アポクリファ世界線での第四次聖杯戦争(妄想100%) (ゆきうさ)
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遠坂/雁夜陣営の場合

 初っぱなから、大分原作と乖離させてますが、たぶんここの陣営が一番zeroと違う道を行ってるだろうなと思って一番最初に持ってきました。

 こんなん絶対違うやろ!という方はブラウザバック推奨です。


 日本の一地方都市である冬木、中でも特に豪華な屋敷の一室で二人の男が向かい合っていた。

 

 一人は間桐雁夜。冬木にかつて存在した御三家の一角における、最後の魔術師。その左手に浮かんだ赤い入れ墨のようなものーーー令呪をかかげ、これから起こることに気を張りつめている。

 

 もう一人は遠坂時臣。冬木の御三家において唯一残った家の当主であり、魔術師としても一流だ。常に優雅たれという家訓を是としている彼ゆえに、目の前の状況に対しても余裕の表情を崩さない。しかし、頬を伝う一筋の汗が彼としても緊張していることを示している。

 

 

「さて、覚悟はいいのかな。雁夜君。」

 

「ああ望むところだ、時臣。こっちは今すぐにでも始められる。」

 

「では、他の陣営に先んじて始めることにしようーーー英霊の召喚(・・・・・)を。」

 

 

 

 正史(fate/zero)では起こりうるはずもなかったこの二人の協力。

 それは第三次聖杯戦争において勝利したのが間桐でもなく、アインツベルンでもなく、遠坂でもなく、ユグドミレニアという外部の陣営であったことに端を発する。

 

 大聖杯そのものが冬木から持ち出されることによって、聖杯による第三魔法の成就に執着していたアインツベルンは冬木から撤退。聖杯そのものに執着していた間桐はユグドミレニアと交戦、敗北によって落ちぶれてしまった。

 臓硯以外のまともな魔術師がいなかったこともあって、魔術師としての家は完全になくなったと言ってもいい。

 

 その結果桜は間桐の家に養子に出されることもなく、遠坂の遠縁の家に引き取られることになった。それでも、仲のいい家族を引き裂いたと勘違いした雁夜は時臣に恨みを抱いたが、引き取られた先が間桐ではなく養子になったあともそれなりに付き合いが続いていると知り、『二人の子供が才能に溢れているのに、それをただ潰すことはできなかった』という時臣の葛藤を知ってしまったことで、二人は和解を果たしたのだ。

 なお、御三家が潰れたことにより忙しさが倍加しほとんど冬木から動けなくなった時臣に代わり、雁夜の方はちょくちょく海外の桜の様子を見に行っているようだ。

 

 

 ここで話が終われば良かったのだが、冬木に残された小聖杯を巡って亜種聖杯戦争が起こることになってしまった。

 しかし、小聖杯では根源にはたどり着けないと知っている時臣には令呪が現れず、また聖杯の歪みもないためにどこぞの外道神父のもとにも令呪は現れなかった。

 

 だが、間桐雁夜には令呪が現れた。これは、過去と向き合った雁夜が今の幸せな遠坂家を守ると決心していたことと、亜種聖杯戦争に遠坂家が巻き込まれるのが確定していたから。

 

 冬木の地に大きく影響力を持ち、監督役とも友好のある遠坂が、巻き込まれないはずはない。なのに、時臣は聖杯戦争そのものに参加する気は全くない。

 いや、そもそも参加する時点で狙われることが確実なのだから参加しないという選択肢は間違ってはいないが・・・もし、サーヴァントに狙われた場合、時臣が優秀な魔術師だとしても為すすべもなく死んでしまう。

 いや、マスターですら時計塔のロードと魔術師殺しがすでに名乗りを挙げているという。

 

 もちろん、遠坂を狙うメリットはマスターにとって存在しない。しかし、相手が自分たちを害する手段を持っているにも関わらず呑気に静観するのみというのは危険が過ぎるーーーそのような考えがあったからか、間桐雁夜のもとに令呪は現れた。

 

 

 

 話は変わるが、亜種聖杯戦争が数度行われているこの世界において、サーヴァントを呼ぶための触媒というのは高騰している。

 正史ではギルガメッシュを召喚して見せた遠坂家だが、今回は触媒の入手を見送った。

 

 理由としては、雁夜が触媒の入手に遠坂の手を借りようとしなかったこと。今回の聖杯戦争において、雁夜と遠坂はつかず離れずくらいの距離を維持しなければならない。雁夜が時臣などを含めた遠坂陣営と見なされれば他マスターの手が凛や葵にまでのびる可能性があるからだ。

 かといって、魔術師として半人前どころかギリギリ魔術師と言えなくもない程度の雁夜ではサーヴァントの運用すらまともにはできない。正史のような蟲による強化もできないのだ。魔力供給すらまともにはできない。

 

 そしてこれが二つ目の理由でもある。強力な英雄というのは基本的に魔力を多く要求する。だからこそ、下手に強い英雄を呼ぶより、相性召喚で呼ぶ方が上手くいくだろうという読みがあった。そもそも、ある程度サーヴァントに対して自衛できれば良いのだから、わざわざ触媒を用意する必要もないだろう、というのが二人の判断だった。

 

 

 

 すなわち、今から何が呼ばれるのかは完全に未知。戦争前にある程度はサーヴァントの人となりについて知っておきたいという雁夜の意志により、かなり早い段階で召喚しようとしているので、サーヴァントのクラスも七通り全てから考えられる。

 二人が緊張しているのも宜なるかな、ということである。

 

 

 果たして、召喚(ガチャ)の結果はーーー

 

 

「ふむ、サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した。しかしセイバー……セイバーだと……? この私がセイバーとは、いったいどういう理由だ?」



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衛宮切嗣陣営

 冬木の町を歩きながら、男は暗く澱んだ目を周囲に向ける。

 

 平和な町だ。数週間後には魔術師が集まり戦争を始めるというのに、町そのものは平和の一言に尽きる。

 

 今も、男のすぐ横を幸せそうな子連れの家族が笑い声を響かせながら通り過ぎていく。

 

 

 だが、スーツ姿の男はそんなことは関係ないとばかりに歩みを緩めることはない。

 

 

「ねー、○○は将来はなにになりたいのー?」

「えー? ぼくはねー、××レンジャーになって、皆を守るヒーローになりたい!」

 

 そんな声が聞こえてくるまでは。

 

 

 その男ーーー衛宮切嗣は自嘲するように何かを呟いた。

 少しばかりの憧憬と絶望にも似た諦観が含まれたその言葉は誰の耳に入ることなく、雑踏へと消えていった。

 

 

      ◆ ◆ ◆

 

 

 この世界の衛宮切嗣は完成された殺人機械だ。

 

 彼の隣に寄り添うはずだったはずの彼女は造られることもなく

 彼の凍てついた心を溶かすはずの少女は生まれることもなく

 彼の横に立つはずの女性も彼を守るために散っていってしまった。

 

 だからこそ、彼は殺人機械として完成されている。大切なものがなく、彼の天秤には人の命という価値しか乗ることはない。

 千を救うためなら百を切り捨て、万を救うために千を切り捨てる。あるいは、自らの命でもって多数の命を救えるのなら彼は進んで自らの命を差し出すのだろう。

 

 

 だからこそ、聖杯戦争に参加した。六人の命を対価として数多の命を救うことができるこの戦争に参加した。

 

 小聖杯ゆえに、全人類の恒久的平和という彼の目的が達せられることはないだろうと諦めはついているが、普段彼が殺人を以て救う以上の悲劇を救うことができると確信してこの争いに身を投じた。

 

 

 しかし、アインツベルンと繋がりのない彼はエクスカリバーの鞘を手に入れることはない。すなわち、アーサー王を召喚することはできない。

 加えて、彼の英雄嫌いはこの世界でも健在……むしろより強くなっている。

 だから衛宮切嗣は英霊を召喚しても運用する気がほとんど無い。魔術師といえど、人間である以上銃弾を打ち込めば殺せるし、魔術的な防御に対しては無類の強さを誇る"起源弾"もある。

 最悪、被害を考慮せずに町を丸ごと火の海にすることや、水道管に細工することで飲み水に毒を仕込むことも考慮している。

 

 その細工をするために数週間から現地に潜入しているというわけだ。

 もちろん、テロまがいな活動の準備だけでなく魔術師が潜伏しそうな場所を洗い出し、狙撃スポットを見つけることも忘れない。

 一応ではあるが、町に被害を出すのは最終手段、できるだけ使いたくない手であるのは確かなのだ。追いつめられそうになれば使うことに躊躇いは無いとしても。

 

 

 英霊なんてプライドの高い存在に、これらの裏工作を見られたくなかったため、英霊召喚は全ての準備が終わってからだった。

 

 この時点で、セイバー、ランサー、ライダー、アサシンは埋まっており、残るクラスはアーチャー、キャスター、バーサーカーのみ。

 

 

 かくして召喚の結果はーーー

 

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。……すまない、どうやら記憶が曖昧なようでね。真名は自分自身でも分からない。」



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ケイネス陣営

 イギリス時計塔の内部で一人の男が机に向かって作業している。机の上には水銀などの高価な素材が乱雑に置かれているものの、部屋の主は気にならないとばかりに一心不乱に魔法陣を弄っている。

 

 しばらくすると作業が一段落したのか、前屈みになっていた姿勢を直し椅子の背もたれに体重をかけ軽く伸びをする。

 難事を成し遂げた直後だというのに、その口から漏れるのは軽い溜め息のみ。まるで今し方終わらせた作業が大したこと無かったかのような雰囲気だ。

 

 そのタイミングで女性が部屋へと入ってくる。

 

 

「あら、ケイネス。作業は終わったの?」

「ああ、ソラウ。いいタイミングだ。ちょうど終わらせたところだよ。」

 

 

 男ーーーケイネス・エルメロイ・アーチボルトの目には入ってきた女性ーーーソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに対しての熱い感情が浮かんでいる。

 一方でソラウの方には強い感情は浮かんでおらず、両者のすれ違いを感じさせる。

 

 

「サーヴァントへの魔力供給を君と私の二人でまかなうための細工は済んだ。これで私は使い魔の魔力消費を気にすることなく全力で魔術を行使できる。これで私の勝ちは決まったようなものだよ。

 ま、もっともこの私の前に現れる度胸のある魔術師がいれば、の話しだけどね。ハッハッハ!」

 

 

 傲岸不遜な物言いだが、彼の成したことはそれほどに大きい。

 サーヴァントへの魔力供給を分割して賄うという、英霊召喚の術式に対しての干渉はかなりの腕前がなければなし得ない。

 それを事も無げにやってみせるケイネスは、天才と呼ぶにふさわしいと言える。

 

 

 また、聖杯戦争の参加者が彼のせいで集まりきっていないというのもまた事実。

 この時点で参加が決定しているのは、間桐雁夜と"魔術師殺し"衛宮切嗣、そしてもう一人日本に住む無名の魔術師だけだ。

 少しでも魔術に触れた者は、ロード・エルメロイの名を聞いて参加を取りやめたり辞退することが多かった。

 ……それ以上に"魔術師殺し"の名を聞いて参加を取りやめた者も多かったのだが。

 

 

「さすがね、ケイネス。ところで、肝心の英霊召喚まで時間があまりないようだけど?」

「おっと、もちろん忘れてないさ。今は触媒が届くのを待っているところでね。最高のものを用意させたとも。

 しかし、どういうわけか到着が遅れてしまっているようだね……。まったく情けない。まともに物を運ぶこともできないのかね。」

 

 ケイネスは知らない。このときすでに、ある教え子が用意させた触媒を持ち逃げしていることを。

 触媒として最高のものを用意してしまったが故に、これから赴く戦場で、彼らが猛威をふるうことを。

 

 

 しばらくはソラウと会話をして待っていたケイネスだが、予定していた時間の一時間前になっても触媒が届かないことに業を煮やし、確認してみると触媒はどこかで紛失してしまっていることが判明した。

 

 

「なんと言うことだ……。私の妨害をしてくる輩が時計塔にいるとは……。本来なら真っ先に下手人をあぶり出し制裁を加えるところだが、時間がない。全くどうしたものか……。」

「なにか、代わりに触媒になりそうな物は置いてないの?」

「ない、とは言わないがあまり期待できるものではない。なんせ英雄にゆかりのある品を集めようとしている輩が多くてね。値段もつり上がってしまっている。

 そんなものを二つも用意するくらいなら自前の礼装用に金をつぎ込んだ方がいい、と思ったのでね。一つしか用意させていなかったのだよ。」

 

 

 そうこうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去っていく。

 この時を逃せば召喚に適した時間までまた数日かかり、せっかく組んだ陣も書き直すことになってしまう。

 

 それに、数日では結局求めている水準の触媒は手に入らないだろう。

 

 

 ならばと、ケイネスはあることを思いついた。

 

「仕方がない。多少不安だが、触媒なしの召喚をするより他にあるまい。

 なに、この私が召喚するのだ。下手な触媒を用いるよりもよっぽどいい結果になるに違いない。」

 

 

 そうして行った召喚の結果はーーー

 

 

「おう、オジサン呼ばれちまったか……! まあいい。オジサンはランサー。召喚に応じ参上だ。ま、防衛戦なら任せときな。トロイアの意地、見せてやるよ。」

 

 




 ケイネス先生には幸せになって欲しいな……。と思ってディルムッドから変更しました。
 これは切嗣のエミヤもそうですけど、九割以上作者の趣味です。

 まあ、この世界でもケイネス先生が生き残れないのは確定してるんですけどね!(悔し涙


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雨生龍之介陣営

 正直、汚染されていない聖杯に龍之介が選ばれるかは分からない……。
 けど、時臣と綺礼が参加しないから二人分はオリキャラマスターが決まってて、これ以上オリキャラ増やすのもなんだかなーとなったので参加してもらうことにしました。


「悪魔って本当にいると思うかい? 坊や。」

 

 

 ある民家の中、人の血で書かれた魔法陣を前にして男は少年に話しかける。

 

 

「新聞や雑誌なんかじゃ、よく俺のこと悪魔呼ばわりするんだけどさ、それってもし本当に悪魔がいたらちょっとばっかり失礼な話だよね?」

 

 

 少年はおびえた目で男を見上げる。手も足も縛られ、口もふさがれ床に転がされている身からすれば、まだ正気を保ってるだけで大したものだろう。

 

 たった今目の前で一人の女性が殺され、その血でもって殺人犯が怪しげな儀式をし始めたのだ。恐怖に押しつぶされ、叫び声をあげようとしてもなんらおかしなところはない。

 

 

「ちゅーす! 雨生龍之介悪魔であります!

 ……なんて、名乗っちゃっていいものかどうか。そしたらさ、あるもの見つけちゃってさ。」

 

 

 なのに、それを為す側である男ーーー雨生龍之介にはそんなことをしているという自覚がまるでなさそうだ。

 今、冬木の町を騒がせている連続殺人犯でもある龍之介は少年の反応をまるで気にすることなく、淡々と自分語りをしていく。

 

 

「じゃーん! うちの土蔵にあった古文書?みたいなの。なんかうちのご先祖様は悪魔を呼び出す研究をしてたみたいでさー。

 そしたらさ、やっぱり本物の悪魔がいるか確かめてみるしか無いじゃん?」

 

 

 その程度で、その程度のことで悪魔を召喚してみようだなんて考えるなんて、狂気もここに極まれりというところである。

 

 

「でもさ、もし本当に悪魔がな出てきちゃったら、何の準備もなくて茶飲み話だけってのもなんか間抜けな話じゃん?

 ……だからさ、坊や。もし本当に悪魔さんがおでまししたらーーー1つ殺されてみてくれない?」

 

 

 そんな言葉を聞いた少年は、今度こそ恐怖に顔を歪ませ大声をあげようとして暴れまわる。

 それでも龍之介は意に介せず、大きく笑い声をあげる。

 

 

「はははっ! 悪魔に殺されるのって、どんなだろうね!? きっと貴重な体験にーーーあ痛っ!? なんだこれ?」

 

 

 そのとき、龍之介の右手に赤い痣ーーー令呪が現れる。

 

 本人は知る由もないが、その体には確かに魔術師の血が流れており、枯れきってはいなかった。

 故に、聖杯が選ぶ最後のマスターとして選ばれた。

 

 

 ここまでは正史(zero)と変わらない。

 変わることが有るとしたら……このあとだ。

 

 なぜなら、この時点ですでにキャスターは召喚されている。それどころかある一つのクラスを除いて全てのサーヴァントは出揃っており、この冬木の町に集まっているのだ。

 残った最後のクラスはバーサーカー。

 狂化のクラススキルでステータスが上がる代わりに理性を失う特徴を持つ。

 

 

 正史ではジル・ド・レェを召喚していた龍之介だが、この世界ではバーサーカーの適性を持たない彼を召喚することはない。

 

 

 龍之介の手に令呪が現れるのと同時に魔法陣が輝き出す。

 そこから現れる英霊は誰なのか。

 さあ、召喚の結果はーーー

 

 

「うおおおおおっ!! みんな……ころ、す!

 ぼく、は……かい、ぶつ……!めいきゅう、の、ばんにん、だ!!」




 龍之介はジルと組んでこそみたいなところはあるけど、キャスターはとあるサーヴァントが内定していたので変更してみました。


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富嶽武斬陣営

この話と、次の話のマスターはオリキャラです。


 

 道場の中、一人の剣士が刀を持って佇む。刀身は鞘にしまってあり、居合いの構えをとる。

 一陣の風が吹くと同時、チンッと甲高い音が鳴り響く。

 

 素人であればその剣士が動いたことすら認識できないような素早い動き。一つの道を修めた者でなければ到達できない境地。

 

 だが、その剣士は自らの剣閃にいまだ不満があるのか納得のいかない顔をしている。

 

「足りぬ。まるで足りぬ。人の身を越えるための魔術を以てして、決して人を逸脱すること叶わず、か。剣の道を志して三十年になるが、剣の道は修められども修羅の道は修められず。

 やはりかくなる上は聖杯戦争に参加し、英霊と合間見えるべきか。」

 

 

 壮齢の剣士、名を富嶽(ふがく)武斬(ぶざん)という。

 富嶽家は剣を通して人の身を越え、根源へと至ることを目標とした魔術の家計である。その六代目当主富嶽武斬は人の身を超えるためには、ただ修練を重ねるだけでは駄目だと考えていた。

 人を超えた存在と刃を交わすことこそが、人の身を越えるための第一歩と考え、死徒の討伐などにも参加してはいたが、結局は彼の望む戦いは得られず。

 人理における最高峰の使い手たる英霊とならば自らが求める戦いができると考え聖杯戦争に参加しようとしていた。

 

「噂に聞くところであれば、北欧で行われた聖杯戦争ではケルトの誇る大英雄クーフーリンと竜殺しの大英雄ジークフリートが合間見えたという。

 そのような戦いに私も身を投じてみたいものだ。……しかしそうすると、さすがに五体満足どころか命があるまま帰れるかも分からんな。なかなか難しいものだ。

 一応、自分で呼び出したサーヴァントに相手になってもらうという手もあるが。」

 

 

 そうして、武斬はサーヴァントを呼び出すための触媒を考え始める。

 土蔵に足を踏み込むと多種多様な刀剣や火縄銃などが置いてある。

 

 富嶽家は魔術師としての歴史こそ江戸の終わり頃からだが、武家としての歴史は徳川幕府が始まる頃まで遡れる。

 そのころからの物品が土蔵には詰まっているので日本の英雄に限定はされるもののサーヴァントを呼び出すための触媒には事欠かない。

 おそらく探せば織田信長や徳川家康といった超有名どころの英雄に縁のある品もあるだろう。

 

 他の参加者と違い選ぶ余地があるが故、彼は悩んでいた。

 

「知名度で言えば織田信長あたりが頭抜けてはいる。が、やはり個人の武勇で有名になったわけでは無い以上本人の戦力が低い可能性がある。

 ならば、むしろ近代の強さで名が知れた者を選ぶべきか……?」

 

 

 そうして土蔵を漁っているうちに、武斬は一本の刀を見つけた。

 刀から感じる血の匂い、かつて数多くの命を殺めたことを感じさせるその一振りに、武斬は引き込まれるかのように手に取った。

 

「これは……肥前忠広!? これは幕末に失われていたと聞いているが、どうしてうちの蔵に? いったいご先祖様はなにをしでかしてくれたのか。」

 

 

 肥前忠広は幕末の時代に、とある人斬りに使われていた刀である。坂本龍馬からその人物に贈られたものであるために、龍馬を呼ぶ可能性も無いわけではないが、これを触媒とすれば十中八九あの人斬りを呼び出すことだろう。

 

 かくして、武斬はその刀を用い英霊召喚を行った。

 

 

「おう! よう、わしを呼び出した!わしは剣の天才じゃき、この戦争勝ったも同然じゃ! なんじゃと? アサシン……そんなもん知らん。わしのクラスは『人斬り』じゃ。」

 

 



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ユグドミレニア陣営

 

 第三次聖杯戦争において大聖杯を奪いその手に修めたユグドミレニアの血族。その本拠地であるミレニア城塞にて、ちょっとした内輪もめが起こっていた。

 

 対立しているのは二人の男。

 一人は青みがかった髪に金色の瞳を持つ、ユグドミレニアの当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。

 対するのは淡い金髪に黒色の瞳を併せ持つ、日本人と西洋人のハーフを思わせる青年。名をアイガス・風見・ユグドミレニアという。

 

 

「デ? なんデ俺はマスターに選ばれなかったんだヨ? そりゃア、あんたとそっちの嬢ちゃんは分からんでもねエ。だガ、他の奴らが俺を押しのけてまで選ばれるってのハ、おかしくねえかイ?」

 

 

 内輪もめの理由は単純。次の大聖杯を巡って起こる聖杯戦争、ユグドミレニアの血族の中から選ばれるそのマスター候補の中に、風見の名前がなかったからだ。

 

 とはいえ風見の魔術師としての実力はギリギリ二流と言える程度。

 とはいえ、血族としての名を優先するあまり一流と呼べる魔術師はほとんどおらず、二流と言える魔術師すら多くはないユグドミレニアの中ではそれなりに貴重な人材でもある。

 

 

 だからこそ、自惚れるなという言葉をダーニックは飲み込み、耳障りのいい文句を選んだ。

 

「聖杯戦争におけるマスターは魔術師としての腕もそうだが、いかにサーヴァントと歩みを合わせられるかという点も大きい。

 風見、決して君のことを蔑ろにしているわけでは無いのだよ。ただ、英雄と呼べるものと、君の性格は少々噛み合わない可能性が高くてね。だからマスター候補から外したんだ。

 ーーーこれは前回の聖杯戦争優勝者として、参加した一人のマスターとしての私の言葉だ。それでも不服かね?」

 

「なるほどなるほド、マスター、ネ。だったらじゃア、俺がマスターでもやってけル、ってのをあんたにまで見せつければいいのかイ?」

 

「それは……。」

 

「だかラ、俺は半年後に日本に行こうと思ってナ。どういうつもりカ、賢いあんたなら分かんだロ?」

 

 

 それじャ、あばヨ、と言って風見は部屋を出て行く。

 それをダーニックは止められなかった。否、止めるつもりもなかった。

 

 

(……ふう、馬鹿が思い通りに動いてくれて助かった。先日の亜種聖杯戦争は近場であったから、()を忍ばせるのも容易かったが、流石に極東の地まで目を届かせるのは大変だからな。使い潰しても構わない奴に自主的に参加させるために色々と細工するのは面倒だった。が、目標は達せられた。

 あとはあのサーヴァントを呼んでもらうだけだ……。)

 

 

 ダーニックは聖杯戦争での情報を集めている。敵対している時計塔の魔術師がどの程度なのかを見るために。そして、自分の呼び出したサーヴァント、ヴラド三世に勝ち得るサーヴァントがいるかどうか見定めるために。

 

 もちろん、ルーマニアにおいて最大限の知名度補正をうけるヴラド三世は最強と読んでも差し支えないほどの強さを誇る。

 が、ダーニックには一つのの懸念があった。

 

 真っ向勝負であればヴラド三世を越えるサーヴァントはそうはいない。しかし、勝負とは正々堂々と行うものが全てではない。

 

 例えば暗殺。例えば多対一の状況。

 それらもダーニックへと届きうる刃であることは確かだが、自分であれば対処できると考えている。

 ゆえに、懸念材料となるのは敵対する英雄の宝具と逸話による、絶対的な相性不利があるのかないのか。

 

 

 例えば、竜殺しの英雄であるジークフリートは竜に対して絶対的な有利をとれる。

 先の聖杯戦争では竜の特性をもつバーサーカーのサーヴァントの宝具をいとも容易く破って見せたという。

 

 同じことがヴラド三世に対して起こらないとも限らない。

 例えば、吸血鬼殺しの逸話を持つ英雄や

 そして例えばーーー王に対して有利を取れる英雄など。

 

 

 吸血鬼殺しの逸話はともかく、王殺しの逸話は世界中に存在している。残りの六人が呼び出さないとも限らない。

 

 今回は時計塔のロードが征服王の聖遺物を手に入れたという。ならばと、王殺しの特性がどのくらい脅威になるかの試金石に、今回の聖杯戦争を使うつもりなのだ。

 

 

 そうして、風見はある一つの聖遺物を手に入れた。ペルシャ語で書かれた、千夜一夜の物語の断片を。

 

 

 かくして、召喚の結果はーーー

 

 

「喚ばれて、しまいましたか……。聖杯戦争など……参加したくは無かったのですが……。

 だって、死んでしまうじゃあ、ありませんか……。私は死にたくない、ただそれだけが望みです……。」





 今更ですが、fgoの亜種特異点Ⅱ「伝承地底世界:アガルタ」のネタバレがあります。ご容赦を。


 龍之介のところで、キャスター枠は決めていると言いましたが、このサーヴァントに参加してもらおうと思ったのは二つほど理由があります。
 その一つが、騎士王も英雄王もいないのに、征服王はいて大丈夫? これただただ無双されない?
 →なら王特攻のサーヴァントだすか!
 という理由です。




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ウェイバー陣営

彼でラストになります。


 講義室で金髪蒼眼の男(ケイネス・エルメロイ)が教鞭を取っていた。その手にあるのはある少年の書いた論文、しかし彼はそれを思い切り貶していく。

 

 

「この論文では、魔術師としての優劣は血統のみでなく本人がいかに効率よく魔力を扱えるかなどで判断するべきだと書かれている。まったくもって嘆かわしい。

 私の生徒にこのような考えを持つものがいるというのは非常に嘆かわしいものだ。

 

 ……たしか、君の家は魔術師としてはまだ三代目だったね? 君は自分が認められない腹いせにこんなものを書いたのかね?

 

 ……魔術師としての優劣は血統で決まる。これは覆すことのできない事実である。分かったかね、ウェイバー・ベルベット君。」

 

「クソッ……!」

 

 

 イギリス時計塔にての授業の一風景。血統に優れた魔術師が、歴史の浅い魔術師に対して魔術師としての常識を叩きつけるという、ただそれだけの一幕。

 

 もちろん、血統こそ優れていないが才能はあると思っている少年にとっては許されざる蛮行であり……その講師に少しやり返したい、などと考えるのは至極当然だったのだろう。

 

 

 

「ん? 君は降霊科の生徒かい? ちょうどよかった。これをエルメロイ先生に届けてくれないか?」

 

 だからその機会が驚くほど早くに訪れたとき、少年は迷いながらもその包みを手に取った。

 

 

 

 少年ーーーウェイバー・ベルベットはその手にしたものがケイネスが聖杯戦争用に用意していた触媒だと分かると、それを持って単身日本へと向かうことを決める。

 

 

 金欠ゆえにホテルに泊まることもできず、冬木に住む一般人の家に暗示の魔術をかけることで転がり込む。

 

 そして聖遺物である大王のマントの欠片をもって召喚に臨む。

 

 そして、召喚の結果はーーー

 

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争はライダーのクラスを得て限界した。

 さて、貴様が余のマスターか?」

 

 

 かくして七騎は出揃った。

 

 サーヴァント・セイバー。真名をガイウス・ユリウス・カエサル。

「いやしかし、剣をとって勝ち進めなどと言われなくて助かったよ。私はまあ、見ての通り戦いは苦手だからな。

 とはいえ、マスターの熱い思いを聞かされては応えないわけにもいくまい。あまり気は進まないが私の権謀術数の手練手管をお見せするとしよう。」

 マスター、間桐雁夜。

「俺には、守りたいものがある。それを守るために聖杯戦争に参加したんだ……! 俺の命に変えてもあの家族の幸せは守ってみせる!」

 

 

 サーヴァント・アーチャー。真名をエミヤシロウ。

「なるほど、承った。記憶を失っている身ではあるがマスターの望みに協力しよう。ならばさしずめ、今の私は正義のヒーロー、と言ったところか?

 ……ああ、そうだ。マスターを倒すのでもいいが、別に私が全てのサーヴァントを倒してしまってもいいのだろう?」

 マスター、衛宮切嗣。

「ああ、そうだ。多数の平和を守るために少数を殺す。いつも通りの殺しだ。

 しかし、正義のヒーロー、か……。笑えない冗談だ。」

 

 

 サーヴァント・ランサー。真名をヘクトール。

「んー、オジサンの望み、ねえ。あの戦争に勝ちたい、ってのもなんか違う話しだし、なにより二度も戦いたくないなぁ、アイツとは。

 心残りっていやあ、結局はトロイアを守れなかったことかねぇ。結局オジサンが残したのは敗戦における武勇だけだし。負けたけど奮戦しただけってのはちょっとばつかり格好がつかないわ。

 つまり今回はマスターがオジサンにとってのトロイアってことだな。今度はきっちり守りきってみせるぜ。」

 マスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

「ふん、私の身など自分で守りきれる。心配の必要など皆無だ!

 そんなものよりもソラウのことを守れ。貴様の怠慢でソラウが傷ついてでもみろ。私は貴様を決して許さんからな。」

 

 

 サーヴァント・ライダー。真名をイスカンダル。

「聖杯戦争とは! 面白い! この征服王イスカンダルが悉く蹂躙し、征服し尽くして見せようではないか!

 此度の遠征はなかなかに愉快なものになりそうだ!」

 マスター、ウェイバー・ベルベット。

「お前、いい加減にしろよぉ……。」

 

 

 サーヴァント・キャスター。真名をシェヘラザード。

「ああ……死にたくありません……。戦いたくなんてないのに…‥。呼ばれてしまったら、死んでしまうではないですか……。

 ああ……死にたくない、です……。死なないためには……勝ち残らないと……。」

 マスター、アイガス・風見・ユグドミレニア。

「ああン? なんだコイツ……? ダーニックのやろオ! 変な奴喚ばせやがったナ! くそッ、どうやって勝てって言うんだヨ!」

 

 

 サーヴァント・アサシン。真名を岡田以蔵。

「聖杯戦争かなんじゃか知らんが、全部斬る! それで解決じゃき! まかせとき、なんたって儂は剣の天才じゃけえの!」

 マスター、富嶽武斬。

「楽しむのは構わんが、ちゃんと私の分も残しておいてくれ。先ほどはもう少しで掴めそうだったのだ……。

 サーヴァントとの戦いの先に、私の望む境地があるのだからな。」

 

 

 サーヴァント・バーサーカー。真名をアステリオス。

「ぼく、は……ころして、くらう、だけ。だって、ばけもの、だから……。

 でも、そのなまえで、よんでくれるなら……きっと、すこしだけは、にんげんでいられるんだ……。」

 マスター、雨生龍之介。

「やっべえ! 本物の悪魔だ! えっ!? 悪魔じゃない? 怪物? そんなんどーだっていいんだって!

 ところで名前は? あすてりおす? 聞いたことねーけどかっけーな! ん、ミノタウロス? いやいや、ミノタウロスなんかより、アステリオスの方がかっけーって絶対!」

 



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最初の邂逅

 ケイネスとランサーは埠頭で他のサーヴァントを待ちかまえていた。ランサーは堂々とその姿を晒しているが、ケイネスは魔術でもってその姿を隠している。

 

 冬木の地で自身の工房を作り上げ、安全な拠点を作ったにも関わらずこうして打って出ていることには理由がある。

 とはいえ、守るべき主には安全な場所にいてほしいというランサーとしてはあまり歓迎できることではなかった。

 

「にしても、オジサン的には安全な工房とやらで待機してて欲しいんだが。」

 

「フン、そのような貴族にあるまじき戦い方を、この私がするはず無かろう。」

 

 

 ゆえに忠告はしたものの、ケイネスがそれを聞き入れることはなかった。

 

 

「でも、姿を隠しているのはいいので?」

 

「当然であろう。魔術を競い合うという聖杯戦争にて、魔術を使って己を守ることになんの問題がある。

 ああ、もちろん、姿を隠しての奇襲などはするつもりはない。あくまでもこれは身を守るためだけのものだ。」

 

「へいへい、マスターがそう言うなら文句はありませんよっと。」

 

 

 海風が二人を撫でる。しばしの静寂が夜の帳に落ち込んだ。

 

 

「そういえば、マスターは敵さんの情報を聞いてるかい? サーヴァントの話はともかく、マスターの事とかな。」

 

「ふむ、私が知っている……というより、正式に参加を表明していたのは3人だけだ。残りの3人については急遽参加を決めたか、聖杯に選ばれただけの素人といったところだ。監督役への報告もしていないようだしな。

 つまり、警戒するべきはその三人だけという事だ。素人まがいにせよ、名を表に出せない小物にせよ、私の敵では無い。」

 

「残りの3人ってのはこの聖杯戦争の御三家ってやつかい? 遠坂、間桐、アインツベルン、だったか?」

 

「いや、御三家からの参加者は一人だけだ。名を間桐雁夜。しかも、この冬木の土地を守るためだけに参加したので敵対する意思はない、とわざわざ声明を送ってくるほどの臆病者よ。拍子抜けもいいところだ。

 そして、もう一人も論外だ。魔術師殺しなどとご大層な名で呼ばれているらしいが、やっていることは暗殺者紛いのドブネズミよ。汚らわしい。」

 

「へえ、となると。」

 

「私たちが真に臨むべき敵は一人のみと言うことだ。まったくもって嘆かわしいことだ。」

 

「で、その一人ってのは?」

 

「富嶽武斬という、この国の魔術師だ。剣士でもあるらしいがな。」

 

「剣士ィ!? そいつはまた面倒だな。」

 

「面倒? なにが面倒だというのか。まさか、ランサー、君は私が他の魔術師に遅れを取るとでも思っているのかね?

 ならばそんな無用な心配は放っておき、自分の為すべき事をしたまえ。この私が負けるなどと、あるはずもないのだからな。そら、客人が来たようだぞ。」

 

 ケイネスが自信たっぷりにそう告げた途端、第三者の声が響く。

 

 

「かはは、マスターがボロクソに言われちょうよ。ん? 声は二人分しようたが、一人だけかが? 槍を持っちゅうってことは、おまんがランサーじゃな。」

「それだけ自信があるなら姿を現すがいい。こうまで言われては引き下がれないというもの。我が剣閃の錆びにしてくれよう。」

 

 

 夜の闇の中から、二人の剣士が顔を出す。一人は着物に身を包んだ厳つい顔の壮齢の剣士、富嶽武斬。もう一人はその手に血の匂いが染み付いた日本刀を持ち、狂犬のような面相にニヤリとした笑いを貼り付けた幕末の人斬り。

 

 

 その言葉に対して、ケイネスも姿を隠すのをやめ、宣言する。

 

「アーチボルト家九代目当主、ケイネス・エルメロイがここに推参仕る。この私を前に大きく出たものだ。宜しい、格の違いというものを思い知らせて上げよう。」

 

「富嶽家六代目当主、富嶽武斬ーーー推して参る。」

 

 

 

 

 

「やれやれ、マスターが先にやり始めてしもうた。」

 

「そうだな。それじゃオジサンたちも始めようか!」

 

「そうじゃなーーーそれじゃ一本死合(しあ)おうが!」

 

 今宵、聖杯戦争最初の戦いが幕を開ける。

 

 




ザイードさんがピチュンされてないので、正真正銘最初の戦いです。


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幕末VSギリシャ神話

 先手を取ったのはランサーだった。

 アサシンの間合いの外から一突き、そしてなぎはらい。槍と刀の間合いの差を生かした戦い方にアサシンは守勢に追い込まれる。

 

(んん? ちょいといくらなんでも、槍の捌き方が(つたな)すぎる。こっちが深く踏み込むのを誘ってんのか? だとしてもやり過ぎってもんだ。

 まさか槍使いと戦う(・・・・・・・・・)のが初めてってわけ(・・・・・・・・・)じゃないだろうし(・・・・・・・・)。)

 

 じつはそのまさかである。

 幕末において、刀以外の武器を使う者は非常に少なかった。その上、岡田以蔵が行った人斬りはほとんど暗殺まがいの天誅であり、剣の才があっても実戦経験は余りなかった。

 特に、今回はマスターから正々堂々と勝負することと言い含められ闇討ち、奇襲を自ら禁じている状態。

 本来なら気取られる前に近づくべきなのに、それができない。刀の間合いに入れない。

 

 それが今、一方的な状況を作り出していた。

 このままこの状態が続けば戦況はランサーに傾いていくだろう。

 ランサーもそれが分かっていたため、間合いに入らせないことを重視して細かい突きを多用している。その技はまさに神域に達している。

 かつてトロイア戦争で個人の武勇をもってしてギリシャ諸国の連合を敗走寸前まで追いこんだという実力、それを遺憾なく発揮しアサシンを追い詰める。

 

 

 だが、一方のアサシンも英霊となるに相応の実力を持ったもの。その剣の才能はーーー1度見た剣を覚える異才は遥か遠き過去、神話の英雄にすら通じる。

 

 

「その(けん)……覚えたぞ。」

 

「くおっ!?」

 

 

 いきなりアサシンが飛び込み、そのまま突き出された槍をかいくぐり、その圏刃にランサーを捉える。踏み込むと同時に下から刀を切り上げ、ランサーを両断しようとするも、すんでのところでバックステップで避けられる。 

 

 そのまま両者の間に距離が開き、仕切り直しとなる。

 

 

「おいおい、この短時間で見切られたってか? 冗談キツいぜ。」

 

「わしは剣の天才じゃき、当然じゃ!」

 

「やれやれ、こいつはオジサンには辛いってもんだ……。」

 

「はっ、ぬかしゆう。やり返す気で満ちちゅうのがこっからでも分かるわ。まあ、わしには関係ないが!」

 

 

 両者とも次の一手を踏み出すその瞬間。

 

「おっと、双方剣を収めてくれないかね? 少々話したいことがあるのだよ。」

 

 第三勢力(セイバー)が盤上に表れる。

 

 

「ああ!? なんじゃ、おまん。いや、言われるまでもなか。敵じゃな、じゃから斬る!」

 

「いやいや、こちらに戦う気はないのだが……こうも話を聞かないなると、面倒だな。まるで狂犬のような奴だ。」

 

「ああ!? おまん、わしを犬と笑うたな!」

 

「うおっとぉ!? こいつは余計なことを言ったようだ。ははは、この口が勝手に動いてしまうのだ、仕方あるまい!」

 

 アサシンの動きが激しくなり、セイバーを追い詰める。今度は相手も剣の間合い。飛び込むと同時に一閃、セイバーが離れるまでにもう一閃。

 

 セイバーはその口振りこそ余裕綽々だが、実際にはかなり追い詰められているようだ。

 辛うじてその黄金の剣で防御してはいるが、押されているのが素人目でも分かるほど。

 下手すれば、聖杯戦争において最優とまで言われるセイバーが今ここで脱落してしまうのではないかと思われる。

 

「おお、そこのランサーよ! ぜひともこの狂犬を落ち着かせるのを手伝ってはくれないか! このままではおちおち話もできんではないか!」

 

 臆面もなくそんなことを言ってのけるセイバーに、ランサーは一瞬動きそうになるも、

 

(いやいや、なんでコイツに味方する義理がある。俺としてはここで二人がつぶし合うのを見てればいい。なのに一瞬とはいえ加勢しなくては、などと思わされるとは……。

 コイツは、人の扱いってものを知り尽くしてやがるな。こういう手合いは話を聞かない方がいいってもんだ。関わらずにマスターの援護に向かうのが最適か?)

 

 

 と、動こうとした体を制止して、マスターの方に振り返る。

 

 

 

「まあ、私を相手に頑張った方ではないのかね。予想以上に時間をかけてしまった。結局、私の勝ちは揺るがないものであったことは証明されたわけだが。」

 

「不覚……。サーヴァント相手ならともかく、マスター相手に遅れを取るとは……。」

 

 そこではすでに、マスター同士の戦闘に終止符が打たれていた。

 

 

「おっと、相手はそれなりの手練れだっただろうに。うちのマスターも案外やるもんだねえ。」

 

 そう独りごちると、ランサーは自らのマスターの元へと近づいていく。

 

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 そして。

 

「狙えるな、アーチャー。」

 

「もちろんだ。」

 

「ならば撃ち抜け。外すんじゃないぞ。」

 

「ふっ、当然だ。誰にものを言っている。

 

 ーーー我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)

 

 

 それを狙う凶弾が一組。



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衛宮士郎の願い

「ーーー我が骨子は捻れ狂う(I am the born of my sword)

 

 ドリルのように螺旋を描く剣を弓につがえ、ランサーのマスターに向けて弦を引き絞る。

 

 標的は直前の勝利に酔っていて隙だらけだ。狙撃の警戒などまるでしていない。この矢を放てば確実に貫くことだろう。

 

 

 アーチャー(エミヤシロウ)は己の胸の内にある決意を改めて確認する。

 

マスター(じいさん)をーーー幸せにしてみせる。)

 

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

 アーチャーの召喚直後に時は遡る。

 

「記憶が曖昧……だと? まあいい、僕としては英霊なんてものに頼る気はさらさらない。死なないでいてくれたら結構だ。」

 

「む、これは随分と手厳しいマスターだ。しかしどうやって勝ち残るつもりなのだ? マスターは英霊相手に勝てるほどの実力者なのかね?」

 

「そんなものは必要ない。サーヴァントとの戦闘は避け、マスターを殺せば事足りる話だ。」

 

「なるほど、それがマスターの方針か。了解した。しかし、ならばなおさら私という戦力を使った方がいいのではないかね?

 先ほども言った通り、私のクラスはアーチャーだ。アサシンにこそ劣るが遠距離からマスターを狙うという戦い方も十分視野に入ると思うが?」

 

 それは、英雄という存在についてある種の偏見を持っていた切嗣にとって、驚きの言葉だった。

 

「英雄というものは、それなりの誇りを持ってるものだと思っていたんだが。」

 

「英雄にも色々と種類があると言うことだよ。騎士などであれば、このような戦いをしようとはしないだろうが生憎とこちらは掃除屋のような存在でね。」

 

 

 アーチャーの言葉にしばし絶句していた切嗣だが、すぐに通常運転に戻り、頭を働かせる。目の前の英霊をどのように策に組み込むのか、どのように動いていくのがいいのか、それらについて思いを馳せる。

 

「アーチャー、お前のスペックを聞かせてくれ。それを聞いてから幾つか作戦をたてていく。」

 

「了解だ。

 ……ああ、そうだ。一応一つ聞かせてもらってもいいか?」

 

「なんだ?」

 

「マスターは聖杯に何を望む?」

 

 その問いかけに、考えるまでもないとあっさりと答えを返す

 

「平和だ。この世界にある争いがなくなること、それが僕の望みだ。」

 

 

 どこかの世界で見た穏やかな満ちたものではなく、ただ強い感情と強迫観念をその目に宿した表情を見て、アーチャーは確信した。

 

 

 このままではきっと、この世の地獄を見ることになるのだろう、と。

 

 

   ◆  ◆  ◆

 

 

 その地獄を経験したアーチャーだからこそ、自分の育ての親である切嗣がその道に踏み込むのを止めたかった。

 

 

 しかし、そのための方法を持ち合わせていなかった。

 

 

 言葉で止まるようなものではない。それは自分自身がよく知っている。

 かといって自分自身ならともかく、実力行使で止めるというのはしたくない。

 

 

 だから、この世界の聖杯が、正しく万能の願望機として機能していると知りーーー父親の救済を願うのだった。

 

 

 ゆえにーーー

 

「ーーー偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

 確かな決心をもって、アーチャーは射る。

 

 



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英雄は集う

 アーチャーの偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)が放たれる一瞬前、唯一それに気づいた英雄がいた。

 

 マスターに気を配っていた、守るべきものを心に決めていた、生前弓による狙撃を多く見てきた、経験から勝った瞬間こそが一番無防備だと知っていたーーーいくつかの要因はあれど、この攻撃に対処できたのは半ば偶然のものだった。

 

 本人ですら、再びこれと同じ事をしろと言われてもできないだろうと思っていた。

 

 だが、それでも対応できた。

 

 

 あるいは、それこそが英雄と呼ばれるに相応しい資質なのかもしれない。

 外せない一瞬、決めなければならない一刹那。そういった時にこそ真価を発揮する人間、それこそが英雄だ。

 

 

 ゆえにこそトロイア戦争の大英雄、ヘクトールは気づくことができた。

 アーチャーによる狙撃、自身のマスターの危険。ならば後は体を動かすだけ。

 

 

「危ねえ、マスター!」

 

 強引にではあるが、槍でもってマスターの体を引き寄せ、矢の軌道から遠ざける。

 

 一瞬後、ケイネスの頭があった位置を矢が通過する。

 

 

 ケイネス自身は何があったかを理解しておらず、すわランサーの反逆か!? などとズレた考えをしていたが、地面に突き刺さった矢、そしてそれに込められた神秘を目の当たりにしてさすがに口を噤んだ。

 

 

 ランサーに遅れて反応したサーヴァントが三騎(・・)

 セイバーとアサシンは争うのをやめ、セイバーは身を隠し、アサシンは自分のマスターの安否を確かめに行く。

 

 

 一方で奇襲を避けたランサーとケイネスは狙撃の射線を切れるよう物影に隠れ、反撃の策を練っていた。

 

 

「ちと手荒になっちまったが、大丈夫だったかい。マスター?」

 

「あ、ああ。よくやったぞ、ランサー。

 しかし、月霊髄液(ウォールメンハイドラグラム)の防御を貫きかねない一撃とは……いったいどういうことだ。」

 

「たぶん敵さんはアーチャーだろう。威力的に宝具をいきなり切ってきた感じだな。

 それでどうする、マスター。やられっぱなしってわけにはいかないだろう?」

 

「もちろんだ。しかしどうすれば……。」

 

「マスターが許可するなら、敵さんの次の一撃に合わせて俺の宝具でもって吹き飛ばすことはできるぜ?」

 

 宝具は、英霊の持つ最大の切り札。

 ヘクトールの場合は不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)という投槍だ。

 あらゆる物を貫くとまで言われる、ヘクトールの投槍。一撃必殺という言葉が相応しい一撃だが、今それを使うとなればこの場にいる他の二騎にランサーの真名がバレてしまう。

 

 だから、ケイネスはあらかじめ宝具は使わないように言い含めていた。

 しかしそれを貫く場面では無くなっているかもしれない、との思いがケイネスの頭をよぎる。

 

 もとより、ヘクトールには真名がバレたところで生じる不利益はあまりない。

 この場にアキレウス(生前の死因)大アイアス(投槍を防いだ相手)がいるとなれば話は別だが(というよりも、そんな大英雄がいるのであれば宝具を隠そうが隠すまいが結果は変わらない)ヘクトールには弱点らしい弱点はない。

 

 ならばこそ、自分を害しかねない相手を倒すためならば使ってもかまわないのではないかという葛藤が生じる。

 

 同時に、一つの疑問が生じる。

 

 

 アーチャーからの追撃が、ない。

 

 現状、戦況を支配しているのはアーチャーだ。サーヴァントですら一撃で沈めかねない威力の一撃を放てるアーチャーが、そうそう手を出せないほどの遠くにいる。そしてこちらは、アーチャーの正確な位置すら掴めていない状況。

 

 一方的とまでは言わないが、アーチャーにとって有利な状況であるのは間違いない。にも関わらず、最初の一撃以外、こちらに攻撃が飛んでくることはない。

 

 なにが起こっているのかが分からず、ランサー陣営、アサシン陣営ともに動けずにいると、埠頭に赤いコートを纏った白髪の男性が降り立った。

 他のマスターは知る由もなかったが、彼がアーチャーである。

 

 

 そしてもう一騎、アーチャーをこの場に追い立てた張本人が登場する。

 

 

「ふははは! 全員剣を収めよ! 王の御前であるぞ!」

 

 轟ッ! とチャリオットの音を響かせて登場したのは筋骨隆々の偉丈夫。

 

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度はライダーのクラスをもって現界した!」

 

「何をーーー考えてやがりますかこの馬ッ鹿はああああ!」

 

 

 



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セルフギアススクロール

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。」

 

 最後に現れたライダーが、王としての風格を漂わせながら言い放つ。

 

 

「うぬら各々が聖杯に何を期するのかは知らぬ。

 だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか。」

 

「どういうことだ?」

 

「うむ、噛み砕いて言うとだな。

 ーーーひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?

 さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる!」

 

 

 それぞれが聖杯に託す願いを諦めて、自分に下れという傲岸不遜な物言い。

 

 当然、そんなことを呑む主従はここにはいない。

 

 

「僕は、僕の願いを諦めない。どんなことかあってもだ。」

「それは私も同じでね。……それに、仕えるとしても貴様ではない。」

 

 と、アーチャー陣営が突っぱねようとし、

 

 

「この私が、誰かのもとにつけと? 笑えない冗談だ。それともなにかね、これは君なりの私に対する侮辱なのかな、ウェイバー・ベルベット君?」

「生憎、マスターに勝利をもたらすって決めてるんでね。この命が散るまで、誰かに屈するつもりはないさ。」

 

 と、ランサー陣営が一笑に付そうとし、

 

 

「戦う前に負けを認めるなど、武人として恥ずべき事。一考の余地もない。」

「誰かに仕えるちゅうんは性に合わん! わしは自由に人を斬るのが好きじゃが!」

 

 と、アサシン陣営が拒絶しようとし、

 

 

「なるほど、なるほど! さすがは音に聞くプトレマイオスの父、大神ゼウスの子たるファラオだ! いやはや、その雄姿、その威光は七代後まで語り継がれたほど。

 その軍門に加わるなどという栄誉、平時であれば心の底から喜んでその末席を賜るところだ。」

 

 と、それら三組に先駆けて、セイバーがその弁舌を振るう。

 自然に、そして流暢に。他の者が口を挟みづらいよう計算された言葉。

 かつて政治の世界で培われてきたその弁舌に誰もが聞き入ってしまった。

 

「まあ、これは他のマスターすべてに対して言いたいことなのだが……私は今回の聖杯戦争、勝ち残るつもりなど無いのだよ。

 なに、我がマスターの事情というやつでね。マスターはこの冬木の地で魔術師同士の争いによって悲劇が起こることを憂いている。いないとは思うが、万が一サーヴァントの力でもって悲劇を起こすような者がいたとき、ただの魔術師ではそれに抗する術をもたないからな。だからこそ、サーヴァントを呼び出し不当に被害を拡大させるような輩を討ち取るよう命じたのだ。」

 

 

 そこでセイバーは口上を途切る。

 

 

「そんな事を言えば……見逃してもらえるとでも思っているのか?」

 

 と、ふと誰かが零した問いが全員の耳に入る。セイバーは待っていましたと言わんばかりに再び口を開き、信じられないような提案を言い出した。

 

「その通り、こちらにはそちらと争う理由は無いが、そちらにはある。なにせこれは聖杯戦争。他の六騎を倒さねばならないのは誰もが同じ。

 だから、こんなものを用意した。」

 

 そう言って、何枚かの紙を取り出すと、それぞれが見えるように放り投げた。

 

「これは……!」

 

「セルフギアススクロールだと……!」

 

「内容は、『サーヴァント及びそのマスターが冬木の地で意図して間桐雁夜に対し敵対行動をとらない、もしくは一般人に被害を出さない限り、間桐雁夜及びそのサーヴァントは対象のサーヴァントに対して敵対行動をとらない。

 加えて、残るサーヴァントが二騎になった時点で間桐雁夜は所持しているすべての令呪をもって自らのサーヴァントに自害を命ずること。』だ。

 どうだ? 悪くない提案だと思うのだが。」

 

 



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契約の落とし穴

 

「…‥一つ確認しておきたいことがある。」

 

「なにかね? アーチャーのマスター。」

 

 セルフギアススクロールの内容を確かめていた切嗣は細かいところを詰めようとする。

 ここに書かれていた内容は条件が大雑把過ぎる。敵対行動というのはいくらでも解釈が広げられる上、ここまでであれば敵対行動とは言わないと言い張ることすらできる。

 何の意味もなかった内容で行動を縛られてはたまったもんじゃない、と厳しい目でセイバーを睨み付ける。

 

 

「敵対行動というのをどう捉えるかを明確にしておいてもらおうか。加えて、一般人という言葉についてもだ。わざと曖昧な条件にして、契約の穴を突くということは出来ないと思え。

 セイバー、それでもお前はこの契約を実行すると言うのか?」

 

 切嗣は九割方、セイバーが契約の抜け道を突くつもりだと思っていた。だからこそ曖昧な表現の文で契約の内容を書いてあるのだと。

 

「ああ、当然だとも。他に詳細な条件をつけたいのならいくらでも言うといい。

 私はこの契約の内容で構わないと思っているからな。疚しいことなど一切ないとも。」

 

「なにっ!?」

 

「それで敵対行動と一般人について、だったかな?

 敵対行動は個人に対しては直接心身を傷つけるものとしよう。構わないかな?」

 

「この町に対しては…‥そうだな、水道に毒を投げ込むとか、物騒な仕掛け(・・・・・・)を仕込むとかしなければ問題ないとも。

 なあ、アーチャーのマスター。」

 

 

 その言葉を聞いて、切嗣は心の底から驚いた。

 

(こいつ、僕がこの町に仕掛けてある爆弾や毒について知っている!? つまりそれらはもう解除されてしまったのか!? 

 いや、そんなことは問題じゃない。こちらの行動が把握されていたという事の方が問題だ!

 その上でこの話を持ちかけるってことは、まだ決定的な一線は越えてない、はずだ。

 

  ……これは、敵対しない方がいいんじゃないか? 最悪の選択肢は取れなくなったが、どのみち気づかれていたなら使えない手だ。そこまで問題ではない。

 むしろこのサーヴァントとマスターを聖杯戦争から切り離せるのなら積極的に乗るべき、か。)

 

 と、切嗣は方針を切り替えた。彼らしく、使えないと分かった手はすぐに切り捨てる。

 

 だが、切嗣は甘く見ていた。セイバーの弁舌家としての才を。

 まさか本当はなにも知らず、こういった行動を起こしそうだと判断しただけーーーつまりただの知ったかぶりで、切嗣を相手に手玉にとって見せたのだから。

 そしてこの状況を作り出すことで、真に隠すべき点(・・・・・・・)を全員の意識から逸らすことに成功しているのだから。

 

 

 そして、まだセイバーの口は止まらない。

 

「だが、まあ、条件というがそこまで難しく考えることはないぞ? これはあくまでこちらが一方的に結ぶもので、そちらが条件を破ったところで下る罰則は無い。私たちと敵対関係になるとはいえ、聖杯戦争では本来の関係なのだからな。

 ああ、それとも同意しないと言うことは最初から条件を守るつもりは無いということかね?」

 

 

 暗に、今すぐ同意しなければ敵と見なすという発言。ここまでくれば、各自、心の中に疚しいことがないマスターは契約に同意し始める。

 

 

 ランサー陣営

「フン、私は魔術師同士の争いをしにここまできたのだ。下らん話し合いに長々と参加する気はない。

 私はこの契約に同意しよう。サッサと終わらせて聖杯戦争の続きをしようではないか。」

「いいのかい、マスター。俺的にはああいう手合いの話は聞かない方が得策なんだが。」

「問題ない。契約書にかけられた内容は確かに、こちら側の行動を縛るものではなかった。あちらがどのようなことをしようと、正面から叩き潰せば良いだけの話よ。」

 

 

 ライダー陣営

「ケ、ケイネスの奴がああいう風に言うのなら大丈夫なんじゃないか? わざわざ敵を増やす必要はないだろ?」

「む、まあ余としては問題ないが。」

 

 

 アサシン陣営

「こちらも問題はない。戦いを知らぬ者に危害を加える気はないゆえ。そちらの意気は受け取った。」

「わしは戦うちゅうのもありなんじゃが、やる気ないやつと戦ってもつまらんからのう。マスターがそうゆっちょるんなら問題無いが。」

 

 

 そして、さらなる乱入者が現れる。

 

「おいおイ、そいつに俺もかませてもらっていいかナ?」

「……(ああ、出てきたくなかったのに……。ですが、ここではこうしておいた方が、不興を買わなさそうですし……。)」




 カエサルが現時点までにしたこと。

 自分のマスター及び、その後ろにいる遠坂、聖堂教会に対して口八丁手八丁で協力関係をとりつける。

 セルフギアススクロールを作らせる。

 他のマスター(できれば複数)に条件を伝えるためヘクトールと以臓さんの戦いに乱入、以臓さんを煽って一度戦っておく。
 →以臓さんにカエサル自身の実力を伝えて興味を失わせると同時に、魔力を無駄遣いさせてマスター同士の戦いを片方が魔力切れで倒れ、穏便に話ができる状況を作り出す。
 
 あえてガバガバな条件の契約内容にしておくことで、本当に隠しておきたかった契約の穴から意識を逸らさせる。



 やっぱりDEBUに話させたらダメだね。ろくな事しなさそう。


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