奥多摩個人迷宮+ (ぱちぱち)
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人物設定・魔法など

ちょっとキャラが多いので一覧で思いついた人を書き込みました。
抜けている人や魔法があったら気づき次第入れます。

4.11 鈴木兄妹と山岸兄弟の画像を作ってみました。キャラ把握の足しになればと思います。
他の人も要望があれば作るかも?

誤字修正、名無しの通りすがり様、仔犬様ありがとうございました!


人物設定

 

主要メンバー

 

鈴木一郎

オリ主。

山岸恭二、下原沙織の同級生。中学の頃まで恭二と一緒に野球をやっていたが恭二が野球を辞めた際に同じく野球部を退部。元々先輩後輩といった間柄が苦手だった為本人的に渡りに船だったらしい。

浸食の口出現時に恭二を助けられなかった事が負い目になっている。

コスプレについては内心偽者なのになぁという認識のため快く思っていないが、演じる以上は演じた先の恥にならないようそれらしい態度をとる。その態度が余計にヒーローっぽく見られる要因になっているのだが気づいていない。

 

【挿絵表示】

 

 

鈴木一花

オリキャラ。一郎の妹。一郎より2つ下でまだ中学生。

テンションの高いオタクな妹というキャラで仲間内では通しているが、学校では物静かで日本人形のような外見と合わさり落ち着いた人物だと思われている。隠ぺい力の高いオタク。

当初はおバカな兄のお目付け役兼真一との接点作りくらいの気持ちだったが、一郎の立場が思った以上に悪い所にあると悟ってからは必死に社会的な立場の向上を目論んでいる。本編だと語り切れてないけど一番無理して仲間についていっている。

最近はこの目論見が成功したため当初の目的を果たそうと真一にアタックしているが年齢差という壁は高い模様。

 

【挿絵表示】

 

 

山岸恭二

原作主人公。このお話でもキーマンにして主人公の相棒。

全ての魔法はこいつが生み出していると言っても良い位の魔法センスと発想力を持ち、高い運動能力で接近戦もこなせるパーフェクトマジシャン。初期の段階でも10層位までなら1人で行って戻ってこれる位の壊れキャラ。

このお話では自分でも真似できない能力を持った相棒の存在と、常に刺激を与えてくる相手(一花のオタ知識)の存在もあり原作にない魔法等もガンガン開発している。

 

【挿絵表示】

 

 

下原沙織

原作の巨乳ヒロイン。このお話では若干影が薄いが、チームの精神的なバランスを保つ役割を果たしている。

一花とは実の姉妹のように仲が良く、山岸兄弟攻略同盟という組織を密かに結成して日夜努力している。

 

山岸真一

恭二の兄でチームのリーダー。山岸家長男。

恭二に劣るものの抜群の魔法センスと恭二以上の身体能力を持ち、頭の回転の速さは米国のニュースキャスターだったシャーロットさんも舌を巻くほど。そしてイケメンという欠点の無い高スペック大学生。

彼女募集中だが流石に一花は下限を下回っている模様。

 

【挿絵表示】

 

 

シャーロット・オガワ

元米国のCCNテレビのキャスター。20台の赤毛の美女。

頭の回転が早く、知識分野での山岸家の要。かと思えばスパイダーマンの大ファンでキャラ崩壊が起きるなどといった人間的な魅力の持ち主。

原作からチームに居るのだが多分一番キャラが変わってるかわいそうな人。

 

岩田浩二

陸上自衛隊の二等陸曹。28歳男性

180を超える体格に特に教えられるまでもなくヒールを自力で覚えている等かなり恵まれた素質を持つ自衛官。その素質を見込まれてダンジョン攻略部隊の教官になるべくヤマギシに派遣されている。

今の目標は翻訳の魔法と変身の魔法を覚えること。好きなヒーローはメタルヒーローシリーズ。

 

ジュリア・ドナッティ

米空軍所属の少尉。24歳女性

米空軍アカデミーという超難関出身のエリート。魔法に対しての素質と、それ以上にトリプルリンガルという特技を持つため選抜された。

スパイダーマン状態の一郎を見て黄色い悲鳴を上げるなどシャーロットさんとかなり気が合う様子。

 

ベンジャミン・バートン

米陸軍少尉。24歳。出世コースを蹴って(?)ヤマギシへ出向してきた。休日に秋葉へ行こうと暇があるたびに言っている。

 

坂口美佐

二等陸層。25歳。看護師の資格持ち。身長が低く小動物のような印象のある可愛い系の美人。

 

マニー・ジャクソン

元米軍のリタイア組。ダンジョン内で遭難しかけた際に恭二と一郎に助けられた経験を持つ5人組のリーダー格。197センチの巨体に100キロを越す体重で、後5cm身長があればNBLかNFLに行っていたらしい。いかつい外見に優しい内面を持つ男。

5人組でそのままチームを組んでおり、他のメンバーは、

 カルロス・サントス(ヒスパニック系でスペイン語と英語が可能)

 ウォーカー(デトロイト出身の黒人)

 オライリー(唯一の白人)

 ロペス(マイアミ出身の黒人)

 

家族

 

山岸さん(社長)

山岸家の家長。コンビニを経営していたら浸食の口発生事件が起き、息子と息子の友人が重傷を負ったり変な穴が店に開いて営業不能になったりと踏んだり蹴ったり。

息子が無事に帰ってきたのと、そもそも山岸家で一番ダンジョンに憧れを持っているのもこの人なので本人的に今の状況は忙しいけど楽しいといった状況のようだ。

 

下原夫妻

下原沙織の両親。気弱な父と気丈な母と言うベストカップル。奥さんのほうはアンチエイジングの効果で現状沙織の姉にしか見えない姿らしい。

 

鈴木爺

オリキャラ。元猟師の爺さん。最近孫が男の顔を見せたりと老後の楽しみが増えてきてご満悦。ダンジョンの効果でまた走り回れるようになったので猟師に復帰するか検討中。

 

鈴木夫妻

オリキャラ。鈴木兄妹の両親。父親は元猟師で現在は夫婦で観光業を商っている。父親のほうはダンジョンの発展に商機を見ており、山岸さんとよく商売の話をするようになった。

 

 

 

装備関係

 

安藤さん

オリキャラ。真一の剣の師匠で現在は山岸チームの剣の師匠。素の状態でもゴブリン相手に無双していたが現在はオーク相手に無双できている模様。

 

藤島さん

刀匠。槍の開発を依頼されている。最近知り合った宮部さんと素材の吟味をして新しい槍の開発を検討中。

 

宮部さん

オリキャラ。治金学の専門家兼鍛冶師。その経歴で委員会に参加し藤島さんと知り合った。

 

刀剣商の店主:銀座に店を構える刀剣商。藤島さんを紹介した。

 

先輩:原作登場キャラだが名無し。開発部門で真一さんといつも悪ふざけのようなノリで様々な発明品を開発している。今作ではマスターイチカの一門に所属する事になった。実は82話から居る。

 

ヤマギシ関連

 

砂川教授:定年間近のとある大学の教授。老いてなお研究意欲と行動力が衰えず大学教授の座を捨ててヤマギシの病院に務める事を決意。マスターイチカ一門

 

 

米軍関連

 

ジョナサン・ニールズ大佐。

横田基地司令。何かと山岸家に便宜を図ってくれている。孫が一郎のファンになった影響で小まめにお願いをしていたが、最近は一郎自身より一郎の祖父と仲良くなっており休日には奥多摩で狩りを楽しんでいるらしい。

 

 

 

 

日本政府

 

総理

一時山岸家と政府の間が不仲になり掛けた時に気を配ったりと、何かと便宜を図ってくれている。

最近ダンジョンに入った影響か一気に若返り精力的に活動中。

 

幹事長

部下の尻拭いをした人。彼は悪くないが現場が悪い。

最近ダンジョンに入った影響か薄くなっていた髪が一気に戻ってきてご満悦だがついにカツラをつけたと思われている。

 

 

 

自衛隊

 

幹部の人

委員会に参加している。米軍と自衛隊との装備の差を認識しており、現状のまま自衛隊が突入しても同じ結果になると隊内の意見を纏めている。

 

 

 

日本冒険者協会

 

御神苗さん:日本代表のリーダー。東大の学生。今回本気でヤマギシ所属を狙っているが同期の日本人勢が最年少以外頼りにならずアカンかもと思ってきている。尚名前は優治のため初対面の時一郎に「惜しい!」呼ばわりされた。本人もそう思っている。

 

昭夫くん:日本代表の1人。博多に住んでいるらしく、初日にヤマギシビル1階のラーメン屋で「ラーメン!」と注文をして何のラーメンか聞かれ、「ラーメンと頼んだらとんこつがでてくるのが当たり前だと思っていた」と顔を真っ赤にして語っていた。割と自爆芸が多い人気者。

 

佐々木:元日本冒険者協会所属の冒険者で御神苗さんや昭夫君たちと同期の教官訓練参加者。現在はダンジョン内での婦女暴行の罪により起訴されている。

 

足立さん:西伊豆ダンジョンの代表冒険者。御神苗さん達と同期で落第組の一人。元は地元の名士である佐々木の取り巻きであったが、佐々木のやらかしとこれまでの自分の生き方に疑問を持ち、現在は西伊豆ダンジョンの代表冒険者として活躍している。

 

根津さん:又の名をネズ吉。夕張ダンジョンの代表冒険者。御神苗さん達と同期で落第組の一人。国内4人目の特性と言われている超感知の持ち主。その冒険者としてのスタイルは国内でもほぼオンリーワンと言っていいアサシンスタイル

 

千葉さん:みちのくダンジョンの代表冒険者。元は夕張ダンジョン所属でネズ吉さんの薫陶を受けている。前回の教官訓練で優秀な成績を残してはいるが、他のダンジョン代表と違って個性が無い事を悩んでいる。

 

上杉さん:ちなみに下の名前は小虎。名前の通り両親が上杉謙信のファンであり、子供の頃から剣術やら槍術を学んでいた。一郎たちの剣術の師である安藤さんに一時期師事を受けていたこともあるので実は姉弟子だったりする。黒尾ダンジョンの水無瀬香苗とは互いにライバル視している間柄。

 

 

一条さん:一郎に感化されて動画配信とコスプレを始めた冒険者(オタク)。『一条麻呂のダンジョン紀行シリーズ』という動画を投稿している。割りと初期から冒険者協会とは歩調を合わせていたらしいが、初回の教官訓練では枠に漏れた。

 

 

世界冒険者協会

 

ウィリアム・トーマス・ジャクソン

大富豪ジャクソン家の次男。典型的なオタクだったが、長年憧れたヒーローが現実になったというニュースに居ても立ってもいられずダンジョンに潜る。3層までは自力で潜れているらしいが、まだ魔力は感じ取れないらしい。

 

キャサリン・C・ブラス

ブラス家の長女。18歳と言う年齢の割には小さな体躯をしており、金髪のツインテールという事も相まって黒ゴスをつけた人形のような見た目をしている。

 

デビッド:アメリカ代表。愛すべき馬鹿1号。魔法も格闘技もそつなくこなせるためアメリカ代表のリーダー格を担っている。実力的な問題で悪目立ちしかねないジェイやジョシュさんを上手くチームに取り込んだ調整能力は中々のもの。

 

オリバー・J・マクドウェル:イギリス代表。レベル5保持者。180センチオーバーの体躯に鋭い顔立ちの青年。妹のアイリーンと参加。元々冒険者志望ではなかったがある日たまたま見た一郎の動画が彼の人生を変えた。

 

アイリーン・E・マクドウェル:オリバーの妹でイギリス代表。レベル5保持者。元新体操の選手160センチちょっとの身長だが非常に引き締まった体躯をしている。ある日兄に勧められて見た動画が彼女の人生を変えた。新体操を辞めて武術に手を出し、近場のダンジョンに兄と共に潜り続け見事イギリス代表の座を射止める。

 

セルゲイさん:ロシア代表の男性。2mを超える体格に体に見合った筋肉の鎧を付けた正に人の姿をした熊。モスクワ大学に在学するエリートでもあり、レスリングの有力選手でもある。

 

ファビアンさん:フランス代表。外見は10代の優男だが、初対面で全員を前にメルシー!と大きな声で言い放つなど結構な強心臓の持ち主。

 

カミーユさん:フランス代表の女性。実家はフランスで空手道場を営んでいるらしい。元々女性にしてはかなり力もあるのだが流石に熊とは比べられなかった模様。

 

オリーヴィアさん:ドイツ代表のリーダー。金髪碧眼で切れ長の目を持つ正にクールビューティーといった風体の人。尚中身は乙女。

 

 

 

フランス冒険者協会

 

マクシムさん:ファビアンさんの親族。フランス冒険者協会の幹部で、ヨーロッパ県内での魔力電池生産工場の設立を推進している。

 

 

 

 

魔法一覧

 

 

 

ファイアボール

火の玉を飛ばす

 

サンダーボルト

雷を起こし相手に打ち込む

 

ストレングス

筋力を上昇させる。一郎の自動発動のものは3倍、詠唱で発動したものは5倍近く跳ね上がる。

 

トランスファーム

変身。外観を魔法でいじってそう見えるようにしており本当に変形しているわけではない。

 

トランスレーション

翻訳の魔法。ビデオなどでは効果は無い。

 

ウェイトロス

軽量化の魔法。5分の1位まで体重を落とせる。この魔法とストレングスを併用すると飛び回ることが可能になる。

 

ウェイトアップ

重量アップの魔法。重量を5倍にする事も出来そうだがこれを使うと地面が割れるため全力は試していない

 

ネット

魔法の網の作成。網には粘着性を持たせることも可能。

 

エドゥヒーション

付着力の付与。足にかけると壁や天井に張り付くことも可能。この魔法もウェイトロスとの相性がいい。

 

ウォールラン

エドゥヒーションの足回り限定の強化版。ピタッとくっつきすぐ離す事が出来るので壁走りに最適。

 

ターンアンデッド:聖属性(?)の魔法。ゾンビ等のアンデッドに効果有。

 

ホーリーライト:ターンアンデッドの範囲強化版

 

レジスト:抵抗力を上げる魔法。基本的に自身の状態異常に対する抵抗力を上げる為、状態異常になった後だと効果が薄い。

 

リザレクション:上位回復魔法。傷も状態異常も回復する。

 

エアコントロール:自身の周りに空気の結界を作る魔法。基本的に一定の気温を保ち、外気に混ざっている有害な物質を排除する。

 

フロート:文字通り浮遊の魔法。人類の乗り物の歴史を変えかねない可能性を秘めている。

 

アンチグラヴィティ:読んで字のごとく。アンチマジックのように過剰重力による拘束からの離脱に使用される。発展系の魔法はフロート。この魔法を逆転させると……?

 

 

一郎専用魔法

 

ロックバスター(ブルースも。魔法の属性弾を使用可能)

カセットアーム(アタッチメント変形可能)

ウェブシューター(糸の発射・及び糸の属性変更可能)

ミギー(伸び縮み、斬撃、打撃といった使用可能。喋らない)

ジャバウォック(封印中。右腕変形。打撃、爪による斬撃など。力が欲しいかとは聞いてこない)

スパイダーマッ(ウェブシューターとほぼ一緒だが糸が太かったりする)

ハルク(封印中。超腕力)

祟り神(封印中。というか普段は未使用)

ファイブハンド(いつつのあいのうで。通常時のスーパーハンドにパワー、冷熱、レーダー、エレキの4形態)

アサシンブレード(ダブルブレードモード。ネズ吉の技術を習得する際に練習用に取得。気配遮断が可能)

 

 

魔法の右腕(発展系):これでもまだ未完の魔法。完成形があるかもわからない。鈴木一郎の右腕を模しており魔力によって形を保っている。

 

 現在分かっている特性は【変形】と【変質】、そして新たに【変容】。変形は文字通り右腕の形と機能を変えること。変質は右腕に魔力を集めることにより魔法の発動を変質させる能力。変容は変形の影響を全身に及ぼし

、容姿まで変えられる事(頭脳にも影響あり)。変容により使用者の体はより右腕の機能に合わせて上書きされていく。

 

 また、熟練度の上昇速度は模した変形の種類によって変わるという事も今回分かり、鈴木一郎に近い年齢、特に日本人男性は非常に熟練度の上がりが早いと思われる。

 鈴木一花はこれを親和性と名付け、現状最も親和性が高いのは高槻涼か泉新一と思われる為、ジャバウォックへの変身は禁止された。

 

 

 

恭二専用

 

ファイアボール5連打(フィンガーフレアボムズ)

文字通りファイアボールを一度に5連射。

 

レールガン

電気を使用して金属を加速させて打ち出す。何故出来たのか微妙に良く分からず再現できる人間が他に居ない。

 

ゲート(現状恭二専用):ダンジョンのゲートと同質の空間同士を繋げる穴を作る。莫大な魔力を消費する為、現状は恭二しか使用できない。ダンジョン外での使用もほぼ不可能。

 

アンチグラヴィティの逆:……

 

 

 

 

冒険者資格について(日本)

ダンジョン一種免許:ダンジョンへの立ち入りを許可される資格。

取得条件:レベル5、5層への独力到達(チームは組んだ上で)が条件

 

ダンジョン二種免許:他者を連れてダンジョンへ出入りする事が出来る資格。ただし免許を持たない人物を連れている場合は5層までの立ち入りとなる。

取得条件:レベル10、10層へ教官の力を使わずに突破が条件。

 

ダンジョン指導員資格:ダンジョン免許取得の為の教習を行える。

取得条件:10層までを独力で到達した上、定められた魔法の使用と習熟、更に教導を行えるかと言った知識的な部分

 

各階層を攻略した際はその階層に合わせたバッジを付ける事が出来る。5層まで突破ならレベル5、8層までならレベル8、という具合に。

これらのバッジは協会から発行される。

 

 

 

現在出ているダンジョン(日本は9カ所。)

 

北海道

夕張ダンジョン

 

東北に一つ(未)

 

北陸に一つ(未)

 

関東

奥多摩ダンジョン

忍野ダンジョン

 

東海

西伊豆ダンジョン

 

関西

黒尾ダンジョン

 

四国に一つ(未)

 

九州

大宰府ダンジョン



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プロローグ~奥多摩のとある一日~

誤字修正、椦紋様ありがとうございました!


6月20日。夕方。

買出しを兼ねて実家の家業手伝いをやらされているだろう友人を激励しにきたら右手が飛ばされて友人も死に掛けてます。

 

比喩じゃなくて物理的に。全身ガラスで串刺しとかこれもうあかんだろうな・・・恭二、お前の事、嫌いじゃなかったぜ!それを庇おうとして俺も右腕千切れたけどな!

すまん。ヤバイって思った時にはもう間に合わなかったんだ・・・

 

「きゃあああああ!」

「恭二!い、一郎くん!沙織ちゃん、救急車!救急車を呼んでくれ!」

 

視界の端で友人の兄貴と幼馴染(巨乳)がパニックになっているのが見えるが、ショックがでかいのか血が足りないのか頭がボーっとして注意が動かせん。これは俺も駄目かもわからん。まさか高校も卒業できずにくたばる事になるとはこの海のリハ・・・駄目だ。痛みで現実に引き戻される。

 

意識が保っている間に止血をしなければならんのだろうが、恭二がさっきからパクパクと何かを呟いている。

助けを求めているのか・・・?俺はガラスの海の中、左手で右腕を押さえながら、恭二に近づいていった。流石に助けられるとは思えんが・・・知り合いの顔が傍にあった方が、少しは気が楽になるかもしれん・・・って。

 

 

「なんだ、こりゃ」

 

 

思わずそう呟いた俺の目の前。恭二を吹っ飛ばした鉄製の冷蔵庫の中に、真っ黒な穴が現れていた。

その穴から溢れ出るように出てくる白いもやに全身を包まれ、俺はつい右手でもやを飛ばそうと腕を振る。

淡い光が、コンビニの中を包み込んだ。

 

 

 

後に迷宮侵食と言われる事件は、そんな風に唐突に俺たちを巻き込んで、世界を変えた。

 

 

 

 

 

そして現在。

 

「俺たちどうなるんかねぇ」

「知らね」

 

病院に隔離されて早3日。精密検査から人体実験に変更されそうな予兆に戦々恐々としながら、俺たちは二人並んでベッドに寝転がっていた。

恭二の全身を貫くガラスは全てなくなってます。というか逆再生みたいな感じで抜けてったらしいです。救急車の中で。

 

・・・魔法・・・なんだそうだ。恭二もそう言っているし。恐らくそうなんだろう。

あ、俺も右腕生えました。前より色が白くなったけど。

 

 

 

奥多摩個人迷宮+

 

 

 

いつ人体実験をされるのか気が気でない中、入院から3日目に無事退院できました。

恭二の親父さんマジ感謝。うちの親父はシーズン前の駆込予約とかって仕事の対応に追われてて全然頼りにならんかったけどな!

 

持つべき物は行動力に溢れた友人の家族である。俺もお相伴に預からせてもらうぜ!

と一緒に出ようとしたら「君は別」とか玄関を出る前に病院側の人に呼び止められました。

 

勿論切れる山岸さん(恭二の親父さん)、タジタジでゴネる病院職員(多分偉い人)。結果保護者としてうちの爺さんが病院まで迎えに来る事で決着がついた。

 

流石にその段階でゴネられる事はなかったが、顛末を聞いた爺さんが凄い形相で怒鳴りこんで来たのも原因かもしれない。

70超えてるんだが最近まで現役の猟師やってただけあって修羅場のときの威圧感が半端ない。山岸さんと恭二が引いてるぞ。

 

 

 

病院から出た後は俺は爺さんの軽トラに、山岸さん家は自家用車でそのまま帰るそうだ。

後で出来たら一度顔出して欲しいって言われたから爺さんにその事を伝えたら、一度実家に寄った後送ってくれるそうだ。

 

「一郎」

「ん?」

「お前の母ちゃんによう謝っとけ」

「・・・ん」

 

病院からの帰り道。不意に爺さんがぽつりと呟いた。

軽く頷いて返すと、しわくちゃの手で爺さんは俺の頭を撫でる。

 

「ようやった。友達を大切にせぇよ」

「・・・俺なんもできんかったよ」

「何もせん奴の方が多い。お前は動けた。それでいい」

「・・・うん」

 

あ、やべすっげぇ恥ずかしいわ。

そっぽを向いて、車の窓の外を見る。

3日ぶりに戻った奥多摩の町は、世間の騒がしさが嘘のようにいつもの風景だった。

 

 

 

家に帰って、母さんに泣かれて、何とか落ち着かせること小一時間。

爺さんの軽トラにのって俺は恭二の家にきていた。

恭二の家は奥多摩駅近くにあり、何年前からか家業の雑貨屋を改装してコンビニにし、そこを家族で経営している。

まあ、今は見るも無残な状態である。

 

 

「やあ、一郎くんいらっしゃい」

 

 

コンビニ側は警察やらマスコミやらが一杯でとてもではないが入ることが出来ないため、自宅側の入り口に回って中に入る。

ここに入るまでにも記者やら何やらにマイクを突きつけられて邪魔されそうになったがそこは爺さんの睨みが功をそうした。

 

中には突っ込んでくる気合入った人も居たがな。

あの赤毛のねーちゃん美人だった・・・いかん。3日も禁欲していたせいで股間の反応が早いな。

ちょっとポジションを替えよう。

 

 

「山岸さん、この度は」

「下村さん。申し訳ありません。一郎くんを巻き込むような形になってしまい・・・」

「いやいや。もしあそこで恭二くんを見捨てるようなら叱り飛ばしましたわ」

 

 

大人同士の会話が始まったので余計な口を出さずに出されたお茶を飲んでいると、襖を開けて真一さんと恭二が部屋に入ってきた。

 

 

「やあ一郎くん、退院おめでとう」

「ご心配をおかけして申し訳ないです」

 

 

俺の顔を見て安堵したかのように顔を綻ばせる。相変わらずイケメンだなこの兄ちゃん。

子供の頃から恭二と一緒に可愛がってもらったから今はそれほどでもないが、顔も良い頭も良い運動もイケるという完璧超人で恭二と一緒にコンプレックス抱いてました。

でも超良い人なんだよな・・・最近ナンパ師みたいになってるけど。

 

 

「右腕、大丈夫なのか?」

「あ、はい。動いとります」

「そうか・・・」

 

 

そういえば真一さんもあの場に居ったね。そら心配になるか・・・肘より下無くなってたもんな俺。

ってそういえば。

 

 

「恭二、お前沙織ちゃんに連絡入れたか?」

「・・・あ。いや、まだだ」

「さっさと連絡入れとけ。沙織ちゃんすげー心配してたぞ」

 

 

その場にもう一人居た関係者を思い出して恭二に尋ねるが、恐らく忘れてたのだろうなこの反応は。いい加減愛想尽かされても知らんぞ。

 

電話でも何でも良いから連絡入れとけ、と真一さんと一緒に恭二を部屋から蹴り出すと、大人同士の話し合いが終わったのか山岸さんが「一郎くん」と俺に声をかけてきた。

 

 

「下村さんとも話したが、恐らく、これから先も似たようなことが起こるだろう。ほら、病院の」

「ああ。はい」

 

 

あいつら俺と恭二を完全に実験動物か何かだと思ってたみたいだからな。正直いつ解剖されるか気が気でなかった。

 

 

「今回は何とかなったが、相手は国家だ。どんな手を使ってくるかわからん」

「身辺に気をつけんといかんぞ。お前も、恭二くんも」

「・・・はい。気をつけます」

 

 

冗談なんか1mmも感じさせない大人二人の声音に、俺は神妙な顔をして頷いた。

 

 

 

その日の夜に相方の恭二が警官にボコボコにされて連行されちまったけどな!

俺の覚悟を返してくれ・・・




山岸恭二:原作主人公。原作で出てくる魔法は全部こいつが作ってるってくらいやベー奴。兄貴や幼馴染と比べて顔面偏差値が・・・と某掲示板で煽られても気にしない広い心の持ち主

山岸真一:恭二の兄貴。イケメン。大概の事は高水準でできる完璧超人。

下原沙織:恭二と一郎の幼馴染。巨乳。子供の頃から恭二が好きと態度で示しているのにスルーされ続けている。

山岸さん:真一と恭二の親父さん。日本版WIZは発売日に並んで買ったらしい。

鈴木一郎:オリ主。恭二とは小学校からの付き合い。中学時代は運動部に所属していたが体育会系のやり取りに疲れて現在は帰宅部。妹からの影響でゲーム等はライトオタ程度の知識あり。


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第一話〜第四話

四話統合

誤字修正。アンセルム様、244様、仔犬様ありがとうございました!


「何してんだお前」

「いや、マジすまん」

 

 

ニュースを見てすぐに駆けつけた俺を出迎えたのは、先ほどまでボコボコにされていた容疑者Y氏であった。顔を見ると治っていたので尋ねたら、魔法で治ったらしい。

取り敢えず無事だったのを喜んですぐに締め上げると、ダンジョンの中が気になったから、等と意味不明な言い訳を供述してきた。無論一発殴っとく。

 

 

「あ。すげぇな」

「・・・ん?」

「全然痛みがない。身体能力が上がってるんだなって」

 

 

どういう事か確認すると、ダンジョン内でコウモリやらなにやらを倒した時に光の粒のような何かが恭二の体の中に入ってきたらしい。

それは恐らく魔物の魔力で、それを吸収した結果身体能力が上がったのだろう、と。

 

 

「つまり、経験値を貯めてレベルが上がった的な奴か?」

「恐らく。ただ、レベルみたいに一気に上がるって感じじゃなくてちょっとずつ上がっていってる気がする」

「それって、ゲームみたいな感じって事か?」

 

 

真一さんが、そう言って話に入ってきた。真一さんも中が気になるらしい。恭二が身に付けた魔法といいあの穴が原因だろう現象で山岸さん家は大変な目にあってるしな。少しでも情報が欲しいんだろう。

 

 

「うん、そんな感じ。ウィザードリィって知ってる?」

「分からいでかぁ!」

 

 

ゲームの話で例えようと恭二が某名作ゲームの名を出すと、唐突に山岸さんが叫んだ。何でも初代の頃から大ファンらしい。初代ってあの超難易度の・・・すげぇな山岸さん。

恭二も真一さんもゲーム好きだし、山岸家は一家揃って結構なゲーマーなんだな。うちだと妹しかゲームをしないから少し羨ましい。

 

 

「中は正にダンジョンって感じだ。1階や2階のモンスターもそんなに大した事はなかった」

「ふぅん。明日は俺も行ってみようかな。この腕も何かありそうだし」

 

 

恭二の話を聞きながら、真っ白くなってしまった右腕を見る。

感触も何もかも今まで付いていた腕と何も変わらないのだが・・・

 

 

「とりあえず今日はもう遅いし、一郎くんも泊まって行きなさい。外の連中に捕まっても事だろう」

「すみません・・・あの報道を見て、いてもたってもいられなくて」

「うちのバカが心配をかけて申し訳ない。ご家族にはこっちから連絡しておくから」

「よろしくお願いします」

 

 

窓から外の警官やら取材陣やらがピリピリしている様子を見て、山岸さんがそう提案してきた。

正直来る途中は無我夢中だったので気にしてなかったが、厳戒態勢状態の中突っ込んできたんだよな。やばいことしてたわ。

お言葉に甘えて、今日は早めに寝ることにする。明日のダンジョンアタックが少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

ダンジョンアタックは延期になりました。

あ、別に問題が起きたわけではないですよ。何か昨日恭二を助けてくれたって海外の記者さんが取材に来たらしい。

てか、昨日爺ちゃんに突貫してきた記者のお姉さんだ。やっぱ海外の報道関係は気合の入り方違うな(偏見)

 

 

「初めまして、シャーロット・オガワです」

「ど、どうも。山岸です。これが恭二です。あと、こっちが鈴木一郎くん」

 

 

名前を呼ばれたのでペコリと頭を下げる。コンビニで起きた事件の被害者が二人とも揃っていると知った記者のお姉さんが、一緒に取材をしたいと申し込んできたので俺も恭二の隣で取材を受けることになった。

てか山岸さんがしどろもどろ過ぎて・・・非常時にはあんなに頼りになるのに。

途中で山岸さんから真一さんが質問に答えるようになった。やっぱ美人には弱いよね。男やもめだしね(精一杯の弁護)

 

オガワって苗字から察するに恐らく日系アメリカ人なんだろう。ちょっと日本人っぽい赤毛の似合うお姉さんだ。

若干訛りを感じるけど親御さんに教わったのかペラペラの日本語で真一さんに質問をし、カメラに向かって早口の英語でそれらを翻訳するという記者と翻訳の仕事を同時にこなしている。やっぱ海外の報道関係は違うな(偏見)

何て言ってんだろ。英語の成績はそれほど悪くないし単語から読み取れないだろうか。

アクシデああ、事故か。事故の被害者が二人? もうちょっとゆっくり喋ってくれるとわかるんだが。ネイティブ早すぎる。

 

 

「They are victims of the accident事件はevening、山岸氏の経営するコンビニエンスストアで起こりました。突如冷蔵庫内に発生した黒い穴は発生時に周囲の冷蔵庫やガラスを破損させ、彼らは破裂したガラスによって命にかかわる重傷を負ったのです。それはたった4日前のことでした。直前まで冷蔵庫の中にジュースを補充していた山岸恭二さんは全身にガラスの破片を浴び、恭二さんを助けようとした鈴木一郎さんは右腕を切断されてしまったのです』

 

 

耳に意識を集中して単語を拾おうとすると、唐突にチャンネルが変わる様に意味が理解できるようになった。

何だこれ。俺こんなに英語力あったのか。

 

 

「山岸さん。全身にガラスの破片を浴びた恭二くんと右腕を失った一郎くんはその後どのようにして回復したのですか?」

「順番的には一郎くんが先になります。黒い穴から溢れてきたもやを、こう、一郎くんは右手でかき消そうとしてたんですね。その時に右手が光って。恭二は救急車で搬送される時に、全身が光りだして。体から逆再生みたいにガラスを押し出していったんです」

「なるほど」

 

 

恭一さんの答えに相槌を返して、オガワさんがカメラに目線を向ける。

 

 

『彼らに訪れた悲劇は、しかしそれ以上の奇跡によって救われることになりました。恭二くんの体を襲ったガラス片は、彼自身の体から発せられた光と共に押し出されて彼は命の危機から脱し、一郎くんの右腕は再び体に戻り・・・』

『あ、そこ違います。切り離された腕はそのまんまですけど、新しく生えてきたんです。ほら』

「ふぇ?」

 

 

きょとんとするオガワさんに真っ白になった腕を見せる。

 

 

『ほら、ここだけ色が全然違うでしょう?』

『あ、はい。本当ですね・・・生えた、んですか!?』

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 

真っ白になった腕を触りながら、驚きの声を上げるオガワさん。まあ普通トカゲでもあるまいし切り離された部分が生えるなんてないわなぁ。

美人さんとのふれあいにちょっと心をトキめかせていると、恭二が声を上げた。

 

 

「一郎、お前いつの間に英語なんか出来るようになったんだ?」

「いや、出来んよ? 聞く方ならさっきから何となくいけるんだけど」

『えっ!?』

 

 

今度はオガワさんが驚きの声を上げた。

 

 

『先ほどから、私と綺麗な英語で話しているではないですか!?』

『いや、聞き取りは英語でやってるけど会話は日本語ですよね?』

「ああ、言う方は確かに日本語で言ってるな」

『・・・え、えっと。今の会話は日本語で行われているんですか?』

 

 

唐突に英語の才能でも目覚めたのか? と思い真一さんに確認するも、真一さんも俺が日本語を話していると証言してくれた。

困惑した表情を浮かべたオガワさんは、カメラクルーに振り返り『ジャン! ちょっと来て頂戴!』と言うと、再び俺に向き直る。

 

 

「今呼んだジャンは、英語とフランス語が出来る人物です。日本語は出来ません。彼を交えてもう一度会話してもらっても良いでしょうか?」

「あ、はい。あの・・・?」

「山岸さん、もしかしたら、私達は再び歴史が変わる瞬間を目撃しているかもしれません。一度目は4日前。そして、二度目は今・・・」

 

 

ここまできたら、オガワさんが何を言いたいのか頭の鈍い俺でも理解できた。

カメラクルーの一員は抱えていた機材を床に降ろし、こちらに駆け寄ってくる。

 

 

『OKだ、シャーリー。僕は何をすれば良い?』

『ジャン、彼と会話して欲しいの。もしかしたら』

『ああ。奇跡は癒しだけではなかったかもしれないって事だね。勿論OKさ。こんにちは、鈴木さん。僕はジャン・ブルックだ。ジャンと呼んでくれ』

 

 

そう言って、ジャンさんは俺に右手を差し出した。右手を握り返して、俺は彼に答える。

 

 

『こんにちは、ジャンさん。あの、意味は通じます、よね?』

『・・・・・・ああ。ああ、勿論だよ。綺麗に通じている』

 

 

そう言って、信じられないといった表情を浮かべながら、彼は言った。

 

 

『翻訳されている・・・神よ。この奇跡に巡り合えた事に感謝します』

 

 

その一言は回り続けていたカメラにバッチリと捉えられ。

その後、恭二が話したダンジョン内部の詳細と共に世界を駆け巡る大ニュースとなるのだった。

 

 

 

 

第二話

 

 

ダンジョンである。

 

いや、いきなりで申し訳ないが俺も心の興奮が抑えられないらしい。

先日の放送以来もはやほぼ毎日会ってるシャーロットさんやジャンさん達CCNスタッフが機材の準備を進める中、俺は手に持ったバットの感触を確かめる。

1階はコウモリ、2階にゴブリンか。うむ、ド定番RPGだな。燃えるぜ!

 

 

「おいイチロー。現実逃避してるところ悪いんだがな」

「すまん恭二。見逃してくれ」

「いや駄目だろ」

 

 

呆れたようにそう言う恭二と、項垂れる俺。

全ての原因は向こうで沙織ちゃんと談笑するジャージ姿の少女にある。

俺たちが通っていた学校の指定ジャージを着たおかっぱの少女は親指を立てながら沙織ちゃんに意地の悪い笑顔を向けている。

 

 

「さお姉、恭二兄ちゃんが帰ってきてからちゃんとアタックした?」

「えっ!? ええっと、そのぉ」

「駄目だよあんなニブチンに自分から押し倒す甲斐性なんて無いんだからさ。もっとグイグイいかないと」

「そ。そうかなぁ・・・?」

 

 

純情な沙織ちゃんを悪の道に引きずり込もうとするジャージ娘の襟首を掴んで引っ張る。

ジャージ娘は「ぐぇっ」と可愛らしさの欠片も無い悲鳴を上げると、非難するように俺を見た。

 

 

「何すんだよ兄ちゃん!」

「何すんだ、じゃねぇよ。邪魔するんなら置いてくって言ったよな。沙織が全然準備できてないだろうが」

 

 

ジト目で妹を見ると口笛を吹いてそっぽを向いた。

こいつの名は鈴木一花。お恥ずかしい事ながら俺の妹だ。

 

 

「一郎くん、私は気にしてないから」

「さっすがさお姉! 素敵!」

「沙織ちゃん、甘やかすな。こいつすぐ調子に乗るから」

 

 

パッと俺の手から逃れた一花が沙織ちゃんの後ろに隠れる。

この二人、年齢が近いというのもあるんだろうが妙に仲が良い。というか沙織ちゃんが実の妹のように一花を可愛がっている。

近所の同年代で一番下が一花だからというのもあるが、沙織ちゃんは同級生とかが相手の場合可愛がられる側に居ることが多いからな。

お姉ちゃんぶりたいんだろうな、と勝手に推測している。

 

 

「あ~、一郎くん。流石に一花ちゃんは」

「真一さん! お久しぶりです!」

「あ、ああ。お久しぶり、元気だった?」

 

 

それと、狙っている男が被ってないのも仲が良い理由だろうな。

一花の姿を見咎めた真一さんが俺に注意をしようとしたが、インターセプトしてきた一花がグイグイ押していく様は妹ながら恐ろしい。

真一さん、結構遊んでる筈なんだが身内認定した人には甘いんから・・・

一花の勢いにタジタジになりながらこちらに視線を向けて助けを求めてくるが、馬に蹴られる趣味は無いので気づかなかった振りをする。

 

さて。再度になるがダンジョンである。

事前に恭二から内部はかなり広いと言われていたので、動きやすい服が良いと思い学校のジャージと、念のために中学の時に使っていた野球のキャッチャー用プロテクターを付けてきた。

気分は日曜日の草野球って所か。ジャージだけでも良いかなと思ったがゴブリンが武器を持っていると言われたからな。気休めだが無いよりは大分ましだろう。

俺のキャッチャー姿を懐かしそうに眺めながら恭二が話しかけてくる。

 

 

「一階の吸血コウモリも二回のゴブリンも結構素早いぞ。ブランク長いけど大丈夫か?」

「バントは得意だぜ」

「せめて振れよ!」

 

 

二人してゲラゲラと笑っていると、一花が大きなリュックサックを引きずってこちらに来た。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん! 手伝ってよー」

「お前、これ何入ってんだ?」

「色々~」

 

 

明らかにパンパンに膨れた登山用のリュックサックをドサリ、と置いて一花がふぅ、と息を吐く。

先ほどまで纏わり付かれていた真一さんは・・・助かったって顔でシャーロットさんと話してる。

成るほど、シャーロットさんが見かねて助け舟を入れたのか。

邪魔をされたからかムスっとした顔で一花はリュックサックを開き、中から物を取り出し始める。

 

 

「まずこれ、ロープ。10m分あるから。あとサバイバルナイフね。武器にしても良いけどリーチが短いからお勧めできないかな。こっちはガスバーナーとバーナー用のスタンド。あと小さいステンレスの鍋ね。あと物干し竿」

「お前は一体何と戦うつもりなんだ?」

「いや、むしろ全然足りないんだけど。ダンジョンに行くのにバットと防具だけとか死にに行くだけじゃない」

「お、おう。すまん」

 

 

至極真面目な顔でそう言い切る妹に、思わず頭を下げる。隣の恭二も何故か一緒になって頭を下げている。

そういえばこいつも着の身着のままでダンジョンに潜ったんだよな。今思うと明らかに超危険行為だ。

 

 

「まあ、現実世界にダンジョンなんて今まで無かったしね。私のこれも先人の知恵(TRPG)によるものだから正しいとは言えないけど、備えはあって損は無いでしょ?」

 

 

至極尤もな意見である。

実際、恭二の話を聞いて楽観視していた所はある。未知数の場所なのだ。警戒をしすぎるという事はないだろう。

 

 

「ま、防具で固めたお兄ちゃんに大荷物持たせるのは問題あるから、分担して持っていかないとね」

「いや、これ位なら問題ないぞ?」

「へ?」

 

 

そう言って恭二は前回のダンジョン探索で身に着けたという『収納』の魔法を使い。リュックサックを片付けた。

バットの出し入れ位は見せてもらっていたが、子供位の大きさのカバンが一瞬で消えるのは本当にファンタジーだ。

 

 

「・・・・・・魔法!?」

「いやそうだよ知ってるだろうが」

「知ってたけど初見だよ! うわ、すげー!」

「ハハハ、凄かろう」

「恭二兄ちゃんかっけー!」

 

 

感激の声を上げる一花に気を良くしたのか、恭二が胸を張って笑う。

おい恭二、別に出し惜しみする事じゃないだろうがさ。今の状況を思い出せよ。

 

CCNのスタッフさん、凄い勢いでカメラ向けてこっちに着てるぞ。シャーロットさんめっちゃ早口で意味が分かるのに意味分からんくなってる。

これはまた潜るのが遅れそうだな(傍観)

 

 

 

 

 

 

約1時間ほど予定を押しましたが無事ダンジョンに入れました。入る前から若干疲れた。

先導する恭二と盾役の俺がヘッドライトをつけて先頭を歩き、その後ろにシャーロットさんと一花、沙織ちゃん、スタッフの皆さんと続き,最後尾に真一さんが陣取って背後をカバー。

 

後、何故か妹から渡された物干し竿を手に持ち、小まめに地面を突けと言われた。罠が無いか確認するそうだが、これ意味あるのか?

後ろのほうでジャンさんが『10フィート棒だ!』ってスタッフの人と楽しげに話してるけど何か有名なやり方なのかね。良く分からん。

 

出てくる吸血コウモリをバットでなぎ倒し進むことしばし。

恭二が足を止めたので何事かと思ったらどうやらボス部屋らしい。

 

 

「うおりゃ!」

『ギィ!』

 

 

飛び降りてきたジャイアントバットを恭二が叩き落す。

一撃で終わった。やっぱり一階だとボスでもこんなものか。

ジャイアントバットから出てきた石ころを恭二が収納し、全員分のペットボトルを出してくれたので一息吐く。

なるほど、確かに結構歩いたはずなのに疲れを余り感じない。

実感は無いがこの僅かな間だけでも身体能力が上がっているのかもしれない。

 

「すごいわ。本当にウィザードリーなのね」

「ええ、まあこんな感じです。次の階層だとゴブリンが出てきます」

 

 

シャーロットさんの質問に恭二が答える。

確か次の階層のゴブリンは武器を持っていたはずだ。人数が多い以上、カバーしきれるかわからん。

その懸念はCCNスタッフも持っていたみたいで、何事かスタッフ同士で集まって話し始めた。

恐らく引き返すかどうかだろう。

 

 

「で、実際どうよ。次行きたいって言われたら」

「ちょっと難しいかもしれん。手が足りんからな」

「流石に3人で倍以上の人数をカバーは仕切れんぞ。どちらにせよそろそろ戻るべきだ」

 

 

こっちもこっちで相談だ。出来るだけ危険は避けたいというのは皆思っている。後はどこまで行くか、もしくはもう引き返すかなのだが。

どうするべきかね。俺としては体力が有り余ってる状態なんだが。

ゴブリンを見たことがある恭二の判断次第だが、出来れば進みたい所だ。

 

 

「ねえ、恭ちゃん。魔法とかって使わないの?」

「魔法?」

「ほら。ファイアボールとか、ばぁーっと敵をやっつける的な」

「ファイアボール!」

 

 

沙織ちゃんと恭二の会話を聞きつけて一花が素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「そうだよ恭二兄ちゃん、魔法って結構イメージで出来るんでしょ? やって見ようよファイアボール!」

「ふーん。そうだな、じゃあ、ファイアボール!」

 

恭二がそう叫んで右手を掲げると、右掌に赤い炎の玉が出来上がる。

それをふん、っとばかりに打ち出すと、結構な速度の火の玉が壁に飛んで、壁を焦がして消えた。

 

 

「おおー!」

「ファイアボール!」

 

 

驚きの声を上げてパチパチと手を叩く沙織ちゃんと、自分も、と言わんばかりに右手を上げて魔法を唱える一花。

結果、見事に右手に出現した火の玉を同じように飛ばすことに成功。

 

ただ、速度は恭二の物に比べて大分劣るように感じた。これもイメージの差だろうか。

さて、こんな面白そうな事に参加しない手は無い。俺もやってみようと右手に炎を集めるイメージする。

 

 

「ファイアボー・・・なんじゃこりゃあ」

 

 

右手に炎を集めるイメージをしたのが悪かったのか。

右手は確かに炎を集めていたが、手の先から形を変えて筒型になってしまった。

 

銃口のような形に窪んだ手の先から漏れ出る炎はどんどん明るく熱く燃えていくのがわかり、あ、これ放置したら暴発しそうだな、と判断した俺はとりあえず何度もファイアボールを叩きつけられた壁に向かって右腕を向けて、ファイアボール(?)を放つ。

 

収束したファイアボールは勢い良く壁にぶつかり、爆発。大きな焦げ後を残して消えていった。

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

一同、沈黙。そらそうだわ俺だって何言えば良いかわからんもの。

震える指先で俺の右腕を指差した妹が、尋ねてくる。

 

 

「・・・お兄ちゃん、いつの間にライト博士に改造されたの?」

「あの人は正義の博士だろうが」

 

 

そもそも改造されてねえよ。されてないよな? されて、ないよね・・・?

俺の問いに答えてくれる人は誰も居ない。

 

 

 

 

第三話

 

 

「ロックマンだな」

「ロックマンだねー」

「MEGAMANですね」

「いやむしろ空気砲じゃないかな?」

 

 

ダンジョンから脱出した俺達は、山岸家の居間に集まり休息がてら先ほどの『ロックバスター事件』について話し合っていた。

いや、事件って程でもない・・・いやいや人間の体がいきなり変形するのは事件だろ。

 

因みに右手は元に戻りました。色も元の肌色です。

というか変形脱色が自由自在になりました。

あ、今もカメラは回しっぱなしです。CCNのメンバーのテンションの上がり方がヤバいんですがそんなにロックマンが好きなのかね。

 

少しサービスでもするか、と右腕をぐにょぐにょ曲げてXメンのウルヴァリンのように爪を生やしてみると歓声を上げて喜んでくれた。ノリの良い人達だ。

 

左手でも出来ないか試してみるがこっちは形が変わらず、代わりに光の爪のような物が出来た。

魔力の感覚も何となくだが掴めて来たんだが、変形までさせられるのは右腕だけみたいだ。

 

 

「多分、それ新しい腕が生えてるんじゃなくて、魔力でそういうふうに形を保ってるんだろうな」

「何それ怖い」

「お兄ちゃんがアルター能力者になったけど何か質問ある?・・・と」

 

 

普通に病院で検査された時は色以外におかしい所も無かったみたいなんだがな。

後、妹よ。隙を見て変なスレを立てるんじゃない。CCNの人達が慌ててるじゃないか。

 

 

「鈴木さん、そういうのは困ります」

「すみません、シャーロットさん」

 

 

もちろんシャーロットさんに苦言を言われ頭を下げる。

昨日のニュースは大反響だったらしく、シャーロットさん達はかなりのお偉いさんから直々に称賛と激励を受けたらしく凄く張り切ってる。

 

『特ダネがあったらください!』と真っ直ぐ頼んでくるのは流石にどうかと思ったが、そんだけのやる気と図々しさがないと海外の報道機関で働けないんだろう(偏見)

シャーロットさんのお叱りに、意外な事に一花は素直に頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、本気でスレ立てする気はないですよー。ただ、今の時代いつでも情報を拡散できるってのを念頭に、ちょっとお願いがあるんですよね」

「お願い、ですか?」

「そそ。ちょっとした兄孝行って奴でして。ゴニョゴニョ」

 

 

ニヤニヤと笑いながらおかっぱ娘はシャーロットさんの耳元で何やらぼそぼそと喋り始める。

最初は眉を潜めていたシャーロットさんも途中から思案顔になり、最終的には『OK!』と笑いながら許可を出していた。

シャーロットさんの許可を得た妹は満面の笑みを浮かべて俺を見る。

あ、これアカンやつだ。

 

 

 

 

 

「なあ妹よ」

「なんだい兄ちゃん」

「これから実の兄に人生最大の屈辱を与える気分はどうだい」

「ほぼイキかけましたたたた」

「下ネタは使うなっつってるだろ?」

 

 

妹の頬を捻り制裁を加える。

「ひどい・・・」と頬を押さえて蹲る一花にため息をついて、俺は鏡に映る自身の姿を見た。

 

青いヘルメットに薄い青色のタイツ。ヘルメットと同色のグローブとブーツ。

どっからどう見てもロックマンのコスプレイヤーです。しかも割かしリアリティがあって痛い奴。右腕はグローブ状に変形させてあるんだぜ!

・・・死にたい。

爆笑してる恭二の奴は後で締める。

 

 

「はい、じゃあカメラ回してー! 良い感じの画期待してるよお兄ちゃん!」

『OK,ボス!』

 

 

一花の号令に従ってCCNのカメラクルーもカメラを動かし始める。

カメラ回してるジャンさんがめっちゃ笑ってる。やっぱりロックマン好きなんだなあの人。

 

さて、現在地はダンジョンの地下2階。俺達は再びダンジョンに入った後、一気に地下2階まで降りた。

目的はゴブリン討伐。午前中はゴブリンを数体倒した程度で帰ってきたので実際戦ってみるとどうなるのかと、もう一つ。

 

 

「さぁお兄ちゃん、その自慢の右手でバシバシやっちゃって!」

「あいよ。ファイアボール!」

 

 

右手を変形させて銃口の形にし、ファイアボールをゴブリンに向かってバシバシと飛ばしていく。

このロックバスター式ファイアボールは普通のファイアボールと違い、一度唱えたら連発出来るようだ。

その分一発一発の威力はかなり弱いが、チャージして打ち出せば本来のファイアボールよりも威力が高くなる。

 

魔法を見るだけで大体の仕組みが分かると言うチート野郎の恭二曰く、右腕の中にファイアボールを発生させるためのエネルギーが常に発生していて、微量の魔力をそこに追加することで弱い威力のファイアボールを連続で出している、らしい。

 

チャージの際はその足している魔力をドンドン圧縮して打ち出すから凄い威力になるんだとか。

燃費が良さそうで羨ましいと嘯く本人は、指5本にそれぞれファイアボールを発生させて打ち出してゴブリンを木っ端微塵にしたり新魔法をドンドン開発していて、正直何が羨ましいのか良く分からない。なんか別の手段で同じ事してきそうだなあいつ。

 

 

「よぉし、今日はこんな所で良いかな! 皆お疲れ様!」

『お疲れ! 一花も良い指揮だったぜ!』

「テンキューテンキュー! これ、翻訳だっけ。面白いね!」

 

 

このアタック中に翻訳を覚えたのか、スタッフと談笑しながら一花が終了の合図を出す。

ようやくこの地獄から開放されるのか・・・体力的にはまだまだ余裕があるが、変な汗をかいたせいかタイツがジットリと濡れている様に感じる。早く着替えたい・・・

 

 

「じゃあ兄ちゃん、明日の午後は今度は赤白のタイツでやろうか。ヘルメットとグラサンは用意しとくね!」

「勘弁してください」

「まだまだ全然足りないよ? 今のうちにたっぷり用意しとかないといけないんだから!」

「・・・お前。俺をどうしたいんだ?」

 

 

怒る気も失せて尋ねた俺に、一花は至極真面目な顔でこう答えた。

 

 

「とりあえず世界一有名なダンジョン探索者になろうか?」

 

 

 

 

第四話

 

 

ダンジョンの探索した次の日。

 

 

『初めまして、お会いできて光栄です』

 

 

山岸さんの家の前で僕と握手!

尚相手は駐日アメリカ大使。チビッ子相手ならどれだけ気が楽だったか・・・

取り敢えず当たり障りのないように翻訳をかけて返答する。

 

 

『こちらこそお会いできて光栄です』

『素晴らしい、本当に英語で会話しているように感じますね。右手の変身魔法を見せて頂いても?』

『どうぞ。何かリクエストはありますか?』

『そうですね・・ならウルヴァリンをお願いします。息子がアベンジャーズの大ファンなので』

『喜んで』

 

 

シャキン、とボーンクローを出すと、アメリカの人らしく『Wow!』と歓声を上げてペタペタとボーンクローを触る。

あ、刃の部分は流石に危ないですよ。写真? どうぞ。

周囲のマスコミがフラッシュを焚く中、大使と俺はカメラ目線で笑顔を振りまいた。

 

 

 

「写真を取り終わったらお役御免って事で帰れませんかね」

「駄目だろ」

 

 

式典(?)で見せ物になった後、抵抗する俺も引き摺られて中に入る。

さて、ここからは世知辛い話となる。

 

アメリカ大使なんてVIPがこんな民家を訪問なんて普通はありえない。では、何故こんな状況になっているのか。

勿論、理由はダンジョンゲートだ。

 

 

『アメリカ軍でも通路の画像までしか持ち合わせて居ない中、CCNが放送した内容は世界中に衝撃を与えました。貴方方は間違いなく、現在最も進んでいるダンジョンの第一人者です』

 

 

というのが、昨日放送されたCCNのニュースを見た各国首脳陣の認識らしい。

らしい、というのはアメリカ以外の国がどう思っているか分からないのと、母国であるはずの日本の辛い対応が原因だ。

 

今回の山岸さん家を襲った『浸食の口(ゲート)発生事件』、何と災害認定されない可能性があるそうだ。

保険屋がそこをついて保険金を出し渋っており、山岸さんの家は借金塗れの危機に瀕しているらしい。

 

その件を昨日のゴブリン画像で世界中を沸かせていると評判の敏腕ニュースキャスター、シャーロットさんに相談した結果がこれだ。

 

 

『本日お伺いしたのは、浸食の口(ゲート)についてを詳しく聞きたかったのです』

『わかりました、良いですよ』

 

 

そう大使は英語で話し、それに翻訳の魔法を使って恭二が答える。

ダンジョンに関しての最先任は恭二だ、というのをしっかり認識しているらしい。

 

 

『あと、可能でしたらミスタ・キョージとミスタ・イチローに私共の人間を随行させて欲しいのです』

『構いませんよ。但し人員は少人数でお願いします。こちらの人員は兄の真一と俺とイチロー、出来れば3人の内1人はフリーで動けるようにしたいので2名までと・・・あ、オガワさんなら大丈夫だと思うのでオガワさん含みなら3人でも大丈夫です』

『分かりました』

 

 

昨日のダンジョン探索の際、真一さんもファイアボールとヒールはマスターしている。十分戦力に入れる事が出来るはずだ。

大使は恭二の言葉に頷いて、背後に居たSPの内2名を指名して何事か指示を出している。恐らくこの二人が随行の人員だろう。

 

ガタイの良い強面の人たちだが、不思議とあんまり強そうに感じない。修羅場を経験したせいで感覚が麻痺しているのだろうか?

 

 

「恭二さん、ありがとうございます!」

「いえ。お世話になってますし、実際戦力として見てますからね?」

 

 

ハンディカムのビデオを手に恭二にお礼を言ってくるシャーロットさんに、恭二は頬をかいて答える。

実際、シャーロットさんはすでにダンジョンを経験していて、しかも昨日のうちにファイアボールを覚えている。

ぶっちゃけあのSP二人よりも安心して一緒に潜れる。

 

 

「所でイチローさん、一花ちゃんから今日の分を預かってますよ」

「ジーザス」

 

 

少し前の安心感を返して欲しい。

 

 

 

さて。本日のダンジョンアタックの時間だ。

ヘッドライトを出してくれと恭二に頼むと「いや、必要ない」と断られた。

 

 

「ライトボール」

 

 

恭二がそう言うと、恭二の頭上にふよふよと光の玉が出現する。

一同、どよめく。

 

 

「何だそれ」

「兄貴も出来ると思うよ。これが欲しいって念じてみればいけるいける」

「お、おう。じゃあ・・・おお、出来た!」

「あ、私も」

『・・・駄目だ、出てこない』

『こちらもだ』

 

恭二の言葉に従って真一さん達も試しにライトボールを唱えてみると、ダンジョン経験組は全員が成功するも未経験者はうんともすんとも言わないようだ。

俺? めっちゃ光ってるよ右腕が。

 

 

「一郎の場合、体外に出す系統の魔法は右手を出入り口にしてるっぽいな」

「すげー不便なんだが何とかならんか?」

 

 

赤く光る右腕を見ながらそう言うと、恭二はお手上げ、とばかりに肩をすくめた。

 

 

『HAHAHA! 気を落とすなよProtoman!』

『チャージっぽくてカッコいいぜ!』

 

 

SPの二人が肩をポンポン、と叩いて慰めてくれる。

すまん、頼りにならなそうとか言ってしまって。君らめちゃ良い奴らだな・・・

あ、彼らが言ってるように今日はロックマンの格好ではありません。

 

赤いヘルメットにサングラス、そして背中には輝く盾。

あの妹、本当に用意してやがりました。ロックマンのお兄さん、ブルースのコスプレです。外国だとプロトマンって名前なんですね。初めて知りました。

 

ブルースバスターは常に銃口状態なので今現在も右腕は変形させていますが、やたらとSPのお二人がこのバスターに触ってきます。

 

 

『昨日の動画は俺も見たが本当に腕が変形するんだな!』

『生でMega Manに会えるとは思ってなかったよ!』

 

 

いや、本物じゃないし今日はブルースね。

因みにもう分かるとおり彼らは昨日の俺の黒歴史(ロックマンコスでのゴブリン退治)を見ていたそうです。

何でもCCNのサイト上でダンジョンについて調べると、最初のページにゴブリン退治の動画へのリンクが貼ってあるそうです。

 

というかCCNの公式アカウントで動画が発表されてました。

全世界レベルで俺の黒歴史が現在進行形でさらされているという事ですね。

死にたい・・・

 

SPの二人はその後も変身には痛みが無いのかや、変身するときの感覚などを質問すると、次は恭二に収納や魔法についての質問をし始めた。

 

もちろん、ダンジョン内を移動しながらなので所々で戦闘を挟んでいるのだが1階、2階の敵は誰か1人が警戒していれば正直余裕で倒せる程度の雑魚しか居ない。

ゴブリンを見て戻る頃にはSPの二人もライトボールを使えるようになっていた。

 

恭二はそれを見て、恐らくダンジョン内には魔力的な何かが漂っており、それを体に取り入れて人間は魔法を使っているのだと推測を立てていた。

 

 

 

 

 

 

『ミスタ・キョウジとミスタ・イチローのお陰で我々はあの浸食の口(ゲート)について一つの結論を得ることが出来ました。あの浸食の口(ゲート)は間違いなくこの世界ではなくどこか別の。そう、異世界と言うべき場所に繋がっていると』

 

 

SPの二人組から報告を受けた大使は数分ほど考え込んだ後、そう発言した。

そして恭二からドロップ品を受け取ると、お礼を言って急ぎ足で帰っていった。シャーロットさんが言うには恐らく米国首脳部に急いで連絡を取るのだろう、との事だ。

 

そして今回の仕事の報酬として、米国政府から多額の礼金を貰うことができ、山岸さんの家も一息つく事が出来たらしい。

俺の方にも幾らかの報酬が出ていたそうだが、母さんが通帳を持ってきて青い顔で「あんた、何したの・・・?」と尋ねてきたので詳しい額は怖くて聞いていない。

 

まあ、そういった終わった事はどうでもいいのだ。

俺は今、非常に困った状況に陥っていた。

 

 

「あ、ロックマンだ!」

「あの、サインお願いします!」

「バスター見せてくれよ!」

 

 

町を歩くだけで渋滞が出来た経験はありますか? 俺は今経験しています。

何でもCCNのダンジョン動画、既に十数億回再生されているらしく。リアルロックマンとして、俺は一躍時の人、らしい。

通学もまともにできません。

・・・どうしてこうなった!?

 

 




シャーロット・オガワ:CNNの記者。赤毛の美人で割りと気合入った記者さん。日本語も英語もペラペラの才女。

ジャン・ブルック:オリキャラ。CNNのスタッフで金髪の30台男性。画像編集や予備のカメラマンを担当。再登場するかはわからない

鈴木一花:オリ主妹。純度高めのオタク。乙女の擬態が上手い。おかっぱ頭がチャームポイント

ライト博士:家庭用ロボットを戦闘用に改造して悪の科学者と戦わせている正義の科学者。登場予定はなし

ロックマン:言わずと知れた名作アクションゲーム。海外だとMEGA MANという名前で発売。因みに本家ロックマンは両手を銃口に変形可能です。

アルター能力者:スクライドは良いぞ!

アメリカ大使:女性のエリート官僚。この後子供に一郎との握手の写真を見せて心底羨ましがられる。

SP二人:名前はボブとディック。再登場予定なし。

ブルース:ロックマンのお兄ちゃん。海外だとプロトマンと呼ばれている、口笛を吹きながら出てくるが一郎は口笛が上手くないため動画の方だと編集で何とかした。


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第五話〜第八話

誤字修正。ハクオロ様、244様、仔犬様、moba様ありがとうございました!


第五話

 

 

「よし、今日は3層以降を目指してみようか」

「ライトボールは先頭の恭二と最後尾の沙織ちゃんが使おう。前衛は俺と恭二。一郎くんは盾とバスターで前衛のカバーを中心に。一花ちゃんは周囲を警戒しながら手が足りない場所に援護を入れてくれ」

「りょうかいでっす!」

 

 

さて、ここ最近のゴタゴタのせいでゆっくり時間が取れなかったので、久しぶりの純粋なダンジョンアタックである。

これまでダンジョンに入るときは撮影やら随行やらのしがらみがあり、結局新しい魔法の開発以外に進捗がなかったため3層以降は手付かずのままになっていた。

魔法も充実してきたし、戦闘の連携も若干だがこなれてきた。そろそろ次の段階に進むべきタイミングだろう。

 

 

「あれ、今日はロックマンじゃないんだ?」

「コスプレは撮影とかが入る時だけだよ! 誰も見てないのにやる意味ないって」

 

 

沙織ちゃんが余計な一言を口にしたが、意外にも一花がそれを否定した。

あの格好と動画のお陰で現在自主休校中(学校側からの要請でもある)の俺としてはそろそろこんな目にあっている理由が知りたい所なんだが。

そう尋ねると、一花は「へ?」と間の抜けた表情をした後、周囲の人間の顔を見渡して1人だけ納得したように頷いた。

 

 

「あそっか。お兄ちゃんも恭二兄ちゃんも体育会系で結構カースト上だったね。真一さんとさお姉は美形さんだしね」

「あー。一花ちゃん、何となく察してはいたから、その三人と同じ枠組みからはハブいて欲しいかな?」

 

 

真一さんヒデェっすよ。

この朴念仁や天然と同等の扱いってのは流石に心が折れそうなんですが。

 

 

「さっすが真一さん! 気遣いもお上手なんですね!」

「中学生に気遣いが出来ないって言われてるんだけど」

「おう、俺もそう思うぜ」

「お前もだよ」

「お前ら二人ともだよ。まあ、お前ら二人は被害者って意識が先にあるからだろうな」

 

 

バカ話を恭二として場をごまかそうとしたが真一さんには通じなかったらしい。

被害者という事は、浸食の口(ゲート)が出来た時に関することだろうか?

 

 

「俺たち身内は兎も角、普通右手が自由自在に変形する奴が街中に居たらどう思うかって話だよ」

「・・・え、魔法って言えば」

「それで通じるのは今の状況だからだろ? 単純に今現在も一郎くんの事を知らない人がここに居たとして、その人の前でいきなり右腕を変形させたらどういう扱いをされると思う?」

「それは・・・その」

「普通に考えて排斥されるよ。お兄ちゃん、この間ウルヴァリンの変身してたでしょ? Xメンってどういう世界か分かってる? あの世界のミュータントは人類の脅威って扱いで、その状況を変える為にXメンは人類を守ってるんだよ?」

 

 

一花は真剣な表情でそう言った。その声音には、いつものような冗談めかした雰囲気は欠片もない。

右腕に目を落とし、右腕を変形させる。ぐにょぐにょと腕が動く様子を見て、自分の感覚が麻痺している事に気づいた。

 

これ、知らない人が見たらっつか普通に気持ち悪いわ。

もし自分以外の赤の他人がこの状態で傍に居たとしたら、恐らく近寄らないか遠ざけるだろう。

自分がとんでもなく危険なラインに居る事に、今更ながらに気づいてしまった。

 

 

「まあでも、今じゃ世界一有名なコスプレイヤー(一部ガチ)だしそこそこ安全だとは思うよ?」

「・・・シャーロットさんと話してたのは」

「CCNの公式アカウントで動画を流すってのは、実はシャーロットさんのアイデアなんだよね。私はこうなりそうだからお兄ちゃんの情報を無難に広めたいって話しただけだもん。危険は無いですよ~って」

 

 

あの撮影の時何か相談してたのはこの事か。

 

 

「その割にはめっちゃ笑ってたけど」

「その時点ではドラえもんのコスプレだったんだよね。絶対空気砲のが似てたって」

「どっちにしろコスプレじゃねぇか!・・・気付いてやれなくて、すまん。助かったよ」

「良いって事よ。私も楽しかったし?」

 

 

にや、と笑う妹の頭を撫でる。

こういう事をすると普段は恥ずかしがって逃げていくのだが、今日は逃げずに受け入れてくれる。

夢見心地というのだろうか。自分が今、現実に居るという事を忘れていたように感じる。

そんな俺の様子を一花は気付いていたのだろう。直接何かを俺に言わず、自分のわがままで言っているようにして。

 

 

「まあお兄ちゃんにコスプレさせるの楽しくなってきたし、これからも続けてもらうからね?」

「ああ。お前の指示に従うよ」

「・・・デレた?」

「やかまし」

 

 

デコピンを一発入れると、痛いよー、さお姉! と沙織ちゃんに甘えるように一花は逃げていった。

思わずふっと笑いそうになった時、肩にポン、と手を置かれたので振り向くと恭二が険しい顔で立っていた。

 

 

「悪い、俺も調子に乗ってたわ」

「お互い様だな。俺もだ」

「・・・気をつけよう」

「そうだな・・・周りに心配かけないようにしねぇとな」

 

 

俺の言葉に頷いて、恭二は「うし、そろそろ行くか兄貴!」と真一さんに話しかける。

さて、まずは目先の事からだ。

未踏破階層への挑戦前に一つの懸念を解消できた。

幸先が良い出発だと思って、頑張るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

3層へのアタックは無事成功した。したのだが、ここで一つ問題が起きた。

まず、この階層の雑魚は前の2層でボス部屋にいた長剣を持つゴブリンとナイフを持つゴブリンの群れだった。

 

ここまでは問題ないのだが、3層のボス部屋で出てきた杖を持ったゴブリンの存在が非常に厄介な状況を引き起こした。

こいつは俺たちの姿を見咎めた瞬間に、手に持つ杖からファイアボールを使ってきたのだ。

 

この時はボス部屋に入る前であり戦う準備を整えていたため、相手に魔法を使われる前にバスターで攻撃して散らす事が出来た。

しかしこれは常に射撃が出来る状態で待機していたから出来た事だ。

2層から3層への変化を見るに、恐らく次の4層ではこの魔法を使うゴブリンが雑魚として出てくる可能性が高い。

 

そうなると、今のジャージや胴着といった衣服でファイアボールをぶつけられたらどうなるか。

よくて髪や衣服への引火、悪ければ一撃で殺されてしまうかもしれない。

 

 

「今日は一旦戻ろう。装備について一度話し合ったほうが良い」

 

 

真一さんの言葉に全員が頷き、俺達はダンジョンを後にする。

しかし、装備か。今の野球のプロテクターじゃ炎は防げないだろうな。

どんな物がいいんだろうか。Amazonで買えるものだと良いのだが・・・

 

 

 

 

 

そんなこんなで悩んでいたら現在横田基地にお邪魔する事になりました。

次は大統領にでも会うのかな?(錯乱)

 

 

 

 

第六話

 

 

『皆さんようこそ。私が当基地司令のジョナサン・ニールズ大佐です』

『初めまして、山岸真一です。こちらが弟の恭二と下原沙織さん、鈴木一郎くんと一花さんです』

 

 

翻訳の魔法を使って真一さんが応える。大佐は名前を呼ばれた順に握手をして俺達を歓迎してくれた。

 

 

『駐日大使閣下よりホワイトハウスに連絡があり、当基地の備品の供与を《ダンジョン内での既製技術の効果判定》の名目で無償供与する判断が下されました』

 

 

昨日あれだけ悩まされた装備についての問題をシャーロットさんに相談すると、次の日には急遽横田基地への訪問が決定されていた。

何が起こったのか良く分からないがとんでもない速度で物事が決まったのだけは理解できる。

 

それに無償って事は買う必要がないって事か。資金が心もとない俺たちにとっては助かる話だ。

ただ、隣に立つ一花が低い声で「ホワイトハウス・・・?」と呟いているのが気にかかるが・・・

 

 

『それは、助かります。ありがとうございます』

『これから皆さんには一人ずつ担当者をお付けして採寸し、お帰りの際に一式の装備をお渡しします。それと・・・』

 

 

大佐はそこで言葉を切って、俺に目を向ける。

 

 

『出来れば一緒に写真をお願いできますかな。孫がMEGAMANのファンでしてな』

『あ、ハイ』

「スーツあるよ!」

 

 

一花さん用意良いっすね。

恭二達の採寸をやってる間に司令部の希望者と握手を行う。皆右手に興味津々で、特に腕をバスターに変形させると喜んでくれる。

 

 

「エリート軍人さんのコネゲット美味しいです」

 

 

一花はそうほくそ笑むが、お偉いさんと笑顔で握手してるこっちは気が気ではない。

失礼な態度を取ってないだろうか。あ、こっちに笑顔ですね、ハイどうぞ。

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃんもレイヤーが板に付いて来たね!」

「全然嬉しくないがありがとう」

 

 

採寸も終わり対燃牲の高い軍用装備を1人ダンボール4箱分も受け取った俺達は、笑顔で見送ってくれた基地職員の方々に別れを告げて帰路に着いた。

荷物は全て恭二が収納で片付けているので運搬も気にならない。

 

あと気付かなかったが、シャーロットさんの分の装備ももらえたらしい。この人完全にダンジョン探索についてくる気満々だな。

 

 

「装備がどのように使われているかや効果について、画像で提出を義務付けられました」

 

 

理論武装までされてある。やっぱ海外の報道関係は気合が違うな(偏見)

山岸さん家についたら早速おニューの装備を試す。

今まで意識してなかったけど・・・軍服って、良いよね。こう、機能美というかさ・・・

 

などとにやにや笑いながら新しい装備に袖を通すと、どれも何故か右腕だけ半分位に切り取られていて真顔になる羽目になった。

解せぬ。

 

 

「一郎くんの変身魔法は、有名ですから」

「それでもこれはショックですわ」

 

 

シャーロットさんが慰めてくれるが気分は晴れない。右の袖は肘辺りから切り取られており、右腕をあらわにしている。

本物の軍服なのにパチ物感が凄い。

折角の軍服なのに・・・

 

 

「次はARMSかな」

「やめてください」

「却下☆」

 

 

恐ろしいことを呟く妹に懇願するも一言で断られる。

また、新しいのが来るのか・・・そうか。

この鬱憤はモンスターにぶつけて解消しよう。

 

 

 

 

 

 

 

新装備に身を固めた俺たちはさあいくぞ、っとダンジョンに足を踏み入れる。

わけではなく、その前に魔法対策を進めることにした。

バリアーが作れないか試しているのだ

 

 

「アンチマジックでいいかな?」

「いっそバリアー! とか分かりやすくない?」

「魔法を防ぐってイメージがしやすいほうが良いと思う。けど、どっちも試すか」

 

 

恭二が沙織ちゃんや一花の言葉に頷いて、どちらの魔法も使えるか唱えてみるとどちらも効果を発揮することが出来た。

ただ、魔法を防ぐ時はアンチマジック、物理的な攻撃に対してはバリアーが有効という結果で、それぞれ効力が大きく変わる結果となった。

 

見た目としては通常時から見えるのがバリアーで、体の周囲を薄い膜のようなものが覆っている。

視界が遮られないかと心配になったが、中からは特に何かがあるようには感じないらしい。

 

対してアンチマジックは普段は目に見えないが、魔法が当たった瞬間に周囲を青白く包む障壁の形をしていた。

同時に展開する事が可能だったため、この二つはダンジョンに入った瞬間に全員にかける事にする。

 

 

「後は武器が欲しい所だなぁ。いつまでもバットってのもな」

「相手から奪うってのは? ゴブの剣とか」

「使い慣れてない刃物とかは止めたほうが良いぞ。日本刀とか買えないかねぇ」

 

 

剣道をしていたらしい真一さんが、バットを持って素振りの動作をするも顔をしかめる。

 

 

「銃刀法とかって大丈夫なのか?」

「銃じゃなければ大丈夫だよ。免許っていうか刀の場合は証明書が着いてれば持ってても問題ないから」

「そういやお前、猟銃触ろうとして爺さんにこっぴどく怒られてたな」

「お陰で1月お小遣い抜きだよ・・・死ぬかと思った」

 

 

それはどう考えてもお前が悪いのでしっかり反省すると良い。

とりあえず今回のダンジョンアタックには間に合わないが、お金もそこそこあるし購入を検討しても良いのでは、という流れになると、真一さんが物凄くやる気を出している。

そんなに刀が欲しいのか。欲しいわな。俺も欲しいわ。一緒に買って貰えないか検討してもらおう。

 

 

 

第七話

 

 

「一郎!」

「あいよっと」

 

 

恭二の突撃に合わせてファイアバスター(ファイアボールとは若干違うため命名した)を連射して牽制。

ゴブリンの群れが怯んだ隙にゴブリンメイジの頭を恭二がホームランする。

 

 

「サンダーボルト!」

「ファイアボール!」

 

 

沙織ちゃんと一花が残りのゴブリンを掃討してゲームセットだ。

サンダーボルトはファイアボールが苦手な沙織ちゃんの為に先ほどの恭二が開発した攻撃魔法になる。

沙織ちゃん、ファイアボールはイメージのせいか10mも飛ばないんだよな。別に本当に投げるわけじゃないんだが。

 

ただ、代わりにと作られた魔法だが凶悪さはファイアボール以上かもしれない。

奥多摩はよく雷が落ちるんだが、日頃見慣れていてイメージしやすいのか、サンダーボルトを使うと本物の雷と遜色違わない稲光が指先から放たれる。

 

速度もファイアボールの比ではなく、レーザーのように相手を襲って一瞬で感電死させてしまう。

・・・バスターだとどうなるか試してみたら雷属性っぽくなった。ボスのチップはまだ入れてないんだがな。

 

 

「さて、そろそろボス部屋といこうか」

「りょうかい」

 

 

ある程度慣らしも終わった所で事前に確認していたボス部屋に突入だ。

さて、今度はどんな敵かな、と中を確認すると一匹だけ明らかにゴブリンより強そうな面構えの奴がいる。

オーガとかかな? よりゴブリンより凶悪そうな顔をしたそいつは俺たちに気付くと威嚇の咆哮をあげる。

 

 

「恭二、ボスは手を出す『サンダーボルト』・・・お前なぁ」

「ごめん、つい」

 

 

颯爽と駆け出そうとした真一さんの真横を稲光が走る。

一発でボスが黒焦げだ。

 

 

「すまん、全部倒しちまった」

「お前なぁ・・・しょうがない。次の階層で近接戦を試そう」

「了解。皆、まだ魔法は使えそうか?」

 

 

恭二の問いに各自が問題ない旨を返し、真一さんを先頭にして再びダンジョンの階層を降りる。

いつ魔力切れになるのかわからないってのは困るな。ステータスとか見れるようにならないだろうか。

 

 

「一郎、後ろから周辺警戒を頼む。あと、ボス部屋はあっちっぽい」

「了解。シャーロットさん、ポジションを変わりましょう」

「OK」

 

 

考え事をしている間に5階層に降り立ったようだ。

感知魔法でボス部屋を感知したらしい恭二に返事をして、最後尾を歩いていたシャーロットさんと場所を入れ替える。

準備するバスターは弾速が早いサンダーボルトだな。

 

 

「よし、今日はこの層を攻略したら終了しよう。恭二、前衛は勤めるから案内は頼んだ」

「了解。やる気満々だな、兄貴」

「ああ。魔法ばっかりだとやる事が少なくてな」

 

 

真一さんがそう言ってにやり、と笑った。割とバトルジャンキーなんですね真一さん。

そういえば剣道や格闘技もやってるって言ってたな・・・刀刀と言ってるのも接近戦がしたいからかもしれん。

 

 

「ワイルドな真一さんも素敵・・・ポッ」

「あばたもえくぼってな」

 

 

妹と益体もないやり取りをしている内に接敵したらしい。

敵の内訳はオーガ一匹に剣ゴブ3、メイジ1の5匹。ナイフはもう出ないのかな?

バットを構えた恭二の「一郎!」という叫びに合わせてサンダーバスターを連射。

周囲のゴブリンが怯んだり感電している隙に真一さんと恭二が突貫した。

 

 

「メイジは俺がやる! 兄貴!」

「オルァアアア!」

 

 

雄たけびを上げながら真一さんはオーガに突貫。

オーガは叫び返しながらこれを迎撃するも、体格差に押し切られて力負けし、最後は真一さんのバットに頭を潰されて終わった。

オーガがやられて怯んだゴブリンメイジは逃げ出そうとするも、その背中に恭二の追撃を受けて倒れ、残りのゴブリンは一花のファイアボールによって焼けることになる。

 

 

「・・・・ふぅー、よし」

 

 

被害なく接近戦も乗り切った真一さんは荒い息を整えて右手で小さくガッツポーズを行った。

手ごたえのようなものを感じたのだろう。

その後も何戦かするも特に手子摺る事も無く戦闘を終わらせることができた。

 

 

「よし、そろそろボス部屋に行こうか」

「OK、こっちだよ」

 

 

事前に当たりをつけていた方向に歩いていくと少し大きめの広間のような場所に続いていた。

さて、この階層のボスは・・・

 

 

「デカッ!」

「うわー。豚さんだねぇ」

 

 

複数のゴブリンやオーガに囲まれて一際目立つ豚鼻の巨人が立っていた。

 

 

「オークかなぁ、あれ」

「恐らくは。あれの相手は俺がする。恭二、一郎くん、手を出すなよ」

「了解です。気をつけていきましょう」

 

 

ついに俺たちより体格の勝る相手が出てきたか。

やる気を漲らせる真一さんの言葉にそう返事を返し、ごくりと唾を飲み込んで俺はバスターを構えた。

 

 

 

第八話

 

 

「全員一瞬だけ目をつぶってくれ!」

「了解! 何するんだ!」

「目くらましだよ! フラッシュ!」

 

 

開戦と同時に恭二が叫ぶ。とっさに目を閉じると、瞼越しでも分かるほどの強力な光が一瞬部屋を覆った。

目を開けるとゴブリン達が目を覆って身もだえしている。

成るほど、閃光手榴弾か! ライトボールの光度を変えたのかね。

 

 

「ナイスだ恭二! ッシャアアアア!」

 

 

気合一閃、とばかりに真一さんがバットでオークを殴りつける。

だが。

 

 

「ヤベッ!」

「真一さん!」

「バカ、止まるんじゃない!」

 

 

真一さんの攻撃を受けてもオークは止まらず、逆にバットを捕まれて拘束されてしまった。

オークの棍棒が真一さんを襲う。真一さんも咄嗟にバットを手放して逃げようとするが、知らないとばかりに奴はその防御ごと真一さんをぶっ飛ばした。

 

悲鳴を上げて立ちすくむ一花の前に立ち、ゴブリンメイジからのファイアボールをアンチマジックで受け止める。

 

 

「兄貴!」

「だ、大丈夫だ! バリアが効いた!」

 

 

よろめきながらも真一さんが立ち上がる。

そんな真一さんに止めを刺そうとオークが近寄っていくが、そんな事はこのバスターが許さない。

顔にサンダーバスターをぶち当てると、一撃で倒すことは出来なかったが相当効いたらしくオークはがくり、と膝をつく。

 

 

「恭二! 沙織ちゃん! シャーロットさん!」

「わかってる!サンダーボルト!」

「サンダーボルト!」

「ファイアーボール!」

 

 

魔法の集中砲火により敵チームを焼き尽くし、戦闘は終了となった。

急いで真一さんの下に走りより、肩を貸す。

 

 

「恭二、ヒールを!」

「いや、大丈夫だ。ダメージはない。転がったせいでふらつくだけだよ。あと、肝が冷えた」

「そりゃあんな棍棒で殴られれば肝も冷えますわ」

「ほんとだよ。いやー、焦った」

 

 

思った以上にダメージがないようで安心する。

少しすると足取りもしっかりしてきたので自分で立てるか確認すると、「大丈夫」との事なので離れる。

足腰もしっかりしてるし大丈夫だろう。・・・今回の探索はここまでだな。

 

さて、涙目で真一さんに詰め寄る妹を宥める役目は真一さんに任せてさっさと退散だ。

馬に蹴られる趣味は無いんでな。

 

 

 

 

 

 

「武器と防具の追加。これは必須な」

 

 

一撃で倒しきれずに反撃を受ける。今回は事前にしっかりとバリアの魔法を張っていたから問題なかったが、もしバリアが切れていたら真一さんはどうなっていたかわからない。

飛ばされた距離を鑑みるに骨や内臓が破裂している可能性もあった。

 

 

「生きてさえいれば恭二の魔法で回復できる。逆に言えば一撃で死んじまったら元も子もないって事だ」

「・・・体の急所を庇うプロテクターは必須だよ。出来れば軍用のが」

「米軍でもSWATなどが採用しているはずです。大佐に確認すれば回してもらえると思います」

 

 

真一さんに引っ付いたまま一花がそう言うと、肯定するようにシャーロットさんが答えた。

防具はそれでOKだとして、次は武器だな。

 

 

「男のロマンとしては刀だと思うんだが命がかかってるしな」

「真一さんは剣道の経験もあるし刀が良いんですよね」

「ああ。刀か、どちらにしても刃物が良いと思う。今回のオークみたいに自分より大柄な相手は鈍器だと少しな」

「槍が欲しいですね。リーチ的にも」

 

 

まあ、バットで殴りかかっても相手を倒しきれなかったしな。

これが刃物なら少なくとも切り傷をつけてもう少し相手を怯ませられたかもしれないし、急所に突き立てられたらそれで倒せたかもしれない。

どちらにせよ一旦は山岸さんに相談だな。刀って幾ら位で買えるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

山岸さん、店の再建で少しでもお金が欲しい所なのに息子達の報酬金に一切手をつけてなかったことが発覚。

二人の通帳と印鑑をポイっと渡して「息子の金に手をつけるほど落ちぶれてねぇよ」と照れ顔で言っていたが、正直めちゃカッコいいと思う。

 

うちはそのまま親に全額渡したけどどうなってんのかな。

CCNからも動画の報酬が来てるって話だけど金足りるだろうか。

 

 

「まぁ、法律上は問題ないんだろうが一応警察にも話通しておけよ。面倒は一度で十分だ。あと、俺もそろそろダンジョンに行きたい」

「社長、コンビニの再建頑張ってくださいね」

 

 

ここ最近のゴタゴタですっかり不信感があるのか、不機嫌そうに山岸さんは言った。

あと、何だかんだでストレスがあるんだろうな。

最近は俺達の冒険話を聞くたびに羨ましそうに「ダンジョンいきてぇ・・・」と呟く山岸さんに、真一さんがそう言って返した。

 

何だかんだでまだまだ資金難は続いており、今山岸さんは非常に多忙だ。

ダンジョンに付き合うにしてもまだまだ先の話だろう。

それより先にまずは武器についてだ。

 

 

「シャーロットさん、警察の偉い人に顔って利きますか?」

「・・・そう、ですね。ちょっと当たれそうな筋はあります」

「あ。じゃあ、日本刀に限らずどこまで武器が使えるかの確認にしたほうがいいよ。これから先、ほんとにドラゴンとかが出てきてもおかしくないんだから。ドラゴンに刀ってRPGの勇者みたいな真似、真一さんにしてほしくないもん」

 

 

引っ付いたままだが若干調子が戻ってきた一花がそう言った。

まぁ、ありえない未来だとも言えないか。

魔法が効かない敵が出てくる可能性もあるし、強力な武器はあるに越した事はない。

 

 

 

 

そして翌日。俺達は首相官邸にお邪魔する事になった。

これ色々すっ飛ばしすぎじゃないか?

 




明日は投稿しないと昨日言ったな?あれは嘘だ。


X- MEN:言わずと知れたマーベル・コミックの誇る人気ヒーロー漫画。突如生まれたミュータント達がヒーローとして超能力で戦う。一花が例として挙げたようにミュータント達は基本偏見の目に晒されているのでかなり悲惨な待遇。でも偏見の目をなくすためにX- MENは今日も戦っている!


ジョナサン・ニールズ大佐:米軍横田基地の司令官。後に本土にいる孫に一郎との握手の写真を送り大喜びされご満悦。

ARMS:力が欲しいか?力が欲しいのなら くれてやる!!


ボスのチップ:倒したボスのチップを組み込むことにより様々な武装を使用できるようになる!というのが本家であるが、一郎の場合使える属性魔法なら特にボスを倒さなくても使用可能。あくまで魔法だからね。


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第九話〜第十二話

誤字修正。ハクオロ様、244様、仔犬様、見習い様ありがとうございます!


第九話

 

 

「これ、大丈夫なんですかね」

「大丈夫よ。貴方達に対する失策の数々で、日本政府も焦ってたみたいだから」

 

 

実際政府筋には助けてもらった覚えないですしね。

入院してた時だって特に動くのに支障ないのに検査検査&検査で3日も拘束されて、下手すれば検査代金まで出させられる所だったからな。

 

 

「その点を我々も苦慮していたんです」

 

 

首相官邸に到着した俺達は官房長官室に案内された。

ここ最近お偉いさんばっかりに会ってるせいで麻痺してたが、やっぱり自分の国のトップと会うのは緊張する。

 

 

 

「山岸真一さん、山岸恭二さん、鈴木一郎さん、下原沙織さん、シャーロット・オガワさん。今日はようこそお越し下さいました」

 

 

官房長官室には官房長官氏と幹事長氏が揃っていた。

促されるままに席につくと幹事長氏が口を開く。

 

 

「申し訳ないがオガワさん、同席なさるならここからあとは全てオフレコでお願いしたい」

「はい、オフレコで」

 

幹事長にうなずき返すシャーロットさん。

 

 

「まずは皆さんに、浸食の口(ゲート)発生当日以来の政府の不手際をお詫びします。誠に申し訳ありませんでした」

 

 

そう言って、幹事長氏は正面に座る真一さんに頭を下げた。

 

 

「ただご理解いただきたいのは、あまりに突発的な事象であった上、正体不明の……アレでしたから、我々としても過敏にならざるを得なかったのです」

「事情は……まあ、わかりました。ただ、弟とその友人を生体解剖しようとしたり、不当に拘束したり、暴行を加えたあげくに『公務執行妨害』で逮捕しようとしたり、事情も説明せず、私たちの家を長期間立ち入り禁止にしたり、挙げ句の果てにあれほどの状態になっているのに、ついに災害認定も金銭的な援助もしなかった事は忘れませんが」

 

 

幹事長氏に真一さんはすごい笑顔でそう答えてから官房長官に向き直る。

 

 

「私たちの危機は、あのゲートからではなく全て日本政府から押し寄せてきましたし、私たちを救ってくれたのはCCNテレビであり、このシャーロットさんであり、駐日大使であり、アメリカです。それは今も変わりません」

「返す言葉もありません。誠に申し訳ないことをした」

「正直、どんな困り事も日本政府ではなくアメリカに頼った方がいいんじゃないかって気さえしますが、ウチは日本にありますし、俺たちは日本人です。もし日本政府が俺たちに協力していただけるのなら、今日までのことについての謝罪は、受け入れます。勿論忘れませんがね」

 

 

そこまで言い切って真一さんは出された湯飲みを手にとり、口に運ぶ。

すげぇな真一さん。大物政治家のプレッシャーもなんのそのって感じだ。

 

 

「君の言い分も尤もな話だ。これまでの事を忘れず、実りある関係を築いていきたいと思う」

「その言葉に期待します」

 

 

それで、と仕切り直して、真一さんは今日の本題に入った。

 

 

「現在我々はダンジョンの第五層に達しています。その階層である問題が発生し、その解決の為のご相談をしたいのです。恭二、バットを出してくれ」

「了解」

 

 

恭二が収納していた真一さんのバットを取り出した。

そのバットは途中から歪んでおり、また巨大な手形のような物がついていた。

 

 

「・・・なんと」

「これは・・・すごい」

「これは昨日、5層のボスであるオークに殴りかかったバットです。一撃を与えたのですが大したダメージも与えられず、逆に奪われて殺されかけました」

 

 

絶句する二人の政治家の前にバットを起き、淡々と真一さんは語る。

 

 

「ここから先に進むための武器を我々は求めています。例えば日本刀、槍、薙刀。重火器の使用も視野に入れなければいけないかもしれません。その為の援護が欲しいのです」

「・・・・・・成る程」

「勿論、まだ槍や重火器の使用を検討するには世論が厳しいのは承知しています。しかし、世界中に100ヶ所、国内にも11ヶ所ダンジョンは存在しています。今後はダンジョンを探索する専門家がきっと現れるでしょう。武器や防具が必要になります。何らかの方法で所持を許可してもらえないと、非常に困る事になる」

「それは、確かにそうなるかもしれません。分かりました。ひとまず専門家に諮ってどのような対策が取れるのか研究を始めましょう」

「よろしくお願いします」

 

 

真一さんの説明に合点が言ったのか、幹事長氏がそう言って頷いた。

部屋の隅にいた秘書らしき女性に目線を送ると、その女性は頷いて何処かしらに連絡を取り始める。

それを横目で眺めながら、真一さんは「ああ、そういえば」と思い出したように口にする。

 

 

「ところで、今俺たちが使っている装備は米軍から供与されています。ご存じでしたか?」

「いえ……存じ上げておりませんでしたが」

「このままですと、アメリカ軍主導で迷宮用の装備技術が発展します。日本企業は下請けになるのでは?」

「それは……面白くはありませんな。田井中君!」

 

 

真一さんの言葉をすぐに理解出来たのか、幹事長氏が立ち上がって秘書さんと話始める。

用件が終わった以上長居する意味もない。真一さんが「そろそろ行こう」と口にしたので俺達はソファーから立ち上がった。

真一さんが官房長官に礼を言って握手をしてした時、部屋のドアをノックしてSPを引き連れた男性が入ってきた。

 

 

「申し訳ない、時間がないのでこのままで失礼します」

 

 

内閣総理大臣はそう言って軽く頭を下げた。

 

 

 

第十話

 

 

「申し訳ない、時間が押しておりましてこのままで失礼します」

 

 

そう言って総理が挨拶をした。

いきなりの日本トップの登場に流石の真一さんも驚いたのか固まってしまっている。

 

 

「アメリカ大使より皆さんのお話は伺っております。現時点で世界屈指の『冒険者』だと。我々日本政府の対応に多々問題があったことも承知しております。ですが、我々としては今後、皆さんのお力、お知恵をお借りして、なんとか『迷宮』問題をよりよい方向に進めたいと思っています。憤りもあるでしょうが、どうかお力をお貸しください」

 

 

そう言って総理は頭を下げると、真一さんから順に俺達と握手を行っていった。

そして俺の前に来ると、「鈴木一郎くんだね」と声をかけてくる。

 

 

「君が行っている広報活動の目的は把握しています。君達の危惧は尤もな事だと思う。我々日本政府としても助力を惜しまないつもりだ。右手を見せてもらっても?」

「あ、はい」

 

 

そういって、総理は俺の右手に触れ、そして硬く握手を交わした。

 

 

「本当に申し訳ない。このあと閣議がありまして……必ずいずれ時間を取って、皆様のお話をお聞かせいただきたいと思いいます……須田君」

「はい」

 

 

総理はそう言って官房長官と共に部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、負けた! 悔しい!」

 

 

真一さんはそう言って髪を掻く。シャーロットさんは苦笑いだ。

俺としてはもう凄いとしか言葉に出来ない対談だったが、真一さんからしたら最後の最後で詰めを誤った出来らしい。

いや、うん。総理の不意討ちはしょうがないと思う。

こちらの要望もほとんど通ったし良いんじゃないかな?

 

さて、現在俺達は東京は銀座に来ている。

日本刀を扱う刀剣商が銀座には集中しているからだ。

 

 

「何で銀座なんだろうね」

「わかんね。買う人が多いんじゃないか?」

 

 

沙織ちゃんの質問に恭二が答える。それは流石に適当すぎるだろ。沙織ちゃん膨れてるぞ。

俺達はスマホで調べた店の住所をリストアップしていく。予算も限られているし少しでも安く数を揃えたい。

 

リストアップした店から一件選んで中に入ると、ショーケースに陳列された刀剣類がまず目にはいる。

物珍しさにキョロキョロしていると、真一さんは真っ直ぐに店主らしき初老男性に向かって歩いていく。

 

 

「何の用だい、お兄さん方」

「実用で刀を使いたいんですが、一本予算50万で用意できませんか?」

「実用ぉ?」

 

 

店主の男性は困惑気に真一さんを見て、俺達に目を向ける。

 

 

「あんた、右手の。ダンジョンかい」

「あ、はい」

「ああ、そうかそうか。ニュースでみたよ」

 

 

店主さんは納得したとばかりに頷くと、真一さんに向き直った。

 

 

「無銘の物でも構いません。ニュースで見たのならご存知と思いますが、俺達はバットを使って戦っていました。それでは勝てない敵が出てきたので、武器を探しています」

「成る程。合点がいった。だがね兄さん、まず一つ。ここで売ってる物に50万で買える刀はない。良くて懐刀か脇差し位だな」

 

 

これでそこそこの店なんでね、と店主さんは笑った。

 

 

「そう、ですか…」

「二つ目だが、名を得た名匠ではなく修行中の中堅所の打ち物で良いかな? その値段でもかき集めれば数本は手に入るだろうさ。紹介料は多少頂くがね」

「お願いします!」

 

 

真一さんの言葉に頷いて、店主さんは俺達を応接間らしき場所に通してくれた。

他所の店舗に連絡を取る間、お茶でも飲んで待って欲しいそうだ。

 

店主さんはそれから程なく8本の刀をかき集めてきた。

料金も1本50万前後。流石はプロだな。

 

 

「はい、毎度あり」

「お世話をお掛けしました」

「なぁに、面白いものも見れたし他所に恩も売れたからな。良い仕事だった」

 

 

近所の銀行でお金を下ろしてきて、一括現金払いする。恭二の収納で刀を全て片付けると、店主さんは「おおっ?」と驚いて喜んでた。

 

 

「そうだ、兄さん達は奥多摩だったな? あんたらに渡した刀の内、3本を打った刀匠は、青梅に住んでいるぞ」

「青梅に?」

「ああ。確か沢井だったな」

 

 

奥多摩町からすぐ隣だ。

 

 

「1本50万じゃそうそう刀なんか買えんぞ。そっちの刀匠に一度話してみたらどうだ?」

「紹介をお願いできますか?」

「構わん。修行中の連中の食い扶持になるしな。ただ……」

 

 

店主さんはそう言って俺に目線を向ける。

 

 

「孫にちょっと自慢したいんだが」

「あ、はい」

「出来ればあの青い奴になれんかね。孫が好きでな」

 

 

散々お世話になったし構いませんです。ちょっと着替えの場所を借りますね。

その後、ロックマンのスーツを着て数枚写真を取る。

シャーロットさんがポラロイドを持ってて助かった……あ、こういう時用に一花に渡されてたんですね。

この場に居ないのに用意良いっすね一花さん。

 

 

 

 

 

 

 

刀剣商を出た俺達は横田基地に向かっていた。

 

 

「ニールズ大佐がシンイチのアイディアを聞きたいそうです」

 

 

シャーロットさんに頼んでいた防具の件で、米軍からも前向きな返答が来たためだ。

 

 

『ライオットシールド、ですか』

『はい。右手に片手武器を持ち、左手に盾を。恐らくこれが一番臨機応変に対応出来ます』

『ふむ……』

 

 

オークに曲げられたバットを見ながらニールズ大佐は頷いた。

 

 

『恐ろしい。たったの5層下にこのような怪物が居るのですな……わかりました。確かにSWATの装備が良いでしょう。3日程頂ければ用意致します』

「ありがとうございます!」

『いえ、こちらこそ礼を言わせて頂きたい。貴方方の生の情報は大変価値のあるものだ。この程度の援助ではむしろ申し訳ない位ですよ』

 

そう言って大佐と真一さんが握手をかわす。

これで防具の目処もついた。第6層の攻略も見えたな。

 

 

『ああ、所で、その』

『あ、はい』

 

 

今日二回目の撮影会ですね、わかります。

あ、お孫さんに連絡入れたら凄い羨ましがってた、そうですか。それは良かった。

は、はは。

 

 

 

第十一話

 

 

新しい装備が届くのは週末になるとの事なので、

 

 

「じゃあキリキリ撮ってこうか!」

『OK、ボス!』

 

 

一花の号令にCCNスタッフが陽気に返事を返す。

ここはダンジョンの3層入り口。

新魔法の研究ついでにある程度慣れてきた3、4層をコスプレをしてクリアしようという魂胆だ。

 

 

「ヒーローは戦ってなんぼでしょ!」

 

 

とは妹氏の談である。ヒーロー?

疑問符が頭を過ぎるが、まぁヒーローを模しているといえばその通りか。

 

さて、今回は何を着せられるのか・・・と覚悟を決めるも一花はそれらしい手荷物を持っていない。

スタッフに預けたのかな? と思いそちらを見ても撮影機材くらいしか持ってない。

と言うことは収納か?

 

 

「いや、流石にこの短期間で新コスは用意できてないからね。恭二先生、お願いします!」

「どぉれ」

 

 

一花の言葉に合わせて芝居がかった様子で恭二が俺の前に来る。

新コスチュームはない? どういうことだ。

右手しか変身はできないんだが。

 

 

「右手以外は変えられんぞ?」

「大丈夫だ。こんなこともあろうかと! こんなこともあろうかと! 新魔法を開発した!」

「私も一度言ってみたいよ。素直に羨ましい!」

 

 

大事なところなので二度繰り返したらしい。

恭二は俺の左腕に触ると「ちょっと使ってみる」と言って呪文を唱えた。

 

 

「トランスフォーム!」

「そのままかい」

「イメージしやすいんだよ。おし、出来たぞ」

 

 

恭二がそう言って手を離すと手を銀色のグローブのようなものが覆っている。

ペタペタと体を触ると、確かに軍服を着ているはずなのに、その上から何かが覆っているように感じる。

 

あ、これもしかして頭も覆ってるのか? 触るまで分からなかったが何かバリアーに近い感じがするな。

 

 

「ふふふふふっ、まさかここまで上手く行くととはね。見てみる?」

 

 

ほくそ笑む一花はそう言って携帯電話を渡してきた。

礼を言って携帯を受け取り画面を見ると・・・・・・

 

 

「・・・・・・何だこれ。仮面ライダーのパチ物か?」

「本物の仮面ライダーだよ! 謝れ! 4号ライダーさんに謝れ!」

「お、おうすまん」

 

 

ヘルメットの下が普通に口なんだが、あ、いえ何でもないですごめんなさい。

参考資料として用意していた漫画を見せてもらう。こんなものまで収納してんのかよ恭二。

 

えーと、途中から参加なんだな。ライダーマンか。

ほうほう、カセットアーム。右手のアタッチメントを付け替えて色々出来る、確かに俺向きかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

 

「マシンガンアーム!」

 

 

右腕を機関銃型に変形させて弾(簡易ファイアボール)をばら撒く。

もちろん優先的にゴブリンメイジを鎮圧だ。

簡易式とはいえ当たればほぼ相手を倒せる。やっぱり弾幕はパワーだぜ!

そしてその弾幕を避けて近づいてきた奴には!

 

 

「ギガァ!」

「スイングアーム!」

 

 

右腕を鉄球に変形させてオーガをぶん殴る。

剣を使って防ごうとするが、そんなもので鉄球が止まるものか!

顔面を変形させてぶっ飛んだオーガが光の粒子になって消えると、今回の戦闘は終了となった。

やべ、これ楽しいわ。

 

思った以上にライダーマンスタイルがハマってつい4層もラストまで来てしまった。

しかもここまでほぼ1人で戦ってる。これめちゃ強いんじゃないか?

 

 

「強いなライダーマン。やる事が探知しかなかった」

「いや、十分助かった。でも確かに良いわ。万能型って感じで。あと技名叫ぶのが楽しい」

「技名じゃなくてアタッチメントね!」

 

 

一花がそう言ってスポーツドリンクを手渡してくる。

 

 

「いやー、良い画取れたよー! これは放送した時の反応が楽しみだね!」

「そうか。でも、これ知ってる人いるのか?」

「んふーふ。もっちろん! 若い人はロックマンで引き付けたからね。次はナイスミドルな人たちを狙わないと!」

 

 

ロックマンやブルースの動画で若い世代に注目されたので、次はもっと上の世代も視野に入れるらしい。

 

実際、俺にサインを貰っていく人たちもお孫さんとかお子さんにって人が多かった。その点を一花も苦慮していたらしい。

 

 

「子供や孫がファン、じゃやっぱり弱いんだよね。味方をもっと増やさないと」

「ありがたいけど、無理はすんなよ?」

「今めっちゃ楽しんでるから大丈夫!」

 

 

一花はそう言うと、「じゃ、撤収!」とスタッフに声をかけにいった。

・・・・・・うーむ。もっと頑張らんといかんな。

兄として負けるわけにはいかんと気合を入れて、俺はふと思い出す。

 

これ(変身)どうやったら解けるんだ?

すんません恭二先生ちょっとこれどうやれば。アンチマジック?

・・・・・・あの、解けないんですが恭二先生? 恭二先生!?

 

 

 

尚触りながらアンチマジックをしたら解けました。結局半日変身しっぱなしでした。

・・・・・・疲れた。

 

 

 

第十二話

 

 

さて、防具が届くまでの間に行ったのは撮影会だけではない。

 

 

「そうそう、基本的に左手で刀を握るんだ。右手は添えるだけ」

 

「あ、安西先生・・・刀が重いです」

 

「惜しい。僕は安藤だね。それスラムダンクだっけ。良く知ってるね」

 

 

カラカラと笑って安藤先生は鞘にいれたままの日本刀を構え、振り上げ、振り下ろすまでの動作を行う。

真一さんが昔通っていた剣道場の師範代だという安藤先生は、真一さんから今回日本刀を扱うことになった、という相談を受けてすぐに山岸家に来てくれたという。

 

 

「素人がいきなり本身を扱うなんて無茶にも程がある。事前に相談してくれて良かった」

 

 

とは山岸家についてすぐ、応接間での言葉だ。

それから二時間、日本刀を扱う上で気をつけたほうが良い取り扱いについてのレクチャーを受けた後、実際に木刀を手渡されて全員で素振りの練習だ。

 

 

「ふむ、思ったよりもみんな力がある。あのちっちゃい子なんかまともに持てるかも怪しそうなのに」

 

「おそらくダンジョンの影響です。魔力と言いますか、魔法に使うエネルギーは身体能力も向上させるみたいで」

 

「興味がつきないな。真一、この後日本刀を実戦で使うのだろう? その時私も潜らせて欲しい」

 

「わかりました。CCNの方とも相談になりますが」

 

 

安藤先生は真一さんと俺たちの素振りを見てそう話し合う。

確かに最近、結構無茶な動きをしても余裕で出来てしまう。ロックマンのコスの時はそれほどでも無かったが、ライダーマンの時はキックでゴブリンが破裂したりしてたからな。

キックは、義務だろ? ライダーマンはやらない? あ、そう・・・

 

 

「いや、やっぱおかしいって。普通に蹴って破裂ってなんだよ」

 

「ヒーローですから?」

 

「やかまし。ちょっと力込めてもらえるか?」

 

 

恭二に言われるまま、左手をぎゅっと握り締める。

眉を潜めて恭二が真剣な表情で左手をじぃっと眺めると、恭二の目が淡く光りだした。

あれ、こいつなんか魔法使ってね?

そう問いかける前に「ああ、わかった!」と恭二が言った。

 

 

「強化の魔法だ、これ」

 

「・・・何も唱えてないぞ?」

 

「分かってるよ。多分自動でかかるんだ。俺らも魔力を持ってから似たような事になってるけど、それをお前の場合きっちり魔法として発動してるんだよ。自動で」

 

「パッシブスキルとアクティブスキルの違いってこと?」

 

 

途中から口を挟んできた一花に、「パッシブ?」と恭二が尋ねる。

 

 

「要は常時その効果が現れるものの事。アクティブは普通の魔法みたいに使おうとしたら効果がでるものの事だね」

 

「ああ、それ。そんな感じ。ちょっと俺も使ってみるわ・・・パワー、でいいかな」

 

「そこはストレングスだよ恭二兄ちゃん」

 

 

一花の突っ込みに苦笑して恭二が「ストレングス!」と叫ぶ。

一瞬光ったかと思うと、すぐにその光も収まる。外見的な変化は無さそうだな。

 

 

「・・・あ、なるほど。一郎、ちょっと飛ぶからしくったら受け止めてくれ」

 

「・・・うん?」

 

 

何を言ってるんだ、と問いかける前に恭二がしゃがむと、ドンッという音と共に姿が見えなくなった。

恭二が立っていた地面にはひび割れのような後がある・・・上か。

 

恭二はおそらく4、5mほど飛び上がった後、落ちてきた。

これ受け止めるのか俺。あ、いやでもあいつなんか妙にゆっくり落ちてくるな。

すたっと地面に降り立った恭二は満足そうな笑顔を浮かべた。

 

 

「体重を軽くして飛び上がってみた。いや、予想より行ったわ」

 

「今新呪文2連発だったのかすげぇなお前。ここで試すか普通」

 

「失敗は成功の母だからな。最悪どっちか失敗しても受け止めてもらえれば大丈夫だし」

 

 

あっけらかんと言い放つ恭二。やっぱこいつヤバイ奴なんじゃないかと最近小まめに思う。

取り合えず慌てて駆け寄ってきた真一さんへの説明はお前がしっかりやれよ。

ヘルプ? 俺関係ないだろ今の。

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ恭二兄ちゃんちょっと相談なんだけどさ」

 

「うん? 何だ一花ちゃん」

 

「あのさ。ごにょごにょごにょ」

 

「・・・ああ、イケるかも?」

 

「ほんと!?」

 

 

後ろのほうでごにょごにょと一花と恭二が何やら密談している。

非常に嫌な予感がするが、今現在俺はそれどころではない状況に陥っておりそちらに構う余裕が無い。

 

 

「えーと、あっちにいるね」

 

「私もわかったよ!」

 

「お、沙織と一花ちゃん正解。兄貴と一郎とシャーロットさんはどうだ?」

 

「俺は何となく掴めて来た気がする」

 

「・・・・・・まだだ」

 

「これ、難しいです」

 

 

必死に魔力の流れ的なものを嗅ぎ取ろうとするもどこに敵が居るのかが良く分からない。

そう、今俺達は感知の魔法を練習しているのだ。

 

というのも、恭二が再三今のうちに絶対に覚えたほうが良いという二つの魔法・・・回復と感知を覚えるまでは、5層以降には行かないほうがいいと言い始めたからだ。

 

先日の事件の影響か慎重になった真一さんもそれを承諾。

俺も沙織ちゃんも一花も異存は無かったし、シャーロットさんも有効性を認めてくれたため現在刀の習熟がてら俺達は2、3層で感知の魔法を練習していた。

 

練習、しているのだが・・・

 

 

「回復まで右手から発射されるのか」

 

「ある意味有用じゃない? 距離があっても射撃でヒール!」

 

「ヒールショットって所か」

 

 

どうも体から離れた距離への魔法は右腕を基点に発動するらしい。

バリアくらいの奴なら問題ないんだがな。

 

 

「多分そういう得意分野的なのが人によってあるのかもね!」

 

「恭二は魔法全般、一郎くんは近距離って感じかな?」

 

「そうかも。意識しないでストレングスを使うのは俺には出来ないし」

 

 

持続時間的にも呪文でストレングスを唱えると数分で効果が切れるらしく、俺のように好きな時に力めば発動ってのとは実質的には違うもののようだ。ただ、瞬発力だと呪文の方が良さそうな気もする。

 

 

「あ。もしかしたら今いけたかも」

 

 

暫く練習して魔力の流れを読むという事を繰り返していると、ゴブリンが姿を現す前くらいに何となくこちらから何かが来る、というのがわかるようになってきた。

その感覚を出来るだけ広げるように何度も繰り返していくと、ボスの存在だろう、少し大きな気配にいきつく。

 

 

「なんかあれ。飛行機とかのセンサーみたいなのあるじゃん。あれが頭にある感じ」

 

「人それぞれなのかな? 私はなんかこの辺りって、ピンと来た感じだよ!」

 

「へぇ~」

 

 

恭二も一花と似たような感覚らしい。魔法についての捉え方でも結構差がでるもんだな。

その後は日本刀でゴブリンと戦い、都度講評を安藤先生から貰って夕方前には疲れてきたので終了。

明日明後日には防具も届くだろうし、次はオークだな。

やる気を漲らせて、俺たちは帰路についた。

 

 




官房長官:半分頭を下げに来た人。

幹事長:残りの半分頭を下げに来た人。


総理大臣:特に意識してなかったが絶妙のタイミングで入ってきた事を官房長官に言われ苦笑い。

刀剣商の店主:孫と久しぶりに会話が弾む。

ニールズ大佐:孫にMEGA MANと親しいと自慢。会わせて欲しいとお願いされて苦境に立たされる


CCNスタッフ:最近少女の号令で動く事に楽しみを感じている。

ライダーマン:仮面ライダーV3の相棒。正式な4号ライダーだぞ!彼の活躍を見たい人は是非『仮面ライダーSPIRITS』を読もう!(ダイマ)

山岸恭二:バリアーのコツでちょろっと変身魔法を完成させた。イメージできれば大概いけるんじゃないかと最近は色々な漫画を読み割りとヤベー魔法がぽつぽつ開発されている。


安藤先生:真一が剣道をしていた頃の恩師。一郎たちが感知の練習中、ひたすら画面外でゴブリンを切りまくっていた。


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第十三話〜第十六話

誤字修正。ハクオロ様、244様、仔犬様ありがとうございました


第十三話

 

防具がついに届いた。

今回届けてもらったのは特殊部隊用のボディプロテクター、ニーシンパッド、エルボーパッドと要所をカバーするもに、真一さん待望のライオットシールドだ。

 

使用してみてどうだったかの感想も欲しいらしい。

早速装着すると、刀を持ってる時は盾はちょっと取り回しが難しいかもしれない。

 

 

「これ、握るんじゃなくて腕に装着する感じにできないかな?」

 

 

沙織ちゃんがそう言って右手で日本刀を振るが、中々しっくりこないらしい。

片手だとどうしても握りが浅くなるからな。

身体能力が向上しているとはいえ、本来両手で振る物を片手で扱うのは難しいからな。

 

俺?最初からライオットシールドしか持ってないよ。

武器に関しては右手を変形させれば良い俺はこの点気楽である。

日本刀はかっこいいと思うけどな!

 

 

 

 

 

 

さて、先日から実際にダンジョンで日本刀を使用して分かった事が一つある。

正直、消耗品過ぎて補充が追いつかない。

 

 

「つばぜり合いとかしたら一瞬で刃が欠けるわ・・・」

 

 

ドカッとゴブリンを蹴り飛ばして真一さんがそう呟いた。

3層を突破する際、剣ゴブリンを二人纏めて相手取った時に傷をつけてしまったらしい。

純粋に俺達の技量が足りないだけなのかも知れないがな。

先日潜った時安藤先生に渡した剣は刃こぼれ一つなかったし。

 

 

「えいっ!」

 

 

沙織ちゃんとシャーロットさんも順調に刀に習熟しているらしい。

剣ゴブが相手なら近接だけでももう大丈夫だろう。

しかし、鞘に入れようとして中々入らない辺りを見るにもう曲がってしまったのだろうな。

 

 

 

 

「で。本当に1人でやるんですか?」

 

「ああ。すまんが譲ってくれ」

 

闘志を滾らせて刀を構える真一さんに了承の意を返し、戦闘を開始する。

けん制にマシンガンアームを使って弾をばら撒き、怯んだ隙に恭二がファイアボールでメイジを片付ける。

周囲に散ったオーガは女性陣が魔法を使って片付け、お膳立ては整った。

 

真一さんは前に進み出ると、盾を構えてじりじりと間合いをつめるように動く。

オークもそれに答えるように間合いを計りながら接近を始める。

 

 

「・・・・・・」

 

「グルルゥグワア!」

 

「・・・ストレングス!」

 

 

互いの距離があと2、3歩という段階で痺れを切らしたのか、オークが棍棒を振り被って真一さんに殴りかかった。

右上から打ち下ろされた棍棒の一撃を、真一さんは盾を使って横合いから殴り飛ばす。

大きく左によろけて体制が崩れたオークに、真一さんは雄たけびを上げて刀を振り被り、縦一文字に切り裂いた。

 

 

「どうだぁ!」

 

 

ガッツポーズをして真一さんはそう叫んだ。

前回死にかけた相手にきっちり完勝。リベンジマッチも素晴らしい結果になったな!

 

 

「恭二!一郎!まだまだお前らだけには任せられないからな!こっからも俺が付いて行ってやるよ!」

 

 

そう笑って、真一さんは「よし、次の階層覗いてくるか!」と足を進めた。

恭二に顔を向けると、ちょっと涙ぐんでる。

・・・・・・どういうことだ?

 

 

 

「真一さんも色々悩んでるって事じゃないかな?」

 

 

今日の探索は6層で軽く戦って終了となった。6層の雑魚はやはりオークにオーガ数体、メイジというチームになるようだ。

家に戻ってから、学校が終わって帰っていた一花に今日あった事を話すと、少し考えた後に妹はそう答えた。

 

 

「まず、恭二兄ちゃん。別格だよね、多分恭二兄ちゃんだけで5層まで楽勝でしょ?」

 

「間違いないな。あいつ、色々試しながら潜ってるから」

 

「次にお兄ちゃん。その右手もそうだけど、いつでも身体能力アップはヤバイでしょ。チートだよチート」

 

「恭二見てると霞む気がするがな。最近どっちも出来てるし」

 

 

そう。あの魔法博士遂に擬似的に俺の右手を真似してきたのだ。

なんでもトランスフォームを改造して中身もあつらえて見たそうだ。

ただ、俺のように完全にその物という訳ではなく、質量も無い為ハリボテ感が凄いそうだが。

 

 

「恭二兄ちゃんは呪文って一手間が入るでしょ?念じるだけでいけるとは言ってたけどイメージがって言ってたしイメージなしでもパパッとできるお兄ちゃんとは大分違うと思うけどね。ま、話を戻すけど!」

 

 

要は役割の話だ。俺達二人に探索者として見劣りしている。シャーロットさんはCCN関連で山岸家を支えてくれていて、沙織ちゃんはチーム内のムードメーカー、一花は動画作成等ダンジョン関連の広報として動いているらしいし、翻って真一さん個人は何なのか。

 

俺達は真一さんを頼れるチームリーダーだと思っているが、真一さんにとってはそうではない、という事らしい。

 

 

「全然分からなかった」

 

「お兄ちゃん、人からの自分に対する感情はほんとニブチンだからね。女の人限定の恭二兄ちゃんよりひどいよ!」

 

「10年も幼馴染に片思いさせてるレジェンドと一緒にしないで欲しいです」

 

「50歩100歩かな?」

 

「あんたたち!もうご飯できてるわよ」

 

 

妹とバカ話をしている間に母親から飯のお呼びがかかった。

さて、今日のご飯は何かな、とソファから立ち上がった俺に一花がそういえば、と声をかける。

 

 

「お兄ちゃん、明日から6層の撮影をやるんだよね?」

 

「ああ。真一さんとシャーロットさんはそのつもりらしい」

 

「ならさ、恭二兄ちゃんがこの前使ってた魔法で、体を軽くするのがあったじゃん。あれちょっと覚えてきてくれない?」

 

「あー。別に構わんが出来るかわからんぞ?」

 

「うん、兄ちゃんの得意分野的に大丈夫だと思うけどね!」

 

 

そう言って「じゃあ、お先!」と一花は居間を出て行った。

後に残された俺はあの魔法どうやるんだろ、と思い浮かべながら一花を追って部屋を出る。

答えは1週間後にわかった。

 

 

 

『嘘・・・スパイディ!?』

 

『なんてこった。僕は夢を見てるのか、こんな。信じられない』

 

 

CCNスタッフが唖然と見守る中、俺は右腕から発射した魔法の糸をダンジョンの壁に張り付け、壁を走り、狭いダンジョンの中を飛び回るように動きながらゴブリンたちを倒して回る。

赤と青を基軸にした全身タイツの男。そう、その名も!

 

 

「俺は地獄からの使者、スパイダーマッ!」

 

「残念、それは東映だなぁ」

 

 

仮面ライダーつながりで最近そっちをチェックしてるんだ。

いや、面白いよ東映版。駄目?

 

 

 

 

第十四話

 

 

『危ない物は没収!』

 

 

右腕から発射した魔法の糸をオーガの武器に巻き付けて奪い取り、左手から発射した蜘蛛の巣状の魔法の糸で天井に貼り付ける。

 

 

『よそ見してていいのかい?』

 

 

オーガ達が呆気に取られている隙に一番手前のゴブリンメイジにウェブを巻きつけて引っ張り、足元に転がってきたメイジを蹴り飛ばして煙にする。

 

我に返ったオーガ達が飛び掛ってきた瞬間に天井に飛び移り、目標を失って倒れこんだオーガにウェブシューターを当てて地面に縛り付ける。

 

 

『上から失礼!』

 

 

そして上空からの飛び蹴りで一体を倒し、残りを倒す前に棍棒を振り上げて襲い掛かってくるオークの突進を横合いに飛ぶ事でかわす。

オークの下敷きになって1体煙になったことは見なかったことにする。

 

 

『いきなり飛び掛るなんてどうしたの?カルシウム足りてないんじゃない?』

「ブギァアアア!」

『・・・・・・足りてないっぽいね!』

 

 

そう言ってスパイダーマンが肩をすくめるとオークは咆哮と突撃で返した。

 

 

『でも残念。デカブツの相手は慣れてるんだ』

「ブギッ!?」

 

 

ウェブシューターを顔に当てると、オークは怯み顔から糸を引き剥がそうともがき始める。

 

 

『足元がお留守じゃない?』

 

 

視界を奪った瞬間に滑り込んで両足を蹴り飛ばし、体制を崩したところに天井にジャンプ。

上空からウェブで全身を覆い身動きが出来ないオークの頭に全体重と勢いを載せたスタンプを加える。

 

 

『一丁あがり!いい汗かいたよ!』

 

 

カメラに目線を向けて画面内のスパイダーマンはそう締めくくった。

 

 

 

「この声どうしたん?」

 

「声優さんに頼んだよ!日米両方の!」

 

「へぇ。お金とか大丈夫か?」

 

「CCNが喜んでお金出してくれるって!」

 

「そっか。そっか・・・」

 

 

どうも、今回スタント担当になったらしい鈴木一郎です。

先日、CCNスタッフを仰天させたスパイダーマンコスでの動画撮影も無事終了しさて次はアップロードだ、という段階で再び一花監督からの待ったがかかり、数日後。やっと完成したと言われて見せられたのが先ほどの動画です。

 

うん、やばいね声優って。台本なしの筈なんだけどすげぇ。

スパイダーマンめっちゃ喋るな。俺「とぅ!」とか「へあ!」とかしか言ってなかったんだが。

 

 

「だから声優さんにお願いしたんだけどね!」

 

「すんません……」

 

「お兄ちゃんに演技は期待してないから大丈夫!他は期待以上だったしね!」

 

「やる事多過ぎて死にそうだったぞ」

 

 

そう。このスパイダーマンの動画を撮影する為に俺が覚えた新魔法、その数なんと4。

一週間でこれらを覚えて無意識に使えるように習熟し、さらにスパイダーマンっぽい動きを織り混ぜられるようにビデオ等で動きの修正をして、更にその動きをしながら敵と戦えるよう訓練をして、と。

正直学校に行ってたらまだまだ終わってなかったと思う。

 

あ、この度というか数日前から正式に休学という形になりました。

恭二達は高校は出ると言ってたが、俺の場合学校に行くだけで学校にも生徒にも迷惑かけちまったしな。

 

最近も恭二の家に行くだけでもトランスフォームを使ってるし、道端で俺を探してるのかカメラ持った人がうろうろしてるのも見かける。

 

特にこないだのライダーマンをネットに流した辺りから明らかに本格的な装備をした年輩の方々が結構な頻度で陣取ってる。

通りすがりを装って話しかけてみると、結構遠い地域から撮影にきてるらしい。

 

 

「コスプレだとはわかってる。でも、実際に戦っているライダーをこのカメラに収められるかと思うと、居ても立ってもいられなくてな」

 

「成る程、こだわりなんですね」

 

 

大学生を装って少し話してみると結構いい人達が多かった。

今話してるおじさんは近畿から車を飛ばして来たらしい。

自動車の後部を改装して

 

 

「仕事は大丈夫なんすか?」

 

「嫁に任せてある。2、3日なら問題ないさ」

 

「俺は有給取った!」

 

「俺も」

 

 

近場で話を聞いていたおじさん方も話に加わってくる。

そこからはどこから来たやら今までのカメラ歴やらと話が弾み、缶コーヒーまで奢って貰ってしまった。

いつまで経っても山岸さん家に来ない俺を心配した一花の連絡がなければまだ話してたかもしれない。

 

 

「何とかならん?」

 

「ライダーマンなら何とかかな?」

 

 

シャーロットさんから、スパイダーマンは絶対絶対絶対にCCNで扱わせて欲しいと言われているのでそっちは無理としても既に露出しているライダーマンならそれほど厳しくはないはずだ。

 

 

「という訳でどっかで撮影会とかしても良いですかね?」

 

「……出来れば独占したいけど、スパイディでなければ……」

 

 

シャーロットさん、スパイダーマンの大ファンらしく、初めてトランスフォームを使って変身した姿を見た時は狂喜乱舞だった。

 

それ以降もやれ「スパイディの飛び方はもっとこう」と動きの修正を入れてきたり、「壁を走れなきゃスパイディじゃない」と言ってウォールラン(壁に足を吸い付ける魔法)の開発を恭二と行ったり、「私もMJと同じ赤毛なんだけど」とどうすれば良いかわからない事を言い始めた時には即座にジャンさんに連れていかれたが、あれ結局どうなったのだろうか。

聞くのが怖くて聞けない。

 

話を戻して撮影会の事だ。

結局、今奥多摩に集まっている人に関しては住民の迷惑になるから、という事で帰ってもらった。

 

尚、その際にせめて一枚でも写真を取らせて欲しいとの声に答えて、公民館の一室を借りて臨時の撮影会を行った。

 

トランスフォームを使い、ヘルメットを被った瞬間に変身を済ませるとどよめきの声が上がり、カセットアームを切り替えると歓声とシャッター音が室内を埋め尽くす。

最後に握手をすると、皆カセットアームを触りたがり、そして涙した。

 

 

「結城さん、貴方に会えて嬉しい」

 

「あの、鈴木なんですが」

 

 

全然話を聞いてもらえず数十人のおじさん達にライダーマンへの思いの丈をぶつけられる苦行が始まった。

 

 

 

 

 

第十五話

 

 

握手会という苦い思い出はさておき。

今日は以前からアポイントメントを取っていた刀匠に会いに行く日だ。

 

見るからにワクワクしている真一さんに学校を休まされたらしい恭二とそれについてきた沙織ちゃん、 ヤル気満々で打ち合わせをしているシャーロットさん達CCNクルー、そしてそれを羨ましそうに眺める山岸さんという、真一さんと恭二のテンションが可笑しい事を除けばいつも通りの光景だな。

 

 

「俺も行きてぇ」

 

「誰か居ないといかんだろ。工事も始まってるし」

 

 

以前、CCNが山岸家の窮状を自社の番組で訴え、義援金を募ってくれていたのだがこのお金が先日漸く入ってきた。

ちなみに想像していたものより文字通り桁が違って山岸さんは卒倒しそうになったらしい。

 

そして、ある程度以上に纏まったお金が入ったので山岸さんはこれを機に法人化を行い、探索者チームの装備の支払いやダンジョンを覆う建屋の建築、コンビニの代替地の確保などを行っている。

 

……俺の動画を何回も見てイメージはバッチリらしい。

普通の探索には欠片も役に立たないと思うので今度恭二に注意して貰おう。

 

 

 

「初めまして、お話は伺ってます」

 

 

工房を訪ねると作務衣を着た四十過ぎの男性、刀匠の藤島さんが俺達を出迎えてくれた。

顔立ちから頑固一徹といった厳しそうな印象を受けたが、言葉遣いは丁寧柔らかく初見のイメージを良い意味で裏切ってくれた。

 

俺達はまず、実際に戦闘で使用して折れ曲がったバットや、刃こぼれした刀等を工房に広げさせてもらい藤島さんに見てもらった。

 

藤島さんはその時の状況等を詳しく聞いてきたがその辺りは真一さんが逐一答える。

俺の場合ほとんど武器を扱わないからなぁ。

 

 

「ふむ。その状況では数打ちをたくさん使ってコストを押さえるのが良いでしょう。非常に正しい運用法だと思います」

 

 

そう言って藤島さんは苦笑いを浮かべる。

 

 

「刀鍛冶としては歯がゆいんですが、本来刀は護身用なんです。それが、江戸時代には武士の魂みたいな扱いになった」

 

 

武器としては槍の方が優れている。

藤島さんも無限にモンスターが現れるダンジョンのような場所では、槍の方をお勧めしたいそうだ。

 

 

「我々もその点は認識していました。そこでお願いなんですが、藤島さんに是非槍の作成をお願いしたいのです」

 

「私が、ですか」

 

 

槍を作ること自体は鍜冶師なら出来る。行わないのは需要が全くないからだ。

現在ある槍は骨董品等の名品のみで、刀に比べて手頃な値段の物はない。

俺達が求める条件の槍を手に入れるには新しく作るしかない。

 

 

「なるほど、お話はわかりました。問題ありませんが一つだけ条件があります」

 

「条件ですか?」

 

「私も一度連れていってもらいたい」

 

 

そう言って藤島さんは表情を緩める。

 

使用した刀を藤島さんに預けて、学生組は帰路につくことになった。

CCNスタッフはこの機会に作刀風景を撮影するらしい。

 

日本の文化が好きだと言っていたシャーロットさんはずっと藤島さんに付いて回りスタッフ一同に苦笑いを浮かばせた。

 

タクシーを呼んでもらって帰る間際にようやく「気を付けて下さいね!」と声をかけてもらったがその瞬間以外ずっと鍜冶道具を見てたからな。

下手すると刀が一本出来るまで見続けるんじゃないか?

 

 

 

一応夜には取材が終わったらしい。

 

 

「あんな美人さんにマジマジ見られると緊張しますね」

 

 

とは次の日、早速ダンジョンを体験しにきた藤島さんから聞いた話だ。

シャーロットさんはそれを聞いているのか居ないのか、真一さんと今日のダンジョンアタックについて意見を巡らせている。

 

 

「今日は藤島さんに刀が実際に使用されている所を見てもらう。刀のストックがないから3層の剣持ちのゴブリンをメインに行こう」

 

「オーケー」

 

「藤島さんのサポートには一郎がついてくれ」

 

「了解でっす」

 

 

さて、今日は撮影ではないので変身なしで右手はカセットアームに変形。

隙を見てハンマー打ち込もうと画策していると藤島さんから「ライダーマン……?」との呟きが。

 

珍しい反応だったので聞いてみると基本的にテレビもネットも余り使わないらしい。

なるほど。ヘルメットを被って変身!

 

 

「ライダーマン!」

 

「おおおおおお!」

 

 

大喜びで握手を求められた。

前のカメラのおじさん方と世代が近そうだなとは思ってたので試してみたがビンゴだったらしい。

あ、撮影ですか?どうぞ。

記念に作業場に飾る?あ、はい。作刀の邪魔にならなければどうぞ。

 

 

 

さて、ダンジョンである。

といっても今さらこの階層で何か起こることはない。

ゲストの藤島さん以外は感知が使える上に戦闘毎に全員にバリアーをかけてあるため、万に一つの事故もないだろう。

 

といってもここはダンジョン内。油断は禁物だ。

センサーに常に気を配り、藤島さんが観察に専念できるよう注意して行動する。

探索が終わった頃には、全ての刀が鞘に入れられないほど損傷していた。

 

 

「この使用した刀はお預かりしても?」

 

「勿論大丈夫です」

 

「知り合いの刀匠にも見て貰おうと思います。何人か声をかけた友人は直ぐにでも見たいと言っていました」

 

 

実際に刀が使用される事は現代では殆どない。

実戦で使用された刀に刀匠達がどんなインスピレーションを受けるのか。今から楽しみだな!

 

後日、刀についても勿論盛り上がったがそれよりライダーマンと握手をしている写真が大反響だったと藤島さんに言われ、何とも言えない気分になる事をこの時の俺はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

第十六話

 

 

さて、藤島さんに武器についての相談を済ませた俺達は6層の攻略に取り掛かる事になった。

といっても武器の問題があったので、先日お世話になった刀剣商の店主さんに連絡を入れ、日数がかかっても良いのでと頼み刀を数振り購入。

メインはバット、もしもの時は腰に差した刀を用いるスタンスだ。

 

 

「オークにはファイアボールが効く……かな?」

「ヘッドショットならファイアバスターでも一撃だしな。サンダーならどこに当たっても同じだが」

「サンダーボルトは消費がな。お前は関係ないだろうが」

 

 

羨ましそうに恭二がは俺の右腕を見る。

今回のメンバーは真一さん、恭二、沙織ちゃん、シャーロットさんに一花を加えたフルメンバーのパーティーだ。

 

特にトランスフォームを使う必要もないため、俺は右腕をロックバスター式に変形。

前衛は真一さんと恭二に任せて後方から弾をばら蒔いている。

 

ロックバスターにしている時はバスターの銃口から魔法が発射される。

このバスターは本来のファイアボールやサンダーボルトに比べれば半分位の威力になるが、魔力効率が段違いらしい。

威力の面も魔力をチャージをするとどんどん威力を上げられる。

 

ただ、チャージはその分時間もかかるし消費もある。その上、銃口からの発射に縛られるから凄く便利って訳でもない。

恭二のようにファイアボールを複数出して任意の相手にポンポン投げわけるような事も出来ないしな。

 

 

「ボスは……胸当てつけてやがる」

「魔法主体で大正解だね!」

 

 

バットを肩に置いて真一さんがそう呟くと、一花がヨイショするように拍手を贈る。

前々から真一さんにべったり押せ押せの一花だが、最近はリーダーとしての真一さんを補佐したり後押ししたりするような所が多く見られる。

 

探索の時間がどうしても取れないし少しでも役に立ちたい、と言っていたが……流石にナンパ好きな真一さんも一花は完全に対象外らしく端から見ると兄の手伝いを頑張る妹にしか見えない。

 

真一さんに迷惑をかけなきゃ邪魔するつもりはないので、地道に頑張って欲しい所である。

流石に真一さんの世間体もあるから応援はしないがな。

 

 

「サンダーボルト!」

「サンダーボルト!」

 

 

ちなみに戦闘自体は恭二と沙織ちゃんの全力サンダーボルト二発で終了した。

雑魚のオーガやオークは恭二の一発目で、辛うじて生き残っていたオークジェネラルも沙織ちゃんの二発目で煙と化した。

身構えていた真一さんとシャーロットさんは苦笑を浮かべている。

 

 

「このまま7層も行けそうだね!」

「油断するなよ一花ちゃん。まぁ、俺も次までは問題ないと思うけどな」

「撮影スタッフを入れる前に習熟も必要です。進める内は進みましょう」

 

 

最近ボーナスが出たとホクホク顔のシャーロットさんは相変わらず更なる特ダネに餓えている。

ここ一週間ほどダンジョンの情報には目新しいものもない。そろそろ次の段階に進みたいとの事だ。

 

CCNには山岸さんの家の窮状を救ってもらった恩義もあるし、手応え的にも問題ない。

そのまま俺達は7層の攻略に入った。

 

 

 

7層ではオーガが消えてオークジェネラルが雑魚に加わった。

オークにオークジェネラルと完全に肉弾戦特化の布陣である。

近接戦闘なら苦労したろうなぁ、とサンダーボルトで一掃されるオーク達を見ながらオークジェネラルに止めのファイアバスターをお見舞いする。

 

近寄られると不味いならそもそも近寄らせなければ良いのだ。

特に危なげなく7層のボス部屋までたどり着くと、オーク達よりも頭一つは大きなオーガのようなモンスターがいる。

 

 

「……鬼?」

「日本の鬼に近いな」

 

 

槍をもった鬼は雄叫びを上げて俺達に襲いかかってきた。

近寄られると不味そうだと感じたので牽制のファイアバスターを顔面にぶち当て、怯んだ所をサンダーボルトの一斉攻撃。

後にはドロップ品しか残らなかった。

 

 

「やり過ぎたかな」

「俺達の安全性には変えられないさ」

「それもそうですね。ところで」

 

 

真一さんの言葉に頷いて、俺は鬼のドロップ品を拾い上げる。

ドロップ品は各自の獲物。つまり、槍だ。

真一さんも微妙な表情を浮かべている。

ここ数日のやり取りが一発で解消しかねないからその表情になるのも分かりますがね……

 

 

「とりあえず、使ってみたらどうです?」

「……そうだな」

 

 

 

「これめっちゃ良いわ!」

 

8層に突入し、とりあえず試してみると言って真一さんは数匹のオークを槍で相手取る。

そして、まさに開眼というべきか。

数戦でオークやオークジェネラルをバッタバッタとなぎ倒しながら楽しそうに笑うようになった。

 

流石に同じ間合いの鬼に近接で突っ掛かるのはやらないようだが、刀の時とはまるで違う殲滅速度には目を見張る物がある。

真一さん、もしかして長物の方が刀より相性良いんじゃないか?

恭二も真似してるがあそこまで使いこなせてないしな。

 

 

「一郎、すまんが鬼は頼んだ!」

「あいよ」

 

恭二の頭越しにサンダーバスターを鬼に撃ち込む。

あれだけタッパがあると的もでかくてありがたい。そんなに魔法抵抗力もないみたいだしサンダーバスターなら一撃だ。

 

8層も問題なく行けそうだ。これは今回で10層まで行けるか?

まぁ、行ける所まで行きたいが。判断は真一さんに任せよう。

余計な考え事を止めて、俺は戦闘に意識を切り替えた。

 

 




山岸 真一:弟がヤバイってのは何となく分かってたけど最近弟分の方もヤバイことに気づき置いていかれてる間隔に襲われる。でも身体能力はどう考えても随一なので本人の心配しすぎ。

鈴木 一花:正直一番置いてかれてるのは自分なんだけどなぁと思ってる。戦闘能力で一歩及ばない分、良い女は男を支えるもの、と真一のフォローを中心に行動を始める。

スパイダーマッ!:東映版スパイダーマンは本家原作者も絶賛する位出来がいい。レオパルドン以外


スパイダーマン:言わずと知れたスーパーヒーロー。悲惨な境遇の話が多いため、一花としては彼かウルヴァリンを兄に演じて貰うのが当面の目標だった。

山岸恭二:一花に頼まれて粘着力のある魔法の網を打ち出すネットと天井に張り付く為のエドゥヒーション、更にシャーロットからの要請で壁を自在に走れるようエドゥヒーションを改良したウォールランを作成。他人の発想にインスピレーションを受けたのかどんどん魔法を改良中

シャーロット・オガワ:ついMJと呼ばせそうになった所を同僚にインターセプトされ事なきを得る。後に正気に返った。日本刀の作刀風景を余すところなく撮らえようとするも流石に迷惑だと他のスタッフに止められる。


山岸さん:藤島さんをダンジョンに連れていった件でブーたれている。1日に1度「俺も行きてぇ」と呟くようになる。

藤島さん:ツーショットの写真を拡大して引き延ばし作業場に飾る。何か集中したいときこの時の写真を眺める癖ができる。




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第十七話〜第二十話

このお話はフィクションです。
実在の人物っぽい内容や他作品のヒーロー名を言ってますがあくまで勝手に使ってるだけなのでご了承ください。
ただ、故人の色々な逸話を聞くと実際にこんな状況が起きたらマジでこういう事言いそうだな、と思いお話にしてあります。

誤字修正。244様、kubiwatuki様、仔犬様ありがとうございます!


第十七話

 

 

ダンジョン第8層を探索。大鬼が雑魚として出現するようになった。

ドロップ品で槍が溜まるのは良い事なのだが、重い。

 

特にオークジェネラルの大剣がやばい。持てなくはないが、収納が無ければ回収は考えられない重さだ。

恭二が居なかったらドロップ品を捌き切れなかったろうな。

 

 

「そういえば沙織ちゃん達もよくそれ持てるね。ストレングス使ってないよね?」

 

「うん。ちょっと重いけど大丈夫」

 

「身体強化、結構でかい効果があるみたいだな」

 

 

ダンジョンに潜る前の沙織ちゃんなら槍の方で限界だろう。一花についてはまだ成長が足りてないのか大剣は重過ぎるみたいだが。潜った回数も関係しているのか?

 

さて、そうやって色々検証しながら進んだ8層も危なげなくボス部屋にたどりつく事が出来た。

そうだろうなとは思っていたが大鬼が2体にオークジェネラルが4体か。そして・・・

 

 

「キモッ」

 

「何だあれ。ゾンビか?」

 

 

所々が腐ったような外見の大きな猿のような化け物が雄たけびを上げている。

真一さんが気持ち悪そうにサンダーボルトを唱えると沙織ちゃんも続けてサンダーボルトを放つ。

二人の魔法でオークジェネラルと大鬼が沈む中、ゾンビっぽい何かは大きく後ろに跳んで魔法を回避した。

 

 

「早い!お兄ちゃん、マシンガン!」

 

「了解。マシンガンアーム!ファイアボール装填!」

 

 

右腕を変形させてマシンガンアームに変え、マガジン内にファイアボールを装填。

弾をバラけさせて、推定グール?を近づかせないよう牽制する。

 

 

「恭二、頼む!」

 

「OK、ファイアボール5連射!」

 

 

恭二がファイアボールを唱えると、空中に5つの火の玉が浮かび上がる。

時間差で飛んでくる5つの火の玉に、流石に動きの早いグールも避けきれずに3発目が命中。

そのまま煙となって消えた。

ドロップ品は角だろうか。何かに使えるのかね?

 

 

「ふぅ、まさか避けられるとはな」

 

 

サンダーボルトを避けられたのがショックだったのか、真一さんがそう呟いた。

確かに、ここまでは無類の強さを発揮していた魔法だけに通じなかったのはショックだろう。

 

というかあいつ、もしかして俺1人だと結構ヤバイ敵じゃないか?

マシンガンも結構避けられたし。

 

 

「恭ちゃん、今日はもう帰ろう」

 

「撤退に賛成。ちょっと作戦立てたほうが良いよね」

 

 

顔を青ざめた沙織ちゃんの言葉に一花が賛成と手を挙げる。

 

 

「動きが素早かったですね・・・もし近づかれていたら不味かったかもしれません」

 

「そうだな・・・よし、一先ず8層まで攻略できたし撤退しよう」

 

「了解です」

 

 

真一さんがそう判断を下し、俺達は帰路についた。

 

 

 

「新しい魔法が必要だな」

 

 

帰り道で恭二がそう呟いた。

曰く。ファイアボールは非常に使いやすい魔法だが命中しなければ意味が無い。

 

恭二のように一度に連射する手もあるが、それだと魔力の無駄も多いし、どの位魔法が使えるかが目で見て判断できない現状では多用するべきじゃない。

 

今まではサンダーボルトで範囲をカバーしていたが、そのサンダーボルトでも捉えきれない相手が出てきた以上新しい魔法の開発は急務だ。

 

 

「もっと広範囲を一気に攻撃できるようなものがいいな」

 

「ゲームで言う全体魔法みたいな奴か?」

 

「そうそう。大きな魔法を使うとき、もし自分を中心に魔法を発動したら、周囲の仲間まで巻き込むかもしれないし。敵の近くで発動するように設定して、決められたエリアの敵を巻き込むような魔法が欲しい。一応、案もあるんだ」

 

 

第1層の入り口付近まで戻ってきた俺達は、大部屋の手前に陣取る。

 

 

「フレイムインフェルノとかどうだろう」

 

「それ、火炎地獄って意味?」

 

「そうそう。ファイアストームとも迷ったんだけどね。ちょっと使ってみる」

 

 

一花の問いかけに肯定を返して、恭二が大部屋の中に向かって魔法を発動する。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

ボゥン!と軽い衝撃音と共に、5M先くらいに四角い炎の箱が出来上がり、天井辺りまで燃え盛ってから消えた。

 

 

「良い感じだな。範囲も広いし上も対処できる」

 

「イメージ通りに発動できたよ」

 

「なら俺も試してみるか。フレイムインフェルノ!」

 

 

恭二の言葉に真一さんも詠唱を行い、結果は見事に成功。

続けて沙織ちゃん、シャーロットさん、一花と皆成功していく。

さて、問題は俺だな。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

外に出すイメージの魔法が極端に苦手な俺はさてどうなるかと思ったが、やはり部屋の中では発動せず右腕にセットされてしまうようだ。

ロックバスターを構えて、先ほどまで目標にされていたエリアに向かってフレイムバスターを放つ。

 

ボゥン!

 

 

「発動したね」

 

「発動しましたね」

 

「どうみてもグレネードだけどね!」

 

 

着弾した場所を中心に爆発したインフェルノバスターを見て、各自が思い思いに感想を述べてくれる。

いや、まあうん。範囲攻撃は持ってなかったから良いんだけどさ。

なんか納得いかないのは何故だろうか。

 

 

 

さて、ダンジョンも新階層まで到達。

新しい魔法も解決し、装備についても解決の目処が立ったと良い事が続く中、俺にとっては極めて微妙なニュースが舞い込んでくることになった。

 

と言っても気分的な問題で、一花からすると大変喜ばしいニュースらしい。

それはというと、アメリカから届いた一通の手紙だった。

 

 

「貴方の戦いと冒険心に敬意を評し、正式なスパイダーマンの一員と認めます。だって!」

 

「スパイダーマンって一杯居るんだな。やったぜ・・・嘘やろ工藤」

 

「残念、現実だよ!」

 

 

アメリカの某大手漫画出版社から届いた手紙をシャーロットさんに読んで貰う。

読む内に興奮して英語で叫び始めたシャーロットさんの言葉を翻訳で確認すると、どうも原作者が例のスパイダーマンVSオークを見て非常に感激したらしく、是非会ってみたい。

 

そして出来れば漫画の方にも出演して欲しい、という事らしい。

 

漫画に関しては秒速で断ろうとしたがシャーロットさんに力づくで止められた。

一花に助けを求めるも「それを断るなんてとんでもない」と言われてなくなく了承させられることになる。

 

恭二と真一さんは完全に見てみぬ振りを決め込み沙織ちゃんは理解できてない。

孤軍だと言うことに気づいていなかった俺の負けか。

ちくしょう。

 

 

 

 

第十八話

 

 

山岸さんの家で昼ご飯を頂きながらCCNの番組を見る。

冒険が終わった後はその日の反省を振り返るのだが、夕方まで冒険した時はいつしかそのままご飯を頂くようになり、気づいたら冒険後にご飯を食べてから会議をするようになった。

 

CCNの番組を見るのも、最近ようやくCCNの契約をしたとの事なのでシャーロットさんの仕事がどんな物なのかを見るといった物なのだが。

 

 

「ダンジョン内の放送だと冷静なのにスパイダーマンの話をしてると凄くキャラが変わって面白いね!」

 

「お恥ずかしいです。ファンとしてはやはり熱が入ってしまって」

 

 

そう、先日まさかの公式に認定された件をCCN側が大々的に放送しているのだ。

今現在、TV画面の中ではスパイダーマンのコスチュームを着た俺がオークをスタンプで倒すシーンが放送されている。

 

その様子を見ていたまま話すシャーロットさんの報道はファンだからこその熱意に溢れたものであり、反響も凄いのだという。

 

 

「実はこの度、ダンジョンとスパイディ専属のキャスターになりまして」

 

「おお、それは僕らにとってありがたいですね。他の人だとどうしても一緒に潜る時大変だから」

 

「はい。ボス直々に電話で任命されました」

 

 

日本のキャスターは別の新人さんに任されることになるらしい。

というのも、CCN本社経由で軍用品のアクションカメラを入手し、カメラクルーをわざわざ入れなくても良いようになったらしい。

 

これは軍用品らしく高性能、高機能で耐衝撃、耐水没性能を誇る。ダンジョン内部の撮影した映像の提出を条件に最新の物を米軍から入手したそうだ。

 

 

「カメラクルーも、動画編集の為にジャンが残るけど他のメンバーはここを離れることになりました」

 

「そうですか・・・折角仲良くなったのに残念です」

 

 

ここまで苦楽を共にしてきた仲間の離脱に悲しい思いもあるが、彼らも仕事だからな。

旅立ちを祝福しないと。

 

 

「それと、横田基地の大佐から『サンプルのため石と敵の武器を譲って欲しい』と言ってました。協力費を弾むので、可能な限り多くの石が欲しい、とのことです」

 

「藤島さんからも大剣と槍が欲しいって言われてたな」

 

「ああ、じゃあ今から行こうか」

 

 

シャーロットさんの言葉に思い出したように真一さんが語る。

近場の藤島さんから会いに行こう、という話になりシャーロットさんが車を出すようだ。

 

俺は今回武器の使用もしてないし収納も使えないからお役ごめんだな。

・・・待て、何故俺の腕を掴む。

心象が違う?いやいや今更心象もないだろう。シャーロットさん、反対側まで固めないでください。

 

結局連行されることになった。

 

 

 

「これは凄い」

 

 

大剣と槍を見た藤島さんの感想である。

その反応も尤もだ。魔法が無かったら俺達だってこんなもの持った2m越えの怪物と対峙なんてしたくない。

 

藤島さんが重そうに大剣を構えるのを見ながら、ふと作業小屋のドアが開いているので中を見ると、でっかく引き伸ばされた俺との握手の写真が飾られているのを見てそっとドアを閉めた。

見なかったことにしよう。

 

藤島さんに一振りずつ大剣と槍を預けて横田基地へ向かう。

事前に連絡を入れていたためかスムーズに中に入れてもらえた。

中に入れてもらえたのだが・・・・・・

 

 

『ようスパイディ!敵はうちの基地に居ないぜ?』

 

『ああ、ごめん。ちょっとまって。感動してしまって。涙が』

 

『あ、あの。サインと、撮影を!』

 

 

前回とは比ではない位の人の波が押し寄せてくる。

予想していたのか恭二達は離れた所で事務の人とお話し中だ。

あ、手をひらひらされてる。チクショウめ!

ごめんなさい、気の利いた台詞は言えなくて。

 

あ、公式サイトの方でも本家より口数が少ないってなってるから大丈夫?それマジ?

マジだった。何で向こうさんが俺のキャラを把握してるんですかねぇ(震え声)

 

結局この基地の一部機能が麻痺するような事態は大佐が一喝するまで続くことになった。

『来賓に対する云々』と厳つい顔で叫ぶ大佐さんだが、そのポケットに入ってるカメラが全てを裏切ってますよ?

 

あ、はい。司令室でですねわかりました。

え、お孫さんに一言メッセージ?お名前は?ダニエル君ですね分かりました。ちょっと変身しますね。

出来れば肩を組んで欲しい?良いですよ。

 

 

 

日本語しか出来なくてごめんね、と日本のスパイダーマンより、とポーズを交えてビデオに話しかける。

翻訳の魔法はどうも直接対峙していないといけないらしい。

映画とかだと完全に英語しか聞こえないので若干不便である。

 

ビデオを撮り終わった後に大佐から少し時間が欲しいと言われ、待っていると基地の広報官という人が出てきて大佐と握手をしている写真が取りたいと言われ了承する。

横田基地のホームページの一面に載せるらしい。

凄く・・・・・・恥ずかしいです。

 

 

『それだけ貴方の持つ影響力が大きくなったという事です。少なくともアメリカは貴方を害するという選択肢をもはや持たないでしょう』

 

『それは、恐縮です。何分特殊な右腕ですので』

 

『人は自分と違うものを怖がるものですからな。しかしそれは大部分において知らない故の悲劇です。貴方を知らない人間はもはや数えるほどでしょう』

 

 

その言葉通りなら嬉しい話です。演じているだけの身としてはヒーローそのものみたいに見られるのはやはり違和感がすごくて。

 

 

『貴方の実力に対しても我々は評価をしているのですがね。山岸恭二さんという魔法のエキスパートを除けば貴方は随一のポテンシャルを持った冒険者だ。我々も貴方方の持つ情報を頼りにしている面があります』

 

『色々とお世話になっているので、お役に立てているなら何よりです』

 

 

米軍には資金面・装備面共に大分お世話になっている。

何かしらこちらから返すことが出来ていれば良いのだが。

 

 

『そういえば我々も近くダンジョンに入る事になりましてな。専門家の意見を聞かせてもらうかもしれません。その時はよろしくお願いします』

 

『わかりました』

 

 

その後も少し談笑をして大佐の部屋から出た。

米軍のダンジョンアタックか。事故が無ければ良いんだがな。

 

 

 

 

第十九話

 

 

さて、ダンジョンである。

今日は9層を突破を目標に、あのグールへの対策を立てて準備をしている。

 

 

「取り合えず開幕フレイムインフェルノで。撃ちもらしは恭二と一郎が頼む」

 

「了解でっす」

 

「オーケー」

 

 

事前に立てたら作戦では今回、開幕のフレイムインフェルノを使うのはシャーロットさんだ。

これはダンジョンに潜った回数が少ないシャーロットさんと一花の魔法でも問題なく倒せるかの確認と、シャーロットさんは前回グールに対して少し怯えが見えた為、克服の為にも先制を任せてみよう、という事になった。

 

8層までは特に問題なく抜ける事ができた。

一度しっかり攻略してしまえば、それ以降は手間取る事もない。

このダンジョンを作った奴が誰かは知らないが、努力した分だけ進みやすくなる所は評価してもいいかもしれん。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

さて、件の8層ボス部屋であるが、結論から言うと問題なく突破する事ができた。

グールは魔法の発動に合わせて後方に飛び避けようとするが、範囲から抜けきれず炎の直撃を受けて消し炭になった。

 

恭二の見立ては間違ってなかったって事だな。

魔法を使ったシャーロットさんも「やりました!」と満足気だ。

 

 

「よし、余裕もあるしこのまま9層に入ろう。前に俺と一花ちゃん、後方に恭二、右は沙織ちゃんで左はシャーロットさんが対応する。一郎、どこかがピンチになったら援護を入れてくれ。出来るな?」

 

「任せてください」

 

 

ロックバスターにフレイムインフェルノを装填して俺は真一さんの問いに答えた。

9層はそれまでの階層と同様に開けた部屋や四つ角での襲撃が多かった。

まず真一さんか一花が敵を感知した通路にフレイムインフェルノを撃ち込み進路を確保。

 

そのまま進路先の警戒を行い、残りのメンバーが周囲を警戒。

もし追加が出たときは各自で対応し手が足りないところに俺が入る方式だ。

 

真一さんの号令に従い、俺達は9層の中を進む。

予想通り各方位からの攻撃があったがフレイムインフェルノの連打で対応し、たまに出る撃ち漏らしは俺が射撃でけりを付ける。

いくら素早い奴でも爆裂するフレイムバスターの連射は避けきれないだろう。

 

 

「一郎、うるさい」

 

「すまん、ちょっと楽しくなって」

 

 

恭二に睨まれたので連射はやめておこう。爆裂音で余計に敵が集まってる感じもするしな。

その後も詰まることなく俺達はボス部屋の前にたどり着いた。

 

さて、グールが来たとなると次も似たようなものか・・・と思っていたら案の定。

グールや大鬼に囲まれて西洋風のヘルメット、サーベル風の幅広刀に円形の盾を持った骨が偉そうに立っている。

 

 

「スケルトンか」

 

「これまた分かりやすい奴だね。大鬼より強いんだ」

 

「勘弁してよぉ」

 

 

真一さんの呟きに一花が反応を返す。沙織ちゃんはホラーが苦手なのかげんなりとした表情だ。

 

 

「兄貴、俺がやる」

 

「わかった、頼むぞ」

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

恭二はそう言って一歩前に進み出る。身構えるモンスター達のど真ん中に炎の柱が立ち、部屋を赤く染め上げた。

さて結果は・・・・・・流石はボスか。

 

 

「これで止めだ!」

 

 

念のため装填したままのフレイムバスターをぶつけると生き残ったスケルトンも煙になって消滅した。

ドロップ品はサーベル。真一さんは槍が好きらしいし、最近刀の扱いが上手くなってきた恭二に渡すと嬉しそうにぶんぶんと振り回していた。

大剣は何か違ったらしい。

 

 

「さて、次に行こうか」

 

「嫌だよ恭ちゃん・・・次はゾンビが出そうだよぉ」

 

「さお姉駄目だよ!そういう事言うとほんとに出て来るんだから!」

 

 

ぐずる沙織ちゃんの腰を一花がどんどんと押して前に進んでいく。

フラグって奴か。でも本当に傾向的にそうなりそうなんだよなぁ。

 

 

「ゾンビが出るなら銃かチェーンソーが欲しいです・・・」

 

「良いんですかそれで」

 

 

ゾンビ映画の本場はちょっと格が違うわ。グールの時はあんなにビビってたのにもう克服したらしい。

 

 

 

「敵はやっぱ、グール4にスケルトン2だ」

 

 

10層に降りた俺達を迎え撃ったのは予想通りの布陣だった。

開幕にインフェルノを連打して殲滅し、ドロップを回収する。

 

 

「今までのダンジョンと造りが違うな」

 

「ああ。降りる最中、土や岩の壁からいきなり石作りの壁に切り替わってた」

 

 

ドロップ品を回収しながら、恭二がそう呟いたので俺も相槌を返す。

今までは土や岩の中を進む、それこそ鉱山の中と言ったダンジョンだった。

それが9層から10層に降りている最中にいきなり石造りの階段に切り替わったのだ。

 

米軍はこのダンジョンは異界に繋がっていると言っていたが、もしかしたらこのダンジョン自体それぞれ別の異界を繋げて出来ているのだろうか。

それなら、俺達は今新しい異界に入ったという事か?

モンスターは同じだが。

 

 

「この扉、先が見えなくてめんどくさい」

 

「いっそぶっ壊すか?」

 

「いやいや」

 

 

この階層に来て変わったことがもう一つある。

各部屋の仕切にボロボロのドアがつけられており、今までのように先の見通しが出来なくなっているのだ。

 

恭二がいらいらしたように壁をファイアボールでぶっ飛ばしているが、グールやらスケルトンやらが扉を開けたらコンニチワ、と襲い掛かってくるかもしれない現状その気持ちもわかる。

 

ホラーでも扉を開ける時って必ず仕掛けてくるしな!

俺達は足早にボス部屋までたどり着いた。

 

そして嫌な予感は当たるものだ。

 

 

「ありゃー。やっぱりフラグだったねさお姉」

 

「半透明の人。ゴースト、いやレイスですかね」

 

「ホラーはもう嫌だよぉ」

 

 

女性陣が言葉にするように、視線の先にはスケルトンやグールに傅かれた半透明のモンスターが陣取っている。

やっぱり言霊ってあるんだな。俺も気をつけよう。

 

 

 

 

第二十話

 

 

「全員アンチマジックをかけ直せ!」

 

「了解!」

 

 

アンチマジックをかけ直し、10層のボス部屋に突入。

得物は杖か。こいつも魔法を使うんだろうな。

初見の敵は何をしてくるかわからない分、緊張感がある。

 

 

「グール4スケルトン2にレイスか。どう行く?」

 

「開幕ぶっぱが安定だけど、問題はあれに効くかかな?」

 

「ヒールとか効きそうだな」

 

 

一先ずは真一さんと恭二でフレイムインフェルノをぶち当てて見て効果があるかの確認となった。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

兄弟二人の重ねがけにより、激しい炎の柱が天井まで焼き尽くす。

だが、肝心のレイスは生き残ったらしい。

 

少しの間影のような体が若干薄くなっていたが、すぐに濃さを取り戻した。どうやらフレイムインフェルノでは効果が薄いみたいだ。

 

 

「ボオオオオォォ!」

 

「魔法が来るぞ!」

 

 

杖を掲げたレイスの姿を見て、恭二が叫んだ。

レイスが壊れかけて止まりそうなテープの音のような薄気味悪い声をあげると、身構える俺達の足の下から体全体を覆うように赤黒い炎が襲いかかってくる。

 

だが、体が焼かれる前に薄い膜のような物が体を包んで炎を散らした。

アンチマジック様々だ。

 

 

「ヒール!」

 

 

炎を散らした後、直ぐ様恭二がレイスに向かってヒールを唱えた。

 

 

「ゴッ!」

 

 

恭二のヒールに包まれたレイスはかなり嫌そうに身体をよじっているように見える。

成る程、やはり回復魔法は嫌か。

 

 

「ならこれだ。キュア!」

 

 

恭二の詠唱に合わせて、レイスの身体の中心あたりから、激しく白い光がわき上がった。

よし、明らかに苦しんでいる。やはり回復魔法はレイスに効果があるらしい。

 

 

「光属性か聖属性が特攻って事かな?試してみるね!サンダーボルトいっきまーす!」

 

 

一花の掛け声に合わせて稲光がレイスに襲いかかる。

キュアの一撃にのたうっていたレイスは稲光の直撃を受け、悲鳴すらあげずに紫色の粒子になって霧散し、ドロップ品の杖だけがころん、と音をたてて転がっていた。

 

 

 

「さて。初めて見るタイプのドロップ品だな」

 

「鍵・・・でしょうか?」

 

 

真一さんが拾い上げたドロップ品を眺めながらシャーロットさんがそう言った。

青緑色・・・青銅かな?の鍵がレイスの杖の下にあったのを恭二が見つけたらしい。

 

 

「鍵があるって事はどっかに使えるって事だよね!」

 

「順当に行けば扉の鍵か宝の鍵かな?」

 

「宝箱だったら良いなー」

 

 

沙織ちゃんの希望に添えるかは分からないが、家捜しと行こうか。

ボス部屋を探索すると、普段は次の階層に繋がる道がある辺りに扉があった。

 

そこを開けてみると更に二つ扉があり、右手の扉に鍵穴がある。

念のため正面を確認すると、下層への階段がある。

 

 

「ここだな」

 

「私開けてみたい!」

 

「良いけど折るなよ?って!」

 

 

沙織ちゃんが恭二から鍵を受け取り鍵穴に今拾った鍵を差し込んで回す。

あと、その際に恭二にヒジ打ちをしていたがどう見ても恭二が悪い。デリカシー無さすぎだろ。

 

 

「あ、開いたよ!」

 

「沙織ちゃん、気をつけて開けてくれ」

 

 

真一さんが武器を構えて警戒している。沙織ちゃんも慎重にドアを少し開いて様子を伺っている。

そこには、ボス部屋の四分の一程度の小部屋があった。

中には薄く光る水晶球が置かれた台と、側に置かれた小さな箱。

 

 

「マジで宝箱だ」

 

「開けるの誰がやる?私は嫌!」

 

「宝箱には罠って相場だしな。よし一郎!」

 

「俺ぇ!?」

 

 

手を伸ばせないかと言われたのでやってみる。できた。

うわぁ、ダルシムみたい。

 

 

「というより甲賀忍法帖の小豆蠟斎じゃないかな?」

 

「知らねぇよ!」

 

「イチローさんはニンジャだった?」

 

 

これ以上属性は要りません。

とはいえ俺が一番安全なのも確かだし、ここは覚悟を決めよう。

壁の隅の方に全員で盾の壁をつくり、さらにアンチマジックとバリアーも重ねがけする。

そして一番端の方から、俺が右手を伸ばして箱に手を伸ばす

 

・・・・・・よし、開けたぞ。

盾を構えたまま箱に近づくと、中には羊皮紙が二枚と、今まで見たことのないようなデザインの金貨が五枚入っていた。

 

 

「お宝・・・?」

 

「金ならお宝だろうが5枚じゃなあ」

 

「まぁ何かにつかえるかもしれんし、恭二収納しといてくれ」

 

「了解」

 

 

金貨を恭二に渡し、羊皮紙を眺めているシャーロットさんに目を向ける。

シャーロットさんは紙を色々な角度から眺めていたが、こちらの視線に気付くとお手上げとばかりに肩をすくめた。

 

 

「見たこともない文字です。専門家ではないんでそれ以上はわかりませんね」

 

「俺達じゃ判断出来ないな。恭二」

 

「はいはい」

 

 

羊皮紙も恭二の収納送りにして。さて、後はこの水晶玉だけだな。

 

 

「台座から取り外せるのかな?ってやばっ!」

 

 

真一さんが慎重に水晶玉に手を触れた瞬間に真っ白な発光が起こり、足元に青白く輝く魔法陣が出現する。

そして魔法陣は強く輝いた後に、ふわりと消えていった。

 

 

「罠は不発か?」

 

「いやー、これ罠じゃないのかもね」

 

 

周囲を見渡しながら一花がそう言って、壁を触っている。

 

 

「やっぱり、さっきと壁の材質が違うよ」

 

「まさか、ワープの罠か!?」

 

「わかんないけど、多分転移室じゃないかな?外見てみようよ!」

 

 

一花に促されるように外に出ると、そこは見覚えのある場所だった。

どこかの階層の階段前。見覚えがあると言うことは9層までのどこかだろう。

もしさっきの部屋が転送室なら少し戻れば恐らく・・・

 

 

「やっぱりここ、1層だ」

 

 

何度も見た1層のボス部屋に俺達は戻ってきていた。

 

 




下原沙織:グールの気持ち悪さに暫く意気消沈。ゾンビ映画を見れば耐性がつくよ!と一花に騙され後日涙目で一花に詰め寄った。

シャーロット・オガワ:沙織と一緒にゾンビ映画を鑑賞。こちらは本当に耐性がついた模様。むしろゾンビが出なかったことに少し残念な気持ちを抱いている。

スパイダーマン:動画の閲覧回数がエグい事になっている模様。また、一郎から許可が降りた為正式にスパイダーマンのバリエーションの1人扱いとなり更に熱は加速する事になる。


CCN:シャーロットさんからスパイダーマン公式化と言われ何を言っているのかわからず問い合わせるとマジだったので泡を食ってホームページに特設コーナーを立ち上げる。

藤島さん:沙織ちゃんが普通に大剣を構えていた所を目撃し少し敗北感を味わう。

ニールズ大佐:孫にスパイダーマンからビデオレターを送り彼との仲の良さアピールに成功。今度は直接会いたいと言われ真顔になる。


鈴木一花:沙織の泡を食う姿がかわいい。


山岸真一:この転送室、ヤバいんじゃないかと思案中


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第二十一話~第二十四話

4話統合。

誤字修正。ハクオロ様、244様、仔犬様ありがとうございます!


第二十一話

 

 

「これアカンくね?」

 

「アカンね」

 

「かなり不味いな。公表できんぞ」

 

 

俺と一花の呟きに真一さんが頷いた。

俺達としては正直助かる機能だ。一々1層から降りていかなくて済むのだから。

ただ、手軽に10層に行けることが良いことだとは思えない。

余り深く考えない俺でももしそんな事が公表されたら面倒くさいことになると分かるのだ。

社会人のシャーロットさんや大学生の真一さんならもっと深い所まで予想出来ているだろう。

 

 

「ええと、不味い、と言いますと?」

 

「シャーロットさんって所々残念だね?」

 

「ざんね・・・残念です?」

 

 

こちらに振られても困るけどちょっとこけそうになりましたよ。

 

 

「欧米って確か報道は表現者責任だよね?この転送室の存在を一般の人が知ったらどう考えてどう行動すると思うか本当にわからないの?」

 

「いや、そこが日本と欧米の違いだよ。報道した内容の取捨選択を個人が行う欧米と違って、日本は報道側に非難を集中させて責任を負わせる事が多い。本来は欧米のように読者や視聴者が取捨選択をして真実を見極めるべきなんだ」

 

 

真一さんはそこで一度言葉を切る。

 

 

「シャーロットさん、貴女達CCNの報道によってダンジョンの情報は世界中を飛び交っている。いずれ俺達のようにダンジョンに挑戦する人物も現れるだろう。それは良い。その人物は俺達のように準備を進め、情報を集め、そして1層1層攻略をするだろう。それなら良いんだ」

 

「でもそんな時にこのショートカットの存在を知っていたら、どうなるかな?1層や2層で自信をつけて、軽い気持ちで10層にショートカット!絶対居るよね。そんな迷惑な馬鹿」

 

 

真一さんの言葉を一花が引き継ぐ。

シャーロットさんは真一さん達の言葉を聞きながら、徐々に顔を青ざめていく。

これは日本でも欧米でも起こりえる事態だ。どんな所にだって馬鹿なことをやらかす人間は居るし、それで迷惑を被る人間もいる。

 

 

「で、そんな馬鹿な真似をした奴の家族はさ。口をそろえて私達にこういうんだよ。人殺しって!」

 

「勿論そうはならない可能性もあるが、見えている地雷をわざわざ踏みに行く必要はない。特ダネを一つ潰してしまう形になるのは悪いと思うが・・・俺たちは自分の安全を重視するべきだ」

 

「いえ・・・当然の危惧だと思います。最初にリスクを考えるべきでした」

 

 

すみません、とシャーロットさんが頭を下げてカメラを真一さんに手渡した。

カメラを真一さんが受け取ると、シャーロットさんは深く息を吸って、吐き出す。

 

 

「中に入っているSDをお預けします。この情報に関するデータは全て真一さんに判断を任せます」

 

「ありがとうございます。データは確かにお預かりしました」

 

 

SDカードを抜き出して真一さんがそう答えると、場の空気が穏やかになる。

無事収まって良かった。折角ここまで一緒に来たんだからトラブルの芽は早めに摘むべきだよな。

そのまま俺達は山岸家に戻り、今日の結果を山岸さんに報告。

不味い情報についても一度伝えると、山岸さんも情報の秘匿に賛成してくれた。

 

 

「今のうちは殆ど義捐金で賄われているからな。世間様を敵に回せば首も回らなくなる。今度こそ全てを失っちまうぞ」

 

 

浸食の口(ゲート)の出現で家職を失い、息子までも失いかけた人の言葉は重いな。

俺達が何も言えずにいると湿っぽくなった場を察したのか、山岸さんがいつもの調子で「いつになったらダンジョンに行けるんだ」と真一さんに絡み始める。

この人には本当にお世話になってる。いつか山岸さんにも暇が出来たら一緒にダンジョンに潜りたいな。

 

 

 

一先ずその日は解散となり、明日また今後の対処について話すので集まろうという事になった。

そのまま俺はトランスフォームを使い大学生風の優男に変身して一花と家に帰る。

 

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「今ならアメリカに逃げられるよ?家族一緒で」

 

「冗談」

 

「冗談じゃないよ。多分、今日みたいな事はいつか必ず起こる。今日はシャーロットさんが相手だから何とかなった。でも次が大丈夫なんてわからない。今ならヒーローのままアメリカで暮らせるよ!ダンジョンの専門家はどこでも需要があるし、なんならユーチューバーになっても良いし!」

 

 

足を止めて一花を見る。

テンションの高い話し方はいつものままだが、一花はニコリともせずまっすぐこちらの瞳を見つめていた。

下手な言葉で誤魔化そうとして、口が止まる。瞬き一つしない一花の瞳は、俺じゃあ誤魔化せそうにない。

だから、思っていることだけを口にしようと決めた。

 

 

「恭二を見捨てられん」

 

「他人じゃん。ただの友達でしょ?」

 

「あの時俺はあいつを助けられなかった」

 

「それって、浸食の口(ゲート)の時?お兄ちゃんだって大怪我したじゃん!助けようとして!その右手はもう昔のものじゃないんだよ!?」

 

「そうだ。もう昔の俺じゃない。次は助けるって決めたんだ。俺くらいは傍に居てやるって。あの時決めたんだ」

 

 

今でも脳裏にずっとこびりついている。全身をガラスで串刺しにされた恭二の姿が。

うわ言みたいにぶつぶつと唇を動かしていたあいつの姿が。

あの時、俺は間に合わなかった。ドジこいて右腕まで失った。

せめて最後くらいは看取ってやろうとして、それも出来なかった。

あいつは自力で助かった。俺なんてあの時あの場に必要じゃなかった。

それが堪らなく悔しかった。

 

 

「それは、さお姉や真一さんじゃ駄目なの?」

 

「駄目だ」

 

「人殺しって石を投げられるかもしれないよ?」

 

「構わない」

 

「家族に・・・家族が、槍玉にあげられるかもしれないよ?」

 

「・・・俺が迷惑だと感じたら、縁を」

 

「それ以上言ったら絶対許さない!」

 

 

言葉を言い切る前に一花の叫びに止められる。

 

 

「・・・・・・すまん」

 

 

ただ謝るしかできない俺を、一花はじっと見つめていた。

数分、そのまま二人で立ち尽くしていると、一花は深く息を吸って、ため息をつく。

 

 

「・・・いいよ。お兄ちゃんお馬鹿だもん。私が、一杯考えるのはいつもの事だから」

 

「すまん。迷惑をかける」

 

「馬鹿!そこはありがとうって言ってよ!・・・兄妹じゃん」

 

 

抱きついてきた一花を抱きしめる。

その日は久しぶりに一花と手をつないで家に帰った。

 

 

 

「CCNを辞めてきました!今日からよろしくお願いします!」

 

「うわーそうきたかー」

 

 

朝。山岸さんの家に行くと開口一番にシャーロットさんがそう言ってきた。

何でも、山岸さん家に出資をして役員として雇用されたらしい。

昨日あの後何があったのか、目線で恭二に問うと肩をすくめて「俺しーらね」と返してくる。使えない奴だ!

その様子を見て何が言いたいのかを察したのか、シャーロットさんが笑顔で事情を話した。

 

 

「あのままでは私は企業人とチームの一員、二つの立場に板ばさみになってしまうと考えました。そしてそんな状態の人間を信用する事も信頼する事も難しい。きっとどこかで壁を作ってしまうでしょう」

 

 

だからすっぱり辞めて来ました、とシャーロットさんは笑う。

彼女にとってここでの生活はすでにCCNでの立場より高い位置にあるらしい。

そして、彼女の決断に山岸さんが答えた、というのがこの状況らしい。

 

 

「貴方の存在も、大きいです」

 

「へ?」

 

「きっと貴方と恭二さんは、これから世界を大きく変える事になる。それを間近で見れる機会を棒に振るなんてありえない」

 

「・・・・・・おい、言われてるぞ恭二」

 

「お前もだよ!押し付けんじゃねぇ!」

 

「あはははははは!」

 

 

俺と恭二の掛け合いにシャーロットさんが笑う。

そうだよな。仲間ってのはこうでなくちゃいけない。

脇で毒気を抜かれている一花の頭に手をやる。

 

 

「もうちょっと頑張ってみようぜ?」

 

「・・・・・・皆バカばっか」

 

 

俺の言葉に、一花は苦笑を浮かべてそう答えた。

 

 

 

第二十二話

 

 

取り合えず言える事はシャーロットさんぐう有能。

法人山岸に参加した彼女はまず今まで所属していたCCNとフリーのキャスターとして契約を結びニュースソースとデータの保護を得た。

更に同僚だったジャンさん達3人のエディターやエンジニアを引き抜いて、ダンジョンに潜っているときに収録しているヘルメットに装着したアクションカムの映像の編集とそのデータのCCNジャパンへの送信を担当させる。

この3名は更に俺のコピーヒーロー動画の作成も担当している。スパイダーマンの動画は全世界有数の再生数を誇っているが他のコピーヒーロー動画も負けては居ない。

 

一花から去年アニメでやっていた寄生獣の主人公を撮ってみたら?と言われたので試してみると、元の顔立ちが近かったのか結構な再現率だったのでこれで行こうと決定。

動画を撮る際にミギーは喋れないのかとジャンさんに言われたので音声器官をつけようとして見たがこれは出来ず、しょうがないので声優に依頼をして口パクに合わせて声を充ててもらいBGMなどの許諾も得て使用。

その際に制作会社の方に話が流れたのかわざわざ奥多摩まで来て「実写化と聞いて」と言われ困惑する羽目になる。

 

 

「ちょっとこっちでお話ししようねおじさん!」

 

 

一花がシャーロットさんを交えて話し合いを行い、あくまでもファンが主人公とミギーを再現するだけの動画である事を確認。

実写化する予定の映画を宣伝してもらえないかと依頼されたためシャーロットさんが後日先方と話を詰める事になったようだ。

折角来てもらったのでミギーに変形させて挨拶をすると是非映画のスタントを、と言われた為丁重にお断りをさせてもらう。

あんまり長期間奥多摩を離れるのはな。

 

それでも諦め切れなかったらしい制作会社の方から後日連絡があり、ロケバスを連れて撮影陣が奥多摩にくる事になる。

一部の撮影の為だけにここに来るって良いんですか?

あ、監督が是非と。そうですか・・・

 

山岸さん家経由でスタントマンとして契約し、そのまま数週間撮影陣は野外での撮影をして帰っていった。

俳優の人とかも結構年が近くて仲良くなれた何名かとはLINEも交換してある。

ただ、女性陣が殆ど真一さんに目線が行っていたのは悔しい所である。

撮影時間以外はダンジョンに潜っていたりしたのだが、一度うっかりスパイダーマンの格好のまま撮影現場に行って騒ぎを起こしてしまった事もあった。

 

 

「一郎くん頼む、あれ見せてくれ。建物から建物に糸で繋いで移動する奴」

 

「あれ高い建物がないと出来ないんですよねぇ」

 

 

代案で樹から樹へと糸を繋ぎ、後は軽量化とストレングスで引っ張って体を飛ばしてみた。

NGシーンやDVD特典等に使って良いかと言われたがアメリカの方に聞いてみてくださいと答えておく。

これは後日の話だが本当に許可を取って映画のラストにNGシーンとして放映。

撮影陣に元気に「おはようございます!」と挨拶をするスパイダーマンという謎過ぎる映像とその後の移動シーンが好評を得たらしくDVDの売れ行きが凄い事になったらしい。

前後編に分かれた作りらしいので、また今度撮影に来るらしい。

 

 

「店を開きてぇなぁ・・・」

 

「再建頑張りましょう社長」

 

 

人が大量に増えたのにまだコンビニ再建中の山岸さんは、折角の商機をふいにしてしまいブルーな表情を浮かべている。

次の撮影までには店も直っているそうなので早く元気になって欲しいものだ。

それと、今回の契約の際に俺は正式に山岸さん家の社員として登録されることになった。

家族とも相談し、もうまともに学校に通うことは出来なさそうなので学校は正式に退学。

通信制の学校に編入して高卒資格を目指している。

 

 

 

そんな日々を過ごしていたある日、いきなりシャーロットさんから呼び出しを受けた。

両親と一花も一緒に急いできてくれという内容に何事かと慌てて山岸さん家に駆けつけると、そこには久しぶりに見る下原さん家のご両親と他のメンバー全員が揃っている。

これはただ事じゃないぞ、と感じていると、父親が口火を切った。

 

 

「山岸さん、下原さん。ご無沙汰しております。いつも倅と娘がお世話になっているのに挨拶が遅れて申し訳ない」

 

「鈴木さん、こちらこそご無沙汰しております」

 

「鈴木さん、ご無沙汰しております。本日は・・・」

 

 

親父達が一通り挨拶を述べると、視線がシャーロットさんに向く。

頃合と見たシャーロットさんは一同を座らせてから話し始めた。

 

 

「そろいましたね……では先ほど米軍から私に入った電話の内容をお話しします・・・まずこのお話には時間限定の守秘義務があります。事態の解決までの間、ここで聞いた話は一切口外無用でお願いします。お約束いただける方だけ残ってください……」

 

シャーロットさんがそう言って周囲を見渡す。誰も立ち上がるものは居ない。

 

 

「カリフォルニアの太平洋夏時間22時過ぎ、カリフォルニア州ビッグベアーの西にあるバトラーピークに出現したダンジョンを捜索中だった、フォートアーウィン基地で編成されたタスクチームが消息を絶ちました。現地上層部及び合衆国政府は合衆国単独での解決は不可能と判断。他国人ではありますが山岸家所属の冒険者チームに探索依頼が出されました。この依頼はホワイトハウスから出ています。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「それはつまり、合衆国大統領からの依頼という事で良いんですか?」

 

「その通りです」

 

真一さんの問いかけにシャーロットさんが返答する。

合衆国大統領という名前が出た段階で親父達の顔は青を通り越して真っ白になっている。

現在の山岸さん家が世界的に有名なのは知っていただろうが飛び出してきた名前がビッグネームすぎるからな。

むしろ母さん達の方が平然としているのはちょっと意外だった。

 

 

「確かキョウジ以外は皆パスポートを持っていたわね?」

 

「うん。私とお兄ちゃんは今度アメリカに渡る予定だったから一緒に用意してるよ!」

 

 

スパイダーマンの件で是非一度アメリカに来て欲しいと懇願されており、一応パスポートだけは用意してある。

まさか最初に使うのがこんな事態になるとは思わなかったが。

 

 

「現時点で可能な限り速く決断し、超法規措置を用いてでも招きたい、という政治判断が下されています。もちろん、我々が出動を決めた場合、ですが。横田基地から特別機に乗りグアムの基地で乗り換え、カリフォルニアに向かう空路を設定されています。どうしますか? この依頼、受けますか? 受ける場合はひとつ問題があります」

 

「そのメンバーの大半が未成年で学生だという事ですね」

 

「そうです。年齢的にイチカちゃんは最初から除外させていますが問題は残り3名。いえ、最近退学したイチローは別として残り2名の事になります」

 

 

そう言ってシャーロットさんは恭二と沙織ちゃんを見る。

 

 

「なら俺も退学する」

 

「私もそれでいいよ」

 

 

恭二と沙織ちゃんが揃って頷いた所で一花が「私も行きたい!」と騒ぎ出したがそれは母さんが物理的に黙らせた。

沙織ちゃんはそのまま山岸家に正社員として雇われることにするらしい。

 

 

「父さん。俺行くよ」

 

「・・・わかった。もう止めん」

 

 

黙って話を聞いていた父さんにそう告げると、険しい表情のまま父さんは頷いた。

各自の保護者を1人連れて行かないといけないとシャーロットさんが話すと、真一さん、下原のおばさん、母さんがそれぞれついて来てくれるそうだ。

 

 

「では、全員この書類にサインをお願いします」

 

 

シャーロットさんが一枚一枚英文の内容を説明し、守秘義務同意書、契約書など数枚の書類に全員でサインをする。

この場に居た人間全てが書類にサインをすると、表で待っていた横田基地からの迎えの車に一同乗り込んだ。

三度目の来訪であるが、まさかこんな事態になるとはな。

タスクチームの面々が無事であると良いんだが。

 

 

 

第二十三話

 

 

初海外上陸はグァムだった。

と言っても数分だけだったが。一度観光で来てみたいと思ってたんだが、まさか乗り継ぎで通り過ぎるだけになるとは思わなかった。

そして十数時間後に俺たちは目的のカリフォルニアの空軍基地に到着。

ここで母さん達保護者組はゲストハウスに行き、俺たちは軍用ヘリに乗って現地へ急行することになった。

 

移動の際、機内で状況は説明されている。

ダンジョン探索のために集められた選抜の一個小隊36人が、第一層で待機した通信兵と指揮官を除き、現在死傷、行方不明、連絡不能。

最後の連絡は第7層での物で、通信は各フロアに置かれた無線機による中継で行われていた。

10人程度の分隊が3。

消息を絶った分隊は先行の分隊で、残りの分隊は先行分隊の救援に向かいそのまま音信不通になったそうだ。

 

 

「オークとオークジェネラル?」

 

 

先行隊が撮影した映像には見慣れたオークとオークジェネラルの姿が映っている。

ここに行くまでの映像も確認したが内部的にはほとんど奥多摩のダンジョンと変わりないようだ。

現場には救援用の物資が山積みされており、これらを恭二の収納に入れる。

付いて来る人員は兵士2名に通信兵1名。全員がしっかりと武装している。

 

今回は速度重視のため、俺はすでにスパイダーマンに変身している。

ネットでモンスターの出入りする入り口を塞いで最短距離を疾走するという計画だ。

 

 

『スパイディ、貴方と共闘できるなんて夢のようだ。こんな状況で無ければどれほど良かったか・・・』

 

『心中、お察しします。出来る限りの努力はしますよ』

 

 

現場指揮官が俺の姿を見て握手を求めてくる。

青白かった顔色に僅かに血の気が戻ってきたように感じる。俺の虚名も役に立つ所はあるらしい。

そのまま俺達は急ぎ足で出発した。先頭は俺と恭二と重火器を持った兵士だ。

俺が進入口を塞ぎ、兵士二人が重火器で敵を殲滅。

手が足りない所を恭二の魔法が焼き尽くし、俺達は過去最速のスピードで6層まで踏破した。

 

七層に入った俺たちが真っ先にしなければならないことは、通信兵による状況確認だ。

これをしなければ最悪、俺たちは友軍誤射の的になりかねない。

重火器の火力は目にしたからな。あれは流石に食らいたくない。

通信兵が齎した情報は悲惨の一言だった。

8名死亡。10名負傷。無事な兵士は12名だが弾薬も心もとない。すぐさま救援が必要な状況だった。

 

 

「モンスタートレイン・・・・・・」

 

 

通信兵の聞きだす情報に耳を傾けながらシャーロットさんが暗い表情で呟いた。

モンスターを倒しきれない内に新しいモンスターが襲い掛かってくる事を指すのだが、これが起こるとかなり高い確率で戦線が崩壊してしまう。

この階層の敵はオークとオークジェネラル。接近を許してしまえばほぼ一撃で倒されかねない奴らだ。

恐らくM4等の重火器でも奴らを倒しきれず、また重火器の音を目印にモンスターが集まってしまったのだろう。

 

このダンジョンのモンスターはリポップする。倒しても倒してもまた出てくるのだ。

殲滅速度よりもその速度が速くなってしまえば、結果はこうなってしまう。

 

 

「現在地はボス部屋の手前です。残存戦力と・・・遺体及び負傷者も全てそこに集まっています」

 

「恭二、先行するぞ。多分俺とお前二人で走った方が速い」

 

「了解」

 

 

軽量化の魔法を唱えて恭二が槍を抜く。

 

 

「真一さん、道中の通路はネットで塞ぎますが」

 

「分かってる。出来るだけ急いで行くから撃ち漏らしててもいいぞ」

 

 

3名の兵士を見ながらそう言うと、真一さんは頷いて後を請け負ってくれた。

他の面子なら兎も角この3名に俺と恭二の高速移動に着いて来させるのは不可能だろう。

退路の確保的な意味でも真一さん達が後詰をしてくれるのはありがたい。

俺と恭二は高速のまま通路に飛び込む。その際、通信兵が背後で何事かを叫んでいたが聞こえなかった。

 

 

 

散発的な銃声がボス部屋のほうから聞こえる。

誤射を避けるために手前で大声を張り上げた。

 

 

『発砲を止めてくれ!助けにきたぞ!』

 

 

念のためバリアーを発動して部屋に飛び込む。

オークは12体か。今まさに1人に大剣を振り下ろそうとしたオークをウェブシューターで邪魔して蹴り倒す。

 

 

「恭二!」

 

「了解。フレイムインフェルノ!」

 

 

恭二の魔法に4~5対のオークとオークジェネラルが纏めて焼き払われる。

分散してるせいで一気に殲滅とはいかんか。

俺は通路の一つをネットで封鎖して後続のオークたちを邪魔すると、分かれたオークにウェブシューターを当てて動けなくした後に殴り倒す。

最近、打撃でもオークを倒せるようになってきた。着々と人外になっている気がする・・・

程なく恭二の魔法で残りのオークも殲滅できた。

 

 

「恭二、回復魔法を!」

 

「分かってる。えーと、エリアヒール!」

 

 

周囲を白い光が包み、負傷していた面々の顔に血の気が戻ってくる。

だが、一部重傷の人にはそれだけでは足りなかったらしい。

内臓が出てる人もいる・・・よく生きていたな。

 

 

「キュア!」

 

 

重傷の人には恭二が重ねがけでキュアを唱えている。

 

 

『遺体用の袋とストレッチャーを用意しました。重傷のけが人は恭二に。まだ少しふらつく人は俺に言ってください。新しい銃も弾倉も充分補給があります』

 

 

俺は無事だった兵士達や、治療を受けて起き上がってきた人たちにそう話しかける。

ふらつく人たちにはウェブシューターにネットの代わりにヒールを装填して発射。

最初は驚かれたが糸状のヒールが継続的に発動しているのを見て納得してくれた。

体力の回復も出来るから、消耗したときには良いんだ。このウェブヒール。

 

真一さん達が合流したのはちょうどこの位の事だった。

現場の惨状を見て、沙織ちゃんが意識を失う。

シャーロットさんが咄嗟に助けて事なきを得たが・・・・・・

無事だった兵士達と復帰した兵士達は、仲間の遺体を袋につめてストレッチャーに載せていた。

 

真一さんたちは邪魔が入らないように周囲を警戒している。

俺もモンスターが入り込まないようにネットを維持しつつ、周辺警戒を行っていた。

恭二は残された物品を兵士の人に記録してもらいながら収納している。

そして、治療と物品の回収が終わった後、恭二は暗い顔でストレッチャーに触れていく。

収納して、回収するためだ。

 

 

「これは『モノ』だ」

 

 

一言だけ最初に呟いて、恭二はどんどんストレッチャーを回収していく。

俺達はその光景を、黙って見つめていた。

 

 

 

第二十四話

 

 

『お会いできて光栄だよ、スパイディ。私も貴方のファンなんだ』

 

『こちらこそ、お会いできて光栄です。大統領閣下』

 

 

にこやかに笑う大統領と握手を交わす。

シャッター音とフラッシュが周囲を埋め尽くしている。

他の4人はそれぞれが礼服を着ている中、俺だけスパイダーマンの格好をしていて目立ちまくってる。

あのダンジョンアタックの翌日。俺達はホワイトハウスで大統領と会っていた。

 

 

 

時間は昨日に遡る。

俺達は無事救出できた米軍兵士22人を伴ってダンジョンから撤退を開始しようとしていた。

気絶していた沙織ちゃんの手当てを恭二に任せて、俺と真一さんは先頭に立って道を切り開く。

帰り道は特に大きな問題もなく脱出は完了した。

 

地上に帰り着いた俺達はすぐさま彼らの基地にヘリで移動する事になった。

帰り着いてすぐに恭二が収納から遺体を乗せたストレッチャーを出し、引き渡す。

それが終わるとすぐに俺達はシャワーを借りた。

どんなに洗っても血の匂いがこびり付いたままだった。

 

そしてそれが終わった後に俺達は緑の芝生がある、アメリカ国旗と陸軍旗のはためく公園みたいな場所に案内された。

基地の兵士達が総出で整列している。俺達の姿を見ると、全員が一斉に敬礼してくれた。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

恭二が一言、日本語で謝っていた。

やめてくれよ。泣きそうになるだろうが。

日本に帰りたいと心から思った。

 

 

「すみません皆さん、このあと、ワシントンDCに行かねばなりません」

 

「勘弁してくださいよ・・・」

 

「ごめんなさい。大統領がお会いしたいと・・・・・・」

 

 

申し訳無さそうなシャーロットさんの言葉に俺達は互いの目を見合わせた。

そしてホワイトハウスまで、俺達はチャーター便で直行することになった。

家族揃って初めてのワシントンDCである。まさかここに来る事になるとは思わなかった。

 

そして、場面は冒頭に戻る。

といってもこの後は大統領直々に「陸軍名誉勲章」とやらをいただいて、わざわざ開いて貰ったパーティーで一生縁がなさそうな偉そうな人達と緊張しながら話をしただけだ。

正直何の話をしたのかもよく覚えてない。

 

帰りはまたチャーター機を使って横田基地まで飛んだ。横田基地でも、大佐以下兵隊さんがずらっと並んで敬礼をしてきて非常に困る羽目になった。

尚、超法規的な措置をとって出入国をしたため日本側はアメリカ政府からの通達により俺達の出国を知り、後日俺達は旭日単光章という勲章を授与される事になったがこれは先の話。

アメリカ側への配慮と言う形で晴れてお咎めなしの身分になった俺達は、無事奥多摩に戻ることが出来たのだ。

 

 

 

アメリカから帰った恭二と沙織ちゃんを待ち受けていたのは退学手続きと会社登記の改定、不動産購入などの事務仕事だった。

ひーひー言いながら慣れない書類に四苦八苦する恭二達を尻目に、すでに通信制の学校に席を移していた俺は空いた時間を使って山岸さん他、下原家、鈴木家の保護者達をダンジョンに連れて行った。

引率役として真一さんと俺と一花、そして真一さんの剣道の師匠である安藤さんにお願いしてきてもらっている。

安藤さん自体はゴブリン相手なら無双できていたのを確認していたため、足りないメンバーの代わりという事で急遽来てもらった形になる。

 

 

「前々から真一にお願いしてたんで僕としては嬉しい限りですがね」

 

 

そう言って笑う安藤先生の手には藤島さん作の数打ちの刀が握られている。

安藤先生は週何度かの剣道教室の為に奥多摩まで通っており、都合が合うときに刀の扱いを相談していたため、最早真一さんの、というより俺達にとっての剣の師匠になるんだろう。

対モンスター用の剣術についても考えてもらっており、最早俺達の仲間の一員と言っても過言ではない。

 

さて、常日ごろからダンジョンにいきたいを口癖にしていた山岸さんは兎も角、他の家族をダンジョンに連れて行くのはどういう事かと言うと。

先日総理にお願いして立ち上げたダンジョン諮問委員会の存在がまず前提として出てくる。

このダンジョン諮問委員会はこれからのダンジョン探索者・・・つまり冒険者達の存在をどう認識するのか。

つまり、新たな職業としてこれらが広まるのかや、警察、自治体、刀剣商や刀匠といった各分野の専門家達が、「どうすれば現代社会において冒険者という商売が興ったとき対応できるのか」といったことを真剣に議論し、対策を打つ事を目的に設立された。

 

先日のアメリカでの出来事は、正直俺達にとってかなり重い出来事だった。

あの時倒れてしまった沙織ちゃんは勿論、女性のシャーロットさん、恭二や真一さんと言った比較的精神的にタフな人間でもトラウマを抱えてしまっていたのだ。

現在、彼らはトラウマの専門家に話を聞いてもらったり診断をしてもらったりして回復に努めている。

俺は・・・・・・元々猟師になる可能性があったから、生き死に対しては多少心構えが出来ていたらしい。

カウンセラーの方にすでに立ち直りつつあると言われた時は、もしかして俺は情のない人間なのかと少し自分に疑問を覚えてしまったほどだ。

 

少し話がそれた。

 

兎に角、ダンジョン専門の委員会が設立し、話し合われた内容の一つを検証するために俺達は今ダンジョンに潜ろうとしている。

 

 

「山岸さん、体力テストお疲れ様でした」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「山岸さん、ちと運動不足ですなぁ」

 

 

数キロを走り終わった山岸さんにそっと酸素ボンベを渡す。爺ちゃん、あんたは例外だからな。

万全を期すために一度に連れて行く人数は最大二人までとし、最初の組は山岸さんとうちの爺さんを連れて行くことになっている。

目標は5階までの踏破。

この冒険が終わった後にもう一度体力検査を行い、ダンジョンが齎す人体への効果を検証する。

それが今日の目的だ。

 

 

「はい、おじさん。念のためにおじいちゃんもヒール!」

 

 

一花が二人に手をかざしてヒールを発動する。

二つの対象に魔法をかける技術を恭二から教わっているらしく、最近では両手で魔法を使い分けることも出来てきているらしい。

こいつも結構器用な奴なんだよな。

 

体力を回復した山岸さんがバットを手に持ち胴体のみにプロテクターを着けてヘルメットを被る。

爺ちゃんはバットの変わりに猟銃を持っている。

爺ちゃんの猟銃も、米軍のように銃がダンジョン内でどのような効果を持つのかを調べるために持ち込みの許可を取った物だ。

着々と皆が前に進んでいる。それを実感しながら俺は先頭に立ってダンジョンに足を踏み入れた。

 

 




山岸恭二:学校を辞めて正式に山岸家正社員になる。今までは学校に吸われていた時間を全てダンジョンに傾けられると実は乗り気。国外では苦い経験を得て一つ成長した。

山岸真一:シャーロットさんがここまで思い切ったことをしてくるとは思わず困惑するも喜んだ。国外では苦い経験を得て一つ成長した。

下原沙織:正式に法人山岸の社員になる。最近は学校でも持て囃されていて面倒だと感じていた為実は渡りに船だった。国外では苦い経験を得て一つ成長した。

下原父:娘が危険な場所に行くことに反対したいがおねだりには勝てなかったよ・・・

下原母:この機に恭二を見事射止めなさいと沙織に発破をかける。

シャーロット・オガワ:安定した生活よりも波乱に満ちた人生を選ぶ。CCNとはフリーのエージェントとして契約しなおしヤマギシ家の広報担当に就任。

鈴木一郎:スパイダーマンの格好をして情けない姿は見せられないと自己暗示を繰り返している。

鈴木一花:山岸家及び鈴木家が排斥される可能性が露骨に見えたため逃亡を画策するも肝心の兄に却下される。ブルーな気分で山岸家に行くと自分よりよほど肝の据わったシャーロットさんに愕然。敗北感と安堵が入り混じった複雑な心境。

山岸さん:苦手な広報担当に見知った人がついてくれて大助かり。ダンジョンに行きたいという回数がやっぱり増えた。また、やっと念願かなってダンジョンに突入できるヤッター!と喜んだがでもその前に体力検査をしないといけなくなり顔面蒼白になった。


鈴木父:現在は観光業経営。猟師としての生業では子供を育てられないと山歩きの知識を使って野山の散策ツアーや狩猟体験ツアーなどを企画運営している。ダンジョンに潜る子供の話を聞きながら銃を持って一度潜ってみたいと思っていた。

鈴木母:息子が死に掛けた原因であるダンジョンに良い感情を抱いていないが、最近の一郎の面構えが若い頃の夫に似てきており最近は肯定し始めている。


大統領閣下:笑顔が素敵なナイスミドル。次の日から暫く、米国の新聞とニュース番組をスパイダーマンと握手をする大統領の姿が騒がせる事になる。

安藤さん:ゴブリンとの戦いを忘れないように日々鍛錬を積んでいる。人外の相手に対する戦闘方法を模索中。

鈴木爺ちゃん:魔物祓いの真似事を猟師の自分がすることになるとは思って居なかったと世の中の不思議を噛み締めている。


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第二十五話~第二十八話

このお話はフィクションです。
4話統合

誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございます


第二十五話

 

 

「オリャァ!」

 

「・・・・・・」

 

バァン!

 

 

山岸さんがバットでゴブリンを殴り飛ばし、じいちゃんが銃でメイジを撃つ。

遠近でバランスを取りながら二人は順調に階層を下っていた。

 

もちろんモンスターを倒して出てきた魔石やドロップは二人の取り分として俺がカバンに入れて預かっている。

といってもすぐに容量が一杯になったためこれも報告しないといけないだろう。

それと、ナイフや剣といった物を詰め込む必要がある以上防刃素材のバッグでないといけないので、これも報告が必要だな。

 

そのままオーガも処理をして戦闘終了。

大分二人ともこなれてきたのでボス部屋に突入する事になった。

ここは安藤さんも参加する。最初のうちは何度か手助けをしていたが、流石は山岸家の人間と言うべきか、山岸さんのセンスがかなり良くてすぐにストレングスとバリアーを覚えて一人立ちしたため、手持ちぶさたになっていたらしい。

真一さんが一度死にかけたという事もあり、一度オークとは戦ってみたいそうだ。

 

 

「事前にバリアーとアンチマジックは必ずかけ直してください」

 

「了解だ。バリアー!」

 

「一花、頼む」

 

「はーい!おじいちゃんも練習してね?」

 

 

まだアンチマジックは扱えない山岸さんと両方出来ないじいちゃんに一花が魔法をかける。

安藤さんは事前に二つとも覚えていたらしく自分でかけ直していた。

 

準備が整ったら突入だ。

安藤さんと山岸さんが手近のオーガに切り込み、じいちゃんがメイジを処理している。

役割分担が上手いこと機能してるな。

そして、安藤さんが早い。瞬く間にオーガを斬り倒してオークと相対している。

 

 

「グガアァァ!」

 

「・・・・・・ふっ」

 

 

安藤さんはオークのこん棒を半歩動いて避けると、こん棒を持つ手をまず切り飛ばした。

オークは怯まずに逆の手で殴りかかろうとするが、その前に刀で喉を裂かれて煙になった。

 

 

「お見事!いやぁ流石は先生、見事な太刀筋ですな」

 

「ありがとうございます。山岸さんもこの短期間で驚くほど上達されてましたね。剣道の経験が?」

 

「昔、学校で触った位ですねぇ」

 

 

山岸さんと安藤さんが話す傍ら、じいちゃんは腰を鳴らして柔軟を行っていた。

心なしかダンジョンに入る前より大分力強い動きだ。

 

 

「一郎、この後はまた体力検査だったな?」

 

「ああ。その予定」

 

「そうか」

 

 

そう言ってじいちゃんは銃を抱えて黙りこんだ。

帰りも特に問題なく山岸家にたどり着き、その後近くの広場を使って筋力の確認、マラソンによる持久力の確認を行ったのだが、結果は予期していた通りというか予想以上というか。

 

軒並み大幅な上昇を見せ、しかもじいちゃんに至っては健康な40代並の体力を取り戻している、という結果になった。

この後にダンジョンに潜った下原夫妻やうちの親父達も大体同じような結果になる。

それぞれダンジョンに入る前と入った後の身体能力の変化のデータと、下原のおばさんの提案で外見の変化も写真で残したところ、ほぼ若返りと言っても良い結果になった。

 

この事実を知った委員会はこの情報を一先ず箝口令を敷いて規制する。

下手に漏れると何の準備もなしに潜る人間が出かねないとの判断からだ。

以前のショートカットの存在と同じく、まだ早すぎる情報って事だな。母さん達のアンチエイジングっぷりを見たら間違いなくダンジョンに無謀な挑戦をする奴が出てくるだろう。

一先ず法律的にダンジョンへの立ち入りをどうするか。早くその辺りは決めとくべきだろう。

 

 

 

「銃は一定の効果をあげたという事でよろしいのですね?」

 

 

先日のじいちゃんの成果を報告した際に委員会でそう尋ねられた。

質問の相手は自衛隊の幹部の方で、軍事的な分野を担当している。

この人は先日米軍にもたらされた被害について最も熱心に尋ねてきて、自衛隊ならどうなるのかをシミュレーションしたり、冒険者という存在が軍事的にどのような役割を果たすのかを研究している。

 

 

「5階までは間違いなく有効と言えます。ですが、前提として訓練を施された人間しか扱えない、誤射の可能性、またどうしても威力の面において大規模な魔法に劣るなど、運用する場合の注意点は多くあります」

 

「銃が通用しないモンスターも存在するのですか?」

 

「はい。10階層のレイスは銃弾では倒せないでしょう。また、それより前の階層でも重火器では掃討しきれずにモンスターがリポップ・・・ええと、再度出現する速度が殲滅速度を上回った結果米軍が全滅しかけた事を考えると、銃器だけではダンジョンの深い階層には通用しないと考えられます」

 

 

その言葉に幹部の方は成る程と頷いて、手元のメモに何か書き始めた。

今回、じいちゃんは徹底して遠距離から敵の頭を狙ったり前衛の動きをサポートしたりと後衛の役割を全うしていた。

事前によく話していたからという事もあるだろうが、米軍の小銃でも倒しきれない相手を猟銃では仕留めきれないと判断していたのだと思う。

 

 

「では次の質問ですが、米軍から提供された装備について」

 

 

今度は日本の大手スポーツメーカーの方が手を上げる。

会議は数時間に渡って続けられた。

 

 

 

 

第二十六話

 

 

「第1回ヤマギシ会議を開催します!」

 

「わー!」

 

「どんどんぱふぱふー」

 

 

山岸さんの掛け声に沙織と一花が合いの手を入れる。

軽いノリで始まった経営会議に真一さんとシャーロットさんは苦笑している。

 

 

「まず、旧店舗の修復・改修は完了した。新店舗の用地は隣接区画の移転について政府がやってくれたんで円満解決。あとは建物の撤去とか整地とかだ。で、地上5階建てで地下二階のビルになる予定だ」

 

 

山岸さんがそう言うと、シャーロットさんが資料を配り始める。

一階を店舗、二階から上をオフィス、最上階を自宅にする予定。地下は倉庫と駐車場になるのか。

 

 

「コンビニのほうは、休業補償してるみんながまた来てくれる事になってる。後は真一と恭二と沙織ちゃんが抜ける分を募集しないとな」

 

「工費はどのくらいなんだ?」

 

「総工費は3億だ」

 

 

奥多摩ではそうそう聞かない金額に真一さんが苦笑を浮かべた。

 

 

「義援金のお陰で何とかな。ありがたい事だよ本当に」

 

 

そう言って山岸さんは感慨深そうにビルの資料を見る。

 

 

「ビルの2階と3階は賃貸に出す。日本とアメリカの政府筋の組織が入るそうだ。四階は全フロアウチの会社で使う。シャーロットさんの部署のために超高速回線を引いてある」

 

「ありがとうございます。どうしても普通のインターネット回線だと時間がかかるので。助かります」

 

 

シャーロットさんがそう言って頭を下げる。

政府筋ね。まぁ間違いなくダンジョン関係の組織なんだろうが。

 

 

「1階のコンビニの隣はラーメン屋さんが入ってくれる」

 

「そりゃありがたいっすね。近場に飲食店があるのは助かります」

 

「美味い店だと良いんだがな」

 

 

恭二と二人でまだ見ぬラーメン屋に思いを馳せる。

近場にあるラーメン屋というのは俺達健康的な十代男子には特別なものだ。ふと腹が減ったときに食べるラーメンは格別だからな。

 

 

「で、次の話なんだが。お前ら冒険者部門の方はどうなんだ?CCNからの情報料以外だと一郎の動画収入位だが、・・・あ、後こないだのスタント代金もか。採算は取れそうなのか?」

 

「現状だと厳しい。今の所動画収入が予想より多いから何とかなってるが、それが途絶えた時や更に部門の出費が増えてしまった場合は赤字になる可能性が高い」

 

 

現状、冒険者部門の収入はCCNから入ってくるお金や俺が当初から行っていた動画からの収入が主な物だ。これらのお金で装備の更新やスタッフの人件費を賄っているが、探索自体での収入はほぼ無いに等しい。

 

 

「ドロップ品に貴金属やらが含まれてれば一気に変わるんだがな」

 

「まぁ、少しずつ先に進めるしかないからね」

 

 

真一さんの言葉を一花が引き継いで答える。

現状10層までしか人類は到達していない。ここから何層下る事になるのかは分からないが、出てくるモンスターの傾向的にまだまだ続きそうな気はする。

 

 

「ここからダンジョンがどこまで続いていくかはわからないが、何か価値があるものが出れば冒険者の数は間違いなく急増する。そこまで行けば最先端に立つ俺達の経験と知識の価値は一気に上がる」

 

「後はやっぱり法整備の後だけど、ダンジョンに潜る時の護衛とか魔法のレクチャーとかは需要があると思うよ。やっぱりあのアンチエイジングは凄いから!叔父さんも10歳位若返った気がするって言ってたでしょ?」

 

「ああ。ダンジョンに潜るだけでも効果があるんだし、新しい健康法になり得るのか」

 

 

真一さんがこれからの展望を語り、一花が補足を入れる。最近の委員会等でもよく見る光景だ。

最近、委員会の会議に出る際は真一さんは代表として、その脇にはシャーロットさんと一花がつく事になっている。シャーロットさんの元キャスターとしての知識は当たり前として、一花のサブカル的な視点からの意見は意外と役に立つ事が多いらしい。

 

俺?置物というか、基本居るだけになってます。

実際戦ったとかの話なら俺か恭二にお鉢が回ってくるんだがな。後は魔法についての意見か。

 

 

「そういえば自衛隊も今後、迷宮捜索に入るんだっけ?」

 

「ああ。そう言えば委員会でも言われたっけ。人材教育のお願い。米軍は仕切り直しだっけ?」

 

「ああ。前回の失敗を踏まえ、暫くは再編成に充てるそうだ」

 

 

委員会に参加している自衛官の方からは、同行ないし人材育成の相談が来ている。

現状、米軍が失敗したため、ダンジョンの7層より下に潜れる人間は俺達しか居ない。

なら俺達にそこから先に対応出来る冒険者の育成を頼めば良い。という事だろう。

 

 

「事情は分かったし必要だとも思うが先に進みたい」

 

「お前なぁ」

 

 

恭二の本音に山岸さんが呆れたように声を上げる。

そんなん俺達皆そう思っとるわ。

実際、10層に到達してから数週間、軽く潜る以外は先に進めてないせいで皆フラストレーションが溜まっている。

その状態で余計な人材育成はやりたくない。

 

 

「頼んだぞスパイダーマン」

 

「いやいやここは魔法博士の出番でしょ」

 

「お前らいい加減にしろ。収入にもなるしこの仕事は受けとくからな!」

 

 

恭二と押し付け合いをしていたら山岸さんに叱られてしまった。お金は大事だからね。仕方ないね。

そしてこの一言で今日の議題は全て終了し、今日の会議はお開きとなった。

新人の育成は全体でやる事に決まってしまった。

全部貧乏が悪い。

 

 

 

 

第二十七話

 

 

俺達は現在、週に1、2度の割合で政府が立ち上げたダンジョン対策の委員会に顔を出している。

委員会のメンバーは各分野の専門家で構成されており、都合や新しい議題が出る度に小まめに増減を繰り返しているのだが、何故か俺達と相性の悪い分野という物がある。

この日もとある分野の専門家で、随分な態度の人が質問をしてきた。

 

 

「ダンジョンに潜るメリットは? 金をかけて時間をかけて人命までかけて、なにか得られるものはありましたか?」

 

「まず単純にダンジョンに入るだけで多少の体力の増強効果が見込めます。これは複数回、色々な分野の方に試して頂いてデータも取れています。またモンスターと実際に戦い、これを退治しますとこの体力増強効果が更にアップするという事も確認が取れています。手元の資料の内ダンジョン探索前・後で分かれている年代別のデータを詳しく読んで頂ければこれらは確認できると思います」

 

「たかが健康法でここまで大げさな委員会を作っているのですか」

 

 

お、こいつおかしいな。と思い他の委員の方を見ると他の方々も「なんだこいつ」といった目で件の人物を見ている。俺の認識がおかしい訳ではなかったらしい。

 

 

「貴方にとって人によっては二倍近くまで身体能力が上がる事象がたかが健康法というのならそうなんでしょうね。そちらのスポーツ分野の担当の方はスポーツ史が変わると仰られていましたし人によって価値観は違うのでそこに文句はつけません。ただ、現状肌年齢が50代から20代後半まで若返ったという報告も上がっている為、少なくともお金や時間をかける価値はあると私は思っています。人命については仰る通り。出来るだけ人が命を失わずにダンジョンに潜れるように対策をする為の委員会で、分科会だと思っておりますが貴方には別の物に見えたのでしょうね」

 

「そんな馬鹿な!こんな非科学的な!」

 

 

そこで騒ぎ立てていた人物は警備の人につまみ出される事になった。

こんな非科学的なも何も非科学的な事象がまかり通るようになってしまったから対策委員会なんてものを立ち上げているのに何を言っているのだろうか。

場が微妙に白けてしまった為会議は一旦休憩という事になった。

 

 

「ふう。つっかれたー」

 

 

真一さんがお茶を飲みながらソファーにへたり込んでいる。

長時間の質疑応答は基本的に真一さんが受ける為、今日は喋りっぱなしだった。そら疲れるだろう。

お疲れ様でした!と真一さんの肩を揉んでいると、ドアを開けて総理が入ってきて俺と目が合う。総理は中を一望し、苦笑。

恥ずかしい所を見せてしまった。

 

 

「休憩中に申し訳ない。今日は時間をとっていただきありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ有意義なお話をさせていただけました」

 

 

真一さんが頭を下げる。若干先ほどの醜態を見られたせいか顔が赤い。

 

 

「ところで、最後の質問をされた方は……」

 

「その件で…申し訳ない。不快な思いをさせてしまって」

 

 

真一さんの問い掛けに総理は頭を下げた。

なんでもあの人物は医療関係の人らしい。やっぱりなぁ、と思いながら総理と真一さんの話を聞くと、何でも回復魔法の存在を医療関係者が目の敵にしているらしい。

今回参加したあの人もその思いが強かったらしく、今回の会議を使って俺達を貶められないかと考えていたようだ。

尤も、その方面にばかり意識が行っていたせいで現状のダンジョンについての知識や資料の確認をおざなりにしていて大恥をかいたようだが。

 

 

「今回はあれでしたが、皆様の分科会には産官通してすごい参加希望者があるんです」

 

「それはありがたいことです。俺達も日本で活動するわけでして、日本企業の協力や、法整備が進むと嬉しいです」

 

「出土品についてはまぁこれからでしょうが。この体力増強の効果という目に見える結果はやはり素晴らしいですな。私も30代に戻ったような気分です」

 

 

そう言って総理はぐっと右腕を挙げて力瘤を見せるようにポーズを取って笑った。

先日、体力増強の効果が間違いないと判断された後に総理から要請があり、閣僚の中の希望者がダンジョンに潜る事になったのだが。

結果は肌ツヤを取り戻した目の前に居る総理が物語ってくれているな。

 

 

「この結果を受け、まずダンジョンへの立ち入りについての法整備は急ぎ行われることになりました。やはり、その。女性は止まりませんからな」

 

「お願いします。僕らもそこが怖いところだと思っているので」

 

 

新聞やニュースでも一部閣僚が急に若返ったと評判になっているので、早晩この事実に気づく人もいるだろう。法整備は近日中に行われるとの事だ。

そして、これに合わせてモンスターが落とす魔石の価値も一気に上がることになる。

ダンジョンに入らなくても魔石から魔力を吸い出せば近い効果を得られるからだ。

ただ、まとまった数でないと意味が無いのでやはり一番いいのはダンジョンでモンスターと戦うことなのだが。

 

 

「ところで、奥多摩ダンジョン周辺の民間地買収の件ですが、本当に第三セクターでやらなくて良いのですか?」

 

「はい。お申し出はありがたいんですが、資金も自前で用意できますし。立ち退きの話し合いだけご協力いただければ、あとはウチが買い取ります」

 

 

近所には老舗旅館などもあるし、当事者同士だと感情的な部分で対立しないかが心配だからな。政府主導で立ち退きをやってもらえるならこれに越した事はない。

総理とはその後、現状米軍から装備を用意してもらっている状況の是正と、銃をわざわざ使わないでも魔法で事足りる。つまり銃刀法についてはそこまでいじらなくても良い事を話した。

銃がそれほど必要ないという部分は総理も非常に興味深げだった。

日本だとやはり銃の所持は難しいし、ネックになると思っていたらしい。

 

 

「皆さんのお陰で道筋が見えた気がします。これからもどうぞ、よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

真一さんと総理が握手を交わす。

日本政府とのわだかまりも最近は解消された気がする。

この調子で早く冒険に専念できると良いんだがな

 

 

 

 

第二十八話

 

 

「よし。やれ、一郎」

 

「アラホラサッサー」

 

 

11層のモンスター・ゴーレムをフレイムバスターでしばき倒す。

現在俺達は11層にアタックしている最中だ。11層は今までの洞窟的な見た目から一転、広い荒野のような場所になっている。

あくまで見た目が地上みたいだって言う所がミソだ。俺達が出てきた扉の両脇は見えない壁のようなもので遮られている。ダンジョン内なのは変わってないという事だ。

 

そしてこの階層では俺のフレイムバスターが無双する事態が発生している。ゴーレムと聞いて想像できると思うが、こいつが3、4m位の大きさでまずデカイ。その上土か岩で出来ているらしく斬撃も効果は薄そうだ。

という訳でフレイムバスター(グレネード)の出番である。

 

 

「ふははは。ゴーレムがまるでゴミの様だ」

 

「わ、懐かしい。それジブリだっけ」

 

「場面が違うぞお兄ちゃん!」

 

 

このまま進むと空中庭園っぽい所も出てきそうだな。この台詞はそこまで取って置いた方がいいか。

とりあえず一通り周ろうと動くもフィールドが広すぎる。

何度かのゴーレムの来襲を撃退するも、一旦引き返そうという事になった。

 

 

「移動手段が必要だな。あと、対応できるのが一郎だけってのは不味い」

 

「バズーカとか欲しいね。後は新魔法とかないかなー?」

 

「んー。一郎ほど効率的に出来ないからなぁ。ちょっと考えとくけど」

 

「兎に角、一度ニールズ大佐に確認してみよう」

 

 

記録媒体に周囲の映像やゴーレムの姿を納めて撤収。

困った時の米軍頼みである。

 

 

 

 

 

米軍施設内を歩いていると皆さんが敬礼をしてきて非常に恥ずかしい目にあうとはこの陸のイチローの目を持ってしても読めなかった。

 

 

『申し訳ない、規則でしてな』

 

 

苦笑するニールズ大佐に返礼を返す。何でも以前貰った勲章はどえらい物らしく、軍属の人はこの勲章の持ち主を見かけたら必ず先に敬礼をしなければいけないらしい。月に年金が1300ドルも付くしあれ結構とんでもない勲章なんだな・・・

とりあえず俺達は相談したい事の内容を説明。

大佐は11層の映像を見て、暫く無言で考え込んでいた。

 

 

『これは、本当にダンジョンの映像ですか?』

 

 

画面では扉の脇に何かがあると、こんこん見えない壁を叩いている映像が映されている。

 

 

『ええ、このダンジョンを作った相手がいるとしたらとてもふざけてると思いますが、これは十一層です』

 

 

真一さんはそう言って、次はゴーレムの姿を映した映像を見せる。

 

 

『そしてこれがこの階層の敵です。映像では一郎が対処していますが、他の人員で対応できない相手です。対抗策として今考えているのはバズーカ等のロケットランチャーなのですが、用意できないでしょうか?』

 

『ふむ。バズーカならばすぐに用意できるでしょう。ただ、現状これよりも射程の長いロケットランチャーは多数存在するため私共としてはそちらの提供をお勧めしたい。無論時間は取らせませんが』

 

『それはありがたい。出来るだけ安価で用意できるものが欲しいのですが』

 

『統合参謀本部の政治判断は必要ですが、ダンジョン内の特定の敵駆逐のために必要な兵器の運用試験、という事であれば米軍にある複数種類のロケットランチャーを供与、あるいは無償提供できると思います。M-72が私はいいかと思いますが』

 

「M-72?」

 

「M-72LAW、使い捨てのロケットランチャーだよ!」

 

 

俺の疑問符に一花が回答する。良く知ってるなこいつ。

 

 

『後は、このフィールドの全容を調べるためにドローンと、出来ればジープを用意できないでしょうか。かなり広いフィールドのようなので移動手段が欲しいのです』

 

『成るほど、了解しました。映像情報をいただけるのでしたらどちらも用意致しましょう』

 

『勿論得た情報は米軍側にも提供させていただきます。よろしくお願いします』

 

 

この二つについても了承を頂けたので、今回の訪問の目的は全て達成できたことになる。

気楽な立場の俺達は肩の荷が下りた状態だが、真一さんやシャーロットさんの仕事はまだまだある。

次は予定されている人員の教育についてだ。

 

 

『俺たちはただ魔法について講義するだけで、訓練や滞在期間の管理なんかは自前でやっていただけるならお受けします。翻訳の魔法があるので言語については問題ありませんが、俺たちとの窓口になれる常駐の担当者とかを置いていただけるとありがたいです』

 

 

まず真一さんは俺達のダンジョン探索が阻害されないよう基本的な雑務はあくまでも米軍側が持つように条件をつけた。

 

 

『それと、自衛隊側からも同じ要望が届いているのですが、別々に行うのは負担が大きいので合同でお願いしたいです』

 

『なるほど、分かりました。LAWの件と合わせて上に提案しておきます』

 

『それと、現在時点で魔法の才能があると分かっている人が居れば、この人を先に派遣して俺達と探索してみてはどうでしょうか。その人が教官になって各地の隊員に教える』

 

『ふむ・・・成るほど。予め教員を育てておくという事ですね』

 

大佐は興味深そうに頷いて、副官の人にメモを取るように伝える。

 

 

『少し検討させていただきたい。所で、奥多摩にはその。四十人ほどの生徒が三ヶ月ほど宿泊できる施設はありますかな?』

 

『一応観光施設があるのでそれくらいの人数ならまぁ・・・たとえばいま補強工事してるダンジョンの入り口の建屋の上にワンルームの個室とか作ったら、便利でしょうか?』

 

『おお、それはありがたいですな。やはり移動の際、軍人が歩いているとどうしても日本では。難しいものがありますので』

 

『さすがに設計から建築まである程度時間がかかるでしょうから、その間は通ってもらう必要があるでしょうね』

 

 

と言った形で今回の米軍との交渉は纏まった。

この後真一さんは防衛省とも同じようなやり取りを行い、日米で合わせて40人の人員の受け入

れと、この人員が宿泊する施設をダンジョン上に建設。その建設の間は日米で1人、教員役になる予定の人員を派遣して俺たちのパーティで鍛える、という内容を検討してもらうことになった。

 

と言ってもこのすぐ後に官邸から直接連絡があり、工賃についても日本政府が負担するためもっと大きな宿泊施設を用意して欲しいと頼まれることになった。

何でもすでに政府としてはダンジョンを歩くための教員の育成を検討していたらしく、今回の話は前例として非常に有用。出来ればもっと人員を一気に入れて欲しいと言われた。

 

ただ、こちらの負担も考えると流石に人員だけ一気にこられても面倒が見切れないのでその辺りは段階的に増やしていくという事で見てもらい、また建物が政府出資という形になってもヤマギシとしては何かとやり難い為、資金援助をしてもらったという形にして当初より少し大きな建物を作り、後に規模が拡大した際すぐ拡張できるように用意していく、という方針になったらしい。

 

政府・自衛隊・米軍からそこそこの資金を引っ張ってきて装備も用意してもらった真一さんスゴイ有能。帰ってこの報告を聞いた社長が「俺もう引退してダンジョンに専念しようかな」と言い出したので皆でヨイショするのが一番大変だったのはまた別の話である。

 




山岸恭二:書類の多さに学校を辞めたことを早くも後悔してきている。

下原沙織:以下同文

山岸さん:最初の体力測定でダンジョンに潜りたいと言ったことを後悔していたが、実際潜った後の体の調子に愕然としている。

鈴木爺:猟師に復帰する事を決めた。


医療関係者:魔法でちょちょいと治るとかふざけてんのか、と息巻いていたが全然別方面で医療に関係のある効果が実証されていて大恥をかく。以後この人物は会議には参加できなくなり、引き継いだ医療関係者が肩身の狭い思いをするようになる。

総理:最近後退していた生え際が急速に戻ってきたと実感。また殆どの女性議員を味方につけることに成功しダンジョン関連の法案をどんどん整備していく。


山岸真一:最近頭の回転が明らかに早くなってきていると感じている。魔力の発達が脳の働きにも影響が出るのか、検査を受けようとも思うが医療関係が信用できず足踏み。

ニールズ大佐:今度孫が来日する際に是非会って貰えないかと一郎に頼み了承を貰う。完全勝利したお爺ちゃんUC


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第二十九話~第三十二話

誤字修正。244様、ぬぬねの様ありがとうございます!


第二十九話

 

 

既存の施設の上部に新しい建築物を乗せる、というのは結構難しいらしい。

防衛省と米軍との話し合いを社長に報告すると、「ううむ」と唸って考え始めた。

次の日に建設会社に相談してみる、と言っていたが、返ってきた結果は、旧店舗の建屋をすっぽり囲む形で重量鉄骨の施設を造り、上階層を構築する、ということになったらしい。

うちの持ち出しが余り無いことがだけが救いだが、暫く工事で時間がかかりそうだ。

 

とりあえず十一階層が待機状態になっている中、刀匠の藤島さんから槍の試作品が出来たと連絡が入った。早速行って見ると藤島さんだけでなくお仲間と言う刀匠の方々が居たので挨拶をしておく。何でも日本政府からのお達しもあった為、本格的に用意する武装についての検討を行っていたらしい。

 

 

「刀や槍以外でも薙刀や斧、それにバットも使われていたと言うので金砕棒。試してみたい武器は沢山あります」

 

 

熱心に語る男性は宮部さんといい、この中では変り種で冶金学の講師を行う傍ら鍛冶師としての修行を積んでいるらしい。刀匠としての評価はまだまだと言った所だが、その経歴から委員会にも参加し、そこで藤島さんと知り合ったそうだ。

 

話を戻して、今回の槍の試作品だ。藤島さんは当初色々な穂先を作ってそれを実際に試してみる事を考えていたそうだが、モンスター相手に使い勝手が分からないという事で、シンプルがベストだと判断して素槍という一般的なシンプルデザインの物を作成したそうだ。

柄に関してはジュラルミンで作っているそうで、これは宮部さんからのアドバイスらしい。

 

 

「値段が圧倒的に違います。チタン合金ので作成すると、おそらく加工が終わった状態で三倍近く高いですね」

 

「それは・・・流石に使い切れませんね」

 

 

アルミ合金製の物とチタン合金製の物の値段表を見ると、確かに圧倒的な差がある。硬度などの大きな格差がないなら、これはもうアルミ合金製一択だろう。

お金は大事だよなぁ、と最近出費続きの俺達にとっても人事ではない。削減できる所は削減しておくべきだろう。

 

 

「あの、これから槍を使用するなら是非一緒にダンジョンに潜らせて欲しいのですが」

 

「ああ、良いですよ」

 

 

真一さんが二つ返事で許可を出すと、その場に居た3、4名の刀匠達が皆立ち上がって自らの得物を持ち出してきた。

慌てて一度に入れるのは3名まで、と注文をつけて早速奥多摩に戻りダンジョンに出発だ。

今回も人数が多いため5層までの冒険となり、槍を持った集団がオークを串刺しにして終了。

というか皆さんそこそこ武術の心得があるらしくまるで心配する場面もなく終わってしまった。

 

・・・最近、護衛ばっかりで何とも暴れ足りない気分である。何か接近戦用の右腕を新規開発するべきだろうか。

新規開発といえば、どうも恭二がまたぞろ新魔法を開発したらしい。

今回の冒険の最中に一度見せてもらったんだが、コインをピン、と弾いたと思ったらゴブリンがミンチになっててビビッた。

 

 

「・・・何だそれ」

 

「最近一花に見せてもらったアニメが面白くてな。レールガンって知ってるか?」

 

「俺はお前がどこに行くのかが心配だよ」

 

 

急遽、藤島さん達のダンジョンアタック後に恭二と俺の二人でダンジョンに潜り、ゴーレムに向かって試してみたところ一撃で粉砕が可能だと確認。

魔法でもゴーレムの退治が可能だと証明されたわけだが、ある問題が生じてしまった。

収納と同じく、恭二以外が扱えないのだ。

 

試してみた真一さん曰く、「お前(恭二)は頭おかしい」との事。再現しようとしたらただ電流を金属片に含ませることしか出来なかった時の話だ。こんな事言ってる真一さんだが殆どの魔法は数回試したら使えるセンスの塊みたいな人なので暫くしたら扱っていてもおかしくない。

俺?普通にサンダーバスターになりました。出来るわけないわあんなん。

 

 

 

諮問委員会がらみで預けてあったドロップ武器の成分検査の結果が来た。

 

 

「ナイフや剣などは青銅製ですね。本当にわずかばかりの貴金属の混入はありますが、基本的に銅です。資料的価値を除くと、おそらく、一キロあたり200円から500円くらいの価値になると思います」

 

「やっぱりそんな物ですか」

 

「金貨のほうは、含有率75%以上あります。貴金属商では一枚あたり1万円以上の買値になると思います」

 

 

申し訳無さそうに研究員の方は言ってくるが、まあこの位の値段だろうなとは事前に予想されていたのでショックはない。

問題はここからだろう。

 

 

「最後に、ドロップストーンについてです。正直、この魔力を吸い出すという現象が良く分からないせいで値段がつけられない状況です。私も試させていただきましたが、数を使えば使うほど確かに体力が向上していくのを感じました。現状はもう山岸さんの言い値といった扱いですね」

 

「成るほど、ありがとうございました」

 

「このドロップストーンについてはまだまだ研究が足りてないのでどんどん持ってきて頂いて結構です。ただ、もう少し値段は抑えたいところですが。やはり消耗品的な扱いになってしまうので・・・」

 

 

言い値とはいえそこまで高く請求するわけにもいかない。他のダンジョンでも取れるものだし、

あんまり阿漕なイメージを持たれて関係を壊せば困るのは俺達だ。

ゴーレムの魔石はかなり大きかったし、魔力の含有量も多かった機がする。大きさで値段を変えて売り出してのが良いのかもしれないな。社長にはそう報告しておこう。

 

 

 

 

第三十話

 

 

「魔法が使え、今後教員候補生として送り込まれる人材を育てられる者の育成を」

 

 

という日米両方の要望に答える形で、今日から二人の研修生が奥多摩に入ってきた。

まず日本の自衛隊からは岩田浩二さん。28才。自衛隊の二等陸曹だ。見るからに体格の良い人で、どうやらすでに回復魔法を使っているらしく何度か怪我を治したことがあるらしい。

次に米軍からは、ジュリア・ドナッティさん。24才の女性士官。ドナッティさんも魔法の素養ありと認められてここに来たが、空軍の士官アカデミーを出てるというとても凄いエリートさんなのだそうだ。

4歳も年下のドナッティさんに岩田さんが尊敬の眼差しを向けていたので聞いて見たらそう教えてくれた。

そのドナッティさんは今、直立不動、敬礼で固まってしまって大変に困っている所だ。

 

 

『あの、流石に同じチームで毎回直立不動になられると困ると言うか』

 

『す、すみません。つい染み付いた動きが・・・』

 

 

まだ翻訳が使えない岩田さんは怪訝な目で俺達のやり取りを見ている。岩田さんには俺の言葉が分かるから、会話が成立しているのがおかしく見えるんだろうな。

ただ、ドナッティさんはラテン語と日本語が出来るトライリンガルという事なので、二人が翻訳を覚えるまでは日本語のほうで会話をしてもらうようにお願いしておく。

まずは下地を整えるためにダンジョンブートキャンプと行こうか。

 

 

 

とりあえず二人に槍を渡して、大コウモリを討伐してもらう。魔石から魔力を吸うのが手っ取り早いが、まずは倒したモンスターからの吸収とドロップがどのように出てくるかを浅い階層で確かめてもらうためだ。

大コウモリを二人が難なく倒していくのを見ながら、ある程度魔石が溜まって来たら俺達が持っていた物と含めて一気に吸収をしてもらう。

本人達が魔力を感じられるようになるまでこれをくり返し、ある程度目処が立ったらまず最初にライトボールとファイアボールを覚えてもらう。

この二つがあれば浅い階層なら問題なく進めるからな。

 

二人があっさりとこの二つの魔法を習得したら、次はサンダーボルトとバリアー、アンチマジックの順に覚えてもらう。特にバリアーとアンチマジックは命に関わるからここを覚えるまでは先に進めない旨を伝えて練習を繰り返してもらう。

サンダーボルトは比較的あっさり覚えられたようだが、アンチマジックはやはり難しいらしい。実際に見たほうがいいか、と恭二にアンチマジックを使ってもらってバスターで狙う。

 

 

「お二人とも、よく見ててくださいね。ファイアバスター!」

 

 

言葉にする必要はないが、撃つ瞬間に一言かけてからファイアバスターを発射。小さな火の玉が恭二に当たる瞬間、淡い光の壁が出現してバスターを打ち消した。

この実演が功を奏したのか、二人は続けてアンチマジックとバリアーを習得。

とりあえず初日の目標は二人とも達成できたようだ。

 

 

 

「で、ダンジョン探索が終わったら俺達は必ず飯を食べるんです」

 

「成るほど。部活を思い出すなぁ」

 

「日本食、とてもヘルシーで大好きです」

 

「おかわりもあるぞ!」

 

「一花、それはやめなさい」

 

 

会議室もとい山岸家の居間に大きめのテーブルを置いてカレーを食べる。今回の料理はうちの母ちゃんが作ってくれた。

最近、うちの父親と社長が話し合っている事が多く、家族で山岸さんの家にお邪魔することが多くなったので、定期的にダンジョン帰りの食事を母さんが作って待っていてくれるのだ。

岩田さんは部隊で飯を食べてるみたいだと微妙そうな顔をしていたので聞いてみると、隊内だと食堂に集まって皆が決まった時間に食べているから、こんな感じになるらしい。

 

 

「まぁ、ゆっくり食べるってのはやらないんですがね」

 

「自衛隊は早く食べるように訓練されているんですね」

 

「最初の訓練校時代からきっちりしつけられました。米軍ではどんな感じなんですか?」

 

 

岩田さんの悲哀にドナッティさんが曖昧な表情を浮かべて答えると、岩田さんがドナッティさんに米軍についての質問をして二人は互いの組織の違いについて話を咲かせ始めた。ゆっくり飯も食べさせてもらえないって大変だなーと思いながらカレーを啜っていると、唐突に二人の視線がこちらを向いた。

 

 

「あの、所で」

 

「スパイダーマンって一郎くんで良いんですよね?」

 

「あ、はい」

 

 

特に隠していることでもないので頷くと、ささっと二人が取り出したのはサイン色紙だった。

あ、このパターンはちょっと懐かしいな。最近変身して出歩くから。

サインを書くのも大分慣れたのでついでに二人の似顔絵も書いて渡す。右腕がやけに器用に動くせいで画力が半端なく上がったのだ。一点ものですぜ。へへへ。

 

 

「お兄ちゃん」

 

「うん、なんだいマイシスター」

 

「それ、聞いてないんだけど」

 

 

えらく上手に書かれた二人の似顔絵を指差して一花は眉を寄せて詰め寄ってきた。

ちょっと近いです、一花さん落ち着いて。

 

 

「そういう新しい特技はちゃんと教えてもらわないと!さぁ撮影のお時間ですわよ」

 

「えぇ、飯食べてからで良い?」

 

「40秒で支度しな!」

 

「出来るか!」

 

慌ててカレーを詰め込み、食器を母ちゃんに渡して外に出る。

後にはポカンと佇む新人二人と爆笑する恭二と沙織ちゃん、恥をかかせてとため息をつく母さんが取り残されることになった。

尚、この時に作った「40秒でスパイダーマンがスパイダーマンを書いてみた」という動画は結構なヒットになったそうだ。

 

 

 

 

第三十一話

 

 

「右から3」

 

「クリア」

 

 

ドナッティさんの観測を元に岩田さんがライトボールを投げ、狙撃。恐らくゴブリンだろう敵の気配が消えた。

現在はのメンバーは俺、一花に岩田さんとドナッティさんの4人組だ。

 

 

「うん、いい感じだね!見敵必殺はダンジョンの基本だから、今の観測距離をもっと伸ばせるようにイメージしよっか!」

 

「いやぁ、中々難しい。何となく強い気配はわかるんですがね」

 

「まだ、どちらから来るかしか分かりません・・・」

 

 

岩田さんとドナッティさんの軍人コンビを仲間にして一週間程が立った。

二人は順調な上達を見せており、現在は感知の魔法の熟練度を上げるため低層でのダンジョンアタックを繰り返している。

 

他のメンバー?11層の地図埋め中だ。恭二が魔法でゴーレムを倒せるようになったから、11層の探索も容易になった為今の内にどの位の大きさか、米軍から譲ってもらったドローンを使って調査するらしい。

今頃はレールガンの練習がてら11層で暴れまわっている事だろう。俺もそっちに行きたいんだがジャンケンに負けてしまったからしょうがない・・・

 

これも大事なお仕事だし、二人が早く一人前になれば8人で11層に挑むことも出来る。ここは我慢するべき所だ。

後は感知の精度とフレイムインフェルノを覚えて、そこからは実地でパーティーの一員として動きを覚えてもらうことになる。二人の成長速度を考えれば近い未来かもしれないな。

 

 

 

そして更に一週間が経過して。

 

 

「こいつはすげぇや」

 

『信じられない・・・』

 

 

10層までを踏破し、初めて11層に入った二人はそう言って立ち尽くした。まぁ、いきなりダンジョンから荒野に出たらその反応になるわな。俺達も最初は唖然としてたし。

二人は順調な仕上がりを見せ、課題の魔法を全て習得。本日からチームへの合流を果たして、10層までのアタックを行った。結果は言わなくても分かると思うが無事11層への扉を潜ることができ、俺達ヤマギシチームは8人体制になる。

 

そして例のショートカットについての情報を二人に伝える事になった。ここ数週間のやり取りで人間として信頼出来そうだと判断できたのと、自力でここまで来れる人間ならどちらにしろ伝えなければならないという理由もある。

 

1層に一瞬で移動し、呆然とする二人に一先ずヤマギシ家に行こうと伝えて食事と会議を行う。

 

 

「このショートカットの存在は、日米のトップと俺達ヤマギシチームしか知りません。理由は分かりますか?」

 

「ええと・・・一般に知られたら不味いって事ですよね」

 

「恐らく、ダンジョンに対する法整備が整ってない、ではありませんか?」

 

 

岩田さんは怪しかったが、ドナッティさんは流石というか。俺達が危険視している物がうっすら見えているようだ。

日本と違って米国の高級士官は政治家としての役割を持っているらしいから、こう言ったリスクとかに敏感なのかもしれない。岩田さんも何となく危ないって意識はあるみたいだけどこの辺りは自衛隊と米軍の違いって事かな?

 

 

「今の状態で国民をダンジョンに放り込むのは自殺幇助と変わらない。これはどちらの国の政府も同じ見解です。それを助長するような真似をするわけにはいかない。俺達はただ、人殺しと罵られるのを出来る限り避けたいだけなんです」

 

 

真一さんの真剣な表情に、岩田さんもドナッティさんも若干顔を青くして頷いた。

今現在、日米はダンジョンについて共同の声明を発表している。それは許可を得ない人物や企業のダンジョンへの進入を禁じるといったものだ。

 

俺達ヤマギシの社員及びその協力者は事前に許可を得てダンジョン内の探索を行っている、という形に一応はなっている。一応というのは俺達が同行する場合は許可の無い人物にも一時的に許可を与えることが可能だからだ。

 

これを利用して協力関係のある分野の専門家を連れて探索体験してもらったり、政治家をダンジョンに立ち入らせたりといった事を行っている。勿論俺達が安全を保障できる人員と階層までしか連れて行けないが。

 

 

「ダンジョンに入る為に必要な技能、魔法の習得。更に中での事故や事件が起こる事への備え。まだまだ手探りの状態です。お二人への教育と、その結果もその一環になりますので、これからも協力をお願いします」

 

「勿論です。幾らでも扱き使って下さい!」

 

「必要な事があれば何でも言ってください」

 

 

真一さんの言葉に二人が頷いて答えると、場は一気に穏やかになった。ここで意見が食い違ったりしたらちょっと面倒な事になったかもしれなかったし良かった良かった。

 

 

「ん?今なんでもするって」

 

「止めろバカ」

 

「お兄ちゃん退いて!せっかくの知的な美人枠にあれこれ出来るチャンスなんだよ!?」

 

「イチカ、それだと私はどういう枠なんですか?」

 

「そりゃ勿論残念美人イタイイタイ!」

 

 

シャーロットさんと一花のじゃれ合いに周囲で笑いが起きる。暗い話ばかりだと場も重たくなるし、気でも遣ったのだろうかね。

和やかなまま会議は進み、明日からのダンジョン攻略について打ち合わせをして俺達は解散した。

米軍から明日にはロケット弾と移動手段を用意できると言われている。明日は一気に探索を進めたいものだ。

 

 

 

 

第三十二話

 

 

さぁてパーティの始まりだぜ!

いきなりテンションが高くて申し訳ないが、やっぱりデカブツをロケットランチャーでぶっ飛ばすのは一度は見てみたい光景だからな。

 

現在俺達は11層まで降りてきている。朝方にようやく米軍から供与してもらったロケットランチャーが届いたので、実戦で武器の効果測定をしよう、というのが本日の主目的だ。

まぁ、あわよくばこのまま行ける所まで潜って行こうと思ってるんだがね。必要だったとはいえ数週間の足止めはやっぱり心に来るものがあったからな・・・・・・

 

そしてここでもう一つ政府からのプレゼントがあった。米軍からの武器提供を聞きつけた委員会所属の自衛隊の幹部の人が、上層部に掛け合って自衛隊が使用しているカールグスタフ無反動砲と89式小銃にとりつけるタイプの小型グレネードを供与してくれたのだ。

 

効果測定の結果を知らせて欲しいと言われているが、こういう事には動きが鈍いという印象があった自衛隊からの動きだっただけに少し驚いた。勿論この装備は元々使用経験があるという岩田さんが使用することになる。

 

 

「ドローンで地図を作ったんだが、やっぱりこのフィールドは車が必要だな」

 

 

先日、俺と一花を置いていって作成した地図を広げながら、真一さんがそう言った。

あの件についてはまだ恨みがましい視線を向けてしまう。真一さん、劣化版だがレールガンに成功したらしいし・・・この人も大概センスの塊だ。

 

 

「という訳で用意したジープがこちらです」

 

「ワーオ!でもお高いんでしょう?」

 

「それがなんと米軍からの提供により0円、0円のサプライズ!」

 

「まじめにやれ、二人とも」

 

 

冗談めかしてジープ2台を収納から取り出した恭二につい合いの手を入れてしまう。案の定真一さんから睨まれたが、違うんだ・・・恭二がノって来いってごめんなさい。

ケツを叩かれたので慌ててジープの上部に飛び乗る。付着の魔法を使えばこんな所に乗ってても安定できるんだから凄い。風が気持ちいいぜ。

 

まぁ、いきなり魔法を撃たれたら不味いからな。俺が上部から見張っていれば急な襲撃にも対応できるだろうという魂胆だ。

魔法を防げそうな車も用意できそうだとは言っていたが、ちょっと時間がかかりそうだから少し待ってくれと言われた。恭二でも飛行機に乗せて運べばすぐに終わりそうだがな。今度提案してみるか。

 

 

 

ドオン!

 

と大きな音を立ててゴーレムが爆発四散する。

ドナッティさんを射手、岩田さんをサポートにした攻撃は見事成功。ドナッティさんも「ワーオ!」と大喜びだ。

気持ちはわかる・・・見ている側の俺達もちょっと興奮する位カッコよかったからな。そりゃバイオハザードでも毎回ロケットランチャーだわ。ロマンがあるもの。

 

続いて岩田さんのカールグスタフもゴーレムに向けて発射すると、こちらも一撃で倒すことに成功。日米両方に良い報告が出来そうだ。

このままボスまで行こう、と恭二が提案したので了承を返す。ジープの走破性はやっぱり凄い。ゴーレムの一撃は確かに怖いが、そもそも近づかれる前にすいすいと敵を避けてフィールドを走り回る事が出来る。

仮に近づかれても、

 

 

『ウェブシューター!ああ、カメラが欲しいわ!』

 

『イチカちゃん、動画用のカメラは持ってきてないの!?』

 

「撮影用はないよ!今日は探索重視だしってか詰め寄らないでほんと」

 

 

クモの糸でゴーレムを縫いとめると、シャーロットさんとドナッティさんが一花に詰め寄って騒ぎ始める。シャーロットさんはいつも見てるでしょうに・・・

というかドナッティさん運転運転!

 

 

「すげー粘着力だな、クモの糸」

 

「ネットな。お前が名づけた魔法だろうが」

 

「おう、でも見た目まんまクモの糸だぞ?」

 

「それな」

 

 

最初は本当にクモの糸と名づけようとして真一さんと沙織ちゃんにガチ目のトーンで説得されたらしい。そらそうだわ俺がいても止めてる。

そのまま俺達はフロアボスの手前まで到達。岩田さんにM72で撃ってもらうと、難なくボスを吹っ飛ばすことが出来た。

 

ロケットランチャーならほぼ確殺だなこれは。この映像もシャーロットさんが持つアクティブカメラで捉えて日米に提出する予定だ。

ドロップは石と、何か石材のようなブロックだった。次のゴーレムはストーンゴーレムってか?今までの雑魚ゴーレムはクレイゴーレムって事かね。

 

ボスを倒すと、今まで見えなかった扉が出現している。俺達は早速扉を潜って一つ下の階層に突入した。

12層もどうやら前マップと同じフィールドタイプらしく、荒野がまた続いていた。

早速ドローンを飛ばして偵察を行い、周辺の様子を確認。どうやらここの雑魚はストーンゴーレムらしい。

 

 

「予想通りって所かな。兄貴、どうする?」

 

「目新しい発見もないしこのまま次に行くか。岩田さん、ドナッティさん」

 

 

ジープを恭二が出し直しながら尋ねると、真一さんは頷いて二人に声をかけた。

そのままジープで出発。危ないところもなくフロアボスの手前まで到達し、そこでジープを片付ける。

今度のゴーレムは明らかに金属製だった。アイアンゴーレムって奴か?

 

 

「どうせだったらレンガっぽい見た目の奴が見たかったね。岩田さんオナシャス!」

 

「あいよ!」

 

 

岩田さんが軽いノリでM72をアイアンゴーレムに打ち込む。仮にも金属製なので生き残る可能性も考えていたが、どうやら一撃で倒せたようだ。

ドロップ品は鉄かなこれ・・・とおぉ?

右手でドロップ品を持ち上げようとしたら急な喪失感と共にドロップ品を取り落としてしまった。

なんぞこれ、とそちらを見ると・・・

 

 

「嘘・・・・・・・・・・お兄ちゃん、右手が・・・・・・」

 

 

一花に言われて右手に目を向けると、半ば位から右手が形を失って崩れていくのを目にする事になった。

・・・・・・どうしようこれ。

急に右腕だけが無くなりバランスが悪いなぁ、とどこか遠くの事のように感じながら、初めてのコスプレ握手会以来久しぶりに俺は途方にくれる事になった。

 

 

 

尚数分で元に戻りました。

 




山岸恭二:どうやらレベル5だったらしい。顛末を聞いた一花から暇なときに見ろと言われ大量のアニメのDVDを贈られ困惑気味。

藤島さん:三段突きなどをゴブリンに試していたら十字槍の穂先が壊れて素槍が良いかなぁと黄昏ることになる。

宮部さん:オリキャラ。もっと色々な金属を使ってみたいと藤島さんと相談中。


岩田浩二:陸自の二等陸曹。最前線のチームと言われかなり緊張して来て見たら予想以上の若さに驚き、ダンジョン内での堅実な立ち回りに再度驚くことになる。変身を早く覚えられないか努力中。変身のポーズを自室で行いイメトレはバッチリ。



ジュリア・ドナッティ:生のスパイダーマンに会えると一週間位緊張しっぱなしで来日。実際に相対すると普通の少年にしか見えなかったがダンジョン内では明らかにベテラン然とした立ち回りを見せられて期待度上昇中。尚信じられない速度で似顔絵を渡された時歓喜の叫びを上げそうになっていた。


バイオハザード:ラスボスにはロケットランチャー。

一郎の右手:そもそも魔力で作られてるのでどうなっても特に痛みや何かはない。


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第三十三話~第三十六話

誤字修正、日向@様、244様ありがとうございました!


第三十三話

 

 

「これ、魔力を吸い取ってるな」

 

 

俺が落とした鉄のようなドロップ品を拾い、恭二はそう言った。魔力吸収とはまた面白い特性だ。これを装甲にしたら魔法も弾きそうだな。

右腕は無事に元の姿を取り戻している。一時的に魔力を吸われて形を失ってしまったのだろうが肝が冷えた。一花なんか未だに右手に抱きついたまま離れてくれない。

 

 

「一花、大丈夫だって」

 

「うん。ごめんもうちょっと」

 

 

涙声でしがみつく一花に困り果てた俺は救いを求めて周りを見渡すが皆そっと目を逸らしていく。

真一さん、ここは男らしい所見せて下さいよ!

結局その日は一花が動けなくなったのでお開きになった。目標も達成してたしそこは良いんだが自分が原因だと…。何と言うか、モニョるというか。とりあえずその日一日は一花を落ち着かせることに費やした。

翌日になると表面上は落ち着いていたが、まだ少し様子がおかしかったのでダンジョン攻略は恭二たちに任せて家で大人しくすることに。

 

 

「ごめんね、お兄ちゃん」

 

「いいよ。久しぶりに街にでも行くか?」

 

「ううん。いかない・・・」

 

「そうか。スマブラでもやるか」

 

「やる」

 

 

そのまま会話もなく、一日家でダラダラと過ごす。久しぶりにのんびりと過ごしたのが効いたのか、次の日には一花も復調したらしく笑顔を見せるようになった。

一応連絡はしていたが昨日は欠勤してしまったので社長に謝りに行くと、むしろ休日くらいしっかり取れと怒られた。

 

休日・・・そういえば休日らしい休日って取ってなかったな。ダンジョンに潜るのはもう半分趣味みたいな領域だし・・・

今度、恭二でも誘って山登りでもするかな。街はうるさいだろうし・・・

 

 

「それで、結果はどうだったんだ?」

 

「15層まで潜った。途中金が出たぞ」

 

「うっそだろお前」

 

 

思わず素で返したがいたく真面目な顔をしている恭二にこれマジだと認識。詳しく話しを聞くと、どうも14層のボスが金のゴーレムだったらしい。勿論15層では雑魚としてこの金ゴーレムが歩き回っていたので乱獲して来たそうだ。

 

それぞれの階層の敵は、13層が予想通り雑魚がアイアンで、ボスはミスリルか?銀と金が混ざったような相手。14層のボスは金。そして最後の15層はクリスタル?っぽい外見のゴーレムだったらしい。もちろんこれも倒してドロップは取ってきてあるそうだ。

 

 

「とりあえずの感想は、戦闘は楽勝。だけど移動がネックだ。俺達も来年は免許取れるし、車が運転できるようになったほうがいいかもしれん」

 

「ああ・・・確かに広いからな。とりあえずバイクの免許でも取りに行くか?どっかで集中講座でも受けて」

 

「それもいいな。ちょっと兄貴に話してみるか。兄貴も免許取りたがってたし」

 

 

そこで言葉を切って、恭二は少し考えた後に俺を見た。

 

 

「一花ちゃん、このまま潜らせるのか?」

 

「あいつが望む限りはそのつもりだ」

 

「そうか。なら、いい。兄貴に言っとくから、免許の件は頭の隅に置いといてくれ」

 

 

そう言って恭二は席を離れた。あのニブチン、そういう気の回し方が出来るなら沙織ちゃんにも遣ってやれば良いのに。

ため息をついて俺も椅子から立ちあがる。

軽く潜って暴れたい気分だ。

 

 

 

沖縄で合宿免許を取る事になりました。やったぜ!

社長曰く、丁度いいからついでに休暇を取って骨を休めよう、との事。浸食の口(ゲート)発生からこっちほとんど碌に休めてなかったし、工事も着工が始まり、岩田さんたちの教育もある程度の結果が出た。

このタイミングで骨休みを入れても罰は当たらんだろう、との事だ。

俺と恭二、沙織ちゃんの3名はバイクを、社長や真一さん、シャーロットさんは大型免許をとって、出来た合間にバカンスを楽しもうという訳だ。

 

 

「一花ちゃんも夏休みだろう?家族帯同って事で付いて来ていいからな」

 

「やったー!社長太っ腹!」

 

「最近痩せて来たわい!」

 

 

一花のヨイショに社長が怒り笑いのような表情で返した。ちょっと体型の事はデリケートな話しだからあんまりイジッて欲しくないみたいだ。

最近、暇がある時はダンジョンの浅い辺りでゴブリン相手に運動しているから、大分引き締まってきたと思うんだけどな。

 

 

 

近く沖縄に行く事が決まった我々ヤマギシチームは意気揚々とインゴットを集める為にダンジョンに潜る。

ある程度画像や映像が集まったらこれをシャーロットさんが率いる我が社の画像チームが加工・編集し、日米に渡す映像資料として作成。

横田基地にこの映像資料を届けに行く傍ら、ドロップ品のサンプルを渡し、変わりにここでM72ロケットランチャー等の補給を受け取ってくる。

 

政府からの計らいで岩田さんの武器補給もこの横田基地にある空自の基地で受ける事が出来るため、それらを収納に片付けて俺達は基地を後にする。

武器の補給がたやすく出来るのは非常にありがたい事だ。

 

 

「そう言えば武器といえば。あの魔力を吸い取る鉄、あれで武器でも作れないかな?」

 

「魔法金属って奴かもしれないんだよね。藤島さんに一度試してもらわないと」

 

「・・・私、あれ嫌い」

 

 

グズる一花を宥めながら、横田基地の帰りに藤島さんの工房に立ち寄りインゴットを10個ほど渡す。

何度かダンジョン経験がある藤島さんは、このインゴットの特性をすぐに理解したようだ。

 

 

「宮部さんにも連絡入れてみます。面白い物が出来そうです」

 

「柄についてはお任せします。これで刀を打って欲しいんですが」

 

「そこら辺は法律の整備が出来るまで難しそうですねぇ・・・」

 

 

刀は銃刀法の関係もあり、指定された玉鋼以外の素材を使うのは「美術工芸品」のカテゴリから外れる恐れがあるらしい。

委員会などでもこの件は取り沙汰されており、新法か旧来の法律が整備される可能性があるそうだ。

新しい武器が出来たら自分も試させて欲しいという藤島さんの言葉に了承を返して、俺達は今度こそ奥多摩に戻った。

 

 

 

 

第三十四話

 

 

16層にやってきた俺達を出迎えたのは薄暗い洞窟の入り口だった。

鉱山だろうか。どでーん、とそびえる岩山の横っ腹にある坑道が入り口のようだ。

これを見た瞬間に準備不足を感じた俺達は一旦引き返すことを選択。

途中金ゴーレムを乱獲しながらまた元来た道を戻っていく。

 

 

「ガスマスクと酸素ボンベが欲しいです」

 

「安全性を確認するまでは様子見が必要でしょう」

 

 

軍事の専門家二人の見解が一致した段階で俺達は日米に装備の供給を求める事を選択。

二人に必要な装備をリストアップしてもらい、岩田さんは自衛隊、他の面々は米軍に装備品の申請を行った。

 

そしてこの間に出来たオフを使って女性陣は水着を買いに行くらしい。男子組はしまむらで十分なんだが・・・

岩田さんはこの間に自衛隊に報告をすると言って出かけている。久方ぶりに奥多摩男子のみとなったヤマギシ家ではのんびりとした空気がただよっていた。

 

 

「そういえば、スポーツ系のメーカーからの話が来てるって言ってませんでした?」

 

「ん?あー、あれな」

 

 

恭二とスマブラをする傍ら、ソファにゴロ寝していた真一さんに尋ねると、何でも諮問委員のメーカーが数社、ヤマギシ家にアポを取ってきているらしい。

どうやらそろそろ、冒険者用のウェアやプロテクターの開発に入るそうだ。まあ、俺達としてもありがたい話だ。やっぱり軍服って目立つし、変身の魔法が苦手な人もいるからな。

 

服装や制服ってのはその職業の顔にもなるわけだから、民間企業で開発してもらえるのはありがたいし助かる。無料で提供してもらえそうってのも大きいけど!

 

そんな感じで一日を過ごしていたら、報告のために出ていた岩田さんが自衛隊の偉い人達を連れて戻ってきた。委員会のほうでよく話しをする幹部の人も一緒だ。

神田さんというその幹部の人はぺこりと一礼すると、他の方の紹介をしてくれる。何でも防衛大学の教官さんと、防衛政策局の方らしい。

 

 

「実は、山岸さんにお願いがあるのです」

 

「お願いですか」

 

「実は、忍野村のダンジョン攻略に手助けを頂きたく」

 

 

自衛隊は現在、忍野村に出現した迷宮で、迷宮探索の訓練を行っているらしい。先の米軍の失敗を知る自衛隊の上層部はこの訓練にかなり神経を使っており、慎重に、大規模な人員を用いて訓練を行っている。

 

具体的に言うと、各階層のスタート地点に予備部隊を置き、交代制でその階層を巡回。リポップした端からモンスターを駆除していくという物だ。

手数の多さを生かした軍隊らしい迷宮攻略だなぁ、と感じたのだが、当初から想定されていたある問題が無視できないレベルにまで達してしまったらしい。

 

 

「安全性を高める為の方策なのですが、正直言って幾ら予算があっても追いつかない状況でして」

 

 

そりゃそうだな、と感じた。同じ事を米軍が行っても相当キツそうなのに予算に制限の多い自衛隊がそれを行うのだから結果は推して知るべしだろう。

何でも一体辺りに使う弾丸の消費が階を跨げば跨ぐほど加速度的に上がってしまうらしい。無理なく維持できそうなのは精々2、3階位で、オークが出てくる階層まで行くと一日に消費する弾丸が許容量の数倍になってしまうそうだ。

 

ヤマギシの場合銃弾を使うのは岩田さんやシャーロットさん位で、槍などはそれほど消耗も多くない。それに魔法を多用していけば槍の損耗も抑えられる。

岩田さん達もオーク辺りからは魔法に切り替えるしね。

その辺りも岩田さんからの報告で上がっていたのだろう。神田さんはしきりに頷いて、自衛隊でも槍などの武装を導入したり、岩田さんのような人材を早期に育成したいと語った。

 

 

「成るほど。お話は分かりました。しかしお金がない、というのは実はウチでも問題になってるんですよ」

 

 

実際、教官育成のための宿舎を立てるお金も日米の政府から資金援助を受けて建設をしている最中であり、その間に先生の先生にする為、岩田さんという人材を教育しているのが現状だ。

うちの手出しだけだとこんな宿舎を立てる費用を用意するなんて難しいなんてものじゃないし、わがヤマギシは身の丈以上の負担が常に降りかかっている状態にある。

 

 

「すいませんが、最低でも一人あたり一日200万円の報酬がいただきたいです。こいつの<収納>を利用する場合は更に上乗せで」

 

「200万ですか。うぅむ・・・しかしヤマギシさんのチームの精鋭を借りると考えると」

 

「決して高すぎるという事はないと思います。少なくともその料金分の銃弾以上には働けるかと」

 

 

真一さんの言葉に神田さんは頷き、「一度持ち帰らせて頂き検討いたします」と言って席を立った。

岩田さんを交えて一度自衛隊の方でも話をするらしい。200万か・・・・・・途方もない金額なんだが最近聞く値段がとんでもない物ばかりで普通に感じる。これ金銭感覚が若干麻痺してきた気がするぞ。

 

真一さんなんか「もっと吹っかけられたかなぁあの反応だと」と言って少し落ち込んでいるがこの人最近怖い。前から頭がいいって印象だったが最近は予知でもしてんじゃないかって位に先読みがハマるし人の心を読んでるんじゃないかって位バシバシ内心を当ててくる。

その癖妙に女心というか押しに弱いところは変わってないというね。

 

後日、この話は正式に締結され俺達は忍野ダンジョンに手助けに行くことになる。

 

 

「やっぱりもっと吹っかければよかったかぁ」

 

「いやもう十分ですって」

 

 

嘆く真一さんに苦笑して俺はそう返した。

 

 

 

 

第三十五話

 

 

忍野ダンジョンへの派遣は真一さん、シャーロットさん、恭二、沙織ちゃんの4人で行くことになった。

立場上岩田さんとドナッティさんは残らないといけないからな。

 

この間に二人と一花をあわせた4名でこれから教育しなければいけない日米合わせての40名の人員にどういった教育を施すかを考えておこう、という事になり、浅い階層を毎日あーでもない、こーでもないと潜り続ける。

収納がないと車の持ち運びが出来なくて、11層以降はキツイからなぁ。あれ使える奴増えないだろうか。センスのある真一さんや沙織ちゃん辺りならそろそろ到達しそうなんだが。

 

 

「いや、それを言うならお兄ちゃんもでしょ?」

 

「俺、体に直で作用する以外は苦手だからなぁ」

 

「うーん。そっちに関しては恭二兄ちゃん以上に使いこなせるのにね」

 

 

魔法全般が超一級品の恭二と身体限定の俺とでは大分違うと思うがな。しかし収納か・・・今度恭二に相談してみるかね。いつまでもあいつにおんぶに抱っこは流石に不味いだろうし。

 

 

「収納も大事ですが、やはりまず自力での回復と自衛手段の確立は急務でしょう」

 

「最初はコウモリあたりを自力で倒せるようにして倒した魔石は自分で消費。少しずつ魔力を増やしていかないと」

 

 

二人の言葉に頷いて、大まかな訓練の段階を決める。

まず、魔力を自覚できるまでの1層にて大コウモリの討伐と魔石の吸収。1層の大コウモリは何かしら武器があれば素人でも倒せる相手だ。訓練を積んでいる日米の兵士なら問題なく対処できるだろう。

 

また、俺達が事前に4、5層で多めにモンスターを狩り、これらの魔石も吸収してもらおうと思う。これに関しては政府に買い上げてもらってそれを使用するという形を取りたい。魔石は現在そこそこ良い値段で取引されているから良い収入になるだろう。

 

1層で魔力についてを把握できたらまずはライトボールやファイアボール等の基本とも言える魔法に着手する。

また、余裕がありそうな人にはアンチマジックとバリアーも覚えてもらう。特にライトボールとアンチマジック等の防御魔法は必ず覚えないと3層以降には挑戦させないことにする。

この3つの魔法は使えなければ死亡率がグンと上がってしまうから、ここだけは妥協できない。

 

そしてこの3つの魔法を覚えて、攻撃呪文などもぽつぽつと覚えてきたら次はチームを組んでの討伐だ。

覚えた呪文によって役割を分担し、人数的には5人チームを日米で組んでもらう。言語が違うのは致命的な隙になりかねないから、日米でチームは当然分けてもらう。

そしてこの5人のチームに俺達チームヤマギシのメンバーが1人入り、6人チームとしてフォーメーションを組むのだ。

 

勿論俺達がでしゃばっては訓練にならないから、基本的には5人で対応し、手が回らなかったり危険だと判断したときに初めてヤマギシのメンバーが手を貸すことになる。

まぁ、岩田さんとドナッティさんはそれぞれ所属する自衛隊と米軍に専属で回ってもらうので、実質は残りのメンバーがその時々でチーム分けされる形になるのだが。

 

 

「えーと、それだと一花ちゃんのチームが不安がったり、一花ちゃんの指示を聞かなかったりするんじゃないかな?」

 

「そうですね。彼女は見た目も年齢も明らかに若すぎる。少し懸念が残ります」

 

「んー、まあそう言われるかなーとは思ってたけどね!基本的に私とお兄ちゃんはこのチームには入んないよ!」

 

 

岩田さんの言葉にドナッティさんが頷くと、一花も言われると分かっていたのか、予め考えていた腹案を話し始めた。

そもそも一度に8チーム全部が入ることはないのだ。モンスターの数にも限りはあるし、一つの層で40人が討伐を始めればあっと言う間にモンスターを倒しつくしてしまうのは目に見えている。

 

なので、一度に入るチームは半分の4チーム。2時間交代で後続の4チームと入れ替わり、合間に気づいたことや注意点などを擦り合わせるといった手法をとる。

そして交代の合間には1時間の休憩を挟み、1日に一度にチームが入るのはそれぞれ4時間とする。

俺たちも休まないとキツいしな。

 

 

「で、空いた私とお兄ちゃんが小まめに巡回をして安全性をあげるって感じ。同じ階層なら無線も使えるしピンチになったら助けに入るよ!」

 

「成るほど。えーと、一郎君がチームに入らないのは一花ちゃんと組むからって事かな」

 

「いや、お兄ちゃんの魔法は誰の参考にもならないでしょ」

 

 

マジトーンでばっさり言われてしまい、思わず真顔で一花を見るが、向こうも真顔だったので思わず目を逸らす。

こないだの腕消失以来、前にもまして遠慮がなくなった気がする。

一先ず、今日話し合ったことは記録に残して、恭二達が帰って来た時に再度話し合うことになった。

 

 

 

恭二たちが忍野ダンジョンから戻ってきた。戦果は上々らしく、自衛隊は一先ず活動限界点を5層に定め、後は人員の成長を待つ形になるそうだ。

特に恭二達が刀や槍を振り回して魔法で相手をなぎ払う姿は彼ら自衛隊に衝撃を与えたらしく、教育人員の選定とプランについて、岩田さんが偉そうな人に度々呼び出されていた。

折角のオフなのに可愛そうに・・・・・・

 

さて、恭二達も帰ってきたことだし、米軍に頼んでいたガスマスク等の坑道攻略用の装備も整っている。

さあ攻略再開だ、とはならず。それよりも楽しみなイベントが俺達には用意されている。

季節は8月。真夏の南国での合宿免許取得が始まった。

 

 

 

 

第三十六話

 

 

「夏だ!海だ!沖縄だー!」

 

「イエーイ」

 

「い、イエーイ」

 

 

ジュリアさん、一花と浩二さんのノリに無理について行かなくて良いですよ。

 

 

「羨ましい・・・・・・」

 

 

今回は完全に唯の休暇になる三人の楽しそうな様子を、真一さんが恨めしそうに見る。

真一さんは年齢制限で中型限定解除までしか取れないそうだが、実習やら何やらで全然遊びに出る余裕がないらしい。

 

昨日までビーチで沖縄の子とお近づき!とか目論んでた罰が当たったんだろう。

俺達元高校生組も自動二輪の勉強で同じく缶詰だから気持ちは同じだけどな!

折角の南国が…まぁ来てすぐ台風の洗礼を浴びて日程が狂ったせいでもあるんだけど。雨男疑惑のある社長には是非社員の福利厚生に力を入れて欲しい物である。

 

という訳で夜に街へ繰り出し社長の奢りでどデカいステーキを食べる。有名人の色紙が壁中に並んでるし凄い店なんだろうか。でも値段は庶民的。

明日はあぐー豚が良いですね!と社長に話すと「程々にしてくれ」と苦笑されてしまった。

 

 

「一郎よぅ」

 

「はい、お代わり良いんですか?」

 

「まだ食う気か!そうじゃなくて。芸能事務所の件だが、本当に良いのか?結構な待遇だったろう」

 

「ああ、その件っすか」

 

 

沖縄に来る前に打診された他所への移動の話だったか。すっかり過去の事になってた。

というのも、以前映画に協力した時の関係者さんが俺の演技と魔法にほれ込んだ!とか言って事務所に所属しないかとヤマギシに打診をしてきたのだ。

 

で、その事務所さんが社長も知ってる超大手だったみたいで断るのも何だか勿体無いという心境らしい。

まあ、俺自体はその提案に何の魅力も感じなかったので断ったんだがね。

 

 

「もー!おじさん、その件はこっちの安売りになるから駄目って言ったじゃん」

 

「いや、一花ちゃん。しかしなぁ」

 

「社長。相手は明らかにイチローくんという人材の価値を認識できていません。ただのスタントマンとしてならあの条件は破格ですが、現在のイチロー君の知名度と希少性を考えればまるで話にならない条件です」

 

「え。俺そんなになってるの?」

 

 

聞き捨てならない言葉につい口を挟むと、その場に居た全員が「こいつは何を言ってるんだ」という目で俺を見てきた。

あ、これ俺が間違ってるのか。黙っとこう。沈黙は金というしな。

 

 

「知名度だけで言えば日本の総理大臣より有名人でしょお兄ちゃん。動画の総再生回数、人類の総人口超えてるんだよ?」

 

「・・・・・・マジで?」

 

 

俺の記憶だと数億位いって凄い凄いって言われてた記憶しかないんだが。

 

 

「うん。ほら、あのアメリカで公認スパイダーマンになるってのあったでしょう。あの後から一気に伸びたの」

 

「米軍の同期達も皆イチローさんの動画を見てます」

 

「うちの隊でもそうです。俺なんか魔法がちょっと使えたから変身できないのかってからかわれて。中々難しいですがね」

 

「はい。これが一般的な見解だよ?実際さっきからチラチラ見られてるのお兄ちゃんだからね?他のメンバーもダンジョン関係のニュースを見てれば皆有名かもしれないけど、お兄ちゃんの知名度はちょっともうそういうベクトルじゃないから」

 

 

何故か誇らしそうに話す一花にデコピンを食らわせて俺は社長に向き直る。

 

 

「社長、恥ずかしいんで帰りましょう!」

 

「却下。お代わりでも何でもすると良い」

 

 

にやにや笑って社長はウェイターを呼び、テンダーロインステーキをもう一枚注文する。

何てこった!ステーキが来るなら食べるまで動けないじゃないか!

サラダをむしゃむしゃ食べながら俺は天を仰いだ。

 

 

「それでも食べるのがお前らしいわ」

 

「注文されてるしステーキに罪はない!」

 

「お兄ちゃんの精神性、ほんと羨ましいよ!」

 

 

恭二と一花に野次られるも食べ物に罪はないからな。美味しく頂くのが礼儀ってものだろう。

ウェイターの人がステーキを持ってきてくれたのでサラダは一時中断だ。

 

 

「あの、ダンジョンのヤマギシさんですよね」

 

「え、はい」

 

「すみません、こちらにサインをお願いできませんか」

 

 

ステーキを持ってきた若い高校生くらい?俺たちと同年代らしきウェイターの女の子が、サイン色紙を持って俺たちにお伺いを立ててくる。てっきりまっすぐ俺に来ると思っていたから身構えていた俺以外の面々が一瞬面食らって動きを止める。

 

 

「わかりました。チームヤマギシって事で良いですか?」

 

「あ、はいお願いします!」

 

 

皆の動きが鈍い内にサイン色紙を受け取り、真ん中にヤマギシと英語で書き込んで左脇に名前を書く。

そして、それを恭二に笑顔で手渡した。

 

 

「・・・・・・うぇ!?」

 

「ほら早くしろよほらほら」

 

「て、てめぇ!」

 

「普段の俺の気分を味わうといいほれほれ待たせてるぞ」

 

 

勢いに任せて全員分のサインを色紙に書かせる。慣れない事をしたせいか皆顔が赤い。

ふふっ、普段の俺がどんな気分か存分に味わうといい。

はい、ウェイターさんどうぞサインです。あ。後一枚?俺別枠で?あ、・・・・・・はい。

 

結局余分に写真つきでサインを強請られて変身までして撮影。周りの人が携帯でパシャパシャとカメラを切る中俺たちは退店した。

途中まで俺を親の仇のように睨んでいた他のメンバーが店を出る頃には妙に優しくしてきたのが余計に心に来る。

変なことはもうしないでおこう。

 

 




山岸恭二:無事に自衛隊にも「こいつはヤバイ」と認識された模様。

鈴木一花:右腕を失った兄の姿はちょっとショックだった模様。小まめに兄の手に目線が行くようになった。

岩田浩二:折角の休みをお偉いさんとの会合につぶされてしまった可愛そうな人。沖縄旅行がタダで行けるからと自分を慰めている。

ジュリア・ドナッティ:一花を着せ替え人形にしてオフを満喫。

藤島さん:魔剣の作成が出来る可能性にテンションアップ


神田さん:統合幕僚監部所属の人。ダンジョンとそこから生み出される脅威に対処する為委員会に所属。当初は脅威としか捉えてなかったが、ダンジョンから生み出される魔法や、徐々に出てくるドロップ品などを見てこれは自衛隊に取り込めないかと認識を改める。特に魔法は兵士の新たな資質だと認識している。


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第三十七話~第四十話

統合作業完了!
ご迷惑をお掛けしました。


誤字修正、日向@様、まつーん様、244様、アンヘル☆様、椦紋様、ハクオロ様ありがとうございました!


第三十七話

 

 

「ねんがんの バイクのめんきょを てにいれたぞ!」

 

「ニアころしてでもうばいとる」

 

「タクシー待たしてるぞ、早くしろ」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

ついつい浮かれて一花と戯れていたら真一さんに怒られた。反省。

沖縄での免許合宿も無事に全員が合格判定を貰い免許証を取得。晴れて自由の身になった俺達はそれまでの鬱憤を晴らすように遊び回った。

 

一花は元々遊び回ってたが…真っ黒に日焼けしてTシャツ短パンで走り回る姿は地元の子供となんら変わらない。

・・・よくよく考えたら、俺が至らないばかりに一花には苦労させてしまっているし。たまには羽目を外して楽しんで貰おう。

そんな事を考えていたのが悪いのか、国際通りを歩いていた女性陣が質の悪いナンパにあったらしい。

 

らしい、というのは沙織ちゃんからの連絡を受けて現場に急行したときにはすでに一花の手によって全員が叩きのめされていたからだ。約1名は股間を押さえて泡を吹いている。

思わず股間がヒュンッとなった。

騒ぎを聞きつけて来た警察に事情を説明。余りの惨状に一部過剰防衛になるんじゃないかと思ったが、

 

 

「こいつ、私の胸を揉みやがったんだよ!極刑でしょ極刑!」

 

「何で加減したんだ?潰せよ・・・・・・」

 

「ロリコンは社会正義的に去勢しとくべきだろ」

 

 

と一花が股間を押さえた男を指差して叫んだ。回りの人たちも「俺も見たぞ!」等の証言をしてくれた為警察側の加害者?に対する視線も一気に厳しいものになる。

俺たち?ちょっとお仕置きモードになってるけどちょっとだけだから。

 

 

「もー!お兄ちゃんも恭二兄も落ち着いてよ。私が自分でケリつけたから良いでしょ!」

 

「いや、ワンパンなら誤射かもしれんし」

 

「んな訳ないでしょ!もー!」

 

 

一花に叱られたためそのまま警察署まで直行。警察署ではあんまり脅さないでくれとちょっと注意されてしまった。仰るとおりです。真に申し訳ない。

 

 

 

さて、事故のような事件も終わり俺たちは合宿を終えて奥多摩に帰還したのだが、早速大量の書類に埋もれる羽目になった。バカンスが恋しい・・・・・・てか2、3日しか遊べてないから結局殆ど休んでないじゃないか!

 

まず、ヤマギシにとって大きな事はインゴットの成分分析が終わったことだ。純金のインゴットは純度が高い金で構成されておりそのまま売却しても問題ないそうだ。5kgで2500万円らしい。

 

・・・・・・・・・うん、凄いな。成分分析用に回した数個のインゴットでこないだ恭二たちが忍野ダンジョンで稼いできた金額をあっさり超えてしまった。まだ一杯残ってるんだがこれ市場に流していいのか?

 

ちょっと偉い人に聞いてみたらいきなり大量に出されると値崩れしかねないので調整したいと言われちょっと待ちの状態。というか口外しないでって言われました。もうすぐダンジョンに入る際の制限が盛り込まれた法案が通る為それまでは発表しないで欲しいそうです。

結構な速度で法律って出来るんだなぁと思っていたら俺の考えを読んでいたのかシャーロットさんが説明してくれた。

 

 

「ここまで早く決まるのは政府の危機感もあるんです。与党・野党関係なく」

 

「多分、今のまま内実が公表されたら洒落にならない人死にが出ると思うからね!永遠の若さと財宝!人が命をかけるのに十分すぎる理由だもん」

 

「永遠って程でも無いだろうがなぁ」

 

「それ猟師に復帰したお爺ちゃんを見て言えるの?こないだ熊狩りにわざわざ遠征してたよ?」

 

「あれは妖怪の類だろう」

 

 

社長と一緒にダンジョンに潜ってから、うちの爺さんはいきなり現役復帰を宣言し、今も野山を元気に駆け回っている。70を超えて衰えていた足腰が一気に若返ったと言ってたがそれにしたって元気すぎると思うんだがな。

爺さんが狩って来た新鮮な鳥や獣の肉が食べられるのは嬉しいがね。

 

さて、少し話を戻す。金のインゴットについてはもう話したと思うがそれ以外のインゴットについてだ。

まずもう一つの貴金属らしきエレクトラムだが、これは予想通り金と銀で構成されていた。ただ、貴金属ではあるが他のインゴットよりも魔力との親和性が高くてこれを鋳つぶして売るのは余りに勿体無いとの事でそのまま使うことになっている。

 

他のインゴットも大なり小なり魔力との相性が良く、魔鉄はもちろん石とレンガのインゴットも魔力を通すことが確認されている。これらを使ってマジックアイテムが作れないだろうかと提案が上がってきているらしい。

この提案を聞いたとき、日本企業すげぇって心のそこから思った。

 

その後、具体的に魔法で電気自動車動かせないかな?と言われた時はもっと驚いたがな!

以前からダンジョン内で運搬を目的とした自動車的なものを作れないかと言われていたのだが、魔力を集めてそれを動力にするというのは完全に盲点だった。ダンジョン内なら実質無補給で動けるって事だ。

 

現在持っているドロップ品を一揃いサンプルとして提供する。恭二の収納がほぼ固有技能として認識され始めている現状、収納以外でドロップ品を運ぶ方法は必須といえる。是非とも完成して欲しいものだ。

 

 

 

 

第三十八話

 

 

『素晴らしい。現代兵器の面目躍如といった所ですな』

 

 

横田基地に報告という形で訪れた俺たちが撮影した提供してもらったジープやM72の運用データに、ニールズ大佐は満足そうに頷いてそう口にした。

特にアイアンゴーレムがM72の直撃で吹き飛ぶシーンがお気に入りらしい。気持ちは分かりますよ大佐。やっぱりデカブツをロケットランチャーで吹き飛ばすシーンは最高に気持ち良いからな!

 

 

『分かってくれるかイチ!』

 

『分かりますよジョンおじさん!』

 

 

思わずガシッと握手を交わす。何だかんだこの人とは波長が合うのか会うたびに話を交わしていたらいつの間にか愛称で呼び合う仲になってた。お孫さんとのプレゼントに何が良いかとかたまに相談されたりするんだが本当に家族思いの良い人なんだこの人。

 

何だかうちの爺ちゃんを思い出すぜって話をしたら興味を引いたらしく是非今度会ってみたいとの事なので、うちの実家で奥多摩狩猟ツアーのガイドも最近やってるんでどうですかと宣伝も兼ねて話しておく。今の状況じゃ家業の猟師も父親の観光業も継げそうにないし・・・多少は役に立たないとな!

 

 

『ああ、そうだ。君の所で教育を受けているドナッティ少尉だがどうかな。君の評価は』

 

『ドナッティさんですか?冷静で思慮深い人ですね。魔法のセンスも勿論ですが周りに対する目配りが凄い。あの人は良い教官になると思います』

 

 

出会ってからまだそれ程立ってないがドナッティさんが後ろに居ると安心感が凄い。魔法に対する取り組みも熱心で苦手分野のある俺より使える魔法は多いかもしれない。俺がそう答えると、ニールズ大佐はうむ、うむと満足そうに頷いて席を立った。

 

何でも本国からダンジョンに関する最新の情報を共有するよう義務付けられているらしく、今回のように米国側にも関係がある情報はいち早く報告しないといけないらしい。「非常に良い報告が出来そうだ」と別れ際に言っていたから、ドナッティさんの評価が下がるような事は無いだろう。

 

 

「あーあ・・・」

 

「・・・・・・どうした。俺何かしたのか?」

 

「いえ、イチローらしいと言いますか」

 

「ごめん、良く意味が分からん」

 

 

後日、かなりお偉い人から直接激励の言葉があったと青い顔で語るドナッティさんの姿に、この時のやり取りの意味が分かり土下座で謝り倒そうとした所、そんなのは良いからそろそろ名前で呼んで欲しいと言われたのでジュリアさんと呼びかけるとめっちゃ喜ばれた。一人だけ名字呼びで疎外感があったらしい。

 

浩二さんなんか2週間もしない内に他の人全員から名前呼びになってたからなぁ。あの人のコミュ力はちょっと凄いと思う。本人自体はクソ真面目な性格なんだが周りにそれを強いることもないし何より偶に羽目を外した時の愛嬌が凄い。人の良さが滲み出てるというか何というか。

 

ジュリアさんだけべた褒めしてもバランスが悪いと思ったので、その辺りを自衛隊への報告の窓口になってる神田さんに伝えると、神田さんはうんうんと上機嫌に頷いて、「実はあいつを推薦したのは私なんですよ」と答えてくれた。

 

何でも浩二さんが新入隊員の時にたまたま神田さんが教育部隊の隊長を努めていて、以来何かと縁があり今回の話が出た時に「あいつなら大丈夫だろう」と推薦したとの事。

 

実際浩二さんには本当に助けてもらっている。何だかんだ10代が多いチームだから、男性の大人が居るってだけでやっぱり安心感がある。

特に真一さんは大学生からいきなりヤマギシという企業の幹部としての働きを求められたせいで精神的にキツそうだったのが、浩二さんが加入してからは多少の余裕を取り戻したように見える。

 

という感じで浩二さんが如何に得難い存在なのか、出来ればチームに残って欲しい位だと熱心に語ると神田さんも終始にこにこ顔で「いやぁ、実際の現場の声は上げとかないとなぁ」と言っていた。

 

 

「って感じでヨイショしときましたから」

 

「おっまえ・・・畜生、ありがとう!」

 

 

アームロックを俺にかけながら浩二さんが渋い声で礼を言ってくる。いえいえ大したことはしてませんとも。そろそろギブギブ。

こちらにも相当上の方から期待の言葉と次回の昇給は期待するように言われたそうだ。良かったじゃないですか。肉食べに行きましょうよ。

 

 

「イチロー、お前俺より高級取りだろが。出すけど」

 

「食べ放題で良いですから」

 

 

インゴットのお陰でヤマギシの財政はかなり上向きになっており、毎月の給料もちょっと信じられないお金になっていた。

まだダンジョン法は施行されていないが、各企業に研究用にインゴットを売却するだけで今までの赤字が全て塗り替わる程にお金が入ってきているからだ。

これで大っぴらにインゴットの売却が出来るようになれば・・・・・・ちょっと洒落にならん金額になるんじゃないかな。

 

その後、食べ放題の話を何処から嗅ぎつけたのか恭二と沙織ちゃん、一花が加わり、出先から戻ってきた真一さんも参加を表明した為いっそ皆で食べに行こうという話になる。

この辺りから青い顔になっていた浩二さんが可哀想になったのか、社長が経費で全て出してくれる事になった。

 

 

「もう安請け合いは絶対にしない」

 

「はははは・・・・・・申し訳ねっす」

 

 

心底安堵したという顔の浩二さんに頭を下げる。

尚、経費で食べる焼肉は大変美味しかったです。社長ありがとうございました!

 

 

 

 

第三十九話

 

 

ダンジョン基本法が施行された。

 

 

 

ここ最近類を見ない速度で決まったこの法律は基本的にダンジョンに入る為には許認可が必要であること、内部で取得したものは基本的に取得者のものになること、そして内部での危険性については自己責任とする事という3つが定められている。

 

テレビの画面には記者会見を受ける総理の姿がある。

シャーロットさんがノートPCをつけてCCNのサイトを開くと、トップページで米国大統領の演説が放送されている。米国でもダンジョン法という名前で新しい法律が施行されたのだ。

 

俺達の懸念、ダンジョンに入る際必ず起こるだろう死者についてを両政府は当然の危惧だと認識してくれた。その結果がこのスピード施行だと思うが最後の自己責任については、本当に有り難い。俺達が一番求めていた法律だ。

 

テレビの中の総理は淡々とした口調でダンジョン法についての説明を終え、質疑応答に移る。

記者達が口々にどういった狙いで施行されたのか。これほどの早さで施行されたのは何故かといった質問をする中、一人の記者がある質問をした。

 

 

「最近、総理や一部閣僚が非常に、その。若返っていると評判なのですが。それはダンジョンに関係するものなのでしょうか」

 

「関係します。詳しい事は政府HPに記載がありますが、ダンジョン内部に満ちているという暫定名・魔力という要素が人間の体力に非常に大きな影響を与えるというデータが確認されています。その体力には所謂若さという物も含まれております」

 

「そ・・・・・・それは、誰もが享受できるものなのですか?」

 

「個人差は大きいでしょうが現在ダンジョンに入ったことのある人間は総じて影響を受けています。最も極端な例では70代の男性が30、40代の体力を取り戻したという物もあります。この男性は外見は大きく変化が無かったようですが」

 

「それは・・・・・・」

 

「総理に質問があります!」

 

 

余りの衝撃に二の句が告げなくなった記者に変わって、勢いよく手を上げた記者が返答も待たずに質問を始めた。

 

 

「それ程の効果があると分かっていながら何故ダンジョンへの立ち入りを制限するのですか!門戸をもっと広げるべきではないでしょうか!そもそも!ちょっと、止めて!離しなさい!」

 

 

周囲の記者に羽交い締めにされた女性記者がそのままズルズルと会場の外に連れ出されていく。

その光景を見た総理は鎮痛な表情を浮かべたまま静かに言葉を発する。

 

 

「我々が今回の施行を急いだ理由は彼女のような人物がダンジョンに挑み、亡くなるといった事態を危惧した為であります。ダンジョンの危険性を認識し、正しい知識と危機管理能力を持ったと認可された人物に、『冒険者』としての資格を付与していく予定です」

 

「その認可を与える条件とは?」

 

「冒険者教育資格を保持した教官の下、最低限の技能と魔法を取得したと認められた場合に発行されます。現在はこの教官を養成している段階であり近日発足予定の日本冒険者協会にて教官の管理と資格の発行を行っていく予定です。繰り返しますが今回取り急ぎダンジョン基本法が試行されたのは早まった挑戦を阻止する為となります。日本国民の皆様、くれぐれも短慮を行わないようお願いします」

 

 

 

総理の発言を見てリモコンを持ったシャーロットさんがテレビを消す。

不思議な感覚だった。遂に来た、という気持ちと、もう来てしまった、という気持ちが一緒になっている頭を駆け巡っているような気がする。

一緒にテレビを見ていた真一さんは目をつぶってじっと何かを考えていたが、考えが纏まったのか立ち上がって周囲を見渡した。

この場には社長や動画班を含めたチームヤマギシの全メンバーが揃っている。

社長が腕を組んで見守っている中、真一さんは一つ息を吸って、吐いてから全員に号令を下した。

 

 

「シャーロットさん、日米に許可を取った後、隠蔽していたショートカットの存在とインゴットの存在をぶちまけてくれ。下手に隠して後で後ろ指を差される方が困る。浩二さんとジュリアさんにはそれぞれ自衛隊と米軍に連絡を入れて秘匿したい情報がないかの再確認をお願いします。もし何か問題があればシャーロットさんと協議してください」

 

「OK,ボス!」

 

「了解です!」

 

「すぐに確認します」

 

 

シャーロットさんと浩二さん、ジュリアさんが頷いてそれぞれ携帯電話を手に取る。

 

 

「一花ちゃん、隠蔽の関係上撮り貯めしていた動画をバンバン流してくれ。出来るだけ派手なアクションの奴を優先で、ゴーレムをロケットランチャーでぶっ飛ばしている奴は必ず入れてくれ」

 

「イエーイ!一花ちゃんの動画フォルダが火を噴くぜー!」

 

『ボス!派手な花火を打ち上げましょうぜ!』

 

 

一花と動画陣営がノリノリで親指を立てて返す。すっかり一花がボス扱いなんだがそれでいいのか動画班。

 

 

「恭二、イチローと沙織ちゃんは俺と外回りだ。委員会が来週には冒険者協会と名前を変えるからそこの設立メンバーに挨拶回りだ。イチロー、お前の名前を使わない選択肢は無いからな?」

 

「了解。風除けが居ると気が楽だぜぇ」

 

「お前、お前それ言ったらあかんやつだろうが・・・・・・」

 

「わ、ちょっと一郎君も恭ちゃんも暴れないでよ!」

 

 

アームロックを仕掛けるもするりと逃げられる。最近近距離でも隙が無くなってやがる・・・・・・。

真一さんの指示に全体が一斉に動き始める。社長は満足そうにその様子を眺めていた。

ちょっと目元が濡れて見えたのは気のせいじゃないんだろうなぁ。自慢の長男だしね。

でも社長、そんな安穏としている場合じゃないと思うんですが。

 

 

「親父、何をボーッとしてるんだ?頭の親父が居なきゃ挨拶回りの意味が無いだろうが。早く行くぞ」

 

「お、俺も?いやいやそっちはお前に任せるから」

 

「政治家の先生やらが親父に挨拶したいってわざわざ連絡入れてきてるんだからほら、わがまま言うんじゃない」

 

 

ぐいぐいと渋る社長を引っ張りながら真一さんが外に出て行く。社長本当に涙目になってたけど大丈夫だろうか。

大丈夫じゃ無さそうだけど、まぁ社長だししょうがないよね。真一さんはあくまで実働班のトップだからね。

慣れない背広に身を包んで俺達は外に出る。

ダンジョンに潜ってるほうが気が楽なんだがなぁ。

 

 

 

 

第四十話

 

 

日米両政府からダンジョンに関する法案が施行され、世界が衝撃を受けたその日。

ダンジョン情報に関して世界の最先端を行くCCNから重大発表と題して発されたニュースが、世界中に再び衝撃を走らせる事になった。

 

金の算出。そして、若返り。

人類が求め続けるその二つがダンジョンにあると、そのニュースは語っていた。

そして、最後に必ず同じ文言が繰り返される。

 

 

「但しダンジョンには命の危険があります。米軍の一部隊が遭難しかけるといった事例もあるため、各国政府は自国民の保護の為ダンジョンに対する抜本的な見直しを図るべきでしょう」

 

 

わざわざ各国とつけて放送されているのは、どうも事前に米国が音頭を取ってダンジョンへの過剰な流入についての懸念を国連などの政府機関を通して行っていたかららしい。

事実日米が同時にダンジョンについての法案を可決させると、相次ぐようにEUや東南アジア周辺国等がダンジョンの立ち入りに関しての取締りを行っており、事前にある程度話を通していたのだろう。

 

逆に恐らく相当数のダンジョンがあると言われている中国やロシアはそういった取締りをしないようで、続々とダンジョンに一般市民が入り込んだり、ダンジョンの所有権を巡っての諍いが頻発しているそうだ。

 

1層に関してなら一般的な人なら大丈夫かもしれないが、2層以降は相手も武装している。欲ばっても良い事は無いと思うんだがな。

 

まぁ、変なことを言われないとも限らないのでヤマギシのHPでは5層までの危険度と事前に用意しておかなければいけないものを記載し、更に『これらの準備に、必ず光源魔法と回復魔法、簡単な攻撃魔法を覚えた人材は2名つける事』と書いて警告を出している。

 

また、一花が作成している動画の一つに無理やり恭二を出してそれらの実演と、これがなければどんな状態になるのかといった物を実演してみた。

 

一番基本となる光源魔法が無い状態で敵と遭遇した場合。これはバリアーをかけて俺が行ったのだが、感知の魔法が無ければバリアーも破られていたかもしれない位危険な物だった。

暗闇でも撮影できる特殊カメラを借りてきて行ったのだが、画面内では敵が見えていない状況のスパイダーマンが四苦八苦しながらゴブリンを退治している。

 

 

「これ、どうやって攻撃を避けてるんだ?」

 

「何となく殴られる場所が分かるから、それで」

 

「何それ怖い」

 

 

この動画を発表してすぐにコメント欄に「彼は本物のスパイダーマンなのでは?どう見たってスパイダーセンスを使ってるようにしか見えない」「アメイジング」「こんなのスーパーヒーローしか出来ない」と褒めているのか怖がっているのかよく分からないコメントがたくさんされていた。

 

再生回数はあっと言う間に数億になったらしい。

その動画を上げた次の日に「光源魔法があった場合」と題して同じ状況でのゴブリン退治を動画で上げる。

 

まあ、視界内に入った瞬間ウェブシューターで縫いとめて終了するだけなのだが。勿論コメント欄も盛況で「目を閉じても勝てるのに縛りが無ければ当然」「アメイジング」「ゴブリンって弱い?」といった声が上がっていたので「弱いけれどナイフを持っている。刺されれば痛い」とコメントしておくと凄い勢いでグッドサインを押された。

 

回復魔法に関してはバリアーをつけた状態でオークと殴り合いをしてみて、ぶっ飛ばされた時に使用してみたりといった事をしてみる。実際に傷を負った状態で使うのが視覚的には一番なんだろうが流石にね。

最終的にストレングスを併用して殴り倒してしまったのだがちょっとやり過ぎたかもしれない。ドーピング魔法とか言われそう。

 

そして最後の攻撃魔法。これに関しては恭二先生の出番である。俺だと右手が勝手に変換しちゃうからね・・・・・・

 

 

「ファイアーボール!」

 

「サンダーボルト!」

 

 

指先からファイアーボールを5つも飛ばす恭二先生の派手な魔法行使に世界中が魅了されること請け合いだろう。沙織ちゃんが使ってるほうが普通の魔法だってコメントしとこう。恭二の真似なんて恭二にしかできねぇよ・・・・・・

 

俺達が動画を使ってダンジョンについての情報を上げ続けている一方、チームとしてのヤマギシは真一さんや社長による地盤固めのような動きが続いている。

特に教育関係についてだ。現状はダンジョンの出入りだけが制限されているため、有資格者とされている人物がヤマギシにしか所属していない。

 

魔石の情報も開示してあるため、会社としてのヤマギシは世界中からの問合せにパンクしてしまったのだ。

家業のコンビニの方にも全くの専門外な電話が入ってきていて普通の業務に差し支えているらしいので一般回線を一時止めてしまったらしい。

 

 

「という訳で冒険者協会の方でそういった問合せは全て受けてくれるそうだ。大規模なセンターが出来るぞ・・・やっと終わった・・・・・・」

 

 

最近発足したばかりの冒険者協会の最初の大きな仕事は問合せの窓口を作る事だったらしい。ここ数日缶詰になっていた真一さんがげっそりとした様子でそう言って倒れるようにソファーで眠り始めた。

 

社長は・・・・・・玄関先で倒れてる。部屋まで連れて行ってあげよう・・・・・・お疲れ様でした。

以前から作っていた自衛隊と米軍兵士用の宿舎が先日完成したため、来週からは教官の育成に入る事になる。

その前に来た一山を無事に乗り越えられて良かったと思うべきか。判断に悩むな。

 




鈴木一郎:ロリコン死すべし慈悲は無い

山岸恭二:ロリコン死すべし慈悲は無い

山岸真一:お前らガチすぎ。去勢で良いだろ

鈴木一花:男共はバカばっかだなぁと嘆きつつ真一のちょっと心配そうな声かけに内心ガッツポーズ

下原沙織:一郎くんも恭ちゃんもお馬鹿だなぁと言いつつ特に止める気はなかった模様。

ジュリア・ドナッティ:チームメンバーと名前で呼び合う仲になったとテンション上昇。帰国した後の事は怖くて考えたくない。

岩田浩二:支払いの時の金額を聞いて命拾いしたと安堵のため息をつく。

ジョナサン・ニールズ大佐:後日誘われた狩猟ツアーに参加しそこで生涯の友を得る。

総理:記者会見の場でやらかす奴がいるとはまさか思ってなかったので困惑気味。説得力を持たせる事が出来たと開き直ろうと努力している。


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第四十一話 専用マシンはライダーの基本

誤字修正。244様、アンヘル☆様ありがとうございました!


第四十一話 専用マシンはライダーの基本

 

 

さて、教官教育も始まるし方針を固めないとな!

と気合を入れていた俺は今、一花に拘束されて車に詰め込まれている。

何でも新装備の開発が出来たらしい。そう言えばこの間スポーツメーカーの人が開発しているって言ってたわ。

 

 

「それなら他の連中はどうした?」

 

「皆受け取りに行ってるよ!」

 

 

そう言って車は東京は銀座に向かっていた。この間刀を買いに行ったから見覚えのある辺りだなー、こんな所にある会社だったのか。

と思っていたら明らかにとある映画会社の前に着き困惑。

 

 

「一花さん。なんかスポーツ用品とは全然関係無さそうでお兄さん困惑してるんだけどどういうこと?」

 

「お兄ちゃん、変身はライダーマンね!」

 

 

 

あ、はい。

横断幕にライダーマン大歓迎って書いてるんだけど何だこれ。イベントなんだろうか。めちゃめちゃカメラとか回されててビビるんだけど。

とりあえず変身をしてライダーマンに。そのまま車から降りると凄い勢いでカメラのフラッシュが視界を埋め尽くした。

一花に促されるままにまっすぐ社屋の前に歩いていくと、見覚えのあるバイクをすっごい偉そうな人が押してくる・・・ライダーマンマシンかー

そうかー。成るほど確かに装備の更新だな。うん。

 

 

「特製にチューンナップしてあります」

 

「ありがとうございます。これからも頑張ります」

 

 

バイクを押していた男性と握手を交わす。何か泣いてらっしゃるんですが大丈夫だろうか。

最近無駄に高くなったサービス精神を発揮してグッと肩を抱いてカメラに移りやすいポジションを取ると、一斉にフラッシュが光る。

こんな感じで良いのかなーと一花をちらりと見ると、グッと親指を立てているので問題なかった模様。

その後社屋の中で引渡しの書類を貰い、更に数名の人物と写真撮影。後、何故居るんだ一号様・・・・・・思わずこちらから写真撮影をお願いしてしまったぞ。

 

 

「ありがとうございます!正面玄関にこの写真を引き伸ばして設置させてもらいます!」

 

「それは勘弁してくれるとありがたいです・・・・・・」

 

「ははは。所で今度新作の仮面ライダーを撮るのですが」

 

 

それはノーセンキューでお願いします。暫く忙しくなる予定なんで・・・・・・

談笑を交わしてお暇を告げる。バイクは輸送で奥多摩に送ってくれるらしい。免許取り立てで奥多摩まで運転するのは怖かったから正直ありがたい。

 

後、他のメンバーは本当にスポーツメーカーに行っていたらしくこういったプランが上がっているという事で見本のような資料を貰ってきていた。

やっぱりジッパー等は難しいため軍服のようになるみたいだな。プロテクターの下から着る物だが、金属だと溶けた場合がやっぱり怖いという事だろう。

 

 

「お前用のプランもあったぞ」

 

「聞きたくない」

 

 

明らかにライダーマンのプロテクターっぽい物が写真に写りこんだ資料を渡されたが。あれか、日本だとやっぱりそちらの方が人気って事だろうか。

 

 

「一息ついたら新しい変身も試さないとね。練習してるんでしょ?」

 

「・・・・・・一応、言われた作品は目を通してるし何度か試してみたけど。これいるか?」

 

「挑戦することを忘れちゃいけないよ!それに右手の変形はどんな効果があるかわからないでしょ?」

 

 

それはそうだ。最近変形をしたミギーのお陰で妙に高速で精密な動きをするようになったり、どうも新しい変形を覚えるたびに右腕が強化されているような気がする。

これを恭二や一花に相談したところ、恐らく本当に強化しているのではなく力の使い方を今覚えていっているのではないか、という事だ。

強化とどう違うのかと言うと、本来出来る事を、俺が使いこなせていないから使った時に覚えていっているらしい。

 

それまでは明らかに右腕が変化した形だったため試さなかったが、ライダーマンになった辺りから確かに右腕自体の力が上がった気がするし、スパイダーマンになった辺りから感知能力がより鋭くなっている気がする。

そしてミギーで覚えた精密な動きと変形の早さ、バリエーションでようやくこの事に俺たちは気づいたという訳だ。

実際、ミギーを使う際に目を出したらそこからの視界も共有できたからな・・・・・・うむ、ここまで変わらないとわからないってのは確かに鈍すぎたか。

 

 

「そういえば藤島さんから言われてた魔鉄を使った新武器ってどうなんだ?」

 

「あっちを見てくれ」

 

 

あっち、と言われて窓の外を見ると、真一さんと藤島さんがぶんぶんと炎を纏った槍を振り回していた。

・・・・・・アンチマジックは使ってるな。

見なかったことにして恭二に視線を向ける。

 

 

「とりあえず大成功って事でいいかな」

 

「良いんじゃね?」

 

 

後日、槍にエンチャントを施した武器を片手に暴れまわるダンジョン動画をとった所、現代に蘇る魔槍といわれてちょっとニュースを賑やかしたのは別の話。

魔剣とか魔槍とかってのはやっぱロマンだよな。皆分かってくれて嬉しいぜ。

 

 



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第四十ニ話 第二回ヤマギシ会議

誤字修正、日向@様、244様ありがとうございました!


第四十ニ話 第二回ヤマギシ会議

 

 

「第二回ヤマギシ会議を開催する!」

 

「わー!」

 

「どんどんぱふぱふー」

 

 

これ毎回やるのか?やるのか・・・・・・白い目で見られても一切気にしない社長はメンタルの鬼だな。

 

 

「新しいビルで営業を開始したコンビニですが、一時の混乱はありましたが現在は無事に通常営業をしています。冒険者協会には感謝ですね」

 

「思い出したくも無い地獄の日々だった・・・・・・こえーな美容って」

 

 

電話の相手が9割方女性だったらしいが、冒険者協会が問い合わせ窓口を作るまでの日々を思い出したのか社長がブルリと震え上がる。全然諦めてくれなくて延々同じ事を繰り返していたらしい。

 

 

「次にダンジョン上に作ったマンションですが、こちらについては内装を終えていつでも入居は開始できるそうです。自衛隊と米軍からすでに荷物が届き始めており、急ピッチで業者が運び込みをしています」

 

「浩二さんとジュリアさんともお別れかぁ。残念」

 

「まだ暫くは奥多摩に居てくれるけど、チームとしては脱退になるな」

 

 

自衛隊と米軍の受け入れ準備が出来た為、それまで教官役として俺達のチームで学んでいた浩二さんとジュリアさんも原隊復帰となる。分かっていた事とはいえ、この数ヶ月一緒に過ごした仲間の離脱はやっぱり堪える。

 

 

「あと、新しいビルの上の階の内装工事も終わったから引越しの準備をしといてくれ。一郎と沙織ちゃんも引越しで良いんだな?」

 

「うぃっす。まぁ、一花は流石に親元から離せませんが」

 

「時間が不規則になっちゃうからね。といってもすぐ近くに家があるからあんまり1人暮らしって気はしないかな」

 

 

俺と沙織ちゃん、それからシャーロットさんは今回からヤマギシビルにお引越しだ。帰ってくる時間が最近バラバラで実家にも迷惑をかけていたし、一応もう社会人って扱いになるからな。社宅に住まわせてもらうようなものだ。

一花の奴は最後まで自分もと言ってたが流石にこいつを一緒に住まわせるわけにはいかないからな、今だって夜遅くなりそうなときは一花を家に帰しているし。

あと、今ヤマギシさん達が使っている家は動画班の寮扱いになるらしい。作業部屋が出来るぜ!とか喜んでたが今現在実質一部屋を謎の機材で埋め尽くしていてまだ足りないのだろうか。

 

 

『あの、あんまりうちの実家をめちゃめちゃにしないでくれな?』

 

『勿論ですよ社長!』

 

 

最近翻訳の魔法を覚えた社長が伺うように確認したが、それやらかすともやらかさないとも取れるんだが。まぁ、こいつらの変な情熱は凄い物があるしあんまり邪魔しないほうが良い物作ってくれるんだが・・・・・・

 

 

「ゴーレムのドロップで冒険者部門は黒字になりました。今まではCCNへのデータ提供と動画の広告収入が主な収入でしたが、これが一気にドロップ品の方にシフトしています。ただ、広告収入のほうは未だに上昇を続けているので暫くは大きくバランスを崩すことはないと思います。ただ・・・・・・」

 

「ただ?」

 

「CCNから、ダンジョンの既存の情報に関して、映像買取がコストカットするとの連絡が入っています」

 

「ニュースとしては目新しいものが無いって事だね!でも、動画関連についてと新情報はまだまだ流して欲しいって!」

 

 

俺達が15層で足踏みに入ってからすでに1月以上が経っている。また、俺が動画で上げている情報も低階層の物が多いためようは情報の価値が無くなって来ているのだろう。

その割には何の準備もせずにどこかの国で大量にダンジョンで人死にが出ているみたいだが。何故か俺たちが悪いと言ってきたらしいがアレだけ警告してそれでも入ったのなら自己責任だと思うんだがなぁ。

 

とりあえず動画でも哀悼の意を表して、こんな事態を起こさない為に自分の動画はある。自身のために準備をしてくれ!と言った感じで各国の声優さんにお願いして吹き替えで発言をしておいた。

とある国の発言について疑問視している人はやっぱり結構な数居たみたいで、大体の人が賛同してくれて気が楽になったよ。

ただ、何故か自国のマスコミがまるで意に介さずこっちを攻撃してくるのが意味分からないんだがな・・・・・・

 

 

「最後に俺から。スポーツ用品等のメーカーからヤマギシにユニフォームが提供されるようになりました。色は俺の一存でブルーな」

 

「親父!俺は断固反対だ!」

 

「私も!絶対ピンクが良いです!」

 

「却下。何が悲しくて黄緑やらピンクのユニフォーム着なきゃいかんのだ」

 

 

真一さんと沙織ちゃんの色のセンスはちょっとおかしいと思う。知らないうちにそんな明るい色のユニフォームでダンジョンに潜らされる所だったのか、危ねぇ。

社長を褒め称えるように拍手を送ると恭二と一花も同じ気持ちだったのかパチパチと手を叩く。憮然とした表情なのは真一さんと沙織ちゃんと・・・・・・シャーロットさん、ちょっと残念そうなのは何故です?

 

 

「あ、忘れてた!そう言えばこないだ、お兄ちゃんのバイク貰いに言った時にバイク会社の人を紹介してもらったんだ。ダンジョン専用のバイクの開発とか提案されたんだけど」

 

「ああ。こちらにも連絡が来ています。既存のオフロードバイクに魔石を積んで、ダンジョン内で使えないかと言う話しでしたね」

 

「こないだの迷宮内電気自動車といい、日本企業は魔力を新種のエネルギーとして捉えてるみたいだな」

 

 

こないだ俺が一号様と握手をしていたときに妹は企業との折衝を行っていたらしい。ちょっと初耳なんですが。普通におじさん達に可愛がられてたようにしか見えんかった・・・・・・

 

 

「お兄ちゃんが一号様と握手してるシーンは向こうの会社のHPトップになってたからお兄ちゃんはお兄ちゃんの仕事をしたと思うよ?」

 

「あ、はい。アリガトウゴザイマス」

 

 

適材適所ですからね。は、はは・・・・・・兄貴としてのプライドをズタズタにされながらこの日の会議は終了した。

広告塔として、頑張ろう。うん。

 

 



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第四十三話 鈴木家、ヤマギシ入り

暫くは7時投稿になります

誤字修正。244様ありがとうございました!


第四十三話 鈴木家、ヤマギシ入り

 

 

浩二さんとジュリアさんは都合のため一度原隊復帰してから再度こちらに来るらしい。

 

 

「次に来る時は岩田浩二一等陸曹であります!」

 

「え、あ。つ、次に来る時もジュリア・ドナッティ少尉であります!」

 

「ジュリアさん変わってないじゃん」

 

「勤務年数も関係するんで・・・でも、新しい勲章を貰えるんですよ!」

 

 

ジュリアさんが受勲されるものは今回、新設されたダンジョンに関する勲章らしく、米国初の受勲者として表彰されたらしい。

昇進よりなお大きい栄誉って奴かな。まぁジュリアさんなら直ぐに出世しそうな気がするけどね。

 

 

「お二人ともありがとうございました。ちょっとのお別れですが、来週からよろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

「お世話になりました。また来週からもよろしくお願いします」

 

 

二人と握手を交わして暫しの別れを告げる。次に会うときには2人とも、ウチのダンジョンを使った魔法教育の教官だ。

 

 

 

 

さて、受け入れの準備もひと段落し、後は人員が到着するのを待つだけになった俺達は暇になった。

というとそうでもなかったりする。

 

 

「ちょっと取りたい特許があるんだ」

 

 

真一さんがそう言って、藤島さんに預けていたあるライオットシールドを取り出す。

 

 

「真一さん、それは?」

 

「刀を魔鉄で打ったら魔法を乗せることが出来た。なら、他の装備もマジックアイテムに出来ないかと思ってな。見ててくれ。アンチマジック!」

 

 

真一さんが魔法を唱えると、シールドが光り輝いた。

 

 

「おお!え、それ何で作ったんですか?」

 

「ライオットシールドにエレクトラムをメッキ代わりに使ったんだ。これは、凄いぞ。一郎、ちょっとバスターでこのシールドを撃ってみてくれ」

 

「りょうかいでっす」

 

 

自信満々に言い切った真一さんの言葉に頷いて、俺はバスターモードの右手をシールドにむけファイアバスターを放つ。

バスターがシールドに当たる瞬間、俺達が度々目にする魔法をかき消す青い光が一瞬走ると、シールドは先ほどと変わらぬ輝きを放っていた。焦げ後もないし、間違いなく魔法をかき消している。

 

 

「このエンチャントメッキは誰もまだ気づいていない。今これを抑えておく必要がある」

 

「素晴らしい発明だと思います。それで、特許はどのように?」

 

「そこなんだよなぁ。出来れば余り使えなかったときの損切りに外部に委託しようかと思ったんだけど」

 

 

そう言って、真一さんは言葉を濁してこちらを見る。

 

 

「一郎の右腕みたいに、特定の魔法が別の変化をするかもしれなかったりするし、今後の件も含めて確実に抑えときたい技術なんだよな」

 

「でしたら、社内に弁理士と弁護士を複数雇うべきです。これからもこのように迷宮産の技術を特許申請するにしてもノウハウを積んだ弁護士が身内に居るのと居ないのとでは大きく動きやすさが違いますから」

 

「・・・・・・・・・ちょっと親父と相談するけど、そうですね。その方向で行きましょうか」

 

「あ、それなら私いい人しってる」

 

 

真一さんとシャーロットさんの話がある程度固まった段階で、様子見をしていた一花が手を上げた。

 

 

「うちのかーさん元弁護士だよ!」

 

 

 

 

 

「お父さんが今の事業を立ち上げる時に一緒にお仕事をして、ね。懐かしいわぁ」

 

 

おっとりとした口調で話す母さんだが、これで俺が生まれるまではバリバリ一線で働く敏腕弁護士だったらしい。自己申告だが。

 

 

「今でも新しい法律のチェックとかはしてるけど、流石にブランクもあるから・・・昔の弁護士仲間を紹介しても良いけれど」

 

「紹介も有り難いんですが、出来れば鈴木さんにも所属して欲しいです。身内の人間が法律部門に居るのは、やっぱり安心感が違います」

 

「母さん、受けたらええよ」

 

 

真一さんの言葉に母さんは眉を寄せて考え込むが、そこに父さんが横から口を出した。

 

 

「ヤマギシさんにはこれからお世話になるし、一郎も一花ももう手がかからん。復帰してもええ頃合いやろ」

 

「でも、家の仕事が・・・」

 

「あぁ、うん、それなんだが。実はヤマギシさんからな。誘われとるんだわ。事業の規模がどんどん大きくなるのに人手が無さすぎる、とな。一郎もお世話になっとるし受けようかと思うんだが。母さんに相談しようと思ったら先に母さんに話が来るとはな」

 

「じゃあ、今の仕事はどうするの?贔屓にしてくれる人も居るじゃない」

 

「ああ。今、事務所で働いとる・・・」

 

 

両親が話し込んでしまったのでこちらは手持ち無沙汰になってしまった。

長くなりそうだし今すぐ決めるとかでなくても良いので、と伝えて俺達は一度ヤマギシのビルに戻ることにした。

 

後日、母さんは正式にヤマギシに入社し、法律部門を任される事になる。父さんも事業の引き継ぎを終わり次第ヤマギシの事務関係を引き受けてくれるそうだ。

今は社長とシャーロットさん、後は真一さんがちょこちょこ見ていた実務関係に一気に増員が入る形になるため、最近悪化の一途を辿っていた社長達の顔色も明るくなっている。

 

そして現在の仕事に関して母さんがシャーロットさんから引き継ぎを受けたのだが、

 

 

「よく今までシャーロットちゃんだけで回してたわねぇ」

 

「あはは・・・とても助かります」

 

 

法律関係、政府関係、事務手続きと殆どの仕事をしていたシャーロットさんの余りの業務の多さに母さんはまず社長の部屋に殴り込み、別の意味で顔色を悪くした社長から人事権を強奪。

 

下原のおばさんやご近所の知り合いをパートで雇って事務処理の速度を一気に改善。昔の仕事仲間で現在はフリーだったり、母さんと同じく産休やら何やらの理由で離職していた元弁護士や税理士を士会への復帰資金の用立て等で囲い込み法律部門も形作り、母さんが入社して父さんが入社するまでのたった数週間でヤマギシの内部を個人経営の商店から企業に変貌させた。

 

で、父さんが入社する前日に人事権を社長に返して法律部門に引っ込んだ。

たった数週間で実務のボスみたいな扱いになった人物のいきなりの行動に周りが目を白黒する中、同僚ではなく家族の目線で見ていた俺と一花は呆れながら一連のやり取りを見ていた。

 

 

 

 

 

「いやぁ、長らくお待たせしました。今日からよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、待ち望んでいました・・・本当によろしくお願いします」

 

「ははは、やはり人手不足が酷いようですね。うちの家内が迷惑をかけていませんですかな?ちとおっとりとし過ぎる所がありますから」

 

「は、ははは。いえいえ大変助かりましたよ」

 

 

ようやく合流した父さんと社長が談笑している。が、社長の方は父さんの背後に立つ母さんの目線を気にして引き攣った笑顔を浮かべている。

父さんの前だと母さん凄い猫を被るんだよなぁ。

 

 

「あれだけぼろぼろの猫の皮なのに何で父さん気付かないかなぁ」

 

「いやぁ。気付いてても気にしてないんじゃないか?父さん母さんにベタぼれだし」

 

 

冷や汗を流す社長と朗らかに笑う父さんを見ながら俺と一花は部屋を離れる。母さんの矛先がこちらに来たら堪らないからな。

 

 



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第四十四話 魔法発電の開発

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第四十四話 魔法発電の開発

 

 

ヤマギシ内の業務改善が急ピッチで進む中、法律の専門家と事務処理の余力を得た俺達は二つの特許をまず取得した。

一つは前回話したエンチャントメッキ。そしてもう一つは。

 

 

「エレクトラムの丸棒にフレイムインフェルノをエンチャント。こいつを小型タービン発電機に積んでみた結果がこれだ」

 

 

横田基地周辺は昔から空軍の基地があり、周囲にある中小企業には世界でも有数の技術力を持ったメーカーや製造業者がひしめいている。

そんな横田基地周辺を俺達は奔走し、横田基地から勧められた金属加工業者と、エンジン技術で有名なIHCという企業に接触。

丸棒の作成とジェットエンジン技術を流用した小型の高効率タービン発電機を入手して、今に至る。

 

 

「凄いぞ、ガンガン回ってる」

 

 

真一さんが会心の笑みを浮かべる。

魔力をエネルギーにするというイメージは元から合った。実際そのアプローチを行っている企業もいる。

ただ、このエンチャントの発想を思いつけるのは現在メッキの開発者の藤島さんと宮部さんか、俺達しかいない。

完全に競争相手の居ない独占技術だ。

 

早速法律部門の人に見てもらい、ヤマギシ法務チームの初仕事として特許を出願。母さん達は一週間ほどで特許申請までこぎ着けてくれた。

真一さんは実験したタービンエンジンの作り手であるIHCをビジネスパートナーに選び、IHCの商品である20tトラックの荷台にタービン発電機を据え付けた移動型の発電装置を改造。

燃料室をエレクトラムに置き換えただけの簡単な改造だが、一週間で火力発電型のタービン発電機を開発した。

それを持って今、総理や冒険者協会の関係者、委員会の関係者を集めて検証実験を行っている。

 

 

「発電を開始します」

 

 

真一さんがそう言うと係りの人がエレクトラムの丸棒を発電機に挿入。

グングンと発電量を表すメーターが上がっていくにつれて周囲の興奮が高まっていく。

発電機は特に事故も無く魔力が消えるまで終始安定した発電を行い続けた。

 

 

「素晴らしい。資源の無い日本にとってまさに福音と言える発明だ。山岸君、ありがとう!」

 

「いえ。総理のこれまでの支援の賜物です」

 

 

真一さんと総理が握手を交わす。同席していたカメラマン達がすかさずシャッターを切ったその一枚は翌日の新聞の一面を飾り、エレクトラム製の燃料ペレットは恐ろしいほどの大反響となった。

世界中の石油原産国以外がもろ手を挙げてこのニュースを歓迎し、ヤマギシには連日世界各国の政府機関、エネルギー企業、電気関連企業、そして自動車産業などから問い合わせが殺到。

 

もしヤマギシの業務改善が行われていなかったらと思うとぞっとするほどの電話や問合せの数々に戦々恐々とした俺達は、これを機に親類や知り合いといった縁を総動員して会社の社員を30人近く増やした。

 

 

「愛知県の超大手自動車会社からタービンエンジンの自動車を作りたいって連絡が来てるみたいだよ!」

 

「あっそ」

 

 

そんな中俺はというと相も変わらずダンジョンに潜って動画を撮っていた。特に最近はライダーマンマシンを11層以降で乗り回す動画をよく撮っている。

事務処理などで手が足りないときはミギーの力を使って高速で書類仕事をやったりしているが、基本俺達冒険者チームは呼ばれることが無ければダンジョンへの準備や、真一さんの手伝いで新製品の開発などをしている。

 

まぁ、真一さんやシャーロットさんが忙しいから現在は16層へのダンジョンアタックも行わず、ゴーレム相手に対デカブツの練習をしたりライダーマンマシンで疾走しながらの攻撃を練習したりしているが。

 

 

「・・・・・・早く先に進みてぇなぁ」

 

「まぁ、しょうがあるまいて。俺らも食べてかないといけないし装備には金かかるし」

 

「んー、そうだがなぁ」

 

 

適度にストレス発散している俺と違ってひたすらダンジョンに潜りたがっているのが恭二だ。

恭二は今現在の会社にまつわるあれこれを、しょうがないとは思うが全部ブッチして1人でもダンジョンに潜りたいと社長の前で言い切った筋金入りのダンジョンキチだ。その後めっちゃ怒られてたけど。

今の足踏みしている状況はひたすらストレスが溜まるだけなんだろうな。

 

 

「今の状況もすぐ終わるって。IHCと代理人契約を結ぼうと社長たちも働きかけてるし」

 

「それが終わったら次は近隣の土地を買収して、エレクトラムペレットを作ってる会社と合同で工場を建てて。それと平行して藤島さん達刀匠の皆さんの工房を隣接して建てて。そしてそしてそれらと更に平行して日米の教官教育が来る。むしろ俺達のんびりダンジョンに居ていいのかね?」

 

「いいんだろ。エレクトラムを大量に集めろって言われてるし。俺はむしろ、周囲の状況が俺たちに安心してダンジョンに潜ってもらえるように整ってきてると思ってるがなぁ」

 

「見解の相違って奴だな・・・・・・お、ゴーレム発見」

 

 

バイクで疾走しながら耳元に着いたインカムで恭二と会話を交わす。

バカ話をしながらも周囲を感知で見ていた恭二がゴールドゴーレムに気づき進路を曲げる。

向こうもこちらに気づいたのか腕を振り上げて攻撃しようとしてくるが遅い遅い。バイクを運転しながらの魔法も身につけた恭二の早さには付いて行けずあっさりレールガンの餌食になった。

 

そのレールガン、両手で撃てるのはちょっとずるいぜおい。

すっかりルーチンワークのようにゴーレムを狩る俺達二人は、今日も今日とてペレットの燃料に現金収入にとあくせく暇を潰すのだった。

 

 




山岸恭二:16層に突入する準備は出来ているのに進めない状況にストレスを抱えている。

鈴木一郎:バイクを走らせながらライダーキックが出来ないか試行中。


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第四十五話 ベンさんと美佐さん

新人参加回



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第四十五話 ベンさんと美佐さん

 

 

「ベンジャミン・バートン少尉デス。ヨロシクお願いしマース」

 

「坂口美佐二等陸曹であります!よろしくお願いします!」

 

日米の訓練生受け入れに先駆けて、ジュリアさんと浩二さんの代わりに二人の人材がチームに参加した。

まず米陸軍からは日本語が若干怪しい陽気なイケメン白人男性のベンジャミン・バートンさん。24歳の陸軍士官で、なんと弁護士の免許も持ってる超の付くアメリカンエリートだそうだ。

 

 

「家柄もホワイトアメリカンのセレブで、このまま10年軍に勤めて、更に10年弁護士、そこから政治家という出世コースの人材なんですがね」

 

「て事はヤマギシへの出向はそれを上回るチャンスになったって事かな?」

 

「可能性はあります。そして出向のタイミングも素晴らしい。かなり先を見る目を持っているようですね」

 

 

冒険者部門頭脳担当のシャーロットさんと一花は彼をかなり高く評価しているらしい。

その評価は決して間違ってないと思うんだが・・・

 

 

『やぁスパイディ、会えて光栄です。今から秋葉原に一緒に行きませんか?日本のアニメと漫画は素晴らしいですね!貴方の他の変身した姿についても勉強したいです』

 

 

この人一花と同じ匂いがする。有能な趣味人だこれ。

 

そして次に陸自から出向してきた坂口美佐さん。25才女性の陸曹で、何と看護師の免許を持っているそうだ。

勿論歩兵訓練は施されているそうだが、最初から回復魔法が使えた浩二さんといい、自衛隊は回復魔法の習得に重きを置いているのだろうか。

非常に小柄な人で一花より少し背が高い位の身長なのだが・・・何というか、警戒心の強い小動物を彷彿とさせる人だ。

 

 

「リスみたいだな」

 

「ちょっ、きょーちゃん止めてよ!」

 

 

ボソリと恭二が呟くと耐え切れなかったのか沙織ちゃんが吹き出した。

 

 

 

 

 

前回の浩二さんとジュリアさんの経験を活かして、まずは魔石を吸収してもらい二人には魔力の感覚を掴んでもらう。

次にライトボール、ヒール、バリアーといった必要最低限の魔法を覚えるまで大コウモリやゴブリン退治を行い、基礎が固まったらパーティーを組んでダンジョンアタックという手順でいく。

といっても途中で横田基地からの呼び出しがあり、日米の訓練兵のお迎えが入ったので二人の自力での10層到達は一旦延期になってしまった。

 

 

横田基地についた俺達を米軍20人と自衛隊20人の選抜チームが出迎えてくれた。

先頭に立つのは先日別れたばかりのジュリアさんと浩二さん。二人が俺達に敬礼をすると、それに合わせて一斉に全員が俺達に敬礼をしてくる。

 

 

「おい、恭二」

 

「ああ、分かってる」

 

 

一人一人の紹介を岩田さんとドナッティさんがしてくれるが、俺達の視線は5人の米兵に向けられていた。

全員の紹介が終わった瞬間に恭二が5人に向かって歩き出したので俺も付いていく。

 

 

『あの。お久しぶりです。お体の具合は、どうですか?』

 

『お久しぶりです。貴方の、貴方達のお陰で、どこも悪くありません』

 

 

恭二が声をかけた人物は、黒人の身長190cm以上ありそうな大男だ。小太りでスキンヘッドという厳つい外見だがやけに瞳が可愛い。恐らく20代前半のその人物は、以前カリフォルニアのダンジョンで救助した部隊の隊員だ。

腹を裂かれていたのに俺達の救助まで生き抜いていたタフな人で、恭二に助けられたらすぐに起き上がって周りの人を助けようとしていた。

 

 

『そうですか。本当に良かった』

 

 

そう言って恭二が彼と握手をすると、5人全員が涙を浮かべた。ちょっと俺も貰い泣きしそうだ。

一同は軍用車を使って奥多摩に移動する。奥多摩に着いたらそのままヤマギシのワンルームマンションに案内する。

このマンション、各部屋にはトイレしかないが変わりに3階に男女別の大浴場と食堂があり、食事は持ち回りで日米が担当するらしい。

俺達も利用していいそうなので早速お邪魔する事にした。

 

 

「米軍の料理はやっぱりお肉多めだね!」

 

「バイキング形式か、すげぇな」

 

「お兄ちゃん、あんまり欲張らないでよ?」

 

 

肉を更に積み上げてニコニコしながら歩く俺を、横から一花が注意してくる。

 

 

「おーい、一郎。こっちこっち」

 

「あいよ。あ『どうも』」

 

『ど、どうも。お邪魔しています』

 

 

見ると例の5人と相席していたらしい。挨拶するが、どうも表情が硬い。あれ、俺嫌われてるのか?

 

 

『あ、あの。カリフォルニアでは本当にお世話なりました。ありがとうございました』

 

『いえいえ。俺達は依頼を全うしただけですので。えぇと、ちょっと表情が固くないです?もっとフランクに行きましょうよ』

 

『それは、その。すみません、貴方相手にほぼ初見で、フランクに話せるアメリカ人はそう居ませんよ!』

 

 

悲鳴をあげるような声に、周囲に座って聞き耳を立てていたらしい米軍兵士が一斉に頷いた。

ジュリアさんにまで頷かれたのは本気でショックなんですが。

 

 

「申し訳ないですが、イチローさんには一度実際に目にして欲しかったので。多分、今アメリカの何処で貴方を見かけても似たような反応になると思います」

 

「・・・・・・あ、はい」

 

 

笑顔のまま固まる俺に申し訳なさそうにジュリアさんがそう言った。

一花さん、ちょっと流石にこれは俺も心が折れそうなんですが。頑張れ?はい・・・

 




ベンジャミン・バートン:米陸軍少尉。24歳。出世コースを蹴って?ヤマギシへ出向してきた。休日に秋葉へ行こうと暇があるたびに言っている。

坂口美佐:二等陸層。25歳。看護師の資格持ち。身長が低く小動物のような印象のある可愛い系の美人。


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第四十六話 日米教官訓練

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第四十六話 日米教官訓練

 

 

「自衛隊のAチームと米軍のAチームがダンジョンに入ったみたい」

 

「よし、俺達も行くぞ。ベンさん、美佐さんよろしくお願いします」

 

「コチラこそヨロシクお願いしマス」

 

「頑張ります!」

 

 

自衛隊のAチームには浩二さんが、米軍のAチームにはジュリアさんがついてるから問題ないと思うが、念のためダンジョン内のレスキュー部隊として俺と一花、それに基礎的な魔法を全て習得したベンさんと美佐さんが巡回することになっている。

この巡回ではベンさんと美佐さんの感知の魔法の精度を上げる事も目的にしている。

 

 

「この感知の精度がそのままダンジョン内での生死に関わるから、頑張って磨いてください」

 

「了解デース」

 

「中々、難しいですね」

 

 

飄々としたベンさんとは対照的に生真面目そうな美佐さんは眉を寄せる。

ああ、いつの間にか愛称で呼んでるけど、ベンジャミンさんだと呼びにくいだろうって事で本人が言い出したことだ。美佐さんもその時に許可を貰っている。

 

 

【日米チームへ。巡回チーム出発します】

 

【JAチーム了解】

 

【AAチーム】

 

 

JAは日本A、AAはアメリカA。単純な分け方だが咄嗟の際に問題なく区別できるように分かりやすい言葉で表してもらっている。

日本側が救助を求めているのにアメリカ側に走ってしまうとかあったら困るからね。こういう奴は分かりやすくしとかないと。

 

もう少ししたらBチームも出発する。1層に24名も入るのは初めてなので、同士討ちが無い様今日は各自銃は自重してもらい近接用のブラックジャックのような棍棒を持ってもらっている。大コウモリ相手ならこれで十分すぎる位だからね。

念のために拳銃は持っていると思うけど、無線で聞く状況的にどこも拳銃を抜くような状況にはなっていないみたいだ。

 

初日の取り合えずの目標は各自にダンジョンに慣れてもらうことと、あわよくば魔力の存在確認をしてもらう事。倒した魔石は公平に分配する予定なので、今日中に魔力が感じ取れるセンスのある人を見出せれば満点って所だろうか。

 

A/Bチームが終わればその次はC/Dチームになる。今日は午前中のそれぞれ2時間だけダンジョンに潜り、午後は各自で実際に潜った際に気になったことや気づいたこと等を纏めて議論する会議をする予定だ。

この会議は言語の関係上日米で別々に行う予定だが、今回の教官教育に来ているメンバーには最終的に皆翻訳の魔法を覚えてもらう予定なので、途中からはその練習も兼ねて日米での合同会議等も行う予定だ。翻訳の魔法は実際に相手の言葉を聞き取ろうとすると覚えやすいしね。

 

 

 

 

さて、ダンジョンである。

午後になったらヤマギシチームのメンバーは暇になってしまったので、これはチャンスだと恭二の進言により16層へ。

ベンさんも美佐さんもそれぞれの会議に参加しているので、6名でのダンジョンアタックとなる。

 

 

「個人的に一番良い人数だと思う」

 

「ああ。多すぎず少なすぎず。5名か6名が1パーティの理想人数だって報告しとこうか」

 

「少なくとも新層に突入するときは6名がベストだな。唯の狩りなら5名でいいけど」

 

 

そんな軽口を叩きながら大昔の炭鉱のように、もろい部分を柱や板で補強してある坑道の中を歩く。防毒マスクと酸素ボンベは腰に付けてありいつでも被れるよう準備している。

 

 

「サイアク・・・・・・」

 

「キモーい」

 

 

沙織ちゃんと一花がそう言って口を閉じた。

ずるずる動く腐敗した「人間」だったもの。グールなんか目じゃない気持ち悪さだ。

 

 

「恭二。何かないか。アンデッドに利きそうな魔法」

 

「あー、えーと。ホーリーライトかターンアンデッドかな」

 

「よし、やれ」

 

「あいよ」

 

 

少し恭二が考え込む中、とりあえずゾンビを火葬で仕留める。フレイムインフェルノが目の前に展開されているのに突っ込んでくる姿はちょっとシュールだった。

自意識がないのかもしれないな。フレイムインフェルノに焼かれて灰になり、ドロップ品を落とすゾンビを見てそう考えていると、恭二が「OK」と声を上げた。

 

 

「試してみる。ターンアンデッド!」

 

 

恭二が魔法を唱えた瞬間、ゾンビの上空から乳白色の魔法が降り注ぎ、一転、上空に舞い戻って消える。

おお、と仲間達のどよめきが聞こえる中、恭二はどんどん魔法でゾンビを仕留めていった。

 

 

「属性は聖と浄化って考えて作ってみた。ちょっと試してみて欲しい」

 

「成るほど。聖属性と浄化か。それをイメージしながらやってみればいいんだな」

 

 

イメージが頭の中で一致したのか真一さんが納得したように頷いた。練習がてら全員で交代しながらターンアンデッドを唱えつつ前に進む。

俺の場合はなんか乳白色に右腕が光りました。流石に接近戦をするつもりは無いのでスパイダーマンモードになり、乳白色に輝く糸をばら撒いてます。

糸に包まれたゾンビが昇天していく様は正直ちょっと面白かった。

 

16層のボスはネクロマンサーだった。周囲には腐敗した冒険者的なのが四人。1人は魔法使いらしい木の杖を持った女のゾンビで、残りは長剣を持った戦士だ。

俺はウェブシューターを使って聖属性の糸をばら撒きゾンビを縫いつける。特に魔法使いは、下手な動きはさせるわけには行かないからな。

手下が絡め取られたからか、ネクロマンサーは一声唸り声を上げると周囲からゾンビがまた湧き出てきた。

 

 

「恭二!」

 

「分かってる。ホーリーライト!」

 

 

え、その魔法何?と思った瞬間恭二を中心に乳白色の光が弾け、周囲のゾンビが全て昇天していく。あ、範囲版のターンアンデッドか。もう開発したのね。

怯んだネクロマンサーに右手を巨大な手に変形させて一撃。いきなり新技なんか出してきたのでちょっと対抗心を見せてみる。

巨大な爪を持ったその右手で叩き潰され、ネクロマンサーは煙になった。

 

 

「何だそれカッケー」

 

「いや、お前こそなんだ今の。何時の間に開発してたんその魔法」

 

「ターンアンデッド開発したときに思いついた。結構魔力食うからまだ試さなかったけど」

 

「さいですか」

 

 

軽口を叩きあいながらドロップ品の回収をする俺達を、呆れた目で真一さんが見ている。

 

 

「お前らもうちょい人類の言葉で会話してくれ。とりあえず恭二、その魔法のイメージを早く教えろ」

 

「うーっす」

 

 

ドロップ品を収納に仕舞い込み恭二が返事を返す。

次は17層か。気を引き締めていこう。

 




ターンアンデッド:聖属性?の魔法。ゾンビ等のアンデッドに効果有。

ホーリーライト:ターンアンデッドの範囲強化版


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第四十七話 バンシーの恐怖

17層・18層攻略。まだダンジョン回


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第四十七話 バンシーの恐怖

 

 

十七層の雑魚は予想通りネクロマンサーだった。

といっても攻撃手段はもう知れている以上魔法連打で完封だ。

やっぱりフレイムインフェルノが強すぎる。これ絶対に10層とかで思いついて良い魔法じゃない。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

沙織ちゃんがネクロマンサーに止めを刺した。グロに耐性のない沙織ちゃんだが遠距離ならある程度平気なのか、近づかれる前に感知した敵をバンバン魔法で焼き払っている。

ゾンビに噛まれて大丈夫かもわからないし、遠距離攻撃が鉄板だろうな。

 

 

「ボスはネクロマンサーと・・・・・・マミーか?」

 

「見えないだけゾンビよりマシ・・・・・・」

 

 

ボス部屋に入るとネクロマンサーが使役したモンスターを連れて待ち構えていた。引き連れているのは包帯で全身を覆ったミイラのような怪物だ。

炎が有効そうなので一斉射撃でボス部屋を真っ赤に染める。対した苦労も無く17層も攻略完了だ。

 

 

「マミーのドロップは・・・鞘付きの短剣。宝玉付きだな」

 

「これ、価値があるかなぁ?」

 

「どうかな。何か特殊な効果があるかもしれないし取っとこう」

 

 

ゴーレムのインゴットのようにどんな効果があるかわからないからな。一通り調べるまで価値を見出すのは難しい。

ネクロマンサーのドロップ品は変わらず水晶玉だったが、雑魚のネクロマンサーが落とす物より透明度が高く感じる。

これは、次もネクロマンサーな予感がぷんぷんするな。

 

 

「やっぱり・・・・・・」

 

「もうこいつ嫌・・・・・・」

 

 

18層の雑魚は予想通りネクロマンサーとマミーだった。面倒になった俺達は考えうる限り最短距離を火葬しながら走りぬける事にする。

そしてボス部屋まで走り抜けて、中を伺うと・・・・・・嫌な予感は当たるようだ。

 

 

「またネクロマンサーか・・・あとは、女?」

 

「全身黒ずくめにフードマント・・・明らかに悪い魔女っぽいんだけど」

 

「後はスケルトンかぁ。この階層でも出てくるとはね!」

 

「皆、アンチマジックはかけ直して置いてくれ。何かがあった時は恭二、頼むぞ」

 

「りょうかい。気合入れなおすわ」

 

 

真一さんの指示に従い、各自がアンチマジックをかけなおす。俺も戦闘能力の高いライダーマンスタイルに切り替えて、自身にバリアとアンチマジックを掛けなおした。

 

 

「いくぞ!」

 

 

真一さんの号令に従いボス部屋に突入した瞬間。

 

 

【ギャアアアアアア!】

 

 

黒い女が金切り声のような叫び声を上げた。

音を聴いた瞬間、天地が逆転したような衝撃を受けて俺は座り込んだ。

これは、まずい。体が動かない。

自分の身体がまるで粘着性のある液体の中にとらわれているような感覚だ。

ヤバい、どんどんスケルトンが近づいてくる。このままじゃ不味い。

後方の仲間からの魔法はない。皆恐らく同じ状況だ。先頭の俺と恭二が止めなければ後ろの仲間が。

一花が危ない!

 

 

「オオオオオオオオ!!!!」

 

 

雄たけびを上げて、立ち上がった。魔力と言う魔力を無理やり体内で爆発させて相手の影響を消し飛ばす。

戦闘態勢をとるスケルトンに駆け寄り殴り飛ばすと、殴った部分が吹き飛んだ。

手の周りを何か黒い蛇のようなものが這い回り、普段からは信じられないほどの力が全身を覆っている。

 

 

「恭二!」

 

「・・・!レジストぉ!」

 

 

俺の声に応えて恭二が立ち上がった。

俺は恭二を庇うように立ち、スケルトンの攻撃を盾で遮る。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

特大の火柱がボスのネクロマンサーと黒い女を包み消滅させる。

最後のスケルトンを殴り倒すと、ちょうど魔力切れか右腕が溶けるように消えた。

荒い息をつきながら恭二を見ると、顔を興奮で真っ赤にした恭二の姿がそこにあった。

 

 

「きょ、きょう・・・」

 

「兄貴!クソっ、レジスト!」

 

 

真一さんのうめき声に我に帰ったのか、恭二は慌てて全員に魔法をかける。

レジスト・・・抵抗か。あの状態にそれで抗ったって事だな。

 

 

「あ・・・うう」

 

「これじゃ駄目か!どうする・・・状態異常、状態異常だ。治す・・・よし!リザレクション!」

 

 

ヒールより強い閃光のような光が真一さん達を覆った。

効果は・・よし、顔色が戻っている!

恭二は念の為、全員にもう一度リザレクションをかけて様子を見る。

 

 

「どうだ、兄貴」

 

「・・・ふぅ、はぁ。大丈夫だ、何とか、戻ってこれた」

 

 

ドカッと真一さんが座り込む。沙織ちゃんやシャーロットさん、一花も立っていられないのかぺたり、と地面に膝を付けた。

 

 

「・・・・・・ヤバかった。あのオークにぶっ飛ばされた時よりも」

 

「・・・・・・恐らく状態異常だと思う。あいつの鳴き声はアンチマジックを貫通してたから、スキルかな」

 

「バンシーかな、多分」

 

「イギリスの伝説に出る妖精ですね。アレは、かなり邪悪に見えましたが」

 

「妖精なんて可愛いもんじゃない。悪霊って方がまだ分かる」

 

 

シャーロットさんの言葉に恭二が頷いた。

俺達は心を落ち着けるために他愛無い内容の会話を繰り返した。

 

 

「さて、どうする?」

 

 

ある程度頃合を見て、真一さんがそう尋ねる。

撤退か進むか、という事だろう。

 

 

「進もう。この階層はさっさと終わらせた方が良い気がする」

 

「俺もそれに賛成」

 

「ほう。理由は?」

 

 

恭二が真っ先に手を上げたので俺も賛成の声を上げる。撤退になると踏んでいたのか真一さんが少し驚いた顔をしている。

 

 

「まず、対策が立てられれば対した相手じゃないのが一つ。あいつの鳴き声に抵抗するレジストと、万が一状態異常になった時のリザレクション。これがあればあいつはただの雑魚だ」

 

「・・・・・・成るほど。一郎、お前もレジストが使えるんだな?」

 

「いや、俺は力技で破ったんで」

 

「・・・・・・・・・・・・人類の言葉で分かるように話してくれ」

 

「と言われましてもねぇ」

 

 

無理やり魔力を体に込めて弾き返したからそれ以外に言い様がない。

 

 

「レジストとリザレクションは後で教えるよ。で、二つ目がこの辛気臭いエリアをとっとと終わらせたい。ドロップも美味くないしな」

 

「私賛成」

 

「あたしも」

 

「じゃあ、私も。流石に辛くなってきました・・・・・・」

 

 

二つ目の言葉に女性陣全員が賛成に回り、真一さんはお手上げと肩をすくめる。

多数決なら仕方ないよね。早めに魔力回復しよう。

 

 




レジスト:抵抗力を上げる魔法。基本的に自身の状態異常に対する抵抗力を上げる為、状態異常になった後だと効果が薄い。

リザレクション:上位回復魔法。傷も状態異常も回復する。


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第四十八話 ドラゴンスレイヤー

20層まで攻略。普段よりちょっと長くなりました。

誤字修正。244様ありがとうございました!


第四十八話 ドラゴンスレイヤー

 

 

さて、色々大変だったボス部屋を出て19層へ。

となる前に全員でレジストの練習からだ。次の階層に入る前に覚えないとバンシーの相手が辛いからな。

 

 

「バンシーの泣き声は恐らく俺達の精神を直接攻撃してくる魔法か、スキルなんだと思う。だから、レジストはその攻撃から精神を遠ざける、要はバリアーと同じく精神の壁を作って攻撃を妨げたり、弱体化するように【障壁】を作るイメージで使用している。バリアーと似た様なイメージで出来ると思う」

 

「なるほどな。これに属性を混ぜるのか。聖で良いのか?」

 

「ちょっとやってみるね!」

 

 

レジストのイメージはバリアに近く、イメージもしやすかった為か全員がすぐに覚えることが出来た。

だが、もう一つの魔法。リザレクションに関しては難航していた。

 

 

「駄目だな。どうしてもヒールになってしまう」

 

「イメージの仕方がなぁ。復活と言うか復帰させるって考えてみたらどうだ?」

 

「んー、んん?うーぬ」

 

 

沙織ちゃんや真一さんといった今までの魔法は全て見ただけで覚えてこれたセンスの良い人たちでもどうもイメージが沸かないらしく、ヒールが発動してしまうようだ。

俺は一応成功できたが、いつも通り右腕に付与する事しか出来ず乳白色に光る右腕という微妙な見た目の新必殺技(回復呪文)が出来てしまった。

これで殴ると相手は治る。アンデッドには特攻だがな。

 

 

「そういえば、さっきなんか一瞬だけ右腕が変なオーラ出してなかったか?」

 

「ああ、うん。俺もちょっとビビッた」

 

「・・・・・・多分、もののけ姫のアシタカじゃないかな、と思う。邪王炎殺拳の可能性もあるけど」

 

 

眉を寄せて一花がそういうが、確証は無いようだ。

俺も一瞬だったしよくわからなかったが、そう言われてみるとそんな気がしてみたのでちょっと使ってみた。

 

 

「うぉっ」

 

「うわ!」

 

 

ごっそりと魔力を吸われて右腕の周囲に黒い蛇のようなオーラが立ち昇る。それと同時に、体中を全能感の様な心地よさが駆け巡った。

瞬時にバスターに切り替えるが、魔力を吸われすぎたせいか微妙に気だるさが体を襲ってくる。右腕が溶けるほどじゃないが、これは本当に一瞬しか使えないな。

 

 

「これ魔力の消費がやばいわ。多分、そうとう強い腕だけど」

 

「うん・・・・・・感知ですっごい魔力の流れを感じたよ。お兄ちゃん、これ当分っていうかほんとのピンチ以外禁止ね」

 

「おお。頼まれても出来ねぇわ・・・すまん、ここの魔石貰っていいか?」

 

「いいぞ。余り無理するなよ?」

 

 

足りない分の魔力をバンシーの魔石を使って補う。流石に18層のボスだけあってかなり回復したのを感じる。

 

 

「行けるか?」

 

「大丈夫です。今の・・・呪いの腕を使わなければ問題ありません」

 

「わかった。じゃあ、行こうか!」

 

 

真一さんの号令を受けて俺達は19層へ足を踏み入れた。

19層では予想通りバンシーが雑魚として出てきたが、しっかり対策を取れば怖い相手ではない。

要は初見殺しのような奴だったんだな。その分、恐ろしい位に致死率が高い。

先に俺達が入ってよかった。もし、恭二や俺が居ないパーティーなら恐らくここで全滅していた可能性が高い。

バンシーのドロップは・・・・・・フード付きのマントだ。絶対に着たくない。

 

アウトレンジでの魔法攻撃でどんどん進み。ボス部屋までやってくる。

19層のボスはネクロマンサーに、従者として侍る赤黒い血でペイントされたスケルトン。そしてバンシーと・・・レイスか。

 

 

「9層の奴よりはパワーアップしてると見よう。一気に火力で押し切るぞ!」

 

 

真一さんの号令でボス部屋に突入。

 

 

【ギャアアアアアア!】

 

 

即座にバンシーが金切り声を上げるが・・・よし、レジストできている!

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

状態異常を完全に防げたことを確認し、各自がフレイムインフェルノを放つ。一瞬でボス部屋が炎に包まれた。

悲鳴を上げる事も無くモンスターたちが瞬時に消滅していく。

 

 

「よし。これならやれるな」

 

「20層までの必須魔法になりそうですね」

 

 

レジストの効果の高さに自信がついたのか、真一さんはすぐさま20層への突入を決断。

俺達も異議はなく、そのまま一直線にボス部屋までひた走る。

さっさとダンジョンから出たいという意思が足を速めたのか、程なく俺達は20層のボス部屋へとたどり着いた。

 

 

「うわぁ」

 

「いつか来るかと思ってたがなぁ」

 

 

明らかにドラゴンの体躯をしたゾンビとそれを従えるネクロマンサーのコンビに一花と真一さんが苦笑いを浮かべる。

あいつブレス撃ってくるのかね。肉がぽたぽた腐り落ちてるし骨も見えるんだが。

 

 

「バンシー、レイス、スケルトン。ここまでの総ざらいみたいな編成だな。それにあのネクロマンサーめちゃめちゃ身なりがいいぞ」

 

「全部の指に指輪付けてるし。ネクロマンサーロードって所かな?」

 

 

部屋の手前で作戦会議がてら恭二と一花が雑談を始める。口調は気の抜ける言い方だが、表情は一切笑っていない。

あのドラゴンゾンビが俺達を全滅させうる敵だと認識しているんだろう。

 

 

「よし。全員、ガスマスク着用。腐敗した空気を肺に入れるのはさけよう。リザレクションがあるから大事は無いと思うが」

 

「あ、そういえば使ってなかったね。賛成!」

 

「俺も。すっかり忘れてたわ」

 

 

酸素ボンベを背中に背負い、ガスマスクに付けて外の空気を完全に遮断するタイプのマスクだ。こちらが吐き出す息は逆流防止弁という物を押し出して吐き出すので二酸化炭素が溜まる事もない。

そして全員が念の為にアンチマジック・バリアー・レジストをかけ直して、全員がしっかりシールドと、シールドへのエンチャントも行う。

死なない事を最優先にフォーメーションを組み、俺達はボス部屋に突入した。

 

 

【ギャアアアアアア!】

 

【ゴボゴボ、ゴォォォ!】

 

 

バンシーの金切り声にあわせてドラゴンゾンビが咆哮を上げる。まるで排水溝に水が流れ込む時のような音だ。

真一さんたちの魔法がボス部屋を包み、炎の柱が何本も立ち並ぶ中、ドラゴンゾンビはそんな魔法の嵐を涼風だと言わんばかりに腐りきった口を開く。

白骨化した牙が並ぶあごの奥、喉に蠢く紫色に発光する何かが見えた瞬間、俺はフルチャージしたリザレクションバスターを口の中に叩き込んだ。

 

 

【ゴォォオ!】

 

 

濁流のような悲鳴を上げてのたうつドラゴンゾンビを乳白色の閃光が包む。

恭二のリザレクションだろうそれは一瞬でドラゴンゾンビを灰にしてしまった。

周囲を確認し、もう敵が居ないと見て取った真一さんが手で合図をしてマスクを外す。

 

 

「よし、作戦がバッチリ当たったな!」

 

「一郎、ナイス!良いタイミングだったぜ」!

 

「お前もな。一発で昇天させちまいやがって」

 

「ドラゴンスレイヤーですよ!私達!」

 

「よかったー!何も無くて」

 

「あいつのブレスは食らいたくないからね。ハメ勝ちできてよかったよ」

 

 

口々に喜びの声を上げて、俺達はドラゴンが残した見たことも無いような大きさの魔石と、ドラゴンの骨と牙を拾った。

そして、予想通りに鍵を見つける。

 

 

「やっぱりあったか。なら、この先にあれがあるな」

 

「早く帰りたいよぉ、真一さん!」

 

「本当ですね・・・今日はもう、クタクタです」

 

 

ネクロマンサーのドロップ品と共に落ちていた鍵を拾い、真一さんが奥のほうへ歩いていく。

ネクロマンサーのドロップ品は指輪だった。恭二に収納してもらい、俺達も先に進む。

予想通り先に進む道と鍵のかかった部屋があったのでこれを開けると、20層の転送室があったので早速宝箱タイムだ!

ミギーを使って部屋の外から腕を伸ばして宝箱を開ける。今回も罠は無く、中には人数分の皮袋があった。10枚前後の金貨と何らかの宝石、指輪、そして皮袋をどけると、読めない文字の手紙が置かれていた。

それらを恭二に収納してもらい、俺達は水晶玉に手をかざす。

見慣れた1層の部屋に出た俺達は無言のままダンジョンの外に出て、その場でへたり込んだ。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

立とうとしてよろめいた沙織ちゃんを、恭二が支える。

 

 

「・・・・・・し、死ぬかと思った」

 

「うん・・・・・・」

 

 

終わったと認識したとたん体が死の恐怖を思い出したらしい。呆けた表情の沙織ちゃんと一花がそう呟くと、沈黙が場を満たした。

 

 

「今日は、帰ろうか」

 

「・・・そうだな。反省会は明日だ。正直、寝たい」

 

「浩二さんとジュリアには、私から連絡しておきます・・・・・・」

 

 

そう言葉を交わして、俺達は解散する事になった。全ての続きは明日。反省も何もかも先送りにして、俺達は帰路につく。

1人で歩くのも億劫なのか、一花はずっと俺に縋り付いて離れなかったので、俺はそのまま実家まで一花を送って、一花が眠るまで手を握ってやった。

 

 

 




鈴木一郎:結局一花が手を離してくれなくてそのまま雑魚寝。

鈴木一花:一郎の手を握ったまま寝ていた事に気づき赤面。蹴り起こす。

山岸恭二:死にかけるという経験がチートをより進化させる。

山岸真一:人生最大のピンチに何もできなかったという事実と、弟と弟分が自力で立ち上がったと言う事実が心に一筋の傷を作った。

下原沙織:恐怖で眠れなかったため恭二の部屋に突撃。

シャーロット・オガワ:強い酒を呷って体を強制的に休ませる。かなり精神的に着ていた模様。


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第四十九話 ゲートの魔法

誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございました!


第四十九話 ゲートの魔法

 

 

翌日の教育はダメージの大きな沙織ちゃんと一花を休ませて、俺がヘルプで沙織ちゃんの代打をする事になった。流石にまだ経験の浅いベンさんや美佐さんを俺達と同等の扱いにするわけにはいかない。低層とはいえ事故は起こりえるからな。

 

今日の訓練は午前と午後でしっかり行い、夕方のミーティングで昨日のダンジョン探索についてを外部組に伝えた。

反応は半信半疑といった感じだが、映像付きでパーティーが全滅しかけた瞬間を見せると押し黙る。

まぁ、あの状態異常は一度経験しないと理解できないだろう。

 

 

「あれを一度味わってもらうのをこれからの教育に入れるべきかもしれないな。初見殺しが実在するって、身をもって知ることが出来る」

 

「まずは教官組から行こうか。今ならすぐ20層へ行けるけど、体力は大丈夫ですか?」

 

 

浩二さん達は互いを見回してから、真一さんの提案に頷いた。

そして二時間後。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・そ、外」

 

 

リザレクションで体力は回復しているはずだが、青い表情で浩二さん達はダンジョンを出た。

浩二さん達ほど基礎が出来ていないベンさんと美佐さんは、顔を真っ青にしたまま無言で道を歩いている。

 

 

「あんな奴、知らなければ、皆殺しにされてもおかしくない・・・・・・」

 

 

浩二さんの呟きに一同が頷いて、再び会議室に足を向ける。

カリキュラムを一部修正する必要がある。後は派遣元への連絡が必要だな。

 

 

 

 

そんな形でこの秋、俺達は教官をやる傍ら状態異常に対しての研究も進めることになった。

特に致死率が高いと思われる麻痺や盲目状態、毒と言ったゲームなどでもポピュラーな状態異常に、熱や寒さ等といった環境を変えるような魔法等も視野に入れて新規魔法を開発したり、対策を練っていく。

とりあえず今回最大の成果としては。

 

 

「エアコントロール!」

 

 

恭二が発動させた魔法が薄緑色の膜を周囲にめぐらせる。

この中は常に一定の気温に保たれていて、暑さや寒さといったマイナスな状況を防ぐことが出来る。また、この膜の中には毒煙や麻痺煙といった空気に混ざる有害な物質を防ぐ機能もある。

頭に超が付くほど便利な魔法が生まれてしまった。

 

 

「これを付与したペレットを個人で持ち運べるようにすれば、花粉症から解放される!」

 

 

魔法の詳細を聞いた委員の1人がその瞬間にこう叫んでしまうほどの効果に、周囲は色めきたった。

と言っても、幾ら俺達でもそう何度も新製品を開発し続けることは出来ないため、真一さんたち経営陣は国内の空気清浄機などを作っているメーカーに相談してみるようだ。

 

 

「現状、まだまだペレットの数が足りないからな。発電機の方が優先になる」

 

「頼むぞ、恭二、一郎!ガンガンエレクトラムと魔石を取ってきてくれ!」

 

 

社長にガシッと方を掴まれて頼み込まれる。最近、事務作業から解放された分社長は色々なお偉いさん達と話をする事が多くなったそうだ。

で、大体の人が二言目には発電機か魔石の話をするらしい。

ゴーレムの魔石が一つあれば大型の火力発電所をフルで一日動かす魔力を得ることが出来るそうなので、俺達の最優先対象はエレクトラムゴーレムの討伐だ。

現在は俺と恭二の二人組で一日にエレクトラムゴーレムを20体、普通のゴーレムを4、50は倒すことが出来ている。

移動の距離さえなければもっとバリバリ倒せると思うが、フィールドの広さが広さだからこれはしょうがない。

 

 

「なぁ、恭二、何かワープとかそんな感じの魔法は作れないのか?流石に嫌になってきた」

 

「ああ・・・一応俺も考えてるんだが」

 

 

バイクを転がすのは好きなんだが、ずっと同じ風景を見るのは流石に気が滅入ってくる。

駄目元で魔法博士に尋ねてみるも、感触がよろしくないようだ。

 

 

「いや、出来るかもしれん。ただ、転移した先が知っている場所かとか、転移したときにほら。何か虫とかが体に入り込んだりしないかが怖くてな」

 

「ああ・・・・・・『いしのなかにいる』って奴か。なら、転送室みたいに転移先を指定して、そこにゲートみたいなのを作れないのか?ダンジョンの入り口みたいな奴」

 

「いやいや流石に・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「恭二?」

 

「・・・・・・いける。イチロー、お前天才かもしれんぞ」

 

 

恭二はにやりと笑うと、地面に足で×印をつける。

 

 

「よし、ここに一度出してみる」

 

「マジか。マジか!?」

 

「成功するかはわからんがな。ゲート!」

 

 

恭二がそう呪文を唱えると、ボンヤリとしたもやが×印をつけた辺りを覆う。そしてもやが晴れると、見覚えのある黒い穴がそこに出現した。

間違いない、ダンジョンの入り口だ。

 

 

「ちょっと見てみる。どこに繋いでるんだ?」

 

「一応、ダンジョンの入り口のつもり・・・・・・・これ、やばいわ。維持するだけでガンガン魔力が」

 

「もうちっとだけ頑張ってくれ」

 

 

念の為右腕をミギーに変えてゲートに向かって伸ばす。最悪これで変な場所に繋がっていてもこちらに大きなダメージは無い。

ミギーの視界をこちらと共有すると・・・・・・

 

 

「間違いない。ダンジョンの、ゲート前に繋がってる」

 

「っし!大成功だ!って、ああ!」

 

 

成功を喜んでガッツポーズをする恭二。だが、そこで気が緩んだのかゲートが消滅してしまった。

一緒にミギーも飛ばされてしまったが、元々魔力で組まれた物の為魔力以外の損失感はない。

 

 

「すげぇな。ついに転送まで出来ちまうようになったか」

 

「・・・・・・・いや、外だと無理だ。これ、魔力消費がヤバすぎる。魔力が空気に満ちてるダンジョンじゃなかったら多分あっと言う間に消えるし、行き先のゲートも展開しないといけないから1人じゃ間に合わない」

 

「お前で駄目なら・・・・・・少なくとも暫くは空間転移はダンジョン内限定だな。それでも、すげぇよ」

 

 

疲れ果てたという表情の恭二に肩を貸して立たせる。

これでパーティーが全滅する可能性がグッと減った。20層以降の攻略に良い弾みがついたな。

 

 




エアコントロール:自身の周りに空気の結界を作る魔法。基本的に一定の気温を保ち、外気に混ざっている有害な物質を排除する。

ゲート(現状恭二専用):ダンジョンのゲートと同質の空間同士を繋げる穴を作る。莫大な魔力を消費する為、現状は恭二しか使用できない。ダンジョン外での使用もほぼ不可能。


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第五十話 世界冒険者協会

第五十話 世界冒険者協会

 

 

「世界冒険者協会?何じゃそりゃ」

 

「本部はアメリカのロサンゼルスにあるらしい。一応日本の協会にも連絡来てるらしいぞ」

 

 

そう言って恭二はヤマギシ宛に送られてきた手紙をヒラヒラとはためかせる。

世界冒険者協会ねぇ。俺達に何のようなのか。

 

 

「喜べ一郎。ぜひお前に名誉会長になって欲しいらしい」

 

「謹んでお譲りします」

 

「俺もヤダよ忙しいのに」

 

「それな。日本の協会だけで手一杯だしアメリカまで手を伸ばすのは無理だろ」

 

 

毎日手分けして教育と魔石の確保に走り回り、何かあれば協会や企業に呼び出されて質問され、と非常に忙しい日々を送る俺達に、わざわざアメリカの仕事まで背負い込む余裕はない。

IHCが発表した魔法燃料とそれを使ったタービン発電機も実験機を更に発展させた商用発電機の評価が始まったし、民間企業が自社工場の自前の電源に使いたいとかの話も来ていて、燃料用ペレットは現状まるで足りなくなっている。

 

お陰で単独でもゴーレムを狩れる俺と恭二は連日14層に潜り続ける羽目になった。だが、恭二が新しく開発したゲートの魔法のお陰で帰りは楽々出口まで行けるようになったから大分負担はなくなったけどな!

 

このゲートの魔法の存在は一瞬日本冒険者協会に激震を走らせたが、魔力消費が酷すぎて外では使えない、いわばダンジョン専門の魔法だとわかると一気に沈静化した。そのダンジョン内部でもまともに使えるのが恭二だけだから余計にな。

 

 

「いや、それでも将来、魔力問題さえ解決出来れば外でも使えるかもしれない」

 

 

そう言って真一さんは最近、忙しい合間を縫ってその時暇な人員と一緒に1、2時間狩りを行っているらしい。ゴーレム等の大型の魔石以外は自分で吸収して自力を高めているそうだ。

 

 

「いつまでも弟達におんぶに抱っこされるわけにはいかないからな」

 

「いやいや頼りにしてますよ。ダンジョンの中でも外でも」

 

「・・・・・・」

 

 

ダンジョン内なら前衛も後衛もこなせる上にリーダーとして指示まで出してくれるオールラウンダーで、魔法のセンスも抜群。

外に出たら新しい魔法関連の特許にはほぼ名前が出てくるヤマギシの要で、次期社長。

政財界からの覚えも目出度いらしく、最近では社長よりまず真一さんと繋ぎを取りたい、という人も居るらしい。

俺や恭二が好きに動けているのも真一さんが居るからって所か大きい。

実の弟からは言いにくいかもしれないから俺の方から頼りにしてると伝えると、真一さんは少しだけ目を閉じて、深く息を吐いた。

 

 

「そうか・・・・・・そうだな。なら、もっと頑張らないとな」

 

「体に気を付けて下さいね?」

 

「ああ。俺程度の忙しさで倒れてたら親父に笑われちまうからな。お前も程々にしとけよ」

 

「完全にルーチンワークになってるんで。適当に切り上げますよ」

 

 

朗らかに笑う真一さんは、悩みが消えたのかますます精力的に動くようになった。リーダーの行動力が乗り移ったのか開発中の商品や技術が立て続けに成功し、ますますペレットと魔石の需要が過熱していく。

といっても俺達も限られた人数で無理くり回しているので、現状以上の成果を出すことは難しい。

一先ず、国が主導で行っている火力発電機の開発に注力し、そちらが軌道に乗り次第他の案件に着手することにして、新規の開発や技術協力については一時保留となった。

ここから先は更なる教育が進まないと対応できない。マンパワーの不足を今居る人員で無理して何とかしても続かないからな。

 

 

 

 

「ううぅ、悔しい!」

 

「さお姉、ドンマイ!」

 

 

そんな忙しい中のある日。キッチンで朝飯でも食べようかと部屋を出ると、沙織ちゃんと一花がノートPCを弄りながら何事か騒いでいる。

 

 

「何してんの?」

 

「あ、イチロー君。な、なんでもないよ?」

 

「なんでもないなんでもない!」

 

「お前ら誤魔化すの下手すぎ。何見てるんだ?」

 

 

ノートPCの画面をバタンと閉じて必死に隠す姿は疑ってくれと言ってるようにしか見えない。

 

 

「とりあえず見せて?」

 

「はい・・・」

 

「わ、悪いことしてたんじゃないからね?」

 

 

素直にノートPCを明け渡す沙織ちゃんに比べて一花は往生際が悪いなぁ。

とりあえず開いていた画面を見ると・・・にちゃん?

 

 

「ダンジョン考察スレ。なんだこれ」

 

「まとめサイトを巡回したら偶然見つけて。これ、書いてる事酷いんだよ!事実無根だよ!」

 

 

なになに。ヤマギシはケチ、魔石を独り占めしてる。可愛い子が多いのは人気取りの為。レイヤーがいる。兄貴に比べて弟は微妙。あんな小さな子を働かせてるのは違法。

ほーん。良くある批判スレじゃないか?

 

 

「こんなん無視しときゃ良いじゃん」

 

「でも悔しいよ!皆一生懸命頑張ってるのに!」

 

「やっぱり良く知りもしない奴に言いたい放題されるのは腹立つからねー。私もちょっと知り合いのスーパーハカーに依頼してこいつらを地獄に」

 

「厨房乙」

 

 

俺としては無視一択で良いと思うんだがなぁ。こんなん一々気にしてたら身が持たないぞ。

とりあえずボロを出しそうな二人にはもうここを見るのを禁止しておく。

 

 

「露出が多い以上、そういった声に振り回されるのは仕方ありません。二人も、自分からそういった所には近寄らないようにしてください」

 

「はーい・・・」

 

「ごめんなさーい」

 

 

キッチンに居たシャーロットさんに顛末を話すと、シャーロットさんは呆れ顔で二人に注意を促した。

君子って訳でもないけど、危うきには近寄らないのが一番だからな。

しかし、そうか。外部ではヤマギシが完全に独占してるようにしか見えないのか。

これからウチの会社がどう進むべきか、一度皆で話し合ってみるべきかな。

 

 




世界冒険者協会:名前がうさんくさい。


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第五十一話 ダンジョン免許制度

予約投稿を失敗していたため侘び投稿。
明日の七時も間に合えば投稿します。間に合わなかったら12時になると思います。



誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございました!


第五十一話 ダンジョン免許制度

 

 

藤島さん達の努力が実り、玉鋼以外でも刀を作る許可が出た。

 

 

「やっと色々な合金を試すことが出来るよ!」

 

 

最近は鍛冶もできる冶金学者として色々活躍している宮部さんもこのニュースに喜んでいた。

藤島さんとコンビを組んで魔鉄を組み込んだ合金を開発しているらしく、前々から許可を申し込んでいたらしい。

この度目出度くお墨付きを貰えた為、張り切っているようだ。

装備が強化されるのは俺達にとってもありがたい事だし、藤島さんと宮部さんには是非このまま研究を続けて欲しい所だ。

 

頑張っていると言えば、発電機の件でウチと協力してるIHC等の日本企業も頑張っている。

ペレットを扱えるのがヤマギシしか居ない関係で完全に燃料不足になっている現状を変えるために、少ない数のペレットで効率的に動力を確保出来ないか、または自作でペレットを作成出来ないかという試みをしているらしい。まぁ、その為に研究用にペレットを欲しがられているので結局今現在の供給不足は解決してないんだが。

自作したというペレットも見せて貰ったが、とても代用品にはならない出来映えだった。ダンジョン産の金属じゃないと、あんまり魔力の通りが良く無いんだよなぁ。

 

この、魔力がどれ位込められているのか、込めることが出来るのかは魔法をそこそこ修めている人物でないと調べられないし、それも感覚的な物になってしまう。

これを可視化できないかは、真一さんが今研究をしているらしい。

 

 

「ダンジョン1層でオオコウモリの魔石を吸収した人物が1として、俺達が幾ら魔力を持ってるのか。単位を作りたいんだ」

 

「今はペレットの魔力がどの位で切れるのか、感覚的にしかわかりませんしね」

 

「もしこれを数値化出来れば、エネルギーとしての魔力の価値は一気に高まるぞ!」

 

 

真一さんは最近、ドロップ品の効果や魔力に対する反応を調べているらしい。ダンジョン産の物は全て魔力に対して反応するため、そこを利用出来ないか調べているそうだ。

という訳で俺と恭二、それに沙織ちゃんの三人は仕事や学校で動けない他のメンバーの代わりにひたすら20層までのドロップ品や魔石を集め続けている。

 

日米の教官育成も来月で一旦の終わりを迎える予定で、三ヶ月の猛訓練を経て10層までなら俺達の力がなくても問題なく潜れる様になった40人の教官候補生達は、教官として教える側になる。

そしてそれは、浩二さん達やジュリアさん達とのお別れという事にもなる。

 

別れの前に、浩二さん達には20層までを経験して貰う予定だ。

日本冒険者協会が作った基準で言えば20層到達はレベル20という単位になる。現在ヤマギシチームしか所持者の居ない、間違いなく最先端の冒険者の称号だ。もし何かしらの理由で離職したりした場合も日本の中でなら立派な資格になるから無駄にはならないだろう。というかもし離職したらまた是非ヤマギシに来て欲しい。日米が選抜しただけあって彼らは本当に有能な冒険者だからな。

 

 

 

 

 

さて、資格と言えばこの度日本の冒険者協会は正式にダンジョンに潜る際の免許を発効することになった。

色々細かい言葉が付くが、大雑把に言うと運転免許のようにダンジョンへの出入りを解禁されるダンジョン一種免許、次に他者を連れて出入りする事が出来る二種免許。そしてそれらの免許を取得するための教習を行うことの出来るダンジョン指導員資格の3つに分類される。

これらはそれぞれレベル5、5層への独力到達(チームは組んだ上で)で一種免許。レベル10、10層へ教官の力を使わずに突破できて二種免許。教官資格については10層までを独力で到達した上、定められた魔法の使用と習熟、更に教導を行えるかと言った知識的な部分も見られることになる。

 

現在指導員資格を持っているのはヤマギシ所属の5名と一花、それに浩二さんとジュリアさんの8名だけだ。予定通りに進めば来月には今現在の受講生40名にベンさんと美佐さんが資格を持つことになる為一気に人数が5倍以上になり、これからはどんどん免許所得者が増えていくだろう。

そして、この指導員資格について、先日名前の挙がった世界冒険者協会から米国政府経由で依頼が入ってきた。

 

 

「米国の冒険者を育てたい?」

 

「ああ。何でも向こうではヤマギシに相当する冒険者チームが育たなかったらしくてなぁ。協会を立ち上げたは良いがレベル5以上の冒険者が独りもいないらしい」

 

 

まぁ、オーガまでは兎も角オークは銃だけだと辛いものがあるからなぁ。あいつら大口径の銃弾でも場所によってはそのまま突っ込んでくるみたいだし。

米軍の精鋭がチームを組んで7層で全滅しかけたというのは、それだけの理由があるって事だ。仮に退役軍人を集めて行ったとしてもその位が限界になるのだろう。

向こうに恭二のようにどんどん魔法を作れる奴が居ればまた違うんだろうが。

 

 

「米国政府からって事は流石に断れんか。次の受講者に入れることになるのか?」

 

「うむ。日本冒険者協会とも提携を始めたらしくてな。そっちの人員と調整してうちにどの位受け入れて欲しいのか連絡があるそうだ」

 

「ふーん。うちとしては、ちゃんと筋を通してくれるなら断る理由は無いな」

 

「最初はどうかと思ったけど、大分力の入った組織みたいだなぁ」

 

 

そう言って真一さんは、会議室においてあるスクリーンに世界冒険者協会のホームページを移した。

結構綺麗に区分けされている。英語のため書いてることは良く分からんが。

直接聞くのなら翻訳が効くんだがなぁ。

 

 

「実は私にもオファーが入ってるんです、日本支部の支部長にならないかって」

 

「え。どうするんです?」

 

「勿論断りました。だって、ダンジョンに入れなくなりそうですから」

 

 

シャーロットさんがそう言って朗らかに笑う。

ここに居るメンバーは皆、暇を見てはダンジョンに潜るダンジョンキチに近い連中だ。研究に大忙しの真一さんですら日に1、2時間は必ず潜って魔石を回収したり魔法の練習をしているからな。

今現在の忙しさは、あくまで俺達自身がダンジョンに潜るための準備。

その準備にかまけて腕を鈍らせる様な事はしたくないそうだ。

 

 

「冒険者の数が増える事は大歓迎だ。企画倒れも無さそうだし、この件は歓迎する方向で行こう」

 

 

真一さんはそう言って世界冒険者協会のHPに視線を向ける。

どんな奴が来てもうちの優位は揺らがないって顔だな。本当に頼れるリーダーだぜ!

 




山岸真一:米国の冒険者か。どんな可愛い子が居るか楽しみだ。

山岸恭二:絶対ろくなこと考えてないだろうなぁ

下原沙織:真ちゃん悪い顔してるなぁ

シャーロット・オガワ:これが無ければいいリーダーなんですが・・・

鈴木一花:ぶー!私が居るのに!


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第五十二話 米国からの来訪者

7時間に合った



誤字修正。ハクオロ様、244様、見習い様ありがとうございました!


第五十二話 米国からの来訪者

 

 

冬がやってきた。

奥多摩は山間にある為冬になると道が凍ったりして国道が通れなくなることもある。青梅線のお陰で陸の孤島にはならずに済むが、道路上にまで根雪や氷が残るようになれば急な外出はほぼ無理になる。不便な季節だ。

 

そんな季節にある嬉しいニュースが入ってきた。下原の小父さん、沙織ちゃんのお父さんがうちのヤマギシに入社してくれたのだ。

元々青梅の個人商社の次男坊で今までは兄の片腕として働いていたのだが、下原の小母さんもうちで働いてくれているし、実家の方も長男の子供が大人になってこの春に入社をしていた為、彼に自分の仕事を引き継いでいる最中で丁度いい頃合だったらしい。

これを気に下原の小母さんもパートから正式にヤマギシの社員になり、今は一家でヤマギシビルの5階に住んでいる。

 

 

「いやぁ。エレベーターで1階降りるだけで職場なんて夢のようです」

 

「全くですなぁ。寒さも厳しくなってきますし」

 

 

と言っても下原の小父さんはうちの父さんと同じく渉外担当で、主に冒険者協会側とのやり取りをしてもらうので毎日都心の方に行くことになるんだがなぁ。

父さんはこれからは技術協力をしているIHCなどの会社を回る担当になるらしく、真一さんとの打ち合わせが多くなった為先月に比べて奥多摩に居ることが増えてきた。

顔を合わせる機会が前よりも増えてうちのお母様もにっこにこである。

ただ、新しい弟か妹が欲しいかって質問はちょっと勘弁して欲しいです。

 

 

 

さて、そんな冬に入る奥多摩にある珍客が訪れてきた。

何とアメリカから世界冒険者協会の幹部がやってきたらしい。

次の冒険者教育の話もほぼ本決まりになったし挨拶にでも来たのかと思ったら、どうも恭二と俺に会いに来たらしい。

 

 

「久しぶりの変身接待だねお兄ちゃん!」

 

「最近忙しかったから忘れられていたのに・・・・・・」

 

 

動画の方は小まめに更新している。この間、変身の魔法を使ってジャバウォックへの変身シーンを再現してみたらコメント欄が「次はハルクでお願いします」で埋め尽くされていてちょっと吹いた。全部英語だったので組織票と思って受け付けませんと応えると、何とアメリカの某原作者様からお願いしますと言われたので次回にやりますと発表。現在は練習中である。

 

 

「兄貴や一郎だけじゃなく、俺ぇ?すっごい面倒な事になりそうだ」

 

「そうだね。多分『良く分かってる』人だと思うよ」

 

 

うめき声を上げる恭二に、一花が相槌を打つ。

基本的にヤマギシのフロントマンは真一さんになるし、真一さんがリーダーなので大体の人は真一さんに会おうとする。例外は俺やシャーロットさんのように、冒険者とはまた別の意味での顔を持っている場合だ。

その点、直で恭二を指名するって事は、テレビで見た以上の情報源から情報を取れるという事だろう。

念の為に、シャーロットさんには同席をお願いしておこう。嫌な予感がする。

 

 

「シャーロットさん。これから会う人物の情報ってあります?」

 

「ええ。調べてますよ」

 

 

約束の人物との会談の前に、事務所に居たシャーロットさんに同行のお願いと事前情報を教えてもらう。

世界冒険者協会を構成しているのは、いくつかある個人ダンジョンのオーナーの内、テキサスのブラス家とモンタナのジャクソン家の代表だそうだ。

ジャクソンの代表は大学生の次男。ブラスは長女で、18才。

ジャクソン家は観光業、天然資源や木材の生産や加工で財をなした富豪。そして、ブラス家は世界的エネルギー企業の一社、ブラスコ社のオーナーで経営者一族だ。

 

 

「どちらも大変力のある一族で、勿論ここと付き合う場合はメリットとデメリットが発生します。特にブラスコは危険です」

 

 

テキサス人独特の陽気さと傲慢さが共存する経営方針。必要であればギャンブルのように資金を投入し、カジノごと買い占めるように根こそぎ持って行くような、そんな事を代々帝王学として学び受け継いできた一族だ。

下手なところを見せれば丸ごとむしられる可能性もある。

そんな厄介な存在は、新ビルの屋上に作られたヘリポートの初の利用者として俺達の前に姿を見せた。

 

 

 

 

『は、ははははじめまして。ウィリアム・トーマス・ジャクソンです!』

 

『はじめまして。キャサリン・C・ブラスです』

 

『はじめまして。イチロー・スズキです。お会いできて光栄です』

 

『はじめまして。イチカ・スズキです。よろしくお願いします』

 

 

翻訳の魔法を使って、ヘリから降りてきた彼・彼女と挨拶を交わす。中への案内役は俺とイチカが押し付けられてしまった。

それぞれサングラスをつけた黒服のボディガードと通訳を連れて来ており、彼らを案内してビル内の会議室へと向かう。

 

その道中、やたらとジャクソンの次男坊に話しかけられた。見た目が典型的なギーク(パソコンオタク)で、話し方もドモリ気味で少し聞き取りづらいのだが、どうやら俺の動画のファンらしい。

そう言えば最近、ジョン小父さんに会いに横田基地に行った時も似たような反応を貰ったことがある。

ブラス家の長女の方は比較的冷静だが、何と言うかこの子。多分恭二目当てじゃないかなぁという節がある。

一花に恭二についての質問を何度かしてたし。多分この子が恭二を指名したんだろうな。

格好が完全に黒ゴスという初めてみるような服装をしているが、一花と同じ位の身長のせいか良く似合っている。

 

 

『こちらが会議室になります』

 

 

会議室のドアを開けてエスコートする。中には社長を含めたうちの幹部が勢ぞろいしている。

彼らを席に案内して、俺と一花も椅子に座る。

さて、どんな話になるのだろうか。面倒ごとにならなければいいんだがな。




ウィリアム・トーマス・ジャクソン:大富豪ジャクソン家の次男。典型的なオタクだったが、長年憧れたヒーローが現実になったというニュースに居ても立ってもいられずダンジョンに潜る。3層までは自力で潜れているらしいが、まだ魔力は感じ取れないらしい。

キャサリン・C・ブラス:ブラス家の長女。18歳と言う年齢の割には小さな体躯をしており、金髪のツインテールという事も相まって黒ゴスをつけた人形のような見た目をしている。


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第五十三話 彼らにとってのヒーロー

感想が2件も同時に来るという初めての体験にテンションを上げてしまってつい書き上げてしまったんだ。ちょっと手が痛いので明日は普通にやります(反省)

誤字修正。244様、見習い様ありがとうございました!


第五十三話 彼らにとってのヒーロー

 

 

『本日は、貴重なお時間をいただき私たちとお会いくださってありがとうございます』

 

 

口火を切ったのはブラス家の長女だった。

18という年齢の割には体躯の小ささが目立つが、立ち居振る舞いや口調、物腰等に品位を感じる。

ジャクソンの次男の方は完全に見た目通りだからこっちが世界冒険者協会の分かってる方だろうなぁ。

 

ブラス嬢の提案はいくつかあったが、まず最初に来るのはヤマギシチームの世界冒険者協会への参加だった。

これは、すでに日本冒険者協会に所属している事を理由に断る。日本冒険者協会と世界冒険者協会がどういう関係になるか分からないしヤマギシの一存だけで決めて良いものじゃない。話は日本冒険者協会と行ってほしい。

次の提案は世界冒険者協会で役人にならないかと言われたが、これも同じ理由で受けられないと伝えておく。

まぁ、この辺りは相手もダメ元って所なのかあっさり引いてくれた。

問題は次の提案だった。

 

 

『現在行われている冒険者の教官育成についてお話をしてあると思いますが、我々はこの冒険者の育成に強い興味を持っています。特に魔法の習熟訓練を行えるのは現在この奥多摩しかない。これを専門的に研究・開発する研究機関・・・有体に言えば大学のような物を作りたいのです』

 

『大学、ですか?』

 

『はい。現在皆様が開発している魔法燃料、エネルギーのブラスコとしても注目していますが、その魔法製品の開発に関しても現在は一部の天才の閃きだけに頼っている状態です。現在、魔力や魔法についてはほぼ何も分かっていない状態です。そんな状態ですらすでに世界を揺るがすような発明がなされています。そして、今貴方方が使用している翻訳魔法!直接対面していないと使えないと言われていますが、それも今現在の話です。これからどうなるかは分かりません。もし、技術や知識の蓄えによって、これが通信越しでも使用できる日が来たら・・・それは、人類史にとっても非常に大きな一歩だと思います』

 

 

迫力というか。彼女の魔法に対する情熱を圧力のように叩きつけられる気分だ。

しかし、なるほど。確かに今の俺達は魔法に対しては恭二が開発した物を使用しているだけの状態で、それは一個人に非常に寄りかかった危うい代物だ、というのは理解できる。

あと、この子の恭二を見る目が熱い。同じ目を良く向けられるからなんとなく分かるが、このブラスの長女・・・恭二を英雄視してるのかもしれない。

だが、理由が分からん。魔法に対して熱い思いを持っているみたいだが。

 

 

『成るほど、ブラスさんの仰りたい事は良く分かりました。実際俺たちも同じ懸念を持っているため、その解消の一手として魔法を教える事の出来る人物を育てるように努力しています。ただ、人を育てると言う関係で一足飛びにという事が難しいのが現状です』

 

『勿論そこは理解しています。その為に我々も次回の教官教育に参加する予定なので』

 

『ご理解いただけて幸いです。何分、小さな企業ですので人員の問題もありまして』

 

 

何せこの会議場に入りきる人数しか社員が居ないからなぁ。世界に名だたる大企業とは地力が圧倒的に違うのだ。

ブラス嬢もそこは理解しているのか、それ以上の提案はしてこなかった。あくまで今回は世界冒険者協会がどういう理念で動いているのかを俺達に伝える為に来たのかも知れない。

実際に話を聞いてみると、今まで感じていたうさんくささのような物が無くなったし。応援してもいいって思える内容だったな。

そしてこのまま話が終わるのかと思った時、ブラス嬢がジャクソンの次男に目線を送る。

 

 

『あ、あー。その、実は今日はあと一つお願いがありまして』

 

『お願いですか。どのような?』

 

 

いきなり提案ではなくお願いと言われ、真一さんが怪訝そうな顔で応えた。

 

 

『その。イチロー・スズキさんとキョージ・ヤマギシさんと、是非ダンジョンに潜りたいのです。彼ら・・・あなた方は、私達二人にとってヒーローなので』

 

 

そう言って恥ずかしそうに顔を赤く染めるギークと、同じく顔を赤く染める黒ゴスに会議場の空気は何とも言えない物になった。

おい、どうするよと恭二に目線を向けて確認すると、仕方ないんじゃね?という表情で返事が来た。

という事で会議は終わり、他の仕事がある社長や真一さん達は席を立ち俺と恭二、沙織ちゃん、一花、の4名にジャクソン・ブラスコの人員を含めたメンバーで奥多摩ダンジョンに入る事になる。

とりあえず明らかに恭二狙いの黒ゴスちゃんは恭二と沙織ちゃんに押し付け、俺はギーグ君を担当する事にする。

一花も何となくこっちとの方が話しやすそうだしな。オタク同士通じるものがあるのかもしれないな。

 

ギーク君は独力で3層まで潜ったことがあるらしく、今回はフロントアタッカーを任せることにする。

また、黒ゴスちゃんは何と自力で回復魔法を使えるらしく、基本はギーク君と彼らの護衛2人を前衛に黒ゴスちゃんが援護を、そして手が足りない所を俺達がカバーする方式で行く。

そして銃社会のアメリカなのにギーク君なんと剣装備である。

 

 

『昔、中世の頃実際に使われていた剣を鍛冶師に打ち直してもらったんだ。銃は5層までは有効だけど6層、7層と行くとどうしても近接武器や魔法に見劣りするって、動画で学んだから』

 

『俺の動画を見てくれているんですね』

 

『もちろんさ!君が初めてTVに映ったCCNのニュースからここまで、全部の動画や画像を集めているよ!MEGAMANの時からずっと追いかけていたんだ!最近の動画ではエンターテイメントに寄ってるけど、随所で相手の行動を阻害したり一手先を読んで魔法を撃ったりしているだろう!勿論気づいていたよ!』

 

 

きっちりと事前に知識を仕入れてあるし、見てくれてありがとう位のノリで会話を振ったら矢のように返答が帰ってきた。

おお、うん。熱心だな。その調子で警戒をね。余り話に夢中になるのは良くないぜ。

 

 

『あ、ああ。すまない。話に夢中になるとつい、我を忘れてしまうんだ。普段は、こう簡単に夢中になったりしないよ。君が目の前に居るからずっと頭がパニックを起こしているんだ』

 

『ああ。うん、大丈夫。これから俺と君は命を預けあってダンジョンに潜るんだ。心を落ち着けよう。俺を頼ってくれていい』

 

『ああ!もちろん、もちろんさ。夢みたいだけど現実だ。僕は今奥多摩に居て、隣にマジックスパイディが居て、一緒にダンジョンに潜るんだ。国の友達皆羨ましがるよ!』

 

 

プロテクターを装備しながら、彼はそう言って笑顔を浮かべる。

向こうのブラス嬢も準備が整ったようなので、早速ダンジョンに入るとしよう。

さてさて。アメリカの代表の実力はどんなものかねぇ。

 

 




マジックスパイディ:米国の一郎のあだ名。スパイディはスパイダーマンの愛称であり、魔法を使うスパイダーマンという意味があるらしい。現在連載中らしい。


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第五十四話 奇跡も魔法も世にはある

誤字修正。244様ありがとうございました!


第五十四話 奇跡も魔法も世にはある

 

 

『ウオオオォォォ!』

 

 

吼えながらジャクソンの次男・・・ウィリアムがゴブリンを追い散らす。背後がお留守になりそうな所をガードマンがカバーし、誰かが傷を負えばブラス嬢が回復を行う。

ブラス嬢は何でも持病持ちらしいので、余り激しい動きを行わないように恭二と沙織ちゃんが傍に控えている。それでもダンジョン経験はあるらしいが、大コウモリとゴブリンメイジは危険度が段違いだしな。

 

一花と俺は致命的な場面が起きないように警戒と、場所によっては俺が入り口をクモの糸で防いで闘い易いように調整したりしている。

自分で闘った方が魔力の吸収も良いし何より経験になるからな。

途中で手に入った魔石は全て吸収してもらう。これだけでも相当変わるだろう。

今日は魔力が感じられるまでガンガン吸収してもらって気持ち良くアメリカに帰ってもらおう。

 

 

『信じられない位順調だ。こんなに違うなんて』

 

『魔力が、実感できるほどに増えてます』

 

 

ある程度魔石の吸収を行った後、実際にストレングスやバリア、アンチマジックを恭二が全員にかけてバフがどんな効果を及ぼすのか体験してもらうと、そこに行くまでの苦労が嘘のようにさくさくと前に進んでいく。

現在は5層。すでにジャクソン・ブラスコの4名はレベル5と認定される場所まで来ている。

この辺りの魔石から吸収できる魔力は大コウモリとは比較にならない。ブラス嬢もかなりヒールを連発できるようになってきたし、そろそろ別の魔法を教えても良い頃合だろう。

 

 

『オークまでは見てみたいです』

 

『なら、このままじゃちょっと危ないな。よし、じゃあ魔法教室と行こうか』

 

 

このままどこまで進みたいかを確認すると一度オークを見てみたいと言われた為、恭二が即席で魔法を幾つか見せて必要最低限のものをサクッと覚えてもらうことにする。

魔力自体は問題ないはずだから、とりあえず実演してそれを真似てもらう方式らしい。ここ最近魔法を教える経験が多かったから、その教え方は堂に入ったものだった。

ライトボールから始まりファイアボール、バリア、フレイムインフェルノ、サンダーボルト、アンチマジック、ヒール、キュア。

現在、10層までを攻略する際に必要になると言われている魔法を、ブラス嬢はなんと一度見るだけで覚えてしまった。

というかキュアに関してはもうすでに使えていたな。

逆にウィリアムは攻撃呪文やバリアやアンチマジックはサクッと覚えたのだが、回復呪文が良く分からないらしい。

まぁ、これは要練習という事だな。

 

 

『この調子なら、10層までにターンアンデッドを覚えることも出来るかもね!』

 

『ターンアンデッド。そういえば10層までにアンデッドが出るんだったな』

 

『アンデッドには直接的な攻撃は効果がないから、覚えていると便利な魔法だよ』

 

 

大分打ち解けてきたのか気安い表情で一花とウィリアムが話す。

 

 

『後はリザレクションとかもね。ウィリアム兄ちゃんは難しいかもだけど、ブラスさんなら行けるかも?』

 

『彼女のセンスは本当に凄いな。あれで病弱でなければ是非パーティを組んで欲しい位だ』

 

『へぇ、病弱なんだ?すっごく元気に見えるけど』

 

『20歳まで生きることも難しいほどの難病らしい。ただ、あのキュアを発現したときに大分寿命が延びたと聞いたよ』

 

 

何でも、テレビで恭二が大復活を果たした瞬間の映像を見て、彼女はキュアを発現させたらしい。テレビで見ただけってすげぇな。下手しなくても真一さんや沙織ちゃんレベルのセンスかもしれん。

・・・・・・しかし、なるほど。彼女が恭二に向ける視線の理由が何となく見えた気がした。

 

 

『ブラス家の長女が難病で明日も知れないってのはセレブの間では有名だった。僕も冒険者協会を立ち上げた時に初めて会った時は驚いたよ。だから、今日は是非一緒に来て欲しいって無理を言って来てもらったんだ』

 

『・・・・・・ウィリアム兄ちゃん結構良い人だね?』

 

『ははッ!米国では僕みたいな奴は初見で見下されちゃうから、対等に接してくれた彼女に恩を返したかったんだ。それだけだよ』

 

 

照れくさそうに笑うウィリアムの肩をパンパンと叩き、肩を組む。

 

 

『俺、そういう恩返し大好き。尊敬するわ』

 

『あ、え、えっと?』

 

『俺の事はイチローでいいぞ。土産話にでもなんでもしてくれ』

 

『あ!あああ、ありがとう!僕の事は、ウィルって呼んでくれ!親しい人は皆そう呼ぶんだ』

 

 

ガシッと握手を交わして俺達は新しい友人の誕生を喜び合った。

しかし、難病か。魔法が効いたって事はリザレクションならもしかしたら。

 

 

『なぁ、恭二。彼女ならリザレクションもイケるんじゃないか?沙織ちゃん以外はまだ成功できてない難易度の高い呪文だが』

 

『ああ、そうだな。こんだけ良いセンスならもしかしたらイケるかも』

 

『リザレクション・・・・・・ですか?意味は復活という事でしょうか』

 

『ああ。17層に強力な状態異常を使う相手が居て、この状態異常を回復させるために作られたんだ。アンデッドにも絶大な効果がある』

 

『なるほど・・・・・・見せていただいても?』

 

『僕も見せてもらいたいな』

 

 

恭二にそう話しかけると、恭二も同じ事を考えていたらしい。リザレクションについての説明をすると、ブラス嬢もウィルも興味津々だ。

その言葉に頷いて、恭二はまず自分と沙織ちゃんにリザレクションをかけて見せてみる。

健康的な人には疲労回復の効果があるから、ダンジョン疲れもこれで消し飛ぶ。

 

 

『後は体験してみてくれ。リザレクションをかけても?』

 

『はい、どうぞ』

 

『OKだよ』

 

『うん。じゃあ、かけるぞ』

 

「恭二、ブラス嬢は持病もあるらしいし、健康的な体をイメージしてみてくれないか?」

 

「うん?わかった。リザレクション!」

 

 

リザレクションをかける前に一声伝えておく。これで多少なりとも症状が緩和すればいいんだがな。

乳白色の閃光が二人を包み込み、すぐに晴れる。

 

 

『ふぅ、凄いな!さっきまで感じていた疲れも全部消し飛んだよ!』

 

『・・・・・・・・・え。嘘、え?』

 

『・・・・・・ブラスさん、どうしました?』

 

 

すっきりとした表情のウィルとは対照的に、ブラス嬢は愕然とした顔で自分の頭に手を当てて何かを確認している。

うん?何か悪影響が出た事なんて今まで無いはずなんだが。少し怖くなって声をかける。

 

 

『あ、あの。違うんです、どうもしてないのがおかしいというか。頭の中がすっきりして、こんなの初めてで』

 

『お、お嬢様?』

 

『あの。この近くに大きな病院はありませんか!?』

 

『と、隣町にありますが』

 

『ありがとうございます!あの、申し訳ないのですがダンジョン攻略を切り上げてもいいでしょうか!』

 

『あ、ああ。ちょっと待ってくれ。皆、脱出するがいいか?』

 

 

ブラス嬢の剣幕に押された恭二が周囲に確認を取る。この状況で断る奴は流石に居らず、そのままゲートの魔法を使って脱出する事になった。

ブラス嬢はそのままヘリを使って近くの大病院に向かうらしい。ウィルは・・・・・・置いて行かれたと乾いた笑いを浮かべていた。

まあ、ジャクソンの力を使えば新しいヘリを用意することも可能らしいから、帰ろうと思えば帰れるらしいが。

 

 

『ちょっと彼女も心配だし、このまま連絡が来るまでお邪魔してもいいかな?』

 

『ええ、勿論。空き部屋があるのでそちらを使ってください』

 

 

念の為に事務所に居たシャーロットさんに許可を貰い、ウィルはヤマギシビルに一泊することになった。

そして次の日。ブラス家からの連絡が事務所に入ってきた。

その内容は、完治不可能だと言われていた脳の腫瘍が取り除かれていた、との事だった。

現代に起きた奇跡だと電話越しに喜びの声を上げる通訳さんの声を漏れ聞きながら、恭二を見るとぽかんとした表情を浮かべていた。

 

 

「なあ、一郎」

 

「なんだい恭二」

 

「俺、普通に魔法を使っただけなんだが」

 

「・・・・・・奇跡も魔法もあるんだよなぁこの世の中」

 

 

その日のうちにヤマギシ家宛にアメリカのブラス家から、是非お礼を言いたいので冬のバカンスをご一緒しませんかとのお誘いが舞い込んでくる事になるのを、この時の俺達は知る由も無かった。

まぁ、人の生き死にになるかもしれなかったし、良かったと思おう。うん。



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第五十五話 冬期休暇

誤字修正。244様、椦紋様、アンヘル☆様、見習い様ありがとうございました!


第五十五話 冬期休暇

 

 

ヤマギシのコンビニは近隣の住人や日米の訓練生で賑わっている。

現在は元々バイトリーダーだった人を店長に、他のバイトを正社員にして回しているらしい。俺もよく利用させて貰っているのだが昔からの知り合いのフリーターの兄ちゃんがいつの間にか店長なんて呼ばれてて驚いた。

ボーナスも出るらしく、貰いすぎたのかと経理に相談して笑われてしまったらしい。

 

 

「貯金通帳の数字が見たこともない金額になってて怖い。両親に親孝行の名目で海外旅行プレゼントしたけどまだあるわ」

 

「素直に貯金してくださいよ」

 

「いや、貯金用にも口座作ってそっちにも入れてあるんだよ!どうしよう、感覚が麻痺しそう・・・」

 

 

一応、うちのコンビニ部門の責任者なのでそこそこ渡してるだけだと思うんだけど。根が小市民なんだろうなぁ。

とりあえず冒険者部門のように纏まった休みが取れない彼等コンビニ部門は、年末年始の休みの間ヤマギシで唯一可動する部署になる。

何かあったときの対策等や連絡先は伝えてあるので、ひとまず問題はないだろう。

 

さて、人生二度目の海外渡航は南国の国でのバカンスになった。

行先は勿論日本人の憧れの地ハワイ!ではなく、西カリブ海のバージン諸島という場所らしい。

何でもこの地にブラス家が保有する別荘があるとの事だ。

 

 

『ハワイなんて寒くて駄目だよ。やっぱりバカンスといったらこれくらい暖かい所じゃないと!』

 

『さっすがガチモンのセレブは言う事が違うね!』

 

 

今冬、そのままヤマギシビルに宿泊していたウィルが慣れた様子で荷造りを手伝ってくれる。

大学は大丈夫なのか聞いたら、すでに単位は取得しているし急いで出ないといけない講義も無いとの事。どうせすぐに冬期休暇に入るし、どうせなら一緒に行こう、と海外に不慣れな俺達の講師兼案内役を買って出てくれたのだ。

今回、俺達はパスポートしか用意していない。なんとジャクソンが所有しているプライベートジェットに一緒に乗せて言ってくれるらしい。

 

 

『この格好で大丈夫なのか?Tシャツに短パンって』

 

『大丈夫だよ。むしろフォーマルなんかで行ったら暑くて大変だからね!』

 

 

恭二の質問にウィルがそう答える。最近は他のメンバーにも慣れて来たのかドモったりする事も無く普通に話が出来ている。

友人が仲間を受け入れてくれた気がして少し嬉しい。

そして俺達はクリスマスの準備で忙しい東京を離れて一路、常夏のカリブへと旅立ったのだ。

 

 

 

 

『うわー、すごいね。半そででも暑いや!』

 

『クーラーが欲しくなるな、これは』

 

 

空港を出た瞬間に真夏の空気が俺達を包み込む。気温は何と28度だ。

そして空港に迎えに来ていたブラス家のリムジンに乗り込み、ブラス家の別荘へと向かう。ガンガンに効いたクーラーが心地いい。

別荘に到着するとまずはと部屋に通される。さすがに世界的企業のオーナー所有物件だけあり、一人一部屋ずつもらえたりしている。

ドレスコードもなくラフな格好で楽しんで欲しいとの事なので、ありがたくお言葉に甘えさせてもらおう。

 

 

『ようこそ皆さん。ウィルも良く来てくれました』

 

 

ブラス嬢は相変わらずボディガードと通訳を連れてにこやかに俺達の部屋に入ってきた。

心なしか日本であった時より顔色がいい気がする。本当に病気が治ったのかな?

 

 

『やぁ、ケイティ。話は聞いたよ。本当に、本当に良かった』

 

『ありがとう、ございます。貴方が私を日本に連れ出してくれたお陰で』

 

『言いっこなしさ。同じ協会の仲間じゃないか。さ、御礼を言うのは僕じゃないだろう?』

 

 

ウィルはそう言ってブラス嬢の手を取り、恭二の前に誘った。

ブラス嬢は大人しくウィルに従って恭二の前に立つ。

 

 

『恭二さん。・・・・・・・本当に、ありがとうございました』

 

『・・・いや、こちらこそ勝手にやっただけで。その、本当に良かった』

 

 

ブラス嬢が涙ながらにお礼の言葉を口にすると、恭二は照れくさそうに頭をかいて、そう応えた。

恭二の言葉を聴いて、ブラス嬢は何も言わずに恭二に抱きつき、恭二もそれを受け入れた。邪魔をするのも気が引けたので、他の人間は皆押し黙ってその様子を見ている。

沙織ちゃんだけはちょっとぐぬぬ、ってしてるけどな。まぁ、今日は彼女に譲ってやってくれ。

 

 

 

 

 

『すみません、お恥ずかしい所を見せてしまいました』

 

『いやぁ、何か見ました?ウィルさん』

 

『さぁ?僕のROMには何も無いよ』

 

 

暫く恭二の胸で泣いた後、落ち着いたのか恥ずかしそうにそう言うブラス嬢に俺とウィルはそう言って首をすくめる。

健康に生まれ育った俺達には彼女の本当の気持ちなんて分かるはずもないが、女性の涙を軽々しく扱っちゃいけないという事だけは万国共通だからな。

俺とウィルがおどけてそう言うと、真一さん達も笑顔で頷いた。

 

 

『さて、ブラスさん。再会を喜び合うのも良いですがそろそろ今日の予定を聞かせてもらっても良いですか?折角の良い天気なのに日が暮れてはもったいない』

 

『ふふっ。ブラスさん、ではなく是非ケイティとお呼びください。この後はシャーロット・アマリーでショッピングはいかがでしょう?』

 

『勿論ですよケイティ。俺の事はイチローと呼んでください』

 

『あ、じゃあ私はイチカで!ケイティお姉ちゃんよろしくね!』

 

『わ。私も、サオリって呼んでねケイティちゃん』

 

 

湿っぽい空気のままでは折角の南国も楽しめない。そのまま皆でがやがやと騒ぎながら俺達はリムジンに乗り込んで街に繰り出した。

一度場が明るくなるとそこは南国の空気か。大変楽しいショッピングだった。

しかし、沙織ちゃん。一花と同じ位の体躯だからだろうが、なんかいつの間にかケイティを妹扱いしてない?

その子多分恋敵になる上に君より年上なんだけど。良いのかな?本人達が良いならいいんだけど・・・・・・

 




コンビニの店長:大学生の頃からヤマギシのコンビニで働いている。一度は他所への就職を考えていたが両親の年齢や田畑をどうするか考えた結果地元に居ついている。多分以後出てこない。

キャサリン・C・ブラス:ずっと病院のベッドに縛り付けられる日々を過ごしていた。ある日、テレビで流れた恭二が始めて魔法を使った瞬間を見て、キュアを理解。動かない体を無理に動かしてダンジョンへ行き、自身にキュアをかけてまともに動ける体を得た。彼女にとって山岸恭二は唯一無二のヒーローであり、リザレクションを受けて長年の持病を克服した今は命の恩人でもある。

ウィリアム・トーマス・ジャクソン:自身のヒーローに認められるというある種人生最大の転機を迎えて自信をつけ、周囲に眼が配れるようになった。


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第五十六話 クリスマスパーティー

クリスマスパーティ回

誤字修正。244様、KUKA様、kubiwatuki様ありがとうございました!


第五十六話 クリスマスパーティー

 

 

ショッピングで夏用のフォーマルスーツを仕立ててもらった。

何でも今度パーティーを行うため、それ用の服が必要だ、との事だ。

流石にオーダーメイドは時間が無いとの事なので、高級仕立て服を専用に調整してもらって揃える事になった。

 

 

『こちらの都合にお付き合い頂く訳ですから、料金は気にしないで下さい』

 

 

というお言葉も頂いた為、甘えさせてもらうことにする。

数日をビーチで遊んだりして過ごし、全員のフォーマルのお直しが終わった頃。

俺達は観光用のクルージング船に乗って、東の突端部分にあるホテルに向かうことになった。

 

船から見る町並みが凄く綺麗だ・・・ここ数日は日本のように不躾にカメラを向けられることもなく、落ち着いた日々を過ごすことができた。

サインを求められることが多いのは変わらなかったけどな。向こうもオフなのか映画とかで見たことがあるようなないような人が結構居たりして映画に誘ってくるのはちょっと勘弁して欲しい。

まぁ、その辺りはウィルやケイティが上手い事あしらってくれたから助かった。二人が結構けん制になっていたらしい。ボディガードが居るとやっぱり違うね。

 

ホテルに着いたらベルボーイ達が飛んで出てくる。俺たちの荷物を聞いてるが、俺たちに荷物があるはずない。全部恭二が収納しているからね。

と言っても流石に何もなしでは彼らもチップを貰い損ねることになる。

部屋まで案内してもらったお礼に何か渡そうかとすると、それよりも是非、握手をして欲しいといわれたので了承。少しでも気持ちよく仕事をしてもらいたいしね。

ホテルの部屋も、俺たちが今まで泊まったことがないような良質の部屋を用意してもらえた。

ベランダで夕日を眺めていたり、たわいも無い話に興じる事暫し。夕日が隠れた頃にパーティへのお呼びがかかった。

 

そして会場に案内されて、絶句。

身内のクリスマスパーティだろうと思っていたら欧州各地の冒険者協会の幹部が集まっていました。

困惑気味な俺達を他所に社長と真一さんはいそいそと案内されたテーブルへ向かう。

これは、知っている反応だ。俺達に黙っていたんだな・・・・・・

裏切り者への糾弾は後で行うこととして、一先ず会場内へ入る。

とりあえず先に入った真一さんや社長より皆俺を見てくるんですが。めっちゃ見られてるんですが。

 

 

『世界で一番の冒険者はわからないが、君は間違いなく現在世界で一番有名な冒険者だからね』

 

『嬉しそうに言わないでくれよウィル。あんまり悪目立ちするのは好きじゃないんだ・・・』

 

 

ウィルと談笑していると、周りからひそひそ話されてるんですが大丈夫なんですかねぇ。大丈夫?あ、はい。

超一流ホテルのパーティルーム貸し切りで行われた世界冒険者協会のクリスマスパーティは盛大だった。

メリークリスマスの乾杯後、クリスマスキャロルが流れてきたのだが・・・季節感が全然一致してなくて不思議な感覚だ。

その後は自由歓談になったのだが、その瞬間俺と真一さん、シャーロットさんの周りに人垣が出来る。

 

 

『やぁ、スパイディ。お会いできて光栄だよ。いつも動画で活躍を見させてもらっている』

 

『ああ、ありがとうございます。ええと』

 

『ああ、イチロー、彼はイギリスの富豪で・・・』

 

 

ウィルの助けを借りながら各地の協会の有力者と顔を合わせて言葉を交わす。

俺は本来こういった政治的な駆け引き等の能力はないのだが、事前にウィルがある程度のあしらい方やマナー等を教えてくれたので何とか取り繕うことは出来たみたいだ。

今回、俺が絶対にしてはいけない事は「別の土地にあるダンジョンへ入る約束」を取り付けられる事らしい。

 

 

『君の知名度は抜群だ。その君が入ったことがあるってだけで一定の宣伝にはなるからね』

 

『そんなものかねぇ』

 

『勿論、アメリカや日本ならそんなに制限はかけないよ。でも、きっちりと国内の法律を整備している国はまだまだ少ない。用心に越した事はないだろう?』

 

『面倒だな。そういった諸々から影響を受けたくないから動画を撮ってたのに』

 

『人気が出すぎるのも考えものだね。でも、立場のせいで自由に動けないってのは、僕も少し気持ちが分かるよ』

 

 

明らかなお偉いさんの波が引いていき、のんびりとウィルと料理を楽しみながら雑談に興じる。

ようやく落ち着いてきたかなという時に、今度は明らかに今までとは質の違う連中が寄ってきた。

明らかにオタク気質の奴らだ。

こういう連中の方が正直話していて気が楽になるのは、俺もオタク気質だからかねぇ。

ウィルに話すような口調で彼らと応対すると何故か喜んでくれたのでそのままグループを作って会話を弾ませる。

偉い人とのコネ作りは真一さんや社長が引き継いでくれるだろうし、俺もそろそろパーティを楽しませてもらうとしよう。

 

お酒こそ飲めないがひたすら食べて、美味しい果物のジュースを飲んで。是非見たいといわれたので一応ホテル側に許可を貰ってスパイダーマンに変身。

調度品を壊さないように飛び回るのは骨が折れたが、ウェブを使った移動をして見せたときの盛り上がりは最高だった。

ショーを終えた後にケイティに一言場を乱したと謝罪をするが、むしろ最高の催しだったとお礼を言われた。

 

 

『魔法を使えばヒーローになれる、というのは、若者にとってある種最高の夢に、希望になります。貴方は、貴方のままダンジョンに挑んで下さい』

 

『あー、うん。難しいことは分からんが、出来る限り頑張るよ』

 

『はい!あ、後すみません。そのままの格好でちょっとこちらに来て下さい』

 

『うん?』

 

 

そのままケイティに連れられて壇上に上がり、同じく上がってきた各協会のお偉方と、何故か社長を含めた十数人で記念撮影。

天井からウェブで釣り下がる感じで、と言われたため1人だけさかさまに移ったこの写真が後に世界冒険者協会のHPのトップを飾ることになる。

と言っても、その時の俺は頭に血が上るからさっさと終わって欲しいとしか思って居なかったが。知ってればもう少しポーズも気にしたのに・・・・・・

 



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第五十七話 テキサスへ

誤字修正。244様、kubiwatuki様ありがとうございます!


第五十七話 テキサスへ

 

 

「じゃあ親父、飲み過ぎるなよ!」

 

「母ちゃん、やらかしたら頼むわ」

 

「やらねぇよ!お前ら俺を何だと思ってやがる!」

 

 

昨日パーティーで酔い潰れた人が何だって?

まぁ、母さんも居るし下原のおばさんと二人で目を光らせてたら親父ーズが悪さすることも無いだろう。

俺達はケイティのプライベートジェットに乗り込みテキサスへと向かった。

 

何でも彼女の家族が是非会いたいと言ってきたらしい。ケイティにとっても急な話だったようで、朝方に申し訳なさそうに俺達の部屋に来た彼女に俺達は苦笑しながら了承を伝える。

急な予定変更や移動はもう慣れた。それに、前々から米国には正式に訪問する予定だったから俺としては丁度良い機会だ。

 

テキサス州コンローにある空港でジェットからヘリに乗り換えてヒューストンのブラス家へ。

そしてヒューストンで俺達は本物の大豪邸という物を目にする事になった。

リバーオークスと呼ばれる東京で言ったら田園調布的な街なんだが、家の中を公道が走り、公園があるなんて建物は今までに見たことがない。

この周辺は高級住宅街で、他の家々も間違いなく富豪が住む豪邸なんだろうが、そのでかい家々がブラス家の邸宅にある庭にまず10個以上は入りそうな感じだ。

 

庭にあるヘリポートに降ろされた俺達はそのまま豪邸の中に招待される。

そして俺達を出迎えてくれたのは、その豪邸の主だった。

 

 

『ようこそみなさん。孫がお世話になりました』

 

 

ケイティの祖父というこの人、ダニエル・クリストファー・ブラスはブラス家の当主にして世界に名だたるエネルギー産業の雄、ブラスコのオーナーだそうだ。

彼の隣に立つ秘書らしき女性が俺達の側に立ち、年齢の順にシャーロットさん、真一さん、俺、沙織ちゃん、一花とパーティーのメンバーを紹介していく。

その都度ダニエル老は握手をして歓迎の意を述べてくれるのだが、明らかに約1名を意識してて少し同情を覚える。

 

 

『そして、最後に。キョウジ・ヤマギシさんです』

 

『ありがとう!本当にありがとう!君は孫の恩人だ!私、ブラス家は生涯この恩を忘れないだろう!』

 

『ぐええええぇ!』

 

『お、おじい様!キョウジが苦しがってます』

 

 

満を持して紹介された恭二をダニエル老が全力で抱きしめる。

悲鳴を上げる恭二にケイティが助け舟を出したが、一旦は落ち着いたかに見えたダニエル老はまた感極まったのか恭二の肩をぽんぽんと叩いて再び抱きしめる。

恭二の肩を抱きながらダニエル老は屋敷の中に案内してくれた。反対側にはケイティがふくれっ面で恭二の右手を確保しており、その後ろを更にふくれっ面で沙織ちゃんが歩くと言うカオスな事態に。

残りの面子は勿論その様子をニヤニヤ見ながらついていく。

屋敷の中の応接間では明らかにダニエル老の子供・・・恐らくケイティの父親だろう人物が待っていて、恭二をダニエル老が紹介すると全く同じリアクションで恭二を抱きしめる。

この辺りでつい笑ってしまった。まぁ、周囲の使用人とかも笑顔だから許してもらえるだろう。

 

 

『キャサリンの脳の腫瘍が見つかったのは12歳の時です』

 

 

キャサリン・・・ケイティの父親・・・ダニエル・ジュニア氏によると、生まれつき心疾患を患っていたケイティは12歳の時に脳腫瘍が発覚。

健康的とは言えなかった体はそこで致命的なバランス崩壊を迎え、最先端の治療を施して尚、恐らく来年か再来年まで生きることは難しいと言われていた。

そんな時に恭二の動画に出会い、キュアを覚えて心疾患を抑えて生活をしていたのだ。

そして、ウィルの誘いに乗って日本に渡り、恭二と直接対面し、リザレクションを受けた。

 

 

『長年求めてやまなかった健康な体になれたんです。どんなにお金を積んでも手に入れることが出来なかった事を、キョウジが与えてくれました』

 

 

涙を浮かべながら話すケイティを、ダニエル老とジュニア氏は労わる様に優しく抱きしめる。

 

 

『このご恩は生涯忘れません。私達に出来る事があればなんなりとお礼をさせていただきたい』

 

『・・・・・・恭二。お前が決めろ』

 

 

ダニエル老の言葉に無言で俯く恭二に、真一さんが促すように声をかける。

 

 

『・・・・・・それなら、お願いがあるんですが。この件は、家族と関係者以外には決して広めて欲しくないんです』

 

 

顔を上げた恭二は青くなった表情で口を開いた。

驚いた顔を浮かべたブラス家の面々に恭二はそのまま言葉を続ける。

 

 

『俺は冒険者であると自負しています。現在殆どの魔法を俺が作ってるので、今現在既存の魔法は恐らく全て使えると思いますが。だからと言って、医者をするつもりはないんです。多分この話が広まれば、世界中の難病に苦しむ人たちが奥多摩に押し寄せてくる。それは、流石に不味い』

 

『しかもリザレクションは、今使える人間が非常に限られた魔法だ、な』

 

 

恭二の足りなかった言葉を真一さんが補う。

この話が広まれば恐らく恭二はリザレクションをひたすら使わされ続ける事になる。それを恐れているのだろう。

不安そうな表情を浮かべる恭二の説明に得心したのか、ダニエル老が力強く頷いた。

 

 

『もちろん、ブラス家は決して恩を仇で返すような真似はしない。そうすると、どうすべきか』

 

『キャサリンさんは非常に魔法のセンスが良い。自分の魔法で治したと、そう宣伝することは出来ないでしょうか?』

 

『・・・キャサリン、どうしたい?』

 

『私は、それで良いと思います。キョウジの負担になるのは嫌ですし、何よりこれは後発の感を否めないアメリカ冒険者協会の箔付けにも役に立つでしょう。感情面でも。実利の面でも大きい』

 

『うむ。では、そのように取り計らおう』

 

 

ダニエル老とジュニア氏は頷き合って控えていた秘書の女性に何事かを話す。

恐らく明日にはケイティのニュースが全米を流れるんだろうなぁと思いながら、俺達は応接間を後にした。

 

 




キャサリン・C・ブラス:次の日には全米中に奇跡の少女として報道される予定。本人としては特に何も思っておらず、これを機に冒険者協会のイメージを上昇させるつもり。

ダニエル・クリストファー・ブラス:ケイティちゃんの祖父。政財界に名を轟かす豪腕の持ち主として知られているが可愛い女孫には勝てない模様。

ダニエル・ジュニア:ケイティちゃんの父親。病弱に生まれた我が子が元気に暮らせることになり実は一番喜んでいる人。


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第五十八話 何より特別な誕生会

かなり拙い文章で申し訳ない。いつかどこかで入れたかった場面なんですが丁度話の時期が年末だったので。
時間が無かったので見返しも出来てませんが、書きたい事は突っ込めた気がします。

誤字修正。kubiwatuki様、244様、アンヘル☆様、見習い様ありがとうございます!


第五十八話 何より特別な誕生会

 

 

『もてなしたいので一晩滞在して欲しい』

 

 

ダニエル老の言葉に従って俺達はブラス家の心づくしを受けることになった。

夕食の席ではダニエル老の夫人にジュニア氏の夫人・・・つまりケイティのお母さん、そしてケイティの兄であるジョシュアさんと、妹のジェニファーさんを紹介された。

 

ジョシュアさんは妹の病状が変わったと聞かされ、在学しているオースティンから文字通り飛んで来たそうだ。良い方に変わったと聞かされ、怒ればいいのか笑えばいいのかという複雑な表情を浮かべながらわんわん泣いていた。恐らくいいやつなんだろうな。

そしてもう1人。やたらと恭二に鋭い視線を向けるかと思えば俺を見てキョロキョロと視線を泳がせる、見た目はそのまま大きくなったケイティのジェニファーさん。愉快な家族だ。

 

 

『明日は是非我々の保有するウルフクリークのダンジョンに来ていただけないでしょうか』

 

『私達は構いませんが・・・ええと、一郎と一花は確か明後日ニューヨークに行かないといけないんだよな?』

 

『そっすね。明日には準備があるんで自分らは申し訳ないんですが』

 

『そんな!』

 

 

何故かジェニファーさんから驚きの声が来たんだが。

とはいえこれはもう大分前から誘われていた件なので今更変更もできないし心情的にしたくないんだ。

今回丁度良い機会なのでとある人物に会いに行く事になっていて、ついでにその人物の誕生日が丁度28日だったので、こちらとの窓口になっている人と共謀してサプライズパーティを企画しており、そこに参加する事になっている。

言い出しっぺの俺が参加しないのは流石に不義理にすぎるだろう。

 

 

『なるほど。義理堅いのですな。ビジネスマンとしては有り難い商売相手です』

 

『商売相手というか、こちらが一方的に利用させてもらってるのでせめてものお礼をと思って』

 

『・・・・・・12月28日?もしかして』

 

 

ダニエル老に褒められた気がするがこちらとしては寧ろ恩返しの意味合いが強い。

何せ彼の生み出したキャラクターを無断で利用させてもらってるからな。後にOKは貰えたけどやっぱり何かしらでお返しはしておきたいのだ。

 

俺が詳しい経緯とどのような計画かを説明すると、ブラス家の面々は目を輝かせて面白いと言ってくれた。

『彼』の個人的なファンでもあるというジェニファーさん・・・ジェニファーも参加を熱望した為、ブラス家の面々も予定を変更してニューヨークへと向かう事になり、ヤマギシチームも全員が『企て』に協力してくれる事になった。

 

 

「というか、そんな面白そうな事はむしろ呼べよ」

 

「いや、お前そういう華やかなの嫌いだろ」

 

 

脇を小突いてくる恭二に反論するも「それはそれ」と返される。こいつ次の動画には無理やり出演させたる。

 

 

「じゃぁ話も決まったことだし連絡いれるよ!マーブルの担当さんに!」

 

 

 

 

 

 

ニューヨークの街並みはこの日、不思議なざわめきに包まれていた。

ニューヨーク市長からの突然の放送。

本日昼の12時から30分。ニューヨークの中央部で「何に遭遇しても」けして慌てず、車の運転を誤るような事はしないように。

その言葉だけが延々と朝から、ラジオやテレビのニュースで流れ続けている。

何かがある。その漠然と下した期待が街を覆っていた。

所々にスタンバイしているテレビの中継車もその期待に拍車をかける。

時刻はもうすぐ12時だ。

 

突然、全ての信号が点滅して赤に変わった。昼間の車道は混み合っていたが、誰もクラクションを鳴らすこともなく外に出る。

何かがどこかで始まっている。

ふと、空を見上げた男性が居た。ただ、何気なく上を向いただけの彼は次の瞬間に大きな声を上げた。

釣られて上を見た隣の女性も、その声に気付いた車から降りた男性も。

次々と皆空を見上げてこう叫ぶ。

 

 

【スパイダーマン!】

 

 

と。

 

 

ビルの間と間を右手から糸を飛ばして飛び行く彼の姿は皆が思い浮かべるタイツスーツではなく蜘蛛の糸を模した赤いラインの入ったタキシードだったが、その赤いマスクと蜘蛛の糸を使った移動方法を見誤るニューヨークの人間は居ない。

 

 

『だ、だが何故右手だけでウェブを?』

 

『マジックスパイディだ!だから右手だけなんだよ!彼は魔法の右腕を持っていて、そこからウェブシューターを扱うんだ!』

 

 

上を眺めていた男性に近くに佇んでいた少年がそう説明した。彼は興奮気味に大きな声で自身の持つ知識をひけらかし、それを聞いた周囲がなるほどと頷いて空を見上げる。

ドンドン遠ざかっていくスパイディはなるほど、通常のスパイディよりも大分アクロバットな飛び方をしている。

彼が通り過ぎた通りは再び信号が青になったが、余韻に浸る彼らは暫くその事実に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

『なぁ、ジェームズ。私はいつまでその、スペシャルゲストとやらを待てば良いんだ?』

 

『申し訳ないミスター。予想よりも時間がかかっているようでして』

 

『そう言ってすでに30分も経っているんだぞ!来賓の皆さんはすでに一杯目を飲み終えてしまっているじゃないか!』

 

 

パーティの主賓であるスタン・M・リードはイライラとした様子でパーティの幹事を演じているジェームズを問い詰める。

今回のパーティには自身の大ファンだという大富豪ブラス家の令嬢が飛び込みで参加してきたり、ニューヨーク市長がお祝いの言葉を送ってきたりと嬉しいサプライズが多かった為に、余計に遅刻しているスペシャルゲストとやらが気になった。

 

ジェームズの方は必死にスタンを宥めながら、冷静にスタッフの様子を見やる。

適度な苛立ちは最高のスパイスだ。頃合いだろうか。

スタッフの一人がマイクに向かって何事かを話しながらこちらに合図を送ってきた。よし。と頷いて、ジェームズは大きく手を振り上げる。

 

その動作に来賓客が席から立ち上がる。

そして吹き抜けになっている会場の二階にある窓をスタッフが開けると、そこから文字通り人が飛び出してきた。

彼はシャンデリアに糸を絡めながら会場内を飛び、目標の人物の前に両手を着いて着地すると崩れた胸元を直してスタンの前に立った。

 

 

『少し遅れましたね、申し訳ありません』

 

『あ、いや。き、気にしないでくれ』

 

 

呆然とするスタンに蜘蛛柄のタキシードを着けた人物。一郎が扮するスパイダーマンがそう謝罪すると、まだ動揺が鎮まらないのか震える声でスタンが答える。

 

ジェームズが再び手を振り上げる。

二階のギャラリーに続く扉が開き、

 

 

『シルバーサーファー、ソー、サイクロプス、ははっ!ハルクも!?』

 

 

ギャラリーには彼が手掛けた作品のヒーロー達が並んで立っていた。

 

 

『さ、スタンさん。どうかご清聴を』

 

 

いつの間にか用意された椅子にスタンを座らせて、一郎が指揮棒を手に取る。

スピーカーから流れる音楽に合わせて彼が指揮棒を振ると、歌が始まった。

 

 

【ハッピバースデートゥユー】

 

 

スタンの頬を涙が伝った。

 




スタン・M・リード:本物と名前は若干変わってますがこの世界ののスパイダーマンの原作者。マーブルも同じ理由です。ほとんど変化はないけど。つい数カ月前に無くなってしまったので、申し訳ない。追悼の意味も込めて今回の作品は上げました。


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第五十九話 テキサス接待ダンジョンツアー

メリークリスマス(ぱちぱちは仕事中です)

誤字修正。244様ありがとうございます!


第五十九話 テキサス接待ダンジョンツアー

 

 

ブラス家の一室で俺はコーヒーをメイドさんに入れてもらう。テレビを付けると先日のニューヨークでの出来事が流れていた。

盛大なパーティから一夜明けた翌日。俺達は別れを惜しむスタンさんに挨拶をした後、ニューヨークから再びテキサスに戻った。

スタンさんの誕生日パーティーは大成功と言っていい出来だった。

 

 

『ありがとう。私はこの世で一番幸せな脚本家だ』

 

 

自分が生み出したヒーロー達からのバースデーソングを聞き、涙を流しながら彼はそう言っていた。

彼が生み出したスパイダーマンというキャラクターによって多大な利益を受けた身としては、せめてもの恩返しになれば嬉しい。

 

それと、プレゼントとして用意していたゴーレムの魔石を5つ吸収して貰った。全て吸収しきった時には50代かと見間違える位に肌にハリが戻っていて、ヒーローを演じていた女性の方々からの熱視線が凄かったわ。

アメリカ冒険者協会の宣伝もしときました。

 

さて、今日はテキサスのウルフクリークにあるブラス家所有のダンジョンに宿泊の礼として共に潜る予定だ。

スタンさんのパーティーでは色々協力して貰ったし今日は全力で頑張るぜ!

 

 

「お前はご婦人方の護衛な」

 

「そりゃないぜ真一さん」

 

「向こうからのご指名だ。目立ちすぎたんだよお前は。ほら、ご婦人方がお待ちかねだぞ」

 

 

やる気満々といったブラス家の男達に真一さんや恭二、沙織ちゃんが付き、俺や一花、シャーロットさんが婦人方の護衛につく。婦人方の黄色い声がなんとも居心地が悪い。

あと、何故かやる気満々組だったはずのジェニファーさんが婦人組に来てます。こっちだと経験が碌につめないかもしれないけど良いんだろうか。良いんですか、はい。

 

ダンジョンへはブラス家からハマー5台に分乗して向かった。

現地に着くと使用人達がやたらとでかいテントを立て、その中でダニエル老らと婦人組はコーヒーを飲みながらくつろいでいる。

そしてジョシュアさんとジェニファーさん。それ米軍の兵士が持ってるライフルでしょ。民間人が持ってて良いんですか?

 

 

『ああ、これは正式名称がAR-15と言ってM16とは同じ銃だが、フルオートが出来ないタイプの民間用だよ』

 

『M16というのは米軍が割り振った番号で、要は組織内での名前なんです』

 

『成るほど。銃にも色々名前があるんですね』

 

 

一つ勉強になった。ただ、中では出来れば銃ではなくて刀や槍が望ましいので一応注意しておく。

理由を尋ねられたので、同士討ちが怖いのが一つと、下に潜れば潜るほど銃が効果を及ぼさなくなってくるのが一つ。

あと、イヤープロテクターをつけていると味方の声も近隣の音も拾えなくなるのが不味い。

狭いダンジョン内では跳弾も起こり得るから正直デメリットが目立つという事を説明した。

 

まぁ、そう言われても銃社会のアメリカではやっぱり身を守る=銃の印象が強いだろうからお勧めは拳銃を一つ。

後は折角なのでウチのメインウェポンのご紹介といこう。

先生、よろしくお願いします!

 

 

「どぉれ」

 

 

お。流石は真一さん。最近見栄えの良い槍の扱い方を研究してるだけあって咄嗟のネタ振りにも反応してくれるんですね。

何事か始まるのかと興味津々のブラス家の面々の前で真一さんは愛用の素槍を構えて、

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

ボゥ、っと炎を宿した槍で突き、払い、叩きと動作を繰り返して最後に魔法を切り替え。なぎ払うように周囲に振り回す。

簡単な実演だったが十分に興味を引けたようだ。

 

 

『魔法しか通用しない相手にも効果があるし、通常の状態でもダンジョン内なら十分メインウェポンとして利用できる。全て奥多摩で開発者の刀匠が手作りで作成している物です』

 

『素晴らしい。刀匠(ソードスミス)の生産量はどの程度だろうか?是非購入したい』

 

『全員分は流石に用意していませんが、とりあえず予備の半分の3本ならお譲りできます。ダンジョン内の不測の事態を考えてこれ以上は』

 

 

因みにケイティはすでに槍を持っている。前回来日した際に恭二が使った炎の槍技に魅せられてしまったらしい。

真一さんとジョシュアさんの商談により一先ず3本を購入という形でお譲りすることになったが、このままだと恐らく重さが問題で扱いにくいだろう。

という訳で皆さんには一度潜ってもらい、ある程度進んだ辺りで魔石を吸収してもらうことになった。

ジョシュアさんとジュニア氏は最初から槍に挑戦するつもりという事なので、先に手持ちの魔石を少し吸収してもらう。これだけでも大分違うだろう。

 

 

『凄いなこれは。さっきまであんなに重く感じたのに』

 

『父さん、片手でも持てるようになったよ!』

 

『ダンジョンに長く居れば居るほど魔力も蓄積されます。その時には魔石も溜まっているはずなのでもう一度吸収を行いましょう』

 

『ご婦人方はある程度奥に進んだ辺りで魔石を吸収してもらいます。魔力が自覚できるまで吸収して頂ければ魔法に挑戦しましょう』

 

 

すっかり接待になれた真一さんとシャーロットさんがそれぞれの担当する人員に軽い予定の話を行っている。

 

 

 

『ねぇ、イチローは今日はどんな変身をするの?』

 

『あー。決めてないからジェニファーさんのリクエストがあれ『スパイディ!』はい。好きなんだ?』

 

『大好き!ビルとビルの間を飛び交う赤い影!その名は!スパイダーマン!』

 

『それ日本版のオマージュ?』

 

『そうよ。マーブルのHPで全部見たの。あれが20年以上前の作品だなんて信じられないわ!』

 

 

結構コアなファンだね君。ならちょっとファンサービスと行こうか。

ふふふ。新魔法のお披露目だぜ。

 

 

「ボイスチェンジと、更に変身!」

 

『声?何を・・・』

 

【俺は地獄から来た男、スパイダーマッ】

 

『うそ!?山城拓也!?』

 

 

一発でキャラ名が出てくるってすげぇな。

今回の探索は通常のスパイダーマンではなく東映版をリスペクトといこう。

 

 




ボイスチェンジ:変声の魔法。あくまで声を変えるだけのため翻訳と併用は出来ない(翻訳はどちらかというとテレパシーに近い為)


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第六十話 笑顔とは本来()

誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございます!


第六十話 笑顔とは本来()

 

 

『スパイダーネット!』

 

 

クモの糸に絡まれて身動きの取れないゴブリンにご婦人方の一斉射撃が決まる。

うーん、やはりこの位の階層だと銃で十分無双できるな。

まぁ、今日はオークまでは行かない予定だしこのままでも良いかも知れない。

 

 

『イヤッホォォウ!』

 

『ハッハッハッ!炎の槍を食らえ!』

 

 

槍を持ったジョシュアさんとジュニア氏が楽しそうにゴブリンを叩きのめしてるし、槍の宣伝自体は十分行えただろう。

婦人方のチームで唯一槍を持ったジェニファーさんは少し退屈そうだが、まぁダンジョンを歩くだけでも体力増強は見込める。

ここは一つ、のんびりおしゃべりでもしながらピクニックと行こうじゃないか。

 

 

『ジェニファーじゃなくてジェイでいいわ。仲の良い人は皆そう呼んでるから』

 

『お、これはありがとう。あっちに混ざった方が楽しいんじゃないか?』

 

 

指差した先ではジュニア氏が打ち上げたゴブリンにジョシュアさんとケイティが止めを刺す親子タッグが行われている。

息ぴったりですげぇ。むしろ俺がしてみたいわ。今度恭二と練習してみようかね。

 

 

『お父さんも兄さんも子供みたいにはしゃいで・・・恥ずかしい』

 

『うーん、男ってバカばっか。まぁ、気持ちは分かるけどね。闘うときってやっぱり気分が高揚するからさ!』

 

『イチカも経験あるの?』

 

 

後方でご婦人方とおしゃべりをしていたイチカが話に加わってきた。あちらは、今はシャーロットさんが付いて魔石タイムか。

元々美人だったのもあるんだろうが、奥方達の若返りが凄いなぁ。ジュニア氏とかたまにちらちらと奥さんを見てる目がね。うん。

仲が良いのは良い事だと思うよ。

 

 

『ジェイ姉ちゃんもあれやってみたら?お兄ちゃんとのタッグ。良い記念になると思うよ!』

 

『え。ええ!?』

 

『いいよ。じゃあジェイ構えてくれ』

 

『えええ!?』

 

 

驚きの声を上げるジェイを尻目にスパイダーストリングスを使いゴブリンを一匹捕まえて、一気に引っ張る。

普段のウェブシューターより若干重いが、その分力のあるスパイダーストリングスはたやすくゴブリンを巻き取り、ゴブリンをコチラに飛ばすことに成功。

後はタイミングを合わせてくれれば即席のコンビネーションだ。

 

 

『ええい、チェストー!』

 

「それ刀だよジェイ姉ちゃん」

 

 

イチカ、動揺してるのか翻訳解けてるぞ。

俺が引っ張ったゴブリンを空中でジェイが串刺しにすると、その一撃でゴブリンが消滅する。

 

 

『うん、ナイスアタック!即席だけど良いコンビネーションだね!』

 

『合わせてくれてサンキュー!度胸もあるしジェイは良い冒険者になれるよ』

 

 

ハイタッチを求めると、呆然としていたジェイの顔に笑顔が広がり、力いっぱい右手を叩かれた。

それ以降終日ジェイは上機嫌で、何故か意味深な表情でダニエル老が肩を叩いてきた。何なんだ一体。

この日は結局5層まで潜り、出てきた魔石やドロップ品は記念として全てブラス家に使用してもらうことになった。

 

そして最後に魔法のレクチャーをしたのだが、ケイティの家族だからという事もあるのか。皆非常にセンスがある。

特に女性陣のセンスが高く、ジェイはほぼ初見で基礎的な魔法を覚えてしまい、しかも翻訳魔法まで一気に習得してしまっていた。

今度日本に遊びにくると楽しそうに笑う彼女の笑顔が、何故か肉食獣のように見えたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

ブラス家の面々に見送られて俺達は再びバージン諸島の家族の元へと戻った。

何でもニューイヤーパーティーが開かれるらしい。

 

 

「親父ーズは大丈夫でした?」

 

「駄目ね。他の協会の幹部にレベル10認定バッジを見せびらかして恥ずかしいったら」

 

「鈴木さん、それはもう謝ったじゃないですか・・・・・・」

 

 

懸念事項だったハメを外した親父達だが、やっぱりやらかしていたらしい。

現在ダンジョンに実際に潜った事のある協会関係者は日本に限定される為、胸元にレベルを刻まれたバッジは日本だけでしか発行されていない。

他の協会の幹部に『それは何なのか?』と尋ねられた社長は鼻高々にどこまで潜ったかの証明だと自慢していたらしい。

その様子を見咎めた母さんが翻訳魔法を使って上手い事話題を逸らして、後で社長と親父にお灸をすえたらしい。

母さん達が居て良かった・・・・・・発足して間もないのに日本と他の冒険者協会で軋轢が出来たら目も当てられん。

 

 

「いや、しかしなぁ。あいつら名族だなんだってこっちを頭から見下してきてるんだぞ」

 

「言わせておけば良いんです。来年もパーティーがあれば、今度は揉み手で擦り寄ってきますから」

 

「そうそう。イギリスの代表やアメリカの代表はその点こっちを立ててるでしょう?目端の利く人ならそうなるんだから、他は無視しておけばいいんですよ」

 

 

父さんがそう言って美味しそうにテキサス土産のビーフジャーキーを齧る。

バカンスは良いのだが趣味の狩猟が出来なくて少し暇になってきたらしく、最近は覚えたばかりの翻訳魔法を使って海外の協会の人に話しかけては狩り仲間を探しているらしい。

欧州の偉い人は結構ハンティングとかをやってる人が多く、若い頃とはいえ専門の猟師だった親父はこのバカンス中に結構な人脈を築いてきてるらしい。

そして、そんな外国の窓口になっている父さんの言葉だからこそ社長も頷けるものがあったのか。この話は一旦ここで終わった。

国内は下原の小父さんが総括し、国外は親父が担当するのも良いかも知れないな。ただ、国外担当だと母さんまで一緒についていきそうなのが難点だがね。

 

 




スパイダーネット:東映版スパイダーマンの技。ネットを相手にぶちまける。相手を拘束するのに便利。


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第六十一話 弟子取り・弟子入り

遂にリポップにUAを抜かれてしまった・・・

誤字修正。244様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第六十一話 弟子取り・弟子入り

 

 

正月三が日をバージン諸島で過ごした俺達はいよいよ日本に帰ることになった。

帰りはブラス家のプライベートジェットで送ってくれるそうなので羽田にフライト申請を出したが、一杯のようだったので、横田経由でこっそり帰ることになった。

 

何故かウィルも一緒に。

 

 

『イチカに弟子入りしたんだ。あのハルクをどうやれば良いのかが知りたくって』

 

『弟子にしました』

 

 

無い胸を張ってふんぞり返る一花をちょいちょいと呼んで事情を聞く。

なんでもウィルはTV中継で流れていたスタンさんの誕生会で、ハルクの中身が誰なのかを調べていたらしい。

ただ、どう調べても俳優が分からなかったので現場に居た恭二に聞いてみたら、恭二が指差したのが一花だった、というわけだ。

 

それなら恭二に弟子入りすれば良いのにと思ったが、恭二曰く、「出来る奴に教えるのは簡単だけど出来ない奴に教えるなら一花が一番上手い」らしい。

まぁ、一花はこういっちゃなんだがヤマギシチーム内ではセンスが良いというより器用って評価が高いからな。

 

 

『彼女に弟子入りしてわかったよ。キョージの感覚は天才のそれで、天才に近しい人か感覚が近い人じゃないとイメージがしにくい。その点彼女はまず、イメージを構築するやり方から自分で考えている。学びやすさが全然違うんだ!』

 

「照れるぜ」

 

「まぁ、本人が納得してるなら良いんだが」

 

 

見た目小学生でも通じる一花に『マスター!』とか言ってる大学生って絵面がね、ヤバい。

だが、確かに誰かに教えるなら一花のやり方が一番いいかもしれない。

俺や恭二のような感覚で魔法を使ってる節がある奴なら兎も角・・・というかヤマギシチームはほとんど感覚で引っかかればその魔法を使える面子で構成されているが、一花や米軍のジュリアさんなんかは感覚よりも理論。

 

こうやってイメージしてここに魔力を注いで、といったやり方で魔法を使っているらしいとは聞いていた。というか、ほとんどの人はそうやって魔法を使っているらしい。

どちらもイメージ次第なんだが、ある程度魔力があるのに魔法が中々使えない、発動できない人達はこのイメージで手間取っているみたいだ。

その最初の段階を手助けする一花の教え方は、なるほど理に適っているんだろう。

 

 

「ハルクの時はどうしてたんだ?」

 

『ハルクの時はまずこの位の大きさになるってのを想定して、ハルクのイメージ画像を見ながら自分からどれだけ『膨らませる』かってのを意識しながら変身したよ!自分の今の動きとハルクの動き、両方をイメージしながらやったから難しかったけど楽しかった!』

 

『殆ど幻術だよね!マスター、変身の魔法自体は覚えたけど正直サイズが違う人は演じ切れないよ!』

 

『逆に考えるんだウィル。「演じる必要はない」って考えるんだ。自分の頭の中にそのヒーローはいるか?居るんなら彼をただ思い浮かべて動けばいいんだ!居ないならすぐにコミックスを見るんだ!』

 

『なるほど!わかった、やってみるよ!』

 

 

演じる必要はないってそれいやよそう。俺の勝手な思い込みで(ry

まぁ、一花の教育のお陰かウィルは急速に魔法使いとしての実力を高めてきており、元々磨いていた戦士としての実力も相まって一月ほどの滞在の間に10層への到達に成功。

俺達ヤマギシチーム以外では初めてテレポート室を利用した冒険者になった。

 

まぁ、自衛隊と米軍の教官チームも皆大詰めに来ているから来月にはもっと利用者は増えるんだがな。

日本の冒険者以外では初の民間人でのレベル10となり、まだ米軍兵士は教習受講中のため、二種免許を発行された海外初の冒険者となる。

という訳でちょっとしたお祝いに記念撮影と、食事会を行う。

 

 

『信じられない。味噌っかすの僕が、民間人初のレベル10だなんて』

 

 

10層までの独力突破・・・他のメンバーこそヤマギシチームだが、俺達ははあくまで補助と支援に徹していたため独力突破と認められた・・・を達成したウィルの頬からつぅ、っと涙が伝う。

この時に取った記念写真はアメリカ冒険者協会のトップページに暫く載ることになりそうだ。

訓練中の教官陣を除けば米軍の7層到達が最高だったからな。世界冒険者協会にとっても新年早々嬉しいニュースだろう。

あと何故かその写真の下に『偉大なる師、イチカ・スズキと我が友イチロー・スズキに捧ぐ』と書かれたコメントがあり、英語が読めなかった為ウィルに何を書いたのか尋ねると「箔付け」とだけ応えられた。

シャーロットさんに聞いてみると爆笑してたのであんまり良い事が書かれてないっぽいな。

ちょっとウィルを連れて空中散歩でもしてくるか。右腕基点だからぐるぐる回って凄いぞ?

 

 

 

 

 

そして2月。この月は別れの月になった。

日米共同の教官教育はめでたく全員履修終了となり、自衛隊20人、米軍20人の新任教官の育成が完了した。

そしてそれにあわせて浩二さんと美佐さん、ベンさんとジュリアさんの軍属組も原隊復帰し、奥多摩を去ることになる。

 

 

「寂しくなるなぁ・・・ここのラーメン好きだったんだが」

 

「ラーメン、ステイツとは比べ物にナリません。悲しいデス」

 

「そこはせめて奥多摩から離れたくない、とかにしてくださいよ」

 

 

笑いながら並んでラーメンを啜る。場合によってはもうこんな事出来ないかもしれないなぁ。

浩二さんには色々教えてもらったし、ベンさんとは一緒に山手線を何度も利用する仲だった。

これから教育隊に配属になった後、政府が保有するダンジョンに赴きそこで新人教育の任に当たるそうだが、そこが奥多摩ほど環境が整ってるとは思えないからなぁ。

ヤマギシとしては、今回の教育を機に自衛隊や米軍とは距離を置くことが決まっている。というか政府からそう依頼されている。

民間冒険者の教育に舵を振りたい日米政府としては、軍属の為だけの訓練期間が惜しいと感じている人が要るみたいだ。

 

実際、ヤマギシチームに参加しレベル20認定と教官免許まで手に入れた人材が日米共に2名も居るのだ。

真一さんなんかはこれ以降は民間に振り分けてくれと直接言われてたりするらしい。

皆魔石が欲しいんだろうなぁと思いながら俺達はラーメンの支払いを済ませて帰路に着く。

40名もの人が居なくなるせいか、やけに寒く感じる日だった。

 




鈴木一花:米国で変なあだ名が付いている事に気づきプルプル震える羽目になる。

ウィリアム・トーマス・ジャクソン:可愛い女の子をマスター呼びして教えてもらっていたと全米に向かって自慢した。同志と呼んでいた友達が少し減った模様。尚すぐ仲直りしたらしい。


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第六十二話 教育準備

第六十二話 教育準備

 

 

今日も今日とてゴーレムをばったばったとなぎ倒す。

最近、あんまりにもゴーレムとばかり闘っているのでちょっと奇をてらってジャバウォックで殴りかかったり、要望の多いハルクで近接戦を行ったりと暇つぶしをしていたのだが。

 

 

『ィヤアアァァ!』

 

 

刀匠達が現場を知りたいという事で急遽ダンジョン体験ツアーを敢行。本当についで位の感覚で付いてきたウィルがゴブリン相手にはっちゃけている。

最近覚えた変身魔法は大分安定しているが、まだまだサイズの大きな人物への変身は出来ないそうなので、今はマイティ・ソーに変身して剣を振り回している。

ストレングスを使用しても流石に彼のパワーは再現しきれないが、ウィルは満足そうなのでまぁ良いだろ。

 

 

「西洋剣もなかなか」

 

「やはり頑丈だな。鉈に近いかな?」

 

 

藤島さんと宮部さんがウィルが振り回している剣を見ながらそう言った。

何度かダンジョン経験のある二人は冷静だが、他の若い刀匠はウィルの活躍に目を輝かせている。

それを意識してかウィルの動きもドンドンよくなっていく。

後の方では単純に殴る蹴るでぶっ飛ばしたりしてたし、ゴブリンやオーガ、恐らくオークまでなら近接戦でも上手く処理出来そうだ。

 

この日は5層で切り上げたが、あの調子なら遠からず11層に挑戦できるかもしれない。次の教官教育にはウィルも来るって言ってたし、彼にはケイティと一緒にアメリカチームのリーダー格として頑張ってもらいたい。

ケイティといえば、何でもリザレクションに成功したそうだ。あのヤベー魔法の成功者がまた1人・・・

真一さんとしては、冒険者教育とあわせて医者にも魔法を伝えて行きたいらしい。ただ、うちと医療関係は仲が微妙だからな・・・・・・リザレクションの効果については政府側も認識しているためヤマギシの構想にも理解を示してもらっている。気長に人員を育てるしかないだろう。

 

人員を育てるといったらもう一つ。俺達ヤマギシチームの剣の師匠でもある安藤さんが、正式にヤマギシと契約を結んで人員育成に協力してくれることになった。

というのも、これから来る人員について一つの不安があったためだ。次回奥多摩で学ぶ人たちは日米選抜チームと違って民間人だ。

そこそこ鍛えている人も勿論居るだろうが、大多数は初めてダンジョンに潜った時の俺達のように日常的に闘うような事のない一般人。

ウィルのように自分で潜りに行くアグレッシブさがあっても完全な素人では教える側も難しいため、せめて体の動かし方、武器の振り回し方位は専門家が教えられる体制を整える必要があったのだ。

体力測定も可能なトレーニング施設をダンジョン近くに作り、安藤さんは基本的に週何度かそこで指導を行ってもらうつもりだ。

 

 

「体力のない人間、ある人間、それぞれの鍛え方は心得ているので」

 

「頼もしいです。育成について何か他には?」

 

「流石に40人を一人で見るのは無理なので、同門の人間に声をかけてもいいですか?」

 

 

勿論二つ返事でOKを出した。安藤さんは二種免許持ちなので、近隣に住む同門の剣道家に声をかけて何度かもうダンジョンに潜っているらしい。

魔法については流石に指導できなかったそうだが、素の実力で5層まで突破した安藤さんの同門の人だ。期待度は高い。

何なら基本的な魔法くらいは俺達が教えると伝えると喜んでくれた。魔法が使えなければ10層までの到達は難しいからな。

教える側がレベル5バッジしかつけていないのはちょっと見栄えも悪いしね。

 

 

 

 

さて、微妙にダンジョンと関係のある話の一つとして、最近奥多摩では建設ラッシュが起きている。

ダンジョン関連でにわかに住居が足りないという状況が起きてしまったためだ。

奥多摩は河川の流れで切り開かれた場所で、居住できる区域が非常に少ない。これまでは問題なかったのだが、ダンジョンが出来てからはこの居住区域の少なさが問題になってしまった。

まぁ、これまでマンションなんか建ててもどうしようも無かったせいなんだが、今は需要が生まれているからな。

今一番奥多摩で資金力があるのがヤマギシなんだから、これは自力で何とかしないといけない。

というわけでダンジョン近くに大型のオフィスビルとマンションが建つ予定だ。国の後押しがあるからヤマギシが買収したこの一帯は建坪率や容積率が大幅に緩和されており、結構高い建物になるらしい。

また、オフィスビルには日本冒険者協会と世界冒険者協会日本支部の奥多摩支部が作られるらしく、これは先に述べたトレーニング施設やダンジョン上部の寮とも接続される予定になっており、この一角は完全にダンジョン関連の建物だけになる。

まぁ、ここまで聞くと奥多摩も開発されていって良い事のように感じるんだが、勿論それだけではない。

 

 

「だめだな。川向こうの小学校は諦めよう」

 

「申し訳ない山岸さん。何度も説明したんですが・・・」

 

 

町立の小学校手前まで土地を買占める事が出来、次は小学校を買い取って青梅船沿いに新しい校舎を建てよう、という計画が空気の読めない町議によって白紙になってしまったのだ。

観光業を営んでいた折に何度か話したことのある父さんが粘り強く説明をしたが、欲が出てしまったのか。

順調に進んでいた話にいきなりとんでもない額をふっかけてくるという事をしでかし、結局そのまま物別れになってしまった。

 

山岸家もウチも代々奥多摩に居を構えていた地元の人間だ。無理に進めて同じ地元の人に恨まれてまで何かをするつもりはない。

折角広くて便利な場所に小学校を立て直すって話が立ち消えになって、その話を台無しにした人たちがどうなるかまではしらんけど。

 

 




マイティ・ソー:アメコミのスーパーヒーローでハルクの喧嘩友達。アスガルドの神々の王オーディンの息子でアスガード最強の戦士。ハルク並のパワーとタフネスに格闘能力、更に非常に高い戦略的知識と直感力まで持ってるチート。しかもムジョルニア(魔法のハンマー)を持つと天候操作やらの超能力まで使えるチート。つまりチートオブチート。


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第六十三話 レベル30到達

誤字修正、日向@様、244様ありがとうございます!


第六十三話 レベル30到達

 

 

3月。

ゼネコンの方々がクソ寒い中川向こうの山を整地しはじめたり、新ビル棟建設のための穴掘りなどをするためにやってきた。

お陰で2月に一時落ち込んでいたコンビニの売り上げがV字回復して店長の顔色が元に戻っていた。赤字になっても大して問題はないけど、やっぱり気分的にね。辛かったらしい。

 

新ビル棟一階には、冒険者たちのためのアンテナショップが出来る。

俺達が実際に使っている装備や武器、ダンジョン用の電気カーゴ車や、最近日本の会社が開発してくれたダンジョン仕様のSUVなんかも展示される予定だ。

 

このダンジョン仕様のSUVなのだが、実際に車検が通る形で作ってくれたそうでなんと街中でも乗ることが出来るらしい。

見せてもらったらサファリラリー車のようにデコレーションされており、俺達の装備を作ってくれている各社のスポンサーデカールが貼られていてやたらとかっこいい。

 

早くこれが運転できるようになりたい。街中でこれを乗り回したら気分良いだろうなぁ。

因みに建設会社の人たちにはダンジョン上の寮を借り上げてもらっている。空いてる物件は効率よく回さないとね。

 

 

 

さて、久々のダンジョンである。

3月の間、ゴーレムのインゴットを回収する以外のやる事がなくなった俺達はこの期間に一気にダンジョン攻略を進めた。

21層は石造りのダンジョンらしいダンジョンだ。道幅は狭く、時たま出る広間では敵が待ち構えている。

最初の21層では中学生ほどの大きさの狼が相手だった。コイツは接近戦主体だとかなりの難敵になるだろう。

 

まあ、フレイムインフェルノを進路に置いたら完封できるんですがね。

22層では3メートルちかい上背を持った熊が出てくる。

こいつらを突破した後に続くのはサソリ、でかいカニ、マンティコア、ケルベロス、ワーウルフ、ワータイガー・・・・・・そして30層のボスはキマイラだ。

 

人獣系のドロップは剣など。魔獣は牙やら甲羅やら。30層のボスのキマイラは毛皮をドロップした。

この毛皮なんだが、耐魔性に優れた素材ではある。あるのだが、今の防具にアンチマジックをかけた方が良いんだよね。

一応研究用に確保して使い道を探しているが・・・・・・いっそ貴重な毛皮のコートとして売り出した方が良いかもしれんな。

 

 

 

そして4月。

日本冒険者協会は銀座で売り出されてるオフィスビルを20億くらいで買って銀座支部を作った。むしろ本部じゃね?という位立派な建物なんだが、奥多摩の方を本部にしたいらしい。

全ての始まりの地だからってのもあるらしいから、まぁ気持ちは分かる。

まぁ、対外的な事務なんかは銀座でやって、奥多摩の方は完全に司令部って感じになるらしいんだがね。

このビル購入にはヤマギシも出資しており、「銀座にビル持っちまったぜぇ」と社長がにやけていた。協会所有なんでヤマギシがどうこう出来る物件じゃないんだけどね。

 

とりあえずビル購入の際の式典に出席した折、銀座の刀剣商の所に「近所にうちの支部が出来ました」と報告を入れたらお茶とサイン色紙をすっと出された。

手形でいいかな?あ、すんません真面目にやりますわ。

 

SUVの提供の条件が11層でのCM撮影だったので撮影隊を連れて11層へ。

俺達は御揃いの装備を着てやたら細かい絵コンテに従って数日、撮影につきあった。勿論運転手はシャーロットさんだ。美人は絵になるからね。

ただ、問題は隣に俺が座らされた事なんだが。知名度を生かせ?なら何か変身させろよ。素顔で有名人っぽく振舞うの苦手なんだから。

 

次の日、本当にマーブルに許可を貰ってきたらしく何故か1人だけ外を飛びまわらされた挙句、途中で疲れたような小芝居をして車の中に入れてもらおうとするスパイダーマンというなんとも言いづらいCMが出来てしまった。

完成した瞬間にデータを送られたらしいスタンさんからめっちゃ面白いってメールが来たけどあれでいいのか?いいのかなぁ・・・・・・

テレビでもオンエアされるらしいけど、ネットでは全編公開されてるんだそうだ。ヤマギシチーム全員がこんな形で動画に映るのは中々少ないから少し楽しみだぜ。

 

さて、次に法律でもちょっと進展があった。

対ゴーレム用の武装、RPG-7を冒険者免許持ちなら購入が出来るようになりそうなのだ。

自衛隊の調達に強い商社が、代理権を取得したそうなんだが。今現在はヤマギシ関係の人間しかそこまで進めていないから、暫くはウチがお世話になるんだろうな。

 

そしてこれは日本の話ではないのだが、ウィルとケイティのチームがついにゴーレムのマップに入ったらしい。

ウィルには事前にレクチャーをしていたので問題ないと思うが、ゴーレムには不用意に接近戦を仕掛けないよう注意と、おめでとうという祝辞を送っておく。

また、この事によりうちの法務部も動き出す必要があった。

 

 

「よし、じゃあペレットの特許を申請するか」

 

 

今現在のヤマギシの飯の種、ペレットの国際特許取得である。

予め、ヤマギシ以外の人間が11層に突入したらいつでも申請できるようにしていたのだが、まぁやはり最初はアメリカだったか。

ウィルとケイティはうちのチームでも少し磨けば通用しそうだしなぁ。

 

ヤマギシのペレットの燃料制御の仕組みは、メイジ系のドロップ品である魔法の杖を細かい爪楊枝のような枝に破砕して、ひとつに<フレイムインフェルノ>発動のエンチャントを、もう一つに<マジックキャンセル>の術を施して、それらをペレットに当てる事で燃やしたり消したりをしている。

ケイティなら、恐らく初見で見破るかもしれない。魔法に関して恭二がそう感じたなら恐らくそうなのだろう。

 

そんな彼女は自身に起こった奇跡を大々的に発表した。

不治の病を克服したこと。それが魔法によって行われたこと。

欧米には宗教的理由で「魔法」を嫌悪する感情があるらしい。そうした意識の改善と、迷宮や冒険者への恐怖感を払拭するための政治的な策らしい。

そして彼女達世界冒険者協会は、医師による回復魔法の習得への支援を打ち出している。

 

すでに数人の医師がキュアを習得しており、中々の滑り出しを見せているようだ。

彼女達が行っていることは魔法の右腕を持つ俺にとっても他人事ではない。早速応援のメッセージを動画で配信して少しでも追い風が吹くように応援しておく。

 

次の日、何故か恭二宛ではなく俺宛にケイティから連絡が来た。

 

 

「イチロー、ヤリすぎ!」

 

「ごめん意味分からん。なんで?」

 

 

たどたどしい日本語で俺に文句を言ってくるケイティに疑問符を投げると、途中で通訳のお姉さんに代わる。

言われたキーワードでネットを検索すると、『世界のヒーローが認めた!』『医療に新しい風を!』という文面で色々な国から世界冒険者協会への支援が開始されたらしい。

そっと画面を閉じ、通訳のお姉さんにケイティに代わってもらう。

 

 

「マジごめん」

 

「自分のエーキョーリョク、考エル大事!」

 

 

その後も延々愚痴られたので謝り倒す羽目になった。

は、はは・・・・・・はぁ・・・・・・




キャンセル:文字通り一度発動した魔法を打ち消す。アンチマジックの応用版


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第六十四話 世界冒険者協会・始動

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第六十四話 世界冒険者協会・始動

 

 

「世界冒険者協会の正式発足の発表会とレセプションがあるそうだ。イチロー、キャサリン嬢から絶対に来いだと」

 

「あっ、ハイ」

 

 

すっごい嫌な予感がするが流石にこれは断れん。良かれと思ってとはいえ、結構な迷惑をかけちまったしな。

結果自体は良かったんだろうが、支援を貰いすぎてハードルがガン上げされてしまったらしいし・・・・・・うん。俺もようやくリザレクションっぽい魔法を使えるようになったし、医師の教育も手伝える所は手伝おう。

そうそう。ヤマギシチームはついに全員がリザレクションに相当する魔法を覚えることが出来た。

相当するってのはまぁ、俺の魔法が例によってバスターから出たりネットに付与されたりと明らかに腕によって効果や出方が変わるから何だが。回復力的な意味合いだと相当といえるのでこう表現している。

このリザレクションの取得だが、一つ驚いたことがあった。

なんといつもならそのズバ抜けたセンスでさっさと魔法を覚えてしまう真一さんが苦戦する中、恭二、沙織ちゃんに続いて一花が先にリザレクションを覚えたのだ。

 

 

「私が何べんバンシーに凸したと思ってんの?」

 

 

周囲の驚きと祝いの言葉に対し無表情でそう応えた一花に、その場に居た一同が沈黙した。

その後、一花式の【痛くなければ覚えませぬ】教育法により全員リザレクションを扱えるようになったが、覚えが悪ければその分自身のメンタルにダメージが蓄積されるこの教育法はかなり人を選ぶという事で一時封印。

リザレクションについては基本的に他者のリザレクションを受けてイメージを持ち、キュアやヒールを習熟していって発展させるという形式で教えていくことになった。

こっちは沙織ちゃんが覚えた形式だし、とっても穏便な方法だ。

 

 

「まぁ、正気で人が救えるんならそれがいいよね!手っ取り早くブラックジャックになれる機会を貰って、その人が正気で居られるんならね」

 

「気合の入った奴しか来ないだろうしなぁ・・・・・・」

 

 

封印解除はそれほど遠くないかもしれない。

 

 

 

さて、話を世界冒険者協会の正式発足について戻す。

この会合には現在ヤマギシで中核に居る人間皆に招待状が届いているが、流石に大工事を行っている最中に責任者が誰も国内に居ないのはちと困る。

という訳で国内の営業を担当している下原のおじさんが責任者として残る事になった。

勿論経理をしているおばさんも一緒だ。

 

という訳で社長とヤマギシチーム、父さん母さんという面子で俺達は数ヶ月ぶりにアメリカの地を踏むことになった。

会場はテキサス州東部の町、ヒューストンのヒューストン・コンベンションセンター。

成田空港にウィルが手配してくれたプライベートジェットでの渡米である。

 

 

『やぁ、よく来てくれたね!』

 

『よっすウィル。二ヶ月ぶり?』

 

 

空港に到着した俺達をウィルが出迎えてくれた。それは良いんだが背後の撮影陣は何だ?

フラッシュで眩しくて目が開けられんのだが。

 

 

『まぁ、有名税って奴だよ。ニューヨークの件、あの後凄い反響だったんだ。あれを許可した市長の再選は固いだろうね。選挙前にまた呼ばれるかも?』

 

『あれ疲れるから嫌だ』

 

『疲れるで済むだけ凄いよ。僕なんか終わった後暫く歩けなかったし・・・・・・ただ、人生最高の瞬間だった』

 

 

俺とウィルが握手を交わす瞬間、狙ったように一斉にフラッシュが焚かれる。

ウィルも米国では注目の人物だし、美味しい絵なんだろうな。それは良いんだが俺達はどこから外に出ればいいんだ?

この撮影陣の中突っ切るの?ボディーガードつけて?・・・ええっと、はい。

 

 

 

 

会場に隣接しているヒルトンを用意してもらい、一先ず俺達は旅の疲れを癒す。

そして次の日、前夜祭のパーティーに出席することになった。

 

 

『やぁ、ヤマギシの皆さん!お久しぶりですな!』

 

 

会場にはブラス家の面々がいた。相変わらず恭二が抱きつかれてる。

以前お世話になった時と全然・・・・・・いや、なんか妙に若くなってるな。これは相当数ダンジョンに行ってそうだ。

 

 

『イチロー!お久しぶり!』

 

『やぁジェイお久しぶり。元気だった?』

 

 

綺麗なブロンドに映える赤いドレスを着たジェイと挨拶を交わす。俺は以前仕立ててもらったスーツに着られている状態で役落ち感が半端ない。

もうちょっとおしゃれも磨いた方が良いんだろうか・・・いや、目立つのは変身しているときで十分だろう。

 

 

『ジェイ姉ちゃんお久しぶり!すっごい綺麗だね!』

 

『ありがとうイチカ。イチカもその着物、とっても素敵よ!』

 

 

ブラス家のご婦人方に挨拶をしてきた一花が会話に加わり、ジェイが応える。

一花は今日、何故か1人だけ着物を着けてきた。しかも割りと渋めの色合いの物をだ。

キャラ付けがどうとか言ってたが正直こいつが何を考えているのかたまに分からなくなる。まぁ、何かしらの意味はあるんだろうが・・・

 

 

『あー、すまないジェニファー嬢、マスターイチカ。イチローをお借りしても?』

 

『ジャクソンさん、お久しぶりです。イチローに何か?』

 

『・・・あ、おけおけ』

 

 

会場に入るまでは一緒に居たが、その後挨拶回りに回っていたウィルが笑顔で声をかけてくる。

怪訝そうなジェイに対して、一花は何かを察したのかすすっと離れていった。

 

 

『イチロー、君と是非話したいって人が列を成してるんだ。僕の友人達でね。ちょっと来てくれないか?』

 

『あ、ああ。構わないけど』

 

『ごめん、今日中に終わるとは思うから』

 

『・・・・・・ん?』

 

 

言われた言葉が理解できずにウィルに付いて行くと、会場を出て大会議室と書かれた部屋に案内された。

部屋に入った瞬間、すぐそれと分かる熱気を感じる。

埋め尽くす人、人、人。100名近い人間が会議室に犇き、それぞれが思い思いに自分の最愛のヒーローの姿をしている。

 

 

『皆!カメラの準備は万全か!』

 

『てめぇウィル!』

 

 

ちょっ、おまっ!ストレングスまで使って肩を掴むな!あ、おいばかやめあーっ!

 

 

 

結局日付を回るまでバカ騒ぎに付き合わされることになり、翌月には写真集を発表することになりました。

後半は俺も楽しかったけどさ。楽しかったけどさぁ!




一花式教育法:バンシーの泣き声を無防備に聞く、リザレクションで復活の繰り返し。普通に病む。


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第六十五話 アメリカの馬鹿共(褒め言葉)

前回ウィルに連れ込まれた後の話。
書きたい事を書いたら作中時間が一日経ってなくてビビる。
皆様良いお年を。


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第六十五話 アメリカの馬鹿共(褒め言葉)

 

 

「ねっむ・・・」

 

昨日はあのまま撮影会と、そして何をとち狂ったのか『冒険者たちの夜明け』やら『新時代到来』やら色々と英語で書かれたプラカードを持って町を練り歩く羽目になった。

大丈夫なのかウィルに確認したらちゃんと許可は取っているとのこと。

実際、外に出るといつの間に行っていたのかコンベンションセンター前の道路が交通規制されており、空には取材ヘリがぱらぱらとその様子を撮影しているのが見える。

ウィルから渡された資料によればコンベンションセンターの周囲をぐるっと大回りして最後はセンターの隣にある公園に入り、そこで実際に参加している冒険者による決起会のような物を開くらしい。

そう。このレイヤーども全員、アメリカの協会に所属している冒険者らしい。

 

 

「ノリいいなお前ら」

 

『魔法の存在を知り、君の存在を知った瞬間にダンジョンに駆け込んだ同志たちさ。愛すべき馬鹿どもだよ!』

 

『お前もだろうが!ちくしょう!俺にも変身を教えてくれ!』

 

『俺が先だ!』

 

『すまないが予約制なんだ。頑張って次の日本研修枠に受かるよう努力してくれ!』

 

『おれも美少女にマスターって言いたおい馬鹿やm』

 

 

怪しいことを言い出した馬鹿に周囲が制裁を加え始めたので俺も加わっておく。

何と言うか。恭二と学校で馬鹿をしていた頃を思い出す馬鹿騒ぎだ。

ウィルやケイティという友人達のお陰で最初に感じていた胡散臭さというのは無くなっていたが、少なくとも所属している人間は好きかもしれん。

まぁ、今現在ここにいる連中が海の物とも山の物とも分からないダンジョンにロマンだけで突っ込む馬鹿どもだからそう感じているだけかもしれないがな。

 

 

『・・・で、私はこの格好で良いの?』

 

『ヒュー♪似合うじゃないかジェニファー嬢!』

 

『ジェイで良いわ。インヴィジブル・ウーマンね・・・大好き♪』

 

『君の場合はインヴィジブル・ガールだね。初期の名前なんだ』

 

 

青いスーツに輝く胸元の4の文字。宇宙忍者ゴームズのヒロイン、インヴィジブル・ウーマンだ。カートゥーンネットワークでよく見たなぁ。

ムッシュムラムラってたまに言いたくなるよね。

 

 

『いやファンタスティック・フォーだからね?』

 

『ゴームズだとスージーだっけ』

 

 

日本への輸出版はたまに意味分からん名前になるからなぁ。

さて、今回の変身は前々から練習していたハルクで行こう。ウィルはマイティ・ソーに変身しているしね。

そう。ソーとハルクが並ぶとなればまぁ、やることは一つだ。

ようウィル!ちょっと面貸せや!

 

という訳で『チキチキ!ヒーローだらけの鬼ごっこ!』が突如勃発。コースになっているルートを俺とウィルでチャンバラしながらその後ろから他の冒険者が行進するという前代未聞のパレードが始まった。

ウィルはバリアは勿論ストレングスもウェイトレスも使えるから殴ってぶっ飛ばすには最高なんだよね。俺も勿論同じ状態だから、兎に角ぽんぽん飛んでぽんぽん戻ってくる殴り合いが始まった。

右腕だけハルク状態で他の部分は通常サイズなんだが、まぁ変身で若干見た目は弄ってるしね。外からはスーパーサイズのハルクとウィルのガチの殴り合いに見えるだろう。

 

そうやって殴り合いをしながら、時たま肩を組んだり、右腕だけでウィルを持ち上げたりとパフォーマンスを行って居ると、何かバリア覚えたって連中がどんじゃん参戦してきてハルクVSマイティソーから大乱闘スマッシュブラザーズになったんだけど。

ジェイ、お前までか・・・バリア使えるんだね。透明化の魔法とか出来たら完全に持ちキャラになるかもな。

あとお前ら!物は壊すなよ?フリじゃないからな?・・・・・・理解したなら良し!かかってこいやぁ!

 

会場の公園についた頃には皆ボロボロになっていて、俺達は肩を組み、教えてもらったアメリカの国歌を歌いながら公園に入場した。

勿論ケイティにしこたま怒られた。

ただ、決起会は素晴らしい盛り上がりを見せたし、今回の行進は米国中で凄く反響が大きかったそうだ。

中にはこの時の経験を元にバリアの他にストレングスを身につけたという冒険者も居り、世界冒険者協会の冒険者の質を高める事にも繋がったから許して欲しい。

駄目?駄目かな?・・・・・・駄目かぁ。

 

正座してケイティに怒られる(ハルク)(変身したまま)とウィル(マイティソー)(変身したまま)の姿がシュールだと回りに笑われ、笑った奴らもケイティの逆鱗に触れて正座させられ、ついでに何故かジェイまで正座させられて、この瞬間世界冒険者協会におけるヒエラルキーが決定することになった。

まぁ、元々ケイティが代表みたいなもんだし変化なしか。

 

 

 

 

結局その後は汚した道の清掃を行わされ、夜になったらなったで今度は決起会に参加した馬鹿共の内輪騒ぎに連れ出され、部屋に戻れたのは結局深夜になってしまった。

 

 

「きのうはおたのしみでしたね」

 

「シバいたろか小娘」

 

 

いつの間にか部屋に帰ってぐっすり眠っていた一花のにやにや顔に若干殺意すら覚える。

寝不足気味の頭にヒールをかけて疲れを飛ばす。右腕が通常モードの時にヒールを使うと掌がぽぅっと白く光るので患部に手を当てる必要があるが、触っている部分が気持ちいいからよく使用している。

あと光る掌をかざすって如何にも『治療の魔法を使ってる』感があって好きなんだ。

今日はこの後に冒険者協会の設立宣言が行われる。それを見た後はコンベンションセンター各所でワークショップや何やらが開かれる予定だ。

なんでも俺達が使っている装備やグッズが多数出展され、モデルには全て俺達が使われているらしい。

普段は真一さんや俺が矢面に立ってるからクローズアップされない恭二を煽れるチャンスだ。気合を入れて行こう!

 

 

「流石にそれは引くわー」

 

「うん。俺もそう思う」

 

 

前言撤回。程ほどに頑張ろう。




ファンタスティック・フォー:スーパーヒーロー4人が主役の作品。日本だと『宇宙忍者ゴームズ』という題名で放送され、ガンロック(本来の名前はザ・シング)の「ムッシュムラムラ」という決め台詞が大流行したらしい。言いたくなる気持ちはわかる。


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第六十六話 レセプションパーティー

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


誤字修正、日向@様、244様ありがとうございます!


第六十六話 レセプションパーティー

 

 

「こんな事は許されざるよ」

 

「ざまぁ」

 

 

無表情でワークショップ前に佇む恭二に俺は満面の笑みで親指を立てる。

ワークショップの中の一つに魔法を使った技術や燃料ペレットについて取り扱う場所があり、ここにこれまでに開発された魔法の公開されている物の一覧表があったのだが。

開発者の項目が俺が一つ、ケイティが一つ、残り全て山岸恭二という名前で埋め尽くされておりご丁寧にファイヤーボールを5つ空中に浮かべている恭二の写真が添えられているのだ。

今現在一つの魔法を同時に5個も多重展開できる化け物は恭二しか居ないため、実質オリジナル魔法扱いで『フィンガー・フレア・ボムズ』と書かれているがこれ作った奴の悪意というか情熱が透けて見える気がする。

因みに俺の名前が入っている項目は『魔法の右腕』となっており、形態変化後の魔法はそれぞれ魔法の右腕の一形態とされている。ケイティの物はリザレクションだな。

 

で、こんだけ名前が堂々と目立つ所にあるのを、注目されるのが大嫌いな恭二が嫌がらないわけがない。

というかあからさまに恭二に擦り寄る奴が増えてきている。さっきまで社長の方にバンバン行ってたんだが社長、まだ翻訳つかえないからなぁ。

ワークショップで大いに名前を売ったヤマギシチームはその後の夕方のレセプションパーティーでも引っ張りだこになった。社長以外。

 

あんまりこういう場が得意じゃない恭二と沙織ちゃんにはジェイとジョシュさん(呼び捨てでも良いと言われたが真一さんより年上だし・・・)がついて周囲を抑えてくれているから、真一さんとシャーロットさんに偉そうな人たちが集中してて大変そうだ。

 

俺?昨日の馬鹿ども関係で周りを埋め尽くされてて騒がしいけどとても楽しんでます。

流石に昨日のメンバーが全員居るわけではないが、ダンジョンに継続的に挑戦できる余裕のある奴はやっぱり生活に余裕がないと厳しいからな。

そこそこ金のある親を動かしてこの冒険者協会に協力させているって連中も結構居るんだ。

 

 

『最初は道楽にちょっと金を出すかって感じだったのに、急に掌返されたのは面白くなかったけどな』

 

『俺もだ!最初は「この金額はくれてやるから好きに使え」って感じだったのに、イチローが話題になれば成る程変に力入れてきてよ。何が「次の日本行きには必ず参加しろ!」だ!行けたら行きてぇよ!そしてマスターイチカにグボッ』

 

 

あほな事を抜かそうとした金髪のガリを周囲が蹴りまくって制裁を加える。

俺?勿論参加してる。というか蹴倒したのは俺だ。バリア張ってるし怪我はないだろう。

しかしまぁ。世知辛い話だな。現場はロマンを求め上は結果を求めるのはどこも一緒だけど、どうやらウィルの仲間達はこの会場に参加しているのだろう親たちにはあんまりいい感情を持っていないようだ。

まぁ、ロマンだけでは皆食っていけないからな。ヤマギシも安定して黒字が出せるようになるまでは結構苦労したし。

ゴーレム様々って所だ。

 

 

『ケイティも可愛そうに。キョージにアプローチしたいのに小父様方が離してくれないみたいだ』

 

『お前の方はいいのか?全米ナンバーワン冒険者のウィル君?』

 

『僕はイチロー達のおこぼれで最初にレベル10になっただけだからね。話題性とリーダーシップのあるケイティに話が行くのは当然の事だよ。あとめんどくさい』

 

 

最後が間違いなく本音なんだろうなぁ・・・

ただ、ウィルとケイティでは冒険者としての質がまるで違うし、魔法センスの差はあるけどウィルがそんなに劣っているとは感じないんだよな。

むしろ事接近戦では下手すると俺でも不覚を取りそうな位ガンガン上達してるから、現時点ではウィルの方が総合的に優れているんじゃないかと思ってる。

まぁ、ケイティが忙しくて纏まった時間ダンジョンに挑戦できてないのもあるとは思うが。

 

 

『ま、辛気臭い話はよしておこう。皆、料理をたっぷり食べて体力を養ってくれ。夜は長いぞ?』

 

『イエェイ!今夜こそ帰さないぞイチロー!』

 

『俺未成年なんでそこら辺配慮頼むぞ?ほんとに』

 

 

昨日あんだけ騒いだのになんでこいつらこんなに元気なんだ?

堅苦しい話からスタコラサッサするのは同意だが、こいつらに付き合ってると何時寝れるか分からんしとっとと隙を見て抜け出すとするか。

昨日のジェイを見て思いついたんだが、変身って上手い事調整すれば恐らく透明になれるからな。

探知が使えるウィルにだけこそっと伝えておけば抜け出すのは簡単だろう。

 

 

 

 

 

「お前らひでぇよ。俺だけあんなおっさん達に囲まれてヒーコラ言ってたのに」

 

「お勤めご苦労様でした!」

 

「助かりました!」

 

「あーもー。今日はもう寝る・・・・・・」

 

 

パーティーが終わる直前まで捕まっていた真一さんがへとへとの顔で部屋に引き上げてきた。

サクッと抜け出して部屋でアメリカのTVを見ていた俺と恭二が腰を90度まげて頭を下げると、何か言いたそうにしながらも真一さんは上着を脱いでどかっとソファに座った。

まぁ、ヤマギシのフロントマンは真一さんだからな。どうしても真一さんに集中するのは避けられないし。

 

 

「明日はもう予定もないしこのまま帰るのか?」

 

「親父はな。俺達は一度ブラス家に寄っていく。是非来て欲しいそうだ」

 

「ふーん」

 

 

明日の予定を恭二が確認すると、眠そうな声で真一さんがそう返事を返した。

時差ボケでずっと眠気が取れないんだよなぁ。気持ちは分かる。

今日はもうゆっくりとくつろいで疲れを残さないようにしよう。

 

 

『やぁイチロー!迎えに来たよ!やっぱり皆君と一緒に出かけたいんだって!』

 

 

ウィルェ・・・・・・

結局逃げ切れずその日も朝帰りになりイチカに同じ台詞を言われる羽目になる。今度は無言でアイアンクローしたよ。当然だろ。

まさかアメリカの地で天丼を食らう羽目になるとはこの海の(ry



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第六十七話 日本の役割

今回は短め。
まさかのケイティとの会話だけで終わりました。。。

誤字修正、244様ありがとうございます!


第六十七話 日本の役割

 

 

数カ月ぶりに訪れたブラス家は相変わらずの大きさだった。わざわざ手配してくれたヘリから降り立つと、昨日は碌に話すことが出来なかったケイティが出迎えてくれる。

他の家族は皆それぞれの役目があるため、今は居ないらしい・まぁ、昨日のパーティーでもブラス家は引っ張りだこだったからな。

 

 

『今回は皆さんご参加頂きありがとうございます!いろいろお話ししたいことがあったのですが、コンベンションでは時間が取れませんでした』

 

 

若干申し訳無さそうに言うケイティからそっと目を逸らす。時間がなくなった理由の一つに間違いなく俺たちの馬鹿騒ぎの後始末も入っているからだ。

 

 

『今日はあちらに居なくてもいいんですか?』

 

 

真一さんが問いかけるとにっこりと笑ってケイティは応えた。

 

 

『基調講演と主要な方々への顔合わせはもう終わりましたから。今あちらにいるのはその他の顔つなぎ目的の方々やウィルのように後片付けを担当している人だけです』

 

 

その後片付け要員は朝の4時まで遊び歩いていたんだけど大丈夫なんだろうか。

 

 

 

 

さて、今回正式に発足した世界冒険者協会は各国の冒険者協会の上位団体として発足された。

すでに冒険者協会が正式に発足し動いているのは日本と米国だけだが、現在準備段階の国は10近くあり、日本の協会の情報を元に各国の協会を指導、運営の補助を行っていくらしい。

これだけを見ると日本におんぶに抱っこのように見えるが、情報提供や人材育成が出来るほどに冒険者協会の形を整えているのが日本しかないため、当面は仕方ないらしい。

ただ、それらの提供を行う代わりに日本冒険者協会は世界冒険者協会から相応の補助を受け、更に下部組織ではなくあくまで独立した団体として世界冒険者協会に加盟しているという扱いになり、かなり特別な待遇を受けることになるそうだ。

 

 

『冒険者協会における日本の役割は、大きく、重要です。タービン発電もそうですが、全世界に先んじて、ファッション、武器、車まですでに用意している。そしてそれら全てに納得できる十分な理由が存在する。まだ浸食の口(ゲート)出現から一年も経っていないというのに。これは驚嘆に値する事です』

 

『米軍にもその辺りのノウハウは渡ってるはずですがね』

 

『軍組織の秘密主義は時として困ったものです。お陰で日本に全て先んじられてしまいました』

 

 

自身の熱弁に対して冷静に返す真一さんに、ケイティは苦笑で応えた。

 

 

『そういえば、米軍からの武器供与を終了するとか?』

 

『ええ。まぁ、ウチもおかげさまで資金繰りに目処が付きましたんで』

 

『それが良いですね。軍組織は政治的な思惑に左右されますから』

 

 

そこら辺の考え方が日本とは全然違うな。日本の自衛隊は本当に不自由な組織でまともに動くのにも苦労するが、米軍はそうじゃない。

高級幹部に至っては政治家とそう変わらないし、議員には軍派閥なんてものもあるくらいだ。

昨日のパーティーにも議員の方々が多く来ていたし、将来は冒険者閥なんてのも出来るかもな。

 

 

 

『先ほど、冒険者協会にとって日本は特別だと言いましたが、それは民間技術だけではありません』

 

 

秘書の人が入れてくれたティーに口をつけた後、ケイティは静かに言った。

 

 

『あなた方チームヤマギシの存在が、正に冒険者協会にとってもっとも特別な存在なのです』

 

 

CCNで放送されながらのダンジョン攻略、魔法の発見・開発、米軍の救助、魔法アイテムの発明、そして世界一有名な冒険者の存在。

世界中の人間が『ダンジョンに潜る者たち』として俺達を思い浮かべる。つまり、今現在冒険者というイメージは=ヤマギシチームになるという事だ。

成る程。上の軌跡だけを見るとハリウッド辺りで映画化されてもおかしくないものだな。もしくは『プロジェクトX』かな。

そう言えばハリウッド化を希望されて断ったとか社長言ってたなぁ。

 

 

『ウチにも来ましたよ。余命2年の富豪の娘が奇跡の完治。定番の泣ける話ですね。3年以内には映画になるかと』

 

『・・・OK出したんですね』

 

『冒険者の宣伝としては格好の話ですからね。社会に受け入れられるチャンスがあるなら、悪い事ではありません』

 

 

そう言ってケイティは凄みのある笑顔で笑った。

笑顔は元々攻撃的な意味合いってあれ、本当なんだな。正直殴り合ってるときのオークの笑顔が可愛く見えるわ。

これで恭二と話してる時はびっくりする位可愛い笑顔を浮かべるんだから・・・

 

 

『あと、出来ればヤマギシの映画もOKを出して欲しいんですが』

 

『それは絶対にノウ』

 

 

真一さんが反応する前に恭二が答えた。まぁ、そうなるとこいつが主役だしな。

昨日のパーティーでさらし者にあった経験が堪えたのか今日の反応はかなり過敏だ。

その引きこもり気質は何とかした方がいいと思うんだがなぁ。

まぁ、意中の人間の不興を買ってまで推すつもりはなかったのかケイティもその後は映画の話はしなくなった。

ただ、俺に『マーブルが動いています』とか言ってくるのは止めて欲しいな。

恭二もそれで元気を取り戻すんじゃない。

 

 



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第六十八話 魔法の右腕

誤字修正、244様ありがとうございます!

3が日更新できないかと思ったら何とかなった。
あと副題を付けてみました。どこどこの話ってのが分かりにくかったので。
ちょっと細かい話が続いて申し訳ない!




UA1万達成ありがとうございます!
リポップの方でステマしてごめんなさい()


『それではそろそろ本題に移りましょうか』

 

 

中身の無くなったティーカップを置いて、ケイティはそう切り出した。

 

 

『以前提案していた、奥多摩ダンジョンでの育成についてご相談させてください』

 

『ああ、米国の冒険者を次回の育成計画に加える件ですね』

 

『はい。奥多摩周辺で確保できる宿泊施設を上限に、各地から、魔法の修行を志す人員を集めて、数週間から数ヶ月、ブートキャンプを開いて欲しいのです』

 

 

なるほど。割と予想通りの内容だ。100人位は来るだろうなーとは予想していたからな。

 

 

『なるほど。所で何故ウチで行うのかお伺いしても?ウルフクリークのダンジョンは周囲も広く施設を新設すれば非常に便利だと思いますが』

 

『勿論ウルフクリークのダンジョン周囲も開発する予定ですが、それは今使えるわけではありません。その点奥多摩は環境が素晴らしい。施設もそうですが、何より管理者であり教官になるヤマギシチームは世界最先端の冒険者ですから』

 

 

それに大人数の教育の経験もある、と。なるほど、確かに現時点ではトップの環境だな。

他の冒険者が育ってくればまた違うかもしれんが。

 

 

『今はダンジョン上の宿舎は建設業者に貸し出してあるので・・・開くとしたら6月下旬以降でしょうね』

 

『なるほど。なら夏休みもありますし、7月1日以降で調整いたします』

 

『夏休み?学生も居るんですか?』

 

『そういえば今回のパーティーでも、冒険者側の参加者は学生が多かったなぁ』

 

『彼等は日本へ派遣する候補の冒険者達です。皆、優秀な冒険者の卵達ですよ。おバカさんが多いですが』

 

 

残念な事に女の子は少なかったがな。あとその。おバカさんの辺りでこちらを見るのは止めてほしいです。

 

 

『ダンジョンの存在を知って、退職してまで潜ろうという人間は少ないでしょう。ウィルのような学生を主体に失職している者、ニート、そして私のように生活に余裕のある夢追い人が主体です』

 

『ケイティちゃんって夢追い人って仕事なんだ?』

 

『ロマンチストとも言いますね』

 

 

沙織ちゃんの質問にケイティが笑いながら答える。多分冗談だと思ってるんだろうが沙織ちゃんは、本気で質問してると思うぞ?

まぁうちとしては人格に問題のある人で無ければ問題はない。そこら辺はケイティやウィルの目を信頼しよう。

 

 

『こちらとしては人選についてまでとやかく言う気はない。ただし、日本の常識で判断して、ダメだと思ったら容赦なく追放する。以後出入り禁止だ。いいな?』

 

『はい。わかりました』

 

 

ぎらりと眼を光らせながら言った真一さんの言葉に、ケイティが強く頷いた。

小さな体が大きく見える。相変わらず気合の入ったケイティは凄い覇気だな。

 

 

 

 

夜になるとブラス家の面々が続々と帰ってきた。

ジョシュさんは大学のほうに用事があるらしく帰ってきてなかったが。

 

 

『今年は目出度い事が多い。孫娘の快癒に日本に新たな友人が出来た』

 

 

上機嫌なダニエル老はそう言って食前酒の入ったグラスを傾ける。

以前も夕食の招待を受けたが、相変わらず豪華過ぎて落ち着かない。

 

 

『所でミスター・シンイチ。ヤマギシとブラスコで新しい会社を作りたい』

 

『私にその権限はないので父との相談になりますね。内容をお伺いしても?』

 

 

美味しそうにグラスを傾けていたダニエル老が突然ぶっ込んで来たが真一さんは小首を傾げるだけで冷静に先を促した。

その様子にダニエル老やジュニア氏が楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 

『なるほど。ミスター・キョージやミスター・イチローがリーダーと認めるだけはある。父がいきなりすまないね』

 

『いえ・・・それで、急なお話ですが我々に何を求めていて、ブラスコは何を我々に齎してくれるのか教えていただきたい』

 

 

ジュニア氏の言葉に真一さんは少しだけ笑顔を見せて質問を返した。

 

 

『メリット・デメリットの話の前に我々の内心を打ち明けよう。単刀直入に言えば我々は今後もエネルギー産業の雄で有り続けたいという思いと共に、ヤマギシという企業と組んでこの後の歴史を変える舞台に立ちたいと思っている。ああ、もちろんこれはミスター・キョージへの恩とは別に、企業としてのブラスコの判断だ。我々は、これからヤマギシが世界を変えるような存在になると確信している。エジソンのように、フォードのように、ゲイツのようにだ』

 

『成る程。我々の技術力と発展性をそこまで買って頂けているという事ですね』

 

『それと同時に脆弱性も知っているつもりだ。企業としての体力、人材の育成状況、そしてリスクヘッジの能力の欠如』

 

『ふむ。リスクヘッジですか?』

 

『これは極端な例だが、たとえば国籍不明のテロリストが奥多摩の工場を襲ったとして、君達はどういった対処が出来るかね?ヤマギシの現在の価値を考えればありえない話ではない。特に産油国は諸手を挙げて喜ぶだろうな』

 

『テロ・・・・・・』

 

 

ダニエル老のたとえ話に真一さんが言葉を失った。

一花とシャーロットさんは一瞬だけ瞬きをして互いに視線を見合わせる。計算でもしてるんだろうか。

まあ、考えなくても分かる。施設がぼろぼろにされて民間人の協力者が全滅。ヤマギシチームにも被害が出るだろう。

 

考慮の外にあった出来事を指摘されて真一さんも少し動揺しているようだ。

少し時間を稼ぐ必要があるかな?

余り口外したくない事なんだが・・・

 

 

『直接狙われるならどうとでも出来ますが施設を狙われると何も出来ないでしょうね。仰るとおりです』

 

『ふむ。我々の想定では恐らく人員も含めて全滅すると睨んでいるのだが、ミスター・イチローには別の予測があるのかな?』

 

 

ジュニア氏が訝しむ様にこちらを見るので、以前共闘した米軍部隊や訓練生を念頭において脳内で考えてみる。

 

 

『・・・まぁ、何とかなると思います。1km範囲なら殺意を持った相手は寝ていてもわかりますので』

 

『・・・・・・・・・それは、変身の魔法を使った後の話かい?』

 

『いえ?』

 

 

最近、右腕をスパイダーマンにしてなくても悪意や殺意を感知できるようになってきたんだよな。

スパイダーマンに変形できるようになってから何と言うか、直感のようなものが鋭くなった気はしていたのだが、使えば使うほどにそれが成長しているのだ。

流石にウェブの発射やらはできないが、使いこなしていくうちに・・・そう、何と言うか体が【馴染んで】きている感覚がある。

 

一花は熟練度と言っていた。恐らく右腕の変身はただ扱えるだけではなく使いこなせばこなすほどに化ける、と。

まぁ、その辺りの成長性については発表していない。下手に伝えればますます人外扱いされちまうしな。

 

・・・・・・ARMSやミギーを覚えたのを少しだけ後悔したのは内緒だ。あれらの熟練度を上げるとヤバイ気がする。

 

 

『・・・・・・ますます君に興味がわいてきたよ。ジェイ、お前の男を見る目は正しかったぞ!』

 

『ちょっ、パパ!』

 

 

なんでそこでジェイに話が飛ぶのか。まぁ、真一さんが持ち直したみたいだし向こうに握られっぱなしだった主導権は取り返せただろう。

余計なでしゃばりはここまでにして、後は頼もしいリーダーに任せるとするか。

 




魔法の右腕:恐らくまだ未完の魔法。完成形があるかもわからない。鈴木一郎の右腕を模しており魔力によって形を保っている。現在分かっている特性は【変形】と【変質】。変形は文字通り右腕の形と機能を変えること。変質は右腕に魔力を集めることにより魔法の発動を変質させる能力。また、使用者の体をその右腕の機能に合わせて上書きしていく。


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第六十九話 日本帰国。そして

この物語はフィクションです。実在の人物っぽい人も居たりしますが基本微妙に違う他人だと思って心を広く持ちお読みください。




許してください、なんで(ry


『素晴らしい。二ヶ月前の我々の判断はやはり間違いなかった』

 

 

わいわいと騒ぐジェイとジュニア氏のやり取りを微笑ましいという目で見ながらダニエル老はそう言った。

 

 

『だからこそ惜しい。これだけの人材に恵まれた企業はそう居ないだろう。だが、企業としての未熟さがヤマギシの成長を妨げている。是非我々の提案を考えてほしい』

 

『なるほど。いえ、私も勉強させて頂きました。一度父とじっくり話し合ってみます』

 

『よろしく頼む。さて、料理を楽しもうじゃないか』

 

 

ダニエル老の言葉に合わせるように料理が到着しこの話は終了となった。

流石はブラス家。料理も絶品のものばかりだ。

 

 

「お前、よくあの話の後にそんなに美味しそうに食べられるな・・・・・・」

 

「料理に罪はないだろう?美味しく食べてやらないと可哀想だ」

 

 

お、この肉すっげぇやわらかい。出来ればご飯が欲しいんだがなぁ。

 

 

「・・・なぁ、さっきの感覚の件なんだが。何時頃から自覚してたんだ?」

 

「ミギーの時だな。明らかに自前の器用さが上がったし。それまでは微妙に何かが不味いとか、嫌な予感がするって思ってた」

 

「・・・・・そうか」

 

「後は・・・うん。恐らくなんだが傷の治りが早くなってる気がする」

 

 

俺の言葉を聴いて恭二は押し黙った。

恐らく、変形した回数も関係あるんだろう。最近髪の毛が茶色になっているように感じるし、明らかにスパイディの中の人に身体的特徴が寄って来てる気がする。

どうせなら頭脳まで似てくれれば良いんだがな。ライダーマンに変身しまくるのに。

 

あと、俺はお前も似たような状態じゃないかと思ってるんだがなぁ。本人は気づいてないけど、魔法やモンスターを見るときに恭二の眼が淡く光ることがある。

あれは何か起こってるくさいんだが・・・一度、一花に相談してみるか。

 

 

ブラス家からの歓待を受けて二日後。俺達も日本へ帰る事になった。

帰りしなにブラスコ社から渡されたジュラルミンのアタッシュケースには、彼らが提案してきたビジネスについて、恐ろしく緻密な提案書と分析データが詰まっていた。

こんな物を渡してくるくらい彼らはヤマギシを重要視してるって事か。

 

 

「テキサスって土地安いなぁ・・・」

 

 

工場設立案を眺めながら恭二がぼやいた。奥多摩も安いっちゃ安いが確保できる敷地面積が文字通り桁違いだからな。

 

 

「これって、うちにとってもブラスコにとってもメリットのある話なんですよね? 真一さんはなんで渋い顔してるんですか?」

 

「ウチだけなら問題ない。ないんだが・・・」

 

「今まで販売代理店だったIHCが、これだと締め出されちゃうんだよねー」

 

 

言葉を濁した真一さんを引き継ぐように一花が答える。

 

 

「厳密にいうと、IHCが狙っているだろう世界戦略が縮小を余儀なくされる、だな。IHCは魔法ペレットで一気にシェアを拡大するつもりだ。だが、そこにもっと大きな存在のブラスコが出てくれば話は変わってくる」

 

「間違いなくIHCにとっては面白くない話になります。彼らもこれからヤマギシとの付き合いを拡大して利益を得ていく算段だったでしょうから」

 

「なるほどー」

 

 

社長とシャーロットさんの言葉に沙織ちゃんが頷いているが、恐らく半分も理解できてないんだろうなぁ・・・・・・

結局この件は社長預かりとなり、社長はIHCと数日間協議した上でやはりテロの危険にIHCは対応できないとして、折れる事になった。

ただし、国内シェアに関してはIHCが今までどおり握る事で合意し、この件はブラスコとウチがまた話し合う事になるだろう。

まぁ、住み分けが出来ていればブラスコ側も文句は無いだろうしね。

 

という訳でうちの父さんはまたテキサスにとんぼ返りする事になった。

真一さんが開発した燃料制御棒のシステムやペレット製造とリチャージあたりの特許も国際特許として無事登録されたし、工場についての話が煮詰まるまでテキサス通いが続くだろうなぁ。

母さんも国際弁護士免許に挑戦しようかとか言ってるがそっとしておこう。

さて、このブラスコとの提携の流れで実はヤマギシ、IHC、日本にとって結構大きなメリットが出来た。

それは特許を守らない国、特許権が存在しない国との取引を抑制できることだ。

設立して間もないヤマギシではその辺りの政治的な感覚はほぼ無いに等しい。ブラスコという巨大な後ろ盾ができた事でそれらの相手から距離を取る事ができたのは大きなメリットだった。

 

 

 

 

さて、そんなこんなで国内に帰ってきて数週間が経ったころ。

何故か初代様が奥多摩にやってきた。

 

 

「やぁ、鈴木君。久しぶりだね!」

 

「はははははいお久しぶりです!きょ、今日は何のご用で?」

 

「お兄ちゃん緊張しすぎ!オジ様!お久しぶりです!」

 

 

以前お会いしたのは去年、特別仕様のバイクを授与された時以来だから半年以上前の話だ。

あれ以降、特に映像関係ではたまに仕事を振られる位で何か関わったとかは無かったはずなのだが。

用件を聞いたはずの最初に応対していた社長は、子供に戻ったようにはしゃいで役に立たなかったのでシャーロットさんに頼んで蹴り出して貰っている。

こういう時の担当のはずの真一さんは生憎都心の方に出ずっぱりで今日は一日居ないし、恭二はこの手の事に役に立たない。

とりあえずアメリカ土産で買って来たコーヒーを淹れるととても喜んでくれた。本当にコーヒーが好きなんだな・・・・・・

 

 

「実は・・・・・・横紙破りだとは分かっているが。恥を忍んで頼みたい事がある」

 

「た、頼みですか?」

 

「ああ・・・・・・頼む。俺をダンジョンに連れて行ってくれ!」

 

 

ガバリ、と席を立ち頭を下げる初代様に慌てて俺は頭を上げてくれと頼んだ。

何がどうなっているんだいったい・・・

 

 




初代様:一号ライダーの中の人。ただしスタンさんみたいに微妙に変わってます。


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第七十話 一号ライダーここにあり

このお話はフィクションです。

このお話と前話は場合によっては差し替えるかもしれません。自分でもこれはやってていいのか色々考えてまして。

誤字修正、244様ありがとうございます!


『トゥ!』

 

 

銀色に光るグローブがコウモリを叩き落とし。

 

 

『たぁ!』

 

 

パンチがゴブリンを貫き。

 

 

『ライダー・・・キック!』

 

 

銀のブーツがオーガを打ち砕く。

そして対峙するオークと、一号ライダーの姿を最後にその動画は幕を閉じた。

 

何これ超続きが気になるんだけど。

 

 

「流石の技術だね。ジャン達も感心してたよ!」

 

「魅せ方が凄いな、参考になる」

 

 

これは先日やって来た初代様が初めてダンジョンに潜った時に許可をもらって撮影した映像だ。

因みに最初に魔石を吸収して貰った以外にこちらから何か助力などはしていない。

バリアもライトボールもすぐ覚えてたし本当に70近い人なんだろうか。実は改造されてるって言われても信じそうだ。

 

あの後初代様に何とか頭を上げてもらい話を聞いた所、来年ライダーの記念映画の主演をする事になったそうだ。

映画とダンジョンに何か関係が?と首を傾げていると、厳密にはダンジョン自体にではなく魔力を得る事が目的なんだそうだ。

 

 

「来年の映画は長年戦い続けた一号が体の限界を迎えながらも、少女を助ける為に限界を超えるという話になっている」

 

「凄く見たいです」

 

「ありがとう。だが、その期待に応える事が今の老いた体で出来るのかが不安でならなかった。もう一度、あの頃の力を取り戻せれば。悶々としていた所に、君がアメリカで起こしたニュースを見た」

 

 

ハルクVSソーの事か。あれ日本でもニュースになってるんだな・・・

日本だと、ダンジョン関係のニュースは余り良く思われてないのか扱いが軽いし余り騒がれてないと思ってたんだが。

 

 

「私が長年求めていたのはアレだよ!鈴木君!いや、ライダーマン二号!」

 

「それは恐れ多すぎるのでホント勘弁して下さい」

 

 

あくまで一ファンの分限を超えたくないんです。

 

 

 

というやり取りがあり、再び初代様に頭を下げられて・・・これを断われる日本男児が居るか?居ないだろ?

 

という訳で社長に一応お伺いを立て(二つ返事で了解を貰えた)

チームの指揮官である真一さんにも許可を取り(むしろ羨ましがられた。代わってほしいそうだ)

空いてた恭二と一花をお供に(一花はノリノリでカメラチームまで引き連れてきた)

初代様と共にダンジョンへ挑戦する事になった。

 

で、結果が先程の動画である。

 

 

 

ウチのアカウントで上げるのは流石に筋違いにも程があるのであくまで協力と銘打って向こうのアカウントで配信をした所凄まじい反響があったらしい。

 

だろうな。実際に現場に居た俺でももう一度見たいって、思ったし。

変な所から文句を付けられる前に東京の方の映画会社とも話をつけて次作の演技指導という名目も貰ったので正式な仕事扱いにもなって万々歳。

 

ただ、唯一誤算だったのが二代目様と三代目様を連れて初代様が魔法の練習に通い始めた事だろうか。

変身とストレングスと重量変化を覚えたいらしい。

 

何がしたいのかが容易に想像できるし正直見たい。見たいんだがこのまま昭和ライダーの皆様がヤマギシに通い詰めになられると冒険者協会の仕事が・・・

 

 

「大丈夫。我々も冒険者として登録してあるから指導を受けても問題はない。君達に余裕がある時に指導してくれ!」

 

「・・・・・・一花!いちかー!」

 

 

取り敢えず各種身体能力アップ系とバリア、そして可能なら変身を覚えるまでの契約で指導を継続する事になった。

後、7月にある大規模な育成の際に【武術の教官の一人】として初代様に顔出しして貰える事になったので足りない人員の確保にも繋がる・・・のだが・・・

 

 

「良いのか?本当に良いのか?」

 

「初代様も最初に言ってたじゃん、横紙破りだって。ちゃんとした仕事として対価を払った方があちらも気が楽だし、魔法に比べて地味に見られる武術の教官にすっごいネームバリューの人が居ればこっちも助かるでしょ?」

 

「それは、まぁ、確かに」

 

 

身体能力が上がっても体の動かし方を分かってなければ意味がないからな。

咄嗟の時に最後に体を守るのは身に着けたプロテクターと自身だけなんだから、冒険者になる以上武術の心得は必須項目と言っていいものだし。

 

という訳で正式に初代様が講師的な扱いで7月の冒険者教育に加わることになった。まぁお忙しい方なんでほぼ臨時講師になるんだが。

講師陣については冒険者協会のHPに記載されるので初代様も本名で名前を登録し、安藤さん達と同じ列に名前を連ねる事になったのだが。

 

次の日、冒険者協会のコールセンターに凄まじい数の問い合わせと冒険者教育への参加申込があったらしい。

といってももう既に人員は決まっているので追加枠はないと全て断ったらしいが。

 

初代様、嬉しかったからってつぶやいたーでつい呟いたらしいです。隠してる事でもないしね。

まぁ、結果は推して知るべし、って感じだったけど。

冒険者協会としては箔付けにもなるし嬉しい悲鳴って感じなんだけど、前に来てたカメコの方々がまたぞろ奥多摩に姿を表すようになったのは少し困る。

あ、あの自営業のオッサンまた来たのか。奥さん大変だなぁ。

 

 




カメコの方々:14話以来の登場


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第七十一話 ヤマギシ再編

奥多摩がランキング入りしてて泡食った。
スレイヤーズリポップともどもよろしくお願いしますm(_ _)m

誤字修正。みずーり様、、244様、椦紋様ありがとうございます!


7月に向けて俺達はやる事が多かった。

まず、警察から派出所に使用する土地建物の無心がある。

 

これは各地のダンジョンでもだが、奥多摩には常に機動隊か警官隊が勝手にダンジョンへ入り込んだりしないように、また今の所起きてないがダンジョンからモンスターが出てこないように見張ってくれているのだが、現状この任務がどの位続くか分からないため、機動隊のランクルや装甲車ではもう賄いきれないとの事だ。

 

それに、季節はこれから真夏になる。熱中症も起こりえる以上警察の上層部でも現場の環境を整備する必要性を感じているのだろう。

ヤマギシとしてもありがたい申し出だし二つ返事でOKを出したらしい。

旧コンビニ店舗跡の駐車場をつぶし、警察署といって良い規模のビルを建てることになったそうだ。

 

 

「1チーム10人で三交代。1チームが完全オフで署を離れ、1チームは屋内待機、のこり1チームが職務にあたるといったローテーションか」

 

「無断でダンジョンに入ろうとする人も絶えないしもっと数が増えてもいいと思うんだがなぁ」

 

 

この30人にはある程度のダンジョン内部での行動力も必要になる為、現在恭二と沙織ちゃん、それに一花がダンジョン内の習熟を担当している。

 

現在の奥多摩には、以前の自衛隊員達と同じく精鋭といえる機動隊員が配属されているそうで、二度目という事もありかなり順調に育っているらしい。

今回の教育から高校生になった一花も教官として参加するため、7月に向けた予行演習とでも思っておけばいいだろう。

 

名前が挙がった人物以外が何をしているかと言うと、俺も含めてあちこちを飛び回っている状況だ。

真一さんとシャーロットさんはIHCとブラスコの折衝で飛び回っているし、社長は月の半分位はテキサスに行っている。

 

それに合わせて親父も短期出張を繰り返しており、夫婦の時間が少なくなった母さんが荒れている。

下原の小父さん小母さんが奥多摩を見ていてくれているが、急激な事業規模の拡大に我が社は翻弄されている次第だ。

 

という訳で縁故を頼って40人ほどだった正社員を更に増やし、100人を超える規模になった。

 

合弁予定だった瑞穂町の金属加工会社、三成精密さんは、このたびめでたくウチに吸収合併されることになり、オヤジさんである三枝(さえぐさ)さんは、取締役工場長に就任することが決まっているし、今まで各担当者=となって居た社内の部署もきっちりと整備され、法務部、営業部、経理部、広報部、そして新たに知財管理部、研究部、資材部が発足。

 

人材不足で青息吐息だったヤマギシもようやく一息つく事が出来た。

まぁ、中途採用の人材たちの面接と雇用に、日本に帰ってきた社長と真一さんが青息吐息だったがな。

 

機動隊員をダンジョンへ案内するという案件を見た時、ぽつりと真一さんが「俺も行きてぇ・・・」とか呟いていたが・・・社長のネタをパクっちゃだめでしょう。

 

 

 

さて、そんなわけで7月がやってきた。

俺たちは、世界冒険者協会主催、日本冒険者協会開催の「冒険者育成キャンプ」の結団式にやってきた。会場は、冒険者協会銀座支部である。

 

定員40名。

それに各国の幹部達も帯同している。いわゆるG8と呼ばれる先進国からの参加で人員はほぼ占められている。

 

参加費用は一人ひと月100万円で、これには交通費などは含まれないが、各国の冒険者協会が補助金などを出しているようで金銭的なトラブルは耳に入ってこない。

まぁ、もしトラブルがあってもこちらに何かくる事はないだろう。事前に真一さんがあれだけ念押しして出禁を匂わしていたし。

 

我が日本からも5人が参加している。日本国内の各所にあるダンジョンの肝いりらしいが、この機会に仲良くなっておきたいところだ。

 

さて、他に各国はというと流石は代表格というか。

定員枠の冒険者は誰も彼もが国の威信を背負っているといわんばかりな、出来そうな人たちで占められており、皆胸元にはレベル5以上のプレートが付けられている。

が、アメリカはやっぱり格が違った。

 

レベル20のウィルとレベル15のケイティの存在は明らかに場違いだったし、正直こっち(教官側)の人間だと思うんだがどうだろうか。

あとジェイとジョシュさん。忙しいはずの君らが何でここに居るんですかねぇ?

 

 

『いやぁ。自前で潜るだけなら兎も角、教育するとなるとまた勝手が違うからね。勉強させてもらうよ』

 

『この機会に日本の教官免許を取得して、米国でもしっかり教育が実施できるよう学んで行きたいと思います』

 

『ほら、ジェイ。久しぶりに会ったんだから』

 

『ちょっ、兄さん押さないでよ!』

 

 

相変わらずのウィル達に質問の答えになってないジェイとジョシュさん。

数ヶ月ぶりだけど変わっていないようで安心したよ。

 

 

『まぁ、僕らもそこそこ使える自信はあるけどダンジョンは今後のブラスコにとっても重要な資源の獲得先になる。そのダンジョン関連で随一と言っても良い勉強の場だからね。無理してでも来たかったんだ』

 

『私は、その。高校の休みも重なったし、前に日本に行くって約束してたし・・・』

 

『うん、覚えてる。日本にようこそ!歓迎するよ』

 

 

アメリカからの参加は五人。幹部として来たウィルとケイティを除き、そのうち2人をブラス家兄妹が取る。残りはモンタナはジャクソン家の枠で、前に冒険者協会の会場で出会った愛すべき馬鹿が2名。カリフォルニア本部から1人だ。

残り30人枠も各国5人で埋めてきており、ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、カナダ、そしてロシアだ。

とりあえずでかい人が多い。威圧感が凄すぎて話しづらいぜ・・・・・・

 

 

 




三枝さん:瑞穂町の金属加工会社を長年営んでいた。元々は合弁会社を設立する予定だったがテロの話を聞き、確かに不味いと判断。しかしビジネス的にヤマギシとの関係を切るなんて考えられないためいっそ、とばかりに吸収してもらう事を選択した剛毅な人。


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第七十ニ話 ファーストコンタクト

日間ランキングに初めて乗ったので記念に2話目を更新。
明日の分は今急いで書いてます()

誤字修正、244様ありがとうございます!


式典とかではお決まりのスピーチを世界冒険者協会の偉い人や日本の偉い人が行って式典は終了。

そのまま全員分の荷物を既に詰め込んだバス二台に乗って奥多摩へ出発だ。

 

さて、今回のブートキャンプに参加するメンツは、基本、ダンジョン上のワンルーム使用だ。

基本というのは、ブラス兄妹はブラスコ社がダンジョン棟の南に完成した複合施設棟の最上階の一室を押さえているのを知っているため、そこにメイドやらを引き入れて生活スペースを作っているからだ。

 

因みに複合施設棟の1階は俺たちヤマギシチームの装備品を展示するショールームになっていて、装備品に携わるすべての企業のPRを行っている。

そして、今回の参加者にはこの展示している装備品の自費注文が許可されている。

 

受付のお姉さん方の多々買え・・・もっと多々買えというオーラに触発されたのか1000万するSUVが10台も注文されたらしい。

確かに街乗りオーケーだしカッコいい車だけどさ・・・流石に派手すぎるだろ、と思わないでもない。

 

 

 

 

『そこら辺ははあれさ。ほら、中二病』

 

『見も蓋もないな』

 

『ここに来てる人はね、大なり小なり似たようなものだと思うよ』

 

 

ウィルの言葉に愛すべき馬鹿一号と二号が笑い出す。

ドイツ代表の人とかめっちゃ真面目そうなんだが。そうか、中2を患ってるのか。

なんか親近感が湧いてきたぞ。

 

現在俺とウィル達米国バカ三連星は複合施設1階の中に設置された休憩スペースでダベっている。

一応役割としては案内役を担当してるんだが、ここのブースのお姉さん方は各国の言葉が堪能な人が多いし、何か皆さん俺に話しかけて来ないので暇をしているのだ。

 

夕方にある歓迎会まで時間もあるし、ウィル達は前のレセプションの時にもう装備品は見てるしな。

 

 

『装備の発注は良いのか?』

 

『僕らはね。前に日本に来た時武器はフジシマさんに依頼してあるし、その他の装備も米国で開発中だから』

 

『でも受け取りはまだ先だけどな!早く魔法剣が使いたいぜ!』

 

『あの、すみませんミスター』

 

 

下らない事をゲラゲラ笑いながら話していると、遠慮がちな声で話しかけられる。

 

 

『はい、何でしょう?何か質問でも?』

 

『あ、いえ、その』

 

『ご歓談中に申し訳ない。宜しければ我々も挨拶をさせて頂きたいのですが』

 

 

やっと仕事が出来たかとやる気を漲らせて返事を返すも、声をかけてきた女の子は躊躇するように言葉を濁らせる。

変わって声をかけてきたのは背の高い金髪のお兄さんだ。

ふーん、イギリスの代表か。

特に断る理由はないが先約のウィルを見る。

ウィルもオーケーか。なら構わんだろう。

 

 

『初めまして、イチロー・スズキです。どうぞお見知りおきを』

 

『イチロー、いつも言ってるけど君を知らない冒険者は居ないよ?ウィリアム・トーマス・ジャクソンだ。よろしく』

 

 

名乗った後に握手を求めれば良いんだよな?

取り敢えず名乗った後に代表格っぽい兄ちゃんに手を差し出すと、何故かいきなりハンカチを取り出して自分の手をゴシゴシ擦った後、割れ物に触れるかのように俺の手を握り返した。

 

え、何その反応。

 

一緒に居た女の子は手を握った瞬間に崩れ落ちそうになったし。半放置みたいな状態で苦笑いを浮かべていたウィルが慌てて助け起こして事なきを得たが。

 

 

『す、すみません。妹は貴方の大ファンで』

 

『あー、いや、オーケー』

 

 

オリバー・J・マクドウェルと名乗った青年はウィルから妹を受け取ると、一言断ってから休憩室の椅子に座って妹さんを介抱し始めた。

 

 

『あー、その、大丈夫?回復魔法でもかけようか?』

 

『あ、いえ、お気遣いなく。アイリーン、大丈夫か?』

 

『う、うぅん』

 

 

暫く休ませて上げた方が良さそうだな。

まぁその為の休憩スペースだしゆっくり休んで貰うか。

 

 

『それは良いけど君はちょっと席を外した方がいいかもね?』

 

『うん?』

 

 

ニヤニヤと笑いながら出入り口を指差すウィルの姿に嫌な予感を覚える。

指している方向を見ると、さっきまでお姉さん方と熱心に装備について話し合っていた各国代表が、何時の間にやらこちらの様子を伺っていた。

あ、これあかん流れやな。

 

 

 

結局各国代表と挨拶を交わし、話をしていたらあっと言う間に夕方の歓迎会の時間になった。

途中で復活してきたマクドウェル妹(アイリーンって名前らしい)も会話に入ってきたんだが近づいただけで倒れこみそうになるのは勘弁して欲しい。

どんだけ男に耐性がないんだ・・・と思っていたらウィルとは普通に話してるし。

 

 

「重度のファンなんてそんなもんだよ!目の前にラインハルト様が居たらわたしもあーなるかも。お兄ちゃんも初代様と初めて会った時はあんな感じだったよ?」

 

「初代様と比べられてもな・・・」

 

「知名度だけなら世界規模なんだからもっと自信持とうよ?ファンの子達にも失礼になっちゃうよ!」

 

 

そう言われても去年までただの高校生だったからなぁ。ヤマギシのコンビニで恭二や同級生と馬鹿話をして、陳列を手伝ってた頃の感覚が全然抜けない。

学校も通信制の高校に移籍してしまったし。もうあの日々に戻る事はないと分かっていても、やっぱり思う所はある。

 

 

「私も芸能人とかがよく通う学校に入ったけど、特に困った事はないけどね!あ、休みやすくなったのが一番の変化かな?」

 

「アイドルとか俳優の卵とかが一杯居て喜んでなかったか?」

 

「いや、割かしドロドロしてて夢壊れたかな」

 

 

真顔でそう言う一花の肩を軽く叩く。いつか良い事あるさ。

 




オリバー・J・マクドウェル:イギリス代表。レベル5保持者。180センチオーバーの体躯に鋭い顔立ちの青年。妹のアイリーンと参加。元々冒険者志望ではなかったがある日たまたま見た一郎の動画が彼の人生を変えた。

アイリーン・E・マクドウェル:オリバーの妹でイギリス代表。レベル5保持者。元新体操の選手160センチちょっとの身長だが非常に引き締まった体躯をしている。ある日兄に勧められて見た動画が彼女の人生を変えた。新体操を止めて武術に手を出し、近場のダンジョンに兄と共に潜り続け見事イギリス代表の座を射止める。


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第七十三話 教習開始

話数が多くなって来たので前半の話を統合します。
気付いたら原作の話数を超えてしまった・・・

統合で迷惑をかけてしまった方は申し訳ありませんでしたm(_ _)m
お詫びになるかわかりませんが12時にもう一本あげます。そちらもどうぞよろしくお願いします。


誤字修正、ハクオロ様、、244様いつもありがとうございます!


「オヒサシブリデス」

 

 

夕方の歓迎会ではサプライズが待っていた。

幹部枠で来ていたケイティがヤマギシカラーのユニフォームを着て会場に現れたのだ。

しかもカタコトではあるが日本語で話してる。

これは何かしたなと恭二に視線をやると恭二も困惑気味だ。

 

 

「ケイティちゃ~ん!」

 

「サオリ!」

 

 

沙織ちゃんが大喜びでケイティに抱きついてる。いつも思うけど、ライバルなのに本当に仲良しだね君たち。

何でも今回、リザレクションが使えるケイティはアメリカ代表の引率兼医学生の候補生を別口で鍛える教官役として参加しているらしい。

ついでに教官免許の取得も狙ってるとは言っていたが相変わらずバイタリティに富んだお嬢さんだ。

 

さて、世界冒険者協会では俺達が所属している日本冒険者協会とは違った形で幾つか資格のようなものを作っている。

軍隊のバッジに似たようなタイプで、攻撃魔法の赤、治癒魔法の白、教員の黄色。ほかに、キャンプ受講済みを現す青とか、俺達が便宜上レベルと呼んでいる攻略済みの階層を現すバッジも勿論ある。

今回ケイティと一緒に付いて来た医療系の人たちは、冒険者免許と同時に医師免許を持っている事を示す黒地に白い蛇のバッジとかね。医学生は医師免許を持っていないので、白地に黒の蛇だ。

 

たとえばヤマギシチームのメンバーなら、胸元に赤、白、黄、青、レベル30と書かれたバッジを付けることになる。

恐らくこのバッジは今後増える事はあれど減る事はないだろうな。

今現在は役割の分担も行わずに一律にある程度の技能を取得してもらっているが、今後更に発展していけばいくほど出来る事も増えていく。

その際に今の大まかなバッジだけだと不便だろうしね。

 

ちなみに、これらのバッジはエンチャント付きで、指で触るとライトボールの魔法で発光する偽造対策がされてる無駄に凝った仕様をしている。

日本国内だとレベル5のバッジは免許取得の意味を持つし、偽造されると不味いからね。

 

 

 

さて、次の日。

早速ダンジョンに突入、とする前にチーム分けを行った。1チーム10人の4チームに分かれて、それぞれのチームを恭二、沙織ちゃん、シャーロットさん、一花が別れて担当する。

 

一花のチームは向こうのチームたっての希望で一花が受け持つことになった。

 

 

「マスターイチカをよろしく」

 

「やかましい」

 

 

ウィルが「マスターのお陰で魔法を覚えられた」とか米国で吹聴しているせいで、マスターイチカの名前は米国冒険者協会では有名らしい。

殆ど全員顔見知りだし、ジェイやジョシュさんは一花の実力を知っているため若すぎると侮られる事もないだろう。

 

因みに俺はウィルと一緒にボス部屋の前で陣取り、ゴールテープ代わりを務めることになっている。

俺達と合流したらその場で自分達が手に入れた魔石を吸収してもらい、教官役はその間に顔写真入りの事前のチェックシートで確認しながら、現在の能力をABC判定する。

 

この判定は教えず出来ればA、教えて出来ればB、出来なければC。

現在どの位の魔法が使えるかの確認だ。

 

今回の参加者は完全な未経験の冒険者は殆ど居らず、各自がすでに何度かダンジョンに潜っている人ばかりだ。

A判定ばかりが出ても可笑しくないなと思ってたら以外と得意不得意が分かれるらしい。

人によっては回復魔法が出来なかったり、攻撃魔法が使えなかったりとかな。

 

 

全ての確認が終わったら午前は終了。

ダンジョンを出て三階に上がって、昼食タイムだ。

 

さて、今回は明らかに国際色が豊かになる事がわかっていたのでバイキング形式にして食材に何を使っているのかを表記して貰ったりしている。

アレルギーや菜食主義の人、お国柄あんまり食べない食材とかもあるかもしれないからね。

 

シェフのお給金は協会から出るし食べ物は活力の源になる。ここはケチる所じゃないと強く要望を出した結果このような形式になったらしいが、代表の皆からは重ね重ね好評なようだ。

 

 

「一番喜んでるのがお前じゃなけりゃ、素直に感心したんだがな」

 

「あ、これ美味し」

 

「聞けよ」

 

 

立場って便利だよね?

午後の部は前半とはまた別のチーム分けで、前半でA判定が多かった順にA、B、C、Dの4チームに分けた。

それぞれのチームを恭二、沙織ちゃん、シャーロットさん、一花の順に受け持ち、基礎的な魔法がB判定になるまで反復練習をしてもらう事になる。

 

因みにチーム分けと教官の順番も関係がある。

魔法を覚えるセンスがありそうな人を感覚型の恭二、沙織ちゃんに振り、判断が付かない人をシャーロットさんが。そして一番センスがないと判断された10人にマスターイチカが付くことになる。

 

 

「全員サクッとBまで育てればマスターイチカの弟子として扱っても良いよね?」

 

「お前がそれで良いなら良いんじゃないか?」

 

 

お前が受け持ちになるって言われたDチームの人たち、皆鎮痛な表情で天を仰いでるけど。

まぁ、ここにいる全員の中で見た目一番幼い奴が教官になるって言われて喜ぶ人はあんまり居ないだろうしな。

 

 

『やった!マスターイチカの教習チームだ!やったぞ!!』

 

『クソがあぁああ!俺と変われええぇ!!』

 

 

訂正。あのバカ共を除く。

 



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第七十四話 マスターイチカ

急な統合で迷惑をかけたため詫び投稿です。

誤字修正、244様ありがとうございます!


さて、今回の教習で特に念入りに教える予定の魔法がいくつかあるが、その中でもダントツで優先的に覚えるよう義務付けられた魔法がある。

それはバリアとアンチマジックだ。

 

 

「この二つを完璧に覚えるまで他の魔法はさせないからね!」

 

「「はい!」」

 

 

マスターイチカの言葉に班員が大きな声で返事を返す。

一花の教え方はまず、実際に使ってみせ、どのような効果があるか、という所から説明する。

 

協力的なアメリカ代表の一人にバリアを張り、体格のあるドイツ代表の男性に彼に殴りかかってもらい結果がどうなるか。

自身にアンチマジックを張り、攻撃魔法が使えるというイタリア代表の女性に魔法を撃って貰ってどうなるかを実際に見せて、この二つは必ず覚えなければいけない。

と、念押しのようにもう一度繰り返す。

 

この一連のやり取りで真剣度が上がったDチームの面々に、一花はまず全員にバリアをかけ、互いに殴り合ってみるよう伝えた。

 

 

「まずは恩恵を受けて、どんな魔法かから認識しないとね!」

 

 

ある程度時間が立った後に、各自にキャンセルの魔法をかけてバリアを完全に解除した後、それぞれにバリアがどういった魔法だったのかヒアリングを行い各自の魔法に対する認識を把握。

この辺りで早い人はすでにバリアを使えるようになる。

 

まだ使えない人には再度バリアを張り、こんどはバリア展開中にどんな感覚なのか意識してもらい、数回殴り合った後にもう一度キャンセルを行う。

 

これらを3、4回繰り返す内に、全員がバリアを覚えてしまった。

そしてバリアを覚えてしまえばアンチマジックは簡単で、今度はそれほど時間を使わずにアンチマジックも全員がB判定となり必須項目の二つをたったの二時間で全員が覚えてしまった。

 

 

「皆ウィルよりも覚えが良かったよ!」

 

『耳が痛いなぁ』

 

 

殆ど半分が最初からバリアを使えたAチームもまだ終わってない時間に本日分の教習を終わらせた一花に、ウィルも苦笑で返すしかない。

そしてその事実に気付かされたDチームの面々の一花に対する眼差しが凄い。

 

 

『流石はマスターイチカ!やっぱり凄い!可愛い!』

 

『ふぉっふぉっふぉっ。それほどでもある』

 

『あ、あの。私もマスターとお呼びしても?』

 

『私は一向に構わんっ!』

 

 

調子に乗っている一花はあれよあれよとDチームのメンバーにマスターと呼ばれ始めた。

まぁ、お前さんらがそれで良いなら良いんだけどな。

戻ってきた他のチームの奴からどう見えてるかは考えた方が良いと思うぞ?

 

 

 

その後も大きな問題はなく、次の日も午前・午後に分けて魔法の訓練を行い、三日も掛からずに全員が基礎的な魔法を習得する事ができた。

 

因みにキュアはこの基礎的な魔法には含まれていないのだが、三日目の午前には全員が予定の魔法を覚えてしまった為、午後に一花がまだキュアが出来ない人物を全員集め、封印された荒行【一花式ブートキャンプ】を使えば数時間で覚えられるかも、と中二心を擽る声音で唆す。

 

態々血判状でどんな苦行にも文句は言わないと念押しさせて、一花は恭二を連れてきた。

 

 

「いや、マジでやるのか?」

 

「うん。恭兄もオーケーって言ったでしょ?」

 

「人に向けてやる事は予想外だったけどな!」

 

 

ヤケ糞気味に応える恭二の姿に嫌な予感が背筋を走る。

俺、実演やらされるんだけど何をされるんだ?

 

 

「生贄の羊がお前か。なら遠慮はいらねーけどよ」

 

「いや遠慮しろよ。一花、一花さん?」

 

「はい、じゃーキュアの練習に必要不可欠な状態異常をまずは学ぼうね!恭兄、お願い!」

 

「あいよ。ポイズン!」

 

 

恭二が呪文を唱えると、毒々しい色をした緑色の水球が恭二の前に現れる。

どよめく周囲を尻目に、一花がジェスチャーで左手を入れろと指示を出してくる。

ヤバい、今すぐ逃げたい。

 

 

「・・・ええいままよ!キュア!」

 

 

右手にキュアを発動させて、勢い良くポイズンの魔法に左手を突っ込む。

まず襲ってきたのは猛烈な気怠さと頭痛だった。

すぐさま左手を抜き取り、キュアを宿した右手で頭と左手に触れる。

 

 

「うぉえええ!」

 

 

必死に吐き気を堪えながらキュアを体に当て続け、何とかまともに呼吸が出来るようになった俺は、恭二を睨みつけた。

 

 

「おい!テメーこれ、マジヤバいぞ!なんだこれ!?」

 

「命に別状はない位の強さにしてある。ナイスファイト!」

 

「やかましいわ!」

 

 

凄くイイ笑顔で親指を立てる恭二に悪態をつく。

こいつ、この魔法覚えたら絶対にチャージバスターでぶつけてやる。

 

 

「今見た通り、擬似的に病気の状態にする魔法だから安心して!じゃあ早速行ってみよー!」

 

 

笑顔で死刑宣告を告げる一花に青い顔を浮かべる20名強の冒険者達。

簡単に血判状なんかにサインをした自らの若さを恨むと良い。

 

若干の八つ当たりを含めてその後の進行に協力(力尽く)して、結果本当に二時間もしない内に全ての人員がキュアを覚える事が出来た。

 

そして、全ての冒険者に【マスターイチカ】の名前を刻みつけ、今回の魔法講義は終了。

 

これからは実技と体術訓練になる為一花と接する機会は少なくなったが、この訓練に参加した冒険者は彼女の前に来たら必ず最敬礼をするようになり、各支部の随伴員達にまで畏怖されるようになった。

 

 

「あれ?間違ったかな?」

 

「(加減を)間違ったんですね、わかります」

 

 

思っていた反応と違ったのか首を傾げる一花の頭を、俺は優しく撫でた。

 




ポイズン:相手を病気にする魔法。強弱が調整でき、軽ければ風邪程度、強ければ腐食させることも可能。


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第七十五話 魔法考察・ストレングス

このお話はフィクションです。

今日、40話までの統合を行いますので、読んでいる話がズレたりしたら申し訳ない。

誤字修正、244様、kubiwatuki様、見習い様ありがとうございます!


さて、基本的な魔法の講義が終わった後は身体的な動きの強化だ。

ぶっちゃけると各国の代表というだけあって何かしらの武術を学んでいる人が多いので1から鍛える、という人は余り居ないのだが、この訓練に参加する前と後では決定的に違う事が二つある。

まず、魔力の増加による身体能力の大幅な向上。ダンジョンで取った魔石は全て自分のものだし、ヤマギシで蓄えていた魔石を使って各人たっぷりと魔力を吸ってもらっている為、劇的に身体能力が上がっている。

次に、ストレングスに代表されるバフ魔法の存在だ。

 

 

『各自、ストレングスを使ってくれ。バリアはちゃんと張っているな?』

 

『『はい!』』

 

『よし。でははじめ!』

 

 

初代様の掛け声に従ってロシア代表の熊みたいな男性とフランス代表の女性が手を合わせて、押し合いを始める。

通常なら、まず勝負にならないやり取りだが、しかしここに魔法が存在すると話が変わってくる。

 

 

『おお!』

 

『すごい・・・』

 

 

対格差がある分ロシアの男性が優勢だが、女性側も負けては居ない。多少押し込まれている物のその場で踏ん張っている。

これは、ストレングスの強化度の違いによるものだ。

男性は前衛としては非常に優秀な人物で、組み手や武器の取り扱いに関して優れた成績を残した。

魔法についても、ストレングスはちゃんと使用している。

では何故、明らかに力の差があるはずの勝負が接戦になっているのか。

 

これは、ストレングスだけの話ではないが、魔法の強度には、個人差や習熟度による優劣が存在するようなのだ。

この事実に最初に気づいたのは、ウィルを教えていた時の一花だった。

今まで周りには聞いただけで魔法を覚えるような存在しか居なかった為発覚しなかったのだが、ウィルに訓練を施しているときに、彼が使う魔法の威力が明らかに低かった事に気づいた一花は、恭二に見てもらいながら幾つかの魔法を使ってその差を比べてみた。

すると、明らかに同じ位の魔力を使っているはずなのにウィルよりも一花の方が優れた結果を残したのだ。

 

この結果を元にちょっとした実験を行ってみた。1人の被験者(この時はウィルだった)に対して別々の人間がストレングスを使ってみたのだ。

結果は、真一さんのストレングスが5.6倍のパワーアップをしたのに対し、一花は4.8倍。実に0.8も数字に差が出る結果になった。

恭二が見る限り互いの魔力消費はほぼ同じ位だったそうなので、魔法の結果にも個人差が出る事がはっきりわかる結果になった。

 

そして、その後一花が習熟度についても言及。

一郎の右腕のように何度も使っていれば魔法も熟れるのではないか?という理論を元に1週間ストレングスを何度も唱え続け、再度実験してみた結果、真一さんが5.6のままだったのに対し一花は5.1まで結果を底上げしてきた。

 

前衛に付く事の多い真一さんは当然ストレングスを何度も使っている。

その分、結果が上がったのではないかと一花は言い、これだけでは資質まではわからないとまだストレングスを使えない下原のおばさんとうちの母さんの力を借りて実験。

結果、下原のおばさんが4.3の強化に対し母さんは3.8となり、一花の予測が正しかったと判明した。

 

この結果はもちろん冒険者協会にも通達され、どんな魔法も同じ結果になると思っていた各方面に激震が走った。

特に火力発電などでフレイムインフェルノを使うため、術者によっては結果が劣る可能性があるというのは大問題だ。

協会側としても優劣が出るのならまず基準。どこからが優れていて、どこからが劣っているのかを確認しなければならない。

 

という訳で今回のブートキャンプでは平均値の算出も一つの目標になっている。

彼らは殆どの魔法を今回のブートキャンプで覚える事になるし、元々使えた魔法もそれほど熟れているわけではない。

彼らの結果を総合して、暫定的な強化度合いや魔法の優劣を記録。平均値を割り出していき、一先ずの基準値を作っていく。

 

 

『ぐぬぅ、むん!』

 

『くっ・・・うううう!』

 

 

ロシア代表のセルゲイさんが止め、とばかりに力を込め、フランス代表のカミーユさんに押し勝った。

セルゲイさんの強化度は3.5倍。対するカミーユさんは4.8倍と1.3もの差があるが、元々の身体能力差がそれだけあったという事だろう。

 

 

『このように、魔法を使えばこれだけ体格差がある相手にも互角の戦いが出来るし、逆にこれだけ体格差のある相手に粘られる事もある。今までの自分の常識に囚われれば逆に身を危険に晒す事になりかねない。己の限界を、今の訓練中にしっかり見極めて欲しい!』

 

『『はい!』』

 

『うむ。では各自、呼ばれた順に出てきて組み手を行ってくれ。この武道場はかなり頑丈に出来ているがストレングスを使っている以上破損の可能性は高い。気をつけてくれ!』

 

『『はい!』』

 

『それと、武術の心得がない人間は私の所に来なさい。基礎的な部分からになるが、体の動かし方を教えよう』

 

『『はい!』』

 

 

返事をした中に居た日本人の顔が上気してる。まぁ、普通に有名人だしな初代様。

この画像はちゃんと保存していて、今後の為の資料として協会で取り扱う予定だが、これネットに流したら次回のブートキャンプ、定員割れだけは絶対に起こらないだろうな。

取りあえず許可を貰って東の映画会社に送っておけば有効活用してくれるだろうか。

 




セルゲイさん:ロシア代表の男性。2mを超える体格に体に見合った筋肉の鎧を付けた正に人の姿をした熊。モスクワ大学に在学するエリートでもあり、レスリングの有力選手でもある。

カミーユさん:フランス代表の女性。実家はフランスで空手道場を営んでいるらしい。元々女性にしてはかなり力もあるのだが流石に熊とは比べられなかった模様。


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第七十六話 比べられるという事

ちょいと短め。
統合作業完了。ご迷惑をお掛けした方、申し訳ありませんでした

誤字修正、244様ありがとうございます!


「うひょひょひょひょ」

 

「笑い方がはしたない」

 

「あいてっ!」

 

 

女子がしてはいけない笑い声をあげていた妹を小突く。

 

 

「ひどいや兄ちゃん。ぷりちーな妹に向かって手を上げるなんて」

 

「何を見ていたんだ?」

 

「ガンスルー!?」

 

 

ええと、これは。各個人の魔法のデータか。結構細かく分けられた数字が出ているな。

お。マクドウェル兄妹か。二人とも最初からレベル5保持者だったし自力で魔法もそこそこ使えてたんだよな。

攻撃魔法がどちらも上手で、逆に回復魔法は妹が、補助魔法はお兄さんが早く上達してたっけ。

 

 

「いやー、やっぱり今回のキャンプは良いデータが集まるね!初めて使った魔法の威力も出来るだけ集めて、3日置きに測ったら面白い事が分かったよ!」

 

「へぇ。やっぱり使えば使うほど威力が上がるのか?」

 

「それは前提。何と、この習熟にも相性があるみたいなんだよね!」

 

 

これみて!と名前が一覧で表示されている表のようなものを見る。

あいうえお順で並んでいるためか一番上はアイリーンさんか。ええと。

【アイリーン・E・マクドウェル ファイアボール 初期:発動速度1.3秒 時速120km 3日目:発動速度0.9秒 時速128km】

 

ほほう。で、次が兄貴のオリバーさんか。

【オリバー・J・マクドウェル ファイアボール 初期:発動速度1.5秒 時速130km 3日目:発動速度1.4秒 時速131km】

こっちは殆ど数字が変わらないな。でも、初期の時速はオリバーさんの方が早いのか。

 

 

「というか、基本的に男の人の方がファイアボールの速度は速いんだよね。何か球を投げるってイメージのせいかも!」

 

「ああ。そういえば恭二がそう言ってたな。俺の場合発射ってイメージだから想像できないんだが」

 

「お兄ちゃんバスターで撃ってるしね・・・・・・実際、一番早いのはお兄ちゃんの数字だもん。イメージがつかめれば他の人も速度が上がるんだろうけど、出来なかったら一番難しい項目かも」

 

 

という事はアイリーンさんは時速を上げるイメージが出来たって事か。

下手に遅いと相手に躱される可能性もあるし攻撃速度が上がるのは良い事だな。

 

 

「と、そうじゃないや。その部分もなんだけど大事なのは発動速度ね。アイリーンさんを見てるなら分かると思うけど、0.4秒も早くなってるのにお兄さんのオリバーさんは殆ど変わらないでしょ?」

 

「あ、そういえば。アイリーンさん早いな。発動が1秒切るのは結構居ないと思うのに」

 

「うん。そこなんだけど、アイリーンさんは他の魔法も慣れてきたらどんどん早くなってるんだよね。他の人も多少早くなるけど、ここまで一気に上がってるのはアイリーンさんとフランスのカミーユさん、後はジェイお姉ちゃんがちょっと落ちるけどって位なんだよね」

 

「ジェイより上って凄いな。確かあの子はずっとAチームに居ていの一番に全部の魔法を覚えてたのに」

 

 

確かアイリーンさんは補助魔法が覚えられなくてマスターイチカのお世話になっていたし、カミーユさんも最初はA、後はC、Bと決して覚えが早い人ではなかったはずだ。

まぁ、この合宿に参加している人間は誰も彼も各国の代表で本当にセンスがないって人は居ないんだけどね。

それを考慮に入れてもブラス兄妹は抜群と言って良い成績を残してる。しかも妹は魔法の成績が兄より良いんだ。

 

 

「ジェイお姉ちゃんは全部の数字が優秀だよ!流石にケイティちゃんよりは全体的に劣るけど、ケイティちゃんより凄いの恭二兄くらいしか居ないからね!」

 

「ああ、うん。あの子はアメリカ側の恭二みたいなもんだからな」

 

「ただ、センスはあってもそれを具現化する能力は恭二兄に劣るかなー?リザレクションは対外的にはケイティちゃんのオリジナルだけどさ」

 

 

あいつはアニメからヒントを得て魔法作っちまう類の論外枠だからなぁ・・・一緒にするのは色々と問題がある気がする。

フィンガー・フレア・ボムズしかりレールガンしかり。「ティンときた」で即興で魔法を使って実戦投入して来るんだから比べられる方も堪ったもんじゃないだろうな。

 

 

「お兄ちゃんの妹って名前も結構堪ったもんじゃないんだけどね?真一さんの気持ちが最近分かってきたよわたしゃ」

 

「ん?」

 

「なーんでもない!出来る事を頑張るって大事だよね」

 

 

弱音のような言葉に思わず一花の顔を見るが、表情は普段とあまり変わっていなかった。

 

 

「あー・・・一花。頼りにしてる。あんまり無理するなよ」

 

「・・・・・・そう思うなら労わって?」

 

 

ジロリ、と睨まれてしまった為、その後の予定を変更。

小一時間ほど一花の愚痴を聞いたり、飲み物を入れてやったりと小間使いをしているとウィルが様子を見に来た為捕獲し、二人で女王様に仕える執事のようにへーこらする羽目になった。

大分ストレスが溜まってたんだろうな・・・頼りない兄ですまぬ、すまぬ・・・・・・

 

 

『なぁ、イチロー。さっきのプレイは良くやるのかい?もしそうなら僕は君の事を倒さなければいけないんだが』

 

『お前ちょっと表出ろ?』

 

 

真剣な表情でそう問いかけてくるウィルに青筋を浮かべて俺は答える。

この後仲良く喧嘩しました。




ファイアーボール:イチローの速度は(バスター時で)秒速300m前後。ファイアボールとしてみればぶっちぎりで早いがレールガンや光の速度のサンダーボルトには大分劣ると思っている。


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第七十七話 ダンジョン訓練前夜

誤字修正、日向@様ありがとうございました!


さて、考察にかまけてばかりいるように見えるが教習もきちんと進んでいる。

最低限、10層突破までに必要な魔法を覚え、体術を磨く時間も作った。

教官陣は次のステップに移る準備が出来たと判断し、各国のリーダーを招集する。

 

 

「明日から実際にダンジョン突破に挑戦する事になる。それに際して、注意事項を説明する。ああ、楽にして聞いてくれ。大した事じゃない」

 

 

真一さんの通達に各国のリーダーが姿勢を正す。が、その様子に苦笑を浮かべて真一さんはそう言った。

 

 

「まず、どういった形で行うかを説明する。メンバーは5名に誘導員1名の6人編成。誘導員は基本的に自衛以外の行動は行わないが、先に進む道筋はこの誘導員が教えてくれる。リーダーはその時の誘導員と良く話し合ってどこまで進むか、どこで引き返すかを判断してくれ」

 

『という事は、基本的には5名の仲間でダンジョンアタックをするという事ですか』

 

「その通り。少なくとも現在の実力ならば10層まで到達できる下地はもう出来ている。後はそれを使いこなす段階だ」

 

 

ロシア代表のセルゲイさんの質問に真一さんは頷いてそう答えた。

少なくとも彼らは初めて俺達が10層まで到達したときよりも恵まれた環境に居る。

後は身につけた技能を適所で使いこなせれば問題なく10層まで到達できるはずだ。

 

 

「ああ、人数は5名だが、基本的に班員はランダムに決まる。これは固定のメンバー以外と組む可能性も考慮に入れての事だ」

 

『成る程。つまり、翻訳魔法は常に意識して使わなければいけないのですね』

 

「そうだ。特にリーダー格である君達は常に指示を飛ばせる状態でなければならない。これも評価に含まれると思ってくれ」

 

 

評価、という言葉に各国代表の眼が真剣みを増した。

他の代表メンバーと違い、彼らはその国の冒険者のリーダー、つまり顔になる事を見込まれてここに来ている。

他の代表候補より少しでも高い評価を得なければいけない立場なのだ。

そして、今回はそれだけではない。

イギリス代表のオリバーさんが手を上げて質問をする。

 

 

『失礼。是非確認させていただきたい事があります』

 

「どうぞ」

 

『では・・・この、今回のブートキャンプの参加者は評価によってはヤマギシチームに編入される、という話は本当でしょうか』

 

「非常に優秀な成績を残した方はヤマギシチームに参加してもらうかもしれません。永続的に、という話ではなく数ヶ月の範囲ですが」

 

 

真一さんのその言葉に室内がどよめいた。

因みに、これは2名ほどの予定で、参加者が望んだ場合のみ、と協会内では話がついている。

ヤマギシが望んだ事ではないので真一さんの対応は淡白極まるが、俺としては浩二さん達のように仲間が増えるようで少し楽しみだ。

今回の参加者は皆年齢が近いせいもあるのか、前回の自衛隊・米軍合同キャンプの時よりも仲良くなった人が多いしね。

 

ざわつく室内を尻目に、話が終わった真一さんが「では、班分けはまた明日」とさっさと部屋から出て行った。

真一さん的には数ヶ月だけ、ってのが気に入らないみたいなんだよな。

育ったらはいさよならってか、と憤慨してたし。

まぁ、うちに所属したって経歴をつけて自国の冒険者に箔を付けたいんだろうとは思うけど。そんな思惑とかは抜きに仲良くしたいしね。

 

 

『皆と一緒に潜れる日を楽しみにしてるよ!でも今はそれよりご飯の時間だ。早く行かないとご飯なくなっちゃうよ?』

 

 

部屋を出る前に親指を立ててそう言うと、ざわついていた室内が穏やかな空気に戻った。

くいくいと親指を動かすとセルゲイさんがのそり、と立ち上がった。

 

 

『腹が減っては戦はできぬ、だったか?』

 

『そうそう。よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。これ俺の座右の銘ね』

 

『ドラゴンボールじゃねぇか!』

 

 

アメリカ代表の愛すべき馬鹿1号、デビッドがちょっとテンション上げてる。もしかしてドラゴンボール好きかい?俺もだよ。

俺の言いたい事が伝わったのか、眉間に皺を寄せていたオリバーさんやフランス代表のファビアンさんも苦笑して席を立った。

まぁ、競い合うなんて昼間になんぼでも出来るんだから今は仲良く行こうぜ?

 

 

 

幸いにして飯を食いっぱぐれる事も無く俺達は無事食堂で夕飯にありつく事が出来た。

ここの料理、雇ってるシェフの腕が良い上に色んな国の食事が楽しめるからよく使ってるんだよね。

うん、流石はフレンチ。めちゃ美味いわ。

 

俺が1人ばくばくと食べ続ける中、各国の代表はそれぞれがテーブルを占有して明日についてのミーティングを行っている。

あちらこちらからどよめきの声と俺をちらちら見る視線があるから、ヤマギシへの参加がやっぱりトレンドなのかねぇ。

 

 

『なぁ、イッチ。これって俺達でもありえるのか?』

 

『優秀な成績って話だから特に制限は無いな。本当に結果で選ぶみたいよ』

 

『どっちにしろ俺とジェイは無理だな。本国を更に数ヶ月も離れるなんて出来ないし』

 

『そういう人は辞退して他に回しても良いってさ』

 

 

アメリカチームだとジェイが最有力になるんだが、ブラス家の人間は多忙だからなぁ・・・

ケイティは何か怪しいけど、流石に学校に通っているジェイとジョシュさんは無理だろう。

 

 

「俺たちも無理や。地元のダンジョンを少しでも潜らないかんけん」

 

『昭夫くん、翻訳翻訳』

 

『あ、ごめんなさい。僕達も地元からあんまり離れられないんですよね。やっぱり、期待というかなんというか』

 

 

ここの食堂では基本的に翻訳魔法を使う事になっている。暗黙のルール的な物だが、やっぱり言葉が通じる・通じないってのは結構大きな心理的障害になるからね。

特に今回は8カ国の人間が一同に集まっているから、トラブルの種は少しでも減らそう、という彼らの自助努力の一つだ。

後、翻訳魔法使うと訛りが酷くても標準語に聞こえるらしい。ネットスラングは普通に使えるのに面白い効果だ。

 

地元、という単語に結構な数の人間の視線が落ちる。やっぱり地元を離れて、となると色々大変だろうしね。

特に今回のように地元の期待を背負ってきている人が更に延長しました、というのは難しそうだ。

 

 

『あー、その。その人数はもう決まってるのか?ウィルとキャサリン嬢が含まれるんなら正直3人以上じゃないとキツいんだが』

 

『その二人を含まないで最低2名。って言ったらやる気出る?』

 

『出るねぇ』

 

 

彼らにとってウィルとケイティは完全にヤマギシと同じ教官枠なんだろうな。魔法の訓練とか代役になったりしてたし。

地元という単語で視線を落としていた面々も再び顔を上げてやる気に満ちているみたいだし良い感じの燃料になっただろう。

願わくば「皆優秀だから多めに取る!」くらい真一さんに言わせる結果にしたいね。

 




デビッド:アメリカ代表。愛すべき馬鹿1号。魔法も格闘技もそつなくこなせるためアメリカ代表のリーダー格を担っている。実力的な問題で悪目立ちしかねないジェイやジョシュさんを上手くチームに取り込んだ調整能力は中々のもの。

ファビアンさん:フランス代表。外見は10台の優男だが、初対面で全員を前にメルシー!と大きな声で言い放つなど結構な強心臓の持ち主。

昭夫くん:日本代表の1人。博多に住んでいるらしく、初日にヤマギシビル1階のラーメン屋で「ラーメン!」と注文をして何のラーメンか聞かれ、「ラーメンと頼んだらとんこつがでてくるのが当たり前だと思っていた」と顔を真っ赤にして語っていた。割と自爆芸が多い人気者。


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第七十八話 日本代表の問題

誤字修正、霧空様、244様ありがとうございます!


「魔法が特殊過ぎて助言できないんだよね」

 

『素敵だと思います』

 

「あ、はい」

 

 

ドイツ代表のオリーヴィアさんは凄くクールな外見の金髪が似合うお姉さんなんだが、こう。

話をしたらそこはかとなく漂う残念臭というかね。

 

うん。いや、仕事は出来る人だと思うし、実際頼りになるリーダーなんだが。

この人、これですっげぇミーハーなんだよなぁ・・・

 

 

「じゃあ、先導するから戦法はオリーヴィアさんが決めて下さい。取り敢えず目標はどこまでに?」

 

『今日の内にオークを見てみようと思います。撤退は隊員に不測の事態が起きた時か、誘導員から指示があった時に行います』

 

「なる程、了解です。取り敢えず感知の魔法の実地訓練でもあるので各自、感覚を研ぎ澄ませて下さいね」

 

 

指示を出すとキリッとした表情になる。

先程までのミーハーなファンの顔から急に頼れるリーダーの顔に激変するのにも最近は慣れてきた。

そのまま特に指示を変えることもなくさっくり6層まで辿り着く。彼らのレベルだとこの辺りは殆ど消化試合になるんだよね。

 

まぁ、本番は6層以降になるからなぁ。

オーク相手にも危なげなく魔法で完封。魔石を拾って俺に手渡してくるので、記録簿に記載して背中に背負ったリュックに入れる。

 

この記録簿は、最初にダンジョンに潜った時に魔石の数が記憶と違う、という問題が起きた為、各誘導員が持たされている物だ。

魔石の吸収について、真剣に考えてくれているのは嬉しいが。誤魔化しが入るかも、と疑心暗鬼になっても困るしね。

 

 

「オリーヴィアさん。目標は達成しましたがどうします?」

 

『・・・各自、使用魔法の回数を。・・・ドゥーチェが若干多いな。撤退を具申します』

 

「了解です」

 

 

うん、危機管理能力もあるし班員の言葉を聞く事も出来る。

やっぱり優秀な人なんだよなぁ。

取り敢えず冒険者としては優秀。なお注意事項ありとしとこう。

 

 

 

因みに各国のリーダー達は皆優秀で、彼女と比べても遜色ない人物しかいない。

というか仮にも国を代表して来ている以上、優秀じゃない人物なんか居ないので切磋琢磨を期待してるんだよねこっちは。

 

 

「そこんとこどう思う?昭夫くん」

 

「面目なかとよ・・・」

 

「翻訳」

 

『あ、ごめんなさい。面目次第もないです、はい』

 

 

いや、君じゃないよ?

君はそそっかしい所さえ無ければ非常に優秀だし。

魔法も格闘も両講師から褒められる位の頑張り屋さんで、格闘の方なんか元々経験が無いのに必死で喰らいついており初代様が実に楽しそうに指導している。

 

もし柵が無ければ探検隊が復活した折にはスカウトしたい人材とか言ってたけど、まさかダンジョンで探検隊をする気はないですよね?

 

と、話がそれたが昭夫くんと日本のリーダーの御神苗さんは全く問題ないのだが、残りの3人が問題なのだ。

この3名、成績自体は悪くないんだが・・・向上心と協調性という物がないのか、現代日本の若者というか。

自分の興味がある事にしか見向きしない所がある。

 

今現在は各国のリーダーが班を率いてダンジョンに入っているが、彼らの行動を見て各国の他の代表は自身がリーダーになった時に備えている。

だが3人は違う。あのままでは、教官免許を取得するのは難しいだろうな。

 

今も彼等は翻訳魔法も使わずに3人で固まって話している。

この食堂に皆が居る理由もあんまり理解できてないようだ。リーダーの御神苗さんは各国の色んな人と話してコミュニケーションを取っているというのに。

 

 

『その点、アキオは可愛いわね!』

 

『あ、ちょっカミーユさん!?』

 

 

そおっと近付いてきたカミーユさんが昭夫くんを背後から抱きしめた。豊満なバストが押し付けられたのか、顔を真っ赤にして昭夫くんが悲鳴をあげる。

最年少の昭夫くんはその初々しい反応もあってかお姉様方から大人気だ。同情はするが、取り敢えずそこ代われ!

 

わーわーと騒ぎ始めたため何事かとこちらを見る代表達。また昭夫くんがからかわれていると気付くと大体の人間が笑ってその様子を眺めている。

 

その大体に入ってない日本勢ェ…。御神苗さんも努力してるみたいだけど、同じ日本人の昭夫くんにすら絡んでいかないってどうなんだろうか。

むしろ若干忌々しそうにすら見えるんだが・・・

 

 

 

「普通に人気者の昭夫くんに嫉妬してるんじゃない?」

 

「なんだそりゃ」

 

 

夕食も終わり、今日のブリーフィングの時間。

どうにも溶け込めてない様子の日本代表の様子を話した時、一花の分析に真一さんが苦々しそうな表情になった。

 

 

「各国の代表は、流石にケイティやウィルの眼鏡に適っただけはあるけど、日本はなぁ」

 

「御神苗さんと昭夫くんが居なきゃ完全にお荷物だったね!どんな人選なんだろ。笑えてくるよ」

 

「一応、各ダンジョンの代表の筈だがな。一度協会にも現状を伝えておこう。このままじゃ教官免許をやれんぞ」

 

 

お膝元の日本だけ合格率が悪い、となればそれは日本冒険者協会にとっても一大事だ。

まぁ、他の国の冒険者が軒並み合格してれば流石にヤマギシが責任を問われることはないと思うが、俺達の求めてやまない人を教えられる冒険者が日本では殆ど増えない事になるしな。

協会の方から何かしら対応策が出れば良いんだが。

 




オリーヴィアさん:ドイツ代表のリーダー。金髪碧眼で切れ長の目を持つ正にクールビューティーといった風体の人。尚中身は乙女。

御神苗さん:日本代表のリーダー。東大の学生。今回本気でヤマギシ所属を狙っているが同期の日本人勢が最年少以外頼りにならずアカンかもと思ってきている。尚名前は優治のため初対面の時一郎に「惜しい!」呼ばわりされた。本人もそう思っている。


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第七十九話 合格者37人

毎日更新がモチベーション的にキツくなって来たのと、数日ほど会社のお偉いさんが見回ってるため作業時間が確保できません。
日曜日の分は用意してあるのですが、月曜日から何日か更新出来ないかも知れないので、7時に更新されてなかったら察して頂けるとありがたいです。

誤字修正、244様ありがとうございます!


各国代表のリーダー達が10層に到達し、二種免許を取得した。

ここからはリーダー格以外の班員が順番にチームを率いてダンジョンに潜り、全員がチームリーダーとしてチームを率いて10層に到達する事が出来るまで習熟訓練を行う予定だ。

 

チームリーダー達は班員兼補佐役となりその時のチームリーダーを補助。ダンジョンアタック後のミーティングではその時の総評と指導点を伝える役割を担う事になる。

つまり彼らにとっても教官免許の訓練になると言う事だな。

 

 

「やる事が無くなったなぁ」

 

「良い事じゃないか。やる事のある班に当たらなくて」

 

「ああ。今日は佐伯さんが5チームの班長なんだっけ。担当は?」

 

「シャーロットさんなんだけど、あの人女性の教官だとなんか態度がな」

 

「ああ。沙織ちゃんがぶーたれてたなぁ」

 

 

基本的にチームは8チームにわかれており、1から4までが前半、5から8までが後半として分かれてダンジョンに入っている。

 

人によっては最初のリーダーの時に10層まで行く場合もある為、チームリーダー達による最初の10層到達から一週間も行かない内に半分以上の代表メンバーが二種免許を取得している。

 

今現在まだ二種免許を取ってない人も大体は慎重な人か、順番の組み合わせが悪かった人達だ。

二種免許を取った人は各国のリーダーと同じく班員兼補佐役になる為、そういった人達も殆どは2、3日で合格するだろう。

本当にごく一部を除けば。

 

 

「何か協会の方からもう少し手心をとか言われてるっぽいね!」

 

「人の生死が掛かってるのに何言ってんだって、社長が切れてたな」

 

 

問題がある人間は3名。全員が日本代表だ。

その内、まだ見込みがありそうなのが2名。この2人は、もう1人の見込みがないとヤマギシチーム全員に判断された佐伯という男に従っており、彼から遠ざかっている時は指示にも従うし、言われた事を熟す事も出来る。

 

 

「つまり指示待ち人間だよね?」

 

「そうともいうな」

 

「二種まではともかく教官免許は無理じゃない?」

 

 

俺も無理だと思ってる。

一冒険者としてならともかく、彼らに後輩の冒険者を育てる事が出来るとは思えない。

 

或いは10層まで単独で潜れる位の実力者なら話は別かもしれないが、キャンプを始めてもうすぐ一月という現在、彼らは明らかに他の冒険者達に遅れを取り始めている。

この状況を問題視している協会幹部も居る為、何かしらの動きはあると思うが・・・

 

 

 

結局、7月の間に件の3名は教官免許を取得する事は出来なかった。

日本冒険者協会としては人選に問題があったとし、これらの3名は8月以降の教官研修には参加させず一冒険者として地元のダンジョンに戻ることになる。

 

あの3人、見送りに来た昭夫くんに悪態ついて出て行きやがった。

仲間と思っていた人達の妬みと恨みの言葉に参ってしまった昭夫くんをお姉様方が慰めていたのはちょっと羨ましかったがな!

しかしあいつら、出て行く時まで迷惑をかけるなんて、本当に碌な事しないな。

 

 

「協会長には文句を言っといた。記念すべき初回に贔屓人選なんぞしやがって」

 

 

不愉快そうにそう言って、社長がノシノシとアロハシャツを着たままヤマギシのSUVに乗り込む。

格好と表情が全然一致してませんよ、社長。

一先ず全員が教官免許を取得し、後は実際に人を教える教官研修を残すのみとなったブートキャンプでは、この一ヶ月の疲れを癒やす為と、教えることになる人員の調整の為に一週間ほどの休みが設けられた。

そして預かっている生徒さんが一斉に居なくなる頃合いを見計らってヤマギシも夏期休暇に入る。

 

 

「と言っても俺達は免許取得の為だから、殆ど仕事の延長だけどなぁ」

 

「ぼやくな。沖縄の海でも見て心を癒やそうぜ」

 

 

俺と恭二はため息をつきながら飛行機に乗り込む。

社長達は一週間で帰る事になるが、俺と恭二と沙織ちゃんは普通免許を、真一さんが大型免許の取得、それに今年は一花がバイク免許を取れる歳だからな。

前回はただの賑やかしだったから、今年はたっぷり苦労するがいい。

 

 

 

「実は奥多摩でもう免許取ってきてるんだよね」

 

「嘘だろお前」

 

 

教習所に何故か姿が見えなかった一花に何をしていたのか問い詰めると、にこやかな笑顔で真新しい運転免許証を取り出してきた。

しかも取得した日付は5月。もう三ヶ月も前になる。

 

 

「前々から準備してたし筆記も実技もラクショーだったよ?」

 

「一発合格とか・・・都市伝説じゃなかったのか」

 

「いや、珍しいかもしれないけど珍しいってだけだよ?制度として成り立つ位は居るんだから」

 

 

戦々恐々とした様子の恭二に呆れるように一花が答える。

俺と恭二は昨年、その筆記の方で大分苦労したんだが。

一花は一週間は社長達に付いて回り、それが終わったら知り合いの所を回ったり離島を巡るらしい。

年頃の娘が、と社長は心配してたが大鬼相手に接近戦が出来る一花を何とか出来る奴はそうそう居ない。

 

その間俺達は毎日暑い中、ホテルと教習所を往復する毎日だ。

MT免許の教習と大型自動二輪、大型特殊、牽引まで取るので、結構ハードな研修になるな・・・

 

 

「でも実は水着新調したんだよね」

 

「終わったら、帰る前に遊ぶか」

 

 

恭二と沙織ちゃんの間に漂う甘酸っぱい空気が心に来るぜ。

早く奥多摩に帰りたい・・・




佐伯さん:日本代表の問題児。西伊豆ダンジョンから代表としてきていたがリーダーとしての適正が非常に低いと判断され、教官免許の取得まで進める事ができなかった。


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第八十話 役割 

何日かお休み予定。
ちょっと負担がきてるので更新の仕方を見直すかもしれません

誤字修正、244様ありがとうございます!


沖縄の夏は暑かった。

それ以上は話したくない。

二週間を過ぎた辺りで沙織ちゃんがキツそうにしてたので一花の予定を変えてもらって一日観光に費やしたり、誕生日に小さなパーティーをしたり、その後恭二といい雰囲気になってて独り身が寂しくなったりとかあったけど細かく話したくない。

 

俺達が奥多摩に帰る頃には入れ違いになるように各国の代表達が国へ帰っていった。

一月近く留守にしていたのに皆が別れるのが辛い、まだ色々教えてほしいと言ってくれた時は少しウルっと来てしまったけど、メンバー皆とは連絡先を交換したぜ!

ただ、翻訳は文字には適用されないから専ら日本語でお願いしてるんだけどね。

 

彼女達には『死なない冒険者』になる為の基礎になる部分をみっちり仕込んだつもりだ。

地元に帰ってもこの部分だけは絶対に疎かにしないでくれと念押しをしているし、奥多摩での合宿は継続的に行う予定だから、来年はもしかしたら彼ら彼女らが鍛えた冒険者を俺達が教育する事になるかもしれない。今から楽しみで仕方ないな。

 

そして、今回のキャンプで最優秀と賞されたのはやはりというか何と言うか。ブラス兄弟の妹、ジェイだった。

姉譲りの魔法センスに姉より優れた身体能力に、勤勉さまで備えた彼女は当然のようにキャンプ最初からトップに立ち続け、2ヶ月の間首位の座を他の代表に譲らず堅持し続けた。

各国のリーダーや兄貴のジョシュさんもかなり追いすがっていたんだがなぁ。惜しくも彼女の牙城を崩すには至らなかった。

 

ただ、彼女は本国の方でもやる事がかなりある為にヤマギシに参加すると言ったことは出来ないそうだ。

彼女なら問題なく俺達と同じレベルまで来れると思うだけに残念だが、彼女には彼女の生きる道があるししょうがないだろう。

まぁもし米国でダンジョンに潜る時があったり、日本に来る予定が出来たら一緒にダンジョンに潜ろうと約束を交わしたし、寂しくなるがこれっきりって訳でもない。

年末にはまたブラス家と一緒に冬期休暇を取る予定みたいだしな。

 

 

「で、ヤマギシへの参加枠は結局日米で分け合う事になったと」

「まぁ、仕方ないでしょうね。他の国では、トップ冒険者を数ヶ月も国外に出す余裕は無いんでしょう」

『ユージは兎も角、僕としてはラッキーだよ!正直アイリーンには負けてると思ってたからね』

「アイリーンさんなぁ。最後まで男嫌いが治らなかったから・・・」

「いや、あれは一郎くんの前だけ・・・いや、止そうジェイに殺されちゃう」

 

 

御神苗さんとデビッドの書類手続きを手伝いながら、俺は昨日行われたヤマギシチームへの参加メンバーの発表を思い出した。

まぁ、殆どの国の冒険者が地元の理由で戻る事になるとは分かっていたので、結局日本代表の御神苗さんとアメリカのデビッドに決まったんだが。

ギリギリまで参加したいと言っていたアイリーンさん、泣いてたんだよなぁ・・・・・・

別れの間際にほっぺにキスまで貰ったのはいい思い出だ。イギリスに行く事があれば必ず連絡入れよう。

 

 

『まぁ、今回の代表は誰が選ばれてもおかしくなかったからね。特に8月に入ってからの皆の進歩は凄かったよ』

「・・・・・・バンシーを超える前と後で、明らかに自身が変わったと感じました」

 

 

あれは、まあ、凄い経験だろう。

今回、教官免許を取得した37人は8月頭に全員20層まで連れて行った。バンシーを経験させる為だ。

あの状態異常を受けた後に数瞬間をおいてリザレクションを受けるまでの間。

あのどんよりとした、深い沼に閉じ込められたような感覚は、もし知らずに受ければそのまま何も出来ずに殺されてもおかしくない。

 

バンシーを経験した後の彼らは文字通り爆発的な勢いで成長した。

8月終わりに戻ってきた際には殆どの人物が、戻ってきた後には全ての代表が自力での20層到達を達成しており、中にはレジストどころかリザレクションまで覚えた人物も居た。

医師キャンプの方でもリザレクションの発現を確認できている為、今回のブートキャンプは世界冒険者協会にとって最高の結果で終わった事になる。

ケイティ大歓喜だな。

戻ってきた時はもう上がりまくったテンションに任せて恭二に抱きついてキスまでしていた。すぐに沙織ちゃんに引き剥がされて結局両手に華になっていたがね。

くそがっ!

 

 

「リザレクションと言えば、医療行為で魔法を使う病院の設立が決まりそうなんだってね」

「ああ。厚労省がついに折れたんですっけ。医学部の知人がそう言えばダンジョンについて聞いてきてたな・・・」

『そういえばキャサリン嬢のキャンプ、人員増加するんだってね。こっちにも日本人が来るのかなぁ』

 

 

ケイティが主催で行っているブートキャンプは前評判の高さと実際にリザレクションを発現した事もあって、今世界中の医療関係にかなり注目されているらしい。

本人も今の追い風の状態で一気に波に乗りたいと言っていたから、次の人員はかなりの人数が予測される。

マンションの内装もようやく完成したしこっちを借り上げてもらうのもありかもしれないま。

 

 

 

『それはあなたたちの仕事でしょ? 俺は医者じゃない。冒険者だ』

 

恭二さん、ガチ切れしとる。

新しく来た医者や医学生への説明会に参加した俺達は、まず最初にこの説明会に参加している人々の空気に違和感を感じた。

何と言うか、こいつら説明されればホイっとリザレクションが使えると思っている節があるのだ。

いや、まぁ医者と言えばどこの国でもエリートだからその自意識が高いのは分かるんだ。

ただ、やけに鼻持ちならない傲慢な人間が目立つんだよなぁ。

 

この状態でダンジョンに入れるわけにはいかないと、恭二がまずケイティに自身にリザレクションをかけるように依頼。

センスが本当に高い人間なら或いはこれで使えるようになるかもしれないが、流石にケイティのような人物は居なかったらしい。

その後、リザレクションの属性や発動した時の発光などを説明していると、途中で恭二の説明を遮った人物が居た。

そして、「何故実験台が説明をしているのか?」と言い放ったのだ。

 

この時点で結構キテるなとは思ってたのだが、恭二は一旦言葉を飲み込んでその場の全員にリザレクションを使用。

40人全員が光に包まれると言う異常現象に軽いパニックが起こる中、恭二は魔力を込めた拍手を行った。

一瞬で静まり返った室内を見渡して、恭二が言葉を続ける。

 

『まず、皆さん守秘義務の契約書にサインはしてますか?挙手をお願いします・・・・・・しているみたいですね。では説明しましょう。現在世界中で発見された魔法はほぼ全て俺が冒険の最中に開発したものです。勿論リザレクションも俺がケイティに教えたものになります。つまり、彼女と同じレベルでこの魔法について説明できる為この教壇に俺は立っているんですね。何か質問は?』

 

にこやかな恭二の発言に、場の空気が凍りつく。薬が大分効いたらしいな。

そのまま次の説明に移ろうとした時、先ほど実験台云々と言っていたおっさんが震える手を上げて質問をしてきた。

 

『あ、貴方は・・・・・・これほどの力がありながら、何故それを人を救うことに役立てようとしないのですか!』

 

ここで恭二の我慢が限界を超えて上の発言に繋がった。

吐き捨てるように言い放った後、恭二は更に言葉を続ける。

 

『俺達はあくまで冒険者であって医者じゃない。医者が担当する仕事は人を癒す仕事で、俺達冒険者は冒険する事が仕事のはずだ。リザレクションもヒールもキュアも冒険に必要だったから作る事ができた。見つかった魔法を冒険以外で使うのなら、それは専門家が行うべき事だ。教えてくれと言われたから俺たちはただ教える。それをどう使うか、役立てるかは貴方方の仕事だろ』

 

そこまで言って、恭二は少し落ち着いたのか机に座って彼を見る医者や医学生達を見やり、一つため息をついた。

 

『まず勘違いしないで欲しいのは我々は貴方方がその崇高な理念を元に、魔法という現象を使って患者を癒やす術を学びたいと言っているからその手助けを引き受けたんだ。貴方方が言う様に、私達の力があれば大勢の人を救うことができるでしょうね。大勢の人が助けを求めてくるでしょう。医者でも病院でもない、設備すらないここに。冒険者としてダンジョンに潜っている俺に助けを求めに来るんだ。それ、正しい事なんですか?』

 

しんと静まり返る会場に恭二はため息を付いた。

 

『医者の仕事は医者がやってくれ。以上です』

 



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第八十一話 リザレクション・ブートキャンプ

お待たせして申し訳ありません。
今後は月~金で更新して土日はお休みにしようと思います。

誤字修正、244様ありがとうございます!


はい、じゃあ二人組みを作って~

違うな、これは俺のトラウマだ。

昔っから沙織ちゃんは恭二にべったりで恭二は恭二で割りと人見知りするタイプだから基本3人で同じクラスとかになると俺だけハブられたんだよなぁ

 

「あんまり芳しくないねぇ」

「まぁ、ヒールやキュアは結構早かったしこれからだろ」

 

医者のブートキャンプ参加者に二人組みを作ってもらい互いにリザレクションを掛け合う。

が、当然というか何と言うか発現できる人はいなかった。

この結果に一部のお医者様方は何故出来ないのかと苦言を漏らしていたが・・・

この魔法そこまで優しいものでもないんだがなぁ。

 

まぁ、彼らがそう思うのもわかる。なんたって畑違いの冒険者達ですら結構な数が習得したんだしな。

あくまでも冒険者としての訓練をしにきた37名の内12人が習得できたというのは、冒険者協会にとってはかなり大きい数字だったらしい。

当然専門に学びに来た人間は全員習得するだろうと見積もられてるんだな。

 

ただ、このお医者様方と協会の上の人たちが失念している事がある。

それは、元から彼らは魔法のセンスが高い、もしくは運動能力が高いと見られて各国で見出された人材だということだ。

あの37名の教官候補生達はそもそも国の威信をかけて選び抜かれた選抜者であり、俺から言わせれば今回参加しているお医者様方よりよほどリザレクションの適正がある。

その中から短期間の訓練とは言え、12名しか習得できなかったとみるべきなのだ。

 

ちなみにこの12名のうち実に8名が元から回復魔法を使えていた人物で、最初から回復魔法の素養が高いと言われていた人たちだ。

元から『魔法の習得はセンス次第と』言われていた所に、『魔法には得意不得意が存在する』という説も追加されて教える側も考える事が増えてきた。

ケイティが提案していた魔法大学、確かに必要かもしれないな。

 

一先ず彼らには特急で10層までの攻略を行ってもらう。殆どの人間は本国でダンジョンに入った事があるそうなので魔石の吸収やら細かい点まで言わなくて良いのはありがたい。

彼らは教官候補生達と違ってじっくり冒険者として育てる必要はないので、どうやったらリザレクションが出来るのか、この一点に絞って俺達は魔法の使い方を説明する。

 

「それでも、やっぱりまだ習得者は現れないか」

「デース。イチカキャンプ、やるシカありマセーン」

 

最近日本語が上達してきたケイティが渋い顔でそう言った。

あれキッツいからなぁ・・・前回リタイアが出なかったのが不思議な位に。

一先ずやるにしても希望者から募集をかけないといけないな。倫理的に。

 

 

 

16層以降の敵はお荷物が一緒だと危険が高いが、見合った効果はあったらしい。

俺達ヤマギシチーム6名に新規で参加した御神苗さんとデビッド、それにウィルとケイティの4人を加えた10人を5名ずつに分け、この5名で10名の訓練生をバンシーの元に送り届ける。

と言っても恭二は車の出し入れの為に基本11層に残って16層まで送った後はまた11層に戻るという仕事があるし、流石に1人にするのも問題があるので護衛代わりに俺も抜け、4人で10人の前後につく形になる。

基本行って帰ってまた行っての繰り返しで一日が終わっちまう。まぁ、合間にゴーレムの魔石を補充できたし良いか。まだまだ需要を全然満たせてないしなぁ。

 

全員が終わった後にようやくお役御免になった俺達がダンジョンの外に出て会議室へ行くと、ちょうどミーティングが始まる所だったらしい。

しかし・・・・・・お医者様は殆どダウン状態でまともに会話が出来てないな。

まぁ、しょうがないだろう。一度の冒険中にバンシーに出会うたびにアレを食らって、その都度回復しての繰り返しじゃあなぁ。

多分今日だけで10回は超えたんじゃないか?状態異常を受けたの。

 

『んー、初日で出来れば1人位は覚えて欲しかったけどしょうがないよね!明日も同じコースで行くから、自主練はかかさないでね!』

『ス、スズキ教官。明日も、同じ事を繰り返すのですか?』

『うん、覚えるまでやるよ?あ、でも連日は辛いかもしれないね!明日もやって、明後日は休養日。2日に1休なら体調管理も万全だよね!』

 

笑顔で死刑と言ってるようにしか聞こえないが・・・いや、まあ一花自体はアレ本当に毎日やってたからなぁ・・・

自分に出来た事をエリートの方々が出来ないって思ってないのかもしれない。

ただ、あの必死になれる状況ってのも結構大事な物なんだと思う。前の冒険者連中は本当に適性が無かった奴まで数日でキュアを覚えてたしな。

 

初日は駄目だったが二日目の途中でリザレクションを発現する事に成功する人物が出てくると、ぽつぽつと成功者が出始め、2週間も繰り返すうちには殆どの参加者がリザレクションを使えるようになった。

途中でストレスの余りに一気に白髪になった人も居たけどリザレクションで治ってたのは凄かった。その人はその時受けたリザレクションで感覚を掴めたそうなので、やはり感覚をどう掴むかに全てが掛かっているんだろうな。

 

「それでも3人、まだ使えない人が居るんだよねぇ・・・・・・」

「むしろ真面目に頑張ってる人たちなのにねぇ」

 

一花の呟きに沙織ちゃんが答える。

予想以上の速度でリザレクションを使える人が増えたが、それよりも残った人員が問題になっている。

彼らはイギリス人、フランス人、ロシア人が各一名。年齢も人種も性別も宗教観もバラバラな彼らが何故リザレクションを覚えられないのか。これが分からないのだ。

 

「一度、原点に戻ろっか」

「原点?」

「ああ・・・ビョーイン、連れてクデスね!」

 

精神的に追い詰められてるとは思うが、そこまでは行ってないと思いたいんだが・・・

 

「ノー。彼ら、患者会わせる、デス」

 

・・・ああ、成る程。

確かにそれなら効果があるかもしれない。

 

 

 

その日の夜。落ちこぼれと影で囁かれていた3名もリザレクションを習得する事が出来た。

彼らは涙を流しながら、興奮で落ち着きをなくしたかのように捲くし立てた。

 

『貴方の言った通りだ。我々医者が患者を助けるべきだ。ようやく、あの時の言葉の意味が分かった』

 

ロシア人の女性医師は涙ながらにそう言って恭二にキスの雨を降らせている。

病院を紹介してもらった参加者の1人、川口医師は、もらい泣きをしながら経緯を説明してくれた。

彼は自身の所属する病院に彼らを連れて行き、重病者、取り分け難病に苦しむ患者達の居る病棟を回ったらしい。

回診に同行させ、痛みに苦しむもの。余命幾ばくもないもの。幼いもの。

それらを見せ、そして家族の了承を得る事ができた患者のみに限定し、<リザレクション>につきあってもらったそうだ。

結果は、彼らの喜びようを見て分かるとおりだ。

 

「医者のことは医者がやれ。最初言われたときはむっとしました。傲慢に聞こえたんです。でも。今なら分かります。貴方方は冒険をするべきだ。多くの発見や魔法で、あなたたちの冒険の重要性は恐ろしく高い。だから、医療(こっち)医者(わたしたち)に任せてください」

 

そう言って、川口医師は涙を拭いて笑った。

彼ら4名と握手を交わし、俺達は今日の結果を持って今回のリザレクション習得ブートキャンプの終了を協会に報告する。

今夜は良い夢が見られそうだ。

 



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第八十ニ話 魔剣は浪漫

誤字修正、244様ありがとうございます!


「魔法が使える医師が各ダンジョンに欲しい?」

「ええ。少なくとも今回のキャンプに参加した冒険者達が居るダンジョンには。恐らくそこは近隣の冒険者の育成も担う事になるから必要でしょうね」

 

真一さんはそう言ってウチの親父に書類の束を渡す。今回のキャンプで魔法には適正が必要な事が分かったし、もしかすると人によっては本当に覚えられない可能性もあるからな。

ダンジョンを出たらすぐに回復魔法を掛けて貰える場所は必要だろう。

前回縁ができた川口医師は、「職場の義理を果たせたら是非この奥多摩で働きたい」と言ってくれているし、まず奥多摩で実施してみるのも良いかもしれない。

 

「迷宮に潜るスキルもあるリザレクションの使える医師。しかも今後は後進の育成も担ってくれるそうだ。喜べお前ら!今回のブートキャンプでは3名も冒険者部門が増えたぞ!」

「やったー!人手不足解消だー!」

「どんどんぱふぱふー」

 

会議のたびに行われるこのノリはいつまで続くんだろうな。

ほら、初参加のデビッドや御神苗さんが戸惑ってるじゃないか。

さて、今回の会議は現状の確認という意味合いと現在ヤマギシが行っている事を新人二人に説明するという意味合いがある。

現在ヤマギシは奥多摩の山を削って大工事を行い、工場を立てている。

 

「元々ウチと協力関係にあった瑞穂町にあった三成精密さんは身内になったし、全部こっちの新工場に移したんだよね!」

「最新設備も入れてある。少なくとも去年の1.3倍はペレットも作れるって試算も出ている」

 

ヤマギシの主要産業になった燃料ペレットの生産が更に加速するわけだ。まぁ、今現在まるで需要に供給が追いついてないからようやくって所か。

燃料ペレットは現在一本1000万以上の値段で取引されている。一度買えば再度魔力の補充はできるんだが、どこも新品を欲しがっているせいでまるで足りてない状況なのだ。

しかし、新しく完成したこの工場で生産するペレットは、フル稼働すれば現状国内にある火力発電所の分を十二分に賄える計算になるらしい。

この結果に、石油の消耗を大きく抑える事ができると政府筋からも喜びの声が上がっているそうだ。

まぁ、燃料ペレットについてはテキサスの方で大規模な工場が鋭意建設中だし、そちらが完成するまで精々稼がせてもらおう。

 

また、この工場の建設に伴い、藤島さんを筆頭に刀匠が10名、それに刀研ぎ師3名、鞘や拵えの職人さん2名が、この工場に隣接する工房の主として居を移してくれていた。

彼らは形式上、個人事業主としてヤマギシと契約してもらって、変わりにこちらは工房と住居を提供する形だ。

 

「シナジーが凄いよね。三成精密の技術で、アルミ合金製の槍の柄が量産できるようになったもん」

「ああ。今まで使っていた柄よりも軽くて硬い。この辺りはやっぱり蓄積した技術力の差だろうな」

 

藤島さんも宮部さんも悔しいけど嬉しい、って不思議な言葉を口にしていた。

技術者としては悔しいけど、そんな相手と一緒に仕事が出来るのは嬉しい。張り合いがあるって言っていたな。

ライバルって奴なんだろうか。うむ、何となく気持ちは分かる。

金属加工の職人と刀匠が隣同士で作業が出来るのは生産性をとても向上させている。

この調子で行けば世界的に注目が集まっている現状でも装備を行き渡らせる事が可能かもしれない。

 

また、玉鋼の制限から開放された日本刀も、ダンジョン由来の魔鉄や現代冶金学で作り上げた合金を使用した「魔剣」の製造が認められるようになった。

こいつは5~6層のオーガやゴブリンが持つ剣なんか相手にもならない強さだ。恭二が試し切りに使ったら、敵の剣ごと両断し刃こぼれもしなかった。

なにより、エンチャントの炎をたなびかせて敵を斬る映像はめっちゃカッコいい。そうとしか表現できない位にカッコいい。

 

値段は一振り300万円以上と超強気の値段なのに常に生産待ちの状態で作れば作るだけ売れている状態だ。

槍の方も一本200万以上という値段なのに同じく人気で、この間預金通帳を見て怖くなったと藤島さんが語っていた。

初めて俺が米国政府からの報酬を振り込まれた時と全く同じ表情だったので、少し笑ってしまった。

 

ペレットといえば同じゴーレムのストーンゴーレムのブロックやサンドゴーレムの残すレンガ状のドロップも魔力を纏わせる形で活用できないか研究が進められている。

こちらの研究は主に真一さんと、真一さんが自身の大学の先輩をスカウトして連れてきて一緒に研究しているそうだ。

引き合わせてもらった時にいきなりシェーのポーズをした後にサインを求められて「あ、この人は変人だな」と確信したが、非常に優秀な人らしくブロックやレンガを破砕した後にセラミックのように加工したりして魔力を乗せられないかや、モンスターがドロップする皮の有効活用などを研究してくれている。

この間試作品として渡されたキマイラの皮を使って作られたボディアーマーは、アーマー自体に魔力が通ればバリアの効果を及ぼすように作られており、魔石を使って十分に魔力を持った冒険者なら着るだけでバリアを維持してくれる優れものだ。

 

「惜しむらくはずっと消費されるせいで魔力切れが起きるって事だな」

「下手な人には渡せないよね。過信して大事故とか目も当てられないし」

「そうは行ってもな。魔力測定器でもなければ誰がどの位使えるかもわからんし」

「測定器・・・・・・欲しいですね」

 

結局魔力を測る何かが無ければ誰がどれ位魔法を使えるかもわからない。こういったマジックアイテム的な物も使いづらくなってしまう。

あーでもないこーでもないと俺達が朝食そっちのけで話していると、「ソーいえば」と一緒にご飯を食べていたケイティがポン、と手を叩いてこう提案してきた。

 

「皆サン、カリフォルニア、行きマス?」

 

にっこりと笑ったケイティの顔を呆気に取られたように俺達は見た。

 




先輩:研究職に突こうと思ったが言動がエキセントリックすぎて全落ちしこのまま院に進むかと覚悟を決めていた所真一に拾われた人。


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第八十三話 魔力センサーの開発

誤字修正、日向@様、ハクオロ様、244様ありがとうございます!


日本も大概だがカリフォルニアには変人が多い。

今俺の前で大仰なリアクションで俺の手を取り喜んでいる薄汚れた格好の学生を見て、改めて俺はそれを思い知った。

変な人、というのは社会的には余り褒められた言い方ではないが、人と異なった発想を持つ人、というのは意外と大きな事を成したりする。

そんな人材になるのでは、とブラスコと全米冒険者協会は、素材を提供したり、見込みがありそうな変人には資金援助をしたり、会社設立の援助をしているらしい。

真一さんと同年代らしい彼もそんな人物の1人だった。

 

『ぼぼ僕の開発した測定器は、ごごゴブリンの魔石を吸収した時の経験を元に開発しました』

 

出会った当初のウィルを思い出すこの安心感よ。

何でも本人はダンジョンには少ししか潜った事がない為、ゴブリンの魔石やドロップ品を協会から融通してもらい、魔石の魔力を吸う前と吸った後の違いから関連付ける事のできるエネルギーを測定。

恐らく誤差が最も少ないだろうパターンを発見し、これを測定する機械を作ったそうだ。

物を見せてもらうと、ごてごてとしたむき出しの電子回路にLEDランプやカウンターが付いていて、中にPCで使うような基盤がありそこで計算をしているらしい。

手作り感がすごい。こういうの良いね。

 

試しに動いている所が見たい、というと了承した兄ちゃんがプレートに手を乗せる。計量器みたいだなぁと思いつつプレートの傍についているカウンターを見ていると、チ、チ・・・とメーターが上がっていき。数値は6.2と表示された。

何でも1の数字はゴブリンの未使用魔石を基にして居るそうなので、彼は6.2ゴブリンの魔力を持っていることになる。

次に付き添いという事で来ている協会の人に試しにプレートに触ってもらうと、こちらは3.2となった。成る程、この人はダンジョンに数回足を踏み入れただけという事なのでダンジョン未探索者は大体この位の数字なんだろうな。

さて、では本命のご登場だ。

 

「恭二、お前やってみろよ」

「ああ。俺も出来ればお前の今の数字が知りたいな」

「ええ・・・・・・」

 

嫌そうな顔をする恭二を両脇から俺と真一さんで抑えてプレートの前まで歩かせる。

間違いなく現在人類最高の数字が出るはずだし、このデータは貴重な物になるだろう。後、恭二と他の人間がどれくらい差があるのかも見てみたいしな。

観念したのか大人しく恭二が右手をプレートの上に乗せると、一瞬で数値が駆け上がり4桁を超えてカウンターは『ERROR』の文字になった。

 

『嘘!?』

 

その結果に目を剥いた兄ちゃんはリセットをして再度自分の手を乗せ、問題なく6.2の数値が出た様子に安堵の顔を見せた。

 

『えーと、じゃあ私が触って見ても良いかな?』

『あ、ああ。お嬢さんよろしく頼むよ』

『は~い』

 

一花が手を上げると兄ちゃんもプレートから手を離してリセットを行った。

一花がそっと壊さないように手を乗せると恭二の時より大分緩やかだがあっと言う間に4桁まで行き、4桁を超えて『ERROR』の文字が出てくる。

兄ちゃんがムンクみたいな顔をしてる、すげぇな、あんな顔人間が出来るのか。

まぁ、確認する限りこれだと計算能力が足りてないんじゃないかな?

 

「恭二、オークの魔石って出せるか?」

「ん?あ、ああ」

 

俺に言われて恭二が収納からオークの魔石を取り出す。

ゴブリンのそれよりも大きなそれを兄ちゃんは初めて見るらしく何なのかを確認されたが、オークの物だと伝えて乗せてみても良いかと確認する。

了承を得られたので確かめる意味も込めてプレートの上に乗せて見ると64.7という数字が出た。

結構差があるんだな、ゴブリンと。

 

『このオークの魔石を吸収してみてもらっても良いですか?』

『あ、ああ。ありがとう。良いのかい?』

「どうぞどうぞ」

 

オークの魔石は現在の値段だと未使用で数十万円位するからな。思いもかけず貴重な物を手にしてしまった兄ちゃんが少し震えながら魔石を吸収する。

そして使用されたオークの魔石をプレートに載せると0.2の数字になった。このコンマ2は誤差だとしてもほぼ正確に数字が出せているようだ。

そしてここが重要なのだが、兄ちゃんに再度プレートに触って貰う。恐らくこの結果が恭二と一花の測定が出来なかった理由だろうなぁ。

 

『・・・・・・70.8。多少目減りしているが・・・・・・』

『成る程。どうやらこの計測器は非常に優秀な出来のようですが、メモリが細かすぎるんでしょうね』

 

体重計を求めていたら計量器が出されたようなものだろうな。

だが、今現在10層までがメインの狩場になる一般の冒険者やこれから冒険者になる人、一般人の魔力を計る時にはかなり役に立つんではないだろうか?

そう伝えると、兄ちゃんは嬉しそうに頷いていた。恐らく計算性能の問題だから、通常のPCレベルではなくもっと専門化した機械を用意できれば恐らく解決できるだろうとの事だ。

とりあえず現状のレベルで何処まで図れるか確認した所、10層までの相手ならほぼ問題はないがゴーレム以降は桁が上がってしまう為対応できない模様だった。

 

『面白い結果です。少なくとも現状でも低位の魔石を選り分けるのに使えるし、細かい魔力を測るのには十分すぎる性能でしょうね』

『あ、ありがとうございます!』

『ただし、このままではセンサーの能力が明らかに足りていない。非常に良いアイデアなのに設備や材料が足りていないのを感じていますが・・・』

 

真一さんがにこやかに笑いながら発想と着眼点を褒め、ただ諸々足りていないものを指摘すると兄ちゃんも神妙そうに頷いた。

実際、10層までの産物で見るなら兄ちゃんの機械は十分すぎる性能だった。ただ、そこから先の桁が文字通り違ってしまったのが問題なのだ。

彼はその後ブラスコや真一さんと数回の協議を経て、センサーの特許を取得。ブラスコ側の支援を受けてセンサーの能力向上に日夜を費やす事になったらしい。

取りあえずもっとも単純に計算能力を引き上げたコンピューターを用いて開発を続けていくそうだ。

 

そして、彼が最初に作った魔力計量器は機能はそのままで冒険者の居るダンジョンに配布。未使用の魔石と使用済みの魔石を選り分けるのに使われているらしい。

どこにでも不心得物は居るもので、今までも結構な数の使用済魔石を人に売りつけようとした者が居るらしく、こういった目で見て判断できる機械は非常にありがたいそうだ。

高性能センサーが開発されれば今は手作業で見て行っている火力発電所の燃料ペレットの入れ替えも全て機械に任せることが出来るようになるし、魔力の残量などを測る事も出来るようになるかもしれない。

変人兄ちゃんにはこのまま頑張って欲しいものである。

 



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第八十四話 アンチエイジングの恐怖

誤字修正、244様ありがとうございます!


その日、ヤマギシに激震が走る。

 

「出来ちゃった♪」

「私も」

 

下原&鈴木家の母親s、W妊娠である。

 

「もーやだ!おかーさん恥ずかしいよーもー!」

「この年で弟妹かー。そっかー・・・」

 

沙織ちゃんは牛のようにもーもー言ってるし一花は一花でボケーッと空を見ている。

一花で16も差があり、俺と沙織ちゃんに至っては18歳差だ。ほぼ親子の年齢だな。

俺も黄昏そうになった。最近、母さんも父さんも若返ってからなんか熱々だなぁと思ったら・・・

いや、夫婦だからそりゃ可笑しくはないけどさ。

 

「暫くは問題ないと思うけど、産休の申請をしたいんですが・・・・・・」

「あ、ああ。そりゃ構わんが・・・・・・」

 

祝い事なのにどこか喜びきれないような雰囲気の社長。まぁ、法務部の頭である母さんと総務部でも気心の知れた下原の小母さんがほぼ同時に抜けるのはキツいだろうな。

 

ただ、産休はほかの女性社員にも起こり得るし、大きな仕事が終わった今の時期に経験出来ると思えばむしろプラスなんじゃないだろうか。

等と言う事を夕食の場所で告げたら一斉に「誰だお前?」と言われてしまった。解せぬ。

 

「普段はボケーっと聞き役になってるお前が、いきなりそんな事言いだせばなぁ」

「恭二兄もあんまり人の事言えないよね?」

「キョーちゃん、ブーメラン、ワタシ知ッテル!」

 

にやにや笑っていた恭二の顔が一花とケイティからの集中砲火に一気にしかめ面に変わった。

基本難しい事は真一さんやシャーロットさんに投げてるからなぁ・・・俺達。

因みに我ら幼馴染トリオ最後の1人、沙織ちゃんはいつの間にかシャーロットさんの所に避難しておしゃべりをしている。

さっきまで恭二の隣に居た筈なのに・・・はえーよホセ。

 

兎に角。目出度い話ではあるが二人とも40を超えており高齢出産になるため、事前の身体チェックは入念に行う事になった。

その結果はなんと全く問題なし。肉体年齢を調べると20台後半の数字になっており、母子共に問題ないレベルだった。

実年齢との差に診察をした医師が驚愕し、機械の故障かもしれない、と再検査を言ってきたほどだ。ダンジョンによるアンチエイジング効果を改めて思い知らされた気分だ。

 

勿論、この情報は冒険者協会にとっても追い風になる情報だ。

最近、ブラス家の保有する物件を諸事情により出されてしまい、ヤマギシビルの住居スペースに住み着いたケイティも目を輝かせてこの情報を拡散させた。

勿論肉体年齢≠実年齢という部分だ。

 

妊娠してすぐの為体型に変化がまだ殆ど無い下原のおばさんとうちの母さん、それに広報所属のうちの女性社員、更にはなんとアメリカのブラス家のお婆様とお母様まで持ち出してダンジョンに入る前と現在のビフォー・アフターの写真を作成。

事前に本人達に許可を取って世界冒険者協会と各支部のHPにアップロードした所、サーバーがあっと言う間にダウンしたらしい。

 

「・・・・・・・・・アンビリーバボー」

「分かるぞー今の気持ち」

 

世界冒険者協会からの新情報!という名目で写真がネットにアップロードされた時はニコニコした表情で、この情報があれば冒険者全体に対する世論を良い方向に誘導できる、と意気込んでいたケイティが30分で真顔になり、サーバーが飛んだときには青い顔でそう呟いていた。

俺も経験があるから分かる。凄い!って気持ちじゃなくて怖い!ってなるんだよな。

恐らく1時間の間にとんでもない数のアクセスが集中したのが原因らしい。サーバー関係には相当気合を入れたと言ってたんだけどね。凄いな、アンチエイジング。

 

結局サーバーは更なる強化と数を増やす事で対策し、混乱は収束した。したが、今度は世界中にあのとんでもアンチエイジングの成果が出回るわけで。

魔石の単価が1時間ごとにドンドン高くなっているんですが。

例のカリフォルニアの変な兄ちゃんの開発した魔力計量器で大まかな基準は出せているので、世界冒険者協会は魔力値が200を超えれば大幅なアンチエイジング効果が、そこに達さなくても10を越えた辺りから若返り始めるという数値を公表している。

少なくともゴブリンの魔石位の魔力含有量だと10個は必要になる計算になるのだが。

現在、そのゴブリンの魔石ですら一つ10万円を超えていると言うね。ちょっと前まではもっと安かったんだ。アンチエイジングの効果があると騒がれていた頃でも数万円だったし。

 

各地の冒険者協会が『もっと魔石を!』とプラカードを持ったデモ隊に囲まれるようになり、世界冒険者協会も慌てて対策を立てている状況だ。

日本?勿論、今現在奥多摩の旅館は満室だよ?

 

「ドーシヨ!ドーシヨ!」

 

予想以上どころか予想より数十倍でかい反響になって返ってきた現状に、あわあわとケイティが報告書の束を読んでいる。

うわ、フランスの魔石相場すげぇ。何回ストップ高になってるんだ?

 

「こうなるって予想できなかったの?」

「・・・・・・健康なヒト、コンナに若さホシイ、知らなカッタ」

 

何でも長い事病床にあったケイティは何よりも命を繋ぐ事に全ての感情が集中していたらしく。

世の婦女が求めるアンチエイジングも、需要の一つ程度の認識だったそうだ。

 

「女性人気、トテモ大事・・・・・・ダカラ、イケる、思ッタノニ・・・・・・」

「いや、行けると思うよ?」

「・・・・・・why?」

 

呆気に取られたような顔をするケイティ。

最近は体も成長を始めており、初めて会った時の幼さは完全に消えたと思ってたんだが・・・・・・そういう顔すると余り変わってないように思えるなぁ。

まぁ。うまくいくかはわからんが・・・

 

「逆に考えるんだケイティ。『魔石を用意できないなら俺達が用意しなくても良い』って考えるんだ」

「・・・・・・エエト。ノックしてモシモーシ」

 

ケイティさん、そこは俺の頭だよ。中身が入ってるからね?そこには脳みそが入ってるからね?

 

 



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第八十五話 臨時冒険者(女性のみ)

誤字修正、ハクオロ様、244様いつもありがとうございます!


「はい、では皆さんバットはお持ちになりましたか?」

「「「はい!」」」

「ではバリアとアンチマジックをかけますので一列に並んでお待ちください」

「「「はい!」」」

 

御神苗さんの言葉に10名並んだお姉さま方が気合の入った声で返事を返した。

彼女達10名は冒険者協会主催のダンジョン探索ツアーに参加した『臨時』冒険者達だ。

ダンジョンにはいる免許は勿論所持していない為教官か2種免許持ちの人物と一緒でないとダンジョンに入る事はできない、一種免許すら持っていない。普段はまったく別の仕事をしていたり家庭を持っている人物達ばかりが10名。

これから2時間の間に2種以上の冒険者1名に1種免許もちの冒険者4名で彼女達をガードしながら彼らは2時間ほどかけて5層まで潜り、その間に全員が魔力200まで数値を上げる。

これが冒険者協会が増えた魔石需要に答える為に行った施策だ。

 

これを1日に4回、全国でも2種以上の冒険者が居るダンジョン5箇所で開催している。

つまり、1日に200名が魔力200以上になる計算だ。土日しか来れないって人も居るだろうし毎日だ。

うん、わかってる。全然足りないって事は。平行して2種免許もちの教育もしているがまるで足りてない現状だ。

何せ協会から政府に働きかけて、自衛官の2種持ちまで借り出している状況だからな。

 

ただこの200名を選ぶ際に、冒険者協会は一工夫入れてある。これが原因で、当初思っていたよりも反発は少なくなっている。

その一工夫は、「特別感」だ。

 

 

 

「入りたいって言うんなら皆冒険者にしちまえばいいんだよ」

 

そう言う俺にケイティは目をぱちくりと動かして、次に首を横に振った。

 

「ソレ、駄目デス。ダンジョン危ナイ、リスク高スギ、デス。教育、時間足リナイ」

「まあ、勿論1から教育なんてする気はないよ。でも5層までなら2種免許もちなら足手まとい付きでも潜れるだろ?」

「ソノ人数、足リマセン!」

「まあ、聞いてくれ。まず、魔力200になるの自体は5層まで潜れば普通達成する。ダンジョンの中を歩くだけでもそこそこ増えるしな」

 

そもそもダンジョンに潜れる人数が居ない為に頭を悩ませているケイティは若干言葉を荒げるも、俺も何も考えなしで提案しているわけじゃない。

教える人数、潜れる人数が足りてないからこんな問題になっている。この人材不足は需要に対して供給が間に合ってないから起こっているのだ。

なら、供給が間に合うまで待ってもらうしかない。その為にどう納得させるかが大事な所になる。

真面目にやったって絶対に人手不足なのは変わらないんだからな。

 

「最初に最低限の供給の数字を出すんだ。現在、国内で2種以上の冒険者を抱えるダンジョンは奥多摩、黒尾、西伊豆、大宰府の4箇所。これは流石に少なすぎるから京都も追加して5箇所で、毎日朝2回、夜2回の計4回。10名の人員に2種以上の冒険者1人に1種冒険者を4名のパーティーで護衛する」

『・・・切り替えます。続けてください』

 

翻訳の魔法を発動させてケイティが真剣な表情でこちらを見る。

聞いてくれる態勢になったらしい。ここ最近、日本語の勉強の為に翻訳を切ってる状況でずっと接してたから違和感がすげぇな。

 

『なら俺も翻訳で。1種を持ってる人は結構な数居るしバリアやアンチマジックがあれば5層までで危険になる事はまずありえない。2種免持ちは必ず1層ごとにバリアとアンチマジックを張り替える係、他の4名は主にピンチになったら助けに入る係で、1人で2、3人面倒を見てもらう』

『・・・・・・一つのダンジョンで日に4回・・・・・・2種持ちが3名居れば休みの日を挟みながら・・・・・・自衛隊に協力を要請すれば確かに出来ない事はないでしょう。しかし200名は少なすぎる。それに冒険者の数が足りない他国では』

『まず、俺は日本の解決策から伝えてある。事情を知らない他国の事までは流石に助言できないよ』

 

そう言ってケイティにまず前提が違う事を伝える。

世界冒険者協会の幹部であるケイティと俺とでは視点も持ってる情報も違うからな。

ただ、恐らくこの方法は規模や人数こそ変われど何処の国でも出来ると思う。

 

『で、ここからが肝心なんだが。例えばくじ引きをしたときにそのくじが外れたとして、何で外したんだって怒鳴り込む相手をケイティはどう思う?』

『軽蔑します』

『お、おう』

 

即答で返されて思わず言葉が止まってしまった。

翻訳で会話するときのケイティは、その。可愛らしさ成分が全部男らしさとか、潔さみたいなパラメーターに変換されてて非常にカッコいいんだが・・・

うん、この果断さ、嫌いじゃないんだけど戸惑うわ。

 

『まあ、兎も角。自身の運が悪い事を声高に宣伝するような真似になるわけだな。で、そのくじを使って順番を決めたりするのが世の中にはあるんだよね』

『・・・・・・ああ!抽選と言う事ですか!』

『そそ。毎日200名。必ず選ばれる中に入れなかったのは運が悪かったから。でも一度選ばれた人物は再度抽選されないからいつか必ず入れる。そして時間を稼いだ間に2種免許もちを増やす事が出来れば入る時間や入れるダンジョンも増えるよな?』

『この200名のうちにそのまま冒険者になると考える人がいるかもしれない。そうなれば冒険者の総数の底上げにもなるし、何より民意が!ほぼ全ての女性が冒険者を経験した、言わば冒険者予備軍になる!凄いチャンスになります!』

『まぁ、抽選の方法やすっごい身勝手な人は何の根拠も無く特別扱いを求めてきたりするからトラブルはあると思うけどね』

 

そこら辺は普通のクレーマーとかと同じ扱いでいいだろう。一々相手にするだけ無駄だしな。

俺の言葉にケイティは頷いて、早速携帯電話を取り出した。

程なく全世界の冒険者協会のHPに『臨時冒険者登録フォーム』が設けられ、またサーバーが落ちたのは・・・まぁ、しょうがないだろう。



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第八十六話 福岡へ

「大変そうだな」

『大変どころじゃなかとよ!』

 

太宰府ダンジョンの昭夫くんからの久しぶりの連絡は、愚痴と悲鳴が混じった物だった。

最早バブルと言っても過言じゃない熱狂的な魔石需要の中、九州最強の冒険者である彼に暇な日なんて存在しない。高校に通いながら後進の育成を行って居たところにいきなり来たこの魔石需要の嵐。ここ最近は学校側が公休扱いで、プリント等で家で勉強をしながらダンジョンで臨時冒険者達を指導しているらしい。

 

そこまでは良い。元々彼は大家族の長男で、苦しい家計を支える為にダンジョンに潜っていた。今回の需要増は確かにキツいが、最悪学校を辞めてでもお金を得る為に頑張る。と。

ただ、幼さの残る整った顔立ちの彼が、九州のお姉様方の心を鷲掴みにしてしまったのが問題らしい。

 

「爆発しちまえ」

『何ばいいよっと!?』

 

ファン倶楽部ってなんだ。冒険者の仲間から愚痴を聞いてたと思ったら急にアイドルになりました、とか意味わからんのだが。

今日も昼にコンビニで弁当を買おうとしたら臨時冒険者のお姉様方にお弁当を分けてもらったらしい。

しかも手作りだとか。何それ羨まし過ぎるだろう。

 

ネットの方を見ると、なんと非公式のファンサイトまで存在した。

基本潜っている時以外は昭夫くんもダンジョン前の事務所に詰めているらしいから遭遇する可能性も高いし、下手な地下アイドルよりもアイドルらしい顔立ちと相まって口コミで人気上昇中なんだとか。

 

 

 

 

「いや、それならヤマギシチームみんなファン倶楽部あるじゃん」

「嘘だろおい」

「一番会員多いのお兄ちゃんだよ?次がさお姉で、その次が真一さん!」

 

何それ初耳なんだけど。

と言っても勿論公式の物ではなく、非公式なファン倶楽部らしい。らしい、というのは一応ヤマギシにファン倶楽部を作って良いか問い合わせが合った際に許可をしたので、公式にヤマギシが関与している訳ではないが、事実上黙認している、というややこしい存在なのだそうだ。

 

「だってお兄ちゃんも恭二兄も絶対嫌がるでしょ?」

 

妹に思考回路を完全に見透かされてるんだが。

 

「まぁ、でも今回の昭夫くんの件は渡りに船かもね!」

「ハイ。昭夫、カワイイ。人気出ル分カッテタ」

「ここらで冒険者個々人の人気アップを図るのも手かも?今は、冒険者=ヤマギシチームだから、良くも悪くもヤマギシの皆にしかスポットが当たってないけど・・・」

「人気出ル。認メラレル。名誉アル仕事、ナリマス!」

 

名誉ある仕事か。

例えば子供の頃になりたい職業を聞かれたとき。パイロットや医者といった名前の中に冒険者という言葉が入るようになれば、って事だろうな。

一度そうやって認められてしまえば、そう簡単にその評価を貶められる事もなくなるだろう。

 

「どんな分野にも第一人者や著名な人物は居ます。今まではヤマギシが。そしてケイティやウィルが続いて、更に昭夫君。成る程、確かに攻め時かもしれません」

「なんか支援した方がいいかな?」

「ファン倶楽部、接触シテ見ル、ヤリマス!」

 

元々報道関係者で、広報の担当もしているシャーロットさんが頷いた為に一気に話が進んだな。

この過程に昭夫くんの意思が反映されてないのは可哀想だが。女性ばっかりにちやほやされてる以上同情はしない。

ただ、家族にまで迷惑が行かないように気遣いはしとくよう伝えておこう。

 

 

 

「なんて言ってたら福岡に来ちまったぜ」

「連れてきちまったぜ!」

 

イラッと来たので一花の頭の上にカバンを乗せる。

というか、このカバンもこいつの私物だ。やたら重かったけど何が入っとるんだ?

 

『ハハハ!本当に仲が良いな君たちは!ボス、そろそろ合流時間ですよ』

「おっけー。ありがとうジャン」

『いえいえ。太宰府ですか、楽しみです』

 

重い荷物といえばこの人もだ。

今回、引率役代わりに俺達についてきた撮影班のジャンさんもやたらと重そうなカバンやバッグをストレングスまで使って持ち運んでる。

この人も例の魔力測定器でエラーを出す位ダンジョンに潜ってる歴戦の冒険者だから、これ位は楽勝なんだろうが・・・

 

「お、見っけた」

 

一花が指差す方を見ると、成る程間違いないと分かる車両が空港の前に止められていた。

冒険者協会仕様のSUVだ・・・・・・街中でこれを乗り回してるのか福岡支部。

いや、乗り心地も良いしちゃんと街中を走れる車なんだけどさ。派手すぎじゃね?

 

「イチローさん!と、い、一花ちゃんお久しぶりです!」

「お、標準語頑張ってるね!でも翻訳でも良いよ?」

「か、か、からかわんでくれん」

 

相変わらず女の前だと急におどおどしだす純情ボーイ。うん。久しぶりに見る昭夫くんだ。

とりあえず写メってコミュニティに流しとこ。

 

「そ、それで。急に呼ばれて来たけんよう分からんけど、手伝いに来てくれたとね?」

「うん、2種免許持ちを増やしたいんでしょ?今3名だっけ」

「そ、そうや。俺含めて4人で回しちょるけん、皆大変で・・・」

 

一日4回と考えても誰かが休みを取ったりしないといけないわけで・・・昭夫君、マジでフル出勤してるのか?

ずっと居るって聞いてたけど・・・・・・体力は回復魔法で回復するが心は休みがないといかん。

 

「おっけーおっけー。じゃあ、私達が居る間にあと10人は増やさないとね!」

「学校がある一花は兎も角、俺は暫く居るから。安定するまでは手伝うよ」

「ほんとか!助かるばい!」

「ううん、こっちも別件で昭夫君に用事があったからね!」

 

そう言って一花は重たいバッグから黒い髑髏が描かれたヘルメットを取り出した。

それを見た瞬間に昭夫くんは俺を見て、再度一花を見て顔を青ざめる。

じゃ、11層行こうぜ昭夫君。

 




ジャンさん:ヤマギシ撮影班の1人。普段は一花の問い掛けに『OK!ボス!』とだけ言う係。

昭夫くん:初回の教官訓練参加者。現在九州最強の冒険者であり、高校生だが学校側の配慮()でダンジョンに掛かりっきりの状態。


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第八十七話 お前と俺でダブルライダー

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全身を黒く染め上げたボディスーツ。骸骨のマスクを着けた男は、一人荒野をバイクで走っていた。

黒いマフラーを靡かせながら走る彼は何かに気づいたように前方を見やると、砂埃をたてながらバイクを止めた。

前方には巨大な作り物の巨人が土の中から盛り上がり、彼を待ち受けるように佇んでいる。

ゆっくりと自身に向かってくる巨人を、バイクを降りた彼は髑髏の奥の瞳で捉えた。

 

 

 

「はい、カット!お兄ちゃん、やっちゃえ!」

「あいよ」

 

用済みのゴーレムはチャージしたグレネードバスターで吹き飛ばす。この瞬間が堪らない。

勿論今回のドロップ品の取り分は見事な演技を見せてくれた主演の物だ。

 

「嬉しいばってん・・・納得いかん」

 

髑髏マスクを着けた昭夫君が唸りながら腕を組んだ。

そう。今回、撮影されていたのは昭夫君だ。最近、変身した物に引っ張られそうで新しい変身をしてないから、ちょっと動画が滞っていた。

それで何故昭夫君がこんな格好なのかというと、彼のあがりやすさを多少でもマシにするためだ。

 

ファン倶楽部の話が出た時、昭夫君の上がりやすさと純さが話題になった。恐らく経験不足によるものだろうが、彼の純さは長所でもあるが短所でもあると。

つまり、普通には経験出来ないような目に遭わせて慣れちまえば良い、ついでに動画撮影の新しいアクセントになれば良いなぁ、位のノリでこの撮影は行われている。 

 

勿論報酬は奮発してあるし、昭夫くんは顔を出すことは無い。というか報酬の額を聞いた瞬間に一花に縋り付いてたし・・・一番お金になるゴーレム狩りはしてないはずだが、ここ最近の魔石需要で大分稼いでるんじゃないのか、と聞いてみたら苦労をかけた両親の為に、家を建て替えてあげたいとの事だった。

一花に頼んで撮影の報酬を少し上乗せしてもらった。こういうのに弱いんだよ俺・・・

 

そして、昭夫君に渡したこの黒いボディアーマー、こいつはヤマギシ開発部渾身の力作だ。

キマイラの皮革を惜しげもなく使ってアーマーを作り、内部と関節部には協力してくれたメーカーから入手した難燃性の布地を使用。全身に魔鉄を主体にした合金で出来た極細金属糸でコーティング。この金属糸にアンチマジック・バリア・エアコントロール・ウエイトレスをエンチャントしているから、魔力を持った人が着れば非常に快適に動く事が出来る。

右腕のナックルガードとブーツの金具にはサンダーボルトを付与してあり、電磁パンチと電磁キックも再現した。

 

更にこの髑髏柄のメット。こいつはヤマギシチームが使用しているメットと根本的には同じ物なのだが、変身の魔法をエンチャントしてあり、魔力持ちが魔力を流すと髑髏のマークが浮かび上がるようになっている。

通常の変身と同じように使用者の視界を妨げない優れ物だ。

 

「これ。このツーショットが欲しかった・・・!あ、昭夫ライダーはもうちょいポーズこうね」

「あ、はい。昭夫ライダー?」

「オリジナルは滝ライダーだしね」

「あ、はぁ・・・昭夫ライダー・・・」

「うむ、いい構えだ昭夫ライダー。先輩として鼻が高いぞ!」

「全然嬉しくなかとよ」

 

そこは冷静に突っ込まないでくれよ。

一先ず撮影を終わりダンジョンから出る。ジャンさんに後で見せてもらった昭夫ライダーとライダーマンのツーショットは非常に良い出来だった。

こう、今にも「今日は俺とお前でダブルライダーだ」的なノリというかね。

取り敢えずこれも冒険者のコミュニティに流しといて・・・あ、初代様にも送っとこ。

 

 

 

太宰府ダンジョンの内部は奥多摩とそれほど違いは無いようだった。念の為に10層までを昭夫くんと潜って様子を見てみたが、おおまかな内部の構造は変化がないらしい。精々道順が違うくらいか。

今回の俺達の役割は昭夫君の負担軽減と人材育成、及び手が出せる範囲での支援だ。

 

「すげぇ、このボディアーマー、全然重く感じない」

「暑くもない。これ本当に着てるのか?違和感が無さ過ぎる」

「ふふふ。そうだろうそうだろう」

 

調子に乗ったように含み笑いを浮かべる一花。凄いのはお前じゃなくて開発チームだからな。因みにこの装備品もこの支援に含まれている。

まぁ、全部昭夫君に渡したボディアーマーとほぼ同じ物なんだが。流石に昭夫君に追随してダンジョンに潜ってるだけはあり、着ているだけで魔力を消費するこのボディアーマーを着ても特に違和感は感じないようだ。

 

これらの装備品に関してはモニターを兼任して貰う為、無償提供となる。ヤマギシチームの方でも使っているが、俺達完全な熟練の冒険者だけじゃなく、色々な段階の冒険者に使用してもらってデータを集めないといけない。何しろこれからは『マジックアイテムの開発はヤマギシ』と言われるようにブランド化を進めたいのだから、こういったデータは非常に貴重な物になる。

 

これから彼らは二種免許を取得するまで俺と一花の指導を受けて貰う。魔法や基本的に注意すべき事柄は一花が、ダンジョン内部での行動・・・二種免許持ちに求められる素人や新人へのカバーのやり方にダンジョン内部

での気配の探り方といった、熟練の冒険者になる為に必要な技能は俺が教えることになる。

 

教官免許の取得を目指すにしてもこれらの能力は必須技能だからな。

場合によっては今の昭夫くんみたいにチヤホヤされるかも・・・と一花が呟いたら目に見えてやる気になった数名を醒めた目で眺めながら、俺と一花の太宰府ブートキャンプはスタートした。




昭夫くん:実は割とノリ気。ただ、生来の恥ずかしがりな性格が表にでやすい。

お前と俺でダブルライダー:仮面ライダーSPIRITSマジSPIRITS。一郎と一花で牙狼と滝ライダーのどちらが良いか悩んだ結果採用。


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第八十八話 西伊豆問題

誤字修正、244様ありがとうございます!


第八十八話 西伊豆問題

 

 

マスターイチカぱねぇ。

 

「フレイムインフェルノ!」

「ヒール!」

 

つい2、3日前までライトボールやファイアボール位をギリギリ覚えた、という魔法が苦手だという人物にたった3日で必要最低限の魔法を全て教え込みやがった。

勿論一花式ブートキャンプは封印した上で、だ。あれは本人に相当な覚悟が無ければ出来ないからな。

 

「相手が魔法をどういうイメージで使おうとしてるかをちゃんと把握しなきゃ駄目だよ。自分はこうだからこう教えた、だとイメージが掴めるまでに時間がかかっちゃう」

「む、難しかね・・・」

「大丈夫!要は相手と仲良くなって、何を考えてるのか分かろうってことだから!昭夫くんならヨユーだよ!」

 

自身の教育法を出来るだけ昭夫に伝えようと一花はここ数日、自分の教育の時は時間が合えば昭夫くんにも見てもらっているらしい。

現在教官免許持ちの専業冒険者は東京に固まっている。そんな中、唯一西日本で教官免許保持者がいる太宰府ダンジョンはある意味西日本の冒険者の受け皿になる事を期待されているし、俺達ヤマギシチームも昭夫くんとそのパーティーには期待している。

 

何せ彼らが一線級の冒険者になり、一線級の教官になってくれれば奥多摩に集中している育成の負担が軽減されるからだ。

今回見て感じる限り皆熱意もあるし、冒険者という職業についても真剣に考えてくれている。こんな人たちなら、支援し甲斐があるというもんだ。

 

 

 

まぁ、どこもそうなら良かったんだがなぁ。

西伊豆のダンジョンにヘルプに行っていた御神苗さんとデビッドから、悲鳴のようなヘルプ要請が入ってきた。

西伊豆ダンジョンはまるで人が育っておらず、毎日4回のアタックは無理。人員の追加を求むという物だ。

しかも、育ってないのは2種免許持ちどころか、1種冒険者も、という惨状。

 

西伊豆の佐伯さん達は、本当に自身の事しかしていなかったらしい。身内の人間を冒険者にしてやる、と言ってダンジョン内部に連れ込み、魔石を取ってそれを換金といった毎日を過ごしていたらしく、合宿の時よりも技能も動きも衰えていたそうだ。

 

その上、お寺の敷地内にあるダンジョンを檀家だから、という理由で私物化。現地の冒険者協会の人間の言う事には表面上従うそうだが、あれやこれやと理由をつけて協力を拒否する事も多いらしい。

しかも、今現在行っている臨時冒険者のダンジョンアタックについては、数回行ったあと日当が安すぎると文句をつけて、協会の要請も無視して魔石狩りを行っているらしい。

 

『彼らがここまで愚かだとは思わなかった』

 

同じチームの一員だった御神苗さんは、電話口でそう言って暫く黙り込んだ。

勿論こんな事が許される筈も無い。彼らは少なくとも一時期は日本代表の冒険者教官候補だったのだから。

現在、魔石需要がバブルのように跳ね上がっているせいで日本冒険者協会は完全にキャパシティを越えてしまっている為何の対応も取れていないが、この状況が終われば彼らは冒険者として活動する事は出来なくなるだろう。

 

 

 

「じゃ、お馬鹿さん達のお仕置きに行ってくるね!」

「おう、気を付けて。御神苗さんとデビッドによろしくな」

 

現地の人員が全く当てにできない以上、余裕のある所から補充を入れるしかない。

京都に応援に行っていた恭二と沙織ちゃんからは恭二が、福岡からは一花が応援要員として西伊豆に行く事になった。

現地冒険者に問題があるため本当は俺がいく方が良いんだが、育成の技術だと明らかに一花が群を抜いているからな。

向こうの教育をしっかりしないと他に影響が出かねない現状、最も適正のある一花が抜擢されたそうだ。

 

それと、奥多摩の方からは俺達の剣の師匠である安藤さんが応援に行ってくれるそうだ。

現地には安藤さんの流派の道場があるらしいから、そちらの門下生を1種冒険者にして人員の補充も行ってくれるらしい。

この人員不足の中、本当にありがたい。育成の際の助力と良い、本当に安藤さんには足を向けて眠れんな。

戻るときのお土産は奮発しないといけないな。昭夫君に何が良いか聞いてみるか。

 

空港まで一花を送った後、俺とジャンさんはそのまま少し回り道をして昭夫君を迎えに行く。

彼は元々バイク通勤をしているのだが、最近その姿をカメラで収めようとカメコの人たちが多くてバイクでの移動が困難になっているらしい。

原因は勿論先日取った動画・・・・・・も原因だが、一番の理由は昭夫君のうっかりである。

昭夫くん、普段の臨時冒険者のダンジョンアタックの際に、特別仕様のボディスーツとメットを使ってしまったのだ。

 

ヘルメットを被った瞬間に現れるドクロのマークにその時の女性陣は騒然。「あ、間違えたと!」と顔を赤らめながらメットを外す昭夫くんに更に騒然。

結果、つぶやきでメット姿の昭夫くんがネット上に流れ、しかもタイミング悪く初代様が「我が弟子が友の後継者に」とかなんとかつぶやいてダブルライダーの画像を呟いてたからあっと言う間に拡散される事態が起こった。

 

奥多摩から何人か見知った顔が大宰府に流れて来てたのには少し笑ってしまったが。行動力すげぇなおっさん達。

事ここに至ってはと予定を前倒しで昭夫君のアイドル化計画をジャンさんは進めているし、何だかんだ昭夫君も女性の扱いには慣れてきたのか、前ほどひどい上がり方はしないようになってきている。2種免許持ちがもう少し増えれば大宰府ダンジョンは一先ず安定するだろう。

 

そう思っていた数日後。西伊豆ダンジョンに応援に行った恭二から電話が入ってくる。

それは一花とデビッドが、現地の冒険者にダンジョン内で襲われたという連絡だった。




昭夫くん:間の悪さに関しては遠坂さん家並かも知れない

初代様:ある意味神掛かっている。出来れば一郎共々本当にライダーの後輩にならないかなぁと思っているが無理強いするつもりはない模様。


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第八十九話 暴走(弱)

BJ(偽)のノリがどうしても出てしまう・・・ちょっと安定しない文章で申し訳ない・・・

後、後書きにカスタムキャストを使って挿絵を入れてみました。初めての試みなので上手く言ってなかったら教えて下さい。

誤字修正、244様ありがとうございます!


横合いからすぱん、と顔を叩かれる。

痛い、というより驚いた。一瞬、意識が真っ白に飛びそうになっていたのが、急に視界が開けたように感じたからだ。

 

「・・・痛ぇな、昭夫くん」

「やかましか」

 

殴られたのに罵倒された。解せぬ。

 

「解せぬじゃなか。どうすっとよこの部屋」

「・・・うん?」

 

ふと昭夫君に固定されていた視線を周囲に向ける。

先ほどまで和風の居間だった宿舎の一室は、俺を中心に見るも無残にぼろぼろになっていた。

良く見ると昭夫君の衣服もかなりダメージを受けている。

 

「・・・ここはどこ?私はだれ」

「下手なボケはいらんとよ。何があった?あのウネウネは?この部屋片付けるのは?」

「あ、はいごめんなさい」

 

初めて見る昭夫君の激オコっぷりに俺は居住まいを正して正座した。

 

 

 

「すぐ西伊豆に行こう」

 

話し終えた後。昭夫君はダンジョンの職員さんに連絡を取り車を回してくれた。

昭夫君・・・ありがてぇ・・・

ありがたいが仕事は良いのかと言うと、慌てたように今日非番の人に連絡を取っていたのは昭夫君だなぁと思ってしまった。

いや、違う。こういった仕事は本来俺がやらなければいけないのだ。

携帯電話を取り出して真一さんに連絡を入れる。

 

『わかった。すぐそちらは何とかするよう手配する。叔父さん達も今出先から西伊豆に向かったそうだ。飛行機は手配しておく』

「すみません」

『気にするな。きっと大丈夫だ。俺もこちらが片付いたら現地に向かう。詳しい事が分かったら連絡を入れるから携帯は持っていてくれ・・・・・・向こうで会おう』

「はい」

 

そう言って、真一さんは電話を切った。ダンジョン内で冒険者が他の冒険者に襲われるといった事態に、冒険者協会側もかなり紛糾しているらしい。

俺と前後する形で現地の協会の職員から奥多摩にも連絡が入っていたらしい。

今回の事件はヤマギシの一員が被害者である以上、社長や真一さんは代表として奥多摩に待機して協会とやり取りをしているらしい。

職員からの連絡では詳しい事は判明せず、御神苗さんが現地の責任者として警察の事情聴取に付き合っているせいで中々続報も来ないらしいが、恭二がそろそろ現地入りするため、そちらからの情報を待っているところ、だそうだ。

 

昭夫君に詳細を伝えて、とりあえずの人員の目処は立ったことを伝えると、彼はほっとしたようにため息をついた。

というか昭夫君、完全についてくる気満々だけど別に付き合わなくても良いんだよ?と尋ねると、

 

『いや、新幹線の中でこれまたやらかしたらどうする気です?』

「面目次第もございません」

 

翻訳まで使われて本気の口調でボロボロになった部屋を指差された為、すぐに降参の白旗をあげた。

ここみんなで使う休憩室だもんね。うん、本当にごめん。

魔鉄でも握っていくか・・・したくないけどしゃあない。

右腕が使えなくなるが予防になるしな。

 

 

 

静岡の空港から電車に乗って更にバスに乗り換えて。

非常に長い旅路の末、俺と昭夫君はようやく西伊豆にたどり着いた。

そして、現地で俺と昭夫君を向かえたのは。

 

「あ、お兄ちゃん来たんだ」

「・・・来たんだじゃねぇぞ・・・・・・」

『やぁ、イチロー。すまない、心配をかけたみたいで』

「おう、やっぱ遠かったみたいだな」

「二人とも、お疲れ様。昭夫くん、お久しぶり~!」

 

ヤマギシの借り上げた社宅に取るものも取らずに駆けつけた俺と昭夫君を、のんびりと居間でお茶を飲みながら一花とデビッド、それに恭二と沙織ちゃんが出迎えてくれた。

安堵と脱力と、こみ上げてくる怒りを感じながら右腕にくくりつけた魔鉄を取る。

ハルクになっちまいそうな位に腹は立っているが、この場には恭二もいるし最悪こいつが殴って止めてくれるだろう。右腕無いと歩きにくいし。

 

「お父さんたちももうすぐ来るって。私もちょっと病院で女のお医者さんに検査されてたからさ!連絡遅れてごめんね!」

『僕も警察から解放されたの、ついさっきだからさ。翻訳が出来るのに英語が出来る人を連れてくるって聞かないんだよ!非効率的だよね!』

「わかった。頼む、怒りの矛先をくれ。何があったんだ?」

 

二人同時に頭を下げられたが、わざわざ5、6時間もかけて特急で急いで福岡から飛んできたのだ。

これで勘違いでした、だと流石に付き合ってくれた昭夫君に申し訳なさ過ぎる。

俺の問いに一花とデビッドは互いに顔を見合わせ、ついで恭二と沙織ちゃんに視線を向ける。

なんだ?と訝しむ俺に恭二はぽりぽりと頬をかきながら魔鉄を収納から取り出して俺の隣に立った。

非常に嫌な予感がするが・・・デビッド。お前も何故俺の隣に来る?暴れるから?暴れる内容なのか?

 

「うーんと。あのさ、本当に何も無かったから取り乱さないで聞いてよ?」

「・・・待て。恭二、それ、やっぱり魔鉄くくりつけてくれ」

「おk」

 

嫌な予感が天元突破した為右腕にテープを使って魔石をくくりつける。ハルクの怒りの増幅が発動したら誰も止められなくなっちまうかもしれんからな。

恭二ならレールガンを使ってでも止めて来るかも知れんが・・・・・・いやそれ下手したら俺死んでるか。

右側に恭二、左側にデビッド。空気を読んだのか背後に昭夫君が立ち・・・俺は囚人かなにかか。

話が出来る状態になったと判断したのか、一花は口を開いた。

 

「まず、佐伯さんって重度のロリコンみたいでダンジョン内でいきなりプロポーズされちゃったんだよね」

 

きゃっ、言っちゃった。とばかりに戯ける一花を見て、俺は言われた言葉をゆっくりと頭の中で咀嚼した。

 

「ほー。プロ・・・・・・・・・・・・・・・・・・佐えきぃいいい!!」

「お、落ち着け一郎!気持ちは分かる!気持ちは分かるぞ!」

「だったら離せぇ!プ、プ、プロポぉおあああ!」

『凄い力だ!ストレングスを使ってるのに!』

 

全力で家を飛び出そうとした俺を恭二とデビッド、更に昭夫君の3人が拘束する。

 

「あーあ・・・」

「予想通りだねぇ」

 

呆れたように呟く女子陣を尻目に俺達の格闘は恭二がネットで俺をがんじがらめにするまで続く事になった。

 




参考までに一花さんの画像作ってみました。


【挿絵表示】


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第九十話 「貴女と、合体したい!」「○ね♪」

すっごい低俗な内容になったので次回に飛ばしても大丈夫です。サブタイどおりの話なんで(汗)

誤字修正、244様ありがとうございます!


『教官殿!けけけ結婚を前提に、お付き合いしてください!』

『は?やだ!』

『うおおおお!な、ななな何故ですか!』

 

まずは最初にがつんと行こうと思い、佐伯ともう1人の合宿経験者の足立、そして何名かの取り巻きを連れて一花はダンジョンに潜ったらしい。

と言っても最近の彼らの評判を省みるに1人では流石に無用心なので、デビッドと協会職員で1級免許を持っている人間も連れた上でだ。

 

協会職員の人からも、最後のチャンスをと言われていたので実技の確認がてら彼らのダンジョンアタックを見ていた。

勿論、途中途中で指導を交えながら。思っていたよりも技量というか、判断力などが衰えていたのを感じた一花は、10層まで潜り終えた後にその点を告げた。

このままでは2種冒険者として免許を保持し続けるのは難しい、と。

で、帰ってきたのが上の言葉だった。

 

 

 

『ごめん、全然意味が分からない』

「わかんないよね。私も分からないし一緒に居たデビッドもそれどころか身内のはずの足立さんもわかんなかったって」

 

翻訳まで使った昭夫君のマジレスに一花は笑ってそう答えた。

俺?俺は今ネットに包まれて畳の上でごそごそしてるよ。

恭二の野郎、口まで塞ぎやがった。

 

「この後に何か感極まったのか『教官殿!わ、私は、貴女と合体したい!』『○ね♪』みたいなハートフルボッコストーリーがあったんだけど」

「もがもが」

「あはっ♪全然意味わかんない」

 

そりゃ口までネットで塞がれてっからな。

で、二人が襲われたという話はここからだそうだ。

 

『まぁ、あの。本当に実害はなかったんだけどさ。サエキ、急に一花に飛び掛ったんだよね』

「あんまりにも気持ち悪くて蹴り倒したんだけど、また立ち上がって笑顔で飛び掛ってきてさ!最後には皆で引き剥がそうとしたんだけどそうしたら暴れ始めて」

 

ストレングスまで使って拘束を振りほどき、一花に抱きついてきたらしい。

バリアがある以上、そこそこの打撃なんかはまるで意味を成さない。成人している自身と一花では体格差もあるし、多少ストレングスの効果が劣っていても力押しできると思ったのか。

その目論見は、一花の使ったアンチマジックの派生魔法で意味を成さなかったらしいが。

 

「前々から練習してたんだけど、まさかこんな事で使う事になるなんてね・・・」

 

アンチマジックは基本的に自身の周囲に張り巡らされる為効果範囲が薄い。

相手のストレングス等のバフ系魔法は攻撃魔法などのように弾いてくれず、接触できる位の距離で再度唱えないと解除できなかったりする。

また、口を塞がれると使えなくなってしまう。

エンチャントによって継続的にアンチマジックを行い続けるアイテムを作ったりと研究もしているが、一花はこれを右手や体の一部にエンチャントして、魔法消去能力を維持する事が出来ないかと考えていたらしい。

 

「幻想殺しが出来ないかなーと思ったんだけど無理だったね」

「もが」

「まあ、ストレングスさえ解除しちゃえばこっちのもんだよ。ついでにビンタと股間蹴りしといたから私はもう気が済んだかな」

『彼、金的を受けた後も脂汗を浮かべたまま笑顔でマスターに縋り付こうとしてたね』

 

沙織ちゃん以外のこの場にいる人間が少し前かがみになった。

この時の騒動が原因でダンジョン内で襲われた、という話になったらしい。デビッドも拘束を振り解かれた時に結構良いのを貰ったみたいだし、間違ってはいないだろう。

間違っては居ないんだろうが・・・・・・

 

「今、ヤマギシ本社とか東京とかがすげー騒ぎになってるんだけど」

「いや、当然じゃない?これ完全にダンジョン内での婦女暴行だよ?こっちがボコボコにしたけどね!」

『男として同情するダメージを受けてたけど、人間として、同じ冒険者としては心底軽蔑するよ。自分の欲望に負けて・・・』

 

恭二の言葉に被害者となった一花とデビッドはそう答えた。

入れ違いで俺達が来た為に、真一さんから俺達への連絡は間に合わない形になったが、警察からの事情聴取を終えたデビッドが本社のシャーロットさんにすでにあらましを報告してあるらしい。

そろそろ落ち着いたので拘束を解け、と床に頭をゴンゴンとたたきつける。気づいた恭二がアンチマジックを唱えて、俺はネットから開放される事になった。

肝心の佐伯はすでにお縄になっており、警察署で事情聴取を受けているところらしい。

 

真一さんは電話の内容を聞いた後に、切れて良いのかこんな奴を教育していたと嘆けば良いのかわからない、と微妙な連絡をよこしてきた。

ヤマギシ経由で事情を知らされた協会側も対応に苦慮しているらしい。特に彼を推薦していたとある上官は彼のキャンプでの成績も相まって非常に不味い立場になっているそうだ。知らんけど。

警察側もレベル10冒険者である佐伯を長期抑留する為に奥多摩の冒険者免許持ちの機動隊員を臨時で呼び寄せたりと多大な迷惑を被っており、冒険者協会は折角の好印象が続いていた所に大幅なブレーキをかけられることになった。

 

「所で、なんで佐伯さん、あんなとち狂ってたんだ?キャンプの時はただの不真面目な兄ちゃんだったよな」

「ああしてれば私の指導が一杯受けられるからだって」

『マスターは、成績の悪い生徒に教える事が多かったからね・・・』

 

何でも元々ロリコン気味な所があり、ネットなどで俺と一緒に出てくる一花に前々から目をつけていたらしい。

実際に会ったら粉をかけようかと考えていたそうだが、そこで思っていたのとは違う形で一花の厳しい指導を受け、それに憤懣を持つのではなく何故か開いてはいけない扉を開いてしまったらしい。

後ほど、事情聴取から開解された足立さんはそう言って一花とデビッドに頭を下げた。

 

佐伯は地元有数の名士の子供で、足立さんの家系は代々お世話になっているらしく幼少期からの付き合いがあったらしい。

前回のキャンプでも半ば佐伯さんの付き人位の感覚で参加していた為・・・真面目に教えていた俺達としては業腹ものだが、その点はその場で申し訳ない、家の関係上断る事もできなかったと謝られた・・・足立さん自体は落第にも特にショックを受けていなかったのだが、佐伯さんは違った。

戻ってきた後の佐伯さんは完全に頭のねじが外れてしまっていたらしく、狼藉の多さに家族の方でも庇い立てが出来なくなっていた所だったそうだ。

彼と佐伯家は警察の取調べにも非常に協力的らしい。

 

冒険者協会は佐伯の2種冒険者免許を剥奪する事を決定。足立さんは現地冒険者の代表として西伊豆ダンジョンでの冒険者育成及び臨時冒険者のダンジョンアタックを支援する事を約束したそうだ。

一先ず、今回の暴行事件についての現場での処理は終わった。だが、まあ問題はこれからだろう。先ほどの電話のやり取りを思い出し、これから来る日本冒険者協会への嵐に他人事のように大変だなぁと考えた。

ケイティ、マジギレだったなぁ・・・・・・ヤマギシには火の粉は飛ばないって言ってたけど。

ま、あんまりストレス貯めて暴走しても困るし。今日の教育頑張るか。




佐伯さん:気持ち悪い人を書こうと思ったら予想より気持ち悪くてぱちぱちもちょっとびっくりしている人。重度のロリコンにM属性まで付属してある。

足立さん:全然興味が無い分野に無理やりいかされて落第してようやく元の生活に戻れると思ったら雇い主側の跡取りが精神的におかしくなってしまい踏んだり蹴ったりな人。


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第九十一話 さらば福岡

誤字修正、244様ありがとうございます!


『喜べ一郎!前に教育したマニーたちを覚えているか?あの5人組の米兵』

「ああ、懐かしいな。どうした、連絡でも来たのか?」

『来年3月一杯で除隊して、うちに来てくれることになった!』

「マジで!?」

 

福岡に戻って数週間。毎日ダンジョンに潜る日々を過ごしていた俺に、久方ぶりの朗報が恭二からもたらされた。

マニー達は以前米軍がヤマギシに救助を申し出た件で助けた兵士で、一昨年行っていた自衛隊・米軍共同の教官育成に参加した軍曹達だ。

別れ際に恭二といつかヤマギシで雇うと約束をしていたらしいが、まさか本当に来てくれるとは思わなかった。

 

何でも彼らはダンジョンに関わる人員の教育に功ありとして新しく創設されたダンジョン出征勲章やパープルハート勲章、シルバースター勲章など、いくつも勲章を獲得し、胸に沢山のバッジをつけて名誉除隊証を受け取る事ができるそうだ。

日本語はまだ未修得だそうだが、全員翻訳魔法を覚えているしこちらでの生活も問題ないだろうし、何よりも彼らは現在でレベル20。ゴーレムの相手も難なくこなせる逸材たちだ。

 

それに教官としての経歴も長いため、2種免許冒険者の育成も任せる事ができる。これ以上ないほどに嬉しい朗報だった。

この事を聞いたケイティがヤマギシのアメリカ支部を作ってそちらで面倒をみてはどうかと提案してきたそうだが、本部の人員不足が深刻な状況なのでそれはできないと断られて非常に残念がっていたらしい。

 

そう。人員不足なのだ。

そろそろ年末になるというのにまるで衰えない女性の波。一応年末年始期間は行わないと事前告知をしてあるが、そんな事はしったこっちゃないとばかりに臨時冒険者達は毎日毎日ダンジョンに詰め掛けている。

また、臨時冒険者の中にはその後1種免許を取得し本当に冒険者になった人も多数居るため、教育に専念しているヤマギシチームのメンバーは殆ど休みなしで教導教導また教導といった毎日を過ごしていた。

 

まぁ、11月を超えて12月前には2種持ちの冒険者もかなり増えた為、臨時冒険者は2種免許保持者に任せて教官免許持ちは2種免許保持者を増やす事に専念できた。国内に位置する全てのダンジョンにある程度2種免許もちを所属させる事ができた為、ヤマギシチームもそれぞれが年末には奥多摩に戻る事ができるだろう。

教官免許保持者も増やしたいのだが、あれこそしっかりとした環境で教育しないといけないからな。

 

暴行事件のせいで来年の日本枠は削られそうなんだけどな。

ケイティマジ怖いわ。世界冒険者協会名義で日本冒険者協会に送られた文章はもう、筆舌にし難いほどの怒りで満ち溢れていたらしい。

曰く、世界中で冒険者が受け入れられそうなこのタイミングでこの不祥事、どう始末をつけるのか。そもそもどういった選考基準で候補者を選んでいるのか開示の要求。開示できないのなら次回以降の教官教育は全て世界冒険者協会が主導で行う。ヤマギシ側との折衝も全てコチラが行う。

 

完全に日本冒険者協会が信用できないといった内容で、協会側もこの言い草にはかなり頭に来たようなのだが、次に世界冒険者協会側がとった行動で一気に顔を赤から青に染める事になった。

なんと米国大統領から日本の総理大臣にこの件に関しての質問が飛んだそうなのだ。しかも公の場で。

それだけ米国側がダンジョンという新しいフロンティアになりえる存在を重視しているという事らしいのだが(ケイティからの又聞き)この事態に日本冒険者協会は事件発生時の比ではない位の大騒ぎになったらしい。

 

ヤマギシ?勿論蚊帳の外で日々臨時冒険者の相手をしてましたよ。教官候補の選定は完全に日本協会に任せてあり、俺たちは彼らの選定結果を信じて冒険者を教育した。

不純な動機で参加した人物や元々参加したいと思って居なかった人物を1月も教育させられるなんて思っても居なかった。

だから、真一さんを筆頭に全員がこの件で日本冒険者協会の肩を持つ気はないのだ。

 

・・・不愉快な話題を考えるのはやめよう。

ケイティと言えば、彼女が奥多摩で訓練していた40人の医師から、4人の人材がうちをベースに活動してくれる事が決まった。

本人たちの強い希望はもちろんの事、ウチでの育成の効果が冒険者協会に認められての措置だった。

日本の川口医師を筆頭に、イギリス人、フランス人、ロシア人の例の「落ちこぼれ」組が来てくれる事になっていて、その内の1人は九州の要である大宰府ダンジョンに配属される事になるそうだ。

彼と入れ替わる形で俺は大宰府を去る。

数ヶ月も家を離れるのはこれが初めてだったから、色々と思い出もできた。

後博多のご飯がとても美味しくて離れるのが辛い・・・・・・

 

「うちの家族も寂しがるとよ・・・・・・」

「何、飛行機で来れば2時間位で会えるさ。なんせ国内だからな」

 

最近ではすっかり福岡のアイドル扱いが定着した昭夫君が残念だ、とばかりにそう言ってくれた。

彼のご家族には何度かご馳走になっている。弟4名、妹2名という両親も合わせれば野球が出来そうな大家族だった。

弟達に変身を教えたのは良い思い出だ。彼らも将来冒険者になると言ってくれていたし、いつか昭夫君が育てた彼らを奥多摩で教育する事もあるかもしれない。

また、彼の動画はあれ以降も何度か撮っているが、どれも好調な伸びを見せている。特に仕事か何かで初代様が福岡に来た時撮ったダブルライダーは、凄まじい反響だった。

他の大宰府ダンジョン所属の2種冒険者と、変身を使って怪人役をした甲斐があったというものだ。

思い出を振り返りつつ、俺は送迎のために用意された車に乗る。

窓の向こうで手を振る昭夫君に手を振り返し、俺は大宰府ダンジョンを後にした。




福岡のご飯:福岡のご飯は本当に美味しい。福岡に居た頃に2年で10kg太りました。


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第九十ニ話 ブラス家との再会

誤字修正。あまにた様、244様ありがとうございました!


「今年も、バカンス、オーケー?」

 

満面の笑みで誘ってくるケイティー。この誘いに乗って今年もヤマギシ上層部はクリスマスから年明けまでの長期休暇をヴァージン諸島で過ごす事になった。

何せ日本は色々うるさくて碌に休めないからな。

 

「お腹の子に影響しそうだから、私達は留守番するわ」

「皆楽しんできてね」

「山岸さん、こちらは心配しないでのんびりしてきて下さい」

 

妊娠中の母さん達を気遣って、父さんと下原の小父さんは奥多摩に残るそうなので、安心して留守を任せることが出来る。俺達はブラス家の保有するプライベートジェットに乗ってヴァージン諸島へと旅立った。

 

 

『やぁ、ヤマギシさん。今年も歓迎します』

『今年もお世話になります』

 

社長とブラス老が握手を交わす。テキサスの眉毛一家は、今年は全員揃ってバカンスに来ていた。

暫くみない内にブラス老から老の文字が抜けそうになってるのを見るに、大分ダンジョンに潜っているみたいだな。昨年は明らかに60を超えてる見た目だったのに、40代だと言われても通じそうな外見だ。

ジュニア氏が大きく変わってないせいで、年の離れた兄弟にしか見えない。 

 

社長と握手を交わしたあと、ブラス老は俺達一人一人に握手を交わし、礼を述べた。

 

『今年は凄い年になりましたな』

 

ひとまず荷物を起き、過ごしやすい服装に着替えてブラス家の面々と合流。

夕食まで少し間があるから、とお茶を頂いていた俺達に

、ブラス老がそう切り出した。

 

『我々のダンジョンにも、民間各所からダンジョンにチャレンジしたいという申し出があります。しかし、現状この広大なアメリカに2種免許以上の冒険者は僅かに数十名。大変に苦慮しているところです』

『我々も同じ状況です。事前に通達して年末年始はダンジョンアタックを行わないとしていたお陰で我々もここに来れましたが、戻ったらまた2種免許保持者の教育を行わなければならないでしょう。せめて一日に一つのダンジョンで数百名は利用出来なけれ何時まで経ってもこの状況は終わりません』

『我々も同じ認識を持っています。日本の冒険者協会は残念でしたが、現場の最前線に居るヤマギシが同じ認識を持ってくれて居て安心です』

 

サラリと毒を吐かれるが、まぁ俺達も佐伯事件の事後のグダグダには思う所あるから黙って頷いた。

ブラスコとしては、この未曾有の大チャンスを振出しに戻しかねない佐伯事件を非常に重要視しているそうだ。

 

これまでも行われていたダンジョン探索前の身体チェックや持ち込み物の規制を更に本格的に行い、またダンジョン内部に入る際の人数の制限、緊急時等を除きダンジョン内では最低3人以上のパーティーを組んだり、ヘルメットには必ずアクティブビデオカメラを付けたヘルメットを使用。

 

内部に入る際に受付からカメラのSDカードを受取り、外に出る際は必ず提出し、ダンジョン内部での探索内容もレポートとして提出する等、内部で好き勝手出来ないように法整備を行うそうだ。

 

ブラス老の視点で見ると、日本でもこれらはある程度行われているのだが、これまでは人員不足もあり徹底しておらず、違反した場合の罰則等も到底満足の行く出来とは言えないのだそうだ。

 

『そして何より・・・』

 

ブラス老は前置きを置いて空になったコップを持ち、右手でリンゴを持った。

それ程力が入っていないような表情でブラス老が右手を握り締めると、リンゴがメキメキと音を立てて潰れて果汁がコップに注がれる。

 

『70過ぎの老人がこれ程までの力を手に入れるのだ。恐らく普通の牢獄では現役の冒険者を束縛出来ない。違うかね?』

『いえ。仰る通りです。そして、それに近い事を出来る人間が現在急速に増えている』

『被害に会いやすい女性から進んでいるのは幸いと言うべきか。しかし女性にも勿論犯罪を犯す者はいる』

『ストレングスを使える者と使えない者では、力比べはまず使える者が勝ちます。そして、バリアはそこそこの銃火器も無効に出来る。勿論、限界はありますがね』

 

真一さんの言葉にブラス老は頷いた。

現在、彼の元にはダンジョン関係の様々な陳情が届いているらしい。

恐らくジャクソンも同じ状況だろうとブラス老は語った。

 

『警察関係の人間は恐れている。自分たちは重武装なのに対し犯罪者は身一つ、それでも拘束すらできないという悪夢のような状況をね。これまでも心配の声は上がっていた。だが、現実として冒険者の中から犯罪者が出た以上、もはや猶予はないと』

『成る程。お話は分かりました。日本でも奥多摩では機動隊員の訓練を行っています。それを更に拡大して、と言う事ですね』

 

ブラス老の言葉に真一さんはそう答えて、社長を見る。

社長はちらりと恭二を見て、深く頷いた。

 

『今の状況で、動けるのは奥多摩だけでしょうな・・・人員が丁度戻ってきてタイミングも良い。ただ、受け入れの準備の為に時間がかかりますし、予定されていた医療関係者の教育が割りを食う形になりますが』

『それはご心配なさらず。前回の参加者が数名協力を申し出てくれていますので、規模を縮小して行う予定です』

 

社長の言葉にケイティがそう答える。

リザレクションキャンプの卒業生は全員が2種免許持ちと同等の実力を備えている。勿論佐伯さんや足立さんのように多少鈍ってる可能性はあるが、10層までなら問題なく対応できるはずだ。

最終的にリザレクションを覚える所はケイティと念のためにあと1人レジストが使える人間が居れば対応できるしな。

 

『後は、世界中がこの事・・・明らかな冒険者とそれ以外との力の差に気づく前に一つ手を打つべきだろう・・・幸いな事に、この場には世界有数の発言力を持った人物が居る事だしな』

『・・・・・・あ、そういう手使うんだ!おじいちゃん凄い!』

 

ブラス老がそう言って俺を見ると、一花も何かに気づいたように声を上げて俺を見る。

釣られるようにこちらを見る周囲からの視線に晒されて、俺はそっと自分を指差して小首をかしげた。

また何かやらされるのか・・・・・・俺最近めっちゃショックなことあってようやく立ち直・・・・・・いや。一番ショックなのはそりゃ一花だけどさ。

あ、はい。頑張ります・・・・・・ぐすん。



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第九十三話 動画にメッセージを込めて

誤字修正、ハクオロ様、、244様ありがとうございました!


『とても残念な。残念なお話があります』

 

画面の中。素顔の俺はそう言って目を伏せ、静かに語りだした。

 

現在、自身が所属しているヤマギシチームは後進の教育を行っている事。

昨年、冒険者の教官になる為に奥多摩を訪れた各国の冒険者達を教育した事。

その内の数人が脱落し、彼等の内一人が精神に異常をきたしダンジョン内部で女性に襲い掛かった事。

その女性が・・・自身の妹だという事。

 

画面の中の俺は再び目を瞑り、少し間をあけたあと、カメラに向かって語りかけた。

 

『幸いな事にその場には他の冒険者が居ました。また、妹は僕に匹敵する冒険者です。不意の行動にも対応が出来ました。けれど、仲間だと思っていた冒険者から襲われたそのショックは大きい。とても、とても大きなものです』

『お兄ちゃん・・・』

 

画面外から現れた一花を優しく抱きしめ、俺はカメラを見る。

 

『冒険者の力は両手をハンマーのように強くし、体を羽根の様に軽く動かしてくれます。ですが、その力に溺れないで下さい。その力の使い方を誤れば貴方も隣人も不幸になるでしょう・・・貴方の心の中のヒーローを見失わないで下さい』

 

そう言って、俺は頭を下げる。少しづつ画面が暗くなり、画面が消えていく・・・

 

 

 

「お兄ちゃん、意外と演技上手くなったね!」

「もうちょい余韻に浸ろうぜ?」

 

画面が消えてすぐのやり取りである。

若干クサい台詞が多かったって?これ位が外国だと受け入れやすいらしい。脚本は外注してあるので、最後の一言以外は俺の言葉じゃないんだよな。

もうお察しだろうが、今のやり取りは撮影した動画の中の出来事だ。

 

ブラス老からの一言をヒントに、一花はまず一番影響力のある俺の動画の利用を考えた。少なくとも数千万人が一日で観る事になるからだ。

タイトルも通常と違い深刻な内容で有る事を匂わし、マスクも付けず素顔の俺の言葉として話をした。

勿論字幕は各国の物を用意してある。

俺としてもロックマンの時は晒してるし素顔は知れ渡っているので構わない。

 

一つ問題があるとすれば、一花を被害者としてクローズアップする事で余計な騒動が起きないかという点だが、ここは飲み込むべきリスクらしい。

この動画を撮った目的は、最低でも一花(ヤマギシ)は被害者で、冒険者としての力を悪用した結果こうなるリスクがある。という事を知らしめる為の動画だ。

この動画が消えた画面にはとあるリンクアドレスが白文字で書かれており、コメント欄にもこのリンクアドレスが載せられている。

 

ポチリ、とリンクアドレスをクリックすると、少し後に世界冒険者協会の総合HPに繋がった。

このページでは事件の詳細な内容を実名だけ避けて載せられており、S(佐伯の事)が一花に襲い掛かって反撃を受け、拘束された事が載せられている。

また、ダンジョン内部では持込み物にも制限があり、また常に複数での行動が義務付けられて居るため、上記のような事が起こっても取り押さえる事は可能であるとも。

しかし、ダンジョン外部ではそうではない。

魔法を使える者と使えない者では明らかな戦力差が出てしまう。

この為、世界冒険者協会は支部のある国家から要請があれば警官等の治安維持組織の職員を訓練し、治安維持活動に貢献していく予定である、と。

 

この動画と世界冒険者協会からの発表は、その日の夕方には世界中を駆け巡る事になる。

直ぐ様特集が組まれ、事件の有った西伊豆と日本冒険者協会には取材陣が詰め掛けているらしい。

勿論ヤマギシにも取材陣は殺到したそうだが、父さんと下原の小父さんのコンビが上手く捌いてくれているそうだ。

 

後、何故か女性の人権団体がヤマギシを口撃してるらしいが、意味が分からな過ぎてマスコミもまるで取り上げてないらしい。一応ヤマギシのHPにはこういう意見があった旨載せてあるらしいが・・・・・・

 

「あ、これ。この代表名、佐伯さんを推薦してた協会の幹部と一緒だ」

「・・・・・・ああ!」

 

騒動の後に急速に発言力を失い、近々協会の席が無くなりそうな人だ。そう言えばケイティが名指しで文句言ってた時に聞いた名前だな。

女性の権利団体が何故、と思ったらそう言う訳か。

 

「要約すると兎に角いちゃもんつけて魔石を寄越せって言いたいらしいけど、これ公表するとか母さん鬼だね」

「お前が襲われた件で襲われた側に文句つける奴に母さんが遠慮するわけないだろ」

 

文章を見るだけで苛ついていた俺がそう言うと、少し考えた後に一花はポン、と手を叩いた。

 

「・・・・・・だよね。何か謎理論過ぎてちょっと混乱してた。女子高生の人権は守ってくれない団体なのかな?」

「何の権利団体なのかな?」

 

二人して首を傾げるも答えは出ない。

その他にも隣国の冒険者協会を名乗る組織から冒険者教育の受け入れ要請、日本には冒険者を教育する力はない為ヤマギシは他国に移るべき、中にはストレートに国際裁判を起こされたくなければ自国の冒険者を教育しろといった脅し文句まで。

この事件を機会と捉えたのか数多くの怪文書がヤマギシ宛に送られており、しかも幾つかは正式な文書であるのが笑えない。

 

しょうがないのでちゃんと法務部にも広報部にも更にケイティ経由で世界冒険者協会にも許可をとり、前回放送の反響という名目で動画を撮り、全て公表した所阿鼻叫喚が起きたのは言うまでもない。

これで暫く大人しくなってくれれば良いんだがな。



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第九十四話 他国の反応

誤字修正、244様ありがとうございました!


「なんか隣の国から謝罪と賠償請求がヤマギシ宛に来てるんだけど」

「へー。以外と暇なんだね」

 

ネットニュースで隣国の国会にデモが詰め掛けていると書かれてたのだが、大袈裟な情報だったのかもしれない。

先日公開した動画によって巻き起こった一連の事態に対し、ヤマギシはあくまで被害者であり、動画の中で公表された各方面からの要求には従うつもりはないと公式に発表している。

そもそも、ただこういう風な要求を何故か付き合いのない所からされました。という事を発表しただけなので謝罪も賠償も必要な事だとは思わないんだがな。

 

「お兄ちゃんの目線って、偶にどこ向いてるか分からないよね」

「・・・そうか?」

「うん。頭と目のどっちが問題なんだろ。たまにすっごい良い意見出るのに、アクリル性の目ん玉してるとしか思えない時がある」

 

少し声を落とした一花の言葉に首を傾げる。

一花の件での茶々入れはともかく、それ以降の向こうの動きなんてどうでも良いと思ってるから、余り詳しく調べてないのだが。何か間違ってたのかもしれない。

 

「まぁ、日本だとあんまり実感無いかもしれないけどさ。国外だとお兄ちゃんってまんま現実に出て来たヒーローなのよね。実態はともかく」

「実態?」

「実態」

 

思わず問い返すも、真剣な表情で頷かれた為目を逸らす。実際はまぁ、こんな感じでのんびりしてるしな。別に日夜世界の為に戦ってる訳でもないし。

 

「で、今のシチュエーションってさ。他所の国の政治団体がヤマギシに対して無茶振りしてるってのは分かるよね?何故か一部国内からも来てるけど」

「ああ。それはまあ」

「そんなんをお兄ちゃんが動画で晒したら、普通お兄ちゃんのファンの方々は激オコだよ?ヒーローを邪魔する国家権力とかまんま映画の悪役じゃん。いろんな所で抗議デモが企画されてるみたいだし?」

 

一杯居るっていう俺のファンは何を俺に求めてるんだろうか。

国内だとせいぜい「ダンジョン探索頑張って!」とか声をかけられるか、写真を撮られるとかなんだが。

 

「日本人の好きなヒーロー像って悲劇のヒーローが多いから、お兄ちゃんはあんまり当てはまらないんじゃないかな。アメリカとかだと単純に『色々変身できてすごい!』って見てくれてる人も多いみたいだよ?」

「恭二で良いんじゃね?あいつ死にかけた所から復活してるし悲劇的だろ」

「それも違うんだよなぁ」

 

他愛もない話を交わしていると、会議室にどんどん人が入ってきた。

今日は月に一度、集まれる人間だけで行う定例会議の日だ。10分もしない内に会議室の殆どの席が埋まり、最後に社長が入ってくる。

 

「あー、皆お疲れさん。最近騒がしいと思うが、職務に支障がでていないようで安心している。さて、今回の議題だが、少しデカい仕事がある。意見を聞きたい」

 

最近の電話攻勢に聊か疲れ気味の社長はこほん、と咳払いを一つする。

その仕草に頷いて、シャーロットさんが立ち上がった。

 

「現在、日本国内の2種冒険者の数は大宰府で23名、西伊豆で7名。黒尾と忍野が5名。奥多摩では50名を超えています。最も奥多摩の場合は刀匠の皆様や社長他のヤマギシ社員を含めた数字ですが・・・・・・現状、他の各ダンジョンに奥多摩・大宰府の余剰の冒険者を回しており、一日に4回のダンジョンアタックを毎日行えています」

「結構増えたんだね~」

 

シャーロットさんの言葉に沙織ちゃんがぱちぱちと手をたたきながらそう言った。

確かに大分増えた。教官免許の時のように相手に教えるという技術を叩き込まないですんだから、一度に纏めて教習できるのも原因だろうな。

彼らは専業冒険者として毎日ダンジョンに潜り、臨時冒険者という名前のお姉さま方の介護を行いながら魔法やダンジョンについて習熟していく。

一度のダンジョンアタックにつき危険手当が冒険者協会からも出ており(協会は臨時冒険者から講習費を徴収している)、また自身がダンジョンで手に入れた魔石については売却も可能だ。

 

因みに現在、魔石の価格は魔力量で決まり、魔力1のゴブリンの魔石で5千円。これも一時期に比べればかなり安くなっているが、ゴブリンを2匹倒せば1万円になるのだ。

この魔石の価格は魔力量が上がれば上がるほど値段も跳ね上がり、魔力が1000を超えるゴーレムのものだと1千万を超える。

このレベルのものだと大規模魔力発電用のペレットを複数回補充できる魔力量になるうえ、人間が一度吸収してしまえば一発で保有魔力が1000近くまで跳ね上がるのだ。

魔力発電の研究用に値段を抑えて流しているが、流してすぐ売り切れという状況は改善されていない。

 

これらが何を意味するかと言うと、冒険者という職業はそこそこの腕があるだけでも非常に儲かるのだ。

そして、彼らには最低限生き残れるレベルの基礎技術は叩き込んである。

このまま時が過ぎれば、彼らも立派な教官候補生になり、そして教官になり、彼らが教えた冒険者達がダンジョンに潜っていくようになるだろう。

 

「それと臨時冒険者の中から、正式な冒険者として登録したいと言う声もかなり上がっています」

「ダンジョンに潜るだけで魔力も溜まるしね」

「ええ。それに気づいた目端の利く人は兼業という形ですが冒険者協会に登録をしてくれているようです。まぁ、それが理由で、ちょっと大きな事になってしまったんですが」

「うん?もしかして次の仕事って、その人たちの教育って事?」

 

口を濁したシャーロットさんに一花が尋ねる。そのレベルの事なら俺達じゃなくてそのダンジョンの2種冒険者が教えるべき事柄になるんだが・・・

シャーロットさんの言葉を引き継ぐように真一さんが口を開いた。

 

「いや。ダンジョンに入る女性の比率が高くなったことが問題なんだ。恭二、一郎。すまんが、この間の警官の教育。すぐに始めなければ不味い」

「・・・あ。ああ、あれか」

「そういえば世界冒険者協会が募集してましたね。何時からやるんですか?」

 

一花の事件をきっかけにダンジョン内での犯罪をどう対処するのか。また、冒険者が暴れたときはどうすれば良いのか。

それらの疑問に答えるため、世界冒険者協会は各国の警察等の治安維持組織に声をかけていた。

その事は事前に知っていた為、何時からやるのかと俺が問いかけると、真一さんは渋い顔で「来週」と答えた。

 

ぱちくりと数回瞬きをして、俺達は真一さんを見る。

その苦みばしった顔に、どうやら冗談じゃないと気づいて俺と恭二は互いの顔を見合わせた。

え、マジで来週各国から人来るの?無理じゃね?

 



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第九十五話 デモの影響

誤字修正、244様ありがとうございました!


「・・・・・・いやいやいやいや来週ってそんな」

 

いきなり来週から大規模なキャンプが始まる、と宣言された会議室はざわめきに満たされていた。

医師のブートキャンプが始まる前は暇が出来るから、ダンジョン攻略を進めたり新しいマジックアイテムの開発に充てたいと真一さん自身が言っていたのだ。このいきなりの方針転換に混乱が起こるのは必然だろう。

 

「すまん、これについては本当に先ほど連絡が来たんだ。現在、下原さんが近隣の宿泊施設に連絡を入れて急ピッチで受け入れ態勢を整えている」

「ゴメンなさい。他の国、本当に焦っテマス。人員が決マッて、すぐにと言わレマシタ」

 

申し訳なさそうなケイティの顔に、相当せっつかれているのだと理解する。

 

「・・・・・・で、それを受け入れた理由があるんだろ?」

「・・・う、む。正直、本人達は善意の行動だから文句も言えないんだ」

 

そのやり取りを黙って見ていた恭二は、そう言って真一さんを見る。まぁ、普通は断るよな、こんな急な話。明らかに何かがあったのだ。

眉を潜める俺達に、ケイティは場所を移動し、会議室に備え付けられたPCをつけてプロジェクターで画面を出す。

 

「これハ、各国の抗議デモの主催者の一覧デス」

「抗議デモ?」

「ほら、一花ちゃんの件で変な文書が来ただろ。あれを公開したんだが、その件が結構大きくなってな」

「恭二、こっちを見るな。ちゃんと皆に確認して動画にした。お前にも相談したろうが」

 

物凄い目でこちらを睨む恭二にそう反論すると目を逸らされた。生返事っぽいからあんまり理解してなかったんだろうな。俺もここまでの話になるとは思わなかったけど。

 

「・・・・・・なんか見知った名前が並んでるんだけど」

「見知った・・・・・・オリバーとファビアンの名前が見えるんですが」

 

俺と恭二が遊んでいる間に文書を読み進めていた一花と御神苗さんが、少し声を震わせてそう言った。

ケイティが見やすいように画面を操作すると、イギリスのデモの代表はオリバーさん、フランスではファビアンさんが代表をしているらしい。

どちらもその国の冒険者のリーダー的な存在だ。

 

「彼らは勿論、非常に適切で平和なデモを行ってくれた。貶められた彼らの恩師の名誉を回復する為に、というお題目で。各国のマスコミは挙って彼らのデモを称賛している。冒険者協会としては、この辺りは全く問題ない」

「問題あるノハ、彼ラがデモを行ッタという事に反応した各国ノ治安維持組織デス。平和的なデモは問題ナイ。けど、コレが暴動に発展シタら?トップレベル冒険者一人の戦力はMBT並とされてマス。しかモ人間サイズの。軍が出ナイト彼らヲ止められナイ。その事を彼らハ、とても不安に思ッてマス」

 

一花の事を、彼らは本当に慕ってたんだなぁ・・・たまに御神苗さんとかが怯えた目で見てる時があるから、とんだスパルタ教師だと思ってたんだが。

あと、よく意味が分からなかったのでMBTって何か一花に訪ねたら、戦車の事らしい。

ほー。俺達、戦車と同レベルって見られてるのか。流石に戦車砲はバリアじゃ防げないと思うんだがな。

 

「あー・・・ええっと。つまり、捕まえるのが怖いから対抗手段を早くくれって言われてるんだよな?」

「その通りだ。実際佐伯の件もあったし近々やらなければいけない事が前倒しになった形だな。医者のブートキャンプを後に回して2、3月に始める予定だったんだが」

「自分の国の冒険者位信じ・・・られないか。最初にやらかしたのは日本人だけど、そこは良いのか?」

「そこは・・・・・・一郎の名声による所が大きい。あと、何だかんだ世界冒険者協会の女性支持はかなりのモノだぞ」

 

そんな名声本当にいらない。

だが、周囲はその言葉で納得したようで意見はそれ以降出なかった。それで納得されるのも割とこう、もにょるんだよな。動画撮ってコスプレしてるだけなのに。

自分の話をされてる筈なんだが、全然別の人間について語っているように感じるというか。うーむ。

 

「まぁ、事の発端はともかく、元々やる予定の物を前倒しにするだけだからな。それに警察とは出来るだけ良好な関係で居たいしな」

「お上に逆らったらおまんま食い上げちゃうからね」

 

社長の言葉に一花が戯けて答えると、騒然としていた会議室に和やかさが戻ってくる。

 

「さて、悪い話ばかりじゃない。前々から協議されていた川向こうの小学校だが、買い上げることが出来た」

「あ、町議会がめちゃめちゃ吹っ掛けてた所だ。どうなったの?」

「東京都と政府を動かした。代わりの代替地は中学校隣を整地して建て替える予定だ」

「親方日の丸万歳!」

「小学校の跡地には大規模な病院を立てる予定だ。こっちは川口医師と話して決めた。前々から、魔法を医療に役立てる場が欲しいとは声も上がっていたし・・・・・・あと、去年の黒字が大き過ぎて不味い」

 

ボソリと本音が聞こえてきた。冒険者教育もそうだが、臨時冒険者の受講料も何割かはそのダンジョンの持ち主に入ってくる上、迷宮のドロップ品や魔石は現在奥多摩から出ているものが殆どだからな。

しかも、昨年は魔力発電やらマジックアイテムの開発やらが上手く行き、かなりの売上が出たらしいし・・・そりゃ儲かってるだろうな。

儲かり過ぎて不味いってのも変な話だが。

 

「病院の建設費や小学校の移設費用はウチが出した。これも広義の意味で設備投資だしな。あと、ブラス嬢からの要望があった魔法医師の研修先にもしようと思っているから、この病院のスタッフは全て冒険者免許持ちになる予定だ。医師のブートキャンプの際に彼らも合流して教育する事になる」

「奥多摩だけで足りるのか?」

「足りんな。だから、西伊豆と忍野も使う」

 

足立さんの居る西伊豆はともかく、忍野?自衛隊が管理してる忍野が何故ここで候補に上がるんだ?

俺達の疑問の視線を受けて、社長は真一さんに目配せをする。

その視線に頷いて、真一さんは席を立ち、ケイティと入れ替わって会議室のパソコンを操作する。

画面が切り替わり、パワーポイントが開かれる。

そこには大きな文字でこう書かれていた。

 

【忍野ダンジョン購入計画】と。

 



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第九十六話 サビ落とし

誤字修正:ハクオロ様、いつもありがとうございます!


さて、久々の深層攻略だ。

うん?いきなり過ぎるって?そりゃ来週には大量に各国から人が来るからな。巻ける所は巻いていかなきゃ。

 

久方ぶりの深層攻略という事で、今回は冒険者部門全員が参加し、更に部外の冒険者としてケイティと、半ばからはウィルも警官隊教育の為に日本に来るそうなんで、そこからは総勢10名でのダンジョン攻略になる。

 

まあ、ウィルが来るまではまだ間があるんで、先に20層から30層までをリハビリがてらに攻略だな。ケイティや御神苗さん、それにデビッドは30層までのチャレンジになるが、彼らの普段の戦いぶりを見るに、ワーウルフやらの速度に慣れさえすれば危険はないはずだ。

 

 

「早いってのがこれだけ面倒だとはね」

『しかも魔法が効きにくい!』

 

前衛の御神苗さんとデビッドが同時にフレイムインフェルノを放つと、悲鳴を上げてキマイラが煙になった。

これで30層まではクリア。サポートは万全とはいえ、一回のアタックできっちり攻略できる辺りやはり優秀だ。

まぁ、所々でケイティと一花のバフや魔法で相手の妨害をしてるのも大きいんだがな。

 

今回のアタックでは俺、真一さん、沙織ちゃんとシャーロットさんを予備戦力として一つ前のフロアに貼り付け、御神苗さんをリーダーに恭二、一花、ケイティ、デビッドの5名で30層までの攻略を行ってもらっている。これは基本新しいメンバーの実力確認と連携の確認を行うための物だ。

 

このメンバーに恭二と一花が入っているのは、ダンジョン内の事なら恭二が大概何とかしてくれるという信頼と、そこに一花の補佐が入れば万に一つの事故もない、という理由だ。この二人は中衛の様なポジションでチームの補佐を行い、基本は御神苗さんの指示に従って行動している。

たまに一花が御神苗さんの指示にニヤリと笑うたびに御神苗さんの顔は青くなってるがな。怖がられ過ぎだろ一花。

 

「うんうん。成長が見て取れて何よりだね!これなら背中を預けられるよ!」

『「ありがとうございます!」』

 

御神苗さんとデビッドが、腰を90度位曲げて一花に頭を下げる。その様子に周囲は一歩後退った。

 

「あ、流石に毎回こんなじゃないよ?」

「まだ二人とも頭下げてるけど」

 

周囲の様子に一花が弁解を述べるも、未だに頭を上げない二人の姿が更に引き立つだけに終わる。

 

 

 

『一度でもマスターに教導を受けたらそうなると思うよ』

「それどんな洗脳なんだ?」

『凄いよね。でも、そんなに酷い目に合わされたわけでもないんだよ?』

 

現場にいた本人達だけではやはり情報に偏りがある為、ここは一番弟子に話を聞いてみることにした。

という訳で日本にやってきたウィルに聞き出してみると、ウィルも似たような状態になる事はあるらしい。

と言っても彼らのようにカチンコチンに緊張するのではなく、敬服するというか、そんな感覚なんだそうだ。

 

『似たような感覚は君や恭二、というかヤマギシチーム全員から感じるよ。ただ、君達の場合は何というか、圧力が凄いって感じるけど、マスターの物は跪きたいというか、そんな魅力みたいな感じかな』

「お巡りさんコイツです」

『今の奥多摩では洒落にならないから止めてくれ』

 

石を投げればどっかの警官に当たりそうだもんな、現状。

しかし魅力ね。佐伯も変な扉開いてたし、あいつ変なフェロモンでも出てるのかね。

 

『近いかもしれないね。ただ、フェロモンというよりは魔力が問題なんじゃないかなと僕は思ってる』

「どうしてそこで魔力の話になるんだ?」

『勘だよ。ただ、恭二の魔法発動から始まり、君の右手にアンチエイジング、ケイティの奇跡まで。全部魔力が絡んでる。何か起きたというならまず疑うのはそこだろう?』

「・・・そうだ。そうだな」

 

思い返せばダンジョンが出現したのが全ての発端だが、そのダンジョンが齎してくれた魔力という存在に対して俺達は未だに何も知らないままだ。

それに、魔力を貯めれば身体能力があがる。これは良い。良いのだが、向上するのは身体能力だけなのか?

一花の現状はもしかしたら何か全く別の特性が絡むんじゃないだろうか。

 

「ケイティの研究機関、俺も支援しなきゃいかんな」

『ああ。僕もそんな気がしてきた。もしかしたらある程度以上の魔力を溜め込んだら、新しい能力に目覚めるのかもしれない』

 

そいつは夢のある話だ。

 

「まぁ、先の事はどうあれ。今は目前に迫ったダンジョン攻略だ。悪いが錆落としに時間はかけられないぞ?」

『オッケー。最近低層ばかりで退屈してたんだ。久々にワーウルフと力比べをしたいところだった』

「そこはゴーレムにしとけよ」

『あっちはデカイだけで弱すぎるからね』

 

軽口を叩きながらウィルは特注品のボディアーマーを身に着ける。腰にはこれも特注品の魔鉄を用いたグラディウス。そして槍を手に持った。

ウィルは魔法も使えるが適正は完全に近接よりだ。アーマーを着込んだ彼は以前のなよっとした空気が完全に消え、正に戦士といった風貌になる。

 

「恭二、援護と一花のお守り頼んだ」

「良いけど俺は撮すなよ?」

「そこら辺はこの一花さんの指揮を信じて!行くよジャン!」

『オーケー、ボス!』

 

さて、俺とウィルが揃ったという事は恒例のチャンバラ動画を撮影するという事なのだが、今回は大一番の前という事もあってウィルのサビ落としをかねた競争動画を撮影することになった。

内容は21層から30層まで真っ直ぐ進み、その間にどれだけ敵を倒せるかという物だ。

最近、スカッとした動画を撮ってなかったからな。たまには何も考えずに楽しむ物も良いだろう。

 

 

尚結果は圧勝した。早い相手にはウェブが効果的なのだ。途中からズルいと言われ、ロックマンに切り替えたけどそれでも遠距離攻撃のある無しは大きい。

動画の出来も結構良かったし、アップロードが楽しみだ。



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第九十七話 新層への挑戦

誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございました!


「さて、こっから先は未知の領域だな」

 

31層へ続く階段を見ながら恭二は興奮を隠し切れない様子でそう言った。

このダンジョンキチにとって、この階段の先には宝の山が眠ってるように見えてるのかもしれんな。

ウィルが合流している為、現在俺達は5人・5人の2パーティで編成を行っている。本当は6人パーティが一番バランスが良い為6・4で分かれても良いのだが、31層の敵についての情報も無い状態では片方に戦力を固めるのは良くないとこうなった。

20階層の動物系の敵のように高速でこちらの背後に回りこんでくる敵もいるのだから、背後からの奇襲は起こりえるものとして考えた方が良い。気配が読めても相手の速度が速くて回り込まれる事はあるからな。

 

「一郎、後ろは任せた。恭二、先行チームの要はお前だ。初見殺しの可能性もあるから、俺とウィルが前衛として当たる。俺が指示を飛ばせない状況になったらお前が動け。最初の敵と交戦した後は、対策を練ってから本格的に31層攻略に当たるぞ」

「うっす」

「了解」

 

真一さんの指示に頷く。20層以降初見殺しと言えるものは居なかったが、バンシーを一度でも経験した冒険者に未知のモンスターを侮る者は居ない。

真一さんを先頭に真一さん、ウィル、恭二、沙織ちゃん、ケイティちゃんの順番で31層への階段を下りていく。

突入の際に多少時間差を置いたのは降りてすぐに戦闘中だった場合、人数が多すぎて邪魔になる可能性を考えての事だ。都合よく広場があるとは限らないしな。

 

「さて、じゃあ3分立ったら降りようか。無線はちゃんとONにしといてね!」

「了解です。先頭は僕とシャーロットさん、真ん中にマスターが入って、デビッドと一郎君が。指揮権の順番はマスター、僕、シャーロットさんで移行ですね」

「了解です」

『ラジャー。じゃあ時間を測るよ』

「頼んだ」

 

時計を持ったデビッドの声を待ち、俺達は31層に突入した。

そして、潜ってすぐに「これは面倒くさい」と感想を持つことになる。

 

地下水脈による自然に出来た洞窟、という物だろうか。所々に坑道的な石組みの横坑はあるが、基本的に自然が生み出した天然の洞窟を使われたもののように思える。

降りてすぐの場所には敵は居なかったらしく、無線で確認すると先行チームはすでに先に進んでいるらしい。

魔力的な感知にも引っかかりは覚えない。近隣に敵は居ないらしい。

シャーロットさんが記録用とはまた別のカメラを構える。

こちらは通常のヘルメットに備え付けられたビデオカメラと違って動画を取る為のものではないが、新層に潜る際に少しでも鮮明な画像を残す為に用意したものだ。ライトボールの明かりの下、シャーロットさんはパシャリ、パシャリと周囲の風景や岩肌、生えているコケなどを撮影している。

 

「思ったより明るい・・・?」

「いや、むしろこれは・・・コケが光っているように感じますね」

 

御神苗さんが周囲を見回しながらそう言うと、カメラを取りながらシャーロットさんがそう言った。

彼女がレンズを向ける先にあるコケは、確かに微量の光を放っているように思える。ライトボールの光が反射されているものとは明らかに光り方が違うようだ。

カメラから目を離し、シャーロットさんが手袋をつけたままコケを岩肌から剥がす。すると、光が消える。

首をかしげるシャーロットさんの手元で、またコケが光を放ち始める。

 

「どうやら、魔力を送ると光り始めるようですね」

「おおー。岩肌で光ってたのはダンジョンの魔力でかな。結構光るね」

「流石にライトボールほどではありませんが、この程度の魔力でこれだけ光るのなら・・・色々利用価値はありそうですね」

 

そう言ってシャーロットさんはボディアーマーの腰部分につけていた小型のバッグから金属質の小さなケースを取り出した。

ダンジョン内の物をサンプルとして持ち帰るために幾つか持ち込んでいる物だ。コケをいくらか入れた後、別のケースに近くの岩を少し砕いて破片を入れる。

この岩にも魔力が通っているようだし、何かの素材になるかもしれないからな。

 

ある程度様子を撮影しサンプルも入手した後、俺達は先に進む。先行チームは川に出くわし、かなり冷たい様子の為迂回すると連絡が来た。

了解の連絡を送り、そのまま歩き続けると川に差し掛かった辺りで先行チームから戦闘に入ったと連絡が入る。

今までの階層と違い中々会敵しなかったためもしかしたら敵が存在しないのではないかと思っていたが、そんな事も無かったようだ。

まぁ、向こうには恭二も真一さんも居るし、ウィルもサビは十分に落としておいた。特に心配はないだろう。

 

念のため急いで合流する旨を伝え、川の水をサンプルとして回収した後、川沿いに道を急ぐ。

先行チームは敵と戦った後すぐの場所で止まって対策会議を行っていたようで、すぐに合流する事が出来た。

 

「バジリスク?甲賀忍法帖の」

「違う。モンスターの方だ・・・ほら、龍だったり蛇だったり国によって姿が違うアレ」

「ああ・・・・・・え。誰か石化したのか?」

 

モンスターのバジリスクと言えば石化で有名なモンスターだ。後、凄い毒。アンチドーテがあるとは言え即死してしまえば効果があるとは思えないし、非常に危険なモンスターだ。

いきなりこのレベルのモンスターが出てくるか。30層台もこれは侮れそうに無いな。

因みに石化を受けたのは真一さんらしい。バジリスクと眼があった瞬間に体が動かなくなったそうだ。

 

「流石に危険すぎるな。これは一度戻って対策を練った方が良いだろう」

「ああ。くそ、せめて32層に行きたかったぜ!」

 

真一さんの言葉に恭二が悔しそうに笑ってそう言った。

早速引き返す事は悔しいが、思った以上の難敵に闘志を燃やしているらしい。

次に潜るまでには完封する魔法を考えると張り切っている。

それと、バジリスクからドロップした鱗付きの皮。これも何か役に立ちそうな気がするとの事。

なんでもバジリスクはフレイムインフェルノ2発に耐え切るタフネスぶりで、恐らく相当高い魔法抵抗力があるとの事だ。

ボディスーツの強化に役に立つかもしれないし、魔法抵抗力が高いと言う事はマジックアイテムの外装にしたりしても良いかもしれない。

たった1層進んだだけでこれだけの新発見が出たことに真一さんとケイティはかなり興奮しているようだ。

 

「やはり、ヤマギシチームはどんどん前に進むべきなのでしょうね・・・・・・」

「早めに攻略に専念できるようになりたいな」

 

御神苗さんの言葉に真一さんがそう返す。

日程の関係上リベンジアタックは時を置いてからになるだろう。

まぁ、恭二も真一さんもやる気満々だし、そう遠くはならないかもしれないがな。

一先ず今日は帰って飯を食べよう。うん?どうした恭二。

不完全燃焼だから30層から20層まで逆タイムアタック?

この野郎・・・・・・面白そうじゃねぇか!

 

 

 

尚、女性陣はさっさと帰ってしまい大分遅くなった男組は夕飯を食べ損ねてしまった為、ラーメン屋で祝杯をあげることになった。

勝者は真一さん。恭二と俺の潰しあいをさっさと避けて先に進んだのが決め手だそうだ。

いや、ちょっと熱くなってしまったんだよね。うん。次は絶対に負けん。



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第九十八話 警察強化合宿・開始

誤字修正。ハクオロ様、、244様ありがとうございました!


「いやー、流石に壮観だね!」

『世界各国の警官隊、総勢240名か。奥多摩のキャパはここが限界だろうね』

 

 一花の言葉にウィルが頷いた。

現在俺たちは銀座にある日本冒険者協会のビルで、世界各国から集まった警官達のキャンプの開催式に参加している。

といっても今回の仕切りは日本冒険者協会ではなく、世界冒険者協会が行っている。

 

「お、ケイティが挨拶に行ったな」

「うん。いやー、やっぱり着飾ると凄い美人だね。恭二兄」

「お、そうだな」

 

 日本冒険者協会の手を離れたこの行事を何故日本冒険者協会のビルで行っているかと言うと、少し複雑な政治の力学というものが働いているらしい。

 

 まず最初の問題として、今回の参加者の中には日本の機動隊も含まれているのが上げられる。奥多摩には数十名規模ですでにダンジョン免許持ちの機動隊員が居る。しかし、自国で正式に行われる警官の教育に、自国の警官が入らないのは流石にどうなのか、という意見が政府の中で出た。

 

 また、日本冒険者協会としても今回の件で世界冒険者協会に完全に呑まれた状態になってしまった為、教官の教育を全て世界冒険者協会が扱うようになるのでは、という危機感が合ったらしい。ヤマギシにもあの手この手で声かけがあったそうだ。

 

 俺たちとしても別に日本冒険者協会自体に含みがあるわけではない。例の人物という例外はあったが、準備委員会の頃から日本に冒険者と言う存在を誕生させようと協力してやってきたのだ。一部が暴走したからと言ってばっさりと関係を断ち切る程度の付き合いではないと思っている。

 

 というわけでケイティにも話を通し、日本側からも30名の参加となり、8カ国合わせて240名の人間がこの狭い奥多摩で2~3ヶ月の研修を行う事になった。期間がずれ込んでいるのは、教官免許を取得次第、順次帰っていくというスタンスで行う為だ。

 

「それだけ、切羽詰っているって事か」

「デース」

 

 俺の呟きに、挨拶から戻ってきたケイティが頷いた。

今俺たちは来賓席のかなり前の方に席を置かれている。チームヤマギシと書かれた縦看板の横に座ってくれと言われた為ここに居るんだが、ちらちらと警官達がこちらを見ているのを感じる。中には挨拶をしている各国大使をガン無視してこちらに熱い視線を送ってくる年配の男性も居て少し怖い。

 

会場に入るときも、『お会いできて光栄です!』だの『さ、サインをお願いします!』だのと入り口手前で10人以上の男性にもみくちゃにされるという経験したくない思いをした。正直勘弁して欲しい。

 

「いや、残当でしょ。あの人たちは皆、お兄ちゃんみたいになる為に来たんだよ?」

「俺ぇ?」

「そ。戦車並みの相手に生身で立ち向かうってさ。そんなのヒーロー位でしょ。そう思わないと立ち向かう勇気なんて持てないよ」

 

 ・・・・・・最近、クレイゴーレム相手にハンマーを持って何分で解体できるか競争したりしてるんだが。もしかしてこれは異常なことなのだろうか。真一さんやウィルもノッリノリで参加してるんだが。

尋ねるのが怖くて俺は口をつぐんだ。この事は男だけの秘密にしておこう。

 

 

 式典が終わった後に十数台のバスを借り切って警官隊は奥多摩へと移動していく。俺達はヤマギシ仕様のSUVに乗って先に奥多摩へ出発する。

最近、この派手な車に乗るのにも慣れて来た自分がいる。通りすがりの学生が手を振ってくるのに手を振り返したりとかな。

 

「そういえば、警官さん達の住む所はどうするんですか?」

「ああ。ダンジョン上の寮はアメリカが。他の国は近隣の旅館に頼んで部屋を確保してある。日本の警官隊は最近作った機動隊の駐屯所に仮設ベッドを作るそうだ」

「日本だけ可哀想だな・・・・・・」

「その分、オフの日には出かけやすいし帰りやすいからな。彼らは」

 

 今回は人数が人数だけに各国が毎日潜ると言う事は出来ない。基本的には1日6カ国の警官がもぐり、残りの2カ国はオフ。また、日曜日は完全に休養日としている。前回のキャンプの際にも、毎日毎日ダンジョンに潜り続けるのはやはり疲労が溜まるし、疲労が溜まっていると判断ミスが頻発した。これを教訓として、今回の訓練ではダンジョン内に入るONと、休養に当てるOFFは意識して取らせるようにする予定だ。

 また、日曜を休養日にしたのは教官を務める人間の疲労も考慮した為だ。教官の誤りで全滅、なんて事になったら目も当てられないしな。

 

 奥多摩に到着した後はヤマギシのビルに戻ってスーツからユニフォームに着替える。今日はダンジョンに潜る予定は無いが、この後に装備の授与式とキャンプの開幕宣言を行う必要がある。俺達がユニフォームを着る事でキャンプ中の制服はこのユニフォームだと印象付ける為、でもあるらしい。

 

 何故か平然とヤマギシのユニフォームを着ているケイティとウィルには誰も触れずに、俺達は授与式の会場となるビルの前で警官隊のバスを迎え入れた。

これから数ヶ月、忙しくなるだろうが。彼らがダンジョン内で生きるか死ぬかは今日からの数ヶ月にかかっている。

 先頭のバスから降りてきたアメリカチームの代表と握手を交わしながら、俺は気合を入れなおした。

 



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第九十九話 警官教育・下地作り

誤字修正、244様ありがとうございました!


 今回のキャンプでは前回と違う点が幾つかある。

 その中でも一番大きいものは、基本的に彼らはモンスターを相手にするのではなく、冒険者を対象にする、という所だろう。彼らが今モンスター相手に戦っているのはあくまでも魔力を溜め、魔法を取得する為だ。魔力が溜まれば身体能力も向上し、魔法を取得すればそれだけ冒険者の魔法にも対抗が可能になる。

 

 というわけで、彼らにはまずオークを取っ組み合いで倒せる力を身につけて貰う所から始めた。勿論バリアをかけてあるし、危険になれば誰かがヘルプに入る。

といっても、流石に普段の状態でオークに勝つのは至難の技だ。まず、体格も違えば腕力も違う。下地を整える必要があった。

 

「というわけで、11層に貼り付いてます。いってらっしゃーい」

「まぁ、車も放置してたら消えるみたいだしなぁ。頑張ってきてくれ」

 

 1人1人にアメリカが開発しなおしてくれたRPGを渡し、SUV5台を使って第一陣のアメリカグループはゴーレム狩りに旅立っていった。それらを手を振って見送り、俺と一花は待機要員の為に用意されたキャンピングカーに入る。1人2匹を狩り、その魔石を吸収する。これで魔力的にはオークを上回るし、それだけ魔力があればストレングスやバリア、アンチマジックの習得も大分楽になるだろう。

 彼らの移動用の車の確保のために、俺達ヤマギシチームは2名がこの11層に張り付く事になっている。まあ、魔力アップ訓練は最初の1週間しか行わないから、毎日4時間、昼に交代の形でのんびりやっている。ゴーレム狩りはロケットランチャーがあれば2種冒険者でも十分可能だからな。

 

「でも、良いのか? ゴーレムの魔石って今、全然需要が足りてないんだろ?」

「変わりに、最初の1週間以降は持ちきれる範囲でドロップした魔石を協会に渡す契約らしいよ」

 

 俺の問いに一花がそう答える。成る程。そういう形で協会は警察と話をつけてあるのか。下手に現金を貰うより確かにそちらの方がありがたいな。

 俺が納得したのを感じたのか、一花は手元のリモコンを操作して、キャンピングカーに備え付けてあるテレビで映画を見始めた。俺が以前撮影に協力したミギーが出る例の映画だ。放映中は多忙のせいで足を運べなかったから、せめてDVDは買うと連絡先を交換した俳優陣に言っていたら何故か発売前のDVDを制作会社から送ってきた。しかもノーカット版で、様々な撮影時の映像付だ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

「何だいシスター」

「そろそろミギー、喋らない?」

「喋ったらヤバイんじゃないか? 色々」

 

 そんだけシンクロしてるって事になるしな。最終的に自己封印しそうだし、封印せずに敵対ルートに入っても不味いんだけど。その言葉にうーうー唸って、一花はため息をついてリモコンを操作する。諦めたようだ。

 

 時刻は11時過ぎ。そろそろ交代の時間だ。アメリカ勢も戻ってくるだろうし、交代の準備をしよう。と言っても、キャンピングカーの鍵の受け渡しと偶に邪魔しに来るゴーレムの魔石を纏めておくだけなんだがな。

 

 

 

 ある程度の下地が出来たら、今度は一花の出番だった。ウィルの言葉ではないが、一花の指導力というか、カリスマ性はやはり魔力に起因するらしい。今回、時間短縮もそうだが魔法の習熟に関しては一花が総監督となって、他のヤマギシメンバーや教官免許保持者がそれをサポートする、という形式を取る。

 効果は、目で見て分かるほどに出た。

 

『教官殿! イタリアチーム全員がバリアの獲得に成功しました!』

「うんうん。順調だね! じゃあ、全員並んでテストをしようか。アメリカチームはストレングスをもう覚えてたね? 全員で殴ったげて!」

『OK、ボス!』

 

 2~30台の大柄なお兄さん方が目を輝かせて一花を慕う様子は正直ちょっと思う所があるが、それはまあ副次的な事として。まだ開始から2日たっていないにも関わらず、全体の半数がストレングスとバリア、そしてアンチマジックを習得している。

 

 彼らは母国で魔法の才能アリとみなされて送り込まれた冒険者の代表達とは違う。あくまでも今回の教育のために自ら志願して来た警察官達で、魔法のセンスなどは選抜理由に入っておらず、体力と対人能力の高さを見込まれて送られてきた人々だ。

 そんな彼らが、たった数日でこの進歩を遂げた。

 

「イチカ! 最高デ~す!」

「うきゃ、ちょ、ケイティ胸! 痛いから!」

 

 力いっぱい抱きしめられた一花が悲鳴を上げている。この件で一番喜んでいるのは恐らくケイティだろう。彼女自身必要だと思っているとは言え、今回の警官教育で割を食ったのは彼女が主導する医師達のキャンプなのだ。

 

 この調子でいけば、予定を前倒しできる確率はかなりある。それだけ医師キャンプへの準備が進むと、以前にも増して張り切っている。そして、同門の弟子が増えたウィルもかなり喜んでいる一人だ。

 彼が主催しているマスターイチカ同門会の会員が一気に200名近く増えたからな。この調子でいけば遠からず全警官が加入してくれると張り切っている。

 

「その張り切りを教育の方に振り分けて欲しいと思うのは俺だけか?」

「頑張ってるじゃないか。マスターの邪魔をしないように」

 

 冒険者同士の戦いがどうなるのか、というテストケースとして組み手を行いながら相談を交わす。俺とウィルのバトルだと、どうしても被害が大きくなるからかなり遠くに引いたカメラからの映像になるが、少しでも彼らの参考になれば良いのだが。

 

 後日、あんなのに突っ込まなければいけないのかと自信をなくした様子で語る警官を一花が叱咤激励しているシーンを目撃した。いや、恭二相手だとあの比じゃないんだが……




一花「頑張れ♪ 頑張れ♪」
警官達「うおぉぉぉお!」

という感じで傍から見たら危ない様子に見えるやり取りがそこらで行われている模様。


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第百話 警官訓練・オーク道場

誤字修正。ハクオロ様、244様ありがとうございました!


「ブモオォォ!」

『ふんぬ!』

 

 2mを超えるオークの突進を、イギリスの警官が受け止める。明らかに体格に差がある相手の全力のブチかましを受け止めた警官は、そのままオークの腕を取って投げ飛ばした。

 

「一本背負いかー」

『体格に差がある相手に柔道。良い選択だね』

 

 ウィルと周囲の警戒をしながら観戦していると、彼はそのまま足で顔を踏み潰して止めを刺した。オークは一瞬グロ画像にのようになった後、煙のように消えた。

 欧米の人の思い切りの良さは、たまに本当に怖くなる。他のメンバーもウィルも平然としてるから、これが基準なのだろうか。

 

『相手はモンスターだよ? きっちり止めを刺さないと誰かが殺されるんだ』

「うん。ただ絵面が怖いなって」

『……まぁね』

 

 俺の言葉に少し黙った後、ウィルはこくりと頷いた。やっぱりお前もちょっと引いてたのか。あれが国際基準なのかと少し身構えてしまったじゃないか。

 一先ず、今のオーク討伐で今日のノルマであるチーム全員の素手でのオーク討伐は達成した。リポップも大分遅くなって来たので、今日はここらで仕舞いだろう。全員にこのまま走ってダンジョン外まで出ると告げて、先行して走り始める。スパイダーマンだと少し早すぎるから、ここは堅実にライダーマンで行こう。

 途中に出てくるモンスターに関しては基本スルーして後続にぶつける。これも訓練だからだ。彼らが相手するのは冒険者。街中だけではなくダンジョン内まで追いかけなければいけない事もあるだろう。

 その時、ダンジョンでモンスターに邪魔されたから追いつけませんでした、では意味が無いのだ。まぁ、流石にまだ一対一でようやくオークを倒せるレベルの彼らに無茶は押し付けるつもりはない。道中でそこそこの規模の群れが居るときはマシンガンアームで間引きをしておこう。

 

 

 

「あー。それならあの人が一番凄いよ。ほら」

「あの人?」

 

 待機所に戻ってきた俺とウィルにお茶を差し出しながら、沙織ちゃんがある方向を指差す。目で追うと、柔軟体操をしている女性の姿が有った。服装からしてカナダの警官だと思われる。今回の警官教育では各国最低でも4名は女性を加えて参加している。彼女もその内の1人なのだろう。

 

「あの人、カナダの実習1位だよ」

「……マジで?」

「うん。アリアさんって言うんだけど、昔オリンピックに柔道選手として出たことあるんだって。オークを巴投げ一発で倒しちゃった。具体的に言うと股間に」

「やめてくだされ」

 

 笑顔で話す沙織ちゃんに懇願するようにそう言ってこの話を打ち切った。しかし、アリアさんね……ヤマギシなんかが顕著だが、魔法が普及した結果男女の体力差は大きく縮まったと言われてきている。何せ魔力が多ければその分身体能力が活性化し、筋力も体力も、反射神経すら強化されるのだから。

 勿論、元になった体の筋量に差があればそれはそのまま反映される。冒険者キャンプの時、ロシアのセルゲイさんとフランスのカミーユさんが力比べをした時の結果がそれを物語っている。

 

 だが、今までのように圧倒的な差ではなくなったのも、あの力比べの結果は物語っていた。

 何せセルゲイさんとカミーユさんの体重差は50から60kg。カミーユさんは自分2人分の体重差に負けずに接戦を繰り広げたのだ。この結果を見て、これまでのように男性が体力的に優位だ、等と言い切る奴は早々居ないだろう。

 

 今回の警官教育でも、その辺りは出始めている。他の並み居る男性を押しのけて1位に登ったアリアさんは別格としても、他の国の女性警官達も決して男性に劣るような結果は出していない。彼女達も全く同じようにオークと取っ組み合い、問題なく撃破している。

 この事をケイティと、恐らくはウィルも注意深く見守っているように感じる。二人は時折、翻訳を切って英語で熱く弁論を交わしている時がある。漏れ聞こえた内容は、撤廃。ジェンダー。差別といった内容だった。ケイティは、今回の結果も今後の冒険者協会にとって重要な要素になると捉え、それに対してウィルは発表のタイミングが重要だと考えている。どちらも今の流れを決して悪いとは考えていないのだろう。

 

「そこまで上手くいくかなーとも思うけどね?」

「お。お疲れ」