僕はドムスカ (アイム鯖の者)
しおりを挟む

1話

読んでくださりありがとうございます。


戦乱の時代。この世界、イアルの現状を端的に表せばそう言えるだろう。

 

片田舎で鍛治師をしていた僕は、隣接するオーク族の侵略に合い、村を焼かれた。僕を生み育ててくれた両親は死に、一緒に育った友人達は生きているかどうか分からない。なんとか戦火から逃げ出し、当てもなくひたすらに森を進んだのだ。胸中は恐怖と罪悪感で一杯だった。目の前で凶刃に伏した両親を救えなかったことの後悔、今こうして一人で逃げている羞恥、だがなによりも死への恐怖。頭の中がめちゃくちゃになりそうだった。

 

なんとかまだ無事な村へたどり着くことができ、喚き散らしながらも警告をした。

オークが来ると。

僕の尋常じゃない様子を見て、その村の人々は迅速に避難を始めた。

そんななか、混乱する僕を宥めて、世話をしてくれた家族ががいた。魔法使いの夫婦と幼い娘だった。その夫婦は相当に腕が立つようで、多くの戦線を経験してきたと聞いた。

王都ヴァルメルへと避難する道中、彼らは僕に同情し、そして優しい言葉を掛けてくれた。二人の娘であるヴェロニカの純粋な笑顔にも癒されたのだろう。僕はどうしてもこの家族に恩を返さねばならないとそう思っていた。しかし、その機会は訪れなかった。

驚異的な速さで進軍してきたオークの強襲を受けたのだ。

怒声が飛び交い、血の雨が降った。魔法使いの夫婦が応戦するも、多勢に無勢であった。それでも彼らはなんとか足止めをしようと、殿をかって出た。僕にヴェロニカを託しながら。

 

「娘を頼むぞドムスカ。いつか恩を返すと言ってくれたな、今がその時だ。ヴェロニカを無事に王都へ連れて行ってくれ。そんな顔をするんじゃない。私たちは犠牲になるのではなく、ヴェロニカの、キミの、未来を作りに行くのだ。任せたぞ、ドムスカ」

 

「こんなお願いをしてごめんなさいね。でも、あなたになら託せられると、そう思ったのよ。たった数日の付き合いだったけれど、それでもわかるの。私はこの子の母親だもの。娘が懐いたあなたなら、きっと大丈夫。この子は私と一緒で見る目があるの。酷なお願いだけど、ヴェロニカを頼んだわよよドムスカ君」

 

二人は笑顔だった。僕は今にも泣き出しそうになりながらなんとか頷いた。

まだ幼いヴェロニカは何が起こるのかわかっていないだろうが、それでも不安な表情をしていた。僕は、彼女を抱きしめることしか出来なかった。

 

「ヴェロニカ、パパがかっこよくお前らを守ってやるからな!だから笑ってくれ。」

 

「そうよ、ヴェロニカは笑顔が一番似合うもの。ほら笑って。」

 

不安なのは変わらないだろうに、ヴェロニカは笑った。そして、いってらっしゃいと、そう言った。

 

「「愛しているよ、ヴェロニカ。」」

 

二人は最後にそう言って、オークの軍勢へ走っていった。

「絶対に守ります!!ぜったいに!!」

最後に見たのは腕を振り上げた後ろ姿だった。

 

走った。がむしゃらに走った。腕には小さなヴェロニカを抱きかかえて、必死に走った。背後からは、まだオークの軍勢が迫ってきている気がした。

背中に突き刺すような痛みが走り、強い衝撃が襲って来た。それが矢だと気づいたのは、倒れ込んでからだった。

なんとかヴェロニカだけは守るのだと、無理に起き上がってまた走った。怒声が近づいている気がした。

 

どれほど走っただろう。いつまで走るのだろう。そう思った時、森が拓けて、甲冑を身に纏った集団が見えた。助けてくれと叫んだ。彼らが武器を構えて近づいて来るのと同時に、背中に大きな衝撃が走った。そこで僕の意識は途絶えた。

 

目を覚ましたのは、テントの中だった。右腕に痺れがあるのを感じ、そこを見ると、すがりつくように眠るヴェロニカがいた。彼女の命を救えたのだと、まだ僕が生きているのだと、それだけを思った。さまざまな感情が入り混じり、僕は涙した。安心、悲しみ、怒り、感動、どの感情も、今にも僕を殺すほどに、大きく激しく揺れ動いた。

暫く泣き続け、涙が枯れ果て、そこで今一度すがりつくヴェロニカを見た。彼女を絶対に守るのだ。僕が絶対に守るのだ。

 

僕はドムスカ、生き残りし者ドムスカだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

王都での生活にもやっと慣れて来たように思う。この街に着いてはや数年、激動の日々だった。

オークとの間に開かれた戦端は勢いを増してこの国を覆った。僕は鍛治師としてこの街に住むことが許され、そして一緒にヴェロニカと暮らすようになった。

一鍛治師と言っても、村で包丁や鍋程度しか作ってこなかった僕だ。名刀や革新的な装備など作れるはずもなく、いわゆる鉄ランクと呼ばれる武器を作ることが主である。ごく稀に、何かが組み合う感覚とともに銅ランクの武器を作ることができたから、王都で軍属の鍛治師で居られるのだ。今日も今日とて火を起こし、剣を打っていると、工房のドアが開く音と共に、見知った影が忍び込んできた。

 

「ドムスカ〜、いつまでここにこもってるの?もう夜になっちゃうわよ」

 

長い黒髪、整った顔立ち、10代前半になったヴェロニカが、呆れ顔でこちらににじり寄って来ていた。

 

「あぁごめんよヴェロニカ。これが終わったら夕飯にしよう。」

 

しぶしぶと言った様子で引き下がるヴェロニカ。しかし部屋から出ることなく、こちらを見ているのが分かる。

見ていて面白いものでもないだろうに、彼女は時々こうして鍛治の様子を眺めにくる。まぁ、今回はお腹が減りすぎて待ちかねているのかもしれない。そう思って手早く仕上げることを決めた。

 

二人の暮らしは、今は順調である。王都についた当初、たすけてくれた兵士の勧めで、ヴェロニカは孤児院に入れられるはずだった。しかし彼女は応じなかった。当時まだ幼い彼女は、言葉にして拒否を伝える事はしなかったが、僕にしがみ付いて離れなかったのだ。僕は僕で彼女を守ると誓っていたので、空き家を使い、二人での暮らしを始めた。

鍛治道具を揃え、収入が安定し、僕らの暮らしが落ち着いてきたのがやっと最近のことである。ヴェロニカも成長して、今では両親の後を追い魔術を学んでいる。

 

そんな中、戦火も落ち着きだしていた。オーク族を追い返すことに成功したのだ。ただ、侵略の跡は大きく、この国は疲弊していた。そして、刻み付けられた恐怖はこの国のさらなる軍備拡張を促していた。

 

「ドムスカ、また難しい顔してる。ご飯おいしくなくなっちゃうわよ。」

 

こちらを覗き込むようにヴェロニカが見つめて来る。すまないと苦笑いしながら伝え、食事に集中することにした。

 

「そう、聞いてよドムスカ!浮いて移動する魔道具を作ったの!」

 

それはすごい発明なのではないだろうか。

彼女は有り体に言って天才だった。両親に教示された基礎や、見て覚えた魔術の運用、僕が集められる数少ない文献だけで、物凄い成長を続ける。

 

「凄いじゃないか!ヴェロニカは名を残す魔術師になれるな。後で見せてくれよ。」

 

心からの賞賛を送ると、ヴェロニカは顔を綻ばせた。大人びている彼女が、年相応の表情を見せてくれると安心できる。僕は彼女の親代わりになれていると思えるのだ。

 

こうして優しい日々は続いていった。

年を経るごとにヴェロニカが家から出なくなり、研究に没頭する様子は多少の心配を覚えたが、それでも食事は一緒にとってくれるし、何より楽しげに成果を見せる彼女を見ると、何も言えなかった。ヴェロニカの笑顔に僕は弱いのだ。

僕の方も、多少の才能があったようで、鍛治の腕が上がっていった。銀ランクの武器が作れるようになったのだ。とは言っても、作った後は死ぬほど疲れるのだが...。

 

輝かしい日々だった。笑顔に満ちた日々だった。しかしもう戻ってこない。

燻っていた戦火が、再び燃え上がったのだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

オーク族が侵略を再開したと聞いたのは、初めて作った金ランクの武器を軍に届け出た時だった。

衝撃的なニュースだった。色々と話していたが、耳と脳が言うことを聞かず、内容はほとんど認識出来なかった。ただ、命を削るように作った金ランクの武器を見る将軍の顔が印象的だったことだけを覚えている。

 

どうにか家に着き、迎えたヴェロニカをきつく抱きしめた。僕は彼女を守らなければならない。その思いだけが頭の中を占めていた。

 

「ど、どうしたのドムスカ。」

 

腕の中のヴェロニカが戸惑いながら聞いてくる。

 

「オークがせめてくるんだ。また戦争が始まる。」

 

彼女が息を飲むのがわかる。

 

「怖いんだ。大事なものがまた失われていくと思うと、怖いんだよ。」

 

声が震える。王都での生活で出来た繋がり、軍の友人たち、それが消えるのではないかと不安にかられる。

オークが迫る記憶が蘇る。奴らの血走った目が、血塗られた武器が、泣き叫ぶ人々が、フラッシュバックする。

 

「……大丈夫よ〜。ここは王都だもの、ここまでは攻めてこないわ。」

 

ヴェロニカの手が僕の背中をさする。優しい声で囁いてくれる。

 

「それに、もし来たとしても今度は私が貴方を守るから。ね?」

 

安心する。心がやっと落ち着きを取り戻して来た。

 

「何言ってるんだ。君を守るのは僕の役目だぞ。」

 

腕を話し、彼女の目を見て伝える。

 

「有難うヴェロニカ。落ち着いたよ。」

「よかったわ〜。でも、ドムスカが眠るまで抱きしめててあげようかしら?」

「もう大丈夫だ。本当にありがとう。」

 

軽口を叩けるくらいに、冷静になった。

僕は僕にできることしか出来ないのだ。剣を打とう、盾を作ろう。守れるだけの準備をしよう。

 

 

オークとの戦線が再びひらかれてから、しばらくが経った。僕は軍の上役たちに呼び出され、軍部の兵舎へ来ていた。

 

「ドムスカ君、君の評判は聞いているよ。あぁ口上はいらない、早速本題に入ろう。

君が以前持ってきた金ランクの武器、あれは今回の戦争で役に立っている。非常に良い出来だ。あれをまた作ってくれ。

実を言うと、この戦は不利なものになっている。こちらの準備が整う前に奴らが襲ってきたのだよ。

そこで君の武器だ。奴らは粗暴な輩にお似合いの、粗雑な武器しか持っておらん。今戦線をひっくり返すには人員が足らない、いきなり兵の質が向上する訳でもない、質のいい武器が必要なのだ。

いいかね、週に1つ金ランクの武器を作りたまえ。作り続ければ、銀ランクの武器も数が揃うだろう?出来なければ君は罪に問われる。この戦争でもし負けたなら、君のせいになる。君もそうはなりたくないだろう。」

 

暴論だと思った。それに不可能な話だ。あの時作れたのはまぐれみたいなもので、それにもし作れたとしても命が削られるほどの疲労が伴う。それを週に1つだなんて、出来るわけがない。

 

「不可能です。出来るわけがない。」

 

漏らすようにつぶやく。

 

「何か勘違いをしているようだが、これは正式な命令だ。君に拒否権はない。」

 

言いたいだけ言って、将軍は去っていった。

上役に正式な指示書を無理矢理握らされ、一人残された。

不可能だとしてもやるしかないのだと、絶望が僕を襲った。

 

急ぎ家に帰り、工房で火を起こした。逃げることも考えたが、守りたいものたちが頭に浮かび、結局やるしかないのだと今一度思わされる。やるしかないのだ。僕に選択肢はない。

 

ひたすらに剣を打った。金ランクが出来るまで休まず打ち続けた。ヴェロニカは指示書を読んだようで、怒りを露わにし、そして僕を心配したが、僕が止まることはなかった。彼女は何度も止めようとしたが、途中から僕を支えるように動いてくれた。食事を運び、水分を飲ませ、体を拭き、その度に僕はすまないとだけ伝えた。

 

1週目、なんとか金ランクの武器を作ることに成功した。5日目のことだった。それから二日間、僕は死んだように眠った。7日目に兵士が武器を取りに来て、オーク族の侵略が進んでいると聞いた。

ヴェロニカは僕の憔悴した様子を見て目に涙を溜めていた。こんな無理を続けたら死んでしまうと、必死に止められた。僕自身も、身体が万全でないことを感じた。それどころか、いつ倒れてもおかしくないほどに疲弊しきっていたが、それでも続けなければならないのだ。オークが迫ってきているのだから。

 

2週目、無理に身体を動かしたせいか、途中で何度も意識を飛ばした。それでも必死に金ランクの武器を作り上げた。7日目のことだった。武器を取りに来た兵士に待ってもらって、ようやく完成したのだった。兵士ですら僕の様子を心配していた。

ヴェロニカはより一層献身的になり、僕の世話をしてくれた。得意ではないだろうに、回復の魔術を何度も試してくれた。それでも体調が戻ることはなかった。僕は非才の身である。不相応な成果を出すには命を削るしかないのだと、どこかで感じた。

 

3週目、不可能だった。起き上がることもままならず、期限に間に合わせる事が出来なかった。兵士も仕方がないと言ってくれたが、嫌な予感がした。

ヴェロニカは寧ろ良かったと言ってくれた。本当に死ぬんじゃないかと心配したと怒られた。僕は心底彼女を愛おしく思った。万感の意を込めて、彼女にありがとうと伝えた。

 

4週目が始まったその日、将軍が僕の家に兵士を侍らせて入ってきた。指示に従わなかったために拘束すると、それだけ言って僕は拘束された。争う力は残っていなかった。

僕を救おうとしたヴェロニカだったが、なんとかして押しとどめた。

 

「ヴェロニカ、よく聞いて。僕は絶対帰ってくる。君を守ると誓ったんだ。約束だ、だから待っていておくれ。」

 

彼女は悲痛な顔をして、僕を掴む手を離した。俯くと、無理やり作った笑顔で、いってらっしゃいと言ってくれた。

 

「ヴェロニカ、愛しているよ。」

「ドムスカ、待ってるからね。」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

監獄に入れられ、その中でひたすらに武器を作り続け、どれ程の時間が経ったのだろう。時を忘れるほどに剣を打ち続けた。出来がどうかなんてわからなかった。ただ、意識を落とすたびに水を浴びせかけられ、期限がどうだと言われる。それだけの日々だ。

ヴェロニカはどうしているだろうか、彼女は無事に生活できているだろうか。ご飯は僕の係だった。ちゃんと食べているだろうか。研究ばかりして寝てないのではないだろうか。

 

頭に浮かぶのは、彼女のことだけだ。

 

いつか彼女が成人して、好きな誰かを見つけて、結婚して子供を産んで、僕がおじいちゃんと呼ばれる、そんな幸せな日々を願う。もう無理だと知っていても、願わずにはいられなかった。

 

思えば彼女に救われてばかりの日々だった。初めてあった時、恐怖と不安で押しつぶされそうな僕を、彼女は笑顔で救ってくれた。純粋な声で、大丈夫大丈夫と元気助けてくれた。それで僕はなんとか自分を取り戻した。

二人で暮らすようになっても、彼女がいたから僕は頑張れた。ヴェロニカは僕の生きる意味だった。

 

どうか神さま、イアルの神さま、彼女に祝福を、良き出会いと良き日々を、どうか、どうか。

 

 

家で待つヴェロニカは、ドムスカの無事を祈っていた。ヴェロニカはドムスカが大好きであった。ぎこちない彼の笑みが、彼の作ってくれる料理が、彼の鍛治をする時の瞳が、彼女は大好きであった。彼女が初めて作った魔道具、浮遊して移動するそれに、密かにドムスカと名付けるほどに、彼を思っていた。

 

コンコンと、ドアがノックされる。ヴェロニカは飛ぶようにドアへ向かい、急いで戸を開けた。そこには一振りの剣を携えた、身に覚えのある兵士が立っていた。

 

「ヴェロニカさん、ですよね。報告があって参りました。

軍部鍛治師ドムスカ氏が、お亡くなりになられました。」

 

振り絞るように、兵士は言った。ヴェロニカは呆然とし、その言葉を理解できていないようだった。

 

「監獄にて鍛治を続け、計8振りの傑作を生み出し、亡くなられました。彼の成果を称え、聖鍛治の称号が与えられます。遺体はこれから兵士たちの墓場に埋葬される予定です。」

 

未だ呆然とするヴェロニカを置いて、説明は続けられる。

 

「それと、この剣ですが、彼の最後の一振りです。どうかお納め下さい。」

 

そういうと、兵士は漆黒の剣をヴェロニカに差し出した。反射的に、彼女はその剣を受け取る。その動作は、鍛治が終わったばかりのドムスカを手伝う動作であったのだ。

 

失礼しますと兵士は告げ、家を後にした。

 

ヴェロニカか受け取ったその剣は、紛れもなく彼の作品であるとわかった。そこで漸く、ヴェロニカは彼が死んだのだと理解した。

 

ヴェロニカは蹲り、悲痛な声で、彼を求め続けるのだった。

 

 

戦争が終わった。

今回もオークの侵略を食い止めることが出来たヒューマン領では、喜びの声が上がっていた。数個の村がオーク領になってしまったが、そのことは大事ではないようであった。

戦中、終わりがけに兵士の墓場が荒らされる事件が起こっていたが、それほど話題に上がることもなく、終戦の喜びに紛れていった。

今回の戦では、名剣と呼ばれる、計9振りの武器が大きな力になり、それを準備した将軍は優れた将軍であると賞賛され、褒賞が取らされた。

王都には、平和が戻ったのだった。

 

侵略された旧ヒューマン領、現オーク領に、1つの不思議な人影がいた。

彼女はヴェロニカ。死人を復活させる術を求める魔術師である。

彼女は浮遊しながら移動する不思議な魔道具に乗り、漆黒の名剣を携え、目的地へと向かっていた。オーク領にいると言われるネクロマンサーを探しているのだ。

 

「ねぇドムスカ、居心地はどうかしら?」

 

浮遊する魔道具に向かって、彼女は声をかけた。

 

「腐らない魔術は、魔道具のドムスカにかけたから、その中では腐らないはずよ〜。ちょっと狭いかもだけど、生き返るまでは我慢してね。」

 

もちろん返事はない。そこには、魔道具の中には死体しか入っていないのだから。

 

「貴方が死んじゃって、本当に居なくなって、私は貴方への気持ちに気付いたの。

貴方が大好きよ、愛してるわ。絶対に生き返らせるからね。」

 

彼女は微笑みながら声をかけ続ける。返事がないのを気にもせず、いやもしかすると彼女には聞こえているのかもしれない。

 

「それにね〜。私と同じように苦しむ人を救ってあげたいの。大切な人を失って、取り戻したいと願う人を、救ってあげたいのよ。」

 

彼女の目には、薄暗い決意が浮かんでいた。

 

「成功したら、褒めてよねドムスカ。」

 

「ドムスカ、愛してるわよ。」

 




これにて完結です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。