白球を追いかけた奇跡 (touzi)
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あれから

ダイヤのAさんの二次創作を描きたくて描き始めました。ごゆるりとお楽しみください。



 甲高い金属音が鳴り響いて、その音に呼応するように観客席がわいた。

 マウンド上の僕は、後ろを振り返ることをしなかった。だって、それは、全く無意味で、見なくてもその結果が分かっているから。

 少しおいて、バックスクリーンから鈍い音が聞こえた。それは、残酷にも僕たち、浦賀浜中学野球部の終わりを告げる金のようなものだった。

 そこから、閉会式までのことは覚えていない。いや、バックスクリーンに映っていた0の行進の最後に「1X」がともった瞬間はこの目に鮮明に残っている。

「終わったんだね」

 しみじみと、学校に向かうバスの中でつぶやく。すると不思議なことに、今までの中学野球の思い出が鮮明によみがえってきた。

 小学校から野球をやっていて、6年の時に全国準優勝をした僕は、すぐにもエースナンバーを奪い取り、主力の選手となった。その年は、全国大会2回戦で苦渋を飲むことになった。そして2年の時は準々決勝で、今年は決勝で。

 中学時代、いや、生まれてからここまで1度もてっぺんを取れなかったな。悔しさがこみあげてくる。

 それよりも、仲間たちに最高の光景を見せてあげることができなかった。自分が情けない。静かに、悔しさとふがいなさであふれ出した涙が、僕の頬を濡らした。

 

 最後の大会が終わると、一気にみんなが受験モードに突入した。僕たち野球部は、推薦がもらえるはずだが、うちは進学校なので、基本公立校を目指すことになっている。もちろん、僕たちの代の13人も公立校を目指していた。

 今になって、たくさんの私立高から声がかかっている。まぁ、全国準優勝投手なので仕方ないだろう。

 実際、僕は私立で野球をやりたかった。いや、私立というより野球が強いところでか。

 でも、強豪校から声はかかりはするものの、近場がない。大阪や福岡、北海道など遠隔地ばかりだった。なぜかと監督に聞いたところ「競争が激しくて」と言われていた。うれしいような、もどかしいような。

「海人。今日の放課後部活に顔出さない?」

 ほおつえをついて外を眺めていると。元女房役が声をかけてきた。唐橋 高貴。小学校のころから僕のキャッチャーをやっている。同年代ならば、かなり上位の選手に入るだろう。

「いいよ。どうせ暇だし」

 高貴のほうに顔もむけずにつぶやく。久々だな、部活に行くの。あの敗戦から、他の仲間は何度か顔を出しているが、僕だけは一度も顔を出していなかった。

 午後の授業は数学と体育だ。どちらも、嫌いではない。予鈴がなるのを聞くと、机の中から教科書を取り出した。

 久々の部室。運動部の部室といえば汚いイメージがあるがうちは違った。監督が少しでも散らかしているとお冠になるので、異常にきれいだった。

 いつものように椅子の上にバックを置いて着替える。なにかあったらと思って毎日着替えを持ってきていてよかったと思う。

「海人。進路どうする?」

 着替え途中で上半身裸の高貴がアンダーシャツを着ながら聞いてきた。

「うーん……決めてない」

「そっか」

 それから着替え終わるまで僕たちの間に会話はなかった。

「それじゃ、行きますか」

「ああ」

 黒い帽子をかぶり、グラブを片手に部室から出た。

 



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突然の来訪者

ここから入っていきます。


 後輩たちの声がグラウンドにこだましている。そのたびに、監督がノックを打った音が聞こえる。たまに、誰かがエラーをするとひどい声も聞こえるが。

 僕と高貴は監督に挨拶した後、軽く走って今は、ベンチの前でストレッチをしている。

「相変わらず柔らかいな海人は」

「そう?」

 高貴が背中に体重をかけてくるのに合わせて、僕も前屈をする。土が目の前に近づいてきて、目をつむった。

 それから、肩を温めるためにキャッチボールをする。グラウンド内はノックの真っ最中で入れないので、狭いファールゾーンでやるしかない。

 力を抜いて、リリースの瞬間にボールを切る。指がボールを削った感触があり、白球は沈むことなく20メートル先の高貴のミットに収まった。小気味のよい音が鳴り響く。

 そんなやり取りをしているうちに、後輩たちのノックが終わった。それに合わせるように、僕たちもベンチに下がる。

「海人先輩、相変わらず球きれいですね」

「そんなことないよ」

 新チームのキャプテンにして、唯一、旧チームのレギュラーを張っていた小島 雄太が人懐っこい笑顔を浮かべている。こんな顔してるのにプレーになると超一流だ。

「先輩は高校決めたんですか?」

「決めてないよ」

 みんな同じことを聞いてくる。だから、決まってないっつうの。でも、小島に当たるのはお門違いなのでこらえた。

 少し小島と雑談した後、監督の声が聞こえ小島や後輩たちは、グラウンドに散っていった。今度はバッティングらしい。どうせ、バッピをやることになるだろうから一応肩作っとくか。少し離れたところで座っていた高貴を連れてブルペンに向かった。

 やっぱりこの小さな丘はいいな。グラウンドの中心ではないけれど、なぜか落ち着く。ここで、何万球投げたかわからないから、それもそのはずだろう。

 立ち投げで軽く投げた後に、高貴を座らせた。部活に来なかったからと言って、何もしていなかったわけではなく、毎日投げたりはしていたので全く衰えていない。それどころか、疲れがない分いい球がいっている気がする。

「走ってるね」

「だよね」

 気のせいじゃなかった。ニコニコの高貴が言ってきて、思わず顔がにやけた。

 ストレートよし、変化球よし。ストレートはしずむ気配なくミットに吸い込まれ、変化球は、とりあえず曲がりまくった。それも、高貴が取りこぼすほどに。

 気持ちいい。僕は自分自身が乗ってきていることに気が付いた。いつの間にか、その世界に入ってしまっていて、周りのことなんか気にならなくなっていた。

 だから、声をかけられたときにはびっくりした。

「舩見君。相変わらずいい球投げるわね」

「え?」

 急に女性の声が聞こえたので、思わず力んでしまった。球は、高貴のはるか上、ネットをも超えてしまった。悪い悪いと大声で言って、手を合わせる。高貴は大丈夫と言ってボールを拾いに走っていった。

「あなたは?」

 美しい女性と二人きりになる。というか、なんでこの人は僕のことを知っているのだろう。

「私は、高島 礼。青道高校でスカウトをやっているの」

 女性は、ポケットから名刺を出して見せてくる。

 青道高校といえば東京の名門じゃないか。何年かは甲子園に行けていないけれど、打力は全国屈指。でも、投手力に難ありという高校だ。

「そうですか……というか中入ってきたらどうですか?監督には伝えておきますので」

 網越しに話しているというのもおかしなものだ、僕はそう促すと、監督に伝えに行った。

「高島さんという方が来ているのですが」

「ああ、話は聞いているよ」

 話聞いてるなら早く言えや。僕はそう思う。心臓に悪い。

 少しして、高嶋さんが僕たちと合流した。監督はグラウンドにいる選手たちに気にしないようにと大声で言った。

「改めまして。私は青道高校野球部、高島 礼です。今日は、船見 海人君、新田 高貴君をスカウトしに来ました」

 この出会いが、これから先の運命を変えることになるとは思わなかった。

 



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家族会議

舩見君は、左投げ左打ちです。


「ただいまー」

 玄関を開けると、肉じゃがのいいにおいがする。

 あれから、少し話して、高島さんがうちにお邪魔することになった。少し余裕をもって連絡をしておいたので、いつもよりは玄関が少しきれいだった。

「お帰りなさい、海人。それで、そちら様が高島さん?」

 キッチンからひょこっと顔を出したお母さんが言ってくる。お客さんの前なのに全くこの母は。

「初めまして。夜分にすみません。青道高校野球部高島 礼と申します」

「あらさら、ご丁寧にすみません。上がってください」

 僕は、先に靴を脱いで高島さんをリビングに案内した。

「あれ、お兄ちゃん。お帰り。あれ? そのきれいな方は?」

「ただいま、美沙。お母さんには言っておいたんだけど、高島さん。これから少し話があるから」

 リビングの扉を開けると、くつろいでテレビを見ている妹の美沙がいた。美沙は、部活をしていないが、クラブチームで新体操をやっている。

「あら、すっごくきれいな妹さんね。やっぱり遺伝するのかしら」

 高島さんが小さく耳打ちしてきた。そんなことありませんといって、ソファーに腰かけてもらう。美沙には部屋に行ってもらうように言った。

 少ししてから、母と帰宅した父が集まって話し合いが始まった。

 高島さんはしっかりと僕のことを見ていた。

「海人君の活躍は2年生のころから知っております。1年生のころから抜群のピッチングセンス、マウンド度胸。正直言って、中学生レベルではありません。それに、打者としても、たぐいまれなる実力があって」

 高島さんは、口を開くなり、僕のことを大絶賛してきた。スカウトとしてはお決まりなのかもしれないが、むずがゆさを忘れることはない。

 今年になってたくさんのスカウトの人と話してきたが、どれも3年のころだけに目を向けたものだった。しかし、高島さんはずっと見ていてくれた。すこしだけ、話を聞いてみようかという気になる。

 それからも、高島さんは褒め続けた。両親も満足なのか、顔のにやけを止められない様子だ。

「海人君」

 急に真剣な顔で僕のほうを高島さんが向いた。その目には、魂が宿っている気がした。

「私は、あなたの背中に真のエースを見た気がしたの」

 僕が真のエース。胸の中で何かが爆発したのが分かった。

「弱い高校じゃ完成しない未完の大器。でも、うちの高校で高いレベルで磨き上げればどこまでもいける。最高のエースになれる。そして、てっぺんを見ることができる」

 最高のエースとして、仲間とてっぺんを見れるか。そんなところで野球をしたいな。

「うちの高校で野球をしない?」

「でも」

 行きたい。でも、それは僕だけじゃ決められない。お金を払ったりするのは親だ。僕は、両親に目を向けた。

「海人が好きなようにしなさい」

「そうよ。行きたいなら行けばいいじゃない。お母さんたちは応援してる」

 優しい目をした両親が言ってくれた。今まで迷惑かけ続けて、また。でも、期待されてるんだ。答えないといけないな。

「高島さん。僕は、青道に行きたいです」

「その言葉を待っていたわ」

 高島さんは笑顔になった。そこからは、資料を使ってもろもろの話をした。特待生制度で、いくらかは免除になるらしい。

 パンフレットに乗っていた野球部の設備に目を輝かせてしまった。最新の機器、2面あるグラウンド、そして食堂や室内練習場。どれも、最高な環境のような気がした。

「一度、練習を見に来ない?」

 それを見ていた高島さんが問いかけてくる。なぜか、恥ずかしかった。子供な自分を見られているようで。でも、その好奇心には勝つことはできなかった。僕は、高速で頭を縦に振った。

「それじゃあ、土曜日に手配しておくわ。予定は大丈夫?」

「はい」

 土曜は何もない。こうして、僕は青道に見学に行くことになった。

 




原作は読んでるのですが、あんまり頭に入ってないです。崩壊というか、わかってないかもしれないので、温かい目で読んでいただきたいです。


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初上陸

あのシーンです


「うえ、遠かった」

「そりゃあ、浦賀からは2時間かかるし仕方ないよ」

 電車から降りた僕と高貴はため息をついた。始発に乗っても、つく時間は8時前。高島さんとの約束は8時半だったので間に合ったからよいとしよう。

「それにしても、人多いな」

「そうだね」

 歩いて待ち合わせ場所に向かう。人混みが邪魔くさい。

「あれ、高島さん?」

「早くない? 急ごう海人」

 遠目に高島さんを見つけた。遠くから見てもわかるほどの美貌。女にあまり興味のない僕にもわかるのだからよっぽどだ。

「二人とも、長旅お疲れ様」

「ありがとうございます。それで、そこにいるのは」

 高島さんは笑顔で迎えてくれた。でも、そのことより、隣にいる一人の男に目がいった。

「彼もあなたたちと一緒に練習見学するのよ」

「へぇ」

 ということは、野球推薦の人なんだな。あれ、でも、全国じゃ見たことないな。

「僕は、舩見 海人。浦賀浜中で、ピッチャーやってました」

 とりあえず、挨拶をしておく。隣にいた高貴も僕に続いてあいさつをした。

「わはは、海人と高貴か! 俺は、長野から来た沢村 栄純だ! よろしくな」

 あ、ばかっぽい。なんとなくそう思った。栄純は、左手を差し出してきた。僕もその左手を握り返した。栄純は子供っぽい笑顔を浮かべた。

「それじゃ、いくわよ」

 高島さんがそういったところで、親睦会は終わった。

 初めていく青道高校に胸を躍らせていた僕は自然と笑顔になっていて、高貴からは肘打ちされて、栄純には変な顔といわれた。

 グラウンドに近づくにつれて、中から大きな掛け声が聞こえるようになってくる。ああ、野球をやっているな。

「うわ、なんだこのマシン」

 設備を見せてもらっている時に沢村が言った。僕も見たことないマシンをみて驚いていた。そのたびに、高島さんは丁寧に説明してた。

 そして、一通り終えたところで、グラウンドにお邪魔することになった。打撃特化のチームの打撃練習。見てみたい。

 とてつもない音がして、白球がピンポン玉のように飛んでいった。思わず、僕は笑ってしまった。隣の高貴も笑っていた。でも、あの腹はないよな。

 次の瞬間、その笑顔は消えることになる。

 汚い言葉に僕は思わず耳を塞いでしまった。聞きたくない。沢村が、応答したが、耳をふさいだ僕は聞き取ることができなかった。

 東さん。プロ注目のスラッガー。その人が、ずんずんと沢村のもとに近づいてきた。お互い、額をつけてにらみ合っている。

「めんどくさ」

「あ?」

 やばい。口から出てしまっていた。おそらく、このまま沢村が投げれば一瞬にして白球は空のかなたに消えるだろう。それじゃあ、何もなくなる。

「東さん」

「なんや?」

 東さんは、矛先を僕に向けてきた。

「僕と勝負しませんか?」

「ええ度胸や。はよ、マウンドに登れや」

 

 

 




少しオリジナル展開にします


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