異世界はメアリー・スーとともに。 (九空揺愛)
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死んだら終わりだよコノヤロー

ぶっちゃけやりたかっただけです。


「というわけで、お前さん達は死んでしまった。本当に申し訳ない」

「はあ」

 

深々と頭を下げるご老人。その背後に広がるは輝く雲海。どこまでも雲の絨毯が広がり、果てが見えない。でも、自分たちが座っているのは畳の上。質素な四畳半の部屋が(部屋と言っても壁も天井もないが)雲の上に浮いている。ちゃぶ台に茶箪笥、レトロ調なテレビに黒電話。古めかしいが味のある家具類が並ぶ────

 

じゃねぇだろ。何状況説明してんだ。違うだろ。何だよここ!そして何で突然、死んでしまっただよ!ふざけんな!

俺はジト目で自称神って言ってる爺さんを見る。

 

「いやはやほとほと申し訳ない。だからそんなに睨み付けんでくれんかのぉ……えーっと…な…なぐも…」

「……南雲春輝っす」

「そうそう南雲春輝君」

 

自称神の爺さんはぺこぺこ頭を下げている。俺は少し視線をソッポに向けて頭を上げるように手で払う。ポケットからスマホをだして見てみると、圏外になっている。

 

「雷を落とした先に人がいるか確認を怠った。本当に申し訳ない。落雷で死ぬ人間もけっこういるが、今回のケースは予定外じゃった」

「雷が直撃して僕は死んだわけですか…。なるほど。するとここは天国?」

「いや、天国よりさらに上、神様たちのいる世界……そうじゃな、神界とでも言うかな。人間が来ることは本当は出来ん。君達は特別にワシが呼んだんじゃよ、南雲君じゃない君は…えーっと……も…もちづき…」

「とうや。望月冬夜です」

「そうそう望月冬夜君」

 

爺さんはそう言いながら傍のヤカンから急須にお湯を注ぎ、二つの湯呑みにお茶をいれる。

 

「しかし、君達は少し落ち着き過ぎやせんかね?自分達が死んだんじゃ、もっとこう慌てたりするもんだと思っていたが」

「あまり現実感が無いからですかね? どこか夢の中のような感じですし。起こってしまったことをどうこう言っても仕方ないですよ」

「別に、アンタの力で生き返らせてくれるとかって展開なら大歓迎なんだが?」

「う、うーむ……。君達はワシの落ち度から死んでしまったのじゃから、すぐ生き返らせることができる。ただのう……」

 

あー、お決まりの元の世界に戻れないタイプのアレね。

 

「君の元いた世界に生き返らせるわけにはいかんのじゃよ。すまんがそういうルールでな。こちらの都合で本当に申し訳ない」

 

うん、知ってた()

 

「……で、じゃ」

「はい」

「……」

 

俺は何となくこの後に続く言葉を溜息交じりに聞く。

まぁここまで来てこのテンプレルートに乗ってんだし…そりゃあ……ね?

ここで「異世界に転生するんじゃなくて素直に天国か地獄に行ってくんない?」って言われたらそれはそれでなかなか面白い話が出来るかもしれない。

 

「お前さん達には別の世界で蘇ってもらいたい。そこで第二の人生をスタート、というわけじゃ。納得出来ない気持ちもわかる、だが」

「いいですよ」

「……いいのか?」

 

うん、知って(ry

 

「そちらの事情は分かりましたし、無理強いをする気もありません。生き返るだけでありがたいですし。それでけっこうです。春輝もそれでいいよね?」

 

いや、何で気安く俺の苗字じゃなくて名前を呼び捨てで呼んでんの?つーか俺達初対面だからね?

生前?ぼっち決めてた訳じゃないけど、流石に距離の詰め方がエゲツないぞ。

まぁでも、

 

「生き返れるならそれでもいいっすよ。15で天国だか地獄だかに行くつもりはないんで」

「…本当にお前さん達は人格が出来とるのう。あの世界で生きていれは大人物になれたろうに…本当に申し訳ない」

 

しょんぼりとする爺さん。俺は別におじいちゃん子ではなかったので何とも思わないが、隣の望月?はニコニコ笑ってやがる。

 

「罪ほろぼしにせめて何かさせてくれんか。ある程度のことなら叶えてやれるぞ?」

「うーん、そう言われましても…」

 

ん?今何でも……って言ってなかったわ。そうか、ここの場面で歴代の異世界転生系主人公達(一部を除く)はチート能力を得ていた訳だ。

 

「これから僕が行く世界って、どんなところですか?」

「君が元いた世界と比べると、まだまだ発展途上の世界じゃな。ほれ、君の世界でいうところの中世時代、半分くらいはあれに近い。まあ、全部が全部あのレベルではないが」

 

うん、どうやら異世界転生する場所もテンプレに漏れないらしい。

それじゃあ決まりだな。

 

「それじゃあ全知全能の力をくれださ────」

「それは無理じゃが、近しい事ならできるぞ?」

 

爺さんは指をちゃぶ台の上に置いておいた俺のスマホに触れる。

 

「これで、君はスマホを操作する事であらゆる事か出来るようになったぞ。君が望む物がスマホのアプリとなって現れる。アプリを起動させるとその力が使える様になるという仕組みじゃ。では次、望月冬夜君はあるかの?」

「あの、ひとつお願いが」

「お、なんじゃなんじゃ。なんでも叶えてやるぞ?」

「僕は春輝程じゃなくていいので、普通にこれ、向こうの世界でも使えるようにできませんかね?」

「まあ可能じゃが……。いくつか制限されるぞ。それでもいいなら……」

「例えば?」

「君からの直接干渉はほぼ出来ん。通話やメール、サイトへの書き込み等じゃな。見るだけ読むだけなら問題ない。そうじゃな……ワシに電話くらいはできるようにしとこう。あと、南雲春輝君とならメールや電話は可能にしておいた方が良かろう」

「お、おい!何を勝っ────」

「充分ですよ」

 

俺のセリフを遮って話を進めて行く二人。いや、爺さんが神なら一人と一柱か?

とりあえず勝手に話進めんな。後、望月。早速メール送ってくんな。まだ現段階では赤の他人だからな?

 

「バッテリーは君達の各々の魔力で充電できるようにしとこうかの。これで電池切れは心配あるまい」

「魔力? 向こうの世界にはそんな力があるんですか? じゃあ魔法とかも?」

「あるよ。なに、君達ならすぐに使えるようになる」

 

科学がまだ発展してない所の様だし、あるだろうな。

 

「さて、そろそろ蘇ってもらうとするか」

「いろいろお世話になりました」

「いや、元はといえば悪いのはこっちじゃから。おっと最後にひとつ」

 

爺さんは俺達に手をかざす。

 

「蘇ってまたすぐ死んでしまっては意味ないからのう。基礎能力、身体能力、その他諸々底上げしとこう。これでよほどのことがなければ死ぬことはない。間抜けな神様が雷でも落とさん限りはな。一度送り出してしまうと、もうワシは干渉できんのでな。最後のプレゼントじゃ」

「ありがとうございます」

「手出しはできんが、相談に乗るぐらいはできる。困ったらいつでもそれで連絡しなさい。ではまたな」

 

そういうと、俺達の意識は途切れた。

こうして俺は異世界スマホの世界にレッツパーリィーする事になった()




次回は長くする予定です。


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何でもありかよコノヤロー

ぶっちゃけ内容なんて無かった。……イイネ?


「ん……」

 

眩しい光で俺は目を覚ます。爺さんと望月と一緒にいた時と違い、しっかりとした意識があることからここが爺さんの言っていた異世界で間違いないのだろう。俺の隣には望月が寝ていた。そんな事より俺は早速スマホを取り出してみる。

 

「スマホに念じればアプリが出てくる……っと。まずはこれからだな『気のコントロール』」

 

某少年誌の大人気漫画でお馴染みの《気》である。俺はスマホをタップしてアプリを起動してみる。ん?人差し指を上に向けて指先に集中してみてください?

俺はとりあえず肘を曲げて指を真上に向ける。すると、黄色い光がバチバチと指先に集中する。

 

『そのまま指を素早く前に出してください』

 

俺は、ほいっと木の若枝に向けて指先を素早く前に出した。

 

ビッ!!

 

指先に集まっていた黄色い光は若枝に向かって一直線に飛んでいく。そのまま若枝は貫かれて光は空彼方に消えていった。

お分かりいただけただろうか。そう、某ドラゴンボールでは途中から全然出てこなくなった鶴仙流の

 

「どどん波だ!」

 

天さんや餃子、古いところでは桃白白辺りが使っていた後の魔貫光殺砲やデスビームの下位互換みたいな技だった気がする。とはいえ

 

「なぜ、どどん波?普通ドラゴンボールの技だったらかめはめ波だろ。つーか、どどん波のこと覚えてる読者の方そんなにいらっしゃらないだろ。まぁいいや。とりあえず気を使った技を使うには技のポーズと気の集まる場所の集中が必要……っと。それじゃあ先に町だか何処かに向かうか。その間に色々なアプリを増やしておこう」

 

すると、寝ていた望月が目を覚ました。

 

「あ、春輝起きてたの?じゃあ起こしてくれればいいのに」

「いや、普通に春輝ってファーストネームで呼ぶのやめてくれない?まだ俺達認識してから10分程度しか経ってない訳だし」

「そんな事ないよ。同じ転生してきた仲間じゃん」

 

こいつやべーわ。打ち解け方が産まれたての雛かってぐらいグイグイくる。

 

「僕は望月冬夜。15歳。よろしくね。これならいいんじゃない?」

 

いや、何がだよ。

 

「はぁ……南雲春輝。同じく15。それじゃあまた会う日まで。さようなら」

「え?何処に行くか決まってるの?」

「いや、お前には関係ないだろ。とりあえず町でもって思ったんだよ」

 

そう言い残して俺はその場を後にする。

 

「アプリで、えーっと『一方通行』『王の財宝』『血継限界』『アインクラッド流』『大嘘憑き』『モンスター召喚』etc……色々出来るようになったけど、ここからどうするか」

 

俺は地図アプリを使ってリフレットの町に向かって歩いている訳だけど。

 

「なんで付いてくんだよ」

「春輝道知ってるみたいだったからせっかくなら一緒に行こうかなぁーって」

「……まぁ好きにしろよ」

 

やった!って喜んでいる望月。それからめちくちゃ話しかけてくるが、今は話をする気分じゃない。それでもしつこいので、望月の声を『一方通行』で反射する。

めげない望月はそれでも話しかけ……ってどんだけ話したいんだよ。

すると、一台の馬車が通り過ぎた。いや、と思ったら止まったわ。なんだか高級そうというか煌びやかな装飾に包まれた馬車だけどどうしたんだ?

 

「そ、そこの君達!」

 

バタンと馬車の扉を開けて出て来たのは白髪と立派な髭をたくわえた紳士だった。洒落たスカーフとマントを着込み、胸には薔薇のブローチが輝いている。

 

「……?」

「なんでしょう…?」

 

興奮した様子でこちらに向かってくる紳士を見ながら、望月の肩をガシッと掴まれ、ジロジロと舐め回すように身体を見つめられる。どうやらこの世界の共通語は日本語のようだ。

 

「こっ、この服はどこで手に入れたのかね!?」

「は?」

 

 

 

 

 

ザナックさん(白髪の紳士的な人)と出会ってから三時間。揺られ揺られて、馬車はやがてリフレットの町に着いた。

町の門番らしき兵士に挨拶と軽い質問をされ、早々に入ることを許される。兵士たちの態度からザナックさんはけっこう有名らしい。

ガタゴトと馬車が町中を進んで行く。古めかしい石畳の上を進むたび、ボックス型の車体が小刻みに揺れた。やがて商店が並び、賑わう大通りに入ると一軒の店の前で馬車は止まった。

 

「さあ、降りてくれ。ここで君達の服を揃えよう」

 

ザナックさんに言われるがままに、俺達は馬車を降りる。店には糸と針のロゴマークの看板があったが、その下の文字を見て、ちょっとまずいことに気が付いた。

 

「「読めない……」」

 

看板の文字が読めない。これはかなりまずくないだろうか。話はできるが文字が読めないとは……。そうだ。アプリで何か出来ないか?

スマホを起動させると、

 

『こんにゃく』あ、(察し)

 

こんにゃくを選択すると、マジでこんにゃくが出てきた。急いでそれを食べ、看板を見る。

 

『ファッションキングザナック』

 

お、おお……せやな。

ザナックさんに連れられ店内に入ると数人の店員たちが俺達を迎える。

 

「お帰りなさいませ、オーナー」

 

店員たちの言葉に望月はちょっと驚く。

 

「オーナー?」

「ここは私の店なんだよ。それよりさあ、服を着替えたまえ。おい、誰か彼らに似合う服を見繕ってくれ!」

 

ザナックさんは急かすように俺達を試着室(カーテンで仕切られた部屋ではなく本当の小部屋)へと押し込んだ。そして、何着かの服を持ってくる。着替えるため、ブレザーの上着を脱いでネクタイを外し、ワイシャツを脱ぐ。その下には黒のTシャツを着ていたのだが、それを見てザナックさんの目の色がまた変わった。

 

「!?き、君達、その下の服も売ってくれんかね!」

 

追い剥ぎか。

 

望月冬夜と南雲春輝が初めて通じ合った瞬間であった。

 

 

 

それからは身包み一式全部売る羽目になった。流石にパンツまで売ってくれとか言われた時はなんとも言えない気持ちになったが、代わりの服は中々悪くない。

結果的にザナックさんから金貨10枚を受け取って店を後にした。

宿屋は「銀月」という所がいいらしい。見ればすぐに分かるとか。

 

「ファッションキングザナックって書いてあったのか……」

 

望月がこちらに苦笑いを浮かべてくる。

何も言うな……。この世界はこんな感じのセンスなんだよ……(思考放棄)

しばらく歩くと宿屋「銀月」の看板が見えてきた。三日月のロゴマークが見える。わかりやすい。見た目は三階建ての建物だ。煉瓦と木でできた、けっこうがっしりとした作りに見える。

 両開きの扉をくぐると、一階は酒場というか食堂らしき感じになっていて右手にカウンター、左手に階段が見える。

 

「いらっしゃーい。食事ですか。それともお泊まりで?」

 

カウンターにいたお姉さんが声をかけてくる。赤毛のポニーテールがよく似合う、溌剌とした感じの人だ。年齢は二十歳前後というところか。

とりあえず、

 

「これで30日分お願いします」

「あ、僕も」

「はいはーい。ウチは一泊、朝昼晩食事付きで銅貨二枚だよ。あ、前払いでね」

 

あ、そういえば金銭的に大丈夫なんだろうか。

 

「すみません。この町に来たの初めてでして、お金について教えてもらえませんか?」

「へぇ、貴方達旅人さん?何処から来たの?」

 

日本って言っても分からないだろうし、適当に誤魔化すか。

 

「極東部の方からですね」

「あ、じゃあイーシェンの人かしら?」

 

は?イーシェン?まぁいいや。

 

「まぁそんなトコです」

「そうだったの?態々ここまでお疲れ様。あ、お金についてよね?」

 

おいコラ望月。勝手にそのイーシェン?の人にすんな。

ここで否定するのもあれなので特に何も言わないでおく。それからお姉さんにお金について教えてもらった。金貨1枚=銅貨100枚ということらしい。金貨10枚あるから500日、一年半近くなにもしないで暮らせるのか。ニート最強じゃん。(感涙)

 

「じゃあここにサインをお願いしますね」

「あー……すいません。僕達、字が書けないんで、代筆お願いできますか?」

「そうなの? わかったわ。で、お名前は?」

「望月です。望月冬夜」

「貴方もイーシェンの生まれなんでしょう?じゃあ名前は冬夜ね?で、望月が家の名前と。で、そちらのお兄さんは?」

「南雲春輝です」

「はいはーいっと部屋は同じでいいのよね?」

「はい。お願い「別々で」えー!」

 

なんでお前と一緒の部屋で寝ないといけないんだよ。一人のスペース作らせろや。

 

 

「じゃあこれが南雲さんの部屋の鍵で、こっちが望月さんの部屋の鍵ね。無くさないように。場所は三階の一番奥とその隣。陽当たりが一番いい部屋よ。トイレと浴場は一階、食事はここでね。あ、どうする? お昼食べる?」

「あ、お願いします。朝からなにも食べてないもんで…」

「じゃあなにか軽いものを作るから待ってて。今のうちに部屋を確認してひと休みしてきたらいいわ」

「わかりました」

 

鍵を受け取ると階段を上り、三階の一番奥の部屋の扉を開ける。六畳くらいの部屋で、ベッドと机、椅子とクローゼットが置いてあった。正面の窓を開けると、宿の前の通りが見える。中々悪くないな。子供たちがはしゃぎながら道を駆けて行った。

階段を下りるといい匂いがしてきた。これでとりあえず飯にありつけるな。ここまでこんにゃくしか食ってなかったからなぁ。

 

「はいよー。お待たせ」

 

食堂の席に着くと、サンドイッチらしき物とスープ、そしてサラダが運ばれてきた。パンが少し固かったけど、初めて食べる異世界の味は中々悪くない。

さて、とりあえずこれからしばらくここに住むわけだし、町の様子を見てみるか。

 

「散歩に行ってきます」

「あ、僕も行きます」

「はいよー。二人共行ってらっしゃい」

 

なぜか分からないけど望月と共に外に出た。何で一緒に出てくるんだよ。

 

「じゃあこっちから行ってみない?」

「じゃあ俺はこっちで」

 

望月の指している方向とは逆方向を指差す。

 

「じゃあ僕もそっちに行こうかな」

「ならこっちで」

 

とにかく望月とは逆方向で行きたい。こいつとなんでお散歩しなくちゃいけないんだよ。一人でのんびりとやっていきたいんじゃあ。

結局望月が俺の行くところに行くって聞かなかったので何故か一緒に歩いている。

 

「はぁ……」

「まぁまぁ、そんな大きな溜め息を吐かなくても」

 

誰のせいだ誰の。

 

俺はとりあえず望月の声を反射して遮断する。

これからやるべき事も考えておかないとなぁ。流石に500日どうにかなるって言ってもその後どうにもならないのは居た堪れない。どうにかお金を稼がないとな。

すると、望月が突然路地裏に向かって足を踏み入れた。

 

「あ?何してんだよ。アイツ。まぁいいや」

 

望月を放って俺は先を進む。気がつくと町の中央に着いてきていた。人の数も多く、お店が沢山並んでいる。俺はクリームパンの様なパンを2個買って、一件の建物の前で止まる。

 

「ギルド。ギルドかぁ。『モンスター・ハンター』やら『ソードアート・オンライン』やらでお世話になったなぁ。やっぱりギルドだし、狩りとか専門だったりすんのかな。とりあえず中に────」

「やっと捕まえたぞ!この小娘が!」

「テメ!離せよ!」

 

ギルドの階段を登ろうとした時だった。近くで大男3人組が、小柄な少女を捕まえて路地裏に連れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「さ、盗んだモン返して貰おうか!」

「そうだぜ!盗みは良くねぇぞ?嬢ちゃん」

「へ!アタシは何も盗んでないぜ!おっさん達の勘違いだろ?」

「このガキ、しらばっくれやがって!無理やりにでも────」

 

一人の男が、少女に掴みかかった。

 

「おい」

「ああ!?」

 

男1人が俺に睨み付けてきた。

 

「お前ら、こんな真っ昼間から女の子路地裏に連れ込むとか何やってんだ。つーかこの作品R18指定じゃあねーんだよ。薄い本でありそうな展開起こしてんじゃねぇぞ」

「何訳の分からない事を!俺らはこのガキに用があんだよ。部外者は引っ込んでろ!」

 

男を無視して俺は少女の方に歩いて行く。

 

「引っ込んでろって言ってんだろ!」

 

男は俺に向かって殴りかかってくる。しかし、男の拳は俺の体に届くことはなかった。

 

「ぐぁああ!!」

 

男は俺に振るってきた拳を抑えて倒れこむ。俺の体中に反射の膜が張り巡らされている為、木原神拳とか幻想殺しじゃないと突破されない。そんな事は当然知らない男は殴りかかってきた。まぁ結果は見ての通りだ。

 

「こ、この野郎!ぐぁああ!」

 

二人目も同様に倒れた。俺は三人目と少女の前に立つ。

三人目の男はひぃ……!と恐怖していたが気にせず歩き続ける。

 

「おい」

「な、何なんだよテメェは!?俺達は被害者だぞ!?このガキがスリしやがったから追い詰めたってのによお!ふざけんな!」

「何?」

 

スリ?

俺は少女を見る。少女は顔を背けており、なんとも言えないがこの男が嘘をついている様には思えない。

少女は袖なしジャケットにショートパンツ。サラシを巻いてお腹が丸見えな格好をしており、異世界転生系でよくある盗人のイメージにそっくりだった。歳は……2歳ぐらい年下か?

まぁ盗んだ事は悪い事だが、コイツにも何か事情があんのかもな。

でも、

 

「盗むのはダメだ。さっさと返してやれ」

「はぁ!?何言ってんだ!スられた方が悪いに決まってんだろ!」

「面倒くせぇからさっさと返してやれよ」

「いやだ!」

 

はぁ……仕方ない。

俺はスマホを取り出してストップウォッチのアプリをタップする。

世界は静止し飛んでいる鳥でさえ空中で止まる。

俺は少女を調べてみと、ジャケットの裏側に何枚か金貨が入った袋が出てきた。

それを取ってアプリを終了させる。

 

「何があってもこいつは返さねーからな!こいつは……あれ?何だか急に身体が軽く……って無い!?」

「オラおっさん。こいつだろ?スられた金ってのは」

 

俺は金貨の入った袋を男に放る。

 

「お、おお。確かに全部ある。悪いな」

 

男は倒れている二人を起こすと、その場を後にして行く。

どうにかこれで大丈夫か。

 

「おい!兄ちゃん!何しやがんだ!」

「何もどうもないだろ。金を持ち主に返したんだ。お前ももう盗みはすんなよー」

「あ、ちょっ!待ちやがれ!」

 

俺はさっさと路地裏を抜けると、ギルドの中に入って行く。

ギルドの一階は飲食店になっていて、思ったよりも明るい雰囲気だった。イメージ的に荒くれ者の酒場、みたいなのを想像していたのだが、どうやら違うみたいだな。ギルドカウンターらしき所に足を運ぶ。すると受付のお姉さんがにこやかに微笑んでくれた。

 

「あの、ギルド登録をお願いしたいのですが」

「はい。かしこまりました。一名様でございますか?」

「はい」

「ギルド登録は初めてでしょうか。でしたら簡単に登録の説明をさせていただきますが」

「お願いします」

 

基本的に依頼者の仕事を紹介してその仲介料を取る。それがギルドだ。仕事はその難易度によってランク分けされているので、下級ランクの者が上級ランクの仕事を受けることはできない。しかし、同行者の半数が上位ランクに達していれば、下位ランクの者がいても、上位ランクの仕事を受けることができる。

依頼を完了すれば報酬がもらえるが、もしも依頼に失敗した場合、違約料が発生することがあるか。とりあえず適当にってのはやめておいた方が良さそうだな。

さらに数回依頼に失敗し、悪質だと判断された場合、ギルド登録を抹消というペナルティも課せられるんだそうだ。そうなると、もうどの町のどこのギルドも再登録はしてくれないらしい。

他に、五年間依頼をひとつも受けないと登録失効になる、複数の依頼は受けられない、討伐依頼は依頼書指定の地域以外で狩っても無効、基本、ギルドは冒険者同士の個人的な争いには不介入、ただし、ギルドに不利益をもたらすと判断された場合は別……と、いろいろ説明された。まぁ基本的にはキチンと依頼をこなしていればなんて事はないようだな。

 

「以上で説明を終わらせていただきます。わからないことがあればその都度、係の者にお尋ねください」

「わかりました」

「ではこちらの用紙に必要事項をご記入下さい」

 

oh……読み、話は出来ても名前が書けないな。とりあえずお姉さんに代筆して貰うしかないか?

お姉さんに登録用紙を書いてもらうと真っ黒いカードをその上に翳し、なにやら呪文のような言葉を呟く。その後小さなピンを差し出し、それぞれ自分の血液をカードに染み込ませるように言われる。

言われるがままにピンで指を刺し、その指でカードに触れると、じわっと白い文字が浮かんできた……。南雲春輝っと名前も間違いはないし、歳も性別も大丈夫だな。

 

「このギルドカードはご本人以外が触れておりますと数十秒で灰色になる魔法が付与されております。偽造防止のためですね。また、紛失された場合は速やかにギルドへ申し出て下さい。お金はかかりますが、再発行させていただきます」

 

俺のカードをお姉さんが手に取って、しばらくすると黒かったカードが灰色に変化した。再び俺が触れると一瞬で黒に戻る。すごい仕掛けだな。思わず声が出た。

 

「以上で登録は終了です。仕事依頼はあちらのボードに添付されていますので、そちらをご確認の上、依頼受付に申請して下さい」

「どうも。とりあえず見てみます」

 

俺は依頼ボードの前に立ってみる。ふむふむ俺のギルドカードは黒、初心者を表している。ランクが上がればカードの色が変わっていくらしいが、今はまだ初心者の黒い依頼書しか受けられないということだな。

一角狼、サラマンダー、スライム、水龍……イメージが付かないからどれがどんななのか分からん……。手始めに丁度いい依頼は無いだろうか。

 

「ねぇ、そこの君」

「……ん?俺の事か?」

 

声のする方を見ると、これまた少女が立っていた。今度は俺より1、2歳年上か?だっておっp

 

「そそ、君ももしかして初めて依頼を受ける人だったりする?」

「ああ。まぁな」

 

実際そうだし否定はしないけど、何だ?一体。

 

「よかったぁ……私、リンデって言うんだ。最近この町に来たんだけど、ギルド登録してまだ依頼を受注出来てないんだよね。一人だとまだ心細くて、かと言って強い人の所に行くと気を使うし……それで、君に白羽の矢が立ったんだ。君は?」

「俺は南雲春輝。俺も最近来たばかりだ」

「ナグモ?珍しい名前なんだね」

「違う違う。南雲は家名で名前は春輝」

「名前と家名が逆なんだ。イーシェンの人?」

 

でたイーシェン。何処と無く中国語っぽいイントネーションだけど……。

 

「イーシェンに近い感じの国かな。極東の国だよ」

「へー。じゃあ結構長旅だったんじゃない?」

「まぁね……」

 

転生して近くの森にいましたって言いづらい……。

こうして俺達はボードを見て行く事になった。はてさて本当にどうしようかしら。リンデに適当に決めて貰う手もあるけど……うん。その方がいいかもな。

 

「リンデ。どれがいい感じの依頼だと思う?」

「うーん。この東の森で魔獣の討伐。一角狼っていう魔獣を五匹。って依頼がお手頃かな。それか、こっちの西の森のゴブリンの討伐。どっちでも大丈夫だよ」

「因みにどっちが距離が近い?」

「西の森のゴブリンかな。東の森の一角狼の群れの場所には二時間ぐらいかかるけど、西の森のゴブリンの出現場所のほうならその半分ぐらいで着くみたいだし」

「じゃあ決まりだな。西の森に行こう」

 

あ、そういえば武器買ってないな。いや、『王の財宝』から出せばいいのか。なんて言うかズルしてる気がするけど、実際にはこのアプリ版『王の財宝』は英雄王本人の物とは関係ないし……あれ?そしたらどなたの財宝なんだ?(思考停止)

 




長く書きすぎた。もうちょい短めにします。


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