世界で一番●●な君へ (もっち~!)
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忖度からの隔離

主な登場人物

相沢祐介
オリ主。兼業作家でペンネームはユースケ。イメージは『D×D』の兵藤一誠。

相沢桜
祐介の姉。兼業作家でペンネームはチェリーボム。イメージは『SAO』の結城明日奈。

相沢梅
祐介の妹。兼業のイラストレーターでペンネームは、ブラザーコーン。イメージは『青ブタ』のかえで。

相沢エリナ。
祐介の母。欧州系のハーフで、本名はエカテリーナ。出版社の編集者で、貞治、祐介、桜、梅など担当編集者でもある。イメージは『ふたり鷹』の沢渡緋沙子。

相沢貞治
祐介の父。推理小説家である。イメージは『名探偵コナン』の工藤優作。

円城寺遥
祐介のクラスメイト。兼業作家で、ペンネームはHAL。イメージは『青ブタ』の桜島麻衣。

佐田悟
祐介の本当の父親の弟。佐田財閥当主。イメージは『ハイスクールD×D』のサーゼクス・ルシファー。

真理亜伊集院
祐介の本当の母親の弟。真理亜財閥当主。イメージは『ハイスクールD×D』のミカエル。





俺には姉と妹がいる。姉は、俺より1つ上の桜。長くてしなやかな亜麻色の髪、ちょうど良さそうな乳房…俺の妄想のおかずである。妹は、俺より1つ下の梅。ショートカットで固めの亜麻色の髪、胸は成長途中で、背も発展途上であるが、気が強いのが難点である。

 

俺は相沢祐介。この春から高校生になった若造である。

 

俺の親父は小説家で、母親は編集者であることで、俺も小さい時から妄想小説を書くのが趣味になり、中学生でラノベ作家デビューを果たした。ペンネームはユースケである。考えるのが面倒で、まんまにしたのだ。

 

作品は『世界で一番好きな人』というデビュー作だけであるが、シリーズ化している。内容は、現実には有り得ない姉と妹との妄想的日常を描いている。姉と妹から好かれる主人公…俺もそうなりたい。現実には、姉からは汚いから洗濯物を一緒にするなと言われ、妹からはキモいって言われている。現実の俺は姉妹に嫌われているのだった。

 

まぁ、その事が妄想を助長し、作品に反映されるので悪くは無いのだが、結構凹む毎日を送っている。学校に行っても、暑苦しい顔とか、目付きがエロいとか女子達に言われ、まぁボッチ系ではある。そんな俺のオアシスは、妄想小説を書く時間だけ…これって、青春なのかな?

 

 

家族には内緒にしていたいのだが、よりによって、担当編集者が、運命の悪戯か、自分の母親になったことから、両親にだけはバレてしまった。

 

「お前、妄想のしすぎじゃない。頼むから、家庭内犯罪は止めてね」

 

って、母親である担当編集に言われて、凹む。妄想したことを現実に起こす勇気は、俺には無いのに。

 

家で姉妹と会話をしない。主に、目の保養だけである。

 

「お兄ちゃん、キモい目で見ないでよ!」

 

キモい目ってなんだ?妹の目は怒りからか、涙が込み上げているようだ。俺は、自分の部屋へ逃げ込み、このモヤモヤ感を文字に変換していく。

 

『お兄ちゃん…そんな目で見ないで…感じちゃうよ…』

 

ってな感じに変換されていく。あぁ、現実は希有な物である。妄想世界で生きられたら、幸せだろうな。と、現実逃避をする。

 

「あの会話が、なんでこんなに化けるんだ?お前、天才か?」

 

って、母親は呆れながら褒めてくれる。まぁ、何にしても、褒められるのは気分が良い。

 

 

 

---相沢桜---

 

私には弟と妹がいる。祐介と梅…姉弟仲は悪くないはずなのだが、弟を異性と認識した瞬間、距離を置いてしまった。恥ずかしいというか…

 

弟の祐介は、所謂イケメン系では無い。爽やかさを感じ無いソース顔で、女性からの受けは良く無い。でも、そんな弟であるが、私の初めての男性である。幼い頃、全裸で抱き合って寝た。二人でお風呂にも入った。私のファーストキスは弟へ捧げた。だけど、今は距離が開きすぎてしまった。私のせいであるのは分かっている。だけど…

 

女の子の日で汚れてしまった私の下着。その下着が入っている洗濯篭へ、自分の下着を入れようとした祐介。祐介の下着が汚れると思い、

 

「汚いから、一緒に入れないでよ!」

 

って、私の言葉。祐介は、祐介の下着が汚いと思ってしまったようだ。あれ以来、祐介の下着を洗ったことがない。言葉の行き違い…言葉は難しい。同じフレーズでも、取りようによっては、クリティカルな言葉にも、優しい言葉にもなるのだ。

 

そんな弟を思う気持ちを小説に書き留め、母に見せたら、ラノベ作家デビューをされてしまった。母は出版社の敏腕編集者である。父と出会ったのも、作家と編集者という関係で、お互いを信頼できるパートナーだと実感した為、ゴールインしたそうだ。

 

私の記した想いは、『愛しい君へ』というタイトルが付けられ、シリーズ化されている。内容は弟に対する妄想記である。完璧すぎる姉が日夜、不出来な弟に対して、妄想するって話である。

 

今日も取り違えられた。

 

「そんな目で見ないでよ!」

 

って…私は抱き締めたくなるから、そう言っただけなのだが、祐介は違う意味で捉えたのか、凹んでいた。どうすれば、元の関係に戻れるのだろうか?

 

 

 

---相沢梅---

 

私には姉と兄がいる。姉の桜、兄さんの祐介である。兄さんのことは大好きであるが…ブラコンと思われないように、距離を置いた。幼い頃は素直に甘えられた。だけど、今は…

 

私の趣味は絵を描くことだ。私が兄さんといけないことをしている、私のイラスト…母さんにみつかってしまった。

 

「梅…あんたって子は…」

 

呆れている母さん。

 

「ねぇ、梅。イラストレーターをしない?」

 

編集者としての母さんの琴線に、私のイラストが触れたようだ。

 

「してくれないなら、祐介と桜に、これを見せようかな~」

 

有り得ない…私を強請る母さん。見せられないって…ブラコンってバレしまう。

 

「わかりました。取引に応じます…」

 

こうして、私は学生との兼業で、イラストレーターデビューを果たした。現在、担当している作家さんは、売れっ子のユースケ先生と、チェリーボム先生である。

 

イラストレーターの特権、発売前の生原稿を読めること。ユースケ先生のシスコン愛、チェリーボム先生のブラコン愛が、私のブラコン魂を揺さぶっていく。今宵も良いイラストを描けそうである。

 

 

 

---相沢祐介---

 

売れっ子作家の父、敏腕編集者で、売れっ子を数名担当している母のおかげで、我が家は裕福な方である。家族5人、それぞれ広めの個室を持っているから。まぁ、俺の稼ぎの一部を、生活費名目で母が天引きしているけど…欲しい物はお金で買えないので、問題は少ない。

 

『今回もいいですね~』

 

って、イラスト担当のブラザーコーン先生からメッセージが届いた。いいなら、良いか…キーボードを前にして、妄想を全開して文字に起こしていく。

 

相変わらず、俺を汚物だと思っている姉。ウザいって罵る妹…どう変化させるかな。主人公の汚い部分を舐める姉、主人公の言葉にメロメロになっていく妹…有り得ないことである。まぁ、妄想ってそんな物だ。割り切って、書き進めていく。

 

 

 

---相沢エリナ---

 

鷹の子供は鷹だな。つくづく、そう思う。売れっ子作家のあの人と私の間に産まれた子供達。まさか、自分の目に留まり、自分が担当編集者になるとは。現実は希有なものだわね。

 

子供達はそれぞれの裏の関係を知らない。知っているのは私とあの人だけ。現実では、交流のまるで無い子供達ではあるが、裏ではライバルであり、信頼出来る仲間って感じである。親としては複雑であるものの、仕事としてやり甲斐を感じる。

 

担当編集者にとって、作家は子供である。その子供が実の子供であるんだもの、やり甲斐がありすぎる。

 

しかし、祐介は不憫である。貞治さんに似ず、私にも似ず、あの見た目はダメだろう。モテる要素を見いだすのが難しいのだ。暑苦しいソース顔だけでもマイナスなのに、あの舐める様な目付き、中学校の時のあだ名はエロ大王だっけ。それでは姉妹達は本当の気持ちを言い出せないだろうな。

 

ちなみに舐めるような目付きは、祐介の視力の問題である。そう見ないとはっきり見えないようだった。眼鏡を勧めたのだが、レンズ越しに見ても真実は見えないなどと、訳の分からない理由で拒否しているし。現在は、レーシック手術をして、目付きは改善されたようだけど、過去の汚点はなかなか消えないものである。

 

まして、兄のあだ名のせいで、学校で梅が虐められ、

 

「お兄ちゃんなんか、大嫌い!」

 

と、学校で叫んだらしい。それを祐介は、別の場所で聞き、梅に嫌われていると思い込んだようだ。まったく、祐介は…

 

 

 

---相沢祐介---

 

学校の帰りに、近くの本屋へ行く。俺の本とチェリーボム先生の本が、並んで平積みされていた。デビューが早かった俺の方が、チェリーボム先生よりも、シリーズ累計発行部数は勝っているが、1作当たりの発行部数は均衡していると、担当編集者の母が言っていた。

 

確かに、このブラコン愛を綴った作品は、俺に夢を見せてくれている。姉に、こんな風に扱われたいって、夢を叶えてくれる。まぁ、妄想世界でではあるが。

 

チェリーボム先生の新刊を手に取り、レジへ向かった。

 

 

家に帰り、購入した本に目を通していく。今回の目玉は、弟とお風呂に入るという妄想であった。イラストのブラザーコーン先生の絵もいい。おぉ~、見えそうで見えないアングルかぁ。妄想が加速していく。

 

コンコン!

 

「お風呂、開いたわよ!」

 

って、姉の声。汚物である俺は、姉の次…最後に入る事になっている。が、最後に入ると言うことは、姉と妹のエキスが浸み出たお湯に入れるという、特権を得ることが出来るのだった。

 

着替えを持ち、お風呂場へ…

 

姉妹のエキスで満たされた湯船で、まったりとして妄想を加速していく。あぁ、さっきまで姉がいた風呂場…どんな風に身体を洗っているのか?もしかして、自慰をしながら…のぼせてきた俺は、鼻血が出そうな感覚が生じている。マズいな。出るか…

 

部屋に戻って、加速した妄想を文字に変換していく。

 

 

学校…俺はモブである。モブである俺には、誰も近寄って来ない。いてもいなくても良い存在であるんだと思う。

 

それでも学校には通う俺。お目当ての女子がいるのだ。柔らかそうな黒髪を長く伸ばし、颯爽と歩く姿が惚れ惚れするクラスメイトの円城寺遥。うちのクラスのマドンナ的な存在で、俺なんかが声を掛けられる存在では無い。

 

スタイル的には姉に近いかな。

 

「おい!エロ大王、我がクラスのマドンナを、そんな目で見るな。彼女が不愉快だろ?」

 

って、クラスメイトの男子に言われること、しばしば。視界に入るのは、不可抗力だと思うのだけど…

 

そうか…不愉快なのか…学校、辞めようかな。彼女を見る為に、来ているだけだし。専業作家も悪く無いなぁ。母が許すかどうかが問題ではあるが。

 

 

その夜、母に相談した。

 

「学校、辞めて良いかな」

 

「何か遭ったの?」

 

「俺がいることが、不愉快らしいんだよ」

 

「そんな事を言われたの?」

 

「あぁ。不愉快と思われてまで、通う意味が分からない。この先、専業でいいかな?」

 

「1週間くらい休んでいいから、辞めるのは保留よ」

 

と言う事で、翌日から、学校へ行くのを辞めた。母が言うように予定は1週間だけであるけど。

 

 

 

---相沢桜---

 

母と祐介の会話を聞いてしまった。祐介は学校で、そんなことを言われたの?怒りを纏う私。私の大切な祐介になんてことを言うのよ!タダ分からないこともある。祐介の言った専業って何?何かバイトをしているの?うちはお金に困ってはいないのに…祐介に何があったのか、物凄く心配になっていく。まずは、学校の件が先だな。

 

翌日、下級生から情報を集めた。どうやら「不愉快」発言をしたと思われるのは、祐介と同じクラスである円城寺遥のようだった。

 

帰り道で待ち伏せをした。

 

「あなた、円城寺遥ね!」

 

私の問い掛けに、顔を強張らせていく遥。

 

「え?!相沢先輩…なんで、そんな恐い顔なんですか?」

 

何故か、私を知っている遥。面識あったっけ?

 

「お前、弟に存在が不愉快って、言ったそうね」

 

「え!!言ってません。まさか、相沢君が休んだのって…」

 

「存在が不愉快って言われて、学校を辞めるって言い出したのよ。どう責任を取ってくれるのかな?」

 

「責任って…言ってませんよ」

 

私の顔が恐いのか、狼狽えている遥。

 

「なら、言っていないと証言しなさい!弟が問題なく、通えるようにしておきなさい」

 

言いたいことを言い、部活へと戻る私。

 

 

 

---円城寺遥---

 

翌日、学校で、みんなに訊いた。「不愉快」発言についてだ。その結果、皆が忖度した結果、彼を追い込んだことがわかった。

 

「私はそんな風に、思っていません」

 

自分の気持ちを伝えた。

 

「だけど、アイツはいなくてもいいんじゃない」

 

「あれは、犯罪者の目だよな」

 

「エロ大王だし。自主退学でいいんじゃねぇ」

 

クラスの男子は、いなくても問題無いと結論付けていた。そして、女子達も、

 

「遥が言わないなら、私が言うわよ。直接ね」

 

「キモいし、存在がウザいよね」

 

「女子トイレを覗きしていそうよ」

 

など、言いたい放題言われている彼…

 

「おい!クラス内での虐めは問題だぞ!まぁ、いないことに気づかない存在だし、いなくても問題は無いな」

 

って、担任の先生までも。彼は私の知らない処で、クラス内虐めに遭っていたようだ。

 

 

 

---相沢祐介---

 

母に呼ばれた。

 

「どうしたんだ?」

 

「お前の担任に話を訊いてきた。お前、学校辞めていいぞ。担任までも、お前がいなくても、問題は無いって。この国の教育現場は腐っているな」

 

って、書類を出してきた母。

 

「転入試験を受けろ。違う学校に通え!」

 

え!今更入学試験ですか…無理…妄想小説で手一杯である。そこに受験勉強などと言う余分な労力は入れられない。

 

「これは決定事項だ。あぁ、あの腐った学校には、退学届けを出してきたわ」

 

あれ?1週間保留で無いの?敏腕な母親は行動が早かった。

 

 

だけど、事態は急変した。翌日、教育委員会のエライ人と校長先生が、我が家に来た。どうやら、担任と母の激論が、エライ人の耳に入ったらしい。

 

「担任を含むクラス内虐めを確認しました。この退学届けはお返しします」

 

「返す?担任が出せと言ったから、出したのよ。何を今更…」

 

応対している母の怒りがヒートアップしていく。

 

「ですから、我が校は非を認めます。息子さんを通わせても、大丈夫にしますから」

 

「大丈夫って?まさか、息子を隔離学級に、入れるんじゃないでしょうね?」

 

ギクっとした校長。被害者の俺を隔離するんだ。確かウチの学校って、問題児を隔離するクラスがあったような。

 

「校長!君の行動も虐めだぞ」

 

教育委員会のエラい人が、校長を睨み付けている。どうやら、母が勤務先の上司に相談した為、系列の新聞社が、教育委員会へ取材に行き、問題が新聞に載るのを防ぎたいようだった。要は、俺のことよりも、保身ってやつだな。

 

あぁ、これもネタに使うかな。

 

 

 



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初めての体験

11/09 誤字を修正


 

学校を休み始めて1週間後、学校へ登校した。教室に入っても、誰も俺を見ようとしていない。完全無視の方針らしい。まぁ、いいか。

 

教室に入ってきた担任も、俺はいないものとして、扱うようで、俺の方を見ようともしない。まぁ、穏便に…卒業出来ればいいかな。転入試験だけは避けたいから。

 

翌日、俺はクラス替えされた。隔離クラス行きだそうだ。まぁ、いいや。隔離クラス、生徒は個室に入り、クラスメイトとの接触も出来ないようだ。問題を起こさない為の対処だろうな。授業は、個室に設置されているタブレットで行うようで、教師も接触しないようだ。

 

家に帰り、母には報告する。隔離学級の実態についてだ。母は俺に潜入取材をするように言ってきた。母の働く出版社の系列新聞、系列テレビ局で、問題提起をするらしい。転入試験免除の上、バイト料も貰えるので、俺的にはまったく問題は無いし。

 

「お前、隔離学級にされ、嬉しそうだな」

 

って、母。

 

「あぁ、他人の目を気にしないでいいから」

 

嬉しいというか、楽ではある。授業中に妄想しても、怒られないし。

 

 

週末、意外な訪問者が来た。応対に出ると、俺の憧れのマドンナである円城寺遥だった。こいつ、なんで来たんだ?

 

「ねぇ、学校を辞めたの?」

 

俺の部屋に連れ込むと、開口一番にそう言われた。

 

「辞めていないよ。毎日通っている。クラス替えで、隔離学級にいるよ」

 

驚いた顔の遥。

 

コンコン!

 

ドアがノックされ、飲み物をお盆に載せて、姉が部屋に入って来た。テーブルの上に飲み物を3つ置き、姉もテーブル席に座った。姉の姿を見て、遥が怯えている。姉って、スケバン系なのか?それだと…妄想が加速する。プールしておこう。

 

「祐介に客とは珍しいわね。それも女の子って…」

 

姉が遥を睨んでいる。

 

「姉さん…円城寺がビビっているんだが…」

 

つい、口を挟んだ俺。

 

「あら、そう?産まれつき、こういう目付きなのよ」

 

そんな訳無いだろうに。

 

「あの…隔離学級にクラス替えされたのって、私のせい?」

 

「それは違う。学校が俺を飼い殺しにしたいだけだ。だから、お前は気にするな」

 

慣れると隔離学級は天国のような場所である。妄想し放題で、バイト代まで貰えるし。

 

「それならいいけど…」

 

うん?姉の視線が本棚にロックオンしているようだ。

 

「姉さん、ラノベに興味あるの?」

 

「え?!まぁ…ねぇ」

 

「読みたい本、持っていっていいよ。但し、返してね」

 

「わかったわ」

 

本棚の前に移動した姉が、ラノベ本を物色して、何冊か手にした。

 

「祐介君は、本が好きなの?」

 

遥に訊かれた。

 

「ライトノベルってジャンルの本が好きだよ」

 

「そうなんだ」

 

遥も本棚の前に立ち。物色している。興味あるのか?遥は俺の作品を手に取り、

 

「これ、借りてもいい?」

 

「あぁ、返してくれるなら」

 

「ありがとう」

 

にっこりと笑顔を返して来た。

 

 

遥が帰り、本棚をチェックすると、姉はHALという作者の本も持っていったようだ。この作者の作品は、片思いの男子を遠くで見ているだけ、という少女の甘酸っぱい、ムズムズ感が満載されている。

 

さてと、妄想するかな。円城寺で妄想もいいかもしれない。姉の前でプレイを見せつけるとか…

 

 

 

---相沢桜---

 

祐介を異性として認識して以来、初めて祐介の部屋に入った。所謂オタク部屋みたいだ。本棚にはラノベ本だけが入っていて、所々にフィギュアが飾られていた。本棚には私の作品が大切に収まっていたし。

 

まぁ、私の部屋も似た感じである。ラノベ作家だし…そう考えた時に、祐介と母の会話がフィードバックしてきた。

 

『この先、専業でいいかな?』

 

って…まさか、祐介も同業者なのか?ふと、本棚に目をやると、ユースケという作者のラノベが私を引き寄せていた。手に取り、読書し始めた、

 

こ、こ、これって…思い当たる場面が多々ある。まさか…一気に既刊全巻を読み進めていく。ゆ、ゆ、祐介…こんな風に思っていたのね。

 

オリ主は姉と入浴し、シャワーを浴びながら愛し合い…耳が熱くなっていく。そのシーンの登場人物を、自分と祐介に置き換えてしまったから。

 

たぶん、ユースケは祐介なのだろう。母に確認のメッセージを入れた。

 

『祐介には内緒にしてね。ビンゴよ』

 

って返信が戻って来た。うっ…こんな赤裸々な妄想を、発表していたの。マズい、今まで以上に祐介の顔を見られない気がする。

 

って、言うか。母は知っていたんだよね。私と祐介の担当編集者だし。家庭に仕事を持ち込まない敏腕編集者。全然、素振りを見せない母に驚愕した。

 

 

 

---円城寺遥---

 

祐介君の部屋の本棚…ラノベの本がたくさんあった。その中に、私の作品も収納してくれていた。なんか嬉しい。それだけの事なのに。

 

ベッドに座り、借りて来た本を読んでいく。祐介君と似た名前の作者の本だ。読み進めていくと、ある疑惑が生じていく。これって、祐介君じゃないの?

 

主人公が過去を振り返るシーン。それは、私と祐介君の間に起きたことに似ていたから。初恋の少女を虐めから救い出した翌日、主人公が代わりに虐められる様になった下り…まさか、あれが原因で虐められるようになったの?

 

借りて来た本を読破すると、確信に変わった。主人公の姉の容姿は、祐介君のお姉さんに似ているし、主人公の初恋の人の容姿は私に似ていたのだ。

 

知らず知らずの内に、祐介君と同じ道を歩んでいたようだ。なんか、嬉しい。私の初恋の相手…祐介君だったし。そして、今も遠くから…って、祐介君の初恋の人って、私なの?それは、相思相愛ってことかな?心臓がバクバク音を立てている。告白しようかな…

 

それなのに、忖度って何?私と祐介君の間を斬り裂くなんて…だけど、それに対して文句は言えない私。そんなことをすれば、次のクラス内虐めのターゲットになるからだ。ゴメンね、祐介君…クラスのマドンナというポジションにいたい訳では無い。虐めの対象はイヤだから。小学校の時、私は虐められていた。祐介君だけが、その虐めに参加せず、私を護ってくれた。そのせいかもしれない。祐介君が虐めの対象になってしまったのは…

 

取り巻く環境が変わるまで、遠くから見ているだけがいいかな。祐介君のお姉さん、とても恐いし…

 

 

 

---相沢祐介---

 

スケバンである姉をいたぶり、奉仕をさせ、その後に愛し合う。今日もだいぶ書けた。姉様々だよ。まったく。

 

コンコン!

 

ドアがノックされ、その姉が入って来た。

 

「これ!借りた本、返すよ」

 

「どうだった?」

 

「悪く無い内容だな。他のもいいか?」

 

「あぁ、いいよ」

 

姉は本棚の前に立ち、ラノベ本を物色している。横から見る姉は、胸の輪郭が見えるようだ。脳内保存をしておくか。半袖の袖口から、見えそうで見えない姉のブラに包まれた胸。透視能力があったらいいな。

 

「なぁ、この作家の本はどうなんだ?」

 

姉が手にしたのは、チェリーボム先生の本であった。

 

「ブラコンの姉が、弟であれこれ妄想する話だよ。姉さん的には有り得ないような話だよ」

 

「そうか」

 

本棚に手にした本を戻した。ブラコンの姉、姉さんでは気持ちが分からないだろうな。その後、数冊の本を手に取り、部屋を出て行った。

 

 

翌日、出版社で打ち合わせ。家でも出来るのだけど、姉妹には内緒であるので、大掛かりな打ち合わせは、出版社の母の部屋で行っている。

 

「次巻の展開は、こんな感じにしようかと思っています」

 

母に企画書を手渡した。それに目を通す母。

 

「いいんじゃないか。この路線で」

 

じゃ、これで書き進めれば良いのか。

 

「後、潜入捜査の方は?」

 

隔離学級についてのレポートを手渡した。

 

「なるほど…参考になるな。お前を弾き出した、あの学校に天誅を撃ち込んでやる」

 

母の顔が悪人顔になっているし。

 

「これで、何か喰って帰れ」

 

って、食堂で使える食券をくれた。なので、打ち合わせが終わった後、関係者以外立ち入り禁止の食堂へと向かった。ここは編集者、作者などが利用している食堂である。俺はここの生姜焼き定食が、大好きである。今日も懲りずに、生姜焼き定食だ。

 

「おぉ、ユースケじゃないか」

 

顔を上げると、妹物の大家である羽島伊月先生がいた。俺にとって、アニキ分である。伊月先生の日常では有り得ない妄シーンは好きである。妹が産んだ卵で、卵焼きを作って貰い、それをアーンして食べさせて貰う下りなど…

 

「伊月さん、お久しぶりです」

 

「あぁ、お前の作品を読んでいると、姉も有りかなって、気になっていくよ」

 

って、誉め言葉を貰った。

 

「これから、どうだ?うちで食事しないか?ちっひーが食事を作ってくれるんだよ」

 

ちっひーとは伊月さんの弟の千尋君のことである。伊月さんは漢ってイメージであるが、千尋君は見た目、中性的なイメージで、料理や家事をそつなく熟し、家事がまるでダメな伊月さんの面倒をみている、兄想いの弟さんだ。ブラコンな弟…妹で無くて、伊月さんは残念がっているけど。

 

「たまには行こうかな」

 

生姜焼き定食を平らげて、伊月先生の家へ向かった。

 

 

食事会には、いつものメンバーがいる。伊月先生ラブの可児那由多先生、伊月先生と同期デビューした不破春斗先生、後、伊月先生の彼女である白川京さんだ。

 

「累計100万部?」

 

「どうにか」

 

デビュー3年目で、累計100万部に到達できた俺。

 

「山田エルフ先生に、もう少しで届くか?」

 

山田エルフ先生は、開始15行目で、ヒロインを全裸にした猛者である。まだ、俺の妄想はそこまでの域に達してはいない。

 

「あの破壊力には、勝てる気しませんよ」

 

「あれ、反則だよな。ラノベでなく、官能小説だもんな」

 

って、不破先生。頷く俺と伊月先生。きっと、エロフ好きなおっさんが、書いているのかもしれない。

 

「まぁ、目標は千寿ムラマサ先生かな」

 

シリーズ累計1000万部超えの熟練作家である千寿先生。

 

「でも、アニメ化されないで、100万部達成はスゴいよ」

 

って、みゃーさんこと白川京さん。

 

「不破先生と伊月先生はアニメ化していますよね。アニメ化なぁ」

 

アニメにしたらイメージが壊れそうである。文字から妄想してこそ、良いのだと思うのだけど。

 

「最近のオススメは?」

 

春斗さんに訊かれた。

 

「永遠野誓とかはどうですか?伊月さんとは逆で、兄が好きで好きで堪らない、妹視点の物語ですよ」

 

「それは興味あるなぁ」

 

って、伊月さん。

 

 

食事会が終わり、ちっひーと共に駅へと向かう。伊月先生は自宅から出て、アパート暮らしなのだけど、ちっひーは自宅に住んでいるのだった。ちっひーは不思議な存在である。中性的なイメージで、女の子と言われれば、そうですかと受け入れてしまいそうな姿である。器量もいいし…

 

「うん?どうしたの祐介君」

 

俺のタダならない視線を感じ、戸惑っているちっひー。俺はそんなちっひーに抱きついた。

 

「え!」

 

俺の行動に驚いたのか、ちっひーは棒立ちである。彼を優しく抱き締める。胸が気持ちいいん。柔らかくて…へ?

 

まさか…確認の為に股間を弄った。

 

「あっ!ダメだよ…こんな路上で…」

 

無い…有るべき物が無い…なんでだ?!

 

 

喫茶店にちっひーといる。真っ赤な顔で俯いているちっひー。

 

「すまない…」

 

そんなちっひーに頭を下げる俺。初めての経験で腰が抜けたちっひー。喫茶店で休憩中である。

 

「祐介君は嫌いじゃ無いから、問題はないよ。だけど、ボクが女の子って兄さんに内緒にして欲しいんだよ」

 

ちっひーが言うには、再婚相手の連れ子同士で、伊月先生とは血は繋がっていないそうだ。で、再婚に当たり、伊月先生の異常な程の妹への愛に、恐怖を抱いた両親が、ちっひーの性別を偽って、伊月先生へ伝えたらしい。

 

「ねぇ、ボクでいいの?」

 

ちっひーの絶頂始めは貰ったが、交わった訳では無いんだけど…場の雰囲気で頷いた俺。

 

「嬉しいよ。誰もボクを抱き締めようとしてくれなかったから」

 

ちっひー的には、ハグ始めの相手が俺なのか?

 

終電も近くなってきたので、腰の抜けたちっひーをおぶい、家まで送り届けた。自分の家に帰り着くと、0時を回っていた。誰も起こさないように、静かに玄関を入り、自分の部屋へ向かうと、

 

「何か、遭ったの?」

 

姉さんがパジャマ姿で現れた。うっ!谷間が見える…乳首は見えないが…

 

「知り合いが腰を抜かして…送り届けてきただけだよ」

 

あぁ、姉さんからシャンプー臭がする。それだけで、妄想してしまう。

 

「そう」

 

そう言い残すと、自分の部屋へと戻っていく姉。俺も自分の部屋に戻り、この妄想を文字へと変換していった。

 

 

 

---相沢桜---

 

祐介が午前様って…有り得ない。誰と会っていたのよ!

 

『バイト先の先輩の家で食事する』

 

って、メッセージが届いていた。夕食はいらないってことだと理解している。バイト先って、なんだ?思い浮かぶのは、作家仲間ってことだよな。食事って手料理かな?そうなると相手は女性である。歳上の女性の作家で浮かぶのは、私であるが、私が相手では無い。そうなると誰だ?

 

女性の作家の場合、年齢は公表していない。ラノベ作家の場合、性別も公表していないし。う~ん、容疑者が捜査線に浮上しないわ。困ったなぁ。

 

相手は腰を抜かしたと言っていた。相手を送り届けたって言っていた。そこから推理する。そうなると、その女性の家で食事では無いのか。他の女性の家で食事会をして…その後…まさか、祐介の初めてを…

 

妄想を文字に置き換えて、怒りを鎮めていく私…

 



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醜いアヒルの子

---相沢梅---

 

今回のチェリーボム先生の原稿は過激であった。愛する弟が、別の女性と関係を持ち、怒りに荒れ狂う主人公。う~ん、どんなイラストがいいのかな?般若のお面を被って、包丁でも手に持たすか。

 

ユースケ先生の方は、中性的な男性と関係を?はぁ?読み進めていくと、その男性は女性であった。男装の麗人ってやつか。相手の女性とは男女の関係に至らなかったが、その女性から交際して欲しいと言われ、主人公は困惑して、今回の本は終わっている。次巻が愉しみだな。どんな展開になるんだろうか?

 

仕事を終え、リビングへ向かうと、姉が何か思い悩んでいるように見えた。

 

「姉さん、どうしたの?」

 

「なんでもないわよ」

 

啜り泣いているのか?そんな声が姉の口から漏れている。

 

「振られたの?」

 

冗談めかして言うと、本格的に泣き始めた。マジか…姉を振るとは、いい度胸の男がいたものだ。容姿端麗、文武両道、性格温厚の姉を振るとは、不届きな奴だな。

 

「どんな男?」

 

姉の隣に座り、話を訊く。相手の男は、姉の片思いであったらしい。それ自体が有り得ない。モテ女系の姉が片思いって…無い物ねだりかな?

 

姉は、その男性に告白をしていなかったらしいのだが、その男の影に別の女の存在を感じ取ったらしい。相手はプレイボーイ系なのか?手玉に取られたのは姉の方な予感。私の知る限り、姉の方が男を手玉に取っているイメージなのだけど。

 

う~ん…うん?どこかで訊いたような展開なんだけど…どこだっけ?えぇ…っと…どこだっけかな…最近だよな。はぁ?まさか…姉の名前を英語にするとチェリーブロッサム…って、チェリーボムの正体って…

 

「ねぇ、お姉ちゃんの正体って、チェリーボム?」

 

はっとした表情で泣き止み、私を驚愕な表情で見つめる姉。

 

「どうして、それを…」

 

う~ん、理由を話すと、私の正体もバレてしまうが…泣いている姉を見たく無いし。

 

「さっき、生原稿を読んだばかりだから」

 

「生原稿?えぇぇぇぇぇ~!梅が、ブラザーコーン先生?」

 

頷く私。固まる姉。まぁ、泣き止んだから良しとするか。

 

「ねぇ、もしかして、ユースケ先生の生原稿もある?」

 

「あるけど…どうして?」

 

姉から知らされた驚愕な事実…今度は私が固まった。お兄ちゃんがユースケ先生で、姉の片思いの相手だって…はぁ?何、その展開は…

 

 

私の部屋でユースケ先生の生原稿を読む姉。強張っていた姉の表情は、和らいでいく。

 

「そうか、付き合っている訳では無いのね。男女の関係でも無いし」

 

ほっとしている姉。それに対し、事実を受け止め切れていない私。お兄ちゃんがユースケ先生で、姉がチェリーボム先生って…じゃ、この家の家族全員、出版関係者ってこと?

 

「私達の正体は祐介には内緒よ」

 

って、お兄ちゃんだけ、除け者?

 

「母さんの指示よ」

 

それなら、しょうがないか。って、言うか一番の衝撃は、姉の片思いの相手が、お兄ちゃんだって事実だ。それでは、私のライバルでは無いか。

 

「ねぁ、梅。共闘しない?」

 

私の想い人を知っているようなことを言う姉。

 

「あなたも同じよね?祐介が大好きでしょ?」

 

決め打ち過ぎる言葉を前にして、狼狽える私。耳が熱い…

 

こうして、私と姉は共闘関係になった。って、敵は誰よ?私的には姉が強敵なんだけど…

 

 

 

---相沢祐介---

 

俺の通う学校の闇が、報道特番で流れた。虐めの被害生徒を隔離して、個室での学習をさせるという内容である。明日、学校は報道陣だらけになるのか?隔離学級内部の映像も流れた。俺が隠しカメラで撮影したからだ。

 

翌日、学校は休校になった。俺の予想通り、報道各社が取材攻勢に出た為、授業どころでは無いようだ。まぁ、俺にとっては、どうでもいい話である。

 

今日も妄想のネタを仕入れるかな。リビングに向かった。姉も休講のはずだからだ。案の定、リビングでテレビを見ている姉。俺はテレビでは無く、姉の見える位置に座った。パジャマでは無く、部屋着の為、見えそうな部分が無い。う~む。

 

今日の姉は、なんか違う。何が違うんだ?

 

「祐介…」

 

俺の方を振り返らずに、俺の名前を呼ぶ姉。

 

「何?」

 

「呼んだだけよ!」

 

なんだ、それは?新手の虐めか?学校内での虐めは問題は無いが、家庭内の虐めはダメージが大なんだけど…

 

「祐介、暇でしょ?珈琲を淹れて」

 

「わかったよ」

 

珍しい。俺に頼むって…汚らわしい存在の俺に珈琲を淹れろって、どんな心境の変化だ?珈琲を淹れて、姉の前に置いた。

 

「祐介、この前の知り合いって誰?」

 

この前?あぁ、午前様の件かな?

 

「バイト先の先輩だよ」

 

って、言ったはずだが。

 

「どんなバイト?」

 

う~ん、言えないよな。姉妹への妄想を、小説にして売っているなんて。出て行けって言われそうだ。いや、死ね!かも知れない。

 

「どうしたの?言えないバイトなの?」

 

答えを躊躇っていると、語気を強めてきた姉。殺されるのか?マズい…

 

「母さんの手伝いだよ」

 

って、嘘半分の答えを口にした。

 

「編集関係の?」

 

「そうだよ」

 

「そうなんだ…どの先生の家?」

 

原稿を受け取る仕事と思ってくれたのかな?

 

「この前は、羽島伊月先生の家だよ」

 

「ふ~ん、そうなんだ」

 

なんだ、今日の姉はおかしいぞ。何を探っているんだ?まさか、休校に追い込んだ犯人をか?家でも学校でも苛める気か?

 

 

 

---相沢桜---

 

祐介に怪しまれないようにして、自分の部屋に戻り、羽島伊月先生について、調べ上げていく。妹愛に燃える男性作家であるようだ。妹愛?伊月先生の家族構成を調べる。両親に弟が一人か…うん?この前の生原稿…中性的な男性が実は女性だったと言う下り。まさか、伊月先生の弟って、本当は妹なのか?性同一性障害者で、男だと思い込んでいるとしたら…祐介の行動で、眠っていたメスが目覚めたとしたら…由々しき事態である。

 

かと言って、どうしようか、手立ては浮かばない。男だと思っている女性を追い込むのは、抵抗があるよな。祐介が優しすぎるのが問題なのか?ここは心を鬼にして…って、既に鬼と思われているような。珈琲を淹れる時、ビクビクしていたし。更なる誤解はされたくない。

 

コンコン!

 

ドアがノックされ、梅が入って来た。

 

「どうだった?」

 

「容疑者は浮かんだわよ。羽島伊月先生の妹さん。だけど、男と思い込んでいる女性みたいなの」

 

「そうなんだ。お兄ちゃんは、彼女の正体を看破したのかな」

 

たぶん、そうなんだろう。なので、頷いた。

 

「それだと、あんまりアレコレ出来ないよね」

 

「そうね。相手が心の病だと、無理は出来ないわ」

 

ここは様子見かな?梅との相談した結果、私達と祐介の距離を縮めることで一致した。

 

 

 

---相沢祐介---

 

報道を受け、保護者会が開かれたそうだ。結論は、隔離学級は閉鎖の方向であるが、現状、一般学級に戻すのは不可能であると判断された。担任をも含む、クラス全体での虐めであるとされ、戻しても心のワダカマリは消えないってことらしい。次年度からの入学生から廃止にして、今いる俺を含む者達は、このまま隔離されるそうだ。

 

普通、虐める側を隔離するんでは無いのか?まぁ、どうでもいいが。

 

だけど…保護者会の決定に、教育委員会から待ったが掛かった。隔離生徒は全員転校させて、普通の学級へ戻すという。

 

う~ん、大人達の都合で、転校だと言う。受け入れ先の高校が思いっ切り遠い。これって、自主退学しろってことでは?

 

「自主退学は認め無いってよ」

 

って、母。なんだ、それは?理不尽な決定に負けた気分になるからか?

 

「登校拒否による、学校主導の退学でも、狙っているのだろうな」

 

と、母の予想。公立なのに学区内に通えないとは…登校拒否だな。すったもんだの末、ちっひーと同じ学校へ通うことにした俺。

 

 

「祐介君♪」

 

セーラ服姿のちっひー。新鮮である。

 

「どう?」

 

「似合っているよ」

 

出るところは微妙に出て、くびれもあるし…妹枠にしたい。いや、幼気な後輩枠か?

 

「そう」

 

俺の腕に抱きつくちっひー。地元では大胆なのか?伊月先生の前では大人しい弟なのに。腕にちっひーの柔らかな感触が広がる。あぁ、生理現象がムクムクしていく。

 

転入したクラスはちっひーのいるクラスで、ちっひーのダチってことで、クラスに打ち解けていった。

 

 

 

---相沢桜---

 

祐介が転校してしまった。なんてこと…それも片道1時間って…遠い。その遠さのせいなのか、祐介の脱稿速度が落ちていった。帰宅時間もそれに伴い遅くなり、夕食も一緒に摂れないだなんて。

 

梅に送られてくる生原稿をチェックして、悪い虫が付いていないかをチェックする。今のところ、大丈夫そうだ。

 

「ただいま」

 

祐介が帰ってきたようだ。

 

「食事は?」

 

「食べてきたよ」

 

部屋へ向かう祐介。衝動的に背中から抱きついた私。

 

「ど、ど、どうしたんだよ…姉ちゃん…」

 

動揺している祐介。抱きついた私の方が、動揺しているのは内緒だ。なんで、こんなことを、してしまったんだぁぁぁぁぁぁ~!そうだ、今日、血液型占いをしたからだ。知らないで良い事実を、知ってしまったからに違い無い。

 

「こんなにも愛しいのに…」

 

口からとんでもない言葉を発した私。感情が爆発しそうだ。マズい…

 

「学校で、何か遭ったのか?」

 

祐介の声は震えている。

 

「祐介がいなくなった」

 

「転校したからな」

 

祐介を振り向かして、唇を重ねてしまった私。マズい…妄想と現実の区別が出来ていない、私の感情…私の積極的な行動に、固まる祐介。祐介の首に腕を回し、退路を塞ぐ。

 

股間に固い物が触れている。私に感じてくれている祐介。祐介の口の中に舌を…

 

「おい!そこ!実の姉弟で恋愛は禁止だよ」

 

母さんの声で、祐介から離れる私。呆然として立ち尽くす祐介。

 

「母さん、話があるの」

 

母と母の部屋へ向かった。

 

 

「何?どんな言い訳をするの?」

 

母が興味深そうに訊いてきた。

 

「今日ねぇ、血液型占いをしたのよ」

 

「それが、どうしたの?」

 

「ねぇ、母さんの血液型ってABよね?」

 

「そうよ。あの人はOで、桜はA、梅はBでしょ?」

 

「なんで、祐介はOなの?」

 

はっとした母。ABとOの両親から、Oの子供は産まれない。母は、慌てて母子手帳を取り出して確認をしている。

 

「あれ?なんで…」

 

呆然としている母。

 

「ねぇ、祐介は誰の子供?」

 

「私達の子供では無いの?まさか、病院で取り違えた?」

 

祐介は、家族の誰とも似ていなかった。祐介以外、皆醤油顔系であるのだ。母は呆然としている。今さっきまで、祐介を自分の子供って、信じて疑わなかったのだろう。

 

「そんな…」

 

初めて、母の困惑する顔を見た気がする。

 

 

---相沢エリナ---

 

祐介を産んだ病院へ向かった。そこで聞いた事実…祐介を産んだ日、交通事故にあった夫婦と子供が運び込まれてきたそうだ。夫婦は共にダメだったが、男の子の乳幼児は奇跡的に助かったそうだ。で、私の産んだ祐介は、保育器内で突然死したそうで、その当時の院長が、両親のいない男の子を、私の子供と入れ替えたそうだ。あくまで、善意で…

 

なんて事なのよ…私の知らない処で…そんなことが遭ったなんて。

 

事故に遭った夫婦の身元は、警察の捜査でも分からず、私の本来の子供と共に、無縁墓地に埋葬されたそうだ。

 

無意識の内に、私は缶詰状態のあの人の元に向かっていた。

 

「う~ん、そんなドラマが遭ったのか」

 

「どうしよう…」

 

あの人に縋る私。

 

「今まで通りでいいだろ?祐介は祐介だ。問題は桜かぁ。血の繋がりは無いので、道義上問題は無いが、祐介の精神が心配だな」

 

祐介を自分の子供として、心配するあの人。私は祐介に今まで通り接することが出来るか、自信がない。祐介に罪は無いのは分かるんだけど…

 

「祐介が真実を知るまで、放置でいいだろう。敢えて、伝える話では無いと思う」

 

醜いアヒルの子…祐介は誰の子供なのか?我が家で一人だけソース顔の祐介。そういう理由だったのか。一人で家に帰り、桜と梅にだけ、真実を打ち明けた。

 

「お兄ちゃんと、血が繋がっていないの?」

 

「祐介の本当の両親って、不明なの…」

 

梅も桜も動揺している。いや、私だって、動揺から立ち直ってはいない。我が家を揺るがす、由々しき事態である。桜も梅も祐介が大好きである。血が繋がっていないことから今後、家庭内恋愛は解禁状態になりそうだ。

 

「だけど、祐介には内緒よ。あの子、壊れるとマズいから」

 

精神的に脆い面を持つ祐介。その事は、桜も梅も分かっており、二人共頷いた。

 

「いい?無理は禁物よ」

 

無理しそうよね。この二人…だって、私の娘だし…

 

 

 

---相沢祐介---

 

姉ちゃんによる自爆テロ攻撃で、俺は動揺しまくっていた。それは、日にちが進んでも変わらない。どういうつもりだ。俺のこと、大嫌いなんだろうに。新手の虐めか?俺を悶絶死させる作戦とか…

 

スマホから着信音。出てみるとちっひーだった。

 

『今日はどうしたの?』

 

時計を見ると、もう午後だった。

 

「あぁ、寝過ごした…」

 

いや、一睡も出来ていない。興奮しまくって寝られなかった。

 

『通学疲れかな。遠いもんね。じゃ、また、明日ね』

 

「あぁ、心配してくれて、ありがとうな、ちっひー」

 

通話は切れた。また、呆然とする。あれはなんだったんだ?

 

コンコン!

 

ドアのノック音。身構える俺。

 

「今、いいかな?」

 

優しそうな姉の声だ。罠かもしれない。

 

「あぁ、いいよ」

 

部屋に入って来た姉。その顔は何故か清々しい。なんでだよ~。そんなに、俺を追い込む事が楽しいのか?

 

「あのね…祐介。ずっと、好きでした。つきあってください」

 

いきなり姉に告白された俺。これも、何かの虐めか?

 

「何を言っているんだ?姉さんは、俺が大嫌いだろ?」

 

俺を汚物のように扱っていた姉。それなのに今更…混乱する俺の脳ミソ。耳から漏れ出そうだよ。

 

「それは、誤解よ!」

 

誤解?

 

「大嫌いの訳無いでしょ。こんなにも大好きなんだから」

 

って、俺に抱き、ベッドに押し倒した姉。有り得ない。きっと、これは悪夢なんだろう。

 

 



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新天地へ

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連日に渡る姉による自爆テロ攻撃で、寝不足状態である。その為か、通学時の電車の揺れが揺り篭のように感じ…あぁ~今日も、乗り過ごしてしまったぁぁぁぁ~!

 

そんな俺に救いの手が差し伸べられた。伊月さんが、自宅にある伊月さんの部屋を貸してくれるという。要するに、ちっひーの家に下宿して良いってことだ。

 

「遠いなら、近くに住めばいい。ちょうど、俺の部屋が空いているし、ちっひーと同じクラスだろ?」

 

って…ちっひーの両親のOKが出て、俺の母と話し合った結果、羽島家への下宿が決まった。これから毎日、ちっひーと通うので、遅刻も欠席も減りそうである。

 

姉さん達が学校へ行っている時間帯に、引っ越しをした。事前にバレると、引っ越し計画が、テロ攻撃でポシャりそうだからだ。着替えと、仕事道具と、ラノベの本を数冊という少ない荷物だったので、スーツケース2つにバックパックだけで、引っ越し作業が完了した。。

 

 

 

---相沢桜---

 

学校から帰ると、祐介がいなくなっていた。母へ連絡すると、祐介が引っ越ししたそうだ。どういうことだ。帰宅した母に、詰め寄る私と妹。

 

「これがベストな選択よ。いい?桜…お前、大胆過ぎるだろ?祐介が困惑していたのに、追い込むって、お前は何を考えているの?」

 

えっ!引っ越し理由って、私のせい?ベッドに押し倒した件は、やりすぎと反省はしていたのだが。

 

「毎晩、悶悶として寝られないそうだよ。まったく…ただでさえ、遠距離通学のダメージがあるのに、お前は何をしているの?」

 

家庭内恋愛解禁を機に、距離を縮めようと思っただけである。祐介のことを考えず、自分の欲望、愛情のままに行動したまでである。

 

「姉さん、いきなり、アレは無いわよ」

 

って、梅が冷たい視線を送ってくるし。どの行為かな?ディープキス?ノーブラでのハグ?あれこれアプローチしたので、何が悪かったのか、分からない。

 

「だから、学校の近くへの下宿を許可しました」

 

下宿?一人暮らし?女の連れ込み自由?それは、危険でしょう!

 

「一人暮らしなんか、祐介には無理よ!」

 

「へ?一人暮らし?そんなことはさせないわ。知り合いの家に、空き部屋があるそうで、そこに住まわして貰うことになったのよ」

 

知り合いの家?誰の知り合いだ?

 

「で、祐介の新しい住所は?」

 

「教えられないわよ。でねぇ、桜!遠征は禁止よ!祐介をこれ以上、追い込むなよ!」

 

えぇぇぇぇ~!私が悪いの?

 

 

 

---相沢祐介---

 

姉によるパワハラなセクハラ行為は、妄想という形で文字に変換してある。なんで、いきなり方向転換したんだ?って、実の弟に告白って、有り得ないだろうに。姉の行動に困惑する俺。これは、何の虐めなんだろうか?

 

実の弟を、悶悶とさせて、何が面白いのだ?義弟であれば、ラノベで有りがちな展開であるけど、俺は血の繋がった弟なんだよ。まぁ、もう姉の虐めに晒される心配はない。羽島家の人達は、俺に優しかった。あぁ、和むな~。こう考えると、俺の自宅は針のむしろ状態だったなぁ。

 

引っ越した伊月さんの部屋は家具付きで、伊月さんの私物も残っていた。主に、フィギュア人形であるけど。そう言えば、伊月さんのマンションにも多数あったな。伊月さんの本棚に、家から持って来たラノベ本を並べて収納した。

 

「どう?慣れたかな?」

 

少しずつ、部屋の片付けをしている俺に、ちっひーが訊いてきた。

 

「学校が近いって、いいよね」

 

俺の感想を聞きながら、ちっひーがベッドに座り、モジモジしている。それは斬新で、かわいい姿である。

 

「ちっひーのお陰で、クラスにも溶け込めたし、ありがとうな、ちっひー」

 

「うん…」

 

モジモジして、俺を見つめているちっひー。制服を脱ぎ、私服を着ていると、男の子に見える彼女。それはそれで、禁断の同性愛に発展しても、おかしくないシチュエーションである。

 

「祐介君が傍にいてくれて、ボクも嬉しいよ」

 

押し倒したくなる衝動。だけど、ここは彼女の家であり、見た目が男の子であり、色々な理性のブレーキが、俺を押し留める。今夜、文字にして発散するかな。

 

 

新しい生活に慣れてきた頃、担当編集者からメールが届いた。内容は、ラノベ異種武道会のお知らせで、各社の若手、高校生以下の作家がエントリーで、締め切り厳守で、100ページ以下で、読み切り作品を提出とある。審査方法は、ラノベ振興会の発行する雑誌に同時掲載し、読者投票で順位を決定するそうだ。

 

高校生以下の作家さんって、そんなにいるのかな?エントリーリストも送られていた。

 

俺、チェリーボム先生、HAL先生、那由多先生、千寿ムラマサ先生、山田エルフ先生、和泉マサムネ先生、永遠野誓先生、炎竜焔先生、霞詩子先生…

 

えぇぇぇぇ~!こんなにいるのか…千寿ムラマサ先生は累計1600万部超えの大物だぞ。それなのに高校生以下なのか?『恋するメトロノーム』の霞先生も、ラノベ界では重鎮では無いのか?

 

『棄権は?』と、担当編集に返信した俺。

 

空かさず、『許さん!』と返信が戻って来た。納期は1ヶ月半…読み切りかぁ…題材をどうするかな。姉妹物はダメだろうな。そうなると…ちっひーをモデルにして…妄想が浮かばない。どうしよう。

 

 

 

---相沢桜---

 

ラノベ異種武道会…上位に入れば、祐介と会えるかもしれない。問題は、読み切りである点だ。祐介でしか妄想出来ないんだけど…血の繋がらない弟物でいくか。祐介に真実がバレたら、バレたで都合も良いし。

 

設定を書き出し、案を煮詰めていく。

 

「お姉ちゃん、これって、イラストレーター部門もあるよ~」

 

って、梅。梅に届いたメールには、エロマンガ先生、アヘ顔Wピース先生、柏木 エリ先生に並んで、ブラザーコーンの名前があった。

 

猛者クラスのエロ系イラストレーターを相手に、梅では勝ち目はない。ここは、私達姉妹の正念場かもしれない。

 

「ねぇ、祐介から生原稿は?」

 

「まだ、来ないよ。そこまで早書きでは無いし」

 

まぁ、今日来て、今日は無理か…あぁ、祐介に会いたい…

 

 

 

---相沢祐介---

 

あぁ、まるで、浮かばない。納期までに出さないと、『不戦敗作者』という二つ名が1年間進呈されるらしい。まずい…どうしよう…

 

「祐介、詰んだか?」

 

って春斗さん。ここは伊月先生のマンション。ちっひーが料理をする日なので、買い物を同伴して、今先輩達に揉まれているところである。

 

「妹物で勝負するんだ、祐介!」

 

力説する伊月さん。でも、妹愛はそんなに無い俺。どうするよ。那由多さんは、いつも通り、伊月さんにじゃれついているし。

 

「まぁ、千寿ムラマサが高校生以下って、驚きだな」

 

って、伊月さん。俺も同感です。高校生以下で、どうやって累計1600万部売れるんだ?

 

「へぇ~、霞先生も出るのねぇ~」

 

って、みゃーさん。『恋するメトロノーム』の大ファンらしい。

 

「はい、枝豆ですよ~」

 

って、ちっひーがテンコ盛りの枝豆を持って来た。それをツマミにビールを飲む、大人達。

 

「那由多さんはどう攻めるんですか?」

 

「うん?いつも通りだよ。問題は100ページって言う、制限かな」

 

那由多さんは長編が多いから、そこが難敵らしい。

 

「祐介は、どう攻めるの?」

 

「何も浮かんでません。担当編集に棄権は有り得ないって言われて、パニクっています」

 

実の母親である担当編集者の意向は、絶対である。逆らえば、姉妹に俺の正体をバラすと脅されているし。

 

「好きな子とか、いないの?」

 

「いないです。見た目だけなら、実の姉ですけど…性格に難が有るし、俺のこと、大嫌いだし…」

 

「他の女性で妄想するしかないわね。例えば、みゃーさんとかは?」

 

那由多さんが、みゃーさんを推してきた。

 

「私?」

 

みゃーさんが俺に視線を向けてきた。お姉さんキャラである。大人の手ほどきを受けたい。そっち系の妄想にするかな?

 

「どんな妄想したのかな?」

 

興味津々の目を俺に向けてきたみゃーさん。

 

「みゃーさんの手ほどきで、大人の男になるとか…」

 

「私、ビッチじゃないわよ~」

 

「ですよね~」

 

みゃーさんの目付きが恐い。妄想するなと言っているようだ。かといって那由多さんでは、妄想できないし。機嫌を損ねられると、相談が出来なくなる可能性がある。

 

後、身近で妄想しても大丈夫な女性は…いないか…はぁ~。

 

 

帰り道…ちっひーが俺の腕に抱きついて来た。微かな乳房の感触…だけど生理現象を誘発はするが、俺の琴線に触れない。伊月さんの妹で、妄想なんか出来ない。伊月さんは俺のアニキ分である。そうなると、ちっひーは俺の妹もしくは弟になると思うから。

 

「ねぇ、ボクじゃダメ?」

 

「ダメじゃないけど…ちっひーで妄想なんか出来ないよ」

 

ちっひーが伊月さんの前で弟として振る舞う経緯を知った今、俺はちっひーで妄想はしちゃいけないと思う。それ以前に、前述の通り、伊月さんは俺のアニキ分であるから、その妹で妄想なんか、失礼であるし、やっちゃダメである。そこまで俺は、腐っていないと思いたい。

 

「祐介君ならいいよ…」

 

俺の腕に頬を擦り寄せているちっひー…だけど…

 

「ちっひーの家を追い出されると、俺…行き場が無いんだよ」

 

今更家には戻りたくない。あんな針のむしろの家なんか、いやだぁぁぁ~!

 

「あぁ、そうか。ボクの両親かぁ。そうだね、過剰反応すると、追い出しちゃうか…」

 

ちっひーを弟として、伊月さんに認識させたちっひーの両親。それは、伊月さんの性癖に過剰反応した結果だと、ちっひーが教えてくれた。本当は伊月さんが大好きなちっひー。同じソース顔の俺は代役かな?う~ん…

 

「誰か、いない?妄想出来そうな女性って…面識が無い方がいいんだけど…」

 

「う~ん…先輩とかでもいい?」

 

「遠くから観察出来ればいいんだよ」

 

ちっひーも校内で物色してくれるそうだ。

 

 

モデルが探しが難航して、すでに納期は、2週間も過ぎてしまった。残り1ヶ月である。書く時間は最低1週間は必要だから、そろそろ、妄想相手を見つけないと、マズい予感である。

 

下宿へ戻る際に、色々と歩き回り、モデルを探す毎日。漸く、努力は報われ、女神に出逢えた気がする。街で目が合った女性。彼女は颯爽と俺に近づいてきた。近づくにつれて、その正体を知った俺。なんで、ここにいるんだ、こいつが…

 

「見つけた…」

 

俺の目の前に立つ女性。姉と同じ制服である。って、ことは学校帰りなのか?

 

「なんで、黙って、引っ越しするのよ~」

 

俺に抱きついてきた円城寺遥…胸の感触が気持ちいい…ちっひーよりも大きいし、柔らかい…生理現象がムクつき始めている。

 

「通いキレないから…」

 

「転校した学校の周辺を探して…やっと見つけたよ」

 

俺の頬に自分の頬を重ねる遥。固まる俺。なんで、俺を探していたんだ?ある種の恐怖感を感じ、生理現象は萎えていく。

 

「ねぇ、連絡先を交換して。メールでいいから、繋がりが欲しいの」

 

耳元で囁く遥。彼女の吐息…生温く、気持ちが良い。

 

「あぁ…わかった」

 

スマホを取りだし、メアドを交換した。

 

「なんで、俺なんだ?お前なら、もっと良い男が寄ってくるだろ?」

 

あのクラスでのマドンナ。いや、あの学年でのマドンナ的な存在である。

 

「小学校の時…虐められていた私を助けてくれた」

 

そんなことあったっけ?小学校の時かぁ。あぁ、有ったなぁ。そんなことが…

 

「あの時から、君は私のヒーローなんだよ」

 

「ソース顔のヒーローはいないと思う」

 

「見た目は関係無いんだよ、祐介君」

 

「遥…」

 

彼女の肩に両手を添えて、俺から引きはがし、遥の顔を見た。遥の全身を脳内保存していく。胸の膨らみ、腰の括れ…などなど。

 

「私は祐介君の味方になりたい。世界の全員が敵になっても…」

 

大げさである。俺は世界の敵にはならない。寧ろ、スルーされるだけだと思う。いや、姉に殺される方が先か?

 

「また、逢ってね」

 

俺の唇に柔らかい物が触れ…遥は振り返り、スキップして帰って行った。えっ?俺なんかでいいのか?

 

部屋に戻り、妄想を暴走させていく。円城寺遥で妄想していく。色々なシチュエーションを思い浮かべ、最適なシチュエーションを選び出し、ストーリーを組み立てていく。

 

 

 

---相沢桜---

 

梅の元に、祐介の生原稿が届いたそうだ。梅の部屋に向かい、生原稿とご対面した。これは…久しぶりに逢った幼なじみと…このヒロインの容姿…これって、円城寺遥か??

 

「なんで、私では無いの?」

 

「姉さんで妄想だと、読み切りにならないからでしょ」

 

って、梅。なるほど…姉妹物は、シリーズ化しているからか。

 

「それよりも、姉さんは大丈夫なの?」

 

「大丈夫…生原稿を見たから」

 

私は愛する弟物一筋で勝負を賭けるわ。例えば、幼なじみと再会した弟。彼女も見て心が揺れる弟。だけど、姉の愛の力で、弟を奪還するとか…自分の部屋に戻り、妄想を文字へと変換していく。

 

 

 

---円城寺遥---

 

やっと、見つけた。祐介君…再会の喜びで、ファーストキスをしてしまった。想い出すだけで、耳が熱い。う~ん、舌を入れれば良かったかな?この想いを、描き出していく。祐介君は誰にも渡したくないから。

 

今回は高校生以下でのバトルだそうで、担当さんの話では、イラストレーターがいつもと違うそうである。私のいつものイラストレーターは年齢制限でアウトらしく、ブラザーコーンというイラストレーターが担当してくれるそうだ。ブラザーコーンと言えば、ユースケ先生と同じイラストレーターである。なんか、嬉しいな。祐介君の隣に立てた気がするから。

 

 



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棚からぼた餅

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書くには書いたのだが、なんかしっくりと来ない。う~ん、遥には虐められていない為、虐め返すエネルギーが湧いて来ないからかもしれない。

 

最下位でも良いんだけど、担当編集者が許さないだろうな。違う作風にしないとダメかな?悩んでいると、閃きが舞い降りて来た。そうか、桃太郎方式で、仲間を集い、憎き鬼を退治すれば良いのか。

 

腰に生えた肉棒をエサに、有能な女性達を下僕にして、鬼である姉の前でプレイを見せつけ、悶絶死に追い込む内容にして、再送信した。

 

『エロキモいので、却下します』

 

と、担当編集から、お返事が来た。俺的にはエロキモ作家でも良いんだけど…

 

あれこれ考え、何も出ない状態で書いて、ダメ元で再送信した。担当編集から、お返事が戻って来ない。ダメだったのか…

 

 

 

---相沢梅---

 

兄さんからの2本目…相当壊れている様子である。姉さんが暴走なんかするから。対山田エルフには有効だけど、霞詩子相手には、中身が無さ過ぎる。

 

そして、3本目が送られて来た。

 

『梅、それを決定稿にする。99ページに収まるように、それへ挿絵を入れてくれ』

 

と母さんからメッセージ。3本目に目を通す。う~ん、純愛物か…うん?違うのか?

 

主人公は戦士で姫を護りながら、お城へと連れ帰る物語なのだが、お城に着くと姫は主人公と関係を持ち、主人公を取り込むことで魔物に変貌し、お城を奪うって…バッドエンド物である。前半の90ページくらいは純愛物進行で、後半5ページで…

 

う~ん…良いのかこれで?姫のイメージは姉さんのようだ。

 

 

 

---相沢祐介---

 

出版社企画で、作家さんの集いの会が開かれるそうで、伊月さん、春斗さんに誘われ、その会に出席をした。

 

「どうしたよ、祐介」

 

「もう、出涸らしですよ。4本も投稿した直後ですよ」

 

3本目、担当編集から返事が無かったので、不安になり、急遽1本書き上げて、4本目を送信したのだ。

 

「ラスト3日で1本書き上げたのか?」

 

「まぁ…そんな感じですよ」

 

「妹か?姉か?」

 

伊月さんに訊かれた。

 

「弟ですよ…」

 

「はぁ?」

 

固まる伊月さん。

 

「なんで、弟なんだ?」

 

春斗さんに訊かれた。

 

「だって、ちっひーしか身近にいないんだもの」

 

実際、ちっひーしかモデルがいなかった。はぁ~、最下位決定だな。どうオトしたのかも、覚えていない。書き上げて、読み直さずに、送信後にお蔵にしたのだ。

 

会場を見渡すと、自信に満ち溢れた高ピーそうな紅いドレスの女性がいた。

 

「伊月さん、あの人は有名な作家さんですか?」

 

「うん?あぁ、お前の方が売上は上だよ。アイツは炎竜焔だ。自己満女王だ。スルーしろ。絡まれると厄介だ」

 

って、俺をロックオンして、近づいて来た。だけど、伊月さんが俺をガードしてくれた。

 

「お嬢様、男でもハントしに来ましたか?」

 

「うっ!そんなんじゃないもん…」

 

振り返って去って行った。

 

「自分より売れて無さそうな作家に、自慢話をしまくるんだよ、アイツはね」

 

そうなんだ。それは新手の虐めだな。

 

「アイツには勝たないと、後が五月蠅いし、ウザいぞ」

 

って、春斗さん。

 

「まぁ、困ったら、俺達が追い返してやる」

 

伊月さんが暖かい視線で俺を見つめていた。

 

 

例の件のパーティーの案内が届いた。その場で発表されるらしい。担当編集者からメッセージで、

 

『欠席は認め無い』

 

と…逃げられないのか…正装をして会場へと向かう。入口には担当編集者である母が待っていた。

 

「結構、健闘したね。よくやった」

 

褒められた。褒められるような作品を書いた覚え無いんだけど。だって、最後の1本は弟物だよ。売れ無いだろうな。

 

「どれをエントリーしたの?」

 

「4本目よ」

 

弟物か…ダメだな。

 

「ヘロヘロで書いたので、よく覚えていないんだけど…」

 

「そうなの?じゃ、奇跡の1作だね」

 

4本目で奇跡が起きたのか?それは、意識がはっきりしている時に書いた3本は、売れ無いってことか?それはそれでショックであるんだけどな。

 

母親に付いていくと、俺の契約している出版社の控え室に着いた。恐る恐る中に入ると…

 

「祐介君!」

 

えっ!なんで、遥がいるんだ?遥が走り寄り、俺に抱きついた。

 

「うん?知り合いだったのか?」

 

「俺の初恋の人だよ、母さん」

 

「え?祐介君のお母さん?」

 

「HAL先生、苗字が同じなら、親子って疑わないとダメよ。そうなのか。祐介の初恋の相手とはねぇ」

 

って…HAL先生?はい?

 

「祐介、そこで悩まない。遥でHALなら、悩む点は無いでしょ」

 

って、母さん。え!!遥がHALなのかぁぁぁぁ~!

 

「ほら!いつまでも抱きついていないでよ」

 

俺と遥を引きはがす母。

 

「あっ!すみません。久しぶりだったので…」

 

遥の恥ずかしそうな姿、新鮮である。清楚なイメージだったからな。憧れのお姫様の平民的仕草にグッとくる。

 

「まぁ、担当編集者として鼻が高いわ。上位に担当作家が2名入ったんだから」

 

って、ことは、遥の担当も母さんなのか。

 

「さて、時間よ。祐介、HAL先生をエスコートしなさい」

 

「あ、はい…」

 

遥の手を軽く握り、母さんの後へと続いた。

 

 

結果は、俺が優勝だった。2位は永遠野誓先生で、3位に遥。

 

妹目線の作品なのに、永遠野先生は俺くらいの男子だった。妄想力勝負で負けた気がする。

 

「一応、顔出しNGの作者がいるので、撮影は禁止でお願いします」

 

あぁ、だから3人だけなのか?俺と遥が顔出しNGってことらしい。母さんの配慮のようだ。顔なんか出したら、虐めの原因になりかねないってことらしい。

 

永遠野先生と遥は従来のシリーズの番外編のようで、俺は…兄と弟のラブロマンス物だったらしい。自分で内容を覚えていないほど、無意識で書き上げたからな。

 

「ユースケ先生、反則に近いが、ラスト1ページのどんでん返しは見事でしたよ」

 

ドンデン返し?俺、何をしたんだ?

 

「まさか、兄が性同一性障害の姉だったとは…見事です」

 

あぁ、ちっひーで妄想したからか…

 

 

 

---相沢桜---

 

あの件の祝賀会に招待された。梅と共にドレスアップをして、会場へと向かった。だけど、会場には祐介も円城寺遥もいない。あれ?

 

会は始まり、読者アンケートの結果が発表された。あれ?祐介は?まさか円城寺遥とデートで欠席ってオチか?

 

「どうしたの?」

 

母さんが訊いてきた。

 

「祐介は?」

 

「顔出しNGだから、授与式に出て、帰ったわよ」

 

顔出しNG?

 

「そんなことより、チェリーボム先生。どういうことですか?5位未満って…」

 

えっ!母さんが怒っている。敏腕編集者である母さんが…

 

「祐介は?」

 

「今、発表したでしょ?何を聞いていたの?」

 

え…壇上を見ると、『優勝 ユースケ先生』というボードが置かれていた。優勝したんだ…あれ?タイトルが違うんだけど…梅の部屋で見た生原稿は『帰還』だったのだが、優勝作は『兄弟愛の行方』になっていた。

 

「作品が違うんだけど…」

 

「うん?それは、梅に送られた生原稿を見たのかな?」

 

「げっ!姉さん、バラさないでよ!」

 

梅が私を睨んでいる。うん?見ちゃダメだったのか?

 

「ブラザーコーン先生、守秘義務を違反しましたね。未発表の作品を他人に、それもライバル作家に見せるって、どういうことですか?」

 

「だって、姉さんが…」

 

「仕事を家族関係に持ち込まない!あんた達、遊び感覚だったの?」

 

マズい…母さんの目が恐い…

 

 

 

---相沢祐介---

 

遥とデート…でも無いか。永遠野誓先生のお宅へ招かれた。

 

「いらっしゃいませ」

 

永遠野先生の妹さんが、飲み物とケーキを持ってきてくれた。

 

「涼花、ユースケ先生とHAL先生だよ」

 

俺達を紹介してくれた永遠野先生。

 

「兄がお世話になっています。妹の涼花です」

 

とても、かわいい妹さんだ。脳内保存をしておこう。永遠野先生とアレコレと話し込んでいく。そのうちに、少し違和感を感じた。この人、ゴーストライターでないのか?実際は妹さんが書いているのでは、って疑惑が湧いてきた。主人公である妹の話し方や、考え方のトレース方法が、わからない。何を参考にしたのだろうか?

 

「で、どうやって、女性の思考部分を書いているんですか?」

 

遥も気づいたようだ。遥は女性だから、特に参考にする物は無いだろうが、俺や彼だと、誰かの作品を参考にしたりするのだけど、それが無いらしい。

 

「え?どうやって?妄想ですよ」

 

妄想で、心理描写は出来ないだろう。もしかして、俺だけ出来無いのか?うん?心配そうに永遠野先生を見つめる涼花。

 

「追い詰めている訳ではなく、参考にしたいんですよ」

 

俺の言葉で、俺の方に視線を向けた涼花。何か言いたげである。

 

 

 

---永見涼花---

 

ユースケ先生が、カラクリに気づいたみたいだ。マズいなぁ。バラされたら、困る。ユースケ先生の後を追い、HAL先生と別れるのを待つ。ターミナル駅で、二人は別々の路線に乗るようなので、ユースケ先生の後を追う。

 

「ユースケ先生…少しいいですか?」

 

「え?!俺?」

 

舐めるような視線で見られている気がする。それくらい、安い物である。先生の下車駅で下車して、駅近くのカラオケ店へ入店した。

 

「お願いです。バラさないでください」

 

ユースケ先生に抱き付き、お願いをした。所謂、色仕掛けである。

 

「バラさないよ。事情があるんだろ?」

 

「そうなんです。わかってくれますか?」

 

「あぁ」

 

ユースケ先生に吸い込まれる感覚…身体をユースケ先生に預けていた。戸惑うユースケ先生。恥をかかせるとマズいよね。先生の胸に自分の胸を押し付け、先生の太股に跨がった。

 

「また、逢えますか?」

 

定期的に口封じをさせないとダメかな?

 

「喜んで…」

 

嬉しそうな彼の声が聞こえた。

 

 

 

---相沢祐介---

 

そんなに俺の人相は悪そうだったのか?涼花が色仕掛けで、俺の口封じをしてきた。バラすなんて、これっぽちも思っていないんだけど、彼女なりに後ろめたさがあったのかもしれない。う~ん、気持ちの良い身体だったなぁ。また、逢えるのかぁ~。これを役得取るか、棚ぼたと取るか、脅迫未遂と取るかだな。俺的には棚ぼたを取りたいけど。

 

涼花の余韻に浸りながら、部屋に戻った。送った原稿へ目を通していく。あぁ、本当だ。最後の1ページで大ドンデン返しがあった。

 

「どうだった?」

 

ちっひーに訊かれた。

 

「優勝していたよ」

 

「スゴいじゃないですか」

 

ちっひーが抱きついて来た。気持ちが良い。涼花と遥と比較してしまうのは、男の悲しい性か?

 

「ご褒美は、ボクじゃダメかな?」

 

モジモジしているちっひー。

 

「ダメじゃないけど…マズいでしょ?」

 

「ボクの意志だよ。祐介君には迷惑を掛けないから」

 

え!いいのか?マズいって…

 

 

 

---相沢桜---

 

担当編集者に誓約書を書かされている。二度と梅に送信された生原稿を見ないことをだ。梅は梅で、送られて来た生原稿を他人に見せないことを誓約書に書いている。

 

「プロ意識が足りないんじゃないの?」

 

母の怒りが、私達姉妹に向けられている。

 

「違反したら、商法、民法に基づき、摘発しますからね」

 

母はイラ立っているのか?

 

「本当なら、祐介をお祝いしていたのに…あなた達のせいで…」

 

怒りのポイントはそこなの?

 

「桜が祐介を追い出さなければ、家族5人で祝えたのにねっ!」

 

父さんが久しぶりに缶詰から解放されて、帰宅していた。

 

「まぁ、いないんじゃ、しょうがないだろ」

 

父さんと父さんの部屋に消えた母さん。

 

「どうするのよ、お姉ちゃん!」

 

梅からも怒りの視線を感じる。

 

 

 

---円城寺遥---

 

祐介君と楽しい時間…文字へと変換していく。涼花ちゃんは、本当にお兄さんが大好きなんだな。作品から滲み出ている愛情。こんな作品に近づきたい。

 

しかし、祐介君にはやられたなぁ。あんな変化球も書けるのか。ドンデン返しな展開かぁ~。祐介君からプロポーズしてくれないかな?スマホの待ち受け画面には、祐介君とツーショットで撮った画像にしてある。受賞した記念の額をお互いに持っている。祐介君のお母さんに撮ってもらったのだ。

 

私も転校したいなぁ…どうすれば、できるのかな?頭の中は祐介君で一杯である。

 

そうだ!取材旅行を二人でするのはどうだろうか?夏休みを利用して…ネットで、観光地を検索して、ロケに使えそうな場所を選別していく。そして、私の妄想は広がっていく。う~ん、新婚旅行だと海外かな~。

 

 

 

---永見涼花---

 

お兄ちゃん以外の男子と…でも、嫌な感じはしなかった。彼の優しさを今となって噛み締めている。彼はバラすつもりは無いのだろう。私の行動に困惑していた。あの時は、必死だったので、気づかなかったけど、今思い返すと…相当戸惑っていたように感じられる。

 

ユースケ先生に、興味を抱いてしまった。お兄ちゃん以外に興味を持つなんて…う~ん、複雑である。

 

メールの着信音がスマホからした。チェックをするとユースケ先生であった。帰り際にメアドを交換していたのだ。

 

『バラす気は無い。もう会わない方がいいと思う。涼花の作風が壊れるのではと心配だから』

 

会わない?有り得ない。私の作風を心配して?有り得ない。作風は変化すべき物だ。実際に、ユースケ先生は、今回作風を変えてきたし。

 

『会いたいです。お願いです。会ってください』

 

と、返信すると、直ぐに返事が返ってきた

 

『俺なんかでいいのか?』

 

自信がないようだ。まるでお兄ちゃんみたい…そうだ!血の繋がらないお兄ちゃんになってもらえばいいんだ。それなら、多少の無茶も有りだし。

 

『ユースケ先生が良いんです』

 

新しい作風の方向性は決まったかも。うふっ…

 

 

 



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血の繋がらない妹枠 Part1

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受賞をするってことは、次に書く作品は、ソレを超えないとダメなようだ。担当編集者に次回作のプロットを送るが、中々、通らない。

 

『もう、新作は諦めて、シリーズの方を進めて下さい』

 

と、新作を拒否してきた母。あぁ、もっと無の心境にならないとダメなのか…唸って、脳細胞を活性化していると、伊月さんからメッセージが入った。

 

『和泉マサムネ先生が連絡を取りたいそうだぞ』

 

って…教わった連絡先に電話をすると、暑気払いしないかとのお誘いであった。参加者は高校生以下とある。ノンアルコールの健全なパーティーか?それとも乱行仮装パーティーか?まぁ、どっちも興味あるので、参加する旨を伝えた。

 

パーティー当日、遥を誘ってあったのだが、担当編集者との打ち合わせになったようだ。他に誰か誘おうかな。誰がいる?ちっひーは出掛けていない。後、知り合いだと、涼花しか浮かばないか。ダメ元で連絡をした。

 

 

五反野駅で涼花と落ち合った。

 

「お兄ちゃん、誘ってくれて、ありがとうございます」

 

って、俺は涼花の血の繋がらない兄って設定になっていた。まぁ、彼女の作品の為になるそうなので、その設定を受け入れた。受け入れて困る事は無いし。こんなにかわいい妹は歓迎だし。

 

俺の腕に抱きつく涼花。地図を見ながら、目的地へと向かう。ここかな?『和泉』って表札がある一戸建てを見つけ、呼び鈴を押した。

 

 

「ユースケ先生ですね」

 

俺と同じ位男子が出て来た。

 

「えぇっと、和泉先生ですか」

 

「そうです。そちらは?」

 

「妹の涼花です」

 

どう説明しようか考えている間に、涼花が頭をペコっと下げた。

 

「HAL先生を誘ってあったんですが、今日は打ち合わせになって、それで」

 

「私…妹の出番になりました」

 

完全に俺の妹になりきっている涼花。女は皆女優説に、俺は賛成である。

 

リビングに通されると、既に山田エルフ先生、千寿ムラマサ先生がいた。なぜか、タブレットにはエロマンガ先生が映っている。

 

「あぁ、相棒は人見知りだから」

 

と、マサムネ先生。

 

しかし、エロフ好きのオッサンと思っていた山田エルフ先生と、目標である千寿ムラマサ先生が中学生だったことにショックを受けた。まぁ、涼花も中学生であるけど。

 

「アレにはやられたわよ」

 

って、エルフ先生。大ドンデン返しの件である。

 

「最後の1ページを残して、バラ物だと思っていたら…」

 

投稿した俺本人も驚いています。まさか、最後の1ページであんなことになっていたとは。

 

「しかし、仲がいいわね」

 

って、山田先生が、俺と涼花を見て言った。涼花は俺の腕に抱きついたままで、たまに俺の腕に頬を重ねたりしていた。

 

「どこかの妹さんも見習った方が良いのでは?」

 

って、ムラマサ先生。一瞬、仮面を被ったエロマンガ先生が、動揺したように見えた。もしかして、マサムネ先生の妹さんなのか?で、顔出しNGで仮面を被っているのかもしれない。

 

「あれは、どの位で書いたの?」

 

マサムネ先生に訊かれた。

 

「3日だよ。あれの前に3作没だったから」

 

「えっ!」

 

涼花が小さな驚きの声を上げた。

 

「没原稿に興味があるわ」

 

って、エルフ先生。では、対エルフ作品をマサムネ先生のPCへ送信した。タイトルは『腿太郎』である。

 

「う~ん、タイトルからして、いやな予感がするな」

 

って、ムラマサ先生。涼花は俺のノートパソコンで読み始めた。

 

「こ、こ、これは…う~ん、有りかな」

 

ってムラマサ先生。有りなのか?

 

「お兄ちゃん、これは惨いでしょ」

 

って、涼花。えぇ、惨いです。続いて『帰還』も送信した。

 

「こっちの方が有りだな。ドンデン返しといい、これが原型か?」

 

ムラマサ先生に訊かれた。頷く俺。3作目があったから、4作目が産まれたはずだし。

 

「あぁ、それでさぁ、8月に合宿をするんだけど、一緒に行かない?」

 

作家だけの合同夏合宿をするそうだ。場所は、山田エルフ先生所有のプライベートアイランドらしい。アニメ化すると、島を買える程の膨大な売上があるのか。

 

「どうする?」

 

「俺は構わないけど…」

 

涼花を見ると、

 

「私もお兄ちゃんと参加します」

 

って。どのお兄ちゃんだ?

 

「そうそう、HAL先生も誘って良いか?」

 

「問題ないよ」

 

こうして、夏休みの予定は決まった。

 

 

 

---永見涼花---

 

家に帰り、夏合宿の件をお兄ちゃんに伝えた。

 

「作家だけで合同夏合宿か?で、涼花は参加なのか?」

 

「うん」

 

「俺も行った方がいいか?」

 

「そうね、留守中に、あの女に籠絡されるとマズいわねぇ」

 

あの女とは、近所に住む炎竜焔こと氷室舞である。お兄ちゃんが、永遠野誓のゴーストライターでは無いかと疑っているのだ。

 

「あの女には知られないようにね」

 

「あぁ、わかった」

 

だけど、護りの甘いお兄ちゃん。あの女に合同合宿の件がバレた。

 

「祐、私も参加するわ」

 

「俺に言わないで、主催者に言ってくれよ。俺も誘われただけだし」

 

「何を言っているのこの炎竜焔が、参加って言っているのよ。相手にそう伝えなさい」

 

エラそうに、お兄ちゃんを顎で使うとは…

 

「私も参加します」

 

て、アヘ顔Wピース先生もだ。炎竜焔が誘ったらしい。う~ん、最悪な場合、お兄ちゃんはこの女に与え、私は新しいお兄ちゃんと新作に挑もうかな。

 

 

 

---相沢祐介---

 

合同合宿の参加者の集合場所に、参加予定では無い作家さんも来ていた。あの自己満女王が誘ったらしい。そもそも自己満女王は参加リストには載っていないのだが。

 

「まぁ、人数は問題ないわよ」

 

エルフ先生とキャラが被りそうだ。揉めそうだな。

 

「お招き、ありがとう」

 

って、霞詩子先生と柏木エリ先生も参加だそうだ。お姉さんキャラである霞先生。柏木先生は…この人もエルフ先生とキャラが被りそうだな。

 

「そこの女!仕切るな!置いて行くぞ!」

 

向こうでは、案の定、エルフ先生と炎竜焔が揉めていた。

 

「私を誰だと思っているのよ?」

 

「売れ無い作家でしょ?」

 

「はぁ?私は炎竜焔よ」

 

「そんなにエラいなら、プライベートアイランドの1つや2つ買って、一人で行きなさいよ!」

 

エルフ先生に同意である。俺よりも稼ぎが少ないと、伊月さんに言われたし。

 

「あなたは買えるの?」

 

エルフ先生にそれは愚問だと思う。

 

「私のプライベートアイランドに行くんですよぉ~」

 

勝ち誇ったようなエルフ先生のお言葉に、怯んだ炎竜焔。押し黙り、永遠野先生に抱きついた。で、俺の腕には涼花と遥が抱きついている。あの…カバンが持てないんですが…

 

 

まず、近くの島までプライベートジェットで移動して、そこから船でプライベートアイランドへ渡った。スゴい…エルフ先生の財力は…アニメ化ってスゴいんだな。アニメ化かぁ…夢が広がる…

 

涼花は本当の兄の傍に寄らず、俺の傍に居着いている。遥はそんな涼花を気にしていないのか、やはり、俺の傍に居着いていた。

 

で、プライベートアイランドなんだが、宿泊施設も常設のしっかりとした建物であった。女性は基本二人部屋ってことで、仲の良い者同士で同部屋にするそうだ。

 

「男女は別だよ」

 

男の参加者は、俺とマサムネ先生、永遠野先生、そしてエルフ先生のお兄さんの4名で、こちらは一人部屋のようだ。

 

割当たられた部屋で、仕事環境を調える。って言っても、wifiの電波状況をチェックして、最適な受信の出来る場所に机を移動して、創作ノートを置いておく程度である。

 

コンコン!

 

ドアがノックされて、涼花が入って来た。

 

「一人部屋って言うけど、そこそこ広いねぇ」

 

俺に抱きつく涼花。

 

「涼花も書くのか?」

 

「うん。遥さんと同室だから、どうしようか悩んでいるの。バレていないでしょ?」

 

うすうす感づいていると思うけど。

 

「お兄ちゃんの隣で書こうかな」

 

ここで、書くのか?

 

「まぁ、構わないけど」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

chu

 

柔らかな物が俺の唇に重なった。

 

「また、後でね~」

 

部屋を出て行く涼花。余韻に浸る俺…

 

 

基本、自炊だそうだ。料理が出来るのは、マサムネ先生、エルフ先生、ムラマサ先生、エルフ先生のお兄さん、霞先生、涼花、俺、遥のようだ。

 

が、料理が出来ると言っても、魚は下ろせない。マサムネ先生、ムラマサ先生、涼花が活躍している。残りの料理出来る組は、出来ることをしていく。俺はベーコンを焼いたり、卵焼きを焼いたりしている。遥はサラダを作っていた。

 

「祐介君、ドレッシングは作れる?」

 

「あぁ、作れるよ。フレンチドレッシングにするか」

 

あの炎竜焔大先生は凹んでいるらしい。発行部数で勝てる相手がマサムネ先生くらいだからだ。そのマサムネ先生はエルフ先生とムラマサ先生にガードされていて、自慢返しにあったらしい。

 

 

 

---相沢桜---

 

祐介の生原稿が見られない。梅の留守中に、パソコン内を調べたのだが、そもそも受信していないようだ。脱稿していないのか?遊び惚けているのか?新しい女が出来たのか?

 

心配になり、祐介のスマホへと発信をした。

 

『お掛けになった番号は、電波の届かない場所か…』

 

地下にいるのか?いかがわしい店か?う~ん、心配だわ。

 

「桜!梅の部屋で何をしているの?」

 

母の声。

 

「祐介に電話を掛けているんだけど、電波が届かないって…」

 

「ふ~ん…なんで、梅の部屋から掛けているの?」

 

母の視線が冷たくて、恐い…うっ!梅のPCが起動したままだ。

 

「そうやって、梅の留守中に、生原稿探しをしていたのね。ねぇ桜、警察へ一緒に行こうか?」

 

え?実の娘を警察に差し出す気か?

 

「誓約書を書かせたわよね!」

 

「はい…」

 

「高校2年にもなって、それがどういう意味かわからないのかな?」

 

「わかります」

 

「じゃ、お小遣い3ヶ月カット。印税は6ヶ月没収で手を打つわ。それとも、警察とどっちがいい?」

 

実の娘を脅す母親。

 

 

 

---相沢梅---

 

ショックである。兄さんが、霞詩子先生と旅行をしていた。霞先生のSNSの画像に兄さんが見切れていたのを見つけた。いつの間にそんな間柄になったんだ?まさか、下宿先って、霞先生の家かな?画像から場所を特定してみる。画像データには位置情報が入っているのもあるのだった。スマホはGPS機能を持っているので、入っている可能性は大である。専用アプリで場所を表示させてみた。

 

うん?何故か海の上を指し示すアイコン…海の上?船かな?飛行機かな?海外へ二人で脱出か?霞先生のSNSをチェックしていくと、『合同夏合宿』って文字を見つけた。これに、二人で参加しているのか。どこの出版社主催なんだ?

 

敏腕編集者である母さんに連絡をして、訊いてみた。こういう情報に詳しいのだ。

 

「あぁ、それは山田エルフ先生に誘われたそうよ」

 

って…山田エルフ先生?そことも繋がっているのか。家を抜けた兄さんの交友関係は、広がっているようだ。

 

「何作か、企画書が送られてきているわ。作家同士の集いで、創作意欲が全開みたい」

 

そうなんだ。私も行きたいなぁ。

 

「ねえ、どこで開催しているの?」

 

「はぁ?お金無いでしょ?」

 

お金?海外なのか…う~ん…

 

「貸してください」

 

「そうね…桜が更正したらね」

 

へ?姉さんが何かをやらかしたのか?

 

「何をしたのですか?」

 

恐る恐る訊いてみた。

 

「妹の部屋に黙って入って、弟の生原稿を探していたのよ」

 

何?!私の部屋に無断で押し入ったのか?

 

「誓約書の重要性が分からないみたいねぇ、あなた達は」

 

同罪なのか?

 

「姉のしたことですよね?私は関与していませんよ…」

 

「誓約書をよく読みなさい」

 

私の手元にある誓約書を取りだし、よくよく見ると『連帯保証で責任をとる』と、明記されていた。連帯責任だって…

 

「こういう物はサインすれば良いんじゃ無いのよ。良く読んで理解してから、サインをしなさいね。今回の罰は、お小遣い3ヶ月停止、印税は6ヶ月没収だからね」

 

言葉が出ない。なんだ、その重たい罰金刑は…

 

「罰金刑中なのに、お金を貸せる訳無いでしょ?」

 

勝ち誇った声で通話を切った母。

 

 

 

 



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血の繋がらない妹枠 Part2

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俺の隣に涼花が座り、お互いに作業をしていた。

 

「この設定はどう思いますか?」

 

血の繋がらない兄とのラブコメのようだ。う~ん、俺と関係を持った下りも書くようだ。いいのか?

 

「こんなにさらけ出して、大丈夫なのか?」

 

「う~ん、そうなんですけど…この方がインパクトはありますよね?」

 

「有ると思う。涼花が良いなら、俺は何にも言わないよ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

そう言いながら、俺に抱きつく涼花。唇を重ね合い、舌が入って来た。初めての経験である。恐る恐るであるが、涼花の舌を自分の舌で確かめる。薄く柔らかい…あぁ、生理現象が起きてきた。それに気づいた涼花が、手の平で俺の股間を…

 

「お兄ちゃんの正直な反応、好きです」

 

唇が離れ、そう言われた。

 

「さてと、この気持ちを文字にしようかな」

 

嬉しそうに文字に変換していく涼花。

 

俺も自分の作品を打たないと…兄とウザい弟の話。兄が大好きな弟。だけど、どこから見ても、誰が見ても、ボーイッシュな女の子である。兄が好きすぎて、弟だと思い込んでいる妹の巻き起こすラブコメである。

 

「これは、誰がモデルなんですか?」

 

涼花が興味深そうに訊いてきた。

 

「誰ってことは無いよ。弟物って、斬新だろ?」

 

「確かに義理の妹物って多いですよね。私のコレもそうだろうし」

 

涼花のソレは義理の妹では無い。血が繋がっていない妹枠である。

 

「和泉先生の新作も義理の妹物ですよね。チェリーボム先生もそうだったかな」

 

「まぁ、ラノベで定番に近いかな」

 

コンコン!

 

ドアがノックをされた。応対に出ると、涼花の兄だった。

 

「涼花は、コチラですか?」

 

「えぇ、ここで仕事をしていますよ」

 

「涼花、何をしているんだよ!」

 

「お兄ちゃん…いえ、兄さんは炎竜焔大先生と乳繰り合えばいいじゃないですか」

 

「涼花さん…どうしたの?」

 

この兄は狼狽えると、妹をさん呼びするらしい。

 

「どうしたのって?なんで、あの女に対して、ガードが甘いんですか?」

 

涼花は女王が嫌いなようだ。俺も関わりたく無い。

 

「アイツ、押しが強くて…」

 

既に、女王の尻に敷かれているようだ。

 

「兄さん、しっかりしてくださいね。私のゴーストって、自覚が足りないんじゃ無いですか?」

 

「すまない、不甲斐ない兄で…」

 

打たれ弱そうだな。これでは、バレるのは時間の問題か?

 

「用が終わったら、あの炎竜焔大先生の元へ戻ってください。怪しまれますから」

 

「あぁ、そうだな…ユースケ先生、妹を、涼花を頼みます」

 

肩を落として、トボトボと部屋を出て行く、涼花の兄。

 

「お兄ちゃん…私の事を、お願いしますね」

 

って、笑顔で俺を見る涼花。何をお願いするんだ?って、顔が近いんですが…

 

 

 

---霞詩子---

 

う~ん…ユースケ先生の担当編集者の許可を得て、Wピース先生が、『腿太郎』をエロ同人誌向けのマンガにしていた。これは…クオリティーが高い。エリをアシスタントにして、次々に描き上げているし。

 

「う~ん、こうなっているのか…」

 

男性経験のないエリが、唸っているし。

 

「これが成功すれば、『帰還』もマンガ化したいです」

 

って、深夜5分枠のアニメ化を目指しているようだ。

 

「霞先生の経験話も訊きたいですねぇ~」

 

って…ぶっちゃけ、経験はない。あるように匂わせているだけである。コイツ、経験が豊富なのか?なんか、負けた気分になるわ。

 

私よりもデカい胸…白人系の血でも入っているのか?

 

「え?ここまで描き上げたんですか?」

 

ユースケ先生と涼花ちゃんがやって来た。

 

「えぇ、面白い本は製作が早いですよ」

 

う~ん、あの兄妹、似ていないなぁ。どっちかと言うと、永遠野先生に似ている涼花ちゃん。

 

「なぁ、涼花ちゃんの兄って、本当にユースケ先生なのか?」

 

疑問を口にした私。

 

「えっ?違いますよ。私は…永遠野の妹です」

 

「なんで、ユースケ先生を兄だと言っているんだ?」

 

「好きだから…」

 

真っ赤になって俯いた涼花ちゃん。好きなら、兄でなく、彼にするのでは?

 

「血の繋がらない兄妹に憧れていると言うか…」

 

モジモジしだした涼花ちゃん。

 

「ユースケ先生の好みって、涼花ちゃんなのか?」

 

「えっ!俺の好みですか?HALですけど…」

 

HAL先生が好みなのか?スレンダー系の少女がいいのか。まぁ、涼花もストライクゾーンなのか?

 

「大丈夫ですから、お兄ちゃんは死守しますからね。でへっ」

 

あぁ、ラノベ好きが集まると、こういう人間関係になるのか?巻き込まれたく無いような、巻き込んで欲しいような関係である。

 

「私なんか、どうだ?」

 

試しに訊いてみた。

 

「霞先生ですか…姉に似ている感じがするので、ダメかも…」

 

ユースケ先生の姉妹感を聞いた。自宅住まいの頃は、姉によるパワハラ、セクハラのテロ攻撃を受けていたようで、お姉さん枠はダメらしい。

 

「信じられますか?血の繋がった弟に、告白して、押し倒して、関係を持つって…」

 

彼は、ラノベっていうより、ハードコア系の生活をしていたようだ。ラノベに救いを求めたのか?そうか、彼の恐怖心を払拭すれば…

 

「お兄ちゃん、私が付いています。怖がらないでも大丈夫ですよ」

 

彼を涼花が優しく抱き締めている。ラノベ的な展開だな。これをネタに貰うかな?そして、取材をすると言って、近づくのも手であるかな。

 

「じゃ、自宅には住んでいないのか?」

 

まず、家を訊き出す。

 

「えぇ、今は伊月先生の自宅に下宿しています」

 

「伊月…あの妹物の大家である羽島伊月先生か?」

 

「はい…」

 

羽島伊月先生と言えば、妹に産ませた卵で、卵焼きを作らせるなど、非現実的な妹物が得意な作家である。

 

「Oh!妹の脱いだパンティを絞って、ジュースにしてオリ主に飲ませた、あの人ですねぇ~」

 

Wピース先生も読んでいるのか。あれは、スゴい発想であった。

 

「懇意にしているのか?」

 

「まぁ、俺のアニキみたいな存在です。よく一緒に食事したり、相談したりしています」

 

羽島先生に師事しているのか。

 

「是非、紹介してください」

 

Wピース先生が喰い付いた。こいつも伊月先生ファンか?

 

「帰ったら訊いてみますね。そんなに伊月先生のマンションは広くないから」

 

ユースケ先生に興味を持ってしまった。彼の交友関係はネタになりそうだと、私の勘が疼いていた。彼の半生も興味があるし。彼自身にも…

 

 

 

---氷室 舞---

 

祐は作品に手を付けない。書いている姿を見たいのに…

 

「ねぇ、祐!仕事はしないでいいの?」

 

「え?いや、まだ思案段階だからね」

 

って、企画書すら書いていないし。怪しい。

 

「ねぇ、祐。本当にあなたが永遠野誓なの?」

 

「えっ?疑うのであれば、部屋から出て行ってくれ。不愉快だ!」

 

あっ、マズい。怒らしてしまった。抱きついて、私の色香で惑わしてみる。

 

「何をしているんだよ。離れてくれ!ただでさえ、涼花に乳繰り合っていると思われているんだぞ!」

 

えっ!そんな風に思われているのか…では…

 

「おい!ここで脱ぐなよ~」

 

「乳繰り合いましょうよ。ねぇ、祐…」

 

下着姿で祐に抱きついた。

 

「えっ!ちょっと…」

 

この合宿中に、祐をオトしてやる。そして、永遠野の秘密を教えて貰うんだ。

 

 

 

---相沢祐介---

 

『どうだ、合宿は?』

 

伊月さんに連絡をしてみた。

 

「まぁ、色々な人がいるって実感です」

 

『もっと、知り合いを増やせよ、少年』

 

「なかなか難しいです。あぁ、アヘ顔Wピース先生と霞詩子先生が、伊月さんに会いたいそうですよ」

 

『そうなのか?じゃ、次回の食事会に誘ってくれ』

 

「わかりました。で、伊月さんはどうですか?」

 

『没の山だよ。担当編集が妹の良さを、分かってくれないんだよ』

 

「俺の方は、弟物が通りました」

 

『弟物?新作か?いいなぁ、ユースケは』

 

作品のアイデアについて、感想を貰ったり、アドバイスを受けたりして、通話を終えた。

 

「今の人が伊月先生?」

 

ベッドに横たわっていた涼花に訊かれた。PCでテレビ電話モードで会話していたので、伊月さんの顔がモニタに映っていたのだ。

 

「そうだよ。俺のアニキのような存在だよ」

 

「お兄ちゃんのお兄ちゃん?」

 

「そうなるかな」

 

ベッドから起きたした涼花が、シャワールームに消えた。俺は企画書と睨めっこである。弟の性格をどうするかだ。う~ん…閃いたことを、書き込んでいく。また、清書して提出だな。

 

「お兄ちゃん…大好きだよ」

 

背中に涼花が抱きついていた。胸の感触が、柔らかくて気持ち良すぎるんですけど…

 

「涼花…俺も好きだよ」

 

「大好きではないの?」

 

うっ!俺の耳に吐息を吹きかけ、耳タブをハムハムしだした。背筋にゾクゾク感が走り抜けて行く。どこで、テクニックを学んでいるんだ?

 

「俺でいいのか?」

 

「うん…お兄ちゃんのしたいようにして欲しい」

 

「じゃ、まず、下着を付けて…形が悪くなるらしいぞ」

 

「えっ!本当に?」

 

下着を付きに行ったようだ。

 

「涼花、成長が安定するまで、ノーブラはダメだよ」

 

「わかりました。ありがとう、お兄ちゃん。私の身体を心配してくれて」

 

ブラをした涼花の胸の感触が、俺の背中に…

 

「押し当てすぎてもダメらしいよ」

 

「むむむっ、そうなんだ。うん、気をつけるよ」

 

永遠野先生はいいなぁ。こんなにも素直で、かわいい妹と同居しているとは…

 

 

毎日、午前中はビーチに出ている女性陣と永遠野先生、和泉先生。俺は外に出ずに、部屋で企画書とにらめっこである。

 

「ビーチには行かないのか?」

 

ムラマサ先生が部屋に入って来た。

 

「うん…アウトドアは苦手なんだよ」

 

「どんな企画にしたんだ?」

 

俺の前に座り、企画書に目を通すムラマサ先生。俺の目には、中学生とは思えないスタイルが映り込んできた。脳内保存しておこう。涼花より1つ下だっけ?立派な乳房である。肩が凝らないのだろうか?

 

「うん?どうしたんだ?」

 

「素朴な疑問です。肩は凝らないんですか?」

 

「うん?あっ…」

 

耳まで真っ赤に染めて、俯いてしまったムラマサ先生。

 

「すみません」

 

ムラマサ先生に背中を向けた。これ以上見ると失礼になりそうだから。

 

「あ…あのな…私がこんな恰好で来たのだ。君は悪くないよ。素朴な疑問だろうな。男性にとっては。あぁ、胸が大きいと肩は凝りやすいそうだぞ」

 

「教えてくださり、ありがとうございます」

 

「ウィンウィンで行こう。君がわからないことは、私が教える。だから、私のわからないことは、君が教えてくれ」

 

「いいですよ。そこにタオルがありますので、羽織ってください」

 

「ありがとう…」

 

振り返ると、タオルに手を出さずに、俺と向き合うように座っているムラマサ先生がいた。

 

「君は思っているより、良い奴だな」

 

褒めて貰えたようだ。

 

「で、お話は?」

 

「私の作品はどう思う?」

 

「この前のですか?あれって、公開ラブレターですよね?」

 

この前の作品は、和泉先生に向けた公開ラブレターだった。

 

「やはり、そう見えたか」

 

見えてなかったのかな?

 

「でな…」

 

和泉先生からのお返事を訊けばいいのかな?

 

「相手から返事はもらった。ダメだった…」

 

「え?こんなにかわいいのに?振られたんですか…」

 

「あっ、あぁ…」

 

恥ずかしそうに俯いてるムラマサ先生。

 

「私って、かわいいか?」

 

テーブルに手を付いて、前のめりになるムラマサ先生。胸の谷間が眩しい。

 

「かわいいですよ。俺の妹だと、嬉しかったかもです」

 

「えっ!」

 

耳が再度朱く染まっていく。

 

「たぶん和泉先生は、もっとかわいい子を、狙っているんじゃないですか?」

 

「あぁ、そうなんだよ。その子には、勝てる気はしない」

 

「諦められない場合は、相手を蹴落とすか、遠くから見守るかですよ」

 

「そう思うか?」

 

「えぇ…そう思います。でも、蹴落とすのは、ムラマサ先生には似合いません。威風堂々と、何事も無かったように、迫るのが良いかと思いますよ」

 

「なるほど、そういう考え方もあるのか…でだ…私も…ユースケ先生を兄と思っても頼ってもいいか?」

 

「かまいませんよ。俺で良ければ」

 

「ありがとう、兄さん」

 

恥ずかしそうに俺を見るムラマサ先生。かわいいのになぁ。また、血の繋がらない妹が出来たようだ…

 

 

ランチの後は、それぞれ創作活動をしている。午前中に書き上げたプロットを、涼花、ムラマサ先生、遥に見せている。

 

「どうかな?」

 

「弟物って…これ、変化球だよね?」

 

遥の言う通り、変化球である。性別は女である弟であるから。

 

「名前は宇佐美で、あだ名はウザミンなのか…」

 

ムラマサ先生が頷いている。良いってことかな?

 

「で、誰をモデルにしているんですか?」

 

って、涼花。モデルかぁ~。

 

「モデルがいないんだよ」

 

って、俺達4人の無意識な視線は一人の人物に集まっていた。あの炎竜焔先生である。

 

「まぁ、ボーイッシュって言えば、そうだよね」

 

「ウザさは、この中で群を抜いているし」

 

「甘えキャラよりに改変は必要だよね」

 

概ね、モデルは決定だな。

 

「そうなると、兄のモデルは、涼花の兄か?」

 

「そうなるね、お兄ちゃん」

 

永遠野先生の妹の許可は下りた。

 

「次はエピソードを考えればいいのか?」

 

「いや、妹が弟になった経緯もいるわよ」

 

遥の言うことに、頷く二人。経緯か…

 

「そうだな。兄が、弟が欲しかったとぼやいていて…」

 

「うん、有り得るよ」

 

って、涼花。じゃ、採用だな。

 

 

 



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血の繋がらない親子枠

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---相沢エリナ---

 

祐介を産んだ病院から連絡を貰い、駆けつけた。そこには、祐介の本当の両親の関係者の代理人の人が待っていた。

 

「代理人の伊集院です」

 

「祐介の母の相沢エリナです」

 

今更返せと言われるのだろうか。

 

「彼の両親は、駆け落ち中に事故に遭ったんです」

 

駆け落ち?

 

「二人の両親は共に、結婚に反対され、産まれた子供は始末するって言ったそうなんです」

 

始末…まさか、祐介を殺すの?

 

「祐介は私の子供です…」

 

「えぇ、それは重々、承知しております。ですが、彼の両親のそれぞれの家では、言い過ぎたと反省をしております。身元を示す物が無かったのは、身元がバレると二人のお子さんが始末されると思ったからで…」

 

だから、身元が不明だったのか…

 

「今更、返せとは言えないです。そもそも、孫として認知するつもりは無かった訳ですから」

 

祐介は生きてはダメだったのか?

 

「ただ、今さらですが、両家共に、跡取りがいないんですよ」

 

返せってことかな…お腹は痛めていないけど…でも…

 

「あぁ、泣かないでください」

 

涙が止まらない。あの子との想い出が浮かんでは消えていく。

 

「彼を養子に迎えたいと、言っているんです。酷いことを、言っていると私も思います。ですので、私が間に入って調整しているのです」

 

うん?

 

「私がもぎ取れたのは、今後の結婚相手は彼に一任すること、戸籍の移動は、彼が結婚するまで手を出さないことです」

 

祐介が結婚するまで、私達の子供でいられるのか?

 

「彼が結婚した後、夫婦養子として、迎え入れることに決定しました。今日は、そのことをお知らせに来たのです。あぁ、この事に関しての反論、異論は認めません」

 

「ちょっと、一方的じゃないですか?」

 

「えぇ、そうですよ。民衆のことに疎い人達ですからね」

 

民衆?

 

「どこの家なんですか?」

 

「言わないとダメですよね。佐田財閥と真理亜財閥です」

 

うん?財閥…それもライバル関係にある財閥なのか…

 

「わかっていただけましたね。この国、いや、世界規模での富を2分する感じの財閥同士の結論です。逆らえば、この星にいられなくなるって、恫喝してきましたが、それには『ふざけるなよ!』って、言っておきました。まぁ、困ったことがあれば、私に言ってください。対処はします」

 

 

 

---真理亜伊集院---

 

相沢さんが帰って行った。だいぶ、気落ちしているな。ガードの者を数名つけておくか。

 

「伊集院、脅し過ぎではないのか?」

 

紅髪の男が入って来た。佐田家現当主の佐田悟である。

 

「現実味を持たせようと…ちょっと言い過ぎましたね。反省しなきゃな」

 

俺は真理亜伊集院、真理亜家現当主である。

 

「やっと、姉さんの子供を見つけたんだよ。跡を継がせたいんだよ。お前もそうだろ?」

 

俺の姉が、祐介という名を付けられた子供の母親だ。

 

「あぁ、兄さんの忘れ形見だ。跡を継がせたい。俺はワンポイントでも、彼の下でもかまわない」

 

悟の兄が彼の父親である。先代同士いがみ合い、彼の両親の結婚に反対し、両家の血を持つ彼を呪われた子と言って、始末しようとしていた。俺達に代が代わり、頭の腐った先代達を始末して、彼を助ける側に回ることを悟と決めたのだ。先代達の決定が無ければ、姉さんも悟兄も、彼も、両財閥を上手く舵取りしてくれただろう。

 

「で、どうするんだ?」

 

「祐介を監視というサポートする。彼のやりたいようにさせる。ただ、彼に害を為す奴らは…。そんな感じかな?」

 

「俺も、似たようなことをするつもりだよ。ただ、彼の力量、器、性格、嗜好は把握して、将来的に、教育が必要であれば、していくよ」

 

「任せるよ。ただ、分かっているな?今更の申し出だ。彼のしたいようにが優先だぞ」

 

「あぁ、分かっている。彼には罪が無い。それは彼を育ててくれた、相沢家の夫婦もだ。罪深いのは俺達の先代の行いだからな」

 

俺は悟の言葉に頷いた。

 

 

 

---相沢祐介---

 

「何、じろじろ見ているのよ~!」

 

炎竜焔こと氷室 舞の行動を観察している俺。

 

「いや、次回作のモデルなんだよ」

 

「私が?どんなキャラよ~!」

 

Wピース先生が、鏡で舞に見せた。

 

「どういうこと?」

 

「あなた、そのままでぇ~す」

 

何故か、Wピース先生も俺の次回作について知っていた。

 

「はぁ?どういうことよ~!祐、何か言ってよ!」

 

永遠野先生が固まっている。みんなの視線を一身に受けているから。

 

「え?なんで、俺なんだ?」

 

「祐は私の彼氏でしょ!」

 

「えっ!いつの間に…告白されていないし、告白もしていないぞ」

 

あぁ、永遠野炎竜ペアの会話も録音している。作品を作る為の資料である。

 

「いい?相思相愛の場合、そういう物はいらないよ!」

 

そうなのか?

 

「兄さん、つきあっていたのですね」

 

涼花の冷たい声が、永遠野先生を襲った。

 

「涼花、誤解だ!付き合っていないって…」

 

「兄さんは脇が甘いから、ピンクトラップに掛かったのですか?」

 

「はぁ?涼花さん、それは誤解だって…」

 

永遠野先生は本物の永遠野先生に、言い訳をしていた。

 

「あぁ、そうだ!エルフ先生、アニメ化すると、こういう島って買えるんですか?」

 

素朴な疑問を訊いた。

 

「えっ!えぇ…そうよ」

 

「エミリー!嘘はダメだぞ」

 

って、エルフ先生の兄が注意している。エミリーとはエルフ先生の本名だそうだ。

 

「祐介君、ここは、印税で買った訳でないんだよ。両親の買った物を、エミリーが貰っただけなんだ」

 

って、山田さんの実家は資産家だそうで、エルフ先生の印税で買ったのは、和泉先生の隣にある古い洋館だけらしい。

 

「そうなのか…アニメ化程度では島は無理なのか」

 

「祐介、アニメ化して、グッズとかを売れば、わからないぞ」

 

って、詩羽さん。霞先生の本名は霞ヶ丘詩羽さんっていうそうだ。ごく自然に俺の優しい姉枠に収まっていた。

 

「グッズかぁ…」

 

「祐介、金を稼げたら、どうするんだ?」

 

「自分の家が欲しいかな。今は下宿住まいだし、かと言って実家には戻りたくないし」

 

「お兄ちゃんが家を買ったら、私も一緒に住みます」

 

って、涼花。お前の兄は、永遠野だろうに…

 

「二人だけだと、心配だから、私も住みます」

 

って遥。それは有りかもしれない。

 

「夢があっていいな。私もがんばるよ、兄さん」

 

って、花ちゃん。ムラマサ先生の本名は梅園花だそうだ。

 

「おい!俺の涼花を勝手に妹にするなぁ~!」

 

「兄さん!ピンクトラップに嵌まりまくっている人の物に、なりたくないです。もっと、しっかりしてくださいね」

 

って、涼花が永遠野先生を睨んでいる。それに怯む永遠野先生。裏で、永遠野炎竜ペアは、ポンコツ夫婦って、呼ばれ始めていた。いい始めたのは涼花なのは内緒である。

 

「う~ん、涼花、本当に俺はお前の兄枠でいいのか?」

 

「勿論ですよ」

 

って、心が蕩けるような笑顔を向けてきた。あぁ、ダメ…涼花と、もし一緒になった場合、尻に敷かれると思う。

 

「しっかし、祐介はよくわからないわよね~。彼女枠が増えないで、妹枠が増えるって、男としてどうなの?」

 

って、エリさん。

 

「彼女って存在は身構えちゃいますよ。俺、小心者ですから」

 

「そんなものなんか?ねぇ、マサムネ」

 

エルフ先生が和泉先生に訊いた。

 

「えっ!俺に訊くのか?どうだろうな。俺も彼女がいないし。そういうのは彼女持ちに訊いた方がいいと思うが…」

 

視線はポンコツ夫婦に集まる。まだ、痴話ケンカっぽい、いちゃつきを展開していた。

 

「確かに、こんだけのギャラリーの前で、見せつける強心臓持ちでないと、彼氏、彼女は出来ないのかもしれないな」

 

って、詩羽さん。

 

 

夜…詩羽さんに手ほどきを受けて、自分の部屋へ戻った。すると、俺のベッドに涼花が寝ていた。

 

「遅いよ、お兄ちゃん!誰と打ち合わせをしていたの?」

 

「あぁ、詩羽さんとだよ。恋愛観なんかを聞いてきたんだよ」

 

身体同士で会話をしていたけど…

 

「そうなんだ。で、どう?」

 

「どうって?」

 

「新作のモデルですよ。あんなポンコツでいいのかな?」

 

ウザい以前にポンコツ過ぎるって、皆からアドバイスを貰った。端から見てウザいのだが、当の本人である永遠野先生は、ウザいと思っていないで、喜んでいるように見えるし。

 

「する方も、される方もポンコツだよ」

 

そうなるとモデル探しは、一からかな。あっ!いた…ウザい女…姉さんだ。パワハラ、セクハラなんでもござれの、ウザさである。実の弟に告白の上、ことに及ぶって…弟の俺の精神をいたぶる天才でもある。

 

「いや、モデルを見つけたよ。俺の実の姉だ」

 

 

モデルが決まると、結構スムーズに書くことが出来た。

 

「う~ん、事実に基づいていると思うと、複雑ですねぇ」

 

って、涼花。事実は創作よりも希有な物である。

 

「これは、家出したくなるのがわかるレベルだな」

 

って、花ちゃん。えぇ、悶絶死一歩手前にいましたから。

 

「こんな姉がいるのか…」

 

絶句気味の詩羽さん。

 

「いるんですよ~」

 

って、遥。

 

「ユースケ先生!深夜5分枠をゲット出来ましたよ~」

 

って、Wピース先生。『腿太郎』がアニメ化決定したらしい。いいのか?あんな作品で…

 

「おめでとうって、言っていいのかな?」

 

って、和泉先生が苦笑いしている。あれがアニメ化って…嬉しいやら、悲しいやらだ。もっと、まっとうな作品をアニメ化して欲しい。

 

 

実り多き、合同夏合宿が終わり、帰路に着いた。お土産はどうするかな?干物類しか無いんだが…まぁ、買っていくか。

 

「じゃ、詩羽さん、アヘ顔Wピース先生、連絡をしますね」

 

伊月さんの家での食事会の件である。

 

「あぁ、頼むよ」

 

「まっていま~す」

 

 

久しぶりの下宿の俺の部屋…ベッドで横になる。落ち着くなぁ…柔らかい感触で目が覚めた俺。

 

「お帰り、祐介君」

 

ちっひーが添い寝をしていた。貼り付くような肌の感触で…

 

「いいのか?」

 

「うん…両親も納得してくれた。私の男嫌いが治る切っ掛けになるといいって。私の両親は祐介君を買ってくれているよ」

 

そうなのか?って、ちっひーは男嫌いだったのか?それが驚きなのだが。

 

「祐介君だけ…私から積極的にアプローチした男性は…だから、一緒にいてください」

 

頷く俺。この状況で拒否は出来ないだろ?ちっひー、ズルいぞ!

 

 

沢山の夏の想い出を得て、夏休みは終わった。うん?夏休みの宿題?何もやっていないんだけどぉぉぉぉぉぉ~!

 

居残り補習という名の、夏休みの宿題の消化…しまった。すっかり忘れていた。下校時間ぎりぎりまで、宿題の消化。校門まで行くと、ちっひーが待っていた。

 

「終わった?」

 

「いや…2週間くらい掛かりそうだよ。はぁ~」

 

「頑張ってね」

 

俺の腕に抱きつくちっひー。日々、胸の谷間が深くなっているようだ。ちっひーなりに成長しているのか。俺も成長しているのかな。どこかが…

 

夕食を終え、風呂を終え、仕事の時間である。合宿で書いたメモを見ながら、作品製作を進めていく。

 

 

 

---相沢梅---

 

久しぶりに兄さんの生原稿が入稿した。校正作業は終わっていて、挿絵を入れたい部分だけの原稿しか無い。姉対策か?

 

大まかなプロット、キャラ設定表などが貼付されている。それらに、目を通していく。うん?弟物…それも兄と弟なのか?いや。弟は実際は女性なのか。う~ん、また変化球か。

 

弟である宇佐美、通称ウザミンの性格…うぅぅぅ~、姉にソックリである。モデルは姉か?ウザいと思っているのか?まぁ、確かにウザいよな。

 

ウザミンのキャラ絵を数ポーズ描き上げ、担当編集者のチェックを受けた。すると、こんな感じにって、エロマンガ先生のイラストが送られて来た。まさか、イラストレーターの変更も視野に入れているのか?う~ん、確かにエロかわいい妹である。それに対して、私の妹は、色香を漂わせるクール系であった。姉をモデルにした結果だろうか。担当編集者はエロかわいさを求めているようだな。

 

更に数ショット、イラストを送った。

 

『もう少し丸みを…』

 

って、返信が来た。ここは正念場か?兄さんの担当イラストは死守したい。更に数点描き上げて、送信。

 

『設定をよく見なさい!』

 

って、返信だよ。設定…良く読む。あっ!見た目が幼い感じ…見落としていた。私の妹の年齢層は中学生くらいであるが、そうか小学生くらいに見えるようにすればいいのか。担当編集者との打ち合わせは数日に及んだ。

 

 

 

---相沢桜---

 

何?出版枠が消えた…どうしてよ~!母の部屋に直接乗り込んだ。

 

「何?」

 

冷たい視線の母。

 

「どういうこと?出版枠が消えたって?」

 

「あなた、スランプよね?作品のクオリティーが下がっているわよ」

 

うっ!それは認める。祐介への想いが暴走気味である。

 

「これはラノベでは無いわ。有害図書系に移籍も視野に入れているの」

 

それでは、祐介と同じ土俵にいられないではないか。

 

「どうする?有害図書系で良ければ、出版枠は確保するわよ」

 

その枠に入ると、ラノベ作家に戻るのは難しいかもしれない。

 

「いえ、出版枠ロストでいいです」

 

「では、ラノベとして、売れるレベルの作品に期待しますわ」

 

部屋から出された。あ…マズい…正念場だわ。恋愛感情の暴走を収めないと…祐介に会って、発散しないと…

 

 

 

 

 



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貼られたレッテル

人生2度目の高校退学処分を受けた。転校しても、ネット拡散という方法で、虐めが続いていた。退学理由が女子トイレ覗きの常習犯、女子更衣室に隠しカメラを設置しての撮影、アイドル、マドンナ的の女子生徒へのストーカー行為など、身に覚えの無い罪を犯した者として、実名で晒されていた。

 

その件が転校先の学校の父母会で問題になり、罪を隠しての越境転入とされ、父母会の総意として、俺の排除を学校へ求めたそうだ。俺は、教育委員会の指示に従って、転校しただけなのに…

 

「すまない。また、お前を護れなかった」

 

母が落胆している。

 

「しょうがないよ、俺の人相が悪いんだろ」

 

こればかりは、どうにもならない。俺を産んだ母を責める訳にもいかないし。そして、また引っ越しをすることになった。ちっひーの家に迷惑を掛けてしまいそうだから。

 

「なんで?祐介君は悪くないのに?」

 

「一度貼られたレッテルは剥がれないんだよ。ちっひー、ごめんな」

 

涙ぐみ、俺に抱きつくちっひー。俺は家に縁がないのだろうか?

 

再度、母が新しい部屋を用意してくれていた。引っ越し荷物を、スーツケース2つとバックパックに詰め、持てない荷物は宅配便で手配をして、羽島家を後にした。

 

住所を頼りにして、新天地へと向かう。高校は通信制の高校にしてくれた母。通いの学校では、また同じ事が繰り返される可能性が高いからだ。

 

今度の部屋は、母の仕事場に近いらしい。メモを見ながら、目的地を探すが、わからない。彷徨うこと2時間…アパートらしき建物が見付からない。どうしてだ?

 

途方に暮れた俺の目に、一人の女性の姿が飛び込んで来た。黒髪をなびかせて、颯爽と立ち尽くす女性。その姿は、片思いの君である円城寺遥に似ていたのだ。違いは、彼女の方が大人びていて、胸が大きいことか?

 

「すみません…ここへ行きたいんですが…案内してもらえますか?」

 

いきなり声を掛けた為、驚く彼女。

 

「えっ!ここ?これって…ここへ、何しに行くの?」

 

見せた住所に驚いている彼女。あれ?書き間違えたのかな。

 

「そこに住む事になったんです」

 

「住む?住み込みのバイト?」

 

「いえ、下宿ですよ」

 

品定めをするような視線で、俺を見る彼女。

 

「そうなんだ。あのさぁ、私も一緒に住んでいいかな?家出中なのよ」

 

家出と言うには、身軽過ぎる。手荷物が無いし…どう見ても彼女は訳有りのようだ。まぁ、俺も訳有りだし、訳有り仲間かな。

 

「かまいませんが…俺、相沢祐介です」

 

「祐介君?私は桜島麻衣よ。よろしくね」

 

「はい。で、ここって、どこですか?」

 

麻衣に連れて行かれた場所は、高そうなホテルだった。あぁ、ここの前は何度も行き来したなぁ。アパートだと思っていたから。

 

フロントで名前を告げると、30代くらいの男性が奥から出て来た。

 

「私は佐田悟です。君のお母様には、大変お世話になったので、恩返しが出来て嬉しいよ」

 

と、俺を俺の部屋へと案内してくれた。部屋の鍵として、カードキーを手渡され、居住区専用のエレベーターに乗り、俺の部屋に着いた。

 

「ここを使ってください」

 

って、ドアを開けると、向こう側は壁で無く、全面窓だった。夜景が綺麗そうだ。お風呂はジャグジー付きでサウナもある。洗濯機スペースには乾燥室もある。至れり尽くせりな部屋である。

 

「こんな広い部屋をいいんですか?」

 

「あぁ、住む人がいないと、部屋が傷むんだよ。だから、気にしないで使ってくれてかまわないよ。あと、ホテル内の支払は、カードキーで出来るから、ドンドン使ってくれて構わないからね」

 

麻衣は部屋を見回し、絶句状態である。

 

 

 

---佐田悟---

 

祐介君を兄夫婦が住むはずだった部屋へと案内した。しかし、彼の女性の引きはスゴいなぁ。同伴していたのは、人気若手女優の桜島麻衣だったし。昨日までの報告には、無かった名前だから、今日知り合ったのだろうな。人望は問題が無いようだ。潔さも良いし、彼の成長が楽しみである。

 

 

 

---相沢祐介---

 

悟さんが退出した後、部屋を一通り見て回ると俺の部屋があった。通信制高校の教材と授業内容が書かれた説明書と、タブレットが置かれていた。

 

「麻衣さん、ここが俺の部屋みたいだから、好きな部屋を使ってください」

 

「う、うん…祐介君って何者?超一流ホテルのロイヤルスィートに住むって…」

 

「俺ですか?通信制高校に通う高校生ですよ」

 

「そうなの?」

 

麻衣さんに、俺に起こった事を話した。

 

「そんな酷い虐めにあったんだ…」

 

「しょうがないですよ、俺は人相が悪い犯罪者顔らしいから」

 

「そんなことは無いわよ」

 

そして、麻衣さんの話を訊いた。はぁい?って感じの話であった。麻衣さんは女優で、今朝ロケを終えて帰ろうとしたら、マネージャーさんの目に映らなくなったそうで、あの場所に放置されたそうだ。目に映らないだけでなく、スマホでの連絡も出来なくなっていたそうだ。

 

「私…透明人間になった気分なの。通行する人達に、声を掛けても、誰も気づかないんだもの。途方に暮れていたそこに、祐介が声を掛けてきて、驚いたのよ」

 

透明人間?どうせなら、服だけ透明になってくれれば良いのに。

 

「だから、手荷物が無かったんですね」

 

「うん…身に着けていた財布と家の鍵しか無いの…」

 

そう言えば、悟さんにも見えていなかった感じだな。麻衣さんのことを訊かれなかったし。

 

「じゃ、麻衣さんの当面の着替えを取りに行きましょうよ」

 

「一緒に来てくれる?一人だと不安で…」

 

「了解です」

 

 

確かに見えていないようだ。通行人が麻衣さんへ突進してくる。その度に、俺が麻衣さんの前に立ち、人の波を避ける防波堤になっていた。

 

電車でも麻衣さんを抱き締め、周囲を警戒する。

 

「祐介…役得だな!」

 

えぇ、役得です。生理現象でムクムクしていますから。

 

「でも…ありがとう…」

 

「いえ、役得でチャラですよ」

 

ドン!

 

「痛い!」

 

麻衣さんに足を踏まれた。セクハラはダメですよね。

 

 

麻衣さんのマンションに無事に着いた。

 

「ちょっと、シャワーを浴びるから…覗くなよ!」

 

「覗きません。妄想はしますけど」

 

「妄想…う~ん、まぁ、しょうが無いか」

 

着替えを持って、シャワールームの更衣室に消えた麻衣さん。そして、シャワーの音…麻衣さんの姿で、遥の妄想をする俺。う~ん、股間がパンパンだよ。

 

ゴン!

 

俺の妄想タイムをブレイクする、脳天から激痛。目の前には星が見える。

 

「覗く素振りくらいしても、いいんじゃないの?こんないい女が、シャワーを浴びているんだから」

 

覗くなって言ったのに、理不尽である。頭を押さえる俺。

 

「もう…しょうが無いなぁ。こんなにパンパンって、どんだけ妄想したのよ」

 

って、全裸の麻衣さんが俺に抱き付き、唇を重ねて来た。遥より唇は固めである。そのまま、麻衣さんのベッドへ連行され…

 

 

麻衣さんの荷物を箱に詰めて、宅配業者に宅配を依頼した。業者さんの目に麻衣さんは見えてないようだったので、俺が応対をした。荷物を持ってだと、麻衣さんを護れないからだ。

 

「じゃ、帰ろう」

 

「うん…」

 

二人で、麻衣さんのマンションから立ち去り、俺の部屋へと戻った。

 

「ねぇ、祐介と同じ部屋でもいいかな?」

 

「構わないけど、俺は寝るのが遅めだよ」

 

「エロ画像でも見て、抜いて寝るのかな?」

 

俺の背中に抱きつく麻衣さん。胸の感触がサイコーです。

 

「違うって。仕事をするんだよ」

 

「仕事って?」

 

俺の本を手渡した。

 

「ソレだよ」

 

「ラノベ?作者はユースケ…へ?祐介君って、ラノベの作者なの?」

 

驚いている麻衣。頷く俺。

 

「まさか、今日の事をネタにするのかな?」

 

グニュ…俺の頬を抓る麻衣さん。

 

「お望みなら…」

 

「ダメ!ダメだから…初めての想い出なんだからね。書いちゃダメよ!大切にしたんだよ」

 

透明人間化記念か?

 

「麻衣さんのお望み通りにしますよ。それに、俺の今書いている本は、ウザい弟物ですから」

 

タブレットに、校正作業を終えて戻って来た原稿データを転送して、麻衣さんに手渡した。

 

「これって…まだ印刷前のデータ?」

 

「今、印刷に回っています。発売は来月の予定です」

 

「サイン本が欲しいなぁ」

 

「いいですよ。差し上げますよ」

 

 

麻衣さんとの生活に慣れた頃、伊月さんから連絡を貰った。

 

『たまにはちっひーの食事はどうかな?霞詩子とアヘ顔先生を呼んでもいいぞ』

 

って。

 

「麻衣はどうする?」

 

「祐介と一緒に行く。一人だと心細いし」

 

最近は、お互いに敬称略で呼び合っている。麻衣の透明人間化は、進行しているようだ。外食に行くと、俺の分の水しか出ない上、一人席を案内されてしまう。なので、テーブル席に案内してくれる、朝のモーニングビュッフェ以外の食事は、ルームサービスにしていた。

 

「問題は、伊月さん達に、見えるかだな」

 

「そうね」

 

予め、状況を伊月さんへ知らせた。

 

『桜島麻衣?あぁ、そんな女優がいたな。透明人間化か…都市伝説の思春期症候群かもな』

 

って、返信を貰った。都市伝説?ネットで調べて見ると、忘れられた存在になると、存在そのものがあやうくなる現象だと言う。俺が麻衣を認識できるのは、麻衣の女優としての存在自体を知らなかったかららしい。俺は麻衣が女優って認識が無く、遥に似ているって印象だった為、忘れる以前に、知らなかったことが幸いしたようだ。

 

「そうなると、五分五分かな?」

 

「那由多さんもたぶん大丈夫だと思う。テレビ見ないし。そもそも、遥として認識させるのも手か?遥は俺の初恋の君で、麻衣に似ているんだよ」

 

「うん?祐介の初恋の君?私に似ているの?」

 

遥の画像データを見せた。

 

「あっ!本当だわ、私に似ているんだ…」

 

一応、遥に事情を話し、偽遥の了承を得た。

 

 

 

---円城寺遥---

 

祐介君が私に似た人と同棲しているという。う~ん…高校卒業するまでは、容認しようかな。傍にいられないしなぁ。

 

そもそも、私はまだ告白をしていない。いや、祐介くんから告白はされたが、まだまだ片思いでいたいからと、返事をした。

 

現状、祐介君は私に片思いをし、私は祐介君に片思いをしているのだ。片思いの気持ちを大切にしたいから。

 

そこへ閃きが舞い降りた。見た目はソックリで、全然の別人の二人と付き合う男の子のお話だ。メモにプロットを書き込んでいく。これは、有りかな。ソックリな二人は、お互いの存在を知らないことにして…この男子が悪者になりそうな。う~ん、モデルが祐介君だけに、ちょっと複雑だなぁ。

 

どうするかな…

 

 

 

---相沢祐介---

 

麻衣と共に、伊月さんの部屋の最寄り駅へと向かった。そこで、ちっひー、詩羽さん、Wピース先生と待ち合わせをしていた。このうちの何人が麻衣を認識できるんだ?麻衣は不安からか、俺の腕を抱き締めていた。

 

「麻衣…大丈夫か?」

 

麻衣が俺の唇に自分の唇を重ね、自分の存在を確認してきた。

 

「行こうか」

 

改札を抜けると、ちっひーと詩羽さんがいた。

 

「Wピース先生は?」

 

「あぁ、先に行くって…」

 

相変わらず、マイペースだな。

 

「初めまして、羽島千尋と申します」

 

ちっひーには、麻衣が見えているようだ。

 

「桜島麻衣です。よろしくね」

 

「え?誰かいるの?」

 

詩羽さんには見えないようだ。彼女の耳元で、事情を囁いた。

 

「え!これが都市伝説の…マジか…」

 

「見えない?」

 

「ごめんなさい。見えないわ」

 

『気にしないでください』

 

「麻衣が、気にしないでくださいって」

 

「気にするわよ。祐介との関係とか…話のネタになりそうだし…」

 

商売熱心だな、詩羽さんは。で、買い物をしながら、伊月さんの部屋へと向かった。

 

「そうだ。詩羽さん。遥にそっくりな麻衣って女性を想像してみてください」

 

「うん?それで見える様になる…えっ、マジかぁ…見えたわ…先程は失礼をしまいした。霞ヶ丘詩羽です」

 

「遥さんそっくりの麻衣です。よろしくお願いします」

 

作戦は成功だった。女優としての桜島麻衣が、見え無いのであれば、俺と同じ認識になれば、見えるはずだと思ったのだ。俺は麻衣を初めて見たとき、遥にそっくりと認識したのだから。

 

「この作戦の欠点は、円城寺遥を知らない者には、通用しないってことだ。まぁ、作家仲間であれば、遥は知っているから、問題は無いと思うけど」

 

「ありがとう…祐介…」

 

「いいって、麻衣。問題は伊月さん、春斗さん、みゃーさんだな」

 

そして、伊月さんの部屋に着いた。結果、桜島麻衣として、三名とも認識できず。伊月さんは、悪化したようだ。で、遥のそっくりさんとしては、伊月さん、みゃーさんは認識出来た。

 

「そうなると、桜島麻衣を調べて、そういう存在だと、認識すると存在を感知出来無くなる訳だな」

 

そういう存在とは…伊月さんが忘れる原因になったことがあった。ネットで『桜島麻衣死亡説』があったと言う。

 

「死んだ存在だから、見えちゃダメって、本能レベルで影響しているようだ」

 

「それって、祐介君が犯罪者みたいな書き込みがあったのと同じかな?」

 

って、ちっひー。

 

「可能性はあるな。実際には祐介は何もしていないのに、高校退学2回っていう、筋金入りの悪ってことになっているしなぁ」

 

って、伊月さんが安楽椅子探偵に見えるような推理だ。

 

「1回貼られたレッテルは剥がれないの?」

 

ちっひーが伊月さんに訊いた。

 

「ネットでの拡散の場合、火消しは無理だ」

 

俺もそう思う。

 

「そんな…祐介君も麻衣さんも、何も悪いことをしていないのに…」

 

「世の中の仕組みってそんなものだ。匿名なのを良いことに、無いことを書いて、相手を窮地に追い詰めて楽しむヤツがいても、取り締まりは難しい。祐介の方は存在が残っているから、反撃は出来るが、麻衣さんの方は存在が無いに等しいから、反撃すら出来ない。訴訟や被害届けの提出もダメだろうな」

 

「救えないのですか?」

 

俺が伊月さんに訊いた。

 

「お前が支えてやれよ、祐介。お前なら、麻衣さんの苦しみがわかるはずだ。お前も、嵌められて、転校と引っ越しを余儀なくしている訳だからな」

 

そうなるのか…麻衣の手を握り絞めた俺。

 

「ありがとう…祐介…」

 

「さて、ちっひーの食事を満喫しようぜ!」

 

って、伊月さんの声で、食事会がスタートした。

 

 



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醤油とソース

11/13 誤字を修正


麻衣は詩羽さん、みゃーさんと楽しそうに会話をしている。仕事優先の為に、友達を作っている暇がなかったそうだ。

 

俺の横にちっひーがいて、何かと俺のボディーをタッチしている。

 

「新居は慣れた?」

 

「まぁ、それなりにね」

 

「今度遊びに行ってもいいかな?」

 

「麻衣がいるけど…」

 

「問題無いよ」

 

嬉しそうな顔で俺を見ているちっひー。伊月さんにはどう見えているのだろうか?弟だから気にならないのか?伊月さんには那由多さんがじゃれている。春斗さんはWピース先生に捕まったようだ。

 

そして、楽しい食事会が終わった。

 

「また来いよ!」

 

って、伊月さんが、俺達を送り出した。大人達だけで、更に飲むそうだ。その為、ちっひーはツマミを作っておいたそうだ。って、Wピース先生と那由多さんがまだ中にいるが…まぁ、問題は無いか…

 

「透明人間だと不便よね?」

 

って、詩羽さん。

 

「そう…不便よ。祐介がいなかったら、生活出来ないわ」

 

って、俺に抱きつく麻衣。

 

「俺は透明人間になりたぁ~い」

 

と、口に出してみた。ちっひーが笑ってみているだけで、他の女性陣は「はいはい」って、流しているし。

 

「どうせ、女湯とかを覗くんでしょ?」

 

って麻衣。う~ん、見たく無い全裸もあるんだが…

 

「私の寝姿でも観賞かな?」

 

って詩羽さん。見付かったら、捕食されそうですが…

 

「そうか、透明人間ではなく、透視できる視力の方がいいのか」

 

思い直した結果を口にしてみた。

 

「往来を全裸の女性が行き交うって?男も全裸に見えると思うけど」

 

って麻衣。それは弊害だなぁ…男の全裸は見たく無い

 

「ボクの裸で良ければ、いつでもいいよ」

 

って笑顔で言うちっひー。大胆な事を…って、そうか、皆ちっひーは男だと思っているのか。

 

「弟物のモデルにか?」

 

「うん」

 

「そうね、弟物のモデルには、なれないわ。経験ないし」

 

って、麻衣が小悪魔チックな笑みで俺を見た。今夜は長そうだ…

 

駅で、詩羽さんとちっひーと別れ、また麻衣をガードしながら帰る俺。

 

 

 

---永見涼花---

 

お兄ちゃんが有り得ない妄想を言い出した。

 

「将来は俺と涼花と舞で暮らすのも悪くないなぁ。3人とも作家だし」

 

正確には、お兄ちゃんは作家では無い。お兄ちゃんの作品はまだ、入賞をしたことが無く、デビュー前であるのだった。

 

「勝手に決めないでください」

 

「だって、俺と涼花は二人で一人だろ?」

 

現状はそうだけど…

 

「私は、あの女は嫌いです」

 

「どうして?優しい処もあるし、可愛い処もあるんだよ」

 

お兄ちゃんは、あの女のピンクトラップに掛かったようだわ。

 

「秘密を漏らしたの?」

 

「舞は身内も同然だ。問題は無いよ」

 

なんてことを…親にバレたら、私は引退決定なんだけど…

 

「で、今度、涼花の書いている姿を舞が見たいって言うんだよ。今週末に頼むよ」

 

あの女のせいで、自信を持ってしまったお兄ちゃん。こんなお兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。私がいないとダメなお兄ちゃんが大好きだったの…あの女のせいで…

 

「今週末はダメ!」

 

「なんか予定があるのか?」

 

「ユースケ先生と逢うの!」

 

「それは却下だ。アイツはダメだ」

 

「お兄ちゃんが決めないでよ!」

 

「妹は兄に従うべきだよ、涼花」

 

「従わない。絶対に従わないからね!」

 

「しょうがないなぁ…」

 

て、て、手錠で私を拘束して、天井から吊したお兄ちゃん。何をするの?

 

「舞、一緒に涼花を調教しようぜ」

 

「いいわね。私の下僕にしてあげるわ。ふふふ」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ~」

 

 

あ!夢だった。なんて悪夢だろうか。あんな女に調教なんかされたくないよ。お兄ちゃんの部屋に行くと、あの女と会話している声が聞こえた。男の長電話は良く無いって。

 

こんな筈じゃ無かった。あの女に、はまったお兄ちゃん。心は、あの女が奪ったのだろうか。自分の部屋に戻り、スマホを弄る。楽しかった夏合宿。ユースケお兄ちゃんは元気だろうか?

 

『お元気ですか?』

 

メールを送信した。

 

『何かあったのか?』

 

直ぐに返信が来た。私のこと、気に掛けてくれていたのかな。

 

『ちょっとねぇ』

 

『まぁ、人生色々だよ』

 

うん、そうだね。

 

『週末に会えますか?』

 

ダメ元で送信してみた。

 

『ちょっと訳有りの友人と同居しているけど、いいかな?』

 

って…訳有りの友人?誰だろう?

 

『作家さんですか?』

 

『本人曰く、女優だけど…』

 

へ?女優さんと同居?どうして?はぁ?出会いに興味を抱いた私。

 

『かまいません。取材していいですか?』

 

『公表しないで、作品の資料扱いならいいよ』

 

週末に逢う約束をした。なんか嬉しいんですけど…

 

 

あれ?引っ越したのかな?以前の駅とは違う駅で待ち合わせをしている。って、この周辺にアパートは無いだろうに…商業ビルが立ち並ぶエリアだよな。はて?

 

「涼花!」

 

ユースケお兄ちゃんの声だ。振り向くと、妙な姿勢である。まるで、透明人間が腕を抱いているように見える。

 

「お兄ちゃん」

 

その腕目がけて走り寄ると、透明人間を護る様に体勢を変えたお兄ちゃん。マジ?透明人間がいるのかな?では、反対の腕に抱きつくと、したいようにさせてくれた。

 

「ソッチの腕に誰かいるの?」

 

「涼花にはそう見えるのか…う~ん」

 

唸っているお兄ちゃん。いるのか…透明人間が…

 

「まぁ、家に帰ったら、事情は話す」

 

訳ありの女優さんって、透明人間なのか…それは訳有りだな…その後も透明人間を人の波から護るように体勢を変えるお兄ちゃん。真面目な話、本当にいるみたいだ。祐介お兄ちゃんは、私を嵌める為に芝居をするほど、器用では無いから。

 

「ここだよ」

 

って…ここって、超高級ホテルじゃないの?ホテル住まい出来る程、売れていないはずだ。いや、相手の女優さんが稼ぎがいいのかな?

 

フロントでカードキーを貰い、居住区へ向かうエレベーターに乗り、上へと向かう。停止した階で下りると、センサーにカードキーをかざしたお兄ちゃん。

 

「ここが俺の部屋だよ」

 

ドアを入ると、目の前には大パノラマが広がっていた。道路側の壁面は全面、開口部の大きな窓だった。

 

「スゴい…」

 

景色に見とれる私。無防備に背中を見せているのに、何もしてこないお兄ちゃん。

 

「今日は泊まっていくか?空いている部屋はあるぞ」

 

って…部屋の中に部屋?周囲を見回すと…ここって、スィートルームだ…部屋の中にはたくさんの扉があった。

 

「こんな高い部屋に住んでいるの?」

 

「家賃は掛からないんだ。母に恩を受けた人が、このホテルのオーナーで、好きなだけ住んでいいって言われたんだよ」

 

お兄ちゃんのお母さんって、すごいんだ…

 

「で、俺の同居人なんだけど…」

 

 

リビングにあるテーブル席に座ると、私の目の前に座ったお兄ちゃん。隣には透明人間が居るみたいだ。

 

「なぁ、涼花。桜島麻衣って知っているか?」

 

「知っています。数年前に、国営放送の朝の連ドラでデビューした若手実力派女優でしたけど、死んだそうですよ」

 

「そうなのか…」

 

バツの悪そうな顔で隣を見たお兄ちゃん。まさか…

 

「お兄ちゃん、知らないの?」

 

「あぁ、知らなかった。俺は女優としての桜島麻衣を知らない」

 

って、まさか…透明人間の正体って…桜島麻衣の幽霊とか?背筋に冷たいモノが走る。

 

「俺の知っているのは、遥にソックリの桜島麻衣だけだよ」

 

遥さん?あぁ、HAL先生か…って、目の前にいるじゃん…えっ!

 

先程まで誰もいなかった席に、遥さん…いや、似ている人が座っている。って…桜島麻衣だぁぁぁぁ~。

 

「涼花にも見えたようだな。これで、麻衣の声も聞こえるはずだよ」

 

「初めまして、桜島麻衣です」

 

恥ずかしそうに、挨拶をしてきた麻衣さん。遥さんと声が違う。

 

「あ…初めまして…お兄ちゃんの妹枠で、お兄ちゃんと一緒にいたい永見涼花です」

 

本物の桜島麻衣だ…生きていたのか…

 

「これで、麻衣を透明人間から助ける方法がわかったよ」

 

「本当に?ねぇ、祐介…」

 

「あぁ、生きているって、分からせればいんだよ。例えば、ライブとか…」

 

「私、女優だよ。ライブなんかしないわよ」

 

「撮影会は?」

 

「水着はNGです!」

 

「トークショウは?」

 

「う~ん、相手は?一人じゃ出来ないわ」

 

「相手か…大物作家はどうだ?」

 

「大物作家?」

 

「俺の父親は、推理小説を書いている相沢貞治だよ」

 

え?!旅情サスペンスとか時刻表トリックの大家じゃないですか。その息子なの?お兄ちゃんって…驚く私。

 

「あの相沢貞治の息子?似ていないのは何故?」

 

って、麻衣さん。

 

「突然変異かな…俺だけソース顔で、後の家族は皆、醤油系のさっぱり顔なんだよな」

 

「そうなんだ…そうね。色々話を訊きたいなぁ。祐介のことをさぁ~」

 

「俺のことはダメだって…」

 

慌てるお兄ちゃん。私も知りたい、お兄ちゃんのことをもっとたくさん…

 

「会場はどうするの?」

 

「う~ん。このホテルで、やるのはどうかな?ディナーショー的な…」

 

「ここ?会場費が高いわよ」

 

「頼んでみるよ」

 

お兄ちゃんは部屋を出て行った。ここのオーナーに直談判する為だ。

 

 

 

---佐田悟---

 

なるほど…桜島麻衣と同棲している理由を、祐介君から聞いた。死んだことにされて、存在が消えかかっているそうだ。俺には見えるが、確かにホテルのスタッフの目には見えていなかった。そういうことか。

 

「それでですね。俺は彼女を助けたいんです。このホテルでトークショー付きのディナーショーって出来ませんか?費用は、俺の印税で…足り無いかな…」

 

器も大きいようだな。世話好きなのもいい。何よりも、困っている者を助けたいと思う心、それは大切にして上げたいな。血族の叔父としてね。

 

「分かった。このホテル主催で行う。言っただろ?君からお金は取れない。それに、ホテルの為にもなる。普通、相沢貞治氏クラスをトークショーになんか、引き摺りだせないからな。そして、トーク相手が死んだ事にされた桜島麻衣だろ。話題性も有り、ホテル的にもありがたい企画だよ」

 

「じゃ…開いて貰えますか?」

 

「君の父上のスケジュールを抑えてくれるか?」

 

「わかりました。ちょっと待っていてください」

 

俺の目の前で、連絡を取り、日程を抑えてくれた。行動力も有り、決断も早いようだ。将来、後を譲れそうだな。あとで、伊集院に報告してやろう。

 

 

 

---相沢祐介---

 

自分の部屋に戻り、イベントが決定したことを麻衣に知らせた。

 

「本当に?祐介…ありがとう…」

 

「何言っているんだ。お礼は透明人間を卒業してからにしろ。それに、俺は麻衣の女優姿を一度見てみたかったし」

 

「本当に知らなかったんですね」

 

涼花が呆れている。

 

「テレビを見るよりも、妄想するのに忙しかったから…ははは」

 

「そのキモい性癖だけは治して下さい」

 

真剣な眼差しで俺を見ている涼花。麻衣は苦笑いしているし。

 

「妹にもキモいとかウザいって、よく言われたよ」

 

「うん?妹がいるの?」

 

麻衣も涼花も驚いている。あれ?言わなかったっけ?

 

「梅って言うんだよ」

 

スマホに入っている梅のお気に入りのショットを、二人に見せた。

 

「「かわいい…」確かに、似ていないねぇ」

 

って、麻衣。

 

「それで、これが性格がドブスの姉の画像だよ」

 

「素敵…でも性格がドブスって…」

 

涼花も見た目は魅了されたようだ。

 

「この姿で、性格が悪いのか?」

 

って麻衣。

 

「最悪な性格だよ。俺を汚物扱いだし。遥は泣かされそうになったし」

 

姉の本性を想い出すだけで、胸くそが悪い。

 

「祐介が女性をそこまで悪く言うのは、珍しいわね」

 

って、麻衣。

 

「姉は別だよ。女性の着ぐるみを着た性悪女だよ」

 

「どっちも女性ですけど…」

 

涼花がツッコミを入れて来た。

 

「まぁ、見て分かる通り、俺だけソース顔なんだよ。う~ん…」

 

俺が醤油顔だったら、人生は変わったのだろうか?

 

「でも祐介が醤油顔になったら、祐介で無くなりそうよ」

 

「そうですよ。今のお兄ちゃんでも、大好きです」

 

って、ソース顔にも復権の時が来たのか?

 

 

 

 



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OとAB

11/17 誤字を修正


俺と麻衣の前に、伊集院という弁護士さんが座っている。母さんの顧問弁護士だという彼が、麻衣と新しい芸能事務所との契約書を作ってくれているのだ。

 

麻衣のいた事務所に確認してくれた結果、桜島麻衣という者は所属していないそうだ。これには麻衣はショックを受けていた。人の視覚に反応せず、人の記憶から消えただけでなく、所属契約書など紙媒体からも消えていたことにだ。

 

「じゃ、これで契約は成立です。で、早速ですが、仕事が来ています。CM撮影だそうですよ」

 

伊集院さんが麻衣に企画書を手渡した。

 

「ディナーショーに向けての、復帰アピールをしてみてはどうですか?」

 

「そうですね…えぇ、このCMに出演させてください」

 

伊集院さんに頭を下げる麻衣。俺もつられて頭を下げた。

 

「わかりました。悟氏には伝えておきますよ」

 

伊集院さんは書類を大切にいまい、部屋を出て行った。麻衣の新しい事務所は、佐田グループだそうで、CMスポンサーも佐田グループ内の企業だと言う。悟さんって、大ききなグループのトップだと教えて貰った。

 

「祐介…ありがとう」

 

麻衣に抱きつかれた。

 

「俺は何もしていないよ」

 

「うん?何を言っているの?祐介と出会わなかったら、途方に暮れて…今こうして生きているのは、祐介のおかげだよ」

 

翌日から麻衣はCM撮影の為、1週間くらいロケに行くそうだ。嬉しそうにスーツケースを持って、部屋を出て行った。

 

 

 

---相沢桜---

 

スランプである。祐介が出て行って以来、本の出版枠が確保出来ていない。

 

「引退してもいいわよ。才能のある若い子は、いっぱいいるんだからね」

 

って、私を敵視している母。祐介を追い出した原因を、私だと断定しているようだ。そして、秋が終わる頃、祐介の新作が出版された。『ウザミンと兄』って、タイトルであった。宇佐美という妹が、兄の「弟が欲しかった」とのぼやきを聞き、弟として兄に接する歪んだ愛の騒動記のようだ。

 

祐介も弟が欲しかったのだろうか?いや、私が弟になればいいのか?って、読み進めていくと…この宇佐美って、モデルは私かな?はぁ?ウザいと思っているの?なんで?

 

こんなにも弟想いの姉を捕まえて、ウザいって言うの?ねぇ、祐介…

 

 

 

---相沢梅---

 

ついに発売した兄の新作。それを読んだのか、姉の情緒は更に不安定になっている。う~ん、困ったなぁ。

 

「梅、ちょっと、顔を貸して」

 

って、姉。どんな難癖をつけるんだ?

 

「何かな?」

 

「イラストって、梅よね?」

 

あぁ、言いたいことはわかった。何故、生原稿を横流ししないのかであろう。

 

「あのさぁ~、それよりも、連帯責任の責任を取ってよ、姉さん」

 

印税半年分搾取は痛い。おこずかいも3が月カットである。

 

「そんなことは知らない。それよりも、なんで、生原稿を一人占めしているの?」

 

姉には反省という文字が、辞書に無いようだ。

 

「流せる訳無いでしょ?次やったら、引退なんだからね」

 

たぶん母は、商いのルールを守れない私に見切りを付けて、エロマンガ先生に依頼するかもしれない。

 

「引退?梅、ビビっているの?」

 

いや、その自信は、どこから来るのだろうか?ビビらない理由が、わからない。

 

「祐介はどこに住んでいるの?教えなさいよ!」

 

「知らないわよ。知っていたら、週末部屋にいないよ」

 

何を言い出すかと思ったら…逆に訊きたいくらいなのに…

 

「何、姉妹ケンカしているの?」

 

姉との騒ぎをに気づき、母がやってきた。

 

「姉さんが、生原稿を寄こせって…」

 

母の背中に隠れる私。

 

「桜…懲りていないのね」

 

「梅だけって、ズルいわよ」

 

「わかったわ。梅を桜専任にするわ。それで、満足かな、桜。あぁ、アナタの新作は有害図書の部門に回してあるわ」

 

え…私、姉さんの専任…それもラノベ界から追放?なんで…

 

「え?!梅…どうしたの?」

 

遠くで母さんの声が聞こえている。

 

 

 

---相沢祐介----

 

母さんから連絡が来た。梅が入院したので、見舞いに行く様にと。あのウザ姉に虐められて、精神的にまいったらしい。母から聞いた病院へ向かった。

 

「梅、調子はどうだ?」

 

「お兄ちゃん…来てくれたんだ…」

 

ベッドから起きて、俺に抱きつく梅。俺のこと、大嫌いで無いのか?

 

「来てくれて、嬉しいよ」

 

自分の頬を俺の頬にスリスリしている。俺は汚物で無いのか?

 

「ねぇ、お兄ちゃんと一緒に住みたい。姉さんとは、もう無理だよ」

 

ついに魔の手は、梅にも及んだのか?が、

 

「今は無理だ。新しいイベントのことで、頭がいっぱいんだよ。悪いが、梅のことを考えられない」

 

今は、麻衣のことで手一杯である。

 

「お兄ちゃん…彼女が出来たの?」

 

「彼女ではないと思う…俺のような者と一緒にいてはダメなんだろうな」

 

芸能人である。もっと光の届く場所にいるべきだ。

 

「ねぇ、私じゃダメ?」

 

「何がだ?」

 

「私を彼女にして…」

 

姉だけでなく、妹からも告白って…何の虐めだ?

 

「それは無いな。血の繋がった姉妹を彼女にはしない」

 

「えっ?繋がっていないよ。私とお兄ちゃんは…」

 

はぁ?梅って、貰いっ子だっけ?あれ?梅を見ると、口を手で塞いでいる。って、ことは、俺が貰いっ子なのか。だから、俺は汚物なソースなのか…

 

「お兄ちゃん、ダメだよ。変な気を起こさないで…」

 

背後から梅の泣き声が聞こえた。俺は病室を後にした。

 

 

梅のいる病室を出て、自分の部屋に戻らず、父親が缶詰になっている宿へ向かった。

 

「どうしたんだ、祐介…」

 

俺を見て固まる父親。俺の顔は歪んだいるのだろうか?俺の顔は醜くなっているのだろうか?ああ、醜いソース顔の息子では無く、表情が顔に出ないスライムに転生したい…

 

「なぁ、俺は誰の子だ?」

 

「何のことだ?」

 

「梅に言われた。俺は血が繋がっていないって。冷静に考えて見ると、確かにOとABとではOの子供は産まれ無い。俺の母親は誰なんだ?」

 

「梅が伝えたのか…なんてことを…」

 

父親は悲しそうな眼差しで、俺を見つめていた。

 

「わかった。話すよ。お前の両親はもう亡くなっている。だから、俺と母さんで引き取ったんだよ」

 

両親はもういないのか…

 

「俺の両親はどんな人だったんだ?」

 

「知らないんだよ。お前を託して、亡くなってしまったから」

 

そんな…俺は父親の元を飛び出して、伊集院さんへ連絡をした。弁護士なら、何か知っているはずだ。

 

 

 

---真理亜伊集院---

 

祐介君が連絡をくれたので、彼を迎えに行き、俺のマンションへ連れて来た。義理の妹に、真実を知らされたようだ。まったく、相沢家の娘達はロクでも無いな。

 

「ねえ、伊集院さんは、俺が誰だか知っているの?」

 

「知っているよ」

 

マズいなぁ。今にも彼は壊れそうである。何かにしがみつき、耐えているようだ。たぶん、彼女にだろう…。

 

「俺は何者ですか?」

 

「あなたは私の子供よ…祐介」

 

奥の部屋から、相沢エリナが現れた。

 

「だって、ABからは、どうやってもOは産まれ無いよ…」

 

祐介君の表情が崩れていく。

 

「想い出したの…あなたに初乳を与えたのは私よ。産後、初乳を2回与えて、おやって思ったことを想い出したのよ」

 

初乳を…それが意味すること…姉が祐介君を産んだ時にはもう…そして、本当の祐介君は初乳を飲んだ直後に、呼吸が出来なくなり…産まれた後、僅かな時間しか出ない初乳。俺の中でストーリーが見えて来た。

 

「祐介は私が抱き上げたの!」

 

エリナが祐介君を優しく受けとめた。感情のブレーキが壊れたのか、祐介君は育ての母の胸で啜り泣いている。

 

 

 

----相沢祐介---

 

久しぶりに泣いて、すっきりした俺。

 

「鼻水を私の服で拭くことは無いでしょ?」

 

久しぶりに母の冷たい視線を感じる。冷たいのに、何故か暖かく心地良い。

 

「では、タネ明かしをしましょうか」

 

俺が落ち着きを取り戻したので、伊集院さん、悟さんの正体を聞いた。驚く、俺と母。俺の実の母の弟である伊集院さん、実の父の弟である悟さん…俺は、2つの財閥両方の次期後継者だと言われた。スケールが大きすぎて、ピンと来ないのだけど…

 

「祐介君が結婚をしたらの話だよ。だから、まだまだ俺達が当主に君臨する。だけど、祐介君が本当に困った時に、頼ってくれれば、協力はする。今回の麻衣さんの件のようにね」

 

確かに助かった。あのコネが無ければ、麻衣はダメだったろう。

 

「じゃ、俺は結婚するまで、母さんの子供で良いの?」

 

「戸籍の問題だけだよ。結婚しても、祐介君の母親は彼女だけだ。安心したまえ」

 

それは安心した。

 

「後継者になったら、もう小説は書けないの?」

 

「書けるよ。俺も悟も好きなように生きているし。ただ、配下の者や家臣の者達の信頼と信用は必要だ。その為の教育は受けて貰うよ」

 

通信教育だけで手一杯なんだけど…

 

「それは転入試験より難しいのかな?」

 

「人それぞれだよ。まぁ、祐介君の場合は、社交界でのルール、しきたり、立ち振る舞いは習わないとダメかな」

 

「それはシャルウィダンスも習うのかな?」

 

「祐介!それを言うなら社交ダンスよ」

 

って、母が教えてくれた。

 

「まぁ、知っていて損は無い。それは麻衣さんに習えば良い」

 

あぁ、麻衣なら知っているのか…

 

「後、祐介君の住んでいる部屋だけど、あそこは、姉夫婦が駆け落ちしようとした部屋だ。あの部屋へ移動している最中に、事故に遭ったんだよ」

 

そうなんだ。

 

「俺は姉さん達が、無事にあの部屋へ行けるように手配をした。悟は姉さん夫婦を匿う予定だったんだけど…ホテルの目の前で…後一歩ってところで…交通事故に遭ったんだよ」

 

匿って貰うことが分かっていた為、身分を証明出来る物を所持していなかったそうだ。そして、俺の存在を確認した伊集院さんと悟さんは、俺の実の両親を引き取りに行けなかったそうだ。行けば、俺の存在が、俺を消したい人達にバレる可能性があったからだそうだ。

 

「エリナさんが病院へ事情を訊きに行ったので、そろそろ接触しても大丈夫かなって、思って接触したのさ」

 

もう代替わりをして、俺への危険がないと判断したそうだ。俺の知らないところで、俺は護られていたらしい。

 

 

3日後、麻衣が帰って来た。

 

「元気だった?」

 

「死ぬ程寂しかったよ」

 

「死んだら骨を拾っておくから、安心して」

 

笑顔で俺を見る麻衣。

 

「わかった、安心して、今度からは待っているよ」

 

「うん」

 

麻衣と共にベッドルームへと入っていく。

 

 

 

---相沢桜---

 

梅がポカをした。祐介に血が繋がっていないことを告げたそうだ。

 

「お前…なんてことをしたの?」

 

「だって…」

 

「まぁ、祐介は本当のことを知る良い機会だったかもね」

 

梅の言い訳を遮るように、母が私達を睨んでいた。

 

「祐介はあなた達とは他人だから、今後は近寄らないようにね」

 

って…なんで…そうなるの…

 

「私は祐介が認知してくれたから母親のまま、うちの人も父親のままだけどね」

 

なんか、ズルい…

 

「私は祐介の姉です」

 

毅然と宣言した私。

 

「はぁ?告白したバカな姉でしょ?祐介に聞いたわよ。桜、お前は祐介をレイプしたそうね」

 

それは…黒歴史です。

 

「お姉ちゃん…そんなことしたの…じゃ、兄さんが出て行ったのは?」

 

「そこのバカな姉に、毎日のように襲われたから…」

 

母の目は怒りに満ちていた。

 

「だって、付き合っているんだよ。それくらい当たり前でしょ?」

 

開き直った私。

 

「桜…妄想は小説内でやってね。私は言ったわよね?家庭内犯罪は禁止だと」

 

言われたかな?覚えが無い。

 

「他人に、それは…犯罪だよね」

 

って、梅。共闘関係では無かったのか?

 

「後、祐介は彼女がいるから、ジャマしないように」

 

はぁ?彼女?円城寺遥か?

 

「私の言いつけを護れないのであれば、臭い飯を食って貰うからね」

 

有り得ない。実の娘を警察に突き出すのか?私達姉妹を一瞥すると、母は颯爽と、この場から去った。

 

 

 

---白川京---

 

伊月達の影響で、出版社の編集部でバイトをしている。

 

「そろそろ、担当作家付きでもしてもらおうかな?」

 

って、上司の相沢さんに言われた。相沢エリナ…敏腕編集者である。現在の旦那さんである相沢貞治を発掘した後、様々なクリエーター達を発掘している。目と鼻が利く鬼の編集者である。

 

「え?私はバイトですよ」

 

「大学を卒業したら、就職しなさい。即、正社員にするから、いいわね」

 

私の進路を決めつけているし…これって、パワハラでは無いのか?

 

「この仕事が嫌なら、とうの昔に辞めているでしょ?」

 

う~ん、それはそうだけど。嫌いな仕事では無いし。

 

「さぁ、行くわよ」

 

早速、作家さんに紹介するようだ。

 

 

その作家さんは、ホテル住まいのようだ。それも超一流の佐田グランドホテルに…どんだけ稼いでいる大作家さんの担当にするのだろうか?私で務まるのか?

 

フロントで相手の所在を確認して、居住区階層への直通エレベーターに乗り込んだ。グングンと上昇していくエレベーター。着いたのは最上階の1つ下のフロアだった。エレベーターの真ん前に、部屋への扉がある。相沢さんがインターフォンを押すと、扉が開き、出迎えに出てきた人物の顔を見て、固まった私。

 

「あれ?なんで、みゃーさんが、母さんと一緒にいるの?」

 

はぁ?!相沢さんって、祐介君の母親なの…色々と驚く事が一気に、私に襲い掛かって来た。

 

 

 



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SS:密談

4話目辺りの話です。


 

---羽島伊月---

 

編集部で担当編集との打ち合わせが終わった後、鬼編集と呼ばれる敏腕な編集者に、何故か声を掛けられた。

 

「伊月先生、少しよろしいですか?」

 

見た目、日本人離れした顔立ち、スタイルで良い女とは思うが…無表情なのが問題である。目付きはきつめであるし。もったい無いなぁ。

 

「えぇ…」

 

あれ?何かやらかしたかな?

 

「ユースケ先生と知り合いでしたよね」

 

「あぁ、俺の弟分です。あいつ、何かをやらかしましたか?」

 

「えぇ、脱稿スピードが落ちているんです。理由は、家から遠い学校へ転校したからです」

 

「それの話は知っています。俺の弟と同じクラスに転校したようですよ」

 

「そうですか…それなら、話が早いです。伊月先生はご自宅に部屋をお持ちでしたよね?」

 

あっ!話が見えて来た。

 

「俺の部屋に、祐介を下宿させれば良いんですね」

 

「そういうことです。頼めますか?」

 

「勿論です。では貸し1ってことで」

 

鬼編集に貸しを作れれば、今後役立てるかもしれない。

 

「貸し?何の話ですか?先日、納期を堕としましたよね。お礼として、その件を不問にします。いかがですか?」

 

それは、断れば、問題にするってことか?断れない…担当編集すら頭が上がらない鬼編集だし。

 

「わかりました。仰せの通りに…」

 

「後、ユースケ先生には、伊月先生の善意で、ってことにしてください」

 

表には出ないんですね。

 

「了解です」

 

話が終わると、颯爽と立ち去る鬼編集…恐ぇ~な…冷血な仮面か、あれは…

 

 

家に帰り、ちっひーに連絡をした。

 

「祐介のことで、頼みがあるんだが」

 

『祐介君のこと?何かな?』

 

「俺のいた部屋に祐介を下宿させてくれないか?あいつ、脱稿速度が落ちて、編集部で問題になっているんだよ」

 

『え?!そんなことになっているんだ。学校でも遅刻と欠席が増えてきているんだよ。祐介君に訊いたら、通学疲れだって』

 

「それはまずいなぁ。悪いけど、オヤジとお前の母親に頼んでくれるか?」

 

『うん。わかった』

 

これで大丈夫か。って、部屋にマズい物を置き去りにしていないか、少し心配だが…

 

 

 

---羽島千尋---

 

両親に祐介君の窮状を伝えた。そして、兄さんからの提案も伝えてみた。両親は祐介君を知っていたので、話は早かった。腰を抜かしたボクを、家までおぶって送ってくれたからだ。ボクのことを大切にして思ってくれていることを理解してくれて、すんなりと了承を得た。そのことを兄さんへ伝えた。

 

 

 

---相沢エリナ---

 

伊月先生の担当者から、祐介の受け入れの件が了承されたことを聞き、早速、伊月先生の口から、祐介に伝えて貰った。その夜、祐介から下宿先の当てがあると聞き、翌日、羽島家へご挨拶に伺い、祐介のことをお願いしてきた。

 

って、伊月先生の弟?あれって、妹では無いのか?祐介に、下宿先が見付かった事を伝えた時に、その件を訊いた。はぁ?伊月先生から身を護る為に、伊月先生に性別を偽っているって…で、そのことに気づかないの、伊月先生は?

 

弟だと信じて、疑わない彼の目には、あんなにかわいい女子が男に見えているのか…

 

 



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伊月の襲撃

11/24 辻褄の合わない箇所を修正


---白川京---

 

部屋に入ると、目の前には大パノラマが広がっていた。窓の開口部が広い…室内を見回すと、スィートルームのようだ…どうして…そんなに稼ぎは無いはずだ。

 

「なんで、みゃーさんが?」

 

祐介君は、私の訪問に驚いているようだ。いや、私だって、驚いている。なんで、こんな場所に住んでいるんだ?

 

「今後、彼女に担当になってもらうわ」

 

「なんで?俺を見捨てるの?」

 

悲しそうな顔の祐介君。何か、家庭の事情が有るのか?

 

「見捨てる訳ないでしょ?私の息子なんだよ、祐介は!ただね、娘達が…あれはダメだ…」

 

祐介君の姉妹に問題があったようだ。

 

「梅が、また入院をしてね。桜は暴走しまくりだし。まぁ、梅が退院したら、またお前の担当に戻るから」

 

誰かが入院したのか。

 

「姉ちゃんにいびられたの?」

 

「まぁ、結果的にね」

 

あぁ、そうだ。祐介君のお姉さんって、鬼だったわね。

 

「ただいま」

 

誰かが入って来た。振り返ると、最近CMで話題になった若手女優の桜島麻衣がいた。

 

「あぁ、お帰り」

 

って?

 

「麻衣さん、祐介は迷惑を掛けていない?」

 

「いないですよ。むしろ、愛情を注ぎ損ねて、不足気味かな?」

 

うん?まさか、祐介君の彼女って…

 

「あぁ、麻衣さんにも紹介するわね。祐介の担当編集をしてもらう、白川京さんよ」

 

「そうなんだ。この前は、ありがとうございました」

 

私に頭を下げた麻衣さん。この前?

 

「白川京です。よろしくお願いします」

 

と、自己紹介をした私。この前?以前に会ったことがあったっけ?

 

「じゃ、後はよろしくね、白川さん!」

 

って、相沢さんが帰って行った。

 

「祐介君…どういうこと?」

 

「どういうことって?あぁ、母さんの事?ここのこと?麻衣のことかな?」

 

「全部です」

 

「ねぇ、まさか、麻衣とは初対面?」

 

怪訝そうな祐介君。頷く私。全然記憶に無いんだけど…

 

「つまりは…そういうことか」

 

何かに納得している祐介君。何がどうしたんだ?

 

「それよりも、お二人は付き合っているんですか?」

 

一番気になることを質問した。

 

「いや、同棲しているだけだよ」

 

って、祐介君。

 

「私は付き合っているつもりだけど」

 

祐介君を暖かい目で見つめている麻衣さん。どうやら、付き合っているようだ。

 

「みゃーさんは住み込み?」

 

え?ここに住み込むのは、ちょっと…

 

「通います!って、なんで、こんな高い部屋に住んでいるの?」

 

「麻衣の稼ぎがいいから」

 

ペシ!

 

麻衣さんに頭を叩かれた祐介君。

 

「そんなに稼いでいない。祐介に食べさせてもらっているのは、わ、た、し」

 

関係性がよく分からない。

 

「足長叔父さんがいてね。この部屋を貸してくれたんだよ」

 

それは祐介君に、パトロンなりタニマチが付いたってことか?って、彼女がいるのに?はて?

 

ピンポーン

 

呼び鈴がなった。祐介君が応対に行くと、和服姿の少女と、洋服姿の少女が入って来た。

 

「下で会ってなぁ」

 

「そうか、花ちゃん、涼花、お帰り」

 

「ただいま、お兄ちゃん」

 

「兄さん、ただいま」

 

あれ?妹?二人とも?

 

「うん?あぁ、みゃ-さん、この二人は小説家ですよ。俺の同業者です」

 

「何故、兄呼びされているの?」

 

「義理の兄物を書く為だったな、涼花」

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「私は、兄が欲しかったんだよ」

 

って、和服の少女。

 

「彼女は担当編集の白川京さんで、和装が千寿ムラマサ先生で、涼花は…名前を出せない作家です」

 

大物…彼女が累計1000万部超えの大作家なのか…で、もう一人は名前を出せないが、大物なんだろうな。

 

「あっ!麻衣さんだぁ~」

 

涼花という少女が麻衣さんに抱きついた。

 

「涼花は甘えん坊ねぇ」

 

「お姉さんも欲しかったんです」

 

なんか、カオス臭がしているような。

 

ピンポーン

 

また、誰かが来た。入って来たのは…え?どうして…桜島麻衣がもう一人いた。

 

「祐介君、あの人が新しい担当編集さん?」

 

「遥も?」

 

「うん。祐介君の部屋に新しい担当編集がいるって、祐介君のお母さんから連絡をもらったの」

 

私に近づいて来た、もう一人の桜島麻衣。この子も作家さんなのか…双子かな?

 

「初めまして、HALです」

 

え!この子が、片思い恋愛系のHAL先生なのか…

 

「みゃーさん、遥と麻衣は双子で無いですよ。他人の空似です」

 

「はぁ~い」

 

HAL先生のノリは軽そうである。

 

「もしかして、HAL先生の片思いの君って、祐介君?」

 

「そうですよ。私とソックリの麻衣さんと一緒に住んでいるって、目が有りそうでしょ?」

 

麻衣さんは苦笑いしているし。HAL先生の発想は凄い。いや、前向き過ぎるような。

 

「みゃーからも言ってよ。遥の考え方がおかしいんだよ。俺の片思いの君も遥なのに、このまま片思いでいいって、遥が言うんだよ。おかしいだろ?」

 

麻衣さんが苦笑いしている意味が分かった気がする。HAL先生と祐介君はお互いへ片思いしている関係のようだ。つまり、それは両思いであるが、何故かHAL先生は片思いのままでいいって言っているようだ。

 

「片思いの気持ちを大切にしたいんです。両思いの気持ちは麻衣さんが大切にしてくれますし」

 

発想がおかしい。だから、あんなラノベが書けるのかもしれない。

 

「麻衣さんは、いいの?」

 

「いいも、悪いも、私は祐介がいないと生活出来ないし」

 

麻衣さんは祐介君へ依存しているようだ。

 

「いえ、負けません。いつかはきっと…」

 

って、涼花ちゃん。

 

「兄さん、いつでも待っているよ」

 

って、ムラマサ先生。祐介君って、モテるようだ。それは意外だな。

 

 

舞台は変わって、伊月の部屋。

 

「はぁ?祐介がホテル住まいだって?」

 

伊月も春斗先生も那由多も驚いていた。あっ、ちっひーもだ。

 

「ホテルに住むほど、稼いで無いだろ?」

 

「100万部売れた位では無理だな。アニメ化はされていないし」

 

「うん?アニメ化されるよ」

 

って、那由多。

 

「カニ子、マジ?」

 

伊月が訊いた。

 

「アヘ顔Wピース先生の絵で、深夜5分枠で放送だって」

 

そうなんだ。

 

「いや、アニメ化程度では住めないって。どんな部屋だ?」

 

「うん?佐田グランドホテルの最高級スィートに、彼女と住んでいたよ」

 

「えっ!」

 

ちっひーが驚いている。まぁ、彼は、このメンツの常識では、モテないの代名詞だったからだな。

 

「彼女って…アイツ、いたのか?」

 

「うん…名前は出せないけど…」

 

「出せない。俺達の知り合いか?」

 

しまった。伊月と春斗先生が推理合戦を始めた。まさか、話題の若手女優とは言えない…

 

「よし!これから襲撃に行くか!」

 

「「え!」」

 

アルコールが入り、盛り上がっている二人以外、驚きの声を上げた。これから?非常識だろ?時間を考えてろよ!って、既に伊月と春斗先生が出かける準備をしている。

 

「ほら、ちっひーも準備しろ」

 

「え…兄さん…」

 

「お前も気になるんだろ?」

 

頷くちっひー。なんか、意外だ。ちっひーが喰い付くなんて…って、私と那由多を置いて出て行った男達…

 

 

 

---羽島千尋---

 

彼女出来たんだ…ウチから出た後に…なんかショックである。ボクはどうしたら、いいんだろうか。

 

「ちっひー、俺がガツンと言ってやるよ」

 

って、兄さん。でも…

 

「かわいいちっひーの願いくらい、叶えて上げたいからな」

 

ボクの願い…兄さんと一緒にいたい。祐介君とも一緒にいたい。祐介君ともっと触れ合いたい…

 

なんで、兄さんが知っているんだ?兄さんの顔を見上げた。そんなボクにサムアップして応える兄さん。ボクは何かミスをしたのだろうか?

 

 

そうこうしている間に、目的のホテルの前に着いた。兄さんがスマホで誰かへ連絡をした。

 

『おぉ!祐介!出世したなぁ。今、ホテルの入口にいる。迎えに来い!』

 

『えっ!みゃーさんが、話したの?おいおい…』

 

って、祐介君の声が漏れて聞こえてきた。

 

しばらく待つと、ホテルから祐介君が出て来た。

 

「マジですか…春斗さんとちっひーも…はぁ~」

 

溜息を吐いている祐介君。

 

「ほら、お前の部屋を見せろよ!」

 

「酒は無いですよ。今、執筆タイムですから」

 

仕事していたんだ。

 

「固いこと言うなよ!俺とお前の仲だろ?」

 

「もぉ~、伊月さんって…」

 

って、私の手を握ってホテルへと向かう祐介君。彼女がいるのに??

 

 

祐介君の彼女の正体。ボク達は会っていた。それも兄さんの部屋で…

 

「あぁ、そうか、桜島麻衣かぁ…そういや、一緒に住んでいたよな。そうか、みゃーは遥にソックリの麻衣って認識だったから、女優の桜島麻衣は初対面に思ったんだろう」

 

って、兄さんの弾き出した答え。焼き餅を焼いて損した気分だ。麻衣さんと遥さんなら、問題は無い。彼女達と祐介君の関係を知っているから。

 

「それよりも、この部屋はなんだ?ロイヤルスィートじゃ無いか…」

 

確かに、スゴい。部屋の中に部屋がたくさんあるし、湯船にはジャグジーがあり、お風呂場にはサウナまである。

 

「麻衣には必要だから」

 

確かに女優さんには必要かもしれないが…

 

「家賃は幾らだ?」

 

「タダだって」

 

「うん?そうか、訳有りなんだな」

 

兄さんは、何かに気づいたようだ。何にだ?

 

「お前の部屋はどこだ?」

 

祐介君と兄さんが、祐介君の部屋へと入った。

 

 

 

---羽島伊月---

 

家賃を聞いた時、一瞬祐介の表情が崩れそうになった。

 

「どういう訳なんだ?」

 

祐介が理由を訊かせてくれ、俺に泣き付いてきた。

 

「俺の両親って、どんな人だったんだろう…ねぇ、伊月さん」

 

そんなドラマが遭ったのか…それは、つらいよな。コイツだけが背負うには、重すぎる問題だ。

 

「辛いことってあるのか?」

 

「麻衣が撮影で、暫くいないと…」

 

一人、こんな大きな部屋は、孤独感が加速しそうだな。コイツの辛さは、麻衣が受けとめているのだろう。麻衣の辛い時に、コイツが受けとめたように。

 

「寂しくなったら、連絡をしろ。ちっひーに行かせるから」

 

「どうして、ちっひー…って、伊月さん…まさか…」

 

「俺の臭覚を舐めるなよ。妹の臭いをかぎ取れないと思ったか?」

 

「まさか、生理臭いで判断?」

 

疑いの目を向ける祐介。頷く俺…って、言うか、祐介もか?

 

「ちっひーには、言ったの?」

 

「言える訳無いだろ?必死に弟を演じてくれているんだぞ!」

 

「それはそうだけど…ちっひーは伊月さんが大好きなんだよ」

 

「うん?お前で無いのか?」

 

俺は一番大事なポイントを勘違いしていたのか?

 

「伊月さんだよ。俺は身代わりみたいなものだよ。伊月さんの部屋にいるだけで、モゾモゾしていたもの。後、俺のいない間に、伊月のベッドの上で寝ていたし」

 

「なんだって…おいおい…」

 

ミイラ取りがミイラになり、俺は祐介に口撃を受けていた。

 

「ちっひーには幸せになって欲しい。だから、伊月さん、分かるよね」

 

言いたいことは、分かる。俺がお前に言おうとしていたんだからな。

 

 

 

---羽島千尋---

 

兄さんと祐介君が戻ってきた。どこか、兄さんは凹んでいた。何が遭ったんだ?

 

「あれ?不破先生、どうしましたか?」

 

祐介君が春斗さんに声を掛けた。

 

「まさか、あのムラマサ大先生が、中学生の少女だったとは…」

 

あぁ、衝撃を受けていましたよね。それも手書きで原稿を書いているし。一方、涼花さんは、PCで撃ち込んでいた。ちらっと画面を見てしまったんだけど、まさか、永遠野先生の正体って…まさかなぁ…高校生の男子だって、聞いたことがあるし。

 

「じゃ、帰るわ。ちっひーは置いて行く」

 

え?兄さんと春斗さんが部屋を出て行ってしまった。

 

「なんで、置いていくのかな…」

 

って、祐介君が、背中から抱きついてきた。うっ!これだけの行為で…私の身体はメスになっている。だけど、みんなの目があるから、大胆には行動出来ない。

 

「お兄ちゃん、これ、どうかな?」

 

涼花ちゃんに呼ばれて、彼女の方へ行く祐介君。

 

「う~ん、何故、義理の兄物になっているんだ?」

 

「お兄ちゃんをモデルにしました」

 

「俺を?問題有るだろ?」

 

あんなに自然に甘えられるって、羨ましい。人前でも気にせずに、祐介君に抱きついたり、胸を触れさせたり、涼花ちゃんが羨ましい。

 

「涼花ちゃん、くっつきすぎです!」

 

って、遥さん。中学生に対抗心ってスゴい。あんなに素直に焼き餅も焼けない。ボクは男の子として育てられ、祐介君と二人っきりでないと、女の子になれないから。

 

「遥さんは、片思いラブですよね?」

 

「そうだけど、何かな?」

 

「二人共、仲良くしてくださいね」

 

って、祐介君は板挟み状態だし。

 

「自然体が一番だよ」

 

って、麻衣さんが、私に囁いた。

 

 

 

 



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伊月の苦悩

---羽島伊月---

 

う~ん…ちっひーのことばかり考えている俺。祐介に聞くまで知らなかった、ちっひーの気持ち。いや、祐介のことも好きなはずだ。両親から、祐介とちっひーのことを暖かく見守ってくれ、って言われたしなぁ。

 

ちっひーが妹だと気づいたのは、那由多ことカニ子が、俺に纏わり付き始めてからだ。たまに、嗅いでいた臭いの正体を知ってからだと思う。それは、女の子の日特有の香りだった。

 

俺の部屋には来る女性は、みゃーとカニ子しかいない。その二人のいない時に、感じた臭い…俺と春斗とちっひーしかいなかった、俺の部屋。つまりはそういうことなんだろうと、行き着いた。

 

ちっひーを弟だと紹介した両親。俺の妹に対する妄想がヒートアップしていた頃だ。それは、ちっひーを護る為の方便だったのだろう。俺は妄想と現実の区別は出来ていたと思いたいが、それは自己評価で有り、他人の目から見た評価は違っていたのだろう。

 

問題は、今更、ちっひーを妹として扱えないことだ。俺が知ったと知れば、ちっひーはここには来なくなるだろう。それはそれで困る事態である。俺だけの問題では無い。俺も、春斗も、カニ子も、いや、みゃーだって、ちっひーの料理が必要なのだ。

 

祐介は、人間関係に敏感だからな。アイツの姉妹はクズに近い。祐介を汚物扱い?有り得ないだろ?だけど、祐介のドロップアウト発言。どこの馬の骨か分からない兄弟は、純血な姉妹にとって、汚物だったのかもしれない。真実は推測よりも惨いのかもしれない。

 

そんな祐介に寄り添いたい妹の千尋。応援したくなるのは、兄としてのサガだろうか?だけど、祐介は俺の代わりって…それはそれで複雑である。俺の弟であるちっひーに、真実かどうかなんて訊けないし。どうするかな?

 

「伊月、クリスマスイブって、暇だよね?」

 

って、みゃー。

 

「なんでだ?」

 

「祐介君に、ディナーショウのペアチケットを貰ったの。一緒に行かない?」

 

「興味無いなぁ。いや、食事は興味ある」

 

ディナーか…ご馳走に違い無い。祐介が変な券をくれるとは思えないし。

 

「誰のディナーショウなんだ?」

 

「桜島麻衣っていう最近話題の若手女優と、推理小説家の相沢貞治氏のトークショウよ」

 

はぁ?祐介の彼女と、祐介のオヤジのトークショウだと…みゃーはそのことに、気づいていないようだ。

 

「それは興味あるな。カニ子と行くかな」

 

「なんでよ~。私と行きなさいよ。私が貰ったんだから」

 

それはそうだな。

 

 

 

---相沢祐介---

 

デート中である。涼花の学校が文化祭を開催しているそうで、二人で見学中である。胸の谷間に挟んで、俺の腕を抱き締めている涼花。みんなの視線を集めて、嬉しそうだ。本当に隣は俺でいいのか?

 

「生徒会長の彼氏ですか?」

 

「うん、男は見た目では無いんですよ」

 

「さすがは会長ですわ」

 

それは、俺がソース顔の件か?まぁ、否定はしない。モテない顔の代表ではある。

 

「わぁ~い、ポッキーゲームが出来ますよ。おに…ゆ、ゆっ、祐介…さん」

 

俺の名前を呼ぶ度に、真っ赤に染まる涼花の顔。今日は兄呼びでなく、名前呼びの日らしい。兄呼びの時は動揺していないのに、名前だと何故動揺するんだ?まだまだ女心を勉強しないとダメだな。妹物を描く以上、女心を理解する必要があると思う。

 

「わぁ~、会長が真っ赤よ。かわいらしいわね」

 

「いつも凜々しいのに…好きな人の前だと…うふふふ」

 

なんか、涼花の評判が下がっていないか?

 

「本当に、俺でいいのか?」

 

「いいんです。もっと、自信をもってください。あっ!天狗はダメですよ」

 

天狗って、涼花の兄のようにか?女王と付き合うようになって、変わってしまったと嘆く涼花。

 

「今日はどうでしたか?」

 

一周回り終えたようだ。

 

「涼花の普段の姿の情報が聞けて良かったかな」

 

「生徒会長だからって、威張ってませんよ」

 

頬を少し膨らまして、お怒りのポーズの涼花。かわいい…

 

「わかっているよ」

 

人望は厚いように思えた。俺に対しては好奇な目が向けられていたが、涼花には羨望の眼差しのようだったし。

 

「じゃ、帰るよ。涼花は、後片付けだろ?」

 

「はい…もっと、一緒にいたいんですが…生徒会長ですから、仕事をしないと。てへっ」

 

涼花と校門の前で別れて、自分の部屋へと帰る俺。

 

 

帰宅中の俺に、母から連絡が入った。梅の入院している病院に、急いで来てくれだと言う。あのクソ姉が何かやらかしたのか?急いで母の元へと向かう。

 

梅の病室に入ると、戸惑っている母がいた。

 

「祐介…どうしよう…梅が…」

 

梅がどうしたんだ?

 

「あっ!お兄ちゃぁぁぁぁ~ん!」

 

走り寄って俺に抱きついた梅。なんか、雰囲気が違う。こんなに、かわいい素振りは小学校以来だぞ。

 

「ねぇ、このオバサンは誰?」

 

って、母を指差している梅…これは一体?

 

「私のことを知らないって言うのよ。で、お兄ちゃんを呼んでって、泣き叫んで…」

 

母が戸惑っていた理由。梅に記憶障害が起きたそうだ。それにより、俺以外の人間関係の記憶が消えたらしい。って、なんで、俺の記憶だけ残っているんだ?大嫌いなんだろうに?

 

「なんで、こうなったんだ?」

 

「私と桜で、梅を追い詰めたのかもしれない」

 

母の弱々しい姿…初めて見たかもしれない。

 

「お兄ちゃん、こんなオバサンは放っておいて、帰ろうよ」

 

梅が俺に抱きついて離れない。

 

「母さん、梅の記憶はどこまであるんだ?って、演技でしたってオチはカンベンだよ」

 

母が言うには、俺と仲の良かった小学校高学年に成り立て位までは、覚えているようだ。

 

「演技で無いわ。嘘発見器にも掛けたんだもの」

 

そんな物まで掛けたのか…まぁ、演技だと疑うよな、普通は…

 

「祐介に対する素直な気持ちと、記憶しか残っていないみたい」

 

「俺に対する素直な気持ち?」

 

「梅は、祐介のことが大好きなの。でも、そんな気持ちを表に出せば、桜が…わかるでしょ?」

 

あぁ、わかる。あの姉のことだ、何をしでかすかわからない。

 

「無理だと思うけど…無茶なお願いだけど…梅が元に戻るまで、祐介の元に置いてくれない?」

 

それは無茶だ。

 

「麻衣がいるんだけど…」

 

「だから無茶なお願いなの。お願い…祐介にしか頼る人がいないのよ」

 

まぁ、あの姉は頼れないよな。父さんは缶詰だし…残るのは俺か…

 

 

おしゃれに気をつかっていた梅が、子供じみた物を欲しがる。小学生のような趣味になっている。部屋に戻るまでに、玩具屋、文具屋を見つけると立ち止まること数回…。どうにか部屋に戻れた。

 

「梅ちゃん、よろしくね。桜島麻衣っていいます」

 

予め、スマホで麻衣に事情を話しておいた。

 

「はい、お願いします。お兄ちゃんがお世話になっているそうで、私もお願いします」

 

「梅、先に名前を言うんだよ」

 

「あっ!相沢梅です」

 

深々と頭を下げた梅。

 

「大丈夫なの?」

 

見た目は高校生、中身が小学生な梅を見て、不安になったらしい麻衣に訊かれた。

 

「週末は、花ちゃんと涼花が来るから、子守りは頼める。問題は平日だよな…あっ!みゃーがいる。大丈夫だよ」

 

新しい担当さんに子守りを頼もう。梅にも部屋を与え、姉ちゃんのいない時間に、机などを運んでもらった。

 

 

 

---相沢桜---

 

学校から帰り、日課になっている、梅の部屋の捜索を始める為に、梅の部屋へ行くと…机が無くなっている。PCも無い。本棚も無いし、ベッドも無い…これはどういうことだ?急いで、母へ連絡をした。

 

『それは、懲りずに梅の部屋を物色していたの?まったく、お前って娘は…梅には別の場所に仕事部屋を借りて、仕事をして貰うようにした』

 

何?青天の霹靂である。それでは祐介の生原稿が読めないでは無いか。

 

「ねぇ、どこに引っ越ししたの?」

 

『言える訳無いでしょ?原因はアンタなんだからね』

 

って、通話を切られた。原因は私?梅には、何もしていないんだけど…あれ?

 

 

 

---相沢祐介---

 

う~ん…パンダのパジャマを着ている梅…かわいいことはかわいい。だけど…どうなんだ?

 

「お兄ちゃん!麻衣さんが買ってくれたんだよ。2着も」

 

嬉しそうに報告する梅。

 

「洗濯するから、替えは必要だからね」

 

って、麻衣。麻衣の妹枠に入った梅。まぁ、娘枠で無いのは幸いか…

 

「ウザミンのモデルかな?」

 

って、遊びに来ている詩羽さん。

 

「まぁ、そんな感じかな。まだ、ウザくないけど」

 

平日の午後に詩羽さんが来ることがたまにある。週末は仕事なので、放課後にロケハンなどをしているそうだ。

 

「そうそう、この設定はどうかな?」

 

新キャラを投入するらしい詩羽さん。ソース顔の男子…モデルは俺か?モテそうもないのに、なぜかモテているって…

 

「俺、彼女はいないですよ」

 

「自覚無しって、ジゴロかな?」

 

ヒモ?う~ん…

 

「自立はしたいです。女性に食べさせて貰うのは、麻衣がハリウッド女優になってからかな」

 

「麻衣さん一人狙い?」

 

誘うような瞳で俺を見る詩羽さん。

 

「う~む…遥がなぁ…あの片思い症候群が治らないと、目が無いと思うんです」

 

両思いよりも片思いの気持ちを大事にしたいって、どうなんだろうか?

 

「そうねぇ、あの子は特別じゃないの?私的にも、あれはどうかと思うし」

 

ですよね。

 

「詩羽さんのライバルって?」

 

「そうね…涼花ちゃんかな。かわいいし、器量はあるし」

 

涼花かぁ…確かにかわいい。惚れた相手に何でも出来そうな少女だ。

 

「お兄ちゃん!絵を描いたよ~」

 

って、梅。タブレット通信で、エロマンガ先生に絵を習い始めたようだ。

 

「う~ん…エロい…」

 

師事する相手を間違えたかな。って、アヘ顔先生は、性癖が危険だし、春斗さんと忙しいらしいし。

 

「確かに…私の作品の挿絵を頼もうかな?」

 

って、詩羽さん。梅にシチュエーションを説明して、試しに描いて貰う事にしたようだ。

 

 

12月に迫った或る日、麻衣が仕事でいないので、梅とお出かけをした。お出かけ着は、梅自身の衣服は嫌らしく、麻衣のお下がりを嬉しそうに着ていた。

 

五反野駅に着くと、本屋へ向かい、頼まれた本を買い、目的の場所へと向かった。目的の場所に着き、インターホンを押すと、

 

「遅かったわね!」

 

って、エルフが顔を出した。

 

「この子は誰?」

 

「魔界に住むエルフ族の山田さんだよ」

 

「ふ~ん、そうなんだ。山田さん、よろしくお願いします。相沢梅です」

 

エルフに深々と頭を下げる梅。エルフ、マサムネ、紗霧ちゃんには、梅の状況を話してある。

 

「え…祐介、お前、どんな紹介しているのよ~。これでも人間なんだからね」

 

って、狼狽えているエルフ。梅が抱きついて、耳を責めていたから。エルフって耳が弱点だものな。

 

玄関での一悶着を終えて、梅をエロマンガ先生こと紗霧ちゃんの部屋へ連れて行き、頼まれていた本などを差し入れてきた。

 

「まだ、記憶は戻らないの?」

 

心配そうにエルフが訊いてきた。

 

「まだだな。中学生って自覚が無いし…生理用品の意味が分からないようだし…」

 

生理用品…これが一番困った事である。男の俺には、説明しようが無いと言うか。麻衣とみゃー、それに涼花、花ちゃんを巻き込んでの大騒ぎになったのは、内緒である。

 

「大変だよね。高校生で中学生の娘が出来ると…あっ、実質小学生か?」

 

エルフ的には、梅は俺の娘枠のようだ。

 

「まぁ、たまに来るから、よろしくね」

 

「まかせなさい。この山田エルフ大先生が、仕切ってあげるわ」

 

「で、エルフとマサムネの仲は進展したのか?」

 

夏合宿で判明したエルフの意中の相手。

 

「えっ…それは…あのね…」

 

独裁者が一気に幼稚園児になったようだ。

 

「札束で頬を叩くとか?」

 

「祐介は、そんなことされて、嬉しいの?」

 

「俺は、胸の谷間に顔を埋めた方が嬉しいなぁ」

 

「うっ!谷間…無い…」

 

「無いのか…じゃ、唇を奪って、舌を攻略するとか」

 

「う~ん、背が届かないよ~。どうすれば、いいのかな?ねぇ、お兄ちゃん。ぐっすん」

 

って、何故か、エルフのアニキ枠になりつつある俺。

 

「じゃ、俺がマサムネを押さえ付けるから、エルフが好きに料理するとか?」

 

「無理ヤリはちょっと…」

 

エルフ先生の作品では、たまに見かける光景であるが…

 

「じゃ、じっくりと攻めるのがいいよ。焦らずに、高校生になって、もっと女体を磨いてからでも、いいんじゃないの?お隣さんなんだから」

 

弱々しく頷くエルフ。無理なことは無理って、割り切ることも大切である。

 

 

---和泉紗霧---

 

う~ん…見た目は歳上、心は小学生…言う事を素直に聞いてくれる。素晴らしいモデルである。でも、スキンシップされると、力負けして、されたいようにされている。悪気は無いので怒れないし、イケナイポーズもして貰っているので、文句すら言えない。

 

「紗霧ちゃんみたいに、絵を一杯描きたいんだよ」

 

タブレットを使った絵の描き方を教えていく。こんな私でも、物事を教える立場になるとは…少し嬉しい。

 

「お兄ちゃんの本の絵は、紗霧ちゃんだよね?」

 

「うん」

 

和泉先生の脱稿速度は遅い。企画が中々通らない上、没が多いから。そんな私に、お小遣い稼ぎ程度でアルバイトを斡旋してくれたユースケ先生の敏腕担当。アルバイト感覚だったけど、ユースケ先生の方が本業になりつつある。兄さんに比べて、脱稿速度が早いのだ。書き上げるスピードも早い上、没原稿も兄さん並らしい。なのに、脱稿速度が安定していて速いのはスゴいと思う。

 

ユースケ先生の見立てでは、兄さんは真面目過ぎるのだろうと言う。必死になって書く分、心に妄想をするゆとりが無いのでは、って分析であった。それは正解に近いんだろうな。ユースケ先生は、暇さえあれば妄想しまくっているそうだ。それはそれで問題はあると思うけど、ユースケ先生の周囲の女性達は。問題だと思っていないらしい。HAL先生も可児先生も、あのマサムネちゃんですら、問題無いって言い切っていた。

 

心のゆとりって、大事なんだなぁ。

 

「ねぇ、この絵はどうですか?」

 

梅ちゃんの描いた絵を、彼女の目の前で修正していく私。

 

 



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妹との接し方

 

---相沢祐介---

 

クリスマスが徐々に近づいて来た。麻衣がトークショウの構成を考え始めた頃、俺は悟さんの元を訪ねた。

 

「どうしたのかな?問題でも起きたのか?」

 

俺のことを、心配してくれる悟さん。

 

「養子縁組しても、母さんは母さんで良いんですよね?」

 

「勿論だよ。相沢夫妻に感謝しているし。今まで通りで良いんだよ」

 

「じゃ、俺の養子縁組を進めて下さい。悟さんに渡せるプレゼントって、こんなことしか無いから…」

 

「そんな素晴らしいプレゼントを貰えるのか?」

 

「本当にこれくらいしか、恩返しができません」

 

「だから、恩と思わないで良いのだよ。私も伊集院も君のことを甥だと認識しているから」

 

「伊集院さんには、どうしましょう」

 

「君が元気で育つことが、一番嬉しいんじゃないかな?」

 

それだけでいいのかな?

 

 

 

---羽島伊月---

 

ディナーショー…来週かぁ…

 

「ねぇ、兄さん、訊いている?」

 

「あぁ、すまん、妄想していた」

 

ちっひーと二人きりの部屋。彼女に何かしようという気は起きない。俺にとっては弟だし。

 

「じゃ、ディナーショーの後は、祐介君の部屋でパーティーだよ」

 

「分かっているって」

 

「みゃーさんも、一緒にだよ」

 

「大丈夫だ。みゃーに連行されるんだろうから」

 

春斗はアヘ顔先生とお付き合いをしているようだ。あの巨乳感がたまらないって、自慢されたし。二人で聖夜を愉しむらしい。

 

「ところで、ちっひーは祐介のことを、どう思っているんだ?」

 

「どうって…う~ん…」

 

ちっひーがモジモジしだした。うん?俺の部屋だからモジモジしていた訳では無く、祐介といたからでは無いのか?そうなると、勘違いしているのは、俺でなくて、祐介の方である。

 

「いいお友達かな…」

 

「友達でいいのか?」

 

「麻衣さんがいるんだよ、祐介君には…ボクは祐介君を護れなかった。結果、祐介君はボクのクラスからも追い出されてしまったんだよ」

 

哀しそうな顔をするちっひー。

 

「う~ん…ソース顔が好きなのか?」

 

「そういう訳では…たまたまだよ。どこか兄さんに似ているし…」

 

好きなことを否定しないちっひー。うん?待てよ。俺もソース顔って言えば、そっち系か?

 

「祐介は俺の代わりってことは無いよな?」

 

「えっ…それは…」

 

真っ赤な顔で俯くちっひー。おいおい…否定しないのか。まいったなぁ~。

 

「兄さんも祐介君も好きだよ…同じくらいに。祐介君を兄さんの代わりって思ったことは…」

 

肝心な部分になると真っ赤になって俯くちっひー。

 

「俺と寝るか?」

 

それは俺の最後の賭けであった。お願いだ、拒否してくれ、ちっひー…

 

「いいの?」

 

断らないのか?どこか、嬉しそうなちっひー。俺は自分で自分の首を絞めている気がしてきた。

 

 

 

---相沢祐介--

 

伊月さんに呼び出された。何かをやらかしたようだ。梅をみゃーさんに預けて、急いで伊月さんの家へ向かった。

 

「悪いなぁ。来てもらってさぁ~」

 

どこか神妙な面持ちの伊月さん。深刻そうな問題なのか?

 

「いえ…で、何をやらかしたんですか?」

 

「う~ん…」

 

ふと、ゴミ箱に目がいった。ゴムを使用した形跡があった。誰かと部屋でヤッタのか…みゃーさんでは無い。普段通りだったし。那由多さんかな?しかし、もう1つの選択肢が、脳裏に浮かんだ。固まる俺。この言い淀み感…まさか…

 

「義妹と?」

 

「なんで、お前は、そういうのを理解するのが早いんだ」

 

ちっひーと寝たのか…

 

「無理ヤリ?同意の上?」

 

「同意の上だよ。今朝、嬉しそうに帰っていったよ。お前の読み通りだ。お前は俺の代用品だったらしい」

 

やはり…そうなると、俺は麻衣にとっても、代用品なのかな。あの日、あんな状態にならなければ、麻衣とは出会ってはいなかったし。悟さんにしても、伊集院さんにしても、俺は代用品なんだろう。

 

俺は本物では無く、代用品に過ぎないのだ。まぁ、汚物よりは出世したかな。

 

「なぁ、俺はどうすれば良いと思う?」

 

ヘタレな伊月さん。

 

「結婚すれば?両親が変わらないし、問題は両親の気持ちだけだし」

 

「そうなるよな。ちっひーのあんなに喜ぶ顔って、見た事なかったし」

 

「じゃ、クリスマスパーティーは婚約発表かな?」

 

「おい!まだしないぞ」

 

「春斗さんとWピース先生も順調なようだし」

 

「祐介はどうなんだ?」

 

「梅が治らないと無理ですよ。遥はあんな感じだし」

 

「麻衣がいるだろ?」

 

「麻衣にとって、俺は代用品なのかなって。俺と出会わなかったら、誰と付き合っていたのかなって…興味無いですか?」

 

「お前、人に好かれ慣れていないのか?麻衣は祐介に一途だぞ。遥は怪しいけど」

 

「伊月さんの言うように、好かれ慣れていないんですよ。俺は汚物ですからね」

 

汚物を好きな人はいないと思う。

 

 

伊月さんに、明るく話したものの、孤独感が俺に襲い掛かって来た。このまま、消えたい。そんな気になる。どうするかな。消えるか?でも悟さん達に迷惑が掛かりそうだし。俺はきっとカゴの鳥かもしれない。自由に飛べるのは妄想と作品の中だけなんだろうな。そうだ、梅が残ってしまう。いっそ、梅と一緒に消えるか?

 

「祐介君!」

 

誰かに呼び止められた。振り返ると詩羽さんがいた。

 

 

二人で、詩羽さんの定宿に向かった。週末に缶詰になる為の宿だと言う。

 

「たまには違うホテルもいいんじゃない?」

 

って、二人でチェックインをした。部屋に入ると、詩羽さんが抱きついて来た。

 

「私をオトしてみなさい」

 

って、挑発的である。なにかの取材か?

 

「俺は一度も、口説きオトしたことは無いですよ。麻衣の時は成り行きだし、遥には振られたし」

 

詩羽さんの香り…良い香りだ。胸も気持ちいい。妄想の世界へと旅立つ俺。

 

 

 

---霞ヶ丘詩羽---

 

挑発しすぎたか…ベッドに押し倒された。制服を着たまま、下着だけを脱がされた。彼は全裸になり、前戯なしで…そんなシチュエーションが、私をメスにしていく。彼のモノを頬張り、自分で自分の準備をしていく。そして、スカートを捲られて、バックから突かれた。力強い、振動が脳ミソさえも揺らしていく。性行為って、こんなに気持ちがいいの?

 

これが私にとっての初体験である。今まで自慰だけだった。制服の裾から手を入れ、胸を揉まれている。それも突きながら…制服が汚れちゃ…

 

 

意識が朦朧としている。頭部に袋を被せられて、どこに吊り下げられている。両足を広げられ、突かれている。見ない恐怖、想像するプレイ内容。それだけでも、私の身体は感じ捲っているのに、更に力強く突かれている。恐怖と快楽は紙一重か?いい勉強になったわ。

 

やられているだけなのに、体力がもう無い。こんなに疲れる行為なのか。未だ、彼の行為は終わらない。気に入って貰えたようだ、私の身体を…全身の筋肉に力が入らない。もう、祐介君専用のダッチワイフ状態なのかな。下半身の感覚が薄れていく。

 

 

朝日を浴びながら、祐介君の上で踊っている。彼は疲れて寝ているけど、足り無い私は、彼の身体で愉しんでいた。彼により、前後の穴それぞれを初開通された。その上、前後の穴に出された。注入された物が逆流する感覚が気持ち良い。クセになりそうだ。これはこれで、新たな発見である。

 

「まだ、やっているの?」

 

「ユースケ中毒かな。もっと欲しいの…」

 

「溜まり過ぎだな。適度に抜かないと」

 

「じゃ、適度に抜いてね。今後も…」

 

その日、祐介との性行為により、学校を休んだ…

 

 

 

---相沢祐介---

 

部屋に戻ると、梅が走り寄り、頬を重ねて来た。

 

「お兄ちゃん、おかえり~」

 

「泣かなかったか?」

 

「うん、梅、小学校5年生だもの。泣かないよ」

 

中学3年生の筈だが…

 

「麻衣は?」

 

「おしごと」

 

「みゃーは?」

 

「おしごと。一人でお留守番出来るんだよ。エラいでしょ?」

 

「あぁ」

 

梅の頭を撫でてあげた。

 

昨日の15時頃チェックインして、今日の10時頃のチェックアウトって、どんだけやったんだ?腰が抜けない詩羽さんは、熟練しているなぁ。

 

仕事部屋に入り、仕事をしていく。取り敢えず、詩羽さんとのプレイで、気づいたことをメモしていく。今後の作品に生かす為でる。そう、女性とスルことは、取材でもあるのだ。

 

「お兄ちゃん、お腹減ったよ」

 

って、梅。時計を見るとお昼であった。

 

「食堂へ行くか?」

 

「うん」

 

 

 

---永見涼花---

 

兄さんが、私に土下座をしていた。

 

「なぁ涼花、新作を書いてくれよ」

 

って。担当者からも、あの女王様からも、新作の催促を受けたそうである。

 

「兄さんが、自分で書けばいいでしょ?永遠野誓のペンネームは兄さんに差し上げます。あの女王様との婚約祝いでね!」

 

週末、お兄ちゃんと過ごしている間、兄さんはあの女と知らない女を、家に連れ込んでいたのだった。

 

「不潔です」

 

金曜の夜に綺麗にした台所が、日曜の夜には、ゴミ溜めようになっていたのだ。

 

「舞は料理しないから…」

 

「ゴミの分別くらい出来るでしょ?!」

 

ゴミ箱にはゴミ袋無しで、ダイレクトにゴミが入っていた。ゴミ袋を入れて置いたのに…

 

「兄さん、反省するまで、書けません」

 

いや、新作をお兄ちゃんの部屋で書いている。違うペンネームで、お兄ちゃんの出版社から出して貰えるそうだ。

 

「では、自分の部屋に戻ります」

 

これ以上の激怒は精神衛生上、良く無い。あぁ、お兄ちゃんに逢いたいなぁ。週末が遠い…ベッドに横になり、お兄ちゃんを思い浮かべ、自慰をちょっとだけ…

 

 

 

---永見祐---

 

マズい。涼花を怒らしてしまった。食事を作って貰えないし。どうする?洗濯もしない宣言されたし。どうする?マズいだろう。

 

ゴミ箱のゴミ袋は舞が捨てた。ゴミの日では無いのに…翌日、ゴミ袋をセットせずに、ゴミを投げ込んでいた。舞の気迫に圧され、注意出来なかった俺。

 

一番、怒りを買ったのは、舞のSNSの投稿である。永遠野誓とお付き合いしていると、投稿してしまったのだ。涼花の怒りは頂点に達した。

 

どうするかな…俺には涼花のような文才はないし。そもそも、妹萌えしていないし。妹好きの人に相談するか。そうだ!妹物の大家の羽島伊月先生に、教えてもらうかな。

 

と、言っても、俺には伊月先生とのコネが無い。どうするか?舞に相談出来ないし。

 

もう一度、涼花に謝る為、涼花の部屋へ…部屋の中は静かであった。もう寝ているのか?耳を澄ますと、涼花の喘ぎ声がする。なんとの色っぽい声である。一人エッチをしているのか?なんか、ムラムラした俺は、一瞬の気の迷いで、涼花の布団へ入り、スキンシップを試みた。

 

「え!何をするの…やめてよぉぉぉぉぉ~!」

 

抵抗する涼花。力で勝る俺。

 

バチーン!

 

頬を一発叩くと、静かになった涼花。ビンビンな俺と一人エッチで準備が出来ている涼花…こんなに気持ちがいいんだ。涼花の身体って…

 

 

 

---永見涼花---

 

私の上で兄というケダモノが寝ている。私はケダモノに喰われた。お兄ちゃんだけって、決めていたのに…私の心をことごとく粉砕するケダモノ。ケダモノは安眠しているので、起こさないように抜け出し、家出の準備をして、家を出た。そして、家の外から、親に連絡をして、昨晩の出来事を訴えた。その上で、今後知り合いの家にルームシェアすることを、一方的に伝えた。

 

足はお兄ちゃんの部屋へ向かっていた。お兄ちゃんの部屋に置いて貰う為である。

 

「どうした?」

 

平日の昼間の訪問で、私の訪問に驚いていた。事情を話した私。優しく抱き締めてくれたお兄ちゃん。

 

「そうか…じゃ、梅と同室でいいかな?」

 

「わかりました。梅ちゃんのお世話係ですね」

 

「いいかな?」

 

「家賃の代わりになるか、わかりませんけど、承ります」

 

精一杯の笑顔をお兄ちゃんへ向けた。優しく抱き締め、頭を撫でてくれた。心の重荷が減っていく気分である。

 

「訳有り女性の逃げ込み寺みたいになってきたわね」

 

って、麻衣さん。

 

「困っている知り合いは、助けてあげたいんだよ?ダメかな?」

 

「ダメじゃない。私もその一人だから。じゃ、仕事に行ってくるわね」

 

「あぁ」

 

麻衣さんが、仕事へと出掛けた。今日の仕事はディナーショーの打ち合わせで、ホテル内だと言う。

 

 

 

 



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イブの奇跡

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---相沢祐介---

 

涼花の問題…伊集院さんが、涼花の両親と話し合いをして、今後を決めてくれた。涼花が出て行くと言うまで、俺の部屋で共同生活をする。梅のお世話係というバイトをして貰い、家賃はチャラにし、来年度から、俺や麻衣と同じ通信制の高校へ入学し、高校卒業だけはすることになったようだ。

 

「ありがとうございます、お兄ちゃん」

 

って、抱きつく涼花。負けじと抱きつく梅。役得感が満載である。で、来年度から、やはり高校生の花ちゃんも、ここで共同生活するそうだ。同じ通信制の高校へ入学してだ。

 

「兄さん…お世話になります」

 

って、三つ指着いて頭を下げて来た。梅は負けずと三つ指を着いたのだが、何故かでん繰り返しをして、頭を横に傾けながら、遊んでいるみたいだ。

 

そして、ディナーショーの当日になった。緊張する麻衣の肩を揉んであげる。

 

「ありがとう、祐介…」

 

ディナーショーには涼花も、特別ゲストとして参加するそうだ。親にバレるとマズいから、実の兄にゴースト作者になって貰っていたが、もうバレても問題がなくなった為、永遠野誓先生として参加するそうだ。

 

「お兄ちゃん…どんな服にすれば良いのかな?」

 

「中学生らしく制服でいいんじゃないか?下手に着飾るとチャラく見えるし」

 

「そうか…うん、お兄ちゃんに訊いて良かった」

 

って、麻衣さんは女優らしくドレスらしい。

 

「祐介の産みの母親の為のドレスだって」

 

なんか嬉しそうな麻衣さん。

 

で、花ちゃんと俺は、梅の面倒を見るので、不参加である。遥は片思いの気持ちを書きたいから、一人きりのイブを迎えるそうだ。

 

「相変わらず、遥はおかしいなぁ」

 

って、ドレス姿の詩羽さん。俺の部屋は着替えルーム化していた。

 

「あと1時間かぁ…」

 

麻衣さんが時計を気にしだした。

 

「平常心だよ、麻衣」

 

「そうだよね、祐介…でも、緊張するわ。ワンテイクでの長回し撮影前みたいに…しかも、台本は無いし」

 

トークショウだもの、台本は無い。司会の人が話を振るらしいけど。

 

 

 

---羽島伊月---

 

ドレスコード…う~ん…背広の上下にネクタイ、男の身だしなみであるから、持っているが…

 

ちっひーのドレス姿…俺とみゃーが固まっている。

 

「ちっひーって、女の子だったの?」

 

「あぁ…」

 

「兄さん、どうかな?ドレスなんか、着慣れないから…」

 

かわいいと思うけど…どう接すればいいんだ?祐介から、ちっひーの分の招待券を貰った時は、何も気にしなかったのだが…アイツ、ちっひーの女の子デビューを狙っていたのか?

 

「祐介君がプレゼントしてくれたんだよ」

 

嬉しそうなちっひー。アイツ…ちっひーを意識してしまう俺。みゃーは固まったままである。それだけの衝撃的な姿であった。

 

 

 

---相沢祐介---

 

そして、開演…俺の部屋に静寂が訪れた。花ちゃん、俺、梅だけの広い部屋。さて、パーティーの準備をするかな。テーブルに白いテーブルクロスを広げる。花ちゃんと梅が、クリスマスツリーの飾り付けをしていく。料理を運び込んでもらって、予め用意しておいた保温庫へ収納していく。

 

呼び鈴が鳴り、応対しに行くと、紗霧ちゃんがいた。

 

「兄さんは…ショーを見てくるそうです…」

 

恥ずかしそうに俯く紗霧ちゃん。

 

「あっ!紗霧師匠!」

 

梅が紗霧ちゃんにタックルをする。精神年齢は下だが、体格は遥か上の梅。紗霧ちゃんが押し倒されている。

 

「梅!」

 

「あっ!ごめんなさい。嬉しくて…」

 

目に涙を一杯溜め込む梅。

 

「私も嬉しいよ。身構えたんだけど、今日も押し倒されちゃった」

 

笑顔の紗霧ちゃん。部屋へ入って貰う。

 

「すごい~」

 

窓に走り寄り、夜景を見始めた。

 

「紗霧、手伝ってくれ」

 

って、花ちゃん。

 

「うん。梅ちゃん、飾り付けをしよ~」

 

「はぁ~い、師匠」

 

飾り付けも終わり、梅を紗霧ちゃん達にまかせ、執筆活動に戻った。たまには短編にするかな。三人の妖精の話とか…

 

 

リビングが騒がしくなってきた。終わったのかな?リビングに出ると、麻衣達が戻って来ていた。

 

「祐介君…ありがとう…」

 

麻衣が抱きついて来た。だけど、俺の視線の先にはドレス姿のちっひーの姿が…伊月さんの目が恐い。サプライズプレゼントが裏目に出たのか?

 

「おい!祐介…」

 

俺に近づいて来た伊月さん。

 

「麻衣…お前…」

 

麻衣がやらかしたのか?

 

「婚約発表してあげたの」

 

って、嬉しそうな麻衣。あっ!まさか伊月さんと…

 

「兄さん…ありがとう、祐介君」

 

妹物の大家、義妹と婚約…ネットが荒れていそうだ。

 

「なんてことを…」

 

凹んでいる伊月さん。腕にちっひーが抱きついている。自然が一番だよな。

 

「祐介…お前の婚約発表は俺がしてやる!」

 

って、復活したり凹んだりを繰り返す伊月さん。花ちゃん達が、保温庫から料理を出している。冷蔵庫からは飲み物をだ。

 

「そういや、涼花は、正体をバラしたのか?」

 

「はい、お兄ちゃん」

 

肩の荷が下ろせたような表情の涼花。

 

 

 

---永見 祐---

 

寝耳に水な事態…涼花がカミングアウト発言をしたようだ。

 

「私が永遠野誓です。ペンネームを奪われて、新作が出せないでいました。この度、出版社を移籍し、新作が出せるようになりました」

 

って、涼花の映像と共に、発言している動画が、ネットで流れていた。

 

「祐…どういうこと?」

 

舞が驚いた表情で固まっていた。

 

「二人で永遠野誓では無いの?」

 

俺もそう思っていたんだけど…って、言うか…相沢貞治氏と桜島麻衣さんとのトークショウだって?大物作家と今をときめく若手女優と…聞いていないぞ!

 

涼花のスマホへ連絡をするが、現在使われていないって…どういうことだ?混乱する俺。

 

「ねぇ、祐!どういうことよ!」

 

って、言われても…玄関で音がした。涼花か?玄関に向かうと、俺を睨む両親の姿があった。

 

 

 

---相沢祐介---

 

朝、目覚めるとテーブルで寝ていた。ごちそうを食べて、寝てしまったようだ。隣で梅が寝ている。逆サイドには涼花がいる。二人共疲れていたもんなぁ。起きて、シャワーを浴びに行くと、麻衣がいた。

 

「おはよう、祐介」

 

「おはよう…」

 

二人でジェットバスで、身体を暖める。暖まると、脱衣所で水気を取り、愛の語らいをし、着衣をした。

 

「あれ?着信がある。誰だ?あっ!」

 

着信相手を見て固まる麻衣。

 

「どうしたんだ?」

 

「えぇっと…義理の妹から…昨夜のイベントは効果あったみたい。彼女も私が見えなかったから…」

 

家族にも見えなかったのか…

 

「どうしたの?…これから?…もう、あそこには住んでいないわ。失踪した落ち目の女優だったから…連絡?何度もしたわよ。無視したのは、のどか!あなたの方よ」

 

ピリピリした表情の麻衣。後から抱きつく。俺の頬に自分の頬を重ねて来た麻衣。

 

「嘘じゃないわよ…今日?ちょっと待ってね。ねぇ、祐介…妹がここに来たいって。いい?」

 

「麻衣の妹だろ?会わないと」

 

「ありがとう…祐介…わかったわ、あなた一人で来なさい。事務所は移籍したから…なんで?だって、引退扱いだったからよ」

 

プンプンした表情で通話を切った麻衣。

 

「なんだって、言うんだ?」

 

「昨夜、ネットで私のトークショウの記事を見て、何をしているのって、怒っていたのよ。今まで、存在すら忘れていたのに…」

 

それはプンプンするな。

 

「じゃ、存在が復活したんだな、麻衣」

 

「祐介のおかげたよ。一生、傍にいるからね。アンタの骨を拾うのは、私の重要任務だし」

 

任務?

 

「絶対に祐介よりも1週間長く生きてやる。骨を拾う役目は誰にも譲らないよ」

 

俺の唇に自分の唇を重ねて来た麻衣…

 

 

 

---豊浜 のどか---

 

なんで、今までお姉ちゃんのことを、忘れていたのだろうか。スマホの着信履歴に、お姉ちゃんの名前が並んでいた。見落とすことが無い分量だし…

 

皆に忘れられ、引退させられ、死んだことにされたお姉ちゃん。それが、イブの奇跡で、生存確認されたのだった。大物作家の相沢貞治氏、今売り出し中の若手作家である永遠野誓と三人での奇跡のトークショウだったそうだ。相沢貞治氏も永遠野誓も公に姿を出すのは初めてだったらしい。そんな二人に混じってお姉ちゃんが…

 

お姉ちゃんに言われた場所に急いだ。昨夜のイベントのあったホテルにいるそうだ。新居の場所を訊かないとなぁ。って、隣に彼氏みたいのがいたようだ。確認していたし。悪い虫だったら、退治しないと…私の大切なお姉ちゃんなんだから…

 

ホテルのラウンジに着き、お姉ちゃんに連絡をすると、迎えに来てくれた。

 

「彼氏とホテル?」

 

「まぁ、そうなるけど…」

 

「お姉ちゃん、なんで男とホテル?」

 

歩きながら質問をする。

 

「ホテルって言っても、宿泊じゃないのよ、のどか」

 

宿泊では無い?休憩かな?そんなにお尻の軽いお姉ちゃんでは無かったはずだ。エレベーターに乗り込み、上に向かう。エレベーターを降りると、目の前のドアをカードキーで開けて入っていく。ここって…後に付いて、部屋に入る。目の前には大パノラマが展開していた。全面窓…スゴい。ここって、最高級スィートじゃ無いのか?

 

「妹の豊浜のどかよ、祐介」

 

「相沢祐介です」

 

ソース顔の冴えなそうな男が、お姉ちゃんの隣にいる。

 

「お姉ちゃんを、返しなさいよ!どうせ、金持ちのボンボンなんでしょ!」

 

パチーン!

 

えっ…姉に頬を叩かれた。

 

「私の恩人を悪く言うのであれば、のどかとは縁を切る」

 

なんで?

 

「お姉ちゃん…何でよ~!」

 

「彼は、身を投げようとした私を救ってくれたの。誰からも女優の桜島麻衣と認識されず、途方に暮れていた私を、彼は助けてくれた。寄り添ってくれた。そして、スポットライトの前に、再び立たせてくれた恩人なの。その彼を悪く言うのであれば、縁を切るわ」

 

姉を支えてくれていたのか…私でさえ、忘れていた姉を…

 

「麻衣、部屋で二人で話せ。梅が固まっている」

 

「あぁ、ゴメン。梅ちゃん、ごめんね」

 

唖然としている少女を抱き締めて、頭を撫でてリラックスさせている姉。私にはビンタして、その差は何?

 

「のどか、こっちへ来なさい」

 

姉の冷たい視線…促されるように、姉と共に部屋へと入った。

 

 

 

---永見祐---

 

両親に絞られた。涼花が両親に告白をして、家を出たそうだ。

 

「実の妹に何をしているんだ?彼女がいるのに、妹に手を出すって、どういうことだ?」

 

舞が怯えた視線を俺に送って来ている。

 

「涼花ちゃんに手を出したの?なんで?私には手を出さないのに…」

 

舞の言葉で、更に激高する両親。涼花は家を出て、信頼出来る処にいるそうだ。

 

「まったく、お前と来たら…」

 

何も言い返せない。魔が差しただけなのに…

 

「涼花は今後、メイドをしながら小説を書くそうだよ。涼花の雇い主は、通信制の高校へ通わせてくれるそうだ」

 

メイド…妄想が広がる言葉だ。雇い主に調教されるのか?俺の妹が…

 

「涼花はどこにいるんだ?連れ戻しにいかないと」

 

「お前!涼花に今後、近づくな!その彼女と一緒になりなさい!」

 

えっ?舞と?舞を見ると首を横に振っているのだが…

 

 

 

---相沢祐介---

 

梅が俺に寄りかかって、お昼寝をしている。目の前では、涼花が新作を書いている。花ちゃんは俺に寄りかかって、ぼぉ~っとしている。三人三様である。

 

カチャ!

 

麻衣とその妹が、話が着いたのか、部屋から出て来た。

 

「先程はごめんなさい」

 

俺に頭を下げて来た、麻衣の妹。

 

「いいよ。あぁいうのは、慣れているから」

 

「妹の豊浜のどかだ。父の再婚相手の連れ子だよ」

 

って、麻衣さん。

 

「梅ちゃん、寝ちゃったのか?」

 

「昨日、ハリキリすぎたようだ。紗霧ちゃんが来ただろ?だから、余計に」

 

梅のお絵かきの師匠である紗霧ちゃん。

 

「花ちゃんも気を使いすぎたようだ。悪いけど、もう少し、このままでいる」

 

「わかったわ。祐介、珈琲は飲むでしょ?」

 

「頼む」

 

「兄さん…」

 

「なんだ、花ちゃん」

 

花ちゃんの頭に頬を重ねた。

 

「兄さんが兄さんであって良かった」

 

「なんだ、それは?」

 

「深い意味は無い。さてと、私も書くかな。バトル物では無い新作をだ」

 

花ちゃんも、兄妹物に走るらしい。

 

「あの…」

 

のどかに声を掛けられた。

 

「どうした?」

 

「たまに来てもいいですか?」

 

「麻衣は売れっ子女優だから、たまに居ないけど」

 

「かまいません。姉が惹かれた訳が分かった気がします」

 

どんな訳だ?モテない選手権の優勝者の俺だぞ。

 

「のどか、私の留守中、頼む。祐介が卑屈になっている時は、壊れそうな時だから」

 

俺、壊れそうなのか?梅がいるんだ、壊れる訳にはいかない。

 

「はい、お姉ちゃん」

 

姉と妹の良い関係。梅と姉ちゃんも、あぁだったら、良かったのに…

 

 

 

 



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珍客

---相沢祐介---

 

また、ラノベ武道会が開催らしい。納期は2週間の早書きバトルだと言う。花ちゃんと涼花は、参加しないようだ。2週間はキツいだろう。

 

今日は新年会である。俺の部屋を開放して、皆でわいわいしている。

 

「俺もパスだな。2週間は無理だ」

 

って、伊月さん。春斗さんもパスらしい。いや、春斗さんは新年会もパスして、Wピース先生とハワイらしい。

 

「私は参加よ!マサムネ、ユースケ、掛かって来なさい!」

 

って、エルフ先生。

 

俺とマサムネ先生も参加である。

 

「没原稿バトルの予感…」

 

「同じく…」

 

読み切りを書く時間が無い、俺とマサムネ先生。過去に書いた没原稿から、出す予定である。

 

「おい!祐介、婚約はまだしないのかっ!」

 

って、伊月さん。婚約発表リベンジに、燃えているようだ。

 

「相手がいませんよ」

 

いるにはいるんだが…遥がなぁ…麻衣も忙しくなってきているし。

 

「う~ん、で、本命はどっちだ?」

 

「見た目が同じですからね。難しいです」

 

違いは性格と胸の大きさ程度だ。

 

「マジに、双子かと思いましたよ」

 

って、麻衣の義妹ののどか。

 

「遥は止めておけ、片思いラブの気持ちが知りたいから、片思いのままがいいって、イカレているぞ」

 

って、詩羽さん。そうなんだが…

 

「どっちにしても、麻衣は売れっ子女優だし、当分先ですよ」

 

「妹枠組だったら、誰がいいんですか?」

 

って、ちっひー。伊月さんと婚約発表したことで、垢抜けてきたようで、ゴシップネタに喰い付くようになっていた。

 

「う~ん、一番歳上の花ちゃんかな。涼花と梅は妹だし」

 

「私ですか…」

 

真っ赤な顔で恥ずかしそうに俯いている。かわいいと思う。同じことを言っても涼花と梅はそうはならないし。

 

 

新年会が終わり、皆が帰っていった後、

 

「兄さん…いや、祐介さん…」

 

「どうしたんだ、花ちゃん」

 

「いえ…なんでも無いですよ」

 

何時ものように、彼女の頭を抱き締めたあげると、ピクッと身体が震えたような。

 

「うん?どうしたんだ?」

 

「いえ…ちょっと、意識してしまって…なんか舞い上がってしまって。おかしいなぁ」

 

俺は花ちゃんを俺の部屋へ招き入れた。

 

 

気が晴れたのか、花ちゃんが眠っている。お姫様抱っこをして、彼女の部屋のベッドへと寝かしつけた。

 

新作の短編でも書くかな。少し背伸びをしてみた女の子のお話とか。0時を回った頃、

 

「信じられない…」

 

と怒りの声を上げて、部屋から出て来た涼花。

 

「どうしたんだ?」

 

「兄が永遠野誓として、ラノベ武道会に殴り込みを掛けるみたいなんです」

 

ネットを見ると炎上していた。『本物は俺だ』って名乗り出て、涼花を偽物呼ばわりし、挙げ句に名誉毀損で訴えると書かれていた。

 

「明日、顧問弁護士の先生に連絡をしてみる。だから、相手にはするな」

 

「うん…お兄ちゃん…」

 

俺の腕に抱きつき、泣き始めた涼花。悔しいんだろうな。だけど、涼花の本物性は揺らがないと思うんんだけど…

 

「そもそも…涼花の兄って、デビューしているのか?」

 

「えっ!あぁ、…してませんね」

 

泣き止んだ涼花。少し笑みが見える。俺の言いたいことをが、分かったようだ。

 

「勇気有るなぁ。デビュー前なのに、プロでも参加を悩む、ラノベ武道会に参加とは」

 

俺とマサムネ先生は早書きの上、没には慣れている方なので、ダメージが少ないけど、普通の作家だとエルフ先生辺りしか応募しないと思う。納期が少なすぎるのだ。

 

その上、プロ作家では無いと、ある手順を知らないはずである。

 

「あぁ…そうか。デビュー前だから、担当さんへ原稿の送り方を知らないのか」

 

原稿を送るアドレスは決まっている。連絡用のスマホに、PCで作成した作品をメールでなんか送信出来ない。それは、PCのメールにしても同様である。

 

出版社にもよるが、作家ごとに原稿転送用サーバーのアドレスが有り、そこに転送しないと、出版社での作業、印刷や校正などのシステムとヤリトリが難しいらしい。

 

が、デビュー前の作家が送るとしたら、普段連絡に使っているメアドしか知らないはずである。実際、涼花の兄は担当さんとスマホでの連絡はしたことがあるが、原稿を送ったことは無いと聞いたことがある。

 

「大目玉食らうかな?」

 

「どうだろうな。もしかすると、一般応募用のアドレスかもしれないなぁ」

 

一般参加も出来るので、一般向けの送信先アドレスが、ネットに掲示されているし。

 

 

 

---永見祐---

 

書き上がった。渾身の自信作である。よし、送信しよう。担当さんのメアドに送信した。これで良いはずだ。

 

しばらくすると、担当さんから返信が来た。

 

『これは何?あなたは本物?』

 

って…なんでだ?

 

『永遠野誓です。ラノベ武道会用の原稿です』

 

と返信した。

 

『なんで、このアドレスに送るの?』

 

えっ?このアドレスで無いのか?原稿送信用のアドレスは違うのか…マズい。そうだ、舞に聞くか。同じ出版社だし。

 

『妹さんに訊いていないの?作家ごとにアドレスが違うのよ』

 

って…マズいだろう。それは…涼花に連絡を取る術が無い。おぉ!ラノベ武道会のページに投稿用のアドレスが有るじゃ無いか。ここに投稿だな。

 

 

結果発表…無い…俺の作品が無い…どうしてだ?あっ!

 

『一般応募として、永遠野誓先生のペンネームで、作品が投稿されていましたが、偽物と判断して、没にしました』

 

って…読んでも貰えなかったのか…渾身の自信作なのに…

 

優勝はユースケ先生だった。アイツ、これで2連勝かよ~!

 

 

 

---相沢祐介---

 

はぁい?、優勝していた。あれ?なんでだ?

 

「没ネタだったのに…なんで?」

 

タイトルを見て…固まる俺。

 

「しまった。新作の短編を送信していた…」

 

「ご愁傷様」

 

って、麻衣が笑顔で珈琲を淹れてくれている。

 

「お兄ちゃんって、ドジな時って有るよね~」

 

って、涼花。

 

「うっ!兄さん…これって…」

 

顔を真っ赤にしている花ちゃん。

 

「あれあれ?ムラマサ先生がモデルなんですか?」

 

のどかが花ちゃんをツンツンしている。

 

「こ、こ、こ、これは…ダメです!一生の不覚かもしれない」

 

たわいのないことしか書いていないのだが、花ちゃんの脳裏には、他人に自慢したくない想い出がリピートしているようだ。顔と耳が茹で上がり、涙目だし…

 

「そうだ!涼花ちゃん。永遠野誓のアニメの歌を唄う事になったんだよ」

 

想い出したように、のどかが涼花に報告している。のどかはアイドルグループの一員として歌やダンスをしているそうだ。グループ名は…あっ、忘れた。

 

「のどかさんのグループが歌ってくれるんですか。嬉しいです」

 

永遠野誓のペンネームは涼花が勝ち取った。なぜならば、涼花が続編を刊行したからだ。そもそも、涼花を泣かした偽永遠野先生では、妹の気持ちは描けないであろう。いや、俺だって書ける自信が無いものな。

 

「作画は柏木先生だし、後は声優さんが、誰になるかだね」

 

涼花が麻衣を見ている。

 

「私?かわいい妹の声は無理かな」

 

「お兄ちゃんが、主人公の声をやって欲しいなぁ」

 

って、麻衣がダメになり、今度は俺に無茶振りをしている。

 

「無理無理…マイクに向かって話せないし」

 

自称引きこもりの俺には無理である。録音スタジオに行けないし。

 

フロントから内線電話が掛かってきた。噂をすれば、柏木エリ先生が来たようだ。入室の許可を出した。暫くすると、部屋の呼び鈴が鳴り、麻衣が応対すると、エリさんと知らない少女がいた。

 

「今日は、アニメで主人公である妹役の声担当の水無月 桜ちゃんを、連れて来ました」

 

と自慢げなエリさん。

 

「初めまして、水無月 桜です。って、永遠野先生は、ホテル住まいなんですか?」

 

「違います。お兄ちゃんの部屋に居候ですよ」

 

速効で否定する涼花。

 

「永遠野先生のお兄様がホテル住まいなんですか?」

 

桜が部屋を見回している。そして、俺と目が合い、近づいて来た。

 

「永遠野先生のお兄様ですか?」

 

「実際の兄では無いですけど…」

 

「はぁい?どんな関係ですか?まさか、ハーレム王とか…」

 

まぁ、俺以外全員が女性だから、ハーレム属性かもしれないが…

 

「あなた、失礼ね!彼はそんなチンケな存在では無いわよ」

 

って、麻衣が、何かのヒロインぽく乱入してきた。

 

「って、桜島麻衣さんですよね…わぁ~い。大ファンなんです。サインをください」

 

「プライベート空間で、サインはしません」

 

女性同士のバトルもアリかな。メモしておこう。アイデアは身近に転がっている物だ。って、言うか…桜って言葉を聞く度に、梅が固まって、周囲を見回している。まずいなぁ。

 

「花ちゃん、頼みがある。梅を部屋に入れてくれるかな」

 

「あっ!そういうことか。わかった。梅ちゃんおいで!」

 

花ちゃんは事態を素早く理解してくれた。やはり、頼りになる妹枠は花ちゃんだな。

 

「うん…」

 

花ちゃんに抱きつくようにして、梅が部屋に入っていった。

 

「なんで、あの子、私を怖がっているの?」

 

桜が不思議そうに訊いて来た。

 

「アイツの実の姉は桜って言ってね、その姉に虐められて、心を壊してしまったんだよ」

 

「詳しいわねぇ」

 

「俺の新しい母親の連れ子だよ」

 

「義理の妹さん…」

 

「そういうことだ。で、何しに来たんだ?」

 

声優の桜に訊いた。だけど、俺の質問をスルーし、

 

「柏木先生、あのエラそうなハーレム王は誰ですか?」

 

って…ハーレム王が確定か?

 

「この部屋のオーナーのユースケ先生よ」

 

訳知り顔のエリさん。まぁ、大体の事情は知っているはずだ。

 

「ユースケ先生って、あのラノベ武道会を2連勝している?」

 

「そうよ。顔を売っておきなさい。あぁ、彼女になるのは無理だからね」

 

「彼女?いなそうに見えるけど…」

 

ぇぇ、どうせ、ソース顔ですから…

 

「あら?私の彼氏になんて失礼ない事を言うのかな?」

 

って、不機嫌そうに言う麻衣。売れっ子女優って、彼氏がいちゃマズい立場で無いのか?

 

「えっ!麻衣さんの彼氏が、ユースケ先生?!大スクープですねぇ~」

 

「あぁ、桜ちゃん、バラしたら、敵が多くなるわよ。今後仕事が出来なくなったりしてね」

 

エリさんが脅すような小悪魔チックな笑顔になっている。

 

「彼に、そんな権力あるんですか?」

 

「考えてもみなさい。原作者が、声優に水無月桜だけは使わないでくれって、呟けばいいのよ。永遠野先生のお兄さん枠のユースケ先生を敵にすると、どうなるかしらねぇ」

 

って、脅すように言うエリさん。なるほど、そういう脅し方も有るのか。

 

「そ、そ、それは…恐いです。そんなことしないでください…あっ!どかちゃんだぁ~」

 

この桜って子は、話題の切り替えが上手いのか?それとも、注意力散漫なのか?どかちゃんとは、「のどか」だから、「どかちゃん」が愛称らしい。

 

「私の義理の兄になるかもしれないんだから、秘密保持で、お願いね」

 

「義理の兄?えっ!マジで、桜島麻衣さんと付き合っているの…」

 

まぁ、モテない王が若手売れっ子女優の彼氏って、有り得ない設定ではあるけど…のどかが麻衣の妹って、有名のようだ。

 

「まぁ、この顔だし。お姉ちゃん以外に、物好きはいないかな」

 

って、のどか。

 

「そんなこと無いわよ。HAL先生がライバルかな」

 

って、苦笑いしている麻衣。確かに、遥はライバルになるのだろうな。一卵性双生児って言っても信じるのでは無いだろうか?

 

そして、そんな話していると、その遥がやって来た。固まる桜とのどか。

 

「麻衣さんって、一卵性双生児なんですか…」

 

って、驚いている。

 

「違います。私は円城寺遥って言います」

 

速効で、否定する遥。

 

「久しぶりに、祐介君に逢いたくなって、来ちゃった」

 

って、この強心臓は、どこから生えたのだろうか?麻衣がいるのに、甘えるように言い寄ってきた。

 

「片思いシンドロームは治ったのか?」

 

「病気じゃないのよ。治る治らないの話では無いから。あぁ、でもね、だいぶ片思いの心境が分かってきたわ」

 

桜と遥以外、皆苦笑い状態である。桜は固まっているし。

 

「ねぇねぇ、見分け方はあるの?」

 

のどかが小声で訊いて来た。麻衣大好き人間の、のどかでも、見分けが付かないらしい。

 

「胸が大きい方が麻衣だよ。問題はそこ以外、見た目で見分けが付かないことだ」

 

「う~ん…似すぎているってレベルで無くて、そっくりよね…これは強敵だわな」

 

義姉のライバル宣言の意味がわかったらしい、のどか。だが、問題は似ている事ではなく、遥の恋愛感だと思うんだけど…

 

「題材的には面白そうなのよね。彼女とソックリな彼女との間で揺れる彼氏の物語とか…」

 

エリさんが、俺にそう言って来た。

 

「当事者として、笑えない話ですよ」

 

胸以外に、香りも違うのだが、そんなことは言え無いよな。俺は、その辺りで判断しているのだが。

 

「まぁ、当事者だとそうかもね。HAL先生の恋愛感だけでも、お話になりそうだし」

 

エリさんの発言に、我関せずの遥。

 

「ねぇ、祐介君」

 

麻衣の目の前で俺の腕に抱き付き、俺の肩に頬を重ねて来た。

 

「うぅぅぅぅ…」

 

麻衣が唸っている。お怒りのようだが、遥は動じずに、遥の世界にいるようだ。

 

「スゴい…お姉ちゃんの目の前で…何、あの強心臓は…」

 

のどかが本当に驚いている。

 

「祐介くん…一人で何を想っていたの?」

 

一人で?麻衣がいるのに、そう訊くのか?

 

「ごほん!」

 

麻衣が咳払いするも、麻衣のことを、気にしていないようだ。

 

「ねぇ、祐介君の部屋で語り合いたい」

 

って…誰か、助けて下さい。麻衣の睨むような視線が、遥から俺に移動してきた。俺が悪いのか?

 

「遥…俺、一人で無いから…麻衣もいるし、梅もいる、花ちゃんと涼花もいるからさぁ」

 

「そうか…ねぇ、祐介君も一人暮らししようよ!」

 

はぁい?なんだ、その提案は?

 

「やはり、祐介君も片思いの気持ちを、大切にして欲しいの」

 

「はぁ~」

 

麻衣が大きく溜息を吐き、ソファーに腰を下ろした。遥の世界に割り込めないと、悟ったようだ。

 

「うわぁ~、強心臓だな…」

 

のどかが、驚き続けている。

 

「スゴい…これが片思いの語り部のHAL先生なんだ」

 

って、桜が感動しているし。遥の病気?暴走?は、この先どうなるんだ?

 

 

 



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会見

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---相沢祐介---

 

没3…う~ん、入賞して以来、ハードルが上がった気がする。ダメだ…ネタが無い…涼花、花ちゃんは、没も無く順調のようだ。

 

「祐介、ネタ切れ?」

 

麻衣が没原稿を読んでいる。

 

「私的にはいいと思うけど、売れるって担当編集者が思わないとダメなのね」

 

「そういうことです」

 

梅は、のどかとダンス練習している。まぁ、運動不足気味だし良いか。

 

「たまにはロケハンでも行く?」

 

麻衣はオフのようだ。

 

「売れっ子女優とデートかぁ…変な場所には行けないよね」

 

「そうねぇ…ホテル街はNGかな。後、大人の玩具屋さんもね」

 

なんな、つまらなそうだな、

 

「うん?そういう場所に行こうと思ったのかな?」

 

笑顔で俺の顔を覗き込む麻衣。

 

「う~ん、そういう処にネタが、堕ちていたりするかもだよ」

 

「そうなのか。売れ無くなったら、一緒に行ってあげるわ」

 

って、何十年先だ?麻衣は、生涯女優一本でやっていけると思うけど。

 

「そうねぇ…私の代役で、そういう場所を連れ歩けるのは…」

 

詩羽さんとか、エリさんかな?

 

「あの声優はどうかな?」

 

水無月桜だっけ?

 

「いいや。一人で行って来るよ」

 

久しぶりに、一人でお買い物へ行く事にした。

 

 

とは、言うものの…人混みを見るだけで気持ち悪くなる。どうするかな。電車は諦めて、バスにするか。バスは意外に空いていた。そして、秋葉原にやっと着いた。電車移動に比べて、3倍ほど時間が掛かったけど…妖しい、ディープなお店巡りをしていく。

 

「あれ?ユースケ先生?」

 

知り合いに出逢った。Wピース先生だ。

 

「先生もネタの仕込みですか?」

 

「私は、趣味ですねぇ~」

 

趣味?女性の趣味としてどうなのって、お店ですが…

 

「先生は、緊縛好きですか?」

 

「健全な男子ですから…ははは」

 

嫌いでは無い。Wピース先生のうんちくを訊きながら、買い物をしていく。この人はエスなのか?エムなのか?わからない…まぁ、春斗さんがエムぽいから、エスかな?

 

買い物を終え、Wピース先生と別れて、秋葉を彷徨う。

 

「あれ?義兄ちゃん…」

 

声をいきなり掛けられた。振り返るとのどかがいた。

 

「あれ?どうして…」

 

「あぁ、練習場が近くで、今、休憩中なんだよ。義姉さんとデートで無いの?」

 

「う~ん…連れ歩けないお店でお買い物」

 

「ド変態趣味?」

 

「そうかもしれない。って、いうか、取材だよ」

 

「取材?」

 

「色々なアイテムの名称を覚えたり、使用方法を覚えたり。妄想シーンには欠かせないでしょ?」

 

「まぁ、そうかもしれないねぇ」

 

クレープ屋さんがあったので、のどかにクレープをご馳走した。

 

「うん、美味しい。一口食べる?」

 

のどかに一口食べさせて貰った。

 

「美味しいなぁ。そうか、女の子好みのお店とかも、リサーチしないとダメなのか」

 

色々知らないと、色々なシチュエーションが書けないよな。

 

「今度、コンサートがあるんだよ。来る?」

 

「涼花辺りと行くかも。花ちゃんは興味無いみたいだし」

 

「わかった。チケットを2枚持っていくわ。あぁ、時間だ。クレープ、ありがとう」

 

のどかが走り去って行く。さて、どこへ行くかな。

 

 

麻衣に呼び出された。新宿のホテルへと向かう。ロビーとか売店などでウロウロして、尾行がいないかをチェックして、麻衣の待つ部屋へと向かった。

 

普通のホテルのダブルの部屋だった。

 

「意外そうね。たまにはこういう部屋もいいかなって」

 

麻衣が抱きついて来た。

 

「のどかから連絡を貰ってね。サービスしてあげてって…どこかへ行かないように」

 

のどかには、俺がどこかへ行こうとしていると、見えたのだろうか?今日の戦利品を一通り見た麻衣。どこか楽しそうである。女の子も妄想をするのであろうか?

 

シャワーを二人で浴びて、ベッドの上で麻衣と愛を確かめ合って…

 

翌朝…起きると麻衣の姿は無く、『お仕事に行ってきます』って、メモが机の上に残されていた。

 

 

自分の部屋へ戻り、ノートにストーリーを書き殴っていく。う~ん、しっとりとしないなぁ。

 

「お兄ちゃん、仕事を忘れるのも手ですよ」

 

って、涼花が俺の腿の上に跨がった。涼花の顔までの距離が近い。ふと、涼花の唇を小指でなぞってみた。すると、涼花の口から甘い声が漏れてきた。

 

「お兄ちゃん…感じちゃいます」

 

手の平で涼花のお尻の肉を、ゆっくり掴んでいく。

 

「お兄ちゃん…本当にダメです」

 

真っ赤に顔が染まっていく涼花。ダメと言いながら、俺との距離を徐々に縮めているような。女心が分からない。

 

「ごめんなさい」

 

涼花が俺に抱き付き、頬を重ねて来た。

 

「謝る事は無いのに」

 

「うっ…気持ち良いですか?」

 

「勿論だよ、涼花」

 

「よかった」

 

と、涼花とスキンシップ紛いなことをして、妄想力を高めて、ノートにストーリーを書き連ねていく。

 

「妹さんとイケナイことをする兄ですか…」

 

「ダメかな?」

 

「妹さんが嫌がらなければ、問題は無いかと」

 

「妹の方が積極的って、有り得るのかな?」

 

「う~ん…そうですね…お兄ちゃんの事が、大好きで堪らない場合なんか」

 

「そうなんだ…」

 

涼花を抱き抱えて、俺の部屋へ連れて行った。

 

 

疲れて寝ている涼花をベッドに残し、短編を書き始めた。時間が経つのを忘れていた夜中、麻衣から連絡が来た。

 

『写真週刊誌に出ちゃうけどいいよね?』

 

って…どこで撮られたんだ?

 

「どこでの写真?」

 

『う~ん、水無月桜が盗撮したっぽいの』

 

あの声優か…そうなると、この部屋か?

 

「記者会見を開くの?」

 

『そうね。開かないと…しばらく、帰れないかもしれない。だけど、絶対に帰るから…待っていてね…』

 

「勿論だよ…麻衣…」

 

通話は切れた。あの声優、どうするかな。

 

 

翌朝、水無月桜を呼びだした。

 

「何か、ありましたか?」

 

「お前…麻衣とのことを、週刊誌に売ったそうだな」

 

「何のことですか?」

 

惚ける桜。あぁ、梅は花ちゃんと梅の部屋に避難させてある。リビングにいるのは、俺と涼花、桜、詩羽さん、伊月さんだ。

 

「最低だな、お前は」

 

伊月さんのアニメに、桜は出ているそうだ。それの意味することは…

 

「ちょっと待ってください。伊月先生…」

 

咄嗟に伊月さんの言いたい事がわかった桜が、弁明をしたいようだ。

 

「俺の弟分を悲しませる行為を、俺は許さない!」

 

桜の前に、入手した今日発売のゲラ刷り原稿を置いた。

 

「このアングルって、桜が撮影者だよな?」

 

顔から血の気が失せていく桜。ただ、このアングルだと、ベルトか、カバンにカメラを仕込んだ感じではあるのだが…少し不自然ではある。

 

「知らなかったんです…私の兄です。カメラを仕込んだのは…」

 

はぁ?

 

桜の話によると、桜の兄はスーパーシスコンで、異性と桜が話すだけで嫉妬するクラスだという。そして、知らない間に、桜の持ち物に勝手にカメラを仕込み、交友関係を探っていて、そこの中から、今回のスクープ映像を手に入れ、小遣い稼ぎに売ったらしい。

 

「ごめんなさい」

 

謝る桜。

 

「そうなると、厄介だぞ、祐介」

 

って、伊月さん。桜の兄は、有名なアニメ監督の桜田 樹だそうだ。

 

「アイツを排除すると作品が成り立たない。代役がいないんだよ」

 

俺は、伊集院さんへ連絡をした。今回の件の相談をする為に。

 

『わかった。俺に任せろ。これでも弁護士資格は伊達じゃないんだ』

 

って。ここは専門家に任せるか。

 

 

 

---桜島麻衣---

 

撮影のロケ現場に集まる報道陣。

 

「麻衣さん、心配しないで良い。俺がついているから」

 

祐介君の叔父に当たる悟さんが、付いて来てくれていた。私の所属する佐田企画の社長さんでもある。

 

「記者会見の場はセッティングする。あぁ、俺も一緒に出るよ。さっきなぁ、伊集院から連絡があった。祐介君がリークしたヤツを突き止めたそうだ。法的な手段に出るそうだ」

 

祐介…会いたい…私に力をください…

 

「とにかく、今日の撮影を終わらせて来てくれ。会見はその後する」

 

「はい」

 

私は女優だ。演じきらないと。これで女優生命が消えたとしても、祐介が消える訳では無い。きっと、出迎えてくれるはずだ。だから、懸命に仕事をしないと…そして、今日の分の撮影を終え、会見場へと向かった。

 

「大丈夫だよ。ほら、笑顔を忘れちゃダメだよ」

 

悟さんが、傍にいてくれる。その先には祐介がいてくれる。こんなに心強い味方はいない。

 

「佐田家が、祐介の家族は護る。それは祐介との約束だからね」

 

私は祐介の家族って認識でいいみたいだ。ならば、失う物は何も無い。

 

舞台の上に、悟さんと向かい、報道陣の皆様に、頭を下げた。

 

「この度は、私のプライベートのことで、撮影に関わる皆さんに、ご迷惑をお掛けしました。報道の皆様の質問にはなるべく答えたいと想いますので、こういう騒ぎは、ここだけにしてください」

 

もう一度、頭を下げた私。

 

「では、今回の報道にあるように、彼氏は存在するのですね」

 

代表して掲載した雑誌の記者らしき人が、質問をしてきた。

 

「えぇ。おります」

 

「どこまでの関係ですか?」

 

どこまで?言えるか!

 

「恋人と想ってください」

 

「それはファンへの裏切り行為では無いですか?」

 

裏切り?世間は私を死亡扱いにしたのに?祐介だけだ、あの時、手を差し伸べてくれたのは…

 

「違います。裏切ることはしていません。私は彼に後押しされて、芸能活動を再開したのです」

 

「開き直りですか?」

 

「正直にお話していますけど。裏切り行為で無いとダメなんですか?」

 

「そんなことは無いですが…」

 

たじろぐ記者。

 

「私が彼氏を作ると、何かに違反するのですか?」

 

「そういう話では無いでしょ?アナタの彼氏は、犯罪者だとたれ込みがありますが」

 

コイツ、ネットでの噂を信じているのか。そのせいで、祐介は…ここは冷静に対処しないと。

 

「逆にお訊きします。彼はどんな犯罪をしたのですか?」

 

「学校で更衣室の覗きや盗撮、女性へのストーカー行為などですよ。知らないで付き合っているのですか?それならば、即刻、別れるべきです」

 

祐介と別れさせたいのか?祐介を追い込みたいのか…そうか、狙いは私でなくて、祐介の方なんだ…

 

「学校?おかしいですね。彼も私も通信制の高校で、履修しているんですよ。更衣室って、どういう意味ですか?ストーカーって、誰に対してですか?通学しない高校で、それって、成り立つんですか?」

 

この辺りは、予習問答で答えを考えてある。私は既に一度、根も葉もないガセネタで芸能界を去り、存在すら無くなったのだから。もう、過去に恐れる事は無い。祐介に背中を押され、祐介がいるから、今の私がいるのである。

 

「えっ!そんなはずは…証拠はあるんですよ」

 

「どんな証拠ですか?」

 

悟さんが攻撃に参加した。

 

「我々は桜島麻衣さんに質問をしているんだ。事務所の社長は、出て来ないで欲しい」

 

悟さんの正体を知らないとは…三流誌なのかな。

 

「麻衣さんの彼氏ですが、佐田家当主である私の弟です。その弟の根も葉もない悪評を聞いて流せる程、大人では無いんですよ」

 

不敵な笑みを浮かべる悟さん。その姿に、ざわめく報道陣。主にテレビ局のようだ。悟さんの正体が局から知らされているのだろう。

 

「これ以上のデッチ上げは、佐田家への攻撃と見なします。ここは、当社所属の女優、桜島麻衣の会見場であり、私の弟への個人攻撃の場では無いはずですが、どうなんですか?」

 

「質の悪い弟さんなんですね。お兄様の目を掠めて、悪行三昧とは」

 

三流誌の記者は、悟さんの正体に気づかず、質問の温度を下げずに上げようとしている。

 

「悪行三昧とは?」

 

「桜島麻衣さん以外にも、付き合っている女性がいるようですが、ご存じですか?」

 

遥さんのことかな?

 

「誰のことかな?」

 

「アイドル歌手の豊浜のどかですよ」

 

はぁ?あぁ、秋葉原で一緒にクレープを食べたっけ。

 

「それは、私の妹ですけど…街で見かけて、クレープを強請ったりしているようですよ」

 

真実を伝えると、相手は驚いているようだ。

 

「えっ!そんな…」

 

知らないのか?結構、業界では有名な話のはずだが。

 

「事実を調べずに、ガセを載せたってことですか?佐田家として、厳重に抗議させてもらいます。名誉毀損、名誉回復の請求などを、貴社及び、追従する総ての報道機関に、贈らせてもらいます。お楽しみにしてください」

 

スゴい…悟さんの言葉で、あの記者以外が、ハンディマイクをしまっていく。インタビューする意志は無いって、行動で示しているようだ。

 

「さて、悪行三昧の続きはどうなりました?まだ、1つも真実が出ていませんけど」

 

そんな時、ドカドカと、会見場には不釣り合いの人達が乱入してきて、あの記者を取り囲んだ。他社のカメラがその瞬間を捉えているようだ。何が起きたのかな。

 

「うっ!」

 

あの記者に、黒服の人達が群がっている。

 

「盗撮、盗聴、建造物への不法侵入の容疑で逮捕する」

 

って、声が聞こえる。刑事さん達のようだ。

 

 

 

---相沢祐介---

 

夜中…麻衣から、問題は無かったって、連絡があった。そして、翌朝のワイドショウでは、各局総てが麻衣の会見の様子を流していた。これはこれで、大きな宣伝になるのでは無いか?

 

『これって、考えようによっては、麻衣さんは玉の輿に乗ったってことでしょうか?』

 

『そうですね。あの佐田家の次期当主の彼女ですからねぇ』

 

って…俺のことか?次期当主は辞退する方向なんだけど。

 

『犯人のターゲットは麻衣さんではなく、その彼氏だった模様です』

 

え?!俺が狙われたのか?

 

『少年Aの嫉みからの犯行のようですね』

 

少年A?未成年の犯行?そうなると、俺の同級生だったやつか…

 

『ネットで拡散した情報を消すのは容易ではないことを理由に、彼の一族郎党に多大な損害賠償請求が突きつけられるそうですよ。類似した名誉毀損事案が、今後出ない為の見せしめらしいですよ』

 

と、俺の知らない処で決着したようだ。俺のネットでの虐め事件は…

 

 

ネットで『桜島麻衣』を検索すると、好意的な意見が多く見られる。毅然とした態度で、記者に立ち向かった姿勢が評価され、麻衣の評価は上がった感じだ。

 

「お兄ちゃんの評価は上がらないでいいの?」

 

涼花に訊かれた。

 

「あぁ、出る杭は打たれる。だから、俺は目立たない様にしたいんだよ」

 

「お兄ちゃんらしい返答だよね」

 

俺に抱きつく涼花。

 

その日の午後には、今度はのどかが会見を開いていた。

 

『姉さんの彼氏ですか?う~ん、冴えない男ですよ。えっ?姉さんのライバルですか…あぁ、強力なライバルがいるんですよ』

 

訳知り顔ののどか。って、いうか。俺が二股みたいな言い方だな、コイツ。って…遥の名前は出すなよ。アイツは取材がNGだからな…

 

「HAL先生は強敵だな。見分けが付かないし…」

 

って、花ちゃん。

 

「最終兵器級のライバルですよね」

 

って、涼花。まぁ、俺以外の人間で、見分けの付くのは、本人達くらいだろう。

 

新作を書き進めていると、スマホが鳴動した。目を通すと担当編集の母からのメールであった。おぉ、企画が通った。妹好きの兄の話では無く、もう1つの方か…自分でハードルを上げた気分がする。『彼女と瓜二つの女性に振り回される件』の企画が通ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 



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忍び寄る闇

---相沢祐介---

 

我が家の最近のブーム…生モノ系BL作品「ショートケーキシリーズ」である。詩羽先輩が持ち込み、皆カルチャーショックを受けつつ、嵌まったらしい。

 

「お兄ちゃんも、男の子が好きなの?」

 

梅に訊かれた。

 

「まさか…お兄ちゃんはノーマルだよ」

 

「私のことは?」

 

「大好きだよ」

 

優しく抱き締めてあげると、喜んでいるようだ。

 

「しかし、生々しいなぁ、これ」

 

って、麻衣。

 

「作者は普通のJKよ」

 

エリさんは、作者を知っているようだ。

 

「取材できるかな?」

 

作品では無く、作者に興味がある俺。

 

「どうだろう。今度訊いておくね」

 

 

取材の許可がとれたそうだ。エリさんと俺、涼花の3人で会いに行く。指定された公園に佇むジャージ姿の女性。彼女のようだ。

 

「真緒ちゃん!」

 

エリさんが声を掛けた。

 

「あっ!エリさん…えっ、男子もいるんですか…」

 

真緒ちゃんと呼ばれた女性が、俺の全身を舐めるように見ている。あの作品のキャラのような醤油顔では無い俺をだ。

 

「エリさんの彼氏ですか?」

 

「違う。その二人は小説家で、今回取材を希望していた本人よ」

 

エリさんの彼氏…いや、想い人はエロゲーの作家さんらしい。取材したいとエリさんに伝えたのだが、そっちは速攻で却下された。

 

「ふ~ん」

 

眼鏡のレンズを上下させて、俺を観察する女性。まるでハンターのようだ。

 

「なるほど。じっくりと観察して、妄想を広げるんですね」

 

涼花が納得顔で頷いている。

 

「で、どんなことを訊きたいの?」

 

「あの作品ってモデルがいるんですか?」

 

俺の質問にたじろぐ真緒。

 

「あれ?南条じゃん」

 

真緒が男子に声を掛けられた。振り返らずに、彼女の耳が真っ赤に染まっていく。想い人かな?

 

「おぉ、桐生かぁ…」

 

真緒の想い人の顔…どこかで見た事がある。

 

「あっ!モデルの人かな」

 

涼花が声を上げた。あぁ、あの作品のケーキの方に似ている男子。薔薇族なのか?少し身構える俺。

 

「モデルって…おっ!」

 

立ちくらみを起こす男子。モデルにされているのを知っているようだ。

 

「なぁ、君って薔薇族なのか?」

 

俺は彼に質問をしていた。

 

「俺は…ノーマルだよ!南条の作品はフィクションなんだから…」

 

予想に反して、彼はノーマルのようだ。

 

「兄さん…有名人なんだね」

 

「違うって!」

 

彼の妹さんだろうか。どこか、おっとりとしていて、俺の周囲にいないタイプである。

 

「お前、南条の知り合いか?」

 

真緒の隣に立った男子。更に顔が紅く染まる彼女。

 

「いや、取材しているんだよ。生モノ系BLの作者にねぇ」

 

「取材?」

 

「すっご~、真緒ちゃんが有名人なんだねぇ」

 

彼の妹の声で、更に紅くなる真緒。大丈夫か?毛細血管がキレないのか心配である。あれ?あの子…

 

「ねぇ、ノーパンで通学って、どんな気分なんですか?」

 

彼の妹さんに質問をしてみた。風で揺らめくスカートの中に、見えてはいけない物が見えたのだ。

 

「えっ!なんで、わかったの…」

 

耳が少し紅く染まる女子。

 

「祐介の探求心はデリカリーが無いわねぇ」

 

エリさんが苦笑しているようだ。気になると、つい質問してしまう。状況を考えずに…

 

「どうして…兄さんにはバレていないのに…」

 

彼女の兄は、動揺しているようだ。しきりに妹のスカートを気にしているようだ。そんな兄妹の様子を、涼花が迷わずにメモしている。

 

 

BL本作家の取材は、多少のハプニングがあったものの、無事に終わった。家に戻り、涼花と二人で、取材で得た情報から、プロットを考えていく。

 

「ノーパン、ノーブラで通学する妹って言うのはどうですか?」

 

「ノーブラは難しいだろ?ブラウスから透けて見えちゃうし」

 

試しに涼花がノーブラでブラウスを着用し姿見の前に立った。

 

「確かに…乳首が目立ちますね」

 

納得している涼花。

 

「へぇ~、ノーパンでスカートか。その子、勇気あるわね」

 

麻衣が涼花がメモした取材ノートを見ている。

 

「強風だとスカートが捲れて、見えちゃう危険もあるよな」

 

作中キャラ的にはオーケーだけど、実際問題はどうなんだろう。もっと、彼女の取材をしたいなぁ。エリさんから真緒の連絡先を聞き出し、今日会った、あの子の取材をしたいと持ちかけてみた。

 

その翌日、エリさんから、来週の週末、真緒と、あの子、桐生瑞葉が、我が家に来ると連絡があった。

 

 

 

---南条真緒---

 

憧れのマンガ家である柏木エリ先生から連絡が来た。今度は瑞葉を取材したいそうだ。柏木エリ先生は、私と同じ同人誌からプロの少女漫画家に転向した先駆者である。まさか、同い年くらいとは思わなかった。いや、一番の驚きポイントは、瑞葉がノーパンで通学していたことか…勇気ありすぎる。いや、なんで兄である桐生は気づかないんだ?

 

『ねぇ、佐田グランドホテルのロイヤルスィートって、興味無い?』

 

エリさんから魅惑的な言葉が呼び出した。超が付く一流ホテルのロイヤルスィートに興味を抱かない女子はいないと思う。その部屋に、招待してくれるって…条件は瑞葉と一緒に来ることって、そこで取材するのだろうか。私と瑞葉のポンコツJKを取材するのに、一体どのくらいの大金を掛けてくれるのだろう。

 

ネットで調べて見た。佐田グランドホテルにはロイヤルスィートが2つあるらしい。そのうちの1つは、次期当主の部屋として使われているそうで、実質1つしか稼働していないようだ。その貴重な部屋を取材に使うと言うのだ。プロのマンガ家は大金持ちなのか?

 

舞い上がる私。そんな上機嫌な私に、イヤなヤツから連絡があった。エロ系作家のチェリーボムである。

 

『なぁ、挿絵のイラストをまた頼みたいんだけど』

 

金払いは良いんだが、コイツのエロは破綻仕掛けている。エロでは無くグロに近いのであった。

 

「いいけど、私の名前は出さないでよね。評判が落ちると困るのよ」

 

『桐生慧輝だっけ?BL本のモデルの男子』

 

なんで、バレているんだ?

 

『彼、口説いちゃおうかな?』

 

コイツ、作風と違い、見た目は清楚な女子である。結構モテるという噂を聞いたことがある。

 

「待て!」

 

『じゃ、頼むね』

 

グロの大家の脅しに負けた…

 

 

 

---相沢桜----

 

実は、既に桐生慧輝とは、偶然を装って、接触済みである。もう一人のモデルである秋山翔馬は調べた結果、ロリコンで既に彼女がいることが分かっているので、ターゲットを桐生慧輝に絞った。今後も真緒にイラストを描かせる為である。専属イラストレーターであった梅を失ったのが痛かった。大好きな祐介もどこにいるかわからないし。失った弟妹の代わりに選んだのが、桐生慧輝とと南条真緒である。

 

桐生慧輝はノーマルな女性を彼女にしたがっている。そんな情報を得た私は、彼に接触した。地を出さずに、学校で見せている私を前面に打ち出し、真緒の知らない場所で、彼にアタックしている。既にファーストキスは奪った。もう少しで…彼の全裸の写真を真緒に見せれば、彼女の作品の参考になるだろうし。一石二鳥であると思う。

 

取材ノートを広げる。彼の周りにいる女は、巨乳ドMの朱鷺原紗雪、平板ドSの古賀唯花、臭いフェチの藤本彩乃、血の繋がらない妹で露出狂の桐生 瑞葉、ツンデレでヘタレの南条真緒がいる。

 

こいつらの人間関係をモデルに作品を書くかな。ペンネームは『南条真緒』にして、タイトルは『不器用な私と、ド変態なライバル達』とか…ふふふ。祐介!同じ舞台に返り咲くから待っていてね~。

 

 

 

---相沢祐介---

 

瑞葉と真緒が来る日を迎えた。ノーパン女子が興味があるらしい面々が集結していた。エリさんは勿論、詩羽先輩、紗霧ちゃん、山田さん、花ちゃん、涼花、何故か麻衣。梅は興味が無いようだが、遊び相手がいない為、リビングにみんなと共にいる。

 

真緒から連絡を貰い、エリさんがロビー階へ迎えにいった。お客様と言うことで、ルームサービスで、軽食と飲み物を用意してある。出迎えの準備は出来ていると思うけど。緊張するなぁ。

 

そして、部屋に入ってきたゲスト2名とエリさん。参加者が多い為、固まっているようだ。

 

「スゴイ…この景色、いいなぁ~」

 

固まっている真緒を尻目に、瑞葉が窓際に移動し、景色を眺めていた。

 

「いらっしゃいませ、相沢梅といいます」

 

そんな瑞葉に頭を下げて挨拶をする梅。

 

「桐生瑞葉っていいます。よろしくね」

 

「うん」

 

大きな小学生に動じない瑞葉。

 

「え、え、エリさん…これってどういう集まりですか?」

 

動揺している真緒がエリさんに声を掛けた。

 

「どういうって…作家仲間と、その家族よ」

 

家族?俺と梅と麻衣のことかな?後のみんなは作家だし。

 

「作家って…マンガ家?」

 

「ラノベ作家とイラストレーター…あと女優さんもいるけど」

 

「まさかと思うけど…あの人…桜島麻衣さん?」

 

「そうだけど」

 

さすが、麻衣さんは有名人である。知名度が高いようだ。

 

「な、な、なんでいるの?」

 

「ここの住民だから」

 

「住民?えっ!こ、こ、ここって…佐田グループの次期当主の部屋?」

 

「あら、よく知っているわね。予習をしてきたの?」

 

「ひゃ…」

 

真緒が汗を大量にかきだしだ。極度の緊張状態による多汗のようだ。俺は隣に駆け寄り、肩を抱いた。

 

「ゆっくり、呼吸をして」

 

「う、うん…」

 

過呼吸一歩手前か?麻衣を呼び、二人で真緒をベッドルームで休ませることにした。

 

「エリさん、彼女って、緊張し易いの?」

 

「そうねぇ、ツンデレ系だし、人見知りも激しいし。ちょっと、新顔が多くて、パニクったかな」

 

それなら安心だな。

 

 

 

---南条真緒---

 

意識が覚醒していく。いつの間に意識が飛んだのだろうか。なんだろうか。胸元がすぅ~すぅ~する。手で触ると…まさかの下着姿である。まさか、あの男に…下半身に手を伸ばすと、パンティーは履いている。濡れてもいない。なんで、下着姿なんだ?ゆっくりと瞼を開けていくと、そこには若手人気女優の桜島麻衣さんがいた。

 

「あぁ、目が覚めたのね。大丈夫かな?一応、生理食塩水の点滴は打っておいたけど」

 

私…倒れたのか?

 

「私…どうなったんですか?」

 

「ホテルに常駐しているドクターの見立てでは、緊張による多汗と貧血みたいよ。祐介に感謝してね。いち早く、あなたの異常に気が付き、あなたの身体を支えて、アレコレ指示をしてくれたんだから」

 

あの男…そんなことをしてくれたのか。

 

「彼は何者なんですか?」

 

「この部屋の主よ。職業はラノベ作家なの」

 

嬉しそうに彼のことを話す麻衣さん。

 

「麻衣さんの?」

 

「私の大恩人よ」

 

いや、彼氏かどうかを訊こうと思ったんだけど…へ?この部屋の主?それって、佐田グループの次期当主では?以前、麻衣さんは記者会見で彼氏であると…確認したい気持ちはあるが、目の前にいる麻衣さんは堂々としていて、とても訊ける雰囲気では無い。だけど、私の心を読んだのか、

 

「彼氏かどうかは、まだ未定よ。彼の問題が片付かないと、それどころじゃないから」

 

彼の問題。瑞葉に挨拶した女性…彼の妹さんなのだが、中学生である彼女は、精神を病んで小学校5年生だと思って居るそうだ。

 

「あの妹さんが元に戻らないと、大きな娘のある家庭になっちゃうって…私は気にしていないんだけどね」

 

誰もが悩みや闇を抱えているのだろう。目の前の麻衣さんだって…

 

 

 




相沢桜の闇…復活です(^^;


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闇の果てに

桜の闇の先には、もっと深い闇があった…って、感じです(^^;


---相沢祐介---

 

目の前でノーブラ、ノーパンの桐生瑞葉が、制服を着て、色々なシチュエーションの動きをしてくれていた。彼女はここにいる訳は、彼女の兄の問題行動にあった。涼花のような被害は無かったものの、家に女性を連れ込み、アブノーマルなプレイをしていたそうだ。

 

「兄さんは不潔です」

 

せめて、自分の部屋で彼女と愉しむのであれば、多少の問題はあるかもしれないが、リビングで愉しんでいたらしい。それを帰宅して、真面に見て仕舞ったそうだ。

 

「何も、食事をする場所でしなくても…」

 

それは、分かる気がする。なんか、喰う場所で、そういう行為は…俺もダメだな。

 

「そうですよ。変な女が付くと、兄さんはケダモノ化するもんです」

 

涼花が経験談を話し始めた。

 

「あなたもなの…」

 

「うん…でも、お兄ちゃんは大丈夫ですよ。こんなに美女に囲まれても、ケダモノになったことは無いし」

 

満面な笑みで俺を見る涼花。

 

「そうなんだ…私もここに住んでいいですか?」

 

瑞葉に訊かれて、頷く俺。困った女性達の駆け込み寺になりつつある、俺の部屋。今までいなかったタイプの瑞葉は、小説を書く上での貴重な資料になりそうである。

 

「全裸ではリビングには来ないでね」

 

「そこまでの根性は無いです。安心してください」

 

こうして、ノーパン少女が同居を決めた。

 

 

 

---相沢桜---

 

桐生慧輝と同棲し始めた。ジャマだった妹の排除に成功したようだった。ダイニングキッチンでのプレイ…夕食の支度にやってきた、妹にマザマザと見せつけてあげたら、出て行ってくれた。彼の前では外向きな顔と性格で過ごす。南条真緒には本性むき出しで迫る。

 

「なんですって…桐生と同棲をし始めたの?」

 

真緒を呼び出し、私達の甘い生活の画像を見せつけた。

 

「私の依頼は断れないよね?」

 

公園の公衆トイレに連れ込み、真緒に迫る。

 

「なんで、そんなことを…」

 

「決まっているでしょ?真緒が素直にならないからよ」

 

真緒の制服に手を掛け、脱がしていく。公衆トイレ内で全裸になり、淫らなポーズをさせて、スマホに収めていく。

 

「あれ?濡れているの?エムなのね、ふふふ」

 

こいつも調教して、玩具にするかな。

 

心身共にバテた真緒を公衆トイレに置き去り、彼の待つ家へと戻った。笑顔で私を出迎えてくれる彼。笑顔で彼にタダイマのキスを、夕食前に彼の部屋で愛を確かめ合う。もう、彼は私に夢中である。

 

彼との同棲生活を始め、運気が向いてきたのか、ペンネームを変えて、違う出版社からラノベを出す事に成功した。新しいペンネームは桐生真緒で、新作は『不器用な私と、ド変態なライバル達』である。勿論、イラストは南条真緒である。次回のラノベ異種武道会への参加を目指し、一生懸命に作品を書いていく。祐介に会いたいから。再会できたら、祐介と駆け落ちをしないとね。

 

 

 

---相沢祐介---

 

母から連絡が来た。あの破壊的な姉が、家出をしたそうで、外出は控えるようにとのことだ。俺を探しに出たらしい。母的には、なんらかの犯罪行為を心配しているようだ。俺を壊し、梅をも壊した張本人である。ただ、これまでは家庭内でのことなので、警察沙汰には成らなかったが、万が一、家族以外に手を掛けると、それは犯罪になるらしい。

 

「どこへ行ったか、わからないの?」

 

「えぇ…分からないわ。祐介の住処はバレていないと思うけど、注意しなさいね」

 

注意のしようが無い気がする。出版社には新作の原稿は届いていないそうで、消息がまるで掴めないらしい。

 

「ねぇ、祐介の姉の画像ってある?顔を知らないと、注意のしようが無いからね」

 

麻衣に言われ、スマホに姉の画像を表示させた。

 

「コイツだよ」

 

梅には刺激が強いので、部屋に退避させてあるが、瑞葉の表情が強ばっていく。

 

「これ…兄さんの彼女…」

 

瑞葉の声が震えている。

 

「…」

 

瑞葉を追い出し、瑞葉の兄を骨抜きにした張本人らしい。

 

「なんで、瑞葉の兄なんだ?ラノベは書いていないよね?」

 

「書いていません」

 

瑞葉の兄に取り憑く理由が分からない。瑞葉と俺の接点って、BL本の作家の南条真緒だったよな…

 

「南条真緒って、イラストのバイトしている?」

 

「少女漫画を書いているので、イラストのバイトをする時間は無いんじゃないかな」

 

瑞葉が俺の疑念を否定したが、姉の専属イラストレーターの梅は、イラストを描ける状態では無い。なんか、イヤな予感がするんだけど…

 

「涼花、ネットで南条真緒を検索して、イラストを描いていないかチェックしてくれるかな?」

 

「わかりました…あっ!描いています…桐生真緒って人の作品のイラストを担当しています」

 

出版社は母のいる出版社では無い。なんか、ヤバい気がする。確か、南条真緒は瑞葉の兄に惚れていたはずだ。イラストを描かせる為の道具として、瑞葉の兄を取り込んだとか…俺は伊集院さんへ連絡をして、その辺りの調査を依頼した。荒事は、素人の俺達が手を出して良い分野では無いから。

 

 

 

---相沢桜---

 

目の前で、南条真緒と桐生慧輝が身体を重ねている。イラストを描いたご褒美を真緒に与えたのだ。真緒のおかげで、第2巻の原稿は、無事納品出来た。真緒は既に私が遊び倒し、精も根も尽き果てている。一方、慧輝は薬で動きを封じている。だが竿だけは元気その物で、真緒に深々と刺さっている。今後の参考に、あらゆる体位の参考画像を撮影中である。祐介はどんな体位が好みなのかな?

 

ガッシャン!

 

祐介への妄想を膨らませていると、玄関で音がした。あの妹が帰って来たのか?ちょっと、調教してあがるかな。スタンガンを手に持ち、玄関へと向かうと、

 

「相沢桜だな?うん?手に持っているのはスタンガンか?」

 

スーツを着た男が二人いた。なんだ、コイツらは?手に棒を持っている。

 

「何?あんた達は、誰?」

 

「警察だ。抵抗せずに、スタンガンを放せ」

 

警察?

 

「呼んでいないけど?勝手に家に入らないでね。そういうのを不法侵入って言うのよ」

 

「桜!いい加減にしなさい!」

 

男共の背後に、母が立っていた。なんで、ここがバレたんだ?母に気を取られた隙に、男達に制圧され、手首に金属の感触を感じた。

 

「確保した。現在時刻は…」

 

これって、手錠?なんで?祐介に会いたいだけなのに?それって、罪になるの?

 

 

 

---相沢祐介---

 

伊集院さんから連絡が来た。俺のイヤな予感は的中してしまった。伊集院さんの調査により、南条真緒と桐生慧輝の二人が、ここ1週間くらい学校を無断欠席していることが分かったのだ。二人の家を調べた結果、南条真緒は家に帰ってきておらず、桐生家には誰かが住んでいる形跡があったそうだ。そこで、伊集院さんは、母と警察へ連絡して、桐生家へ捜索乗り出したそうだ。そこで、姉は二人を薬漬け、拷問三昧をして、調教、洗脳していたそうだった。

 

「瑞葉…ゴメン…俺の姉が…」

 

瑞葉に土下座をする俺。

 

「頭を上げてください。祐介さんのせいでは無いですよ。私の兄さんに隙があったんですよ。真緒さんは、兄さんへの恋心を弄ばれたんでしょうね」

 

土下座する俺を優しく抱き締めて、立ち上がらせてくれた瑞葉。姉の犯した罪は様々あるらしい。が…精神鑑定により罪は問えない可能性があるらしい。俺と梅を精神的に追い込み、第三者を心身喪失状態にしたのにだ。

 

「未成年の犯罪だし、精神疾患だし、罪は問えないだろうね」

 

伊集院さんが、弁護士の立場で、今後の展開を教えてくれた。

 

「病院に入院だろうけど、脱走したり、退院したりした場合、同じようなことをするか、直接祐介君に向かうかは五分五分の気がする」

 

姉も壊れているようだ。姉の供述に矛盾は無いが、その方法、方向性は間違った物だった。俺と再会して、俺と駆け落ちをする。それが、何の罪に当たるんだと、担当弁護士を困らせているそうだ。俺の意思を無視して、再会する為に、真緒に無理矢理イラストを描かせ、ペンネームを変えてまで、新作を発行させていた。その執念はスゴイんだけど…

 

どこで姉の人生は狂ったんだろうか?

 

姉の補導は、姉の通学していた高校に衝撃を与えたそうだ。高校では優等生で、誰もが憧れるアイドル的な存在だったから、その犯した行為との落差は、やはり破壊的だったようだ。

 

「祐介の姉さんって、ある意味すごいなぁ」

 

って、伊月さん。

 

「祐介に聞いていた以上に、狂っているし」

 

ここまでとは思わなかった。戸籍的には、既に俺は相沢家の人間では無い。だけど…

 

父と母へ世間からのバッシングが降り注いでいく。『両親の監督責任を問う』とか週刊誌や新聞、テレビで毎日、その文字列が踊っている。それと同時にネット上では、俺を含む相沢家の個人情報が拡散されていた。被害者である梅のことも、加害者扱いである。

 

 

「梅ちゃんの様子はどう?」

 

知り合いが梅の心配をしてくれているのが救いだろうか。俺の部屋にはテレビは無い。麻衣やのどかの出演した番組は、DVDに焼いて持ち込まれ、それを鑑賞しているので、梅の目や耳に、梅にとっての有害な情報は届かない。

 

「外に出掛けられないから、少し元気は無いかな」

 

道路に面した窓からはヘリの音がする。パパラッチがこの部屋を得物にしようと待ち構えているのだ。なので、窓には総て蓋がしてある。

 

「なんで、この部屋がバレたんだ?」

 

悟さんが苦虫を潰したような表情である。姉の関係者がここにいるって、外部の者は知らないはずらしい。だけど、ネットで俺の居場所が特定され、『あの狂女の弟はあの少年Aで、最高級ホテルのスィート住まい。なんらかの犯罪で金を得ているらしい。タイホ間近か?!』と、ネットやテレビで流れているそうだ。

 

「ねぇ、私の島に退避しない?」

 

山田さんが、プライベートアイランドへの逃避を提案していくれた。

 

「あそこなら、新作も書ける環境だと思うのよ」

 

「問題は移動経路だな…」

 

このホテルは周囲をマスコミが張り付いていた。マスコミだけでなく、ネットの住民を張り付いているだろう。誰もが特ダネを独占しようと、息巻いているんだろうな。

 

「わかったよ。リーク元がさぁ」

 

伊集院さんが調査結果を報告しに来てくれた。

 

「まず発端となった、祐介君のネットでの虐めの大元は、政治家の息子で、祐介君のクラスメイトだ。彼は遙さんに恋心を抱いていたようで、様々な忖度を生徒や教師、教育委員会にするように導いたようだ」

 

政治家絡みなのか?

 

「で、今回なんだけど、その政治家のスキャンダルのもみ消しのバーターとして、警察が持っている情報をマスコミにリークしたようだ」

 

悪事を誤魔化す為に、俺達の情報を売ったのか?

 

「明日辺りから、一般紙が政治家のターゲットにする。今回のカラクリもテレビで流れる。もうしばらくすれば、元の生活も可能かもしれない」

 

それは、完全に元の生活に戻れない可能性もあるってことか…まぁ、しばらくは様子見だな。

 

 

翌日…俺の出生の秘密がネットを通じて拡散していった。情報リークしていた政治家は、悟さん、伊集院さん達の先代の派閥の者達から、情報を買ったらしく、また件の政治家のスキャンダルは流れなかった。

 

「祐介…」

 

俺には麻衣が寄り添ってくれ、梅には涼花と花ちゃんが寄り添っていた。

 

 

俺…産まれて来なければ良かったのかな…

 

『お兄ちゃんは悪くないよ』

 

梅の声が脳裏で聞こえた気がした。梅を見ると、花ちゃんに寄り添い寝ていた。疲れているのかな?目を閉じるの睡魔に誘われ、翌日、事態は動いた。俺は以前の麻衣のように、誰からも認識されなくなっていたのだった。

 



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闇に浮かぶ光の筋

 

認識されなくなった原因を考える。忖度という敵を前にして、絶望感に苛まれ、そこから奪取したいと、皆願ったのかもしれない。結果、事態の原因の俺は排除され…

 

スマホでネットを見ると、『少年A、遂にタイホ…護送中に突然死か?』という文字列が踊っていた。なんだ、これは?俺、タイホすらされていないんだけど…これも忖度記事だろうか?俺はいない方がいいのかもしれない。

 

ホテル内では、悟さんすら、俺を認識できなくなっていた。ホテルを出ようとする俺。だけど、誰かに背中を捕まれていた。

 

「お兄ちゃん…置いて行かないで…梅…良い子になるから」

 

梅だった。目に涙をたくさん蓄えている。服装は、中学生としての梅の外着のようだ。

 

「梅には見えるのか?」

 

「うん…見える…お兄ちゃんが見えるよ。だから、置いて行かないで。梅、もう、お兄ちゃんに素直に接するから。もう一人にしないで…」

 

俺と梅は二人で、相沢家へと向かった。途中、自動ドアが反応しなかったり、透明人間には不自由な世の中を実感した。あの時の麻衣の心細い気持ちが分かるなぁ。その反面、自動改札なども反応しないため、電車は無賃乗車し放題ではあった。

 

苦難の連続で自宅に戻ると、既に誰も住んでなく、売り家になっていた。どこに行ったんだ、母さんは…

 

「どうする?」

 

梅に訊かれた。

 

「飯が問題だよな」

 

自動販売機が反応しないのだ。コンビニでも買い物は出来無いし、麻衣の場合を考えると、女優の麻衣と知らない場合、認識率が高かったよな。その理論から行くと、少年Aが俺ではないと認識する人々には、認識されるはずだが、スマホニュースを見ない人じゃないとダメだよなぁ。

 

ふと閃きが降りてきた。そういう人物に心当たりがある。その人物の元へと向かった。

 

「どうしたの?急に来るなんて、珍しい」

 

予想通り、遙には、俺と梅が認識出来た。早速、遙に現状を話した。

 

「なるほどなるほど。この広い世の中で、私だけが祐介君を認識出来るんだねぇ」

 

って、俺達の苦難な状況を喜んでいる遙。

 

「お兄ちゃん…姉並に壊れているんじゃないの?」

 

梅が心配そうに訊いて来た。

 

「犯罪臭はしないから、大丈夫だろう。壊れている件は賛成だけどな」

 

遙も壊れている。両想いより片想いでいたいと言い、俺の告白に良い返事をくれない。

 

「わかったわ。私が養う」

 

って、ここ、遙の自宅である。遙の両親もいるのだが、両親には俺達は認識されていない。本当に、ここで大丈夫か?

 

 

大丈夫では無かった。遙は両親による忖度により、政治家のバカ息子に差し出された。黒服の男達がやってきて、遙は政治家の家に連れて行かれたようだ。

 

「どうする?ねぇ、お兄ちゃん」

 

取り敢えず、遙の部屋でカバンをゲットし、遙の家で食料をゲットして、放浪生活に戻った。認識してくれた人の家の物は、持ち出せるようだ。後、スマホに目を通さない人物って誰がいる?そう言えば、父さん…スマホ持っていない。父さんが缶詰にされている宿へ向かった。

 

以前、透明人間になりたいって、願った時期があったが、実際に透明人間になり、後悔している。不便すぎる。食べれば出る物は出る。が、公衆トイレのトイレットペーパーが使えなかった。トイレットペーパーにすら、認識されない俺達。しかたなく遙の家に戻り、トイレットペーパーを盗んできた。犯罪かもしれないが、梅の尊厳の為である。緊急避難的な要素だと思うし。

 

そして、父さんのいる定宿へと向かった。人里から離れた携帯電話すら使えない山間にある。

 

「どうしたんだ?祐介、梅」

 

父さんは俺達を認識してくれた。これまでの事情を話していく。

 

「ふ~む、思春期症候群かぁ」

 

父さんは思春期症候群と言う単語を知っていた。訊いてみたら、麻衣とのトークショウの時に、知ったそうだ。そういや、俺も梅も。あのトークショウは観覧していないな。

 

「困ったなぁ。ここは私の執筆スペースしかない。寝るにしても、一人分の布団だけだ。一番の問題は食事とトイレだろ?」

 

ここには毎日、父さんの分の食事しか届かない。トレイは梅だけが使えればいい。その分のトイレットペーパーは持って来た。

 

「そうだ!別荘に行け。あそこなら畑もあるし、森から食材を取って来られるし」

 

父さんの別荘か。買うには買ったが、缶詰尽くしの父さんが、別荘へ行く暇は無かった。あそこには黒電話とラジオしかない。それに一縷の望みを掛けてみた。

 

 

レンタカーで父さんに連れて行ってもらった。ここなら生きられそうだ。電気は太陽光発電だし、蓄電池もあるので、夜も安心である。

 

「じゃ、たまに来る。その時に食料を持ち込む」

 

そう言い残し、父さんは缶詰な宿へと戻っていった。残れされた俺と梅で、畑を耕し、森で野草やキノコを摘んでくる自給自足な毎日が始まった。

 

 

梅と二人だけの世界…たまに父さんが来て、着る物や食べる物を差し入れてくれた。原稿用紙と鉛筆、スケッチブックと色鉛筆が、俺達の娯楽である。俺が物語を書き、梅がイラストを描く。それらを冊子状態にして、父さんへプレゼントしていく。そんな暮らしを続けていった。

 

数年経過した頃、

 

「あの政治家がやっと失脚したぞ。バカ息子がJKと回春して、オヤジの方は政治資金規正法違反だと。特捜が入って、叩くと出るわ出るわの不正の痕跡だってさぁ」

 

父さんが最新ニュースを知らせてくれた。

 

「遙はどうなった?」

 

あの時、連れて行かれたはずだ。

 

「タイホ者の中にはいなかったぞ。バカ息子の女房は…」

 

突然、言葉をゴニョゴニョした父さん。

 

「バカ息子は誰と結婚したんだ?」

 

「お前の元カノ…桜島麻衣だ。結婚を機に女優業を引退して、若手政治家の妻をしていたそうだ」

 

まぁ、遙とうり二つだからなぁ…じゃ、遙は?

 

「そうそう、悟さん達は?後、母さんは?」

 

「祐介のことを覚えていない。透明人間のままだよ」

 

まだ、透明人間のままなのか…

 

「なぁ、梅も二十歳になったことだし、お前達、夫婦になってはどうかな?」

 

もう、あれからそんなに経過したのか。ここでの生活は年月の経過に疎くなるな。

 

「私は…お兄ちゃんの妹でいたい。ダメかな、お兄ちゃん…」

 

「夫婦になっても、今の関係は変わらないから、梅の意思にまかせるよ」

 

「うん」

 

父さんは孫の顔を見たいのだろうか?そもそも、透明人間では、婚姻届けが出せないと思うんだよ。

 

「ところで、アレは?」

 

「アレか?病院を何度も脱走をしてな、今は塀の中だ。無期懲役なんだが、懲役刑がこなせないそうだ」

 

無期かぁ~、何をやったんだ?困った姉である。税金で生き延びているのが、むかつく。俺達は、こんなにも苦労しているのに。

 

「アレはあのまんまだろう」

 

そうなると、俺か梅が子供を作らないと、父さんに孫は出来無い。俺は相沢家の者ではないから…いや、待てよ。確か、俺が結婚すると、夫婦養子になるんだっけ。そうなると梅の相手は俺以外で無いとダメだな。

 

「まぁ、二人共元気そうだし。また来るよ」

 

って…

 

「待てよ、父さん。母さんはどうしたんだ?」

 

「入院している。梅の妹を身籠もっているんだよ」

 

「私の妹かぁ…逢えるかな」

 

三姉妹になるのか…優しい妹だといいなぁ。

 

「母さんは、お前達二人を認識できていない。だから、逢ってもなぁ…」

 

哀しそうな父さんの顔。母さんは俺達のことを覚えていないのか。

 

「そうか…父さんだけなのね」

 

梅が久しぶり大泣きして、俺に抱きついてきた。

 

 

思うのだが、二十歳を超えて、思春期症候群ってなんだ?いい加減、透明人間の呪縛から逃れられないのか?

 

「お兄ちゃん、アユが釣れたよ」

 

嬉しそうに、梅が釣りから帰って来た。ここは俺達しかいない。この山は父さんの物なので、川も自由に使えるのだ。秋には松茸が採れるし、良い山である。梅は釣ってきた鮎を生け簀に放した。喰いきれない分は飼育している。今日は兎の肉があるからね。

 

 

 

---佐田悟---

 

久しぶりに兄さん達夫婦が住む予定だった部屋へ向かった。20年くらい足を踏み入れていない。マスターキーを手にしようとして、異変に気が付いた。予備のマスターキーが無くなっていた。俺しか開けられない金庫にしまっていたのに、何故だ?俺はマスターキーを手にして、目的の部屋に急いだ。

 

部屋は誰かが使っていたような感じであった。誰が?一部屋ずつ見ていくと、通信制高校の参考書がある部屋に、学生証が置いてあった。『佐田祐介』という人物の物だ。顔写真は、どこか兄と義姉の面影がある。どうして?俺に甥ッ子がいたのか?記憶にない甥の存在。洗脳でもされたのか?俺は、俺の顧問弁護士をしいてくれている伊集院に連絡を取った。

 

用件を伝えると、事務所に来るように言われ、伊集院の自宅兼事務所へと向かった。

 

「端的に言うが、その佐田祐介と言う人物は、6年前、お前が養子に迎えている」

 

「記憶に無いんだが…」

 

「あぁ、俺もだよ。その申請書類には俺のサインがあるのに…」

 

俺と伊集院の両方の記憶に何かをしたのか?誰が?先代派の老害どもの顔が浮かぶ。あの忖度強要の政治家に繋がっていたし。

 

「その祐介の旧姓は、相沢だ。父親は小説家の相沢貞治だよ。面会を申し込んである。お前も行くか?」

 

「勿論だ」

 

伊集院は手回しが早い。俺がここに車での時間で、相沢貞治との面会をセッテイングしておいてくれた。

 

「相沢貞治は、事情を知っているようだった。俺が連絡したら、漸くかって…」

 

どうして、思い出せないんだ?甥が生きていたことを…養子縁組したのに、なんで、手元にいないんだ?俺が追い出したのか?

 

 

相沢貞治は、大都市から離れた温泉宿の離れにいた。ここで缶詰生活をもう何年も続けているそうだ。

 

「やっと、気づいてくれたのですね」

 

気づく?

 

「俺達は、なんで、甥のことを覚えていないんですか?」

 

相沢氏にストレートに訊いた。

 

「悟さん、6年前、あなたのホテルでディナーショーをしたのを覚えておいでかな?」

 

クリスマスに行ったトークショウのことかな?そうだ、あの時相沢氏と若手女優の筆頭である桜島麻衣さんと、ラノベ界の大型新人である永遠野誓先生をお呼びしたんだっけ。

 

「えぇ、覚えています。普段、公の場に顔を出さないお二方がでてくださり、驚きましたよ」

 

「あのショーの企画は祐介がしたのを覚えているかな?」

 

「えっ…」

 

記憶に無い…なんでだ?相沢氏がウソを吐いているとは思えないが。

 

「忘れているんですか…では、あの時、麻衣さんが話した奇妙な話は覚えていますかな?」

 

奇妙な話?う~ん…確か、透明人間になってしまった…

 

「思春期症候群ですね」

 

俺が思い出している隙に、伊集院が正解に辿り着いていた。

 

「そうです。麻衣さんは、ネットで酷い根も葉もない書き込みをされ、その存在を消されてしまったんです」

 

まさか…俺達の甥っ子も…俺と伊集院が顔を向き合わせた。伊集院も同じ答えに辿り着いたようだ。

 

「私の息子だった祐介も、根も葉もない書き込みにより、殆どの人々の記憶から、消し去られてしまいました」

 

「殆ど?覚えてる者はいるのですか?」

 

「えぇ、私と私の娘の梅、後は円城寺遥さんです。ただ、遙さんは、忖度総理の息子へ、両親が差し出してしまい、行方知れずですよ」

 

忖度総理とは、周囲の者達に忖度を強要し、総理にまでなった政治家である。つい、先頃、失脚したばかりである。失脚したソイツの屋敷に、特捜が入り、多数の未婚女性達を救出したそうだ。気に入った女性達の両親を恫喝し、忖度させるように仕向け、娘を差し出させていたそうだ。そう言えば、ソイツの息子の嫁は、あの桜島麻衣だったなぁ。あれも忖度の産んだ悲劇か?

 

「あのバカ息子の書き込みのせい…私の息子だった祐介は、殺されたも同じですよ」

 

相沢氏は俺達に背を向けた。小刻みに肩が震えている。悔し涙を流されているのか…くそっ!なんで、思い出せないんだ…

 

「どうすれば、思い出せますか?」

 

伊集院が訊いた。相沢氏は、部屋の備え付けられているタンスから、紙の束を取り出してきた。

 

「これを、あなた方お二人に託します。祐介を救ってください。お願いします」

 

俺達に頭を下げてきた相沢氏。思い出せないのに、無理で無いか?

 

 

相沢氏の逗留している宿に、俺と伊集院で宿泊することにした。そこで、相沢氏から託された紙の束に目を通していく。それは、『世界で一番●●な君へ』

という小説であった。作者名はユースケで、イラスト担当はブラザーコーンとある。その小説はオリ主である少年が、思春期症候群に悩む少女を救う物語で

あるようだ。所々、イラストも描かれていて、読みやすい。その少年の出生の秘密の下りを読むと、涙があふれていく。

 

「祐介…すまん。忘れていて…」

 

想い出が脳裏に蘇っていく。楽しかった日々の想い出だ。

 

「そうだったな。祐介の部屋はいつの間にか、救いを求める女性の駆け込み寺になっていったんだよな」

 

伊集院の記憶も蘇って来たようだ。そうだ。祐介の部屋にいた少女達は、いつも笑顔で幸せそうだった。救われたんだろうな、あの部屋で…祐介に…

 

「祐介は誰が救ってくれるんだ?」

 

「決まっているだろ。俺達だよ」

 

伊集院の顔は楽しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 



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『世界で一番好きな君へ』

---佐田悟---

 

伊集院の行動は素早かった。相沢氏から預かった原稿で、書籍を作り上げ、売り出した。

 

「アレを読み、記憶を蘇らせる者がまだいるかもしれないぞ」

 

そうだな。俺は、祐介の部屋をクリーニングするよう、指示を出した。置かれている物の位置は極力変えないように、注意事項を設定して。

 

「後は、祐介達がどこにいるかだな」

 

「それなら、予想はついている。相沢氏名義の山林があるんだよ。そこじゃないかな。そこにある別荘は、太陽光発電システムを導入してあるみたいだからな。それよりも問題は、6年も祐介に手を差し出せなかったことだ。俺達を許してくれるかな」

 

伊集院の表情が陰った。それは、俺も同じである。

 

「まぁ、会ってみてから、考えよう」

 

俺達は、祐介を迎える準備をしていく。あの時、一緒にいた少女達の追跡調査がメインである。きっと、祐介は彼女達のことが心配だろうから。

 

 

 

---桜島麻衣---

 

漸く、解放された。地獄のような日々から…母さんが私を知らない政治家の息子に差し出したのだ。差し出されて、連れて行かれた場所で、婚姻届けの写しを見せられ、6年も若手政治家の妻を演じてきた。好きでも無い男に抱かれる日々…苦痛でしか無い。

 

解放されたのはいいが、今の私の心の中はぽっかりと空いている。この先、何をしていいのか、分からない。罪に問われることはしていないが、共犯関係があることを前提に、連日の事情聴取で、私の尊厳は何度も殺され、捨てられた。今は、妹ののどかのマンションに転がりこんでいた。街を歩けば、マスコミ関係者に囲まれ、来る仕事はAVとかヌードとかの仕事ばかりで、汚れ役専門女優のレッテルが貼られているようだ。

 

お忍びで出たお買い物。パパラッチに見つからないように、細心の注意を払い、お店を回る。そんな中、ふと立ち寄った本屋さんで1冊の本を手に取った。どこか懐かしい風景が描かれている表紙。大きな居間で、団らんをしている少女達の絵…顔は描かれていないが、皆幸せそうに思えた。その本を買い、のどかの家に戻り、内容を読んでいく。読み進めるほどに、涙がこぼれていく。なんでかな…何か懐かしい想い出を思い出せそうで思い出せない。なんで?

 

本を読みながら、寝てしまったのか、不思議な夢を見た。透明人間になった私…世界で一人だけ、彼だけが私を私と認識してくれたのだ。彼とお花畑でダンスをし、花の蜜を分け合う。あぁ、祐介君に会いたいなぁ…今、どうしているんだろう…

 

「祐介…君?って、誰だ?」

 

顔の見えない彼。名前だけ知っていた私。彼とどこかで会ったことがあるのか?スマホやアルバムを見ていくが、手がかりは無い。

 

「ただいま~」

 

のどかが帰って来た。そうだ、のどかなら。

 

「ねぇ、祐介君って、知っている?」

 

「誰、それ?」

 

怪訝な表情ののどか。やっぱり、夢の中の登場人物か…

 

「この本を読んで寝たら、その名前が浮かんで…」

 

本を手に取るのどか。

 

「えっ…」

 

何かを見て固まったのどか。

 

「どうしたの?」

 

「このイラスト…私の練習着を来た私にソックリなの…」

 

それは、主人公の妹さんが、ダンスの練習をしているシーンにある挿絵。ダンスの先生に妹さんがダンスを習っているようだ。まどかは、その本を最初から読み始めた。休憩を挟まずに、一気に読み込んでいく。

 

「なんか、懐かしい気分になれるんだけど…」

 

「私もよ、のどか。なんでか、理由が分からないのが謎よね」

 

「ねぇ、姉さんの初めての相手って、誰?」

 

突然、訊いて来たのどか。

 

「そんなの祐介君に…えっ?祐介君って誰?」

 

私とのどかは顔を見合わせた。

 

 

 

---桐生瑞葉---

 

兄夫婦との同居生活。家事の出来ない兄夫婦に代わって、私が家事を執り行っている。兄の奥さん、真緒さんは犯罪に巻き込まれ、PTSDを発症し、寝たきりであり、家事だけでなく、身の回りのことすら一切出来無い。故に、彼女の世話をするのは私の仕事となる。

 

彼女の巻き込まれた犯罪は、兄が関係していた。兄と兄の彼女が、真緒さんに乱暴して、彼女の身体と心に深い傷を負わせてしまったのだ。現在、兄は真緒さんの治療費を稼ぎに出ている。兄はその当時の彼女に対して共依存状態であり、主導権を握った彼女の命令で、真緒さんを調教していたそうだ。数年前まで塀の中にいた兄は、働き口に困り、きつい仕事を泊まり込みで行っている。家に帰ってくるのは1年に数日である。

 

夕食の買い物ついでに寄った本屋さんで、1冊の本に巡り会った。どこか懐かしい風景の表紙。ソレをレジへと持っていった。

 

 

 

---相沢祐介---

 

狩りをして帰ってくると、家の前に、ランクルが止まっていた。ナンバーを見ると、レンタカーでは無かった。父さんでは無いようだが、他にここを訪れる者など、いない。誰だ?家に入ると、

 

「ゆうすけぇぇぇぇ~!」

 

俺の名前を呼びながら、抱きついて来た女性がいた。黒髪で割と細めな女性。目の前では梅と金髪と女性が俺達を暖かい目で見ている。誰だ、この人は?

 

「ごめんなさい…私を助けてくれたのに…祐介を助けられなくて…」

 

目の前で梅と金髪女性が踊り始めた。あの踊り…知っている。幼くなった梅が初めて覚えたダンスだ。それって…のどか…じゃ、この人は…

 

「麻衣…麻衣なのか?」

 

「うん…」

 

「そうか…」

 

しばらく、麻衣らしき女性と抱き合い続けた。

 

 

「なんで、ここに来たんだ?」

 

狩って来た兎を裁きながら、麻衣に訊いた。隣では、梅が鮎に棒を差し込んでいる。塩焼きにするようだ。

 

「以前に、別荘の話を聞いたのを思い出したのよ」

 

あぁ、女優を引退したら、悠々自適に別荘暮らしなんか、どうかなって、麻衣に言ったことがあったっけ。

 

「それ以前に、どうやって、俺達のことを思い出したんだ?」

 

透明人間になり、俺と梅は、麻衣達の記憶から消えたはずなのだ。

 

「この本を読んでいたら、心安らかな日々を思い出して…祐介…私の初めての相手を想いだしたのよ」

 

うっすらと頬を赤らめる麻衣。って、この本…あれ?なんで、書籍になっているんだ?父さんにプレゼントした原稿なんだが…出版会社は、佐田印刷とある。まさか、悟さんが父さんと接触したのか?

 

「お兄ちゃん、お外で、アユを焼いてくるね」

 

「あぁ、頼むよ」

 

梅とのどかが、バーベキュー場へ向かった。囲炉裏があれば、風情があるのだが、不幸にもこの別荘には無い。

 

「そうなのか…書籍化するつもりなんか、なかったから、結構赤裸々な内容だったような」

 

「うん…」

 

捌いた兎の肉にスパイスをすり込んでいく。俺達は気にならないが、都会育ちの麻衣達には野生臭がネックだと思うから。

 

「このイラストで、のどかが気づいたの」

 

梅がのどかにダンスを習っているシーンのイラストを指す麻衣。

 

「誰だか直ぐにわからないように、顔は曖昧だけど、服装がねぇ」

 

あの当時の梅にとって、のどかの練習着は刺激的だったのかもしれない。ダブダブ目のTシャツにキャミ、下はスパッツだったっけ。お子ちゃま服の梅が着た事の無い、一見だらしないようなコーディネートだったのが印象的だったのかな。

 

「後、このパンダのパジャマ…」

 

麻衣が梅に初めてプレゼントしてくれたんだっけ?今も、お気に入りで、たまに寝る時に着ている。梅的には嬉しかったそうだ。

 

「この先、ずっとそばにいていいかな?」

 

「来る者は拒まないよ。って、居て欲しい…麻衣…」

 

「うん…」

 

夕食は外で…鮎の塩焼きに、兎の肉のホワイトシチューに、パンである。俺達にとってはごちそうであるが、麻衣達には質素な食事かな。

 

翌日、仕事のあるのどかだけが、帰って行った。麻衣は、ここで一緒に暮らすらしい。

 

 

 

---佐田悟---

 

祐介君に害を為す者達の掃除は終わった。伊集院も後継を祐介君にする準備が終わったそうだ。やっと、祐介君に会える。俺達の跡目は継がなくても、俺達の亡き後は、それなりに彼に遺産を渡すつもりである。まぁ、簡単に死ぬつもりはないけど。

 

「ベストなのは、あの部屋に戻ってくれことだな」

 

「あぁ…」

 

兄夫婦の住むはずだった部屋。主の帰宅を待ち望んでいるかな。なぁ、兄さん…

 

 

その別荘は、山の中腹にあった。

 

「祐介君…」

 

目の前にいる祐介君は、たくましい体格になっていた。その表情は強ばっている。会いたくなかったのか…

 

「悟さん…伊集院さん…」

 

俺達のことを覚えていてくれた。

 

「すまない…君のことを忘れていて」

 

「本当にごめんな、祐介くん」

 

俺と伊集院は祐介君に頭を下げた。

 

「気にしていませんから、頭を上げてください」

 

頭を上げると、穏やかな表情の祐介君がいた

 

 

 

---相沢祐介---

 

悟さん達との再会後、俺達はあの部屋に帰還した。別荘暮らしも悪くなかったのだが、俺はある疑念を抱き、その疑念を晴らそうと思ったのだった。麻衣は再会後、一度も俺と添い寝をしていないのだ。好きでも無い男と毎日して、男性恐怖症になったと言うのだが…それなら、そもそも俺と暮らさないと思う。あの壊れた女以外は…

 

「検査結果が出たぞ」

 

悟さんの表情は険しい。俺の疑念が当たってしまったのかもしれない。別荘を出た俺、梅、麻衣は健康検査を受けた。寄生虫がいるとマズイっていう口実でだ。いや、それはウソでは無く、実際にそうなんだが、疑念を払拭する為に、寄生虫とか健康に関係ない検査を、二人には秘密裏にして貰った。

 

「どうでしたか?」

 

「彼女から取り出した遺伝子を検査した結果、彼女は遙だ」

 

再開時に抱き合った感触が麻衣とは違っていた。好きでも無い男のせいだと思ったのだが、俺には違和感にしか感じなかったのだ。

 

「議員の屋敷から、身元不明の死体があったんだが、桜島麻衣さんと断定できた」

 

特捜が踏み込んだ時、麻衣を見つけたことから、死体の身元を割り出すのに、麻衣は対象から外されたそうだ。

 

「でも、記憶は麻衣さんのようなんだけど…」

 

「記憶はね…」

 

たぶん、好きでも無い男と毎晩添い寝し、麻衣は徐々に壊れていったのだろう。昔を思い出し、遙に話したのかもしれない。

 

「死因は特定できないそうだだが。骨盤の破損が大きいことから、よからぬプレイ中に…バカ息子への事情聴取を捜査関係者に依頼したよ」

 

麻衣になった遙は麻衣の振る舞いをしている。だけど、俺とは添い寝を決してしない。のどかと姉妹の会話をしているが、のどかとの想い出を思い出せない時があるらしい。

 

「祐介、あれって、お姉ちゃんじゃ無いの?」

 

のどかも疑念を抱いているようだった。

 

「いや、わからない。俺も調べたんだけど、思春期症候群で人格の入れ替えって言うのが、あるらしいんだよ」

 

遙は麻衣の身体を欲したのか?何の為だ??まさか…あのバカ息子から逃げる為か?高校時代、遙にご執心だったらしいから…麻衣と入れ替わり、逃げたはずだが、上位互換の麻衣に興味を示されたのか?

 

 

麻衣をベッドルームに連れ込んだ。

 

「祐介、どうしたの?」

 

「麻衣が無性に欲しいんだよ」

 

強ばる麻衣の顔。

 

「だから、私は男とは寝ないよ。ゴメンね」

 

ベッドに麻衣を押し倒した。

 

「遙…片想いでなくなるからか?」

 

麻衣の耳元で囁いた。

 

「えっ!バレていたの?」

 

遙だった。そうなると麻衣は…

 

「どうして、麻衣になったんだ?」

 

「私は祐介君以外と恋をしない。アイツにそう言ったの。どうしてもしたいなら、桜島麻衣さんが、私と瓜二つよって、教えてあげたのよ」

 

コイツが元凶か?

 

「そうしたら、アイツ、麻衣さんを買って来て、麻衣さんと毎日…でも、麻衣さんは徐々に壊れていった。だから、麻衣さんがアイツの妻として、表で活動するときは、私が麻衣さんを演じることになって…」

 

なんてことを…

 

「どうやって、麻衣の記憶を手に入れたんだ?」

 

「麻衣さんを演じるのに、記憶が必要だって伝えたら、自白剤とかを使って、聞きだしてくれたの」

 

涼しい顔の遙。こいつの闇は、姉よりも深そうだ。

 

「ねぇ、今後も私を麻衣さんとして、扱ってね。ゆ、う、す、け、くん♪でも、私の身体は綺麗なままでお願い。だって、片想いなんだもん、想いを遂げたらダメなんだからね」

 

コイツの恋愛感はブレねぇなぁ~。罪悪感の欠片も無いみたいだ。まぁ、姉もそうらしいから、姉と同類なのだろうか。

 

 

 

後日、俺は麻衣の遺骨を、のどかから譲り受け、別荘の敷地内に葬った。墓石には『世界で一番好きな君へ』と刻み、その下の箇所に穴を開け、指輪を墓石に埋め込んだ。

 

 

 

 

 



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ブレない女VS輝く女

 

「うん?なんで、私の墓に指輪を…そういうのは、生きている内に欲しいわ」

 

麻衣が俺を睨んでいる。

 

「お兄ちゃん!私も欲しいよ」

 

梅が便乗してきた。

 

「私も欲しいかな」

 

遙もか…現在新作の『世界で一番好きな君へ』の読書感想会中である。

 

「遙は片想い主義なんだから、指輪を強請るのはどうかと思うわよ」

 

「うん?そうなの?でも、『FromY ToH』って、裏に彫ってあると嬉しいなぁ」

 

目の前で疑似双子が揉めている。

 

「なぁ、遙。プロポーズの言葉と共に、指輪を差し出したら、どうする?」

 

ブレない女はブレてくれるのか?

 

「そんなの決まっているでしょ。指輪を私の指に嵌めてもらって…ありがとう。この想いを大切にしますって、言うわ」

 

それはブレ無いってことか…

 

「祐介、そんな女に指輪をプレゼントするだけ無駄よ」

 

と、麻衣。

 

「お兄ちゃん、私…この前行った玩具屋さんの指輪がいいよ~」

 

梅は作中と違い、幼いままである。あの指輪って、100円だっけ…

 

「祐介さん、なんで私は真緒さんの介護をしているんですか?」

 

「寝たきりって…瑞葉に下の世話をされるには、まだ早いよ」

 

それは、将来的に瑞葉の世話にはなるってことか?瑞葉の兄は、俺の姉共々、塀の中にいる。で、真緒なんだが、民事的に相沢家で面倒を見ることになった。桐生家では財力的に無理そうだったので…代わりに瑞葉を差し出すようなことを言っていたが、瑞葉自ら俺と暮らすと宣言したのだった。

 

「瑞葉の好きなのは、血の繋がらない兄だろ?なんで、待っててあげないんだ?」

 

「え?これって、待っているって設定なんですか?それは心外かな。あの女…いえ、祐介さんのお姉さんになびいた時点でアウトです。食事を食べる部屋で、あのような行為をする人とは思いませんでした」

 

瑞葉の兄の供述だと、あの場でどちらともなく、あのような行為をし、お互いの愛を確かめ合ったとある。

 

「それよりも、お兄ちゃん。私に触れていないのは、どうしてですか?」

 

涼花が詰め寄って来た。

 

「涼花の兄夫婦は、描けないからだよ。バカップルの実情をよく知らないし」

 

瑞葉の兄はノーマルだと思うが、涼花の兄の方は、あれはアカンと思う。血を分けた妹とした時点で、俺的にもアウトだし。アウトな人間の心理描写はわからん。

 

「あの…兄さん。私に触れた話が無いですが…」

 

真っ赤な顔をして俯いている花ちゃんに訊かれた。

 

「それは、花ちゃんのお父さんのクレームが怖いからだ」

 

花ちゃんのお父さんも作家で、俺の父さんと知り合いらしい。酒の入った席で、父さんに被害が及ぶのはマズイと思ったのだ。現に、今俺の前ではクレーム大会が行われているし。もう、書籍化されているので、訂正出来無いのにだ。

 

「で、祐介の一番好きな人は、お姉ちゃんってことでいいのね」

 

のどかに訊かれた。

 

「えっ!お兄ちゃんの一番好きなのは、私だよ、どかちゃん」

 

梅が割り込んで来た。う~ん…現在の梅の性格は好きだが…俺の記憶に残る梅の性格はカンベンである。姉を一般人寄りにした感じで、どこか壊れている雰囲気があった。そして現に壊れて、小学生の人格になってしまったしなぁ。

 

梅がのどかとじゃれ合い始めた。梅的にはじゃれているのだが、体格的にのどかが一方的にリンチに遭っているように見える。

 

「梅ちゃん…痛いよ~」

 

「あっ、ごめん。どかちゃん、泣かないでよ~」

 

梅はこの先も小学5年生のままなのか?そこに不安を感じる。60過ぎてもこのままだと、梅ばぁって言われて違和感は少ないかな?

 

「大きい子供持ちじゃ、結婚は先かな?」

 

麻衣が俺の横に寄ってきた。遙は、指輪ネタで妄想中のようで、ブツブツ言っているし。

 

「だな…梅みたいな子供は迷惑でしょ?」

 

「う~ん…有りかな。梅ちゃんならね。のどかと仲が良いし」

 

もう仲直りしたのか、のどかの新曲の振りを教わっているようだ。

 

「そう言えば、伊月達は来年らしいわよ」

 

俺の担当編集のみゃ~さんが話に割り込んできた。

 

「伊月さんとちっひー?」

 

「そうそう。なんでも、春斗達と合同でするんだって。で那由他は愛人枠ゲットって喜んでいたわ」

 

伊月さん達もカオス臭がプンプンしているな。シスコン作家が妹と結婚って…ワイドショーネタだよな。

 

「みゃーさんはどうするの?」

 

「私は仕事に情熱よ。恋愛は…まだ早いかな」

 

伊月さんが好きで、出版業界に入ったみゃーさん。イケメン作家との出会いはあるのだろうか?

 

「そうねぇ~、祐介くんの愛人枠をキープしようかな?将来は有望だし、こんだけ妹枠がいれば、問題も少ないでしょ?」

 

みゃーさんは妹枠に入らないんですが…遙かに歳が上…そんなことを口に出すと、なんか怖いので出さないよ。

 

 

あの楽しかった日々から、更に数年が経ち…今も楽しい夢は終わらない。そしてブレない悪夢も終わらない。

 

麻衣は中堅実力派女優になり、のどかはグループ解散後、ソロ歌手としてデビューし、人気歌手となっていた。俺は、しがない作家活動の合間に、佐田グループと真理亜グループの総帥としての仕事をこなす毎日。みゃーさんは俺の担当編集兼秘書として、二人でアレコレと飛び廻っていた。

 

あの部屋では、涼花、花ちゃん、詩羽先輩が売れっ子作家として、しのぎを削り、エリさん、真緒、梅が人気イラストレート兼漫画家として過ごしていた。そんな仕事漬けの面々に変わり、瑞葉が家事を引き受けてくれたことは大きい。栄養管理から、ハウスキープまで、俺達を裏から支えてくれている。

 

そして、あんな目に遭った真緒はというと、調教され、被害者となった経験を生かしたエロとグロの紙一重なBL本を同人誌として書いていたり…

 

 

 

で、ブレない女、遙は、今もブレていない。一緒に住まず、俺達と群れることなく、たまにふらっとやって来る。

 

「お墓は一緒がいいけど、普段は別々に暮らしましょうね。初心貫徹ですわ」

 

って、力強く力説する遙…いやいや、俺が結婚したら、墓の中に遙の入る余地は無いと思うのだが、先手必勝な遙は、既に墓地を契約し、すでに墓石も作り、設置していた。その墓石は、あの小説さながらの仕様で、指輪を埋め込むスペースもあるのだ。そこまで思ってくれるなら、プロポーズを受けてくれと思うのだが、全くブレてくれない。

 

「そういう身体を使う行為は麻衣さんに、お任せです。私は祐介君の心と魂に、私の心と魂が結ばれるのが良いのですよ」

 

って、俺には意味不明である。コイツ、どうしたいんだ?

 

 

そんな感じで、俺はまだ誰とも結婚をしていなかった。遙には何度もプロポーズはしているものの、ブレない返答ばかりだし、麻衣は仕事を引退したら考えるそうだが、麻衣は女優業で大成し、今一番輝いている女優にまで上り詰めた。なので、引退までまだまだある。

 

「私がいない間、遙をみて愛でなさい」

 

って、ブレ無い女と輝く女が俺をなすりつけ合っている。嫌いなら嫌いって言ってくれた方が、俺の気は楽なのだが、二人共俺を手放す気は無いらしい。はぁ~…誰か、俺をかまってください。

 

そんな俺の一番の問題は梅で、三十路に突入しても、梅は小学5年生のままなのだ。どうなるんだ、俺の将来は…俺と一番いる時間が長い梅は、今でも俺の妹枠を譲らないし。涼花、花ちゃん、瑞葉の妹枠達も、俺の妹というポジションが良いらしいのだ。こんなに女性に囲まれているのに、誰も俺の恋人枠に踏み込んでくれないなんて…俺って生涯独身かな?

 

 

それは神ですらもわからないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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