あべこべ・フリート(仮) (仙儒)
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主人公紹介
アスラン・ザラ(偽)


 よくあるありきたりな転生主人公。

 

 神様のミスで死んでしまい、女神に会ったときに、生前のガンダムで見たアスラン・ザラに強い憧れと共感を持っていて、アスラン・ザラになりたいと一風変わったことを女神様にお願いし、女神様の好意でC.E.の記憶と技術を持って転生することに。

 

 魔法少女リリカルなのはの世界に転生するはずが、またもや、女神様のドジで全く違う魔法少女まどかマギカの世界に転生してしまう。原作をあまり知らない世界で戸惑いながらも魔法少女の鳴れの果てを生前友達から聞かされていたので、知り合いが魔法少女にならないように奮闘する。

 

 その中で時を渡り、自分のことを先生と呼ぶ少女に出会い、四苦八苦しながらも女神様がアスランに二つの保険をかけていたことで、ワルプルギスの夜を撃退。

 

 今後、魔女ができないようにまどかの真似事して概念になり果てる筈だったが、女神様がかけた保険のせいで概念にもなり切れずに半概念体という状態で次元の狭間をさまよっているところ、世界の意思によりストライクウィッチーズの世界へと召喚される。

 

 今度は前情報も何もない状態で魔法を駆使してウィッチたちと一緒にネウロイとの戦いの中へと身を投じる。

 

 十代の少女たちが最前線で戦っているのを良く思っていなく、なるべく自分が敵の的になるような戦い方をしていた。

 

 また、医者の真似事もしており、その世界の後の医学の進歩の礎を築いているのだが、本人は全く気が付いていない。軍人(アイドル)でもあった。

 

 最後のネウロイの巣に魔道ダイナモを積んだ長門で特攻し、アスランのお家芸の自爆で敵コアごと消滅。

 

 次に目を開けたらハイスクール・フリートの世界で、諏訪大社の前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャスティス

 

 インテリジェットデバイス。

 

 元々はなのはの世界に行くために、アスランに女神様が用意した特別製のデバイス。

 

 女神様が用意しただけあって、ハイスペックを通り越し、廃スペックに。無口で余りしゃべらないが、アスランとは阿吽の呼吸。

 

 インフィニット・ジャスティスの超小型核融合炉は、なのはの世界に合わせて核エンジンから超小型魔力生成路に代わっており、アスランの魔力が尽きたらジャスティスからアスランへと魔力を供給するシステムとなっている。

 

 基本的に、アスランのため以外には自ら動こうとしない。また、アスランの邪魔になると思われる事柄は意図的に隠したり、潰したりしている。

 

 人間の姿にもなれるが、アスランの前では一度もなったことは無い。

 

 二十四時間、アスランがどうすれば楽しく、また、穏やかに過ごせるかに演算能力の半分を割いている。趣味はアスランの安らぎの時間を共に過ごすこと。

 

 なぜか、行く先々の世界の情報を知っている模様。




簡単に書くとこんな感じ。

感想でアスラン・ザラ(偽)の情報が欲しいとの事だったので。

後、作者が何を書きたいのかがわからないとのことでしたが、作者にもわかりません。

息抜きなのでそのへんゆる~く行こうかなって…え? だめ?


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あべこべ・フリート(仮)
花びら舞う出会いと嵐の出会い


 出会い、それは突然に。


 それは、夢のようだった――――――。

 

 

 

 

 桜の花びら舞う中、その人に出会った。

 

「はい、これ君のでしょ? 今度は飛ばされないようにちゃんと抑えるんだよ」

 

 まるで漫画やアニメから間違えて迷い込んできてしまったような整った顔立ち。宝石のような緑色の瞳に吸い込まれそうになる感覚。女の人と違って低い声。だけど、どこか安心する響き。

 幼い自分でもそれだけは理解できた。

 

 その人はそう言いながら、風に飛ばされてしまったブルーマーメイドの帽子を私にかぶせてくれる。

 

 私は両手で帽子の淵をぎゅっと握ると「うん」と力ない返事を返す。見とれていた…、それだけ目の前の男の人は美しく、格好良かった。

 

 私の行動を見て、男の人は優しい声音で「いい子だ」と言って撫でてくれた後、屈んでいた体を戻すと、お母さんに向かって一礼して去っていく。

 

 私は急に気恥ずかしいような不思議な感覚に襲われ、ぎゅっと握っていた帽子の淵を引っ張って顔を隠そうとする。

 

「お、何いっちょ前に赤くなってやがんだこのこの」

 

 真冬姉さんがちょっと赤い顔で私の頬をつついてくるのを逃れるため、走って逃げる。ちゃんと帽子は両手で握ったままだ。急いで真霜姉さんの後ろに回り込む。

 

「きゃ、ちょっと二人とも!」

 

 真霜姉さんもさっきの男の人に見とれていたのか熱の籠った瞳でボーっとしている。

 

 それにしても、さっきの男の人。男子校の優等生なのか、将校服を着ていたのが気になったが、将校服の襟に鷹を思わせる紋様の上に桜と錨マークが書かれて居た。あんなマーク、見たことがない。

 

 お母さんにそれを聞こうとしたら、何かを考えこんでいた。

 

「あの徽章どこかで……、ホワイトドルフィンでも無いし…」

 

「お母さん?」

 

「ああ、何でもないの。今時の男の子にしては立派だったからビックリしちゃって。何かしらましろ?」

 

 言っている意味はその時は理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷が鳴って、海が荒れている。

 

「明乃、速く飛び込みなさい」

 

「でも…何だか怖いよお母さん! お父さん!」

 

「大丈夫だから! ほら、速く!」

 

 次の瞬間、船が大きく揺れる。大きな波にお父さんとお母さんが飲み込まれて行く。

 

 

「間に合った」

 

 

 その声のした方を向くと男の人が立っていた。

 手には紅く光る縄? のような物が握られており、その先には……、

 

「お父さん! お母さん!」

 

 お父さんとお母さんが繋がれていた。

 

「君も!」

 

 そう言われると同時に体が宙に浮く。そのまま抱きかかえられ、海へと落ちる。

 

 落ちている間に、男の人が下敷きになるようにして着水。そのまま、救命ボートまで私を抱えたまま泳いでくれた。

 

「これでもう大丈夫だ」

 

 そういうと、お父さんとお母さんをボートに乗せる。私は急いでお父さんとお母さんに縋り付いて呼びかけるが、返事がない。二人とも死んじゃったのかと泣き出した私に男の人は優しく撫でながら言う。

 

「言っただろう、もう大丈夫だって。二人とも眠ってるだけだ。胸に耳を当ててみなさい」

 

 そう言われて、胸に耳を当てる。雷とボートが揺れる波の音の中、確かにドクン、ドクンと振動が耳に届く。安心できる音だ。二人とも生きている。それを見て離ていこうとする男の人の手を掴む。

 

「お兄ちゃんはどうするの?」

 

「俺にはまだやることが残ってるから」

 

「やだ! お兄ちゃんも一緒に行こうよ!」

 

 心細かったのもあるし、何となくいなくなってしまうような気がした。男の人は困ったように頬をかくと、私の頭にホワイトドルフィン学生の艦長帽子を被せる。反射的に手を放して帽子の方を握ってしまう。

 

「大事なものだ。持っていてくれ」

 

 その言葉を最後にボートから離れて行ってしまう。慌てて手を伸ばすがもう遅い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊感を感じたから目を開ければ、絶賛落下中。あれ? 俺確か長門に乗ってネウロイの巣に特攻して死んだはずなんだけど……、人使いの荒い神様だな。何? もう次の世界な訳? 俺に安息は訪れないのかよ。ってか、本当にどこだよ。ここ。神社の前みたいだけど……、何々、諏訪大社? え? ということは日本なの?

 

 なぜ、扶桑の名を出さなかったかというと、諏訪大社の前が海なんだよね。何度か目をこすって見直してみたんだけど、何度見ても、どの角度から見ても海。

 海は広いな大きいな~ってか?

 

 大きすぎだよ! 少なくとも日本の内陸部であるはずの諏訪の前が海とか無いわ!

 

 現実逃避していたら、上の方から帽子が飛んでいくのが見えた。

 転移魔法で帽子を手元に転移させる。

 

 多分、誰にも見られていないはず。

 

 帽子を持ち主に返すついでに、神様に文句の一言でも言ってやろうと思い神社への階段を上がっていく。

 

 上につくと姉妹と思われる人たちがいて、一番ちっこいのが空へと手を伸ばして泣きそうになっているのが見えて、この帽子の持ち主だろうと確信して近づく。

 

「はい、これ君のでしょ? 今度は飛ばされないようにちゃんと抑えるんだよ」

 

 そういいながら膝を折り、目を合わせて言う。

 

 帽子を被せてあげると、「うん」と頷き、両手で帽子が今度こそ飛ばないようにぎゅっと握った。ぶかぶかの帽子を被ったせいで目元まで隠れてしまうが、出ている頬が朱色に染まっていることから恥ずかしいのだと判断。人見知りする子なのかな?

 

 小動物ぽくて可愛いね。

 

 和んでいると、視線を感じた。

 

 視線を感じた方を向くと三人がこちらを見ていた。

 

 考えてみれば前の世界と違い昨今、ろりこんだかぽりごんだかがはやっているのかもしれない。

 

 ならば、怪しまれない(もう手遅れかもしれないが)うちに、退散しよう。こういう時には慌てたらアウトだ。あくまでも自然体で。

 神社ならば参拝者だと思われるだろうし、一応、警察に連絡しないでねと言う意味も込めて一番年上そうな女性に一礼して本殿の方へと足を進める。

 

 ここまで来たのだから、神社に賽銭を入れて手を合わせる。無論、文句を念じるのを忘れない。

 

 さて、ニプーハ・ニフィラと五回念じ終わったので、この世界の情報を集めることにする。

 

 少なくとも扶桑のように昭和では無い筈だ。建物も近代的なものが最初に見えたし。しかし、なぜ諏訪の前まで海が広がっているんだ? ジャスティスを使って衛星をハッキングしようとしたが、うんともすんとも……、信じがたいが人工衛星そのものが無いとジャスティスから告げられる。

 

 うせやろ…、だってこんなに近代的なんだぜ?

 

 一応コンピューターはあるらしく、国の中枢にアクセスして情報を得る。

 

 この世界、日本は地盤沈下により国土の半分が海に沈んでいることがわかった。そこである記憶が頭に引っかかる。俺はこの世界を知っている。革新に満ちた物がよぎるが、それが何なのかがわからない。こう、喉の辺りまで出かかっているんだが…、痒いところに手が届かない感じ。もう少し、もう少しで思い出せそうなんだ。

 

 そう思っている時、不意に声が響いた。頭に直接語り掛けるようなこの感覚は念話か!

 

 

 

 …けて、助けて!!!

 

 

 頭が割れるような痛みが襲い、目の前が一瞬にして暗転する。

 

 次に目を開いた時、嵐の真っただ中。沈みそうな船に逃げ惑う人々。次々に救命道具を身に着けて海へと飛び込んでいく。

 

 が、どう見ても救命ボートが足りていない。くそ、救助隊は何をしていると内心毒づきながらエリアサーチを使い逃げ遅れた人がいないか探す。

 

 その間にも刻一刻と船の傾斜は大きくなっていく。嵐も強さを増していく。

 

 一番傾斜が酷いところで避難誘導している場所で、年端もいかない子供がごねていた。救命胴衣を身に着けている。こういう時は酷かもしれないが、話して言い聞かせるよりも、持ち上げて海に放り込んだ方が効率がいい。その時を見計らったかのように、船は大きく揺れ、高波が襲う。その高波から子供を庇うようにして大人二人が救命ボートとは反対側に流されていく。幾ら大人でもこの荒波にさらわれて助かるわけがない。

 とっさにストラグル・バインドで俺と大人二人を繋ぎとめる。

 

 そのまま、子供を抱きかかえて海へ飛び込む。

 

 救命ボートに子供を放り込んで、バインドで繋ぎ止めていた二人も救命ボートに乗せる。二人のバイタルは…

 正常だ。もう心配ないだろう。一息つきたいところではあるが、こう言う時間との戦いのときは動けるものが動かないと助けられる命の数は急激に減少する。

 

 だが、子供…少女はパニック状態になっていた。前の世界のウィッチたちの顔が重なって動けなくなってしまう。しかも、無意識なのか俺の手も握っている。落ち着かせようとするが、どんな言葉をかけても少女の耳には届かない。致し方無く、無理やり大人二人の胸に少女を押し付ける。心音を聞けば落ち着くと何かで見たか、聞いたかした記憶があったから。その判断が功を奏したのか少女は落ち着きを取り戻した。しかし、俺の手は離してはくれない。無理矢理振り払ったら少女が救命ボートから落ちかねない。それだけ強い力で俺の手を握りしめていた。火事場の馬鹿力とも言う。どうしたものか? 時は待ってはくれない。離してくれるかはかけだが、試してみる価値はあるか…、反対の手で軍帽を取り、少女に被せる。作戦は成功したようで俺の手を離して軍帽の方に手をかけた。そのわずかな隙をついてその場を離脱する。

 

 それから少し、救助活動をしていたら救助隊が到着し、助けに来た女性たちにジャスティスから送られてくる情報を基に、現場の指揮を執たる形になった。

 最初こそ驚いた反応をしていた女性たちだが、ブライトさん並みの指示だししていたら準則に対応してくれた。流石はプロと言うところか。嵐のピークが過ぎ、東の空が赤らみ始めたころ、救助活動は終了した。

 

 そのどさくさに紛れて転移魔法で転移しようとした際、大きな爆発音が聞こえたと思ったらまた、意識が暗転した。その瞬間、思い出した。ここってもしかして――――――ハイスクール・フリートの世界じゃね? と。

 

 

 

 

 

 こうして、天候不良による救難信号キャッチの遅れに、これまた天候不良によるブルーマーメイドの現場到着が大幅に遅れるという最悪に最悪が重なった事故はたった一人の行方不明者だけで済み、ブルーマーメイドが監督不行き届きで世間からバッシングされることは無かった。

 

 この話には続きがあり、行方不明になった人物の身元詳細が一切見つからなかった。わかったのは将校服を着た”少年から青年”くらいの人物であり、余りにも的確過ぎた指揮能力から、実は事故にあった船の船玉なのではないかとブルーマーメイド内では噂になった。



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初航海でピンチ!

「ミケちゃんいつもその軍帽と懐中時計持ってるね」

 

「うん、私の大切な宝物なんだ! モカちゃんにも見せてあげるね!」

 

 そう言ってモカちゃんに懐中時計を渡す。

 

 表には太陽を思わせる彫刻が、裏には錨と桜の徽章が。そして、中にはウロボロス(何かの動物?)の彫刻があしらわれている。一つの懐中時計に三つのシンボルマークが刻まれているという中々に凝った造りをしている。

 

 モカこと、知名 もえかはこのシンボルマークに見覚えがあった。

 

「これって、昔の軍隊のマークだよね? ミケちゃん」

 

「え? そうなのモカちゃん! じゃぁ、これもわかる?」

 

 将校軍帽をモカちゃんに見せる。

 

 そこには、

 

 将大ラザ・ンラスアと書いてある。ここにも錨と桜の徽章がある。

 

「ん~…、もしかして縦読みなのかな?」

 

「縦読み?」

 

「そう、左から読むんじゃなくて右から読むの。そうすると……、アスラン・ザラ大将?」

 

「ねぇ、モカちゃん。大将って偉いのかな?」

 

「えぇー! ミケちゃん知らないの!? 昔の軍では二番目に偉いんだよ!」

 

「そ、そんなに偉い人なんだ…、知らなかった」

 

 そんな会話が続いた後、モカちゃんが首をかしげる。

 

「でも、軍があったのはブルーマーメイドができる前なんだ…偽物だとは思えないけど、どこで手に入れたの?」

 

 そういうもえかに明乃は大事に胸に抱え込むと

 

「私とお父さんとお母さんを助けてくれたお兄さんが、大切な物だから預かっていてくれって」

 

 そういう。

 

「お兄さんて、お、男の人! ミケちゃん男の人から貰ったの?」

 

「うん! 凄い優しくて格好良くてね! でも…、戻ってこなかったの……」

 

 最初こそ興奮気味で話していたが、段々と声が小さくなり、明乃の顔に影が差す。

 

 もえかは、一度だけ明乃から海難事故にあったことがあると聞いたことがある。そして、それはもえかも知っていた大きな事故だった。

 

 確か、将校服を着た男の人がブルーマーメイドの指揮を執り、大惨事だったにもかかわらず行方不明者がその男の人以外に居ないという内容だった筈だ。

 ただ、この話には続きがあり、実は事故にあった船の船玉なのではないかと噂になっていた。

 

 このことを告げたときのミケちゃんは今でも忘れられない。優しい性格のミケちゃんの表情が一転して無表情になり、一方的な大喧嘩にまで発展した。以後、この話はもえかにとってはタブーになっている。

 

「その時計もそうなの?」

 

 何か暗い雰囲気を脱するために話題を時計へと変える。

 

「ううん、お兄ちゃんが救命ボートから離れる際に落としていった物なんだ」

 

 暗い雰囲気は変わらない。

 

 そんな時、目の前の海にブルーマーメイドの象徴たる旗艦大和がこちらに向かってきてるのが目に入った。

 

「ミケちゃんあれ! ブルーマーメイドが帰ってきたよ! ほら、こっちに向かって手振ってくれてる!」

 

 その言葉に影が差していたミケちゃんの顔に輝きが戻る。

 

「モカちゃん! 私たち、絶対にブルーマーメイドになろうね! 約束だよ!」

 

 そう言って小指を差し出してくる明乃。もえかは「うん!」と元気に返事を返し、同じく小指を立て、明乃の小指に絡ませる。

 

「海に生き!」

 

「海を守り!」

 

「海を往く!」

 

 そこまで言うとお互いにクスクスと笑い出す。そうして、こちらに向かって手を振ってくれているブルーマーメイドに手を振る。

 

「ブルーマーメイドになれば、いつか、きっと――――――」

 

 明乃の小さな呟きはもえかの耳に届くことは無く、ただ、潮風にさらわれていくようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9年後。

 

 

 

 

 

 

 

 またあの時の夢。

 

 私、宗谷ましろは9年前のあの日の夢を見る。自分が初めてついていると思った日。

 

 甘酸っぱい初恋の記憶。

 

 この世界は男女比率が1:9。

 

 極端に男性が少なく、圧倒的に女性が多い。

 

 そのため、どこの国も男性保護法を敷いており、男性は働かなくても十分なお金が毎月支給される。更に、女性による犯罪事件も後を絶たないために出歩く男性はほぼいない。また、男子が生まれた家は、その子を蝶よ花よと愛でるので増長して自己中心的でわがまま放題。女を嫌悪しているのがこの世界の常識で、極端に太っていたりひょろりとしてモヤシみたいな感じの男性が普通。

 

 それでも、男子と会えるだけで幸運と言われるのは、やはり、その数の少なさのせいか。

 

 男の我がままを聞くのが女の甲斐性。何て言葉もある。

 

 無論、そんな男性だが、正義感を持ち、人々の役に立とうと行動する男性も存在する。男性全員の中の更に1%にも満たない数だが。そんな人たちがホワイトドルフィンになるのだが、やはりどこか傲慢で、女に嫌悪感を抱き、それを隠しもしない。それでもビジネスライクには形だけは何とかなっている。

 

 私も宗谷家の人間。

 

 男の人と会うことは母の仕事の都合上何度かあった。幼いながらに避けられているのは気が付いていたし、好みの差はあれど、太っていて禿げていてもひょろっとしたモヤシみたいな男性でも格好いいと思っていた。

 

 そんな男の人達とでも、大きくなったら結婚するんだ。結婚したいと思っていた。

 

 そんな中、名前も知らない彼に出会った。

 

 女性に対して、私に対して嫌悪感すら感じさせず面と向かって、私の目を見て優しく接してくれた。物語の中から出てきたような女性の理想が具現化した究極の人。

 

 あの優しい微笑と瞳を忘れたことは一度としてない。大切な人と直ぐにわかった。心臓がドクンと鳴り、木漏れ日が揺れた。同じ景色のはずなのに輝いて見えた。

 

 だから、私は後悔している。なぜ、あの時呼び止められなかったのだろう。せめて名前だけでも知りたかった。

 

 そのことで、良く真冬姉さんにからかわれたりした。姉さんたちだって思いは同じ癖に。

 

 

 っと、物思いに耽っている場合ではない。

 

 今日から私は横須賀女子海洋学校の生徒だ。母さんや姉さんたちみたいな立派なブルーマーメイドになる。ならなければいけないのだ。

 

 試験で全問正解の筈だったが、解答欄が一つずれているのに気が付いたのは試験終了直後。問題用紙を回収されていく途中でだ。

 

 はぁ、ついてない。

 

 そう思い、足を速める。一応時間に余裕をもって登校した。

 

 途中、苦手な猫にあい、見知らぬ少女からタックルを貰い、バナナの皮を踏んで海に落ちた。

 時間に余裕を持って登校して正解だった。

 

「うわ~、ついてないね」

 

「お前が言うな!」

 

 

 

 入学式が終了してそれぞれのクラスに移動する。

 航洋艦晴風の副長に任命された。姉さんたちは皆成績優秀者が乗る大型直接教育艦の艦長だったのに、何で私は……。

 

 やっぱり、ついていない。

 

 エンジントラブルが起きて、機関を停止している途中に艦長が何かを発見する。

 

 そうすると凄い速さで出て行ってしまった。

 

 艦長が真っ先に飛び出していくとは何をやってるんだ! と内心穏やかでない状況の中で見張り員の野間マチコから瓦礫に人が捕まって漂流しているとの報が入る。

 

 スキッパーが戻ってくると艦長が慌てた様子で医務室のみなみさんの所に行く。

 

 通った後の濡れた床にベッタリと血の跡ができているのがただ事ではないと物語っていた。

 

 それにしても、あの服は将校服だった。他校の成績優秀者だろうか?

 

 

 

 そんなこんなで、四時間の遅刻をしてしまった。

 

 目的の海域に到着。

 

 直後、発砲音と同時に海が爆ぜる。

 

「な、何だ!」

 

「さるしまです。さるしまから発砲を確認。次弾来ます!」

 

 見張り員の野間マチコから声が艦橋に響く。

 

 艦橋は軽いパニック状態になる。私は遅れた罰だと思い、通信機を取り遅れた理由を説明しようとする。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 9年前に聞いた声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まして一言。

 

「知らない天井だ」

 

 何度か言ったことがあるような気がするが、一応口にしておいた。

 

「それは、船の中だからな」

 

 声の人物が近づいてくる。

 

 手には血濡れた包帯が……、そう言えばハイスクール・フリートの世界に来たんだっけか? ってか爆発に巻き込まれて気を失ったような気がするけど、あのぐらい普通に防げたでしょ? 何で防いでくれなかったのジャスティス。幾ら俺が死なないからって扱いちょっと雑すぎやしませんかね?

 

 いや、もしかしたら、その方が都合がいいとジャスティスが判断したのかもしれない。

 

 そう言えば時間軸的に今どの辺りなの?

 

 ちみっこ保険医(でいいのか?)が居るってことは晴風の中で確定だろう? 船の中って言ってたし。船っていうか、軍艦だけど。この世界では航洋艦って言うんだっけ? 細かい設定は忘れた。

 

 ちみっこの名前も何だったか覚えてないし。

 

「すまない…、ありがとう」

 

 そういうと、ちみっこは少し驚いた顔をしている。どうしたと尋ねると何でもないと返ってくる。

 

 包帯を巻き終わった後、直ぐに立ち上がって出ていこうとしたら、ちみっこが前に立ちはだかる。

 

「艦長に挨拶と礼を言いたいんだが…」

 

「その心がけは殊勝だが、養護教諭として許可できない」

 

「もう大丈夫だ」

 

「その怪我で大丈夫なわけないだろう」

 

 確かに体は怠いがもう大丈夫だ。

 

 そう思い進もうとしたらズキリと鈍い痛みが走り、立ち眩みする。体勢を崩したのを見て、ちみっこが「だから言っただろう」と言う。

 

 次の瞬間、艦内が激しく揺れる。その衝撃でちみっこを押し倒す形で倒れてしまう。

 

「な、ななな、にゃ!」

 

 言葉にならない悲鳴(でいいのか?)をあげ、手と足をバタバタさせている。

 

「ああ、すまない…怪我してないか?」

 

 顔をあげるとちみっこの顔がある。あと数センチで唇と唇がくっつく距離だ。完熟トマトのように真っ赤になり、潤んだ瞳でこちらを見ている。

 成程、こんなちっこいのに俺みたいなのが乗っかったら苦しくもなるし、世間体的にもよろしくないだろう。

 

 それに隙もできた。医務室の扉を開けて、艦橋へと向かう。今の揺れ方からして、何らかの戦闘行動に入ったのだろう。爆発音も聞こえたし。ソニックムーブを使い一息に艦橋へと足を踏み入れる。

 艦内構造は扶桑の晴風と全く同じだったので、迷うことは無かった。

 

 艦橋内は軽いパニックに陥っていた。

 

 アスランの良すぎる目は既に砲撃を仕掛けてきている相手の艦長の顔を捉えていた。

 

 目が逝ってる。完全に表情が死に、攻撃的意思をだけを感じさせるものだった。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室を後にした私は、着替えるために艦長室へと戻っていた。

 

 血と髪の毛で顔は見えなかったが、男の人だった。

 

 それを見たときは助けることで頭がいっぱいで、気にしなかったが、今になって気になり始めた。

 

 お父さん以外の男の人に触れるのはこれで二回目だ。

 

 私自身は何の実感もないが、周りは私を強運の持ち主という。男の人が少ない世界で、父親がいること自体が珍しい。その中でも優しいお父さんは女性の憧れを具現化したような存在であるらしい。親友であるモカちゃんにもよく羨ましがられた。

 

 確かにお父さん以外の男の人に会うのは、あの嵐の中の水難事故以来無い。

 

 だからだろうか? こんなに気になるのは。こんなに心臓がドキドキするのは。それとも、将校服があの時助けてくれたお兄さんに重なったからだろうか?

 

 多分後者だ。

 

 私はアスラン・ザラ大将と錨と桜の徽章が刺しゅうされている将校軍帽と懐中時計を持って艦橋に戻る。

 

 もうすぐ目的海域だ。

 

 

 

 

 海域について早々にさるしまから砲撃があった。

 

 遅れた理由は先に打電してある筈! 段々正確になっていく砲撃の中で、副長のシロちゃんは遅れた罰だから砲撃に耐えきるしかないと言うが、流石にこのままだと怪我人が出る。

 そう言うとシロちゃんはもう一度無線で報告をし、砲撃をやめてもらうように具申すると言って無線を繋ごうとしたとき、懐かしい声が響いた。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 血で汚れた将校服姿で頭には包帯を巻いている。

 

「え? お、男の人!!」

 

 艦橋内は別の意味で色めき立つが、男の人は、お兄さんは気にすることなく。

 

「艦長、あの艦はこちらが沈むまで攻撃をやめないがどうする?」

 

「……、その根拠はどこから来るものなんですか」

 

 口を開いたのはシロちゃんだった。声が若干震えている。

 

「今も続く砲撃じゃぁ、納得してくれないか?」

 

 冷静に周りを見つつ、少し困ったような顔で言う。

 

「これは罰です、悪いですが部外者の意見h「君は艦に乗ってどの位経つ?」?」

 

 急な質問に首を傾げるシロちゃん。しかし、直ぐに「これが初めてです」と答える。

 

「そうか。俺は初めて乗ったあの日から、幾百の昼と夜を超え。幾千の屍と鉄火の嵐を超え、幾万の涙を超えて来た。だからわかる。これは罰なんかじゃない、本気で”攻撃”してきているんだ」

 

 言っている意味はわからなかったが、言葉に重みがあった。どうにかしないといけないと心の底から思った。

 

「シロちゃん、やっぱりさるしまに攻撃しよう。お兄さんの言う通りだよ」

 

「艦長! ええい、どうなっても知らないからな!」

 

 そう言いながら武器のロックキーを解除してくれる。

 

「え! 撃てるの!! 撃っちゃっていいの!!」

 

 メイちゃんがキラキラした顔で興奮気味に発言する。

 

「見たところ、あの艦に主砲は一門。ゼロ距離射撃(水平射撃で的に当たる距離)で主砲のみを潰す。いいな? 艦長」

 

 お兄さんの声に「え? はい」と気の抜けた返事をしてしまう。

 

「機関一杯、最大戦速! ”Z旗”を掲げよ!」

 

「Z…旗?」

 

 全員の頭に?が浮かぶ。

 

「戦闘旗のことだ。海軍であるなら相手が寝ているのなら、枕を蹴って相手を叩き起こしてから攻撃する」

 

 勉強したことがある。Z旗。確かロシアとの戦争のときに掲げられた旗だ。旗の意味までは覚えていないけど。何でこんな古いものばかりを言うのだろうか? それに今”海軍”って。

 

 ブルーマーメイドが設立されて約百年。その時に海軍は解体されたはずだ。勉強が苦手な私でもそれはわかる。

 

「艦長、シャキッとしろ! 今のを各機関に通達するんだ!」

 

 考え事をしていたらお兄さんから活を入れられる。

 私はハッとなり、直ぐに機関長のマロンちゃんに呼びかけてOKを貰い、野間マチコことマッチちゃんに”手旗信号”で攻撃準備に入ったことを知らせる。

 

 そこから先はお兄さんの指示通りに動いていた。

 

 砲弾は一番砲を一発だけでいいと言うお兄さん。流石にそれは無理があるんじゃないかと思ったが、「撃て!」と言う号令と共に一番砲が放たれ、その砲弾は寸分たがわず、さるしまの主砲だけを貫いた。

 

「本当に、一発だけで…」

 

 誰かが無意識に呟いた言葉が聞こえた。

 

「やった、やったよ! 私達!」

 

 艦橋内が色めき立つ。

 

 それと同時にバタンと、誰かが倒れる音がした。お兄さんが倒れていた。




Z旗は正確には戦闘旗ではありません。

日本海海戦で旗艦の三笠に揚げられた旗で、その時は「皇国の興廃この一挙、各員奮励努力せよ」と言うもので、以後海軍では第二次世界大戦中の重要な作戦時に掲げられたそうです。


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追撃されてピンチ!

 実力の差を知った。

 

 伊達に将校服を着ているわけではないことも。

 

 そのことに驚き、興奮しているのもつかの間。バタンと将校服の男が倒れた。

 

 静まり返る艦橋の中、一番初めに動いたのは私と艦長だった。うつ伏せに倒れた男の人を仰向けにする。頭に巻いていた包帯が赤く汚れ、顔を伝って流れている。

 

「大変! さっきの戦いで傷が開いたんだ!」

 

 男の人の手が弱々しく上がり、近寄れとジェスチャーがあり、顔を近づける。決して、やましい意味があるわけではない。無いったらない。

 

「艦長、怪我人の収容を。誰か怪我をしているかもしれない」

 

「手当が必要なのはあなただ! 待っていてください! 今すぐに医務室に運びますので!」

 

 私がそう言うと男は首を横に振る。

 

「俺は…、大丈夫だ。最後でいい」

 

「その心がけは殊勝だが、それは聞けない相談だ」

 

 速球に手当てが必要なのはあなただ! 私がそう叫ぼうとしたとき、養護教諭の鏑木さんが救急箱と担架を持ってきた。艦長を見ると「少し付き合ってくれ、それと…、」そこで言葉を区切り、

 

「副長と航海長以外で担架を頼む」

 

 そう言うと、包帯を手早く取替え、応急処置に入る。

 なぜ、私が外されたのか不満があったが、養護教諭の鏑木さんが艦長を呼んだ以上、艦長のいない間は副長である自分が指揮を引き継がなければならない。もっと話をしてみたかったし、名前も聞きたかった。が、致し方がない。次の合流ポイントまで時間がある。その間に様子見として、会いに行けばいいか。

 

 他のメンバーは…、ジャンケンで誰が一緒に連れていくかを決めているみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れてから担架で運ばれている間に魔力を回復魔法に九割回して、残りの一割で攻撃してきた艦(確か、さるしまって言ったっけ?)の情報を集めている。

 

 ハイスクール・フリートの内容は殆ど覚えていないからだ。覚えていたとしても情報は大切だ。自分が関わることで大きく変化してしまう局面もあり得るからだ。まぁ、余り覚えすぎていて、それ通りに進めようと神経をすり減らし続けるよりは気は楽だが、あって困ることはない。

 

 医務室につき、ベッドに移されてからも情報を集め続ける。

 

 ちみっこが艦長と何か話しているが、話の内容にまで気をまわしてる余裕は無かった。

 

 話し終わったのを見計らって、艦長を呼ぶ。

 

「な、何ですか?」

 

 緊張しているのか、少し声が上ずっているが、今はそれよりも優先することがある。長方形のスティックを渡す。

 

「? なにこれ?」

 

「まぁ、持っていればわかる」

 

 そういう。

 

「あの、これに見覚えありませんか?」

 

 そう言って差し出されたのは気を失う前に助けた少女に渡した軍帽と俺の懐中時計だ。懐中時計はともかくとして、軍帽を渡したのは年端もいかない少女だった。もしかして、姉妹の方だろうか?

 

「…、確かにそれは俺の軍帽だが?」

 

「やっぱり!!」

 

 俺が返事をした後直ぐに頬を染めて、目をキラキラさせる。

 

「あの、私あの時助けてもらった岬明乃って言います! ずっと言いたかったの。9年前はありがとうございました!」

 

 はぁ? 俺9年間も寝てたの? 嘘だ~。

 

 しかし、目の前の少女が嘘を言っているようには見えない。つまり、本気(マジ)だ。

 だとすると……、

 

「そうか、大きく美人になったな…、俺も老いる訳だ」

 

 どこかの神父のセリフが自然と出てしまった。

 

「えへへ、美人だなんて、そんな~」

 

 そんなやり取りをしていると、ちみっこが「おっほん!」とわざとらしい咳ばらいをし、

 

「艦長。それ以上は患者の傷に触る」

 

 艦長は「そ、そうだよね~」と言って名残惜しそうな顔をして医務室を出ていこうとする。

 

「ああ、艦長。さっきの話はあくまでも私達だけの秘密に頼む。他言無用だ」

 

「え? あ、うん。わかった。あとは宜しくみなみさん!」

 

 そう言うと、今度こそ若き艦長は医務室を出ていく。

 

「ところで、何やら人が押し寄せてきてるようだが、対応しなくていいのか?」

 

 ここは医務室。さっきの戦闘で怪我人たちもいるだろう。

 

 そういう意味では俺のせいで申し訳ないことをしたな。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 そう言うとちみっこはカーテンを閉めて個室にする。

 

 そのあと、「わぁ!」という声と共に何人かが倒れた音が聞こえた。こういう時の野次馬根性ってどこに行ってもどの時代でも変わらないよな。そのことに少し安堵する。特に艦長くらいの年頃ともなれば、噂話が好きで好きでたまらない筈だ。

 影でどんな噂をばらまかれるのやら。知りたいような、知りたくないような? こう、怖いもの見たさってやつ?

 

「怪我人以外はとっとと散れ」

 

 わーお、意外と辛辣。

 しかし、年頃の乙女達は食い下がる。

 

「えー、いいじゃん、いいじゃん! 私達も男の人見てみたい! 同じ空気を吸いたい!!」

 

 おい、変態がここにいるぞ! 普通この位の少女たちであれば、好きな男以外皆、「キモイ」とか「くさそう」とか何かと見下される筈なんだけど……、いや、別に見下されたいとか、見下されて興奮するほど上級紳士じゃないけどさ。

 

「みなみさん独り占めは良くないと思いまーす!」

 

「そうだそうだ!!」

 

 わいわいきゃきゃーと騒がしい。女三人寄れば姦しいとは言ったものだ。声からして三人以上は確実にいるけど。まぁ、嫌いではないけどさ、こういう雰囲気も。前の世界では医務室と言えば、うめき声が木霊する地獄だったし。

 

「あほか、第一、怪我が酷いんだ。面会何て許可できない」

 

「そう言ってみなみさん襲うつもりなんでしょ!!」

 

「な、ば、ばかか! 養護教諭として、当然の判断をしてるんだ。その襲う(ごにょごにょ)何てするわけないだろ!!」

 

「その反応、怪しいー」

 

 襲う? 襲われるの間違いじゃなくて? おれはロリコンではないので襲う気は更々ないのだが、反転してるのか? ジャスティス! 情報をおくれめんつ。

 

 はいはい、ふむふむ、成程。念話で話した結果、この世界は前に居た世界よりも更に男が希少で男1に対して女9らしい。男を見れること自体が奇跡に近いみたい。それでこの騒ぎか……、前の世界で慣れていたつもりだけど、先が思いやられるな。

 身分証明は多分ジャスティスがやってくれてると思うけど、この先どうするか。前の世界ではネウロイと言う人類共通の敵がいて、人類の破滅がかかっていたが、この世界は割かし平和だったと思うのだけど…、戦争とかも起きてないし。

 

 あれ? でも確か、戦争をしない象徴として艦長を女性が務めるんじゃなかったっけ? 男がほぼいない以上、戦争も女がやるものなんじゃ…、前の世界はそうだったし。

 

 …深く考えるのはよそう。カガリに「お前、頭ハツカネズミになってないか?」 とどやされそうだ。アスランの記憶の中のものであって、俺はカガリにあったこと無いけどな! 

 

 無駄なことを考える余裕ができたのは魔力コントロールを全部ジャスティスが代わってくれたから。だったら最初からやってくれよと思ったら、身分証明から現在の状況までの情報の収集、整理を行ってくれていたらしい。

 空間転移も空白の9年間も予期せぬ事態であったとかなんだとか。取り合えず今はのんびりと眠りにつきたい。なぜか酷く疲れた。俺自身の魔力の枯渇も影響しているのかもしれない。なぜ魔力タンクと言われた俺の魔力が枯渇してんのかわからないけど。ジャスティスの予想だと時空転移による影響ではないか? とのこと。ジャスティスに魔力生成能力があって助かった。

 

 

 瞼が段々と落ちてくる。こんだけうるさい状況下で今まさに眠ろうとしている俺は神経が図太いのか、それとも……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦橋へ戻った私の心は実に晴れやかだった。

 

 ブルーマーメイドになれば(この道を進んだなら)いつかまた、彼に会えると信じて生きてきた。

 

 お父さん以外の初めて会う優しい男の人。ずっと、ずーっと憧れていたお兄さん。そんな人に美人になったと褒めてもらえたのだ。浮かれない方がおかしい。

 

「艦長さん、艦橋に戻ってきてからずっとこんな感じですね」

 

 ココちゃんがそう言ってくる。私、そんなに顔に出てるかな?

 

「全く、艦長なのだからもっとビシッとしてほしいものだ」

 

「こちらはご機嫌斜め見たいですね…」

 

 シロちゃんを見て苦笑いするココちゃん。

 

「そりゃ、しょうがないよ。男の人に会えるだけでも奇跡なのに。しかも、血の上からでもわかるあのイケメンっぷり。あんな御伽噺から出てきたような男の人と触れ合えたんだもん」

 

「かもしれませんね」

 

 メイちゃんの言葉にココちゃんが同意する。

 

 しかし、楽しい時間は長くは続かない。

 

 

 ピピピッ、ピピピッ!

 

 

 音が艦橋に響く。

 

 音源を探したら、スカートのポケットに入れていた長方形のスティックが点滅している。

 

「これ…」

 

 そう呟いて長方形のスティックをポケットから出したら、空中にディスプレイで映像が流れる。どういった技術でできているのか全く理解できない。SF作品から抜け出してきたような道具に戸惑うが、流れている内容に更に言葉を失う。

 

『さるしまの自沈を確認しました。電報を受信。発さるしま、海上保安局当て。「学生艦晴風反乱、我晴風の攻撃にて大破」繰り返します…』

 

 それに艦橋内が静まり返る。その間も女性の声で説明が続く。それを三回繰り返した後、ディスプレイは消失した。

 

「これって、何かの冗談だよね?」

 

 最初に口を開いたのはメイちゃんだった。

 

「そ、そうですよ! 流石にそんなこと…」

 

 そう言っている途中に通信が入り、それに出たココちゃんの顔色が変わる。

 

「……、どうやら本当みたいです」

 

「え? 何で? 先に撃ってきたのはあっちじゃん! 何であたし達が反乱したことになるわけ?」

 

「わ、私に言われても困るよ」

 

 メイちゃんが文句を言った先にはリンちゃんがいて、リンちゃんが半ベソかきながら必死に訴えている。

 

「でも、さっきのでは”自沈”って言ってたよね。何で自沈までしてこんな電報を?」

 

 私が小さく呟くとココちゃんが一人演劇を始める。

 

 陰謀…、陰謀か…。確かに自沈してこんな電報を打電するくらいだから、何かが起こってるとみて間違いはないだろう。




サラッと口説くアスラン。

普通は9年前はとかじゃなくて、あの時はって言うとかそう言うのは良いから…。


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乙女のピンチ!

潜水艦のことはなかったことに……、絶滅危惧種の男の乗った艦を攻撃できるわけないでしょ!


 目が覚めたら、周りに誰もいない。

 

 ジャスティスに聞いてみたら艦内部にある教室みたいな場所で会議中とのこと。

 

 うろ覚えだけど、確かトイレットペーパーを買いに行く行かないの話をしているんだったと思う。俺も力になれればいいんだが、生憎とこの世界の金は持ってないんだよな~。

 身分証明書もそうだけど何とかならないかね? それとも、この航海が終わればこの世界からは用済みかな?

 

 前の世界のことを考えるとそうも思えないんだよな~。

 

 そんなことを考えていたら、ジャスティスが俺が寝ている間に全て済ませてくれたらしい。すると黒いカードと通帳、小切手、印鑑が出てきた。通帳を見てみる。……0が一杯だったとだけ言っておこう。黒いカードと小切手以外をしまうと俺も教室に行こうとするが立てない。正確には足元がおぼつかない。情けないことに一人ではまだ歩けないらしい。

 

 しょうがないので、転移魔法で教室に転移する。

 

 転移した先では晴風乗組員の少女たちがギャアギャアと騒いでいる。まだ、話はまとまらないらしい。一番右端の席に腰かけて話の行く末を見守る。

 

 しばらく見守っていたら募金活動が始まった。やっぱり、個性的な子ばかりだよな。あ、あの小さい子「宵越しの金は持たねーんでい!」だって。江戸っ子か。初めて見たというか、聞いたというか……。

 で、順番が回ってきたんで、艦長帽の中に黒いカードを入れる。凄い大声で「ええ!!」と声が響く。

 

「なんだ? 何番目か前の子みたいに小切手の方が良かったか?」

 

 そう問いかけると、さっきまで騒がしかった教室内が一気に静かになる。ど、どうした? 何かやらかしたか?

 

 次の瞬間、黄色い歓声があがる。

 

「男の人!! しかも、見たことないくらいのイケメン!!」

 

「艦長が男の人を助けたって言うの本当だったんだ!!」

 

 他にも何か言っているが、残念ながら声が被って何を言っているのかわからない。思わず苦笑いがもれるが、それすらも彼女らの琴線に触れたのか、再び上がる黄色い歓声。気分は観客から注目されてるアイドルの気分。前の世界では軍人兼アイドルだったから今更引きはしないが……。俺のポジションはラクスなんだな。ザラ派とか言う宗教団体みたいなのが俺のあずかり知らぬところで発足していたが、この世界でも同じことにならないだろうな?

 

 そんなことを考えていたら、右手を誰かに握られる感覚に現実に戻される。

 

 目の前には、先程小切手を出していた少女がうっすらと頬を染めながら、俺の右手を両手で優しく包み込むような形で握られていた。いつの間に…、優しく包み込まれている手からは女性特有の柔らかさを感じるが、少し硬く、何かしらの得物を使った武芸の心得があることがうかがえた。

 

「私は万里小路 楓と申します。よろしければ、楓と呼んでくださると嬉しいですわ」

 

 ラクスと同じような、どこか世間離れした所もうかがえる。

 

「ああ、俺はアスラン。アスラン・ザラだ。短い間だろうがよろしく頼む」

 

 そう答えると、少し驚いた顔をしていたが、直ぐに柔和な表情に戻る。

 

「では、アスラン様、と」

 

 そこまで言ったところで女子たちから声が上がる。

 

「まりこうじさん(まりこー)が抜け駆けしてる!!」

 

 これだけ大勢の乗組員が一つになった瞬間だった。

 

 万里小路は頬に片手を添えながら、「あら? 私そんなつもりは」と言うものの、もう片方の手はしっかりと俺の手を握っている。

 

 そのあと、晴風乗組員32名と自己紹介と握手会をした。

 

 どうでもいいけど、艦長である岬は自己紹介してるよな? 何で改めて? そして、みなみさんと言うちみっこ。俺が寝ている間に手を握ったり胸板ペタペタ触っていたのを俺は知っている。(ジャスティスが教えてくれた)

 

「それで、買い物はいいのか?」

 

 俺の一言に少女たちは「ああ!」と声を上げる。元気なようで結構。

 

「あの、これ本当に使っていいんですか?」

 

 そう言って艦長が黒いカードをおずおずと出してくる。

 

「ああ、好きなものを買ってくるといい」

 

 流石に家とかは困るが…。そう言う。元々ジャスティスが銀行やら政府やらからかっぱらってきた物なので、別に惜しいという気持ちもない。

 

 これ以上、此処に居てもガールズトークに付いていける気がしないので、立ち上がろうとしたところでふらつく。それを万里小路が支えてくれる。

 

「ああ、すまない。壁まで頼めるか? 後は一人で大丈夫だ」

 

「いいえ、困っている男性を助けないなど、万里小路家の名が泣きますわ。医務室まででよろしいでしょうか?」

 

「……、いや、艦橋でたn「医務室だ」…」

 

 俺の言葉に被せるように、そして、俺の前まで歩いてきて腕組みしながら言うちみっこ。

 

 ……、

 

「艦橋でt「医務室だ」」

 

「艦橋d「医務室だ」」

 

「かn「医務室だ」」

 

 このやり取りで万里小路があわあわしている。

 

 はぁ、とため息をついた後、俺は思ったことを告げる。

 

「艦長が留守の間この艦はどうする」

 

「そのための副長だ」

 

 あくまでも、食い下がって譲ってくれないちみっこ。仕方があるまーに。

 

「はぁ、わかった。けど、艦橋にはミーナを置いておけ。彼女たちよりは一日の長がある」

 

 それが、俺が医務室に向かう絶対条件だ。そうつけ足しておく。肝心の人物はピンと来ていないようだが…。

 

「ミーナって…、もしかしてわしのことか!?」

 

 他に誰がいる、と言いかけて言葉を飲み込む。そういえば、501部隊の隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと同じ感覚で呼んでしまったが、嫌だっただろうか?

 

『すまない。嫌だったか?』

 

 ドイツ語で言葉を返す。なぜ、ドイツ語なのかは俺なりに誠意をもっていることの証と、やはり、母国語が話せる人と言うのがいるのは嬉しいことだろうと思ってのこと。

 

「そそそ、そんなことは無い! むしろそのままが良いというか、何と言うか」

 

 顔を真っ赤にしてもじもじしながら返事を返してくる。どうでもいいけど、日本語うまいな。わざわざドイツ語で謝罪した必要はあったのだろうか?

 

 そう思いながら歩きだす。

 なぜか支えてくれている万里小路とその後ろをついてくるちみっこが不機嫌になっている気がする。こう、笑顔なのに目が笑ってないところとか。

 

 

 

 医務室に付き、礼を言うと万里小路は戻っていった。他にも生徒たちがぞろぞろとついてきていたが、ちみっこが医務室に鍵をかけてしまい、入ってこれない。

 横になったまま何となく雰囲気が変わったのを感じ、再び起き上がろうとすると「寝たままでいい」と手で制される。

 

「単刀直入に言う。お前は何者だ? 何を隠している」

 

 隠していることはたくさん有りすぎて何を話せばいいかわからない。言ったところで信じてくれるほど、目の前の人物は頭の中がお花畑では無い筈だ。前の世界と言い、この世界と言い、天才はどうしてこうも鋭いかね? まぁ、それ故の天才なのだろうが……。

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「否定はしないんだな。お前の着ている服は、正規のホワイトドルフィンの物ではない。錨に桜の紋章…、それは旧日本海軍の徽章だ」

 

「コスプレ……、と言う線は無いのか?」

 

「それも考えなかった訳ではないが、これは指揮刀だ。普通の店やオークションで手に入るものじゃない。それにこのご時世だ、そんな物が出回ればニュースにもなる」

 

 へぇー、あれって指揮刀って言うんだ…、今初めて知った。式典やなんかに出るときに章香につけられてたから、何かしらの意味があると思っていたがまさかそんなものだったとは。おじさんびっくりだ。

 

「さて、ね。記憶に混乱がある。俺も良くわからないんだ」

 

「脳波は正常だった。それに艦長たちにあれだけのことを言っておいてか?」

 

 そうはいってもね、俺もハイスクール・フリートの世界のことはもう殆ど覚えていないのだ。辛うじて岬明乃を中心とする物語だったのと、ウイルス兵器とでも呼ぶべきものがどうたらこうたらで、その名前がラッテン…、ドイツ語でネズミを意味する名前に近かったような……、そして、それは電子機器を妨害すること、猫には感染しないこと、初期感染者は海水が有効なことくらいしか覚えて…、あれ? 結構重要な部分は覚えてるな。

 

「俺が覚えてるのは、俺が船乗りだったこと、救助をしている途中に大きな爆発に巻き込まれたこと。今話せるのはこの位だ」

 

 実際、この世界に来て、救助活動中に爆発に巻き込まれたのは本当だ。そして岬の話だと9年の時が過ぎているらしい。俺にもさっぱりだ。ジャスティスもこの件に関してはわからないって言ってるし。

 船乗りに関しては扶桑海軍のザラ艦隊所属だったんで嘘は言っていない。

 

「……、わかった。今はそれでいい」

 

「助かる」

 

 それしか言えない自分を恨めしく思う。

 

「ああ、採血道具一式の用意を頼む」

 

「それは必要だと思えない」

 

 だよねー。でも用意してもらわないと困るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったことがあったら何でもわしに頼ってくれ」

 

 

 胸を張ってそう宣言するアドミラル・グラフ・シュペーの副長。

 

 顔は少し赤みが差し、少し興奮しているのがうかがえる。

 

 まぁ、気持ちはわからないでもない。男の人に出会えたのだけでも奇跡なのに、その男の人に頼られたのだから。しかも、愛称で呼ばれて。正直羨ましい。

 

 女と接しても嫌な顔一つ、雰囲気にも出さず、握手に応じた。それどころか、こちらを気遣うそぶりまで見せた。そんな女性の理想が具現化したような、物語の王子様が、間違えてこの世界に迷い込んだような存在が直々に頼んだのだ。女性冥利に尽きるだろう。

 

 それに、あれだけの怪我を負いながらも艦橋に立とうとするその姿勢は私の理想とする艦長像に重なった。そして、甘酸っぱい初恋の相手と瓜二つなのが自身の情けなさへと直結する。

 もし、私が艦長だったら多分彼、アスランさんと同じ判断を下すだろう。彼女は私達よりも一つ年上で、アドミラル・グラフ・シュペーの副長。同じ副長でも座学はどうだかわからないが、経験と判断力を考えれば彼女に軍配があがる。

 しかし、頭で理解していても、理屈ではないのだ。遠回しに戦力外通達されたも同然。そんな自分が情けなくて、それと同時にこの艦の副長は私なのにと言う子供っぽさが心の中で渦巻いている。

 

 何度目かわからないため息をはく。

 

 もしも、もしも私が艦長だったら、私が答えを書く欄を一つずれて回答していなければ、彼は私に頼ってくれただろうか? 思い出の中の彼のように優しく私に微笑んでくれただろうか?

 

 そんなどうしようもないこと(if)ばかり浮かんでは消えていく。

 ふと、視界に入ったのは艦長が置いて行った艦長帽子。気が付いたら手が伸びてそれを掴んでいた。

 慌てて周りを見渡すが誰も気が付いた様子がない。私は「ちょっとトイレに行ってくる」と嘘をついて艦橋を離れた。

 

 

 誰も周りにいないことを何度も確認してから艦長帽子を被り、指示出しの真似事をしてみる。

 

 すると、甲板と艦橋を繋ぐ扉が開く。しまった。完全に不意打ちだった。帽子を取ろうとするがもう遅い。出てきたのは機関化の黒木さんだった。言い訳をしようとしたら、両手を掴まれる。

 

「うん、宗谷さん凄く似合ってる。宗谷さんが艦長じゃないのは何かの間違いだよ!」

 

 そう言って励ましてくれた。見つかったのが黒木さんだったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 

 そのまま二、三言話した後、私は艦橋に戻った。

 

 

 

 

 

「艦長さんたち、遅いですね……」

 

 納沙さんがぽつりと声を漏らす。

 

「も、もしかして見つかって捕まっちゃったりなんかしてないよね?」

 

「不吉なことを言うな!」

 

 知床さんが弱々しく言葉を呟き、私は反射的にきつい言葉を口走ってしまう。が、合流時間をとっくに過ぎ、日が傾き、暗くなりつつある。

 

 段々とピリピリしていく艦橋に更に追い打ちをかける事態が見張り員の野間さんから告げられる。ブルーマーメイドが晴風を包囲するように展開しているとのこと。

 どうするかとパニック状態になる中、通信が入る。

 

「副長、安心してくれ。彼女たちは敵じゃない」

 

 それは医務室で眠っている筈のアスランさんからの通信だった。その言葉一つで不思議と安心感を覚えた。

 

 そうするといきなり甲板が騒がしくなる。

 

 急いで甲板に出てみると、立石さんが紅く光る鎖に拘束されていた。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 普段無口で大人しい性格からは想像もできない声をあげ、暴れようとしているのを紅く光る鎖が押さえ込んでいる。

 

「やっぱり、こうなっか」

 

 声のする方を見てみると松葉杖でこちらに向かってくるアスランさん。その後ろにみなみさん。何やらみなみさんは何かを持っているようだが……。

 

 ブルーマーメイドの隊員と艦長たちが晴風に降りてきて状況がわからない中、

 

「ミーナ、君たちの艦の乗組員はこんな感じになっていなかったか?」

 

 アドミラル・グラフ・シュペーの副長にそう問いかける。

 

「あ、ああ、こんな感じだった」

 

 それを聞いたアスランさんはみなみさんに指示を出し、それを実行している。

 

「先に謝罪しておく、すまない立石」

 

 そう言うと立石さんの腕を掴み、海へと投げ入れた。




晴風クラスは30人+みなみさん+ミーちゃんで32人。


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病院でまったり

この小説はネタの天丼になってます。

伏線何て存在しません。……タブン


頭を空っぽにして読んでください。


「あの、その、宜しければ今度一緒にお食事でもいかがですか?」

 

「あー! 抜け駆けズルい!!」

 

 なぜ、こうなったし!

 

 って言うか事情聴取じゃないんかい。

 

 現在ブルーマーメイドの職員二人と俺と立石と艦長である岬が事情聴取を受けている。

 

 

 あの後、俺は海に投げ入れた立石をフィッシュし、大人しくなった立石の再採血をちみっこに頼み、採血をしてもらった。その間、抱えていた立石が猫のように俺に体をすりすりこすりつけてきていたが、あれは何だったのだろうか?

 

 そのあと、本物の猫が原因である鼠モドキをくわえてやって来た。その鼠モドキもちみっこにあらかじめ用意させていた虫かごに入れる。あとは専門家に任せることにした。

 

 それから修理や燃料、足りなくなった物資を補給中に事情聴取が行われることになり、反乱の意思がないことや、さるしまをどうして攻撃したのかの経緯を軽く話した。

 

「恐らく、どうしても晴風を反乱分子にして討ってしまいたかったのだろう。海上保安局の速すぎる対応に不審に思わなかったか?」

 

 考えればおかしな点が幾つもあるだろう? その言葉にブルーマーメイドの二人は黙り込む。晴風生徒である二人の顔には陰りが差す。

 

 今回の件、宗谷家の権力と晴風のクラスに宗谷家のご息女がいたから何とかなっているが、恐らくは相手も責任逃れを考えて死に物狂いで次の手を打ってくるだろう。そうなれば、幾ら宗谷家の影響力強しと言えど、何時までもつか…。

 

 絶望ついでに伝えておく。

 

 晴風クラスの岬と立石はショックを隠し切れないようだ。隣に座っている岬は微かに震え、俺の制服の袖をちょこんと握っている。

 前髪に隠れて顔は伺えない。

 

 まぁ、そうならないための俺なんだけどな。

 

「岬、すまないがお前に渡していた通信端末を俺に返してくれないか?」

 

 その言葉に岬はポケットから長方形のスティックを俺に差し出す。

 それを受け取ると端末を起動する。

 

「状況証拠はこちらにあります。物的証拠もあなた方の情報端末に送ります。これで晴風と宗谷家は大丈夫でしょう。他に聞いておきたいことがあれば……」

 

 最初こそブルーマーメイドの二人は目を白黒させていたものの、状況を飲み込めてからは速かった。

 

 

 すぐさまボイスレコーダーのスイッチを切り、彼女は居るかとか、好きな女性の好みとか、好きな食べ物の事とか根掘り葉掘り聞かれて冒頭に戻るわけだ。

 

 

 因みに俺はこのままブルーマーメイドの艦で保護されることが決定された。俺は晴風に残ると言ったんだが、怪我の状態から、速くちゃんとした機器がそろった病院で手当てを受けることを決められた。

 まぁ、それもそうか。

 

 

 

 それで、晴風と別れてブルーマーメイドの艦に。

 

 それから何日かその艦の医務室のベッドで横になって過ごした。

 

 入れ替わり立ち代わりにブルーマーメイドの職員が来たから暇はしなかったが、君たちはそんなに暇なのかね? 少し疑問に思った。

 

 港に着くと、そこには救急車が一台待機していた。流石に大げさすぎだろうと思ったが、せっかく待機しているので乗っていくことにした。

 

 男性専用病院とか言うのに入れられて、早速検査を受けた。脳波心電図その他諸々異常なし。血液検査だけ結果をジャスティスがこの世界の男性の平均的なものとすり替えてくれた。コーディネーターは遺伝子をいじっているのでその結果が出るのはまずいんだよね。後は助けられる前後の記憶が無いことにしたら、一気にその場の空気が死に、急いで心療内科の病棟に移された。どうやら助けられたのを女性たちに囲まれて過ごしていて、極度のストレスでそうなったのではないかと言うミラクルな結論に至ったらしい。この世界の男子、どんだけ女性嫌いなんだよ。状況的に考えて100%頭の傷のせいだと思うだろ普通。

 

 で、専属のカウンセラーがついた。男だ。そのカウンセラーにそう言えばこの病院に入ってから男性しか見かけていないがとさりげなく探りを入れたら、「大丈夫ですよ、ここには男性しか勤務してませんから。女性におびえる必要ないですよ」と返ってきた。マジか……、何が嬉しくて野郎の花園に放り込まれなきゃならないんだよ。

 

 そんで、まずは自己紹介から始まり、住んでいる所はどこかとか、その辺を聞かれた。開始二つ目の質問につまずくとは……、そもそも俺の設定どうなってんの? ジャスティス? 問いかけると珍しく、ジャスティスから返事が返ってこなかった。まぁ、ジャスティスが用意したものなので疑われる余地のないものだとは思うし、ばれることもないと思うが。

 

 俺が沈黙したのを深刻そうな顔をしながらカルテに何かを書き込んでいくカウンセラー。結局、ほとんどの質問に答えることができなかった。

 

 質問が終わるとカウンセラーは速足で出て行ってしまった。

 

 手持無沙汰になった俺は端末を手にする。開くのは俺がアスランになる前の世界でのヒット作品(主に小説等)をジャスティスのアドバイスを受けながら俺流に少し書き換えた二次創作だ。

 因みに前の世界では八年越しの花婿が大ヒットした。まぁ、俺の前々前々世で大ヒットしていたので、当然と言えば当然だが…。前の世界ではネウロイの襲撃により記憶喪失になった花婿の設定をこの世界に合うように、書き換える。

 この世界では日本は海洋大国だから無難に、旅行中に水難事故に見舞われて記憶を失った花婿にするか。他にも細かいところを修正する。

 

 

 修正が終わった後は、前の世界から書き続けていた日記を書く。この世界ならば、前の世界のことをラノベとして書いて出しても売れそうな気がするな。いや、まぁ、売れたいから書くわけではないんだけどさ。

 

 どこかのアニメで言っていたけど、その時代に起きたあらゆる出来事に足搔き、もがき、苦しみ、傷つきながらも進み続けた努力を、栄光を無かったことにはしたくない。例え皆が忘れても、俺だけは覚えておかなきゃいけない。

 

 それにしても暇だな。暇だと色々ブルーな気持ちになってしまうから困る。と言うか、ジャスティス、何でさっき俺の念話無視したの? 今までそんなことしなかったじゃまいか。え? 寝てた? そんな一秒でばれる嘘つくんじゃないよ。全く…、今回はそういうことにしといてやる。ジャスティスにはいつも世話になってる。決して俺のマイナスになるようなことをする奴ではないのはこの俺が一番理解しているつもりだ。故に何か理由があるのだろう。

 

 最初からわかりきったことを聞いたのは、俺の暇つぶしのためだ。気持ちを切り替えないといざというときに対応できない。要は、ブルー一色に染まりつつあった思考を切り替えるきっかけが欲しかったのだ。

 以前はチェスに将棋、果てはしりとりまでやったが、未だに一度としてジャスティスに勝ったことは無い。そのたびにアスランの負けず嫌いが発動したが、結局、勝てなかった。それで、三日三晩寝ずにありとあらゆる戦術書を読み漁ったり、戦法を考えたりしたことがあった。これには流石のジャスティスも予想外だったようで、わざと負けてくれたが、それがショックだったのと、寝ずのフル活動が重なってぶっ倒れたことがあった。それ以来、ジャスティスは将棋、チェス、しりとり。戦術に繋がる暇つぶしは断るようになった。

 

 俺が、日記や小説を書きだしたのは、それからだ。

 

 ニールマンに発見されて死ぬほど恥ずかしい思いしたんだけど、マジ泣きしているニールマン見てちょっと引いた。

 まぁ、あの世界は戦争戦争で娯楽に飢えている所もあったから……、皆元気かな?

 

 

 また、ブルーに成りかけた気持ちを切り替えようとしたときに、何かを言い合っているような声が微かに聞こえた。

 

 何だろうか? 数日間寝たきりの生活だったが、そのおかげか、立ち上がって普通に歩ける程度には回復した。

 

 丁度いいので、野次馬にでも行こう。

 

 

 病院内はちょっとした高級ホテルみたいな感じだった。エレベーターに乗り込み、下の階に向かう。

 

 エレベーターの扉が開くと、エントランスホールの方から女性と男性が言い合っている声がする。あれ? 女性は居ないのでは? と一瞬思ったが、入院している方のご家族だろうと思い至った。

 

「ですから、重要参考人としてこの方の事情聴取をしなくてはならないんです。面会の許可をお願いいたします」

 

「何度も言ってますが、彼は今、精神的ショック等で面会できる状態ではありません。お引き取りください。幾らブルーマーメイドの方でもこれ以上無理強いをすると言うならば、男性保護法に基づいて警官を呼びますよ。聞けば、この患者さんはブルーマーメイドに拘束されて過ごしたそうじゃないですか。それが最大の原因だと我々は判断しています。せめて、ホワイトドルフィンの方に代わって頂きたいですね」

 

「拘束したわけではありません、保護したのです」

 

 対応している受付スタッフは丁寧語を使っているが、嫌悪感を隠しもせずに女性に応対している。毒も吐いてるし。

 それにしても、この世界の男性は女性を嫌いすぎてないか?

 

 その光景をなんとなく眺めながら自販機で買った紙パックのジュースを飲む。

 

 ジュースを飲み終わる頃には女性の方が折れて、エントランスから病院の外に出ようとしていた。流石に気の毒に思ったので紙パックのジュースを買い、女性に近づく。

 

 俺が紙パックのジュースを頭に乗っけたことで、女性はようやく俺と言う存在に気が付いたらしい。

 

「頑張って」

 

 そう言ってウインクを決める。少しハニカムのも忘れない。やっておいてなんだけど、これ、恥ずかしいな。我ながらこれは無いわ。そのまま逃げるようにエレベーターに乗り込む。

 

 ああああ、恥ずかしい。もう少し考えて行動しよう。絶対何アイツって思われたわ。

 

 今度から気をつけよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりと言うか、何と言うか。私じゃ通してくれないか。

 

 今回の事件のカギとなりえる人物がまさか男性だったなんて……、古庄教官のお見舞い兼、事情聴取を先にしたのが不味かったかな? こんなことなら部下たちに頼んで足止めしてもらうべきだったか?

 

 だめだ。そんなことをすれば世論が黙ってはいない。

 

 はぁ、妹のましろじゃないけどついてないわね。

 

 ホワイトドルフィンも一枚岩じゃないし、こういう時に信頼できて、かつ、連帯を取れれば良いのだが……、

 

(こればかりはどうしようもないか…)

 

 世の男性が女性のことを良く思っていないことは知っているつもりだ。

 

 年々、減り続ける男子の出生率に反比例するように増え続ける女性の男子に対する犯罪率。この間も、国会議員が男性を監禁していて逮捕されたと言う事例があった。男性は精神崩壊を起こしてしまったと言う最悪のケースだった。

 

 その他にも様々な理由から男は女を嫌う傾向にある。

 

 立場上、私もホワイトドルフィンの方と話す機会があるが、皆、不機嫌さを隠しもしない。

 

 今回のような対応がテンプレートとなっているが、未だに慣れないな。部下の中には、その蔑まれた様な態度がまた良いというものも居るが、私はそうは成れなかった。

 

 現在進行形で蔑んだ目、或いは敵意を孕んだ視線が私を見つめている。

 

 

 私が他の女性から一歩引いて物事を考えたり見つめたりできるように成ったのは9年前の、夢のような出来事を目の当たりにしたからだと思う。

 

 一切の敵意も嫌悪感も孕まない宝石のような瞳。

 

 作り物の人形のような輪郭。

 

 そして、態度。

 

 きっと、紳士と言う言葉は彼のためにあるのではないかと思ったほどだ。

 

 それ以来、他の女性に比べて男性と言うのを強く意識できなくなった。寝ても覚めても思うのはあの日、諏訪神社でたった一回しか会ったことのない彼だけ。

 

 これが恋と言うのに気が付いたのは、ブルーマーメイドになりたての新人の時。先輩の方たちに言われて気が付いたのだ。男に興味がないのか? そう問われて。そのまま思い出話を強引にさせられて、それは『恋だ』と。

 

 そうか、この気持ちが恋なのか……。

 

 まぁ、そんな女の理想が体現したような男は居ない、少女漫画や小説の読みすぎだと否定されたが。

 

 気が付いてからは速かった。周りの同僚をよく観察し、どういう態度を男性が嫌うのか、研究した。幸い、ブルーマーメイドは仕事の関係上、ホワイトドルフィンの方たちと最低でも年に1回は合同艦隊演習がある。

 

 それらを基に淑女としての在り方を見つめなおし、結果として、他の女性よりは男性の風当たりは弱くなった。

 

 ごく一部ではあるが、同性からもモテるように成ったのは全くの誤算だったけど……。

 

 とにかく、全てはあの忘れられない彼に嫌われないため。我ながら執念深いと言うか、何と言うか。きっと彼と出会った瞬間に私はもうおかしくなってしまったのだろう。

 

 もう会えるとは思えないのに。

 

 

 頭に何かが乗せられる感覚に意識が現実に引き戻される。

 

 

 え?

 

 えっ、えっ?

 

 そこには9年前の彼の姿があった。

 

 違ったのは着ている服が患者服に変わり、頭には包帯を巻いていたが。

 

 

 

 ――――頑張って

 

 

 

 声が出なかった。

 

 夢を見ているのではないかと思った。

 

 流し目をしながら、優しい微笑を浮かべている。

 

 その横顔に見惚れていた。

 

 陽だまりのようなその笑顔、忘れる筈がない。

 

 少しの間、身動きができなかった。脳の処理が追い付かなかった。

 

 急いで振り返るが、彼はいなかった。

 

 白昼夢……だったのだろうか?

 

 未だ、夢心地だったが、彼に触れられた頭に手を乗せてみると、何かが置かれていた。

 

 それを掴んで見てみると紙パックのジュースだった。

 

 それが、先程の光景が夢や幻でないことが実感できた。私は今、どんな顔をしているだろうか? きっと人さまには見せられないようなだらしのない顔をしているのだろう。

 それと同時に、また名前を聞くのを忘れてしまった自分のことを少し恨めしく思うが、それ以上に満たされた感覚が私を支配した。

 

 ……、彼は患者服を着ていた。つまりは、此処に来れば彼がいる。まだ名前も知らない彼が。チャンスはゼロではない。それだけが私の心に甘く染み渡る。

 

 今はそれだけでいいか。

 

 お仕事…、頑張らないと。また明日来よう。

 

 彼とはまた遠くないうちに会う気がする。女の勘だ。

 

 その時には、私もありったけの笑顔で伝えるのだ。

 

 

 私、宗谷真霜の名を。

 

 そして、名前を教えてと。

 

 

 

 

 

 余談だが、部下から自慢メールに彼の姿が送付されていたのを見て、思わぬ所で彼の名を知ることになるとはこの時は知る由もなかった。




評価を頂けるのはありがたいのですが、低評価をするのならば、理由を書いてくれると嬉しいです。

それを改善できる文才が私にあるかは別ですけど……。


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