友人の渋谷さんと淡々と高校生活を送るお話 (どうだ私は頭がおかしいだろ)
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世界平和について語り合って、自己紹介して、クレープ食べて、アイドルにスカウトされるお話

 

「きゃあああ!」

 

春一番が吹き荒れると、前を歩いていた女子生徒のスカートがめくり上がった。突然のことで理性が間に合わなかった俺は、露になったピンク色の布地に目をくぎ付けにされた。

ちょっと背伸びしすぎじゃないか? 勝負下着か?

心で呟いた。そんなこと口に出したら変態認定一級を取得するのは確定だからな。

女子生徒はスカートを押さえながら振り向いた。そして俺がいたことを確認すると顔を真っ赤にして目を尖らせた。そのまま機嫌の悪さを隠すことなく、足早に歩いていった。

なんだあれ? スカートが捲れたのも、俺が見てしまったのも不可抗力だろう。それなのに性犯罪者を見るような蔑みを受けた。

なんたる理不尽。これが原因で俺がスカートを覗き見たなんて噂が学校に流れたらやりきれんぞ。

俺が世の中の不条理に憤慨していると、とんと背後から頭を軽くチョップされた。

振り向くと、あきれた目をしている綺麗な顔が視界に映った。

同級生の渋谷凛だ。

 

 

「何やってんの? また朝からセクハラ?」

「おい渋谷凛。その表現のしかたは多大な誤解を生むことになる。正確には『また朝からセクハラ』ではなく、『またセクハラしてるの?』だ。いつも朝とは限らん」

「結局セクハラはしてるんだ」

「まあな。それと最後に『屑が』と捨て台詞を付けた方が俺の好みだ」

「あんたの性癖なんて考慮してないって」

()()()()()ということは俺のことを理解した上での言葉と言うことか。求めることには応じない。考えによっては、かなり高レベルな放置プレイだな!」

「……」

 

渋谷の目があきれから、ドン引きに変化した。Mよりだが、マゾではない俺は傷ついた。

 

「まぁ、今のは半分冗談として」

「半分本気なんだね」

 

さらに引かれた気がするが、無視する。

 

「スカートの長さは時代の流れを表していると思わないか?」

「いきなり何の話!?」

「考えてみろスカートは明治時代からはかれている歴史ある制服だが、あの頃のスカートは膝を隠すどころかくるぶし辺りまであることも珍しくなかった」

「あ、ああうん。そうなんだ」

「さらに進んで昭和時代はテレビドラマが表すように、ヨーヨーを持って不良を成敗していた」

「スケバン刑事のこと? というかスカート関係ないでしょ」

「しかし、平成はどうだ! ほとんどが膝から上までスカートをあげて、それでも長いと短くするしまつ。そして中身を見られれば獲物を見つけた獣のように追い詰めて、吊し上げる。もうすぐ新たな元号に入るというのに、日本は大丈夫なのか?」

「ええっと、ごめん。この会話にどんな意味があるのかわからないから、教えてくれない?」

「特にないぞ」

「ないんだ……」

 

 

渋谷は、あきれを通り越して脱力した声でいった。

 

「当たり前だ。お前、何の権力もない男子高校生と女子高校生が世界平和について語り合ったところで、机上の空論にもならないだろ」

「終始スカートについて語ってた(主に一方的に)、今の会話のどこに世界平和の要素があったのかわからないんだけど」

「いずれわかるさ、いずれな」

「要するに何も考えてないんだね」

「……うん」

 

あっさりと肯定した。俺は、男の中の男。認めるときは潔くだ。

 

「まあ、いいけどさ」

 

そう言い捨てて、渋谷は俺より少し前に出る。俺の顔をちらりと見て。

 

「誤魔化すのはいいけど。誤魔化したいなら、まずはそのにやけた顔をどうにかしなよ」

 

そう言われて、携帯を使って顔を確認するとだらしなく緩んでいた。

どうやらパンツを見たせいで、俺は無意識の内に破顔していたらしい。

そりゃ軽蔑されるわ。

 

俺は恥ずかしくなって赤面した。

 

 

 

授業終了のチャイムが鳴った。教師はまだ話続けているが、多くの生徒は片付けを始めた。みんな時間にしっかりしている。さすがは日本人。電車が1分遅れただけで謝って、海外からドン引きされるだけはある。

そう言いつつ、俺も先生の声を待たずに片付け始めているがな。俺も日本人だから。残当だよ。

間もなくして先生が授業の終わりを告げた。学級委員の号令に合わせて会釈する。

さあ、帰ろう。1秒でも早く、電光石火で。なぜそんなに急ぐかというと、今日は駅前のクレープ屋が月一の割引セールをやっているのだ。

金がなく、甘党な高校生には夢のような日だ。

そんなわけで、忙しなく荷物を鞄につめていると、横から声をかけられた。

 

「ねぇ、紅葉」

「申し遅れた。俺の名前は、銀杏 紅葉(いちょう もみじ)という」

「知ってるけど?」

「お前には言ってない」

「何なの!?」

 

自己紹介は必要だろ。誰に? そりゃあ、おめぇ……誰だろ?

 

「まあいいや。何だ渋谷、何か用か?」

「今の会話なかったことにするんだね……。気にしないけどさ」

 

気にしないのか。お前、俺のテンポに慣れすぎだろ。

 

「クレープ食べに行くんでしょ? 私も行くから、一緒に行こう」

「……お前俺のこと理解しすぎだろ」

 

知られ過ぎて、俺氏驚愕だよ。

 

 

 

 

 

そんなわけで俺と渋谷は駅前に来ていた。セール日とだけあって、店の前には何十人も並んだ列ができていた。

少々辟易とする行列である。隣を見れば顔をひきつらせた渋谷がいた。こいつ意外に顔に出るよな。

 

「どうする渋谷? 長くなりそうだが、店の方は大丈夫なのか?」

 

渋谷の家は花屋をやっていて、彼女は店を手伝っているのだ。なので、寄り道する場合店のスケジュールを気にしないといけない。

 

「……うん。今日は暇なら手伝ってって言われたから、時間には余裕はある」

「さすがは自営業。時間には寛容だな」

クレープ食べるのは暇じゃないのかって? 何言っているんだ、クレープ食べるのは立派な理由だろう。

 

「渋谷がいてくれるなら安心だ……いざ行かん。戦場へ!」

 

俺たちは最後尾に並んだ。

 

 

ーーーーーーー

 

ーーーーー

ーーー

 

「はい、ダブルチョコバナナクレープとキャラメルチョコストロベリークレープですね。本日はお客様感謝dayなので全品三割引になります」

「すいませーん。カップル割引もお願いしまーす」

「はい。カップル割引でさらに二割引させていただきます。……こちら商品になります」

お姉さんは俺たちの仲を疑う素振りも見せずにレジをうつ。

俺はお姉さんからクレープを受け取り、ダブルチョコバナナクレープを渋谷に渡した。ほのかに目を輝かせた渋谷は、ギャップを感じて中々可愛いなと思いました。

 

 

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております!」

 

お姉さんの元気な声を背に受けて、俺たちは店を離れる。

しばらく歩いたところのベンチを見つけた。腰を掛ける。

「はぁ」

 

隣の渋谷がなぜかため息をついていた。さっきまでうきうきだったのにどうしたのか?

 

「どした?」

「いや、なんか、今さら罪悪感が湧いてきたっていうか……私たち恋人でもないのにカップル割引してもらっちゃったし」

 

なるほど。曲がったことが嫌いな渋谷は、良心の呵責に耐えているわけか。

 

「ははは。大丈夫、大丈夫。カップルって調べてみると男女一組って書いてあるだけで、恋人同士なんて一切書いてないから。要するに問題なーし」

「屁理屈ばっかり」

「じゃあ、今から事情話してお金払ってくるか?」

「……ううん。いいよ。もう終わったことだし」

 

そう言って、クレープを一口かじった。

頑固そうに見えて、けっこう融通が効くな。

しかし、俺が提案したとはいえ、渋谷には無理させたな。次からはカップル割引作戦はやめよう。正直が一番大事って、死んだ曾じいちゃんが言ってたらしい。俺が産まれる前には死んでたから真偽は知らん。

それにしてもキャラメルって油っぽくて喉が乾く。飲み物でも買ってくるか。ついでに渋谷へのお詫びも兼ねておごろう。

 

「渋谷、飲み物買ってくるけど、何飲む?」

「え? 急にどうしたの?」

「いや、キャラメルが意外に喉を乾かしてさ、水ほしくて。ついでに渋谷の分も買ってこようかなって」

「ありがとう。じゃあ、ミネラルウォーターをお願い」

「オッケー」

「あ、お金」

 

俺は制止する。

 

「いいっておごるよ。さっき無理させたお詫びのつもりだから」

「でも……」

「これで()()()()()()。それでいいだろ?」

「……うん。そうだね、わかった」

 

折れてくれた渋谷を尻目に、俺は自販機に向かった。

 

 

 

 

俺が飲み物を買ってベンチに帰ってくると、渋谷がスーツ姿の男に絡まれていた。

男の方は熱心?に何かを語りかけているようで、渋谷は頷きながら戸惑いの表情を浮かべていた。

え、何あの状況? 援交要求現場にしか見えないんですけど。

おっさん、まだ明るいぞ! しかも交番も近くにあるし! たーいほされちゃうよ!

あと渋谷は、見た目は今時の女の子って感じだが、中身は恋愛もしたこともないピュア娘だぞ。あんたが人生賭けるのは止めないけど、そいつは相手が悪い。やめておけ。

……どうしよう。取り合えず、横槍いれるべきだよな。渋谷も困ってるみたいだし。

 

「おっほん、おっほん。はいすいません、そこ通してね」

「あ、紅葉」

「お知り合いですか?」

「うん、同級生」

「なるほど」

 

そう言って、スーツの男はじとりと鋭い瞳を向けてきた。

こわっ! しかも近くに来るとデカっ! 絶対何人か殺ってるよ。今からでも逃げたしたい……。

男は胸元に手をいれた。チャ、チャカですか?

 

「申し遅れました、私こういうものです」

「は、はぁ」

 

差し出された紙。何も変なところがない普通の名刺だった。

予想外の状況に戸惑いながら俺は名刺を受け取った。

そこには346プロアイドル部署所属プロデューサーと書いてあった。

 

「って、346プロ! 大企業じゃん!?」

「そうなの?」

「そうだよ。高垣楓とか日野茜とか他にも人気アイドル多数抱えてる超大手の芸能プロダクションだよ!」

「詳しいね。紅葉って、アイドル好きなの?」

「一般人なら知ってるであろう常識的な知識だよ。お前が知らなすぎなの。ゴールデンに動物番組ばかり見てるからだよ」

「別にだけじゃないし。ニュースとかも見てるよ」

「精神だけババアかお前……いっでぇ!?」

 

こいつ足踏みやがった。しかも、親指が潰されてスゴく痛い。

キッと渋谷を睨むが、つーんとそっぽ向いて知らん顔していた。こいつ……。

つうか、ついいつも通りの絡み方しちゃったけど、Pさん蚊帳の外にしちゃってる。やめて、そんなに微笑ましく見ないで。人に見られるとちょっと恥ずかしいの。

 

「仲がよろしいんですね」

「……まあ、地味に付き合い長いですからね」

 

俺は気恥ずかしくなって視線をそらした。

 

「それで、Pさんは渋谷をスカウトしたんですか?」

 

俺は話題を変えた。理由は察しろ。

 

「はい。今日はもう遅いですし、名刺だけでも受け取っていただこうかと」

「だから、私はアイドルなんて興味ないってば」

「いいじゃん名刺くらい。受け取ってあげれば」

「他人事だと思って無責任なこと言わないで」

渋谷の声が荒くなる。ちょっと怒ってますね。理由は俺だろうか、Pさんのしつこい勧誘だろうか。後者だ、後者に決まってる。

俺は、まあ落ち着けとジェスチャーする。

 

「そうじゃなくて、アイドルにスカウトなんて滅多にあることじゃない。今すぐ答えがだせる問題でもないし、後で心変わりするかもしれないんだから、時間を空けたらどうだっことだよ。別にこの場で答えを決めろってことじゃないんですよね?」

「はい、もちろんです。人生を左右することですから、時間がかかるのは当たり前のことです」

「………………」

 

渋谷は俺とPさんを交互に睨み付けながら、何かを考えている。

少し経って、渋谷は眉を緩めた。

 

「分かった名刺だけは受け取っておく。でも、もう一回言っておくけど、私アイドルには興味ないから。あまり期待はしないで」

「はい、待っています」

 

Pさんは綺麗にお辞儀して人混みに消えていった。

結局最後まで礼儀正しかったな。いくら社会人でも年下の高校生にあんな態度とれる人が何人いるやら。

あんないい人を犯罪者呼ばわりしたやつがいるとか、どんなやつだ。名を名乗れ(すっとほけ)。

人は見た目じゃない。心に留めておこう。

 

そしてーーこのあと、不機嫌な渋谷の鬱憤晴らしに付き合わされました、まる。

 

 



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至福の時を過ごして、花見して、ポケ○ンバトルするお話

思うがまま、好きなように、めちゃくちゃ書いていこう。


「きゃああああ!」

 

まあ、待ってほしい。単純な読者なら、また風の悪戯で俺が不可抗力でパンツ見たと思ってしまうのだろう。

しかし、それは間違いだ。

何、信じられない?

やれやれ、君たちは俺のことを何も理解していない。一度だけ起きるから偶然なのであって、二度三度起こってしまえばそれはもう確信犯だろう。

一度美味しい思いしたから、女子生徒がいたら少し距離をとって歩いて風が吹くのを待つくらいしなければそんなことは起きないだろう。まぁ、俺はやってないがな。ほ、本当だぞ! 嘘なんかついてないんだからね!

どうやら俺が以前犯した過ちを反省しない男だと思っているらしい。そんな能無しなわけない。そんなやつは性交の時にゴムをつけられない男と相場で決まっているんだ。

では、今の悲鳴は何かって? それはーー

 

 

階段から落ちてきた(二段目くらい)女子を助けて下敷きになっているだけだ。

ふむ、柔らかい。

 

「いつまで胸揉んでんのよ!」

「サバトっ!?」

 

怒りのままに繰り出されたビンタを受け、俺は吹っ飛ばされ、そのまま地に伏した。

倒れてきた女の子は、俺に惚れることなく、ただただ軽蔑の眼差しを送りながら、身を守るように身体を抱いていた。

危ないところを助けたのに感謝もされずに、犯罪者扱いとかどんなクソゲーだよ。しかし、これ幸いにと彼女の胸をがっつり揉みしだいたのも事実。何も言えん。

ただ一つだけ言わせてほしい。

俺は、すがるように手を震わせながら。

 

「十分大きいから、パットをつける必要ないと思うぞ」

「ゴッドブロー!」

 

相手は死ぬぅぅぅぅ!

再度吹っ飛ばされた俺は、壁に叩きつけられて、そのまま地面のタイルをなめた。

 

「十回死んで九回生き返れ!」

 

せめて一回で安らかに眠らせて。

そんな俺の願いは届かず、女の子は地面を踏み鳴らしながら去っていった。

頬を腫らしてゾンビのようになった俺に一人の女子生徒が近づいてきた。

 

「生きてる?」

「……何とか」

 

覗きこんだ綺麗な顔に弱々しく返事した。わざわざパンツを見られないために、角度まで計算してくるとか。サービス精神が足りない。

そんなことを考えていたら、女子生徒は一度死んだ方がいいんじゃないのと言わんばかりの蔑んだ目をむけてきた。ドMではないけど、美人に蔑まれるのは悪い気はしないよね。

そんな彼女は、同級生でアイドルスカウトされ中の渋谷凛だ。

 

「大丈夫、顔気持ち悪いよ?」

「お前はオブラートを知っているか? もう少し言葉を包めよ。優しく包んでくれよ。死にたくなるだろ」

「一度死んだら、その変態も治るんじゃない?」

「治らないよ。言うだろ、バカと変態と召喚獣は死んでも治らないって」

「ふぅん」

 

<悲報>俺氏、ボケたのに拾ってもらえなくて傷つく。

まあ、分かりにくいボケだから仕方ないんだけどさ……。

 

「ところで話がぬるりと変わるけど今度花見しない?」

「ぬるりとどころか、突拍子もなく変わったね……どこでやるの?」

「渋谷ん家の店で」

「バカなの? うちは花屋だけど、桜なんてないから」

「品揃え悪いなぁ」

「普通ないから」

 

まあ、ないわな。

 

「それは冗談として、お前の家の近くに公園あっただろ? そこでお弁当持っていってやろうかなって」

「いつ?」

「今週の土曜日」

「今週……って、それ明日じゃん」

今日は金曜日。学生が待望する休みの前日である。

 

「急すぎるでしょ……。まぁ、明日はお店午前中で終わるから、午後からならいいよ」

「うっしゃ、決まりー! 料理の鉄人が腕をふるってやろう」

「はいはいあんたのお母さんね」

「当たり前だろ」

 

お前普通の男子高校生が料理できると思うのか? 洗濯の柔軟剤の使い方も怪しいからな。

 

「でも今度誘うときはもうちょっと早く言ってよ。今回は偶然予定合わせられたけど、次はどうなるかわからないんだから」

「大丈夫だ。そのときはソロ花見するからな」

「……寂しそうだね」

「たしかに」

 

想像したら悲惨すぎて笑いも起きない。今度からは、もう少し早めに誘おう……。

俺は、身体を起こす。

 

「それじゃあ、そういうことで。明日よろしく」

「どこ行くの? もう授業始まるよ?」

「保健室」

 

腫れた頬を指差しながら言った。彼女中々の手練れのだったようで、けっこう痛い。

 

「あ、うん。お大事に」

 

何だかんだ、ちゃんと心配してくれる渋谷は優しいと思いました。

 

 

 

 

 

 

日を跨いで土曜日の正午。

俺は昨日予告した通り、渋谷の家近くの公園にいた。ベンチに腰を掛けて、水筒の蓋型コップにコポコポとお茶を注いだ。湯気が空中に消えていく。

今日は春の陽気らしくまあまあ暖かいのだが、実益よりも気分を取った結果だ。俺の偏見だが、花見のお茶と言えば温かい緑茶と決まっている。

はらりはらりと落ちてきた桜の花がコップに入ってきた。衛生的でないのは理解している。しかし、これも風流でいいじゃないか。外に出たなら多少の不衛生は許容しなくてはな。

俺は構わず口をつけた。

 

「あっつぁ!?」

 

…………よく考えたら、俺猫舌でした。てへぺろ♪。

 

俺はコンビニに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

「遅い」

 

俺がコンビニから帰ってくると、しかめっ面の渋谷が迎えてくれた。ごめんとしか言えん。

ここで好感度高いヒロインならベタなデレイベントなんだが、基本好感度マイナスの渋谷じゃあり得ないだろう。

 

「悪い悪い」

「何してたの? 覗き? もしそうなら自首した方がいいよ」

「おい流れるように人を犯罪者認定すんな。あと俺はバレるような覗きはしない。しかし、バレない覗きなどこの世に存在しない。非常に残ね……だから必然的に覗きはしないということだ!」

「今何言いかけたの?」

「何でも!」

 

あぶねぇ! 本音が漏れるところだった。

くっ、渋谷め。人の感情に訴えて本音を引き出そうとするとは腕を上げたな。まあ、ほぼ自爆だが。

この話題はとても危険なため、俺は話題を自然に変えた。

「それでさ、それどうしたんだ?」

 

俺は渋谷が持っている紐に繋がれた生物を指差して言った。

俺が目を合わせるとワンと元気に鳴いた。

そう、その生物とは犬。渋谷の愛してやまないハナコである。

 

「お前花咲じいさんでもやりたいの? ここ掘れわんわんみたいな」

「それやったら、最後ハナコ灰になってるんだけど。変なこと言うともぐよ?」

「やめろー! 俺は息子は……息子だけは守ってみせるぞ!」

「あんた子供いないじゃん」

「え? あ、いや……何かすいません」

 

そういう意味ではなかったようです。

じゃあ、どこをもぐ気だったの? それとも男の大事なところ=息子が繋がらなかったの?

聞いてみようかな、でも聞いた場合俺はどうなるか……。うん、この世には知らない方がいいこともあるよね! 真実は闇の中!

「それでどうしたんだ?」

「別に、最近忙しくてハナコを散歩に連れて行ってあげられなかったからさ。タイミングもいいから、ついでに遊ばせようかなって」

「なるほど。要するに散歩のついでに俺の花見に付き合おうってことだな」

「そうだね」

「そうなんだ……」

 

否定してよぉ……せめて気ぐらい使えよぉ……。お前の犬を引くほど可愛がってるとは知ってる。でも、人間にも優しくしよう。差別だめ、平等を希望。

ああ、花見する前からテンションをガンガン下げられる。

……まぁ、渋谷に気を使った対応なんてされたら、違和感で吐き気催すからいいんだけどさ。

ま、気を取り直して用意しますか。

 

「地面にシート広げるのとベンチに座るの、俺の膝に座るのどれがいい?」

「最後は論外として、片付けるの面倒になるしベンチでいいんじゃない?」

「膝は……」

「知ってる紅葉、最近私携帯買ったんだ」

「すんませんでした! だから通報はやめてください。また警察署に迎えに来てもらうのは家族に申し訳な……ごほっ、ごほっ」

「今何て言ったの? すごい衝撃的なこと言ってなかった」

「…………イッテネエヨ」

「何で片言!?」

「さあて、準備準備」

「ちょっと、紅葉!?」

 

冗談に決まってるだろう。さすがに犯罪はしない。

まぁ、焦る渋谷は中々レアなのでこれはこれでおもしろいな。

 

ちなみにこの後、嘘だバーカと舌を出して言ったら、ハナコのかみつく攻撃を受けました。

 

 



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天使と出会って、電話番号交換して、月牙天衝受ける話

「きゃああああ!」

 

……まあ、待ってほしい。本当に待ってくれ。

俺はけしてジャンプのラッキースケベ先輩の後釜なんて狙ってないんだ。というかすでに跡継ぎの霊付きチートラッキースケベがいるだろう。だからもう後身育成とかしなくていいんだよ。あんたは楽しくハーレム囲んで末長く爆発してくれ。

そんなわけで俺はまたもや転びそうになった女性を助けて、豊満なお尻を触っているわけだ。

どういうわけだよ……。

しかも今回は洒落にならない。なぜなら相手が他校生だからだ。

もしこれが同じ高校の女子生徒であれば、こんなラッキースケベなんて『なんだ紅葉か』と渾身の右ストレート1発と蔑みの瞳でご褒美をくれる。

だが、それはいわゆる内輪ネタのようなもので、外に出てしまえば通らない。

まとめると、マジて捕まるかもしれん、めっちゃヤベェーである。人気ない路地で助かった。人がいたら1発で通報されてる。

俺は、蹴られても殴られても叩かれても罵られても、相手が女性であれば受け入れることができる変態だ。しかし、どんな変態でも公権力には敵わない。捕まるのだけはあかん。ただでさえ光明見えない人生が完全に終わる。

どうする? 奢る、賄賂、脅迫……金ない、度胸ないの俺には到底無理な話だ。

 

……それにしてもすごい弾力だな、このお尻。

 

 

「あ、あの~。くすぐったいので離してもらえますか~?」

「すいません、まじですいません、今すぐ切腹します」

「わわ!? せ、切腹なんて駄目ですよぉ! 死んじゃいますよ!」

 

お願いだから一度死なせて。こんな煩悩に正直な身体には、一度痛い目見させた方がいいと思うの。

俺が額をコンクリートに押し付けていると、遠慮気味な声が聞こえた。

 

 

「ほ、本当に私気にしてません。だから、顔を上げてください!」

「本当に怒ってない?」

「はい、大丈夫です」

 

じょ、浄化される! 何の裏もない純粋な言葉に、俺は心の中でそんなジェスチャーをした。

そこまで言うなら本当に怒ってないのだろう。とある花屋の青星(ブルースター)のように話も聞かずに110番にかけることはしないらしい。

優しいなぁ。俺は九死に一生を得た気持ちだった。

そうなると、いつまでも土下座しているのは彼女に気を使わせる。

俺は顔を上げる……と。

 

 

「あの、よかったらこれ使ってください」

 

そう言って白い清潔そうなハンカチを差し出してくる。……ん? これでどうしろと?

あ、ふーん。

 

 

「なるほど。お前の汚い顔面なんて見たくないから、これで隠せこのゴミ屑が! ……ってことだな?」

「ち、違います! そんなひどいこと言いませんよ! 私のせいで顔が汚れてしまったので、拭いてくださいって意味です!」

「またまた~」

「本当です!」

「え? まじで?」

「マジです」

 

マジか……。

俺は戸惑っている。なぜなら、今までこんな状況になったら殴られるか罵倒されるかの二択だったが、心配されるのは初めてだからだ。

まぁ、使ってくれと言うのなら、お言葉に甘えよう。

俺はハンカチを受け取って、埃がついた顔を拭った。いい香りだ、ボー○ドかな?

 

「ありがとう。これは洗って返す。……でも、俺はあなたの電話番号を知らない。ああ、どうすれば!」

 

わざとらしいオーバーアクションをとった後、ちらりと女の子を見る。

女の子はキョトンとして何かを考えた後、ふわりと笑った。かわいい。

 

 

「あ、なら電話番号交換しますか?」

「………………………違う」

「ど、どうかしたんですか?」

「違うんだああああ!」

「ひぃっ!」

 

壁を殴ると、女の子は悲鳴を上げて俺から距離を取った。彼女から見たら、俺はいきなり奇声をあげながら暴力行為を行うただの変態にしか見えないだろう。

しかし、今の俺はそれどころではない。アイデンティティクライシス真っ只中だからだ。

どこの世界にこんなキモくて冴えない男子高校生に心配してハンカチを差し出してくれる女子高生がいる?

どこの世界にこんな不審者面の怪しい野郎に気安く電話番号を教えてくれる女の子がいる?

もしいるとすれば、それは2次元か美人局だ夢見んな。

 

()()()()()

 

何を言っているのか分からないかも知れない。

お前はバカかと、リアクション芸人の元抱かれなくない男ナンバーワンの言葉が浮かんできた。

バカでいい。むしろバカでこそ俺だ。女の子に冷たく見下ろされてなじられ、殴られ、最後にご褒美ですと言って笑うのが俺のはずだ。

しかし今、罠の可能性など微塵も感じさせない彼女の純粋な笑顔にときめいている。

どうしてだ。どうして冷たい瞳ではなくて、暖かな瞳に喜びを感じる。

俺の覚悟はそんなものだったのか。

 

いや待て。本当に俺に問題があるのか?

なんせ1週間に1回のペースで胸や尻を揉みまくっているが、一応危ないところを助けているわけで、感謝されることも時々あった。

だが、その時はちょっと欲求不満になって、その日の夜いきり立った犬が暴れだしたぐらいだ。

要するに不満だった。

逆説的に今は満足しているということだ。

なぜ、状況は同じはずだ。答えは1つしかない。そう……。

 

 

「……すいません」

「は、はい!」

 

ビクビクと怯えている姿に、興奮して血を吐きそうになった。しかし、輸血が必要になりそうなのでギリギリで飲み干した。

 

 

「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「し、島村卯月ですけどぉ……」

「それでは島村卯月改めウヅキエル様!」

「う、ウヅキエル……? 様!? わ、私様なんてつけられるような人間じゃありませんよぉ!」

「なるほど下界ではあくまで正体を隠しているのか。なら、島村様とお呼びしよう」

「うぇぇ……。普通に呼び捨てでいいんですけど」

「駄目です。死にます、俺が」

「何でですかぁ!?」

涙目になってつっこむ島村様。ギャラクシーかわいい。

 

 

「僕の名前は銀杏紅葉。このご恩は忘れず、一生かけてお返しします」

「重いですよぉ!?」

「呼ばれれば一瞬で現れます。着替え中だろうと、入浴中だろうと!」

「変態さんですぅ!」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてないです!」

 

ああ、気持ちいい。ドMじゃないけど、かわいい女の子にドン引きされるのは最高だぜ。島村様だとさらにいい。

はっ。時計を確認すると渋谷との待ち合わせの時間に遅れていた。

一分で有罪、十分で処刑、それ以上で犬の餌代。……マズい。

先程まで絶頂に達していたテンションが、急速直下した。

 

「……島村様。用事があるのでここらで失礼します。このハンカチは、クリーニングに出してから返します」

「あはは、洗濯でいいんですげぉ……」

「駄目です」

 

俺はきっぱりと言って、身体を翻す。死地に赴こうと歩を進めると。

 

 

「あ、あの! 返すって、連絡もとらずにどうやって返すつもりなんですか?」

「俺の情報網を駆使して、家を見つけ出してポストにお礼の手紙と一緒にいれて起きます」

「ストーカーみたいですね」

 

自分で言っておいて、死ぬほど気持ち悪かった。

 

「……やっぱり交換お願いします」

「はいどうぞ」

 

紅葉は、天使ウヅキエルの電話番号を手にいれた。

 

 

 

「遅かったね紅葉」

 

待ち合わせ場所の公園に到着すると、アマツマガツチよろしくの暴風オーラを出して仁王立ちしていた。心なしか黒く長い髪は、後ろから扇風機を当てているのかのように逆立っている。

あらまぁ、激おこぷんぷんまるですわ。かわいく言ってみたけど、超こわい。

 

 

「ねぇ紅葉。選んでいいよ? かめはめ波、ギア4、螺旋玉、釘パンチ、黒魔術……さあ、選んで?」

「個人的には月牙天衝が好みです」

「ふーん、そんなに死にたいんだ?」

「いやいやいや、そのラインナップで瀕死ですみそうなの1つもありませんから」

「まあ、いいや。そんなに私の最後の月牙天衝を受けたいんだ?」

「いや、別に俺天に立とうとか思ってないし。むしろ地に伏して踏まれるのが好きだから」

「最後に言い残したいことはある?」

 

ああ。もう死ぬのは決定事項なのね。一応必死に早歩きして、10分遅れで来たってのによ……。自業自得? 確かに。

まあ、死ぬなら、これだけは言っておきたいよね。

 

「渋谷。……天使は本当にいるんだな」

「『無月』!」

 

ちょっと川の向こうに去年死んだひいじいちゃんが見えたけど、ギリギリ生き残った。

必死に石投げて来るなと言ってくれたじいちゃん。俺が来たら天国がヤバいはさすがに傷ついたけど、一応感謝しとく。ありがとう。

 

 



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