一狩り行くのも一苦労 (焦げパン)
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新しいこと

どうも焦げパンです。初投稿です。
よろしくお願いします。
※まだ狩りには行きません


あの日、いつものように俺は家に向かっていた。

 

学校終わって部活終わって、解放された気分になってたのもわかる。

でもだからって…歩きながらモンハンすんなよ。

交通事故って、ねぇ。完全に自分の不注意じゃん。

ナイワー、ナイワー、って思ってた。でもそんなことすぐにどうでもよくなった。だって、気づいたら異世界にいんだから…

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

あれ、俺何やってたんだっけ…。確か帰りにモンハンしてて…

あ!車に引かれたんだ!じゃあここ病院のベットか?にしてはなんか古臭いなぁ。

そう思って手足を確認する。するとおかしなことに、身体には傷一つ付いていなかった。とりあえずベットから降りてみる。

…いやちょっと待て。なんで傷ひとつないんだ?相手は鉄の塊だぞ?

だがもっとおかしなことに気づく。

「あれ?この部屋見たことある…気がする」

 

ベットの右には二枚の座布団。その奥には囲炉裏。囲炉裏の右には猫の看板が付いているボードが、左には大きな開閉式の箱。あれ中に入ってんのリオレウスの装備一式じゃね?

モンスターハンターp3rd出身の人なら誰もがお世話になったであろう、ユクモ村の自室に俺はいた。

ますます訳がわからん。なんでユクモ村に?まるでゲームの中にいるような…ゲームの中!?why!?なんで!?

 

「あれ?」

 

「うわぁ!?」

 

いきなり人入ってきたわー!びっくりして変な声出たわ。

入ってきたのは真っ赤な髪をサイドテールでまとめた少女だった。

 

「ああ、ごめんね。脅かすつもりはなかったんでけど…君、ユクモ村近くの森で倒れてたんだよ?覚えてる?」

 

いえ全く。これっぽっちも

なんていえないのでとりあえずそれっぽく対応する。

 

「え、ええ、はい。覚えてます。助けてくれてありがとうございました。」

 

「ううん。お礼なんていいよ。倒れてる人を放っておけないしね」

 

なんて心優しい…なんか涙出てきた。

 

「…泣いてるの?何があったか聞かせてくれる?」

 

本当に涙出てた。てそうじゃなくて。

どうしよう。いきなり車に引かれて…なんていえないし。そもそもこの世界に車とかないよなぁ。

 

「ええっと、それが覚えてなくて。どうしてそこにいたかが思い出せないんです。」

 

「記憶喪失?じゃあ名前も思い出せないの?」

 

「いやいや、それほどではないですよ。俺の名前は楓カヅキです」

 

よかったー思い出せたー。

 

「フウマ?カヅキ?聞いたことない名前だなぁ。その服装も見たことないし」

 

言われて気づいた。今の俺の格好は上が長袖に紺色に柄の入ったパーカー、したがジーパンという、この世界では違和感バリバリの服装だった。

なんもいえねえ。

 

「覚えてないなら仕方ないよね。私の名前はモミジ。まだ休んでていいよ。村長には私から伝えておくから。」

 

村長…ああ、あの竜人族の。

 

「大丈夫です。もうだいぶ治りましたから。」

 

女の子一人に仕事を任せるわけには行かぬ。俺の全細胞がそう言っている。

 

「ほんと?無理しないでね。」

 

かわええ…は!いかんいかん。

 

「はい」

 

そんなこんなで村長に挨拶しに行った。ちなみに自室の下は倉庫になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に何も思い出せないんですか?」

 

「は、はい。何も…」

いきなり村長に疑われた。

でも普通に考えればいきなりよくわかんない人がよくわかんない服装で村入ってきて、何もわからない 、の一点張りじゃ疑うよね普通。

どうやらこの村に住むには職を持つ必要があるらしい。ユクモ村で働くとなると…。ユクモ村…ユクモの木…

 

「きこり、と言う職はありますか?」

 

頼むあってくれ

 

「…なるほど」

 

どうやらちゃんとあったらしい。

 

「ですが、森に一人で向かわせるのはちょっと…」

 

多分村長の頭の中には青い熊や大猪が浮かんでいるんだろう。

 

「それなら、私が護衛をするよ」

 

その声はモミジのものだった。

 

「最近の森は比較的平和だから、大丈夫だって」

 

なんと護衛してくれるらしい。護衛?

 

「待って。モミジってひょっとして…ハンター?」

 

「うん、そだよ」

 

当たり。ってことはハンターって職もあるってこった。

…ちょっと賭けに出るか。

 

「ハンターというのは自分にもできるものでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。ダメだった。

二人とも鳩が豆鉄砲食ったような顔してたわ。

でも訓練積めばできないこともないと言われた。というのも、基本ハンターになるには、筆記試験、体力試験、実戦の三つをクリアしなきゃならなかった。

まず筆記試験。

 

「すごい…調合リスト全部覚えてるの?」

 

そりゃ長いことやってますからね。

俺にとっちゃ簡単そのものだった。だが問題はここからだった。

 

「…ダメだね」

 

そう、体力だ。

元運動部とはいえ、そんなものはこの世界に通用しない。

 

「そもそもハンター向きの体じゃないよ」

 

もう根本から無理って言われた。でもそりゃそうだ。

俺はこの世界の人間じゃないからな。…厨二くさ。

 

「それでも…ハンターになる?」

 

そうだ、だって(多分)二度目の人生だ。自分がやりたいようにやろう。

 

「うん、なるよ」

 

そうして俺の記念日すべき狩猟生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…訳ではなかった。

ま筋トレだよね。でもやるって決めたんだ。

とにかく強くなろう。

 

「お疲れ様」

筋トレ終わってへばってる俺にモミジさんが飲み物持ってきてくれた。

 

「ありがとうございます、モミジさん」

 

「…敬語とっていいよ?」

 

いや出会ってすぐの女の子にタメ口ってねぇ。

 

「いいから」

 

「…じゃあ、よろしく、モミジ」

 

「うん!」

 

…眩しい笑顔。

あそうだ。

 

「モミジはハンターやってどれくらいなの?」

 

「私?だいたい2年くらいかな?」

 

へえ。もっと長いもんかと思った。

歳も聞こうかと思ったけど、さすがにデリカシーないなと思ってやめといた。

 

「ハンターってどんなものなの?」

 

「難しい事聞くね」

 

んー、とモミジは首を傾げた

 

「自然との調和を保つもの…かな」

 

調和か。

 

「ほんとは人それぞれ、なんだけどね。

ハンターって、自然の循環そのものを守ってるんだと思う。

だから余計な殺傷はしない。私利私欲でモンスターを買ってはいけないものだと思う」

 

「…すごいね、モミジは」

 

「ええ!?そんな事ないよ!私なんてまだまだ…」

 

「…」

 

周りから見たそうかもしれない。でも少なくとも俺はモミジを立派なハンターだと思った。

 

「カヅキって思ってたよりも色々考えてるんだね」

 

おいそれどういう意味だ

 

 

 

 

 

 

筋トレ続けて早2ヶ月…

 

「そろそろいいかな」

 

突如モミジがそんなことを言い出したかと思うと、一本の剣を持ってきた。それはハンターナイフといわれる片手剣で、初期装備のうちの一つだった。

 

「ちょっと振ってみて?」

 

いわれたままに振ってみる。

思ったより軽い。これ確か鉄鉱石でできてるよな?

もう少し重いと思ってたけど。

 

「それだけ力がついたってこと!にしてもすごいね。たった二ヶ月でここまで力がつくなんて」

 

「そ、そう?」

 

朝ジョギング、昼運動、夕方筋トレを自分でもありえないペースでやっていた。恥ずいからいわんけど。

 

「これなら、そろそろ武器に触れていってもいいかも」

 

マジで!?やった!どうしようかなー。

大剣もいいなー。ハンマーも。あ、双剣もいいかも。

 

「とりあえず並べといたから、好きなの持ってみていいよ!」

 

いつも以上に準備いいっすねモミジさん。

じゃあ手越な双剣から。

 

「思ってたよりもずっと軽いね」

 

「うん。それは軽さが売りのボーンシックルっていう双剣だからね。

重い方もちゃんとあるよ」

 

そういった彼女が出したのはツインダガー。

ハンターナイフと同じ鉄鉱石で作られた双剣だ。

持ってみるとさっきよりも重みを感じた。

 

「とりあえず骨系の武器だけ持ってみたら?」

 

それもそうっすね。

んじゃ次、大剣。

 

「…おっも」

 

「そりゃ大剣だもの」

 

これ振り回すのでも精一杯じゃん。ちょっとパス。

次、ハンマー。

 

「お、ちょうどいいね」

 

少し重いくらいだ。ハンマーだったらこれくらいがちょうどいいかも。

 

「じゃあ決まったらいってね。免許取らなきゃいけないから」

 

 

 

なんだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

なんだかんだ悩んで結局双剣にした。ゲーム的にいって相手の動きを読めるなら、大剣やハンマーの方が強かったかもしれないけどここはロマンが勝った。

モミジさん曰く、免許とるのにまた試験受けなきゃいけないらしい。

しかも実戦試験前に。また練習だ…

試験内容は素振りと木切り、鬼人化、そして実戦の四つ。実戦ってこっちの試験だったのか。

鬼人化というのは双剣を上で交差させ、身体能力を上げる技のことだ。仕組みは知らぬ。

 

武器を決めてモミジに連れていかれたのは、訓練所の裏。

練習場があり、数人の見習いハンターが練習していた。

 

「とりあえず薪、割ってみようか」

 

そう言われて薪を割ってみる、だが真っ直ぐ割ることがなかなかできない。

 

「最初はそんなもんだよ」

 

そうかなあ。

 

「そうだよ」

 

…心を読むな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく練習してやっと形になってきた。

 

「大丈夫?飲み物持ってきたよー」

 

あの人すごい気がきくなー。彼氏とかいるんじゃなかろうか。

いないか。ハンターだし。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

 

おっと心読んでくるんだった。あぶねあぶね。

 

「…まあいいや、じゃ、鬼人化やってみる?」

 

いいね鬼人化。やりたかった。

 

「自分の中の力を剣に集めて掲げる感じで!」

 

んー、とりあえずゲームの動きを真似てみるか。

力が動くイメージをして…

 

「ハァ!」

 

…あれ。

 

 

 

 

 

「できないんですが…」

 

「あ、あれっ?おかしいな。できない事ないと思うけど…」

 

…なんか周りの数人に笑われたんだけど。

 

「ねえ新入り君、鬼人化もできないの?」

 

「基本中の基本だよねー」

 

うっせ。生まれつきそんな体してねーよ。

 

「おーいお前ら、そろそろ片付けろよー」

 

向こうから訓練所の教官の声が聞こえてきて、練習は終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ」

 

めちゃくちゃ悔しい。なんなんだあいつら。

できないんだからしゃーねーじゃん。

でもこのままだと実戦試験すらうけられない。

俺はモミジがハンターについて話していた姿を思い出した。

凛々しい瞳、しっかりとした背筋。

それに比べて今の俺ときたら。

猫背気味の姿勢、淀んだ瞳。

みっともない。同じくらいの年なのにこんなにも違う。

決めた。いつか彼女に追いついて、同じラインに立ってみたい。

いや、やってやる。一度やるって決めたし。

 

「よっしゃ」

 

なんかやる気出てきたわ、ゼッテー見返してやるあいつら。

そう言って俺は家の裏の空き地に向かった。

 

 

 

 

「…カヅキ?」

 

赤髪の少女は一人、見ていた。

 

 




いかがでしたでしょうか。不定期ですが、頑張っていきます。
どうかよろしくお願いします。


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やっと一狩り

早いのは今だけでやんす


あれから三ヶ月が過ぎた。

免許獲得試験当日

前日まで練習していたため寝坊しそうになったが、無事到着。

訓練所の教官の声で試験が始まった。…といっても自分含め五人しかいなかったが。

 

 

まず型の試験

双剣はいかに連続的に斬りつけるかが重要で、それを実現できる型で剣を振れるかを見るのがこの試験。

俺はモミジにこればかりは自分で感覚つかめと言われて不安だったが、一週間程度でざっくりとは身に付けることができた。

それから毎日一回はやっていたので、対して苦戦しなかった。

まあ一次試験で苦戦してたら話にならないが。

 

「リュウ、失格」

 

…いたよ話にならないの。

 

 

つぎに木切りの試験。

立てられた木の棒を切るだけで簡単に見えるが、これが意外と難しい。なにせ木の棒が倒れたらダメなんだ。木は固定されてないから、ちゃんと切らないと棒が倒れる。これを習得するのにまる一ヶ月かかったね。あ、もちろん両手でできるようになったよ。

 

「全員合格」

 

…嘘だろ。なんでこっちで誰も落ちないんだ。

あんな簡単そうに切りやがって。俺なんて終始ヒヤヒヤしてたのに。

 

 

三つ目。鬼人化の試験。

鬼人化してから一回型に沿った素振りをすればいい。

これ、死ぬほどきつかった。これ習得するのに残りの2ヶ月使った。

最初のうちなんて、初めて剣が赤く光ってやった!て思った瞬間、

急に倒れてモミジにえらく心配かけた。剣にエネルギーごっそり持ってかれる感じだった。1ヶ月経ってようやく倒れなくなったが、それでも持って数秒。それが終わったらその日のうちはもう鬼人化できないという酷い有様だった。

 

「次、カヅキ」

 

順番回ってきちゃったよ。

やるしかねぇ。

 

「ハッ!」

 

よし、鬼人化。こっから繋げる!…

 

 

 

 

 

 

「うへー、終わったー」

 

「お疲れ!」

 

とりあえず三つはクリア。実戦試験は明日だそうだ。

にしても他の奴ら、鬼人化しても息切れすらしてなかったんだけど。

お前ら人間じゃねえ!

 

「おい、カヅキ。話がある」

 

突然教官からお呼びがかかった。

 

「試験は合格だが、鬼人化でこの体力消費…明日の試験は正直厳しいと思うんだが…」

 

それを言わないでくれ。俺だって、この5ヶ月を無駄にしたくない。

 

「待ってください教官」

 

「ん?モミジか。何か意見があるのか?」

 

モミジがえらく真剣な目をしている。何かあったのか?

 

「最近では狩猟スタイルの中に新たに、レンキン、ブレイブというものができたと聞いています。」

 

狩猟スタイル

ゲームの中ではそれぞれ、ギルド、ストライカー、エリアル、ブシドー、ブレイブ、レンキンの6つがあり、スタイルごとに同じ武器でも動きが違ってくる。その中でもブレイブスタイルは、攻め続けることに重点を置いたスタイルだ。

 

「ブレイブスタイルでは、鬼人化を使わない戦い方もあるというのもご存知ですよね」

 

モミジが言った通り、ブレイブ双剣の最大の特徴は鬼人化を使わないことにある。その代わりに攻撃を重ね、ブレイブゲージを溜めることで鬼人化に近い鬼人強化状態になることができ、スタミナを使わずとも戦うことができた。

 

「ムゥ…」

 

教官唸る。

 

「どうかカヅキに…試験を受けさせてやってください」

 

頭まで下げたモミジに、教官は何かを感じたようで

 

「モミジがそこまでいうとは…。わかった。試験は受けられるようにしておこう。頑張れよ、カヅキ」

 

そう言って教官は訓練所に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえモミジ」

 

「何?」

 

俺は分からなかった。

なぜモミジが自分のためにここまでしてくれるのか。

 

「…私ね、カヅキが毎日夜遅くまで練習してるの見てたんだ」

 

バレてら

 

「君って今までのこと思い出せないんだよね。それでも努力を続けることってとても難しいと思う」

 

ん、自分は強くなってるって実感できて嬉しかっただけなんだが。

 

「…そういうこと言わなくていいから」

 

あ、はい

 

「応援したくなったの。それだけ!」

 

…なんか嬉しいな、こうやって応援してもらうの。

 

「だから明日の試験、頑張って!」

 

…shining Smile

でもこう言われると期待に応えたくなるね。

 

「うん。すぐ合格して、モミジと狩りに行きたいしね」

 

「…!うん!」

 

頑張ってくると言って俺は明日への準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いやアイテム支給するっていっとけよ。

昨日の俺の時間なんだったんだよ。

それはともかく、アイテム、武器、防具共々支給だった。

俺はユクモノ一式にユクモノ双剣という格好だ。

試験内容は、渓流でアオアシラ一頭の討伐。

ざっくりいうと青い熊だが、前足のに甲殻があり、引っ掻きを食らったら頭持ってかれると言われた。

ゲームじゃなんてことなかったのに。

 

「それじゃ、渓流に行くぞー」

 

教官がガーグァ荷車を出してくれた。何気に乗るの初めてだな。

 

「よろしくガーグァ」

 

「グワァ」

 

よしよし。

 

 

 

 

なんだかんだで渓流到着。ベースキャンプで準備をする。

景色は、もう圧巻の一言だった。奥にそびえる山々、キャンプの下に見える雲。ゲームと同じものだったが、迫力が雲泥の差だ。

てか雲が下にあるって、ベースキャンプだいぶ高いとこにあるんだね。

 

「砥石持ったか?」

 

教官に言われて確認する。もちろん研ぎ方も習得済みだ。

決して描写がなかったからって後付けしたわけではない。決して。

 

「危なくなったら助けに入るが、基本は一人だ。頑張れよ」

 

「はい!」

 

教官も厳しいがいい人だ。

…指導受けたことないが。

というわけでクエスト開始。

アオアシラの初期位置はエリア5だ。

ゲームならエリア間の移動にロードを挟んでいたが、こっちでは徒歩で移動しなきゃいかんかった。

俺は廃屋の野ざらしになった廃屋のあるエリア4を通ってエリア5へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

いたよアオアシラ。はちみつ食べるのに夢中みたいだ。隙だらけだ。

俺は全力で尻に斬りかかった。

 

ザシュッ

 

確かに手ごたえはあった。

だがアオアシラは何事もなかったかのように、ゆっくりこちらを向いてきた。

嘘だろ…怯みもしないなんて。

アオアシラが吠えた。

めちゃくちゃ怖い。威圧だけで殺されそうだ。

一瞬体が動かなくなったが、なんとか意識を戻す。

休んでる暇なんてない。

アオアシラが前足で引っ掻いてきた。

後ろに下がって避けるが、バランスを崩す。その隙を突かれて、前足で横に吹っ飛ばされた。

 

…無茶苦茶いてえ!!

 

俺はポーチから回復薬を出して飲み干した。

急に痛みが引いていく

ほんとなにでできてるんだろうこれ。

 

とはいえ何度も食らってたら堪らん。

またアオアシラが引っ掻きを繰り出す。

今度は前転でギリギリ回避。

 

…まてよ?いま当たる距離じゃなかったか?

 

もう一度引っかき攻撃に向かって前転で回避する。

当たらない。

そうか。前転すると回避行動をとったことになって、無敵時間が発生するのか。

仕組みはわからんが。

だけどこんなこと繰り返してたらすぐダメになる。

ただでさえもう息切れしてるのに。

アオアシラが飛びかかってきた。

走って横に避けて斬りかかる。効いた様子はない。

「焦るな、落ち着け俺」

自身に言いかける。

すると見えないものが見えてくる。

 

「あれ?」

 

アオアシラの動き。

引っ掻き、飛びかかり、どれもゲームで見てきた動きだ。

アオアシラが体をひねっている。次に来るのは…

 

「引っ掻き!」

 

かがんで前転せずに避ける。その隙に練習した型で斬りつける。

まだ効いてない。

アオアシラが前足を後ろに持ってくる。次は…

 

「両手引っ掻き!」

 

抱きつくように引っ掻きを繰り出すアオアシラの前足に向かって前転回避。

後ろに回って車輪斬りを喰らわせる。まだ怯まない。

やはり鬼人化できないと厳しいか。

でも使うと疲労がとんでもなくたまる代償付き。

どうするか悩んでいたが、ここでモミジの言葉を思い出した。

 

「ブレイブスタイル…」

 

鬼人化の使えない自分にとってベストな選択だ。

正直練習はしていない。だが攻撃をつなげるための型や、刃筋を乱さないようにする訓練など、やれることはやった。

ぶっつけ本番なんてどんとこいだ。

そしてブレイブスタイルに必要なのは…

 

「攻撃し続けること、だよな?」

 

 

 

 

 

 

 

攻撃を重ねるごとに、俺の動きも良くなっていった。

 

「グゥ…」

 

ここでアオアシラが初めて怯んだ。

俺はこの隙を逃さない。

右 左 右

体に叩き込んだ型で素早く三回斬りつける。

すぐに引っ掻きで反撃してきたが、かがんで避けつつ斬りつける。

だんだんと周りの音が消えていく。

いますべきことは一つ。

こいつを倒すことだ。

 

 

斬りつける速さが上がっていく。

アオアシラが徐々に押されていく。

反撃を交わして腹を斬る。

アオアシラが怯む。

少しずつだが剣が青いオーラを纏い始めた。

だが気にしていては攻撃が止まる。

そう思って斬り続けた。

そしてついにアオアシラが転倒した。

 

「ここ!」

 

剣は完全に青いオーラを纏っている。鬼人強化状態になったのだ。

俺はここぞとばかりに高速で12連撃を喰らわせる。

これには流石のアオアシラでも効いたようだ。

苦し紛れの反撃を隙の少ない鬼人回避で交わしつつ斬りつける。

もうこっちのペースだ。

 

そこでアオアシラが足を引きずり逃げ始めた。

 

逃すもんかとブレイブ双剣特有の抜刀ダッシュで前に回り込む。

 

「これで…終わり!」

 

俺は最後まで残しておいたスタミナを使って、鬼人化をする。

持つのは数秒。

だがここで気付く。アオアシラの怯えるような目に。

一瞬力が抜ける。だが…

俺はアオアシラの顔に向かって、鬼人化専用の型 “乱舞”を叩き込んだ。

 

 

 

ズンッ

 

 

 

巨体が崩れる

 

 

 

その目にはもう何も宿っていない

 

 

 

俺は命を奪ったんだ。

らしくないが、そんなことを思った。

 

「あもう限界…」

 

だが疲労が勝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

気がつくとベースキャンプのベットで寝ていた。

力尽きたのか?いやいやアオアシラ倒したし、そんなはずは…

 

「目、さめた?」

 

 

この声…モミジ?なんでここにいんの?

元気よく俺のこと送り出してたじゃん。

 

「いや実はこっそりついてたの」

 

なんでも荷車の中に隠れてたらしい。

そんなスペースどこにあった?

あ、向こうで教官が頭に手当て溜め息ついてる。

お疲れさまです。

 

「それはそうと、なんだあの動きは。まるで相手の動きがわかっているような」

 

やべなんて言おう

 

「いーじゃないですかそんなこと」

 

ナイスモミジさん。

 

「無事達成したし、打ち上げいこ!」

 

打ち上げ!?やったぜ。

 

あ、また教官が溜め息ついとる。

幸せ逃げるぞー。

 

「それじゃ帰るぞお前ら」

 

でもなんだかんだ村まで送ってくれる教官は、めちゃいい人だと思う。

クッタクタだったので、荷車では爆睡だったが。

 

 

 

 

 

「帰ってきたぜユクモ村!」

 

こうしてみると夜のユクモ村も悪くない。

あかりがいい味出してる。

 

「今日は私のオススメの店に連れてってあげる!」

 

お、まじでっか。

宿で着替えた後、連れていってもらったのは居酒屋だった。

 

飯なう。

 

「うんめー!」

 

「でしょでしょ」

 

俺は今ガーグァのモモ肉炒めを食べている。

今まで食った鶏肉の中でもトップに入る。

 

「じゃ、聞かせてもらうからね?」

 

「何を?」

 

「何をって、君の狩りについてだよ」

 

…さっきどーでもいいとかいってたじゃん。

 

「あれは教官がいたから!」

 

「…」

 

正直言うか悩んだ。

怖かったんだ。

故に俺のとった選択は…

 

「すいませーん、お冷ください」

 

「あ、逃げた!」

 

 

 

 

 

 

その後俺たちは温泉に来ていた。

ここはゲーム通り混浴だった。

いや決して変なことは考えない。

タオル巻くし。

 

それにしてもいい湯だなぁ

体にしみるわ〜

ババンババンバンバン♩アービバノンノン

 

「何言ってるの?カヅキ」

 

タオル巻いただけのモミジが来た。

ほほう、こいつは上玉だ…じゃなくて。

 

「隣いい?」

 

許可なくても隣来るような人が何を言う。

あー近い、近いよ。

 

「?どうしたの?」

 

絶対からかってるだろ。

こっちは多分顔赤いのに。

 

「ねね、そんなことより、初めての狩りの感想は?」

 

そんなことって…

だがモミジは、顔は笑っているが目は真剣そのものだ。

俺は頭を切り替えた。

 

 

狩りね…

 

俺はアオアシラが倒れた瞬間を思い出した。

生気に満ち溢れていた目にはなにも感じられず、

倒れた体は何かが抜け落ちたように空っぽだった。

考えるほど怖くなる。

ゲームではなんともなかった。

だがこの世界は違う。

全部生きてるんだ。

 

「命の重さを考えさせられたよ」

 

そして最後に遠慮なく彼の命を奪った…

 

「自分がこあい」

 

 

…噛んだ

 

 




誤字脱字あれば報告お願いします
m(_ _)m


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新人ハンターとざわめく森

ざわめく森で皆さんわかると思います。


「いいと思うよ」

 

 

 

モミジは言った。

 

 

「私も最初はそう思うこと、あったから」

 

 

「だからその命を無駄にしないで、生きていくの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺ハンターになるの100年早かった説

 

“狩った命を無駄にしないで”

 

意味はわかる。だが、ならそもそも狩らなければいい話であって…

 

 

「うーん…」

 

 

カヅキは一人唸る

 

言ってなかったが、今カヅキはモミジの家の倉庫で寝泊まりしている。

ゲームではなかったが、アイテムボックスに入らない植物や食料が大量に置いてあってよくわからない匂いがする。

自室でもいいとモミジに言われたが、俺の精神が持ちそうにないで、青汁飲むときよりも苦そうな顔して断った。

本気で心配されたんだけどその話はまた。

ハンターって難しいね…

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺はモミジといっしょに加工屋にきていた。

説明しよう!

加工屋とは、モンスターの素材を加工し、武器、防具を作ってくれる店である。もちろんタダではない。

 

「そんなこと誰でも知ってるよ…」

 

あきれた様子のモミジ。

俺だってしたくてしてるわけじゃないのだ。

体が勝手に…いや脳が勝手に。

 

「よくきたな!」

 

加工屋のオッチャンだ。

ゲームだと高齢の竜人族だったが違うのね。

あぅあぅ

 

「新しい双剣の作成をお願いします」

 

「ふむぅ」

 

モミジが代わりに言ってくれた。

するとオッチャンは見定めるようにこっちを見た。

…目と目が合う、瞬間好ーきだとー

 

「…最近ハンターになったのか」

 

…なぜわかった。

 

 

「体つきからな」

 

 

経験者は違うなぁ。

 

 

「おまえの体つきだと…」

 

 

そう言ってオッチャンはカタログを見せてきた。

 

乗っていたのは二つ

 

練習で俺が持った骨製のボーンシックル

 

実戦試験で使った木製のユクモノ双剣

 

どちらも軽さを重視した双剣だ。

 

 

「もう少し重い双剣ってないんですか?」

 

 

「む?軽いか?」

 

 

いやそんなことはない。ただ、威力が落ちるのではないだろうか。

アオアシラとの戦いでそう実感した。

あれでも最序盤のモンスターだ。

そいつでさえ、言い方は悪いが、ケツ切り裂いて怯みもしなかったのだ。

重みがある方がいいだろう。いやそうに違いない。

 

 

「ふむ…そんなに言うなら…」

 

 

っと、オッチャンは今度はカタログではなく実物の双剣を持ってきた。しかも変わった形の。

 

 

「こんな双剣見たことないよ?」

 

 

ここでモミジが興味を示す。

この双剣は確か…青熊双鉞って名前だったはず。

せいゆうそうえつ って読むんだ。

鉞はまさかりの意味。

要するに斧二振りだ

 

 

「これはまだ商品化してないもんで、アオアシラの素材を使って作ったんだ」

 

 

この世界じゃまだ商品化してないのね。

 

 

「へー!レアものじゃん!」

 

 

いいねその響き

 

 

「だが性能は十分のはずだ。試し振りしてみろ」

 

 

了解です。

こういう時は両手で思いっきり。

 

ブンッ

 

おお、空気を切る音が重々しい。

 

 

「なんかあったら言ってくれ。またすぐ修理する」

 

 

ただでくれんの!?

 

 

「んじゃ1500ゼニーな」

 

 

上げて落とすなよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あかん、大事なこと忘れてた。

この武器斬れ味良くないんだった。

 

斬れ味とは、近接武器の強さを決める大きな要素。

斬れ味がよければ硬い部位も弾かれなくなり、柔らかい部位に対してもダメージが上がる。その逆も然り。

ゲームだと 赤 橙 黄 緑 青 白 紫 の7色に段階化されていた。

 

で、肝心のこの武器は…黄色

 

レアものって言葉にやられたわ。

 

 

「はぁ」

 

 

ため息ついても仕方ない。

もらった武器だ。大事にしよう。

とここで…

 

 

「重いのを選ぶなんて変わってるね」

 

 

「ん?なんで?」

 

 

「だって、双剣って手数の多さが売りでしょ?」

 

 

言われてみれば。

小さな隙にも攻撃できるのが、双剣の長所だ。

扱いやすさが最優先なのは間違いない。

 

だが曲者の方が俺は好みかも。

あくまで個人の意見だけどね。

 

 

「カヅキって変なこだわりあるよね」

 

 

うっせ

 

 

「じゃあ武器できたし、狩り 行こ?」

 

 

え、いやあれは同じぐらいの実力になってからという意味でして…

 

 

「いいから行く!」

 

 

そのまま俺は集会所に連れていかれた。

 

防具?金ないからユクモノ一式だってばよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集会浴場にやってきた俺たち。

モミジの装備は双剣のツインフレイムにリオレウス一式だった。

武器、防具共々リオレウス&リオレイアというオスメス火竜セット。

流石に上位装備のレウスsではなかったが、そもそもこの世界、上位ハンターも多くないのでかなりの実力者だって一目でわかる。

 

さてさて、ゲームじゃ人いなかったけど、こっちだとここはまあすごい賑わってるな。

しかも広くなってる。

 

 

「クエストボードは奥だよ」

 

 

クエストは奥のボードのものを受付に持っていくようだ。

どれにしようか。

 

 

「これにしない?」

 

 

モミジさんオススメのクエストは…

 

ドスファンゴ一頭の討伐

 

うん。まあ最初ならちょうどいいかも。

で、クエスト名はなんだろう。

 

…ざわめく森

 

なんか聞いたことあるなこの名前。

なんだったっけな。

うーん。

 

まあいいや

 

 

 

「ドスファンゴ一頭の討伐ですね。承認しました。よい狩りを!」

 

 

受付嬢に営業スマイルで送り出された俺は、ガーグァ車を選んでいた。

 

「グワッ」

 

「グワワ」

 

「ギョエエ」

 

 

どれも元気ありそうだ

てかなんか声変なのいるな。

 

 

「グワグワァ」

 

 

ん?お前確か…

 

そうだ、試験の時に世話になったガーグァじゃねーか!

俺のこと覚えててくれたのか!?

 

 

「判別できる君も相当だけどね…」

 

 

何をバカな。

ガー助(今命名)にはなら特徴的なアホ毛があるんだよ!

 

 

「よろしくな、ガー助」

 

 

「ガーグァ!」

 

 

「息ぴったり…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺たちは、渓流に向かった。

ついた頃には夜になっていた。

月明かりが綺麗だね。

あそうそう、今回は正式な依頼だから、ギルドから支給品が出てるんだった。

 

 

「支給品は持ってっていいよ」

 

 

モミジさん太っ腹。でも全部もらうのは申し訳ないな。

 

 

「半分ずつでいいよ。モミジもあった方がいいでしょ?」

 

 

「そうだけど…」

 

 

まあゲームでは礼儀みたいなもんだしね

 

支給品を受け取った俺たちは川に近いエリア7へと向かった。

もちろん徒歩で。

 

しっかし眺めいいな。道中も、昔の段々畑の後とか、雷光虫が蛍みたいで綺麗だったりとか、飽きない。

 

そんな中、エリアに着くと、奴はいた。

白いたてがみを持つ大猪。ドスファンゴだ。

その周りには取り巻くように一回り小さいブルファンゴがいる。

 

「カヅキ。作戦は決めてあるから、聞いて」

 

「オッケー」

 

「…おっけー? どういう意味?」

 

「ごめん気にしないでいいよ」

 

「…わかった。で、作戦なんだけど…」

 

俺が取り巻きのブルファンゴを、モミジがドスファンゴを攻撃するというものだった。

シンプルで、かつ効率的だ。

 

「ブルファンゴを片付けたら?」

 

「合流して罠を張って」

 

 

「了解です」

 

 

 

 

 

そして狩猟開始

 

とりあえず後ろを向いているブルファンゴにきりかかる。

 

 

「ブモォ!?」

 

 

流石に小型モンスターだけあって怯みはするようだ。

隙を与えずに斬りかかる。

 

ザクッ ザクッ

 

ブルファンゴが唸りながら倒れた。

すまん。

 

それにしてもやっぱ少し重めだな、この武器。

威力がある分扱いづらい。

でもそっちの方が面白い。

 

一頭終わり。あと二頭。

 

 

「ブオオォ!」

 

 

片方が突進してきた。

ギリギリで横に避けたが、風が結構きた。しかもだいぶ早い。

だがまあブルファンゴはブルファンゴだ。

突進も直進的だし、当たらなければどうということはn

 

ドゴォ

 

 

「ケホッ、ゴホッ」

 

痛い痛い。いや痛い。

人が油断してる時に攻撃するなんて。貴様らには血も涙もないのか。

この世界は生きている。

だがブルファンゴ、てめーはだめだ。

 

 

「死すべし、死すべし」

 

 

斬りかかった。

 

調和を保つものとしてやってはいけないことだ。

良いハンターは真似しないでね。

 

 

 

 

 

ちょっと時間かかったけど討伐完了。

突進は直線的で読みやすかった。

 

 

「おーいモミジこっちは…」

 

 

終わった。そう言いかけた瞬間固まってしまった。

なんかモミジがリ◯ァイ兵長みたいな動きしてるんだけど。

あれだろ。ガス噴射装置でもついてんだろ。

 

…まあ説明すると、あれはエリアルスタイルだ。

このスタイルだと、前転回避がエア回避(空中前転回避)になって、相手を踏みつけてジャンプできるようになる。

随分アクロバティックだが、双剣は頭一つ抜けて派手なのだ。

公式も某巨人漫画を参考にしたって言ってたし。

 

ドスファンゴが可哀想になってきた。

 

いや防戦一方ではないんだけど、あいつ火に弱いのよ。

モミジの双剣は火竜素材だから火属性な訳で。

今回俺の出番ないかも。

 

 

ってそうじゃなくて。

 

「こっちは終わった!」

 

これを伝えるの忘れてた。

 

「了解!」

 

モミジがそう言った瞬間、ドスファンゴが足を引きずり始めた。

タイミング良すぎかよ。

 

「エリア5に先回りして!捕獲する!」

 

そうゆうこと先に言ってくれませんかね。

 

説明しておくと、捕獲っていうのは文字通りモンスターを捕獲することだ。

やり方は簡単。

弱らせて、罠にはめて、麻酔玉を2個投げる、これだけ。

 

「わかった!」

 

そのままドスファンゴを追い抜いてエリア5へ。

おい、俺を睨むな大猪。

捕獲するだけだから。

あ、でも捕獲した後ってどうするんだろう。

解体?…

考えたくないな。捕獲しよう。捕獲。

 

 

 

 

 

 

罠張って待つこと2分

 

ノロノロドスファンゴがやってきた。

はやくかかれー罠に。

そうそう、そのままそのまま…

 

 

 

 

パキパキッ

 

 

 

森の方から木の枝の折れる音がした

 

ブルファンゴかと思った。

 

だけどその音は次第に大きくなって…

 

 

 

メキィ バギバキ

 

 

 

音を出した本体が森から出てきた。

 

思わず目を疑った。

 

 

 

「ウオオオォォォォン!!!!」

 

 

 

雷狼竜、ジンオウガだ。




戦闘は次回からとなります


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向き合う

筆が進まぬ。
女性目線がこれほど難しいとは、


 

 

私はハンターだ。

しかもそれなりに長い。

村の近くまで現れた火竜リオレウスを倒し、村じゃちょっとした英雄にまでなっていた。

だからなのか、私は気が抜けていたんだ。

 

ここは大自然の中。

何が起こってもおかしくない。

 

しかもこのエリアは、私の最初で最後のクエスト失敗が起こった場所。

 

 

私には、トラウマがある。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

落ち着いて考えればわかることだった。

 

ざわめく森

 

ゲームでもかなり序盤の、しかもソロプレイ専用の村長クエストだったが、問題はそこではない。

なんとクリア後にジンオウガが乱入してくるのだ。

ジンオウガとは、モンスターハンター3rdのパッケージを飾った代表とも言えるモンスターで、リオレウスと同等、いやそれ以上の実力を持つ強力なモンスターだ。

当時俺は多人数向けの集会所のクエストを先に進め、あらかじめジンオウガと戦っていたため大した衝撃は受けなかったが、今回はわけがちがう。

ゲームと違って村長直々の依頼なんてまず来ないし、そもそも今回は集会所でクエストを受注していたはずだ。

俺は今初めて初心者プレイヤーの受けた衝撃

…いやそれとは比べ物にならないほどの衝撃を受けていた。

 

 

「グルル…」

 

ジンオウガが唸る。

 

…何あれ超かっこいいんですけど。

うわめっちゃ鱗くっきり見えるんですけど

 

睨まれた恐怖で足はピクリとも動かなかったが、俺の思考はなんだかよくわからない方向へ進んでいた。

 

いかんいかん、こんなことしてる場合ではない。

俺の防具はユクモノ一式。思いっきり初期装備なので防御力が足りない。

モミジの防具はリオレウス一式。防御力はあるが、雷狼竜とあるように、ジンオウガは雷属性持ちなので属性面で相性最悪だ。

ゲームなら絶対逃げたほうがいい。罠にかかってたドスファンゴもビビって逃げてたし。

 

だが、この世界は違う。

エリア間のロードがないので余計危ない。

下手したら死ぬ。下手しなくても死ぬ。

よって戦うしかない。

 

 

「やるよ!?」

 

 

モミジに尋ねる。

 

…おかしい。返事が返ってこない。

疑問に思って振り返ると、そこには震えているモミジがいた。

ジンオウガが突進の構えに入る。

まずい。

 

 

「モミジ!!!」

 

 

全力で叫んだ。

その瞬間モミジはハッとなってこっちを向き、ジンオウガの突進を回避した。間一髪だった。

 

 

「モミジどうしたの?」

 

 

なんだか様子が違うモミジに違和感を抱き、聞いてみる。

 

 

「…逃げなきゃ」

 

 

「…え?」

 

 

いつものモミジからは想像もできないほどの弱々しい声が発せられた。

 

 

「逃げるってどうやって!?」

 

 

「とにかく逃げるの!」

 

 

「逃げても追ってくる! 戦って撃退するしかないだろ!」

 

 

「戦っても勝てないよ!」

 

 

モミジは過去に何かあったのだろう。

そんなことは震えているのを見れば痛いほどわかる。

だが

 

「何もしないで死ぬよりもよっぽどいい!!」

 

自分の言葉が薄っぺらいことくらい自分が一番わかってる。

けれども俺は、死にたくない、という強い意思を言葉に乗せた。

もう死ぬのはごめんだ。…しかもあんなうっかりしたことで。

 

 

 

 

「…そうだね」

 

 

 

こんな俺の言葉でも、少しは響いたらしい。

 

 

ジンオウガがまた突進をしてくる。

 

お互いに目を合わせて頷き、反対方向に飛ぶ。

ジンオウガの突進は当たらない。

 

 

「…ありがとう、カヅキ」

 

 

「…終わってからなんかおごってよ」

 

 

「…!そうする!」

 

 

さあ、もうひと頑張りいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンオウガが2連前脚叩きつけを繰り出す。

俺をそれは転がらずに位置どりで避ける。

そして隙を晒したジンオウガの顔に二回斬りつける。

 

 

ズガガッ

 

 

斬るより叩き割るに近い攻撃を食らっても、ジンオウガはビクともしない。

ちょ、顔近いよ。鼻息が当たるんですけど。

 

そこにモミジが斬りかかる。

 

 

「グオォ…」

 

 

これは少なからず効いたようだ。

この隙にもう一発。

 

ズガッ

 

 

…効いてる様子はないが、とりあえず攻撃は回避できている。

 

ジンオウガは連続攻撃の後、必ず威嚇を挟む。

俺はジンオウガというモンスターが好きだった。

その理由はなんと言っても戦いやすさ。

攻撃は強力な分、躱せばそれだけチャンスが生まれる。

戦ってて楽しいのだ。

 

今俺はこの狩猟を少し楽しんでもいた。

だって、ジンオウガ相手にモミジと戦えているんだ。

最高かよ。

 

だが現実そう甘くもなかった。

 

俺が勝手にそう思っていたんだ。

 

ゲーム通りじゃないことくらい、アオアシラとの戦いで実感したはずなのに。

 

 

 

 

ジンオウガがぶっとい尻尾を叩きつける。

横に避けて、柔らかい足に斬りつける。

少しでもダメージを与えて、転倒させるためだ。

そして飛びかかりを繰り出すジンオウガ。

この後は威嚇だ。

俺は横に走って避け、攻撃に移ろうとした。

だが、ジンオウガの行動は予想に反するものだった。

 

尻尾叩きつけだ。

 

俺はそれを理解した瞬間、横の跳んだ。

だが、とっさのことだ右足が巻き込まれた。

 

 

ズドンッ

 

 

うわあ痛った。文面じゃ分かりにくいがむちゃくちゃ痛い。

なんか右足の感覚がおかしい。

 

 

「ぐ…あ…」

 

 

痛みで動けない俺に向かってジンオウガが突進を繰り出す。

これは…まずい

 

 

「やめてぇ!」

 

 

その時

いつの間にか鬼人化したモミジが、ジンオウガに向かって空中回転斬りをくらわせた。顔面フルヒット。

 

 

「グウウァァ!!」

 

 

ジンオウガが大きく仰け反る。

だが、ジンオウガはすぐさま頭突きをした。

 

 

「うぐっ」

 

 

モミジが吹っ飛ばされる。

だが頭突きだ。モミジの防具も考えると大したダメージではないはず。早く復帰しなければ。

立ち上がろうとするモミジに、ジンオウガが尻尾叩きつけを繰り出す。

 

だがここでモミジはエア回避をしてしまった。

 

エア回避をすれば尻尾叩きつけは避けられる。

しかし、その後に続く飛びかかりを避けられない。

 

俺は必死に伝えようとするが、もう遅かった。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

飛びかかりにあたり吹っ飛んだモミジは、そのまま後ろの木に激突。

 

助けないと

 

思った時には体が動いていた。

足の感覚はおかしなままだが、そんなこと気にしてる場合ではない。

俺は鬼人ダッシュを使って、モミジとジンオウガの間に入る。

 

ちょうどジンオウガが前脚叩きつけをする直前だった。

 

避けないとタダじゃ済まない。

だが避けたら避けたでモミジが危ない。

 

前脚が振り下ろされる。

 

俺は当たる直前に両手で双剣を横に振ってジンオウガの前脚に当て、軌道をずらす事で攻撃を外させた。

自分でも驚いた。

ゲームじゃ絶対出来ない芸当だ。

なんで出来たかわからない。

ってそうじゃない。2撃目が来る。

またジンオウガの脚が振り下ろされる。

今度は右の手の鉞だけを使って軌道をずらす。

だが思うように刃が入らない。

切れ味が落ちたのだ。

いなしきれず、若干左腕に当たる。けどこの際痛みは無視だ。

切れ味低下も無視無視。

 

「おらぁあ!」

 

動ける左手で、近づいた頭に思いっきり攻撃を入れる。

 

ズガァッって言う音がしたが、ジンオウガは怯まない。

ジンオウガはこちらを睨むと噛み付こうとしてきた。

とっさに右手に持つ鉞を口に挟ませる。

だが、それでも勢いは止まらない。

そのまま俺を噛み砕こうとしている。

 

「ぐぅ…」

 

左の鉞も挟ませてなんとか止める。けど持って数秒。

避けるとモミジが危ないが、避けなければ俺が死ぬかもしれない。

 

あ、そうか

 

俺のことはいいや、モミジが助かれば。

 

そう考えた瞬間、なにかが吹っ切れた。

 

俺は力強くで剣を振り抜く。

ここでジンオウガがようやく怯む。

ここだ。

 

俺は素早く3回斬りつける。

ジンオウガは気に入らないとでもいうように頭突きをしてきた。

避けきれずに右肩に当たる。

だが体勢は崩さない。

近づいた顔に斬りかかる。

怯まない。

今度は前脚叩きつけだ。

剣を当てて避ける。

 

だんだんと俺の持つ二つの剣(斧)が青いオーラを纏う。

 

速度も上がる。

 

前脚叩きつけの二撃目が来る。

鬼人強化状態になった俺は、最小限の動きで右に素早く鬼人回避。

隙だらけのジンオウガの顔面に向かって両手で斬りかかる。

今度は大きく怯んだ。

俺はここぞとばかりに鬼人化。

 

ここで乱舞を全て当て…

 

「ウオゥゥ…」

 

乱舞の7撃目が入ったところでジンオウガが何かの構えに入る。

 

まずいと思ったが乱舞を中断できない。変なところでゲーム仕様にしやがって。

 

ジンオウガが右脚を軸にして体を回転させ、尻尾を振り回す。

 

ゲームでもあった大技、サマーソルトだ。

俺は直撃し、吹っ飛ばされてしまった。

 

3回ぐらいバウンドしたが、まだ意識は保っている。

 

ジンオウガは…

 

 

 

少し顔をしかめたかと思うと、森の中に姿を消した。

 

 

 

 

「なんとか、なった…」

 

終わったと思った瞬間、意識が遠のき始める。

 

 

モミジが走ってこっちに向かってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カヅキは不思議な人だ。

突然訳のわからないことを言い出すし、記憶喪失のはずなのにいろんなことを知ってる。本当によくわからない。

 

だけど、これだけはわかる。

 

彼は努力家だということ。

 

ある日の夜、物音に気付いて起きると、誰かが家から出て行く音がした。

一瞬泥棒かと思ったが、家の扉を開けると、その影でだれか判断することができた。

 

 

「…カヅキ?」

 

 

不思議に思った私は、その後をつけることにした。

たどり着いたのは訓練所の裏の練習場。

 

私はそのとき、カヅキが夜な夜な出かけては双剣の練習をしていることに気づいた。

 

それを見て、私は素直に応援したいと思った。

だから自分の気持ちを彼に伝えた。

どうやら彼も同じことを考えていたようで、

 

 

「モミジと狩りにいきたいしね」

 

 

なんて言っていた。

舞い上がっている自分がいたけどそれは置いておいて…

 

 

 

 

そして実戦試験当日。

驚きの連続だった。

アオアシラに恐怖することなく挑む勇気。

それだけでなく、初めて攻撃を避けたかと思うと、それ以降は完璧に攻撃をかわしながら攻撃するという、普通じゃありえない動き。

さらに、練習で一度もしていなかった鬼人強化状態になって、ありえない速度で剣を振るっていた。

 

しかも狩猟が終わった瞬間、その場で倒れたのだ。

寝ているだけだったためいい意味で(?)期待を裏切られた。

もう、本気で心配したのに。

 

だけどその後、彼は私に、アオアシラの命を奪った自分が怖いと言ってきた。やっぱり普通なんだなと謎に納得しつつ、自分の体験をもとにアドバイスをした。先輩としてしっかり教えなきゃ。

 

 

 

モミジが一休みした後、私はせっかく新しい武器ができたのだからと彼を狩りに誘った。

なんだか遠慮気味だったけど、勢いで押し切った。

カヅキは押しに弱い。

 

ドスファンゴのクエストに決めて、クエストに出発。

 

 

 

 

 

ドスファンゴなんて簡単すぎるかなと油断していたんだ。

 

現れたのはジンオウガ。

 

 

その瞬間体が動かなくなる。

頭は必死に動こうとしてるのに。

 

だけどそのとき、私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「モミジ!!」

 

 

カヅキだ。

とっさに我に返って攻撃を避ける。

 

だけど、だめだ。

戦ったら負ける。

 

 

「逃げなきゃ…」

 

 

自然と声が漏れていた。

 

 

「逃げるってどうやって!?」

 

 

「いいから逃げるの!」

 

 

「逃げても追ってくる! 戦って撃退するしかないだろ!」

 

 

「戦っても勝てないよ!」

 

 

まるで子供のように叫んだ。

みっともない。でもこの時はそれどころじゃなかったんだ。

 

 

「何もしないで死ぬよりよっぽどいい!」

 

 

カヅキも叫んだ。

そしてその言葉は、なぜだが私の心の中にストンと落ちた。

彼がハンターになってまだ1ヶ月もたってないのに。

その言葉には重みが感じられた。

 

 

「…そうだね」

 

 

だから答えようと思った。

 

 

「…ありがとう、カヅキ」

 

 

「…終わったらなんかおごってよ」

 

 

「…!そうする!」

 

 

無事帰るためにも!

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず完璧に攻撃を避けるカヅキ。

終わったら問い詰めよう。

だけどその集中力だって無限じゃない。

急にカヅキの動きが止まる。

なんとか避けようとしたが、尻尾に足が巻き込まれてしまった。

私がカヅキを助けなきゃ。

 

 

「やめてぇ!」

 

 

本能に任せて斬撃を叩き込む。

 

ジンオウガが大きく怯んだ

…ように見えたが、その体勢のまま頭突きをしてきた。

 

 

「うぐっ」

 

避けられずに食らって飛ばされてしまった。

だけどこの程度問題ない。

ジンオウガが尻尾を振り上げる。

叩きつけられる瞬間、その尻尾を踏みつけて跳躍。

もう一度斬撃を…

 

見えたのは、飛びかかる直前のジンオウガの姿だった。

 

空中では動けない。

 

 

「きゃぁ!」

 

 

痛みで頭がいっぱいになる。

後ろから衝撃が来た。

木にでもぶつかったのだろう。

 

 

前脚を掲げるジンオウガ

 

 

ああ、死ぬんだ。

 

 

 

その瞬間、私とジンオウガの間に何者かが飛び込んできた。

 

カヅキだ。

 

カヅキは剣をジンオウガの前脚に当てて軌道をずらした。

 

 

…なんだそれは。

 

カヅキは考えられない動きで。

だけど攻撃を食らいながらも私をしっかり守ってくれていた。

 

でもこれ以上攻撃をくらったらカヅキが危ない。

ただでさえ足をやられているのに

……足?

 

そうだ。カヅキはさっきの攻撃で足をやられているんだった。

それに気付いた途端、かつて自分を守ってくれた人の背中が思い出される。

 

 

「もういいの!」

 

 

 

カヅキに向かって叫んだ。

だが、全く聞こえていないようで、攻撃を続けていた。

 

ジンオウガが噛み付こうとするのを、カヅキは剣を挟んで止める。

そのまま振り抜き、攻撃。

そして頭突きを食らいながらも剣で斬りつけ、次の前脚での攻撃を完璧に躱す。

気づくとカヅキの剣が青く染まっていた。

これが鬼人強化状態。

間近で始めてみた。

基本双剣の鬼人化は剣が赤く染まるため、不思議な光景だった。

 

モミジが鬼人化する。

その場で乱舞を…

 

気づくと、一瞬でカヅキの姿が消えていた。

 

一瞬状況がわからなかったが、すぐに理解した。

 

ジンオウガの攻撃で吹っ飛ばされたんだ。

 

 

「カヅキ!」

 

なんとか体を起こして立ち上がり、カヅキの元へ向かう。

身体中が痛むが、そんなこと気にしてられなかった。

 

 

そこには、私を助けてくれた小さな英雄が、

 

気を失って倒れていた。

 

 




字数減らそうかな…


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