命を救う為ならば (味噌帝国)
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第1話:処置を開始します

息抜きです。
深く考えずにお読み下さい。


 何もなかった。

 

 憧れ、反抗心、使命感、復讐、希望、好奇心、出世欲、愛、兄弟、友人、金、親、土地、食べ物、秘密、夢、自分自身。

 

 きっとここにいる者達は例え語らずとも、これらの為に戦っているのだろう。

 

 だから彼らは心臓を捧げる。人類に心臓を捧げると宣いつつも、それは見ず知らずの人に命を捧げるのでは無い。これらの為に心臓を捧げているのだ。

 

 …まぁ、誰がなんの為に心臓を捧げるかはどうでも良い。というか興味が無い。

 

 私だ。

 

 当時兵士になるのは大体が借金に困った農家の次男や三男坊か変人だけだった。私は孤児だったから、孤児院を出た私はとりあえず三食と寝床は保障してくれる兵団に入隊した。

 そこに何の感情も無かった。私はただ生きていれば良かった。

 

 ルックスには自信はあったから別に高い収入を得られる上流階級向けの娼館で働いても良かったが、初日に出てきた食事がスープという名前の水だった事が原因で、上司も用心棒も客も憲兵も全員殴り倒して退職した。あんな食事では人間は直ぐに死んでしまう。

 

 貞操?それが何か重要なのか?

 

 まぁ、私は訓練兵となり毎日空を飛び回って過ごした。地面を這い回る事もあったが別に苦にはならなかった。成績も上位10名に入っていたし順調と言えるのだろう。

 その代わり楽しくも無かった。楽過ぎたのだ。

 

 教官━元調査兵だったか。彼には相当搾られた。名前は忘れた。彼の後任のキース・シャーディスは私の友人の憧れで、散々聞かされたその名前はすぐに出てくる。だが彼以外の教官の印象が余りに薄い。

 ただ「お前みたいに大した志しも無く兵士が務まると思うな」とよく言われた。

 兵士になれずに仕事に困って死ぬのは嫌なので「人類の役に立ちたいです」と子供でも言える様な言い訳を考えた。教官は舌打ちはしたが1通り罵倒した後何も言わなくなった。私は教官に『諦め』という物を教えたのだ。

 

 私は何に心臓を捧げているのか。訓練兵時代にはそんなことは考えず、ただ与えられた課題をクリアし、戦いに参加出来る準備を整えていた。

 それは駐屯兵団に入団して日々を壁の補修に費やしていた間も変わらなかった。毎日壁にぶら下がりながら私は無心で壁に補強剤を塗りこみ続けた。

 強いて言うならこんなデカくて整備が大変な壁を作ったやつは馬鹿だと思った。

 そしてぼんやりとこんな人生が定年まで続くんだろうなと考えていた。

 

 そして私はあの日、正確には845年に人類が初めて壁内への巨人の侵入を許したあの日。私はウォール・マリア破壊の報を知らされ、南への増援として送られた。

 恐怖は無かった。周りが未曾有の出来事に対して緊張や恐怖が有るのは分かったが、私にとっては少し面倒な仕事が増えただけだった。

 

 だが実際にトロスト区の惨状を目の当たりにした時、そこで私のイマイチ積極性に欠ける人生は終わりを告げた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 夕暮れ時に起きた惨劇から1夜明け、ウォール・ローゼはトロスト区。その中のとある倉庫は現在臨時の病院となっている。そこはまさに地獄絵図と言って良いだろう。

 住民の避難は済ませたものの、そのために戦い傷ついた兵士達は何千人にも及ぶ。だが彼らは運が良い方だ。死人はその何十倍はいるだろう。

 だが負傷で済んだ兵士の中には、すでに虫の息の者や痛みの余りに殺してくれと懇願する者もいた。

 

「おい、何をボサっとしてるんだ!仕事しろ仕事!」

 

 現場のリーダーは次々と運ばれてくる兵士達を床という床に敷き詰めさせ、僅かな医の心得のある人々がその隙間を右往左往して行く。だがその場に立ちすくむ1人の兵士を見咎め、怒鳴りつけていた。

 

「あぁ…水…水をくれ…」そう言ってその兵士に必死に手を伸ばす男の手を払い、再度怒鳴りつけた。

 

「そいつはもう助からん。ほっとけ。どうせ死ぬ奴に薬をやったって無駄だ。いっそ死なせてや━━━」

 

 瞬間、世界が反転した。そして彼は自分が床に倒れているのが分かった。口の中が妙に鉄臭いのが分かる。

 リーダーは自分が殴り飛ばされたのだと気づくのにそう時間は掛からなかった。

 殴り飛ばされてから初めてその兵士を見やった。整った顔立ちの、銀髪の女兵士。その顔は怒りに歪んでいた。

 ずんずんとこちらに歩み寄ってきた彼女からは怒気迫る、という言葉を連想させた。

 

「…なさい。」

「あ?な、に、何を言って…」

 

「薬と医療器具を1式、貸しなさい。貴方が見放した『患者』を、私が救ってみせる。」

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 自分が何をすべきかは、もう理解していた。

 

 包帯を巻き、鎮痛剤を投与し、腐った足を切り、適切な処置を施していく。

 それは経験や知識によるものでは無い。私には医療知識は訓練所で習った最低限の延命措置しか知らないはずだ。

 ただ自分の奥底から馬鹿みたいに力が湧いて、今、自分が何をすべきかが半分本能で理解出来ていた。治療をまるで息をするかのように、当たり前に出来ていた。

 

 治療、あぁ、なんて素晴らしい響きなんだろう!これが私が心の奥底で望んでいた物だ!だから私は今まで物事に対して何の興味も湧かなかった訳だ!パズルの最後の1ピースがピッタリとハマった様な、そんな感動だった。

 

 だって治療を必要とし、こんなにも苦しんでいる人々は見たことが無かったのだから!だから私は自分が憎い。もっと早く気づいていればもっと救えた筈なのに。もっと。もっと!

 

 だが必死の治療にも関わらず、命を落としてしまう患者は何人もいた。とても悲しい。胸が張り裂けそうだった。だが悲しんでいる暇は無い。せめて私に出来るのは、彼らを出来るだけ安らかに見送る事だ。

 

「大丈夫です。貴方は最後まで頑張りました。最後まで頑張っていた貴方を、私は決して忘れません。」

「『先生』っ…ありがとうっ…ありがとうっ…」

 

 胸を巨人に半分潰されていた彼は、息も絶え絶えながら最後まで生きようとよく頑張っていた。

 

 息絶えた彼に短いながらも丁寧に祈りを捧げ、次の患者へと足を運ぶ。ベッドに括りつけられた彼は、巨人との戦いがトラウマになっているようだ。先程から暴れている。

 

「糞っ!巨人の相手なんてもう嫌だ!」

「落ち着きなさい。貴方のその出血で暴れたら死にますよ。」

「あぁ、いっそ死んだ方がもう奴らと顔を合わせずに済む!」

 

 その言葉にカチンときた私は、彼の胸ぐらを掴む。

 

「何を━」

「二度とそんな事を言ってはいけません。貴方は自分が死んで悲しむ人は居ないのですか!?」

「うるせぇ!とっくに両親は死んじまったよ!」

 

 私は胸ぐらを掴む手に力を込めた。

 

「ならば貴方の同期の兵は?兄弟は?死んでも誰にも悲しまれないなんて、犬畜生も同義です。」

「━っ!手前には関係無いだろうが!」

「それに私も悲しい。私は今の今まで気が付きませんでしたが、自分の患者が死ぬことは耐えられません。だから貴方は生きなければならない!」

 

 そう言い放ち私は彼に頭突きを放つ。白目を向いたが、元気な彼だ。この位では死にはしない。ぐったりしたのは好都合だ。速やかに止血の措置を施す。

 

「こ、殺す気か…言ってる事と違うじゃねえか…」

 

 そう言って呻く彼に私は言い放った。

 

「ええ。私はあなたを殺してでも治療し、生かしてみせる。貴方達を救うために私は何でもするの。ええそうよ。何でも。」

「無茶苦茶だ…」

 

 そう言ってやっと気を失った彼は、何処か安心した顔をしていた。

 




はい。

転生タグ着いてないやんと思う人も居るかも知れませんが、私はこの主人公はあくまで進撃の巨人の世界で自然に産まれたものだという認識です。

単発なのでもし続けるなら今書いてるのが終わってからですね…


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第2話:I was born to treat you

はえ~結構反響いいっすね(他人事)

じゃあ(続き)ぶち込んでやるぜ


 1週間が経った。

 

 あれだけ怪我人で溢れていたこの倉庫も、もう誰の苦しむ声も聞こえない。重症を抱えた者は内地の病院に送られ、怪我人は回復し、助からなかった者は手厚く葬られた。倉庫の中には僅かなベッドと、木箱が数個あるのみだ。

 

 じっと手を見やる。この一週間、私はほぼ不眠不休で患者の治療に尽力した。…あれは一体何だったのだろうか。私が今までこんなにも熱中して打ち込んだ事が他にあっただろうか?

 

 私は巨人を憎いとも思っていなかった。兎は自分達を殺そうとする鷹に憎しみの目を向けるだろうか?否、彼等は自分達よりも上の存在がいる事に不満を漏らさない。

 

 壁の外には何が在るのか、気にもならなかった。いつか聞いた引退したある調査兵の話だと、外に有るのは木と、土と、川と、青空。壁の中と何も変わらない。

 

 だが、だが。私にはコレが、これが私が『真にやりたいこと』だと分かった。私は他人が血を流し、苦しむ姿を見るのがどうしても我慢ならないらしい。

 

「もっとだ。」私は口に出した。

「もっと、もっと救おう。」私は拳を握りしめる。

「もっと救えた筈だ。私にもっと知識と技があれば。」私は拳を握りしめる。

「もっと学ぼう。備えよう。」拳から血が垂れる。「もっと。もっと。」

 

 先ずは、この倉庫を出たら勉強の為に内地に行こう。大きな図書館があったはずだ。そこで勉強しよう。そうだ、医者に色々聞きに行くのもいい。休憩時間にでも行けば良いだろう。いや、本当は勤務時間も惜しい。学びたい。

 

 いつか、いつの日か。私は誰も彼も救うのだ。そう決意し、歩きだそうとした矢先。

 

「…あ、あれ?お、おか、しい、わね…」

 

 体が、体が揺れる。視界が霞む。立って居られない。

 

「私は、私は、学ばなくちゃ、いけないのに。救わな、くちゃ、いけ、ない、のに。」

 

 呼吸が、身体の末端から感覚が抜け落ちていく。私が、倒れる?それで、それで━?

 

 彼女は、人生で初めての「疲労による気絶」を経験した。後日、彼女を探しに来た同期が私を発見し、東の区まで連れ戻したらしい。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「…指示された持ち場に向かわず、しかも資格も無しに無許可での治療行為。更にはその場にいた上官や、お前を持ち場に戻らせようとした兵士への暴行。立派な軍規違反だな。」

「…何とでも言って下さい。私は自分のやった事が違反であっても、間違いだとは思っていません。」

「…少し前まで死んだ目で壁の補修をやってた奴が、こうも変わるとはねぇ…」

 

 少し時は経ち、ウォール・ローゼの東、カラネス区。駐屯兵団の東区支部で、彼女は軟禁生活を送っていた。

 

 トロスト区の仮設病院に現れた彼女━『フローレンス・ナイチンゲール』は、独断で勝手に負傷者の治療や看護、病院の清掃を行ったらしい。更には彼女を本来の持ち場に戻そうとした他の兵士を殴り倒したりと、治療の邪魔をしようとする者には一切の容赦が無かったようだ。

 

 勿論明確な軍規違反。ナイチンゲールの行動によって命を救われた者達は何人もいるが、違反は違反。現在1ヶ月の謹慎処分を受けていた。

 

 そんな中彼女に面会を求めた数少ない人間の1人が、ナイチンゲールの元教官だった。

 

「お前にそんな情熱を注げる物があったとはな。えぇ?その本も医学書だろう?医者にでもなれば良かったんじゃないか?」

「………静かにしていただけませんか。集中出来ません。」

 

 彼女は医学書を片手に、ノートに何やらメモを取っていた。人体で出血に弱い部分はどこか、工夫出来る包帯の巻き方、気道の確保方法など、戦場で使えそうな療法を片端から書き連ねている。

 

 今自分に出来ることは知識を身につけ、治療を確実な物にする事。トロスト区での自分の治療を、もっと質の良く、短時間で出来るように改善すべく勉学に励んでいた。

 

「…まぁ、何だ。頑張れよ。お前が治療の道を行くなら、俺は反対しない。」

「…教官…」

 

 少し意外だった。大抵ここを訪れる者達は、皆ナイチンゲールの行動に理解を示さなかったからだ。現場の医師を殴り倒してでも無理やり治療を行おうとした彼女を、気狂いを見る目で見ていた。

 

「俺にはお前が兵士として人類を守るのではなくて、1人1人を救う事を考えている様に思える。それは立派な事だろう。応援するぜ。」

「…ありがとうございます。」

「…お前、その方が人間らしいよ。」

 

 訓練兵時代にニコリともしなかったナイチンゲールが、微笑んでいた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 そして時間は過ぎる。ナイチンゲールは人を救う道を志し、壁内で医療を学ぶ。

 

 それと同時に、巨人への復讐を誓ったある少年は、訓練兵として、いつか巨人を殺す日を夢見て訓練に励むのだった。




私はFGOにおいて彼女が1番好きなのですが、同時に実際に生きた偉人として彼女を1番尊敬しています。

彼女の事を良く知って貰えたらなという思いをこめて、少しづつ後書きとして史実のナイチンゲールについて語ります。

史実のフローレンス・ナイチンゲールについて①

1820年、イギリスの貴族の家に産まれる。一家はイタリアのフィレンツェに旅行中で、フィレンツェの英語読みが『フローレンス』である為、この名前が付けられた。


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第三話:最恐の看護婦

書いたら出るってゆうけどピックアップすら来ない

その代わり項羽は来た


 数年が過ぎる。ウォール・ローゼまで人類の生存圏は後退したものの、人類の暮らしは徐々に安定してきていた。

 

 しかし『マシにはなった』というレベルの話であり、流石に3分の1もの領土の損失は人類にとっては大打撃だった。失業し、開拓地に移った者は数えきれない。

 

 よって奪還作戦という名前の大規模な口減らしをせざるを得なかったのも人類にとっては避けられず、尚且つ苦渋の決断だったろう。世の中の怨みは巨人達に向いていき、開拓地を出た男子は兵士になるのが当たり前とされていた。

 

 ウォール・ローゼ南の兵団訓練施設。エレン・イェーガー含む104期訓練兵団は入団から2年が経過していた。

 

 若い兵士の卵達は日々鍛錬に励み━時には自らと向き合い━仲間と切磋琢磨しながら兵士を目指す。

 

 ━と、まぁそんな単純な話で済む訳でもなく。実際は訓練をサボりつつ駐屯兵団を目指し、憲兵団への異動を伺う…そんな者達が大多数を占めていた。

 

 真っ直ぐに調査兵団を目指して訓練していた者など、ほんのひと握りだろう。

 

 ━或いは、もっと大きな物の為にここに居る者も居るかもしれない。

 

 まぁそれは良い。目的や志は違えど、今は皆同じ訓練兵である。

 

 そんな彼等は今目の前の光景に絶句していた。

 

 そこに居たのは美しい1人の女性だった。スタイルは良く、それでいてズボンの上からでもわかる引き締まった体。流れるような銀髪に綺麗な赤い瞳。雪のように白い肌は荒れている様子が全くない。まさに天使と言えるような美人。

 

 だが問題はその絶世の美女が頭を勢いよく振りかぶり、対人戦では敵無しと言われたアニ・レオンハートの頭に頭突きをかましている事だった。

 

 白目を剥いて力なく床に崩れ落ちたアニにその美女は一言言い放つ。

 

「寝不足の様ですね。患者を救護室に運びます。」

 

 〝アンタが殺ったんだろ〟という無言のツッコミが、訓練兵の心を1つにしていた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 時は少し遡る。フローレンス・ナイチンゲールは兵団の訓練施設にて、とある人物と面会をしていた。

 

 キース・シャーディス。元調査兵団団長にして、現在は訓練兵団の教官を務める男である。

 

「貴様の━元教官か。私の同期から話は聞いている。推薦状と、幾つかの忠告も受け取った。どうやら相当あいつの頭を悩ませたらしいな。」

「私は彼に迷惑はかけているかもしれません。私は目的の為ならば手段は選ばない。ですが必ずやることは成し遂げる。」

「…まぁ良い。優秀な人材が変人なのはよくある事だ。」

 

 事実調査兵団には変人が多い。彼自身、身にしみて知っている。

 

「貴様は今日から此処で救護を担当として働く訳だが、何か入り用の物だとか、要望はあるか?」

「ではブラシを200本程お願いします。」

「…何だって?」

「ブラシを200本です。」

「…理由を聞こうか」

 

 途端にせっかくの顔に皺が刻まれ、険しい顔になる。

「不衛生、その一言に尽きます。どのような病気であれど、原因はそれです。簡単に言えば、掃除さえきちんとなされていれば、患者の治りは早くなる。全ての治療行為の初歩中の初歩です。」

 

 ずい、とナイチンゲールが顔を近づける。

 

「ですので、どうか、清潔にお願いします。」

 

 とんでもない奴を推薦してくれたな、と教官は同期を恨んだ。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 フローレンス・ナイチンゲール。彼女は訓練兵団を首席で卒業し、その後駐屯兵団へ。何年か過ごした後にウォール・マリア陥落事件を経験する。

 その後突然行方知れずになったため、心的問題を抱えたのではと噂になったが、数ヶ月後のウォール・マリア奪還作戦の際に医療兵として参加している。その活躍は凄まじく負傷者の3割は彼女のお陰で生きて帰れたとも言われている。

 ━王政の思惑に反して。

 

 ついたあだ名が『血濡れの聖女』『医狂い』等である事から、彼女が色々な意味で凄まじい人間であることは容易に想像がつくだろう。

 

「…っていうのが、彼女の噂だよ。なんでこの訓練兵団なんかに来たんだろう?」

「俺としては、アニが無事でいられるかが心配だな…頭突き一発でアニを仕留めるなんてなぁ…」

 

 アルミンとライナーの夕食の話題は大体が奇妙な看護婦についての話題だった。第一印象が強烈すぎる。

 

「とにかくアニは今日一日看護室に釘付けらしい。災難だなあいつも。」

「…そう言えば…確かあの人前にあった事があるよ。」

「本当か?何処で?」

 

 アルミンは少し離れたエレンの方を向いて言った。

「確かウォール・マリアが陥落してウォール・ローゼまで逃げた時だよ。臨時の仮設病院で薬と包帯を貰ったんだ。」

「…へぇ、じゃあお礼でも言いに行ったらどうだ?」

 

 そういったライナーが少し暗い顔をしていたのを、アルミンは見ていなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 暖かい布団なんて何時ぶりだろうか。アニは布団にくるまりながらそう思った。

 

 いきなり救護室に引っ張って行かれて目が覚めたら布団に簀巻きにされていたのは流石のアニも驚いた。

 

『正体』がバレたかと身構えたアニだったが、看護婦の彼女━フローレンスの口から出たのは意外な言葉だった。

 

「アニ・レオンハート訓練兵。あなたからは寝不足の兆候が出ています。寝不足は体力を減らし、精神をすり減らし、あなたの体を病気の温床とする。だから私はあなたの生活習慣が改善するまでここでの生活を義務付けます。教官からは許可をもぎ取りました何か質問はありますか?」

「は?」

「無いようでしたらまずあなたは再度就寝を始めなさい。次の起床は6時間後です。読書は構いませんが夢中になり過ぎないように。」

 

 まさか早口で寝る事を強要される日が来るとは思わなかった。最近は内地での情報収集が多かったからか。寝不足は顔に出していなかったつもりだったが彼女には通用しなかったらしい。

 

 だが私は重要な任務を背負ってこの島に来た。まさかたかが看護婦に忠告されたからと言ってこの任務を蔑ろにして良い理由にはならない。

 

 1時間後、部屋を抜け出そうとドアを開いたアニは突如暗闇から伸びてきた手に首を打たれそのまま━━━

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 次の日の食堂に現れたアニは随分と落ち込んでいた。いや、一見いつもの不機嫌な顔に思えるが、長い付き合いのライナーとベルトルトにはそれがショックを受けた顔だと分かった。

 

 理由を聞かれたアニはただ一言「看護婦に格闘技で負けた」と言い残した。

 




史実のフローレンス・ナイチンゲールは幼い頃から父による教育を姉と共に受けた。勉学に励む彼女を姉と母は「賢すぎる女性は嫌われる」と嘆いたが、その時に蓄えた知識が後に彼女を助けたのではないだろうか。


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第4話:死に急ぎ野郎

(こんな駄文書いてて)恥ずかしく無いのかよ?

お気に入り100件越えありがとナス!


 ナイチンゲールが来てからしばらく経った。変わった事と言えば、ブラシやモップを持って訓練所中を徘徊する彼女の姿が日常となり、彼女を清掃員と勘違いする者まで出た事。

 アニの技のキレがいつも以上になり、格闘訓練でひっくり返る者が増えた事。

 医務室から日夜誰かの悲鳴と「治療!」という叫び声が合わせて聞こえるようになった。

 

 訓練で怪我をした者は大きな怪我から小さな怪我まで必ず医務室まで連行される。

 一度医務室に入った者は『二度と怪我をするまい』という強い意志を持って退院して来るようになり、それに合わせる様に訓練での技術も上がって行った。

 

 そして『彼』も━そんな彼女にお世話になる日がやってきた。来てしまった。

 

「痛ってぇ!腕が!」

「エレン!大丈夫?」

 

 馬術訓練での事である。馬上から立体機動に移るという訓練をしていたが、飛行中に誤って木に腕をぶつけてしまった。腕を確認すると、アザが出来ていた。

 

「何をしているエレン・イェーガー!すぐに医務室まで行ってこい!今回はアザで済んだが、次からはこうはいかんぞ!」

「はい!」

 

 教官からの怒声が飛び、反射的に返事をしたエレンだが、周りの反応は別ベクトルでの心配だった。

 

「エレンの奴…医務室で腕を取られなきゃいいけどな…」

「あー…有り得るな。後は治るまで監禁とか。」

「あの人怪我と聞くとまず第一声が『切除しましょう』だもんなぁ…」

 

 ライナーとジャンが珍しくエレンの心配をしていた。二人ともナイチンゲールに『お世話になった』二人である。

 因みにジャンは擦り傷、ライナーは打撲らしい。特にライナーはその時傷を隠そうとしたせいでナイチンゲールに相当搾られたらしい。

 

「ま、死に急ぎ野郎には良い薬になるだろうさ」

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「傷を見せなさい。切除しましょう。」

「待ってください」

 

 エレン・イェーガーは医務室のドアを開けた瞬間目の前にいたナイチンゲールに詰め寄られていた。

 流石にメスを右手、ノコギリを左手に持たれた状態で詰め寄られるのは生まれて初めての経験だった。

 

「負傷への対処は早さが重要です。いかに血を流させないか、この一点につきます。」

「…患者を落ち着かせるのも医者の務めじゃないんですか?」

「…それもそうですね。」

 

 ナイチンゲールは不満気に道具を下ろす。ここで医者の家に産まれていたのが功を奏した。エレンは医術の心構え程度は話していてくれた亡き父に感謝していた。

 

 ナイチンゲールが包帯を巻く間、エレンは前々から気になっていた事を聞いた。

 

「ナイチンゲールさんは…グリシャ・イェーガーという医者を知っていますか?」

「…良い医者だったと聞いています。新型の疫病を治したという事で、幾つかの記事や書物に書かれていたのを覚えています。」

 

 淡々とナイチンゲールは話す。彼女は医療関係の会話なら興味を示してくれるらしい、とエレンは実感した。

 

「…俺の親父なんです。壁が壊されて以来、未だに生きているかすらも分からない。」

「そうでしたか…きっと生きていますよ。」

 

 包帯を巻き終わったナイチンゲールはエレンを見て言った。励ましの言葉に少し驚く。数分前にエレンの腕を切除しようとしていた人とは思えなかった。

 

(…アレさえなければただのいい人なんだけどなぁ…)

 

 礼を言い、エレンは訓練へと戻ろうとしたが。「待ちなさい」と引き戻された。

 

「エレン・イェーガー。貴方仲間内で『死に急ぎ野郎』と呼ばれているそうですね。それについて詳しい話を聞きたいのですが。」

 

 逃がしませんと言わんばかりにニッコリと微笑むナイチンゲールを見て、エレンは今日中に果たして看護室を出られるかを考え、気が遠くなった。




メンタルケアを怠らない看護婦の鏡

次回からやっとウォール・ローゼ戦です。


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第5話:再び

紫式部とナイチンゲール同時に引いた化け物をTwitterで見かけて嫉妬で爆発しそうだった


 月日は流れる。104期も無事に訓練兵団を卒業し、明日からは正式な配属に向けての準備が始まる。皆訓練兵として最後になる職務━壁の補修や警備等に従事していた。

 

 ここトロスト区は人類最南端の街。巨人は南からやってくるのが定説である以上、当然リスクは大きいが、兵団の常時駐屯による経済力と天秤に掛けて、此処に住む人もいる。

 

 最初に壁が破られてから5年。いつまでも巨人の恐怖を覚えていろ、という方が無理があった。巨人に怯えるばかりでは金は手に入らず、生活は出来ない。人々の心からは徐々に恐怖症は薄れていった。当事者でない人々からすればタチの悪い地震のような物だ。

 

 恐怖という物は、いつか忘れ去られる物なのだ。だがナイチンゲールにとってはその限りでは無い。

 重症の怪我人が手遅れとみなされ、死体へと変わっていくあの地獄を1度たりとも忘れた事はないのだ。

 

 ━そして今日、地獄は再びやってくるのだ。

 

「…はい。これでもう大丈夫ですよ。よく我慢出来ました。」

「おねーさん!ありがとうございました!」

 

 ここはトロスト区兵団本部の病院である。治療を受けているのは区の子供。階段から落ちて骨折したという事で、ナイチンゲールから治療を受けていた。他にも立体機動中の事故で療養中の兵士や、馬車から転落した男性など、様々な人々が療養に励んでいる。

 

 ナイチンゲールは普段から兵団の医療設備を民間向けにも開放している。当初はなかなか許可が降りなかったが、『偶然』怪我人のすぐ近くにナイチンゲールが『通りがかった』ために『成り行きで』治療をして貰った、『たまたま』ナイチンゲールが知り合いだった為に治療をして貰った等、半ばゲリラ的な活動がナイチンゲールによって繰り返された。治療行為の経費は全て兵団の負担になっているというおまけ付きだ。

 

 これにはピクシス司令もニッコリ。好き放題されるよりはマシだと兵団の医療施設の一般開放が成された。

 

「先生のおかげで助かるよ!ケチな医者ならワシらなんかには高いクスリは出さないからな!」

「皆さんの健康が第一ですよ。当たり前の事をしているだけです。」

「謙遜もそこまで行くと考えものだなぁ…」

 

 ナイチンゲールは目の前の人間を患者かそうでないかとしか見ない。それ以外の要因で治療行為の是非を決める人間では無かった。自分に不利益だから治療しない━いやそもそも患者を治療しないという発想は今後天地がひっくり返って巨人が人間に恋をするベクトルの異常が起きてもありえない。

 

「さて、そろそろ包帯を替えますよ。腕をこちらに━」

 

 瞬間、大きな音と共に激しい振動が病院━いやトロスト区全域を襲う。棚の医薬品が落ちそうになるのを、ナイチンゲールが器用にキャッチした。

 

 動揺する患者達だったが、振動の正体は壁に設置された早鐘によってすぐに分かった。その音を聞いたナイチンゲールは、深く深呼吸をして、荷物を纏め始めた。包帯、止血道具、消毒液、ノコギリ、手袋、三角巾などをカバンに詰め込む。

 

「━ナイチンゲールさん。今のは、もしかして━」

「…皆さん、落ち着いて外出の準備をなさって下さい。外の兵士にも手伝わせます。歩けない方は私が担ぎます。」

 

「━奴らが、現れました。」

 

 巨人は再びやってきた。そして血濡れの聖女も今、再び人々の前に現れる。




すまない…遅くなってすまない…


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第六話:絶対巨人戦線

いやほんと誤字報告とかお気に入りとか感想とか評価とかウレシイ…ウレシイ…

あと一瞬日間3位いきましたありがとうございます


 外で集めた数人の兵士が、ナイチンゲールが大丈夫だと判断した患者を引き連れ避難場所に向かっている。身体の丈夫な者や兵士に担架を担がせ、重病人を連れさせている。

 

 ナイチンゲール自身も怪我人をおぶさり、通りを疾走する。幸い動けないような怪我人は5人程度。それ以外の人々は一応走れる程度の怪我ではあった。

 

「先生、無茶しないで下さいよ!大の大人をおぶさったまま走るなんて!」

「鍛えてますから。」

「そういうとこですよ!無茶しないで下さい!」

 

 門につくと、何やら人だかりが出来ていた。門の脇にどかしてある荷車とそのそばに立つ男を見て、何となく何があったかを察した。

 

 事態を解決したのであろうミカサを見かけた。患者を他の兵士に任せ、ミカサに話しかける。

 

「ミカサ・アッカーマン。顔色が優れないようですが…治療は必要ですか?」

「…何でもありません。少し昔の事を思い出していただけです。」

 

 そう言ってミカサはチラリとある親子の方を見やる。

 

 ナイチンゲールは書類上、ミカサは両親を幼い頃に失っていることを知っていた。そして今、彼女に残された家族は前線にいるエレン一人だと言う事も。

 

「家族が心配ですか?」

「…はい。」

「ならば、これを持っておきなさい。恋人が怪我をしていた時、手元に治療道具がなければ心配でしょう。」

「…っ家族です。」

 

 そう言ってミカサに止血帯を渡すナイチンゲール。

 

「応急処置程度ですが、あると無いとでは大きな違いがあります。」

「…はい。ありがとうございます。」

 

 少しだけ楽になったミカサは戦闘に戻って行った。止血帯はエレン用の治療道具と言うよりかは、ミカサ自身を安心させるためでもある。

 

「…さて。私は、私の仕事をしましょう。」

 

 ナイチンゲールはその場から壁を登り、戦況を確認する。あちこちで━特に前線での被害が甚大だ。

 

 とにかく怪我人を見つけ出し、片端から救い出す。そう思った矢先に、足に違和感を感じる。しかし今は後回しだ、と頭を振るい、ナイチンゲールは前線へと向かった。

 

 最初に見えてきたのは12メートル級の巨人。ナイチンゲールは「消毒!」と叫びながらうなじを刈り取る。ナイチンゲールは仮にも訓練兵団を首席で卒業している。戦闘技術は医療に身を投じる今でも衰えてはいなかった。

 

「…!酷い…」

 

 視界の端に見えたのは、屋根の上に臓物を撒き散らして息絶えていた兵士。ナイチンゲールでも死んだ人間は生き返らせる事は出来ない。

 

 頭だけ食べられた兵士や、頭以外全て食べられた兵士、壁の大きな染みになった兵士、身体が噛みちぎられた兵士。彼等を見る度にナイチンゲールの胸は締め付けられ、同時に焦燥感に襲われる。

 

「1人でも…1人でも多く…」

 

 丁度その瞬間、巨人に襲われる1人の訓練兵を見かけた。彼女は何故か座り込んで無抵抗だった。直ぐに接近し巨人を排除する。しかし様子がおかしい。

 

「ナイチンゲールさん!フランツが…フランツが息をしてないの!」

「…ハンナ訓練兵。手を貸しなさい。彼の蘇生を行います。」

 

 フランツ訓練兵の有様は、酷いものだった。腹を横一文字に大きく割かれ、中の内臓が見え隠れしている。少し救助が遅ければ、胴体より下は存在していなかったかもしれない。

 

 ナイチンゲール自身分かりきっていた事だった。目の前の彼はもしかすると既に死んでいるかもしれないし、たとえ息を吹き返しても彼は、ほんの1、2分で息絶えるであろうことを。

 

 だが。

 

「縫合は完了です。しかし後は彼の心臓と肺次第でしょう。」

「止血は、出来ていたはず。お願い、フランツ…」

 

 助かるかも知れない、命を伸ばせるかもしれないという可能性が1パーセントでも有るなら!

 

「フゥーッフゥーッ」

「その調子です。そのまま肺に空気を送り続けて!心臓は任せなさい!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()のだ!ナイチンゲールは!

 

「ガフッ…ハンナ…」

「ああ…フランツ…」

「すまない、僕はもう―」

 

 フランツが息を吹き返したが、口を開くのがやっとのようだった。二人の口づけが交わされる。ほんの短い間だったが、彼らにとってはそれで十分だった。

 

「さようなら。永遠にあなたを―」

「ああ、僕も―」

 

 彼は、もう死ぬ。血をあまりにも流しすぎた。だが彼には後悔はないし、彼女にも無い。

 

 ナイチンゲールはその場を去っていった。未だ患者は沢山残っている、というのもあったが、これ以上は無粋というものだ。再び地獄へとナイチンゲールは身を投げた。




ハンナとかフランツって誰だよって方は原作一巻読み直して(はあと)


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