GRIDMANORB (桐生 乱桐(アジフライ))
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覚醒 〜スペシウムゼペリオン〜 1

グリッドマン関係の小説はすでに素晴らしい先駆者さまがいらっしゃるので乗っかっただけです
面白いと心の片隅で三ミリくらい思ってくれれば幸いです
ホントは一話全部書こうと思ったけど長くなりそうなので仕方なくカットしました


人生というものは退屈だ

毎日寝て、起きて、朝ごはん食べて、学校行って、帰って、風呂入って寝る、というありきたりな繰り返し

学生だからこんなもんかもしれないが、これが社会人になればもっと複雑になっていくだろう

だからもしかしたら、心のどこかで、こうなることを望んでいたのかもしれない

 

◇◇◇

 

ツツジ台

これといって特徴もなく、どこでのあるようなごく普通の町(主観含む

そこに住まう少年、紅衣(くれない)甲斐(がい)はジャンクショップ絢にて、ジャンク片手にうんうん唸っていた

このジャンクショップ絢はそのジャンクショップのみならず、奥の方にはカウンター式の喫茶店もプラスで営んでおり、そこではお茶や軽食なんかも楽しめてしまうのだ

…まぁ、今はそっちの方を利用する気はないのだが

時刻はもう夕刻すぎに当たるが、学校も終わり自由な時間を謳歌し始めている時間帯だ

 

紅衣甲斐はこういうジャンクショップを巡るのが好きだ

たまにレアなものが流れていたりするから、こういうのがやめられない

そんな訳で今回もなにか流れていないか探そうとしてて、ふと妙なものが目にとまった

 

それは持ち手を中心にわっかみたいなのがついた、変なアイテムだった

形状だけ見ればウルトラマンオーブに登場したオーブリングに似ているのだが、妙に古いような感じがする

近くに備えてあるカードケースも手に取って、中を見てみる

確かに中にカードはあるが、全部色がなくなんか画用紙みたいだ

手に触った感触はプラスチックなのに、どうなっているんだろ

 

「何買うか決まった?」

 

奥の方の部屋から歩いてくるのは、この店の娘、宝多立花である

通っている高校の同級生であり、自分はここのジャンクショップの常連で、仲はそこそこだと思っている

 

「これになりそう。っていうかこれどっから流れてきたの?」

「んー? 私に言われてもわかんないし。…っていうかなにこれ、玩具?」

「見た感じはそうだよね。上手く治ればデラックス玩具みたいな感じになるよ多分」

「ふーん。私はそういうのよくわかんないけど、特撮好きには堪らない感じ?」

「堪らないね。こういうの集めるの趣味なんだよねぇ…」

 

立花とそう何気ない会話をしている最中、そういえば気になったことを思い出した

それは知人の響裕太のことである

今日も普通にジャンクを巡りにここに来たら何故かここの前で倒れていたのだということを彼女から聞いた

そんな訳で彼も心配なので起きるのを待つついでに商品を見て回っていたのだが

 

「そだ。裕太は起きた?」

「まだ。こっちにはちょっと様子見に来ただけだし、また響くんの様子見に戻るよ」

「わかった。俺はまだこっちにいるよ」

「りょーかい」

 

そういくつか言葉を交わして、立花がまた戻っていく

そして商品売り場には甲斐一人

―――正確にはカウンターのとこで突っ伏して寝ている立花の母親がいるのだが、この際それはノーカウントで

ちなみに今店は閉まっており、新たな客が来ることはない

今ここに甲斐がいるのは知人だからということで特別に中にいるのだ

裕太が心配なのもまた事実ではあるし

 

そういえば今持ってるこのオーブリング(仮)の値段を聞いていなかった

まぁそれはあとで聞けば問題ないだろうと結論づけて、改めて商品を見る

…裕太が起きてくるまでどうしようか

せっかく今手に仮といえどオーブリングがあることだし、ガイさんよろしくポージングでも決めてみようか

そう思って一度リングを左手に持ち直し、少し両手を右側の顔近くに持ってって両腕をクロスさせて、そのまま開くようにリングを持った左手を自分の正面に突き出して―――

 

 

 

直後、ポワン、と、リングの部分が輝きだした

 

 

 

「―――え?」

 

ジャンク品じゃなかったのこれ? とか電池入ってたっけ? とか考える間もなく、リングの光は甲斐の胸へと吸い込まれるように消えていく

光が消えた瞬間、何かが弾けるようにドクン! と身体が震えるような感覚がした

 

「おっぅふ!?」

 

あまりの衝撃に、甲斐はその場で足を滑らせ、転んでしまった

商品を傷つけないように、咄嗟に軽く体を動かし通路の方へと倒れこむ

そして自分が転ぶ音が聞こえたのだろう、再び奥の方から足音が近づいてくる

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 

立花の声が近づいてくる

大丈夫、ということをアピールするようにとりあえず倒れながらも手を振って無事だということを伝えながら、ゆっくりと起き上がる

 

「ご、ごめんごめん。ちょっと、足がもつれちゃって…」

「怪我とかは…なさそうだね。よかった。…あ、そだ」

「? なんかあったの?」

「なんかあったよ。裕太くんが起きたの、今は顔を洗ってると思うけど」

「マジで? そいつは、よかった…」

 

なんだかんだ三十分くらい寝たまんまだったから、彼の意識が戻ったのは素直に嬉しい

しかしさっきリングが光ったのは一体何だったのだろう

その光が自分の胸元に飛んできたのも謎だし、正直意味がわからん

普通なら気味が悪くなり購入を止めるかも知れないが―――不思議と甲斐は止める気など起きなかった

とりあえず、一万くらいあれば足りるだろうか

と、一人思考しているとまた奥から一人誰か歩いてくる

特徴的な赤い髪をしたその男は紛れもなく、裕太裕太その人だ

 

彼は売り場の一角にある大きめで古いパソコンをじぃっと見やる

彼が見つめているパソコンはデスクトップタイプのもので、ぶっちゃけ今の時代だとそこそこな古めなタイプのパソコンだ

しかしそれが逆にジャンクショップらしくもあり、甲斐は好感を持っている

買うかどうかは別なのだけど

 

「…どうしたの?」

 

いつまでもパソコンの前にいる裕太が気になったのか、立花がひとつ声をかける

すると裕太は困惑しながらも、すっとパソコンの画面を指差し

 

「いや…あれに呼ばれて」

 

指さした先にいるのは、何も写ってないパソコンの画面である

写っているのは、そのくらい画面に反射している立花と裕太、そして少し離れた位置にいる甲斐だけだ

 

「…だれ?」

「グリッドマン…」

「何も映ってないじゃん」

「いやいや…え? 俺にしか、見えない…?」

 

小さく呟く裕太に、甲斐は内心ドキドキしつつ、冷や汗を書いていた

何故か

それはその画面に青い変なヒト? の姿が甲斐の目にも見えているからだ

っていうかなんなのだアレは

コンボイ? オプティマスプライム?

なんか喋っているみたいではあるが、流石に声までは聞こえない

しかしここで裕太に同調してしまったらいよいよヤベーイ奴であるので、彼には犠牲になってもらうことにした

許せ裕太と心の中で謝りながら、二人の会話は続いていく

 

「いや、グリッドマンが使命を思い出せって、さ」

「しめい? え、何の話?」

「っていうかここもどこ…」

「ウチの店」

「誰の?」

「私の!」

「だから、誰なのって」

「だ、れって…誰の」

「君の」

「―――」

 

会話の内容が読めない

え、裕太どうしちゃったのだろう

 

「…あのさぁ、ふざけてんの?」

「ま、真面目に! 真面目にホントに、何にも思い出せなくって…」

「なんだそりゃあ。記憶喪失ってやつ?」

 

まさかとは思うが、仮に考えられるのならそれしかない

流石にマジで記憶喪失だとは考えられないが―――

 

「そう! それ!」

 

言葉を発した甲斐に向かって視線を向けて、それだ、と言わんばかりに手と手をぽんと叩く裕太

正直内心マジでか、と思いながら、甲斐は立花と思わず視線を合わせる

 

「君たちー」

 

不意に、後ろの方から声をかけられる

三人が視線を向けると、起きたのか首の後ろあたりをかきながら、立花の母親がこちらに視線を向けていた

 

「ちょっとうるさいよ、君たち」

 

立花母の一声で、一旦クールダウンすることになる

とりあえず立花のお母さんが出してくれたコーヒーを飲みながら、そうだと思い出した品を立花のお母さんに見せて

 

「そだ、忘れないうちにこれ、買います」

「あら。いつもいつもありがとね甲斐くん」

「いくらになります? 一万もあれば…」

「そんな高いものでもないからぁ。三千円で十分よ…っと、あら、お釣り切らしてた。ゴメン立花、ちょっとお金持ってきてくれる?」

「えー? 仕方ないなぁ」

 

そう言って立花が一度席を離れ、奥の方へと消えていく

何かを考え込んでいるような裕太に向かって、甲斐は声をかけた

 

「あーっと、裕太?」

「え!? あ、はいっ、なんでしょう…?」

「おいおい、敬語はやめてくれ。一応お前とは同級生なんだし、タメ口で構わないぜ」

「…。ありがとう。えっと…」

「俺の名前は紅衣甲斐。お前と同じ学校だ。ま、記憶喪失がホントかどうかはともかくとして…改めて友達になろうぜ」

 

そう言って甲斐は裕太に向かって右手を差し出す

古来から友好関係を示す手っ取り早い方法、握手である

彼の手が甲斐の手を握り返ししっかりと握手を交わす

しかしこうやって彼の状態を見てると本当に記憶喪失なのかと疑わしくなってくる

見た目はいつもと変わらないのに

 

「お金持ってきたよー。はい、お釣り」

「おっと、ありがと立花さん」

 

戻ってきた立花からお金を受け取り、代わりにこっちもお金を渡す

立花が席に座ったタイミングで、皿を拭いていた立花のお母さんが口を開いた

 

「あ、そだ立花。一応病院連れてってあげたら?」

「えぇ!? わたし!?」

「あったりまえじゃない。記憶喪失ってことは、頭打ってるかもってことでしょ?」

 

そう言ってちらりと裕太の方へと立花のお母さんは視線を向ける

先ほど自己紹介したときは問題なさそうではあったが、なんだかもっかい頭を彼は抱えていた

 

「調子悪そうだね?」

「いや、なんかさっきから幻聴や幻覚もずっと響いてて…」

 

本当に大丈夫なのだろうか

 

 

ジャンクショップ絢を出て、そのお店の前で一度待つ

裕太は己の荷物である赤いカバンを背にかけて、ついでにこのまま直帰コースだ

 

「…なんだか霧濃くない?」

「? そう?」

 

裕太の言葉に立花が返す

彼が指摘して初めて気がついたのだが、確かになんか霧が濃い気がする

…立花には見えてないのだろうか

そこでまた、裕太が大きく声を上げた

 

「ちょ!? か、怪獣いる!」

「…はぁ? どこに?」

「霧の向こう! ほらあそこ!!」

 

裕太がびしっと指をさした方向に―――確かにデッカイ何かが見える

え、なに、俺どうしちゃったの? 実は自覚がないだけで自分も何か病気にかかってるとかなのだろうか

そう思わずにはいられないくらい自分の目が信じられない

ふと今もカバンの中に入っているオーブリングを見やる

光が何か意味があるのだろうか

 

「…早く行かないと、病院閉まっちゃうよ」

 

しかしやはり立花には見えていないみたいで、はぁ、と大きなため息をつくと踵を返して歩き出していった

 

 

「…ねぇ、記憶喪失ってことはさ、今日のこと、何にも覚えてないってこと?」

「…うん」

「―――。そっか。…でも、もしそれが〝ふり〟だったら、最悪だかんね」

「…え? 何か、あったの…?」

「…―――」

 

先を歩く二人の会話が聞こえてくる

見えないところできっと何かがあったのだろう

それを聞くのは流石に憚られたので、甲斐は黙って二人の後ろを歩いていく

 

そんなこんなで、井ノ上病院とやらに到着し、裕太が出て来るのを甲斐は立花と一緒に外で待っていた

途中で見かけた自販機で各々が飲み物を購入し、それを飲みながら下らない雑談でもしていると、病院の入口がういーんと開いて、そこから裕太がてくてくと歩いて戻ってきた

甲斐は缶ラムネを飲み干すと裕太に向かって

 

「どうだった?」

「いや、なんかよくわかんなかったけど、いずれ元に戻るだろうって」

「…なんじゃそりゃ。っていうか保険証とかあったのか?」

「…なにそれ」

「おうふ。…マジでか」

 

これはいよいよ記憶喪失が現実味を帯びてきた

っていうか保険証のことすらもわからなくなっているのは流石に致命的ではなかろうか

 

「…ともかく、今日はもう解散、かな」

「ん。そだね」

「う、うん。二人共色々ありがとう。…それじゃ」

 

そう言って裕太は踵を返して歩き出そうとしたところで、ぎぎ、と固まった

たっぷり時間をかけておおよそ十秒、またもやぎぎぎ、とこっちを振り向きながら裕太は呟く

 

「―――俺んち、わからない」

『―――はぁ?』

 

流石にそれには立花と二人して変な声を同時に上げた

 

◇◇◇

 

とりあえず彼が記憶を失う前に何度か遊びに行っていた甲斐が彼を家に送り届けることとなった

送る前に立花も交えてコンビニで適当に何かを買って軽く小腹を満たしつつ、そこで短いながらも改めて自己紹介し直しと相成った

もっとも甲斐と裕太はジャンクショップで名前を交わしているので、実質立花一人だったが、この際気にしない方向で

明日の彼の登校の送り迎えを同じクラスの内海に連絡を取り、事情を話す

まぁ当然ながら半信半疑ではあったが結局明日裕太を迎えには来てくれるみたいだから、この際それはいいとしよう

 

裕太をマンションに送る道すがら、なんだか刀みたいなのを構えた変なオッサンみたいのがいた

ものっそいこちらの方―――正確には裕太の方? を凝視している

触らぬ神に祟りなし、というので甲斐は一切気にすることなくそのまま道を突き進み、彼のマンションへ裕太を送り届けると、明日のことを内海に任せて今日のところは甲斐も帰路へとついた

 

 

「いや…別に身体は疲れてないけど、えらい疲れたな…」

 

家に戻って一人、紅衣甲斐は呟く

今日一日でなんだか酷く疲弊した気がする

とりあえず今日は風呂にでも入ってラムネ飲んでとっとと寝よう

そう気持ちを切り替えると風呂へと入るべく上着を脱ぎながら席を立った

 

個人的にこんなドッと疲れた時には銭湯にでも行ってゆっくり風呂に使ってその後でキンキンに冷えたラムネでもいただきたいのだが、今日は出かける気力もないのでそれはなしにする

 

紅衣甲斐は一人暮らしである

といっても完全に一人暮らし、というわけでもなく単純に両親が共働きで両方とも出張して家を外しているだけなのだ

裕太の方も同じように両親が出張中らしく、自由でいいなーみたいなことを内海に言われていたことは記憶に新しい

まぁ確かに、結構自由な時間も多いので一人暮らしも悪くはない、のかもしれない

とは言っても炊事洗濯その他諸々、やるべきことも多いので完全に自由、というわけでもないので半分半分、といったところか

 

「…うん?」

 

携帯に目を通すと、一件の着信が入ったという通知に目がいった

タップして操作すると、相手が〝小日向さん〟という文字列

そういえば近々、流れ星を見に行こうなんて約束してた気がする

電話してきた時間帯はガッツリ風呂に入っている時間帯だ

とりあえず操作してリダイアル

するとやくツーコールのち、電話から彼女の声が聞こえた

 

<あ。やっと繋がった。なんでさっき電話出なかったの?>

「風呂入ってたんだよ。…防水でも風呂場に携帯持って行きたくない主義でさ」

<あー…じゃあ仕方ないか。でも、約束忘れないでよね>

「覚えてるよ。響と一緒に展望台、だろ?」

<わかってればいいの。それじゃあ、また明日学校で>

 

嬉しそうにそう行ってくる小日向の言葉を聞きながら甲斐は通話を切った

今しがた電話の相手の小日向未来と話に出た響こと立花響は紅衣甲斐の幼馴染だ

とは言っても家が近いとかでもなく、たまたま小学生の時に苛められてた響とそれを守ろうとした小日向を助けたのが最初の縁だ

そこから少しづつ遊ぶようになり、今ではあんな約束もちょくちょくするような仲となっている

 

「…ふぁ…あ…」

 

思考に耽ってると、眠気が甲斐を襲ってきた

これ以上は起きてないでとっとと寝るか、と甲斐は適当に菓子パンを胃に放り込んで歯を磨いたあと、ベッドへと転がり込んだ

 

机の上に置いてあるオーブリングがポワンと再び輝いたのに、気づかないままに




・この世界では

ウルトラマンシリーズが放送されてるっぽいのでそこらはみんな知ってる感じで
しかしフュージョンファイトとかは稼働してないのでフュージョンファイト限定のフュージョンアップは知りません
そういうことにしといて(懇願

・最後に出てきたシンフォギアキャラクター

ぶっちゃけヒロインに困ったからです
立花は裕太だしアカネはサイコパスだし問川は死ぬしなみことはっすはなんか違うし、ということでウチの別作品の原作からキャラクターだけ引っ張ってきました
一応あと二人だけ追加予定です
そして響と未来は殺します


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覚醒 〜スペシウムゼペリオン〜 2

〝あの人〟はもうみんな知ってると思うのでバラしてます(無慈悲


翌日

昨日のことなど何もなかったかのような朝日が部屋の中に入ってくる

紅衣甲斐はベッドでもぞもぞと動きながらゆっくりと布団を動かして上半身を起こした

寝ぼけ眼を擦りながら徐に甲斐はカーテンを開いて、改めて太陽の光を部屋に取り入れる

そしてあるものを確認した

 

「…もしかしたら朝起きたらなくなってっかなーって思ったけど、そんなことなかったか」

 

視線の先にいるのは昨日見た馬鹿でかい怪獣

動くでも、何かを破壊するでもなく、ソイツはただそこに立ったままで微動だにしない

何のためにそこにいるのかわからないし、そもそもアイツを視認できているのは今のところ自分と裕太の二人のみ

恐らく自分ら以外の人らには一切見えていないのだろう

 

「…ま、何か起こるというわけでもなし。朝飯食うか」

 

考えたところで何もわからないし、これ以上の思考は時間の無駄と判断した甲斐は寝間着から着替えると朝ごはんを用意しに下へと降りていく

とはいえ自分に料理スキルなどというものはなし、炊いてあった炊飯器から適当に米をお椀によそって冷蔵庫から納豆を一パック取り出すと慣れた手つきで納豆をかき混ぜて白米の上にそれをかけてご飯を書き込んだ

 

食事を終えて朝のラムネを一本冷蔵庫から取り出して、これまた慣れた手つきでビー玉を落とすとごくごくと飲み始める

この炭酸の刺激がいい感じに目覚ましになるのだ

 

「…さって、そろそろ行くとするか」

 

内海は裕太の所に行ってくれてるだろうか

まぁそんなことを今考えていても仕方がないので、いそいそと一旦部屋へ戻って自分が学校へと登校する準備をしていく

そこでふと、昨日机の上に置いたままのオーブリングが目に入った

本来なら持っていくべきではない、流石に学校にこんな玩具を持っていっては怒られてしまうだろう

だけどその時はなぜか、これを持っていく〝べき〟だと、頭の中の本能が囁いた

ほとんど無意識に近い感覚で甲斐はオーブリングを手に取るとそれをカバンの中に突っ込んで、最後に身支度を整えて家を出た

 

 

学校への道を真っ直ぐと歩いていく

時間としては少し早い、が早く学校につくのにデメリットなどない

始業の時間までのんびり読書か、ソーシャルゲームでもやって時間でも潰せばいいだろう

 

「甲斐さーん」

 

のんびり空を見上げながら歩いていると後ろの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえる

そちらの方へ振り向くと黒髪のツインテールが特徴的な女の子と、金髪でショートカットの女の子がこちらに向かって走ってきていた

二人は甲斐の近くまで走り寄ると足を止めながら息を整えるように軽く膝に手をついた

 

「おはようなのデース!」

「おはようございます、今日は珍しく早いんですね」

「開口一番失礼だな」

 

金髪ショートの子が暁切歌、そして黒髪ツインテールが月読調という名前である

彼女たちとはこの学校で入学してからの仲であり、別段親しい、というわけでもない

そして仲が悪い、というわけでもなく、そこそこ親しい女友達、っていうのが今の印象か

 

「いえいえ、甲斐さんがこの時間に学校への道を歩いてるのってなかなかレアデスよ?」

「マジで? そんなに俺遅いの?」

「遅いといっても、せいぜい五分くらいですけど。響さんよりはマシ」

「あー…アイツ人助けが趣味とか豪語してっからなー」

 

それゆえに彼女は定期的に遅刻する

まぁいつものこと、となってしまっているのでそれを気にしている様子はないし、甲斐も慣れてしまっていた

 

「…なぁ、切歌、調。…お前らって、あれ見えるか?」

 

徐に甲斐は件の怪獣がいる方向を指差す

今指さしている方向に、怪獣が甲斐の目には写っているのだが

 

「…? なんか珍しい雲でもあったんデス?」

「それっぽいのは見えないけど。何かあるの?」

「いや、あー…なんでもない」

 

デスヨネ

 

 

学校に到着すると切歌と調はは違うクラスなので下駄箱のところで一度別れる

そのまま真っ直ぐ自分のクラスに向かっていくと、道中の自販機で雑談でもしてたのか、立花と彼女の友人、なみことはっすとエンカウントした

三人はこちらに気づくと手を振りながら口々に挨拶してくる

 

「おはよ、紅衣くん」

「おはようさん、立花さんトリオ」

「ちょ、その売れないお笑い芸人みたいな名前やめてよね」

 

よく一緒にいるのを見かけているからうっかりそんなことを呟いてしまった

むすっとしている立花に軽く謝りを入れつつ、ついでに喉も乾いていたのでポケットから財布を取り出すと中を開いて小銭を投下する

 

「っていうか、三人揃って何してんの。もうすぐホームルームじゃん?」

「んー? アタシらは、ちょろっと立花に聞きたいことがあってねぇ? ねぇはっす」

「うんうん。こんなセキララなことは、ちょっと教室じゃ話しにくいからねぇ」

 

マスクをしているはっすが小さく笑んでいるような気がする

九段のセキララなこと、とは昨日裕太と一緒にいたことだろうか

 

「ってか、紅衣くんだって一緒にいたじゃん? よろしかったら詳しい話を聞きたいなっ」

「ちょ、いつ見てたんだよ。…油断できねぇな」

 

言われて思い出したがそういえば自分もそこにいたんだった

なんて言い訳をして乗り切ろうか、と考えているうちに、キーンコーンとチャイムが鳴る

これ幸いとばかりに甲斐は飲み物を自販機の受け取り口から取り出しつつ

 

「そ、そら! もうホームルーム始まんぞ」

「うわ、あからさまにそらした!」

「逆に気になる!」

「ほら、なみことはっすも行くよ」

 

一つ先を歩く甲斐を追っかけるように三人も歩き始める

終始、なみことはっすはジト目で甲斐を見ながらぶーぶー言っていたが

 

 

「あ、おはよー甲斐くんっ」

 

席につくとこの時間では珍しい人物を見た

名前を立花響、人助けが趣味と豪語する友達である

 

「…この時間からいるなんて珍しいな。明日は槍でも振りそうか?」

「ひど!? 甲斐くん私のこと普段どんな目で見てるの!?」

 

朝だというのに元気に表情が変わっていく我が友人

なんてことない、いつもどおりの日常でも、コロコロと表情が変わるその元気な姿は見ていて飽きない

 

「今日は何にもなかったから、そのまま私と登校したの。たまには、早い時間から学校いるのもいいでしょ?」

 

そう言いながら、響のとなりの席にいる小日向未来がこっちに振り向いてそう言ってくる

まぁ正直そんなことだろうと思っていた

この二人は家が隣同士なので家族ぐるみの付き合いをしている

時たま夜ふかしして朝起きれない響を起こす役割も担ってもいるのだ

 

「そうだな。朝早くいる響もちょっと新鮮…新鮮なのかこれ?」

「まぁ学校っていうのはホームルーム前にはいるものだからね」

「二人共朝からひどい!?」

 

こんなやり取りもいつものことだ

これからもこんな日常が、続いていくと、そう思っていた

 

 

午前の授業が終わり、昼食の時間がやってくる

ぎぎぎ、と徐に響は机を甲斐の机に隣接させると、机の上にお弁当を置いて

 

「あ、そういえば忘れてないよね、私と未来の三人で流れ星を見るっていう話」

「大丈夫大丈夫、昨日未来にも催促されたから。忘れてねぇよ」

「よかったぁ。私も未来も楽しみにしてるんだから、遅れないでよ?」

 

そう言って弁当箱の蓋を開けると箸を使って美味しそうに食べ始める響

相変わらず見てるこっちも笑顔になる食べっぷりだ

ちなみに未来は今ここにおらず、購買にパンを買いに行っている

なんでも今日はうっかり弁当を忘れてきてしまったらしい

なんの気無しに裕太の方をちらりと見やる

彼は隣の新条アカネと話しているみたいで、彼も弁当を忘れたのか彼女からスペシャルドッグを貰っていた

…あれは美味しいのだがカロリーが二千四百カロリーもするという女性にはかなり重めのパンである

 

「あぁ! ヤバイ!!」

 

不意に誰かのそんな声を聞いた

瞬間、どこからか降ってきたバレーボールがアカネの持っていたスペシャルドッグにクリーンヒット

バン! と結構いい音がしてしまっていたので、いい具合に潰れてしまったのだろう

 

「ごっ、ごめん! マジでごめんなさいっ!!」

「…問川ぁ、教室内でボール使うなっていつも言われてんだろ?」

「本当にごめんなさい!!」

 

甲斐がパンを貪りつつ、問川にそう注意する

元凶はバレーボールで遊んでいた問川さきるで、遊んでた時に力でも込めすぎたのか、バウンドしたボールがうまい具合に飛んでったのだろう

 

『問川そとでやれしー』

 

アカネと彼女の友達の女の子が口を揃えてそういった

 

「マジ反省してます! しました!」

「本当か?」

「マジだよ! ほら甲斐くん、私の目を見て!」

「ところで裕太、パンは大丈夫か?」

「スルー!?」

 

ギャーギャー喚く問川を軽くなだめつつ、甲斐は裕太のところへ歩いてく

 

「だ、大丈夫だよ。潰れただけだから、全然食えるし!」

 

そう言いながらスペシャルドッグを拾い上げ、包んでいたラップを手で破るとそのパンにかぶりついた

外見は確かにゆで卵が少し割れてしまっているが、あんまり中身には問題なさそうだ

これなら大丈夫そう、と判断し、ついでに近くの席によっかかってる内海にも声をかけておく

 

「あ、そうそう。昨日無茶聞いてくれてサンキューな」

「いいってことよ。その代わり、ウルトラシリーズのDVD一本、レンタル代奢れよ?」

「そういうことならお安い御用よ」

 

短く答えて甲斐は自分の席に戻っていく

戻るといつの間にか戻ってきていた未来が響と一緒に談笑していた

なぜか、未来は自分の席に座っていたが

 

「あ、おかえり。また問川さん?」

「察しいいな。まぁそうだよ。あとそこ俺の席な」

 

甲斐がそう注意するとぶー、などと言いながら椅子から立ち上がり、自分の席に戻っていった

すっかり二人はお昼を食べてしまったらしく、響に至っては眠そうである

甲斐は机の上に放置してあった食べかけのアンパンを改めて手に持つと、口を開けてそれを頬張り、缶ラムネでそれを流し込む

 

もう少しで今日の学校も終わりだし、頑張っていこうか

 

◇◇◇

 

時刻はすっかり夕方となってしまっていた

響と未来は今日はちょっと用事があるってことで、学校で一度別れている

部活になど入っていない甲斐はもれなく暇になり、いつものようにジャンクショップ巡りでもしようかなと考えていた

裕太のことも心配ではあるが、彼の隣には内海がいるし、まぁたぶん大丈夫だろうと結論づける

 

そんな訳で下駄箱へまっすぐ行くと、そこで調と切歌の二人と遭遇した

 

「あれ、今日は響さんいないの?」

「んあ? あぁ、用事があるみたいだからさ」

「そ、そうなのデスか」

 

甲斐の言葉を聞くと、切歌と調は少しだけ離れると、急に甲斐に背中を向けてヒソヒソ話を始めた

 

「―――調、これは好機デス。いつも甲斐さんの隣にいる強力なライバルたちが居ない今、一気に距離を縮めるチャンスなのデス!」

「―――うん、行こう切ちゃん、これはきっと運命が私たちに味方してくれてるんだよ」

 

何の話をしているのかさっぱりわからない

やがてヒソヒソ話は終わって、調と切歌は少し勢いよくこちらの方を振り向いた

 

「あー、えっと、デスね?」

「よ、よかったら、私たちと、一緒に帰りませんか?」

 

どことなく震えていた声色

本人たちはかなり勇気を出して己の言葉を吐き出したのではあるが、そんなの全く気づいていない甲斐は疑問符を頭に浮かべながらも

 

「あ? あぁ…いい、よ?」

 

甲斐としてはただの友人の提案に普通に乗っただけだろう

だけど二人からしたら、その承諾は何よりも嬉しいものだった

 

 

ガリガリ、とナイフが何かを削る音が部屋に響く

薄暗い部屋の中の唯一の光は、今のところはデスクに置いてあるパソコンのみ

パソコンの画面の中には、サングラスを思わせるような目と、歯のような電飾のモニターが覗かせる

 

<また怪獣かい? ―――アカネくん>

 

ガリガリガリ、とナイフを動かす手を止めず呼ばれた当人―――新条アカネはちらりとそちらに視線を覗かせて言葉を紡いだ

 

「うん。ウチのクラスの問川、殺そうかなって思ってさ」

<ほぉ? 何か嫌なことでもあったのかい?>

「いくら注意しても教室でボール遊びやめないからさ。今日、私が持ってきたスペシャルドッグがついに被害にあった」

<なるほど。それは頂けないねぇ>

 

パソコンの生き物はアカネの言葉に賛同し、歯の電飾モニターを光らせる

その間もアカネは慣れた手つきで針金で作った骨組みに怪獣の肉を与えていく

 

「甲斐くんが注意してたにも関わらず、さ。謝りはしてたけど、本心かどうかも怪しいし。もう消えた方がいいかなって」

<確かにねぇ。人というのは同じ過ちを繰り返すもの。その謝罪はその場限りとも言えるかも知れないし、二度繰り返す前に消えた方がいいかもしれないねぇ>

「アレクシスもそう思う? 消えた方がいいって>

<私はいつでもアカネくんの味方だよ。―――フフフ>

 

 

ツツジ台高校からの帰り道

いつもは朝の登校中くらいしか甲斐は切歌と調と行動しない

たまにお昼も一緒に食べるけど、それは響と未来とも一緒にだ

あんまり絡みは少ないが、この二人は響と未来ともそれなりに仲がいい

時折たまに火花みたいのが走ってたりするときもあったが―――まぁ、女で育む友情というやつもあるのだろうと甲斐は特に気にしていない

 

「あ、甲斐さんまたラムネ飲んでるデス」

 

そう思考している内に、自販機で買った缶ラムネに切歌が気づいた

学校から離れる時についでに自販機から購入したものだ

 

「甲斐さんって本当にラムネ好きだね」

「あぁ。ってか、一日に一本は飲まないとやってらんないぜ」

「それ最早中毒デス。アルコール中毒ならぬ、ラムネ中毒?」

 

自覚はしている

毎日そんなん飲んでるせいで、体調面も不安にはなるので、夜はいつも銭湯へと行く道すがら、ジョギングをしているのだ

流石に行きだけで、帰りはジョギングしていないけども

 

「甲斐さんの普段の食生活が心配。…普段何食べてるの? 全部レトルト食品とかじゃないよね?」

「…いや? そんなことはナイヨ?」

「あからさまデース。これは全部レトルト、あるいは冷凍食品デスね」

 

なぜバレた

だって最近のコンビニの冷凍食品の手軽さと美味しさには勝てないと甲斐は確信している

まぁ料理全然できないってのもあるのかもしれないけど

 

「…甲斐さん、よかったら、ご飯作ろっか?」

「え? いいのか」

 

調の言葉に甲斐が聞き返す

甲斐の言葉に調は僅かに頬を赤くしながらこくりと頷く

そんな調の周りを歩きながら切歌が

 

「調のご飯はとっても絶品なのデース! 一度喰らえば、まさしく虜になるデスよ?」

「そこまで言うのか。…ちょっと興味湧いてきたな」

 

甲斐がそんな言葉を発すると、一瞬調のツインテールがぴょこんと動く

 

「それじゃあ、今度時間を合わせて甲斐さんの家に言ってもいいデスか? 調と一緒に!」

「お前も来るのか?」

「当たり前デース! 私と調は一心同体…まぁ料理の腕は調には劣るデスが…私だってそこそこ出来るのデス!」

「ほっほぉ? いいぜ、そんなに言うなら、今度ご馳走になろっかな?」

「! 言質とったデスよ! 調!」

「うん。それじゃあ、今度材料持って甲斐さんの家に行く…だから、場所教えてもらえると嬉しい、な?」

「あ、そういえば二人俺の家しらないっけ。オッケー、とりあえず二人に携帯で住所でも―――」

 

 

ごとり、と完成した怪獣がアレクシスの前に置かれた

ずんぐりとした胴体から少し間延びした首が特徴的な怪獣だ

 

<いいねぇ…情動的なフォルムだ…。名前は?>

「うんと…ねぇ、グールギラス、なんてどうかな?」

<素晴らしい、いい名前だ。では動かそう―――インスタンス! アブリアクションッ!!>

 

アレクシスがそう叫ぶと、画面が一瞬光輝き―――そして―――

 

 

「!!」

 

ドクン! と甲斐は体の奥で何かが弾けるような感覚を感じた

なんだ、これは? と考える前にカバンの中に入れていたオーブリングが急激な光が放っている

急いで甲斐はカバンからオーブリングを取り出して見ると、輪の所がかなり眩しく―――例えるなら電池を買い換えて最大出力の懐中電灯のような光を放っている

 

「? 甲斐さん?」

「どうしたんデスか? 急に立ち止まって」

「い、いや…なんか、よくわかんないけど―――」

 

そう答えあぐねているとき、大地が揺れた

外にいるというのに、グラグラと地面が揺れて視界が僅かにぶれる

木々はガサガサと揺れ落ち葉を漏らし、古い枝がバキリと折れた

 

「うわわ!? なんデスか!?」

「じ、地震!?」

 

切歌と調は地面に屈んで体制を崩さないようにしている

その近くで甲斐も壁に手をつけながら同じように転ばないようにしているが、その時、耳に劈くような、怪獣の雄叫びのような声が聞こえてきた

 

「―――え?」

「―――な、なんデスかあのトンデモは…!?」

 

切歌と調にも見えたのだろう

街を闊歩している馬鹿でかい、怪獣のような何かが

 

「…夢、じゃないよね…ねぇ、甲斐さん」

「…甲斐さん?」

 

どしん、どしんと地面が揺れる

いつこっちにまで被害が来るかわからない

逃げなくては

逃げなくては、ならないのだけど

 

「…行かないと」

「え?」

「悪い、俺ちょっと行ってくるわ!」

 

そう言い残し甲斐はその怪獣のような奴がいる場所へ向かって甲斐は走り出す

 

「ちょ、甲斐さん!?」

「ど、どこ行くデスかー!?」

 

唐突に走り出した甲斐の背中を、切歌と調は追いかけた

本来なら、ここで彼を無視して身の安全を考えるのが最適解だろう

だけどなんでだろうか

今ここであの人を追いかけないと、どこか遠いところに行ってしまうような

そんな予感がしたのだ

 

◇◇◇

 

その怪獣の近くにたどり着く頃には、すっかり当たりの陽は落ちて夜になってしまっていた

まだ少し距離はあるが、怪獣の全体像を遠目からある程度見渡せるくらいには近くまで接近できている

もしかしたら―――もしかするのだろうか

左手で握っているオーブリングを見つめると、また夜空がぴかりと輝いた

 

緑色の光とともに、そこからもうひとり、巨人が降りてくる

青いラインに銀色のボディ、そう、それはまるで光の巨人のようだ

青い巨人は怪獣に向かって走り出していく

 

「ちょ!? またトンデモが来たデスよ!?」

「なにあれ、ウルトラマン!?」

 

背後から聞こえた調と切歌の声にハッと甲斐は我を取り戻す

思わず振り返って甲斐は叫んだ

 

「馬鹿、なんで追っかけてきた!?」

「甲斐さんほっといて逃げるなんてできないデス! 当たり前じゃないデスか!」

「そうだよ! 甲斐さんこそどうしてこっちに来たの!今ならまだ間に合うかもしれないから、一緒に逃げよう!」

 

そう言って調は思わず甲斐の手を握る

普段なら恥ずかしくてできないだろうが、状況が状況だ

そんなこと言っている場合ではない

だけどいくら引っ張っても彼はどういうわけか動いてくれない

 

「―――」

 

甲斐は何故かあの怪獣と巨人の戦いから目を逸らそうとしないのだ

巨人は長い首を掴んでそこに打撃や蹴りを叩き込んではいるが、大したダメージにはならず、それどころかお返しと言わんばかりに振り抜かれた長い首の一撃が巨人に直撃し、大きく巨人が吹き飛んだ

ガシャァン!! とかなり大きめな音と共に巨人がビルに叩きつけられ、倒壊した破片や割れたガラス片が地面へと飛散する

 

「…、」

 

不意に甲斐は左手に持っていたリングへと再度視線を向けた

未だにその輝きは衰えず、むしろさっきより増しているように見える

 

「甲斐さん、何やってるデスか!」

「早く逃げようよ! いつこっちに来るかわかんないから!」

 

切歌が服を、調が手をそれぞれ引っ張るが、甲斐は全く動こうとしない

それどころか、ゆっくりと切歌と調の手を離すと、ゆっくりと前に歩き出す

 

「…甲斐さん?」

「どうしたんデス…か?」

 

不安そうな声を出す二人の声を背後に、ゆっくりとオーブリングを見やる

相変わらず発光し続けており、その勢いはとどまるところを知らない

もしかしたら、もしかするのかもしれない

―――覚悟を決めろ、もしこのオーブリングが、本物なのだとしたら

 

「切歌、調。…隠れててくれ」

「え?」

「が、甲斐さん!? 何言ってるデスか!?」

 

二人の声を尻目に甲斐は少し前に出て、持っていたオーブリングを顔の前に持って行き、体を捻りながらそのリングを突き出した

直後、リングを中心にその光が増し、甲斐の身体を包み込んでいった

 

 

気づいた時には、甲斐はよくわからない異空間にいた

そして同時に持っていたカードケースを開くと、二枚のカードが光り輝いている

甲斐はその二枚のカードを取り出すと、ケースをしまう

 

「―――ウルトラマンさん!」

 

<ウルトラマン!>

 

まず一枚目のカードをリードする

するとカードが光の粒子となって自身の左側にウルトラマンの幻影が現れる

 

「―――ティガさん!」

 

<ウルトラマン ティガ!>

 

続いて二枚目のカードをリード

一枚目と同じようにカードが光の粒子となり、今度は自分の右側にティガの幻影が姿を現した

そして甲斐は叫ぶ

テレビの中のガイが叫んでいたように、二人の光をお借りするために

 

「―――光の力! お借りします!」

 

叫ぶと同時、左手に掴んでいたリングを上へと突き出し、スイッチを押すと翼状の装飾が展開され、甲斐の姿をウルトラマンへと変える

 

<フュージョン アップ! ウルトラマン オーブ! スペシウム ゼペリオン!>

 

 

 

ポワン、という音と共に地上から現れ出でるようにまた新たな巨人がその姿を現した

右手で拳を握り、天に突き出し、同じく左手も拳を作りそちらは肩辺りで止めている

 

「…調ぇ、私は夢でもみてるのデスか?」

「…うんうん、たぶん、夢じゃないよ…?」

 

目の前で紅衣甲斐がウルトラマンへ変身してしまった

思わず調と切歌はお互いの頬を引っ張り合ったが、痛みを感じたことで改めてこれが現実なのだと思い知る

なにが、どうなっているのだろう

 

 

変身したはいいとして、どう動けばいいのだろう

しかし今自分は本当にウルトラマンになっているのが、視線の高さから理解できる

内海辺りオーブの登場に今すごいことになってるのではないだろうか

とか、そんなことを考えている余裕はない、あの青い巨人を助けなければ

 

「シュウワァッ!!」

 

オーブはとりあえずその場から跳躍すると一回転しながら止めを刺さんと歩み寄っていた怪獣―――グールギラスの前に降り立ち、その怪獣に蹴りを叩き込んだ

雄叫びを上げながらグールギラスは後ろに大きく仰け反って、僅かにその行動を止める

その隙を見て、オーブは青い巨人へ駆け寄った

 

「<おい、動けるか!? 動けないなら無理すんな!>」

「<…う、が、甲斐?>」

「<は? 何言って…お前、もしかして裕太!?>」

 

最早意味がわからない

っていうかこの巨人よく見たら立花の家にあったジャンクに映ってたやつじゃんと今更ながら気づく

更に巨人の額―――セブンで言うところのビームランプっぽいのが明滅している

これはもうエネルギーが残り少ないということじゃあないのだろうか

 

「ガァァァァァォォォォォ!!」

 

グールギラスの雄叫びが聞こえる

振り向くとこちらに向かって火球を放ってきた

避けてしまうと裕太の巨人にあたってしまうし、かといって火球を弾いたとしても街に被害が出てしまう

オーブが選択した方法はあえて受けきることにした

 

「ぐ、グアァァァァッ!」

 

激しい痛みが体を襲う

申し訳程度に両腕を使って庇ってはいるが、効果はあまりなさそうだ

しかしこのままやられっぱなしというわけにも行かない

火球の途切れた隙を狙い、ハンドスラッシュをグールギラスに向かって打ち出す

だが牽制程度のこの技では、あまりダメージはなさそうだ

どうする、と思ったとき、背後の青い巨人から言葉が聞こえた

 

「<―――聞こえる>」

「<! 裕太!?>」

「<聞こえるんだ…立花と内海の―――言葉が!>」

 

全身に力は戻ったのか、身体に力を入れるようにゆっくりと巨人が再度立ち上がる

ビームランプは点滅したままだが、その姿には活力が戻っているようにも見え、先ほどまでの弱っていた姿とはまるで違う

 

「光の巨人よ! アイツの弱点は―――首だ!」

「<あいわかった! …え、誰アンタ!?>」

「私はハイパーエージェント、グリッドマン! よろしく頼む、光の巨人よ!」

「<お、おぉ!>」

 

裕太と声がちがくてびっくりしたが、もうそんなんで驚いてたら時間がもったいない

オーブは青い巨人の言葉を受けて両腕を胸の前に持って行き、一気に開いて右手に力を込める

込められた右手にはギザギザのカッターのような輪が形成され、オーブはそれを一度グールギラスの上辺りに投げつける

光輪がグールギラスの放った火球を斬り消しながら上辺りに向かったとき、オーブは借りている力の一つ、ティガのスカイタイプの力を発揮し、一瞬で距離を詰めると光輪を掴み直しその首に向かって振り下ろした

 

「ゥオォォリャァァ!!」

 

振り下ろされたスペリオン光輪は問題なくグールギラスの首を切り裂く

そのまま首はバウンドし、学校の校庭の方へ吹っ飛んでいった

 

(…! 学校が倒壊してる!? あの怪獣の仕業か!)

 

キッとオーブは残ってる胴体部分をその場で蹴っ飛ばした

そしてタイミングを見計らうかのようにオーブの背後から跳躍してきたグリッドマンが同じように伝導キックを打ち込んで大きく更に吹っ飛ばす

 

 

決めるなら、今しかない!

 

 

言葉を交わさずとも、オーブとグリッドマンの考えは同じだった

まずグリッドマンが大きく腕を回しながらそれを自分の前で交差させ、エネルギーをチャージする

 

「―――グリッドォォォォォ…!!」

 

その隣でオーブもまた右手を上に突き上げながら、体中のエネルギーを一点にかき集め、残った左手を胸の前に持っていき勢いよく開く

 

「スペリオン―――!!」

 

 

 

「ビィィィィム!!」「光ォォォ線ッ!!」

 

 

突き出されたグリッドマンの左手の甲から放たれるグリッドビームと、交差されたオーブの手から放たれるスペリオン光線の一斉射は、首のもげたグールギラスに直撃し、グールギラスの身体を爆発させる

オーブとグリッドマンの二人はただ静かにその様子を見ていた

ふと、自分の胸―――カラータイマーを見てみるといつの間にか点滅していた

もう三分経っていたのだろうか、それともガイアみたいに制限時間=自分の体力みたいな感じなのだろうか

 

「光の巨人よ」

「ヘアっ!?」

「ありがとう、貴方の助力がなければ、負けていたかもしれない」

「<あ、いや、いいってことよ。困ったときは助け合いだ>」

 

そうオーブが言うとグリッドマンはゆっくり頷いてそのまま消えてしまった

自分もそろそろ戻るとしよう

…思いっきり戻れって念じればいいだろうか

とりあえず切歌と調が不安だからその辺りを向きながら手を交差させる

すると自分の体が光り輝き、自分が先ほど変身した場所まで戻ってきていた

 

「…戻ってこれた」

 

ふと視線を向けると、そこには固まったままの調と切歌

まぶたをぱちくりと動かしながら、目は甲斐を見つめている

 

「…ただいま?」

 

戻ってきて第一声がそれなことに、切歌と調はちょっとキレた

こっちがどれだけ心配しているかわからんのだろうかこのラムネ野郎は

とりあえずそのお腹に一発、いや、二人合わせて合計二発パンチを叩き込んでおこうと心に決めた切歌と調であった

 

◇◇◇

 

ガツン!! と苛立ちを隠さないようにナイフを机に突き刺した

反動で机の上に乗っていたものが散らばる

 

「…なにあれ!? あんなの聞いてない!」

<どうやら、〝お客様〟が現れたようだねぇ>

「っていうか、ホントなに!? ウルトラマンってテレビの中の存在じゃないの!? あれは、あれは間違いなく…ウルトラマンオーブ…!!」

 

ギリ、と突き刺すナイフに力を込める

イライラは最高潮に達したが、ここで考えても無駄と判断し、アカネは軽く一眠りするためにベッドへその身を投げ出した

 

 

 

 

 

―――運命は、まだ始まったばかりだ




「切歌と!」「調の」

『ウルトラヒーロー! 大紹介ッ!』

「まず一枚目のウルトラヒーローはこの人デース!」

<ウルトラマン!>

「М78星雲から最初に地球にやってきた伝説のウルトラマンだね」
「その両手から繰り出されるスペシウム光線は、どんな怪獣もデストロイ! デース!」

「続いて二枚目のヒーローは、この人」

<ウルトラマン ティガ!>

「超古代の眠りから覚めた、平成最初のウルトラマン、だね」
「三つの姿を使い分け、オールマイティに戦えるウルトラマンデース!」

「次回もまたみてくださいね」
「それじゃあまた! なのデース!」

「ところでこのコーナー何デスか?」
「たぶん、本家のガイさんのオマージュ的な…」

―――――――――――――――

テーンテテテンテンテンテーン!(オーブ次回予告の時のイントロ

怪獣を倒して疲弊してる中、学校どうなってかなって行ってみると、どういうわけか学校が綺麗さっぱり直ってやがった!
そして同時に俺の耳に、残酷な真実が入ってくる
絶望に打ちひしがれる俺をあざ笑うかのように、また新たな怪獣が出てきやがった!
―――セブンさん、エースさん! 俺に勇気を貸してください!

次回、GRIDMANORB 「修復 スラッガーエース」!

切り裂け闇を、光と共に!


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修復 ~スラッガーエース~ 1

感想、お気に入り登録ありがとうございます
思いのほか好評? っぽいのが嬉しいと同時にプレッシャーですわ(;゚Д゚)ガクガクブルブル

本編のグリッドマンはもうめっちゃ佳境でバンバン謎が解かれてってますが、僕はのんびりやってきます

ではどうぞなのだな(突然のタマモキャット


朝起きた甲斐は言いようのない違和感を感じていた

何となくテレビをつけてみる

流れているのは朝特有の目覚まし的な番組や、子供向けのシャキーンする番組だとかが放送されている

チャンネルをいくつか変えても、ごく普通に情報番組ばっかりだ

 

「…どうして昨日のことが報道されてないんだ」

 

昨日は変身が終わって調と切歌からキツイ二発をもらい二人に謝り倒したあとひとまず今日は解散ということになり家へと戻った

その時点では大きく報道とかニュースとかにもなっていたが、それが今朝になるとぱったりとなくなっている

携帯で調べても、そういった情報は綺麗さっぱり無くなっていた

一体何がどうなっているのか

気にはなったが自分の頭では考えてもわからないと結論づけて適当に朝食を摂ると登校の準備をして家を出た

 

 

「おはようなのデス」

「おはようございます」

 

登校して数分、後ろから駆け足できた切歌と調と合流する

彼女らの歩行スピードに合わせるように甲斐は速度を少し落とし、歩く速さを同じにしながら甲斐も彼女らに挨拶を返した

 

「おはよう、昨日は眠れたか?」

「…正直な所、情報多くてパンクしそーデス…」

「今も頭の中ぐわんぐわんしてるよ」

 

切歌が目を細めにしながら昨日のことを思い返し、調が空を見上げながらそんなことを呟く

まぁそれは仕方ないと甲斐は思う

誰だってそーなる、たぶん、自分もそーなる

 

「そもそもなんで甲斐さんがあんなふうに変身したのかが未だ理解できていないデス、いつあんな光パワー手に入れたデスか」

「俺もよくわかんない。ジャンクショップで買ったらなんか光の輪っかがポワンって出てきて俺に張り付いたと思ったら、なってた」

「…え。光の力ってジャンクに流れてるの。っていうか買えるの?」

「あぁ。三千円だった」

「それ、売ればかなりお金になると思うデスよ?」

「売れれば、な」

 

もっとも売るつもりなど全くないが

っていうかあこんな話なんか誰も信じないだろう

ジャンクショップで光の力が三千円で売ってたんだけど質問ある? なんて掲示板立てても〝嘘乙〟の一言でバッサリされるのがオチだ

 

「…しっかし、なんだ? 今日は未来と響見ないな。もう先行ってんのかな」

「言われてみれば、今日見てないデスね」

「また人助けしてる可能性もあるかも」

 

どれも有り得るかもしれないから困ったものだ

そんな考えもそこそこにして、三人はそのまままた雑談をしながら歩き始めた

 

 

そして到着するツツジ台高校

ここも確かに昨日炎に包まれて崩壊していたと思うのだが、議論なんてしても無駄だと判断した甲斐はそれを心の中にしまい、歩く足を止めなかった

 

「それじゃー甲斐さん、またなのデース」

「ちょこちょこそっちに行くね」

 

下駄箱のところで切歌と調の二人と別れると、甲斐も自分のクラスに向かって歩き出す

適当に横を通る他のクラスの知人に挨拶しながら、甲斐も自分のクラスの教室の扉に手をかけて、教室へと入っていった

クラスの友人たちに軽く挨拶を交わしながらいつもの席に座ると妙な違和感を感じた

 

(…あれ?)

 

全体的に教室を見回す

どういうことだろう、昨日に比べて何個か机が少ない気がする

それに目の前…たしか、目の前の席は、響だったはずなのだけど、違う女生徒が座って、友人と駄弁っている

本人がいないから来るまでの間、座って友人と駄弁っているんだろうか

 

 

「…なぁ裕太」

「え、なに、今度はどしたの? 内海」

 

教室にて

ちょっと前クラスの知人に昨日怪獣が出たことを聞いてみるも見事に空振り

内海や立花も調べてくれてはいるが、やはり何も情報は出てこず、裕太たちグリッドマン同盟(仮)は理由は知らないが記憶が自分たち以外リセットされていることを知る

どうしたもんかとなんとなく天井を見ていたら、ガラリと扉を開けて紅衣甲斐が教室に入ってきた

 

彼はいつもと同じように適当に挨拶しながら自分の席へと向かっていく

不意に彼もクラス全体を見渡すような仕草をしていたが、どうしたんだろ、というタイミングで内海が話しかけてきたのだ

彼は声を抑えながら

 

「いや、話変わんだけど、昨日お前、ウルトラマンオーブとちょっと話したよな」

「え? う、うん。いきなり出てきてまた敵かなって思ったけど、こっちを助けてくれたから」

「あぁうん、それはいいんだ。俺も好きだし、オーブ。けど今は違うそうじゃなくって、お前昨日、あのオーブ見て、甲斐って名前言わなかったか?」

「あぁ、言ったけど…何か問題あったっけ?」

 

そう聞くと内海はちらっと甲斐の方へと視線を向けながら

 

「いや、テレビの中ならな、オーブに変身してる人はクレナイ・ガイって人なんだが…もちろんそれはフィクション。現実には存在しない人だ。だからもしお前が言ってた甲斐ってのがアイツなら…」

「! 甲斐が、そのなんとかオーブってことなの!?」

「なんとかじゃないウルトラマンだ! ウルトラマンオーブ! …おっほん、ともかくその可能性が高いってわけだ。なんとか、時間見つけて甲斐と話してみたいところだけど…もし違ってたら気まずいしなー…」

 

うーんと唸る内海を尻目に、裕太はなんとなく甲斐へと視線を向ける

彼は誰かを探しているみたいに缶ラムネを飲みながら周囲へと視線を向けていた

 

 

おかしい

ホームルーム五分前になっても響と未来が来る気配がない

響が人助けしてるなら先に未来だけでも登校しているはずだ

今も眠ってる? そんなはずはない、未来が寝過ごすなんて考えられないし…

いい加減考えても埓があかないと判断した思い切って甲斐は目の前の人に聞いてみることにした

 

「なぁ、響と未来なんだけど…アイツらくるの遅くないか?」

 

言葉を聞いた女生徒は一瞬ポカンとした顔を見せる

その後で近くの友人と一緒に耐え切れないと吹き出して笑い声を上げたのだった

…何か変なことを聞いたのだろうか

 

「もー、甲斐くん朝から変なこと言わないでよー」

「へ、変なことって…クラスメイトの立花響に小日向未来だぞ? この時間までいないってことは―――」

 

しかし彼女から返ってきた返答は、想像を遥かに凌駕する一言だった

 

「えー? 何言ってんの甲斐くん」

「…え?」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

空気が、凍る

今、目の前の子はなんて言ったのだろうか

 

「じょ、冗談よせよ…だって、昨日までいたじゃんか。その席に座って…」

「もー! 甲斐くんそんなギャグ言える人だっけ? ここはずっと私の席だよー」

 

目の前の女が何言ってるかわからない

だっておかしいじゃないか、昨日まで確かにここにいたはずなのに、なんで今日になって皆がみんな忘れているのだろう

 

「…俺が…おかしい…?」

 

自問自答する

だけど頭の中でなんて答えなど出るはずもない

そもそも、自分には鮮明に思い出せるのに

昨日のやり取りも、流れ星を見ようって約束も思い出せるのに、俺がおかしいっていうのか

 

 

 

「―――そんなわけねぇだろッ!!」

 

 

 

確認せずにはいられなかった

甲斐は机から立ち上がりカバンだけを持って教室から出よう足を進める

ぶっ壊す勢いでかなり力強く扉を開けるとそのまま廊下を全力で駆け出していった

家の場所は覚えてる、そうだ、何かあったに違いない、そうに違いないんだ

そう心に言い聞かせて甲斐は廊下を駆け抜けた

 

 

月読調は親友でもある暁切歌と教室に入ったとき、なんだか言いようのない違和感を覚えた

とりあえず近くのクラスメイトに挨拶をしながら調は自分の席へと歩いていく

その間少し耳に集中してクラスメイトたちがどんな雑談をしているのか聞いてみた

 

昨日見た番組、バラエティ、あるいはドラマ

単純に昨日発売したゲームの話…あるいは、某狩りするゲームはどこまで進んだか

どんな俳優が好きか、あるいは少し先に上映が決まっている映画の話

 

「切ちゃん、やっぱりおかしいよ」

「? どうしたデスか? 調」

「昨日あんなことがあったんだよ? なのに話題が一切あがってないなんておかしいよ」

 

そう調に言われて、改めて切歌もクラスメイトの話に少し意識を集中してみた

たっぷり時間を使っておおよそ十五秒くらい、切歌は頷きながら

 

「…確かに、みんな昨日のことなんかなかったみたいに話してるデスね…」

「ね? やっぱりおかしいよ。それに…なんか机の数ちょっとだけ減ってる気がするし…」

「えぇ!?」

 

調に言われて思わず切歌はクラスを見渡しひぃふぅみぃと小さい声を出して数えだした

やがて数え終えるとガタっと椅子に座り直して

 

「…ホントーデス! 少なくなってるデス…!」

「昨日はいたと思うんだけど…ちょっと聞いてくる」

「うえぇ!? マジデスか!?」

 

切歌の声を耳に入れながら、少し近くで話しているグループに向かって歩き出していった

切歌はそんな調を不安そうな面持ちで見つめながら彼女が戻ってくるのを待つ

やがて雑談を終え戻ってくると彼女は神妙そうな表情をして椅子に座ると

 

「…いないことになってる」

「なんデスかそれ、ちょっと笑えねーデスよ…」

 

最初からいないことになっているとはどういうことだ

 

「…切ちゃん、あんまり口にしたくないけど、もしかして…いなくなった人って…」

「昨日の怪獣出現による被害者ってわけデスか。…じゃあなんで私たちはおぼえてるんデス…?」

「流石にそれは…」

 

と調が顎に手を当てたその刹那、遠くのクラスの方からバガンっ! と勢いよく扉が開ける音が聞こえた

なんだ? と思わず首だけをそっちの方を向くと、今度はそっちの方から誰かが走っていく足音がした

教室の思わず切歌がクラスのドアを開けて走っていった方向を見てみると、見覚えのある背中が見えた

曲がり角を曲がる彼の横顔は、何か不安そうな表情を浮かべている

 

「…甲斐さん?」

「どうしたの? 切ちゃん」

「今ここを走ってたの、甲斐さんだったデス」

「甲斐さんが?」

「うん。…なんかちらっと顔見えたのデスけど…すごく焦ってたような…」

「焦ってた…?」

 

そう言って一度調は考える

焦ってた、ということは彼のクラスで何かがあった、ということなのだろうか

そういえば今日は響と未来の姿を見ていないが…それと何か関係がある…いや、待て

もしかしたら…〝そう〟いうことなのでは?

 

「…追いかけよう切ちゃん」

「調…」

「なんだかよくわかんないけど…今ここで甲斐さんを追いかけないと、後悔する気がする…!」

 

 

何も考えず、ただ真っ直ぐ、全力で走った

赤信号とかも完全に無視し、ただ未来と響の家に向かってただ走り続けた

人ごみも半ば強引に突っ切って無我夢中にただ走る

 

嘘だ、そんなことある訳が無い

頭の中でそう何回も繰り返しながらひた走る

確か響と未来は家が隣同士で、自分も何回か行ったことがある

場所は大丈夫、そうだ、風邪かなんかで来れないだけだ、だからきっと大丈夫…!!

 

そう何度も言い聞かせ、甲斐はようやくたどり着いた

 

「な、なんだ…家あんじゃん…」

 

目の前にあるのが響の家で、その隣の家が未来の家だ

息を整えて、まず目前にある響の家のインターホンを一度押す

ピンポーン、というありきたりな音が鳴り、甲斐は少し待つ

………

しかしいくら待っても家からこちらに向かってくる足音がなる気配がない

不安に思った甲斐はドアノブに手を伸ばす

 

「…開いてる…?」

 

恐る恐るといった感じで甲斐は扉を開ける

中に入り、キョロキョロと見回す

どういうわけか、人の気配が感じられない

嫌な予感が加速する

 

「…響? 響ぃっ!!」

 

名前を叫びながら、彼女の姿を探す

だけど響の姿はおろか、響のご両親の姿すら見つけることは叶わなかった

 

 

未来の家にも行ったが、結果は変わらなかった

〝誰もいない〟

 

どこをどう探しても、まるで最初からいなかったみたいに気配すらなかった

放心しながら甲斐は壁の塀に背中を預けながらゆっくりと腰を下ろす

背中が多少汚れているが、気にしてなんぞいられるか

 

「…」

 

正直、頭の片隅ではなんとなく来ても無駄なんじゃないかということはわかっていた

学校に来たとき、クラスの机の数が減っていたと気づいた際に、嫌な予感はしてたんだ

ただ無意識に空を眺めながら空の方を見ていると、こちらに向かって近づいてくる足音が遠くから聞こえてきた

ちらりとそちらに視線を向けると、切歌と調の姿が見えた

甲斐は少しだけ驚きながら、立ち上がり彼女たちの方へと歩み寄る

 

「二人共…なんで、ここに…」

「あんな表情で廊下を全力ダッシュしたら、気にならない方がおかしいってんデス…ぜぇ…はぁ…」

「…やっぱり、響さんと未来さんがいないのが、原因なんだよね」

 

いきなりグサリと確信のつく言葉を調がついてくる

調は基本的に冷静で、妙に鋭い所がある

甲斐は思わず調から顔をそらした

 

「実は、私のクラスでもいなくなった生徒がいるの」

「…そっち、でも?」

「うん…甲斐さん、きっと聞きたくないだろうけど、我慢して。多分だけど、いなくなっちゃった人は―――」

「―――あぁ、わかってる…! わかってるよ…! だけど、俺は認めたくなかった!!」

 

どうにか涙を堪え、甲斐は調に言葉を発する

 

「…甲斐さん…」

「この目で見るまで信じたくなかった! ありえない、そんなハズない、きっと生きてる大丈夫って! アイツらが死んだなんて俺は認めたくなかった…! だけど、だけどアイツらの家に来て、どこにもいなくって! クラスの奴も最初からアイツらがいないって! でも俺は覚えてんだよ!! 笑った顔も、泣いてる顔も、一緒に流れ星見に行こうって約束したときの笑顔もさぁ!! なのに…なのにどこにもいないんだよ…! そうしてやっと思い知った…あぁ、やっぱり、いないんだって…!!」

 

思わず叫んだ彼の慟哭に、切歌と調は息を呑む

何か言葉を探し、励まそうと試みるが―――言葉なんて出て来るわけない

今の彼に何を言ってもそれは意味のないものだ

だから調は、言葉ではなく、行動で示すことにする

 

不意をつくように、調は優しく彼の身体を抱きしめた

もっとも体格のおかげで、抱きしめるのでなく、抱きつくような形になってしまっているのだが

 

「…調…?」

「…いいんだよ甲斐さん、泣いてもいいんだよ…!」

「…っ」

 

調に指摘され、甲斐はビクリと反応する

すると背中にもきゅ、と誰かが抱きつく感触がした

誰かはなんとなくわかる、それは暁切歌だ

 

「そうデスよ甲斐さん。…きっと甲斐さんは、無理して泣こうとしてないんデスよね?」

「でもいいんだよ…辛い時や、悲しい時は泣いていいんだよ…! 私たちに響さんたちの代わりなんてできないけど…受け止めることは出来るから!」

「―――ふ、二人共…」

「みんなは覚えてないかもしれない、だけど、私たちは覚えてるデス…」

「一人で背負おうなんてしないで…私たちも一緒だから…!!」

 

二人の言葉に、甲斐は何かを言おうと口を開く

だが上手く言葉が出てこない…同時にこみ上げる何かが彼の両目から流れて頬を伝う

それは流すまいと我慢してた涙だ

一度感情が決壊したら、我慢など出来なかった

 

甲斐は目の前の調を抱きしめ返し、その背に少しだけ強く己の両手を回すと、静かに涙を流す

声を押し殺して泣く彼の頭を調は優しく撫でて、切歌はその背中を強くぎゅっと抱きしめた

切歌と調は、ただ彼が落ち着くまで、ずっと彼を支え続けた

 

そんな三人を、空にある太陽が静かに照らしていた―――




響と未来は家族絡みで出かけてるときグールギラスに踏まれたか火球に巻き込まれて死にました
ウチの別作品では元気に活躍してますが、こっちでは死んでいただきました
是非もないネ(無慈悲

あと文字に点のルビ振るやつ最高にめんどくさかったのでたぶん今後やりません


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修復 ~スラッガーエース~ 2

正直予告通りか微妙なとこですが、気にしないことにします(開き直り

グリッドマンももうじき最終回
少なくとも僕たちの退屈を救いに来てくれたヒーローでありました

楽しんでいただける人がいれば僕もまた救われます
ではどうぞ


一通り泣いて冷静さを取り戻した甲斐は頬を思いっきり赤くしながらコンビニで買った水を一口飲んだ

調や切歌の視線を受けながら、背中を向いている甲斐は呟く

 

「…はっずかしい所見せたな…」

「大丈夫だよ甲斐さん。あれ、いわゆる〝男泣き〟ってやつでしょ?」

「弱さもあってこそ、デスよー」

 

励ます二人に感謝しつつ、それでも恥ずかしいもんは恥ずかしいのだ

切歌も先ほど購入したいちご牛乳を飲みながら、不意にといった感じで呟く

 

「ところで今日学校どうするデス? もうお昼に差し掛かろうとしてるデス…」

「完全にサボっちゃったね。今日はもうこのままお昼ご飯食べて遊ぶ?」

「そう…だな。ゲーセンでも行くか」

「おー!甲斐さん話が分かるデス! 最近稼働したアーケードゲームやりたいって思ってたデスよー!」

 

爛漫な笑顔を見せる切歌を調はジーッと見つめながら

 

「だけど無駄遣いはダメだよ切ちゃん」

「―――わ、わかってるデスヨ」

 

たぶんわかってないなこれ

胸の中でそんな事を思いながら、甲斐は歩き出した

そしてその後ろを追っかけるように切歌と調が歩み寄る

二人は、自然と甲斐の両隣に並んで、そのまま並行して歩いて行った

 

 

その日は正直に言って最悪と言っていいほどの一日だった

せっかく問川を消すことができて気分が良かったのに、意味のわからない事ばかり連続で起きてはっきり一気に気分は下降してしまった

巻き添えで何人か死んだだろうが、怪獣の移動方向にいた向こうが悪いのだ

申し訳ないとは思うが、運命だと思って諦めてもらおう

 

翌日の学校で一部とはいえ情報も収集できたのはいい事だ

情報、とはアレクシス曰くお客様らしい奴らのこと

一方はよく知ってるから問題ないといえばないが、もうひとりメカメカしい感じのウルトラマンっぽい奴の名前は、どうやらグリッドマンというらしい

そして、記憶消去の影響を受けてない人たちが最低でも四人はいた、ということ

その内のひとりである響裕太からうまいこと情報を聞き出そうとしたが、上手いこと聞くことができず最っ高にイライラしたが、教室に戻る際にぶつかってきた担任教師でついにアカネの感情は爆発する

謝りもしないし、ながらスマホとかやってる教師なんかいっそ消えていいと思うのだ

 

「ってわけで、できた新作!」

 

ごとり、とパソコンの前に新作の怪獣を置く

見た目こそシンプルなデザインだが、その身体は光線を吸収し、己のエネルギーと化してレーザーとして打ち出す機構を持っている

 

<おぉー。いい出来だねぇ…。何に使うんだい?>

「えへへぇ。うちの担任殺そうかなって」

<また何かあったんだねぇ?>

「人にぶつかっといて謝んないのは非常識だよねぇ?」

<良くないねぇ>

「でしょ!? そんな訳で、よろしくぅ♪」

<了解っと。―――インスタンス! アブリアクションッ!!>

 

◇◇◇

 

時間は少し遡る

そんな訳で一行はゲームセンターに来て、調と切歌は甲斐と一緒に遊んでいた

メダルゲームやクレーンゲーム、格闘ゲームにアーケード

こういうところで遊んでいると、どうにも時間の感覚を忘れてしまう

 

(…裕太たち、今頃どうしてっかなぁ)

 

ゲームで遊びながら、ふと甲斐はそんな事を思った

そんな彼らも、今現在問川たちがどうなったか突如現れたサムライキャリバーという人物と一緒に調べて回っているのだが、そんなこと甲斐は知る由もなかった

 

「甲斐さん?」

「え?」

「どうしたの? ボーッとして」

「あ、あぁ。…その、前現れた青い巨人って何かなーって」

「あぁ、あのどことなくロボットみたいな巨人? …確かにアレが何かはわかんないね」

 

ふむー、という様子で調が顎に手を載せて考える

そのはずみで、彼女の髪のツインテールがふわりと揺れた

 

「…けど、今考えてもわかんないね」

「ま、そりゃあな」

「調ー、甲斐さーん。むつかしいこと考えてないで、もっとあそぼーデース!」

 

たたたーっと駆けてきた切歌に、甲斐は手を掴まれた

そしてそのまま、優しく甲斐の手を包み込むように握り締めて、自分の胸の前辺りに持ってくる

 

「…別に、甲斐さんが光の巨人になれるからって、戦う必要はないはずデス」

「え?」

「…戦うことで甲斐さんが傷つくなら、それは悲しいデス。まして、大事な友達がいなくなって、ぶっちゃけ甲斐さんも不安なはずデス。…優しいから、甲斐さんは口には出さないかもデスけど」

「―――切歌」

「無理して戦わないでもいいんデス。薄情ですが、なんならいっそ前出てきた青い巨人に押し付けちまえばいいデス。…甲斐さんに何かあったらあったら、私たちは…」

「そんな顔すんなよ切歌」

 

俯く彼女のオデコを、握られていないほうの手でこつんと小突いた

切歌は「あう」と短い悲鳴を上げながら手を額に当ててこちらを見つめてくる

 

「大丈夫だよ。…うん、俺は大丈夫だから」

 

笑顔と一緒に呟く甲斐ではあったが、その目が揺らいでいることを、調は見逃さなかった

そしてそれを何となく察したのか、切歌も調の方へと視線を向けている

 

(甲斐さん…)

 

ウルトラマンになれる、という事実はきっと彼の運命を大きく捻じ曲げてしまうだろう

響さんたちがいなくなったように、運命はきっと曲がり出している

 

―――どうして甲斐さんなの?

 

そう思わずにはいられなかった

大事な友達がいなくなって、不安定だというのに、きっと光は彼に戦いを強要するだろう

そしてそれを止める術など、調と切歌にはない

 

だけど、今この時間だけは、どうにか甲斐のそばにいたい

許されるのなら、―――出来るなら、ずっと

 

◇◇◇

 

「!」

 

ドクン、と甲斐の体に電気のような衝撃が奔る

不意に動きの止まった甲斐に向かって、隣にいた切歌が怪訝そうな顔で彼に声をかけた

 

「…甲斐さん?」

「―――来る…」

「え?」

 

短く呟いて甲斐はカバンを背負いなおすと出口へ向かって走り出した

突然のことで意味が分からず、切歌と調も顔を見合わせると彼を追いかけて走り出す

ゲームセンターを出ると、甲斐は視線を一点に集中させている

切歌と調もまた、甲斐に釣られて目を動かすと、そこに一匹の怪獣がいた

白っぽい体にずんぐりとした体躯…頭の不揃いな両目はどこを見ているのか、こことは違う別のところを見ているみたいだ

 

「甲斐さん!」

「―――え?」

「逃げるデスよ甲斐さん! いつこっち来るか、わかったもんじゃねーデス!」

 

切歌と調に引っ張られるように、甲斐は走り出した

それでも意識だけは、怪獣の方へと向きながら

 

◇◇◇

 

怪獣の腹部から何かが形成され、そこからレーザーが放たれた

真っ直ぐ飛ぶその光は街を容赦なく両断し、射線上にいた全てを破壊していく

 

「ちょっと雑すぎー! もっと狙って撃ってよー!」

 

他者から見ればただの破壊活動にしか見えないが、創造主たるアカネには瑣末なことではあるが、一つの目的があった

シンプルにそれは、イラつかせた担任を抹消(ころ)すこと

先ほどのレーザーも殺す意味合いで撃ったのだろうが、まるで狙いがズレてしまっていた

 

<ところでアカネくん、今回の怪獣の名前は決まっているのかな?>

「名前? …うーんとね…―――あ、デバダダンなんてどうかな!?」

<おぉいい名前だねぇ! 先のグールギラスといい、アカネくんはネーミングセンスもあるようだ>

「ちょっと褒めすぎだよアレクシスぅ、悪い気はしないけどさっ」

 

にししーと笑いながらアレクシスに返答するアカネ

それはどこにでもある日常的な会話なのかもしれない

すぐ近くで、怪獣が無差別に暴れていることを除けば、の話だが

 

◇◇◇

 

どこまで走ったかは、正直覚えていない

だけど遠目からあの怪獣の全体像が見えるくらいには離れたと思う

 

「はぁはぁ…ここまで離れれば、大丈夫かな?」

「たぶん大丈夫なハズデス…ぜぇ…ぜぇ…」

 

ちらりと切歌は甲斐の方へと視線を向ける

彼は何度か立ち止まったが、それでも最終的に切歌と調と共に、逃げることを選択してくれた

だが何回か、視線だけは向こうへとやっているところも見えた

やっぱり―――彼は

 

「! 調!」

 

切歌が不意に指を指す

指された方向を見ると、ビルの上に一体の巨人がいるのが見えた

デザインこそはかつての青い巨人に似ているが、カラーリングは赤をベースにしたものに変わっていたのだ

 

「前出てきた巨人!」

 

赤い巨人はビルの上から飛び降りると、速度そのままに蹴り飛ばしながら地上へと降りると、接近戦を始める

蹴り、拳を幾度かぶつけ、尻尾を両脇に抱え込むとそのまま身体を大きく回し、勢いよく放り投げる

吹っ飛ばした怪獣に向かって、赤い巨人は追い討ちをかけるように以前繰り出した左手の甲から繰り出す光線―――グリッドビームを撃ち込んだ

 

どうやら今回は甲斐さんが変身せずに済みそう―――そう思った切歌と調の気持ちを嘲笑うように赤い巨人が撃った光線を怪獣は表面の鏡のような装甲で弾き、腹部のレーザーで反撃したのだ

 

「デス!?」

「光線が!?」

 

そこからは一気に巨人が劣勢となる

尻尾での攻撃、腹部からのレーザー…きっと、このままじゃ―――

そう思った時、甲斐は切歌と調の前に出てきていた

彼が何をするのか…それはもう分かりきっている

 

「…甲斐さん…」

「…悪い、調、切歌。…お前らの気持ちも嬉しい。…だけど―――」

「甲斐さん」

 

彼の言葉を遮って、調が彼の手を握る

優しく握られたその手に、彼女の温もりが伝わる

 

「…大丈夫だよ甲斐さん。…正直、きっと戦うんだろうなって、分かってた」

「調…」

「甲斐さんの性格的に、ああいうのは見逃せないでしょ?」

 

そう言って調は笑顔を見せた

いつもと変わらないその微笑みに、思わず甲斐も笑顔になる

 

「…だけど、忘れちゃダメデスよ」

 

調の隣にやってきて、同じように切歌もまた笑みを浮かべた

彼女は真っ直ぐ、甲斐の目を見つめて

 

「甲斐さんは一人じゃないんデス。―――だから、一人で背負い込まないで」

 

告げられた言葉に、甲斐はゆっくりと、そして深く頷いた

最後に切歌と調、一人ずつ頭を撫でながらついに甲斐は走り出す

赤き巨人が戦う戦場へと

 

 

走りながら甲斐は、カバンの中からオーブリングを取り出した

カードケースは常にズボンにぶら下げるようにしているし、そこらへんは問題ない

邪魔になったカバンを其の辺にぶん投げると、手に持っているリングへと視線を向ける

 

「―――俺はもう迷わない…! アイツらがくれた勇気で、恐怖を乗り越えてみせる…―――ジーッとしてても、ドーにもならねぇ! …ですよね! ジードさん!」

 

そして甲斐は自分の顔の前にリングを交差させると、勢いよく前に掲げる

リングは眩く輝き、甲斐の身体を包み込んだ

 

 

インナースペースと呼ばれる異空間の中で、甲斐は以前と同じように、一枚ずつカードを取り出す

 

「―――ウルトラマンさん!」

 

名前を叫び、まず一枚をオーブリングにリードさせる

 

<ウルトラマン!>

 

そのままリングはカードを光の粒子へと変換させると、甲斐の左側にウルトラマンの幻影が現れた

 

「―――シュワッ!!」

 

そのまま今度は二枚目のカードを手に取る

 

「―――ティガさんっ!」

 

<ウルトラマン ティガ!>

「―――テェア!!」

 

リードされたカードが同じく光の粒子となって、甲斐の右側へティガの幻影も出現する

そこから、気合と覚悟の問題だ

 

「―――光の力、お借りします!!」

 

そう叫び、オーブリングを上に掲げ、スイッチを押す

するとリングの翼状の装飾が展開し、甲斐の体をウルトラマンへと変えていく

 

<フュージョン アップ! ウルトラマン オーブ! スペシウム ゼペリオン!>

 

◇◇◇

 

ジャンクショップ絢にて

そこにはグリッドマン同盟と呼ばれる人たちがいる

グリッドマンである響裕太を中心として、宝田立花、そして内海将の合計三人からなる同盟だ

 

「どうすんの内海くん! これじゃあ…!」

「俺に言われてもなんともできねぇよ! くっそ…せめて、あの怪獣に何か弱点があれば

 

響が変身するグリッドマンがダメージを負うと、目の前のジャンクにもそのダメージが伝達する

その度にバヂリバヂリと危うい火花が迸るのだ

そんな様子を少し離れた所でサムライキャリバーと名乗る男性が見守っていた

 

「…!」

 

ぴくり、とサムライキャリバーが目を細める

その後で、彼は静かに、それでいてはっきりと言葉を口にした

 

「く、来るか」

「え? 来るって…」

「し、知っている筈だ。もう一人の、巨人…」

 

キャリバーがそう呟くのと、ジャンクの画面に変化があったのは同時だった

今まさに止めを刺さんと腹部から放たれた怪獣のレーザーが突如として現れた光に遮られた

ポワン、という独特な音と共に、その巨人は現れる

 

「あれって…!」

「オーブだよ! ウルトラマンオーブ! グリッドマンを助けに来てくれたんだ!」

「う、内海くんなんかテンション上がってない?」

 

興奮する内海を余所に、立花は再びジャンクの画面へと視線を向ける

そこにはグリッドマンを守るように仁王立ちする、ウルトラマンオーブの姿がそこにあった

 

◇◇◇

 

インナースペースの中で、大きく深呼吸を何度か繰り返す

きっと自分程度がその名前を口にするのは、おこがましいかもしれない

だけどこれは決意の表れでもある

自分自身の口から言うことで、運命から逃げないということ、大事な人を守るという決意ができそうな気がするからだ

だから、甲斐は大きくそれを叫ぶ

 

 

「<俺の名はオーブ! ―――闇を照らして、悪を討つ!>」

 

叫び、オーブはデバダダンの方へと駆け出した

とりあえず身体全体を用いてタックルをぶちかまし大きく距離を空けてみる

先ほど見ていた感じだと光線系はきっとあの表面に弾かれてしまうだろう

なら光輪系の技はどうだろうか

とりあえず両腕を交差させ、右手を顔の隣に持っていき、そこに光輪を生み出し、それをデバダダンに向けてぶん投げる

 

だが投げられた光輪は虚しくもデバダダンに当たった瞬間に砕け散ってしまった

これには思わず甲斐自身もインナースペース内で「堅っ!?」と変な声を上げてしまった

 

動揺した隙を逃すことなく反撃と言わんばかりにデバダダンがレーザーを放つ

オーブは咄嗟に手で円を描き、スペリオンシールドを生み出すと、相手が放ってきたレーザーを相手に向かって跳ね返す

跳ね返されたそのレーザーも先ほどのグリッドビームと同じように、弾かれて霧散してしまった

 

(自分のも防げんのか。…まぁ自分のレーザーだから、そら防げるか―――なんて言ってる場合じゃない!)

 

今も放ってくるレーザーを適当に空の方へと弾いていくがこのままではジリ貧だ

何か、何かないかと考えている内に、防ぎそこねたレーザーがオーブの腹部にヒットし、大きく仰け反ってしまった

すかさず追い打ちにデバダダンはレーザーの出力を上げてオーブにぶっぱなす

仰け反っていたため、そしてすぐ後ろにはグリッドマンもいた為に、オーブを避けることができずにその一撃を食らってしまう

 

「ヅアァァァァッ!?」

 

そのまま空中に投げ出されるが、何とかオーブは体制を立て直し、地面へと着地する

どうしたものか、とオーブは考えるように立ち直し、身構えた

 

 

「くっそ…オーブでもダメなのか…!?」

 

ジャンクの画面を見ながら内海が髪をかきつつそう呟く

不安そうにジャンクを見ていた立花は思わずキャリバーの方を見た

ここに始めて来た時、ジャンクを最適化させてくれた彼なら、グリッドマンのことを知っているからなら、もしかしたら何とかしてくれるかもしれない

このままじゃあ…グリッドマンが…響裕太が死んでしまう

藁にもすがる思いで、立花はキャリバーに向けて叫んだ

 

「何とか、何とかならないんですか!?」

「―――ならない」

 

しかし返ってきたのは非情すぎる一言だった

 

「そんな…!! グリッドマンの知り合いなんじゃないんですか!? 知り合いなら、グリッドマンを助けてください!!」

「―――それなら出来る」

「…え?」

 

急な手のひら返しに、立花は戸惑った

困惑する立花を余所に、ツカツカとキャリバーはジャンクの画面の前に歩いていき、そして

 

「―――アクセスコード! 〝グリッドマンキャリバー〟!!」

 

叫ぶと同時、裕太と同じように彼の体が光となってジャンクの画面へと吸い込まれた

 

 

しかし無情にも、再度デバダダンは腹部のレーザーをリチャージし、また放ってくる

オーブはそれをスペリオンシールドでもう一度防ごうと考えたが、その衝撃が来ることはなかった

突如として現れた一振りの剣が、そのレーザーを防いだからだ

 

「<あれは!>」

<俺を使え、グリッドマン!>

 

その声は、レーザーを防いだ剣から聞こえたものだ

グリッドマンはゆっくりと立ち上がると剣の傍へと跳躍し、「あぁ!」とその言葉に同意しながら剣を握る

 

「―――電撃大斬剣―――」

<グリッドマンキャリバーッ!!>

 

大きく身構えるグリッドマンに、オーブはそうかと納得する

 

(そうか、弾かれるならたたっ斬る…それなら装甲とかも無視できる…!)

 

甲斐がそう思い至った時、インナースペース内で変化が起こった

 

 

カードケースが勝手に開き、そこから二枚のカードが甲斐の傍をぐるぐると回り始めた

本能的に、甲斐はそのカードがなんなのかを悟る

こうして現れてくれた、ということは力を貸してくれるのだろう

ならば、遠慮なくお借りするだけだ

 

甲斐は再度リングを前に掲げなおすと、宙を舞うカードからまず一枚を掴んだ

 

「―――セブンさん!!」

 

<ウルトラ セブン!>

「―――デュワッ!!」

 

左側にに現れた幻影を視界に収めつつ、今度はもう一枚のカードを掴み、同じようにリングにリードさせる

 

「―――エースさん!!」

 

<ウルトラマン エース!>

「―――トワァァァァァ!!」

 

そうして左右に現れた幻影と共に、甲斐は目を隠すようにリングを持つ手を動かしたあと、大きく両手を開いてゆっくりと回すように自分の腹部辺りに持ってきながら、天へとリングを掲げてスイッチを起動させる

 

「斬れ味イイヤツ、頼みます!!」

 

<フュージョンアップ! ウルトラマン オーブ! スラッガー エース!>

 

 

グリッドマンがキャリバーを構えた瞬間、オーブもまた眩い光に包まれた

光が収まると、そこには先ほどとは別の姿となったオーブがいたのだ

肩はまるでウルトラセブンのような姿となり、頭の形状はどことなくエースにも見える

 

「<切り裂け闇を! 光と共に!!>」

 

オーブはそう叫び、再び身構えた

 

◇◇◇

 

「なにあれ!? 武器とかあんの!? いや、っていうか、何あのフュージョンアップ!? あんなのテレビでなかったじゃん!?」

<やれやれ。困ったお客様たちだ>

「デバダダンッ! あんなのに負けないでーっ!」

 

◇◇◇

 

「<グリッドマン! アイツをぶった斬るぞ」

「あぁ!」

 

スラッガーエースとなったオーブがまず先陣を切り、大きく弧を描いて跳躍する

背後へと移動する途中で、オーブは両手に小型の光輪のようなものを生み出した

それをデバダダンの方へと勢いよく何度も何度も投げ付ける

 

「<ウルトラギロチン連打ァ!>」

 

幾重にも投げられたそのギロチンの雨はデバダダンの行動を阻害するには十分だった

しかもエースの力で生み出したギロチンはスペリオン光輪とは威力が上なのか、なんどか突き刺さりデバダダンにダメージも与えていた

 

デバダダンの背後に着地したオーブは両手にエネルギーをチャージし、上下に開くように動かす

するとエネルギーは実体化した刃となり、それを掴むとオーブは再度身構える

 

「<バーチカルスラッガー!>」

 

彼が構えるのと、グリッドマンが動き出したのはほぼ同時だった

 

まずグリッドマンが背にあるブーストのようなもので加速し、地面を滑りながら接近しキャリバーを振りかぶる

 

「グリッドォォォォォォ…」!<キャリバーァァァァァ…!!>

 

そしてそれと同時にオーブもバーチカルスラッガーを両手に持って、勢いよく回転し接近し始める

 

「<スラッガーァァァ…!!>」

 

 

「<エェェェェンド!!>」

「<エーススライサー!!>」

 

上から下へと繰り出された、グリッドキャリバーエンドと、切り抜けるように横へと凪いだスラッガーエーススライサーが交差する

上下左右と切り裂かれたデバダダンは、雄叫びをあげる間もなく爆散するのだった

 

◇◇◇

 

「…また、助けられてしまったな」

 

背後から声をかけられる

それはキャリバーを携えたグリッドマンだ

オーブは首を横に振ると

 

「<いいや。逆に俺も、その剣に助けられた。斬るって発想出てこなかったからな>」

<き、気にするな。お前という協力者がいてくれること、嬉しく思う>

 

持ち手付近にある緑色の球体が発光して声が聞こえた

喋れるんだ…喋ってたなそういえば

 

「これからも、君が良ければともに戦ってくれないか?」

「<愚問だぜグリッドマン。…願ったり叶ったりさ>」

 

差し出されたグリッドマンの手を、オーブはがっちりと握り返した

すると地上の方から、聞き慣れた声がしたのを、オーブの耳は捉えた

そこへ視線を向けると、切歌と調が手を振っていたのが見える

 

「<じゃあまた、だ。グリッドマン>」

「<あ、ちょっとまって!>」

 

人間へと戻ろうとしたとき、グリッドマンとは違う声が聞こえてくる

声の質からして、たぶん裕太だろう

っていうか、以前聞いた声はやっぱり間違いじゃなかったみたいだ

 

「<? どうした?>」

「<き、君って…甲斐、なの?>」

「<―――さぁ、ご想像に任せるぜ。それじゃあ、あばよ!>」

 

見えてはいないだろうがインナースペース内で笑みを浮かべるともう一度手を交差させ、両手から光を放ちウルトラマンとしての返信を解く

自分が光となった瞬間にグリッドマンの気配もなくなったので、きっと彼も人間に戻ったのだろう

光が甲斐としての体を形作り、切歌と調の前に降り立つ

五体満足な彼を見て、切歌と調は嬉しそうに笑みを浮かべた

 

「よかったデース! 無事で何よりデース!」

「一時はどうなるかと思ったけど…一安心」

 

感極まったのか、抱きついてくる切歌を撫でながら、調に向けて笑みを浮かべる

 

「…調、切歌」

「? デス?」

「どうしたの?」

「―――ただいま」

「―――デス…」

「―――うん…」

 

『おかえり(デース!)』




「切歌と!」
「調の」

『ウルトラヒーロー大紹介!』

「という訳で、最初のヒーローは、この人デース!」

<ウルトラ セブン!>

「地球に二番目にやってきたウルトラヒーローだね」
「ウルトラ六兄弟の一人、そして今も活躍しているウルトラマンゼロのお父さんデース!」

「続いて、二枚目のヒーローは、この人」

<ウルトラマン エース!>

「ウルトラ六兄弟の一人で、五番目にやってきたウルトラヒーローだね」
「多彩な超能力と光のカッターを用いた切断技のバリエーションは右に出るモノはいねーデス! ギロチン王子の名は伊達じゃねーデス!」

「次回もまた見てくださいね」
「それではまた! なのデース!」

――――――――――――――――――――――――

テーンテテテンテンテンテーン!

あれからおおよそ一週間、何事もなく平穏な日々を送っていたのだが、そんな平和を打ち破るかのように、何と学校の近くにまた新たな怪獣が現れやがった!
すかさず変身して立ち向かうグリッドマンと俺だったが、どうもグリッドマンの様子がおかしい…、おいグリッドマン、どうしちまったんだ!?

次回、GRIDMANORB 「敗北 スカイダッシュマックス」!

輝く光は、疾風の如し!


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敗北 ~スカイダッシュマックス~ 1

新年あけましておめでとうございます(三月
いやぁ、最終回はもう色々ヤベーイですな
そこまで行くかわかりませんが、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします


「チーム名を決めた方がいいと思うのデス!」

 

先の怪獣を倒してから、おおよそ数日経った

現在時間はお昼時、今日は珍しく天気もまだ快晴なので屋上で食事を取ろうとなって、屋上にやってきて適当に腰を掛けてさぁ食べようとなったとき、切歌が不意にそう叫んだ

 

「…どうしたの? 切ちゃん」

「あまりにも唐突でびっくりしたぞ。どうしたホントに」

 

調がむぐむぐとお弁当を食べながら首をこてんとしながら口を開き、その隣で惣菜パンを食べながら調に続いた

切歌はぐわしとこぶしを握り締めながら

 

「いえデスね、やっぱりこれから一緒に戦ってくというのデスから、チーム名を決めた方がいいと思ったのデスよ」

「戦うの甲斐さんなんだけど」

「私たちだって気持ちでは一緒に戦ってるデス! 調だってそう思ってるでしょ?」

「それは―――そうだけど」

「ということで、なんかチーム名の案、ないデスか? 甲斐さん」

「急に振られてもな…」

 

何を言うのかと思ったら

しかしまぁ、改めて戦う決意をした訳なのだし、心機一転としてそんなのもいいかもしれない

惣菜パンを食べ終えてパンが入っていた袋を閉じるとうーむ、と甲斐は考えだす

 

「さ、サムシングサーチピープル…」

「それオーブ本編に出てきてるじゃないデスか」

「そんなん言われてもパッと思いつかないぜ。…そう言う切歌は?」

「私デスか? んー…そーデスねぇ…チームザババ…とか?」

「意味わかんねぇよ! っていうかザババってなんだ!?」

「よ、よくわからんのデス! なんか頭にパッと思い浮かんで…」

 

そんな風に言い合いをする二人を尻目に、調はうーん、と考えながら、じーっと空を眺めていた

そしてふと、思いついたように二人の方へ視線を向けて口を開く

 

「ウルトラマン革命、なんてどうかな?」

 

調が不意に発したその言葉に、切歌と甲斐は彼女の方へ向ける

 

「…革命…? 何に?」

「意味なんてないよ。語呂合わせで選んだようなものだし。けど、強いて言えば、いつかこの世界を平和にしようっていう意味での、革命」

「なんか言葉の響きもいいデスね! 声に出してみると気持ちがいいデス!」

 

確かに切歌の言う通り声に出してみるとなんか妙にしっくりくる感じがする

しかし革命、か

いつの日か、怪獣がいなくなればいいのだが、それまで革命は終わることはなさそうだ

 

「じゃあ、それで決定で。切歌は他に案はある?」

「ねぇデス! 私もそれに賛成デース!」

「じゃあ、今日から私たちは、〝ウルトラマン革命〟だね」

 

調が笑顔でそう呟く

それと同時に昼休みを終わらせるチャイムの音が鳴り響き始めた

 

「おわ! いかんデス、ごはん食べるの忘れてた!」

「話に夢中になるから。調は大丈夫か?」

「うん。二人が言い合ってるときに食べ終わった」

「うう、痛恨のミスなのデス…」

 

◇◇◇

 

そんな三人を、屋上の入り口で隠れて見ていた一人の女性

女性―――新条アカネはうーむ、と考える

 

「…あの子ら、あんなに甲斐くんと仲良かったかな」

 

むろん、今までが仲悪いとかそういうんじゃない

なんだか以前よりも距離が近いという感じがするのだ

深く思考する前に、アカネはふるふると首を横に振ると

 

「まぁいいや。そろそろあの子も仕上げに入るし、今日は早めに帰って作業に取り掛かろっと」

 

三人のことを視界から外すと、アカネは踵を返して歩き始めた

もう少しだ、もう少しであのグリッドマンを撃破出来うる怪獣が完成する

その事実は、アカネの顔を無意識に笑顔にさせた

 

「———楽しみだなぁ…ハハッ」

 

◇◇◇

 

平和な日々が続き、一週間が経とうとしていた

今日はあいにくの雨、かなりの強さで空から降りしきる雨粒が地面や建物を濡らしていく

 

「…こんな雨の日でも学校って行かなきゃいけないってのが、学生の辛いところだよなー」

 

飲み干したラムネのビンをゴミ箱に捨てながら、甲斐はカバンを背負いなおして家を出る

シンドイとは言え、学校に行くのが学生の仕事みたいなものである

泣き言なんて言ったところで何も変わるわけじゃないのだ

いつもと同じ道を歩きまたいつもと同じように調、切歌と合流

他愛のない話をしながら学校への道中を歩いていく

改めて平和な日々を過ごして実感したが、やっぱりこういう何気ない日々が大切なのだと思い知らされる

 

学校へと到着し、調や切歌と別れると真っ直ぐ教室に向かわず、確認したいことを確かめるべく甲斐は誰もいないであろう屋上の入り口へと歩いていった

こんな朝早い時間に屋上へと向かう生徒などいないだろう

とは言っても今絶賛雨天中なので屋上に出るわけにはいかない

まぁ人通りが少なければそれでいいのだ

 

改めて人通りの少なさを確認したところで、甲斐は腰にぶら下げてあるカードケースから中のカードを全部取り出した

そこにあるのはウルトラマンやティガ、セブン、エースなどなど、リングに用いることができるカードの数々だ

 

甲斐とて、この一週間何もしてなかったわけではない

怪獣との闘い以外にも、使用できるようになったカードはたくさんある

そんな訳でこの一週間、夜になると誰もいないであろう山の中江へとひとっ走りして、そこで組み合わせることができるカードの種類を実際にリードして確かめていたのだ

結構このオーブリングは融通が利くみたいで、ティガみたいに胸元にリングをもってって変身してみたら等身大のサイズで身を変えることができたのだ

 

そんなことを思い返しながら、手元のカードを改めて確認していく

テレビ本編で用いられたカードはもちろん、マックスに、アグル、レオ、ゼロ、コスモス、ヒカリ、ネクサス、ダイナ…

何枚か見たことないカードがあるから少し驚いたが、それらも一応リードしてどんな形態になるかは確認済みだ

まぁ実際に体を動かした(軽く運動はした程度ではあるが)訳ではないので、あとは実戦での一発本番となるだろう

 

「甲斐くん?」

「じゅねっす!?」

 

不意に投げかけられた言葉にびくりと体を震わせる

カードに夢中になってた製で気づかなかった

恐る恐る後ろを振り向いてみると、そこにはクラスのマドンナ的存在の新条アカネがいたのだ

 

彼女は両手をバルタンのハサミのようにカチカチするしぐさをしながら笑みを浮かべて

 

「おはよう、甲斐くん。もうホームルーム始まっちゃうよ?」

「お、おぉ。悪ぃ悪ぃ、ボーっとしてたよ」

 

見ていたカードを取り敢えずポケットにしまい、甲斐はアカネの方へと歩き出す

 

「何してたの?」

「大したことはしてないさ。ただ何となく雨天の空を見てただけだよ」

「また黄昏てた感じ? 甲斐くんホント好きだねぇ」

「まぁね」

 

言ってくるアカネに甲斐はにぃっと微笑んで返す

ポケットに入れたカードの存在を改めて甲斐は確認すると甲斐はアカネと駄弁りながら教室へと戻っていった

 

 

「…?」

 

教室に入ると、また妙な違和感が甲斐を襲ってきた

なんだか一人いない気がするのだ

改めて教室を軽く見渡すとその違和感に気が付いた

そうだ、なんかいないなと思ったら六花がいないのだ

サボりかなんかだろうか

まぁこの大雨だったらサボりたくもなる

実際甲斐自身もめっちゃ憂鬱だし

 

学校行くとき玄関開けて降りしきる雨を目視で見たとき「サボりてぇ…!」って何度思ったことか

自分を呼ぶ切歌と調の声で我に返り、今日もまた我慢して登校してきたわけではあるが

 

ちらりと同じクラスの響裕太へと視線を向けてみる

なんでかはわからないが、どうにも彼は悩んでるようだ

立花がいないのも何か関係はあるのだろうか

 

ま、考えても仕方ないし、真面目に授業でも受けようかなーと黒板へと視線を改めて向けた、その直後だった

 

ズズゥン! と少々ドデカい足音が聞こえたような気がした

なんだ? と思いながらふとその音が聞こえた方を見てみると

 

 

 

紫色の怪獣が、こっちに向けて歩いてきていた

 

 

 

「…えぇ」

 

思わずそんな素っ頓狂な声が出ていた

当然、クラスのみんなもそっちに視線が釘付けになる

各々持っているスマホで写メを取ったり、呑気に動画を取ったりしてSNSなどに上げるものもいたりとその反応は多種多様だ

 

そして同じとき、ガラスを突き破って一人の男がクラスに突っ込んできた

っていうかアグレッシブだな、なんて感想を内心で呟きながら突っ込んできたその男をよく見ると、いつかコンビニで裕太をめっちゃ見ていた人だと気づくのに、時間はかからなかった

 

「時間が…ない!」

 

教卓を掴んで突っ込んできた威力を殺しながら床にスタイリッシュ着地をした後で、再度全身をバネに跳躍すると裕太の方へと飛んでいく

 

「うぇ!? ええ!?」

 

彼の横に着地するや否や裕太をひっつかむとそのまま窓ガラスをオープンして飛び降りようとする

 

「裕太!?」

 

近くの内海もどうにか裕太にくっついてこのクラスから去っていく

律儀に裕太らを拉致(?)っていった人物はそのまま二人を抱えていくと超人的な体捌きで校庭を駆け抜けていった

 

「…嵐みたいなやつだったな」

 

感想を呟きながらズズゥン、という足音に引き戻される

刹那、視線を外にいる怪獣へと向ける

 

「やっばい近い近い!」

 

興奮しているのかはっすはスマホでかしゃりかしゃりと写メを取る

やがて怪獣の進行方向に気が付いたのか、なみこが呟いた

 

「―――っていうかこっち来てない!?」

 

その呟きに、クラスの中は阿鼻叫喚となる

そんな中、新条アカネは机の上にひじをついて、見えないように笑みを浮かべていた

 

 

不意に、携帯が震える

 

ガタガタとクラスのみんなが大急ぎで逃亡を加える中、甲斐もそれに倣いながら携帯を開く

どうやらラインが来ていたようだ

グループライン、ウルトラマン革命、送ってきたのは切歌だ

 

 

切歌<見ましたか!? あの怪獣!

甲斐<あぁ、確かに見えた

調<とにかく、いったん合流しよう

 

 

そんなラインのやり取りをした後で、甲斐は改めて足を動かす

すっかり他のクラスも逃げた後のようで、周囲には倒れ散らかした机などで散乱しており、もぬけの殻に近い状態だった

下駄箱に来るとそこには既に切歌と調もスタンバっている

 

「甲斐さん!」

 

調がこちらに向かって靴を投げ渡してくる

 

「おっと! サンキュ!」

 

短く礼を言うと、上履きを脱いで地面に己の靴を置いてそれを履く

それと同時、空が光り輝き、そこからグリッドマンが現れて、紫色の怪獣と戦いを始めた

 

「お! やっぱり今回も来たデスね! えっと、なにマンでしたっけ、メガマン?」

「グリッドマンだよきりちゃん、メガマンは海外のロックマンの名称」

「…いや、けど、なんか様子がおかしいぞ」

 

甲斐の言葉に、調と切歌の二人も二体の戦いへと目を向ける

怪獣の放つ光線を食らい倒れ伏したグリッドマンに、怪獣は馬乗りになりそのまま拳を握り顔面を殴打し続ける

これはさすがに不味い、急いでこちらも行かなければ

 

「二人とも隠れてろ、俺も行く」

「合点デース!」

「気を付けて、甲斐さん」

 

二人の視線を背に受けて、甲斐はオーブリングを取り出すと、一度顔の前で交差させてそのリングを突き出した

 

◇◇◇

 

「<死ねぇ! 死ねぇ! 死ねぇッ!!>」

 

ガツン、ガツンと何度も拳を振り下ろす紫色の怪獣

名前はアンチと呼ぶらしい

誰が見てもグリッドマンの劣勢は明らかだった

そんな光景にテンションしてる一人の女性がいる

 

もう誰もいないクラスに一人、机に座り靴を脱いでいる一人の女子

名前を新条アカネ

怪獣アンチの生みの親だ

 

「いいぞーアンチくんッ! そのままやっつけろーっ! あっはははは!」

 

どうして向こうが戦う意思がないかは知らなんだが、向こうの事情なぞこっちには関係ない

潰せるときに叩き潰しておかないと

 

「でもなんか物足りないんだよねぇ…あ、ウルトラマンオーブいないからか」

 

そういえばそっちのことをすっかり忘れていた

アンチ作るのが楽しくてすっかり頭から吹っ飛んでいた

 

「…お、噂をすれば」

 

刹那、空が淡く光ったと思ったら、中空からオーブスペシウムゼペリオンが現れて、アンチに飛び蹴りを叩き込んだ

 

「いいねぇ…うまくいけば、二人とも消せるかも…!」

 

◇◇◇

 

「デュアッ!」

 

叫びと共に、オーブはアンチにキックを打ち込む

大きく吹っ飛ぶ紫色の怪獣を視界に捉えながら倒れ伏しているグリッドマンに言葉を飛ばす

 

「<何やってんだグリッドマン! 動きが鈍いぞ!>」

「<待って、オーブ…あの中には、人間が…!>」

「<なんだと…!?>」

 

確かに怪獣の正体は人間という可能性を考えなかったわけではない

だが少なくともちょっと前まで殺意全開でグリッドマンをぶん殴っていたアイツが人間なのだろうか

可能性はなくはないが…どうする

 

「<現れたか、ウルトラマンオーブ…! 貴様を消すこともまた、俺の使命だ!>」

「<おう、俺も入ってんのか! 人気者は辛いねぇ!>」

 

相手の言葉に冗談を返しながら、オーブはアンチに向かって走り出した

そのタイミングで、以前と同じようにまた、空から一振りの剣が飛来してくる

グリッドマンキャリバーだ

グリッドマンはそれをキャッチしてアンチに向かって構えながら

 

「裕太、ここで私たちが戦わねば、多くの犠牲が出る!」

「<でも!!>」

「大切な仲間も! トアッ!!」

 

バックステップで交代したオーブと入れ替わるようにキャリバーを持ったグリッドマンが前に出る

するとアンチは己の両腕に二本爪を伸ばし、グリッドマンのキャリバーと切り結ぶ

実力はほぼ互角…しかし両腕にある分、向こうの方が僅かに優勢か

 

「<屈め、グリッドマン!>」

 

オーブは声を出すと同時に、ハンドスラッシュを打ち込んだ

屈んで転がって距離を離すグリッドマンと入れ替わり、今度はオーブがアンチと接近戦を開始する

 

<スラッガーエース!>

 

光とともにフュージョンアップをして自身の姿をスラッガーエースへと変化させて、バーチカルスラッガーを具現化させて、相手の爪に対抗する

だがやはり二本という相手のアドバンテージは大きいか

オーブは隙を見てアンチの腹を蹴飛ばして距離を離すと、バーチカルスラッガーの刀身にエネルギーを込める

 

「<スラッガーァ…! エースカッターッ!>」

 

刀身から斬撃を飛ばし、相手へとダメージを試みる

だが、次の瞬間アンチはその場か消えた

否、消えたのではない、高速で移動しているのだ

 

「ヅァッ…!?」

 

速い!

あんなに巨体なのになんてスピードだ

かなりの速度から繰り出される、アンチの爪の攻撃に、次第にグリッドマンとオーブは追い込まれていく

 

「<トドメだぁ! 消えてなくなれぇぇぇぇぇ!!>」

 

アンチの全身が発光し、身体中からガトリングのように光弾がグリッドマンとウルトラマンオーブへと降り注ぐ

 

「ヅアァァァァッ!?」

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

繰り出された光弾の連打は確かにグリッドマンとオーブを捉え、直後、大きく爆発する

爆風や煙の中で、グリッドマンは彼の隣で倒れ伏すと、その場で消えてしまった

オーブも同様に爆風を目くらまし代わりにし、切歌と調がいる場所に己の光を打ち出し、その変身を解除してなんとかこの場をしのいだ

 

◇◇◇

 

解除したと同時に、甲斐はゴロゴロと地面を転がり回る

 

「甲斐さん!」

「甲斐さんっ! 大丈夫!?」

 

転がる甲斐に切歌と調は手を差し伸べた

駆け寄ってくる二人の手を取りながら、大きく息を吐く甲斐はゆっくりと立ち上がる

だがその足元はおぼつかない、ダメージが蓄積したみたいだ

 

「きりちゃん、一度甲斐さんを家に運ぼう」

「合点デス! …甲斐さん、歩けるデスか?」

「あぁ、その程度なら、問題ない…」

 

短く返答し、甲斐は二人に支えられながらゆっくりとだが歩き出した

…グリッドマンは無事だろうか

 

◇◇◇

 

「…倒した…! あっはは…完全に死んだねぇ…」

 

ただ一人、クラスの中から間近であの巨人たちの戦いを見ていたアカネもまた、その事実に興奮していた

ようやくだ、ようやく邪魔な相手がいなくなったんだ…!

ズシン、とアンチがこちらに向けて歩いてくる

そしてそのまま手を差し伸べてきた

 

アカネは靴を履きなおすとアンチの手に飛び乗って、そのまま導かれるように頭のてっぺんにその足を下す

降りしきる雨が身体を濡らす中、アカネはそんなこと気にもせず今の感情を爆発させた

 

「―――ぃぃいやったぁぁぁぁぁっ!! あっははははっ! アハハハハ!! アハハハハッ!!!」

 

 

 

雨の中、怪獣の上で少女の声が響き渡る

その声を聞いているものは、アンチ以外他にいない

やがて、街全体を霧が包み込み始めた

 

霧が晴れたころ、〝何もかもが〟元通りだった

壊れていたはずの地形も、煙を上げて倒壊していた家屋やビルも、元通りだった




ウルトラマン革命

名前に意味はない
革命、の部分はUNIONの二番目の歌詞から拝借



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