拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。 (翠晶 秋)
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狂った世界

「あっ、ハエ」

「うそっ!?どこどこ!?」

 

誰もが学校で体験したことがあるだろう。

教室にハエが入ってきて、授業そっちのけでハエを追い払うのに徹する事を。

だが、みんなの、俺の周りは反応が違う。

 

「ハエ様~!こっちへ、こっちへ来てくださ~い!」

「いいなぁ、俺もハエに生まれたかったなぁ!」

 

みんながハエを崇めている。

それも、昔のアイドル並に。

誰もが席を立ち、少しでもハエに近づけるように手を伸ばす。

 

「お前らやめろ!ハエ様に迷惑だろうが!」

「そうだぞみんな!見ろ、表都(ひょうと)君を!じっと席にすわってるじゃないか!」

「委員長人の事言えてないっすよ」

 

(表都)の名前を出されたので、とりあえずそう答えておく。

少年全員がハエに憧れ、少女全員がハエに恋い焦がれる。

ある日を境に、そうなってしまった。

俺が病気(多分風邪だろう)で倒れて、学校に行かなかったその日を境に。

空から大量のハエが進行してきて、その日から皆がおかしくなった。

たかだか、ハエ一匹に。

あの日の前は、嫌っていたハエに。

 

「やめろ!ハエ様に嫌われても知らんぞ!」

「「「「はぁ~い」」」」

 

先生が渇を入れ、みんなを席に座らせるが、未だみんなの頭はハエでいっぱいだ。

ハエの羽音がする度に、シャーペンがカタカタと震えている。

くそったれが。

内心でそう悪態をつく。

ニュースを見ても、やれ『ハエの発情期』だの、やれ『ハエ主演の映画が放送開始』だのとほざいている。

テレビショッピングでは『ハエの抱き枕』や『ハエの模様の服』などが売られており、バブル世紀よりも酷いことになっている。

学校の授業が終われば、未だ居座るハエの元にかけより、弁当を献上したりだとか、褒めちぎったりしている。

やってられないとカバンをもって外に出る。

この高校、もともとは由緒正しい高校だったのに、見てホラこの制服、校章がハエのシルエット。

なにもかもがハエ、ハエ、ハエ…。

おかしくなりそうだ。

 

「おい見ろ!ハエ様だ!」

「きゃーっ!ハエ様よーっ!こっち向いてー!」

 

俺はハエが好きなわけではないので、ハエが来たと言われるとビクッとなってしまう。

なんとか反応しないように家路につこうとすると、目の前をダンディーなおっさんがふさいだ。

 

「…あの」

「話がある」

「…はい?」

「さっき、アレが出たと言われたとき、お前さんの目には喜色が無かった。もしかして、お前さんは【常識のある人間】なんじゃないかと思ってな」

 

おっさんはハエの飛んでいる方向をチラリと見ると、少し顔を歪める。

…この人、もしかして。

 

「…聞きましょう」

 

俺と同じ、ハエの洗脳にかかってない人なのかもしれない。



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【常識人】

 

おっさんに連れてこられたのは、地下のとあるバー。

 

「俺、未成年なんですけど」

「酒が飲めないだけでバーに来ることは禁止されてねぇだろ」

「ううん、禁止されてるんだけどなぁ…。何年前の価値観なんだろ」

 

やがておっさんが扉を開けると、老若男女、様々な人が集まっていた。

扉が開かれた事で、その人達の注目が俺に集まる。

 

「おらよ、新入りだ。新しい常識人を見つけたぜ」

 

おっさんがぶっきらぼうに言い、カウンターの人に何か注文をした。

カウンターの人…このバーのマスターは、チラリと俺を見ると、口を開いた。

 

「…あなたは、この世界をどう思いますか?」

 

その言葉に、深みを感じた。

だから俺はこう答える。

 

「狂ってる。あんなモノに惑わされるなんて、人としてどうかしてる」

「…合格です。どうかしてる、は言い過ぎかもしれませんが、この言葉の意味を理解できただけで充分です」

 

次に口を開いたのは、初老の男性だった。

 

「あんたは、あれに抗いたいと思うか?」

「当たり前だろ」

「…ふむ、合格だ」

 

男性が髭を弄くりだしたところで、ハイハイと手があがる。

そこにいたのは、年齢は俺と同じくらいだろうか、女の子がいた。

 

「今の世の中を見て、君はどう思った?」

「それマスターが聞いてなかったっけ…。もう一度言うけど、狂ってるよ、この世界は」

「んふー、合格!」

 

さっきからなんのテストを受けているんだ…と思っていると、ふいに制服の袖がちょんちょんと引っ張られた。

視線を落とせば、小学二年生くらいの女の子の姿が。

 

「お兄ちゃんって呼んでい?」

「…お好きにどうぞ」

 

もしかしたらこのバーも狂ってるのかもしれない、そう思った俺は悪くないと思う。

 

「んでお前さん、ここに連れて来た理由だが…」

「この世に蔓延るハエを駆除して欲しいのだ!」

「おい。俺のセリフ取るなよバカ」

 

絶体話が進まないので、俺から話を進めることにした。

 

「駆除って?」

「見ての通り、コイツらはハエに洗脳されていない」

「…私たちは、洗脳にかかっていない人を、【常識人】と呼ぶことにしました」

「それで、俺達は考えた。せっかく洗脳にかかっていないんだ、常識人でハエを殺して行けば周りの常識も元に戻るんじゃないかってな」

「それでー、今までハエを倒して来たんだけど、さすがに人手が足りなくて!」

「たまたま見つけた常識人のお前さんを、引き入れようってワケだ」

 

つまりは、『俺たちと害虫駆使しねぇか?』ってことか。

願ったり叶ったりだ。

こんなチャンス、二度とない。

 

「じゃあ、お願いします。俺を、皆さんの仲間に入れてください」

「おおうっ、二つ返事!すごいよゴブさん!」

「だれがゴブさんだ。俺は古部(ふるべ)だっての…」

「…ありがとうございます」

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

こうして、俺はこの組織の一員、【常識人】としてハエと戦う事になるのだった。

 



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自己紹介

 

「よし、そうと決まれば武器だな、武器!」

「武器、ですか?」

「…そうです。私たちが戦っている(ハエ)は日常で見る大きさとは異なります」

「…ふむ、映像を見た方が良いかもしれんの。おい古部(ふるべ)、俺の戦闘資料があったろう。そいつをだしてくれ」

「おいおいじいさん、それ管理してるのは未夢(みゆ)だぜ?」

 

俺の前で、映画のような会話が盛り上がっていく。

未夢…きっと目の前の女子高生だろう、そう思っていると、足元から声があがった。

 

「わかった」

「…!?」

 

え!?こんなちっこいのが映像の管理なんかしてんの!?

ま、まぁ、最近の若い子は機械慣れしてるからな。

おっさんが管理するよか、そっちの方が良いかもしれんが…。

 

「あった。再生する」

 

カチリ、音がし、バーにあるテレビはその映像を映し始めた。

映っているのはじいさんと大きなハエ。

ずいぶんとでかいな。

大人一人呑み込めそうだ────ってえぇ!?

でかっ!!

超でかっ!!

 

樫牙(かしが)流剣術、(ほむら)の舞』

『ピチッ。ピチャッ』

 

んでもってハエの声気持ち悪ぃ!

と、俺が顔をしかめていると、画面のなかのじいさんは何もないところで腰の直刀を抜き、空を斬った。

なにしてんだじいさん…老眼か?そう思っていたとき…。

 

 

ズバアッ!!

 

 

画面内のハエは八つにカットされた。

じいさんがチン、と刀をしまったところで、映像が終わる。

俺の口から出た言葉と言えば。

 

「えぇ…」

 

いろんな意味を含めた『えぇ…』だった。

落ち着け、冷静になろう。

まず、じいさんが刀で何もないところを斬った。

そしたら、ハエがバラバラになった。

…意味わかんねぇよボケッ!!!!!

 

「…ふむ。まだ速さが足りないのう」

「速さ!?速さってなんぞ!?」

「なんだ、見てわからなかったのかえ?ちょっとまってろ…」

 

じいさんはもう一度映像を再生し、刀を振った辺りで映像を止める。

 

「ほれ、見てみい」

「…あ、なんか白いのがハエに向かってる」

「【斬激を飛ばす】…聞いたことないか?」

「知っててもできねぇしわかんねぇよ!」

 

一言で言って超人だった。

常識人ってなんだろうね、HAHAHA。

 

「まぁ、これでわかったろう?お前さんにも武器が必要だ。…まぁじいさんはちと異常だが…」

「だよね、良かった皆こんなんじゃなくて」

「あれ?俺、悪口言われてないかの?」

「まぁーとにかく!自分にピッタリな武器を探そうよ!えーと…」

 

女の子が言葉に詰まる。

あぁ、自己紹介がまだだったか。

来てからがショッキングすぎて忘れたわ。

 

「俺の名前は渡瓶(とがめ) 表都(ひょうと)

樫牙(かしが) 琴蔵(ごんぞう)。ネームは【じいさん】」

新立(にいだち) 日張(ひばり)。ネームは【ヒバリ】だよー」

 

え、何、【ネーム】って。

二つ名的な?

 

古部(ふるべ) 将慈(しょうじ)。ネーム、【コブ】。ヒバリにはゴブって呼ばれてるがな」

芦亜(あしあ) 未夢(みゆ)。ねーむは【アシア】」

「…最後に、小鳥遊(たかなし) (ひじり)です。【マスター】のネームを持っています」

 

う、うおう。

小鳥遊さんのからして、絶体にネームって通り名だろ。

アダ名とかそんなノリだろ。

 

「え、ええと」

「俺らのことはネームで読んでかまわん」

「別に、ネームってもそこまで名前隠れてないしねー」

「なら何故作った!?」

「んなこと良いから、さっさと武器決めんぞ。裏にこい」

 

そう言って古部さんはカウンターの裏にまわっていってしまった。

 

「ほれ、行ってこんか」

「大丈夫、なんも怖いことないから!」

「え、えぇ…?」

 

そんなわけで、俺は樫牙さんと新立さんに物理的に背中を押され、カウンターの裏のドアに押し込まれるのだった。

 



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愛銃【フェザー】

 

通されたのは射撃場。

いつか見たダーツ場のように的がずらりとならび、机の上には様々な種類の銃器が置かれている。

 

「おし、撃ってみろ」

「いきなりすぎやしませんかねぇ!?」

「何事も経験だ」

「経験って言葉の意味間違えてません!?」

 

古部さんはため息を一つつくと、机の上の拳銃に手を伸ばした。

それを俺に渡し、説明を始める。

 

「銃を買うのは本来は違法なんでな、作った」

「作った!?」

「アシアと俺がな」

「あのちっこいのが…!?」

 

古部さんは机の上からライフルを掴み、的に向かって構える。

古部さんが引き金を引けば、カキャンという音と共に的に穴が空いた。

 

「こんな感じな、やってみろ」

「こんな感じなって…。始めてなんすけど」

「何事も経験だ」

「ソレ使い回してません!?」

 

不安ながらも手に持った銃を構える。

どんな風にやれば良いのかはわからないので、とりあえず刑事ドラマで見た構え方。

照準を合わせ、引き金を引く。

すると、目の前の的に火花が散り、穴が空いた。

特殊な構造をしているのか、反動は無い。

 

「筋は良いじゃねぇか。じゃあ次はマシンガンな」

「ハイスピードっすね…」

「何事も経験だ」

「もうツッコむ気力が無いです」

 

素直に銃器を受け取り、俺はしばらく試射を続けたのだった。

 

 

「おし、終わりだ」

「やっと、終わり、ですか」

「おいおい、そんなんでヘばってどうするんだ?これからハエと戦うんだぞ?」

 

…そうだ。

俺は、この世界の常識を取り戻さないといけないんだ。

 

「いい顔になったじゃねぇか。じゃ、結果発表に移るぜ。お前が良く撃てたのはスナイパーライフルとマグナムだ。お前のメインには、取り回しの良いマグナムだろうな」

 

マグナムってのは、ピストルの高威力バージョンだ、と古部さんが付け足す。

 

「マグナム、ですか。ありがとうございます」

「二万円だ」

「やっぱ金は取るんスね」

「当たり前だ。これでも良心価格だぜ?」

 

相場はわからないが、本来なら買った側が負うはずの責任を一緒に背負ってくれる。

それもそうか、と納得して財布からお札を二枚渡す。

ホルスターに仕舞われたマグナムが返って来る。

 

「今まで誰もマグナムは使ってなかったんでな、ソイツの名前は【マグナムβ】だったんだが、どうだ?いっそのこと、名前とかつけてみろよ」

「へ?名前?」

「そうだ。銃にだって名前はある。有名なマグナムだと【コルト・パイソン】とかな」

 

マグナムに名前…。

どうせなら呼びやすくて愛着のある名前がいいな…。

そんな事を考えていると、マグナムの端に羽のマークがあることにきづいた。

羽、羽か。

 

「決めました。【フェザー】。こいつは今からフェザーです」

「いい名前じゃねえか。よし、帰るぜ。スナイパーライフルはまた今度だ」

 

そういって笑う古部さんに押され、俺はバーに戻ることになった。

 



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アシアの実力

「おっかえりー…お?しっかり相棒を見つけたみたいだね!ねぇゴブさん、これなにー?」

「マグナムだ。名前は【フェザー】」

 

フェザーという名前に反応した未夢…アシアがとてとてとこちらへやってくる。

 

「…良い名前をありがとう」

「君が作ったってのは、本当だったのね…」

「未夢の図工や家庭科の評価は5か4らしいからな」

「えげつねぇですね!?」

「粘土を使う授業にはコロッセオを作ったらしい」

「それ粘土足りるの!?てかなにげにすげぇ!」

 

粘土でコロッセオて…。

しかし、図工や家庭科の評価が5なだけで、銃を作れたりする物なんだろうか?

それを聞いてみると、古部さんはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そこはもう、俺の知識をアシアに叩き込んだ。お陰で未夢も立派な銃職人だぜ?」

「子供に危ないものを作らせないでください」

「うぐっ…」

 

当たり前だろ、こんな小さい子に何てもの教えてんだ。

 

「全く、古部は変わらんのう」

「じいさん…いやでもよ、未夢が教えて欲しいって言ったんだぜ?」

「ねぇねぇアシアちゃん、もしかして私のもアシアちゃんが作った物だったりする?」

「ん。ロケットミサイルは苦労した」

 

うわぁ、ダメだこの子、早くなんとかしないと。

戦争に使える兵器をゴム鉄砲感覚で作ってやがる。

 

「未夢ちゃん、これからは樫牙さんに許可をとってから銃を作ろうか」

「…?どうして?」

「こわーい人が未夢ちゃんを連れてっちゃうからね」

 

軍に引き抜かれるレベルだよ、これ。

…ってかなんで古部さんは銃の作り方知ってんだよ。

 

「とにかく!よかったね、表都くん!それが君の相棒(バディ)だ!」

「…これから先、あなたはフェザーに助けられる事が多いでしょう。ですから忘れないでください、あなたとフェザーは一心同体です。銃は乱暴に扱ってはいけませんよ」

「わかりました。よろしくな、フェザー?」

 

ホルスターの上からフェザーを撫でる。

冷たい銃身が、俺の決意を固くした。

 

「まずは、戦場に行ってみないと実力はわからんな。こればかりは国が隙を作るのを待つしか無いが…」

「【常識人】はここにいるだけじゃねぇ。世界各地に散らばり、それぞれハエを抹殺している」

「…もちろん、日本にだって私たち以外にも【常識人】はいます」

「その人達が、どこどこが空いてる、どこどこにハエが出現って、教えてくれるんだよ」

「…ん。実戦投入」

 

実戦投入。

その響きが俺を緊張させる。

ここでハエを殺せば、俺はもう後に引けなくなる。

怖くはなかった。

まだ実物(ハエ)とは対峙していないのだから、当たり前だ。

ふいに、カウンターの黒電話が鳴り出す。

新立さんが受話器をとった。

 

「はい。バー、『アルカトゥーレ』です…あ、うん、私。え?…!わかった。すぐに行くよ」

 

話の途中で急に真面目な顔になった新立さんは、受話器を置くと俺達に顔を向けて言い放った。

 

「ちょうど良いところに、仕事(殺戮)の時間だよ」

「おうっ!」

「ああ」

「…はい」

「ん!」

 

 

 

「…!はい!お願いしますっ!」

 

 

 



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実戦投入

 

ブロロロロ…と車が走る。

ハエの出現した場所に向かうため。

アシアちゃんは危ないからお留守番、この車に乗っているのはアシア以外のメンバーだ。

 

「そろそろだぜ」

「やっとかね!待ちわびたよゴブさん!」

「ゴブじゃねぇ、コブだ」

 

ヒバリ(新立)さんが元気そうに声をあげ、コブ(古部)さんがそれに反応する。

じいさん(樫牙さん)は目を閉じて集中し、マスター(小鳥遊さん)はなにやら瓶を磨いていた。

 

「いよいよ、ですか」

「…はい。まさかチームに入って初日で実戦とは、私も思いませんでした」

「変に考えるな。目の前のハエを殺す、それだけだ」

「おいっ、ついたぞ」

 

キャルルル、と音がし、車体が急停止する。

ついたのは広い平野。

こんなところがあったとは。

しかし、外に出てもハエの姿は見当たらない。

 

「いないんてすけど」

「アイツらは潜伏する。そこで、囮を出すんだが…」

「いっつも私もなんだよねー。女だから仕方ないとは思うけど…」

 

一人、ヒバリさんは俺達から離れる。

そして、両手を広げて大声で叫んだ。

 

「ハエさぁぁぁぁん!!どこぉぉぉぉぉ!」

 

平野に響くヒバリさんの声。

しばらく待つと…

 

「ピチッ。ギチチッ」

「うっわ何あれ気持ち悪ッ!!」

 

いつもの数倍の大きさのハエが出てきた。

口と思われる部分からは白い粘液(よだれ)が垂れている。

もう一度言おう。

 

「うっわ何あれ気持ち悪ッ!!」

「ヒバリ!戻ってこい!」

「合点承知!」

 

ヒバリさんが全速力で戻ってくる。

それを追うように、ハエが羽を羽ばたかせてこちらへやって来た。

と、後ろのコブさんがどこからかサブマシンガンを取りだし、ハエに照準を定めた。

ヒバリさんが速度はそのままに、横になってごろごろと転がる。

そしてその上を…

 

ズダダダダダダダダダッ!!

 

弾丸の線が通過した。

ハエの頭が撃ち抜かれ、緑の液体が飛び散る。

もう一度だけ、もう一度だけ言わせてくれ。

 

「うっわ何あれ気持ち悪ッ!!」

「お前それしか言ってねえな!?正気に戻れ!アイツらの血の臭いは近くの同族(ハエ)を寄せ集める!」

「えっ、あっ、ハイ!」

 

慌ててホルスターからマグナムの【フェザー】を取りだし、警戒体勢。

コブさんたちは、ヒバリさんを守るように並んでいる。

一拍。

ブブ、とどこかで音がした。

 

「そこだッ!!」

 

草むらに弾丸を打ち込むと、『ビチャアっ』という音と共に緑の液体が飛び散った。

 

「おっ、やるじゃねえか」

「すげぇ!やっるー!」

「は、はい…」

 

銃を持つ手が震えている。

ハンマーをなんとか引き、弾のセット。

マグナムは最大で六発しか撃てず、さらに【フェザー】は自動装填されないタイプだ。

 

「さてファーストキルは上げたことだし、私たちの番だね!」

「さあ、ド派手に行こうぜ!」

 

そこからは、蹂躙が始まった。

 

「今日の天気!晴れときどき銃弾!」

 

コブさんが両手にサブマシンガンを持ち、数々のハエを撃ち抜いた。

 

「…消え失せろ」

 

じいさんが刀を抜けば、一直線上のハエは次々にカットされていった。

 

「…私たちの世界を返しなさい」

 

マスターは両手の指の間に火炎瓶を持ち、ハエを燃やしていった。

 

「ぶちかませマイ相棒(バディ)フライ(ハエ)ハァァァァァイ!!」

 

ヒバリさんは腰に展開式の箱を装備し、打ち上げられるホーミングロケットミサイルでハエを爆散させた。

 

「す、すごい…」 

 

みんなのやり方はとても美しかった。

効率的に、それでも自らの思念を込めてハエを殺している。

蹂躙が終わった頃には、おびただしい数の死体が出来上がった。

その死体もマスターが焼き払い、結局俺の成果は一匹だけ。

 

「よし、帰るか」

「ふーっ、楽しかったぁ!」

「……」

「まだまだ、動けるのぅ」

 

 

すっきりした顔で笑うみんなの顔は狂気を感じた。

 



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変わらない日常

 

もうハエの姿はないということで、帰ることになった。

そのまま解散し、家に帰って、しっかり寝た。

疲れていたんだな、震えているはずなのに横になったとたんに眠ってしまった。

朝起きて、パンを食べて、ニュースを見る。

 

『人気ゲーム【ファエナルファンタジー】の最新作が────』

 

ファエナルファンタジー。略してFF(えふえふ)である。

なんだよファエナルって。しかも最新っておかしいよね、ファイナルのファンタジーのはずなのに。

あいも変わらず、みんなハエを信仰している。

歯をみがいて、制服に袖を通す。

袖のボタンにハエのシルエット。

これも変わらない。

両親に行ってきますと挨拶を告げて、通学路から学校に向かう。

どこもかしこも『ハエ』という単語しかない。

学校に着いたって、みんなはハエの事ばかり話している。

なんだよハエのバンドのニューシングルって。ハエ語とかわかんねぇよ、消えろよ。

微妙な顔で顔で眺めていると、俺の顔に陰がさした。

 

「おはよう、表都君」

「…入裏」

 

入裏(いりうら) 繭由(まゆ)

昔っからの幼馴染みで、幼稚園から高校まで、同じところに入っていた。

もちろん繭由もハエ常識になっており、ときおりいとおしそうにスマホケースに貼ってあるハエの写真を撫でる。

呪われそうである。

 

「どした?」

「んーん。表都君、いつもより元気ないなって」

「そうかね?別にいつもどおりだと思うけど」

「ふふふ。まぁ、別に私が気にすることでもないかな」

 

ショートの髪が揺れ、俺の前から離れる。

ああもうホンット、ハエ信者じゃなければすごく可愛いのに。

そうして授業ははじまる。

いつも通りに。

なにも変わらない、()()()の日常。

放課後がくれば、みんなが散り散りになっていく。

生物のピラミッドの頂点にハエがいること以外、あの日以前と全く変わらない。

 

「じゃあね、表都君」

「…あぁ。じゃあな」

 

でも、常識は変わってしまった。否、替わってしまった。

常識が替わっているからこそ、みんなはハエの異常性に気づかない、気づけない。

学校から出て、例の場所へと向かう。

もっと。

もっとだ。

楽しかったあの日々を取り戻すためには、もっとハエを殺さないといけない。

それがどれだけ遠かろうと。

それがどれだけ(イバラ)の道であろうと。

諦めない。

 

「…この世界を、取り戻すために」

 

グッと握った拳に、決意がこもる。

今日はお金を引き出して来た。

もうひとつの俺に合った武器を買うためだ。

行動を開始するために、俺は─────



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長銃【スカイライナー】

 

バンッ!!

 

「銃を買いに来たぜぇ!」

「うるせぇ静かに来い、静かに!」

 

店のドアを勢いよく開け、ウイスキーを飲んでいた古部さんに怒られた。

マスターはビクッ(゜ロ゜)って顔をしてこっちを見つめ、アシアちゃんはいつも通りの無表情である。

 

「銃って、なに?」

「この前に銃を選んだとき、フェザー以外にもよく扱える銃があったんだよ。灰色っぽいスナイパーライフルなんだけど」

「ん。わかった、もってくる」

 

アシアちゃんがとてとてと裏に回っている間、俺はコブさんに話を聴くことにした。

 

「コブさんコブさん」

「…なんだ、お前もヒバリみたいになりやがって…。かふぇらて?なら奢らねぇぞ」

「いつもカフェラテ奢らされてるんすね。まあ、それはどうでもいいんですけど」

「オイ」

「フェザーの事なんですけど、弾ってどうすればいいんですかね」

「あ?弾?」

「そうです。銃弾はいくらで買えるんですかね、そして今回のスナイパーライフルの銃弾の値段も」

 

コブさんはふう、と息をつき、どや顔で言った。

 

「ウチの銃は弾が共通なんだ。ヒバリみたいなでかいタイプは別だが、ライフル、マグナム、マシンガン、etc…全部同じ弾で撃てる。価格もそれなりに安く撃ってやろう」

「おおっ!ホントですか!?」

「ウソついて何になるんだ」

 

そんな話をしていると、アシアちゃんが戻ってきた。

流線型の近未来的な長銃を抱えてらっしゃる。

 

「…ん。これがそう?」

「そうそう、このハンディ掃除機見たいな流線型の形!いくら?」

「は、ハンディ掃除機…。えと、はいこれ」

 

せっかく作った銃をハンディ掃除機呼ばわりされたことにアシアちゃんがショックを抱いたが、素早く気をとりなおしてこちらに電卓を見せてきた。

充分に買える値段だったので即決、現金で銃弾セットで購入した。

 

「…ねぇねぇ」

「ん?なにかな、アシアちゃん」

「…この子に、名前つけてあげて」

「無いの?この銃」

「一応、【スナイパーライフルΣ(シグマ)】。けど、私のセンスじゃどうにもならない」

 

フェザーの時もそうだったが、この名前のセンスはアシアちゃんからか。

俺は顎に手を当ててしばらく黙る。

スナイパーライフル、狙撃、フェザー、空…あ!

 

「決めた。【スカイライナー】」

「スカイ、ライナー?」

「そう。空に一直線を描くような銃弾をとばす。そんなイメージだったんだけど…」

「…!気に入った。ありがとっ!!」

 

今回もネーミングは気に入ってもらえたようだ。

さて、武器は整った。

今日の夜辺り、()()をしますか────



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闇に忍び、影に消える

夜の町をひた走る。

腕の中には今日買ったばかりの【スカイライナー】がある。弾も入っている、後はセーフティを外して引き金を引くだけ。

坂道にあるマンションの私有地に侵入し、坂下を覗く。

あそこの家はクラスメイトの家族がハエのために作った家だ。

明かりがついている。クラスメイトと『昨日は お楽しみ でしたね』をしているのだろう。

そのお陰、影でハエの位置がくっきりわかる。

ベッドに寝たクラスメイトに近寄ろうとしている。

スカイライナーのセーフティを外し、肉眼でハエを狙う。

くいっと引き金を引けば…

 

 

 

パァン

 

 

 

「キャ─────ッ!!!!!!」

「どうした、茜!?」

「ハエさん、ハエさんがぁ!!」

 

カーテン越しに液体が飛び散り、隣の家から人影がどやどやと押し入る。

俺はセーフティをつけ直し、崖状になっている段差から飛び降り、そのまま家に走った。

 

 

 

 

翌朝。

 

『昨晩深夜2時頃、ハエが何者かに銃で撃たれるという事件が発生しました。警察は…』

「物騒ですねえ、ハエ様が死んでしまうなんて」

「ああ。ウチにハエ様がいなくて助かったな」

「ちょっと祐一さん?失礼ですよ?」

「や、その…すまない」

 

あの後通報されたらしく、クラスメイトの家周りは黄色いテープやブルーシートで囲まれていた。

生徒にまで危険が及ぶ可能性があるということで、学校は休学。

俺が朝ごはんのパンをかじりながら今日の予定を考えていると、スマホが震動した。

メール───他のクラスメイトからだ。

 

『今日、ハエ様に告白する。遠くから見ててくれないかな』

 

心臓がぞくり、と嫌な音を立てて跳ねる。

仲が良かったクラスメイトだ。本来なら応援するのが定石だろう。

でも、俺は──────

 

『了解。ばっちり見守っててやるから、必ず成功させろよ』

 

嘘をつく(殺す)事にした。

 

 

 

 

「よっ」

表都(ひょうと)君。ちゃんと来てくれたんだね」

「当たり前だろ?」

「あはは、ありがとう。表都君が見てくれてるならなんでもできる気がするよ」

 

そりゃどうも、と茶化して離れる。

クラスメイトの告白する場所は公園、狙撃する場所は公園から離れたマンションの屋上。

クラスメイトと会う前に屋上にスカイライナーは置いてきた。

公園に向かうハエも確認済み。

成人男性一人と変わらない大きさだっのですぐに見つかり、わーキャー言われていた。

見立てではあと2分で公園につく。

確認してから時間もたつ、残りは1分と30秒と言ったところか。

それまでに、マンション屋上に張り付き、狙撃しなければ。

階段をかけあがり、屋上の扉を開ける。

あと1分。

布づつみをほどけば、流線型の近未来な形をしたスカイライナーが現れる。サイレンサーもつけた。

セーフティ解除、銃口をフェンスの外へ(あと30秒)

今、ハエはどこに─────見つけた(あと20秒)

しまった、クラスメイトがハエに気付いた。

ハエに向かって手を振っている(クラスメイトに接近するまであと10秒)

照準を合わせ(あと8秒)引き金に手をかけ(あと5秒)、そして人差し指に力を───(あと2秒───)

 

 

ピシュッ

 

 

つんざく悲鳴の中、スカイライナーを布でつつんで全力で階段を降りる。

 

「何があったっ!どうし…た…」

「ハエ様が…ハエ…様…」

 

クラスメイトの目の前に、脳天だけ貫かれて緑の液体を散らすハエが横たわっていた。

弾丸はあえて残す。昨日の事件の同一犯として見るだろう。

バーのみんなもそうしていた。

 

「しっかりしろって」

「うう…ああ…いやぁ…」

 

こんな場面で、中学生のときに演劇部に入ってよかったと思ってる俺は、そうとう残忍な性格なのだろう。

クラスメイトの肩に手を置くと、『一人にして』と振り払われた。

『そうか』と言い残し、その場を去る。

スカイライナーは今日の夜回収しよう。

まずは、この罪悪感に慣れなければ。



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謎の暗殺者(汗

 

火薬がはぜる音がする。

遠くには緑の液体にまみれたなにかとそれに駆け寄る女の姿。

いまだに震える腕を押さえながら、全力で家に走る。

最初のハエと合わせ、これで12匹は倒した。

順調だ。

前よりかは仮面を取り繕うのも上手くなってきた。

 

「さてと。そろそろ11時か。寝よねよ」

 

軽い言葉で平然を装い、ジョギングも兼ねて家に走る。

玄関の鍵は閉めてある。開けようとすると大きな音がするので、開けるのはよろしくない。

じゃあ、どうするのかって?

家の庭に回ると、そこにはベランダからロープが垂れている。

玉も作ってあるので比較的登りやすい。

 

「ハァッ…ハァッ…!」

 

それでも比較的登りやすいというだけで辛いには辛いんだけどね。  

なんとか部屋までたどりつき、ロープを回収。

ふいに、ポケットの中に振動を感じた。

 

「ん、着信?」

 

見れば、古部さんからだ。

明日、会合を開くらしい。

そうと決まれば、今日は寝よう。

と、その前にお風呂お風呂~♪

 

 

 

 

例のバーにて。

俺たちは自らの武装を持参していた。

 

「いいニュースと悪いニュース…っていっていいのかわからねえが、どっちがいい。良いニュースか、微妙なニュースか」

「えっと…じゃあ、いいニュースで」

 

おずおずと手を上げ、いいニュースからリクエストする。

リクエストを受けたコブさんは指をパチンとならした。

と、なにやらカウンターの奥から布の塊がやってきた。

この身長…アシアちゃんか!

 

「今回、アシアがお前らのコスチュームを作ってくれた」

「ええ!?わぁ、アシアちゃんすごーいっ!!」

「そのまえに…助けて…」

「家庭科の授業で作ったんだそうだ」

「え、助けていうてますけど。え、これ助けるべきなの?嬉しいけど」

 

よたよた、ふらふらとうごめく布の塊を持ち上げると、中からアシアちゃんがすぽんっ、と出てきた。

 

「あーっ、可愛かったのにー」

「む。ヒバリのだけ没収」

「すみませんでしたアシア様」

 

どうやら服であるらしいこれを分解、しっかり畳むとなるほど、ちゃんと全員分。

俺のは…

 

「ん。これ」

 

ほうほう、シックなコートと来ましたか。

内側にガンホルダーがついてる。

フェザーを入れるためのやつか。

 

「へぇーっ。すごい!可愛い!最高!」

「んふふ。はい、ますたー」

「…私の分まであるのですか?ありがとうございます」

「これも。じいさんの」

「ほほう。俺のこすちゅーむ、とな?」

 

にやにやしながらコスチュームを渡すアシアちゃんに癒されていると、ふいに古部さんが机をドン、と叩いた。

いきなりのことにその場に静寂が訪れる。

 

「コスチュームの鑑賞会は、後にしようや。それはいいニュースと関係ない」

「では、悪いニュースをお願いします」

「……最近、近辺で発見されるハエの数が極端に減っている」

「んぐッ」

 

オレンジジュースを吹き出しかけた。

俺じゃん。それ、俺じゃん。

そんな俺の内心を知らず、ヒバリさんはのんきに手をあげる。

 

「はいはーい。それ、いいことなんじゃないの?」

「いや、いいことにはいいことなんだが…目的がわからない。銃で殺されているようだし、ということは銃を作れる、もしくは手に入れられる環境にいる人物、ということだ。でも、俺のリストに正気を保っている軍の人間はいやしねえ。つまりは、俺たちの知らないところで、単独でハエに抵抗している人物がいるって事だ」

 

んんんんwwwww違うでござるwwwww

すべて拙者でござるよwwwww

そんなこと言えるはずもない。

必ず怒られる。

ハエ退治はリスクを伴う。

人に見られたらおしまい、かつその周囲にも被害が及ぶ。

よって、俺は仮面を被る。

 

「そんなやつが、いるんですね。できれば、ひきいれた方がいいのでは?」

「ああ、そうなんだがな…そいつは、狩場も時間も不定期なんだ。場所の特定のしようがない」

 

その日の課題を終わらせてから狩りに行くからだ。

 

「ニュース番組なんかをみると、最近ハエがよく殺されてるって話しか出てこないしよ」

「…ふむ…正体不明の暗殺者、ですか」

 

そんなビッグな存在じゃないです。

 

「でもなんか…憧れるよね。ハエに襲われそうになったところを、助けてもらう、みたいな」

「ん。ロマンチック」

 

そんな度胸ありません。

 

「ここまで殺って、尻尾を出さないところが良いのう。俺も、一目見てみたくなったわい」

 

だす尻尾がないです。

警察の庇護下で裏をかいて撃ってるだけです。

ああ、無情。

誤魔化すようにオレンジジュースを喉に流し込んでいると、急に店に電話が入る。

いつものようにヒバリさんが手に取り…

 

「みんな、出動だよ」

「応!!よし、すぐに行くぞ!」

「その前にッ!!」

 

出ようとしたコブさんをヒバリさんが声で止める。

 

 

「せっかくだから、コスチューム着ていこ?」

 

 



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コスチューム

 

アシアちゃん製のコスチュームは素晴らしいものだった。

黒いベンチコートは通気性がよく、さらに体の動きを阻害しない素材でできている。

ガンホルダーは黒い革で出来ていて、フェザーがすっぽりとはまった。

 

「わ~すご~い!かわい~!」

「おお、刀が隠れる造りになっているな」

「…デザインはそこまで変わらないのに、すごいですね」

「ん。んふふ」

 

アシアちゃんはうれしそうである。

急激に俺の心が癒されている中、「あっ」とコブさんが声を上げた。

 

「はよ現場に向かわないとハエが増えるぞ…!」

「「「「忘れてた!!!」」」」

 

 

 

 

到着した現場に現れたハエは、異様な姿をしていた。

いやまあ、デフォルトで成人男性一人分の大きさをしているから、デフォルトでも異様なんだけどね。

今回会ったハエは、六つの足に大きな()()がついていたのだ。

そう、(かま)。サイスである。

いや、普段のハエの足も鋭かったんだけど、研がれて、太陽の光をキラリと反射するその足は、どうみても鎌にしか見えない。

 

「とりあえず撃ちますね」

「おう」

 

引き金を引くと、いつも通り鉄の塊が飛び出し、目の前のハエに風穴を開ける。

はずなのだが。

 

「ソニックブームかようわわっ!」

「ちょっ、威力、威力おかしいよ!」

 

ハエは鎌を振り、衝撃波を飛ばしてきたのだ。

それはもう、いつか見たじいさんの斬撃ばりのを。

撃たれたことにお怒りのハエさん、ソニックブームを連発してくる。

その度土やらなにやらがまっぷたつにされるもんだから、たまったもんじゃない。

うわっ、今前髪切れた。

ひっしに避けていると、車からアシアちゃんが顔を出した。

アシアちゃんは視線をハエに注ぐと、ドアの向こうで何かパネルを操作しているようだ。

こんな時にゲームですか、呑気だなぁ!?

そう考えていると、不意に車のドアが開けられた。中から出てきたのはアシアちゃんのコスチュームカラーのロボット。

キャタピラ歩行で正面に(`□´)を映すソレは、一時期流行ったアレを思い出させた。

………イヤちょっと待て。

ロボット!?ロボットですか!?ついにアシアちゃんはロボットを作れる兵器工場になっちゃったんですかぁ!?

誰だよ、技術教えたの!

 

「お、戦闘ロボット【プロトろぼ】だな。ナイスなタイミングだぜ」

「アンタか!!!」

 

大体わかってたけども!

んで例に違わずネーミングセンスが皆無!

 

『モクヒョウ、ホソク。プレイヤー1、コネクト完了。戦闘ヲ開始シマス』

 

無機質な声。

取り出されるガトリングガン二丁。

乾いた笑いを浮かべながらしゃがむ俺に目もくれず、ロボットはその両手(?)のガトリングガンを乱射し始めた。

もちろん、ハエはソニックブームを飛ばすが、鋼のボディーに空気が勝てるはずもなく、もれなく蜂の巣にされてしまった。

 

『モクヒョウノ死ヲカクニン。戦闘ヲ終了シマス』

 

ガトリングガンから白煙を吹きながら無機質に言うその姿に、俺は言葉を失ってしまった。



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新たな敵

 

「……こいつ、なんなんですか?」

「ロボットだ」

「んなことはわかっちょる!」

「五体集まると巨大ロボットに変身するな」

「日曜の朝7時のやつじゃないですか!」

 

無言でそこに佇む機関銃を構えたロボット。

液晶には(´・ω・`)?と映されている。

そりゃ話は理解できんだろうね!

 

『現在のスーパー戦隊は朝8時から放送されます』

「どうでもいい情報ありがとう!」

 

なんでロボットが喋るんだ。

さっきまでカタコトだっただろ?

操縦アシアちゃんじゃないの?なんなの?

ジャーヴィスなの?

 

『自立AIが組み込まれているのでアシア様の指示がなくとも行動することができます』

「心読むんじゃねえ!」

『ボク、ソルトです』

「…………疲れてくる」

 

あれだろ?自立AIといえば胡椒を英語にしたやつ(ペ○パー)だろ?

だからソルト()ってか。

 

『本名は【プロトろぼ】…』

「もういい、お前黙れ」

『災害救助、治療、なんでもござれのあなた方の下部(しもべ)です』

「無駄に高性能だねぇ!!」

 

なんで俺はロボット相手にツッコミをいれているのだろう。

悲しくなってきたので今しがた倒したハエの死体に近づく。

ハエの手の先には、人の首など一跳ねしてしまいそうな大きさの、鋭利な鎌。

 

「…これで空を切り、ソニックブームを生み出したのでしょうね」

(ひじり)───あ、マスターさん」

「…危ないですね」

「へえー。かっこいいねえ」

 

ヒバリさんも横に座ってハエの鎌をつんつんする。

ふむ、新型だ。

こんなハエは見たことがない。

 

「新種ですかね」

「他の国の支部からはこんなハエ聞いたことがないのう」

 

じいさんも隣によってきて、鎌の部分を切り落とそうとする。

と、そのときだった。

 

「困るねえ、僕の同胞の死体をもてあそぶなんて」

「………っ!?」

「どこにおる!」

「みんな見てっ、上!」

 

ヒバリさんの声に上を見上げると、そこにいたのは全身を緑の鎧で包んだ謎の男。

こいつは人間じゃないな、空飛んでるもん。

拍手をしながら降りてきたその男は、俺たちの目の前に軽やかに着地する。

 

「はじめまして。僕はハエの王………の、幹部」

 

王じゃねえのかよ。

 

「矮小なる人間ども。僕の同胞の死体を弄ぶその意、万死に値する……なんちって」

「単刀直入に言うと?」

「死にたまえ」

「直入すぎだバカヤロウッ!!」

 

後ろで成り行きを見守っていたコブさんが吠えた。

 

「てめえらのせいで…っ!俺の恋人もっ、娘もっ!全部俺の前から消え去ったッ!!ただじゃすまねえぞ!!」

「おお、怖い怖い。で?他に意見は?」

「テメェコノオっ!!!!!」

 

両脇にはさんだサブマシンガンを男の眉間に構え、銃を連射するコブさん。

が、男は────

 

「これだけか?」

 

()()()()()()()()、銃弾全てを切り裂いた。

 

「なっ……」

「ぬるいぞ、人間」

「ごはっ!!」

「わっ」

「ぬっ」

「きゃっ」

 

そのままソニックブームを引き起こし、俺たちを風で吹き飛ばした。

揺らめく視界の中で、男は倒れたコブさんの頭に足を乗っける。

 

「ぐっ…」

「僕たちが僕たちの【玩具(おもちゃ)】で遊んで何が悪い?おお、この世界の同胞はかわいそうに。こんな人間に叩かれ、命を落とすなんて」

「このっ…世界の…?」

 

キザなポーズをとる男。

コブさんがかすれ声で質問すると、男はコブさんの頭にぐりぐりと足を押し付けた。

 

「そうさ。僕たちは空の向こう、宇宙から来たんだ」

「なん…だと…?」

「遠路はるばる、大気圏を突き抜け、洗脳電波まで飛ばして。君たちは僕らの【玩具(おもちゃ)】に選ばれた。光栄に思うといいよ」

「クソッ………貴様アアアアアアッ!!」

 

コブさんが絶叫する。

早く……助けにいかないと…体が、動かない………!!!

男は鎌をコブさんの首に添え、残酷な笑みを浮かべる。

 

「そうだな、君の首を跳ねる遊びをしよう。僕の突然変異、【腐り鎌(クサリガマ)】で殺されるんだ。感謝しながら朽ちるといい」

「クソッ………クッソぉぉぉぉおおおおお!」

 

男は鎌を振りかぶり、コブさんの首を───

 

 

 

 

 

 

キュイイイン、ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

「あだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!」

 

 

 

 

胸から、無数の弾を噴出した。

 

 

 

『目標ノ死ヲ確認』

「お前なんなの!?」

 

 




わあ…だいぶ投げやりだぁ…


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三天王……?

 

「くふ……まさか僕を倒すなんてね……」

 

緑の血を口から吐き、ハエの王様……の、幹部が地に倒れ伏す。

 

「せいぜい油断しているといい……僕は三天王の中でも最弱……」

「それ自分で言うのか。言ってて悲しくないか?」

「だいぶ……虚しい……」

 

俺の言葉に律儀に答えてくれるハエ。

ずっと苦しむのも地獄だろう、俺はフェザーを取り出してハエの頭にぐりぐりと押しつける。

 

「言い残すことは?」

「……申し訳ありません、ベルゼブブ様……」

 

ハエは胸の前で手を組み、そして俺に撃ち抜かれた。

 

「ベルゼブブって、なんなんでしょうか」

「知らねえ。けど、一つだけ分かる」

 

コブさんは肩を怒らせ、俺たちに背を向けて車に向かう。

 

「ソイツを、殺さなきゃいけねえって事だ」

「コブさん……」

 

俺はその頼もしい背中に叫ぶ。

 

「出撃前から思ってたんですけど、チャック開いてますよ!!」

「ばっ、おま、それ先に言えよ!!」

 

 

 

 

「お前なあ。どうしてこうもお前はシリアスをぶち壊すんだ」

「それはもう才能のレベルだからしょうがないと思います」

「ツッコミしてると思ったら今度はボケになるのか?なにか?オールラウンダーかお前は?」

「いやあ、照れますね!」

「褒めてねえよッ!」

 

はい、いつものバーで俺は正座で説教喰らってます。

ちなみに下には足つぼマッサージのアレが敷いてあるので、だいぶ痛い。

江戸時代の拷問かよって。

 

「お前、重り増やすぞ?」

「やれるものならやってみるがいい……。後悔するなよ?」

「よーし重り追加なー」

「スミマセンデシタ」

 

膝の上に弾丸等を作る際に使う鉄板が置いてある。

痛い、痛いよこのおちゃめダンディがよぉ。

 

「でもゴブさん、本当にベルゼブブってなんなんだろね?」

「ヒバリ。それ以上間違えるならお前もコイツと同じ刑に処すぞ」

「スミマセンデシタ。……いや、でも本当に。もしもそのベルゼブブがどこかからハエたちを召喚してるとしたら、中々に厄介だよ。忠誠を誓ってる相手らしいし、それに三天王とやらもあと二人いるんでしょ?」

 

俺は痛む脛を思いやりながら、コブさんを見る。

すっかり俺の事など忘れているコブさんは顎に手を当て、まだ見ぬ敵の事を考えているようだった。

 

「……とりあえずみなさん、飲み物をどうぞ」

「ん。こーひーぶれいく」

 

アシアちゃんは手にオレンジサイダーを持ち、ストローで俺の口に運んでくれる。

鉄板降ろしてくれるわけじゃないのね。

 

「んごく……なあコブさんやあ」

「んだよ」

「娘と奥さんになんかあったの?叫んでたっしょ」

「…………」

 

あれ。地雷踏み抜いたか。

と思ったが、コブさんはなんとかその重い口を開いてくれる。

 

「嫁はあの日から、毎日のようにハエに犯された。あいつもソレを受け入れていた。娘は……。いきなり俺の目の前に現れて、コイツが好きだとハエを紹介してきた。それだけならまだ耐えられるんだが……。あろうことか、あいつらは玄関先でヤり始めたんだ」

 

重ッ…………。

しかしそうか、コブさんにはそんな過去が……。

 

「……すまん、茶がまずくなっちまうよな。忘れてくれ」

「……コブさん。あなたがハエとの戦いに躍起になっている理由はわかりました」

「マスター……」

「……しかし、そのあとの『茶がまずくなっちまう』はいただけません。私も、一人娘をハエに捕られた過去を持っています。人それぞれ、理由はあるんです。あなたのその行動原理を、バカにする権利は私たちにはありません」

 

今明かされる衝撃の新事実。

マスターもそれなりの過去を追ってやがった。

 

「ん。私にはそんな理由はないけれど……。でも、ハエを倒したいって気持ちは一緒。一人じゃないよ」

「ったく、まだ若いくせに一人で背負い込もうとするでない。俺も、お前も、結局は同じってことだ」

「へいへいミスターゴブ!辛気くさいぜ!ゴブさんがそんなだと、この場が悪くなるんだよ!いつも通りのゴブさんで、気にせずにやっていこう!」

 

アシアちゃん、じいさん、ヒバリさんもコブさんを励ます。

……ヒバリさん?

ミスターコブは気にしてるからハエを倒してるんだよ?

理由忘れちゃだめだよ?

 

……とにかく。

 

「コブさんはコブさんです。こんな時なんて言ったら良いのか分かりませんけど……。そのコブさんの復習、お手伝いしますよ。いや、させてください」

「お前まで……」

「俺も、みんなも、手伝いますから」

「……ありがとな」

 

こらえきれない様子で後ろを向くコブさんに、俺はさらに声を掛ける。

 

「ところで鉄板外してもらっていいですか?」

「アシア。追加だ」

「ん」

「そんなああああああッ!?」



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新たな敵再び

 

痛む足を擦りながらバーを出る。

ああチックショウ、あのプリティー髭のダンディーめ、全部終わったら痛い目に見せてやろうか。

具体的にはあの人のサングラスのレンズを度入りにしてやるとか。

 

「とりあえずは今日もハエの駆逐やなぁ。なんやろなあ、疲れたなあ」

 

エセ関西弁を語りながら夜の道を歩く。

スカイライナーの弾の減りも早い。

怪しまれぬように、ちょっとずつ……くすねる。

そう、くすねよう。

そんなことを考えながら、バーから家まで半分の距離くらいになったとき。

路地裏から、嬌声が聞こえた。

 

「………………」

 

本人からすりゃ秘密の逢瀬(おうせ)のつもりなんだろうが、生憎この時間帯にもここを歩く人はいるんだよなあ。

まあ、歩いてるだけなら、ハエがヒエラルキーの頂点に立っている今だと問題はないけれど。

 

「も、もっと!もっと奥にィ!?」

「ギチッ、ビチャッ」

 

見るも無惨な光景であった。

女の人が、ハエにのし掛かられている。

正直言って直視すると吐きそうなので、早々にフェザーを取り出す。

 

「…………そこな女性、我慢してくれよ」

 

小さく呟いて、ハンマーを引く。

引き金に指をかけ、照準を合わせ……。

 

「何してるんだい?」

「っ!?」

 

ふいに銃口を捕まれた。

とっさに蹴りを入れて離れる。

 

「んだよ……。お前、誰だ?」

 

緑の鎧に背中に生えた羽。

聴かなきゃよかった。

だって───

 

「ベルゼブブ様に仕える三天王、とだけ行っておこうか。ん?今は二天王だな」

「そんなこと言われたら、殺さなきゃいけなくなるから!」

 

すぐに引き金を引く。

あっちのプロレスしてる方は後回しだ。

まずは、この男をどうにかしなければ。

 

「……?なんだ、これは?」

「す、素手で!?」

 

寸分の狂いもなくハエの眉間に吸い込まれた弾丸は、しかし素手でがしっと掴まれた。

 

「もしかして君かい?私たちのことをつけ回っている反ハエ派と言うのは」

「ちょっと何言ってるのかわかんない。ベルゼブブとかなんとか言ってる変人を撃っただけでしょ。頭おかしいんじゃないの?」

 

スラスラと口を突いて出る嘘。

しかし、それが行けなかった。

 

「ふうん……?呼吸速度、口数、目線の乱れ……。なるほど、君は嘘を()いているな」

「なっ!?」

「私は人体にとても興味を抱いている。ここに来てから幾人の女を食べ、そして研究した」

 

そこでハエはチラリと女の方を見る。

 

「私の突然変異は分身能力でね。こうやって、沢山の同胞を産み出すことができるのさ」

 

ハエの幹部は鋭利なツメで自らの皮膚を切ると、血を垂らした。

その血から、わらわらとハエが産み出される。

まだ小さいサイズなのが救いだが…………その数、ざっと見て30。

え?なんで小さいハエなんか数えられたかって?

いや、ふつうにその場で浮いてて動いてなかったからね。

 

「無限の、連隊……」

「ん?いいセンスだ。これからは、この能力をそう呼ぶことにしよう」

「ほざけっ!!」

 

余裕の笑みを浮かべるハエの幹部に銃弾をぶちこむ。

ハエは今度は掴むことなく、腕を交差させて銃弾を受けた。

……それもいけなかった。

 

「ありがとう、手間が減ったよ」

「なっ……。ああっ……」

 

その空いた穴から流れる血からも、ハエが産み出されたのだ。

こんなの、どうやって勝てばいいんだ?

バーに帰ろうにも、ここからだと距離がある。

何をすればいいのかわからない俺は、一目散に駆け出した。

 

「む?逃げるつもり?まあ、覚えておくよ。私たちの洗脳にも耐えた人がいることを。……ふむ、君の体にも興味がわいた。食べさせておくれよ」

「ぎゃああああ!!」

 

貞操のッ!危機ッ!!

そうして走ってしばらく。

バーまで戻ってきた俺は、店を閉めようとしていたマスターに「かくまってくれ」と伝え、その日、バーで眠る事になった。

 

「もしもし、母さん?今日さ、帰ろうと思ったら不審者に襲われてさ。危ないから、今日は知り合いの家に泊まろうと思う。……うん、大丈夫。はい、はい。じゃあね」

 

受話器を置く。

マスターは家に帰った。

話を聴くと、反ハエ派は今のところ俺しか判明しておらず、マスターたちは攻撃する素振りを見せなければ安全らしい。

明日が休日で良かった。

マスターの話によると備え付けの風呂もあるようだし、今日のところはここで眠らせて貰おう……。



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貞操の危機再び

 

ゴン、ゴン。

いくらほど眠ったかな。

俺はドアを叩く音で目が覚めた。

 

『マスター!いる!?他の誰かでもいいから!開けて!』

 

ヒバリさんの声だ。

何かあったのかと起き出そうとするが、体が動かない。

金縛り……?

 

『鍵は……。あれ、開いてる」

 

ピクピクと痙攣する俺をよそに、バーの扉が開く。

入ってきたのはいつものセーラー服姿のヒバリさんだった。

 

「おじゃましまーす……。ん?渡瓶(とがめ)……君?」

 

そう、いっつも忘れられるけど俺の名前は渡瓶(とがめ) 表都(ひょうと)だからね。

ヒバリさん、よく覚えてたなあ。

 

「ふう……。ハエは……来て、ないみたい?」

 

チラチラと扉の方を気にするヒバリさん。

え、追われてたの!?

動け、動け体……!

 

「はあ……。今日はここで寝させてもらおうかな……」

 

図太すぎるだろ。

 

「渡瓶君は……。寝てるね」

 

床にうつ伏せだからわからないだろうけど起きてるんだな、これが。

体動かねえけど。金縛りってスゲー。

 

「マスターに後で謝っておこ。まずはお風呂……」

 

そうして聴こえる衣擦れの音。

チックショウ動けよ首!もっと角度つけて寝ろよ俺!

なんでギリギリ見えないところで着替えするんだよ!

 

「お風呂借りますね……。なに独り言呟いてんだろ私は」

 

ぐおおおお!

俺は今、今年一番の力を出して首を動かそうとしている!

 

バタン。

 

あー……。

移動しちゃったかー……。

もういいや。寝よ寝よ。

どうせこのまま金縛りは続くんだろ、わかってんだからな。

そーですよ、お色気展開にはならないですよばーかばーか。

 

『~♪』

 

………………。

どうしてヒバリさんはハエと戦うのだろう。

俺みたいに周りがイカれてるから直そうとしているのだろうか。

それとも、コブさんやマスターみたいな、私怨から……?

体が動かないなりに脳が勝手に働く。

寝ようと思っても中々眠れず、どうでも良いことが頭を駆け巡る。

 

テストの答案、ぷってぃんプリンのぷってぃんの謎、ヒバリさんの着替え、コンビニでドキドキしながら買った食玩、幼き頃に見た繭由(まゆ)の着替え……。

 

あれ、煩悩に八割を犯されている。

くっっっっっそくだらない俺の脳にショックを受けていると、浴室のドアが開く音がした。

 

「ふう~……。良いお湯だった。シャワーだけだけど」

 

それは『良いお湯』と言うのか。

……言うのか。『シャワー』も『お湯』であるから言っても大丈夫なのか。

 

「布団は……。さすがに場所を教えてもらってないな……。え?これって、その……。……………………」

 

え?何?なんで黙ってるの?

と、俺が思案していると。

 

「ふむん…………」

「…………!!」

 

俺の使っている布団に入ってきやがった。

いや、ソファで俺の掛け布団取って寝ればいいけど、でも俺は金縛りでそれが言えないからぐむむむむ。

 

「けっこう体はがっしりなんだな。ふむ」

 

目を回しそうな俺の隣で、ヒバリさんは横向きに寝ている。

そこまで近づかれるとさすがにばれる……!

いや、平常心だ。ハエと戦った後にしらばっくれる感じで。

仮面を被れ、仮面を。

 

「……つついても起きないかな?」

 

とっくに起きてるよ。

そんな俺の心情はお構いなしに俺の頬をつついてくるヒバリさん。

ここは一つ、演技を……!

 

「むに」

「やばっ。起きちゃう起きちゃう」

 

『ちょっと起きそうな雰囲気を醸し出す』作戦!

……いやなんで寝てる演技してんだよ起きればいいだろこの状況を打開するには!

 

「ふう……。眠くなってきた。寝ようかな……」

 

ヒバリさんが体から力を抜く。

そのせいかヒバリさんの体が丸まって顔のすぐ隣に頭が……。

 

「おやすみ……」

 

クソッ、なんの成分なんだよこの甘い香りは!

 

「……!…………!…………ッ!!」

 

結局、ヒバリさんが来てから全く眠れなかった。まる。



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『再び』のサブタイトル再び

サブタイトルがネタ切れを起こす。
どうしませう。


 

~♪

~~♪

~♪

~~♪

 

スマホで設定した目覚ましの音だ。

そろそろ起きないと……。スマホはどこだ。

 

「………………?」

 

腕を伸ばすと、何か柔らかいものが手に触れた。

犬猫やぬいぐるみの類いではないな。

もっとこう、水風船に絹を張ったのような……。

 

「んんにゅ……」

 

女の子の声が聞こえた。

眠いな。だいぶ寝ぼけているようだ。

 

「……。───ッ!?」

 

まぶたを上げ、そこに女の子の顔があることに気づく。

出かかった「わあ」という言葉をごくりと飲み込み、ついでに深呼吸を三回ほど。

 

「……ヒバリ、さんか」

「すう、すう、すう」

「なんとなく思い出してきたな」

 

ハエの幹部に追われて、バーに駆け込んで、寝てたら金縛りにあってヒバリさんが布団に潜り込んで来て。

 

じっと寝顔を見つめてみるも、ヒバリさんは無邪気な寝顔をさらしているだけ。

ふっふっふ。

ヒバリさんは男の性欲をなめているな?

男には朝にだけ発動する生理現象があるのだよ、貴様の体に教えたろうかぁ!

 

「……むにゃむにゃ」

「……………………」

 

『むにゃむにゃ』って寝言で言う人始めてみた。

『ばぶう』って言う赤ん坊くらいにレアだぞ。

 

「すやあ」

 

あほらし。

 

ヒバリさんの長い髪が手に触れる。

さらさらしていて、冷ややかだ。

何となくにぎにぎしているとヒバリさんの目が開いた。

あっ、おはようございます。

 

「渡瓶……君……?」

「昨日は良い、夜だったね」

「──────」

 

にっこりと笑うと、ヒバリさんの視線は己の体とかかった毛布に移された。

そして一拍。

 

「ぁ……」

「あ?」

 

 

「きゃああああああああああッ!!!!!!」

「かおぐっ!」

 

 

鼓膜が、鼓膜がぁ!

至近距離で女子を怒らせると怖い!

 

「きゃああ、きゃああああああああああ!」

「ああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

顔を真っ赤にしながら掴みかかってくるヒバリさん。

握力がすごい。

 

「なっ、ななな、ななななななぁ!」

「耳がぁ!肩がぁ!冗談です!冗談ですから!」

「うわああああああ!」

 

聞いてねえなコイツ!

 

「────────ッ!!!!!!」

 

ついに人が聴ける声の高さを突破したヒバリさん。

それはもう超音波だ!

俺に向けるんじゃなくてガラスでやってみれば一発芸になるぞ!

 

「──!────!」

「落ち着いて!魔物みたくなってるから!」

「──────…………ああ……あぅあ……」

 

俺の耳に深刻なダメージを負わせた後、ヒバリさんはなんとか落ち着いた。

ほっと安堵したのもつかの間。

 

ガタン。

 

「……え?」

「なんだ今の音?」

 

何かが倒れるような音が、ロッカーから聞こえた。

ヒバリさんの声はついに物を動かせるまでになったか。

と、思っていると、ロッカーがぎぃ……とゆっくり開いた。

 

「ッ」

「何か、いるのかな……」

 

そこまですると、さすがに警戒しかねない。

俺はフェザーを、ヒバリさんは武器がないので適当に徒手空拳の構えをした。

やがて、完全に開いたロッカーから出てきたのは。

 

もう……無理……

「「アシアちゃああああん!?」」

 

耳を押さえた青ざめた顔の、小さき天才、アシアちゃんだった。

 

 

 

 

「……で、俺が起きそうだったからとっさにロッカーに隠れたと」

「……ん。高い声が聞こえて、とってもびっくりした」

「ごめんなさい……」

「ホントだよな!」

「渡瓶君が朝ちゅんみたいなことするからだよ!?」

 

鋭きツッコミを繰り出すヒバリさん。

そんな彼女をあしらいながら、情報の整理をする。

 

アシアちゃん起きる、学校休み、バーに遊びに行こう、鍵空いてる、俺とヒバリさんが同じ布団で寝てる、『!?』、スマホ鳴る、俺が起きそう、ロッカーに隠れる、ヒバリ起きる、ヒバリ発狂する、今に至る……と。

 

「アシアちゃん、朝から濃ゆいのをごめんね」

「ネタが濃いって意味でしょ!?朝ちゅんされた後だとおかしな意味に聞こえるよ!あと、『濃ゆい』って何!?」

「うるさいにゃあ。濃ゆいってのは濃いって意味、それ以上でもそれ以下でもない」

「哲学かなぁ!?あと『にゃあ』ってなんだよ!」

 

ツッコミが絶えないヒバリさんの額に聖なるデコピンを噛ます。

「きゅう」ともう一度深き眠りに(いざな)われたヒバリさんに毛布をかけ、アシアちゃんに向き直る。

 

「なあアシアちゃん、真面目な話、ここらにハエは出なかったか?」

「で、デコピンで気絶……」

「そんなことはどうでもよろしい!」

「よ、よろしかない……!」

「それで、どうなの?俺もヒバリさんも、ハエに追われてここに泊まらせてもらったんだけど」

 

ちょこちょことヒバリさんを気にかけていたアシアちゃんは目を見開き、そして顎に手を当てた。

小学生なのになんでそんな大人びた動作が似合うのだろうか。

 

「私が来たときには……いなかった。いつもどおり、坂道を下って……」

「うーん。そっか、それなら良いんだけど」

 

幹部はどこに行ったのだろうか。

 

「……ヒバリさんがいる?これはどういうことですか?」

「ん、マスター」

「昨日は泊めてくださり、ありがとうございます」

「……いえいえ」

 

やって来たマスターがヒバリさんに驚く。

立て続けに扉が開き、巨体が入ってきた。

 

「おーっすやってる──うお、ヒバリ!?何してんだ!?」

「コブさん」

「ゴブさんがいるの!?貞操の危機!」

「うっわいきなり復活すんな寝てろ!ってか何が貞操の危機だ!」

 

コブという単語に反応したヒバリさんが起き、マスターが苦笑し、アシアちゃんはちゃっかりと座っていた俺の上に収まる。

かき乱された場に気をとられ、俺は幹部の事なんて忘れてしまっていた。

 



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完全なる油断

 

「そうそう、もうちょっと右……よし、ここで合ってる、アシアちゃん?」

「合ってる。ばっちぐー」

「おお、これだけで雰囲気でるもんだな」

「華やかじゃのう」

 

後ろからの声を聞き、体をそらして改めて引きから眺める。

『バー風喫茶アルカトゥーレ』。

アシアちゃん監修の元、俺とヒバリさんで作った看板だ。

これからこのアルカトゥーレを拠点にハエを駆逐して行く上で、泊まったりしている場所がバーという場所では、親からの評価も良くないだろう。

知り合いの家ってことにしてるけど、まあ慎重にね。

 

「でも本当に良かったんですか?マスター。わざわざ店の名目まで変えちゃって」

 

そう。バーであったアルカトゥーレは喫茶に変わったのだ。

マスターは当初は隠れた名店バーをやるつもりだったらしいけど……。

 

「……構いませんよ。ハエを殺すためならなんだってします」

 

この人たち、自分たちみたいな洗脳を受けていない人のことを【常識人】って呼んでるけど、大概だよなぁ。

 

いつもタバコくわえてるトリガーハッピー。

涼しい顔で斬撃飛ばす老人。

火炎瓶アスリート投げ店長。

いっつもハイテンションランチャーJK。

モノ作りの天才幼女。

 

あれ、常識人って俺だけなのでは?

 

「ま、それならありがたいです。そっち降りますねー」

「お?お?そこは降りさせんぞ?」

「邪魔wwwww」

 

ヒバリさんが脚立を揺らしてくるけど、本気で危ないから止めてほしい。

諦めて脚立の上からジャンピング、足を痛めながらみんなで店に戻った。

 

「……そーいやマスター、どうして『アルカトゥーレ』なんですか?」

「あ、それは俺も気になるのう。教えてくれや」

「……なんとなく、ですかね」

 

まさかの理由無し。

でもまあそっか、店なんてそんなもんなのかな。

アルカトゥーレ、アルカトゥーレねぇ。

 

「アルカトゥーレってどんな意味なんです?」

「……意味とかは込めていません。店を開いたときに、なぜかこの名前が浮かんだのです」

「へぇ……アルカトゥーレって既存の言葉にあるのかな。調べてみよ」

 

ヒバリが携帯をいじりだす。

が、何が書かれていたのか、急に顔を青ざめさせた。

 

「やばい、やばいよみんな!」

「どうしたんだよ、急に。またセールとか行かないよな?」

「今回ばかりはね……。ハエだよ」

 

全員の表情が強張る。

ごくりと生唾を吞み、ヒバリさんの次の言葉を待つ。

 

「場所は、ここ。二番目通りの、その先の……」

「路地裏じゃねぇか。なんでそんなとこがネットに載ってんだ」

「待ってね、今詳しく読むから……『名もなき暗殺者君、君を待つ。人はいないから来て欲しい、とコメントしている』……だって。もしかして、ハエの王の幹部じゃない?」

「なるほどのう。ここ最近で大量のハエを倒している暗殺者……。そんな存在がいたら、倒そうと躍起になるのもわかるわい」

 

やっべぇ。

暗殺者=俺って、完全に認知されてんじゃんかよ。

取り繕わねば。仮面はどこだぁ。

 

「……暗殺者に加勢するのはどうでしょう?彼らは一体でハエ何十匹分の力を持っています」

「確かにな。それも良いかもしれん」

「いや、やめときましょう」

「どーして?渡瓶君」

「文面だけ見れば、暗殺者は幹部と知り合いなのでは?そうすると、加勢した場合僕たちも顔バレします」

 

必死である。

 

「なるほどのう」

「暗殺者が広範囲に影響を及ぼす武器───ヒバリさんのランチャーみたいのを持っていたら、逆に邪魔になってしまいますし」

「ん?ちょっと待てよ。暗殺者って、基本的に銃を使って───」

「それはハエの周りに人がいたからじゃないですか?今回はハエのみ、しかも普通のハエより力が強い。だったら、他の武器を使ってもおかしくないじゃないですか」

「一理あるなぁ……」

 

よし、釣れた釣れた。

ってかあれか、これ、俺はいかなきゃいけないのか。

うわあやだなぁ……。絶対ワナとかあるよ……。

 

「……ん。高みの見物?」

「そんなこと言うのやめてアシアちゃん」

 

 

 

 

「まさか本当に来るとは」

「テメエが呼んだんだろがコラ」

「普通は罠を警戒するだろう?」

「あぁ警戒したよ、警戒したけどなんも無かったじゃねえかよ」

 

うん、普通にワナなんて無かった。

ここまで無警戒だと用心して来た俺がバカみたいじゃんかよ。

 

「で?俺を殺すって?」

「というよりは、生け捕りにして研究したいところだね。君と同じ体質の女もいるなら好都合。知ってるかい?」

「知らねえな」

「ふうん、いるのか」

 

やっぱり、こいつに嘘をつくのは不可能なのか。

アシアちゃんとヒバリさんは、俺が守らねば。

 

「【無限の連隊】、正式に能力の名前になったよ」

「ああそうかよ」

「そうだ。…無駄話はここまでにして、本当に君は僕に研究される気はないのかい?」

「あるわけねぇだろ自己中ホモ野郎」

「交渉決裂だな。……ッ!!」

 

幹部の姿がブレる。

次の瞬間には目の前に現れ、俺の首が強制的に横を向くのがわかった。

痛みにたたらを踏むと、向いた視線の先にはすでに足を掲げた幹部の姿が。

衝撃が俺を襲う。

格ゲーがごとく、コンボを決められる。

 

ふぇ、フェザーを取り出さないと……!

 

バテる雰囲気が全くない。

高速で飛翔し、俺に蹴りを食らわせぶべっ。

ひ、人を蹴ったらいけませんって学校で習わなかったんですかぁ!

 

……ハエに学校ってあんのか?

 

とりあえずは、せめて一撃入れないと…………!

俺は向こうを指差し語りかける。

 

「あ、そこ」

「え?」

「オッラーン!」

「ふぐあ!?」

 

だまし討ち。

 

「はははははっ!人間に騙されるとは、お主もアホよのう!」

「きっ、貴様!」

「ハエさんこちら、手の鳴る方へだ!」

 

痛む体に鞭打ち走る。

あそこへ、あそこへ行けば……!



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ピンチ?否、全ては物理に跪く

 

息を潜める。

物陰……マンションについてるやたら風吹き出すやつに身を隠し、奴が来るのを待つ。

そう、この辺りで待ち伏せして、能力を発動させる暇もなく撃ち抜く作戦だ。

 

しかしまあ、いざやるとなると少し不安ではあるけれど。

何故なら、今までと違って彼はかしこい。

もしかしたら、何かイレギュラーな行動をとるかも……。

 

「ちゃんと来るのかな、あいつ」

「そうだね。彼は飛んだりもするから注意しよう」

「ああ。ハエは……ッ!?」

「ハッ」

 

後ろからの声に振り向くと同時に顔面に足がめり込んだ。

完全に油断していた。

吹き飛ばされながらも右手に構えたフェザーで銃弾を放つ。

右肩が反動で持っていかれるが、その分離れる勢いがついて一石二鳥だ。

弾丸は狙った頭の横を通り、マンションの壁にめり込んだ。

 

「なかなかやるじゃないか。当たらなかったが」

「いや、壁を狙った。俺の勝ちだ」

「子供の屁理屈じゃないか。……君のような存在はなかなか厄介だ。早めに、処理させてもらうよ」

 

瞬間、ヤツの体が目の前から消えた。

何回か相手をしたからわかっている。

次に来るのは顔面を狙った拳による突き。

右か、左か。

賭けるのは……。

 

「そこッ!!」

「!?」

 

刹那、右にずらしたフェザーから弾丸が放たれる。

ヤツは顔をしかめながらも腰を高速で捻ることにより首を回転させ、弾丸を生身で避けた。

残り四発。レボルバーを回転させる。

アッパーがこちらに来る前に、膝を曲げ、進行方向を邪魔する。

 

刹那、右足に拳がめり込み体制が強制的に変わる。

横向きに倒れると首に冷ややかな感触が当てられた。

そのまま手に力が入り、ミシミシと首が締められる。

 

「ああ、その顔だ!苦しみに満ちたその顔!それがもっと見たいんだ!」

 

脳筋バトルジャンキーか……否、ただのサイコパスだ。

フェザーを持つ手は足で固定され、少しも動かせない。

意識が薄くなる中、俺は心の中で数える。

アレが来るまで、三、二、一。

俺の勝利。

 

先程撃った壁に入ったヒビがドカンと砕かれる。

二発目のドカンが間髪なく続き、俺の上に乗っかっていた重みが横に吹き飛んだ。

 

「な……なにがおごっで……」

「ごほっ、ごほ……。残念だったが、俺の勝利だな。なんせ───」

 

俺はソレの下まで歩いて行き、その()()()に手を触れた。

メタリックなブラックイエローで見事な曲線。

右手にランチャー、左手に万能機関砲を取り付けた、俺専用の機体。

 

 

『マスターヒョウト・確認。これより、戦闘を開始します』

「こいつがきたからな」

 

 

アシアちゃん特製【プロトろぼ】……もとい、【メテオライト】の初陣だ。

 

 

 

 

「プロトろぼの専用機体?」

「ん。ついに全員分完成した」

 

俺たちがくつろいでいる時、店の裏───コブさんやアシアちゃんは【ドック(本来の意味は船に使うらしい)】と呼んでいるらしい。重症である。───から、ゴーグルを頭にちょこんと着けたススだらけのアシアちゃんが出てきた。

 

この前命を助けられた【プロトろぼ】……それが完成したそうな。

ドックに来いと手招きされたので行ってみれば、明らかに地下の店裏では済まない規模の大きな基地と人1人入れそうなほどのプロトろぼが並べられていた。

個体色はそれぞれ違う。ブラックイエローだったり、スカーレットだったり。

 

「ん。戦力強化のため、これらをみんなにあげることにします」

「ふぇ!?これ、アシアちゃんが作ったの!?すっごーい!」

「んふふ……。右から順に、プロトろぼ一号、二号、三号……」

「あーあー、わかった、後で俺が名前つけるから」

「ん!」

 

アシアちゃん、現代科学を超えるの巻。

 

「1人で作るのは大変だったけど、とても楽しかった!」

「おう。免許皆伝だ」

「それ皆伝しちゃダメなやつです」

 

アシアちゃんが……。

純粋無垢なアシアちゃんか……ついにガ○ダム作れるように……。

 

「おいそこ表都ォ!もしやお前これをガン○ムだと思っちゃいねえだろうなあ!?」

「うわっ!?なんですコブさん!?」

「いいか!?○ンダムってのはクリエイターの夢と希望が詰まった遥かなる目標点なんだ!そう簡単に作れると思うなよ!」

「全国の善良なクリエイターの皆様に謝ってください!みんながみんなあんたみたいなロマン狂じゃないんですよ!!」

 

タバコを落としてもおかまいなし、激怒するコブさんにツッコミを入れていると後ろから袖がくいと引っ張られた。

振り向くと、ススだらけの顔の可愛らしいお口がへの字になってらっしゃる。

 

「ん!ガンダ○を舐めないで!人体構造を模した完璧なデザイン、引き込まれるような脚部構造!私も、アレを作りたい!このプロトろぼは……」

「ああ、プロトろぼは……」

「「まだ出発点に過ぎないッ!!!!」」

「いいから落ち着いてください!」

 

珍しく興奮して口数の多いアシアちゃんにやや引きながらも、俺はプロトろぼに感嘆する。

近くでも遠くでも、よくこれを作ったものだ。

この調子なら、本当にがん……

 

「「モビルスーツを、舐めるなッ!!!!」」

「心読まないでくださいって!」

 

もうダメだ、この人達は歯止めが効かない。

銃ならまだよかった。いや銃でもダメなんだけども。

それが、その人たちが、このロボを作ったことによって暴走している。

 

「はははっ!わかってんじゃねえか、弟子ィ!」

「師匠!プロトろぼを作っていて思いつきました!碗部の取り外しを可能にし、さまざまな機能を持った腕を用意するのはどうでしょうか!」

「カスタマイズ可能にするのか!面白え!よし、作れ!」

「ん!」

「ちっちゃい子に何させようとしてんだアンタ!」

 

アシアちゃんはしばらく引きこもると、一時間ほどで出たきた。

忘れ物かな。

 

「終わった」

 

早え。

 

「おう。んで、まだなんかあんだろ?その目は、新しい案を見つけた目だ」

「銃弾に細工をして、近くに転がったときに起動するようにしたい!ピンチのときに空に向けて銃を撃って、しばらくして機体が降下してくる!」

「面白え、やれ」

「ん!」

 

もうなんでもありかよ!

コブさんもコブさんだよ、なんでもかんでもやらせんなよ雑な現場監督か!

 

「終わった!配る!」

「もうアシアちゃんは休め!おねんねしよ!」

「お兄ちゃん……。これだけは分かって。クリエイターには、譲れないものがあるの」

 

コブさんが口を開く。

 

「そう!脳が案を出す限り!」

「インスピレーション湧く限り!」

「ロマンを、夢を、追い求める!!」

「もう好きにしろよ!」

 

 

 

 

まあ。

こんなやりとりがあって、このメテオライトは完成したのだ。

 

なお、ヒバリさんのメタリックブルーの機体はアジュライト。

 

マスターのスカーレットの機体はクロコアイト。

 

アシアちゃんのメタリックブラックの作業用機体はネプチュナイト。

 

じいさんの虹色の機体はビスマス。カメレオンみたいに色が変わって景色に溶け込むらしい。

 

コブさんのメタリックパープルの機体はバイオレット・スパイク・クリスタル・エクスプロージョン。こいつだけやたらと長いのを選んでやった。

 

で、俺のブラックイエローがメテオライト。

プロトろぼの時にはただパネル貼り付けただけだった前面には真っ黒い曲線が貼られている。サングラスみたいな色合い。

 

「なん……だと……?なんだ、それは!そんなもの、聴いていな「ドカン!」ごはあ!」

 

はははははは。

こいつ、べらぼうに強え。

もうこいつだけでハエ駆逐できるだろ。

 

「くそ……なら、それから狙わせてもらう!キャノンしか攻撃方法がないのだろう!?」

『ガトリング起動』

「あばばばばばばっ!?」

 

右手のキャノン、左手にガトリング。ランチャーと機関砲のセットは俺に足りない破壊力と射程を補ってくれる。

がしかし、機械には反射神経が無い。

機体に搭乗できたりしたらカッコいいんだけど……。

 

『キャノピー、開錠。マスターヒョウト、お乗りください』

「うん、あの2人が搭乗システムをつけないわけがないよね、わかってた」

 

パネルだと思ってた前面の黒いキャノピーが上に開かれ、操縦席が現れた。

腰掛けるとキャノピーが閉まり、機械モノでは定番の機械音が鳴る。

あっはあ、もうなんでもいいや。

 

ゲームのロボットのように左手側にわかりやすい操作説明が書いてあり、足元にアクセルとブレーキ、レバーの上のボタンでキャノンと機関砲、レバーで上下左右が動くことがわかる。

 

うん、これ負ける気しねえわ。

負ける要素ねえわ。

だって操作方法がおなじみなんだもん。

ゲームセンターにあるような操作方法なんだもん。手に馴染むよそりゃ。

 

「くそ……くそ!!いでよ、無限の連隊!」

『ハイ撃ちまーす』

 

機関砲の狙いを定めて左ボタンを長押しすれば、左手の機関砲が回転して無限の連隊を蹂躙していく。

なにこれ楽しい。

 

「まだだ、まだ!物量で押し切るんだ!」

『じゃ、キャノンで全部一網打尽に』

「やめろぉおおおおお!」

 

右ボタンをポチッと一回だけ押すと右手がドカンと。

無限の連隊の塊は吹き飛びました。

なにこれ楽しい!

 

『やっべ、これ楽しい!強さのインフレなんですけど!』

「クソ、クソ、クソ!なんで、なんでなんだ、なんで人間ごときに」

『キャノン発射!』

「ぐあああああああああああ!!」

 

湧き出る無限の連隊ごと頭を吹き飛ばす。

頭と別れた体は遠くまで転がると、やがて静止した。

無限の連隊も出てこない。

 

『戦闘終了。お疲れ様でした』

「ははは、あとでコブさんを殴っておこう」

 

こうして、ハエの幹部は残り1人になったのだった。



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残り1人の巻!

 

「ただいまコブさん。そして死ね!」

「ごっふう!?」

 

帰って1発。色んな想いを込めた一撃をコブさんに放つ。

 

もうビックリしたよ。

駐車場にポインターが貼っついてるからなにがあんのかと思えば、駐車場がロボットアニメの基地みたいにウィンガシャって開いてメテオライトを格納したんだもの。

駐車場の数は6つ。

俺、ヒバリさん、アシアちゃん、じいさん、コブさん、マスター……6人。

 

……あれっ。

 

「魔改造。魔改造ですよ!ハエ倒すのにそんなことする!?インフレだよ!?ロボットアニメだよもう!」

「ロマンだろうがあ!」

「ロマンって言えば許されると思ったら大間違いです!」

 

そこへアシアちゃん。目を細めて少し不機嫌気味だ。

 

「おかえり」

「ただいま」

「随分と負荷を与えてきた。何かあった?」

 

……せっかく作ったロボットを痛めつけられたことが不満だったのか。

ちな、アシアちゃんとコブさんには操縦練習として外に出して貰った。

後は指示を与えて、ビルまで持っていくだけ。アームやキャタピラを畳めば軽自動車に似てなくもないので、目立ちはしなかったな。

 

「途中でハエに会って。戦ってたんだけど……」

「二次被害は?」

「……ビルの壁が少々。あと機体の弾薬がだいぶ減ってると思う」

「ん。ランチャーは減ってる。燃料も少し。機体ダメージが多い。……慣れない操作?」

 

確かに始めて扱ったからなにか間違った操作をしていたのかも。

 

「いや、ロボット自体は自動戦闘だったら負荷はあまりかからないはずだ。……お前、もしかして」

「……。あー、お兄ちゃん、もしかしてキャノピー開いた?」

「え。開いたけど」

「びっくり。キャノピーの操作訓練を受けてないのに」

 

思い切りゲームコントローラーだったから訓練も何もないよ。

その旨を伝えると、アシアちゃんはほっと胸を撫で下ろした。

 

「今のゲームがわからないから適当に作ったが……今を生きる男子高校生には馴染みあるらしくてよかったな?」

「ん。一安心」

 

ところで、ハエは?

今のままだとロボットアニメの会話だよ。

 

「ん。私はドックに戻る」

「おうお疲れ」

「ねーねーゴブさぁん。カシスオレンジー」

「マスターに言えや」

 

ヒバリさんが帰ってきた。

見たところハエと戦ってきたのか、腰の四連ランチャーが煙を上げている。

 

「気持ち悪ーい!」

「風呂入ってこい」

「言われなくても入る!……でも、その前に。みんなに言わなきゃいけないことがあるんだ」

「……ほう」

「アシアちゃんは今はいない?あとで伝えといてね。えとね、今日ハエと戦って来たんだけど、そのハエが急にいなくなったんだよね」

 

……急に?

マスターは「どういうことですか」と言いながらカシスオレンジを差し出す。

ヒバリさんは一口それを飲んでから再び口を開いた。

あれ?未成年飲酒……大丈夫?大丈夫なの?

 

「えっと……戦ってて、撃って、リロードしようと思って、そしたら……灰になって消えたんですよねぇ……」

「灰……」

「そうなんだよ……。ほんと怪奇。いっせいに消えてさ」

 

あ、アシアちゃんお帰りもう修理終わったの。

……ああランチャー持ってくのねお疲れ様ブラックでごめんね後でコブさんシメておくね。

 

「あとですねぇ……。あ、そう!やけに数が多かったです! あと小さかったです!」

「小さい……?それは、どういう?」

 

顎を摘んで考えるじいさんに対して、ヒバリさんもマネして顎を摘む。

……というかソレ。ソレもしかして。

 

「なんかこう……変化前のハエとあんまり変わらない大きさでした」

 

うむ二天王だね。

多分俺が殺したからその配下にあったハエが消えたんだよね。

よーしカマトトー。

 

「それは不思議ですねぇー」

「ほう。マスター何か知らないか?」

「……それでしたら……全員集まってから言おうと思っていましたが……。二天王が一天王になったらしいです」

「「「二天王が?」」」

「こちらの新聞を」

 

パサリと落とされた新聞紙。

コブさんが拾い上げてみんなで覗き込む。

 

『三天王が【無限の連隊】様、何者かに殺害される』。

はァーあのビルうつされてるー弾痕が取り上げられてるー。

……『事件現場に爪垢が残っていた』───チッ、骨の芯まで木っ端にしたつもりだったが。

 

「へぇー、じゃあ私が戦ってるあいだにブチ殺されたってことですかねー」

「言葉に気をつけなさいヒバリさん……」

「しかし、ヒバリの考えたとおりじゃろうな。俺もそう考えた」

「今日はじいさん喋りますね」

「やかましいわい」

「そんでもって、この……【無限の連隊】様?からご指名を受けたこの暗殺者が倒したってわけか」

「はえービックリ」

 

それじゃあ……あと1人。

 

「幹部たちあと1人じゃないですか!」

「やったぜ」

「あと1人!このペースなら多分楽勝ですねぇ!」

 

浮かれていますね。

やりましたね。

……とはいえ俺も浮かれている。あのガ○ダムもどきと重火器でゴリ押しすれば大丈夫だろう。

あと少し。

あと一歩で、いつもの日常に戻るんだ。

 

……多分。



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反逆の棘

 

翌日。

未だにハエはヒエラルキーの頂点にいた。

洗脳の類。

ハエの影響力は衰えず、たった一匹のハエに歓声を上げている。

 

「ねぇ、聞いて?私、ようやくハエ様の子供を授かれたんだよ」

「良いなぁー!早く私も欲しいなぁー!」

 

狂ってる。

なにがどうしてハエの子供なんか孕む理由があるんだ。

 

気味の悪い会話を聞き流しながら次の授業の準備をする。

不意に、ポケットのスマホが振動する。

 

『今日の午後。いつもの場所にて汝を待つ。 日張』

 

……あのひと、いっつもこんなメールしか送らないなぁ。

 

 

 

 

それは突然だった。

移動した山の中でハエを駆逐していると、急にじいさんが倒れた。

足が漆黒の(いばら)に貫かれている。

 

「じいさん!?」

「お前らじいさんを運べ!一旦退くぞ!ヒバリ、スモーク!」

「かしこまりぃ!!」

 

白煙が立ち込める中、俺はメテオライトに搭乗し、腕に乗っけてじいさんを運んだ。

メテオライトからアシアちゃんに信号を送る。

だいぶ太い棘だ、人間が抜くのは不可能。

作業アームがデフォルトのアシアちゃんの機体なら、きっと抜けるはずだ。

 

『メテオライトを自動照準モードに切り替えます』

 

メテオライトを護衛として任命し、俺は一旦降りる。

 

「じいさん!どうしたんですか!」

「しらん……。俺があいつを刺した瞬間、俺の足がどうにかなりやがった……どうなってる?」

「黒い棘が刺さってます……アシアちゃんが来るので、そのときに抜いてもらう予定です……」

「いい、判断じゃ……ビスマス、ビスマスはどこかにいないかの?」

 

『ここに』

 

何もない空間からビスマスが出てくる。

これが光学式迷彩ってやつかな。基本的に虹色だけど、周りの色に溶け込んで潜伏ができるらしい。

 

「うちの門下生の様子を見てきてくれ」

『はい』

「ありがとう」

 

程なくして、ビスマスが戻ってくる。

どうやら映像を撮って来たらしい。

 

「……っ」

「……この憎しみがあれば、俺はまだ、戦える。絶対、死ぬわけには行かぬのじゃ」

 

その場に投影された映像を見て、誰もがその場で拳を握った。

 

あまりにも悲惨な光景。

ハエとの逢瀬。狂った顔で快楽を求める女性門下生と、ハエに攻撃され傷だらけの男性門下生。

 

「あの日から、ずっとこんなもんじゃ」

「ったくじいさん、なにしてくれてんだよ。一気にシリアスになっちまったじゃねえか」

「ははっ、それは悪かったのう。なにせ、これが俺の闘気になるのでな」

「アシアちゃんには見せられないですねぇ」

「……ヒバリさんが平然と見ていることは触れないのですか?」

 

俺の学校ではその場ですることなんてなかったけど。

でも、他の場所では、まだこんなことが行われてるんだ。

 

駆逐。ラストスパート。終わらせる。

 

そうだ。全世界のハエを駆逐するまで、俺たちの戦いは終わらない。

楽しさなんて求めるべきじゃない。たとえそれが日常に必要なネタだとしても、この日常はハエによって作らされたものだ。

 

いらない。そんなの、いらない。気合いが入った。

 

「終わらせましょう。ハエの、物語を」

「表渡……?」

「最後の一人の幹部を倒すんです。今までも、簡単に倒せたんですから、きっとできます」

「……()()()()、か。確かに、そうなのかもしれないのう」

 

弱々しい呼吸を繰り返し、じいさんが空を見る。

 

「のうコブ」

「ど、どうした」

「こいつのネーム、俺が考えても良いかの?」

「こいつって……表渡のか?まぁ、構わんが。いいな、表渡?」

「え、あ、はい」

「ほ、そうかそうか……。なら」

 

じいさんは目を細めた。

 

ライアー(嘘つき)だ」

「ライ、アー……?」

「いやなに、俺が死ぬか回復すればわかること。真実は時間が教えてくれるじゃろうて」

 

ライアー。

嘘つきという意味のその名が、まったく俺には関係ないものだった。

じいさんがどういう意図でこの名にしたのかはわからないが、十中八九気づいている。

 

コブさんが何か言おうとするが、それはキャタピラの音によってかき消された。

 

『遅くなった』

「アシアちゃん!」

「アシア、直径5センチ2ミリ!圧力35で!」

『了解!』

 

アシアちゃんの機体……ネプチュナイトからスチームが噴き出す。

右腕のアームがじいさんの棘を掴み、ゆっくりと引き抜いた。

とめどなく血が流れる。

ヒバリさんが即座に布巻き、俺が乗り込んだメテオライトで運ぶ作戦。

 

『じゃあ行きますよ!』

「おう!」

『ん!』

 

周りのハエを警戒しながら進む。

ちなみに、プロトろぼに乗り込んでいるのは俺とアシアちゃんだけ。

人数や手数が増えるので他のプロトろぼは自立稼働中だ。

 

「メテオライト、近くの病院を検索」

『検索。およそ500メートル先、右折します。街道に出るため、走行モードへの移行を推奨します』

「それ、じいさんはどうなる?」

『腕が格納されるため荷台部分に収納されます』

「じゃあそれで!」

 

近くの病院まで走る。

メテオライトが走行しながらキャタピラやアームを格納し、見た目が軽自動車になった。

メテオライトに免許はまだ存在しない。よって俺は犯罪者にならない。

 

「まあ多分、攻撃したらオートカウンターするみたいなハエの能力なんでしょうな!もうなんだよこれ!突然変異の範疇超えてるよ!」

『いいから早く行け!』

『……緊急事態では、信号を無視しても法的に問題ありません!』

 

スピーカーから流れてくる声。

なーんかあったね、変化前のネットニュースで。

隣を並走していたマスターたち(搭乗中)が急に止まる。

後ろを見ると、ハエが追って来ていた。

 

『俺たちが足止めする!』

『ん!だから、行って!』

『アジュライト!ホーミングミサイル展開!』

 

ヒバリさんのアジュライトが両腕のホーミングミサイルを展開する。

メテオライトの姿を隠すようにミサイルを真上に放ち、そしてミサイルは次々に地面に落下した。

 

『たのしー!』

『お前ソレ『コバエフレンズ』のセリフだろ!集中しろ!』

『ゴブさんこっち側だったんですか!』

『うるせえ!ガトリング展開、バイオレット・スパイク……長えよバカ!』

「フハハハハ!ざまあみろ!」

『表渡てめえええええ!!』

 

バイオレット・スパイク・クリスタル・エクスプロージョン。

ちゃんと存在する鉱石の名前なんだよ!

 

『……クロコアイト、頼みますよ。火炎放射器とカッターアーム、展開』

 

ゴウッ!!!!!

ズパアッ!!!!!

 

『……え火力高っ』

 

今素の声が聞こえた気がしたけど知らん。

 

「みんな、頼みますよ!」

『おう!』

『……はい!』

『任せろーばりばりー!』

『……ん!』

 

仲間の放つ戦争のような音を聞きながら、俺は山を降りた。



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俺は何を聞かされてるんだろう。

 

俺は何を聞かされてるんだろう。

 

『お願いします!舐めさせてください!』

『イヤじゃ気持ち悪い!』

『ひとペロでいいんです!ハエ様の皮膚片を体内に入れてみたいんです!』

『患者を重視せいこのダメ医者が!』

 

【医療中】のランプが光る鉄扉の向こうから、無駄に高音質に声が届く。

ガタガタ、ドコドコ、どんがらがっしゃん。

じいさん、元気だなぁ……。

 

病院についてから、メテオライトはすぐにみんなの所へ送った。

ギリギリ劣勢らしかったので、メテオライトが到着すれば押し返せる……だろう。

ジャケットの上からフェザーを撫でる。

最近はあまり使えていなかったなぁ……。

騒ぐじいさんの声を聞き流しながら考える。

 

もしもハエを駆逐し終わったら、なにが起きるのだろう。

世界の常識は元に戻る?

そんなご都合展開、本当にあるのだろうか。

今まで俺たちはハエを駆逐すれば世界が元に戻ると信じ込んでハエと戦ってきたが、どうにも引っかかる。

ハエの幹部を倒してきたのに、未だにハエの勢力は衰えない。

洗脳も解けていない。

今や幹部は世界で一人。

一人しかいないのだから、そろそろ矛盾とかに気がついた方が良いのではないだろうか。

 

「なんで、そのままなんだろう……」

 

ハエを倒してもそのままだったらどうしよう。

なんだこの胸騒ぎ。

いつのまにか、フェザーを握りしめていた。

 

「……いや、ちゃんとしないと」

「何をちゃんとするのかね?」

 

隣におじいちゃんいた。

 

「っ……こんにちは」

「はいこんにちは」

「えっとちゃんとするっていうのは……その、そう!ハエのために、ちゃんと勉強しないとなーって」

「……ハエ。ハエか」

 

おじいちゃんはため息をこぼす。

何かおかしなことを言っただろうか。

 

「……わしが、おかしいのかもしれんな」

「……?」

「近頃、あっちでハエ、こっちでハエと、洗脳されとるみたいにハエを崇めとる。流行なんてものじゃなく、国全体がハエを崇めている。……異常に思うのは、世界でわしだけなのかもしれんな……」

「…………」

「お前さんも、わしの言うことが信じられんのじゃろ?ああ、殴ったらいい。ここは病院だ。改定された法律に、『蝿に対する侮辱行為を発見した場合、危害を加えても良い』というのがあったな?」

 

……このおじいちゃん、【常識人】だ。

ハエの洗脳の影響を、受けていない。

ずっと、一人だったんだ、このおじいちゃん。

 

「……殴りませんよ」

「……ほ?」

「まあ、俺があなたにどうこう言うことはできませんけど……」

 

変わり果てた世界で、ずっと一人、おかしさを感じながら生きてきてたんだ。

俺たちが、アホやってる間に。

 

「あなたを救おうと、この世界を直そうとは、思ってます」

「それは……」

「まぁ、カッコつけて言うと……あなたは一人じゃない、って事ですかね」

「そうか……。一人じゃ、なかったか……」

 

おじいちゃんは微笑んだ。

……俺たち以外にも【常識人】がいるのなら、尚のこと。

頑張らないと。

希望は、俺たちの背中に乗ってる。

 

「おい」

「じいさん!大丈夫ですか!」

「まぁ、松葉杖があれば動けるらしい。俺を老いぼれと思いおって、雑な治療をしやがった」

「あんなに大きな傷が塞がってるんだからすごく良い医者ですよ。しばらく戦闘はやめといたほうがいいですね」

「まだ戦えるわい」

 

じいさんを介護しながら病院を出る。

 

「俺の隣にいた人、【常識人】でした」

「……ほう」

「その人は【常識人】は自分だけだと思っていたみたいです」

「引き込めは」

「無理だと思います。かなりお年を召していたので」

「オイ俺は」

「波動飛ばしてハエ斬るような人はお年寄りじゃありません」

 

そりゃそうか。

【常識人】があの場の全員とは限らない。

警戒心を、あげないと。

 

「ライアー」

「え?」

「お前の名前じゃろ」

「あ、はい。……なんですか?」

「帰ったら、覚悟をしておくことだな」

 

覚悟……?

怪我をしたばかりなのに、もう戦闘に行くつもりなのだろうか。

 

半ば呆れながら、俺とじいさんはバーへと帰るのだった。



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カバン裁判大判小判

 

『ごほっ、ごほ……。残念だったが、俺の勝利だな。なんせ───』

『マスターヒョウト・確認。これより、戦闘を開始します』

『こいつがきたからな』

 

俺だ。

画面に映っておるのは、間違いなく俺だ。

 

後ろに映っているのはメテオライトだ。

 

「おう表都お帰り」

「…………」

「おいおい、無視はひでぇんじゃないか……?」

「…………」

「んでよぉ……こ れ は な ん だ ?」

 

終わった。

 

「えーなんのコトデセウー?」

「今更誤魔化し切れるかバカ野郎。てめぇ……ニュースで話題の暗殺者だろ?」

「ちょっと何言ってるのかわからないですね……ひえっ」

 

首の横に刀が当てられる。

後ろからの脅し!?

じいさん最近ホント容赦ねぇな!!

 

「そうだよな、今考えれば全て辻褄が合う……メテオライトの損傷や弾薬の減りも、そりゃこんな怪物と戦ってれば減りもするよなぁ!?」

「渡瓶君……どういうこと?なんで黙ってたの?」

「……正直、隠す理由が思い当たりません」

「おい、そろそろ語ったらどうじゃ。言い逃れはできんぞ」

 

アルカトゥーレにいるメンバー全員が俺に尋ねる。

硬く握った左拳が、遠慮がちに握られた。

 

「……ん。なんで……?」

「……アシアちゃん」

 

もう、言うしかないのだろう。

 

「そうですよ……俺が、夜な夜な一人でハエを駆逐してました」

「ようやく吐いたか。んで、理由は?」

「定期的にハエを倒していっても、増える速度の方が早い。保険の授業でやっていました。ハエは、人間の女を孕ませ、孕まされた人間の女は一度の出産に10以上のハエの幼体を産むって」

「……なるほど?コロニーってやつだな。一度ハエの出産をすると脳に快感が送られてもう一度ハエを産みたくなる。住みかとコロニーを別にすれば、女は歩くコロニーだ。自分は動かずして、蹂躙するハエの行動範囲を広げようってこった」

「はい。しかも、今ハエに洗脳されている人間はハエに憧れを持っています。……だから、ハエと人間が同時に興奮する夜に活動して、性行為中か直前、そうでなくとも恋愛や親愛の感情が一番出ているときに撃ち抜く事にしてました」

 

そうすればきっと、トラウマなって病んでくれるかなって。

『自分がまたハエと恋仲になれば、きっとそのハエも殺されてしまう』と、考えてくれるように。

特に、ハエの幹部は人間と体の構造が似ているため、女性からはすごく人気があった。

今回の騒動で、ショックを受けた人は大勢いるだろう。

 

「それで、俺らに伝えなかった理由は?」

「……俺、繭由っていう幼馴染みがいるんですけど。小さい頃にそいつと二人、親に内緒で隣町までいったんです。で、気がついたら繭由がいなくて。誘拐、されてました。それに気づかずに、そもそも繭由を連れて行ったことも忘れて、一人で帰っちゃったんです。……だから、それが怖くて」

 

その日は、晩御飯抜きなんて生易しいものじゃなかった。

縄で縛られ、冷たいアスファルトの上に放置された。

異論はない。繭由の気持ちのなりたかったから。

辛かった。寂しかった。心細かった。

 

「だから、ソロでやったんです。いち早くハエを駆逐したいってのも、繭由がハエに犯されないうちに、倒して起きたくて」

「渡瓶君、その繭由って子は、その……もしかして、好きな人?」

「あぁ……今思うとそうなのかもしれませんね」

「…………そかそか……やっぱり……」

「?どうしたんです?」

「え?なんでもないよ?なんでも」

 

ぱたぱたと手を振ってみせるヒバリさん。

「他に何か質問は?」と促すと、アシアちゃんが小さいおててを上げた。

 

「ん。その……悲しい」

「かな、しい」

「質問じゃないけど……頼って、くれなかった」

 

ホント、アシアちゃんは強いというか。

純粋だからこそ、胸に来るものがある。

 

悲しい、か。

あーあ。

 

「なんか……疲れちゃいました」

「はぁ……ったく、この世の命運をお前が全て背負ってなんになるんだよ。お前は主人公でもなんでもないんだぞ?」

「そう、ですかね……そうか。……そうか」

 

うなだれた俺に、ヒバリさんが近づく。

俺の手を取った。

 

「チームで、世界を救うんだよ」

「うぃっす」

「勝手に死んだりしたら、許さないからね」

「……うぃっす」

 

ヒバリさんに怒られた。

……申し訳ない気持ちもあるが、単独で行動するのはリスクは高いがメリットも大きい。

家の近くの範囲なら、バレず出来ないこともないけど……やめておこう。また悪目立ちするだけだ。

 

「ほんじゃあ、残りの幹部も倒すため、あいつの特徴についてまとめるぞ」

「……そうですね。じいさんの脚が貫かれたことについても良い情報が入りました」

 

コブさんとマスターが、どこからかホワイトボードを持ってくる。

改めてチームとしての作戦会議が、今始まった。



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決断。そして決戦へ

 

「……今回の幹部の能力は『カウンター』にあると思われます」

「カウンター?でもやつらはそんな素振り見せなかったぞ」

 

マスターの言葉に、やられた張本人の爺さんが手をあげる。

 

「……ええ。ですから、正確に言うなら『カウンター』よりも『受けたダメージを返す』と言った方がいいでしょう」

「……なに?」

「じいさん、アンタ、あのときどれくらいの傷を負わせた?」

「……なるほどのう。たしかに、俺はハエに大きなダメージを与えた。それこそ、部位1つ貫かれるくらいの」

 

部位1つ貫くくらいのダメージを与えたから、じいさんは部位1つ貫かれるダメージを負ったってことか?

 

「……それに、私のクロコアイトも、しばらくして棘による攻撃を受けました。……おそらく、受けたダメージをイバラで返す。そのような能力なのでしょう」

「となると、安易に攻撃ができないな。アシア、クロコアイトの被害は?」

「腕を持っていかれてる。……ん、鎧タイプにしなくてよかった。そうでなくちゃマスターは腕を……」

 

貫かれて、いた。

だが一つわかった事。こっちの得になる情報は、あのガン◯ムもどきを人としてハエが認識したこと。

もっと大きく、もっと装甲を厚くすれば、戦闘に支障はなくなるだろう。

問題としては、じいさんのような装甲で戦うのを嫌う人。

ロボットでは樫牙流の剣術が使えないそうだ。

 

「これは、じいさんは留守番ですかね……」

「バカにするでない。まだ俺は戦える」

「どこからくるのかわからない棘相手に、どうやって戦うって言うんです?」

 

黙ってしまうじいさんに、尚も俺は続ける。

 

「受けたダメージを返す……そんな能力の相手を、もし、じいさんが、その刀で。……首を跳ね飛ばしたり、心臓を貫いたりしたらどうなると思います?」

「待って渡瓶君、それ以上は……」

「これは、命に関わるんです。いつも死がとなりにいると言うのなら、今回の死は僕らに抱きついている」

「言ってる意味が……わからないよ……」

 

コメディなんてものはなかった。

じいさんは、戦えない。

アシアちゃんも制作陣のため、戦う技術は持っていない。

 

「俺は、止められても行くぞ」

「マスター。監視をお願いできますか」

「……ッ……わかり、ました……」

 

戦闘班が、二人も消えた。

しかも、二人とも冷静に状況が判断できるプロだ。

 

これで……俺、ヒバリさん、コブさん。

この3人で、戦うことになった。

 

「……大ボスを倒しましょう」

「……どういうことだ」

「ハエを駆逐する度にロボットを半壊にされていては資源が持ちません。ここは一つ、大将を───ハエの幹部の最後の一人を、殺しに行くべきではないかと」

「お前っ、リスクを考えろよ。お前がソロでやってたときとは話がちが……」

「私は……渡瓶君についていくよ」

「お前!!」

「じいさんの体も大事だし……今大元を叩くのも、理にかなってると思う」

 

ヒバリさんが、俺の手を取ってくれる。

コブさんはまだ納得がいっていないようだ。

 

「情報が欲しいですね。いつ、どの辺りにハエがでるのか」

「そうだね……さりげなく、互いの学校で聞いてみよう」

「……勝手にしろッ。俺は制作陣に行く」

 

また、人が減った。

残りは、俺とヒバリさんのみ。

なにがおかしいんだよ。幹部を倒せばハエの能力は消えるんじゃないのか?

だったら、やるべきだろ!

 

ヒバリさんを連れて外へ出る。

 

「渡瓶君、渡瓶君」

「あ、はい?」

「とあるサイトなんだけど……【常識人】が集まってるサイトがあるの。コブさんから後で教えろって言われてたんだけど、忘れちゃっててゴメンね」

「あ、えーと……ありがとう」

 

送られたURLを見ながら、俺はどうにも憤りを覚えていた。

 

 

 

 

「ギチャア……」

 

ハエが始末される。

殺しても殺しても足りない。

なんで幹部とやらはいつもニホンに現れるんだ。

 

「メルク、死体撃ちはやめておきなさい。弾丸の無駄よ」

「……チッ」

 

ハンドガンを腰のホルダーにしまう。

弾丸をリロードしてからスマホを見る。

サイトに新規のキャラクターがログインしていた。

 

「……は?」

 

近々、ニホンで最後の幹部を倒すらしい。

その準備をしている、とサイトログに書いてあった。

 

「どうしたのメルク?」

「ニホンで最後のハエの幹部を倒すそうだ」

「まぁ」

「俺たちはもう戦わなくて良いってことだろうか」

「ハエの幹部を倒してそれで終わりとは限らないわ。ニホンで何かが終わるなら、ニホンで何かが始まる確率もまたあるのよ」

 

まぁ確かに。

 

「どうする?俺たちも行くか?」

「言葉の壁があるわよ。それに私たちが離れたらエジプトの民はどうなるの?【常識人】がいなくなって、ハエはヤり放題だわ」

「……まぁ、確かに」

 

 

 

 

「ヘーイ!!どうしたんだYO!!」

「うるさい……」

「多国民連合のクセにそんな辛気くさい顔してちゃ、ニホンのサムライも動けないYO!!」

「元気だねぇ、ダイアンがイラついてるよ」

「だから俺は嫌だといったんだ……」

「ジェーンも笑うんだYO!!」

 

まったくこの子は。

愛する姉も妹も犯され、親は殺され、片目を抉られ。一番辛いのはこの子でしょうに。

心配性のダイアンを気にかけて、わざとお気楽なピエロを演じて。

あなたが夜な夜な泣いてるの、みんな知ってるんだからね。

 

「はいはい!あともう少しの辛抱。あと少し待てば、ニホンの人がやってくれるよ!」

「そうだYOジェーン!ニホンのサムライにお願いするんだYO!」

 

ニホンのサムライ、ねぇ。

ニホンの人は刀でハエを倒してるのかな?

そうだとしたら舐めてるとしか思えないけど……。

 

「……ン?だれかくしゃみしかたYO?」

「するわけない……幻聴が聴こえるようになったのかい……?」

「ン〜〜〜?気のせいだったのかYO……?」

 

もしかして、ニホンに本当に刀で戦ってる人がいたりして。

……いるわけないか!そんな人。

 

 

 

 

……おやすみのキスをしようと思ったんだが……どうやら、我が愛娘はハエとお楽しみらしい。

漏れる嬌声を聞きながら掌を硬く握る。

私の、私の娘を。

父親として、ここまでの屈辱はない。

 

「旦那様……」

 

メイドのリリアンも、私と同じ【常識人】だ。

私は……ハエを殺めたことがある。

リリアンが襲われそうだった。そのとき、とっさにナイフを持ってリリアンを庇ったのだ。

 

「私は大丈夫……だ。リリアン、サイトのみんなはどうしてるかな?」

「日本のグループが、最後のハエの幹部を倒しに行くそうです。いかがされますか」

「せっかくなら私も行きたいところだが……行く理由が見つからない。ニホンといったか。リリアン、君だけでも行くんだ。何かの力になれるかもしれん」

「……申し訳ありません。私はこの家のメイドにございます。今は、この家を、お嬢様が溺愛されているハエ以外から守るのに背いっぱいでございます」

 

そうか……そうか。

 

「わかった。ニホンの人の活躍を待とう」

「ええ。日本の民はとても強い化学兵器を持っているそうです。きっと彼らなら、やってくれるでしょう」

 

せめて、この家くらいは守る。

私は溢れるその気持ちを、リリアンと共に弾丸に込めた。

 

 

 

 

色んな人がいたんだな。

世界各地の【常識人】の状況を見て思う。

それと、その期待が俺たちの背中に宿ってることも。

コブさんはまだ工房にいる。

世界の命運がかかっているというのに、なにを呑気な。

 

「きっとゴブさんは、理性では理解していると思うんですよ」

「……?」

「でもゴブさんはそれ以上に仲間を大切にしていて、じいさんがケガをしたとき、凄く焦ってたんですよ」

 

ブランコを揺らしながら、ヒバリさんは夕陽を見ていた。

 

「だからきっと、そんな時でも冷静な渡瓶君に怒っちゃったんだと思います。……ゴブさんは、あれで優しいところがありますから」

「ヒバリさん……」

「また明日ゴブさんに謝りましょう。その時には、ゴブさんも反省してますよ」

 

そう言って、ヒバリさんは───日張さんは笑った。

とても決戦を前にした女子高生の顔とは思えない、美しい笑顔だった。

 

「ところで渡瓶君」

「ん?なんすか」

「好きです」

 

………………。

 

「はい?」

「好きです。渡瓶君のことが」

「……どういう冗談でしょう」

「まぁまぁ。今は聞いててください、……別に、恋人になってくれなんて事は言わないですよ。ただ、渡瓶君が好きだというだけです」

 

何を言えばいいのかわからない俺を前に、日張さんは語る。

 

「まぁ……渡瓶君に好きな人がいるっていうのがわからなかったら『付き合ってください』くらいは言ってたかもしれませんけど……単純に、渡瓶君が好きなんです」

「……。あの……」

「私は、あなたが好きです。この決戦で、あなただけは守ってみせる。……それだけは、覚えていてくださいね!」

 

呆然とする俺をよそに、日張さんはブランコから降りた。

 

「では!また明日!!」

「また、明日……」

 

元気よく、タタタと駆けていく少女。

俺は、深いため息を吐いてから空を見上げた。

 

茜色の空に、ブランコの鎖がじゃらんと鳴った。



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絶好のチャンス

 

「「「博物館見学?」」」

「はい。こんど俺のクラスが博物館でハエの歴史を学ぶことになりまして」

「地獄だね……」

「……それは、どのような意図があるのでしょう?」

「えっと……これプリントです」

 

今この場にいるのは、マスター、アシアちゃん、ヒバリさん。

他の人はドックにいたり自分の道場にいたりと、とにかくここにはいない。

 

「ん。『ハエに対する新たな見識を深め、これからの政治を……』」

「へー、すごいですね」

 

びり……。

 

「ヒバリさん!?!?!?」

「あっっっ、ごめん!ついムカついて!!」

「仕方ない。私が直す」

「マジかよアシアちゃん天才だな」

「……ん。ふふ」

 

アシアちゃんがカウンターの下でなにかをごそごそしている間に、今回の作戦を話す。

 

「とりあえず。今回の学習は特別ゲストに……最後のハエの幹部が来るらしいです」

「……なるほど。おおかた、子供を残して今のヒエラルキーレベルを保つためでしょうね」

「ってことは、女の子を見定めるために参加するってことかぁ。つまり、その間は無防備」

 

そこを叩けば、ハエの幹部はいなくなる。

幹部……っていうか上司がいなくなれば部下のハエの能力が無くなることは、前回、前々回の幹部で立証済みだ。

俺の正体はまだ誰にもバレていない。それなら制服の内側ポケットにフェザーを入れておけばいつでも出せる。

まあ一つ欠点を数えるならば……。

 

「…ねぇ。もしかして、相打ちにしようとしてる?」

「……ッ!!」

 

マスターの顔が強張った。

……まぁ、そういうことになる。

俺が弾丸を撃ち込めば、そのダメージが俺に返ってくる。

心臓以外を狙っても帰ってくるダメージ。銃を扱い始めて、間もない俺は、腕を貫かれたら即終了、引き金を引くことすらままならないだろう。

……だからこそ、狙うべきは心臓。

一撃で。『死ぬダメージ』を与えなければ、命は無駄に散っていく。

そう。()()()()()『死ぬダメージ』を。

 

「だめだよ……そんなの、ダメだよ!!」

「これしか手はありません」

「メテオライトは!!メテオライトを使えば……」

「あのデカい図体をどうやって博物館内で操縦するって言うんです?」

「っ、別に今じゃなくたって!」

「奴の住処はわからない。今もどこかで女を犯し、子孫を残そうとしているのかもしれない!」

 

絶句するヒバリさんを横目に、アシアちゃんからプリントを受け取る。

ご飯粒で境目が分からないほど完璧に修正されたそれの持ち物の欄。

その禁止事項に。

 

『尚、女生徒は避妊具の持ち込みは禁止』

 

……殺す。

これ以上、奴らの好きにはさせない。

 

「自分の命が惜しくないの!?」

「たった一人、俺の命でハエが殺せるなら……安いもんでしょ」

「…………狂ってるよ……」

 

狂ってる、かぁ。

【常識人】の中で真の常識人は俺しかいないと思ってたんだけど、とっくのとうに常識から外れていたのかもしれない。

自己満?厨二病?どっちでもいい。

正義感なんて生優しいもんじゃない。

俺はハエを殺したい。

平和を崩し、甘い蜜を啜ってのうのうと生きる奴らが許せない。

 

「じゃあ……一人で行ってきますよ」

「えっ……」

「これから連絡はしません。俺一人で戦います」

「ちょ、ちょっと……」

 

バタン。

俺は扉の外でふぅと一息つくと、階段を登った。

変わってしまった世界に……地上を、踏み締めるたけに。

狂うなら……最後まで狂ってやる。

最終決戦だ。

 

 

 

 

バスの向こうの景色を眺める。

一晩眠りについても、胸の奥の仄暗い闘争心は消えなかった。

どんな方法で殺す?ハエの幹部の後継がいない保証は?

今になって湧き出る不安がぐるぐると胸中で渦巻く。

 

「それでは皆さん、博物館に行く前に、携帯の電源は切ってくださいね!」

「「「は〜い」」」

 

携帯に表示された、『着信:日張さん』の文字。

……電源ボタンを長押ししてリュックに押し込んだ。

 

「っていうかまゆゆんちょっと太った?」

「やめてよぉ、そんなわけないじゃない」

 

繭由か……たしかに、なんだか少し太ったような。

太った、太ってない。そんな会話を、続けられるような世界にする。

俺が終止符を打つ。

もう俺は覚悟を決めた。

この制服の内側に縛り付けた───フェザーはポケットに入らなかった───銃で、俺が全てを終わらせるんだ。

 

バスが止まる。

ハエの博物館……正式名称は蠅ノ暮らし博物館。

反吐が出る。

 

中身もハエばかりだ。

……猿から人間に進化するやつも、卵から成体になるまでのハエの成長が描かれていた。

女子が恍惚とした表情で眺めていたが、どうにも理解できない。

 

……薄暗いトンネルの中でガラスの中にハエのミイラが展示されている。

上からスポットライトを当てて、神聖さが醸し出されている。

理解できん。

 

……最後についたのが、大きなホールだった。

それぞれ配られた番号の席に座る。

ホールの中央には人が一人入れるくらいの箱があり、全員が席に座ると照明が落ちていった。

メインディッシュの登場ってわけか。

 

スポットライトが当てられ、箱が四つに割れる、

スモークの中から出てきたのは……案の定。

 

「初めまして諸君」

 

緑色の甲冑……皮膚が硬化した鎧を纏った、人型の化物。

どこかで誰かが言っていた。この世で一番怖いのは人間であると。

化物は一目で化物と分かるから対して怖くない。

だが、人型は人間がもっとも見慣れた姿であり、それがどれくらいの力を秘めているかも感じ取れない。

 

「……へぇ。この学校も、中々上玉が揃ってるじゃないか」

 

()()()()()

奥歯がぎりりと鳴る。

そうやって……色んな命を食い物にして来たのか。

あぁそっか。わかった。お前の生き様はよーくわかった。

 

唐突に立ち上がる。

視線が集まり、先生が座らせようとしてきた。

 

「どうしました?トイレなら目立たないように……」

 

先生は怪訝そうな顔で俺の手元を見つめた。

ピンが抜かれた、筒状の物体、両手に2本ずつ。

 

「ば、爆弾だぁー!!」

 

悲鳴っぽい何かを叫んで投擲。

その四つが全て起爆した。

 

ボォォォン!!

スモークが撒き散らされる。

俺の体が煙に完全に包まれたところで、胸ポケットからスイッチを取り出した。

 

看板、パネル、ミイラ、etc。

この博物館で回った至る所に仕掛けてきた。

怪我人の一人やふたり、覚悟してくれ。

 

親指を赤いボタンに沈めると、大きな振動とともに博物館の至る所が爆発した。

入り口が瓦礫によって塞がれる。

よってこの空間にはハエと俺の二人きり。

 

「今の俺は全身兵器だ……んじゃ、さっさと終わらせてもらうわ。この世界総出の茶番をな」

 

くるくるっとガンアクションしながら笑う。

さてと。

 

 

世界、救いますか。

 

 

 



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拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました。

ハエとは、地球に住む軟弱な生命の一つであった。

偶然にもそれと同じような姿をした宇宙生命体達は、地球を乗っ取れば食にも快楽にも困らないことを悟った。

そして、はぐれのハエが、幹部と呼ばれるようになった頃。

最後の生き残りの幹部。思慮深く、自身に宿る能力も協力な彼は今、白煙に包まれていた。

 

立ち込める煙を、一閃の弾丸が貫き穿つ。

 

表都は照準を当てたままハンマーを引いた。

ガチリと、硬質的な音を立ててリボルバーが回転する。

……決戦は既に、始まっていた。

 

「ッ!!」

 

即座に引き金を引き、後ろに後退する。

煙が晴れる前に仕留めるか隠れるかしないと、奴に接近戦に持ち込まれたら厄介だ。

だが攻撃の手は止めてはいけない。出鱈目に撃って反射を狙う。

ここまできたらもう退けない。

 

俺が、この世界に終止符を打つと決めたから……!

 

「どこからだ!どこから来ている!」

「勝機……」

 

相手は俺を見失ってる。

座席の下からスカイライナーの外殻を取り出す。

アシアちゃんに改造してもらったスカイライナー。折りたたみ式にしてもらうのと熱源を探し当てる機能をつけてもらった。

 

「ぐうっ」

 

お、反射した弾が当たった。

ということは、俺の体のどこかのダメージが……。

 

「どこにいる……そっくりそのままダメージを返してやる!!」

 

こ、ない。

つまり、相手の能力は、『視認していないと反撃できない』?

これはチャンスだ。

長身の銃を構え、スコープを覗く。

悠長に狙っている暇はない。見つけた瞬間、どこでもいいから撃つ!!

 

ピシュ、と、空気の爆ぜる音。

相手の腕がびくりとはねた。当たったのか。

と同時に。

その腕が、こちらを向いた。

 

死。

 

「だあっ!!」

 

横っ飛びに地面を蹴り、その場を離れる。

先ほどまで俺がいたところに極太の棘が突き刺さった。動いていなかったら死んでいた。

 

死。

 

全身で感じる恐怖と鳥肌。後ろの席に飛ぶように逃げる。

メコ、と棘によって刺された座席が悲鳴を上げた。

初撃を避けるときに声を上げたから大方の位置がばれている。

尻ポケットから爆竹を取り出し、向こう側に投げる。

バオンと、音波が響いた。

 

アシアちゃん特製『音爆弾』。威力よりもその音を響かせることに特化した爆竹だ。

そしてそれは、現在のようなホールだと役に立つ。

音はホールに響き渡り、その威力を増す。

腹に響くようなビリビリとした音を聞きつつ、フェザーに弾丸を装填する。

6発。完全リロードは完了。

 

息を潜めつつ、スカイライナーの残弾数を確認。

ボディが丸いから装填できる弾丸の数が多く、どちらかというとその風貌はマシンガン。

フェザーを右手に、スカイライナーを左手に。

早鐘を打つ心臓をどうにかしようと深呼吸して、煙にむせそうになる。

それで気づいた。煙が薄くなって来ている。

見つかるのも時間の問題だ。追加のスモークグレネードを取り出す。

 

どこに───

 

「みつけた」

「ッ!!!!」

 

死。

 

死、死、死。

 

繰り出される死を、全部紙一重で避けていく。

既に息は上がっている。だが、ここで死んだら【常識人】の存在がバレる。

スモークグレネードのピンを抜こうとするが絶妙なタイミングで攻撃されるため抜けない。

万一抜けたとして、この距離ではあいつを撒くことはできないし、俺が爆発に巻き込まれる。

もっとやり方はあったかもしれんが、所詮は素人。俺は歴戦の兵士じゃなく、今を生き抜く一般人だ。

とっさに作戦が思い浮かぶ訳が───

 

死。

 

「あっぶねぇ!!」

「チッ」

 

ドッチボールの要領でターンをしてその勢いでフェザーを振り抜く。

振り抜いたままに引き金を引くが、弾丸はあらぬ方向に飛んでいった。

徒手空拳詰めて来た相手の腕が腹に当たり、内臓がシェイクされる感覚と鈍痛が響く。

次に顔面だ。膝を落として飛んできた拳を避け、足払いではたき落とす。

相手はバク転で距離を取った。

すかさずフェザーのハンマーを引きつつ、スカイライナーの砲身を根の代わりに突き出す。

 

「付け焼き刃!」

「だからなんだ!!」

 

左手を引けばその重い砲身が後ろに下がり、右手───フェザーが前に出る。

が、照準を合わせた頃にはもういない。つまりは下。

スカイライナーを地面に突き立て、半身を浮かせて横からキック。硬い感触。相手にダメージはない。自分は防御の構えが取れない空中。

 

つまりは死。

 

「(ここで使い潰すッ)」

 

スカイライナーを撃つ。

地面に砲身を突き立てたまま。

長い砲身は弾丸が詰まって破裂し、左腕があらぬ方向に持っていかれた。

空中の俺には反動はよく流れる。慣性の法則に従って俺の体が緊急離脱する。

スカイライナーは手放し、体を丸めて衝撃を流す姿勢。全身を打ちながらも攻撃を避けることに成功。あいつに殴られるよりはダメージが少ない。

 

「はぁ……はぁ」

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

浅い呼吸を繰り返して次に備える。

ぐしゃり、とスカイライナーの砲身が踏みつけられた。

ぐにゃりと凹んだ砲身。あれではもう狙撃はできない。

 

「お前が初めてだ……俺をここまでコケにしてくれたのは」

「ふぁっくゆー」

 

空いた左手で中指を立てて見せる。

その間にも息を整えるのを忘れない。

 

「ははは……殺してやろうか?」

「ブーメランだぜ、その言葉」

 

やべえ、もう少しぬるめの挑発にしときゃよかった。時間が足りない、

右足の先を浮かせてかかとでターン。踏み込みのある拳を避ける。

背中をフェザーで殴って体勢を崩し、地面を思い切り蹴って入れ替わる形になる。

そのまま凹んだスカイライナーを拾い上げ、幹部に照準を合わせる。

 

「凹んだ銃が撃てるのか?」

「……撃てるんだなこれが」

 

親指でロックを解除。重かったスカイライナーの砲身がパージされた。

すかさずその引き金を引いて弾丸を撃ち込むが、ブリッジのような姿勢で交わされ、戻る反動で肉薄された。

すかさず再度スカイライナーで近距離射撃。

バク宙で距離を取られた。

 

スカイライナーには奥の手がある。

それが、砲身のパージ。

遠距離攻撃ができなくなる代わりに小回りが効く拳銃となる。

弾丸の最大装填数はフェザーなんか優に超える。アサルトライフルほど撃てるそうだ。

つまりは……二丁拳銃だ。

 

こっちから肉薄して上から叩きつけるように弾丸を連射する。反動で左手を体ごと回し、右手のフェザーで相手の腕を強く叩いた。

 

「ぐあっ……刃物、だと!?」

 

フェザー、奥の手。

砲身に取り付けられた刃。

なぜフェザーが、コルトパイソンとは違って無駄に四角形なのか。なぜバイオハザードカスタムなのか。

それは、砲身の下に仕込み刀があることを指していた。本当は安定性のためらしいけど。

照準を合わせ辛くなる代わりに、近距離では最強格の武器となる。なぜって?刃を当てるような状況で照準を合わせるほど距離は保てないから。だから、撃つなら至近距離で。

 

「舐めるなッ!」

 

死。

とっさにその場を離れると棘が空をさらった。

つまりは、切り傷の分をお返ししようとしていたらしい。

そして、さっきの貫くトゲを使ってこないということは、一度能力を発動したダメージは再び返すことはできないということになる。

 

重心が後ろになっていた体を無理やり右足で支え、バネのようにしならせて肉薄する。

牽制のために大仰にフェザーを撃ち、相手が回避のために体を逸らしたところを全力で蹴る。

ドロップキックで体勢を崩させ、スカイライナーを後ろに撃って反動でさらに肉薄。

頭に照準を定め、マグナム(フェザー)の引き金を絞る。

 

「おおおおっ!!」

 

首を横に逸らされ、弾丸は地面を穿った。

鈍痛。腹に拳を食らった。

地面を転がりつつ、もう一度フェザーを放つ。今度は検討外れの方向に穿ち、天井にヒビを入れた。

肘打ち、隠し刃、蹴り。

連撃を繰り返し、最後にフェザーを撃ち込んで大きく離れる。

さすがに疲れた。

 

「フェザーは……外したか」

「余裕こいている場合か?俺はまだ全力を出していないぞ」

「知らない。ハエの言うことなんて信じてないからな。ブラフって可能性も捨てきれないし」

「ハッ。疑り深いこって。奥の手まで使っちまっていいのか?」

「アンタを殺せば、全てが終わる。使わないに越したことはないけど……俺は、ラストエリクサー症候群にはなりたくないんでね。使える奥の手は使うべきだ」

 

こうして話に乗るってことは、相手もそれなりに消耗しているはず。

外傷はあちらのほうが大きいように見えるが、こちらは内臓を揺らされたり、内面的なダメージを負ってきた。吐きそうだ。

つまり、互いに死にかけ。

フェザーをリロードする時間はない。残りの残弾は1発のみ。

スカイライナーは連射できるけど、反動が大きすぎてダメージを与えた後に回避行動を取れない。

この一手で、決めなければ。

 

「ッ!!」

「突っ込んでいいのかぁ!?」

 

スカイライナーを盾代わりにしつつ、フェザーで斬りにかかる。

カウンターの拳が飛んでくるが、スカイライナーは元々硬い上にロールした弾丸があるので衝撃が薄れた。つまり、暖簾を押したようなもの。体勢も崩れる。

 

「はあああっ!!」

「チッ!!」

 

横っ腹を掻っ捌く。

瞬間、横にスカイライナーを連射して能力による反撃を防ぐ。

残りの残弾数が、俺が回避できる回数。

 

「刃の部分に毒でも塗っておけばよかった」

「……………」

 

ノンストップアクションって感じだ。忙しい。

羽を羽ばたかせて俺の頭を掴もうとするタイミングを狙ってフェザーの弾丸を叩き込めば勝ち。それで、すぐにスカイライナーを撃てば……。

 

ブスッ。

 

「あっが、あああああああっ!!」

 

右手首を貫かれ、尋常じゃない苦痛にフェザーを取り落とし悲鳴を上げる。

回避に使おうとしていた残弾を奴にぶちまけるが、機動力が高すぎてほとんど避けられた。

 

「くっ」

 

引き金を引くが、ガチリという音が鳴る。弾切れ。

スカイライナーの残弾は撃ち切った。反動を回避に使うことはできない。

恐る恐る上を見上げる。

()()()()()()()()()()()()()()奴が、笑っていた。

つまるところ。

 

 

 

死。

死。

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。

 

 

 

俺の至る所から、赤黒い液体が飛び出す。

死線が、俺を貫き続けた。軽率にマシンガンもどきを撃ちまくった結果だ。

棘が、俺の腹を、腕を、足を、貫く。

 

「ヒーロー気取りが」

 

ぶぶぶ、と耳障りな音を立てて奴が俺の目の前に着地する。

這いつくばっている、俺の目の前に。

 

「俺の体にこんな傷をつけやがって。せっかくいい女を見つけたのによ」

 

意識が朦朧とする。

 

「ヒエン様の子供をくださいって、懇願してくるんだ。胸もでかいしやりたいときにやらせてくれるし、いい女だぜ、ほんとに」

 

ヒエン。ヒエンって言うのか。

 

「ついこの前の話だ」

 

俺の頭に、ヒエンの足が乗せられる。

ふざけんな、どけよ。

 

「お前の学校で見つけたんだ。あっちから求婚してきてな。子供には新しい幹部になってもらう」

 

将来設計とかどうでもいい。

 

「ま、幹部が全員消えたら全てが元どおり。そんなことするわけにはいかない」

 

んなこといいから、早く。

 

「早く……」

「ん?どうした?辞世の句か」

「早く俺の上からどけよ……」

 

もうな。

機は、熟してるんだよ。

 

「しね」

「そのボロボロの体でまだそんなことを……ッ!?」

 

ミシミシ。

ミシミシミシ。

天井のヒビが、大きくなる。

 

「こいッッッ!!!メテオライトォォォォオオオオオオッッッ!!!

「なッ……」

 

メテオライトは、特殊な弾丸を近くに放てば起動する。

軽自動車モードのメテオライトを、屋上駐車場に配置していたとしたら?

答えは簡単。

ヒビは実は穴であり、そこから飛び出た弾丸に反応して、メテオライトが起動した。

 

「そっ、それはなんだ!?その黄色いのは!!」

「俺の最後の……奥の手だ」

 

満身創痍のヒエンは、瓦礫に足を挟まれている。このチャンスしか、ない。トリガーに手をかける。

 

プロトろぼ『奥の手』。

その人型は変形し、腕に詰まれたマシンガンとランチャーが前面部分に来る。

軽自動車モードの時の扉や外装が己を守る壁となり、絶対不可避の一撃を与える。

全ての弾を撃つ負担からメテオライトは再起不能となり、迂闊には使えないまさに必殺技。

 

長い主砲、己を護る壁、そして、突き出されたトリガー。

まさに、それは。

 

「対戦車砲……!!」

 

照準を、構える。

 

「これが最後だ」

「や、やめ……」

「遺書は遺したか?地獄の隅でガタガタ震える準備はオーケー?」

「わ、わかった。引き分けだ!あの女からも手を退く」

 

最後の最後で小物っぽくなるんじゃねえよ。

生き残りなら、生き残りらしく、どんと構えて。

 

「しにやがれ」

 

カチリ。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!

「あああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───。

──────。

─────────。

 

「───ごはっ、ごほっ、ゲホッ」

 

飛んでいた意識が戻って来る。

ホールは既に壊滅状態。

壁には大きな風穴が空き、そこにヒエンの姿は無かった。

 

「終わった……」

 

塵一つ残さず、吹き飛ばしてやった。

現代武器の、勝利だ。

もっとも、その現代武器……メテオライトは、極太の棘によって貫かれ、原型を止めていないけれど。

 

メテオライトの残骸を眺めながらぼーっとしていると、ガチャリとドアが開けられた。

 

「表都、君?」

「……いりうら」

 

繭由がいた。

そういえば、繭由を助けるためにこんなことしてたんだっけ。

あれ、ただの正義感だった気もする。

どっちだっけ……。

 

「表都君だったの?」

「え……」

()()()を、殺してたのは」

 

さま?

さまって……なんで?

 

「ハエなんかきらいだろ……?」

「何言ってるの……!?大好きだよ!!みんなだってそう!!なんで幹部様を殺したの!?」

 

……幹部を殺せば、元に戻るのでは?

…………。

……そんな話、してなかったっけ?

 

「いや、でも」

 

ヒエンがさっき、幹部が消えたら全部が元どおりって……。

 

「……あ?」

 

 

『子供には新しい幹部になってもらう』

 

『ついこの前の話だ』

 

『お前の学校で見つけたんだ』

 

 

「あ、あああ」

 

 

『っていうかまゆゆんちょっと太った?』

『やめてよぉ、そんなわけないじゃない』

 

『ねぇ聞いて?私、ようやくハエ様の子供を授かれたんだよ』

 

 

「さいあくだ」

「表都君……」

「だまれッ!!」

 

入裏を突き飛ばす。

尻餅をついた入裏は自らのお腹を抱えた。

 

「やめて……お腹には……赤ちゃんがいるの」

 

フェザーを拾い上げ、仕込み刀をしまって安定性を上げた。

見た目は、出会ったときのフェザーだ。

 

「うん、がてんがいったよ。このクソみたいなヒエラルキーがおわらないわけも」

 

入裏の腹に、ヒエンの子供がいる。

 

「はは、ははは……こんなちかくにいたなんて」

 

頰をなにかが伝う。しょっぱい。

フェザーのハンマーを引いた。

 

「やめて」

「やめて、メリットがあるか」

「幸せになりたいの」

「おれはしあわせじゃない」

「そんな……」

 

フェザーの銃口を、入裏のへその下あたりに向ける。

残りの1発は、外さない。

 

「いりうら」

「……何」

「すきだ」

 

だからこそ。

 

「いりうらには、そんなくつうをうけてほしくない」

「何いってるの……!!」

「ひととしてのほこりをもっていてほしい」

「狂ってるよ!表都君は狂ってる!!」

 

何言ってるんだか。

俺は【常識人】だぞ。

 

「だいじょうぶだ。こどもがかんぶなら、それでぜんぶおわりだ」

「何言ってるのって……ねぇ!!」

 

起き上がろうとした入裏の腹を蹴る。

動くなよ、照準が定まらないだろ。

 

「おれはせかいをすくう」

「盲信だよ!!」

「どのくちが。おれのきもちもわからないのに」

 

……ああ。

俺、最低だな……。

 

渡瓶(とがめ)君』

 

きっと、ヒバリさんならこう言うんだろうな。

 

『本当にそれで良いんですか。みんなに何も言わずに、それで死ぬんですか』

 

そうする。告白の返事、できなくてごめん。

 

『おめえは最後まで狂ってやがったな。好きにしやがれ』

 

コブさん。頑固なこと言ってすみません。でも俺一人でもここまで来れました。

 

『………………。』

 

マスター。そんな顔しないでくださいよ。笑ってるあなたがみんなの士気をあげるんです。

 

『しらん。勝手にしろい』

 

勝手にします、じいさん。

 

『……お兄ちゃん』

 

アシアちゃん。ごめんね、こんなのをお兄ちゃんって呼ばせて。

 

『んーん。でも一つ、気になることが』

 

なんでしょうか。

 

『対戦車砲の使い心地は?』

 

……やけにリアルな妄想だな。

そうだな、それに対する答えは……。

 

 

「二度とあんなものを作らせない」

 

 

意識が晴れた。

もう一度、深呼吸してフェザーを構える。

悪い入裏。

俺、世界救わなきゃならんのだわ。

 

「いや、いや、いや…………!!」

 

 

 

 

さよなら

 

 

 

 

ガチッ。

 

 

 

 

死。

 

 

 

 

 

 

 

 

よく気絶する日だ。

首を上げると、光に包まれた空間に俺はいた。

次に視線を落とすと、俺の胸から極大の棘が突き出ていた。入裏の赤ん坊───ヒエンの能力を継いだ赤ん坊に『死ぬダメージ』を与えたから、俺の心臓が貫かれたんだろう。

足元には血溜まり。床がそこにあるんだろうか。見えない。

 

「……なんの用があって俺はここにいるんだよ」

 

俺、ちゃんと世界救えたのかな。

(いばら)に刺されて、腕も貫通してて、貼り付けにされてる。

 

「救えたぞ」

「…………!」

 

俺の目の前に誰かがいた。

緑の皮膚鎧に、背中の羽。

ハエだ。

 

「うっ、ぐう、あああ」

「動かないほうがいい」

「ハエのくせに何言ってやがる」

「……申し訳ないことをした」

 

今すぐにでもその首絞めて……あれ?

ハエは土下座した。

 

「部下の責任は上司の責任だ。この通りだ」

 

話が、見えないんだけど。

 

「……私たちの種族は、宇宙を旅している。そして私は、あなたたちの言うところのハエ……の、王。親衛隊と民を連れて宇宙を走っていたところで、兵士の一部が声を上げた。休憩にしませんかと。……実のところは反乱だった。兵士は私の隊列から外れ、近くの星に逃げていった。そして奴らは、その星の民に強固な暗示をかけるつもりで、私たちが追ってこれないようにその星に結界を張って姿が見えないようにした」

 

……は。それが地球と言いたいわけですか。

 

「私は焦った。好き勝手されると星としての根源が崩れる。だから私は、あるウイルスを地球にばらまいた。結界を通り抜けるのはそのウイルスしかなかったから。そしてそのウイルスに感染したものは、奴らの暗示にかからない耐性を身につけた」

 

異変の日に俺が病気になっていたのって、そういう。

っていうかいつまで俺は血を流し続けなきゃならんのだろう。

 

「そして、ウイルスが世界に広まってすぐ、奴らは下級兵……あの、あなたたちがこぞって倒していたデカいハエというやつを率いて、世界中に暗示をかけ始めた。……結果が、今のそれだ」

「……んで、ごほっ、かはっ」

「口を動かすな。心を読む」

 

なんで、日本が選ばれたんだ。別の国でも良かったじゃないか。なんで幹部は日本に来たんだ。

 

「そういうものを、信じてしまう心があったからだ」

「……どういう……」

「こうであったらいいと言う心が、欲望が、人一倍強い。だから、暗示をすんなり受け入れる日本人から暗示をかけ、雪だるま式に増やしていったのだろう」

「じゃあ……げほっ」

「喋るなと…」

「あああああああああッ」

「ッ…………」

「俺は喋れる。血ぃ吐いてもな」

 

じゃあなにか。

 

「アンタの兵士は、特に同行という理由が無く、攻めやすいからって理由で選んだのか」

「そういうことになる」

「アンタのせいじゃん」

「は……」

「アンタのせいで!アンタのせいでこんな目に!!」

「…………」

「反乱だった!?バカにすんな、反乱起こされる方が悪いだろバカ!!もっと早く来いよ!もっと早く助けろよ!なぁ!!お前の不注意で、どれだけの人が悲しんで、どれだけの人が死んだかわかってんのか!おいコラ!!おいっ!!」

「…………」

「結局のところお前が元凶だ!殺してやる!!フェザー持ってこい、そのゆるゆるの頭ぶち抜いてやるからな!!お前せいで!お前のせいで!!お前が!!お前が……!!お前、が……!!うああああああああっ!!」

 

棘に刺されている腕を無理に動かし、棘を引っこ抜く。

とどけよ、俺の手!!こいつを、殺すんだ!!

 

「…………」

「だんまりしてんじゃねえ!!この世の法則ねじ曲げといてなにしてやがる!?お前に償えんのか!!お前のウイルスに感染さえしなけりゃ、俺だってこんな目には」

「合っていた」

「……は?」

「ウイルスに感染しても、ハエに好きな人を取られた恨みからクーデターを起こしていた。君は、そういう人だ」

「…………」

 

チョロすぎんだろ、俺。

 

「私に償いはできない。が、地球を元の状態に戻すことは可能だ」

「戻す、ことって」

「あの日、ハエの暗示が世界に広まる前の世界に」

 

……じゃあ入裏は、死なないってことか。

 

「ああ」

 

血の臭いも嗅がなくていい。

 

「ああ」

 

全てが、元どおり。

 

「ああ」

「今すぐにでも!!」

「……ああ」

 

王が、手を俺の額にかざす。

一瞬身構えたけど、危害を加えるつもりはないらしい。

 

「もう、あんな思いはさせない。もう、精神を病む必要はないんだぞ」

「……病んでたっけ、俺」

「病んでいる。自分でも、ハエと戦うことに抵抗がなくなるのが早いと思わなかったか?」

「そっか、俺、病んでたんだ」

「ああ。……でも、これももうすぐ良くなる」

 

ところで、と王が付け足す。

 

「記憶はどうする」

「記憶?」

「今までの記憶だ。あの狂った世界での記憶」

「……考えさせてくれ」

 

みんなと会いたい気持ちはある。

っていうか。

 

「みんなはどうしたんだ」

「既に【常識人】の精神世界は回った。プライバシーのため回答は言わないことにする」

「……そっか」

 

みんな、もう道を選んだのか。

気になるなぁ。ああ、気になる。

……記憶を残すか残すまいか。

 

それじゃあ。

 

「それじゃあ、俺は──────

 

 

 

 

ピピピピピ。

 

「はっ」

 

目覚まし時計の音で目が覚める。

ん〜ん、いい朝。

おでこに手を当ててみるけど、昨日までの高熱が嘘のようだ。

 

「これなら学校いけるかも」

 

スマホを調べると、入裏からのメッセージが来ていた。

『もいもいのキーホルダーゲット』らしい。

 

「相変わらず悪趣味だよなあ」

 

でもちょっとほっこりした……というところで、腹の虫が音を上げる。

お腹すいたな〜っ。

 

「おはよう」

「おはよう表都」

「あらあら、寝癖すごいわよ。髪とかすからその間にご飯たべちゃいなさい」

「うん……」

 

トースターをかじりつつ、テレビを眺める。

……ん。なんか今のニュースどっかで見たような。

気のせいか。速報だもんな。

 

『次は今、流行りのスイーツがあると話題の、この出店に……』

「あ、そうだ母さん」

「なんですか祐一さん」

「これ、今朝ポストに入ってた手紙。差出人心当たりあるか?」

新立(にいだち)さん……?私も聞いたことないですねぇ」

 

新立?どっかで聞いたような……ああそうか、ヒバリさんの苗字か。

……ヒバリさんて誰だ。

 

「表都は?」

「なんかその苗字、夢で聴いた気がする」

「なんじゃそりゃ」

 

ふぅむ。なんなんだろうな。

 

「はい完成!表都、キマってるわよ」

「七三は止めてっていつも言ってるじゃんか」

「あああっ!?」

 

綺麗に分けられた髪の毛をくしゃりとすくと、母さんはショックを受ける。

いつもの日常だ。

なんの面白味もない。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらしゃい」

 

外に出ると、まぁなんていい天気。

しかしなんだか、気分が晴れない。

忘れものはないはずだけど……。

 

「制服が軽い気がするんだよなぁ」

 

内ポケットに物が無いことに違和感を覚える。

内ポケットなんか使ったことないのに。

まいっか!違和感なんてしょっちゅうだし。

 

いつもの通学路を歩く。

代わり映えのしない毎日だ。

……けど、なんだか久しぶりに歩く気がする。

 

未夢(みゆ)、また図工の評価五点だったのか!!」

「……ん。将慈(しょうじ)おじさんのおかげ。でもご褒美は欲しい」

「……わかったわかった、こんどガンプラ買ってやるよ」

「ん!!」

 

すごいなあ、あの子。

評価が五点って、最高得点じゃないか。

それに趣味がガンプラって……渋いな。

 

『はっ!!せええええい!!』

『剣筋がぶれとる!そんなんじゃ斬撃は飛ばせんぞ!!』

『『『はい!!』』』

 

ここの道場のじいさん、中々引退しないなぁ。

それに斬撃は飛ばせません。まったく、耄碌(もうろく)じいさんだ。

 

『おいいま俺のこと耄碌じいさんだとか思ったやつおるじゃろ!』

 

やっべぇ。

顔を合わせたことはないけどここのじいさんはスパルタって話だ、絶対見つかりたくない。

 

……???

 

なんか後ろ髪惹かれるなぁ。

さっきのおじさんもちっちゃい子も、あの怒鳴り声も、全部覚えがある気がする。

…………??????

 

しばらくして歩くと、ちょっとした人の列が。

 

「マスター、タピオカシスオレンジ!!」

「……はい。そちらのお二人は」

「私はスカイライナーカクテルかなあ」

「じゃあアタシはメテオライトサンドにするー」

「……!!畏まりました」

 

出店?

ああなるほど、バーにありそうなメニューをノンアルで売ってるのか。若者風にアレンジして。

たしかさっきのニュースに出てなかったっけ?

バーの主が出店を構えたとかなんとかで。大人っぽい雰囲気と静かな笑いが人気で、スイーツのみならずマスターまでもが人気……だったっけ。

 

違う高校の女の子が、それぞれ飲み物やスイーツを手にしてキャッキャしている。

長い髪の子の横を通ろうとしたとき……。

 

「渡瓶君?」

「……え?」

 

名前を呼ばれた。

 

日張(ひばり)、誰?知り合い?」

「いや……ごめん、先行ってて」

「え、う、うん」

 

え、え、え。

誰この子、僕知らない。

……っていうか日張?ヒバリ?今朝の違和感の名前?

 

「やっと会えた……」

「……どちら様でしょう」

「えっ……そっか。渡瓶君はそっちを選んだんだ」

「え、状況が読めないんですけど。どこかで会いました?」

「……ううん、大丈夫です。……そっか、無かったことにしちゃったんだ。……私の、一世一代の告白も」

 

え、待ってほんとに心当たりないんだけど。

そんなことより罪悪感ぱねえ。まじ卍。

あ、いや、そうじゃないんだ、そうじゃ。

 

「ええと……」

「ほっ、本当に大丈夫ですから!…………じゃっ、またいつか、渡瓶君」

「えっ、ちょっ!!」

 

風のように去っていった……なんだったんだあの子。

行き場のない手を持て余していると、スマホに振動。入裏からメッセージ。

ぴ。

 

 

『ごめん』

                      『?』

『止まらない』

『後ろ』

『ブレーキ壊れた』

 

 

バッと後ろを振り返る。

あーなんか見える。暴走列車みたいな入裏が自転車乗ってこっちきてる。

 

 

『止めて』

『ごめん』

                      『ばかやろう』

 

 

無理だろそりゃああああああああっ!!!

あっちょっ待っ、心の準備がちくしょおおおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Fin〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『拝啓、ご先祖様。人類はハエに侵略されました』をご愛読いただき、誠にありがとうございました!!


ここから先は制作に当たっての後書きというか、ちょっとしたアフタートークになります。


軽い気持ちで書いていた小説がまさかここまで来るとは思いませんでしたよほんとにもう。
なんだか展開のリクエストをしてくれた方もいましたが、そのリクエストをもらった時点で既に最終話の展開を決めてしまっていたので、申し訳ありませんがこのまま押し通ることになってしまいました。

最後にヒロインのお腹をぶち抜いて幹部の最後の一匹を殺すという鬱展開は初期の段階から決まっていたもので、意外といい感じに持っていけたんじゃないでしょうか。

一時期は日間ランキング3位まで登り詰めることもできたし、評価なんかはオレンジ帯まで行きましたからね、頭が上がらないです、はい。

結構長続きしていたシリーズが終わってしまうのは名残惜しい感じがしますが、これも作家としての勤めと言いますか。
約二年間の間、ハエを駆逐してきた主人公たちに、どうか読者様の暖かい拍手を。
そして、そんな長い間付き合ってくださった読者様には、私からの三三四拍子を。

いきます。

ピピピっ!ピピピっ!ピピピっピッッッ!!

本当に、長い間ありがとうございました!!!!


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