし、それを計画してるわけでもない」

「じゃあ……どうして?」

 

フェイトが問う。

 

「ウタネの目的は『生命の価値』だ。生きとし生ける全ての果て、最後の最後で残る人間の、生命の意味。それを無価値と悲観したからウタネは全ての根絶を望む。積み上げたものが多いだけ、それを失うのは辛いからな。ゼロの時点で終わらせてやろうという哀れみだ。まぁそれは聞いているだろう。問題は、ウタネはその無価値とする自身の哲学を、世界中から批判され、反論を受け殺されたいんだ。命には価値があり、意味があるとな」

「それも聞いてる……」

「ウタネによって世界が終わるのは、ウタネが意味を信じられなくなった時だ。信じさせる事ができなくとも、可能性があるとウタネが思う限りは何も起こらない」

「……シオンや、ソラは?リインフォースは?」

「シオンはウタネを生かすこと。とは言ってもトリガーは多分ウタネが死ぬことじゃない。ソラは抑止力と言っていた。世界を守ろうとする存在がなぜそこに行き着くのかは本人に聞かなければわからない。私は……まだわからない」

「わからへん?」

「VNAに入れる以上、どこかでそうなるはずなんだが、自覚が無い。シオンを偽っていた時のウタネには、戦力と在り方が条件と言われている。在り方についてはハッキリしないが、戦力についてはその望みがあって、それを実行できる力があるかどうかが判定のようだ」

「戦力……って、どのくらい?私らでも大丈夫なんかな?」

「戦力はそうだな、その世界のVNAを除いた全てに勝てるくらいじゃないか?」

「……管理局も?全部?」

「うん。管理局も、犯罪組織も、魔法生物も全て。でなければウタネが合わないからな」

「人間には無理やん……」

「そう、話は大きくズレるが、気になっているのはそこなんだ。ウタネの能力はともかく、シオンの能力があったとしてもそれに該当するほどか、と言う点だ」

「確かに……私となのはとの模擬戦の後は倒れたって言ってたし、あの時なら……」

 

シオンの能力はウタネやソラと違って負荷という概念が存在する。

能力の唯一性に準ずる神秘という物差しに応じた負荷をその存在に受ける。模擬戦や総力戦、闇の書戦でもその負荷は限界に近かった。よって本来、シオンはVNAの戦力基準である世界への勝利には該当しないはずである。

しかしウタネ、ソラはそれを全く疑わない。魔法でも十分に管理局の上位魔導師を上回れるリインフォースから見れば、それは無視できない疑問だった。

 

「それもさっき言うてたオリジナル……じゃダメなん?」

「ああ。今思えば明らかにおかしい。言ったとおり存在容量は生い立ちからも存在年数からしても私が上。それに、この能力はオリジナルなんかじゃない。どこかのオリジナルを借りてくるニセモノ前提の能力だ。だがシオンと私で差がある。時間停止も、シオンは四秒だけなのに私は九秒だ。なにか……」

 

シオンの能力がオリジナルであるというのなら、引っ張ってきたとされる異世界のオリジナルの能力と差がある理由は?リインフォースが使う場合は異世界のオリジナルと差異が無い理由は?

 

「リインフォース、すまないがシオンの考察は後にしてくれ。騎士カリムが混乱の極みに達してサッパリ動かなくなった」

「む……申し訳ない。自分勝手なのも私たちの悪いところだ」

「まぁ大体は理解した。硬いものを硬いまま柔らかくできるウタネの能力は取り敢えずめちゃくちゃだしな……やっぱり嘱託に誘うべきだな。騎士カリム、あなたの専属でどうですか。強いですよ」

 

クロノの提案にカリムは笑顔のまま断固拒否する。

 

「あなたが引き受けたくないのでしたらお断りします。訳アリなんでしょう?」

「んん、まぁ、扱いが面倒というのは確かですね。しかしウタネに対してなら裁判という切り札もありますので」

「裁判?」

「ええ、ジュエルシードの件と闇の書事件、それぞれ自由を許した代わりに失敗すれば全ての責任を負って裁判に負けるという条件を付けていたのです。それがどうもトラウマのようで」

「まぁ……どこか名家の生まれで?」

「いや、どうも一般の家庭のようです。家族はおらずシオンと二人暮らし。それ以外の情報は一切出てこないので諦めました」

「そうですか……まぁ、本人が望まないのであれば無理強いはしません。それに、今回の件で協力してくれているのでしょう?」

「……まぁ。シオンと偽っての完全にアウトなものですが……そうでもしなければウタネを使うことはできませんから」

「ふふ、はやてとクロノの企みであれば告げ口などしませんよ。この予言に対する備えはしておきたいですし」

「そうですか、では今のままで……はやて」

「うん。ウタネちゃんも今のままでええと思うし……」

「本当はアイツらの力を借りずに終わらせたいんだが……シオンが敵ともなるとそうもいかないからな」

「うん……今日はありがとな、カリム、クロノ君」

「ああ。久しぶりにみんなの顔が見れてよかったよ」

「ええ、みなさま、今後もはやてをよろしくお願いします」

「「はい!」」

「ああ。私たちにとっては唯一の使命だ」

 

これで、予定であった情報共有とカリムの予言、リインフォースの見解などを共有し終え、査察対策も十分とされ解散となった。

 

♢♢♢

 

「んー、惜しいな、これはこっちだ」

「んー!」

 

ヴィヴィオが置いたパズルのピースを置き直す。

別に勝ち負けでもないのに悔しそうにするヴィヴィオ。

 

「そう怒るな。間違ったのはヴィヴィオだ。ならあと三つ、全部自分でやってみな」

「うん!」

 

挑戦させること、楽しみを譲ること、対等な存在として認めてやること。全部やらなきゃいけないってのが子守の辛いところだな……

 

「なぁ、なんでなのはなんだ?」

「?」

「あぁ、別にダメとかじゃないんだ。単に気になってな」

「……」

 

何故そんな事を聞くのか、という顔。

雛鳥は初めに見たものを親と信じて疑わないそうだが……初めて優しくされたから?単にそれなら良い。別になんて事ない、普通の理由だ。

だが……聞いたところコイツは人造魔導師素体。別の理由をインプットされてても不思議じゃない。誰かに興味を持て、と言った具合の。問題は、それをコイツが認識できて、かつ口に出せるかという点だが。

 

「悪かった、そんな泣きそうな顔するな。パズルもできたし、ご褒美にデザートだ」

「うん!」

 

……ひとまず、危険は無い。としたい。今日一日、隙をいくらか晒してみたが……うんともすんとも。

だが、だからこそ気は抜かない。オレが斥候を送るならまず信用を得る。だからこそ、コイツは全てが見えるまで信用しない。

 

『ただいまー』

「……!」

「ん」

 

なのはの声を聞くとすぐにも飛んでいく。比喩表現だぞ。普通に走ったからな。

 

「よう、クロノは元気だったか」

「ユーノ君は忘れてたのにクロノ君は覚えてるんだ……」

「アイツには良い思い出がねぇからな。まぁいいや、役割はもう終わったな。帰るぞ」

 

シオンの代わりにと呼ばれた時も断れば裁判、管理局に損害があれば裁判、なのはたちにも何かあれば裁判……アイツはなんなんだほんとに。オレが動くしかない条件しか突きつけてこない。逆に、アイツがオレを動かせる全てをアイツは把握してる。なんだホントに。アイツが別の転生者だったらもう手に負えんぞ。

 

「あ、うん。ありがとうね」

「ああ、じゃあな」

「むー」

「ん」

 

なのはとすれ違い部屋を出ようとすると、なのはに抱きついていたヴィヴィオに髪を掴まれる。

 

「なんだ、デザートか?なのはに貰えよ」

「……」

「にゃはは、ウタネちゃんを気に入ったかな?」

「良いことないぞ。こんなロクデナシを気に入っても」

「やだー」

「やだじゃない……ふぅ、またくるよ。おやすみ、ヴィヴィオ」

 

別れ際だけでも優しくしようと、ウタネに戻して声をかける。

 

「……?」

 

なのにヴィヴィオはオッドアイをパチクリさせるだけ。

一日接してたシオンに慣れきっていたのか、ギャップについていけない感じかな。

 

「ほらヴィヴィオ、ウタネさんにありがとうって」

「ありがとう」

「はい。じゃあね」

 

舌足らずな発音で意味もわからず感謝の意を口にしたヴィヴィオ。

さて、この後どうし……ん?

 

「そういえばなのは、ソラ……見てない?」

「え?ううん、見てないけど……」

 

やっば……まさかずっとトレーニングしてるんじゃ……!

 

「なのは!トレーニングルームにリインフォース呼んで!他の局員は近づかないように!」

「えっ⁉︎あ、うん!」

 

なりふり構わずトレーニングルームへ走る。

バカか私は……!ソラの自主トレを半日以上放置なんて……⁉︎

 

「ソラ!」

「ん?」

 

魔力放出に任せてズバン!とドアを開ける。オートドアだから多分壊れたけどそれどころじゃない。

開けただけでも卒倒しそうなほどの湿気と熱。

真夏の密林の奥地にいるのさえ生温いようなほどの鬱陶しさ。

 

「ぅげぁ……平然としない!今すぐ中止!クールダウン!」

「えー、いいじゃん、たまには」

「よくない!鏡見えてる?見えてないね!曇り放題だもんね!」

 

半日以上タントウとやらを続けたソラの肉体は六課の前線ブレイカーを受けた40%なんてものじゃないくらい膨れ上がっていた。なんで私がソラを見上げてんのよ。

 

「テンション高いねー、良いことあったー?」

「悪いことが今目の前で起きてんの!さっさとその筋肉しまって!」

「筋肉しまうってどうなの?まぁいいけど……20%くらい?」

「全部!」

「全部したら站椿耐えられなくなっちゃうよ」

「もう十分でしょ。半日経ったよ」

「三日くらい……ダメ?」

 

三日も姿勢維持しようとしてるこのゴリラはもうダメだ。私と対極にいる。

 

「ぶっふ……げほっ!ウタネ様⁉︎この熱気は……⁉︎」

「あ、ごめんね。コイツのせいだから」

 

走りながら咳き込み……咳き込みながら走ってきたリインフォースに室内を示す。

 

「え……ソラ、ですか?アレ……?」

「あれって!酷いね⁉︎」

「アレだしソレだよ。早く終わって」

「えー……りょーかい。っと……ふう!」

 

取り敢えず終わってくれて、筋肉がしぼむ。

膨れた筋肉は筋肉操作でどうにかなってるんだろうけどさ、皮とかどうなってんの。ダルダルになりそうなんだけど。流石に一緒に戻るか。

 

「ソラってさ、子守とか得意?」

「んー?人並みかなぁ?カルデアキッズは手がかからないし?いや、手はかかるんだけど」

「あーそっか……じゃあ前は?一応一般家庭だったんでしょ?」

「知らないよーそんなの。私が私を自覚したのがカルデア登ってた時だし、同郷ってのも聞いてから感覚的に知ったものだし」

「それも気になるけどいいや。ふーん。じゃあもういいよ。リインフォース、ごめんね。コイツが抵抗したら押さえ付けて貰おうと思って」

「あ、はぁ……まぁ、はい。では失礼します」

「ごめんねー」

 

リインフォースは敬礼をして去っていく。敬礼もいいって言ってるのにな……

結果的に用もなく呼びつけてしまった……申し訳ない。

 

「え、なに?私が暴れると思ってた?」

「いや、私の力じゃ抑えられないし。そのままやってたら色んな計器が壊れちゃうから」

「……あ、ごめん」

「いいよ、未遂だし。次は外で……もやらないでね。40%以上は人目を気にして」

 

雑コラ……というか、顔と身体の印象がズレ過ぎててキモイんだよね。ゴリラの写真に日本人形の顔だけ合成した感じ。実際それよりヒドイけども。

 

「なんで?強いのに?」

「気持ち悪いの!40はまだマッチョだなぁで済むけど60からはダメ!」

「そこが分かんないんだよねー。カルデアでも別に……カルデアでもそんなに解放した覚えないや。宝具使えたし。えっちゃんいたし」

「実はゲーティアに負けてました?って?」

「そんな訳ない。まぁドクターいないと無理だったけどね。ヒトとして道を選ばなければ私だけでやれたよ」

「ふーん……それはそうと、やっぱりヴィヴィオについて知ってるよね」

「ん……」

「話せとは言わないよ。ただ犯人も想定できたんじゃないかなと思ってさ。けど言わないってことは、それがあるべきってことでしょ」

「そうだね。私たちは本気でやればこんな事件は簡単だと思う。だけどここは他の世界。私たちの能動的な行動は在るべき世界から離れてしまう。だから、私は少なくとも受動的。ウタネもできればそうしてね。期待してないけど」

「あらそう……じゃ、おやすみ。湿気どうにかしといてね」

「どうにか……?換気はしとく。おやすみ〜」

 

説得も流石に無理だと判断して自室へ向かう。

もうダメだ……割と熱気でやられてる……ふぅぅぅぅぅ……

 

♢♢♢

 

「ふーむ。どうだね?なにか見つかったかい?」

「いいえ。仮面ライダー、BLACK、ディケイド……どれもそれらしいものは出てきません」

「やはりか……まったく……映像を見せるなり『キングストーン……⁉︎てつを専用じゃないのか⁉︎おのれディケイド!』なんて急に叫んで引き篭もってしまうとは。やはり彼の能力だろうね。ところで、娘たちはBLACKRXには勝てるのかな?」

「無理ですね」

「即答かね」

「データを見た限り、ライドインパルスの倍は速く、攻撃はまともに受ければ即死です。更にこのロボライダーとバイオライダー、切り替えにタイムラグがありません。つまり、ヘヴィバレルを無傷で受ける耐久力を持ちながら透過能力を持つ事になります。更に遠近で溜め無し即死攻撃です。射撃には威力減衰が見られませんので射程は無限と想定されます。さらに地中でも難無く追ってくる上……」

「ふぅ、もういい、もう大丈夫だ。分かっていた事だがね。だが解析はできる。対策もな。ツキイチで見せて貰った能力もまぁあらかた解析できてしまったしな。彼がいなければ娘たちにはこんな強化はしなかった」

「えぇ、彼による強化案、IS'(プライム)も十分な性能であると考えます。RX対策に変更を施しますか?」

「いや……あれほどの能力だ、負荷を考えるとそう使うこともあるまい。汎用的に使うだろう能力の対策さえあれば十分だ。AMF付きガジェットもあることだし魔導師どもは相手にもならんさ。あぁ……異世界の能力か……次元世界ではない、根本から違う世界……分からない事が多過ぎる!だが!だからこそ心躍り胸弾むというものだ!そうだろう⁉︎」

「えぇ。まぁ、彼にも管制人格にもその異世界へ行く手段を持たないようなのでそちらへの侵攻は不可能ですが」

「まぁ……いいさ、それは後だ。まずこの世界を変えてから考えるとしよう。あぁ、実に楽しみだ!」



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第80話 本局

まぁ、いいじゃないですか。私の作品なわけですから。


 ……シオン。何を考えてるの? 

 

「ふぅ〜……」

 

 站椿(タントウ)は今二時間くらい……まだ素のままで十分。

 なんで、私なの? 

 ウタネに対する抑止力に私が選ばれるなら分かる。ウタネを抑えられるのは私……と、ウタネの能力のオリジナル2人……内一人が、ゴドーワード・メイデイ。アレは私でもダメだ……詩音か、シオンじゃなきゃ……勝てない。けどシオンは違う。シオンに対する抑止力なら他でいいはずだ。この管理局、機動六課にならそうできる人材なんて選ぶほどいる。私たちでならウタネだ。

 次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。違法研究者。指名手配。そんな輩ごときに私が喚ばれる? なんであのロリコンは私を? 

 ここでも詩音が目を覚ます? そんなバカな。この世界に詩音が出れば抑止力なんて意味は無い。神秘のしの字も無いこの世界に四象以上に根源に近い存在なんてあるワケ無いし……ウタネとシオンの能力に加えてノーモーションノーリスクの上自身の概念だけで発動する現実改変なんて正直もう誰が勝てる? ってカンジだし……

 なんにせよ、シオンがウタネに敵対するような事をしてる事、それそのものが不自然過ぎる。この世界で何か思うところがあった? それもなくは無い。

 

「ふぅっ……」

 

 10%……

 ……明らかにおかしい。

 私たち(……)は、そんな準備をして敵対状態を維持する間柄じゃない。一触即発、今その瞬間に始まり次の瞬間には終わってるようなものだ。私だけそう思ってるのかもしれないけど、これまでそうだったし、これからもそうだと信じてた。なんなら、誰とも争わない事が望ましいとまで思ってたはずだ。

 この世界で私が潰してた犯罪組織くらいのコトなら私がほぼ自覚することなく終わってる。世界が私の能力だけを使うから。その場面場面を正確に記憶していない。そういう事があったなぁ、くらいの感覚。でもそうじゃない。今はこうしてしっかりと、VNAの私が存在してる。カルデアみたいな、人類史に影響するほどの異常が起ころうとしてる。ってコトだと思う。

 ……けど、そもそもそれがおかしい。

 なのはちゃん達の予想……個人の体を得て力もあるから気分で敵対。

 それがまず、シオンを知らない。シオンはウタネを守るため……もっと正確に言えば、ウタネが自分を守るため作り出した人格。つまり、それと自衛以外の機能は殆ど無い。単独戦闘に特化してるのもウタネに仲間がいたことなんて無かったから。ウタネの孤独と恐怖を消していくためのもの。私が世界を守る能力しか持たないように、シオンはウタネを守ることしかできない。だから、気分なんかでウタネを敵にすることなんか絶対にない。

 

「ふうー……!」

 

 20%……

 じゃあ他の可能性だ。シオンが敵なのに出てこないでいるのは、あのエッチスーツの子達がいるからだ。えっち……でもなんかケルト寄りかな。

 サーヴァント……えっちゃん……ゲーティア。

 状況が状況だ。焦らずとも急がないといけない。

 これだけ巨大な組織だ。敵は未知数。なら、どこにスパイが居るとも限らない。

 ……レフ教授。私たちは、所長は、貴方を信頼してたんだよ。短い付き合いだったけど、ぐだも私もドクターも。

 スパイは事が起きるまで正体を見せない。全部終わった後でさえ見せないかもしれない。けど、管理局は権力争いなんかもあるらしいから可能性は十分にある。けど今はそれを探す時間も能力も無い。

 管理局には……この世界にはなんの思い入れも無いけれど。ついでにウタネが勝手にVNAに引き込んだのには半ば納得してないけど。ウタネがそうしていいと思えるくらい信頼し合える関係を持てたのは喜ばしいことだ。だから護ろう。カルデアに起きた事は、もう繰り返さない。

 で、戦略分析だけど……エッチスーツがいるから出てこない。それはそれでいいんだけど、シオンの性格的には敵対するならまず自分から出てくるはず。なら何故か。一つはやっぱり時間経過で変わっちゃったから。後は……何かしら拘束されてるか、洗脳でもされたか。ぶっちゃけありえないけど可能性の一つには入れとこう。

 

「はっ……!」

 

 30%……

 とは言ってもこの世界はこの世界の物語……私が介入するのは、私たちによってできた歪みを正すためだけにしよう。

 そのためにも、私自身の力も鍛えなきゃ……

 その後なんやかんや考えながらしてて、80%ほどまで解放してからウタネが酷くブサイクな顔で止めに来た。人がいなかったらいいって言ってたのに……

 

 ♢♢♢

 

「ふぁーわぁ……」

「やぁ、おはよう」

「んー、おはよう……? 今何時?」

 

 何故かリインフォースが私の枕元に座ってる。

 

「さぁ。時計すら置いてないので。早朝訓練が終わったところです」

「ふーん……」

「昨日のソラの熱気に負けたようです。部屋の前で倒れてましたよ」

 

 あー……帰れなかったのか……

 

「そのソラは?」

「普通に訓練に参加して、今おそらく朝食かと」

「じゃ、合流しよ」

「大丈夫ですか? 治療は聞いてからにしようと思いまだ何も施していませんが」

「大丈夫。熱中症ってわけでもなさそうだし」

「そうですか。では行きましょう」

「また口調戻してるよね」

「まぁ……すみません。やはりその、主すら対等に置く、というのは段々と辛くなりまして」

「ふーん……まぁいいよ。好きにすれば」

「では今はこれでお願いします」

 

 主も八神さんでいいって言ったのに……タメ口の方が無理言ってたのかな……一応言いたいことは言ってるから放っておこうか。

 にしてもソラのあの筋肉……ちょっと分けてくんないかな……3%分くらい。あ、0→3%の3%ね。97→100%の3%だとボディビル優勝しちゃう。絶対あのパーセントって適当だよ。もしくはあの……なに? 指数関数的? っていうの? エックス二乗しちゃう感じの上昇率だよ。

 

「あ、ウタネさん! おはようございます!」

「うん、おはよう。ごめんね、寝てて」

「あ、いえ……いいんですが……」

 

 スバルに軽く引かれる。ドン引きかな。

 

「あ、そうだ、ティアが部隊長と本局に行くらしいんですけど、部隊長がウタネさん見かけたら声をかけておいてくれ、と」

「ふーん……? 本局?」

「え、はい。要件は聞いてませんけど……」

 

 本局……本局かぁ……

 

「なんだっけそれ」

「……本局は本局です。日本で言うと東京? でしょうか? それだと地上本部に……? まぁ、そんな感じのところです」

「ふーん……」

 

 東京ってどこだっけ……本局よりは馴染みありそうだけど……まぁいいや、知ってる風で行こう。

 

「じゃあ何? ついて来いって事?」

「多分、そんな感じだと思います」

「スバル、騙されるな。この反応は本局すら心当たりが無いぞ」

「えぇ⁉︎」

「リインフォース……やめよう?」

「ふふ、何をしてもいい、と言ったのはそっちだぞ。ヴィーナス隊長どの」

 

 先の敬語などいずこやら。

 完全にこちらの尻尾を捕まえてしたり顔の狩人気分。

 対処は簡単。主は私。つまり手元に夜天の書を持つことなど造作も無いわけで。

 

「スバル……この魔導書、壊してくれないかな」

「おーい! ストップ! スバル! 絶対やめろ! もれなく私が死ぬ!」

「それで死なないって言ったの誰よ。たしか……キングストーン? だっけ?」

「……? そ、それだ!」

「は?」

 

 無い記憶を思い起こしていると、リインフォースが突然納得する。

 そして人目も気にならないほど早口でまくし立てるように話し出す。

 

「私に変な言動があったのは聞いているな? その原因だ! キングストーンは本来、ある一人以外は使用できないものだ。それこそ、演出を装って使用を防ぐほどの!」

「うん、分かったから落ち着こうか。ちゃんと理論立てて話そう」

「うん。私が使ったロボライダー、バイオライダーはそれぞれ同じライダーを基準とする。BLACK RXだ。このRXはBLACKを元にしており、その体内にキングストーンを内包する。このキングストーンは太陽と月の二つがあり、二つが揃うことで全宇宙の掌握すら可能とする力を得る事ができるらしい。それが本来の持ち主でない私が使ったことでおそらく拒絶反応が出ているんだ!」

「……なんでそんな情報を?」

「能力を辿ると知ることができるんだが、シオンはできないようだった。私はヒントがあればそれを辿って能力を引き出せるが、シオンは知らないものは使えないようだ。それも原因を探らなければならないことだが」

「……違う?」

 

 ナニソレ。

 

「うん、はやて達とはもう共有してるんだが、シオンと私の『能力』はどう見ても同じでは無い。だがそれよりキングストーンだ!」

「ちょっとまって、ちょっと待って。まって。闇の書は、蒐集した魔法を使うんだよね? で? シオンの『能力』と、シオンから引き出した私の『戦闘術』も使える……だよね?」

「それが違う。確かに魔法はその通りだ。全く同じ同一のもの。だが戦闘術。これも違う。シオンはお前と同じと解釈したようだが、実際にはただのイップスだった。客観的に見れば、シオンがお前になった時に使う物と同じ。実感としてそうだった」

 

 イップスだった? 

 ただの? 

 

「まって、私のはイップスじゃないの? 何? 貴女とシオンは……ソラは、何を知ってる⁉︎」

 

 ソラも……何か、知ってる風だったし……

 

「……ここでは話しづらい。話しすぎだ。取り敢えずお前ははやてとティアナと本局へ行け。おそらくクロノと話があるんだろう」

「誤魔化さないで」

「お前たちも私に話してない事があるだろう。仲良しこよしの組織でないことくらい分かる」

「……わかったよ。また人目につかないとこで話そう」

「スバルはこの会話を話すな。まぁ、話してもいいが言及されてもこちらからは一切何も言わない」

「え、はい! もちろんです!」

 

 私たちのことは……何話したかすら分かんないけど。多分ほぼ話してないんじゃない……? わかんない。

 それはそれとしてクロノか……もう会う必要も無いと思うけどなぁ……

 

「あ、そういえばソラは?」

「えっと……確かライトニングと現場調査だったかと」

「じゃあもういないか……早いね」

「スピードと技術が売りなライトニングはソラさんのパワーに興味ありまくりですから! もちろん私も!」

「うん……ああなったら終わりだけどね……」

「? 何がですか?」

「あーいや、気にしないで」

「? はぁ……」

 

 ♢♢♢

 

「……で? 何の様だ?」

「あのなぁウタネ。僕は君に用があるんだ。シオンじゃ変に躱すだろう」

「逃げられるとマズイ話ならハナから受けん。それに、久しぶりのオレだぞ? 話す事はないのか? あぁ、ティアナ、ミスショットの罰を思い付いた。コイツの頭撃ち抜いてやれ」

 

 何かと思えば下らない。

 騙そうとしていることはバレバレだ。

 

「えっ⁉︎」

「おいおい……仮にも提督だぞ。今僕が死ねば機動六課も無くなるぞ」

「だから何だ。オレのすることに、管理局が必要なのか?」

「お前自身の努力も無に帰すぞ」

「どうだっていい。今までの努力なんてどうせ覚えちゃいない。お前ら管理局にオレたちの誰一人として止める力は無い」

「だー! ええねんそんなことは! うるさいなぁ! 死ねッ!」

「ぐ……っ!」

「ウタネちゃんのシオンは右頬を殴り飛ばせばウタネちゃんに戻るんやんなぁ……⁉︎」

 

 首が折れる程の力で無理矢理にルーティン……切り替えがされる。首斬り離した時に能力使ってなかったら死んでた。ただ首を軽く傾ける程度でいいのに……ソラに聞いた? 

 八神さん、やっぱ腕力どうかしてる。

 

「ひっどいなぁ……」

「酷いのはそっちや。面倒やからって逃げて済むもんやないんやから」

「む……」

「一応真面目な話やからな」

「じゃあティアナも座って」

「え⁉︎いえ! 私は」

「いいから。あなたが立ってると私がエラそうにしてるみたいでしょ。それにクロノはあなた達にあんま強く出れないだろうしー」

「そーだよ。ボクの隣でいいかな? ケーキ、どうする?」

「貰っときなよ。美味しいよ」

「は、はい……失礼します……いただきます……」

「うん」

「ごほん……まぁ、試験の事は本当にすまない……この前渡したので足りないなら他を考える」

「い、いえ! こちらこそすみませんでした! えと……階級は大丈夫でした?」

「ああ。聞いてないか? 僕は謹慎だけで済んだよ。リインフォースは……普段の行いから見ればまだ甘いな。まぁここはロッサのケーキで許してくれ」

「と、とんでもないです! こちらこそすみませんでした!」

 

 このメンツに気を使う必要は一切無いと思う。緑の人は多分初見さんなんだけど緩そうだしいいでしょ。

 

「それはそうとウタネ、君は抵抗ないのか?」

「うん?」

「シオンになると普通に男口調だし言動も荒いし……その、変なことを言うが。脚を開いたりボディタッチなど気楽にするだろう? ウタネの時はそうじゃない。別にエイミィもコミュニケーションは軽快だから女性として不自然と言うわけではないが、ウタネとシオンで差が大きい」

「うーん……」

「そやでウタネちゃん、流石にそれは気にした方がええんちゃう? 昔シオンが言ってた痴女化やしエリオもおるし」

「私より私の周りが痴女ばっかだから影響されてるのかもね。シオンの時はシオンだ……って言わなかった? シオンは男の子だよ。脚も開くし上半身裸で歩く」

「えっ……」

「けどそれはあくまで元。ウタネが社会で生きていくのに最低限不都合な動作は矯正したし、本人も分かって治したりしてる。ここでは分かってる人がほとんどだからそこまで隠してないんだろうけど、初見さんばっかりだと意外と私に近かったりするよ」

「あ、ならええやん。でも結局、恥ずかしくないん?」

「別に。八神さんだって自分の部屋で誰もいない上気が抜けてたら開くことくらいあるでしょ」

「そ、それはそうやけど……人前やで?」

「んー……あ、屋外排泄は死ぬほど恥ずかしいけど、自宅トイレだと何とも思わない……みたいな?」

「なんでよりによってその喩え出したんや……? 分かりやすいけど」

「その発言は、恥ずかしくないのかな」

「別に? 下ネタっても生物としての機能の一つなんだしさ。それ隠しての上っ面だけの方が嫌いだし」

「その辺も変わらんなぁ……視点がクレバー過ぎへん? なにげシオンより冷静やろ」

「そう?」

「なんかこう……人としての感情? 常識? すら外から見てる気がすんねんな……」

「ん……まぁ……私は普通の人みたいな思春期は過ごしてないからね……あなた達みたいにファッション教育は受けてないし恋愛宗教にも入ってないし喜怒哀楽もそう学んでないからね……そうなるのかも」

「ファッションは個人の好みやし恋愛だって別に好き思たらそれでええんちゃうん?」

「違うよ。ファッションは友人や情報媒体を通して『これが良い』ってのを学んで改善していくものだし、恋愛だってイエ制度が崩壊する頃くらいまで日本には存在しなかった概念だ。ロマンティックラブイデオロギーとか言ったりする。恋愛が良いもの、こういったオシャレが良いもの、こういう価値観が良いもの、こういう料理が美味しいもの、こういう環境が、こういう顔が、こういう体型が、こういう趣味が、こういう習慣が、アタリマエはこうだ、なんて色々と形作られ洗脳するミームが形成されてる。それはそれで一つだ。アタリマエの中でアタリマエに過ごすのは、幸福だからね。正しくはな」

「わかった! ごめん!」

「……ん……ごめん、やっぱりこういうのがたまに……」

 

 八神さんに止められる。

 個人的に久しぶりの暴走だと思う。シオンでいる時間が長かったのもあると思うけど、そうそう爆発することも無くなってきた。

 さて……落ち着いたけど、なんの話だったかさっぱり忘れた。

 クロノ、八神さん、ティアナ、謎の緑……うん。

 

「さて……帰ろっか」

「ちょお待ちや」

 

 帰してくれなかった。

 その後はティアナのちゃんとした紹介などして、念話でクロノと八神さんが念話しながら他の話をしてたりしてた。

 さぁ、私は話しても時間のことなんてサッパリだしどうしたものかな。

 

 ♢♢♢

 

「はやては身内に恵まれてるな……」

「ああ。ティアナちゃんも良い子だった」

『……それは良かったな』

「⁉︎」

 

 はやてが帰還した後、ふう、と満足げに呟いていると不意に声がかかる。

 管制室の入り口にその気配が分かる。クロノは振り向くこともなく、デスクのコーヒーを口にする。

 

「……シオンか」

「な、なーんだ、さっきの子か……ビックリした」

「違う。ホンモノのシオンだ。さっきの何も考えてないのとは違う」

「じゃあ……!」

『待て。別に争いに来たんじゃない』

「だそうだ。何もするな」

「しかし……!」

 

 連絡しようとするロッサや他の局員をクロノが止める。

 

『お前ら管理局にオレたちの一人とて止める力は無い』

「まぁ、それはそうだが。じゃあ何の用だ? ……お前、その目は……」

 

 振り向いたクロノが見たシオンの目は、右目は糸のようなもので縫い付けられており、左目には普通とは違う奇妙な模様が浮かんでいた。

 

『ああ、右目はわざと閉じてる。オレがいた頃は姉さんも視力が全く無いわけではなかったからな。ま、それはいい。事件の進行具合を聞こうと思ってな』

「なに……? 事件を起こしている側じゃないのか?」

『一応はな。だが事の殆どは把握していない。目の為にかなりの時間引き篭もっていたしレリックなどというオモチャにも興味無いからな』

「クロノ、ここで彼を捕まえれば……」

「だからそれは無理だ。彼の選ぶ能力一つで、即座に管理局システムは崩壊する……」

 

 シオンの能力をこの場で唯一知るが故の無抵抗。同類たるウタネ達がいない今、下手に刺激することが最も下策である事をクロノは知っている。

 

「事件はそうだな、まだ探り合いだ。次に大きく動けば、というところだな。にしても、お前が何も知らないとはな」

『そうか。オレはオレの目的だけに動いている。今は捕まってやれん』

「一応、キミレベルの戦力は三人いる。僕らに何かあれば彼女らが動くだろうことは言っとくよ」

『三人? まさか……いや、ソラか?』

「ああ。やっぱり知り合いか」

『それは想定外だ。まぁお前らをどうこうする気も無い。ただ現状の確認だったからな』

「それだけで帰るつもりか?」

『……はぁ、固いねぇ』

「こちらに探りに来たんだ、土産くらい置いていくのがマナーじゃないか?」

『ったく……んー、そうだな。人が動くのは尊敬と愛情、人を動かすのは侮蔑と嫌悪、最も嫌うものは暇と無知……か?』

「なんだそれは?」

『さぁ? 知らんがオレ達が心に刻むべき事柄だ。オレ達の中には愛情と嫌悪に振り切った奴もいる』

「つまり何が言いたい。僕にできるのは何だ」

『オレ達が全員揃うのは想定外だってことだ。お前はリインフォースの監視でもしておけ』

「彼女を?」

『オレの今の左目を記憶しろ。この目を使い始めたらどんな状況でも姉さんかはやてに止めさせろ』

「なんだその目? どういうものだ?」

『人は、真実を知った時に変化する生物だ。それを言うと姉さんが危ないから言わない。だからこれも見せるだけで使わない。ヒントはオレ達を知ってれば想像できるだろ。リインフォースはオレ達の中でも未熟だからな。じゃあな』

「……お前たちの目的だけはなんとしても阻止するからな」

『目的?』

「全生命の根絶。最終的に行き着くのはそこだろう」

『……? なんの話だ?』

「リインフォースの言うところだ。お前たちVNAの結果はそこにあると」

『ああ、オレ達の話か。そうなるのはウタネとソラだけだ。まぁ、手段によってはオレたちもなるかも、というレベルだ。だからこの目を見せた』

「なら、違うというのか?」

『ああ。結果はどうあれ、目的はある。その目的こそ、オレたちが共通する条件だからな』

「なんだと……? リインフォースは知らないと言っていた。自覚が無いと」

『アイツはまだ日が浅い。そして説明するヤツもいない。理解が無いのも仕方ないことだ。闇の書でリーゼ達に辿り着けたんだ、軽いヒントで大丈夫だろ。お前らの考えた結果とやらの先だ。結果について答えが出てるのはウタネとソラだ。お前らの常識的にはソラの方がイメージしやすいかもな。リインフォースも既に口にした事がある。そもそも、自分勝手でガキ思考の集団だ。大人なお前らじゃ分からんかも知れんがな』

 

 そのまま消えるシオンに、クロノは何も言葉を投げることをしなかった。



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第81話 窓の際

「さて、今日から陸士108部隊から機動六課へ出向になった、ギンガ・ナカジマ陸曹です」

「ギンガ・ナカジマです! よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」

「よろしくー……」

 

 訓練前になのはに紹介された、ギンガ・ナカジマ。

 覚えはある。私を運んだり私を踏みつけた人だ。

 ぶっちゃけ、そんな好きくない。

 あとなんていうの? こういう身内部隊でも形式上の事はするんだね。面倒だね。

 

「それから、もう一人。10年前からウチの隊長陣のデバイスを見てきて下さっている本局技術部の精密技術官」

「マリエル・アテンザでーす。デバイス関係でもそれ以外でも、気軽に声をかけてね」

「「「はい!」」」

 

 次が初見さん、緑でメガネの人。デバイス関係者。多分私は関わり無い。

 けど10年前って闇の書だよね。覚えない。多分あの時からなんだろうけどさ。誰だっけあの……リンディの知り合いの息子? だっけ? と似た感じかな。

 

「よし、紹介もしたとこで、早速やんぞ」

「「「はい!」」」

「じゃあ……ギンガ、スバルの出来を見てくれないかな?」

「はい?」

「1対1で軽く模擬戦」

「ヴィーナスに鍛えられたスバル! 期待が強い!」

「いや、ヴィーナスはそこまで関係無いよ……?」

「殆どなのはさんとヴィータ副隊長だよギン姉……」

 

 なのはの誘いにとても乗り気なギンガ。

 なんでこの人ヴィーナスこんな好きなの? 

 

「ねぇウタネ、あの子なんでヴィーナス知ってんの? この前まで一応部外者だったんだよね?」

「知らないよ。こっちが聞きたいのに」

 

 なんなんだろう。どうでもいいけど。

 

 ♢♢♢

 

「……ほーん」

 

 結果として、ギンガの勝ち。

 

「もっと感想ないのかな? この部隊、結構な実戦部隊でしょ? それに揉まれたスバルより強いってことだよ?」

「どこかの名言に姉に勝る妹はいない、らりるれろ。というのが」

「……兄と弟じゃなかったかな? まぁいいや。今日は私たち何するのかなー」

「ソラは今日アタシとティアナでやんぞ。ウタネは……うん」

「えっ」

 

 ソラはヴィータとティアナと一緒に森……林? へ消えていき、ライトニングとリインフォースもどこかへ消え、なのはとナカジマ姉妹もいずこへ。

 ……ぼっちだ。ぼっちというかアレだ、窓際族だ。

 しかしそれをマイナスに捉える私ではない。それがマイナスになるのはやる気がある場合のみだ。無い私は簡単に帰路に着くことができる。シオンいないから起きてたけど寝れるなら寝たい。半日は寝たい。できれば20時間くらい。

 

「……【地下を通れ】」

 

 地面を私に触れる部分だけ気体にする。成分不明。呼吸はできるしこれでも一応自分の体表面までしか能力は出してない。つまりセーフ。ある程度沈んだところで高さを固定して部屋へ向かい、いい感じの陰から人目に付かないよう地上へ浮上、部屋に入ってベッドに身を投げる。

 

「ふぅ……」

 

 眠たい……

 

「おはよーございます!」

「んぅ……?」

「……? おはようございます!」

「ん、おはよう?」

「うん!」

「あ、ヴィヴィオ……だっけ」

「うん! ……?」

「えっと……それから……」

「アイナです。一応寮母をしております。よろしくお願いします」

「あぁ……はい、よろしくお願いします……」

 

 何故か新鮮な声に起こされる。多分そう時間は経ってない。

 アイナと名乗る紫っぽい女性がヴィヴィオの側に立ち私を見ている。心なしか私を見て混乱してる?

 

「あなたは……いたの? 寮に? 前から?」

「いえ、いませんでしたよ、前話まで」

「いなかったの⁉︎なに? 緊急就任? すごいね管理局、ブラックね……」

「まぁいいじゃないですか。一応いましたけど、初登場まではいないも同然なので」

「じゃあ前話もいなかったよね?」

「いえ、14話のことです。まぁいいじゃないですか、細かいことは。早くしないとなのはさんに怒られちゃいますし」

「ん?」

「いえ、訓練が終わったので朝食をと」

「あぁうん、はい。ソラあたりが放っておいていいとか言ってくれたと思うけど」

「ええ、そうですね。その方が良かったですか?」

「いや、折角来てくれたなら行く」

 

 とりあえずベッドから起きる。

 朝ごはん。一人で暮らしてると一生食べることのないものの一つだ。いかんせんハードゲイナーだから起きて急に食べるとね、出ちゃうんだよ。それが嫌で食べないでいるとお昼も食べるの忘れちゃって夜も寝ちゃって朝になってをループして一週間くらいで餓死しそうになる。困ったもんだ。

 ヴィヴィオがさっきからこっち見て固まってる。だからなんでよ。

 

「では行きましょう」

「ああ、はい」

 

 なんだろ。まぁいっか。

 なんか不慣れな人と並んで歩くのも久しぶりな気がする。身内部隊のせいかな。

 

「あ、ヴィヴィオー、こっちこっちー」

「……!」

 

 食堂に見えたなのはの声にヴィヴィオが走っていく。

 私も適当にオーダーして近くの席に座る。

 

「じゃ、失礼しますね」

 

 アイナさんは何故か私の対面に座る。ヴィヴィオの方行けばいいのに。

 

「すみません、堂々と」

「ん、いえ」

「実は聞きたいことがありまして……」

「うん?」

 

 なんだろ。隠してることは能力と特典の大半と、転生のこととVNAのことくらいだけれとも。

 

「……ヴィヴィオはあなたを男だと思っているようなのですが。実際のところ、どうなのでしょう」

「は?」

「いっ、いえ! その、ヴィヴィオの情操教育? 的に! べっ、別に私がどうこうというわけではなくてですね……!」

「んー? ああ、シオンか。それで首傾げてたのね。ヴィヴィオ?」

「はいー」

「私と……オレ、どっちが合ってる?」

「おれー!」

「そうか。じゃあお前の前だとこっちでいとく」

 

 そのせいか。けど不思議なもんだな。元が女で男のフリ? してるのが合ってるなんてな。まぁ、女が男で女のフリしてる時よりマシか。

 とりあえずアイナのおかげでヴィヴィオへの謎が解けたのは良かった。面倒を放置すると3倍になって返ってくるからな。

 

「うん!」

「いいの? そんな気を使わなくても……」

「なのは、親はお前だろ。オレは別に子供が嫌いなんじゃなくて子供を育てるのが嫌いなだけだ。たまに会うくらいならオレでいてやるよ。オレが戻るまではな」

「戻るって……ウタネちゃん、シオンがまだ管理局にいられるとでも思ってるの?」

「なんだ? いられないのか? 限りなく黒に近いグレーだが、オレはお前らの致命的な害にはならない。今回の件は必要あってのことだ。だから」

「だから?」

「簡潔に……無罪で許せ」

「無理だよ⁉︎」

「それをなんとかしろよ。裁判はやめてくれよ。他の手段で」

「ダメ! ウタネちゃんの頼みでもシオンは捕まえる」

「無理だ。お前の全力でもオレには勝てん」

「それでも」

「……はぁ。お前らは絶対に折れんよな。じゃあ恒例のアレだ。この事件で死ぬのなら……」

「……」

「戦闘機人とスカリエッティの内誰かだけだ。今のところはそれで許せ」

 

 闇の書の時にも言った予言。

 というより、全てを知った上で下した絶対の未来。オレに特典ある限り、この未来は覆らない。

 

「……今思ったんだけど。シオン……本物?」

「今さらか? オレの時はオレだって言ったろ」

 

 なのはは今更ながらオレがオレだと気付く。

 呑気だよな。

 

「……よくこんな人がいるところで出てこれたね」

「この数年間ずっといたつもりだったんだが? なぁソラ」

「んー、んー? まぁ、知らないけど。別にシオンでもウタネだし。私が望む答えは得られない……違う?」

 

 ソラは相変わらずにして良く理解してる。

 オレはオレでも体はウタネ。知識もウタネのそれだ。ただシオンという人格がいるだけ。

 そしてその人格は、ウタネと別の体を持ってこの世界に来たシオンとは別のシオン。ウタネが内で作り出しただけのもの。ウタネが自身を守るために作ることができた、無数に用意できるシオンというものの中身。だから厳密には、今のオレはウタネでもシオンでもない。

 

「ちなみに質問は? オレでも分かるかもしれないぞ?」

「不完全なシオンに特に興味は無いけど。何がしたいの?」

「あぁ、わからん。わかってんならウタネもお前も行動を起こすだろ」

「だよね。だから、別に」

 

 オレはオレでウタネの作るシオンには変わりないんだが……

 ソラはそのまま食事を終え、どこかへ立ち去ってしまった。

 

「……他、オレになんか言いたいことは?」

「あ、私いいですか?」

「お前……えっと……誰だったか」

「アイナです、さっき自己紹介しましたよね?」

「……いつからいた? 六課設立から? ずっと?」

「はい、いましたよ。二人って面倒ですね、説明が」

「……やっぱ知らない奴いんのな。で?」

「はい、シオンはちゃんと男なんですか?」

「……それ、聞く必要あるのか?」

「ええ、個人的に……もとい、ヴィヴィオの情操教育的に」

「……いらねぇと思うけどなぁ? まぁ、うん、オレは男で合ってるぞ」

「……そうですか」

「なんで落ち込むんだよ」

「いえ……なんでもないです……みなさん、お疲れ様でした……」

「……」

 

 アイナ……はえげつねぇ落ち込み方をして怨霊でも撒いてんじゃないかってくらいのオーラを残しながら去ってしまった。

 ……なんだアイツ。男ってのを期待してたんじゃないのか?

 

「おい、なのは。アイツなんだ? 精神障害か?」

「え⁉︎い、いや? そんなことないと思うけど……」

「どっちかと言えばウタネちゃんが障害やで」

「そりゃ分かってるが。支障なく業務こなしてんだからいいだろ」

 

 障害者だからと差別するやつはここにいない。

 かくいうオレも差別はしない。半身不随なら当然障害者だが、言語障害とかは何の診断も受けてない奴もロクに会話が成立しねぇのが山ほどいる。オレからすればそいつらも同じだ。歩けないから車椅子ってのが障害だというのなら目が見えないから眼鏡してるやつも障害だ。車椅子がねぇと動けんやつと眼鏡がねぇと見えねぇやつ、どっちも役立たずだしな。

 

「あ! すみませんなのはさん! 私とギン姉、いつものアレです!」

「あ、そうだった。ごめんね、長引いちゃって。食器とかそのままでいいよ」

「いえ! そのくらい自分で!」

「いいわよ、私がするから。さっさと行ってきなさい」

「……! ありがとうティア!」

 

 アレ、と言ってスバルとギンガが席を立つ。

 予定はあったようで上官のなのはも相棒のティアナも訝しむ事もなく素直に送り出す。定期的なものか。

 言い方からして六課ではないな。アイツら個人に起因する予定だ。それは何か。

 

「……なるほどな。フェイトもエリオも要らないんだからそういうことだ」

「えっ⁉︎」

 

 想定できる唯一の理由に行きついて漏らした言葉にティアナが反応する。

 

「なんだよ」

「ちょちょっと……来てもらえますか」

「ん?」

 

 そのままティアナに引かれ、人目のない通路に連れて行かれた。

 ソラとリインフォースに気にせず乱すなという指示を送りそのまま流れに任せる。

 

「なんだよ。告白か? 悪いけど姉さんの先が保障できない限り受けないぞ」

「違います! スバル達のことです!」

「あ?」

「……いつから、知ってたんですか」

「んー? なんのことだ?」

「惚けないで下さい!」

「……ったく。ホントに知らねぇんだよ、さっきのことか? 体に機械を埋め込んでることか?」

 

 急に連れ出すのならそれ相応の理由がある。つまり、先ほどナカジマ姉妹とフェイトエリオを区別した理由だ。

 

「そうです。戦闘機人。この前説明しましたよね、マトモな人なら手をつけない技術だって」

「……オレはその説明すら知らないんだがな。まぁ、そうだな。普通なら不可能な技術だ。理論では可能でも、生体であれば拒否反応くらいある」

「戦闘機人は、この事件で重要な位置を占めてしまった。それがスバルとギンガさんと同じと上層部が判断してしまえば、スバル達はおしまいなんです」

「……ああ」

「スバルは、私の古い友人です。私の……これ以上無い相棒なんです。それが、管理局の存在を脅かす犯罪者と同類ってだけで、今までを無にされることだけは嫌なんです! 違法技術から生まれた存在だとしても、今まで努力してきたそれは私以上です! それを否定されるのだけは!」

「……はーん。それで?」

「……っ、ですから、ここで誓って下さい。スバルの秘密はそれを知る一部だけに留めるものと。でなければ、私は……ッ!」

「……落ち着けよ。努力してんのは知ってる。それがオレには到底できないものだってのもな」

 

 戦闘機人というらしい、人体に機械を埋め込み能力向上を図った技術。

 見たところプロジェクトF、つまりはフェイトのようなケースの発展と言えるが……転生なんて言う生まれて死ねば終わる命のハカリから外れた存在であるオレ達に言われてもだからどうした、ってレベルだ。まぁ、ティアナが必死になる気持ちも分からんではない。

 

「だからどうしたって話だ。オレは姉さんじゃねぇし、お前らが敵としてるシオンでもねぇ。一度切られればもう次いつ出てこれるかわからねぇ無数のシオンの残骸の一つだ。そんなオレにどうして欲しい? どうしたい?」

 

 ただの残骸。

 フタガミウタネが己を守るための、想像できる無数の防御装置、その一つ。

 シオンはただ採用された未来予知のシオンだっただけ。このオレに意味は無い。

 

「でも、シオンは……ウタネさんは……私たちの、管理局の、味方なんですよね……」

「……」

 

 問いの答えにはなってない。

 ただ、縋るだけの女として映るだけだ。ただ、無力な一人の人間。

 破滅を前に、ただ祈るだけの無力な聖人と同じ。

 

「……一つだけ、教えてやる」

「え」

「知っていようと知っていまいと変わらない事実ではあるがな。ここまでオレにつっかかってきたお前だけだ。シオンの能力は、ウタネやなのはが知るそれとは違う」

「?」

「勘違いもいいトコだ。まぁ、なんだ、オレの姉がウタネで良かったってとこか」

「??? なんのことですか? 真面目に──」

「真面目だ。いいか、このことを相談するならリインフォースだ。ウタネやソラは役に立たん。この能力を解析しない限りシオンに勝つ手段は無く、解析できても勝つ手段は無い」

「ダメじゃないですか⁉︎」

「……まぁ、そうなんだよ。シオンは能力の使い方を把握してる。10年前とは違う。まだ能力の全容すら掴めてないリインフォースとでは差が出るばかりだ。シオンに当てるならウタネかソラにしとけ。上位互換と当たるだけ無駄だってな」

 

 混乱するティアナ。なんか色々言ってるが無視だ。こっちが伝えて終わり。

 実際、無駄なんだ。ウタネでなくシオンとしてだから分かる。特典として受けた能力。オレは使えないが……アレには弱点が無い。

 姉さんの能力も事実上無敵ではあるがただの性質変化能力。ただ範囲と速度と強度に優れ、デメリットが存在せず他人にも奪われないというだけだ。直死といった概念系能力なら掻い潜ることもできるし、オーバーヘブンなら能力を上書きできる。まぁ、それを踏まえて無敵とするんだけどな……

 どうもなのは達はシオンも能力を使わせ続けスタミナ切れを待てば勝機があると考えているようだが。それも無理な話だ。姉さんがそんな不完全を生む筈がないだろう。

 

「以上だ。せいぜい頑張れよ」



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第82話 二人目

「陳述会かぁ。まぁそうよね! これだけ大きい組織だもん」

「なにそれ」

「あなた、一応数年はいたんだよね? なんで知らないの?」

「シオンの時は6までやってたって言ったでしょ。行動のほとんどは知らないし見聞きした部分なら尚更」

「じゃなくて。社会人的な基本知識……は期待するだけ無駄か」

 

 八神さんから受けた、なんとか会の会場警備。

 前日夜だというのにもう警備が始まってるらしく、私にもそこそこ重要な会なんだろうことがわかる。

 警備はフォワードとなのは、ヴィータ、ヴィーナス。

 明日からフェイトや八神さんが来るらしい。まぁ、まだ出発してないんだけどもね。

 

「というわけや、私らが行く早朝まで、よろしくな」

「「「はい!」」」

 

 全員でヘリまで移動。

 何故かあの精神異常者、アイナさんとヴィヴィオもいる。

 

「あれ、ヴィヴィオ?」

「すみません、どうしても聞かなくて……」

「ダメだよ、アイナさんにわがまま言っちゃ」

「ごめんなさい……」

「まぁいいじゃん。多少は余裕取ってるんでしょ」

「ウタネちゃんは無責任なこと言わないで」

「……」

「あぁ、そうだそうだ……こっちだったな」

 

 私が発言するだけで泣きそうになるので迅速に変わる。

 そんなにウタネさんが嫌いかな? 

 

「ヴィヴィオ、ウタネにも懐いてんでしょ? じゃあウタネ、シオンで残っときなよ。私、別に寝なくても平気だし」

「……!」

 

 ソラの提案にヴィヴィオの顔が晴れる。

 周囲もそれで納得するような雰囲気だ。だが、襲撃犯がスカリエッティであることはほぼ確定的な状況。ソラだけでは相手を殲滅できても局員全員を守ることは不可能。リインフォースも八神さんにつくから期待できない。

 ……面倒だが、行かなきゃな。

 

「許せヴィヴィオ。また今度な」

 

 ヴィヴィオの額を軽く突いて立ち上がる。

 今はガキに構ってる時じゃない。

 

「……っ」

「泣くなよ。前も言ったろ。ちょっとの間、たった1日だ。明日には帰る。ここで残って任務が失敗すれば何年と会えなくなるかもしれないからな」

「うん……」

 

 面倒だ。ヴィヴィオの相手も警備も。

 どっちもしたくないと思いつつ最優先を定めヘリに乗る。

 

 ♢♢♢

 

「それにしても、随分と懐かれてますね、二人とも」

「そうだね……結構厳しく接してるつもりなんだけど……」

「きっと分かるんですよ、なのはさんは優しいって」

「あはは……」

「で? 面倒くさがりのウタネさんはどうなのかな? まさかずっとシオンに変わるつもりなのかな?」

「変わるわけねぇだろ。大体懐かれるようなこともしてねぇ」

「えぇ〜? でもでも? ウタネだと泣きそうなのにシオンにはとっても笑顔で擦り寄ってるよぉ?」

「うるせぇ」

「そうだよね。ウタネちゃん、もしヴィヴィオの受け入れ先が見つからなかったら……ヴィヴィオを、お願いしていいかな」

「無理」

「即答⁉︎」

「当たり前だバカ。言ったろ、育児は嫌いなんだよ」

「あ、やっぱりシオンは育児経験あるんですか? なんか、フェイトさんに近い感じがあるんですけど」

「お前はエリオと子作りしてろ。育児経験なんてもんじゃねぇよ」

「ウタネちゃん、それまたフェイトちゃんに怒られるよ。なんてものじゃない、ってのは?」

「別に。そういう仕事経験があるってだけだ」

「仕事? ウタネちゃん……シオンか。シオンは嘱託前に仕事してたの?」

「いや、嘱託前というか……」

 

 ん? ヤバくないかこの流れ。

 生前だぞ。まぁ今も生きてんだけど。流石に話すわけにもいかないしこいつらとはかなり古い付き合いだ。難しいな、どうするか……

 

「私がいるカルデアってとこには小さい子も割といるんですよ。そこでちょっとお手伝いって感じです。タダ働きですけどね!」

「へぇ〜、そうなんだ」

(……ぐっど!)ばちこーん

 

 ソラがウインクとグッドサイン。

 

《よくやった。貸しいっこな》

《ふふん、近年稀に見る良い活躍でしたでしょう⁉︎もっと褒めていいのよ⁉︎》

《シオン連れ戻してから頼め》

《やったぁ!》

 

 やれやれ。

 とはいえ助かった。こいつらにとってカルデアはまだ未知の存在。なんとでもなるしカルデアならなんとでもできるな。よしよし。困ったらカルデア産の経験ということにしておこう。

 

「あ、よかったらなのはさんもカルデア来ます?」

「え? ああ、ソラちゃんの所属って元はそこなんだよね。そういえば大丈夫なの? 割とここいるけど……」

「それは大丈夫! どうせ何もしてないし私のえっちゃんは優秀なので!」

 

 何もしてないのはソラなんだけどな。

 相棒、恋人、パートナー、なんと言えばいいかわからないがソラとある種理想的な主従関係を持つヒロインXオルタ。甘味消費量は他の追随を許さないがキレる頭脳、対対セイバー用決戦兵器という特性を令呪+αの魔力ブーストで拡大解釈、セイバーを殺す(殺した、殺しうる、殺すかもしれない、殺せるほど成長するかもしれない)相手を必ず上回る概念強化、使いこなした∞黒餡子……と、ソラの存在が一瞬霞む性能を持つ。まぁ攻撃性能とかは他の大英雄の方が上だが、防御面で……逸話として弱点という弱点が存在しない点がサーヴァントとして優れている。糖分くらいだもんな。

 

「んー、でもやっぱりいいかな。まだ私は管理局で、次の私が現れるまで働いてるよ」

「スバルはその筆頭候補かな?」

「えぇっ⁉︎」

「あははー、そうだね。そうなってくれたら嬉しいな」

「あっ、いや! もちろん頑張りますけど! まだまだというか……!」

「あはは、冗談だよ。スバルもティアナも、私の部隊だからって私に影響されて縛られる必要は無いからね。自分の道を進む為に、私たちから必要なものを得るだけで十分だから」

「あ、それ、フェイトさんも近いこと言ってました。私は保護者の立場だけど、いつでもなんでも好きにしていいからね、って」

「あー、そうだね。やっぱり、他人に行動を縛られるのは辛いことだと思うから」

 

 フェイトはプレシア、守護騎士は闇の書、なのはは管理局。

 ふとしたきっかけから生い立ちまで、差はあれど生き方を強制された三人。

 そういう考えを持つのもまぁ、仕方ないと言えば仕方ない。誰一人として恨みは持ってないだろうけど。

 そしてそれは、オレやウタネ、ソラといった……VNAの非拘束性でもある。自覚は多分、してないだろうな……

 

 ♢♢♢

 

「夜勤かぁ……ソラぁ、寝るとき起こしてね?」

「当たり前。夜から1日くらいだから、2時間は起きるの覚悟してね」

「んー、十分だねぇ」

「4時間にしとく? 私はそれでいいよ?」

「やだー。おやすみー」

「はーい」

 

 ウタネを追いやり、警備に戻る……とは言ってもまだ前日の夜。始まる前に襲撃は無いだろうけど侵入者くらいはいるかもしれない。

 にしても地上本部だっけ。でっかいよね、警備もかなりの数いるし。

 これ襲おうってんだから元の世界でも相当自信あったんだろうねー。それにシオンの手助けか……私一人でどうにかなるかな……

 

「あの、ソラさん」

「んぅ? えーっと、エリオくんだ」

「はい」

「なに?」

「ウタネさん、2時間だけなんですか?」

「あーうん。そうだよ。それで十分だしね」

「他の人は8時間くらいは継続なんですけど……」

「不満?」

「い、いえ! そういう訳ではないですけど……」

「まぁ、ウタネの2時間は問題があったらの2時間。無かったらずっと寝させてるつもり」

「いいんですか? ソラさんも休む時間が……」

「ううん、私はいいの。寝ても寝なくても変わんないし」

「そうですか……すみません」

「なんで謝るの。疑問が解消できて良かったじゃない。気を使うな、って言われてない?」

「あ……シオンから、はい」

「ウタネも私も一緒だし、リインフォースさんも多分一緒だよ。聞いた感じ外部組織なんでしょ、ヴィーナスって。なら尚更だよ」

「それは違うと思います」

「んお?」

「ウタネさんとシオンは、部隊長やフェイトさんなのはさんの憧れであり恩人だと聞きました。それが無理を聞いて六課に協力してくれている。そんな相手に敬意を表するなというのは、より気を遣わせることになると思います」

「……驚いた。凄いね、エリオくん。その歳でそんな考えを根付かせてるなんて。君は……君たちフォワードは、カルデアでも割と気に入られるかもしれない」

「はぁ……」

「ま、好きにしていいよ」

「はい」

 

 ウタネ達は気を使われるのが嫌いなんだろうけど、私はカルデアの経験上、ただ敬語を使ったり服従することだけが敬愛ではないことを知っている。だから、できるだけ自由に尊敬できる人について行って欲しい。サーヴァントがマスターではなくぐだ個人を気に入って行動するように、役職上の立場に縛られないようにしてほしい。管理局の英雄、エース・オブ・エースの高町なのはではなく、ただの優しい高町なのはに惹かれてほしい。

 ……あ、この事件のメンバー分かっちゃった。セインってアレだよね、聖王教会でシスターしてた……シャンテのセコンドの人。ならあとオットーとディードかな。ディエチもいたよね。ナカジマ家? とすると……チンクやノーヴェもかぁ……あとは知らないや。メガネの人と高速移動の人。

 んーん、コレは報告するべきかな? したらしたでスバルとギンガがヤバくならないかな。六課はそんなことしないな、うん。知って拘束するような人がいたら仲良く温泉旅行なんてするわけないもんね。うん。あの覗き魔は私が相手しようね。未来の精算をしてもらおう。

 

 ♢♢♢

 

「ウタネちゃーん? おーい、起きてーな」

「ん……」

「お、起きた? ごめんなー起こしてもーて」

「あれ、もう来たの?」

「……もう日が登ってんで。んでな、私とリインは中入るんやけど、デバイス関連は持ち込めんのや。この夜天の書、預けるんならウタネちゃんが適任かな思て」

「ああ……」

「主、オリジナルの方もお願いします」

「うん……ああ、そうだった、八神さんの方はシオンの作ったやつか」

 

 今まで存在自体忘れてた。オリジナルの方。

 オリジナルと八神さんのは全く同じ魔法が記してあり、シオンの能力部分だけ他の魔法に書き換えたものだ。かつての夜天の書としての機能は無く、ただ膨大な量の魔法を蓄積する魔導書ってだけ。守護騎士たちはもう闇の書の時にリインフォースが切り離して……どうなったんだっけ。

 

「ま、預かっとくよ。万一なら使っていいんでしょ?」

「魔法使えるん?」

「さぁ? リインフォースとユニゾンしたら?」

「できるん?」

「一応契約上の主だし多分?」

「思えばしたことがないな。今日の件が終われば試してみるか」

「そうだねぇ、まぁ、やっぱいいや。私とユニゾンはナシ!」

「……ん、了解だ。そうだな、私が乗っ取ってしまうかもしれないからな」

「はは、それもいいかもね」

「まぁ、また機会があればそれについて話そう。今のところは無しと。ではな」

「うん? ええのん? 二人がええならええけど。じゃあなウタネちゃん、よろしくや」

「はいはーい」

 

 さてさて……今は……何時かな? 

 あと何時間暇なのかな? 

 無意味に普段気にもしない時間を気にして中へ入っていく二人を送り出す。

 待って、夜天の書二冊って……今私無敵なのでは? 

 あれ、シオンの能力も使えちゃったりする? 

 ……まぁいいか。使わなくて。リインフォースが使うにしても本要らないし。シオンとの差も分かってないし。使わない方がいいかな。

 

 ♢♢♢

 

「……開始から4時間ちょっと。中の方もそろそろ終わりね」

「最後まで気を引き締めて行こう!」

 

 日中、動きは無し。

 会議中の行動予定では無い? とすると、目的は……会議そのものではなく、人か、物。

 スカリエッティが……ナンバーズのみんなと……共通するもの。レリック。

 そして……聖王ヴィヴィオ。

 ……マズい。何がなんでもウタネを残らせておくべきだった。いや、私がもっと早く気付くべきだった、か……

 

「ヴィータ副隊長!」

「あ? なんだ? 一応言っとくけど、アンタも私と同じ階級扱いだぞ」

「そんな事はいいから! 私を六課に戻して! あっちの護衛がいる!」

「はぁ? 何言ってんだ、向こうなんて任務外だぞ」

「〜〜! 詳しいことは言えないけど! いいから! 何もなかったらそれでいいの!」

「だから何の話だってんだ!」

「今なら全部に対処できる! それだけの人と物がある! 選ばなきゃいけない状況じゃないの! 全部取って残せる! ここの警備はウタネがする! ウタネをあっちにやってもいい!」

「な……」

 

 一瞬でも早く……! ヴィヴィオを守らなきゃ……! 

 先に進むための必要犠牲……でも、他の手段があるはず。ヴィヴィオはまだ渡せない。最後の最後まで……なのはたちと……ん? 

 

「やっぱいいや。うん。ごめんね、ここでじっとしてる」

「っ……⁉︎なんだテメェ……?」

「やー、うん。ウタネいるとさ、ウタネ以外には気が抜けちゃうんだ。私ってば抑止力なのにさ。ウタネが記憶改竄なんてするからなんだよ」

「ウタネが……?」

「あー気にしないで! 私にだけでみんなには何もしてないから! っていうかウタネにそんな力はないから! ごめんホント! 混乱させちゃって!」

「急になんだよ。敵襲か? 洗脳か? 元々敵か?」

「だから違うってー! 勘違いの暴走なのー! 早とちりしすぎたのー!」

 

 元の路線に関わらないように受動的にって言ったの私なのにね。抑止力はただ元ある世界を守るだけ。管理局が誰もあっちに警備をつけてないのなら、つまりはそういう事。私が行ったらそれだけで変わっちゃう。

 

「んん……うるさいよ、何? 敵襲?」

「お、ウタネ」

「んー?」

「コイツなんか六課に戻せとかさっきまで喚いてたんだけどよ、急にいいとか言ってよ、わけわかんねーんだけど」

「んー? 六課……?」

 

 ウタネが私をジッと見る。多分目見られてる。

 無表情だから深淵の闇みたいな目してるの嫌いなんだよね、怖い。狂化Aでももっと光あるよ。

 多分真偽測ってるんだろうなぁ……洞察力すんごいからねぇ……

 怒られるかなぁ……物語に手ぇ出すなって……はぁー

 

「うん、まぁ気にしないでいいと思う。ソラは頭が回転始めるの遅いからね。六課の方に手がないのが今更気になったんでしょ」

「バカキャラだったか? ソイツ」

「むがー! バカじゃないもん!」

 

 助かったぁ……

 でも大体察したかな。ヴィヴィオが危険って事。察して尚それを無視したんなら……相当な覚悟だ。ウタネとは思えない。

 ……違う。それだけ信じてるんだ、シオンのこと。

 シオンがこっちに来るって、必ず私たちに合流してくれるものと。

 

「じゃあほっといていいんだな? なんかあったらウタネのせいにすんぞ」

「いいよー。ごめんね」

「謝る事じゃねぇ」

「うんー」

 

 ……なんか、平和……

 

 ♢♢♢

 

「通信管制システムに異常! 侵入されてます!」

 

 異常は、迅速だった。

 対処する間も無く、異常に気付いた時点でもう既に全てが手遅れ。

 システムはダウン、投下された入眠剤爆弾により局員もダウン。

 公開意見陳述会の会場も、それを覆う結界に無数にへばりついたガジェットのAMFが強力に作用し、エース級魔導師でさえ魔力結合が困難であるほど。

 今この瞬間に限れば、管理局システムは完全に停止した。

 

「はやて、どうしますか」

「やられた……!」

 

 会場内、通信すら通らない現状に敗北を感じるはやて。

 当然他局員にもなす術は無く、ただ混乱するのみ。

 

「AMFだけではないな。また別の結界か……はやて、一つ、許可してくれ。全員で突破しよう。私だけなら能力無しでもなんとかなるが見通しが立たない」

「……仕方ない、お願いや」

「ああ……敵の結界構成を見切り、解析し、分解する。ガジェットの数もそれなりのはずだ、直死より低コストな良い眼がある……『写輪眼』」

 

 リインフォースの瞳に小さな勾玉が三つ現れる。

 

「リインフォース! 権限でその能力を却下する! 即座に閉じろ!」

「……ッ! クロノ提督……?」

「クロノくん⁉︎いつから⁉︎」

「シオンから忠言を貰っていてね。本当は君たちに教えて止めさせろと言われたんだが、見逃す危険があると思って僕が監視させて貰った」

「シオン……⁉︎」

「ああ、本物だ」

「なんでそれを信用するん⁉︎今脱出せな!」

「ああ、それは確かにそうだ。だが、シオンがわざわざ危険だと言いに来る程だ、余程の理由があると思う。僕はシオンの忠言は信じる」

「……では、どうするというのです。我々ではこの環境下で動く事はできません」

「無論、リインフォースには脱出してもらう。直死は問題ない。僕が言われたのはその勾玉の眼だけだ」

「……分かりました。なるべく早くこの結界を破壊する」

 

 直死を用いて壁を切り裂き脱出したリインフォース。空いた穴は大型ガジェットによって塞がれるも、攻撃は無かった。

 

「シオンはいつ来たんや?」

「君がウタネと執務官志望の……ティアナだったか、を連れて来た日だ」

「なんて⁉︎目的は⁉︎」

「目的は依然不明だ。シオン自身、あまり把握していない様子だった。自身の強化に長い間引き籠もっていたようだ」

「……まさか、本気で管理局を……」

「そうだな。最悪は覚悟しなくてはいけない。せめて戦闘機人は僕たちで対処できなければ、ヴィーナスとはいえ全力のシオンに勝てるか怪しい」

「……」

「今は外のみんなに託そう。機動六課は優秀だ」

「そうやな……」

 

 ♢♢♢

 

「……さて、今起こってるのはこんな具合か」

 

 カツン、カツンと憚ることを知らない足音、それに合わせてなびく白い長髪、閉じた右目と見るものを穿つ赤い瞳。

 肩に置いた刀はそれを誰か判別するには十分だった。

 

「やっと会えましたね、フタガミシオン……!」

「ん? オレを知ってるのか?」

 

 ウタネと混同する事なく見る目に興味を持ったのか、お茶でもするように軽い雰囲気で問うシオン。

 

「忘れたとは言わせません。あの火災を……」

「……ああ、あの時のガキか。良く覚えてたな」

「忘れるわけがないでしょう、私たちを、あの施設全員を救った恩人……英雄を」

「誰にも見られるつもりはなかったんだけどな。お前だけだな……ギンガだったか。言ってないだろうな?」

「勿論。元々局であなたの事は殆どがクロノ提督に握り潰されていましたから。むしろ私が調べました、ヴィーナスについて」

「ああ、ヴィーナスって名乗ったんだっけな」

「あれほどの火災でも全員生存したのはあなたのお陰です! そんな人が何故、スカリエッティに手を貸すのですか!」

「……元々な、アレはオレがやったもんだ」

「⁉︎」

「施設破壊が目的だったんだ、アレも今日もな。殺しは対象じゃねぇからってオレが回ってたんだ。自分で火ぃ起こして救助なんて、諺かなんかありそうだよな」

「なぜ……」

「任務らしいぞ。何してぇのか知らねぇけど。あー、あと今日は三人ほど回収させて貰う。お前と、妹のスバルと、ヴィヴィオ」

「スバルたちを……⁉︎やはり、目的は」

「戦闘機人だなぁ。量産には向かないにしてもそこそこな戦闘能力に経験値の共有でパワーアップも速い。人材としてはこれ以上無いと思ってな。どうする? 抵抗しないなら傷一つなく護送するが」

「断固拒否します!」

「だろうなぁ……仕方ない。少し遊んでみるか」




公開意見陳述会。合ってると思います。はい。


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第83話 二人目 その②

風早 海月様、誤字報告ありがとうございます。
こんな会話ごとトブことも多い作品にわざわざありがとうございました。
『三人目』の「まぁいい。レリックの蒐集と共に明らかになるだろう」→「総力戦?」の間の会話、何話してたのか私も忘れちゃったので暫く(or永遠に)あのままです。他も抜けてるかもしれないですけど……


「はぁぁぁぁぁ!」

「ふむ……局員としては中々やるな。だがオレには及ばない」

「きゃあっ!」

 

 刀を鞘から抜く事もせず、ただギンガの始点を止め、蹴り飛ばすシオン。

 

「お前がオレに……ヴィーナスに持つ羨望はな、ただの幻想だ。ただの自作自演。その気は無かったが、勘違いで踊らされてただけだ。すまん」

「違います! あなたは事実、私たちを救ってくれた! 四年前……私たちの恩人は管理局ではなく、ヴィーナスです!」

「だから……オレに救われたお前らを危機に追いやったのもオレだってんだ。お前はただそうやって生きてきたのか? なのは達から全てを聞いているなら、オレかもしれないと考えることもできただろうに……」

「なんの事ですか」

 

 追撃は無く、対話による情報を得ることが可能と判断したギンガは構える事なく話を続ける。

 

「オレが嘱託として過ごした数年のことだよ。あー、闇の書の時から聞いてたら、か。まぁオレってのはそういう存在だってこと。こういう立ち位置は初めてじゃない」

「ますます分かりません……何が目的なんですか!」

「オレの目的な……お前ら六課なら分かりきってると思ってたが。オレって分かりにくいのかね? まさかなんだ? スカリエッティと同じ指名手配にでもなってるのか?」

「少なくとも、捕らえるべき犯罪者として」

「……はぁ、なんでそうなるんだ? まぁスカリエッティは仕方ねぇかもしれんが……他はいいだろ別に。今まで出た被害は計算したか? レリックってオモチャと、その回収を妨害した局員の無力化……ちょっとした怪我だ。まぁ今日はココ制圧するらしい。半壊くらいか? その辺あんま聞いてねぇけど。人的被害は多少出るだろうが……」

「それが……許されるとでも?」

 

 対話は不能と考えたのか、再び構えを取るギンガ。

 

「許されねぇか? 苦労はするだろうがリインフォースが直せるだろ。蘇生に比べりゃ簡単だ」

「蘇生? まさか……生き返らせたから許せ、なんて言うんじゃないでしょうね」

「そのつもりだ。この事件で死ぬとしたら、ナンバーズかスカリエッティだ、他はなんとかしてやる」

「確証がありません。そうするというのなら、今すぐ投降を」

「そりゃ無理だ。犯罪ってのは分かってんだよ。前も今もな。全部が終わる前にやめちまったらそれこそどうにもできん。オレなら言い訳して口八丁で乗り切れそうだけどな」

「……! あなたには! ヴィーナスには失望しました! 強大な力を持ちながら、悪意もなく対価を求める事もなく平和に殉ずる者と信じていたのに!」

「ふぅ……」

 

 カートリッジ数発。その全てを込めた拳は……

 

「それは正しい。そして同時に間違いだ。オレ達はオレ達それぞれの理想を求める。お前らの言う理想的な平和ではなく、現実的な理想をな。オレにとってお前はその礎、第一歩だ。お前らの確保も別段、何も悪いことじゃねぇ。今より性能は大きく向上する」

「がは……ッ!」

 

 シオンの防御を穿つ事はなく、ただただ無常に、カウンターで腹部に撃たれた拳で沈められるだけ。

 地下でのそれは、何処の誰にも認識される事は無かった。

 

「オレ自身の未来予知……お前の挙動は数秒後まで読み取れた。正々堂々しないのは悪かったな。全部終わったら付き合ってやる」

「ギン姉!」

「す……スバル……」

「よう。そっち行ってたのはノーヴェとウェンディだったか。思ったより早かったな。どっちかは壊せたか?」

「シオン……!」

「んー、そりゃ名前は割れてるか」

 

 援軍と思われるスバルに対しても動じない。

 ウタネ同様真紅に染まった左目は冷静に物事を捉え考察する。

 

「あんま意味ないと思うが一応、こっちの用件だけ言っとく。お前とギンガ、ヴィヴィオの三名を生きたまま確保することが条件」

「ギン姉は……」

「別に。腹パンしただけだ。多少内臓やらに効いてるだろうけどな」

「ギン姉をどうするつもりですか!」

「さぁ? 強化するとは言ってたが。まぁ、損にはならんだろ」

「ふざけるな! 戦闘機人が……スカリエッティが、どれだけの人を苦めているか!」

「はっ……そんな些事、一々気にしてらんねぇな。なんだ? お前もリインフォース寄りか? 一人一人が理想の世界を作れるとでも?」

 

 ギンガを肩に抱え、右手の刀でスバルを指すシオン。

 開かれた左目は青みを帯び、冷静に観察していることがよく分かる。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!」

「はぁ……オレに会ったら逃げろ、とか言われてないのかね。それでも……やるか?」

「行くぞ! マッハキャリバー!」

 

 怒りを拳に乗せ、金の瞳でシオンを敵視する。

 

「仕方ない……破壊でストレスが飛ぶなら付き合ってやろう。もう少し遊んでみるか」

 

 意識を失ったギンガをバインドで縛り、更に刀も捨てる。

 右手を前に突き出し、人差し指から小指へ、最後に親指で握り込む。その動作の中、右腕が虹色を帯び、赤、オレンジ、黄色といった具合の色彩を持つ何かが右腕を武装するように覆っていた。

 それはリインフォースの見せた『アルター』能力であることが分かる。発動時の挙動はほぼ同じであることからの推測。違いは、発動に他の物質を必要としていないこと。

 

「オレの自慢の拳だ……じゃあ行くぜ。衝撃の……!」

 

 シオンの右肩後ろから生えた3枚の羽根のようなもの、その1枚が消失し、スバルへ向けて加速。

 スバルもそれに対応するよう、加速を始める。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ファーストブリット……!」

 

 真正面から何の小細工も無く拳が衝突する。

 高エネルギーは硬直を許さず、接触と同時に爆発、互いを吹き飛ばし煙が上がる。

 

「っと……!」

「く……」

 

 スバルは数度地面を蹴りながら下がることで衝撃を逃し、シオンは飛ばされるまま壁に激突。

 スバルはそれを好機と踏み、追撃をかける。

 

「マッハキャリバー!」

「ったく……普段のナンバーズよりつえーんじゃねぇか、お前」

「リボルバー……!」

「撃滅の……」

「シュート!」

「セカンドブリットォ!」

 

 カートリッジ3発と2枚目の羽根が激突する。

 

「く……!」

「きゃあっ!」

 

 2度目の激突。

 シオンは同じように壁へ、スバルも飛ばされるが転がりながら受け身を取ることに成功した。

 

「ち……」

「ギン姉を! 返せぇぇぇぇぇ!」

「く……抹殺の! ラストブリット!」

「IS! 振動破砕!」

「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

 3度目。

 高まった互いの加速と暴力は威力を逃がすことを許さず、押し合いの形に留まる。

 

「……ッ! マジか……!」

「カートリッジロード!」

「っ……!」

 

 追い討ちのカートリッジ。

 形では互角なもののスバルが押している状況に、シオンも想定以上なのか現状を受け止められない表情。

 シオンの肩は限界が来たのか、裂傷と共に血が飛んでいる。

 スバルは元々カートリッジの負荷にさえ耐えられないのか、全身とデバイスが軋みを上げ、自分の振動に負けるようにガタガタと震えている。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「な……っ⁉︎」

 

 押し合った威力をそのままにスバルの左上段蹴り。

 拳に全力を注いでいたシオンは回避など間に合うはずもなく、3度壁に沈む。

 

「はぁっ……はぁ……っ!」

「ぐ……っ」

「ギン姉……! ギン姉……!」

「っ……この気配……なのはか」

「スバル!」

「……シオン⁉︎」

 

 バインドで簀巻きになったギンガへよろけながらも近寄るスバルに、後を追って来たティアナとなのはが叫ぶ。

 

「……時間切れだ。スバル、面白かったぜ、お前。それなりに」

「……! 待て……ギン姉を……!」

 

 スバルの両足首をバインドし、何事もなかったかのようにギンガを抱えるシオン。

 その体は3度壁に埋まったとは思えないほどに無傷で、強いて言うなら舞っている土煙が気になる程度、というほどまでに回復していた。

 

「表……リインフォースとトーレ達、他は……はぁ……いらん事するな、アイツら」

「シオン! 待って!」

 

 目で外の状況を把握したのだろうシオンが移動しようとすると、なのはが止める。

 シオンはそれを受け、行動を中断。

 

「ん?」

「シオン! 私たちの味方ならギンガを解放して! ウタネちゃんも争いは望んでない!」

「あー、よく生きてたな。それは良かったよ。んー、お前らの味方、は少し違うな。だから貰ってく。スバル、お前はお前の勝ちだ、そのままでいい」

「敵じゃないなら! 目的を教えて! 今のままだと管理局はあなたをスカリエッティと同じに追うことになる!」

「目的、ねぇ……やっぱりオレ、分かりにくいか? 新人どもはともかく、お前なら理解できると思ってたんだが……姉さんも同じなのか? んなワケ無いと思うが。クロノには謝っといてくれ。もう少し待ってくれって」

「納得できないの!」

「しろ。まぁ、もう限界だ。じゃあな」

 

 敵意でも殺意でもない、ただ赤い視線を残しシオンとギンガは闇へ消えた。

 

「待って……シオン……」

「ギン姉……」

 

 なのはとスバル、二人の失ったもの、届かなかった自責の念は大きい。

 唯一、僅かではあるが客観的に状況を見られたティアナはより、シオンへの違和感とそれを見出すきっかけすら掴めなかった自責に駆られる。

 機動六課スターズ分隊、その戦力の大半がシオン一人に弄ばれた結果となった。

 

 ♢♢♢

 

 単身脱出したリインフォースは、焦燥に駆られていた。

 自身が脱出した瞬間に閉じた穴。自身を包囲しているガジェットはゆうに50を超え、穴を塞ぐガジェットが内部へ攻撃するかどうかはもはや祈るしかなかった。

 本部全体を覆うAMF結界は直死の線がびっしりと覆っており、解除は簡単と踏んだものの線を切っても反応が無い。

 ガジェット一つ一つが一定の範囲の結界を張っており、それがガジェットの総数……3桁ほど、空が辛うじて覗く程度の密度……が重なっているのなら、結界の線の数にも、反応が無いことにも納得できる。

 リインフォースが下した判断はやはり単身外に出ること。フォワード達の位置さえ掴めない現状、敵でも味方でも見えた方へ急ぐことにした。

 

「……アレか。迎撃部隊狩りだな」

 

 結界一枚を通るのに10は切ったガジェットの残骸を蹴り飛ばし、空に反応を見る。

 以前襲撃に来た戦闘機人の誰かだということが分かる。

 

「数は……二人か。幾分マシだ」

 

 敵の数は最低四機は確認されているため、半分近くなら十分だと判断、空へ飛ぶ。

 

「お前か。足は直ったのか?」

「……夜天の管制人格か」

「まず確認しておこう。君たちは何人いる? 戦力が高いのは? 管理局にとって最も危険度の高い場所は?」

「それを聞いてどうする」

「私が向かって処理する。以前の通りだ。お前では私に勝てん。撤退を勧めるが」

 

 リインフォースは当然、トーレが以前とは違う雰囲気を纏っていることに気付いていたが、挑発した方が情報が抜けると考えていた。

 

「みくびられたものだ」

「そっちは初めてだな、やってみるか?」

「夜天の書も持たず、二対一でも構わないと」

「うん、まぁ。もっと呼ぶなら待つが。できれば全員集めてくれ」

「IS、ライドインパルス!」

「っと。無駄だというのに」

 

 トーレの不意打ちの手刀も完璧に対処。

 感想を言う余裕さえあった。

 

「一筋縄ではいけませんね」

「ああ。私が使う。お前も援護しろ」

「了解」

「ん?」

IS'(プライム)、ライドインパルス!」

「んん⁉︎」

 

 リインフォースが無抵抗で攻撃を受ける。

 攻撃の威力こそ変わらないものの、それまでは認識できていた攻撃がリインフォースに捉えられなくなっている。

 

「……加速……の割にダメージはそこそこ……時間干渉、クロックアップか」

「流石、オリジナルを知るだけあるな」

「戦闘機人の肉体はそれにも対応できてしまったのか? シオンの能力をコピーでもしたか。させたのか?」

「言う必要は無いな」

「ふむ。だが……あー、管理世界だな……まぁいいか、フェイトが見ているなら多分。いいぞ、二人相手、フェイトが戦闘域外から視認、いいシチュエーションだ。はは、ピッタリだな」

 

 リインフォースも能力を選択。

 その選択に夜天の書は必要無く、夜天の力はそのままリインフォースと言える。

 

「このカード、知ってるか?」

「?」

 

 どこからか取り出したカードを親指と人差し指、中指で持って見せるリインフォース。

 バーコードのような模様と、絵柄が入ったカード。腰にはいつのまにかバックルというには大きい白の部品をつけたベルト。

 それを持っている人差し指でトントンと叩き、絵柄が自分に向くようにひっくり返す。

 

「変身」

《KAMENRIDE》

 

 カードをバックル部分に挿入すると全身を白と黒の装甲が多い、腰のベルトから赤の板が複数出現、回転しながら顔に刺さるような演出を終えて全体に赤の色彩が入る。

 

「仮面ライダーディケイド。知ってるかな。今回だけだ。私はもう破壊者などと呼ばれたくないからな。そして……」

《KAMENRIDE》

 

 再びベルトに別のカードを挿入、姿が変わる。

 

「仮面ライダー555。うん。とてもピッタリなシチュエーションだ」

 

 一人で納得しながら、さらにもう一枚。

 

「ごほん……よし、付き合ってやる。十秒間だけな」

《start up》

「セッテ、援護だけしろ。プライムの判断は任せる」

「了解しました」

 

 フェイトでさえ捉えられない光速の空戦が始まった。

 

 ♢♢♢

 

「ほーん」

 

 現状、動けるのが私とリインフォースだけ、という事を直感する。

 今まで立っていた機動六課のみんなは地に倒れ、他の局員は言わずもがな。

 建物にへばりつくガジェットの数は飴に群がるアリの如く。通信どころの騒ぎじゃないだろう。半壊してるし。ぶっちゃけ能力で無敵シェルターしてなければ私も死んでたかも。いや多分誰も死んでないんだけどね。

 リインフォースは空に、迎撃部隊を狩っていた奴らを止めに行った。こっちの援護には期待できない。ついでに夜天の書渡してない。

 ソラは「やっぱごめん! 見て見ぬフリはこの環境じゃムリ!」とか叫んで六課に走ってった。せめて転送魔法使おう? 使えないのかな? 

 

「うん……主要人物は魔法ごと封殺、外の警備はガジェットとあなた達……気が抜けたトコに畳み掛ける作戦はまんまと成功したワケだ」

「そうだ」

「ふーん……で、手が余ってるから私に五人も付けちゃったワケだ」

「元々ドクターの作戦だ」

 

 建物からそう離れてない場所。

 その前方にピッチリスーツの女の子たちが五人も。あらあら、あらあらあら。

 会話には戦闘の白髪に眼帯の子が応対してくれてる。話せる分マシかな。

 

「ふーん……で、君たちがエッチなスーツなのは私の欲情を煽ろうってのが目的なワケだ」

「ち……っ違う! これはまた別の目的があってだな……!」

「ふーん……まぁ、どうでもいいけど……はぁ……めんどー。なんでそんなことしちゃう? 予想と違うなー」

「予想?」

「管理局自体に手をつけても、まさか私にくるとわぁ、って感じ?」

「……ふざけているのか?」

「別に? だってアレでしょ、隊長クラスが出てきてもいいくらいの準備はしてるんでしょ?」

「当然だ。彼は我々が必要な能力を提供してくれた」

「イイカンジに利用できた?」

「そうなるな」

「ふーん。私の弟はそんな企みに利用されてしまう程度の器なのか……その程度の企みは無視してしまえる程の器なのか……」

「なに?」

「んーん。はぁ……まぁいいよ。気をつけてね」

「?」

「下……は面倒? みぎ……ひだり?」

「??? 何の話を……!」

 

 女の子たちを指差し、その周囲を順に示していく。

 女の子たちは私の指が示す先に注意を払って反応してくれる。可愛いなぁ、意味ないけど。

 多分なにかとやりやすい……

 

「上、かなぁ」

『ロードローラーだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 巨大な車輛は、私が上を決定してコンマを置かず出現、地面へ消滅していった。




能力解説(忘れてました)

シオン→・自慢の拳(シェルブリット)
    スクライド、カズマから。もっと輝け。
    ・ロードローラーだぁぁぁぁぁぁ!
    ジョジョの奇妙な冒険第3部、DIOから。7秒経過……

リインフォース→・カメンライド。
        仮面ライダーディケイドから。通りすがりの転生者だ。忘れてくれ!
        ・555
        仮面ライダー555
オルフェノク。あのダルさはウタネさん寄り。


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第84話 二人目 その③

「はーろ。どうしてくれんの。面倒起こしちゃってさ」

「んー、そもそも想定外なんだよな、色々と」

 

 上空から謎の重機を地面に叩きつけたシオンは、気が付けば音も無く私の隣に立っていた。

 

「例えばどんな?」

「まずこの状況。ミッションはギンガとスバル、ヴィヴィオを回収するだけ、って聞いてたんだが」

「あー、それでソラが六課戻ったんだ」

「ほー? アイツがそんな事するんだな。いつくらいだ?」

「ん、ついさっき走ってったよ。間に合うかな」

「無理だな。こっちの襲撃と同時の手筈だから走って迎撃となると80%はいる。絶対0%で行っただろ」

 

 女の子たちが態勢を立て直し、私たちを包囲するようにジリジリと広がる。

 一応鎌を出すと、同じタイミングでシオンが刀を出す。警戒には値しないんだろうけど、私のためかな。

 

「じゃー徒労かぁ……で? ギンガさんとスバルは?」

「ギンガは回収した。スバルはまぁ、本人の頑張りに免じてってトコだ」

「んー、その言い方は負けたかな?」

「負けてねぇ。そもそも能力で攻撃しきれねぇ。お前、なんかしたろ」

「うん? さぁ?」

「そうか。まぁいい。現状だよな」

「そーだね。他どうなってるかわかる?」

「なのはとオレンジはまだ中。出てきたりはしないと思う。ヴィータは空でゼストって奴とやってる。多分負ける。ザフィーラとシャマルは六課でオットーディードルーテシア。これも負ける。フェイトは……バインド? されてるな。リインフォースに。リインフォースはトーレとセッテ。他は全部本部内。今目の前いるのがチンク、ノーヴェ、ウェンディ、クアットロ、ディエチ。セインはウロチョロしてんな」

「なんて? 誰が誰? まぁいいけど……行動としてはどうすんの?」

「そうだな……こいつら回収して撤退、って形になるか」

「えー……こっち残らない?」

「どうも六課はオレを敵として見てるからなぁ……それに、お前が無関係なら会わずに帰るつもりだったんだぞ」

「やー、それは無理でしょー、だってあちらさん、私殺す気マンマンだよ?」

「そーなんだよな。ちゃんと言っといたのにな。アンリミテッドデザイアの頭脳も欲望には勝てんか。そりゃそうだ」

「なになに?」

「スカリエッティの異名っぽいやつ。無限の欲望。研究者たるもの好奇心旺盛に、だそうだ」

「だから勝算無くてもやっちゃった、って感じか」

「まーなぁ……オレより頭良いのは確実だしなぁ……で、どーするチンク。姉さんに手ぇ出すのは聞いてないぞ。ん?」

 

 まだ正面で動かない会話をしてくれてた女の子……チンクと言うらしい……はそれを受け、両手の指にクナイ? を挟んで構える。

 さてさて。協力者だったシオンにも問題無く敵対するのかな。

 

「ドクターの計画だ。この場で管理局を制圧し、フタガミウタネを始末する」

 

 制圧、って事は殺す気はあんまり無し。

 始末、って事は殺す気マンマン。

 ……なんで? 

 

「オレが最も許せん事だ。失敗したことにして帰れ。死ぬよりいいだろ」

「では言っておく。シオン。お前の能力の殆どに対応した我々だ。三人もいれば負けは無いという算出だ」

「はぁ……そんなバカか……」

 

 自信満々に能力を看破、対応したというチンクにシオンがため息をつく。

 攻略したって口ぶりの割に三人も使うとなると相当腕は買ってるみたいだけど。

 

「いいか? この『能力』に『殆ど』なんて概念は無いし、『対応する』なんて事ができるワケもねぇんだよ」

「お? そこまで言っちゃうってことは戻ってくる?」

「……んー……仕方ねぇか……? いやしかし……クソ、ギンガ渡してなきゃ戻って良かったんだが……まぁいい。被害はギンガだけだしな」

「どっちよ」

「仕方ねぇ、戻る。企みの半分が失敗ってことだしな」

「半分?」

「後で言う。忘れてなけりゃ」

「周りが問い詰めるでしょ」

「そりゃそうだ」

 

 現状から諦めが付いたのか素直に戻る気になってくれた様子。

 あとは現状の打開だけ。

 

「どーすんの?」

「ああ……って! 避けろ!」

「っ⁉︎」

 

 シオンが叫ぶ前に目の前に突然現れたクナイ。

 魔力放出で回避は試みるけど多分……間に合わない……! 

 

 ♢♢♢

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 必殺ぅぅぅ! 黄金衝撃(ゴールデン・スパーク)!」

「っ⁉︎」

 

 全力ダッシュから飛び上がりピッチリスーツの一人を殴り飛ばす。斧も雷も無いけどいいんだ! 気にするな! 誰殴ったんだ⁉︎オットーだ! ごめん! 

 

「くっそお。死んでないのか」

 

 六課、だったらしい場所は元の面影は無く、ただただ冬木を思わせる火災だけ。

 エリオくんとキャロちゃんも……倒れてるのが見えた。死んではなさそう。後回し。今はスーツ二人が問題だ。まぁ、双子なんだけど知らないフリ。

 

「君ら、死ぬか投降するか選ばせてあげる。誰か殺してんなら殺す」

 

 私がいる世界で殺しなんかしてみろ、殺すぞ。

 

「管理局……ですがもう終わりです」

「あん?」

 

 片方が殴り飛ばされたのに戦闘意思は見せず、撤退の準備までしてる。

 まぁ……二人と戦わなくていいならそれがいい。

 

「それでは。今回は私たちの勝利です」

「はぁ?」

 

 一発入れただけで撃退できてしまった。

 ガジェットが飛び交ってるけど今は攻撃してないし取り敢えず中の安否確認。

 

「やー、随分とやられてるねぇ」

 

 中とか言ってる場合じゃなかったよ。

 振り向いたらシャマルとザフィーラ、エリオとキャロが倒れてるじゃあありませんか。

 

「おーい、生きてるー? ごめんねー? せめて40%は出しとくんだったよー」

「……う……っ」

「んー、生きてるね。おっけー」

 

 流石に鍛えられたもんだ。

 まぁ重傷だけど死にはしなさそうだしほっとこ。問題はヴィヴィオなんだけど、さっきの撤退ぶりからしてもう連れてかれてるね。

 

「あああああああああ! 失敗したぁぁぁぁ!」

 

 戦わないで済んで良かったじゃねぇ! なに呑気してんだバカ! 

 ああああああああああああ! くそぉ! えっと! どうする⁉︎えーっとえーっと! 

 戻るか! 

 

「40%だ!」

 

 ♢♢♢

 

「はぁっ!」

「うん、実にいい! 単純な殴り合いという点もいいぞ!」

「く……コイツ……!」

「ほらほら、もっと来いよ。それでは子供たちは喜ばないぞ」

「何の話だ!」

「っと。いやなに、私の趣味だ……趣味ではないな?」

 

 空中、かつ超高速の中殴り合い、ブレードによる斬りつけ以外何もない格闘が5秒は行われていた。

 リインフォースが使用している能力は10秒が限度。

 ただでさえ負荷の多い連続の能力使用、その半分を遊びに使っていることになる。

 

「もう1人は……セッテと言ったかな? 使わないのか?」

「いらぬ心配だ。私だけで十分!」

「そうか? 守護騎士が落とされはしたもののなのはとフェイト、フォワードはそれぞれ動き、私達に至っては全員その気だぞ。シオンもお前たちに敵対するようだ。残念だったなぁ」

「ふん、元よりそれも想定内だ」

「いや、シオンの目的の方だ。うん、やっぱり私は理解できてなかったようだ。確かにそれは敵味方など言っている意味が無いな」

「……?」

「理解しなくていい。昨日までの私のように理解できないだろうからな。さて、タイムオーバーだ」

 

 リインフォースのベルトからカードが飛び出て消える。

 同時に加速も止まり、トーレの最後の一撃だけ受け距離を取るリインフォース。

 

「く……負荷も流石に……」

「どうした? 先ほどの偉そうな余裕は?」

「シオンの能力を得たのだろう? なら対等のはずだ」

「その苦しそうなお前を見てそういう人は少数だろう」

「ふふ……多分コレで最後だな。君たちは撤退する。だが私はそれを阻止できる」

「最後までするのか?」

「いいや。もう少し付き合ってもらおう。それで逃がしてやる」

「なに……?」

「ただでさえ法外なシオンの能力。違法の存在でもオリジナルと同じコピーが出来る訳なし。事実、クロックアップもリマジ版だな」

「リマジ……?」

「では採点だ」

 

 世界が止まる。

 生物は当然、物体、流体さえも動きを完全に停止する。

 

「ふむ。動けるのか。どうだ? 何秒動けそうだ?」

「……お前も、やはり同じ……!」

「ふむ……シオンと同じ3〜4秒くらいか。じゃあ次……」

 

 ナンバーズはその中でも問題なく活動する。しかし限界なのか4秒を数える寸前に動きが止まる。

 それを確認したリインフォースが九秒を待たず能力を切り替える。

 選んだのはキング・クリムゾン。世界の時間は消し飛び、リインフォースのみが世界を変える事ができる。

 リインフォースは二人の背後へ回り、攻撃動作をする事もなく十数秒を待った。

 

「……」

「うん。なんとなく、の範囲だが解ってはいるんだな。ふむふむ……何点がいい? 50はやる……まぁいいだろう。いいぞ、撤退で」

「……チンク達も撤退している。セッテ、撤退だ」

「はい。リインフォースと言いましたか。またお会いしましょう」

「ああ。その時はお前も能力を惜しまないことだ」

「それでは」

 

 二人が消えるのを確認するとリインフォースはふぅ、と息を吐き……そのまま落下する。

 

「リインフォース!」

「フェイトか。すまない」

 

 フェイトがソニックで抱え込む。

 

「なんで私を外したんですか!」

「ウタネがシオンの時に受けた命令だ。シオンには私が当たれと……そうでなければ勝ちは無いと。だから彼女たちにも少なからず危険を感じた。一応向こうに見えないようバインドしたつもりだったが」

「私にもすぐは分かりませんでした。まさかバリアジャケットの中なんて……」

「うん。なんかできた。エッチだろう?」

「呑気なこと言ってる場合ですか! 戻りますよ! ウタネと合流します!」

「うん、よろしく頼む」

 

 魔力装甲であるバリアジャケットの内部に魔法を侵入させる、という事は防御に関係なく生身を直接攻撃できるということであり、戦闘機人にも相応のダメージを見込める技術なのだが、リインフォースにその発想は無かった。

 

 ♢♢♢

 

「オレからやるべきだったと後悔するぞ」

 

 チンクの爆破で本部の外壁に飛ばされてた姉さん。

 爆破くらいで死ぬわけでもなし、心配はしてないが起き上がって来ないとこを見ると衝撃で気絶くらいはしてるか。

 

「危険分子の排除は当然」

「オレが敵対するとは思わなかったのか?」

「敵対しても些細な問題ということだ。夜天の管制人格もな」

「そーかよ。三人だったか、まぁいいが。お前ら十数人でオレ四人分と」

「そうだ。プライムに負荷は無い。対してお前は全て負荷がかかる」

 

 ……だから、オレが勝てないってか。

 コイツらだけじゃない、ナンバーズは全員楽観的上から目線。自分たちが一番強いと思ってる。

 

「ごめーん! 二人逃がしたぁぁぁぁぁ! ヴィヴィオも盗られたぁぁぁぁぁ!」

「チンク、お前らがもたもたするからバカが増えたじゃねぇか」

「うぉ⁉︎いっぱいいる⁉︎でシオン⁉︎」

 

 バカが叫びながら……見た感じ60%……走ってきた。

 

「喋るな煩い。逃がしたのはオットーとディードだな。ソラ、お前は姉さん拾って中の救助に回れ」

「え? こいつら潰すんじゃなくて?」

「潰すな。管理局に戻るにしても潰すのは困る」

「んーん……? まぁいいや。とりあえず収まるんだよね?」

「ああ」

「じゃーそれでいいよ! ばいばーい!」

 

 管理局が敵として見ていたオレの言葉をあっさり信用して走っていったソラ。

 オレ達はそんなもんなんだろうな。

 

「さて……」

「「「⁉︎」」」

 

 左目で万華鏡写輪眼……月詠を使用。

 ナンバーズ五人全員に幻術を見せる。内容は……能力の負荷の無いオレに四肢欠損するまで追われるもの。

 このくらいなら精神崩壊は起こさないだろうが戦意喪失くらいはするだろ。しなけりゃもう一度だ。

 

「どうだ? 退く気になったか? もう一回やるか?」

 

 いつまでも追われるとはいえ、現実世界では一瞬の出来事。

 十分に幻術を終え、その余韻に浸り終わっただろうタイミングで声をかける。

 幻術中、何故か時間が止まったり跳んだりしたが……リインフォースだろうな。

 

「……トーレたちも劣勢のようだ。ここは撤退する」

「それがいい」

 

 逃げるナンバーズを見送り、その後撤退していく小型ガジェット。

 この後は施設殲滅だが……オレが管理局戻るならそれも防いだ方がマシだな。

 

「リインフォース、オレだ」

『……シオンか』

「この後ガジェットによる殲滅作戦が行われる予定だ、動けるか?」

『私は無理だ。フェイトとなのは、ティアナがいける』

「ソラも動ける。オレ入れた五人でなんとかガジェット殲滅すんぞ」

『シオン⁉︎どういうつもり⁉︎エリオとキャロは⁉︎』

「知るかよ、どう動かした?」

『六課に戻らせ……あっ!』

「落ち着けよ、もう撤退した後だ。居場所バラしても追撃はしねぇよ。六課か。ソラが一人で戻ってきたから撃墜されただけで死んではいねぇよ」

『……』

「ともかく言った通りだ。大型のやつから潰していけ」

『わかった。なのは達には私が連絡する。シオンは後で拘束するからね!』

「おう」

 

 やっぱ……管理局ってガラじゃねぇなオレな。

 時間止めたり飛ばしたり……リインフォースも無理するな……

 さて……事を終わらせるかね。

 

 ♢♢♢

 

『ミッドチルダ地上の管理局員諸君……気に入ってくれたかい?』

 

 ナンバーズ撤退後、シオンとソラによって本部を覆っていたガジェットの半数が破壊された頃、本部にいた局員に向けてモニターが開かれた。

 紫の長髪に白衣を着て傲慢に振る舞う男。ジェイル・スカリエッティ。

 

『ささやかながらこれは私からのプレゼントだ』

 

 何一つ悪びれる事はなく、嬉々として演説を行うスカリエッティ。

 

『治安維持だの、ロストロギア規制だのと言った名目の元に圧迫され、正しい技術の進化を促進したにも関わらず、罪に問われた稀代の技術者達……今日のプレゼントはその恨みの一撃とでも思ってくれたまえ!』

 

 現在の管理局を全否定する言い分はシオンに近いものがあり、手を組んだのも分からなくもない言葉だった。

 

『しかし私もまた、人間を、命を愛する者だ。無駄な血を流さぬよう努力はしたよ……可能な限り無血に人道的に、忌むべき敵を一方的に制圧できる技術。それは十分に証明できたと思う』

 

 事実、重傷を負ったのは外で迎撃していた守護騎士とフォワード三名、六課に残っていたロングアーチスタッフの数名。

 本部ではAMFの高域多重展開により戦闘すらあまり起こっていない。

 

『今日はここまでにしておくとしよう。この素晴らしき力と技術が必要ならば、いつでも私宛に依頼をくれたまえ。格別の条件でお譲りする……ふふふははははは、はははははははははは!』

 

 勝ち誇るように高笑いするスカリエッティ。

 はやてを始め、局員の多くがそれを睨みつけ悔しさを表す。

 

「予言は……覆らなかった……」

「まだや……まだ機動六課とヴィーナスは死んでない」

 

 六課の頭、はやての心はまだ死んでいない。

 反撃の狼煙は、すぐに上げられた。




シオンがラスボスないし中ボス予定だったのに何故か六課に戻ろうとしてしまったので今後少し更新が途絶えるかもしれません。


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第85話 その翼

元々月2ペースのこの作品に遅くなるも何も無かった。


「……みんな、ごめんね。私がもっと早く動いてれば……」

「違う。アタシのせいだ。あんたが六課に戻るって言った時、すぐに行かせてれば、少なくとも、最悪の事態は防げた。それを止めたアタシの責任だ……」

「ヴィータちゃん……」

「違うよ。ヴィータちゃんのせいじゃない。私が躊躇ったせいだ。私が、抑止力だから……ちゃんと、みんなの力になりきれないから……」

「いいよ、あんたは十分やってくれた。おかげで六課も地上本部も……かなりのダメージだが致命的な部分は防ぐことができた」

 

病院の一室。ヴォルケンリッターの部屋。

本部内で閉じ込められていたシグナムを除いた三人はそれぞれが重傷。半日経った今でも全身に管を繋いだまま起き上がれないでいた。

……六課は、結果を見れば完全に敗北した。ギンガとヴィヴィオを攫われ、六課と地上本部の施設破壊による制圧。そして、ナンバーズとゼスト、ルーとアギトにも逃げられた。得たものは敵の戦力状況と、戻ると宣言して拘束されたシオンだけ。

 

「防げてないよ。ヴォルケンリッターがこんなになってるんだもん。守れたなんて、とても言えない」

「あんた……」

「どうしようもない。知ってたつもりだった。力になるつもりだった。最悪を防ぎ、最善に導くつもりだった。けど実際、事が起こればこれだ。役割に勝てない。私自身に負けちゃう……ごめん、ほんとにごめんなさい。いざって時に使えない、こんな私で」

「なんで謝ってんだ!ブッ飛ばすぞ!」

「っ⁉︎」

「あんたはアタシに一度は全力で警告した!動かなかったのはアタシだ!シャマルやザフィーラ、はやてを守ってくれたのもあんただ!シグナムが付いてたはやてはともかく、シャマルとザフィーラは死んでたかもしれねぇ!あんたが動いたから!こうして助かってんじゃねぇか!」

「そうよ。私たちじゃあの二人と召喚士には敵わなかった。六課の局員の安否確認もしてくれたんだし、十分過ぎるくらい動いてくれたわ。力になれないとか、使えないだなんて言わないで」

「……ごめんなさい」

 

自身の重傷をおして私を叱ってる。

こうなる結果を予感して、それを防げる力を持った私を肯定してる。

機動六課の半壊を予感して、それを防がなかった私を慰めてる。

……泣き叫びたいはずなのに。ヴォルケンリッターの誇りは、砕かれたはずなのに。それでもまだ、折れてない。地の底まで追い込まれて、戦力の差を知って、まだ這い上がる気でいる。私たちのレベルに自分が届かないと知っていながら、それでも足掻こうとしてる。

 

「なぁ、そう言うからには当然、次はやってくれんだろ」

「え……」

「ったく……知らねーのか。頼れるんなら、頼っていいんだろ」

「あ……」

 

それは、ウタネの言葉。

できないことはできない。それを認めて、素直に人と協力することを選択できる覚悟。

ウタネとシオン、二人でなら完璧だと自負する二人の共通認識から出た言葉。どんな状況で聞いたのか知らないけど、ウタネかシオンがそうしていいと認めたってこと。

それはつまり、私ならできると認めてくれてる。次こそ私は守れるんだと。

こんな非人道的な抑止力に頼ってくれてる。

そう。私は抑止力だ。カルデアの人じゃない。人類最後のマスターじゃない。この世界に喚ばれた抑止力なんだ。

だから……今いるこの世界の在り方は……護らなきゃ。

 

♢♢♢

 

「なのはさん」

「ん?」

「シグナム副隊長が現場を代わってくださって。少し病院に行ってきます」

「うん。フェイト隊長やソラちゃんもいるはずだから」

「はい……」

 

何事も無く復旧作業をするなのはに、ティアナはつい泣きそうになる。

 

「心配?」

「はい。スバルは多分、そんな深い怪我ではないと思うんですが、他のみんなは……」

「リインフォースさんもシャマル先生も完全にダウンしてるからね……すぐに回復、なんてのができないから……しばらくはどうなるかわからないね」

「そうですよね……すみません……」

「ティアナだって心配でしょ。行ってあげて」

「っ、なのはさんの方が……あ……すみません……」

 

自分が出る前に全てが終わり、守ると決めたヴィヴィオも拐われた。

それを必死に隠しているだろうなのはに、少しでもきっかけを与えれば壊れてしまう……それが、ティアナの認識だった。

 

「いいよ。私は大丈夫。ヴィヴィオのことだよね」

「え……」

 

しかし、それはただ自分を投影していただけ。

崩れかけていたのは自分で、自分から逃げて人を心配するフリをしていただけ。

だが、心配していた上司は、未熟な自分より遥かに強かった。

 

「フェイトちゃんもはやてちゃんもいる。ウタネちゃんも力を貸してくれる。昔、はやてちゃんがウタネちゃんに言われたらしいんだ。頼れる人がいるなら、頼っていいんだって」

「え……」

「私たちは絶対に一人じゃない。大丈夫、もう二度と負けたりしない。何度だって立ち上がって、相手の勝利を奪い取ってでも勝つ。だから、今はゆっくり休んでて。泣いてもいい、叫んでもいい。けどそれは、次勝つための燃料として、起爆剤として。私たち機動六課は、まだこれからだから!」

「……はい!」

 

一人じゃない。抱え込むことは無い。

頼れる仲間、頼れる上司がいる。以前のように一人で無茶をする必要は何一つ無い。

機動六課のフォワードとして、できることをする。できないことは頼る。そうすれば、必ず先に進めるはずだから。

 

♢♢♢

 

「これより、機動六課部隊長及び後見人による緊急臨時特別外部簡易審問を開始します」

「長すぎんだろソレ。臨時査問じゃダメなのか」

 

椅子の後ろに体重をかけゆらゆらしながらため息をつくシオン。椅子の脚に足首縛られてるのに余裕だね。

ってか難しいの嫌いなんだども。私要らなくない?

 

「何言うてん、査問できへんから審問してんやんか」

「そーかよ。別に何もしてねぇんだけど。戻って早々コレかよ」

「重大犯罪や!」

 

シオンの対面に座る八神さんがキレる。

……なんか懐かしいな、この感じ。

場所は聖王協会、ってとこのお偉いさんのお部屋。

丸いテーブル?机?で八神さんの右に黒いの、左に金髪のお偉いさんらしい人。シオンの左に私。席は六つだから私の隣にクロノがくる。

カーテン?暗幕?で真っ暗な部屋にライトで明るくなってる。外に見えないようにするためかな。

 

「だからなんだよ。誰も殺してねぇ」

「そーゆー問題やないんわかってるやろ!」

「まーな。いいぞ、答えてやる」

「なんや、やけに素直やな?」

「別に。管理局に敵対する気は無かったしな」

「はぁ?」

「なんだよ」

「完全に矛盾しとらん?」

「どこが」

「犯罪組織と手ぇ組むんは敵対行為やで?施設破壊ゆーても」

「ん……そりゃそうだな。じゃ敵対でいいや。その辺はどうでもいい。施設破壊は単に人的被害以外で出動を減らすのに最適だったからな」

 

このどうでもいいはホントにどうでもいい感じのどうでもいいだ。死刑なら絞殺か銃殺かのどうでもいいじゃなくて500年前に雨が何滴降ったかくらいのどうでもいい。

 

「シオン。じゃあ単刀直入に聞く。お前は何が目的だ?」

「オレの目的は今も昔もただ一つ。お前らなら分かるかと思ってその辺も放っておいたんだが……なのはの口ぶりからして分かってねぇんだよな」

「……信用してくれていたならすまない」

「いい。自分から話したくなかっただけだ」

「今も話す気はないか?」

「いや、話す。目的だけ言えば姉さんの安全と、お前らの戦力強化だ」

「何……?僕たちに分かるように説明してくれ。全く結びつかない」

「結び付けろよ。まず、スカリエッティの研究は?」

「戦闘機人の開発、それをもとに管理局システムの崩壊だろ」

「そう。戦闘機人は量産こそ難しいもののかなり安定した戦力を確保できる。魔力すら使わないIS付きだ。それにオレの能力を多少追加すればオーバーSなんてあっという間に出来上がりだ。それをなのはの下に置きたかった」

「なのはちゃんに……?」

「なのはが墜ちたのは、オレの責任だ。そういう性格だからとハードワークを放っておいた。オレの背中を任せていい、そう思えるほどの戦力だからと援護を止め、オレの管理下から外した。その結果、スカリエッティの不意打ちだ。オレが少しでも過労を止めるか、ずっと援護してればあんな事にはならなかった」

 

意外だ。シオンが背中を任せていいなんて……まぁ多分、そういう信頼の話で実際にはそんなことしないんだろうけども。

 

「それで、なんで戦闘機人や」

「あれだけの戦力だ、お前らの部下として管理下に置けば休息時間も取れる、業務代行だって十分可能だ。管理局的にどうかは知らんが、その気ならオレが半永久的に活動させることもできた。それができれば姉さんの周りにいるお前らの負担や危険はかなり抑えられるはずだった。管理局にもスポンサーがいたようだが……まぁ、あのスカリエッティ(バカ)の欲求のせいでこんな事にはなっちまったが」

「そういう事か……ではシオン、それは、本当か?」

「本当だ。オレの目的はただ一つ。それらの結果から、こうやって姉さんが現場に駆り出されることを無くすためだ」

「……そうか。僕の予想は半ば正解という事だ」

 

クロノが納得した、と引き下がる。

やっぱり私のためか。でも半分くらいなのはが墜ちたのが理由っぽいね。以外と義理堅いとこあるから、自分のミスは返したかったのかな。

それを見てシオンは黄金の揺らめきから巷で人気のスト〇ング系缶チューハイを取り出し、グッと一口。

ピーチ味か。私はグレープフルーツがいいなぁ。

 

「っておい!何飲んでるんだ!」

「ん?ストゼ〇」

「ここがどこか……!以前にお前まだ未成年だろ!」

「……あれ、そうだったか。はやて、お前何才?」

「19やで……」

「……飲めないのか。まぁ許せよ」

「許すか!おい!飲むのをやめろ!」

 

……この世界だとハタチ超えてないの、今考えても割と魅力的じゃないかな。転生に初めて感動したかも。

私はあんまり飲まないけどそこそこ強い。シオンが飲んでるやつだと6缶……3リットルくらいなら運転できるくらい。飲酒運転なんてしないけど。

で、シオンはよく飲むクセに弱い。大体2缶でイイカンジだ。同じ体だったはずなのになんで差が出るんだろ。利き手も違うし。利き目と足は一緒だったかな。左目と右足。まぁ私は右目見えないから利きも何も無いんだけども。

 

「だいたいどこで入手した⁉︎お前の見た目だと年齢確認されるだろ!」

「そうなのか?姉さんそっくりの女顔だし女ってそんな身長高くなくてもされないイメージなんだが。まぁ酒はスカリエッティから。どこかは聞いてないがスポンサーからたまに贈られるらしくてな。飲まねぇらしいから貰った」

「……スポンサー、ね。君なら能力で抜けた情報じゃないのか?」

「言ったろ、オレはアイツらを引き込む気でいたんだ、そーゆーのはしねぇ。オレは奴らの望み、戦闘機人システムの強化をしてやった。奴らはオレの望み、管理局特別部隊……まぁ、ヴィーナスみたいなもんとして動く……はずだった。言ってて悲しくなるな、犯罪に加担しただけじゃねぇか」

「だからそう言ってるのに……ったく。君はこれからヴィーナスとしてスカリエッティを追う、それでいいんだな」

「ああ。アイツらはもうオレの干渉を受けてる。ソラの対象にも入るはずだ。スカリエッティだしな、ヴィーナス全員で行く」

「へぇ」

「まーお酒はどーかと思うけど、大体分かったで。シオンはなのはちゃんの撃墜を自分の責任とし、自身の代替戦力として戦闘機人の導入を検討、スカリエッティと協力し製作していたもののスカリエッティの独断で現在に至る、と。まぁええやろ。言われてみればシオンらしいわ」

「お前ら三バカ救うの結構疲れんだぞ。で、終わりか?」

「まだや」

「なんだよ」

「あんな、シオンの能力、もう一回教えてくれへん?」

「……なんで?」

「リインフォースから提言があってん。自分の能力とシオンのオリジナルは別物だ、って」

「あー」

 

そういえば聞いた。というかそれよりもっと気になってたことあった気がする。忘れたけども。なんだっけね。

 

「まぁ、別モンだ。ついでに言うなら能力のオリジナルってんならアインスの方がオリジナルになる」

「は?」

「めんどくせぇから説明はしねぇ。けどそう差があるわけじゃない。オレも同じだと勘違いしてたくらいだからな」

「ダメや。説明して」

「しねぇよ。せいぜい能力規模に差があるだけだ。止められる時間とか、発動条件とか」

 

止めるのはリインフォースの方が長かったっけ。違う、シオンの方が短いのか。

他の能力は実際そんな見たことないし分かんない。宝具とかどうなんだろ。ソラみたいに武具無くても真名解放できる感じかな。ソラなんだかんだとんでもない事してるね。

 

「他は?」

「……アルターに物質を必要とするしない、とか」

「他」

「……仮面ライダーがリマジ寄りかオリジナルか」

 

ちょっと酔ってるかな。流され放題じゃない?

 

「他」

「いい加減にしろ。月詠すんぞ」

「なんやそれ」

「眼。万華鏡写輪眼の一つ。幻術だ。時間も空間も物質もその中なら自在」

「なにするん?」

「何がいい?ナンバーズ五人にはダルマになるまで能力負荷の無いオレに追われる鬼ごっこをしたが、その程度なら造作も無いぞ」

「怖すぎ」

「なぁシオン」

「ん?」

「僕に見せたそれとは違うのか?リインフォースは写輪眼と言っていたが」

「ああ、写輪眼の上位版みたいなもんだ。アインスの目的はコレが一番近い。だから止めさせた」

「何故?」

「お前らの危惧してた全生命の根絶ってやつに間接的?に繋がるからだよ。まぁ、アインスは能力を辿れるから写輪眼を使った時点でそれに行き着いてるだろうがな」

「なら何故使う前に言わなかった!」

「使う前に止めれるもんかよ。思考操作は倫理的に大丈夫か?」

「行動が一貫しない奴だな!どうしたいんだ!」

「一貫してるさ。オレはずっとな。してねぇのはお前らだぞ、管理局」

「⁉︎」

「オレは姉さんのため、その一点で一貫してる。お前らはどうだ?組織というからには、目的があるんだろう?それも無いか?」

「そのセリフ……いいだろう、管理局は正義と平和のための組織だ」

「だよな。はやてもそうだろ?」

「そのつもりや」

「な?一貫してねぇだろ」

「え⁉︎なんでや⁉︎」

 

なんで急に一貫性の話になったんだろ。万華鏡あたりからもう聞いてない。まいいけども。

クエスチョンマークを浮かべる八神さんとクロノ、もう殆どが理解できてなさそうなお偉いさん、ずっと気になってるけど今日から送り迎え聞くタイミングなたさ真鎌が無い右目縫い付けてるシオン。なんだその目。何してんのマジで。私と区別する為だけにそれしてんの?いやほんと別人感すごいんだども。

 

「正義、平和。それだけなら簡単だが、実際どのような?」

 

シオンが難しそうなことを問う。もう私はついていくの面倒だから放棄する。

やっぱ意味ありそうだからちょっとだけ。

正義ってのは正しい行いの概念かな。管理局の行いは私のいた日本の警察、司法とほぼ同じだから、まぁ多分国際的?に広く認知されてるんだよね。ミッドとベルカくらいしか私地名知らないんだけども。まぁそれは多分良いこと?としとこう。で、平和。平和って今思うとなんだろうね。個人の思う過ごしやすい世界……?何言ってんの?

 

「正義は報復的。平和はそのまま、争いの無い世界のことだ」

「そうだな。管理局のやってることはそれだ。なら早速問題がある」

「なんだ?」

「争いを無くすと言っておきながら何故、魔法による戦闘訓練を行う?」

「何?犯罪者を取り締まるため……ではダメなのか?」

「いいや。それは正義に必要だろう。捕らえ、罪を定め、罰が課される」

「では何が?」

「争いを無くそうというのに自分たちから争いをふっかけるのはどうなんだ?一貫しないどころか矛盾すらしてないか?」

「こちらが先手を取らなければならない状況は多々あることだ!ジュエルシード、闇の書もそうだ!こちらから先を取りに行かなければ事態は悪化するばかりだ!」

「なら、勝利などくれてやればいい」

「……は?」

 

クロノの気が抜ける。

八神さんも同様だ。それほどまでに想定外の返答。

目的……平和のために、負けろと言う。

 

「管理局のそれは、正義を振りかざし犯罪と決め付けたことをする者たちを理不尽に扱っているだけだ。スカリエッティの演説は聞いたか?正しい技術の促進を促したんだ。強過ぎるというだけで管理局が勝手に規制した技術をな。キャロの集落とどう違う?」

「世界がどうなってもいいと言うのか」

「そのどうなっても、はお前らから見たどうなっても、だろ?お前らは今、最も支持者の多い平和の価値であるに過ぎない。争いで争いを無くすのは不可能だ。なら、全てくれてやれ。真に平和を目指すなら、お前らが生き残ろうなどと考えるな。犯罪者とされる奴らに全面的に戦争ふっかけてんのはお前らなんだぞ。お前らがいなければ犯罪は進むだろうが争いは確実に減る。ま、そうなったら一般人の被害は増えるだろうが……なに、最終的には優秀な犯罪組織のみが生き残るさ」

「……お前はそうだったな。シオン。だが一方からしか見てない破綻した理論には乗れないな。僕は法の番人として管理局にいる。罪の無い一般人を危険に曝す犯罪はどうあっても見過ごせない」

「そうかよ。変わってなくて結構だ。じゃあさっきの答えだ。アインスが能力を知ることも想定して止めさせた。あくまで使ったらの能力だ。知った上で使うかどうするかはアイツに任せるつもりだった」

「知れば、使いたくなるのが人情だ」

「知らずに使えば失敗するのが力だ。お前は性教育を受けてない子供が妊娠したら子供を責めるのか?」

「……」

「知った上で、理解した上で、結果を考察し想定した上でするしないを決める。それができない奴をバカと呼ぶ。さっきのどうでもいい思いつき平和論と比べてどうだ。何か間違いがあるか?」

「……ない。確かにその通りだ。そもそも、ヴィーナス……VNAが同レベルの力を持つならそんな心配自体無駄だ」

 

つまりなんだ……負けろってのはどうでもいい話?

クロノと八神さんは理解した、とばかりに気を抜くけど私とお偉いさんはもう何がなんだかさっぱりパリパリ。

シオンはなんでそう情報がポンポン出てくるのかな?お酒はもう出ないのかな?

 

「ねぇ、私からいい?」

「なんだ?」

「シオンってさ、ずっとリインフォースをアインスって呼んでるよね」

「ん?あぁ……」

「その、私が言うのもなんだけどソレって大丈夫なの……?」

「ソレもな、今日から問題無くなる」

「はぇ?」

「リイン、来い」

『はいですぅ!』

「「「……は?」」」

 

シオンが空中に血で描いた謎の術式……がポン、と煙を上げ、そこに……妖精がいた。

転移魔法とも違うけど……いやぁ、へぇあ?

 

「コイツが二代目祝福の風、リインフォース・ツヴァイだ。まぁなんだ、オレの融合機ってとこだな」

「ですぅ!」

 

シオンの肩に座り笑顔で両手を上げてですぅと叫ぶ妖精。コレ……?や、たしかに性能は聞いてたよ?氷属性なんでしょ?でもさ?リインフォース……アインス?がアレだからこう、人間サイズだと思うじゃん!

 

「なんやそれ、なんやソレェ!何サラッと二代目ェ⁉︎ついに夜天の書の貸し出し終わりかぁ⁉︎」

「んな事するかよ。したら姉さんの活動が増えるだろ。姉さんが見たそうな顔してたの思い出してな。実用半分、趣味半分ってとこだ。まぁ、ユニゾン適性はオレしか調整してないんだが、まぁオレに近い姉さんと夜天繋がりの八神家はちょっと調整したらできるようになるだろ。ぶっちゃけ氷主体と能力調整なんだが能力使いこなせるようになったし要らんのだよな。だからなんだ……マスコット?」

「です?」

「……はぁ、もう言葉も無い。シオンの腹の中を暴くつもりが、こちらの理解を大きく超えてくるとは……」

「まぁいいじゃねぇか。オレより頭良いんだから」

「完敗した気分だが」

「そーゆー事にしといてやる。じゃあ今度こそいいな。六課の治療に向かう。アインスからな」

「あ、あぁ……頼む」

「私もええけど……カリムは……カリム?生きとる?」

「あ……はぇ……」

「ごめんシオン、カリムから直してくれんかな」

「予知のだったか。いるかぁ?まぁ……一応……何をどう直すんだ?とりあえず万能治癒はかけとくが……変わらんぞ……」

「じゃあええわ。ウタネちゃん、シオンよろしゅうな」

「ん……じゃ行こっか。りい……ツヴァイも来る?」

「ああ」

「ですぅ!」

 

金髪のお偉いさんは結局最後まで言葉を話す事なく出番を終えた。

で、その金髪の付き人らしいオカッパの人に病院まで送ってもらった。

シオンは「別に転移くらいできるが」とか言ってたけどなんか勝手にやるのは法に触れるらしい。難しいね。

 

「ん……シオン、か」

「よう。まさかやられたわけでもあるまい。戦力分析にしてはやり過ぎだな」

「それもあったが……楽しくなりすぎたな」

「……そうか。まぁいい、事態が事態だ。治すぞ」

「ん……」

「ストーップ!」

「おう」

 

まず第一目的、治療者を増やす目的でリインフォース……アインスに触れようとしたシオンをソラが止める。いつからいたの?あ、ずっと病院いたの。じゃなくて、いつ入ってきたの?あ、今……あっそう。

 

「なんだよ。そうゆっくりする時間は無いぞ」

「ダメ。この世界を護るって決めたの。させないよ」

 

ソラも抑止として動き始めちゃったかー……

まぁ私たちの存在自体正しくないし、仕方ないかなぁ……

 

「コイツはもうオレ達なワケだが。それでも?」

「……だめ」

「……じゃあオレがやるんじゃなく、コイツ自身がやるのは?」

「む……ん……それは……セーフ、かな」

「じゃあそれだ。方法教えるからお前は出てけ。姉さんも頼む」

 

流石に自分の能力は止められないのか、何か言いたそうにしながらも引き下がる。

 

「ま、無理しないでね。行くよソラ」

 

私は別にやめさせる必要はないからソラを引っ張って外に出る。

シオンの能力負荷を考えるとあんまり使って欲しくない気持ちはあるけど。

ってかアインス倒れてるの能力の負荷なんだよね?治癒魔法とか効かないんじゃなかったの……?だから昔から困ってたわけだし。使いこなしたってのは効くようになったのかな?




シオンが出てくると何故か長くなるのでここで切ります。無印の頃の倍以上が当たり前になってる。


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第86話 その翼 その②

あらすじの注意書き?みたいなの変更しました。
ネットの海に沈んでる個人作品なので、何したって良いじゃないという感じ。もちろん原作や原作者には敬意を払ってます。嫌い(?)な作品は使いませんので。にわか感はあるかもですけど。


「ははは! 不死身! 不老不死! 究極生命体! 弱点などない!」

「……」

「……まぁ、元気になってなによりや」

「です?」

 

 しばらく病室の外で待ってると、八神さんも結局来たしリインフォース……アインスはなんかハイテンションで出てくるし。

 ツヴァイはツヴァイで雑多に放り込まれた子供みたいになってる。実際どうなのかな、製造? って言っていいのかな? 倫理的に? まぁ私はもう人のくくりじゃないから気にせず製造年数って言うけども。実際嘱託離脱後から作ったとすると五年だよね。じゃあ子供だ。あ、子供も子どもって言えって風潮あるよね、私は気にしないけども。

 

「シオン。説明。三行で」

「能力の使い方をレクチャーしたら、無敵系能力が連鎖発動して、負けフラグのラスボスになったった」

「……強くなったの? 弱くなった?」

「スペックは上がったが主人公に負けやすくなった」

「……それ、良いの? 悪いの?」

「悪いな。スカリエッティはドラ○エだと向こうから見れば一応勇者ポジだから主人公って解釈も入らん事はないから」

 

 ド◯クエって何? 

 八神さんとソラはへーって顔してるけど……

 解釈的には主人公補正も入るってことか。まぁ、家庭事情から犯罪に行く人のアセスメントとかしてるとまぁ悲劇の主人公感あるなぁって思った事もあるけども。

 

「ダメじゃん」

「だから悪いんだよ。ま、対スカリエッティには切り札もあるしあんま心配すんな。問題はナンバーズと……オレが調子乗って量産したガジェットだ」

「量産? どのくらい?」

「ざっと……10万だ」

「「「⁉︎」」」

 

 想像以上だった。

 ソラもため息吐くくらい。

 

「あ、ちなみに全種それぞれ10万だからな」

 

 余計悪い。

 3型まであったっけ。つまり30万? 全部AMF? 対応できる局員が何人いると思ってるの? 管理局の中の部隊の中で魔導師の中で。

 

「こっち何人だと思ってるの?」

「ん? さぁ? 3バカとヴォルケン、フォワード、他局員だろ。あとオレ達」

「一人当たり何機やればいいの?」

「……他局員を数えないなら一人一万。AMF訓練積んで無いだろうからまぁほぼそうなるな」

「……八神さん、シオン吊るそう。殺したら復活するから瀕死のまま封印するんだ」

「今シオンやっても10万は変わらんで?」

「む……」

「それに一応やけどヴィータとシグナムが108部隊の教導してるから多少はやれると思うで」

「まぁ……アインスをガジェット殲滅に回すから大丈夫だろ」

 

 ガジェット戦、私あんま関わって無いけどロボライダーの時確か20くらいでフォワード足止めくらってなかったかな。私投げつけられた時。

 ってことはほぼほぼガジェットだけで封殺されるね。私達が出張ればいいんだけども。

 

「ま、とりあえずアインスの能力だな。キングストーンを中心にエゲツねぇのがいくつか体内に残ったままになってる。残ってるったって発動はしてない。ただ概念的に消えないままってだけだ。使うには二つまでの枠を割かなきゃならんが、これを……どうする?」

 

 シオンにしては珍しく物事を決められない、決めかねるといった雰囲気。

 キングストーン。昔のディバインバスターレベルの砲撃を難無く受け切り、幻術を無力化し地中すら難無く追い続けるというとんでもないモノ……私の能力でもできるなそれ。じゃあ平均的だ。私達的にはね。

 

「決めてへんのかいな」

「キングストーンとかスタンドとか、そいつ個人しか持てないもんを多用し過ぎたな。スタンドやアルターは使わない限りでてきやしないがキングストーンはずっとあるぞ」

「じゃ、やっぱりそれがあの変な言動の原因で間違いないと」

「オレはそれは知らんが、まぁそうだろうな。キングストーンはまぁ、悪いもんじゃねぇし抜いたら死ぬからどうしようもないが」

「なんでそんなもん……」

「能力で辿った能力を使いまくったんだろ。特に負荷の大きいものを」

「……? リイン! あれだけ負荷大きいのはダメやって!」

「はやて。ソイツを責めるな。やらせたのはオレだ」

「え……」

「そういう命令だ。『管理局員の命を最優先に行動しろ』……まぁ、ある種の洗脳だ。だからこそお前らはオレが向こうにいる間襲撃受けた時も変に急いだり徹底的に追い続けようとしたんだ」

 

 おっ、そんな話してないが? いつ知った? 見てた? 

 ん、あ、心読んだ……あ、そう。わざわざ私にアイコンタクトしなくても普通に言えば良いのに……

 

「いつの間に……」

「オレが向こう行く時。夜天の書のリンクからちょっとな」

「ふーん。あ、じゃあもういっこ。それ。いつどこで向こう……スカリエッティとコンタクト取ったん?」

「向こうから。確か説明旅行の晩。その時はセインが来ただけでスカリエッティの名前も出なかったからな」

「で、なんでそれ言わんかったん?」

「言えばお前らは確実に死んでいた。能力を使いこなせていなかったオレだとアイツら相手は厳しかった。使いこなせてなかったから闇の書に蒐集させて使い方まで探ろうとしてたんだからな」

「ふーん? 闇の書のことは分からへんけど、そーなんや」

「もういいか? 他も治しに行きたいんだが」

「あ、ええよ。ごめんな、お願いや」

「ダメだって⁉︎」

「なんやソラちゃん。急に」

「急じゃないよ⁉︎私の象名(しょうめい)は抑止! シオン! 私達が余計に干渉しないの!」

 

 ソラさんや、アインスはともかく八神さんおるんや、私達の話してもいいの? 

 因みに象名ってのは私達それぞれが持つ本質みたいなの。冠位みたいなもんだよ。多分。

 

「……そういう話はすんな。でもまぁ、それもそうだ。だからはやて」

「ん?」

「機動六課はオレ達に任せてみないか。全員が回復するまで奴らの襲撃があれば守る」

「お、おぉ……いけめ……頼もしいやん」

 

 そう言えばイケメンって言って殺されかけてた気も……八神さんも学習はするんだね。

 

「ま、アリサとの約束も破ったからな。多少誠実にはなる」

「お? なんやシオン、アリサちゃん気になっとん?」

「なってねぇ。対価は払ってもらったんだ、依頼なら遂行する」

 

 対価って……お嬢様二人やっちゃった事かな。

 そーいえばあの時誰かが死んだら許さないとか言ったかな。なのはが墜ちた時は最悪を想定して戦闘機人化して存命させる気だった……? いや、ナイナイ。

 そんなことするくらいならリインフォ……アインスがいる。死ぬ前に治療するくらいできるはずだ。

 んー、じゃあ対価はこっち側じゃなくてスカリエッティ側か。とすると? わからん。

 

「じゃあソラ、治療ナシで見舞いはどうだ? オレ知らねぇ奴いるかもだしよ、顔合わせくらいの感じで」

「ん、それは全然良いよ!」

「姉さんはどうする? もう帰るか?」

「んー、私も行こっかな。行くだけだけど」

 

 なーんかシオンに不自然があるんだよね。不自然があるって日本語はおかしいけども。言動とか思想、思考とかに特定できない感じの違和感、あ、違和感があるで良かったね。ま、日本人は識字率2割って言われてるから多少ミスがあっても大丈夫でしょう。ミッド人やベルカ人は知らない。

 違和感を私だけで捉えるべくお見舞いについて行くこと五部屋。ロングアーチスタッフのほとんどはシオンは私の演技だった風に捉えててシオンが実在した事実に何人かは白目剥いてた。

 

「ん、ヴォルケン?」

「うん、シグナム以外はまだ寝たきりなんだ」

「まぁ……ヴィータ単独でゼストには勝てんわな」

「単独?」

「あ? お前現場で活動してたのに知らねぇのか。ヴィータが単独で撃退に飛んだの」

「うん……私は襲撃の初撃だけ防いで六課戻っちゃったから」

 

 んー、昨日の事について話すと違和感強くなるな。

 カンの話だから何がどうとか分かんないし危険じゃないって感じだから放っておいて良いと思うんだけど。

 

「入るぞー」

「ちょっ⁉︎」

 

 平然と扉を開けるシオンにソラが驚く。

 取り敢えず私とシオン、ソラだけが部屋に入り、八神さんとアインスは外で待機。

 

「……お前、シオンか」

「おう、久しぶりだな、ザフィーラ」

 

 全身くまなく……って程でもないけど謎の管が複数繋げられた、いわゆるテンプレの重傷って感じの守護騎士達。シグナムだけなんか免れたらしいね。

 

「てめぇ……! ノコノコと……!」

「相変わらずか、ヴィータ」

「えっと……和解したってことでいいのかな?」

「シャマルはまだマシだな。元々オレは姉さんのために動いてた、ってことでクロノには納得してもらった」

「信じられると思ってんのか、って言いてぇけど、はやてとウタネがいいなら良いよ。アンタは信用する」

「そりゃどうも。で、どうだ。治癒にはどのくらいかかりそうだ?」

「……他の局員と一緒よ。私たちは夜天の書からは切り離された独立システムになってるから、闇の書の時みたいには」

 

 闇の書を完全に消し去るつもりでいたアインスはあの時点で守護騎士を切り離し、この世に残そうとした。そのアインスが以前より不死身になった今、守護騎士はなんか、こう……言葉にできないような? 残念さが感じられる。生き残るなら繋いだままで回復も早く転生もできる……で良かったのに。

 

「ま、だろうな。だから、三つ選択肢をやる。シグナムも呼べるか?」

「え? ええ、聞いてみるわ」

 

 シャマルが念話を飛ばし、少し時間があれば行ける、と言うことので来るまでの間はツヴァイの紹介とか。アインスのキングストーンについてとか。

 

「ツヴァイちゃん? リインフォースの妹なのね〜可愛い」

「ですぅ!」

「アタシら炎系だからなー、いいバランスだな」

「です!」

「まぁ、まだお前らはユニゾンできねぇからな。事件終われば調整してやる」

「ですー」

「で、リインフォースのキングストーンとは何なのだ?」

「ああ、仮面ライダーBLACK……ってもわからんか。お前らが見た黄色と青だよ」

「それは映像で確認したが」

「アレの元な、黒いバッタなんだが、体内に特別な石が埋め込まれてんだよ。二つあって二人いる。それを殺し合わせる風習なんだが、五万年周期という時間があるから唯一の存在としてあるんだ」

「ご、五万年⁉︎」

「闇の書より昔だぞ⁉︎」

「そう。だから本来ならオレの能力でも苦心するんだが……まぁ、唯一の存在だとか蓄積だとか超長い存在時間とかいった要素が噛み合ったんだろうな。オレだと使ったら一週間は寝込むな」

「大丈夫なの? リインフォースだって辛いんじゃ……」

「あ? アレ見てんな事言えるかよ」

「アレって……」

 

 シオンが顎で示したのは部屋の外。ソラが開けると管理局内で一番じゃないかと疑うくらい元気なアインスと少し疲れた様子の八神さん。

 

「……どうしたんだ?」

「さぁな。オレが能力の負荷の解決法を教えたらこうなった。なんか間違ったと思うがまぁ多分問題無い」

「私が何故最強無敵艦隊であるかだがな、私は割と万全の状態ならシオンの能力無しでも無敵な感じではあるんだが、まぁ色々と……」

「アインス……大丈夫? 酔ってる?」

「お? 飲むか?」

「む……いい。そうだな、万能感に溺れるのは中二までだからな。現実を見るとしよう。まぁ、見た結果の万能感なんだけどな」

「私は貰う。グレープフルーツある?」

「ん、4%と9%どっちがいい? 9だな」

「うん9……聞く気無かったでしょ」

「いや一応。体質変わってるかもしれんし」

「あ、そっか。まぁその時は治して」

「おう」

 

 某メーカーの某ストロングのグレープフルーツ500mlを受け取り、軽く一口。

 うん、まぁいつもの感じ。そーいえば久しく飲んでないんだよねぇ、つまり生前は依存症じゃなかったわけだ。よく分かんないけどね。

 

「ちょお! ウタネちゃんも飲むんかいな⁉︎」

「んー、そうだね。まぁジュース感覚だし」

「9%やん⁉︎それキツいヤツやろ⁉︎」

「そうでもないよ? フレーバーの味と香りの後にちょっとアルコールって感じ。あ、炭酸苦手だと辛いかな?」

 

 みんなはコップとかグラスに注いで飲む派かな? 私みたいに缶のまま飲んじゃう派かな? 私は面倒だからそのまましか無理。生前引きこもってた時期は溺れてた。だいぶこう、表の人間になれたなーって感じはする。

 

「そ、そうなん……? ならええんかな……?」

「騙されてますよはやて。ウタネ様は特にお酒に強い体質です。普通の人はコレ1リットル、つまり二本も飲めば十分酔います」

「うん……」

「ウタネ様やシオン様が清涼飲料水のように軽く飲んでいるコレは! 何故か地球でも珍しいくらいお酒が飲めない人の割合が多い日本人の中でも半数は! コレの小さい方一本で十分! より遺伝的に弱い人は死にます! つまりダメです!」

「み、うん……」

「いいですか、この二人は特別です。映画やアニメの宴会シーンでガバガバ飲むシーンもありますがフィクションです。わかりますね?」

「分かった。私は飲まへんから安心してな」

 

 なんでそんなお酒にマイナスイメージを……二本じゃ酔わないよ……

 昔の主にアル中でもいたんだろうか……

 

「すまない、遅くなった」

「おう」

「シオン……何故酒を……」

「飲むか?」

「勤務中だ、終われば貰おう」

「ん」

 

 シグナム到着。これでやっと本題かな。

 

「さて……本題だが、ソラが部外者だがまぁいいだろ。お前らヴォルケンリッターに聞く。はやてとアインスの意見は尊重するがほぼ無視だ」

「「「…………」」」

「闇の書、夜天の書から切り離されただの人間と大差無い性能に落ちてしまったお前らだが、オレが戻ったことで選択肢が増えた。一つ、今のまま。現状維持で人間程度のスペックを謳歌する。二つ、夜天の書にもう一度システムを接続、闇の書の騎士時代と同等のスペックに戻す」

「えっ、そんなことできんの」

「主と管制人格、夜天の書があれば問題は無い」

「ふーん……すごいね」

「で、三つ目……夜天の書に繋いだ上、アインスの能力とも接続してその一つを使えるようにする」

「「「⁉︎」」」

「はっ……はぁ⁉︎」

 

 ……うーん、これは大味だぁ……

 

「できるのか? 正直私も扱いきれてないぞ」

「ああ、だから一個なんだよ。戦闘機人とやったお前なら分かるだろ、アイツらもオレのを一つそれぞれ持ってる。IS'って形でな」

「ああ、クロックアップだな」

「ま、所詮はリマジ……つってもほぼ同じなんだけどな」

「そうなのか?」

「クロックアップがザ・ワールドならリマジはスタプラ……って解釈だ。お前は両方対応できるだろうけどな」

「なるほどな。それは他人が見れば同じだ」

「だろ」

 

 超常能力持ち二人の意味不明な会話と謎の納得。私含め他の五人……六人? は全然理解できてない。ツヴァイって人で数えて良いの? まぁ製造年数とか言っちゃうし気にせず人でいいか。

 

「でな、お前ら四人、どうする。別に接続したからってアインスの容量圧迫だったりのデメリットは一切無いし、プライム使用もオレやアインスがどうなるわけでもない。お前ら次第だ」

 

 あくまでも守護騎士自身の決定による事を念押しして、返答を待つ。

 私とソラは静観、アインスは夜天の書のページを適当にめくっていて、八神さんは自分も欲しいという顔をしているけど八神さんは無理だ。

 

「そのプライムは、私たちへのデメリットはあるのか?」

「んー、選ぶ能力次第だな。まぁオーバーヘブンだったり神造宝具なんぞは渡せんな。因みに、お前はどんなのが欲しい? シグナム」

「私は要らない。他が貰うならと聞いただけだ。ウタネに受けた精神汚染を取り除いて貰っただけで十分だ」

 

 毅然としたまま一瞬私に目線を寄越すシグナム。

 うん、精神汚染は言い過ぎだね。傷付くよ。って、それだそれだ。私のヤツってイップスじゃないらしいじゃん。後で聞いとこ。

 

「要らんか。で、他はどうだ? ヴィータ」

「や、アタシもいらねーや。自分の力を信じらんねーようじゃ騎士失格だ」

「同じく必要無い」

「私も……そこまで表立って戦わないし」

 

 守護騎士全員がプライム? を拒否。

 まぁ……シオンとしても予想通りかな? 

 

「了解だ。で、再接続はどうだ。こっちは別に良いと思うんだが」

「そやで、リインフォースもこうやって元気なんやからええやん」

「それも断る」

「アタシも」

「無論だ」

「私も遠慮します」

「なんでや? 別にシステム登録したからって今までと何も変わらんやん。不便なだけやで?」

「変わりますよ。大きく」

「アタシらの主ははやてなんだ。折角同じ時間を同じ様に過ごせてんのにさ、ただ戦うだけの騎士に戻るのはもったいねーだろ」

「主がそう命令するのではあればそうするが、選択肢があるなら今のままを選びたい」

「私も、はやてちゃんとみんなと過ごしたいから」

「そんな想いあったんや……ありがとうな……」

「なっ! 泣かなくてもいいじゃねーか!」

「あ……そ、そうやんな、ごめんな」

 

 あら〜あらあら。

 主たる八神さんに尽くすことは当然として、かつ同じ人として同じ時間と痛みを共有したいと……微笑ましいね? 私には一切分からんけれども。

 

「……ま、現状のままってことだな。じゃ、オレは次行くから」

「えっ、待ってシオン」

「んー、私もバイバイ〜アインスも残ってれば?」

「そうか。すまんな」

 

 夜天のメンツを残しVNA三人が退室。

 

「早くない? もうちょっといればよかったのに」

「ダメだよウタネ。家族の時間ってのは家族だけでいないとダメなんだから」

「は?」

「ひぇ……シオン〜!」

「うるさい。病院だぞ。姉さんの無感動は元々だろうに。闇の書の時がおかしいくらいだ」

 

 ソラがシオンに抱きつくし私に対してかなりの暴言だと思う。

 ソラもケラケラするんじゃないよ。

 

「人の心ってやつだよね。割とこの世界では人らしい感情の揺らめきがあると思うけど」

「ねぇだろー? 人の心あったら能力使いまくりで助けるだろうに。ほぼアイツら任せで傍観者してる。能力惜しまないならトーレ達はもう死んでる。そうしないのはどー考えてもまだ関心薄いんだろ」

「私割とガンガン%上げてるのにウタネ何もしないもんね。気張ってたら警備の時寝てる訳ないもん」

 

 人の心があれば能力解放は惜しまないらしい。

 ……そうかも。なのはたちもそんな感じする。

 まぁ、私の事は別にどうでもいいんだよね。襲撃について知りたいんだけども。

 

「ま、本来死ぬ筈だった奴存命させたいってのは姉さんらしい優しさだと思うぞ。オレやソラなら殺すもんな」

「んー、ちょっとトゲあるけどそうだねー、死んじゃう人は死んじゃうままかなー」

「じゃそれはそうとしてさ、襲撃の目的を教えてよ。三人拉致ってどうする気だったの? やっぱり殺す?」

「……そういうトコだぞ、姉さん」

「え、何が?」

「まぁいい、目的は話すからフォワードの部屋案内してくれ。そこでアイツらにも話す」

「ん、了解」

 

 拐われたギンガさんにどうこう言うわけでもなくただ歩く。

 んまぁでも、私も多少の優しさは備わってるらしい。今はその事実だけで良しとしようか。




シオンたちの飲酒はただ生前は成人してそれなりに飲酒経験ありましたよっていう転生要素出したかっただけです。なんか転生要素薄いと思ったので。

*設定見つかったんでソラの象名の「保護」を「抑止」へ修正しました。まぁ、そう違いは無いです。


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第87話 能力談義

「よう」

「……!」

「フタガミ……シオン!」

「まぁ待て。別にもう攻撃しようなんて思ってない……そもそも攻撃する必要も無くなった」

「……?」

 

 いつもの冷めた態度のまま、ノックをして返事を待たず入室したシオン。

 四つ並べられたベッドには守護騎士よりはマシかな、というくらいのフォワード三人とスバルのベッドに腰掛けるティアナ、エリオとキャロのベッドの間の椅子に腰掛けリンゴに包丁を入れ謎を形作っているフェイト。

 ん、なんでフェイトいるの。

 

「私はみんなのお見舞い。シオンは……一応、久しぶり。何しに来たの? というか目、大丈夫?」

「ああ、久しぶりだな。お前は料理上手だと思ってたんだがな。シャマルがうつったか。何だソレ。クトゥルフか? 目は気にすんな。オレは説明と質問しに来ただけだ。今回の襲撃の目的について、特にスバルに話しに来た」

「……じゃあすぐ教えて下さいよ。ギン姉はどうなるんですか! あれだけ暴れておいて! なんで平然とそこにいるんですか!」

「シオン、私からもお願いします。ギンガさんを拐われて辛いのは私も同じです。内容次第では……絶対に許しません」

 

 スバルとティアナはギンガが拐われたことについてかなりお怒りだ。

 他もそんな感じだけど、シオンは態度を変えることは無い。

 

「本当に話してないらしい。ま、話してたらオレはもっと早く捕捉されてただろうしな」

「何の話ですか。話を逸らさないで下さい!」

「数年前の火災の事だ」

「……? 四年前の? あの火災と何が……?」

「あの火災を起こしたのはオレで、あの施設内の人間を助けたのもオレで、ギンガだけがオレを見てしまったって話だ。お前が知らないならホントに誰も知るまい」

「……⁉︎」

「ああ、別に謝るつもりはない。ついでだが能力の確認的な意味もあったしな」

 

 絶句するスバルをよそに次々と話すシオン。

 どうやら見られた際にしつこく名前を聞かれたらしく、仕方ないので誰にも言わないことを条件にヴィーナスと答えたようだ。それでヴィーナス……私たちに変に関心持ってたのか……

 

「……ま、とりあえず座るぞ。まずは目的だな。スカリエッティの目的がヴィヴィオ。オレの目的がスバルとギンガ。ゼストの目的がレジ……ギガス……? だったかな。名前はうろ覚えだ。確認してくれ」

「レジアス中将、だね。顔は……これ。合ってる?」

 

 フェイトが出した顔写真に目をやって軽く頷くシオン。

 勝手に椅子を引き摺って座ったシオンに対し、私とソラはフェイトに出された椅子に座る。あんまり関係無いからシオンの後ろ、出口近くに。

 

「それだ。まぁそっちは勝手にやるってんで放って置いたんだが、死んだか? 生きてる?」

「まだ生きてる。多分そのゼストはヴィータが時間稼ぎした相手だと思う」

「それは知ってる。ヴィータと遊んで間に合わなかったって事だ。ま、それはいい」

「私や! ギン姉はどうなんですか! なのはさんに……ヴィヴィオの事は話したんですか⁉︎」

「……話すから落ち着けよ、殺すぞ。なのはとフェイトにもちゃんと話す。まずはお前らだ。もうここまで来てるから話してんだろ、戦闘機人タイプゼロセカンドさんよ」

「なんで、それを……」

「知らなきゃ拐ったりしない。知ってる前提で言うぞ。単純に、オレはお前らの強化……さっきヴォルケンリッターにも言ったが……インヒューレントのプライムの導入について考えてた」

「プライム……?」

「単にISの上位互換相当の能力を追加するだけ。あとフレーム強化とか基礎の強化だな。オレがしようとしたのはそれくらい。地下でお前を見逃したのはオレの自慢の拳に勝ったからそのままで良いと思っただけ。なのはを慕うお前ら姉妹はそれで十分と思ってた」

 

 目的が想像より遥かに管理局に近い、かつシオンと戦闘機人に長けたスカリエッティにしか出来ない内容だった故に、スバルの気が抜けるのも目に見えて分かる。

 プライムはさっき聞いたけど……元々を持ってるとその上位を追加するんだ。選べないのはちょっと不便かな? 

 

「ん? でもそれってさ、シオンが向こういたらの話でしょ。今どうなってんの?」

「知るかよ。あのバカがオレに完全に従う気がねぇのは分かってたしな。まぁ強化自体はされてんじゃねぇか? 洗脳もされるだろうが」

「「⁉︎」」

「えー……? それ酷じゃない?」

「だろうな」

「っ! 無責任な……! 絶対に許さない!」

「まー落ち着け。オレが離れたことでアイツらも管理局に対する目が減った。そうそう次の襲撃みてぇのはねぇよ。それに、ギンガの洗脳くらい問題にはならない。でな、お前、プライムどうする」

 

 感情も出さず冷酷な言いようだけど、だからこそ事実だと思う。ギンガさんの強化、洗脳も……多分、ホントにされるんだろうと思う。他の戦闘機人と同じ、戦うだけの存在に。

 スバルの気持ちも分からなくもない。シオンが洗脳されて戦わなきゃってなったら……殺すね。やっぱり分かんないや。

 

「お断りです! あなたの力なんて借りたくありません!」

「……ふぅ、まぁいい。やろうとすればいつでもできる。気が変わればやってやる。フェイト、なのはは?」

「まだ事後処理で動いてるはずだけど……シオン、ちょっと言い方がキツいよ」

「優しくしてタメになるならそうするがな。じゃあまたクロノと話してくる。ヴィヴィオについては事が落ち着いてから話そう。命に関してだけは安心していい。奴らも殺しはしない」

「……! ホント⁉︎」

「オレが姉さんの前で嘘をついたことがあるか?」

「あるような、ないような……」

「わかった、あるかもしれんから忘れろ。とりあえず信じろ」

「……うん。違ったら、私もなのはも許さないから」

「ああ……ま、そんときゃスバルと一緒にオレの首でも斬ればいい。抵抗はしない」

「……」

 

 フェイトとなのはに対しては後回し……単純な話じゃないのかな。

 一応引き下がってくれるようだけどシオンの約束は平等じゃない。私の能力が魔法で傷付かないように、シオンもシオンで何か方法があるはずだ。抵抗はしないけど傷付けられるとも言ってない……そんな感じ。でも案外斬らせそうな気もするね。どうせまた転生させられるんだし、約束破るくらいなら死んでいいか、くらい。

 

「ソラ、お前はどうする? 残るのか?」

「クロノ提督と何の話?」

「んー、オレとアインスの目についてもうちょい詳しく」

「聞いてもいいけど遠慮しとこっかなー。クロノ提督をどうこうって訳じゃないんでしょ?」

「ああ。一通り話してアイツがお前らに言うってんならそれも止めない。姉さんは連れてくぞ。秘密を知っても問題無くて保証人になるのはコイツだけだろうしな」

「ふーん。いいよーそれで。ばいばーい」

 

 ソラがフォワードとフェイトに手を振ってから部屋を出る。

 シオンはそれを見るまでもなくクロノに連絡を取り、予定を全てキャンセルさせる。

 ……クロノも話題に乗り気だからいいけどさ、割ととんでもない無茶通してない? 八神さんですら仕事割と忙しそうだよ? 

 

「じゃあ、私もなのはに連絡しておくね。今夜でいいんだよね」

「ああ。後回しですまんな。あと……スバル。お前のプライムは候補がある。繋ぎ繋がれぬ拳。どんな場所へも救助に向かえて敵は殺さず無力化する……お前が欲しいのはそんな力じゃないか?」

「……!」

 

 事実上は初対面のシオンの言葉に目を見開くスバル。

 スバルの目標を知るだろうティアナも同様。

 

「返事はまたでいい。とりあえず回復してからだ。じゃあな」

「んー、よく分かんないけど。またね」

 

 言いたい事は言い切ったのかシオンは部屋を出る。

 意味は殆ど分からなかったけど取り敢えずクロノと話すなら着いていくから後を追う。

 

「ねー、私からもいい?」

「ん?」

 

 いつかの模擬戦の様に二人で歩きながら問う。

 どうしても引っかかること。

 

「ソラも言ってたんだけどさ、私の戦闘って何なの? イップスだと思ってたけど違うっぽいし」

「……説明が面倒っつったら?」

「分かりやすく話して」

「めんどくせぇ……えーとな、イップスだと相手が自分で能力制限する形になるだろ?」

「そだね」

「姉さんのは世界が無理矢理相手を押し込めてるって感じだ」

「はぇ?」

「姉さんが全開すると終焉シナリオだろ? で世界も姉さんを抑えてらんねぇから姉さんが全開しないで済むように相手の方を抑えるんだよ。姉さんを脅かさないようにする抑止力だな」

 

 つまり? 私が能力を使うと世界が滅びるから世界はそれを止めたいけど、世界は私の能力の支配下にあるから私を止める事はできなくて、だから私が能力を使わなくていい範囲で収まるように私の相手の方を弱体化させて……? 

 

「それダメじゃない? 相手が弱くても能力は使えるよ?」

「姉さんが使わねぇのは分かってんじゃね? その辺は知らん。世界に聞け」

「無理……よね?」

「まあそんなトコだ」

「ん、あと一個」

「なんだ」

「闇の書って蒐集したのをコピーするんでしょ。なんか、異世界の鏡みたいに言ってたよね? それが何で別の能力になるの?」

 

 多分クロノにも話すんだろうけど、とりあえず忘れる前に聞いておきたい。

 

「あー、それで合ってんだよ。オレのもアインスのも異世界の鏡。アインスのをオリジナルと言ったのは、大抵の奴がこの能力を持つとあっちになるからだ。オレと同じにはならない」

「……は?」

「有り得ないが、何らかの手違いと錯乱でロリコンがなのはを気に入り能力を与えたとする。結果はアインスと同じだ。アイツらが映す異世界は同じだからな」

「は?」

「オレの異世界が違うんだ。勘違いってのはオレがアインスの能力が映す異世界を知ってたのが原因だ。元の世界の数多の作品群、それがアインスの異世界だ。あ、宝具とかは同じだ。なんか知らんが」

「はぁ?」

「ま、クロノんとこで納得するまで話す。が、姉さんの抑止力みたいに分からん部分は分からんからな」

「……わかった」

 

 特に大きな問題でも無いと言う風に構わず歩くシオン。

 異世界。人がそう聞いて想像するそれはどんなものだろうか。科学の延長として魔法が当たり前にある世界だろうか。超常現象的な魔法と農耕文化の共存世界だろうか。私やシオンにとって、それは漫画やアニメの世界だと思う。もし私がこの作品にいれば……それは、異世界に逃げたい逃避の感情だ。

 もし、スカリエッティが真面目な研究者で、ギンガさんとスバルも戦わなくていい世界だったら……それは並行世界の話。この世界と変わらない。個人個人の思想やどこかの選択が違うだけの……夜天の書はアインスと共に消え、ツヴァイが生み出される……この世界で私達がいなければそうなっていた並行世界。私はそれも良いと思う。私がいるから何かが変わった。それはとても自然な事。だけどシオンもソラもそれを否定する。仲は良いし、信頼もするけど、方向が全く違う……私達がどこに妥協点を見つけるかは分からない。魔法に関わらず一人で暮らしてた並行世界もあるはずだから、なるようになる、としか言えない……

 

「あ、姉さん」

「え?」

「言うの忘れてたが、スカリエッティは殺すぞ」

「……ほ?」

「今そう言えばって感じなんだが、まぁ……何パターンか未来を想定するとそうなる」

「シオンの予知じゃないよね?」

「当たり前だ。オレはそんな遠く見れん」

「そっか……誰がやるの?」

「色々。オレがやるかもしれんし、アインスかも知れん。抑止対象になっただろうし、そうなればソラもやるだろ。オレが視た限りどうあってもアイツは死ぬ」

「んー、そっか。じゃあしょうがない」

「まー、どうなるかはわかんねーしな。ロリコンがロリコンじゃなくなるくらいの確率で生き残るかもしれん」

「いや……ナイナイ。大学生をババアだよ? 失礼こいちゃうよね」

 

 モニターから見ただけだけど別に悪そうな顔じゃないのに……どうしても死んじゃうらしい。救えないかな? や、救う気はあんまり無いけども。

 

「オレには普通だったがな。姉さんやソラをババア呼ばわりしてたから殺しかけたが」

「え、勝てそうなの?」

 

 ロリコンという名のショタロリコン。私の能力も攻略したし私はもう手打ちなんだけど……

 

「無理だ。アレには勝てん。アレは神という概念そのものだ。全ての人が持つ全能の上位存在という信仰、その集合体。いくら人外の能力を持つオレ達でも人から生まれた以上、全異世界の全並行世界の人類全てを殺し尽くしてようやく届くかどうかってとこだ」

「異世界はともかく並行世界は無理じゃない? 誰か殺したら殺さない世界ができるよね?」

「そうだな。やってらんねぇ。アイツみたいのが何体もいるらしいからな。全員変態だったらオレは人類皆殺しをマジで計画するぞ」

「うん……それは協力する」

 

 ショタロリコンレベルの変態が複数……想像するだけでダメだ。コミケの同人誌の気分になる。

 

「ま、いい。今はどうしようもない。クロノに話すのが先だ」

 

 いつの間にかクロノの部屋? 提督室? の前にいた私たち。

 ドドドドドド、と人差し指と中指で無駄に連打したノックの後返事を待たずにドアを開けるシオン。ドン、ドン、ドンドン、どんどんどんどどどどどどどどどどど、どん! みたいなノリは何? 

 

「よ。邪魔モンがいねー分話せることが増えたぞ。下手な隠しカメラとかやめろよ?」

「……しない。君ら相手に隠せるなんて思ってない」

 

 明らかに不機嫌なクロノ。

 後で聞いたけどこの会話の時間を取るために2日間4時間、計8時間の残業が確定したらしい。で、この会話が5分伸びるごとに1時間追加と。私がクロノならシオン殺してるかも。

 

「どーだか。姉さん、カンはどうだ」

「んー、無いかな? 心読めば?」

「無い。信じよう」

 

 どうせ無いのわかってた癖に。

 要らない確認をしてからクロノの対面に並んで座り、クロノがドアにロックを掛ける。

 

「で? 僕の仕事を邪魔してまで話したい事とはなんだ?」

 

 私が知りたい事と、上役であるクロノへの信頼を得るための話題。

 ついでに今思ったことを聞こうとすると、シオンが軽い口を重そうに開く。




今回シオンの能力をどこまでどうしようか考えて先延ばしすることにしました。時間かかった割に短いですけど次はもっと時間かかると思います。


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第88話 能力談義 その②

どこかで言ってたソラの象名を保護から抑止に変更してます。おおよそ物語にも設定にも影響は無いです。


 話し方がある。

 その種類は様々だ。話し方一つで内容が伝わり易くなったり伝わりにくくなったり。重く感じられたりなんでもない軽い話に聞こえたり。

 例えば『ソレ』を説明するのについて、『背が高く反対側から向き合っており、三つの目があり平行線を見つめ続け、互いが交わることはなく、ある時間毎にその目を閉じたり開けたりしている。人々はその目を常に伺いながら日々を過ごしている』……というのか、『信号機』というのかだけでも違う。

 今回のシオンの話は、投資活動をして全財産を失ったと言うか、パチンコで負けたと言うかの差で後者だった。

 

「いつぞや説明した能力だがな、ちょっと勘違いしてたからそれ正しに」

 

 私達の能力はそれぞれが違うものでありながら私達以外には実際止められない。

 信頼を得るためにも以前に話したため、クロノは心労が堪えるのか頭を抱えた。

 

「……まぁ、いいだろう。今回話すのは間違いなく正しい説明なんだな?」

「ああ。オレもバカじゃない。なのはが墜ちてから能力について試し続けたからな」

「試し続けた……? 負荷は? そんな高頻度で使えるものではないだろう」

「そう思うか?」

「なに?」

「確かに能力を使えば負荷はかかる。これが嘘じゃないのはアインスを見れば分かるはずだ。だが、負荷をどうにもできないとは言ってない」

「「……は?」」

「治癒魔法は効かないんじゃなかったのか⁉︎」

「魔法はな。単に傷を治すだけじゃ無駄だ。だが概念的に治す能力もある。あらゆる能力を精査すればそういう能力は十分に」

「……つまり」

「能力負荷を取り除けるだけの余裕を残せれば負荷はオレが苦痛を感じるだけのものに成り下がるという事だ。コレはスカリエッティ達には隠してる事実だ。オレとアインスには制限があると思わせておいて損は無い」

 

 シオンからすればついでの話なんだろうけど、私とクロノからすればそれはそれは大きな……今までの認識が全く変わる衝撃だ。

 いつから……隠すと決めたのかは知らないけど。思えばそう言った節はあった。シオンが能力負荷で倒れたのは一度だけ、能力使用から倒れるまで常に私がいた模擬戦の時だ。他は使用後、一人になる時間が必ずあった……

 

「全く……君には驚かされてばかりだ。どんな環境で育てばそこまで先が見える」

「お前が見てた環境通りだよ」

「ん、でもそうだよね。私もあんまり言わなかったけどそんな広く視野持ってはなかったような……?」

「それを姉さんが言うのか。まぁな、あくまで一般人のオレが急に戦慣れするわけ無い。これも能力。戦争だのしてる世界の経験をちょっと見せてもらっただけだ」

「えぇ……ズルくない?」

「ズルくない。むしろそんだけやったのに同列にいる元一般人のなのははどうなんだ」

「戦闘民族タカマチ人は私にも理解できないから……」

 

 能力や思想はともかく、暮らしてたのは文明社会。タカマチ以外の道場剣術を多少修めた程度の私が魔法ありきの世界にすぐ馴染むのもおかしな話だ。

 それを私はなのはと同じ時間によって、シオンは能力を使って馴染ませたわけだ。

 

「ま、そんなのはどうでもいい。黙っててもいつか誰かが見ただろうしな。でだ、話すのは姉さんも気にしてた『異世界』について」

「確か、僕たちの世界で漫画やアニメの中といった具合のこの世界とは別の概念などがある世界だな?」

「ああ。オレらのいう魔術もその一つ。ロストロギアと聖遺物が近い概念だ」

「それのどこが勘違いなんだ?」

「異世界は異世界なんだが、オレのはオレの異世界らしい」

「「???」」

 

 漫画の異世界は分かる。ロストロギアと聖遺物も分かる。聖遺物は過去の偉人等が遺した物品。主に触媒として使用されるし宝具そのものである場合もある。

 けれども、シオンの異世界とは? 

 

「どーゆうこと?」

「オレの素の能力分かるだろ、鏡じゃないやつ」

「未来視でしょ?」

 

 シオンの問いの意味は分からないけど、能力はよく知ってるままを答える。

 シオンはそう、と少し嬉しそうにして話を続けた。

 

「コレはアインスの能力で言うところの魔王の眼(ベリアルアイ)ってやつになる。視るのは一人だけの方が楽なんだが」

「……うん、で?」

「この鏡はオレのその素の能力だったかもしれない世界のオレを引っ張ってきてるってことだ」

「?????」

「ウタネ、君がそう不思議な顔をしないでくれ。僕がしたいくらいだ」

「まー、異世界って言い方が悪かったな。オレが生まれる瞬間から無数に存在した『シオンという存在を観測する並行世界』って感じだな」

「えっと……もっと分かりやすく……」

「姉さんがオレを作るだろ? けどオレの能力は別に未来視である必要はなかったよな?」

「うん……まぁ、そうだね?」

 

 シオンが生まれた時……って正確にいつだったか覚えてないしな……気が付いたらいたようなもんだし。能力だってそう選べるもんじゃない……よね? 

 

「つまり、例えば時間を止める能力だったかもしれなかったって事だ。分かるか?」

「えーっと……シオンは別の能力を持ったシオンが……?」

「別の能力を持っていたかもしれない並行世界があり、シオンの能力はその世界のシオンから能力を借りて使っている。負荷はその利子とでも言ったところか」

「おー、そんな感じだ。流石だな」

「おーすごーい。一切合切分かんないけども」

「二つまで、というのも貸出上限という感じで見ていいのか?」

「ああ。シオンとして世界に認識されるウタネとシオンの二人分だけ」

「リインフォースはどうなんだ?」

「アイツはマジで漫画とかの異世界だよ。二つなのは多分元々この能力自体もそういうもんなんだと思う」

「なんで分けたんだろ」

「さぁ? 強いて言うなら気を使ったんだろうが……それはそれで癪だな」

 

 あのロリコンが私達に気を使う……? あ、いやでもアレだ、最初の方は割と手助けしてくれてた気がする。その辺なんなんだろう。

 

「まぁ、そんなトコだ。で、アインスの時ちょっと言ったがこの能力は使う奴次第で適性がある。アインスはキングストーンの様にその元の個人しか持てないような唯一性、もしくは既に死んでいるような者の能力に適性がある。オレはオレが未来視持ちって事で目に関する能力に適性がある。直死やらがそんな感じだ。理解したか?」

「……大体はな。他の能力を持つ並行世界のシオンと能力の貸し借りをする能力、か。お前から並行世界へ貸したりはしないのか?」

「基本無理だな。並行世界の奴らは相応の能力持ちだし、鏡の能力を持つのはこのオレだけだ。貸しっても向こうが使えなくなるわけじゃない。鏡が映したコピーをオレが使うだけだ」

「なるほど。未来視を持っていても他のシオンが鏡を持たなければ貸せないと」

「ま、そういう感じだ。姉さんはどうだ? 納得できたか?」

 

 シオンが生まれたことで未来視以外の能力を持つシオンが生まれた並行世界が生まれ、それら並行世界のシオンの能力をロリコンに特典として貰った鏡で映し、そのコピーを一時的に使用することができるのがシオンの能力……特典か。

 

「仕組みは理解したよ。けどそれは、この世界だけだよね?」

「いいや。もうオレの能力は並行世界と繋がったことで世界にはオレとして認識されてる。次でもこれはオレの能力としてこのままだ」

「えぇ……」

「次? なんの話だ?」

「いや、関係無い話だ。強いて言うならオレ達VNAの話」

「……隠したいこと、か。良いだろう。管理局及び事件には関わりの無いものと思っておく」

「おう。じゃ、オレが言いたかったのはこれで終わりだ。他なにか聞くことは?」

「ん、私はもういいや。クロノは?」

「そうだな……今思い付くのは二つ。写輪眼と戦闘機人だ」

「戦闘機人はオレ以上に詳しいのがいるだろうよ。あの二人の親とか。プライムも上位能力の付与ってだけだしな。写輪眼……はオレが止めさせた理由か。姉さんも一応見とけ。コレが写輪眼と言って勾玉が最大三つまで浮かぶ基本的な眼だ。能力は洞察力、見切り、動体視力。次、万華鏡写輪眼。写輪眼の上位種で、それぞれ固有の能力が発現する。この模様は月詠。他にも色々模様と能力がある。発動条件が多少違うくらい……だが、そんなのはどうでもいい。お前が知りたいのは無限月詠だ」

「無限……つくよみ」

「写輪眼の最上位、輪廻写輪眼を月に投影する事でこの世全てを幻術にかける。どんなものかは……オレが言っていいのか分からんが、『生と死の狭間の夢』だ。全ての生物は死ぬまで理想の夢を見させ続けられる。姉さんやソラは嫌うだろうがオレはこれもアリだと思う」

 

 楽しいだけの世界かー……私はお断りだな。そんな楽しいだけに命を使い切るなら無くていい命だ。興味無いな……

 ソラは当然止めるだろうね。一人による全生命の掌握なんて許すはず無い。

 ……興味無いだけってのが問題なんだけどね。私達の中で、私だけが理想の世界を持たない。私の方針は全てを他者に任せるものだ。自分がどうしようというものじゃない。ただその場その場で動いて終わりだ。この世界に干渉しない、そうしようとしたのも束の間。本来なら死んでる人が生き残り、夜天の書は私の手に、スカリエッティはシオンの力を借りた……理想は、なんだろうね……

 

「まぁ……それは別にいいや。でさ、右目? 聞いていい?」

「僕も触れないようにしてたんだが。聞いていいのか?」

「ん……まぁ……切り札?」

「もうちょっと具体的に教えてよ。疑っちゃうぞ?」

「疑う気なんて微塵もねぇくせに……この眼は瞳術。言うことは……ねぇな」

「ある! 効果! 発動条件! 縫い込んでる理由!」

「姉さんが騒ぐの珍しいな。えー、効果は敵を殺す。発動条件はオレに敵意を持つ人間が目を見る。縫い込んでるのは死体仕掛けもあるがお前らに見せないため」

「僕らに……?」

「ああ。信頼のためには見せればいいんだが、スカリエッティと組んでたのは事実。管理局を襲撃しギンガを拐った。事実フォワードは当然ヴォルケンリッターも少なからず敵意はあった。だから見せられない。敵意ってのは理性じゃ抑えられんからな。ムカついて我慢するのは簡単だがムカつかないようにするのは無理だろ? 姉さんは……違うが……」

「私だって許容範囲はあるよ?」

「当然刺されたら」

「死ねてラッキーだし今の私だと全身ほとんど刺さらない」

「欠点を的確に突かれて煽り散らかされたら」

「欠点は特に無いし無視」

「……そういうトコだぞ」

「はぁ?」

「とにかく、少しでも敵意がある状態でこの目を見ると自傷に走るから開けられん。コレはオレがどうしようもなくなったら開ける。開ける予定は無い」

「そうか……分かった」

 

 簡単に言うと見たら死ぬ目らしい。無敵か? 

 欠点無いってのはシオンといたらの話ね。私個人はそうでもないよ。

 

「あとクロノ」

「ん?」

「もうちょっと六課のメンツどうにかならなかったのか? 全線が男一人じゃ色々苦労すんだろ。その辺気ぃ配れよ」

「や……返す言葉もないがメンバーは殆どはやてが決めたものだ。はやてに言ってくれ」

「やっぱ七光の女はダメだな。ロクなもんじゃねぇ」

「……シオン、相変わらずだがその偏見と敵意に満ちた言動はやめた方がいい。全世界の女性に殺されるぞ」

「全世界の女如きがオレを殺せると思わないことだな。それに偏見ってのはな、ある程度理由があるんだぞ。オレは偏見で遊んでるが」

「遊びで敵を作るな」

「さっき言った七光りと女ってのはな、まぁはやての七光りはちょっと特殊ってか闇の書に選ばれただけってことなんだが、親の権力と財産で生きてきた人間は相応に甘やかされそれを常識としてる。それは世間から見れば異常だ。女もレディファースト、弱者ってイメージから法的権力を高めて配慮を強要する。これも異常。障害者も障害だからと配慮され、合わせてもらうのが当たり前と思ってる。美男美女はもてはやされ自分本位、ブスは貶され卑屈。そういう偏見は実態がある。だからオレはそうやって言うだけだ。まぁ……あの三バカはそれに当てはまらないが」

 

 八神さんの七光り……歩くロストロギアって異名は夜天の書ありきなんだけど持ち主が私だからね……才能だけでああなったのはすごいと思うけど。

 それに前線メンバー美人しかいないしね。奇跡的に高いレベルで平等が実現してる。

 

「お前も女顔の美人に該当するんだが?」

「だから自分本位で動いてるだろ」

「……開き直られると言葉が無い」

「セクハラオヤジとメンヘラヒス女よりマシだろ。まともに会話できてるから」

「そうだな。意思疎通できる事は大事だし助かってる」

「十数年住んでる国の言語も読めねぇし話せねぇし理解できないゴミもいるからな。暴走した姉さんとか」

「ヒドっ……」

「酷くねぇだろ。方言なまりを集約したのと同じくらい何言ってるか分からんぞ」

「方言ダメなの?」

「ダメだろ。分かるけど伝わらん事の方が多いだろ。接続詞と語尾が違うと文はメチャクチャになるんだぞ?」

「せやかてシオン! 八神さんなまら関西弁っぽい喋り方ばしよるっちゃばい!」

「……せやかてしか関西要素無いぞ。西生まれか?」

「西? 東じゃなかったっけ」

「……ん? オレらってか姉さん、生まれ何処だ?」

「……えへへ、分かんない」

 

 どこだっけ……日本だったのは覚えてるんだけど……ん? あれ? 

 

「ソラが同郷って言ってたしソラに聞く?」

「は? アイツが同郷?」

「やっぱり知らないの?」

「アイツが言ってたのか?」

「うん。覚えてないらしいけど」

「……クロノ、客観的にどう思う」

「どうも何も頭がどうかしてるんじゃないか?」

「だよな。まぁ頭がどうかしてるからオレがいるんだが。ま、生まれはどうでもいいな」

「海鳴じゃないのか?」

「それだけは絶対に無い」

「言い切れるのか?」

「……まぁな。それだけは絶対に無いことだけはな」

 

 海鳴なんて地名無いしねー。

 どうやら日本の首都圏あたりに存在してるらしいことくらいしか調べなかったよ結局。こんどロリコンに連絡ついたら聞いてみるか。

 ソラも私も覚えてない、頼みのシオンも知らない。じゃあもう知らないでアンサーにするしかない。

 

「じゃあ僕はもういい……いや、もう一つ」

「ん?」

「……なのはとは話したか?」

 

 クロノの少し責めるような視線と語気。

 聞いた話ではなのはの過労もシオンの油断も仕方ないこと。どっちも悪くない。悪いとしても両方。なのはが過労になるほど訓練しなければシオンは保護下に置き続けただろうし、シオンが油断してなければ過労だとしてもなのはを守り続けることは十分可能だったはずだ。

 キツく言うなら、シオンが他人を物同然に扱っていた以前なら……なのはが重傷を負うことはなかった。そうならなかったのは、なのはが物扱いを超えるほど成長してしまったせい。

 シオンは神妙な顔つきになり、低い声で返す。

 

「まだだ。この後……夜と言っていたから数時間空くだろうが……ちゃんと話す。最悪ならソラを押し切ってでも治す」

「なのはは万全だ。お前が気に病む必要はない」

「……病んでるわけではない。できたはずの過去の清算をするだけだ。人として、姉さんとの約束は破らない。あの場にいた誰であろうと、死ぬことを許さない」

「なんの話だ? ウタネ……シオンの言う約束はなんなんだ?」

「……」

「クロノ、時間取って悪かった。また埋め合わせる」

「ああ……何を企んでいるか知らないが、後悔しないようにな」

「何も企んでなどいない……この事件とて、ついでに過ぎない」



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第89話 能力談義 その③

サブタイトルこそ最大の課題、ってとこあると思うんです。二次作家さん、分かって。
基準ペース週一くらいに戻ったけど内容はあんまり。


 クロノの部屋を出て数時間は私の部屋で過ごし、食事をしたりお酒を浴びるように飲んだりした。個人部屋の中は治外法権なので例えこの世界でダメだとしても私の通算年齢は成人式2回ちょうどくらいの……ホントにババアだな……と思えるほど生きてしまったわけだし飲んでもいいでしょ。転生もなんか変な感じだな……精神的に二十代から一切変化してないのに通算は四十越えでこの世界では成人してないなんて……なんか笑いそうになる。

 

「シオン〜〜〜!」

「ウタネちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

「「⁉︎」」

 

 おつまみにモンブランどう? とシオンに勧めて頑なに拒否されていると、なのはとフェイトが泣きそうになりながら部屋に入ってきた……返事は待たなくて良いからノックして欲しい……ビックリする。

 

「ど、どうした? 予定時間にはまだあるはずだが……待てなかったか?」

 

 流石の異常事態にシオンも動揺が見て取れる。

 

「うぅ……ユーノくんが……くーんユノが……!」

「誰だよくーんユノって。ヴィヴィオの事じゃねぇのか。図太いな」

「ヴィヴィオも大事だけど! さっきユーノが倒れたの!」

「敵襲か?」

「徹夜で!」

「……じゃあ別にいいじゃん。別にそこまで騒がなくても……」

「いや、報告は大事だな。特にオレにとって」

「うん?」

「いや、かなり前……闇の書ん時から頼み事をしててな。たまに報告を、と思っていたがオレが抜けたせいでな……ま、それはいい。ユーノは後回しだ。来たんだから仕方ない、まずお前らから話そう」

 

 徹夜で倒れるって……大概だね。私だったら疲労が見えただけで休む。

 特製モンブランは疲労軽減効果もあるけどね。美肌効果もスゴイ。一番スゴイのは材料は毎回多少なり違うはずなのに一定の品質を保って生成されること。もはや皇帝特権とか言ってる場合じゃない。

 

「ユーノ……」

「黙れフェイト。アイツは後で治してやる。疲労なら魔法で治せる範疇だ、ソラの抑止にも引っかからん」

「うん……」

「で、ヴィヴィオについて率直に言うが、まず殺されはしない。聖王(……)のクローンは奴らの最も望むものだったからな」

「聖王……⁉︎」

 

 フェイトが驚き、私となのはは首を傾げる。

 聖王……セイヴァー? 

 

「姉さんはともかく、なのはは分かれよ……古代ベルカの聖王一族どもの歴史とか……あんま残ってないんだったか。まぁいいや、そんな感じ」

「どんな感じ」

「んー……戦乱の時代に戦力で全てを治めた一族?」

「脳筋か」

「バカ多いと苦労するよな……」

「はえ?」

「いや、なんでもない」

「ん……?」

 

 あれ……? シオン、なんでヴィヴィオのこと知ってるの……? 

 確か闇の書事件以降は知識無いって……言ってた……ような……? 

 歴史なら学べる……スカリエッティがヴィヴィオに関心を寄せていたならその辺も知識として知っててもいい……? いや、それならそこまで実感として持たないはずだ……けど……

 

「なんだよ。別に歴史くらいいいだろ。古代ベルカなんて調べようとすれば調べられるぞ」

「え……何も喋ってないけど……」

「ん……心読んだんだよ、今の状況だと管理局といえども気は抜けないからな……すまん、ちょっと酔ってるな」

「そう……」

 

 シオンが常時能力を一つ割く……? 

 素で十分な性能を持つシオンが……? 何考えてんの……? 

 

「とにかく、ヴィヴィオの無事は保証する。できなければオレの首を刎ねろ。能力も使わないから、死後も首を晒すなりミンチにするなりしていい」

「っ、そこまで言う必要ないでしょ⁉︎私たちにとってはヴィヴィオもなのはたちも他人なんだよ⁉︎命かけて保証する必要ないじゃん!」

「オレ達とコイツらは違う。なのはが例えなんの血統も由来も無いまま管理局の超エースになる程の魔力を保有してるという点を除けば普通の人間だ。そう、例え全身柱間細胞でできてそうななのはでもな」

「シオン⁉︎ちょっとヒドイと思うの!」

「黙れ柱間細胞。ただの一般人が超血統のフェイトや闇の書直轄のヴォルケン以上の魔力なんぞ普通ありえねぇんだよ。オーガ並の成長性も保有してるしな。しかもあの傷から復帰しやがって。なんだお前」

「何か分からないけど貶されてる!」

「貶してないな。特異過ぎる生態に関心を示してる。意味不明なタカマチの血統という意味でも魔法に対しても強烈な才能を持つという意味でもお前は正直戦力的にオレ達寄りの存在なんだがまぁそれはいい。正直オレもこの数年間オーガを使って成長しようと目論んでたくらいだからな」

 

 わーきゃーと喚くなのはをフェイトが抑え、シオンがため息をつく。

 オーガってアレよね、ソラの。でもソラってそんな言うほどの成長性あったっけ? 

 

「ま、使ってたら筋量がエゲツいコトになってただろうから使わなくて正解だった……なのはに恨まれるだけで済んで良かったってとこだ」

「ふふ、シオンはやっぱり優しいね」

「……? どうしたフェイト。酒に当てられたか?」

「違うよ。ずっとなのはの事心配してくれてたんだなって」

「……いや、してないが」

「シオン、そうなの?」

 

 フェイトの言葉になのはが乗る。

 

「だから、してない」

「私の治療法でも探してくれてたのかな?」

「探してない」

「ほんと?」

「ホント」

「ふーん。じゃあそれでいいよ! ありがとうね!」

 

 頑なに認めないシオンににぱーっと笑ったなのはが引いてとりあえずは終わり。

 シオンがスカリエッティと協力したのもなのはが墜ちてからだし、責任とか言ってたし、私との約束がかなり引っ張ってるなぁ……

 というか、なのははシオンにどうこう言わないんだね。フェイト以上に警戒心が無い。

 シオンでこれならリインフォースや守護騎士たちに言った八神さんの家族として、ってのも強制になるのかなぁ……

 

「ゴホン……それで、ヴィヴィオだ。お前らマジで興味ねぇのか?」

「ある! あるある!」

「……分かった。とりあえずさっき言った通り殺されはしない。使い道は古代ベルカの兵器、ゆりかごの鍵に使われる」

「ゆりかご?」

「巨大な戦艦だ。ほっときゃ1日でミッドは終わる」

「おー……強そうだ」

 

 戦艦って大砲とか積んでる船だよね。

 ミッド全域が射程なのよね? 私そういえばミッドで海見たことないよ? 湖っていうか人工的なのは管理局にあるけど……

 

「姉さん、ゆりかごは飛ぶぞ」

「衝撃の事実だ……けど魔法ならアリか」

「まぁな。言っとくがアインスも全盛期ならコイツらなんぞには手も足も出んくらい強いからな。ナハトのせいで弱ってなけりゃオレ達でも怪しいトコだった」

「……弱ってアレなの? え? 今どうなってんの? 無敵?」

 

 シオンも私もなのはもフェイトも太刀打ちできなかったあの闇の書の時点で弱ってた? 今は? 能力も把握して魔力も回復して正式な契約で滞りなく……

 

「どうかは知らんが段々と手抜きが入って来てないか? そうだとしたら割と全盛期に近くなってきてるかもな」

「え、もしかして私達の中でも一番強かったり……?」

「それは無い」

「あ、ないんだ」

「姉さん、アンタが一番上っての忘れてないか?」

「それソラにも言われたよ。自覚無いんだよね。シオンにもアインスにも負けてるし」

「……全力でやってないだけだろ」

「ん?」

「姉さんの全開は例えオレの能力でもソラの全開でも攻略不能だ。コイツら魔導師は当然として、オレ達でも勝てん」

 

 自覚無いが。実際シオンには二回は能力突破されてるわけだし、最強とは言い難いのよね。私以外に見えない使えないで便利とも言い難いし。日常で最も不便な能力かも。シオンの能力がズバ抜けて便利過ぎるだけかもしれない。

 

「あ、ゆりかごの話だ。つってももう言うことねぇな。スカリエッティが管理局への反逆として管理局破壊しようってだけだしな」

「……予言の通り、だね」

「予言?」

「聖王協会の騎士カリムの予言。聞いてないの?」

 

 フェイトの意外そうな問いにシオンは首を傾げ私を見る。

 

「いや、オレは聞いてないが……姉さん?」

「あ、ごめん、忘れてた」

「……ま、そんなとこだ。武力で対抗しなけりゃ管理局システムはほぼ確実に崩壊する」

「対処できるんだよね? ヴィヴィオは助けられるんだよね?」

「それはお前ら次第だ。オレは相手の戦力を大まかに把握してるしこっちの戦力も分かる。最適な作戦は立てられるが……お前らのしたいことは違うんだろ?」

「うん。ヴィヴィオは私が助ける。どんなに困難でも、絶対!」

 

 なのはの意思は強い。まぁ、フェイトの時も闇の書の時も結構強かったけど。

 責任感強いと苦労するね。一人でもっと気楽に生きればいいのに。

 

「……管理局としてはそれは却下だが、ヴィヴィオの精神的にはそれが正解かもな。はやてに話すときはそうして貰えるようにしてみる。じゃ、ユーノだな。どこだ? さっきの病院……なわけないよな」

「えっと、まだ無限書庫のロビーで寝てるはずだけど」

「じゃあすぐ行くぞ。早い方がいい」

「え、でもここからだと結構遠いよ?」

「は? オレの能力舐めてんのか……」

 

 フェイトのもう夜だし明日にしよう的な発言がシオンの癇に障ったようで、シオンはどこからかピンク色をした『ドア』を部屋の真ん中に置いた。

 ピンク色の……ドアを……

 

「……アリなの? ソレ」

「直死、写輪眼、宝具、スタンド。それらを持つ並行世界があるんだ、未来ロボットがいる並行世界だってある」

「……でもそれ、未来ロボットの道具だよね」

「未来ロボットがいる並行世界があるということは必然、オレが未来ロボットの並行世界もある」

「……あっ、そう……」

 

 平然と言い放つシオンに言葉を無くす。

 もう諦めた。シオンは青い猫型ロボットになっていたかもしれない。いや……えぇ……? そんな事言い出したら……もしだよ、他の世界にいたらなのはだったシオンもフェイトだったシオンもいるワケで……

 

「とにかく行くぞ。コレは二度と使わんからな」

「初めから使わなくてもよかったのに……」

「モニターを通り抜けるなんてのは姉さんだけだ。オレ個人ならともかくなのフェイまで連れて行けん」

 

 全員が無事倒れたユーノの前に出ると、そそくさとドアを仕舞うシオン。

 無限車庫の局員と思しき方々がギョッとした顔をするけどなのはとフェイトの顔を見ると敬礼して去っていった。

 

「えー、ほかに何かあったの?」

「ユーノの気を辿れれば瞬間移動できたし神威の時空間なら多少は速い」

「時空間?」

「……姉さん、オレを殴ってみな」

「ん……ん? おー」

 

 シオンの顔を正面から殴ると腕が貫通した。

 別にこう、ぶち抜いたわけじゃなくて……透過してる感じ。

 

「これが神威。万華鏡写輪眼の一つ。ま、本来ならこのすり抜けは右眼の能力なんだがまぁ、使えんわけでもないしオレのはオリジナルとは違うしな」

 

 私の腕を横に動いて体から離すシオン。そうやって動く間にも感覚は無かったし、シオンと腕に隙間が出来ることも無かった。

 

「え、左右で能力違うの?」

「違うも何も万華鏡の能力は無数にあるぞ。それこそ個人個人レベルで。まぁ気にすんな、全部に対処なんてほぼ無理だ……というか、神威に対処するのがほぼ無理だ」

「なんで?」

「このすり抜け、オート発動する上五分継続する。オレのは試してないから分からんが、取り敢えず五分程度無敵だ。で、時空間には自分も行けるから五分経つ前に時空間へ避難すればまた五分無敵タイム。ま、時空間に行く一瞬のタイミングは生身なんだがもう一つの枠で防御系能力使えば問題無い」

「その時空間? には私も行けないのかな?」

 

 五分はこの世界にいないものとして、退避タイミングもキングクリムゾンで飛ばせば実質ノータイムでまた五分……

 概念的に捉える宝具とか使えば通るのかな。霊体を捉えるくらいはできるからそんな宝具も一つくらいありそうだども。

 

「いや、オレが吸い込めば……違うな、モニターの話か」

「うん」

「さぁ? 他の時空間能力は干渉できないだろうが……やってみるか?」

「うん」

「ね、ねぇ、ユーノ君は放っておくの?」

「……そうだな、神威は後でいい。疲れるし」

 

 時空間能力なのに他の時空間能力で干渉できない……って、割と無敵だね。

 シオンがユーノに手を伸ばすと、やっぱり抑止力は働いた。

 

「ストップだってんでしょお⁉︎」

「うるさいな」

「ソラちゃん⁉︎どこから⁉︎」

 

 音も気配も無くシオンの腕を掴んで止めたソラ。

 その異常なプロセスに不動のエースオブエースは動じている。不動とは名乗って無かったか。

 

「この世に不条理ある限り抑止力は現れる! いつでもどこでも何度でも!」

「抑止の本職って不条理の排除じゃねぇだろ。お前だけだぞ」

「それはいいから! ストップだよ!」

「普通の治療魔法だ。話せる程度に疲労抜くだけだから黙ってろ」

「むー」

「……じゃあここに居ていいから」

「おっけー!」

「いいんだ……?」

「フェイト、ソラに疑問持ったら負けだよ」

 

 ソラの決定は本当に気まぐれが多い。現状維持さえできればなんでもいいってくらいのスタンスだからホント分からない。

 ソラが手を離し、ユーノが若干発光する。シオンの治癒だろうけど魔法治癒ってあんまり見なかったから新鮮。

 

「ん……んぅ」

「よう」

「あ、ああウタネ、いや……シオンか。もう戻って来たのかい?」

「予定より早かったがな、事情が変わった。早速だが調べはついたか?」

「ああ、うん。ある程度はね」

「何頼んでたの?」

「言っていいかな、シオン」

「んー、まぁいいだろ」

 

 闇の書の時から、っていうとシオンがこっち来てからずっとってことだし、その間ずっと調べてなきゃいけないほどの内容……

 

「話は簡単だよ。ジュエルシードみたいな高エネルギー結晶、そんな類のロストロギアの使い方とその歴史」

「オレが来た時ロストロギア何個か奪ってたろ。それの延長だ」

「ん……そういえば……そのせいで私捕まったんだけど!」

「クロノだしいいだろ。んでな、使い方なんだが」

「ああ……ここに」

 

 ユーノが文庫本程度の本をシオンに渡す。

 ……使い方と歴史でそんな量ある? 

 

「サンキュ」

「雑に箇条書きしてるから読み難いと思うけど、内容は詰め込んでるよ」

 

 シオンはそれを受け取ると、凄まじい速度でページをパラパラとめくり、二十秒もすれば本を閉じてしまった。

 

「悪くない。十分だ。報酬はそうだな、どうするか? 好きなだけくれてやろう」

「あはは……そうだね、また今度相談させてくれるかな?」

「ああ。いつでもいい」

「ねぇねぇ? 内容教えてくれちゃったりしないのかな? えっちゃんじゃないから本読めない」

「……バカが。抑止力なら英霊の勉強くらいしろ」

「だってダヴィンチちゃんが解説してくれるんだもーん。ねぇ、内容〜!」

「……使い方は単にエネルギーの運用方法だ。ロストロギアから暴走の危険なく抽出したエネルギーに方向性を持たせて維持し続ける、とかだな」

「ねぇねぇ、なのは隊長? 理解できる? 私に要約して欲しいな?」

「……フェイトちゃん」

「えっ、えっと……えっとえっと、あ、カートリッジに変換資質を加える……って感じかな? 規模は違うんだろうけど」

「ほぼ正解だ。ソラに分かりやすく言うと無属性の令呪だな。保管してある令呪」

「んー! なるほど! それは便利だ!」

 

 フェイトとソラは取り敢えず理解した模様。なのははフリーズした。

 変換カートリッジ、令呪。莫大なエネルギーを持ちながらそれを思うような効果を持たせて運用できる……と。無色透明な水がいっぱいあってそれを好きな色に変えて使える……違うな。卵はそのままでもいいし調理法次第で色々使える……かな。

 私の能力は物質を全て好きにできるから、それと似たようなものだ。うん。

 

「んで、それが何なの?」

「ああ。フェイトがほぼ正解だと言ったな。それはオレ達がカートリッジを使えないからだ」

「シオン魔法使えるんじゃないの?」

「一応使えるが使えるだけだ。オレ自身の魔力は大したもんじゃねぇしデバイス無しだと更に落ちる。コイツらが絡むような戦闘では使えない」

「うん……で」

「まぁ、今となってはほぼ解決したようなモンだが、オレの能力負荷をロストロギアに受けさせる」

「「「……は?」」」

「あはは……そうなるよね。僕も聞いた時はビックリしたよ」

「オレが能力を手にした時点で長時間の戦闘に耐えられるものではないことくらいは分かっていたからな。当時は負荷の少ない能力に絞っていたが、闇の書の闇のようなヤツを相手にすることがあればそうもいかない。高性能高負荷の能力を連続で使えるようにしておきたかった」

「カートリッジの代わり……っていうか、シオンの身代わり?」

「ま、そうなるな。その莫大なエネルギーを持って一時的に存在を繋げ、その許容量に応じただけの負荷を代わりに受けてもらう。当然使い捨てでそう使えるもんじゃないがな。いざって時の備えだ」

「じゃあ、あの時簡単に私に返したのは……使い方が、使えるかもわからなかったから?」

「そうだ。日本語話せねぇクセに理解は速いな」

「ひどい⁉︎」

「で、目星付けてたのがなのはに返したやつと、今お前らとスカリエッティが競って探してるレリックだ。アレはいいぞ」

 

 私となのフェイが呆然とする中、シオンがレリックの図やらデータやらを並べる。

 

「レリックだと対城宝具くらいなら十分に耐えられそうだ。リインフォースにも後で教えとく」

「無駄に使うんじゃないでしょうね。八神さんが黙ってないよ」

「使わない。あくまで備えだ。使わずに済むならそれでいい」

「というか、レリックも他のロストロギアも管理局が回収するよ」

「……執務官、情と権限でどうにかしてくれ」

「ダメ。クロノの法の番人精神は私も引き継ぎましたから」

「はぁ……兄妹揃って結構なことで。じゃーわかったよ、ナシでいい。ユーノの10年間が無くなるだけだ」

「あ……! ご、ごめんユーノ! そんなつもりじゃ……!」

「いいよ、どうせ本業のついでだし。シオンの頼みとあらば聞かないわけにはいかないしね」

「なら、いいんだけど……」

「よかねぇだろ。オレは嫌なら断っていいっつったよな?」

「別に嫌とは言ってないよ。頼ってくれて嬉しいんだ」

「……ま、ならいいが」

 

 ユーノもクロノも私たちにかなり気を割いてるからなぁ……何もしないとは言った手前、こうやって管理局側として行動しちゃってるし、シオンは闇の書の時と今回は敵味方両方に加担してる。私も闇の書側だったけども……それもあって私たちは局を第一とするクロノにはかなりの負担なんだろうな……

 

「さて……今日はもう遅い。はやての話も明日だろ。燻ってるオレへの怒りを鎮める意味でも……今日は帰って寝ろ」

「……」

「なんだよ」

「怒ってないよ、私たちの誰も。シオンを知ってるみんなは、シオンはウタネちゃんのために動いてたんだって」

「うん? でも二人ともシオンが気まぐれでスカリエッティ側についたって言ってなかったっけ……?」

 

 シオンに信用を置いてたのは私とクロノ……あとソラくらいだったと思うんだけど……

 

「ち、違うよ⁉︎アレは嘘! 私たち管理局はシオンが敵にいる、って思わせないといけなかったから!」

「え……? フェイト、それどういう意味……?」

「ほら、フォワードの初出動の時私が通信切ったでしょ?」

「……そうなの? 私その時多分覚えてないよ」

「……まあ、そういう事もあったの。その時シオンが来てたんだ。固有結界を展開して」

「え……」

「そこで教えてもらったの。管理局の下にスカリエッティを置こうとしてること……自分の能力試験にスカリエッティの技術が必要なこと」

「えぇ……」

「固有結界ならアイツらも中を見ることはできないからな。色々と言い訳はついた。姉さんがオレのフリをしてた事も踏まえて見ればオレへの戦力として姉さんを出すのは正しく当然の判断だ。だから主要な人間……フェイトが孤立した瞬間を狙ってある程度話した。一人でもオレを理解したヤツがいれば姉さんの出動を少しでも減らせると踏んでのことだ」

「ウタネちゃん好きすぎなの!」

「よーしわかった。お前は殺してナンバーズの最新版に改造してやる。プライムはどうする? 30くらい入れて暴走による即死でも経験させてやろうか」

 

 ケラケラ笑うなのはにシオンがやっぱり殺意を向ける。

 

「ひぃ……!」

「まーたバカな事を……シオンが五つくらいで限度なのにそんなに入れたら一つも使わずに終わるでしょ」

「ま、実はそうでもないんだな、これが」

「うん?」

「プライムはあくまで能力の設定……なのはたちに魔法が使えるように、ソラや姉さんが貧弱な魔術を使えるように、あくまで能力を使えるようにするだけだ。能力の負荷はオレとアインスだけ。能力は受け入れられるだけ入れられる。ま、大抵一つで限界だけどな」

「えー……ソレズルくない? 私には……くれない?」

「姉さんはいらんだろ、どう考えても。そもそもプライムがいるような奴はオレ達にいねぇよ……そうだな、纏めてやれば良かったが……フェイトに話した状況を再現する。全員オレの左眼を見ろ。万華鏡写輪眼、月詠だ。害は無い」

 

 そう言ってシオンは一度目を閉じ、明らかに狂ってる瞳孔を開いた。

 ……私、そういう目は欲しくいな。フェイトやアインスみたく綺麗な目が欲しいんだけど……




最近写輪眼推しが凄いのはナルト系でしたい事が二つあったのと月詠の状況説明能力が高いなと思ったからです……決して卑劣様とBLACKRXにハマったわけでは……


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第90話 月読

前話が99話になってました。修正しました。


「これが月読だ。全員いるな。この世界では全てをオレが支配する。瞳力を持たないお前らにコレから抜け出す術は無い」

 

 真っ白な……あのロリコンの世界を思わせるほど何も無い空間にいる。

 ただいるだけ、現実では無く意識だけがあるという実感も確かにある。

 しかしその世界にいるのは私とシオンだけ。全員というのは違うと思うけど……質量、空間という概念があるなら私は対象にできるぞ。精神世界でも例外と油断するなよ? 

 

「この幻術は一人ずつしかかけられない。だがオレの目を見た個人個人は別々の月詠に同時にハメられる……だから、ウタネ、ソラ、なのは、フェイト、ユーノ。お前らそれぞれに同じ内容を見せて話す。食い違いが起きないようこちらが一方的に話して終わりだ。質問は幻術を解いてから聞く。ここまでよければ右目を一度閉じろ……姉さんとなのは、ウインク下手か? 縫い付けてるオレが言うのもなんだが……スゲェ皺が寄ってるぞ。あとなのはは口を閉じた方がいい。威厳も美貌も品性も常識も無さそうに見える……まぁいいが。よし。じゃあ再現だ……」

 

 シオンはそう言って空間に市街地の映像を投影した。

 なのははともかく私は許して欲しい。右目見えてないのに閉じてるかどうかすれ分かってない。左目と同じ感じで閉じようとしてるけど。

 

『……! これは!』

『安心しろ。オレの固有結界だ』

 

 映像ではフェイトの運転する車が突如固有結界に呑まれ、フェイトは即座にバリアジャケットを装備、周囲を警戒する。

 そんなフェイトの正面に武器を持たないままシオンが空? から現れた。

 

『シオン! あなた、何をしてるの⁉︎今までどこに⁉︎』

『何をしてるか、はまだ言えない。ただお前らがオレを敵として想定してることは知ってる……だから、それをとりあえずは否定しに来た』

『ならここから出して!』

『フォワードなら大丈夫だ。オレがいるんだろ。少なくとも5より上の』

『……!』

『まぁ、何でもいいだろな。オレが抜けた理由は分かるだろ』

『……なに?』

『……マジか。えぇ? マジで……まぁいい。オレはお前らに敵対してないってことだけ伝わればな』

『信用できない、って言ったら?』

『別に。どうもしない。殺そうと思えば殺せるこの状況、何もしないことが最大の信頼かと思うが……どうだ?』

『信頼なら、なのはに会って。あなたがいなくなってから、なのはがどれだけ……!』

『……リインフォースか』

『直死! 参上!』

『相変わらず……では無いな。どうした、テンション高いぞ』

『む、やはりシオンか。なんだ? 見たところ戦闘では無いな』

『丁度いい。読心能力を使え。そして必要事項だけフェイトに伝え、オレに会ったことは隠せ』

『……』

『リインフォース? どう?』

『うん、大体は把握した。フェイト、六課に戻ろう。ここでは不明な通信阻害が起きただけだ』

『え……⁉︎』

『ジェイル・スカリエッティ。戦闘機人。能力試験……私もしたいところだな。謎が多い能力だ』

『スカリエッティ……! シオン! あなたまさか!』

『大丈夫だ。私たちに害は無い。だが一応取引だ、シオン。帰ってきたら私にも能力を教えてくれ』

『ああ。それでいい。じゃあな』

『まって! シオン!』

 

「……一応、コレだけだ。意味は無いがな。一応フェイトの疑いを解くくらいの意味しか無い。ま、お前らはフェイトを疑うことすらしてないからその意味も無かったな……ああ、あと一つ。クロノが危惧してるアインスの無限月詠について少し言っとく。無限月詠は今のオレの眼と同じ輪廻写輪眼を月面へ投影し、全ての生命に理想の夢を見させ続けるものだ。必要なのは十尾チャクラだったりだが……まぁ、オレの能力ならば問題無く用意できるしオレならそんなもの無くとも無限月詠という能力だけを使うこともできる。そうなればオレかソラ以外には対処不能だ。ま、それだけだ。とりあえず知っとけ」

 

 固有結界の映像は消え、また白紙の世界に戻る。

 そしてそのままその世界も消える……

 

「どうだ? 別段言うもんでも無かったが……」

「はい! 質問です!」

「なんだ? お前には関係ないぞ? なのは」

「えっとね、あの時はウタネちゃんがフォワードに全力を出すなって指示してたんだけど、なんで?」

「ん? そうなのか?」

「うん……? 知らない。シオンでしょ。なんで?」

「……完全に同一人物では無いんだぞ。そうだな、オレが敵だった場合、ナンバーズの戦力調整に関して対策させないつもりだったか、か? オレが厳密にスカリエッティと協力してるわけではないと踏んでスカリエッティの目算を外すつもりだった、が近いか」

「ふーん。因みに7のシオンとしては何点?」

「それ聞いてどうする……80はやるよ」

「おー、私の5のシオンもなかなかやるねー」

 

 5だったっけ……6だった気もする。まぁいいか。5と6ならそんな差は無いし。

 

「ま、これでユーノの用とあの時の説明は以上だ。今日はもう寝てろ。オレ達はこの後会議をしなけりゃならん」

「え? ウタネちゃん達? 何の?」

「ああ。これはある種、レリックの収集やナンバーズの対策以上に重要なことなんだが……」

「「「…………」」」

「オレ達がどこまで手を抜くかだ」

「っ! 抜かないでよ⁉︎」

「抜くに決まってんだろ。全力でなんかしたらコイツが黙ってない。最悪オレと姉さんが殺される」

 

 気の抜けるシオンの話に驚愕した三人。なのはが珍しくつっこむ。

 

「ソラちゃん? なんで?」

「あははー、何回も言うけど私ってば抑止力だから。私達の全力は許せないの。言ってないっけ、私達が互いに許可制の能力解放してるの」

「あー……そういえば、はじめてソラちゃんが訓練入った時言ってたような」

「そんなワケで、どれだけ手を抜くかあらかじめ決めとくの!」

 

 抑止の対象に入っちゃうとどうあっても勝てないからねー……

 気を付けなきゃ、と言いたいけど私は最初っから対象だしどうしようもない。ま、私はワンチャン勝てるけどね。

 

「でも、手を抜くって言っても、どうするの? ウタネは戦うだけで発動するし、ソラちゃんはよく分からないけど、実質シオンだけになるんじゃ?」

「フェイト……お前、姉さんと戦ったことあるんだろ? なんで知らねぇんだ」

「?」

「姉さんの能力。アレは旅行で見せたようにドア開けたり材質変えたりするだけのモンじゃねぇぞ」

「……あ!」

「それに、ソラが一番分かりやすいだろ。明確にパーセントで区切ってんだし」

「100パーセントはしないよ。安心して?」

「100の鬼しなけりゃオレはなんも言わねぇよ。解放したことあんのか? そもそも」

「あるよー。ウタネとやる時だけど」

「うん? あったっけ?」

「うん。まぁあの時は固有結界で10人くらいしかいなかったからボロボロに負けたけどね」

「そりゃそうだ。そのくらいで姉さんに勝てるかよ」

 

 10人か。そのくらいじゃあ私の足元にも及ばないね。ソラの能力的に孤立したら弱くなるのは抑止力らしいけど悲しいところだ。

 

「ま、そんな話だ。悪かったなユーノ。お前にもなんか埋め合わせる」

「にも?」

「ああ、クロノもだ。もちろん別でやる。一緒でいいならメシでもいいが」

「ああうん、気にしないでいいよ」

「そうか? じゃあ気が向いたらにする。なのフェイ、もういいか? 帰るぞ」

「いいけど、たまに言うなのフェイって何?」

「お前らの総称。界隈用語だが楽だから使ってる」

「……? 分からないけどフェイトちゃんがいいならいいよ」

「私も別に。それでいいなら」

 

 分からないけど便利なら、といった風に許可するなのフェイだけど、たしかそれ、あの界隈だった気がするよ。いいのかな、いいのか。

 関係ないし誰も知らないだろうしで何も言わずそのまま今日は解散。

 

 ♢♢♢

 

 翌日。日を跨いだはいいもののソラによって能力による治癒ができない以上現代魔法と自然治癒に頼る他なく、シオンの力を借りた敵に受けた傷はそう早くは回復などしない。

 普段から戦闘訓練を積んだ守護騎士やフォワードはある程度、点滴をしながら病院内を歩き回ることができるくらいには回復していたけれど、他のロングアーチスタッフやバックヤードスタッフはそうもいかず、機動六課は未だ機能停止と言っていい状態だった。

 

「……だからな、オレの能力使わせろってのに」

「ダメ」

「治すだけだぞ、プライムみてぇなことしねぇから」

「黙って!」

「……」

 

 病院の廊下を歩きながらでさえソラはこんな様子。断固として譲らないソラにシオンもため息を吐くばかり。

 シオンに無理なら当然私に説得できるはずもなく、ただ会って話したり……と言うことがせいぜいだった。

 一応ソラの立場と行動はなのはとフェイトの助けもあって……というより二人が言うのだから仕方ない、というくらいウエイトがあるけど……六課のみんなも理解してくれた。

 

「こんなことならお前いねぇ方が良かったぞ。全開しねぇなら尚更だ」

「むー! いるよ! 何のための抑止力だと思ってるの! この世界のためだよ⁉︎」

「いらねぇ。10年遅い。オレらが干渉する前に出てきてたなら説得力あったのにな」

 

 ソラのいう抑止力とよくある抑止力とでは方向性が違う。

 普通、人類滅亡等にカウンターで出てくるのはアラヤ……いわゆる掃除屋、霊長の守護者だったり、誰かを後押しする力だけ。けれどもソラの本質はアラヤ寄りであるだけのガイア。いわゆる星……私たちで言う『世界』の生存本能。ガイアでありながらアラヤに寄ってしまった結果、ソラは『世界の在るがまま』を保存しようとする方向になった。

 だから誰も殺さないし、私達みたいな異常も無闇に干渉させない。この世界で起きてる事をこの世界が成るように成るってスタンスで、悪く言えば放置主義の視点で見てる。

 意味不明だけど転生した私たちなら分かる……『ストーリー』から逸脱しないように動いてるんだと思う。私たちが加わってたらそれを踏まえて……

 

「遅いのはシオンもでしょー。10年もかけちゃって」

「あ……?」

「ホントはねー……いや、いいや。ややこしくなるから」

「話せ。歩きながらなら大丈夫だろ」

「ホントに聞く?」

「写輪眼で話させるぞ」

「やだ。じゃあ話す……けど、話すとシオンも知らない未来と過去の話にもなる」

 

 シオンの頼みを聞く、というより誰にも聞かれないなら、と言った体で話を始めるソラ。 

 すれ違う人はいるものの治療に追われてるはずでみんなが忙しなく走り回っている……や、実際走ってはないけども。焦ってるのは分かる。

 

「……過去? この世界の10年でオレの知らないことが?」

「この世界だったはずの並行世界……もう無くなった、ウタネが壊しちゃったこの世界だよ」

「それが、お前の言う10年か」

「うん。本来ならあなたはスカリエッティと協力して、闇の書事件が終わった半年後にはゆりかごを起動させてる。なのはの撃墜前のことだからナンバーズの強化じゃなく、ゆりかごに集中したんでしょうね。ヴィヴィオと『てんし』っていう外来の子を燃料にゆりかごは起動。なんやかんやあってキレたウタネが能力でゆりかごもナンバーズもスカリエッティも……管理局も潰して、物語を続けられなくなった世界からウタネはロリコンに引き上げられ、この世界は再構築された」

「……半年? 無理だ。ヴィヴィオが闇の書の時にいたとしても、オレがゆりかごに集中したとしても三年はかかる。その短期間なら神霊レベルのエネルギーが必要だ。てんしってのは何なんだ?」

「知らないよ、ロリコンに聞いただけだし直接は見てない。節分に犯罪組織から助けた女の子なんだって。ひなないてんし……が本名らしいよ。ただとんでもない特異点ってだけじゃない?」

「……幻想郷か。しかも子供ってんならホントに遠い並行世界から流れたんだな。ロリコンに再構築されてんならオレが知らないのも突然か」

 

 色んな世界に詳しい二人が何やら入り組んだ話をしてる……私が消しちゃった並行世界か……無いとは言い切れないのが悲しいところだ。

 

「はーあ、納得したかな? 話すべきじゃないんだけどー、別に抑止とカンケー無いしシオンだからね」

「納得はしないが理解はした。あとは部隊長どのに『シオン? 今時間あるか?』おう、ちょうど良いな」

『なんや、そっちも用あったん?』

「いや何、そろそろ話を聞くんだろうと思っただけだ」

『相変わらず都合がええなぁ。この後ナカジマ三佐に話を聞こう思とんよ。私ら三人とシグナム、リイン二人。できれば三人にもお願いしたいんやけど』

「ああ。三人とも行く。能力で探るのもいいが知ってる奴から聞くのが早い」

『ほんじゃまた。待っとるで〜』

 

 八神さんの通信を終え、私とソラの自由意志は否定されその話を聞くことを強制された。まぁ、いいんだども。

 

「……」

「シオン? どしたの? はやてになんか言おうとしてた?」

「……いいや、しておく事があった気がするが……まぁいい。意味は無いだろうな」

「ふん?」

「何か頼みを聞いていた気がしたが……放っておいていいだろう。行くぞ」

「ほいー」

 

 シオンの珍しい自己完結を横に置き、シオンの案内でその部屋へ向かった。




ソラの言うウタネが壊した並行世界だとかてんしだとかはどうでもいいです。多分今後登場しないので。
ようやく話が進みそうです。グダグダしてる……


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第91話 

ついにサブタイトルが……
昔、シオンを出したのは失敗だ、と言った感想を頂いた事があります。シオンが話すと長くなるので今となってはそれも的確なものだったのかなと思ったりしてます。


「……来たか」

「おー、ここ座りや」

「ああ……久しぶりだな、老いぼれ」

 

 部屋に入ると八神さんと白髪のおじさんに誘導される。

 

「……ホラ、選びな」

 

 ソファに座ると、白髪の……シオンが老いぼれと呼んだおじさんが六つの湯呑みを出す。

 すでに居た七人の前にはには既に湯呑みが置かれている。

 

「はぁ……今更毒なんぞで死にやしねぇよ。毒の用意さえしてねぇ様だが」

 

 シオンはその意図を理解していたようで、無造作に一番手前に来ていた湯飲みを掴み、一気に飲み干す。

 ああ、敵意が無い証明か。シオンの言い方だと殺す気みたいに取れるけど。

 

「ハッ、恨みがねぇ、なんて言えたもんじゃねぇが、それで何が解決する訳じゃないのも分かってる。アンタの人柄はそこの狸からよく聞いてる。強さもな」

「オレは何度言えばいい? 誰も殺してやいねぇよ、やったのはチンクだ」

「チンクってのはあのちっこい銀髪だよな。お前らの血族じゃねぇだろうな」

「……そう言えば色彩は似てるな。それは盲点だった。姉さんと並べると一応姉妹っぽく見えるかもな。だがま、違うってだけは言っとく。アイツらは全員スカリエッティが作ったもんで、基本構成にオレの手は入ってない」

 

 チンク……誰だっけ。聞いたことはある気がする。

 

「ちょ、シオン、喧嘩腰やめてぇや」

「わってるよ、戦闘機人、スカリエッティの情報交換だろ。なにせ美人顔は自分本位だからな」

「……なんやそれ」

「うん、オレの偏見だ。実態はどうか知らんが経験則に基づいたモンだ。本人に関係無い周囲が本人を作り上げる。お前ら三人もソレだ。ユーノ、プレシア、闇の書。というかここはほとんど美人顔だしな。ま、そんな話は良い。あ、姉さん、コレとコレは飲んでいいぞ。ソラはソレ飲め」

「あ、うん」

「なんで指定⁉︎ヤな予感しかしない! ウタネ! いっこ交換して⁉︎」

 

 シオンが残った五つの内二つを私の前に、一つをソラに指定する。

 言い方から別に差は無いんだろうけどやり方言い方がそれっぽいからソラが動揺しまくる。シオンの能力なら触らず見れず毒を仕込むことくらいできそう。

 

「んでも、二人が知り合いやったん意外やな? どこで知り合ったん?」

「いや、知り合いじゃねぇ。いつぞや事件について調べてる内にすれ違っただけだ」

「まーなぁ……」

「なるほどなぁ……」

「ってシオン! なんでそんな人殺しちゃったの! ダメじゃん!」

「うるせぇなぁ……コイツらいねぇしモブかと思ったんだよ」

「……ゲンヤさん、でしたか? この人殺したくないですか? 私なら六課抑えて無実にします。なんなら罪私が被ってカルデア帰るから殺さない?」

「おい……」

 

 どうやらゲンヤというらしい。カルデアのこと言っていいのか。

 

「いや、遠慮させてもらう。八神、スカリエッティと戦闘機人に対抗するにはコイツらの力が必須なんだろ?」

「はい。シオンのせいで強化されたアインスを相手に生き残るほどの力をシオンによって得た戦闘機人に対抗するには彼らヴィーナス無くては」

「……ほとんどアンタのせいじゃねぇか。どーすんだ」

「どう、とは? 確かに事件を助長したのはオレかもしれないが、オレがいなければヤツは事件を起こさなかったのか?」

 

 私たちがいなくても、プレシアと闇の書の事件は起こっていた。そして今回も例外ではなく、本来の世界でも同様のことは起こっていたはず。私たち……シオンは事件のレベルを引き上げただけで、ストーリーの改変はしていない……

 

「起こしただろうさ。だから聞きたい。アイツら戦闘機人の技術はどこまで進んでる?」

「そうだな、ISを見たスバルを基準にするが、ナンバーズ一機と同等の戦力にするには単純に四スバル。実戦となると経験の差も出るだろうから六〜七スバルはいるな」

「……戦力より技術面を聞きたかったんだが、まぁいい。それで、なんとかできるんだろうな? ギンガに何かありゃ、女房に何て言やぁいいか」

「なんとか、の形によるな。スカリエッティ、ナンバーズ、管理局内の内通者を全員殺せば良いのか?」

「シオン! 殺さない!」

「そうじゃねぇ。そこの黒髪のお嬢ちゃんと同じだ。全員生きたまま確保して全部を吐かせる。女房が何を見て何を調べ、どう死んだのか……オレが管理局員じゃなく個人として知りたいのはそこだ」

「親の……いや、夫婦としての絆か」

「あん?」

「いいや。その女房、クイントだったか。ソイツを生き返らせる方法はある」

「「「⁉︎」」」

「同じだ。だから一応聞く。お前は、どんな形であれソイツを生き返らせることを選ぶか?」

「どんな形、ってのは教えてくれねぇか」

「別に。そうだな、一人生贄がいる、ってくらいだ。自我も記憶もあるし縛る気も無い。どうだ」

「……」

 

 シオンは生贄、と言ってゲンヤさんを指さした。

 ゲンヤさんはその指を見て黙ってしまった。

 

「……そこが違いだ。そりゃ普通はそうだよな。自分が死ぬのは良いとして、本当に蘇るか分からない。どうされるか分からない。それを止めることもできない。自分が死んで困るのはそれを確認できないことだ。普通そうだ」

「なんだ、オレには覚悟が足りないって言うのか」

「そうとも言うが、利口だとも言う。倫理観と常識と能力を踏まえ、プラマイでプラスに傾けようとするならオレに頼らない。そんなことをするのはオレ達だけだ」

「その姉さんとやらもするのか?」

「姉さんを姉さんと呼んで良いのはオレだけだ。管理局ごと殺すぞ。姉さんもソラもやるさ。ただで死んでもいいが……はやて、クロノは?」

「レジアス中将と掛け合ったりで忙しそうにしてたで。シオンにできへん政治関連を全部担うつもりや、お礼言っときや?」

「……いらん事を。どうせそのレジアスも死ぬというのに」

「なんやて?」

 

 どうせ死ぬ。スカリエッティとそのレジアス。シオンによって死が宣告された二人。

 それに反応する八神さんとゲンヤさん。

 

「あー……わりぃけどお前らにゃ詳細は言えん。お前らに言うとソラに殺される」

「ソラちゃんが?」

「あー……ごめん、シオンの言う通り。リインフォース……アインスが言っても同じ。あ、隠れてとか意味無いし私に勝とうとか思わないでね」

 

 ソラも徹底的な対応を表明。

 信頼ではなく世界として見過ごせないんだろう。未来のこの世界にいたと言うソラはみんなの性格とかは知ってるはずだし……それを踏まえて言えないってことだ。

 ソラは抑止対象のとこには瞬間移動というか召喚みたいなことされるから固有結界だろうが関係無く現れるし、普通の人が戦う以上ソラには絶対勝てない。

 

「ったく、話になりゃしねぇ」

「すみません。ナカジマ三佐。私の顔を立ててここは納得していただけないでしょうか」

「なんだ、そこまで肩入れしていいのか? あくまで外部組織なんだろ?」

「はい。彼らは表にこそ出しませんが義理堅く誠実です。それは私もクロノ提督も認めるところです」

 

 義理堅く……誠実……? 

 意味不明な八神さんの言い分に、ゲンヤさんはそれを噛み締めるように腕を組んで黙り込み、数回首を傾げて口を開いた。

 

「わかった。さっきの話はここだけのものとする。だが、お前の見てる計画は話してもらう。戦闘機人の歴史を話すのはその後だ。いいか、ナカジマ三等陸佐としてじゃねぇ。ゲンヤ・ナカジマとしてお前に、フタガミシオンに問い質す。この後……世界はどうなる」

 

 神妙な、クロノの様な法の番人としての正義ではなく、愛する妻を殺された夫として、一個人としての恨みを込めた視線がシオンを刺す。

 

「……ソラ、いいか」

「いいよ。こうなるのは仕方ないから」

「……これから、というより、まず現状から確認する。はやて、六課としてはどうなる。もうあそこは潰れて使えないだろ」

「機動六課は一時、アースラに移動するよ。この事件解決か六課が戻るまで、最後にもう少し力を貸してもらうことにしたよ」

「それで、スカリエッティの居場所の目安は」

「つけてへんよ?」

「は?」

「や、調査はしよったけどシオンが戻ってきたから止めたんよ、分かるんやろ?」

 

 当たり前だ、と言う八神さん。

 ……そういえばそうだね。戦闘機人の改良までしてるんだから知らないワケ無いか。

 

「……ソラ、それはアリか?」

「んー……微妙。でもいずれ分かったんだろうし、セーフ」

「よし。アジトは後で教える。そして本題、これからだが、まもなく『ゆりかご』が起動する」

「なんだ? それは」

「ゆりかご……古代ベルカにおいても最強レベルの戦艦だ。聖王を燃料に稼働する。ま、その分聖王の寿命は削りまくられるようだがな。クローンならいくらでも代替が効く」

「シオン! ヴィヴィオにそんな事言わないで!」

「黙れ。姉さんならともかくタカマチ人のお前の感情を一々聞く場面じゃない」

「ひどい!」

「なんならヴィヴィオも殺すぞ」

「「「それはダメ!」」」

「……えげつねぇ」

 

 ソラ、なのフェイの批判を受けて怯むシオン。

 なのフェイは純粋に殺してほしくないからだから効くんだろうなぁ……ソラのは流してそうだ。

 

「ま、シオン。二人の言う通り殺しは無しにしてあげてよ。殺さないように加減するくらいできるでしょ?」

「……姉さんもか。わかったよ、ヴィヴィオもナンバーズも殺さない。他がどうするかは知らんぞ、オレは殺さんだけだ」

「うん……まぁいいけども」

「でだ、ゆりかごが起動すれば当然管理局が止めに入る。だがAMF戦はほとんどの魔導師が対応できない。対ゆりかごの基本戦力はお前ら機動六課になるだろう。そこでやはて」

「ん」

「ヴィヴィオの救出になのは、スカリエッティにフェイトを当ててくれないか?」

「……それは、出来んこともない、けど……」

「今はスカリエッティよりナンバーズが危険だ。オレ達が出向く他ない。オレの予定、というか目算ではお前ら機動六課は基本的にガジェットの殲滅に向かって欲しいが」

「……それは私らのため? 自分のため? ウタネちゃんのため?」

「オレのためだが。お前らのためでもあるし、姉さんのためでもある。姉さんとの約束、あの旅行にいた誰一人として死なせないこと。それはお前らの安全を絶対とするもの……なのはに関してはオレの落ち度だ。戦闘機人を利用しようとしたのはその埋め合わせのつもりだった。そして……スカリエッティはオレの管理から外れた、管理局の敵だ」

 

 シオンが八神さんを睨みつけるように話す。

 ……何度か言ったかもだけど、アレはシオンが誰かを殺すなって言っただけで誰にも殺させるなとは言ってないと思うんだ……

 

「じゃあ……信じてええねんな」

「この中じゃお前には一番話してると思ってんだが……現状が見えてくると信用も減るか」

「まーなぁ……いや、別に信用してへんわけやないんよ? ただ私らに別々で話してたり必要なこと以外聞かさへんようにどっか行ったり時間ズラしたりで怪しいなーとは思ってるけど」

「それを怪しんでるってんだよ、信用ねぇじゃねぇか……ったく。そもそもな、お前ら機動六課がオレを警戒すること自体が無意味なんだよ」

「なんでや? 私ら三人でもシオン止めれん自信あんで?」

「冷静な分析力があるのは結構だ。アレだ、セルフギアス。いつやったか知らんが勝手に契約したろ、姉さん」

 

 シオンが謎の書類を出現させる。

 

「あ……それ。なんか書きよったな?」

「私は知らないけど……シオンがやったんでしょ」

「だからオレじゃなくて姉さんのオレだろ。このギアスは死後まで束縛されるからな。勝手に条件も達成されてるみたいだしオレは何がどうあっても……例えばオレの全ての魔力、リンカーコア、能力、未来視とかを捨ててからなら分からんが、そういったのがある限りお前ら機動六課には手出しできん」

「あ、じゃあスバルが軽傷だったのは……」

「アイツが無茶した分の自傷だけだ。オレはその無茶を相殺……しきれなかったが……しただけだ。アインス、お前がいながらいらん事を」

「……私もVNAだからで、な。管理局、はやてのためだ。事後で済ま、みませんがシオンだろうと能力の使用は惜しまない、です」

「なんで若干カタコトなんだ。別にいい。ギアスも必要だからしたんだろ」

「ん……まぁ、な」

 

 つまりはセルフギアスで『シオン』を縛ってしまっていたらしい。

 つまりは『ウタネ』たる私自身には……何の支障も無いわけで。シオンはそれも計算してそう言うことしたのかな? 

 

「じゃ、寄り道が多かったがオレの事は多分話したぞ。多分な。後はゲンヤの仕事だ」

「……ああ。戦闘機人の歴史と、ウチの女房……クイントについてだ。知ってる部分もあるだろうが──」

 

 シオンが話を投げ捨て、ゲンヤさんがそれを拾う。

 そこから、戦闘機人なる技術の歴史とクイントなる陸戦魔導師のことが語られた。



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第92話 特製カートリッジ

 アースラの調整が完了し、移ったはいいものの未だ局員の半数が現場に復帰できないでいる状況、動こうにも気軽に動けるわけもなく。

 今はただただ、この面倒な状況に追い込んだ忌まわしい船の通路の窓にもたれかかって虚無を見ていた。

 

「はー……」

「虚無みたいな目してどしたの。まだ気が乗らない?」

 

 ゲンヤさんの話から数日、八神さんたち機動六課とシオンが色々作戦だったりを話している。私とソラはシオンに戦力として投入されるまではお役御免。そもそも話分かんないしソラは未来干渉がーとかで逃げた。

 

「乗るわけないでしょ。私は今回せっかくなら普通の暮らしってのをしたかったんだ。それがジュエルシード、闇の書と巻き込まれて今がコレだ。そんな事件起こしても意味なんてないのに」

 

 ジュエルシード、闇の書、レリック、戦闘機人。

 この十年で私の力量など変わってはいない。しかしどれも私達の一人にすら及ばない出来事。ソラがいなければ私とシオンで軽々解決できるし、私がいなければソラが単独で終わらせてる。両方がいないなら、それは元の正しい物語通り解決するんだろう。

 あのロリコン以外に転生されたんだったらよかったな……と思ってたけどどの神もあんな感じらしいし……

 

「意味はあるよー、どれも個人や世界の水準の成長に必要だったでしょ。ジュエルシード無かったらなのははあんなになってないよ?」

「ならなくてよかったよ。タカマチが本当に恐ろしいのはその身体能力と剣術だから」

「まるで高町がトラウマのようじゃん」

「……私の箭疾歩を物理で解決したり直感でやっとガードが間に合うパワーとスピードだったり。生身の人間相手に困るとは思わなかったよ、全く」

 

 私の力量は変わってないが向こうはタカマチだ。なのは以上の驚異的成長率で進化を遂げていることだろう。お兄さんは竹刀の突きで人体貫通してそうだな今頃な。

 

「高町家、私あんまり知らないんだよねー、この事件終わって帰る前にちょっとお邪魔しようかな」

「ん、帰るの? カルデア?」

「うん。私がいた時間までいるのはなんか違うし、あれはそんな事件とか起こらないし。えっちゃんに会いたいし」

「令呪あるなら喚べばいいのに」

「うんー、それもいいけどね。触媒足りないしこの世界にセイバーいないからもしかしたらえっちゃんが怪我するかもだし」

「触媒なんてあったっけ」

「無限の和菓子」

「むりでわ……?」

「やー、一応部屋に魔法陣描いて埋め尽くすくらい和菓子押し込んだら喚べるよ。ま、今となっては声かけるだけで来てくれるかもだし!」

「それはちょっと聖杯戦争のシステムから外れてない?」

「や……カルデア自体が聖杯戦争とは言い難い召喚システムだし」

「ふーん……」

 

 確かぐだのサーヴァント? だっけ。あの子の盾から召喚するんだよね。

 まぁあそこのは戦争って縛りでも無いしアリっちゃアリ、かな……? 

 

「ま、いいじゃん! 別に事件の結末とかが変わんないならガイア的にはいいんだからさ!」

「その割に過程の修正をちょくちょくするよね」

「アラヤ的にはそれも役割だし……」

「あなた、私達の中でも特筆してクレイジーね」

「四象の人に言われたかないけど……」

「師匠?」

「四象! 両儀の次に根源に近いの!」

「……両儀ってシオンが憧れてるアレだよね、そんな近いものとは……」

「あ……知らないのも無理ないか。双神詩音じゃないしな……」

「だからさ、それダレなの」

「あなた。正確に言うと私と同郷のあなた」

「……知らない」

「でしょうね、起きてたのはあなたからしたら未来だし。見たところよっぽど条件が無いと起きないよ。チンク達がこの世界でどれほどかは知らないけど」

 

 起きない……っていうのは……私が起きてる限り出ないってことかな? 

 ソラは若干諦めてる風だし、その未来とやらは私をかなり追い込んだようだ。

 

「おい、暇つぶしにオレ達の話すんのやめろよな。誰かに聞かれたらどうする」

「シオン」

「ホラ、お前らも一応コレ持っとけ」

「ん……カートリッジ?」

 

 話は終わったのか部屋から出てきたシオンがカートリッジをマガジンごと投げて寄越す。

 

「作ったのは一応姉さんだからな。オレが選んだカートリッジだけ入ってる」

「選んだ……って、カートリッジは全部一緒じゃないの?」

「いいや。数が少ないのもあって今まで奇跡的に使われて無かったが……そのカートリッジを使うとスターライトブレイカーが撃てる」

「ん……もう一回」

「そのカートリッジをロードすると即スターライトブレイカーが撃てる」

「……もう一度」

「カートリッジロードと同時に収束が終わり自由意志で即全力全壊」

「……ナニソレ」

「姉さんの作ったカートリッジだぞ。技術的なレベルはロストロギアと同等だ」

 

 シオンの説明を聞いた瞬間から手に持つソレが知っているモノでは無くなってしまった。

 スターライトブレイカー。全力全開手加減無し。才能で殴るような力技の終着点。そんなシロモノをこのカートリッジがそれぞれロードだけで撃てる……? そんなものどう作ったんだ……皇帝特権か? いやでも……モンブラン作れるならギリいけるか? 

 さしずめモンブランカートリッジ……いや、なんか緊張感が崩れるな。特製カートリッジ? 

 

「あとコレ」

 

 次にシオンが寄越したのは謎の機械部品。

 形状的にはマガジンの上? に……挿入するデバイス側の部分だけの様なもの。そんなに重くない。

 

「ソレをマガジンに付けてマガジン握って、ソレのボタン押せばロードできる。当然デバイスじゃねぇから魔力保持は無理だが、そのカートリッジだとそれもまぁ気にならんだろ」

「それはいいんだけど。言っちゃ悪いけど私達がスターライトブレイカーなんかに頼る場面来る? 私パーセント次第で全くいらないよ?」

「お前は遠距離無いだろ」

「あるよ?」

「聖剣とか無しだぞ」

「カマイタチ」

「……一応聞いとく。何%から?」

「んー、頑張れば60でもいけるけど基本80かな」

「……そうかよ。ま、たしかに頼る部分は無いと思うが。狼煙的な使い方もできるからな。結界破りにもなる。お前らが対応できない部分の穴埋めってトコだ」

「お前ら、ってことはみんなにも?」

「ああ。六課の戦闘部隊……ま、主要キャラには渡した。原作のマッチングじゃどうあっても勝てん」

「原作かー、今さらだけどこれ、どうなの?」

「どうって何だよ……言っとくが修正は無理だぞ。やるなら10年戻ってアインス殺すとこからだな」

「えー、せっかく助けたのに」

「だから無理だってのに。10年も時間干渉しようもんならオレがどうなるか分からんしな」

「じゃあ今のこと聞くよ? どうなの?」

「原作とは大きくもないがかなり外れてる。が、六課がダメージを受けアースラに手を出すこと、ギンガとヴィヴィオが回収されるのは正解だ。後の始末……最も大きな相違点であるスカリエッティと戦闘機人ナンバーズ。アイツらはオレ達が始末する」

「ねぇねぇ? そういえばどこまでやるかって話どうしたっけ」

「お前は60まで、姉さんは……どうする? 2?」

 

 そういえば制限の話してなかった……どうしよ。

 

「2……でもいいけど、どうなの? 闇の書が確か……3? だったかな」

「オレの能力を使いこなせない前提の予想だったしな。まぁ、戦闘機人相手に2は十分だろ。場合によっては3もいいかもな」

「おっけー、2までで。シオンは?」

「オレなぁ……お前らと違ってパーセントじゃねぇから難しい。そうだな、戦闘機人一機あたり二つまで、にするか。二対一なら四つ」

「能力名とかは?」

「出してもいいが……対面してどうするか決める気だからな……全てを終わらせるならキンクリ神威だけでいいが」

「時間跳ばしとすり抜けだっけ」

「正確には時空間。ま、どうでもいい。神威で自空間に引き込んで終わらせるか」

「それは許されないかもー」

「だよな。だから正面から潰す」

「じゃーどうするの? 能力ー」

「適度な加減でいいだろ。アインスとオレは比較的規模が小さいからな」

「お、なんや。ヴィーナスもカートリッジ持つん?」

 

 丁度? 魔法関連ないし管理局に話せる話題の時に八神さんとリインフォース二人(?)が来た。

 

「……アインスにもさっき渡したろ。分かれよ」

「あ……いや、アインスってほら、私ん家の子って感じ強くてヴィーナスって感じやなかってん。ごめんな」

「いや、それでいいんだが。アインス、スターズ二人にも渡したか?」

「ああ……一発ずつ、マガジンとは別で用意した……が、本当に良かったのか? スバルもティアナも……あのクロックアップの奴と同じレベルと戦うには……正直……」

「ヤツらの望みだ。好きにさせてやれ。それに、お前なら助けようと思えばできるだろ」

「身体的にはな。精神的ダメージは私では無理だ」

「それこそ知ったこっちゃねぇだろ。洗脳でもすんのか?」

「しない。そういう相手の自由意志を変えるのはよほど切羽詰まった時だけだ。フォワードがどうなろうと私に直接影響があるわけではないからな」

 

 切羽詰まるとやっちゃうのか……あ、闇の書を私に移す時そういうのしたらしいし……そういう系統かな。

 

「だろ。だからお前ははやての心配だけしてろ。お前らでガジェットの大半を抑えてもらうつもりだからな」

「10万ずつおんねやろ……私らだけでいけるかなぁ?」

「いくらAMFでも限界はある。お前とアインスの魔力量なら潰せるし、お前がダメならアインスが能力を使えばいい」

「やから! 能力使うんがダメや言うてんのに」

「ならそうならないようお前が踏ん張れ。管理局の敵はどんな手段を使っても潰す……クロノならそう言うぞ」

「かなぁ……クロノくんはシオンと違うて人情派やと思うで?」

「そうか? 闇の書解決の為にはお前も殺そうとしてたくらいだが」

「そうなん? んー、まぁでも、解決するんならええかなぁ。転生させるんなら止めるけど」

 

 シオンは同一視しているけど、クロノの法の番人としての意識はシオンの私を守るという意識とは全く別だ。

 クロノが多くの、本当に多数の一般人を守るためにただ一人、ただ数人の者を逮捕、殺害しようとするのに対し、シオンは私という個人のためだけに巨大な組織を、群衆を、世界すべてを殺しても良いと考えている。私のこともあって殺害では無く調和という方針ではあるものの、必要とあれば殺す……まったく、全くの別物。

 他人から見れば、特にこう言った事件でしかその思想は見られない。そしてそれはクロノもシオンもスカリエッティを殺す、と言う点で一致している。だから、他人には見えない。そうやって信用を置く人物が、常に殺意を隠そうと必死になっているのを。

 

「さて。はやて。そろそろ動かないとな」

「ん?」

「アインヘリアルがそれぞれ破壊されたようだ。現在地上本部へ向かっている」

「えぇ⁉︎感知は⁉︎」

「さぁ。ロングアーチもバックヤードも半数以上がまだ動けない。できていたとて、何ができるかもわからない」

「……! とにかく動ける人員を集めて! シオン! 部隊編成お願い! 今日でええんやろ⁉︎」

「ああ。今日は長くなるぞ」

 

 はやてにシオンがついて走り、その後をソラが追う。

 私も追おうとしたけど、アインスに止められる。

 

「何? 急ぐんじゃ……」

「急ぎますが。一つだけ」

「ん」

「シオンについては大丈夫です。今は管理局に牙を剥くことはありません」

「……それって」

「今言えるのはそれだけです。一言謝っておきたくて。すみません」

「……いいよ。私もその方がいい」

「では、行きましょう。管理局の敵は、倒さねばなりません」




ソラの抑止とナンバーズの火力強化の不釣り合いで機動六課の後方部隊をほぼ封殺してました。思わぬところで影響が……


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第93話 ゆりかご

僅かな情報からこのラクガキに辿り着いたフォロワー諸氏。おめでとう。


『戦闘機人、映像出ます!』

「「「!!!」」」

 

 アースラの管制室、その場の全員が息を呑む。

 いくつかに分かれている戦闘機人の進行、その内の一つ。

 

「……」

「ギンガ……?」

 

 なのはが呆然としたまま呟く。

 紫の髪をたなびかせ、無表情で走るギンガさんの姿がモニターにはしっかりと映されていた。その両隣には他の戦闘機人が二人。

 感情は見えない。ただただ目的地に向かっているという風だ。

 

「これ、スバルには……?」

「まだや。この場にいる人しか見てへん」

「……ギンガは私が」

「ダメだ。お前はヴィヴィオに行け。そしてフォワードを全員呼べ、もう十分に動けるはずだ」

 

 なのはの申し出をシオンが即座に却下、呼び出しを命令する。

 

「シオン! ギンガの事は大丈夫って言ったんでしょ⁉︎なら!」

「どうにでもなる、とは言ったがな。その妹がやりたい事とは別の事だ。アイツがやりたいのは自分で姉を救う事。オレが手を出すのはそれが失敗してからでいい」

「でも! そんなの酷だよ! 洗脳されたまま姉妹と戦うなんて……!」

「いいえ! 大丈夫です!」

「っ、スバル⁉︎」

 

 なのはが食い下がっていると、スバルを先頭にフォワードが合流した。

 

「私に行かせてください。ギン姉は、私が止めます! 絶対!」

 

 強い意志を込め、スバルが宣言する。

 

「……だそうだぞ? 家族の窮地の時くらい誰でも必死になるモンだ」

「シオンかて必死になるもんな?」

「ふん、窮地になぞなればな」

「本当に……大丈夫なの?」

「はい! 私はなのはさんの後釜になる魔導師ですよ! 身内の一人くらい……守らせて下さい!」

「スバル……」

「迷ってる時間も無い。スバルはギンガに当てる。フォワードは纏めてそこ行けばいいだろ。フォワードはそれでいいか?」

「「「はい!」」」

「じゃあそれだ。あとは言った通り行けよ」

「……分かった」

「機動六課、出動準備!」

「「「はい!」」」

 

 フォワードが走ってく……デバイスルームかな? 

 シオンと八神さんが考案していた配置から少し変えて……元々シオンが独自で考えていた配置に押し込んだ。これもシオンの計算の内。

 そして、それぞれが僅かな時間の準備に向かった。

 

「さて……ツヴァイ、タカマチ式カートリッジは持ったか?」

「です!」

「何その名前⁉︎」

「ん? いや、どうせ出てくんのお前のスターライトブレイカーだし分かりやすいかと思って」

「それでもなんか……納得いかない!」

「いいだろ別に。お前がシューターとバインドを基調とした理詰めスタイルだとしてもシメのブレイカーが目立ち過ぎるんだよ。社長の強力なカードに頼った愚かなデュエルがいかに脆いかみたいなセリフと同じなんだよ。バーストストリームのイメージが強すぎんだよ。反論したけりゃ『あの人、たまに凄いブレイカー撃つよね』って思われるくらいにブレイカーの頻度落とせ。代名詞ってのは本人のイメージに直結すんだよ」

「です!」

「むぅ〜〜〜!」

「やー、でも私もそんなイメージやで、なのはちゃん」

「そんな⁉︎」

「……実は、私も」

「フェイトちゃん⁉︎」

 

 逃れられないブレイカー厨のイメージ。

 なのははシオンの言う通り実際は圧倒的数量のシューターの牽制とバリアジャケットの圧倒的防御力、タカマチ式箭疾歩による驚異的速度の回避力、シオン仕込みの始点潰しで相手の戦略をしっかり分析しながら相手のコンビネーションないし決め技の相手が一番高まった瞬間にバインドを合わせ、シューターで弾幕を作りながら距離を取りブレイカーを叩き込むスタイルだ。

 長くなったけどブレイカーは相手を追い込んだ末の決定打、と言うだけで戦術的にはバスターでも何ら問題は無い。だけどブレイカーが安心安定ということでなのははその戦略を延々と繰り返し永遠に勝ち続けてきた。その破壊がもたらすイメージはもう……空戦引退しても拭えないものじゃないかな、と私は思う。

 高速移動式超防御固定砲台。やっぱりタカマチは禁止カード。

 

「ん……そろそろか」

 

 

『さぁ……いよいよ復活の時だ。私のスポンサー諸氏、そして、こんな世界を作り出した管理局の諸君。偽善の平和を謳う聖王協会の諸君……』

 

 突然モニターに映された、狂気の演説。

 

『これこそが! 君たちが危惧しながらも求めていた絶対の力!』

 

 大地が揺れ、山が軋み、その船は姿を現した。金と紫の飛行艇? みたいな? 形として正しいのかすら分からないのが宙に。

 場所は分からないけど八神さんたちが驚かないことからシオンが示したアジトの地形と一致するに違いない。私は知らないが。都心部を拡散したようなミッドのどこにあんな大自然が……? 

 

『旧暦の時代、一度は世界を設計し、そして破壊した……』

 

『古代ベルカの悪魔の叡智……!』

 

『見えるかい? 待ち望んだ主を得て、古代の技術と叡智の結晶は、今その力を発揮する!』

『っ……! 痛い、怖いよ……! ママ……! うっ……うあああああああああああああああああああ!』

 

「っ……ヴィヴィオ……!」

 

 映し出されたのはなんか大きな……それこそ玉座? に座らされ、謎管を繋がれたヴィヴィオ。

 苦しむ声はそのまま響き、六課……なのはを最上に据えて怒りを昂らせる。

 

『ふははははははは……! さぁ! ここから!』

 

「シオン! お願い! もう何でもいいからヴィヴィオを助けて!」

 

『なんて言うのだったかな……まぁいい! 今日が一番の祭りだ!』

 

「シオン! 解説! スカリエッティを殺すのはその後でいいの!」

「……はぁ、演技も貫けんのか、求道者は」

「ですぅ……」

「なんや⁉︎なんて言うんやったかやて⁉︎台本でもあったんか⁉︎」

「あぁ……まぁ、秘密? だったんだがな。格好つかねぇから。アイツはオレの能力をコピペする中で……本編を垣間見る技術を開発した」

「ボクソラえもん! シオンコロス!」

「まーて待て待て。話す、話すから落ち着け……もうオレオは無い。アイツはオレの能力を戦闘機人に組み込む内、限定的な並行世界の自分を見る技術を手にした」

「あかんやん⁉︎」

「全然大丈夫だ。オレと違ってこっちに連れてくることもできんし見る世界は一つだけだ。ただそのせいで……まぁ、何故か? オレにもサッパリ理解できんが? 好奇心が大幅に拡大された」

「……なんで? 私やシオンだと対策を練るよね? というか普通は?」

 

 並行世界、特に本編……自身のオリジナルとも言えるシナリオ。それが見えるのだとしたらそれが敗北した原因から対策を練る。物語的に負けると分かっているなら尚更だ。

 

「……オレにもサッパリ分からん。心を読んでみたが『楽しい』しか出て来なかった。生まれが狂ってるとああなるんだろうか? アンリミテッドデザイアだからか? マジで分からんが……いや、ホントに分からんが……とにかくヤツの好奇心を刺激した以上の事は起こってない。なんとも不思議な事だが」

 

 未来を視る事で全てを変えていこうとしたシオンにはサッパリ理解が及ばない思考回路をしているらしいスカリエッティ。

 なんと私もその思考に理解が及ばないので、スカリエッティは私とシオンの万能感にヒビを入れる存在となっていた。いや、これで傷付いたりはしないけど。

 

「だーもうええわ! 分からん敵には分からん味方や! 行ってこい!」

「……はぁ、お前も行くんだぞ。マジでガジェットは頼む。手が回らん」

「分かっとるわ! アインス、行くで!」

「はい」

 

 八神さんとアインスが先に出る。

 普通総大将は最後だと思うんだけども。まぁカルデアもそんな感じだし良い……のか? 

 

「なのフェイはフォワードに指示しとけな。姉さんとソラはそれぞれ当たってくれ」

「「了解」」

「「おっけー」」

 

 それぞれがそれぞれの……まぁ、立ち位置? 想定相手に向けた最終調整。

 私達は別段何も準備する事なくただ相手を選ぶだけなんだけどもね……

 

「オレ達はナンバーズ、スカリエッティの排除がメインだ。フェイトが失敗したら即スカリエッティを殺してもらうぞ」

「大丈夫。私がやる。必ずこの事件に……プロジェクトFに決着をつける」

「……ま、それなりに期待しといてやる。スカリエッティを殺さずに済むとしたら、お前が確保するしかない」

「分かってる。だから、戦闘機人は任せるよ」

「当たり前だ。オレも姉さんも自分からした約束を破ることは無い」

「お願いね。私は少し、エリオとキャロと話してくる」

「ああ。はやてが先に出たからな、長く話すなよ」

「うん」

「私も、スバルたちと」

「ああ」

 

 なのフェイが退室。

 管制室には私とシオン、ソラの他には動けるバックスタッフだけが残された。

 

「……そういや、お前か」

「はい?」

「いいや、グリフィス、だったよな。なのフェイどっちかは口説けたか?」

「なっ! こんな時に何を言うんですか⁉︎」

「オーケー。やはりオレだったみたいだな」

「……?」

「姉さんの事だ。オレの代わりとして遜色なくやってくれてたってことだ」

「そういえば……あの時はまだウタネさんでしたね。知りませんでしたが」

「ま、それだけだ。他意はない。仕事に戻ってくれ。あ、別に口説くのも勝手にしてくれ」

「はい。口説きませんが」

 

 八神さんの副官的な人と何やら話し、納得した風なシオン。

 会話内容がまるで意味不明なんだども。なんの確認だったんだろ。

 

「じゃあ行くぞ。取り敢えず負けることだけはするな」

 

 部屋を出て三人で歩く。

 

「それ、あなたが一番危険だよ? 私やウタネは能力すらそんな明かしてないよね?」

「それなら安心しろ。オレが負けることは絶対無い」

「じゃー私もだよ。固有結界とかも無いんでしょ」

「多分な。ま、あってもお前なら大丈夫だろ」

「ん! 当たり前だよね!」

「オレ達がそもそも負けるようならオレが退かせるしな」

「退かせる? どうやって?」

「はは……コレ」

 

 悲壮感漂う右手に生成された折り畳み式の携帯電話。

 あはは……まさかね〜……

 

「電話? え……まさか……ウタネを呼び出す時みたいな……」

「ああ、ロリコンに強制退去させてもらう。別にこの電話じゃなくてもいいしスマホでもいいし公衆電話でもいいし糸電話でもいい。電話の概念を持つものなら繋げられるんだなこれが……」

「おほぉ……アイツんなことできるんだ」

「一応神には違いないからな。お前も姉さんも手が出なかったならどうしようも無い」

「まぁねぇ。あの空間自体が権能なんだと信じたいけどあそこもただの部屋っぽいんだよね。今のシオンでも無理そう?」

「無理だろうな。レクイエム程の能力も根源から見れば子供のオモチャだ。何しても無理だろ」

『だー! 何のんびり余裕ぶっこいとんねーん! はよーしてよー! 戦闘機人がこっち来そうなんよー!』

「……行くぞ!」

「「おー」」

 

 神のことは置いておいて、私たちの今のところのやるべきことをしよう。

 シオンにそれぞれ目的地までの地図をもらい、分かれて走ることにした。




この辺りを雑にするのはなんかダメだと思うけど生きてる時間が足りないのでこんな感じ。次は年越しやもしれません。


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第94話 出陣

年明けと言ったな……私にとって年内最大の予定が予想より早く終わったので年明けです。あけましておめでとうございます。


「おっおっお。流石にゲーティアほどでは無いけれどー? 結構数エグいね! 繁殖期のバッタかな!」

 

 二人と別れて外に出ると、それはそれは大量のガジェットが空を地面を覆い隠さんばかりにうじゃうじゃ。それがアインスの範囲魔法で次々と爆散しては間を埋めていく。

 シオンが作った各10万という破格の数が実感できる。前の襲撃なんて比じゃないね。

 

「でもそれははやてたちの仕事。私達は戦闘機人を狙う!」

 

 未来のこの世界、どうなってるかは言ってないけどある程度面識がある、という程度でシオンに話したら簡単に相手を変えてくれた。

 流石に……ナカジマ家を潰すのは心が痛む。更生できる子は更生していいんだ。それを断つのは私の仕事じゃない。ま、私が相手するよりヒドイ死に方するだろうけど。それも関わってない私の責任じゃない。私が守るのは世界であって人の幸福ではないから。

 

「見つけたぁぁぁぁ!」

「っ⁉︎」

 

 丁度……ちょうど? 接敵前のフォワードを捕捉。

 大声上げたもんだからビックリさせちゃった? 

 

「ハロー? 多分聞いてないだろうけど私と一緒にやろうね?」

「えっ、はい……」

「シオンの指示ですね? 役割はどうなりますか?」

「うん、えっとね、召喚師はフォワードに任せていいけどナンバーズはできるだけ私がやれって」

「……わかりました。ただ、ギンガさんはスバルに行かせて貰えませんか?」

「うん? そのつもりだよ。ギンガさんは戦闘機人でもナンバーズじゃないでしょ?」

 

 私が選んだ戦場はここ。

 ノーヴェ、ウェンディ、オットー、ディードがいるらしいこの戦場。

 ん、ナカジマ家とやりたくないんじゃないか? いやいや、相手は変えてもらったよ? 変えてもらったせいでここになったんだけどね? 

 どうも一番集中するのがここらしく、能力的にここに選ばれてしまった……結局やるなら誰がしても変わらないのに……知り合い殺させるなんて最悪だ! 

 

「ありがとうございます! 任せて下さい!」

「ん! でも負けたら分かってるよね⁉︎遊びじゃないから! やりたい事はさせるけど事件の収束は絶対だから!」

「……はい。分かってます!」

「よし!」

 

 失敗すれば、殺す。

 私はシオンやアインスみたいに洗脳解除みたいな能力は無い。ただただ破壊するだけ。そんな私が事件収束に動くなら……誰だろうと潰すしかない。

 

「あ、お菓子食べる? 若者風にスナック菓子も用意してみたんだけど」

「え! いいんですか⁉︎」

「ダメに決まってるでしょ! ソラさん、真面目な時なので!」

「おー、ごめんね!」

 

 ポテなんとかとポッキなんとか、じゃがりなんとかも持ってきたのになー。この世界では好まれないのかな。それとも古い? 

 

「……見つけた! ソラさん、召喚師は任されていいんですよね⁉︎」

「ん! 頑張ってね!」

「はい! 行くわよ、エリオ、キャロ!」

 

 ルーは見つけたようで、三人が別れる。

 さてさて……どうなるか……まぁ、ルーなら今のフォワードに殺される事は無いでしょ。

 

「じゃあ行くよスバル!」

「はい!」

「……ま、すぐ当たるだろうね」

「うわっとぉ⁉︎」

「チッ、ちょこまかと」

 

 なんというか……お決まり? 

 別れた直後にレイストーム。それから出てきたのが想定通りの四人とギンガ。

 前から思ってたんだけど、なんでノーヴェ師匠あんなキレ気味なの。ヴィヴィオが見たら泣いちゃうよ? 他の三人は大した変わらないけど。

 

「ギン姉……!」

「……」

 

 ギンガは無表情で黙ったまま構えを取る。

 なんなら一番強そう。

 

「よーし! ナンバーズ四人は私が相手だ! ついてこい!」

「テメェ! 舐めてんのか!」

「そっスよ! 痛い目見ても知らねーっスからね!」

「ディード」

「……」

 

 師匠が怖い。

 他もなんだかんだで着いてくる。フォワードよりシオン同様不確定の私を警戒してるんだろうね。正解だ。

 けれど……着いてきたのは、不正解だ。

 

「ソラさん! お願いします!」

「そっちもね!」

 

 ♢♢♢

 

「……なんで着いてくる?」

「目当ては騎士ゼストだろう。彼とやるなら、私が適任だ」

「ヴィータが負けてんだぞ。お前じゃ無理だ」

「だからこそだ。仇討ちせず引き下がるわけにはいかん」

 

 ……引かねぇなぁ。

 オレは能力で飛行能力使ってる分喋りたかねんだけどな……

 

「いいか、アイツも死んでる! オレの技術込みで生きてる戦闘機人だ!」

「それも知っている!」

「なら何故やろうとする! 勝つ見込みがあるのか⁉︎」

「無い!」

「お前! そんなキャラだったか⁉︎」

「無いがやらせろ! 戦わなければならない気がするのだ!」

 

 曲がらねぇなぁ……

 気がする、ってのは原作よりの感情かね。この時期はサッパリだが……ソラにもっと聞いとくべきだったな。嫌がらせだけで話切るんじゃなかった。

 

「……じゃあ勝手にしろ。ただ、死ぬ前には止めるぞ」

「仕方ないか……それで妥協だ」

「死ぬ気だったのか……」

「死にたい訳ではない。だが蘇りたい訳でも無い。この命、ようやく騎士らしいことができると思っただけだ」

「今の、はやてに再生するからな」

「貴様ッ! 録音していたのか⁉︎」

「してないが……ムーディーブルースを使えば問題無い」

「絶対にするなよ! そうすれば死ぬ!」

「結局死ぬじゃねぇか。なら諦めろ……っ、避けろ!」

 

 前方から火球。

 まぁ、想定通りだ。

 

「よう、今回は明確に敵同士だな」

「テメー! 何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「オレの目論見から外れたバカを確保しようとしてるだけだが。お前らはお前ら次第ではま、どこぞの中将の首くらいはくれてやる」

「違う! ダンナのこと言ってんじゃねぇ! ルールーとの約束が違うじゃねぇかって言ってんだッ!」

「……は? 約束?」

「シオン、やはり何か目的があったのか」

「まてまて、オレは知らねぇ」

 

 アギトの吠えてる内容がサッパリ分からん。

 管理局に付いたことでもなく、ゼストの目的についてでもなく……約束? ルーテシアと? 

 

「忘れたのか。ルーテシアの母親……メガーヌに適合するレリックコアを管理局からルーテシアに譲渡すると」

「……おい? ゼスト? 冗談を真面目に言うキャラじゃなかったと記憶してるが……アギトもだ、何の話だ?」

「お前こそ、自分からした約束は破るような……まして忘れるような奴ではないと思っていたが」

「自分からしてりゃあな! 一切知らねえんだよ!」

「……では、ルーテシアの件も俺がやるしかない。それならどうだ」

「はぁ……ったく。しょーがねぇなぁ……分かったよ。何番だっけか? 取ってくるが」

「ダメに決まっているだろう⁉︎」

「おぉ……シグナムよぉ……じゃあどうしろってんだよ、オレだって混乱してんだぞ? 知らん約束してんだから」

「で、それが本物らしいと分かれば約束は果たす、か」

「そーだなー。アイツらは別にどこぞの同期を殺したいだけで管理局の敵でも姉さんの害でもねぇし。レリックはお前らもまだ使えねぇだろ」

「……分かった。お前らに私が説得するのは不可能のようだ。だから……力づくで!」

「流石に無理だろー……ゼスト一人でさえどうかってのにオレとアギト付きだぞ?」

「お前はなんでサラッと管理局に剣を向けるんだ……」

「や、管理局の敵にはならんぞ。コイツらの望みを果たすだけだ。この場を通して……望みを果たせば、それで終わり。死ぬか、確保だ」

 

 ……そうだよな、組織じゃなくて個人に加担するからこうなるんだなぁ……

 姉さんにも苦労かけたなぁ……

 

「シオン、お前は構わない。無闇に管理局へ敵対するような行動をするべきではないだろう」

「ダンナ⁉︎」

「どうせもう少ししか持たん。シグナムと言ったか。ここで……」

「だそうだ。良かったな?」

「望むところです。私が勝てば、手を引いて貰います」

「俺が勝てば、レジアスとレリックを」

 

 互いがデバイスを構え、オレとアギトは距離を取る。

「「いざ尋常に……勝負!」」

 

 ♢♢♢

 

「たのしそーだなー……私はーどーすればいーのかなー」

 

 たのしそーだな〜……私、戦場の真ん中いろって言われただけなんだけど……

 飛んでくるガジェットを能力で潰して虚無にしてるだけなんだけど……

 えぇ……? 相手すら無し……? 戦闘機人は私達がするー! とか言っといて私は……えぇ……? 

 

「多分ヒマ潰せってことなんだよね」

 

 私の能力2%の範囲。ちょうどガジェットの密度の濃い戦場範囲とほぼ同じ。

 つまりは崩れた場所を立て直すまでの時間を稼げってことなんだろうね。

 しかしながら優秀な八神さんとアインス。殲滅も殲滅、魔法が通れば3種のガジェットは等しく爆散し、埋まる。それをまた魔法で爆散。

 私はその魔法と爆散したガジェットの破片を能力で防ぐだけ。

 

「……」

 

 ……………………

 

「たのしそーだなー……」

 

 ……なんか仕事回ってくるんでしょうね? 寝てようかな……

 

 ♢♢♢

 

「なぁアインス! ウタネちゃん何しよんや⁉︎」

「あそこで私たちの魔法を防いでいる! だけだ!」

「なんやソレ⁉︎」

「分からん! シオンの指示だろうが目的は不明だ!」

「くそー! 私らが忙しいってのに! 一発デカいのいくでー! デアボリック・エミッション!」

「はやて、無駄です。能力で軽いシェルターを作ってます。もっというと寝ようとしてます」

 

 シオンは何を考えているのかさっぱりわからないが、ウタネ様はどうもあの場での待機? を命じられている様子。

 

「がー! 何させる気やシオンはー! 全部殺す気で行くで!」

「いやぁ……デアボリックエミッション以上の範囲はそうそう無いですが……」

 

 それを見るはやての心境は如何なるものか。紅蓮か、煉獄か。

 

「はやて。少し殲滅のペースを上げましょう。能力を一つ、よろしいですか?」

「んー? いるかぁ?」

「今爆散した分でも千に届くかどうかです。最低30万もとなると不安が残ります」

「む、そうかぁ。ならええよ。できるだけ軽いのな」

「はい。軽くて機械相手と言えば……選ぶのは当然ッ! それが礼儀ッ!」

 

 バラバラの実で指先をそれはまぁ細かく、ガジェットの探知に引っかからないくらいに細かくして大量散布する。うん、片手とはいえ指がないのは違和感だ。手を握っても握った感触が無い。まぁ、それはいい。

 

「とどめ……ん? あ、まぁ、撃殺するわけだし……とどめだくらえ! 『メタリカ』ッ!」

 

 指先それぞれから磁力を引っ張り、範囲内すべての機械動作の停止、爆破を行う。

 ん……一つ、といったが二つ使ったな。まぁいいか。

 

「……アインス、二つ使わんかった?」

「ですぅ……」

「ぐ……」

「この前……なんやったか、バイオライダー? の時も言うたやんなぁ? 治せるゆーてもアカン言うたなぁ?」

「す……すまない……シチュエーションがな……」

 

 はやてはこういう事にカンが鋭い……確か、個室には漫画本が多くあったな……そう言う面で……この世界にあるかは知らないが、能力の世界を多少なり知っていたりするのか……? 

 

「もー! 二ついるならそれはそれで考慮するから! ちゃんと言って!」

「……ああ、分かった。多分次からは二つずつ使うことが基本になると思う」

「よろしい! でもホンマ、負荷の大きいのはアカンからな!」

「分かっている。だがシオンが絡むこの事件、最後の最後まで油断はできない。私とて全知全能では無い。多少は許して貰う!」

「そりゃあヴィーナス頼りなんはそうやけど! できるだけして欲しくないんよ!」

「ツヴァイもな。普通融合機が単独でそこまで火力を発揮するのは不可能なはずだが……まぁ、シオンのことだ、単独戦闘もある程度可能としたのだろう。我らの後方は任せる!」

「ですぅ!」

 

 氷結系限定とは言え、その火力は中々のものだ。AMF化でも十分にガジェットを落とすくらいのレベルは保てている。

 ……私が消えた後は、十分に八神家を任せられるな。良い後継機だ。

 

「でははやて、いきます!」

「ほいさ!」




この話で今後の方針がある程度固定されるので慎重にしたかったけど今までもこんな感じだったしまぁいいかなと。どうせシオンがアインスがどうにかしてくれる。


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第95話 ゆ"る"さ"ん"!

ウタネの口調、初期と今でかなり違う気がしますけど……シオンがいるかいないかで変わる、と考えると割としっくり来たので忘れなければそういう設定で行こうかなと。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 互いに素の力で何度もぶつかる剣と槍。互いにそうか?と疑問を持つ余地はあるが、基本は剣と槍だ。

 

「なぁシオン。アンタ、ホントに覚えてないの?」

「ルーテシアとの約束か。困ったことに全くだ」

 

 ゼストとシグナムの熱い熱いバトルをボーッと眺めながら、絞り出す様にそれっぽい会話を始めたオレとアギト。

 

「約束した時と今のアンタが別人って線は?そっくりの姉がいるんだろ?」

「無い。オレの代わりができるのはウタネだけで、そのウタネは管理局でオレの代わりをしていて、今あそこにいる。どちらも本物だ。オレが……信じ難いがその約束を忘れてしまっていた」

「そっか……でもアタシはそれを責めないよ。ウソじゃないってのは分かるつもりだ」

「そうか……ゼストの望みはシグナム次第だが、ルーテシアの方はまた別に考える。レリック以外でもオレの能力で何とかできるやもしれん」

「ホントか⁉︎」

「ああ。だが、この事はルーテシアには言うな。母親の命に関わることで忘れられただとか、必死にしてきたことが簡単なものだなんて言われるのは酷だろうからな」

「うん……そうだよな。分かった」

 

 本当に……困ったものだ。

 ゼストを止めるのは本来ならオレの役割だったのだが……先約だったとなるとまた変わってくる。コイツらがオレを騙そうなんてことするとも思えん。アギトもゼストも本心だ。オレがここに来たのはレリックを渡すためだったと本気で思ってた。

 ま……どうでもいいか。そんなもの。管理局が第一だ。

 シグナムとゼストは若干ゼスト押しだが機体の限界か時折できる隙をシグナムが見逃さず突いてパッと見まだ互角ってとこ。

 

「で、お前はオレの隣に平然といるがオレが攻撃するとは思わないのか?」

「んぇ⁉︎なんだよ!結局管理局に行くのかよ!」

「元々管理局なんだがな。お前らは利用される側だったってことだ。まぁ、専属嘱託ってのも中々イイモンだぞ。直属上官以外には別段権限を持たれるわけじゃないからな、割と自由だ。お前もこの事件が終わったらクロノかはやてにそうしてもらうと良い。古代ベルカに理解ある奴らだ」

「……」

「まぁ、今んとこ敵同士だ、判断を急ぎはしねぇよ。気が向けば言えばいい」

「あぁ……」

「あ、そうだ。姉さんに指示しねぇと」

「……アイツ、何してんだ?」

「いや、オレがオレだって証明のために取り敢えず誰の目にも止まるようにいてもらっただけだ。ナンバーズが釣れればそれもいいと思ったが」

 

 ゆりかご内部がアレだからなぁ……姉さん無しじゃヴィヴィオにたどり着く前になのはが墜ちる。二回も同じ事をするのは本当嫌だからな。

 モニター通信でとりあえずの指示を出す。

 

「姉さん、わりぃ、今なのはとヴィータが突入口に向かってる。それに着いてって中のガジェット処理してやってくれ。戦闘機人いたらそれの相手だ」

『うぇぇぇぇ……眠たい……しかも遠いし。なのはにモニター開くように言ってくれる?とぶ』

「へいへい。じゃ、頑張ってくれな」

 

 ♢♢♢

 

「ふぅ……」

「お前のソレ、何回か見たけど慣れねぇよ」

「あはは……ウタネちゃんらしいけどね」

「失敬な、私だって好きでモニターを這いながらくぐってる訳じゃないんだよ。飛べないからさ、空中歩いたりするくらいならモニター通るほうが楽だし速いじゃん。私、一回休憩モード入るとスイッチ入るまで長いのよ?」

 

 はぁぁぁぁ、とため息を撒きながらモニターからゆりかご内部の通路に這い出ると若干引かれているような距離を感じる。

 シオンの指示直前くらいまで完全に睡眠時間に入りかかってたのに……やる気どころか正気かすら怪しい。眠たい……

 

「知らねーよ!決戦だってのに休憩モード入んなよ!」

「だよねー……はぁ、めんど」

「なのは、コイツぶっ叩いていいか?キレそうだ」

「いいけどアイゼンに負荷がかかるだけだと思うの」

「そうだよー、今の私に傷一つでもつけられたら勲章ものだねー。シオン超えかもよ」

「お前らマジで何なんだよ……問い詰めたくなってきたぞ」

「んー、それはダメだ。私もシオンもソラも素性を話すと面倒になる。まぁ、ここ数年のことで信用されてないならそこまでってことかな」

「信用はしてる。ただ興味があるだけだ」

「ふふ。私叩く前に後ろのガジェット叩いた方が良いと思うよ」

「えっ……っとぉ⁉︎てりゃぁぁぁぁ!」

 

 ヴィータが振り向いて反応より速く反射でガジェットを潰す。

 

「おー、流石」

「ンなこと言ってる場合かよ!いつの間にか囲まれてんじゃねぇか!」

「やー、あのシオンが私無しじゃ無理とか言うレベルだよ?」

 

 通路を埋め尽くすガジェット群。密度で言うなら外より酷い。壁というか、波というか。球体のやつがメインで細長いのがその隙間を埋めてる感じ。

 ……そこまでする?逆に弱くなってない?大丈夫?その布陣。

 

「AMF下でこれは流石にキツそうだね。ウタネちゃん、私とヴィータちゃんで前をやるから、後ろお願いしていい?」

「しょーがないね。やるしかなさそう」

 

 2%、とはいってもあくまで範囲の話。今は二人のペースに合わせて撃ち漏らさないよう一つずつ潰していく。

 大きいの、小さいの、大きいの、大きいの、小さい、大きい、小さい……

 10……30……50……

 

「うん!キリがない!」

「喋んな!イラつく!」

「いーよ、潰すから離れてて!」

 

 取り敢えず目に届く分だけ一斉に潰す。

 

「で!どっち⁉︎」

「イラついてんなぁ……玉座か駆動路、どっち行くかだな」

「……じゃ、まず玉座行こう。そこまでなのは連れてったら私とヴィータは駆動路に。いい?」

「うん、ありがとう」

 

 適宜能力でガジェットを殲滅しつつ、なのはを先頭にゆりかごを進むことに。

 

 ♢♢♢

 

「「デアボリック・エミッション!」」

 

 そろそろ三万は数えたいほどには撃破しているが、やはり数は減らない。

 いくらはやてとはいえ魔力量も有限だ、どこかしらで私が能力を使うことになるのは必然。先のメタリカもそうだが、単純な機械相手ならいくらかはやりようもある。私が力尽きる前にウタネ様かソラが仕事を終えればこちらにも余裕ができる。それまで待てば良い。

 

「く……あかんな、このままじゃ持たへん」

「ですね。機動六課以外にもAMF下で戦闘可能な魔導師が頑張ってくれてはいますが……正直、焼け石に水です」

「ツヴァイ、まだいけるか⁉︎」

「です!」

「はやて、少し時間を下さい。もう一度メタリカを」

「分かった──ッ⁉︎リインフォース⁉︎」

「……これは」

 

 撃たれた。

 より広範囲をカバーするため先程より大きく身体をバラした瞬間を狙って……これは、ヘリを撃った狙撃手か……

 

「ですぅ!」

 

 ツヴァイが氷の足場を作り落下を防いでくれた。

 多少冷えるが、地面とハグするよりは大分マシだな。

 

「ヴィーナス、一人目。クアットロ、ナイスタイミング」

「いえいえ♪ガジェット相手に手こずるようなレベルですし?まぁ、私たち相手には仕方ないと言いますか?」

「戦闘機人⁉︎二人も!」

「こんにちは〜♪夜天の主さん?頼りの融合機が残念でしたね〜。ツヴァイちゃんも、そっちにいるなら容赦しませんよ。使えない……一人じゃ何もできない役立たずを抱えて、無駄な足掻きをご苦労様」

「クアットロ、あんまり煽るな」

「……」

 

 はやては喋らない。ただ沸点を越えようとしているだけだ。

 

「大丈夫♪どうせもう死ぬだけですから」

「絶対に許さん」

「はい?」

「私の前で家族をバカにする奴は──絶対に許さん!」

「そうですか。ならどうします?」

「──『一人じゃ何もできない役立たず』──ユニゾン・イン」

 

 ……うん?

 

「役立たず!ユニゾンイン!」

「はっ!はい!ユニゾン・イン!」

 

 治癒魔法で即席の治癒の後ユニゾン。

 支配権を完全にはやてが持ちユニゾンしたため、もうここからは話すくらいしかできないな。

 

「──宝具解放。裁きや。『天地乖離す開闢の星』──!」

『はやて⁉︎それは負荷が⁉︎』

「うるさい!家族バカにしてタダで済むなんて思わせへん!」

『過度な能力使用はしないと言ったのは嘘ですか⁉︎この状態だとはやてに負荷が入る!」

「……っ!ああもう!刺し穿ち!」

 

 虚無から手に現れた深紅の槍。

 それは本来の持ち主同様の魔力量を持ち、現在のはやてとは関係無く威力を発揮する。その分、負荷も大きくなるが。

 それを驚異的な速度で接近、無造作に刺す。

 

『はやて……』

「突き穿つ!」

『……それも大概なんだけどな』

 

 一発目が眼鏡の腹部を貫通し、その隙に二発目を投擲、その胸を貫通、背中や肩、腹部から無数の棘が飛び出し破壊する。

 

「ゲイボルク・オルタナティブ!」

「ガハッ!」

 

 流石の戦闘機人とはいえどその破壊は致命的。

 上半身のほとんどは死棘の傷と毒で修復すら不可能なはずだ。

 

「なんやその目は?なんやその目はぁぁぁぁぁ!」

 

 完全に光を失った眼鏡がまだ気に食わないのか、落下するその首を掴み上げるはやて。

 

「──二の秘剣『紅蓮腕』ァ!」

 

 左手で首、右手のシュベルトクロイツを左手に添え、一気に引き抜く。

 左手を中心に爆発し、更に眼鏡にダメージを与える。私の目からはもう意識すら無いように見えるが。

 

『はやて、もういいでしょう。負荷もあります。一気にくるとキツイですよ』

「あかん!私の家族をバカにする奴は許せん!」

 

 忠告も一切聞く耳を持たず、落下する眼鏡を追い地上にまできてしまった。

 

「オラ!どや!あぁ⁉︎お前らアレか⁉︎人を煽ってないと死ぬ体質かぁ⁉︎さっさと立てやぁ!いつまでそうやっとるつもりや!言うとくけどな!気絶してるからって攻撃止めるとか思わん方がええで⁉︎2発目行くか⁉︎『無限関節マッハ突き』ィィィィィィィィィィィィィィ!」

 

 ……そんなキレキャラだったか?はやては。

 負荷もそこそこになりそうだ。もう抜けておくか……ユニゾン・アウト。

 

「えぇコラ!ええ加減にせぇよ!私の大切な家族をバカにしよってからに!何なんやホンマぁ!ミッドや管理局なんか滅ぼしたかったら滅ぼしとけや!スカリエッティがナンボのモンや!やれるモンならやってみぃ!あぁぁ⁉︎」

「は、はやて!それ以上はダメです!そもそも!ナンバーズがハー○リ⚪︎ナでは収まらないことになってます!あぁ!蹴らないで!あぁ!肉片が!あぁ!機械部品が!四肢欠損、内臓流出などと言う生温いものでは無いほどに⁉︎」

 

 もう動かなくなってしばらくしたであろうソレを何度も踏み抜き、まさかのシュベルトクロイツで殴打する暴挙を見せるはやて。

 少年誌どころか成人向けでも掲載不可能かもしれん。大丈夫か?色々と。

 

「……⁉︎どこや⁉︎」

「消えた……?」

 

 柱の男でも再生不能だろうというほどにミンチになった眼鏡はゆっくりと透過し存在を消した。

 

「あらあら?幻影相手にヤケに必死ですわね?」

「「ッ⁉︎」」

 

 声に振り向けば眼鏡は元の位置……狙撃手の隣で変な笑い方をしたまま私たちを見下ろしていた。

 幻影……そんな気配では無かった。とすればプライム。幻影系の上位能力を手にしているか。それにしても……

 

「戦闘機人がここに来るのは想定外だが……」

「そーですよ〜シオンが急に裏切ってくれたもので。計画を練り直さなくてはなりませんでしたし?」

「シオンが……?裏切ったやて……?」

「あら。ご存知なかったですかぁ?シオンはそこの融合機の処理とレリック強奪を目的にそちらに帰ったはずでしたのに」

「シオンが……アインスを⁉︎」

「裏切った、か。シオンの名誉のため教えておこう。裏切ったのではなく、私が裏切らせたんだ」

「……?いくらあなた方と言えど、そう簡単にコトが済むとは思えませんが?他の局員が知らないうちに説得など、不可能です」

「できるんだな、コレが。うちはシスイ万華鏡写輪眼最強幻術『別天神(ことあまつかみ)』。私がダウンしている時に二人きりになったのでな、仕掛けさせてもらったよ『管理局の敵を倒せ』とな」

 

 シオンはソラの介入すら計算に入れ、同じ能力という共通点を持ち出して個室で二人きりという暗殺の条件をアッサリと実現させた。

 計算外だったのは私が写輪眼を選別できる程度に冷静だったことだろう。無限月読を警戒するあまり他に気が向いていなかったと見える。もしくは本当に、私がそうするとは思っていないほど信用していたか……まぁいい。

 

「そこで、素晴らしい提案をしよう。お前も嘱託にならないか?」

「なりませ〜ん。反吐が出ます」

「見ればわかる。その能力、プライムだな?質量、気配、挙動、本体の秘匿。数ある幻術の中でも上位の力だ。使いこなせば、私達さえ欺ける能力だろう」

「使い、こなせば?」

「そうだ。眼鏡、何故使いこなせていないか教えてやろう。ウタネの敵だからだ。脅威になるかもしれないからだ。強くなるかもしれないからだ。嘱託になろう。そうすれば、今の何倍も力を発揮できる。何年も何倍も強い機体を維持出来る。永遠でいられる。スカリエッティの妄言で動いたところで、この世界では全て無駄なんだよ。お前たちが得た素晴らしい力も私達の誰一人に敵わない。何をしても私達には敵わないんだ。どこまで食い下がろうと最後の結末は決まっている」

「で、ですぅ?」

「アインスー、また壊れてんでー」

「先の見えない戦いで命を落とすことは無い。その先にあるのは死と敗北だけだ。だが嘱託はどうだ。シオンの指示以外はほぼ自由で好きなことができる。メンテナンスや能力強化も専門のスタッフがいる。自分たちのコストなど気にすることもない。嘱託になろう。望むなら半永久的にシオンの元で自由がある。姉妹たちといつまでも一緒にいられる」

「お断りです」

「私も」

「……待遇は応相談だが」

「「くどい!」」

「……」

 

 何故だ……何故……

 

「永遠が欲しくないのか?自分の先を見たくないのか?望むまま、思うままの未来を見たくないのか?」

「それを今からすると言ってるんですけどねぇ?アタマ、大丈夫ですかぁ?」

「それが間違いだ。お前たちの言うそれは、全員が同じ未来を見ているか?」

「夜天の融合機。一つ」

「ディエチちゃん⁉︎」

「お前は、夜天の主の方針に異議を唱えたことがあるか?違う未来を、見たことがあるか?」

「あぁ、そういう……裏切りかと思いました〜」

「ある。私達は全員が別の未来、別の理想を持つ。その手段も別だ。主だからと何が違う訳でもない」

「……そう。なら、終わり。クアットロ、やるよ」

「喋り過ぎましたね。では、行きます!」

 

 ディエチか、幾分更生の見込みはあるな。

 ……まぁ、殺すが。

 

「ツヴァイ!はやてを連れて逃げろ!」

「です⁉︎」

「なんでや⁉︎」

「プライムが二人、抑えられるかは分からない!幻影は実体を伴っていた。それを防ぐ自信は無い!すまん!世界(ザ・ワールド)!」

 

 わずか九秒。しかし、それだけは確かな時間。

 その隙にはやてだけでもどこかへ……!

 

「あら〜?まさか、私たちが静止時間を動けないとでも思ってます?」

「なに……⁉︎」

 

 停止時間中、ウタネ様とシオン以外は一切が動けないと踏んでの時間停止……はやてを抱えようと無防備に振り向いた瞬間起きた出来事は、能力解除を無意識にしてしまうほどだった。

 

「が……ッ⁉︎」

「はやてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ですぅぅぅ⁉︎」

 

 逃がそうと振り向いたはやての右胸を魔力弾が貫通する。

 はやての騎士甲冑も伊達ではない。大抵の攻撃であれば……ただの剣で斬りかかる程度なら、寝ていても一才の傷を負うことは無いだろう。

 そして、はやて自身の防御魔法。間に合えば、それも傷を負うことは無かっただろう。

 はやてが傷を負ったのは、私が時間停止を、はやてが動けない時間を作ったからだ。私が、みすみすはやての隙を作るような愚行を犯したんだ。

 

「夜天の主、終わり。考え無しで助かった」

 

 狙撃手が淡々と呟く。

 正しい現状把握だ。便宜上夜天の主といっても私とはやてにはなんの繋がりも無い。ただユニゾン適性をいじっているだけ……胴体の貫通は致命的にすらなり得る。

 考えが足りなかったのは私だ……シオンはこの10年、能力を研鑽していたというが……私はどうだ?魔力量と能力に溺れ、こんな場面を想定したか?まさか自分が、はやての窮地を作り出すなどと考えたことはあるか?想像したことがあるか?自分より先に、はやてが致命打を受けるなど、少しでも警戒したことがあったか?

 ……いずれも無い。私がいればはやては安全だと……完璧に守り切れると……慢心していた。

 間違いだった。一人でどのような犯罪組織を潰しても、この世の全てを超える力を持っても……大切な、主の一人を傷付けることは……あってはならない……

 確かに、私自身は負けないだろう。だが、周囲の仲間を、家族を守れるか?その点について考えなかった私はバカだ。

 そんな、自分の未熟への怒り。自分の失態からはやてを傷つけた戦闘機人への怒り。その原因を作り出したスカリエッティへの怒り。

 どれ一つとして看過できるものでは無い。

 

「だが!お前たちだけは絶対に許さん!」



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第96話 その先

「あなたは、これでよかったの?」

「なにが」

 

 能力で球体のセンサーを張り、触れたガジェットを即座に虚無に潰しながら歩く私とヴィータ。

 駆動路側だとガジェットもあんまりいないね。

 

「なのはのこと、守りたかったんじゃないの?」

「なんだそりゃ。そんなこと言ったことあるかよ」

「さぁ?私は聞いてないと思うけど。駆動路の破壊くらい私がやるよ?」

「いらねー。なのはが私に頼んだんだ。やり切ってやるさ。それとも、主として止めるか?」

「ふふ、主って認めてくれてたんだ?」

「どうあっても形式上はな!恩人には変わりねーんだ。多少の無茶くらい聞いてやるさ」

「それも気にしなくていいのに。ま、いいよ」

『姉さん、わりぃ、大丈夫か?』

「ん?ん」

『ナンバーズの大体を把握した。取り敢えず中はガジェットとヴィヴィオ、クアットロの本物か偽物とウーノだ。なのはがヴィヴィオやるなら気にしないでいい。手が空きそうなら外のガジェットの方回ってやってくれ。アインスは手が回らん。ああ……それとな、オレが何か……記憶処理かなんか影響を受けてる。多分影響無いだろうが一応。多分アインスだろな』

「ん。りょーかい」

 

 シオンがそれぞれの場に繋がるモニターを中継してくれる。

 ソラは問題無いだろうし、スバルはまぁ、ソラと近いし。フォワードは放置、アインスも放っておいていいし……やっぱりガジェットか。

 影響……ってのはなんだろ。分かんないけど……放置しようか。

 

「……」

「ん?どうしたの?」

 

 なのはについては明るかったヴィータの顔が沈んでいる。

 思い当たる節は無い。なのはの話題切ったのがまずかった?

 

「リインフォースが……シオンに何かしたって」

「ああ、うん。らしいね」

「怒らねーのか?」

「なんで?」

「いくら良いって言っても主従関係だ。その……」

「私やシオンに正しいとするものがあるように、アインスにもそれがあるんでしょ。それについて私が批判するのは一方的過ぎる。この世界は管理局が基本だから、それに近いアインスを責めるのは間違ってる。それに、謝ってもらってるしね」

 

 殺されたから殺す。それは法治国家においては正義じゃない。殺されたら裁判で殺した奴を裁くのが正義だ。個人が恨みを晴らすのは悪だ。

 この世界は異常なほど管理局が権利を持つ。クロノが法の番人を自称するのは情に流されないように自分を戒める意味もある。それを否定はしない。アインスの行動もそれに則ってシオンをコントロールしただけだ。責める要素は何も無い。

 ……世界のはみ出し者の集まりである私達がそれをするのはどうなのか、とは思うけれども。まぁ、それも勝手かな。

 

「……そう、か」

「……ヴィータがそんなの気にするなんて思わなかった」

「気にするに決まってる。お前とはやては私たちが初めて得られた、心から尽くしたい主たちなんだからな」

「……ひぉお、意外。私も八神さんと同列なんだ」

 

 ゾクってした。シオン以外に言われるとなんか……怖い。

 

「うっせ!もー言わねぇからな!さっさとやんぞ!」

「ふっふーん。で?どうするヴィータ。二人で駆動路先に潰してガジェットに行く?」

「バカ言えよ。ガジェットは一基でも通せば負けなんだぞ。さっさと行ってくれ、二人の主に十分に応えられるのはヴォルケンリッターをおいて他にいねぇからな!」

 

 ヴィータがガジェットを止めてる局員の隊列上空にモニターを開きこちらへ向ける。

 急かされてる気がするから手をかけて上半身からモニターに通す。

 

「ふーん。悪いけど、主は八神さんだけでいいよ。私はそういうのに向いてない。ま、そうしとく……がんばっヴィータ!後ろ!」

「な……っ⁉︎」

 

 遠慮するな、という感じの言葉を言っとこうとした瞬間に感じた悪寒。

 嫌な直感に警告を飛ばすも遅く、振り向くとヴィータの胸には空洞が見えた。

 ……空洞?

 

「えっ、なっ⁉︎」

「っ!てりぁぁぁぁぁぁ!」

「なっ、ナニソレ⁉︎」

「コイツだ……コイツらだ!なのはを墜としたヤツは!」

「待って!なら私も残る!」

「うるせぇ!早く行け!外行かねぇと相当の被害になんだぞ!」

「でも……!」

「私の主なら!はやての友達だってんなら!やるべきことをやれよ!」

「……!」

 

 何かを確認する前にモニターを切られた。

 分断されたり……はしないけど半分以上は通ってたから外に放り出される。

 やるべき……なら、外で多少の被害を覚悟しても新手が固まってるあの場所で全滅させておくべきだったんだ。

 自分を捨てて他を助けろなんて……私がするはずもないけど……仕方ない。ヴィータの命が引き換えならそれも有り、だ。

 

 ♢♢♢

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「……」

 

 市街地付近、高架の道路でぶつかり合う拳。

 拳と拳、元は同じ母のもの。

 放たれた拳も、受けた蹴りも、地に落ちた薬莢も全く同じ六課で強化されたもの。

 けれど質は全く逆。助けたい、救いたいという激情と、ただ命令に動く無情。

 互いを見据える緑の瞳は、機械と人間が違う視点を持つように、全く別のものを映していた。

 

「く……ッ!」

 

 守るために放つ拳と、壊すための拳。元の差もあり、いずれ限界が来る。

 姉を守るための拳は、ゼロ2ndを回収するための拳に及ばない。

 

「ギン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……」

「ガッ……!」

「……!」

 

 正面からぶつかった拳は互いを弾き、間合いから外れる。

 今ので二度目の相打ちになる。カートリッジの消費も嵩み、長くは続けられないことをスバルは認識し、焦っていた。

 頼みとするなら……アインスから渡されたカートリッジのみ。

 頼りたくない思いと、頼りたくなる現実。

 

「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 三度目。

 殴り込む拳に特製カートリッジを装填、至近距離から拳を振り抜くまでに収束が終了する。

 

「スターライトぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 構えたギンガのバリアの上から問答無用で拳を撃ち込む。

 

「ブレイカァァァァァァァァァァァ!」

「……!」

 

 あらゆるものをリーズナブルに葬り去ってきた砲撃がワンタッチでコンスタントに放たれ、衝撃と煙が当たりを埋める。

 

「……ギン姉!大丈夫⁉︎」

 

 距離を取り、煙が晴れるのを待ちながら安否を問うスバル。

 それでも尚警戒を解いていなかったのは模擬戦による死の恐怖からだった。

 

「ッ!」

 

 それが幸いし、煙の向こうから放たれた魔力弾に防御が間に合う。

 ダメだった、と気を落としながらも再び気を入れ直す。

 

「ぷっ!あははははははは!」

「……え?」

「いや!流石ね!なのはさんのブレイカーまで使えるなんて!流石ヴィーナスは違うわね!」

「えっ、えっ?」

「あ、ごめんねスバル。シオンに言われてたの。いや、言われた、のは違うかな」

「ギン姉……?大丈夫⁉︎」

「大丈夫!何か知らないけど条件が揃えばそういうのができるらしいのよ。『妹からブレイカーを至近距離で受けたら自我を取り戻せ』……って言う条件命令」

「いつ……そんな?」

「拐われた時よ。ヴィーナスがまさか普通に殴るだけなはずが無いでしょう?」

 

 混乱するスバルと、嬉しそうなギンガ。

 空のガジェットを見たギンガは一瞬顔をしかめるが、すぐスバルに向き直る。

 

「でも体の方はまだ戻るのに時間かかりそう。もうちょっと、お姉ちゃんと遊ぼうか!」

「……うん!」

 

 ♢♢♢

 

「はぁ……はぁ……ぅっ!」

「無駄です。ISのみならばともかく、プライムを持つ我々に敵う訳が無い。今からでも遅くありません。同じ生まれ……プロジェクトFの派生として、ドクターの元へ」

「く……断る……!誰が、お前らなんかと!」

「フハハハハ……!よく単独でここまで来れたがね。君ではどうあっても娘には勝てない。AMFに加えて重力制御。立っているだけでも辛いだろう。この場でなら誰も娘を倒せない」

 

 二人の戦闘機人の間に倒れ伏すフェイト。

 それを笑いながら現れたスカリエッティ。

 

「貴様ッ!スカリエッティ!」

「おっと……動くことも許さない。少し煽ればすぐそれだ。母親に似て良かったじゃないか。態度に関しては謝るよ、君の性質を君自身に認知させるのに必要と思っただけさ」

「なんだと」

「私もバカではない。失敗する未来は防いでいきたいものだ。だから何度でも言う。私と手を組みたまえ。管理局は独裁者そのものだ。管理局の権力がそのまま世界の権力と結び付く。やっていることは法治に必要な全てだ。それではトップが老害の脳みそになってしまった場合に全てが壊れる。今までと同じ、今のまま、何も変わらない……そんな世界、あるわけが無いだろう?誰もが望むかもしれないが、人は歳をとり、劣化する。動植物も成長し、数を増減させる。物も次第に壊れていく。変わっていく事は必然なんだ。この世界の常識で生きる限り、ね」

 

 戦闘機人、トーレとセッテは構えたままスカリエッティの言葉をただフェイトへ聞かせる。

 動くものはスカリエッティのみ。その靴音のみが響く。

 

「何が言いたい……!」

「この世界の常識から外れれば、変わらなくて済むかもしれない、という事さ。その可能性が戦闘機人とシオンたち。不老不死の世界があるかもしれないのだよ」

「……!」

「もちろん、この世界全てを不老不死に変える力は私に無い。だから今の世界には消えてもらうことにした。その後新しい世界を私が作る。君もその世界に連れて行こう。プレシア女史もさぞ喜ぶことだろう」

「私がそれを望むと思うか!」

「望まないからこそだよ。プレシアは君を大層嫌っていたそうじゃないか、ウタネがいなければ殺されていたかもしれないほどに……だからこそ。嫌がる君を永遠に死ねないようにするのさ。死んだプレシアと良い対比だ」

「絶対……絶対に許さない……!」

「おっと!無駄だよ、無駄。真ソニックだったかな。いくら速度を上げようともトーレの速度には敵わない。夜天の管制人格との戦いを見ていたのだろう?目で追えたかね?反射は間に合いそうかね?装甲を薄くして耐えられそうかね?全てが無駄だ。管理局では娘たちの誰一人にさえ敵わない」

「……異世界を見る、というのは本当らしいな」

「ほう?シオンが喋ったのかな?そうだとも、私は本来なら負けていた。トーレもプライムを持たず、君の真ソニックに負け、私も無様に捕らえられた……だが、もう違う。プライムを持つ娘は君たちを完全に上回り、シオンの能力にも対応した……ヴィーナスの残りは不確定だが、まぁ問題にならないだろう」

「お前らはウタネ達の力を知らない!たとえ私たちが敗北しても、お前たちが勝利することもない!」

「ふふふふふ、信じる心は真実を歪めてしまう。正しい事、それは世界が変わり続けるように刻一刻と変化するものなんだ」

「……?」

「彼らが私を止めるというのなら、何故、シオンは姿を隠していたと思う?ただ私の技術を得たいだけなら、私を捕らえ管理局で動かせば良い。シオンにはそうする能力があった。何故、そうしなかったと思う?」

「まさか……」

「そう!彼も管理局が邪魔だった!その先については答えてくれなかったがね、彼も管理局を解体する気だったのだよ。夜天の管制人格が防ぎはしたようだが……それも同じことだ。時間停止や時間跳躍といった彼が好んで使う能力には既に対応できるだけのスペックを全員が持ち、それぞれが別の能力をプライムとして設定している。魔法などもう型落ちの技術に過ぎないのだよ。それに、彼の能力と違いプライムは適合さえしてしまえば制限が無い。魔力切れや負荷などという概念すらなく使い続けることができる。さらにプライムはシオンが加減しただけで適合さえするならいくらでも足すことができる!」

「なん……だと……」

「まぁ、二つ目以降は確かに手間と時間がかかり失敗する危険もあったからね。してはいないが……管理局を落とした後ゆっくりと研究するよ」

「そのために……多くの人を殺すのか!日々を静かに生きているだけの人々を何だと思ってる!」

「んー、そこが意見の相違というヤツだ。言っただろう?世界は変わらなければならない。『今』は刻一刻と進化している。自分たちの日々を守ろうとするなら、進化しなければいけない。変わらないこと、それは相対的な退化なんだよ。そういった者たちは淘汰されるが必然だ。世界の理、弱肉強食というものだね」

「……!だからって……」

「そう言った意味で、シオン達も同様さ。彼らは既に存在として完成している。だからこそ、彼らは退化するしかない。完璧な存在が私たちのような俗物と触れ合い、感化されること……既にそれ自体が彼らにとってデメリットでしかないのさ。付き合ってくれるのはあくまで彼らの善意。君だってプロジェクトFの残滓や身寄りの無い召喚士を助けたのも善意だろう?それと同じさ、自分には何の得もない」

「違う!彼らは自分で望んであの場所にいる!善意でそれが成されるならそれ以上は無いだろう!」

「ならそこに意味はあるかい?」

「意味、だと?」

「助けたからなんだい?導いたからどうした?君はそれで強くなれたかな?賢くなれたかな?何も変わっていない。自分の財と労力を払って得たものは満足感だけ。それはあまりにも救われない。私なら相応の対価を支払える。活動、行動に、その成果に相応しい対価を望む形で支払おう。その体の働きが全て反映される対価だ。君の能力ならば管理局のそれを大きく上回るだろう。今よりもっと、今日よりずっと。より良い生活と快適な活動ができる。もちろん、それを孤児の救済に当てるも自由だ。あらゆる個人的価値観に囚われない絶対的対価を出す。管理局などという凝り固まった老害組織に固執する必要などないのではないかな?」

「違う……!そんな対価は望んでない!より民主的に必要とされる組織が必要なんだ!お前だけが上に立つなんて許されない!」

「……人は真実を知った時に変化する生物だ」

「……ッ⁉︎」

「人はその認識によって価値観を変動させる。何も知らないのであれば万物は全て平等であり、現代の価値観に寄るならば金は高価、土はガラクタ、と言うのが一般だ。だがどうだね。もし何も鉱物資源が入手できない地において金より土の供給が少なければ?土は植物を育て、あらゆる地上の基礎となる。金と比べても分量的には土は多く必要とする。そんな状態で土は金より遥かに安価だと主張できるかね?土が貴重と言わざるを得ないのではないのかね?それと同じさ、君の価値観はこの世界がこの世界であるから発生する価値観だ。それを一新し、絶対的量に則った価値を根付かせようと言うのが私の先だ……では教えてくれたまえ。一体何が……全てに平等な価値観の何が、ダメなのかね」




本当は昨日投稿できるはずだったんですけどスカさんの演説が長くなり過ぎました。地の文長すぎですけどまぁ……クソザコ作家なんで想像してもらって……

良いお年をお過ごし下さい。一年間ありがとうございました。


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第97話 五人目

「ゆ、る、さ、な、い〜?どう許さないんですかぁ?」

「時間停止、跳躍、逆行、全てに対応できる。クアットロの幻影を見破ることもできない。許さないまま死ねばいい」

 

 汎用的に使える強力な能力、時間系に対応していることは先の事態から明確だな。そしてクロックアップや幻術と、それぞれのプライムの分野も対応できると見ていいだろう。それが二人だ。

 はぁ……はやてを逃がせていれば有用な人材としてシオンに献上したものを……はやてにさえ手を出さなければ良かったものを……

 

「だからどうした。そんな事は関係無い。時間系の対応、プライム、戦闘機人。何一つとして私に勝てる要因にはならない。自分の限界がそれだと言っているだけだ」

「戦闘機人は完璧ですよぉ?互いのデータを共有し、それだけ成長速度を速くする……個人の成長しか望めない人間より遥かに上の存在です♪」

「そうだな。そんなつまらない存在など屠っておかなければな」

「ッ……!自分の立場分かってますかぁ?どう調理されるかを怯えるだけの存在ですよ⁉︎」

「はぁ……言っただろう。お前たちだけは絶対に許さんと。私に人間の尊さが云々など聞けると思うのか。お前たちと私は同じく人に作られたものだがな、私は人型をとるだけのプログラムだ。データリンクなどしなくとも、古今東西全ての技術知識を併せ持つ存在だ。成長し続けている時点で私の遥か下にいると言っているようなものなんだ」

 

 能力を選択、右手にソレを持つ。

 縦に広い銃身を持つ青い銃。バーコードの様な模様を持つカードを差し込み、銃身を前へ。

 

「ツヴァイ、はやての治癒を頼む。あと数秒待てば十分だ」

「です!」

「お前たちは基本から外れている。ならば私達の領域だ。私達に慈悲や倫理観など期待するなよ、所詮は暇つぶし、結果悪くとも全て良し、な連中だ。だが……守ると決めた相手を傷つけられた時は何がなんでも報復するぞ……」

 

 行動が終わるまでの数秒の時間をツヴァイに稼いでもらう。

 銃を頭上へ掲げ、トリガーを引く。

 戦闘機人に対する攻略として、まずプライムの能力を特定することから始めるべきだろうが……面倒だ、力技でいいだろう。

 

「私の象名は夢。そうなりたい、こうあればいい、全ての夢を叶えるもの。お前たちも幸福な夢を見よう。それだけが最高の時間だ」

 

 やはり私はヴィーナスの一人。私の納得のため、無限月読はその手段だ。

 

《KAMEN RIDE…… DE-END!》

 

 全身が青い装甲に覆われ、顔には無数の板が刺さる。

 

「ゲッ……仮面ライダーディケイド⁉︎」

「仮面ライダーディエンドだ。夜天の全てを見せてやる。お前たちは世界に勝てるか?」

 

 二つ目の能力。並行世界からあったかもしれない未来を手に取る。

 手にしたそれはただ一枚のカード。ただそれだけで十分。

 

「沈まぬ黒い太陽。影落とす月。唯一性だの蓄積だのでは無い。もっと単純な事だ。限りなく近い概念同士引き合ったのだろう。効果無く私の中に在り続けたのもそのためだ。元々、私の中にあったのだからな。この私ははじめましてになるが、私は知っているぞ。お前たち四人を。遥か昔から共にいたことをな」

 

 巨大なバックルにカードを入れる。ケータッチというらしいな。

 そして表示された画面を順に押していく。

 

《YATEN・SHITEN・NACHTWAL・YURI・DEARCHE・STERN・REVI》

 

 それぞれ本や蛇、焔や雷といったマークに強い懐かしさと喜びを覚える。

 バックルを装着、七枚のカードが胸の装甲に投影される。

 

《FINAL KAMEN RIDE……》

 

 カードをさらに装填、トリガーを引く。

 

「さぁ、全員集合だ……わずかな時間だが、楽しもう」

 

《DE-END!》

 

 虚空に撃ち込んだ銃弾は、複数の影が重なるように実態を映す。

 幼少期のはやて、なのは、フェイトに似た色彩の違う三人と、ウェーブのかかった金髪の少女。

 今の基準……この世界のそれぞれのオリジナルと同等の魔力を纏いながら目を開ける四人。

 

「む……これは……小鴉の融合機か」

「ああ、私だよ」

 

 よかった。もしかしたら私と出会っていない世界かもと思ったが、認知してくれているようだ。

 

「クロハネ⁉︎何その格好⁉︎カッコイイ!」

「カッコいいか……?我はなんというか、ダサく感じるぞ」

「貴女は、消滅したと聞いていますが」

「え?そうなの?僕は昨日普通に会ったよ?」

「レヴィよ、夢でも見てあったのではないか?」

「王様も⁉︎ユーリは⁉︎」

「私も昨日会いましたよ、レヴィ。ただ、はやてさんはディアーチェと同じ背丈だったと思うのですが……」

「ユーリ、呼んですぐですまないが、はやてを治してくれないか?」

「え?あ!はい!」

 

 挨拶より先に治して貰うべきだったが、まぁいいだろう。死ぬわけではないのだし。

 

「……まぁ、異世界に呼ばれた、ということなのであろう?ならば多少の食い違いは許容しよう。シュテル、それで良いな?」

「ええ。私と王が同じ世界、レヴィとユーリはまた別の世界から呼ばれたと。異世界というより並行世界のようですが」

「それで、何の用だ?我らはエルトリア侵略に忙しいのよ。もしつまらぬ理由で呼んだのならうぬがその対価を支払うことになるぞ?」

「うん。まぁ理由と言っても呼んだのは個人的なものだ。はやてたちの平穏を脅かそうとする者を消してもらいたくてな」

「ふん、つまらん!そんなもの勝手にしろ。どうせそこのメガネと陰気であろう。面倒な枷などつけるからそうなるのだ」

「王。並行世界ということは我々の世界と少なからず繋がりがあります。この世界でナノハが死ぬようなことがあれば、我々の世界でもそういう可能性が高くなります」

「そうなるのか。まぁ、貧弱なものよ」

「私はナノハとの再戦を約束しています。それは絶対でなくてはなりません」

「む……」

「王様!僕もオリジナルが死ぬのはヤダよ!」

「むむ……」

「ディアーチェ。私もシュテルとレヴィに賛成です。手を貸してください!」

「むむむ……!」

「どうだろう、王。後で礼もする。はやてを傷つけた奴らをどうか」

「あくまで小鴉のためと言うのだな!その献身ぶりに応えてやる!ゆくぞ!シュテル!レヴィ!ユーリ!」

「「「おー!」」」

 

 シュテルたちには助かった。どうも意固地な部分があるのがなぁ。

 

「王、少し紫天の書を」

「む?何に使うのだ?」

 

 シュテルがディアーチェから紫天の書を受け取り、片手に抱える。

 

「ありがとうございます。こほん。祝え!過去と未来、あらゆる覇道を越え、その世界を闇で覆い支配する我らが王。その名もロード・ディアーチェ。眼前の塵芥を滅し、新たな闇の歴史を刻む瞬間である!」

「シュテルよ、なんだそれは」

「……いえ。このシチュエーションは言わなければならない気がしましたので。ありがとうございました」

「シュテるんカッコいい!僕もそれやりたい!」

「どうぞ。祝え、から好きにしていいですよ」

「もう貸さぬぞ」

「えー⁉︎」

「レヴィ、夜天の書でよければ使ってくれ」

 

 私が言えた事ではないが……マテリアル、随分と自由なことだ……戦闘機人が固まっているぞ。

 

「クロハネありがとう!よーし!祝え!強くてスゴくてカッコいい王さまのちょースゴイところである!」

「……レヴィよ、黙っておれ。気持ちだけで十分だ」

「えー!」

「レヴィ、やはりあなたが喋ると王の品格を落とします。堅苦しいことは私に任せ、あなたは王の片腕として力を振るってください」

「むー!オッケー!クロハネ、ありがとね!」

「さて……」

 

 夜天の書を戻してもらい、戦闘機人に向き直る。

 ガジェットの分をウタネ様に回してしまっているようだから早めにしないとな。

 

「小鴉、ユーリの手を煩わせたのだ、貴様もやれ」

「……?」

「はやて。王の言う小鴉ははやての事です」

「えっ!あ、そうなん⁉︎えとな、えぇ⁉︎」

「……なんだ?話し方だけでなく頭も緩くなったか?」

「王、どうやら……と言うよりもこの世界には我々のことは知らないのでしょう。手間かとは思いますが一から説明しなければなりません」

「確かにな。記憶処理は万全だったはずだ」

「違うんだ、王。そもそもこの世界では面識は無い。だからその、見た目の事とかも説明しなければならないんだ」

「我らを呼ぶなら何故その説明をしておかんのだ!我はせぬぞ、うぬが責任を持て。五秒で済ませよ」

「五秒⁉︎えーと、はやて!すまん!」

 

 月読ではやてにマテリアルと紫天の書、ユーリとエグザミアについて説明をする。実質一秒も経ってないからセーフだ。

 

「お、おぉ!そーかぁ、マテリアル……ええなぁ、もっと前に会いたかったなぁ」

「まさか本気でやるとはな……猶予くらいやろうと思っていたが」

「王。あのメガネでない方は砲撃タイプのようです」

「そのようだな」

「そこで、私に一つ作戦が」

「よし。述べてみよ」

「はい。まず私があの砲撃手とここから距離を取りながら戦います」

「ふむ」

「あのメガネは他の皆さまでどうぞ」

「それは作戦ではない!シュテル貴様、砲撃の試し撃ちがしたいだけであろう!」

「王……だめ、でしょうか……?」

「レヴィ、ユーリ。あの幻術師は我らのみでやるぞ」

「おー!シュテルんいいなー!」

「シュテル、頑張ってください」 

「やりました」

「まったく……もうよい。小鴉とその融合機は他に当たってやれ。仕事があるのであろう?」

「そうか。なら頼む。撃破対象にあの二人を設定してある。あの二人を殺せばお前たちも消える……まぁ、元の世界に戻るだけだが。お前たちなら問題無いだろうが、被害を出さない限り戦闘法は任せる」

「良い。遊ぶだけだ。被害など出るはずもなかろう。我らをバカにしすぎだ」

「では頼む。はやて、元の仕事だ。ガジェットの殲滅だ!」

 

 ♢♢♢

 

「ヴィヴィオ!」

「ママ……!」

 

 ウタネとヴィータと別れて少し。ゆりかごの玉座へ到達したなのはの目にまず入ったのは拘束されたヴィヴィオだった。

 

「随分と早かったですねぇ。ゆりかご内部にも相当数のガジェットがいたはずですが」

「そんなもの、脅威にはならない。大規模騒乱罪で貴女を逮捕します。速やかに武装を解除して投降しなさい」

「お断りします。はぁ……夜天の主は動揺が手に取る様に見えたのに、アナタは何も示さないんですねぇ?ただただ管理局のために自分を殺して働いて、楽しいですかぁ?そんな人生、私ならまっぴらごめんです」

「ッ!」

 

 同情の目を向けながらヴィヴィオに触れようとしたクアットロに一瞬の躊躇いもなく砲撃。

 クアットロに砲撃は当たりはしたものの立体映像のようにすり抜け壁を抉る。

 

「幻術……IS'シルバーカーテン。どれもこれも嘘と幻。本体は当然どこかにはいますけど?外も相当数……三桁は幻術体がいますから、特定なんて誰にもできません」

「ヴィヴィオを離しなさい。そうすればシオンに引き渡すのはやめる」

「離します〜」

「な……」

「た・だ・し。私たちの王、聖王として、ですが」

「っ⁉︎ヴィヴィオ!」

「……!あ……!っあ……」

 

 ヴィヴィオからエネルギーが放出される。

 なのはですら抑え込むエネルギーは、狙って放出しているのではなく、抑えられず漏れ出したものだとなのはは理解した。

 幼少の自分がブレイカーを集めきれなかったように、これはあくまで末端のエネルギーでしかないのだと。

 

「ゆりかごの無限のエネルギー、聖王の鎧。古代ベルカ王族の固有スキルとして存在するそれは、この子をして完成する」

「ヴィヴィオッ!」

「ママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 虹色のエネルギーがヴィヴィオを包み、その肢体を書き換えていく。

 

「ママ……いたい、こわいよ……ママ……!」

「ヴィヴィオ……!」

 

 身体はなのはと同じ程に、エネルギー収束も乱れなく、全身に黒の装甲を纏い聖王の名に相応しい神々しさを感じさせる威圧感。

 それを見てなのはが半歩引く。

 

「ッ……!」

「あなたは、誰……?」

「ヴィヴィオ!私だよ!なのはママだよ!」

「……知らない。知らない人は、敵だ」

「……!」

 

 互いの足元に魔法陣が展開される。

 

「さぁ陛下?私たちの敵は全て滅ぼさねばなりません。手始めにあの侵入者を……」

「うるさい!」

「……!」

 

 腰低く進言するクアットロを裏拳で叩く。

 先の様にすり抜けはしたが、そのまま霞のように消える。

 

『ふぅ、独裁者ですね、まるで。さぁ陛下。侵入者を倒しましょう?』

「……」

『では、私はこれで。親子での殺し合い、存分に楽しんで下さいね〜♪』

 

 モニターからもニヤついた顔とヒラつかせた手で煽り倒すクアットロ。

 悲しいのはなのはもヴィヴィオもそれを気にかけていないという点だ。

 

「仕方ない……ヴィヴィオ!私と少し遊ぼうか!」

「名前を呼ばないで!」

 

 




クアットロって「陛下ぁ?」と独り言しか言ってないイメージなので口調おかしいかも……ナンバーズ全員おかしいかも……


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第98話 0人目

 ふんふんふーん、と。

 なんか色んなところで色々起こってる気がするけど何一つ分からない。

 私がしてるのは防衛ラインに来たガジェットをミクロまで圧縮するだけ。

 制限してなければ各地にモニター張ってもらって全部潰せばいいんだけど。シオンがしないなら何かあるんでしょ。知らないけれど。

 

『ウタネさん!休まなくて大丈夫ですか⁉︎』

「ん……?ああ、はい、大丈夫ですよ。他にできる人もいないので」

『そうですか。わかりました。それでですが私はシャーリーです!敬語ですみません!仕事なので!』

「ああ、思い出した。久しぶりだね」

『毎日会ってます!ともかく、もうすぐ部隊長がそちらに到着します。それまで継続して下さい。お願いしますよ!』

「んー、じゃあそれは来たら任せるとして……もっかい中行こっかな……」

『ゆりかごへですか?』

「うん、ヴィータが新型ガジェット相手に残っちゃったから」

『え⁉︎なんでそれを早く言ってくれないんですか⁉︎ヴィータ副隊長一人じゃ流石に無理がありますよ!』

「やるべきことをしろって追い出されたから。それってヴィータより市民を守れってことでしょ」

『ですが!』

「ホントにダメならシオンでもソラでも動く。それがないなら何とかなるんでしょ」

 

 自分以外誰も死なせないシオンも誰も殺させないソラも動く様子は無い。見てないけどヴィータがそのまま出てないってことはとりあえず大丈夫ってことでしょ。

 作戦なんて立てられる頭でもなし、優秀な周囲に任せて能力を使うだけ……それで終わり。

 

「ウタネちゃん!」

「や。戦闘機人いたみたいだけど」

「あれは王様がなんとかしてくれるよ。それよりガジェットは私らに任して」

「王様?」

「ディアーチェだ。まぁ、夜天の関連プログラムだな」

「ふーん。まぁいいや、じゃあ悪いけどシオンに繋いでくれる?」

「ああ。私も正確な指示が欲しいしな」

 

 王様……ディアーチェ?知らないね。

 

『あ?なんでウタネがそこにいる?』

「ああうん、めんどいから記憶読んで」

『能力使わせんな……まぁ分かった。Ⅳ型だな。あの辺には割と配置してたはずだ』

「Ⅳ型⁉︎ガジェットか⁉︎Ⅲまでやないん⁉︎」

『なんならⅣが一番先にあったぞ。ⅠからⅢはアレの型落ちみたいなもんだ。まぁ、わかった。もうすぐこっちの用事は終わるからオレが行く』

 

 各十万、ってのはそれを含めて、ってことだから……四十万に増えたのか……辛過ぎる。減らないじゃん。

 

「用事?」

『ああ、案の定シグナムがゼストに負けたからな。今レジアスにカタ付けに行ってる』

「ブッ飛んだなぁ⁉︎なにしとん⁉︎」

 

 八神さんが叫ぶ。

 レジアスってお偉いさんだったかな?なんで殺しに?案の定シグナムが負けて?

 これは私も混乱する。

 

『いや、先約だったんだよ。シグナムも致命傷ではないし治癒もしといた。あとお前ん家、融合機もう一体増えるからな』

「ああそうなん?融合機ね。なるほど……やなくて!」

『うるせぇ、止めるならオーバーSSと融合機とオレが管理局員殺して回るぞ。すれ違いが起きてたんだ。姉さんなら分かるよな』

「そーだね。じゃあしょうがない」

「なにがや⁉︎」

 

 すれ違いって下手なミスよりイライラが強いからね。ケアレスミスという存在が最もストレスになる。それの埋め合わせとして管理局崩壊させるくらいなら仕方ない。

 いや、そうなると私たちが動いてたのも無駄になるんだけどね。

 

「でさ、私たちは何してればいい?このままガジェットでいいの?」

『そうだな……なのフェイは大丈夫として、んー、やることねぇな』

「あるやろ!この現状でヒマってなんやねん!」

『ガジェットはそりゃ処理してもらう。それ以外にねぇってことだ。ナンバーズは十二人。二人は戦闘に出てこれず、スカリエッティに二人ついて、二人をマテリアル、四人ほどソラが引っ張ったし……あとはチンクとセインだな。どこいるかわかんねぇし……やっぱ姉さん、先にヴィータと合流すっか』

「うん。その方がいい」

「ソラちゃん大丈夫なん?ウタネちゃんそっちに行った方がええんちゃうん」

『いらんだろ。なんならアイツが一番死なん』

 

 ♢♢♢

 

「シオンは……私を裏切った。管理局は、酷い奴らだ……」

 

 ガジェットが空を覆う中、ソラと少し離れたビルの屋上で紫の召喚師が憎しみと殺意を持ってフォワードを睨む。

 

「ルー!シオンは違う!」

「違わない!」

 

 エリオの声も完全に遮断し、聞く耳を持たない。我を見失うほど激昂する召喚師……ルーテシア・アルピーノの足元に魔法陣が展開される。その周囲にも同様の魔法陣が複数。そこから角を持つ丸型の巨大昆虫が出現する。

 

「ガリュー、早く、倒して……殺して!」

 

 ガリューと呼ばれた昆虫的特徴を持つ人型がエリオへ飛びかかる。

 

「ッ!」

「エリオ!そのまま召喚師と引き離しなさい!」

「はい!」

 

 エリオがガリューと組み合ったままビルから飛び降りる。

 空戦ができないとは言えどもなのはとシオンの訓練を生き延びた一人、バリアジャケットも含めそれ程のダメージにはならない。

 

「キャロ、あの子は任せていいのね?」

「はい、任せて下さい!」

「わかった。ヤバかったらすぐ言いなさいよ!」

「はい!ガリューをお願いします!」

 

 ティアナもエリオを追って飛び降りる。ティアナは体の自由が効きアンカーもあるため着地には支障も無い。組み合った二人より少し離れた場所に着地すると即座に指示を飛ばす。

 

「エリオ!そのまま膠着状態を維持!キャロが召喚師を止めるまでこらえるわよ!」

「はい!」

 

 ガリューとエリオの斬り合いの中にティアナが牽制を入れる、どちらも傷付かないための持久戦という選択。

 

「やりたいこと、やるべきこと、それぞれの思い……全部違うけど!ヴィーナスの関わる未来は一つ!私たちはやるべき事をやるわよ!」

「はい!」

「……!」

 

 ビルの向こうから揺れ。

 キャロとルーテシアの召喚獣がより激しい戦闘をしていることが分かる。しかしその戦闘もキャロが引き受けたものであり、ティアナとエリオはただ待つしかない。

 とはいえティアナも安心できる状況ではない。ガリューは単体でも一流の魔導師に匹敵する実力を持つ。

 だが、ティアナはウタネが演じていたシオンによって一度殺されているに等しい。その時に感じた死の実感は、今は無い。あの時は感じなかったが、自分の無茶と相手の実力を知ればその実感は明確にある。その実感が今は無い。

 相手は一人、自分は前衛後衛の二人。戦術を整え環境を誘導し、コンビネーションを確実にすれば時間稼ぎできない相手では無い。

 ティアナの戦力分析はかなり精度を上げ、隊長陣にも引けを取らない程にまで引き上げられていた。死という終わりを実感していなければ今でもティアナはガリューを一人で引き受け、エリオをキャロの援護に行かせただろう。

 

「頼むわよ……キャロ……!」

 

 ♢♢♢

 

「ディアーチェか……」

「誰だ?戦闘機人を抑えているほどなら聞いた事がないはずがないが」

 

 アインスたちとの通信を覗き見ていたシグナムが記憶を辿っているようだが、オレにも思い当たらない。

 

「ディエンド使ってたしどっかから喚んだんだろ、並行世界か異世界の住人だろ。ま、喚んだならアインスには逆らえん。ほっといていい。それよりゼスト、レジアスの後はどうする。介錯してやろうか?」

「……構わん。どうせ明日は無い。アギトを頼む」

「旦那……」

「……まぁ、お前に殺させるわけにはいかんな。視えてるぞ、ドゥーエ」

「「……!」」

 

 管理局内へ入ったところで立ち止まり虚空に話す。

 剣で指し示したその先、空間が少しずつ輪郭を持ち、例のスーツが姿を表す。

 

「私の存在はドクターとウーノくらいしか知らないはずですが」

「オレも今まで知らなかったが、2番だけ空いてりゃ不自然にも思うだろ」

「……それもそうですね」

「……なぁシグナム、オレはなんでこんなヤツらと協力してたんだ?」

「私が知るか!」

「まぁいいや、ソラの心配してたスパイも正体が分かったしな。よし、シグナム、ゼスト連れてさっさと行け。コイツはオレが引き受ける」

「……仮にも局員の私に局員殺しを補助させるのか」

「じゃゼストが先に行け。シグナムは止めようと追いかけたが間に合わず、で良いだろ。アギトが妨害してたって言えばまぁ、まぁ?」

「納得し難いが……負けたのは事実。アギト、先で少し戯れるか」

「すまんな、アギトも頼む」

「まぁ、旦那が言うなら……」

「オレはコイツ確保したらゆりかごに行く。そっちの用件終わったらはやてに合流してやれ」

「了解した」

 

 シグナムたちを送り出し、剣を構える。

 

「データリンクは私にも適応されています。能力無しで私に勝てると?」

 

 戦闘要員ではないクセにイキがってるドゥーエ。

 

「勝つ気はねぇよ」

「では、騎士ゼストの時間稼ぎに?」

「いいや……」

 

 無駄な時間も使わない。ピカピカの実と神威で……

 

「確保する、と言ったろう。お前には終わるまで神威空間にいてもらう」

「……!」

 

 反撃も反応の隙も無い。光より速く動けるはずもなく、神威から逃げられるはずもなく。

 

「誰にも見られてないってのは能力が使いやすくて良い。さて、行くか……」

 

 ピカピカのままゆりかごへ接近、神威のすり抜けで内部通路へ侵入する。

 さて……姉さん、よりはヴィータか。

 

「おっ……」

 

 そこにはオレと同じ姿をした生物が磔にされ、そばにはチンクが立っていた。

 人質かねぇ?辛いもんだ。

 

「やはりここに来たか」

「やはりって何だ。テキトーに入ったんだぞ」

「それも想定範囲内だ」

「数字も数えられんくせにその辺の予測精度どうなってんだ」

「無駄話はしない。私の能力、知ってるな」

「金属を爆破、プライムはそこから派生してキラークイーン」

「つまり、人体を爆弾にもできるわけだ」

「……で?」

「コイツを爆破されたくなければ自分で腕を切れ」

「あぁ……そういうタイプ」

 

 くだらん事をするが……オレも面倒な性格してる。さっさとチンク殺せばいいのにな。

 

「さっさとしろ」

「止血はしていいのか?」

「ダメだ。余計な動きをするな」

「はぁ……」

 

 仕方ないのでこの腕とはおさらばしよう。両腕はやりづらいがな。

 

「チンク、両腕切るのは難しい。二振り投影して上から落とす。いいか?」

「それ以外の挙動を見せれば即爆破だ」

「どーも」

 

 短剣を二振り、両肩の上に投影、切断に十分な威力を持って撃ち出す。

 Dランクとはいえ流石宝具のレプリカ、骨さえ簡単に切り落としてくれた。

 

「で?もういいのか?」

「お前はここで始末する。足もだ」

「ダルマ趣味か……男のそれに需要はあるのか?」

「……?何の話だ?早くしろ」

「ま、機会があれば教えてやるよ。足な、倒れんのは無様だから座らせてもらう」

 

 座ってから腕と同じように投影して切り落とす。

 両腕両足が自分の意思で動かない形で目の前に並んでる。

 ……生々しいな。オレがちゃんと人だってのが実感できるな。前の世界では所詮意識の一端でしかなかったからな。

 

「気分はどうだ?」

「不便だな。こんな負傷で動かなくなるんだからな。人間てのは弱過ぎる」

「そうか。ではさらばだ」

「シオン!」

「よぉ、ヴィータは無事だったか?」

 

 チンクが小型のナイフを出し、オレにトドメを刺そうとしたところで本物のウタネが現れる。

 

「無事ではないけど生きてるよ。駆動路を私が引き受けることになったの」

「そうか。間に合ってよかった」

「で、それどういう状況?」

「んー、踏み絵ができなかった?」

「そんな偽物で?直死ならすぐ見抜けたでしょうに」

「いや、そんなことしなくても姉さんが磔なんて有り得んだろ」

「それもそうだね。じゃあなんだ、私を傷付けないって意識のためにそんなしたの?」

「まーなぁー……」

「本物か。丁度いい。少しも動くなよ、シオンにとどめを刺されたくなければな」

「あなたがチンク?まぁ、色は似てるね。シオン、どうしよっか」

「……好きにしろ」

「じゃあ、はい。どうぞ」

 

 ウタネは両手を上げてひらひらと降参のポーズを取る。

 それをチンクが爆弾化した杭で壁に打ち付ける。手荒なことしやがって。

 

「では、言い残すことは?」

「まぁ……オレの負けか。それは認めるが……お前らも負けるぞ」

「?」

「これは賭けだな。まぁ、この賭けに負けようとどうでもいいが……オレ達の勝ちだ」

「頭に血が回らなくなったか。さらばだ」

 

 一本のナイフを見た後、視界が途絶えた。

 

 ♢♢♢

 

「全く。手間をかけさせる。それにしても、シオンにしては雑に縫い込んだ目だな。これはなんだ?」

「さぁ?なんか見たら死ぬらしいよ。開けるのはオススメしない」

「呪いの類か?触らぬ神になんとやら、というしな。判断はドクターに任せるか」

 

 縫いつけた目をそのまま爆破、シオンであったモノは両手足のみとなった。

 

「ふぅ。さて、次はお前だ、フタガミウタネ」

 

 そして、気を抜いたチンクが呼んではならない名を口にした。

 

「……そうだね。面倒な時に起こされたものだ」

「何?」

「もっと寝たいと言ったと思うんだけどな。取り敢えず、離して貰おうか」

 

 十分に壁に食い込んでいた杭を軽く払うように外し、肩をポンポンと撫でる。

 

「……な、私は、何故……能力を解除して……?」

「シオンの手が入った戦闘機人なら、僕が介入できないはずがない。君には生きていて貰おうか。シオンもウタネも殺す気だったようだが、僕も一応は正史に近い方が安定するからね」

「……何の話だ、お前は、誰だ……?」

「さぁね。ただの通りすがりの現実改変者だよ。双神の直系、で分かる訳はないか。ま、もう君は死なないし動けないから好きにするといい。それもできないけど」

 

 シオンでもウタネでも無い口調と、それらを超えた威圧感。

 チンクは固定された体と自由意志の中でただ恐るしかなかった。

 

「……ヴィーナス全員に命令だ。各々全力を持って目の前の敵を倒せ。生死は問わない。無力化すればそれでいい」

『げー!双神詩音!』

「やぁソラ。随分と早く起こしてくれたね」

『私何もしてないんだけど!』

「君がシオンに漏らすからだ。勘づいて自殺したよ」

『えー!なんで止めてくれなかったの⁉︎』

「どうせすぐ目を覚ますだろう。シオンが生きてると僕も出て居られないし、それまでの時間だけ。まぁ、罰が欲しいなら十分に時間はある」

『もー!起こしたのはごめん!分かった!全力で頑張りますぅ!』

「それでいい。他もちゃんと動くことだ。僕なら君たちでさえ存在しなかった世界に書き換える事もできる」

『脅さないで!』

「冗談だよ、両儀なら簡単だろうけど僕は少ししんどいから」

『じゃ!もういいでしょ!おやすみ!』

「ああおやすみ。次は30年は寝かせてほしい」

『それは分かんない!』

「努力はしてね」

『してたよ!』

「ま、頑張ってくれたまえ」

 

 ♢♢♢

 

「無駄だっつってんだろ。何の能力も持たない筋肉バカが!」

「おっと!その筋肉バカにタメ張ってるようじゃあ!まだまだだね!」

「うっせぇ!」

 

 キレ師匠とオラオラしてウェンディとオットーの援護射撃を躱してディードの隙潰しを殴り返す。

 うん。確実にvividより強いね。シオンは何してくれてんだ。

 

「シオンに及ばねぇ奴がちょこまかしてんじゃねぇ!」

「……!」

 

 及ばない?私が?

 

「スターライト・ブレイカー」

「「「ッ⁉︎」」」

 

 カートリッジを握り込みブレイカーをぶちまける。

 まぁ当然のように防御されるけど一定の時間はできた。

 

「あのさぁ、シオンに遊ばれてた貴女たちがそれを言う?」

「逆っスよー、あたしらがシオンを利用してたんスよ。もう時間系能力も対応して何でもこいって感じ。アンタが一人でどうこうできるレベルじゃないんスよ。シオンも死んだそうじゃないっスか」

「パワーだけでよくやってる方だ」

 

 どこまでも思い上がった思想。自らを、自分たちが絶対というナメた言動。

 ギルガメッシュレベルだな。いや、それほどではないな。せいぜいエリザくらいか。

 

「んー、まぁ?シオンの能力に対応した、ってのはまぁ?信じてあげる。私だってね?シオンの全部を知ってるわけじゃないからね?」

 

 確かにウェンディの言うことも一理ある。時間系に対応できればおおよそ全ての物理能力は通じない。因果法則を書き換えるか洗脳系……洗脳系も戦闘機人プログラムなら一人正気なら即復旧くらいするだろう。

 因果法則は……シオンもアインスも負荷重くて使わないだろうし出会うこともないか……

 

「でもさぁ……それで私に勝てる、って理論はおかしくない?私に勝てる?大丈夫?」

「あ?」

「私たちは全く別系統の存在。シオンに対応できても、抑止力の私やウタネに対応できるとは限らない。いや、むしろ逆。誰かへ集中して対策すれば誰かに対応できなくなる。三すくみ。互いが互いの宿敵であるから、有利不利は確実に存在する」

 

 ウタネが絶対無敵であるなら私が抑止力として成立しない。

 抑止力である限り、それを超える手段は確実に存在する。

 だからこそ私達三人は仲良くしてきたんだ。互いに争っても誰の得にもならないのが分かりきっていたから。

 無敵なのはロリコンとか双神詩音とか両儀式とかでしょ。概念とか存在とかから書き換えるの何なの?小学生の考えた最強のキャラクターか?

 

「それに……変に『強化』なんてしちゃうから、世界を脅かせる力を持っちゃった。そんなだから、私抑止力の対象に入はいれちゃった。知ってるかな?聞いてるかな?抑止力は、必ずそれを上回る力を持って現れるんだよ」

 

 ふぅ、と息を吐き、能力を解放する。

 60〜80までとはしたけど、まぁいいでしょ。100%だ。四象の責任だしいいでしょ。

 

「データリンク、だっけ。互いの経験を共有してより早く、より強い能力を作る……」

「そーだ。だからお前らはあたしらに勝てねぇ」

 

 もはや少女どころか人の姿からも逸脱してるだろう私を見ても怯みもしない。

 それは自身の能力に自信を持って相手を舐めてるからだ。私がただのデクの棒だと信じて疑わないからだ。

 

「それがある限り戦闘機人……ナンバーズは全員の能力が同等以上で、この場にいる貴女たちの能力は精密なコンビネーションによってそっくりそのまま倍増されるってわけだ」

「よくわかってんじゃねぇか」

「……所詮、その程度なんだよ」

 

 だから私達には勝てない。私達は存在そのものが普通とは違う。

 根源、両儀に次ぐ世界の源流、四象。それに対する抑止力。それら以外は私の対象。私の能力の肥やしでしかない。

 

「……なに?」

「鬼の貌、筋肉操作とは別の、私の抑止力としての力。私は、あなた達全員の能力の合計だ」

 

 戦闘範囲内全ての力をそのまま筋力として発揮する。それが、抑止力としての私の力。

 鬼や筋肉操作はあくまでそれを使うリミッターでしかない。

 

「ばくめつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!……あれ?ページ間違えた?」

「……えっと……フェイト……じゃない、よね?若いし」

 

 突然目の前に雷が……

 誰?いつきた?どこから?どうやって?

 

「僕はレヴィ・ザ・スラッシャー!」

「うん……」

「お!僕は幻術師と遊ぶのに忙しいから頑張ってね!オリジナルの仲間でしょ?」

「フェイト、かな?うん、仲間だよ」

「そっか!じゃ!」

「……」

 

 またどこかへ消えた……ページ?

 

「……あの、さっきのって戦闘機人?」

「知らねぇよ!ふざけてんのか!」

「だよね……うん、よし」

 

 分かんないけど敵ではなさそうだし……まぁ、それなりに強そうだったしちょうどいいや。

 気を取り直してシリアスに……

 

「……それに、私自身を加えた力。多勢に無勢はウタネに有利、シオンにフェア。私には、悪手。数が増えれば増えるほど、私と個人との差は開いてく。もう一回聞こっか……私世界に、勝てる?」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 師匠が飛びかかって来る。私はデコピンでそれを相殺、弾き返す。

 

「まだこりてない?まだいる?全力?出していいの?」

 

 鬼の貌を併用、私の全てがコレだ。

 

「100%の私は今までとは別の生き物だ。能力範囲はこの世界全て。筋力はもちろん、学力、文才、経済力、生命力。それら全て、人が『力』と認識できる全てを、私は筋力として発揮できる。最後に確認しとこっか。世界に、勝てる?」

 

 鬼の貌により筋肉が絞り込まれ、40%程度のマッチョ感で抑えられる。

 ぶっちゃけこれが素なもんだから困ったものだ。

 

「魔法。魔術。そんなもの。時間だの、空間だの、五大元素だの虚数元素だの、そんなもの。連携だの技術だの……宝具だの概念だの念だのスタンドだのチャクラだの気だの妖力だの……そんな、それらの超常能力は戦闘において、ある一点を代替する手段でしかない。それが筋肉。パワー、スピード、スタミナ、攻撃防御。それら全てを司る筋肉の代替としてそれらがある。そんな、筋肉の機能の一部を代替するためだけに他の何かを疎かに、犠牲にして……そんな不完全な存在が君たちだ」

 

 ふぅ、と息を吐き、周囲の人影が無いことだけを確認する。

 

「技を超えた純粋な強さ!それがパワーだ!一挙一動作が起こす空気振動さえも!武器になる!」

 

 腕をただ真横に振り抜く。空気を裂いた腕の軌跡によって真空が飛ぶ。

 

「ガッ⁉︎」

「っ!」

 

 触れた戦闘機人の外装が裂ける。流石に強固な内部部品は破壊には至らなかったようだけど。

 

「かつての古代の遺産。膨大な犠牲と研究の産物。そんなものは、君たちが勝手に誇ればいい」

「君たち……?」

「──私達を除く総て」

 

 無言で反撃されたレイストーム。直撃を受けても何ともない。

 せめてミッドを割るくらいの威力が無いと私には効かない。スターライトブレイカーなんて豆鉄砲程の威力も無い。

 

「私は、存在の永遠を、そうあるべき、正しい在り方を望んだ。そのきっかけ、始まりが双神詩音に改変された過去から来てたとしても、私はそれだ。あなた達はシオンという協力者を得た。まだいい。そして元とは見違えるほどの力を得た。まだいい。そしてシオンの敷いたレールを無視して、元のレール、管理局へ攻撃した。それがダメだ。私たちによって変化したなら、そのままであるべきなのに。私達が関係したのに、関係してない元に戻ろうなんて。神の視点みたいで癪だけど。私達に頼っておいて自由意志を持とうだなんて、烏滸がましいと思わない?世界に生まれたのに世界に歯向かうなんて、最古級の神話でしか許されない。在るべき存在じゃなくなったら、世界には要らない。四象との通信、聞いてたかな?生死は問わない」

 

 勝敗も未来も確定した。管理局には悪いけど、殺しちゃうよ。




ルーテシアがまともに出てきたのにもうほとんど出番無さそう。


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第99話 四人目

何でもアリです。許して


「シオンから学んだよ……勝ち誇るなら、反撃の芽を全て摘んでから、だそうだね。ふふふ……間違いを犯すことに怯え、薄い絆に縋って震え……そんな人生など、無意味だと思わんか?……だったかな。ハハハハハハハハ!」

「ぐ……」

 

 各地の状況をモニターで示しながら嘲笑うスカリエッティ。

 フェイトはAMFと重力増加の性質を持つ糸によって磔同然に縛られ、バルディッシュも離れて確保されている。その左右をトーレとセッテが戦闘状態で待機し、一切の隙が許されない。

 

「その絆に頼った結果が今だ。君の育てた子供たちはもう使えない。君もここで終わりだ。シオンもチンクに爆破された。モニターが途絶えたのが懸念要素だがチンクもウタネも動いていない事が確認できている。まぁ、援軍には来ないさ。どうだい?自分以外は死なないなんて気休めをのたまっていたんじゃないかね?シオンは死に、君も仲間が死んでいくのを眺めてから死ぬのさ。彼らの言う約束すら、ただの自己満足さ。君もシオンたちも、所詮は私と同じ自己満足でしか動かない、動けない」

「違う!ウタネたちも六課も!お前たちとは違う!」

「違わないさ。正義なんてのは物事を正当化する方便さ。君たちが最大多数の集団というだけで、それに反する人間は君たちより多いかもしれない」

「だが……!それで多くの人が救われている!エリオやキャロのような子を、望む場所は連れて行ける!お前たちの破壊活動とは断じて違う!」

「ズレたことを言う。そうじゃない方が多いし、私たちは別に破壊が目的では無いということを理解して欲しいんだ。君たちからすれば私は悪なんだろうがね。まぁ、君は私という問題の根本に辿り着きながら何もできない……切り札のオーバードライブも無意味。個人の力量であれば娘たちに匹敵する君が環境のせいで力を失う……確かな実力を持ちながら権力によって全てを失ったプレシアと同じだね。彼女も私と同類だった。彼女も管理局に牙を剥くだけで良かった。それで彼女は救われたはずだ。さて、どうかな。最後に一言、言いたい事は?」

「……母さんは、お前なんかとは違う……!」

「フハハハ……!まだそんな世迷言を言うのかね。彼女は壊れていた。私は当然、君もそうなっていく自覚はあったんじゃないかね?認められないだけで、私と同じ様に、娘を、部下を道具としか見ていないんじゃなかったかね?自分の満足のために他人を、身内を利用しただけではないのかね?」

「違う!私はウタネに、支配しない理由を学んだ!対等であろうとする優しさを学んだ!お前とは違う!」

「そうか……まぁどうあれ変わらない。君も管理局も今日が終わりさ……フハハ、フハハハハハハハハハハハハ!」

「アーッハハハハハハハハハハハ!」

「⁉︎」

 

 スカリエッティの高笑いにもう一つ高笑いが重なる。

 その声にスカリエッティは当然、トーレ、セッテ、フェイトも驚愕を隠せない。

 

「なんだこの声は……聞き覚えがある。まさか……!」

 

 フェイトの後方、セッテより更に奥の床から、紫電と共に声の主が姿を現す。

 その声はフェイトやスカリエッティの知るそれより少し若く、瑞々しく、けれど狂気的な圧を持つ。

 

「今までごめんなさい。そしてありがとう。私を、まだ母さんと呼んでくれて」

 

 その場全ての視線の先に……紫の長髪をたなびかせ、最強の魔導師がそこに居た。

 

「き、君は……既に……!」

「あら、君は既に死んでいるハズだ、なんてセリフはやめておくことね。次元が知れるわよ」

「君は既に死んでいるハズだ!」

 

 狼狽するスカリエッティに対し艶やかながら無感動な視線を向けるプレシア。

 

「かあ、さん……?」

「久しぶりね、フェイト……大きくなって、立派になったわ。もういいわよ、アナタは充分頑張った。後は私達に任せなさい」

「かあさん……!ホントに……⁉︎」

 

 連呼される母さんという言葉に微笑み、魔法陣を展開する。

 

「ウタネは約束を守ったわ。『あなたが望むなら、またどんな形であろうと会える』と言う言葉、覚えてるかしら。ウタネも今は起きてないけど、分かってたみたいね。外にいるナンバーズはソラが、ガジェットはリインフォースが始末してくれるそうよ。私も彼女たちも、双神詩音から許可は得てる。……ホントウは、一生出てこないつもりだったんだけど……娘の危機に駆けつけない者は、親とは言えない。私はもう、二度と間違えない。ジェイル、私達『VNA』を敵にした事、後悔することね」

「ヴィーナス……シオンの組織か……まさか君も入っていたとは」

「ヴィーナス?愛と美の女神だったかしら。ふふ、そうね。なら私が愛、他三人が美かしらね。まぁどうでもいいわね。どうせアナタは……ここで死ぬもの」

「ふ、君が生きていたのは驚きだが……甘い!トーレ!」

「プライム『ライドインパルズ』!」

 

 スカリエッティが声を発すると共にトーレが消える。超高速の斬撃が縛られたフェイトへ向かう。

 

「遅いわ。アリシア」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁっ!」

 

 トーレの軌道上に小さな影が出現、それを優先としトーレがそれを上下に切断する。

 

「え……」

「む、これは……アリシア・テスタロッサ?生きていたのか。流石シオンだ、死人すら蘇らせるとはね。ま、今死んでしまったが、妹を庇って死ぬとはね。良い家族愛じゃないか」

「ねえさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん⁉︎」

「んー、ふふっ!ありがとうね!これで私も晴れてお姉ちゃんだよ!」

「「「……は?」」」

 

 分断されていた体が塵と共につながり、立ち上がる。

 

「ね、姉さん……?」

「そう!アイアムお姉ちゃん!」

「傷は?致命傷だよね⁉︎」

「今の私は穢土転生だ!気にすることはない!いくらでも囮になる!」

「穢土転生……?」

「アリシアは確かに死んでたわ。そして虚数空間に放り込まれてから少し後、シオンを連れてウタネがやって来た。アリシアをどんな形であれ生き返らせることを選ぶか?とね」

「それって……」

 

 シオンがゲンヤにしたのと同じ問い。質問したシオン自身が普通はしないと吐き捨てたもの。

 

「で、でも、それだと母さんは……」

「ええ、死んだわよ。アリシアの穢土転生の生贄に私が申し出てね。良かったのアリシア。老いぼれの体なんかで」

「えへへー!母様だから!オッケー!」

「穢土転生のアリシアは術者のシオンから縛られてない。もう事故なんかでは死なない体、ようやく望むものを得られた気がするわ」

「でもこの目は残念だよ!でもウタネは綺麗って言ってくれたけどね!」

「生贄……?ならプレシア、君は……」

「あら、死んでるわよ。10年前に」

「ならなぜそこにいる?死を無効にすることはできても、死んだままここにいるのはおかしい。ここは聖王のゆりかごだ!死人が来る場所では無い!」

「死人は居てはいけないのかしら。なら私達も聖王も、誰一人いてはいけないわね」

「なんだ……なんなんだ、ヴィーナスは……」

「mütterlich……私の象名は母性。娘のために人を捨てたモノ。世界に回った掃除屋よ。大切な娘たちだもの。守るために命を捨てるなんて安いものね。未来も魂も存在も自由意志すら捨ててやったわよ?そんなもの、娘の何億分の一の価値も無いけれどね……ロリコン専属なのは良かったのか悪かったのか、分からないけれど、でもそのおかげで世界を滅ぼすも自由の身になったわ」

 

 魔法陣から紫電が走る。フェイトすら十分に魔法が使えないレベルにまで強度を上げたAMF環境下でなお、外でのフェイトの全力を上回っている。

 それどころか、ゆりかご内部用に調整された戦闘機人すら軽く上回っていると実感させる。

 

「アリシア。フェイトを引かせなさい」

「してるけど!この糸硬い!」

「ならリニスね……あら、リニスはいないのかしら」

「母さん……リニスも、もう……」

「何を言ってるの、フェイト。私は全盛期でここにいるのよ?全盛期の私の隣にリニスがいないはずがないでしょう。リニス、来なさい」

 

 絶対的な命令は、即座にそれを遂行される。

 魔導師の隣にいるはずの、フェイトにとってもういないはずの存在が呼び出された。

 

「……ここは?」

「リニス。フェイトの拘束を解いてちょうだい」

「……なるほど。プレシア、いくら貴女でもしていいことと悪いことがあります。ですが教え子のためです。少しくらいはルールを柔軟に考えてもいいでしょう」

「次から次へと……!セッテ!」

「了解です」

 

 増え続けるテスタロッサ家に戦闘機人が動く。

 飛び出したトーレはその一歩を踏み出すと共に停止した。

 

「……ッ!」

「今フェイトの拘束を解いてるの。動かないでもらえるかしら」

 

 クロックアップの速度さえ上回る紫電がトーレとセッテの周囲を怪音を上げて駆け巡る。

 プレシアの言葉は優しくとも。その密度、その音が明確に語っている。動けば殺すと。そして戦闘機人の能力が理解する。触れれば死ぬと。

 

「……プレシア、君は何をしていた……?何をした?」

「別に。何も。娘のための力を得るために研究して、訓練して……それだけよ」

 

 他人のために仕事を、他人のための研究をしていた頃でさえ優秀な魔導師だったプレシアだが、闇の書事件中シオンの問いに即答、穢土転生の生贄となったプレシアはウタネ繋がりでロリコンの元へ行き、サーヴァント的扱いで全盛期で召喚され、その後10年間を娘の為だけに費やした。

 類稀なる才能が他に目もくれず力を求めた結果……虚数空間に魔力炉を設置、ウタネの能力を通じてどこでも魔力供給を受けられる状態の上で魔導師ランクにしてSSSオーバーを上回る状態を維持し続けることができるほどになる。

 トーレが危機を察知して避けた紫電も当然この世界の基準を軽く上回っており、ゆりかご内部のAMFであろうと供給過多の魔力は一切減衰を許さない。

 

「あなたはこの作戦を立てた時点で敗北していたのよ、ジェイル。私でなくともウタネが、シオンが、ソラが、アインスがあなたを殺す。VNAのいる管理局に手を出したのが失敗ね」

「私の娘たちは完璧だ!あらゆる能力に対応し、精密なコンビネーションを完璧こなす!シオンだろうと単独相手なら3人以下で対応できる!これのどこが……どこが失敗だというのかね?」

「親であるあなたの言葉通りにだけ動く娘……かしらね」

「……なんだと?」

「あなたが全権を持って指示を出し、娘はそれを疑わない。いい信頼ね。けれどそれはかつての私と同じよ。無理矢理やらせているのと変わらない。私はそれで失敗した。けれどフェイトは違うわ。無理矢理やらせようとした私に疑問を持ち、管理局の言葉にも理解を示し、迷ってた。もし私と貴方の今の立場が逆なら、フェイトは作戦を立てた時点で止めてくれるでしょう。私のためを思って、自分を顧みず必死に。もうフェイトは10年前とは違う。私はそれがとても嬉しい。けれど貴方の娘は疑問を持ったとしても作戦に反対しない。貴方の欲望だけに左右される。貴方は……ウタネを舐め過ぎよ」

 

 紫電が通路一帯を覆う。かつてウタネと庭園で話していた時と同じ。

 誰にも触れる事はないが、誰にも移動を許さない紫電の檻。

 

「か、かあさん!」

「何?フェイト」

「できれば殺さないで欲しいんだ。ちゃんと管理局で逮捕したい」

「……ジェイル、良かったわね。私の娘が優しくて。無力化のために四肢は落とすけど生かしてあげるわ」

「く……私は失敗しないはずだった……!失敗した世界を克服したはずだった……!」

「その世界に私達はいたかしら?その想定が甘いのよ。油断、慢心……最大の弱点ね」

「プライム、ら……」

「動かないで、と言ったはずよ」

 

 怯んだスカリエッティに反応し攻撃態勢に移ろうとしたトーレの左腕が消失する。

 

「雷はこの世で最も速いのよ?貴女の加速は光より速くなれるのかしら」

 

 機械部品から微かに臭う煙に顔を顰め、更に動こうとしたトーレは両腕を失った。

 

「あと、この魔法は高い伝達性を持つから、バリアも透過するわよ。防げるだけのバリアを張れればの話だけれど」

「く……」

「す、すごい……」

「全く……はいフェイト。バルディッシュを使い続けてくれてありがとうございます」

「あ、うん……リニスから貰った、大切な相棒だから」

「そうですか。その気持ちだけで嬉しいですよ」

「あら、そういえばアルフがいないじゃない。死んだのかしら」

「え⁉︎い、いや、アルフはその、家で……」

「はぁ……リニス、使い魔としてそれはどうなのかしら?」

「さぁ。時代は変わっていきます。現在ではそれも一つの在り方なのではないですか?フェイトの危機に立ち合わないのは、私は少し不満ですが」

「ならダメね。アルフ、来なさい」

 

 プレシアの一言でフェイトの隣にアルフが召喚される。

 

「ん……?ゲェー!プレシア⁉︎リニス⁉︎なんで⁉︎てかなんじゃこりゃあ⁉︎」

「あら?アルフ?随分と小さくなりましたね?」

「ん、ああ、今は家事くらいしかしてないからね。省エネってヤツだよ。プレシアもリニスも何で生きてんだい?」

「私はプレシアに無理矢理喚ばれたので。それにしても省エネですか。エネルギーの節約など考えたこともありませんでしたが、フェイトの負担軽減という点では良いです。プレシア、私も……いえ、その魔力量ではいりませんね」

「いるわ。やりなさい」

「えぇ?」

「アルフを呼んだ意味ができたのよ?やりなさい」

「今は無理です。さっさと終わらせて下さい」

「……それもそうね。ジェイル、覚悟しなさい」

「……いいや、私の負けだ」

「「ドクター⁉︎」」

「トーレ、セッテ。もういい。お前たちは素直に捕まっておきなさい。私のクローンは破壊されるだろうがそれも気にしなくていい」

「「……」」

「プレシア女史、一つ頼みがあるんだが」

「なにかしら。あと敬称は要らないわ。私達にそんなの使わないで」

「それは済まない。プレシア、トーレの腕は管制人格にでも頼んで修復して貰えないかな。ちょっとした破損なら娘たちで直せるだろうが、そこまで完璧に破壊されては私がいなくては間に合わない」

「いいわよ。そろそろシオンが目を覚ますでしょうし」

「……生きているのか」

「ええ。10年前から自分の部屋に置きっぱなしらしいけれどね。本体が死んだ時、替えの身体が記憶を保持して目を覚ます……あなたのソレより進んでるわね」

「くはハハハ……もう少し考えるべきだったな。娘たちは生かしておいて貰えると私はとても嬉しい。シオンに権限を譲ろう。彼なら悪くはしないだろう」

「権限は貴方が持ち続けなさい。殺さないから、しっかり牢の中でいることね」

「……君がそう言うならそれでいい」

 

 そうして事件の元凶、ジェイル・スカリエッティはテスタロッサ家によって逮捕、確保された。



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第100話 ブラスター

 双神詩音が目覚める前、別の場所。

 未だ仮初めの関係でしかない、ただ数日過ごしただけという親子は、子が親を攻め続ける形で戦闘を続けていた。

 

「それが、聖王の鎧なんだね。辛いよね……苦しいよね……」

「わかった風な口を聞くな!」

「うん……そうだよね。でも、ヴィヴィオ」

「名前を……!呼ぶなぁっ!」

「っ……!ヴィヴィオ!私は本当のママじゃないけど!ちゃんとそう呼んでもらえるように頑張るから!」

「うるさい!」

 

 親の懸命な声も一蹴し、ただ侵入者として存在を否定する子。

 ゆりかごのエネルギー供給はエースオブエースのそれを遥かに上回っており、限界を超えるブラスター2をしてようやく防御が間に合うかという瀬戸際だ。防御一辺倒の中でもなのはは言葉をかけ続ける。

 

「ヴィヴィオ!望まない戦いなんて、しなくていいんだよ!自分のやりたいこと、したくないこと。ちゃんと話して?私は……っ!ちゃんと聞いて、全力で協力するから!」

「うるさい!なら死ね!」

「……っ!」

「お前がいるから!私がこうして戦ってる!私一人なら……!」

「……そうなんだ」

 

 本音を聞けた、と息を吐き距離を取るなのは。

 急激にクールダウンしたあまりにも不自然な対応にヴィヴィオの攻撃も止まる。

 

「……ヴィヴィオ。ヴィヴィオがそうして欲しいなら、そうするよ」

「……⁉︎」

 

 死ねと言った。それをすると言った。

 聖王の記憶を持つヴィヴィオにさえ理解不能であり、理解しようとする思考は混乱していた。それではこの女の望みは果たせない。親子で暮らすためには、まずお前が生きている必要があるだろう、と。

 

「でも、この戦いも終わりにする。今まで……戦力を隠すことは、私たちの安全を守り、孤立を防ぐもの……管理局では、どこでどう恨みを買うかも分からなかった……でもそれは今するべきじゃない。私はVNAじゃないけど。ウタネちゃんやシオンと同じなんだ。レイジングハート。覚悟、決めるよ」

《YES》

「ブラスター、4!」

《load Cartridge》

「家族だと思ってる。家族であれたらと思ってる。だから、余計な気苦労なんてして欲しくない。だから、死ぬよ。ヴィヴィオを縛ってるそのガラクタの聖王を壊して、ヴィヴィオにとっての悪者として、ヴィヴィオにはいらない邪魔者として」

 

 ウタネ特注の、特製カートリッジ。

 そのマガジン、全3本の内1本、6発分を不発させ、ただ魔力を撒き散らす。

 

「なにを……」

 

 カートリッジ6発、それだけのスターライトブレイカー分の魔力が辺りを覆い、感知能力を麻痺させる。

 ただしそれも一時的、聖王の感覚はそれにも即座に対応する。ただなのはが魔力感知を捨てただけだ。

 

「ヴィヴィオ。いつの間にか、私もウタネちゃん達に感化されてたみたい。私がしたい事、世界の平和を守る事。それをするのは、私じゃ無くてもいい。私が死んでも、それを成す誰かがいる。そのために、私という敵を消す。争わず死ねばいいならそうするけど、このゆりかごだけは止めておきたい。いつかウタネちゃんに、ソラちゃんに守って貰って、みんなと平和に暮らしてね。私は……今、ヴィヴィオを救えるなら……命も捨てる!レイジングハート!」

 

 エクシードのまま、飛行の為の羽根を切り、床に降りる。無理を押して飛んでいた状態から解放される。

 バリアジャケットの魔力密度も落とし、軽く息を吐く。AMFの中での魔力結合の困難さから解放される。

 デバイスは左手に軽く握り、ヘッドは床に触れる程落とす。重力場の重さから、最も楽な待機姿勢。

 これが構え。中遠距離を基本とする高町なのはが唯一可能な近接スタイル。

 近接武器戦闘……ブラスター4。

 この構えが意味するところを、ヴィヴィオも、クアットロも、まだ知らない。

 

「はぁっ!」

 

 聖王を舐めるな、と背後からの魔力弾を伴う打撃。

 ブラスター2でもギリギリの反応だったそれは、撃ち始める前には既に避けられ、なのはの背後へ回り込んだヴィヴィオの首元にはレイジングハートのヘッドが添えられていた。

 

「……ふぅ」

「っ!はぁっ!」

 

 驚くヴィヴィオを冷めた目で眺め息を吐くなのはに、後退しながら魔力弾を連発する。

 

「……⁉︎」

 

 煙が晴れた後、なのはは位置を変えずに佇んでいた。

 構えはそのまま、何事もなかった様に。

 古代ベルカ戦乱の時代を武力によって終わらせた聖王の全力の攻撃が、子供の遊びとでも言うように。

 

Vernichten(殲滅)Neutral(中立) Abschreckung(抑止)……五分。それしか言わない。それで解説することは終わり。古代ベルカの戦乱の時代はもう終わる」

 

 一歩、また一歩と、ただヴィヴィオへ向けて歩くなのは。

 重力が重いのか、その動作は実に緩慢で、戦闘をする速度では無い。

 

「……っ!」

 

 それでも聖王は怯む。二度の不明な回避に、気付きもしなかった攻撃。警戒するには十分な理由だった。

 ハイライトの消えた冷たい目は、ただ眼前の敵を見据えていた。

 

 ♢♢♢

 

「オラァッ!」

「何がおらぁだ。反動で死にかけてるくせに」

「くっそ……!」

「もう無理だよ。4人ともがどこか欠損して。武器もまともに機能しない。身体能力では勝機もない。私は殺す気なんだけど、フェイトが保護したいんだってさ。だから貴女達が諦めるなら生かしてあげる。それまで私も動かない」

 

 初撃、カマイタチを飛ばせば勝負は決した。盾や剣は壊れ、いずれかの部位がハネ飛び、もう完全だなんて言えない機械。

 プレシアの通信を聞いて私もそれに乗ろうとあぐらをかいて座り込んではみたものの、諦めない4人の攻撃がノーガードの私に届き、弾かれて。私にダメージのカケラも与えられないまま勝手に消耗していった。

 

「聞けばスカリエッティも負けたみたいだよ。護衛2人には大人しく捕まるようにーだって。君らもそうしたら?死にたくないでしょ?」

 

 抑止力なの忘れてたけど……この4人、ほんとは生きてるんだよね。なら殺すわけにもいかないし……けど殺さなきゃ止まりそうもないし……どーしよ。ガンド?効くかな。効いても一発だけだから意味ないから……

 

「どーしよーねー?死ぬ前に早くすみませんでしたーって終わっとこうよ。ね?」

「はいはいすみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 中学生のテンションで跳び蹴りをかける師匠。アインハルトが見たら泣くよ。

 

「んじゃま、それでいいよ。終わり!回収しまーす!」

「げっ⁉︎」

 

 師匠の足を掴んで止めて、80%まで落とす。鬼がある分締まってるけど100%より大きくなるのマジでなんなの。

 

「ディエチとディードは両肩、オットーは抱えて……よし!もしもーし!はやて?」

『なんや、こっちはガジェットで忙しいんやけど!』

「ずっとそれ言ってるね」

『40万やで⁉︎』

「それもそうだ。えっとね、戦闘機人4人が降伏したから、そっち護送するね!」

『はぁ⁉︎4人も相手しとったんかいな!』

「よゆーだよ。アインスだって同じでしょ」

『いや、私はアレだ、やり過ぎると思って王……というかマテリアルたちに任せてしまってな。まぁ、あんなのが出てくるなら私がやっても……ん?そういえば王たちが来ないな。負けたか?』

『冷静に言うとる場合ちゃうやろ⁉︎大丈夫なん⁉︎』

『この世界で死んでも元の世界に戻るだけだしな。まぁいい、ソラ、その4人は私の方に連れて来てくれ。シオンが1人神威空間に放り込んでいる。取り敢えずそこに入れておく』

「んー、それはあんまりよろしくないけど……」

「隙」

『ソラちゃん⁉︎』

 

 ディードがツインブレイズを背中におもっきり突き立ててきたけれど……筋肉層の半分にも到達せず、筋肉を締めることで逆に封印した。足じゃなくて腕落としとくべきだったかな。

 未来より強いのは間違いないけど。てかこの子たちのプライムはなんなのよ。まさか多少強かった蹴りとか亜空間ビームがそれか?マジ?全部弾いちゃった。

 

「無駄な抵抗しないで。隙なんか無いの。私の肩におっぱい当てることだけ考えてればいーの」

「ちょっ!そーゆー理由で担いでんスか⁉︎」

「当たり前でしょ。護送だって言ったじゃない。足無いのに歩かせたら正義じゃないでしょ。ま、連れてくだけなら投げればいいし」

『……なぁソラちゃん、あとで私もそれできへん?』

「この子たちの攻撃受けるかこの子たちをダルマにするか」

『無理そうやわ。シャマルとシグナムでやるわ』

「それが良いよ。そういえばフェイトに似た子が来てたけど……それがマテリアル?」

『うん?そことは結構距離があるはずだが……レヴィの速度ならまぁあるのか?』

「なんかページ間違えたって」

『ページ?』

「わかんないんだ」

『さぁ?レヴィだしな……見てみるか』

 

 アインスがモニターを開き、私にも見えるように示してくれた。

 

「エクスカリバァァァァ!」

「てぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

「レヴィ!何処へ行っておった!」

「ごめん王様!ページ間違えちゃって!」

「なんだそれは⁉︎真面目にせぬか!」

「だってー、避けようとしたら勢い余っちゃって!」

「全く……我とは違う世界のレヴィだからな。少しは多めに見てやるが、あまりふざけるでないぞ?」

「おー!王様優しい!」

「やかましい!我はもう700を越えたぞ!」

「えー⁉︎僕まだ500ちょっとなのにー!ユーリは⁉︎」

「えっと、1057です!」

「がーん!よーし、僕も頑張るぞ!」

 

 画面にはガジェットレベルで無数のメガネとそれを殲滅していく幼い三バカに似た容姿の子たち……マテリアルか。それはそれとして。

 

「何あの無限メガネ」

『クアットロ。プライムで相当な幻術を得たようだ。2000を超えてなお増え続けるとは……うん、ソラ、あのビルの向こうを見てみろ。黒い球があるはずだ。あれがクアットロ玉だな』

「新種生物かな?あー、見えた。どうしよう、ほっといていいかな」

『あの様子だとマテリアルは遊んでるし放っておけ。まずガジェットが先だ、まだ10万ほど予想されるからな』

「新型だっけ?」

『らしい。ゆりかご内ならあの双神詩音とやらがなんとかしてくれそうだが』

「あー、それは期待できないよ。どれだけ無茶苦茶な存在でも所詮は私より淡い現象な訳だし、もういないかも」

『いない?』

「うん、ウタネと同じ世界にいるシオンが死んでないと起きてられないんだ。シオンもそろそろ……お、ナイスタイミング?」

「じゃねぇよ。神威!」

 

 良い感じに推測できてたっぽい。

 なんか飛んできたシオンが私のためのおっぱいを3……4人吸収してしまった。

 

「うわっと……なにすんの」

「もうチンクとウーノも入ってる。後はあそこの2人とドゥーエ、セインだな」

「そういえばセインどこいんの」

「しらね。プライム込みだとマジで分からんしな」

「どんな能力?」

神の不在証明(パーフェクトプラン)。息を止めてる間自身の姿や匂い、気配まで消せる。完璧に」

 

 こうやって、とシオンが急に消える。

 80の私でも感知できない……シオンだとこの状態で直死や神威かぁ……

 

「は?」

「触らない限りは探知不能だ。さらにディープダイバーがあるから人目に付かず呼吸するなんて造作もない。流石に何もねぇ平原とかでは難しいかもしれんがこの辺は建物があるからな」

 

 モニター越しのアインスにも見えて無かったようで、かなりのステルス性だと言うことが分かる。

 淡々と説明してるけどシオンが最初からそれ使えばいいのでわーいわい?

 

「直死は?」

「そりゃあ目の前にいれば視えるが探すのは無理だ。お前……は今あんまり無いが、道にも空気にも能力にだって線はあるんだぞ、探すには効率が悪過ぎる」

「私がミッドを平らにしようか?」

「してどうすんだ。地面の下まで探るのは同じだ。とりあえずセインは放っておけ」

「いいの?」

「いくら共有した戦闘能力でもISが戦闘向きじゃない以上そこそこの魔導師が数人固まれば対応できる。アイツ一人残しても何もできねぇよ」

「レリック盗られたらどうするの」

「もう六課には無い。オレのバビロンに仕舞ってある」

「……ギルガメッシュのと繋がってる?それ」

「いいや。あくまでオレだけだな。アインスのは繋がってんじゃねぇか?なんでだ?」

「や……アイツの持ってる和菓子が欲しい」

 

 何故か古代の和菓子が格納されているのを自慢げにはなしてきたからね、あの金ピカ。ホントに何で入ってるか知らないけど欲しいものは欲しい。

 

「却下だ。カルデア戻ってからやれ。にしてもお前、あの4人よく倒せたな」

「そんな強く感じなかったけど」

「あー……なんで?」

「さぁ……?もしかして、使う前に足とか腕とか吹っ飛ばしちゃったから……?」

「……」

「……」

 

 あのシオンが絶句してる。気まずいんだけど。

 

「よし……ガジェット殲滅いくぞ」

「まって!そんな『やりやがったコイツ……』みたいな目で見ないで!」

「さぁて、じゃアインスとはやてはそのままガジェット続けてくれ。オレも攻撃飛ばしながら合流する」

『了解』

「おら、なに不満そうな顔してんだ、さっさと行くぞ」

「不満ー!やり直させてよー!」

「無理だろ。諦めろ」

「納得いかないー!」

「しらね」

「もぉー!」

 

 戦闘機人を回収して満足したのかシオンは私に来いと言うだけ言って先を行ってしまった。

 ……納得いかない。




アインスがやり過ぎると枯渇庭園オーマジオウとかやり始めるのでダメです。


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第101話 聖王

 決して鋭くない切先が、余裕を持って眼前に置かれる。

 

「く……ぅ!」

「諦めて。もう武装を解きなさい」

 

 決してこちらを傷つける事は無いが、退く。退いてしまう。

 古代ベルカの頂点とも言える聖王の攻撃は、その悉くが無力だった。

 どんな打撃も、どんな蹴撃も、どこに撃ってもまるで通用しない。

 

「これが……ただの人間……⁉︎」

 

 既に3分が経過している。

 その間絶え間なく攻撃を続けたはずなのに、何一つ状況が変わっていない。

 

「う……」

「……!そこっ!」

「無駄。自分の怯みが分からないはずが無い」

 

 一瞬顔を歪め怯んだなのはに隙を見出した魔力弾も対処され、より感じる壁を高くする。

 

「私が……!こんな奴なんかに……ッ!」

 

 魔力も、身体能力も、全てが圧倒的なはずだった。

 自分は常に全開だった。相手は装甲も機動力も大幅に抑えている。

 怯んだ隙を逃さず狙った。それを軽く対処された。

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」

 

 追撃の打撃を放とうと構えた右腕が糸が切れたように垂れる。当然、意識した行動では無い。

 焦点もブレる。上ずった意識が離れようとするのをなんとか引き留める。

 

「もう終わり。それ以上続けると、もう戦えなくなるよ」

「っ、黙れ!」

 

 肩で息をしている。相手は汗ひとつかいていない。

 時折見せる奇妙な隙は、死ぬと言って使ったブラスターとやらのダメージだろう。選択を、誤った、かもしれない。

 長時間維持できないなら……初めに言った5分ほどしか持たないのであれば、倒さなくとも勝手に死ぬ。聖王の鎧を直接抜くことはできないのだから、ただこちらから仕掛けなければ……倒せたのか?見たところブラスターと銘打ってはいるものの、体に流す魔力はブラスター2とやらより遥かに少ない。もし、その5分が攻撃を受け続けた場合の時間であるなら……やはり、こちらから仕掛けなければならない。

 

「はぁ……はぁ……」

「なら続けて。殺しはしないから」

 

 息が上がる。ただ歩いて向かってくるだけの存在に焦りが、怯えが止められない。ヴィーナスが全員健在であり、それら全員を相手にするのは不可能だ。迅速に個別撃破しなければ……

 個別であったとしても……できるのか?

 呼吸が不規則に乱れる。筋肉が異常な痙攣を起こし、気を抜くと吐きそうな悪寒が背筋を刺す。

 こんな、なんでもないはずの局員相手に対してさえ、ただの一度も攻撃が掠りもしなかった。なんとしても攻撃し続けられるであろう5分で倒し切らなければ……倒せる……のか?

 ゆりかごの聖王は……その力を持つ私は、本当に、強いのか?

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 考えたくない。ただがむしゃらに殴り込み、魔力弾を撃ち、蹴る。

 その全てに手応えが無い。ただ当たっていないだけではなく、力がほとんど入っていない。もはや空気を殴っているようだ。水を掴もうとしているようだ。全てが徒労とすら感じている。おそらくずっと同じ力で防ぎ受け流しているであろう相手の力が段々と増しているように感じられる。

 

「ぁ……」

 

 あまりの気持ちの悪さに一度退いた。痙攣する横隔膜に押し出された声とも言えない声だけが漏れる。

 手が震えている。力が入らない。拳の形を維持するのすら難しい。

 全身が、精神が、自分を見る冷たい眼に恐怖している。ただの俗物に、低俗な侵入者に。

 何度退いても、同じ歩みで迫ってくる。何度攻撃を仕掛けても、同じように防がれてしまう。ほとんど生身の女に……聖王が……恐怖し震えている……!

 何をしても通じない恐怖と……無力感が……心身の全てを奪っていく……!

 感情の無いその眼が、少しでも殺意を持とうものなら、私は……!

 

「おやすみ」

「……ぁぅ……ぁ……」

 

 ♢♢♢

 

「おおおおおおおお!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ぶつかり続ける2つの拳。

 その威力はこれまでのどれより力強く、その回数はいままでのどれより多く。

 妹という存在が、ライバルと呼べるまでに成長した喜びが。

 姉という存在が、より近くに感じられる幸せが。

 姉妹それぞれに複雑な感情はあれど、2人の時間は最高と呼べる時間となっている。

 

「いいわよスバル!まだいける⁉︎」

「もちろん!」

「よぉし!シオンに暇ができるまでやるわよ!」

「応!」

「……と、させてあげたいのですが!時間切れです!」

「「⁉︎」」

 

 2つの拳がぶつかる直前、その四肢が凍り動きが止められる。

 驚く2人の上には、リインフォースツヴァイ。

 

「ツヴァイ……喋れたんだ?」

「そーですよー。シオンが死ぬまで喋らないよう言われてたです。ギンガのコントロールもシオンに直してもらいますから、スバルもフォワードで合流してください」

「……あ!ティア達どうなって⁉︎」

「ガリューの確保には成功してますが、ルーテシアの挙動がおかしいです。半ば暴走状態で使い魔たちが混乱しています!」

「じゃあすぐ行きます!ギン姉をお願い!」

「はいです!」

 

 ツヴァイが示した先にはキャロとルーテシアの使い魔たち。

 スバルはそれを目指し、ツヴァイとギンガはツヴァイが拘束しながらシオンやアインスの元へ向かう。

 

「……ん?シオンが死んだのにシオンのところへ?」

「はいです。シオンは人形師の能力で予備の身体をずっと隠してたです」

「いつの間にそんな……」

「なんでも10年は放っておいたので少し鈍い、らしいですよ?」

「10年……そんな前からこの状況を⁉︎」

「それはどうでしょう?闇の書用と言ってましたし」

「そ、そうですか……」

「どうかしました?」

「そこまで読めてたならもっと早くとか、カッコ良いなーって」

「そうですね。伝えておきますっ」

「やめてよ⁉︎」

「冗談です。心配しないでください」

「寿命が縮む……」

 

 はー、とため息をついてギンガがが辺りを見回す。

 ガジェットの密度はともかく、他の戦場はおおよそ収束しかけているようだった。

 

「ああ、来たか」

 

 超範囲の魔法をデタラメに投げまくっているアインスが片手間にツヴァイを迎える。

 

「はいです。お願いしますっ!」

「ありがとう、ツヴァイ」

「はいです」

「なんだ、喋れたのか」

「です!シオンに禁止されてたです!色々漏らすからって!」

「それほど信用されてない曹長も中々だな」

「曹長です?」

「ああ、気にするな。ホントはそうだというだけの話だ。お前は一般人と差はない」

「わかりませんっ」

「素直で良い。さて……ギンガ、体はどうだ?」

「えっと……そうですね、多少は自意識で干渉できる、くらいです」

 

 ギンガが軽く体を動かして自由意志を確認する。縛られたままだから面白い動きをしている。

 

「そうか。あまり縛っているのも時間の無駄だ。荒いが許せ」

「はい!」

「万華鏡『別天神』……よし、ツヴァイ、外して良いぞ」

「はいです!」

「あ……すごい、なんともないです」

 

 縛りが外れ、初手のバスターでガジェットの数体を破壊する。

 その動きは好調のそれと同じだった。

 

「じゃあギンガはガジェットに回ってくれ。AMFに対応できない局員が多いからな」

「いえ!私の部隊は大丈夫です!」

「多い、から、な。全部とは言ってないし決めつけてもない」

「あ、すみません!じゃあ部隊と合流します!」

「自分の部隊が大丈夫だと言ったのは誰だ。防御が弱いところに……いや、はやて」

「ん?」

「アレしていいぞ」

「アレ?」

「さっきソラのアレがしたいと言っていただろう、1人確保だ」

「おぉ⁉︎うぇへへへへぇ!ええやんええやん!」

「えっえっ?なんですか⁉︎」

「お前はもう待機だ。はやての肩に胸を押し付けるだけの仕事だぞ。喜べ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ♢♢♢

 

「おほほほほー……まぁ、ね?ほら、誰も殺してないんだから……仲良くしよう?」

 

 カムイ、としか聞かされてない空間でたくさんの戦闘機人と一緒にいる。

 ……なんで?

 

「ウタネさん、我々のことはご存知と思いますが」

 

 他の人が警戒している中、紫の人が私に話しかけてくる。

 

「うん。戦闘機人……ナンバーズ」

「はい。我々はドクターの命で管理局を襲撃しました」

「うん」

「現在のこの状況、自業自得であり、こちらに100%非があることを認めます」

「うん……」

 

 淡々と自身の非を述べる。

 なんだ?そんな殊勝な感じの集団だったりするのか?

 

「ドクターもこの結果には納得していると聞いています。ですが、一つだけ、お願いをさせていただけませんか」

「……さぁ?別に、叶えられるかは知らないけど。言っていいのなら聞くよ。誰かに言わないでってなら喋らないし」

「いいえ。話して貰わなくてはなりません。ルーテシアお嬢様はご存知ですか?」

「召喚師だっけ」

 

 ほとんど知らないけど。

 

「はい。彼女たちが我々に協力しているのは、母親を救うためです」

「だから罪は無いと?」

 

 私は別に罪とかどうでもいいけど……管理局やソラがどう取るかな……

 

「……そうしていただけるなら、それが一番ですが……」

「どーだろね。事件後のことは私達関与できないだろうし」

「……はい。ですので……母親を、助けてあげてほしいのです」

「……?」

「彼女の母親は私たちが殺したようなものです。彼女も、シオンもその復活方法をレリックの11番だと信じ込んでいます」

「違うんスか⁉︎」

「……?戦闘機人でも情報に齟齬があるの?」

「このことは私とドクターしか知りません」

 

 情報共有みたいなので戦闘能力向上を……みたいな話だったのに。戦闘だけってこと?

 

「ふーん。で?」

「彼女の母親は事実上死亡しています。それをどうか蘇らせて欲しいのです」

「……難しい、と言ったら?」

「それはそれで諦めます。ドクターの命でもなく、私個人の頼み事です。ルーテシアお嬢様はある種、私たちの被害者です。被害者が他にいない、とは言いませんが……」

「それはシオンに相談するよ。管理局じゃ治せないんでしょ」

「はい」

「シオンとソラの、ルーテシア?も合わせた合意が得られたらそれをする。3人のうち誰かが拒否したらしない。させない。いい?」

「……はい」

 

 難しいなぁ……結局母親の死亡?原因も聞かずだしなぁ……

 どうあれシオンなら軽く解決するだろうけど……

 

「あのさぁ?え?あなた、え?何?それだけ?」

「はい?それだけですが」

「えっ、何それ。話長引かせて延命しようとかじゃなくて?マジな頼み?」

「はい。殺されても仕方ありません」

「えぇ⁉︎ナニソレ⁉︎他の子も⁉︎」

「いやー、生かしてくれるならそれもアリっスけどね〜」

「ドクターは降伏を選択なされた。私たちが決めることはもう何も無い」

 

 他の子も特に異論無し……まじで?

 

「え……えっと……じゃあなに?私、何したら良いの?」

「一応まだ敵の私に聞かれても……外に出るので、逃走の準備でもしておくのはどうでしょう」

「え……出るの?」

「はい。出なければ何もできませんよね?」

「ん……確かにね?」

 

 ……ん?




シオンがルーテシアの約束忘れてたのはルーテシアが管理局の敵判定だから……っての書いたか覚えてませんが。そんな感じです。


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第102話 十三人

3つに分かれていたはずのルートが、微かな失言の繰り返しにより繋がっていく。これは、ウーノが外に出るなんて言ったせいで繋がってしまった話。


「……」

 

 トン、と。

 オレの心臓が、半分は裂けた。

 

「シオン⁉︎嘘でしょ⁉︎いつ⁉︎」

 

 後ろでソラが叫ぶ。

 オレの予知はともかく、ソラの感知さえ効いてなかったらしい。

 オレの胸から伸びる腕、その先に繋がっている例のボディスーツ。

 そしてその腕に滴る、神威ですり抜けるはずのオレの血。

 

「……」

 

 キング・クリムゾン。

 取り敢えずこの戦闘機人から距離を置く。

 神威があるからこの時間中に治療は出来ないが、ソラより後ろに下がればソラを盾に時間が稼げる。

 戦力は割と上だろうが、ソラなら問題無い。最終的に競り勝つからな。

 

「──……あ?」

「シオン!何してるの!早く動いて!」

 

 動いたはずだ。

 腕を引き抜いたはずだ。

 ソラより後ろに下がったはずだ。

 ……それが、まだ腕が胸にある。

 

「何かしたつもりだろう。だが、もう遅い。私が触れた能力は世界に認識されなくなる」

「……何?」

「お前がどんな能力をどれだけ使おうと、もうそれはお前の中だけのものだ。お前がやった気になっただけ。それが現実に起こる事は何も無い」

 

 レクイエム……でも無さそうだが……

 

「えっ⁉︎えっ?ナンバーズ⁉︎」

 

 ソラが即座に戦闘の姿勢を示す。

 コイツの言う通りなら、オレの能力全てがキャンセルされて……発動自体が無効化されたから神威の中にいたのも放り出されたんだろうな。

 

「外……!シオン!潰して良い⁉︎」

「ダメだ、能力は使うな!」

「……?」

「コイツに触れた能力は全て使えなくなる。姉さんもソラもだ。今は退け。もう目も見えん」

 

 姉さんが全員を即殺す判断をした。正解だが、失敗だ。とりあえず止めておく。姉さんがやれば確実だろうがその後が、困る。重大なのはコイツ『が』ではなくコイツ『に』触れた能力も無効化されることだ。神威を通してオレの能力そのものが無効化されてる……コイツを殺すために能力を使えばそれが使えなくなる……つまり、殺した奴を死後も封じる力……

 出血多量……もう生きてられる時間もそう長くないな……追撃は無いようだが……

 蒼崎橙子の技術で作った予備も無い……今の体も人形で能力だから、治療しても死ぬ、か。人形の方には瞳術も無い……

 

「とっ、取り敢えずエリア囲ってればいいかな⁉︎」

「やめろ。能力に触れさせたら負けだ」

「でもそうしないと!」

「いい。ほっとけ。オレがやる」

「えぇ……無理無理。アインス呼んでくる!」

 

 呆れた姉さんがアインスに向かって行った。

 ソラはなんとかここで膠着状態を維持しようとしてんだな。

 

「うーねぇ。案外簡単だったぞ」

「ありがとう」

「ウーノ。なんだソイツは」

 

 ウーノにのみ関心を示す戦闘機人。

 ウーノもソイツも触れようとしないって感じだな。無差別に発動してるのか……?

 

「妹ですよ。私の……ドクターも知らない、13人目……名前は、まだありませんがね。触れた能力を隠匿するIS。私が真にシオンが脅威にならないとしていた理由がこの子。事実、その通りになりました」

「13なら、トレセ?だったか?まぁ知らんが」

「うーねぇ、それで良い」

「じゃあそれにします。シオン、やっと1人、名付け親になれましたね」

「いらねぇ……」

「さて、ドクターのため、全員で貴方たちを殺します。貴方たちは規格外です。この差をアンフェアーとは言いませんね?」

「……オレはいいが。トーレとセッテはいいのか?」

「……?」

「ドクターは降伏を指示された。どうするかは決めかねる」

「同じく」

「……それはドクターが窮地に立たされ貴女達が追い詰められたからであって。できるならしたほうがいいでしょう」

「分かった。責任はお前が持て」

「もちろん。セッテもいいわね?」

「了解しました」

 

 ……スカリエッティはプレシアが拘束してるが……あとクアットロとディエチ、セイン、チンク以外が揃ってる……しかも損傷は直しちまったからな……最後まで放っとくんだった。

 えげつねぇ。チンクが微動だにしなかったのもえげつねぇ。四象ってマジなんなんだ。

 

「シオン!もっかい死んで双神詩音を!」

「それができりゃとっくに死んでる。もう起きる気がねぇんだ、アレ。なんとなくだが、そんな感じだ」

「じゃあどうすんの!」

「言ってるだろ、オレがするって。もっと離れてろ」

「無理でしょ⁉︎治療能力も使えてないのに!」

 

 ソラがいると抑止対象になりそうだから死ぬならソラなんだよな。てかアレに頼り過ぎだろ。抑止対象じゃねぇのかよ。

 どうでもいいか……だが新顔の戦闘機人は根本から規格外だ。コイツだけは生かしておけんな。

 

「ふぅ……うるせぇよ。オレの能力は説明したろ」

「え……?」

 

 あと数十秒で、死ぬなぁ……オレ。

 

 ♢♢♢

 

「バスター!」

「く……っ!」

 

 砲撃手と固定砲台のコピーは、コピーのワンサイドで勝負が進んでいた。

 

「砲撃に関しては、ですが。私の知るナノハより強いかもしれません。なのに何故、そのナノハのコピーである私に勝てないか、分かりますか?」

「……」

「それしかできないからです。ナノハの砲撃があなたの8割しか威力がないとしても、ナノハは空を飛び、堅牢な防御を持ちます。当たらなければ倒せず、防げなければ倒される。完璧であるというのは、仲間がいてこそですか?」

 

 ヒートスーツに傷一つ付けること無くディエチを翻弄、圧倒しているシュテル。

 イノーメスカノンを支えにビルの屋上に立つディエチ。

 

「もういいですか?」

「何……?」

「私たち以外が終わるまで遊んでいようかとも思っていたのですが、夜天とこの世界のイレギュラーが危険なようです。あなたとメガネを拘束して援護に行くのも選択肢です」

「クアットロを……?」

「ああ、気付いていませんでしたか?あの程度の幻術、エグザミアの前では無力も同然です」

「ならなんでまだ戦ってる⁉︎」

「ですから、遊びですよ。レヴィが何処かへ飛んでいったのも、本体を避けようとして加減を間違えたのでしょう。誰が1番潰せるかで競っているようですね」

「舐めてる……」

「ええ。と言うより、あなた方が、ですが。他のイレギュラーは知りませんが、あの管制人格はまだ何かあると思いますよ。私たちの世界に無い出来事を経験して得た、何かが」

「……」

「まぁいいです。見たところナノハもいないようですし。おっと……殺傷設定を解除して置かなければなりません。対人戦があまり無いのでつい忘れがちですね。王も通常武装でしたし……まぁいいです。見たところもう何の面白みもないようですし。おっと……同じセリフになってしまいますね。では、おやすみなさい」

 

 ♢♢♢

 

「……何故、殺さなかった」

「死にたかったのか?」

「管理局を、主を、市民を護るのが私たちの役目だ。例え悪事を働いた上層部であれ……」

 

 レジアスの死体を前に、シグナムがゼストを睨む。

 

「守りたいものを守る。ただそれだけの、なんと難しいことか……お前はそれで良いのだろう。ゆめゆめその正義を忘れるな。正義に重きを置き過ぎると、こいつや俺の様になる」

「……」

「さて、アギト。お前は行け……俺は、ここまでだ」

「ダンナ……」

「シグナムと言ったか。真に主に忠誠であるなら、シオンを頼む」

「……?コイツや召喚師ではないのか?」

「ルーテシアは生きていれば何とかなるだろう。だが、シオンは……もしかすればヴィーナスの全員は、目的のために手段を選ばない。この世の物理法則さえ塗り替えることを厭わないはずだ」

「……そう、ですね」

 

 今となってはヴィーナスの1人、リインフォース。

 それを救うため、ウタネは自身を軽く差し出し、シオンも軽く世界を書き換えた。

 それが及ぼした影響は大きいのだろう。だが、夜天の守護騎士はそれを良しとした。良しとしてしまった。本来なら自分たちさえ死んでいなければいけない状況で、全員が生き残ってしまった。その負い目は、時間が経てば経つほどに大きくなるばかりだ。

 

「そうしないために、お前たちが何も触れてやらないことだ。シオンは……シオンたちはその内、跡形も無く消えるぞ」

「どう言う事だ。死ぬのか?失踪なのか?」

「俺の推測だ。忘れろ」

「……」

「本人たちも自覚しているだろうが、基本的に人類の敵だ。我々のレベルに合わせているのはあくまで気まぐれに過ぎん。シオンはあの戦闘機人全員を片手間に破壊できる力を隠している。戦闘機人の研究過程を見れば分かる。そう考えるなら、他も同じだろう」

「……だとすると?」

「奴らは神と同じだ。きっかけ1つで世界は終わる」

 

 冗談であってほしいがな、と付け加え、ゼストはレジアスの机にもたれて座る。

 既に限界なのだろう、息が深くなっている。

 

「主がそんなことをするとは思えない」

「だからこそだ。神話を調べたことはあるか?神というのは気まぐれなのが常だ。この、俺やスカリエッティが命を賭けた大勝負でさえ、奴らは暇潰しの遊びにしか思っていないだろう」

「なら、何故ここで終わろうとする」

「俺の目的は果たせた。かつての同胞を正す、唯一だ。俺もお前もアギトも、真っ当な人では無いが……人間は、次の世代に託していくものだ。俺にとってお前とアギトがそれになっただけだ」

「ダンナぁ……」

 

 ふぅ、と息を吐くゼストは満足そうだった。

 

「人は所詮、神の掌に転がる玩具でしかないのかもしれん。その神に、俺たちは巡りあった。ルーテシアとアギトにとっては、お前もまた神だ。罪なら全部、俺に被せてくれ。死人にできるか知らんが、任せる」

「……難しいとは思いますが、事件後の取り調べ次第では、かなり軽くすることは可能でしょう」

「そうか……」

「すみません。言葉を持たず」

「いい……正義を志す者が最後で良かった。それで十分だ。手に入らぬものほど、美しく感じるものだ。アギト、お前やルーテシアと過ごした日々、悪くなかった」

「旦那ぁ!ルールーにも言っとくよ!ダンナとルールーに拾ってもらったこと、スゲェ感謝してる!絶対忘れねぇ!」

「そうか……ふ、お前たちは、後悔するなよ……」

「ダンナァァァァァァァァ!」

 

 ♢♢♢

 

「全面戦争を、しましょうか」

「……」

「シオン!」

「もう遅ぇよ。ソイツは死ぬ」

「いやー、一時はどうなるかと思ったっスけど、流石にこの人数ならねぇ?」

「……いや、私が勝てなくなったのはそこの新顔さんのせいなんだけどね?」

 

 能力が触れる……つまりは私がパーセント上げて対象にするだけで、ってことだよね。まいった……生身でもやれるけど1人が限度だ……

 シオンももう持たないだろうし……

 

「お前も、終わり。私が触れればいい」

『……いいや?終わらないぞ?』

「ッ⁉︎」

 

 13人目が私に近づこうとすると、シオンと同じ声が聞こえ、止まる。

 当然、シオンはもう、死にかけている。そんな元気な話し方はできないはずだ。

 

「……間に合った、か」

『ああ。ギリギリだったな。わり』

「いい」

『……よし、取り敢えず延命はできた。あとは治せるやつだな』

『オレが直そう。オーバーヘブンなら上書きできる』

「ああ……よし、オーケー。治った」

 

 絶句する。私も、戦闘機人も。

 シオンの周囲にシオンが現れ、元のシオンも平然と立ち上がってしまった。

 シオンは増え続け、既に12人に……

 

「さぁ、戦争、しようか。同じ13人。お前らは戦闘機人で、この世からすれば規格外だ。卑怯とは言うまいな?」

『さて、取り敢えずもう数人連れてくる』

「ああ。オレが行こうか?」

『お前もだ。オレの並行世界は基本使い捨てだぞ』

「そっちでも良いけどな」

 

 シオンが2人、瓦礫や他のシオンに挟まって消える。

 あれは……D4C。並行世界からシオンを連れて来た……?いいや、それならシオン自身が行かなきゃいけない。死にかけだった時、どうやって……?

 

『お前らが敵か。どうする?負けるか死ぬか、選べ』

「おら、勝手に進めようとすんな」

『早いな』

「2人いりゃあそりゃな」

 

 2人……?

 

「どうだソラ。これがオレの能力だ。やるのは初めてだが……中々壮観だろ?」

「D4C……だよね?シオン自身が並行世界に行かなかったのに……?」

「ああ、別にオレがさっき行く必要は無かった」

『あらかじめオレのとこに来ておけばタイミングを見てオレが移動できるからな』

「ん……?待って待って、どゆこと?同じ能力はひとつだけじゃないの?」

「あ?並行世界のオレはそれぞれ能力を持ってんだぞ。それを連れて来ただけだ」

『時間遡行、世界再創生、なんでもできる。そんなオレたちを、並行世界からオレが連れて来た』

「全く、健気だよな、オレってよ」

『決して負けない、死なない能力故の無茶だけどな』

「D4Cのオレと会えてて良かったよ。全く。マジで命がけだった……」

『この未来が視えてよかったな』

「全くだ。ふぅ……能力も直った。さぁ、オレが12人。はは、もうタイマンまで増えたぞ。おい」

『ああ』

『まだ増やすぞ。ウタネに手を出すのだけは許せんからな』

「いとも容易く行われるえげつない行為……これで……5対1だ。卑怯とは、言うまいね?」

 

 あっという間に辺りを埋め尽くしたシオン。

 そのそれぞれが……別々の能力を備えて連携する……しかも、鏡じゃないから負荷も無く、未来視同様に使える……

 

「それは……ダメじゃない?大丈夫?」

「『『大丈夫だ』』」

「あぅ……」

 

 圧が凄い。でもね、抑止対象入っちゃったよ?元々入ってるけどね?




ダラダラしたくないから切りたかったのに、2〜4話くらい引きずってる。
許せサスケ……


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第103話 神威

ディケイドやジオウ、D4C、バビロン。
シオンの特典がもう個人能力扱いですけど、世界に認識されたらそうなるのでそうなんです。


「王、お疲れ様でした」

「む、そちらも丁度か」

 

 バインドでギッチギチになったディエチを抱えて紫天に合流したシュテル。

 ディアーチェはクアットロを拘束し終え、レヴィとユーリに労いをかけていた。

 

「いかがでしたか?」

「別になんとも。我は2560体」

「僕は2016!」

「私は3340です」

「で、感想は?」

「サイアクですぅ!」

 

 シュテルの無感情な問いに激昂するクアットロ。

 それすら些事と鼻で笑うディアーチェ。

 

「ま、そんなものよな。さっさと小鴉に引き渡して撤収としようぞ」

「そうですね。もう終わりのようですし」

「えー!僕らも混ざろーよー」

「たわけ、ヤツらを見てみろ。ユーリの暴走時以上だ。我らが行っても死ぬだけぞ」

「むー」

「えぇ、あの白髪……実に。胸が躍ります」

「シュテル、終わりぞ。そもそも別世界の事件。与えられた役割以上に関わるべきでもない」

「そうか?多少なら、この世界は許容するぞ?」

 

 参戦しようとする2人を宥めるディアーチェにアインスとはやてが合流する。

 

「融合機、ガジェットは良いのか?」

「ああ、ウタネが代わりをしてくれてる」

「ならば良い。さっさと我らを戻せ」

「えー⁉︎もう⁉︎」

「それより、その後ろの方は……」

「あ、はい!ギンガ・ナカジマです!決してこれは趣味ではございませんので!」

 

 シュテルの指差した先、はやてにおんぶする形で縛り付けられているギンガ。

 しがみつく赤子のようだが手足首のバインドがそれを否定する。

 

「……ユーリ、あまり見ないように。レヴィもです」

「えっ、はい」

「ちょっ⁉︎八神部隊長!やっぱりやめましょうよ!」

「アカン」

「もー!」

「小鴉……貴様、融合機にばかり負荷をかけて遊ぶでない」

「え?」

「王……気付いていたのか」

「え?なになに?クロハネ、何かあるの⁉︎」

「こやつは我らがいる限り全力を出せぬのよ」

「そうなのですか?」

「ああ……私の能力は2つまで。ディエンドの召喚で1つ埋まってしまっているからな」

 

 本来なら、使える能力は2つまで。

 どれほど強力な能力を使おうと、この原則は変えられない……いや、変わってはいない。

 だが下に見えるシオンは、自分を増やす事でそれを無理矢理捻じ曲げた。

 当然、それぞれが使う能力は1つか2つだろうが……

 

「なぁ、アレやったらアインスもできへんの?」

「クロハネがいっぱい……?」

「世界の終わりだな」

「いや、できないな」

 

 アインスは自身の能力を想定し、即座に否定を返した。

 

「なんでや?同じ……」

「同じではない。もちろん、能力としては同じだ。だが、その能力の先、対象とする並行世界が異なっている。私がアレをしても、この能力を持たない夜天の書ないし闇の書を持つ私が来るだけだ。この時代に存在するかもしれない私は、いや……魔導師は、そう変わらないからな」

「「「……?」」」

「いや、私の並行世界では、私は死んでいたり、消滅しかけていたりと、存在自体が怪しい。この私が、あらゆる並行世界でも1番強く安定しているだろう。蒐集する魔法も、シオンがいない世界ではそう変わったものは無いからな」

「……まぁ、お主らの事情なのであろう。我は聞かん。それより、さっさと戻せ。もう出番は無いのであろう?」

「いいのか?もう少し居ても……」

「たわけ、我らはそもこの世界を去った。必要以上には居られまい」

「……他の子も、それでええんか?」

「私は王に従います。ナノハとも会いたいですが……それもまた、あるべき世界で」

「僕もそれでいいかな。じゅーぶん楽しかった!」

「お世話になりました。機会があれば、また呼んでください。リインフォース、はやてさん」

「……そうか。ではさらばだ。マテリアル、ユーリ」

「さよならか……また会おうな」

 

 ♢♢♢

 

「おらぁ!」

『直死──』

『終焉の時!』

『金剛風雷破神撃』

『真実はこの能力にある!』

『超尾獣玉螺旋手裏剣!』

『ティロ・フィナーレ!』

『飛天御剣流!九頭龍閃!』

『絶影!』

 

 戦争というにはそれはあまりにも一方的過ぎた。

 それは、ただの蹂躙だった。

 宝具が、スタンドが、ベルトが、妖力が、あらゆる世界の能力をシオンが使いこなしている。まるで生まれ持った力の様に。

 決して殺そうとはしないが、反撃の術を一切無くそうと徹底的に。

 

「私が触れればいい!殺してみろ!お前たちも終わりだ!」

『そうか?なら、【死ね】』

「ぶがっ……⁉︎」

「えっ……⁉︎」

 

 ソラが激しく動揺する。

 それもそのはず、十三人目の戦闘機人を攻撃したシオンが使っていたのは失われた統一言語。ソラにとっては過去、シオンにとっての未来においてシオンの偽固有結界で双神詩音を追い詰めた能力をシオンが使っていたからだ。

 死ね、という絶対命令を受けた十三人目は激しく痙攣し、血を撒き散らし地面に倒れ伏した。その後も統一言語は使用可能なようで、神代との格差が見て取れる。

 それを皮切りに次々と動作不能になったナンバーズが並べられていく。

 両足切断、両手足切断、逆キャタピラ、亀甲縛り……様々に並べられた後、いずれかのシオンによって修復がなされ、また別のシオンによって拘束された。

 

「さぁ、もう終わりか?えー……ウーノ、ドゥーエ、トーレ、セッテ、オットー、ノーヴェ、ウェンディ、ディード。アインスのとこにクアットロとディエチ。ゆりかごに封印されたチンク。あとはセインか。出てこいよ、今なら拘束だけで済むぞ」

 

 この世界の……ベリアルアイのシオンが辺りを見回す。

 しかし反応は無く、他のシオンが何かをする。

 

『いないぞ。コイツらと同じのは……おい、誰かビーチボーイ持ってねぇ?』

『ああ、オレだ』

『あっちの地中……感知できるか?』

『……今一瞬出た。左に動いてるやつか?』

『それだ』

『よし……ん、釣れた。殺っていいのか?』

「ダメみたいだ。そのまま連れてこい」

 

 何らかの能力で戦闘機人と同じ反応を感知、ビーチボーイがおそらく呼吸したタイミングでそれを見つけ、釣る。

 

『了解』

「さぁ……よかったな。もう終わりだぞ」

「ヤバすぎぶっ壊れじゃん」

 

 完全に存在を探知されなくなるセインをものの数秒で探し出し、確保した能力にソラが絶句する。

 使った能力は2つ、つまりこの世界のシオン単体でも同じことが可能だったという点も、完全に戦闘機人を自分だけでコントロールするつもりだったことが伺える。

 

「黙れ。ならこの状況でお前はオレに負けるのか?」

「ううん?勝てるよ♪」

「だったら文句言うな」

「はーい」

 

 世界全体の力を得るという性質上、シオンがどれだけ力を増してもソラは必ずそれを上回り、ガイアでありアラヤでもある特異な抑止力であるからして八卦以下の現実改変等を受け付けない。よって互いが全力の場合、ソラはシオンにはまず負けることがない。

 

『おーし釣れた』

「いいいってぇぇぇぇぇ!うぉ⁉︎シオンいっぱいいる⁉︎他もやべぇ⁉︎」

「見てわかる通り終わりなんだが、お前何してた?」

「あ?いや、普通に諜報とかロストロギアの奪取とか。戦闘はしてない」

 

 左腕から胸にかけてスタンドの糸が命を握っていることを知ってか知らずか飄々とした態度が崩れることはなく、オッケー降参、と早々に捕まった。

 

「……よし。終わりだ。D4C以外のオレは帰っていいぞ。ご苦労……でもねぇか」

『ふん、ウタネが無事なら良い』

『オレんとこ課題あんだけどやってくんね?』

「断る。自分でやれ」

『あ"ー!ダリィ!手ぇ貸してやったろ!』

『じゃーな』

『この世界にもソラいんのな』

「うん?」

『昔はいた気がするんだよ、こっちの世界にも』

「んー、そっちにも、じゃなくてこの私かな。カルデア前かも?けど記憶無いの。ごめんね?」

『その方がいい。オレも覚えてねぇ』

「うん……ごめん」

 

 それぞれが互いに……シオンが一列に並び、中央に縮む形で押し合っていくとシオンとシオンにシオンが挟まってシオンのD4Cがシオンをそれぞれの元の世界へ戻していく。最後の2人、この世界のシオンとD4Cのシオンが残る。

 

『さて……どうする?』

「この世界と同じ規模でガジェットがいる世界はあるか?」

『……無いだろ。あるにしても探すのがダリィ』

「だよな、オーバーヘブンのやつに残って貰えば良かったな」

『お前がやれよ』

「負荷が重いだろ」

D4C(コレ)は?』

「制限あるしそこまで重くない。第二魔法の型落ちみたいなもんだしな」

『なんかムカつくな。まぁいいが。さっさと片付けた方がいいんじゃねぇか』

「姉さんに行ってもらってる。じき終わる」

『この世界ではえげつねぇ能力持ってんなぁ』

「びっくりだよな」

『じゃ、とりあえず半分突っ込んどくな』

 

 D4Cのシオンがナンバーズにそれぞれ人間大のガラスの箱のようなものを触れさせると、右半分が箱に消える。

 

『ガラス挟めば消滅はしないからな。まぁ、引っ張られたりはするだろうがガラス強度は安心しろ。それぞれの世界にオレがいるから説明はしてくれるだろ。あっはっは』

「ねぇ……いやな想像してんだけどさ」

 

 今度こそ全ての戦闘機人を完璧に捕縛し、ガジェットの心配も無くなり余裕綽々なシオン2人にソラがしなびた声をかける。

 

「あ?」

「もしかしてさっきの、D4C分の負荷しかないとか言わない?」

「当たり前だろ。それしか使ってねぇんだから」

「うそぉ⁉︎オーバーヘブンやら聖光気!あれ全部⁉︎」

「ねぇよ。あいつら……オレだけど、あいつらが勝手に使ってんだから」

「ナニソレ……じゃあ、最悪……別の世界の能力者と差し替えれるってこと……?」

「ああ。なんならこの世界の物体全てをオレにする事もできるな」

「物体……?」

「オレが生まれた理由、分かるだろ?」

「双神詩音が……」

「それは発生原因。言ってるのはウタネがシオンを作った理由」

「えと、現実逃避?」

『人に言われるとなんか情け無いな』

「自分で言ってもそうだろ。ま、正解」

「それと何の関係が?」

「あの時ウタネが必要としたのは『自分である他者』だ。自分じゃない自分がいれば、ウタネは精神を保てた」

「まぁ、多重人格のありきたりなアレだよね」

「まぁな。厳密に言うと違ったりするが。で、その他者はウタネ以上でもいいしウタネ未満でもよかった。自分のジレンマを押し付けられればいいんだからな」

「うん」

「そして、その対象は物でも良い。人形に話す子供とかいるだろ、アレは親の次にほぼ100%信頼する存在として接し、安心感や自己整理の効果があるらしい。別人格としてのシオンとほぼ同じだろ?」

「んえ……ちょっとよくわかんない」

「要はウタネの負担を肩代わりする誰かがいれば良かったんだ。ウタネでありながらウタネでなく、ウタネの心理的または肉体的負担を軽減する存在。それがシオン。だから、今のオレと同じヒト型を持つシオンがいるのは当然、物がシオンとしていたかもしれない並行世界もまた当然存在する。そしてウタネと違う体を持つシオンもまた存在する」

「つまり……ウタネ以外はシオンになってる可能性がある?」

「まぁな。全てがオレであること。オレが世界だ」

「まぁ、うん」

「世界そのものであるからしてオレは常に中立だ。姉さんに絡まねえコイツらのアレコレははやてに任せるさ」

『自分語りは結構だがな。言っとくが、オレらを連れてくるのは中立の立場では無いぞ』

「姉さんが関係するなら例外だ。お前もそうだろ」

『まぁな。なんならその為だけに来たしな』

「あえ?じゃあさ、そっちのウタネはどうなってんの?」

『ん、別に?いつも通り引きこもってるが。起こすか?』

「は?」

「言っとくが、他は基本的に前の世界だぞ。あの能力持ちの姉さんが特異なんだよ。だから、双神詩音やロリコンが関係してるのもこの世界のオレと姉さんだけ」

「ああ、だからさっき否定したのね」

「まぁ、たまに他の世界に存在してたりするが……ん、よし、全部終わったな」

「ん──ゆりかごが……」

「そういや駆動路……四象のせいで触ってないな」

「えぇ⁉︎」

「でも減速したって事はアレだろ、ヴィヴィオが死んだんだろ」

「死んだの……?死ぬの⁉︎」

「姉さんのをなのはが使ってんだぞ?実力差があり過ぎるのにそんなことしたら死ぬだろ」

「マジで⁉︎ちょっと!私をなのはのとこに跳ばして!」

「してどうするよ。完全無敵の筈の王が、多少名がある程度の人間に触れもしない……その精神的苦痛をヴィヴィオが無視できるなら、また話は違うけどな」

「でも5分もなのはだってAMF下で魔力が持つ訳……!」

「なんの為のカートリッジだよ。スターライトブレイカー分の魔力だ、1発分で1分は待つ。そしてなのはにはマガジン3つは渡してる……」

「じゃあ、なのは自体は魔力を使わずってこと?」

「不発させて撒き散らした魔力を瞬時に収束して魔力放出に近いことをする。いくら訓練しても『普通に動ける』奴がそれをするのはかなり難儀だ。できるなら使うなとは言っといたが、まぁ使うだろうな」

「え、何その言い方、使ったらなんかあるの?」

「アルトリアの魔力放出は知ってるだろ。それを生身でやるんだ、負担なんてもんじゃない」

「バリアジャケットは……」

「フェイトのソニックくらい薄くしなきゃ使えない。撒いた魔力を収束して放出すんだぞ。なのはの防御だと意味無くなるだろ」

「なんでわざわざ撒いてからするの?防御高いならその分威力も上げればいいんじゃん?」

「威力上げたら消費魔力が増えるしダメージも上がるだろ。そんで撒かないと連続で使えないんだよ。1動作ごとにカートリッジロードとかバカかよ」

「んまぁ……そう考えると……そう……なのかな……?」

「駆動路……どうする?抑止力的に。壊す?」

「他にあるの?」

「回収する。バビロンとかに」

「ダメ。壊して」

「じゃ。1、2、3。選べ」

「4」

「お前絶対普通の社会で生きてけねぇよ。4……ま、ちゃんとやるか」

「ちゃんと?」

「空想具現化」

「……マジ?」

「全力で壊さなきゃな。大丈夫、ホントに核だけだ」

「えぇ……」

「ふぅ……!」

 

 シオンの目が金に変わる。

 胸の前に赤い水晶体のような映像とも幻とも取れるものが出現する。ゆりかご内部にある駆動路そのものが、シオンの自由意志を受けるだけの存在として現れている。

 

「直死……」

 

 シオンがソレに刀を振る。

 手元のソレは霧散し、それは現実に影響する。

 

「おぅ……ホントにできるんだ……」

「おおよそ不可能は無いしな」

「……でもさ、人工物にも使えたっけ、それ」

「そうなのか?オリジナルは知らないが、オレのは使えるぞ」

「ふーん……へぇ。まぁ、いいや」

『じゃ、オレは帰るぞ』

「ああ」

 

 D4Cのシオンは戦闘でできた瓦礫に身を挟み消えていった。

 

「シオン、ソラちゃん!」

「戦闘機人2機を確保しました。いかがいたしましょう?」

「知らん。もうお前らの好きにしろ。オレの管轄外だ。プレシア、聞こえるか」

『なにかしら』

「ゆりかご、蒸発させられるか?」

『制御しないの?バカが使ってたとはいえ、相当なものよ?』

「ソラが壊せとよ」

『まぁ、このくらいならいいわ。ただ、電撃がもし地上に落ちると全体的に感電するかもしれないわね』

「じゃあやっぱオレの神威に入れとく。お前はなのは探して救出しといてくれ。死んでたら好きにしろ」

『いつかの白い子ね。いいわ。それだけかしら』

『待って!なのはどうなってるの⁉︎』

「知らん。もしかしたら、って話だ」

『ちょっ⁉︎母さん!早く行こう!』

『フェイト、落ち着いてください。あなたも相当なダメージなのですから』

「まぁ、できるだけ生きてる奴は逃がしてやれ。ガジェットも外に出てたのは姉さんがほとんど潰したしな」

『中のは私が焼いたわよ。出たらまた連絡するわ』

「ああ」

「結局はそうなるの?」

「一応古代技術の叡智だ、あってもいいだろ。オレが神威の能力を切れば誰にも出せん」

「並行世界の神威のシオンは」

「出せん。鏡で分断されてる。この世界の神威はこの世界じゃないと繋がらない」

「じゃあここに来たらどうするのよ」

「来れん。D4Cと協力すればいいがそこまでするメリットは無い」

「……なんか、私言いくるめられてばっかじゃない?」

「お前が理論的に弱いからだ」

「むぅ……」

 

 やーめた、と抗議をやめ、大の字に寝転ぶソラ。

 

「後始末のとき起こしてよ。力仕事なら動くから」

「あー。じゃあ、はやてとアインスはナンバーズ頼む。オレはプレシア達が出たらゆりかごを処理する」

「わかりました。私の神威で本部まで送っても?」

「まぁ、それが一番安全か。はやてがいいならいいぞ」

「私は全然ええけど」

「ではそれで」

「おう」

 

 アインスがナンバーズをそれぞれ眼に収納し、はやてと本部へ戻る。

 ソラをそのまま放置してシオンはゆりかごへ向かった。




シオンの自分語りとかを設定としてカットすればスッキリして読みやすくなるんだと思います。できませんでしたが。


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第104話 終戦

「最終手段、ブラスター4。大気に撒いた魔力を局部的に収束、その一点に体を引き寄せることで高速化を強制する近接格闘スタイル。姉さんと同じとは言ったが、姉さんのは押し出す放出、なのはは引き寄せる吸引だ。四肢の骨にヒビ入るくらいは前提だが……どうなったか」

 

 ♢♢♢

 

「終わりだよ……ヴィヴィオ」

 

 既に4分を大きく回り、ヴィヴィオ……聖王は思考と神経が強烈な誤作動を起こしていた。

 四肢は激しく震え、構えるどころかもはやまともに立つことすら出来ず膝をつき、それでもなお体勢の維持に手こずっている。

 精神はすでに摩耗しきり、目の前にいる魔王からどうやって逃げようか、などということすら考えに無く、ただただ次なる恐怖に震えていた。

 

「私には、もう殆ど体力が残ってない。ヴィヴィオもだよね」

「ひ……ぃ」

 

 なのはも移動に使った脚、防御に使った腕を大きく破損し、僅かではあるが血が流れている。複雑骨折に至っていないのがせめてもの救いだった。

 ヴィヴィオの精神的なダメージと比べて肉体的ダメージに比重が寄ったなのは。その重い体を引きずるように一歩ずつヴィヴィオに近づく。

 

「……っ!」

「怖くないよ。もう終わりだから。いっ……一緒に、ここを出よう」

「こっ……こないで……」

「大丈夫。出るまでだから。私はもう、多分だけど……もたないよ。出口まで、肩貸すよ。それくらいなら、まだ多分」

「……大丈夫な、はずない……!死にそうなのはどっち……⁉︎私より、ずっと……!」

「お母さんだもん。繋がりがなくても、偽物でもね、そうしてあげたいのは本当なんだよ。ヴィヴィオに楽しい未来をあげたい。嫌な思いをして戦わなくて良いように、みんなに守って貰えるように。だから、手を」

「……っ、うん……」

 

 一度伸ばした手を反射的に引くが、それでも手を伸ばす。

 なのはがそれを笑顔で握り、引き起こす。

 

「っ……!」

「大丈夫。今は歩かなくていいから」

「でも……あなただって、もう……」

「マガジンは、カートリッジ6発分。戦闘に使うのは、5発だけ」

「まさか……」

「最後に、ヴィヴィオを助けてあげられるように。最期に、母親の真似事ができるように。私は結局、ワガママで、シオンに助けてもらってからも変われなくて。だけど楽しかったし、結果もそれなりに残せたと思う」

「ちがう……あなたは、私のママじゃない……!」

「うん」

「だから……私のためになんか、死ななくていい!なんで……!」

「そうしたいんだよ。ヴィヴィオになら。ただ出会っただけ。子守もまともにしてあげられなかったけど、何か、惹かれるんだ。もしかしたら、もっと深い絆があったんじゃないかって」

「……!」

 

 あり得ないはずの、けれどあり得た世界。

 それを羨んで、望んで、結局はその未来をなのはは捨てた。

 ヴィヴィオと楽しく、親子として暮らすのは自分じゃなくてもいい。他の誰かが同じように、ヴィヴィオの親として、管理局員として、楽しく暮らす。

 そのために自分は不要だと。中途半端な立ち位置にいるくらいなら、いない方が気楽だろうと。なのははここで死ぬことを選んだ。

 

「や……めろ……!やめろ!そんな……わたっ……私のた、ために!私に殺される訳でもないのに!」

「関係無いよ。私がしたいこと、やってるだけだから。やるべきことはみんなが……」

「しないよ!」

 

 ロードしようとしたなのはの腕をソニックで止めに駆けつけたフェイト。

 

「っ……フェイトちゃん」

「そんなことで死のうとする人に!ついて来る人なんていないよ!」

「バカな……駆動路が破壊されたなら、魔力結合は全てシャットアウトされるはず……」

『そんなもの、私にとっては何の意味も無いわ。魔力を私が供給し続ける限り結合しなくても無理矢理魔法が使える量まで持っていける。その間フェイトも止まらない』

「ヴィーナスか……!」

「いいよ、フェイトちゃん。ついて来なくても……やるべき事は変わらない。結果も変わらない。何も、変わらないんだよ」

「なら、ヴィヴィオはどうなの」

「……?」

「なのはが……エースオブエースが誰でもよくても、その隣にいる人はその人であって欲しいんだ。私はエースオブエースの誰かじゃなく、なのはに生きてて欲しい。はやてと、ウタネと、みんなに笑ってて欲しい……なのはがヴィヴィオを救いたい様に、私もなのはに生きてて欲しい」

「フェイトちゃん……」

『フェイト。もういいでしょう。そろそろ出るわよ』

「待って!なのはもヴィヴィオも……!」

 

 通信モニターの向こうで冷たい目をヴィヴィオに向けるプレシア。

 

「死にたいなら死なせてあげるけど……シオンがね。生きてるやつは生かして帰せと言うからにはね。フェイト、そのまま2人、離さないでね」

「……!うん!」

『白い子、なのはだったかしら。あなたを死なせると私も殺されるの。シオン達を怒らせることはしない方がいいわよ』

「プレシアさん……」

 

 ♢♢♢

 

「神威……」

 

 プレシアから脱出報告を受けてゆりかごを収納した。 

 

「終わりだな。スカリエッティ」

「……そのようだね。あと3歩は足りなかったか」

「ウーノの妹がもう少しいれば分からなかったかもな」

「そうかい?なら再トライさせて貰うよ」

「やめとけ。次はプレシアとソラがキレる」

「せっかく量産したガジェットも無くなってしまったしね」

「管理局とアインスが頑張って半分くらいやったあと姉さんが片手間で殲滅したからな」

「やはり……プレシアじ……プレシアの言う通り、君たちに挑もうとした事自体が敗北だったのかね」

「……そうだな」

 

 コイツらの敗因はプレシアがいた事でもオレ達がいたことでもなく、フェイトがプレシアに殺すなと言った事だ。そうでなければオレ達は殺すか洗脳するかで処理していた。勝負という概念すら無い、ただの管理をしただろう。今のオレ達に挑むことは……ごく僅かな例外を除けば勝利を手放すと言うことに直結する。

 管理局にいたのも今後の姉さんの生活にはそれがいいと思ったからだ。

 ソラに任せるよりマシだしな。

 

「ではプレシア。私は戻りますよ」

「何を言ってるのかしら?」

「?私は既に死んでいます。一時的に喚ばれただけでは?」

「この世界には死人がいてはいけないのかしら?シオン」

「今そこで生きている。リニスだったか。お前もプレシアやオレ達と同様だ。居たければ居ればいい」

「リニス〜!私もいるんだからさ!」

「アリシア……」

「いなさい。私達は個人利益のみを考慮する。倫理観は考えないで」

「……プレシア、あなたが初めからそうであれば私は使い魔になどなりませんでしたよ。全く……プレシア、アリシア、フェイト、アルフ。改めてよろしくお願いします」

 

 個人(ロリコン)専用抑止力、プレシア。制御不能穢土転生、アリシア。性能そのまま、リニス。

 テスタロッサ家も相当な戦力を持って復活した。

 穢土転生、少しは制御できるようにしても良かったか。プレシアの制御に繋がるが……まぁいい。解で穢土転生は解除できる。

 

「シオン……知ってたの?」

 

 フェイトに抱えられたなのはが今更過ぎる質問をする。

 

「そりゃあな。アリシアを穢土転生したのはオレだし、プレシアを間接的に復活させたのもオレだ。お前ら管理局がいなけりゃオレ達だけでやってたんだぞ」

「それを言ってくれれば私たちだって色々と……」

「プレシアは出てくる気も無かったし出す気も無かった。開始時点ではいないものと考えてたんだよ」

「……?」

「私が生きてると知れば、フェイトが怯えるかもしれない。管理局が私にも注意を割くかもしれない。私を良く思わない人は大勢いるわ。いつかの黒い子もね。だから私は虚数空間で研究だけをしてた」

「どうやって……ウタネちゃんはあの時、死んだって……」

「能力で部屋を作って貰ってたのよ。仕事じゃなく、趣味でね。幸い私もアリシアも死なないし、随分と長く引き篭もれたわ」

「そういえば、姉さん……」

「ふっふーん、穢土転生!母様の死にかけの肉体を生贄に私を蘇生したキンジュツだよ!」

「再生能力に関してはコレが一番手軽だったしな。プレシアを試す意味でも。アレを拒否るようならオレ達には並ばない」

「じゃあ、プレシアさんもヴィーナスに?」

「ええ。VNAだけど」

「あ……もう、終わったんだね」

 

 なのはの視線を追うと、ウタネとはやて、アインスがギンガを連れて来ていた。

 

「フタガミ……シオォォォォォォォォォン!」

「っと……なんだよ」

「よくも私を!意識があるまま操ってくれたわね!」

「っ……と」

「くっ……」

 

 愚直過ぎる左ストレートを正面から掴んで止める。

 

「ちゃんとブレイカー受けた後だったろうが。拳1発で内部ハッキングするのは限度がある。そうだな、スバルを殺せ、とでも入れておけば良かったか?」

「絶対許さない!」

「はぁ……」

《KAMEN RIDE──DECADE》

 

 懐からカードを取り出し、ベルトへ投げ入れる。

 そしてバックルのハンドルを押し込み、激情態のアーマーが装着される。

 

《KAMEN RIDE──EX-AID》

《FORM RIDE──MUTEKI-GAMER》

《ATTACK RIDE──INVISIBLE》

《ATTACK RIDE──CLOCK UP》

 

 無敵化、透明化、高速移動。

 もう既にアインスくらいしか見えてないだろうが……

 ついでに、というかそうでもしないと止まらんだろうから手首足首を切断しておく。

 

「あ“あ“あ"あ“あ"あ“あ“あ"あ“あ"あ“あ“あ"あ“あ"あ“あ“あ"あ“あ"!!!」

「今オレとやる意味無いだろ。それにオレに勝つのは無理だ。うるせぇ」

「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい"ぃぃぃぃぃぃ!」

「……アインス、治してやれ」

「やれやれ……」

「絶対許さないんだからぁ!」

「仮面ライド……」

「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ったく……」

 

 ゲンヤが見たらドン引きしそうなほど叫ぶギンガに呆れ、ふぅ、と息を吐く。

 ゆりかごはオレが神威を開かない限り誰も手が出せず、ガジェットは姉さんが全てすり潰した。人的被害は聞く限り無し。終わりだ。

 

「さて。じゃあギンガ」

「はい?」

「1つ仕事をやろう」

「はい!」

「オレの護送を頼む」

「はい!……え?」

 

 バカが……あれだけ別のオレを喚んどいて、D4C分だけで済むワケねぇだろ。バカか?バカだろ?

 能力をこの世界に持ってくるときに負荷の判定があんだから、連れてくるときに能力もこの世界に持ってくることになるだろうが。使ってない分、マシだが……

 

「シオン⁉︎シオンー!」

 

 ♢♢♢

 

「わ……私は……!いつまでここに……!体が動かん。どれだけ力を込めてもピクリともしない!フタガミウタネ……!恐ろしい能力だ……!外は……どうなっている⁉︎誰か通信……通じない。妹たちは大丈夫なのか⁉︎ドクター、誰か……!誰か……!」

 

 




多分流れ的に整合性取れて……ると思います。自信無いです。


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第105話 やることは一つ

 長いようで、とても短かった1年間。

 数年前からのシオンの疑惑も、事件が終わればすっかり解消されて。

 戦闘機人とスカリエッティ、召喚師はそれぞれ管理局の検査や審問等が行われて、1人を除いて更生施設へと移されることに。シオンが所有権を主張してたけど、罪状一覧をクロノに突き付けられて殺意マシマシで引き下がることに。

 レリックの収集も問題無く。召喚師の母親も、ちゃんと更生することを条件にシオンが治療。八神家、テスタロッサ家もそれぞれ人数を増やしてより賑やかになり、高町家と合わせて家族軍隊が三つに。

 機動六課もその役目と任期を終え、解散の季節。

 

「思ったほか滅茶苦茶な一年やったけど、私らが前線でいられたのはバックの皆さんのお陰です。前線の皆さんも、危険な任務お疲れ様でした。どうか次の所属でも、楽しく頑張って下さい」

 

 私もやっと、ダルく苦しい管理局から離れる事ができます。これからまた、一般人として、以前からできなかった、そして私としても初めての、発作の無い成人としての一人暮らし。

 社会的にはまだまだ認められない精神的マイノリティや、ロリコンからの不労所得。引き篭もりなのは変わらないけど、いつ死ぬか分からない恐怖とは無縁の生活を送れると思う。

 

「んで、帰れると思うなよ」

「……なぁにヴィータ。私、もう本格的にここにいちゃいけないでしょ」

「そんなもん、今更六課の誰が気にすんだよ。それより来いほら!」

「えっなっ……引っ張らないで、髪もげる」

 

 ヴィータに引っ張られて何処かへ。

 生まれつきおでこ広いんだから、これ以上ハゲたらどうしてくれるんだ。

 

「やっと来た!ウタネ、あなたトップのくせに遅刻とかありえないから!」

「……じゃあソラは除名でいいよ、カルデア帰ってもらって」

「違う!暴君か!」

「暴君だ。皇帝特権だぞ」

「……ヨシ!」

「なにが?」

「だーうるせぇ!ほら、揃ったんだから二次会!」

「あー、そーゆーこと」

 

 それでわざわざ私を……

 

「ウタネちゃん、桜も数年見てへんやろ?せっかくやから用意したんよ。なかなか綺麗やろ?」

「うん……だろうね。私、花を愛でるとか理解できないタイプ」

「……ウタネちゃん、心動かなすぎやで。服とかメイクとか、なんもせんやろ」

「服は多少の数はあるし、メイクだって軽くはするよ。2分くらい」

「2分て!」

「ファンデ乗せるくらい」

「……それはメイクか?一応メイクか」

「めんどーだし。お金と時間かかるじゃん」

「それを楽しむのが女の子ってもんやろ」

「だってさ、シオン」

「オレはしねぇよ!」

 

 メイク、服、花。

 普通はそれらを楽しむもんなんだろうけど、私からすれば人の命くらいどうでもいいこと。興味の対象すら知らない私が綺麗と思うなら……よく研いだ刃物くらい?まぁ、何にもできないで人生終える人も多少はいるでしょ。

 

「んで、何?飲むの?」

「お、飲むか?」

「今日はワインとかどう?」

「おーいいな。赤でいいよな」

「うん」

「安物だけど味の差なんてわかんねぇしな」

「えぇ……どうせなら高いの飲みや。お金持っとんやろ?」

「所得からすれば金銭感覚おかしいのはオレなんだろうけどな、一本2000もするワインは十分高価なんだよ!500でいい」

「かんぱーい」

 

 いつもの万能ポケット、黄金のバビロンから出てきた市販数百円のペットボトルの赤ワイン。

 2本を開封、ガツンと乾杯して洗い物を無くすためそのままラッパ飲み。

 

「おつまみは?あらへんの?」

「なんで?」

「いや、そっちだけ貰おか思て」

「無い。酒だけの方が飲めるだろ」

「アル中やんけ」

「ちげーよ、仕事中は弱いので済ませてたろ」

「仕事中に飲むんがアカンのや!」

「あんなダルい仕事飲まずにやれるか!非正規だぞ!」

「それは自分が正規いやや言うからやん」

「嫌に決まってんだろ」

「じゃなくて!はよやろーや!」

「やってんだろ、二次会」

「ウタネちゃんも飲んでないでなんか言ったってよ」

「……私、何するかすら聞いてないんだけども……?」

「折角リミッター外れたんやで?やることは一つやろ」

「……飲み会?」

「ボケか?……アインス」

「また月読か?しなくてもこれで分かるだろう」

「……はー?」

 

 アインスが夜天の書を、シグナムとヴィータ、なのはもそれぞれデバイスを。

 

「分かりたくないね?フォワードもぽかーんしてるよ?」

「ウタネちゃん!機動六課、最後の思い出作り!最後の模擬戦!」

「えっ、え?そういう話だったんですか?スバル達も聞いてない感じですけど!」

「そーゆーサプライズだよ。ほら、さっさと準備しろ。オレとマジでやれんのも最後だぞ?」

 

 シオンがワインをギンガに投げ、それをギンガが一口。

 それをソラがエゲツない目力で凝視する。

 

「あー!そのワイン私にもちょーだい⁉︎」

「シオン。それなら容赦しませんから。今までの恨み、ここで晴らします!」

「やれるもんならな」

「チームは機動六課とヴィーナス!史上最悪の悪魔たちにトドメを刺そう!」

「……悪魔はテメェだ」

「何かな?」

「なんでもねぇ」

 

「「「セット・アップ!」」」

「「ユニゾン!ツヴァイ!」アギト!」

「私もこっちだぁ!シオン覚悟ぉ!」

 

 それぞれが戦闘態勢。はやてがツヴァイ、シグナムがアギト。

 3バカ、守護騎士、ギンガ、フォワード。ついでにアリシア。しめて13人と2人。

 

「はぁ……仕方ない。私のはマジだからね」

「さぁ、珍しくやる気出すか」

「ワインんんんんんんん!」

「……5倍の人数差でさえハンデにならないのは、なんというか、すまない」

「穢土転生のアリシアがいるのよ?それでフェアよ」

 

 こちらは私とシオン、ソラ、アインス、プレシア。

 穢土転生とは言えど死なないだけ。それを殺せるシオンとアインスに行動を封じることができる私。脅威では無い。

 

「言っとくけど!模擬戦やからな!殺さんといてや!」

「ふぅ……さぁ!喧嘩だ喧嘩!とことんやるぞぉ!」

「「「おぉー!!!」」」

 




vividの方よりは進歩してると思いたいですがまだまだ未熟という実感が増したstrikers編でした。読んで下さりありがとうございました。
気が向けば模擬戦を詳しく書き込みたいなぁと思いますが気が向けばなので書かないかもです。


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閑話 最終戦 シオン別ルート

なんかあったので。供養


 何故ウタネ(アイツ)は、オレを選んだのか。

 自分以外を選ぶのは分かる。アイツじゃあ、どうあっても壊れてた。

 周囲の環境、世界と合わない自分に、耐えられない筈だ。なんとか押し殺して、社会に適応しようとした結果の多重人格(コレ)だってのは、重々承知だ。

 ならば何故……オレなのか。

 オレより世間に馴染める人格、性格など無限にあるはずだ。人類滅亡を目論む様な性格に、わざわざしなくても良かったはずだ。そのへんの思考はしっかりできる頭のはずだ。

 オレは選ばれるほど社会に適してない。それは誰よりも、ウタネよりも分かってる。間違いない。

 では逆に。オレより社会に反する性格。

 自分より下を作る事で自分はまだ優れていると錯覚する方法。能無しのいじめっ子なんかがそれだ。

 別にそれでもいい。ウタネが自分を守るためにはそれでもいい。

 オレの名前を使うとして、『シオンよりはマシなんだ』と思えるような人格でも良かった訳だ。

 どちらにせよ、ウタネは救われた。

 ウタネでは無く、ウタネと同じではないステータスの別の誰か。ソイツがいれば良かったんだ。何も性別まで別にする必要も無かった。女でも良かったんだ。女で、気弱で、脆弱で。それでもウタネは救われた。

 だが、アイツはオレを選んだ。

 ならば、オレがする事はただ一つ。

『選ばれなかったオレだったかもしれないオレ』の代わりに、ウタネを守る。

 これは、どのオレ(……)でも同じ思考だと感じている。確信している。そう作られたものだとしても、それを肯定している。

 しかし元は何もできない女の身体。オレも未来視以外の何もできやしない。

 ──だからこそ。

 だからこそだ。この特典(チカラ)

 オレにあった可能性。オレの立場で使っていた可能性。

 この世界(オレ)ではない可能性(オレ)

 それを引き出すのがオレの特典。

 鏡合わせに在ったハズのシオン。

 それをこの世界に引き寄せる。

 それがオレに与えられた特典。

 数多に存在したかもしれないオレの……未来視では無い……それぞれの能力を扱う能力。

 何故原作と差異がある能力なのか、何故原作に劣っていたり優れていたりしていたのか。それは、原作ではなくオレの能力だったからだ。

 オレ自身が鏡なんじゃなく、オレを写す鏡。

 同時に存在するには、許容されないオレ。

 だから、二つ。ウタネとオレで、一人ずつは背負えるだろう、在ったかもしれないシオン。

 だから。

 

「もう殺す。逃げるなら、今のうちだ……逃す気は、無いが」

 

 右手の刀の先を、地面へ落とす。力は込めず、把持するだけ。

 足は肩幅、両肩を脱力、ブラリブラリと身体を揺らす。

 ……射程は、多分半径100。制御次第。おそらく不能。

 ……速度は、ニキュニキュの瞬間移動速度でおそらく光速。時間系能力を見切るナンバーズでも、単純に動体視力を超えるぶんには問題無い。

 刀一本だが、原作も片手で発動していた。できないはずがない。

 

「オレを超える無謀……その残酷さを知るがいい……」

 

 自分にとっての最適を探す。

 スタートするに必須の加速、それを得るために身体を揺らし、筋繊維を弛緩させていく……

 

「杓子!」

 

 身体が勝手に動く。

 決まっているかの様な乱雑なルートをただただ走り、射程に入った全てを斬る。

 スタートした時には既に目的地にあるニキュニキュの移動速度。視界など望むべくもなく、過程など望むべくもなく、ただ刹那に刀を振ることだけ。

 外からはどう見えているのか。

 それを考える暇もない。

 次々と現れるナニカ。

 それはナンバーズだったり、その辺のガレキだったりするのだろうが、一瞬で視界から消える。現れる、と察知した時には既に消えているソレを確認する事はできないが、とにかくそれを斬る。

 何も、無くなるまで。射程にあるもの、全て。

 このナンバーズを倒すには、全て消すしか無い。

 逃げる暇すら与えず、斬るまで。

 その機械部品のカケラすら、その機能を失うまで。

 

「……!」

 

 セインの助けか、地面を透過するナニカがある。

 だが問題は無い。

 この特典の前には、透過能力など特別なものではない。

 即座にニキュニキュをバイオライダーへ変え、地中を追う。

 速度は落ちるが幾分かは視界が利く様になり、狙いも付けられるようになった。方向も分かる。

 切るのではなく、突く。移動の速度にブレーキをかけることなく標的を害する。

 疲労するまで、ただ斬り、突き、抉る。

 

「……ふぅ」

 

 全てが更地になり、能力が切れる。

 無人のビルもレンガほどの大きさにまで刻まれたガレキの山に、ナンバーズとそれについていたガジェットも全てが倒れ伏している。

 既に生き絶え、何人いたかも分からない。

 杓子の範囲は砂漠よろしく真っ平ら。さて。どうするか……



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第106話 ぐだぐだ大決戦

模擬戦は、喧嘩じゃない。
VNAの力は史上最強。
その力はいずれ境界を広げ、全てを上回る現人神となるだろう。
ぐだぐだパーティーの幕が今切って落とされる。
この世界はもうちょっとだけ続くんじゃ。


「「「セ──ット!ア────ップ!」」」

 

「さて……私とやりたい子はいるのかな?」

「さぁ……行くぞ」

「ワイン欲しい!ので!60%!オーガ!」

「変身!『グランドタイム!クウガ・アギト・龍騎・ファイズ・ブレイド!響鬼・カブト・電王・キバ・ディケイド! ダブル!オーズ!フォーゼ! ウィザード!鎧武!ドライブ! ゴースト!エグゼイド!ビルド! 祝え!仮面ライダー!グランド・ジオウ!』よし」

「リインフォース、だったかしら。それは魔法なのかしらね……まぁいいわ。娘の成長だけに興味を割きましょう」

 

 模擬戦は、始まってしまった。

 人間(1人穢土転生)とVNAの戦い。アインスはアレだね、完全に魔導書ではなくなってるね。『キングストーンが重症だ。感情がリンクして発動したものだから感情がある限りへばりついてるだろうな。まぁ、ライダー系統の適合率が上がるだけだしほっとけ』とシオンに完全に匙を投げられるほど。

 私とシオンはそれぞれ鎌と刀でいつもの。ソラは初動60、まぁ私がいない世界の基準値くらい。プレシアはただ魔力垂れ流しただけ。

 

「……なぁなのはちゃん。もう帰りたいねんけど」

「なのは、私も……特にウタネと母さんは……」

「ダメだよ2人とも。フォワードだってやる気マンマンなんだから!」

「「「「えっ……いやちょっと無理そうで……」」」」

「わ、私もヴィーナス全員は無理だと!」

「そうだよフェイト!お姉ちゃんがいるから!」

「アシリアちゃんやったか?アレ無理やで。ほぼ即死やで」

「大丈夫!私は死なないから!」

「ちゃう!この子もなんか根本的な思考が違う!」

 

 向き合う管理局組の実力者がこぞって及び腰の醜態を晒す。しかもそれを隠す気がサラサラ無い。

 アリシア、だっけ。穢土転生はチャクラこそ無限であるものの、出力は変わらない。水を入れるタンクが大きくなっても、蛇口の大きさは変わらない。そもそもあんまり魔法使えないっぽいし。

 

「やる気出してみたもののどーするかね……初見殺しワンキルしてやろうか」

「たとえば?」

「受けてみるか?」

「私もワンキルできるの?」

「死にゃしねぇけどな、受けてみろ……『ネガティブホロウ』」

 

 シオンから数体の、デフォルメ幽霊が出現。

 それがゆっくりと私に近づき……私の能力さえ透過して体を通過する……

 

「えっ……と。それだけ?」

「……え?いや、まぁ、それだけだな。なんともないのか?」

「うん」

「……これはネガティブホロウ。名前の通りの能力で相手をネガティブな気分にさせる。ポジティブの化身でも膝をつくんだが……ああ、ウタネは元がネガティブだから……か」

「なんかごめん」

「いや……ああ……ふふ……いい案ができたぞ……」

「あかーん!シオンがごっつぅ悪い顔しとる!フェイトちゃん!私らだけでも撤退や!」

 

 邪悪、という表現がピッタリな笑みを浮かべたシオンを見た八神さんが絶望的な逃走を試みようとしている。

 いくら神速のフェイトのソニックだろうと……

 

「あら、どこに行くのかしら。まぁ、無理強いはしないわ。私も鬼ではないもの」

「いや……すんませんでしたやで……」

「ふふふ」

 

 私達からは逃れられない。

 初動の初動で既に紫電に退路を潰される無惨な八神フェイトコンビ。

 

「それでシオン。いい案とは何かしら」

「ああ……折角最後なんだ。こんな少人数じゃすぐ終わっちまう。そこで、地球産人外を召喚しようと思ってな」

「イヤな予感した。若干反対」

 

 知ってる中で、ここにいて不思議じゃないメンツ。もうヤダ帰りたい。

 

「何使えばいんだ?召喚術……は違うしな。口寄せ……も契約してねぇ。んー、よしドアだろ」

 

 言った後で色々悩むフリをしたシオンがいつか見たピンクのドアを出した。

 代替案を出して即否定するのは答えがある時のたたらを踏む癖だ。

 

「それ使わへんのちゃうん⁉︎」

「黙れ。オレは一分一秒常に変化している。今のオレが使ってんだから使っていーんだよ」

「ジャイアニズム……」

「ま、交渉してくっからちょい待ってろよ」

 

 バタン、と素っ気なくドアの向こうに消え、2分ほど。

 

「よし!なのはと違って魔法は使えないが、遠慮無く撃ち込んでくれ!」

「私もちょっと楽しくなってきそう!」

「ウタネちゃん!久しぶりねぇ!」

「わ、私も……?」

「すずかはいいでしょ⁉︎私が何できるのよ!嫌味か⁉︎嫌がらせか⁉︎シオンこのぉ!」

「いや、お前はマジになんとなくだよ。たまたまいたから」

「ふざけてんの⁉︎そこの子たちもどうせバケモノなんでしょ⁉︎」

「どうせってなんだよ。昔のなのはよりマシだぞ。7割以上だが」

「バケモノよ!すずか!全員叩き潰しなさい!」

「えぇ〜⁉︎そんな、悪いよぉ」

「シオン、私の戦力分ハンデよ!夜にしなさい!」

「……オレの能力1個使えってか」

「足りるでしょ!」

「まぁいい。『ウェザーリポート』……曇天でいいだろ」

「うん……十分だけど……いいの?私は……」

「問題無い。なのはたちも普通の奴からすればバケモノだ。あの4人は加減してやれ」

「……わかった」

 

 ……たしかに、見たことある。けど……誰だっけ……

 シオンの能力で暗くなった庭で国民的未来ドアから出てきた数人を見る。知ってるんだけどなぁ……どうやって話してたかな。

 

「キョウヤ。お前らはオレ達の相手だ。なのはの手助けしてやれ」

「シオンだったか。フタガミちゃんの双子だってのに性格は全然違うな」

「まー、そのためのオレだしな。ま、とにかくやんぞ!」

 

 ♢♢♢

 

「さぁまずはフタガミちゃん!前の続きだ!」

 

 開始と共に恭也が真剣……真剣⁉︎を持って私に一目散に突っ込んでくる……相変わらず速い……

 

「っと……!その人外の速度とパワーはどこから出てくるんですかね!」

「はははは!よく反応できる!」

「まぁ……もう素性隠す必要も無し、明日から剣を握れなくしてあげます!」

 

 次に来る攻撃を直感で防ぎ、その背後を取るように箭疾歩で跳ぶ。

 

「……甘いぃ!」

 

 振りかぶった鎌をノールックの後ろ蹴りで弾かれる。

 

「うっそぉ⁉︎」

 

 鎌の重さを利用してそのまま後ろに跳ぶ。距離ができて少し見合いの時間ができる。

 タカマチ人をナメ過ぎた……私が負けるほどではないとはいえかなりのカンがあると見ていいな……

 

「シオン!刀!」

「おー」

 

 シオンに鎌を投げ、刀を貰う。

 

「ん?鎌がホントの武器じゃなかったのか?」

「鎌は私のだけど戦闘する武器じゃないので」

「?まぁいいけど……いくぞ!」

「はぁっ!」

 

 ♢♢♢

 

「白熱してるなぁ……どう思う。人間産人外」

「……それはバカにしてますか?」

「いや?オレだって人外産人外だしな。オレが連れてきたのは地球産人外だし」

「知りませんが、生身で強い方がヴィーナス以外にもいると知って少なからず絶望しました!」

「正直で結構。さぁ……オレたちもそろそろ本気でやろうか」

「……是非!」

「悪かったな。事件中は色々とよ。今日は小細工無しに正面からやってやる」

 

 目の前にギンガ。後ろにスバルとティアナ。そしてなのは。やれやれ……オレも随分とモテるようになったもんだ。いや、敵作ってるだけだな。

 能力……ヘビーウェザー切るとすずかが死ぬから……ま、1つでも十分だろ。最悪アインスに任せるか。

 

「シオン!行きます!」

「さぁこい!」

 




なんかシオンとアインスの能力がハデ過ぎてウタネが普通に見えてきました。能力の格としては1番上のはずなのに……


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第107話 ぐだぐだ大決戦 その②

「きゅっ!吸血鬼⁉︎十字架!」

「こらスバル!失礼でしょ!」

「……向こうに気を使ってるヒマは無いぞ、オレもそこそこ本気で行くぞ」

「うわっとぉ⁉︎」

 

 戦闘中に地球産人外の簡単な……個人に踏み込まずだいたい伝わるようなプロフィールを紹介した。

 キョウヤはウタネと打ち合ってるし、すずかはアインスの出したライダー達と一人で対等……というより圧倒している。ミユキもはやての援護アリとはいえソラとやり合ってる。スバルやギンガ、戦闘機人を知っているとは言え……いや、知っているからこそ生身であれだけやれるのが驚愕なのだろう。いや、オレも相当なレベルで驚いてるが。すずかは闇の書の時見たが……高町家は……なんだ?あれほどのレベルだったか?

 

「……それに、アイツに十字架は意味ねぇしな……っと」

「「リボルバーシュート!」」

「甘い」

 

 ティアナの牽制から前後の攻撃。牽制は避けて姉妹の攻撃はアイアスで防ぐ。

 

「バスタァァァァァァ!」

 

 動きが止まったところになのはのディバインバスター。

 コンビネーションってこういうんだろうな……オレ達にはできん。

 

「だが無駄だ。直死はあらゆる存在を殺す。砲撃だろうと変わらない」

 

 鎌を振りバスターそのものを殺す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ファーストブリットォ!」

 

 鎌を振り抜いた隙にギンガが背後から飛びかかってくるが、空いた左手の自慢の拳で相殺する。

 

「先の先まで読め。もしくは何も考えるな。でなければオレには勝てん」

「でも考えないと勝てませんが!」

「ヴィーナスに勝ちてーんだろ。ちったぁ自分で考えろガラクタ」

「なっ⁉︎言ってはいけないことを言いましたねこの人外!」

「黙れ!テメーら六課前線メンバーの殆どが人外じゃねぇか!オレの中身は純正の人間だぞ!」

「簡単に予備の体で復活した人がいまさら何を言いますか!私の予備も作ってくださいお願いします!」

「ふざけんな!お前らは1回死ねば終わりなんだよ!替えが効かねーの!オレは何度死んでも次があんだよ!」

「えっ……私の替えが効かないだなんて……」

「……?」

「ギン姉!何話してるの⁉︎」

「ハッ……⁉︎流石ヴィーナス!話術にも長けているとは!」

「……わからんが、お前が勝手にハメられただけだ」

「勝手にハメ……⁉︎そんな人だとは思いませんでした!」

「……スバル、お前の姉どーかしてんぞ」

「知りませんよ!シオンが何かしたんじゃないですか⁉︎」

「するかバカ。お前らみたいな型落ちにキョーミねぇよ」

「カタ……⁉︎ウガー!」

「お前もかよ!」

 

 タイプゼロはもうダメだ。

 いや、元々ほとんどがダメな気がする。

 

「シオン!私もいるんだよ!」

「わってるよ」

 

 なのはのシューター、実に32発を全て斬り落とす。

 これが牽制なんだから意味わかんねぇな。並の魔導師なら切り札だぞ。

 

「行くよティアナ!」

「はい!なのはさん!」

「シオンが未来を予知しても……対応できない速度なら!」

「それを実現するだけの手数を用意できれば!私となのはさんにはそれができる!当たれば勝ち!」

「バスタァァァァァァァァァァァァァァ!」

「シュ────────ト!」

 

 バスターとシューターの範囲攻撃。

 密度も範囲も幼少なのフェイのブラストカラミティより上だ。刀ならともかく、ウタネの鎌じゃあ圧倒的に手数が足りない。地上だから上下にも動けない。

 ……だが。

 

『ライダーターイム!仮面ライダーゲイツ!』

 

 ……やりたかないが、2つデバイスを装着したベルトを出現させ、両手で引くようにして回転させる。

 

「当たっても効かなきゃ意味無いな」

『リ!バ!イ!ブ!剛烈!』

 

 砲撃は全てオレンジを基調とする装甲に阻まれた。オレ自身には何一つダメージは無い。

 その時にベルトがうるさ過ぎる変身音を鳴らし、顔面に文字が飛んでくる。割とコレ速いしデカいしで怖えぞ。顔背けそうになった。

 ゲイツリバイブ。アインスがグランドならマジェスティでも良かったが……絵面……

 

『剛烈!』

「えっ⁉︎それって⁉︎」

「シオンは装甲無しなんじゃ⁉︎」

「ま、たまにはな。アインスがアレだし、そして──」

 

 なのはたちが怯んだ隙に左の縦長デバイスを回転させると、その上下が入れ替わり、別の力を発現する。

 

『スピードタイム!リバイリバイリバイ!リバイリバイリバイ!』

 

 他人の数倍を一瞬で超え、メイドインヘブンに近い加速度を持ってして空中のなのはへ跳ぶ。

 

「──たとえオレより速くても、オレは更にその先を行く」

『リバ!イ!ブ!疾風!疾風!』

「うそ……」

 

 範囲攻撃の全てを剛烈で受け切り、疾風でなのはの背後に周り首にスピードクローを添える。

 

「ま、そんなもんだ」

 

 デバイスを2つとも外し、そのままなのはから離れる。

 

「でもよくやった方だ。アレで逃げられる魔導師はそうそういねぇよ」

「でもシオンに勝てなきゃ意味ないの」

「無理だってんだろ」

「今日こそは勝つから!ファイア!」

「まーがんばれ」

 

 即座に切り替え、シューターを乱発するなのはからさらに離れてまた混戦状態に戻る。

 やれやれ……

 

 ♢♢♢

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふん!」

「くっ……ウソだろう⁉︎生身で……自我が無いとはいえ歴戦のライダーだぞ⁉︎」

 

 リインフォース・アインスは驚愕と共に深く絶望していた。

 目の前の、すずかと言う紫髪の女性の強さ。なのはやはやてと同級生だという彼女の見せる攻撃はまさに破壊の一言。

 グランドジオウの能力で呼び出された歴戦の強者たちだが、その攻撃は難なく防がれ、反撃の1つで見事に消滅する。何十トンの単位を基準とさえするライダーの攻撃が、必殺を銘打って放たれる拳も蹴りも剣も銃もがただ1人の人間に届かない。

 

「使うか……ハッ!」

「……」

 

 シオンのように素性が分かっている戦力ではなく、まさに想定外の規格外であったため、本来なら使わない……タイムジャッカーの時間停止能力をすずかに対して使用するアインス。

 自らが加速するならともかく、他人の自由を奪う能力はあまり使わないアインスであったが、それだけ動揺させる迫力がすずかにはあった、ということだろう。世界やキングクリムゾンを使わなかったのは、他のVNAが同様に動けるからだ。

 

「はぁっ!」

「っ⁉︎」

「時間停止も、効かないですよ。私、何でもできるので!」

「ウッソだろう⁉︎」

「行きます!」

「できれば来るな⁉︎」

 

 アインスの余裕はここで完全に無くなった。

 すずかはアインスにとって絶対必勝であるはずの能力を何でもないように振り切ったのだ。特に対策をするわけでもなく、単純に。

 

「〜〜〜〜!『メラメラ』神火・不知火!」

「薄れたとはいえ真祖の血統!なのはちゃんたちにカッコ悪いところは見せられませんから!」

 

 迫るすずかに跳び退きながら両腕を振るったアインス。その炎を片手でかき消すすずか。

 グランドジオウから火柱が放たれる光景は様にはなっていたが、夜天の書に戻って以降滅多には使わなかった2つ同時使用。

 しかしそれが幸いし、アインスはすずかの力の源流を知る事ができた。

 

「真祖……?なるほど、それなら!」

 

 グランドジオウを解除し、通常の騎士甲冑を纏ったアインスの眼が狂気を帯びる。

 同種の真祖、いや、すずかの薄まった末端の血統ではない、限りなく純正に近い力。全てを切り裂く爪、金色の魔眼がアインスに宿る。

 

「はぁっ!」

「っ⁉︎これは……!」

「同じ真祖だ、純度の高い私の方が有利だぞ?」

「……!」

 

 真祖、吸血鬼としての能力を除けばアインスがすずかに劣る要素は何一つ無い。

 更に真祖の純度も高いとなれば形勢は逆転。圧倒的なスペックの差が明らかになる。

 

 ♢♢♢

 

「あははははははははは!流石タカマチの人間だ!もうヒトじゃないね!」

「何がですか!私はまだ人です!」

「今の私とやりあえてる時点でもう手遅れだよ!」

「いやー、正直私もどーかと思うで…… 美由希さん」

「なんで⁉︎」

 

 60%とはいえ、ビルを片手間に破壊できるほどの筋力にまでなったソラとはやての援護で誤魔化しつつも対等に打ち合っている美由希は人間の域にあるかどうか微妙、と言う点は否定できない。

 

「楽しくなってきたぁ!ナンバーズともやりあえ……いや、無理かな!」

「なんか失礼です⁉︎」

「あの子たちは普通じゃないからね!」

「あなたも普通じゃないよ⁉︎ソラちゃんだったかな⁉︎」

「あーっはははははは!楽しいなぁ、楽しいでしょお⁉︎」

「ソラちゃんも楽しそやなぁ……事件ときは静かやったのに」

「だってアレだよ!なんだかんだ私も仕事は好きじゃないし!」

「ソレはみんなそやで……いや、六課はどうかわからんけどな?」

 

 美由希の真剣とはやての殺傷設定を力づくで相殺し、2人の手数に追いついているソラに美由希は驚きを、はやては呆れを見せる。

 

「そもそも海鳴の人は何⁉︎戦闘民族なのかな⁉︎」

「違います!ただ剣術をしてるだけだから!」

「剣術だけで魔法とやりあえるのはどーかと思うけどね!」

「そーかもね!あなたも大概……ッ!強過ぎるよ!」

「っと……!」

 

 強く踏み込んだ美由希の刀に押されソラが退く。

 60%、しかも美由希しか対象にしていないというのにスバルと同等程度の力を持つ美由希に、ソラも驚いていた。

 

「……やっぱり何かあるでしょ、タカマチ家」

「さっきからなんのことですか。普通の一般家庭だよ」

「いやー、しかしいくら達人としても生身でスバルと同じはどーなのかな。あれかな、知名度補正?んなわけないか」

「まぁ、今日勝てば皆さんを門弟として迎えられるらしいので。全力でぇ!」

「うわっとぉ⁉︎何⁉︎みんな来るの速かった理由ソレ⁉︎私達5人とか世界がいくつあっても足りないよ⁉︎」

「えーいうるさーい!気ままに自由にいつでも練習相手になれー!」

「やだー!なのはに頼めばいいじゃん!私は世界救わなきゃいけないの!」

「うおっしょーい!」

「……!やっぱりおかしいって!ギャグ入ってる!このタカマチ!」

 

 目を怪しく煌めかせ邪悪な笑みと死刑宣告を上げた美由希はソラの拳に刀が通り始めるほどのパワーを持ち始めていた。

 なによりも絶対の武器とする自身の拳が傷を負い始めたことでソラが悲鳴を上げる。というよりシオンにクレームに近い問いを投げつける。が、当然シオンも戦闘中、返事など返ってくるはずもなく、かと言って生身の人間相手に80%へ上げるわけにもいかず、模擬戦の前提故に抑止力の能力も使えず、割とピンチなソラだった。

 

「うおぉ!えっちゃん助けて!」

 




*高町家とすずかはギャグです。真祖とは多分違うと思いますけど神秘的にまぁ真祖の末裔にしてやれ、って感じです。高町家は多分人間じゃない。
*えっちゃんもこの作品には多分出ません。


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第108話 ぐだぐだ その③

宝生永夢ゥ!をひたすらリピートしてたら話が詰んだ。


「──さて、もう終わりかしら?」

 

 紫電の中で、最強の魔導師が最強の騎士たちを挑発する。

 人数差はプレシア1人に対しフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、アリシアで6人。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「無駄よ」

「ぴゅっ⁉︎」

 

 アリシアが単独で特攻するも即座に上半身が消し炭にされる。

 

「ア、アリシアちゃん⁉︎まって!私じゃ治療が追いつかないかも⁉︎」

「くそー!勝てる気しない!」

「えっ⁉︎」

「あ、私の治療は大丈夫!母さまの攻撃じゃ死なないから!けど届きもしない!」

 

 ただ焼かれただけであるため穢土転生で即座に再生するが、決してプレシアまで到達することはできない。

 だがそれを見ているだけの守護騎士たちに少しむっとした態度を見せるアリシア。

 

「うがぁ!なんで私だけ行くの!みんなも続いてよ!」

「いや、姉さん?姉さんとヴィーナス以外でそんなに簡単に母さんに近づける人はいないし」

「そーだろーけど!というか私も近づけないよ⁉︎おら盾の守護獣!行け!盾になれ!」

「……1秒と持たず焼き切れるが、それでもいいか?」

「くそー!じゃあフェイト!出番無かった真ソニックで!」

「クロックアップに対応するほどの速度は出ないよ姉さん」

「無理じゃん!」

「まー、近づけないなら遠距離で行くしかねーだろ。アイゼン!」

 

 ヴィータが鉄球を8個出現させ、振り抜くためにアイゼンを構える。

 

「まって!ソレダメ!」

「……!」

 

 アリシアの静止も間に合わず、ヴィータが動く前に鉄球が蒸発する。

 

「遠距離攻撃の判断は良いわ。けど、その行動は隙が大き過ぎる。光より速く動かなくちゃ」

「マジかよ……」

 

 蒸発させたのは当然プレシアの電撃。

 4個2列の鉄球をそれぞれ紫電が撃ち抜き、その圧倒的熱量で一瞬にして蒸発させた。

 

「雷……光はこの世で最も速いモノ。速さは熱を帯び光と音を発する。そして私の魔力はSSS+オーバー。鉄だろうとなんだろうと一瞬で蒸発させられる。魔法というこの世界の基準において、いいえ、物理法則の上でなら、私は夜天の書よりも、他の何よりも強いわよ」

 

 通常、カミナリと呼ばれる気象現象は数億V、数十万Aにも及ぶエネルギーが発生している。雷をまともに受けると心停止等による死亡が大半の結果となる。しかしそうならなかった場合、症状は軽い火傷や意識障害等で早期に回復することが多い。これは電流が身体を損傷する前に地面に流れていくためとされている。

 だがプレシアの紫電は自然現象ではなく、それに限りなく近い現象を起こす魔法である。それ故に雷の威力、軌道はプレシアのコントロール下に置かれている。先の様に狙った一点のみに集中し鉄球を蒸発させるエネルギーを放出することはもちろん、自身の周囲に展開し続け防御に使用することもできる。

 そしてその速度は当然光速であり、抑止力の恩恵でクロックアップやザ・ワールドの時間干渉の能力を無視して動く。停止時間であれば紫電は停止することが無く、クロックアップであればプレシアの認識する時間軸で行動を強制させる。つまり、純粋に光速を超えて次元跳躍しまくってくるプレシアの射程外に出なければプレシアからは逃れられない。

 そして、それができる魔導師はいない。

 

「……フェイト」

「な、なに?姉さん」

「……ウタネ呼んでこよう。VNAにVNA以外が勝つのは無理だよ」

「冷静に認めないで姉さん⁉︎」

「無理無理無理。物理法則で生きてる限り母さまには近づけもしないよ」

「シグナム!どうにか言ってください!」

「そうだな。私もシュランゲやボーゲンを試したが、シュベルトの射程から出た瞬間に蒸発した。シオンにしておけ」

「そうじゃなくてですね⁉︎」

「フェイトちゃん、ここはやっぱりアインスを呼びましょう」

「シャマル先生!私たちだけでどうにかできないかと言っているんですが!」

「無理よ無理。あっち見て?アインスとあの子が張り合ってるじゃない?あの子、闇の書のアインスの攻撃を無力化したんでしょう?私たちは無理よ?それで、あなたのお母さんはアインスと同格な訳だから、ムリ」

『アタシも無理だと思うぜ。シオンとたまにいたけどスカリエッティたち総出でも敵わないんだから』

「もぉ〜!」

 

 ♢♢♢

 

「はぁっ!」

「っっっっ!」

「どうした!全力で来い!」

「だっ!言っておきますけど!コレ真剣ですから!切りますよ⁉︎」

「構わない!」

「構ってください!」

「ああ!切れ!」

 

 スペックで劣る分防戦一方になるのはまぁいいんだけれどもさ。この人私がまだ本気じゃ無いと思ってめっちゃ煽ってくる。死ぬぞ?模擬戦で死ぬぞ?

 

【止まれ】

「おぉ⁉︎」

「分かりますか?私達のレベルが。あなた方人間がどれだけ天性の才を持ち努力を積み重ねたとしても届かない格。こうやってゆっくり近づいて、ゆっくり胸に刀を突き入れるだけで死んでしまうんです」

「……」

【動け】

「っとと……」

「だから、私を煽るのはやめて下さい。キレるとホントに殺しちゃいますから」

 

 自分で言ってて悲しくなるけど、この能力無制限で使うと次の瞬間には世界無くなってるからね。んでキレて制御効かなくなるのも分かってるし。

 そうそうキレるつもりは無いけどツボに入るとあっという間だし。

 

「まぁ、仕方ないか。なのはの前で人が死ぬのはなぁ」

「……あの、前々からと言えばそうなんですけど、死ぬのは何とも思ってないです?」

「ん?ああ、事故とかは嫌だけどな。自分より強い奴と正面から戦って死ぬならそれは喜ぶことだ。あ、悔しいのは悔しいんだけどな」

「……」

 

 飄々と答えてくれちゃって。

 でもこれでやっと認識できた。この人たちは魔術師と同じだ。目的のため、その過程のためなら死は結果としてあるだけでなんとも思ってない。

 魔術師は根源へたどり着くためなら命を削るし、たどり着いた瞬間に死ぬがたどり着けるという悪魔がいたなら躊躇いなく契約する。子孫がたどり着けるなら自身の命と魔術回路を全て渡す。それだけ目的のみに執着する。

 この人もそれと同じ。剣術を、武術を志す者として正当な戦闘で死ぬなら本望と考えるタイプだ。一瞬でもその道の先が見えるならと命を二の次にする。

 

「……でも、私にはそれが理解できない。だから、私も全力でやる」

「お?」

「シオン!あなたが呼んだ時はあなたが死んだのよね⁉︎」

『あぁ⁉︎今その話がいるのか⁉︎』

「どうなの!」

『そうだが!死ねってか⁉︎』

「いいや、死ぬのは私!けどもっと言えば、死ぬのは私の能力だ」

『おまえ……っ!』

「おい⁉︎」

 

 刀で左目を刺す。痛い。刀が頭蓋骨に触れるのが分かる。復旧不能部位の損失が明確な焦燥を伴って私に痛みを伝えてくる。流れる血も頬を通してよく分かる。

 ……残された右眼に見えるのは生物のいない世界。赤みのかかった、桜さえより赤に見える終末の世界。

 この世界では2度目か?返すよ、私を。けど後で返せよ、私。

 

 ♢♢♢

 

「……全く。よく予測したものだよ。僕を無理矢理引きずり出すなんて」

「うん?」

「ああ、はじめましてだ。人間。名乗る気も無いしキミを覚える気も無い。けど本気で殺してあげる」

「よくわかんねぇけど、本気ってことだな」

「その前に少し。ソラ、一応0.01%は使う。抑止力の対象外?」

『対象内!0.0003%まで!』

「……そんなに少なかったかな。僕も一応キミと同じはずなんだけど」

『一緒じゃないよ!てゆーかなんで⁉︎シオン生きてるよ⁉︎』

「ああ、けどウタネは死んだからね」

『はい⁉︎』

「別にシオンじゃなくてもどっちかがいなければ僕は出られる。シオンならまだ出るかどうか選ぶけどウタネが死んだらほぼ強制的に引きずり出されるんだ。全く面倒なことを」

『……もー!知らない!』

「よし。じゃあやろうか。キミたちの活力にはウンザリだ。消えてもらう」

「よぉし!なんだか知らないが行くぞ!」

 

 人間にしてはかなりの速度。すぐに回り込まれ背後から刀が振られる。

 

「お……っ⁉︎」

「遅い。弱い。僕がより上位の存在であるからして、人間に遅れをとるはずがない」

 

 振り向くことさえ必要無く、その切先をつまむ。

 

「う……動かねぇ……!ホントにフタガミちゃんかよ」

「僕はフタガミだが、ウタネとは違う」

 

 腕を振ってソラの方へ刀ごと投げる。これで死ねばお笑いだ。

 

「甘いな!」

「甘くないさ。人間にしては中々だ」

 

 着地後、着地した衝撃をそのままバネにしてこちらへ即突撃、一直線に眉間への突きを狙ってくる。

 未来予知は正確にそれを捉え、体がオートでそれを躱す。

 

「っ、よく避けた!」

 

 僕が体を逸らした瞬間にその先を感知したのか、速度にブレーキをかけることなく刀を振るキョウヤ。

 

「無理だ。どれだけ強かろうが所詮は人間。シオンならともかく僕もウタネも殺せるはずが無い」

「くそっ!」

 

 次々と……本当に人とは思えない程の膂力と速度を持って振り抜かれ、刺突を繰り出し、こちらの次を越えようとする。

 人であれば……シオンでさえ、鏡を使わずには戦いにすらならないだろう力を持つ高町の家系には驚きしかない。0%のソラと比べても十分に勝機があるだろう。

 とはいえ僕も四象の存在。パワーこそ素のソラには勝てないものの他の全てで上回る。詩と音の名の通り、言葉による能力では陰陽に迫る。

 僕の唯一の欠点はその言葉を使わなければ現実に干渉できないということだね。流石に意識の速度で干渉されると太刀打ちできない。いや、なんとかするが。

 

「はははははははは!この俺が遊ばれているぞ!この日を待っていた!なのはは実に良い友人を得た!」

「自分のライバルを探すために妹の友人を獲物にするかな普通。まぁ、僕はライバルになどならないが。あとこの場の全員殺しておこうか」

『フタガミウタネェェェェェェ!それだけはさせない!』

「うるさいな。僕が自由に引っ張り出されるようになったんだ。ならもう僕の自由も同然だ、神とやらに御相手願おうか」

『だからぁぁぁぁ!みんな!模擬戦相手変更ー!フタガミウタネを潰せぇ!』

 

 ソラが自分の戦いを捨てて役割を果たしに来た……楽しい楽しい模擬戦だろうに。

 

「娘を殺すと言うなら私の敵ね」

「ふむ。よく分からないがはやてを見殺しにはできないな」

「全開だぁ!覚悟しろ!」

 

 ヴィーナスまでもそれぞれの役割から僕に矛先を向ける。

 それに倣って他も僕へ。

 

「こうなればヴィーナスも不要か。ウタネとシオンの盾になればと思っていたけど。さてこうなると、だ。シオン。君はどうする?」

「……知らねぇよ。アンタとやる気は無い。アンタにつく気も無い。勝手にやってろ」

「そうか。因みに僕に性別は無いわけだが、世界に降りる以上どちらかは要るだろう?どっちがいいかな」

「知らねぇよ!好きに選べ!コレもやるよ!ホラ!」

「そうか。なら人数比からいって女性にしよう。全く、楽しい楽しい模擬戦だったのに。ソラももう少しジョークというのを覚えた方が良い」

「ジョークで済むならね!歴史改変を遊びでするようなジョークには付き合ってらんないよ!」

「やれやれ……じゃあ、やろうか。二の舞になるだけだろうけどね」

「くっそぉ!やっぱり見てたのか!」

「当たり前」

「今回は私も強いからね!」

「この世界程度で僕には勝てないけど、まぁ相手によって加減するよ」

 

 刀と鎌を持ち、切先を地面に触れさせたまま前方に広げるように構える。

 たしか……いや、誰か忘れたがこんな構えだったと思う。

 この世界は主人公をリンチしたいのか?いや、僕は主人公ではないか。

 

「能力を使いたくないが故に僕を引っ張り出すのは能力を全面に押し出すわけで。本末転倒だと思うけどね」

 

 我ながら何がしたいんだ。まぁ、楽しくしよう。



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俺たちの冒険は……

「はぁ。やっぱり望みには遠い。現実はあの頃と全く変わらないね、ソラ」

「くっ……!」

 

 機動六課と高町家、すずかとヴィーナスを持ってしてもフタガミウタネに届くことはなかった。

 1対主役勢という構図はソラが経験した数年後の世界によるウタネとの戦いと同じになった。

 固有結界でない分ソラの能力は飛躍的に上昇していたが、フタガミウタネは更にそれを上回っていた。

 

「バカな……これがあのウタネ様の本来の力か?規格外などと言うレベルではない。他のヴィーナスが最大のパフォーマンスを発揮しても届くかどうか……はあっ!『祝福の刻!』」

「「「っ!!!?」」」

『最高!最善!最大!最強王!!!逢魔時王!!!』

 

 キングストーンの影響でヒーロー系統の力をより引き出せるアインスが最終の手段として取った切り札。

 全てのライダーの力を持つ、最高最善の魔王、その1人。変身の衝撃でプレシアとシオン、ソラ以外は弾き飛ばされ、アリシアは塵になった。

 

「ふぅん。ホンモノじゃないのになれるもんなんだ」

 

 フタガミウタネが少し感心した、と口にする。

 それぞれ、あらゆる能力は汎用のものを除けば各個人専用のもので、同作品の人物であろうと使うことができず、使おうとすれば何らかのデメリットが発生することが筋であり法則だ。

 だがシオンの鏡は無理矢理その型を取って使っている。元の能力の神秘が高ければ高いほど負荷がかかり、最大負荷を超えると肉体的に死ぬ。

 だが、感心した理由はその負荷ではなく。

 

「……⁉︎ソウゴか……⁉︎なんという精神介入……!この戦いだけ力を貸してくれ……!」

「アインス⁉︎どしたんや⁉︎」

「オーマジオウから介入を受けてるんだ。全てのオーマジオウは繋がっているからね。その鏡の弱点2つ目、ということだね」

「なんやて⁉︎」

「ウォズがいないから僕が祝ってあげよう。祝え、全ライダーの力を受け継ぎ、過去と未来をしろしめす究極の時の王者。その名もオーマジオウ。今まさにこの世界の終焉である、とね」

「……!」

「ぐおー!復活!そして撤退!」

「……やれやれ。オーマジオウの力を使うと言うことは即ち、時空の再創生を意味する。闇の書時代の悲しみがそれを可能にしている。喪失無くしてオーマジオウは獲得できない。もっとも、この世界の神秘と照らし合わせれば完全な聖王とほぼ互角。そこの人間の様に成長の可能性を残したグランドジオウやRXの方がまだ神秘として高い。さぁどうかなシオン。君なら何を選ぶ?」

 

 オーマジオウを前にして、それではダメだと言わんばかりの話をした後、戦いを離れた場所から見ていたシオンに話を投げる。

 

「オールフィクション。エア」

 

 どうでもいい、とばかりの投げやりな返答。

 

「それでもダメだ。オールフィクションでは能力が足りないし、エアは体が保たないだろう」

「じゃー無理だ。少し考える」

「そうした方がいい」

 

 構えを解き、さて、と口を開こうとするフタガミウタネに対してアインスが気合を入れ直す。

 

「アインス大丈夫⁉︎私に合わせられる⁉︎」

「大丈夫だ、私が保つ限りオーマジオウの力は私のものだ……!『終焉の刻!』」

『逢魔時王必殺撃!』

「「「うっ⁉︎」」」

「「「きゃぁっ⁉︎」」」

「よし!ふうんッ!」

 

 周囲の人間を吹き飛ばす程の衝撃波を放ちながらゆっくりと跳び上がり、キックの文字がフタガミウタネを包囲する。

 そしてソラも鬼の貌をを泣かせ、飛びかかる。

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「決着を急ぎすぎたね。変わらないけど」

「うるせー、もう終われっての」

 

 プス、と。音にもならない音がその場の全員の頭から鳴る。

 

「「「はぁ〜……」」」

「あ〜〜〜〜オーマジオウとかどうでもいい〜〜〜返す〜〜〜」

 

 キックを中断したアインスが力無く変身を解き横になる。

 他のメンバーもふやけた顔で座り込んだり寝転んだりと、一切の気を感じない。

 

「やれやれ……一応局の敷地内なんだぞ。通常技ならともかくそんなバカみたいのやったら後始末が面倒だろうが」

「なにを……した?いや、いい〜僕も聞く気が失せた」

 

 唯一正常なシオンと、かろうじて立っているフタガミウタネ。

 

「ワカメ妖精。眼を凝らして見てみろ。手のひらサイズのがいるだろ、全員に」

「ああ〜〜いるなぁ〜〜」

「そいつが刺すとやる気を奪うんだ。数も自由だ」

「そんなのに僕がぁ〜?」

「喋り方に神秘がねぇしイラつく。ま、純正の神祖と両儀の器にも効くんだ、アンタにも効くだろ。ギャグ補正は強い」

「ラスボス戦の鉄則を知らないのか〜〜〜〜?」

 

 ブチュ、と妖精を握り潰しシオンに不満をぶつけるがそこには怒気も威厳も無い。

 

「もう黙ってその目を治して戻ってくれ。ソラのイメージ見たけどこのまま続けてもロクなことにならん」

「だろうね〜〜〜〜や──、めんどくさ〜〜〜」

「……姉さんって前世からこの妖精に刺されてたんじゃねぇかと疑いたくなるな」

「あ〜〜〜」

「ここまで気の抜けた姉さんの顔見るのは初めてだな……こっち来てからは割と活動的だったしな……」

「たすけて〜〜〜シオンが姉によくじょーしてるよ〜〜〜〜」

「してねぇよ!あとテメェは姉じゃねぇだろ!人外!」

「っ……と。ふぅ。なるほど、魔術の通信販売というのがあるのか。まあそれはいい。けど姉じゃないというのは間違いだ。僕は確かに君たち2人を作ったが、ウタネとシオンの関係が姉弟だというなら僕とシオンもそうだし、僕とウタネもそうだ」

「知らん。オレの家族はウタネだけ。発生源すら不明なお前と関係を持つ気は無い」

「はは、その発生源不明の存在から発生したのが君たちだというのに。あと一応僕は人類だよ」

「はぁ⁉︎嘘だろ!オレ達が人外なのにか⁉︎」

「そうだよ。僕は純然たるヒトだとも」

「でも四象なんだろ?」

「まぁ、そうだね。一般人の前で言うことじゃ無いと思うけど」

「黙れ。どうせ記憶処理とかすんだろ。家族は?」

「さぁ?血縁ならいたような気もするけど親は知らない」

「その血縁と会ったことは?」

「ない」

「お前がソラごと改変したのはいつだ?」

「幼稚園だったかな?まぁ、普通なら物心のつく前だろうね」

「やっぱお前わかんねぇわ。むしろオレみたいにウタネの付属品じゃねぇか?」

「それは断じて違う。そもそも力の格が違うだろう?ウタネの全開でも僕には届かない。ウタネに小学校の記憶があるかでも聞いてみるといい」

「まぁ、それはそうらしいが……お前、急に出てくるようになったよな」

「君もソラのようにメタる気かな。一応真面目なものなんだが」

「うるせー黙れ。オレも死ななきゃいけないんだろ」

「おや急速展開」

「黙れ」

「まぁそうだね。何年後だったか、まぁ3、4年後だろう未来でウタネの頭が飛んだ後と同じだね」

「……お前、なんで読心能力通らねぇの?」

「僕は四象だよ。それ以下の能力なんて概念的に通るわけが無いだろう。ギャグはまぁ、彼女が負けたらしいし……」

「お前もう威厳のカケラもねぇぞ」

「うるさいな。ああ、最後にゆりかごの中の子、出しておこうか」

 

 フタガミウタネが指を鳴らすと、ゆりかごに封印されていたチンクが現れ、2度目を鳴らすとその拘束が解かれる。

 

「シオン⁉︎」

「あ、お前まだゆりかごだったのか」

「ふざけるな!何日経った⁉︎あれから私は声を出すことさえ出来ずにいたのだぞ……!」

「悪かったね、君を拘束していたのは僕だ」

「ウタネか。妹たちはどうなった」

「僕はフタガミウタネだよ。略すならフタガミだ。どうなったかは後でゆっくり聞くといい。もうスカリエッティの計画は頓挫しているから、まぁ大人しくしたほうがいい」

「……そのようだ。だが何故今?」

「ちょうど終わりだからね。終わりは苦手なんだ。終わりたくないけどね」

「……?」

「まぁ、これで大体元通りってワケだ」

「そもそもヴィーナスと人間がまともな戦いになるわけ無いだろう。人外レベルとはいえ所詮は人間。足りるわけがない」

「じゃ……後は任すわ。お先」

 

 シオンは複数の短剣を投影し、直死で自身を貫いた。

 そしてシオンが死んだことでその能力、妖精に奪われたやる気もそれぞれに戻る。

 

「っは〜〜〜っ」

「ん〜〜〜〜!」

「これは……?」

「シオンが奪っていたやる気が戻っただけだ。僕は何もしていない」

 

 周囲が立ち上がったり伸びをしているのを見たチンクがフタガミウタネに聞く。

 シオンの能力はウタネと違い本体が死ねば効力を失う。奪われたやる気はシオンの死によって解放され、元に戻る。

 そして認知機能を正常に働かせた3バカと他はフタガミウタネにつっかかる。

 

「シオン⁉︎」

「え⁉︎え⁉︎なんで⁉︎」

「ウタネちゃん⁉︎説明してぇや!」

「僕をウタネと信じて疑わない人間と人工生命よ、そしてこの物語の全ての生命、物質よ。この世界から僕達は消える。それに異論を唱えるな。そして神とやらに見初められたVNAよ、君達は自由にするといい。この世界に残るも良し、神に頼み他の世界を旅するも良し。ソラは勝手にするだろうけど、夢と母性はこの世界出身だからね」

「記憶処理は……?私はともかくなのはたちに記憶を残したまま消えちゃうの⁉︎」

「なるほど。そうなるか。一周前は消えた世界だからどうでも良いと思っていた……なら、多少は改変しておくよ」

「……ウタネはまだいる?」

「いいや、シオンが死んて僕だけになった。もう神のところにいるだろう」

「そう……私は、この世界に残るよ。カルデアもまだ……」

「カルデアは止まってる。あの世界の時間軸よくわからないしね。彼女はいるのかな?」

「うん。いるよ」

「なら僕の存在に気付いている筈だ。都合の良いように改変してくれる」

「今喚んでもいい?」

「終わろうとした本に続編が足される事になる。両儀と四象の最強争いなんて見たくないだろう?」

「そーなったら見れないけどね。みんな死んじゃうでしょ」

「まぁ。そうだね。それこそ神とやらが出てくるだろう」

「普通に会えばいいのに」

「出来たらそうしてるよ。シオンに言った通り僕は純然たる人間でVNAではないからね。僕の改変も神の間での権能には潰されるからどうにも上手くいかない。だからどこかの世界を滅茶苦茶にしてみようか、なんてね」

「ダメだよ」

「だよね。だからしない。もういいだろう。僕の死によりVNA以外は……まぁ、適当に記憶などなどが改変される。僕も死ぬわけじゃないしね。この世界でウタネが終わる儀式みたいなことをするだけだ」

 

 フタガミウタネが鎌と刀を持ち、それぞれを首に当てがう。

 周囲の静止もどこ吹く風、ため息1つで首が飛ぶ。

 その瞬間に現実は塗り替えられ、ウタネのいた記憶は消え、その体も武器も痕跡さえ残っていない。

 何があったか記憶しているのは残されたVNAの3人のみ。

 3人はそれまであった記憶を忘れぬよう、他の大勢は僅かずつの違和感に気付くかどうかの日々を過ごすことになる。




時間に余裕が無くなってきたので打ち切り展開。
STSは自分にはキャラ数が多いですね。A'sでも若干多い気がします。書ききれない。他作品等よく書けるなぁと常々思ってます。
ありがとうございました。


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