戦争と平和 (スコティッシュ)
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出会い

はじめまして、スコティッシュと言います。
初めて投稿する作品です。
名前は最近やっていたゲームとかからそのまま引っ張ってきてます。
初めてですので短編となる予定です。

それでも良かったらどうぞ、見ていってください。


「ふぅ…やっぱり此処は落ち着くな」

 

俺は家から少し離れた森の中を歩いていた。

3人兄弟の次男の俺はなんとも不遇な立場に居た。

兄からは敬えと言われ、弟からは優しくしろと言われる。

どっかの国では弟思いの長男と兄さん思いの三男が居るそうだがそんな物は幻想だろう。

 

普通の家に生まれ、兄は剣術が得意、弟は魔術が得意、だが俺はどちらも得意ではない。

所謂どっちも普通なのだ。

バランスが取れているとは言われるが、器用貧乏なのは間違いない。

 

父親からは剣術を極めろと言われ、兄に敵わないと分かると母親から魔術を極めなさいと言われ、あっという間に弟に抜かされた。

結果両親は俺に何も言わなくなった。

 

兄に剣術を教える父親と弟に魔術を教える母親、俺だけがポツンと残される。

そんな自分が惨めで嫌になるとこうして森に散歩に来るのだ。

 

たまに魔物が出る事があるが、そんなに危険な魔物は出ないので俺でも十分逃げる事が出来る。

中途半端者は魔物の対処ですら中途半端で逃げ出すのだ。

 

ちなみにこの森の散歩については親は放任している。

何処に行っているのかすら知らないだろう。

今は兄と弟の指導で手一杯で俺の相手をしている暇など無い。

 

今この国は人間とエルフの戦争状態にあるからだ。

3年ほど前にエルフから宣戦布告を受けた。

それ以降、剣術と魔術両方の発展が進み、最初は劣勢を巻き返すように優勢に傾いている。

 

国は優秀な剣術、魔術を持つ国民を兵として募集し、戦果によって賃金を渡していた。

戦果によっては向こう30年は遊んで暮らせるほどの金額を貰った物も居る。

 

俺の家も戦果目当てで子供である俺達に剣術と魔術を教え始めたのだ。

どちらの才能も無かった俺は完全に放任だ。

戦争に勝ったら適当に稼いで来いとしか言われていない。

 

「はぁ……帰ったらまたビスクやマルスに雑用ばっか頼まれるんだろうな」

 

ビスクが兄、マルスが弟だ。

戦闘の才能が無い俺に、洗濯をしろ、皿を洗え、食材を買って来い等と家事全般を全て言いつけてくる。

だが、国民程度が死に物狂いで頑張ろうが、王宮の兵士達に勝てるわけが無い。

向こう30年分の戦果を上げたのだって王宮の兵士だ。

俺達なんてどう逆立ちしたって貰える訳が無い。

 

「戦争早く終わらないかな……どっちが勝ってもいいからさ」

 

俺は早く家事から解放されたい。

ただそれだけだ。

 

暫く歩いていると木陰に誰か倒れていた。

 

「………」

 

倒れている人物を見て俺は目を丸くした。

倒れていたのはなんとエルフだった。

 

「………」

 

エルフはピクリとも動かない。

エルフは人間には使えない強力な魔術を使う。

力は人間の方が上だが、敏捷性や目の良さは人間より遥かに上だ。

 

(これ……ひょっとして罠か……?)

 

普段なら直ぐに声を掛ける所だが、今は戦争中。

このエルフが倒れている演技をしているのだとしたら、最悪俺は殺されてしまう。

 

良く見ると足の一部分が紫色に腫れ上がっている。

 

「……毒か」

 

このエルフは戦闘で毒を受けて此処まで逃げてきたのだろう。

だが、体に毒が回り動けなくなってしまったのだろう。

意識は無い。

もう死んでいるかもしれない。

 

「でも……生きてるかもしれない……」

 

解毒の魔法は使える。

母親にとにかく色々な魔法を叩き込まれたからだ。

 

此処は戦場じゃない。

幾ら敵でも目の前で死なれるのは気分が良い物じゃない。

 

「はぁ……両親が見たらなんて言うだろうか」

 

俺はエルフに解毒の魔法をかけた。

ひとつの解毒魔法では効き目が無かったので知っている解毒魔法を片っ端から使っていた。

器用貧乏だからこそ出来る芸当だ。

すると、徐々に腫れが引いていった。

死んだ者に治療系魔法は作用しない。

ついでに治療魔法も施してこれで完璧だ。

 

「ん……」

 

どうやらエルフが起きたらしい。

さてどうやって説明した物か……

考えていたらエルフと目が合った

 

「あ、あなた! 何を…!」

 

エルフは突然剣を取り出し俺に向けてきた。

 

「うわっ! ちょっと待って! 待って!」

 

俺は慌てて手を上に上げて降参のポーズ。

するとエルフは少し躊躇い気味だったが剣を収めてくれた。

 

「えっと……毒にやられて倒れてたから、解毒をしていたんだ」

 

正直に言う。

 

「……そうですか、敵軍に救われるとは、名前は」

 

「ソーマ」

「ソーマですか、しかし良くあの毒を解毒できましたね」

「知ってる解毒魔法片っ端から使っていったら効いただけさ」

「そうですか」

 

そう言って、エルフはまた剣を握りなおす。

 

「えっ!? いや! 俺戦う気無いよ!?」

 

エルフと戦って自分が勝ってるイメージなんて一つも沸かない。

 

「助けてもらった事には感謝しますが……敵は敵です」

「エ、エルフは命を助けた一般市民をこっ、ころすって言うのかい!?」

 

一般市民と言う所だけ物凄く強調してみた。

エルフは苦い顔をしたが、剣は収めてくれなかった。

 

「では、何故このような場所に居るのです」

「散歩だよ……家に居たって扱き使われるだけだから息抜きにこの辺を散歩してるんだよ……」

「では、何故私を助けたのですか? 捕虜として王宮に連行しようとしたのでしょう? 大きな戦果になったでしょうから」

「戦果」という言葉に俺はイラっと来てしまった。

「なんだよ……敵のお前まで戦果、戦果、戦果って……折角善意で助けたって言うのに……」

 

エルフは少し気まずそうな顔をしていたが、イライラしていた俺は続けて言葉を放っていた。

 

「敵でも……俺が放って置いたのが原因で死んだとか気分悪くなるだろ……」

 

エルフは下を向いていた。

 

「それに此処は戦場じゃない。ただの森だ。だったら倒れてる奴を助けるのはそんなにおかしい事か?」

「……いえ、貴方の言う通りです。助けていただいてありがとうございました」

 

エルフは敵意と剣を収めてこちらに向き直ってくれた。

今までは剣を向けられていたので余裕が無かったが、改めてみると美しさに声が出なくなった。

金髪に金の瞳、整った顔に人とは少し違う耳。エルフの特徴のひとつだ。

 

「あの……どうかしましたか?」

 

見とれている所に突然声を掛けられて俺は驚いた。

 

「あ、あぁ……分かってくれればいいんだ」

「自己紹介がまだでしたね。私の名前はイデアと言います。所属は……」

「いやいやいや……名前だけでいいよ。所属とか言ったらなんか戦争っぽいじゃない。そういうのは無しにしてくれ」

「そうでしたね、ソーマさんは良く此処に来るのですか?」

「家事の合間を縫ってね、俺の散歩コースかな。この辺を歩いてると落ち着くんだ」

「豊かな自然が心を癒してくれるのだと思います」

「イデアの方は……っとこれは効かない方がいいな」

「えぇ、その方が良いと思います」

 

ニッコリと笑っていた。

……なんだ。思っていたよりも温厚で友好的じゃないか。

なんでこんなエルフと戦争なんてしているんだ?

 

その後暫く雑談をした後イデアと別れた。

半分以上家族の愚痴だったが、もう二度と会う事ない相手だ。

逆にイデアからの話も家族絡みの事が多かった。

 

人間でもエルフでも悩みの種は同じらしい。

 

「ただいま……」

 

帰ってくると家事が俺を待っていた。

 

「父さん! 来週の面接試験までに次の技を覚えたいから明日から早朝からトレーニング付き合ってよ!」

「任せろ! 教えた技で憎きエルフを倒して戦果を上げるんだ!」

「母さん! 今よりもっと強い魔術を教えてよ! 俺の魔法でエルフを消し炭にしてやるんだ!」

「頼もしいわ! マルス!」

 

毎日こんな会話を俺は聞かされている。

勿論俺の話題は出ない。

俺は黙って家事をこなすだけだ。

もし俺が、今日エルフの命を助けましたなんて言ったら家を追い出されかねない。

そう思うとニッコリと笑ったイデアの姿が思い浮かんだ。

 

「もう、会えないだろうな……」

 

その時は、あの出会いが戦争を根本から覆す事になるとは思ってもみなかった。



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再会

俺はまた家事の合間に森に散歩に出かけていた。

誰にもいえない事だが、昨日の散歩はとても良かった。

最初は剣さえ向けられたが、最終的には和解して雑談まで出来たのだ。

流石にもう会う事は無いだろうが、それでも少しは期待をしてしまう。

 

「~~♪」

 

昨日の事を思い出し上機嫌に鼻歌を歌って歩いていると俺は信じられない事が起きた。

 

「あら、先日はどうも」

 

イデアが居た。

 

「………」

 

俺は口をあけて数秒動けなかった。

 

「どうしたんですか? まるで信じられないようなものを見ているような顔をしてますよ?」

「そりゃ、そうでしょ……だって二度と会う事は無いって思ってたんだから……」

「毎日戦場に行ってる訳じゃないわ。私ってそんな風に見られてるのかしら?」

 

確かに昨日の鎧甲冑姿ではなく、普通の服だ。

 

「それに、此処は戦場ではなく、ただの森なのでしょう? ならそれで良いじゃないですか」

 

どうやらうまく丸め込まれた様な気がする。

 

「そうだな……こっちも城下町でさえ重苦しい空気だし、こういう息抜きだって必要だよな……」

 

戦争なんて早く終わってしまえば良い。

そうすれば気兼ねなく彼女と話が出来るのに……

 

「今日もお散歩ですか?」

「あぁ、イデアさんの方は?」

「同じ様な物ですね」

「また面倒な事を押し付けられたんですか?」

 

どうやら当たったらしく、イデアは少し拗ねた顔をしていた。

 

「族長は私が戦場に出る事を望んでいないのです。こう見えて私はとても強いですから」

「そんなに強いのに、毒に引っかかったの?」

「………まぁ、それは置いておいて」

 

話を逸らされた。

 

「私は早く戦争を終わらせたいのです。もう戦争が始まって3年も経っています。これでは双方とも被害が大きくなるばかりです」

「エルフは全体数は少ないけど、個々の能力が高い。人間は能力は低いけど数は圧倒的に多いからな……」

「人間も家族が大切ではないのですか? 私の周りでは家族の死を嘆いているものがとても多いです」

「人間も同じだよ。少し前に近所の同い年位の奴が死んで母親が名前を呼んで泣き叫んでた……」

「亡くなる人数が多い人間の方が被害はとても大きいです。それなのに何故戦争を続けるのでしょうか?」

 

俺は言うか言うまいか迷った。

多分、今から言う話はエルフには理解出来ないからだ。

けれど、それでもイデアには話したいと思ってしまった。

人間の業と欲望を……

 

「金さ」

「え……?」

「みんな金が欲しいのさ。王宮が国民から志願兵を募集してる。戦果を挙げたもの者には多大な報酬を与えるってさ……」

「お金…? お金の為に家族を危険に晒しているのですか……?」

「少し違うかな。国民なんてどう頑張っても王宮の兵士に勝てるわけが無い。ならなぜ募集すると思う?」

「後方支援……ですか?」

「半分正解、半分外れ」

 

まぁ、話しちゃってもいいか。

 

「志願兵になると最初に最前線に送り込まれる。大軍と見せかけるために」

「なっ……!」

 

この反応を見ると、見せかけの大軍に騙された事があるみたいだな。

 

「数の暴力なんて言葉があるけど、本当にその通りだよ。安全地帯から弓を引かせたり、大砲を使わせたりする。これなら技術が無くても募集する意味があるし参加者も多い。数打ちゃ当たるって奴さ」

「では……本当に最前線で戦っているは国民ではないのですね……?」

「国民だよ。その国に所属してるって意味ではね。けど、中には本当に志願兵のみでエルフと戦っている部隊もある」

「そんな……滅茶苦茶な……」

「最前線の次の戦場さ。本格的な訓練を受けていない奴が最前線で有頂天になって自分だって強いんだと勘違いして戦場に向かう。結果なんて見なくても分かる」

「………」

「志願兵の大軍を陽動にして、本隊で敵陣を叩いた事もあった」

「国民は……その事を知らないのですか?」

「みんな有能な自分がそんな陽動作戦に参加させられるわけが無いって思ってるのさ」

「………狂ってる」

 

そう口にした後、失言だと気が付きイデアは慌てて口を手で押さえた。

 

「その通りさ。狂ってる。俺の家族も……国そのものが狂ってる」

「だから貴方は散歩に来るのですね」

「そうなのかも知れない……」

 

あーあ、完全にこっちの戦略バラしちゃったよ……

この事が誰かに知れたら間違いなく処刑されるな。

 

「貴方は、賢いのですね」

「違うさ。俺は中途半端なんだ。剣術も魔術も、どちらも中途半端な俺は志願兵になる資格がない。家事でもやってろって言われてるんだ」

 

イデアは少し考えているようだったが、直ぐに顔を上げて俺に聞いていた。

 

「強く……なりたいですか?」

「……分からない。俺も最初は強くなろうと思って練習してた。けど、今強くなっても俺には何も出来ない」

「そんな事はありません」

 

イデアははっきりと言い切った。

 

「強さは必要です。優しく接するのにも強さが必要なのです。立って下さい」

 

イデアに言われるがまま立ち上がると、彼女は俺の背後に回りこんできた。

 

「えっ!? ちょっと!?」

「いいから……膝を曲げて、視線はこっち……この体勢からなら盾と剣を持っていれば相手は攻め難い姿勢になります。何かに敵対したときにこの構えをするだけで何もしないより敵は警戒をします。それで時間を稼ぐことも出来るでしょう」

 

構えをしている俺には良く分からないが、イデアは実際に戦場に行っている。

おそらく本当の事なのだろう。

 

「そして、この構えはエルフ特有の構え方でもあります。エルフと友好関係にある動物や魔物はこの構えを見るとその場から去っていくでしょう」

「え……それじゃあ……」

「この森でその構えを取れば、襲われる事は殆ど無くなるでしょう。この森はエルフと深い関わりがありますから……」

 

この森でも魔物は出る。

襲われた事だってある。

その時は何とか逃げる事が出来たけど、危なかった事は間違いない。

 

「此処は貴方の戦場ですからね。ほら、強くなる事に意味はあるでしょう?」

「はは……本当だ。でも、良かったの? エルフ特有の構えなんでしょ?」

「貴方こそ、自軍の戦略を話してしまうなんて、知られたらとんでもない事になりますよ?」

「ぷ………あははは!」

「ふ、クスクス…!」

 

気が付けば2人で笑っていた。

だからこそ、気が付けなかった。

 

「動くな、人間」

 

俺の首には刃が添えられていた。



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立場

「イデア様、離れてください。コイツは危険です」

 

顔は見えない。

だがエルフなのは間違いなさそうだ。

 

「先程から聞いていれば、薄汚い強欲にまみれた人間の話ばかり。イデア様を懐柔し戦果を立て様としている事が手に取るように分かる」

「まぁ、強欲って所は同意かな。けど、薄汚いって言うのは間違ってる」

「何だと?」

「ちゃんと毎日風呂に入ってる。少なくとも不潔じゃない」

「変な事に頭が回るな。だが、お前の運命はもう決まっている……残念だったな」

「自軍の戦略を暴露したのに殺されるの? 報告したら大金星じゃない?」

「それが本当の作戦だったらな!」

「エルフに寝返っちゃ駄目?」

「家族を殺された恨み、お前の家族にも味あわせてやる」

 

刃を少し動かすとチクリとした痛みが走り紅い筋が垂れた。

ヤバイ本気だ。

咄嗟にさっき教えてもらった構えを取ろうと思ったが、一部始終を見られているので効果は無いだろう。

 

「エルフの慈悲だ。最後に言い残す事はないか?」

「イデアさんに様付けてたけど、イデアさんって何者なの?」

「イデア様は族長のご息女だ」

「えっ!? マジで!?」

「イデア様と戯れた時間を冥土の土産に持って行け!!」

 

エルフが力を込め、俺の首を跳ね様とした瞬間

 

「止めなさい! スイカ!!」

 

エルフの腕は止まっていた。

 

「その人を放しなさい」

「イデア様!?」

「早く」

「しかし……」

「私の命の恩人の命を奪うつもりですか?」

「まさか……コイツが……?」

「前の戦場で逃げ延びた後、毒で倒れている所を解毒をしてくれた方です」

「な……なんと……」

 

スイカは慌てて刃を収め、深々と俺に頭を下げた。

 

「大変申し訳ないことをいたしました。戦争中とは言えイデア様を救ってくださった恩人に刃を向けてしまうとは……!」

「いえ、家族を奪われる痛みだって本物ですから……」

「お心遣い感謝いたします」

「誰も悪くないんです。悪いのは全て戦争……」

「その事なのですが、先程の戦略は本当なのですか?」

「うん、悲しいけど全部本当。どの場所に派遣されてるかは知らないけど、志願兵だけの捨て駒部隊は実在する」

「酷すぎる……! その者達だって家族が居るだろうに……!」

 

知らなかった。

エルフってこんなに優しいんだ。

敵の家族の為に、泣いてくれるんだ。

 

「えと、恩人の方……」

「あ、ソーマです」

「ソーマ様、大変恐縮なのですが、所属している部隊を教えていただけないでしょうか?」

「俺は戦争に参加していません。家の家事をやっていて、息抜きに散歩をしているだけです」

「左様でございましたか。もし参加されているとしたら、全部隊に通達をしなければと思っていたのですが、心配はなさそうですね」

 

戦争をしているはずなのに、何故こんな知り合いが出来てしまうのだろう。

世の中は不思議な事ばかりだ。

 

「ではソーマ様、お気を付けてお帰りください」

「イデアさんとスイカさんも敵襲に注意してください」

 

そして、別れようとした時スイカに呼び止められた。

 

「ソーマ様、これをお持ちください。もし此度のような事があった時、これを見せればエルフは安全を保障します」

 

そう言ってスイカは小太刀を渡してくれた。。

 

「ありがとうございます」

「いえ、恩人を亡き者にしたいエルフなど1人もおりません。どちらが勝つにしろやがて戦争は終わります。そしたら一度我が村へお越しください。改めて歓迎いたします」

 

俺は小太刀を懐に入れて、家事が待っている家へと帰った。

 

「ソーマ、お前最近毎日出掛けてるが何処に行ってるんだ?」

「近所の森だよ。散歩してるんだ」

「そうか、そういえば最近森の近くが戦場になったらしい。中途半端なお前じゃ直ぐに殺されるからな。暫く森に行くのは止めておけ」

「そうなんだ……分かったよ、父さん」

「捕まったりしたら一家の恥ですからね」

 

結局はそう言う事かよ。

俺が森で捕虜になったら志願兵であるビスクとマルスに影響が出ると考えてるのだろう。

一体何時からこんな家庭になってしまったんだろう。

まぁ、色々な意味で戦争は変わるだろう。

なんたって戦略バラしちゃったしな……

でも、これで少しは被害が抑えられるならそれで良い。

 

次の日から森に行く事は無くなった。

捕虜になる可能性は全く無いが、一応両親の言う事を聞いておくことにした。

何事も無く2週間程経った時、俺は城下町でとある噂を聞いた。

 

「おい、知ってるか? ついにエルフの部隊長を捕虜にしたらしいぞ」

「マジかよ! 拷問にかけて知ってる情報を吐き出させればもう戦争は俺達が勝った様なものじゃないか!」

「あぁ! あいつら生意気にもこの辺の近所まで出てきていたらしいぜ?」

 

この辺の近所と言う言葉に俺は嫌な予感が走った。

 

「ねぇ、その話詳しく教えてよ」

「ん? なんだ、ソーマじゃないか。お前も興味あるのか。いいぞ教えてやる」

 

こういう事があるから近所付き合いはしておく物だ。

 

「つい昨日の話だ。森の中に金髪のエルフを見かけて奴がいたらしい。そいつが王宮に連絡して捕まえたそうだ。報酬もたんまり貰ったそうだぞ」

「それは大手柄じゃないですか! いやぁ2週間位前なら森を散歩してたんだけど……惜しかったなぁ……」

「ははは! 確かにお前にもチャンスはあったかも知れないな。だが少し前に森の近くが戦場になったからな、お前は近づかないほうが良いだろう。巻き込まれたら大変だからな」

「そうですね、やっぱり行かなくて正解だったかも……じゃ、俺は買い物があるんで」

 

間違いない、捕まったのはイデアだろう。

推測でしかないが、森で全然俺を見かけなくなったので、更に城下町側に出てきた所を見つかったのだと思う。

 

俺の……せいなのか?

 

この懐にある小太刀がある限り俺はエルフの捕虜にはならない。

勿論王宮の兵士と出会った所で散歩だと言えば良い。

つまり、俺は森に行っても危険は無いのだ。

だが俺は森に行かなくなった。

……そのせいでイデアは捕まってしまった。

 

捕まった敵兵は拷問される。

それが女となるとそれ以上の事だってされる。

俺は買い物を済ませるととある場所に向かった。



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間話:油断

あの日以降、毎日森に散歩に来ているが、ソーマさんを見る事がなくなった。

私は精霊と契約をしている。

風の精霊を力を使えば森中の気配を探ることだってできるが、1人に会うためだけに精霊の力を借りる事は少し気が引ける。

だから私は森を歩いている。

 

「何時もなら、この辺を歩いているのに」

 

彼は戦争には参加していないと言っていた。

戦場で出会う事はないだろう。

私も彼に助けて貰って以降戦場に出なくなった。

彼の持ってきた情報により、エルフの劣勢はほぼ消えた。

大軍の中に隠れている本当の兵士のみを見つけ出し倒せば志願兵たちは一目散に逃げていくからである。

これで必要以上に血が流れる事が無くなった。

全て彼のお陰だ。

それに、彼の話は聞いていて非常に興味を引かれる話ばかりだ。

最初に出会ったときは家族の話。

次に出会ったときは戦争に対する自分の気持ち。

その気持ちは自分と似ていた。

 

「ソーマさんも早く戦争が終わって欲しいと思っている」

 

次会ったらどんな事を話そう。

そして彼はどんな事を話してくれるのだろう。

戦争中に見つけた楽しい一時。

そんな事を考えていた私は油断していた。

 

「っ!」

 

間一髪、風が危険を教えてくれたお陰で私はその攻撃を避ける事が出来た。

すぐさま気を引き締めて、周りの気配を探る。

……既に逃げ道は全て塞がれていた。

 

「貴様に逃げ道は無い。抵抗しなければ俺達からは危害を加える気は無い」

 

数は10人程全員軽装備で来ている事から、恐らく私が1人で此処に居る事を知ってきているのだろう。

そうなると近くに罠が仕掛けてある可能性もある。

この数なら倒せる……が、

此処は大切な場所。

戦争を忘れさせてくれる場所。

そんな場所を血で染めたくは無い。

彼と再び出会った時、彼は知らなくとも私は意識してしまう。

 

「……要求は?」

「王宮に来てもらおう。その後の判断は上に任せる」

「………分かりました」

 

こうして私は捕虜として王宮に連れて行かれた。

 

自分の所属と、自分が何者であるかを明かすと、直ぐに捕虜の居る牢屋へと入れられた。

其処には既に5人のエルフが捕まっていた。

全員手錠と足枷を付けられている。

見た所、思ったよりは衰弱はしていないようだ。

 

「そんな……イデア様……」

「馬鹿な、イデア様が捕まるなんて……」

「これでは……戦争に負けてしまう」

 

捕らえられているエルフの言葉に胸が痛んだ。

私は自分の意志で捕虜になった。

しかし、それは同胞の事を考えていない。

浅はかな考えだったと牢屋に入ってから気が付いた。



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