憑依者がハンターとして生きていく世界 (晴月)
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序章
どうしてこうなったんだっけ。
俺の名前は 草薙 透
あれは数時間前、学校もバイトも休みで暇してた俺が何か暇潰しできないかと部屋を漁っていた。
その時ふと本棚に目が行き、そこに入れてあったHUNTER×HUNTER
のコミックス....ではなく、映画の特典として貰ったクラピカの過去の物語が記された薄い本(健全な方)を読み終えた時、突如としてページが光りだした。
そして、気が付くとそこは......
「おいどうした....大丈夫か?」
「あ、ああ大丈夫だ.....何でもない。」
何故か目の前にクラピカが居る。
何でだー!?何で目の前にクラピカ(実写)が居るんだよ!
「本当に大丈夫なんだな...
しかも俺、クラピカの親友のパイロになってるし!....いや違うな。
これはアレか、....小説によくある展開の、物語の登場人物に憑依するっていうやつか...でも何で俺何だろうか? .....まぁ、今はそれよりも...すべきことがある。
今、俺がすべきこと....それは生き残ること。
今がいつ頃なのか分からないが、少なくともこの後この村は幻影旅団によって滅ぼされる。
そして俺が憑依したパイロは身体が弱く、それを治す為にクラピカが村を出る許可を長老に貰い、医者を連れてくる.....というのが本来の物語の顛末だ。
だが、その未来を変える為に先ずは....そうだな、身体を鍛えるかな。といってもやるのは筋トレじゃない、走り込みだ.....といっても筋トレもやるんだけどね。
その理由として、この身体は弱いんだ.....だからこそ鍛える。そしていずれはあの幻影旅団よりも強くなるために今の内に鍛えないと!
「おーいパイロー?」
その時の俺はクラピカの言葉なんて聞こえちゃいなかった為またクラピカに心配を掛けることになった。
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その日から俺は毎朝両親よりも早く起き、最低一時間のジョギングを行った。.....勿論、誰にも知られることなく。
いやだって、クラピカにバレたら物語が変わってクラピカまで殺されることになるだろ、だからこそこのことは隠しておく必要がある。
「さて、これくらいでいいかな...っと。」
そして憑依した日から数日がたったある日...俺はあることにに気付いた。
それは...
「思っていたよりもパイロの身体、病弱じゃなかったな。」
そう。パイロといえば病弱で運動が苦手な子供というイメージがつきものなんだが、なぜか病弱ではなかった。
恐らくだが、俺が憑依していることが関係しているのではないかと考えている。
「もしかして、身体能力は憑依している俺のものをそのまま反映しているというのか?」
間違いない、というかもうそれしか考えられない。
「ペースを増やすとするか。」
この身体の事が分かったんだ、なら次のトレーニングに励むとしよう。
まぁ....村の連中には気付かれないように、タイミング良く咳をしたり、うずくまって苦しそうな演技をすることを覚えないとな...。
さて、そろそろ皆起きてくる頃だ.....戻ってシャワーでも浴びてベッドに入って寝てたフリしないとな。
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数日後、クラピカと森の中で遊んでいると(病弱なフリをしながら)、ある一人の女性が倒れているのを発見した。
「この人は....一体?」
「それよりもパイロ、この人を洞穴まで運ぶぞ手伝ってくれ。」
「え?...あ、ああ。」
クラピカの奴、俺が病弱(設定上)だってこと忘れてないか?
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女性を洞穴まで運び、その場に寝かせた。
というかこの人...なんか凄い格好だな、頭にはハートの付いた耳みたいなの着けてるし。
「ん....んん?」
あっ、起きた。
「クラピカ、起きたみたいだぞ。」
「ホントだ。」
女性は何かを言っているようだが、何を言っているのか分からない.....と、思っていたが
「み...ず」
え?....今、水って言った?
「な、なんて言ってんのかな?」
クラピカは分からないらしく俺に訪ねてくる。
「う~ん...もしかして水が飲みたいんじゃないかな?.....水筒持ってるし。」
俺は分からないフリをしてクラピカに彼女の言葉を伝える。
「分かった...なら俺、川で水汲んでくるよ!」
クラピカが走って川に向かった。.....彼女の持っていた水筒を手にして、
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「ふーありがと、生き返ったわ。」
彼女はクラピカから自分の水筒を受け取ると直ぐに口に運んだ。
「何もないけどお礼にそうね....これあげる。」
彼女がカバンから出したのは所々ページに付箋が貼ってはる本であった。
「何だろ...くれるのかな?」
お、てことは俺が言う言葉は...
「でも貰ったら外の人と話したことバレちゃうよ。」
これで合ってる筈、
「ハイハイ子供は遠慮なんかし・な・い」
すると今度は川のある場所を聞いてきた。
だが俺は分からないフリをするしかないのでクラピカには何も言わない....悪いとは思うがこれも物語を進める為なんだ。
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そこから先は本の話通り、クラピカが父親の書斎から辞書を持ち出し彼女と話をすることになった.....そのお陰で、俺も言葉が分からないフリをしなくてすんだ。
そして彼女の足が治りこの地を去った後、俺達二人は彼女から貰った本『
だがある日とうとう長老にバレ、本を没収されてしまった。
「試験を受けさせてよ!!...もしそれで不合格ならもう二度と外の世界に行きたいなんて言わないから!!」
クラピカは本気のようだ.....まぁその理由は俺が憑依したパイロの身体が理由なんだが、ここはあえて割愛させてもらう。
それから試験当日までクラピカは机にかじりついて勉強に勤しんだ.....パイロの為に。
まぁ....今言うことでは無いんだが、俺の眼と脚は憑依してる俺の状態を反映してるから別に今は治らなくても構わないんだけどね。
そして当日の朝が来た。
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結果は皆知っての通り、全て満点の答案を作り出した。
後は最後の試験《自己抑制試験》をクリアするだけだ。
「パートナーを一人つける...これは何かあった場合、もう一方が連絡係になるためと連帯責任を負うことで私憤を抑えやすくするためのものだ、仮にパートナーが緋の目になってもお主は失格になるから慎重に一人選ぶがいい。」
「うーん。」
クラピカは悩む。.....それもその筈、自分と相性が悪かった場合自分が緋の目になってアウト、仮に相性が良かったとしてもパートナーが妨害する可能性だってある...というか長老はそれが狙いなんだろうな。
全く、頭の硬いジジイだな。
「パイロがいい!!」
「え?」
分かってはいたがやはり驚かずにはいれなかった。
「買い物は一族の大量の生活品で力仕事じゃし!パートナーが緋の目になったとしてもお前は失格なんだぞ!!」
失格にするつもりの癖に、良く言うぜ。
「だからパイロがいいんだ!!...パイロと一緒ならどんな結果でも後悔しない!!」
そこまで
とうとう長老が根負けして認めた。
「ならば二人ともこの薬を目に指すのだ。」
「ハイ。」
俺はわざと脚が不自由なフリして近付き、そしてわざと薬を棚の下に落とす。
「パイロ、俺が...」
クラピカが心配して自分が代わりに探すと言ってくれる...だけど、
「大丈夫!!一人で探せるよ!...パートナーとして一人で出来ることはちゃんと一人でするよ。」
と言いつつ、袖に隠しておいた目薬(緋の目抑制用)を手にし、まるで見つけたかのように振る舞う。
「じゃあ先ずは僕から。」
そう言って俺は薬を目に差し、クラピカに渡した。
クラピカも薬を差して準備は完了した。
さて先に休ませてもらうとしよう。
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次の朝、街のデパートへと向かい買い物を始める。
っと此処からあのチンピラどもが来るな。
あいつらには用心しないと....っていた。
俺の方を待ち伏せしてるのか....ったくあの
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「ふぅ、替えの服を着ておいて正解だったな。」
方法というのは別の服を着て、病弱のフリを止めればいいだけなんだけど...それでもあのチンピラ共全く気付かなかったな。
「おい、何やってたんだパイロ....ってどうしたんだその服?」
「あぁごめん、先に欲しいもの買っちゃった。」
実を言うと、今着ているこの服はこの店で買ったものだ。
向こうだってズルしてる訳だしこれであいつらには会わずにすむ。
.....と、思っていたのに奴ら先に待ち伏せしてやがった。
「通行料寄越しな....でねーとここは通れないぜ。」
やはりこうなってしまうのか。
仕方ない。
「警察に電話する...ここを出るのに本当に必要かどうか聞いてみる。」
リーダー格の男は冷や汗をかきながらこちらを見ている。
「何やってんだあんた達!」
チンピラを怒鳴っているのは先程デパートで道を尋ねた人であった。
「くそ...とっとと失せろ!」
悔しげに俺達を睨む。
さて、行くとしようか.....!!?
何だ?急に脚が....動かなく、
「えっ?」
その時の俺は何が起こったのか分からなかった。
だが直ぐに気付いた....あのリーダー格の男が俺の脚を蹴って転ばせたのだと、
「貴様ッ...」
「おっと、俺は何もしてねーぜ?」
「本当だよ自分で転んだだけ...行こうクラピカ。」
クラピカ....怒るなよ。なるべくクラピカの怒りを静める為、俺は笑ってクラピカを見る。
「おめぇも大変だなぁポンコツのお守りはよ...生きてて楽しいか?」
分かりやすく俺達を挑発する男、だが直ぐに三人共クラピカにボコボコにされ土下座をさせるに至った。
だが場所が悪かった。
突然、後ろから石が俺達に向かって投げられた。
「赤目の化物!!!この町から出ていけ!!!悪魔の使いめが!!!」
あんなに優しかったお婆さんが...何故?
俺の心は怒りや悲しみよりも疑問という言葉が浮かび上がった。
孫と思われる女性が止めに入るが、
「これ以上怒らせたら皆殺されちゃうよ!!」
その一言で俺の中のナニカガキレタ。
「おい....そこのアマ。」
「わ、私?」
「何故酷い目にあってた
今の俺は冷静であった、冷静でありながら怒っていた。
「パ、パイロ?.....少し落ち着けって、」
クラピカが止めに入る。どうやら俺の変化に驚いて怒りが鎮まったみたいだな。だが、俺は腹の虫が収まらない。
「答えろよ.....なぁ、聞いてんのか!オイ!」
「ヒ、ヒィ!!!」
女は怯えて何も言わずただ下腹部から暑いものを溢すだけであった。
「....ッチ、漏らしたのかよ....たかが子供の剣幕に....ダサっ。」
俺はその場で思い付いた出来る限りの侮辱をしてクラピカを連れて村に戻った。.....物語通りに。
その後、クラピカは村を出て俺の眼と脚を治せる医者を探しに行った。
そして俺も次の日から試験に向けて勉強し、二つ目まで合格した。
最後の抑制試験の時は長老に実力が認められている筈なので「合格にしてくれ」と頼んだが、聞く耳を持たなかったので
「チンピラ雇って怒らせようとしたこと....村の人全員にバラすよ。」
と言って脅したら合格にしてくれた....やったぜ。
俺は長老から俺の治療費用と生活必需品を幾つかそしてあの本『D・ハンター』を受け取り、クラピカの後を追うようにして村を飛び出した。
......村の皆には悪いが、俺はクラピカ同様生き残る。だが、俺はクルタ族ではなくなる。
今日からは名前を変えて生きていこう。
「そうだな.....トール・スカーレットとかどうだろうか。」
だが、クルタ族であったことは忘れないように名前に
そしてこの5週間後、クルタ族全員が幻影旅団に虐殺されたニュースが流れ、俺は少しだけ後悔したが不思議と怒りは無かった。
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第二話 ハンター試験の始まり
あれから四年の月日が経過した。
パイロに憑依という形で異世界転生した少年 草薙 透は現在山の中にある森の中で修行をしており、立派に成長していた。
「...さて、ここでの修行も終わりだな、後は.....」
辺りを見回すがそこにあるのは滝と森だけである。
「服はちゃんと洗濯してあるから綺麗だし、食料もちゃんと保存食に加工してある....準備は整った。」
後は、ハンター試験に行くだけだと意気込む透。
「原作だと、船に乗らなきゃ行けないんだよなハンター試験。」
そしてどんな特徴の船だったかを思い出そうと頑張るが、
「駄目だ、思い出せねぇ.....。」
まさか自分が其処まで記憶力が無いとは思わなかったのだろう。
orzの姿勢で絶望している。
「あ...でも船長の顔は覚えてるわ。」
仕方なく自分の朧気な記憶力を便りに船を探そうと移動を始める透。
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「やっと山から降りられた。」
街の港まで来るのに30分は掛かった透、どうやら方角が分からなかったらしい。
(そりゃ10年近く山に篭ってりゃ方角なんて分かんなくなるわ。)
ハァ、とため息を漏らすと港に一石の船が停まった。
「あ...多分あの船だ。」
その船は他の船と違って古ぼけて見えた為、これはそうだなと確信した。
「あれに乗るか。」
急いで船に乗り込む透。
そして暫くしてから船は出港し、何処かへと向かって移動を始めた。
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結論から言わせてもらうと、透のカンは当たっていた。
船内の客室らしき場所に入るとそこには、
(ゴンだ。)
HUNTER×HUNTERの主人公 ゴン=フリークスが居た。
それだけでなく、近くのハンモックの上でスーツを着た男がいびきをかきながら眠っている。
(あれはレオリオだな....間違いない。)
丸渕の眼鏡をかけたスーツの男などレオリオ以外この世界には居ないだろうと考えていた為、そのような結論に至った。
そしてゴンやレオリオがいるということは、そこにはやはり見覚えのある人物が居た。
(クラピカ.....!!!)
レオリオの近くのハンモックの上で読書をしている。
透はクラピカの親友 パイロの体に憑依という形でこの世界にやって来ている為、もし自分の正体が露見すればパイロが生きていると思われてしまう可能性がある。
が、現在の透、もといパイロはクラピカと遊んでいた十年以上前とは異なり、身体能力は透と同等になり髪も当時のパイロの髪型よりも伸びきっている為、クラピカがパイロ本人だと気付くには時間が掛かるものだと思われる。
(流石にまだ気付かれる訳にはいかない。)
今はまだ出会う時ではないと考え、成るべくクラピカとは鉢合わせしないようにその場を後にするのだった。
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暫くして、海が荒れ始め船が大きく揺れる。
(来たか...。)
透はこの船が嵐によって転覆しそうになることは既に知っており、ここからが本当のハンター試験の開始を意味しているのだと
内心ワクワクしていた。
「平気なのは.....
そして暫くするとそこに船長がやって来て、透達を見てそう言い放った。
「四人とも、付いてきな。」
(始まったか。)
ここから船長の面接が始まり、ハンター試験を受ける理由を包み隠さず正直に打ち明けなければならない。
(俺がハンター試験を受ける理由......やはり一番は、奴ら"幻影旅団"を追いかける事....だけどそれだけじゃないよな。)
自分がハンター試験を受ける理由、一つめの理由は幻影旅団を追いかけ、事件の真相を知ることだと理解はしている。
だけどそれだけではない、自分がハンター試験を受ける本当の理由......それに気付く事が出来なければ此処で失格になってしまう。
(やっぱり、俺自身.....この世界に来たことを楽しんでいるんだろう.....だから最初の目標としてハンター試験を受けてライセンスを取得したいと考えているんだろう.....だけどなぁそれ船長に言えねぇし.....どうしよう。)
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操舵室にて、
「それじゃあ今から此処で、全員に自己紹介とハンター試験を受ける動機を聞いておこうと思う。」
部屋に着くなり唐突に船長が四人に指示する。
「動機って?」
船長の発言から直ぐにゴンが隣にいた透に質問する。
「受ける理由だよ....何故ハンター試験を受けるのかっていう。」
「ふーん。」
透はゴンに親切に言葉の意味を教えると直ぐに船長に答えた。
「俺はゴン=フリークス!ハンター試験を受ける理由は親父を探す為!」
最初に自己紹介と動機を話し始めたのはゴンだった。
「ほう、お前さんの親父はハンターにならないと見つけられないのか?」
「うん。俺の親父、ハンターらしいから。」
「そうか。」
ゴンの話を聞いて思うところがあるのか、船長は少し考えるような素振りを見せた。
「お前さんは?」
次に船長が質問を開始したのは透...いや、トールであった。
「...俺はトール....トール=スカーレットだ....ハンター試験を受ける動機は......ある事件の真相を確かめる為だ。」
「ある事件?....何だそれは?」
「.......」
トールは言うべきかどうか少し迷ったが、此所で虚言を並べても意味が無いことを理解していたので語る事にした。
「クルタ族の大量虐殺だ。」
「......!!!」
トールの発言にいち早く反応したのはクラピカであった。
「ほう?そりゃどうしてまた?」
「.....不可解だからだ。」
またも少し悩んだが、答えることにした。
「何が不可解だって言うんだ?」
「殺され方だ....まるで、公開処刑をするようにして殺されていたそうだ....俺は昔、クルタ族の少年に助けられた事があってな....おそらく彼も殺されたんだろう、だから俺は知りたいんだ...事件の真実を、何故クルタ族があんな酷い殺され方をされてしまったのかを。」
「下らない。」
トールの発言にそう返したのはクラピカであった。
「殺された理由だと....そんなもの決まってる、奴等はクルタ族の"目"を狙って殺した....それが真実だ。」
「....それでも、俺は疑問に感じる事がある限り、奴等を...幻影旅団をハンターとして捕まえて聞き出す....それだけだ。」
「ふーむ...てことはお前さん、
「それでもだ....俺は、"一度決めたら最後まで貫き通す"....それだけだ。」
「...今の言葉....!」
拳を握り締めてそう言い放つトール。だが、その発言が原因なのかクラピカに首根っこを掴まれる事になってしまう。
「貴様.....今の言葉、まさかお前の言う..."彼"とは...!」
「"パイロ"という名前の少年だ.....もしかして旧知の仲だったか?」
「.....そうか、お前は....アイツを知ってたんだな。」
「ああ。」
トールの返事にクラピカは俯いた。
トールはクラピカの肩に手を置き、船長に見えないようにしてから耳元で囁いた。
(忠告しておく...此所では名乗った方がいい。)
「....まぁ、俺がハンターを目指す理由はそれだけだ...これでいいかい船長?」
「ああ....そっちの二人はどうなんだい?」
船長はクラピカとレオリオに目を向けて自己紹介を促す。
「私はクラピカだ....ハンター試験に参加する理由は...彼と同じ、幻影旅団を探し出し...そして捕らえる事だ。」
「ほぉ...お前さんもそいつと同じ...という訳か。」
「ああ。」
クラピカの目的を聞いて船長は吟味する様子でトールとクラピカの表情を確認した。そして次はレオリオの方に顔を向ける。レオリオも船長が自分の顔を見ている事に気付いたが、
「俺はレオリオだ。....動機?...試験官でもねぇのに言う訳ねぇだろ。」
と、一蹴した。
どうやらレオリオは船長のこの問いかけの意味に気付いておらず、そんな事をする必要はないと切り捨てているようだ。
「まぁ、そう言うなって.....もし、これがハンター試験に向かう前の意思確認とかだったらちゃんと動機ぐらいは説明しとかないとさ...。」
透は助け船を出すつもりでレオリオに話し掛ける。
「そんな訳ねぇだろ...いい加減な事言ってんじゃねぇよ。」
と、更に一蹴した。
「やれやれ。」
透がそう呟いた時船長が一言、
「そうか....おい、カッツオ!...ハンター試験委員会に報告しろ、コイツも脱落者に加えろ 。」
と、言い放った。
「な!?...どういう事だ!?」
「既にハンター試験は始まってるんだよ。」
動揺するレオリオにそう進言する透。
「この船長も....謂わば試験官....俺達がハンター試験を受けるに相応しいかどうかを此所で見極めるという事だろうよ。」
「その坊主の言うとおりだ。」
煙草をふかしながらレオリオを見る。
「ハンターの資格を取りたい奴らは世界で星の数程いる...そいつら全部を審査出来るほど、試験官に人的余裕も、時間もねぇ...そこで!俺達みてぇのが雇われて受験者をふるいにかけてんのさ。」
そう言ってまた煙草をふかし始める船長。
「それに、さっきの嵐の中で平気だったのは...俺達四人だけだったっていうのも関係してるんでしょ...船長?」
トールがそう聞くと船長は少しだけ笑う。
「そうさ....お前達以外の参加者は既に全員脱落者として審査委員会に報告した。」
船長の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべるレオリオと、レオリオ同様驚いたが答えて好かったと安堵の表情も浮かべたクラピカ。
「あの程度でくたばってるようじゃ...この先のハンター試験なんて到底無理だからな。」
咥えたキセルを外してこちらを見る。
「つまり、お前らが本試験を受けられるかどうかは俺の気分次第って事だ....よーく考えてから俺の質問に答える事だな。」
「だってさ。」
ゴンがレオリオを見て返答を求める。
「それを早く言えってんだ...。」
小声で呟いてからレオリオは、
「つーか、そこの二人...要は敵討ちって事か...だったらわざわざハンターになんかならなくても出来るじゃねぇか。」
と、わざわざトールとクラピカの怒りを買うような発言をする。
「出来たらハンター試験を受けようなんて苦労はしねぇんだよ...というか、レオリオだっけ?...人の事を馬鹿にして言うんだからそっちも随分と御大層な理由があるんでしょうね?」
レオリオの言葉にムッとしてトールが反論した。
「それに、ハンターにならないと入れない場所、聞けない情報、出来ない行動...というものが君の脳ミソに入りきらない位あるんだよ。」
それに続けてクラピカがレオリオに対して皮肉を返した。
「ねぇ!....レオリオさんは何でハンターになりたいの?」
衣良だっていたレオリオにゴンが理由を聞き始めた。
「俺か?...俺の目的はズバリ、金さ...金さえあれば何でも手に入るからなぁー。」
と答えた。
「品性は金では買えないんだよ....レオリオ。」
と、またもやレオリオに対して嫌みたらしく皮肉を返すクラピカ。どうやら先程のレオリオの敵討ち発言にまだ怒っている様子だ。
「表へ出な....その薄汚いクルタ族の血ってやつを絶やしてやるぜ。」
今度はレオリオがキレてクラピカに安い挑発をかます。
「取り消せレオリオ!....取り消せ...!」
クラピカはその挑発に乗ってしまう。クラピカはクルタ族としての誇りを汚された事でレオリオに怒りを抱いてしまう。
「レオリオ"さん"だ。」
操縦からレオリオ、クラピカは甲板へと出ていってしまう。
(クラピカ....自分がクルタ族だということに誇りを持ってるんだな....にしても、レオリオのあの挑発....いくら何でも安過ぎないか?.....ん?)
その時、左目に何か、違和感を感じ取る。
(何だ?)
鞄から鏡を取り出し、左目からカラーコンタクトをはずして見てみると、目は緋色に染まっていた。
(そうか.....俺ではなく、お前が怒っているのか.."パイロ"。)
彼の身体に憑依しているとは言っても...結局、この身体の持ち主はパイロなんだと、嫌でも理解させられた。
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甲板にて、
嵐に呑まれないようにと、船員達が力を合わせて、船の帆を張る。
それにゴン、トールは手伝いを志願し、船員達と共に帆を張っていた。
「うわぁぁぁぁぁ!!?」
突如吹いた強風により、船員が一人、煽られて海に落ちそうになる。
その時、近くにいたクラピカとレオリオが船員を助けようと、船に掴まりながら腕を伸ばす。しかし、二人は船員との距離が離れすぎており、とても助けられそうにはない。
その時だった。
「は?」
二人の間をゴンとトールが通過して船員を助けようと海へと飛び込む。
ゴンが船員の脚を掴み、ゴンの脚をトールが掴んだ。
それを目の当たりにしたクラピカとレオリオは、慌ててトールの脚を掴んだ。
「ぐっ....ぐぐぐぐぐ!!!」
レオリオが顔を赤くしながら力一杯トール達を引き揚げようと試みる。
その様子を見ていた船員達の一部がレオリオとクラピカに加勢し、トール達を何とか引き揚げる事に成功した。
「ハァ...ハァ....た、助かった。」
「「自分から突っ込んでいったんだろ!....あ。」」
トールが息を切らしてクチから飛び出した言葉にクラピカとレオリオがそうツッコみ、互いに目が合いそのまま吹きだしてしまう。
「先程は済まなかった....その..レオリオ"さん"。」
クラピカがレオリオにさん付け、して謝罪をした。
「えっ...あ、いいよ別に、レオリオで...」
言われたレオリオは照れ臭くなったのかそう言って頬を赤らめた。
「何とか、ふたりは仲直りしたな....さて、」
息を整えたトールは、少し黙り....そして、
「俺達"四人"はハンター試験を受けるにふさわしいかな....船長?」
そう言って振り返った。
「...ああ...間違いなく合格だ。」
トールの後ろには、船長がキセルを吹かしながら笑ってトールを見ていた。
「そうか....ん?」
ふと空を見上げると、嵐は過ぎ去り青空が姿を現していた。
「そろそろ港に付く、準備しな。」
船長はトールにそう言い残して操舵室へと戻っていく。
「さてと....」
空を見上げ、心に問い掛ける。
(見ているかパイロ.....これが外の世界の空だ....俺がお前の身体を借りてる間、お前の代わりに世界を見てくるよ。)
そうパイロに誓い、再び空を見上げる。
その空は、何処までも青く、澄んでいた。
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