僕のアカデミア (kizuna)
しおりを挟む

0話 前編

以前投稿したものを加筆修正したものです。


「お父さん、お母さん ねぇ 起きてっ!! 起きてよ!ねぇ!」

 

 とっくに日も暮れ、この家は目を凝らさなければものも見えないほど暗く、ただ月明かりだけが差し込む。ただ、叫ぶ僕の目に映るのは狂いそうなほどの紅色だった。

 

 

 

 

 

3人家族で住んでいる僕の家は、3人で住むには手に余るほど広く、この家が裕福であると傍目からもわかる。

実際一般家庭の水準より幾分か裕福な暮らしを送れていたように思う。

僕の両親は決して、社会に適応できるほど世渡りが上手くなかった。

むしろひどくお人好しで、自分に厳しく他人に甘くを体現しているような人達だった。

ただ、唯一こんな両親が輝くことができる職業があった。

 

  ヒーロー

 

一昔前ならつまらない冗談で通りそうな職業だが、この世界には実在する。

人に超常的な力をもたらす個性の世界各地での発現がヒーロー誕生の契機となった。

中国の軽慶市で『発光する赤児』の誕生の報道を皮切りに個性を持つ人間が多く現れ、世界総人口のおよそ八割が個性を持つ超人社会ができあがった。

そんな世界だと、個性を悪用し犯罪を犯すやつが出てきて、それを(ヴィラン)とよんだ。

警察だけでは手が回りきらなくなったため(ヴィラン)を取り締まる専門的な職業がうまれた。

それがヒーローだ。

両親はそんなヒーローの中の一人で、ヒーローランキング10位以内が常連の人気ヒーローだった。

(ヴィラン)一人ひとりに対し犯罪をやめるように説得したり、話し合おうとするなどヒーローの中でも異色だったが、そんな優しい両親が僕にとってほこりだった。

大きくなったらヒーローになりたいと思うほどに。

 

 

 

 

 

 

しあわせな日々が続くと思っていた。

そんな儚い願いは僕の目の前で、ぐぢゃぐちゃに壊されている。

僕が友達と遊んでいた間に家はこの世のものとは思えない光景になってしまっていた。

普段、笑顔が絶えない二人の顔からは笑顔が消え去っていて、顔を判別するのが難しくなるほど執拗に殴られていた。

二人の手には、個性を封じる手錠がかかっており、身体には思いつく限りの拷問がなされていて、母には陵辱の限りがつくされている。

 

「おぇっ……。おええぇぇ…」

 

あたりに立ち込めた血や肉の焼けた臭いや犯人が吐き出した欲望の猛りの臭いが混ざり、僕の鼻に届いたと感じた瞬間、胃の中のものをすべてぶちまけてしまった。

 

「どうしてぇ…。どうしておとうさんと、ぶぇぁぁ…おかあさんが殺されてるの?」

 

流れでた涙や鼻水をきにする余裕はなく。

僕の頭の中では、どうして両親が殺されなければならなかったのか、殺したのは誰なのか、ぐるぐるとずっとそんな考えがめぐっていた。

玄関の方から3人分の足音が聞こえてきた。

 

「ありゃりゃ、やっとおかえりかい?

握世(あくせ)十夜(とうや)君」

「この子母親に似て可愛い顔してるな〜。

 あぁ食べちゃいたいくらいだ

 

人を殺したことをなんとも思っていない二人の声は、僕の耳には全く入らない。

ただ僕にはこちらをニコニコと微笑みながら見つめているもう一人の存在が信じられなかった。

 

「なんで…。なんでお前がここにいるんだ…。ヒーローのお前がなんで(ヴィラン)と一緒にいるんだ」

「なんでかって?、それはヒーローの端くれでもあるこのトリックヒーローバラハが哀れな少年である十夜君を助けに来たのさ」

「ふ、ふざけるな、お前達がお父さんとお母さんを殺したんだな。僕が倒してやる」

 

両親から使うのは危険だから禁止だと言われていた個性をためらいなく使い三人の体を固定し殴りかかった。

その瞬間、僕の頭に雑音のようなものが発生し個性がうちけされてしまうのと同時に鳩尾をバラハにけられてしまい、また嘔吐した。

胃からは既に胃液しかでてこない。

 

「ごへぇ、うぺっ」

「危ないな〜、流石は空間を固めバリアを作り出すシールダーの父と、空間を把握することができるインフォシークを母に持つ子だ。個性も複合されバランスがよくなり、二人よりも強固性になっているね。まさかその年にして空間を固定して俺たちを止めるとは、末恐ろしい子だよ君は。ノイズがいなかったら今とは形勢が逆だったろうね」

 

痩せぎすの男が僕に二人と同じ手錠をつける。

 

「その個性はかなりの集中力を使うからな、個性を使い慣れてたお前の父親も俺の個性のノイズで集中力を乱したら、個性を発動しづらくなっていた。だが流石は人気ヒーロー手錠をつけるのがあと少し遅れていれば、個性が発動してこちらが危なかっただろうよ」

 

バラハが僕の頭を踏みつけながら言った。

 

「苦労したんだよ?君達の個性を封じる個性を使う(ヴィラン)を探すのは。それにふざけてなんかいないさ、両親とはぐれてしまった可哀想な少年を今から同じところへ連れて行ってあげるんだから、いかにもヒーローっぽいだろう?その手錠はね警察から拝借したものさ、便利だよね!」

「なんでお父さんとお母さんを殺したんだ」

「なんでって彼らは僕と同じ地域をパトロールしていたからね、人気は彼らにどんどん取られていってしまった。僕の個性はジョーカーを含めた54枚のトランプに無機物を閉じ込めるといった、地味な個性だからね。彼らのような強固性にはどうしてもインパクトにかける。だから殺した」

「そんなことで?そんなことで殺したのか!!僕のおっ…」

 

急にバハラが僕の頭を踏みつけ、言葉が途切れた僕に何度も足を思い切り振り下ろす。

 

「そんなことだと!!この糞ガキが!僕のヒーローとしての活躍があんな個性に恵まれただけの甘い奴らに奪われたんだぞ。本来僕が手にするべきだった地位や名声が奪われたんだ!奪い返すのは僕の当然の権利だ」

「止めてくれよ~バハラ」

 

バハラを制すように肥満体型の男が僕をもちあげた。

 

「どうして止める死音」

「これ以上やると俺がこの子でできなくなっちまうよ。まだ俺はヤリ足りねぇ~」

「俺が輪姦したあと、てめぇ等にあの女をやっただろうが、十数回も出してあんな臭いがこもるほどヤッたってのにまだ足りねぇのか。まぁいい、よかったね十夜君、君の処女(ヴァージン)を散らすのはこの死音くんだよ!最初は痛いかもしれないけど直に慣れて気持ちよくなるはずだよ!」

 

この言葉を聞き、服を脱がそうとしてくる死音に対して僕は初めて恐怖を感じた。

両親の凄惨な姿に麻痺していた恐怖心が自分が犯されそうなときに戻ってくきた。

 

「嫌だ嫌だ、ヤメテヤメテヤメテお願いします嫌だお願いヤメテヤメテヤメ」

「大丈夫だよ、優しくしてあげるからね!まずは君の(ファースト)キスからもらおうか」

 

抵抗も虚しく僕の口内を蹂躙し、歯をなぞったり僕の舌に絡ませてくる舌に、相手から流し込まれる唾液の味に吐き気を覚える。

えづいても死音は離してくれず、むしろ興奮したように勢いが激しくなった。

五分もした頃だろうか疲れきった僕にハァハァと臭い吐息を吐きかけながら僕の股間へと手を伸ばす。。

 

「5歳にしては大きいねぇ。嫌がるこの子の顔もナニも僕好みだ!将来が楽しみな子の蕾を散らすのは興奮するな〜!」

 

抵抗をすることを諦めた僕のズボンと下着を膝まで下ろすと僕をうつむけさせておしりへと手を伸ばした。

 

(もういいや、どうにもならないし抵抗したって無駄だ)

 

そんな考えをした僕の目に入ったのは三人に壊された両親の姿。

 

(どうしてこんなことになったんだろう、なんで僕がこんな目に合わなきゃならないんだろう、悪いことなんてやったことないのに、この男に犯されたあと二人みたいにボロボロになって死ぬんだろうか…。)

 

 

 

 

 

 

(イヤだ!そんなのイヤだ!敵も取れずに、こいつ等のいいようにもて遊ばれるのは嫌だ。僕には何が足りない?今この場を切り抜けるのに何が足りない?)

 

僕の中でなにかが壊れるる音がした。

 

(それはだ!僕には力が足りない、コイツ等を殺せるほどの力が欲しい)

 

「力が…。」

 

様子が変わった僕に目ざといバハラがつまらなそうに言う。

 

「ん〜?急になんだい?その目は諦めたやつの目じゃないね。こんなに無様になってもまだ希望を捨てないのかい?」

「力がほしい。強くなりたい!コイツ等に負けないくらい!誰にも支配されないくらいに!」

「はははははは!いきなりなんだい?この状況でまだそんなことを言ってるのかい?さーむっ、さっさと諦めちまえよ。おい死音、現実にそんな都合いいことなんて起こらないってこと思い知らせろ」

「了解、さぁ気持ちよく泣き叫びまちょうねぇ、と・お・や・君。」

 

 

ぐちゃ

 

背中のほうから何かがつぶれる音がする。

身体中に生暖かい雨が降った。

考えなくてもわかっていたなぜならそれは、今日いやと言うほど見たのだから。

振り返ると僕を襲おうとしていた死音だけでなくノイズも肉片になって潰されていた。

 

 

「なんだこれは一体何なんだ」

バラハが落ち着きをなくし、一瞬で起こった光景に戸惑っていた。

 

ガチャっと玄関の扉を開ける音がした。

こちらに歩いてくる音が異様なほど響く。

部屋のドアが開いた瞬間、禍々しいほどの威圧感が僕達を襲う。

ドアから姿を現した男はスーツを着込み整った顔立ちをしていたがそれを台無しにするほどのおぞましい気配をしていた。

 

「やぁ十夜!もう大丈夫。僕がいる

 

男の放ったその言葉は僕を心のそこから安堵させた。

この男が自身の敵ではないという事実が何よりも僕を安心させる。

それほどに、この男から放たれる気配はまがまがしく、暴力的、そして圧倒的だった。

僕にとって強さの象徴が彼になるほどに。

 

「お、お前何者だ。一体どうやって」

「うるさいな。まだいたのかい?僕達の話の邪魔ををしないでくれるかな」

 

そう言った次の瞬間にはバハラの下半身が吹き飛んでいた。

 

「よく言った十夜。自分が危機的状況にある中、あれだけの自我を押し通せる人はなかなかいない。そして君のたどり着いた考えはこの世の真理だ。強者だけが自由だ。弱者に甘んじれば何者かに支配される。自由になりたければ、何者からも支配されたくなければ誰よりも強くなる必要がある。君にはそれを可能にするだけの将来性がある」

「本当に?僕は誰よりも強くなれる?誰にも支配されない存在になれる?」

「ああ本当だとも、君は強くなれる。だから僕のもとへ来い、このオールフォーワンがきみを最強へと導いてあげよう!今日から僕がきみの先生だ」

「おーるふぉーわん?なんであなたは僕にそこまでしてくれるの?」

「君には力を求める意志があり、実行するだけの才能もある。そして何より私は君の“'   "だからね」

「そっか」

「君が僕のもとにくるという確かな証拠がほしい。そこの虫の息のバハラ君を殺してくれないかな。さっさと殺さないとバハラ君が死んでしまうし、音を遮る個性を持つ者も殺してしまった。騒ぎすぎたからね、直にヒーローが駆けつけるよ」

 

僕はオールフォーワンに手錠を外してもらいナイフを受け取った。

バハラはずっと泣き叫んでいてこちらを恐怖に歪んだ顔で見ている。

僕は歩いてバハラに近づき、思い切りナイフを振りかぶって刺す。

何度も何度も刺した。

人を殺すことに躊躇いなんて全く覚えず、ただ憎しみだけが僕の頭の中を支配する。

ただの肉の塊になり、生暖かさも感じなくなった頃には、僕の体は肉の上から動けずにいた。

罪悪感なんて微塵も感じていなかったはずなのに。

 

「君は自身の手で仇を殺し、両親の復讐を果たした。君の両親を殺したのは(ヴィラン)だった。君の両親を殺したのはヒーローだった。君を助けた僕は(ヴィラン)だ。君を助けてくれなかったのはヒーローだ。そして君の両親はヒーローだった。つらいだろう、君はもう戻れない。憧れの両親のようになることもない。だから、強くなれ。何者からも奪わせないために」

 

そう言って僕を抱きしめると頭を撫でてくれた。

乾ききった僕の心をほぐすよう暖かなものが流れ込んでいく。

 

「ひっくひっく、うわァァァァあお父さん、お母さん。僕、敵をとったよ二人を殺した奴を殺したよ。僕、僕大好きだったよ。お父さんもお母さんも大好きだったよ」

 

警戒していたはずの男からいつの間にか恐怖は消え温もりさえ感じていた。

そしてその温もりに身を委ねるように目を閉じた。

 

 

オールフォーワンside

 

僕はまだ小さく腕の中にすっぽり収まる十夜を抱きながら温もりを感じていた。

 

「色々なことがあってまだ心の整理がついてないだろう。今は休むんだ。これから君は僕のもとで修行する。いくら君に才能があると言っても決して楽な道ではない。むしろ修羅の道と言ってもいい。だから今だけは休みなさい。君の夢のために」

 

十夜がめった刺しにした死体に目を向けて憎悪の感情が詰まった瞳でにらむ。

 

「僕は怒っているんだよ。彼らも僕が助けるべきだった。オマエラみたいなゴミが十夜達に手を出してはならなかった。そろそろヒーロが駆けつけてもおかしくない頃だ、十夜が殺したとバレないように証拠を隠滅しなければな」

 

そう言いながら死体を、燃焼の個性で燃やした。

 

(十夜を迎える準備をしなくては、新しい戸籍を作り十夜の父方の遠縁ということにするかな。幸いにも十夜の親戚は既にいない。今の活動拠点以外にも表で十夜が住むところも用意しなくては。僕が来たのは十夜の両親を殺す際、ヒーローと(ヴィラン)が手を結んだことが気に入らず、手を出したということにしなければならない、僕が彼らを助けるために駆けつけたと知られるのはまずい。明確な証拠を用意しなければならないし、僕にはやることがいっぱいだな)

 

ヒーローが外に駆けつけたことを察知し。

 

(さぁ派手に登場しようか、十夜に傷をつけないようにね)

 

十夜を家において個性で守りながら家を派手に壊して登場した。

 

「やぁオールマイト、おそかったね僕はここだよ!」

 

 




ぜひ、感想やここを直した方がいいなど意見を送ってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

0話 中編

顔を眩しく照らす光に、優しく揺さぶられるように目を覚ますとそこにあったのは見知らぬ天井だった。

 

なんて古典的な目の覚ましかたをしながら、周りの様子から病院にいることを把握する。

起きたばかりであまり回らない頭を回して、ベッドの上におかれた手紙をみながら、自分の状況を思い出そうとしてると、病室のドアがノックされ、三人が入室した。

 

「十夜君起きたの?体に違和感ない?なんでここにいるかわかる?」

 

明確に病院関係者だとわかる格好をした看護師がこちらを気遣うように、されど矢継ぎ早に質問をしてくる。

僕の体を壊れ物を扱うかのようにそっと触りながら。

 

「うん、体はもう大丈夫みたいだね。ちょっと青あざとかあるけどすぐに治るから」

「矢野さん、もう大丈夫ですかね」

「えぇ、ただし十夜君に何か異常が起こったらすぐに止めてもらいますからね」

「それは大丈夫です」

 

二人のスーツを着た男のうち年配の方が看護師に伺いをたてると僕に目を向け、

 

「十夜君。私達は刑事だ。まだ治りきらないうちにすまないがいくつか質問をさせて欲しい。いいかな?」

「うん」

「ありがとう。では、早速いくつか質問をしていこう」

 

それから僕は事件の詳細についてきかれ、素直に質問にそって答えていく。

 

「十夜君、ごめんね。疲れただろう。安心してくれ、これが最後の質問だ。君は、君にとっては助けられたと言えるのかな。きみを助けた相手を覚えているか?」

 

さりげなく聞いているように振る舞っていたが、それが本命の質問なのだとかんじ、僕は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで質問は終わりだ。手間をとらせたね。では矢野さん、私達はこれで。行くぞ只野」

 

そう言って二人は足早に病室から去っていった。

 

「さて十夜君、私は君の親戚が君を迎えに来てるから呼びにいってくるね」

 

病室から出ていった看護師を尻目に僕は手紙を眺めていた。

数分もしないで病室のドアがノックされるとあの場所にいたあの男がそこにいた。

 

「では、ご帰宅の準備が整いましたら受付に声をかけていってください。」

 

看護師が出ていくのを見計らいながら男は僕を褒めた。

 

「よくやった十夜。君は目を覚ましたばかりなのに、手紙の書いてある通りに僕のことをごまかした。なんとかできないこともないが、君がごまかさなければめんどくさいことになっていたのは確かだよ」

「一体どうやって手紙をおいたの?人が病室の外にいたはずなのに」

「流石だね。もう、空間を把握していたのか。だから、僕の手紙の意図を理解できた。たった6歳の思考能力とは、思えないほどだ。素の頭もいい、正に個性を扱うのにうってつけだ。」

 

思わず退院の準備をする手が止まる。あまりのべた褒め照れくさくなり、誤魔化すように質問を重ねる。

 

「僕はこれからあなたと生活するの?」

「そうだ、手続きは既に済ませておいた。あと、僕のことは先生と呼んでくれ」

「先生……?」

「何事もけじめというのは大事だからね。さて、そろそろここからでないとね」

 

止まっていた手をまた動かし始めながら準備をおえると、受付に声をかけにいくと、先程の看護師に。

 

「すみません、表は出られないのでうらからおねがいでしますか?」

「あぁもちろん。迎えも裏に止めてもらっていた」

「そうですか。すみません、なにせ報道陣が山の様に押しかけて普通の患者さんが来れなくなる程ですから」

「どういこと?」

 

二人の言っている意味がわからず聞いてみると、

 

「そうか、君は頭はいいが、世論の動き方、人の汚さというのを知らないのか。いいかい、十夜。君の両親は有名ヒーローだった。そして今回の事件は悲惨で衝撃的な物だつた。だから、世間は賑わい。マスコミも湧いてるのだろうね。どこからか彼らの息子である君がここの病院に入院したと知ったのだろう。それで押し寄せてるのさ。少し考えればわかるはずなのに人の感情を考えもしない。いや、君が悲しんでいることがわかって、それが使えると判断して、ここに集まった」

 

先生は僕の頭を撫でながら優しく語った。

 

「怒らないのかい?」

「怒らないよ、怒っても意味なんてないし」

 

 

僕の中に両親の死をいたずらに騒ぎ立てる事への怒りはないわけじゃない。

でも、先生の言葉には、僕の両親が徒に騒ぎ立てられていることへの怒りを感じた。

身近な人が両親のために怒ってくれていたことは、僕にとって救いのように感じた。

だから、落ち着いていられる。 

 

 

「そうか、十夜は優しいね」

 

先生にはお見通しだったようだ。

見透かされたことが妙に気恥ずかしく思わず顔を背ける。

 

 

「じゃあ行こうか」

 

そう言いながら僕たちは裏口へと周り、そこに付けてあった車へと乗り込んだ。

そのまま、集うマスコミを横目に病院から出ていった。

しばらくして、少しためらいながら先生は僕を見つめると

 

「十夜、家についたら君にあることを教えよう。いずれわかることでもあるし、君に直結することだ。君は知るだろう、人の醜さには限りというものがないのだということを。覚悟しておきなさい」

 

そう言い、先生はそれっきり車内では一言も喋らずにただずっと空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

家の中、広い一室のテレビの前、僕はそこで人の醜さ(おぞましさ)に出会う。 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。