バカとテストと召喚獣 ~僕はこの歪んだ運命に抗い続ける~ (天沙龍月)
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プロローグ I watched a dream ~夢を視た~
……まぁ、ふざけるのはこのぐらいにして本編を……どうぞ!
ーここは、どこだろう?……いや、分かる。
僕は夕暮れのオレンジ色の空をバックに幼稚園の帰り道を一人の少女と手を繋ぎながら歩いていた。
しばらく歩いた後、少女かくるりと僕の方を見て、
「あきくん!あたし…あたしね…あきくんの事、せかいでいっちばんだいすきだよ!」
茶髪の少女が顔を紅く染めながらそう言ってくれた。僕はそう言ってくれたのがとても嬉しかった。僕も彼女の事が好きだった。だから、
「ぼくも、ーーーちゃんのことがだいすきだよ!」
とちゃんと言葉にして伝えた。しかし、
ー今の僕には彼女の名前がわからない。
「え~!?本当?やった~‼」
彼女はそう言いながら、ピョンピョンと跳び跳ねていた。余程嬉しかったんだろう。そんな彼女の様子を見ながら、僕もとても嬉しくてしょうがなかった。端から見ればだらしない笑顔を並べていただろう。これで彼女の名前さえ思い出す事が出来れば何も言う事はないのが…
いやダメだな、彼女以外の景色が消えてきている。もうこの夢か終わりかけている。もう何も思い出せないだろう。
ーそして、すべてが白に変わった。ー
目を開けると見慣れた天井だった、僕の部屋だ。太陽がまだ登ってまだそんなに時間は経っていないだろう。
時計を見るとまだ午前5時だった。そんなことより、
「さっきのは…夢、なのかな? だけど……」
だけど彼女は、どこかで見た気がする。一体どこだったか。夢の中では幼稚園の帰り道だったから、もしかすると幼稚園の頃の友達かもしれない。だけど、彼女の顔が思い出す事が出来ない。
彼女の顔に白いモヤがかかったように。
彼女の事はとても気になるけど、こんな調子だと考えても多分答えは出てこないだろう。
さてと。考え事をするのは後でもできる。それよりも今のうちに朝ご飯を作らなきゃ、学校に遅れてしまう。時計を見ると午前5時30分いい頃合いだろう、料理を始めよう。
キッチンに向かい朝ごはんの献立を考える。
今日は何にしようかな? 2年生の始まりだし縁起の良いものがいいかな。だけど作るの時間かかるし……よし決めた、普通に和食にしよう。
1時間後
料理は作り終わったけど、作っている間も夢に出てきた少女の事を考えていた。朝ごはんを食べながらまた考えてしまう。朝ごはんを食べ終え、身支度を終わらせて、7時30分。ちょうどいい時間だし、学校にいこうかな。ガスの元栓を締め、戸締まりを確認して玄関へ向かう。玄関を出てカギを締める。 さぁ、学校にいこう。
30分後
学校への通学路を歩いていると、あるものを自分が持っていない事に気づいた。
「バック、忘れた~!」
完全に忘れていた。今から取りに行って学校に着くのは遅刻ギリギリだろう。まったく我ながら何で忘れちゃったかな~。
さらに30分後
学校の校門がやっと見えてきた。校門の近くには誰かがいた。もしかして、あれって鉄人、いや西村先生か。なんであそこにいるんだろう? ……まぁ、理由はだいたい分かるけど。
「遅いぞ!吉井!」
「げっ!…鉄人!」
「鉄人じゃない。西村先生と呼べ!お前で最後だ。ほら。」
鉄人から渡されたのは、なにかの封筒だった。なんだろう?もしかして、
「振り分け試験の結果通知だ。今日からそこがお前のクラスになる。」
「はーい。」
早速開けてみよう。ちょっと取りにくいな、これ。封筒の封が切れずに悪戦苦闘する。
「実はな。吉井…今だから言うが、去年一年間お前の事を見て、もしかしたらこいつは…バカなんじゃないかと疑いを持っていた。たが、試験の結果を見て先生は自分の間違いに気づいたよ…。すまなかったな。吉井…お前を疑うなんて俺が間違っていたよ。」
何て事言うんだ鉄人は!僕がバカなのは当たり前じゃないか。さて、中の紙を見よう。これは…
「お前は、疑いの余地もなく本物のバカだ!」
やっぱりFクラスだよね。おそらく彼らもいるはずだし、ちょっと寄り道していこうかな。
はい、お疲れ様です。多分、今回の明久はちょっと性格が変わってますけどちゃんと良いとこもあるので……好きになってくれると嬉しいです!
お気に入り登録、感想、評価と罵倒……お待ちしております!
……今日の夕時、もう一度来ていただけると何かあるかも?ですっ! それではっ!
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第1章 僕と文月学園と運命編
第1話 Fクラス そして、試召戦争開幕
お気に入り登録してくださった5人の方には感謝です!
それでは、今回もお楽しみください!
ここ文月学園は、世界初の特殊なシステムを導入した進学校である。その1つは、試験召喚戦争、最先端技術で実現された召喚獣によるクラス間戦争である。そして、もうひとつは成績累進式の教室設備。一年の終わりに振り分け試験を行い、その成績によって上のAクラスから下のFクラスまで6段階にクラス分けがされる。
明久side
はぁ、やっぱりFクラスだったか。そんなことを思いながら校門から下駄箱に移動して靴を履き替える。振り分け試験の時に姫路さんを助けたから。それ以降のテストは、すべて0点
になっているだろう。
まぁ、後悔はしてないけど、人を助けられたんだから。そんなことを考えながら、誰ももういないであろう廊下を歩く。僕は学校ではバカを演じている。だから、
「なんだよ?Fクラスって最下位クラスじゃないか。振り分け試験は頑張ったのにな~10問に1問は解けたのにな~」
なんてアピールをしておく。こうすることによって、周囲にバカと思わせている。これで、動きやすくなるからそうしている。さて、Aクラスの教室をみてみようかな、遅刻はいつ教室に行っても遅刻だからね。出来る限り自然に行こう。
さぁAクラスの教室の前まできた。中を見てみよう。これは…
「わぁ~!システムデスクにリクライニングシート!ノートパソコン支給か~!あっ!フリードリンクサーバーだ!お菓子も食べ放題か!いいな~!Aクラス~!」
……興奮してしまった。まぁ、あんな設備を見せられたら興奮もするよね。っていうウソのリアクションだけど。さて、Aクラスの設備も見たし我がFクラスに行こう。
クラスの看板が僕がきたときの衝撃で真っ二つに割れた。教室の中を見てみる。僕はバックを落としてしまった。
「畳、座布団、ちゃぶ台…これがFクラスの教室!?」
other side
ここ文月学園は厳しい。より良い学園生活を望むならより良い成績を! それがこの学園の定めである!
other side out
「くそぅ…!これが格差社会というやつか!」
「吉井君、早く席についてください。」
「はい…。」
こんな教室で授業なんて受けられるの? まぁ、これでも学年が、上がれただけでもましだと思おう。そういえば、
「僕の席はどこですか?」
「好きな所にどうぞ。」
「席も決まってないの!?」
といっても座る所なんて決まっているけどね。遅刻したせいで。僕は唯一空いていると言ってもいい所のちゃぶ台にバックを置く。
そして、座布団に座ろうとすると、パフッという音と共に違和感を感じた。
「先生、僕の座布団ほとんど綿が入ってないんですけど?」
「我慢してください。」
そうだよね、これぐらいは我慢しないとね。最下位クラスなんだし。ふと、風を感じたのでそちらの方をみるとひび割れた窓があった。これは流石に…
「先生、すきま風が寒いんですけど?」
「我慢してください。」
そういうやり取りをしているうちに僕のちゃぶ台の足が、バキッという音を立てて折れた。これは流石に…
「先生、ちゃぶ台の足が折れたんですけど?」
「我慢してください。」
そうか。我慢だなって、
「無理だっつの!」
これは流石に無理だ! ちなみに先生に暴言を吐いたのも演技だ。バカが先生に丁寧に話すなんておかしいからね。そうすると先生は、笑いながら、
「冗談ですよ。」
と言って木工ボンドを出した。嘘だよね、それで直せっていうの?
other side
ここ文月学園はやっぱり厳しい!
other side out
「え~。私がFクラス担任の福原です。皆さん1年間よろしく…『バキッ!!』工具を取って来るので皆さんは自習していてください。」
まさか、教卓もボロいとは…それにしても福原先生、色々な意味ですごいな、生涯の恩師になりそうだよ。
そういえば、ちゃぶ台を直さなきゃいけないな。多分直している間に誰かが話しかけて来るだろう。
「本当にひどい教室だよな~。ここで1年過ごすのか~。憂鬱だな~。」
「文句があるなら振り分け試験良い点とっとけよ。」
「雄二!雄二もFクラスに!?」
やっぱり最初に話しかけてきたのは、雄二だったか。坂本 雄二、1年の時に知り合った元不良。今は、悪友でもある。
Fクラスに来たってことは何かやりたい事があるんだろうな。何をやるかは大体わかってるけど、大方何か理由をつけて僕らを利用して霧島さんに告白したいんだろう。
まぁ、いいけどね。人助けだから。
「他にもいるぞ~。」
「ハロハロ~。ウチもFクラスよ。」
「島田さん!」
島田 美波さん、1年の頃に知り合ったドイツから帰国したいわゆる帰国子女。事あるごとに僕に暴力をふるって来るから結構苦手だ。
「そっか。島田さんはやっぱりFクラスだよね~。」
「ウチがバカだとでも言いたいの!?」
「痛い!痛い!痛い!胸がないから耳があばら骨に擦れてすごく痛い!」
やっぱり島田さん怒るよね。まぁ、予測してたけど。ヘッドロックをやられて4秒で瞬殺された。
あっ!島田さんのスカートが少しめくれたのにムッツリーニが反応した!その間1秒にも満たない早業だ!ムッツリーニこと土屋 康太。1年の時に知り合った親友だ。趣味は盗撮と盗聴というど変態だ。裏ではムッツリーニ商会の代表だ。
僕もお世話になってるよ、色々と。
「見えそうで…見え…見え…」
「ウチは帰国子女だから出題の日本語が読めないだけなのよ!」
「相変わらず賑やかじゃのう。」
「秀吉?」
「わしもFクラスじゃ。よろしく頼むぞ。」
話しかけてきたのは木下秀吉。1年の頃に知り合った演技の天才。自分を男子だと思っている可哀想な女子という設定がある。
まぁ、僕はそれでも男友達として好きだけどね。
「こちらこそよろしく!」
「しっかし、流石は学力最低クラス、見渡す限りむさい男ばっかりだなぁー。」
「お前も入ってるけどな。」
うるさいな。雄二。
「でも良かったよ、唯一の女子が秀吉の様な美少女で。」
「わしは男子じゃ。」
「ウチが女子よ。」
「分かってないな~女子というのは優しくおしとやかで、見ていて心和むオーラを漂わせる存在で、島田さんの様なガサツで乱暴で怖くて胸が無いのは…腕の間接に激しい痛みが!」
ヤバイこれ完全に決まっちゃってるよ! ものすごく痛い!島田さんやめてよ!
後、ムッツリーニは島田さんの下着を見ようとしてないで助けてよ!
「あの~遅れてすみません。保健室に行っていたら遅くなってしまって…」
あれは、姫路さん?やっぱりFクラスだったか。まぁ、そうだよね。振り分け試験の時に熱を出して倒れてしまったからね。点数は無いに等しいだろうな。姫路瑞希さん。僕が小学生の時に出会った初恋?の人。めちゃくちゃ可愛い子だ。
そういえば、何故さっき初恋に疑問形がついたかというと実は僕は小学3年生から前の記憶が無い。何故無くなってしまったのかは分からない。
「姫路さん…。」
「あっ、吉井君…!」
姫路さんがこちらの方にやって来た。その時に外野がうるさかったけど気にしないでおこう。
「吉井君……。」
「何かな?姫路さん…?」
「『バキッ』痛くないんですか?」
「『バキバキッ』うお~!僕の脊椎が今まで経験したことのない曲がり方をしている!あぁ~!これ以上曲がったら男子「見え…見え…。」」
other side
ここで一つの奇跡が起こる。割れた窓からの突風が奇跡的に島田のスカートに吹いた。
other side out
あれ?ムッツリーニが驚愕の表情をしている。めずらしいな。と思ったら鼻血を吹き出して倒れた!
「ムッツリーニ!しっかりしろ!「みず…」しゃべらないで!今医者を呼ぶから!「み、水色…」ムッツリーニ~!」
早く助けないと。僕はムッツリーニを抱え助けを呼ぶ。
「良かった~。他にも女子がいて。席、特に決まってないから。適当に座っていいって」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ、ここ、空いていますか?」
え、姫路さんが僕の隣? 僕はなんとかムッツリーニの応急措置をし、姫路さんの話を聞く。
「うん!どうぞ~!」
「そっか~姫路さんもFクラスなんだ…。」
「よろしくお願いしますね!吉井く…エホッエホッ」
「まだ体調、良くないの?」
「えぇ…少し…。」
やっぱりか。振り分け試験からそんなに日は経ってないもんね。それに、
「すきま風の入る教室。薄っぺらい座布団。カビとホコリの舞う古びた畳。病み上がりには良い環境じゃないよな。」
そうだよな。じゃあ姫路さんのためにいっちょ試召戦争でもやってみようか。
キーンコーンカーンコーン
掃除の時間だ。姫路さんが、床を箒で掃いている。
「エホッ!エホッエホ!」
やっぱりこの教室に姫路さんが居たら、姫路さんは体調が悪化してしまうかもしれない。
これは雄二に相談してみよう。
「で、何の用だ?」
分かっているクセに。ここは劇の様にいってみよう。
「僕は思うんだよ…。学校というのは社会の縮図だろう?こんな差別の様なクラス格差があるべきじゃない。でも、最下位の僕らが何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないから、実力と発言権を得た上でこの疑問を世の中に…「つまりお前は姫路のためにクラスの設備を良くしたいと。」恥ずかしいから遠回りに言ってるのに何でストレートに言い直すんだよ!」
そう来たか。まぁ、そうだとは思ってたけどね。それに今言った内容のほとんどは思ってもいないことだ。学校が社会の縮図ならこの格差はあって当然だしね。
「実は俺も仕掛けてみたいと思っていたんだ。」
「えっ、?雄二も?」
「あぁ、世の中、学力だけがすべてじゃないって証明してみたくてな。それに勝算はある。」
そんな事の裏では霧島さんに告白したいだけのクセに~。全く素直じゃないな~。それに、勝算というのは多分姫路さんの事だろう。
姫路さんは1年のときは学年次席だからAクラス並みの学力が期待できる。ただ一つだけ賭けがあるとすれば回復試験が間に合うかどうか。
「やってみるか?明久?」
「あぁ、やろう!試験召喚戦争を!」
まぁ、お膳立ては雄二にやってもらおう。その方は楽だし。教卓がある黒板の前に雄二と共に向かう。さぁて、これからどうするのかな?雄二?
「皆!聞いてくれ!Fクラス代表として提案する。俺たちFクラスは試験召喚戦争を仕掛けようと思う。」
Fクラスの皆びっくりしてるね~。それしても雄二がFクラス代表か。実力的には問題ないけど目的がな~。
「なんじゃと!?」
「試験召喚戦争ってまさか!」
そのまさかだよ。島田さん。
other side
ここ文月学園には試験召喚戦争、通称試召戦争と呼ばれるシステムがある。生徒は教師の立ち会いの下科目別の点数に応じた攻撃力をもつ召喚獸を召喚する事が出来る。その召喚獸にもよって戦争を行い、上位のクラスに勝利する事でそのクラスと教室を交換する事が出来る。
other side out
「皆!このおんぼろ教室に不満はないか!『おおありだ~!』だが試召戦争に勝利さえすればAクラスの豪華な設備を手に入れる事だって出来るんだ!『おぉ~!』我々は最下位だ!『おぉ!』学園の底辺だ!『おぉ!』誰からも見向きもされない『おぉ!』これ以上したのないクズの集まりだ!『おぉ!』つまりそれはもう失う物はないということだ!『はっ!』ならダメ元でやってみようじゃないか!それに俺たちにはこいつがいる!」
一斉に僕の方に視線が集まる。だけど僕は後ろを向いてその視線を僕の後ろに集めた。皆の頭に疑問が浮かぶ。それにしても上手いな、雄二。皆の不満を募らせてそれを試召戦争への目的に転嫁させるとは。
「ここにいる吉井明久はなんと観察処分者だ!」
クラスがざわつく。まぁ、そうだよね。観察処分者ってきいたら皆驚くよね。バカの代名詞だし。
「いやぁ、それほどでも…」
ここでもバカの演技をしておく。積み重ねは大事だね。姫路さんが手を挙げてる。どこか分からない所でもあったんだろうか?…姫路さんが分からないそうな所は大方予想がついてるけど。
「何だ?姫路?」
「観察処分者って凄いんですか?」
「あぁ、誰にでも好きになれる訳じゃない。成績が悪く学習意欲の問題児に与えられる特別待遇だ。」
そこまで言わなくてもいいじゃないか!僕は自ら望んで観察処分者になったんだから。何故観察処分者になったかというとちゃんとした理由がある。
一つ目に召喚獸の特別な性質。普通召喚獸というのは物に触れない。だが観察処分者の召喚獸は先生の雑務を手伝うため物に触れることができるんだ。
2つ目に先生の手伝いが出来るから。僕はなるべく人を助けたいんだ。だから観察処分者になったという訳さ。
「バカの代名詞とも言われておる。」
「全く何の役にも立たない人の事よ。」
「わぁ!本当に凄いですね!」
「だぁ~!穴があったら入りたい!」
「試召戦争に勝利すればこんなおんぼろ教室からはおさらばだ!どうだ!皆!やってみないか!」
『おぉ~!!』
皆やる気になったようだ。いやぁ良かった良かった。さて次は、
「手始めに一つ上のEクラスを倒す。明久、Fクラス大使としてEクラスに宣戦布告をしてこい。」
「えっ、?僕?普通下位勢力の宣戦布告の使者ってひどい目にあうよね?」
「それは映画や小説の中の話だ。大事な大使にそんなまねをする訳ないじゃないか。「でも…。」明久、これはお前にしか出来ない重要な任務なんだ。騙されたと思って行ってきてれ。」
やっぱり君は悪者だ、雄二。そうやって皆に自分のしたいことをやらせる。だけど、もしここで断ればおかしいと思われる。それは避けたい。だったら、行くしかない。
「騙されたよ!」
「やはりな。」
「予想してたのかよ!」
「これぐらい予想出来なければ代表は務まらん。」
「少しは悪びれろよ!」
Eクラスがあんなに盛大に歓迎してくれるとは。全身が痛い。だけど、これでやっと始められる。
「さぁ、これてもう後には引けないぞ。明久、覚悟はいいな?お前の望みなんだろう?」
「あぁ!いつでも来い!」
other side
「ほう?今年の2年は1学期初日から試召戦争をやろうってかい。面白いじゃないか。承認してやりな。」
「かしこまりました。」
「さぁて、見せてもらおうか。」
あたしは試召戦争許可の書類に承認の印をおす。Fクラスといえばアイツらがいる所じゃないか。大方Aクラスになるはずだった姫路だったか、その子のためにでもやるだろうさ。まぁ、やるだけやってみな。
other side out
翌日、雄二から作戦の説明があった。
「戦闘の立ち会いには長谷川先生を使う。ちょうど5時限目でEクラスに向かう所を確保する。」
やっぱりか。長谷川先生なら島田さんが有利だしね。だって長谷川先生は、
「長谷川先生というと科目は数学?」
「数学ならウチは得意よ!」
「その、島田の得意な数学を主力に戦う。」
「姫路さん、数学は?」
「苦手ではないですけど…。」
「やった~!姫路さんも一緒に戦えるね!」
いや、それは無理だよ…島田さん。試験召喚獸の戦闘力は最後受けたテストの点数、つまり振り分け試験。ということは姫路さんは熱で途中退席したせいで数学のテストは0点のはずだ。
そうなると姫路さんは初期の戦力としては使えない。では何故、雄二が数学を選択したかというと数学なら島田さんが得意だからだろう。
島田さんは帰国子女で日本語が読めないけど数学なら数式だからわかるはず。それに帰国子女ということは学力は並みの人以上にあるはずだから戦力として使えるはず。
その間に姫路さんに回復試験を受けさせ、Aクラス並みの点数を出してもらう。そうすればもうトントン拍子だ。
「いや、ダメだ。「どうして!?」一番最後に受けたテストの得点が召喚獸の戦闘力となる。俺たちが最後に受けたテストは、「振り分け試験…。」「私は途中退席したから0点なんです…。」でも試召戦争が始まると回復試験を受けることができる。それを受ければ途中から参戦出来るさ。「はい…。」頑張ってくれ。「はい…!」」
雄二、その優しそうな笑顔をこっちに見せないで霧島さんに見せてあげればいいのに。
霧島さんらしき人が廊下にいるよ!いいの?あ、居なくなっちゃった。霧島さん……可哀想に。
キーンコーンカーンコーン
「長谷川先生確保~!」
お、早かったね。その声を聞いて雄二が教卓を叩いて皆の注目を集める。
「開戦だ!総員戦闘開始!」
『おぉ~!!』
明久side out
所変わってEクラス
「全く…バカの癖に生意気ね。全員出撃よ! Fクラスなんてとっちめてやりなさい!」
Eクラスでは気合を入れてFクラスを叩きのめすための準備が開始された
はい、お疲れさまです。
今回はちょっと長めでしたが、次回からはあまり長くはしないようにしたいと思います。
そして! お知らせなのですが次から更新は1週間おきになると思ってください。ごめんなさいね……ですが、自分は他にも色々とやってるのであまり一つに時間が取れないんです。すみません。
まぁ、このSSは書き溜めがあるんですがね。ペースが早いと最新話が薄くなったりしてしまうので、適度に書いていきたいと思います。
次回もお楽しみに!
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第2話 試召戦争 そして、運命の出会い
本編をどうぞ!
明久side
試召戦争が始まった。相手は一つ上のEクラス。こちらの第1陣は島田さん、ムッツリーニ、秀吉と他大勢。島田さんたちには悪いけど今回の試召戦争では捨て駒だ。姫路さんと雄二以外はね。当然僕も捨て駒。姫路が回復試験を受け終わるまでの時間稼ぎをしているに過ぎない。本当に皆良い意味でも悪い意味でもバカだね~。おっと、始まったかな?廊下が騒がしくなってきた。
「島田美波!行きます!」
「木下秀吉!参戦いたす!」
「土屋康太!…同じく!」
「承認します!」
長谷川先生の承認の合図でE、Fクラスとその廊下に数学のフィールドが展開される。このフィールド内じゃないと試験召喚獸を召喚する事が出来ない。そして、召喚獸を召喚する時には合言葉を言わないといけない。それが、
「試験召喚獸召喚!試獸召喚(サモン)!」
「…試獸召喚」
「試獸召喚!」
おっ、最初に召喚獸を召喚したのは島田さんたちか。威勢がいいことで。時間稼ぎに使われてるとも知らずに。そういえば何故廊下の声が聞こえるかというと、教室の壁が薄いからだ。流石おんぼろ教室だよね。
5分後
最初の戦死者がEクラスから出た。戦死者というのは自分の召喚獸の点数が0点になること。それ以上戦えないため、補習室で強制的に補習を受けることになる。それに補習の担当は鉄人こと西村先生だ、鬼の補習を受けさせられる。大体補習か終わったあとには趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎になるってどんな補習をするだろうか?
30分後
まだ島田さんたちは頑張ってくれている。だけどそろそろ限界だろう、あっちは僕たちより上の点数を出している訳だから、最初は同じくらいの人数でも後になればなるほど、こちらの戦力は大きく削られる。
「どういう作戦でいくの?雄二?」
「作戦なんかねぇ。「え?」力任せのパワーゲームで押切られた方の教室に敵がなだれ込む。そして、代表が倒された方の負けだ。」
「まさか、押切られたりはしないよね?「もうダメ!押切られる!」え~!」
「Eクラスの方が成績は上だからな。ストレートにぶつかれば押切られるのは時間の問題だ。「そんなぁ~!」だが向こうも所詮はEクラス、Fクラスとの差は大きくない。押切るには時間が掛かる。その時間が勝負のカギだ。」
そういえばさっき雄二が言っていた代表が倒された方の負けだというのは、試召戦争の負けの条件なのだ。試召戦争のルールとして明確に書かれている。だからクラスの代表は前には出ずいつも後ろにいる。これが試召戦争の基本的な戦法だろう。そろそろ時間か。
「うぅ!点数が!」
「このままでは戦死じゃ。お主は下がって点数を回復するのじゃ!」
「分かったわ。」
島田さんが最前線から居なくなったってことはもうすぐ前線は瓦解するだろうな。島田さんたちは僕たちの中でも点数は高い部類に入る。その島田さんたちが居なくなれば、他の皆が頑張ったとしても耐えられる時間は大きく削られる。RPGでいうところの盾役なしのパーティみたいなものだね。
「もう無理!」
「ムッツリーニ!戦略的撤退じゃ!」
秀吉たちも前線から離脱した。これで一気に押切られるな。
「この勝負貰ったわ!」
まだ勝負は分からないよ。姫路さんの方が多分あともう少しで終わるだろうから、それまで時間稼げればなんとかなるんだよね。
「しまった!」
「突撃よ!」
『おぉ~!』
Eクラス代表を先頭として教室になだれ込んで来る。
「防衛線が破られたな。」
「ヤバイよ。雄二~!」
僕は雄二の方を向いて恐怖しているような演技をする。
「戦死者は補習室に集合!」
『ヒィ~!』
西村先生が戦死者を連れていく。あと残るのは僕と雄二だけだ。これは僕が時間稼ぎをしないといけないだろう。しょうがない、やるか。
「どうしよう?雄二~!」
「もう終わりなの?これまでのようね。Fクラス代表さん?」
「おやおや、Eクラス代表自ら乗り込んで来るとは。余裕じゃないか。」
「新学期早々宣戦布告なんて、バカじゃないの?振り分け試験の直後だからクラスの差は点数の差よ。あなたたちに勝ち目があるとでも思ってるの?「まぁ、どうだろうな?」そっか。それが分からないバカだからFクラスなんだ。」
「雄二、やっぱり作戦も無しじゃ上のクラスに勝てっこないよ。「おっと、そういえば一つだけ作戦を立ててたっけ。」「え?」何故お前をここに置いているのか分からないのか?」
「え?そうか。」
ここは演技をするしかない。
「まさか、そいつは…」
「そう。この吉井明久は観察処分者だ。明久。お前の本当の力を見せてやれ!」
「ちぇ。しょうがないなぁ、結局最後は僕が活躍する事になるだね。試獣召喚!」
Eクラスのほとんどが後退りした。そんなことしても逃げられないのに。
「観察処分者の召喚獣には特殊な能力がある。罰として先生の雑用を手伝わせるために物体に触る事が出来る。『ゴツン!』そして、召喚獣の受ける痛みはその召喚者も受ける。「痛い痛い痛い!裂けてないかな?大丈夫かな!?」な、面白いだろ?」
「それだけかよ!」
全く痛いのは勘弁だよ。それにしても姫路さんまだかな?
「いいわ。まずはその雑魚から始末してあげる。試獣召喚!」
「そう簡単に負けはしない!行くぞ!」
僕の召喚獣が勢い良く走り出す。ここで上手く自然に床が落ちる場所に操作する。そして、
「痛~!同じ所ぶった~!いた、痛い!流石はEクラス代表。なかなかやるじゃないか。」
「全く役に立たない護衛ね…。」
「いんや~。十分役に立ったさ。」
そうみたいだ。姫路さんの採点がちょうど終わった頃か。
「それじゃ。代表自らあなたに引導を渡してあげるわ。覚悟して。Eクラス代表中林広美、坂本雄二に…」
「待ってください!姫路瑞希、受けます!召喚獣召喚、試獣召喚!」
やっと姫路さんがきてくれた。姫路さんが召喚した召喚獣がEクラスの生徒を一掃する。姫路の点数は412点。Eクラスで勝てる人はいないだろう。チートっぽくて僕はやりたくないなぁ。でも、これがAクラスの実力か。
『Aクラス並の攻撃力!?何でFクラスにそんな生徒が!?』
Eクラスの人たちがすごく驚いている。それはそうだろう。
「やっと来たか。」
「姫路さん!」
「姫路瑞希ってもしかしてあなた!?」
「吉井!「島田さん?」この子やっぱりすごいわ!」
「流石、Aクラス候補だっただけはあるな。」
「あれが姫路さんの成績?」
「問題数無制限の文月学園のテストは答えられれば何点でも取れる。「それじゃあ、作戦っていうのは…」テストの時間稼ぎだな。」
いやぁ、姫路さんが間に合って良かった。
「Fクラスにそんな人がいるなんて聞いてないわよ!」
「それじゃあ、行きます!ごめんなさい!」
姫路さんの召喚獣の一撃がEクラス代表に当たる。そして、Fクラスの勝ちが決まった。
other side
かくして、この試験試験戦争はFクラスの勝利で幕を閉じた。
other side out
しかし、その後の交渉で事件は起きた。
「やった~!すごいよ、姫路さん。これも姫路さんのおかげだよ!」
「そんなこと…ありがとうございます…!」
「これで僕らはEクラスと教室の設備を交換出来るんだよね。少しだけど今までより良い環境になるよ。」
そんな訳にはいかないか。
「いんや。設備は交換しない。「え?」設備は今までのままだ。良い提案だろ?Eクラス代表さん?」
「そんな…どうして?」
「何でだよ?雄二?せっかく勝ったのに…」
教室の扉が開いた。あれ?誰だろう?秀吉に似てるけど明確に違う。言葉では言い表せないけど。何か懐かしいような…
「決着は着いた?」
「どうしたの?秀吉?その格好?そうか!やっと本当の自分に目覚めたんだね!「明久よ。わしはこっちじゃ。」え?秀吉が二人!?」
「秀吉はあたしの弟よ。あたしは2年Aクラスからきた大使。木下優子。我々AクラスはあなたたちFクラスに宣戦布告します。」
『えぇ!?』
「どうしてAクラスが僕らに!?」
「最下位クラスじゃないだからって手加減しないから。容赦なく叩き潰すから。そのつもりで。」
木下さんは明らかにこちらを見下していた。やっぱり木下さんとは初めて会った気がしない……気がする。
明久side out
時は少し遡る。
優子side
あたしは今Fクラスの近くまできている。何故かというと目的は2つ。1つは吉井 明久くんに会うこと。もう1つはFクラスに宣戦布告するため。中の話が大分終わった様なので教室に入る。
そして現在
Fクラスの面々が驚いている。それはそうだろう。さてと、
「あなたが観察処分者の吉井君?」
「そうだけど?な、何か用かな?」
吉井君であろう人が首を傾げながらこちらを見る。そこで、あたしは気づいた。
彼には面影がある。なんというか、雰囲気が変わってるけどあたしの知るあの大好きなあの子に。
ーやっぱり、彼があの子なのかな?
「さっき、先生にあなたに頼みがあると言付けを頼まれてね。一緒に来てくれるかしら?」
なるべく見下しているような口調だったけど大丈夫だよね?これで彼に嫌われてもしょうがないかな。
こちらにも都合というものがあるから。でもこれで、
ーちゃんと再会を果たせるはず!
優子side out
明久side
今日、先生の手伝いはあったっけ?突然手伝いが必要になったのかな?まぁ、木下さんに付いていけばわかるか。木下さんに付いて廊下を歩く。
すると、不意に木下さんが立ち止まる。
「ごめんなさい吉井君、先生の用の前に屋上に一緒に来てくれる? そこであなたとちょっと話をしたいの。」
前を見たままそう言ってきた。
え? 先生の用の前に?
「え? どうして?」
そう少し驚きながら聞くと、木下さんの雰囲気が少し変わった。
「……大事な事なの。吉井君、お願いだから黙って付いてきて。」
「そ、そう。分かったよ。」
……少し警戒するか。
木下さんが悪い人だとは思わないが人は見かけによらないって言うし。屋上だと人はあんまり来ないから何をされるか分からない。
僕と木下さん、どちらも一言も話さないまま屋上の着いた。
木下さんはフェンスの近くまで行って、立ち止まった。
「あの木下さん、聞かせてもらっていいかな? ここまで僕を連れてきた理由を。」
「えぇ、いいわ。それはあたしが吉井君と二人きりで話をしたかったから。」
「……どうして、僕と二人きりで話がしたかったの?」
理由が思い浮かばない。僕と木下さんには接点はあまりないだから。
……まさか、とは思うけど僕の家の事がばれた?それで脅しに来たとか? いや、これはあり得ない。
僕と家の関係は国家機密相当の情報にされている。そして、その情報が入っているコンピューターがハッキングされたという報告はない。
ーだったら、何故?
明久side out
優子side
やっぱり、強引に連れてきたから警戒されてる?
でも、こうでもしないと再会もちゃんと出来ないからしょうがない。彼はFクラスで、あたしはAクラス。その二人が頻繁に会っていたらおかしいと思われる。
ーだから、こういう風にしか会えない。
まずは、あれを聞いてみるかしら。
「……吉井君、あなた幼稚園は如月幼稚園?」
「え? よ、幼稚園? そうだけど、それがどうかした?」
吉井君の表情が、固まる。
まぁ普通、初めて会った人にこんな質問しないわよね。だけど、やっぱりそうなんだ。
じゃあ、次は一番したかった質問をしましょうか。
優子side out
明久side
一体何なんだ? 木下さんのあの質問は? って! それよりもここで木下さんとそんなことを話すのは不味い。その内容がどんなものかにもよるけど。
「木下さん、ちょっと待って。」
「え? 何で?」
木下さんは首をかしげているが、構わず僕はジェスチャーで静かにと伝える。木下さんは内容は分からないが僕がお願いしたい事は分かってくれたみたいだ。
何故、ここで木下さんと話すのが不味いかというと、ここにはムッツリーニの仕掛けた隠しカメラがあるはずなのだ。もちろんマイクも付いているのだから、ここで話した事はすべてムッツリーニに伝わり、雄二にも伝わるはずだから色々と不味いのだ。
僕はズボンの後ろポケットにいつも入れているボールペン付きのメモ用紙を取りだし、木下さんに現状で考えられるここで話すデメリットを書いて見せた。
『落ち着いて見て。ここにはFクラスのある人物が取り付けたマイク付きカメラがあるんだ。だから、ここで重要な話は不味い。カメラの死角まで誘導するからわかったら頷いて。』
木下さんはようやく内容を理解したようで驚きながら頷いた。カメラの死角まで木下さんを誘導する。
「一体どういう事なのよ!? 隠しカメラって!」
木下さんは少し焦った様に小声で問い詰めてきた。それはそうだよね、隠しカメラなんてあったら何を撮られているか分からないし。
「木下さん落ち着いて。あそこのカメラのマイクは高性能だから少しでも声を大きくしたりすると聞こえるから。」
「……分かったわ。でも、何で屋上に隠しカメラなんてあるのかしら?」
まぁ、当然の疑問だよね。
「なんていえばいいかな……、他のクラスの情報を上手く手に入れる為、かな。」
「……ふ~ん。でもその話、あたしにしても大丈夫なの? 結構重要な事でしょ?」
「大丈夫大丈夫。重要ではあるけどそれがすべてって訳でもないしね。それに……どこにあるか、分からないでしょ?」
満面の笑みでそう言った。
そう……僕は木下さんに隠しカメラがある事は教えたが、どこにあるかまでは教えていない。
木下さんは目を見開いて驚いていたが、僕もそこまでお人好しじゃない、一応敵だし。
「……確かにそうよね。そこまで教えてくれただけでもありがたいわ。ありがとう。」
「いえいえ。」
「それで……本題なんだけど……」
木下さんも納得してくれたようだ。そして、ようやく本題に入るようだ。
「何かな?」
「あの……その、えっと……」
木下さんが急にさっきまであったカリスマ感がなくなり、顔を下げモジモジし始めた。なんとも可愛らしい。
一体どうしたんだろうか? そんなに言いにくいものなんだろうか?
「あたしの事……お、覚えてる?」
「え? あの、それはどういう事かな?」
木下さんが、ちゃんとこちらを見たと思ったらとんでもない事を聞いてきた。一瞬、戸惑って思考が追い付かなかった。
本当にどういう事だ? 僕は木下さんと会ったのは初めてのはずだ。それなのに……覚えてる?って聞いてきた。もしかしたら……
「あの、もしかして……ぼくたち幼稚園の頃とかに一度会ってる、のかな?」
「え? それって、どういう……」
木下さんは僕が木下さんの事を知らないという事に気づいたみたいだ。
どうしたらいいのか分からないという様な顔をしている。
……仕方ない、僕の事情を話すか。
「……実は僕、小学3年生以下の記憶がないんだ。だから、ごめんなさい。僕は君が知っている人とは限らない。」
「そんな……」
「それでも……僕に何か用があるかな? 冷たい言い方だとは思うけど……君の為でもあるから……「……」ないなら、僕は戻るよ。 ……それじゃ「……待って!」何かな?」
僕が教室に戻ろうとすると、木下さんがブレザーの裾をそっと掴んできた。木下さんの方を振り向くと、木下さんは今にも泣き崩れそうな顔をしていた。……その表情を見ていると何ともいえない感情に押し潰されそうになってくる。
ー彼女を抱きしめてあげろよ!
何だ? 頭の中に声が……
ー抱きしめろ! 抱きしめろ! 抱きしめろ!
「っ!?」
頭に自分の声で抱きしめろ、という言葉が響く。この声は一体……? ただ、この声に従わないと頭に強い痛みを受ける。どうする? この声に従ってみるか?
「どうか、したの……?」
「っ!! 木下さん、ごめん!」
木下さんが不思議そうに僕を見つめてきた。その瞬間、一気に痛みがひどくなる。
この声には抗いきれない! そう思った僕は木下さんを抱きしめる。
「……え? ちょ、ちょっと吉井君!?」
木下さんは僕のした事をようやく理解したようで驚いていた。ただ、驚いたのと同時に体から力が抜けた。
ーあれ? もしかして木下さん……気を失った?
それはそうだろう。突然、目の前の相手に何の前触れもなく抱きしめられたら誰でもパニックになるし、気の弱い人なら気を失う。
だけど、この状況をどうする? こんな所を他の人に見られたら、誤解される。それは避けないと。
「しょうがない……。」
1時間ぐらいここで時間を潰して、保健室に連れていく。それが最善策のようだ。誰にも見られず、木下さんを運ぶにはそれしかない。
それにその間に木下さんが気が付くかもしれないし。
僕はその場で腰を降ろし、木下さんを僕の隣に寝せた。
「はぁ……。」
木下さんに聞けば僕の過去の記憶も分かるのだろうか?
明久side out
???side
「……最初の出会いがこんな感じで良いのかな?」
私は双眼鏡を覗くのをやめる。どのような形でも吉井くんと木下さんが出会う、それが大事。でもあれはやり過ぎじゃない! 吉井くん、やるときはやるんだなぁ~、結構意外。
さてさて、今度の報告は良いものになりそうだね♪
???side out
はい、お疲れさまでした。今回、ようやく優子を出せました。ただ、ここから数話は直接的には優子は出ないと思っていてください。明久との絡みが直接的にはないということです。
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では、また次回に!
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第3話 帰り道 そして、約束
お気に入り登録16件、UA1200以上ありがとうございます!
今回はやっとイチャイチャします!
では本編をどうぞ!
明久side
1時間ほど経った頃かな。スマホをで時刻を確認する。5時を少し過ぎた頃か、
「ん、う~……ん? 吉井君?」
「ようやくお目覚めだね。おはよう、木下さん。」
木下さんが目蓋をこすりながら、体を起こす。さて、ようやく話が進められるかな?
「おはよう? あれ? あたし……何で?」
「僕が木下さんを抱き締めたら、気を失ったんだよ。ごめんね、急にあんなことして。ホントにごめんなさい。」
「そんな、大丈夫よっ!? ちょっと、びっくりしたけど……嫌じゃ、なかった……から。」
木下さんが顔を真っ赤にして俯きながら、そう言った。か、可愛い……。っと、それより……
「あの、それで木下さんは僕の過去を、知っているって認識で大丈夫?」
「え? え、えぇ。それで……本当に記憶はないの?」
「うん、そうだよ。ごめんね。」
「いえ……いいのよ。」
突然の僕の問いに少し戸惑いながらも、木下さんは答えた。……ただ悲しそうな顔おしていたが、よし、それじゃあ、
「僕を止めた後の続き、聞かせてもらっても良いかな?」
「えぇ、あの、もし吉井君が良かったら……これからも連絡をとれないかしら?」
木下さんの提案にはおおむね賛成だけど……
「どうしてか、教えてもらえるかな?」
「あたしは……どうしても、吉井君に思い出して欲しいの……。だから、あたしと連絡をとることで少しでも記憶が戻らないかなって思って……!」
なるほど、木下さんは何かしらの理由で僕の記憶が、どうしても戻って欲しいのか。まぁ、木下さんのバックには敵対するようなものはないのは、さっきの時間で確認済みだし、僕の記憶が戻ったところでデメリットがある訳ではないから大丈夫だろう。
ただ、僕としても過去が気にならない訳ではないから、過去を知る木下さんと面識があるというのは後々メリットがあるかも。
「うん、分かった。いいよ。」
「! ありがとう……!」
木下さんは僕の答えを聞いて、パッと華が開いたような笑顔を僕は連絡先を木下さんと交換するため、スマホを取り出す。さて、こっちの連絡先を教えるのは良いんだが……
「ただ、僕も忙しい時が多いから。いつも出れるかは分からないことだけは了承してね。」
「あ、うん。そこは大丈夫。吉井君にも事情があるだろうし。」
「うん、ありがとう。はい、これでオッケーかな?」
木下さんと連絡先を交換した。これで、なにか変わるってわけじゃないけど、何か嬉しいな。さてと、
「木下さん、これで一応、用は終わりって事でいい?」
「う、うん。ありがとう……。」
木下さんは自分のスマホを見て、頬を赤らめていた。何かいちいち可愛いと思っている自分がいる。驚きだな。
「後は、用はないって事でいいよね。それじゃあ、帰ろうか? もう遅いし。」
「あ、あれ? 今って5時!? 帰らないとっ! それじゃあ吉井君、さよなら!」
「あ、待って待って。一人じゃ危ないから僕、送っていくよ。……迷惑じゃなければ。」
木下さんが急いで帰ろうとしたが、僕が引き止める。こんな時間だと誰かに襲われたりするかもしれないしね。……僕、こんなに根から優しかったっけ?
明久side out
優子side
「じゃ、じゃあ、送ってくれる?」
あきくん、いや吉井君が送ってくれる!? そんなのお願いするしかないじゃない! あたし、ついてるわ! 連絡先も交換してくれたし、送ってくれるなんて……嬉しいなぁ。
で、でも、本当に吉井君があきくんなのか分からないのは……なんというか、残念。……ずっと会いたかったのに、大好きな彼に……。
「分かった。それじゃあ、荷物って持って来てるわけ……ないよね。教室から取りに行って昇降口で合流しよう。」
「うん、分かったわ。」
あたしと吉井君は一度別れ、自分の荷物を取りに行く。それにしても……吉井君って何か、教室と雰囲気が全然違うわね。教室にいた時は、いつも笑顔だったけど……屋上では緊張感のある表情で、冷静っていうか大人っぽい感じだった。
もしかして、吉井君もあたしと同じように猫被ってる……のかしら? それとも……屋上は単に緊張していただけ? どちらにせよ……吉井君はたぶんあきくんだと、あたしは信じたい。
優子side out
明久side
僕は荷物を取りにFクラスまで戻ったわけだが……
「やっぱり、誰も居ないな。」
いや、厳密にはいるがあっちは僕が気づいてる事に気づいてないだろうし、気づかれたくない。関係が壊れてしまうのは避けたいしね。
さて、昇降口に行くか。あんまり、観察とかはされたくないんだけど……しょうがない。僕が血祭りにあげられるだけだし、放置していいだろう。
「待ったかな? ごめんね、Fクラスって遠いからさ。」
「大丈夫よ。じゃ、行きましょうか。」
僕が昇降口に行くと、もう木下さんは着いていたようだ。申し訳ない……。
5分ほど歩いてから、
「木下さんは、何で僕が君の探している『あきくん』だと思ったの?」
「それは……やっぱり、名前とか姿が似ていたからよ。それに……」
僕は木下さんのいう『あきくん』とやらが僕と、どの程度一致しているかを知るため木下さんに質問していく。名前か……まぁ、僕の名前って結構珍しい方だしね。
「それに……?」
「……優しかったし……。雰囲気がすごく似てるのよ、吉井君はあきくんと。」
目を逸らしながら、真っ赤になりながら木下さんは答えた。なにこの可愛い生きもの? 抱きしめてもいいかな?
「あたしからも質問いいかしら?」
「良いよ。何かな?」
木下さんからの質問か、大体予想はつく。
「吉井君は、何でクラスでは素を隠してるの?」
やっぱりね。
「逆に聞くけど、木下さんは何で僕がクラスでは素を隠してると思ったの?」
「それは、なんとなくあたしと同じ気がしたからよ。……あたしも、学校では素を隠してるから。これ、他の人には言わないでねっ! 言ったら吉井君も同じようにしてやるわよ。」
木下さんも素を隠してるのか。まぁ、誰にも今のところ言うつもりはないし……僕が言っても信じる人なんて少ないだろう。
「言わないよ。まぁ、正直言うと僕の素は屋上の方ではあるから、正解ではあるね。理由はごめん、言えない。」
「……そうよね、人それぞれ事情があるものね。」
そこで一度会話が止まってしまった。
それから10分後、二つの分かれ道に着いた。僕は右に行けば僕の住むマンションがある。
「……」
「……あの、吉井君。」
「何かな?」
「もし、良かったらで良いんだけど……今度の週末、空いてるかしら?」
ん? 何故だ?
「空いてるけど……どうして?」
「実は吉井君に会って欲しい人がいるの。」
「僕に? それはどうして?」
会って欲しい人? 記憶関係の人かな?
「過去の記憶を……取り戻せるかもしれないから。」
「過去の記憶を……?」
警戒はするか。まぁ、過去の記憶については僕も取り戻せるなら取り戻したいし、会ってみるのも良いかもしれない。
「……うん。分かった、いいよ。」
「……! ありがとう……! 詳しい日程は後で連絡するから!」
木下さんはパッと華開くように笑顔になった。木下さんが笑顔になるとこっちも笑顔になりそうだ。
「あたし、ここまで来れば大丈夫だから。 今日はありがとうっ!」
「あ、うん。それじゃあ……僕はこっちだし、こちらこそありがとう。」
木下さんは左の道か。ここで別れた方がちょうどいいか。それにしても木下さん、上機嫌だな。あんまりはしゃいで事故とかに遭わなければ良いけど。
「それじゃあ、ばいばい♪」
「うん、ばいばい。」
木下さんが手を振りながら帰っていく。僕も手を振り返す。なんか、良いな。こういうの。さて、僕も帰るかな。
ほどなくして、僕の家に着いた。
「ただいま~、って誰もいないけど。」
ドアを開いて、中に入る。冷蔵庫に何があったかな? そう思いながら制服を脱いで、部屋着に着替える。そして、キッチンに行く。
「う~ん……これだと、パエリアかな。」
ちょうどパエリアの材料があったので、今日はパエリアにすることにした。
1時間後
パエリアを作り終え、リビングのテーブルに持ってくる。ソファーに座りテレビをつける。お、ニュースがやってる。ニュースを見ながらパエリアを食べることにしよう。
『……この事件での容疑者は不明で、警察は無差別殺人だと睨んでいます。被害者には鋭い刃物で切りつけられたような傷があり……』
「……ふ~ん。危ないなぁ。」
ニュースでは殺人事件の報道をしていた。無差別殺人とは怖いものだ。
それにしてもこのパエリア、渾身の出来だ、とっても美味しい。
ブー、ブー
ん? スマホが鳴ってる。誰からだ? スマホの画面を開くと母さんからの電話のようだ。
「もしもし、母さん? どうしたの?」
『あぁ、明久。今度の話、どうするの?』
「あぁ、あの話ね。一応、会ってみるよ。初対面ってわけじゃないし、挨拶だけでもね。」
まぁ、あっちの人には悪いが断ると思うけど。
『……そう、分かったわ。じゃあ、日程が決まったら教えるわね。それじゃ、』
「あ、ちょっと待って母さん。」
『何かしら?』
今日の話、した方がいいのか? あんまり確実とは言えないし……、まぁいいか。
「実は今日、木下 優子さんっていう僕の過去を知ってる人と会ったんだけど……母さん、知ってる?」
『……木下 優子、ねぇ……。あぁ……。 分かるわよ、あんたとよく遊んでたもの。それで? その娘はなんて?』
母さんは少し考えたようだが、木下さんに行き着いたようだ。
「僕に記憶を取り戻して欲しいんだって。何故かは聞いてないけど、必死そうだったよ。そして、今度の週末に会って欲しい人がいるってさ。」
『……そう、まぁあんなこと忘れられていたら、そうなるわよね……。まぁ、あんたの好きになさい。それで……どうなの?』
ん? これは……
「どうなのって?」
『記憶は戻りそう? そっちに行ってから、1年経つけど。』
「う~ん、あんまり。ただ、今日木下さんと会った時、何か大切なことが思い出せそうな気がしたよ。だから、もう少し彼女と連絡をとってみるつもり。」
『ふ~ん……。まぁ、これは良い話を聞いたかもね。あの娘の事、大切にするのよ?』
……まさか。
「それってどういう……ちょっ、母さん!? ……切れてる。」
スマホの画面には通話終了の表示がされていた。
まったく母さんのからかいも大概だけど……母さんは木下さんと僕の関係性はどのぐらい把握してたんだろう?
……まぁ、考えても仕方ないか。それよりもパエリアを食べ終えて、早くお風呂に入ろう……。
1時間後
「ふぅ~、良いお湯だった~。」
さて、これからどうするかな? 勉強しようかな? そうするか。こうして、夜は更けていった。
明久side out
2時間ほど時を遡る
優子side
吉井君と別れてから少しして自宅に着いた。
「ただいま~。」
「あ、おかえり~、今日は遅かったのね~? なにかあった?」
リビングのドアを開くと、お母さんが迎えてくれた。あたしはソファーに座り、今日の出来事を話した。お母さんは少し驚いていたけど、相づちを打ちながら聞いてくれた。
「ふ~ん、その吉井君があきくんかもしれないのね~。頑張りなさいよ? 優子、ずっと探してたものね~?」
「うん。だけど、もし吉井君があきくんじゃなかったら……」
そう、あたしは不安なのだ、吉井君があきくんでない事が。ただ、あたしの勘違いだったら吉井君にあきくんとの思い出を押し付けるだけだったら……。
「大丈夫、優子が見つけ出した人なんでしょ? 自信もちなさいな、もし違うなら違うで接し方を変えれば大丈夫よ。その吉井くんがあきくんだったとしても、そうじゃないにしても今からゆっくり確かめなさい?」
「……うん、そうよね。まだ知り合ったばかりだもんね。ゆっくり確かめていけばいいのよね。うん、そうしてみる。」
お母さんと話すと気が楽になった。ありがとう、お母さん。
「さてと、ご飯にしましょうか。優子、料理出すの手伝ってくれる?」
「うんっ!」
こうして、あたしの夜は更けていった。
優子side out
はい、お疲れさまでした!
どうでしたか? 今回は完全オリジナルの話でした。やっぱりオリジナルは難しいですね……。4000位しか書けませんでした。
次回よりちょっと優子がほとんど出てこないです。(多分)
それでも読んで頂けると嬉しいです!
感想やお気に入り登録、評価など待っています!
次回もお楽しみに!
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第4話 日常 そして、相談
まぁ、いいか!
本編をどうぞ!
明久side
翌日、何事も無く午前の授業を終え、雄二たちとお昼ごはんを食べていたら、バキッ!という音ともに僕のちゃぶの足が折れた。お弁当は大丈夫だったけど先生にボンドを貸して貰わなきゃ。
「はぁ、先生からボンドを借りてくるね…。」
「なんとも災難じゃなぁ。わしもついて行くかの?」
「ありがとう秀吉、その心遣いだけでも貰っておくよ…。」
秀吉に感謝しながら職員室に行った。さて、福原先生はいらっしゃるだろうか?
「失礼します。Fクラスの吉井です。福原先生いらっしゃいますか?」
職員室がざわついた。おそらくFクラスの生徒が来たからだろう。まぁ、当然の評価だろう。だけどそんなこと気にしていられない。僕は急いでるんだ。福原先生は…
「あぁ、ここですよ。吉井君。」
「そこでしたか。」
福原先生が気を使ってくれた。ありがたいです!先生に言ってボンドを貸して貰う。その時気付いたが、ボンドが瞬間接着剤になっていた。教室を変えなかったから備品が少し良くなっていくのか。
「それじゃあ、借りていきますね。」
「はい。ちゃんと返してくださいね。」
「分かってますよ。」
職員室から出て教室へ向かった。
「おまたせ~。」
「おぉ、遅かったな。」
「まぁ、ちょっとあってね。」
僕は自分のちゃぶ台を直すためさっきの瞬間接着剤を見せた。そして、あるロボットアニメのロボットのドッキングのような音を出しながら接着剤を勢い良く飛び出させる。これ一回やってみたかったんだ。
「さすがは瞬間接着剤。あっという間に修理完了!」
「良かったのう、明久。接着剤が良くなったのじゃな。」
「苦労して勝ったんだもん、せめて支給品くらいレベルアップしてくれないとね。」
それにしても……本当に運が良かったとしてもEクラスに勝てたのはFクラスの皆のおかげだ。これでクラスの皆の自信に繋がれば良いけど……。
Aクラスとの試召戦争では、また皆の力を貸してね。Aクラスとの試召戦争では雄二はどんな作戦を考えてくれているか。多分だけど真っ向勝負なんてしないだろうから……代表を各クラスで決めて戦うのかな?
どちらにしてもこっちに優位な作戦を考えてくれているだろう。これで姫路さんも良い環境で勉強出来るだろう。まぁ、
「雄二!何で設備の交換を断ったんだよ!?」
「何だ?お前、あんなボロっちい木の机が好きなのか?」
「こんなすぐ壊れるちゃぶ台よりは良いに決まってるじゃないか!」
ドン!
あ、やば。ちょうどちゃぶ台にあった瞬間接着剤が手に付いた!秀吉の方に残り少しになったであろう接着剤の脱け殻が……ということは、
「うわぁ~!ちょっ!うが!」
驚いた拍子に倒れてしまう。当然、ちゃぶ台も付いてくるので僕の上にちゃぶ台が!
「どうせ吉井は勉強しないんだから、机なんて関係無いでしょ。」
「関係無くないよ!机は!お弁当食べたり、居眠りしたり、落書きしたり、学園生活の大事なパートナーじゃないか!」
「……というより一心同体……。」
ムッツリーニナイスツッコミだね。というかこれどうしよう?
「そのちゃぶ台も今日だけだ。俺たちはAクラスに宣戦布告されたんだからな。」
「あ……。」
「次に勝てばAクラスの設備が手に入る。少し計画は狂ったが、問題はない。事はすべて俺の計画通りに進んでいる。な、姫路?」
「え?あ、はい……。」
何で姫路さんがそこで出てくるんだ? 何か怪しいな、もしかして雄二が何か吹き込んだか?
「さて、Aクラスに乗り込むぞ。」
雄二が教室の扉の前でそう言った。さて、まずは敵情視察か。
僕らはAクラスの教室に着いた。
「ここがAクラス……。」
「まるで高級ホテルのようじゃの……。」
「ふ…僕が学園生活を送るには、ふさわしい設備じゃないか。」
「見て!吉井!フリードリンクにいお菓子が食べ放題よ!」
島田さんが驚いている。だけど僕は昨日ここに来てたんだよね……。だから、そんな驚かないんだけどここは演じなきゃな……。
「うふん、そんな事にいちいち驚いていたら足元を見られるよ……。もっと堂々と構えてなきゃ……。」
僕はブレザーのポケットに入りきらない程お菓子をいれておどけて見せる。
「ことごとく発言と行動がともわなぬのう。」
秀吉の言う通りだよほんと。さてと、漫才はここまで。
「あらぁ?開戦は明日じゃないの?」
「姉上!」
「もう降服しに来たの?」
ほら、お出ましだ。木下さん、もしかして結構Aクラスだと偉い方なのかな?
「もうすぐ俺たちのものになる設備の下見だ。」
「随分強気じゃない?」
雄二も木下さんも悪い顔してるなぁ。雄二がAクラスの高そうなソファーにどこかの悪者みたいな格好で座る。
「交渉に来た。クラス代表同士での一騎討ちを申し込みたい。」
やっぱりか。普通の方法じゃ僕たちが勝つなんて不可能に等しいからね。まぁ、他のみんなは結構驚いてるみたいだけど。
「貴方バカじゃないの?2年の首席に一騎討ちで勝てる訳ないでしょ。」
「怖いのか?確かに終戦直後で弱っている弱小クラスに攻め込む卑怯者だしな。」
「今ここでやる?」
雄二が挑発して木下さんの苛立ちを悪化させる。上手いな、さすが元神童。
「……待って。……一騎討ち受けても良い。」
「代表!?」
「……でも、一つ条件がある。」
あ、霧島さんだ。やっぱり霧島さんがクラス代表なのかな?ってあれ?霧島さんが姫路さんの方に近づいて……
「負けた方は何でも一つ言うことを聞く。」
「え?」
「それがFクラスに宣戦布告した理由か。」
やっぱり霧島の狙いは……雄二かな?これは公式の試合みたいなものだから条件を飲めば雄二が霧島さんから付き合ってほしいと言われても断ることが出来ないしね。良い考えだね、霧島さん。
「勘違いしないで。あたしたちAクラスには学園の治安や品格を守る義務があるの。一学期早々何の努力も積まない内に戦争をやらかしたバカへの制裁措置よ。」
木下さんがそれっぽく言うが、事情を知る僕には霧島さんが雄二と付き合うためにやっている気がしてならないよ。
「良いだろう。代表同士の一騎討ち、負けた方が言うこと聞く。」
「一騎討ちじゃないわ。5対5よ。」
「優子?」
やった、雄二が条件を飲んだ。良かったね、霧島さん。
「代表が負けるとは思わないけど慎重になるに越した事はないわ。」
「よし5対5で構わない。その代わり対戦教科の選択権はこちらが貰う。」
「……分かった。」
「交渉成立だ。」
5人ってことは姫路さん、雄二、ムッツリーニ、秀吉、僕かな。僕は面倒だし負けるか。
僕たちはAクラスを出た後屋上に来ていた。僕と一心同体になった(間違いじゃない)ちゃぶ台でお菓子を食べていた。(Aクラスから少し盗んで)あとで同じお菓子を返しておこう。
「どうすんだよ雄二?あんな約束して。」カリッ
「俺たちが勝つんだから関係無い。」カリッ
関係無い事は無いんじゃない?だって負けたら雄二の人生が終わっちゃうかも(笑)その慢心が命とりかもよ。
「向こうが言いなりになる特典が付いただけだ。」カリッ
「本当によいのか?あの霧島翔子という代表には妙な噂があるようじゃが。「噂?」成績優秀才色兼備。あれだけの美人なのに周りには男子が居らんというはなしじゃ。」
「へぇ~。モテそうなのにねぇ?」
「噂では男子には興味が無いらしい。」
そりゃあ、そうでしょ。霧島さん、雄二以外に興味ないからね。そういう意味じゃ噂は本当だけど。
「男子にはって……まさか!?霧島さんの目的って……!?(ガチャ―ン!)ままままさか。まさかそんなはずは……それって変だよ!そんなことがこんな身近にあるわけじゃない。ねぇ!島田さん?」
「ある……。そんな変な娘、身近にいるわ!」
「見つけました!お姉さま!」
島田さんに誰かが抱きついてきた。誰だ!?あの娘!?
「ひどいですわ!お姉さま!美春を捨ててけがわらしい豚共とお茶会だなんて!」
「放しなさい!寄らないで!」
「誰?」
「……二年Dクラス清水美春。」
ムッツリーニが説明してくれる。ってムッツリーニいつの間にカメラの整備終わらせたの?
「やめて!離してよ!」
「恥ずかしがらないでください♪お姉さま♪本当は美春の愛してくださってるのに、照れ屋なんですね!」
「ウチは男子の方が好きなの!「あぁん!」吉井!言ってやって!」
そこで何で僕に振るかな……。まぁ、しょうがないこれも人助けだ。
「そうだよ、清水さん。女同士なんて間違ってる!たしかに島田さんは見た目も性格も胸のサイズも男と区別がつかないぐらい……四の字固めが決まって~!」
「ウチはどう見ても女でしょ!」
「そうです!美春はお姉さまを女性として愛してるんです!」
「ギブギブ!ギブ!」
島田さんと清水さんから四の字固めを決められる。メチャクチャ痛い! 何でこんなことするのさ!? ていうかムッツリーニも島田さんのスカートの中を見ようとしないで助けてよ!
「い、痛い!島田さん助けてよ!何でも言うこと聞くから!」
「ほ、本当に?それじゃあ今度の休み、駅前のラ・ぺリスでクレープ食べたいなぁ!」
「え?そんな!?僕の食費「あぁ!?」がぁ~!いえ奢らせていただきます!」
くっそぉ~!島田さんの悪魔!……木下さんの予定、どうするかな……? 僕の記憶の事である限りなるべく優先しておきたい、というのが僕の考えだからね。どうにか調整しないと。
「それから……ウチを美波様と呼びなさい!ウチはアキって呼ぶから!」
「は、はい!美波様!」
「それから……それから、ウチの事あ、愛してるって言ってみて!」
「は、はい……。言います……。」
そんなこと言える訳無いじゃないか!だけど今、命を取られたら困るしなぁ~。だったら言うしかないのか……。まぁ、ボケるけども。
「させません!」
清水さんが絞める力を強くする。痛いよ!
「言いなさい!」
「うぼぉ!」
それに応じて島田さんも絞める力を強くする。何で! ?このままじゃヤバイ! だからムッツリーニ!島田さんのスカートの中を覗こうとしてるのは分かったから僕を助けてよ!
「さぁ!ウチの事を愛してるって言いなさい!」
もう言うしか生き残る道はない……。島田さんなんて大ッ嫌いだ!
「は、はい……ウチの事愛してるっ言いなさい!」
チーン
え?なんか今鐘の音が……
「!!このッバカ~!」
島田さんが僕にトドメを刺した。それから僕は昼休みから放課後まで記憶が無い。
放課後、どうやら保健室に運ばれた僕は荷物を取りに教室へ向かった。教室に戻ると姫路さんがまだ残っていたようだ。何か書いてる?
「はぁ、ひどい目にあったなぁ。あ、姫路さん?何書いてるの、姫路さん?」
「あ、吉井君!?」
こんな時間まで勉強かな?僕が近くに寄るとやっと気づいた様だ。
「あ!」
何かの紙が落ちた。なんだろう?え?これは……もしかしてラブレター? 誰に?……まさか! だけど、雄二には霧島さんが……
「あ、あの!これは……違うんです!いえ違わないんですけど、違うんです!」
姫路さんが慌てて言い訳しようとしている。可愛いなぁ。
「……変わった不幸の手紙だね。」
ちょっとバカの演技をしよう。
「それはそれで、困る勘違いですけど……。」
「相手はうちのクラス?「……はい。」そっか。じゃあ、僕が正しい不幸の手紙の書き方を教えてあげるよ♪」
「いえ!これは不幸の手紙じゃないですから!」
「不幸の手紙だよ……だって…………」
なんて下りをやって分かった事がある、僕の事を雄二×明久のカップリングで受けにしてる少女がいるらしい。後でOHANASIしようかと思う。
さて、姫路さんも帰ったし僕も帰るか。そう思った時にスマホが鳴った。
「誰だろ……、はい、もしもし。」
連絡先を見た僕は、なるべく歩きながら通話した。
「あ、吉井君?」
「うん、そうだよ。どうしたの?」
「今度の予定の事、なんだけど……。」
あぁ、そのことか。早く日程が決まってくれるに越したことはないから、ありがたい。
「土曜日でもいいかしら……?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ。」
「そっか、良かった……。それじゃあ。」
「うん、ありがとう。」
そして、電話が切れた。さて、帰ろう。明日が楽しみだ。
はい、お疲れさまでした。
今回はアニメ通りですね~、ただ明久がどう思っていたかが変化しています。
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第5話 代表戦 そして、勝敗
この頃寒くなってきましたね~、雪も降ってきましたし。
そんなことはさておき本編をどうぞ!
明久side
翌日、朝にAクラスに集められた。
「では、一回戦を始めます。」
高橋先生の一言で代表戦が始まった。
ラウンド1
Aクラスの巨大なディスプレイにそう書かれた紙を持った秀吉が映し出される。
「何でワシがラウンドガールなのじゃ?」
「何を言ってるのさ?秀吉以外に誰がラウンドガールをやるって言うんだよ~?」
「ワシはガールじゃないと言うとるのに……」
秀吉が恥ずかしそうにポーズを決めていた。
まぁ、そうだよね。普通、女装なんてやりたくないだろうけど似合ってるんだもん。しょうがない、士気を高めるためだ。
「では両クラス選手、前へ。」
高橋先生のその掛け声と共に召喚フィールドが展開される。
いよいよ始まるんだ。最初は誰が行くのかな?やっぱり島田さんかな?
「頼んだぞ、島田。」
「それじゃあ、行ってくるね!」
「早い所、済ませましょう?どうせ勝負にならないですから。」
「Fクラスだからって舐めないでよね。」
Fクラスからは島田さん、Aクラスからは木下さんか。これは……すぐに決着が付きそうだね。
……やっぱり、木下さんも学校ではキャラを演じてるんだね。この前とは雰囲気が違う。
「試合開始!」
カーン!
「試験召喚獣、試獣召喚(サモン)!数学に関してだけはウチはBクラス並の学力があるんだから!」
「あら~、すごいんですわね。試獣召喚!「ふぇ!?」」
島田さんの点数は……182点。これは負けたな。
それよりも……Aクラスってあんなに点数とれてるんだ。あのぐらい取れればAクラスにはいけるってことか、今度は頑張ってみよう。
ドカーン!
「「そ、そんなっ!?」あたしはもちろんAクラス並ですけどね。」
「勝者、Aクラス木下優子!」
Aクラスから歓声があがる。すごいなぁ、木下さんAクラスでも人気があるんだ。島田さんを叩きのめして、ちょっとすっきりした顔をしてる。
島田さんがとぼとぼと帰ってくる。何か声を掛けてあげよう!まぁ、ちょっと良い気味だとは思ったけど。
「仕方ないよ~、Bクラス並じゃAクラスに勝てない事も分からない程度の頭に酸素が足りない……ちょっと気持ちいいかもしれないこれ~。」
「見え、見え……!」
島田さんにまた絞められた。そしてムッツリーニ、君は何故そこまで島田さんのスカートの中が見たいんだい?
ラウンド2
「2回戦を始めます、選手前へ。」
「Aクラス佐藤美穂です。」
眼鏡の女子が丁寧にお辞儀をしてきた。礼儀正しいなぁ。さて、次は誰だろう?
「よし、明久。頼んだぞ。」
「え?僕が?ここで負けたら後がないよ?」
「大丈夫だ。俺はお前を信じている。」
「やれやれ、それは僕に本気を出せって事?」
まぁ、ホントに本気なんて出さないけどね。
「ああ、もう隠さなくても良いだろ?皆にお前の本気の力を見せてやれ!」
「やれやれ、仕方ないなぁ~。「貴方……まさか……」ああ、今までの僕は全然本気なんかだしちゃいない。「それじゃあ……貴方は……!」そうさ……君の想像通りだよ。今まで隠していたけど実は僕、左利きなんだ。」キラッ
バコーン!
僕の左手に付いていた机がフィードバックの影響で壊れた。やっぱりここでふざけないとダメだと思ったんだ。キャラ上はね。
「あーん、ですです……。」
「勝者Aクラス佐藤美穂!」
またAクラスが勝っちゃった。どうするのかな?雄二?
「テストの点数に利き手は関係ないでしょうが~!!」
「見え、見え……」
そして、僕はまた島田さんにお仕置きされていた。やめてよ!島田さん、僕は、僕はただやらなきゃいけない事をやっただけなんだ。そして、ムッツリーニまた君かい?
「勝負はこれからだ!本気で行くぞ!」
「雄二、貴様!僕を信じてたんじゃないのかよ!?「勝つ方に信じてた訳じゃない!」お前に本気の左を使いたいぃ~!」
まぁ、僕に期待されても何もしないけどね。僕は姫路さんがAクラスにあがるのは良いけど、霧島さんにもチャンスがあった方が良いと思うから。
ラウンド3
「では3回戦を始めます。Aクラス工藤愛子、Fクラス土屋康太。」
今度はムッツリーニか。今回は確実に勝てるね。だけど、あの緑の髪の子、1年の時に居たかな?
「教科は何にしますか?」
「……保険体育。」
「君ぃ、保健体育が得意なんだってねぇ?だけど、かなり得意なんだよぉ、それも君と違って実技でね。」
「実技……?あ、あ、あ……ぶしゃー!」
まずい!ムッツリーニが実技という言葉だけで工藤さんのブルマ姿を想像して勢いよく鼻血が!
「ムッツリーニ!よくもムッツリーニに、なんてひどいことを!卑怯だぞ!」
「君が選手交代する?でも勉強苦手そうだねぇ、保健体育で良かったら僕が教えてあげるよ?もちろん……実技でね。」
「「うおぉ~!!」」
実技という言葉で僕もムッツリーニも勢いよく鼻血が!
「「アキ~!(吉井くん!)」」
島田さんと姫路さんが僕に駆け寄ってくる。心配してくれるの?
「余計なお世話よ!アキには永遠にそんな機会ないから!」
「そうです!吉井くんには金輪際必要ありません!」
「何でそんな悲しい事いうの……?」
あんまりだよ……。僕だっていつかは……。あれ? 自分で言ってて目から汗が。
そんな事を思ってると不意にムッツリーニが立ち上がった。大丈夫なの?
「ムッツリーニ!?」
「……大丈夫。これしき……。」
そんな鼻血いっぱい出てる状態で言われても説得力ないけど……
「では、試合開始!」
カーン!
「……試獣召喚。」
最初に召喚獣を呼び出したのはムッツリーニだ。忍者装束をまとった召喚獣、それがムッツリーニの召喚獣だ。保健体育だから負ける事はないはずだ。がんばれ!
「試獣召喚!」
今度は工藤さんが召喚獣を呼び出した。セーラー服を着て身の丈程の大きな斧を持っている。それに腕輪がある!?ていうことは……
「400点オーバー!?」
「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげる。ばいばい、ムッツリーニ君!」
工藤さんが最初に仕掛けた。まだムッツリーニに動く気配はない。
ムッツリーニは一体何点なんだ?まだ表示されないってことは……
「……加速。」
ムッツリーニの召喚獣が工藤さんの召喚獣と打ち合う瞬間、消えた。
「……加速終了。」
そのあとすぐにムッツリーニの召喚獣は姿を見せ、工藤さんの召喚獣はポン!という音とともに消えた。
そしてムッツリーニの召喚獣の点数が表示された。
576点
「そんな!?この僕が……!」
「勝者、Fクラス土屋康太。」
「強い……!保健体育だけ僕の総合科目並の点数だよ……!」
Fクラスの皆から歓声があがる。だけどまだ1勝2敗、こっちが不利だ。ここから勝つためには姫路さんと雄二、どちらも勝たなくてはならない。
姫路さんはなんとかなりそうだけど雄二は勝つ気がしない……たぶん、雄二の作戦に決定的なミスがあるのかもしれない。
まぁ、どちらが勝つにせよ出来るだけその後の事が穏便に済むことを願おう。
ラウンド4
「では、4回戦を始めます。」
「それじゃあ……行ってきます。「姫路さん、頑張って!」はい♪」
「では、僕が相手をしよう。」
Aクラスの代表らしい生徒が出てきた。眼鏡をかけていて自信ありげな声、Aクラスの中でも指折りの実力者だろう。
Aクラスとしてはもうここで勝負を決めてもいいはず、だとすると学年次席の生徒か?
「久保利光か……ここが正念場だな。「どうして?」奴は学年次席、不得意科目でも突かなければ苦しい。「そんな……!」」
やっぱり、学年次席か。姫路さんが相手だとしても勝てるかどうか怪しいところだ。
「では、教科は何にしますか?」
「総合科目でお願いします。」
「そんな勝手に……!選択権は僕らが……!「構いません。」姫路さん……。」
「まずいな、総合科目は学年の順位がそのまま強さになる……。」
「それじゃあ……!」
これは結構マズイ。姫路さんがどれだけ優秀だとしても点数で負けているなら勝機は薄くなる。この前の試召戦争で勝てたのは相手との点数の差があったからだ。
もしあの時、姫路さんの回復試験の結果が相手と同じだったとしたら完全に負けていた。姫路さんの技術がどれだけあるかによってはここで負ける事も十分にあり得る。
「試合開始。」
高橋先生のかけ声で試合が始まった。
「……試獣召喚。」
最初に召喚獣を召喚したのは久保君だ。久保の召喚獣は二振りの大きな鎌を持っている、見るからに死神の様な召喚獣だ。
久保君の点数が表示される。
3997点
「すごい点数……!学年次席ってこんなに点数高いの!?」
「「姫路さん……!」召喚獣召喚……!試獣召喚!」
姫路さんが召喚獣を召喚する。そして、点数が表示される。
4409点
「4000点オーバー!?」
「学年首席に匹敵する点数だな。」
「いつの間にこんな実力を!?」
これは……勝った!このぐらい点数に差があれば押し勝てる!
「私決めたんです……!頑張ろうって!」
姫路さんと久保君の召喚獣が衝突する。
「私、聞いたんです……何でこの召喚獣戦争を始めたのか……私、このクラスが好きです。人のために一生懸命になれる皆がいるこのクラスが……私の好きな人のいるこのクラスが……だから……私も頑張ります!」
召喚獣同士が鍔迫り合いを何度かした後、姫路さんの召喚獣が久保君の召喚獣を一閃する。
「勝者、Fクラス姫路瑞希!」
「スゴいよアキ!今ので2対2まで追いあげたわ!「姫路さん……。」」
「次の一戦で勝負が決まる訳じゃな。」
え!?何で秀吉は上半身裸なの!?
「「ぐほぉ~!」」
僕もムッツリーニも鼻血がと、止まらない! そんなの……反則だよ……。
ラウンド5
「では5回戦、ファイナルラウンドを始めます。」
「さて、俺の出番だな。「雄二……」まぁ、見てな。Fクラス代表、坂本雄二だ。」
「Aクラス代表、霧島翔子。」
雄二と霧島さんが向かい合う。
「教科は何にしますか?」
「勝負は日本史の限定テスト対決でお願いします。内容は小学生レベル、方式は100点満点の上限あり。」
「「テスト対決!?召喚獣のバトルじゃないのか?」」
other side
試験召喚戦争はあくまでもテストの点数を用いた戦争である。テストを用いた勝負であれば教師が認める限り経緯と手段は不問である。
other side out
「分かりました、では試験を用意します。対戦者は教室に集合してください。」
雄二がこちらに戻ってくる。
へぇ~こういうやり方もあるのか。また、試召戦争をやるときにでも参考にしよう。まぁ、相手にもよるけどね。霧島さん相手だったら通じないんじゃないだろうか?それに……この作戦は雄二が100点を取らなければ完全にアウトだよね?負けるの確定じゃないか。
「どういう事だよ?雄二!」
「小学生レベルのテストじゃと二人とも100点を取って当たり前じゃ!」
「それじゃあ、引き分けになってじゃない!」
「いえ、小さなミス一つで負けるって事ですよ。」
「「「あ!」」」
だけど、雄二には何か秘策があるのだろう。じゃなきゃこんな勝負挑む訳ない。
「その通り。学力じゃなくて注意力と集中力の勝負になる。「雄二……。」心配するな、勝算はある。翔子は一度覚えたことは絶対忘れないんだ。」
「それじゃあ、暗記力勝負の歴史は不利じゃないか!」
「いや、そこが落とし穴だ。奴はな……大化の改新を無事故の改新、625年と間違えて覚えているんだ。「えぇ!?」もしその問題が出れば俺は勝てる。」
「待ってよ雄二!大化の改新って625年じゃないの……?」
「無事故の改新、645年だ!この情報は本物だ。信用しろ明久!「雄二……。」このクラスのシステムデスク、俺たちのものにしてやる……!」
そして、雄二は教室に入っていった。
なるほどな~。でも、これは負けたね。あ~あ、ちゃぶ台の下ってなんだろう?
僕はそう思いながら雄二達のいる教室を映し出されたスクリーンを見る。雄二と霧島さんのどちらも真剣な面持ちでテストを待っていた。そのテストで姫路さんをAクラスの教室で勉強させてくれるかが決まってくる。
高橋先生からテストの問題が渡される。今回のテストは問題用紙と回答用紙が分かれていないものだった。
「では、始めてください。」
高橋先生のかけ声でテストが始まる。僕の予想が正しければ雄二が霧島さんに勝つことは万に一つもない。だって、100点取れないんだもん。雄二が前は神童と呼ばれる程の天才でも、勉強していなければ勝つ事なんてできない。
「いよいよだね。」
「もし、その問題が出なかったらどうなるんじゃ?」
「集中力と注意力で劣れば雄二が負けるだろうね。」
「でもその問題が出たら……!」
はぁ、もしその問題が出れば勝てると皆思ってるけど、それは雄二が100点を取る事が出来る事が前提で話が進められる訳で雄二は一言もそんな風には言ってない。
ということは雄二は100点を自分が取れるという確証がないまま僕達にこの話をしてきた……雄二がこの勝負を勝てると確信しているのはその前提が抜けてしまっていたんだろう。ということで雄二は勝てないという事が容易に予想できる。さぁ、どうなるのかな?
「出た!」
問題自体は出た。雄二はその瞬間霧島さんを見る。過去の思い出を思い出しているのだろう。
キーンコーンカーンコーン
そして、テストは終わった。
「それでは、限定テストの結果を発表します。」
AクラスとFクラスの全員に緊張が走る。
「Aクラス代表、霧島翔子97点。」
Aクラスの全員が負けを確信したような雰囲気だ。そして、Fクラスの皆は勝ちを確信したようだ。
「やった~!」
「Aクラス代表は満点を逃したぞ!」
「今日、この設備がウチらのものになるのね!」
「吉井君……!」
「続いてFクラス代表、坂本雄二53点。」
そんなの勉強してなくても取れる点数だよ……。
一気にFクラスの皆の気分が沈んでいくのが分かった……。
other side
Fクラスの卓袱台がミカン箱になった
other side out
Aクラスから戻ってくるともう設備が変えられていた。皆、意気消沈しながら帰っていく。そして、いつものメンバーが残ったわけだが……
「前よりひどくなったじゃないか!何なんだよ雄二!あの点数は!?」
「いかにも。俺の実力だ。」
「自分が100点取らなきゃ作戦が役に立たないだろう!?」
「まさかあんな伏兵が潜んでいるとは意外だったなぁ。」
「自分が伏兵になってどうするんだよ!?」
やっぱり抜けていたみたいだ。まぁ、これで霧島さんが幸せになれるだろうなぁ~。良かった良かった♪
僕はどちらが勝っても良かったからね。まぁ、姫路さんには悪いけど今回は完全に作戦から悪かったわけだし。しょうがないよ。それよりも早く帰らせてほしいなぁ、今日はちょっと予定があるし。
「……雄二。「「「え?」」」雄二、約束……。」
あ、霧島さんが来た。さてどんなお願いするのかな?検討はついてるけどね。
「約束って……何でも言うこと聞くって……」
そういえば、昨日その事で屋上で何か話をしてたような……。
「分かっている……。何でも言え。」
そう雄二が言った瞬間、ムッツリーニがカメラを用意し始めた。ムッツリーニ……カメラ……姫路さん……、そうだ!あれだ!
「い、いけないよ!霧島さん!女同士でだなんて……!」
そんな風にふざけてると霧島さんは雄二に近づいていった。そして、
「……雄二、私と付き合って……!」
「「え?」」
顔を赤らめながらそう言った。やっぱり告白だったね。それに対しての雄二の返事は、
「お前、まだ諦めてなかったのか。」
「私は諦めない……!ずっと、雄二の事が好き……。「拒否権は?」ない。約束だから今からデートにいく……。「え?あ、う……!」」
そう言った瞬間、雄二は倒れ込んだ……。そして、霧島さんに引きずられてどこかに行ってしまった。
霧島さんが幸せそうで良かった~♪
「今の何だったの?」
「さぁ、何でしょう……?」
島田さんと姫路さんがきょとんとしている。まぁ、霧島さんの愛情表現は過激だからねぇ~。
「それじゃあ、霧島さんが姫路さんの事を見てたのは?」
「雄二の近くにいる女子が気になったのじゃなかろうか……。」
まぁ、そういうことだよね~。それよりも、
「あの……ごめん、姫路さん。前よりひどい教室になっちゃって……。」
「……いいえ、いい教室ですよ。私、大好きですよこのFクラス♪…………。「え?」……それと、」
「さぁてと!それじゃあアキ、クレープ食べに行こっか♪」
そう言いながら島田さんが手を組んでくる。……あれ?
「え!?それは週末って約束じゃ……!」
「週末は週末。今日は今日♪」
「そんな!?二度も奢らされたら僕の食費が……!」
「駄目ですよ♪吉井君は私と映画を見に行くんです♪「えぇ~!?姫路さん、それは話題にすらあがってないよ!?」はい、今決めたんです♪」
姫路さんが島田さんとは別の手を引き始めた。あれ?おかしいなこれ!?
「ほら、早く!クレープ食べに行くわよ♪」
「どんな映画に連れて行ってくれますか?」
「そんな!?いやぁ~!生活費が!栄養が!ちょっと待って!うおぉ~!?」
僕は島田さんと姫路さんに引きずられていった。
はい、お疲れさまでした。
今回はあまり変わった点はありませんでしたね。これにもちゃんと理由はあります。それは作者がアニメの部分はそのままの結果にしたいからです。どんなに明久が変わろうともそこは変わらない……運命みたいなものですね。
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第6話 夜 そして、会合
今回のお話は前のお話の続きからになります!
それでは本編をどうぞ!
明久side
はぁ、姫路さんもひどいなぁ。僕は島田さんと姫路さんに映画館に来ていた。
「学割とはいえ……チケット一枚千円……!コーラMサイズ三百円……!ポップコーンSサイズ四百円……!これがたったの2時間で消費するのか……!? 映画館……何と恐ろしい場所だ……!」
僕はまた演技をしていた。一応、僕はゲームの買いすぎで今月はやりくりが大変だという事になってるからね。こういう所もしっかり演技しておかないと。
本当は全然そんな事はない。大部分は雄二たちを騙すためにゲームに使ったけどまだ困るぐらいにはなっていない。いざとなれば銀行にいけば良いし。
「吉井君……。」
おっと、考え事してたら姫路さんに呼ばれてたようだ。
「な、何?姫路さん?」
「こ、これ!見ませんか!?」
「へぇ~!良いんじゃない?これにしようよアキ。」
姫路さんが指差していたのはザ・ラブストーリーみたいな映画だった。実は僕、あんまりこういうのが好きではない。見ていると段々と胸の奥が辛くなってくる。頭が勝手に何かを必死に思いだそうして胸が苦しくなって見るのを止めてしまうのだ。
「そ、そう。じゃあ、僕は良いから二人で見てきてよ……。」
「「えぇ~!?どうしてですか(よ)!? じゃあ、アニメにする?」」
「いや~、そういうことではなくて……。」
僕だけが見なければ良いと思ったんだけどやっぱりダメか……。そんな簡単にいく訳ないよね……。どうしようか……? アニメを見て満足した雰囲気を醸し出すしかないか。
僕がこの状況の打開策を考えていると……。
「観念するんだな、明久。……男とは……無力だ……。」
そこには手枷をしている雄二とその手枷に繋がっているであろう鎖を持った霧島さんがいた。何故だろう?すごく絵になっている。あぁ、美女と野獣だからか。
「え?雄二?」
「雄二、どれが見たい?「早く自由になりたい。」じゃあ、地獄の黙示録完全版。」
「おい!待て!? それ3時間23分もあるぞ!「2回見る。」一日の授業より長いじゃねぇか!?」
雄二が今まで見たことないぐらいに焦っている。別に良いじゃないか~、大好きな霧島さんと二人きりの映画デートなんだから♪
「授業の間、雄二に会えない分のう・め・あ・わ・せ♪」
「やっぱ、帰る!」
雄二は首に付けられた鎖をジャラジャラと鳴らしながら帰ろうとする。だけど、霧島さんは……
「今日は、帰さない。」
と言いながら何処からともなく見るからに強力なスタンガンを出し、
「な、何だ翔子!? それ!? あべ! ちょ! しょうこ!? ユアファ!?」
雄二にそのスタンガンを刺し、確実に意識を奪った。
「学生2枚、2回分。」
「はい♪ 学生1枚、気を失った学生1枚、無駄に2回分ですね?」
そして、何事もなかったようにチケットを買おうと受付の人に話し、受付の人も普通に受け答えしてさりげなく雄二を罵倒しながら霧島さんの注文を繰り返していた。
えぇ~……普通は驚くのに、あの受付の人どれだけ神経が図太いんだろう……?
僕はちょっと引きながらその光景を見ていた。
「仲の良いカップルですね~」
「憧れるよね~」
姫路さんたちはちょっと違う見方をしていたみたいだ。
さて、僕たちはどうするんだろう?
「私たちはどうしましょうか?やっぱり恋愛系を見ませんか?」
「そうよね~、あんなの見せられたら私たちも!って思っちゃうわよね~。どうするアキ?」
「ぼ、僕的にはこのままお開きの方がありがたいなぁ~、なんて……「「ダメ(です)!」」だよね~……。だったらアニメの方が良いかな。恋愛系を見てもすぐ寝ちゃいそうだし……」
やっぱりあの恋愛映画は精神的に辛くなるだろうから見たくないし、この理由だったら島田さんたちも納得してくれるだろう。
「仕方ないわね~……アキが見ないなら楽しみも半減しちゃうし……姫路さんもそれで良い?」
「はい……私は吉井君と映画を見れればそれで良いですから」
「ごめんね~僕のせいで……」
島田さんたちは渋々、という感じで納得してくれた。
これで見る映画は決まったことだし、映画を楽しもうか。
「それじゃあね。」
「はい! 吉井君、それではまた明日。」
「じゃあね、アキ。」
映画を見終わり、解散する事にした僕たち。僕は姫路さんたちと別れ、家に向かう。
少しして、
「ただいま~。誰もいないけど。」
僕はマンションの部屋に着いて、玄関を開く。一応、ただいまを言って部屋に入る。これで返事があったら怖いんだけどね。
「あ……やばい。」
軽くご飯を食べるために冷蔵庫を開いたのだが何もない。今日の朝、ほとんど食材を使ってしまって放課後に買ってくる予定だったのを忘れていた。
どうするかなぁ~? スープだけも飲むかな。そのぐらいなら食材もあるし。
「よし、そうしよう。」
スープを作り終わり、テレビを点けてテーブルに置く。ソファに座り、野菜が沢山のスープを飲む。ふぅ、美味しい。
テレビではまたニュースが放送されていた。
『今回の事件には政府官僚にも内通者がー』
さて、スープも飲んだし勉強しよう。僕はスープが入っていた容器をさっさと洗ってお風呂に入る。
ピンポーン♪
来たか。
「はいはい~。」
僕は玄関へと向かう。はぁ~、めんどくさいなぁ。玄関の先には黒いスーツを着たサングラスの男がいた。
「明久様、お時間です。」
「分かってるよ。着替えは?」
「車の中にございます。」
用意周到だな。僕はスープ等の片付けをして、戸締まりをちゃんと確認し、玄関に戻った。黒いスーツの男はずっと同じ体勢をしていた。
「じゃあ、行こうか。」
「では、こちらに。」
黒いスーツの男に先導され、マンションを後にする。
マンションから少し歩いた場所に黒い車があった。僕はそれに乗る。僕が車に乗ったのを確認し、黒いスーツの男が車に乗り込む、
「今日の相手は?」
「前々から話していた方です。明久様のご学友では?」
「あぁ、あの娘ね。分かった。」
走り出した車の中で僕は着替えながら、今日の相手を聞く。そうか、今日は彼女だったのか。分かるように説明すると僕はお見合いをしようとしているのだ。めんどくさいけど。
しばらく車を走らせると大きな屋敷が見えてきた。
「ここです。」
「ありがとう、帰る時電話するよ。」
「はい。」
どうやら、今日の会場はここのようだ。僕は車から降り、屋敷の方へ歩く。
「ようこそ、明久様。招待状を拝見いたします。」
「はい、どうぞ。」
「……はい、ありがとうございました。こちらへどうぞ。」
「ありがとう。」
屋敷の近くまで来るとメイドさんが出てきて、僕が本物か確認するため招待状の確認をする。まぁ、本物だから入れないなんて事ないんだけど。そのまま、メイドさんに連れられて屋敷に入る。
中も結構豪華な屋敷だな~。高級そうなもので埋め尽くされている。まずは大きな金の装飾をされた花瓶、床にしかれた金刺繍のあるカーペット。ここに住んでる人たちがどれだけ裕福かを物語っている。
「こちらのお部屋になります。」
「ありがとう。」
メイドさんががある部屋の前まで案内してくれた。それじゃあ、ご対面だ。僕は部屋のドアを開ける。
「失礼します。」
「どうぞ。」
部屋の中には屋敷の主である男の人とその妻の女の人、そして、今日の主役である少女が高そうなソファに座っていた。少女は僕の顔を見て結構驚いていた。ドッキリ成功かな。
「さぁ、どうぞどうぞ。お座りください。」
「では、遠慮なく。今日はお呼びいただきありがとうございます、霧島会長。」
察しのいい人は、この名字を聞けば相手が誰かわかるだろう。そう、今日の相手は霧島さんなのだ。僕はゆっくりとソファに座る。
「……吉井? どうして?」
「こんばんわ、霧島さん。まぁ、その事は後でね。」
「あぁ、そうか。翔子と吉井くんは学友だったね!」
「はい、仲良くさせてもらっています。」
はぁ、分かりきってる事を……。まぁ、あちらも取りに来てるしね。僕は笑顔で応対する。その時、メイドさんが紅茶を持って来てくれる。紅茶を一口飲んで、
「では、霧島会長。最初に霧島さんとお話してもよいでしょうか?」
「あぁ! どうぞどうぞ! では……あちらの部屋をお使いください!」
「ありがとうございます。じゃあ、霧島さん。ちょっといいかな?」
「……分かった。」
霧島さんはまだ困惑しているようだ。まぁ良いか。霧島会長に言われた部屋に霧島さんと向かう。
メイドさんに案内してもらい、部屋に着いた。たぶん、談話室かな。メイドさんに出ていってもらい、ようやく話す。
「……吉井、一体どういうこと? ……説明して。」
「その前にちょっと待ってね。」
霧島さんは僕に襲いかかりそうな勢いで聞いてくる。それを制止して服に入れていた端末を起動させる。その端末の画面にはいくつもの赤い点が表示される。はぁ、霧島会長も過保護ではないかな? この赤い点は盗聴機やカメラの位置を知らせている。
僕は端末のあるボタンを押す。すると、画面の赤い点が一気に青に変わる。これでオッケー。
「ごめんね、待たせちゃって。じゃあ、霧島さんの質問に答えるよ。」
「……どうして吉井がここにいるの?」
「簡単な事だよ。僕が御曹司だからだよ。」
「……じゃあ、私と雄二を引き離す気なの?」
霧島さんは必死に問いかけてくる。
「そんなわけないよ。第一、僕はまだ誰とも付き合いたいとも思ってないし、結婚したいとも思わない。霧島さんたちには幸せになってほしいとも思ってるよ。今回はただ、強制的に連れてこられただけだし。」
「……そう。ありがとう……その、雄二との仲を応援してくれて。」
霧島さんは安心してくれたようだ。よし、本題にかかろう。
「今夜の事は他言無用でお願い。」
「……分かってる。吉井にも何か事情があるんでしょ?」
僕は静かに頷く。察しが良くて助かるよ。
「ありがとう。それでちょっと霧島さんに聞きたい事があってね。」
「……何?」
「それはね…… 」
「霧島さん、霧島会長、奥さま、今日はありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそこれからもよろしくお願いします。」
「……また、いつか。」
あの後、霧島家の方々と会食をして帰る事にした。軽く会釈をした後、門へと歩き出す。メイドさんが門まで送ってくれるようだ。
「もしもし、迎えに来て。」
『了解いたしました、明久様。』
スマホでさっきの黒服の人に連絡する。僕が門に着く頃には車が来ていた。
「じゃあ、ありがとうございました。」
「またのお越しを」
メイドさんに会釈して車に乗り込む。運転士の人が僕が乗り込んだことを確認して車を発進させる。
しばらくして僕はスマホを手に取る。
「もしもし、母さん?」
『あぁ、明久? どうだった?』
電話の相手はもちろん母さんだ。今日の報告をね。
「やっぱり、ダメだね。経営が難しくなってるみたいだし、買収はいけると思う。」
『……そう、なら買収で進めるわ。それと、もうひとつの方は?』
「……前から言ってるけど、彼女はダメだよ。それに僕もあんまりそっちに集中したくないし。」
霧島さんには雄二がいるしね。そして、霧島さんの企業は買収で決定だね。
『……まぁ、どんな結果でも貴方の意思を優先させたいと思ってる。それだけは覚えておいて。』
「うん。ありがとう、母さん。」
そこで電話を切る。はぁ、ホントどうするかな。まぁ、後で考えるか。それに今回は僕的にも収穫があったしね。車の窓を見ると星が綺麗だった。
こうして、夜は更けていく。
明久side out
はい、お疲れさまでした。
今回のお話、翔子と明久が会うことは結構大きな意味を持っています! その仕掛けはまた今度!
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第7話 翌日 そして、忠告
今回、明久が……! っと、言えないです!
では、本編をどうぞ!
吉井 明久……両親は海外赴任、姉も海外留学で家には居らず、彼は自由なまま一人暮らしを満喫していた。
明久side
はぁ~……、昨日は夕食を霧島さんの家で食べたから良かったけど、食材を買ってくるの忘れちゃったよ……。今日の朝食はカップラーメンかぁ。まぁ、テンション上げていこう……。
「やっぱり、朝食はっ! 軽く済ませて夕方はリッチにいきたいよね~。」
僕はキッチンでカップラーメンの麺を半分に切っていた。実は見えても僕は朝あんまり食べれないのだ。夕食は食材も調達するし、豪華にしてみよう。あ、カップラーメンの麺が綺麗に半分にはなってない。どうするかな?
「ん~、こっちを朝食にして~、こっちのちょっと大きい方を夕食にしようっ!」
僕は小さい方を朝食として食べ、夕食の料理に使うことにした。まさか、このまま捨てるのも勿体ないしね。
……満喫していた!
うん? なんか、失礼なこと言われたような……。まぁ、いいか。さて、お湯はっと沸いてる。早速作るか。
それから、僕は朝食を食べて学園に向かって登校していた。この坂道長いんだよね。だが、僕が走っているこの道は学園への一本道なので絶対に通らないといけないのだ。おっと、
「おはようございますっ! 福原先生。」
「あぁ、吉井くん、おはようございます。」
僕は前を歩いていた福原先生に挨拶をし、通り過ぎる。福原先生は少し遅れて挨拶を返してくれた。やっぱり、挨拶っていいよね。一日の始まりって気がする。
しばらくして、僕は坂道の上にある曲がり角を通ろうとしただが……、
「「あっ!」」
走っていた勢い余って誰かとぶつかってしまったようだ。これは悪いことをしてしまったな。あ、食パンが空を飛んでいる。あっちの人が落としちゃったのかな? 僕が代わりに処分してあげよう。っていうか……
「君はFクラスの吉井くん……!」
「君はたしか、Aクラスの久保君?」
何とぶつかった相手は久保だった。まさか、昨日負けたAクラスの人に会うなんて……。まぁ、そんなこともあるか。
「いかにも、学年次席の久保 利光だ。」
ていう風に立ち上がって、賢そうに自己紹介してくれたけど、見た感じ怪我は無さそう……だな。良かった。
「じゃあ……「ねぇ」……なんだい?」
「それ……いらないの?」
僕が言ったのは久保君が落とした食パンのことだ。あのままにしておくのは環境にも良くない。カラスなんかの餌になりそうだしね。
そして、僕のバカの演技にも使わせてもらおう。僕は貧乏ってクラスでは思われてるし、ここでもアピールしておかないと。
「……そうだね。もう食べれないから。」
「貰っていいかな……?」
「……! 君は平気なのかい? 「うんっ、平気だよ!」僕は困るな……。」
えぇ!? このままゴミをポイ捨てするなんて……、ありえない……。ていうか、さっきから寒気が……。
「えぇ!? どうして!?」
「大胆すぎるよ、君は……。人が……見てるじゃないか。」
まさか……久保君ってそっち系の人なの? 知らなかったな……、これは気を付けないと。まぁ、僕としてはあんまりAクラスの人と面倒な関係になるのは御免だし、自分からは関わらないようにするか。そして、久保くんの言い分にも参考にするべきところはあった。人が見ているということだ。
周りを見ると大勢の人が集まっているのが分かった。これでは僕がバカの演技をしなくてはならないことがはっきりと分かる。はぁ、しょうがないか。
「そうか……、それもそうだよね……。」
「じゃあ、またの機会に……。」
「う、うん。」
久保くんが眼鏡を上げながらそう言う。もうこんな機会かなければ良いのに……。久保くんが行ったらすぐにパンを取ろう。
「今だっ!」
僕は久保くんが向こうを向いた瞬間にパンと取ろうとする。しかし……、
プニュッ
「うん? 「あ、あぁ……。」おや? 何か踏みましたか?」
「はい……、僕の生命線を……。」
後ろを歩いていたはずの福原先生が、パンを踏んでしまった。僕は泣きの演技をする。だけど、結果オーライか。普通にゴミ箱に捨てられるし。福原先生が歩いて行った後に、僕は泣き(の演技をし)ながら食パンをゴミ箱に捨てた。これでよし。
さて、学校に行こう。僕は学校へと走り出した。
ブー、ブー
おっと、誰からかメッセージだ。僕はその場で立ち止まり、スマホの画面を見る。すると、そこには木下さんの名前が表示されていた。
内容は今度の集合場所を伝えたいから、またどこかで会えないか? というものだった。どうしよう? たぶん、ムッツリーニには僕が木下さんと会っていたことがカメラから伝わっているだろうし……屋上は使えないか。
あ、そうだ。僕は学校の中でおそろく生徒の誰も近づきたいと思わない場所を思い付いた。あそこならムッツリーニのカメラは無かったはずだ。
早速木下さんにその場所に来るようにメッセージを送る。程なくして了解とメッセージが来た、これでよし。
「よし、行くか。」
そう言って、僕はまた走り出した。
久保くんの食パンを処分してから走ること数分、学園に着いた。昇降口に行くと姫路さんが手に何かを持って佇んでいた。
「あ、おはようっ、姫路さん。」
「えっ!? おはようございますっ、吉井君っ!」
僕に声をかけられた姫路さんは、慌てて手に持っていた手紙を隠し僕に挨拶をして逃げるように行ってしまった。何かあったのだろうか? あ、そういえばあの手紙って前に書いていたものか? だとすると手紙を下駄箱に入れるところだったのだろう……ちょっと間が悪かったかな。ごめんね、姫路さん。
姫路さんに心の中で謝っておく。だけど、姫路さんって雄二が好きなんだったら霧島さんがいるし、本音を言うと諦めてもらいたいな。
自惚れる訳ではないけどもし、その相手が僕だったら姫路さんには悪いけど付き合えない。僕の家の事情もあるけど、僕自身が恋愛事は苦手としているからだけどね。
「よう、珍しく早いな。明久。」
僕がそんなことを考えていると、隣から雄二の声が聞こえた。声のした方を振り返ると下駄箱に寄りかかっている雄二がいた。
「昨日はどうだった?」
「今月の食費が一瞬で映画の闇の中に消えた。雄二は?」
「目が覚めたら……繋がれた牛が殺されるシーンだった。隙を見て逃げ出そうとしたら……また電気ショックを喰らって気を失い……目が覚めたらまた牛が死んで……」
そう語る雄二の姿は地獄を見て来たような、そんな雰囲気が漂っていた。霧島さんも別のアプローチをすれば良いのに。ただあんまり関わっても仕方ないし僕からはなんとも言えない。
「ホントに二回見たんだ……。」
「……逃げようとしたらまた気を失って、また牛を殺すシーンで目覚め続けるんじゃないかと脅迫観念に襲われて……逃げられなくなった……!」
あの映画ってそんなに怖いやつだっけ? 僕も見たことがあるけど普通に現実の世界に問題点を訴える良い映画だったと思うけどなぁ。まぁいいや。この暗い空気をなんとかしよう。
「……永遠に映画の最初は見れないんだね……!」
僕は深刻な表情でそう言った。
「はぁ、そんなことより次のお仕送りまでどうやって生きていこう?」
「あのゲームの山を売れば良いじゃないか?」
「なんてこと言うんだっ! 何物にも代えがたい、優秀な作品の数々を食べ物なんかに変えられるわけないじゃないか!」
劇的に言ってみた。あのゲームたちはすごく勉強になる(プログラムやビジネス的に見るから)。
「自業自得って言葉、知ってるか?」
「雄二はまだ余裕があるからそんな事言えるんだよ! 僕なんか命に関わるんだよ!」
まぁ、僕は普通にお金には困っていない。口座には数百万はあるしね。ただ、バカの演技をするためにそう見せているだけだ。
雄二は僕の肩に手を置き、
「明久……お前は俺に命の危険がないと思ってるのか……?」
「あ……ごめん……。」
「……いいんだ。」
なんて劇みたいに言うので僕はそれに合わせた。はぁ、そろそろ茶番を止めて教室にいきたいなぁ。
「じゃあ、そろそろ教室に行くか。」
「そうだね。」
僕と雄二は教室に向かった。
僕はFクラスの教室の扉を開く。中にはミカン箱を机として使っている僕らの仲間がいた。
「……まさか、あれ以上設備がひどくなるとは思ってなかったよ……。これと言うのも……! すべて貴様のせいだ!」
「皆が力を合わせた結果に文句を言うなんて無粋な奴だな。」
そう言いながら教室に逃げ込む雄二。まぁ、Aクラスとの試召戦争については僕的にはあの結果で満足している。もし、あそこで勝っていたら……Aクラスの生徒にFクラスの設備を使わせる事になるからだ。もしかしたら、あっちの生徒にも体の弱い人がいたかもしれないし勉強にも集中できないだろう。そんな事はさせたくはない。
まぁ、姫路さんは可哀想と思うけどもこれが現実だと受け止めてもらうしかない。それか学園長に頼んで何かを条件にまた振り分け試験を受けれるようにしてもらうか……?
「雄二が一人で負けたんだろう!」
「何言ってんのよ、アキ? 人の事言える立場じゃないでしょ。ウチらだって全然戦力にならなかったんだから。」
島田さんが立ち上がってそう言ってくる。ここはバカにしとこう。
「……そうだね。美波様も、読みが全然浅く、秀吉のお姉ちゃんに……頭が割れるように痛いっ!」
「何よ、美波様って! バカにしてんの!」
そう言いながら、島田さんは僕にアイアンクローをお見舞いしてきた。くぅ……! バカの演技のためとはいえ島田さんに暴力を振るわれるのだけはなれない……!
「そう呼べって!「普通に美波で良いのよ」美波は全然読みが浅くて……こめかみに穴が空きそう……!」
「……その技、面白くない。」
いつの間にか島田さんのスカートの中を覗こうとしていたムッツリーニがそう言う。そんな事言ってないで助けてよ! その後、なんとか島田さんに離してもらった。あぁ~それにしても痛い……! 他の皆も面白がって助けてくれないし……まぁ、それで僕がバカとして認識されてるなら良いんだけど。僕は体は頑丈だからね。
「だけどこいつは……! 小学生レベルのテストで百点取れなかったんだよ!?」
「坂本君を責めちゃダメですよ?「あ……。」良いじゃないですか私、この教室好きですよ?」
姫路さんが上機嫌でそう言ってきた。それが不味いのだ。もし、姫路さんまでこのクラスの雰囲気に飲まれたら僕はどうすればいいのだろう? もしそうなったら僕は本気にならざるを負えない。
「だってこの教室……好きな席に座っていいし……。」
「キーンコーンカーン。ようし、HRをはじめるぞ。皆、席につけーって座ってるな。」
え? そんなことのために? このクラスにいたら間違いなく姫路さんは悪影響を受ける。それだけはなんとか避けないと。あれ? 鉄人いや西村先生? 何で? 今日は福原先生に何かあったのだろうか?
「あれ? どうして西村先生が?」
「お前らがあまりにもバカなので、少しでも成績向上を目指そうと今日から福原先生に代わって補習授業担当のこの俺がFクラスの担任を勤める事になった!」
「「「「「何ぃいい~~~~~~!!!???」」」」」
クラスの皆が驚きに包まれた。
「そして、私がナレーションを語る事になった。」
「「「「「何ぃいい~~~~~~!!!???」」」」」
そんなメタな事は置いておいて……、
「鉄人が担任に!?」
「容赦なくビシバシしごくから覚悟しとけ!」
皆の顔が絶望に染まった瞬間だった。まぁ、僕的には補習の内容は結構たくさんあるから好きだったりする。バカを演じているため、ほとんど頭の中で解くけどね。
明久side out
ムッツリーニside
「……明久。」
「何? ムッツリーニ?」
鉄人の地獄のような授業が終わった後、俺はミカン箱に突伏す明久に声をかけた。
「……ちょっと一緒に来てくれ。」
「分かったよ。」
俺は明久を連れて屋上に向かった。
「どうしたのさ? ムッツリーニ? また秀吉の写真? いくらだい?」
「……違う。お前に聞きたい事があったからだ。」
「どうしたの? 改まって?」
明久はいつものようなバカみたいに明るく接してきた。俺たちに見せているこの顔は本当の顔なのか?
俺は制服のポケットからスマホを出し、ある映像を明久に見せた。
「これは……! 違うんだよ! ムッツリーニ!」
「……そうじゃない。問題はこれから。」
そこには明久と木下 優子が屋上で何かを話していた映像が写っていた。そして、明久が何かのサインをし木下 優子とカメラの死角に行ってしまった。
「……これは一体どういうことだ?」
「……。どういう事って?」
「……お前はこの映像を見ると、このカメラの位置に完全に気づいている。」
「そんな偶々だよ~。僕がそんな事知ってる訳ないでしょ?」
明久は当たり障りのないような事を言ってきた。じゃあ、核心に近づいてやろう。
「……じゃあ、明久。この映像と映像の音声が入っているデータを雄二たちに見せてもいいか? この音声データにはお前と木下 優子の話し声がバッチリ入っている。」
「えぇ!? やめてよ! ムッツリーニ! 僕たちの仲じゃないか~。頼むよ。」
明久の顔は嘘をついている顔ではない。だが、本当に信じてもいいのだろうか? まぁ、音声データの方はブラフだが。俺の中でなにかが引っ掛かっている。だったら、
「……じゃあ、お前の身辺を捜査するがいいか?」
「ムッツリーニ。」
そう言った瞬間、明久がさっきまでのバカな表情から一変する。今まで初めて見せた、大人の雰囲気を纏った鋭い眼差しの明久の顔だった。一体なんだ!? 本当にこいつはあの明久か?
「……これは忠告だよ。僕の事を調べるのはやめた方が良い。」
「……何故だ?」
「僕の事を調べた瞬間、君は後悔する事になる。そして、今までの関係が壊れてしまう。だから、それは止めてくれないか? 僕がいつか話すまで。」
「……。」
「……まぁ、忠告はしたからね。後は君の自由だ。それじゃ、先に戻ってるよ。」
明久は教室に戻っていった。明久は話している時ずっと悲しそうな顔をしていた。俺はその明久の顔を見て何も言えなくなった。俺は一体どんな深みにハマろうとしていた? だが明久はいつか話すと言っていた。だったら俺を明久を信じよう。そう思い、明久を追って教室に向かった。
ムッツリーニside out
すこし時間を遡る。
明久side
「……。」
「……まぁ、忠告はしたからね。後は君の自由だ。それじゃ、先に戻ってるよ。」
ごめんね、ムッツリーニ。今、僕の事を調べても何も出てこないだろう。そして、ムッツリーニが持っている音声データがブラフである事は知っている。あの盗聴機にあの時の僕と木下さんの音声が入るような事はない。
僕はムッツリーニいや土屋 康太という人間を信じている。だが、もしムッツリーニが僕の事を調べてしまったら……きっと……。だけど、それだけは避けてやる、絶対に。
そう思いながら僕は教室の向かう階段を降りていった。
はい、お疲れ様です。今回、明久がムッツリーニに忠告をしました。これは明久がムッツリーニたちの事を思ってのことです。別にムッツリーニたちがアンチの対象に入っている訳ではないので安心してください。
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では次回をお楽しみに!
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第8話 密談 そして、遭遇
明久side
ムッツリーニへの忠告を終えて鉄人の授業をまた受けてからの昼休み。僕と雄二と秀吉、ムッツリーニは屋上に集まっていた。
「あぁ~……毎日が鬼の補習になるようなものじゃないか……。」
「そうじゃのう……、どうにかできないものか……。」
「そうだ! もう一度召喚戦争をやって勝てば良いんだ!」
なんて、バカな事を言ってみる。するとさっきまで寝転がっていた雄二が起き上がり、
「そいつは無理な話だな。「どうして!?」一度負けたクラスは3ヶ月間、宣戦布告ができないルールだ。」
「3ヶ月……!」
そうなのだ。試召戦争にもちゃんと負けたペナルティは大きい。得るものも大きい分、失うものもある。負けたクラスはまずその時点でのクラスの設備が入れ替わるのだが……これはFクラスなどの下位のクラスには適応はされる事はない。まぁ、勝ったのに下位の設備を手にいれたとしても嬉しくないしね。なので、下位のクラスにはその時点での設備よりも悪い設備に入れ替わるのだ。
そして、もうひとつ。今雄二が言ったように負けたクラスは3ヶ月間宣戦布告できなくなる。まぁ、このルールは負けてもまた同じクラスに宣戦布告して勝つ、というような事などがないようにだろう。しかし、このルールには穴がある。それはこっちから宣戦布告はできないが、あちらから宣戦布告する事が出来る、という点だ。これはルールに明記されていないが、もし、宣戦布告があちらから出来るのだとすればやり様はある。
「3ヶ月なんてあっという間だ。その間に新たな作戦でも立てるさ。」
……まぁ、そこの点に雄二が気づけばの話だが……。この感じだと気づいてないんだろうなぁ。まぁ、Fクラスの代表は雄二だし、僕はそこを指摘するつもりもないので多分このまま3ヶ月を過ごす事になるだろう。
「ぬあぁ~んっ! どうしてこんなことに……!」
「……良いこともある。「ん?」一枚500円。「買ったぁ~!っ」毎度あり~。」
「うぉ~っ! のの~っ!「お前、食費は?」おぉ~っ!!」
ムッツリーニがAクラスとの代表戦の時の秀吉のラウンドガール姿の写真を持ってくる。僕は即買いし、食費としていた500円を払う。まぁ、これもバカの演技のためであるので必要な物なのだ。
その他にも目的はある。これは一応犯罪に入る件なので僕が選定して世に出しても良いものかを確認しているのだ。……うん、まだ大丈夫だね。ただ秀吉には言ってないので立派な肖像権侵害ではあるけど、言ってしまえば高校に入る時に書く写真を使ってもいいかの書類があるよね? それは一応肖像権の許可を取っているものなのでムッツリーニが写真部に所属してれば合法的に認められるはずだ。
「何を悩んでいるのじゃ?」
「……男なら後悔しないっ!「勇者だな……。」これで次の仕送りまで1日カップラーメン1個決定だ……。」
これはあながち嘘ではない。まぁ、夜食用や緊急用のカップラーメンだけどね。僕は結構料理は自分でしたい人なので食材を買って作るのだが、FFF団なんかに追われたり、雄二たちが家に泊まるなんてなった時は時間が無い事や演技の為に料理を作れないので夜中にコンビニでカップラーメン買いに行って、それで我慢する事があるのだ。まぁ、これも演技の為。仕方のない事である。
「明久よ、お主何か忘れておらぬか?」
「え?」
秀吉に言われてようやく気づいた。そういえば、
「ここにいたんですね! 吉井君っ!」
「ねぇねぇ、アキ。週末の待ち合わせどうする?「待ち……合わせ?」忘れたとは言わせないわよ? クレープ奢ってくれる約束でしょ?」
「あれって昨日ので終わりじゃないの?」
「昨日は昨日、約束は約束!」
姫路さんと島田さんがちょうどやってきて週末の予定を聞いてきた。そうだよね、昨日のは約束とは全く関係ない扱いにされるだろうとは思っていたけど、島田さんも僕の演技のお財布事情がやばい事に気づいているはずなのに奢らせるとは中々にSっ気があるのではなかろうか。
まぁ、奢るって言っちゃったのは僕だしホントはお金の心配なんてする事はないので良いけど。
「私もご一緒して良いですか? ……実は吉井君と一緒に観たい映画があるです……。」
「僕の……食費がぁ~!」
僕は泣きながら叫ぶ。姫路さんも来るのか? まぁ、いいけど。だけど、僕と観たい映画って一体なんだろう? 恋愛ものでない事を願おう。
「で? どうするのアキ?」
「駅前の噴水でどうかな……?」
僕は泣きながら答える。あそこなら誰でもわかるだろう。
「分かったわ。瑞希もそれで良い?」
「はい、大丈夫です。」
あれ? そういえば島田さんがこの頃、姫路さんの事を瑞希って呼ぶようになってる。女子っていつのまにか仲良くなってるよね。
「よし、それじゃあ明久の予定が決まったところで教室に戻るか。」
「そうじゃの。」
「……戻る。」
雄二が声をかけ、皆が教室に戻っていく。僕もそろそろ泣き止んで行くとするか。
そして、放課後
「よぉ~し、それではこれで帰りのHRを終わる。各自、帰るように。」
西村先生が教室から出ていく。それまで静かにしていた生徒たちが騒がしくなる。僕もそろそろ動くか。
「おい明久、今日はどうする?」
「ごめん、僕今日ちょっと先生に呼ばれててさ。」
雄二が声をかけてくる。雄二は帰り支度は終えて、もう帰る気満々だな。まぁ、先生に呼ばれてるのは嘘だけども。
「そんなの気にするタイプだったか? そんなの良いから帰ろうぜ?」
「いや、今の成績についてなんだって。来なかったから親を呼ぶってさ……。」
「それなら仕方ねぇな。ま、せいぜい退学になんないようにな。じゃ、ムッツリーニ帰ろうぜ。」
「……分かった。」
雄二も成績の事を出されると信憑性がついたみたいで困り顔をしていた。それで結局ムッツリーニを誘って帰るようだ。僕は雄二たちやクラスメイトが帰ろうとしている教室を後にし、職員室に向かった。
「失礼しまーす。」
程なくして職員室に着いた。職員室に入ると先生全員がこっちを見て騒がしくなる。目的の先生は……あ、来た来た。
「吉井、職員室に何の用だ?」
「いや、職員室じゃなくて鉄人に用があってきたんです。」
そう、僕が用があったのは西村先生その人だった。
「俺に? お前が? 何だ?」
「ここではちょっと……外に出ませんか?」
「……ほう、良いだろう。」
僕と西村先生は職員室の外に出る。そう、ここでは話せない事である。なぜなら、
「……何だ? 吉井?」
「ちょっと、耳を貸してもらえますか?」
「あぁ……。」
西村先生は耳をこちら向ける。よし、これなら良いだろう。
「ちょっと補習室を貸してほしいんですけど……良いですか?」
「何故だ?」
「ちょっとあっちの用事で使いたいんです。」
「……ふむ、分かった。」
僕が耳打ちでそう言うと、西村先生は了承してくれた。西村は職員室に戻り鍵を取りに行った。多分、建前としては僕を補習する為に使うってところだろう。
ちなみに西村先生は僕の状況を知っている一人だ。学園の先生で知っているのは学園長、高橋先生、西村先生の3人だけである。
何故なら学園長は兎も角、西村先生や高橋先生は信頼出来ると思っているからだ。だから、こういう事は西村先生に言えば大体了承くれる。だから、僕にとって西村先生が学園での最大の協力者である。
「さて、行くか。」
「はい……。」
僕は戻ってきた西村先生に連れられて、職員室を後にする。そして少し歩いてから、
「……西村先生。」
「……何だ?」
「……後で良いのでまたアレをくれませんか? 前のがもう無いんです。」
「……吉井、お前……アレを作るのにどれだけ先生方が苦労すると……。まぁ良い。分かった、後日宿題に混ぜておく。」
「……ありがとうございます。」
と小声で会話をする。アレというのは別にエッチな物とかではない。だけど、僕には必要な物なので用意して貰えないと苦しいところだったので嬉しいところだ。そんなことをしていると補習室が見えてきた。アレについては後だ。
「……西村先生が中にいてくれるとありがたいんですが……。ただ、隠れてて欲しいんです。相手が相手なので。」
「……お前がそう言うならそうしてやろう。」
「……ありがとうございます。」
補習室の中に入り、西村先生が補習室の段ボールのタワーの後ろに隠れる。そして、僕はスマホを見て少し待つ。程なくして誰かの廊下を走る音が聞こえる。そしてここの扉の前で止まった。
「はぁ、はぁ……ここで、良いのよね?」
扉の前から女子の声が聞こえてくる。来たようだ。
「……失礼します……。あ、吉井君っ!「しー」……ごめんなさい。……待ったかしら?」
「いや、大丈夫。それで? 予定としてはどんな感じなの?」
扉を開いた少女は木下さんである。木下さんはAクラスから走ってきてくれたようで息が上がっていた。そのせいか顔が少し赤い。
「えっとね……10時にこの座標に来て欲しいんだって。」
「う~んと? ここは……? ちょっと調べるね。」
木下さんが渡してきたのはメモ帳の紙だった。そのメモに書いてある座標を地図アプリで調べる。だが、出てこない。いやこれは……そういう事か。僕はその座標を違うアプリで起動して入力する。するとようやく店舗が出てきた。
『ヴェリタス アウテム レリクーム』
出てきたのはラテン語で休みの真理という意味の喫茶店だった。なんともセンスのあるようなないような名前のお店だな……。まぁ、ここなら電車で行けばそんなにかからないだろう。
「分かった?」
「うん。ここに10時に来れば良いんだね?」
「うん、そう……。」
あれ? 木下さんがあまり気分が良くなさそうだ。どうしたんだろう?
「木下さん、どうかしたの?」
「え? いや、ちょっとね。ただ、この日あたしは来ないでって言われてるから……。」
木下さんが苦い顔をしてる。それはちょっとおかしくないか? 木下さんが誘っているのに木下さんが来ないなんて……。それに木下さんが可哀想だ。
「そう、なんだ。それはなんというか……ごめん。」
「いや、良いの。多分、あたしがいるとできない話なんだろうし……。」
木下さんの表情が暗くなる。それを見ているとなんとも安心して欲しいような気がして来る。そうだ、
「木下さん、ちょっと目、瞑ってくれる?」
「え!? 分かったわ……。」
木下さんが顔を真っ赤にして目を瞑る。こうして見てるとホントイタズラしたくなるのは僕だけではないはず。僕はそんな衝動を掻き消して木下さんの髪に触る。
「ふぁっ!? 吉井、くん?」
「ごめんね、いやだった?」
「嫌じゃ、ないけど……恥ずかしい、かな。」
僕が何をしているかというと木下さんの髪を撫でている。優しく優しく、子供をあやすように。少し子供っぽいけどね。そのまま少しの間、木下さんの髪を撫でていた。
「それじゃあ、目を開けて?」
「え? もう、やめちゃうの……?」
「時間もそんなにないからね。ごめん。」
「……分かったわ。」
髪を撫でるのを止めると、木下さんはちょっとムスッとしていた、可愛いなぁ。僕が何であんな事をしたかというと、何となくああすると木下さんが喜んでくれると思ったからだ。
この前の様な頭に響くようなものではなく、直感のような感じだった。
まぁ、木下さんが喜んでくれたから良いけど、こんなこと島田さんとかにやったら殺されそうだ。
「それ以外に何か予定はある?」
「いいえ、今回は会って話すだけらしいから。」
「分かった。ありがとう。」
「~っ!!」
あ、木下さんがまた真っ赤になった。可愛いなぁ。
「それじゃ、あたし代表たち待たせてるからっ! これで!」
「うん、それじゃあね。」
そのまま、走って補習室を出ていってしまった。廊下を走る音が遠ざかると西村先生がでてきた。
「まさか、あの木下とお前がそういう関係だったとはな。」
「いや、多分西村先生が考えている事は違いますよ? 僕にとって木下さんは唯一の手がかりなんです。」
「手がかり? 何のだ?」
「僕の記憶のですよ。西村先生も知ってるでしょう? 僕が小学3年生から以前の記憶がないのは。」
「そうだったな。そうかそうか。まぁいい。吉井、さっきの事は見なかった事にしてやる。お前も早く帰れよ。」
「はい。」
僕は西村先生が補習室の鍵を閉めるのを手伝い、職員室まで西村先生を見送って帰る事にした。
そういえば、何故西村先生に補習室の中にいて貰ったかというと、まぁ警戒の為だ。僕はまだ木下さんを完全に信頼している訳ではないからね。もし、木下さんに裏の繋がりがあったとして僕を貶めようとしたりしているなら、西村先生に言質をとって法廷に提出してもらう事も出来るから。
「それではな、吉井。」
「はい、では。」
西村先生とともに職員室の前まで来た。ここで西村先生と別れ、僕はFクラスに向かった。
「もう、誰もいないなぁ。まぁいいや、僕も帰ろう……。」
Fクラスの教室に行くと誰もいなかった。まぁ、皆すぐ帰りたいだろうしね。秀吉とかは部活に行っただろうし残る人はいなかったのだろう。僕はまだ教室に潜んでいるムッツリーニを無視して、自分のミカン箱の隣から鞄を取り教室を出る。そのまま何事も無く学園の校門を出た。
今日は食材の買い出しもしないといけないので、早めに歩いた。
「ただいま~、誰もいないけど。」
僕は買い物袋を両手に持ちながらドアを開ける。流石に買いすぎたかな? 重い……。
食材の買い出しの時にも学園の誰とも会わず帰ってこれた。今日はラッキーだ。いつもはFFF団とかが見張ってるから買えない。なので、泣く泣くネットで注文するのだが……。今回は誰もいなかったので普通に買えた。姫路さんとも家が近くなので、遠出した甲斐があったというものだ。
さーて、カップラーメンの残りもあるし今日はどうするかな~? 食材を冷蔵庫に入れながら夕飯のレシピを考える。まぁ、普通に軽食になるだろうけど。食材を入れ終わり、制服から料理が出来るような私服に着替える。青いチェックのポロシャツに黒いズボン、そしてエプロンを着る。
料理を終え、いつも通りテレビの前のテーブルに料理を置き、テレビをつける。
『~今回、事件の関与を否定していたA社のCEOである佐藤氏は~』
「ふ~ん……。」
この頃、日本の経済はどうも怪しいなぁ。僕は作った料理を食べながらニュースを見てそう思った。まぁいいや。うん、今回も美味しい。その後、料理の後片付けをしてお風呂に入った。寝巻きに着替えて勉強を少しして、ベットに入り早めに寝ようとした。
ブー、ブー
スマホにメッセージが来たようでバイブで起きた。一体誰だろう? メッセージの送り主を見て、少し考え返信して寝ようと目を閉じる。
ーもうちょっと我慢しててね。
そう思いながらいつの間にか僕は寝ていた。
翌日、僕は早めに家を出た。他の学園の仲間に会わない為だ。だが、そのせいで通勤ラッシュに当たってしまい、満員電車がちょっとキツかった。しかし、なんとか目的の店がある近くの駅に降り立ち腕時計を見ると約束の10時にはまだ早かった。なので朝食をまだ摂っていなかったので、駅の中の飲食店に入る。
「ご馳走さまです、とても美味しかったです。」
「お粗末さん。レシピは他の奴には秘密だぞ。」
「はい。では、また来ます。」
「気をつけてな~。」
入った店は料理の勉強も合わせて中華料理店で中々のボリュームではあったが、何とか食べきりレシピも教えて貰えた。店主の人が話しやすい、親切な男の人で中華料理の勉強したいと言ったら厨房の中に入れてくれて、そのまま料理を作ってくれた。わざわざ適度にポイントを書いた紙まで書いてくれて本当にいい人だった。ここのお店にはまた来ることにしようと決めた。
店を出ると丁度良い時間になっていたので、その足で約束のお店に行く事にした。
「いらっしゃいませ~、何名様ですか?」
「二人です。もう一人は後で来ます。」
お店に着くと、そこは結構おしゃれなお店だった。喫茶店らしい落ち着いた雰囲気の色を使った壁と丁度良いくらいの間取り、レトロなテーブルとイスのセットにジャズの音楽。大人な雰囲気のお店だ。まだ他にお客があまり居らず少し閑散としていたがそれも雰囲気の一部となっていて面白い。
一応、大人に会うという事で白いYシャツに黒いジャケットを着て、Gパンを履いていて良かった。雄二たちにこの服装で会ったら、笑われそうだけど。
エプロンを纏った女の店員さんが応対してくれる。黒い長髪を後ろで編んでいる、素敵な人だ。
「席はどういたしましょう? 今ならテラス席が開いておりますが……」
「じゃあ、テラスで。もしかしたら中の席に変わるかもですけど。」
「かしこまりました。では、こちらへ。」
店員さんに連れられテラス席に行く。テラス席を選んだ理由は二つ。一つ目に自分が着いている事を知らせるため。もう一つは今日は天気が良く空気が澄んでいるため、緊張をほぐすためである。やっぱり知らない人を話すとなると緊張するからね。
テラス席は適度に太陽の光が当たる良い席だった。店員さんも良い席を用意してくれるものだ。
「ご注文をお伺いします。」
「じゃあ、コーヒー。ブラックでお願いします。」
「かしこまりました。ごゆっくりおくつろぎください。」
「はい、ありがとうございます。」
店員にコーヒーのブラックを頼み、この席に誘導してくれた事にお礼を言う。すると店員さんは顔を赤くしながらお店の中に戻ってしまった。何か可笑しなところがあったのだろうか?
まぁいいや。僕はテラス席から望める景色を見ながらコーヒーを待つ事にした。
「お待たせいたしました。ブラックコーヒーです。」
「ありがとうございます。」
「どうぞ、ごゆっくり。」
数分ほどでコーヒーが来た。先程と同じ店員さんが持ってきてくれたようだ。一口飲んでみるとコーヒー独特の苦味が口の中に広がった。しかし、酸味はなく惹きたての豆を使っている事が分かった。うん、美味しい。
まだ約束の時間には少し時間があるので、僕はこのコーヒーを楽しむことにした。
僕がコーヒーを半分ほど飲んだ頃、お店の方からこちらに来る足音が聞こえた。足音のする方に振り向くと、
「君が吉井君?」
「……そうですけど。」
肩まで伸ばされた少しハネのある綺麗な赤い髪、炎が宿ったような赤い吊り目で優しそうな顔付。スルッと細長い体で白くキメの細かい肌。赤いシャツに黒いジャケット、黒いスパッツに膝上の黒いスカートのどう見てもカリスマの女性がそこにいた。
「あの娘から話は聞いてるよ。私は櫻田 茜。よろしくね。ちょっとここでは話しづらいし、中の席に移ってもらって良いかな?」
「よろしくお願いします、別に構いませんよ。」
「じゃあ、行こうか。」
僕は櫻田 茜さん?に付いていき、お店の中に入って行った。
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第9話 フェイス そして、依頼
明久side
僕はコーヒーのカップを持ちながら、櫻田 茜さん?に付いて来ていた。お店の人に茜さん?が話して席を用意してもらった。そこに僕と茜さん?が向かい会わせで座った。そして、周りにあまりお客さんがいない事を確認すると、
「大丈夫、盗聴や尾行なんかは無いよ。いやぁ~、アキくん久しぶりだねぇ。」
「お久しぶりです、茜さん。」
茜さんが親しげに僕に話しかけてくる。僕はそれに応じる。お分かりの方もいるだろうが僕と茜さんは知り合いである。テラス席では他人の演技をしていたのだ。何故かというと一言でいうと用心の為だ。
僕は御曹司という立場であるから暗殺などの対象になりやすい。その他にも親の企業の弱味を握るために僕の動きに敏感な者もいるし、すり寄ってくる者もいる。だから、僕の親交関係などを知られるわけにはいかないので、知り合いでも他人の振りをする事が必要なのだ。
ちなみに茜さんは昔から良く面倒を見てくれていたりする、僕のもう一人の姉さんみたいな人だ。茜さんには8人の兄妹がいるらしく、そのため面倒見がすごく良い。それに勉強もでき大学を首席で卒業している。今は僕の親の企業で働いているキャリアウーマンである。
「元気だった? 彼女できた?」
「まぁ、そこそこ。彼女の方は……分かってるでしょ?」
「まぁね~♪」
僕は前も言ったように恋愛事が苦手だ。何故、苦手かというと……まぁ、仮に僕に彼女がいて、彼女とイチャイチャするとしよう。すると僕は必ず苦しみだす。強い頭痛と胸が引きちぎられそうになる痛みに襲われ、その場に倒れ込む。
なぜこんな事が起きるのかは分からない。お医者さんが言うには精神的なものらしい。過去に何か恋愛事で深いキズを負ったのでは無いかと。
「単刀直入に聞くけど、何で茜さんが木下さんと知り合いなの?」
「昔からの知り合いなの。アキくんと一緒でね。」
「じゃあ、なんで茜さんはここにいるの?」
そう、茜さんが木下さんと知り合いなのは良い。後でもその事は聞ける。だが、茜さんがここにいる理由が分からない。何故なら茜さんのいる部署は僕の親の企業でも特殊であり、あまり表舞台に出てこないはずのだ。だから、白昼堂々と茜さんが僕に接触してくるのはおかしい。
「それについては……これ。」
「これは……?」
「まぁ、中身を読んでみなよ。」
茜さんから茶封筒が渡される。表には大きく親の企業の名前が書いてある。ていうことは……。
封筒の中身を出してみると書類が入っていた、それもすべてラテン語で。そこに書いてある文章を訳してみると下のようになる。
依頼受領書 ○年○月○日
フェイス No.1より各位
今回の依頼はCEOである吉井 輝久様とその妻である吉井 玲子様より依頼されたものである。依頼の内容は以下の通りである。
1.ご子息である吉井 明久様、および明久のご学友の護衛。
2.吉井 明久様に対する敵性勢力の排除。
3.吉井 明久様の婚約者、および婚約者候補とその家族、学友の護衛。
4.吉井 明久様の記憶の回復。
上記の内容を遂行するためであれば武器の使用を許可する。および、敵性勢力の祖国への制裁は条約に明記された通りのものを遂行する。
また、この任務の指揮権はフェイス No.2に持たせ、部下にはNo.4、No.7の両名を任命する。それ以外に必要であれば他にも部下を使ってもよしとする。
最優先は吉井 明久様の護衛であり、もしもの時はこれ以外を放棄しても構わない。
最高責任者はNo.1が務めるものとし、No.2に課せられる責任はすべてNo.1が受け持つ。
またNo.2は護衛対象である吉井 明久様にはこの書類をお見せし、了承を貰うこと。
僕は書類を読み終えた後、深いため息を出した。僕の親はなんて過保護なんだろうか……。だが、ここに書いてあるような事が起こらないとも限らない事も確かである以上、護衛があるに越した事はない。だけど……、
「何故、これにこの部署を使ったんですか?」
このフェイスという部署は茜さんが所属している所なのだが、この部署はさっきも言った通りかなり特殊である。僕の親、企業のCEO直属の部署であり企業の中でも独立した権力を持っているのだ。フェイスのメンバーは全員の情報が極秘扱いでNo.~でそのメンバーを呼ぶ。No.は1に近づくほど権力があり、茜さんはNo.2なのでフェイスの中では2番目の権力を持っている。
そして、フェイス最大の特徴は敵対する勢力、または条約に違反した行為をした国にその程度により粛清を行えるという所である。これは依頼に含まれている僕の敵対する勢力も含まれており、僕を守りながらついでに邪魔な勢力を一掃しようという事だろう。何故、ウチの親の企業やフェイスがこんな権限を持っているかは今は置いておこう。
「一番の理由はアキくんの記憶を取り戻せる可能性があるのが限られた人たちとの交流であるかも、っていう憶測を私が輝久さんに進言したのとNo.1がアキくんの記憶喪失に興味があるという事かな。」
「No.1が……? それは何故?」
「私もよくは知らないけど……なんでもアキくんの記憶喪失のメカニズムについて知りたい、らしいよ。」
僕の記憶喪失のメカニズム……? それが何かに役立つという事なのかな? よく分からない……。
「う~ん……、まぁそれは置いておいてNo.1って一体何者なの?」
「うん? どうして?」
「No.1について噂ぐらいしか情報を持っていないから、どんな人なのかなと思って。」
その噂もにわかに信じられないけど……。なんでも紛争を1週間経たずに止めたとか、ある有名なマフィアを1日で壊滅させたとかいう噂だ。そんな人がどんな人なのか知りたいというのは自然に思えるだろう。だけど、茜さんは口に手を当てたまま喋り出した。
「まぁ、すごい人だよ。あの人は……。その前に……」
茜さんが後ろの方に目配せする。……そういう事か。僕は次の場面に備えておく。
「これからの話は流石によそ者には聞かせれないかな~。ね、イギリスの番犬さん?」
「……」
茜さんはちょうど僕たちから少し離れた所にいたどこかの会社員みたいな格好の男の人に話しかけた。男は茜さんを無視してコーヒーを飲んでいる。その光景を見て茜さんは微笑みながら男の方に向かった。
「貴方がイギリスのスパイって事は貴方が入国した時から分かってたの。ただ危害を加えなければ見逃してあげる。ただ、ここであった事は全部秘密にして貰うけどね。」
「……。」
茜さんが男のテーブルになにかの書類を置く。男は一見書類を見てないように見せていたがドンドン顔が青白くなっていき、茜さんの忠告を聞きいれたのか静かに店を出ていった。茜さんがこちらに戻ってくる。
「あれで終わりですか?」
「まさか。ああいう人たちはすぐに本部に連絡をいれようとするからね~。手は打ってあるよ。」
そう言って茜さんはスマホでどこかに連絡する。そして、椅子に座ってコーヒーを飲んだ。他のフェイスのメンバーに頼んだって事か。茜さんの事だし前もって仲間を隠れさせておいたのかもしれない。
「それじゃあ、さっきの続きね。あの人は一言でいうと超人だよ。頭は回るし多くの知識も持ってる、そして戦闘も超一流。身内の私たちにすら隙を見せないんだよねぇ~。」
茜さんが少しだけ寂しそうに笑った。
「……そんな人が本当にいるとすれば、世界のどこからも引っ張りダコになってるはずだよね? だけど、そんな話聞かないよ?」
「まぁ、引っ張りダコになってる事はなってるんだけどね……。あの人の存在自体がアキくん以上の秘匿扱いになってるからね。」
茜さんは含みのある言い方をした。何だ? 少し引っ掛かる……けど、そんな人が本当にいるなら会ってみたい気もする。
「そういえばさっきの話……僕の記憶を取り戻せる可能性が限られた人との交流ってどういう事なの?」
「あぁ~、その話ね。たぶんアキくんの記憶喪失は精神的なものだと私は思っているの、だから記憶喪失以前の環境に無理矢理にでもしてあげれば何か成果は出るかもしれないってこと。」
「だったらその理由は? 僕は理由がないのに今の生活に一定以上のリスクがかかる事はしたくないんだけど。」
そう、僕はこれが今の生活にリスクが付くものならやりたくはないと思っている。雄二たちを演技で騙す事をしてまで得ている生活だ。そう簡単にリスクをつけたくはない。
たかが自分の記憶……とまでは思ってないけどその過去のために現在まで壊したくはない、というのが僕の考えだ。そのリスクに見合う程の理由がなければ動くつもりはない。
「う~ん、納得させられるかは分からないけど、私はアキくんがどうして記憶喪失になったか分からない。けど、推測はできる。たぶん、アキくんは強いストレスを抱え込んでいた。そして、それが爆発してそれ以前の記憶を自分で封印している。それの影響で恋愛事が嫌になってる。それを解決しないと学園での生活にもいつか綻びが出てくる。そうは思わない?」
「……」
茜さんは微笑みながら、そう言った。僕にとっても学園での生活に綻びが出るというのは不味い。その理由は置いておくが他の生徒との差が広がるのは不味い事に変わりないし、もし色仕掛けをされれば僕は苦しみだし、最悪そのまま誘拐、なんて事もあり得る。だとすれば答えは決まっている。
「分かったよ……、僕の負け。いいよ、その方法を試してみよう。で、その交流する相手は?」
「うふふ♪ 分かってくれて嬉しいよ。相手は優子ちゃんは当然入ってくるけど、後はあたしとか玲ちゃんとかかな。」
「やはり昔、僕と木下さんは知り合いだったの?」
「うん。とっても仲良しだったよ。」
「そっか。」
茜さんはコーヒーを一口飲んで答えた。木下さんの態度からそうかもとは思っていたけど、やはりそうなのか。ただ木下さんとの距離はおそらく昔とは変化してしまうだろう。僕にも立場があるし学園では堂々と会えはしないだろうし、しょうがない。
さて、僕はコーヒーを一口飲む。
「アキくんから後質問はある? ないんだったら私はもう行くけど。」
「うん、大丈夫。質問は後でもできるでしょ?」
「そうだね。じゃあ、私は行くね。あと、ここの支払いは私がやっておくから。」
茜さんは椅子から立ち上がり、テーブルに代金を置いた。
「あ、最後にこれ。OSをアップデートして機能も統合、拡張したから扱い易いはずだよ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃ、また連絡するから。」
「はい、では。」
茜さんがポケットから黒い携帯端末を出して、テーブルに置く。僕はそれを取り、自分のスマホを渡す。茜さんが僕のスマホをポケットに入れ、そのまま店を出ていった。さて、僕もコーヒーを飲んだら帰るかな。
僕はまたコーヒーを一口飲む。
明久side out
少し時間を遡る。
???side
ボクのスマホに連絡が来た。さて、頃合いか。
「……時間みたいだ。」
「そう、じゃ行きますか。」
ボクと彼女はバイクから降りる。ここが住宅街だから……もう少しか。ボクと彼女は二手に分かれ歩き出す。
「……はい、そうです。最初から気づいていました。……了解です。」
ボクの前を会社員の様なスーツの男が歩いている。あの人か。ボクはスマホを少し操作して男を追う。
それから少し歩いて、
ドンッ
「あ、すっみませ~ん。」
「……。」
「携帯、落としましたよ?」
前から歩いてきた彼女が男にぶつかる。その拍子に男が携帯を落とした。ボクはそれを拾う。男はそれを取ろうとするが、ボクは携帯をこちら側に引く。
「? 何だ?」
「……さっきの電話、とても大切な用事でしたか? だったらすみません、切っちゃいまして。」
「別に大丈夫です。それよりも……」
男は早く携帯を返してほしそうだった。だがボクは笑顔で携帯を返さない。男は段々とイライラしてきたようだ。
「何だというんだ! 早く返せ!」
「ウププ♪ こいつ、あたし様たちの事分かってないみた~いっ♪」
「……さっき、忠告されたはずですよね? 本部に連絡するなって。だけど、あなたはそれを破った。その意味分かりますよね?」
「……お前ら、まさか……!」
男の顔が段々青ざめる。ボクと彼女は男に逃げ場のないような位置に立つ。
「条約によりあなたを連行、裁判を行い処理を決めます。こちらへ。」
「くそっ……! 女、そこをどけっ!」
「あら? こっちに来るのねぇ~。ウププ♪」
男が彼女の方に銃を向け、走っていく。彼女は笑いながら目を見開く。その瞬間、
「あ? あぁ~~~っ!! なんだこれ!? あ、あぁ~~!!」
「ウププ♪」
「少しだけにしてあげなよ?」
「う~ん、じゃあ後でキスしてくれるなら良いよ?」
「はいはい……。」
男は走っている最中に突然倒れ込み、呻き出した。全く……抵抗なしで捕まれば良いものを……。
彼女は茶目っ気ありありな笑顔で頼んできたので、ボクは呆れながら了承する。そんな風に頼まなくてもしてあげるのに……。
その時男がちょうど気絶したので、縄と特殊な拘束具で拘束する。さてと、
「帰るよ。」
「はいはい、でもコイツは?」
「処理班を呼んだから大丈夫。」
そして、ボクと彼女はまたどこかへと向かうのだった。
???side out
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人物設定
あと、お気に入り42件、UA4900以上ありがとうございます!
では、設定をどうぞ!
吉井 明久(よしい あきひさ)
容姿 原作通り(素では少し鋭い目付きになり顔つきも変わる)
性格 温厚で優しい(裏では冷静沈着でクール)
クラス Fクラス
この作品の主人公。学園ではバカの演技をしているが、理由はまだ明かされていない。
優子には演技をしていると明かしているが雄二たちに明かしていない、それにすこし罪悪感がある。
ある企業の御曹司で裏の顔でも翔子と会っていて、雄二との恋を応援している。翔子が雄二のところにすぐ駆けつけられるのは明久が情報を翔子に流しているから。
たまに企業の買収相手と直接話したりもしていて経営の勉強もしっかりとしている(翔子の家との会食など)。
小3から以前の記憶がない事についてはすこし気にかける程度。
優子に対してもまだ気を許していないが、雄二たちには言っていないことも言えるという点においては雄二たちよりも距離は近いと言えるだろう。
姫路や島田には苦手意識を持っている。というよりも色恋事が苦手である。
木下 優子(きのした ゆうこ)
容姿 原作通り
性格 優等生といって相応しい程の模範的な生徒(ホントは少しドジ)
クラス Aクラス
この作品のヒロイン。原作と同じように優等生として振る舞っているが、素はズボラではなく家でもちゃんと家事を手伝っている。そして、明久の前では優等生としてではなく本当の自分をさらけ出している。
幼なじみの「あきくん」という少年をさがしている内に同じ学年に明久がいる事を知り、Fクラスへの宣戦布告とするとともに明久に近づいた。その時に明久にあきくんの面影を感じ、明久の記憶を取り戻すことに協力する。
その際、前々から知り合いであった茜に相談し、茜と明久を引き合わせた。(茜にとっては予想の範疇であったため自分たちの任務を明久に教える事が目的であったが)
明久に対して恋愛感情を持っているが、姫路たちとは違うアプローチのしかたをしている。
明久の状態を理解しているのは生徒の中では優子のみ。
坂本 雄二(さかもと ゆうじ)
容姿 原作通り
性格 いつも冷静だが人一倍人情味に厚い
クラス Fクラス
明久のクラスメイト。明久には悪友と呼んでいるが、親友だと思っている。明久はバカだが良い奴だという印象を受けている。
Fクラスの代表で、Aクラス代表の翔子を密かに思っている。
過去に翔子を自分のせいでいじめに巻き込まれた事を悔いており、世の中は学力だけではないと自分と翔子に証明するため、Aクラスに勝負を挑むが負けてしまい今は3ヶ月後にまた試召戦争をするための準備をしている。
土屋 康太(つちや こうた)
容姿 原作通り
性格 物静かだが人情に厚い
クラス Fクラス
明久のクラスメイト。影でムッツリ商会を営んでいる。自身はただ人を撮る事が好きなのだが、女子と撮って欲しいと人に頼まれるようになってからは自分で様々な情とともに女子を撮るようになった。
明久の屋上での動きに疑問を抱いていたが、明久本人に情報を手に入れることを止められそこで調査を一度やめている。明久が自分から話してくれるのを待っている。
木下 秀吉(きのした ひでよし)
容姿 原作通り
性格 温厚でいつも優しい
クラス Fクラス
明久のクラスメイトで優子の弟。演劇部のホープと言われる程の逸材。しかし、演劇一筋で幼稚園の頃から優子とは違う学校に通っていた。そのため、幼い頃に明久と会っていないし、優子が明久の事が好きだと気づいていない。
霧島 翔子(きりしま しょうこ)
容姿 原作通り
性格 いつも物静かだが雄二の事になると驚くぐらいの行動力を示す。
クラス Aクラス代表
優子のクラスメイト。雄二の事が昔から好きで雄二一筋。明久の裏の顔は知っているが雄二の行動を教えることを条件に秘密にしている。優子の変化には気づいてるが優子が話すまで聞かないようにしている。
工藤 愛子(くどう あいこ)
容姿 原作通り
性格 イタズラ好き
クラス Aクラス
優子のクラスメイト。1年終わり頃に転校してきた際、優子と知り合い仲良くなる。ムッツリーニと同じくらいの変態だと言われている。
姫路 瑞希(ひめじ みずき)
容姿 原作通り
性格 おっとりして優しい
クラス Fクラス
明久のクラスメイト。小学生の頃から明久が好き。
島田 美波(しまだ みなみ)
容姿 原作通り
性格 ツンデレ
クラス Fクラス
明久のクラスメイト。1年の頃、ドイツから転校してきた際、生徒にいじめを受けた時に明久に助けられる。その時から明久の事が好きになる。しかし、中々素直になれず好意の裏返しに暴力を振るってしまう。そんな自分を嫌っているが自分ではどうしようもないと思っている。
フェイス側
櫻田 茜(さくらだ あかね)
容姿 原作の茜よりも大人っぽい雰囲気を漂わせる女性になっている。髪型もツインテールではなく腰までの長髪。私服は黒いジャケットに白いパーカー、ショートパンツの下に黒いスパッツを履いている。
性格 誰にも厳しくも優しい性格
フェイスと呼ばれる組織のナンバー2。優子の知り合いで明久の記憶について何かを知っている。高いカリスマ性を持ち、強い指揮力を持っている。城下町のダンデライオン原作の様な迷いが無くなり現実をちゃんと理解している。明久の護衛を明久の両親から依頼されている他に目的があるらしいが不明である。部下であるナンバー4、ナンバー7を使い他の依頼もこなしている。
ナンバー4
容姿 不明
性格 不明
茜の部下であるフェイスのナンバー4。ナンバー7と一緒に行動している謎の人物。
ナンバー7
容姿 不明
性格 不明
茜の部下であるフェイスのナンバー7。ナンバー4と一緒に行動している謎の人物。
ナンバー1
容姿 不明
性格 不明
フェイスのナンバー1。茜の上司で明久はこの人物について噂程度しか情報を持っていないが、各地の紛争、あるいは世界的なマフィアを数日で壊滅される程の単独戦力を持ち、明久の親の企業の経営に関わっていた程の頭脳を持っているというらしい。
はい、お疲れさまです。今回はフェイス側のNo.4とNo.7について少し話しましょうかね~。まず、No.4とNo.7は前回出てきた二人組です。まぁ、誰かは言いませんが……。ただ、このNo.4とNo.7はあまり表側には出てきません。裏で目標を処理する方が得意だからです。そこら辺を踏まえて今後の話を見ていただければと思います。
あと言いにくいのですが……もしかしたら今後更新が遅くなるかもしれません。……申し訳ないです。ただ作者もできるだけ早く更新できるように頑張りますので応援よろしくおねがいします!
感想、お気に入りと評価をお願いします!
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第10話 映画 そして、痛み
ちょっと今回の話は悩みまして時間がかかってしまいました。
後、UA5,500以上、お気に入り45件ありがとうございます! 感想も書いて頂いて……!
感想にも書かれていたのですが自分はこの作品の前に一度バカテスのSSを書いているのですが、そちらは最後まで書けず断念してしまいましたが今回は最後まで書きたいと思いますので応援よろしくお願いいたします!
では本編をどうぞ!
明久 side
other side
ナレーション変わって週末。カップ麺職人の朝は早い。
other side out
パンッ!
僕はカップラーメンの麺を半分に切った。
「こっちが夕食で~こっち……はっ! 最初は半分に切って片方を食べ、次は残りの半分を切って片方を食べる……その次も切って片方を食べるって繰り返せば一つのカップ麺を永遠に食べ続けられるじゃないか……。僕って天才かも……?」
other side
色んな意味で満喫していた。
other side out
僕は自宅でもバカの演技をしていた。あまりオンオフを切り替えると自宅で演技をしなければならない時に演技が出来なくなるからだ。ただオンオフは自分で切り替える事は出来るので関係性はあまりないけどね。
さて、今日は姫路さんたちとのお出かけか。だけど、これはデートとかではない。そう自分に言い聞かせながら昨日はあまりよく眠れなかったがそこまで眠気があるためでもないので大丈夫だろう。
僕はあまり目立たない服で、それでいてそこまでダサくない服を選んで待ち合わせの噴水前に向かっていた。そこまで目立ちたくもないし、姫路さんたちとの用事の際に他の学園の生徒に見つかる事は避けたいのでこの服装にした。
さて、そろそろ始めるか。
「そうは言っても無駄遣いはできないよな~……。」
僕は財布の中を見ながらそう言った。
「待てよ? よく考えたら、女の子と映画に行ったりクレープ食べたりするのって……デートなんじゃないか? そうだよ! これはデートだよ! 罰ゲームなんかじゃない、それならちょっとやそっとの出費平気じゃないかぁ~!」
僕は小躍りをしながら歩く。まぁ、内心ではデートじゃないと訴えているけどね。そうじゃないとたぶんアレが来ちゃう。アレとは精神的な頭痛の事だ。今日はあまりあの痛みは感じたくないものだ。
「あ、姫路さん……! あっ! あれは……、」
前を見ると少し奥の噴水に姫路さんがいた。綺麗な服装だなぁ、女の子っていつもおしゃれだよね。そして姫路さんの手には手紙があった。あの手紙は前書いていたものか? 何で今日持ってきたんだろうか? 女の子はよく分からないなぁ。一応、演技はしておくか。
僕は地面に膝付き、項垂れる。
「やっぱり……罰ゲームじゃないか……。」
「何やってるの? アキ。」
「うん?」
後ろから声をかけられ振り向くと島田さんがいた。それもこっちもおしゃれな服を着ていた。僕ももう少しおしゃれな服を着て来るべきだったかな? まぁ、いいけど。島田さんも暴力を振るわなければ普通に可愛い子だと思うんだけどなぁ~。
「人生の不条理に打ちのめされてたんだよ……。」
「あ、吉井くん……!」
「おはよー、瑞希。その服可愛いねぇ~」
僕の声に気づいた姫路さんがこちらを見る。僕と島田さんはとりあえず姫路さんの近くの噴水まで歩いていく。
「ありがとうございます……! だけど服を選んでいたらうっかり遅刻しちゃうところでした……」
「ウチもさっきまで何着て来るか迷ってたんだけどね~。去年のブラウスがまだ着れてラッキー♪」
やっぱり女の子って服とかに時間をかけるんだなぁ。男とはやっぱり違うなぁ~。
「それはつまり去年から全然……膝の間接があらぬ方向に曲がろうとして……え!? 何々~!?」
「言いたいことは分かってるから、いいの~!!」
「ロープ! ロープ!」
わざと島田さんを挑発して間接技をかけられる。まぁ、ここでちゃんと演技しておかないとおかしいと思われるかもしれないからね。島田さんに元祖サソリをかけられながらも僕は演技を続ける。すると、
「見え……見え~」
「何でムッツリーニがここに!?」
「自主トレ」
ムッツリーニがカメラを構えてどこからともなく現れる。やっぱり居たのか。僕がここで演技をした事でムッツリーニが出てくる。これが大事なんだ。ムッツリーニがここにいるという事は僕の状況を撮ろうとする事だ。まぁ、それによって僕や茜さんに負担がかかるとも言えるが。これによって茜さんはムッツリーニに気づく。
すると、僕の情報の操作も強いものになる。ムッツリーニは情報に手が届きにくくなる。だから守られる。
少しして僕は間接技を完全に決められた後、解放され映画館へと向かった。
「吉井くんは何を見たいですか?」
「今日はアキが撰んでいいよ。」
「僕が!? 値段はどれも同じなんだよな~それじゃあ長い方が良いかな?」
「雄二、何見たい?」
突然僕らの声ではない声が聞こえて後ろを振り向く。すると可愛く服を着こなした霧島さんと木製の手枷をかけられた雄二がいた。霧島さんたちも今日来てたんだ。
「俺の希望は叶えられるのか?」
「じゃあ、戦争と平和。」
おぉ、霧島さんいいチョイスだなぁ。雄二の言ったことが映画のテーマになってる良い映画だ。ただひとつ問題があるんだよな~あの映画。
「おい! それ7時間4分あるだろ!」
「二回見る」
「14時間8分も座ってられるか~!」
雄二がもの凄く反対している。そう、あの映画とても長いのだ。いい映画なんだけどその分、尺が長いのだ。まぁ、時間の使いかたは人の自由だから僕は何も言わないが……。
「退屈なら……隣で寝てて良い。」
「それって! あぎゃあぎゃ!!」
「大丈夫、一緒にいるのは一緒だから。」
「の、ノーモア!!」
霧島さんが雄二に前と同じスタンガンを当てる。あれって結構電圧高いはずだけど……大丈夫だろうか? 雄二が完全に落とした後、霧島さんは受付に行く。
「学生2枚、二回分。」
「はい! 学生1枚、また気を失った学生1枚、無駄に二回分ですね?」
そして受付の人が前の人と同じで全然物怖じせずに注文を繰り返していた。あの人本当にすごいなぁ。
「はっきり気持ちを伝えられる人って羨ましいです……!」
「憧れるよね~……!」
「短いのにしよ……映画。」
姫路さんと島田さんは霧島さんに感動している。だけど、姫路さんたちにはあんな風になってほしくないなぁ~。あんな風にして良いのはまだ霧島さんが純粋でアプローチに仕方が間違っていると自覚していないからだ。
そして、僕らは短い映画を見て、その後ラ・ぺリスという喫茶店に来ていた。
「アキは本当に食べないの?」
「美味しいですよ?」
「い、いや! 実は僕、食べ物にうるさくてね……クレープはちょっと口に合わないんだよ……。」
クレープを姫路さんと島田さんが食べている。島田さんたちは僕がクレープを食べないのかと聴いてきたが僕は演技のため遠慮していた。まぁ、クレープ自体あまり好きではないのは事実であるが。
そういえば、映画を見ている時は頭痛はしたが倒れるほどではなかった。もしそうなっていたら僕はそのまま倒れていた事だろう。それはかなりまずいので倒れることにがなくて良かった。
「ウチのバナナクレープ多いからどうぞって食べて貰いたかったのに」
「え!?」
「私のストロベリークレープも一口食べてみてほしかったのですが……」
「えぇ~!?」
自分ながら良い演技だ。端から見れば僕はただの男子だろうな。本当はひどい頭痛に襲われているのだが……これは本当にマズイかもしれない。もう少しで倒れそうだ……。こんな話し方じゃ全然伝わらないと思うが普通の人ならすぐに倒れてしまいそうなぐらいの頭痛なのだ。島田さんたちは意識してやっているのか分からないがこんなこと即刻やめて倒れてしまいたい。
「口に合わないんじゃ仕方ないわね」
「そうですね……」
痛い、イタイ痛い!! やめろ、やめてくれ! そう言いたいのを抑え、悔しそうな演技をする。自分でも意識していないのに演技ができるのは今までの成果だろう。それが今は役に立っている。島田さんたちがどんな表情をしているか目が滲んで分からない。
「ちょっとだけ食べてみない?」
「え? しょ、しょうがないなぁ~」
「よ、吉井くん! 私のも食べてください!」
「え!? こっちが先よ!」
「先とか後の問題ではないと思います!」
な、なんだ? 一体なにが……? 島田さんたちは僕にもしかしてあーんをしようとしているのか!? もう頭痛がひどくて視界がぼやけて……なにも見えない……。
「「はい、あ~ん!!」」
「あ~……「いけませんお姉さま!!」」
それでも僕の身体は演技を続けようとほぼ自動的に動く。しかし、そこに誰かの声が聞こえて何かが起こった。この声は確か……
「ひどいです! お姉さまの甘い甘いクレープをフォークごと薄汚い家畜に与えるなんて……美春ゆるせません! これ以上豚が図に乗って狼藉を働かないよう!「豚~?」 ここで成敗します!」
Dクラスの清水 美春さんだ! 彼女は確か……島田さんに想いを寄せている子だっけ? 頭が回らない……。だけどこれは助かった! 清水さんが僕に襲いかかって来る以外は。
「僕!?」
よく頭の回らない身体でなんとか清水さんが投げてくるフォークを避ける。清水さんのおかげで少しははっきり見えるようになったので避けるのは楽勝だ。そのまま僕は急いでクレープの代金を出しながら、お店の出口に走る。清水さんは僕を追ってきた。
「待ちなさい豚野郎!」
「ひぇ~~!!」
お店を出てからも清水さんはフォークを投げてくる。どこにあんなにフォークを持っているのだろうか? 軽く十何本は投げて来ているんだけど。
他の人に当てないようなるべく人のいない場所でわざと隙を作り清水さんに投げさせ、それを避ける。僕に当たるか清水さんのフォークがなくなるかの勝負だ。
しかし、僕もまだ完全には頭が回りきらず何度か隙を作る間に集中力が切れてしまう。
その時に、誤って人のいる所にフォークを投げさせてしまう。まずい!
「!」
しかし、フォークが刺さったのは人ではなく咄嗟にその人が盾代わりにした参考書だった。危ない。あの状態の清水さんは見境がないから人に近づけてはいけないな。そんなことを思っていると走っている身体を止めようとブレーキをかけようとするが思ったように身体が動かない。このままだとぶつかる!
「うわぁ~! どいてどいてどいて!」
ドッ!!
鈍い音と共に人とぶつかってしまう。その時に持っていたクレープをその人の顔面にぶつけてしまった。これは後で謝らないと。だが今はとにかく逃げないと。
「あ、クレープが! 30秒以内……う、うわぁ~!!」
「待ちなさい豚野郎!」
「待ちなさい美春~!」
「待ってください皆さん!」
僕の後ろから清水さんが、その清水さんの後ろから島田さんが、そして最後に何がなんだか分からないが追ってきた姫路さんが走るという変な構図ができた。何とか清水さんを鎮めないと。
その後、なんとか清水さんを振り切り島田さんたちと近くの公園で合流できた。
「どうして僕がこんな目に~!?」
「あの子は特別だから~!」
「特別~?」
島田さんにとって清水さんは特別? どうしてだろうか? もしかして島田さんって清水さんと……? そんなことを考えながら走っていると見知った顔と出くわした。
「おぉ~、明久。何をしておるのじゃ?」
「秀吉! こっちに!」
その時、ちょうど後ろから清水さんが走ってきていたのですぐ近くの草むらに秀吉を抱え、飛び込んだ。
「豚野郎~! どこへ行ったのです!? お姉さまに家畜の臭いをつけようものなら火炙りにしてやります!!」
僕たちが隠れている近くでそう叫ぶ清水さんの気迫がこっちまで溢れてきている。
「ひぃ~~!!」
「なんでウチを避けるのよ!」
その声で反射的に島田さんから離れてしまう。あんな殺気に満ちた声で言われたら誰でもそうなるだろう。島田さんは困ったような表情をしている。
「いや、火炙りって言うから……」
「よく分からんが……お主たちは追っ手から逃げておるのか?」
「そうなんだ。何か逃げ切る良い方法はないかな? せめて僕の召喚獣が使えればいいんだけど……」
秀吉が大体状況を理解してくれたようで良かった。ただ秀吉は一緒に逃げなくてもいい気がするが。しかし、今の清水さんは何をするか分からないので逃げた方が安心か。
そして、召喚獣が使えれば姫路さんが圧倒的点数をとっているため、清水さんはほとんど確実に補習室に行くことになるだろう。この事に僕以外の誰かが気づけば……
「学園を離れると、召喚システムが使えないんですよね……」
「う~ん……」
「そうじゃ、ちょうど今演劇の衣装を持っておる。これを着て変装するのはどうじゃ?」
「え? 変装?」
それは良いアイディアかもしれない。ただその衣装が男性用の物ならだが……たぶんそうじゃないんだろうなぁ……。僕は諦めながら秀吉が持っている衣装に袖を通した。
結果から言うと秀吉の持っていた衣装というのはメイド服だった。やっぱりそうか……だと思ったんだよ……。
「って……男物じゃないの……?」
「部員がワシ用じゃと渡しておったのでてっきり男物じゃと思ったのじゃが……」
「秀吉用じゃ男物の訳ないじゃん!」
秀吉が似合っているのは良いんだけど、僕も地味に似合っているのが悔しい……!
「なんだかすごくかわいいですぅ……けど」
「なに? この敗北感……」
「困っちゃうんだけど~!」
「「うぅ~~!!」」
島田さんたちが僕を見て唸っている。女の子にそんな目で見られるとなんというか変な感じだな。ていうか絶対この声で清水さんにバレてるよね、これ……。
「見つけました! はぁ~!! 大人しく……、なんですかその格好……?」
そんなことを言っている間に清水さんが声を聞き分けてこっちに向かってきた。しかし、僕の格好を見た瞬間引いた目で見始めた。
「見ないでよ! 答えにくいから!」
「不潔です! 不純です! 女の格好をすれば好きになってくれると思ったら大間違いです!」
「いや、君が大間違い……」
僕は別に島田さんの事そんな風に思った事ないし、なりたいとも思っていない。なので素の声で答えてしまった。
「ウチは普通に男の子が好きだから……」
「神聖な美春たちの仲を冒涜する豚め……! 決して許しません……!」
島田さんが少し呆れながら答えるが、清水さんは耳に入っていないようでこちらにまたフォークを構える。あのフォーク、本当にどこから出しているんだろうか? 清水さんは特殊な訓練でも受けているのだろうか?
「何で、そうなるの~!!」
「逆効果じゃったか……。」
清水さんがまた僕の元に走り始め、僕は一目散に走り出す。島田さんたちも僕の後を追って始める。秀吉だけがそこに置いてきぼりになってしまったが、清水さんは秀吉に目もくれないで僕に向かってきたので良かったのかもしれない。
あとで僕の服を取りに来ないと。……密かに追って来ていたムッツリーニの写真も処分しないと。
また町中に戻り、少しずつ学園の方に向かう道に清水さんを誘導しながら逃げている。
「どうしよう!? まだ追ってくるよ~!?」
「仕方ないわ、三方に分かれて逃げましょ!?」
「それって僕だけ標的になるってことじゃ!?」
島田さんが恐ろしいことを言ってくる。だけど、考え方を変えれば島田さんの方に行くかもしれない。もしかして島田さんは自分を犠牲にして守ろうとしてくれてるのか?
「そうだ! 良い考えがあります! 文月学園へ逃げましょう!」
「「学園へ!?」」
そう、そうだよ。姫路さんがようやく気づいてくれた。学園に行けば召喚獣が使えるし先生もいる。どうにでもできるのだ。僕たちは学園へ急いで逃げた。
そして、学園内に入り先生を探す。廊下を探していると竹内先生がいた!
「いた!」
「竹内先生は現国よ! ウチ、全然戦力にならないんだけど……!」
「今は贅沢を言ってる場合じゃない!」
竹内先生に追い付き、そこで息を整える。島田さんの懸念はわかるが姫路さんの召喚獣の攻撃を一撃でも受ければDクラスレベルなら勝てるだろうから僕たちは清水さんの攻撃を避けるだけで良いはずだ。それにDクラスはまだ試召戦争をしていないからあまり召喚獣の扱いに慣れていないはず。
「竹内先生、模擬試召戦争をやりたいんですけど……!」
「え? あ、はい♪ 承認します!」
竹内先生の一声で召喚フィールドが発生する。
「よしっ! 試獣召喚!」
「試験召喚獣! 試獣召喚!」
「試験召喚獣……! 試獣召喚!」
僕たちの召喚獣が無事に召喚される。そこに清水さんが追い付いて召喚フィールドに足を踏み入れた。
「あぁ……! ひどい……! 私の愛を邪魔する気ですか? 試獣召喚!」
清水さんの召喚獣も現れた。よし、これでどちらかが負けるまでこのフィールドは出られない。僕たちは召喚獣にフォーメーションを取らせながら清水さんの召喚獣に迫る。
「姫路さんの召喚獣がいれば怖いものなしだ! この勝負、勝てる!」
「清水さん、ごめんなさい!」
姫路さんの召喚獣が清水さんの召喚獣に攻撃しようとした時、
「そうはいきません!」
清水さんの召喚獣は大きくジャンプをし、姫路さんの召喚獣を飛び越え向かったのは……
「ウチに!?」
島田さんの召喚獣だった。島田さんは一瞬のことで硬直してしまい、まともに清水さんの召喚獣の攻撃をうけてしまう。点数が全然なかった島田さんの召喚獣は一撃入れられただけで0点になってしまった。
しかし、そこで安心してしまった清水さんの召喚獣は後ろから迫っていた姫路さんの攻撃を受けて0点になってしまう。
「0点になった生徒は補習ぅ~~!!」
そして、どこからともなく現れた西村先生に島田さんたちが補習室に連行される。島田さんたちは肩に抱えれ逃げられないように拘束される。
「えぇ~~!! 今日はお休みなのにぃ~!!」
「美春はお姉さまとなら鬼の補習も天国です♪」
島田さんは必死に暴れるが西村先生の力に負けて全然効果がない。清水さんは全然嬉しいそうだけど。
ふと、西村先生が足を止める。
「……吉井。お前、目覚めたのか?」
聞かれるかもと思っていたが女装のことだろう。これには複雑な理由があるため、ひとえには言えないので後で弁明しておこう……。
「ん? ん? 誤解です!!」
西村先生は何も言わず、そのまま行ってしまった。
「吉井くん、ちょっと屋上にいきませんか?」
「ん? うん、いいよ。」
姫路さん、屋上に何か用があるんだろうか? 僕と姫路さんは屋上へと向かった。
屋上に行くともう夕方になっていた。清水さんとまさかあんなに走り回るとはなぁ~。僕はなんだかホッとした。いや、してしまったのだ。
痛みは忘れたときにやってくる、とはよく言ったもので喫茶店での頭痛がまた始まる。頭に細い針を何十本、何百本も突き刺されるような痛みが広がり何も考えられなくなる。
安心したから、してしまったからまた始まったとでも言うのだろうか。目もまた滲んであまり見えなくなり、今度は耳にも影響が出始めた。疲れからか、症状がひどくなっている。
「……ぁ~、つか……。」
「で……ね。みな…………ぶじで……ょうか?」
姫路さんの声も自分の声すら断片的にしか聞こえない。これは本当にまずい……!
「……さ……はよ……で……も……。」
「よし……く……、き……はす…………ごめん…………。」
ごめん? 一体姫路さんは何を……? 目も滲んでいるので表情も分からない。
「ご……してし……で……、す……たのし……です。」
「ぼ……もた…………か……よ、ひめじさん。」
うん? 僕は何で姫路さんの名前を……?
「や…………よしいくん……やさ…………で……よ。小学生の頃から。」
「え?」
小学生の時から何なんだ? 大事なところが上手く聞こえない。
「ふりわけ…………も、わた……が……ちゅ…………。」
「でも…………ほん…………たい……かん…………。」
やばい。意識が薄れてきて、声が……。
気がつくと僕は帰り道を歩いていた。メイド服ではなく家から出る時に着ていた服を着て。一体どういうことだ? 僕は回らない頭で何とか思考をしようとするが全然考えが纏まらない。
とにかくマンションに帰ろう。そう思い、歩く。幸いマンションまでもうすぐだったので数分で自分の部屋に着いた。
ドンッ!
しかし、部屋の扉を閉じて一歩部屋に足を踏み入れると同時に僕は倒れ込んだ。
「……あれ? おか、しいな……」
あの頭痛に加え、町中を何時間も全力で走ればこうなるか。精神的にも肉体的にも限界だったのかもしれない。
ただこのまま倒れてはいつ回復するかも分からない。せめて、誰かに連絡をしよう。
そう思いスマホを起動させ、連絡できそうな人を探す。すると、ようやく見つけた。早速電話をしてみる。
『もしもし? どうしたの?』
「……茜さん。……ちょっと、無理しちゃって……」
電話した相手は茜さんだった。茜さんは一応僕の護衛だし、昔からの知り合いだから信頼できると思ったからだ。
『分かった。またあの頭痛でしょ? ただ私、今ちょっと動けないから他の人を送るから。ちゃんとじっとしててよ?』
「うん、分かった……」
『ちょっと? あきくん?』
僕は安心したのかそのまま通話終了のボタンも押さずに気を失ってしまった。
はい、お疲れさまでした。
今回結構気になることがあると思いますが、それは質問していただければお答えいたしますので気軽にご質問ください!
よろしければ評価、感想とお気に入り登録をお願いいたします!
それではまた次回、お楽しみに!
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第11話 断片 そして、介抱
お気に入り登録49件、UA6,100以上ありがとうございます! あと流儀さん、☆9をつけていただきありがとうございました!
檮原さんも誤字報告ありがとうございます!
では、本編をどうぞ!
茜side
私は活動拠点の一つであるホテル一室で、昨日のイギリスの特殊工作員の件の後処理をしていた。まぁ、侵入経路や特殊工作員の素性は割れていたりしていたのであまり処理も少なかったけど。
私は一息入れるため、コーヒーを自分で淹れて飲む。ここには私以外いないため、頼むことも出来ないし自分で淹れたい派なので別に良いけど。そんな時だった。
ブーッ ブーッ
私のスマホに着信があった。かけてきた相手の番号を見て通話ボタンを押した。
「もしもし? どうしたの?」
『……茜さん。……ちょっと、無理しちゃって……』
かけてきたのはやっぱりあきくんだった。しかし、何か様子がおかしい……? もしかして……またあの頭痛かな?
「分かった。またあの頭痛でしょ? ただ私、今ちょっと動けないから他の人を送るから。ちゃんとじっとしててよ?」
『うん、分かった……』
「ちょっと? あきくん? あきくん、大丈夫!?」
まさか気を失った? 電話してきた時から様子がおかしかったし、気を失うほどのショックがあったっていうのは確か。だけど問題はその理由……、今日もあきくんには護衛が付いていたはずなんだけど連絡がないって事は外見には全然症状を出していなかった?
だとすると、考えられる事は二つ。まず一つ目にあきくんが自分で症状を出さないようにしていた。もしくは家に帰ってから突然症状が現れたかの二つだけど……、一つ目の可能性が高いかな。
あきくんは学園でも演技を1年間してバレていないし、プロの私から見てもすごい演技力だと思うしね。まぁ、そのせいでこっち側の人もあまりあきくんの素顔を分かっていないんだけど。それなら、変化に気づけなくても当然だと言えるかな。
「だけどチャンスでもある、か。」
この状況においてのみ試せる事もあるから。もし、これが失敗すればあきくんの記憶が戻す手はないかもしれないけどね。
私はある番号に電話をかけた。
茜side out
明久side
目を開けると目の前は真っ暗だった。いや、本当に僕が目を開けているかは分からないがそういう感覚はあった。
足もちゃんと地面に着いている感覚もあり、少し歩いてみる。視界がゼロであるため、危険であるとも言えなくもないがそんなことも頭がまらなくなっていた僕はそのまま歩いていた。
「……」
少し前に進んだいくとだんだん周りの景色が見えてきた。
この前の夢の時のような夕方の通学路に僕はいた。ふと、右手に温もりを感じて右隣を見るとまた茶髪の少女がいた。それが僕には嬉しかったようで表情筋が緩んでくる。その少女も嬉しかったようでこちらに笑顔を向けてくれる。僕はまたそれが嬉しくてもっとにやけて来ているようだ。
しかし、急に少女は暗い表情になる。
「……あきくんはあたしとずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんだよっ。 ーーーちゃんとずっと一緒にいるよ。」
「ありがとう、あきくんっ!」
僕はその少女に悲しい顔をしてほしくなくて、ずっと一緒にいるということの意味も知らずにその答えを言う。
少女はその言葉が本当に嬉しかった様で目尻に涙を浮かべながら、僕に抱きついてきた。
「あたしもあきくんとずっと一緒だよっ!」
その少女の満点の笑みが妙に僕の頭に刻まれていた。
「……ん……。」
ふとまぶたを開く。急に明暗が切り替わり、順応のために一瞬視界が真っ白になるが、順応を終えて視界がはっきりと見えるようになった。
そこには心配そうにこちらを見る木下さんがいた。
「きの、したさん?」
「吉井君っ! 良かった……」
えっと、何で木下さんがいるんだ? 確か……僕は訳も分からないまま部屋に戻って、茜さんに助けを求めて……そのまま倒れたんだっけ。
僕はソファから起き上がろうとして、視界がぐらつき倒れそうになる。それを木下さんが受け止めてくれた。
「まだ立たない方が良いと思うわ。茜さんに言われた薬をさっき飲ませたばかりだから副作用がまだあるかも。」
「分かった、ありがとう。」
茜さんに言われたって事は処方薬かな? あれは結構強い薬だから眠気やだるさが出るんだっけ。
僕はソファに座り直す。木下さんはキッチンの方に向かった。
「はいこれ。気付けに。」
「あぁ、ありがとう。」
木下さんは僕のためにキッチンから栄養ドリンクを持ってきてくれた。それを僕は一気に飲み干した。
さてと、
僕はなんとか立ち上がり、テーブルの方に行き椅子に座った。その行動の意図に気づいた木下さんは僕の向かい側の椅子に座った。
「木下さんはどうしてここに?」
「あたしは茜さんに呼ばれて来たの。吉井くんが倒れたから介抱してやって欲しいって言われて。」
やっぱりそうか。
そういえば、今って何時なんだ? どのくらい気を失ってたんだろう? そう思い、時計を見ると針は9時を指していた。ていうことは約3時間ぐらいかな。そうだ。
「そういえば、木下さんは夕食は食べたのかい?」
「あたし? あたしはまだ食べてないけど……」
木下さんは不思議そうに首をかしげていた。それだったら好都合かな?
「もし良かったらで良いんだけど、ご飯一緒にどうかな? お礼も兼ねて僕が作るからさ。」
「え? う、うん。大丈夫だけど……」
木下さんはちょっと驚いた顔をしたがすぐに了承してくれた。さて、了承も得た所で何作ろうかな?
「その前に木下さん、時間大丈夫? 家の人に連絡はした?」
「あぁ、それは大丈夫。ちゃんと来るときに遅くなるかもって言っておいたから。それより、何か手伝いましょうか?」
「大丈夫。木下さんはゆっくりしてて。」
だったら少し凝ったものでも作ろうかな。だるさも取れてきた所でキッチンに向かい、作る料理を考え始めた。
優子side
吉井君が起きてくれて良かったわ。あのまま起きなかったらどうしようと思っていたぐらい。
吉井君は今キッチンで夕食を作っている。また倒れたりしないか心配だけど大人しく待ってましょうか。
まぁ、夕方に茜さんから連絡が来たときはどうしたものかと思ったけどね。
3時間前
あたしは家のリビングでくつろいでいた。
今日は何も予定もなかったから早い時間から勉強してた。今日のノルマが早めに終わったので休日くらいリラックスしないと、と思ってそのまま趣味の本を読んだりしながら時間を過ごしていたのだ。
今日も秀吉は演劇部の活動に行っていて、家にはあたしとお母さんしか居なかった。お父さんも居たのだが1週間の仕事の疲れからか午前中はずっと寝たままで午後は趣味のドライブに行ってしまった。
あたしやお母さんも誘われたのだが、あたしは休みたかったし丁重にお断りした。お母さんもやる事があったらしく断っていた。お父さんは少し寂しそうだったからあたしも付いていけば良かったかもしれないが、今日はついていかなくて正解だった。
「優子~、もうちょっとしたらご飯食べちゃう? 何か秀吉も今日は演劇の練習で遅くなるし、お父さんも会社のお友達と会ったから一緒にご飯食べてくるらしいの。」
「う~ん、あたしまだお腹減ってないからまだ良い~」
「分かったわ。だけど、あんまりお菓子食べてるとまた太るわよ~」
「うぐっ! 分かってるって……」
さすがお母さん……あたしがお菓子食べたからお腹減ってないって分かっていたらしい。太るのは嫌だけど、ついつい食べちゃうのよね。お菓子って何であんなに美味しいのかしら?
そんな事を考えていた時だった。
♪~ ♪~
あたしの携帯の着信音が鳴った。携帯が突然鳴ったものだから少しビックリしちゃったけど、近くに置いていた携帯を手に取る。
「一体誰よ……って茜さんから? もしもし茜さん? どうかしたの?」
『ちょっとね。今って時間大丈夫?』
電話は茜さんからだった。時間ってもう夕方なんだけど……。茜さんからは滅多に連絡が来ないという訳ではないのだが、こんな時間に連絡が来ることはあまりない。夜なんかには結構来るけど。
「今からですか? 一体何の用なの?」
『実はあきく……吉井君が倒れたらしいの。それで優子ちゃんに介抱をお願いしたいから連絡したの。』
「え? 吉井君が!? どうして……?」
吉井君が倒れた……!? そう聞いた瞬間、自分の顔が真っ青になっていくのが分かった。なんだろう、思考が纏まらない。
お母さんもあたしの大声に何事か、とリビングに来た。
「優子? どうしたの?」
「よ、吉井君が倒れたって……。茜さんが……」
お母さんもあたしの異変に気づいたみたいで心配そうにこちらを見る。あたしはお母さんに吉井君の事を口にした瞬間、頭がグルグルと回るような感覚に襲われる。それを見たお母さんの表情が変わる。
「優子、ちょっと貸して。」
「う、うん。」
「もしもし、茜ちゃん? 一体どういう事? うん、うん、そう。分かったわ……それで何をすれば良いの? うん、分かった。だったら、すぐ行かせるわ。」
あたしはお母さんの様子を呆然と見ていた。普段のお母さんと違い、テキパキと話している。表情も鋭く見える。
その後、お母さんはそのまま電話を切ってしまった。そして、こっちを見る。
「優子、あなた着替えて吉井君の家に行きなさい。」
「え?」
「早く。吉井君は別に重い病気とかではないみたいなんだけど、今吉井君の家も他の家族が居ないみたいなの。吉井君の事情をある程度知っている優子にしか頼めない事だって茜ちゃんが。」
「わ、分かったわ。」
お母さんの物凄い剣幕にあたしは指示に従うように、自分の部屋に行き着替えた。そして、そのままリビングへ。リビングではお母さんがあたしの携帯を操作していた。
「着替えたわ。お母さん、何してるの?」
「あぁ、優子は吉井君の家知らないと思ってナビをね。この通りに行けば大丈夫だから。」
そうだ。あたし、吉井君の家知らないんだ。そして、お母さんはそれをちゃんと分かっていたんだ。お母さんから携帯を受け取る。
「ありがとう、お母さん。」
「ううん。吉井君の家に着いたら茜ちゃんに電話して。処置について教えてくれるわ。」
「うん、分かったわ。」
「遅くなっても大丈夫だからね? もし、本当に遅い時間になるようだったら吉井君の家に泊まっても来ても良いわよ♪」
「えぇ~っ!? と、泊まるなんてしないわよっ! 遅くなるようだったら電話するから……。」
もうっ! お母さんったら!! だけど、おかげで少し冷静さが戻ってきた。そして、いつの間にかお母さんの表情も優しい表情に戻っていた。
「じゃあ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい♪」
あたしはリビングから玄関に行き、靴を履く。お母さんは笑顔で送り出してくれた。
あたしは吉井君の元へと急いだ。
ナビに従い道順に行き、何とか吉井君の住んでいるマンションに着いた。部屋番号はナビに入力されていたので問題なかった。エレベーターで上に登り、吉井君の住んでいるはずの扉の前に立つとちょっと緊張する。
ドアノブに手をかけ、回すと扉が開いた。
部屋の中を見渡す限り、吉井君は居なかった。だけど、下を見るとすぐ近くに吉井君が倒れていた。
「吉井君っ!? 大丈夫っ!? ねぇ!!」
あたしは吉井君を揺さぶり起こそうとするが、全然起きない。あたしはパニックになりそうだったが、お母さんの言葉を思いだし茜さんに電話をかけた。少しして茜さんが出てくれた。
「もしもし、茜さん? 吉井くんが玄関前で倒れているんですが、どうすれば……」
『そう、分かった。だったら一度そこから吉井君をリビングの方に移動させて。話はそれからだよ。』
「は、はい、分かりました。」
あたしは吉井君を持ち上げようとするが、吉井くんは体の割に重くて全身を持ち上げる事は出来ず足を引きずる形になってしまった。何とかリビングに行き、吉井君をソファに寝かす。
「ふぅ……で、次は?」
『たぶん吉井君がお医者さんから処方されている薬があるはずだから探してみて。』
「分かりました。探してみます。」
あたしはリビングのタンスの一番上を開けてみる。すると、案の定それらしき薬があった。病院の名前も書いてあるし、抗精神薬とも書かれている。これだろう。
「ありました。」
『オッケー。じゃあ、それを吉井君に飲ませて。1錠ね、それ以上飲ませると薬が強すぎて逆に不味いから。』
「はい。」
薬の袋から錠剤を言われた通り、1錠取ってキッチンからコップに水を入れて持ってくる。そして、吉井君の口を少し開け、水とともに飲ませる。喉に詰まったり、気管に入ったりせずにちゃんと飲んでくれたようだ。
「飲ませました。」
『それじゃあ……あの薬、副作用で体がだるくなったりするから気付け用に栄養ドリンクを買って来てくれる? 冷蔵庫の中にあるかもしれないから、一応見てね。』
「あ、はい。冷蔵庫に……ありますね。」
冷蔵庫を確認すると栄養ドリンクがあった。これでよし。
『それだったら良かった。あとは吉井君が起きるまでそばにいてあげて?』
「はい、わかり……え?」
『吉井君は今一人暮らしだから病人を一人きりにする訳にはいかないでしょ?』
「それは……そうですけど……」
何か茜さんの声のトーンが変わってきた? もしかしてからかってる? だけど、茜さんの言う事も一理ある。それにこんな状態の吉井君を一人にしたくないと思ってしまっているあたしもいた。
「分かりました……しょうがないですもんね。」
『そう、しょうがないしょうがない♪ それじゃあ、ねぇ~♪』
「あ、ちょっ!! 切れてる……。」
最後は完全に楽しんでる声だった……。まぁ、すぐ起きるでしょ。あたしは言われた通り吉井君のそばにいてあげた。
一時間後
全然起きない……。あれから一時間かしら? まぁ、このぐらいはまだ待てるわ。
また一時間後
まだ起きない……。このままあたし帰っちゃ駄目よね? そんな事を思っている時だった。
「うぅ……」
「吉井君っ!?」
吉井君が起きたと思ったのだがそうではなく、吉井君が苦しみ出した。一体何が? どうしたというの? そして、吉井君が右手を空にさまよわせ始めた。
「……どこ? どこにいるの?」
そんな事まで言い始めた。だけど、あたしはどうしてかその右手を包み込んであげないと、と思った。
どうしてなのだろうか。そう思った時にはもう行動に移していた。吉井君の右手をあたしの両手で優しく、優しく包み込む。安心させるように。ただただ優しく。
「大丈夫。あなたは一人じゃない。」
「……。ゆうこ、ちゃん……」
「え……? 今なんて?」
吉井君の顔が安心したような顔になる。何で吉井君がその呼び方を……。あたしは驚きが隠せなかった。
その呼び方をしてくれたのは男の子だと一人しかいない。だけど、彼はどこに行ったかも分からない。でも、やっぱり吉井君がそうなの……?
あたしの中で確信のようなものが生まれた。
ーやっと、会えたね。
そう思うと自然に笑みが出てしまう。だけどその笑みは長くは続かなかった。
「……ん……。」
ふと吉井くんのまぶたを開く。それに驚いて右手から手を離してしまう。
気づかれてないよね……?
「きの、したさん?」
「吉井君っ! 良かった……」
まだ完全には目を覚ましてなかったようで気付いてないみたい。よかった……。
「まだ立たない方が良いと思うわ。茜さんに言われた薬をさっき飲ませたばかりから副作用がまだあるかも。」
「分かった、ありがとう。」
何とか動揺を隠すように飲ませた薬の事を説明する。あと冷蔵庫にあるドリンクあげなきゃ。
「はいこれ。気付けに。」
「あぁ、ありがとう。」
何かここまでやるとあたし、お母さんみたい……なんてね。吉井君の笑顔が見れただけで何か疲れが吹っ飛んだ気がするわ。
吉井くんはテーブルの椅子に座った。もしかして、状況が知りたいのかな?
「木下さんはどうしてここに?」
「あたしは茜さんに呼ばれて来たの。吉井くんが倒れたから介抱してやって欲しいって言われて。」
ここはちゃんと説明した方が良いわよね。だが、それだけで吉井君は大体を理解したらしい。
本当にすごいなぁ、吉井君も本気を出したらAクラスも余裕で入れそうよね。
「そういえば、木下さんは夕食は食べたのかい?」
「あたし? あたしはまだ食べてないけど……」
そういえばご飯食べる前に出てきちゃったのよね。だけど、何でそんな事聞くんだろう?
「もし良かったらで良いんだけど、ご飯一緒にどうかな? お礼も兼ねて僕が作るからさ。」
「え? う、うん。大丈夫だけど……」
え? 吉井君が? 起きてからすぐで大丈夫かしら?
「その前に木下さん、時間大丈夫? 家の人に連絡はした?」
「あぁ、それは大丈夫。ちゃんと来るときに遅くなるかもって言っておいたから。それより、何か手伝いましょうか?」
「大丈夫。木下さんはゆっくりしてて。」
そういえばお母さんに連絡した方が良いのかしら。
はい、お疲れさまでした。
……こんなはずではなかったのに! 明久×優子ママになっちゃうよ! まぁ、そんな事はさておき今回は優子がメインのお話でした。どうでしたでしょうか?
あと、優子が明久があきくんである事を確信しました。しかし、すぐには動かそうとは思ってません。
動くとしても、もう少ししてからになるでしょうね。
……あとですね、一応この作品1章はアニメの話は全部入れようと思ってるのですが……このペースで進むと90話は絶対行くんですよね~……あはは(血の涙) ……死にそうです、はい。
まぁ、愚痴はこのぐらいにして。今度の話では一応この続きをやろうと思っていますので悪しからず。
感想、評価とお気に入り登録よろしくお願いします!
では、次回もお楽しみに!
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第12話 食事 そして、お泊まり?
言い訳に聞こえるかも知れませんが、作者は体調を完全に崩してしまいまして……2週間も空けて投稿する事になってしまいました……。
その間にもお気に入り登録をしてくださる方やUAが伸びていた事は本当に嬉しかったです! ありがとうございます!
では、本編をどうぞ!
2020.2.11 後半部分を大幅な加筆修正をしました。
明久side
僕は今、夕食の献立を考えている。あんまり多く作ってもしょうがないし……どうしよう? 結構頭の中に料理は出てきているが、そこから絞り込む事が出来ないでいるのだ。
「木下さん、何か料理のリクエストとかあるかな? あったら作るよ?」
「……え? あ、うん。そうね……洋食でも良いなら、カルパッチョとか?かしらね。」
「カルパッチョね。分かった、ちょっと待っててね。」
リビングのテーブルの所にいた木下さんに声をかけてみる。すると、木下さんは少し考え事をしていたのかビックリしていたが答えてくれた。
それにしてもカルパッチョね……組み合わせ的に良いものは……お、良いのがあった。じゃあ、これでいくか。
小一時間後
自分的には良いものが出来た。あとは、木下さんに食べてもらおうかな。
「木下さん、お待たせ。出来たよ。」
「あ、うん……って、すごい美味しそう……! これ、全部手作りっ!?」
「まぁ、そうだね。あんまり時間かけるわけにもいかなかったから、味は保証しかねるけど。許してね。」
「は、はい……。」
テーブルに料理を並べると、木下さんに驚かれた。まぁ、これでも料理は毎日作っているから自信は少しはあるけど。
ソファに座っていた木下さんがテーブルに来た途端、顔が赤くなっていた。その赤く染まる頬をもっと赤く染めてあげたいと思う僕は変だろうな。顔の赤い木下さんに悪戯したくなってしまう。
まぁ、やめておこう。木下さんには嫌われる事は色々と不味い。
「さて、それじゃあ食べようか。」
「そ、そうね。あまり遅くても心配させるかもだから。」
「じゃあ、「いただきます」」
僕もテーブルの椅子に座る。位置的には木下さんの向かい側だ。
この方が話しやすいしね。
僕と木下さんは手を合わせて挨拶をする。突然だけど、このいただきますって結構深い意味を持ってるよね。子供の頃はあんまり意識していなかったけど、大きくなってから考えてみると結構深い意味の言葉を知らず知らす使っていたって思うと感慨深いよね。
「……うん! 美味しいわっ! こんなに美味しい料理作れるってすごい事だわ……。吉井くんは結構毎日料理するの?」
「まぁ、そうだね。一人暮らしだと何でも大体一人で出来るようにならないと生活が難しいからね。料理は昔からやってたっていうのもあるけど。」
木下さんが料理を一口、よく噛んで食べた。結構良い評価で僕としては嬉しい限りだ。木下さんは目を輝かせながら、その後も僕の料理について質問してくれた。
その後、聞いてみると木下さんも料理は苦手ながらも作るため、上手く作れる方法なども聞かれたがそこは場数もあるため、作って自分で食べてみる事が大切だと教えてあげた。
その後、僕が料理の後片付けをしているとソファで緊張しながら座っていた木下さんが、
「もし吉井君が良かったらで良いんだけど……あたしに料理を教えてくれませんかっ!?」
と決意を眼に宿した感じで頭を下げてきた。
ここで僕は一度考える。ここで木下さんのお願いを叶えるとする。しかし、それは僕と木下さんが裏で知り合いであるという事の証拠になる。別に霧島さんたちAクラス側にばれるのは良い。霧島さんが何とかしてくれるだろう。
しかし、問題はFクラスにばれる事だ。僕の家に来た時に違和感などに気付かれれば一貫の終わりだ。
「……ダメ、かしら……?」
「いや、ダメじゃない。ダメじゃないんだけど……」
僕があまりに思考をして黙っていた為、木下さんが涙目になりながらダメなんだろうかと聞いてきた。
上目遣いに目がウルウルしていて、断ったら大泣きしそうなほどだった。
その顔を見た瞬間、僕の中に断るという選択がなくなってしまった、あまりに可愛らしく愛らしいその顔に悩殺されるという形で。
まぁ、僕がちゃんとバレないように気を付ければ良い話だ。そういう事にしておこう。
「……良いよ。料理、教えてあげる。」
「! ありがとう……!」
「いつとか詳しい日付は後で決めようか。今日は本当に遅いし。」
料理を教える日付まで決めていたら0時を越えそうだったのでやめておく。さて、考えながらも何とか片付けは同時進行で終わったので、一息つく。
どうやって木下さんを家に送ってあげようか? 言うまでもなく外は暗いし、運転手さんに頼もうか?
「そういえば木下さんの家ってここから結構ある?」
「う~ん、徒歩約20分ぐらいかしら? 」
結構あるなぁ……どうしようか? 明日は学校自体は休みだけど、僕たちFクラスは試召戦争でAクラスに負けたペナルティも兼ねて補習がある。
ウチに泊めておく訳にはいかないし、遅い時間だから僕も送る訳にはいかない。
そう悩んでいると、
「……そういえばさっき家に連絡入れたんだけど、親が……ね」
「親が?」
木下さんが顔を赤らめながら、家に連絡を入れた事を言ってきた。一体それがなんだと……まさか。
「親がこれも何かの縁だから泊まって……こいって。」
「……マジですか……。」
「うん……残念ながら……」
木下さんは頭を抱えながら、最後まで言ってくれた。
予想は何となくしていた、僕もバカじゃないから。だけど、本当にそうなるとは。
僕が予想していた内容としては、昔仲が良かったからなどという理由で木下さんの親も泊まらざるを得ない状態にしてくるものだと思っていたのだが、間接的に僕がその理由を後押ししてしまう形になってしまったのか。
これは一体どうするか…?
「家の鍵は空いてると思う?」
「……たぶん、完全に閉められてる。親が全部閉めたから帰ってくるな、みたいに言ってたから。こういう時、お母さんがワル乗りするからいつもお父さんが止めるんだけど……お父さんもノリノリで……」
「oh……」
まさか、こういう時反対するはずのお父さんの方もノリノリって結構すごいな……。まぁ、泊めるのは部屋も余ってるし良いんだけど……。
問題は明日なんだよなぁ……完全にFクラスの連中にバレるのがマズイ。朝早くに戻らせるっていうのも木下さんの家が空いてるかどうかにも分からないし、木下さんの親の人たちが秀吉にどう話しているかにも寄るなぁ。
一番は今日戻せるのが安心なんだけど……。
「どうしようかなぁ……?」
「迷惑なようならあたし帰るけど……」
「でも家の鍵空いてないんでしょ? そんな所に帰す訳にいかないし……」
「もしかしたら、家の前まで行ったら開けてくれるかもしれないし……」
「う~ん……それだったらもう一度親の方に連絡できるかな? 今度は僕の方からも話すよ。」
「分かったわ。連絡してみるわ。」
僕から今の状態を話して、今回は残念ながらって事にするか。薄情者って呼ばれるかもだけど……秘密とかがバレるよりは最善か。木下さんは携帯を取りだし操作し始める。
「もしもし、お母さん? 吉井君も急には無理なんだって。今代わるから」
「もしもし、お電話代わりました吉井です。」
『はいはい貴方は吉井くんね?』
「はい、そうです。それでお泊まりの件なんですが……こちらにもちょっと事情がありまして」
『急にはやっぱり無理だったかしら?』
「そうですね……ちゃんと予定を綿密に組み立ててから、でしたらこちらも対応は出来るのですが急にでは少し無理がありまして……」
『そうですよね~、ごめんなさい。私たちもちょっと浮かれてたみたい。』
「娘さんはちゃんと送り届けますので家の鍵は開けていただくと嬉しいのですが……」
『わかりました。しょうがないですよね、今回はタイミングが悪かったという事で諦めます。』
「はい、申し訳ないですがそういう事で……」
『はい、ではお待ちしております♪』
「はい、では。はい、失礼します。」
木下さんから携帯を借り、何とか木下さんの親さんを説得した。これでよし。
運転手さんには悪いが呼ぼう。
僕は自分のスマホを取りだし、運転手さんに電話をする。少しして運転手さんが出た。
「僕だけど今すぐ来てくれる?」
『了解しました。直ちに向かいます。5分ほどお待ちを』
それだけ話して電話が切られる。運転手さんの声からして寝ていた感じの声ではなかった。誰かと交代でやってるのかな?
さてと、
「木下さん、あと5分くらいで車が来るんだけど帰りの用意をしててね」
「あ~、あたし携帯しか持ってきてないから大丈夫。それより車が来るの速いわね?」
木下は携帯とその身ひとつで来たってことか。よっぽど急いで来てくれたんだなぁ、後またお礼を言っておこう。
「そうだね。何か運転手さんがまだ起きていたっぽくてね。それで速いんだ」
「そうなのね。やっぱり吉井君って結構有名どころの家の人なの?」
木下さんはソファに移動して僕の方に顔を向けてくる。今話した所でしょうがないからなぁ。
「そういう解釈で良いよ。まだ家のことは言えないけど」
「分かったわ。あたしってあまり信用されてないのね……」
木下さんは少し寂しそうな顔をする。仕方ない事とはいえ重要な情報をまだ一般人である木下さんに言う訳にはいかない。
「…ただ勘違いはしてほしくないんだけど、まだこの事は学園の生徒はほとんど知らない。知っているのも限られた先生だけなんだ。だから…」
「…そうよね。あたしと吉井君はまだ会ったばかりだし、そんなに大平に話せることでもないんでしょうし…。あたしこそ踏み込んだ質問をしちゃってごめんなさい。」
少しだけ木下さんの顔が明るくなった気がする。ただこんなのは言い訳にしか聞こえないだろう。ごめんなさい、木下さん。
僕は心の中で木下さんに謝った。それから少しして、僕のスマホに着信が入った。運転手さんからだった。
「もう着いたんですか?」
『はい、マンションの駐車場におりますので、おいで下さい。』
「わかりました」
今度は僕から電話を切る。それと同時に木下さんがソファから立ち上がる。
「車、来たの?」
「そうみたい。じゃあ、行こうか。」
部屋着のままでは少し寒そうだったので上着を羽織り、木下さんを先導する。部屋の鍵をかけたのを確認し、共同のエレベーターの前まで向かう。エレベーターに乗りエントランスへ降りる。
「木下さん、改めてありがとう。」
「えぇ。その代わり、料理教えること忘れないでね。」
「うん、分かってるよ。僕も教えながら料理の勉強もできそうだし、楽しみにしてるよ。日程とかは後で電話かメールで相談するね。」
「よろしくお願いします。先生?」
「はいはい。」
僕は木下さんに深く礼をする。木下さんは少し戸惑っていたけど、木下さんがやっと安心して笑ってくれたような気がする。
木下さんはさっきの寂しそうな顔よりも笑っている顔の方が素敵だなぁ~。
なんてことを考えているうちにエントランスへとエレベーターが着いたようで、エレベーター独特の止まるときの下にズンっと沈みこむな感覚の共にチーンという鐘のような音が鳴る。
エレベーターの扉の少し上にある階数の表示を見るとエントランスのある1階が表示されていた。エレベーターを降りてエントランスを抜ける。駐車場までやってきたが…車はどこにあるかな?
いつも車は確か入口の近くにあったはず。
「木下さん、こっち。」
「うん」
迎えの車はいつもと同じ場所にあった。ドアの手前で黒いスーツ姿で深々と帽子をかぶった運転手の人が立っている。
僕と木下さんは車の近くまで歩いていくと、運転手さんが深く頭を下げていた。
「お待ちしておりました、明久様。」
「いつも悪いね。この子の家までお願い。」
「かしこまりました。ではお嬢様、住所を教えてもらえますでしょうか? 何せ道が分からないのでお送りのしようがないので。」
「は、はい。分かりました。」
運転手さんはいつも僕を送ってくれる人だった。いつもこんな遅くまで待っているのか…体を壊さないようにしてもらいたいものだが。
「では明久様、こちらに。」
「うん。ありがとう。」
運転手さんが僕を運転手側の後部座席に誘導する。僕が乗ったのを確認した後、優しくドアを閉める。その後、木下さんを助手席側の後部座席に乗せた。
「ではお嬢様、住所の方お教えください。」
「えっと………」
「かしこまりました。では、発進いたします。」
木下さんが住所を運転手さんに教え、車のナビにその住所を運転手さんが入力する。ナビゲーションが開始され、車が駐車場を出る。
車がマンションを出発してから少し経って、
「佐藤さん、どのぐらいかかりそう?」
「おそらくは10分ほどで着くかと。」
「ありがとう。」
じゃあ、少しぐらい料理の話をしても大丈夫かな。
ちなみに佐藤さんというのは運転手さんの名前だ。さて、
「そういえば木下さん、料理を教えるのは良いんだけど具体的にどんな料理を教えてほしいの? それによって色々と用意するものが必要かもしれないから今のうちに聞いておきたいんだけど。」
「う~ん…。あたし家では少しは簡単な料理するんだけど、あまり本格的な料理はできないから…最初はやっぱり和食かしら? 和食の少し凝ったような料理を作ってみたいわ。あんまり具体的じゃなかったわね、ごめんなさい。」
「いや大丈夫。ありがとう、大体イメージはできたから。なるほど…。じゃあ最初は木下さんが作れるものを作ってもらって、それから少しずつ凝った料理を作れるようになっていこう。そんな感じでどうかな?」
凝った和食だとと作り手にも技術がないと美味しく綺麗に作れることができないし、まずは木下さんの腕前を見てから判断していった方が妥当かな。
僕がそう質問すると、木下さんは少し考えて顔を上げた。
「それで良いと思うわ。お手柔らかにお願いします。」
「僕もそれなりにしかできないし、一緒に勉強していこう。」
「えぇ。お互い頑張りましょう。」
木下さんはやる気に満ちあふれた顔をしていた。木下さんに負けないように僕も料理の勉強をしていこう。
それから少し話をしているうちに木下さんの家に着いた。車がゆっくりと止まる。さてと、
「今吉井君と秀吉と顔を合わせると面倒なことになりそうね。だから、吉井君とはここで別れておきましょう。お母さんたちにはあたしから言っておくわ。」
「ごめん、ありがとう。そうしてもらえるとても助かるよ。」
佐藤さんが木下さんの方のドアを開ける。暗に出なさいと言ってるようなものだ。木下さんは少し心配そうな顔で車から降りる。
木下さんの親御さんには申し訳ないけど、今木下さんの家に行くわけにはいかない。
秀吉は嘘を見抜きやすいタイプだし、僕が木下さんを送ったことがFクラスの連中もしくは、雄二たちに伝わるのも今後のことを考えるとまずい。
だからこんな真似をしないといけない。木下さんもそれはわかってくれたようでさっきの提案をしてくれたのだろう。
木下さんが車から降り、ドアが閉まる。木下さんは車の窓をコンコンと軽く叩いた。おそらくは窓を開けてほしいんだろうと思い、僕は木下さん側のドアの窓を開けた。
「どうしたの?」
「吉井君ってあたしの事「木下さん」って呼ぶじゃない?」
「うん。そうだね。」
木下さんの顔が少し紅く染まり、少し恥ずかしそうな顔になった。
「木下だと秀吉もいるし、紛らわしいでしょ? だから、あたしのことは下の名前で呼んでくれる?」
「え? う、うん。分かった。だけど、学校では…」
「分かってるわ。学校では木下でも構わない。でも料理の事とかで会う時は優子って呼んでほしいのっ」
「きの「優子」う、うん。優子さんがそう言うならそうさせてもらうよ。じゃあ、僕も下の名前でいいよ。」
「本当? じゃあ、よし「ううん」明久君、またねっ!」
「うん、またね。」
木下さん、いや優子さんはとっても満足そうな笑顔で家に向かっていった。さてと僕も帰ろう。
「佐藤さん、お願いします」
「かしこまりました。」
優子さんの家を出発して少し経った頃、珍しく佐藤さんから話しかけられた。
「明久様失礼を承知でお尋ねしますが、先ほどのお嬢様が明久の婚約者の方ですか?」
「どうしてそう思ったんですか?」
「私の運転中も明久様が歓談なされていたので。」
「彼女とはそんな仲じゃありませんよ。 ただ彼女といるときは学校にいるときよりは気楽ではいられますけどね。」
「なるほど。」
佐藤さんの少し嬉しそうな声がする。からかわれれるのは少し癪ではある。
「何に納得してるんですか、まったく。」
「何、ただの年寄りの戯言ですよ。2年生に上がるまで明久様は先ほどのようなお話をされる方は身内の方以外にいらっしゃらなかったので。」
「しかたないじゃないですか。去年までの僕はあまり余裕がなかったんですから。」
「そうでしたね。だからこそ先ほどのお嬢様が明久様の中では特別なお方なのかなと愚考しただけですよ。ふふ」
「まぁ、どちらかといえば大切な人ではありますけど…」
佐藤さんが楽しそうに笑う。僕は少し頬を膨らませた。その会話は僕のマンションに着くまで続いた。
それにしても今日は大変な一日だったなぁ~。
はい、お疲れさまでした。
加筆修正もしたので後書きも少し書かせてもらいます。
ここから不定期にはなると思いますが、投稿を再開したいと思います。
1年以上も待たせてしまって申し訳ございません!
厚かましい様ですみませんが評価、感想と批評、お気に入り登録をよろしくお願いいたします。
次回にご期待ください。
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