黒く染まった太陽 (ノリの人)
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始まり ―moaning―
目が覚めた。
そして辺りを見回す。周りには誰もおらず普通の朝であることを確信した。
食事の前の軽い運動はここ数ヶ月程前から始めたが今では苦もなくいい日課になっている。ルートは寮から出てグラウンドまで移動、そこからトラックを2周走ってまた寮に帰ってくる。走っている途中で出会う
そして少し早めの朝食。部活動の朝練のある人間は皆この時間に朝食を摂る。中には部屋に戻ったり部活棟のシャワー室で汗を流す人間もいるが俺は先に朝食を摂る。それにこの時間帯なら彼女達に会わなくて済むので楽に食べられる。最後に食後のコーヒーを飲もうとして手が止まる。本当は飲みたいところだが残念なことに今の俺にはそれをすることができない。
汗を吸って重くなった下着とトレーニングウェアは洗剤とともに洗濯機に入れて選択する。その間に俺はシャワーを浴び、汗を流していく。
平和とは平―つまりは並―で和むと書き、平穏とは平たく穏やかと書く。
俺の日常は常にこれを欲している。俺の日常で休まるのは朝と夜の僅かな時間だけ、それも
昔、友に借りた漫画の中に数々の殺人を犯しながらも平穏を望んだ殺人犯という登場人物がいた。あの頃はとんでもなく矛盾した上に自分勝手な奴だなぁとか思っていたが今ならある意味、平穏を求めた彼の気持ちが分かる。
異常の中で過ごす事はストレスなのだ。だからこそ普通の日常というのが大切に思えるし、ひどく必要に思える。それは異常の大きさが大きければ大きいほどその想いは強くなる。
人は異常だけでは生きることができない。それは食に例えれば分かりやすい。異常とは味に限れば激辛料理のようなものだ。だがそれだけを食べたいからと言われればそれは不可能だろう。辛さというものの刺激は舌だけでなくその先の胃や食道にまで影響を及ぼす。時たまでいいのだ。そういった辛味は日々の食事に加える文字通りのスパイス。だからこそそれは少しだけでいい。
俺は世間一般でいう異常の中で過ごしたわけではない。俺にとって日常はそのまま日常であり、異常はそのまま異常なのだ。その逆は決してない。
シャワーの後に鏡で自分の顔を確認する。身だしなみというのは非常に大事だ。身だしなみというのは相手に与える第一印象でありそれだけでその個人を大まかに判断する材料になる。
だが俺にはどうもこの鏡を見るという行為が好きになれない。これは至極当然だが目が合ってしまうのだ。そしてその目は俺を責めてくる。そろそろ決めろと。ここ数週間は特にそれが強くなってきている。心の中では多分分かっているのだろうと責め立ててくる。その優柔不断さが今の自分の状況を生んだのだと。そんなことは分かっている。分かっているが踏み込めないでいる。良くも悪くも彼女達は友だ。その繋がりを切るなど俺にはできるか分からない。だが決めなければならないのも事実。このままでは俺だけではなく他の学友も危険に晒されるだろう。だからこそ俺は…
――コンコンコン
その音で俺は現実に戻された。約束をしていた学友が部屋に来たのだろう。部屋のドアをノックしてくる。俺は自分がするべき全ての準備を終わらせ、扉を開いた。
「おりむー、おはよ〜」
「おはよう一夏」
そう、俺の名前は織斑一夏。自分の行いの結果とはいえ面倒な5人もの少女に惚れられた不幸な人間である。
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俺はモテる部類の人間であると自覚したのは3年ほど前のことだ。きっかけは単なる気付きからだった。姉がモンドグロッソで優勝した頃から少しずつ進んでいた女尊男卑が一気に進み、小学校でも女子が男子を顎で使い始めるまではなかったが翌年度の生徒会の面々がほぼ女性で固められた。そんな極端にいえば女至上男ゴミなこのご時世に染まりつつある少女に告白紛いのことをされればそれは気付くだろう。思えばそれ以前にも同じようなことが何度かあった。
そこで漸く自分は自覚することができたが同時に告白してくる人間の本心がわからなくなっていった。
"本当に相手は自分を愛しているのか?"
それが告白される度に俺の頭に張り付いて離れない。我が姉は今のこのご時世においてある意味神だ。そしてその唯一の肉親が俺。つまりは姉の信者からすれば姉が男性と結婚、又は交際していない以上、彼女の愛を受けることができる人間というのはほぼ俺だけなのだ。
もう分からなかった。俺に告白してくる人間全てが悍ましく思えた。俺を必要としてくれているのか、それとも姉の義妹というポストを求めているだけなのか。
だから俺は見て見ぬ振りをした。それが俺自身に本当に向けられた愛だとしても。この相手にとっては一世一代の告白だとしても。俺は見ないふりをした。気付かない唐変木で朴念仁なイケメンを演じる事にした。だがその仮面もいずれは剥がれる。
だからこそ
だからこそ
俺は覚悟を決める時が来たのかもしれない。俺の手でこの地獄を潰す覚悟が。
そして俺自身で愛する人を決める覚悟が。
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決断―lost―
あと愉悦っていうほどの愉悦は出来るかわかんないです。
あと今回は結構エグいヒロインズの本性とかがありますのでご注意を。
最近一夏が素っ気ない。そう気付いたのは夏休みが終わって暫くした頃、一夏が生徒会長の妹とか言う奴と付き合い始めたくらいから急に私達との付き合いが減っていった。他の4人に聞いても同じだったという。
そこから私は調べた。一夏の動向を探り、一夏が誰と会っているのか?一体何をしているのかを。その結果、やはり一夏が私達に対して素っ気ない態度を取り始めた時期の少し前から布仏と4組の簪とかいう女が一夏の部屋まで迎えに行ったり、更には一夏が簪とかいう女の部屋に行くなど途轍もなくけしからん事をやっていた。
あの簪という奴め。調子に乗りおって…これは少し痛めつけてやらなければならないな。
そうだいい事を思いついた。これならばあの4人にも手伝ってもらった方がいい。
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最近一夏が冷たい。前はクラスが違っても積極的に関わってくれたのに今では合同実習の時くらいしか話してない気がする。今まではもっとあたしと話してくれたのに。きっと誰かが一夏と私の仲を邪魔してるんだ。そうに違いない。
何よ、箒から?ふーん。あはっ、いいじゃないこれ。その簪って子、
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一夏さんは最近、わたくしから距離を取っていると思いますわ。こちらから話しかければ言葉を返してはくれますが一夏さんから話しかけてくれることは減りましたし以前は私に向けてくれた笑顔も今ではこれっぽっちもそんな素振りを見せれくれません。それは一夏さんではなく誰かの作為的なものを感じますわ。
あら?箒さんから何か来てますわね。これはこれは…泥棒猫にお仕置きですか。箒さんにしてはナイスアイデアですわね。その簪さんとやらには、
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一夏が最近僕と関わってくれない。それどころか僕を避けている。あんなに優しかったのに。僕に笑顔を向けてくれたのに。僕のことを大切に思ってくれていたのに、どうして?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
…ドウシテ?
僕の事守ってくれるって言ったのに!そうだ、きっと誰かが一夏を誑かしたんだ。そうだ、そうだよね!だって一夏は僕に優しいもん!一夏は僕を見てくれる!だからそんな一夏を変えちゃった奴はユルサナイ。八つ裂きにして殺してやる。
あれ、箒からだ。へぇ…これは良いね。簪とかいう女、
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嫁が最近かなり私に冷たい。私が話しかけても適当にあしらって何処かへ行ってしまうし。時たま私を鬱陶しいものを見るかのような目で見てくる。一体何があったというのだ。あの優しかった嫁が今では酷く恐ろしいものに見える。私が鈴とセシリアを傷つけてしまったあの時の嫁の殺気。あの時はそんなはずはないと思い、その後も楽しい思い出の中に埋もれて忘れていたがあれが嫁の本性の一端であるというのか?
…いや、私としたことが嫁からの優しさを受けていないからか精神的に参っているようだな。あの優しい嫁のことだ大方誰かに唆されているのだろう。
ん?これは箒からか。成る程、ならば嫁を誑かした女には私から罰をくれてやらないとな。
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廊下は如何なる時も走行厳禁と言われている廊下を一夏は物凄いスピードで走る。一夏が向かう先は保健室よりもより専門的で高度な治療を行う治療室。簪がそこに運び込まれたという知らせを受け、一夏はそこに走っていた。すれ違う同級生や上級生も彼の鬼気迫る表情に彼に話しかける暇もなく置き去りにされる。
「何があった?」
「かんちゃんが…かんちゃんが…」
本音は泣きながら簪の名前を繰り返すだけで話が通じない。だから一夏は隣で一応冷静そうな楯無に聞くことにした。
「楯無さん。簪に何があったんですか」
「機体にダメージレベルDの損傷。本人も発見がほんの少しでも遅れていればかなり危険な状態で最悪後遺症が残るレベルだったわ
「…そんなにですか。それで犯人は分かってるんですか?」
「見たほうが早いわ。これがアリーナに残っていた映像よ」
そう言って楯無は一夏に映像を見せる。そこに映っていたのは衝撃の光景だった。見た目専用機持ち同士の乱戦時の実戦訓練という体を取っているもののしっかりと見れば簪以外に対しての攻撃は穴があり、少しの技術で容易にすり抜けられるようになっている。だが簪の場合はその唯一の穴でさえ塞がれ、更には追い討ちをかけるようにラウラのAICによる停止とセシリアのビット攻撃が待っていた。そしてシールドエネルギーが尽きた原因となったのは鈴の衝撃砲からのシャルロットのパイルバンカー。特にシャルロットについてはかなり念入りに攻撃していた。更に派手ではないが箒の紅椿の絢爛舞踏による回復もあった。
「現在この5人については事情聴取を行なっているわ。と言っても全員一貫して簪ちゃんを攻撃するタイミングが同じだったとシラを切ってるわ。ほんと、私が彼女達を同じ目に合わせてやりたいわよ」
楯無が握った拳の隙間から赤いものが垂れる。彼女も妹がこんなにされてかなり怒っているようだ。だがそれ以上に怒る者がそこにはいた。
「楯無さん。あんたがやる必要はない」
「…え」
楯無はその時見た。いや、見てしまった。織斑一夏という男の目を。暗い殺意の炎の灯った目を。その目は裏の世界、暗部にいた楯無ですら恐怖するほどの悍ましさがそこにあった。
「今までずっと我慢してきた。何度も殺されかけた。それでもまだ仲間としての情が残ってたからこそ見逃してやってたっていうのに。もういい、限界だ。俺だけならまだしも簪にまでやりやがって。もう奴らにかける情けはねぇ。奴らは俺が
この手で潰す」
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覚悟は決まった
もう後戻りは出来ない
彼女らは選択を誤った
彼女らはもっと歩み寄るべきだった
もっと彼の心に寄り添うべきだった
自らの思いだけでなく彼の思いも考えるべきだった
英雄の慈悲を踏み躙った哀れなる戦乙女達よ
汝らが道は定まってしまった
道を誤らなければ汝らには祝福の未来があったであろう
だが道を誤った戦乙女にまた未来は1つだけ
死者の国、ヘルヘイムへの旅路のみである
短めですが一期ヒロインズサイドの思考を書いたんですがちゃんと出来てるか心配です。キャラによって文字数が違いすぎる…
ご指摘があれば直しますのでよろしくお願いします。
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新生―awaken―
どちらかといえば復讐者としての面の方が強いです。
さらにいうなら今回の件で別の不満も結構爆発しやすくなってます。
つまりは後半一夏の愚痴回です。
なので結構雑です。前回と前々回と同じ様なクオリティは期待しないでください。
その日、篠ノ之束は人生で初めて織斑一夏からの電話を受けた。その事実に束は喜び、そして何故自分に一夏が連絡を取れたのか疑問に持つがそれは千冬にでも聞いたのだろうと納得し、そこで思考を止めてしまう。
「もすもすひねもす〜、いっくんから電話とは珍しいね〜」
「あ、束さん?悪いんだけど、白式の事で相談があってさ。ほら、一応
「ほーほー、白式についてかぁ。いいよ、他ならぬいっくんの頼みだし」
「時間もかかると思うから束さんの方から迎えに来てよ。俺がそっちにお邪魔するからさ」
後に全ての悲劇の観覧を終えた篠ノ之束はこう語る。この時、自分が一夏をラボに引き入れなければこれ程までの悲劇と地獄は生まれなかったと。
「(まどっちがいるけどまいっか。いざとなったら私が止めるし)いいよいっくん。じゃあ1時間後にアリーナで待っててよ」
束はここで電話を切り、一夏を迎えに行くためにおきまりの人参ロケットに乗り込む。
この時束は2つのミスを犯していた。まず1つはクロエという守るべき人間のいる自分の城へ一夏を招き入れてしまった事。そしてもう1つはマドカの新機体にかかりっきりで箒や一夏の監視を怠った事だ。しっかりと監視をしていれば電話の向こうの一夏の表情を見ることが、彼が自分に電話をしてきた真意を図ることができたであろう。
通信を挟んだその対岸にある一夏の顔は今までの彼からは想像もつかない程、悪辣で歪んだ嗤いを浮かべていた。
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約束通りアリーナの中央で待っていた一夏の元に人参ロケットが着陸し、束が姿を現した。
「やぁいっくん。臨海学校以来だね」
「そうですね。あの時以降は全く会ってませんし、あの時もちゃんと話してなかったのでちゃんと話したのって今までなかった気がします。昔も束さんは忙しそうだったし」
「あの頃はISの1号機の製作に忙しかったからねぇ。ま、今こうやって面と向かって話せてるし束さんとしては嬉しい限りだよ」
「そうですね。取り敢えず詳しい話は向こうに行ってからしましょう」
そうして織斑一夏はIS学園から一時的にではあるが姿を消した。
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「いっくん、ここが私の今のラボだよ」
束は一夏に自慢するように両手を広げ、その大きさと規模を見せる。
「これだけの設備と場所よく手に入りましたね」
「亡国機業から今は色々と出資してもらってるかねぇ」
「…今のは聞かなかった事にしておきますよ」
テロリストである亡国機業からの出資。つまりそれは束が亡国機業にその身を置いているという事であり、そんな事が知れれば一大事であるが今の一夏にとってそんな事はどうでもいい事だった。
研究所を
「それでいっくん、束さんに頼みたい要件って何かな?」
「白式いらないんで新しく側だけ作ってください。勿論細部に関しては俺の指示に従ってもらいますけど」
「へ?」
「あれ、聞こえませんでした?だから白式の側を新しく作ってくださいって」
一夏の口から出た言葉というか一夏の雰囲気の変わりように束は驚きのあまり固まる。
「もう一度言ってくれるかな。今なんて言って…」
その言葉が受け入れられない束はもう一度一夏に何と言ったか聞く。だが何度聞いても一夏の口から出る言葉は変わらなかった。
「だからさぁ…
「…は?」
次の瞬間、束の視界は180°反転する。自らの体に何が起こったのか、天災である彼女でさえそれを理解するのに数瞬を要した。そしてその数瞬で全てが終わる。彼女は頭から地面に叩きつけられ、組み伏せられた。
だが悲しいかな。常人ならば意識を失っているところではあるが彼女の細胞レベルでハイスペックな体がそれを許してはいなかった。彼女は頭と首の痛みにのたうち回りながら組み伏せられ、会話をさせられることになる。
「あのよぉ、テメェは多分把握してねぇと思うんだが昨日お前の妹がやりやがったんだよ。俺も俺に被害が向くならいいけど流石にこれは見過ごせないんだわ。だからテメェの妹ぶちのめす為に俺の機体を新しく作れ」
「どういう…」
記憶とは全く違う口調で、されども記憶にある声でそれは束に対して囁く。
「ワカンねぇかなぁ?俺テメェにお願いしてるんじゃない。やれって
「分かってないと思うけど束さんは細胞レベルでハイスペッ―」
だがそこから先の言葉は続かなかった。組み伏せられた束から一夏が離れた一瞬を見計らって脱出した。しかし今度は身構えていた束を一夏は先程と同じ様に束に何の抵抗をさせることも無く再び組み伏せた。細胞レベルでハイスペックである自分と半年前までただの一般人だった一夏の実力差に束は目を見開いた。
「細胞レベルでハイスペック、だっけ?バカかテメェは?今まで何を見てきたんだよ。そもそも何の才能もない奴が
そして一夏はある意味残酷な事実を告げる。
「テメェは細胞レベルでハイスペックなだけだろ。俺は
そもそも束と一夏では才能の伸ばし方が全く違う。束はオールラウンダーであり素のスペックでもそこそこ圧倒できる為、殆ど体を動かすことや鍛錬することなく研究しかしてなかった。
それに対して一夏は自分で言った通り、その才能は戦闘特化型。それに加えて亡国機業によるテロなどに対して自らの身を守る為に鍛錬は欠かさなかった。
それがこの状況を生み出した互いの差である。どんな玉でも磨かなければ
観念した束は一夏の命令通り機体を作った。一応ISの生みの親ということと一夏の監視、それと美味しい食事のお陰で2週間ほどで機体は完成した。
だがその機体はあまりにも異質だった。現行のISのスタイルを遡る様にして出来たそれは一夏の内面を写すが如く、黒く無機質なものだった。
「…ねぇ、いっくん。本当にこれでいいの?白式の方がいいと思うけど」
「これでいい。というかあの機体を作った奴は馬鹿としか言いようがない。いや作ったというか俺にあてがった奴か。あんなので取れるデータなんざ多分ラファールとか打鉄とかを使って得られるデータの半分を占めてたらいいくらいじゃねぇの。あんなアホな機体作るくらいなら簪の打鉄弐式の製作に人員回した方が効率的なレベルだ」
半年の間ではあるが自分の身を守ってきた白式に対して一夏は酷評を下す。そしてそれは止まることを知らず続いていく。
「無駄にエネルギーを使う機体で長く戦う為には技術がいる。それこそあんな近接ブレード1本だけの機体なら十分に使いこなせるレベルの技量なんざ国家代表以上。もっというならブリュンヒルデレベルだ。そんなレベルを求める程の機体を初心者にあてがう時点で何も考えてない。"あの姉の弟"="近接だけでもいける"なんざ思考停止を通り越して無能だ無能。中国の空間圧力、イギリスのビット、ドイツのAIC、ロシアのナノマシン。どこもオリジナリティ溢れるとまでは行かなくても相応の見栄はある。それに比べて日本のやったことが他人の猿真似って。アホだろ」
その後もしばらく続き、一夏は漸くスッキリしたのか終わる。
「コアだけは白式のコアを使うから移植を頼む」
束は言われた通りに白式のコアを移植し、漸く完成した。そして一夏はその機体を待機状態にして束と共にロケットに乗り込む。気不味い沈黙の中、一夏は口を開く。
「この後俺は箒を含めた5人をぶちのめす」
「…うん」
「楽しい思い出もたくさんあった」
一夏の口から出てきた言葉に束は一瞬驚く。
「ISが出来る前、箒とは道場で仲良く剣を交えあった。引っ越す前、鈴とは親友の様に、いや多分親友同士で笑いあった。セシリアとは初めは結構険悪だったけど仲良く飯食ったり、一緒に飯作ったりもした。シャルロットも初めは男として来て、俺以上に家庭のことで悩んでだけど今では笑って過ごしてる。ラウラなんてそれこそセシリア以上に険悪で殺されそうと思ったけど以外といいやつだって分かった。過去は変わらないってよく昔の悪事を咎めるみたいに言うけどさ、変わらないのは楽しい過去もだと思うんだ」
「それなら何で?」
「俺だって一応情はあった。でもあいつらは超えちゃいけない一線を超えた。それだけさ」
その言葉で会話は途切れ、再び沈黙が2人を包んだ。そしてロケットはIS学園に着き、開いたハッチから一夏は出る。その時一夏が小さく呟いた。
「ありがとう、束姉さん」
「えっ!?」
風に攫われたその言葉は束の耳に届くことはなかった。
一夏の愚痴はそのまま作者が一夏本人が置かれた状況に対して思っていることと捉えてもらって構いません。
そもそも一夏に専用機が渡された理由は男性としてのデータ取りの為です。データというのは幅があればあるほど良いものです。にも関わらず近接特化の機体な上に武装は近接ブレード1本で他には何も積めない。こんな機体で取れるデータはスラスターなどの稼働率と近接戦闘くらいです。
まぁ多く動くからこそデータが多く取れるというのもありますがそれでも盾ぐらいは持たせて欲しいところです。
次回は粛清回となる予定です。作者の心が持ちこたえられたら書こうと思います。
一応次回のタイトルだけ。
『捧ぐ―Heart burn―』
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捧ぐ―Heart burn―
そして粛清回と行きたかったんですが今回はそこまでいけませんでしたすいません。
一夏の新機体はガチで迷いました。主にライダーネタぶち込むのを機体にするか技や武装にするかで。結果はこちらです、どうぞ。
1年専用機持ち達が学校生活から姿を消した。その情報はかなりの驚きと共に学園中に拡散していった。生徒の中には一夏の失踪、簪の入院、5人の専用機持ちの拘束を繋げて考える者が多く、様々な憶測が飛び交っていた。
織斑千冬は自室で頭を抱えてた。1人2組の人間がいるとはいえ、自分のクラスの専用機持ちが(本人達は偶然と言い張っているが)自国の代表候補生を緊急入院レベルにまで傷つけたのである。しかもそれに続いて弟である一夏の失踪。2週間前、簪が緊急搬送さた直後に姿を消したことから学園内では一夏がテロ組織に連れ去られた何ていう噂もある。
そんな中、千冬は学園長から呼び出しを受けた。緊急ということで、足早に千冬は学園長室に向かう。そして扉を開けた千冬の目の前にいたのは彼女が2週間もの間探していた人物だった。千冬はその人物を抱きしめようとしたが、その人物は流れるような動きでそれを躱した。その事実に千冬はショックを受ける。そんな千冬を横目に学園長はもう1度一夏に聞く。
「それで…もう一度言っていただけますか?」
「俺自身の手であいつらにお仕置きをしてやろうと思いまして」
一夏による粛清試合の申し出、千冬や真耶は反対したが学園長はそれを許可した。千冬や真耶は与り知らぬところだが日本からイギリス、中国、フランス、ドイツは大バッシングを受けており、近々事の発端となった5人のうち箒を除く4人は本国へ強制送還された後に全資産を凍結の元、それぞれの国で懲役刑に処される手筈だったのだ。それを一夏という世界唯一の男性操縦者が彼女らに別れを告げる前に居なくなるのは辛かろうという事で何とか彼女らの処罰を待ってもらっていた。
だが一夏から出された申し出は粛清試合の他にもう2つあった。1つはこの本国に送還の後処罰されることとなった4人の処罰をの裁定権を自分に移すこと。もう1つは彼女達への一切の不干渉だった。これには各国が抗議したが自分のデータを盾に一夏は押し切った。
そして多くの生徒が見守る中で粛清試合は行われようとしていた。
「謝るつもりはないんだな」
静かな口調でアリーナの中央に
「謝るも何もやましい事は何1つしていない!」
「そうですわ!あれはあくまで偶然、偶然そうなったのですよ」
「あたし達のことが信じられないっての」
「一夏ぁ、酷いよ。僕達は何も悪いことなんてしてないのに…」
「誰から話を聞いたか知らんが私達を疑うとは見損なったぞ嫁!」
一夏の言葉を皮切りに5人は自分の行いがさも当然であるかの様に主張し始める。
「もういい、囀るな。」
口々に喚く5人を一言で一夏は黙らせた。
「あくまで自分達に責任はないと。そういうことだな。そうか、ならお前ら…
」
静かに、浸透させる様に吐き出した言葉は彼女達に死神の鎌を首筋に当てられる様な恐怖を与える。
一夏はポケットから待機状態である変わった形のナックルを取り出し、ナックルの上部を親指の腹で軽く擦って、自身の新たなる機体である『
黒が粒子となって剥がれてゆき、金と白の素体が露わになっていく。だが変化はそこで終わらず、剥がれた黒の粒子が鎧になる様に頭と胴体、肩を覆っていき、零炎のアーマーとして生まれ変わる。
箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの5人、更にはモニターしている千冬や真耶、観戦に来ていた生徒達も驚きで声が出ない様で場は沈黙に包まれた。
だが、もしここに
"仮面ライダー"と…
「何だそれは…」
初めに言葉を発せたのは箒だった。その言葉は一夏の新機体に対してか、それとも一夏が白式を纏っていない事か。他の面々も同じ気持ちでいたが箒の場合は後者だった。
「白式はどうした!あれはお前にとって大切なものだっただろう!」
「あの欠陥品がか?」
束に対して言ったのと全く同じ、凍える様に冷たい口調で箒の憤りに対して一夏は返答する。
「雪片弐型は貴方にとって織斑先生の誇りだったのではないですの!」
「あぁ、姉の誇りだ。俺のじゃない。それにあんなのは侮辱だとは思わないか?」
続く様にセシリアが口を開くがそんなこと一夏は気にしていなかった。
「そもそも他人の努力を掠め取って成立させた力に何の意味がある?
その後も5人は口々に一夏に対して文句を並べたがまるで大人と子供。一夏は取りあうどころか意に介してすらいなかった。
「最後にもう一度だけ聞いておいてやる。
一夏はそこでマスクに隠された目をそっと閉じた。
一夏の頭に巡るのは彼女達との楽しかった思い出、剣道に打ち込み汗を流した記憶、親友達とバカをやって笑いあった記憶、料理下手な彼女の為にと料理を教えて一緒に作った記憶、臨海学校前にデパートで一緒に買い物に行った記憶、海で一緒にはしゃいだ記憶、夏祭りでみんなで楽しんだ記憶、文化祭で喫茶店をやった記憶。
「俺はもう…」
これから先、彼女達とこうして笑い合うことはない。過去は変わらない。悪いこともいいことも起こって仕舞えばもう変えることのできない事実になる。いい記憶があるからこそ人は繋がりを断つ時に未練を感じる。だからこそそれを終わらせるのは覚悟がいる。"Are you ready?"それは一夏が自分自身にも向けた言葉だった。
「…出来てるよ」
「無世代IS
その言葉は
「心の火、心火だ。心火を燃やして…」
一夏はマスクパーツの下に隠れた自分の目をそっと開く。
「ぶっ潰す!」
こういうタイプの作品ではなるべく引用ネタはセリフや技だけに止めようというのが私のポリシーなのですが一夏の新機体である零炎だけは自分のポリシーに反する形でこうさせていただきました。
ええそうです。ここまでやって機体の方は何も思い浮かばなかったんですよ…
そして自分が以下にグリスが好きかを自覚しました。やっぱかっこいいよねグリス。
正直低評価が付くのが怖かったのでこういったガチガチのアンチ系を書く勇気がなかったんですがビルドの方で色々低評価とかそれに付随するコメントとかあったんで吹っ切れてこの作品を書きました。
やっぱどんな作品書いてもアンチコメとか低評価は付くんだね。というか低評価でも評価だからバーに色がつく様になるので気にする必要がなくなりましたね。それに評価がどんなのでもお気に入りにしてくれているみなさんはいるわけですし。
という訳で低評価とかもう気にせずに頑張ろうと思います。
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