神の補喰者 (だらだら人間)
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第一章  第1話 異動

前々からゴッドイーターにハマってて小説書きたかったのでこの度始めてみました。完全な自己満で拙い文章ですが、よろしくお願いします。


「さてと、今から討伐任務を始めるけど、今回の相手はコンゴウ二体だ。偵察部隊からの情報で一体ずつ離れて行動だとよ。」

 

「離れててもあいつら耳がやべえから手分けしていくしかなくね?」

 

「俺もそう思ってた所だ。お前ら異論はないな?」

 

 見晴らしのいい高台でこれから始まる討伐任務の確認を行っていた四人の男。気心知れた仲らしく直ぐに任務を遂行すべく高台を降りると二人ずつ別れた。

 

 

「なあユージ?」

 

「なんだ?」

 

「あの話は本当なのか?」

 

「あの話って異動の事か?それは本当だ。」

 

「でもよりによってなんで極東なんだよ。あそこかなりヤバイって噂だぞ。」

 

 索敵しながら前を歩くユージにケインは先日上から指令が出た異動の事を心配していた。そんなケインが心配するのは異動先の極東には良くない噂が絶えず流れてくるからだ。そんな危険な場所に行って欲しくないのが本音だが、ユージは気にする様子はない。

 

「そう言うな。上からの命令だし、養護施設運営の為には仕方ないんだ。」

 

「そりゃそうだけど…」

 

 ユージの言葉にまだ納得できず何か言おうとして止め、物陰に身を潜める。そして気づかれないようにユージが覗くと一体のコンゴウが死んで間もないオウガテイルの屍を貪っていた。

 

「居たな。まだこっちには気づいてない。よし、作戦はいつも通りだ。」

 

「分かった。」

 

 ケインが頷くとユージは音をたてずにコンゴウの背後に忍び寄り右手に握られた神機を構えると口を開きコンゴウの背中の肉を引き裂く。するとユージの体を光が包む。背後からの攻撃に屍を食べていたコンゴウが敵の存在に気づき振り向くもそこにはもうユージの姿はなく、今度は頭に弾丸を撃ち込まれ怯んだ。

 

「一気に行くぞ!」

 

 ここがチャンスとばかりにユージとケインは猛攻を仕掛けコンゴウは何も出来ないまま息絶えた。

 

「ふん、雑魚が。」

 

 いつも組んでるからと言うのもあるが二人にとってはコンゴウなど相手にならなかった。倒したコンゴウを神機でつつきながら余裕を噛ますケインを余所にユージは無線を入れる。

 

「俺だ。こっちは終わった。そっちは片付いたか?」

 

 無線の相手はもう一体のコンゴウを倒しに行ったリクとタクトだ。オリバーとタクトも討伐したらしく帰りのヘリが待つポイントで合流することになった。

 

 

 

 

 

「ユージ、ケイン、オリバー、タクト計四名ただいま帰還しました。」

 

「おかえりなさい。お疲れのところ悪いんですけど、ユージさん支部長がお呼びです。」

 

 任務から帰ってくるなりいきなり支部長に呼び出されたユージは真っ先に支部長室まで向かった。

 

 

 

「ユージただいま戻りました。」

 

「おう、ユージか入っていいぞ。」

 

 支部長室に入ると白髪頭と白髭が特徴の男が手招きするかのようにデスクの前に誘導する。彼の名前はジャック、ユージ達が所属する旧ブラジルのリオデジャネイロ支部の支部長であり、支部内にある児童養護施設の創設者及び所長でもある。

 リオデジャネイロ支部はかなり小規模で運営しており神機使いはユージ達四人とオペレーターのソフィア、そして支部長のジャックだけで残りは児童養護施設で暮らしてる20人の子供たちだ。みんなアラガミによって親を失い、ジャックに拾われた身で最初に独り立ちしたのがユージ達である。なのでジャックが実質親代わりであり、ユージ達はそんなジャックを支え子供たちを護るために自らの意志でゴッドイーターになった。

 

「えっと、話ってのは?」

 

「ああ、前に極東支部への異動の話をしたよな?」

 

「はい。来週の予定です。」

 

「実はその事なんだが急で悪いんだが明日に変更になった。」

 

「えっ、どういう事ですか?」

 

 突然の異動日程変更にユージは驚くとジャックは第二世代神機に適合したと先程フェンリル本部より通達があり、明日その適合試験をすることが急遽決まったと説明。

 

「うちとしては四人しか居ない上に隊長であるお前を欠くのはかなり辛いが養護施設で暮らす子供たちの為だ。」

 

「いえ、別に異動は決まったことですから気にしてません。ただ、ユータとも暫くは会えないなと思っただけです。」

 

「ユータはうちでしっかり面倒見るしケイン達が居るから安心してくれ。」

 

「分かりました。ではこれから急いで準備しないといけないので失礼します。」

 

 支部長室を出ると部屋に戻り、急いで身支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ロビーにはユージを見送ろうとケインやオリバーを始め、支部長やソフィア、子供たち全員が集まっていた。少数の陣営なため全員が家族のように過ごしており、中には泣く子も居た。子供たちの中でも年上の少年がユージに歩み寄る。

 

「兄貴が異動は知っていたけどまさか今日だとは思わなかったな。極東はかなりの激戦区だって聞いてるけど、兄貴なら大丈夫だよな。」

 

「ああ。しばらくは戻ってこれなくなるが心配するな。」

 

 そう言うと仲間と別れ、ヘリに乗り込み異動先の極東支部へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 極東支部

 リオデジャネイロ支部を離れ極東支部に向かうヘリの中でユージは今回の異動に疑問を抱いていた。普通であれば異動などよくあることだがリオデジャネイロ支部は普通ではない。

 

 アラガミが現れて以降、それまで食物連鎖の頂点になっていた人類はアラガミに食われる側となっていた。動物相手であれば既存の武器でどうにでもなったがオラクル細胞の群体であるアラガミには既存の武器が通用せず人類は一転して滅亡の危機に陥っていた。

 アラガミに対抗するためフィンランドの製薬会社でしかなかった『フェンリル』が研究を進めていくなかで人体に直接オラクル細胞を埋め込んだ対アラガミ用兵装の「神機」を開発、以降フェンリルが本部となって各支部毎に神機使いを配置して現在に至っている。それ以外にも人間がアラガミに襲われないようにオラクル細胞を元にして作られたアラガミ装甲壁の中に居住区開発など多岐に渡るが全てが入れるわけではなくフェンリルが選んだ人間しか入れないために、居住区を追い出された人間は何も囲われていない地でアラガミの脅威に怯えながら暮らしている。

 

 この人権を軽視したフェンリルの行為に対して反発しているのがユージが所属していたリオデジャネイロ支部であり、フェンリルから何も支援がない。なのにも関わらず今回なぜ異動が出たのか疑わない方が難しい。

 ユージが必ず何か裏があると警戒していると極東支部に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 極東支部に到着後、第二世代神機の適合試験を受け見事合格し晴れて第二世代神機使いとしての第一歩をスタートさせた。その後、メディカルチェックや擬似のアラガミを相手に訓練を重ね少しずつ第二世代神機に慣れていった。刀身と盾は第一世代の頃から愛用していた為問題はなかったが追加された銃身が素人同然過ぎて当初の成績は良いとは言えなかった。それでも毎日時間を見つけては訓練を重ねある程度は使いこなせるようにはなった。これには極東きっての鬼教官の雨宮ツバキも納得し、次の日から実地での任務を言い渡した。

 

 次の日、ロビーで待ってると体格のいい青年が現れた。神機使いになって5年目のユージが見ても目の前の男が並外れた神機使いであると分かった。

 

「おう、よく来たな。俺の名は雨宮リンドウ、極東支部の第一部隊の隊長だ。お前も神機使いは長いから問題はないだろうが第二世代になってから日も浅いし、お前の戦い方をこの目で見ておきたいからまずは簡単な任務をやる。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 挨拶を交わすと女性が近づいてきた。どうやら彼女も同じ部隊の隊員のようだ。

 

「あら、あなたが今度入った人?私は橘サクヤ、あなたの事はツバキ教官から聞いてるわ。よろしくね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の任務を終え、リンドウはエレベーターに乗る。横には姉のツバキが居り、先程の任務の報告をする。

 

「ユージはどうだった?」

 

「流石の動きだ。伊達に5年も隊長を勤めていただけのことはある。銃はまだぎこちないが近接攻撃は問題ない。それよりも驚いたのは盾の方だ。あんなに扱える奴見たことなかった。」

 

 ユージとの任務でリンドウは盾の扱い方に注目していた。リンドウほどの神機使いでも攻撃を全てジャストガードするのは至難の技だがユージは難なくこなしていた。そして無駄のない動きから繰り出される近接攻撃はオウガテイルなど相手ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 初任務終了後、自室で報告書をまとめ一息つくと提出するためにロビーに向かう。ロビーに出るとソファーに座っている少年と目があった。

 

「ねえ、君も新しく来た人?」

 

「そうだよ。前はリオデジャネイロ支部に居たよ。」

 

「へえ。じゃあ神機使いになってから長いんだね。でもここでは同期みたいなもんだからよろしく。あ、名前言ってなかった。俺は藤木コウタ」

 

「俺はユージだ。よろしく。」

 

 ほとんど勝手に同期扱いされたが不思議と悪い気はしなかった。恐らくコウタの明るい性格がそうさせているのだろう。コウタとなら仲良くやっていけそうだとユージはこれからの生活に期待を寄せる。

 

 

 その後、報告書の提出をし部屋に戻ると夕飯を作ることに。ここに来てから思ったのは待遇の良さだ。リオデジャネイロ支部の時は本部から嫌われていたために自分達でやらなければならず苦労が絶えなかったが、極東では今までの苦労が嘘のように待遇が良かった。

 だが、食事だけはただ腹を満たせば良いという代物でお世辞にも美味しいとは言えず、ユージは自炊することにした。元々リオデジャネイロ支部では全員で食材の確保から調理までやっていたので極東で食材がある程度手にはいると分かった時点で大丈夫だと判断。

 

 肉と野菜、水を鍋に入れ自家製のカレールウを加え煮込む。ユージの大好きなカレーを今日は作っていた。焦げないようにヘラで混ぜているとカレー独特の匂いが部屋いっぱいに広がる。

 

「よし、こんなもんだな。」

 

 味見をし、納得しているとドアをノックする音がした。火を止め部屋を開けるとコウタが居た。どうやらカレーの匂いにつられてきたらしいのかお腹の虫がけたたましく泣いていた。

 

「なんだ腹減ってたのか。良かったら食っていく?」

 

「良いの?」

 

 コウタを部屋に招くと皿にご飯を盛り、ルウをかけてテーブルに置いた。鼻を擽る匂いに負けたコウタは手を合わせ食べる。一口食べればもうカレーの虜。あっという間に平らげ、お代わりを要求。

 

「すげえうめえ!」

 

「そんながっつかなくても無くならないよ。でも口に合って良かった。」

 

 よっぽど腹が減っていたのか美味しそうに食べるコウタを見つつ自分もカレーに舌鼓をうつ。

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 新型神機

ユージはベテランという設定なので雑魚任務はすっ飛ばしてアリサ登場です。

アリサ可愛いね。


 極東に来てから日がたち少しずつ頭角を現していた。始めは扱いに苦労した銃身もサクヤやジーナといった銃形態の神機使いと任務に行くことでコツを掴み大型のヴァジュラやクアドリガ相手にも難なくその威力を発揮していた。盾を持たないサクヤ達はユージと行くことで攻撃に集中するメリットが大きいのか一緒に行くことが増えた。一方でコウタはというと新人なために小型アラガミ討伐任務がメインでたまにリンドウやサクヤと中型のコンゴウやグボロ・グボロの討伐に行くくらいであった。

 

 そんなある日、新型神機使いが来るということでユージ達第一部隊はロビーに集合していた。

 

「ねえ、誰が来るのかな?」

 

「来るなら女の子じゃないの?男ばっかだし。」

 

「マジ!?可愛い子だったら良いなあ。」

 

 如何にも年頃の男子が考えそうな会話をしているとツバキと共に銀髪と赤いチェック柄のベレー帽を被った少女が歩いてきた。

 

「本日付で極東支部に配属されましたアリサ・イリーニチナ・アミエーラです」

 

 礼儀正しく挨拶をしたアリサにユージは何だか冷たい印象を抱く。端から見れば礼儀のある女の子だが、ユージにはそうは見えず違和感を覚える。ずっとリオデジャネイロで幼馴染みのケイン達や子供たちと暮らしていたから余計にアリサの言葉に違和感を覚える。

 

「女の子なら大歓迎だよ。」

 

「よくそんな浮わついた考えでいましたね。」

 

 それを裏付けるかのようにコウタが歓迎の言葉を掛けるとまるで汚物を見るかのような冷たい視線と言葉を浴びせる。これにはコウタはガックシと項垂れた。

 

「アリサは実戦での経験は殆どないが訓練ではかなりのスコアを叩き出している。油断してると追い抜かれるぞ。」

 

 いつもは手厳しいツバキが言うとあってリンドウとサクヤは驚く。

 

「アリサは第一部隊に編入される。リンドウ、お前が面倒見てやれ。それとユージ、お前も同じ第二世代だ。何か共通する部分もあるだろう。その分、面倒見てやってくれ。」

 

 同じ第二世代でなくとも面倒見るように言ってくることは予想通り。キャリアが長いのとこれまでの実績がツバキの信頼を得ていた。性格はどうあれ仲間が増えるのは良いことだと自分に言い聞かせ、アリサの面倒を見ることにした。

 

 

「なんだよ。何もあそこまで言わなくたっていいだろ!」

 

「バーカ。あんだけ下心が見え見えの言葉言われれば誰だって嫌がるだろ。」

 

 先程アリサに言われたことがよっぽどショックだったのか項垂れるコウタをユージは笑いながらフォローする。

 

「俺はただ場を和ませようとしただけだし。」

 

「あれのどこが和ませられるんだよ。もう嫌われたなw」

 

 

 

「あなたが新型の適合者ですか?」

 

 昼食を済ませ、任務にでも行こうかとロビーを歩いているとアリサが歩み寄る。

 

「ああ。ユージだ。前はリオデジャネイロ支部に居たよ。よろしく。」

 

「あなたはさっきの人とは違ってマジメみたいですね。足を引っ張らないようにお願いします。」

 

 初対面で棘のある言い方に動じることなく任務を受注しにオペレーターのヒバリの元に向かう。

 

 

「ヒバリさん、何か受注できる任務ある?」

 

「そうですね。今のところ小型アラガミの討伐任務だけですね。」

 

 本音を言うと大型アラガミの討伐だったら良かったと思ってるとリンドウが声を掛ける。後ろにはアリサが居るのが見え、ユージはこのあとのことを悟った。

 

「ユージ悪いな。これからアリサと任務に行くんだが、生憎俺は第一世代で銃の扱いには詳しくなくてな。お前なら何かアドバイス出来ると思ってな。一緒に来てくれないか?」

 

 内心やっぱりと思いつつ、これも仕事だと割りきり同行することにした。が、ここでもアリサは棘のある言い方をする。

 

「別にあなたのアドバイスなんて要りません。」

 

 これには平然を装っていたユージもイラつくもここはベテランらしく何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ミッション開始ギリギリになって漸くリンドウが現れた。こんなことは今に始まったことではないが、デートなら間違いなく嫌われるやつである。

 

「遅いですよ。デートの待ち合わせなら嫌われますよ。」

 

「おいおい、そんなこと言うなよ。こっちも色々やることが多くてな。準備が出来てるなら早速だがミッションを始めるぞ。今日は新型が二人か、足を引っ張らないように頑張るわ。」

 

「リンドウさんが足を引っ張ったこと一度もないじゃないですか。」

 

 キャリアの長い者同志仲が良いのかリラックスしているとアリサが遮るように口に出す。

 

「旧型は旧型なりにやっていただければ良いと思います。」

 

「ま、そう肩肘張るなって。」

 

 そう言うとポンと肩に手を置くとアリサの態度が一変、何かに怯えるように後ろに下がった。これには流石のリンドウも困ったのか頭を掻く。

 

「おー、随分と嫌われたな。何があったかは知らんが、そんなときは雲を見ろ。そんで動物を探せ!何でもいい。」

 

「何でそんなこと」

 

「これは命令だ。見つけたら来い。」

 

 不満そうな表情は隠さずも言われた通りに雲を探すアリサを尻目にユージを連れてミッションを開始した。

 

 

「どうやらアリサは何かあったのか精神が不安定らしい。」

 

「そうでしょうね。多分、それが原因であんな冷たい態度なんだと思います。こいつはかなり厄介ですね。」

 

「お前が居て助かった。しばらくアリサと一緒に任務を付き合ってやってくれ。」

 

 リンドウに言われずともアリサの態度を見れば何かあるのは明白だ。ユージはやるしかないと腹に決める。

 

 

 索敵を始める頃にはアリサも合流、物陰から見ると今回の対象であるオウガテイルが何かを喰っていた。

 

「俺が注意を引き付ける、ユージは背後から、アリサは援護を頼む。」

 

「分かりました。」

 

 リンドウの作戦に従い、ユージは背後に廻り合図を送るとリンドウが先陣を切る。リンドウに気づいたオウガテイルが威嚇しながら近づく前にユージが神機を変形させ捕喰、オウガテイルは背後からの奇襲に足を捕られ倒れる。その隙を見逃すまいとリンドウが急接近し背中を斬り裂き、アリサも後方から射撃で顔面に攻撃、オウガテイルは何もできずに絶命。オウガテイルからコアを改修していると無線が入る。

 

「緊急連絡です。想定外の中型アラガミが接近中!一分後に作戦エリアに侵入します。ポイント情報送ります。」

 

「分かった。」

 

「リンドウさん、早く行きましょう!」

 

「よし、気を抜くな!」

 

 ヒバリからの無線にもリンドウとユージは落ち着いていた。二人は長年の経験から冷静になることの重要性を理解していた。隊長がパニックになれば部下もパニックになり、それは即ち死を意味する。

 

 急いできたお陰でなんとか来る前に間に合い、指示を出すが、アリサが飛び出した。相手はコンゴウ、鋭い聴覚でアリサに気づく。

 

「くそっ!行くぞ!」

 

 作戦もへったくれもなくそのまま応戦、アリサが発砲した銃弾をかわし、背後に廻ると頭上から腕を振り落とす構えをしていた。コンゴウの動きに気づくのが遅れ、アリサは目を閉じる。だが、一向に攻撃が来ないため目を開けるとユージが盾でしっかりガードしていた。ガードされたことで動きが止まったコンゴウの頭上からリンドウが捕喰、すかさずユージが止めを差し事なきを得た。

 

「何で無視した!」

 

「私はアラガミを倒しに来たんです。仲良くなるためなんかじゃありません。」

 

「良いか、俺たちの仕事はアラガミを倒すことかもしれん。だが、それよりも優先すべき事は人命だ。討伐は二の次だ。忘れるな!」

 

 自分勝手な行動はこの世界に於いては命に関わる重大事項。これを無視して命を落とした仲間を数多く見てきたリンドウだからこそ重い言葉だった。アリサは黙って俯むく。

 

「ユージ、さっき言った通りアリサと二人以上で任務に行け。万が一なことは絶対にあってはならない。これは命令だ!」

 

 一先ず了承し、帰投のヘリに乗り込んだが、先行きは怪しくなりそうだ。

 

 

 

 



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第4話 蒼穹の月

 アリサの初任務からかれこれ二週間は経つが態度は相変わらずのままで自分に影響が来るだけならまだいいが、第二、第三部隊にまで影響を及ぼしていた。内容は以前のように上官の指示を無視した行動を取るがゆえ、毎日のように衝突を起こしその旅にユージが間に入り謝罪するのがある意味日課になっていた。

 そして今日もアリサは第二部隊の隊長大森タツミとブレンダンの二人と口論に。

 それを見てユージはまたかと溜め息を漏らす。

 

「討伐と防衛を混同するなと何回言えば分かるんだ!」

 

「防衛、防衛言いますけど結局はアラガミを倒さないと意味ないじゃないですか。」

 

「あのな、俺たちは討伐じゃなく人類をアラガミから守ることが仕事だ。なのにお前のように勝手な行動されちゃ罪のない人たちに被害が出るんだよ。そんなこともわかんねぇのか。」

 

「そんなの単にアラガミを倒せないから逃げてるだけなんじゃないですか?」

 

「なんだとてめえ!」

 

 何を言っても聞く耳持たず、あろうことか侮辱発言するアリサに口論の中に入らなかったカレルが拳をあげようとしたその時、ユージが拳を止めた。

 

「そこまでだ!」

 

「お前···」

 

 喧嘩の仲裁に入ったユージにロビーにいた全員の視線が向く。

 

「お前まさか女の子に手を出すつもりじゃねえだろうな?」

 

「そいつがふざけた口の聞き方するからだろうが!そいつのせいでな救える命も救えねえんだよ!おい、てめえだよ。なんとか言ってみろよ!!!」

 

「確かにアリサのやってることは許されることじゃない。だが、それが殴っていい理由にはなんねえだろう!!」

 

 拳を止められても尚突っかかるカレルの腹に重い一撃を与え、カレルは膝をついた。

 カレルを止めたユージはタツミに頭を下げて謝罪する。

 

「タツミさん、申し訳ありませんでした。」

 

「お前に頭を下げられても失った者は戻ってこない。本当に申し訳ないと思ってるなら二度とこういうことをしないと約束してくれ。それが出来ないならもうお前らとは組まない。」

 

「約束します。」

 

 普段は気さくに話すタツミの真剣な言葉と態度にユージは何度も頭を下げ、後ろで黙ったままのアリサを連れてロビーを後にした。

 

 

 

 

 

「なんで止めたんですか?あの人たちは自分勝手過ぎます!」

 

「アリサが言いたいことはわかる。でもそれだけじゃダメなんだよ。前にリンドウさんが言ってたの忘れた?」

 

「そんなの分かってます。でもアラガミを倒さないと誰も守れませんよ。」

 

 あんなことで引き下がるとは思えないアリサを自室まで連れていき言いたいことを全て言わせる。その過程で説得も試みる。

 

「いいか、アリサ。君が使ってる神機はただアラガミを斬るためだけにあるんじゃない。大切な人を守るためにあるんだ。」

 

「大切な人···」

 

「大切な人を守るには力任せや一人だけではダメだ。互いに協力しあうことで初めて守ることが出来る。そしてそれはアリサ自身の命を守るための大切な事なんだ。」

 

 さっきまで凄い剣幕だったアリサの態度が変わっていくのがユージは感じた。やり方は違えど目的は皆同じ。それをアリサが分かってくれることを願い、別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、ロビーに集められた第一部隊はリンドウから大型アラガミのヴァジュラ討伐の説明が入った。

 

「今回の討伐対象のヴァジュラは最近極東周辺での目撃情報が相次いでいる。大型なだけに危険な相手だがお前らなら倒せない相手じゃない。俺は別の任務が入ってるからサクヤが指揮を執れ。メンバーはソーマ、コウタ、ユージだ。」

 

「あれ、リンドウさんは入らないんですか?」

 

「俺はアリサと別の任務だ。お前らなら大丈夫だろ。」

 

 なんとも無責任な発言だがこれがリンドウのやり方だ。緊張しないようにすることで任務に集中できるようにしている。なのだがどこか引っ掛かる感じがユージにはあったものの決まったものはどうしようもないとヴァジュラ討伐の事に思考を巡らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でけえ。」

 

 スタート地点からヴァジュラがオウガテイルと一緒に死んだシユウを食べているが見えた。

 

「これから始めるけど、ソーマとユージは前衛をお願い。私とコウタは援護するわ。リンドウじゃないけど死なない程度に頑張りましょ。」

 

「ふん、俺には関係ない。好きにするさ。」

 

 メンバー的に作戦は予想通り。特に異論もなく四人はまずオウガテイルを片付ける。ヴァジュラに気づかれぬよう手早く倒し、ヴァジュラの元に向かった。

 

 

 こちらに気づくと咆哮をあげ電気玉を発射、当たればたまったもんじゃないが幸いにも早くなく、前にしか攻撃が出来ないため危なげなく避ける。このときの反動でヴァジュラの動きが一瞬止まり、弱点の前足と尻尾をソーマとユージが攻撃、サクヤとコウタは胴体に貫通の弾を撃ちジワジワとダメージを与える。

 一気に片をつけるべくユージはリザーブで最大まで溜めたオラクルから高威力のバレットを二発発射、バレットは発射と同時に垂直に上がったが少ししてから落下、周囲に爆破ダメージが入る。このバレットが致命傷となりヴァジュラは力尽きた。

 

「すっげえ···あんなバレットあるのかよ。」

 

「暇潰しに作った。名前はメテオかな。威力が高い代わりにオラクルの消費が凄まじいからリザーブしなきゃいけないけどね。」

 

「まだ気を抜かないで。何か居る気配がするから索敵してから帰りましょ。」

 

 ヴァジュラを倒し浮かれるコウタとユージにサクヤが注意、四人は任務開始前から感じる気配に索敵を始める。この気配が何なのかはユージも分からなかったが大型アラガミだとは感じていた。とは言え、ベテランが三人も居るなら特に問題なさそうだ。

 

 二手に分かれ索敵しているとそこには居るはずのないリンドウとアリサの姿が。 普通なら混乱を避けるために同地区に二つのチームが出会すことなどあり得ない。しかも同じ第一部隊がばったり出会すことが違和感の塊だった。ユージはこいつはヤバイなと思いつつも辺りの警戒は緩めない。一方でこの状況に冷静であるはずのサクヤは驚きを隠せずにいた。

 

「リンドウどういうことなの?」

 

「待て、ここで話してもしょうがない。このまま索敵を続けろ。」

 

 リンドウの落ち着いた判断で索敵を再開、だがこの時点で既に彼らの回りには複数のアラガミが迫ってる事を彼らは知らなかった。

 

 

「ユージ、こんなことってあるもんなの?」

 

「いや、昔ならまだしもある程度情報の共有がしっかりしてる今ではまず考えられない。俺も長いことやってるけどこんなことは初めてだ。」

 

 道中コウタと話しているとユージが立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「コウタ、急いで戻るぞ。嫌な予感がする。」

 

 そう言うと来た道を戻り、コウタも何がなんだか分からないが後を追う。

 走りながらユージはこれは罠だと察知、無線でヒバリに確認をとる。

 

「ヒバリさん、どうやら複数のアラガミに囲まれてるようだ。至急応援を頼む。それから念のため救護班も要請してくれ。」

 

《分かりました。くれぐれもお気をつけて。》

 

「お、おい、どういうことだよ。アラガミに囲まれてるって。」

 

「これは罠だ。任務の前から変だとは思っていたが、まさかこんなことだとは···クソッ!間に合ってくれ。」

 

 ユージの願い虚しく大きな音ともに咆哮が聞こえ、駆けつけるとそこにはサクヤとソーマが見たこともないアラガミに囲まれていた。このアラガミを見た瞬間ユージは何なのかが分かっていた。

 

「チッ、間に合わなかったか。しかもよりによってプリティヴィ·マータかよ。」

 

 ユージは以前ロシアに居たときにこのアラガミを討伐したことがあった。だが、それだけではなくサクヤたちの元に行くとその場に経たり混むアリサがいた。そしてさっきまで開いていたはずの場所が瓦礫で塞がっており、中からリンドウが何かと戦っている音がしていた。恐らくはプリティヴィ·マータだとは予測がついていたユージは中に居るリンドウに叫ぶ。

 

「リンドウさん、そいつはプリティヴィ·マータだ。ヴァジュラとにているが、あいつよりかなり強敵です。気を付けてください。」

 

「ああ、分かった。だが、俺は出られそうにない。お前たちは早くここから逃げろ。」

 

「嫌よ!リンドウを置いてなんて。」

 

 リンドウを置いていけないサクヤは泣いていた。だがリンドウはそれでも指示を変えることはなかった。全滅を防ぐため、隊長としての責務を果たそうと必死だった。

 

「サクヤお前が指揮を執れ、ソーマ退路を開け!全員生きて帰れ、これは命令だ!」

 

「嫌よ!リンドウ、リンドウ!!!」

 

「サクヤさん、このままでは俺たちまでやられるだけだ。」

 

「おい、お前ら早くしろ。」

 

 プリティヴィ·マータの襲撃を懸命に食い止めてるソーマが促し、コウタはサクヤをユージはアリサを連れスタングレネードを破裂させ、退却した。

 

 

 ヒバリに救援を要請していた為、エリが待っていた。アリサとサクヤを先に乗せ、コウタとソーマが乗るがユージは乗らずにドアを閉める。これにはコウタとソーマが驚く。

 

「お前、何やってるんだ。早く乗れ!」

 

「コウタ、悪いがそれは出来ねえな。」

 

「おい、まさか···あいつらを倒すとか言わねえよな?」

 

「ああ、そのまさかだ。」

 

 どこか吹っ切れたように言うユージにコウタはヘリを降りようとするが怒鳴られた。

 

「じゃあ俺も行くぜ!」

 

「お前らは来るんじゃねえよ!」

 

「なんでだよ。それじゃお前が···」

 

「俺は何も死にに行くために居るんじゃない。ちょいと帰りが遅くなるだけだ。だからよ、先に帰って待っててくれよな。」

 

 そう言うとドアを閉め、ヘリは飛び立って行った。ヘリが居なくなるのを見届けるとユージはスタングレネードから解放されてついてきたマータの集団を引き連れその場を離れた。

 




ユージがロシアに居たのは旅行したときです。そのときにマータと戦ってます。


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第5話 感応現象

 マータの群体を引き連れ訪れたのは開けた場所だった。ここでマータを討伐するのか走るのを止め、マータの群れに突っ込む。たった一人の特攻にマータの集中攻撃が牙を向く。

 ユージの狙いはこれにあった。わざと集中攻撃が来るように仕向ければマータが固まる為、捕喰がしやすくなる上にたくさんオラクルを吸収できメテオがその分撃てる。迫り来る敵の攻撃を避けながら捕喰とリザーブを繰返し、メテオを数発撃つ。落ちてくるタイミングを見計らいスタングレネードで視界を奪えば数発のメテオがマータの群れに降り注ぎバタバタ倒れていく。メテオで倒しきれずに残ったマータは近接で仕留め、30体は居たであろうマータの群れは全滅した。

 

「よし、あとはリンドウさんの援護だ!」

 

 マータを始末したユージは急いでリンドウの元に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユージがマータの群れと戦ってる頃、アナグラでは衝撃が走っていた。リンドウといえば任務に同行したメンバーの生存率が極めて高く、新人の神機使いは皆彼と一緒に行動することが極東においては常識となっているほど知る人ぞ知る精鋭。そんな彼が率いる第一部隊から救援の要請が入ったとのヒバリの声がその重要性を物語っていた。

 

「現在、コウタさんとソーマさんが負傷者二名と共に帰投中。ですが、ユージさんが無数のアラガミと単独で交戦中です。至急応援をお願いします!」

 

 応援が必要なのは分かっているが不明のアラガミの群れと戦える人間などリンドウとユージ位であり、誰も動けないでいた。それは教官のツバキも分かっているため、モニター腰にマータの群れを相手に奮闘中のユージを見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マータと戦った場所からようやく戻ったユージは瓦礫で塞がってる入り口ではなくアラガミが通る獣道から中へと入った。ところがそこにはアラガミと戦っていたはずのリンドウの姿がどこにもなかった。これには流石のユージも焦る。リンドウが居ないと言うことはアラガミにやられた可能性があるからだ。仮に生きていて脱出出来たとしても偏食因子の投与のタイムリミットを越えてしまえばオラクル細胞に支配されアラガミ化になり、今度はリンドウが討伐の対象になるだろう。

 どちらにしても助かる可能性は限りなく0に近かい。ユージは獣道から外に出てリンドウがどちらに行ったか手掛かりになるものを探すも残念ながら見当たらず、獣道から再び中に戻り手掛かりを探す。

 

 するとタバコの吸い殻を見つけた。火は燃え尽きたのかかなり小さかったがフィルターが少ししか湿って無かったことから自分がマータと戦ってる間にここから姿を消したと結論に至った。

 ふとここで頭が過る。冷静に考えればリンドウは以前から単独で任務に行っていることが度々あった。その時にデートだと言っていたが、それが今回の出来事と関係があるのではと考えられる。だとするならば極東支部の中の誰かに嵌められたということになり、今、リンドウが戻ったとしてもまた嵌められるのは目に見えている。もし、そうだとすれば例え生きていても戻ることは出来ないかも知れない。

 

 リンドウの命を狙う犯人を探すため電話を掛けた。相手はリオデジャネイロ支部の支部長ジャックだ。

 

《あ、支部長ですか?至急調べて欲しいことが···ええ、そうです。雨宮リンドウ少尉が何を調べていて誰に命を狙われているのかお願いします。》

 

 ユージの考えでは犯人は極東支部の中でもかなり上の人物だと推測していた。であれば下手に自分が調べるよりは支部長のジャックが調べた方が良いと判断だった。

 電話のあと、応援のヘリがやって来て帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナグラに戻るとリンドウが居ないことが伝わってるのか誰もが動揺していた。そこへツバキが一喝、全員が持ち場に戻る。ツバキはそのままユージの元に歩み寄る。

 

「よく帰ってきたな。あのアラガミのこと知っていたようだな。」

 

「あれはプリティヴィ·マータ、前にロシアに旅行したときに戦ったことがあったので。あんなにたくさんの数を相手にするのは初めてですけど。」

 

「そんな顔をするな。お前はよくやった。落ち込んでる暇があったら体を休めろ!」

 

「ツバキさん、アリサたちは?」

 

「安心しろ。お前のお陰でコウタとソーマは無事、サクヤとアリサも怪我はないが精神の混濁が見られるから医務室で手当てを受けている。しばらくは安静だな。」

 

「よかった。」

 

 アリサたちが無事に帰投出来たと知り、少しホッとした。アリサとサクヤの見舞いは明日することにして、体を休めることに専念することに。

 

 

 

 翌日、体力が回復した為アリサの見舞いに医務室を訪ねる。中に入るとまだアリサは寝ていた。サクヤはあのあと自室に戻ったらしく医務室には居なかった。隣には医師らしき男が居て、こちらに気づいた。

 

「君か。今鎮痛剤を射ったところだからしばらくは起きないよ。」

 

 そう言うと男は退室した。だが、ユージは男に違和感を覚える。医師にしては病室でタバコを加えてるのと格好が医師でないことを表していた。

 

「確かあの男はオオグルマダイゴだったな。てことはあいつも黒幕の一人だな。」

 

 そう独り言を呟くとアリサのベットの近くの椅子に座る。今回の発端はアリサが銃で天井を撃った為に瓦礫で塞がったのが原因だった。以前、リンドウからアリサは昔何かが原因で精神が不安定なために定期的にメンタルケアを受けていたと知らされていた。なら、アリサの精神を元に戻さなければとユージはちゃんと向き合うことを決意。

 

 ふと何を思ったかベットから落ちてる手を握ると景色が変わり、小さい女の子が両親とかくれんぼをしていた。楽しげにかくれんぼを遊んでいると突然アラガミが現れ、両親を頭から食い破り絶命する光景が写し出された。

 

 そして場面は変わり、今度は施設内で何かを見ながらぼんやりと聞いている様子。

 その声はどこかで聞いたことのある声で、脳内を刺激しこびりついたように離れず何度も何度も再生される。

 

「これが憎いアラガミだよ。」

 

「アラガミ?」

 

「そう。君の両親を殺したアラガミだよ。」

 

 なんとそこにはアラガミなんかではなく、リンドウの写真を指していた。そして、ゆっくりと呪文のように語りかけてくる。

 

「いいかい?このアラガミを見たらこう唱えるんだ。」

 

「один(アジン)、два(ドゥバ)、три(トゥリー)」

 

 以降、ずっとこの言葉が脳を駆け巡り、気がつくと元に戻っていた。

 

 先程の声は直ぐに見当が着き、支部長のヨハネスと大車だと分かった。そして二人はアリサの精神を揺さぶることでリンドウを殺すよう仕向けた。ここまでは分かった物の何故、殺されなければならないかまでは分からず、捕まえても黙秘されればどうしようもないため今は知らないフリをしておくことに。

 

 ずっと握っていた手が動き、視線を向けると眠っていたアリサが目を覚ました。

 

「あなたは···」

 

 その瞬間、背後に大車が現れ目を覚ましたアリサを見ると何やら血相を変えて、部屋を出た。大車の目的はヨハネスに報告だと分かってるため、追いかけることはしない。

 

 

「あの···手を···」

 

 アリサに話しかけられ、今自分が何をしているか気付き、手を離す。

 

「ご、ゴメン。嫌だった?」

 

「い、嫌じゃないですけど···恥ずかしいです。」

 

 前のように辛辣な態度は見せず、顔を赤くしていた。どうやらこれが本当のアリサらしい。そう安心しつつもまだ恋人でもないのに手を握っていたことが急に恥ずかしくなり、ヤバイと思った。

 

「そうだ、目を覚ましたことみんなに知らせて来るよ。」

 

 気まずい空気に耐えられず逃げるようにその場を離れ、ツバキたちに目を覚ましたことを知らせに行った。

 

 あのあと調べたところ、不思議な現象は第二世代の神機使いの間で起こる感応現象だと分かった。

 

 



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第6話 守る力

「今日から原隊復帰しますのでよろしくお願いします。」

 

 いつものようにロビーでコウタと会話しているとアリサが現れ、復帰の報告をする。操られていたとはいえ自分がやった事の大きさから頭を下げたままこちらに顔を見せない。

 

「そうなんだ。無事に復帰出来て良かったね。実戦にはいつから出られるの?」

 

「まだ分かりません。」

 

 コウタが優しくフォローするも表情は曇ったまま。するとコウタから失言が···

 

「そういえば、リンドウさんがやられたあのアラガミ最近目撃情報がたくさん来てるからいつか討伐出来るかも知れないね···

 ゴメン、あと頼むわ。」

 

「あの野郎。後で覚えてろ。」

 

 失言を言うだけ言って自分に丸投げするとどこかに言ってしまった。突然のパスにユージは心の中で怒っていた。

 すると今度はどこからか声が聞こえてきたが、陰口だった。

 

「なあ、聞いたか?例の新型の片割れ、復帰するらしいぜ。」

 

「聞いた、聞いた。リンドウさんを見殺しにした奴だろ。」

 

「いつもは偉そうな口聞きやがってるくせに自分はなんも出来ねえのな。」

 

「ホント、これだから口だけ野郎は困るよな。」

 

 これまでの自分が取ってきた態度があるからかアリサはただじっと我慢するしかなかった。そればかりか半分自暴自棄になっていた。

 

「あなたも笑ったらどうですか?」

 

「俺たちは笑わないよ。」

 

 リンドウが行方不明になった原因を作った自分を笑えばいいと言ったが、ユージから返ってきたのは逆だった。

 

「なんで笑わないといけないんだよ。アリサは何も悪くないのに。」

 

「で、でも···」

 

「言いたいやつには言わしとけば良いさ。大丈夫だって。ヤバくなったら俺がなんとかするからさ。」

 

 今まで言われたことのない優しさにアリサの目から涙が溢れる。もうアリサは分かっていた。自分の行動を改めるしか償う方法がないことを。そしてユージにもう一度戦い方を教わろうとお願いする。

 

「あの···私にもう一度戦い方を教えて頂けませんか?」

 

「教えるって、もうアリサは強いじゃん。何も俺が教えることもないような。」

 

「守りたいんです。ちゃんとこの手で大切な人を守りたいんです!だから、お願いします。」

 

 こないだ自分が言ったことを覚えてくれていた。どうやら分かって貰えたらしい。ここまで言われたら断る理由なんてどこにもなかった。

 

「分かった。だけど、手加減するつもりはないよ。それでも良いの?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 本気で頼みに来たなら手加減せずに教えようとユージは心に決め、かくしてアリサと二人きりでの教導が始まった。

 

 

 

 

 

 教導が始まってから三日が経ち、ようやくアリサに実戦の許可が降り、早速任務が始まろうとしていた。待ち合わせの場所に行くとアリサが待っていた。

 

「遅くなってゴメン。早速だけど行こうか。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 任務は既にアリサが受注していて、始めはシユウ単体の討伐任務だ。シユウは人型のアラガミで発達した翼状の腕を持つ。これで滑空攻撃してきたり、腕のように振り回しての格闘攻撃。はたまた起爆弾を撃ったりと神機使いを翻弄。謂わば神機使いの登竜門とも言うべきアラガミ。基本の戦い方が出来れば苦戦するような相手ではないので、アリサには簡単すぎる任務ではあるがユージは厳しく行くつもりだ。

 

「相手はシユウ単体だから苦戦はしないだろうし、俺は離れた場所から見とくだけだ。自分でやってみよう。」

 

「分かりました。では、行きます!」

 

 高台から降り、シユウを探すと割りと直ぐに発見し、背後から補喰バースト状態になると弱点の拳に集中的に近接攻撃を当てる。二回切ったらバックし、二回切ったらバックを繰り返すヒットアンドアウェイの基本動作でシユウの反撃をかわす。が、時折無理に攻めようとして反撃を喰らいそうになり咄嗟にガードを試みるが衝撃が重く、後ろに下がっていた。

 

「アリサ、無理に攻めようとするな!もうちょっとのところで踏みとどまれ。だから慌てて盾で防いでも勢いに押されるんだ。」

 

 ツバキのような厳しい指導が入り、少しずつ修正していくがそれでも癖なのか無理に攻めようとして同じ失敗を繰り返していた。

 それでもなんとかシユウを倒したアリサはホッと一息。そんなアリサを労いつつも反省点を告げる。

 

「無事に倒せたけど、無理に攻めようとすればその分だけ敵の反撃に対応が出来ない。慌てて盾で防いだとしてもさっきみたいなことになる。今回は単体だけだったから良いけど、複数任務では命取りだ。」

 

「すみません。」

 

「いいか?戦闘の基本は無理に攻めない、バーストは常にやる、盾はジャストガードの三つだ。そこからアラガミの種類やチームの編成などに応用するんだ。」

 

 こうして教導一日目が終了、次の日以降もほぼ毎日のように訓練に明け暮れる日々が続いた。

 

 

 



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第7話 隊長就任

 アリサと二人きりでの教導が始まってから早一ヶ月が経とうとしていた。この頃になるとリンドウの捜索に当たっていた本部の情報も無いに等しくなっていて、アナグラの人間の大半は諦めていた。

 一方でユージは端から本部の事など信用して居ないため、独自に捜査をしながらアリサの教導もこなしていた。

 

「これで教導は終わりにして、みんなと任務をこなそうか。」

 

「はい、ありがとうございます。力になれるよう頑張ります。」

 

 一ヶ月の間、みっちりと基本を叩き込んだ甲斐あって悪癖が見られなくなり、無駄のない動きと精密のような射撃と近接攻撃に更に磨きがかかった。それは結果にも表れており、任務終了後に提出する報告書と戦闘のログを辿ると教導を受ける前と後では差が歴然としていた。これには毎日見ていたツバキも頷き、カリキュラムを見直さなければと決めていた。

 

 

 そして、ある日ロビーに第一部隊が集められた。普段、こうして全員が集められることがほとんど無いため全員が不思議がる。

 

「いきなり全員集めるなんて珍しいね。アリサ何か聞いてる?」

 

「知りません。知っていてもコウタには教えませんけど。サクヤさん、知ってますか?」

 

 サクヤとユージと話す時は良いが、コウタには相変わらず冷たい態度のままでその度にコウタはダメージを受ける。それを尻目にサクヤに聞くが、サクヤも知らないようだ。

 会話の中には入らないがユージはもう分かっていた。リンドウが失踪して一ヶ月以上が経ち、未だに隊長が不在の状況を見ぬふりする訳がなく、きっと早い段階で隊長就任の話が来るはずと。そして自分が隊長になることでリンドウが受けていたデートの真意を知ることが出来ると。

 予想が当たり、ツバキが来た。

 

 

「全員集まったな。今回の任務終了を以てユージ、貴官を正式に第一部隊の隊長に任命する。」

 

 突然の人事異動にアリサたちは驚くがユージだけは表情一つ変えない。リンドウが失踪してから分かりきっていた事とリオデジャネイロではずっと隊長だったので特に気にすることはなかった。

 

「すげえ。すげえ大出世じゃん。こういうの下剋上だっけ?」

 

「それ裏切りですよ?」

 

「いや、まだ決まってねえし。」

 

 コウタとアリサのやり取りにユージがツッコミを入れるとツバキが一喝。

 

「ユージの言う通りだ。正式な就任は今回の任務終了後だ。浮かれることなく任務を遂行しろ!

 そしてユージ、お前なら分かっていると思うが隊長になるからには全員の命が掛かっている。誰一人として欠けることのないようしっかりやれ!いいな?」

 

「はい。」

 

「よっしゃあああ!!さっさと終わらせるぞ!」

 

 誰よりも自分の隊長就任を喜ぶコウタを見るとふと昔を思い出し、笑みが溢れると同時に全員の命を預かる者として任務へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務はソーマとコウタの三人だった。任務の内容も中型種の討伐と簡単であっという間に終わり、帰投のヘリを待っている所だった。

  

「今回は楽だったね。このメンバーなら向かうところ敵無しじゃん!ひょっとして俺も出世狙えるかも?」

 

「毎回あんないい加減な報告書のまとめ方で出世なんて出来るかよ。」

 

「だって、めんどくさいじゃん。あんなの苦手なんだよな。」

 

「あのなあ···報告書はただ書くだけじゃねえよ。確かに、任務から帰る毎に書くだけだが、コウタやみんなが書いた物を元にデータ化して外部居住区のアラガミ装甲壁の強化や神機の調整とかに使われるから適当なこと書けば一般人に被害が出るぞ!」

 

「そうなの?じゃあ真面目に書くよ。」

 

 今まで散々とツバキから指摘を受けて尚、改善しないコウタはある意味天才だと思った。

 

「そういや話変わるけどさ、最近の配給の質悪すぎない?」

 

「配給?いや、俺はリオデジャネイロから全部買ってるから困ったことないけど酷いの?」

 

「全部ヤバイけど特にレーションがマジでヤバイ。あんな甘ったるいもの堪えられない。」

 

 ここ極東はアラガミの最前線なだけあって本部からの待遇が他の支部に比べれば良い方だが、それでもまだ満足できるレベルではない。その為、毎回抗議デモがよく起こっていた。

 だが、本部を信用してないユージはリオデジャネイロ支部にお金を支払う代わりに食糧や日常品を交換していた。支払い分とは別に任務の報酬の5%を寄付することで養護施設の運営の支援を続けていた。

 

「そうなんだ。なら、俺の部屋に来れば良いのに。飯くらいなら作るよ。」

 

「良いのか?だったらさ、就任祝いやろうぜ!」

 

「え?」

 

「どうせならアリサとサクヤさんも誘おうぜ!おい、ソーマお前もやるだろ?」

 

「断る。誰が隊長になろうと俺には関係ない。馴れ合いならお前らだけでやれ。」

 

 成り行きで決まった就任祝いもソーマはつっぱね、コウタは一人でカッコつけるなと怒るが馬の耳には念仏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局三人だけだったね。」

 

「まあ良いよ。急だったし、色々忙しいんだと思う。」

 

「でも良いんですか?私までご馳走になって。」

 

「気にしない。正直、一人で食べるの苦手でさ。誰かと一緒に食べる方が好きなんだよね。」

 

 急な就任祝いに集まったのはコウタとアリサだけでソーマは良いとして、サクヤにも断られ、就任祝いというよりはただの食事会だった。それでも今まで集団での食事に馴れていたユージにとっては部屋で一人食べるだけの食事は味気なく苦痛でしかなかった。だからか今回コウタが提案してくれたことが何より嬉しかった。

 ふと我に帰ると疑問があった。

 

「なんで祝われるはずの人間が作ってるんだ?普通は逆だろ。」

 

「あ、確かに。でもまあ良いじゃん!」

 

「さてはお前ら料理出来ねえな?」

 

 なぜか自分が料理担当になっているのがおかしいと気づくが、二人が変わろうとしないため追求すると図星なのか焦るのが分かり、溜め息をつく。

 

「俺は出来ないけど、アリサは出来るんじゃない?」

 

「なんでそんなこと聞くんですか?」

 

「マジかよ、お前ら···」

 

 とは言え、別に料理は嫌いじゃないので切り替え調理を始める。献立は一ヶ月毎に決めていて今日は肉じゃがとお浸し、味噌汁にご飯だったがそれだとパッとしないと思い、急遽グラタンとバケット、サラダ、スープに変更。献立が決まれば黙々と調理に没頭、それをコウタは睡魔の脅威と戦いながら、アリサはじっとユージを見つめているが本人は気づいていない。

 具材を煮込み、オーブンで焼いてる間に他の調理に取りかかるとアリサと目が合った。

 

「どうかした?」

 

「い、いえ、特にはないんですけど···料理どこで覚えたのかなと思いまして」

 

「あれ?言ってなかった?前の支部人が居ないから自分達で全てやってたって。養護施設もやってるからそれが日課になってるんだよね。」

 

「いえ、初耳です。」

 

「あ、そうだったんだ。勘違いか。」

 

 前に言っていたような気がしていたのは勘違いらしい。ならコウタに言ったのかもと睡魔に負けたコウタを見ながら考える。

 

 

 そして一時間程で料理が出来上がり、匂いで目を覚ましたコウタとずっと起きていたアリサを交えた三人で食事を堪能することに。

 

「このグラタン旨い。生きてて良かったあ。」

 

「そんな大袈裟な。だけど一人で食べてるときより全然旨いな。」

 

「とても美味しいです。普段はレーションが多いのでこんなにちゃんとした食事は久しぶりです。」

 

「まあ、この時代食べるのだけでも苦労するからね。アラガミが現れるまでは豊かだったって父さんたちから聞いていたけど、きっとそうだったんだろうね。」

 

「俺も母さんから聞いたことある。だから食べ物に感謝しないといけないって。」

 

「へえ、コウタにしては良いこと言うんですね。」

 

「なんだよ、それだと俺が悪いことばかり言ってるみたいじゃんか。」

 

「え、そうじゃないですか?」

 

「まあまあ。実際コウタが言ってることは正しいよ。満足に食べられず苦しんでる人も居るのは確かだし、俺たちがやることはまだまだたくさんある。」

 

 アラガミが現れて以降、貧富の差は激しさを増し、食糧難に陥る人々は少なくない。それに拍車を掛けているのはフェンリルによる差別的な政策が人々を苦しめていた。その点、神機使いはある程度待遇がよく生きていくには困らない。その代わり彼らの役割は大きく、人類の未来のためには必要不可欠な存在だ。だからこそ食べられるときにしっかり食べるのも神機使いの仕事でもある。

 

 少し暗い話になったので話題を変えようとコウタは隊長就任の話を始めた。

 

「そうだ。もうユージは隊長なんだよね?」

 

「まあ、任務終了後からだからね。でもどうして?」

 

「いやさ、同期が隊長就任だなんて考えたこともなくて。」

 

「普通はそういうもんだよ。俺はリオデジャネイロでは5年間隊長やってたからこれと言って変化はないけどね。」

 

「5年も隊長やってることが既にスゴいことじゃん。俺なんて隊長になってる姿が想像できない。」

 

「コウタは隊長になることはないので考えなくても良いと思います。それはそうとユージおめでとうございます。」

 

「傷つくから止めてくれない?」

 

 唐突な悪口にコウタはショックを受けるが今回の隊長就任に喜んでいたのは他でもなくアリサだった。これまでずっと我が儘に付き合って貰い、大きな支えとなっていた。だから隊長就任に態度には出さずとも喜び、彼を支える番だと思っていた。

 

「こちらこそ頼りないかも知れないけどよろしく。」

 

 こうしてユージは第一部隊の隊長に就任した。

 

 

 

 

 

 夕食が終わり、アリサとコウタも自室に戻ったあとユージはサクヤの部屋を訪れていた。突然の訪問にサクヤは驚きつつも追い出すことはせずに部屋に入れた。

 

「こんな夜中にどうかしたの?」

 

「サクヤさん一つ確かめたいことが。」

 

「何かしら。」

 

 いつになく真剣な表情のユージにサクヤは普段の態度で応じるとユージは表情を崩さずに質問をぶつける。

 

「サクヤさんは今でもリンドウさんが生きているって思ってますか?」

 

「え、それはどういう意味かしら?リンドウが生きているってこと?」

 

 ユージの質問にサクヤは動揺するがユージは今まで調べた事の一部を話した。

 

「まさかリンドウが生きているって言うの?」

 

「確証はありませんが、少なくとも俺はそう見ています。」

 

「待って、確かアリサの話ではあのとき私たちを囲んだあのアラガミと交戦中だったはずよ。」

 

「それは当事者のアリサが言う通りで間違いないです。ですが、あのアラガミに殺された可能性は0です。」

 

「どうして?」

 

「あのアラガミの群れを倒したあとにリンドウさんが閉じ込められた場所に入ったんですが、リンドウさんもアラガミの姿もありませんでした。が、このタバコの吸い殻を見つけました。」

 

 そう言うとタバコの吸い殻が入ったポリ袋を見せる。

 

「今は乾いちゃってますが、拾った段階ではフィルターは少し湿っていたのに火はまだ着いたままでした。普通なら吸ったあとは水に浸けるか靴などで踏み潰したりしますが、消えてなかったってことは少なくともあのアラガミは倒したということです。」

 

「アラガミを倒したあと休憩を兼ねてタバコの火を着けたが、あのあとにアラガミが侵入し火を消すまもなく投げ捨てたと考えられます。

 まあ、本部の連中は腕輪の破片があったから死亡したと報告してますが、血痕すらないのにあれだけで死んだと決めつけるあいつらの気がしれませんね。」

 

 リンドウは生きている···この言葉にサクヤの目は潤んだ。始めは生きていると思い、必死にリンドウのディスクからあの時に感じた違和感の調査をしていたが、時間が経つにつれ次第にもう死んでるのでは···と諦めかけていた。それに追い討ちをかけるようにして、ユージの隊長就任が決まり複雑だった。だからこの言葉には思うことがあった。

 

 そんなサクヤにユージは最後にこう告げた。

 

「例えみんなが諦めてもサクヤさんだけは信じてください。死んだって決めつけず、最後までリンドウさんのことを信じて帰ってくるのを待ってください。今日はこれを言いたくて。では夜遅くにすみませんでした。」

 

 それだけ言うと部屋を出て自室に戻った。

 

 ユージが出たあと、暗闇の中でサクヤは信じてやらなかった事を悔やみ、一人泣いた。

 

 

 

 



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第8話 怒り

 隊長就任が決まった次の日、ヨハネスに呼び出され一人支部長室まで来ていた。

 

「ユージ、入ります。」

 

「今回呼び出したのは外でもない。まずは、第一部隊隊長就任おめでとう。隊長就任に伴っていくつか説明をさせてもらう。今、住んでいる部屋はベテラン区域への移動となり、ノルンで見ることの権限が拡大する。これは君への信頼の証だと思っていい。その代わりに義務を果たしてもらうことになる。」

 

「義務···ですか?」

 

「義務と言ってもそう難しく考える必要はない。前隊長のリンドウ君も受けていた特務を君に引き継いでもらう。だが、これは機密事項の為君一人での任務となる。そしてそこで得られたコア等は全てこちらが回収することになる。君にはそれ相応の報酬が与えられる。任務は偽装してあるから、普段の任務同様ヒバリ君から受注したらいい。

 君には期待しているよ。」

 

「分かりました。」

 

 ヨハネス直々に隊長に任命され、幾つかの説明とリンドウがデートと嘘をついてやっていた特務を引き継ぐことになった。ヨハネスが黒幕なのは分かっているが今は時期尚早と判断してじっと耐える。

 

 支部長室を出るとソーマが壁に寄りかかっていた。どうやらさっきの話を聞いていたらしいのか忠告してきた。

 

「やはりお前も言われたか。いいか、あいつが何を企んでるかは知らないが気をつけろ!」

 

「じゃあソーマも特務やってたのか。安心しろ。俺は端から信用してねえからよ。」

 

「ならなぜ引き受けた。金に目が眩んだか?」

 

「バーカ。カレルじゃあるまいしそんなものには興味ねえよ。あいつらの目的を探るためにわざと引き受けただけだ。」

 

「目的だと?」

 

 途中電話が鳴り、ユージが出ると相手はジャックだった。

 

《ユージ、こないだ頼まれていた件だが、どうやらリンドウ少尉はシックザール支部長から特務を受ける傍ら本部からの指示で密かにシックザール支部長の内定調査をしていたらしい。》

 

「それでその内容は分かりますか?」

 

《ああ、だがその前にお前は『エイジス計画』を知っているか?》

 

「確かエイジス島に建設中で「アラガミ装甲」によって守られた超巨大「アークコロジー」を建築し、人類安息の地を作ることを目的とした計画でしたよね。」

 

《そうだ。だが、これには様々な憶測が飛び交っていてな今の人口の数にエイジス島は狭すぎて全員が入れる保証がない。勿論、そんなことを外部に漏らせば忽ち批判の的に晒され、計画事態が破綻してしまう。》

 

「つまりエイジス計画はただのダミーで実は裏で何か計画が既に実行されているってことですか?」

 

《そうだ。その計画こそリンドウ少尉暗殺の原因だ。》

 

「その計画とは?」

 

《「アーク計画」と呼ばれていてな、一部の選ばれた人間のみを地球外に逃亡させ、人為的に「終末捕喰」を起こすのが目的だ。」

 

「そ、それって選ばれなかった人間は見捨てて、自分達だけ生き残ろうって事ですか?」

 

《そうなるな。》

 

「分かりました。支部長、色々ありがとうございました。」

 

 ジャックから知らされた支部長と大車の人命軽視の計画に怒りがこみ上げ、静かに電話を切る。隣にはソーマが居るのを他所に壁を叩いた。

 

「どうした。何があった?」

 

「いや、何でもない···」

 

 ソーマの心配を遮り、ユージはロビーに向かい特務を受けにヒバリを訪ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特務の内容はウロヴォロス一体の討伐で、これまでこの敵を単独で討伐したのはリンドウだけとありかなりの強敵であることは間違いない。ユージも何回か交戦の経験はあるが、超巨大な体躯から繰り出される攻撃はどれもが即死レベルであり、細心の注意が必要だ。だが、幸いにも動きは単調な為に読みやすく、巨大な体を支えるための脚が剣砕に脆いという弱点がある。おまけに他のアラガミを一切寄せ付けず、常に単体で行動するのが他のアラガミとの違いでもある。

 

 まずは捕喰で先制、剣砕が有効な脚を攻撃しつつ、破砕が通らない眼球は貫通バレットを撃ち込む。一人しか居ないため、回りを気にせず目の前の敵を倒すことだけに集中することができ、敵を翻弄。確実かつ大胆にダメージを与えてると敵の体が光るのをいち早く察知、敵から離れるとさっき居た周辺に閃光が走ると同時に地面から複数の槍状のものが突き出ていた。

 そして立て続けにそれまで黒かった眼球が光ると攻撃が更に激しさを増す。これがウロヴォロスの活性化で、攻撃が激しくなるがユージの敵ではなくあっさりと止めを刺され任務は終わった。

 

 

 特務を終え、アナグラに戻るとアリサが待っていた。

 

「どうして呼んでくれなかったんですか?」

 

「どうしてって言われても···」

 

 一人で任務に行ったのがバレたらしく、怒っていた。相手が相手なだけに怒るのも無理はないが、今のユージには誘わない理由が言えず言葉に詰まる。まさかヨハネスの策略の手助けをしていると言うわけにもいかない。どうしたものかと考えているとアリサは目に涙を浮かべており、流石に無視するわけに行かないが今の自分には彼女に掛ける言葉がなかった。




次、因縁のマータ討伐です


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第9話 衝突

前回のあとがきでヴァジュラ討伐です。って書きましたが、あれは間違いです。正しくはマータ討伐です。大変失礼しました。


 最初の特務が終わってからも何回か受けたが、機密事項というだけあって一筋縄では行かないようなアラガミばかりを相手にしていた。それだけアーク計画遂行の為には大量のコアが必要であるということでもあるが、あんまり特務を引き受け過ぎると不味いのでは?という思いも交錯し、無事に任務を終えてもスッキリはしなかった。それにこないだのアリサの涙を見ていながら掛ける言葉もなく、そのまま無言で通りすぎることしか出来なかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 このままで良いのだろうか?今自分がやっていることは本当に正しいことなのだろうか?ここのところそればかりが頭を支配し、中々任務に行く気力が湧かなくなり一人部屋に籠ることが多くなっていた。 

 

 

 それは今日とて同じであった。ところがそれを許さんとばかりにツバキから召集が掛けられ、渋々ロビーへと歩いた。

 

 ロビーに行くと既にみんな集まっており、ユージの姿を見つけると軽く挨拶してきたが生憎今のユージにはみんなにどう顔を会わせればいいのか分からず言葉少なに挨拶するだけだった。

 

「お前最近どうしたんだよ。任務には一人で隠れるように行くし、俺達と会っても顔を見せないし···何か悩んでるのか?」

 

「別に、何でもない。ちょっと任務が続いていたから疲れてるだけだから気にするな。」

 

「そっか。ならいいけど、ちゃんと休めよ?無理したって何も意味ないからな。」

 

「そうするよ。」

 

 コウタが心配して声を掛けてくれたが強がって嘘をついて誤魔化す。だがそんなことで誤魔化せるわけなくコウタもアリサも何で言ってくれないのか悲しくなった。

 

 

 

「全員集まったな。今回集まってもらったのは先日、偵察班が発見したアラガミからリンドウの腕輪と思わしき反応があったと情報があった。恐らく、例のアラガミと同種だろう。私情を挟むなとは言わないが、全員生きて帰ってこい。それとサクヤ、お前は残れ!」

 

「嫌です。行かせてください。」

 

 暗い空気の中やって来たツバキからリンドウの腕輪の反応を示したアラガミを発見したと知らされ、空気は一変。しかし、サクヤは残れと命令するもサクヤは拒否。愛するリンドウの為ならばと志願する。

 

「ダメだ。お前最近鏡を見たか?そんな状態では行かせることは出来ん!」

 

「でも···」

 

「いいか、これは命令だ!」

 

「···分かりました」

 

 幾ら自分では行きたいと言っても体調が悪いと言われれば従うしかなく、それ以降口を開くことはなかった。

 

 

「今回のアラガミってこないだのやつ?」

 

「そうだと思います。やっと、リンドウさんに償うことが出来ます」

 

 召集が解散し、ツバキとサクヤはその場を離れ残ったコウタ達はそれぞれ思うところがあるのか緊張していた。普段から何かと無口のソーマでさえ目を閉じて居た。だが、ユージだけは違った。リンドウの腕輪の反応があったと聞かされても耳に入っておらず、やはり行く気になれない。しかし、仕事である以上は逃げることが出来ないためトイレにでも行こうとその場を離れる。

 

「悪いけど先に行っててくれないか?」

 

 明らかにいつもの様子と違うユージにコウタとアリサはおかしいと声に出す。

 

「ユージのやつおかしくない?」

 

「そうですよね。大丈夫でしょうか?」

 

 二人の不安がこのあと当たることになるなどこのとき二人が知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタート地点に着き、先ずはユージがそれぞれに指示を出す。

 

「偵察班からの情報では敵は単体のみで周りに他のアラガミの反応はない。ソーマとコウタは右側、俺とアリサは左側に別れて策敵、見つけたら直ぐに知らせるように。」

 

「分かった。」

 

「アリサは大丈夫?」

 

「わ、私は大丈夫です。」

 

「まあ、何かあったらフォローするよ。」

 

「分かりました。」

 

 自分を心配してくれるのは嬉しいが、アリサはユージの方が心配だった。アリサ自身はまだ完全にあのときの事を払拭出来ていないが、ヴァジュラも倒しある程度はマシだった。しかし、目の前のユージが一人で抱え込んでることを思うと何も起こらなければと願うばかりだった。

 そんな心配をしたまま任務が始まり、二手に別れてアラガミを探す。

 

 

 邪魔な敵が居ないとあって直ぐに見つかった。広いエリアで呑気に食べている所をソーマとユージ、アリサの三人で一斉に捕喰しバースト状態になり、取ったアラガミバレットをコウタに受け渡す。奇襲に気づいた今回の敵、プリティヴィ·マータが奇襲したうちの一人ユージにターゲットを絞り、前足で払う。普段ならこの程度の攻撃簡単にかわすが反応が鈍く、盾でガード。一応体が盾の使い方を覚えておりジャストガード出来たが、どう見ても動きが緩慢であり下手すれば死ぬ可能性もあった。

 

「何やってるんだ、お前は。そんな攻撃ガードしなくても普段のお前なら楽に避けてただろ。」

 

 ソーマの怒声が響くが、ユージには届いておらずそれからも何度も緩慢な動きで直撃は免れるも一歩間違えれば最悪な状況になるほど危険な行動をとるためその度に冷や汗が出る。

 そしてそんな事を続けていると次第に敵の猛攻が始まり、ずっと盾で防ぐその忍耐力が少しずつ削がれていき、遂に攻撃がユージの腹にヒットした。無防備で直撃を喰らい、かなり遠くのコンクリートに投げつけられた。

 

「おい、ユージ!大丈夫か?」

 

「あのバカ野郎!油断しやがって。」

 

「大丈夫ですか?」

 

「うるさい。俺の心配してる暇があったら目の前の敵に集中しろ!」

 

 アリサ達の言葉を遮り、敵に集中しろと一喝するが手で抑える腹からは大量の血がポタポタと地面に落ち、赤く染めていた。痛む体に鞭を入れ、立ち上がるとダッシュでマータの死角に回り込み弱点の尻尾に剣砕を当てる。しかし、痛む体では力が足りず、有効なダメージとはならない。ならばと今度は捕喰とリザーブを繰返しオラクルを溜めてからメテオを放つ。

 時間差で降り注ぐオラクルの雨にマータは沈み、戦闘は終了。それを見届けたユージは膝を着こうとしたその時、ソーマに胸ぐらを掴まれ殴られ地面に叩きつけられた。

 

「なにしやがんだテメエ!」

 

「それはこっちの台詞だ。ふざけたことしやがって。」

 

「何だとテメエ!」

 

 ソーマの言ってることは正しかった。しかし、熱くなったユージは腹の傷などお構いなしにソーマと殴りあいが始まった。突然の殴りあいにコウタが必死に止めようと間に入るが弾き飛ばされ尻餅を着く。これではどうすることも出来ないと諦めているとアリサが二人に向けてバレットを放ち、ようやく喧嘩は収まった。

 

「二人ともこんなところで喧嘩してる暇はないはずです。リンドウさんの腕輪を探すのが先なんじゃないですか?」

 

「ゴメン、俺先に帰るわ。」

 

「リンドウの腕輪などどうでもいい。俺も帰るぞ。」

 

「お、おい!」

 

 居心地が悪くなり、二人はそれぞれ帰投、コウタは何がなんだか分からないまま二人を見ている側でアリサは倒したマータを調べるが残念ながら腕輪はなかった。

 



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第10話 和解

 任務から戻ったユージをツバキが待ち構えていた。表情からして怒っていることは確かで、何を言われても仕方がないとユージは覚悟した。しかし、意外にもツバキは怒るどころか怪我の心配をしていた。

 

「今回のお前の行動は隊長という身からすれば許される行為ではないが、先ずはその怪我を治すことを優先しろ!」

 

「······分かりました。」

 

 てっきり殴られたりするものと思っていたため一瞬戸惑うが、素直に従い医務室で治療を受ける。

 

 

 直撃を受けていたが運が良かったのか傷は割りと浅く、出血は多いものの特に重傷ではなかった。ゴッドイーターの治癒力なら二、三日で完治するだろう。とはいっても今のユージには自分の怪我の事よりも特務に気をとられ自分勝手に行動し怪我した挙げ句、注意してくれた仲間を殴ったり、置いて帰ってきたりと最低な事をした自分自身に怒りがこみ上げていた。

 あのときソーマが怒ったのは自分を死なせないためだと分かっていたが、受け入れられない自分が居た。だから殴り返したのかもしれない、己の心の弱さを改めてもう一人でこの問題を抱え込むのは止めた方が良いのかもしれない。

 そんなことを考えながら治療を終えると自室のベットに倒れるとそのまま眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 少し寝ただろうかドアをノックする音で目を覚ましドアを開けるとそこにはアリサとコウタが居た。寝ていたからというのもあるが、勝手な行動で迷惑をかけた自分になぜ会いに来るのかが分からずも追い出すのも変だと思い、部屋に入れる。

 

 二人は怒っている様子もなく、椅子に座ると淡々と先程の任務の報告を始めた。

 

「あのアラガミを調べたけど結局リンドウさんの腕輪は見つからなかったよ。」

 

「それに最近の調査隊の報告もいい加減なものが多くて全然前に進みません。」

 

「そうなんだ···」

 

 何でここまでして言いに来たのだろうか。本来なら怒って当然であり、ユージも覚悟していたことだった。それなのにさっきのツバキも目の前の二人も怒らず、普段と変わらず接してくれている。こんな自分でも必要としてくれている事に自然と目から何かが頬を伝いながら濡らす。

 

「どうしたんだよ。何で泣いてるんだよ。」

 

「······ゴメン、俺···」

 

「なあ、もしかして俺たちが怒ってると思ってた?」

 

 コウタたちは何もかもお見通しだった。ユージが最近元気がなく、様子が変だと気付きどうすれば良いのか?と考えていた。だから今回の事を二人は敢えて怒らず、励まそうと来ていた。そんなことを知らず、自分一人で何もかも背負い込んでいた自分は何ともバカらしかった。一度流れたらもう止まることなく滝のように溢れだした。

 突然の号泣に二人は戸惑い、目を合わせると落ち着くのを静かに待つ。

 

 

「実は、あの事件以降俺は本部の調査隊とは別に捜査をしていたんだ···」

 

 ある程度落ち着いたユージはもう隠すことを止め、ゆっくりとこれまでの事を二人に話した。ユージの口から今まで知らされて来なかった真相を聞かされ、二人は激しく動揺する。

 

「ちょっと待って。じゃあ支部長の陰謀の為にアリサを苦しめリンドウさんも行方不明になったってこと?」

 

「そうだ。」

 

「そ、そんな···」

 

 コウタは頭の整理が追い付かないのか頭を掻き、アリサはそんなことで自分はリンドウを殺すように仕向けられたのだと知り言葉を失う。二人の反応は予想していたのかそのまま話を続ける。

 

「それでリンドウさんが居なくなった以上、俺に隊長就任の話が来るのは時間の問題だと思って任務に明け暮れる毎日だった。でもその段階ではアーク計画のことなんて全然分からなくてただ単純にリンドウさんが言っていたデートが何なのかを知りたかっただけなんだ。

 だから隊長就任の話が来たときこれで真相に近づけるって思っていた矢先に知らされたからこの先どうしたら良いのかが分からなくなった。支部長には機密事項だから他言するなって念を押されていたし、単独でしか任務が出来ないからお前らに相談したくても出来なかった。」

 

「だけど良かったよ。」

 

「え?」

 

「こうやって話してくれてさ。」

 

「そうですね。私もユージがこんなに悩んでるだなんて知りませんでした。」

 

「お前ら···今までゴメン。今さら謝ったって許して貰えるなんて思ってないけど、二人に話してスッキリした。」

 

「別に俺ら迷惑してないし。な、アリサ。」

 

「ええ。私がこうして居られるのはユージのお陰です。それに許せないのは支部長と大車です。絶対に許せません!」

 

 二人はユージが理由もなしにこんなことする人間だとは思っていなかった。これまで何度も修羅場を乗り越えて来る度にそこにはユージが居た。なら今度は自分達がユージを助けようと必死になっていた。その優しさに触れて初めて本当の仲間に馴れたとユージはもうさっきまでの弱さは消えていた。

 

「あ、そう言えばツバキさんがお前の処分は無しだって言ってたよ。」

 

「何で?」

 

「さあ、何でだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の早朝、研究室に行くとそこにはツバキとサカキが居た。サカキの仕事場なので当たり前だが本当に居ると戸惑ってしまう。でもやることがあるので見なかったことにしてツバキに処分の取り下げの真意を聞く。

 

「ツバキ教官、何で俺の処分は無くなったのですか?本来なら処分を受けて当たり前のはずです。」

 

「もう決まったことだ。一々言う必要もあるまい。だが、今回の件は我々もジャック支部長から報告を受けていてなお前の事は全て把握していた。」

 

「ジャック支部長が?」

 

「ジャック支部長とは昔からの友人でね、君がここに来ると分かったときから連絡して居たんだ。」

 

 何と自分の知らないところでジャックが動いていたと知り、驚いているとツバキの口から更に追い討ちが。

 

「ジャック支部長が手を回してくれたのは間違いないが、今回の処分取り消しを申し出てきたのはソーマだ。帰ってくるなり直ぐに私の所に言いに来た。後でソーマに感謝しとくんだな。」

 

 処分取り消しはソーマのお陰だった。普段は無愛想だが、本当は優しかった。早くソーマに謝らねばと退室しようとするとサカキに呼び止められ、このあと第一部隊を連れてくるように頼まれ部屋を後にした。

 

 

 自分の部屋の向かい側にソーマの部屋はあった。軽くノックをして入ると棚に腰掛けコーヒーを飲んでいた。

 

「何か用か?」

 

「昨日のことなんだけど···」

 

「ふん、昨日の事は忘れろ!別にお前の為じゃない。イライラしていたから殴っただけだ。それで処分になるのは御免だからな。」

 

「いや、全部俺のせいだ。本当にすまなかった。」

 

「止めろ!他人に謝られるのは好きじゃない。」

 

「で、でもそれじゃ俺の気が···」

 

 幾らソーマがそう言ってもそれではユージも気分が悪い。ならばとソーマは考えた。

 

「だったらメシだな。」

 

「メシ?」

 

「メシを作って食わせろって言ってるんだ。」

 

「そんなんで良いのか?」

 

「ああ。それでいい。」

 

「なら毎日作らせて貰うぞ。お前が嫌だって言っても止めねえぞ。」

 

 普段のソーマからは決して考えにくい回答にユージは固まるが、ソーマの表情は明るく、ならば応えねばと了承すると少し挑発めいたことを言ってみるとソーマも笑顔でこう答える。

 

「好きにしろ!」

 

 

 

 一足先に自室に戻ると約束通りに朝食を作り始める。今日はトースト、ベーコンエッグ、バナナ、フルーツヨーグルトとあって調理するほどでもなかった。ベーコンエッグ以外は元々作りおきなので15分程度で完了するはずだった。

 

 ノックがしたのでソーマだと思い開けるとソーマだけでなくアリサとコウタも一緒でビックリした。

 

「悪い、捕まってしまった。」

 

「ソーマ人聞きの悪いこと言わないでください!」

 

「ソーマだけ食べるのはズルいぞ!」

 

「お前ら···分かったよ。お詫びの印とまでは行かないけど、今日から俺がお前らの食事担当だ。覚悟しろよ?」

 

 以前食べた事が忘れられない二人はソーマがユージの部屋に入ろうとするところを待ち構え、乱入してきたらしい。それでもユージは嬉しく、三人の胃袋を満たすことで支えていこうと決めた。

 

 朝早くにも関わらず、ユージの部屋からはパンの焼ける芳ばしい匂いと四人の楽しそうな会話がしばらく聞こえ、また新しい一日が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




今回の話に限らず、表現の仕方が難しいです。


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第11話 アラガミの少女

 朝食を食べ終えた四人は少し休憩をとってからサカキの研究室に向かうとそこには既にサクヤが待っていた。そしてサカキとツバキも待っていて、全員が集まったのを確認してから説明を始める。

 

「朝早く呼び出してすまなかったね。ユージ君から既に聞いているようにヨハンがエイジス計画を隠れ蓑にしてアーク計画を進めている。このアーク計画は人工のアラガミ「ノヴァ」を形成して人為的に終末捕喰をするのが狙いでね。」

 

「あのー、サカキ博士終末捕喰ってなんですか?」

 

「終末捕喰ってのは地球再生のエコシステムのことで、地球上の存在をアラガミによって喰らい、 一度「初期化」した上で、「生命を再分配」する現象だ。

恐竜の絶滅など、過去繰り返された大絶滅にも関わりがあると考えられている。まあ、これは10年以上前にサカキ博士が提唱していましたよね?」

 

「流石ユージ君、よく分かっているね。そう、前に私が提唱していたんだがヨハンに隠蔽されていてこれまで語り継がれなかったんだ。」

 

 いきなり難しい話にコウタは首を傾げ、アリサたちも聞いてはいるがあまり理解できていない様子にユージが簡単に説明する。

 

「要は支部長は終末捕喰をするために一旦、人間を地球の外に避難させて終末捕喰が終わったらアラガミの居ない地球で暮らそうと考えている。

 一見、素晴らしい案に見えるけどエイジス島の大きさでは地球上の人間全てを避難させることは不可能といっていいんだ。」

 

「それって助からない人たちが出てくるってことですか?」

 

「そういうことになるね。正確に言うと一部の選ばれた人間のみ助けることを考えた計画なんだ。」

 

「そ、そんな···選ばれなかった人たちがどうなってもいいだなんて。」

 

「マジかよ。俺、エイジス計画の話を聞いたとき凄いいい話だと思ってこれまで必死に頑張ってきたのに···それが嘘だったなんて。」

 

「ふん、俺は初めからあいつの言うことなんか信用しちゃ居ない。」

 

「そんなことのためにアリサとリンドウを巻き込むなんて許せないわ!」

 

 改めて説明を受け、反応は様々。だが、話は続いた。

 

「でもまだ終末捕喰をするには足りないものがあってね。それが「特異点」と呼ばれるコアでね。君たちにはこの「特異点」を見つけてきて欲しい。」

 

「見つけるって言ってもどこにいるのか分からないと···」

 

「それについてはこちらで既に調査済みでね、そろそろ出てくる頃だと思うよ。」

 

 ここでずっと黙っていたツバキが任務の内容と決行の日を告げ、解散した。

 

 

 

 その日の夜、ユージの部屋にはアリサ、コウタ、ソーマの三人にサクヤも加わり夕食が出来るのを待ちながら今朝の事を話す。

 

「まさかリンドウにここまで振り回されるとは思わなかったわ。」

 

「サクヤさん、もう体調の方は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、お陰さまでこの通りよ。もう立ち止まってなんか居られないわ。今まで何も出来なくてごめんなさい。」

 

「いいえ、サクヤさんが謝ることないです。私はリンドウさんやユージたちに支えられてここまで来れました。もし、あのままだったらずっと弱いままだったと思います。私に出来ることで支えていきたいです。」

 

「俺もさ、エイジス計画が嘘だって聞いたときはとても信じられなかった。母さんと妹を守るためにはそれしかないと思ってたから。でも、それだときっと後悔する。誰かが犠牲になると分かってながら家族を守るのは絶対違うと思うんだ。」

 

「俺は俺のやりたいようにやるだけだ。」

 

「おいおい、これからメシだってのになんでそんな話してんだよ。」

 

 これまでの出来事で第一部隊の心は一つになっていた。食事前の話とあってツッコミをいれるが、ユージもつい口に出してしまう。

 

「みんなここまで色々あったけど、俺はみんなと出会えて本当に良かったと思ってる。みんなが居なかったら多分最低な人間になってた。ありがとう。」

 

「いきなり何言ってるんですか?」

 

「良いじゃんか、別に。本気で思ってることなんだから」

 

「そうだよ、アリサ。」

 

「コウタに言われると腹が立ちますね。」

 

 ユージの反論にコウタが同情すると怒ったアリサは物凄い形相で睨む。ビビったコウタが視線を反らして知らんぷりを決め込むのをユージとサクヤは笑いながら見ていた。そうこうしていると夕飯の支度が終わり、テーブルに料理が並ぶ。今夜は久々のカレーだった。五人分のカレーを配り終え、席につくと手を合わせ「いただきます」と挨拶し、カレーをスプーンで口に運ぶ。

 

「ユージって本当何でもできるよな。」

 

「そうかな?俺プロじゃないから出来ないのもあるぞ。」

 

「嘘つけ!こないだなんかグラタンとかピザ作ってたじゃねえか。」

 

「私も思いました。なんでそんなに出来るんですか?」

 

「いや、そう言われましても···前に居たとこに料理作る専門の人が居ないからたった五人で家事全般やってたから勝手に身に付いたっていうか。てか、そういうお前らはどうなんだよ?サクヤさんは出来るの知ってるけど、三人が家事やってるところ見たことないぞ」

 

 突然の追及にソーマは無視、アリサとコウタは目が泳いでおり誤魔化そうと必死な様子でユージは溜め息をつく。

 

 

 

 

 サカキからの任務は三日後に出され、今回はソーマを除いた四人で行くことになり、スタート地点から辺りを見渡す。元は寺院な為に死角が多く、ここから確認できるのは精々目の前の道だけで索敵する必要がある。

 

「とりあえず俺とコウタは右側を探すから、アリサとサクヤさんは左側をお願いします。途中小型が居たらそのまま迎撃で、中型以上が混ざってたら無線で知らせるように。質問はいい?」

 

「異論はないわ。」

 

「じゃあ始めようか!」

 

 ユージの一声で四人はそれぞれ二手に別れ、周囲の索敵を始める。

 

 

「ねえ、アリサ?」

 

「なんですか?」

 

「あなたユージとなにかあったの?」

 

「え、どうしてですか?」

 

「こないだの夕食の時からずっとユージの事見ていたからひょっとして?って思ったの。」

 

「そ、そんなことありませんよ。偶々だと思います。」

 

「あら、そうなの。なら良いけど、もし好きなら早く伝えないと取られちゃうわよ?」

 

 どうやらユージの事ずっと見ていたのがバレていたらしく、問い詰められ誤魔化したがそんな態度では肯定しているようなもの。実際、言葉では否定していても自分が精神が不安定なときに嫌な顔一つせずに付きっきりで居てくれた時から少しずつ好意を寄せていた。ユージ本人はどう思っているかはわからないが自分の気持ちは変わっていない。例え片想いに終わったとしても···

 

 

 一方のユージもアリサの事を気にかけていた。始めは正直接しにくいなと思っていたが、彼女の本当の姿を見てから異性として捉えるようになっていた。もちろん、アリサの真意を確かめる術など無いのでどうしようもないが会う度にドキドキが止まらない。流石に任務の時は考えないようにしているがどうしても意識はしてしまう。やはり想いを伝えるべきか?と一人考えているとコウタが歩みを止めたので切り替え、そーっと壁越しに覗くとそこには討伐対象のシユウが死んでおり、それを貪る者の姿があった。

 

 見た目は人間と思われるが、アラガミを食べているところを見るとアラガミにも見える。コウタもその行動に驚き、二人目を合わせる。

 

「なんだあれ?」

 

「俺にも分からないけど、多分あれがサカキ博士が言っていた特異点だと思う。とりあえずアリサたちに知らせよう。」

 

 一旦、様子を見ながらアリサたちに知らせ合流してから考えることに。

 

 

 無線で知らせてから5分ほどでアリサたちも合流、静かに初めて見る何者か分からない者の行動を見ていると···

 

「おや?どうやら来たみたいだね。」

 

「サカキ博士、ソーマも一緒に何やってるんですか?」

 

「説明はあとにしてどこかに行ってしまう前に取り囲むもう。」

 

 後ろから声がしたので振り替えるとサカキが護衛にソーマを付けて立っていた。滅多に現場に行くことがないサカキがここに来た理由は後で聞くことにして言われた通りに飛び出し、その者の回りを取り囲む。

 

 それは言ってしまえば少女で、白い着物みたいなものに身を包み、こちらを見るとゆっくりと立ち上がり口についた血を手で拭う。

 

「サカキ博士、これはどういう?」

 

「実は彼女が現れるようにこの辺りのアラガミを根絶やしにしていたんだ。どんな偏食家でも空腹には耐えられないからね。」

 

 サカキの言っている意味が分からず固まっているとゆっくりと少女の近くに歩みよる。

 

「長いことお預けにしてすまなかったね。君も一緒に来てくれるかい?」

 

「オナカスイタ···?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女をラボに連れて行き、落ち着いたところで説明を受け、一同驚愕する。

 

「ええー、あ、アラガミ?」

 

「そう、これはみんなの知っているアラガミだよ。」

 

 サカキは落ち着いているがユージたちは落ち着かない。それもそうだろう。アラガミは人類の敵であることはゴッドイーターなら誰もが知ってる常識だ。そうでなくとも一般人でもアラガミが敵な事は誰もが理解している。

 だが、今自分達の目の前に居るのがアラガミだと言われればこれが普通の反応である。

 

 少しして冷静になったユージはサカキの言ってる意味が分かった。

 

「サカキ博士、支部長が探している特異点は彼女の事ですね?」

 

「もう君は分かっていたか。そう、この子こそヨハンがずっと探し求めていた特異点だよ。」

 

 そう言われてみれば、こんな姿のアラガミを見るのは初めてだとアリサたちは思った。特異点という言葉通りに特別な存在なんだと理解するとそれまで抱いていた恐怖心は徐々に消えていた。

 

「ノヴァの原型を作るだけならアラガミのコアだけで良いが、動かすにはそれでは不可能で、多分意志を持ったアラガミが必要不可欠なんだろうな。」

 

「そうか。普通のアラガミは意志なんか持たないけど人間に近いアラガミなら持っているからか。」

 

「君たちも分かってきたね?特異点には意志がとても重要でこれがなければ幾らコアを集めても意味がないんだ。勿論、アラガミを匿ってるなんてバレると問題になるからこの事は秘密で頼むよ。」

 

 



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第12話 デート

「ええー、また召集かよ。ここのところほとんど召集じゃねえか。」

 

 第一部隊は至急ラボに来るように!と書かれたメールを見て、溜め息が溢れる。と言うのもサカキの人使いは尋常ではないほど粗く、悪気はなくとも正直うんざりしていた。それでも渋々ラボに向かい、扉を開ける。

 

「何度もすまないね。今回呼び出したのは君たちに名前を考えて欲しいんだ。」

 

「名前ですか?」

 

「いつまでもアラガミの少女と言うのも可愛そうだし、こういうことは君たちの方が得意だろうからね。」

 

 そう言われてみればと折角連れてきといて名前がないのは失礼だと理解し、面々はそれぞれ考えることに。

 

 しばらく沈黙が続き、コウタが最初に思い付いた名前を発表。

 

「こういうのはどう?ノラミ」

 

 彼なりに精一杯考えたのだろうがこれは酷評が相次ぐ。

 

「いや、もっと他にいい名前があったろ。」

 

「ユージの言うとおりです。ドン引きです。」

 

「うるさい!だったらお前らは何か思い付いたのかよ?」

 

 自分の考えを否定され怒ったコウタが二人に問いただすとアリサは黙るが、ユージは答える。

 

「そうだな···女の子だからミユキなんてどうだ?」

 

「なんだよ、それじゃ俺と変わらないじゃん!」

 

「お前と一緒にするな。女の子らしい名前だろう?」

 

「私もユージの名前に賛成です。コウタの意見だと可愛そうです。」

 

「なんだよ二人して俺をバカにしやがって!ノラミのどこが悪いんだよ。」

 

 1vs2の構図になり不利となったコウタは拗ね始め名前が決まらないと思ったその時、意外な人物から一気に決まり出す。

 

「シオ」

 

「は?」

 

「シオでどうだ?と聞いてるんだ。」

 

 少し恥ずかしそうにフードを深く被って顔を見せないように隠すがずっと聞いていた少女は気に入ったのか自分で名乗る。

 

「シオ!」

 

「それが君の名前かい?」

 

「シオがいい。」

 

「本人がそう言うなら決まりだな。今日から君はシオだ。よろしくな!」

 

 本人が決めたとあれば異論はなく、ユージがシオにそう言うと頭を撫でる。頭を撫でられるのが嬉しいのかシオは満面の笑みでこちらを見ていた。

 

 

 名前が決まり一段落着いたところで今度は別の問題が出てきた。しかもそれはかなり厄介なものだった。

 

「オナカスイタ」

 

「シオちゃん、おなかすいたの?」

 

「ゴハンタベタイ」

 

「そっか、今度はメシを調達しないといけないのか。でもこれは厄介だぞ。」

 

 そう、人間であれば何か作って食べさせればそれで済むがシオは見た目は人間でも中身は立派なアラガミ。人間の食べるものでは意味がなく、アラガミを倒してそれを与える必要がある。だが、それは危険な行為でもあり、他の人間に漏れてしまえばそれこそヨハネスに見つかってアーク計画の材料にされてしまうだろう。ユージの言葉にその場にいた全員が意味を理解し、再び沈黙が続く。

 そして今度はサカキが提案する。

 

「それは心配いらないよ。これから君たちにはシオを連れてデートに行って欲しい。ミッションは既にヒバリ君に発注してあるからよろしく頼むよ。」

 

「てことはヒバリさんも知ってるってことですね。」

 

「なんで?」

 

「態々シオを連れて行くミッションを発注するくらいだからヒバリさんに知らせずにってのは無理がある。ヒバリさんにも伝えておくことで疑われることなく受注できるだろ?」

 

「確かにそうですね。」

 

「まあ、早いとこ行こうか。シオもお腹すいて辛いだろうから。」

 

「すまないね。それで今回ミッションに行くのはユージ君、ソーマ、コウタ君にお願いするよ。アリサ君とサクヤ君は服の作製をお願いするよ。」

 

「確かに服も必要ですね。分かりました。」

 

 男子は食事の調達、女子は服の作製に担当が振られそれぞれ行動に移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サカキが裏でヒバリも説得していたお陰で普段通りにミッションは受注され、空母があったところに来ていた。

 

「敵はボルグ·カムラン二体か。ちょっと狭いエリアだから分断は難しそうだな。」

 

「あいつ無駄に硬いよな。それにちょこまか動くし。」

 

「でも乱戦は避けたいからまずはコウタが銃を撃って一体おびき寄せて一気に叩こう。」

 

「分かったよ。」

 

 作戦が決まり、一緒に行動している敵の近くまで進み、コウタがそのうちの一体に狙いを定めて引き金を弾く。

 精密な射撃は一発でカムランの鋏に命中、誘き出すことに成功し四人で一気に攻め込む。ソーマは脚を、ユージは跳躍し尻尾を、コウタは盾を、そしてシオは鋏をそれぞれ攻撃属性の相性の良さを活かした攻め方で敵に的を絞らせず仕留めると遠くに居るもう一体も同じやり方で難なく撃破。やっと食事にありつけるシオは喜んでカムランをムシャムシャと食べ始める。

 

 

 シオの食事が終わるまで警護をコウタに任せ、ユージとソーマはブロックに腰掛けて話をする。

 

「なあ、なんでシオって名付けたんだ?」

 

「別に理由なんざない。偶々思い付いただけのことだ。」

 

「ふーん。ならいいけどさ、ソーマって前に死神とか呼ばれていたけどなんでだ?」

 

「チッ、どうでもいいこと覚えやがって!まあ良いだろう。お前にだけは教えてやる。

 俺は昔、マーナガルム計画という実験台に利用されP73偏食因子を注入された。

 計画は失敗したが俺を研究することで生まれたのがお前たちも知っているP53偏食因子だ。通常、P53偏食因子は定期的に偏食因子の投与が必要だが俺は体内で生成出来るからその必要がない。」

 

「そうか。だから長期戦になってもあんまり疲れないのか。でもそれだけでは死神と呼ぶ理由にはならないんじゃないか?」

 

「俺がゴットイーターになったのは12歳の時でなその時から親父に戦うことを強要されてきた。だが、戦うことだけしか教えられてこなかった俺は仲間を守るということを忘れ、俺と同行した仲間はどんどん死んでいった。なのに俺が普通に帰ってくるもんだから死神って呼ばれるようになった。」

 

 そう言うソーマが拳を握りしめ悔しそうな表情をしていたのをユージは見逃さなかった。きっと長い間葛藤し、それでも自分に話してくるってことは少なくとも自分のことを信頼してくれてるということ。

 

「俺、ソーマと初めて行った任務の時のこと今でも覚えてる。エリックがオウガテイルに教われて亡くなったことを誰よりも悲しんでいたのはソーマだ。あれを見ていたからお前が本当は仲間を失うのが嫌なんだって分かったよ。」

 

「ふっ、お前に話すと何だかスッキリしてきた。こういうのも悪くないもんだな。」

 

 ユージと話していると段々楽しいと思える自分が居て悪い気はしなかった。寧ろこれが本当の仲間なのかもしれないと思うと自然と表情は明るくなる。今まで見たこともなかったソーマの表情にユージは驚きつつ抱き付くと頭をガシガシと弄り倒し、嫌がり止めろと叫ぶソーマの声が辺りに響いていた。

 

 一方で警護していたコウタは二人の異様な光景を目の当たりにして寒気がし、再び警護を続けるのであった。

 



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第13話 因縁の相手

ピター討伐です。


 今度はツバキから召集が掛かった。もう何回目だ?と思うものの上官の命令であるため集合、ツバキを待つ。

 

「今度はなんだろうね?」

 

「ったく、あの人たちは俺らのことなんだと思ってやがる。」

 

「私が居る前でよくそんなことが言えるな。」

 

 うんざりとばかりに文句を垂れると後ろから聞き覚えのある声がした。アリサとサクヤはその人物を見つけると前を向き、ソーマは腕組みしたままうごかない。そしてコウタとユージはというと、冷や汗をかきゴクリと唾を飲み込んで後ろを見上げるとこちらを睨むツバキが立っていた。完全に上官の悪口を言ってしまったため苦笑いを浮かべると慌てて謝る。

 

 ツバキはバインダーで二人の頭を無言でひっぱたくと何事もなかったように緊急任務の説明を始める。

 

 

「リンドウの腕輪と思わしき反応があり、場所の特定もできた。ターゲットは同じ場所から動く気配がなく、討伐する絶好の機会と見る。尚、今回のターゲットは先日討伐した者とは別種だと考えられるが、恐らくはこいつが親玉だろう。相手はこれまでの相手よりも遥かに強い。心してかかれ!」

 

「了解!」

 

 前回は残念ながら見つからなかったが今回ようやく場所の特定まででき、討伐するチャンスがめぐってきた。しかし、これで腕輪が見つかればリンドウはそのアラガミにやられて腕輪が外れアラガミ化してる可能性もあるということにもなる。そう考えると心中穏やかではない。

 それぞれ今回の事への思い入れは強い。だからこそ絶対に負けるわけにはいかない。全員がそれぞれ背負った思いを胸に秘め、移動用のヘリに乗り込む。

 

「いよいよね。」

 

「そうだな。」

 

 窓の外を見ながらサクヤとソーマは気合いを入れていた。その一方でアリサは緊張で体が震えていた。ブリーフィングの時に写真を見て、背筋が凍りついた。忘れようにも目の前で無惨にも死んでいく両親を殺した犯人の顔は今でも目に焼き付いて離れようとはしない。あの頃よりは落ち着いているがやはり落ち着かないのか何度も息を吸ったり吐いたりするが効果がない。そんなアリサの右手を何か暖かいものが包み込む。

 

「え?」

 

「やっぱり緊張してる?」

 

 横を見るとユージが優しく声を掛けてきた。どうやら自分が思っている以上に緊張しているのが伝わっていたらしく心配になって声を掛けてきたようだ。手を握られ戸惑うもこうしていると何だか心が落ち着く、そんな気がした。

 

「緊張してないと言えば嘘になります。やっぱりあの日のことを思い出すと怖くなって···」

 

「そう言うもんだよ。俺も親が亡くなったときの事は今でも鮮明に覚えてる。あのときは毎日泣いてたしな。」

 

「ユージもですか?」

 

 今まで知らなかったユージの過去を知り、少しではあるものの緊張が解れて来る感じがあった。

 

「前に言ったと思うけど、ヤバくなったら俺が何とかするから心配いらないさ。いつでも側に居るから安心して俺に背中を預けて欲しい。」

 

「ありがとうございます。お陰で気持ちが楽になりました。それで······その···」

 

 顔を真っ赤にして言い淀むアリサを見て手を握っていたことを思いだし離す。

 

「ご、ゴメン。ずっと握ってた。本当ゴメン!」

 

 狭い空間にいて二人の行動を気づかないはずもなく、コウタたちは敢えて無視を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリがポイントに着陸し五人は降りると作戦を決める。

 

「今回の最終目標はディアウス·ピターだけど、奴は帝王と呼ばれるだけあってかなり厄介な相手だ。そしてやつに引き寄せられてマータが一体乱入している。幸いお互い離れた所に居るみたいだから二手に別れてやるか、それとも片方ずつ全員で相手するか、みんなはどうする?」

 

「普通に考えれば別れて探してやる方が良いと思うけど、そうすると確実に少ない人数で相手しないといけないんだよね?」

 

「まあそうなるね。」

 

「幾らなんでも少ない人数で相手するのは単体が相手でも無理があるわ。ここは全員で一体ずつ確実に仕留めましょう!」

 

「決まったね。じゃああんまりゆっくりしてられないから一気に行くよ。」

 

 全員で一気に各個撃破する以上、万が一にも二体が合流することは充分に考えられる。特に狭い場所で二体同時に来られれば苦しくなるため、出来るだけ迅速に行動することが求められる。

 五人は程よい緊張感の中、マータを見つける。ピターが近くに居ないことを確認すると先ずは陽動とばかりにユージが飛び出し、壁をかけあがりマータの注意を自分に向ける。そして少し遅れて飛び出したソーマとアリサが補喰、サクヤとコウタにバレットを受け渡しつつ体重が掛かっている後ろ脚に剣を突き立てる。普通に斬るよりも深く肉質を抉るためバランスが崩れ倒れ立ち上がることすら出来なくなった。

 こうなってしまえば勝負は着いたも同じ。動けないマータに猛攻を浴びせ予定よりも早く討伐できた。

 

「先ずは一体。あとはアイツだ。みんな色々思うことはあるだろうけど、生きて帰ろう!」

 

「今更何言ってるんだよ。ここまで来たらやるしかないだろ。」

 

「みんないい表情だ。よし、行くぞ!」

 

 異変に気付いたのかピターの方から現れ、ユージの気合いの掛け声と同時に因縁の相手との戦いが始まった。マータとの戦いで得たアラガミバレットの受け渡し効果で全員のバーストレベルが最大まで上昇、挨拶がわりにユージが内臓破壊弾を三発撃ち、攻め込むまでの時間を稼ぐ。敵は大きさの割りに素早くこちらが近づく前に色んな方向にジャンプして撹乱してきた。だが、これは想定内の範囲でユージがスピードを上げ脚に剣砕を叩くと動きが鈍りそこにコウタとサクヤが後ろからバレットを撃ち込んで更に動きを封じる。この隙を逃すまいと近接の三人は確実にダメージを与え、こちらのペースに引きずり込む。

 起き上がったピターは威嚇の咆哮を上げると帝王の片鱗を見せ始める。先ずは挨拶がわりとばかりに前方へ電気玉を発射、こちらが難なく避けるのを図ったかのように今度は周囲に電気の帯を放ち接近がしにくくなった。

 

「こいつは想像以上にヤバイな。まだ攻撃は食らってないけど、ダメージがイマイチ通らねえ。」

 

 ユージがそう言うのも無理はなかった。今まで戦ってきたヴァジュラやマータはどちらかというと肉質が柔らかいほうで例え活性化してもその前に結合崩壊起こしているため苦労はしなかった。ところがピターはかなり硬く活性化されたことで更に硬くなっていた。このままでは時間だけが過ぎるが闇雲にやっても危険な為一旦攻撃するのを控え敵の動きを観察することに。

 

 

 アリサたちに攻撃を任せ、ユージは一人ピターの動きを眺め攻略の糸口を探していた。違う角度から見ることで客観的に物事を捉え次に活かしやすくなる。単純な方法だがこれが功を奏したのか糸口を見つけるとピターを大幅に上回る速さで接近すると跳躍するピターの真下に滑り込みながらインパルスエッジでオラクルの弾をぶつけ、バランスを崩し落下してくるピターの腹に追い討ちで剣砕を入れる。

 

 ユージの動きにアリサたちは目が追い付かなかった。ピターをも上回る速さで攻撃するユージが恐ろしくも見てとれる。だが、お陰で攻撃のチャンスが訪れありったけの力を振り絞って斬り込む。

 

 そして遂にそのときが来た。

 

「これで最後だ!うぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 最後は全員の総攻撃によりピターは力尽き、第一部隊の長い戦いはようやく終わりを告げた。

 



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第14話 痕跡

 長かったピターとの戦いが終わり、五人はピターの体内を調べる。もしここで腕輪が出てきたらそれは即ち_______

 

 

 

 アナグラに帰還した五人はラボに集まり、ツバキに報告をする。

 

「ツバキさん、討伐したピターの体内を調べた結果、リンドウさんの腕輪と神機が見つかりました。」

 

 ユージの報告にツバキは表情を崩さず「そうか」とだけ呟く。腕輪の反応が強かった段階である程度覚悟はしていたもののいざ見つかると心の整理がつかない。それはツバキのみならずユージ達五人も同じだった。

 しかし、このままずっと見つからない状態が続くのもそれはそれで良いことではなく、腕輪と神機が見つかったのならばそれを受け入れることで心のトゲが取れそうな気がした。

 

 長い戦いで心身共に疲れた事を考慮して、第一部隊には一週間の休暇が与えられ、サクヤは自室に、それ以外はユージの部屋に集まった。

 

 

 

「腕輪と神機見つかって良かったね。」

 

「ああ、このまま見つからないのも辛いだけだから見つかって良かったと思う。」

 

「でも、ちょっと寂しいです。」

 

 腕輪と神機が見つかったのは結果はどうあれ成果としては良かった。しかし、それと同時にリンドウはもう助からないという事でもあり、二度と会うことがない事実にコウタたちは堪えるが、アリサは堪えられず涙で顔を濡らす。

 

 だが、ふとユージは頭の中で何かが引っ掛かっていた。それはシオと初めて出会ったときにシオが発した言葉__、

 

「オナカスイタ」

 

 無意識に呟くと黙っていたソーマ達が目を向ける。

 

「どうしたんですか?急に。」

 

「それってシオが言ってるやつじゃん。腹へったのか?」

 

「そうじゃない。なんでシオはオナカスイタとイタダキマスを知ってるんだろうって思ってさ。」

 

「人間に近いからじゃないの?」

 

「だったらこんにちはとかだって覚えてるはずだろ?」

 

「た、確かに。」

 

 シオの何気ない言葉が何かの鍵を握っていると踏んだユージはシオを見つけた灰寺の周辺のマップを調べるとニヤッと笑う。

 

「そうか、そういうことだったんだ!」

 

「はあ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「みんな、ちょっとこの地図を見てくれ。いいか?リンドウさんが姿を消した教会はここなんだけど、シオが居た寺の目と鼻の先にあるんだ。」

 

「ホントだ!」

 

「え、じゃあシオはリンドウさんと会ってるってことか?」

 

「バーカ、声がでけえよ。他の人に聞かれたら余計な混乱招くだろ!」

 

「そうですよ。本当コウタってデリカシーがないですね。」

 

「そこまで言うか?そこまで···」

 

 思わず声が大きくなったコウタをユージとアリサが説教、コウタはふて腐れながらも素直に従い、ユージの話に耳を傾ける。

 

「これはあくまでも推測ではあるけど、マータの群れに囲まれたあの日、俺たちが居なくなったあとリンドウさんはマータと交戦後、ピターが現れ交戦したものの連戦の影響で攻撃を喰らい、腕輪が損傷、アラガミ化が始まった。通常であれば待ってるのはアラガミになって俺に殺される未来しかないけど、多分その時にシオが助けてくれたんだと思う。そのあとどうしたかは分からないけど、オナカスイタとかはその時に教えてもらったんじゃないかな。」

 

「う~ん、よく分からないけど、とにかくリンドウさんは生きている可能性も少なくともあるってことだよね。」

 

「だが、シオがここに居る以上リンドウの体は暴走したオラクル細胞が蝕んでるんじゃないのか?」

 

「問題はそこなんだよね。今までアラガミ化してなかったのはシオの特異なコアが暴走を制御していたからだろうし。シオが居なければ例え見つけても最悪な状態になってるかもしれない。」

 

「そんな···でもシオちゃんは支部長が狙ってますし、迂闊に動くと危険ですね。」

 

 リンドウ捜索はシオが何らかの情報を握っていると思われるが支部長に狙われている今は下手に動くことはシオが連れ去られるだけでなくリンドウ捜索も絶望になることを意味しており、仕方なく断念することに。

 

 ところが四人が知らない所でじわじわとシオに危機が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話 兆候

 リンドウの腕輪と神機が発見されたことは一旦、第一部隊とサカキ、ツバキの間での機密事項となり、アーク計画の阻止に向けて全力を尽くすことで意見が一致した。

 一方、保護しているシオは急速に色んな事を覚えサカキも驚く毎日。食事の調達も定期的にミッションに連れていくことで容易に確保が出来ていた。その傍らで服の作製をサクヤとアリサが担当したが人間用に作った服はシオには合わず、脱走され、結局リッカも巻き込んで漸くシオ好みの服が完成した。当然のごとくリッカにはサカキが口止めをしていたのは言うまでもない。

 

 

 だが、懸念がないわけではない。昨日支部長が欧州への出張から戻ってきており、ユージとソーマに再び特務が言い渡され、そこから事態は一変していく。

 

 

 

 

 

 特務が再開して数日たった頃からシオの体に異変が起こり、苦しむ事が始めは突発性で直ぐに治まったが次第に回数が増えたある日、遂にシオが姿を消した。

 今回は普段の特務とは違い、ソーマも一緒。支部長からソーマと一緒に行くよう指示を受けていた。早々と任務を終えた二人はいつかのように話をする。

 

「シオが居ないとなんかつまらないな。」

 

「ああ、アイツが来てからラボに行くのが楽しくなった。それなのに急に居なくなった途端、寂しくなる。」

 

「クソッ!一体どこに行ってるんだ。」

 

 シオが来てから毎日のようにラボに足を運び、触れ合う中でどこか自分に似ているなとソーマは思っていた。そのせいか他の誰よりもシオを気にかけていてシオと名付け、デートにも皆勤賞、歌を教えたりもした。だから苦しんでるシオに何もしてやることが出来ず、逃げ出す要因を作った自分の力の無さを痛感していた。

 

 

 

 

 

 迎えのヘリが来る音がしたので着陸場所まで行こうとしたその時、突然どこからか歌が聞こえ、周りを見渡す。この歌と声にソーマは聞き覚えがあった。

 そして、奥の瓦礫に腰掛け海を眺めてるシオを見つけた。

 

「ナンカコノウタサビシイナ」

 

「別れの歌だからな」

 

「いい歌声だったよ。」

 

「ほんとか?えらいのか?」

 

「ああ。でも、勝手に出ていったのは偉くないぞ!みんな心配してるぞ。」

 

「でもだれかがよんでる」

 

 そう言うと再び頭を抑え、苦しみ出すシオを二人は抱えるようにして急いでアナグラへ戻る。

 

 

 

 そしてラボに連れていき、異変は治まり今は床に座って落ち着いている。

 

「今のキミはシオかい?それとも星を食らい尽くそうとする神かい?」

 

「ホシってうまいのか?」

 

「さあな。こんな星を食う奴の気がしれないな。」

 

「そっか。でもときどきこのホシをたべたいって。」

 

「ああ、ご飯はそこにあるから。」

 

「おーはかせいいやつだな」

 

 今は落ち着いては居るが、良くなったとは言い難く寧ろ悪化しているようにも見えていた。いつまでこうすればいいのだろうか?そんな苛立ちがソーマとユージにはあった。

 

「今シオはギリギリのせめぎあいをしている。もうそこまで敵が近付いているのかもしれないな。」

 

「恐らくは前よりも進んでいる状態なんだろうね。」

 

「おい博士、俺たちはこっち側につくつもりは毛頭ない。シオをオモチャにするのが許せねえだけだ。」

 

「そのつもりはないよ。僕としてはただ人間に近づいてくれればそれで·····」

 

 

 その瞬間、どこかで大きな爆発音と共に振動が響き、辺りは一面真っ暗に。

 

「おい博士、ここは大丈夫なんだろうな?」

 

「ここは心配要らない。直ぐの中央電源が·······しまった!」

 

「ヤバイぞ、ソーマ。停電が起きたってことはここのセキュリティシステムも全て遮断されてる。」

 

「なんだと!じゃあここがバレたってことか。」

 

 サカキの焦った声でユージも直ぐに気づき、直ぐに行動に出る。

 

「やつらが来るのも時間の問題だ。シオは一旦そこの小部屋に入れてサカキ博士も一緒に入っててください。」

 

 

 サカキとシオがラボの隅にある小部屋に避難しようとしていると支部長の声がスピーカーから聞こえてきた。

 

「ペイラーまさか君がそんなところに特異点を匿っているとはな。灯台もと暗しだよ。」

 

「おいお前どうする気だ?」

 

「決まってるだろ。シオを守るんだよ。お前銃を扱ったことはあるか?」

 

「いや、ないがお前の考えてることは分かった。俺にも戦わせてくれ。」

 

「OK!いいか、相手は恐らく複数の人間で強引に攻めてくる。銃を撃つからには頭を狙え!それ以外は数で不利である以上禁物だと思え!」

 

「了解だ!シオをオモチャにされて溜まるか。」

 

 銃に弾を込めながらソーマに作戦を告げると廊下から複数の足音が聞こえ、それが段々大きくなり、ドアを勢いよく蹴破ると共に武装した集団と共にヨハネスが現れた。

 誰も居ない静かな部屋に足を踏み入れると床に何かが転がってきたかと思うと視界を奪われヨハネス達は混乱する。それを合図にユージとソーマが奇襲攻撃、敵を倒すと休むまもなく銃を撃ち続ける。

 

 突然の奇襲に戦意を失いかけたが、流石は厳しい訓練を耐え抜いただけあり直ぐに立て直すと一斉に銃弾の雨を浴びせ、ユージとソーマは物陰に隠れて耐えるしかなかった。

 止むことのない雨に耐えていたが多勢に無勢で体のあちこちに銃弾を浴びて血だらけになって倒れる。立ち上がろうにも体が言うことを効かず等々シオがヨハネスに拐われてしまった。

 

「し、シオ······クソッ!」

 

 シオを守れず悔しさを露にするソーマとは対称的にユージは今の戦闘で以前腹に負った傷口が開いてしまい、大量に出血したことで気を失っていた。

 

 

 シオが拐われたと聞いてアリサ達がラボに掛けつくとそこには大量の薬莢と血、武装部隊の遺体と共に倒れてるソーマとユージが居た。

 

「そ、ソーマ、ユージ!大丈夫か、しっかりしろ!」

 

「お前らか······俺は大丈夫だが、シオが連れていかれた。」

 

 コウタの声にソーマは苦しみながらも返事したが、ユージの方は深刻だった。

 

「ユージしっかりしてください!」

 

 アリサが必死に声を掛けるが微かに呼吸をしているだけで意識がなく危険な状態。そして、サカキも頭を殴られ負傷しており急いで医務室に運ばれた。

 



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第16話 決戦

 アリサ達に救助されたユージとソーマは直ぐに手術室に運ばれ緊急手術が始まった。サカキも一応脳に以上がないか検査した上で怪我の手当てを受け、何が起こっているのかの共有をした。

 アリサ達の情報によるとシオを拐ったあと支部長自らアナグラ内に向けての放送でアーク計画が告げられ、賛同した面々が姿を消しアナグラにはヒバリやリッカ、タツミを含めた10人ほどしか居ないらしい。

 

「計画の中身はどうあれ支部長の計画に賛同する人多いみたいだよ。」

 

 コウタが言うように実際に賛同し、ノアの方舟に乗るためのチケットを求める人々で外部居住区は混雑しており、反対者は極僅か。しかし、それを責めることは出来ない。アラガミの驚異に晒されているのは事実であり、助かるのならば我をもすがる思いで居ることは想像に難くなく、それを責めるのは愚の骨頂である。

 

 

 二時間ほどが経過してソーマの手術が最初に終わり、執刀医から結果を聞く。

 

「手術は無事終わりました。弾も全て取り除いたので麻酔が切れれば時期に目を覚ますと思います。ですが、しばらく入院することになります。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ソーマは大丈夫だと言われ一先ずホッとする。だが、問題はユージの方だ。ソーマとほぼ同時に手術したがまだ一向に終わる気配がない。全員が心配そうに見つめる中でもアリサは祈るように目を閉じる。

 

 手術の現場は混沌としていた。体内に入り込んだ弾の幾つかは取り出せたが、思っている以上に出血が多く手術は困難を究める。しかし、心臓の手前まで二つの弾が届いていて非常に危険な状態。それでも医師達は諦めず一生懸命取り組み、手術開始から10時間以上が経過してようやく弾の全摘出が終わり、手術は無事に成功したことを告げるとアリサ達は喜びの声をあげる。

 そしてソーマと同じ病室に運ばれそのまま入院となった。

 

 その夜、コウタ達が自室に戻る中、アリサは一人病室に残りユージの側で目が覚めるのを待っていた。ラボで変わり果てた姿のユージを見たときは余りのショックの大きさに言葉を失った。どうしてこんな目に遭わなければならないのかと思うと心が痛い。だが、自分にはどうすることも出来ない。今出来るのは前に彼にしてもらったように彼の手を握ること。

 しかし手を握っても何も反応がない。以前は感応現象で目を覚ましたが、それはあくまでも偶然の産物であって不確かなもの。そんなことは分かっているが頼ってみたかった。ツバキからは明日エイジス島に強制捜査をすると言われ、たった三人で行くことが決まっている。となれば明日は付きっきりで看病することは出来ない。

 

「お願いです。目を覚まして。」

 

 手を握ったまま顔を伏せるとそのまま静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、夜が明け決戦の日を迎えた。

 ロビーに集まったのはアリサ、コウタ、サクヤ、そして____、

 

「ソーマ!」

 

 驚異的な回復力を発揮したソーマが戦線復帰、四人で出撃することに。出撃するに当たってツバキから檄が飛ぶ。

 

「お前達に告ぐ。たった今、本部からの通達があった。今回の一連の騒動は極東支部支部長ヨハネス·フォン·シックザールによるテロと認定した。これから可及的速やかにこれを排除しろ!良いな!これは命令だ。そして、ソーマは父親に対して何か思うところがあるようだが、どうする?」

 

「俺にその質問は愚問だ。シオを救出するだけだ。」

 

「良いだろう。全員が方舟に乗らずに残ったことを嬉しく思う。良いか、生きて帰ってこい!」

 

 始めは厳しいだけの鬼教官だと思ったときもあったが、第一部隊にとってはただの教官ではない。自分達の事を誰よりも気にかけ時に優しく、時に厳しくも接してくれるかけ替えのない大切な人だ。そんな大切な人たちから託された人類の未来を守るため、四人はエイジス島に繋がる地下通路から出撃した。

 

 

 

 

 

 エイジス島に入るとそこは何もない空間で、何事も無かったかのようにヨハネスが待ち構えていた。

 

「ようこそ我がエイジス島へ。君たちが来ることは分かっていたよ。願わくば君たちにもチケットを受け取って貰いたいと思っていたが、残念だ。」

 

 ヨハネスの奥では誰もが想定していない巨大なアラガミが吊るされ、中にはシオが埋め込まれていた。前にユージが言っていて分かっては居たが、いざ目の前で変わり果てた姿のシオを見ると覚悟が必要だった。

 

「ソーマ、お前はこのアラガミと随分仲が良かったようだが。親としては感心しないぞ。」

 

「黙れ!俺を散々おもちゃみたいに扱ったかと思えば今度は虫けらのように扱いやがって。一度もお前を親だと思ったことはねえ!」

 

「随分な言い草だな。まあ良いだろう。そんなに欲しければ受け取るが良い。もう用済みなんでな。」

 

 そう言うと吊るされていたシオが落下、ソーマが懸命に飛び込むも頭から地面に叩きつけられる。

 既にコアを抜き取られて居るためその体は氷のように冷たく何度呼び掛けても返事は無かった。 

 

「てめえ!」

 

 コアを抜き取られればどうなるかと言うことはソーマとて分かりきっていた。ただ今は冷たく動かない体をそっと置き、ヨハネスを睨む。

 

「こんなアラガミごときに肩入れするなど失望したよ。だが、それもこれで終わりとしよう。残念だが君たちには死んでもらう!」

 

 それだけ言うと地面から卵のような物が出現、ヨハネスはそこに身を投じ生命の光が宿る。

 

「来るぞ!」

 

 今まで見たこともない男と女の二対で一対を成すアラガミに全員が身構え、ソーマの掛け声と共に人類の未来を掛けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 その頃、ただ一人病室に残されたユージはゆっくりと目を覚ますとここがどこなのか認識。そのまま体を起こそうと力を入れると激痛が走り顔をしかめる。だが、ここでじっとしている訳にはいかなかった。ベットから床に落ちると体に取り付けられた点滴などの管を強引に引っこ抜き、這うように病室を抜け出す。

 そして痛む体を無理矢理起こすと静かに神機保管室に入る。神機はロックが掛けられていたが、迷うことなくロックを解除。本来であれば技術班のリッカ位しかロックを解除出来ないが事前に彼女が操作しているのを記憶しており難なく神機を取ると開いていた地下通路からエイジス島へ向かおうとしたその時。呼び止められ振り向くとそこにはツバキが居た。

 

「貴様、そこで何をしている?」

 

「ツバキさん······何って決まってるでしょう。シオを助けに行くんですよ。」

 

「無茶を言うな。そんな体では足手まといでしかない。大人しく安静にしていろ!」

 

「いくらツバキさんの命令でも従えねえな。俺がそんなことでじっとしているはずが無いことくらいあんたなら知っているはずだ。」

 

 ツバキの言うことは最もだがユージは引き下がるわけにはいかなかった。第一部隊の隊長として今未知の敵と戦っているであろう仲間の命を預かる義務と仲間をシオを助けたいという強い気持ちが奮い立たせていた。

 その気持ちに根負けしたのかツバキが横にずれると後ろから懐かしい人たちの姿が。

 

 

「ったく、お前は相変わらずわがままだな。」

 

「いっつも振り回されてたっけ?」

 

「そろそろ学習したかと思ったんだけどな。」

 

 ユージが驚くのも無理はなかった。そこには5年間苦楽を共にしてきたケイン達がリオデジャネイロから来ていたから。

 

「お前ら···どうしてここに?」

 

「お前がピンチだって支部長から聞いて急いで来たんだ。」

 

「あそこ滅多にアラガミ来ないし、ちょっとくらい離れてたって問題ないしな。」

 

「それに久しぶりにあんたの顔を見たくなったし、丁度良かったわ。」

 

「みんな兄貴のことが心配で居てもたっても居られなくなったんだよ。」

 

 弟のユータだけでなくジャック支部長の姿も。ちなみに子供達はロビーでタツミとヒバリが面倒見ていた。

 

「行くんだろ!」

 

「ああ。」

 

「だったら俺の背中に乗れ!」

 

 ケインがユージを背中に乗せるとソフィアとユータを残して全員がエイジス島へ走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員臆するな!一ヶ所に固まらず動け!」

 

 ユージが不在なためソーマが代理となって指揮を執る。強大な敵であるのは間違いないが不思議と負ける気はしない。この仲間となら勝てる。そんな自信が芽生えたのかいつも以上に動きに磨きがかかり、敵の攻撃の挙動に入るときの僅かな隙を付いてチャージクラッシュを叩く。

 

「何!」

 

 手応えありだと思われた攻撃は予想以上の防御力で全くダメージを与えられない。それはアリサやコウタたちとて同じで、何回やっても雀の涙程のダメージしか与えられない。その癖厄介なことに女と男がお互いを守るかのように動き回るため、背後から奇襲攻撃も難しい。

 そして何よりも苦しめるのは挙動の速さから繰り出される激しい攻撃で、防御力の高さと連携、そして卒のない攻撃と付け入る隙を許さない。

 

 だが、下手に動きを止めれば即命が消し飛ぶため、中々気が抜けない。ならばとソーマはアリサと連携して撹乱、どこかで必ず攻撃できるチャンスが来ることを信じ、ひたすら動き回る。

 始めこそ二人の動きに惑わされるも無駄だと思ったのか女が四つん這いになるとそれまでずっと張り付いていた男の側を離れ、光球を撒き散らしながらアメンボのように前に動く。この撒き散らした光球にアリサとソーマはぶつかってしまいその場で踞る。

 

「アリサ、ソーマ!」

 

「コウタ、動きを止めるわよ。」

 

 このままでは無防備な二人が危険と判断、サクヤとコウタは二人が起きるまでの時間稼ぎの為、オラクルが尽きるまで撃ち続ける。ほんの数十秒ではあるが立て直すには充分すぎた。

 

 アリサとソーマは起き上がると未だ離れたままの女の方に接近、お返しとばかりに攻撃をお見舞い。男が防御よりの反面、女の方が攻撃はしつこいが防御はそこまで固くないのかそれなりのダメージが与えられた。

 

「アリサとサクヤは男を俺とコウタは女を集中的に叩くぞ!」

 

「分かったわ。」

 

 男と女の距離を引き離せば集中して女の方に攻撃が行くと踏んだソーマの指示でそれぞれが最適な判断で役割を担う。

 

 

 闇雲に攻めず、一回一回の攻撃で確実なダメージを与え、少しずつではあるが戦況は落ち着いたかに見えたその時だった。

 

「圧倒的な力を!」

 

 アラガミから発せられた声が響き渡り、女が真上に上昇すると辺り一面に光が発生。余りの眩しさに全員の視界が奪われると同時に痛みが走りアリサとサクヤの悲鳴が聞こえる。

 

 この攻撃で迂闊に近付けなくなり、最早どう動けばいいのか分からなくなった。こんな時ユージが居れば、、、、、誰もが病室で寝ているであろうユージを思い浮かべる。

 だが、あの怪我では来れないのは始めから分かっていた。それでも冷静さを失いつつある四人には奇跡が起きないかと考えていた。そんな油断からか再びさっきの声が響き渡り視界が奪われるとその隙に直撃を食らい全員が床に倒れる。身動きが取れなければ避けることも盾を展開することも出来ない。勝ちを確信したアラガミは止めにもう一度今の攻撃を繰り出すモーションに。

 

「クソッ!ここまでかよ」

 

「みんな這ってでも離れるのよ!」

 

「ユージ、お願い助けて!」

 

 

 

「何!?」

 

「なんだ?」

 

 アリサの祈るような叫びが響く瞬間、目の前を何かが横切ると上昇していた女の呻き声が聞こえたかと思うとその場で崩れ落ち、動かなくなった。いきなり目の前に起こった光景に呆気にとられていたがそれが誰なのかは言うまでも無かった。

 

「待たせたな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えたぞ!」

 

 ゴットイーターならではのスピードで地下通路を走り抜けると明かりが見え、ようやくエイジス島へ辿り着いた。下ではもう既にアリサ達がアラガミと戦っており、早く加勢せねばと気持ちが流行る。しかしこのままユージが参戦した所でこの体では無理がある。そこに遅れてやってきたジャックがポケットからカプセルを一つ取り出すとユージに渡す。

 

「これは···?」

 

「それはお前が持ってる体力と攻撃力、防御力、スピードの限界を引き上げる薬だ。これを飲んでる間は傷の痛みは感じなくなる。」

 

「これが?」

 

「但し、効果は一時間だけだ。それと使った後のお前の体に相当なダメージが襲ってくるだろう。効果は絶大だが、それだけ体への負担も大きいがどうする?それでも使うかね?」

 

 ジャックの説明に少し考えるが、もう迷いは無かった。

 

「後の事なんか今はどうでもいい。さっさとアイツを倒さねえと時間がねえ!」

 

 カプセルを受けとると口に入れ噛み砕いて飲み込む。するとさっきまであんなに痛かったのが嘘のように痛みが消え去り、立ち上がるとフーッと息を吐き神機を握る。そして何かの声が響き渡り相手が何かやって来るのを察知すると床を思い切り蹴り、一気に加速相手の攻撃のモーションに移るよりも速く接近するとロングソードを一閃。

 鮮やかな太刀筋で斬られたアラガミの体は斜めに真っ二つに分かれ落下、その場で動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「······ユージ!今まで何やってたんですか?」

 

 こちらを振り向き顔を見ると嬉しさが込み上げ、アリサは思わず抱きついた。そして待ち焦がれた彼の温もりを肌に感じるともう目に貯まったダムが決壊、あっという間に彼の服はびしょ濡れになった。

 

「アリサ、ゴメンな。心配かけちゃって。でももう大丈夫だ。」

 

 

「お前いつの間に目覚ましたんだ?」

 

「ついさっきだよ。起きたら誰もいないからきっとここかなと思って。」

 

「傷の方は良いのか?かなりの重傷だったはずだ。」

 

「こんなの平気だっての。そんなことより、さっさとこいつを始末するぞ!」

 

 カプセルを飲んだとはとても言える筈がなく、適当に誤魔化し戦闘を再開。ユージが加勢したことで士気が上昇。ユージとソーマが敵に急接近、体のバランスを保つ大きな翼を力で破壊して床に落とすとユージの掛け声で全員が心を一つに思いを込めた攻撃がアラガミの固い体を襲う。

 

「よし、ぶちかませ!」

 

 

「「「「「いっけーーーーーーーー!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 遂に最後の一体が倒れ長かった戦いは終わりを告げた。

 

「倒した···のか?」

 

「やっと···終わったのね。」

 

「ええ、やっとです。」

 

 

 

 



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第17話 覚醒

 長かった戦いが終わり、アリサとコウタ、サクヤは力が抜けたように座り込む。だが、倒したはずのアラガミの中からヨハネスが顔だけ出してきたので身構えるも相手に戦闘の意志がないと分かると警戒しつつも落ち着く。

 

「まさか私が負けるとは。フフ、それほどまでに君たちが実力を着けていたと言うことか。」

 

 素直に負けを認めるヨハネスだが、アラガミと一体化したことでダメージをそのまま受けており、咳き込むと血が混ざった唾が床を赤く染める。

 

「さ、さあ早く君たちは方舟に乗るんだ。私は最早ここまでだ。」

 

「そうか、あんたが描いた方舟の中に最初からあんたの名前は無かったんだな。」

 

 ヨハネスの力ない言葉にユージはヨハネスの真意に迫る。

 

「どういうことだ?」

 

「自分が方舟に乗るなら態々アラガミと一体化しようなんて誰も思わない。なのにも関わらず一体化したのは終末捕喰で再生した地球に住むつもりが始めから無かったってことだ。」

 

「その通りだ。始めから私の計画には私が生き残る道などない。計画の為に今までたくさんの人間の犠牲を産み出したのだから責任は私自身が取るべきなのさ。」

 

 そう言うと力なく笑い、支部長として最後の指令をだす。

 

「さあ、もう時間がない。終末捕喰が始まってしまえば君たちとて無事では済まないぞ!」

 

 

 この言葉にアリサ達は焦り出す。シオのコアは既にノヴァの体内に埋め込まれており、終末捕喰が始まるのは時間の問題だった。

 ユージはソーマが優しく抱き抱えているシオの元に駆け寄るとソーマからシオを受けとると何かに気付いたのか体中を調べ始め、驚愕の言葉を告げる。

 

「終末捕喰は起きねえよ!」

 

「は?」

 

この言葉にその場に居る全員が耳を疑う。それもそのはず、アリサ達は目の前でシオがノヴァから落ちてくるのを見ているためとてもじゃないが信じることが出来ない。だが、ユージは自信満々に続ける。

 

「お前らシオを抱いてみろよ。」

 

 そう言われ、アリサ達はシオの体を持ってみるが分からない様子なのでユージが結論を言う。

 

「ハッキリ言うと本物のシオならこんなに重くはないんだよ。本物のシオの体重は50kgあるかないかって所だろうぜ。その証拠はこいつだ。」

 

 シオの体を揺すると首が外れ、中から袋が三つ床に落ちた。どうやら中身は砂のようだ。これでアリサ達も確信するがなら本物はどこなのか?

 その答えは直ぐに出た。

 

「そーま!」

 

「し、シオ?お前本当にシオなのか?」

 

「そうだぞ。」

 

「シオちゃん、無事だったの?」

 

「うん、はかせがいっしょだったぞ。」

 

 そう言うとサカキが現れ、何が起きたのか事の顛末が語られる。

 

 サカキの説明によるとヨハネス達がラボを襲撃したとき、ユージに小部屋に入るよう促され入ると非常用の扉があるのを見つけ、扉を開けるとそこにはジャックがおり、そこで偽物のシオとすり替えることで無事に保護していたようだ。

 

「ジャック君が居なかったらきっと無理だっただろうね。本来なら君たちに教えるべきなんだが、敵を欺くにはやむを得ない事だったんだ。」

 

「では、ジャックさんは襲撃受けることが分かってたんですか?」

 

「ああ。サカキ君からそのこの子の事を聞いていたからね。先回りしていたよ。」

 

 

「フッ、なら我々が攻め込んだ時点で既に私の敗北は決まっていたのか。」

 

 想像を越える出来事にヨハネスは近づく死のカウントダウンを静かに待とうとしたその時、何者かがアラガミから自分の体を引き離そうとしていることに気がつく。

 

「あんた何勝手に死のうと考えてやがる。」

 

「君は一体何を?」

 

「あんたが考えてるほど命ってのは簡単に捨てて良いもんじゃねえよ!世界には生きたくても生きられない人間の方が多いってのに、あんたと来たら責任があーだこーだ。

 言っとくけどなあんたがしたことは最低だし、罪は償って貰うがまだあんたにはこれからやるべきことが山ほどある。現実から逃げようたってそんな甘い世界じゃねえ!」

 

 そう言うと力を込め強引に引き離し、ヨハネスはアラガミから解放された。

 

「この私に生きる資格などない。私はもうここに居るべきじゃない。」

 

「てめえ、何甘えたこと言ってるんだよ。あんた自分が何言ってるのか分かってるのか?あんたソーマがどんな気持ちでここに居るのか考えたことあるのかよ。普通ならここに居られるわけないんだよ。上司がテロリストでしかも肉親だと分かればとてもじゃないがここには来れない。本当なら凄く悔しくて悲しいはずなのを堪えてここに立ってる。それがどういう意味かは親なら分かるよな?」

 

「私は···道を踏み外した。妻がソーマを産んだと同時に亡くなり、一緒に進めていた研究が凍結寸前まで追い込まれ、焦った私は実の息子を実験台として弄んでいて何時しか愛情はそこには無かった。

 それでもここで君たちと過ごすソーマが日に日に打ち解けていく姿を見て父親として嬉しかった。」

 

「俺は今でもあんたを恨んでる。だが、どんなに恨んだところであんたがたった一人の父親であることに変わりはない!生きて罪を償え!俺が言いたいのはそれだけだ。」

 

 ソーマに言われてヨハネスは自分の過ちを悔い、息子のために自主して罪を償う事を決める。

 

「息子にそこまで言われたなら私は息子のためにも罪を償うことに·········」

 

「親父!」

 

「支部長、しっかりしろ。クソッ、誰がこんなことを」

 

 自主のため立ち上がろうとする彼の胸を何かが高速で貫き、床に倒れた。直ぐに銃だと判断したユージが撃った方向を睨むとそこには銃を構えた大車が立っていた。

 

「てめえは大車!」

 

「折角良いところまで行ってたのに息子に言われた位で自首するなんてバカげてる。あんたも所詮は人の親、非情になれない不要物だ。さあ、大人しく死んでもらおう。」

 

 そう言うと銃を発射、ソーマを庇ったヨハネスの体に銃弾がヒット。

 

「そ、ソーマ···残念ながら私はお前との約束を果たせない。まあこれもお前を愛せなかった私の末路か···」

 

「おい、勝手に死ぬんじゃねえよ!まだ何も始まってねえじゃねえかよ。何とか言えよ、親父ぃぃぃい!!」

 

 ソーマを守るため身を呈して銃弾を受け止めたヨハネスは最期はソーマに笑顔を見せ静かに息を引き取った。島全体にソーマの叫び声が暫く響き渡り、反響が未だに残る。

 

 

 ヨハネスの死とソーマの叫び声でユージの体の中で何かがプツリと切れた。血液とオラクル細胞が体中を激しく駆け巡ると眠っていた真の力が解放。ユージの異変にアリサ達は気づく。

 

「くっ、なんだ?何が起きてるんだ?」

 

「オオグルマ!!!!!!」

 

「裏切り者の墓場には最適だったな···」

 

 ヨハネスを殺し、高笑いの大車もようやく張り詰めた空気を感じとると目の前でこちらを睨むユージを見て恐怖に怯えるように後ろに下がる。

 

「テメエ、よくも俺の大切な仲間の父親を殺しやがったな···

 流石の俺もこればっかりは勘弁ならねえ!

 俺を怒らせたことを後悔させてやる。覚悟は出来てるんだろうな?」

 

 神機を手に猛スピードで大車に突撃、一瞬慌てるが反撃とばかりに銃を撃つ。だが、小さいながらも無駄のないステップで迫る弾丸をかわ続けると弾が無くなり、慌てて弾を込めるが時既に遅し。

 

「くたばりやがれ!!」

 

 大車の目の前まで接近すると神機に力を込め下から斬り上げる刀身は赤黒い何かを纏い体を真っ二つに斬り裂いた。大量の血が吹き上がりユージの体や床一面を鮮血が塗り替え、大車は絶命。

 

 

「ふーっ、やっと終わっ·······」

 

「ユージ!」

 

 誰も見たことのない出来事ではあったが鮮やかな太刀筋に誰もが息をのみ、結末を見届けると力を使い果たしたユージの傷口が開き、血が吹きあれ大車の血液で汚れた所をコーティングするかのように降り注ぎ、静かに倒れた。

 

 

 




皆さんお気づきだと思われますが、最後のあれは黒BA 秘剣・昇り飛竜です。大車はBAで殺したかったので少々強引ですが採用しました。

シオ生きてるパターンはジャック達を出す時点で既に決めていました。


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第18話 帰還

 第一部隊の活躍によりヨハネスが主導していた一連のテロ事件はヨハネスと大車の死亡により、被疑者死亡のまま書類送検された。尚、このテロに関与したとして本部の人間も同罪として拘束され裁判に掛けられることに。

 

 一方でヨハネスが送り込んだ兵士と大車を殺害したユージとソーマに関してはテロ事件解決に貢献したと判断され、処分無しとなった。ちなみにシオのことは極東支部内での機密事項に決まり、第一部隊と一部の人間の間だけしか知ることは無くなった。

 

 

 

 テロ事件収束後、倒れたユージは勝手に病院を抜け出したことと危険と知りながらドーピングカプセルを服用した事で主治医に怒られたのは勿論だが、もっと怒っている人物が今目の前に居た。病室にいた人間も只ならならぬ雰囲気に全員が退散、今居るのはユージと目の前で怒ってるアリサの二人だけ。

 

「あの~アリサさん?何でそんなに怖い顔をされてるんでしょうか?」

 

「あなたが無茶ばかりするから怒ってるんです!いつも無茶しすぎで感覚が麻痺してるかもしれませんけど、心配する私の身にもなってください!」

 

「ええ~、そんなこと言われても体が勝手に動くから···」

 

「それでもダメです。もし、万が一の事があったらと思うと私耐えられません。」

 

「···アリサ?」

 

 不意に抱きつかれるとアリサが泣いていると理解するも今顔を見るのは辛かった。でも、そっと背中に手を置いて肩を震わせて泣く彼女が落ち着くように静かに見守る。

 

「もう私、誰も失いたくありません。あなたの側にずっと居たいです。」

 

「···」

 

 そして、唇に柔らかい感触と共にじんわりと温かさが伝わり、ユージは固まる。

突然の行動にどう反応したら良いのか一瞬パニックになるもそれがどう意味するかは分かっていた。

 

「アリサ、ずっと俺のことを?」

 

「あなたの感応現象で目が覚めた頃からです。本気で好きになったのは戦い方を教えて貰ったあの時からですけど。」

 

「実は、俺もなんだ。それまで部隊の仲間としか認識して無かったのが気付いたら女の子として見ていた。」

 

 これまでにも兆候はあったが今回お互いの気持ちを伝えあうことで暫し時間を忘れ、長いキスが代弁していた。

 

「アリサが俺のことを好きで居てくれて嬉しいよ。」

 

「ユージ、私もです。」

 

 そう言うと再びキスをしあい、気付けば何回もしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサとの気持ちが通じあった一週間後、無事に退院し報告も兼ねてラボに来ていた。ラボには第一部隊だけでなく何故かケインたちまで居た。

 

「まずはユージ君、退院おめでとう!これから今後についてツバキ君から報告があるよ。」

 

「全員集まったな。今回の件の活躍は私も教官として嬉しく思う。だが、これはあくまでも終末捕喰の脅威が無くなったに過ぎない。まだアラガミの脅威は残っている。これからは新種のアラガミも出てくるだろう。これまで以上に精進しろ!」

 

 ツバキの喝が入ったところでサカキから部隊の運用について説明がなされる。

 

「君たち第一部隊は隊長はユージ君のまま、副隊長をサクヤ君とソーマ君にお願いするよ。二人にはユージ君のサポートと隊長不在時の代理も担って貰うことになるね。」

 

「おい、博士俺はこのままで良いって言っただろ!」

 

「いや、これは私一人の判断ではなくツバキ君やこれまでの君の行動から判断したんだよ。」

 

「まあ良いじゃんか。俺もソーマが副隊長になるの賛成だ。こないだのやつだってソーマが指揮してただろ?」

 

「あれは、シオを助けたくてやっただけだ。」

 

「お前さ、隊長の命令に逆らう気か?良いからやれ!」

 

「クソッ、こういうときばかり隊長の権限使いやがって!」

 

 副隊長就任の打診を断ろうとするソーマを隊長命令で無理矢理従わせ、アリサとコウタが驚く。どうやら今後の参考にしようと考えているらしい。

 

 

「で、何でケイン達が居るんですか?」

 

「その事なんだが彼らには今日からここ極東支部に異動して貰ったよ。」

 

「異動?」

 

「ユージが知っているようにあっちは本部に嫌われて支援物資が来なくてな。最近は養護施設運営も苦しくてな。今回を機にこちらへと正式に異動することにした。」

 

「なるほど。確かにここの方が規模もでかいから子供たちも安心だし、ケイン達の負担も軽くできますね。でも、ケイン達はどこの部隊に?」

 

「彼らには第二、第三部隊に入ってもらう。ソフィア君はオペレーターの業務だね。そしてユータ君はリッカ君たっての希望で技術班に入ってもらうよ。」

 

「ユータ、お前大丈夫か?ぶち壊すなよ?」

 

「いやしないから。てかあんたの俺のイメージってそれなの?」

 

「冗談だって!」

 

 サカキからケイン達の所属が決まり、最後にツバキから改めて説明が入る。

 

「一つ言い忘れていたがユージは怪我が完治するまで絶対安静だ。くれぐれもこないだのような事はするなよ?以上だ!」

 

「はい!」

 

 最後のツバキの言葉はユージの胸を深く突いてくるものがある。あれだけ無茶をすることも早々無いのでは?と楽観的に物事を捉えるがアリサの事を思うと気を付けようと誓う。

 

 

 

 

「なあ、ユージの退院とソーマの副隊長就任祝いとケイン達の歓迎会やらないか?」

 

「別に構わないけど、それ準備するの絶対俺だろ?」

 

「仕方ないじゃん。まともに料理出来るのなんてお前位しか居ないんだし。」

 

「そいつはどうかな?」

 

「どう意味だ?」

 

「料理出来るのは何も俺だけじゃないって事だよ。なあ、お前ら。」

 

 ただ騒ぎたいための口実にパーティーを考案するコウタはユージが何を言っているのかが分からず首を傾げるが、ユージがケインたちに話を振ったことで理解する。

 

「ああ。俺らは毎日料理、洗濯、掃除その他諸々全てやってたからな。」

 

「マジか!じゃあメシの心配はしなくて良いのか。」

 

「つーか、本来祝われる側の人間が何で祝う側の人間の仕事をやらなきゃいけないんだよ。絶対おかしいだろ!」

 

「しゃあねーだろ?コウタたち料理できねえんだから。つべこべ言わず手伝え!じゃないとメシ食えねえぞ。」

 

「ええ~、そんなあ。」

 

 唐突なパーティー開催の料理担当にされる側の人間は戦慄、文句を垂れながら渋々ユージの部屋に集められるとさっきの事は忘れて料理に精を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「えー、これよりユージ退院祝いとソーマ副隊長就任祝い及びケイン達の歓迎会を開催します!まずは本日より極東支部に異動したケイン達から自己紹介をお願いします。」

 

 元リオデジャネイロ支部のメンバー全員の尽力により、ロビーには様々な料理が並べられ、参加者も極東支部全員が参加。苦手な料理はしなくとも言い出しっぺの責任からかは定かではないがコウタが率先して司会を務める。

 まずはケインたちによる自己紹介があり、いよいよお待ちかねの乾杯の音頭で食事会が始まる。

 

「それでは皆さん、お手元のグラスをお持ちください。今回は優越ながらわたくし藤木コウタが乾杯の音頭を取らせて頂きます。それでは皆さん、かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

 ちなみに料理は祝い事に相応しく、ちらし寿司やお吸い物、鯛の塩焼きなど数種類にも及んだ。普段の食卓ではまずお目にかかる事は無いものばかりとあって、その完成度の高さに参加者全員が度肝を抜かれた。

 

「ユージ、退院おめでとうございます。」

 

「こちらこそありがとう、アリサ。」

 

「それにしても凄い料理の数ですね。今まで見たことのないものばかりです。これ全部ユージ達が作ったんですか?」

 

「まあね。うちでお祝い事があるときはこれがスタンダードなんだよ。それでもあいつらが居なかったらここまでは無理だった。」

 

「そんなことないですよ。ユージが作る料理どれも美味しいですし。」

 

 ユージの隣で改めて退院を祝い、目の前に並ぶ料理に看取れる。互いに好きだと分かり、キスまで済ましたがまだまだ知らないユージの事をアリサはもっと知りたいと思っていた。実際、自分の過去は感応現象で知られているがユージの過去については全くといって知らないでいる。

 ユージの隣でちらし寿司を口に運び、横を見るとユージはこちらに気付かず黙々とちらし寿司を食べていた。

 

 

 暫く食事を堪能したところでソーマがこないだのユージの体に起きた現象について聞いてきた。

 

「そう言えばユージ、あの時のお前の体に起きた現象は何だったんだ?」

 

「あ、それサカキ博士とツバキ教官も知りたがっていたぞ。」

 

「ああ、あれね。それが俺もよく分かってないんだけど、体の中に流れる血液とオラクル細胞が激しく駆け巡り涌き上がる感じがして俺の中で眠っていた力が引き出されたんだよ。あのときは兎に角必死だったから何も感じなかったけど、今になってあれはこれからの戦闘に役立つんじゃないかな。感覚は体がもう覚えちゃってるから復帰したら使いこなせるように練習しないとだな。」

 

「なあ、ユージが言ってるそれって俺とかでも出来るものなのか?」

 

「タツミさん、どうしてですか?」

 

「ほらさ、それが出来るようになれたらかなり任務が楽になるだろ?」

 

「う~ん、出来るとは思いますけど、かなりの練習が必要になると思いますよ。それこそここの訓練の内容事態を全て見直す位は必要ですね。」

 

「マジかよ。やっぱ努力をしないとダメってことか。」

 

「何事も楽して強くなろうなんて考えちゃダメですよ。って、ヤバイ!」

 

 話の中に加わったタツミより先にユージは近寄る気配を察知、他の話題に変えようと試みる前に動かれてしまう。

 

「良いこと聞いたな、タツミ。努力を怠らなければ誰でも習得できるということらしいぞ。」

 

「げ、ツバキ教官!なんでここに?」

 

「お前達の会話が聞こえてきたんでな。それとユージが言うように訓練内容を見直そうと私も考えていた所だ。お前もユージと任務に行ったなら見てるはずだ。」

 

「それは分かってますけど···」

 

「なら話は早いな。早速明日から全員新しい訓練を受けてもらう。楽しくなりそうだな。」

 

「そ、そんなあ。」

 

 何でもないはずの会話から突然の訓練の予告にその場の神機使いたちは凍りついた。だが、ユージは当然だと言わんばかりにグラスに注いだジュースを飲み干した。

 

 こうして、つぎの日からユージとツバキ監修の地獄の訓練が始まり、神機使い達の悲鳴が訓練所からフロア中に響き渡る。



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第19話 デート

「今日から原隊復帰ですね。」

 

「いやー、長かった。アリサは任務で居なかった事が多くて辛かったよ。」

 

「その分帰ってからずっと一緒だったじゃないですか。」

 

「あのなあ、人を待つのってかなり長く感じるんだよ。アリサだってそうだっただろ?」

 

「確かにあのときはとても時間が長く感じて辛かったです。」

 

 例の一件で負傷した傷が完治したことでユージも今日から復帰、今はアリサと一緒に朝食を摂っていた。付き合ってから日は浅いがこうして二人きりで会話する時間が何よりも幸せで、いつまでもこうしていたいと思うほど。そう言った空気は二人が知らぬ間に周りの人たちを寄せ付けず、付き合ってると言われなくても気づいていた。現にソーマとコウタでさえ二人が醸し出す雰囲気に邪魔をしてはいけないと逃げるように姿を消す程。

 

「でも、復帰したと言っても絶対安静で運動不足で動けるかどうかが怪しいんだよな。」

 

「そしたら体を慣らす意味でも買い物でも行きませんか?任務は午後からなので。」

 

「そうしようか。じゃあ30分後にアリサの部屋に行けば良いか?」

 

「え、私の部屋ですか?」

 

「なんか俺が行くと不味いものでもあるの?」

 

「い、いいえ、そういう訳じゃないんですけど···」

 

 任務の前に買い物の約束をし準備が出来たらアリサの部屋に行くと伝えるとアリサが渋る。理由を聞いてもどこか曖昧な様子ではあったがユージには何もかも見透かされていた。

 

「まさかとは思うけど、部屋が散らかってるからなんて事はないよね?」

 

「え、どうして分かるんですか?」

 

「やっぱりか。感応現象でアリサの過去を見てきてるから何となく想像が出来るよ。ついでだからちゃちゃっと片付けまでやっちゃうか。」

 

「もう、そんなのズルいです!私なんかまだ一度もユージの過去を見たことないのに。」

 

「そんな拗ねるなよ。」

 

 何もかも見透かされアリサは頬を膨らませ拗ねてみる。でもこれも悪くはないと思っていた。

 

 

「うわっ、ホントに散らかってる。」

 

「そんなこと言わないでください。私だって努力してるんですから!」

 

「はいはい、分かってますよ。」

 

 初めてアリサの部屋に入ると本当に散らかり放題で何をどうやったらこうなったのが気になる所だ。二人で部屋の片付けをしていると最後の一冊の本に手を伸ばすと互いの手がぶつかり、目を合わせると顔も急接近。そのまま暫し見つめあうとユージが更に顔を近づけるとアリサは首を横に倒しながらその時を待つ。

 そして唇と唇同士が触れると一旦離して顔を見てから再び唇を重ね今度はさっきよりも長く重ねる。

 

「もう、こんなの反則です。」

 

「こないだはアリサの方からやってきたじゃん。」

 

「だからってそんなのはズルいです。」

 

 そう言って負けじとアリサの方から唇を奪うと主導権を渡さんとばかりに強く抱きしめると豊満な双丘がユージの体にダイレクトで当たり、ユージの体が熱くなってきた。このままでは暴走すると判断、買い物に行こうと言って事なきを得た。

 

 

 片付けとそのあとの行為で予定より遅くアナグラを出ると外は太陽の光が強く、ちょっと眩しかった。取り敢えずお店が建ち並ぶ外部居住区に向かうと買い物客で賑わっていた。アリサはユージの右腕を手に取ると自分に抱き寄せ嬉しそうに歩く。ユージも空いてる左手でアリサの頭を優しく撫で周りを見渡すと道行く人の多くの視線を集めてることに気づき、恥ずかしいと思いながらも「我慢、我慢」と言い聞かせ無視を決め込む。

 

 少し歩いたところで小さな雑貨屋を見つけ中に入り綺麗に陳列されてる商品を見て回る。ここでは一旦別行動をとる。一人軽く商品を見ていたユージは何かを見つけると二つ手に取り先に会計を済ますとアリサがまだ探しているのを確認してから再び目当ての商品探しを始めた。

 

 一方のアリサも何かを見つけるが値札を見て肩を落とす。持ち合わせの額では足りなかったようだ。すると商品を探し終えたユージが近づきアリサが断念した物を手に取るとそのままレジに向かい何も言わずに代金を支払った。突然の行動にアリサは戸惑いと買わせてしまった事の申し訳なさとで彼の顔を見ることが出来なかった。それに気付いたユージはそっと買った商品を渡す。

 

「このバック欲しかったんだろ?」

 

「で、でも···」

 

「まさか俺に奢らせたと思ってるの?」

 

「だって········」

 

「そんなこと気にするなよ。俺はアリサの為なら何だってするんだよ。だからアリサはそんな事考えなくていいの!ほら、分かったら泣かない。折角の可愛い顔が台無しだぞ。」

 

「そんなこと言ったって···」

 

 ユージの言葉にアリサの目からは涙が溢れだし、優しく抱き小さく笑った。

 

 

 

 少ししてやっと泣き止んだアリサは顔を上げるが涙で濡れた髪の毛が顔に張り付いたままだ。それに気付いたユージは髪の毛を指で掻き分けまだ頬をつたう涙をその指で拭う。そして手を握り歩き出す

 

「ほら、しっかり手を握って。行くよ。」

 

 雑貨屋を出て歩いたが目ぼしいものはなく、気付けばそろそろ戻らないといけない時間が迫り、二人は人気のないベンチに座る。

 

「アリサ、ちょっと携帯貸して!」

 

「何をするんですか?」

 

「まあ見てて。」

 

 アリサから携帯を借りるとポケットから雑貨屋で買った商品の袋を破り、中身を取り出すと携帯に取り付ける。そう、ユージが買ったのは携帯のストラップだった。しかもユージも同じものを購入、所謂ペアルックだ。ストラップを着けた携帯をアリサに渡すと嬉しそうにストラップを見つめる。

 

「丁度良いもの見つけてさ、アリサなら絶対喜ぶと思ってな。しかも俺も同じものを買ったからペアルックだぜ!」

 

「ありがとうございます。とても嬉しいです。」

 

「うん、喜んで貰えて良かったよ。」

 

「また時間があったら来ましょうね!」

 

「勿論さ。じゃあ任務に行く前に腹ごしらえと行きますかね。」

 

「今日のお昼は何ですか?」

 

「そうだなあ。アリサが好きなもので。」

 

「良いんですか?でしたらパスタが食べたいです。」

 

「パスタだね。飛びっきりに美味いの作るから楽しみにしてて。」

 

「はい。」

 

 短い時間の中ではあったがとても充実した時間を過ごし、お昼ご飯の会話をしながら腕を組み、アナグラに戻った。ちなみに昼食はカルボナーラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二章 第20話 不死のアラガミ

前回で無印は終わりで、今回からバーストになります。


 原隊復帰して暫くは任務に体が付いていかず苦労が耐えなかったが、休むことなく任務に明け暮れどうにか普段の状態にまで調子を上げることが出来た。ただ、復帰してから一日も休まなかった事もあってアリサからは「行き急いでいる」と言われ、頭では分かってはいるものの任務がそれを許さなかった。

 それで何ともなければ結果オーライで笑って済む話だが、無理した代償は体以外の所で顕著に表れていた。

 

「君の神機なんだけどさ、ちょっと調子が悪いみたいなんだ。」

 

「ああ、やっぱりそうか。武器の切り替えの時になんかいつもよりも動きが遅い感じがしてたんだよね。」

 

「君も気づいていたんだね。まあ、今すぐにどうこうなる訳じゃないけど、もし何かあったら必ず報告して!神機は自分の命を預けるものだから。」

 

「わかった。」

 

 任務の時に感じた違和感はまだ大きな影響はないが今後の様子を見てから対策を決めることで合意。そのあとのリッカの言葉の意味はユージも大切なことだと忘れないように心の中に書き記した。

 

 

 と、ここでリッカの口から予想外の話を振られ、ユージは困惑する。

 

「それとさ、ユージってアリサと付き合ってるの?」

 

「え、なんでそれを?」

 

「だってここ最近毎日のように一緒に居るじゃん。こないだだってデートに行ってたでしょ?あんなの見たら誰もが気づくよ。」

 

「まあ、そうだよ。」

 

「あっさりと認めるんだね。普通はもっと否定するもんだけど。」

 

「なんで否定しなきゃなんないんだよ。好きなんだから否定したらダメだろ。」

 

「言うね~。でさ、どこまで進んだの?」

 

「どこって······」

 

 アリサと付き合ってる事はあっさりと認めたが、キスしたことまで話して良いものか?と迷っていた。多分、リッカはそれをネタにアリサを追及することは予想がつく。そしてアリサに誰から聞いたか聞かれれば自分の名前が出ることは明白。だが、ここから逃げ出す口実が見つからず考えているとアリサがやって来た。

 

「あら、ユージここに居たんですね。ツバキさんがラボに来るようにとのことです。」

 

「分かった。直ぐに行くよ。」

 

「ねえ、アリサってユージと付き合っうぐっ!」

 

「リッカさん、どうしたんですか?」

 

「あはは、何でもないよ。早く行こうか。」

 

「はい。」

 

 幸い今の会話は聞かれてないようで急いでラボに行こうとしたとき、リッカが悪戯っぽく笑みを浮かべ、アリサに何かを言おうとするのをユージはリッカの口を塞ぐことでどうにかやり過ごす。

 ユージの手から解放されたリッカはまだ諦めてない様子で、ならばとオペレーターの所に行きヒバリとソフィアに耳打ちをすると二人は頷き何やら企んでるようだった。

 

 

 

 

 

 

 そんな事とは露知らずラボに集められたユージ達第一部隊はツバキから新種のアラガミ討伐任務の説明があった。

 

「全員集まったな。今回お前達には最近目撃されている新種のアラガミ【ハンニバル】の討伐をしてもらう。目撃されて間がなくあんまり情報がない。得体が知らない以上細心の注意を払ってこれを排除しろ!」

 

 

 

 ラボを後にしてロビーのソファに座るとユージ主導の元、早速ブリーフィングを始める。

 

「偵察班からの情報によれば人間に近い行動をとるらしい。」

 

「それって元々は人間だったってこと?」

 

「まだそれは分からないけど、近い行動をとるってことは頭が良いんだろうな。体もそれなりにでかいけどかなり素早く、攻撃範囲も広いらしいからかなり厄介な相手なのは間違いないだろうね。」

 

「そうなるとかなり大変ですね。」

 

「フン、どんな相手が来ようとぶったぎるまでだ。そうだろ?」

 

「ソーマの言う通りだよ。今の俺たちなら誰にも負けないって!」

 

「ソーマにしては珍しく良いこと言いますね。」

 

「うるさい!」

 

 三人のやり取りを見て確かに今の俺たちならやれるとユージも確信しており、なら行くメンバー決めに迷いはない。

 

「なら、俺とアリサ、ソーマ、コウタで行こう!サクヤさんはすみませんが、また今度機会があればお願いします。」

 

「私は構わないわ。あなたが隊長なんだし私たちはあなたの命令に従うまでよ。みんな、頑張って頂戴。」

 

 サクヤもユージを信頼してるのかどこか吹っ切れた様子。しかし、心の中ではまだリンドウの事を引き摺っていた。そんな雰囲気察したのかユージが話をする。

 

「そう言えば、リンドウさんのことあれから何か聞いてますか?」

 

「いきなりどうしたの?」

 

「いえ、特に理由はないんですけど、あれから全然情報が入ってこないのでサクヤさんなら何か知っているかと思いまして。」

 

「そう。でも残念ながら何も分からないわ。力になれなくてごめんなさい。」

 

「いえ、そんなことないです。ただ···」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何でもないです。ありがとうございました。」

 

 あの一件が終息後、リンドウの情報が全く入ってこずユージは勿論、サクヤも内心焦っていた。特にユージは彼を助けたであろうシオがここに居る以上、残された時間はそう長くはないと考えていた。シオの特異点としての能力があってアラガミ化にならずに済んだとあればそれを失った今は早く見つけ出さなければ最悪な状態に発展することを危惧していた。例え、無事に見つけたとしてもシオの特異点としての能力は無いに等しく修復出来るかは怪しい。

 そして何よりも気になるのが今回の新種ハンニバルが人間に近い行動をとるという情報。人間に近い行動がもしもリンドウがアラガミ化になったことによる成れの果てだとすれば最早彼を救い出す術は無い。仮にその事を知ったところでサクヤ達に知らせるべきなのか非常に重い選択を迫られる。今言いかけて止めたのもその事が頭を過ったから。

 

 ただ今考えても仕方ないとハンニバル討伐に向けてリンドウの事は頭の片隅へと追いやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、着いたね。敵は単体で周囲に奴以外の反応はないみたいだけど念のため二手に分かれて確かめよう。小型は真っ先に排除で中型以上は敵の種類と数によるけどコンゴウとかシユウ位ならそのまま排除。それ以外は無線で連絡で。」

 

「何だかユージの指示も板についてきたね。」

 

「やかましいわ!隊長なんだから当たり前だろ。文句があるならお前にやらせるぞ?」

 

「ユージの言う通りです。私達のために一生懸命やってるんですから。コウタとは違うんです。」

 

「何だよ、二人して。冗談に決まってるだろ」

 

「おい、お前らさっさとしろ!」

 

 ソーマの一喝で気を引き締めソーマとコウタ、アリサとユージとで分かれる。

 

 

 周囲の安全を確認し、四人はハンニバルを見つける。まだこちらの方には気づいていないのか呑気に何かを食べている。ならばとコウタを後衛に残し、三人は敵の背後から捕喰。バースト状態になり敵が振り向くのを見計らい待ち構えていたソーマのチャージクラッシュが顔面に直撃。怯んだのを確認するとソーマを除く三人は彼を盾に銃を撃ち相手の動きを止め、ソーマが攻撃するための時間を作る事で再度チャージクラッシュが顔面に当たった。

 

「コウタは銃が有効な部位を探ってくれ。アリサも銃で攻撃しつつタイミングを見計らって近接での攻撃だ。ソーマと俺は奴の気をこっちに向けるように動くぞ!まだ相手がどんな攻撃をしてくるか分からないからそれの確認も視野に。」

 

「分かった。」

 

 今後の討伐任務の為、出来るだけ詳細なデータを集める必要もあり、敢えて一気に叩こうとはせず時間を掛けることにした。一見無駄な事のように見えるがこれが出来るのが第一部隊の高い技術と結束力があるという証明でもある。

 

 ユージの指示通りにコウタとアリサで弱点となる部位の確認、ソーマとユージは相手の攻撃を誘うように動く。すると作戦に掛かったハンニバルがようやく反撃に出る。まずはユージに狙いをつけ長くしなやかな尻尾を振る。避けられると今度は拳で殴り掛かり、これは盾で確実にガード。所がこの時「ピキッ」と皹が入ったような音が鳴り、ユージは一瞬ではあるが盾に目を逸らした。この一瞬が判断を送らせ、気づくと直ぐ目の前まで拳が迫っていた。

 

「ヤベッ!」

 

 後ろにステップで間一髪避けると思わず空を見上げる。一瞬でも気を抜くのがどれ程危険な事か痛いほど分かっては居たがこれで更に理解した。

 だからか特にアリサは心臓が止まりそうになり、隣まで回避してきたユージに諭す。

 

「もう、助かったから良かったですけど、本当心臓が止まるところでした。」

 

「ゴメン、ゴメン。さっきガードしたら変な音がしたからちょっと見たらここに皹が入っちゃってさ。これじゃもうガードはしない方が良いな。次で絶対割れる。」

 

「え、それなら後衛でお願いします!盾無しは危険すぎます。」

 

「いや、このまま行く。ガード出来ないなら全部かわせば良いんだ。大丈夫だよ。もうさっきみたいなへまはしないから。」

 

 アリサの心配を余所にユージはそのまま作戦を続行、盾が使えない事を念頭におき集中力を高める。そんなユージの行動にアリサは心を痛める。一回でも攻撃を喰らったら、と思うと気が気じゃなかった。

 

 集中力をこれまで以上に高めハンニバルの攻撃データを集めるユージは反撃に注意しながら攻撃に移る。ここまでの流れで尻尾での凪ぎ払いや腕を拳みたいに殴る等の直接攻撃以外にも遠距離に強力な火玉を放ったり、近くの敵には炎のブレス攻撃と多彩でそれをかなりの速さで繰り出すことが分かった。他には火を剣みたいにして乱舞することも頻度は低いがこれが一番脅威だ。特に盾が使えないユージにはこの頻度の低いこの攻撃に時折危ない場面があり、挙動を見極める必要があった。

 その危ない場面に当然アリサは内心穏やかではない。帰ったら説教しようと考えてもいた。それほどユージの行動は見ていられなかった。

 

 ソーマの協力もあり、少し余裕のある時もあってユージは大車を殺したあの技の練習も兼ねハンニバルとの距離をとる。そしてあの時と同じ動きで一気に間合いを詰め下から上に斬り上げる。すると斬り上げる瞬間に赤黒い物が刀身に宿り背中の突起みたいな物が結合崩壊。と同時に後方に居るコウタから撃たれた貫通バレットが背中に命中、ハンニバルは大きく怯み一気に叩こうと近づいたその時、突然ハンニバルの動きが止まると同時に体中から激しい炎が発生。そして何かを悟ったようにゆっくりと上昇、破壊された背中から翼が生えると火炎旋風が巻き起こり全員に襲いかかる。

 

「コウタはアリサの後ろに隠れろ!」

 

「ユージも早く私の後ろに隠れてください。」

 

「いや、俺はこのまま一気にケリつける。」

 

 アリサとソーマに盾の指示をだし、コウタも近くにいたアリサの後ろに隠れるがユージの位置から二人までに距離がありとてもじゃないが行けそうになかった。となれば今の攻撃で無防備な今が叩くチャンスであり、それを逃す考えは一切ない。

 

 火炎旋風が巻き起こってる最中ではあるが網の目を掻い潜るように迅速に接近、攻撃レンジに入るとさっき背中を壊した時の斬り方で腕を切断。それを確認せず右足に全体重を乗せ足をバネのようにしてジャンプ、ハンニバルよりも遥かに高く上がると重力により下に落ちるスピードに後ろにバレットを撃った反動でのスピードが合わさり最高速度から振り落とされる剣がハンニバルの大きな体をバッサリと切断。ハンニバルはゆっくりと倒れ勝負は終わり、ユージも落下の衝撃を和らげるため地面にバレットを撃ちながらゆっくりと降下した。

 

「ふー、危ない、危ない。」

 

 機転の利いた判断で何とか討伐は出来たが一歩間違えればどうなっていたか分からない紙一重の戦いでもあった。その苦労もあり安堵の表情を浮かべる。

 

 ハンニバルが倒れたと見るや否やずっと盾を展開していたアリサはユージの元へと駆け寄ると人目に憚らず彼の胸に飛び込んだ。突然の出来事にコウタとソーマは目を丸くするが二人の関係を何となく分かっていたので直ぐに冷静になると忘れぬうちにハンニバルからコアを抜き取る。

 

 その横で飛び込んだアリサはここまで心配してきた感情が一気に溢れ出す。本当ならここで説教の一つでもしてやろうと思っていたが出来なかった。ユージもアリサがどんな気持ちで今居るのかは分かっているつもりではあるのか優しく抱きしめ今回の行動を深く反省する。

 

「もう、どうしていつもそんな無茶ばかりするんですか?前にも言ったはずです。その度に私がどんなに辛くて悲しい気持ちになるか。」

 

「今回に関しては完全に俺自身の不注意が招いたことだから深く反省してる。本当ゴメン。」

 

「今回もです。絶対に無茶しないって約束してください!」

 

「分かったよ。約束する。」 

 

 アリサと約束しつつふとここ最近はこんなんばっかりだなと思い出すと何故かこれが何とも自分らしいとも思えてきた。

 

 

 

 ソーマがコアを抜き取る側でコウタがハンニバルの死体を神機でつつくのをアリサは呆れたように言えばソーマも同乗し帰投のヘリが来るポイントに歩き出す。

 

「それにしてもやっぱりこのアラガミは厄介だったね。」

 

「もう、そんなことしてないで早く帰りますよ。」

 

「同感だ。」

 

「待ってよ。折角の新種なんだしさ···」

 

「ハッ!コウタ、後ろだ!」

 

 三人を後を追うようにコウタもやって来るがここでユージは後ろから放たれる殺気を感じて振り向くとそこにはさっき倒したはずのハンニバルがコウタに狙いを定めて攻撃しようとしていた。

 

 ユージの叫びでコウタは勿論、アリサとソーマも後ろのハンニバルに気づく。突然の出来事にコウタはパニックになり尻餅を着く、このままではコウタが危ないと見るやユージは走りだし気付いたら体が勝手に盾を展開していた。

 盾の展開と同時にハンニバルの渾身の一撃が衝突。衝突の反動で後ろに下がりかけるがギリギリの所で踏ん張る。所がバキッと良くない音と共に盾が割れるとハンニバルの攻撃がユージの体に直撃して遥か後方に吹き飛ばされるとそのまま気を失った。

 

「ユージ!大丈夫ですか?」

 

「んなバカな!確かにコアは回収したはず。」

 

「考えるのは後です。コウタ、ユージをお願いします。」

 

「わ、分かった。」

 

「クソッ!全員撤退だ。急げ。」

 

 動けないユージをコウタが抱え、アリサとソーマはスタングレネードを投げて直ぐ様その場を離れヘリに乗り込んだ。

 スタングレネードから解放されたハンニバルは暫くアリサ達を探すが居ないと分かると何処かへと離れていった。

 

 

 

 



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第21話 無茶

 第一部隊からの救援要請にアナグラ内は戦慄が走った。極東支部の中でも屈指の実力を持つ第一部隊からの要請、しかも隊長であるユージが負傷したとあって場は騒然としていた。そして様々な憶測を呼び、騒がしくなってるところにアリサ達がユージを抱えて戻ってくると待機していた医療班がストレッチャーで医務室に運び治療がなされた。

 

 ユージが自分の怪我と引き換えに守ったことで無傷で済んだコウタは罪悪感があった。いくら倒したはずのハンニバルが復活したとはいえ任務の中で最も危険とされる討伐後に気を抜いていたのは事実だ。恐らく謝った所で「気にするな」と言われそうではあるがきちんと謝ろうと医務室の外で待機しながら考えていた。

 

 

「手当てが終わりました。まだ意識は戻ってませんが時期に目を覚ますと思います。」

 

「ありがとうございます。」

 

 医務室から看護師のヤエが出てきて手当てが終わったと告げられお礼をしてから中に入るとベットに横になり目を閉じているユージの姿があった。

 

 一先ず大事には至らなかったことにホッとすると同時に自分達の情けなさに腹が立つ。一重に隊長と言えど人間であり、万能ではない。ちょっとしたことで直ぐに死んでしまう世界。隊長一人に全てを背負わせることは隊長に対する信頼の表れと同時に大きなプレッシャーを与えてるということでもある。その意味をそれぞれが自覚しないことには確実に部隊は崩壊すると三人は身をもって知る。

 

 

 病室に入ってから一時間が過ぎた頃、布団の外に出ていた手がピクッと動きアリサが顔を見るとゆっくりとユージの目が開いた。

 

「う、う~ん···ここは?」

 

「ユージ、気づきましたか?医務室です。」

 

「そっか、俺コウタを守ろうとしてやられたのか。」

 

「ふん、やっと起きたか。部下を守ることばかり考えて自分の命を削るような真似はするなよ。お前が死んで悲しむ奴は大勢居るんだからな。」

 

「俺はお前らの命を守るという義務がある。誰に言われても絶対に揺るがない。」

 

「お前には何を言っても無駄か。こんなのは今に始まった事じゃないしな。」

 

 痛む体を起こすと横には心配そうに見つめるアリサとその横でイビキを掻いて寝ているコウタ、壁に寄りかかるソーマが居た。ソーマは目を覚ましたことを確認すると注意だけして退室。三人だけとなりアリサは思いっきり抱きつきたいのを堪え未だに寝ているコウタの頭を叩いて起こす。

 

「あ、目覚めたんだね。ゴメンよ、俺の不注意で。」

 

「ホントですよ。コウタはしっかり反省してください。」

 

「はい。反省してます。」

 

「まあ気にするなよ。こんなことは良くあることだし。別に何とも思ってないよ。元はと言えば録に神機の手入れをせずに任務に行った俺が悪いんだし。」

 

「もう、ユージは直ぐそうやって自分の責任にする癖直してください。あれはどう考えてもコウタが悪いです。」

 

「アリサ、そう言うなよ。隊長に就任した時点で覚悟していた事だし、こんなのはここに来る前にも嫌って言うほど経験してる。隊長になるってのはこういうことなんだよ。」 

 

「そうやって甘やかしてるとコウタの為になりません。ここは一度ビシッと言うべきです。」 

 

「お、俺ユージが目を覚ましたことみんなに報告してくるよ。」

 

 謝った所でユージが許してくれることは予想通りだったが、アリサの事までは予想しておらず相当根に持っているようでしつこくユージに説教した方がいいと勧めてくるので逃げるようにコウタはその場を退散。それをアリサは睨むもやっと二人きりになれたと気付きさっきまでの怒りは消えていた。

 

 

「コウタにはああ言いましたけど、ユージも何で盾に皹が入ってるのにアラガミに突っ込んだりしたんですか?」

 

「あれはあそこが討伐できるチャンスだったし、全部避けられる自信があったからな。まあ結構ヤバイ場面もあったけど。」

 

「危ないでは済まされないです。もっと自分の命を大事にしてください。じゃないと万が一あなたが亡くなって残された私の気持ちはどうするんですか?」

 

「それを言われると返す言葉もないよ。アリサの涙を見る以上にツラいものはないから。」

 

「またそんなズルいこと言って······泣きたくなくても泣いちゃうじゃないですか。責任とってください!」

 

 任務の最中にも泣かせたがここでも泣かせてしまい責任を取らされる。抱いて落ち着かせる事も考えたが今の体を思えばそれは無理だった。となれば残された選択肢はただ一つ。

 

「困った人ですね。そんな人にはお仕置きが必要だな。」

 

 そう言うとアゴを少し上げてそっと唇を重ね、離れる。するとキスを読んでいたアリサはトローンとした目をして、上目遣いで挑発。

 

「もう終わりですか?私はこの程度では満足してませんよ。」

 

「お、おい!俺怪我してるっての。」

 

「大体あなたが悪いんですからね。反省してください。」

 

 今度はアリサの方からユージの唇に自分の唇を重ねさっきよりも長く、そして濃厚なキスでユージの理性を徐々に奪っていく。反省だとかお仕置きだとかいうレベルを遥かに超越した行為にユージは焦ってきた。どうにか理性を保ってる内に逃げ出そうともがくも怪我をしている体では不可能。

 

(ヤバイ···もう限界だ)

 

 理性が崩壊しかけアリサの胸に手を伸ばそうとしたその時、突然医務室のドアが開いてリッカとヒバリ、ソフィアの三人が入ってきた。

 医務室に入った三人が真っ先に目にしたのはユージとアリサがキスをしているところだった。突然の乱入に理性が戻ったユージは胸に伸ばしていた手を下げ、痛む体に耐えながら無理矢理離れる。ユージに離されたことでアリサも我に返りリッカ達を見ると恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「ユージが目を覚ましたって聞いて様子を見に来たけど、スゴいもの見たよ。」

 

「お二人がお付き合いされてることはリッカさんから聞きましたけど、もうここまで進んでらしたんですね。」

 

「リッカからあんたが付き合ってると聞かされたときは嘘だと思ってたけど、本当だったんだ。でも、良いもの見させてもらったな。」

 

 キスを目撃した三人は意外にも冷静で嫌味もなく寧ろ喜んでいるようだ。女の子にとってキスはとても大切な行為で憧れでもあるから目の前の二人が心底羨ましいのだ。恥ずかしがる二人を尻目に三人はキャッキャはしゃぎ出す。

 

 

「なあ、なんか俺ら」

 

「忘れられてますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ハンニバルの対策ブリーフィングが会議室で行われユージを除く全部隊のメンバーが参加、実際に戦った第一部隊から様々な情報の共有がなされこれから対策が練られる事になった。それまでは極力交戦は避けるよう指示が出され、神機使い達からは不安の声が上がった。

 

 会議に参加しなかったユージにも会議後にアリサから直接伝えられるが、ハンニバルがどれ程厄介な相手なのかは戦った自分達がよく分かっていた。しかし、倒せないわけではないので第一部隊のみ討伐後速やかにコアを回収し帰投するようにとツバキから直々に命令が下された。

 

「そうか、まあ倒してコアを回収しないことには対策の施しようがないしな。だけど俺は暫く戦場には出られそうにないな。」

 

「リッカさんから聞きました。壊れた神機の修復には時間が必要だそうです。ツバキさんからも神機が使えないならしっかり休んどけと伝言貰いました。」

 

「別に休むのは構わないけど、退屈すぎるんだよな。神機使いになってから戦いばっかりだからそれが当たり前みたいな感じになってる。」

 

「退屈でも我慢してください。くれぐれも戦場に出ようなんてしないでくださいよ。」

 

「分かってるよ。俺も流石にそんなことはしないから。」

 

「約束ですよ!」

 

 今までの事があるからかアリサはどこか安心できない部分があった。いくら口で言っても誰かを守るという彼の優しい性格故にそれが仇となって何かあれば、とここ最近は思うように。それが誰かを愛するという事なのかも知れないがそんなことばかり考えてしまう自分に嫌気がしてくる。

 そんな彼女の不安は後日見事に当たることをまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が経ち怪我も完治したユージはやっと退屈だった医務室生活から解放、まだ神機が使えないので戦場には出られないが医務室生活に比べれば随分マシだった。前と違ってトレーニングが可能であれば戦場にいつでも出られるように基礎体力の向上と戦術の強化にアリサが居ないとき以外は全て時間を充てた。その様子はツバキは勿論、他の神機使いの人間にも影響を与え以降、日々トレーニングに励む人間が増えた。

 

 そんなある日の午後、ユージは一人ロビーでお菓子をかじりながら雑誌を読んでいた。今は全員が出払っていてフロアはとても静かで、ヒバリがカタカタとキーボードを叩く音がよく聞こえ、それが子守唄となってユージはソファに横になると静かに目を閉じて夢の中。

 

 

 

 

 

 少し寝ていると突然警報がフロア一帯に鳴り響きユージは目を覚ます。

 

「なんだ?襲撃か?」

 

 警報が鳴るときは火事や地震といった災害とアラガミが襲撃してきたときとあるが、今回は後者の方で第二神機保管庫に小型アラガミが侵入したとアナウンスが流れた。アラガミ侵入となれば誰かが討伐に行かなければならないが生憎と今は全員が出払っていて今居るのはユージ唯一人。しかし、ユージは神機の修復が終わっておらず使えないため実質居ないも同然である。それでもじっと出来ずヒバリの元に歩み寄る。

 

「ヒバリさん、誰か来れそう?」

 

「今タツミさんに連絡を入れましたが、間に合うかどうか微妙なところです。」

 

「そっか···」

 

 一番近いタツミが間に合うかどうかは微妙だと聞いて少し悩んだが何かを決心したのか何処かへと走り出す。

 ユージが向かった先は神機保管庫、中ではリッカが神機のロック作業をしていた。

 

「どうしたの?君の神機はまだ使えないよ。戦えないなら戦場に出ちゃダメだよ。」

 

 リッカに言われずともそんなことは百も承知だ。それでも何か出来ないかと回りを見ると一つだけロックされずにいる神機を見つけると近付く。そして躊躇うことなく手を伸ばす。

 

「それはリンドウさんの神機。触っちゃダメ!」

 

 リッカが必死に制止するもユージの手はリンドウの神機に触れ、握るとその瞬間神機からオラクルが右手を蝕み、激痛が襲う。言葉にならない叫び声を上げ耐えるのをリッカは手を離すよう呼び掛けるが背後からガンっと音が鳴り後ろを向くと鉄の壁が壊れオウガテイルが侵入。その時の衝撃でリッカは気絶、痛みを堪えたユージがリンドウの神機でオウガテイルを斬る。しかし自分と適合していない神機では致命傷とはならず起き上がるとこちらに飛び掛かろうとしていた。激痛と格闘中で対応が出来ずにいると突然背後から細い何かが高速で掠め、オウガテイルに命中。後ろを見れば見たこともない少年が神機を構えていた。

 

「立てますか?早く止めを!」

 

 少年のお陰で危機を救われ事なきを得るとユージは気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う~ん···」

 

「あ、目が覚めました?」

 

「ここは医務室?」

 

「そうです。あそこで倒れたあなたをここまで運びました。」

 

「そうなんだ。ありがとう、っと······誰だっけ?」

 

「あ、申し遅れました。僕はレンって言います。今日から極東支部に配属されました。救護班の担当です。」

 

 またもや医務室に運ばれ先程助けてくれたレンとリッカが見てくれていたようだ。レンにお礼を言うと勝手にリンドウの神機に触れたことをリッカに叱られる。

 

「どうしてリンドウさんの神機に触ったの?君も知ってると思うけど、適合していない神機に触れるとオラクルが侵食して最悪何が起きてもおかしくないから。約束だよ。これからは絶対に他の人の神機に触れないで。」

 

「分かった。」

 

「ホントに?君はホント無茶が過ぎるね。きっと私が言っても分かってくれないから君の事を想ってくれてる人にお願いしようかな。」

 

「な、なあ、それってもしかして···」

 

 

 

 

 ユージの予想は大当たりだった。リッカと入れ替えに入ってきたのはアリサだった。しかも物凄い剣幕でこちらを見ており、このあと何が起こるのか直ぐに理解し冷や汗を掻く。

 そしてフロア全体にアリサの怒声が響き渡り、少一時間こってり搾られた。

 

 

「もう、ユージがリンドウさんの神機に触れて倒れたって聞いたときはどうなるかって思いましたよ。」

 

「だからそれはゴメンって言ってるだろ?」

 

「いいえ、今度ばかりはちゃんと言っておきます。あなたは私の···私の···」

 

「うん?聞こえないぞ。」

 

「あなたは私の彼氏なんですから独りぼっちにさせるようなことはしないでください!」

 

 怒ったかと思えば鳴いたりと喜怒哀楽が激しいと思いつつも今回は流石にゴメンで済むようなレベルではなかった。アラガミ化が進めば助かる可能性は0。これまでとは事の重要さが全然違う。それではアリサがここまで怒るのも無理はない。

 

「アリサ、今まで凄い心配させてゴメン。どれくらい心配させたか正直数えきれない程たくさんしてきた。それはどれもアリサやみんなを守ろうとやって来たことなんだ。俺はスーパーマンじゃないから冷静に物事を考えられるほど器用じゃないしかといって何か特筆したものがあるわけでもない。ただ目の前のことに全力で取り組みたい、その一心でここまでやって来てる。

 多分、と言うかこれからもきっと些細な事で心配させるかもしれない。でも、これだけは絶対に忘れないで欲しい。俺はいつでもアリサの事を一番に想ってるからアリサが俺の事を一番に想ってくれるなら信じて欲しいんだ。俺もアリサの事を信じてるから。」

 

「そんなの当たり前じゃないですか。でも、私の事を一番に想ってくれるユージが好き、いえ、大好きです!」

 

「俺もアリサが大好きだ!」

 

 互いに気持ちをぶつけ合うことでその愛を深め、そして確かめるようにキスをかわす。どれくらいキスしたかなど数えきれないほどしてきたがキスをすればするほど二人の愛は深まり、これが二人の人生の轍であった。

 

 




この二人ことあるごとにキスしてるなwそう考えるとサクヤとリンドウはどんなキスしてるのか気になる。皆さんはどう思いますか?


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第22話 違和感

「今日から入ってきた新人の紹介をする。」

 

「イタリア支部から来ました、フェデリコ・カルーゾです。」

 

「ドイツ支部から来ました、アネット・ケーニッヒです。」

 

「二人とも新人ではあるが、新型の事はお前の方が詳しいだろう。出来るかぎり面倒見てやれ!いいな?」

 

「はい。」

 

「では、二人はこれより一二○○までにサカキ博士の所でメディカルチェックを受けるように!」

 

 ハンニバルとの戦いから一ヶ月が過ぎる頃、新たに二名の新型の神機使いが異動となり戦力が増えた。ちなみにレンもこの時フェデリコの隣に居たが完全にスルーされた。ユージは経歴的にベテランなので今更後輩が来ようと特に気にしては居ないが、アリサにとっては初めての後輩に自分も成長してるんだと同時にここに来た当初を思い出すと恥ずかしくなった。

 

「二人は第二、第三部隊に配属されるみたいだけど、新型だから俺が暫くは付くことになるよ。」

 

「へえ~、そうなんだ。しっかし、俺もついに後輩が出来るようになったんだな。」

 

「初めてここに来たのが昨日のことのように思い出されるね。」

 

「あのときのツバキ教官マジで恐かったよな。」

 

「そうか?俺は何も感じなかったぞ。」

 

「お前は既に経験者だからだろ。俺は新人だったから恐かった。しかも報告書のやり直しなんて毎日だったし。」

 

「それはお前が手抜いてたからだろ。あんなの誰でも怒るわ!」

 

「私がここに来たときもコウタは言われてましたよね。あれから少しは成長したんですか?」

 

「バーカ、成長してるに決まってるだろ!な、ユージ?お前もそう思うだろ?」

 

「う~ん、まあ及第点ってところかな。」

 

「なんだよそれ。」

 

 初めて出来た後輩と自分が初めて極東に来たときを思い出すと時間が経つのは早いと改めて感じる。今となっては笑い飛ばせることが出来るのも様々な紆余曲折を経て来ているからでもある。これから時が進むに連れて後輩も増えて自分達が神機使いとしての役目を終える時が来るだろう。その時にちゃんとバトンを渡せるようにまだまだやるべき事はたくさんある。

 でも今はこうして気心知れた仲間と楽しくおしゃべりする一時が実は一番大切だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中暇な時間を利用して神機保管庫に行くとレンが立っていた。ユージはさっき自販機で買ったサカキの新作初恋ジュースを二本のうちの一本をレンに渡して、自分ももう一本を飲む。開発者のサカキ曰く渾身の力作らしいが支部内からの評判はお世辞にも良いとは言えなかった。特に一番最初に飲んだコウタが余りの不味さに近くにいたソーマに無理矢理飲ませた所、反撃を喰らい10本ほど飲まされ気を失うほど。しかし、中にはその癖になる味を求めて買う猛者も。

 ユージはまだ飲んだことがなかったので興味本意で買ってみたが言うほど不味くはないと思った。そしてレンに至っては美味しいと高く評価、この結果はサカキからすればそこそこ満足な結果でホクホクだろう。

 

 

「そう言えば僕、リンドウさんと一緒に戦ったことがあるんです。」

 

「え?」

 

「リンドウさんっておもしろい方ですよね。数も数えられないバカなのに···、そう言えばあなたがここに来て初めてオウガテイルと戦ったときもそうでしたよね?」

 

「確かにそうだけど、どうしてその場に居ないはずのお前がそれを知ってるんだ?俺は今まで誰にもその事話したことないぞ。」

 

「さあ、どうしてだと思いますか?」

 

 この時ユージの中で何かが引っ掛かると感じた。それはレンと初めて会ったあの日、医務室に運ばれたがリッカとアリサはレンが居るにもかかわらずまるで誰も居ないかのように俺だけに話しかけてきた事に始まって、今日の新人の紹介のときのレンだけ紹介されなかった事、そして今の当事者しか知り得ない事までペラペラ話した事と思い出しただけでも違和感だらけだ。

 しかもこちらを試すような物言いにユージはレンが何者なのか?と疑念を抱く。だが、今はまだ何も分からず質問は無回答に終わった。

 

 違和感からくる汗が背中をグッショリ濡らし少しひんやりするのを感じ、レンを見ていると急にレンがリンドウの神機に手を伸ばそうとするのをリッカが言っていたことを思いだし、寸前で阻止。すると場面が変わり今も忘れることのない蒼穹の月での任務後の出来事が映し出された。しかもそれはユージがマータの群れを引き連れてその場から離れた後の出来事で、今まで知ることの出来なかった事が詳細に映し出された。

 

 あの日、ヨハネスと大車の策略によって操られたアリサは侵入してきたマータに突如精神を乱し、上官であるはずのリンドウに銃を向けていた。しかし、ギリギリで理性が勝りリンドウを撃つことはなかったが、代償として瓦礫が崩れ唯一しかない出入口が塞がれ、回りもマータの群れに囲まれたことでリンドウはサクヤ達を無事に帰還させることを優先、たった一人マータとの一騎討ちを挑んだ。

 その後、なんとかマータを狩ることに成功し一服していると今度は親玉ピターがやって来てタバコをそのまま投げ捨て交戦、所がピターに神機を腕輪ごと喰われた事で体内のオラクル細胞の暴走により右腕は徐々にアラガミ化が進行。そしてシオの救済により、廃寺でコアを埋め込まれ一時的にアラガミ化の進行を止めることが出来た所で現実世界に戻った。

 

 これが何なのかはユージが一番よく知っている感応現象。そして感応現象で見たものはリンドウが生きていることを裏付ける何よりの証拠であり、ユージが危惧していた最悪な状況の一歩手前まで来ているサインでもあった。ならばこうしては居られないと落とした空き缶を放置して急いでラボに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それでリンドウ君がまだ生きていると言うことだね?」

 

「はい、感応現象で見たので間違いありません。」

 

「昏睡状態のアリサを起こしたという奴か。にわかには信じがたいがそれがもし事実だとすればよく我々に知らせてくれたな。」

 

「みんなには俺が隊長に就任した頃にちょっと話したことがあるんですけど、それから全く情報が無かったり色々あって今までその話は封印してきたんです。変に期待させて実はダメでしたなんてことになったらとてもじゃないですけど耐えられるとは思えませんので。」

 

「流石よく分かっているな。それでサカキ博士、どうされますか?」

 

「うん、そうだね。今の話からすると一刻の猶予もない。でも、何か手懸かりが無いことには始まらない。だからまずはその手懸かりを探しだしてくれるかい?」

 

「分かりました。任務の帰りにでも探してみます。」

 

 サカキとツバキにだけ一先ず報告を済ませ、ホッと一息つく。リンドウが生きていると希望を持つのは良いが、最悪な状況になったとき果たして自分にはその決断が出来るのかが正直分からない。通常、アラガミ化が進んだ神機使いの対処はその人の神機で殺すことが唯一の方法だと言われており、それが出来るのは隊長格の人間でその行為には守秘義務が生じる。しかし、アラガミ化の進行を止めるために他人の神機に触れる行為事態こないだのユージのように拒否反応を起こすため矛盾が生じる。

 

 

 

 そんなことを考えていると無性に甘い飲み物が欲しくなり、自販機で初恋ジュースを買って飲んでるとレンがまたやって来た。今度は何のようだ?と思っているとさっきまで考えていたアラガミ化してしまった神機使いの対処法を話してきた。何だかこちらの考えていることを全て見透かされているようで気持ち悪くなり、その場を離れようとしたとき、レンの口から発せられる言葉にユージは固まる。

 

「今僕が言っていることが何を意味するか分かりますか?」

 

「お前、何を考えてやがる?そんなことお前に言われなくても分かってる。」

 

「あなたは何も分かっちゃいない。もし運よくリンドウを見つけ出したとしましょう。その時にアラガミ化が進行していたらあなたはリンドウを殺せますか?」

 

 レンの最後の言葉と同時にユージは自販機にレンを押し、凄い形相で睨み付ける。

 

「お前に何が分かるっていうんだ!俺たちが今までどんな気持ちで過ごしてきたか分かって言ってるのか?あの日の事は今でも覚えてる。忘れたくてもこびりついたように離れようとしない。それに加えてピターから出てきたあの人の神機と腕輪を見たとき背筋が凍りついた。それでも俺たちは誰一人としてリンドウさんが死んだなんて口に出さないし、思っても居ない。

 お前や回りがなんと言おうと俺はこの手で必ずあの人を連れて帰ってくる!分かったら俺の前で二度とこんなこと言うな!」

 

 

 ユージが怒って帰ったあとレンは今の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべていた。




2RBではリヴィが介錯やってましたけどあれは実際かなりツラいですよね。敵なら未だしも味方ですからそれは相当なものだと思います。


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第23話 捜索再開

 サカキからの依頼でリンドウ捜索の手懸かりとなる物を求めてミッションに頻繁にアサインしてから二週間ほど掛かってどうにか手懸かりとなる物のDNA鑑定によりリンドウの捜索が再開された。ツバキから全員に報告され喜びの声が上がる。それは第一部隊のメンバーも同じで早く捜そうとテンションが上がるのをユージは水を差す。

 

「悪いけど、捜索は第二、第三部隊に任せてあるから俺たち第一部隊はいつも通りの業務をこなす。」

 

「どうしてですか?」

 

「アリサの言う通りだ。何で俺たちはダメなんだよ。」

 

「あのなあ、リンドウさん捜索に全員が出たら誰がアラガミの襲撃から人々を守るんだよ。極東支部内において第一部隊は最高戦力だ。如何なる事態にも対処出来るように極力支部から出ない方がいいという俺とツバキさんと判断して取り決めた。」

 

「ま、まあ筋は通ってるか。」

 

「俺たちの仕事はアラガミから人類を守ることだというのを忘れるな!リンドウさんの方はタツミさんたちに任せれば大丈夫だ。」

 

 それは以前にツバキとサカキを交えリンドウ捜索にあたり懸念される事を挙げていきどう対処するか?を検討したときにユージが第一部隊以外の人間で捜した方がいいと提案。そしてその提案にツバキとサカキが乗った形。

 

「リンドウさんのことは俺たちに任せてくれよ。」

 

「タツミさん。」

 

「私たちもリンドウさんのことが心配なの。」

 

「全員で捜せばすぐに見つかりますよ。」

 

 リンドウ捜索が出来ないと知り愕然とするアリサたちにタツミ達は任せろと伝える。

 

「みんなありがとう。こんなのは変だけど、みんなの力を貸して頂戴。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてリンドウ捜索が再開され、第二、第三部隊は全員が出払った状態となりアナグラは静かになった。アナグラに残された第一部隊は全員ロビーのソファに座って帰りを待つ中、ただ一人ユージだけはこないだのレンに言われた事がまだ残っていてボーッとしていると隣に座るアリサが覗いてきた。

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、いや、ちょっとボーッとしてただけだよ。」

 

「そうなんですね。てっきりまた一人で悩んでるんじゃないかと思いました。」

 

「そんな風に見える?」

 

「見えます。ユージはいつもどこか悩んでるような表情をしているときあります。」

 

「そうかな?」

 

 自分の知らぬ間に表情に出ているらしく、それが心配の火種になるのかもと考える。

 

 

 するとどこから途もなくリッカが現れるとユージとアリサは表情が変わる。それが伝わったのかリッカはイタズラな笑みを浮かべるとジワジワ二人を弄るのをユージの起点でどうにか逸らす。

 

「みんな揃ってるね。」

 

「リッカさん、どうしたんですか?」

 

「束の間の休憩ってやつだよ。」

 

「リッカ、ユータの奴は大丈夫か?迷惑とかかけてない?」

 

「迷惑どころかあの子は凄いよ。同じエンジニアから見ても凄いと思う。」

 

「あいつ何かやってるの?」

 

「最初は私が色々やり方を教えてたんだけど、最近になって自分で新しい神機を作り出してさ。しかもそれが中々のシロモノでさ、エンジニアとしての才能があるよ。」

 

「なんだよ、あいつなんも言ってこないぞ。」

 

「え、俺は聞いたぞ!」

 

「俺もあいつから直接聞いた。お前が知らないところで頑張ってるぞ。」

 

「しかもあいつ料理旨いからな。ひょっとしたらユージより旨いんじゃね?」

 

「何?俺があいつに料理で負けるだと?そんなわけないだろ。」

 

「ふん、確かにユータの作る料理はどれも旨いな。」

 

「だからお前ら最近メシ食いに来ないなと思ったわ。ただ単に疲れたか、ケイン達の部屋で食ってると思ってたけど、まさかユータだったとはな。まあ、誰がどの部屋で食おうがいいけどさ。」

 

 話を逸らしたのは良かったのかどうかはさておき、ユータがうまいこと溶け込んでいると知って嬉しくないはずはなかった。と、そこに気を取られているとリッカが等々本領発揮。

 

「そう言えば、アリサはいつもユージと一緒だよね。」

 

「な、突然何を言うんですか?」

 

「だってソファに座る位置も隣同士だし、ユージの部屋にアリサが入っていく所何回も見てるからてっきり付き合ってるのかな?って思ったんだよね。」

 

 爆弾というよりは既に事実を言っているのと変わりはない。だが、第一部隊のメンバーは既に分かっていたのか特に反応はなかった。

 

「なんだ、やっぱりそうだったんだ。」

 

「どういうことですか?」

 

「アリサ、俺たちの行動で既にバレバレだったって事だよ。まあ、今更隠すこともないから言うけど、俺とアリサは付き合ってる。」

 

「ゆ、ユージ何いってるんですか?こんなところで言ったら他の人とかに聞かれます。」

 

「もうどうせバレてるから意味ないって。てか、好きなのにこそこそしているのも疲れるよ。」

 

「もうそれ以上言わないでください。」

 

 アリサは恥ずかしさで一杯になりユージの口を手で塞いで黙らせる。この二人のイチャイチャを見せつけられたコウタたちは見なかったことにした。そしてアリサはこの空気に耐えきれずユージの手を引っ張って自分の部屋まで連れていくと軽く深呼吸をしてから口を開く。

 

「もうなんでみんなが居る前で言うんですか?」

 

「だからさっきも言ったじゃん。堂々と付き合ってるって言った方が楽だって。」

 

「でもそれならもっと順序よくですね…」

 

「リッカたちにキス見られてるんだし、もう隠しとおすのは無理だと思うけど?それとも隠さないと恥ずかしい?」

 

「当たり前です。女子はその辺デリケートなんです。」

 

「なるほど。それはちょっと考えてなかった。これから気を付けるよ。」

 

「分かればいいんです。分かれば。」

 

 リッカが余りにも爪痕を残していくためユージは勘違いをしてしまった。しかし、この日を境に二人を見る周囲の人間の目が変わっていった。



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第24話 救援

 アリサと付き合っていると第一部隊のメンバーに報告した次の日からこちらを見る視線が矢鱈と気になる。昨日まではそんなことなかったとなれば何故こうなったかなんてのは自ずと分かってくる。

 

「誰か垂れ流しやがったな。」

 

「きっとそうですよね。これはやりにくいです。」

 

「でも時期に慣れるから我慢だな。それじゃ俺フェデリコとアネットの実地訓練行ってくるわ。」

 

「気を付けてくださいね。」

 

「おう、アリサもこのあとの任務気を付けろよ?」

 

「分かってますよ。」

 

 時期にこの空気にも慣れると気にせず後輩と実地訓練に向かうユージを笑顔で見送り自分も任務が控えてるので一旦部屋に戻り支度をする。今日はカノンと二人での任務ではあるがヴァジュラ単体とあってそこまで苦労はしないはずだった。それがあんなことになるとは思いもしなかった。

 

 支度を済ませ、カノンと合流すると嘆きの平原に到着、高台から見渡せば直ぐに徘徊中のヴァジュラを視認。今回は二人だけとあって一緒に行動。雑魚の有無だけ確認したらいよいよヴァジュラ討伐。まずは起点を作るため背後からゆっくり近付き捕喰、バーストになるとすかさずカノンに受け渡す。これで自力でバーストになれないカノンもバーストの恩恵が得られ大幅な戦力UPとなるのだが······

 

 アリサは懸念していた。カノンのあの悪癖が出やしないかと。彼女は元々自分よりも早く入隊した先輩に辺り、神機との適合率も世界中の神機使いの中でも屈指の高さを誇るほど相性が良いのだ。ここまで見ればいいことずくめのようにも見えるが彼女には大きな欠点があり、それが味方に大きく影響を及ぼすほど。それがなんなのかと言うと、味方への誤射。誤射は銃を扱う神機使いなら誰もが通る登竜門であるがカノンの誤射はそんな生易しいものではなく、かなり恐ろしい。

 

 彼女が扱うのはブラストというオラクル消費は一番激しいがトップクラスの高火力を叩き出せる便利なもの。極東でブラストを扱うのはカノンを除けばユージのみで、そのユージは最近覚えた奇妙な近接攻撃のせいかほとんど銃を使うことがない。となると実質的にブラスト使いはカノンただ一人だけ。

 だが、それも誤射が多ければデメリットでしかない。しかも彼女は戦闘になると性格が豹変する二重人格で、その性格が誤射に拍車をかけ何時しか「誤射姫」とあだ名がついてしまった。

 

 

「きゃあああああああ」

 

「謝線上に入るなって、私言わなかったけ?」

 

 なるべく誤射されないよう彼女の前に立たないように心掛けては居たが、ヴァジュラにも警戒をしなければならず誤射を喰らい前に飛ばされる。そしてその飛ばされた位置が最悪でヴァジュラの目の前で盾を展開する暇もなく足で勢いよく弾き飛ばされると地面ではなく、崖の下に飛ばされていった。

 

「あ、アリサさん!!!よくも···よくも···アリサさんを。その体肉片にしてあげるわ!」

 

 元はと言えばカノンの誤射が発端なのだがヴァジュラに激昂すると誤射の心配がなくなった彼女の独壇場で最早ヴァジュラは身動きすらとれずに沈んだ。

 怒りのヴァジュラ討伐後、アリサが転落したと思われる崖の下に向かって大きな声で呼び掛けるも返事がなく、かといって探しにいくのも難しいと判断するとヒバリに無線で応援を要請、応援が駆けつけるまでひたすら呼び掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサがミッション中に崖から転落したと無線が入りアナグラは騒然としていた。所がリンドウの捜索や各自に課せられた任務の遂行でアナグラには誰も行ける人間が居なかった。そしてそこに更なる情報が入る。

 

《緊急事態です。付近に多数のアラガミの反応があり、30分後にカノンさんの所に到着予定です。カノンさんは直ぐにその場から退散してください!》

 

「え、そんな。まだアリサさんが居るんですよ?」

 

《ですが、今は一刻を争います。まずはご自身の身の安全を確保してください。》

 

「わ、分かりました。」

 

 アリサを何とか助けたい気もあるがヒバリの言うように自分の命を守ることも大事であった。となればここは従うしかなく、アリサが無事で居てくれることを信じてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃フェデリコとアネットの実地訓練に同行していたユージは早々と任務を終えてアナグラに戻っていた。

 

「先輩、今日はありがとうございました。」

 

「早く先輩の背中に追い付けるよう頑張ります!」

 

「頑張るのは良いけど、休んで体のケアを怠るなよ?」

 

「は、はい!」

 

「あの~、アナグラが何だか騒がしいですけど何かあったんですか?」

 

「そう言えばそうだな。でも今日は特に何も無かったはずだけど。」

 

 後輩と訓練の反省会をしながらロビーに入ると中は慌ただしい雰囲気でピリピリと張り詰めていた。一旦、フェデリコ達と別れヒバリの元に帰還の報告も兼ねて聞くとユージの表情が変わる。

 

「新人の実地訓練から帰ってきたけど、なんでこんなに騒がしいの?」

 

「ユージさん、良かったです。実は先程カノンさんからの無線でミッション中に同行していたアリサさんがアラガミの攻撃を受けた際に崖から転落したそうなんです。それで急いで救援のヘリを飛ばそうとしたら今度は周囲に複数のアラガミ反応があってあと30分以内にカノンさんの所に到着予定でヘリが飛ばせないんです。」

 

「何だって?で、現場に一番近い部隊は居るの?」

 

「一番近いのはコウタさん達ですが、まだ交戦中です。」

 

「分かった。俺が行く。今から30分なら車で飛ばせば何とか間に合うかもしれない。」

 

「お、お願いします!」

 

 ヘリが使えないと知ると駐車場に向かいジープに飛び乗り、乱暴にエンジンを入れるとアクセル全開で出発。無線でヒバリと連絡を取り合いながらアラガミの現在地を確かめつつ、携帯でアリサに連絡を入れる。

 

「ダメだ、アリサと連絡が取れねえ!こうなったらコウタたちに連絡するしかねえな。」

 

 アリサと連絡が取れないならと今度は交戦中と聞いていたコウタに電話をかけるとコウタは出た。

 

「お、コウタか?今、アリサが崖から転落したとカノンから無線があって現場に向かっているところだが、そっちはもう終わったか?」

 

《今終わったところだけど、アリサは大丈夫なのか?》

 

「バーカ、無事に決まってるだろ!でもこっちに複数のアラガミ反応があってもう少ししたら来るみたいであんまり時間がない。そこでコウタは一旦、こっちに来てカノンと一緒にアナグラに戻ってくれ!」

 

《それは良いけど、お前はどうするんだよ?》

 

「俺は俺でそのくらいどうにかする。じゃあ頼んだぞ!」

 

《あいつに頼まれたら断る訳にいかねえよな!よし、それじゃあみんなは俺はカノンさんの救出に向かうから先に帰っといて》

 

 ユージにカノンの救出を頼まれコウタは急いで向かい、一方のユージも途中近道と山道を猛スピードで登ると更にアクセルを踏み一気に山を下ると小さな登り道が途中で途切れ、そこをジャンプ台に使って嘆きの平原に五分足らずで到着。アリサが落ちたであろう崖を見下ろすと下はかなり深いのか昼間にも関わらず真っ暗で何も見えない。もうすぐでアラガミが来るとあればグズグズなどしてられない。

 

「だったら一気に滑り落ちるしかねえな。待ってろ、アリサ。」

 

 

 多少の危険など何の躊躇いもなく一気に崖を滑るように降下、暗いところはライトを点けて辺りを照らすが見つからない。大声で呼ぶことも出来たが、もしコンゴウがここに向かってるアラガミの中に居れば音を聞き付けてやってくる可能性があり、そうなればアリサが危険だと判断してなるべく音を立てないよう注意して捜索を続けること10分位が経ち、ようやく地面に横たわるアリサを発見。

 

「おい、アリサ大丈夫か?」

 

「ゆ、ユージ···来てくれたんですね。」

 

「ああ、ヒバリさんから聞いて急いで来たんだ。崖から落ちたって聞いたときはマジ焦ったわ。でも、怪我してるから一応応急措置だけやるから帰ったらヤエさんにちゃんと手当て受けて貰うよ。」

 

 普通に会話できるほどには大丈夫なようだが、所々擦り傷や草木で切ったであろう傷に土がついているため傷を水で洗い流し軽く消毒と絆創膏を貼って簡単であるが処置を施した。

 

「よし、こんなもんか。あとは帰るだけなんだが、どうやって帰ろうか。ここを登れば車に乗って行けるけど、もうあいつらが来る頃だし。」

 

「なんかあるんですか?」

 

「アラガミの群れがここに向かっててもうそろそろしたらここはアラガミの群れで囲まれる。」

 

「そ、そんな。私のせいですね。私のせいでユージまで巻き込んでしまって。」

 

「前に言っただろ?ヤバくなったら俺が何とかするって。それより背負って行くからしっかり掴まってるんだぞ!」

 

「はい。」

 

 アリサの弱音にもユージは至って冷静で崖を登るのが無理だと分かるとアリサを背負い、自分に掴まるよう促すとそのまま森の中に入っていった。

 

 森の中を歩く傍らで携帯で方角を確認、アラガミが来ない北東に向かった。この頃には嘆きの平原には無数のアラガミが現れていた。オウガテイルやザイゴードといった小型を筆頭にコンゴウ種やグボログボロ種などの中型やヴァジュラのような大型アラガミまで集結していた。だが、その中で一際存在感を示すのが二体のハンニバルでまるで何かを探し求めてるかのように群れを統率、あろうことかユージとアリサが歩いた方角を向いて崖から次から次へと飛び降り二人の近くに迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味いな、このままでは追い付かれるから走るぞ!」

 

 アラガミが迫っていることにいち早く気づいたユージはこのままでは追い付かれると判断し全力で走った。柔らかい地面に足を取られたり、枝が足首に刺さったりしてもお構いなしとばかりに一気に森を縦断、森を抜け広大な草原に出た所で二人の行く手を阻むようにピターとマータが前に立ちはだかる。そして背後からは続々とアラガミの群れが集結、最早逃げ場がなかった。

 

「チッ、そこまでして俺らを殺したいか。だったら全員相手してやる」

 

「ユージ、どうするんですか?こんなに数が多いといくらユージでも危険です!」

 

「だろうな。でも、俺にはアリサが付いている。アリサと一緒なら絶対やれるって思ってる。」

 

「え?」

 

「だから、俺に掴まったままで力を分けて欲しい。こいつら纏めて墓場に送ってやる!」

 

「ユージ···はい。絶対に離しませんから。アラガミを倒してください!」

 

「了解!」

 

 逃げれないなら戦うまでと腹を括り、今を生き抜くためアラガミの群れに突っ込んでいく。

 一人でこちらに突っ込んでくるユージにアラガミは一斉に攻撃を仕掛け、一気に仕留めようと攻撃の手を緩めず続ける。だが、そんなことは読んでましたと言わんばかりに目の前のヴァジュラの体に神機を突き刺すとヴァジュラの体を盾がわりに攻撃を防ぎ、アラガミ目掛けて投げ捨てる。

 ボウリングのピンのように薙ぎ倒されるアラガミは密度が高すぎるが故に足場が狭く起き上がろうにも他のアラガミが邪魔で動けない。そんなアラガミにユージは一切の迷いなしに切り刻み死体の数が増えるのとは裏腹にあんなに居たアラガミが一気に減り始めていた。

 

「でもこれじゃキリないな。やっぱり指揮を執っている二体のハンニバルを倒さないと好転しなさそうだ。」

 

「だったら私も戦います!」

 

「そんな怪我で何言ってるんだよ。その怪我ではまともに歩くことすらままならないし、ましてや走って戦うなんて無理だ。」

 

「で、でも···」

 

「いいからしっかり俺に掴まっててくれ。」

 

 出来ることなら一緒に戦いたいと言ってはみたがユージに突っぱねられたことと自分の怪我の状態を考えれば妥当ともいえる。しかし、彼の側に居ることが自分が今できる唯一の方法なら決して離さずに力になりたいとシャツを掴む手に自然と力がこもる。

 それが伝わったのかユージは渇いた唇を舌で湿らせ覚悟を決めるとハンニバルに狙いを定めて突撃。行く手を阻むアラガミの命を一撃で塵にし、いよいよ二体のハンニバルと対峙。ユージと二体のハンニバルは互いに火花を散らし、その一歩も退かぬ空気に圧倒された他のアラガミは対抗できないと悟ったのか逃げるようにその場を離れていき気がつくと残ったのは二体のハンニバルとユージとアリサのみとなった。

 

「なんだお前らの部下はビビって逃げてったぞ。とんだ腰抜け野郎を部下に持ったな。でも、元々はお前らが売ってきたケンカだからな。売られたケンカは買わせて貰う。二体同時に掛かってこい!」

 

 挑発するとハンニバルは簡単に乗ってきた。ユージが言った通りに二体が協力して襲いかかる。だが、簡単に避けられると足を斬られよろめき後ろに倒れ、追撃とばかりに腹に神機を突き刺されまずは一体目が絶命。

 一体倒すと同時にコアを回収。だが、ハンニバルのコア自動修復という性質上暫くすれば復活してまた二体を相手にしなくてはいけなくなり面倒で、あまり時間を掛けるわけにはいかなかった。

 

 残った一体に接近すると腹を横一閃で斬り、そこに神機を突き刺すと神機に力を入れ空高くハンニバルを投げ飛ばす。そして直ぐ様落下地点まで走るとハンニバルごと宙に浮いている神機の柄を渾身の力で蹴り更に奥へと神機を押し込んだ。

 すると蹴られた衝撃で神機が深く体内を抉ったまま地面に落下、その衝撃で遂に突き刺していた神機が背中まで貫通し断末魔を挙げながら絶命とともにこの戦いに終止符がうたれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったな。」

 

「終わりましたね。あんなに居たのにあっという間に片付けるなんて凄すぎます。ユージには敵いませんね。」

 

「それは誉めすぎだよ。アリサが側に居てくれたからいつも以上の力が出せたんだよ。ありがとう。」

 

「私もユージが来てくれて嬉しいです。崖から落ちたとき絶対来てくれるって信じてました。本当にありがとうございます!」

 

「じゃあ、帰るか。でも、その前に···」

 

「へっ?キャアッ!」

 

「やっぱり背負うよりもこっちの方が嬉しいだろ?」

 

 アラガミとの戦いを終え、嘆きの平原まで戻ってきた二人はさっきまでの激闘から来る疲れで休憩とばかりに座り込んでいた。そして帰ろうかとユージが言うと急にアリサは宙に浮かぶ感覚があり、一瞬何事かと思ったが直ぐにそれが何か分かると表情は嬉しさに満ちていた。

 さっきまでおんぶで運んでいたが今度はお姫様抱っこで止めていたジープの後部座席に寝かせると軽くキスをして運転席に乗り込み、歌を口ずさみながら車を走らせた。何の歌かは分からなくともそれが彼の今の気持ちを代弁しているかのようにアリサは感じとり、この歌が一番のお気に入りとなった。




 


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第25話 プロポーズ

まだリンドウ戻ってないけど、書いちゃいますw


 アリサを無事に救出したユージがアナグラに姿を見せるとコウタ達が出迎えていた。やはり心配だったのだろう。特にカノンは目に涙を浮かべて無事だったことを喜んでいた。

 ただ、ユージがアリサをお姫抱っこのままで入ってきていることは誰も言及することなく医務室に連れていくものの肝心のヤエの姿が見えない。どうしたものかと考えるも怪我の治療だけなら自分がやればいいと頷く。

 

「ヤエさんにやってもらおうと思ったけど、居ないみたいだから俺がやるよ。」

 

「出来るんですか?」

 

「俺に対してその質問は野暮ってもんだよ。俺はこれでも昔は医者を目指していたから医師免許はないけど、このくらいの手当てなら出来るよ。」

 

「そうだったんですか?初めて聞きました。」

 

「あれ?この話してなかった?」

 

「してませんよ。でも、出来れば話して貰えませんか?」

 

「まあ、減るもんじゃないしいいよ。そうだね、あれは俺がまだ8歳くらいの時だったかな···」

 

 偶然でた話題にユージは治療をしながら昔の話を赤裸々に語り始め、それをアリサは静かに聞いていた。

 

 ユージの両親は生前小さな診療所を開設しており、そこで院長の父親と看護士の母親の二人が仲良く運営していた。小さいながらも腕は確かで近所の住民の憩いの場所としても利用されるほど繁盛していた。そこに長男として生まれたユージは幼い頃から両親の背中を見て育ち、すくすくと成長。まだその頃は医者を目指すという夢はなかったが、8歳の頃のある出来事で転機は訪れる。

 

「友達と木登りをして遊んでいたら友達が木から落ちて怪我しちゃって、その時何となく覚えていた知識で応急措置したんだ。そのあと診療所で親父の治療で無事に治ったんだけど、治ったあとにお礼を言われて医者って良いなと思ったんだ。それから医者を目指そうと決めたんだ。」

 

「だけど、その二年後にアラガミの群れが突然診療所を襲撃して入院していた患者数名と両親は亡くなってね。その時に医者ではなく、神機使いを目指そうと志願したんだ。」

 

「そうだったんですね。」

 

「今ではこうして平気で居られるけどたまに思うときがある。本当はまだどこかで生きてて俺たちのことを見守ってくれてるんじゃないか?って。

 そんなはずないのにさ···」

 

「···ユージ?」

 

 少し強がっていたのかそこまで言うとユージの目から何か光るものがアリサの膝に落ち、それが何かスイッチが入ったかのように止めどなく流れ落ち瞬く間に膝とその回りを濡らした。初めてみる彼の涙に彼もまた苦しんでいたのだと知り、彼の気持ちに寄り添うように優しく抱いてみた。

  

「·······アリサ、ゴメン。思い出したら涙が止まらなくなった。」

 

「大丈夫です。私にユージがしてくれたように今度は私がユージにする番です。今は思いっきり泣いてください。ずっと側に居ますから。」

 

「アリサ、ありがとう。」

 

 アリサに身を委ねると暫くこれまで溜めていた感情を全て吐き出すかのように肩を震わせ泣いた。自分の体を包むアリサの温もりが幼い頃に母親の胸の中で泣いた時と同じような温もりに感じ、やっぱりアリサが好きで良かったと再確認。であればこの気持ちを無駄にせず、ただの恋人の関係で終わらせてはいけないと今の気持ちを伝えるべく涙を拭うとアリサの顔を見つめる。

 

 先程まで泣いていたユージに突然顔を見られキョトンとしたが、彼の真剣な眼差しで彼がこれから何を言うのか悟った。

 

「あのさ、これから言うことはとても大事なことだからよく聞いて欲しい。今、アリサに身を委ねて泣いてたら悲しいのと同時に何か温かい気持ちになって、昔母さんが俺にしてくれた時と同じでとても心地よかった。

 ただ、それを心地いままで置いとかずに正直に今の気持ちを伝えようと思うけど、いい?」

 

「はい。」

 

「良かった。俺はこれからも色んなことで心配を掛けると思うけど、それでも一緒に居てくれる?」

 

「はい、一緒に居ます。」

 

「また俺が泣いたとき今してくれたみたいに居てくれる?」

 

「はい。」

 

「俺が描いている夢を一緒に見てくれる?」

 

「はい、見ます。」

 

「ありがとう。では、少しの間目を瞑ってください。」

 

「は、はい。」

 

 ユージの言うとおりに目を閉じると手に何かが置かれるのを感じた。

 

「では、目を開けてください。」 

 

 そういわれゆっくりと目を開けると小さいながらもしっかりとした箱があり、蓋を開けるとそこには指輪が鎮座していて、指輪に付いているダイヤモンドが光を放ち存在感を示す。きっと告白だと思っていたが、それを遥かに上回る出来事に驚くと同時に嬉しさが込み上げ、涙が溢れそうになる。

 

「こ、これは?」

 

「実はアリサに気づかれないようにこっそり準備してたんだよ。で、先週出来上がったからいつか渡そうと思ってずっとその機会を窺ってたんだよね。

 ビックリさせたくてずっと黙ってたんだ。ゴメン!」

 

「そんな······、嬉しいに決まってるじゃないですか。付けてもいいですか?」

 

「うん。一応、左の薬指に合うようにはしてあるよ。」

 

「あ、ホントですね!とっても綺麗です。こんなに素敵な指輪を貰えてとても嬉しいです。私の一生の宝物にします。ありがとうございます!」 

 

「喜んで貰えて何よりだよ。ホラ、俺も左の薬指に嵌まったよ。これで俺たちはずっと一緒だ。それで改めて言うよ。

 アリサ、俺と結婚してください!!」

 

「はい、勿論です!不束ものですが、これからもよろしくお願いします。」

 

「俺の方こそ、よろしくお願いします。」

 

 偽物ではなく正真正銘の結婚指輪を嵌めた所で改めてプロポーズをするとアリサは快く受け入れ、挨拶と共に誓いの口付けをかわす。本来であれば直ぐに結婚式を挙げたい所だが、神機使い同士の結婚は色々手順を踏まないといけないのと未だに行方の分からないリンドウが居る段階でするのは抵抗がある。それもあって今は二人きりで愛を確かめあうだけに止め、リンドウが無事に戻ってきて落ち着いてから盛大にやろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪我の治療からの流れで婚姻まで辿り着いた二人は指輪を嵌めた以上は隠しとおすのは良くないと話し合った結果、みんなに話すことに。その第一段階で上司であるサカキとツバキに報告をしようとラボを訪れる。

 

「あの~サカキ博士、お話があるんですけどいいですか?」

 

「なんだい?アリサ君も居るってことは大体の予想は付くよ。」

 

「この度、俺とアリサは結婚をします。」

 

「やはりそうかい。君たちの関係は以前から知っていたし、二人で決めたことなら異論はないよ。ツバキ君はどうかい?」

 

「私もお前達が話し合って決めたなら異論はない。だが、これからは互いの気持ちに寄り添って生きていくことになる。ユージ、アリサを悲しませないようにしっかり支えてやれ!いいな。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「ところで結婚式はどうするつもりだい?」

 

「その事なんですが、リンドウさんが見つかってない今の段階で自分達だけやるのは違うと思うんです。結婚式はリンドウさんが無事に戻ってきてからやろうと思います。わがままで申し訳ないですが、これが二人で話し合った結論です。」

 

「いい歳した私の愚弟のためにそこまで気を使わなくても良いんだがな。だが、お前達がそこまでリンドウのことを考えてくれて姉として礼を言おう。ありがとう!」

 

「いいえ、当然です。リンドウさんは第一部隊の大事な仲間ですから、必ず連れて帰ります!」

 

「頼んだぞ!」

 

「はい、ではこれで失礼します。」 

 

 サカキとツバキに報告を済ませるとユージの部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると既に夕方になっていた。色々あってお昼を食べ損ねた二人は空腹に悩まされながらも今からお昼にするのも夜を考えると躊躇する。

 

「完全に食いそびれた。」

 

「お腹すきました。」

 

「でも、もう夕方だからあんまり食べられないし、軽くで良いなら何か作るよ。」

 

「それなら私が作ります。いつもユージにばかり任せてますのでたまには私がやります。」

 

「それは良いけど、大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ!見ててください。」

 

 そう言って張り切るアリサがキッチンに立つのを不思議そうに見ながらも初めて食べるアリサの手料理に大きな期待を寄せて待ったユージだったが、アリサのとんでもない腕前に寒気を覚え結局ユージが立つことになり、作りながらこう思った。

 

(まずは簡単な料理から教えないとだな···)

 



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第26話 決断のとき

 結婚することを決めた次の日、いつものように任務を受注すべくヒバリの元に行く。

 

「おはよう、ヒバリさん。」

 

「ユージさん、おはようございます。っと、それは?」

 

「あ、これ?昨日、アリサにプロポーズしたんだよ。」

 

 挨拶をかわした所でヒバリは彼の左の薬指に輝く指輪に視線が行き、もしやと思い聞いてみると予想通りの回答に女性として羨ましいと思った。

 

「遂にされたんですね。ちなみにどうやって準備されたんですか?」

 

「前に外部居住区に遊びに行ったときに知り合った人が結婚指輪を作る名人で、その人にお願いしたんだよ。どうせ贈るならちゃんとした物が良いと思って、材料となるダイヤモンドを任務の合間に少しずつ集めてさ。で、先週出来上がったからいつか渡そうとずっと持ち歩いてた。」

 

「それが昨日だったんですね。ですけど、私に言って良いんですか?」

 

「だってヒバリさんこないだ俺とアリサがキスしてるところ見てたじゃん。それに女性にとって結婚指輪ってのは憧れだしね。いつかタツミさんから貰えると良いね。」

 

「それは否定しませんけど、どうしてそこでタツミさんが出てくるんですか?」

 

「あれ?付き合ってるんじゃないの?」

 

「それどこ情報ですか?」

 

「誰から聞いた訳じゃないんだけど、何となくそう思っただけなんだけど、違うの?それともあっちからの一方的なもの?」

 

「違うと言えば嘘になりますけど、最近任務とリンドウさんの捜索とで忙しいのか全然話す機会がないんです。勿論、お仕事ですし仕方ないことなんですけど、女性としてはやっぱり寂しいですね。」

 

「なるほど。男の俺でもその気持ち分かるよ。俺も色々無茶して安静してた時とかはアリサが居ない昼間とかは置いていかれてるそんな気持ちだったから。きっと、アリサもそう感じた時があったんだろうなとは口には言わないけど、思ってる。」

 

「流石ですね。アリサさんが好きになる理由がわかる気がします。ところで挙式の予定はないんですか?」

 

「ああ、それは今は考えられないかな。」

 

「え、それはまたどうしてですか?」

 

「確かに挙式を挙げればみんな祝福はしてくれると思うし、こっちもそれは嬉しい。だけど、リンドウさんが未だに戻らない中で自分達だけ幸せになろうなんてサクヤさんや他の人の気持ちを思うととてもやろうとはならない。あの人を無事に帰還させる使命が俺にはあるからそれが果たせるまで挙式はお預けだ。」

 

「そうですよね。リンドウさんが無事に帰還出来ますように私からもお願いします。」

 

「了解しました。さて、ミッションなんだけど······」

 

 ユージから結婚の話と共にタツミとの関係やリンドウ帰還の使命など話が弾み、相手のことを第一に考える彼はスゴいとヒバリは改めて思う。口で言うより行動で示せ!とよく言われるが、それはとても難しい。途中で挫折してしまう人間が居るなかで挫けずにやって来たんだとユージの言葉と行動力、背中がそれを物語っていた。そして彼ならきっとリンドウを連れて帰ってくるとヒバリは大きな期待と希望を寄せ、任務に送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 単独で任務に赴いたユージは討伐の対象だったスサノオをあっさりと倒し、コアを回収するとヘリを呼ばず休憩とばかりに寝転ぶ。たまにこうすることで自分の心に直接語りかけてるようで落ち着くと単独で出たときにやっている。

 今思い浮かぶのはレンとのやり取りの数々。あたかもその場にいたかのような言動と自分以外にレンの存在に気づいてる人間が居ないこと、そしてアラガミ化したリンドウを殺すことが出来るか?と問いかけてきた事など他にも一杯あるが、中でもその三つが気になっていた。

 

 前者二つに関しては大体の答えが出ていた。後は本人に直接問いただせばいい。問題は最後の方だ。これは自分が答えを導き出さなければならず、これまでずっと考えてきたが正直まだ迷っていた。レンやヒバリなど他の人間には絶対連れて帰るなどと大口を叩いたが万が一のことは常に考えなくてはならない。しかしそれがユージを苦しめていた。もしもの事を考えたとき果たして自分に覚悟が出来るのか?と自問自答する毎日の中で自信を失いつつあった。

 一度アラガミ化が進行した人間が人間としての自我を取り戻した前例が何もない中で自分が出来るとは今思うとなんて無責任にあんなことを言ったのかと自分を責めたくなる。

 

 かれこれ30分は経っただろうか、そろそろ帰るかと無線に手を伸ばそうとしたとき、無線が鳴り出るとヒバリからかなり緊迫した声が聞こえる。

 

《ユージさん、緊急事態です。コンゴウと交戦中のタツミさんたちの元に新種のアラガミがかなりの速さで向かっています。直ぐに応援をお願いします!》

 

「分かった。直ぐ行く。」

 

 新種のアラガミとあればこうしちゃ居られないと起き上がると直ぐにタツミの元へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃タツミはカレル、シュンの三人で三体のコンゴウと交戦中。特に問題なく進んでいたが突如乱入してきたのはハンニバル。だが、それは最近よく出没する白いタイプではなく、全身が漆黒に染まったタイプでそのハンニバルは物凄い速さから繰り出される強烈なパンチでコンゴウを次から次へと殴り飛ばし、二体を一撃で仕留め、もう一体も二回殴って絶命。これには流石のタツミたちも焦る。一応、応援は要請したが来るまでは三人で何とかしなければならない。

 

「全員無理するな。ここは撤退するぞ!」

 

「お、おう。」

 

「ちっ、報酬が下がるが仕方ねえか。って、うん?」

 

 誰よりも金にうるさいカレルが舌打ちをしてると背後から猛スピードでやってくるユージに気が付く。彼の存在にタツミとシュンも気がつき目を向けるとユージは迷うことなく黒いハンニバルに近づく。

 黒いハンニバルもユージに気づいたのか睨むと拳を振りかざし殴りかかる。それを読んだのかユージは顔色一つ変えずに盾を展開、拳と盾がぶつかると感応現象が発生。

 映し出されたのは前回見たときから時間がたちアラガミ化が進んだなれの果てとなったリンドウ。そしてそのリンドウこそ目の前にいる黒いハンニバルであり、考えたくもなかった最悪な展開だった。

 

 盾で塞がれると何かを感じたのか黒いハンニバルは何かに引寄せられるかのようにその場から退散。タツミ達が驚くなかでユージはただ一人ハンニバルが退散した方をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タツミたちと共にヘリでアナグラに戻るとヒバリからお礼の言葉が送られたが生憎と耳に入らなかった。部屋に入るとベットにダイブ、目を閉じていよいよ決断を下すときが来たのだと悟ると同時に怖くなってきた。失踪してからずっと人知れず彼の足跡を辿って途中までは生きていることを確信し、捜査を続けてきた。だが、今は入院やら任務を理由に捜査を他人に任せ自分はやらなくなっていた。あのときもっと捜査をいれば、等挙げればキリがないほどに自分が悪いんだとさっきのように責めてしまう自分が脳内を全て支配しようとしていた。

 

 少しだけ冷静になり黒いハンニバルがリンドウだと分かった今、リンドウが向かった先はエイジス島しかないと思っていた。と言うのも、リンドウはエイジス計画の闇を調べるために本部からの命令で動いて居たため、ヨハネスに嵌められそのヨハネスも既に故人となってしまったがその事をリンドウが知るはずもなくもしもまだ意志があるならきっとエイジスに向かうはずだと結論に至った。

 その最中にもサカキとツバキからラボに来いとメールが来るがどうせ言わなくてもあの二人なら自分の戦闘ログを辿れば分かるはずと無視しようと決めていると不意に部屋を蛍光灯の明かりが照らし、アリサが不思議そうに見たいた。

 

「どうしたんですか?電気も付けずに。」

 

「ああ、悪い。ちょっと任務続きで疲れちゃってウトウトしてる所だったんだ。」

 

「そうだったんですね。じゃあ、またあとで来ますから、今はしっかり寝てください。」

 

「あれ?何か用だった?」

 

「いえ、特に急ぎでもないので後で大丈夫です。では、失礼します。」

 

 本当ならアリサに正直に打ち明けるべきなのだろうが今のユージにそんな勇気はなかった。というか言えるはずがなかった。結局適当な嘘で誤魔化し、半ば追い出してしまった。アリサに申し訳ないと心の中で謝りつつも決心を固め、夜中に人生最大のミッションを果たすため一旦、眠ることに。

 

 

 そして全員が寝静まった深夜、目を覚ましたユージは静かに部屋のドアを開け足跡を殺し廊下を出るとロビーからエレベーターに乗ると神機保管庫に向かい慣れた手付きでロックを解除、自分の神機を手に取ると迷いが無くなり吹っ切れた様子の自分の笑みが神機をに写る。それを見て頷くと小さく呟く。

 

「ゴメンな、アリサ。何も相談できなくて。じゃあ行ってくるよ!」

 

 

 誰にも見つからずにアナグラから抜け出し、エイジスを目指し長い距離をただひたすら走る。途中、アラガミに遭遇するが今のユージの相手でない。捕喰のダメージだけで命を散らし、辺り一面にアラガミの死体だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、いつものようにアリサがユージの部屋をノックするが返事がない。昨日の事もあり、まだ寝ているのかと思いそれなら起こさずにいようとロビーに向かった。

 ロビーに入ると既にコウタとソーマ、サクヤが待っていた。

 

「おはようございます。皆さん、早いですね。」

 

「あら、アリサおはよう!その指輪どうしたのかしら?」

 

「あ、これはユージから貰ったんです。」

 

「ユージから?マジかよ!」

 

「ふん、そんなのは今までのこいつらを見てれば予想できる。」

 

「ソーマ、その言い方は何なんですか?」

 

「何でもない。それよりあいつはまだか?」

 

「さっきノックしたんですけど返事がなかったのでまだ寝てると思います。」

 

「なんだ寝坊か?」

 

「最近毎日のように任務がありましたからね。それに加えて新人の実地訓練もやってましたので疲れてるみたいです。」

 

「それはしょうがないか。」

 

 そうは言ったもののアリサは明らかに変だと思い始める。確かに昨日は疲れたと言っていたが、それにしては様子がおかしい。もしやと思い、携帯で電話を掛けてみる。

 

「おかしいですね。電源が入ってないか、圏外だって来てますけどここで圏外はあり得ません。だとしたら電源を切っている?」

 

「どういうことだ?疲れて寝るだけなら電源は切らないんじゃないか?最悪マナーモードで良いわけだしさ。」

 

「アリサ、もう一度彼の部屋を訪ねましょ!」

 

 圏外になることがほぼない極東支部において考えられるのは電源を切っている場合のみ。あるいは電池切れの場合もあるが彼がそこまでズボラな性格でないことは確かなのでここでは除外される。

 サクヤの提案で今度は全員で部屋をノックしてみるが、返事がない。ならばと副隊長権限で強制的に入る。

 

「おい、どこにも居ねえぞ!」

 

「昨日までは確かに居たよな?」

 

「はい。実際に夕方位までは見ました。まさか!」

 

「そのまさかよ。恐らく夜中に抜け出したと思うわ。」

 

「なんで抜け出す必要があるんだよ。神機使いの仕事が嫌になったとか?」

 

「それはないはずよ。だったらとっくに辞めてるわ。きっと理由があるはず。まずはツバキ教官に報告しましょ。」

 

 こういうときサクヤの冷静な指示はユージが連絡もなしに居なくなりどことなく悲しみが襲ってきたアリサの背中を押していた。

 

 

 ラボに入ると直ぐにツバキに報告。

 

「分かった。よく知らせてくれたな。我々もあいつと連絡が取れなくてな。丁度お前たちを呼ぼうとしていたところだ。」

 

「それではツバキさんでもユージがどこに居るのか分からないんですか?」

 

「すまない。私としても一刻も早くあいつに確認しておきたいことがあるんだが、こうも連絡が取れないと何も出来ないでいる。腕輪のバイタルポイントもここの表示のまま動いてないところを見るとよっぽど私たちに気づかれたくないということだな。」

 

「そうですか。突然すみませんでした。」

 

 頼みのツバキでさえ行方を知らないと言われ、ショックを隠せないアリサは力なくその場を離れた。どうして何も言ってくれないのか?一昨日は指輪を貰い更にはプロポーズまでしてくれた。なのにどうして?そんな感情ばかりが頭を支配して泣くにも泣けないやり場のない気持ち···。

 その時、緊急のサイレンがけたたましく鳴り響きアナグラは騒がしくなる。ユージのことは気になるがまずはアラガミの討伐と気持ちを切り替えロビーに向かう。

 

 

 

 

 

 

「エイジスにて大きなアラガミの反応があります。恐らく昨日タツミさん達が遭遇した黒いハンニバルです。」

 

「黒いハンニバルってあいつか。」 

 

「え、待ってください。黒いハンニバルと第一部隊隊長が単独で交戦中!?」

 

「どういうこと?」

 

「さあ?」

 

「あの大バカ野郎!急いで行くぞ!」

 

 ロビーでヒバリの口からユージが黒いハンニバルと単独で交戦中と聞き、アリサは言葉を失った。単なる交戦であれば態々こんなことはしない。

 

(もしかして、黒いハンニバルって···)

 

 少しアリサの頭の中で黒いハンニバルはリンドウなのではないか?と思い始める。それならここまでするのも頷ける。黒いハンニバルの正体がアラガミ化したリンドウだとみんなが知ればどうなるか、はアリサでも分かっていた。そしてその彼に神機を向けることが出来るとも思えない。だから誰にも知らせずにこっそり抜け出して討伐に向かったのではないか?その考えが肯定だと言わんばかりにツバキが呼び止める。

 

「恐らくあの黒いハンニバルはアラガミ化したリンドウだ。あいつはそれが分かったからこそ一人で行ったんだ。」

 

「ど、どうして?」

 

「サクヤ、お前はアラガミ化したリンドウに銃を向けることが出来るか?」

 

「そ、それは···」

 

「お前たちもだ。その覚悟が出来るのか?ならば今ここで覚悟しろ!」

 

 ツバキの言葉にその場に居る全員が沈黙。その後ツバキが沈黙を破り、命令を下す。

 

「これより出撃命令を下す。相手は黒いハンニバル。可及的速やかにこれを排除しろ!尚、通常の対ハンニバル同様コアを回収したら直ぐに離脱しろ!それからサクヤ、お前は残れ!これ以上同じ悲しみを背負う必要はない。これは命令だ!」

 

「いいえ、命令には従えません。私も行かせてください。リンドウの愛する人の最期を見届ける義務があります。」

 

「サクヤさんの言う通りです。ユージが理由もなしにこんなことをするとは思えません。それに、勝手にこんなことした説教をしないといけません。」

 

「俺も···覚悟できました。まだ頭では納得出来てないけど。」

 

「ふん、俺たちはいつもあいつのわがままはイヤと言うほど見てきた。だったら今回も大人しく付き合うだけだ。」

 

「良いだろう。では、直ぐに出撃しろ。そしてあそこで喧嘩してる二人にこう伝えろ!二人とも無事に帰還したときのみ罰を免除するとな。」

 

「了解!」

 

 ツバキの激で四人は覚悟を胸に一斉にエイジスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃一人エイジスに着いたユージは待ち構えていた黒いハンニバルとの戦いを前に目を閉じる。

 

(いよいよか。前例がないだと?上等じゃねえか。その前例覆させて貰うぞ。)

 

 静かに目を開けると自分の神機を見つめる。

 

「俺もいつか会えるかな?いつも心と体を共有している相棒に」

 

 それだけ呟くと静かに臨戦態勢に入り、長い呪縛との戦いの火蓋が切って落とされた。



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第27話 黒いハンニバル

黒いハンニバルとのタイマンです。バーストではレンとの共闘ですが、ここではレンには終わるまで待機して貰います。


「はああああ!」

 

 敵に接近しながら神機を握る手に力を込め、腕を斬りつける。そこそこの手応えにまずはこちらのペースに敵を持っていくことに成功。そのまま捕喰を敢行、バースト状態になりステータスが上昇しここからが本番とばかりに再度斬りかかる。しかし相手も負けじと強力なパンチで応酬。軽く横に移動してそれをかわすと床にぶつかった腕を足場に一気に掛け上がる。そして頭を踏んで上にジャンプ。宙に浮いたまま真下に向けてインパルスエッジで弾丸の雨を降らしハンニバルは後ろに大きく後退、目に弾丸が入ったのか視界を奪われながらの攻撃はユージとは別の場所に向かっていてたまにこちらに来ても手探りでは相手にならない。

 

 相手がこちらを視認できない以上最早ユージにとっては退屈しのぎの餌でしかなく、右腕の籠手を壊され、尻尾も切り落とされその度に悲鳴を挙げるがユージがどこから攻撃してくるかが分からずただただユージの攻撃を甘んじて受けるしかなかった。

 

「悪いな、リンドウさん。どうやら今のあんたと俺とじゃ力に差がありすぎたみてえだ。出来ればもうちょっと戦いたかったけど、あんまりゆっくりしてるとアリサ達がここに来てあんたの変わり果てた姿を見ることになってしまう。だから、この戦いはこの技で終わりにするぜ!」

 

 リンドウの耳に届いているかは分からないが構わず問いかけ、新しく覚えたあの技の構えで腹に突き刺し、ハンニバルはゆっくりと地面に倒れ新旧の隊長同士の戦いはユージの圧勝で一先ず終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサ達がエイジスに続く地下通路を走っていると奥から戦闘中と思われる激しい音が聞こえ、エイジスに辿り着く直前に大きな音と地響きで揺れ、四人が駆け付けると既に黒いハンニバルは倒され、ユージは無傷でその場に立っていた。

 

「ユージ!」

 

「スゲー、やったのか?」

 

 目の前に待ち焦がれた彼の背中を見ると声を掛けずには居られなかった。しかし、ユージはこちらを振り向こうとはせずにまだ警戒を強めていた。何故ならハンニバル種の特徴であるコアを自動で修復する能力でただ痛め付けただけでは意味がないことを知っているから。それを指し示すかのように背中の逆鱗を破壊してないにも関わらず逆鱗を破壊したときと同じように炎を纏い、あの竜巻のような攻撃の体勢に入ってこちらを睨み付けていた。これにはアリサたちも臨戦態勢になる。

 

 

「今です。」

 

「···レン!」

 

 突如名前を呼ばれ横を向くとそこにはリンドウの神機を手にしたレンが居た。今のレンが何を言っているのかは既に理解していた。

 

「今すぐこの神機で攻撃すれば大丈夫です。」

 

「··········クッ!」

 

「あなたは覚悟を決めたんじゃないんですか?リンドウに仲間を殺されたいんですか?」

 

 確かにレンが言うように覚悟をもってここに来た。しかも態々みんなに心配と迷惑を掛けると分かっていながら辛い思いをするのは自分一人だけでいいと自分自身に言い聞かせてきた。

 しかし、いざ目の前でこちらを見ているリンドウを見ると急に怖くなり、中々リンドウの神機を握る勇気が出ないで居た。

 

 

 

「お前ら、早く逃げろ!」

 

「リンドウ、リンドウなのね?」

 

「俺のことは放っといて早く立ち去れ!」

 

「ダメです。力付くでも連れて帰ります。それがあなたに私に出来る唯一の償いですから。」

 

 コウタとソーマは黙ったままだが、サクヤとアリサは涙を流しながら連れて帰ると一歩も退かない。それをユージは静かに聞いていた所にレンが再度促す。

 

「もう残された時間はないですよ!」

 

「お、俺は·······」

 

「早く逃げろ!これは命令だ!」

 

「さあ、早く!この神機で血生臭い負の連鎖を断ち切るんだ!」

 

 躊躇うユージにリンドウの怒声が響き、レンも最後の忠告とばかりに強い言葉で促す。それがユージの何かを突き動かしたのか自信ありげに笑うとレンに自分が下した決断を告げる。

 

「なあ、お前前に俺に言ったよな?アラガミ化した人間が助かる前例がなく、リンドウさんが助かる可能性は0%だって。上等じゃねえか!お前が言う前例がなんであろうが、助かる可能性がないって言われようが関係ない!俺は俺のやり方で前例も常識も覆してやる。これが俺が出した結論だ。」

 

 そう言うとレンからリンドウの神機を受け取り、神機の結合を始める。すると直ぐに神機から触手のような物が左手を突き刺し、オラクルを注入。激しい痛みに絶叫がこだましエイジスの壁や床からの反響がコーラスのように残る。

 

「早く逃げろって言ってるんだよ!聞こえねえのか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げるなあ!生きることから逃げるな!これは命令だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラクル侵入による激痛を振り払い、リンドウに初めて命令を下す。そして持てる力をフルに使い、ハンニバルに迫ると殴りかかった腕を再び足場にして掛け上がり二つの神機で無理矢理頭を割って、中心部に鎮座する青く輝くコアに右手を翳す。すると即座に場面が変わり、気付けばアナグラに立っていた。

 

「ここは?」

 

「ここはリンドウの記憶の中の一部です。」

 

「てことはやっぱり感応現象が起こったんだな?」

 

「僕はリンドウを殺せ!と言ったのにあなたは無理矢理頭を抉じ開けてコアに触れた。あなたがやることは僕の予想の遥か上を行く。」

 

「何言ってるんだよ。ホントは俺に期待していたんじゃないのか?自分の相棒を救いだしてくれると。」

 

「リンドウが僕の相棒?まさか。その根拠は?」

 

「俺にしか認知されてないこととその場に居なかったにも関わらずあたかもそこに居ましたような言動だよ。普通ならこんなのは幻で片付けられるがお前に触れる度に感応現象でリンドウさんの行動が映し出される。となればもう答えは一つしかない。お前はリンドウさんの神機が持っている人格で、リンドウさんが長い間その身を預けてきた相棒だってね。どうだ?間違えてるか?」

 

「ふふ、君には負けたよ。そうだよ。僕は正真正銘リンドウの神機の中の人格。リンドウが今まで経験してきた事をずっと見てきた。そしてあのときのあなたたちと別れる決意をしたとき僕が支えないといけないと思ったんだ。そしたら偶々あなたを見つけて、あなたを信じて託してみることにした。」

 

「なんだよ偶々かよ。てっきり俺の事を見ていたのかと思ったぞ。」

 

 レンが自分を選んだのが偶々だと知りツッコミを入れつつ次にどうするかがレンの指示で決まり、二人はリンドウの記憶の中で戦いながら彼の姿を追い求める事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンと二人きりで記憶の中のアラガミと戦い遂に蒼穹の月の任務終了後の一人残されたリンドウに辿り着いた。長い戦いで疲れたのか壁にもたれ掛かっていた。そんなリンドウにレンは話しかける。

 

「つれないねリンドウ、折角の再会が台無しじゃないか!」

 

「お···お前は、ユージか。」

 

「そうですよ。あなたを助けるためここまで来ました。さあ、これを持ってください。ここを出るには俺とリンドウさんの手であいつを倒すしかありません。」

 

「ふっ、生きることから逃げるな、か。全く覚悟が出来てないのは俺の方か。よし、ユージ!お前が出した命令だ!とことん付き合ってもらうぜ。」

 

「臨むところだ。」

 

「そんじゃあ、生きるためにカッコ悪く足掻いてやるか!」

 

 二人のお互いを信頼しあってるのを見てレンは既に神機に姿を変え、色んな人の支えで生かされてることを知ったリンドウはその思いを無駄にしないよう生きるための最後の戦いの為、ユージと共に歩き出した。その二人と現れた黒いハンニバル

との最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウさん、こいつは頭と右腕の籠手と背中の逆鱗の三つが破壊できる箇所だが背中の逆鱗だけは攻撃しないように。この狭い場所であいつの逆鱗が発動したら助からない。」

 

「了解だ。じゃあ俺は右側から行くぞ。」

 

「なら俺は左側からだ。」 

 

 ユージの的確な指示でリンドウは右側からユージは左側から同時にロングブレードで斬りつけ勢いよく吹き出した血が全身にかかる。これだけでかなりのダメージを与えたが二人は攻撃の手を緩めず止めの一撃でハンニバルの体を三枚に斬り落とし戦いを終わらせた。

 

「なんかあっさり終わったな。」

 

「まあ、腐っても俺らベテランですからね。もうこいつらとは何回も戦ってるから自然と戦いかたを体が覚えてるんですよ。」

 

 二人で戦って自分達が確実に強くなっていることを実感していると倒したはずのハンニバルが霧散したかと思うとまだ戦う意志があるのか黒い液体が二人に迫っていた。

 

「ったく、とんでもないものに好かれちまったもんだな」

 

「リンドウさん、来ますよ。」

 

 変なものに好かれたと呆れてるリンドウにユージが敵が来ることを知らせると二人は戦いのスイッチを入れる。再び復活した黒いハンニバルは頭上から二本の矢を二人に投げるように降り下ろし、二人は盾を展開して防ぐ。

 しかし、ガードして身動きが取れない方向からリンドウ目掛けて攻撃が向けられリンドウは叫ぶ。

 

「こんな所で死ぬわけには行かねえんだよ!」

 

 その心の叫びがレンに伝わり、神機が浮き上がるとレンが盾となって攻撃を防いだ。

 

「そうだよ、リンドウ。僕たちはまだまだ生きるために戦わないといけない。僕はこれまでずっと一緒に見てきた。初めてゴッドイーターになって緊張したあの時も愛する人を護るために別れることを決意した時も。僕はそれだけで大満足だよ!」

 

「そうか。お前はずっと俺を守り続けてくれてたんだな。会えて嬉しいぜ、相棒!」

 

「僕もだよ。そしてユージ、あなた···いや、君にも感謝しているよ。ここまで僕の我が儘に付き合ってくれて。君が初めて僕に掴みかかったとき思った。ああ、君の神機に居るのも悪くないって。あと、初恋ジュース凄く美味しかった。アラガミなんかよりもずっと。」

 

「俺もお前に会えて嬉しかった。ありがとう、レン。」

 

「なあ、レン。また会えるか?」

 

「僕はいつでも大歓迎だよ。」

 

「あ、そうだ。レン、俺も会えるかな?相棒に。」

 

「君ならきっと会えるよ。」

 

「そうか、ありがとう。今度会ったら初恋ジュース一緒に飲もうぜ!じゃあな、レン。また会おうぜ!」

 

「うん、またね!」

 

 またいつか会えることを胸にレンは神機として黒いハンニバルを目映い光で完全に消し去り、感応現象が終わると二人はエイジスの床に横になっていた。




すいません、本当は二話くらいに分けようと思ったのですが文才が無いために一気に進んでしまいました。まあ、ユージもリンドウもベテランで隊長格なので二人の実力からすればある意味妥当なのかも知れないですね。


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第28話 帰還、そして夢

 レンのお陰で無事に現実世界に戻ることが出来た二人は目を覚まし、よく寝ましたとばかりに伸びをする。

 

「俺たち戻ったみたいですね。」

 

「そうみたいだな。レンには感謝しきれないほど助けられたな。あと、お前にも。ありがとな。」

 

「いえいえ、俺は俺のやり方で信じてやって来たので。本当の命の恩人はレンとシオですよ。」

 

「ああ、俺を治療してくれたあの少女か。会ったら礼を言わないとな。」 

 

 その場に座りながら談笑しているとアリサ達が駆け付ける。

 

「リンドウ!戻ってきたのね。」

 

「おう、サクヤ。心配かけてすまなかったな。」

 

「ユージ、無事で良かったです。」

 

「アリサ、ゴメンな。心配かけちゃって。」

 

 サクヤがリンドウに抱きつけば、アリサもユージに抱きつきコウタとソーマはどうしたものかと明後日の方を向いていた。

 感動の再会とあって和やかになるかと思われたが、直後アリサの怒声とも言える説教が始まった。

 

「ユージ、なんでこんなことしたんですか?私に相談するのがそんなに面倒ですか?」

 

「いや、別にそういう訳じゃ···」

 

「じゃあどういう理由なんですか?」

 

「まだあの段階では俺も覚悟が出来てなくて、どうしたものかと考えてたんだよ。だから最後に決断を下した時までリンドウさんに神機を向けるのが怖くて手が震えてた。俺がこんなんなんだからアリサたちもきっとそうだと思ったら、悲しい思いをするのは俺一人だけで良いって判断しただけだ。」

 

「例えそうだったとしてもせめて一言位あっても良いじゃないですか?」

 

「そう言われても···そんなこと言ったら絶対止めるだろ?」

 

「当たり前です。ユージはいつも一人で悩んで無茶ばかりするんですから。」

 

「まあ、アリサそう怒るなって。ユージだってお前の事を考えてのことなんだしさ。」

 

「リンドウさんは黙っててください!ユージは私と結婚すること忘れたんですか?」

 

「忘れるわけないだろ。俺はアリサしか考えられない。これは今もこれからも絶対に変わらないよ。」

 

「だったら、もうこんなことは二度としないでください!」

 

「分かったよ。今度からは真っ先にアリサに相談するから、いい加減に機嫌を直してくれない?」 

 

「だったら私の機嫌が直るようにしてください!」

 

「は?」

 

「もう、早くしてください!」

 

「そんなこと言ったって······、え~い、どうにでもなれ!」

 

 機嫌を直すようにユージが言うと、自分で直してとユージの手を握って懇願。戸惑いを見せるユージはアリサが言っている意味を理解したもののリンドウやコウタ達が居る前でやるのかと躊躇う。

 それでも急かすアリサに何とでもなれと半ば諦めるように顔を近づけて首を横に倒しながらその時を待ってるアリサに唇を重ねる。

 

「おいおい、お前ら何も俺たちが居る前ですることはないだろ。」

 

「でも、いいじゃない。あの二人はもうそういう仲なのよ。」

 

 突然の公開キスにリンドウがツッコむ中、サクヤは二人がそういう仲だと彼らが左手の薬指につけている指輪を指す。ここでやっと指輪の存在に気づいたリンドウは先を越されたと少しショックを受けていた。

 

「おい、アリサこれいつまでしないといけないんだ?」

 

「私が満足するまでです。今日という今日は許しませんよ!」

 

「マジか·········、おいコウタ、ソーマ、お前ら助けてくれ!」

 

「俺たちに言うなよ。」

 

「同感だ。元はと言えばお前のせいだしな。」

 

「クソッ、だったら絶対に言うなよ?」

 

 みんなに見られているという恥ずかしさで顔が真っ赤のユージは早く終わらせたいがアリサがそれを許さずヤバイと思っていた。前回見られたときは女子相手だったこともあって穏便に済んでいるが、男子は割りと直ぐに噂を広める傾向にあり、神経質になる。

 コウタとソーマに助け船を求めるも見事に断られ、他言しないように告げるとそのままアリサが満足するまでキスが続いた。

 

 尚、他言しないようにコウタとソーマに言ったが実はこの様子はアナグラで全員がモニター越しに見ており、完全に逃げ場がなくなったのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エイジスからアナグラに帰還するとフロアに居た全員がリンドウの復帰を祝福すると共に嬉し泣きするものが続出。その傍らで公開キスを見せられたリッカとヒバリ、ソフィアの三人はアリサを離れた場所に連れていくと弄り始める。

 

「ねえ、アリサ凄いね。」

 

「何がですか?」

 

「ユージとキスしてたでしょ!」

 

「な、なんでそれを?」

 

「実はお二人の行動は全てここのアナグラにモニターで公開されました。私もリアルタイムで見て凄いなと思いました。」

 

「いやー、前回見たときよりも凄かった。」

 

「かなり濃厚だったね。ユージも慣れたようにキスしてるし毎日やってるわけ?」

 

「そ、それはやってます。ユージの方からやったり私からやったり色々です。って、どうしてそれを言わないといけないんですか!」

 

「ラブラブなんですね。」

 

「も、もう失礼します!」

 

 

 

 三人からの尋問にキスを毎日していると暴露してしまい、恥ずかしさからその場を足早に放れると未だにコウタとソーマの二人と談笑してるユージの手を引っ張り彼の部屋に入る。

 

「急にどうしたんだよ?」

 

「ごめんなさい、リッカさんたちからさっきのキスが映像でアナグラに公開されてるって聞いて、それに気が動転してつい私とユージが毎日キスしていることをバラしてしまいました。」

 

「え、マジか!」

 

「本当ごめんなさい!」

 

「いや、別にそう言うことなら仕方ないさ。だけど、一応お仕置きだけはしないとな。」

 

 暴露したことに関して怒っては居なかったが、悪戯な笑みを浮かべるといきなり唇を近づけお仕置きのキスを敢行。お仕置きと言ったがそれは建前で実際には今まで心配かけたお詫びの印。

 命令でさせられた先程とは違うどこか安心感のあるキスにアリサの目はうっとり。それを感じたのか少しだけならと膨らんだ胸に手を伸ばすとアリサが手を掴んで強引に胸に押し当てた。

 

「お、おいアリサ!」

 

「もう私は準備出来てます。好きにしてください!」

 

「それってつまり、そう言うことで良いんだよね?」

 

「はい。」

 

「分かったよ。アリサがそう言うならとことんやるからな?」

 

 アリサの上目遣いの態度と言葉にユージも素直に受け入れ、キス以上の行為に及んだ。

 

 

 

 

 

 

 暫くすると行為が終わったものの初めての事に互いに恥ずかしさで一杯だったが同時に嬉しさがそれを上回り最後にキスをするとそれぞれシャワールームで体を洗い流し、サッパリしたところで夕飯の支度に取りかかる。

 

「ねえ、アリサ。一つ相談というか話があるんだけど良いかな?」

 

「どうしたんですか?そんなに畏まって。」

 

「俺さ、プロポーズしたときに夢があるって言ったの覚えてる?」

 

「ええ、覚えてます。」

 

「その事なんだけど、俺の夢ってのはアラガミの脅威から人類を守って安心して暮らせるように自分達の手で造り上げていくことなんだ。俺もアリサも幼い頃に両親を亡くしてツラい思いをしてきた。それって、そのままで済ましてしまうのは良くない。これから先、ずっとこうして小さい子供が親を亡くして独りぼっちになるなんてことは無くしていかないといけないって思う。」

 

「そうですね。親を亡くす悲しみは私たちが一番よく分かってます。」

 

「俺は神機使いになってから戦闘以外にも色んな分野の勉強をしてそれなりに知識を蓄えたつもりだった。でも、極東に来て外部居住区とかアラガミ装甲壁の外でまるで見棄てられたようにアラガミに怯えながら暮らしてるのを実際に見て、俺たちがその人たちの心に寄り添って生活できるように支援していかないといけないと思った。それは今までのように単純に襲ってきたアラガミを倒してはい、終わりではダメ。そうならないようにするために色んな所を自分の目で確かめて候補地を見つけてそこに家とかお店、学校とかを建てて一つの町を幾つも作って行こうというのが俺の大きな夢。」

 

「素敵な夢ですね。」

 

「ありがとう。だけど、俺は夢だけで終わらせるつもりはない。必ず実現させると決めてる。それで、アリサにもその夢が実現出来るように力を貸してほしい。正直言って、この夢は俺一人の力でどうにか出来る物じゃない。一緒に力を貸してくれる仲間がいて初めて形に出来るんだ。だから、アリサの力が必要になる。」

 

「ユージの夢は私の夢でもあるんですから、断る理由なんてどこにもありません。私に出来ることがあるなら是非お願いします!」

 

「ありがとう、アリサ。だけど、二人だけでも全然足りないし、何よりもこの夢を実現させるには様々な困難が待ち受けているし、本部からの支援は無いものと考えて欲しい。あと、法律関係の知識と専門的な知識と資格とかも必要になるからその辺の勉強も通常の任務に行く傍らでやっていかないといけない。口で言えば凄く素敵な夢だけど、現実はそう甘くない。それでも俺に付いてきてくれる?」

 

「誰かがアラガミに殺されるのを見ている位ならそんなのへっちゃらです。ユージの為ならどんなにツラくても挫けません。」

 

「良かった。まあ、言い出しっぺは俺だから俺が一番頑張らないといけないんだけどね。それとこれは今の第一部隊全員で取り組んでいきたいと思ってる。ただ、そうすると第一部隊がここには居なくなることになって今度はここが危なくなる。そこで、この夢を実現させるには少なくとも新人が来てくれないことには何も始まらないのが最大の難点なんだよね。」

 

「う~ん、それは確かに難しいですね。でも、ユージはもう対策を考えてるんですよね?」

 

「まあね。色々考えてみたんだけど、俺ここの支部長に立候補することにした。」

 

「え、支部長にですか?」

 

「アーク計画で前の支部長が亡くなってからサカキ博士が支部長代理としてここまで至るけど、この際ハッキリさせておかないとね。それに支部長になれば本部の圧力をはね除けられるから夢をいつか実現させるためにはなっておいて損はない。」

 

「もうそこまで考えてるんですね。でしたら私は素直に従います。ユージが支部長になればもうあんな悲しいことは起こりませんから。きっとみんなが幸せに暮らせるように考えてくれるって信じてます。」

 

「アリサ、ありがとう。明日の朝にサカキ博士とツバキさんに報告しようと思う。多分、他に対抗馬はいないからすんなり決まると思うけどね。」

 

 夕食を食べつつ夢を実現させるために支部長になることを決めたユージを支えていこうとアリサもまた決意をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、朝一でサカキとツバキに支部長立候補の打診をすると割りと直ぐに本部から正式に支部長就任の辞令が下った。




折角のリンドウ復帰でしたが序盤だけであとはアリサとのイチャイチャとクレイドル設立に向けての足掛かりとなる部分の話ばかりでした。
 


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第29話 支部長就任

 支部長に立候補してから一週間が過ぎる頃、本部から一通の手紙と共に辞令の通達が贈られたことで極東支部に居る全員がロビーに集められた。一部の部隊だけならまだしも全員が集められることは滅多にないため少しざわついていた。そんな中でユージは一人緊張していた。集められた理由を知っているためどこか落ち着かない様子。

 そこにツバキとサカキが登場、騒がしかったロビーも二人の登場に一気に静かになった。

 

「全員居るな。今回お前たちに集まって貰ったのは長らく不在だった支部長が決まった。」

 

 支部長が決まったときいて再び騒然とし、ユージの緊張は最高潮に達しようとしていた。

 

「騒ぐな!本日付けで正式にユージを極東支部支部長に任命する。」

 

「え、ユージが支部長?マジかよ!」

 

「サクヤ、聞いてたか?」

 

「私も初めて聞いたわ。アリサは聞いているんでしょう?」

 

「はい。一番最初に聞きました。」

 

「騒ぐなと言ったはずだ。支部長になるからにはそれ相応の責任と義務をこれまで以上に負って貰うことになる。これまでの働きをみればそのくらいの覚悟は出来ているだろうがどうだ?」

 

「立候補のすると決めた段階でそんなことは済んでます。」

 

「いいだろう。これからこの極東をしっかりと正しい方向に導いてくれ!」

 

「私の方からもよろしく頼むよ。」

 

「は、はい、ありがとうございます。」

 

 二人からの激励にユージは深く頭を下げて支部長就任を引き受ける。そして場が解散すると第一部隊のメンバーは勿論、第二、第三部隊等と言った面々がユージの支部長就任に驚くと共にもう極東支部の最高責任者なのかとそれぞれが感慨深く思っていた。

 

「まさかユージが支部長になるなんて考えたこともなかったよ。極東に来たのは同じ日だったのに。」

 

「そう言えばそうだったね。ガム食べる?って言っておきながら無かったって言ったときはこの野郎と思ったけどね。」

 

「あれはマジでゴメン。まさか切らしてるとは思ってなかったから。」

 

「そういうことあったんですね。その頃からコウタは変わってないんですね。」

 

「別に良いだろ!変わってなくたって。」

 

「お前が支部長になるなら第一部隊はどうなる?」

 

「またリンドウが隊長になるのかしら?」

 

「それは勘弁してくれ!ああいう堅苦しいの苦手なんだ。隊長はソーマかアリサがなれば良いだろ。」

 

「おい、リンドウ勝手に決めつけるな。」

 

「ソーマの言う通りですよ。」

 

 ユージが支部長就任となると同時に第一部隊も再編されるのかと議論が交わされたがユージがそれをシャットアウト。

 

「俺が第一部隊を降りるなんて一言も言ってないけど?」

 

「え、ではユージは支部長と第一部隊隊長兼任ですか?」

 

「そうだよ。こないだみんなに話した夢を実現させるには俺も一神機使いとしての職務をこなすつもりだよ。」

 

「俺は別に構わないが支部長と隊長兼任なんて今まで誰もやったことがないし、相当体に負担が掛かるぞ。無理して倒れたりでもしたらどうするつもりだ?」

 

「ソーマの言うように今回の兼任は相当な負担が掛かるだろう。それこそ寝る時間すら無いかも。」

 

「え?」

 

「それでも俺はやり遂げる自信と覚悟を持って今回の支部長就任を引き受けた。だから倒れない程度に頑張るよ。」

 

 もうユージに妥協や迷いはない。恐れることなく前を向いて歩き続けるだけと壮大な夢のため新たな一歩を踏み出し始めていた。一方でアリサは支部長と隊長兼任と聞いて彼の性格からしてきっと無理をするのは目に見えていた。それだけに今回の支部長就任を誰よりも喜ぶ反面不安もあった。

 

「ユージ、くれぐれも無理はしないでください。体があってこそですから。」

 

「そうだね。体調管理は徹底してるけど、これからはもっと気を付けるよ。」

 

「にしても俺が居ない間にアナグラも随分と変わっちまったな。いつのまにかユージが精神的支柱になってるし。アリサやコウタ、それにソーマがあんなに仲良く話してるのが驚いた。」

 

「みんなユージが一つに纏めてくれたのよ。」

 

「ああ、俺もあのときあいつが言った、生きることから逃げるな!は心に響いた」

 

「ねえ、リンドウ?そろそろ私たちもハッキリさせない?」

 

「なんだ、お前も同じこと考えていたか。」

 

「ええ。私の気持ちはずっと変わらないわ。」

 

「サクヤ、これからも一緒に歩こう!」

 

「勿論よ!」

 

 自分が居ない間に随分と大きくなった後輩たちの背中を見てリンドウとサクヤも大きな決断を下し、誓いの口付けをそっとかわす。ところがそれをヒバリとカノンがしっかり見ており、顔を赤くしながらも羨望の眼差しを向けていた。

 

 

 

「よーし、支部長就任祝いやろうぜ!」

 

「またかよ。」

 

「良いだろ?せっかく支部長になったんだし盛大にやらせてくれ!」

 

「まあ、良いけど。どうせ料理関係の担当は俺なんだろ?絶対おかしいわ。」

 

「しょうがない。兄貴、俺も手伝うよ。」

 

「しゃーねーな。主役だけに作らせるのも癪だし元リオデジャネイロ支部の人間は強制的に料理担当な。」

 

 またもやコウタから支部長就任祝いをやろうと提案を受け、急遽ユージの部屋に元リオデジャネイロ支部の人間六名が集合し、調理が始まった。調理開始と共に新鮮な海の幸が並べられ、今回は握り寿司を作ることに。酢飯作りと魚やタコ等を捌くのに多少時間が掛かったが、かなりの数の寿司が完成。

 あとは個人個人で好きに調理をしパーティーが始まるギリギリでどうにか間に合った。

 

 

 

 

 パーティー会場のロビーに並べられたたくさんの寿司と六人の料理人が好き勝手に作った品々に集まる人間は徐々に増えていく。

 調理を終えてソファで寛ぐユージにアリサがジュースを渡して隣に座る。

 

「お疲れ様です。」

 

「ありがとう、アリサ。今日はかなり大変だった。寿司を握るのに思いの外時間を取られたよ。もう暫く握りたくないな。」

 

「ユージは他に何か作ったんですか?」

 

「今回俺は唐揚げとすき焼きとデザートのケーキを担当したよ。まあ、時間が無かったからあれしか無理だわ。」

 

「本当いつも凄いです。」

 

「そろそろ始まるみたいだけど、一緒に食べる?それとも他の人たちと一緒に食べる?」

 

「ユージと一緒に食べます。」

 

「わかった。そしたら行こうか。」

 

 アリサの手を握り座る場所を探し、空いたところに座るとそこはコウタとソーマ、サクヤ、リンドウが居た。つまり第一部隊全員と同じ席というわけだ。

 

「本当お前らは一緒だよな?」

 

「好きなんですから良いじゃないですか!コウタには関係ないでしょ。」

 

「いやいやお前らはくっつきすぎなんだよ!」

 

「なんだよ、俺とアリサは夫婦なんだから良いだろ。つーか、お前嫉妬してる?」

 

「コウタでも嫉妬するんですね。」

 

「別に嫉妬してない!」

 

 二人がくっついていることなど最早これがスタンダードと言わんばかりに定着しているがコウタとしては幸せになって欲しい気持ちと自分にはそういう相手が居ないことへの焦りからか嫉妬していた。心の内側を読まれ居たいところを二人に突かれコウタは凹む。

 

「ソーマ!」

 

「シオ、お前も来たか。」

 

 三人のやり取りを静かに見ているソーマの視界が突然奪われるのと同時に自分の名前を呼ぶ声にソーマは笑顔で振り向く。

 

「アラガミ食べるよりこっちの方が良いって博士に言ったらソーマに教えてもらうと良いって。」

 

「そうか。まあ、あのおっさんが考えてることは俺も分かった。シオ、お前も一緒に食うか?」

 

「うん!」

 

 アーク計画の終息以降、ソーマとサカキはシオの特異点としての力があったが故に失うものも多かったが同時に収穫もあった。そしてシオがアラガミから完全な人間として過ごせるようにソーマの提案で人間と同じように食事が摂れるよう一緒に練習していた。最初は人間の食事に全く見向きもしなかったシオだったが大好きなソーマと一緒ならと努力を重ね最近ようやくアラガミから人間の食事にある程度適応してきた。今日は特訓の意味合いもあるがどちらかと言えばソーマと一緒に居たいのが本音。ソーマもその真意を分かったのか素直に受け入れ隣に座らせる。

 

「シオちゃん、良かったですね。」

 

「お、アリサそう思う?」

 

「勿論です。ね、ユージ?」

 

「うん。シオは俺たちの大切な友達だからな。友達が喜ぶことは俺らの喜びでもある。」

 

「ともだち?そうか、シオはみんなのともだちか。ソーマ、ともだちって良いもんだな?」

 

「ああ、そうだな。」

 

「なんだよ、ソーマまで俺を見捨てる気かよ!」

 

 シオはみんなの友達になれることを誰よりも嬉しそうに笑っているとただ一人仲間外れにされたような気持ちになったコウタは悔しそうな顔をしつつも心の中ではちょっぴり嬉しかったりする。

 

 ソーマ達が仲良く話してる目の前ではリンドウとサクヤが二人きりで乾杯をし、お酒を楽しんでいた。リンドウが失踪してからお酒を飲むことを辞めたサクヤだったがリンドウが戻ってきてから直ぐに解禁、一緒に晩酌をするのが最近の楽しみでもあった。少しお酒が回ってきたところでシオを見つけたリンドウは助けてくれた命の恩人に感謝の気持ちを伝えようとシオを呼ぶ。

 

「なあ、お前さんがシオかい?」

 

「そうだよ、リンドウ。」

 

「なんだ俺の名前知ってたのか。そう、俺の名前は雨宮リンドウ。お前のお陰でこうして無事に戻ってこれた。ありがとうな。」

 

「うんうん、リンドウが無事でシオ嬉しいぞ!」

 

「俺もこうして命の恩人に会えて良かった。この生かされた命を無駄にしないためにも頑張らないとな。」

 

「その通りだな、リンドウ。」

 

 シオとの再会にリンドウも自分が何をするべきか分かったように口に出すと後ろから聞きなれた声がして背筋が凍る。

 

 

「あ、姉上、どうしてここに?」

 

「私も今日は楽しむことにした。ここまでずっと業務ばかりで休む暇さえ無かったからな。それよりリンドウ、お前にはこれまで休んだ分明日からきっちりと働いて貰うぞ!覚悟するんだな。」

 

「いや、俺は別にそういうつもりで言ったわけじゃ···」

 

「お前に断る権利などない!何しろ今のお前の近くには極東支部の最高責任者が居るんだからな。命令には逆らえないものと思え。」

 

 ツバキの明日から忙しくなると予告され逃げようと試みるも近くにはもうここの最高責任者であるユージが居るためもう逃げ場はないと諦めるしかなかった。そのリンドウをサクヤは微笑ましく思いながらお酒を楽しむことに。

 

 

 

 

「えー、それではこれより極東支部の新しい支部長就任祝いを行います。まずは本人から挨拶をお願いします!」

 

 既に数名がお酒が回り酔い始めるなかコウタの進行で就任祝いが始まり、ユージが挨拶のため前に立つ。

 

「えっと、今日からここの新しい支部長に就任しました。ユージです。今回はこのような場を設けて頂きましてありがとうございます。極東支部に来てから半年以上が経ちますが、この半年の間には色んな事が起き、それは決して楽しいことだけではなく辛く悲しい事もありました。ですが、立ち止まってばかりもいられません。我々にはやるべき事がまだまだあります。昨日より今日、今日より明日より良い日になるよう全員で頑張っていきましょう!」

 

 何を言おうか迷いつつも回転の早さで今伝えたいことだけ言葉にして挨拶を終える。だが、今の言葉の意味する物がどういうものかは全員理解している。明日からまた忙しい日々が始まるが今は新しい支部長就任を祝うため精一杯楽しもうと拍手が巻き起こり、コウタの合図で乾杯しあう。

 乾杯しあうと直ぐにテーブルに並べられたお寿司や鍋等の料理に長い業務で疲れていた人間の体にエネルギーが入る。

 

 

「久しぶりに食べるけど、寿司旨いな。」

 

「本当美味しいです。」

 

「まあ、寿司の場合はネタの大半が元々出来上がってるものだから当たり前なんだけどね。寧ろ、俺らが個人個人で好き勝手に作った料理が全部お寿司に合うものだから引き立て役になってる。あ、すき焼きだけは違うけど。」

 

「そんなことないですよ。どれも美味しくて食べ過ぎそうです。」

 

「俺も今日はそうなりそう。」

 

「そう言えば、支部長になりましたけど部屋はどうなるんですか?今のままでいくんですか?」

 

「いや、移動になるよ。支部長室の中に生活スペースがあるから明日からそこに移動だね。だけど、それがどうかしたの?」

 

「えっと、ですね。私、ユージと同じ部屋で暮らしたいんです。結婚するんですし、この際、一緒に生活した方が良いと思うんですけど、ダメですか?」

 

「アリサにそこまで言われて俺が断ると思う?そんなの一緒に住むに決まってるじゃん。それに実は俺もそう思ってたし。」

 

「では、早速明日引っ越しですね。」

 

「うん。明日は特に忙しくなりそうだから出来るだけ早く済ませよう。」

 

 支部長就任に辺り、生活する場所も今居るベテランスペースから支部長室の中にある部屋に移動が既に決まっており明日の一番の業務はこの引っ越し作業になるのは確実。そこにアリサも一緒に住むことで合意、また一つ楽しみが増えることに期待を寄せながら楽しい食事はあっという間に終わった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、自分の部屋で寝る最後の日とあって窓を開けベランダに出ると星空を眺めながらこれまでのことを思い出していた。

 

「父さん、母さん、俺支部長になったよ。俺は俺のやり方でアラガミの脅威に怯えなくても良いような世の中を作ってみせる。だから、天国からずっと見守っててくれよな。」

 

 両親やこれまで志し半ばで犠牲となった人々の思いを無駄にしないよう星空に願いを込め、窓を閉めるとベットに横になり深い眠りに就いた。

 



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第30話 初業務

 支部長に就任し、今日から支部長としての業務が始まるがその初めての業務が部屋の引っ越しとあって早朝から今まで寝食を共にしてきた部屋の荷作りと大掃除とでせっせと動かしていた。とは言え、日頃から掃除を怠らない性格なため然程時間も掛からずに8時になる頃には全ての作業を終え一息つく。

 

「俺の方は終わったけど、アリサの方は大丈夫かな?」

 

 自分の方は早く終わったが今日からはアリサも一緒に住むため軽く休憩をしてからアリサの部屋を訪ねるとまだ作業中だった。

 

「アリサ、俺の方はもう終わったから手伝うよ。」

 

「ごめんなさい、こういう作業に慣れてないんです。」

 

「構わないよ。それよりも早く終わらせないと午後から凄い忙しくなるんだよ。」

 

「そうでしたね。急ぎましょう!」

 

 今日は午後から書類整理や外部居住区の視察の予定が入っており、余りゆっくりしているとそれだけ業務に支障をきたすとあって引っ越し作業を急ピッチで進める。

 

 

 

 そして9時を回った所でアリサの引っ越しも完了し、ようやく二人で一緒の生活が送れるようになった。

 

「朝から大変だったね。」

 

「そうですね。でも、これでもうどんなときも一緒ですね。」

 

「ああ、どんな困難が来ても一緒に乗り越えよう!」

 

「はい。」

 

 ソファに座り肩を抱き寄せ紅茶を啜る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後になり、先に予定していた外部居住区の視察をしているとユージに気付いた人々が周りに集まり、新しい支部長就任を祝福してきた。全員ユージが極東支部に来てからずっと見に来ては食料や日用品などの支援をしてきてることを忘れず、感謝の気持ちがあった。

 

「あんたが支部長就任と聴いて俺たちは嬉しかった。」

 

「いつも支援ありがとう。支部長頑張れよ!」

 

「皆さん、ありがとうございます。俺はこれからも皆さんが安心して暮らせるよう精一杯やっていきますのでよろしくお願いします!それで今日は視察も兼ねて新しく開発した日用品を持ってきましたので是非使ってください。化粧品や小さいお子さん用にミルクとおもちゃが今回はメインです。」

 

「こんなに良いのか?凄いお金掛かるんじゃない?」

 

「遠慮しないでください。それに僕はゴッドイーターなのでお金の心配は無用です」

 

 大型トラックに積んだ段ボールの山の中から一つ取り出して中身を見せると直ぐに人だかりができ、それぞれが欲しい物を貰いあっという間に支援物資は無くなり嬉しそうな表情で帰っていく人々を見ながらこれからの予定を考える。

 

(そろそろ新しい商品を開発して売っていくのもよさそうだな)

 

 今はまだタダで提供しているが、経済を回すためには商品の開発から販売も視野に入れた方がメリットも大きいと考えていた。そのためには働く場所と働き手の確保も不可欠になる。それから重要な課題が住居の老朽化。これをなんとか出来ないものかと思っているが自分には建築の知識もなければ経験すらなく誰か建築の専門家が居ないものかと近くにいた住民に聞き込みを行う。

 

「この辺で建築の専門家って言えば、あんたんとこに居るコウタの家の近くに住んでるって聞いたことあるよ。」

 

「コウタの家の近くですか。」

 

「まあでも聞いたことがあるだけだよ。」

 

「いえ、貴重な情報ありがとうございます。」

 

 有力な情報を得たユージは早速コウタを呼び出すことに。

 

 

 

「大工さん?ああ、あのおじいさんか。」

 

「知ってるのか?」

 

「知ってるも何も近所だし当然だろ。」

 

「じゃあさ、案内してくれないか?ちょっとその人と話がしたいから。」

 

「良いよ。」

 

 

 コウタの案内でその人の家の前に来るとノックをすると60歳位の老夫婦が快く出迎え中に入る。軽く自己紹介をし、本題に入る。

 

「あの、突然お邪魔して申し訳ありません。私、極東支部の支部長のユージと申します。今日、こちらに御伺いしたのは住居の老朽化による改装工事を計画したいのですが、生憎と私どもは建築に関しては素人なので建築の専門の方を探していたらあなたが建築のプロだと住民の皆さんから情報を頂いて来ました。」

 

「なるほど、そちらの言うてる事は分かりました。しかし、私一人だけではとてもじゃないが難しいし、とてつもなく時間が掛かります。」

 

「そうですね、人員が欲しいところですね。では、住民の皆さんと話し合いを設けて人員を募ってみます。それである程度の人数が確保できましたら改めて御伺いしますが宜しいでしょうか?」

 

「それが良いでしょうな。しかし、あなたのような若い方が凄いことを考えますな。」

 

「いいえ、私は極東支部に来てから様々な実態を目の当たりにしてきました。本部の人間による匙加減で決められる人々の暮らしは決して良いものではありません。なら、自分達の手で安心して暮らせるようにすれば良いと思いました。その礎をまずは極東支部で築き上げていけたらと考えてます。」

 

「これから生まれてくる未来の子供たちの為にも私も出来る限りあなたの力になりましょう!」

 

「ありがとうございます!」

 

 名人と話をつけ、まずは改装するに当たって人員の確保に乗り出す為、後日住民に説明会を開くことを住民との間で合意。案内してくれたコウタにお礼を告げ、一緒にアナグラに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視察から戻り支部長室で書類の整理をする訳なのだが、その量が尋常ではなかった。

 

「書類整理多すぎだろ!」

 

 余りの多さにツッコまずには居られなかった。それでも淡々とこなすと支部長になったんだと実感が涌いてくる。

 そこに任務から帰ってきたアリサが入ってきた。

 

「あ、ユージ戻ってきてたんですね。」

 

「アリサ、任務お疲れ様。さっき帰ってきたところだよ。今日は視察の序でに日用品の配給と老朽化してる住居の改装の話をしてきた。」

 

「結構やってるんですね。」

 

「まあ、住む家の安全は確保しとかないと壊れてからでは意味ないからね。でも、その為に人数が必要だから今度住民との間で説明会を開くことにしてる。」

 

「そうなんですね。私も勉強に励まないといけませんね。」

 

「アリサはアリサでゆっくりでいいよ。焦っても仕方ないし、少しずつ積み重ねていくことで初めて形になるものだから。俺も焦らずじっくり向き合っていこうと思う。」

 

「ありがとうございます。では、休憩にしませんか?」

 

「うん、そうするよ。そう言えばこないだ御菓子作ったからそれ食べよう!」

 

 初めての業務は見えないところで疲れが溜まり、ストレスになる。まずはじっくりと向き合うことが大事と休憩がてら作った御菓子と紅茶で一息つくことでこれからのことに思いを馳せる。

 

 



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第31話 招集

 支部長に就任してから一ヶ月がたつ頃パソコンに一通のメールが届いた。送り主は本部かららしい。早速開いてみる。

 

「えー、各支部の支部長は全員本部に来いってマジかよ。」

 

 メールには一週間後に開かれる会議に支部長を集めるという内容。支部長になって初めての招集に少し悩む。と言うのも本部に行くためには規定で二名の護衛を付けることが義務づけられているが、そもそも現役ゴッドイーターのユージに護衛などつけること事態が無意味な上に、タダでさえ人手が不足している段階でそんなことで人手を減らすことに疑問を抱く。

 しかし、規則である以上はどうしようもなく渋々ツバキに連絡。

 

 

「確かに本部に招集となると護衛が必要だな。しかし、こんなときに人手を減らすのは困ったな。」

 

「護衛となればいくら俺でも付け焼き刃じゃダメですもんね。やっぱり第一部隊から選ぶことになりそうです。」

 

「そうなるだろうな。それで誰を付けるか見当はついているのか?」

 

「いや、それがまだ決めかねてます。単純に最高戦力を連れていくならソーマとリンドウさんでしょうね。だけど、それだとアリサから何か言われそうで。」

 

「なら第一部隊を集めてみるしかないだろう。」

 

「ではそうしましょう。」

 

  

 ツバキのアドバイスで支部長室に第一部隊が集められ、本部招集による護衛の説明をした。

 

「てな訳でここから二名護衛つけたいんだけど、誰が立候補する?」

 

「招集って何日間あるんですか?」

 

「一週間の予定らしいけど、会議が長引くかどうかで変わってくるはずだよ。」

 

「そんなに長いんですか?」

 

「まあ、俺も何を会議するのかは知らされてないんだ。ただ、うちの場合はアーク事件の事で本部に目をつけられてるみたいだからそれの説明を求められるかもね。」

 

「ユージが行くなら私が行かない理由はないですね。」

 

「え、アリサお前大丈夫か?ユージと一緒に居たいからとかじゃないよな?」

 

「コウタと一緒にしないでください。今回は遊びじゃないんです。」

 

「まあまあ、落ち着け。一人目はアリサで決まりとして、二人目は誰にしようか迷ったけどリンドウさん、お願いできますか?」

 

「え、俺?いやー、ここはソーマの方が······」

 

「おい、リンドウ勝手に指名するな!」

 

「リンドウ、お前が行け!これは命令だ。」

 

「あ、姉上·····」

 

 後輩に面倒事を押し付けるリンドウに姉のツバキから強制的に護衛に選ばれ逃げ場を無くし肩を落とす。

 

「では、アリサとリンドウさん、ツバキさんは一週間後出発なので準備を怠らずにお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、四人は迎えの飛行機で本部に向かった。その機内でアリサはリンドウに挙式の話を持ち出す。

 

「そう言えばリンドウさんはサクヤさんとの挙式はいつされるんですか?」

 

「お前、いきなりそんなこと聞くな。」

 

「別に良いじゃないですか。一人の女性としてお聞きしてるんです。」

 

「最近は任務の傍らで新人の教官もやってるから中々そういう話をする機会がなくてな。」

 

「でしたらリンドウさん、俺にいい考えがあります。」

 

「ホントか?耳打ちで頼む。」

 

 復帰してからのリンドウは第一部隊として討伐任務をこなしながら新人の教官も担当しておりサクヤと話す暇さえなかった。そんなリンドウにユージは耳打ちで提案をしてきた。するとリンドウは何度も頷きながら少し頭の中を整理。

 

「ユージ、今の話乗った。俺の準備が完了したらお前に伝える。」

 

「わかりました。ですが、今の話は他言無用でお願いします。せっかくの晴れの舞台ですから、必ず成功させましょう。」

 

「ああ、俺も男として絶対成功させるさ。」

 

 二人だけで盛り上がってるのを見せられてツバキは兎も角アリサが黙っているわけがなく、ユージを問いただす。

 

「今の話は何だったんですか?」

 

「アリサには悪いけど、これはリンドウさんとサクヤさんにとって大切な舞台だから教えられないんだ。」

 

「むう~!私に隠し事とは酷いです。」

 

「そう怒るなよ。男にとって人生で最大のミッションでもあるんだからよ。」

 

「そうだぞ、アリサ。これは俺の人生を掛けてでも成功させなければならないことなんだ。ここは俺の為に我慢してくれ!」

 

「もういいです!ユージの意地悪!」

 

 何度頼んでも絶対に口を割ろうとしないユージに頬を膨らませて拗ねる。ここまで機嫌を損ねてしまうとは思ってもいなかったのかユージは溜め息をつくしかなかった。

 

 

 

「そろそろ本部に到着しますので、準備お願いします。」

 

 パイロットの指示で四人は降りるための準備に取りかかる。そして飛行機が着陸し、四人が降りると本部のスタッフらしき男に出迎えられ中に案内される。

 中に入り、案内されたのはかなり広々とした会場で既にたくさんの人で溢れており流石の四人も圧倒され入るのを躊躇う。

 

「すげえ広さだな。」

 

「本当ですね。アナグラ何個分でしょうか?」

 

 ここまで広々とした所も中々ないと初めて来るユージとアリサは周りを見渡す。一方で此方は何回か来たことのあるリンドウとツバキは特に気にする様子もない。

 

 

「あれ?リンドウじゃないか?」

 

 突如自分の名前を出され声がした方を向くと自分と同じくらいの歳の男性が立っていた。男性を見た瞬間リンドウはその人が誰なのか分かった。

 

「おう、ハルか。久しぶりだな!」

 

「ああ、確か俺が前に極東に行って以来か。」

 

 リンドウがハルと呼ぶ男性の名は真壁ハルオミ、グラスゴー支部所属の神機使いでリンドウとは昔からの仲だ。しかし、ハルオミを知らないユージとアリサは何事だと思っていた。

 

「あの~、リンドウさん。そちらの方はお知り合いですか?」

 

「そうか、お前たちは知らないのか。こいつは真壁ハルオミ、俺の友達だ。」

 

「リンドウさんのお友達ですか。俺はユージです。よろしくお願いします。」

 

「アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします。」

 

「リンドウ、この二人はお前の後輩か?」

 

「ま、まあ最初はそうだったんだが、色々あってな。今はここに居るユージが極東支部の支部長なんだ。そしてアリサはユージの嫁さんだ。」

 

「ええ、お前支部長なのか?」

 

「まあ、なってからまだ一ヶ月近くですけどね。」

 

「なるほどね~。えーっと、その後ろに居るのは·········!もしやツバキさんですか?」

 

「真壁、お前も来ていたか。言っておくがアリサはユージがいるから間違えても手を出すな!」

 

 ユージとアリサに隠れて気づいて居なかったがよく見るとツバキと分かるとジンワリ汗が流れる。ツバキの言っている意味が分からない二人が戸惑っているとリンドウが説明する。

 

「こいつはな、神機使いとしては優秀なんだが綺麗な女性を見ると直ぐナンパするんだ。それでいつも査問会議に呼ばれてる。だからユージ、アリサにこいつが近づかないようにしっかり護衛しろ。」

 

「は、はあ。」

 

「おいおい、リンドウそりゃないぜ。俺だって指輪つけてる女性を口説く趣味はないぜ!だから安心してくれ、アリサちゃん。」

 

「私、リンドウさんが言っていることよく分かりました。ドン引きです!」

 

 ハルオミの馴れ馴れしい言い方にツバキとリンドウが言っている意味を理解したアリサはユージの手を握りながら久々の台詞を言い放つ。まさかアリサにそこまで言われるとは思ってもいないハルオミではあるが今までこういう経験があるのかそれとも彼の性格がそうしているのかは分からないものの特に気にはしていない。そんなハルオミにも声が掛かる。

 

「ちょっと~、ハルこんなところで何しているのよ。」

 

「おう、ケイト。今丁度リンドウ達と会ってさ、話してたところだ。」

 

「え、リンドウが来てるの?私よ、覚えてる?」

 

「ああ、ケイトか。ハルオミとまだ付き合ってるのか?」

 

「失礼ね。私はハルの恋人よ。それよりそちらの方たちは?」

 

「ユージとアリサ、姉のツバキだ。ちなみにユージは極東支部の支部長だ。」

 

 また例によって自己紹介が始まり、ケイトが辺りを見回して別の誰かを見つけると名前で呼び出す。名前を呼ばれてやって来たのはユージより歳上っぽい青年。少し緊張気味なのか帽子を深くかぶって表情を見えないように顔を隠す。

 

「ギルバード·マクレインです。」

 

「こいつは神機使いになってからまだ日の浅い新人だが、中々良い奴だ。お二人さん仲良くしてやってくれ。」

 

「は、ハルさん俺は別にそういうつもりなんてないっすよ。」

 

「まあそう言うなって。この人たちはアラガミの激戦区と呼ばれる極東の中でも指折りの神機使いだ。特にリンドウとユージの事を知らない奴は居ないくらいだ。」

 

「お二人共ごめんなさい。ギルはこういうの初めてだからまだ緊張しているの。別に悪い子じゃないから気を悪くなさらないで。」

 

「いいえ、別にこういうの慣れてますから。」

 

「うちにも居るんですよ。ソーマっていう男が。」

 

「あら、そうなの。お互い様なのね!」

 

 ギルの態度はソーマと最初の頃のアリサで慣れているため寧ろ懐かしいなと思っていた。ここでツバキとは一旦別れ、リンドウはハルオミと世間話の花を咲かせていた。

 

「そう言えばサクヤとはうまくいってるのか?」

 

「まあな。実はもうプロポーズまでは済んでるんだが、指輪がまだ渡せてなくて挙式が挙げられないんだ。」

 

「マジかよ。もうそこまで進んでたのか。でも指輪が渡せてないのはマズイんじゃないか?」

 

「そうなんだよ。こいつが中々厄介で今必死に探している。」

 

「じゃないと後輩に遅れを取られちまうからな。ほら、あの二人が付けてるののあれ結婚指輪だろ?」

 

「なんか俺の居ないうちに渡したらしい。」

 

「そう言えばお前、前の支部長に嵌められて行方を眩ましたんだって?」

 

「ああ、そのせいでアラガミになる寸前まで追い詰められた。」

 

 リンドウはそう言うとシオとレンのお陰でアラガミ化の進行を止められた証の右腕を見る。ハルオミもリンドウの変わり果てた右腕には驚いたものの真意を理解したのかそれ以上追及することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 会場では本部から今後の日程が告げられ会議は明日からとなり、今日は自由な時間とあってリンドウはハルオミとアリサはケイトと談笑。そしてユージは何となくギルの事が気になり声をかける。

 

「ねえ、ちょっと話しない?」

 

「いや、俺は······」

 

「話したくない、か。そのくらいで俺は引き下がらないけどな。お前みたいな奴には慣れてるからな。」

 

「どういう意味っすか?」

 

「そのまんまの意味だ。まあ初対面の奴に最初から話せる奴の方が少ないんだけどな。」

 

 自分の他人を寄せ付けないような態度に嫌な顔ひとつせず話してくるユージに少し緊張の糸が解れたのか緊張してる訳を話す。

 

「実は俺、神機使いになったばかりで毎日ケイトさんやハルさんの脚を引っ張ってばっかりで。神機使いに向いてないんじゃないか?って悩んでるんです。」

 

「誰でも初めはそういうもんだ。俺も神機使いになってもうすぐ6年経つけど、一番最初の頃の緊張感は今でも覚えてる。アラガミを倒すために神機使いになった癖にいざアラガミと対峙すると急に怖くなってさ。途中で逃げてきたからな。」

 

「そうなんすか?とてもそんな風には見えないです。」

 

「今でもたまに怖くなるときがあるからな。まあゴッドイーターも中身は人間だからそういう感情になるのはある意味当然のこと。」

 

「でも俺はこれからどうすればあの人たちの力になれるのかが分かりません。」

 

 話をするうちにギルが色々背負うものがあるのだと知り、少し考えるととんでもない行動に出る。

 

「なあ、神機持ってきてるか?」

 

「一応、持ってきてますけど。」

 

「よし、じゃあ行こうか。」

 

「行くってどこにですか?」

 

「ゴッドイーターが神機を持ったらアラガミ討伐に決まってるだろ!15分後に会場の外に集合だ。」

 

 どうして任務に行く流れになるのかギルには分からなかったが、特に断る理由も無いため素直に従うことに。

 ギルに15分後に会場の外で落ち合うと決めたユージはギルと一旦別れるとリンドウと話してるハルオミの元に近づく。

 

「ハルさん、ちょっとギル借りても大丈夫ですか?」

 

「ギルをか?まあ、良いけどどこに連れていく気だ?」

 

「大した事じゃないですよ。ただ、生きることから逃げない為の訓練に付き合ってもらうだけです。」

 

「なんだ、あいつ。」

 

 ユージの言っている意味が分からないハルオミを余所にリンドウは何かする気だなと少し興味の眼差しでユージの背中を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハルオミ、ケイトと一緒にギルが初登場です。


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第32話 教習

 待ち合わせの時間が迫る頃、ギルと合流したユージが任務の内容を証す。

 

「いきなり任務に付き合わせちゃって悪いな。俺、支部長になってからまともに任務に行けてなくてさ、肩慣らしじゃないけど軽く体を動かしておきたくて、それでどうせならギルも誘おうと思ったけど、大丈夫?」

 

「支部長なら討伐に行かなくても大丈夫なんじゃ?」

 

「そんな訳あるか。極東は無駄にアラガミの数と種類が多いからゴッドイーターがいくら居たって全然足りないんだ。それに現場から離れると少しずつ現場の事を忘れてくる。そうならないために俺は敢えて現役を続けながら支部長になることを選んでる。」

 

 今のギルにはユージがそこまでして現役に拘る理由が分からない。確かに極東が他の支部よりもアラガミの数と種類が多く、新種もよくみかけられてることは噂ではあるが耳にしていた。しかし、それが現役と支部長の両立の理由にはならないのでは?そんな思考が駆け巡り目の前の男がどういう人物なのか知りたいとも思えてきた。

 

「じゃあ行こうか。相手は雑魚が少しとシユウが一体だからちゃちゃっと終わらせよう。」

 

「はい。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場に着くと改めてユージはギルに命令を下す。

 

「今から討伐任務を開始する。命令は三つだ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運がよければ不意を突いてぶっ殺せ。」

 

「それだと四つですけど……」

 

「と思うだろ?次があるんだよ。それは生きることから逃げるな!まあこれはリンドウさんと初めて任務に同行したときに言われことに俺が一つ追加しただけだ。用は死なない程度にやれば後はどうにでもなるってことだ。もっと気楽に来い!」

 

 ユージの命令はシンプルではあるがギルが背負いすぎている重荷を少しずつ卸すかのように軽くなっていく感じがした。もしかしたら自分は難しく考えすぎているのでは?そんな気がしてならユージに付いていけば何かが分かるかも知れないと思い始める。

 

 少し辺りを散策しながら敵を探していると小型アラガミが待ち構えていた。敵を目の前にして神機を握る右手が震えているのを肌で感じ、その一歩を踏み出すのを躊躇っていた。そんなギル目掛けてザイゴートが急接近、目の前にきてギルもようやく気づくがもう時既に遅し。盾を展開する余裕も神機を振る勇気さえなくただ喰われるのを息を呑んで待つしかないと思ったその時、ぐしゃっと音がして顔を覆っていた腕を退かすとユージが立っていた。彼の足元には絶命したザイゴートが無惨な姿で散らばっていた。

 

「まだ怖いのか?」

 

「はい。アラガミを目の前にすると神機を握る手が震えるのが分かって。脚を引っ張ってすみません。」

 

「なあ、ギル。お前が持っているそいつは飾りか?違うだろ。お前が持っているそいつは自分の命を預ける大事な相棒だ。強くなりたいならまずは相棒を信じろ!お前が心から神機の事を信頼すれば神機がお前を更なる高みに導いてくれる。」

 

「神機を信頼······」

 

「いいか、自分一人で戦ってると思うな。いつどんなときでもお前には神機という仲間がいる。お前がそんな顔していると神機も困ってるぞ。」

 

「お、俺は······」

 

 レンと出会ったことでユージは様々な事を教えてもらってきた。神機はどんなときでも出会ったパートナーと共に歩み、同じ景色を見ている。今のギルにはまだその信頼関係は築かれていないが互いを信じようとする気持ちさえあれば自ずと見えてくると確信を持って叱咤する。

 今までハルやケイトにでさえ言われたことのなかった事を言われて我に帰る。ユージの言うようにこれまで自分一人で戦ってると考えていた。いくらハルとケイトが一緒でも結局は自分とアラガミとの戦いでもあると考えてきた。だが、目の前のユージは神機が仲間だと訴えるように面と向かってぶつかってくる。もしや自分の考えは間違っていたのだろうか?頭の中ではまだ整理が追い付かないほどに色んな物が混ざりあっていた。

 そんなギルにユージはその一歩を踏み出すための手助けをしようとある提案を掲げる。

 

 

「ギル、俺が今からアラガミの攻撃を全て俺自身に向けさせる。勿論、全部避けるが、お前はその隙にアラガミを攻撃しろ!言っておくが俺はあくまでも囮になるだけだ。俺からは一切手は出さん。お前の手でアラガミを倒してみせろ!」

 

「は、はい。」

 

「よーし、では行くぞ!」

 

 ユージは合図と共にアラガミの群れに突入すると忠告通りにアラガミの攻撃の囮になった。敵の行動を嘲笑うかのように避けていく動きにギルは衝撃を受ける。

 

(ば、ばかな···あんなに敵が居るなかで攻撃を全てかわすなんてハルさんやケイトさんでも見たことないぞ。ユージさん口では自分の肩慣らしだとか言っていたが本当は俺を指導するためにこんなことを?)

 

 冷静になれたことでようやくユージが態々自分を任務に連れてきたのかが分かったような気がした。ここまでされといて自分だけ目の前のことから逃げるのは違うと思いを改めると握っていた神機を見つめ何かを呟くと神機を構えアラガミの群れに突っ込んだ。

 

 

 初めて自分の手でアラガミを倒すと疲れがどっと押し寄せその場に座り込み肩で息をする。そのギルをユージは優しく労う。

 

「ハアハア…」

 

「ギル、やるじゃねーか。今のはいい攻撃だった。」

 

「いえ、ユージさんのお陰です。ユージさんが言ったように俺も神機を信じたら不思議と恐怖心はなかったです。」

 

「そうだ、それで良いんだ。今の気持ち絶対に忘れるな!」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

「いや、お礼を言うにはまだ早いから。」

 

「え?」

 

「今倒したのは小型アラガミだ。まだシユウが残っているからそいつ倒すまで気を抜くな。」

 

 自分の手でアラガミを倒したことで勝手に任務を終えたと思い込んでるギルに喝を入れ最後のアラガミを倒すため歩き出した。

 

 

 

 

 さっきの場所から5分ほど歩くとシユウの姿を視界に捉える。そしてギルに確認をとる。

 

「さっきみたいに俺が奴の攻撃を引き受けてる間にお前が攻撃する?それとも囮なしでお前も一緒に来るか?どうするかはお前次第だ。」

 

「是非、俺も一緒に戦わせてください。」

 

「分かった。じゃあ、一気に行くぞ!」

 

 ユージの質問にギルは迷うことなく後者を選ぶ。その回答にユージは嬉しそうに笑うと合図を出し、一気に突入。

 先陣を切ったのはユージ。邪魔な両手の拳に神機をぶつけ衝撃で後ろに後退するのを後ろから走ってきたギルが追撃。その迷いのない攻撃はシユウの頭を貫きその場でその命を散らす。

 

「俺が殺ったのか?」

 

「ああ、お前が神機を信じたから神機もお前の事を信じたんだよ。」

 

「ユージさん、俺······」

 

「礼なんて要らねえよ。お前が一人前のゴッドイーターになってくれればそれで良いんだからよ。お前さえ良ければこの会議が終わるまでの間付き合うけど、どうする?」

 

「是非、お願いします。」

 

「良かったよ。もし、断られたらどうしようかと思った。じゃあ腹も減ったし帰るか。」

 

「はい。」

 

 ユージとの任務に同行できたことはギルにとって貴重な経験となり、また自分が恐怖から立ち直れた事にまだまだやれると少し自信が付いてきた。外はすっかり暗くなったがギルの未来は明るくなることは間違い無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 本部に戻ると煩い会場には見向きもせず自分の部屋にギルを連れて来た。

 

「こんな所に連れてきて悪いな。」

 

「いえ、大丈夫です。それより良かったんですか?支部長が他の支部の人間を許可なく任務に連れていって。」

 

「ハルさんに許可貰ってるから大丈夫だ。それに俺、今回の会議には全く興味ないから本部がどう言ってこようがどうでもいい。そんな下らない会議よりもお前と任務に行く方がよっぽど大事だ。」

 

「とても支部長の発言とは思えませんね。」

 

「まあ、今の話聞こえたらヤバイかもな。でも聞こえたところで何なんだ?って話だけどな。お前も感じてるとは思うけど、本部の連中の考えは一般人や俺たちゴッドイーターの事なんてちっとも考えていない。」

 

「確かに、うちの支部の上層部もそういう連中ばかりです。あいつらには俺らの命なんて紙みたいに考えてるのでしょうね。」

 

「だろうな。うちは前の支部長がアラガミから人類を守ることを本気で考えてエイジス計画を唱えてきたけど、あの人の場合、考え方としては素晴らしかったけど誰かに頼ることをしなかったが故に焦ってあんな事になっちまった。だから俺はそういう連中の性根を叩き直そうと思ってる。なんか言ってきたら殴れば良いから。」

 

「そんなことしたら査問会議レベルでは済みませんよ。」

 

「別に構わない。本部がそういう考えなら俺たちは喜んで本部と縁を切る。あんな奴らに人の命預けるくらいなら俺たちだけでどうにかする。」

 

「ユージさん、もしそうなったときは俺にも手伝わせてくれませんか?」

 

「良いのか?」

 

「今日ユージさんと任務に同行させて頂いて俺はもう一度神機使いとしての一歩を踏み出すことができました。まだまだ未熟者ですが、これからもっと鍛練を重ねていつかユージさんの力になりたいです。」

 

「一歩を踏み出したのはお前自身で困難を乗り越えたからだ。でも、お前のその言葉はありがたい。実はな、アラガミの脅威から人類を守って安心して暮らせるための準備を今している段階なんだ。まだやることが多すぎて実現にはかなりの時間を擁するけど、お前が一人前のゴッドイーターになる頃には発足してるかもな。」

 

「もう、動き出してたんですね。」

 

「だから支部長になったんだよ。こっちで勝手にやってると本部の連中が黙ってるわけがないからね。俺はそういう連中を追い払う役目で支部長を選んだ。」

 

 ギルに少しだけ自分が進めている計画を話し、いつかギルが一人前のゴッドイーターになったときに一緒に協力する約束を取り付けた。あまりの行動の早さと確かな信念を持っている事に驚きを隠せないがこういう人こそ支部長になれるのだと一人納得する。

 

 

 

 

 



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第33話 皇帝

 本部からの招集で始まった大規模な会議も残すところ今日を入れてあと二日となり、会議もいよいよ大詰めを迎えていた。ユージの予想通り前支部長が起こした事件の説明と謝罪を求められ、渋々従ったまでは良かったがそれでは収束せず色んな支部から糾弾の声が挙がりこれまで我慢していたユージのストレスも限界に近づいていた。

 本来なら全部話そうかと思ったが、シオが機密事項なのとどうせ全て言ったところで納得するような連中でないことは明白だった。

 

 そのストレスを発散するべく議会が終わるとギルと任務に赴きアラガミにイライラをぶつけることが数少ない楽しみでもあった。憂さ晴らしにアラガミを殲滅するユージにギルは言葉を失うがただ怒りに任せているわけではないと毎日が新鮮で自分も遅れをとらぬよう必死に付いていった。

 

 

 

 そして今日、ギルは他の支部の隊員との任務に向かい、アリサとリンドウたちもそれぞれに割り振られた隊員と既に出払っていた。残されたユージはと言うとツバキと一緒に未だに会議の真っ只中にいた。今回は食料会議と言うことで本部と他の支部が開発した商品の発表と試食があり、食べた感想を5段階で評価し、評価の高かった物を実際に販売するのが目的だ。この時代、食べることさえ苦労が絶えずレーションや遺伝子組み換えで作られた作物位しかなく、まともな食事は一部の富裕層と本部の上層部の人間位だ。

 

 そんなわけで各支部が開発した商品を実際に食べてみるがどんなに改良したところで所詮はレーションとかその程度な訳で普段からまともな食事に慣れているユージにとっては苦痛以外の感情がない。当然ながら評価は最低の1をただ付けていくだけの作業。こんなことする暇があったらお前らの食料を分ければ良いだろう、と文句の一つでも言ってやりたい。一応、極東でもレーションは開発されており、その評価はレーションの中ではトップクラスに評価の高いが、既に知っているように極東の人間でレーションや遺伝子組み換えの食糧を食べている人間など一般人含めても誰一人として居ない。一般人にはユージが毎日のように届けているしアナグラではユージやユータ達が調理するために態々レーションに頼る必要すらない。

 その為、高い評価を受けても正直どうでもよかった。それと同時にレーションの開発はもう辞めてちゃんとしたものを開発して提供した方が良いだろうと決心する。

 

「ツバキさん、もうレーション開発は止めてちゃんとしたものを開発して提供しよう!」

 

「私もそう思っていた所だ。我々が普段どれだけ良いものを食べているのかがよくわかった。だが、大丈夫なのか?一応、貴重な収入源なんだぞ。」

 

「こんな俺たちが満足していない物を売って金儲けするくらいならちゃんと食べられるものを売って儲けた方が良いですよ。それにもういくつか考えているんですよ。例えば、昨日俺が作ったカレーはルウを固形にするか液体のまま缶詰に入れれば長期保存が利く万能食材になります。それに米や野菜、果物といった青果類に至ってはハウス栽培で大量生産が可能なので各支部でそれらの食材の生産を促せばレーション生活とおさらばできます。それで実は今日、ここに試作品ではありますが持ってきているのでここの連中にも食べて貰います。」

 

「お前は相変わらず行動が早いな。確かにレーション売るくらいならそっちの方が数倍マシだな。」

 

「物は試しですよ。」

 

 ツバキにそう言うとユージは早速動きだし、試作品の紹介を始める。

 

「皆さん、突然ではありますが今回私どもが開発したのはレーションだけでなく今手に持っているカレーの缶詰とルウを固形状にしたものの二つあります。皆さん、知っての通り今日口にしたレーションはお世辞にも美味しいとは言えません。あんなのはただ栄養価が高いだけであれを食べ物と言うには些か疑問です。まあ、極東からもレーションは発表させて頂きましたが、今回をもって極東でのレーション開発は終了とさせていただきます。これからはこの缶詰と固形状に出来るものを中心に栄養があって美味しい食事の開発に取り組んで参ります。少々説明が長引きましたが、是非とも皆さんご試食と食べた感想をお願いいたします。」

 

 突然のレーション開発終了とそれに変わる新商品の開発の宣言に議会は騒然とする。しかし、配られたカレーを食べるとその味とユージの説明に納得せざるを得なかった。当然評価は全員が最高の5を選び、ユージはその評価に静かに手応えを感じていた。結局、極東の後にプレゼン予定だった他の支部はカレーにレーションが勝てるわけがないとプレゼンを断念、食料会議は早々と閉会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の会議が終わりやっと自由の身となったユージの携帯に電話が鳴る。相手はギル。

 

「お、ギルか。」

 

《ユージさん、急で悪いんですが直ぐに来てもらえますか?》

 

「なんかあったのか?」

 

《他の支部の連中と任務に行っていたのですが、見たこともないアラガミが現れて同行していた連中全員が········》

 

「何!?それでお前はいまどこにいる?」

 

《今そいつから離れたところで隠れてます。一度は応戦したんですが、全く歯が立ちませんでした。》

 

「分かった。今すぐ行くからそれまで見つからないように持ちこたえろ!》

 

「すいません、お願いします。」

 

 

「どうした、ユージ?」

 

「今ギルからの電話で任務中に想定外のアラガミの襲撃で同行していた隊員が全員死んだと知らせが。もしかしたら新種か或いは極東以外では滅多に出ない接触禁忌種の可能性も。とにかく俺は直ぐに救援に向かいます。ツバキさんはアリサ達の状況の確認を頼みます。」

 

「分かった。気を付けろ!」

 

 ギルからの要請にユージはツバキに指示を出すと神機を手に急いで外に出ると目の前に停めてあったバイクに乗るとアクセル全開で飛ばす。ギルの腕輪から発せられるビーコン反応を頼りに近くまで来ると一旦停めてギルを探す。

 

「おい、ギル近くまで来たけど今どこにいる?」

 

《ここです》

 

 小声で電話すると少し離れた岩と岩の間にギルを確認。合流を試みようと前に出ようとしたところでアラガミの気配を感じ脚を引っ込める。そして、顔だけを出して確認するとそこには青い大きな体のアラガミが倒した人間の死体を食べていた。腕輪らしき物まで見えたため、ゴッドイーターだと推測。

 

《ユージさん、あのアラガミは何なんですか?》

 

「あいつはカリギュラだ。最近極東を中心に発見の報告が相次いでいる新種のアラガミだ。まだ交戦した経験はないが、同じく最近発見されたハンニバルの類似種でハンニバル以上に素早い動きから繰り出される攻撃はどれも即死レベルの強敵だ。多分、そろそろ接触禁忌種に指定されると思っていたけど、まさかこんなところで会うとは。」

 

 死体を貪る青い体のアラガミは最近発見されたハンニバルの類似種のカリギュラ。大きな体に似合わず俊敏でそのスピードはピターやマータといった比較的スピードのあるアラガミとは比較対象にすらならないほど。それに加えて攻撃の威力も凶悪でまず並のゴッドイーターではまともな攻撃すらさせて貰えない。

 極東でもその存在は確認されては居るがまだ交戦の経験がなく、流石のユージも下手に戦うのは得策ではないと踏んでいる。しかし、このまま放っておけば更なる被害がでる可能性は捨てきれない。撤退か討伐か、選択に困っているとギルが電話越しに何か言ってくる。

 

《ユージさん、生意気な意見かも知れないがこれはこないだあんたが言っていた命令に当てはまるんじゃないすか?》

 

「命令······フッ、そうだったな。そうだよな、言い出しっぺの俺がそんな簡単な事を見落とすとは情けないもんだ。ありがとな、ギル。俺も男だ。覚悟を持ってあのアラガミを倒す!ギル、一緒に来るか?」

 

《俺はユージさんの指示に従うまでだ。》

 

「よーし、いい表情だ。じゃあ、一気に行くぞ!」

 

 

 ユージの合図を皮切りに二人はカリギュラに正面から立ち向かう。カリギュラも二人の存在に気づくと威嚇と反撃の構えで待つ。だが、二人はカリギュラの目の前で左右に散開、カリギュラに的を絞らせにくくするのと同時に両側から一気に攻勢にでる狙い。完全に目標を見失ったカリギュラはどこから攻撃が来るのかを冷静に予測、右から突っ込んできたユージに的を絞るとハンニバルのような拳ではなくブレードのような武器で鋭く払う。

 攻撃をギリギリで見切りかわせたが思っていたよりも速く鋭い一撃にまだ始まったばかりとはいえ、一瞬でも気を抜けば命はないと思い知らせるいい例だ。

 

「まだまだ序盤でこの攻撃かよ。ったく、反則もいいところだぞ。」

 

 今まで数々のアラガミを討伐してきたユージも目の前でほくそ笑んでいる相手を前に余裕などなかった。だが、カリギュラがユージに気をとられている隙に反対側からギルがチャージスピアの特徴であるオラクルを溜める威力を高めた突きで無防備の背中に初めて攻撃を当てる。後ろからの奇襲にカリギュラも大きなダメージを喰らうが冷静に後ろに下がり、改めて二人を確認してから両手に備えているブレードを自慢のスピードで大きくそして鋭く連続で斬り付ける。この攻撃をギルは盾で防ごうとするが相当な威力を前に耐えきれず後方に大きく吹き飛ばされ戦線離脱を余儀なくされた。

 

「ユージさん、すみませんが動けそうにないです。」

 

「ギル、大丈夫か!このままでは無駄に命を散らすだけだ。お前は暫くそこで休んでろ。後は俺が何とかする。」

 

 ガードしていても相当なダメージで負傷したギルを心配しながらユージはアリサ達を呼ぶべきか迷っていた。確かにアリサ達が来れば戦況は好転するかもしれない。だが、それではここまで自分のわがままに付き合ってくれたギルに申し訳が付かない。とは言え、無理して自分も殺られればギルも殺されかね無いためもしダメだと判断したら応援を呼ぶことを念頭に置く。その為の確認と無線をツバキに繋ぐ。

 

「ツバキさん、アリサ達の方はどうなってますか?」

 

《アリサ達の方は問題なく任務が終わって、今こっちに帰投中だ。それよりお前の方は大丈夫か?》

 

「大丈夫って言いたいところですが、こいつはかなりキツいですね。盾でガードしたギルが吹っ飛ばされて戦線離脱する程にね。まあ、神機を握って間もない新人に戦わせる俺がどうかしてるんですけど。ですが、俺が連絡するまで応援は待ってもらって良いですか?自分勝手な事は百も承知ですが、俺がどこまでヤれるか確かめてみたくなりました。責任は全て背負うのでお願いします。」

 

《本来なら認める訳にはいかないが良いだろう。だが、必ず生きて帰ってくることが条件だ。》

 

「了解です。」

 

 どうにか自分のわがままを認めて貰うことが出来、無線を切るとふーっと息を吐いて気を落ち着かせる。

 

(ここまで来たら本気で行くしかない。本当はこいつを使いたいが最後の手段に取っておくか)

 

 ポケットに偲ばせてるケースを取り出すが直ぐにしまいカリギュラとの一騎討ち

を挑みに走り出した。

 

 

 




 


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第34話 神速

 カリギュラと真っ向勝負を挑むに辺ってユージは冷静に自分の力を分析していた。カリギュラにまともな攻撃が通ったのはギルが隙をついたあのときだけでそれ以外は近づくことさえ出来ずにいた。他のアラガミにありがちな小細工は一切せずに単純に己の戦闘力だけを極めたカリギュラと自分の実力の差は歴然で、ただ本気で戦った所で勝てる見込みはない。

 

 それでも勝機はあると信じて持てる力を全て出すつもりでカリギュラに接近。懐に入ると同時に死角に回り込み右腕に刃を突き立て厄介な右腕のブレードを結合崩壊させる。それだけでは攻撃を止めず今度は左側に回るとこちらのブレードも崩壊。一気に両方のブレードを壊したことでブレードによる攻撃を封じることに成功、少しこちらに有利な状況となり大分戦いやすくなった。

 

 だが、カリギュラも黙っては居ない。ブレードが使えないならブレス攻撃だと口から凍てつく氷のブレスを少々広めに吐いたり、氷の球を前方に発射したりとあらゆる方法でユージを苦しめる。それでも恐れることなく飛び上がると頭に刃を突き刺し、更に追い討ちをかけるように背中のブースターまで崩壊させ徐々にカリギュラのスピードに適応していた。

 そして一気に勝負を決めようとスピードを上げて懐まで入り込んだ瞬間、ブースターで浮上し、雷撃の球を腕に発生させつつ冷気の渦を三つ同時に放ちユージを牽制。

 こちらが動けないことをいいことに目標へ急降下し雷撃球を地面に叩きつける。避けられないと判断したユージが盾を展開してこれを防ぐが動きを完全に封じられ盾がぶれると壊したはずのブレードが復活しており渾身の一撃を放つ。直撃すれば即死は免れないと盾で防ぐが勢いに押され神機が吹き飛ばされ気付いたときには激痛と共に衝撃が走り後ろに大きく飛ばされる。

 

「クソッ!奴がハンニバルと似ていること忘れてた。ここまで活性化してなくても動きに付いていくのがやっとだったのに活性化した今、あのスピードに付いていけねえぞ。」

 

 盾である程度威力が抑えられた事で即死は免れたが腹にはブレードで斬られたであろう大きな傷が痛々しさを表している。おまけに傷はかなり深く大量の血が服と地面を赤黒く染め立つことさえ出来なくなった。

 

「ゆ、ユージさん!」

 

「来るな、ギル!活性化した今、もうお前の実力ではこいつには敵わねえ。こいつは命を削ってでも俺が殺す!お前をここで死なせたらあの二人に申し訳ないからな。」

 

(出来ればこいつだけは使いたくなかったけど、もうこいつに掛けるしか無さそうだな。最期くらい無茶したって良いよな…)

 

 ズボンのポケットに偲ばせてるケースを開けるとカプセルを一つ口に入れ噛み砕いて飲み込む。すると傷の痛みが消え立ち上がり近くに落ちていた神機を拾うと自分を殺したと思い、戦う前に殺した人間の死体を食べて体力の回復を謀っているカリギュラに対して殺気を放つ。

 ユージの殺気にカリギュラも感付いて再びブースターで浮上すると雷撃の球を腕に発生させつつ冷気の渦を放つ。しかしユージは先程までとは段違いのスピードで避け、ゆっくりと近づく。それでもカリギュラはユージ目掛けて急降下すると雷撃球を放ち即座にブレードで渾身の一撃を放った。

 所がその瞬間、ユージの姿が消え去り逆にカリギュラの頭に何かがぶつかったかと思うとカリギュラは地面に伏せるように倒れた。

 

「ば、バカな……今何が起きたのかが全く分からなかった。ユージさんに一体何が起きてるんだ?」

 

 遠くでずっと見ているギルはユージの動きが全く見えず、圧倒されていたカリギュラの攻撃を物ともせずに逆に重い一撃を食らわせた事に衝撃を受ける。初めて任務に同行した時も凄かったが今のはそれを遥かに上回るスピードと攻撃でとても同じ人間がやっているとは思えなかった。

 

 

 急な攻撃に完全に状況を覆されカリギュラは全ての力を解放、活性化した時よりも更に一段階進化したスピードでもう一度ユージに戦いを挑むべくブースターで浮上、雷撃の球を発生させつつ氷の渦を撒き散らす。だがそれすらもユージのスピードは上回りあろうことか徒歩で全てかわし、怒り狂ったカリギュラが急降下し雷撃球をユージに0距離で放つ。しかし、ユージにはカリギュラの全ての行動がスローモーションのように見えており、歩くだけで雷撃球をかわすと直後に来るブレードによる渾身の一撃よりも圧倒的な速さで無防備な体に横一閃の刃でカリギュラの体は上半身と下半身とで綺麗に二枚卸しでその命を散らした。

 

 見たこともない圧倒的な速さと確かな強さを目の当たりにしたギルは暫く固まっていた。

 

「まさかあんなに苦戦していたカリギュラに圧倒的な強さで倒すとは……やっぱりユージさんは凄い。」

 

 このときギルの記憶にあった前に誰かが言っていた極東にはプリティヴィ·マータの大群を一人で全て倒す化け物がいるという話を思い出していた。始めはただの噂だと思い信じては居なかったが実は目の前にいるユージが噂だと思い込んでいた人なのではないかと思い始める。それを裏付けるだけの確かな実力は疑う余地がなかった。

 しかし、全ての力を解放したユージの体は限界を向かえギルが見ている目の前でゆっくりと倒れ、言葉を発することもなければ再び起き上がることすらなかった。

 

「ゆ、ユージさん!大丈夫ですか?」

 

 直ぐにユージの元に駆け寄り体を揺するが返事はなく、安らかな表情で眠ったように動くこともなかった。もしやと思い顔に手を翳すと微かに呼吸があるのを確認、急いでユージを背負うとユージが乗ってきたバイクに背負ったまま跨がり、アクセルを思い切り踏んで本部へと急ぐ。



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第35話 葛藤

 他の支部の神機使いとの合同任務から戻ってきたアリサは何やら会場が騒がしいことに気がつくがそれはここに来た時からずっとそうだったこともあり気にも止めなかった。しかし、その中でツバキだけ険しい表情でタブレットを眺めているのを見てこれはいつもと違うと気づき、ツバキに声をかける。

 

「あの、ツバキさんどうかされました?」

 

「あ、アリサか……実はたった今、マクレイン隊員の応援要請にユージが向かったんだが、そのユージのビーコン反応が消滅した。」

 

 ツバキから発せられた言葉にアリサは言葉を失った。腕輪から発せられるビーコン反応は発信器の役割だけでなく、謂わば神機使いの命の灯火の役割も果たしている。そのビーコン反応が消滅したということは命の灯火が消えかかっている、或いは既に消えているかのどちらかしかない。

 まさかあのユージに限ってそんなことはないと信じ、アリサはツバキに自分が居ない間に何があったのか問い質すと乱入してきたカリギュラを倒すため敢えて自分達の応援を呼ばないよう頼まれたと聞かされ、どうしていつも無茶な選択をするのかと悲しさよりも頼りにされない事への寂しさが込み上げ、その場で立ち尽くすことしか出来なかった。

 

「アリサ、すまない。私が付いていながらあいつの申し出に断ることが出来なかった。これは私の責任だ。」

 

「だったらどうしてもっと強く引き留めなかったんですか!教官のあなたならユージがどういう性格かなんて分かっているはずです。それなのにどうして···」

 

 ツバキは教官としてユージの選択を止められなかった責任を負うと言ったが、その安易すぎる言動にアリサは怒りが込み上げ上官であるツバキに対して強い口調で言い放つとその場を離れていった。一人残されたツバキはアリサに対して何も言い返せず無言でタブレットの画面を見詰めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツバキに強い口調で言い放ち会場の外に出たアリサは直ぐにユージを助けるため本部を出るとどことも分からぬまま走る。すると目の前から何か大きな音と共に一台のバイクがこちらに向かってきた。目の前を通りすぎたバイクを一時は見過ごすももしやと思い後ろを振り向くとバイクの後部座席に自分が探していたユージの背中が見え、急いでバイクの後を追った。

 

 

 本部に到着するとギルはバイクを乗り捨て急いで救護班にユージを引き渡した。そこにバイクを追って走ってきたアリサも駆け付け救護班共に一緒に手術室前まで付いていく。手術室にユージが運び込まれるとドアが締まり直ぐに手術中のランプが灯る。

 アリサは無事に手術が終わることを祈るように椅子に座る。そこにギルもやって来て、壁に背中を付けて同じく手術が終わるのを待つ。それに気付いたのかアリサは声をかける。

 

「あの···あなたがユージをここまで?」

 

「ああ、そうだ。俺はユージさんに助けてもらった。俺のためにたった一人であのアラガミに立ち向かった。」

 

「そうだったんですね。ありがとうございます。あなたも怪我されているようですけど大丈夫ですか?」

 

「いえ、俺のは大した事じゃないので。俺よりもユージさんの怪我の方が深刻だ。」

 

 ギルが必死に運んできた事をアリサは感謝しながらもユージの事が心配で仕方がなかった。それはギルも同じでその場に何時間も居座り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユージが手術室に運び込まれてから二時間くらい経ち他の任務に言っていたリンドウ、ハルオミ、ケイトの三人もユージの事を聞いて駆け付けると泣いているアリサと黙って立ち尽くすギルを見て、深刻な状況なのだと理解。

 

「ギル、大丈夫か?その怪我。」

 

「ハルさん、俺は大丈夫です。ユージさんの指示で後ろで待機させられてましたので。」

 

「そう、あなたが無事で良かったわ。ユージ君はあなたを守るために敢えて一人で戦うことを選んだのよ?」

 

「け、ケイトさん、俺何も出来ませんでした。ここに来てからずっとユージさんに戦いかたを教えて貰ってきたのに。すみません。」

 

「あなたが謝ることないわ。私がユージ君の立場でもそうしていたと思うから。隊長は部下の命を守る義務があるの。彼は上官としてあなたを守るために決めたことだと思うから。」

 

「ケイトの言う通りだ、新入り。俺も昔は隊長やっていたがあるミッション中に起きた事件で愛する人と別れる決断をした。今こうして生きて戻ってこれてる事を考えればあの時俺の選択は間違いではなかったと知った。この時代、生き抜くためには苦しい選択を迫られるときが必ずやって来る。そのときにどういう選択をするかは本人次第だが、一つだけ大事なことがある。どんなにヤバイ状況でも生きることから逃げるな!これはなユージが教えてくれた言葉だ。」

 

 ケイトに同調するようにリンドウも自分の実体験をもとにギルに大切な事を教える。あのときにユージが言った言葉はリンドウの胸に今も強く刻まれている。

 このときギルはユージが言っていたことを思い出していた。

 

『いいか、ギル。弱いことは恥じることじゃない。確かに弱いとダサいかも知れないけどそこから逃げるやつなんかよりよっぽど格好いいと思うぞ。逃げずにきちんと向き合うことが出来れば良いんだ。』

 

 ユージから教わったのは戦闘よりも人として生きるために必要なことの方が多かった。正直任務に行ったのは数えるほどでその程度でガラッと良くなるほど単純ではない。それよりも大切なことがあるとユージは常々口にしていた。分かっているようでちゃんと分かっていなかったのだと初めて気づき、手で顔を覆うと静かに涙を流し声を漏らして泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明け方近くになっても未だに終わらない手術に流石のリンドウたちもそれぞれ部屋に戻って寝るなか、アリサだけは寝られずにいた。昨日までは隣で感じていた彼の温もりが今日は無く、手を置くとただ冷たさだけが残りここに居ない事実を受け入れられずにいた。前にも似たような事はあったがあのときはまだ直ぐに回復し、デートや一緒に話をする時間もあって寂しい思いも直ぐに消えた。しかし今は助かるかどうかも分からないままここに居ることがとても耐えられそうにない。

 

(ユージ、そばを離れないって約束したじゃないですか!)

 

 暗闇の中、寂しさを紛らすように左手の薬指に嵌めている指輪を見るが見れば見るほど寂しさが膨れて泣くことしか出来なくなった。嗚咽が漏れるほど泣きたいだけ泣くと次第に涙も枯れ始めいつのまにか眠りに就いていた。

 

 

 

 

 

 



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第36話 再会

 夜が明け朝の日差しが窓の外から差し込みアリサは目を覚ました。だが、横を見てもユージの姿はそこにはないと分かると動く意欲が湧かない。今日で極東に帰らなければならないがユージが居ないなら帰る気はない。空は晴れているが心はどんよりしていた。そこに一本の電話が来て、名前を見るとサクヤからだった。恐る恐る電話に出てみる。

 

「はい…、もしもし」

 

《アリサ、大丈夫かしら。リンドウから聞いたわ。大変なことになったわね。》

 

「サクヤさん……私、どうしたら?せっかく指輪も貰って結婚する約束もしたのにユージが居なくなったら、と思うと耐えられません。」

 

《アリサ、しっかりしなさい!あなたが信じないで誰が彼を信じるの?彼のことが好きなら最後まで信じるのよ。リンドウが居なくなって彼の腕輪が見つかって、泣いていたときにユージが言ったのよ。サクヤさんだけは信じて!って。それ以来ずっとリンドウが戻ってくることを信じて、ちゃんと戻ってきたわ。だからあなたも信じるのよ。これが出来るのはアリサだけなのよ?》

 

「はい…私、ユージの事を信じます。サクヤさん、ありがとうございます。」

 

《私の事は良いから早く彼の元に行ってあげるのよ》

 

 サクヤの愛のある叱咤にアリサは涙を拭いて電話を切ると直ぐに手術室に向かった。

 

 アリサとの電話を終えたサクヤはあのときユージが言ってくれなかったらきっと諦めていてリンドウが戻ってくることも無かったのかも知れないと思うと、あの時掛けてくれた言葉に随分と救われたと改めて感謝の気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手術室に付くとまだ手術中のランプが付いていたが直ぐにランプが消え、ドアが開くと同時にユージが運び出され、最後に執刀医が出てきた。直ぐにユージの元に行きたいがまずは容態を聞くのが先と執刀医の説明を貰う。

 

「彼のご家族の方ですか?手術は無事終わりました。命に別状はありませんが傷が深く暫くは入院が必要です。ただ、彼が目を覚ましたら言っておいてください。もうドーピングカプセルは飲むな、と。」

 

「え?」

 

「傷が大きく、傷が深かったのは事実ですがそれだけであればここまで手術が長引くことはありません。ですが、彼は大怪我をしていながらドーピングカプセルを服用したために体に無理な負担をかけた結果、あと少し治療が遅れていれば命は無かったと言っても過言ではありません。もし、次服用することになればその時こそ彼の最期だと思ってください。では、私はこれで。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 ユージが無事と分かりホッとするまもなく医師から告げられたドーピングカプセルの事で死の淵まで来ていたのだと聞かされ、絶対に止めさせないといけないと心に誓った。

 

 

 ユージが運ばれた病室に入るとまだ麻酔が回っているのか目を覚ます様子はない。椅子に腰掛け布団から出ている左手を握りしめるとそっと自分の頬に刷り寄せ恋しかった彼の温もりを感じていた。その時、アリサの中で変化が起こるとそこには若い夫婦がまだ産まれて間もない赤ん坊を抱いている様子。どうやら出産して少しして初めての我が子との面会の一場面らしい。

 次に場面が変わると少し成長し、必死にハイハイする所や初めて自分の足で立ち上がって歩く所等が写し出され幸せそうな雰囲気になったかと思うと今度は友達と木登りをして、一人が木から落下し大怪我をしているところをもう一人の男の子が懸命に応急処置をして、お礼を言われる場面。

 そして一番最後は自分の目の前で両親がアラガミに無惨にも頭から噛み砕かれ死んでいき、一人残された地で泣いたが側にまだ小さい弟らしき子供が寄ってきては膝の上で泣いているのを見て泣くことを止めて弟を支えていかなければいけないと決心した所で現実に戻った。

 

 すると握っていた手が動き寝ていたユージの目がゆっくりと開いた。

 

「………あ、アリサ?」

 

「ゆ、ユージ、そうです。私です。やっと……やっと会えました。」

 

「そっか、今のはアリサが手を握ってくれてたから昔の記憶が出てきたんだね。」

 

「私にもやっと見えました。これが前に言っていたユージの記憶なんですね。」

 

「そうだよ。前に俺がアリサの手を握っていたように今はアリサが俺の手を握ってくれたから感応現象が起きたんだよ。」

 

 感応現象で目が覚めたことで忘れていた感情を思い出したように彼に抱きつくとこれまでの寂しさを全てぶつける。

 

「ユージのバカ!私がどんな気持ちでいたと思っているんですか!」

 

「アリサ······、ゴメン。今回はマジでヤバイと思ってた。本気で戦っても全然敵わなくてさ。でもギルが後ろに居たからあいつだけは絶対に死なせる訳にはいかなくて。仕方なく最後の手段でカプセル飲んだ。まあ、この事も予測していたからツバキさんにわがまま言ってアリサ達の救援要請待って貰ったんだけどね。」

 

「ユージは何も分かっていません!先生言っていました。カプセルはもう飲むなって。次飲んだらその時がユージの最期になります、って。それを聞いたとき私がどんなに辛くて悲しかったか。」

 

「それは飲む前に薄々気づいていたよ。前に飲んだときも反動が凄すぎて諸刃の剣以上に危険な薬だってのはね。だからここまで使わないように封印してきた。こないだアリサが崖から落ちてアラガミに囲まれたときだって実際はカプセル飲めば直ぐに片付いてたけど、敢えて使わない方法を選択したしね。ただ、今回はカリギュラ倒すためにはこれしか無かったから仕方なかったんだ。」

 

「もう薬は没収です。絶対に使わせませんから!言っておきますけど、こっそり作ってもダメですからね。」

 

「まあ、仕方ないか······。」

 

「ちょっと、本当に反省してます?」

 

「いや、してるって。そんなに信じられない?」

 

「こういうときのユージは信じられないです。あれだけ無茶しないでって言ったのに直ぐ破りますから。あと私に相談もせずに勝手に行動するし。挙げればキリがないです。」

 

「そこまで言われると返す言葉もないや。すげえ罪の数だ。」

 

 医師に言われた通りにカプセルの没収とこれまで彼が犯してきた重罪の数々をアリサは忘れずに突き付けることで本気で反省して、もう側を離れてほしくないと心から願う。本当はもっと説教したいがやっぱり彼の温もりと会話が出来ることが嬉しくて説教はもういいと彼の左手の薬指に嵌められている指輪と自分の薬指に嵌めている指輪を並べて眺めるだけで幸せを感じていた。

 

 とここでふと気づく。結婚するからには挙式は勿論だが、ウエディングドレスが最も重要だということに今気づくがまだサイズ合わせすらやっていない現状に焦りを感じていた。女性なら一度は着てみたいと思うのがウエディングドレスであり、一種の憧れでもある。ユージはウエディングドレスの事をどこまで考えているのか知りたくなった。

 

「あの、そう言えばウエディングドレスはどうするんですか?」

 

「どう?って言われても、準備しないとダメに決まってるだろ。なんだけど、ウエディングドレス作っている所が中々見つからなくて困ってるんだよね。いっそのこと自分等で作るしかないのかな?」

 

「ええ~、見つからないんですか?凄く楽しみにしていたのに。」

 

 ウエディングドレスの準備が滞っていると知り、不満そうに頬を膨らませて彼が慌てるのを見てみようと悪戯してみる。すると彼はまんまと引っ掛かるかと思いきや。

 

「仕方ないだろ?見つからないんだから。ウエディングドレスとか着物っていうのは相当作るのに時間と労力が必要だからそんな簡単にはいかないの。分かりましたか?」

 

「ひどーい、そんなに責めなくても良いじゃないですか!」

 

「アリサ……まさか俺を嵌めようとしてる?さっきからなんか変だぞ。」

 

「バレました?ちょっと意地悪してみたくなりまして。」

 

「いや、バレバレだって。ずっと側に居るんだから直ぐ分かるよ。」

 

「そうでなければ怒りますけどね。でも、良かったです。」

 

「アリサ······」

 

「またこうして一緒に居られて。昨日はずっと寂しくて夜ベットに横になったときにいつもなら横にいるはずのユージがそこには居なくて朝まで泣いてました。それほど私にはユージの存在が大きくて温もりが恋しかったんです。」

 

「ゴメンな、寂しい思いさせちゃって。今から俺も考えを改めないといけないってよく分かったよ。一度失った大切なものを埋めることはそう容易くはない。大切なものは絶対離さずにずっと自分の側に居て貰えることが幸せなら、俺にとっての大切はアリサだ。もう離さずに居ないとまた寂しい思いさせちゃうから。」

 

「やっと分かってくれましたね。今までのユージにはそこが分かっていませんでした。だから無茶をするし、約束を破るんです。でも今の言葉を聞いて安心しました。一生忘れないでくださいね。貴方は私の旦那さんなんですから!」

 

「俺がアリサの旦那さんなら、アリサは俺の奥さんだよ。今の言葉忘れないように心から誓うよ。これは俺の今の気持ちさ。しっかり受け取ってね。」

 

「もう、またいきなりキスするんですから!では、私の気持ちも受け取ってくださいよ。ユージには負けませんから。」

 

「負けないって俺まだ怪我人なんだけど。」

 

「怪我してるなら大人しくしててください。私は私で好きにさせて貰いますので」

 

 そういうとユージが動けないように体を手でしっかり押さえつけると好き放題に自分の唇を重ね合わせ今までよりも遥かに長く味わっていた。一方のユージも嫌ではないのと寂しい思いをさせてきた負い目から彼女の好きにさせようとキスがしやすいように動かない。それが分かったのかアリサは唇だけに止まらず頬や首筋、肩甲骨、胸といった肌が見えている箇所にまでキスをし始め、〆に唇にまた長いキスでようやく終わった。思う存分にキスをしまくりアリサは満足するとリンドウ達を呼びに一旦部屋を出た。

 

「なんか最近のアリサ凄く大胆な気がするけど、何でだ?」

 

 一人残されたユージはアリサの積極的かつ大胆な行為は何か意味があるのか?と考えるが結局分からずにあきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサからユージが目を覚ましたと報告を受け、リンドウ達が見舞いに訪れた。

みんな無事を喜ぶが中でもギルが一番嬉しそうにしている。

 

「ユージさん、昨日はありがとうございました。お陰で俺はこうして生きることが出来てます。そして何よりも無事で良かったです。」

 

「いやー、昨日は助かったよ。ありがとう、ギル。だけど、新人のお前にカリギュラと戦わせたのはまだ早かったみたいだな。二人でやれば行ける計算だったんだけど。」

 

「いえ、そこは俺の力不足なだけなのでこれから精進します。昨日のユージさんがカリギュラを圧倒していた姿を見て俺はユージさんを目標に頑張っていきます。」

 

「あー、あれね······自分でもあんまり覚えてないんだけど、今まで感じたことがなかった感覚だった。なんていうかアイツの全ての動きがスローに見えてさ、あれは我ながら凄いと思った。あんな動きが出来れば良いなあ。」

 

「なんだ?お前またなんかやったのか?」

 

「リンドウさん、言ってもいいですけどここにはツバキさんが居ることをお忘れなく。」

 

「あ、そうだった。じゃあ後で耳打ちで教えてくれよ、な。」

 

「ユージ、是非ともここで聞かせて貰おうか。お前が言うくらいだから訓練すれば極められるということなんだろ?」

 

「そうですね。かなり厳しく険しい道のりになることは間違いないです。俺も回復したら早速習得に励まないと。ちなみにその技というか技術を一言でいうなら神速ですね。」

 

「し、神速?なんだそりゃ」

 

「リンドウさん、実際に見ていた俺はユージさんの動きが全く視認出来ませんでした。いきなり消えたかと思うと気付いたときにはカリギュラが地面に伏せられていたり、最後は上下に体を真っ二つに斬っていました。スピードだけでなく攻撃に移るまでの動作と敵の急所を一撃で着くための高度な技術があの少ない攻撃に凝縮されていました。あれは正に神速です。」

 

「なるほど、マクレイン隊員貴重な情報提供感謝する。リンドウ、帰ったら早速訓練だな。」

 

「おい、姉上の前でそんなに詳しく言うなよ。こういうときの姉上ほど怖いものはないぞ。」

 

「馬鹿者!私は死なないためにお前達を鍛えているんだ。努力を怠らなければ必ず習得できるなら鍛えておいて損はない。今までサボってきた分はきっちり働いてもらわないと困るぞ。」

 

 ギルの正直な説明によりリンドウは地獄の訓練が始まることに恐怖を覚える。ツバキとのやり取りを全員が笑い、特にハルオミとケイトは懐かしさを覚えていた。

 

「リンドウ大変だな。俺らは俺らでじっくりやるぜ。」

 

「こんなに生き生きしているギル見るのいつ以来かしら。ユージ君、あなたギルにどんなアドバイスしたの?今後の参考にしたいんだけど。」

 

「どんなって言われてもそんな大したことは言ってないですよ。強いていうなら命令は三つですね。」

 

「三つ?」

 

「死ぬな、逃げろ、そんでもって隠れろ、そして不意を突いてぶっ殺せ、それでもダメな時は生きることから逃げるな!ですね。あ、これじゃあ五つか。」

 

「おい、お前それは俺の台詞だろ。」

 

「リンドウ、あなた数も数えられないの?」

 

「バカ!これは新人の肩を解すためにわざとだ。」

 

「そう言えばレンも言っていましたよ。リンドウは数も数えられないバカだって。」

 

「やっぱりリンドウってバカだったんだ。」

 

「お前ら好き勝手言うな。大体、レンのやつも何てこと言うんだ。今度あったら文句いってやる。」

 

 周囲から弄られリンドウは反論しつつも少し楽しいのか嫌な気持ちはしなかった。出発ギリギリまで楽しい会話は続けられた。

 

 

 

 

 そして各支部の人間がそれぞれの支部に戻る時間となり、ギルたちとも別れることに。

 

「ギル、もし良かったら今度極東に遊びに来いよ。いつでも歓迎するから。ハルさん、ケイトさんも。でも、ハルさんはナンパしないことが条件ですけどね。」

 

「おいおい、ナンパ呼ばわりするな!俺はちゃんと許可得てるんだぜ?」

 

「真壁、お前もリンドウと一緒に訓練受けるか?」

 

「それは遠慮しときます。」

 

「じゃあ私たちはこれで。みんなありがとう。お陰で楽しかったわ。」

 

「ケイトさん、また今度お話お願いします。」

 

「アリサちゃんも頑張ってね!応援してるわ。また会いましょ。」

 

 ギル達を乗せた飛行機はグラスゴーへと飛び立った。

 

 そして残ったユージ達も極東に戻る為飛行機に乗り、こうして長くも楽しかった本部出張は終わり明日からはまた平凡な日常が待っていることだろう。



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第37話 料理対決①

 本部召集からアナグラに戻ってから数日後、退院したユージはサカキに報告をするためラボを訪れた。中にはソーマも居るが彼はアーク事件でエイジスに残されたノヴァの残滓の調査があるので追い出さずにそのまま報告をする。

 

「サカキ博士、本日より支部長としての業務を再開します。ここまで私の代わりにアナグラを守ってくださりありがとうございます。」

 

「いや、君が無事で何よりだよ。ツバキ君やリンドウ君から話は聞いたよ。相当手こずったようだね。」

 

「はい。あそこまで強いと思ったアラガミは初めてですね。あれは相当キツいので単独での交戦は禁止が妥当です。まあ、俺たち第一部隊でも相当キツいと思われます。それほどまでにカリギュラは強かったです。」

 

「君が言うんだから間違いないだろう。あのあとカリギュラは正式に第一種接触禁忌種に指定されたよ。これからはその対策にブリーフィングが必要だね。」

 

「それについては今日の午後に全員集めてやるつもりです。極東でも報告が相次いでますからノンビリは出来ません。」

 

「ところで食料会議の方はどうだったかい?ツバキ君の話ではカレーの缶詰めと固形にしたものを試食して貰ったと聞いているよ。」

 

「はい、そうです。これまで極東でもレーションの開発は続けてきましたが、今やレーションを食べる人間が極東に於いては誰も居ません。もうレーションに手を伸ばさずとも満足できるだけの食料の供給が出来ています。それなのにいつまでもレーションの開発を続けることに疑問を抱いていました。ですが、今回試作した二つの商品が大変好評だったのでこれを期にレーション及び遺伝子組み換えの作物の開発と製造全てを終了しまして、これからは缶詰めやレトルトパウチといった長期保存が可能で料理が苦手な方でも手軽に美味しく、そして栄養のある食事が楽しめるような商品の開発をしていくことに決めました。」

 

「レーション等に変わる商品が開発されれば食事に関しての不満は解消されるだろうね。だけど、それは同時に商品化されるまでこちらの収入が減るということでもあるからその対策も必要だね。」

 

「それに関してはもう大丈夫です。自分がここに異動して間もない頃に亡くなったエリックのご家族の方からこの度正式に商品開発の援助を頂くことで合意しました。」

 

「何、エリックだと?」

 

 エリックの名前にずっと黙っていたソーマが珍しく反応、ユージの顔をずっと見ているがユージは構わず話を続ける。

 

「エリックの実家は極東傘下の財閥であるフォーゲルヴァイデです。エリックが亡くなったあと一人残された妹のエリナの事をずっと見守ってきた我々に非常に感謝しておりましてそのお礼として我々にご協力したいと申し出がありました。本来であればエリックを死なせてしまった負い目から断るつもりでしたが、ご家族の方はエリックの死を無駄にしないために支援すると一歩も退かなくて。ならこちらとしてはご家族の方の気持ちを汲むことが我々に出来るせめてもの償いと思い、了承しました。」

 

「もうそこまで話が進んでいるんだね。であれば私は何も言うことないよ。この時代、誰かの協力を得ることの重要性は誰よりも知っているつもりだからね。」

 

「ありがとうございます。試作が出来ましたら、サカキ博士やソーマたちに食べてもらって感想を頂きますね。同時に住民にも試食して頂く予定です。」

 

「なるほど、では楽しみにしているよ。」

 

「では、私はこの辺で失礼します。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サカキに報告を済ませ休憩がてらロビーに向かったユージにアリサが声をかける。

 

「サカキ博士への報告終わりました?ユージに助けて欲しいことがあるんです。」

 

「今終わったとこ。で、何かあったの?」

 

「実はコウタと料理対決することになったんです。」

 

「え、料理対決?何でまたそんな話になったんだよ?」

 

「それがですね······」

 

 突然の料理対決に至った経緯をユージは呆れつつも最後まで黙って聞く。どうやら些細なことでコウタと口論になり、料理対決で決着することになったらしい。

 

「ということなんです。」

 

「事情はわかった。でも、アリサだけに指導するのはどうかと思うけど?コウタにもそれなりに指導しないと平等にはならないだろ。」

 

「それなら大丈夫だ。俺にはユータが付いてくれることになったから。」

 

 ユージの疑問は話を聞いていたコウタの言葉により解決されると同時に弟のユータが後ろについたと知り、あまり乗り気じゃなかったユージの心に火が灯る。

 

「アリサ、今の話乗った。今から特訓するから早く部屋に戻ろう。コウタ、お前らには負けねえぞ!」

 

「お、おう」

 

 アリサよりもこの料理対決に乗ってきたユージにコウタは驚きと同時にあの二人には負けないと静かに闘志を燃やす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 支部長室に戻ったユージはタンスからエプロンを取り出すと一枚アリサに渡す。急に変わったユージにアリサは戸惑いを隠せない。

 

「ほら、早くエプロン着て。じゃないとあいつらに先越されるよ。コウタはともかくユータには負けられないんだ。」

 

「あ、あの、どうしていきなりそんな乗り気になったんですか?」

 

「実は俺、料理であいつに一度も勝ったことないんだ。あいつの料理の腕は既にプロの領域で俺だけでなくケインたちでもあいつには敵わないんだ。」

 

「あ、そう言えばこないだの就任祝いの時、ユータが作った料理が真っ先に無くなりました。あのときは偶々だと思ってましたけど、そういうことだったんですね」

 

「そういうこと。あいつの作った物が凄すぎるが故に起きたんだ。」

 

 ユージの言葉でこないだの就任祝いでの出来事を思い浮かべ、そんな経緯があったのだとアリサは思うと同時にユージでも敵わないと知り、ユータの腕前を知りたくなってきた。

 

「ユージがそこまで言うなら相当なんですね。ちょっと確かめたくなりました。」

 

「おいおい、アリサにそれ言われたら俺の立場はどうなるんだよ。これは俺の戦いでもあるけど、アリサとコウタの対決なんだからな。これを期にアリサの手料理を食べさせてくれないか?」

 

「すみません。まさかそこまで拗ねるとは思いませんでした。でも、最後の手料理を食べたいっていうお願いはユージが教えてくれないと私の腕では到底難しいですよ?それでも良いですか?」

 

「それでアリサの手料理が食べられるなら全然平気だよ。だから早くやろう!」

 

 アリサの手料理を食べるというのはユージのちょっとした夢でもあった。普段はユージが作っているが本音を言うとアリサの作った料理が食べたかったのだ。本来であれば日頃から教えていればよかったが支部長になってからそんな暇等なく、結局何もできずにいたところに今回の料理対決とあってこの機会を逃さずに徹底的に料理を教え、いつか作ってもらえるようにしたいと思っている。

 

 一方のアリサもユージの期待に応えられるように頑張らなければと気を引き締め、渡されたエプロンに袖を通す。こうして料理対決に向けての指導が始まるわけだがアリサの腕前がどういうものかは知っているのでそれを踏まえた上で作るメニューを告げる。

 

「今回作るのはロールキャベツだ。俺が数ある料理の中で一番好きな食べ物だ。」

 

「難しそうですけど、大丈夫ですか?」

 

「言うほど難しくないよ。キャベツで具材を包んで煮込むだけだから簡単だし、アリサに作ってもらえたらそれだけで満足だね。」

 

「ユージがそこまで言うなら頑張ります。」

 

 直にアリサが作った物が食べたいと言われればいつも以上に気合いが入る。でも、まずはどういうものかをユージに作ってもらうことに。

 

「じゃあまずは俺が手本を見せるからそのあとで実際にやろうか。」

 

「はい、お願いします。」

 

 

 

 

 

 

 まず、キャベツ一玉を丸ごと熱湯に入れて取りだし、芯の根本に近い部分に包丁で切り込みを入れて葉が破れないよう一枚ずつ丁寧に取り出す。

 

「ここ熱いから火傷に気を付けて。全部剥がしたら今のお湯に塩を少し加えてさっと茹でて水気を切って。ここで予め切り込みを入れた芯を削ぎ落とす。葉の方は冷ますから置いとく。その間に玉ねぎを粗めにみじん切り、ボールに玉ねぎと合挽き肉、パン粉、卵、塩コショウを入れてよく混ぜよう。粘りけが出たら丁度いい大きさに分けて棒状に丸める。ここまで来たら後はさっきのキャベツの葉でこれを包んで鍋に入れて煮込む作業だね。」

 

 説明をしながら丁寧に行程を見せることでアリサにどういうイメージかを沸かせる。厚手の鍋にバターを入れて熱したら火を止めて巻き終わりが下になるように並べ、空いた隅にも余った葉を入れることで無駄がなくなる工夫を凝らす。

 

「やや中火くらいで15秒ほど経ってから水を入れて強火にするのが俺流。なんかこうしてから煮込んだ方が旨かったんだよね。沸騰したらコンソメを入れて弱めの中火で大体10分くらい煮込んだらいいかな。そのくらい似たらもう味を決めるよ。」

 

 そういうと醤油と塩を少し加えて蓋をすると今度は弱火で煮込むこと10分、ここで初めて味見をするとうんうんと頷くとまた蓋をしてコトコト煮込むのを嬉しそうに眺める。

 

「なるほど、ユージの説明と実際の行程を見て私が思っていたよりは難しくは無さそうです。」

 

 黙って見ていたアリサがメモを取りながら必死に覚えようとしているのはユージにも伝わり、これからアリサの手料理が食べられることに期待を寄せる。

 ユージが作ったロールキャベツが出来上がったので食べることに。皿に盛り付けられたロールキャベツはしっかり煮込んであるからかキャベツはくたくたで箸で簡単に崩れた。上品な食べ方で口に運ぶとキャベツで包まれた種から汁が溢れ、噛めば噛むほど美味しい味が口の中を支配していく。

 

「美味しい。キャベツも種も柔らかくて味も丁度いい味付けです。」

 

「アリサに喜んでもらえて何より。これはオードソックスなやつだからこれさえ覚えればいくらでもアレンジ出来るよ。では、今度はアリサが作ってみてよ。」

 

「は、はい。やってみます。」

 

 ユージに促され緊張を見せながらキッチンに立つとメモを見ながら慣れない手つきではあるが慎重に作っていく。その最中、今まで料理をやってこなかった人間とは思えない包丁捌きでキャベツの芯を削ぎ落とし、見たいたユージも目を丸くする。

 

「アリサ、包丁扱うの上手いな。どこで覚えたの?」

 

「いいえ、初めてですよ。ユージがやっていたのを真似してみただけですけど、褒めてもらえて嬉しいです。」

 

 褒められ気分が乗ったアリサは難しいとされる玉ねぎのみじん切りも割りと普通にやってのけもしかしたら普段は神機を振るために無駄な力がなく、丁度いい包丁捌きに活きているのでは?とユージは勝手に分析。その間にも作業は進んでいよいよ煮込む前の最後の行程であるキャベツで種を包むところに。

 だが、アリサはここで躓き微妙な力加減が上手くいかずにキャベツが破れ種が見えてしまう。これに困ったアリサがユージに助け船を求める。

 

「ここ難しいです。どうすればいいですか?」

 

「じゃあ俺が後ろからアリサの手を支えるからそれでやってみて。」

 

「え、キャッ!」

 

 そういうとアリサの背後に回り、手を握ると支えたアリサの手で種を綺麗に包む。この体制にアリサは戸惑いと恥ずかしさで体が熱くなるのを感じたが背中から伝わる彼の温もりに自分のためにやってくれているんだと嬉しさが次第に勝ってきた。

 

「ありがとうございます。ここまで来たら私一人でやってみます。」

 

 ユージの援助で実際に巻いたことで力加減が上手くいったのかさっきの失敗が嘘のように綺麗に種をつつむ。それでも時折破れることもあり、六個出来たがそのうちの四つで具材がはみ出ていた。

 しかし初めてにしては及第点以上なのは確かでユージもこの結果には大満足。その後の煮込む際の味付けもちゃんとスプーンで計り、失敗しないよう注意しながら出来上がりを待つ。

 そして遂にアリサが作ったロールキャベツが完成し、ユージは待ってましたと言わんばかりに箸で器用に一口サイズにしてから口にいれる。口に入れただけでもうどんなものか分かった。文句の言いようがない出来に感激のあまり涙が溢れる。

 

「お世辞抜きに超旨い。味付けも完璧だし、何よりアリサが俺のために作ってくれたってのが一番嬉しいね。こんなに旨いロールキャベツは初めてだ。ありがとう、アリサ。」

 

「そ、そんな大袈裟ですよ。ユージが作った通りにやっただけですし。でも、喜んでもらえて嬉しいです。これが胃袋を掴むってことなんですね。」

 

「そうだよ。初めてでここまで出来るなら練習を重ねれば本番はこれよりももっと良いものが出来るよ。これからが楽しみだ。」

 

「もっと練習を重ねてみます。」

 

 ユージの大小判でここからはアリサ一人で黙々と練習の日々が続いた。その一方でユータという強力なパートナーを味方につけたコウタも教えられた通りに練習を重ね、いよいよ明日料理対決の本番を迎える。




両者ともに教えられた通りにやってるので上手くいっているだけで、料理事態が上手くなった訳ではないです。自分が最初に覚えたのがロールキャベツでしたが、それもネットで見て作っただけでした。


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第38話 料理対決②

 料理対決本番を迎えたその日は朝からピリピリとした空気が極東支部全体に蔓延していて普段とは明らかに違う雰囲気にほとんどの人間は首を傾げる。その中の一人リッカが休憩がてら同じく休憩中のヒバリに何事か尋ねる。

 

「ねえ、今日なんかあるの?」

 

「リッカさん、今日午後から料理対決があるみたいなんです。」

 

「え、料理対決って誰と誰が?」

 

「コウタさんとアリサさんです。」

 

「え、コウタとアリサ!?」

 

 ヒバリの口から出た予想外の料理対決と対決する人物を聞いたリッカは思わず大声を挙げ、慌てて口を塞ぐと小声になる。

 

「どうしてまたそんなことに?大体あの二人は料理出来なかったはずじゃなかった?」

 

「それが私も詳しいことまでは分からないんですが、些細なことで揉めたみたいでその流れで料理対決が決まったらしいです。勿論、お二人は料理が出来ませんのでそれぞれ助っ人が付くそうですよ。」

 

「助っ人?アリサの助っ人はきっとユージだと思うけど、コウタの助っ人は?」

 

「それがユータさんみたいなんです。」

 

「ゆ、ユータが?そう言えば最近仕事以外で見掛けないなと思ってたけどそんなことやってたんだ。」

 

「何でもユータさんの料理の腕はユージさんでも敵わないそうですよ。」

 

「確かにこないだのパーティーだってユータが作った料理だけ直ぐになくなったもんね。私もたまに食べることあるけど美味しい。悔しいけど私にはあそこまでは無理。でも、アリサ大丈夫なの?あの子の料理センスのなさは異常だよ。」

 

「私もその事が心配だったのですが、ユージさんが付きっきりで教えてるみたいで上達してるとユージさんから聞きました。実際にアリサさんが作ったものを食べられたそうなんですがとても美味しかったと嬉しそうに話してくれました。」

 

「流石ユージだね。女心を分かってるよ。一生懸命作ったものを喜んでくれるのが女子にとってこれ以上ない喜びだから。私にもそういう人に会えたら良いなあ。」

 

「あれ、リッカさんもそう思いますか?」

 

「あ、いや、希望だよ。希望。そんな余裕ないから。て言うか、ヒバリの方はどうなの?」

 

「どうって言われましても。タツミさんからは相変わらずデートのお誘いばかりでこれといった進歩がないです。だからユージさんにあんなに大事にされてるアリサさんが羨ましいと思うと同時に嫉妬心もあります。」

 

「まあ、私もアリサは羨ましいと思うよ。キスもそうだけど一番の衝撃は結婚指輪だね。聞いたところではミッションに行く序でにダイヤの原石を集めてアリサに気づかれないようにオーダーメイドしたって。今時女の子の為にそこまでする男子も珍しいけど、それだけ大切に想ってるって事だから嬉しくないはずがないよ。」

 

「私もタツミさんから貰えたらと思ってます。その前にデートとかしたいんですけどね。」

 

 料理対決の事を聞きに来たつもりがいつの間にか恋バナに発展、アリサとユージに看過されヒバリがあれこれ思い描いているのをリッカは自分だけ置いていかれている感覚があった。だが、友達の恋の発展を願うのも悪くはないと一人納得するように紅茶を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、ユージの部屋でもある支部長室のキッチンにアリサとコウタが立ち、その横にはユージとユータが立つ。司会はケインが担当、任務に出ている人間以外が集まり料理対決の説明がなされる。

 

「対決のルールは制限時間二時間でお二人には一品作っていただきます。お二人にはそれぞれ助っ人が居ますが危険なところだけの補助で基本はお二人だけで作っていただきます。食材および調味料の使用は自由ですので自分が思ったものを作ってください。そして出来上がったものを実際に皆さんに食べて頂いて美味しかったと思う方に票を入れてください。その票が多かった方が勝利です。以上説明を終わります。」

 

 説明が終わり二人に緊張が走るなか料理対決が始まり、二人は早速調理に取りかかる。すると始まって間もなくしてアリサの横にいたユージは近くの椅子に座り休憩を始める。この行動に観戦している人間はいきなり降参か?と考える。それはリッカも同じで近くまで行くと耳元で囁く。

 

「ちょっと、何休憩してるの?」

 

「休憩も何もアリサなら問題ないから手伝う必要がない。」

 

「本当?」

 

「俺が教えたのは最初の一回だけで後は何もしてないよ。アリサ自身の力でここまで来たんだ。」

 

「そ、そうなの?」

 

「まあ、見てなって。俺、最初はユータに負けたくなくてこの勝負に乗ったけど、今は正直どうでもいい。そんなことよりもアリサが作ったものを食べられるだけで満足なんだ。男ってのは単純だから女の子に作ってもらえるのが何よりも嬉しいんだよ。」

 

「そうなんだ。」

 

 自信ありげに話すユージを見てヒバリに提案してみようと今の会話を心に書き留める。その間にアリサは種をキャベツの葉で包む行程まで進んでおり、こないだはここで手こずったがあれから練習を重ねた甲斐あり一つも破れることなく全ての種を包むことに成功。これには観戦してる人間から拍手が出る。一方のコウタも練習してきた肉じゃがを煮込む段階まで進んでいた。こちらも素人とは思えない手つきで見ているだけでお腹の虫が悲鳴を挙げる。

 

 そして調理が終わり、皿に盛り付けると時間内に無事完成、試食タイムに。

 

 アリサはロールキャベツ、コウタは肉じゃがと煮物料理の定番の対決となったが特に失敗と言える失敗もなく試食する側も最初は戸惑いを見せていたが一口食べればその味に箸が止まらず気づけばあっという間に完食、評価を付ける以前にその出来具合に驚きを隠せないでいた。

 

「コウタの作った肉じゃが旨いな。お前も相当練習を重ねたんだな。」

 

「ま、まあな。最初はダメダメだったけどやっていくうちにのめり込んでいく自分がいてさ、料理が楽しくなったよ。」

 

「そうか。それはよかったな。では、アリサが作ったロールキャベツも食べよう。」

 

 ユージとユータは評価の対象外だが試食は禁止されていないので互いに食べ比べていた。初めて食べるコウタの肉じゃがの出来に流石のユージも納得、そしてお待ちかねのアリサが作ったロールキャベツを食べる。最初に食べて以来その後の練習にすら顔を見せず、本番をずっと楽しみにしていたユージにとって今口に入れたそれは間違いなくあのときの味を越えていた。それだけではない、このロールキャベツの味は昔母親が作ってくれたロールキャベツと全く同じ味とあって懐かしさと嬉しさが込み上げる。

 

「ユージ、お味はどうですか?」

 

「そんなの美味しいに決まってるじゃん。てか、母さんが作ってくれたのと同じ味だ。懐かしいな。おい、ユータも食べてみろよ。」

 

「ほんとだ。母さんの味だ。何年ぶりだろ?俺が六歳の時に亡くなったから八年ぶりか。」

 

「そうだな。あれ以来食べてないから懐かしい。アリサ、ありがとう。コウタの肉じゃがも旨かったけど、母さんの味を再現してくれたアリサのロールキャベツはそれを上回ったよ。こんなに嬉しいことないね。やっぱり俺の奥さんで良かったよ」

 

「そ、そんな大袈裟ですよ。私はただ必死でしたから。ですが、それがユージのお母さんの味と同じで良かったです。これでユージの願いを叶えることが出来ましたので。」

 

 偶然ではあるがユージのお袋の味を再現したことで自然と勝負は決まったような空気になったがその後キチンと投票が行われて、即時開票の結果、引き分けに終わった。と言うのもこのレベルの高さに評価を付けること事態が烏滸がましいと投票する側が二人の名前を書いたために満票同士での引き分けとなった。寧ろ勝負よりも美味しいものが食べられただけで全員の気持ちは大満足だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕食はアリサがまたロールキャベツを作ったが偶然ではないことが分かり、ユージは何でだろう?と考えるものの結局その答えが出ることはなかった。それよりもアリサが作るロールキャベツがユージの大好物にランクインしたのは言うまでもないだろう。



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第39話 不吉

「なあ、なんか最近おかしなこと多くない?」

 

 それはコウタの何気ない一言から始まった。支部長室で書類整理に追われながらコウタの問いかけにユージは反応。

 

「おかしなことって?」

 

「ほら、原因不明で強力な偏食場が極東やエイジス周辺で起きているだろ?それと同時にオラクルを使った機材が故障するし。なんか良くないことでも起こりそうじゃないか?」

 

「それか。それは俺も報告を受けているから知っているが、原因が何なのかイマイチ分からなくてな。エイジスの事はソーマに一任してあるからあいつから時期に報告があると思うけど?」

 

 最近極東及びエイジス周辺で起こる原因不明且つ強力な偏食場の発生が頻発、それと同時にオラクルを使った機材が軒並み故障しそれの修理に経費が嵩んでいると報告を受けていた。口には出さないがユージも色々調べてはいたものの結局原因の特定には至らず支部長としての業務も嵩んでこの原因の特定を全てソーマに一任する形で落ち着いていた。

 それを聞いたコウタはソーマなら大丈夫だと納得し、自分の持ち場に戻り、入れ替わる形で今度はアリサが入ってきた。彼女の場合はここが自室なので部屋に戻ってきたというのが正しいが。

 

「コウタと何話していたんですか?」

 

「最近起きている偏食場とそれと同時に起きたオラクルを使った機材の故障の話だよ。まだ全然分からないのと俺も書類整理とかが追い付かなくてソーマに全部丸投げしたんだよね。」

 

「そうなんですね。神機も戦闘中に不具合が起こるので早く解決すると良いですね。」

 

「ソーマなら何とかしてくれるから心配要らないよ。」

 

「そうですね。今のソーマは博士って感じがします。」

 

「あいつにそれ言うと照れるけどね。まあ、俺も未だに支部長って言われるの慣れないから気持ちは分かる。」

 

 ユージ達のソーマに対する信頼は相当厚く、彼が仕事に集中出来るように環境を整えている。それを口には出さないがソーマも期待に応えようと日々研究に勤しんでいる。

 そんな彼らに史上最大の試練が待ち受けようとはこのときはまだ気づきもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夕闇、静まり返った旧寺院に一体のヴァジュラが仕留めたオウガテイルの死体を食べていた。そこへ忍び寄る影にヴァジュラが気づき、振り替えるとそこにはヴァジュラよりも小さい白い体躯のアラガミ。食事の横取りに来たと思ったヴァジュラが威嚇するがそのアラガミは怯むどころか逆に突っ込み、一撃でヴァジュラを仕留めると体内からコアを取り出すと飲み込み、その瞬間両肩にマントが生えた。

 

「何だ?······気のせいか」

 

 ラボにてパソコンを操作していたソーマは何かを察知し手を止めるが気のせいだと分かると天井を見上げる。すると部下から無線でエイジスの保管庫の一棟が内側から喰い破られた痕が見つかったと報告を受け、現場に向かうと物の見事に喰い破られており最悪の事態が起こってしまった。

 

 

 この事を真っ先に知らされたユージ達第一部隊とサカキは自分の責任だと言うソーマを宥め、第二のノヴァ討伐に向けて準備を急ぐ。

 

 

 そして贖罪の街に出没したとの報告が入り、第一部隊が討伐に向かった。

 

 

「相手がどんな奴か分からないけど、単体だからみんなで一気に叩けば然程苦労はしないはず。俺とソーマが相手の攻撃を引き受けるからコウタは銃で援護、アリサは銃で援護しつつ隙があれば近接での攻撃も視野に。」

 

「分かりました。」

 

「そんじゃあ行くよ!」

 

 軽く指示だけ出し、四人は急いでノヴァを探すと数分足らずで見つけるとまずはソーマとユージが飛び出し後方からアリサとコウタの援護で攻撃力が上昇、ノヴァの顔面に二人の近接攻撃が当たるがこのとき二人は違和感を覚える。

 

(どういうことだ?顔面に当たったのに手応えがないぞ。まさかとは思うが、コイツそういうタイプじゃないよな。もし本当にそうだったらコイツを倒すのは無理だ)

 

 まだ一回目でそう決めつけるのは早いと立て続けに剣を当てていくがやはり攻撃を当てたと言う実感がなく、ユージは確信した。このアラガミは異常な捕喰スピードにより色んなアラガミを捕喰したことで偏食因子を取り込み、その結果とてつもない防御力を手に入れたと結論に至った。ならこのまま戦ったところで倒すことは不可能であるが一応、次の戦いに向けてデータを収集。ある程度データを集めたところで一気に叩くとノヴァはその場に伏せた。

 

「新種にしては呆気なかったね。」

 

「いや、こいつと戦ってみてよく分かったよ。このノヴァは相当厄介な奴だってことがな。」

 

「何?」

 

「あいつ死んだようにしているが生きている。」

 

 そう言うと倒したはずのノヴァは立ち上がり、遠吠えと共に足元がピンク色に光り、頭上から雷の結晶がユージ達目掛けて襲ってきた。

 

「全員下がれ!」

 

 ユージの指示でアリサがコウタを掴んで回避、ソーマとユージも側転して回避しふと後ろを振り替えると既に獣道の上に移動していたノヴァと睨み合うがノヴァはそれ以上追撃せずにその場から姿を眩ました。

 

「チッ、逃がしたか。」

 

「倒したはずなのに何で立ち上がったんだ?」

 

「いや、その逆だよ。俺たちの攻撃が一切通っていなかったんだ。それを嘲笑うかのようにあいつは死んだふりして俺たちに反撃をした。」

 

「ま、マジ?」

 

「コウタは遠距離だから感じなかっただろうけど、近接で攻撃すると分かるんだ。刃が当たったときの感触がね。でも今のノヴァを攻撃したときはその感触が無かった。」

 

「何で?」

 

「コウタは対アラガミ装甲壁が俺たちが倒した様々なアラガミの偏食因子によってアラガミが食べたくないと思わせるのが狙いで作られていることを知っているよな?」

 

「あ、ああ。一番最初にサカキ博士から聞いた。」

 

「その原理は俺たちが使っている神機にも応用されている。アラガミだって好き嫌いがあるから嫌いなものがあれば食べようとは思わない。だから神機で攻撃することが出来るし、対アラガミ装甲壁が喰い破られることもない。だけど、ノヴァはその偏食因子が複雑すぎて俺たちの神機がノヴァを食べたくないって判断してるから手応えが無かったんだ。つまりこれがどう意味するか分かるよな?」

 

「そうか、これ以上ノヴァが捕喰を続けて偏食因子を更に取り込んだら俺たちは何も出来なくなる。」

 

「そう言うこと。だから俺はコイツが厄介な奴だって言ったのさ。でも、不思議と悔しくないんだ。」

 

「え?」

 

「あんな強敵と戦えると思うと何故かワクワクする自分が居るんだ。ここまで来ると最早末期だな。」

 

 そう言うとユージは帰りのヘリを呼び、ヘリが来るポイントに歩き出した。その言葉が何を意味するかは分からず彼の背中をアリサは心配そうに見つめる。



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第40話 壊滅

 第二のノヴァとの戦闘から戻った四人は急いで報告を済ませ、ユージは一人ロビーで携帯を弄っていた。そこへリッカがやって来てさっきのノヴァのことについて話をする。

 

「ヒバリから聞いたよ。相当手こずったみたいだね。」

 

「手こずったって言うよりは歯が立たなかったと言うのが正しいかな。」

 

「みんなの戦闘ログを見せてもらったけどかなり厄介だね。コウタ君にどんな敵か説明したみたいだけど、正しくそうなんだ。」

 

「まあ、別に俺はノヴァを倒せないとは言ってないけどね。あくまでも今の段階での話だ。例え奴が鉄壁だろうと必ず綻びはあるはず。あんまり時間はないけど、出来る限り調べよう。だから、リッカはユータと一緒に鉄壁を崩す方法を考案してくれないか?俺は俺のやり方で崩すから。」

 

「支部長命令だからね。でも、無茶しないでね。分かっていると思うけど、ユージにはアリサが居るから何かあったらアリサが悲しむことになる。それだけは見たくないから。」

 

「分かってるよ。じゃあ頼むよ。」

 

 ユージの性格からまた無茶しないかと思ったリッカが釘を指すとユージは苦笑いしながらも分かったと答え、別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 支部長室に繋がる廊下の自販機コーナーで初恋ジュースを買ったユージは先にジュースを買ったコウタの隣に座り、ジュースを飲む。

 

「ソーマのやつ大丈夫かな?最近、親父さん達の資料を読み漁っているみたいなんだ。前に俺に親父さん達のこと話してくれたときさ、相変わらず棘のある言い方だったけど凄い嬉しそうだった。その時思った。やっと親父さんとお袋さんのことを認められるようになったんだって。なのに両親が遺したノヴァがあんなことになって、きっとやりきれないよな。」

 

「あいつは元々棘のある言い方で周りを寄せ付けなかったけど本当は仲間思いのいいやつだ。それは家族に対しても同じだ。ソーマの両親がしたことは決して許されることではないけど、人類をアラガミから救おうと言う考え方は間違っていなかった。だけど、仲間を失った親父さんは焦りすぎて仲間を頼ることを忘れちゃったが故にあんなことになった。それが分かったからソーマは自分のやり方で両親が本当にやりたかったことを実現しようとしているんだと思う。不器用だけどね。」

 

「まあ、確かにソーマもユージも仲間を頼ることを忘れる癖あるよな。それが原因でユージはアリサに叱られているし。」

 

「痛いところ突いてくるな。アリサが怒るとめっちゃ怖いんだよ。俺を心配してるから怒るのは当たり前だけど、アラガミよりも怖いんじゃない?」

 

「あ、それ以上言わない方が身のためみたいだよ。」

 

「え、それって······まさか?」

 

 少しアリサの愚痴を溢すユージの背後に何かを見つけたコウタが注意するとようやくユージも背後の殺気に気づいてゆっくりと振り向くとそこには物凄い形相でこちらを睨みつけるアリサが立っていた。

 

「げ、アリサ?」

 

「誰がアラガミよりも怖いですって?」

 

「今のは冗談だって。」

 

「冗談で済むわけないでしょう!そこに正座してください。」

 

「マジか。おい、コウタ、後で何かやるから逃げる口実考えろ!」

 

「バカ言うな。何で俺がそんなこと考えなきゃならないんだよ!」

 

「お前、裏切るつもりか?」

 

「俺だって身を守るのに精一杯だからな。じゃあな。」

 

「お、おい!クソッ、薄情物が。」

 

 頼みの綱のコウタに逃げられ万事休すのユージは迫り来る恐怖に怯えここは堪えるしかないと腹を括る。そして直ぐにアリサの怒号が響き渡り二時間以上こってりと絞られた。その様子は正しく子供を叱る母親同然でこの模様は瞬く間に極東中を駆け巡り、それ以降ユージを弄るためのネタに使われることとなった。

 

 

 

 

 説教から解放され支部長室に戻ったユージは未だに不機嫌な表情のアリサに毒づくとまたもやアリサは怒るためユージはゆっくりと宥めることに。

 

「ったく、何であんなところで説教するんだよ。」

 

「あなたが私の悪口言うからでしょう!私はあなたのことが心配だから今まで怒ってるんです。それを理解していないあなたが悪いんです。」

 

「だからその事に関しては悪かったって言ってるだろ?大体、俺の無茶だってちゃんと考え抜いた結果だし。」

 

「どこがですか!あんなの考えたうちに入りませんよ。毎回あんなことされたら溜まりませんよ。」

 

「しょうがないだろ。俺だって天才じゃないからそんな切羽詰まった状況では周りなんて見えねえよ。普段は落ち着いていてもどうしようもなくなったときは今出来る最善の方法を導き出したのがこれまでの結果に結び付いている。あのときあんな無茶を何で考えたんですか?って言われてもそう考えたんだから仕方がない。アリサには悪いけど、こればっかりは俺でも制御出来ないんだ。だからこそ、それを止めてくれるアリサが俺には必要なんだよ。いつもありがとう、アリサ。」

 

「もう、そうだったらもっと早く言ってくださいよ。てっきり何も響いてなかったのかと思ってショックでした。」

 

「それは悪かった。でも、これはソーマの親父さんにも言えることでもある。あの人もいざというときに止めてくれる人が生きていたらこんなことにはならなかったんだろうね。」

 

「そうですね。って、話を逸らさないでください。私を怒らせたことたっぷり償って貰いますから!」

 

「ええ~!!!!」

 

「当たり前でしょう?あなたのせいなんですから。」

 

「分かったよ。で、何をすればいいわけ?」

 

「そうですね~、なら今度買い物に付き合ってください。」

 

「買い物?そんなのでいいの?」

 

「良いんです。って、そもそもあなたに拒否権なんてないですから。」

 

「はいはい、分かったよ。今度買い物ね。」

 

「約束ですからね。破ったらどうなるかはわかってますよね?」

 

「うん。分かった。」

 

 説教させた罰として今度買い物に付き合わされることになり、きっと荷物持ちとかだなと思いながらもアリサの為とあれば一肌脱ぐしかないかと頭の片隅に追いやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二日後、旧寺院に第二のノヴァの目撃情報が入り、今度はサクヤを加えた五人で討伐に挑む。

 

 寺院に着いた五人はユージとサクヤ、アリサ達三人とで別れて行動。

 道中空を見上げると綺麗な満月にコウタが興奮する。

 

「いやー、綺麗な満月だね。」

 

「ちょっと、真面目に探してくださいよ。」

 

 気の緩んだ言動にアリサが注意するなか、ソーマは一人何かの気配を感じる。

 

「もう、ソーマまで……」

 

「奴が近くにいるぞ!」

 

 ソーマの一言でアリサとコウタも気を引き締め警戒を強める。そしてソーマが物陰からそっと覗くと高台から一体のアラガミが姿を現し、遠吠えのような咆哮を挙げると地面に降り立ち、ゆっくりとこちらに近付く。

 第二のノヴァを発見したことをユージとサクヤに知らせるためコウタが無線で連絡を取るが、何故か繋がらない。

 

「ダメだ、無線が繋がらない。」

 

「そ、そんな……」

 

「これは俺の撒いた種だ。お前らの手を煩わせるつもりはない。」

 

 自分のケツは自分で拭く、いつかのリンドウと同じ台詞を吐くとソーマは一人ノヴァの前に立ちはだかる。

 

「バカ、一人でいきやがって!」

 

「コウタ、援護しましょう。」

 

「分かった。」

 

 想定外の戦闘でも焦ることなくアリサとコウタはソーマの援護に回るため、ノヴァの死角から銃でノヴァの動きを牽制、その間にソーマが跳躍し地面に落ちる時の落下スピードを利用した渾身の攻撃を顔に当てるが全く刃が入らない。

 そればかりかノヴァの反撃をくらい吹き飛ばされ、追撃を受けそうになるのをアリサが止めようと突撃する。

 

「止まれ!!!固いっ」

 

 攻撃の反動を受け流そうと空中に跳んだためノヴァが繰り出す雷の結晶の矢に回避が間に合わず盾で防ぐものの全てを防ぐことが出来ず、甘んじて受ける。残されたコウタがどうにかやり過ごそうと試みるがほぼ無防備のコウタでは攻撃をかわすだけで直ぐに体力が尽き、最後はノヴァが繰り出す雷球の直撃をくらい、三人は戦闘不能に。

 

 

 その頃、別行動のユージとサクヤの無線が入る。

 

《サクヤさん、聞こえますか?ただいま強力なジャミングが発生して、ソーマさんたちとの連絡が取れません。至急、応援をお願いします!》

 

「わかったわ、直ぐに向かうわ。ユージ、行きましょ。」

 

「はい。」

 

 アリサの事が気になるが第二のノヴァが相手であれば例え自分が一人で戦ったところで倒すことは無理だと分かっているためサクヤと行動を共にすることを選ぶ。

 そして二人が現場に着くとそこにはノヴァの攻撃でやられたアリサ達の姿が。

 

「アリサ、大丈夫か?」

 

「ゆ、ユージ……ごめんなさい。私も無茶しちゃいました。」

 

「良いんだ。それ以上喋らなくていい。俺もそれは分かってるから。それよりもまずはみんなが生きてて良かった。」

 

 大ケガなのは間違いないが幸いにも全員生きている事にユージは胸を撫で下ろすと三人を返り討ちにし勢いに乗っているノヴァを見つけると物凄く静かだがとてつもない殺気を放ちながら神機を上下に振る。

 

「サクヤさん、援護頼みます。」

 

「分かったわ。」

 

 サクヤに援護を任せるとノヴァの視界からユージの姿は忽然と消え、気づくとすぐ目の前まで迫っていた。余りの速さに援護しようと攻撃力を上げるバレットを撃つサクヤが狙いを外してしまう。

 

「ちょっ、ユージが速すぎて狙いが定まらない。どうなってるの?」

 

 普段なら狙いを外すことがほぼないサクヤも突然のユージの変わりように戸惑いを隠せない。しかし、当たらないならノヴァの牽制に切り替え、バレットを変えるとユージの後方から二発弾丸を撃つ。が、全く効いている様子もなく逆に雷球を発射され、サクヤは一旦散会を余儀なくされた。

 

 散会したサクヤを尻目にユージの動きはカリギュラと本気で戦ったとき以上に素早くそして無駄のない洗練されていた。まだ神速の域とまではいかないまでも活性化する前のカリギュラよりもそのスピードは上回っており、これまで鍛練を怠らなかったという証拠でもあった。

 ノヴァもまだ幼体ながらも中々のスピードであるが、ユージの動きに丸でついていけていないのか目で追うとして動きが止まる。そこをユージが上手く突いて攻撃するが防御は最初の時よりも更に上がっており、全く効果がない。でも、お構いなしにユージは攻撃を続けるが、流石のユージでも大分疲れが見え始めたのか汗を拭う場面が多くなった。

 

(俺の今の体力ではこれが限界か。だったら次でせめて結合崩壊だけでも起こす)

 

 そんなユージの様子に痛む体でずっと見ているアリサはユージでも敵わないと知り、ショックを受ける。彼の無茶にこれまで何度も冷や汗を掻かされ一昨日は激怒したが、それは結局自分達の命を護るためにやっていることだと改めて思った。だからといってそれで無茶を許すつもりはないが、彼の無茶のお陰で生きているのも事実だと今になって思うところがあった。

 

 アリサの考えなど知る由もないユージは無茶をしているわけでなく、100%の力でノヴァに対峙していた。だが、常に全力で戦えば何れ体力も底をつくため普段の戦闘では半分の力で戦っている。

 今力を使い果たす寸前でもうこれを続けることは無理と判断したユージは爪痕を残そうと最後の力を神機を握る右腕に集め、ノヴァが追えないほどの速さで接近すると真下から赤黒いオラクルとともに刃が初めて固い装甲を破って真上に飛竜が上昇するようにノヴァの体を切り裂き、その衝撃で頭が結合崩壊を起こし、ノヴァは呻き声とともに怯んだ。

 しかし、今の攻撃に持てる力を出しきったためにユージは動けず、一方のノヴァもまさかのダメージにこれ以上戦闘を続けるのは得策でないと判断したのか逃げるように退散した。

 

「倒せなかったけど、結合崩壊は起こせた。」

 

 討伐とまでは行かないまでも結合崩壊という収穫に全力で戦ったユージは少しばかり笑みを浮かべその場に座り込むと仰向けになり、大量の汗を拭いながら息を整える。その間に動けるサクヤが無線で救護班と帰投のヘリの要請をだし、ヘリが来るまでに休んで少しだけ動けるようになったユージがソーマとコウタを抱えてヘリに乗り込むとアナグラに帰還。

 

 その機内でサクヤはユージにあの動きは何なのか問い詰める。

 

「ユージ、さっきの動きはどうしたの?速すぎて援護しようにも出来なくて諦めたわ。」

 

「あれは全ての力を解放したからスピードが上がったんです。カリギュラを倒したときの動きには程遠いですが、それでもカリギュラよりは遥かに速いですよ。ノヴァは攻撃力はありますけど、そこまで素早くないので自分の攻撃に集中が出来ました。でも、全力で戦えばそれだけ体力も消耗するのであんまり長くは出来なくて最後の最後に全てを託したんですが、結合崩壊だけで終わりました。」

 

「そう。アリサの為のような気もしたけど、気のせいかしら?」

 

「まあ、それは否定しませんけど、あんまり無茶すると一昨日みたいに凄い怒るんで控えないといけないんですよ。」

 

「一昨日は凄かったみたいね。でも、アリサも今回は無茶したんだし今回だけはイーブンじゃないかしら?」

 

「だと良いんですけど。」

 

 サクヤの言葉にユージは膝枕しているアリサの寝顔を優しく撫でながらアナグラに着くのを待った。

 

 

 

 




BAなら致命傷にはならなくても結合崩壊位なら出来ると思ったので無理矢理ではありますが書きました。


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第41話 仲間を頼れ!

 第一部隊が負傷したとの情報でアナグラ内は騒然としていた、負傷した三人に加えて体力を使い果たしたユージも含めた四人分のストレッチャーが用意され、第一部隊が到着すると直ぐ様ストレッチャーでユージは医務室にアリサ達は集中治療室に運び込まれそれぞれ治療を受ける。その間、サクヤが一人でサカキに報告、ツバキが他の支部へ出張中でいないため、サカキがユージが復帰するまで支部長代理を務める。

 

「サクヤさん、すみません。全部任せてしまって。」

 

「良いのよ。このくらい。それよりも凄い相手だわね。」

 

「はい、あれは相当凄いです。第一部隊がここまでやられたの初めてですからね。命があっただけ良かったですけど、もしかしたら俺の手の届かない所でアリサ達を失うことになっていたかもと思うと、俺もまだまだだなと痛感してます。」

 

「何いってるのよ。あなたが居たからここまで来れたのよ。もっと自身を持ったら?」

 

「そんな余裕があればいいですけどね。」

 

 サクヤから自身を持てと言われるがユージにはそこまでの余裕はなかった。危うくアリサ達を失うことになっていたかも知れない事実に心を痛め、絶対に失いたくない気持ちと今の自分の力では不十分だという現実に向き合い、どうすれば良いのかもう一度考え直す事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、たっぷり寝たユージはすっかり回復し、治療が終わったアリサ達の見舞いに訪れる。それぞれ個室が与えられ、最初にコウタの部屋を訪ねるがまだ寝ていたので隣の部屋のソーマを先に訪ねると既に体を起こし、パソコンを弄っていた。

 

「なんだ寝てねえのかよ。」

 

「ふん、俺はお前らとは違うからな。一日寝れば大体治る。」

 

「そういや、そうだったな。」

 

 驚異的な回復力のソーマにとってはこのくらいは普通だと言われ、無事だと納得するとソーマが謝罪してきた。

 

「悪かったな、命令を無視して。」

 

「なんだよ、いきなり。」

 

「お前の命令を無視したせいでアリサとコウタを巻き込んでしまった。どんな処分でも受けるつもりだ。」

 

「悪いけど、処分はなしだ。俺はそういうことするために支部長になった訳じゃないから。」

 

「なんだと?それじゃあ俺はどうすれば。」

 

「別にお前に処分を下すのは簡単だ。正直に言えばそれが妥当かもしれない。けどな、何でもかんでもお前だけの責任だと思っているなら大間違いだ。お前一人に責任を押し付けるくらいなら最初から頼んでねえよ。俺がどうしてお前に一任したのかをもう一度よく考えろ!いいか、これは命令だ。分かったら二度と責任を負うとか言うな。」

 

「ふん、お前には敵う気がしないな。支部長命令だ、従うまでだ。」

 

「いや、これは支部長でも隊長としての命令でもねえよ。一人のダチとして言っているんだ。確かに今はお前やアリサ達の隊長であり支部長であるけど、それは単なる飾りにしか過ぎねえ。それ以上にアリサは俺の奥さんとして、お前やコウタ達は共に今を生きる仲間として見ている。俺たちは一人一人が色んな柵を抱えてそれを乗り越えて今がある。それはお前だって見てきているはずだし、お前にもまだ柵が在るはずだ。でも、柵を越えるのは何も一人じゃ無くても良い。みんなで力を合わせて乗り越えてみるのも悪くはないんじゃないか?」

 

「考えておくか。」

 

「考えておくじゃなくて考えろ!じゃあ、ちゃんと体休めろよ?」

 

「ああ、またな。」

 

 そう言って部屋を出たユージの後ろ姿にソーマは嬉しくもあった。やはり自分を見捨てない彼に感謝しつつこの恩は忘れずに彼の支えとなって還していこうと心に誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 ソーマの部屋を出ると次はアリサの部屋。精神が不安定だったあの頃以来のアリサの見舞いに少し緊張ぎみではあるがノックしてから恐る恐る入るとベットに横になっていたが目は開いており、こちらに気づくと途端に笑顔を魅せる。

 

「見舞いに来たよ。どう?怪我の方は。」

 

「ちゃんと治療受けたので少し入院したら大丈夫です。」

 

「そうか。良かった。」

 

「ごめんなさい、こないだあんなに怒っておいて私の方が無視してしまいました。」

 

「まだ言うの?昨日も言ったけど、誰かの為に動くことを無視とは言わない。それはその人の力になりたいから動く自然な事だよ。無茶って言うのは自分の力を客観的に見てないときにやる行為の事を言うんだよ。」

 

「なんかそれって今まであなたがしてきたことを認めろと言っているみたいですけど?」

 

「まあ、それは否定しないけどね。」

 

「もうユージはいつもそうなんですから。でも、今回はユージが来なければ無理でした。」

 

「だから言っただろ?ヤバくなったら俺が何とかするって。アリサを守るためなら何だってするさ。」

 

 そう言っていると昼食が配られ、時計を見ると丁度お昼時だったこともあり一旦退室しようと考えたが、ふと思い付いたのかこんな提案をしてみる。

 

「そうだ、アリサ。怪我して起き上がれないでしょ?」

 

「え、ええ、そうですけど。それが何か?」

 

「それだとご飯なんて食べられないよね?」

 

「はい。」

 

「よし、なら俺が食べさせてあげるよ。」

 

「へ?どうしてそうなるんですか?」

 

 唐突な発言にアリサは戸惑うがユージは気にせず食べさせようとお粥をスプーンで掬ってふーふーと息をかけ冷ましている。

 

「どうして?って、アリサが起き上がれないって言うからに決まってるだろ。あと個人的にこないだの長い説教の仕返しの意味もあるけど。」

 

「ちょっ、ちょっと、あれはあなたが悪いからです。」

 

「ほらほらつべこべ言わずに食べな!」

 

「むぐっ!」

 

 文句を垂れる口にお粥を入れて黙らせ、顔を赤くしながらも噛んでいるアリサを笑いながらも次のお粥を掬う。

 

「美味しいですか?」

 

「もう、それは美味しいですけど、なんでこんなに恥ずかしい思いをしなければならないんですか?」

 

「なんでって、それはアリサが俺に心配掛けるようなことするからだろ。」

 

「そんなのユージだって同じじゃないですか!」

 

「俺はこれでもちゃんと考えてやってるからな。」

 

「どこがですか!むぐっ!」

 

 ユージの理不尽とも取れる発言に反論していると突然唇に何かが触れると直ぐに離れ、ユージが口を開く。

 

「この騒がしい口は閉じてもらえますかね?」

 

「いきなりそれはズルいです!」

 

「ズルくはないよ。俺はアリサを離したくない。アリサが俺を手離したくないと思っている以上に俺はアリサの事を思っている。だから今回、アリサ達が負傷したことはとても心が痛い。もしかしたら俺の手の届かない所でアリサ達を失うことになっていたかもと思うと耐えられなかった。だから今のキスは俺から離れるなって願いを込めたキスでもある。」

 

 そういうユージの表情は真剣だった。いつになく真剣な表情の彼にアリサは本気で心配していたと知って何だか嬉しくなり、恥ずかしさを押し殺しご飯を食べさせて貰おうとその時を待つ。唐突な態度の変わりように戸惑うものの直ぐに気を取り直すと既に冷めたお粥やおかずも食べさせ、美味しそうに食べるアリサを見てユージも良かったと頷いた。

 

 

 

 

 

 その三日後、アリサ達が原隊復帰を果たし、ラボに集合。サカキから説明が入る。

 

「まずはアリサ君達の退院おめでとう。働き詰めの君達にはもう少し休んで貰いたい所だけど、そうもいかなくてね。」

 

「俺はもう大丈夫です。いつでも行けます!」

 

「博士、第二のノヴァへの対抗策はどうなったんですか?」

 

「うん、その事なんだがリッカ君とも話してみた結果、我々の神機にも珍味を与えるしかないと思うんだ。」

 

「珍味ですか?」

 

「なるほど、博士つまりはこういうことですね?ノヴァが様々なアラガミを捕喰することで固い装甲を手に入れたのなら、こっちにもノヴァがまだ食べたことがないアラガミのコアを取り込むことで神機が通りやすくする。」

 

「流石、ユージ君理解が早いね。」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「簡単に言うと、俺たちの神機の偏食因子には先人達が討伐してきた様々なアラガミのコアが取り込まれている。だけど、それは第二のノヴァも食べているから通らない。なら、単純な話ではあるけど、ノヴァが食べたことがないアラガミのコアから偏食因子を取り込むことで打開しようって話だ。丁度、うまい具合にここ極東には第二のノヴァ以外にも人工アラガミのノヴァの残滓を食べて以上に進化したアラガミが多数報告されている。あんまり時間かけるとノヴァに先を越されちゃうけどね。」

 

「で、でも、どうやってやるんだ?ノヴァだってそいつらを狙っているんだろ?」

 

「その事についてはリンドウさんとサクヤさんに頼んでノヴァが異常進化したアラガミを食べないように誘導してもらうから。と言うことで良いですよね?」

 

「私が言おうとしたこと全部君が言ったからね。異論はないよ。これは超弩級アラガミ争奪戦と言ったところだね。」

 

 ネーミングセンスはともかく、こうして第二のノヴァに対抗するために超弩級アラガミの討伐が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユージの指示でリンドウとサクヤがノヴァを誘導している甲斐もあり、超弩級アラガミの討伐は着々と進められ、カリギュラやアルダノーヴァ墮天種、ヴィーナスと言った接触禁忌種を倒す日々が続いた。途中ハンニバルが異常進化したハンニバル神速種に翻弄されるが今の四人が手こずるような相手ではなく、難なく撃破。帰投のヘリの到着を待っているとサカキから無線が入る。

 

「珍しいですね、サカキ博士が無線なんて。」

 

《実は空母に超弩級アラガミが出現した。》

 

「空母にですか?」

 

《博士、緊急事態です!そのアラガミに第二のノヴァが接近中です。300秒後に到着予定です》

 

《な、何だって!》

 

「ヘリ準備できました。」

 

「博士、俺たちも直ぐに向かいます。」

 

《頼んだよ!······どうか間に合ってくれ》

 

 空母に超弩級アラガミが出現したと知らされるが直ぐにヒバリから第二のノヴァがそこに向かっていると聞き、ユージ達は直ぐにヘリで向かう。その機内でユージはコウタにとあるバレットを渡す。

 

「これは?」

 

「内蔵破壊弾だ。俺が使ってるのはブラスト専用だが、そいつはスナイパー用に改造した。恐らくだが、今回のアラガミを先に喰われれば奴は幼体から成体に進化するだけのコアが手に入る。そこでちょいと確かめたいことがあってな。あいつが先にコアを喰ったらそいつを撃ってくれ。」

 

「ああ、分かった。」

 

「お前何か策があるのか?」

 

「実は、大型アラガミの大半は幼体から成体に進化する過程にサナギになる時期がある。そしてそのサナギから成体になるとき固い装甲が軟化するという事を俺が神機使いになった頃にジャックさんから聞いたことがあったんだ。ということは、幼体からサナギになる瞬間も肉質が軟化するはずだ。それを確かめるためにコウタにバレットを渡した。もし、これが上手くいけば完全に討伐が出来ると言うのが俺の結論だ。」

 

「もう、そう言うことは早く言ってくださいよ!」

 

「そうだよ。早く言ってればこんなに苦労もしなくて済んだんじゃねえか?」

 

「バカ言うな。これは理屈は通っているが、サナギから成体になったら直ぐに硬化するから硬化する時間を遅らせないと意味がないんだよ。その方法も既に考案済だけどこいつが使えるのはたったの一度きりで持っても一時間だ。それまでに倒せなければ俺たちがノヴァに勝つことはもうない。出来ることならそいつを使わずにノヴァを倒したいところだ。」

 

「そうなんですね。」

 

「でも、どのみち俺たちが倒せなければ意味がないならやっちゃえばいいと思うけどな。」

 

「ふん、コウタの言う通りだな。どんなアラガミもぶったぎるまでだ。」

 

「ったく、お前らと来たら。誰に似たんだか。」

 

 ユージの説明にコウタとソーマは乗り気でアリサも口には出さないが概ね乗り気だろう。そんな三人が自分に似てきていると感じたのかユージは照れ隠しで窓の外を眺める。

 

 

 

 ヘリが空母付近まで来る少し前、一足先に超弩級アラガミの黒いカリギュラを仕留めたノヴァは当たり前のようにコアを見つけると捕喰。それと同時にヘリが到着し、ユージとソーマがノヴァの前に立ちはだかる。敵襲に動じることなく対峙するノヴァにコウタがユージから受け取ったバレットを撃ち込む。すると今までまるで効いていなかった攻撃が今回は何故か効いており、少し怯んだ。体勢を整えるとノヴァは海に飛び込み離脱。

 またもや見失うが、ユージは自分の予想が当たったことに満足そうに笑みを浮かべる。

 

「これで決まりだな。さっさと戻ってブリーフィングをするぞ!」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 アナグラに戻ったユージは早速、サカキとリンドウ、サクヤ、リッカを交え作戦を伝える

 

「なるほど、つまりそのサナギの状態から成体になったときの肉質が軟化した時を叩くって事だね?」

 

「そう、でもさっき言ったようにそれだと時間が短すぎるから人工的にコアを作ってそいつをサナギから成体になった瞬間に撃ち込む。そうすれば強制的に軟化させられて時間も一時間は持つ。これは一種の賭けで成功すれば良いけど、失敗すればどうなるかは分かるよね?」

 

「もう、二度とノヴァを倒すことが出来なくなって、逆に更に強化されたノヴァの脅威に晒されることになります。」

 

「そう言うことだ。だから、全員の賛成が得られない限りこの作戦は破綻させる。みんなどう?」

 

 ユージの賭けとも取れる案に暫く沈黙が流れるが、真っ先にソーマが乗る。

 

「俺は乗る。もう、これ以上親父達の残した負の遺産で迷惑掛ける訳にいかないからな。」

 

「俺も乗った。」

 

「私も賛成です。もうそれしか倒す方法がないならやってみましょう!」

 

「そうか。ではリンドウさんたちも賛成でよろしいですか?」

 

「お前らが決めたことだ。なら、俺らは従うまでだ。」

 

「みんなありがとう。それじゃあ、各班に別れてブリーフィングを始めよう。防衛班にも協力を仰いであるから情報を集めることも忘れるな!」

 

 満場一致で可決され、極東支部全員の神機使いたちとの情報の共有が行われた。

 

 

 

 

「なあ、知っているか?」

 

「何が?」

 

「アリサの奴、俺の親父が書いた論文を読んでいた。」

 

「ああ、あれね。アリサが読む前に俺も読んだぞ!かなり膨大な量だけど、詳細に綴られていた。全部を理解するのは難しいけど、今俺が進めている計画にきっと役に立つはずだ。アリサもそれが分かってるから読んでるんだろうな。」

 

「お前も読んでいたか。俺はいつのまにかアナグラ中の世話になっていたんだな」

 

「やっと気づいたか。お前はもっと他人に頼ることを覚えるべきだな。」

 

「ふん、お前だってそうだろうが。」

 

「うるせえ!俺に場合はアリサの為に一人で考え込んでたら結果的にアリサに心配掛けちゃってるだけだってそれがダメなんだけどな。」

 

「まあ、努力だけはしてやる。お前もアリサに心配掛けるなよ!」

 

 ブリーフィングの傍ら、ソーマからアリサが前支部長が書いた対アラガミ装甲の研究論文を読んでいたと聞かされ、自分も読んだことを伝える。すると自分の気づかない所でアナグラ中の世話になっていると気づかされ、ユージに半ば弄られるように他人を頼れと言われるがソーマも負けじと反論。アリサには頭の上がらないユージは痛いところを突かれ頭を掻く。

 

 そしてブリーフィングが終わり、作戦決行の日を翌日に控え、決起集会を行った。その中でソーマは不器用ながらもユージの忠告を実践。

 

「俺は、親父やお袋がかつて人類の未来に抱いていた夢を無駄にしたくない。頼む、ノヴァを倒すために力を貸してくれ!」

 

「なーに、言ってるの。やろうぜ、俺たちで。」

 

「そうですよ。そう思っているのがあなただけだとでも思ったんですか?」

 

「お前ら······」

 

 ソーマの頼みにコウタ達が断る理由などない。二人の気持ちに照れながらもちょっぴり嬉しそうに頬を緩める。

 

「みんな、最初に出会った頃を思い出してみよう。最初に会った印象はどうだった?きっと最悪だった。俺とコウタはそうでもなかったが、ソーマとアリサと初めて会ったときは正直最悪だった。初めは馴染むまでに苦労した。次第に打ち解けていく最中に些細なことで衝突もした。それでも苦難を乗り越えてきた。それは全員が一つの目標に向かって力を合わせてきたからだ。人間は弱い、でも、それで良いんだ。個々で敵わない強敵でも全員が力を合わせれば必ず打ち勝てる。決行は明日だ。全員今日はしっかり寝て、明日に備えよう。」

 

 ユージの言葉に第一部隊は全員が目を閉じる。思い起こせば出会いは決して良いものではなかった。全員が一癖も二癖もある連中で苦労の連続だった。だが、それでも毎日苦楽を共にしてきたからこそ目には見えない深い絆で結ばれていた。誰かが躓いたら全員で乗り越える。時代が変わっても人がこの世に居続ける限り、途絶えることのない連鎖に希望を託しその日は終わった。




次、ノヴァとの決戦です。短い文章で話を稼ぐのが無理なのでどうしても一話で完結させたい欲が強いですw


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第42話 最終決戦

 長かった第二のノヴァとの最後の戦いに六人は降り立つと火蓋を切る役目のサクヤと別れ、五人はノヴァの元に急いで向かう。この日の空は月と地球が18年に一度最接近する「エクストリル·スーパームーン」が起きていて、実際に見るとかなり月が大きく見える。

 

 一足先に人工的に作った特殊なコアを撃ち込む為の狙撃ポイントに到着したサクヤがリンドウ達に無線で知らせるとリンドウ達もようやく配置に着いた。

 するとサナギの状態の繭からノヴァが繭を破って外に出る。そして成体に羽化した証の赤い翼刃が大きく生える。

「では、サクヤさんお願いします!」

 

《了解!》

 

 ユージの合図でサクヤの正確無比な狙撃により、ノヴァの肩に人工的に作った特殊なコアを撃ち込むことに成功。撃ち込まれたコアは即座に吸収され、ノヴァの遠吠えと共に更なる強化を遂げる。

 

《偏食因子の投与確認。ノヴァの耐久性能の低下を確認しました》

 

 ヒバリの無線を確認すると、ユージの指示通りにまずはユージ、リンドウ、ソーマが突撃、敵の注意を引きつつまずはかなりのスピードで急接近したユージが依然顔を壊したのと同じ技で下から上に切り上げる。肉質が軟化したことで刃が肉を抉る時の独特の感触が得られ、ノヴァの顔に深く傷が刻まれる。これを呼び水にソーマとリンドウの近接とアリサ達の遠距離攻撃がほぼ同時に炸裂、いきなりの猛攻にノヴァの体は大きく仰け反り、既に待ち構えていたユージのジャンプ斬りで強引に地面に叩きつけられる。

 

「今のいい感じだ。だけどこの程度ではくたばらない。ここからは奴の容赦ない攻撃が来る。サクヤさんとコウタは無理せずに物陰に隠れながら隙を窺って攻撃。アリサ達は盾を持っているが俺と違ってバックラーやシールドでは削りダメージが多少入る。盾でガードするなら必ずジャストガードだ。」

 

「分かりました。ユージも気を付けてください。」

 

「アリサ、無茶はしないから大丈夫だ。」

 

 最初にしては上出来とも言える攻撃に気を緩めないよう改めて指示を出すとアリサからもユージにだけの特別な指示が出され、互いに指示を受け入れる。

 

 

 

 ユージの言う通りに成体に羽化したノヴァは確実に殺すため幼体の時とは比べ物にならないほどの多彩な攻撃を繰り出してくる。

 遠吠えと共に足元がピンク色に光り、幼体の時は雷球だったのが成体では尖ったオラクルの結晶を発射、幼体の時の教訓からピンク色に光った段階で大きく回避するが時おり連続で繰り出してくるため立ち止まるよりは常に動き続ける方が安全だった。

 とは言え、基本的な戦闘スタイルがピターと変わらないために挙動さえ分かればアリサ達はともかく、ユージにとっては取るに足らない。どこかでフルパワーで挑むため控えめの力で確実にダメージを与え、流れを手繰り寄せる。ところが活性化したことで標的をユージに絞り、発達した翼刃で右翼→左翼→両翼の順に三連続で斬りかかりつつの突進攻撃を繰り出す。

 斬り込む度にタゲを取り直し、猛烈なスピードで動きを止められたユージに襲いかかる。

 

「危ない!」

 

 思わずアリサが叫ぶがそこには既にユージの姿はなく、砂埃だけが舞っていた。ノヴァの翼刃が迫る瞬間、一瞬だけ力を解放したユージは難なくかわすと無防備な腹に一太刀入れる。腹を真一文字に斬られ後がないと悟ったノヴァはここで持っている力を解放、辺り一面をピンク色に染める。そして両翼にエフェクトを纏わせリーチと威力を上昇。

 その場にいたユージ達四人に距離を詰め、二連続で斬撃を浴びせる。それだけでも強烈極まりないがトドメに天輪から極太レーザーを照射。その範囲は役180度とかなりの広範囲であるが故に後方にいたコウタとサクヤにまで届き、リンドウとソーマが二人を守るようにそれぞれ盾を展開、一方のアリサはユージが抱えると持ち前のスピードを活かしてレーザーが届かない背後に回ると動きを止めるため渾身の力で飛竜の如く下から上に急上昇の斬撃を三回連続で浴びせ、ノヴァはゆっくりと地面に伏せた。

 

 

 

 

 

 

「倒したのか?」

 

「いや、こいつはお得意の死んだ振りだ。」

 

「チッ、往生際の悪い野郎だ!」

 

 今ので倒したとは誰一人として思っていなかった。現に倒れたノヴァは起き上がり、まだまだ闘うと言う意思を明確に見せる。

 そろそろフルパワーで行こうと考えた矢先、それを察したのかは分からないがソーマ達がユージに指示を仰ぐ。

 

「ユージ、俺に指示をくれ!お前の指示でここまで来た。なら、最後までお前の指示に従う。」

 

「ユージ、私もあなたの指示に従います。」

 

「俺もだ。」

 

「援護なら任せて!」

 

 そして最後に肩をポンと叩かれ振り向くとリンドウが居た。

 

「全員、お前の指示で動いてきた。お前は俺たちの隊長であり、支部長でもある。もう全員覚悟は出来ている。後はお前の指示だけだ。」

 

「よし、これより第一部隊に告ぐ。リンドウさんとソーマは両方から突撃、アリサ達は後方から援護を頼む!全員生きて帰るぞ!」

 

「「「「「了解!!!!!」」」」」

 

 全員に指示をだし、それぞれが自分の役割を果たすため力を合わせる。ユージも全ての力を解放、ノヴァの顔を結合崩壊させたときよりも更に上がったスピードと的確な状況判断でアリサ達に向けて放たれる遠距離攻撃の猛攻を未然に防ぎ、リンドウとソーマが両側から一斉に攻撃したことで大きく生えた翼刃は切断、飛ぶ力を失ったノヴァの上空にいつの間にか移動していたユージがありったけの力を込めた捕喰スタイルで真上から勢いよく噛み砕き、遂に第二のノヴァは力尽き、二度と動くことはなかった。

 

 全ての力を使い果たし、地面にオラクルを撃ち込んで落下の衝撃を和らげながら着地すると既に足はガクガク震え、バランスを崩すと座り込む。そこにアリサが真っ先に駆け寄ると人目に憚らず抱き付く。

 

「お、おい、みんなが居るんだから少しは遠慮しろよ。」

 

「良いじゃないですか!長かった戦いが終わったんですから。最近は私が怪我したりでこうする機会も減ってましたし。寝る前と起きたとき、任務に出掛ける前と後のキスだけでは物足りません。」

 

「いや、それは分かったからここで言うな。無線とモニターの映像がアナグラにも流れてるからヒバリさんやリッカ達も今の見てるんだぞ!」

 

 ユージの言葉でようやく我に戻ったアリサは赤面の表情を浮かべその場に固まったが最早言い訳すら出来ない。それをソーマ達は呆れるように見つつもやっと終わったのだと実感が沸き、きれいな満月を眺めると迎えのヘリが到着し、アナグラに戻る。




アリウスノーヴァはゲームだとあんまり強くない。多分、ピターで慣れてるからってのもあるんだろうけど、楽に倒せた。でも、アリウスノーヴァの特性は感応種よりも質の悪い物ですね。


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第三章 第43話 悪夢

 第二のノヴァとの激闘から幾つか月日は流れ、リンドウとサクヤは結婚式を挙げ新婚ホヤホヤの生活が始まっていた。この結婚式を挙げるに当たって懸念されていたウエディングドレスは以前の本部召集の際にハルオミに相談したところグラスゴー支部内にドレスを扱う専門店があると情報があり、どうにか手に入れることが出来た。そうなれば次は自分達の番だとアリサは提案するがユージの業務があまりにも多すぎるが故にそんな暇は暫くないと知ると不貞腐れたように毎日積極的にスキンシップを謀ることで結婚式のアピールを続けていた。

 そんなアリサの行動にユージもどうにか叶えてあげたいとどこかで無理矢理休暇を作って準備しようと模索する。

 

 そんなある日、極東支部に一人の男が部下と思われる神機使いを一人護衛にやって来た。男の名前はガーランド·シックザール、名前のとおりヨハネスの実弟だ。眉目秀麗の顔立ちとは裏腹に左目を覆う独特な眼帯と右足の義足が流石のユージも驚く。名前は聞いたことがある程度で実際に会うのは今日が初めてだ。

 

「君が極東支部の支部長ユージ君だね。私の名前はガーランド·シックザール。極東支部の前支部長ヨハネス·フォン·シックザールの弟だ。今回私がここに来たのは本部の命令により、私が先日出版した著書『アラガミ進化論』を実現するためだ。」

 

「極東支部長のユージです。あなたがガーランドさんですね。先日出版された著書拝見させて頂きました。あなたの発想は私達が考えている常識を遥かに超えていますが、実現出来れば人類の未来は明るくなりますね。」

 

「君のような若い人に読んでもらえて光栄だよ。さて、本題に入らせて貰うがアラガミ進化論を実現するに当たって極東支部の神機使いの方の強力が不可欠だ。しかし、君たちの実力を私は噂程度でしか知らない。そこで、これからミッションを受けて貰いたい。」

 

 ミッションを受けるのは構わないが、ユージの目にはガーランドよりも隣にいる若い男性たちの姿が。腕輪をしているところを見ると神機使いだと分かる。

 

「まあ、それは良いですけど、そちらの方々も同行されるんですか?見たところ新型神機使いのようですけど。」

 

「ああ、こいつらはアーサソールと言って本部直轄の部隊だ。だけどこっちのギースしか今は神機使いが居ない。後の三人は引退したり、適合待ちだったりと色々あってね。」

 

「そうでしたか。失礼しました。」

 

「いや、良いんだ。それで君たちの方からは同行するのかね?」

 

「そうですね。ここは私からの提案ですが、私一人で同行します。私こう見えて第一部隊の隊長も兼任してますから。」

 

「そうか。君がそう言うなら問題なかろう。ギース、これから任務に行け!」

 

「は、はい。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそよろしく。」

 

 そう言って握手するがギースからは人間らしさが感じられず、何か殻が抜けたような暗い印象を抱いた。他の人間もギース同様何か異様な雰囲気を醸し出しているが、それはユージの計算通りだった。

 ガーランドが来る前に調べたところ、何か裏があると睨むとどうせなら罠にでも嵌まってやろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 そしてミッションを受注し、贖罪の街にやって来たユージとギースが近辺を歩いていると前にも見たような状況に。二人の前にはなんと別の任務に出ていたアリサ、コウタ、ソーマの三人がいた。このような事を前にも経験済の三人だが至って冷静だった。こないだとは状況が違うため、あのようなことは起こらないだろうと鷹を括っていた。

 だが、ユージだけはガーランドの狙いが何なのか分かると表情には出さないが心の中ではまんまと嵌まってやろうと決めていた。

 

「まあ、あんなことにはならないからさっさと終わらせよう。アリサ達はその辺の捜索だ。俺とギースはこっちだ。」

 

 

 

 

 リンドウと同じ指示をだし、ユージはギースを連れて中に入る。すると突然、一体のピターが乱入そしてピターを見たギースが呻き声を挙げていつかのアリサの時のように天井にバレットを撃つと天井が崩れユージだけが閉じ込められた。

 

 まさかの再来にアリサ達は戦慄を覚える。それもそのはず、既に回りは以前のように今度はピターの大群が取り囲んで居たから、嫌でもあのときの悪夢が現実となって起きたのだとアリサ達は悟った。

 となれば中に閉じ込められたユージはピターと交戦中だと耳を澄ませれば交戦中と思われる戦闘音が聞こえる。その横ではギースが精神の混濁に陥り、その声がピターを呼び寄せ最早戦うことこそが危険だった。

 

「おい、こんなに多いと流石に無理だ。一旦退くぞ!」

 

「イヤです!あそこにはまだユージがアラガミと戦っているんです。」

 

 あのときの事を今でも覚えているアリサだからこそ退くことが出来なかった。涙を浮かべながらここに残って彼を助け出すつもりだ。それが分かったのかユージからは非情とも言える命令が下る。

 

「アリサ、逃げろ!俺のことは良いから今すぐその場を離れろ。コウタ、アリサを気絶させてでも連れ出せ、ソーマは退路を開きつつギースを連れて帰れ!いいか、これは命令だ。全員生きて帰るんだ。」

 

「あのバカ、リンドウみたいなこと言いやがって!」

 

「ごめん、アリサ。」

 

 その場で泣き崩れるアリサを殴って気絶させるとコウタはアリサとギースを抱えスタングレネードを投げピターの視界を奪うと全速力で逃げる。そして帰りのヘリに乗り込むとユージだけを残してヘリは飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウタ達が居なくなり、ユージは適当に遊んでいたピターを斬殺。次に来るであろう敵を予測するとポケットから腕輪を取り出す。そしてそれを既につけている腕輪に重ねるように嵌めると獣道からいつかの宿敵第二のノヴァが霧散し新たに誕生したアリウスノーヴァが姿を現す。ここまで予想通りの展開にユージは笑みを浮かべ、アリウスノーヴァに突撃、そして業と敵の口の中に右腕を突っ込むとさっきつけた腕輪だけが外れるように引っこ抜き、スタングレネードを投げると獣道から外に逃げ出しアナグラではない別の方角に向かって走り出した。

 

(悪いな、アリサ。恐らくガーランドの狙いは俺を殺すことにある。となれば俺が死んだと見せかけた方が何かと便利だ。ガーランドの陰謀を阻止したら必ず戻るからそれまで待っててくれ!)

 

 



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第44話 調査

 アナグラに戻ったアリサ達は先にギースを医務室に運んでからそれぞれの部屋に戻った。

 自室でもある支部長室のドアを開けても電気が付いていないため薄暗い。いつもならここにいるはずの彼が今は居ない。以前のリンドウのようにまたしてもユージを置いてきてしまった事が悔しくて堪らなかった。気づけばベットに伏せたまま枕を濡らすほど泣いていた。

 

 ロビーではユージが閉じ込められたとの情報から直ぐに腕輪のビーコン反応を調べるが無反応、最悪の状況であることを表していた。突然の支部長失踪にアナグラ中に不穏な空気が流れる。リンドウは無事に戻ってこれたがほとんど奇跡に近く、二度も奇跡がそう都合よく起きるはずがない。一応、捜索隊が派遣されたが期待は薄いとほとんどの人間がそう感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何日かが過ぎ等々捜索の取り止めが発表、自分達の仕事をこなすため持ち場に戻る。しかし、アリサたち第一部隊は違った。絶対生きていると信じ、戻ってくるまでしっかり極東を守り抜こうと結託、それぞれ課せられた任務に赴く。

 この頃になると行方不明のユージに変わってガーランドが支部長を務め、実質ユージはクビになった。これにはアリサ達第一部隊が激しく抗議するがガーランドに一蹴され、どうすることも出来なかった。

 そればかりかガーランドが支部長になってから極東の神機使いに対する態度が極めて冷酷でアラガミ進化論の遂行のためコアバレットの発動実験に失敗し、負傷者を出したアリサに「アラガミの餌にでもなれ」と冷酷な言葉を浴びせた。これにはアリサも怒りが込み上げるが我慢するしかなく、ストレスが貯まる日々が続いていた。ユージが居ればきっとこんなこと許すはずがない。今は早く戻ってきてほしいと願うばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 贖罪の街から脱出したユージは極東からかなり離れた場所から携帯である相手に電話を入れる。その相手はケイトだ。

 

「ケイトさん、いきなりで申し訳ないんですが暫くの間俺をそちらで匿って貰えませんか?どうやら命を狙われているようで。」

 

《あら、何でまたそんなことに?まあ良いわ。貴方なら大歓迎よ》

 

「ありがとうございます。では、明日迎えにきてください。」

 

 命を狙われていると分かった今、極東に戻る選択はあり得なかった。そこで以前の本部召集の際に何かとお世話になったグラスゴー支部のケイト達を頼ることでこれからの策を練ろうと言う考えだ。

 一先ず今夜一晩寝られる場所の確保をして、今日は直ぐに寝た。

 

 次の日の早朝、起きたユージは軽く寝癖を整えてから迎えのヘリが来るポイントに歩き、丁度いいタイミングでヘリが到着、ケイトが出迎えてくれた。

 

「ユージ君、来たわよ。さあ、乗って頂戴。」

 

「態々すみません。」

 

 ヘリに乗り込み、飛び立つと遠いグラスゴー支部に着くまでどうしてこうなったかの事の顛末を全て話した。ユージの説明で事情を理解したケイトは極東の事、特にアリサの事を気にかけていた。

 

「アリサちゃん、置いてきて良かったの?」

 

「まあ、心配ですけどアリサ達には極東に残って貰わないと助けを求めている人は居ますから。俺一人が居ないだけなら問題はないですけど、アリサたちもとなれば話は別です。」

 

「それもそうか。だけど、これからどうするつもり?生憎だけどガーランドの事は私も知らないのよ。著書が出たのも知っているけどどうも胡散臭くて。」

 

「本人には読んだ体で話しましたが、実際には読んでません。サカキ博士は偉く評価していましたけど、俺にはサッパリです。」

 

 昨日のあの会話はハッタリだった。ユージは読む前から興味がなく、それでも話のネタになればと適当に当たり障りのない感想を言ってみた。そこに一本の電話が入る。相手はジャックとあり、迷うことなく電話に出る。

 

「ジャックさん、何か分かりましたか?」

 

《ああ、ケイン達に調べて貰ったところガーランドはここ数日、エイジスに訪れてはとあるアラガミのコアを探し求めていると言うことが分かった》

 

「エイジスでですか!アラガミのコアってことはアルダノーヴァですね?」

 

《恐らくそうだろう。第二のノヴァには無関心の所を見るにアルダノーヴァのコアを探していて、何か企んでいるのは間違いない》

 

「そうですか。俺は暫くグラスゴー支部で調査をしていくつもりです。ジャックさん、極東の事よろしくお願いします。聞いた話ではガーランドが権力を濫用して混乱しているみたいですので。」

 

《分かった。お前も気を付けろ!》

 

 電話を終え、ガーランドがアルダノーヴァのコアを探し求めていると分かり嫌な予感が頭を過る。

 

 グラスゴー支部に着くとハルオミとギルも出迎えに来ており、久しぶりの再会に会話が弾むがあんまりゆっくりもしていられず、ここから極東を奪還するための調査を始める。

 

「しっかし、支部長ってすげえんだな。何でもセキュリティを突破してやがるぜ。」

 

「今しかチャンスがないんですよ。極東は今やガーランドが実質の権力者です。もう俺が支部長という権限で外部から調査出来るのは今日で最後です。今を逃せば後は本部に直接潜入していくしか無くなります。あと、今見ているものは全て秘匿でお願いします。外部に漏れるとクビが吹っ飛ぶだけでは済まなくなりますから。」

 

「おー、怖いねー」

 

「大丈夫よ、私たちこう見えても口堅いから。それにうちの支部三人だけだから秘匿しやすいのよ。」

 

「そうなんですね。でも、何で三人だけなんですか?大変でしょう。」

 

「うちの支部に出てくるアラガミ少ないし、単体が多いから割りと回せるのよ。」

 

「まあ、うちがいた支部もそうでしたから分かります。っと、侵入できた。」

 

 支部長権限で様々な機密情報のセキュリティを突破し、雑談を交えながらなんとかガーランドが推し進めるアラガミ進化論のデータベースに侵入、データのコピーを施すことに成功。

 

 コピーしたデータを見ていくとそこには驚愕の真実が隠されていた。

 

「どうやら今回のいざこざは本部の入れ知恵らしいですね。」

 

「「新世界統一計画」ってなんだそりゃ?」

 

「簡単に言うと極東や昔のリオデジャネイロのようにフェンリルとは一線を介した支部が建前上は支部と本部の繋がりですが、実際には本部以上に力を持っています。それは待遇のよさとかに如実に表れています。ところが本部の中にはそういった支部の存在が気に入らない連中も居て、そいつらがガーランドに命令して動かしてるんだと思います。」

 

「ユージさん、てことはこれは本部の意向ってことですか?」

 

「そうなるね。リオデジャネイロはアーク事件後極東に全員が異動して無くなったから極東にタゲを絞ったんだよ。そして計画の遂行に邪魔になる俺を排除することでガーランドが実権を掌握し、色々軋轢が生じている。」

 

「なんて野郎だ。そんなことでユージさんを殺そうとするなんて!」

 

「落ち着け、ギル。これにはまだ分からないことも多いんだ。現にガーランドを捕まえた所で本部の連中は責任を全てガーランドに押し付ける。そうなってしまえばまたいつどこで同じ過ちが起こるかわからない。こいつは今回の計画に絡んでいる連中全員を捕まえて洗いざらい吐かせないと根本的な解決にはならないよ。」

 

「ユージ君、あなた何か企んでいる?」

 

「ええ、こうなってしまった以上、俺が直接本部に乗り込んで奴らを捕まえるしか道はないと考えてます。今の俺では恐らく迎撃されるでしょうけど、だったら殺すまでです。」

 

「こ、殺すって正気っすか?」

 

「ギル、大切なものを護るためならなんだってするさ。例えそれが汚れ仕事でもな。俺にとって極東はかけがえのない宝物だ。日々の何気ない思い出が一杯詰まってる。それを悪用されるのを黙って見とくなんて俺には出来ねえよ。」

 

「ユージさん······」

 

 真剣な眼差しで語るユージに何かを感じ取ったギルはそれ以上何も言わなかった。そう言えば本部召集の際にカリギュラにギルに同行していた人間が皆殺され、その責任を負わされそうになったところを救ってくれたこともあった。本来なら違う支部の人間の事に口を挟むなど有り得ないが、ユージにはそんな常識は通用しない。そこには揺るぐことのない信念があった。そしてそれが在るからこそ、彼に引かれていく人間が多いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラスゴーを離れたユージは本部に着くと正面突破は謀らず、夕闇に紛れて裏口から潜入。銃を片手に足音を殺しながらデータ管理室に向かう。途中見廻りの人間が居たが一人ずつ確実に気絶させることで敵の戦力を削り、ようやくデータ管理室に辿り着いた。鍵は気絶させた警備員から奪うことで侵入に成功。

 素早くデータのコピーと解析を同時にこなし、物の数分で膨大な量のデータを盗み、後はここから脱出するだけと先を急ぐ。少し進んだ先で曲がり角を曲がろうとした瞬間、背後から首筋に何かが刺さる感触がしたかと思うと直ぐに意識が朦朧とし、その場に横になった。横になったユージをその人物は抱き抱えるとそのまま何処かへと連れ去っていった。

 



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第45話 クーデター

「う~ん······、ここは?」

 

 ユージが目を覚ますとそこには見慣れた景色が見え、直ぐにどこなのかが分かったが、手足を鎖で縛られ仰向けに寝かされている状態だった。そこでようやく昨日本部で拉致されたのだと悟り、犯人が誰なのかも理解した。

 

「チッ、ガーランドの野郎だな。でも、何で殺さないんだ?」

 

 ガーランドに捕まったことは分かったが、自分を殺すのが目的だったのでは?と考えていたユージは今、拘束されているとは言え生きていることに疑問を抱く。するとそこにガーランドが姿を見せる。

 

「まさか、死んだと見せかけるために業とこちらの罠に嵌まるとは。初めは驚いたよ。」

 

「ガーランド、てめえどう言うことだ!お前は俺を殺したいんじゃなかったのか?」

 

「殺す?とんでもない。君は私が進める計画にどうしても必要なピースだ。殺してしまっては意味がなかろう。」

 

「俺が必要なピースだって?何を訳の分からないことを言っているんだ。って、そうか。だからアルダノーヴァのコアを探していたのか。」

 

「やっと気づいたか。そうだ、アルダノーヴァは兄のヨハネスが作った人工アラガミ。そして、それを動かすには人間が直接乗り込まなくてはならない。だが、乗り込んだところでエネルギーがないから動かない。」

 

「前のアラガミはノヴァに埋め込まれた膨大な量のコアのお陰で動いていたからな。」

 

「そう、そこで私は考えた。第二世代神機使いの間で起こる感応現象を利用すれば動かせるのではないかと。そして数ある第二世代の中でもかなり強力な感応現象を持っている君に白羽の矢が立った。」

 

「おいおい、感応現象がそう頻繁に起こるもので無いことはお前なら分かるはずだ。あんな不確かな現象を科学者が信じるのか?」

 

「それはない。私にかかれば意図的に感応現象を起こすことができる。」

 

 そう言うと、いつのまにか頭に付けられた所から脳波に信号が与えられ、なんとも言えない激痛に見舞われ、ユージの意識は遠のいた。そしてそこから恐ろしい計画が遂行され、ある日のテレビ放送にて重大発表が行われることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《世界の各支部の支部長に告ぐ、この度、私はフェンリル本部の意向により全支部の権限を本日付で本部に返還していただく。勿論、返還するかしないかは君たちの自由だが、返還しないのであればフェンリル本部の戦力を以てして排除することになる事をお忘れなく!期限は本日2359までだ》

 

 突如として世界中に放送された内容に世界中がパニックに。それは極東とて例外ではないが極東は極東で既にアラガミを感応現象で強化した戦力でアナグラは取り囲まれていた。

 

「おい、どうなってやがる?」

 

「私に聞かれても分かりません。ただ、私たちがしてきたことはアラガミを強くしてしまったみたいです。」

 

「クソッ、ユージが居ればこんなこと起こるはずが無かったのに。どこ行っちまったんだ?」

 

「居ないのを嘆いても始まらないだろ。ここを奪われたくなかったら一体でも多くのアラガミを倒せ!」

 

 アナグラ内は第一部隊が中心となってアラガミの侵攻を防いでいた。

 

 その頃、グラスゴー支部ではケイトが支部長で三人しか居ないが、誰もガーランドの指示に従うつもりはない。今はただたった一人で強大な敵と戦っているであろうユージに願いを託そうと遠く離れた地からエールを贈る。

 

 その本人はというと、脳波を弄られ意識を失ってから起き上がることはなく、着々と彼の感応現象によって強化されたアラガミが作られていた。

 だが、彼の知らないところでガーランドはアルダノーヴァを作り上げ、後は感応現象を更に発動できるようまるで特異点のようにユージの体をアラガミの触手で縛り上げる。それは差ながら十字架に掛けられたイエス·キリストを彷彿させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつになったら終わるんですか!」

 

「うるさい、黙ってやれ!」

 

 アナグラを守るべく戦い続けてからかなり時間がたつが一向に減る気配がなく寧ろ増えているようにも見える。これでは流石に体力も尽きるのも時間の問題なのは誰が見ても明らか。

 そんな三人にツバキから指令が入る。

 

「お前たち、ここはもういい。お前達には特別任務を与える。」

 

「特別任務ですか?」

 

「たった今、ジャック博士からの連絡によりユージがガーランドに拉致されエイジスにて監禁されていると情報があった。恐らく、今回のアラガミ襲撃はユージの感応現象によって強化された物だ。あいつが今どんな状況に置かれているかはわからないが何としてでも救出しろ!」

 

「了解!」

 

 ユージがエイジスに居ると聞き、疲れきっていた三人に自然と力が沸く。しかし拉致、監禁されていることは芳しくはない。少し不安もある。それでも生きている事に代わりはない。

 アリサがこの中で一番喜んでいた。と言うのも彼が居なくなってから随分と落ち込み、周囲も心配していた。それがユージが生きているとあればもうそういう事になることもなくなる。

 

(ユージ、待っていてください。今、行きますから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人がエイジスに入った瞬間、言葉を失った。以前倒したはずのアルダノーヴァにユージが変わり果てた姿で組み込まれていて、それは当時は本物だと思い込んでいたシオや黒いハンニバルに侵食されたリンドウと酷似していた。

 拉致、監禁されているとはいえまさかこんなにまでなっているとは思ってもいない事実に覚悟が出来ていない。

 

 そこにガーランドが姿を見せ、三人は戦闘態勢に入る。

 

「ここまで私に歯向かうとは全く使い物にならん連中だ。」

 

「ガーランド、貴様!」

 

「ソーマ、お前はいつもそうだったな。両親に見捨てられ人を信じようとしなかったお前が今では仲間を信じるとは情けないものだ。そんなものは全く以て無駄な事だと言うことが分からんか。」

 

「無駄なんかじゃありません。」

 

「何?」

 

「俺たちは信じることの大切さを学んだ。だから今、ここに居る。」

 

「ああ、全員ユージが俺たちと正面に向き合って伝えて来たものだ。」

 

「そんな思いも知らないあなたなんかに渡して溜まるもんですか!」

 

「ふん、所詮は戯れ言に過ぎん。お前たちが今、助けようとしているこいつならもう用済みだ。欲しければくれてやる。受け取りな!」

 

 そう言うと、何かのスイッチが押されてアラガミに取り込まれていたユージはゆっくりと引き剥がされると支えるものが無くなり、地面へと頭から落下。アリサ達が受けとる前に頭から地面に強く叩きつけられ、鮮血が生々しく流れ出す。

 これではシオの時と同じだと誰もが思った。あのときは後で偽物だと分かったから良かったが、今目の前に頭から血を流して倒れているのは紛れもなくユージだ。信じたくないリアルが今は目の前にある。それだけでアリサは絶望の淵に追い詰められ、まだ温もりはあるが一向に目を開けない姿に涙が止まらず、彼を抱き締めたまま滝のように土砂降りの雨を降らす。

 そして涙が枯れるとそっと抱き締めていたユージを離れた場所まで運び、綺麗に寝かせると神機を握り締め、ガーランドに殺気を放つ。

 

「······許さない、貴方だけは絶対に許さない!」

 

 怒りから来るそれはアリサの中に眠っていた力を最大限に引き出し、今までに感じたことのない不思議な力が握り締める神機に伝わりその場に立っているガーランドの体を鋭くそして鮮やかに切り裂き、大量の血を吹き出しながらガーランドは死に至った。

 

 

 

 

 

「アリサの奴、ガーランド殺しちゃったぞ!」

 

「俺も絶対そうしていたから問題はない。それよりもユージは大丈夫なのか?」

 

「まだ微かに呼吸してますので、生きています。でも······でも、どうしてユージがこんな目に遭わなければいけないんですか?」

 

 ガーランドを始末し、怒りは収まったが悲しみは癒えることがない。そうしているとずっと微動だにしなかったアルダノーヴァが突如動きだし、いきなり天輪から極太のレーザーで凪ぎ払ってきた。咄嗟にガードするが、離れた場所に置いたユージにレーザーが直撃、大きく吹き飛ばされる。

 

 そして更に攻撃を仕掛けようとしたその時、エイジスの装甲壁が豪快に破られそこに現れたのは第二のノヴァであるアリウスノーヴァ。二体のアラガミはアリサ達には目もくれずにいがみ合い、アルダノーヴァが天輪から極太のレーザーを繰り出せば、アリウスノーヴァも負けじとレーザーを繰り出し二体の強力な攻撃が激しくぶつかり合う衝撃でエイジスは大きく揺れ、アリサたちも身の安全を最優先に避難。

 収まるとアリウスノーヴァがアルダノーヴァを仕留め、コアを探すがないと分かるとようやくアリサたちの存在に気づき、咆哮を挙げ上空に無数の雷球を作り出すと勢いよく放つ。予想外の出来事に三人は攻撃を避けるのに必死で攻める事ができずにいた。

 そうしているとアナグラでの連戦による疲労がここに来て如実に表れ、動きが鈍ったところに追撃をくらい、三人はなす統べなく敗北を喫した。



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第46話 復活

「ここは······、どこだ?」

 

 目を覚ますとそこは見渡す限り桜の木々が立ち並び、心地よい風が吹くと桜の花びらが吹雪のように舞い上がり、やがてゆっくりと落ちていく光景。今まで一度も見たことのない光景にユージは綺麗と思いつつも戸惑いを隠せない。

 暫しその場に立ち尽くすがじっとしていられず一歩ずつ歩き出す。すると一際大きな桜の木に寄りかかる一人の少女が立っていた。見た目は明らかに年下だが桜を思わせる髪の毛と服装、そして可愛らしい表情で微笑む彼女に顔が赤くなる。

 

「えっと、君は?」

 

「私はサクラ、桜が大好きな女の子よ。そういう貴方は?」

 

「あ、俺はユージって言うんだ。よろしく」

 

「ユージって言うのね、よろしくね!」

 

 軽く挨拶を済ませるとユージはここが何処なのかを聞き出す。するとサクラの口から予想だにしない言葉が出る。

 

「ここはあなたの神機の中にある空間。言ってしまえば私の家ね。」

 

「俺の神機の中って、じゃあ君が神機の人格なの?」

 

「そうなるわね。でも、よく知ってるわね。私以外に誰かと会ったの?」

 

「ああ、前に先輩の神機に触れたときにレンと会ったことがあるよ。その時に色々教えて貰ったんだ。」

 

「なーんだ、レンちゃんか。あの子、私の友達なの。たまに遊びに来てくれるの」

 

「へえ、レンと友達なんだ。凄いなあ。神機同士で繋がりがあるんだね。でも、何で俺がここに?」

 

 レンと友達だと知り、嬉しくなるが肝心の事を思いだし、質問に戻る。

 

「あなた今、とても危険な状態なの。ガーランドとか言う酷いおじさんに捕まって生死をさ迷っているわ。」

 

「あ、そうだった。俺はガーランドに捕まってたんだった。早くいかないと!ねえ、サクラ。ここから現実に戻るにはどうしたらいい?」

 

「出たいの?」

 

「出たいよ。確かにここは綺麗だし、良いけど俺にはやるべきことが一杯ある。残念だけど俺の居場所はここじゃない。だから方法があるなら教えてくれる?」

 

「良いよ。そこまで言うなら教えてあげても良いよ。でも、一つ条件があるの。」

 

「条件?」

 

「アリサちゃんの事大事にするの。これが条件。」

 

「アリサを大事にっていつもしているよ。」

 

「今のでは全然足りない。だって事あるごとにアリサちゃんを置いていくでしょ。」

 

「それは否定できないや。」

 

「その度に心を痛めていることを分かってないでしょ?」

 

「う、うん。自分では分かっているつもりでも分かっていないときがあるよ。」

 

「今回だって閉じ込められずにやり過ごす事だって出来たのにあなたと来たら自分都合で彼女と別れるから相当傷付いているわよ。」

 

「そ、そうだったんだ。それは知らなかったよ。だけど何でそれを君が知っているわけ?」

 

「私はあなたのパートナーになってからずっとあなたが見てきた景色を見てきたからアリサちゃんの事も見ているの。勿論、キスしてる所もね。」

 

「そんなダイレクトに言うな。」

 

 唐突なアリサを大事にしろと言われて困惑するがどうやらユージはまだアリサへの愛情が足りないらしい。だから平気でアリサを一人ぼっちにさせるのだと厳しい指摘が。

 

「もし、あなたが本当にアリサちゃんの事を思ってるなら絶対に一人にさせないって誓って!でないともう二度と戻れないわ。」

 

「誓います。二度と一人にさせないと誓います!」

 

 土下座で必死に懇願するユージにサクラはこれ以上ない笑顔で優しく諭す。

 

「いーい?今の言葉絶対に忘れないでね。女の子はあなたが思っている以上にデリケートだから。彼女にはあなたの愛が必要なの。しっかりしてね!」

 

「わ、分かった。約束する。じゃあ、また会おう!」

 

 

 

 

 

 

 サクラと約束をかわすと無数の桜吹雪が体を包み込み、気がつくと現実世界に戻っていた。ゆっくりと体を起こすとそこにはアリサ達が傷だらけで倒れ、近くにはアリウスノーヴァが倒したアルダノーヴァの死体を食べていた。

 

「あ、アリサ!大丈夫か?しっかりしろ。」

 

「······ゆ、ユージ、目を覚ましたんですね。でも、ごめんなさい。私たちの力では敵いませんでした。」

 

「ウンウン、良いんだ。元はと言えば俺が勝手な行動したばかりに起きたことだから。謝るのは俺の方だ。ごめん!今はそれだけしか言えないけど、あいつを片付けてから改めて話すよ。」

 

 それだけ言うとアリサをお姫さま抱っこで端に寝かせ、ソーマとコウタも離れた場所まで運んだ。

 そして全員を運び終えると神機を構える。すると今まで気付かなかったが、神機全体が桜色に染まり、色の変わっていない所には桜の花びらが舞う様子が残され腕輪も桜色をしていた。恐らくサクラからの餞別なのだろう。血で汚すには惜しいがアラガミを倒さないことにはアナグラに戻れないため、アリウスノーヴァと対峙。

 両者が睨み合い、敵が動くのと同時にユージも一太刀入れる。

 勝負は一瞬で決まった。確かに本気で斬ったとはいえあれだけ苦戦したアリウスノーヴァをたったの一太刀で仕留めた刀身の切れ味にユージ本人が一番驚いていた。これが神機と心が一つになった時の攻撃力なのだろうか。ただ一つ言えることは。

 

「この神機強すぎ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリウスノーヴァを仕留め、コアを回収したユージは透かさずアリサの元に駆け寄ると回復錠を口に含むと歯で砕き、口移しでアリサの口に入れる。砕いたお陰で飲み込み易くなり、瞬時にアリサは元気になりユージに抱き付くと今までの寂しさを晴らすかのように温もりを感じとる。

 

「どうした、そんなに抱きついて。」

 

「だって、心配だったから。ここに来たときユージがアラガミに取り込まれているのが目に入って現実を受け入れられませんでした。その前にはユージを一人置いて自分達だけ戻ってしまいましたから、その無念を晴らせると思ったらあんなことになっていてとても辛かったです。」

 

「ごめんな、アリサ。ずっと一人にさせて。きっと寂しかったよね。俺があのときガーランドの罠に業と嵌まろうなんて考えたばかりに寂しい思いしたんだよね。」

 

「バカ!やっぱりそうだったんですね。もう、どうしてあなたはいつもそうなんですか!」

 

「本当ごめん!この通りだから、もう許してくれない?何でもするからさ。」

 

「うん?何でもするって言いました?」

 

「言った。」

 

「では、ウエディングドレスお願いします。」

 

「分かったよ。アリサの好みに合わせてつくるから明日か明後日グラスゴーに行くよ。」

 

「ありがとうございます。これで念願のウエディングドレスが着られます。それに結婚式も。きゃっ、今から楽しみです。」

 

「それは良かった。」

 

 本当のことを言うとやはり怒られ、何でもするからと懇願するとウエディングドレスが欲しいと言われ、了承すると嬉しいのか声にもならない声を挙げては頬に手を当てて顔を横に振っている。これがアリサの今の気持ちなのだろう。

 ユージは喜んでるアリサを尻目にコウタとソーマにも回復錠を与え、二人も回復し体を起こし、再会を喜びあう。

 

「ユージ、お前無事だったのか?」

 

「まあな。お前らと別れたあの任務の前に既にガーランドの異変に気づいていたんだけど、それが何なのかは分からず、あの任務を迎えて業と嵌まることで死んだと見せ掛けることが重要だったんだ。」

 

「どういう事だ?」

 

「奴の狙いが俺だと分かったからだったら死んだフリをしてやろうとね。」

 

「だからリンドウさんで経験したはずなのにあんなこと起きたのか。でも、どうやって過ごしたんだ?」

 

「グラスゴー支部にこっそり移動してデータをコピーしていた。序でに本部のデータもコピーしたんだけど、そしたらガーランドにやられていたんだ。」

 

「だったらせめて俺たちに一言言えよ。そんなに信用できないのかよ!」

 

「わるい。自己判断だった。次から気を付ける。」

 

 三人を助けるとヒバリに無線を入れる。

 

「ヒバリさん、遅くなったね。今から第一部隊全員帰投する。」

 

《こ、この声はユージさんですね。ずっと生きていると信じてました。あなたが居ない間のアナグラは悲惨でした。皆さんのお帰りをお待ちしていますね!》

 

 ヒバリの口から聞かされた自分が居なくなったアナグラの現状に自分のせいでこんなことになったと深く反省しながらアナグラに戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナグラに久々に戻るとユージの姿を見た人間から手厚い祝福を受け、随分待たせたのだと思いしる。それと同時にアラガミと戦ったと思わしき傷がロビー全体に見られ、言わなくてもそれがどういう意味なのかは分かった。

 サカキとツバキもロビーに姿を見せ、ユージは帰還の報告をする。

 

「博士、ツバキさん、長い間留守にしてすみませんでした。ガーランドの罠に業と嵌まろうなんて考えたばかりにこんな結果になりました。本当申し訳ありませんでした。」

 

「謝る必要はないよ。何はともあれこうして無事に戻ってこれたことを素直に喜ぼう。」

 

「博士の言う通りだな。お前の我が儘にはなれてるからな」

 

 二人からは特に怒られず、寧ろ無事に戻ってこれたことを喜んでいた。

 そしてその日は帰還の報告と睡眠で一日が終わった。

 

 

 



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第47話 挙式に向けて

 ガーランドによる一連の事件は極東だけでなく世界中の支部に混乱を招き、本部は鎮静化を謀るためガーランドとその部下のアーサソールに事件の責任を押し付けようとしていた。

 だが、そんな自分達だけ助かろうと言う自己保身の考えをユージが許すはずがなく、手に入れたデータから割り出した事件の関係者を全て拘束から強制起訴し、あとは軍事裁判でそれぞれ判決が言い渡される事に。この行動に本部に反発していた世界中の支部の人間から支持を集め、ユージの名前は世界中に広まった。

 そしてその影響からユージに対するファンレターが相次ぎ、支部長としての業務だけでなくファンレターの対応にも追われ、嫌ではないが変に目立ってしまったと溜め息が漏れる。しかもそのファンレターのほとんどが若い女性からとあって、一通ずつ読むたびに隣にいるアリサから嫉妬とも取れる視線が向く。

 

「アリサ、そんなに妬まないでくれる?ただのファンレター位で。」

 

「いいんです。ユージが人気なのは嫌じゃないので。ただ、女の子からのファンレターだけ変に嬉しそうな顔をするのはどうかと思っただけですから!」

 

「してないよ。誰だってファンレター貰えば嬉しいのは当たり前だろ。まあ、でも今回の事で俺は目立ってしまった。もしかしたらまたガーランドみたいな奴に狙われるとも限らない。その辺りの警戒は怠らないようにしないとだな。」

 

「そうですね。支部長ともなればそれだけその座を狙ってくる人は少なくないですからね。気を付けてくださいよ?」

 

 アリサが言うのはごもっともだ。支部長の権限は本部の幹部よりは大きくないがそれでも支部の中では一番大きいためそこを悪用する人間は少なくない。

 今回のガーランド然り、以前のヨハネス然り、そういう人間が上に立てばどうなるかはユージも理解している。だからこそ、二度とこういう事が無いように今一度注意しなければと自分に言い聞かせるようにアリサに誓った。

 

「はい、肝に命じます。でさ、あのとき言っていたウエディングドレスの事なんだけど、急遽明日行くことになったけど行く?」

 

 とここでユージの口からウエディングドレスの事を聞かれ、アリサの顔がほころぶ。ちゃんと忘れずに手配してくれていた事に思わず抱き付くと膝の上に座る。

 

「なんだよ、そんなに嬉しいのか?」

 

「当たり前じゃないですか。ちゃんと覚えていてくれたんですね。」

 

「アリサが言ったんだから、忘れるかよ。で、行くの?行かないの?」

 

「もう、行くに決まってるじゃないですか!だから今から楽しみなんです。どんなのが着られるのか想像するだけでもうワクワクします。」

 

「分かった、分かった。休暇は申請しておくからって支部長俺だから意味ないか。まあ、明日から三日間休暇とってグラスゴーに行くからじっくり見ていこう。何でもケイトさんイチオシらしいよ。」

 

「え、ケイトさんのですか。それは尚更楽しみです。久々にケイトさんにも会いたいですね。」

 

「そうだね。会ったらお礼言わないと。」

 

 先日結婚式を挙げたリンドウとサクヤのウエディングドレスもそこで作られており、ケイトがイチオシと言うだけあってかなりの美しさだった。それを今度は自分が着られるとあってもう楽しみで仕方がなかった。

 未だに自分の膝を椅子がわりにしたままあれこれ考えては笑顔が弾けるアリサを見るのがユージは一番嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、朝食を済ませた二人はグラスゴーに行くためのヘリに乗るとみんなに見送られながら極東を離れた。

 

 そして時差の関係で極東では昼の三時だがグラスゴーではまだ早朝六時に着いたがケイト達は出迎えていた。ユージはこないだ会っているが、アリサは久しぶりとあってケイトを見つけると真っ先に挨拶をする。

 

「アリサちゃんよく来たわね!話は聞いているわ。」

 

「ケイトさん、お久しぶりです。今回は私のためにありがとうございます。」

 

「良いのよ。サクヤのドレスも私がチョイスしたの。だからアリサちゃんにも似合うものいくつか選んだから早速行きましょう!」

 

「お願いします。」

 

 ケイトに連れられアリサはドレス選びにどこかに行った。二人を見送ったユージも中にはいるとハルオミとギルの三人でこないだの一件の話をする。

 

「お前の事ニュースで見たぞ。あの本部の連中を牛耳ったって世界中の支部で大騒ぎだ。」

 

「俺もニュースで見て、すげえと思いました。」

 

「そんなに褒めないでくれ。あれ以来俺宛のファンレターが多くて、若い女性からのファンレターを読むたびにアリサから冷たい視線を浴びて辛いんだ。」

 

「マジか。お前モテるんだな。で、コクられたりしたか?」

 

「まあ、何通かそういった類いのはありましたけど、俺はアリサしか考えられないのでお断りです。」

 

「お前なあ、アリサちゃんが好きなのは分かるが男なら女にモテられて困ることは無いんだぜ。なあ、ギル。お前だってそう思うだろ?」

 

「何で俺に振るんすか。そう思っているのはハルさんだけっすよ。」

 

「ギルの言う通りです。あんまり言うとツバキさん連れてきますよ?」

 

「ちょっと待て、ツバキさんは止めろ。あの人だけは苦手だから。」

 

「だったら余計なことは慎むことです。」

 

 流石は査問会議の常連なだけあってケイトと言う最愛の相手が居るにも関わらず若い女性に目がないハルオミにツバキと言う名前は相当効き目があった。

 ツバキと言う名前を出され急にテンションが下がったハルオミを無視してユージはギルに別の話題を振る。

 

「ギルは最近どうなんだ?」

 

「どうって、言われても。」

 

「前に俺が渡したカリキュラム、ちゃんとこなしてるのか?」

 

「休みの日以外はほぼ毎日やってますが、中々キツいですね。」

 

「そうか、まだ慣れてないのか。あれに基礎基本の全てが詰まっているからちゃんとやれば必ず戦闘に活きてくる。極東でもあれ以来、少尉以下の人間は全員がやることが義務付けられているよ。」

 

 ユージが言うように、ギルに渡したカリキュラムは極東でも少尉以下の人間は全員が義務付けられており、過酷とも取れる内容から毎日訓練所からは誰かの悲鳴と疲弊しきった人間がソファにぐったりと座る光景が見られていた。

 ちなみに極東でこのカリキュラムを免除されているのはユージとリンドウのみでアリサやソーマ、コウタと言った第一部隊も例外ではなく、三人曰く相当厳しいがそのお陰である程度の連戦に耐えられるだけの忍耐が付いたと口を揃える。現に先日の極東に集結したアラガミの大群も過酷なカリキュラムを毎日こなしていたからこそ連戦に次ぐ連戦でも耐えきれたと言っても過言ではなかった。

 それだけ成果が表れればやらないわけにはいかない。ギルも今の言葉で挫けずにやろうと思った。

 

 

 

 

 

「ユージ君、ちょっと来てもらえるかしら?」

 

 ギルと楽しく話をしているとケイトに呼び出され、付いていくとそこにはプリンセスラインのブライダルドレスを身に纏い笑顔を見せるアリサの姿が。

 スカート部分はチュ-ルやレ-スを幾重にも重ね女性らしさを強調。

 胸から胴にかけては全体に刺繍をほどこし豪華さ演出している。

 デコルテは深いタイプで肩紐が無いデザイン。

 髪には品の良い控えめなティアラ、反対に首には豪華なデザインのネックレス。

 ネックレスからは宝石をちりばめたチェ-ンが伸び肩にかかる独特なデザイン。

 見た瞬間に思わず「綺麗」と口に出してしまうほどの変わりように目が奪われる。

 

「ゆ、ユージ、どうですか?」

 

 さっきまで笑顔を見せていたアリサはやがて恥じらうように顔を赤くして自分に似合うか聞いてくる。

 

「綺麗、凄く綺麗だよ。」

 

「本当ですか。良かったあ。ユージにそういって貰えて良かったです。ケイトさん、これにします。」

 

「うん。気に入って貰えて良かったわ。それじゃあ、ユージ君も挙式に着る服を選んで。」

 

「俺も良いんですか?」

 

「良いのよ。」

 

「ありがとうございます。じゃあ、アリサまたあとで。」

 

 アリサのドレスが決まり、今度はユージの服を決めるため別室に移動。

 

 

 

「ここに幾つか置いてあるから試着してみて。気に入ったのがあったら呼んでね。」

 

「分かりました。」

 

 衣装部屋に案内され、ハンガーに掛けられた服の中からあれこれ試着をしては鏡を前にお気に入りを探すがどれもイマイチしっくり来ず、等々最後の一着となり、これでダメだったらどうしようかと思いながらタキシードに手を伸ばす。

 そして恐る恐る着て、鏡を見るとさっきまでとは違う姿にこれだと思った。

 正直にいえば普通のタキシードだが、これがいい意味で一番しっくり来た。普段から派手な服を好まないユージにとって結婚式だからと変に派手さを求めるのは自分らしさに欠けていた。 

 やはり自分らしく地味でも味のある物が好きだと直ぐに決めるとアリサを呼ぶ。

 

「色々着てみたんだけど、派手なのは似合わなくてさ。やっぱり普通のタキシードに落ち着いた。」

 

「いいえ、それでこそユージらしくて、とてもカッコいいです。」

 

「アリサが言うんだから間違いないね。ケイトさん、これにします。」

 

「二人とも決まって良かったわ。それじゃあ、これで挙式に向けた準備は一旦、終わって後はこちらで進めていくけど、その前にここで記念撮影しないかしら?」

 

「良いんですか?」

 

「ええ。それくらい大丈夫よ。さあ、そこに並んでちょうだい。」

 

 ケイトに促され二人が並ぶとケイトがカメラのシャッターを押し、フラッシュが焚くと撮った映像を見せる。二人とも撮った映像に納得し、直ぐにプリンターで焼き一枚の写真として残った。

 写真は額に入れられ、記念として支部長室のデスクに飾ることに決めた。

 

 その後、三日間かけてそれ以外に挙式に向けてやることをこなし、いよいよ明後日挙式を迎えることに。



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第48話 挙式

 グラスゴーで挙式に向けた準備を済ませ既にアナグラに戻っていた二人は明日の挙式を前に両親に見せたかったと思っていた。子供の頃に二人とも両親を亡くしているため、晴れの姿を見せられない事だけが心残りだ。

 

「結局、晴れの姿を見せることはできないけど、きっと天国から見てくれているよな。」

 

「そうですね。幸せに暮らすことが親孝行になると思います。」

 

「そう言えば、俺と初めて会った日の事覚えてる?」

 

「覚えてますけど、余り思い出したくないです。あの頃の私は本当失礼な態度でしたから。」

 

 ベッドに横になりながら出合ったときの話をするとアリサは当時の黒歴史に恥ずかしくなる。

 今となってはそれもいい思い出だが当時は精神が不安定で判断力に乏しかったのだろう。

 

「俺にすら強気に来るからビックリしたよ。あのときは正直仲良くはなれないかもと思った。」

 

「仕方ないです。私のせいですから。でも、そんな私に真正面から向き合ってくれたのはユージが初めてでした。私がタツミさんたちと揉めていたとき、真剣に怒ってくれて無かったら今も最低な人間だったと思います。」

 

「あのときは本気で怒らないと心に響かないと思ったから。それがちゃんと伝わったと分かったときは怒って良かったと思ったよ。」

 

「そしてユージに戦い方を教えて貰った頃から私はユージを意識していました。でも、隊長に就任してから少ししてユージの態度が変わって、ショックを受けましたけど同時にユージも悩んでると知って良かったです。」

 

「あのときはマジで悩んだ。本当ならアリサに言えば良かったんだろうけど、機密だと言われればどうしようもなかった。それで傷付けた。」

 

「でも、立ち直ってからは私たちの事を第一に考えてくれました。だから、そのあとユージが撃たれた傷のまま無理してアラガミと戦って、倒れたとき辛かったです。」

 

「あのときから俺の無茶が始まるんだよね。そして、目が覚めて告白したんだよね」

 

「ユージも同じ気持ちだと知って嬉しくて、それ以来ずっと一緒に過ごすことが何よりも幸せです。」

 

「俺もアリサが言うまで緊張してたけど、両想いで嬉しかったし、退院後の初デートが今でも忘れられない。」

 

「初デート楽しかったです。あのときに買って貰ったバックとストラップは今でも大切な宝物です。そのあとの結婚指輪を貰ったときはもう嬉しすぎて泣いてました」

 

「あれはずっと前からこっそり準備していたからね。完成してからはいつか渡そうと思って常に偲ばせていたよ。その時点で俺の中ではもう結婚することしか考えてなかった。」

 

「その日から夫婦になったんですよね。あれから月日は経ちましたけど、ユージと一緒で良かったです。」

 

「俺もアリサと一緒で良かった。明日は最高の結婚式にしよう!その為に、今日は寝よう。おやすみ、アリサ。」

 

「おやすみなさい、ユージ」

 

 出会った日から振り替えるとそこにはたくさんの思い出が。それはどれもかけがえのない宝物となってこれからも二人を強く結びつける事だろう。

 明日に備え寝る前のキスをしてから眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、結婚式本番前、控え室では新郎新婦の着付け作業が行われていた。新郎のユージはタキシードとあって直ぐに終わったが、アリサはドレスともあって着るのにかなりの時間を擁した。

 大分時間が掛かったがどうにかドレスに着替え終わり、もう一度二人で確認しあうと思わず笑みが溢れる。

 

「こないだはそうでもなかったけど、いざ本番を前にすると緊張するね。」

 

「はい、緊張すると喉が渇くので飲み物が欲しいですけど、トイレに行くのが大変なので控えないといけませんね。」

 

「大事な衣装を汚したら台無しだからね。俺も我慢してる。」

 

 本番を前に極度の緊張感が喉を渇かし、水分を欲するがトイレに行くのを躊躇い我慢する。とはいえ、脱水症状になってはいけないのでほんの一口だけ水を含むと渇いた喉を湿らせる。

 それだけで幾分かは楽になる。

 

 

 

 

 そしてある程度待機しているとドアが開き、二人は手を繋ぎレッドカーペットの上をゆっくりと歩幅を合わせ歩く。レッドカーペットの両サイドにはリンドウ達アナグラの人間だけでなくユージが毎日のように物資を配達し知り合った外部居住区の住民も大勢で駆け付け大きな拍手で二人を出迎える。

 牧師が立つ目の前まで歩くと止まり、更に緊張が強まったのかユージの手を握ったまま目をキョロキョロさせる。それに気付いたユージは小声で緊張を解す。

 

「大丈夫だ、アリサ。俺が付いてるから、しっかり手を握って。」

 

 この言葉に小さく頷き少しだけ緊張が解れる。握ったままの手からはユージの温もりが伝わり心臓はバクバクだが不思議と落ち着いている。

 

 

 

 

 落ち着きを取り戻す頃には新郎新婦の紹介が終わり、牧師から結婚の宣誓の為の質問が始まる。

 

『ユージ、あなたはどんな時でも妻のアリサ·イリチーナ·アミエーラを愛する事を誓いますか?』

 

「誓います。」

 

『アリサ·イリチーナ·アミエーラ、あなたはどんな時でも夫のユージを愛する事を誓いますか?』

 

「誓います。」

 

 牧師の宣誓に二人は真っ直ぐ牧師の目を見て誓いの言葉を述べる。

 誓いの言葉を述べ、牧師は二人に指輪の交換を促す。既に指輪は交換済みであるが今日のために綺麗にしてきたため今は指輪を外した状態。

 ケースから指輪を取るとユージからアリサ、アリサからユージへと左手の薬指に指輪を嵌める。指輪に付いているダイヤモンドが鮮やかに光を反射して二人の門出を祝福しているように見える。

 

 指輪の交換が終わり、二人は再び手を繋いでカーペットを歩いて退場。次がアリサが持っているブーケを投げる所のため、来場者も会場から外に出る。ブーケを受け取った物は将来結婚するという言い伝えがあることを女性陣は知っているからか男性とは違い緊張している。

 

「アリサのドレス姿綺麗だったね。」

 

「そうですね。とても綺麗でやっぱり憧れます。私もいつか着られたらなあ。」

 

「ヒバリはタツミさんが居るから大丈夫でしょ。」

 

「もう、人が多いんですからそれを言わないでくださいよ。」

 

「あ、そうだった。ゴメン。でもさ、タツミさんのこと好きなんでしょ?」

 

「···はい。好きです。ですけど、タツミさん任務が忙しいのか会わない日が多くて。」

 

 アリサのドレス姿に更に憧れを抱くヒバリはタツミの事を本人が知らないだけで本当は好きな様子。だが、防衛班の隊長であるが故に一度任務に行けばほとんど帰ってこない事が日常茶飯事なために仕方が無いことは分かっているがやはり寂しい事には変わりはない。

 少し落ち込んだ表情のヒバリにリッカが助け船を出す。

 

「会えなくてもさ、気持ちを伝える方法ならあるよ。」

 

「え、本当ですか!教えてください。」

 

「ヒバリは昔、極東では愛妻弁当って言葉があったの知ってる?」

 

「愛妻弁当ですか?いいえ、聞いたことありません。」

 

「愛妻弁当っていうのは妻が夫のために弁当を作るの。アラガミが出る前は夫はみんな会社とかに勤めていたから妻が手作りの弁当を持参するのが流行っていたみたいだよ。」

 

「なるほど、確かにお弁当なら任務中にお腹が好いても大丈夫ですし、邪魔になりませんものね。リッカさん、ありがとうございます。今度お弁当作ってみます。」

 

「うん、頑張って!」

 

 リッカから愛妻弁当の話を聞き、その発想がなかったヒバリは直ぐに今度作る弁当のメニューを考える。

 

 

 その後、アリサが投げたブーケはリッカでもヒバリでもなく一番奥にいたユータの手に渡った。

 ブーケを投げる意味を知っていたユータは女性陣の邪魔をしないようわざと離れた所に居たのだが、ゴッドイーターであるが故にアリサの投げる力が強く、予想外にも受け取ってしまいユータは申し訳なさそうに頭を下げる。

 だが、この謙虚な姿に誰も文句は言わなかった。寧ろ、今までユージの影に隠れてあまり目立ってなかったが、ブーケを受け取った事で注目を浴び、幼いながらも甘いマスクに女性陣に囲まれそれを見た男性陣からブーイングが浴びせられる。

 

 

 タツミとハルオミは集団から離れた場所で女性陣に囲まれて困惑しているユータを眺める。

 

「なんかいきなりユータがモテ始めたな。」

 

「なんだよ、ユージといいユータといい俺よりモテるなあ。」

 

「お前はケイトさんが居るだろうが。」

 

「あのなあケイトが居たって俺はモテたいんだ。だから色んな支部に赴いては連絡先を交換してるのさ。それで色んな支部で色んな女性と会ってきたが、極東の女性が一番レベルが高い。」

 

「はあ?」

 

「前にアリサちゃんを見たときも思ったが、実際に来るとやっぱり凄いぜ。特にあの髪の毛を両肩まで伸ばして結んでるあの娘はかなりのレベルだ。後で連絡先を交換しとかねーとな。」

 

 そう言ってハルオミが指を指した先にはヒバリが居た。自分がご執心のヒバリをハルオミが狙っていると分かったタツミは全力で阻止する。

 

「ハル、ヒバリちゃんにだけは手を出すな!」

 

「なんだ、ヒバリちゃんって言うのか。よし、ヒバリちゃんっと。」

 

「何メモってるんだてめえ!」

 

 ヒバリに手を出すなと忠告するも意に介さずメモを取るハルオミにタツミは慌ててメモ帳からヒバリの名前を書いたページを破るとポケットに入れる。

 この行動にハルオミはタツミがヒバリの事が好きだと理解。

 

「なんだ、お前の好きな娘だったのか。だったら早く言えよ。もう少しで口説いてた所だったぜ。」

 

「お前が勝手に書いてたんだろうが!」

 

「そう怒るな。俺だって悪気があった訳じゃないんだから。で、どうなんだ?上手く行っているのか?」

 

「いやー、それがさ···俺が幾らデートに誘っても上の空で全く相手にされてないんだ。もしかしたら嫌われているのかもな。」

 

 タツミがヒバリを想う気持ちは周囲が呆れるほど本気だ。だが、それが強すぎるが故にヒバリが困っている事もうっすらとではあるが分かっているのだろう。少しばかり落ち込む様子と奥でリッカと仲良く話してるヒバリを眺めハルオミはうんと頷く。

 

「言葉でしか言わないから伝わらないんじゃないか?」

 

「どういうことだ?」

 

「何かプレゼントしろって事だ。別に高価な物じゃなくていい。ありきたりな物でも良いからプレゼントをすれば彼女も振り向いてくれると思うぜ。」

 

「プレゼントかあ。それは考えてなかった。よし、何か考えとくよ。サンキュー、ハル。」

 

 ハルオミのアドバイスに納得したタツミはヒバリに渡すプレゼントを考え始める。

 ヒバリとタツミ、互いに今は片想いと思っているが友人のアドバイスによって何かヒントを得た二人の恋の行方や如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結婚式を無事に終えると次は披露宴。さっきは結婚の儀式みたいなものだが今度は食事を楽しみながら結婚を祝福される為、緊張感から解放され二人はリラックスしている。

 二人が座ってるテーブルには様々な料理が並べられているがどれも普段の食事では滅多にお目に掛からないような料理ばかり。見た目もゴージャスで食べるのが惜しいくらいの出来にアリサは本当に食べて良いものか迷う。

 

「ユージ、こんなに素晴らしい料理食べて良いんですか?」

 

「こういうときでしか食べられない特別な料理だから食べておいた方が良いよ。しかもこれ全部ユータが監修してるから見た目も味もバッチリだよ。」

 

「え、これ全部ユータが作ったんですか?」

 

「そうだよ。流石に俺やケイン達もここまでの料理の才能はない。こんなの作れるのはあいつだけだ。これで分かったでしょ。俺があいつに料理の腕では敵わないってのが。」

 

「今の話を聞いて分かりました。でも、ユージにはユージの良さがあります。それは毎日のように食べてる私が言うんですから間違いないです。」

 

「そう?ありがとう。アリサにそう言って貰えるだけで俺は満足だ。でも、アリサが作る料理だって美味しいよ。だって、アリサが作ると全部が母さんの味なんだもんな。教えて貰ってもいないのに凄いよな。特にこないだ食べたロールキャベツは今まで食べたどんな料理にも負けることはない世界一の料理だ。また今度作ってくれない?」

 

「今、こんなに素晴らしい料理が並んでいるのにそれ言うんですか?でも、嬉しいです。では今度作りますから楽しみにしていてください。」

 

 目の前に並べられたユータが作った超高級ホテルで出るような料理の前で語るにはあまり良くはないが、別に悪口ではないからとユージはロールキャベツをリクエスト。そのユージにツッコミながらもアリサは嬉しそうにそれを受け入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 数十分程経った頃には来場者のテーブルにもユータ力作の料理が並べられ普段は決して見ることのない数々の豪華な料理に来場者は驚きと歓声、そして記念撮影をしたりとこの瞬間を忘れないように記録に残す。

 それと同時にこれを誰が作ったのかと議論に発展するが司会が乾杯の挨拶をする前に料理を作った人の名前を知らせた為、全員がその人物に視線を集める。

 いきなり全員から視線を集めたユータは立ち上がると周囲に頭を下げる。それだけで女性陣から再び歓声が挙がり、ユータは困り果ててしまった。

 

 その様子はヒバリとリッカ、ソフィアもバッチリ見ておりその人気ぶりに驚く。

 

「凄いね~、ユータの人気ぶりは。」

 

「本当ですね。でも、こんだけの料理の腕があると知れば当然かも知れません。」

 

「だから言ったでしょ?料理でユータに敵う人は居ないって。同い年の私たちの中では一番上手いユージでさえここまでは出来ないんだから。」

 

「私もよくユータが作る料理食べてるから分かるけど、本当凄いよ。凄すぎて喧嘩売られてる気分だもん。」

 

 リッカがそう言うのも無理はなかった。リッカ自身も自炊をするために多少なりとも料理には自信があった。しかし、ユータが来てからその自信は儚くも崩れ、それ以降料理に自信が持てなくなった。理由は単純で彼が極東に来て次の日のお昼に偶々食べたチキン南蛮の味に衝撃を覚え、あまりの美味しさにご飯を食べすぎた経緯があったから。

 リッカの言葉にヒバリとソフィアも頷くばかりだ。

 

「女子力高い男子かあ。ユータと付き合う彼女が可愛そう。」

 

「確かに。一生懸命作ってもユータが作ったのを食べたらもう作るの諦めそう。でも、ユージと一緒で優しいから美味しいって言ってくれるんだろうけどね。悔しさしか残らないね、きっと。」

 

「そう言えばこないだアリサがコウタと料理対決したときにユージが言っていたよ。男は女の子に作って貰えるだけで嬉しいんだ、って。実際、アリサが作ったロールキャベツ誰よりも美味しそうに食べていたしね。本当なんだろうね。」

 

「それ私にも言ってました。ユータさんもきっと美味しそうに食べるんでしょうね」

 

「まあ、それが普通なんだけどね。」

 

 三人が会話をしている間に乾杯の挨拶が終わりを迎え、司会の「乾杯!」の一声で来場者は一斉にグラスを当て飲み物を飲むと目の前の豪華な料理に舌鼓をうつ。見た目を裏切らない見事な味に来場者の顔は自然とほころび、人に良いと書いて「食」の漢字に込められた意味を見事に体現していた。

 それは主役のユージとアリサも同じでユータ力作の料理に手が休むことなく動いている。

 

「ヤバイ、手が止まらない。」

 

「本当ですね。どれも美味しすぎます。」

 

「マジであいつレストラン開けば良いのに。」

 

 

 奇しくもリッカたちも同じことを言っていた。

 

「本当美味しいですね。」

 

「これはマジで凄いよ。しかもこれがタダで食べられるなんて贅沢だよね、私たち」

 

「普通なら確実に高額な請求額が来るよね。」

 

 リンドウとサクヤの時もそうだったが今回の結婚式と披露宴も参加者全員がタダで参加できると聞いて本当に良いのか?と疑問の声が上がった。しかし、ユージが全部負担しており全員感謝していた。

 意外に知られいないが今やユージは世界有数の財閥よりも裕福である。それ故にその資金力を使って来場者からお金を支払わなくて良いように配慮している。

 

 

 

 

 楽しい会食が一段落し、祝辞が述べられたあとユージが席を立つとピアノの前に立つ。

 ユージの突然の行動にアリサは勿論の事、来場者も何事だ?とざわつく。

 

「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。これからサプライズと言いますか、アリサの為に歌を歌います。この時のために練習してきたので下手くそですが是非聞いてあげてください。」

 

 そう言うとなんとピアノの椅子に座り、鍵盤に手を置くと演奏を始めイントロが流れてから歌い出した。

 

「あ、この歌······」

 

 歌い始めてからアリサはあのときの歌だと分かった。それはアリサが崖から転落して助け出し、アナグラに戻る際の車で鼻歌混じりに歌っていたあの歌。あれ以来その歌がお気に入りになったがまさかここで歌うとは思わず、嬉しさで顔が歪む。

 

 泣いているアリサにもらい泣きする来場者もちらほら出始め、ハンカチで涙を拭くが一度決壊したダムは止まることを知らない。次第にハンカチはびしょびしょに濡れていき、拭く意味が無くなってきた。

 二番のサビが終わり、Cメロに入る頃にはアリサの涙はピークを迎え、最後のサビまで歌い終わりアウトロになってようやく涙が収まった。

 

「アリサ、そしてご来場の皆さん私の歌を最後まで聞いていただきありがとうございます。これまでの感謝の気持ちとこれからの事を伝えたくて歌にしました。

 アリサと一緒にご飯を食べたり、楽しく話したり、任務に行ったりと色んな事が思い出であり、宝物で過ごす日々が幸せです。最初に出会った頃から彼女の色んな部分を見てきました。好きなことや苦手なもの、辛く悲しい過去も。でも、まだまだ私の知らない部分があると思います。今はそれがどんなものか分からなくてもいつか分かるようにこれから過ごす日々を大切にしていこうと思います。

 では、長くなりましたが最後にアリサにどうしても伝えたいことがあります。

 

 

           "大好きだーーーー!!!!"

 

 

 これで私からは以上です。」

 

 歌唱後の長い挨拶の最後に大声で叫び、来場者からは割れんばかりの拍手が起き最後まで聞いていたアリサも感動のあまりほとんど泣いていたが拍手をする。シンプルな言葉にどんなに飾られた言葉よりも一番心に響き嬉しかった。

 なら私もとアリサも大声でユージと同じことを叫んだ。

 二人の絶叫にも来場者は拍手で祝福、そのまま和やかな雰囲気で披露宴は進んでいき、その後は三次会、四次会と続き二人がベッドに横になれたのは日付が変わった午前2時過ぎだった。

 

 

 

 

「今日は最高の結婚式と披露宴だったね。」

 

「はい。とても楽しかったです。それに、歌を歌ってくれたり大好きだって叫んでくれたりと私は嬉しすぎて泣いちゃいました。」

 

「それは良かった。アリサに喜んでもらえることが何よりも嬉しいからね。これからもよろしくな!」

 

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 二人きりになって改めて結婚を祝うと最早当たり前となった口付けを長めにかわし、互いにみつめあうと抱き合ったまま夢の世界に。

 

 

 

 




一話にまとめるのは無理があったかもw

ユージが歌った歌は皆さんのご想像にお任せします。

それからタツミとヒバリは少しずつ書いていきます。


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第49話 愛妻弁当

 ユージとアリサの結婚式及び披露宴から三ヶ月が経ち、最初はその余韻に浸っていた人間も次第にいつもの業務をこなす毎日を過ごしていた。それはユージとアリサも同じではあるが、別々の仕事がある時以外は必ずと言って良いほど一緒に居る時間が多い。

 二人で居る時間が長く、それでいて結婚してるとあれば周囲からは子どもの話が出るのは不思議ではなく、外部居住区に行くと確実にその話題をユージにだけ振られその度にユージは苦笑いを浮かべながら決まり文句を言う。

 

「その事についてはまだなんです。」

 

 しかし、心の中では違った。

 

(結婚したと言ってもアリサはまだ16になったばかりだぞ。子ども産むには早すぎるだろ)

 

 そう、幾ら結婚をしたからと言ってアリサの年齢的に子どもを産むにはそれなりにリスクを伴う。出産は女性にとってかなりデリケートな事。万が一失敗をすれば母子共に命を落とすことにも成りかねない上、仮に生きていても心に深い傷を負うことになる。

 それだけにユージは子作りに関してはかなり慎重になっていた。アリサが子作りをしたいと言うまでは自分からその話題をすることは避けようとプロポーズをする前から決めていたことでもある。あくまでも妻であるアリサが最優先。その気持ちだけは揺るぐことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ユージ、おかえりなさい!」

 

 外部居住区からアナグラに戻るとアリサが笑顔で出迎えてくれていた。もう見慣れた光景ではあるが、アリサの笑顔を見ると心が落ち着き支部長と隊長の激務で疲れきった体に癒しを与えてくれる。どんなに疲れていてもアリサが居れば何とも思わない。

 

「ただいま、アリサ。いつも出迎えてくれてありがとう。」

 

「今日はどうでしたか?」

 

「まあ、至って普通だけど毎日物資を運んでるからみんな生活は豊かになってきているって言っていたよ。特に衣食住に関してはかなり余裕が出来てる。住居の改築工事も終わって住みやすくなったのが大きいのかも知れないけど、ああやってみんなが楽しく過ごしてくれてやってて良かったと思えるよ。俺のしてることは間違いじゃないって。」

 

「そうなんですね。もう、皆さん生活が豊かになって笑顔が溢れていて楽しそうです。これもユージが毎日やって来たからですよ。」

 

「まあ、俺はただ支援をしてるだけだよ。ほとんど住民の人達が汗水垂らしてきた物だから凄いんだよ。俺が初めて外部居住区の現状を目の当たりにしたときを思えばかなり変わった。でも、まだまだ足りない。俺が目指すのはもっともっと先にある。その為には俺も進化し続けないと只でさえここは厄介なアラガミが多い上に規模もでかいから現状に満足してると足元掬われる。」

 

 ユージが言う言葉には重みがあった。ユージが極東だけでなく世界中のどの神機使いよりも実力がずば抜けて高く、その圧倒的な実力が示すようにユージが同行した部隊の生存率はリンドウの生存率を遥かに上回る100%と誰が見ても納得できる。

 だが、ユージに現状に満足するつもりは毛頭ない。飽くなき向上心で常に他人の遥か上の次元を目指し日々の訓練にも真面目に取り組み、その姿勢は自然と極東支部の神機使いの手本であり憧れの存在になっていた。

 

 そして極東から遠く離れたグラスゴー支部にいるギルも憧れのユージに近づくため人一倍努力し、それが任務に行く際に実力として成果が出始めケイトとハルオミを驚かせる。勿論、ギルの目まぐるしい成長に嬉しくない訳がなく、ギル本人も二人に認められることが何よりも力になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日、ヒバリは早朝からキッチンに立つと鼻歌混じりに調理中。

 今日は以前ユージとアリサの結婚式の時にリッカから聞いた愛妻弁当を実行するためずっと考案してきた献立通りに弁当作りに励む。

 

 メインとなるおかず肉じゃがを煮込みながら卵焼きや赤ウインナー、プチトマトといった脇役のおかずを弁当箱に彩りよく敷き詰め、肉じゃがを居れるスペースにはレタスを一枚居れることで不足しがちな野菜とぐちゃぐちゃにならないように防止。

 

「うん、良いですね!」

 

 肉じゃがの味見をし納得が行くと火を止め弁当箱に詰める。そして最後に炊きたての白米を装えば立派な弁当が完成。バンダナで綺麗に包むとそれを持ってオペレーターとしての業務に向かう。

 

 業務が始まればいつも通り仕事に励みながらタツミが来るのを待つ。すると少ししてからタツミが一人でやって来た。

 

「おはよう、ヒバリちゃん。今日もよろしく!」

 

「おはようございます、タツミさん。今日もよろしくお願いします!」

 

 挨拶をするだけなら緊張はしないがいざ弁当を渡すとなると極度の緊張で普段なら見せない慌てふためく。タツミもいつもと様子の違うヒバリを心配そうに見つめる。

 

「ヒバリちゃん?どこか具合でも悪いの?」

 

「い、いえ···、そう言うわけではないんです。」

 

「そっか、なら良かったよ。でも、具合が悪いなら直ぐに言ってね。ヒバリちゃんの為なら例えどんなに遠くにいても来るから!」

 

「あ、ありがとうございます。そ、それで···ですね。これ!」

 

 自分が緊張している原因に気づかない鈍感なタツミにヒバリは意を決したように頭を下げて弁当箱を差し出す。

 突然の行動にタツミはしばし固まるが直ぐに笑顔になる。

 

「こ、これって、俺の目が間違いでなければお弁当だよね?」

 

「···はい。ミッションの合間にでもと思って。迷惑でしたか?」

 

「ううん、全然迷惑じゃないよ。むしろ、ヒバリちゃんが俺のために作ってくれた事が嬉しいんだ。ありがとう、ヒバリちゃん。」

 

「喜んでいただけて良かったです。食べた感想お聞かせくださいね!」

 

「うん。絶対する。よーし、今日も一日頑張るぞ!!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 絶叫ともとれる雄叫びを挙げて喜ぶタツミは大事そうに弁当箱を抱えミッションに出掛け、それをヒバリも笑顔で見送る。

 その様子を見ていたリッカが声をかける。

 

「見てたよ、ヒバリ。」

 

「リッカさん。前に言ってたこと実践してみました。」

 

「良かったね。あんなにハイテンションのタツミさん初めて見るもん。」

 

「そうですね。後はお口に合えば良いのですが···」

 

「ヒバリの腕なら大丈夫だよ。」

 

 味の心配をするヒバリにリッカは大丈夫だと太鼓判を押す。それはお世辞ではなく、彼女の料理の腕を知っているからこその絶対的な自信の表れ。リッカに言われヒバリも少しだけ気が楽になったのかタツミが帰ってくるのを待ちながら業務をこなす。

 

 

 

 午後になり、外部居住区の警備に当たってるタツミ達は交代でお昼を取る。隊長であるタツミが一番最後で、ブレンダンと入れ替わりで休憩に入る。

 ドキドキしながら今朝ヒバリから貰った弁当箱の蓋を開けると彩り豊かなおかずが綺麗に敷き詰められており、食欲をそそる。既に腹が減っているタツミは「いただきます!」と合掌してから箸を進める。最初に食べたのは肉じゃが。ほんのり甘めの味付けではあるが任務で疲れている体には最高の癒しを与え、ご飯が進む。

 空腹であることと何よりもヒバリが自分の為に作ってくれた事が更にうま味となり、箸が止まることがない。そして気付けばあっという間に完食しており、大満足なタツミは「ごちそうさまでした!」と食事後の挨拶をすると片付ける。

 

「ヒバリちゃんが作ったお弁当旨かったなあ。これで午後の任務も頑張れそうだ!」

 

 ヒバリの弁当が活力となって午後の任務はいつも以上に気合いが入るタツミをブレンダンやカレル達は不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務から戻ってくると直ぐにヒバリのもとに直行。弁当の感想を言う。

 

「ヒバリちゃん、ただいま!」

 

「おかえりなさい、タツミさん。お味の方はどうでしたか?」

 

「バッチリだったよ。お陰でいつも以上に気合いが入ったよ。ありがとう。」

 

「お口に合って良かったです。それで···もし、迷惑でなければこれから毎日作ってもよろしいでしょうか?」

 

「良いの?俺はいつでも歓迎だよ。」

 

「分かりました。では、明日以降も精一杯作らせて貰いますね!」

 

「楽しみに待ってるよ。」

 

 笑顔で喜ぶタツミを見てヒバリは明日以降も作ることを決め、これが二人の恋が更に進んだ日になった。

 




今回はタツミとヒバリがメインでした。


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第50話 母の日

もうちょいで第三章も終わってブラッドに移る予定です。その前までにクレイドルを発足させます。


 極東に配属されてから間もなく二年目を迎える5月の第二日曜の早朝。ユージは隣で可愛い寝息をたてて寝ているアリサを起こさぬように静かに起きると部屋を退室。

 

 今日はあるミッションを成功させるためどうしてもアリサを起こすわけにはいかなかった。廊下を足早に歩きアナグラを出て向かった先は少し大きめの工場。工場の関係者に挨拶すると彼を知っているのか笑顔で談笑。快く工場内に招き入れ、中に入る。

 工場内では無数の機械が目まぐるしく稼働しており、作業服姿の人が補助的に作業していた。見るからにここが食品工場でないことは確かだが、今日はここに用事があった。

 

「ユージさんに頼まれたもの出来ましたよ。」

 

「態々ありがとうございます。良い出来ですね。」

 

「いいえ、ユージさんのお陰で我々も働くことが出来てますので、お礼です。」

 

「かなり順調で何よりです。ここの商品は人気過ぎて生産が追い付いてないみたいですけど、大丈夫ですか?」

 

「お陰さまでかなり好評でずっとフル稼働なんですが、全然追い付いてないです。」

 

「嬉しい悲鳴ってやつですけど、あんまり無理はなさらずにお願いします。健康があっての仕事ですから。では、私はこれで。」

 

「お気遣いありがとうございます。是非、使用後の感想お願いします!」

 

 工場の社長らしき男性から箱を受けとると労いの言葉をかけ工場を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いでアナグラに戻り、部屋に入るとまだアリサは眠っており作戦が続いていることにホッと一息。後はどのタイミングで渡そうかと考える。

 する自分の隣に居るはずの人物が居ないことに気づいたアリサが目を覚まし、こちらと目を合わせる。

 

「おはよう、アリサ。」

 

「おはようございます···って、もう起きてたんですね。」

 

「トイレに目が覚めたら寝られなくなってさ。ついでだし書類の整理を軽くやってたところだよ。」

 

「そうだったんですね。いつも居るはずの隣に居ないからどうしたのかと思いました。」

 

「前みたいに居なくならないから大丈夫だよ。それよりご飯にするから顔洗って!」

 

 プレゼントの事は伏せ、自然な応答で無難にやり過ごすと朝食の準備に取りかかりアリサが支度を済ませる頃には食べる準備が完了。アリサは特に疑う事もなく椅子に座り、朝食を摂る。

 

「食べながらで良いから聞いてくれる?」

 

「なんですか?」

 

「俺、そろそろ第一部隊の隊長から降りようと思ってる。」

 

「え、どうしてですか?」

 

 唐突な隊長降板宣言にアリサは戸惑いを隠せない。

 

「アリサも薄々気付いていると思うけど、俺が支部長になってからアリサ達と任務に出たことが何回ある?」

 

「えっと、それは···」

 

「前回がいつだったかも忘れてるくらいに俺は任務に行くことが減った。これは討伐を主とする第一部隊の隊長としては失格だ。こんな中途半端な隊長は今すぐに変えるべきだと思ってる。」

 

「で、でも、それだと誰が隊長になるんですか?ユージ以外に居ないんですよ?」

 

「まあ、今すぐにって言ったけど、正直に言うと今はまだ変わることが出来ない。だから今新人の神機使いの募集をかけていて二名が近々うちに来る予定なんだ。まだ予定だから明確には言えないけど、その新人が正式に来たら俺は降りるつもり。」

 

 ユージと一緒に任務に行った記憶が支部長になる以前はたくさんあるが今は思い出せないほど激減していた。その事実に目を背けずユージは自分が隊長としての責務を果たせていないと決して言い訳せずにバッサリと切り捨てた。

 

 本来なら止めたいが正論を言われればどう反論するべきか迷う。アリサはユージが何を考えているのかが分からず困惑する。しかし、ユージはそのまま話を続ける。

 

「実は誰を隊長にするかは決めてあるんだ。そして、その隊長以外の二人には第一部隊から降りてもらう代わりに新たな部隊を発足してそこの部隊に入って貰うことになる。詳しいことはまた後日に言うから、それまではいつも通りに頼むよ。」

 

 名言を避けられ何だか置いていかれた気分だが何も言ってこない以上、何を聞いても無駄だと聞くことを止めた。ただ、後任の隊長は誰かなのかだけは気になる。

 今の第一部隊はユージを除くとアリサ、コウタ、ソーマの三人。サクヤとリンドウも一応は第一部隊所属となっているが、サクヤは妊娠中のために休暇中でリンドウは新人の教導と別の任務に専念しており実質アリサ達三人だけしか居ない。この中から隊長を決めるとあれば自分か或いはソーマだとアリサは考える。コウタも考えられなくはないが、講義の途中に居眠りをする癖があるためかミッション中に気を抜く事があり、隊長には向かないと選択肢から外していた。

 

 だとすれば自分とソーマだが、ソーマは兎も角自分に隊長が務まるのか不安である。これまでリンドウとユージの行動を見てきているから隊長の責務が大きいことは理解しているつもりだ。部隊内に何か問題があればその責任の全てを負う必要がある。そんな覚悟が自分にあるか?と言われるとNOと言わざるを得ない。

 だが、裏を返せば今までリンドウとユージに甘えていたということでもある。もしかしたらそれも見越した上で自分達に自立しろと言っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユージの話から楽しいはずだった朝食は全く味わうことができずに終わってしまった。どんよりとした気持ちで片付けを手伝っているとそれに気付いたのかユージが謝ってきた。

 

「いきなりあんな話しちゃってゴメンな。別にアリサを落ち込ませるつもりで言った訳じゃないんだ。」

 

「どう言うことですか?」

 

「さっきの新しい部隊の発足はアリサ達三人じゃないと出来ないんだ。」

 

「え?」

 

「俺は何もアリサ達が実力不足だとは思っていない。寧ろ実力が高いと思ってる。それは今まで一緒に居る時間が長いからこそよく分かることなんだ。だからこそその高い実力を次の部隊でも活かして欲しいんだ。」

 

「それってもしかして前に言っていた夢を叶える為にですか?」

 

「そうだよ。今の外部居住区は順調に来ているけど、あくまでもそこだけしか出来てないんだ。俺は外部居住区以外にも色々視察してきた。それはここだけでなく他の支部まで足を運んで現実を見てきた。そこは支援する前の外部居住区よりも遥かに酷かった。これが人間が住む場所なのか?って思うほどに。その時思ったよ。俺がやっていることはほんの一部の人間しか豊かに出来ていない。支部間の垣根を越えてやらないといけないって。でも、アラガミだって進化してる。人々が安心して暮らせるようにするには今住んでいる所から別の場所に移動して貰うしかない。」

 

「それってつまり私たちにその移住先の候補地を探し出してくれって事ですか?」

 

「簡単に言えばそうだね。だけど、それだけなら他の部隊でも出来る。アリサ達には候補地を見つけると同時にアラガミの討伐も行って欲しい。当たり前だけど、候補地を見つけたところで安全な訳じゃないからアラガミの討伐は必要不可欠だしその討伐したアラガミからコアを集めて対アラガミ装甲壁を作ることも必要だ。そんな難しい任務をこなせるのはアリサ達三人だけだ。勿論、言い出しっぺの俺も入るから心配は要らないよ。第一部隊とは違って一度任務に出たらしばらくアナグラに戻ってこれなくなる。謂わば遠征が続くから慣れるまでは俺も同行する。」

 

「ユージが私たちを認めてくれることは嬉しいですけど、遠征が続くってことはそれだけユージと会えなくなるってことですよね?」

 

「まあ、そうなるけど仕方ないんだ。俺たちには人類を護る使命があるから。今まで志半ばで亡くなった人々の思いを無駄にしないことが今を生きる俺たちがやらなければならない約束なんだ。そしてそのバトンを次の世代に渡せるように俺たちが架け橋となれればと思ってる。」

 

「ですけど、会えなくなるのは耐えられません。」

 

「分かったよ。決まった時は毎日メールと電話するし、なるべく会うようにするからそんなに泣かないでくれない?アリサに泣かれるほどツラいこともないんだ。」

 

「約束ですよ!破ったら絶対に許しませんから!」

 

「約束するよ。」

 

 彼の会話から新しい部隊が発足すれば遠征が続くと分かり、離れたくないアリサは彼の胸に抱きつくと泣きじゃくって約束を結びつける。アリサの涙に弱いユージはこれをあっさり約束し、それぞれ仕事に出かける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うんだよなあ。今日はこんなことをするためにやってるんじゃないんだよな。何をやってるんだか俺は。」

 

 アリサが任務に行ったことで一人になったユージは本当の目的と違う話をしたことで泣かせてしまったことを悔やむ。今朝の話は重要なことであるのは間違いないが今日する話ではなかった。なんなら明日にでもすれば良かった。なのにも関わらず口走った事を悔やんだところで後の祭り。

 プレゼントをどうやって渡せば良いのか最早タイミングを完全に失いかけていた。

 

 今日は極東に昔からの言い伝えによれば「母の日」であり、母親に感謝の気持ちを伝える特別な日。だが、ユージの両親は既に居ないため、アリサに気持ちを伝えようと大分前から思案していた。母の日に贈るのはカーネーションが多いようだがカーネーションには色事に花言葉が異なり、複雑なために間違った知識で贈ると相手を怒らせてしまう。そこでユージはアリサの事を考え、化粧品を贈ることに決めると、自分が支援してる化粧品会社に直接交渉し注文、それを今朝早く受け取りに行ったのだ。

 

「あんな話してなければ今ごろ嬉しそうにこれを受け取ってたんだろうなあ。」

 

 ため息混じりに背もたれに寄りかかるとどうするか業務そっちのけで真剣に考える。

 そして暫く考えた末に出た答えは素直に謝って渡すこと。それしかないと頬を叩くと気合いを入れアリサが帰ってくるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま···って、あれ?ユージが居ない。」

 

 支部長室に戻ったアリサは電気が付いているにも関わらずユージが居ないことに首をかしげる。部屋に居るのかと奥の扉を開けるが居ない。どうしたのかと考えていると入り口の扉が開いてユージが戻ってきた。

 

「アリサ、戻ってきてたんだ。」

 

「はい。そしたらユージが居なかったので。」

 

「トイレに行ってたんだ。」

 

「そうだったんですね。」

 

 トイレに行ってたと分かり、安心すると今朝の会話は忘れいつものように笑顔を見せるとキスを懇願。

 

「帰ってきたんですからただいまのキスをしましょうよ!」

 

「ちょっと待って!その前に謝らないといけない。」

 

「なんですか?」

 

 いつものキスを一旦止めてまで何を謝ると言うのだろうか。アリサにはなんのことかわからずにいるとユージは頭を下げる。

 

「今朝はあんな話してゴメン!」

 

「今朝のってなんで謝る必要があるんですか?大事な事なんですよね?」

 

「まあそうなんだけど、でも今日する話ではないんだ。本当はそんな話がしたかったんじゃなくてこれを渡したかったんだ。」

 

 そう言ってアリサに化粧品が入った箱を差し出す。突然のプレゼントになんなのか分からないアリサにユージが説明する。

 

「昔から極東で今日は「母の日」と呼ばれてて母親に感謝の気持ちを伝える特別な日なんだ。もう親は居ないけど、何も奥さんに渡してはいけない訳じゃないから日頃の感謝の気持ちを伝えたくて注文しておいたんだ。」

 

「母の日は聞いたことありますけど、開けても良いんですか?」

 

「もちろん。きっと喜んでくれると思う。」

 

 ユージの言葉にドキドキしながら箱を開けると中には今や大人気で品薄状態の化粧品が各種セットになって詰められていた。アリサも欲しくていつか買おうとしたが全然買えずに半ば諦めかけていた商品。中身が分かると目にはうっすらと涙が浮かぶが表情はとても嬉しそうだった。

 

「これは私がずっと欲しかった化粧品です。どうやってこれを?」

 

「実はこの化粧品を作ってる会社俺が支援していてさ社長さんと仲が良いから特別に頼んどいたんだ。アリサにはいつまでも綺麗なままでいてほしいからね。それを渡したくて今日を迎えたのにあんな話しちゃって本当ゴメン!」

 

「良いんです。気にしてませんから。」

 

「え、でも、今朝泣いてたけど?」

 

「あのときは悲しかったですけど、今は違います。ユージから私が欲しかったものを貰ったんです。それだけで嬉しいんです。今朝の話は決まってからまたすれば良いじゃないですか。」

 

「まあ、確かにそうか。終わったことを一々悔やんだって仕方ないか。」

 

 アリサの満面の笑みを見ればそんな小さいことを考えるのはナンセンスだと今はこの瞬間を大事にしていくことに。

 

「じゃあ、改めてアリサ、おかえり!」

 

「ただいま、ユージ!」

 

 化粧品を貰った興奮が冷めやらぬうちに恒例のただいまのキスをかわすと互いに笑顔になり、夕食作りに取り掛かる。

 

 

 ユージとアリサが喜びを分かち合う頃、タツミもヒバリに何かを手渡す。

 中身はバスセット。

 

「こんな高価なもの良いんですか?」

 

「ほんのいつものお礼だよ。いつも激務で疲れてるからお風呂の時くらいはリラックス出来たらと思ってさ。俺、頭悪いからこういうのしか思い付かなくて。」

 

「いいえ、そんなことないですよ。とても嬉しいです。大切に使わせて貰いますね」

 

 ヒバリもこのバスセットが欲しかったようで嬉しそうに受け取ると部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 尚、この日極東支部全域の女性にアリサが貰ったのと同じ商品の一部が無料で配布され、受け取った女性陣からは何事か?と騒がれたが人気商品とあって貰えるなら有り難く貰おうと誰も疑うことなく母の日は終わった。

 

 

 

 

 

 




無理矢理過ぎましたけど、多分大丈夫だよねw


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第51話 偏食場パルス

「やっぱりおかしい」

 

 とある任務の途中、ユージは自分の体の異変に気づく。それはかなり前から薄々気づいており何かの病気かと思い、病院で精密検査を受けたものの結果は正常。医師からは健康だから問題はないと言われ、一時は気にしてなかったが最近になってまた異変が起きる。しかもそれは以前第一部隊を壊滅に追いやった第二のノヴァが出たときと同じく特殊な偏食場パルスによるオラクルを使ったあらゆる機材の故障と神機の不具合。

 ヒバリ達は言わないが原因が自分なのはユージ自身が一番理解している。明らかに自分の体に何かが起きていることは確かだが、それが何なのかが分からない。しかも突発的に起きるものだから始末が悪く、もうこれ以上放っておくのは危険だとサカキに報告することに。

 

 

「サカキ博士、最近起きているオラクルを使ったあらゆる機材の故障と神機の不具合ですが、原因は俺の体から発せられる偏食場パルスです。」

 

「やはりそうかい。実は私もそうだと思っていたところなんだ。ちなみにいつからなんだい?」

 

「多分ですがガーランドに捕まったときからだと思います。あのとき俺は感応現象を無理矢理起こさせるために脳波を弄られました。恐らくそれが原因で今回の事になってるんだと思います。」

 

「君の言うのは一理あるね。でも、一度詳しく調べないことにはどうすることも出来ないから原因が分かるまでここから出ないで貰うよ。」

 

「はい、お願いします。」

 

 サカキに相談しもう一度精密検査をすることになり、暫くラボでの生活を余儀なくされた。

 

「脳波には異常は無いようだね。勿論、他の所にも異常はない。」

 

「そうですか。病院でも同じ結果で、困りました。」

 

「恐らく突発的に起きるものだから普段は出ないんだろうね。ただ、いつどのタイミングで起こるかが分からない以上、絶対にラボから出ないように。いいね?」

 

「はい。」

 

 精密検査の結果はまたもや正常。結局何も進展がなく、ユージは落ち込む。ラボでの生活となれば当然アリサとも一緒に居られない。結婚式もあげてやっと楽しい所を邪魔されショックである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間が経つが全く進展がなく、たまに起きるがそれでも異常は見つからず最早検査の意味すらなかった。そしてまた異変が起き、頭に激痛が走ると尋常ではないほどにもがき苦しみ、特別な防護壁で覆われているはずのラボを突き抜けアナグラ中にこれまでで一番強力な偏食場パルスで混乱を招きそれは長く続いた。

 

「はあ…はあ…。うぐっ!」

 

 一旦治まったかと思うとまた頭痛に悩まされ、それ以降偏食場パルスの発生の頻度と時間が長くなり、サカキは勿論のことアリサが一番心配していた。目の前で原因不明の頭痛に苦しんでいるユージを見て何も感じない方が無理がある。

 自分に今出来ることは何か?そう考えたときユージの手を優しく握ることしか出来ないと彼の元に歩みより手を伸ばしたその時。

 

「きゃああああ!!!」

 

 ユージから発せられる偏食場パルスによりアリサは吹き飛ばされ、それを見たユージはもうここに居ては危険だと逃げるようにその場を後にすると神機も持たずに極東から何処かへと行方を眩ました。

 

 ユージが居なくなったあと、ヒバリが直ぐに腕輪からのビーコン反応で位置情報を探るが彼の偏食場パルスがそれを邪魔し何処に居るのかが分からない。そしてそれはアリサの耳にも入り、アリサは直ぐにユージを探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…はあ…。大分遠くまで来たな。ここまで来れば極東に被害は起きないはずだ。にしても、クソッ!アリサに怪我させちまったことの方が一番ムカつくぜ」

 

 極東からかなり離れた鍾乳洞で休憩をとるが手を握ろうとしたアリサをあろうことか吹き飛ばした自分に腹が立つ。あのまま極東に居れば今度は怪我どころでは済まないかもしれない。万が一死なせることがあってはならないと苦渋の決断で抜け出した。

 

「はは、サクラにアリサを置いていかないって誓ったはずなのにさ。結局、何にも出来ないんだな。」

 

 サクラに誓ったことをもう破ることになり、呆れるばかりだ。しかもそのサクラも置いてきているため丸腰も同然である。今アラガミが現れれば間違いなく死ぬだろう。

 だが、そう考えたとき不思議と笑ってる自分が居る。何故だろうか。普段なら死ぬことを誰よりも怖がっているはずなのに今は死ぬことが怖くない。この異常な体がそう錯覚させているのだろうか。

 

「俺ももう終わりかもな···。そう言えば、これだけは持ってきてたっけ。」

 

 ズボンのポケットを探ると見慣れたケースが顔を出す。中身はアリサに没収されたはずのドーピングカプセル。アリサが医師から聞いた話では次これを飲めば確実に死ぬと言っていた。

 

「どうせ死ぬならこれ飲んで楽になりたいもんだ。」

 

 このまま居たところで偏食因子の投与の時間が過ぎてオラクルが暴走すればアラガミ化が進みアリサ達に殺される運命しかない。ならいっそのことドーピングカプセルを服用して服毒自殺した方が周りに危害を加えずに済むとカプセルを取り出し口に入れようとしたその時だった。

 

 一瞬目の前を何かが掠めたかと思うと手に持っていたはずのカプセルが無く、遠くの壁にぶつかって転がっていた。まさかと思い振り向くとそこには銃形態の神機を構えたアリサが居た。

 

「あ、アリサ…?」

 

 そう呟くと同時に乾いた音が響き、頬がヒリヒリ痛む。

 

「何バカなことしてるんですか!」

 

「何って、仕方ないだろ。原因不明とはいえあんなに被害を出してましてやアリサまで吹き飛ばしたらもう彼処に居ること事態が迷惑なんだよ!それにこうやって逃げたところで待っているのはアラガミ化が進んでアリサ達に殺される運命だけ。そんなんだったらいっそのこと死んだ方がマシだ。」

 

「そんなわけないでしょ。今は原因が分からなくてもいつか分かります。それにユージが言ってたんですよ。生きることから逃げるなって。そんな事も分からなくなったんですか?」

 

「そんなのは分かってる。分かってるけど、今の俺は生きることから逃げないほうが退屈だ。今まで散々生きることを説いて来たけど、そんな単純なことじゃないのかもな。本当は死ぬことよりも遥かに難しくて重いんだろう。なんたって死ぬなんて息を止めるだけで出来るんだからな。それに比べて生きるのはそのすべてを否定する。こんなに生きることが辛いと思ったことは一度もない。」

 

 そう言うユージは半分自棄になったように頭を壁に当てるとうっすらと涙を流す。

 この涙が持つ意味は彼の気持ちを代弁していた。本当は死ぬなんて嫌で生きたいはずだとアリサには分かっていた。それでも自分達を傷付けたくなくて逃げてひっそり死ぬことを選んだのだと。だが、それで正しいはずがない。

 

 今彼が苦しんでいるのなら自分が心の支えとなっていかなければとアリサは後ろからそっと抱き締める。

 

「今、ユージが迷ってるなら私に言ってください。前に私にそうしてくれたように今度は私がしますから。だって、私たち夫婦ですもの。どんなときも一緒に乗り越えると誓った仲です。だから悲しいときは一緒に泣きましょ?」

 

「アリサ……ゴメン。俺、怖かったんだ。自分の知らないところで無意識のうちに誰かを傷つけることが。だから逃げて、死のうって思ったんだ。」

 

「私は気にしてません。ユージの為ならなんだってします。だから早く帰りましょう?」

 

「……分かったよ。俺、もう一度自分の体と向き合ってみるよ。アリサには助けて貰ってばかりだな。ありがとう。」

 

「何いってるんですか?私の方が助けて貰ってばかりですよ。」

 

「そうか?俺の方が多いと思うけど。」

 

 アリサの優しさと温もりのお陰で自分を見失いかけていたところを救い出され、ユージはもう一度自分と向き合おうといつもの表情に戻る。それを見たアリサはこれで良かったんだと頷くと腕を絡め鍾乳洞から出ようと歩き出すが、またユージが激しい頭痛に襲われ、強力な偏食場パルスが発生し地鳴りのように揺れ動く。

 そして良くないことは立て続けに起こるもので鍾乳洞の出口を塞ぐように一体の蒼いしなやかな体躯のアラガミが待ち受けていた。

 



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第52話 新たな力

 二人の目の前に現れたそれは以前ユージを死の淵まで追い詰めたカリギュラ。第二のノヴァの超弩級アラガミ争奪戦で戦ったことはあるがあのときは四人だった。しかし今回はユージが居るとはいえ例の頭痛で身動きが取れず実質アリサ一人でこの強敵に挑まなければいけない。

 ハンニバル神属種であるがハンニバル原種よりも遥かに速く、頭部の逆鱗を壊すとその速さはハンニバル神速種に匹敵すると言われている。

 

(こんなときに出てくるなんて。でもユージを守るためだから負けられない!)

 

「はああああああ!!」

 

 隣に居る愛する人を守るためアリサは一人目の前の強敵に戦いを挑みに突っ込む。

 ハンニバル種の特徴として敵を見つけたとき必ず咆哮を挙げてから攻撃に移るがそれが隙になっている。まずはその隙をついて胸を剣で切る。柔らかい肉質を抉り血が吹き出ると一瞬怯むが直ぐに立て直すと左右の腕についているブレードで鋭く連続で斬りかかる。これを後ろに下がることで回避、逆に敵の死角に回り込み捕喰することでバースト状態になりステータスが上昇。スピードも上がりかなり戦いやすくはなったように見えた。

 

 バーストのお陰で戦いを有利に進めたアリサは厄介なブレードの破壊を狙い、腕に剣を突き立てようとしたその時だった。少し穏やかだったユージの頭痛が一層激しさをまし、強力な偏食場パルスが発生。攻撃の途中だったアリサの神機に不具合が起こるとアリサの存在に気付いたカリギュラが即座にブレードでガードの出来ないアリサの体を容赦なく斬り裂き、勢いよく投げ飛ばされると大量の血と共に動かなくなった。

 

「あ、アリサ···悪い、俺のせいでこんなことになっちまって。もっと俺がちゃんとしてれば······お前を苦しめずに済んだのに。く、クソガー!!!」

 

 自分の偏食場パルスのせいでアリサを負傷してしまった事に対し、怒りがこみ上げその感情が偏食場パルスを更に強力なものに変えてカリギュラを圧力で押し、果てしなく上昇するその圧力の前に敵のダウンを奪う。

 敵がダウンしてもまだ続く偏食場パルスだが等々終わりを迎え、穏やかになると以降異常な偏食場パルスが起こることはなく、正常な状態に戻った。

 

「お、俺···戻ったのか···?」

 

 両手を見つめ正常であることを確認しているとダウンしていたカリギュラが目を覚まし、こちらを睨みつけている。完全に怒らせてしまったようだ。だが、戦おうにもユージは神機がなく、丸腰。正常な状態に戻ったからといって安全ではない。カリギュラの猛攻に耐えながらアリサを連れて逃げ切らなければいけない。

 

「チッ、俺が神機置いてきちまったから戦う武器がない。あるとしたらアリサのがあるけど、大丈夫かな?」

 

 視線の先にはアリサの神機があるが適合していない神機に触れるとオラクルに侵食されアラガミ化が進んでしまいそれこそアリサ達に殺される運命しかない。それは以前リンドウの神機に触れている経験から来ている。しかし、現状武器となりうるものはそれしかない。

 それに自分が適合していないとはまだ分からない。結局は触れて見なければ分からないならさっさと触れてしまおうと自慢のスピードを活かして神機を掴む。すると瞬時にオラクル細胞が体内に注入され激しい痛みに襲われる。

 だが、ユージには考えがあった。自分の感応現象を最大限に引き出せば適合していない神機に触れても侵されることはないのではと。根拠があるわけではないが自分を信じようと自分の意志で感応現象を呼び覚ます。

 

 痛みに耐えて感応現象を呼び覚まそうとすると少しずつではあるものの感応波が上昇、そして限界まで感応現象が引き出されると体の奥深くで赤い水滴が一滴垂れそれが何かのスイッチとなって神機の侵食を抑え込み、その瞬間緑色のオーラがユージの体だけでなく倒れているアリサの体も包み込み、カリギュラに斬られた傷口が無くなり、体力が全快。起き上がったアリサは何が起きたのかは分からずにきょとんとしていたがやがて自分の神機を握って平常心のユージに目を疑う。

 

「きた、きた、きたーーーー!!!!このみなぎる力、これならお前を墓場に送ることが出来るぜ。覚悟しろ!はあああああああ!!!」

 

 神機に力を与え、姿を消すと最早彼の定番となった赤黒いオラクルを宿した刀身でカリギュラの体を真っ二つに切り上げ勝負はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサ、大丈夫なのか?」

 

「ええ、斬られたはずなのに何故か傷口が消えているので。それよりもユージこそ大丈夫なんですか?私の神機握ってますけど。」

 

「ああ、これ?俺の感応現象を最大限に引き出したお陰で適合していない神機に触れても侵食を抑え込む事が出来たよ。しかもその副産物として自分以外の味方にも触れることなく体力を回復させることが出来る能力も身に付いたみたいだ。」

 

「良かった···で済むと思わないでください!適合していない神機に触れれば危険な事には変わりないんですから。只でさえユージは無茶ばかりするから私は冷や冷やしてます。」

 

「はい。その通りです。ごめんなさい!」

 

 自信ありげに言ってみたもののやはり説教からは逃れられず素直に謝る。とここでユージはある重大な事に気づく。それは目の前に立っているアリサの格好。と言うのもカリギュラに斬られた傷口は感応現象の力を引き出した治癒の効果で治ったが、服だけは対象外。そう、アリサの服はボロボロに引き裂かれていて上は大きく膨らんだ胸が、下は短いスカートが裂け黒いストッキングのせいで黒に見えるが実際は白のパンツが見えていた。

 

(おいおい、今まで気づかなかったけど丸見えじゃねーか!アリサ気づいてないみたいだし言うしかないか)

 

 当の本人は服がどうなっているのか気づいて居ないため隠す様子もなくあられもない姿を晒し続けているこのまま直視を続けるのは良くないと意を決したユージはアリサに服の事を教える。

 

「あ、あのさ···、その服どうにかした方が良いんじゃないか?」

 

「服ですか?············見ましたね?」

 

「見たって言うか、見えてしまったと言うか。」

 

「エッチ!」

 

 ユージに指摘されようやく気付いたアリサは顔を真っ赤にすると慌てて手で胸を隠し、怒る。

 

「エッチ!ってわざとじゃないんだからそんなこと言うなよ。大体、これまで何回かアリサの裸見てるから今更恥ずかしがられてもね。」

 

「もう、そんなこと言わないでください!乙女は恥ずかしいんですから。」

 

「ご、ゴメン。開き直りすぎたよ。でもそのままだとアナグラに戻れないからどうにかしないと。」

 

「そうですけど。でしたらユージがどうにかしてください。」

 

「はあ?なんで?」

 

「当たり前でしょう?元はと言えばユージが逃げ出したのが悪いんですから!」

 

「それはそうだけど、どうしろって言うんだよ。」

 

 どうにかしろと言われ困惑するユージは自分が着ている上着を脱ぐとアリサに被せる。

 

「これで良いか?」

 

「はい。これなら大丈夫ですね。」

 

「一時的だからアナグラに戻ったら着替えろよ?」

 

「分かってますよ。では、帰りましょう!」

 

 上着からはユージの汗の匂いがするが同時に彼の匂いもあり、アリサは安心感があった。勿論、右腕を彼の左腕に絡ませぎゅうっと抱きつくと彼の温もりを肌で感じ、歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 アナグラに戻ったユージは心配かけたことを謝るが誰も責めず寧ろ無事に戻ってきたことを祝福してきた。偏食場パルスも治まり、もう誰かを傷つけることはなくなるだろう。

 こうしてユージの戦いは終わり、また平凡な一日が待っている。



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第53話 女子会

 「女子力」という言葉がある。文字通り女子の力なのだがその使われ方は様々で一つではない。序でに言えばこの言葉が指すものは何も女子だけに留まらず、男でもその辺が強いと女子力が高いと言われる。

 この時代の女子力の代名詞は専ら家事が出来ることであるが昔と違い、女子が家事が出来て当たり前では無くなっている。理由は様々あるが一番は家事を教わる時に親が亡くなっていることが大きい。家事を教わるのは大体が母親からであるためアラガミが食物連鎖の頂点に立っている今の時代に家事が出来ないことを指摘するのはナンセンスだ。

 

 それはここ極東支部とて例外ではなく、若い女子が多いが家事の中でも掃除と洗濯は出来るとして、料理となると出来る人間はそう多くない。仮に出来たとしてそれは単に自分が食べるだけならの話で他人に食べてもらうとなると話は別。

 そんな理由から滅多に料理の話は出てこないがユージが極東に来てから徐々に変わりだし、ユータ達も来てから料理の話が増えてきた。

 

 そして今日もその話題がロビーに集まった五人の間で挙がる。

 

「ねえ、どうしてここに居る男子は軒並み料理の腕が高いわけ?」

 

「ユージさんと言い、ユータさんと言い、元リオデジャネイロ支部の皆さんは本当に料理がお上手ですよね。」

 

「そう、特にユータは凄すぎ。こないだのアリサ達の結婚披露宴でのあの料理のレベルの高さにはお手上げだよ。」

 

「ユージさんで既に凄いのにユータさんは更に超えてますよね。」

 

「本当にあのときの料理は凄すぎて私もユージに確認しました。そしたらユージも無理だって言ってました。」

 

 ユージ達元リオデジャネイロ支部のメンバーの中でも頭一つ抜きん出ているユータの実力は先日の結婚披露宴で既に実証されており、ここに居る五人はどうしたらあそこまで出来るのかが不思議で仕方がなかった。テーブルに置かれたカノン手作りのお菓子と紅茶に手を伸ばしながら話をしているとユータがやって来た。

 

「あの~、リッカさん僕に話とは?」

 

「あ、丁度良いところに来たね。ちょっとここに座って!」

 

「は、はあ。」

 

 リッカに呼び出され来たユータはアリサ達に気づくと軽く頭を下げてリッカの隣に座る。まだ14歳になったばかりであどけなさの残るユータは五人からしたら可愛い弟。ここから女子による尋問大会が始まる。

 

「ねえ、ユータに聞きたいんだけど、どうして君はそんなに女子力が高いわけ?」

 

「いやどうしてと言われましても···ただ必死にやってるだけですよ。」

 

「そんなので私たちが納得すると思ってる?」

 

「ええ~、ではどう言えば納得するんですか?」

 

「そうだね···。」

 

 ユータの質問にリッカが考えているとユージもやって来た。

 

「ユータ、お前がこないだ作ったお菓子なんだけどさ···って、何やってるの?」

 

「兄貴、ちょっと捕まっちゃって···」

 

「捕まった?」

 

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わない。私たちはどうしてそんなに料理が出来るのかを聞いてるの!」

 

「なんだ、そんなことか。簡単な話じゃん。どうやったら相手が食事を楽しんでくれるかを考えてるからだよ。」

 

「どう言うことですか?」

 

「簡単に言うとただ美味しいだけなら自分で作らなくてもいい。でも、他人に食べてもらうならそこに楽しいと思えるように作る必要がある。それを考えて作れば自ずと上達するよ。」

 

「それだと私たちがそう考えてないみたいじゃん!」

 

「そうは言ってないだろ。何もそれは全員でなくていい。自分が好きな相手に作るのでも違う。」

 

「それが居ない人はどうすれば良いの?」

 

「別に異性とは言っていない。同姓の友達に作るのでも全然違うよ。俺らの場合は子供達も居たから子供達が美味しいって言ってくれるだけで嬉しくて作る側としても成長できたから、そういうもんなんだよ。」

 

「なるほどね~」

 

 ユージの言葉には説得力があった。誰かのために作るのであればその人の為に作ろうと必死になるし、評価を得ることで成長にも繋がる。リッカ達も納得できる。

 

 

 

 

 

 

「で、兄貴、さっき何か言ってなかった?」

 

「ああ、こないだお前が作ったお菓子を子供達に食べてもらったら美味しいって喜んでいたから伝えに来たんだ。また作って欲しいとも言っていたよ。」

 

「そうだったんだ。まあ、自信はあったから喜んでもらえて良かった。時間があったらまた作るよ。」

 

 先日ユータが子供達の為にと各種お菓子を製作、配ったところ大変好評でまた作って欲しいとリクエストを受けた。

 しかし、その話をリッカ達がスルーするはずがない。

 

「ねえ、何の話?」

 

「こないだ子供達の為にお菓子作って配ったんですよ。お菓子といっても飴とかラングドシャにチョコパイとか簡単なやつですけど。」

 

「いや、それを作れること事態がスゴいことなんだけど。君は私たちに喧嘩売ってる?」

 

「売ってないですよ。僕はただ子供達に喜んでもらいたくて作っただけです。」

 

 目の前でそこそこ難しい部類のお菓子を言われ、リッカは女子の代表としてユータを問い詰める。たかがお菓子を作ったくらいでなんで怒られなければならないのかとユータは困惑。

 そんなユータに自分の中ではお菓子作りが得意だと自負していたカノンがテーブルに置かれた手作りのクッキーをユータに差し出す。

 

「あの、ユータさん、もしよかったら私が作ったクッキー食べませんか?」

 

「はい。いただきます。」

 

 リッカの追求から逃れられたユータは躊躇なくテーブルに置かれたクッキーを食べる。サクッとした食感と滑らかな舌触りでほんのり香ばしさが残る。食べた瞬間にユータは頷いた。

 

「とても美味しいですよ。サクッとしてて滑らかで、香ばしくて美味しいクッキーです。」

 

「うん。凄く美味しい。こっちの方も美味しい。」

 

「褒めて貰えて良かったです。ありがとうございます!」

 

 手作りクッキーと他のお菓子を美味しいと言われてカノンは満面の笑みで喜んでいた。

 ただ、ユータはこのまま食べさせて貰うのはなんだと一旦部屋に戻ると、アップルパイとバウムクーヘンを持って戻ってきた。どうやらこれを食べてもらおうと言うらしい。

 

「クッキー美味しかったのでそのお返しといってはなんですが良かったら皆さん食べてみてください。」

 

 ユータの言葉にその場にいた全員がアップルパイとバウムクーヘンに手を伸ばすとそれぞれ一口食べる。

 

「甘くて美味しい。」

 

「この美味しさは反則だよ?」

 

「お前また腕あげたな。」

 

「よくこんなに難しいものをあっさり作るね。」

 

「結構楽なんですよ。ぱぱっとレシピが思い浮かぶので簡単です。こないだこれを外部居住区に住んでる女性全員に食べてもらったらあっという間に無くなりました」

 

「そりゃそうだよ。女子でもここまでは無理だもん。」

 

「本当、お上手ですね。」

 

「そんな大袈裟ですよ。僕なんてまだまだです。もっと上手くなりたいので明日から毎日お菓子をここに置いておくので休憩にでも食べてください。」

 

「良いんですか?」

 

「勿論です。いつも激務が絶えませんので休憩の時くらいはホッと出来た方が良いですし。僕も練習になるのでその方が良いんです。」

 

「これから休憩が楽しみですね。」

 

 お菓子が大好評だったことを受け、ユータは明日から毎日何かしらのお菓子をロビーに置くと伝えるとヒバリ達が歓喜の声を挙げるなか、リッカだけはジト目でユータを見つめるとこう言いはなつ。

 

「君、やっぱり喧嘩売ってるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 女子会とは名ばかりのユータの尋問大会が終わった次の日から宣言通りロビーには毎日日替わりで色んな種類のお菓子がたくさん置かれた。ロビーを訪れる人間は突然のお菓子に一瞬固まるがメモ書きにユータの名前が見えるとすぐに納得しお菓子を取っていく。

 それと同時にユータの手料理を求めて彼の部屋に訪れる人間が更に増えたのは言うまでもない。

 

 一方で兄のユージは妻のアリサの健康を気遣った栄養バランスの取れた食事を毎食提供したった二人きりでの食事ではあるが楽しい一時に。



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第54話 最愛の危機

 いつものように支部長室で業務をこなすユージにヒバリから無線が入り、長くも険しい一日が始まった。

 

《ユージさん、たった今グラスゴー支部より救援の要請がありました。どうやら赤色の体をしたカリギュラが任務中に浸入し、現在ケイトさんとギルバードさんが交戦中です》

 

「それで今救援に迎える人は居るの?」

 

《いえ、それが第一部隊を含めた全員が任務中で今動けるのはユージさんです》

 

「分かった。今すぐグラスゴーに飛ぶから飛行機の手配をお願い。」

 

《了解しました。》

 

(ギル、待ってろ!今行くからな)

 

 ギル達の危機にユージは急いで出撃の準備をすると共に万が一の事を考慮し、幾つか戦闘とは別に準備を施すと支部長室を出る。

 神機も受けとると待っていた飛行機でグラスゴーに向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルが極東を出たその頃、赤いカリギュラを相手にケイトとギルは苦戦を強いられていた。無線で別のポイントで本来の目的であるコンゴウ二体と交戦中のハルオミを呼んだが、当のハルオミも交戦中な為に下手に動けず極東から来るであろう救援が来るのを待つしかなかった。

 

「くっ、強いわね。ギルとユージ君から聞いてはいたけど相当なスピードの持ち主ね。」

 

「ケイトさん、俺もこんな色をしたカリギュラは初めてです。前に見たときは蒼かったですから。」

 

 ギルが言うようにカリギュラは蒼い体躯が特徴で、前に戦った個体も蒼かった。

 ところが目の前のカリギュラは赤い体躯でしかも以前戦った個体よりも遥かに素早い。それに加えて凶悪な攻撃に二人は翻弄されっぱなしで肩で息をするほど疲れが見えていた。

 

 しかし敵を倒さないことには生きることは出来ない事実に背を向けず、ケイトはギルと挟み撃ちの指示を出す。

 

「ギル、側面から回って!」

 

「了解!」

 

 ケイトの指示で二人は両サイドから挟むがカリギュラは冷静に右側から突っ込んでくるギルの攻撃をブレードで防ぎ、動きを止めると氷のブレスでギルを吹き飛ばす。

 ギルが動けなくなり、ケイトは作戦を変更。銃形態に変えてカリギュラの注意を自分に向ける。死角からの攻撃にカリギュラは即座に反応し、空中に浮かぶとケイトに狙いを定め急降下すると同時にブレードを展開、勢いはそのままに渾身の一撃を繰り出す。余りの速攻にケイトは盾を展開するが勢いを殺せず盾は真っ二つに割れ、腕輪が損傷。腕輪からは黒いオラクルが染みだし、侵食が始まった。

 

「け、ケイトさん、あんたの腕輪!」

 

「大丈夫よ、ギル。それよりも回復に集中して。コイツは私が何とかするから。」

 

 

 

 

 

 

 

 部隊の命を預かる隊長としての責務を果たすべく、ケイトは一人で特攻。盾が使えなくとも攻撃は出来るため、持てる力を全て解放。ゼロスタンスでカリギュラの真上に上昇すると渾身の力で神機を右肩口に突き刺すと振りほどこうと暴れまわる敵の行動を突き刺した神機にしがみついて耐え抜くと更に奥深くまで神機をねじ込む。

 だが、この攻撃に力を使い果たしたことで投げ飛ばされると怒ったカリギュラはもう一度展開したブレードで丸腰のケイトに斬りかかる。

 

「危ない、ケイトさん!」

 

 ギルの叫びも空しく死を覚悟したケイトは目を閉じ、その瞬間を待つ。

 が、待てども一向に来る気配がなく恐る恐る目を開けるとそこにはブレードを剣で防いでるユージの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラスゴー支部上空に差し掛かり、パイロットに高度を下げてもらい窓から下の様子を窺うとアラガミと交戦中のケイトとギルを発見、そしてそこから少し離れた所でハルオミも交戦中だがあちらはコンゴウ相手とあって心配はしていない。

 問題はケイト達が相手にしている赤いカリギュラの方だった。恐らくは変異種だと思われるが、ユージも初めて見る姿に驚く。そして何よりも通常のカリギュラを遥かに凌ぐスピードと攻撃力の高さにケイトの神機が壊れたのを確認すると予定していた高度よりも高いが勢いよく飛び降りた。

 

 急降下で加速したスピードで止めを刺しに来たカリギュラのブレードを間一髪の所で防ぎ、胸を撫で下ろす。

 

「遅れてすみません。もう大丈夫です。」

 

「ユージ君、どうしてここに?」

 

 何故ユージがここに居るのかが分からず、ケイトとギル戸惑うがユージは冷静に説明してからギルに指示を出す。

 

「ハルオミさんから救援要請があったので飛んできました。うちも全員が出払ってて自分しかこれる人が居ないので俺だけですけどね。それよりも立てますか?」

 

「一応、回復錠飲んだから立てるけど、私こうなってるのよ?もう助からないわ。」

 

「いえ、大丈夫です。腕輪が壊れたらアラガミ化が進んで殺される時代は終わりました。今は助かるんですよ。だから、離れてください。ギル、お前はケイトさんを連れて離れろ!」

 

「ま、まさかユージさん一人で戦うつもりっすか?だったら俺も···」

 

「ダメだ!お前はケイトさんを護れ。いいか、これは命令だ!」

 

「了解!」

 

 いつになく真剣な表情のユージにギルは素直に従いケイトの肩を担いで離れる。

 それを見届けてからユージは防いでいた剣で勢いよく圧しきると無防備な腹に剣で斬りつけ、牽制。そして持ち前のスピードで忽然と姿を消すと一瞬にして刃が鮮やかにカリギュラの体を上下に切り離し、散々ケイトとギルを翻弄してきた強敵の生命反応を消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげえ···」

 

「ホントね······あんなに苦戦したのにたったの二撃で倒すなんて······」

 

「け、ケイトさん、しっかりしてください。」

 

 離れた所でユージがカリギュラを倒すところを目の当たりにした二人は自分達を凌駕する戦闘能力に改めて感心するが、ケイトは苦しそうに痛む右腕を抑える。

 

 そこに直ぐにユージが駆け付けると自分が持つ治癒の能力で命を繋ぎ、バッグから厳重そうなボックスを取り出すと蓋を開けそこから青白く輝く物を丁寧に両手で持ち、ケイトの腕輪に触れる。

 すると手に持っていた青白く輝くそれは暴走する腕輪のオラクル細胞と反応、少しの間激痛が走るが次第に治まるとゆっくりではあるが腕輪が青白く輝きを放ち暴走は穏やかになった。

 

「こ、これは一体?」

 

「これはアーティフィシャルCNSといって神機の制御コアに匹敵する特殊なコアです。実は以前、リンドウさんが前支部長のヨハネスの罠に嵌まったときにアラガミに腕輪と神機を喰われてアラガミ化が進んだんですけど、ある少女が持っていた特殊なコアによってアラガミ化が抑制された経緯があるんです。今回はその時のコアを使いました。一時的ではありますが、これで暫くは大丈夫です。」

 

「そうなのね。ありがとう、お陰で助かったわ。」

 

「ユージさん、俺からもありがとうございます。」

 

「困ったときはお互い様ですから当然です。ハルさんも片付けたみたいなので極東に帰って本格的に治療します。但し、あなたの神機は壊れていますので復帰してもゴッドイーターとして戻るにはかなり時間が掛かります。一ヶ月二ヶ月そこらで戻れるわけでないことは覚えておいてください。」

 

「命が助かっただけで充分よ。命があってこその神機使いだから。」

 

「それが聞けて良かったです。既に極東では治療の準備が整ってますので急ぎましょう!」

 

 ユージの誘導で飛行機に乗り込むと極東に向けて飛び立った。

 

 その機内でハルオミとギルはユージの腕輪の色が前とは違うことに気付いた。

 

「お前の腕輪って元々そんなんだったか?」

 

「確か前に会ったときは赤かったような。」

 

「ああ、これはこないだのガーランドの一件で俺死にかけてさ、そしたら俺の神機の人格と会って、その人に助けてもらったときに着いたんだ。ちなみに神機もサクラ色なんだけど、こうなってから切れ味が大幅に増しててアラガミの体がスパスパ切れる。」

 

「神機に人格なんてあるんすか?」

 

「あるよ。まあ、俺も初めは半信半疑だったけど、リンドウさんの神機に触れたときに感応現象で会ったことあったからこないだはすんなり理解できた。今は感応現象自分でコントロール出来るから治癒の効果も誰かに触れずとも味方全員に効果を与えられるようになった。」

 

「なんだかよく分からないが、とにかくお前とリンドウがちょっとおかしい奴だって事だけは理解できた。」

 

「久しぶりにリンドウに会ったときに右腕が変わっていたのはそういう理由があったのね。でもよく復活できたわね。サクヤが信じたお陰かしら?」

 

「サクヤさんはずっと信じてましたからね。だから戻ってきたときはとても喜んでいましたよ。ケイトさんにも電話されてたと聞いてます。」

 

「ええ、直ぐに電話があったわ。二人が付き合っていることは知っていたから良かったと思ったわ。そして結婚して、素敵だったな。サクヤのドレス姿。私もいつか着たいなあ。」

 

 そう言うとケイトはハルオミの方を見ると他の二人もハルオミに視線を向ける。

 

「なんだよお前ら俺の方向きやがって。」

 

「ハルさん、生意気ですが早くケイトさんと幸せになってください。」

 

「俺も先に結婚した身として、早く身を固めた方が良いですよ。でないとケイトさんのような素敵な女性直ぐに取られますよ?」

 

「う、うるさい。俺だって考えてない訳じゃないんだ。いつかはするつもりだったんだ。」

 

「いつかやるって言いますけど、今やれないことなんていつまでも出来ないですよ」

 

 ユージに痛いところを突かれたハルオミはそれ以上反論できずに沈黙した。それをケイト達は笑い飛ばし、極東に着いた。




ケイト死なないルートです。これによってギルの血の力覚醒が変わってきますが考えてあります。



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第55話 道しるべ

 極東に着くと直ぐにケイトの治療が施され、サカキとジャックの尽力によりアラガミ化の恐れは完全に消滅。暫くは経過観察と言うことで極東に残ることに。

 そしてギルとハルオミは支部長室にてユージとツバキから今後の事について話し合いをする。

 

「一先ずケイトさんは大丈夫ですけど、暫くは神機が使えないので長い期間部隊から退くことになります。そうなると二人だけで動かすのは厳しいので本日付けで正式に三人は極東支部に異動になりました。グラスゴーに残された住民の皆さんも既に極東に移動されているのでご安心ください。」

 

「良いのか?」

 

「うちアラガミの動物園って呼ばれるほど厄介な奴が多くて幾ら人が居ても足りないんですよ。だから二人が入ることは自然な流れです。しかもリンドウさんとタツミさんが居るのでハルさんなら直ぐに馴染みますよ。」

 

「そういやあいつらも居るんだったな。」

 

「あ、あの~俺は?」

 

「お前も来い!」

 

「は、はい。」

 

 ユージの行動の早さに二人は戸惑うがちゃんと残された住民の身の安全まで保証していることに感謝しつつ新たな生活に楽しみが増えたと前向きに考える。特に極東はハルオミにとっては第二の故郷みたいなもので気心知れた仲間が居ることが何よりも大きい。そしてギルはハルオミに付いていくことで納得。目の前には憧れのユージも居るとあってまた一緒に戦えることを楽しみにしようと思っている。

 

 そんな二人にツバキから厳しくも愛のある言葉が。

 

「今日からお前らも極東の一員になった。私は教官の雨宮ツバキだ。マクレインは良いが、真壁、お前はこれまで何度も査問会議に呼ばれている。ここではそのような事がないようにするんだな。さもなくば私とユージが考案した特別カリキュラムがお前を待つことになる。いいな?」

 

「そ、それだけは勘弁してください···」

 

 ツバキの指摘にハルオミはツバキだけには目を付けられないように気を付けようと心に誓う。極東の女性のレベルが高いことは既に知っているためあとはツバキの耳に触れないように行動するだけである。難しくも楽しいこのミッションにハルオミはやる気全開で支部長室を出た。

 

 

 

 

 

 

 二人が出たあとの支部長室ではユージとツバキが話し合っていた。

 

「ツバキさん、リンドウさんに頼んでいたあの件はどうなりましたか?」

 

「あれか。何回か居たという痕跡はあったが逃げ足が速いのか尻尾を掴めていない」

 

「一応、居るってことは確かなんですね。では引き続き任務を続行するようお伝えください。恐らくそのアラガミは第二のノヴァの対になるアラガミなのでそいつを見つけ出して討伐、コアの回収まで出来れば今後の役に必ず立つと思います。」

 

「分かった。直ぐに伝えておく。所であの二人はどこの配属にするつもりだ?」

 

 現在リンドウが単独で追っているとあるアラガミに付いて情報の共有を行うと共にハルオミ達をどこに配属するか決める。だが、ユージはツバキの予想の遥か上を行っていた。

 

「実は前に話していた新人の話が先程纏まりまして、早ければ今週中にも新型神機の適合試験を行う予定です。その結果次第で部隊編成を大幅に組み直すのでそのときにもう一度お話します。それまでは彼らは連戦が続いて疲れてますので休暇にします。」

 

「そうか。また増えるのか。楽しみだな?」

 

「ツバキさんには負担かけますけど、教導のほどよろしくお願いします。多分、その二人には第一部隊に所属してもらうことになります。と同時に俺は隊長の任から降りて誰かに任せようと考えてます。」

 

「なるほどな。それはいい考えだ。そろそろあいつらも後輩に指導する事を覚えないとだからな。いつまでもお前に甘えていてはあいつらの為にならん。」

 

「それもありますけど、もう新たな部隊の発足に向けての準備が整ってまして、それのためにはどうしてもアリサ達の力が必要不可欠で。」

 

 もう新たなスタートへの準備はできていた。あとはそれに向けて進むだけ。ユージの目には既に一つ先の未来が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一週間後、新型神機の適合試験に二名が選ばれ無事に合格。晴れて神機使いとしての生活をスタートさせた。その一人、背の小さい少女が廊下の椅子に座っているとそこに近づいてくるフードを被った色黒の少年を見つけると軽く頭を下げる。

 

「お前、エリナか?」

 

「そ、そうですけど、あなたは?」

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はソーマ·シックザール、お前の兄エリックのダチだ。」

 

「お兄ちゃんの友達!?そう言えば、前に聞いたことがあります。あ、私はエリナ・デア=フォーゲルヴァイデです。今日から極東支部に配属されました。よろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしくな。じゃあ、俺は仕事があるんでな。頑張れよ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ソーマと挨拶を交わし深々と頭を下げるとエリナは兄のエリックが言った通りだと確信。いつか一緒に任務に行くことを夢見ている。

 

 そんなエリナの元に今度は如何にもめんどくさそうな雰囲気の少年が現れる。その少年は見るからにどこかの御曹司であることは確かで、エリナはその少年が誰なのか直ぐに分かった。そしてそれはその少年とて同じでエリナに気付くと声をかける。

 

「おや、エリナではないか。僕の名前はエミール・フォン・シュトラスブルク。何を隠そう僕は君の兄エリック・デア=フォーゲルヴァイデの親友だ。」

 

「何であんたがここに居るのよ?」

 

「フッ、僕も君と同じで今日から極東支部に神機使いとして配属することになったのさ。」

 

「ええ~、あんたが!?うわあ、初日から最悪。まあ、決まったものは仕方ないけど、私の邪魔しないでよね!」

 

「邪魔?僕は君の邪魔なんてしたことなどないつもりだが?」

 

「それが邪魔だって言ってるの!」

 

 エリナがここまで突っかかるのには訳がある。エリナの実家フォーゲルヴァイデ家とエミールの実家シュトラスブルク家はライバル関係にある名門財閥なため、エミールは兎も角、エリナは物凄く対抗意識がある。それだけでなく亡くなった兄の事を軽々しく話す態度も気に食わず、会うたびに毛嫌いしている。

 そんな二人がこれから一緒に神機使いとして所属するとしってエリナは既に嫌な気持ちになっていた。

 

 

 

 するとそこに今度は大きなコートを羽織った少年がやって来た。

 

「お、二人ともよく来たね。」

 

「あ、あなたは?」

 

「俺はユージ。極東支部の支部長だ。」

 

「し、支部長!?あなたが?」

 

「エリナ、初対面で失礼ではないか。僕の名前はエミール·フォン·シュトラスブルク、そしてこちらがエリナ·デア=フォーゲルヴァイデだ。」

 

「ちょっと、何勝手に私の名前言うのよ!」

 

「あー、はいはい分かったから落ち着け。」

 

 ただの自己紹介ですら口論になる二人を制止するとこれからの事について説明をする。

 

「いいか、今日から二人は極東支部に神機使いとして生活することになる。今までは守られる側だったと思うけど、これからは誰かを守る側になる。特に極東はアラガミの動物園って呼ばれるほど新種も多いし、アラガミの数と種類も多い。まだ入りたての二人には早いがいつかは必ず戦場に出てアラガミと戦うことになる。その時に自分の命を守れるのは自分達だけだ。その事だけは常に頭に入れて行動するように!分かったか?」

 

「はい!」

 

「よし、いい返事だ。じゃあこのあと二人はサカキ博士の所でメディカルチェックを受けてもらうからラボに行って。場所はここの真上の四階だ。」

 

「分かりました。ありがとうございます!」

 

 真剣な眼差しで言うユージに二人は嘘偽りがない事実だと改めて認識。そして説明が終わると今度はにこやかに指示を出されエリナは再び頭を下げてその場を去った。

 

 二人が居なくなり、ユージは次の行動のためにロビーに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーに突如集められたのは極東に所属する全部の部隊とあって騒がしい。それもユージからの指示とあって何かあると全員は考えていた。

 それはアリサたち第一部隊も同じで何事だと話し合う。

 

「ユージから集合掛けられるって珍しいよな?」

 

「そうですね。ソーマ聞いてませんか?」

 

「妻のお前が知らないことを俺が知っているわけないだろうが。あいつのことだから何かあるんだろう?」

 

「なんだ、アリサも聞いてないのか?」

 

「ええ。私に内緒で何をするつもりなんですかね。」

 

 妻である自分でさえ聞かされていない事への不満を露骨に出しているとそのユージがツバキと一緒に姿を現す。二人の登場に騒がしかったロビーは一気に静まり返る。

 

「全員揃っているね。今回急遽呼び出したのは新しく部隊を発足したこととそれに伴った大幅な部隊編成を行うことになったからそれの報告をするよ。」

 

 予想の遥か上を行く言葉にロビーは再び騒がしくなり、ツバキが静めユージが続ける。

 

「今回、新たな部隊として独立支援部隊クレイドルを発足することが正式に決まった。このクレイドルは本部から見捨てられた謂わば対アラガミ装甲壁の外に暮らしている人達が安心して暮らせるよう候補地を探しだして一つの街として発展させていく支援を目的とした部隊だ。

と言っても、アラガミも出るから討伐及びコアの回収も必要でそれを元に対アラガミ装甲壁を新たに作らないといけない。このクレイドルにはアリサ、ソーマ、俺とリンドウさんの四人が所属する。それに伴ってアリサ、ソーマ、俺は第一部隊の任から外れることになる。」

 

「ちょっと待って。じゃあ俺はどうなるんだ?」

 

「コウタにもクレイドルのメンバーに入ってもらうけど、実際にはこのまま第一部隊に残ってもらって隊長として近々配属される二人の新人の教導を行ってもらう。」

 

「は?お、俺が隊長??む、ムリムリムリ!だって俺隊長になるタイプじゃないし」

 

「そう気負うことない。お前はもう立派な神機使いとして後輩のいいお手本になっている。お前は気付いて居ないかも知れないが、お前を手本にして居る人間は多いぞ。言葉ではなく、行動で示してる。そういう人間こそ隊長になるべきなんだ。」

 

「そ、そうかな?」

 

「コウタがリーダーありだと思います。」

 

「ああ。今のお前なら安心して隊長を任せられる。」

 

「お前らがそう言うなら分かった。引き受けてやる。」

 

「サンキュー、コウタ。まあでもその新人は例によって新型だから最初のうちは俺も加わるよ。」

 

「そうか。助かるよ。」

 

 いきなりの隊長就任に戸惑うコウタだがアリサ達に励まされ、ユージも最初は一緒に行くということで快く承諾。

 

 そしてその後も部隊編成が言い渡され、第二、第三部隊は纏めて防衛班として活動し、その中の一人カノンのみ第四部隊としてハルオミとの二人となった。

 また、フェデリコとカルーゾはケイン達元リオ出身の三人と共に第六部隊としてサカキとジャックの元で活動することに決まった。

 

 尚、ギルは昨日の夜にユージに直々に伝えてきていた。

 

「ブラッドに入隊するってマジで言ってるのか?」

 

「はい。ユージさんと出会ってから色々思うところがあって、このままではいけないって俺なりに考えたんです。そしたらこないだのケイトさんがアラガミにやられかけたときに大切な人を失わないように俺自身も進化したいと思いました。それでどうしたら良いか調べたら本部直轄の部隊らしいんですが、精鋭中の精鋭らしく厳しい環境に身をおくことで見える景色もあるんじゃないかって。既に入隊の希望を出しました。そこでは新型の更に上の世代の神機を扱うみたいなので今よりもっと強くなれると思います。」

 

「そうか。良かったな。やりたいことが見つかって。お前が居なくなるのは残念だけど、たまには遊びに来いよ?そのときはまた一緒に任務に行こう!」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 ギルの真っ直ぐな表情と決意を胸に秘めた言葉にユージは背中を押すことでまたいつか会えることを楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ここにも一人自分の進むべき道を模索している少年が居る。その少年は深夜静まり返った廊下を歩くと支部長室の前で止まり、回りを警戒しながらこっそりと中に入る。忍び足で支部長室の奥の扉を開けぐっすり寝ているユージを起こしてみる。

 

「おい、兄貴!起きてくれ!」

 

「う~ん······なんだよいきなり。まだ起きるには早いぞ?」

 

「悪いんだけど、二人きりで話しないか?」

 

「俺と話?良いけど、ここだとなんだし外で話すか。」

 

 弟のユータに叩き起こされ悪態をつくが夜中に態々起こしてまで話をするってことだから相当大事な話なのだろうとゆっくり起きると隣で寝ているアリサを起こさないように部屋を出るとアナグラから外へと出た。

 

 適当に外部居住区内にあるベンチに座ると自販機で買ったジュースを一本ユータに手渡し、自分の分のジュースを開けて一口飲む。

 空を見上げると満点の星空と月が綺麗な夜空となっていた。

 

「で、話ってなんだ?」

 

「実はさ、俺神機使いになろうと思ってる。」

 

「ブッ!!じ、神機使いだって?お前がか?」

 

「なんだよ。そんなに驚くことないだろ?」

 

「悪い。でも、どうしてそう思ったんだ?」

 

 神機使いになると予想外の事を言われ飲んでいたジュースを吹き出してしまう。

 ユータに怒られ謝るとどうしてなりたいのかを聞くと様々な気持ちを抱いていることを赤裸々に語りだした。

 

「極東で整備士として働いてきて色々思うところがあってさ。この知識を活かして神機使いになればこの手で大切な人を守ることが出来ると思ったんだ。昔小さい頃に父さんと母さんを亡くした事は今でも昨日のことのように思い出すし、夢にまで出てくる。正直俺はまだ親を亡くした悲しみから抜け出せて居ない。兄貴はもうアリサさんが側に居るし、ソーマさんやコウタさんと言った苦楽を共にした仲間が居る。だけど俺にはそう言う仲間と呼べる人がいない。だからアリサさん達と仲良くしている兄貴がちょっと羨ましくて。俺もそう言う仲間と呼べる人に出会いたいと強く思うようになった。そしたら丁度、本部直轄の部隊ブラッドの新規入隊募集の広告を見付けてさ、これだって思ってもう応募してきた。」

 

「お前もブラッドか。」

 

「お前もって他にも兄貴に相談してきた人が居るの?」

 

「ギルが昨日俺に言ってきたよ。あいつも悩みに悩んだ結果ブラッドを選んだ。」

 

「そうなんだ。まだ俺は話した事ないから明日話してみるよ。もしかしたら最初の友達になるかもしれないから。」

 

「お前ならギルと直ぐに打ち解けられるさ。だからブラッドに行っても頑張れよ。そんでもってたまには帰ってこい。ギルにも言ったけど、いつでも大歓迎だから」

 

「うん。兄貴、こんな時間に起こしちゃって悪かったな。」

 

「別に構わねえよ。こうして二人きりで話すこと滅多にないから良かった。んで、いつあっちに行くんだ?」

 

「まだ応募したばかりだから決まったらメールで来るみたい。」

 

「そっか、無事に決まるといいな。」

 

「まあそうだね。」

 

 ギルに続いてユータの気持ちを聞いたユージは背中を押すことだけしか考えて居ない。自分で決めた道を信じて歩くなら自分も彼らを信じようと寂しい気持ちを堪え門出を祝う。それと同時に思い出していた。神機使いになると決心した昔の自分の姿を。あの頃の自分に胸を張って進んできた道が正しかったと言えるだろうかと自問自答してみる。

 恐らくまさか自分が今支部長になっているとは思ってもいないだろう。そのくらい人間が思い描いていた理想とは程遠いがそれもまた良いと思えてきた。理想だけでは生きていけない、時には妥協することもあれば回り道することだってある。だが、それが自分の全てであり嘘偽りのないありのままの自分。ならもうちょっと自信をもって生きていく方が楽しくなるとほんの数分ではあるが考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユータと別れ、部屋に戻ったユージだがこっそりアナグラから出ていたことをアリサにバッチリ見られていたようで、部屋の明かりが付くと怒りに満ちたアリサがそこに立っていた。

 

「あ、アリサ···」

 

「こんな真夜中にどこに行っていたんですか?」

 

「ちょっとトイレに···「嘘おっしゃい!」」

 

「あなたがユータを連れて外部居住区に出ていくのバッチリ見てました。」

 

「マジかよ。ずっと寝てたじゃんか。」

 

「寝てましたけど、あなたたちが出たあとに目が覚めたんです。最初はトイレにでも行ったと思いましたけど、それならユータが態々呼ぶわけないです。本当は何をしていたんですか?」

 

「大した事ない。単にあいつが俺と話をしたいって言うから連れていっただけでそれ以上でもそれ以下でもない。」

 

「話ってなんですか?」

 

「ひ·み·つ!俺とあいつだけの特別な会話だからいくらアリサでも教えられない」

 

 当然ながら説教が始まるがこれまでの経験から冷静にアリサの追及をかわしにかかる。重要な部分だけ秘密にしとくことでユータが怒られないように回避。しつこくアリサに詰め寄られるが意に介さずベッドに向かうと横になる。

 だが、ここでアリサは引き下がらずユージの隣に横になると彼の体をガッチリ固定、彼の温もりを感じつつ隠し事をする彼への不満をぶつける。

 

「もう、私に対して隠し事なんて許しません!言うまで逃げられませんからね?」

 

「いいや、絶対に言わない。知りたかったら感応現象で見ることだね。」

 

「コラー!白状しなさい。じゃないとイタズラしますよ?」

 

「どうぞ、イタズラしてください。俺は準備出来てますので。」

 

「むう!そこまで言うならとことんやらせて頂きますから。覚悟してください!」

 

 自分の精一杯の脅しにも屈しないユージにムキになったアリサはキスというなのイタズラを思う存分しまくり、隠し事には怒りつつも自分の欲求が満たされていくことには大満足だった。




ゴッドイーター2まであと少しです。


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第56話 新人教導

エリナとエミールへの教導です


 部隊の編成を言い渡されそれぞれが新たな仕事に挑むなか、一人見馴れた少年が緊張の面持ちでロビーに立っていた。何故彼が緊張しているかと言うと今日から第一部隊の隊長としての最初の仕事、新人の神機使いとの実地訓練の日だから。昨日の夜からずっと緊張しっぱなしで手は汗でぐっしょり、背中も変な汗で濡れているのかひんやりする。

 そこにユージに連れられて二人の男女がやって来た。少女の方は何度か極東に遊びに来ていたこともあって知っているが、隣の少年とは面識がなく初対面である。

 

「コウタ、遅くなって悪かったな。今日から第一部隊に所属する新人の紹介だ。」

 

「エリナ·デア=フォーゲルヴァイデです。よろしくお願いします!」

 

「僕の名前はエミール·フォン·シュトラスブルク。よろしく頼む。」

 

「お、おう。俺は藤木コウタ、第一部隊の隊長だ。よろしくね。」

 

「ちょっと、二人そこで待ってて。」

 

 新人を前に緊張感丸出しのコウタの腕を引っ張ると二人から離れたところでツッコむ。

 

「おい、なんでお前が緊張してるんだよ。」

 

「仕方ないだろ?隊長としての初仕事なんだから。お前やリンドウさんと違って俺はこう言う慣れないことにはとことん緊張するんだよ。」

 

「気持ちは分からなくもないけど、そんなに緊張感が丸出しだと二人が却って不安になるだろ。少しは落ち着け!それから、この二人どちらも本部と繋がりのある名門財閥の御曹司と令嬢なんだけど、そのライバル同士の子供だから凄く仲が悪い。エミールはそうではないけど、エリナが凄く突っ掛かってくる。正直最初の頃のアリサとソーマよりも癖が強いから苦労すると思うけど頑張れ!」

 

「はあ?就任早々にすげえ爆弾持ってくるじゃん!しかもアリサとソーマよりもヤバイって最悪じゃん。」

 

「まあそう言うなって。訓練ではそれなりの成績だったし、講義も真面目に受けている。全部ダメダメだったお前と違うぞ?」

 

「おい、何を最後しれっと悪口言ってるんだよ。」

 

「お、緊張感無くなったな。じゃあ大丈夫だな。」

 

 コウタの緊張を解すと二人の元に戻り、実地訓練の説明をしてからようやく出撃を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッションの場所は贖罪の街、ユージが極東に来て最初の任務と同じ場所をチョイス。討伐内容も全く同じでオウガテイル一体の討伐。コウタとユージにとっては眠気が出るほど簡単だがエリナとエミールにとってはこれが神機使いになって初めての実戦とあって緊張しているのか体が固い。

 まずはその緊張を和らげようとユージが恒例の命令を下す。

 

「よう、新入りこれより実地訓練を始める。命令は三つ。死ぬな、ヤバくなったら逃げろ、そんでもって隠れろ!そして不意をついてぶっ殺せ!あっ、これじゃあ四つか。」

 

「それでもダメなときは?」

 

「そんときはあれだ。生きることから逃げるな、だ。まあ、これはお前らには早かったな。まあ、あれだ生きていれさえすれば後は万事どうにでもなる。お互い死なない程度にやろうや。」

 

「ぶふぉっ!」

 

 完全なリンドウの物真似にコウタは笑いを堪えることが出来ず腹を抱えて笑う。

 そんなコウタの頭をひっぱたくとまたつれていく。

 

「お前、人が真面目な話をしてるときに何笑ってるんだよ?」

 

「いや、だってそれリンドウさんの········ぶっははははは!!!!」

 

「うるせえよ。でも、これで楽になったろ?」

 

「うん。なったなった。」

 

「全然なってねえじゃねえかよ!」

 

 未だに笑うコウタにツッコミつつもこれで楽になったなら良かったと頷く。

 

「じゃあバカな隊長は放っておいて先に行こうか。」

 

「は、はい。」

 

 コウタを置いてユージは二人を連れて先に高台を降りるとオウガテイルを探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し歩くと前を歩いていたユージの足が止まりそーっと物陰から顔を覗かせると目的のオウガテイルを発見。一体だけと確認すると二人に目を向け、後ろからコウタが来るのも見てから敵を見つけたことを伝える。

 

「この先にオウガテイルが居る。ミッションの内容通り一体だけだけど、二人にとっては初めてだ。怖いと思うかも知れないけど誰もが通る道だし、後ろには俺らが着いている。訓練で学んだことを活かして思う存分やって欲しい。」

 

「それって私達だけでやれって事ですか?」

 

「そうだけど、何か問題でもあるの?」

 

「いえ、ないですけどいきなりなのでちょっと不安で。」

 

「ヤバそうになったら俺とコウタがカバーするから心配するな。失敗を恐れるな」

 

「はあ···」

 

「エリナ、もし君が危なくなったら僕が守ってあげるから心配要らないよ。」

 

「誰があんたなんかに!」

 

「おい、静かにしろ。敵に気づかれるだろ。」

 

 ここでも喧嘩が始まり見慣れたユージはおでこを抑え、初めて見る二人の現状にコウタは溜め息が溢れる。新旧の隊長の態度から察するに相当難しいことは確かな様子。

 

 喧嘩が収まったところでユージに励まされながらエリナとエミールが突撃。喧嘩する割に戦闘では絶妙なコンビネーションを魅せる。

 何の指示も出していないが二人は意思疏通が図れているように両サイドから同時に攻撃。チャージスピアとブースとハンマー二つの特徴である溜めることで攻撃力が上がり、オウガテイルの体を粉砕。新人とは思えない実力に見ていたユージとコウタが拍手を送る。

 

「二人ともよく頑張ったな。」

 

「ああ、初めてなのにすげえ良かったよ。」

 

「本当ですか?」

 

「支部長と隊長に褒められて僕は喜ばしい限りだ。」

 

 

《ユージさん、緊急事態です!想定外のアラガミがそちらに向かっています。もう間もなく侵入します!》

 

 二人を労ったところで無線が入り、ユージとコウタは気を引き締める。

 

「分かった。警戒する。」

 

「ユージどうする?」

 

「小型が二体くらいだったら全員で攻めても良いけど、中型以上だったら撤退が妥当だな。」

 

「そうなるよな。」

 

「え、戦わないんですか?」

 

「ああ。」

 

「ど、どうしてですか?敵が目の前に居るのに逃げるなんてあり得ません!」

 

「まあエリナが言うことは分かるけど、これはお前らの実地訓練だ。二人を無事に連れて帰ってくることが俺とコウタの責務だ。どこの世界に初めての実戦で新人に中型以上のアラガミ討伐を許可する上官が居るんだよ。って、俺か。」

 

 前に本部に出張したときに当時新人だったギルと接触禁忌種の討伐を行った事を思い出し、ノリツッコミ。しかしあれは例外であり、結局ギルが敵う相手ではなく怪我を負わせてしまった。その経緯から今回は小型以外が居たら撤退を視野に入れていた。

 しかし、そんな話をしているところに現れたのは見たことのないアラガミだった。

 

「なんだ、コイツ。見たことないやつだ。」

 

「ああ。見た目はシユウに似ているけど、色は水色っぽいしどことなくサリエルにも似ているな。」

 

 コウタとユージは冷静にそのアラガミを観察しているとこちらに気付いた敵が咆哮を挙げると異変が起こる。

 

「お、おい、どうなってるんだ?なんで神機が動かなくなるんだ?」

 

「私も。なんで?」

 

「僕の神機もだ。」

 

「お前らだけなのか?俺は何とも無いが多分だけどコイツは強い感応波によって特殊な偏食場パルスを操ってる。簡単に言えば第二のノヴァがやっていたようなものだ。」

 

「でも、確かノヴァの奴は既に対策がされて問題ないはずじゃ?」

 

「それはあくまでもあいつの偏食場パルスだけだ。現に俺が暴走したときは防げなかっただろ?」

 

「ああ、確かに。何でだ?」

 

「偏食場パルスって言うのは謂わば俺たち新型神機使いの間で話題となっている感応現象。その感応現象にも強い、弱いがあるんだけど強い場合のみ影響を及ぼす。恐らくこのアラガミはそう言った能力の持ち主なんだろうな。」

 

「ユージさん、それでどうするんですか?もう見つかっちゃいましたよ。」

 

「こうなったら殺るしかないけど、行くのは俺一人だけだ。二人はコウタと一緒に離れた場所に待機だ。」

 

「私も行きます!」

 

「ダメだ。」

 

「どうしてですか?」

 

「奴の能力で神機が動かなくなると分かっているのに戦闘なんて容認出来ない。二人は大人しくコウタと待機だ。コウタ、二人を連れて離れてくれ。」

 

「わかった。気をつけろよ?」

 

「分かってる。俺もこんなところで死にたくない。さっさと倒してくるよ。」

 

 

 

 

 

 

 どうしても引き下がらないエリナとエミールをコウタに任せるとユージの姿はもうそこにはなかった。

 余りの速さに二人は衝撃を覚える。さっきまで立っていたユージの足元には僅かに砂ぼこりが舞っていて、気がつくと既に敵の懐近くまで迫っていた。

 

「は、速い!」

 

「これが支部長の力なのか?」

 

 彼の実力を知っているコウタからしてみればこれが普通なのだが、初めて見る人間には普通ではない。一般的な神機使いを遥かに凌駕しているスピードも去ることながら一つ一つの動作に無駄のない適格な動きで敵に反撃の暇を与えることなく一瞬で命を散らし、コアを抜き取ると何事もなかったように戻ってきた。

 

「流石だな。新種なのに一撃で倒すし。」

 

「本来ならもっとじっくり戦って今後の参考にしたかったけど、今回は緊急だったから一撃で倒すことにした。」

 

「ユージさん、凄すぎます!どうやったらあんなに強くなれるんですか?」

 

「そりゃあ日々の訓練を怠らず鍛練を重ねてきたからだよ。俺が言うのもなんだけど、それが一番の近道だよ。」

 

「はあ···」

 

 自分の疑問に笑顔で答えるユージにエリナはそこそこな返事しか出来なかった。

 その後、迎えのヘリに乗った四人はアナグラに戻った。



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第57話 出発

クレイドル初任務です。前回のシユウの奴はイエン·ツィーです。ユージは血の力とBA覚えているので感応種には干渉されません。


 実地訓練から戻ってきた四人はシユウに似た新種討伐の報告をラボにてサカキとジャックに伝える。

 

「なるほど、ではそのアラガミは強い偏食場で神機に干渉してくると言うことだね?」

 

「はい。突然の乱入だったので一気に片付けてしまいまして、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるのかとかのデータの収集が出来ませんでした。」

 

「構わないよ。全員が無事なことが大事だからね。でも、厄介な敵であることは間違いないね。今後出てきたときの為に対策を講じないといけない。」

 

「そうですね。じゃあ、今日は色々あって疲れてるだろうからコウタ達は部屋に戻って体を休めろ。俺はまだ大事な話があるから。」

 

「おう。悪いな。」

 

 ユージの気遣いに見えない疲労感が押し寄せているコウタはすんなりと受け入れるとエリナとエミールを連れて退室。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人が居なくなり、残された三人は最近極東周辺で起きている数々の不可解な現象について議論を交わす。

 

「もしかしたらここ最近起きている赤い雲による雨とそれに伴って発症する謎の感染症、そして今回の新種のアラガミは何か関係性があるのかも知れません。」

 

「現時点ではハッキリとは言えないけど、全く無関係とも言えないね。これに関してはケイン君たち五人と一緒に調査して何か対策を講じるよ。」

 

「そうですな。と言うことだからユージ、それまではその新種に遭遇したら即撤退するように他の神機使いに伝えるんだ。現時点ではお前だけしかまともに戦うことすら出来ん。」

 

「自分もそのつもりです。では、俺はまだ仕事があるのでこれで。」

 

 ラボを出たユージは直ぐにアナグラ中に新種のアラガミについての情報の共有と発見したら即撤退の指示を出した。極東では新種の出没などは最早当たり前だが今回は以前の第二のノヴァ並みに厄介な敵とあってアナグラ内は新たな脅威に不安の声が相次いだ。しかし、ユージが一撃で討伐したとコウタから知らされると感心するどころか普通だと言わんばかりの反応を示した。それほどまでに彼の圧倒的な実力は知れ渡っていた。

 

 

 

 それから数日が過ぎ、何回かエリナとエミールの実地訓練に同行したユージはコウタに完全に隊長職を引き継がせ正式に第一部隊から除隊。ユージの献身的なサポートにより始めは隊長になることに不安を抱いていたコウタも次第に自分のやり方でリンドウとユージが築き上げてきたものを更に発展させていこうと決心、彼が同行しなくなってから本格的に隊長としての仕事に励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 支部長室に設けられた浴室で一人の少女がお気に入りの曲を鼻唄混じりに歌いながら今日から新調する制服に着替えるため汗を流していた。

 

 最愛の夫から貰ったシャンプーやボディソープの香りに浴室内は包まれ泡を流すとタオルで体を拭き取ってこれまた夫から貰った物を髪の毛に刷り込む。柑橘類から作られたと聞いている通りに柔らかな自然な匂いが優しく髪の毛を包む。

 そしてようやく制服に手を伸ばし着替えてハッとする。

 

「あれ?閉まらない。何ででしょう?サイズはぴったりなハズです。」

 

 他の服はサイズを測ったためぴったりだったが、上の服だけはいくらやってもファスナーが閉まらない。しかも何故か下からではなく上から閉めるタイプで途中まではすんなり行くがそれ以降は微動だにしない。そうこうしていると脱衣所の外から急かす声がする。

 

「お~い、まだか~?」

 

「今着替えてますからって、女の子はデリケートなんです。それくらいは学習してください。」

 

「へいへい、分かったよ。」

 

 軽いノリの返事に少しムッとするがその横では夫がゆっくりでいいと言ってくれるためそこだけは笑顔になる。

 

 

 

 

「お、お待たせしました···」

 

 着替え終わり脱衣所から出ると気恥ずかしそうに挨拶。目の前にはコウタとソーマと最愛の夫であるユージが待っていた。ユージは支部長であるために変わらないがコウタとソーマもアリサと同じように新調された制服に身を纏い、どこか大人っぽく見える。

 先程までファスナーと格闘していたが結局閉まらず、上から三分の一の所で妥協したのはいいが下からは大事な部分が見えるためアリサは顔を赤くする。

 しかし、ソーマとコウタは気にする素振りを見せない。それでもユージだけはアリサの格好を見てやってしまったと冷や汗を掻いていた。そしてアリサの元に歩み寄ると耳元で謝る。

 

「アリサ、ゴメン。ちゃんとサイズ通りに注文したはずなんだけど間違っていたみたいなんだ。そんな恥ずかしい格好をさせるつもりはなかった。本当ゴメン!」

 

「良いですよ。確かに恥ずかしいですけど、折角ユージが選んでくれた制服ですから大事に着ます。」

 

「それで良いのか?ちゃんとしたものに変えるけど···」

 

「大丈夫ですから。気にしないでください。」

 

「気にするなって言われても俺が困るから。」

 

「どうしてですか?」

 

「アリサは気付いてないかも知れないけど、可愛くて綺麗だから人気なんだ。だから、もしも俺が居ないところでアリサを奪おうとする奴が出てくるかと思うと気が気じゃないんだよ。」

 

 ユージが言うのも無理はない。実際、アリサに対する男の人気は相当な物で普段の格好もあって下心が見え見えの視線ばかり。それを本人が気付いていないだけでユージには分かっていた。だから今回の色気たっぷりの制服姿を見た男共にアリサが奪われやしないかと心配になってきた。

 

「大丈夫です。私にはユージしか見えていませんから。そんなに心配することはありません。」

 

「そうだよな。アリサは俺の大切な奥さんだ。どんな奴が来ても俺が全部追い払ってやる。お前は誰にも渡さない!」

 

「もう、大袈裟なんですから。でも、そんなユージが大好きです!」

 

「俺もだ。」

 

 制服の謝罪からキスまで発展しているが、今この部屋にいるのは自分達だけで無いことに二人は気付かず長く濃厚な口づけを交わす。

 

 

 

 その様子をコウタとソーマは呆れたように見ていた。

 

「なあ、俺らが居ること忘れてない?」

 

「ふん、こいつらのやってることは今に始まったことじゃない。気のすむまでやらせておけ。」

 

 ソーマの言葉通りに気のすむまで口づけを交わした二人はここでようやくコウタとソーマが居ることに気が付くとさっきまで堂々としていた態度が一変し、二人の顔はみるみるうちに赤くなっていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ今日から独立支援部隊「クレイドル」としての活動をスタートさせるよ。これから俺たちが目指す道のりはかなり長いし険しい。想像以上に過酷な事には変わりない。でも、みんなで力を合わせれば乗り越えられると信じてる。コウタお前にはここに残って大事な家族を護れ!」

 

「おう。」

 

「そしてアリサ、ソーマはアラガミの脅威に苦しんでいる人々の支えとなろう。」

 

「はい。」

 

「当然だ。」

 

「いい表情だ。どんなときも俺たちは一緒だ。一つの夢に向かって頑張ろう!」

 

 ユージの言葉で四人はまだ見ぬ世界を求めて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまったな。まさか、最初からこんなことになるとはな。」

 

「ダメです。無線が繋がりません。勿論、携帯もです。」

 

「完全に孤立してしまったな。」

 

 クレイドルとしての第一歩を踏み出したまでは良かったがヘリで移動中に突如として出現した飛行型のアラガミの洗礼を浴び、ヘリは墜落し炎上。乗っていたパイロットは残念ながら死亡が確認され、ヘリから逸早く脱出したユージ達は何処とも分からない地で迷っていた。

 

「まあ、そう言うな。適当に歩けばそのうち何処かに出られるだろ。」

 

「そうですね。ずっと待ってても仕方ないですし、先へ進みましょう!」

 

「仕方ないな。」

 

 ここに立ち止まっても進展がないなら自分達の力で進めばいいと三人が歩こうとすると突如何処からか銃声と車のエンジンの音が聞こえる。

 

「あっちから聞こえる。」

 

「行ってみましょう!」

 

 誰かが居ると確信し三人は音のする方に走ると複数のオウガテイルに追われている一台の貨物車が視界に飛び込んできた。

 

「何が何だか分からないが、さっさと片付けるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「すみません、助けていただいてありがとうございます。」

 

 三人によってオウガテイルは瞬く間に倒され、車に乗っていた一人の女性に声をかけるとユージは声をあげる。

 

「さ、サツキさん?」

 

「あ、あなたは支部長さん!」

 

「ユージ、知ってるんですか?」

 

「ああ、ほら前に本部に召集されたときに会ったことがあってね。高峰サツキさんといってフリーのジャーナリストをしているんだ。」

 

 以前に本部で会ったことがあり、それ以降も何度か会っていた。それ以来だがなぜ彼女がここにいるのかまでは分からない。

 それぞれが軽く自己紹介を済ませ話が進む。

 

「所で支部長さんはどうしてこんな所に?」

 

「実は、とある場所に向かってる途中でアラガミにヘリを墜落させられまして歩いていたらオウガテイルに追われているサツキさんを見つけたんです。」

 

「そうなんですね。天下のゴッドイーターともあろう方が何やられてるんですかねえ。」

 

「どういう意味ですか!」

 

「そのまんまの意味ですよ。」

 

「まあまあ落ち着いて。俺たちは喧嘩をするために来たんじゃない。サツキさん無線お借りしてもよろしいですか?」

 

「ええ、助けていただいたんですから良いですよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 サツキの棘のある言い方にアリサが歯向かうがそれを宥めると無線を借りてサカキに連絡する。

 

「はい、そういうわけなので救援のヘリの手配をお願いしたいのですが恐らく新種のアラガミに襲われればパイロットの命が危ないので安全が確保出来るまで無しでお願いします。恐らくですが、この先に人が住んでいる気配があるのでそこに向かえば何か分かるかも知れません。それではまた連絡します。」

 

 

 

 

「サカキ博士何て言ってましたか?」

 

「暫く待機しとくってさ。俺から待機をお願いしたんだけどね。」

 

「そうですか。ではこれからどうするんですか?」

 

「この先に人が住んでいる気配がするからそこに行こうと思う。サツキさん、あなたも来てください。」

 

「私もですか?」

 

「車でここに来るくらいだからあなたはそこから移動してきた。だったらあなたに案内して貰った方が双方にメリットがある。」

 

「まあ、助けていただいた事ですし良いでしょう。但し、あくまでもそこに着くまでですからね。」

 

「構いません。では、案内お願いします。」

 

 ユージが代表としてサツキに交渉、どうにかそこまで案内して貰うことに成功し、四人は車に乗ってどこかへと走っていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第58話 批判

 車で向かう途中、赤黒い雲を発見。見るからにこれから何かが起こると言わんばかりの空模様にアリサは不安を抱いていた。

 

「あれが赤乱雲ですね?」

 

「ああ。俺もこいつが降らす赤い雨とそれに伴って発症している謎の感染症について調べては居るんだけど、難航してるんだ。どういうメカニズムであの雨が降るのかがさっぱり分からない。」

 

「そこまでしか知らないんですか?」

 

「どういう意味だ?そういうあんただって知らないだろ?」

 

「ええ。だからこそ何も知らないあなた方に腹が立つんです。フェンリルに護られていて感覚が鈍っているんじゃないですか?」

 

「そうかも知れないな。ゴッドイーターなんて言っているが所詮、俺たちはガキだからな。アラガミが出る前で例えれば社会人に成り立て。そんな人間が知っていることなんてたかが知れている。だからこそ知る必要がある。」

 

「前に会ったときもそうでしたけど、支部長さんだけは本部の連中とは考えてることが違いますね。」

 

「俺は別にあんな連中の考えてる事なんて興味ない。それはあんたもよく分かっているハズだが?」

 

 最初に会ったときにサツキは見ていた。アーク事件の事で追及されたユージが逆に本部の問題点を指摘し黙らせた所を。その後もガーランドの一連の事件の際にも本部の人間の処分を下していたのも紛れもなくユージだということも調べているうちに判明。

 その事を彼から指摘されそれ以上の詮索は諦める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたよ。ここは本部から見捨てられた人たちが暮らしている街です。差し詰ミニエイジスとでも言えば分かりますかね?」

 

 サツキの運転でやって来たのはどこかの居住区らしき場所で回りを対アラガミ装甲壁で囲まれている。彼女の言うミニエイジスがどういう意味かは三人はよく理解している。居住区を見た瞬間にここが相当な場所だと分かる。

 

「ミニって言うよりはまんまエイジスですね。」

 

「ああ。ここまで立派な居住区も珍しいな。」

 

「見たところ相当なレベルだな。外部居住区と比べても遜色ないほどに凄いな。」

 

 外部居住区と比べても遜色ないほどに発展している事にユージも驚くがミニエイジスの言葉に裏があると睨んでいた。と言うのも外部居住区の装甲壁はエイジスの物を参考に作られ、事あるごとにアップデートを施すことで外壁を食い破られないようにしている。それと同じ高度な技術が今居る場所でも使われていることに疑念を抱かない方が無理だ。

 

「取り敢えず私たちも挨拶しましょう。」

 

 アリサに言われふと前を見るとサツキが門番らしき男性と話をしていた。三人もそこに向かい中に入る為の交渉に出る。

 

「残念ですが我々は極東支部の人間を通すわけにはいかない。お引き取り願おう」

 

「どうしてですか!」

 

「どうしてもこうしてもそれがここのルールだ。どうしても入りたければ事前に議会を通して貰ってからだ。」

 

 サツキとは笑顔で話していた男性はアリサ達が極東の名前を出すと途端に態度を翻し、断固拒否。横目でサツキを見てもこれ以上は何もできないと表情から見てとれる。

 どうしたものかと悩んでいるところに何処からか助け船が差し出される。

 

「その者達は私の客人だ。通してやれ!」

 

「八雲さん、ただいま!」

 

「どうやらサツキはその者達に助けられたようだな。ようこそネモス·ディアナへ。

何か細かいことがあれば那智に伝えておけ!」

 

 助け船を出したのは初老の男性でサツキとは親しい間柄らしい。何はともあれ助けられた三人は男性の後を付いていく。

 

 

 

 

 

「あれってゴッドイーターだよな?」

 

「なんでこんな所に?」

 

 道中、居住区内の住民に批判的な目と声で見られアリサは先ほどの門番同様の出来事に内心驚きを隠せない。隣にはユージが居るが何か考え事をしているのか批判の目にも微動だにしない。

 そんなユージを尻目にソーマが疑問をぶつける。

 

「おい、じーさん。ここの人間は俺たちに対して少なからず批判的なようだが、この外壁は神機使いが倒したアラガミのコアから作られているし、常時アップデートが必要なハズだ。それなのにこの神機使いに対しての風当たりはなんだ?まさかそんな常識も知らないのか?」

 

「そ、それは······」

 

「抑えろ、ソーマ。八雲さん、部下が失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません」

 

 ソーマの疑問も尤もだが、ここで言っても仕方がないとユージが嗜め八雲に謝ると一台のジープがやって来て中から屈強そうな男が二名現れた。見るからに良くない展開であることは明らかだ。

 

「極東支部の方々ですね。こちらに来ていただきたい。」

 

「おい、この者達は俺の客だ。」

 

「八雲さん、申し訳ありません。これは総帥の命なのでいくらあなたの命令でも従えません。」

 

 どうやらここのトップの人間に呼び出されたようで三人は争いを避けるため素直に車に乗ると連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなんなるとはな···」

 

「本当、ドン引きです。」

 

「まあ、しゃあねーよ。寧ろ好都合だ。今からトップの人間に会えるんだからよ」

 

 強制連行された場所はそこの牢屋に閉じ込められた。アリサとソーマはここまでの扱いに不満が爆発寸前だがユージだけは前向きに捉えていた。その前向き思考はどこから来るのかとアリサは不思議でならなかった。

 

「もう、ユージはどうしてそんなに落ち着いて居られるんですか?さっきまでの私たちに対しての冷たい態度に腹が立たないんですか?」

 

「別に。こんなのは外部居住区で慣れている。二人は知らないかもしれないけど、俺も最初は外部居住区の人達からは嫌われていた。それもここ以上にね。だけど、そんなことで挫けても仕方ないからな。地道な努力で少しずつ認めて貰って今のような信頼関係が築き上げられている。人との関わりと言うのはそれの積み重ねで初めて成り立つもんだ。それはアリサとソーマが一番よく知っている事だろ?」

 

 ユージの言うことは尤もだ。彼も初めは外部居住区では嫌われた存在。それでも挫けずに接し続けた事で実を結び、今がある。その事はアリサとソーマも身を以て体験している。彼の言葉に二人は納得したのか頷く。

 

「焦ってたって仕方ない。ここは気長に行こう。」

 

「お前は呑気なものだな。犯罪者扱いされているのに。」

 

「ソーマの言う通りです。ユージはもうちょっと怒るってことを学んだ方がいいと思います。」

 

「バーカ、俺がいつこのままで居ると言った?あくまでも一時的だ。中に入れたのならもうここに居座る必要はない。さっさとこいつをぶっ壊して出るぞ!」

 

「え、でもどうやって出るんですか?」

 

「決まってるだろ?神機で斬るんだよ。」

 

「何いってるんですか?斬れるわけないじゃないですか!」

 

「なんでそんな決めつけるんだよ?やってみなければ分からねえだろ。やる前から諦めるな。諦めるならやってから諦めろ!」

 

 鉄格子を斬るとの言葉に反論するアリサに強い口調で諭すとユージは自分の神機に接続、持ち前の感応能力を最大限に引き出すとそれを力に赤黒いオラクルを刀身に宿し分厚い鉄格子を斬りつける。

 すると鋭い切れ味の刀身であっさりと道を切り開いた。

 

「す、凄い···」

 

「ほらな、言っただろ?やってみなければ分からないって。」

 

「いや、今のは強引過ぎるだろ。」

 

「うるさい、さっさと行くぞ!」

 

 鉄格子を壊し、牢屋から脱獄した三人は廊下を歩く。するとけたたましくサイレンが鳴り響く。このサイレンが何を意味するかはゴッドイーターなら誰もが知っている。

 

「どうやらアラガミが侵入してきたようだな。」

 

「ああ。一先ず住人の避難誘導をしつつ討伐しよう。」

 

「分かりました。···あれ?あの人って······」

 

 手分けして住人の避難誘導とアラガミの討伐に当たろうとした時、アリサが目の前に居る少女に気付く。両手には手錠を嵌められているが右腕には赤い腕輪が確認できる。

 アリサが少女に触ろうとすると鋭い殺気を放ちアリサを牽制。

 

「私に触るな!」

 

 そういう彼女の腕にまるで刺青のように黒い文様が浮かび上がっており、よく見れば首筋にも見受けられる。ユージにはこの模様が何を意味するかが直ぐに分かったのか一瞬考えるが今は住人の避難が先だと少女を置いて走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサ、ソーマは住人の避難誘導を。」

 

「分かった。」

 

「ユージはどうするんですか?」

 

「決まってるだろ?アラガミを倒すんだよ。住人の避難任せた」

 

 二人に避難誘導を任せユージはジープに乗るとアクセルを踏むと同時にギアをトップに一気に上げ加速、片手で運転しながら右手に持った神機で周囲のアラガミを捕喰、リザーブでオラクルを最大まで溜めると一発ずつメテオを一定の間隔で打ち上げ、少しして上空からオラクルの雨がアラガミに容赦なく降り注ぎ次々に倒れる。

 倒れたのを確認せずに居住区に入ると既に何人かは犠牲になっているが避難は出来ているのかアラガミしか確認できない。

 一応念のため逃げ遅れた人が居ないか回るが居ないため、侵入してきたアラガミの群れを殲滅。今のユージにとってアラガミの群れを殲滅するのは非常に容易い。

 たった数分足らずでアラガミの群れを全て倒すとアリサとソーマに無線で報告を済ませさっきの場所に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「数人犠牲者が出たのは残念だけど、アラガミの群れは全部倒したから一先ず安全は確保出来た。」

 

「出来れば全員救うことが出来れば良かったです。」

 

「そうだな···」

 

 アラガミを全部倒したとはいえ、犠牲者が出たのは事実であり自分達の力が及ばなかったと反省。ゴッドイーターとして人類を守ると言うのは簡単だが、それを実行することはとても難しく複雑だと痛感。これを教訓としてこれから活動していかなければ人類の未来はない。今一度胸に刻む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第59話 交渉

 アラガミの襲撃から逃れた住人は不安の色が見え隠れするが、全員がそれぞれの家に戻り辺りは静まり返る。

 

 ユージ達は八雲の家を訪ね、色々話をしていると八雲は一枚の写真を見せる。その写真の人物にどこか見覚えがあると記憶のなかを探ると直ぐに答えが導き出される。

 

「これ、ゲンさんですね。若い頃の」

 

「ああ。あいつとは元々同じ部隊の戦友でな、神機の適合が出来たからと早々に抜けたよ。その後はお前さん達がよく知っているはずだ。」

 

「はい。今は相談役として新人の研修の補佐をされています。」

 

「そうか。元気にしているか。」

 

 昔の戦友が元気にしていると知り、八雲は嬉しそうな表情をする。その空気をぶち壊すようにユージの携帯が鳴り、一言謝るとユージは外に出る。

 

 

 

 

「あ、ユータか?悪い、ちょっと色々あってさ暫く戻れそうにない。明日旅立つのに見送りの一つもしてやれなくて悪かった。」

 

《仕事なんだから良いよ。それよりさっきケインさんから電話があって、兄貴に知らせたいことがあるから連絡しろって来たよ》

 

「マジか。分かった。じゃあブラッドに行っても元気にしろよ?」

 

《もう子供じゃないよ。またな》

 

「おう、またな」

 

 電話の相手はユータからだった。本当なら今日戻って明日アナグラを出るユータを見送る予定が出来なくなったことを詫びる。そしてユータからケインに連絡しろと伝言を受けとり、直ぐに電話をかける。

 ケインと連絡が着くとそこで重要な情報をキャッチ、ユージもここで起きたことを伝え携帯を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、電話誰からでした?」

 

「ユータからだった。明日出発だってのに見送りの一つも出来なくて謝った。」

 

「そうですか。明日でしたね。」

 

「ああ。あいつも色々思うところがあったらしいからな。兄として何もしてやれなかったけど、あいつの進む道を信じるさ。」

 

「そういやユータの奴ブラッドに入るんだったな。」

 

「確か本部の直轄の部隊らしいけど、俺も詳しくは知らないんだよね。何しろフライアっていうでかい要塞で常に移動しているから情報が掴めない。ただ、最近報告されている新種のアラガミの感応能力に対抗できる唯一の部隊だってのは分かってる。」

 

「なんか如何にも特殊って感じがしますね。」

 

 ユータの電話からブラッドの話題になるが分からない事が多く、頭を悩ませていた。それも本部の直轄部隊と言われる所以なのだろうがどうにも薄気味悪い。しかし今はブラッドよりも目の前の事に向き合わなければと八雲に疑問を投げ掛ける。

 

「八雲さん、どうしてここにアーサソールが居るんですか?さっき牢屋の近くで見た少女はマルグリット、紛れもなく元アーサソール部隊。ガーランドによるクーデター事件のことはニュースで耳にして居るはず。勿論、アーサソール部隊の事も」

 

「なんだもう会っていたのか。いくら綺麗事を言っても神機使いが居ないと今の生活は成り立たん。彼女は例外なんだ。」

 

「ふっ、本当のことは言いたくない、か。まあ、良いでしょう。なら私の方からお話しましょう。」

 

 本当のことを知っているであろう八雲が言い淀む姿を見てユージは冷静に攻め立てる。

 

「まず、ここの事をサツキさんがミニエイジスと言っていましたが、それがもう答えです。擁するにここのアラガミ装甲壁はエイジスから盗んだコアから作られたものです。違いますか?」

 

「そ、そうだ。こっそりくすねたものだ。」

 

「エイジス事件が終息後、那智総帥はエイジス島に頻繁に侵入してはノヴァに蓄えられた様々なアラガミから集められたコアを盗みだし、ここの装甲壁を作り上げアップデートまで行った。ところがエイジスの警備がある時期以降厳しくなり、神機使いを雇おうと意見が出た。しかし、ここは極東或いは本部から見捨てられた人たちの集まりであるがゆえにいくら生きるためとはいえ神機使いを雇うことに反発する者が居た。その時に目をつけたのが当事ガーランドのクーデター事件によって解散を強いられたアーサソール部隊だが、ここ最近の赤い雨によって黒蛛病に観戦したため他の住民に感染しないよう牢屋に拘束した、まあこんな所でしょうか?」

 

「流石は極東支部の支部長を努めるだけはある。見事な洞察力じゃ。あんたの言う通り、彼女は黒蛛病に感染した。この病気の治療法が確立されてない今、感染すれば確実に死ぬ。しかし、彼女はゴッドイーターだから一般人とは違い多少は病気の進行が抑えられている。」

 

「そ、そんな。いくら病気だからってあんな手錠を嵌めて閉じ込めるなんて酷いです。」

 

「これもみんなを護るために仕方なかったんだ。」

 

 ユージの説明により、マルグリットが黒蛛病を発症したために牢屋に閉じ込められていたと知り、アリサは憤慨。八雲はそれに対して何も言えなかった。どんな理由であれ人権を無視した行為であると理解しているからだ。

 だが、一つ新たな疑問が生じる。

 

「八雲さん、ここの住人は赤い雨と黒蛛病についてはどこまで知っているんですか?」

 

「一応、赤い雨には気を付けろと通達があるくらいだ。」

 

「やっぱりですか」

 

「どう言うことですか?赤い雨と黒蛛病のことは極東から公表されているはずではないんですか?」

 

「確かにそれは俺が公表した。だけど、それが必ずしも一般人にまで知らされているか?と言えばそうじゃない。」

 

「え?」

 

「外部居住区の場合は俺と住民との間で情報の共有が出来ているから被害が出てないけど、ここはうちらを嫌っているから公表された所で住民には知らされていないんだろう。勿論、そんな事ができるのは那智総帥を含めたここの上層部の人間だろうな。連中が情報を揉み消しているからいくら俺が公表した所で住民に大事な情報が降りることは確実にない。」

 

「そんなバカな事があっていいんですか?」

 

 内情を知れば知るほど馬鹿馬鹿しくアリサは怒りがこみ上げる。しかし、八雲に言ったところで何の解決にもならない。改善させるには那須を問い詰めるしかないと三人の腹は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びネモス·ディアナの本拠地に戻ってきた三人は会議中との情報を掴み議会場に乗り込んだ。突然の乱入に場内は騒然とし、三人を睨み付ける者も。しかし、そんな事には見向きもせずにユージが話始める。

 

「会議中押し掛けて申し訳ありません。私、極東支部支部長のユージと申します。後ろに居るのは部下のアリサとソーマです。今回我々が訪れたのはある交渉をするためです。」

 

「交渉?」

 

「ええ。あなたがネモス·ディアナのトップ葦原那智総帥ですね?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「我々は、ただ今拘束されているマルグリットの引き渡しを要求します。」

 

「どういうつもりだ?彼女は黒蛛病に感染しているんだ。あの病気に感染すればどうなることくらいあんたらでも分かるだろう。」

 

「ええ、知ってます。なので極東支部で治療します。黒蛛病の治療法を我々も早く発見し確立したいので。」

 

「良い話ではあるがそれだと此方にはメリットがない。それについてはどうするつもりだ?」

 

「彼女を引き渡す代わりに我々がここに残って皆さんをアラガミの脅威から救いだし、安心して暮らせる環境を作り出すことをお約束します。」

 

 ユージの考えはアリサとソーマも同じだった。あのままマルグリットを問い詰める位なら自分達がアラガミから護れば良い。単純なことではあるがこれがクレイドルの役割だ。

 

 場内は未だ騒然としている中、那智は黙って考える。実は那智は裏で本部と繋がっており、とある秘密兵器を譲り受ける交渉に成功、近くその実験が行われることになっていた。そこに来て今回のユージ達の交渉とあって、悩みに悩んだ末に出した結論は···

 

「悪いが今回は見送らせて貰おう。実は今度本部の方から秘密兵器の打診があって、それの実験が行われることになっている。何でも本部が研究に研究を重ねて作り上げた対アラガミ用の新兵器みたいなんだが、私もまだ見たこともない。そこでだ、その新兵器と君達とで勝負をしていただきたい。」

 

「勝負だと?」

 

「なに、そんな難しいことではない。単純にどちらがアラガミを多くそして効率的に倒すことが出来るのかを実際に見せて頂きたい。その結果次第で交渉に応じるとしよう。」

 

「良いでしょう。我々としてもその新兵器を見てみたいので、是非ともお願いします。」

 

「分かった。諸君らもこれならば文句あるまい?」

 

 那智の提案は一見無茶苦茶ではあるが、ユージ達も本部が作り上げたという新兵器を見てみたいと考えこの提案を承諾、議会に参加していた人間も那智の言葉に反論する事は無かった。

 

 

 

 

 

 



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第60話 逮捕そして···

 那智の提案により本部開発の新兵器と戦うことになった三人は議会場から居住区に戻るがアリサがユージを厳しく問い詰める。

 

「ユージ、どうしてあんな提案を受けたりしたんですか?」

 

「別に俺だってあんなふざけた提案を受けるつもりは無かったよ。だけど、マルグリットと住民を護る為には受けるしか選択肢が無かったんだ。」

 

「アリサ、こいつなりに考えた上の答えだ。信じてやるしかないだろう。」

 

「それはそうですけど········あの、何か聞こえてきませんか?」

 

 そういうアリサの言葉で二人も耳を済ますと何処からか歌声が聞こえる。会話を中断し、その歌声がする方に向かうとそこには長い髪の毛の少女が歌っていた。それが何の歌かは分からないが良い歌なのと彼女の歌声が素晴らしく良いということは分かった。

 

「良い歌ですね!」

 

「あら、あなた達は極東支部の方たちですね?先程は父が大変失礼しました」

 

「父ですか?」

 

「あ、申し遅れました。私、芦原ユノ。葦原那智は私の父です。」

 

「そうでしたか。私はアリサ·イリーニチナ·アミエーラです。」

 

「ソーマ·シックザールだ。」

 

「極東支部の支部長ユージです。」

 

 自己紹介をしたところでユノが那智とは違うと三人は感じる。

 

「さっきの歌素敵な歌声で思わずうっとりしました。」

 

「ありがとう。でも、自信がなくて。本当は世界中を回って歌でみんなを元気にしたいんですけど。」

 

「そんなことないですよ。とっても素敵な事だと思います。ですよね、ユージ?」

 

「そうだね。もっと自信をもって良いと思います。」

 

「ありがとう。頑張ってみるわ!」

 

 そう言うとユノは何処かへと行ってしまった。残された三人は八雲の家に戻り、ユージの作る食事で腹を満たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、那智が提案した新兵器との勝負の日を迎え三人は新兵器の登場を待っていた。本部が開発したとあってあんまり期待はしていないがこの勝負で負けることは許されない。負ければ交渉が破綻するどころか神機使いは使えないと烙印を押され活動の場を奪われる事は必至。そうならないためには勝つしかない。

 

 三人が待ち続けているとガシャンガシャンと大きな足音と共に巨大な鉄の塊が神機らしきものを肩に担いで歩いて来た。これが新兵器なのだろうと言わなくても理解できた。ユージも初めてみる物体に驚きを隠せず、少しカッコいいと思った。小さい頃によく見ていた戦隊物の特撮アニメで出てくるロボットになんとなく既視感を覚える。

 

「なんかカッコいいな。」

 

「え、あれがですか?」

 

「おいおい、バカにしてるのか?俺も昔は特撮アニメ見ててフィギュアよく集めてたんだぜ。いやー、懐かしいなあ。」

 

「なんか今のユージはドン引きです···」

 

「なんでだよ!良いだろ?好きだったんだから。年頃の男子ってのは大体好きなんだぞ?なあ、ソーマ。お前もそうだったろ?」

 

「いや、俺はそんなものに興味ない。コウタは好きそうだけどな。」

 

「コウタはこういうの好きそうですね。でも、ユージが好きだとは知りませんでした。」

 

「良いよ!これの良さはお前らには分からないから。······まあ、普通ならそう思うところだけど、こいつは欠陥だらけで正直に言うと何の魅力も感じねーな。」

 

 さっきまで目の前のロボットを嬉しそうに見ていた人間が言う言葉とは思えないことを言い出したユージにアリサは驚き、ソーマもユージに視線を向ける。

 

「どう言うことですか?欠陥だらけって。とてもそんな風に見えませんけど?」

 

「まあ、実際にこいつの動きを見れば分かるさ。」

 

 彼の言葉に二人は首を傾げる。

 ユージに欠陥だらけだと言われたロボットの元にマルグリットが走る。

 

「ギース、私よ。お願い、返事をして!」

 

「何、あれがギースだって?ま、まさかあのロボットを操作しているのはギースだって言うのか?」

 

「ああ、そうだ。あれこそ本部が新たに開発した神機兵だ。かなり巨大だが大型のアラガミ相手でも余裕で倒すことのできる火力を持っている。そしてあれは人間が入ることで操作が可能だ。」

 

 目の前にマルグリットがロボットに近づいているのを気にも止めずに話す那智に三人は嫌悪感を示すと共にマルグリットが必死にギースの名前を呼ぶ真意を理解する。

 ところがいくら大きな声で返事をしても外部からは聞こえないのか応答がない。それどころか神機兵は足を上げて目の前に居るマルグリット目掛けて踏み潰そうとしていた。

 

「マズイ!」

 

 マルグリットに危険が及ぶと判断したユージが直ぐ様神機兵の軸足である右足を神機で居合い切りのように斬ると機械独特の轟音と共に神機兵の足は切断されバランスを崩した神機兵は背中から後ろに倒れた。

 鮮やかな太刀筋で斬られた神機兵に那智は勿論、後ろでジープに乗って指示を出していた本部の人間に加え、アリサとソーマまでもが驚きと困惑した表情をする。

 

「ま、まさか、神機兵がたったの一撃で倒されるなんて···」

 

「こんな欠陥ロボットでぬか喜びしやがって。ったくこんな下らねえ物作ってる暇があったら一般人に情報の公開しやがれ!」

 

「き、貴様!これが我々フェンリル本部が開発した兵器だと言うことを忘れたのか?」

 

「だからどうした?」

 

「これには人類の未来が掛かっている大事な兵器なんだぞ。それをたかが小娘の命を護るために破壊など···」

 

「てめえ、もういっぺん言ってみろ!」

 

 本部の人間の言葉にユージの堪忍袋の緒がプツンと切れ、物凄い殺気を放ちながら首筋を掴む。とてつもない力で首を抑えられ男は苦しそうな表情をするがユージの握る手の力が緩む気配はない。

 

「てめえ人の命を何だと思ってるんだ?お前が今言ったたかがってのはな一度失ったら二度と戻ることのないこの世界のどんな物よりも重い大切な命だ。その命はな誰にも奪うことは許されねえんだよ!例えそれが自分自身だったとしてもな。そんな大事なことも分からない奴が人類の未来語ってるんじゃねえよ!」

 

 そう吐き捨てると更に力を込め気絶させ何処かへと投げ捨てる。そして倒れてる神機兵に近づくと頭部を神機で斬り中から気を失っているギースを引っ張り出す。

 助け出されたギースにマルグリットは抱き付くと人目を憚らず大声で泣き叫ぶ。

 

「マルグリットさん、ギースさんの事が好きなんですね。」

 

「ああ。恐らくガーランドの一件でアーサソールは解体され全員バラバラになり、元々神機使いだったギースはその才能を買われて神機兵に搭乗したんだろうな。そして、その事を知ったマルグリットはオペレーターを辞めて神機使いの道を選んだんだろう。何れ戦場で会うことを夢見て。」

 

「そうだったんですね。でも、どうしてマルグリットさんの声に気付かなかったんでしょうか?」

 

「そいつはあの男が無線で指示を出していたからだけど、ギースは精神が不安定なところがあって、多分それが出ちゃって回りが見えなくなったんだよ。」

 

「じゃあそれが治れば大丈夫ですね。」

 

「まあな。マルグリットとギースは極東で治療を施すよ。」

 

 そこまで言うと放心状態の那智にある通告を下す。

 

「葦原那智、貴方を少女監禁及び人権侵害の容疑で逮捕します。」

 

「な、逮捕だと?まるで話が違うじゃないか!あの神機兵と戦うことで交渉するという約束だったじゃないか!」

 

「約束?ふざけるな!あんたが今回の件で本部から多額の賄賂を受け取っていることは分かってるんだよ。そして何よりも何の罪もないマルグリットを病気だという理由だけで手錠で拘束、監禁。それだけで重罪だ。勿論、そこで立っている貴様らも全員逮捕する。言っておくが逃げられねえぞ?もう既にお前らは俺が呼んでおいた部下に取り囲まれているんだからな。」

 

「な、なんだ···と?」

 

 突然の逮捕状と合図で那智と本部の人間の回りはユージが呼んでおいたケインやフェデリコ等第六部隊の面々に取り囲まれており、万事休すだった。

 

 

 

 

 

 

 

「では、ジャックさん連行お願いします。」

 

「分かった。サカキ君にも連絡してあるがお前たちはこれからどうするんだ?」

 

「俺たちはここを拠点に暫く活動していきます。ここを管理している責任者達が居なくなるのとギースとマルグリットも治療が必要なので俺たちが残らないと住人の安全が脅かされますから。サカキ博士にはそのようにお伝えください。」

 

「うむ。お前が決めたことだ。ここの住民の皆さんの心の支えとなってしっかりやっていくんだ。良いな?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「では、私はこれで。」

 

 ジャックに那智達を引き渡し、見送るとケイン達にも感謝する。

 

「お前らもありがとな。お陰でかなり助かったよ」

 

「気にするな。俺たちダチだからな。当然だ。それよりあの二人はうちらで預かるけど良いのか?本部が黙ってないだろ?」

 

「そこは大丈夫だ。本部なんかよりも二人の命の方が遥かに大事だ。あんな奴ら黙らせておくから心配するな。お前たちはお前たちで思う存分暴れてくれ!」

 

「ユージ先輩、私たち行きますね。今度戻ってきたら一緒にミッション行きましょう!」

 

「おう、分かった。約束だ。」

 

 ギースとマルグリットを乗せケイン達はアナグラに戻り、治療が施される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一連の事件を解決し、ユージは大きく伸びをする。その隣では予想外の展開に未だにどうなっているのかと困惑した表情のアリサとソーマ、そしてサツキと八雲の姿が。

 四人はそれぞれが抱いた疑問をぶつける。

 

「ユージ、どうして逮捕したんですか?」

 

「どうしてって、犯罪犯したからに決まってるじゃん。まあ、これはユノの為でもあるんだけどね。」

 

「ユノさんのですか?」

 

「ああ。ユノは父親がやっている行為にとても責任を感じている。だから歌で償おうとしているけど、その事に当の本人は気づかないばかりか更に暴走を続けていたんだ。初めて会ったときの彼女の表情を見て父親を逮捕して自分が犯した罪を償ってから父親としてユノと向き合って欲しいと思ったんだ。」

 

「そこまで考えていただなんてユージらしいです。」

 

「ユノには辛いかも知れないけど、こればかりは彼女自身で乗り越えて貰わないといけないからサツキさん、彼女の夢を叶えるため協力お願いできますか?」

 

「ええ、勿論ですよ。今回の支部長さんの活躍はバッチリ見させて貰いました。スクープさせて貰いますよ?」

 

「そのくらい全然構いません。今回の件で我々の至らない所が改めて分かり、支部長としてこれからしっかりやっていくことをお約束します。」

 

「支部長さんならきっと皆さんのことを護ってくれると信じてます。」

 

「ありがとうございます。八雲さん、貴方にもたくさん助けて頂きました。改めて感謝します。ありがとうございます!」

 

「いやいや、私はなにもしてない。全てお前さん方がやったんだ。感謝するのは私の方だ。息子を那智を助けてくれてありがとう。」

 

 八雲としても息子の暴走を止められなかった負い目があるのか逮捕したことに感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 那智の逮捕から二時間後、ユージは集まった住民に対して改めて極東が住民にしてきた数々の行為の謝罪とその償いとして、住民の安全と豊かな暮らしを保証すると宣言。突然の謝罪に住民は戸惑いと疑いの目を向けるがユージの真剣な表情を見て嘘ではなく心から来るものだと分かると何処からともなく拍手が鳴り、次第に大きくなると最後には全員が大きな拍手でユージ達を受け入れた。

 今まで批判的だった態度が一変、歓迎の態度に変わりユージだけでなくアリサも嬉しさのあまり涙を浮かべる。ここまで頑張った甲斐があったと努力が報われた瞬間であった。

 

「皆さん、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」

 

「私からもよろしくお願いします!」

 

「おう、よろしくな。兄ちゃんたち。」

 

「ワシら今まであんたらのこと恨んできたけど、これまでのあんたらの行動で考えが変わった。あんたらなら信頼できる。しっかり頼むぜ?」

 

「はい。一生懸命やらせて頂きます!その第一歩として、今から食事会を開きます。よかったら皆さん食べていってください。」

 

 と言うわけで急遽、食事会が開かれる事となりユージが極東から持ってきた材料から自慢の料理の腕を披露。テーブルには様々な料理がバイキング形式で並べられ全員が好きな物を好きなだけ皿に盛り、席につくと食べ始めるとその完成度の高さに全員の手が休まることを忘れて食事に没頭。食事会は大盛況のまま終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、全員が寝静まる頃ユージは一人ベンチに座って星空を眺めていた。

 

(父さん、母さん、俺二人が描いていた夢ちゃんと受け継いでいるよ。今はまだ始まりに過ぎないけど、いつかきっと実現させてみるから天国でしっかり見ててくれよ?それと、ユータの事も見守ってくれよな)

 

 志半ばで亡くなった両親が描いていた夢をユージは見事に引き継ぎ実現させるための一ページを捲っていた。まだ序章に過ぎないがやがてそれが大きく世界中に拡げられるように頑張ると天国から見ているであろう両親に誓う。

 

「あの、隣良いですか?」

 

「ああ、良いよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 不意に背後から声がして振り向くとそこにはユノが立っていた。座って良いか?と聞かれ特に断る理由もないとこれを了承。ユノは隣に座る。

 

「さっきは父を逮捕して下さってありがとうございます。」

 

「いや、そんなお礼なんて···ましてや君のお父さんを捕まえたんだから怒っても良いんだよ?」

 

「いいえ、父は悪いことしたんですから逮捕は当然です。それよりもこれまで父がしてきたことをどうやって償えば良いのでしょうか?」

 

「償いなんて要らないよ。」

 

「え、でも、それでは私の気持ちが···」

 

「ユノ、君は悪いことしてないんだから償いなんて要らないの。それは君のお父さんがすることだから。君がやるべき事はみんなを笑顔にする事だと思うよ?」

 

「でも、私自信が······」

 

 責任感の大きさからユノは歌に自信が持てずに居た。それを見たユージはある話をする。

 

「ユノ、今君が描いている夢があるなら今やるべきだと思う。」

 

「え?」

 

「やりたいことがあるなら直ぐにやらないときっと後悔する。それに今やれないことなんてのはいつまでたっても出来ないままだ。失敗を恐れず一歩踏み出してみたらどうかな?」

 

「失敗を恐れず···」

 

「そう。俺も今、描いている夢を叶えるためここにいる。まあ、まだ始まったばかりなんだけどね。だからさ、ユノもやれるだけやってみよう!諦めるのはそれからでも遅くはないよ。」

 

「ユージさん、ありがとうございます。私やります!歌で世界中の人を笑顔にして魅せます。見ててくださいね。私どんな事があっても挫けませんから。」

 

「うん。俺応援してるから頑張って!」

 

「はい、頑張ります!って、あら?」

 

 ユージに励まされ背中を押されたユノは夢に向かって進むことを決意、立ち上がってお礼を言ったところで何かに気付く。

 

「うん?何かあったの?」

 

「あ、いえ、ユージさんにご用があるみたいです。」

 

「俺に?···········ヤバイ!?」

 

 ユノの言葉で後ろを向くとそこには冷たい表情のアリサの姿があり、ユージは背筋が凍りつく。アリサはユノに対し笑顔で頭を下げるとユノは自分の家に帰り、ベンチには二人だけとなりユージはごくりと唾を飲み込みこれから起こるであろう災難に覚悟を決める。

 

「こんな真夜中に女の子を連れて何を話して居たんですか?」

 

「ま、まてまてまてまて。落ち着け!これには色々複雑な事情があるんだ。」

 

「そんな言い訳が通用すると思ってるんですか?」

 

「あははは······ダメだこりゃ」

 

 どうにかこの場をやり過ごそうと試みるが無理だと分かると諦める。そしてアリサの怒号とも取れる説教が長い時間続き、ユージは耳を塞ぎどうにか耐え抜くと終わったあとはセミの脱け殻のように力が抜け、アリサに引っ張られるようにして南雲の家まで戻っていった。

 尚、家に戻ったユージがまた夜中に抜け出さないように前から抱きついてしがみつくとしっかり固定、その日を境にユージが夜中に抜け出すことは無くなった。

 

(これは···嬉しいけど、トイレとかどうするんだ?)



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第61話 帰艦

 ネモス·ディアナを新たな拠点として活動を初めてから数日が過ぎ、住民との信頼関係を築きつつあるなかユージは一旦アナグラに戻ることにした。と言うのも支部長という立場上そちらの業務を疎かにするわけには行かないのとアナグラの様子も確認しておきたいからと考えていた。

 そこでアリサとソーマを残して一人アナグラへと戻って来ると自分がアナグラを出る前と雰囲気がガラリと変わっていた。

 

 色々見て回った中で一番驚いたのはロビーの一角に部屋が出来ており、中に入るとバーのような雰囲気ではあるが、調理器具が揃えられた立派なキッチンと各種娯楽が立ち並ぶスペースになっていたこと。中には既に何人か寛いでいる。

 何が起きたのかとユージはヒバリに確認を取ると直ぐに疑問は解消された。

 

「ヒバリさん、俺が居ない間に随分と変わったみたいだけど、あのスペースはどうしたの?」

 

「実はサカキ博士の立案で憩いの場を作ろうって話になりまして、皆さんの意見を集めた結果、ラウンジとしてロビーの余った区画を改築して一昨日完成しました」

 

「へえ~、そうなんだ。でも、こういうのあると良いよね。これなら態々他人の部屋に押し掛けてまで食事を摂る必要もないし、何しろ娯楽があるってのが一番の魅力だね。」

 

「ユージさんならきっとそう言うと思いました。ですが、折角キッチンを作ったのですが、ユージさんもユータさんもいらっしゃらないので肝心の料理を作る人が居なくてまだ一度も機能していないんです。」

 

「あははは···分かった。料理については考えておくから取り敢えず今は俺が料理を担当するよ。教えてくれてありがとう、ヒバリさん。じゃあ、業務頑張って!」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

 

 ヒバリから情報を貰い、調理師が決まるまで自分が調理を担当することで解決すると、早速ラウンジに入りキッチンを色々物色。そして何か思い付くと一旦自室に戻り、冷蔵庫から材料を抱えラウンジに戻ってきた。

 材料を抱え戻ってくるのを見た人間は彼がこれから何をするのか理解、そして次第に漂う調理中の独特の匂いに腹の虫が鳴り出しラウンジには続々と人が押し寄せそこはちょっとしたレストランに様変わり。

 

 本日のメニューはエビチリ、プリプリの海老にピリ辛のチリソースが絶妙に絡みご飯が進む大人気メニュー。久々の本格的な食事とあって日々の激務で心身共に疲れている神機使いにとって何よりの御馳走。満足するまで食べると徐々に人が減り落ち着くと今度は歴戦の神機使いが任務から戻り匂いに誘われてラウンジに入るや否や調理している人物をみて直ぐに空いた席に座る。

 

「ユージ、帰ってきてたんだ。任務から戻ってきたらいい匂いがするから入ったらビックリしたよ。」

 

「つい今しがただよ。はい、コウタ任務お疲れさん!」

 

「お、サンキュー。」

 

 出来立てのエビチリが置かれるとコウタは早速食べ始め久々の味に箸が止まらない。それをユージは嬉しそうに見ている。

 

「どう、お味の方は。旨い?」

 

「旨いに決まってるだろ。いやー、これでまたまともな食事が摂れるよ。」

 

「そんな大袈裟な。」

 

「いいや、お前が任務に行った次の日にはユータもフライアに行ったから作る人が居なくて困ってたんだぞ。」

 

「自分で作ればいいだろうが。肉じゃが作れるんだしさ。」

 

「疲れて作る気になれないって。隊長ってこんなに疲れるんだな。」

 

「まあ、俺は神機使いになった頃から隊長やっていたから慣れたけど、初めはやっぱり大変だった。」

 

「お前でもそんな時あったの?」

 

 コウタにユージは今まで話したことのない新人の頃の葛藤を赤裸々に語り始め、初めて聞くユージの過去にコウタは驚きを隠せない。

 

「当たり前だ。俺だって完璧じゃないから最初の頃は神機使いになりたてだったことも相まって一人で泣いてた。今は笑って話せるけど、あの頃は見えないプレッシャーに押し潰されて立ち直るのに随分と掛かったよ。」

 

「初めて聞くんだけど。」

 

「アリサにも言ったことないからな。まあ、でもさその時にケイン達が手を差し伸べてくれて「全員で支え合えば良いんだ」って教えられたんだ。そこから自分一人で背負い込むことは辞めて今がある。だからリンドウさんから隊長を引き継いでもその気持ちは忘れずに過ごしてきた。」

 

「へえ~、でも俺らが知っているお前は無茶ばっかりしてるけどな。あの時だってそう。マータの群れを相手に一人で戦うとか正気かよ!って思った。」

 

「あれは絶対的な自信があったから全然無茶じゃないよ。マータとはロシアに旅行に行っていたときに偶々戦っていたからね。あの程度なら余裕。今なら一分であの時の群れ全滅出来るぞ!」

 

「マジかよ···なんか俺、お前が化け物に見えてくる。」

 

「うるせえよ。」

 

 これまでも彼の実力が凄いことは知っていたが今しれっと恐ろしい事を言った彼を化け物と評し、ユージはツッコム。

 しかし、そんな事をすれば直ぐにアリサの耳に入り、地獄を味わうことになるのは日の出を見るよりも明らか。

 

「でも、今は無茶したら直ぐにアリサに説教されるからムリだろ。」

 

「それは否定できないね。あいつが怒るとマジ怖いからな。前に夜中にユータとこっそり抜け出した時も凄い剣幕だったし、こないだだってそう。それ以来、夜中に抜け出さないように抱きつかれたまま寝てる。」

 

「それは大変だな。って、最後何気に凄いこと言ってるぞ?」

 

「ああ···、まあ大丈夫だろ。今はコウタしか居ないからお前がバラさなければどうとでもなる。」

 

「俺、そういう趣味ないから心配するな!」

 

 何気に爆弾発言をしてしまったが幸いにもコウタしか居ないのとコウタの口が堅いことから気にする必要はないと安心。

 

 

 その後、他愛もない話から一変してコウタの悩み相談室に様変わり。コウタの隊長としての苦悩をユージは黙って聞く。理由は勿論あの二人の新人。

 

「と言う訳なんだ。お前が居なくなってから俺なりに何とかやってるつもりなんだけど全然上手く行かないんだよ。お前ならこういうときどうするかなんて答え直ぐに出ると思うけど、俺にはどうしても答えが出てこない。俺ってやっぱり隊長向いてないのかな?」

 

「バーカ、そんな訳ないだろ?お前は物事を難しく考えすぎなんだよ。確かにあの二人の仲は相当悪い。だけどよく見てみろ?普段は仲が悪くても戦場では抜群のコンビネーションでアラガミを圧倒している。まだまだ粗削りな部分は多いけど、そこの所は評価しても良いんじゃないのか?」

 

「そう言われれば戦いの時だけは仲良いんだよな。何でだ?」

 

「まあ、そこまでは分からないけど、コウタはもっと物事を客観的に捉えろ!そうすれば他の人には分からない二人の良さが必ず見えてくるから。俺もそうして上手く行ったからお前だって出来るはずなんだ。あとはお前のやる気次第だ。」

 

「お前が言うと説得力あるな。」

 

「最初の頃のアリサで言うなら、「旧型は旧型なりに頑張って頂ければいいと思います」だな。」

 

「ブハッ!?いきなりそれはヤバイ。でも、お前の言う通りだよな。俺は俺なりに二人を纏めてみるよ。」

 

「そうだ。お前なら絶対に出来る。あ、でも、今言ったことはアリサには絶対言うなよ?バレたら確実に怒られるから。」

 

「分かってるよ。じゃあ、レポート書いてくるよ。」

 

「おう、頑張れよ!」

 

 隊長として苦悩するコウタを励ましどうにか立ち直せるが今口に出したアリサの黒歴史がバレないよう心の中で祈っていた。口が堅いコウタなら大丈夫だとたかをくくっているユージの見えないところで今の会話を聞いていたソフィアは悪戯な笑みを浮かべると静かにラウンジを離れ、早速アリサに告げ口する。

 

 そして二日後拠点に戻ったユージはアリサに呼び出され行くと説教が始まり、どうなっているのだと困惑することに。

 

「ユージ、あなたアナグラで私が昔言っていたことをコウタに言ったらしいんですってね?」

 

「はあ?何でお前がそれを知ってるんだよ!まさかコウタが言うはずないし···」

 

「誰が言ったとかはどうでもいいんです。私が思い出したくないことをさらっと言うことが問題なんです!」

 

「いや、あれはコウタを勇気づける為だから···そんなに怒ることないだろ?」

 

「いいえ、ダメです。今日と言う今日は許しませんから!覚悟してください!」

 

「お、おい、止めろ!朝っぱらから何をする気だ?」

 

「大人しくしなさい!あなたに拒否する権利はありません。」

 

 ドス黒いオーラで迫ってくるアリサをどうにか宥めるが効果がなく、上からのし掛かられて身動きが取れなくなった。それをいいことに彼の体を抱き締めると口紅で紅く染まった唇で彼の体のあらゆる箇所に大胆にそして激しく濃厚な口付けを施し、口付けされた箇所にはキスマークが着きそれが一ヶ所だけでなく何ヵ所にも及んだ。

 

 

 

 

 

 

 朝から濃密なキスをされてヘトヘトなユージだがアリサによる刑の執行が止む気配がないまま時間だけが過ぎ、流石に限界が来たユージは僅かに動く右手で未だにキスマークを着けているアリサの胸に手を伸ばし、軽く触れると優しく揉む。

 するとキスをする口から甘い吐息が漏れ、キスが中断。これで助かったと思ったユージだったが彼女の表情を見て今の行動がダメだったと後悔。

 

 アリサの顔を見るとキスのし過ぎで既にウットリしていたところにユージに胸を揉まれた事で我満の限界を迎え、既に離れた彼の右手を握ると強引に胸まで引っ張り、触れさせる。そして甘い吐息を漏らしながら彼を誘う。

 

「···もう、心の準備は出来てます···」

 

「は?何言ってるんだ。」

 

「何って決まってるじゃないですか···欲しいんです。ユージのこれが···」

 

 アリサの言葉が何を意味するのかは分かっているが朝からするのはどうなのか?と思っていると既に熱く滾ったモノを服越しではあるが不意に握られ完全にヤバイと判断。必死に止めようとあれこれ駆使するが、今のアリサは聞く耳持たず無視される。

 

「お、おい、アリサ?落ち着け!落ち着くんだ。ここは確かに俺とアリサだけの部屋だけど、何も朝からやることないだろ?」

 

「二人だけなんですから良いじゃないですか。それに言ったはずです。あなたに拒否する権利はないって。」

 

「言ったよ、言ったけども今するのはどうかと思うけど?」

 

「ダメです、私がしてくださいと頼んでるんですから素直にしたがってください。差もないと······」

 

「お、おい···そこを握るな···もう少しで爆発するところだったじゃないか。」

 

「そうですか。ではもっと強く激しくしたら···どうなりますか?」

 

「バカ、そんなことしたら······」

 

 強く握られユージの体はガクガク震えだし、肩で息をするほどぐったり。

 

「あれ?そんなに気持ちよかったですか?」

 

「アリサが強く握ったりするからだろ···」

 

「気持ちよかったんですね。ではここはどうですか?」

 

「も、もう止めろ···これ以上は俺の理性が···」

 

「理性が···何ですか?聞こえませんよ。」

 

「理性が···クソッ!」

 

「ひゃっ!そ···そこは···」

 

「さっきまでのお返しだ。」

 

 アリサに強引に誘われたが今度はユージが反撃と胸を揉み、硬くなった先端に指を触れるとビクンと反応、甘い吐息混じりに声が漏れ出す。

 

「···もう···いきなりそこはダメです······」

 

「アリサから誘っておいてその言いぐさはないだろ?ここまでされて黙ってる訳にもいかない。今日はとことんやってやるから覚悟しろよ?」

 

「それは···こっちの台詞です。」

 

 完全にスイッチが付いた二人は口付けを交わすがいつものキスとは違い、舌を絡ませピチャピチャと卑猥な水音が脳内を刺激し二人はそのまま服を脱いで生まれたままの姿になり甘い体温に触れて優しさを分け合う。そして時間を忘れて心行くまで二人だけの濃密な行為を満喫する。




最後ギリギリR15で載せられる?もしダメだったら書き直します。

ちなみに今回で第三章は終わって、次回からブラッドが始まります。ユータをメインとしてこれからは物語が続きます。


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第四章 第62話 第一歩

ブラッド編です


 緊張の面持ちで立っていた。今日から始まる新しい生活に期待と不安が脈をうち本当に大丈夫かな?とその少年は立っていた。するとスピーカーから女性の声で説明があり、目の前にある機械に右腕を置くと少しの間を置いて直ぐに機械で固定され激しい痛みと共に右腕には黒い腕輪から黒いオーラが出ていた。

 

《おめでとうございます!適合試験合格です。これであなたも今日からゴッドイーターです。さあ、一緒に作りましょう!新しい秩序を···》

 

 

 

 

 

 

 

 

「噂には聞いてたけど、スッゲエ痛かったな。もう二度とやりたくないな」

 

 先程の激痛とも言える適合試験を終えて廊下を歩くのはユータ。彼は元々極東支部の技術班として約三年間働き、今日からは神機使いとして新たな第一歩を踏み出していた。

 未だに残る右腕の感覚を気にしながら歩いているとちょっとしたロビーに着き、奥にいる一人の女性を見つけると歩み寄る。

 

「適合試験お疲れ様でした。現在は適合後の確認が行われておりますので訓練などの任務遂行は出来ません。

申し遅れました、フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュと言います。今後は私が何かとお伝えしますのでよろしくお願いします!」

 

「俺はユータです。名字はないから下の名前だけで構いません。これからどうすれば良いですか?」

 

「今後は教導に入ります。ですが、開始時刻まで時間に余裕がありますので軽く施設を見て回ると宜しいかと思います。」

 

「分かりました。では、フランさんよろしくお願いします!」

 

 恐らく今まで会った中で一番長いであろう名前のフランから今後の予定を確認するとアドバイス通りに施設を見学することに。

 

 

 

 

「ここは極東に比べたらそんなに広くないんだな。しかも殺風景だし、なんか不気味だ。」

 

 少し歩くだけで極東とは全く異なる雰囲気にユータは不気味に感じていた。極東ではいつも賑やかな空気があったために余計にそう感じるのだが、この空気に慣れなければならないと思うと少しホームシックになりそうだと不安が過る。

 

 そうこうしているうちに辿り着いたのはうって変わって緑の多い庭園。なんと言うか落ち着くのは植物が醸し出すマイナスイオンが起因しているのだろう。辺りを見渡すと少し奥にある大きな木の下で腰かけている一人の男性を見付ける。

 

「い居場所だろう?」

 

「はい。なんだか心が落ち着きます。」

 

「お前もそう思うか。俺は暇なときはこうして居るのが好きで、本を読んだり昼寝をしたり。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺の名前はジュリウス·ヴィスコンティ、これから所属するブラッドの隊長だ。」

 

「今日からブラッドに配属されましたユータです。よろしくお願いします!」

 

 目の前のジュリウスが隊長だと分かったところでジュリウスから訓練をしようと提案を受け、早速訓練室に向かった。

 

 

 

 

 

 

「これから簡単な神機の動かしかたと教導を始める。既に適合試験の時に握られていたものがお前の扱う神機だ。これからに関しては自分が切り開くことになる。では、訓練を始める!」

 

 ジュリウスから幾つか説明を受けて訓練をスタートさせた。始めは神機を握ってウォーミングアップをしながら動きかたの確認、それからデモ機を使ったアラガミと実際に戦い無事に訓練は終了。

 極東に来てから神機使いになることを目標に密かに訓練を重ねてきたユータは直ぐに神機の扱いになれ、ジュリウスを驚かせる。

 程よい汗をかき、エントランスに戻ると休憩スペースに一人の少女が座っていた。

 

「君も訓練だったの?私は香月ナナ。君は?」

 

「俺はユータ。名字はないからユータで良いよ。」

 

「そうなんだ。私もナナで良いよ。」

 

 どうやら彼女も今日からブラッドに所属らしい。やたらと露出度は高いが既に極東で慣れているユータにとって今さらどうってこともない。取り敢えず元気一杯のナナと知り合えたことは今後プラスになると考える。

 

「今訓練してたんでしょ?どうだった?」

 

「ああ、俺はここに来るまで密かに練習してたから直ぐに慣れたよ。」

 

「そうなの!ここに来る前はどこに居たの?」

 

「極東支部だよ。」

 

「ええ!極東って凄いアラガミが居ることで有名だよね?」

 

「ま、まあアラガミの動物園って呼ばれてるみたいだね。」

 

「やっぱりそうなんだ。そんな所から来るなんてユータって凄いんだね!」

 

「別に凄くはないよ。確かにアラガミの種類と数は多いし、新種も多いけどそれ以上に優秀なゴッドイーターが多いから安心だよ。」

 

 極東から来たと言っただけでこの反応にユータはそれだけ極東が一目置かれているのだと初めて知ることに。彼の兄であり支部長であるユージやその仲間のゴッドイーターの努力があって安心した生活が送れていることに改めて感謝の気持ちで一杯になる。そしてこれからは自分が誰かを護れるよう精進しようと心に誓う。

 

「あ、そうだお近づきのしるしにはい!これ!」

 

「これはなに?見たところコッペパンにおでんが挟んであるけど···」

 

 唐突に手渡されたのはコッペパンにおでんが挟んである食べ物。見るからに相性の悪そうなそれを手渡され困惑しているとナナは笑顔で説明する。

 

「ナナ特性のおでんパン!食べたら感想聴かせてね。あと残したら怒るから!」

 

 勝手に渡しておきながら厳しい言葉を投げ掛けられ放心状態のユータは一口かじってみる。すると見た目に反して味は良好で少し改良を加えれば美味しいのでは?と部屋に持ち帰ると趣味の料理の腕を活かし、おでんパンを自分なりにアレンジする。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どうだった?おでんパン食べた感想。」

 

「結構美味しかったよ。でも、改良を加えればもっと美味しくなると思って、食べてから自分なりにアレンジしてみたんだ。」

 

 訓練から戻ってきたナナに感想を聞かれ素直に評し、その上でアレンジしたおでんパンを手渡す。ユータが作ったおでんパンはナナが作った物と大きさは変わらないが見た目に違いが見受けられ、彩りが豊富で食欲をそそり、一口頬張るとナナの顔が綻ぶ。

 

「おいし~い!ええ、これ本当にユータが作ったの?」

 

「そうだよ。俺趣味で料理やってるんだ。」

 

「これ趣味でやってるレベルじゃないよ。絶対プロが作るレベルだよ。」

 

「そんなことないよ。俺なんかより上手い人なんてたくさん居るよ。でも、美味しかったみたいで良かった。まだ改良を重ねれば今よりも更に美味しくなるはずだから出来たら真っ先に食べて貰うよ?」

 

「え、ホント?約束だよ!」

 

 アレンジしたおでんパンを褒められ嬉しくなったユータは更に美味しくするからと今後完成する度にナナに食べてもらうことで合意。

 

 

 

 

 

 

「君が噂の新人さん?俺はロミオって言うんだ。」

 

 おでんパンの話で盛り上がってると見たことのない少年に話しかけられた。腕にはゴッドイーターと思わしき黒い腕輪が嵌められており、恐らく先輩に当たるのだろうとユータは感じとる。

 

「私は香月ナナ。」

 

「俺はユータです。よろしくお願いします!」

 

「俺はここに来て一年くらい経つから分からないことがあったら何でも聞いてくれ!」

 

 明るい印象のロミオに二人は直ぐに打ち解け、早速質問タイムに。後輩が緊張しないように気を使っているのかも知れないが、彼の人懐っこい雰囲気はコウタに似ているとユータは思った。コウタも明るい性格で極東に来て間もない頃、アナグラや外部居住区を案内してもらったなと当時の事を思い出す。

 ただ、ここに置いてロミオはこれまで会ったジュリウスとフランとは全く異なる性格で来たばかりのユータにとっては少しだけ不安が消えつつある。

 

「ロミオ先輩、ここにはどれくらいのゴッドイーターが居るんですか?」

 

「俺とジュリウスの二人だけだよ。極致化計画に基づく実験施設を兼ねてるからな。俺たちには血の力と言う特別な力が秘められてるんだ。」

 

 極致化計画について何を意味するのかは来る前にユージやサカキ達に聞いては見たが何も分からないと言われており、ユータも分からない。但し、そのあとの血の力に関しては少しだけ聞かされていた。

 それの確認を何も知らないナナが質問することで行う。

 

「血の力って言うのはアラガミを倒すときに必殺技が出せるんだ。ジュリウスなんて凄いんだぜ。赤い光が神機から出て、ズドーン·バーンとやっつけるんだ!」

 

 ロミオの擬音だけでは実際にはどういうものかは分からなくともそれが何を意味するのかは想像できる。それよりもその必殺技とやらを語るのに自分ではなくジュリウスを持ち出すのかが謎だ。しかし、そのあとに同じく疑問を抱いたナナの質問に対する曖昧な受け答えで彼がまだ血の力に目覚めていないのだと分かり、そう簡単に目覚めるものでないのだと確認できたことは大きな収穫となった。

 

 



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第63話 初陣

 新人の教導訓練にある程度目処がたち、ジュリウスはある決断を下し二人をこれまでの訓練室から実践形式での訓練のために外部に呼び出した。

 二人が急いでやって来る頃、無線にはフランから注意が入る。

 

《ジュリウス隊長、今回の任務に新人二人が同行するとは聞いておりませんが?》

 

「すまない、フラン。あの二人ならもう実戦に出ても問題ないと判断した。」

 

《おっしゃることは分かりました。ですが、今後は二度とこういうことの無いよう予め私に一言言ってください》

 

「分かった。善処する。」

 

《では、一人も欠けることの無いようご武運を》

 

 フランとのやり取りを聞いていたナナが確認のために聞く。

 

「あの~これって実戦ですか?」

 

「そうだ。実戦でやってこそ意味がある。お前たちなら必ずやれる。」

 

 ジュリウスの肯定とも言える言葉に今一度二人は気が引き締まる思いだ。実戦となれば相手するのは本物のアラガミ。これまでのダミーアラガミとは違い、常に死と隣り合わせ。もう一時の油断も許されない。

 

 そんな時、今のでフラグが立ったのか突如一体のオウガテイルが勢いよく飛び掛かってきた。

 

「危ない!」

 

 咄嗟の判断で前に飛び出したユータはクロガネ長刀型でジュリウスの背後に迫るオウガテイルの体を一刀両断。新人とは思えない見事な剣裁きで料理。足元には二つに分裂したオウガテイルの死体が転がっていた。

 

「間に合った···」

 

「スゴい···」

 

「え?」

 

「訓練の時から新人とは思えない動きをしていたが俺の見立て通りだな。」

 

「いいえ、偶々です。ただ夢中でやっただけなので。」

 

 ジュリウスに褒められて嬉しいものの謙遜するユータにナナは同じ同期として見習おうと考える。そんな事とは露知らずユータは初めてアラガミを斬った感触にユージ達はこんな事を毎日のように繰り返しているのだと同じ土俵に足を踏み入れたことに自分もゴッドイーターになったのだと実感が湧く。初めて神機を握ってから三年間培ってきた技術者としての血が騒ぎ、メンテナンスをやっていたせいか訓練でダミーを斬っていたとき以上に切れ味が増していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如の乱入はあったが斯くして実地訓練が始まり、戦場に降り立つと見通しのいい広場の中央で二体のオウガテイルがヴァジュラの死体を食べている。今回の討伐対象だ。

 

 まだこちらに気づいてないとはいえいざ敵を目の前にすると緊張からか神機を握る手は汗でぐっしょり。手汗をズボンで拭い去り、ユージはゆっくり背後に回ると捕喰、バーストモードに入ると直ぐ様銃に切り替え、ナナに三発アラガミバレットを受け渡すことで彼女に最大レベルのバーストモードを発動させる。

 

 背後からの奇襲にオウガテイルは一気にユータへ反撃に出る。しかしそこには既に彼の姿は無く、瞬間風が吹いたと思うと二体のオウガテイルの体は首皮一枚残して死滅。最早偶然では済まされないほど目立ってしまった。

 

「あ、私が戦う前に終わった。」

 

「ゴメン。つい力が入っちゃった。」

 

「でも、まあいいや。凄いもの見れたから、私も頑張っちゃうよ!」

 

 自分の倒すアラガミまで倒されてもナナは怒るどころかポジティブに捉えるあたり凄いなとユータは思う。そんな二人を見てジュリウスはここでブラッドに秘められた特殊な力を魅せておこうと予めフランから聞いていたポイントから戦闘音を探知し、交戦ポイントにやって来るであろうオウガテイルに備え、二人に伝える。

 

「いい機会だ。これからお前達にも血の力の片鱗を魅せてやろう。」

 

 するとオウガテイルが目の前に現れ、こちらを視界に捉えると威嚇してくる。そんな最中でも冷静にジュリウスはいつもとは違う独特の構えで精神を研ぎ澄ますと二人の体が光で包まれる。

 

「こ、これはバーストモード!?」

 

「そうだ、そしてこれが······俺達だけが扱う事のできるブラッドアーツだ。」

 

 一瞬にして二人をバーストモードにしたかと思うと独特の構えで精神を研ぎ澄ましたことにより刀身には赤黒いオラクルが宿りジュリウスは突進。大気をも切り裂くその斬撃でオウガテイルの体は無惨に切り刻まれ地面に横たわり絶命。

 このとき、ユータの中で既視感を覚えた。それは兄であるユージと同じようにジュリウスの刀身にも赤黒いオラクルが宿っていたこと。そして独特の構えから来るバーストモードの恩恵。これとは異なるがユージも精神を研ぎ澄ますと味方全員が体力と状態異常の回復の恩恵を受けていたこと。

 

 以上これらのことからユージのあの不思議な力は血の力であり、ブラッドアーツでもあると結論が出た。だが、そうなると疑問が浮かぶ。と言うのも、以前のロミオ然り、今のジュリウス然り口を揃えて言うことは血の力はブラッドだけに秘められた特別な力であり、他のゴッドイーターでは習得が出来ないのだと。それが本当であればユージのあれはどう説明をすればいいのか?と疑問は増えるばかり。

 

 ならばと隊長であるジュリウス本人に確認することに。

 

「あの~、ジュリウス隊長。質問いいですか?」

 

「なんだ?」

 

「さっき血の力とブラッドアーツは俺達ブラッドにだけに秘められた特別な力だとおっしゃってましたよね?」

 

「そうだが、それがどうかしたか?」

 

「いや、実は俺の兄貴もやってたのを何度か見てるんです。」

 

「何?それは非常に興味深い話だ。是非聞かせて貰おう。だがその前に一旦、フライアに戻るとしよう。」

 

 ユータの言葉に興味をもったジュリウスはフライアに戻ってから詳しく聞こうと提案し、三人は迎えのヘリでフライアに戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、落ち着いたところで話の続きを聞こう。」

 

「はい。俺の兄は極東支部のゴッドイーターとして第一線で戦って居ました。三年前、極東支部で起きたある事件の最中にジュリウス隊長がやったような赤黒いオラクルを刀身に宿らせた攻撃で敵を倒しました。それ以来、兄は体に染み付いたその感覚から直ぐにそれを習得して必殺技として止めを刺すときに使ってました。その段階ではまだそれだけでしたが、後に今度は当時は新型神機使いの間で話題になっていた感応現象の力を自分の意志で発生からコントロールする術を身に付けて味方全員の体力と状態異常を回復する能力に目覚めました。最後の能力はジュリウス隊長のとは異なりますけど、あれは間違いなく血の力であり、ブラッドアーツです」

 

「なるほど、お前の話が確かだとするならばそのお兄さんは相当鍛練を積んだゴッドイーターと見える。ちなみにそのお兄さんの名前は?」

 

「ユージです。今は極東支部の支部長を務めてます。」

 

「そうか。その人の事は聞いたことがある。単独で接触禁忌種や新種のアラガミの討伐をこなし、複数の大型アラガミの群れさえも一瞬で灰にする達人だと。それがお前のお兄さんだとはな。それならお前の新人離れした戦闘力も頷ける。」

 

「いえ、俺はまだ神機使いになって日が浅いので足元にも及びません。ですが、いつかは超えるべき存在なのは確かです。」

 

 今の話でユータに俄然興味が湧いたジュリウスは一度ユージにあってみたいと思った。

 その傍らで一人話に着いていけないナナは眠そうにあくびを掻く。それに気付いたからなのかこの話はまた今度することとなり、この日は自由になった。

 

 

 

 

 

 

 

 二人と別れ神機保管庫にやって来たユータは日課となった神機のメンテナンス及び強化を図ると共に携帯に掛かってきた電話に出る。電話の相手は自分が監修し製造から販売まで行っている食品会社の社長。ユージもそうだがユータも16歳にして既に有力財閥以上に資金力を得るほど売れ行きが好調で生産が追い付かない正に嬉しい悲鳴。会社側としてはここまで好調であることに喜びを隠せず、更なる新商品の開発に向けて日頃からユータとの情報交換に余念がない。

 当のユータ本人も自分が監修した物が人々に喜ばれていることが何よりの力となり新商品の開発に一層力を入れている。

 

「今度の新商品は離乳食をテーマにやっていきましょう。現在、乳幼児がミルクあるいは母乳から卒業する際に食べる離乳食の種類と数が圧倒的に不足しています。これから先、生まれてくる赤ちゃん達が安心してかつ美味しく食べられる離乳食の開発に着手したいと考えてます。」

 

《なるほど、それは確かに必要ですね。ユータさん、是非ともやりましょう!》

 

「はい。では、今度の月曜日の午後にそちらへお伺いしますがよろしいでしょうか?」

 

《ええ、大丈夫です》

 

「ありがとうございます。では、月曜の午後に必ず伺いますのでよろしくお願いします!」

 

 新商品の開発会議の打ち合わせを終えて電話を切ると同時に神機のロック作業を済ませ部屋に戻った。



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第64話 加入

ギル入隊とユノも出てきます。


 最初の実地訓練から一週間が経ちユータはユージとツバキが考案した教導カリキュラムと任務を休みなくこなし、その身に確かな実力を着け、今ではコンゴウやグボログボロ、ウコンバサラと言った中型種相手にも高い技術で圧倒。最早中型種位では相手にならなかった。

 そこまで来るとナナやロミオが倒すアラガミまで倒されてしまい苦笑いを浮かべるしかなく、ジュリウスに至っては目まぐるしく成長を遂げる後輩の台道に喜びを隠さない。

 

 そんなある日の事、任務から戻ってきたユータの前に太った男が若い女性が何やら会話をしており、時おり笑い声まで聞こえてくる。

 

「あ、グレム局長にユノさん、こんにちは!」

 

「ああ、お前か。ご苦労だな。今こちらの女性と話をしていたところだ。」

 

「そうでしたか。お話の邪魔をしたみたいで申し訳ありません。では、僕はこの辺で。」

 

 上司のグレムとユノの会話を邪魔したと直ぐに謝るとその場から立ち去ろうとするとグレムが呼び止める。

 

「折角だ。お前もユノさんと話をしろ。では、ユノさんゆっくりしてください。」

 

「はい。ありがとうございます!」

 

 ここでグレムが居なくなり、ユノと二人きりになったところで改めて挨拶をする。

 

「ユノさん、お久し振りですね。」

 

「ええ、そうね。ユータ君はここの生活に慣れたの?」

 

「まあ、ボチボチと言った感じです。極東とは雰囲気も勝手も違うので完全に慣れるまでにはもう少し時間が掛かると思います。」

 

「そうなんだ。ユージさんが物凄く気になさっていたから聞いてみたの。」

 

「兄貴が無理強いしたみたいですみません。」

 

「ううん、良いの。ユージさんにはとても言葉では言い切れないほど助けてもらったわ。父があんなことしても私には一切罪はないからと夢を求めて旅立つのを後押しもしてもらった。本当に感謝しかないわ。ありがとう。」

 

「いえ、兄貴は兄貴なりに毎日もがいています。外部居住区もそうでしたけど、サテライトもどんなに憎まれ口を言われようが信念を曲げずにひた向きに取り組む姿が住民のみなさんの心に伝わって今に繋がっています。人と人との繋がりは歌も同じです。言葉が通じなくても歌なら心で通じあうことができます。ユノさんの大きな夢、僕も陰ながら応援してますので何か出来ることがあれば遠慮なく言ってください。」

 

「ありがとう。ユージさんに似てユータ君も優しいね。」

 

「あ、いや、両親に口酸っぱく言われましたから。思いやりの心を持てって。もう居ないですけど、両親から教えられた事は今でも忘れずに僕の胸の中で輝いています。」

 

「素敵な言葉ですね。私も思いやりの心で人と人との繋がりを大切にしていきます。」

 

「ユノさんなら出来ますよ。お互い夢に向かって頑張りましょう!」

 

 そう言うと右手を差し出し、ユノも快く右手を差し出し二人はがっちり握手して別れた。

 

 

 ユノと別れたユータにそのあとロミオがしつこくユノとの関係を聞いてくるが別に恋人関係ではないため正直に答える。それにロミオはいつでもユノと会える事が羨ましいとあーだこーだ彼女の魅力を熱く語り出す。

 これにはナナは顔を引き吊らせ退散、ユータも少々疎ましく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから三日後、ユータはロミオとナナの三人で廊下を歩いていた。すると目の前に見慣れた服装の青年を見つけ、声をかける。

 

「あ、ギル!」

 

「ユータか」

 

「久し振りだな。元気にしてたか?」

 

「ああ。お前が先に行った次の日に通達が来た。既に適合試験を済ませて来たところだ。それと出発する前にユージさんからお前宛に伝言を貰った。」

 

「伝言?」

 

「無茶するな!だそうだ。」

 

「なんだよ、それ?」

 

「ユージさん曰く、兄弟だからお前も多分無茶すると思っているらしい。」

 

「流石に兄貴みたいなことはしないし、あんなこと早々起らないだろ。散々無茶してはアリサさんに怒られているからなあ。あの兄貴がアリサさんの前では何も出来ないから面白い。」

 

「と言うわけだ。今日から俺も正式にブラッドに加入だ。これからよろしく頼む。」

 

「ああ、よろしくな!」

 

 兄であるユージの悪口を言ったところで二人は拳を合わせ、同じブラッドの仲間として行動を共にすることとなった。

 二人の親しい間柄にロミオとナナは首をかしげる。

 

「ねえ、ユータ。その人は?知り合い?」

 

「ああ、こいつはギル!俺の友達で今日からブラッドの隊員だ。」

 

「ギルバード·マクレインだ。神機使いとしては長いが第三世代にはなったばかりだからある意味新人みたいなものだ。」

 

「私はナナ。」

 

「俺はロミオ。ここでは一年先輩だからそのつもりでいろよ?」

 

「ちょっとロミオ先輩、いくらここに早く入ったからって年齢は明らかに向こうが上だよ?」

 

「うるさい、年齢は関係ない。ここでは先に入った方が上なんだよ!」

 

 年齢では明らかにギルが上で、神機使いとしても正確には上なのでロミオが先輩面出来るわけなどないが、ギルは興味がないのか聞いていない。ユータも極東の序列を見ているため無視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルのメディカルチェックが終わるのを待ってユータはギルを部屋に招き入れると他愛もない話で盛り上がる。

 

「しっかし、ギルが来て良かったよ。」

 

「俺もお前が居て良かった。極東の雰囲気に慣れすぎたせいかここの雰囲気にはどうも慣れなくてな。」

 

「俺もそう。極東があまりにも良すぎるんだよな。」

 

 二人とも極東の空気になれているあまりフライアの空気に慣れずストレスが溜まりつつあった。そんなときに再会したとあってこれからは多少はストレスが軽減されると期待が膨らむ。

 

「そう言えば、兄貴のあの不思議な力は血の力とブラッドアーツだって分かったよ。ジュリウス隊長に話したら凄い驚いていた。」

 

「そうか。ユージさんなら驚かない。もうこれまでにも驚かされているからな。」

 

「最初に会ったときにカリギュラと戦わせてたけどな。」

 

「あれは正直勝てないと思った。ユージさんでもあのときは着いていくのが精一杯でギリギリの戦いだったが目の前で見ていて憧れを持った。ユージさんとあの時出会えたことが俺の人生を大きく変えたのは間違いない。だから俺はユージさんに少しでも近づけるようになりたいと思ってる。」

 

「ギルなら出来るさ。兄貴から貰ったカリキュラムこなせば良いし。ここの訓練受けてみたけど温すぎてダメ。極東の教導カリキュラムの方が程よい難易度で楽しい。」

 

「そうなのか。まあ、俺もユージさんから貰ったカリキュラムこなしているから問題はない。明日から軽く訓練して慣れたら実戦に出られると思う。」

 

 何はともあれ気心知れた友達が一緒と言うのは二人にとって大きく、またユータからしたらギルは先輩でもあり、ゴッドイーターとしていいお手本になるとギルのブラッド加入を誰よりも喜んだ。

 

 

 



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第65話 覚醒

エミールの件もちょいと混ぜます。


 ギルが加入し数日が経ちユータはほぼ毎日ギルとミッションにアサインしては彼の技術を盗もうと研鑽を重ねる。少し行き急いでいるようにも見えるのは兄譲りなのではあるが、本人はそんなつもりはなくこれがスタンダードだとでも言いたげな態度で日々を過ごす。

 一方のギルもユータの新人とは思えない実力に舌を巻いていた。極東で教導カリキュラムを運動不足の解消と称してやっていたのは知っていたが実際に彼と任務に行くとカリキュラムの成果が著実に表れ、ギルも負けていられないと良きライバルとして見るようになった。それが相乗効果となって二人の成績は軒並み向上、隊長のジュリウスもブラッドの今後に希望が見えてきたと歓迎した。

 

 その次の日、任務から戻ってきた二人の前にまた見慣れた人物が現れ、二人は厄介な奴が来たと互いに顔を合わせる。

 

「おや、君たちは前まで極東に居たね。僕はエミール・フォン=シュトラスブルグだ!」

 

「今日はどうされたんですか?エリナとコウタさんの姿が見えませんけど。」

 

「今日は僕一人で来た。ここフライアはとても趣味がいいね。きっとここの設計に携わった人間はかなりの美意識の持ち主だろう。」

 

 エミールの事は二人もよく知っているためあまり関わらないようにしてきた。なのにも関わらず向こうから来たことで会うはめになり、どうしてコウタは引き止めなかったのかとここには居ない人物に不満を抱く。

 そんな事は知らないエミールはいつもの暑苦しい態度と言動で二人を自分の世界に引きずり込み、満足すると出ていった。

 

「なあ、ギル。俺、あの人ムリだわ。」

 

「ああ、俺もだ。だが、あいつもそれなりに腕は立つ。態度は気に入らないが見習う所は見習うべきだ。」

 

 エミールが居なくなり、二人は小声で話し合う。確かにエミールの態度と言動を嫌う人間は多いだろう。しかし、その一方で神機使いとしての腕は極東の第一部隊の名に恥じず高いと二人は評価していた。極東では実力が物を言う。階級などは所詮は肩書きに過ぎず、相手が先輩であれ後輩であれ良いところは盗むのが鉄則だ。

 

 

 

 

 

「え、それじゃあ外部との連携を図ることが今後は増えると言うことでよろしいでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。フライアの特性上、各支部を転々とする。一つの場所に留まらない以上は各支部との連携は不可欠だ。今日はその一歩として先ほどの極東支部の人間とミッションに行く。ユータ、ナナ、ギルの三人は準備が出来次第ここに集合しろ!」

 

「分かりました。準備します。」

 

 ジュリウスから今後の方針として外部との連携を図ると伝えられその一環としてエミールとミッションにアサインされた。上官の命令とあって従わざるを得ず、少しユータはナーバスになる。とはいえ、今後の事を考えれば仕方ないと直ぐに切り替えると出撃の準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃の準備が整い、ミッション遂行のポイントに到着すると今回の討伐対象であるウコンバサラを筆頭とした小型の群れがまるで互いに寄り添うように行動していた。

 

「あれじゃあ引き離すのは難しいから適当にやって、逃げたらそれぞれ確実に片付ければいいんじゃない?所詮は雑魚の集まりだしチョロい。」

 

「ユータが言うなら俺は素直に従うまでだ。」

 

「私も良いよ。」

 

「僕も異論はない。騎士道精神で人類の敵を倒す。」

 

 ユータの意見に全員が賛成し、四人は一気に攻勢に出る。ここまで培ってきた実力を存分に発揮し、アラガミの群れを薙ぎ倒すと敵は散り散りに逃げ出し、最初にウコンバサラを四人であっさりと倒し、残りの雑魚は散開して確実に撃破に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、小型なんかじゃ歯応えないな。そろそろヴァジュラでも倒しに行くかね。」

 

 逃げ惑う小型アラガミを倒し、そう呟くと少し以前ユージがアリサと付き合い始めた頃に四体のヴァジュラを相手に単独で交戦し、圧倒したのは良かったがその後アリサにこっぴどく叱られていた事を思いだし、思わず吹き出した。

 

 すると遠くからエミールの叫び声と共に見たこともないアラガミがこちらに迫ってきた。

 そのアラガミは狼のようだが大型の白い体をしている。

 

「な、なんでだどうして神機が動かない?」

 

 エミールの叫びとも取れる言葉で最近よく発見が報告されている感応種だと理解、戦闘続行不能なエミールを後方に待機させユータは一人そのアラガミと対峙。

 一呼吸置いて一気に攻勢に出る。これまで戦ってきたどのアラガミよりも手強い相手だとは分かるが、不思議と笑みが溢れる。

 

「こいつは本気でいかねえと油断していると直ぐに殺られる。最初からフルパワーで行くぜ!」

 

 今まで一度も見せることのなかったユータの真の力を解放、精神を研ぎ澄ませ集中すると体の中から膨れ上がる物を感じ、刀身が赤黒く光を帯び輝きを放つと更に分厚く刀身をコーティング。鋭く鮮やかな剣筋で顔面に斬りかかるのをギリギリのところでかわし直撃は免れたが、左目に傷を負い視界を奪われた代償は大きいのか高台に飛び移ると暫くユータを睨み付けてから立ち去り、どこかへと姿を消した。

 

「チッ、今の実力ではまだ無理か。」

 

 全ての力を使い果たし地べたに座り込むと力の無さを痛感し悔しさを滲ませる。

 

 その後、全部のアラガミを倒しきったギルとナナが合流しギルに背負わされる形でフライアに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室で検査をしてもらい体に異常がないと診断を受け、ユータはエントランスに姿を見せると心配していたのかギル達四人が待っていた。

 

「ユータ、大丈夫なの?」

 

「ああ、少し寝たら良くなったよ。心配かけたみたいでゴメン。」

 

「ううん、大丈夫みたいで良かった。」

 

「そうだな。それにしてもお前のあの力は凄かった。あれが血の力って奴なのか?」

 

「そうだ。これが俺たちブラッドにだけ秘められた血の力だ。お前達も何れ目覚めるときが来る。ユータ、よくやったな。」

 

「ありがとうございます。兄貴やジュリウス隊長のとは違うみたいですけど、多分一人一人違う力を持っているんでしょうね。」

 

「ああ。俺の血の力は「統制」と言うもので、味方全員のバーストモードにする効果がある。お前のお兄さんの血の力は実際に見てみないと分からないが恐らく「治癒」だろう。だが、お前の血の力が何なのかはまだハッキリしない。これからやっていくうちに少しずつ分かることだろう。」

 

 ジュリウスの言葉で血の力には様々な能力があり、一人一人違う力を持っていることが判明。ユータの血の力が何の効果をもたらすかは後日分かると言うことでユータは更に練習していつかあの白いアラガミにリベンジすると誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユータが血の力に目覚めた事は遠く離れたネモス·ディアナにいるユージの耳にも届いた。

 

「そうか。あいつも遂に目覚めたか。」

 

「ユータから聞いて驚きました。まさかユージの能力も血の力に依るものだとは思いませんでした。」

 

「まあ、俺も最近知ったからね。本当はブラッドだけにしか習得できないみたいだけど、俺は例外なんだろうな。」

 

 弟の成長にユージとしても喜ばしいといつか一緒に任務に行きたいと夢見る。だが、それと同時にユータの無茶とも言えるブラッドでの行動に頭を抱える。

 

「にしてもあいつ無茶しやがって···一体誰に似たんだか?」

 

「それはユージしか居ないでしょう。」

 

「いや、俺そんなに無茶してないし。寧ろ普通だろ?」

 

「どの口が言ってるんですか?ヴァジュラ四体に単独で挑んだり、適合していない神機に触れたり、挙げればキリがないです。」

 

「あのなあ、あれはああするしかなかったの。」

 

「この私に言い訳するつもりですか?いい度胸ですね。またお仕置きしないといけませんか?」

 

「そ、そんなあ···」

 

 自分では弁解のつもりがアリサには言い訳としか捉えられず、怒りに満ちたアリサに上から覆い被されるとお仕置きという名の彼女の溜まった欲求の解消に付き合わされる。

 濃密なキスも去ることながら全ての行為の一つ一つがアリサの愛としてユージの体を刺激、そうして火照ったところで漸くユージも反撃とばかりに彼女の体をまさぐり甘い吐息から漏れる喘ぎ声に優越感に浸る。ところがこういうときのアリサは積極的かつ大胆で疲れていようがいまいが関係無く体を密着させては誘ってくるためユージも次第に慣れたのか彼女の要望に応えるべく、彼女が気持ちよくなる所をピンポイントで刺激していく。

 

「···もう、そんなに弄らないでください······」

 

「そうか?そういう割りにはここは濡れてるけど?」

 

 言葉とは裏腹に体は正直だ。ユージが下の方に手を持っていくとぐっしょりと濡れていた。ただ下着越しに触れただけでビクンと反応し、手で口を塞いで声を殺して感じる。

 

「き、気持ちいいです···」

 

「じゃあこのまま続けようか。」

 

 アリサの答えがスイッチとなり二人は夜の時間を満喫。明日にはまたユージは極東に戻るため寂しくならないようにじっくりと彼の温もりを味わい、そして自分の温もりを彼にも受け取ってもらう事で愛情を確かめる。

 

 




また例によって最後ギリギリのラインとなりました。この作品でのアリサは超積極的です。 
 
次はシエルが登場します。


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第66話 新たな戦力

 ユータが血の力に目覚めて二週間が経つ。この間にエミールは極東に戻り、ユータも戦線に復帰し血の力に目覚めた事とここまでの活躍を評価され副隊長に就任となったが特に何か特別な事があるわけでもなく、単純にジュリウスのサポートとして役割を果たしていた。 

 

 血の力と同時に習得したブラッドアーツは攻撃力が飛躍的に向上するとても優秀な力でユータも驚く。

 しかしそればかりに頼っていると直ぐにボロが出てくると驕ることなく日々の訓練を欠かさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。ラケル先生の付き添いと言うわけでは無さそうだな。」

 

 ジュリウスの前には銀髪の少女が直立不動で立っていた。背筋と視線には力が込められているがどこか冷酷のような雰囲気は否めない。当時とは何も変わらないのかと思いつつもまずはここに来た内容の確認を優先する。

 

「はい、任務は更新されています。本日付でブラッド隊に招聘されました。貴方もお元気そうでなによりです。」

 

「そうか。お前も今日からブラッドの一員か。」

 

「ラケル先生からはそのように聞いております。詳細はジュリウスから確認するようにとも。」

 

 今回の加入について何も知らされてないジュリウスは彼女が来たことを歓迎すると共に彼女の機械的な態度と言動をどうにか変えていきたいと考えていた。

 ユータとナナが来てからフライアの空気は明らかに変わった。それまでの冷たい空気はそこにはなく、また元々ここに居たロミオの明るい性格も相まってジュリウス自身も楽しさを覚えていた。だからこそ三人が彼女を人間らしく生きられるよう接してくれることを期待する。

 

 

 

 

 

 

「本日付で極致化技術開発局の所属となりましたシエル・アランソンと申します。ジュリウス隊長と同じく児童養護施設『マグノリア=コンパス』に於いてラケル先生の薫陶を賜りました。

 基本、戦闘術に特化した教育を受けてまいりましたので、今後は戦術、戦略の研究に勤しみたいと思います。」

 

 軍隊にでも所属していたのかと思うほど模範的な敬礼と自己紹介にユータ達は不思議そうな表情を浮かべる。このシエルの立ち振舞いがユータはどこかアリサに近い印象を受ける。ユージやコウタ達から当時の話を聞かされていたためちょっぴり嬉しくもあった。アリサはユージの献身的なサポートで精神の混濁から立ち直り、その後は彼の良き理解者であり人生のパートナーとして幸せな生活を送っている。

 なら自分にも出来るはずと既にシエルにコンタクトすることに決める。

 

「ねえ、シエル。これから二人きりで話したいことがあるんだけど時間ある?」

 

「ええ、大丈夫です。」

 

「良かった。じゃあ庭園で待ってるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、お話というのは?」

 

「あ、自己紹介がまだだったね。俺はユータ。ブラッドの副隊長を務めてる。と言ってもつい最近のことだけどね。」

 

「そうでしたか。では、早速ですが、私がここに来るまでにブラッドの内容を把握したんですが、一度副隊長から見てもらえないでしょうか?問題無いようならば今後はこの様にと考えています。」

 

「ちょ、ちょっと待って。シエルが言うことは分かるけど、まだ俺の話が終わってないんだから後にしてくれない?」

 

「すみません。副隊長と聞いたのでつい。」

 

 まだ話をしていないのにタブレットを手渡され困惑したが急ぎの用でもないとタブレットに目を通すとこれを拒否。

 

「まあ、良いや。また今度言うよ。それより、この訓練のメニューは却下だね。データだけで見れば最適だと思うけど、データ通りに行かないのがほとんどだ。俺が前に居たところなんてイレギュラーばかりだったからデータなんて何の役にも立たなかったよ。それよりも大事なのは仲間との連携だよ。」

 

「では副隊長はどのようにお考えですか?」

 

「アラガミの種類、強さ等と任務に同行するメンバーの特徴とかを考慮して行くのが良いと思ってる。それでこれが俺とギルがやっている訓練のメニューだよ。」

 

 シエルからの質問に自分の端末を渡す。極東仕込みの訓練メニューにシエルは驚きの表情を見せる。自分が考案したものよりも遥かにレベルが高く且つ戦術の幅を広げる訓練内容に否定する材料は皆無だった。

 

「これは素晴らしいですね。ちなみにどなたが考案されたんですか?」

 

「俺の兄貴だよ。兄貴もゴッドイーターで俺よりも長いんだけど、新人の頃から改良に改良を重ねてきたものらしいよ。それで俺とギルもやってるんだけど、まあキツいよ。それこそここの訓練が温いと感じるほどにね。だけど、それやってるせいか実戦で効率的にアラガミを倒せるから相当オススメ。」

 

「なるほど、それではこの訓練メニューを本日より取り入れましょう!」

 

「シエルはこういう戦術考えるの好きなの?」

 

「そうですね。時間を忘れて没頭するといいますか、何だかのめり込んでいくんです。」

 

「そうなんだ。俺もシエルとちょっと似てるんだけど、神機の整備が好きで毎日自分のやギルの神機のメンテや強化してる。好きなものは熱中するよね?」

 

「副隊長もなんですね。」

 

「神機は自分の命を預ける仲間だからしっかりケアしないといざというときに壊れたりしたら取り返しのつかないことになる。だから神機に愛着が湧くし、奥が深いんだ。」

 

 互いに趣味が似ていることで話が盛り上がる。何気ないことだがこれが結構大事なのだとユータは理解している。シエルも自分にここまで積極的に話してくるユータに少し興味を持ったのかほんの少し表情が緩む。

 それを見たのかは分からないがユータはミッションに行こうと誘い、これをシエルは承諾し二人は任務に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務終了後、互いに感想を述べることで反省会も兼ねている。一緒に行ってみて思ったことはシエルの熟練された動きと確かな実力の高さだ。その実力はブラッドの中でもずば抜けて高く、ギルと同じかそれ以上だとユータは感じた。それはシエルも同じで新人離れした戦いかたにどうして副隊長に任命されたのかが分かった。

 

「シエルの動き凄い良いね。」

 

「そうですか?ありがとうございます。」

 

「俺ゴッドイーターになって日が浅いから分かるんだけど、相当なものだよ。洗練されていて無駄がない。お手本になる動きだ。」

 

「そこまで褒めて頂けるとは光栄に思います。でも、そういう副隊長もいい動きでしたよ。先程渡された訓練の内容が凝縮されていました。本当にゴッドイーターに成り立てとは思えません。」

 

「それは買い被りすぎだよ。俺はまだまだ。もっと凄い人を俺は知っているからその人を目標にしてるんだ。まあ、兄貴なんだけどね。」

 

「お兄さん相当な熟練者なんですね。一度お会いしたいです。」

 

「兄貴、極東支部の支部長やってるんだけど、クレイドルとしての活動もしてるからいつもどこかに行ってて中々連絡が取れないんだよね。」

 

「クレイドルというのは?」

 

「ああ、知らない?独立支援部隊『クレイドル』、ゴッドイーターとして戦いながら世界各地を回って人類が安心して暮らせるような所をサテライトとして探して住居やお店とかを建設して支援活動をしている部隊だよ。俺の兄貴が立案して極東支部の元第一部隊の人達と一緒になってやってるんだ。ほら、どこの支部の人達も本部やその支部に捨てられた人達がほとんどだから風当たりは当然強いけど、そんな批判にもめげずにやってるよ。」

 

「そんな部隊があるとは知りませんでした。ですが、副隊長から聞いた限りではゴッドイーターがやることの範囲を超えているようにも見えます。」

 

「そうだよ。だから発足する前に兄貴は独自に極東支部の外部居住区で支援してきたし、医療福祉、司法関係と言ったあらゆる専門知識を独学で学んできたんだ。この活動に兄貴は人生を掛けている。俺も食事や資金面で支援してて、いつか一人前のゴッドイーターになったら一緒に活動していきたいと思ってる。俺、小さい頃に親を亡くして、それ以降は養護施設で暮らしていたから誰かを失う悲しみは誰よりも分かるし、そういう悲しみをする人が居ないような世の中にしたい。」

 

「私の想像を遥かに超えてますね。私も養護施設でラケル先生に拾われて過ごしてきたので副隊長に似ています。」

 

「まあ、連絡が取れたら会えるようにやってみるよ。今日は任務に付き合ってくれてありがとう。」

 

「私の方こそありがとうございます。」

 

 趣味だけでなく養護施設で幼少期を過ごしていたことも似ていることにシエルは偶然ではなく、何か運命的なものを感じた。それと同時にユータが話していたクレイドルの活動とユータの夢を聞き、自分が知らない世界があるんだと刺激になっていた。

 




シエル好きですも


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第67話 極東

 シエルが加入して数日が過ぎ他のメンバーも同行し、全員がシエルの実力に度肝を抜かされ自分達も頑張らないといけないと刺激を受ける。それに加えて訓練のメニューも極東支部考案の内容に完全変更されその過酷とも取れる訓練にロミオとナナは悲鳴をあげ、ジュリウスは流石は隊長と言うだけあってクールだがそれでも厳しくも非常に濃いと高く評価。

 そしてこのメニューを考案したユージに早く会いたいと強く思う。

 

 そんなある日、局長室に呼び出された六人はグレムから直々にある任務が言い渡される。

 

「お前たちには神機兵の運用実験に当たって貰う。それに辺り、フライアは極東支部に向かう。あちらの支部長とは既に連絡が着いている。詳細は後日追って伝えるからそれまでは極東の人間と仲良くしておけ!以上だ。」

 

「分かりました。では、我々はこれで失礼します。」

 

 グレムから神機兵の運用実験が極東支部で行われると伝えられ神機兵には興味の湧かないユータも極東支部には反応、久々に帰れることに喜びを隠せない。その隣ではギルも極東に帰れることにユータ同様嬉しさで顔を滲ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー。久しぶりの極東だぜ。やったな、ギル。」

 

「ああ。楽しみだ。」

 

 局長室を出ると直ぐにギルと喜びを分かち合う。それほどまでにフライアの空気に耐えられなかったのだ。久々に帰る第二の故郷に俄然テンションが上がるのは人間の本能なのだろう。

 そんなユータにナナ達も嬉しそうに話しかける。

 

「なんか凄い嬉しそうだね。」

 

「当たり前だろ。俺にとっては第二の故郷なんだからさ。」

 

「そう言えばあれから極東支部について調べました。世界でも屈指の激戦区だそうです。」

 

「うん、そうだよ。アラガミの数も種類も多いし、新種の報告もやたらと多いからアラガミの動物園って揶揄されているよ。だけど、優秀なゴッドイーターが多いから他の支部よりもアラガミによる犠牲者が圧倒的に少ないんだ。」

 

「へえ~、早く行ってみたいなあ。」

 

 ユータの言葉にナナは極東に着くのが待ち遠しくなったのか嬉しそうに微笑む。それはシエルやロミオも同じでこれから向かう極東に期待を膨らませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして二日後、予定通りに極東支部に到着し、ブラッドは直ぐに支部長室に案内され、目の前に座る青年を見ると初対面のロミオ達は緊張したのかガチガチに固まる。  

 

「極致化技術開発局ブラッド六名参りました。私は隊長のジュリウス·ヴィスコンティ大尉です。以下、右から副隊長のユータ、シエル、ナナ、ロミオ、ギルバードです。」

 

「よく来たね。私が極東支部支部長のユージだ。そこにいるユータの兄だ。いつも弟が世話になっているようで兄としてとても感謝している。この場を借りてお礼を言わせて貰うよ。ありがとう。

さて、君たちに来てもらったのはグレム局長から知らされていると思うけど、神機兵の試験運用のために護衛をしてもらいたいんだ。と言うのも最近極東支部周辺で赤乱雲によって降る赤い雨の影響で「黒蛛病」が広まっていて困っているんだ。更に感応種の出現もあってうちの神機使いの任務遂行に支障が出ている。

神機兵は赤い雨に干渉されないのとアラガミの襲撃にも対応できるから安全が確認されれば本格的な運用に移れる。そのための支援をお願いしたい。作戦の日時は明日の午後を予定している。メンバーの選別は隊長のジュリウス大尉に一任するが宜しいかな?」

 

「慎んでお受けします。」

 

「ありがとう、助かるよ。」

 

 

 事務的な話を終えた所でユージはふうと大きく息を吐いた。久々の支部長としてのやり取りに疲れたようでエアコンが効いているにも関わらず大量の汗をかく。

 タオルで汗をぬぐうと一転、態度が軟化。緊張しているナナ達を察したように緊張を解していく。

 

「まあ、仕事の話は置いといて、改めてようこそ極東支部に来てくれたね。そして、ユータとギルは久しぶりだな。元気してたか?」

 

「兄貴の方こそ元気そうじゃん。てっきりアリサさんに怒られてしょんぼりしてるのかと思ったよ。」

 

「そんな訳あるか!いつも怒られてねえし。つーか久しぶりに会う台詞かよ?」

 

「ゴメン、ゴメン。悪気はあった。」

 

「あったのかよ···まあ、いいや。で、ギルはどうだ?」

 

「俺は変わりないっす。ユージさんも元気そうで良かったです。」

 

「そっか。なんか見ないうちに逞しくなったな。ちゃんと訓練に励んでいるみたいだけど、もうあれじゃ温くなったんじゃないのか?」

 

「まあ、ちょっと···温いと感じてます。これも慣れてきたからっすかね?」

 

「そうだ。お前とユータがやってるのは新人から曹長までが対象だから難易度としてはイージーだ。だから二人にはノーマルタイプのカリキュラムを渡す。こいつは今までのやつより更に難易度が羽上がっている。」

 

「え、兄貴マジで言ってるの?」

 

「俺がこの手の話で嘘を付いたことが一度でもあったかよ?」

 

「ない。」

 

「だとしたらそう言うことだ。言っておくがまだまだ上の難易度があるからこんなので音をあげるなよ。」

 

「マジか·········」

 

 自分達が必死にやって来た物が一番優しい難易度でその更に上がいくつも用意されていると聞かされユータは絶望する。しかし、ギルは嬉しそうに手渡されたカリキュラムの内容を見ていた。

 そして絶望するユータ以上に衝撃を受けているのがナナとロミオ。二人はまだこのカリキュラムを始めたばかりで毎日音を上げているがその上があると知らされ互いに顔を見合わす。一方でシエルとジュリウスは更なる訓練内容に期待の目を見せユージに自分達も訓練をしていることを告げる。

 

「あの~、ユージ支部長、実は私たちもユータに聞いてこちらの訓練メニューを行っているんですが、宜しければユータとギルが貰ったのと同じものを頂けないでしょうか?」

 

「え、そうなの?だから後ろの二人が驚いていたんだね。良いよ。鍛練を重ねて技術を深めることはとても大事なことだから多いに役立てて貰えるとありがたいよ。なんなら全ての難易度のカリキュラム渡そうか?全部で四つだねイージーからエクセレントまでの四段階。見たところ二人は相当な熟練者と見えるからハードモードでも問題ないと思う。」

 

「ありがとうございます。ところでこのメニューは全てユージ支部長がお考えになられてのですか?」

 

「イージーだけは雨宮ツバキ教官との協同で考案したけど、あとの三つは全部俺が考案したよ。これを考えたときはまだ血の力とブラッドアーツのことよく理解してなかったから取り敢えず訓練をやれば習得するもんだと思ってたんだよ。それがブラッドだけに秘められた特別なものだと知ったときは心底焦ったよ。何しろ努力すれば習得出来ると信じてやって来た物が本当は違ったもんだから暫く極東の神機使いからの視線が冷たかったよ。」

 

 あのときのことは昨日のことのように笑って話すユージに緊張していたナナとロミオも解れたのか笑っている。だが、ここで血の力とブラッドアーツの事を思い出すとジュリウスが先にその事を聞き出す。

 

「あの、お話の途中申し訳ありませんが、あなたは血の力とブラッドアーツを習得されているとユータからお聞きしました。それは事実なんでしょうか?大変失礼な質問ではありますが是非とも確認しておきたいので。」

 

「それは事実だね。でも、俺の場合は極限状態に置かれたことで覚醒したから君たちとはちょっと習得した経緯が違う。現にジュリウス大尉とユータは血の力に目覚めたのと同時にブラッドアーツも習得したみたいだけど、俺はブラッドアーツの方が先で血の力に至ってはここ最近の話だからかなり状況が違う。どうして俺が目覚めたのか明確な答えは分からないけど、折角習得したならそれに驕らずに研鑽を積んで磨いていかないとね。廃れたら宝の持ち腐れさ。こんなことは君たちなら理解していると思うけど、大事なことだから忘れないでおくんだ。」

 

「いえ、私としても日々精進を重ねることが大切だと自負しておりますのでお話をいただけて感謝しています。」

 

「まあ、そんなに堅くならなくて良いよ。俺あんまり堅苦しくいくの苦手だからフラットにいこう。肩書きは上でも年齢的に言えば同世代なんだし、楽にいかないと身が持たない。ってな訳で、長い時間立たせちゃって悪かった。疲れただろうから今日はこのくらいにして極東支部内をゆっくり散策するといいよ。案内はユータとギルに任せた。二人ともしっかり案内してやれ!」

 

「了解!」

 

 ユージの指示を受け二人はシエル達を連れて極東支部の案内をすることに。

 

 ブラッドが退室し一人になったユージは明日行われる神機兵の試験運用についてある疑念を抱いていた。以前、ネモス·ディアナで破壊した神機兵に乗っていたギースとその恋人マルグリットの話を聞き、本部とは別に開発に協力している企業間との間で激しい競争が行われ多額の資金が流用されていると分かり、今回の導入に難色を示していた。

 しかし、反論するだけの確かなものもないために渋々受けた経緯があった。そのため明日の試験運用に向けて裏で何かが暗躍していないかギリギリまで調査を続けることで犠牲者が出るのを未然に防ごうと直ぐに動く。今日はアリサが居ないとあって徹夜で作業に没頭するつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内を一通りしたユータ達は最近新設されたラウンジに来ていた。極東の事を知り尽くしているユータは初めてとあってその変わりように驚いていた。隣のギルは遅れてブラッドに加入したとあってラウンジが完成後暫くはここでハルオミと一緒に酒を呑むのが楽しみだった。

 そしてナナ達もラウンジの雰囲気に直ぐにテンションが上がり、目を輝かせる。

 

「わあ~、すっごーい。なんかフライアとは全然違うね。」

 

「そうですね。とても落ち着きます。ここがアラガミの最前線とは思えないほどに違います。」

 

「俺、ここに来てよかったよ~。なんだか楽しそうだし、すげえ。」

 

「俺もラウンジに来るのは初めてでちょっとビックリだわ。っと、コウタさん!」

 

 ラウンジにビックリしたユータはカウンターに座る見慣れた背中の少年の名前を呼ぶと彼の元に歩く。するとその少年は振り向き、ユータを見ると表情を緩め反応する。

 

「お、ユータじゃん!久しぶりだなあ?」

 

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

 

「俺はいつだって元気だよ。えーっと、今日はどうしたんだ?」

 

「ああ、ちょっと色々ありまして暫く極東に居ることになりまして、さっき兄貴とも会ってきました。なので、またよろしくお願いします。」

 

「そうなんだ。って、そんな律儀にしなくていいよ。変に緊張するだろ?それよりも後ろの人達がブラッド?」

 

 コウタの言葉でジュリウスが自己紹介し、コウタも隊長として軽く挨拶をすると何処からか腹の虫が主張しだし、それを聞いたユータが黙ってキッチンに入るとあちこち探る。やがて軽く頷くと簡単に調理を始め、完成したのがカルボナーラ。その完成度の高さに初めて見るナナ達は驚くと同時に腹の虫が刺激され席につくとフォークで器用にパスタを巻いて食べ始める。

 

「おいしーい!」

 

「本当ですね。ユータが料理上手なのは知っていましたが凄いです。」

 

「本当だ。逆に何で知らなかったのかが悔やまれる。ずっとレーション生活で苦痛だったのに。」

 

「こいつの料理の腕は誰にも負けないよ。なんたってユージの結婚式でも凄かったもんな。」

 

「ちょっと、コウタさんハードルあげないでください。俺はただ趣味で作ってるだけなので。」

 

「バーカ、お前が趣味って言うなら他のやつはどうなるんだよ。ここは素直に認めろ!」

 

 コウタが言うのは尤もだ。ユータの料理の腕は常人のそれを遥かに超越したレベルにあり、これを趣味のレベルで片付ける事に無理がある。その事に気付かないユータは頭を抱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、静まり返ったラウンジで一人の青年が酒を片手に楽しんでいた。右腕に嵌めている黒い腕輪の青年は一口ずつウイスキーを呑んでは久しぶりに帰ってきた極東の夜を満喫していた。

 そこに一人今度は赤い腕輪の青年が現れ、カウンターに座っている青年を見つけると声をかける。

 

「よお、ギル。隣いいか?」

 

「ユージさん。どうぞ。」

 

 ギルの了承を得て隣に座ると自分の分のグラスが無いことに気づきキッチンに入るとグラスに氷を入れギルが飲んでいるウイスキーを注いで呑む。二十歳になってから時々酒を呑むのが密かな楽しみで本当はもっと飲みたいが飲みすぎるとアリサに怒られるのは必至な為に制御している。しかし、今日は仕事が終わらず徹夜になるのを覚悟で休憩と称して飲みに来た。そこに偶々ギルを見つけたため一緒に飲むことに。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに帰ってくるとやっぱり安心感があります。」

 

「ユータから聞いてるよ。フライアはなんか機械的な感じなんだって?」

 

「はい。それであんまり馴染めなくて。ユータが居ることは心強いですが、あいつは副隊長としての業務が忙しいのか最近は会う頻度も減ってます。」

 

「まあ、副隊長ともなればそれだけ義務が増えるからな。仕方ないことだ。でも、お前が言うことも分かる。フライアの空気に馴染めないなら二人で馴染めるように変えてみたらどうだ?」

 

「俺たちがですか?」

 

「そうだ。馴染めるようになれば良いんだから簡単だろ?難しく考えるな。一人で出来ないなら二人、三人と誘ってみろ。そうすればきっと出来る。」

 

「そうっすね。やってみます。」

 

 少しホームシックになっていたギルを叱咤し、ギルは吹っ切れた表情でやってみようと決意。その顔を見たユージは弟のユータのことについて一つ頼みをする。

 

「なあ、ギル。あいつのこと頼むぞ。」

 

「急にどうしたんですか?」

 

「実はあいつさ、小さい頃に亡くした親のことを未だに引きずっているんだ。俺がまだ十歳の時だからあいつは五歳の時だ。あんな年齢で親を亡くせば引きずるなと言う方が無理だ。俺はその事について何も言えなくてさ、ずっと凝りが出来たままだ。俺はケイン達やアリサ達が居るからどうにかやってこれたけど、あいつにはまだ辛いときに辛いって言える仲間に出会えていないんだ。だから、あいつの事を支えてやって欲しい。これは兄としての頼みだ。」

 

 ユージはユータの事をずっと気にかけていた。両親を亡くしたあの日からユータの心にぽっかりと空いた凝りは未だに塞がれることなく来ている。表情には出さないがユージには分かっている。本当は辛いと泣き叫びたいと。しかし、それを胸の奥にしまいこんで居ることに兄として何か出来ないかと考えたのがギルに託すことだった。

 しかし、ギルの口から思いもよらない事を聞いて瞬きをする。

 

「分かりました。俺で出来ることならあいつの支えになります。ですけど、あいつはシエルの事が好きみたいっすよ。」

 

「え?そうなの?」

 

「はい。本人は何も言ってこないですが、シエルがブラッドに来てからほぼ毎日一緒にいますから。始めは仕事だからだと思いましたが、あれは完全に恋人として意識してます。」

 

「マジか······、シエルってあの銀髪の子だろ?あの子を見ているとなんか昔のアリサを思い出すなあ。今ではあんな感じだけど、昔は本当ヤバかったんだぜ?あ、この事はくれぐれも他言無用だからな。アリサの耳に入りでもしたら俺殺されるから。」

 

「アリサさんキレると怖いっすからね。ユージさんがあんなに怖がってるの驚きました。」

 

「止めろ。思い出したくもない!」

 

 シエルからアリサを連想し思わず口を滑らせたがここには自分とギルしか居ないことを確かめてからギルに口止めを施し、グラスに残ったウイスキーを一気に飲み干した。

 




次神機兵に乗り込みます。


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第68話 命令よりも・・・

 次の日、神機兵の試験運用の為ブラッド全員が一旦フライアに集められ開発に携わったレア、九条両博士から運用に関しての説明が行われフランからミッションの通達が言い渡された。

 

「シエルちゃん。神機兵ってどんななの?」

 

 今回の作戦に関しては内容が内容なだけに直ぐさま全員に話が伝わっていた。ロミオはここに長い期間居るので知っていたが、それ以外ではユータやナナ、ギルは何も知らされてなかったのか一様に疑問を呈した表情を浮かべていた。

 

「そうですね。神機兵は我々ゴッドイーターと同じような働きを期待されたロボットだと考えると分かりやすいですね。今はまだ実用性には乏しい部分もあるかとは思いますが、今後はこの計画を推進する方向だと考えています。」

 

「神機兵か。あんなブリキのおもちゃみたいな物で本当にアラガミが倒せるなら苦労はしないがな。で、俺たちの任務は今後そのおもちゃの護衛って所か?」

 

「ギル。言いたい事は分かるが、ここは元々対アラガミの計画を実行する為の施設だ。気持ちは分かるが、ここでは自重してくれ。ここには神機兵の開発に関するスタッフは多い以上、無駄な摩擦は好まない。」

 

 ジュリウスの窘める言い方に気が付いたのか、帽子を目深にかぶり直しギルはそれ上は何も言わなかった。既にミッションが発行されている以上、これを投げ出す事も出来ず、またこの部隊に居る以上、文句を言う事も憚られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、意外にやるじゃねえか。」

 

「そうだな。だが、なんか気に入らねえな。」

 

「ああ。兄貴が前に見たときは欠陥だらけで直ぐに暴走したから神機で壊したって言ってた。その件で関係者全員を逮捕したらしい。」

 

「それは俺も聞いた。あの人らしいな。」

 

「ちょっと、ギル達も手伝ってよね?」

 

「ああ、悪い。いまいくよ。」

 

 神機兵の動きにユータとギルは素直に認めるが気には食わない。このまま神機兵の存在を認めれば神機使いの居場所が奪われるのも時間の問題だからだ。しかし、アラガミから人類を護るためなら仕方ないことでもあると理解も示す。

 そんな二人をナナが呼び出し、二人は後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機兵のミッションはどうなってる?」

 

「現在は神機兵βが現在交戦中です。αは既に回収の準備中ですが、恐らくは同時に収容の予定となっています」

 

 何かを見たのか珍しくジュリウスは慌てながらにカウンターへと走り寄る。何か想定外のトラブルが発生したのだろうか?フランはこの様子を見ながらも同時進行で現在の様子を確認していた。

 

「そうか。先ほど帰投中に赤い雲も見た。恐らくは赤乱雲だ。今すぐに連絡を取ってくれ」

 

「………了解しました。直ぐに連絡します」

 

 ジュリウスの言葉はこのミッションに関して言えば全くの想定外。どれ程までに危険な物なのかはフェンリルに所属していれば容易に理解が出来る。だからこそフランは急遽通信回線を開いた。

 

「こちらギル。ここでも赤い雲を確認している」

 

 視線の先には時間的に夕方とは言い難いにも関わらず、絵の具で着色された様な赤い雲が少しづつこちらへと向かっていた。これが夕方であればどこか透けるような色合いだが、今見える雲にはそんな感慨深さはどこにもなく、それこそ絞れば血の様な赤い水が今にも出そうな、そんな雰囲気がそこにあった。

 

「あれが赤い雲か…俺、初めて見たんだけど何だか嫌な感じだな」

 

 ロミオのつぶやきは今正にその言葉の通りの雰囲気を持ちながらに少しづつ何かを蝕むかの様にゆっくと動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シエル。現在の状況を教えてくれ」

 

 赤い雲を見ながらに今後の予定を確認していた現場とは打って変わり、フライアでは緊迫した時間が続いていた。当初予定されていた神機兵αは問題なく討伐が完了したが、もう一方のシエルが率いる神機兵βは原因不明の故障により、その場に留まらざるを得なかった。

 

 悪い時に悪い物が重なるのか、既に戦闘区域では赤い雨が降り出し、このままでは退却そのものが厳しい状況へと追いやられていた。

 

 

 

 

 

「既に赤い雨が降り出しました。この場からの撤退は不可能です」

 

 シエルの言葉にジュリウスは内心舌打ちしたい衝動に襲われていた。

 

 今回のミッションはあくまでも神機兵の性能評価がメインの為に、それ以外の対策が一切なされていない。神機兵の事だけに意識が奪われたが故の致命的とも言える判断ミスに悔やんでも悔やみ切れない感情だけが残っていた。

 

「赤い雨の対策は出来る事が限られる。ギル、そちらには輸送隊が向かっているので、到着後ただちに防護服を着用し、シエルの救出に向かってくれ。なお、防護服そのものは耐久性が低い。その為に極力戦闘は避けてくれ」

 

 これ以上の混乱を避け、最悪の事態を可能な限りに排除する事が今のジュリウスには求められていた。ただでさえ神機兵に力を入れている関係上、少ない人数での部隊の維持は至上命題となる。

 

 今は常に最悪の状況を予測しつつ、最善策を取る事が優先されるはずだった。

 

 

 

 

 

「誰が勝手に撤退しろと言った?今回の任務は神機兵の保護のはずだ。勝手な命令をするな!」

 

 今のやり取りが聞こえたのか、普段はここに居るはずの無いグレム局長が姿を現していた。ここで一番の権力を持つグレムの命令はある意味絶対だとも考えられている。この非常時にどれほど非常識な事を言ってるのか理解していないのは本人だけの様にも見えた。 

 

「しかし、今は」

 

「何度も同じ事を言わせるな。今回の任務は神機兵の保護だ。おい、神機兵には傷一つ付けるな」

 

 流石のフランもこの言葉に内心憤りを感じていた。赤い雨を浴びた後の末路は今では子供でも知っている。

 

 事実上、その場に留まり死ねと言ってる様な命令をこのままシエル伝えていいのだろうか?フランの中に僅かながらに葛藤があった。

 

「馬鹿な!赤い雨がどんな結果をもたらすのかは貴方もご存じのはずだ!これはいくらなんでも非人道的すぎる命令だ!」

 

「ジュリウス大尉。いつから貴様は俺に意見出来る身分になったんだ。俺はここの最高責任者だ!四の五の言わずに神機兵だけを護れ!これは命令だ!」

 

 突如として降り注ぐ赤い雨の影響はフライアだけではなく、ユータ達の居る現場にも緊張感が伝わっていた。無線の内容は誰の耳にも届いている。これが一組織のトップなのか。とてもじゃないが、こんな人間に下に居る事すらあり得ないと思う空気だけが蔓延していく。

 

 物事の真贋を判断する事すら出来ない人間の下に居続けるのかと思うと反吐が出そうな空気がユータ達を襲っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、全員即事撤退しろ!」

 

 静まり返った館内に突然誰かの声が響き渡り、全員が視線を向けるとそこにはユージが立っていた。彼を知るジュリウス以外の人間は彼が誰なのか分からず、局長のグレムでさえも首を傾げるが先程の言葉に直ぐ反応し、激怒。

 

「貴様、何者だ?部外者は口出ししないで貰おうか?」

 

「部外者だと?お前、俺が誰なのか言っているのか?」

 

「貴様など知らん!良いからさっさと出ていけ。おい、お前らこいつを摘まみ出せ。」

 

「は、はい」

 

 グレムとは電話でしか応対していないため顔を知らなくとも無理はないが、強制的に連れていかれそうになったためユージは仕方ないと掴み掛かってきた職員の男の腹に拳を当て、もう一人の男には鋭い蹴りで遠くの壁まで飛ばして気絶させる。圧倒的な早業にその場にいた誰もが驚愕するなか、ユージは冷静に自分の正体を明かす。

 

「申し遅れた。俺はユージ、極東支部の支部長だ。」

 

「な、お前が支部長だと?ただのガキじゃないか!」

 

「ふん、お前が驚くのも無理はない。俺が支部長になったのは18の頃だからな。そんなことより、早く全員を即事撤退するように指示を出せ!」

 

 支部長のイメージに似つかわしくないユージにグレムは毒を吐くが意に介さず、先程の命令をフランに告げる。しかし、尚もグレムが邪魔をしてくる。

 

「お前が誰であろうとここの責任者は俺だ。お前に口出しされる筋合いはない。これは神機兵の試験運用だ。絶対に神機兵を傷付けることは許さんぞ!」

 

「そこまで神機兵に拘る理由は金か?」

 

「な!」

 

「耄碌したな、グレム。今の反応はもう認めたも同然だ。」

 

「ち、違う!金なんか貰ってない。とにかく神機兵を守れ!」

 

「ここまで来といてしらを切るか。まあいいだろう。だったら動かぬ証拠とやらを見せてやる。」

 

「何?」

 

 そう言うとグレムが冷や汗を掻いているのを尻目にポケットからUSBメモリを取りだし、パソコンに差し込み操作をするとモニターにある動画が再生される。それは神機兵の試験運用に当たってグレムが制作会社から多額の賄賂を受け取る証拠となる動画。

 この動画にグレムは大量の汗と共に後ろに後退。

 

「そ、そんなバカな···」

 

「いいか、よく聞け。人の命はどんなものよりも重い。そんな事も知らずにてめえの欲望の為だけに人の命がどうなっても良いと考える奴が俺は一番許せねえんだよ。ここまで下らん権力振りかざしてのしあがってきたんだもう充分いい夢は見ただろう?続きは拘置所の独房のなかで見るんだな。」

 

 銃口を口の中に突っ込み物凄い殺気からくる言葉にグレムは腰が抜けその場に座り込んだ。

 

「さてと、グレム。貴様を収賄容疑及び人権保護法違反の現行犯で逮捕する。」

 

 ユージから逮捕状と共に罪名が言い渡され、グレムの手に手錠が掛けられると極東支部の職員に連れられて連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 突然の責任者の逮捕にフロア内は騒然とするなか、無線が入る。

 

「あの~、隊長。ユータがさ······行っちゃった。」

 

「おい、ナナどうした?何があった?」

 

 ナナのどこか呆気に取られたような発言にジュリウスが再度確認をとっているとフランから情報が入る。

 

「神機兵α、神機兵βに向かって急接近中!」

 

 この情報にユージは直ぐに反応するとユータに無線を入れる。

 

 

 

 

「おい、ユータ。俺だ、聞こえるか?」

 

《あ、兄貴か。聞こえるよ》

 

「俺がシエルが居るポイントまで誘導する。お前はその通りに動け。いいか、これは命令だ!必ず生きて帰れ!」

 

《了解!》

 

「ユータは俺が誘導するからジュリウスは直ぐに救援のヘリの手配をしろ。事態は一刻を争う。それからギルとナナ、ロミオも直ぐにそこから撤退するんだ!自分達の命を最優先に行動しろ。いいな。」

 

「了解しました!直ぐに手配します。」

 

「頼んだぞ!」

 

 ユージの指示でジュリウス含めたブラッド全員が自分が出来ることを遂行するため行動に出る。

 

 

 

 

 その後、シエルのもとに神機兵に乗ったユータが駆けつけ待機していた神機兵とスクラムを組み赤い雨に濡れないようしっかりガード。これが誰なのかシエルには直ぐにわかったがどうしてこんなことをするのかが分からなかった。

 しかし、これで助かったのは事実であり、遅れてやって来たヘリに乗り込み危機を脱した。

 

《こちらユータ、無事シエルを救助した。これより帰投する》

 

「よくやった。帰りの到着を待ってるぞ。」

 

 ユータからの無線でシエルの救助に成功したと聞くとユータは親指を立てて既に戻っていたナナ達に知らせ、その場にいた全員が喜びの声を挙げる。

 

「ユージ支部長、部下のためにありがとうございます。」

 

「例には及ばない。俺は当たり前の事をやっただけだ。感謝するならユータに言ってくれ。あいつの行動がなければとっくにシエルは赤い雨に撃たれていた。お前も部隊を預かる隊長ならこれだけは覚えておけ。いついかなる場合においても人命が最優先事項である、と。それが例え上司からの命令であってもお前が隊長である限りお前があいつらの命を預かっていると言うことを忘れるな。以上だ。」

 

「はい、肝に命じます。ところで私達の処分は···」

 

「そんなものねーよ。何も悪いことしてないんだからする必要がない。今回は俺も判断が甘かったが故に招いた結果だ。すまない。これからは二度とこう言うことが無いよう情報の共有を強化していく。それからグレムの逮捕の関係でレア、ラケル、九条以上三名は重要参考人としてご同行を願う。それに加え、フランを含めたブラッド全員を一時的に極東支部の預かりとするが宜しいですね?」

 

「ええ、構いませんわ。今回の事は我々の責任でもあります。ブラッドの事よろしくお願いしますわ。」

 

 ジュリウスに上司の命令に逆らってでも部下の命を最優先に考えろと命じ、処分も無くなり、これから極東支部で活動することがラケルの承諾により正式に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰投後、シエルは医務室で異常がないか検査を受けたが特に異常は見られなかった。医師が退室して二人きりになったことでシエルはユータに疑問をぶつける。

 

「君の行動は理解に苦しみます。どうしてあんな危険を侵してまで···」

 

「大切だからだよ。シエルの命が。」

 

「命令よりも大切なもの······本当、バカですね。君は···でも、暖かいです。」

 

 こんな危険を侵してまで守るべきものがあるのだとユータの言葉で知り、シエルの目には光るものが。そんなシエルの手をユータは優しく握りしめ微笑む。するとシエルの心の中で何かが芽生え、人として生きていく上で大切なものを確かに手に入れた。

 

 

 




グレムパクっちゃいましたww那智もパクったし、グレムもパクらないと示しがつきませんからね。


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第69話 サテライト

 シエルが血の力に目覚めたことは直ぐにブラッド全員に知らされた。シエルの血の力は「直覚」知覚した敵の状況を伝達し感応能力を通じて味方に共有するというもので、彼女が居れば常に発動する為これ以上ない戦力アップである。

 この事に誰よりも喜んでいたのがユータだ。自身もシエルが血の力に目覚めたことにより、血の力「喚起」の能力によるものと判明し、彼女の手を握ると一人で盛り上がる。そんな彼をシエルは嫌がるどころか嬉しそうに微笑み、彼の事を友達ではなく恋人として意識する。

 

 一時的に極東支部の預かりとなったブラッドを極東支部の人間は快く迎え入れ、直ぐに打ち解けミッションにアサインすることが多くなった。一緒にミッションに行って分かったのが極東支部のゴッドイーターの戦闘において洗練された動きと実力がずば抜けて高いこと。ブラッドもそれなりに実力を兼ね備えた部隊ではあるが極東の部隊も負けず劣らずレベルが高く、毎日が内容の濃い物で隊長のジュリウスでさえもその実力に舌を巻くほど。

 だが、それよりもジュリウス達が戦慄を覚えたのが支部長のユージと一緒にミッションに同行したときだ。彼の実力は極東支部の誰よりも遥か上の次元にあってスゴすぎて最早参考にすらならなかった。その為、ミッションに同行したナナ達が口を揃えて言うのが······

 

「スゴい···」

 

「ホントだよ。あれが俺たちと同じゴッドイーターの動きなのか?」

 

「いや、あれでもまだほんの少ししか出してないよ。兄貴が本気なんか出したら俺たちの目では追えない。」

 

「マジ?」

 

「ああ。俺は昔ユージさんとミッションに同行した事があるからなその時にユージさんが全力で戦うところを見た。あのときの速さに目が追い付かなくてスゴい以外の言葉がでなかった。」

 

「なるほど。確かにユージ支部長の動きにはまだ余裕がありますね。それなのに他の方よりも技術が高くてとても勉強になります。」

 

「シエルの言う通りだな。ユージ支部長を今後は目標に努力しなければいけないだろう。その為にもユージ支部長から貰ったカリキュラムをしっかりこなすとしよう。」

 

 ジュリウスの言葉に全員が頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後、支部長室に呼び出されブラッドが集合。ユージから直々にある場所の見学に行こうと提案を受ける。

 

「度々呼び出したりしてすまない。今日はみんなにとある場所の見学のために一緒に来てほしい。」

 

「ある場所、とは?」

 

「我々極東支部の部隊『クレイドル』が現在行っているサテライト拠点だ。実はそのクレイドルというのは前の第一部隊が新たに活動域を広げた部隊で、俺の他に三人居るんだけど、二人は遠征中で今回は残る一人が居る場所に案内するよ。」

 

 ユージの説明によりブラッドはサテライト拠点に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ~、ここがサテライト拠点かあ。」

 

「テレビのニュースやユータからの話で想像はしていましたけどそれ以上に発展されてますね。」

 

「恐らく、これがここでは普通なんだろう。」

 

 サテライト拠点に到着し中を歩きながらそう呟くと最後のジュリウスの言葉に案内していたサツキが即座に反応し、怒る。

 

「普通って何なんでしょう?あなたが今何気なく発言した普通は果たしてここに居る人達にとって普通と言えますかね?」

 

「失礼。気に障ったのなら謝罪する。」

 

「まあ、慣れてますから良いですけど。ユータさん、ここには何度も足を運んでるあなたならここがどういうところなのか分かりますよね?」

 

「は、はい。ここサテライト拠点って言うのはフェンリル本部によって対アラガミ装甲壁の保護から外された所謂見捨てられた人々が安心して暮らせるよう支援していくための場所です。これを立案したのが兄貴でその仲間の方々が日々汗水流して活動しています。俺も食事と資金面で援助してます。」

 

「なるほど。それなのに俺は何も知らないで軽口を叩いていたのか。恥じるべき発言だった。お詫びする。」

 

「まあ、いいですよ。こんなことは子供の頃に嫌と言うほど経験してるので慣れてます。それより、俺は居住区のみなさんとお話したいので失礼します。」

 

 ジュリウスの謝罪にユータは気にせず住人と話をするため離れた。ユータを除いたブラッドの前には銀髪の女性がユージと仲良く話していた。

 

 

 

 

 

 

「お、来たみたいだね。ここがサテライト拠点だ。」

 

「私は極東支部所属独立支援部隊クレイドル所属のアリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉です。」

 

「フェンリル極致化技術開発局ブラッドの隊長ジュリウス·ヴィスコンティです。」

 

「香月ナナです。」

 

「シエル·アランソンです。」

 

「ロミオ·レオーニです。」

 

「ギルバード·マクレインだ。」

 

「··········」

 

 アリサとブラッドのメンバーが一人ずつ自己紹介していくなか、一人居ないことにユージは気付き、キョロキョロ回りを見渡すがいないことが分かると溜め息を漏らす。

 

「あの野郎、来て早々どこか行きやがったな。」

 

「ユータならさっきどこかへ行きましたよ。」

 

「ああ、住人の人達と話があると言ってました。」

 

「そうか。まあ、良いか。あいつはここに何度か来てるから住人の人達と仲が良いんだよ。特に人気なのが······」

 

 ユータが住人と話をするため離れたと聞いてユージがそう呟こうとするとどこからか声が聞こえてくる。そしてそれは徐々に大きくなり気づけばユータが若い女性達に囲まれサイン責めにあっているところだった。

 突然の黄色い声援にロミオは羨ましげに見つめナナは引き気味に、そしてシエルは冷たい視線をユータに向ける。

 

「た、助かった~」

 

 全てのサインを書き終えてようやく解放されたユータは疲れはて大きく息を吐いてブラッドに合流。それをユージは見逃さずにユータの頭に拳骨を与える。

 

「いってえー!何も殴ることないだろ?」

 

「バカ野郎、今回は仕事できているんだ。そんなのは仕事が終わってからやれ。」

 

「へーい。分かりました。」

 

「みんなこんな弟ですまない。これからも迷惑を掛けるだろうからその時は遠慮なく説教して良いから。」

 

「はーい、遠慮なく説教しまあす。」