焔千景は日常を謳歌する (春囃子風)
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再会

初投稿です。

生暖かい目で見ていただければ幸いです。


 

 『……乃木さん……私は……あなたのことが嫌いよ……』

 

 この言葉だけは彼女に伝えなきゃ

 

 『でも……嫌いなのと同じくらい……あなたに、憧れて……』

 

 こんな私を最後まで仲間と言ってくれた彼女に

 

 『あなたのことが、好きだったわ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世の私である『郡千景』の意識が途切れていき次第に現在の私である『焔千景(ほむらちかげ)』の意識が覚醒していく。

 

 「…………夢?」

 

 なんで今更『郡千景』の記憶なんてものを夢見たのだろう?私が『焔千景』になって『郡千景』の記憶を取り戻してもう6年になるのに。しかも最期の記憶だなんて。『郡千景』の記憶を夢で見るなら高嶋さんとイチャイチャしている記憶とか、伊予島さんと乙女ゲー談議している記憶とかもっと楽しい記憶を夢に見るべきよ。誰が好き好んで自身の最期を二度も見たいと思うのか。私の性格が少しひねくれているからって見る夢までもひねくれなくても良いと思う。

 

 「…………サイアクだわ」

 

 朝っぱらから最悪な気分が溢れてくる。今日は厄日かもしれない。それにあの時のことをこうして冷静に第三者のように思い返してみるとあのセリフだけならば………こ、告白のようではないかしら?

 

 「……………………」

 

 イヤイヤイヤイヤナイナイナイナイ、あの私が、『郡千景』が『乃木若葉』を好きだったなどと。なんてったってあの『乃木若葉』よ。女子と言うより武士みたいな、強いて言うなら女士で、唐変木で鈍感でポンコツで空気が全くと言って良いほど読めない人よ、彼女。そりゃあ彼女のあの圧倒的な強さや純粋と言っても良いあの真っ直ぐな心根には敬意や憧れを抱いていたけども、……そう!これは尊敬とか敬愛とかの類よ!断じて、断じて!恋愛的な恋恋慕などではないわ!だいたい、私には高嶋さんがいるし、あの人には上里さんがいるじゃない!そうよ!それで惚れた腫れたなんて不毛じゃない!だから私はあの人のことをこれっぽっちも好きではないの!良い!?わかった!?

 ………………………………………なんで私は自分自身に対してこんなにも訳の解らない言い訳を熱弁しているのかしら?あの夢のせいで自分が思っている以上に動揺しているのか、はたまたまだ寝惚けているのか、どっちにしろ朝からどっと疲れたわ、精神的に。

 

 (………………ハァ、起きよう)

 

 そう思い私はお布団の隣に置いていた眼鏡をかけて目覚まし時計を確認する。時間は朝の9時半を廻っていた。

 

 「…!ヤバい!!」

 

 私は急いでお布団を畳み寝間着を脱いで白いワンピースを着てその上に赤のジップパーカーを羽織る。それから化粧鏡の前に行き長い髪を首の後ろ辺りで1つに束ねて髪ゴムで止める。その後その上から大切な人と交換した赤いリボンを結ぶ。身嗜みを軽く整えて出来るだけ速くそれでいて物音を立てずに自室を出る。

 

 (この時間ならもうお店に降りてるかしら?)

 

 「これはこれは、おそようございます。千景さん」

 

 「ッ!」

 

 音を立てないようにそっと自室の扉を閉めていた時に後ろから声をかけられた。私はゆっくりしたと言うよりは錆び付いたような動作で声を発した人物の方を振り向く。そこには短い黒髪の女性が両腕を腰に当て笑顔で立っていた。

 

 「…………………お、おそよう、ございます。お母さん」

 

 そう、この女性は今世の私の実母で名前は焔雪菜(ゆきな)。今年で35歳なのだが見た目は20代前半にしか見えず、顔が似ている私と一緒に歩くと姉か歳の近い親戚によく間違えられる。そして、お母さんはいつもは優しいのだが、怒るとものすごく怖い。ちなみに、いつもは普通に喋るのに怒る前は必ず敬語になる。まぁ、なにが言いたいかと言うと………

 

 「ところで千景さん」

 

 「は、はい!」

 

 「ずいぶん遅いお目覚めですね?」

 

 「…………それは、え、え~と~……」

 

 「ん~?」

 

 お母さん、笑顔が怖いです。笑窪が出るほどニッコリ笑っているのに口元以外微動だにしていません。まるで笑顔の能面を被っているようです。笑顔って人にここまで恐怖を与えられるものだったんですね。私、初めて知りました。…………………マズイ、恐怖で地の文がおかしくなってきた。こうなったら………

 

 「………ご」

 

 「ご?」

 

 「ごめんなさい!夜遅くまでゲームしてました~!」

 

 先手必勝!こういう時はまず謝罪!謝っておかないとお説教が軽く1時間は超えてしまうわ。それにこのパターンで怒られるのは今回が7回目だ。前回なんてプレイしている最中に見つかってセーブする前に電源ケーブルを抜かれてそのまま2時間のお説教コースに突入した。その時にお母さんとは『そんなにゲームしたいなら夜中ではなく朝早く起きて朝食が出来るまでにしなさい』と約束したのだが、今回は辞め時が解らず夢中になっていたのが原因である。

 

 「…………ハァ~。まあ、今回は前回みたいに次の日学校じゃなくて春休み中だから見逃してあげるけど、千景あなた五日後には中学生になるのだから少しは自制心を持ちなさいよね?」

 

 「…?……はい…………?」

 

 あら?前回の約束を破ってしまったからお説教コースは免れないと思っていたのだけれど、どうしたのかしら?

 

 「ん?説教されないのがそんなに不思議?」

 

 「え!……あ、うん……」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。まあ、お母さん自身他人の機微に敏感だからと言うのもあるだろうが。

 

 「と言うか説教されるような悪いことだって自覚があるならやるんじゃないの!!」

 

 「しまった~!!藪蛇だった~!?」

 

 思いっきりおでこにチョップをくらった。

 

 「まったく。今朝、徹隆(てつたか)が『夜遅くまでゲームするのも多分今日までだから見逃してあげてくれ』って言っていたのよ」

 

 「…………兄さんが?」

 

 チョップが当たったおでこをさすりながら私はお母さんの話を聞く。今世の私には1つ上の兄がいる。名前は焔徹隆。私が五日後に通い始める宮沢中学に籍を置いている。自分で文芸部を立ち上げ新人教師を勝手に顧問にしたりとかなりぶっ飛んだことをしまくる人ではあるのだけれど、私のことをよく気にかけてくれてお母さんに怒られていると助け船を出してくれる。

 どうやら今回は私が夜遅くまでゲームをしていたことを知っていたらしく先にお母さんにあまり怒らないように言っていてくれていたらしい。しかし、何故兄さんは今日までだと言ったのだろう?そりゃあ反省しているから今後はやってしまわないように気を付けるけども………。

 

 「千景~、早く顔洗って歯磨いてきて、朝食食べちゃいなさい。片付かないんだから」

 

 「あ、うん」

 

 兄さんの発言に違和感を感じ考え込んでいたらお母さんに注意された。いけないいけない、折角お咎め無しになったのに他のことで説教されたんじゃ兄さんが助け船を出してくれた意味が無くなっちゃう。私は急いで洗面所に向かう。

 

 「あ、それと、バツとして洗い物と全部の部屋に掃除機かけといて」

 

 「…………はい」

 

 どうやらお説教は無いけれどもお咎めはあるらしい。

 

 洗面所からリビングに行くと眼鏡をかけた少し怖そうな男性が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。

 

 「お父さん、おはよう」

 

 「おはよう、千景。また遅くまでゲームしてたんだって?」

 

 「うん、つい夢中になっちゃって………」

 

 「ほう、そんなに面白かったのか?なら後で時間が出来たら俺もやってみるか」

 

 「あのゲームならお父さんも気に入ると思うよ」

 

 この人が私の今のお父さんで焔栄光(ひでみつ)。厳つい顔立ちで初対面の人には怖がられているけども、厳しい人であってただ怖い人ではない。でも、私には少し甘くてよく一緒にゲームしたりしている。

 

 「栄光さん、またそうやって千景を甘やかして!」

 

 ご飯とお味噌汁を運んできてくれたお母さんが、私が夜遅くまでゲームをやっていたことに対して怒らず自分もそのゲームをやってみようと口に出したお父さんに軽く口を尖らせる。

 

 「まあまあ、今は春休み中だから良いじゃないか。中学の勉強だって徹隆に教えてもらって予習している訳だし。それに、男親にとって娘との交友は大切なのさ」

 

 「だからって………」

 

 「ただ、それで成績落ちた時は俺も怒るからな。解ったか、千景?」

 

 「は、はい!」

 

 うん。絶対成績落とさないようにしよう。お父さんの雷はとても怖いから。

 

 「……ハァ~。解ったわ」

 

 どうやらお母さんも納得したらしい。

 

 私たちの家は2階部分が自宅で1階部分は両親が個人経営しているレストランになっている。お父さんがコーヒーを飲み終えてリビングを出て1階に降りて行く。その後、お母さんも1階に降りようとして私に言ってきた。

 

 「じゃあ、私たちはお店に降りるから、千景さっき言ったことやっといてね」

 

 「うん、解ったわ。………ところで、兄さんは?」

 

 そんなお母さんに、了解の意を発しながら今日1度も会っていない兄さんのことを聞く。

 

 「徹隆なら学校よ。部長会議だって」

 

 「ふ~ん」

 

 春休み中だと言うのに会議が有るとは大変だな~と思いながらお味噌汁を飲む。あ、大根とお揚げのお味噌汁だ。私、これ結構好きなのよね。

 

 「あ、そうだ。今日から月城(つきしろ)さん所の友奈ちゃんが一緒に住むから、後であんたの部屋に布団一式運び入れるからね」

 

 「うん。…………………はい?」

 

 ちょっと待ってお母さん、どういう事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「Je suis revenu(私は帰ってきた!)!」

 

 私は約4年ぶりに北岡市(きたおかし)に帰ってきていた。しかも、今日から親友であるチカちゃんの家に御厄介になる。つまり、チカちゃんと一緒に暮らせるということで否応無しに私のテンションは爆上がりしている。そんな訳で4年間暮らしていた国の言葉で叫んでしまった為に周りにいた人たちにちょっと不審な目を向けられてしまった。

 

 「…………pardon!(ごめんなさい)

 

 うん……………凄く恥ずかしい~!テンションが上がっているのは解るけど、なんで私は叫んでしまったんだろう。しかもフランス語で!そりゃあ、驚くよ。急に叫んだら。しかもどっからどう見ても日本人顔なのに流暢にフランス語喋ってたら。私だって奇異な目で見ちゃうよ。

 ……………あ~早くこの場から離れたい。でも、ここが待ち合わせ場所だし、ここから離れてしまったら迎えに来てくれる人に失礼だろうし、それにこれからお世話になる人たちな訳だし、それで雰囲気が悪くなったらヤダし……………ハァ~、早く来てくれないかな~。

 

 「……………なんでカリスマガードしてんの?」

 

 「Quoi(え?)?」

 

 恥ずかしさから頭を抱えてうずくまっていたら上の方から声をかけられた。顔を上げてみると私と同い年か少し年上くらいの黒い短髪で眼鏡をかけた男の子が私のことを見下ろしていた。…………あれ?この人って

 

 「…………Excusez-moi êtes-vous(もしかして)mon grand frére(お兄ちゃん?)』?」

 

 「……je ne parle pas français(フランス語は俺の管轄外だ)

 

 「イヤ!普通に喋ってるよね!?しかもかなり綺麗な発音で!!」

 

 「C'est le Japon.(ここは日本だ。) En japonais, S'il vous plaît(日本語を要求する)

 

 「ブーメランって知ってる?」

 

 「Je ne sais pas ce que cela signifie(まるで意味がわからんぞ!)!」

 

 「それはこっちの台詞だからね!?」

 

 ハァ~、疲れた。久しぶりに日本語で叫んだからか余計に疲れた。そして、今までの会話で確信出来た。この人はお兄ちゃんだ。4年前と見た目は少し変わっているけど中身は全然変わってない。無駄にクオリティと技術が高いボケにちょいちょい挿む遊戯王ネタ、間違いなく()()()のお兄ちゃんだ。

 

 「さて、それじゃあ、そろそろ行くとしますか」

 

 そう言って私をからかい終わったお兄ちゃんは私の荷物を持って歩き始めた。

 

 「あ、いいよお兄ちゃん。自分の荷物くらい自分で持つよ」

 

 「いいから、こういう時は男に花を持たせてくれよ。それにいまだにお前みたいな可愛い子に兄と慕って貰えるのが嬉しいしさ、甘えとけ甘えとけ」

 

 「………………あ~あ、4年前からそうだけど、お兄ちゃんってズルいよね」

 

 「そうか?」

 

 「そうだよ。可愛いとかの褒め言葉をさらっと言うし、荷物運ぶ理由はかっこ付けたいからとかさ。…………ねぇ?今までに何人の女性を泣かせてきたの?」

 

 「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。だいたい、俺は告白どころかラブレターすら貰ったことが無いんだぞ?」

 

 「え?そうなの?」

 

 「ああ」

 

 「………………………………遊戯王ネタで逃げようとしてない?」

 

 「してねーよ。てか、伝説なきゃネタとして成立しねーだろ、それ」

 

 「…………………ま、そういうことにしておいてあげよっか。でもあれだよね。お兄ちゃんの周りの女性は見る目が無いね~。もし私だったら直ぐにでも告白してたよ」

 

 「………これは、あれかな?暗に俺に恋愛感情抱いてるって言ってる?」

 

 「ううん、違うよ。だって私もう好きな人いるし」

 

 「……ゑ?」

 

 「お兄ちゃんも知っている人だよ~」

 

 「…………………あ~、なるほど」

 

 「お兄ちゃんのことも好きだけど恋愛感情とかじゃなくて憧れかな」

 

 「憧れ?」

 

 「うん。私は世界で1番お兄ちゃんを尊敬してるんだよね。こんな人になりたいっていう1番の理想像。この4年でさらに格好良くなったからね!」

 

 「………………この4年で可愛いから美人に成長、そして万遍の笑みでの褒め殺し……………さて、何人の男が心奪われたか……………」

 

 「?」

 

 お兄ちゃんが急に止まってなんだかブツブツ言っているけども距離が出来たために何て言ったのか良く聞き取れなかった。あれ?なんかお兄ちゃんの顔が赤いような?どうしたんだろう?

 

 「大丈夫、お兄ちゃん?顔赤いけど、風邪?」

 

 「………………はっはっはっ、この天然っぷりは最早兵器だな。無闇矢鱈に異性のおでこに手をあてんじゃないの」

 

 そう言ってお兄ちゃんは優しく、体温を測るためにおでこにあてていた私の手を掴んで放り出す。

 …………………まだ顔赤いけど大丈夫かな?たまにお兄ちゃん無茶するし

 

 「大丈夫だ、問題無い。それよりサッサと行こうぜ、千景も待ってるだろうし」

 

 「うん!」

 

 そうだ、4年ぶりにチカちゃんに会えるんだ。楽しみだな~。

 私たちはまた歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お母さんから事情を聞いて私は今か今かとソワソワしていた。

 

 なんでもユウちゃんが珍しくワガママをご両親に言って日本の中学校に通わせて貰えるようになったらしい。それで女子中学生に一人暮らしをさせるのはいろいろと危険があるからと、昔から家族絡みで友好があった私たちの家で中学の3年間を過ごすことになったのだ。そして今会議帰りに兄さんが迎えに行っているとのこと。なんでもっと早く言ってくれなかったのかお母さんに訪ねたら

 

 「言ってない方がサプライズになるでしょ♪」

 

 と言うことだった。どうやら兄さんも今朝聞いたらしい。なるほど、兄さんが『夜遅くまでゲームするのは今日まで』と言っていたのはこういうことか。確かにユウちゃんがいたらゲームよりユウちゃんを私は取る。

 

 「ただいま~」

 

 あ、兄さんが帰ってきた。私は急いで玄関まで向かう。そこには兄さんと世界で1番可愛いと思える少女が立っていた。私は約4年ぶりにユウちゃんの姿を視界に入れる。肩より少し長い赤い髪を首の後ろあたりで私のリボンと色違いの黒いリボンで一つにまとめている。

 

 「ユウちゃん!」

 

 4年ぶりに会った世界で1番愛おしい人に私は抱きついた。

 

 「チカちゃん!」

 

 そんな私をユウちゃんも強く抱き返してくる。

 

 「「久しぶり。綺麗になってびっくりした」」

 

 私たちは全く同じ台詞を全く同じタイミングで言い合い笑い合う。

 

 「友奈」

 

 そんな私たちを見ていた兄さんが急にユウちゃんを呼んだので何事かと思い2人して兄さんを見る。

 何故か解らないけど兄さんが何を言いたいのかが解ったので私はユウちゃんと一旦離れて兄さんの隣に立ち、ユウちゃんの方に向き直る。

 

「「お帰り」」

 

…………ただいま!

 

 私はこれから楽しい時間が増えそうだと思いながらみんなと笑い合った。

 




簡単キャラ紹介
・焔千景
 郡千景の生まれ変わり。
 夜遅くに隠れてゲームしていたためか眼鏡愛用
 ユウちゃんLOVE

・月城友奈
 4年間フランスで生活
 フランス語で話せばお兄ちゃんが慌てると思ってた
 チカちゃんが世界で1番

・焔雪菜
 焔千景の母
 見た目は若い
 怒る前は必ず敬語

・焔栄光
 焔千景の父
 顔が怖い
 娘との交友はお父さんにとって1番大事

・焔徹隆
 焔千景の兄で月城友奈の兄的存在
 実はフランス語はあの4文しか知らない
 眼鏡はシルバーカラー

主要物紹介
・色違いのリボン
 チェック柄の色違いリボン
 千景は赤で友奈は黒
 4年前別れる時にお互いでプレゼントしたもの

・お味噌汁
 大根とお揚げのお味噌汁
 千景のちょっとした好物
 朝食を作ったのは実は徹隆


第2話は一週間以内に配信予定


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転生

第2話です。

書いている途中でデータがまるっと消えて焦りました。バックアップはこまめに取るべきですね。

もっとギャグよりにするつもりが何故かこのように
何故だ?

本編終了後の後書きでのオマケは見たい人だけ用です。本当は本編に入れる筈だったのですが、書き終えて読み返してみると蛇足感が半端なかったのでオマケとしました。読んでも読まなくても本編にはそこまで差し支えませんので、お好きにどうぞ




 私とユウちゃんが前世の記憶を取り戻したのは今から6年前、小学1年生のころだ。日曜日にユウちゃんが私の家に遊びに来て、2階の自宅に上がる途中で私が足を滑らせ階段から落ちそうになったところをユウちゃんが引っ張り上げてくれて、だけど勢い余って私はユウちゃんを押し倒してしまって、そこで私たちはキスをしてしまったのよ。ええ、口と口、マウストゥマウスよ。それで私たちは前世の記憶を思い出したの。

 え?普通は頭を打ったりしたショックで記憶が戻るんじゃないかって?多分それは一つの例に過ぎないわ。そもそも前世の記憶が戻る時点で普通ではないと思うし。まあ何が言いたいかと言うと、ユウちゃんの唇の感触は今でも鮮明に覚えているということよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―6年前

 

 私の唇に甘くて柔らかい感触が伝わる。

 

 (あれ?私、如何したんだっけ?………………そうだ。階段から落ちそうになってユウちゃんが私の手を引っ張ってくれたんだ。)

 

 引っ張られた勢いを殺しきれず私たちは倒れてしまい、来るだろう衝撃に備え目を閉じていたんだ。私は閉じていた目を開く。すると私の目と鼻の先0距離には………………天使がいた。

 そう、あろうことか私は天使とキ、キスをしてしまったのだ。しかも私が押し倒してしまったような状態で。

 

 「ごめんなさい!()()()()!」

 

 私は直ぐさま飛び起きて天使であるユウちゃんに謝った。ん?あれ?今、私ユウちゃんのことなんて呼んだ?私は自分の口から出た言葉に疑問を抱く。それと同時に私の頭の中に私ではない人の記憶が流れてくる。

 

 「この記憶って…………」

 

 「()()()()()?」

 

 「え?」

 

 戸惑っている私にユウちゃんが声をかけてきた。ただ、彼女は『グンちゃん』と呼んだ。ユウちゃんは私のことをいつも『チカちゃん』と呼ぶ。

 『グンちゃん』それは今し方流れてきた記憶の持ち主である『郡千景』の呼び名だ。そして、その呼び方をするのは彼女の記憶の中に1人しかいない。

 

 「ユウちゃん、もしかしてユウちゃんにも記憶が………」

 

 「………め…なさい

 

 「ユウちゃん?」

 

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 震える自分自身の体を抱きながらユウちゃんは謝りだす。

 

 「ユウちゃん!?しっかりして、ユウちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だけど私、月城友奈は前世の記憶が蘇った。前世の私の名前は『高嶋友奈』。高嶋友奈だった時の私は、人類を滅ぼそうと考えていた天の神が送り出した尖兵『バーテックス』と戦う為、人類を護ろうとした土地神の集合体『神樹』から特別な力を授かった勇者と言う存在になっていた。勇者は私を含めて5人いて、それから『神樹』の声を聞くことが出来る巫女の少女1人の計6人で四国の皆を護るためにエイエイオーって頑張っていた。

 最初の方は連携とか上手に取れなくて、戦闘には勝てたけど皆よくケガをしたりして、でも後の方からは連携が上手に取れるようになって、グンちゃんが人一倍頑張ってくれて、若葉ちゃんの鼓舞で士気が上がって、アンちゃんが的確に指示を出してくれて、タマちゃんが雰囲気を明るくしてくれて、巫女であるヒナちゃんが皆を影ながら支えてくれた。この6人なら絶対に大丈夫。バーテックスなんかに負けたりしないって、そう思ってた。

 ………………………………でも、私は死んだ。最初に死んでしまった。超巨大なバーテックスの出した元気っぽい炎の玉をアンちゃんとタマちゃんが止めてくれて、私とグンちゃんと若葉ちゃんでそいつを攻撃して、勝つことは出来なかったけど四国に被害を出さず追い返すことが出来た。……………私はそこで気を抜いてしまった。精霊とのシンクロを解除し、疲れから周囲への注意が欠けていた。地面が揺れて、私の真下から魚のようなバーテックスが飛び出してきて、そのまま空中に放り出される。バーテックスの体当たりによるダメージで勇者システムは強制的に解除され生身となった私は地面に叩き付けられた。薄れゆく意識の中で最後に見たのは、私を飛ばしたバーテックスが刀と旋刃盤で切り刻まれている光景を背に泣きながら駆け寄ってくるグンちゃんの姿だった。

 こうして私は死んだ。もしかしたら私が最初で最後の犠牲だったかもしれない。最初に死んでしまったからどうなのか解らないけどそうだったら少し嬉しいな。

 

 ごめんね、若葉ちゃん。また皆で一緒に遊ぼうって約束したのに。

 

 ごめんね、ヒナちゃん。今度ヒナちゃんのコレクション見せて貰う約束だったのに。

 

 ごめんね、タマちゃん。全部終わったら皆で北海道に行く予定立ててたのに。

 

 ごめんね、アンちゃん。週末一緒に本屋に行こうって言ったのに。

 

 ごめんね、グンちゃん。守るって約束したのに、一緒にいるって言ったのに、楽しい思い出いっぱい作ろうって言ったのに悲しい思いさせちゃって、泣かせちゃって本当にごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい皆が私の為に泣いてくれたら嬉しいなって思ってごめんなさい私が死んだことで皆が怒ってくれたら良いな何て思ってごめんなさいずっと私のこと忘れないでなんて図々しいこと考えてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい泣かせてしまって悲しませてしまって嬉しいなんて思ってしまってごめんなさい。

 

本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと知らない天井だった。

 

 「………………ここは?」

 

 「目が覚めた、友奈?」

 

 「…………お母さん」

 

 ベットの隣に座っていたお母さんに経緯を聞いた。どうやらあの後私は気を失い、チカちゃんの声を聞いて駆けつけてくれたチカちゃんの家族が救急車を喚び、そのまま病院に搬送されたらしい。

 

 「お医者様が言うには軽い脳振盪だろうって。意識が戻ったから今日一日だけ入院して明日の午前中には退院出来るだろうって」

 

 代わりにお医者様の話を聞いてくれたお母さんが戻って来て私にそう告げる。

 

 「まったくもう、焔さんから友奈が倒れたって聞いた時はすっごく心配したんだからね」

 

 「心配かけてごめんなさい、お母さん」

 

 「本当によ。それで、何があったの?」

 

 私は前世の記憶が戻ったこと以外のことを簡単に説明した。

 

 「………………それでか。千景ちゃん、私のせいだってすごく落ち込んでたのよ。明日には会えると思うから元気な姿見せてあげなさい」

 

 「………………………うん」

 

 あの時、チカちゃんは私のことを無意識に『高嶋さん』って呼んでいた。つまりは、私と同じなんだと思う。私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()どんな顔して会えば良いのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世の記憶が戻ってから一ヶ月。私はまともにチカちゃんと話していない。私が退院した日に2人で謝りあったのだけれども、お互いに前世の記憶については触れてはおらず、何だか変な雰囲気になってしまい、そのままずるずると時間だけが過ぎてしまっていた。

 そんな訳でチカちゃんと遊ぶ以外の時間の使い方を知らない私は日曜日が暇になり自室でだらだらと過ごしているとチカちゃんのお兄さんが訪ねて来た。

 

 「友奈、入って良いか?」

 

 「お兄ちゃん?」

 

 私はチカちゃんのお兄さんである徹隆さんを昔から『お兄ちゃん』と呼んでいて、本人も妹が増えたと喜んでいたりする。

 

 「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

 「ん~、まどろっこしいのが苦手だから単刀直入に聞くけど、千景と何があった?」

 

 「………………………」

 

 私はお兄ちゃんの質問に答えられずにいた。お兄ちゃんの用件はだいたい予想が付いていたけど、前世だなんてそう簡単に信じてくれるものじゃない。

 

 「………………はぁ~」

 

 黙っている私にお兄ちゃんは溜息を一つ吐いて近づく。

 

 「友奈」

 

 「え?」

 

 私の両肩を両腕でしっかり抑えていつになく真剣な眼差しで見つめてくる。そしてお兄ちゃんは、徐々に顔を近づけてくる。え、ちょ、ちょっと待って!!近い近い!顔が近い!!て言うか、え!?何!?待って!!まさか、そんな、え、私お兄ちゃんをそんな目で見たこと無いし!!それに私にはチカちゃんがいるし!!って待っ…………

 

 ゴッ!!

 

 お兄ちゃんから頭突きを貰いました。

 

 「いっッッッッッッッッたぁァァァァァァァァ!!!!」

 

 痛い!ものすっごく痛い!!だってゴッだよ!ゴチンとかゴツンとかじゃなくてゴッだよ!!あぁぁぁぁ頭が割れる~!

 

 「…………………………」

 

 痛みでのたうち回っている私をお兄ちゃんは黙って見下ろしている。

 

 「…………千景もお前もいつまで『郡千景』とか『高嶋友奈』とか言う他人の人間関係で悩んでんだ、バカ」

 

 「!?……え、なんでお兄ちゃんがその名前…」

 

 「千景からだいたいのことは聞き出した。その上でお前も千景と似たような状況である可能性もな」

 

 「……………お兄ちゃんはその話信じるの?その、前世とか」

 

 「嘘ならもっとましな嘘つくだろ。それに、妹の目見て嘘か本当か解らなかったら兄貴失格だ」

 

 「…………そっか」

 

 「前世だの何だのは経験したこともねーからよく解んねーけど二つ。お前は()で、お前が()()()()()()()()()()だよ?」

 

 「え?」

 

 「お前は『月城友奈』であいつは『焔千景』だろ。それに俺の妹たちは互いを許せないほど器は小さくねぇ」

 

 「!!」

 

 そうだ。私は『月城友奈』だ。そしてチカちゃんは『焔千景』だ。グンちゃんじゃ『郡千景』じゃない。何で私はこんなにも当たり前で簡単でそれでいて大切なことを忘れていたんだろう。

 

 「大丈夫そうだな」

 

 お兄ちゃんが私の目を真っ直ぐ見つめてくる。

 

 「うん!」

 

 「よし!なら千景には二発ぶち込んだから平等にお前には気合を入れる為にもう一発ぶち込んどこう」

 

 「へ?」

 

 そしてお兄ちゃんは頭突きをもう一発私にぶち込んだ後、肩に担いで拉致、そのままチカちゃんの部屋に放り込んだ。

 

 「いっッッたいな~もう、頭割れそう。と言うより女の子に対する扱い方じゃないよ~………てチカちゃん!大丈夫!?」

 

 部屋を見渡すとそこにはうつ伏せに倒れたチカちゃんがいて、私は心配して直ぐに駆け寄った。

 

 「……………あの兄、いつか必ず殺す」

 

 無事みたいって、あっ、そういえばチカちゃんにもぶち込んだってお兄ちゃん言ってたっけ。

 

 「う~ん、殺すのは難しいんじゃない?」

 

 「私とユウちゃん2人でなら何とかなるんじゃないかしら?」

 

 「どうだろう?私たちの攻撃全部、あの変態さんバーテックスより軽やかに避けそう」

 

 「……………………」

 

 「どうしたの、チカちゃん?」

 

 「あの格好した兄さんを思い浮かべたわ」

 

 「……………………」

 

 私たちは2人して、網タイツとハイヒールそしてドロワのような球状のスカートを履いて上半身だけいつも通りで真顔なお兄ちゃんを想像した。

 

 「「ふっ、ふふふふっ、あはははははははははは」」

 

 ヤ、ヤバい。お、思いっきりツボに入った!これは流石に、ほ、本物の変態さんだよ!あはははははは!

 

 「「は~、笑った~」」

 

 私たちは2人して笑い疲れた。

 

 「……………ごめんね、チカちゃん。何だか避けちゃってて」

 

 「私の方こそ、話し掛ければよかったのにごめんね」

 

 「ううん。…………私ね、チカちゃんのことをグンちゃんと重ねてた。退院する前の日、私無意識の内にチカちゃんじゃなくてグンちゃんにどう謝ろうか考えてたんだ。お兄ちゃんにも言われちゃった、お前の親友は『郡千景』じゃなくて『焔千景』だろ?って」

 

 「………それを言うなら私だって、1番最初にユウちゃんのこと高嶋さんって呼んじゃってたわ。ごめんなさい」

 

 「…………………ねーチカちゃん」

 

 「うん?」

 

 「これは私の…………ううん、高嶋友奈の自己満足になるけど聞いてくれる?」

 

 「…………うん」

 

 「………………グンちゃん、約束守れず、先に死んじゃって、悲しい思いさせちゃって、ごめんなさい」

 

 「……………え?」

 

 「……………え?」

 

 あ、あれ?私なんか変な事言ったかな?

 

 「…………()()()()()?高嶋さんが?」

 

 「え?う、うん。1番最初に」

 

 「1番最初?伊予島さんと土居さんではなく?」

 

 「え?アンちゃんもタマちゃんも生きてるよね?」

 

 「あの尻尾みたいなモノに針が付いた巨大バーテックスは?」

 

 「あれなら私とグンちゃんと若葉ちゃんで倒したよ?」

 

 「なんか千景から聞いた話とずいぶん違うな」

 

 「兄さん!」

 

 「母さんからケーキとお茶の差し入れ持ってきたんだが

 ………………………話から聞くに平行世界とかそんなんじゃねぇの?」

 

 「「平行世界?」」

 

 お兄ちゃんが言うにはとある出来事で異なる選択をした可能性の別の未来の世界をそう言うらしい。チカちゃんからの話と合わせるとどうやら『酒呑童子(しゅてんどうじ)』をアンちゃんとタマちゃんが殺されてから使ったか殺される前に使ったかが分岐点だったのではないかとお兄ちゃんが言う。

 

 「それと、アンちゃんとタマちゃんがあのエビみたいなのにやられそうになった時、若葉ちゃんが『大天狗(おおてんぐ)』を、グンちゃんが 『玉藻前(たまものまえ)』を喚んでたね」

 

 「………もしかして『高嶋友奈』が死んだ理由ってそれじゃね?」

 

 「「え?」」

 

 「その、お前らが戦ってた化け物………え~っと、インデックス?」

 

 「「バーテックス」」

 

 「そうそう、バーテックス。そのバーテックスって知能あったんだろ?だから、巨大バーテックスだけじゃ倒せないと思って超巨大バーテックスを寄越して来て、さらに巨大バーテックスによる不意打ちも作戦に入れてたんじゃねぇの?」

 

 「なるほど~」

 

 「…………………まあ、その時にユウちゃんの方の高嶋さんが死ななくても、その後郡千景が何かしら問題を起こしていたでしょうね。なんてったって『玉藻前』を喚んだんだから。『七人御先(しちにんみさき)』の瘴気の比じゃないだろうし」

 

 「瘴気?」

 

 「?……………ああ、ユウちゃんは瘴気について知らないのね。精霊って大抵が妖怪だから体内に入れると圧倒的な力と共に、呪術的な瘴気とか穢れとか悪い感情を想起させる負のエネルギーも流れ込んでくるのよ」

 

 「え!それってかなり危ないんじゃ……」

 

 「ええ、私の方の郡千景は『七人御先』しか喚んでないけど、それでもその瘴気にあてられて『乃木若葉さえいなくなれば高嶋友奈は郡千景のモノになる』なんて極論に至って乃木さんを襲いだしたわ。しかも戦闘中に………」

 

 「チカちゃん……」

 

 よく見るとチカちゃんは小さく震えていた。

 

 「最終的には乃木さんを殺そうとした時に勇者システムが強制的に解除されて、多分勇者として失格になったんだと思う。そりゃあそうよね、同じ勇者を、仲間を殺そうとしたんだから。でも、乃木さんはそんな私を仲間だから友達だからって言って守ってくれて、そんな彼女の背中に私は憧れたの。友達だからってだけで命を懸けられる彼女の背中に…………なのに!私はまた友達を無くすところだった!!ユウちゃんに高嶋さんの記憶があるかもしれないと思って、私の行動を思い出して軽蔑するんじゃないかって、私のことを嫌いになるんじゃないかって、自分のことだけ考えてユウちゃんのことも高嶋さんのことも信じていなくて、これじゃあ何も変わらないよ。前世の私から何も……何も……」

 

 「チカちゃん!」

 

 私は抱きついた。チカちゃんに力いっぱい抱きついた。そうしなきゃいけないと思ったから。チカちゃんの親友としてそうしてあげなきゃいけないと思ったから。

 

 「ユウちゃん?」

 

 「私ね、死ぬ時に皆が私の為に泣いてくれたら良いなぁって思ってたんだ。酷いよね。皆が悲しんでくれたら嬉しいだなんて」

 

 「そんなこと無い!ユウちゃんは酷くない!それに、それは精霊の瘴気のせいだろうし」

 

 「ありがとう、チカちゃん。でも、()()()()()()()()ってことは、この酷い部分も自分の一部なんだと思う。だからね、チカちゃん。この酷い部分も含めて私の全部を好きになって」

 

 「ユウちゃんの全部を好きに?」

 

 「うん。チカちゃんが私の酷い部分も含めて全部好きになってくれたら、きっと私は私のこの酷い部分を好きになれる。………だって、好きな人が好きになった部分だよ。好きにならない訳ないよ」

 

 これはかなり大変な事だろうと思う。醜い部分を好きになることも、自分の醜い部分を好きな人にさらけ出すことも、でも……………

 

 「うん………うん。なら、ユウちゃんも私の醜い部分を好きになってね?」

 

 「何言ってるの。私はずっと前からチカちゃんのことが大好きなんだよ。今回のことだって新しい一面が知れたって嬉しいんだから」

 

 「………ははは、ユウちゃんには敵わないな~。………解った。私はこれからもユウちゃんを好きになっていく。高嶋友奈の記憶も含めて『月城友奈』を好きになっていく。…………だから…」

 

 「私も、もっともっと好きになる。チカちゃんのことを『焔千景』を好きになる。………だから…」

 

 「「覚悟しててね」」

 

 私たちはそう言って泣きながらもう一度力いっぱい抱きしめあった。




オマケ

 ―現在
 
 「そういえば、あの時食べてたケーキも林檎のシーブストだったよね。…………ん~。C'est très bon!(すごく美味しい!)
 
 私は焔家に来て荷物をチカちゃんの部屋に運んでから、おやつとしてケーキを戴いていた。
 
 「まぁ、あん時と違ってこのケーキ作ったの母さんじゃなくて千景だけどな」
 
 お兄ちゃんがケーキを食べながら驚きの真実を語る。
 
 「C'est vrai!?(本当に!?)凄いよチカちゃん!!」
 
 「ふふ~ん、今の私ならお母さんのケーキを80%近く再現出来るわ!」
 
 チカちゃんが胸を張りながらドヤ顔で応える。
 ヤ、ヤバい、チョ~可愛い~!ドヤ顔チカちゃんすんごく可愛い~!
 
 「…………そういえばユウちゃんは、あれから武術はまだやってるの?」
 
 私がチカちゃんの可愛さに悶えているとチカちゃんから質問がきた。
 
 「え!?……ああ、うん。フランスでサバットも習って少し組み入れたんだ」
 
 『高嶋友奈』の記憶が戻ってから私は無手の武術を幾つか習い始めた。色々組み込みすぎて我流に近くなってしまっているけど基本的には空手が主軸になっている。
 
 「チカちゃんもまだやってるの?」
 
 「ええ、鎌と棒術、それから合気道をね」
 
 「鎌は『郡千景』で解ってたけど棒術と合気道も習ってたんだね。………………ところで急にどうしたの?」
 
 「…………………いえ、あの時のことを考えてたら思い出したのよ。……………兄さんを殺そうとしてたな~って」
 
 チカちゃんの話が終わる前にお兄ちゃんが全速力で家から飛び出していく。
 
 「逃がさない!」
 
 そう言って棍を持ってチカちゃんがお兄ちゃんの前に先廻りする。うわ!速い!何あの足運び!
 
 「く、前より断然速くなってやがる!」
 
 「ふふふ、瞬発力や速度ならもう兄さんにも負けない。さあ、あの時に私とユウちゃんにぶち込んだ頭突きの分を死を持って償いなさい!」
 
 「頭突き四発で殺されてたまるか!てか、今まで忘れてたんだろ?なら、もういいだろ」
 
 「………………ユウちゃんが帰ってくるのを待っていただけよ」
 
 「嘘つけー。目ぇ反らすなぁ」
 
 「………ちっ!ユウちゃんやっておしまい!」
 
 図星を突かれたチカちゃんが2人に追い着いた私に攻撃命令を出す。
 
 「オリャアァァァ!Un homme courageux(勇者) Coup de pide haup!!(ハイキーック!!)
 
 「危な!?」
 
 「待って、ユウちゃん!今スカートだからそれやったら!」
 
 「え?……ッッッ!?」
 
 私は忙しいで脚を下げて自分のスカートを抑える。
 
 「………………L'avez-vous vu?(見た?)
 
 「…………見てない」
 
 「C'est un mensonge!(嘘だ!)だって誤魔化し方がチカちゃんと同じだもん!見たんでしょ!私のクマさんパンツ!!」
 
 「ちょっと待て!ピンクのストライプだろ!?あっ」
 
 ビュンッ!
 
 「うおっ!?」
 
 「ユウちゃんのパンツを…………………兄さん、覚悟は良い?」
 
 「待て待て!見ちまったのは認めるが、ありゃあ不可抗力だ」
 
 「でも、嬉しくはあったでしょ?」
 
 「そりゃあまあ、妹みたいな存在だとしても美少女の下着だし、男としてはねぇ」
 
 
「「死ね」」

 
 ビュンッ!
 ゴギャッ!



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陽気(前編)

第3話です。

待ってくれている人がいるかどうか解りませんが遅くなり申し訳ありません。

予想以上に長く成ってしまったので前後編に分けさせていただきます。

人物紹介等は後編の後書きにのせる予定です。

※ダク更新しました。


 「街の案内?」

 

 ユウちゃんが家に来た次の日、朝食を食べながらお母さんが提案してきた。

 

 「そう。友奈ちゃんがこっちに居たのは4年も前のことだし、まだ小学生だったから行動範囲も狭かっただろうしね。お昼食べたら2人で行ってきなさいな」

 

 「うん、解ったわ」

 

 確かに4年も経てば色々変わってるか。中学校に通い始めたら勉強やら部活やらで忙しく成るだろうし、今の内によく行くお店とかの場所教えとくべきかもね。

 あ、そういえば新しいイオンが出来てまだ一度も行ってなかったわ。この際だからユウちゃんと一緒に行こうかしら?…………それにしても『イオン』なのよねぇ。前世で(前の時)は『イネス』だったのに。まあ、それを言うなら今は四国じゃなくて東北だし、今年西暦2019年だし、それなのにバーテックスも襲来してないし。

 

 「タカキも頑張ってたし」

 

 「え?急にどうしたの?兄さん」

 

 「イヤ、なんか言わなきゃいけないような気がして」

 

 「?…………そういえば、兄さんも一緒に来る?」

 

 「今日もこれから部長会議。それ終わったら友達と約束あるし、今回はパス」

 

 「友達って、真悟(まさと)さんと景友(あきと)さん?」

 

 「ああ、あいつらもいるぞ。……ん?てかお前、あいつらに会ったことあったっけ?」

 

 「いいえ、でも兄さんの口からよく名前を聞くから。と言うか、あいつら()って兄さんその2人以外にも友達いたんだ?」

 

 「イヤ、普通にいるから!」

 

 「え?私の兄さんのクセに?」

 

 「ちょっと待て千景、その台詞は俺をディスってんの?それとも自分自身をディスってんの?」

 

 「私はユウちゃん以外友達いないのよねぇ」

 

 「自分で言ってて悲しくなってこない?それ」

 

 「友達100人いるより大切な友達1人いれば良いのよ」

 

 「エア友達とか言いだしたら家族会議待った無しだからやめてくれよ?」

 

 「私の場合大切な友達どころか恋人みたいなものだから勝ち組になるんじゃないかしら?」

 

 「ヤバい、俺の妹の思考回路がかっとビングすぎる。………まあとりあえず、今回は2人で行ってこい」

 

 「ええ、そうさせて貰うわ」

 

 部長会議か~。春休みなのにご苦労様です。とりあえず、私とユウちゃんだけということになったわ。………ん?これってデートかしら?

 

 「ん~。この煮付け美味しい~」

 

 「友奈、ご飯茶碗空だけどおかわりいる?」

 

 「え、えっと~、良い?」

 

 「おう、俺もちょうど空だからな。一緒に持ってくるよ」

 

 「ありがとう、お兄ちゃん」

 

 兄さんが自分とユウちゃんの分の茶碗を持って台所まで歩いて行く。ユウちゃんが話に参加してないと思ったらご飯食べるのに夢中だったのね。と言うか、上目遣いで恥ずかしながらの『良い?』は反則ね。破壊力が半端ないわ!直接喰らっていないのにこの威力か!よく兄さん無事ね?あ、足震えてる。結構ダメージ受けてたか。

 

 「それにしても、すごいね。品数豊富な上にどれも美味しいし!これ全部お兄ちゃんが作ったんでしょ?」

 

 「ええ、兄さんが朝食担当になってからもう5年位かしら?毎日作っているからメキメキ上達しているわ。品数が多いのは『朝こそ沢山食べるべき』って言うのが兄さんの持論だからよ」

 

 「へ~。そういえば、チカちゃんも料理出来るんだよね?」

 

 「私はお菓子しか作れないわ」

 

 「そうなの?でも凄いよ!」

 

 「ふふふ、ありがとう。今日は出掛けるから無理だけど、明日の3時のおやつは期待しててね」

 

 「本当!?ワーイ、やったー!ありがとうチカちゃん!!」

 

 そう言ってユウちゃんは私に抱き付いてきた。ここまで喜んでくれるなら作る人冥利に尽きるわね。それにしてもユウちゃんは天使かしら?それとも笑顔の女神?はたまた私に幸せを運んでくれる福の神?いいえ、そんな当たり前なモノじゃないわ!ユウちゃんは『可愛い』とか『尊い』とかの事象を具象化したモノよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中にユウちゃんと一緒に中学の勉強の予習をやって、お昼にお父さんの作ってくれた特製ランチプレートを食べてから、私たちは街へと繰り出した。最初は私がよく行く書店とゲームショップに行ってから新しく出来たイオンへと向かった。

 

 「北岡市にはイオンが2つあるんだね~」

 

 「ええ、まあ、こっちは新しく出来たのだけれど」

 

 「東北で同じ市に2つもイオンがあるって珍しくない?」

 

 「どうだろう?他の県って修学旅行以外で行ったことないのよね」

 

 「ん~。ならさ、今度一緒に何処か旅行に行こうよ!」

 

 「旅行?ユウちゃんと?」

 

 「そう!2人だけで!」

 

 「ふっ、2人だけで!?」

 

 「うん、そう!きっと楽しいよ!」

 

 「………中学最後の春休みに卒業旅行みたいな感じ?」

 

 「あ、それ良いかも!」

 

 「でも、中学で卒業旅行ってあまり聞かなくない?」

 

 「ん~。………あ!ならさ、中学の時はお兄ちゃんを連れていって、婚前旅行は高校卒業後に行こうよ!」

 

 「こっ、婚前旅行!?」

 

 「そうそう、何処が良いかな?」

 

 「熱海で温泉とか良いかもね」

 

 「それ良いかも!………お兄ちゃんと一緒だと覗かれそうだし……ラッキースケベで………」

 

 「………否定出来ない……」

 

 そんなとりとめの無い会話をしながらイオンへとたどり着いた私たちは最初にゲームセンターへ行った。

 

 「さてと、ユウちゃん何かやりたいゲームある?」

 

 「う~ん、あ!パンチングマシーンはやりたいかも」

 

 「なら行ってみましょうか」

 

 そんな訳で私たちはパンチングマシーンへと向かった。マシーンの所には人がいなかったので直ぐに始められた。

 

 「よーし、いっくぞー!」

 

 そう言ってユウちゃんは一度大きく息を吐きながら右拳を引き左拳を緩く前に出し半身になる。それから2回呼吸を整えたら上半身をひねり引いてた拳に回転を加え一気に貫き放つ!

 

 「Un homme courageux(勇者) poinçon!(パーンチ!)

 

 ユウちゃんのパンチを受けたマシーンに得点が表示され、トータルランキングへと移行される。

 

 「トータルランキング2位!流石ユウちゃん!」

 

 かなりの高得点に私がはしゃいでいると周りのギャラリーも一緒になって歓声を上げた。ユウちゃんみたいな可愛い娘が良いスコアを叩き出したから尚更だろうしね。

 

 「チカちゃんもやってみる?」

 

 「う~ん、じゃあ、1回だけ」

 

 私も武術をやってるしそこまでヒドい結果にはならないだろう。まあ、武器と合気が基本だから無手主体のユウちゃんには敵わないだろうけど。

 私はユウちゃんのように右拳を引き左拳を緩く前に出し半身になる。ただ、私の場合は拳は握っておらず親指以外の四指を曲げた、底掌の構えを取る。そして、水平ではなく若干斜め下から掬い上げるように振り抜く!

 

 「お~!ランキング4位だって!凄いよチカちゃん!」

 

 思った以上に上位にランクインしたわね。でも、それならユウちゃんの下の3位が良かったな~。

 そんな事を考えていると周りのギャラリーが盛り上がっていた。私たちみたいな女の子がランキング上位になればやはり目立つか。ただ、ちらほらとギャラリーから「俺も殴って貰いたい」とか「俺は蹴って貰いたい」とか「踏んでほしい」とか「お姉様って呼ばせて下さい」とか「私の妹にならない?」とか聞こえたような気がするけど、気のせいよね。うんうん、聞こえない聞こえない。私はなーんも聞こえない。

 私とユウちゃんはギャラリーに向かって一度礼をしてその場を後にした。

 余談ではあるが、その後女の子のパンチングマシーンの利用者が増えたらしい。

 

 「ユウちゃん、次は何やる?」

 

 「う~ん、ん?ねぇチカちゃん、あそこ盛り上がってるみたいだけどなんだろう?」

 

 「え?う~んと、あれはダンシングゲームじゃないかしら?」

 

 ユウちゃんの指差す方向を見るとダンシングゲームに人が集まっていた。近くに寄って見てみると赤髪ポニーテールの女の子と高校生くらいの男子が対戦をしていた。画面のスコアを見ると女の子の方が圧倒的だ。

 

 「わ~。あの人上手だね!」

 

 「そうね。身体全体でしっかりリズムを取ってる。あの人あのゲームかなりやり込んでると見た!」

 

 「終わったら私たちもやってみる?」

 

 「私はパス。ユウちゃんはジーパンだけど、私スカートだし」

 

 「あ!そっか。ごめんね」

 

 「ううん、大丈夫」

 

 「………お兄ちゃんがいたら、無言でスパッツとか渡してきそう」

 

 「………兄さんなら普通にズボン渡してくるんじゃない?『たとえスパッツだろうと妹のスカートの中は俺が死守する!』とかほざいて」

 

 「………簡単に想像出来た」

 

 兄さんはいつもはまともなのだけれど、はっちゃけるとかなり変人になる。本人曰く変人な方が素らしいのだが、兄妹である私たちにもよく解っていない。そんな事をユウちゃんと話ていると対戦が終了していた。

 

 「さて、ギャラリーの中で次にアタシと勝負したいヤツはいるかい?」

 

 赤髪の女の子が対戦相手を募っている。

 

 「ユウちゃん行ってみたら?」

 

 「う~ん、そうだね。ちょっと行ってくるよ。はいは~い!私やります!」

 

 「お!今度の相手はあんたか。プレイ料金はあんたが払う形になるけど良いかい?」

 

 「うん。良いですよ!」

 

 「曲はどうする?」

 

 「私このゲーム初めてだから決めて貰って良いですか?」

 

 「良いけど、そうするとアタシの得意なのになるけど良いの?」

 

 「うん」

 

 「………へぇ~」

 

 ユウちゃんはそんなつもり無いのだろうけど相手は煽ってきていると思ったみたいね。かなり難しそうな曲を選んできたわ。

 そして曲が流れ2人のダンシングバトルが始まった。得意と言うだけあって女の子はどんどんスコアを上げていく。が、ユウちゃんも負けておらず同スコアを叩き出している。

 

 「へぇ~、やるじゃん!あんた!」

 

 「楽しいね、これ!」

 

 「……あはは!そうかい。そりゃあ良かった!さあ、こっからもっと難しくなるよ。アタシに付いてこれるかな?」

 

 「頑張る!」

 

 そう言って2人はすごく楽しそうに笑顔で踊りきる。

 曲が終わって画面を見ると2人とも同ハイスコアとなっていた。

 

 「はぁ…はぁ……同点か~。アタシの十八番の曲だったんだけどな~」

 

 「はぁ…はぁ……すっごい楽しかったね!」

 

 ユウちゃんが女の子に笑顔を向ける。

 

 「………あはは!あんた面白いな!これ食うかい?」

 

 そう言って女の子はポケットから棒キャンディーを取り出してユウちゃんに差し出す。ユウちゃんはそれを受け取ってお礼を言う。

 

 「Merci!(ありがとう!)

 

 「え!?な、何?」

 

 「あ、ご、ごめんなさい。私ついこの前までフランスで生活してたから、たまにフランス語が出ちゃって」

 

 「へぇ~、なんかますます面白いな!アタシは佐倉杏子(さくらきょうこ)。よろしくね。それから、普通にタメ口で良いから」

 

 「うん。私は月城友奈。友奈って呼んでね。杏子ちゃん」

 

 そう言って2人は握手を交わす。それと同時に周りで見ていたギャラリーが拍手を送ってきた。恥ずかしくなったのか2人は頬を染めながらそそくさと少し離れた場所に移動した。私はそんな2人を追って声をかける。

 

 「おつかれ、ユウちゃん」

 「おつかれ、杏子」

 

 私の言葉はもう1人の声と被る。被った声の主を見るとその人もこちらを見ていた。

 

 「ありゃ、ごめんね。声被っちゃった」

 

 「あ、いえ。こちらこそごめんなさい」

 

 水色の短めの髪の制服を着た女の子が謝ってきたのでこちらも謝り返す。

 

 「あ、チカちゃん!」

 

 そんな私たちにユウちゃんが声をかけてきた。

 

 「さやか。どうよ。アタシのダンス」

 

 「はいはい、上手い上手い。っと、アタシは美樹(みき)さやか。杏子の一応友人。よろしくね」

 

 「おい!一応ってなんだよ!」

 

 「あ、私は月城友奈です。こっちは親友のチカちゃん」

 

 「あっちは親友なのにこっちは一応って付いてて悲しくなってきた」

 

 「ユウちゃんの親友の焔千景です」

 

 「おい!何で今親友強調した?これ当て付けか?当て付けなのか?」

 

 「まあまあ、杏子。………それにしても『ほむら』ねぇ~。黒髪だし眼鏡だし」

 

 そう言いながら美樹さんは私の顔を観察してきた。どうかしたのかしら?あ、よく見たら美樹さんの制服、宮沢中の制服ね。もしかして、兄さんを知っているのかな?兄さんも黒髪で眼鏡かけてるし。

 

 「えっと~、つかぬことをお伺いしますが、お二人は同年代ですか?」

 

 私が見られている理由を考えていると隣のユウちゃんがおずおずと美樹さんに質問してきた。

 

 「ん?そうだよ」

 

 「pardon!(ごめんなさい!)

 

 「え?え!?」

 

 「ユウちゃん、またフランス語になってる。それにどうしたの?急に謝りだして」

 

 「え?今のフランス語だったの?」

 

 「そうそう、なんでも友奈は先日までフランスに居たからたまにフランス語が出ちまうんだと。てか、何で謝ってんだ?」

 

 「私たち、お二人の1年後輩で、それなのにさっき杏子さんのこと杏子ちゃんって呼んじゃって、しかもタメ口でしたし……」

 

 「はあ?そんなことで謝ったのかよ?別に気にしてないから。呼び方もタメ口もそのままで良いぞ」

 

 「杏子の言うとおり。アタシにもタメ口で良いし、さやかって呼んで良いから」

 

 「Est-ce bien?(良いの?)

 

 「お~い、またフランス語になってるぞ。ほむら、今友奈なんて言ったの?」

 

 「『良いの?』って。あと私のことも千景で良いですよ」

 

 「そっか、じゃあアタシのことも杏子で。あと、タメ口で普通に良いからな、千景」

 

 「解ったわ。杏子ちゃん」

 

 「………う~ん、このコミュ力は『ほむら』では無いかな?隣にいるのも()()()じゃないし」

 

 「?」

 

 「ああ、ごめんね。こっちの話。アタシのこともさやかで良いよ、千景」

 

 「うん、さやかちゃん」

 

 どうやらさやかちゃんが私の顔を見ていたのは私の考えていた理由ではなかったらしい。誰かと間違えていたのかな?それにしては変な間違え方のような気がするけど。

 

 「………さやかちゃん、杏子ちゃん」

 

 私たちが話ていると黒髪を赤いリボンでポニーテールにした女の子が話かけてきた。

 

 「ん?どうした、ひふみ?」

 

 「決着が付きそうだから呼びに来たの。………そっちの人たちは?」

 

 「さっき知り合った友奈と千景」

 

 「初めまして、月城友奈です」

 

 「焔千景です」

 

 「滝本(たきもと)ひふみです。………えっと、よろしくね」

 

 なんだろう。さやかちゃんたちと普通に話ていて制服だから年上だと思うんだけど、小動物的にものすごく可愛い人ね。………あ、雰囲気が伊予島さんに似てるかも。ただ……

 

 「ねぇチカちゃん、ヒナちゃんくらいあるかな?

 

 「もしかしたら、それ以上かも

 

 私とユウちゃんは小声で話し合った。何処がとは言わないが土居さんがいたら確実にモグ対象だったでしょうね。

 

 「………焔……あの……千景……さん?」

 

 「あ、呼び捨てで構いませんよ?先輩でしょうし」

 

 「じゃあ、千景ちゃんで」

 

 「はい」

 

 「千景ちゃんって、もしかして徹隆君の妹かな?」

 

 そう言ってひふみさんは格闘ゲームコーナーの一角を指差す。そこには………

 

 「あ、まさかの切腹喰らった」

 

 「 (てつ)のマーシャル・ロウが死んだ!」

 

 「この人でなし!」

 

 「5人で挑んで、もぎ取れたのは二本だけか」

 

 「『絶剣(ぜっけん)』恐るべし」

 

 「ヤッター!今日も五連勝!ボクの吉光(よしみつ)に勝とうなんて10年早い!」

 

 兄さんが鉄拳で負けていた。

 




後編は4日以内に投稿予定


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陽気(後編)

第3話後編です。


 「約束ってイオンで遊ぶことだったのね」

 

 私たちは格ゲーをやっていた兄さんに近づき話し掛けた。

 

 「お?千景か。お前も来てたんだ」

 

 「ええ、ところで………」

 

 私は兄さんと一緒にいた人たちを見る。男子が4人に紺色の長い髪に赤い瞳の女の子が1人。

 

 「ん?ああ、こいつらが俺の言った友達だよ」

 

 「…………本当にいたのね。2人でも怪しいと思っていたのだけれど」

 

 「おい!………てか佐倉たちと知り合いだったの?」

 

 「杏子ちゃんとさやかちゃんはさっき知り合ったの。ひふみさんとは自己紹介したばかりよ。………台詞から察するに杏子ちゃんたちも兄さんの友達なの?」

 

 「ん?そうだけど?」

 

 「………異性の友達も数人いるなんて、私の兄さんのクセに」

 

 「だからそれ、俺とお前どっちディスってんの?」

 

 「どっちもの可能性も有るわよ?」

 

 「あ~、諸刃の剣系か~。それ視野に入れてなかったわ」

 

 「おい徹、だいたい察しは付くがこの可愛い子たち誰だよ?そろそろ紹介してくれ」

 

 私が兄さんと話ていると茶髪でエメラルドグリーンの瞳をした男の人が質問してきた。なので私は彼と彼以外の兄さんの友達に軽く礼をしてから自己紹介を始めた。

 

 「初めまして。焔徹隆の妹の焔千景です。兄さんをぼっちにしないでくれてありがとうございます

 

 「「「「出来た妹だ!」」」」

 

 「何処がだ!?」

 

 「お兄さん思いの良い妹さんだね!」

 

 「………ユウキちゃん、今のは多分そうじゃないと思うよ?」

 

 「え、そうなの?ひふみん」

 

 兄さんの友達は私の冗談にすかさず乗ってきてくれた。どうやらノリも性格も良い人たちのようで妹として少し安心したわ。まあ、ある意味でも『良い性格』をしている人たちのようではあるが。ひふみさんと話ているユウキさん?っていう人はかなり純粋なのね。

 

 「Bonjour (こんにちは)Je suis Yuuna Tsukishiro,la sœur de Tetsutaka.(徹隆の妹の月城友奈です。)

 

 「「「「ゴリラ語!?」」」」

 

 「フランス語だよ~」

 

 「ユウキちゃん、解るの?」

 

 「挨拶程度の簡単な会話ならね~。フランス産のゲームとか字幕有っても挨拶程度ならよく聞くから馴れちゃって。ちなみにさっきのは『こんにちは、徹隆の妹の月城友奈です』だって」

 

 ユウキさん結構博識ね。しかもゲームを通してなんて、なんだか私と気が合いそうな気がするわ。

 

 「ん?徹隆の妹なのに何で月城?」

 

 兄さんの友達の………男の人よね?学ラン着てるし、茶髪のセミロングヘアで女の子みたいな顔立ちの人がユウちゃんの台詞に疑問を持つ。

 

 「ちょっ、お前な、複雑な家庭環境かもしれないだろう!察しろよ!

 

 「え!?そ、そうだったのか!?ごめんな」

 

 黒髪黒眼の中性的な顔立ちの人が小声で的外れな注意を彼にしている。そんな彼らに長ランで下駄を履いた黒髪で黄土色の瞳をした眼鏡をかけている人が自身の推測を言う。

 

 「いや、徹のことだからそんなシリアス展開は無いだろ。こいつの周りはシリアスさんが5秒で死ぬ」

 

 「さすが景友(あきと)。俺のことよく分かってるな。友奈は俺と千景の幼馴染みだ。それと友奈は今ウチに住んでいるんだよ」

 

 へ~、あの人が景友さんなのね。あの長ランと下駄はファッションかしら?何だか、番長って感じね。ユウちゃんが少し興味を惹かれてるわ。

 

 「この子日本人だよな?(幼馴染みに兄と)何でフランス語しゃべってんだ?(言われて慕われているリア充は死ね!)

 

 「つい先日までフランスにいたからなぁ。(ロリコン貴公子に言われたくないわ!)

 

 「へ~、そうなのか。じゃあ、(誰がロリコン貴公子だ!)日本語が苦手なのか?(ただ血の繋がらない)それとも殆ど喋れないの?(7歳の女の子が2人家にいるだけだ!)

 

 「いや、普通に喋れるぞ。かなり流暢に。(十分だよ!犯罪臭パネーよ!)なんて言うか、(さっき自分で言った台詞、)クセみたいなものかな?(レコーダーに録音して)たまにフランス語が出る(聞き返してみろや!)

 

 兄さんと黒髪黒眼の人がルビで喧嘩しているわ。器用なものね。そういえばユウちゃんは何でフランス語で挨拶したのかしら?

 

 「ユウちゃん、何でフランス語で挨拶したの?」

 

 「いや~、みんな驚くかなって。Je suis désolé.(ごめんなさい)

 

 そう言ってユウちゃんは舌を出して謝った。か、可愛い。

 

 「可愛い………お茶目な美少女が2人」

 

 「どったの?真悟(まさと)

 

 ユウちゃんの可愛らしい仕草を見て茶髪でエメラルドグリーンの瞳の人が何かを考え出す。会話から察するにあの人が真悟さんか~。

 そんなことを私が考えていると男性陣全員が兄さんに向き直って頭を下げだした。

 

 「「「「お義兄(にい)さんと呼ばせて下さい!」」」」

 

 「てめぇらみてーな義弟(おとうと)要らんわ!つーか、義弟自体要らんわ!」

 

 「そうね、私も嫁の方が欲しいかも」

 

 「「「「え!?」」」」

 

 「「解る!」」

 

 「「「「「ゑ?」」」」」

 

 私の一言に兄さんの友達の4人は驚いたような声を上げたが、杏子ちゃんとさやかちゃんは理解を示してくれた。………兄さん含む男性陣の思考が止まったみたいだけど。

 

 「………………はっ!思考停止してた。ま、まあ、さっきのお義兄さんの件は冗談だろ?由良(ゆい)以外は」

 

 「あ、ああ、可愛い妹がいる兄に対しての鉄板ネタだしな。由良以外は」

 

 「可愛い子への礼儀みたいなものだしな。由良以外は」

 

 「まあ、俺ら式の挨拶みたいなものだしな。由良以外は」

 

 「…………お前ら、俺のことなんだと思ってるわけ?」

 

 「「「「え?救いようのない色情魔」」」」

 

 「「「「擬態を身につけた女の敵」」」」

 

 「…………………………orz」

 

 あ、女顔の人が男性陣だけではなく女性陣からも罵倒されて崩れ落ちた。名前、由良さんっていうのね。顔だけではなく名前まで女の子みたい。それはそうと、あの人いったい何をしたのかしら?

 

 「Ça va bien?(大丈夫?)

 

 ユウちゃんが落ち込んだ彼を心配して声をかけ、手を差し出した。やっぱり、ユウちゃんは天使ね。

 

 「あ、え~と、友奈ちゃんだっけ?傷心してる彼に優しい言葉かけないほうが……」

 

 ユウちゃんに対してユウキさんが何か言おうとした時、へこんでいた由良さんが急にユウちゃんの差し出した手を両手でつかみ………

 

 「結婚前提に付き合ってください!」

 

 グキッ

 

 ベキャッ

 

 私の肘鉄と兄さんの蹴りが由良さんに炸裂した。え?この男今ユウちゃんに何か血迷ったこと言ってなかったかしら?

 

 「「今すぐ謝って殺されるか、そのまま息の根止められるか、どっちが良い?」」

 

 「ぐっ、そ……それ、選択…肢……無いよ……な…?」

 

 「いや、ちゃんと謝れる割とマシなゴミムシか、謝ることさえ出来ない最低なゴミムシか自分で選ばせてやってんだぞ?」

 

 「ユウちゃんに求婚なんて万死に値する行いをして、こんな救済措置を貰えるのよ?私たちにとっては優しい方だと思うけど?」

 

 「わー!待って待って!私なら平気だから許してあげて?」

 

 怒りのあまりゴミムシを手にかけようとした私たちをユウちゃんが止めた。あんなことされてもゴミムシを助けようなんて、やっぱりユウちゃんは天使ね。

 

 「ユウちゃんは甘いわ。あんなことした奴を許すなんて」

 

 「え~、そうかな?」

 

 「そうよ!」

 

 「そっか。でも大丈夫だよ?だって私にはチカちゃんがいるんだから」 

 

 「ユウちゃん」

 

 「チカちゃん」

 

 「……………徹、あの子たち自分たちの世界に入っているけど、止めなくていいの?」

 

 「もうすぐ終わるから大丈夫だべ」

 

 「………尊い」

 

 「「「景友、お前は本当にブレねーな」」」

 

 あ!いけないいけない、ユウちゃんと一緒に世界を造ってしまってたわ。

 

 「お?帰ってきたみたいだな。じゃあ自己紹介の続きでもすっか。俺は木之本(きのもと)真悟、よろしくな。千景と友奈って呼んで良いか?俺のことも真悟で良いから」

 

 「ええ、構いませんよ」

 

 茶髪でエメラルドグリーンの瞳をした人がやっぱり真悟さんだったようだ。気さくで優しそうな人ね。

 

 「豹垣(ひょうがき)景友だ。この長ランと下駄はウチの中学の応援団の服装だから気にしないでくれ」

 

 「応援団に入ったら私も長ラン着れますか?」

 

 「ん?あ、いや、女子は腕章だけなんだよ」

 

 「そうですか」

 

 ユウちゃんが景友さんの言葉に落ち込んでしまった。

 

 「そんなに着たかったのか?」

 

 「はい」

 

 「俺ので良かったら後で着てみるか?」

 

 「良いんですか!?」

 

 「ああ。ただし、条件がある」

 

 「条件?」

 

 先ほどあのゴミムシがいたから私たちは景友さんの言葉に少し身構える。

 

 「2人とも今期の新入生だろ?俺の妹もそうだからさ、仲良くしてやってくれ」

 

 なんてことはない。妹思いの良いお兄さんだったようね。変に身構えてしまって申し訳ないわ。

 今度は黒髪黒眼の人が私たちに近づいて挨拶してくれた。

 

 「俺の名前は里見蓮太郎(さとみれんたろう)。よろしくな、千景、友奈」

 

 「よろしくお願いします。蓮太郎さん。ところで、さっき兄さんにロリコン貴公子って呼ばれてましたけど?」

 

 「俺の家で7歳の女の子を2人預かっているんだよ」

 

 「なるほど、その子たちに好かれているからそんなあだ名に」

 

 「ま、こいつの本命は同い年の幼馴染みだがな」

 

 話ていると横から兄さんが入って来た。

 

 「お前!勝手に人の恋愛ごと言うなよ!」

 

 「お兄ちゃん、今日その人は?」

 

 「生徒会に入っていて、忙しくて今日はいない。つぅか、はよ告白しろよ。あちらさんもお前のこと好きなの知ってんだろ?」

 

 「そ、そうかも知れないけどさ。まだ心の準備とかさ………」

 

 「………ま、人の恋愛にとやかく言う訳にもいかんがな。なんかあったら手貸してやっから」

 

 「………ああ」

 

 何だか、男の友情みたいなものを見せられた。あの人たちは本当に兄さんの友達なのね。

 

 「俺は…「木戸原(きどはら)由良。今年度に通算38人の女性と付き合い修羅場を作り出したクズ」……って、おいぃぃぃぃぃ!ちょっと待て真悟!なんだよその悪意しかない紹介は!」

 

 「事実じゃん」

 

 なるほど、確かに女の敵ね。

 

 「それでいて、ウチの友奈にすら手を出そうとしたなんて……」

 

 「最低ね」

 

 「うわー」

 

 ユウちゃんにも引かれたわ。もうこの人生きてる価値無いんじゃないかしら?

 

 「ボクは紺野木綿季(こんのゆうき)。ユウキで良いよ。よろしくね、千景ちゃん、友奈ちゃん」

 

 そう言ってユウキさんは屈託のない万遍な笑顔で言ってきた。

 

 「こちらこそよろしくお願いします。ユウキさん」

 

 「敬語じゃなくて良いよ」

 

 「そう?解ったわ」

 

 「………あ…あの…」

 

 ユウキさんと話ているとひふみさんが声をかけてきた。

 

 「…………私にも、敬語じゃなくて…良いから」

 

 「え?」

 

 「………みんな…普通に喋っているのに……私だけ敬語とかなんか…ズルい」

 

 「え~と、じゃあ、解ったわ。ひふみさん」

 

 「……うん!…よろしくね、千景ちゃん」

 

 …………何でこの人はこんなに可愛いのだろうか?

 

 「そういえば、千景ちゃんってゲーム得意なんでしょ?徹から聞いてるよ」

 

 ユウキさんが私に聞いてきた。

 

 「ええまあ、それなりにはね」

 

 「じゃあさあ、ボクと1度勝負しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「く~や~し~い~!」

 

 ファーストフードコーナーでユウキちゃんが叫ぶ。あの後チカちゃんとユウキちゃんは鉄拳で勝負をし、チカちゃんがストレート勝ちした。

 

 「まさかユウキの吉光がストレート負けするとは」

 

 「ポールってあんな攻撃出来たんだ」

 

 「一撃が入った後は流れるようにコンボが決まっていったもんな~」

 

 「俺らとは次元が違いすぎる」

 

 お兄ちゃん以外の男性陣にはさっきの勝負でユウキちゃんが負けたのが意外だったようで驚いていた。

 

 「ウチの千景は、ことゲームに関しちゃあ右に出る者はそうそういねぇよ。俺らが千景と遣り合えるのはせいぜい瞬発力なんかが大切なスピードみたいなモノくらいだろ」

 

 お兄ちゃんが自慢気にチカちゃんのことを褒める。あ、チカちゃんの頬がちょっと赤い。

 

 「徹隆、あんたの妹たちはホントすごいね~。友奈だってダンシングゲームで杏子と同スコアだったし」

 

 「「「「「はあ!?」」」」」

 

 !びっくりした~。ダンシングゲームでの勝負を見ていないお兄ちゃん以外の人が一斉に声を上げて私を見てきた。え、え~と、この場合、如何すれば良いんだろう?

 

 「お前ら落ち着け。友奈が困ってるだろうが」

 

 「あ、悪い。それにしてもダンシングゲームであの杏子と同スコアとは。友奈の得意な曲だったのか?」

 

 真悟さんが杏子ちゃんに聞いてきた。

 

 「いや、アタシの十八番の曲だったよ」

 

 「しかも杏子並みに楽しそうに踊ってたよ」

 

 「…………マジで?」

 

 「うん。マジ」

 

 みんなが私の方を見て感嘆の息をもらす。な、なんかものすごく恥ずかしいな~。私もさっきのチカちゃんみたいに顔赤くなってないかな?

 そんなことを考えてたら蓮太郎さんが質問してきた。

 

 「フランスの方でダンスかなんか習ってたのか?」

 

 「いいえ、特にそういうのは」

 

 「じゃあ、習ってたのは武術か何かか。千景も何か習ってるよな?」

 

 「「!?」」

 

 え!?何で蓮太郎さん私たちが何かしらの武術を習っているって解ったの?

 

 「重心の取り方でだいたい解る人には解るんだよ。蓮太郎も天童流戦闘術(てんどうりゅうせんとうじゅつ)って武術やってるからな。ちなみに、見ただけで解る領域まで行っているのはこの中では俺と真悟、景友、蓮太郎、あとユウキくらいだな」

 

 お兄ちゃんが教えてくれた。へー、見ただけで解る人には解るんだ。

 

 「兄さん、蓮太郎さんってどのくらい強いの?」

 

 「ん?そうだな~、真悟と景友が俺と同じくらいで、ユウキが速さに関しちゃ俺らより頭一つ分は抜きんでていて、そんな感じの俺ら4人が一斉にかかって漸く互角ちょい上くらいかな?」

 

 「「え!?」」

 

 お兄ちゃんの実力は私たちの少し上くらいだ。真悟さんと景友さんがそのお兄ちゃんと同じくらいと言うのは解らなくは無い。でも、ユウキちゃんはお兄ちゃんより速くて、蓮太郎さんはそんな4人が一斉にかかって漸く互角だなんて、すごい!

 

 「他の人は何かやっているの?」

 

 「アタシとさやかはちょっと囓った程度だよ」

 

 「俺とひふみちゃんに関してはただの一般人だ」

 

 「「「「「「「滝本(ひふみ)に関しちゃそうだが由良が一般人っていうのは、一般人に失礼だ(よ)」」」」」」」

 

 「……………orz」

 

 また由良さんが崩れ落ちた。

 

 「…………ユウキちゃんと…蓮太郎君は……『意異名(いいな)』も……ある…から」

 

 「『意異名』?」

 

 「ウチの学校で有名になった奴らの二つ名みたいなモノだよ。俺らの中だとあと徹と由良も持ってるな」

 

 「ちなみに、大抵の奴らはその名前を嫌がったり恥ずかしがったりしてるから『自分の()思とは()なる()前』だから『意異名』なんだよ」

 

 真悟さんと景友さんが説明してくれた。へー、意異名か~。お兄ちゃんも持ってるんだ。何か格好いいな~。

 

 「兄さんからそんな話聞いたこと無いんだけど?」

 

 「だって俺の意異名アレだし。それに厨二臭いし」

 

 「まあ、大人になったらほぼ黒歴史間違いなしだからな~」

 

 「それで、お兄ちゃんたちの意異名って?」

 

 私の質問に真悟さんが答えてくれた。

 

 「徹が『常壊者(じょうかいしゃ)』、蓮太郎は『覇拳(はけん)』、由良のが『色欲姫(しきよくひめ)』、んでユウキのは『絶剣(ぜっけん)』だな」

 

 「か、格好いい~!お兄ちゃん『常壊者』だって!凄く格好いいよ!」

 

 「頼む友奈。純粋な瞳でその名前を褒めないでくれ。恥ずかしいから」

 

 「でも何でそんな意異名が付いたのかしら?」

 

 「それはな千景、徹が入学して10日で文芸部を立ち上げたからだよ。大抵は新しい部活を立ち上げるのは、2年生だったり、1年生でもせいぜい半年くらい後なんだが、こいつはそれを入学して直ぐにやりやがった。しかも、普通は一ヶ月近くかかるのにそれを10日で発足させた。だから『()識を悉く破()する()』ってことで『常壊者』って意異名が付いたんだよ」

 

 「つまり、兄さんがはっちゃけ過ぎたのが原因という訳ね」

 

 真悟さんがお兄ちゃんの意異名について詳しく教えてくれた。

 

 「ボクの意異名はね、体験入部の時にインターミドルでベスト3になった剣道部部長を瞬殺しちゃったから『()対無敵の()士』で『絶剣』ってなったんだ」

 

 ユウキちゃんが自分の意異名について教えてくれた。どうやらユウキちゃんはお兄ちゃんみたいに自分の意異名を嫌ってないみたい。それにしても『絶剣』!これも格好いいな~。

 

 「蓮太郎のはあれでしょ。好きな人が不良グループのリーダーに目を付けられて、それでそいつをワンパンでやっつけちゃったから『()道を極めし()』で『覇拳』。良いよね~。大切な人の為に戦う人。アタシも憧れちゃうな~」

 

 「ア、アタシだってさやかがそうなったら戦うぞ!」

 

 「ホントに~?」

 

 「ホントだって!」

 

 「そう。じゃあ、そん時は期待してるよ。杏子」

 

 「ああ!任しときな!」

 

 「何か俺の意異名の説明されてた筈なのに2人がイチャイチャしだした。…………景友、フライドポテトでキマシタワー建てようとしてんじゃねえよ」

 

 杏子ちゃんとさやかちゃん仲良いな~。景友さんが作ろうとしてたキマシタワーって何処のタワーだろう?後でお兄ちゃんに聞いてみよう。

 

 「由良の意異名に関しては言わずもがなだな。こいつの起こした修羅場とこいつの見た目からだ」

 

 「徹、こいつの意異名ってもう一つ候補無かったっけ?」

 

 「それなら『ユイの蟲惑魔(こわくま)』だな。遊戯王の蟲惑魔にちなんで付けようとしたらしいが()()()()()()()()()()()()()()()()()から没になって『色欲姫』に決定したらしい」

 

 へー、意異名って何だか面白いな~。もし私たちに意異名が付いたらどんな意異名になるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はユウちゃんと兄さんと一緒に帰路についていた。あの後蓮太郎さんがタイムセールに出陣してそのままみんなと別れる形になった。

 

 「兄さんの友達は濃い人たちばっかりね」

 

 「まあ、否定は出来んな。由良も含めて悪い奴らではないんだがな」

 

 「由良さんも?」

 

 兄さんが由良さんを擁護したのに私とユウちゃんは少し驚いた。

 

 「あいつは、女癖は悪いが根っからの悪人って訳ではないからな。それに、あいつと一緒にいる女性たちもなんやかんやで楽しんでるみたいだし。『木戸原由良被害者の会』とか作ってるし。何かしらの問題をあいつが解決して惚れた女性ってのが大半だからな~」

 

 意外に由良さんも優しい人だったらしい。でも、それならどうして修羅場ったのだろう?

 どうやらユウちゃんも同じことを考えてたらしく、兄さんに質問した。

  

 「じゃあ、どうして修羅場なんかになったの?」

 

 「ああ、それはあいつが、女性を元気付ける言葉に告白みたいな言葉ばかり使ってたから、それを勘違いした女性が乗り込んできてな。しかも、本気か冗談か、今日友奈にやったようなことを時たまするから収拾が付かなくなって、その光景を見た奴らが修羅場だと言いふらしたのが真相」

 

 「よく由良さん背中指されないわね」

 

 「ま、そこはあいつの凄いところだな。そこに痺れも憧れもしねぇけど」

 

 どうやら兄さんの友達はみんななんやかんや優しい人たちのようだ。

 

 「ま、普通そうな人はひふみさんだけね」

 

 「………………お前ら、女性陣でライン交換したよな?」

 

 「?ええ、したわよ?」

 

 「なら、後で解るか。意外に一番普通なのは真悟なんだよな~

 

 ?何か兄さんが小声で変なこと言っているけどどうしたのかしら?変な兄さん。

 

 「それにしても、前世じゃ考えられないわね。私とユウちゃんのアドレスに男の人の名前が一気に4人も増えるなんて」

 

 「お友達で見たら一気に8人だよ!凄いよね!」

 

 「おいおい、4日後中学入ったら景友の妹とも仲良くなるんだろ?それにいずれ文芸部の他の奴らも紹介するんだから、そんなんで驚いてんなよ」

 

 「あの中に文芸部員はいないの?」

 

 ユウちゃんが兄さんの発言に疑問を浮かべる。

 

 「蓮太郎と滝本だけだ。他に部員は4人いる。中学が始まったらアドレス帳が一気に埋まってくぞ」

 

 兄さんが笑いながら私たちにそう言ってきた。

 

 「わー。楽しみだね!チカちゃん!」

 

 「ええ、そうね。ユウちゃん」

 

 どうやら私たちの中学校生活は確実に楽しくも騒がしいものになるらしい。

 

 




人物紹介

佐倉杏子(さくらきょうこ)
 徹隆の中学からの友達
 ダンシングゲームが得意
 さやかの為なら戦います!

美樹(みき)さやか
 徹隆の中学からの友達
 颯爽と現れる騎士に憧れている
 杏子とイチャイチャ

滝本(たきもと)ひふみ
 徹隆の小学校からの友達
 実は真悟の幼馴染み
 上里ひなた以上

木之本真悟(きのもとまさと)
 徹隆の小学校からの友達
 バトミントン部に所属
 一応常識人枠

豹垣景友 (ひょうがきあきと)
 徹隆の小学校からの友達
 一つ下の妹がいる
 キマシタワーで仰げば尊死な人

里見蓮太郎(さとみれんたろう)
 徹隆の中学からの友達
 天童流戦闘術(てんどうりゅうせんとうじゅつ)の使い手
 ロリコン貴公子

木戸原由良(きどはらゆい)
 徹隆の中学からの友達
 見た目は完璧な男の娘
 目指す男はリトさん

紺野木綿季(こんのゆうき)
 徹隆の小学校からの友達
 純粋で意外と博識なボクっ娘
 実は校内で密かにファンクラブが出来るほど男子に人気



今週日曜日に短めの番外編を投稿予定

第4話は来週日曜日に投稿予定


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閑話1 女子(ガールズ)トーク・夜の部

第3.5話です。

時系列的には第3話後の夜です。
今回はグループチャットのイメージで書いてみました。
ひふみんの文章はこれで良いのでしょうか?
私自身あまり顔文字を使わないので皆さんの抱いているイメージとは違う使い方をしているかも知れません。


ユウキ

『千景ちゃん、友奈ちゃん、今時間有る?』

 

千景

『構わないわ。どうしたの?』

 

友奈

『私も大丈夫だよ。』

 

ユウキ

『ちょっとお話しようかなってね。

他のみんなも呼んでるから。』

 

さやか

『おっと、もう始まってた?』

 

杏子

『ワリーワリー、遅れた。さやかが長風呂なもんでさぁ。』

 

さやか

『あんたも一緒に入ってたんだから同罪でしょうが!』

 

友奈

『2人は一緒に住んでるの?』

 

さやか

『いやー、家がお隣同士だからよく一緒にいるんだよね。』

 

千景

『友人が直ぐ近くにいるなんて素敵なことね。』

 

杏子

『確かにさやかが近くにいてくれてホントに助かってんだ。

宿題見せて貰ったりとか。』

 

さやか

『アタシはあんたの小間使いか何かか!』

 

杏子

『ち、違うよ!宿題とかは一つの例えであって、

さやかにはホントに感謝してんだって!』

 

さやか

『全く。まあ、杏子が手のかかるのは前からずっと知っていたことだし、

今回はこのくらいで許してあげますか。』

 

杏子

『ホント、アリガトな、さやか。』

 

さやか

『杏子。』

 

杏子

『さやか。』

 

ユウキ

『ハイハイ、

イチャイチャはリアルでやってねー(呆れ。』

 

ひふみん

『イヤー、遅れた遅れた

(*・ω・)ノ。

ホント申し訳御座いませぬ

<(_ _)>』

 

千景

『誰!?』

 

友奈

『誰!?』

 

ひふみん

『ヤダなー、2人とも。

滝本ひふみで御座るよ

(*^o^*)』

 

千景

『え!?ちょっ、ちょっと待って!

キャラ変わり過ぎでしょ!?』

 

友奈

『え?え?本当にひふみちゃん!?』

 

さやか

『ひふみのこれは初めて見たら驚くよねぇ。』

 

ユウキ

『まあ、ひふみんは文章だといつもこんな感じだから。』

 

杏子

『アタシも初めて見た時はビビった。』

 

ユウキ

『ボクはそんなでもなかったけどね。

リアルと性格やキャラが違うなんてよくあることだし。』

 

さやか

『ユウキの言うそれってMMOとかのゲームの話でしょ?

それだったらアタシもなんとなくで解らなくもないけどさ。』

 

杏子

『ひふみのこれは普通ビビるって。』

 

ひふみん

『何だか、ゴメンね

(´・ω・`)』

 

さやか

『あ、いや!ひふみが悪い訳じゃないから!』

 

杏子

『そうそう!』

 

友奈

『私も少しびっくりしたけど、

ひふみちゃんと沢山話せて嬉しいよ。』

 

千景

『それにギャップ萌えと言うの?

私は可愛いと思うわ。』

 

ひふみん

『友奈ちゃん、

千景ちゃん

(〃'▽'〃)』

 

さやか

『天使かな?』

 

杏子

『天使か?』

 

ユウキ

『徹の妹たちは優しいねぇ。』

 

杏子

『徹隆には勿体ない妹だな。』

 

さやか

『うんうん。

だからこのさやかさんが2人を妹として貰ってしんぜよう。』

 

ひふみん

『さやかちゃん、何がだからなのか解らないよ

(゜Д゜?)。

それに2人を妹として貰うのは私で御座るよ!

(*`Д´*)』

 

ユウキ

『おっと、

なら、この中で徹と一番付き合いが長いボクにも権利が有るよね?』

 

友奈

『チカちゃん、何だか勝手に戦いが始まってるよ?』

 

千景

『私的には兄さんの妹というポジションは結構気に入ってるから、

別の誰かの妹になる気は無いわね。』

 

友奈

『私も無いかなぁ。

あ!お兄ちゃんと結婚すれば自動的に私たちが妹になるよ?

義妹だけど。』

 

千景

『あ、確かにそうね。』

 

ひふみん

『け、結婚!?

∑(゜д゜)』

 

ユウキ

『結婚かぁ。』

 

さやか

『結婚は流石にねぇ。

アタシらまだ中学生だし、

それに徹隆とだなんて元々考えてなかったしね。』

 

友奈

『さやかちゃんの場合は杏子ちゃんがいるしね!』

 

杏子

『ああ!

さやかの隣にはアタシがずっと一緒にいてやるよ。

独り身は寂しいもんな。』

 

さやか

『おいこら杏子!

それだとアタシが行き遅れみたいじゃない!』

 

ユウキ

『んー、徹とかぁ。』

 

友奈

『ユ、ユウキちゃん?

冗談だからね?』

 

ユウキ

『ん?ああ、それは解ってるよ。

ただ、もし本当に徹と結婚したらどうなるかな~って。』

 

千景

『何か問題でもあるの?

妹の私が言うのもなんだけど、それなりの優良物件だと思うわよ?

家事全般は普通に出来るし料理は上手だし。』

 

友奈

『お兄ちゃんの朝食美味しいよね~。』

 

ユウキ

『うん、それは知ってる。

たまにお弁当のおかず貰うから。

そうじゃなくて、徹とそういう関係に成るってのが想像出来なくて。』

 

ひふみん

『あ、それは私も解るかも。

テッちゃんとは友達以外の関係って想像出来ない

(´・ω・`)』

 

友奈

『テッちゃん?』

 

ユウキ

『徹のことだよ。

ひふみんは徹のことをテッちゃん、

真悟のことをマーちゃん、

景友のことをアッちゃんって呼んでたから。』

 

千景

『あれ?

でも今日兄さんのこと普通に呼んでなかった?』

 

さやか

『中学に入ってからはリアルでは呼ばなくなったんだって。』

 

友奈

『何で?』

 

ひふみん

『中学生でその呼び名は恥ずかしいかなと思って

(*´Д`*)』

 

友奈

『ひふみちゃんが恥ずかしいなら別にそのままでも良いけど、

もしお兄ちゃんが恥ずかしいと思うから呼ばなくなったとかなら気にしなくて良いと思うよ?』

 

千景

『そうね、

兄さんならむしろ呼ばれた方が喜ぶわよ。

可愛い女の子にあだ名で呼ばれるなんて男冥利に尽きるとか言って。』

 

ユウキ

『うん。

簡単に想像出来た。』

 

杏子

『なら真悟みたいに呼び方戻せば?』

 

千景

『あら、真悟さんはマーちゃん呼びなの?』

 

ひふみん

『うん。

マーちゃんとは5歳くらいからの友達だから、

マーちゃん呼びが染み付いてしまって

f(^_^)』

 

千景

『へー、ひふみさん、真悟さんと幼馴染みなのね。

真悟さん的にはこんな可愛い人と幼馴染みで幸せね。』

 

ユウキ

『うーん、どうだろう?

真悟、シスコンの気が少し強いし…。』

 

千景

『ゑ?』

 

友奈

『シ、シスコン!?』

 

ひふみん

『うん。マーちゃんにはサクちゃん、

(さくら)ちゃんっていう妹がいて、結構溺愛してるの

(・ω・)』

 

杏子

『アタシんとこのモモと同い年だっけ?』

 

ユウキ

『そうそう、今年度小五。』

 

友奈

『杏子ちゃんも妹いるんだ!』

 

さやか

桃子(ももこ)ちゃんっていう杏子に似ず、素直な可愛い子だよ。』

 

杏子

『おいこら、さやか!』

 

ユウキ

『ボクには藍子(らんこ)って双子のねーちゃんがいるよ。』

 

千景

『その藍子さんは今何処に?』

 

ユウキ

『アメリカに留学中。

来月には帰って来る予定だよ。』

 

ひふみん

『拙者は一人っ子で御座るよ

(つд`)』

 

さやか

『アタシも一人っ子。

確か、由良もだよね?』

 

杏子

『確かね。

蓮太郎のアレは妹でいいのか?』

 

ユウキ

『いいんじゃない?

彼女たちは『ふぃあんせ』だとか

『つま』だとか言ってだけど。』

 

千景

『蓮太郎さん、人気者なのね。』

 

さやか

『本人の意思とは関係なくね。

人気者といえば、ひふみが徹隆のことテッちゃんって呼んでファンクラブの人たちは大丈夫なの?』

 

千景

『ファンクラブ?

ひふみさんの?』

 

ユウキ

『ううん、徹のだよ。

大丈夫じゃない?

彼女たちボクたちのことは色々黙認してるし。』

 

千景

『はあ!?

兄さんにファンクラブ!?

嘘でしょ!?』

 

杏子

『本当本当。

しかもかなり過激で告白どころかラブレター渡しすら管理してるらしいぞ。』

 

友奈

『あ、だからお兄ちゃん、

ラブレターすら貰ったこと無いって言ってたんだ。』

 

千景

『ちょっと待って、ユウちゃん。

どうしたら兄さんとそんな会話になるの?』

 

友奈

『お兄ちゃんと久しぶりに会った時に、

お兄ちゃん節をかましてきたから聞いてみたの。

今までに何人の女性泣かしてきたの?って。』

 

ユウキ

『ああ、徹のあの持論か。』

 

杏子

『確か『男は格好付けてなんぼの生き物だから』だけっか?』

 

さやか

『そんでその持論で格好付けて助けたりした女の子たちがカルト宗教や軍隊真っ青なファンクラブを作り上げたと。』

 

ユウキ

『まあ、意異名を持っている人は良くも悪くも注目を集めるからね。

ファンクラブが出来るのも仕方が無いことなんだけどね。』

 

ひふみん

『ユウキちゃんもファンクラブあるもんね

(^_^;)』

 

ユウキ

『ボク自身もそうだけど自分のファンクラブについてだけはよく解らない状態なんだよね。』

 

友奈

『何で?』

 

さやか

『なんて言うか、暗黙のルールみたいなものなんだよね。『自分自身のファンクラブには関与しない』って。』

 

友奈

『ふ~ん。』

 

千景

『ねえ?

今までの話を聞いてて思ったんだけど、私とユウちゃん入学したら大変なことに成るんじゃないの?』

 

ユウキ

『確実になるね!』

 

杏子

『諦めろ!』

 

さやか

『ドンマイ!』

 

ひふみん

『ガンバ

p(^-^)q』

 

友奈

『凄く他人事だよ!?』

 

千景

『流石私の兄さんの友達ね!』

 

ユウキ

『まあ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。』

 

ひふみん

『うん。

騒がしくはなると思うけど絶対に危ない目には会わないから

(^▽^)』

 

杏子

『なんたってアイツらがいるからな。』

 

さやか

『なんやかんや言っても頼りになるからね。』

 

友奈

『お兄ちゃんかなり信頼されてるね。』

 

千景

『そのようね。

妹として鼻が高いわ。

あら?』

 

ユウキ

『ん?どうしたの?』

 

千景

『兄さんが『そろそろいい時間だから寝なさい』って。』

 

杏子

『そういや、もう結構な時間か。』

 

さやか

『じゃあ、今日はそろそろお開きだね。』

 

ユウキ

『んじゃあ、また喋ろうね~。』

 

千景

『ええ、じゃあ、お休みなさい。』

 

友奈

『おやすー。』

 

ひふみん

『それでは拙者もお暇するで御座るよ。

バイバイ

(*^-^)ノ』

 

さやか

『ユウキ、じゃあね。

お休みー。』

 

杏子

『お休みー。』

 

ユウキ

『うん。

お休みー。』

 

 

 

 

 




第4話は来週日曜日に投稿予定です。


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思いやりの心

第4話です。

すみません。日にち一日間違えてました。




 「ほら、友奈ちゃん、タイ曲がってるわよ」

 

 「あ、ありがとうございます。雪菜さん」

 

 お母さんがユウちゃんの制服のタイを整える。今日は私とユウちゃんの入学式の日だ。

 

 「月城さんたちは流石に来られないけれど、写真をバンバン撮って送るんだから、身嗜みをしっかり整えないとね♪」

 

 「はい!」

 

 そう言ってお母さんはユウちゃんの身嗜みをチェックしていく。

 

 「うん。こんなモノかしらね。千景、あんたは大丈夫?」

 

 「ええ、問題ないわ。………それより、なにもランチタイムのオープン時間を1時間遅らせてまで入学式に来なくても良いのに」

 

 そう、私たちの入学式に来るためにお母さんたちはレストランのランチタイムのオープン時間を11:30から12:30にずらしたのだ。

 

 「なに言ってんの!月城さんのところと違ってウチは普通に行けるんだから、子供の晴れ舞台に行かない親なんていないよ!あんたが嫌だったとしても私たちは行くからね!」

 

 そう、今の私のお母さんとお父さんは私と兄さんの入学式も卒業式も、授業参観日さえレストランを休業日にしてまで絶対と言っていいほど来てくれていた。

 

 「………はあ、解りました。…………でも、ありがとう。お母さん

 

 私は小声でお母さんにお礼を言った。今世の私は兄さんも含め、家族に恵まれている。

 

 「良かったねチカちゃん。今世は温かい家族で」

 

 優しい笑顔でユウちゃんが私に語りかけてくれた。

 

 「ええ、そうね。………ん?ユウちゃん、『郡千景』の家族事情知ってたの?」

 

 「え?うん。私のところのグンちゃんが教えてくれたよ?」

 

 「………ずいぶん口が軽かったのね、ユウちゃんのところの郡さんは」

 

 私なら例え高嶋さんだったとしても、いいえ、高嶋さんだからこそ言わなかったと思う。………………でも、裏を返せば、ユウちゃんの方の郡さんはそれだけそちらの高嶋さんを信頼していたということかも知れない。

 

 「あれ?授業参観ってそっちでは無かった?」

 

 「授業参観?そんなイベント無かったわよ?」

 

 ユウちゃんの方ではなんでも自分の娘がどんな生活を送っているか気になった親御さんたちで授業参観のような企画が行われたらしい。そして、そこで郡家のみ父母どちらも来なくて、乃木さんが空気読まずに質問して、土居さんが予想で近い答えを言ってしまい、それに『郡千景』が反応してしまったためになし崩し的に全部話したとのこと。乃木若葉、土居球子、またあんたらか。

 

 「………ユウちゃんのところの郡さん、大変だったのね……」

 

 「うん。若葉ちゃんとタマちゃん、ものすごく謝ってた」

 

 「実際のところ、その後みんな気を遣ってくれると思うから、郡さんにとっては申し訳なかったんじゃないかしら?」

 

 「あー、それグンちゃんに相談された」

 

 「やっぱりそっちの私も気にしたか」

 

 「でも、そのことも含めて全部みんなに打ち明けたら、冗談を言い合える位には仲良くなれたよ」

 

 「ケガの功名ってヤツね。私のところでも相談してれば良かったかしらね。………でも、あの頃の私じゃあ、相談なんて絶対にしなかったかな?」

 

 「グンちゃん、優しいからね。私たちに迷惑かけないようにって黙ってたかも」

 

 「んー、優しいと言うより、友達の頼り方が解らなかったのよ」

 

 友達にどうやって頼れば良いのか、何処まで迷惑をかけて良いのか、どれも解らなかった。その加減が解ったのは今世で兄さんを相手にしてだ。兄さんと殺し合………度付き合………じゃれ合って馴れたモノなのだ。つまりは、コミュ力と言うのはコミュニケーションをしなければ手に入らないし、コミュニケーションを取らなければレベルは上がらない。しかも、私のコミュ力のレベルの上がり方はかなりシビアでゲームやなろうのように一気に上がりはしない。………はぁ~、世知辛い。

 

 「どうしたの、チカちゃん?」

 

 「あ、ううん。なんでも無いのよ。ユウちゃん」

 

 しまった。どうやら顔に出ていたらしい。何だか私は顔に色々出やすいのかしら?兄さんとバカやってきたから自分に素直になりすぎているのかも知れないわね。

 

 「ほら、2人とも、早く出ないと入学早々遅刻するわよ!」

 

 「え!?あ!ユウちゃん、急がないと!」

 

 「わわ!Dépêchons!(急ごう!)

 

 私たちは急いで玄関から飛び出した。

 

 「「行ってきまーす」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~~~~~であるからして」

 

 ………校長先生のお話って何でいつもこんなに長いのかしら?

 私たちはただ今絶賛入学式中である。ただ、校長先生のお話が長くて入学早々船を漕ぎ出している生徒がちらほら見える。ユウちゃんは大丈夫かしら?

 私は左3人隣のユウちゃんを横目で確認した。船を漕いですらいないわね。と言うか、両隣の娘ともう仲良くなってない?小声で何だか楽しそうに話しているわ。兄さんがユウちゃんのことを『コミュ力の天使 ユウナエル』なんてふざけて呼んでたけど、強ち間違いではないのかも。ちなみに、嬉しいことにユウちゃんとは同じクラスになれたわ。これも日頃の行いが良いからね♪(どの口が言ってんだ)………ん?何か今兄さんあたりからツッコミが放たれたような?

 

 「~~~~~であり、君たちの中学生活が今後の糧となり、支えとなり、宝となることを心から祈っています。此にて西暦2019年度新入生への言葉とします。宮沢中学校校長 乃木源造」

 

 あ、校長先生のお話が終わった。と言うか、校長先生の苗字って『乃木』だったんだ。男性だから違うとは思うけど、関係あったりしないわよね?

 

 「校長先生、有難う御座いました」

 

 司会進行の教頭先生がお話をした校長先生にお礼を言う。………まさか、教頭先生の苗字『上里』じゃないわよね?後で調べてみようかしら?

 

 「続きまして、生徒会長挨拶。第83回生徒会会長『導師(どうし)夜ノ森紅緒(よのもりべにお)

 

 「はい」

 

 長くて明るい茶髪の凛とした佇まいの女性が壇上に上がる。

 へ~、あの美人さんが生徒会長なのね。やっぱり生徒会長ともなると意異名持ちかぁ。しかも『導師』なんて。それとも、歴代生徒会長は代々その意異名を貰うのかしら?あ、そういえば、蓮太郎さんが好きな人が生徒会にいるって聞いてたけどあの人なのかな?確かにあんなに美人なら惚れるわよね。

 私がそんなことを考えていると周りの新入生たちが何人かざわめきだした。

 

 「あの方が紅緒様」

 

 「歴代の会長の中で1番優秀で有らせられるとの話だ」

 

 「優秀なだけでなく、とてもお優しい方だと聞くわ。さらにあんなに美しいだなんて」

 

 「あ~、お姉様と呼ばせていただけないかしら?」

 

 歴代で1番優秀………才色兼備、天が二物を与えるってことが本当にあるのねぇ。

 

 「おい、また今年も紅緒教信者が増えたぞ」

 

 「まだ喋ってすらいない段階で6割脱落」

 

 「喋ったら片指でかぞえるくらいしかいなくなるんじゃねえか?」

 

 「また、木更さんと副会長が忙しくなるか」

 

 「忙しくってか、精神的に疲れることは間違いないな。アレでその他のスペックが化け物じみてるから困るんだよ」

 

 「「「「そーなんだよな」」」」

 

 小声でよく聞き取れないけど何だか兄さんたちが不穏なことを言っているような ?

 

 「『導師』って何なのかな?小紅(こべに)ちゃん聞いてる?」

 

 「いや、私は聞いた事が無いな~」

 

 私の隣の席の娘たちが意異名について話していた。

 

 「『導師』は意異名と言う、有名な人に付けられる、この学校特有の通り名みたいなものよ」

 

 「え?」

 

 「あ、ごめんなさい、急に」

 

 私が答えられることだったからつい口を出してしまった。

 

 「あ、いや、ありがとう。詳しいんだな」

 

 「ええ、私、一つ上に兄さんがいて、その兄さんが意異名を持っていてね、兄さんの友達が教えてくれたの」

 

 「へー、そうなのか。あ、私は夜ノ森小紅。あそこに立っている紅緒お姉様の妹だ」

 

 「私は、桃内(ももうち)まゆら。小紅ちゃんの友達だよ~」

 

 「私は、焔千景よ。よろしくね」

 

 「千景って呼んで良いか?私のことも小紅で良いから」

 

 「ええ、良いわよ。よろしくね、小紅ちゃん」

 

 「私のこともまゆらで良いからね~」

 

 「解ったわ、まゆらちゃん。ところで、小紅ちゃんの声、私の親友にそっくりね」

 

 「親友?」

 

 「ええ、同じクラスだから後で紹介するわ」

 

 「へー、小紅ちゃんとそっくりなんだ~」

 

 「声がね。見た目はそこまで似てないわ。……と言うより、その胸部装甲に匹敵する同年代なんて早々いな……一つ上にはいたわね

 

 「ん?どうかしたのか?」

 

 「いいえ、なんでもないわよ?」

 

 「千景が…千景がこんなに早く友達を作るなんて……うっ、うう」

 

 「「「「泣くなよ。過保護通り越して失礼だぞ、お前」」」」

 

 全く持ってその通りよ。バカ兄さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式が終わり、私とまゆら、それから入学式中に仲良くなった千景とで自分たちの教室へと向かった。向かう途中に千景が親友だと言う友奈と、友奈の方からも入学式中に仲良くなった美姫(みき)と言う娘を紹介された。千景が言うとおり私と友奈の声がそっくりだった。そして、私が生徒会長の妹だと言ったらみんなにびっくりされた。

 ああ、()()()と私は思った。あの才色兼備な姉がいると、否応なく比べられてしまう。千景がそんなこと無かったから少し期待していたんだけどね。

 でも、その後は普通に接してきて今度は私が逆にびっくりした。

 

 「なっ、何で、みんなそんな普通にしているんだ?」

 

 「え?ああ、もしかしてお姉さんが凄い人だからよく比べられていたのかしら?」

 

 「あー、解る。アタシもよく兄貴と比べられるから」

 

 「景友さん優秀そうだもんね」

 

 「羨ましいわ。ウチの兄さんはぶっ飛びすぎてるから」

 

 「良くも悪くも下の子は上の子と比べられるからね。あ、それとね、私たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「え?」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「確かにアタシたちは小紅のことは友達になったから少し知ったが紅緒さんのことは全然知らないからな」

 

 「何だか、今までの人たちとは全然違うね~」

 

 あまりにも違いすぎて、まゆらの言葉に私は頷くことしか出来なかった。

 そして、私たちは自分の教室に入って自分自身の席につくと、担任の先生が入ってきて自己紹介を始めた。

 

 「初めまして、皆さん。私がこのクラスの担任を勤めさせていただきます。鳴橋榛名(なるはしはるな)と言います。よろしくお願いしますね」

 

 担任になった榛名先生は長い綺麗な黒髪に黄色いカチューシャを付けた、私たちとあまり歳が離れてなさそうな若い人だ。

 

 「それじゃあ、初めてですし自己紹介をして貰いましょうか。男子は出席番号の1番から、で終わったら女子は逆に出席番号の最後の人からいってきましょうか」

 

 その先生の言葉で男子が順番に自己紹介をしていく。そして女子の自己紹介が出席番号の後ろから始まり私の番がやってきた。

 

 「夜ノ森小紅です。よろしくお願いします」

 

 「夜ノ森?」

 

 「と言うことはもしかして紅緒様の妹!」

 

 「な、なんて羨ましい!」

 

 「私もなりたかった!」

 

 「あの娘と姉妹の契りを交わせば私も紅緒様の妹に!」

 

 私の自己紹介で周りが騒ぎ出す。

 

 「はいはい、皆さん静かにして下さいね。では、次の人、自己紹介お願いしますね」

 

 榛名先生がクラスのみんなを静かにさせて次の人、まゆらに自己紹介をするように言う。

 

 「桃内まゆらです。小紅ちゃんの友達です。よろしくお願いします」

 

 「小紅さんの友達!?」

 

 「と言うことは紅緒様の妹と友達!?」

 

 「な、なんて羨ましい!」

 

 「私もなりたい!」

 

 「あの娘と仲良くなれば紅緒様の妹さんと友達に!」

 

 またクラス中が騒がしくなる。

 そう。小学校の時からいつもこうだ。私だけならまだしも、まゆらにまで迷惑がかかってしまう。私の友達と言うだけでいつもこうなるのだ。まゆらに私の友達だと言わなければ良いと言ったのだけれど、小紅ちゃんの友達であることは悪いことじゃないから堂々と言うといつものまゆらからは想像出来ないような強い口調で言われたのでそれ以来私からは何も言ってない。

 私には勿体ないくらいの良い友達なのに私は何も出来ないのが歯がゆい。

 

 「皆さん静かに。次の人お願いしますね」

 

 先生がまた、みんなを静かにさせる。今回は先生が止めてくれているから助かっている。小学校の時は先生まで騒ぐ側だったから。

 

 「()千景です」

 

 ガタッ

 

 ん?あれ?何か先生の顔色が……

 

 「ほ、焔?」

 

 「はい?どうかしました?」

 

 やっぱり、先生の顔色が悪くなっているような?て言うより、先生震えてないか!?

  

 「ち、千景さん、つ、つつつつ、つかぬことをお聞きしたいんですけど、徹隆君ってもしかして」

 

 「え?ああ、はい。徹隆は私の兄ですけど?」

 

 「ヒッ!!」

 

 先生、悲鳴上げたぞ!?千景のお兄さん、先生に何したんだ!?

 

 「?………あ、先生もしかして文芸部顧問ですか?」

 

 「ヒャッ、ヒャイッ!!………て、徹隆君が何か言ってたんですか?」

 

 「あ、いえ、兄さんは可愛い新人教師が顧問になってくれて助かったとしか言っていませんよ」

 

 「そ、そうですか」

 

 「何だかすみません。色々とぶっ飛びすぎた兄で」

 

 「あ、いえいえ、大丈夫ですから。ただちょっと、文芸部創立の時に色々振り回されて、その時の事が少しトラウマになってしまいまして」

 

 トラウマ!?今トラウマって言った!?

 

 「兄さん…………すみません、榛名先生。効くかどうかは解りませんが後で兄にはO☆HA☆NA☆SIしておきます」

 

 「ありがとう、千景さん。でも、先生は大丈夫だから無理はしないでね?」

 

 「はい。あ、自己紹介の途中でしたね。では改めて。焔千景です。先生のおっしゃった通りの破天荒でぶっ飛びすぎた兄がいますが、気にしないで下さいね。私に何かあったら兄が黙ってないとかそう言うのは…………………………………………多分ありませんから。それと、私も小紅ちゃんとまゆらちゃんの友達です。よろしくお願いします。あ、後、私も兄も他人に迷惑をかける人が嫌いですので」

 

 ((((((((((暗に迷惑かけたら黙ってないって脅してきた!))))))))))

 

 「……………千景さん、やっぱり徹隆君の妹さんですね」

 

 「いえいえ、兄さんに比べたら可愛いものです」

 

 「まあ、先生もそう思います」

 

 あ、友奈がうんうん頷いてる。そんなに凄い人なのか?千景のお兄さんって?

 

 「あ、じゃあ、次の人自己紹介お願いしますね」

 

 先生が次の人に自己紹介を促す。

 それから2人ほどは普通の自己紹介で終わり、美姫の番になった。

 

 「アタシは豹垣(ひょうがき)美姫。一応アタシにも兄貴がいるから」

 

 「豹垣と言うことは景友君の妹さんですね」

 

 どうやら先生は美姫のお兄さんのことも知ってるみたいだ。

 

 「先生、兄貴のことも知ってるんだ?」

 

 「ええ、彼は徹隆君とよく一緒にいますし、応援団として有名ですからね」

 

 へー、応援団。

 

 「じゃあ、次の人お願いしますね」

 

 そして、友奈の番になった。

 

 「Bonjour Je suis Yuuna Tsukishiro.(こんにちは、月城友奈です。)

 

 「「「「「「「「「「…………………はい?」」」」」」」」」」

 

 友奈がぶっ込んできた。

 

 「ユウちゃん、ここ日本よ」

 

 「あははっ、Je suis désolé.(ごめんなさい)改めまして、月城友奈です。先日までフランスにいました。日本語は普通に話せます。あ、後、焔徹隆は私のお兄ちゃんでもあるので、よろしくお願いします」

 

 「「「「「「「「「「イヤイヤイヤイヤ、どこから突っ込めば良いんだよ!?」」」」」」」」」」

 

 何か今日一日だけでクラスの団結力がかなり上がった気がする。

 

 「なるほど、貴女も徹隆君の妹さんですか。じゃあ、徹隆君が暴走したら千景さんと一緒に止めてくれてますか?」

 

 「止められるかどうか解りませんが、頑張ります」

 

 「良かった。徹隆君への抑止力が2人もいると心にゆとりが出来ますね」

 

 だからホント、千景のお兄さんの徹隆さんってどんな人なんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所々で変なことになったが何とか自己紹介が終わり、帰りのHRが終わったので下校となった。

 私とユウちゃんは今日仲良くなった友達と話していた。

 

 「なあ、千景、友奈、お前たちのお兄さんってどんな人なんだ?」

 

 「ん?()()()()()()()()の?小紅ちゃん」

 

 ガタッ

 

 ん?何か物音がしたような?

 

 「いや、あそこまで話題になったら流石に気になるよ!」

 

 「と言っても、行動が破天荒なだけであとは普通の人よ?」

 

 「ん~、あそこまで話題になったらもう普通じゃないんじゃないかな~?」

 

 まゆらちゃんに言われてしまった。まゆらちゃん、もしかして結構毒吐く娘かしら?

 

 「お兄ちゃんはぶっ飛びすぎてるだけで悪い人ではないから大丈夫だよ」

 

 「ぶっ飛びすぎて『常壊者(じょうかいしゃ)』なんて意異名付けられて……」

 

 「おい!『導師』様が『常壊者』に攻撃したぞ!!」

 

 「ウチの可愛い小紅を誑かすのは貴様か!!」

 

 「あったこと無い人は誑かすことなんて出来ねーよ!!」

 

 「徹隆、俺の『色欲姫』の意異名はお前にやろう」

 

 「話ややこしくしてんじゃねーよ!」

 

 「…………………………ねえ、小紅ちゃん」

 

 「…………………………何?千景」

 

 「お互い苦労するね」

 

 「そうだな」

 

 私と小紅ちゃんは盛大に大きな溜息を吐いた。

 



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悲しい思い出

第5話です。

投稿前にスマホの電源が無くなり日をまたいでしまいました。申し訳ありません。


 私たちが宮沢中学に入学してから一週間が経った。

 

 「チカちゃん、入部届っていつまでに提出だっけ?」

 

 昼休み中ユウちゃんが入部届と睨めっこしながら聞いてきた。

 

 「今日の放課後までよ」

 

 「チカちゃん何処にする?」

 

 「入りたい部活も無いし順当に考えれば兄さんの文芸部かしらね」

 

 私たちの通う宮沢中学は部活に()()()()()を除き全生徒が参加しなければならない。入部届を今日、金曜日までに提出して休み明けの月曜日から部活動開始である。流石に中学校にゲーム制作部や研究部は無かったので、兄さんが部長をやってる文芸部に入ろうと思っている。

 

 「美姫ちゃんたちはもう決めた?」

 

 ユウちゃんが入学式から仲良くなった黒髪で黄土色の瞳の少女、美姫ちゃんに話し掛ける。ユウちゃんの問いにまるでネコ科のミミのように刎ねた髪がピクッと動いたような気がした。あの髪どうなっているんだろう?

 

 「アタシは最初から水泳部に入ることにしてるから」

 

 「美姫ちゃん水泳してたの?」

 

 「水泳教室に通ってたんだ」

 

 「景友さんも?」

 

 「兄貴はやってないよ。運動あんまり得意じゃないし」

 

 「あれ?お兄ちゃんと同じ位強いって聞いたんだけど?」

 

 「ん?ああ、それは兄貴は射撃と銃剣術が使えるからだよ。運動があまり好きじゃないだけで反射神経がずば抜けてるんだよ」

 

 「のび太君かな?」

 

 「ユウちゃん、神速の反射神経(インパルス)の可能性もあるわ。………小紅ちゃんとまゆらちゃんはどうするの?」

 

 私は入学式で仲良くなったもう2人の友達に声をかける。

 

 「うーん、私も運動苦手だから文化系の部活に入ろうと思っているけど」

 

 「私も決めてないな~」

 

 ユウちゃん位の長さの赤髪をツインテールにしている紫色の瞳で凄い胸部装甲を持つ小紅ちゃんとふわふわした茶髪で青い瞳のまゆらちゃんがぼやく。

 

 「お姉様、生徒会長だからどの部活にも所属してないし」

 

 そう、これが私がさっき言った一部の例外で、生徒会、応援団、風紀委員会は部活動への所属を免除されている。まあ、免除されているだけなので中にはどこかの部活に参加している人もいる。

 

 「小紅ちゃん、何か得意なことで部活を決めたら?」

 

 ユウちゃんが提案してきた。

 

 「私が得意なことというと料理なんだけど、この学校、料理研究部とか無いからな~」

 

 「小紅ちゃん、料理が得意なんだ。ウチのチカちゃんも得意だよ!」

 

 「ユウちゃん、なんか対抗しようとしてない?と言うか、私が得意なのはお菓子作りよ。料理全般なら兄さんの方が得意よ」

 

 「へー、千景ってお菓子作れるのか。私はお菓子あんまり作ったことないんだよ。今度、色々教えてくれないか?」

 

 「私で良ければ喜んで。なんなら明後日、日曜日に私の家で教えましょうか?」

 

 「良いの?」

 

 「小紅ちゃんさえ良ければ私は良いわよ?」

 

 「じゃあ、よろしくお願いします」

 

 と言うことで、小紅ちゃんが私の家に遊びに来ることが決まりました。………あれ?ユウちゃん以外の友達を家に喚ぶのって初めてじゃなかったかしら?

 

 「で、遊ぶ約束は決まったが、部活は決めなくて良いのか?」

 

 「「あ」」

 

 私たちは美姫ちゃんの言葉で当初の目的を思い出した。

 

 「それなら、千景の兄貴みたいに新しい部活を造ったらどうだ?さっき言ってた料理研究部とか」

 

 美姫ちゃんが提案してきた。が、

 

 「それは難しいと思うわ」

 

 私は否定する。

 

 「何でだ?」

 

 「新しい部活を立ち上げる条件が結構厳しいからよ」

 

 「チカちゃん、その条件誰から聞いたの?」

 

 ユウちゃんが聞いてきたので答える。

 

 「兄さんがどうやって部活を造ったのか気になってこの間、榛名先生に聞いたのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―数日前―

 

 「新しい部活の立ち上げ方ですか?」

 

 「はい」

 

 ある放課後、職員室に私の受け持つクラスの焔千景さんが訪ねてきた。訪ねてきた理由は新しい部活の立ち上げ方を知りたいとのこと。部活動の時間ということもあり、職員室には私たち以外に人はいません。

 

 「もしかして、千景さんも徹隆君みたいに新しい部活を?」

 

 「いえ、ウチの兄の意異名が新しい部活を立ち上げたことで付いたと聞いたので部活の立ち上げ方が気になりまして」

 

 「ああ、そういうことでしたか」

 

 「………先生、兄が迷惑をかけてしまって本当にすみません」

 

 「へ?どうしたんですか?急に」

 

 「先生の顔色が兄の話が出てくる度に悪くなっていくもので」

 

 「え!?そ、そうですか!?」

 

 「はい。なんか、本当にすみません」

 

 「いやいや、そんな!先生は大丈夫ですから!」

 

 私の顔色が悪くなるのは文芸部創立時に徹隆君に振り回されたのが少しトラウマになっているからだ。

 千景さんのお兄さんである徹隆君は色々と突拍子も無いことをしでかす生徒で、一部の教員からは警戒されている。まあ、私も警戒している教員の一人だったりするが。

 

 「兄さんには一応、O☆HA☆NA☆SIはしたんですが」

 

 「ふふ、ありがとうございます。千景さん」

 

 「いえ。ところで、部活の立ち上げ方は……」

 

 「おっと、そうでした」

 

 忘れてました。これじゃあ、ただ私の愚痴を千景さんに聞いて貰うだけになってしまうところでしたね。

 

 「では、部活の創立方法について教えますね」

 

 「はい」

 

 「部活創立には『立案者含め部員6名』『部活の顧問となってくれる教員の同意』『立案者のクラスの担任と副担任の同意』『現生徒会会長と副会長及び他役員半数以上の同意』以上の4つが著名で必要です。そして、その著名を揃えて立案者自身が校長先生のところへ直接持っていき可決印を貰うことで晴れて部活となります」

 

 「校長先生のところへ立案者本人が行かないといけないんですね」

 

 「はい、立案者はそこまで責任を持って行わなければなりません。なので新しい部活を立ち上げようと考える人自体珍しかったりするそうですよ」

 

 「なるほど。ん?その言い方だと先生はこの学校に赴任して短いんですか?」

 

 「え?ああ、そうですよ。先生は去年大学を卒業して直ぐにこの学校に赴任して来ましたから」

 

 懐かしいですね~。まだ1年ほどしか経っていないというのに。当時、徹隆君に新しい部活の顧問になって欲しいと頼まれたときは期待に胸を膨らませていたと思うのですが、どこでこうなってしまったのでしょうか?生徒に頼られていると嬉しかったのでしょうね。あれ?おかしいですね。涙が出てきました。

 

 「あの、榛名先生、兄さん何したんですか?あ、このハンカチ使って下さい」

 

 「ああ、ありがとうございます。徹隆君本人から聞いていないんですか?」

 

 「なんか兄さん、このことに関しては歯切れが悪くて、いつもお茶を濁すんですよ」

 

 「ああ、なるほど。それは多分、私が泣いてしまったからでしょうかね」

 

 「………先生、ちょっと待っていて下さい」

 

 「へ?」

 

 「直ぐに兄さんの息の根を止めて来ますから」

 

 「え!?ちょ、ちょっと待って下さい!大丈夫!先生は大丈夫ですから!!」

 

 「『女性を泣かす男なんて万死に値する』と兄さん本人もよく言ってますし」

 

 「それは知ってます!私が泣いた時に徹隆君本人が本気で切腹しようとして止めましたから!!」

 

 「しかし」

 

 「それに、私の言い方が悪かったです。私が泣いたのは徹隆君のせいではないですから」

 

 「………まあ、そういうことなら。そもそも、兄さんは何したんですか?」

 

 「ただ、徹隆君が文芸部を創立する時に色々やらかして、1番振り回されたと言うだけですよ。大変でした。4()()で各著名を集めて校長先生に提出して、初めての部長会議では何故か他の部長さんたちを煽るから顧問の先生方から小言が飛んで来ましたし。」

 

 「著名を4日で集めた?部創立まで10日と聞いているんですけど?」

 

 「ああ、はい。そうですよ。部費や部室、部活動としての目標やカリキュラムの編成なんかを5日で終わらして()()()として10日で活動を開始しました。ははは、馬車馬のように働かされたな~。そんな訳で私は徹隆君のことが苦手になりまして」

 

 「………兄さん」

 

 「まあ、彼は私以上に頑張ってましたが」

 

 「先生、それは当然ですから。それでどうして泣くなんて展開に?泣きギレでもしたんですか?」

 

 「ん~、私の個人的な問題にもなるんですが当時私はストーカーに悩まされてまして」

 

 「ストーカー!?」

 

 「そのストーカーが私を振り回している徹隆君に嫉妬しまして」

 

 「兄さんに嫉妬ですか………」

 

 「それで何を思ったのか、放課後に学校の駐車場で『あいつのモノになる前に君を僕のモノにする』とか言って私に襲ってきまして」

 

 「先生、よく御無事でしたね」

 

 「ちょうどその時下校しようとしてた文芸部の皆さんが近くにいましたから、ストーカーは瞬く間にぼろ雑巾のようになりました」

 

 「そういえば文芸部には蓮太郎さんもいるんですよね。むしろ、ストーカーよく生きてましたね」

 

 「虫の息でしたよ。で、その時に私が怖くて泣いてしまって、それを見ていた徹隆君が『俺が先生を振り回してしまったせいです。すみません』って頭を下げてきまして、多分ですがそのことが引っかかっているから千景さんに言えなかったんじゃないですかね?」

 

 「何と言うか、ものすごく兄さんらしいです」

 

 「ですよね」

 

 「…………先生、ありがとうございます」

 

 「え?」

 

 「先生にとっては思い出したくない出来事だったと思うから。それでも話していただいたので」

 

 「………ふふ」

 

 「先生?」

 

 「いえ、やはり徹隆君の妹だな~と」

 

 ()()()()()()()()()()()ですか。本当にこの兄妹は。

 

 「それにこの思い出は私にとってはそこまで嫌なものではありませんから」

 

 「そうなんですか?」

 

 「ええ、正直言うと徹隆君に振り回されていた時の記憶の方が思い出したくありませんから」

 

 「………………」

 

 「あ、そろそろ文芸部に顔を出しに行かないと」

 

 「………本当にウチの兄がすみません」

 

 「いえいえ、それにしても千景さんも大変でしょう?あんなお兄さんがいると」

 

 「悲しいことに私は慣れてしまいました」

 

 ため息を吐きながら千景さんは苦笑する。

 

 「ふふ、それじゃ、あ!」

 

 「先生?」

 

 2人で職員室を出たところで私は思い出した。いけないいけない、教え忘れるところでした。どうもこの条件は忘れがちになりますね。私が()()()()()()()()()()()だからですかね、この条件が増えたのが。

 

 「徹隆君が初めての部長会議で他の部長を煽ったって言いましたけど、そのせいで、新しい部の創立に『現部長の半数以上の同意』の著名も必要になったんですよ」

 

 私の言葉を聞いて千景さんは片手で額を抑えて本日何度目かの台詞を呟いた。

 

 「………兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―現在―

 

 「失礼します。先生、入部届提出に来ました」

 

 放課後、私はユウちゃんと小紅ちゃん、まゆらちゃんの4人で入部届を榛名先生に提出するため職員室に来た。

 

 「はい。………皆さん、文芸部に入部するんですね。千景さんと友奈さんは何となく解りますが、小紅さんとまゆらさんもですか」

 

 入部届を受け取った榛名先生が私たちに聞いてきた。

 

 「はい。千景たちに誘われまして」

 

 「私もそんな感じです」

 

 小紅ちゃんとまゆらちゃんが答える。

 

 「解りました。あ、知ってるとは思いますが部長は千景さんのお兄さんで顧問は私ですからね。では、月曜日の放課後から書庫室で部活が始まりますのでよろしくお願いしますね」

 

 「「「「よろしくお願いします」」」」

 

 私たちは先生に挨拶してから職員室を後にした。

 

 「失礼しました」

 

 「お、終わった?」

 

 「ええ」

 

 廊下で待っていてくれた美姫ちゃんが声をかけてきた。私たちは美姫ちゃんの近くに置いておいた鞄を持って昇降口に向かう。

 

 「なあ、来週から部活だし今日これからどこか行かね?」

 

 美姫ちゃんが提案してきた。確かに部活が始まればこうやって皆で放課後に遊ぶことは出来ないだろう。特に部活が違う美姫ちゃんは難しい。

 

 「私は良いわよ」

 

 だから私は賛成した。

 

 「私も良いよ」

 

 「「私も」」

 

 どうやら皆同じように考えていたらしい。

 

 「あ、千景、明後日作り方教えてくれるお菓子の材料とか遊んだ後に見に行かないか?」

 

 「そうね~」

 

 小紅ちゃんの提案に私は考える。本当は私の家の材料を使う予定だったのだけれど、そちらの方が楽しそうではある。

 

 「じゃあ、そうしようかしら」

 

 「明後日の話?」

 

 「そうよ」

 

 「お菓子作るんだろ?それって味見役が必要じゃないか?アタシ、日曜暇だから良いぞ?」

 

 美姫ちゃんが味見役を買って出てきた。

 

 「美姫ちゃん食べたいだけでしょ~?」

 

 「まあ、そうとも言う。てかアタシが行かなかったら友奈だけが食べることになるんだぞ?まゆらだって食べたいだろ?」

 

 「まあ確かに」

 

 「ふふ、別にダメじゃないわ。私の作ったお菓子で良かったら食べにいらっしゃい」

 

 「ヤッター」

 

 日曜日は皆でウチの来ることが決まった。賑やかになりそうである。でも、ものすごく楽しみでもある。中学生になったらこんなにも早く賑やかになるとは思ってなかったわ。

 

 「やっと見つけたわ!」

 

 そんな私たちの背中から大きな声がかかる。何事かと私たちは一斉に後ろを振り向く。するとそこには綺麗な黒髪をボブカットにしたアクアマリン色の瞳の女の子が立っていた。

 

 「長い黒髪の貴女が焔千景で、そっちの赤髪を1つにまとめた貴女が月城友奈ね?」

 

 女の子が問いかけてきた。

 

 「そうだけど、えっと、どちら様?初対面だと思うけど?ユウちゃんの知り合い?」

 

 「ううん、知らない子」

 

 ユウちゃんに聞いてみたがユウちゃんも初対面らしい。

 

 「じゃあ、小紅ちゃんたちの知り合い?」

 

 私は3人に問いかける。確率は低いがもしかしたらということもあるかも知れない。

 

 「私は知らない」

 

 「私も知らないかな~?」

 

 「わからん、全然わからん」

 

 どうやら皆知らないらしい。じゃあ、誰なのだろうと思い彼女に視線を戻すと

 

 ビシッ!

 

 という音が出るのではないかと思うくらい力強く私たちを、正確に言うと私とユウちゃんを敵意むき出しの視線と共に指差してきた。 

 

 ()()()は貴女たちがあの人の妹だなんて認めない!」

 

 そして、どこかの隻眼のドイツの代表候補生のような台詞を吐いてきた。




人物紹介

夜ノ森小紅(よのもりこべに)
・入学式に仲良くなった千景と友奈の友達
・現生徒会長の妹
・かなりの胸部装甲の持ち主

桃内(ももうち)まゆら
・入学式に仲良くなった千景と友奈の友達
・小紅の小学校からの友達
・意外に毒舌

豹垣美姫(ひょうがきみき)
・入学式に仲良くなった千景と友奈の友達
景友(あきと)の妹
・わからん、全然わからん

鳴橋榛名(なるはしはるな)
・千景たちの担任で文芸部顧問
・徹隆がトラウマファクター
・はい、先生は大丈夫です。


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元気な心(前編)

第6話です。

今回も思った以上に長くなってしまったので前後編に分けさせていただきます。


 「後はこれを冷やして固めれば完成よ」

 

 「ふむふむ、なるほど」

 

 日曜日、私たちは約束通り、私の家でお菓子を作っていた。今回小紅ちゃんに作り方を教えたお菓子は苺ミルクプリン。苺を別のフルーツに変えれば色々な味を楽しめるし、タルト生地なんかに流し込めばお手軽なムースケーキになったりと、かなり応用が利くお菓子だ。

 

 「2人とも手際良いな」

 

 「本当だね~。小紅ちゃんは知ってたけど千景ちゃんも凄いね」

 

 私たちの調理風景を見ていた美姫ちゃんとまゆらちゃんが感嘆の息をもらす。

 

 「皆~、雪菜さんからクッキー貰ったからお茶にしよう」

 

 ユウちゃんがクッキーを持ってきてくれて、そのまま紅茶を入れてくれる。紅茶はフランス(あっち)でよく入れていたらしくかなり手慣れている。

 

 「おお~、こっちも手際良いな」

 

 「友奈にこんな特技があったとは」

 

 「無駄が無い動きってそれだけで美しく見えるよね~」

 

 ユウちゃんの紅茶を入れる姿に皆が驚く。

 

 「?どうしたの皆?」

 

 ユウちゃんは何故自分が注目を浴びているのか解っていなかった。

 ユウちゃんが皆の分の紅茶を入れてくれて、苺ミルクプリンの方は固まるまでまだ時間がかかる。そんな訳で、皆でティータイムに突入。

 

 「あれ?このクッキー割れてね?」

 

 ユウちゃんが持ってきたクッキーを見て美姫ちゃんが疑問に思う。

 

 「ああ、このクッキー、レストランで出せない失敗作なのよ。私たちのおやつは私が作らなかったらいつもこんな感じ。まあ、その分量はあるし。あ、割れたからお店で出せないってだけだから味は保証するわ」

 

 「へー。ん?このクッキーは割れてないけど?」

 

 私の説明を聞きながら小紅ちゃんがクッキーを1枚取るが、そのクッキーは割れてなかった。

 

 「それは多分チョコで書かなきゃいけない文字のスペルを間違えたんだと思うわ」

 

 よく見ると小紅ちゃんの取ったクッキーにチョコで文字が書いてある。

 

 「雪菜さんが言ってたよ。バースデーケーキの注文で『Happy Birthday HAKUTO』って書かなきゃいけないのに『Happy Birthday HARUTO』って書いちゃったって」

 

 「ハルト?」

 

 「うん、ハルト」

 

 「…………兄さんのせいで間違ったのかしら?」

 

 「…………否定は出来ないかな。だって()()()だし」

 

 兄さん遊戯王ネタが好きだからたまに叫ぶのよね。そういえば、叫びすぎてうるさいってお父さんに拳骨貰ったこともあったっけ。

 

 ハルトォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

 急に頭の中で叫び出す兄さんは嫌いだ。

 

 「そういえば、今日はその千景ちゃんたちのお兄さんは?」

 

 まゆらちゃんが私たちの会話で兄さんの存在を思い出し尋ねてきた。

 

 「お兄ちゃんなら今日は真悟さんたちと道場に行ってるよ」

 

 「道場?お兄さんって何か習ってるのか?」

 

 小紅ちゃんが聞いてきた。

 

 「うん、兄さんは小太刀術と仙術て言うちょっと変わった体術みたいなのの2つを習っているの」

 

 「ちなみに真悟さんは宇練流居合術(うねりりゅういあいじゅつ)っていうのを習っているらしいよ」

 

 「あ、それはウチの兄貴からちょっと聞いてる。今日は総当たりで乱闘組み手やるって」

 

 「そういえば、美姫ちゃんのお兄さんも武術やってるんだよね?えっと、銃剣術だっけ?」

 

 「うん、そう」

 

 「へー、千景たちのお兄さん武術やってるのに文芸部立ち上げたんだ?」

 

 「兄さん昔から本読むのも物語書くのも好きだったから」

 

 兄さん昔からよく物語書いてたな~。本人は妄想力が強いだけだなんて言ってだけど。

 

 「………お前らの兄貴で思い出したけど、()()何だったんだ?」

 

 「「「「あ~、()()ね~」」」」

 

 私たちは一昨日、金曜日の放課後に宣戦布告のようなことをして、そのまま名乗らずに颯爽と踵を返して去っていった女の子のことを思い出す。いや、忘れてた訳ではないのだが何と言うか面倒くさいと言うか、関わり合いたくないと言うか、全力で無視を決め込みたい。

 

 「あの人が誰なのかはともかく、()()()()は何となく予想は出来てたんだけど、昨日知り合いの先輩たちにラインで聞いてみて確証が持てたわ」

 

 「ん?お兄さんに聞いたんじゃないのか?」

 

 小紅ちゃんが私の台詞に疑問を感じ、質問してきた。

 

 「さっきも言ったけど何なのかは予想してたからね。もし私の予想通りの人なら今回は兄さんの力は当てに出来なかったし。案の定で()()()()()()での発言なら兄さんは口出し出来ないから」

 

 「そっちの立場?話を聞く限り、お兄さんかなり無茶苦茶で破天荒な人だと思うんだけどそれでも無理なの?」

 

 「まゆらちゃんたちの頭の中でお兄ちゃんがどんな人になっているのかが凄く気になるんだけど。………まあ、今回ばかりは相手が相手だからね~」

 

 「で?あの人は誰だったんだ?」

 

 小紅ちゃんがアレが誰なのか尋ねてきたので私とユウちゃんが声を揃えて答える。

 

 「「2年の蓼原明希(たではらあき)さん。文芸部員で兄さん(お兄ちゃん)のファンクラブ会長だよ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が徹隆さんを意識したのはいつからだっただろう?

 私が徹隆さんたちの通う小学校に転校してきたのは小学4年生の秋だった。理由は両親の離婚。原因は父親の不倫。私は母親の方に引き取られて1つ下の弟は父親の方に引き取られた。そして私とお母さんはお母さんの実家がある北岡市に引っ越してきた。そんな中途半端な時期だったからだろう、私は5年生になるまで友達が出来なかった。

 そして5年生のクラス替えで私は彼らにあった。徹隆さん、真悟さん、景友さん、ユウキちゃん、ランちゃん、ひふみん。最初に声をかけてくれたのはユウキちゃんだ。ユウキちゃんの紹介で皆に出会って、仲良くなって、一緒に遊ぶようになって、皆の良いところをいっぱい知った。多分お父さんのせいだと思うけど私は無意識の内に男性に嫌悪感を抱いていた。男性は皆不誠実なんだと、男性は皆卑怯者なんだと。でもそうじゃ無かった。少なくとも彼らは違った。誠実で努力家で優しくて格好良くて、私は憧れた。そう、最初は憧れだったと思う。もっと近づきたい。もっと一緒にいたい。……私もあんなふうに格好良くなりたい。そう思って柔道を習った。元々運動が得意じゃなかったから最初はつらかったけど何とか今も続けられている。武術について彼らと話すことが出来たのも続けられた理由かもしれない。

 私は徹隆さんと真悟さん、景友さんの3人に憧れていた。それでもほんのちょっとだけ徹隆さんに強く憧れていた。そんな気持ちに気付き始めたのは中学に入学してすぐ、徹隆さんが新しい部活を立ち上げると言った時だ。宮沢中にはそれなりに強い柔道部があったのだけれど私は文芸部に入部することを決めた。少しでも徹隆さんの力になりたかったからだ。まあ、当時はそんなふうに考えた自分に少し戸惑ったりしたのだが。

 それから徹隆さんをよく目で追うようになった。徹隆さんが良くも悪くも注目を集め、意異名が付けられたら直ぐさまファンクラブを立ち上げた。あっという間に会員数が二桁になった時は一瞬思考が止まったりしたけど、徹隆さんだからとなんだかんだで納得した。徹隆さんはどんな人にも平等に優しくて、どんな人よりも努力家で、皆に笑いかけてくれる。いつしか私の中の彼への尊敬は恋愛感情に変わっていた。ピンチを助けられたとかそんな物語みたいなエピソードがあるわけじゃない。気付いたら彼の笑顔を眩しく感じていた。気付いたら彼と話すことが楽しみになっていた。気付いたら彼のことが好きになっていた。

 だから私は嫉妬した。徹隆さんの妹である千景さんに。この世で1番の彼の笑顔を、この世で1番の彼の優しさを享受出来る彼女に私は嫉妬した。解ってる。この嫉妬は正当性も何も無いただの八つ当たりのようなものだってことは。だから、私は彼の妹の存在を知っても何もしなかったし、何かちょっかいをかけるつもりも無かった。仲良くなればこの嫉妬も少しは落ち着くかな何てことも考えてた。

 

 そんな私にある出来事が起きた。父親と一緒に暮らしていた筈の弟が中学入学の二週間前からウチの住むことになった。何でもあの男は今度は弟すら置いて不倫相手と蒸発したらしい。蒸発するなら何で弟を引き取ったんだと問い詰めたかったが、その理由は直ぐに解った。弟はかなり我が儘になっていたのだ。お母さんが作ったご飯に文句を言って殴りかかる何てことは日常茶飯事で、ゲーセンで金がいるだの何だのとお母さんからお金を奪おうとする。私がいる時は私がお母さんを守っているのだけど、弟もテコンドーを習ってたらしく力が均衡していて、弟は私がいない時を狙い始めた。だから用事が無い時はなるべく家にいてお母さんを守った。そのせいで時間が取られて皆と遊ぶ時間が無くなって疎遠になりだして、そんな時だった。お昼過ぎに弟が遊びに行っている内にとお母さんから買い物を頼まれて駅前広場を通った時、徹隆さんと可愛い女の子が楽しそうに会話しているのを見かけたのは。私は目の前が真っ暗になって、その後買い物に行ったのか、そのまま家に帰ったのか、私がどうしたのかよく憶えていない。

 そして、始業式の日に私は久しぶりにあったユウキちゃんとひふみん、中学になってから仲良くなった杏子ちゃんとさやかちゃんから彼女、月城友奈さんのことを聞いた。徹隆さんと千景さんの幼馴染みで、千景さんの親友で、徹隆さんの妹みたいな存在で、つい()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだと。それを聞いて私は絶句した。何で肉親でも無い娘があの笑顔や優しさを享受出来るのだと、何で私の下に来たのが友奈さんみたいな娘じゃないんだと。私は性懲りもなく友奈さんにまで嫉妬した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言って、やっちゃいました。恋は盲目と言うけど、やっちゃいました。何が『私たちは貴女たちがあの人の妹だなんて認めない!』ですか!!私はバカですか?バカなんですか!?しかも()()()ってどう考えてもファンクラブの会長の立場で言っているようなものじゃないですか!?何自分の嫉妬にファンクラブの人たち巻き込んでるんですか!!あー、絶対妹さんたちに変な人だと思われた!それどころかあんな上から目線の物言い、嫌われましたよねぇ?絶対に嫌われましたよねぇ!?

 …………はあ、とりあえず彼女たちに会って謝りましょう。その後は、いくら勢い任せだったとしても甘んじて罰を受けましょう。徹隆さんにも嫌われちゃうかな~。はあ~

 そんなブルーな私の肩を誰かが叩きます。誰でしょう?私が振り返るとそこには、

 

 「明希ちゃん、ちょっとええ?」

 

 『管理者(かんりしゃ)八神(やがみ)はやてちゃんがいました。

 ……………神様、罰は受けるとは言いましたが、謝ってからって言ったじゃないですか~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千景、書庫室って何処だっけ?」

 

 「図書室の貸し出しカウンターの隣の扉開ければそこが書庫室よ」

 

 月曜日の放課後、私たちは水泳部に入部した美姫ちゃんと別れ文芸部の部室になっている書庫室に向かっていた。

 

 「ここだね」

 

 「じゃあ、入りましょうか」

 

 私たちはノックしてから書庫室の扉を開ける。

 

 コンコンッ ガチャ

 

 「失礼しま……」

 

 「ごめんなさいすみませんもうしません反省してます」

 

 蓼原さんが吊されていた。

 

 「失礼しました」

 

 パタン

 

 ………………ん~、ちょっと疲れてるのかな私。

 

 「どうかしたのか、千景?」

 

 「ちょっと深呼吸してくるから、先に入ってて」

 

 「「「?」」」

 

 ガチャ

 パタン

 

 書庫室の中を見た3人も私の隣に来て深呼吸しだした。

 

 「…………蓼原さんが吊されていたように見えたけど?」

 

 「…………幻覚とか夢じゃないよね?」

 

 「…………全員が同じ幻覚を見るなんてことあるかな?」

 

 「…………流石にそれは無いんじゃないかな~?」

 

 「そうよね~」

 

 「「「「あはははははははは」」」」

 

 「「「「…………………………………」」」」

 

 うん、幻覚じゃないってことは現実と言うことである。そう、吊された蓼原さんが………。

 

 「部室前で何してんの?お前ら」

 

 「「「「うわっ!!」」」」

 

 急に後ろから声をかけられて私たちは跳び上がる。後ろを振り返るとそこには兄さんと蓮太郎さんにそれから、イケメンがいた。………うん、イケメンだ。オールバックの黒髪に一束だけ前に流している髪型、泣き黒子、端整な顔立ち、イケメンとしか言い様の無い人がそこにいた。

 

 「ん?ああ、このイケメンか?」

 

 兄さんがイケメンさんを指差して聞いてきた。

 

 「え、あ、うん」

 

 「こいつも文芸部員だから後で紹介するよ。とりあえず部室入ろうぜ」

 

 「え、あ!ちょっ、ちょっと待っ……」

 

 イケメンさんのせいで放心状態だった私たちの横を通って部室に入ろうとした兄さんを、一足先に放心状態から復帰した私が止めようとしたが間に合わず、兄さんは扉を開けて中に入って行く。

 

 ガチャ

 

 「ごめんなさいすみませんもうしません反省してます」

 

 蓼原さんはまだ吊されていた。

 

 「……………」

 

 兄さんは無言のまま部室に入っていく。それに蓮太郎さんとイケメンさんも続く。え、スルー?

 

 「八神、そろそろ下ろしてやれ」

 

 兄さんが蓼原さん以外に部室にいたらしいセミロングの茶髪で藍色の瞳の八神さん?に蓼原さんを下ろすように言った。

 

 「ええの?終わるまで吊しとくつもりやったんやけど?」

 

 え?今、あの八神さんっていう人何て言った?終わるまでってもしかて部活終わるまで?それはいくら何でも無いわよね?あ、自己紹介が終わるまでとか?それでも長いような。

 

 「一学期終わるまで吊そうとしてんじゃねーよ。大騒ぎになるわ」

 

 い、一学期!?え?本気で?

 

 「つぅか、早く下ろしてやれよ。スカートだから見えそうで目のやり場に困るんだよ」

 

 「里見君意外にスケベやな。後で木更(きさら)ちゃんに報告しとこ」

 

 「ちょっ、何でそうなるんだよ!」

 

 「そんなことよりはやて、早く明希を下ろしてやったほうが良い。そろそろ榛名先生も来るだろう」

 

 イケメンさんが蓼原さんを下ろすように催促する。

 

 「それもそうか、榛名先生にこれ以上心配させたらあかんな。……部長」

 

 「ん?何?」

 

 「妹ちゃんってどの娘とどの娘?」

 

 「黒髪ロングと赤髪を一纏めにしてる娘」

 

 「あんがとう。じゃあ、妹ちゃんたち?明希ちゃんのこと許してくれる?」 

 

 「「へ?」」

 

 八神さんが私とユウちゃんに聞いてきた。何で私たちに聞くの?

 




後編は明日投稿予定です。


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元気な心(中編)

第6話中編です。

はい、中編です。前後編と言いましたがまた本編が長くなってしまい区切りました。本当に申し訳ありません。書いていて『あ、無理ですわ』と。本当にすみません。


 「へ?や無いわ。明希ちゃんが妹ちゃんたちに失礼なこと言うたってひふみちゃんが言うとったで?だから代わりにウチが少し懲らしめといたんや」

 

 「失礼なこと………ああ、この前の」

 

 合点がいった。どうやらこの間のラインでの相談が蓼原さんが吊されている(この現実と認めたくない)光景を作り出してしまったらしい。ただ……

 

 「えっと、蓼原さんが吊されている理由は解りましたけど、それを何故貴女が行っているんですか?」

 

 ユウちゃんが八神さんに訪ねる。そうそれだ。何故当事者ではなく彼女が罰を与えているのか。

 

 「ぶっちゃけ言って、風紀委員の要らぬお節介だな」

 

 「はやては風紀委員の副委員長を勤めているからな」

 

 蓮太郎さんとイケメンさんが教えてくれた。……これは、お節介ってレベルなのかしら?

 まあ、とりあえず彼女を下ろして貰いましょうか。

 

 「あのことは私は気にしてませんから蓼原さんを下ろしてあげて下さい。ユウちゃんも良いよね?」

 

 「うん、良いよ」

 

 「ええの?この娘、かなりアレなこと君たちに言うた聞いたけど?」

 

 「そうです。言った私が言うのもあれですが、私は貴女たちに大変失礼な暴言を吐いてしまったんですよ。それなのに………」

 

 今まで黙っていた蓼原さんが私たちに言ってきた。暴言って、私たちからしたらちょっとした面倒ごとくらいにしか考えていなかったんだけどな~。

 

 「先ほども言いましたが私たちは気にしてませんから。それに、蓼原さんとまだしっかりした会話もしてませんし。ねぇ?ユウちゃん」

 

 「うん、まず蓼原さんがどんな人なのか知らない内に罰だ何だっていうのもおかしな話だと思うしね」

 

 「え?え?」

 

 蓼原さんが困惑しだした。と言うか、あれ?部室全体が変な雰囲気になってない?私たちおかしなこと言ったかな?

 

 「………部長、部長の妹ちゃんたちは天使か女神なん?」

 

 「俺の自慢の妹だからな」

 

 「ここまで器の大きい女性もいるのだな」

 

 「ディルの場合は女運が悪いだけじゃないのか?」

 

 「…………否定出来んな」

 

 「ははは、やっぱり千景と友奈は良い人だな」

 

 「そうだね~」

 

 ………思ったことを口にしただけなのだが、何故か私とユウちゃんが褒められてる。何故?

 

 「あの、とりあえず蓼原さんを下ろして貰っても?」

 

 「あ、せやったわ。…………はい、明希ちゃん」

 

 「…………あの、千景さん、友奈さん、先日はすみませんでした。貴女たちが気にしていないとしても私が失礼なことを貴女たちに言ってしまったことは事実です。本当にすみませんでした」

 

 自由になった蓼原さんは私とユウちゃんに頭を下げてきた。この人喋り方といい礼儀正しいのに先日何であんなこと言ったのかしら?魔が差したのかな?まあ、とりあえず、私とユウちゃんはそんな彼女を見た後2人で目を合わせ頷き、ユウちゃんはパンッと手を叩く。

 

 「うん、じゃあ、明希さん。これから私たちとお友達になってくれますか?」

 

 「とりあえずライン交換しましょうか。小紅ちゃんとまゆらちゃん、八神さんも一緒に」

 

 「私たちも良いの?」

 

 「私も交換する~」

 

 「お、ええなぁ!」

 

 「………ありがとうございます」

 

 そんなふうに私たちが話していると部室の扉が開いてひふみさんが入ってきた。

 

 「…………こんにちは」

 

 「あ、ひふみちゃん、久しぶり」

 

 「……久しぶり………友奈ちゃん……千景ちゃん」

 

 「ええ、久しぶり、ひふみさん」

 

 「2人はこの先輩と知り合いなの?」

 

 「春休み中に兄さん経由で知り合ったのよ」

 

 「はいはい、自己紹介は全体で今からやるから、とりあえず適当に席着いて」

 

 兄さんが部活を始めるために私たちに着席を促した。

 

 「徹隆、新入部員はこの少女たちで全員なのか?」

 

 イケメンさんが兄さんに質問する。確かに他に1年生がいない。新入部員、私たちだけなのかしら?

 

 「後3人来る予定」

 

 「……もしかして、書庫室の…場所……解んないの…かも」

 

 兄さんの答えにひふみさんが呟く。……書庫室の場所解り辛いからあり得るかも。そんなふうに考えていると部室の扉が開いた。

 

 「ああ、良かった。やっぱり千景さんたち先に来てましたね」

 

 「榛名先生」

 

 「新入部員2人が迷ってましたので連れて来ましたよ。新入部員はこれで全員来てますか?」

 

 榛名先生が男子生徒と女子生徒を連れてきた。

 

 「先生ありがとうございます。ただ、後1人足りませんね」

 

 「あら、そうですか。え~と、いないのは、D組の博斗(はくと)君ですね」

 

 「博斗!?先生!博斗って小田原(おだわら)博斗ですか!?」

 

 榛名先生がまだ来ていない新入部員の名前を言うと蓼原さんが急に大声を発して狼狽えだした。

 

 「え!?ええ、そうですけど?」

 

 「何だ蓼原?その新入部員知ってんのか?」

 

 「え!?あっ!え、え~と、はい」

 

 兄さんの質問に蓼原さんは、やってしまったと言うような顔をする。う~ん、どうやらあまり聞かれたくない話のようね。

 

 「………先生、すいませんけど、その小田原でしたっけ?探してきてもらって良いですか?こっちは今いる人だけで自己紹介始めちゃいますから」

 

 「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そう言って先生は小田原君を探しに部室を出て行った。

 

 「あの、徹隆さん……」

 

 「よし!じゃあ、部長の俺から自己紹介始めるぞ!蓼原、お前は最後に回すから()()()()()()()()()しっかり考えとけよ」

 

 「!………はい」

 

 こうして私たちにとって初めての文芸部の部活動が始まった。

 

 「んじゃあ、自己紹介だけど、学年とクラスと名前、後は文芸部らしく好きな作品かジャンルあたりでも言っていくか。あ、好きな作家でも良いぞ」

 

 「部長。意異名は言わんでええの?」

 

 兄さんが自己紹介の項目を言ったら八神さんが提案してきた。

 

 「………意異名か~」

 

 「意異名言っといたほうがええとウチは思うで?意異名と本人が結びつかんで唐突に目の前で褒められたり、罵られたりされるかも知れへんし」

 

 うわ~、それはイヤね、褒められるならまだしも。言った人と言われた人も最悪だけど、もしいきなり、兄さんが『常懐者』だって知らない人が兄さんに向かって『常懐者』の悪口言っているのを目の当たりにしたら…………リアルに『地雷の上でタップダンス』なんて雰囲気になるわね。

 

 「…………『地雷の上でタップダンス』なんてことに成りたく無いから意異名持ってるヤツは意異名も言って」

 

 あ、兄さんが冷や汗をかきながら項目を追加したわ。どうやら同じようなこと考えてたみたい。

 

 「あの、すいません。その意異名って何ですか?」

 

 新入部員の男子が挙手をし意異名について質問してきた。

 

 「あ、新入生は意異名知らんヤツもいるか。意異名ってのはこの学校で良くも悪くも注目を集めたヤツに与えられる通り名みたいなものだ。ほら、入学式の時に生徒会長が『導師』って言われただろ?アレが意異名」

 

 兄さんが意異名について説明する。

 

 「なるほど。解りました」

 

 「他に質問は?………じゃあ、まず俺からかな。文芸部部長、2年C組、焔徹隆だ。意異名は『常壊者』。好きな作家は赤川次郎と星新一、後ジャンル的にはグルメものも好きかな」

 

 兄さんの自己紹介が終わると今度は蓮太郎さんが立ち上がり自己紹介を始めた。

 

 「同じく2年C組、里見蓮太郎。意異名は『覇拳』。好きな作品はファーブル昆虫記なんかの動物植物問わずの記録誌的な作品だ。とりあえずよろしく」

 

 「2年A組のディルム・クリューゲルだ。『輝貌(きぼう)』と言う意異名を持っている。好きなジャンルは古今東西あらゆる伝記ものだな。よろしく頼む」

 

 イケメンさん、もといディルムさんの自己紹介が終わり、ひふみさんに順番が回る。

 

 「………2年E組の…滝本……ひふみ…です。意異名は…ありません。……好きなジャンルは……近未来系の……作品です。……よ…ろしく…お願い…します」

 

 ひふみさん、頑張りました!何というかあの人は応援したくなる。

 

 「じゃあ、ウチの番やな。2年E組の八神はやて言います。気軽に名前で呼んでな~。意異名は『管理者』。好きなジャンル等は特に無くて結構色んなもの読んどります。後、風紀委員にも所属しとるから時々部活にこれへんことあるけど堪忍な」

 

 「じゃあ、副部長の蓼原はトリに持ってくから、次1年……さっき質問した男子君からいってみよう」

 

 はやてさんの自己紹介が終わり兄さんがさっき質問した藍色の短髪に藍色の瞳の男の子に自己紹介するように言う。

 

 「1年A組、有馬(ありま)はじめと言います。好きなジャンルと言いますか、ラノベをよく読みます。よろしくお願いします」

 

 「………なんか俺らの自己紹介、格好付けてたような気がする」

 

 蓮太郎さんがなんか呟いた。

 

 「じゃあ、次は隣の銀髪ちゃん、自己紹介よろしく」

 

 兄さんが今度は有馬君の隣の銀髪ツインテールで蒼い瞳のすっごい美少女に言う。

 

 「えっと、1年E組のラティナ・クリューゲルと言います。ファミリーネームで解るかも知れませんがディルムの妹です。好きなのは恋愛小説です。よろしくお願い致します」

 

 へー、ディルムさんの妹。すっごい美男美女兄妹ね。

 

 「なになに、ディル君あないなごっつう可愛い妹ちゃんおったの?何で言うてくれへんかったの?」

 

 「単に言う機会がなかっただけだ。それに改まって言う義理もない」

 

 「そりゃそうだ。………ん?俺ら妹いる率高くね?」

 

 「はいはい、そこ静かにね~。んじゃあ、次頼む」

 

 ん?あ、私の番か。

 

 「1年B組、焔千景です。部長の徹隆の妹です。SFモノやラブクラフト、TRPGのプレイものなんかを好んでよく読みます」

 

 「あれが徹隆の妹か。……思っていたより普通に()()()()だな」

 

 「なんかディルが言うと良い女性って意味の重みが違う」

 

 蓮太郎さんたちがまたなんか言ってる。そういえば、ディルムさんが女運悪いとか言っていたような?

 

 「じゃあ次、友奈頼む。ただし、日本でな」

 

 「うっ、先手打たれた。えー、1年B組の月城友奈です。チカちゃ、千景ちゃんの幼馴染みで徹隆お兄ちゃんの妹的存在です。好きなジャンルとかはありませんが、今まで読んだ作品だと『赤と黒』『美女と野獣』『八十日間世界一周』なんかが好きです」

 

 「フランス文学か」

 

 「確か友奈は中学入学前までフランスに居たんだよ」

 

 「なるほど、それで読む機会が多かった訳か」

 

 「そないなことより、あんな可愛い娘が妹的存在って、部長はどこのギャルゲーの主人公やねん」

 

 「誰がギャルゲーの主人公だ!っと、次の娘、自己紹介よろしく」

 

 はやてさんの台詞に兄さんがツッコむ。

 

 「あ、えーと、1年B組の夜ノ森小紅です。好きなジャンルは特に無くて人気になった小説なんかを読んでます。よろしくお願いします」

 

 「夜ノ森?あー、あの娘が会長の妹か」

 

 「あの会長の妹にしては、まともそうだな」

 

 「いや、あの胸部装甲のどこがまともやねん。ひふみちゃんよりあるで。アレは最早大量殺戮兵器やで」

 

 「おーい、エロオヤジ、セクハラ発言もいい加減にしろよ」

 

 「むっつり里見君に言われたないわ」

 

 「誰がむっつりだ!誰が!」

 

 「蓮太郎、うるさいぞ~。じゃあ、1年最後の娘、お願い」

 

 「はい。1年B組の桃内まゆらです。好きなジャンルや作品とかは特になくて、何となくで手に取った本を読む感じです。よろしくお願いします」

 

 「なんか、今までで1番普通って感じの娘だな」

 

 「解らんで?ああいう娘に限って1番ごっついカルマ(面白ネタ)背負っておるかも知れへん」

 

 「はやては俺たちの部活をお笑い芸人の巣窟にでもしたいのか?」

 

 「否定はせん」

 

 「否定しろよ」

 

 「さて、………蓼原、()()()()()決まったか?」

 

 兄さんが蓼原さんに聞く。

 

 「……はい」

 

 「よし!じゃあ、蓼原、自己紹介頼む」

 

 兄さんに言われ、蓼原さんが席を立つ。

 

 「2年B組、蓼原明希です。文芸部の副部長をやらせていただかせて貰ってます。意異名はありません。好きなジャンルは恋愛小説です。よろしくお願いします。……先ほどの、…………」

 

 そこで、蓼原さんは一度言い淀むが、深呼吸して話続ける。

 

 「先ほどの博斗と言うのは私の実の弟です。苗字が違うのは親が離婚したためです。そして、……皆さんには最初に謝っておきます。……私の弟、博斗はとても我が儘で、気に入らないことがあると直ぐに手を上げる性格です。だから、皆さんにはとても迷惑をかけると思います」

 

 そこまで黙って聞いていた兄さんたちがしゃべり出す。

 

 「蓼原、離婚したって、その弟とは今別々に住んでんの?」

 

 「え?いえ、今は一緒に住んでいます」

 

 「………明希ちゃん……その…弟君と…一緒に住みだしたのって、三週間前…くらいから?」

 

 「え?あ、はい」

 

 「なるほど、蓼原が暗い顔してたのはそれが理由か」

 

 「大方、自分の母親に危害が加わらないようにするために警戒してたのだろう」

 

 「自分の家でそれじゃあ神経使(つこ)うって、休む暇あらへんもんなぁ」

 

 なるほど。だんだん話が掴めてきた。その弟のせいで蓼原さんは疲れて私たちにあんな発言をしてしまったんじゃないだろうか?だって、蓼原さんはとても優しくて真面目な良い人なのだから。ほんの少ししか話していない私ですらそう思うのだ。それ以上に長い時間付き合っている兄さんたちが異変に気付かない筈が無い。

 

 「まあ、アレだ。その弟君がどう言った理由でウチの部に入部したかは知らんが、ただで卒業出来ると思うなよ?なあ、蓮太郎、ディル」

 

 「当然だ。そんな男の風上にも置けないヤツを放って置くわけないだろ?

 

 「むしろ、いつまで持つか?少しは骨のある者なら良いのだが

 

 ……なんか兄さんたち2年生男性陣から黒いものを感じるんだけど?

 

 コンコンッ

 ガチャ

 

 そんなことをしていると部室の扉からノックが聞こえ、黒眼で黒髪ロングの大和撫子と言って良いような美少女が入ってきた。………この学校、美形率高くない?

 

 「木更さん!?」

 

 入ってきた大和撫子、木更さん?に蓮太郎さんが驚く。

 

 「どうした?天童」

 

 兄さんが木更さんに用件を聞く。

 

 「焔君、1年の小田原博斗君って文芸部の新入部員よね?」

 

 「?そうだけど?」

 

 「木更さん!博斗が何かやらかしたんですか!?」

 

 木更さんの言葉に今度は蓼原さんが驚く。

 

 「え?ええ、やらかしたと言えばやらかしたわ。鳴橋先生に暴言を吐いて、手を上げようとしたのよ」

 

 「よーしお前ら、獲物の準備」

 

 「徹隆、俺は(ランサー)(セイバー)どちらで行こうか?」

 

 「剣で」

 

 「全弾擊発(アンリミテッドバースト)使って良いか?」

 

 「もちろん」

 

 「ちょっと待って!大丈夫だから!鳴橋先生は大丈夫だから!それに、近くで見ていて小田原君を止めたのは加々知(かがち)先生だから!」

 

 ピタッ

 

 兄さんたちの動きが一斉に止まった。

 




後編は明後日までに投稿予定です。

また、ラブライブ!サンシャイン!!×遊戯王のコラボ短編をこの後直ぐに投稿予定ですのでよかったら読んで下さい。


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元気な心(後編)

第6話後編です。

リアルでトラブルがあり投稿が遅れまして申し訳ありません。その代わりと言う訳ではありませんが今回少し長めです。

最後に人物紹介あります。
タグが追加されました。

それでは本編どうぞ。


 今まで物騒な準備をしていた2年の男性陣の動きが一斉に止まった。

 

 「え?加々知先生?マジで?」

 

 「マジもマジ大マジよ。ちょうど職員室に用あって行ったら加々知先生の前に正座させられてる男子生徒がいて、その近くにいた鳴橋先生に事情を聞いたら鳴橋先生も付き添うから文芸部に伝えといてくれって」

 

 「……………蓼原」

 

 「……はい」

 

 「帰ったら弟君に優しくしてやってな」

 

 「はい」

 

 兄さんがさっきまで言っていたことと真逆なことを言いだした。

 

 「兄さん、さっきまでと言ってること逆よ?」

 

 私の台詞に蓮太郎さんとディルムさんが答える。

 

 「千景、そりゃあ仕方ないって」

 

 「何と言ってもあの加々知先生に捕まったのだからな」

 

 「そんなに凄い先生なんですか?その加々知先生って」

 

 有馬君が質問する。確かに気になる。兄さんたちの反応である程度凄い先生だと言うことは解るのだが、具体的にはどれくらいなのだろうか?

 

 「加々知先生はな、風紀委員の担当顧問の先生やで。後、現在の3年の学年主任をやっとるな。そんでもってこの学校のOBで当時の意異名が『鬼神(きしん)』やったって話」

 

 「ずいぶん物騒な意異名だな」

 

 小紅ちゃんが苦笑交じりに言う。確かに物騒よね、鬼神って。

 

 「………見た目…も……とっても…怖いよ…」

 

 「まあ、初めて見た時はどこの殺し屋よって思ったわね」

 

 ひふみさんが震えながらポツポツと呟き、木更さんが同意するように当時の自身の感想を述べる。そんなに怖いのか。

 

 「あの先生の存在がウチの学校の生徒が教員に手を上げず、犯罪に手を染めない理由の8割を占めてるからな。ははは、こりゃあ意気込んで、ただで卒業させないなんて言ったが俺らの出番無くなったかな?」

 

 兄さんが苦笑しながらぼやく。

 

 「それで、天童の用事はそれだけ?」

 

 兄さんが木更さんに訪ねる。………そういえば、天童ってどこかで聞いたような。どこだったかしら?

 

 「いいえ、これを届けに来たのが本当の用事」

 

 「ん、ああ、部の年度目標と来週の部長会議の資料か。わざわざ生徒会議長様が届けなくても喚んでくれたら俺が行ったのに」

 

 兄さんが木更さんから紙の束を貰い呟く。

 

 「本当は会長が来ようとしてたのよ?」

 

 「は!?夜ノ森先輩自ら!?なんでそんなこと…………おい、()()()

 

 兄さんが小紅ちゃんを見て何かしらの答えに行き当たる。

 

 「その()()()よ。最初文芸部だけに行こうとしてたんだもの。私と撫子(なでしこ)副会長で止めたわ」

 

 「他の人たちは?」

 

 「皆他の仕事でいなかったのよ。保坂(ほさか)副会長以外」

 

 「なるほど」

 

 「そんな訳で代わりとして私が来たの。まあ、ちょうど私用で蓮太郎君が新入部員を邪な目で見てないかのチェックをしようと思ってたから」

 

 「ちょっ、木更さん!?」

 

 「大丈夫、()()()()()()邪な目を向けてないから」

 

 「せやけど、明希ちゃんのスカートの中身は気になっとってたで」

 

 「おい!?徹隆!八神!」

 

 「……………焔君、蓮太郎君連れてくけど良いよね?」

 

 木更さんが笑顔で兄さんに問う。

 

 「「「「「どうぞどうぞ」」」」」

 

 「な!?お前ら!?」

 

 2年生全員が肯定したわ。

 

 「チカちゃん、私びっくりしちゃった!」

 

 「ええ、私もよ。まさかディルムさんとひふみさん、蓼原さんも乗ってくるなんて!」

 

 「友奈!千景!変なことに驚いてないで助けてくれ!!」

 

 「あら?蓮太郎君、名前呼びで助けを求められるほど1年生の娘と仲良くなってたのね?

 

 「き、木更さん!?違っ!?」

 

 そう言って木更さんは蓮太郎さんの制服の襟首を掴んで引きずっていく。蓮太郎さんかなり力を入れて暴れているようだけど木更さんは軽々しく彼を連れて行く。蓮太郎さんって確か兄さんたちの中で1番強いんじゃなかったかしら?それをあんな軽々と。それとも蓮太郎さんの天童流戦闘術って体捌きに主きを置いているとか?ん?あ!()()流戦闘術!!そうか、天童ってどこかで聞いたことがあると思っていたら!てことは蓮太郎さんより木更さんの方が強いってことよね?蓮太郎さん暴れてるのに木更さん全然重心がぶれてないもの。

 

 「じゃあ、文芸部の皆さん。失礼するわね」

 

 「おう。夜ノ森先輩と鹿島(かじま)先輩によろしく」

 

 「徹隆!てめえ、憶えてr……」

 

 ガチャ

 パタン

 

 扉が閉まると同時に蓮太郎さんの声は聞こえなくなった。あら、かなりの防音設備ね。

 

 「あの~、里見先輩は大丈夫なんでしょうか?」

 

 今まで静かだったラティナちゃんが聞いてきた。

 

 「安心しろ、ラティナ。いつものことだ」

 

 「そうそう、夫婦喧嘩は何とやらって言うしな」

 

 ディルムさんと兄さんが気にしなくて良いと言ってきた。

 

 「あ、やっぱりあの2人は恋人同士だったんだ」

 

 「「「「「いや」」」」」

 

 「「「え!?」」」

 

 2年生全員からの否定にラティナちゃんだけで無く小紅ちゃんとまゆらちゃんも驚いた。

 

 「やっぱり、普通はそう思いますよねぇ」

 

 「………いつも、あんな…感じ」

 

 「ほんまに、はよくっつけ!て感じやな」

 

 どうやら毎回こんな感じらしい。と言うか、アレであの2人は本当に付き合って無いの?端から見たら恋人同士のイチャイチャにしか見えないんだけど。

 

 「さて、自己紹介も終わったし今日は文芸部の活動を説明して終わりにするか」

 

 「あ、お兄ちゃん、1つ質問良い?」

 

 ユウちゃんが挙手して兄さんに聞いてきた。

 

 「ん?何だ?」

 

 「お兄ちゃん、前に文芸部員は蓮太郎さんとひふみちゃん以外に4人いるって言ってたけど、後の1人は?」

 

 そういえば、言ってたわね。兄さんの数え間違えだと思っていたわ。

 

 「ああ、そういえば言ったな~。もう1人は今アメリカに留学中で来月には帰ってくる予定だから、きたら自己紹介して貰うよ」

 

 アメリカに留学中?確かユウキさんのお姉さんがそうだったような?じゃあ、文芸部の最後の1人はユウキさんのお姉さん?

 

 「他に質問ある奴いるか?………じゃあ、部活内容を説明してくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、俺は蓼原と職員室行ってくるから。千景たちはそのまま帰るのか?」

 

 部活が終わったので私と徹隆さんは職員室の加々知先生の元へ向かい、ことの経緯を聞くことになりました。なので他の人たちとはこのまま別れます。

 

 「ええ、途中まで皆で帰ることになったの」

 

 徹隆さんの問いに千景さんが答えます。本当に仲の良いご兄妹ですねぇ。羨ましいです。て、いけないいけない。どうやら私は自分が思っている以上に嫉妬深いようで、気を付けないといけません。

 

 「Ah,(あ、) j'y pense!(そうだ!)蓼原さん」

 

 「へ?は、はい!?」

 

 私が自己嫌悪に陥っていると友奈さんから声をかけられました。友奈さん今何て言いました?あ、そういえば、入学前はフランスにいたと聞きました。と言うことはあれはフランス語でしょうか?って今はそんなこと考えている場合じゃないですよねぇ。何でしょう?やっぱり本当は怒っていて、文句の1つや2つは言おうと思ったのでしょうか?

 

 「友達になりましたし、明希ちゃんって呼んでも良いですか?」

 

 「へ?」

 

 「私も明希さんって呼んで良いですか?」

 

 友奈さんと千景さんが笑顔で聞いてきました。ははは、私はこんなにも良い人たちに嫉妬していたんですか。本当に私は醜くてダメですねぇ。

 

 「構いませんよ。あと、ユウキちゃんやひふみんとは普通に話しているんですよねぇ?私にも普通に話してくれて良いですよ。その代わり、千景ちゃん、友奈ちゃんって呼んで良いんですか?」

 

 「ええ、良いわよ。それと……」

 

 千景ちゃんが私の耳元まで近づいてきます。え?何でしょう?

 

 「兄さんは鈍感だからちゃんと言わないと伝わらないわよ?」

 

 「!?」

 

 え?え!?

 

 「ふふふ。あ、そうだ()()に関しては私も一家言あるからなんかあったら相談に乗るわ。理由が知りたかったら兄さんに聞いて」

 

 「良いのか?」

 

 「ええ、私は構わないわ」

 

 「Je ne me dérange pas non plus.(私も構わないよ。)

 

 「じゃあ、先帰ってるわね。兄さん」

 

 そう言って千景ちゃんたちは帰って行きました。私の心を掻き乱したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おや、焔さん、蓼原さん、部活は終わったのですか?」

 

 「徹隆君、明希さん、木更さんから話聞いてますか?」

 

 私たちが職員室に入ると加々知先生と榛名先生が声をかけてくれました。

 

 「はい、加々知先生、榛名先生。この度はウチの弟が大変御迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

 

 私は先生方に謝りながら弟、博斗を見ます。正座させられて、坊主になってます。………よく見たら目からハイライト消えてますねぇ、コレ。

 

 「ん?ああ、コレですか?反省にはやはり丸刈りかな?と思いまして」

 

 加々知先生がことも何気に言ってきます。いや、まあ、坊主も驚いたんですが、何でハイライト消えてるんですかねぇ?

 

 「いや、加々知先生、多分蓼原が聞いてるのはそっちじゃないと思います。なんで小田原の心が折れてるのかが気になってるんだと思います」

 

 「普通に説教しただけなんですがねぇ?」

 

 ビクッ

 

 おや?今博斗が動いたような?

 

 「何『おかしいなぁ』みたいな顔してるんですか!!人の心折る説教ってどんな説教ですか!?」

 

 「焔さんたちを説教した時の10分の1程度なんですが?」

 

 ビクッ

 

 あ、また動きました。加々知先生の説教って言葉に反応してるんですかねぇ?

 

 「え!?それって由良のとばっちり受けた時のアレですか!?何やってるんですか!?普通の人の精神は俺らみたいにオリハルコンや由良みたいにリバイバルスライムで出来てないんだから折れるに決まってんだろ!!」

 

 「!!」

 

 「『あっ』みたいな顔してんじゃねぇ!どうすんだよ、コレ!?」

 

 「お、落ち着いて、徹隆君!先生が親御さん呼んでおきましたから!」

 

 「あ、榛名先生、いないと思ったら電話してたんですか。で、お母さんは来てくれるんですか?」

 

 「はい、20分くらいで来るそうですよ。……ところで明希さん、顔が赤いようですが大丈夫ですか?」

 

 「うぇっ!?だ、大丈夫です!」

 

 うー、さっき千景ちゃんに言われたことを思い出してしまいました。せっかく弟ばかり見て気を紛らわしていたのに。なんで千景ちゃんにばれたんでしょうか?そんなに解り易いですかねぇ?私って。と言うか千景ちゃんのあの台詞のせいでまともに徹隆さんの顔を見ることができません。

 

 「千景に何か耳打ちされてからだよな?何言われたか知らんがあまり気にしなくて良いぞ?千景のことだから今回の件のちょっとした仕返し程度に考えてるだろうから」

 

 なるほど、これは千景ちゃんからの罰なんですか。これはなかなかカナリの罰ですねぇ。流石徹隆さんの妹ちゃんです。

 

 「とりあえず、コレ少しはどうにかしません?」

 

 「確かにコレをこのままというのは流石にマズイですね」

 

 「でも、どうすれば良いんでしょうか、コレ?」

 

 「この際コレこのまま持って帰りますよ」

 

 「いえ、コレをこのまま親御さんに渡すのは教員としてどうかと。ねぇ、加々知先生?」

 

 「確かにそうですね」

 

 「元はと言えば加々知先生がコレをこんなんにしたんですから。何か妙案無いんですか?」

 

 「そうは言いましても、まさかコレがここまでになるとは思っていなかったので」

 

 「てことはアレか?最大の要因はコレが弱すぎたってことですかね」

 

 「すみません。コレが弱すぎて」

 

 「いえ、蓼原さんのせいではありません。全てコレの責任です」

 

 「そうそう、相手を考えず手を上げようとしたコレの責任だから。蓼原は悪くない」

 

 「てめぇら、さっきからわざとだろ!?」

 

 「「「「そうだよ(ですよ)」」」」

 

 コレ、もとい博斗が起きました。お母さんが来る前に起きて良かったですよ。

 

 「人が黙って聞いてりゃあコレコレコレコレと俺は物じゃねぇつぅの!!」

 

 「加々知先生に説教されて心が折れたにしては随分威勢が良いな?」

 

 「うっせぇ!その加々知とかいう亀みたいなつり目の先公だって俺の不意を突いただけだ!真っ正面からやったら俺が勝つね!」

 

 「亀みたいなつり目って言われてますよ?」

 

 「目つきの悪いガリガリ君に言われましても、ねえ?」

 

 「てめぇがやったんだろうが!?」

 

 博斗は大きな声で威嚇するように吠えていますが、徹隆さんと加々知先生にはどこ吹く風のようです。

 

 「はん!どうだろうと先公である限りPTAが怖くて体罰は出来ねぇんだ。だから口だけの説教しかしなかったんだろ?」

 

 あー、よくいる三下の台詞ですよ。我が弟ながら情けないですねぇ。

 

 「お前な~、加々知先生をまともな先生と一緒にするなよ」

 

 「なんだよ?昔堅気の体罰ありの先公だとでも言うのかよ?」

 

 「違う違う。まともな先生と一緒にするなって言ったろ?体罰をやったっていう証拠を残す訳ないだろ

 

 「は?」

 

 「焔さん、語弊がありますよ。ただ、更生するか、従僕するように強調するだけです

 

 「てめぇ、ホント先公か!?」

 

 「「この学校じゃあ普通だよ(ですよ)」」

 

 はい、その通りです。良くも悪くも変人の集まりなんですよねぇ、この学校。

 

 「まあ、先生の指導は時間かかりますし、今回は()()()()()()()()()でまとめましょうか?」

 

 「良いんですか、焔さん?」

 

 「こういうのは近くに、同年代で自分より強いヤツがいなくて天狗になってることが多いんで、この方が対処し易いことありますから。て訳で、俺が相手するから」

 

 「は?てか、さっきからてめぇ誰だよ?」

 

 「君が入部しようとした文芸部の部長だよ?」

 

 「明希の男じゃねぇのかよ?」

 

 「うぇっ!?」

 

 ちょっ!?博斗何言って!?

 

 「俺みたいな変人が相手じゃ蓼原が可哀想だろ?蓼原美人なのに」

 

 「…………蓼原さん、ものすごい顔してますよ?」

 

 「青春ですねぇ」

 

 恋人であることは否定されましたが、び、美人って言われました。………あー!悲しめば良いのか喜べば良いのか解りません!

 

 「あんた、意異名あんの?」

 

 「『常壊者』って意異名があるよ」

 

 「『常壊者』…なんだよ、『覇拳』の傘下じゃねぇかよ」

 

 「傘下ではないんだがな~。ん?あ、もしかして『覇拳』と戦うのが目的でウチの部入ったのか?」

 

 「そうだよ」

 

 「なんだ。蓼原がいるから入部したんだと思ってた」

 

 「は?」

 

 「だってさっき俺が蓼原の彼氏じゃないって言ったらホッとしてたし」

 

 あ、博斗の顔がみるみる赤くなっていきますね。

 

 「あ、それとも『覇拳』倒して蓼原に格好いいところ見せたかったとか?」

 

 「あー、徹隆君がまた天然で相手を煽ってます」

 

 榛名先生が溜息を吐きながら頭を抑えてます。徹隆さんは天然で相手を煽ることが多いんですよねぇ。しかも今回はかなり的外れなことを言うから博斗がすっごい怒ってますよ。

 

 「あれは天然ではありませんよ」

 

 え?

 

 「殺す!!」

 

 加々知先生が何か言ったように聞こえましたが博斗が大声を上げたので聞き取れませんでした。

 

 博斗が怒りのまま徹隆を殴ろうと右拳を突き出す。が、徹隆はその突き出た拳の手首を左手でつかみ、下に力の向きを変え、自身のパンチの勢いを殺すことが出来ずに博斗は回転し背中から地面に叩きつけられる。

 

 「かはっ!?」

 

 「あちゃー、ちゃんと受け身しなよ」

 

 勝負は一瞬でした。博斗が徹隆さんに殴りかかったかと思えば次の瞬間には博斗が地面に背中から叩きつけられていました。博斗は受け身が出来なかったから叩きつけられた時に肺の空気を全部吐いてしまってます。あれ、痛いし苦しいんですよねぇ。

 

 「はっ…はっ…こはっ……くっそう」

 

 「弱いな~、小田原」

 

 「…はっ…てめぇ」

 

 「なんでお前が負けたか教えてやろうか?」

 

 「…なに?」

 

 「お前、自分に嘘つきすぎ。そんなんだから俺の言葉で簡単に動揺すんだよ。もう少し自分の姉と話しなよ」

 

 「………………まえに…」

 

 「ん?」

 

 「お前に俺の、俺たち家族の何が解るんだよ!?」

 

 「……………」

 

 なんででしょうか?博斗がとても弱々しく見えます。

 

 「ん~。確かに蓼原家のことはよく知らん」

 

 「なら!」

 

 「ただ、()()で苦しんだヤツならイヤって程知ってる」

 

 『家族に関しては私も一家言あるから』

 

 何故でしょう?千景ちゃんのあの言葉が心に重くのし掛かります。徹隆さんの家族は良い家族と聞いていましたが。

 

 「あの~」

 

 と、そんなことを考えていたら、間延びした声が職員室に響きました。

 

 「連絡があり息子を迎えに来た蓼原ですけど~」

 

 「お母さん!」

 

 「あら?明希ちゃん?博斗くんを迎えに来たんだけど?」

 

 「博斗ならあそこですよ」

 

 私は大の字で徹隆さんに倒されてる博斗を指差します。ん?これって、徹隆さんのイメージ悪くなるんじゃ!?

 

 「あら?少年漫画的な展開かしら?」

 

 「………相変わらずですね、千紗希(ちさき)さん」

 

 実の息子が倒れていても自分のペースを崩すことのないお母さんに加々知先生が話しかけます。え?お二人知り合いなんですか?

 

 「………あら!?もしかして(あかり)くん!?久しぶり~」

 

 「…………お久しぶりです」

 

 やっぱり知り合いだったんですねぇ。と言うか、灯って。

 

 「加々知先生の名前って灯だったんですね。私同じ学校の教員なのに初めて聞きました」

 

 「………チッ」

 

 「ここまで舌打ちが様になっている人ってそうそういないと俺は思う」

 

 確かに、まるで舌打ちのお手本のようでした。

 

 「灯くん、昔から自分の名前嫌いだったもんね~」

 

 「はあ、それを知っていてなお、頑なに名前で呼んでくる貴女も貴女ですよ、『天魔(てんま)』さん」

 

 「ちょっと~!私がその意異名嫌いなの知ってるでしょ~!」

 

 「だから使ってるんでしょうが。まったく、皮肉すら通じない」

 

 加々知先生がここまでペースを崩されるなんて、お母さんって本当は凄い人なんでしょうか?

 

 「とりあえず、お宅の息子さん回収してって下さい」

 

 「はいは~い。じゃあ、博斗くん帰りましょうか~って、動ける?」

 

 「うっせぇ、ババア」

 

 「こら!博斗!また貴方は!」

 

 「うふふ、元気ね~。でも、後10分は動けないんじゃないかしら?博斗くんを投げた君~?そうでしょう~?」

 

 「……よく視ただけで解りましたね?」

 

 「うふふ、()()()は良いのよ~」

 

 博斗が後10分は動けない?

 

 「どういうことですか?」

 

 「体を叩き付けるときにちょっとした技を使えば相手の全身を好きな時間麻痺させられるんだよ。まあ、実力差がかなりないと出来ないけどな。それと、安心して下さい、蓼原さん。博斗君は俺が運ぶ予定でしたので」

 

 徹隆さんが私に自身がやったことを説明した後、お母さんに向かって話し始める。ああ、お母さん相手だから呼び方が小田原から博斗君に変わってますね。

 

 「あら~。アフターケアもばっちりね~。え~と?」

 

 「ああ、申し遅れました。博斗君と明希さんの所属する文芸部の部長の焔徹隆です」

 

 !い、今徹隆さんが私のこと名前で呼びませんでした!?しまったー!!レコーダーがありません!!こんなチャンス滅多にないのにー!!

 

 「…………ふ~ん。貴方が徹隆くん」

 

 「はい?」

 

 「うふふ、明希ちゃんから色々聞いてるわよ?」

 

 「お母さん!?」

 

 私がレコーダーが無いことを悔やんでいるとお母さんが徹隆さんに何かしら口走ろうとしてました。ちょっ、ちょっと!?何言おうとしてるんですか!?我が母は!?

 

 「うふふ、それじゃあ徹隆くん、博斗くんを車まで運んでおいてね~。私は灯くんに()()()()()()()()()聞いてるから~」

 

 そう言ってお母さんは加々知先生の方に向かって行きました。

 

 「マイペースな母ですみません」

 

 「良いよ。ウチの母親も似たようなもんだし。さて小田原、覚悟は良いか?」

 

 「は?」

 

 そう言って徹隆さんは動けない博斗を抱えます。お姫様抱っこで。え!?ちょっと!?なんて羨ましい!!

 

 「な!?てめぇ、なんだ!?こりゃ!?」

 

 「何ってお姫様抱っこだよ?知らねーの?」

 

 「そうじゃねぇ!!なんでこの運び方なんだって聞いてんだよ!?」

 

 「安心しろ明日には俺とお前の濃ゆいBL漫画が出来てる筈だから」

 

 「安心出来ねぇよ!てか、なんだよ、BL漫画って!?」

 

 「BL漫画知らない?男同士の熱い愛情の物語だ」

 

 「ふざけんな!?なんで俺がてめぇなんかと!?」

 

 「そう言うわりに身体は抵抗してないぞ?」

 

 「てめぇが動けなくしたんだろうが!てか、なんでそんな漫画が学校にあんだよ!?」

 

 「ウチの漫画研究部の女子が全員BL好きの所謂腐女子だからだな。ほら、耳澄ますと聞こえるだろ?どこからともなくスケッチしているカリカリって音が」

 

 「生徒が描いてんのかよ!?てか、てめぇは知っててなんでそんな落ち着いてんだよ!」

 

 「………30冊以上描かれたら、もう諦めるしかないよね!ここまで来ると犠牲者を増やしたくなってくるんだよね!」

 

 え!?30冊以上!?私、26冊しか持ってませんよ!?残りを明日から探さなければ!

 

 「この学校は変人しかいねぇのか!?」

 

 「「「「「「「何を今更」」」」」」」

 

 「おい、待て!今てめぇら以外の声が聞こえたぞ?漫研か?今のが漫研のヤツらか!?」

 

 漫研以外にもいますよ。生徒会、イヤ学校1の情報通さんとか。

 そんなこんなで博斗のメンタルをガリガリ削りながらの運送も終わりました。

 

 「………てめぇ、ぜってー殺す!」

 

 「なら明日からは文芸部に顔出せ。俺は放課後は文芸部に必ずと言って良いほどいるから」

 

 博斗を車の後部座席に乗せながら徹隆さんが答えます。

 

 「私、お母さん呼んできますね」

 

 私はお母さんを呼びにその場を離れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「小田原」

 

 「………なんだよ」

 

 「お前が思っている以上に蓼原も蓼原のお袋さんもお前のことをよく見てるし、心配してるし、大切に思ってるぞ?」

 

 「………うっせぇ。……………………なあ」

 

 「ん?」

 

 「あんたがさっき言ってた()()で辛い思いしたヤツって」

 

 「…………その話はまた後日かな。本人にお前に話して良いか聞かなきゃな」

 

 「………そいつも文芸部か?」

 

 「ああ」

 

 「…………そうか」

 

 「お、蓼原たち来たな。じゃあな、小田原。明日はちゃんと部活来いよ?」

 

 「…………うっせぇ」

 

 「ははは、…………あ、そうだ。小田原、お前今日誕生日だろ?」

 

 「!?……なんで知って」

 

 「ちなみに、蓼原に聞いた訳じゃないからな。じゃあ、今度こそじゃあな。もっと自分に素直になれよー」

 

 「……………訳わかんねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に帰ってきた後、博斗はずっと静かです。何か考えているようですが、徹隆さんに何か言われたんですかねぇ?

 

 「…………なあ()()

 

 !?博斗が私のことを姉貴って言いましたか!?ど、如何したんですかいったい!?

 

 「………おい、聞いてんのかよ?」

 

 「うぇっ!?あ、はい!なんですか?」

 

 びっくりし過ぎて反応出来ませんでした。いけないいけない。

 

 「あの徹隆ってヤツのこと、ホント好きなの?」

 

 「ヴぇっ!?」

 

 急にな、ななななな何言い出すんですか!?この弟は!?

 

 「………はあ、男の趣味悪すぎだろ」

 

 「あら?そうかしら~?結構面白い子らしいわよ?灯くんが珍しく褒めてたわよ~。なかなか良いぶっ飛び具合ですよって」

 

 「ぶっ飛んでる時点で碌でもねぇよ。てか、()()もあの加々知とか言う先公のこと好きだったのか?」

 

 あ、それは私も少し気になりますね。と言うか、今度はお母さんをお袋呼びですか。今まではババア呼びだったのに、徹隆さんホントに何したんでしょう?

 

 「うふふ、そうやって直ぐに恋愛関係に持ってくなんて博斗くんも青いわね~。ん~、灯くんは悪友かな~?灯くんと私と後2人の4人でよくやんちゃして先生に怒られてたな~」

 

 お母さんがとても優しく哀しそうな瞳で遠くを見ています。楽しい思い出だったんでしょうねぇ。

 そんなこんなで久しぶりに博斗といっぱい喋っていると直ぐに家について、私と博斗は着替えて、皆で家を出ます。

 

 「どこ行くんだよ?」

 

 「博斗、今日誕生日じゃないですか。我が家の誕生日は3年前からある場所でと決まっているのです!」

 

 「ある場所?」

 

 「うふふ、レストランよ」

 

 そう、こっちに暮らし始めてから誕生日は絶対ここでお祝いすると決めているのです。家から歩いて20分

 

 『レストラン ジェルダン・ドゥ・アリマン』

 

 「ここがそのレストラン?」

 

 「はい!なんとフレンチレストランなんですよ~」

 

 「何で姉貴が得意気なんだよ。………で、店名ってなんて意味なんだよ?」

 

 「うっ!?そ、それは、………明日友達に聞いてみます」

 

 「ダサ、意味知らねーのに得意気だったのかよ」

 

 博斗がニヤニヤしながら私をからかいます。くっそー、明日必ず友奈ちゃんに聞いとかないと。

 それから私たちは今日のために博斗が来た3週間前から予約していたコース料理に舌鼓を打ち、最後にホールのケーキが運ばれてきました。ケーキの上にはチョコレートで『Happy Birthday HAKUTO』と書いてあるクッキーが乗っています。

 

 「バースデーケーキですよ!バースデーケーキ!」

 

 「うっせぇな、ガキじゃねぇんだから、はしゃぐなよ」

 

 「何格好付けてんですか?博斗()()()()()()()()()()()()()じゃないですか?」

 

 甘い菓子パンよく食べてるし、卵焼きも甘い方が好きだし。

 

 「………………よく見てる、か」

 

 博斗が何か呟きます。なんでしょうか?声が小さくて聞こえませんでした。

 

 「博斗、どうかしたんですか?」

 

 「なんでもねぇよ。………姉貴」

 

 「はい?」

 

 「……俺はあいつのこと嫌いだけど、一応は、応援してやる……」

 

 「…………………ふふふ」

 

 「な、なんだよ!?」

 

 「いえいえ、なんでもありませんよ」

 

 なんだ、私の弟も()()()じゃないですか。

 

 




人物紹介

蓼原明希(たではらあき)
・文芸部副部長
・『常壊者(じょうかいしゃ)』ファンクラブ会長
・徹隆のアーッな本の愛読者

八神(やがみ)はやて
・文芸部員兼風紀委員副委員長
・『管理者(かんりしゃ)』の意異名を持つ
・女性陣のぶっ飛び枠筆頭

ディルム・クリューゲル
・文芸部員
・『輝貌(きぼう)』を持つ剣と槍の名手
・イケメンとしか言い様の無いイケメン

ラティナ・クリューゲル
・文芸部の新入部員
・ディルムの妹
・天使みたいな見た目の美少女

有馬(ありま)はじめ
・文芸部の新入部員
・数少ない男性常識人枠(になるか!?)
・ひづめと言う妹がいるという情報を入手

天童木更(てんどうきさら)
・現生徒会議長
天童流抜刀術(てんどうりゅうばっとうじゅつ)の使い手
・さっさとくっつけ

小田原博斗(おだわらはくと)
・文芸部の新入部員
・明希の弟
・元の髪型を実は作者は考えてすらいなかった

加々知灯(かがちあかり)
・宮沢中学3年学年主任兼風紀委員担当顧問
・宮沢中学のOBで当時の意異名は『鬼神(きしん)
・見本のようなドスの効いた美しい舌打ちをする

蓼原千紗希(たではらちさき)
・明希と博斗の母親
・宮沢中学のOGで当時の意異名は『天魔(てんま)
・最強のマイペースを持つおっとり美人


今週末に閑話を投稿予定


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閑話2 短編集

閑話です。

短い話を3話ほどまとめた短編集的なオマケ要素たっぷりの補足的な蛇足話です。

●『男子会』は3話後春休み中の出来事です。
●『部活内容』『妹は心配です』は6話後編の本編と同じ時期のお話です。


 ●男子会

 

―北岡市のとあるラーメン屋―

 

 由良

 「それにしても徹隆の妹たちがあんな美人だったとはな~。「サンマーメンお待ち!」…お、来た来た」

 

 ディル

 「そんなに美人だったのか?と言うか由良、貴様性懲りもなく今度は徹隆の妹を口説く気か?「もやしラーメンお待ち!」…む」

 

 真悟

 「口説く気どころか昨日速攻で交際申請してたぞ、こいつ。「味噌担々麺お待ち!」…あ、はーい」

 

 景友

 「まったくもって節操なさ過ぎだな。「味噌ラーメンお待ち!」…お、どうも」

 

 蓮太郎

 「ある意味すげーよな。「チャーシュー麺お待ち!」…ありがとうございます」

 

 徹隆

 「俺的には、友人の息の根を止めたくはないんだけどな~。「スタミナラーメンお待ち!」…いただきます」

 

 由良

 「ブッ…ゴホッゴホッ…ヤベッ気管に入った」

 

 徹隆

 「何やってんだよ?」

 

 由良

 「ゴホッ、いや…ゴホッ徹隆が変なこと言うからだろゴホッ…あ~苦しかった」

 

 真悟

 「何を今更、…ズルズル」

 

 ディル

 「よくあることではないか…スゥ」

 

 景友

 「驚くことじゃないだろ?…モグモグ」

 

 由良

 「……前から思ってたけどお前ら友達にもうちょっと優しくしない?」

 

 徹隆

 「お前がもう少しまともになったらな。………んー、足らんな。追加頼むか」

 

 蓮太郎

 「リアルでハーレム作ろうとしてるヤツにはこれくらいで十分だろ?………飯もの頼まね?」

 

 由良

 「ハーレムは男の夢だ!てかそれなら、ディルも対象だろ。………じゃあ、大盛り二品頼んで皆で分けね?」

 

 ディル

 「う!?それを言われると俺は何も言えぬな………あ、餃子も一緒に良いか?」

 

 景友

 「ディルの場合は告白()()()()()側だし、お前とはちょっと違くね?………一品料理も適当に頼むか」

 

 真悟

 「一応全員ちゃんとフッてるしな………三品くらい?」

 

 蓮太郎

 「青椒肉絲が食いたいな」

 

 由良

 「レバニラ」

 

 徹隆

 「麻婆豆腐」

 

 景友

 「飯ものは炒飯だな」

 

 真悟

 「天津飯が食いてぇ」

 

 景友

 「それらで良いか?………そういや、ディルは告白してきた娘の中に気になった娘とか居なかったのか?」

 

 ディル

 「んー。あの中でか………」

 

 徹隆

 「すいませーん、追加注文で、炒飯と天津飯それぞれ大盛りで!後、青椒肉絲とレバニラ、麻婆豆腐、餃子1つずつお願いします。「あいよ!」………景友、多分それは無い、と言うかディル自身イヤだと思うぞ?」

 

 景友

 「なんで?」

 

 徹隆

 「ディルに告白してきた娘たち全員、ディルに告白したその当時付き合ってるヤツがいたんだと」

 

 由良・真悟・景友

 「「「はあ!?」」」

 

 由良

 「付き合ってるヤツがいながらディルに告白したのかよ!」

 

 景友

 「うへ~、それはまた」

 

 真悟

 「てか徹、なんで知ってんだよ?」

 

 徹隆

 「ディルから部活中に聞いた。なんでも全員が付き合っていた彼氏に不満を抱えていたらしい」

 

 蓮太郎

 「俺も聞いてる。ちなみに情報提供者は河原(かわら)らしい」

 

 景友

 「あー、『アーカイブ』なら納得」

 

 由良

 「あいつは将来、諜報機関にでも所属する気か?」

 

 ディル

 「さあな?まあ、あいつのお陰で当時は助かったがな。「あいよ!餃子お待ち!」…む、来たか。蓮太郎、タレ取ってくれ」

 

 蓮太郎

 「あいよ。それにしてもディルも日本に慣れてきたな~」

 

 ディル

 「すまんな。そうか?……モグモグ」

 

 真悟

 「日本に慣れたと言うより、俺らに染まった感じじゃね?」

 

 由良

 「北欧系の美形がラーメンと餃子食ってる姿はなんかシュールだよな。もう慣れたけど。てか、ディルを最初にラーメン屋に連れてきたの誰だよ?」

 

 徹隆

 「真悟と景友。ラーメンはこいつらの好物だし。「炒飯と天津飯、大盛りお待ち!後、取り皿!使うだろ?」…お、大将あんがとー。じゃあ、分けちまうぞ」

 

 由良

 「サンキュー。お前らがディル誘ったのってディルが転入して直ぐの放課後か?」

 

 景友

 「確か、そうだったと思うぞ?何でだ?」

 

 由良

 「いや、ウチの部長が初めて描いたディル本の相手がお前らだったから」

 

 真悟

 「Oh……」

 

 景友

 「そういや、徹は何冊目になったんだ?」

 

 徹隆

 「28。あの先輩、俺のファンクラブの会長か副会長やってるって話だし」

 

 真悟

 「Oh……」

 

 徹隆

 「妹たちにバレなきゃ良いが。いっそう、副部長に妹たち売って、バレないように協力して貰うか?」

 

 真悟

 「おい!?」

 

 由良

 「副部長に売るってことはやっぱりあの娘らは()()なのか?」

 

 徹隆

 「ああ」

 

 景友

 「素晴らしい」

 

 真悟

 「…………そういや、景友の妹も今期入学すんだろ?」

 

 景友

 「ああ」

 

 蓮太郎

 「そんなこと言ってたな~。あ、妹と言えば会長の妹も今期入学するって木更さんが言ってたぞ。「青椒肉絲に麻婆豆腐、レバニラお待ち!ほんで、水餃子!サービスだ!」…お!やったー!ありがとう大将!」

 

 徹隆

 「アレの妹か~。まともだと良いんだが」

 

 真悟

 「アレの妹と言う時点で望み薄じゃね?」

 

 蓮太郎

 「いや、なんでもまともな娘らしいぞ?…フー、アチッ!ホフホフ、水餃子アッツ!」

 

 由良

 「会長自身からの情報じゃ、ホントかどうか。…モグモグ」

 

 蓮太郎

 「副会長からの情報らしいぞ。…モグモグ」

 

 徹隆

 「副会長……あー、鹿島先輩か~。そういやあの2人幼馴染みだっけ。…モグモグ」

 

 真悟

 「まともならまともでウチの学校じゃあ大変なんじゃないのか?紅緒信者が7割を占めてるぞ?…モグモグ」

 

 景友

 「あ~、そうか。こりゃ紅緒信者じゃない風紀委員と協力体制にしないとマズイかな~?…モグモグ」

 

 ディル

 「徹隆、はやてに話しておくべきではないか?…モグモグ」

 

 徹隆

 「そうするか。…モグモグ、ふー、ごちそうさん。………んじゃ、行くか」

 

 全員

 「「「「「「大将、ごちそうさま」」」」」」

 

 大将

 「おう!また来いよ!」

 

 

 

 

 ???

 「ふふふ、良いネタと写真が撮れましたよ~。………さて、私も行きますか。大将、お勘定」

 

 大将

 「ん?君の分のお代ならアイツらが払って行ったよ?」

 

 ???

 「へ?」

 

 大将

 「あ、それとこれもアイツらから」

 

 『何かあったら協力よろしく(^-^)/

  報酬は()()()()()()()とラーメン代で

              ~by徹隆』

 

 ???

 「嘘!?バレてました!?」

 

 

 

 

 徹隆

 「河原のヤツあれでバレてないと思ってたのかね~」

 

 ディル

 「気配の消し方が甘い。由良にも気付かれていたな」

 

 由良

 「女子の気配なら」

 

 由良以外

 「「「「「流石『色欲姫』」」」」」

 

 由良

 「……じゃないと、貞操と命が危ないから(遠い目)」

 

 由良以外

 「「「「「………流石『色欲姫』」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●部活内容

 

 黒板の前に立った兄さんが私たち新入部員に部活内容を説明してくれる。

 

 「文芸部の主な活動は作品を書いてコンクール等に応募することだ。夏休み後と冬休み後の2つの学生対象のコンクールには1人最低でも1作品は発表して貰う。これが文芸部の活動評価になるから、皆入賞目指して頑張って欲しい。後は各出版社のコンクールに参加することだ。こっちは必ず発表しなくてもいいが、発表したいって言えば文芸部が全面的に協力する。部活中に書きたかったらコンピューター室を使用させることが出来るし、他にも資料集めなんかを手伝うから、応募したい時は気兼ねなく言ってくれ。後、こっちに作品を発表する時は学生コンクールの方を免除する場合もあるから、コンクールの為に2作品書くのが大変だって感じたら相談してくれ。コンクールに関してはこんな感じだな。なんか質問あるか?」

 

 「はい」

 

 有馬君が挙手し質問する。

 

 「学生コンクールの方はジャンルの指定とかあるんですか?」

 

 「指定は特に無いな。感想文、論文、小説、なんでも良い」

 

 「他の学校の生徒やけど反省文を発表した人もおったそうやで」

 

 「反省文!?受理されたんですか?」

 

 「どうだろうか?噂で聞いただけだから真偽が解らん。ただ、面白かったら受理されるのではないか?」

 

 「まあ、特に指定は無いから。ただ、反省文は提出したらコンクールに送られる前に先生方にふざけるなって怒られるかも知れないけど」

 

 「なるほど。ありがとうございます」

 

 有馬君がお礼を述べて着席する。

 

 「他に質問あるか?」

 

 「良いですか?」

 

 今度は小紅ちゃんが質問した。

 

 「コンクール用の作品を書く以外に活動は無いんですか?」

 

 「ああ、そのことに関しては今から説明するから。その前に、コンクールに関して他に質問あるか?………じゃあ、夜ノ森の質問の答えだが、今日は無いが明日から部活動毎、皆にはショートショートのような三題噺を書いて貰う」

 

 「三題噺?」

 

 「ほら、あそこに箱があるやろ?」

 

 はやてさんの指差す方向には上に丸い穴が開いている段ボール箱が鎮座していた。

 

 「あん中に単語が1つずつ書いてある紙が入っとんねん。で、あん中から3つ紙を引いて、そこに書いてあるお題で簡単なストーリーを作るんや」

 

 なるほど、3つのお題で作る噺だから三題噺ね。

 

 「まあ、文を書くことに慣れてもらうことと頭の準備運動みたいなものだな。俺が思うに小説なんかを書くのに大切なのは、表現力、語彙力、妄想力、努力の4つだ。表現力は人と話して、語彙力は色んな本を読んで、妄想力は人生経験で培われる。そして、努力は文をどの位書いたかだ。頭の中で考えるのと文面にまとめるのとでは全然違うからな。天才じゃなければ何度も何度も繰り返し書くしかない。って訳で部活の始めには三題噺を書くからな」

 

 へー、以外にまともな部活になっているのね。

 

 「また変な題目が当たらないことを祈るばかりだな」

 

 「今までで1番ひどかったお題ってなんやったっけ?」

 

 「確か、『ダンディー』『亀甲縛り』『魔法少女』ですねぇ」

 

 「…………あれは、ひどかった……」

 

 前言撤回。全然まともじゃなかったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●妹は心配です

 

 「ねえ、チカちゃん、何で明希ちゃんに()()()()()言ったの?」

 

 ユウちゃんが訪ねてきた。今私たちは兄さん、明希さんと別れて皆が先に行って待っている昇降口に向かっている。

 

 「何でと言われても、家族に思うところがあったからかな」

 

 「いや、()()()じゃなくて、そっちは最初から言うだろうなぁとは思ってたから」

 

 私は、先ほど明希さんに言った家族に関して一家言あると言ったことだと思ったのだけど、どうやら違ったらしい。と言うことは、明希さんの耳元で囁いた言葉の方か。

 

 「ユウちゃん、聞こえてたの?」

 

 「あの明希ちゃんの顔見ればだいたい解るよ。お兄ちゃんは解ってないと思うけど」

 

 まあ、かなり狼狽えていたものね。と言うか明希さん『なんでバレたの!?』みたいな顔してたけど、あの人自分が()()()()()()()()()のか忘れてないかしら?

 

 「そうね、強いて言うなら罰かしら。明希さん自身そのまま許されるのに否定的だったから」

 

 「ふふふ、随分可愛らしい罰だね」

 

 「そうかしら?」

 

 「そうだよ。それで、もしそのまま上手くいったら応援するの?」

 

 「もちろん。妹としては兄さんが行き遅れないかが1番心配だったんだから。ユウキさんやひふみさんは兄さんを友達としてしか見てないようだし」

 

 「お兄ちゃんなら何とかなったんじゃない?」

 

 「甘いわよユウちゃん。兄さんの鈍感さはどこかのラノベ主人公並よ」

 

 と言うより兄さんは自己評価がかなり低いのよ。自分がモテるなんてことをこれっぽっちも思ってない。

 

 「よく考えてみて。さっきユウちゃんが言った通り明希さんがあんなに解りやすい狼狽え方をしたのに気付いて無いのよ?」

 

 「でも、それはそもそも明希ちゃんの気持ち自体に気付いて無いからじゃない?」

 

 「まあ、そうなんだけど。本当、兄さんって恋愛ごと以外もだけど自分のこととなると基本鈍いのよね~」

 

 「他人のことは有り得ない程鋭いのにね~」

 

 そうよ。と言うか、兄さんが結婚して焔家の血を残してもらわないと、私がユウちゃんと結婚する時にお母さんたちへの説得材料に出来ないじゃない!

 本当に、妹に心配させる困った兄である。

 




明日から年末年始
もしかしたら何か投稿するかも知れません。
まあ、リアルの状況次第ですが。


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あきらめ

第7話です。

久々の本編でキャラ同士の距離感に少し困惑しました。


 皆さん、いかがお過ごしですか?お久しぶりです。宮沢中学1年の焔千景です。

 

 「………ねえ、ユウちゃん?私たちって()()1()()()よね?」

 

 「え?うん、そうだよ?どうしたの?」

 

 「いえ、なんか()()()()2()()()()()()()()()ような気がして。…………何でかしら?」

 

 「?……もしかして、チカちゃん寝惚けてる?」

 

 そうなのかしら?意識ははっきりしているのだけど、それとも憶えてないけど朝見た夢の内容が2年生みたいな内容で、ふと思い出してしまったとか?

 

 「なんだ千景、眠いのか?」

 

 「まあ、5月の中旬になって日差しが気持ち良い暖かさになったからな」

 

 「春眠暁を覚えずってやつだね~」

 

 美姫ちゃん、小紅ちゃん、まゆらちゃんが会話に参加してきた。

 今、時間は昼休み中で私たちは天気が良かったので皆で屋上で昼食を取っていた。大抵の学校では屋上は立ち入り禁止なのだが、なぜかウチの学校は禁止されていない。そういえば、以前兄さんに理由を知っているか訪ねたら

 

 「加々知先生が学生時代に数人と一緒に解放させたらしい。『アーカイブ』が話していたから信憑性はそれなりにあると思うが、先生自身に聞くと、若気の至りとしか言わんから実際何があったかは知らん」

 

 て言ってたわね。……『アーカイブ』って人、意異名から解るけどかなりの情報通のようで。……意異名ってカタカナあったのね。

 まあ、そんな訳で天気が良い日は屋上でお昼を食べる生徒が多い。宮沢中学のお昼は給食ではなくお弁当なので仲の良い人たちとグループを作って好きな場所で食べる。……今世、友達いて本っっっっっ当良かった!ぶっちゃけ、今世にもしユウちゃんと兄さんが居なかったらと思うとゾッとするわ!あ、ちなみに私たちが教室でお弁当を食べないのは

 

 「ねぇ、千景?なんだか今度は顔色が悪くなってきてない?」

 

 「……ちょっと怖いことを想像してしまっただけだら大丈夫よ。心配してくれてありがとね、ラティナちゃん」

 

 私の顔色をラティナちゃんが心配してくれた。そう、違うクラスの娘とも一緒に食べているからである!うふふ、友達多いわ!

 

 「今度はニヤニヤし出したけど、本当に大丈夫?」

 

 「…………コホン、大丈夫よ。問題無いわ」

 

 「ところで、どんな怖い想像したの?」

 

 赤みがかった長い茶髪をポニーテールしている女の子が聞いてきた。彼女は松岡江(まつおかごう)ちゃん。女の子なのに男の子みたいな名前をしていて、本人がもの凄く気にしているので皆はコウちゃんまたは、シエちゃんって呼んでる。

 

 「いや、もしユウちゃんと兄さんが居なかったら私、学校で一人ぼっちだったな~と思って、想像したらちょっと怖くなって」

 

 「千景ちゃんが一人ぼっち?そんなことあるわけないよ」

 

 「ずいぶんはっきり言うわね、愛子ちゃん」

 

 黄緑に近い色(あれ地毛かしら?)のショートカットのボーイッシュな女の子が即答で否定してきた。彼女は工藤愛子(くどうあいこ)ちゃん。コウちゃんと合わせて2人とも水泳部に入部して美姫ちゃんと仲良くなって紹介された。

 

 「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

 

 「そうだよ!チカちゃんが友達になったんだよ。そこに私とお兄ちゃんは関係ないよ」

 

 「おっと、友奈ちゃんとも友達になったんだから、関係無いは悲しいな~」

 

 「え?あ!ご、ごめんね愛子ちゃん!」

 

 「あはは、冗談だよ。友奈ちゃんは本当に可愛いね。ねえ?千景ちゃん」

 

 「……そうね、愛子ちゃん」

 

 ふふふ、本当に彼女たちは私には勿体ないくらい良い友達ね。

 

 「………なあ、そのお弁当って、部長が作ってるんだよな?」

 

 小紅ちゃんが私とユウちゃんのお弁当を見ながら聞いてきた。

 

 「ええ、そうよ。兄さんが毎朝朝食と一緒に用意してくれるのよ。…どうかしたの?」

 

 「あ、いや、いつも思っていたんだが、完成度高いな~と」

 

 確かに男子が作ったと考えるとかなり完成度の高いお弁当である。栄養バランスもしっかり整えられているかのように総合的に煮野菜、生野菜、肉料理、魚料理が一対一対一対一になるようになっている。毎回思うけど、ウチの兄は女子力高過ぎよね?

 

 「………でもまあ、兄さんだし」

 

 「うん、お兄ちゃんだし」

 

 「まあそうか、部長だもんな」

 

 「だよね~」

 

 「部長だからね。今更だよ」

 

 「………前々から思ってたが、お前ら自分の部活の部長に対して酷くないか?」

 

 「「「「「え?そう?」」」」」

 

 「………………うん、もういいや」

 

 美姫ちゃんが何か言ってきたが私たち文芸部の答えに何だか諦めたような雰囲気になる。

 

 「それにしても、ホント凄いわよね。……つくね1個ちょうだい?」

 

 コウちゃんが聞いてきた。

 

 「良いわよ。はい、あーん」

 

 「あーん。……んん♪美味しい~。へ~、柚子皮が入れてあるんだ!」

 

 「ええ、しかも、ササミが使われているからカロリーが低いし、軟骨も入っているから堅い歯応えで食べ応えもある。さらに1度蒸してから焼くことで中がフワッとしているわ」

 

 「ん~♡相変わらずのお兄ちゃんクオリティー」

 

 流石兄さん。ぶっちゃけ、一介の男子中学生が1から作るお弁当のおかずじゃないわ。本当にご飯と無駄なことに対してだけは有り得ないほどの心血を注ぐわね。

 

 「………ねえ、ふと思ったんだけど、2人とも自分のお兄さんに女子力負けてない?」

 

 愛子ちゃんが(えぐ)るようなことを聞いてきた。

 

 「私は大丈夫。何故なら、お菓子作りなら兄さんより上だから。特に洋菓子は」

 

 「Je fais la cuisine.(料理は苦手だな。)

 

 ユウちゃんがどこぞの蟹みたいなことをフランス語で言ってきた。………これ、普通は兄さんが取り扱っているネタじゃない?ユウちゃんが兄さんにかなり影響を受けてきた?うーん、悪影響になる前に1度兄さんを絞めとこうかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、いたいた。おーい、妹+α!」

 

 私たちが昼食を終えて自分たちの教室に戻ってきたら教室の扉の前に博斗君とはじめ君がいて、博斗君が話かけてきた。

 

 「あら、はじめ君に元小田原現蓼原弟君、どうかしたの?」

 

 「俺の呼び方長くね!?」

 

 「ええ、長いわね。よく噛まずに喋れたと自分自身を褒めてあげたいわ」

 

 「スゲー自己中心的なマッチポンプ。てか月城、さっきから俺の頭触りたそうにしてんじゃねぇっての」

 

 博斗君が頭に触りたそうにしていたユウちゃんを止める。部活に来た初日に博斗君の頭を部員全員で撫で回したときに気に入ったらしい。え?何で部員全員で撫で回したかって?いやー、あのジョリジョリした独特な手触りに惹かれて。最初は明希さんだけが撫でてたんだけど、手触りが気持ち良いと言われて私たちも撫で始めて、そしたら兄さんが『女子に撫で回されているのを見ていて癪に触ったから俺らも撫で回すぞ』って言ってかなり強めに撫で回されていた。その後、髪が長くなってきてジョリジョリした感触が無くなっても明希さん、ユウちゃん、はやてさんがよく撫でている。最初は博斗君もかなり抵抗していたのだけど、力で負けて撫でられて、口で負けて撫でられて、押しに負けて撫でられて、今では撫でられる前にちょっと抵抗するだけになっている。兄さん曰く『美少女に撫でられて恥ずかしくても嫌な男はいないだろう』とのこと。ただ、ユウちゃん含めて全員可愛い反抗的な弟にするアレであるが。

 

 「………Estーce mauvais?(ダメ?)

 

 ユウちゃんが上目遣いで博斗君を見つめる。

 

 「……頼む月城。それは、それだけは辞めてくれ!!」

 

 「?」

 

 博斗君が懇願するが無自覚で行っているユウちゃんには意味が伝わっていない。…………うん。

 

 「で、何の御用?」

 

 「ここで、本題に戻るのか。流石は部長の妹だな」

 

 はじめ君が私の対応の仕方を見て呟いた。……そうは言うけど、兄さんならもっと話を逸らして下手したら忘れていそうな辺りで唐突に本題に戻るわよ?

 

 「と言うより、アレはあのままで良いのか?」

 

 「ん?別に良いわよ。ユウちゃんが好きでやってることだし。まあ、()()()()()()()()()()()()私と兄さんが死んだ方がマシな目に遭わせるだけだから。で?」

 

 「え?あ、ああ。部長が部室に集まってくれって」

 

 「おい待て!今かなり理不尽な話が聞こえなかったか!?」

 

 私に促されてはじめ君が答えてくれた。どうやら兄さんのお使いだったらしい。

 

 「珍しいわね」

 

 「そうだね」

 

 「ユウちゃんもそう思う?」

 

 「うん」

 

 「え?何が?体育祭の準備で放課後部活が無いから今喚んだんじゃないの?」

 

 コウちゃんが聞いてきた。いいえ、違うわ。確かに2週間後の体育祭に向けて放課後の部活動は今日から原則中止になっているけど、()()()じゃないの。私とユウちゃんが珍しいと言ったのは昼休みに集合をかけたことではなくて

 

 「「兄さん(お兄ちゃん)が私たちへの伝言を男性に頼むなんて」」

 

 「「「「「「「「そこ!?」」」」」」」」

 

 周りの人全員にツッコまれた。いやでも、あの兄さんよ?あの私たちに対しての行動が過保護って言葉じゃ足りないくらいのあの兄さんなのよ?

 

 「ぶっちゃけ、男子に伝言を頼むくらいなら放送室に乗り込んで自分で私たちを喚ぶわよ?」

 

 「「「「「あー、確かに」」」」」

 

 「本当に、あんたらの部長に対するイメージをアタシは聞きたい!」

 

 文芸部員全員が肯定する姿に美姫ちゃんがツッコんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で昼休みも残り30分を切ったので少し急いで司書室に向かう。美姫ちゃんたちも兄さんの話を聞いて1度会ってみたいということなので一緒に付いてきた。で、私たちが司書室に入ったら中では文芸部員2年生全員とユウキさん、真悟さん、景友さん、由良さん、木更さん、杏子ちゃん、さやかちゃん、そして見たことない女性が5人いた。まあ、司書室は普通の教室くらいの広さで長テーブル6つと十数個のパイプ椅子が壁に立て掛けているだけだから広いので、大所帯で昼食を取れる場所ではあると思う。思うのだけれども、

 

 「おい、ユウキ。てめえ、俺の弁当のつくね全部取ろうとしてんじゃねぇよ。何個あったと思う?4つだよ?4つ。コレ最後の1個、俺まだ1個も食べてないんだよ?なあ?」

 

 「良いじゃない?徹。自分で作ってるんだからいつでも食べれるでしょう?男なんだからそうケチケチしないでさあ。だいたい、こんなに美味しいおかずを作ってくる徹が悪いんだよ?だから、ボクは悪くない」

 

 何故、兄さんとユウキさんが今日のお弁当のおかずのつくねを取り合っているのかしら?というか、2人とも器用ね。あの柔らかい()()()1()()を兄さんは縦に、ユウキさんは横に箸で潰さない力加減で、それで互いに取られないように全力で引っ張りあっている。なんて、なんて無駄に無駄なほど無駄に鮮麗された無駄な力加減なの!!

 

 「なに、ジャンプで人気の負完全マイナス裸エプロン先輩みたいな台詞吐いてんだよ?取りあえず、箸から力抜け」

 

 「ボクはあのキャラみたいに『また勝てなかった』なんて言わないよ?寧ろ『また勝った』って言うよ。ついでに徹、明日から君の制服も裸エプロンにする!」

 

 「俺の裸エプロンって誰得!?」

 

 「……………」

 

 「明希、あんた何『ちょっと見たいかも』みたいな顔してるのよ」

 

 「!?」

 

 「いや、今のはアリサだけじゃなく皆気付いていると思うよ?徹隆以外」

 

 「どうして徹隆君、コレで解らないんだろうね?」

 

 「解る解らないの前に自分に好意を抱いてくれる異性の存在を認識していないんじゃないかな?」

 

 「なのはちゃん相変わらずズバッと言うなー。まあ、簡単に言うて都市伝説状態みたいなものやな」

 

 「つまり、信じてないってことね」

 

 「……取りあえず、あいつの制服が明日から本当に裸エプロンになったらアドレスを消そう」

 

 「待て。アドレスを消したら着信拒否が出来ない」

 

 「景友の言う通りだ。だが、着信拒否だけではいささか不安が残る」

 

 「そうだな。蓼原の反応を見る限りファンクラブにとって、そして、俺らにとっても別の意味で大量殺戮兵器だ」

 

 「いっそ、隔離するか」

 

 「「賛成~」」

 

 外野の人たちはこの光景がさも当たり前のように観戦ムードである。兄さんとユウキさんはつくねに集中していて周りの声が聞こえていない。

 と、そんな中、兄さんとユウキさんに外野から1人の女性が近づいてきた。その女性をよく見るとユウキさんにそっくり、というか瓜二つで違うのは頭に付けてるバンダナが赤色じゃなくて白色であることくらいか。あ、もしかしてあの人が

 

 「あーん」

 

 「「あー!?」」

 

 考えていたら兄さんとユウキさんが取り合っていたつくねを彼女が食べてしまった。

 

 「……ん~。久しぶりに食べたけど徹君の料理、やっぱり美味しい~」

 

 「酷いよー!姉ちゃん!!」

 

 「…はあ~、俺、味見で朝に1個食っただけなのに。……まあ、ユウキじゃなくて約2カ月ぶりの藍子に食われたってことで不幸中の幸いとするか。てか藍子、この箸そのまま使ったら間接キスになるが良いのか?」

 

 「あれ?徹君、そういうの気にするタイプだったっけ?」

 

 「いや、全然」

 

 「じゃあ、別に良いよ。私も気にしないし。友達なんだから、異性でも同性でも間接キスくらいで騒いだりしないよ」

 

 「そうか。……で、俺のおかずを紺野妹がほとんど、最後の1つを紺野姉が食べてしまった訳だが、弁当に1/4ほど残っている白米だけをそのまま食べろと?」

 

 「「……テへ♡」」

 

 「…………おい」

 

 「仕方ねえな。俺の一口ハンバーグ半分やるよ」

 

 「俺からは豚の竜田揚げをやろう」

 

 「真悟、景友、お前ら」

 

 「ちなみに、これは豆腐ハンバーグだ」

 

 「俺のは干し椎茸を使った精進豚の竜田揚げだ」

 

 「まさかの肉じゃねえ!?」

 

 「兄さん、昼休みも後20分切ってるから、コントが終わったのなら本題に行きましょう?」

 

 「あ、千景。それに皆も、来てたのか」

 

 おい、気付いてなかったの?

 

 「何人かはもう察しがついていると思うが、ウチの部員、最後の1人が本日登校してきたので紹介するぞ。藍子、クラスと名前、意異名、好きなジャンルか作品、または作家を言ってくれ」

 

 「うん。2年B組、紺野藍子(こんのらんこ)よ。先日までアメリカに留学していたの。あそこにいる剣道部の紺野木綿季の双子の姉で、意異名は『絶投(ぜっとう)』。んー、好きなジャンルと言うか、ハッピーエンドな作品が好きかな。よろしくね、新入部員の皆。………あれ?ねえ徹君、今期の新入部員って7人だよね?」

 

 「ああ、後ろの3人はウチの部員じゃないな。千景の友達?」

 

 「ええ」

 

 「俺の妹の美姫だ」

 

 景友さんが美姫ちゃんを紹介した。

 

 「豹垣美姫です。兄貴がいつもお世話になってます」

 

 「畏まらなくて大丈夫よ、美姫ちゃん。寧ろ兄さんがお世話されてるから」

 

 「おい」

 

 「それより兄さん、なんでこんな急に藍子さんを紹介したの?明日とか、もう少し時間がある時に紹介すれば良かったのに」

 

 「あ、それは私からお願いしたの」

 

 「藍子さんから?」

 

 「ランで良いよ。えーと」

 

 「焔千景です。よろしくお願いします。ランさん」

 

 「千景ちゃんね。敬語じゃなくて良いから。それにしても徹君にこんな可愛い妹がいたなんて。………えい!」

 

 急にランさんが抱き付いてきた。

 

 「え!?ちょっ、ちょっと!ランさん!?」

 

 「あ~、本当に可愛い~」

 

 え?ちょっ、何なのこの人!?

 

 「始まったよ、藍子の病気が。おい紺野妹、姉を止めろよ」

 

 「無理。ごめんね千景ちゃん。ウチの姉ちゃん可愛い娘に抱き付き癖があるんだよ。後、可愛い娘の困り顔が好きなんだ」

 

 「え!?」

 

 「で、こんな感じの濃いヤツだから早めに紹介しとこうと思ってな。お前ら同じグループだし」

 

 「グループ?」

 

 「そ。ウチの体育祭は1、2、3年生合同のクラス対抗戦なんだよ」

 




人物紹介
紺野藍子(こんのらんこ)
 2年生の文芸部員でユウキの姉。
 意異名『絶投(ぜっとう)』を持つ。
 濃いヤツではあるが実は徹隆グループでは一般人枠。


次回は来週日曜日に投稿予定です。


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悟り

第8話です。

体調を崩してしまいなかなか執筆が進みませんでした。しかも今回いつもより短いです。本当に申し訳ありません。



 

 『体育祭。それは生徒同士ぶつかり合う仁義なき戦い。青春の1ページの中で1番泥臭く、汗臭く、血生臭い。そして、彼らは手にする。友情を。努力して。勝利を勝ち取るために!』

 

 「体育祭がジャンプ漫画に1番適しているとでも言いたいのかしら?この校内新聞」

 

 「ずいぶんと内容が凄い校内新聞だな」

 

 昼休み、教室の掲示板に貼られている校内新聞を読みながら私と小紅ちゃんが苦笑を漏らす。この校内新聞は新聞部が発行しており、その内容も記事の匙加減も全て新聞部に決定権があるらしい。そのかわり、生徒会役員に最低でも1人は着かないといけないらしく、もし役員になれる人が新聞部からでなかった場合は役員が出るまでは書いた記事を随一生徒会に検閲してもらってからの発行となるらしい。生徒会に抜擢される位生徒の模範になる人物であれば発行される新聞の記事も酷いものにはならないだろうとの考えなのだろう。まあ、今の新聞部は2年に生徒会に所属している人がいるそうなので、結構自由に記事を書いているとか。

 

 「記事の著者は、河原青葉(かわらあおば)か。小紅、あんたの姉ちゃんからどんな人か聞いてない?」

 

 記事を読んでいた美姫ちゃんが訪ねてきた。確かに小紅ちゃんのお姉さんは生徒会長だし、副会長はその会長の親友兼幼馴染みだとか。ならこの河原さんについて何か聞いているかも知れない。

 

 「んー、実はお姉様、私にあまり生徒会のことは話さないんだ。まあ、私が聞けば答えてくれるとは思うけど」

 

 「紅緒さん昔からそんな感じでね、小紅ちゃんの話は聞くけど自分の話はあんまり話さないんだよね~」

 

 「自分のことはあまり話たがらないのかな?」

 

 小紅ちゃんとまゆらちゃんの言葉にユウちゃんが疑問を投げかける。んー、多分だけど

 

 「お姉さんが自分のことを話さないのは自分のことより小紅ちゃんの話が聞きたいからじゃない?」

 

 「私の話?」

 

 「そう、自分自身のことを話すより小紅ちゃんのことを聞きたいのよ。もしくは自分から話さないようにして少しでも多く妹と話す機会を得ようとしているか」

 

 「なるほど。なかなかの分析能力、流石あの人の妹なだけはありますね」

 

 「ええ。でもまあ、私の推測に過ぎないのだけれどね。………………ん?」

 

 横から普通に会話してきたから普通に答えてしまったけど、ユウちゃんたちの誰の声でもなかったので疑問に思って声の方を見る。とそこには色素の薄い髪を短めのポニーテールにした青色の瞳の少女がいた。

 

 「えーと、どちら様?」

 

 「え?あ、すいません。いきなり声をかけてしまって。私は生徒会書記兼新聞部副部長の河原青葉と言います」

 

 彼女が申し訳なさそうに自己紹介をしてきた。

 

 「あなたが河原さんですか」

 

 「はい。あ、青葉と名前で呼んでいただいて構いませんので。あと、皆さんは自己紹介しなくても大丈夫ですよ。皆さんのことはだいたい知っていますからね。………で、皆さんにお願いがあるのですけども」

 

 「お願いですか?」

 

 「はい。皆さんにインタビューさせていただきたいのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランさんの自己紹介から早いもので体育祭まで後3日となっていた。その間、3年B組と2年B組の先輩方と共に応援合戦や、行進の練習、男子は騎馬戦と棒倒し、女子は綱引きと球入れの練習と作戦会議などを行ってきた。宮沢中学では男子の特別競技が騎馬戦と棒倒しで、女子の特別競技が綱引きと球入れだ。元々は騎馬戦と棒倒しは男女別ではあったものの他2つも含め、全て男女共同参加だったらしい。何故男女別の特別競技になったかと言うと、綱引きは腕力の強い男子が有利なため、綱を引く前に相手側の男子を伸してしまおうという作戦に全てのグループの男子が行き着き、綱そっちの気で男子が大乱闘を繰り広げてしまい。球入れの場合は男子は球を籠ではなくこれまた相手側の男子にドッチボールの如く投げだしたために。女子の場合は騎馬戦や棒倒しは男子よりケガが多かったかららしい。相手の髪を引っ張るのは当たり前、つけ爪が常備武装にまでなっていたとか。…………血の気多!!

 

 「いいかお前ら!本番まで後3日だ!気ぃ引き締めていくぞ!!」

 

 「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」

 

 合同で練習するために集まった全学年のB組全員の音頭を取っているのは3年の伍華織雅(いつかおるが)先輩だ。………うん。名前が何処かの団長と似ている。しかも本人が気に入ってよくそのネタを使うって明希さんとランさんが言っていたわ。しかも応援団の団長をやっているから皆に団長って呼ばれてるし。まあ、髪は長いボサボサの黒髪を首の後ろあたりで一括りに纏めていて、肌は褐色ではなく平均的な日本人色と見た目は似ていないのだけれどね。

 

 「前々から思っていたけどこの学校の生徒ってノリが良いよな」

 

 団長の掛け声に乗って声を騰げているB組全員を見ながら美姫ちゃんが呟く。

 

 「ウチの学校は昔から『この学校に入るための必須項目にノリの良さがある』なんて言われてますからねぇ。…………ところでランちゃん?いつまで美姫ちゃんの耳?髪?を触っているんですか?美姫ちゃんも嫌だったら嫌って言っちゃって良いですからねぇ?」

 

 明希さんが美姫ちゃんの呟きに答えながら、さっきからずーっと美姫ちゃんの耳のようにはねた髪を後ろから触っているランさんに訪ねる。

 

 「アタシは気にしてないから良いですよ」

 

 「ごめんね、美姫ちゃん。この耳髪さわり心地が良くて」

 

 「いえいえ、好きなだけ触って良いですから」

 

 美姫ちゃんは申し訳なさそうに謝りながらも耳髪をモフモフしてくるランさんに笑いながら許している。聖女かな?

 

 カシャッ

 

 と私が考えていると何処からかシャッター音が聞こえたので音の方に顔を向けるとそこには青葉さんがいた。あれ?青葉さんは兄さんたちと同じC組だったと思うのだけれど?

 

 「おや、青葉ちゃん。新聞用の写真ですか?」

 

 「こんにちは明希さん。ええ、体育祭前日に発行するんですよ」

 

 「この間発行したのにまた新しいのを発行するんですか?大変じゃありません?体育祭の練習もあるのに」

 

 ユウちゃんが聞いてきた。確かに3日前くらいに発行されている。

 

 「いえいえ、文章の方はだいたいできていますからね。後は練習風景の写真をいくつか見繕うだけですので、そこまで大変ではないですよ。後、自分の体育祭の練習もしっかりやってますよ」

 

 青葉さんが自慢気に言ってきた。へえ、上手くこなしているんだ。青葉さんってかなり要領が良くてタフなのね。 

 

 「へえ、でもよく書く事柄が無くならないわね?」

 

 モフりながらランさんが会話に参加してきた。

 

 「…………ランさん。………まあ、千景さんたちがインタビューに協力してくれたからなんですがね」

 

 「へえ、小紅がインタビューにねぇ」

 

 「撫子さん!」

 

 私たちが話していると生徒会副会長の鹿島撫子(かじまなでしこ)さんが話しかけてきた。

 

 「恥ずかしがり屋の貴女がよくOKしたわね?」

 

 どうやら幼馴染みなだけあって副会長さんは小紅ちゃんのことをよく知っているらしい。

 

 「ええ、まあ、私1人なら受けなかったと思うけど千景たちも一緒だったから」

 

 「ああ、なるほど」

 

 そう言って副会長さんは私たちの方を向く。    

 

 「そういえばちゃんと自己紹介していなかったわね。生徒会副会長の鹿島撫子よ。よろしくね」

 

 「初めまして、焔千景です」

 

 「へえ、貴女が」

 

 そう言って鹿島さんは考え出した。あら?どうしたのかしら?

 

 「あ、もしかして、思ってたより普通だとか思ってます?」

 

 「ええ、失礼だけどもあの焔君の妹って聞いてたから」

 

 「皆さん大抵そう言うので気にしなくて良いですよ」

 

 「ありがとね。あ、私のことは名前で呼んで良いから」

 

 「解りました。撫子さん」

 

 私と撫子さんが握手を交わしているとユウちゃんが話に参加してきて

 

 「Enchantée Je suis Yuuna Tsukishiro.(初めまして、月城友奈です。)

 

 いつものようにユウちゃんがフランス語で挨拶した。

 

 「………Enchanté Je suis Nadesiko Kazima.(此方こそ初めまして、鹿島撫子よ。)

 

 「!」 

 

 まさかの撫子さんもフランス語で返してきた。

 

 「Tu parles en France!?(フランス語喋れるんですか!?)

 

 「Je peux parler un peu.(少しだけどね。)

 

 撫子さんは少しはにかみながら言ってきた。いや、少しでも凄いですよ。

 

 「凄いですね。私と兄さんは話せませんから」

 

 「「「「「「「え!」」」」」」」

 

 私の発言にユウちゃん以外の皆が驚く。

 

 「千景ちゃん、話せないんですか!?と言うか、徹隆さんも話せないって」

 

 明希さんが訪ねてきた。

 

 「ええ、兄さんも私も聞き取りは出来るけど話すことは出来ないのよ」

 

 「え!?で、でも、徹隆さんがフランス語で遊戯王ネタを話すって私は聞いてるんですけど?」

 

 「ああ、アレはね、その例文と主語を変えた派生形しか言えないわ」

 

 「え!?ゆ、友奈ちゃんはこのことは知ってたんですか!?」

 

 「うん、知ってたよ。いや~、再会したときにフランス語で返されたから普通に喋れるものだと思っていたら、後からその時に使った4文以外話せないって聞いて驚いたよ」

 

 「「「「「「「……………」」」」」」」

 

 ユウちゃんの言葉を聞いていた皆が驚いているのか呆れているのか絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は~。やっぱり私の小紅は可愛いわ」

 

 紅緒が先ほど発行された校内新聞を読みながら人様にお見せできない顔をしている。生徒会長であり私の幼馴染みの夜ノ森紅緒は簡単に言うと『シスコンの変態』だ。それなのに容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と絵に描いたような完璧超人なためか生徒の約8割から絶大な支持と尊敬を会得している。それはもう過剰な程。焔君たちのような紅緒への考え方の念頭に変態を置いて考えている人たちにとっては『ハイスペックなのは解るのだが、あまりにもカルト過ぎて正に紅緒教としか言えない』とのこと。確かに完璧超人と言うフィルター越しに見て自分たちの良いように解釈する姿は言い得て妙ではあるが。まあ何にせよ、私にとって夜ノ森紅緒とは『尊敬を崇拝へと変えてしまう程のスペックを持っているってだけの只のシスコンの幼馴染み』なのだけれどね。

 

 「ただ、もう少し小紅のインタビュー記事を多くしても良いんじゃない?」

 

 校内新聞を読みながらだらけきった紅緒が言ってきた。

 

 「無茶言わないの。そういうのは平等にするものなのよ」

 

 「それはそうだろうけど。まあ、とりあえずハサミ取ってくれない?撫子」

 

 「それにしても河原、よく小紅にインタビューを受けさせることが出来たわね?」

 

 ハサミを紅緒に渡しながら、この校内新聞を書いた河原に訪ねる。小紅はかなり内気で恥ずかしがり屋だ。いくら友達の千景さんたちが一緒だったからと言ってもインタビューを受けたことには少し驚いている。

 

 「最初は渋っていましたが千景さんたちも軽い気持ちで一回だけやってみたらって助け船を出してくれたので。ただ、変な記事書いたら只じゃおかないと脅されましたけどね」

 

 河原の顔色少々悪くなってきている。………普通の子だと思っていたけど、やっぱり焔君の妹ね。

 

 「ふーん、あの焔君の妹ねー。なかなか可愛らしいじゃないの」

 

 「紅緒、貴女の場合は妹なら誰でも可愛いのでしょう?」

 

 「ええ、もちろんよ。なんてったって私は職業なのだから!」

 

 「はいはい」

 

 紅緒は平常運転のようで。私は紅緒への返事もそれなりに校内新聞に目を通す。今回の内容は有名な2、3年生の弟や妹のインタビューと体育祭への意気込みが書かれている。中でも目を引くのはやはりと言うべきか紅緒の妹である小紅や焔君の妹の千景さん、ディルム君の妹のラティナさんなんかの意異名持ちの弟、妹たちかしら。あれ?そういえば

 

 「月城さんはインタビュー受けてないのね?」

 

 確かあの子、焔君の妹的存在って聞いていたのだけれども?

 

 「ええ、私はしようと思っていたのですが本人が本当の妹じゃないからと」

 

 「もしかしたら、まゆらちゃんが1人だけインタビューを受けないのを気にしたのかも」

 

 生徒会室にいたもう1人、天童が呟いた。

 

 「そういえば、天童は彼女たちとそれなりに仲が良いのよね?」

 

 天童に訪ねた。

 

 「ええ、まあ、蓮太郎君経由ですけどね」

 

 「貴女から見て彼女たちはどう?」

 

 「そうですねー、千景ちゃんは焔君を常識的にしたような感じで、友奈ちゃんは結構周りにさり気なく気を遣うタイプですかね。あ、後、2人ともかなりの仲良しです。焔君曰く『もうあれは恋人関係』だそうです」

 

 「かなり仲が良いのね」

 

 「あ、それは私も取材していて思いました。あの2人、隙あらばイチャイチャし出すんですもん。見ているこっちが恥ずかしくなってきましたよ」

 

 「へー、そこまでなのね」

 

 「…………その2人に感化されれば小紅ももっと私にイチャイチャしてくれるかしら?」

 

 「「「………………………」」」

 

 紅緒がとち狂ったことを言っているような気がするけど、まあ、いつも通りね。

 

 「………ところで紅緒、明日の体育祭の選手宣誓は誰がすることになったの?」

 

 「ああ、それなら()()()がやるわよ」

 

 「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波瀾万丈の体育祭が今始まる。

 

 

     

 




体調を整えしだい次話を投稿しようと思います。


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情熱(前編)

第9話前編です。

遅くなりました。
体調が良くなったと思いきやまたぶり返しました。



 「さあ皆さん、力を合わせて徹隆君を倒せるように頑張りましょう!」

 

 「榛名先生、あんた何言ってんだ?」

 

 体育祭当日、榛名先生がB組全員の前で大声で打倒兄さんを掲げたので織雅団長がツッコんだ。

 

 「来ましたよ!ついに来ましたよ!今までの雪辱を果たす時が!ふふふ。待ってなさい徹隆君!B組が今日こそ貴方に引導を渡してやるのです!」

 

 榛名先生が壊れだした。………あれ?おかしいわね?榛名先生を見ていると涙がこぼれてきたわ。

 

 「………ふ、仕方ねえ。いいかお前ら!俺らB組はただの寄せ集めの集団じゃねえ!ただの偶然で集まったガキの集団じゃねえってことを他の組の奴らに見せつけてやるんだ‼」

 

 「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」

 

 「だが、勝利にストイックにもなりすぎるな。まずは楽しめ!楽しめないヤツは体育祭で勝ったとしても人生で負けだ!だからよ、勝つことよりも楽しめ!!今日はとことんまで楽しむぞ!!」

 

 「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」

 

 織雅団長の言葉にB組の全員が声を上げる。本当に団長、カリスマ性が凄いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「選手宣誓」

 

 開会式も残すところ選手宣誓だけとなった。進行の教頭先生が宣誓を行う生徒の名前を呼ぶ。あ、そうそう、教頭先生の苗字ね、やっぱりと言うべきか上里だったわ。フルネームは上里維鶴(うえさといづる)だとか。あれよね、校長先生の名前は表彰式等でよく聞くから解るのだけれど、教頭先生の名前って殆ど聞かないから解らないことが多いのよね~。ちなみにこの名前は兄さん経由でまた『アーカイブ』さんから聞いた情報です。

 

 「生徒代表、生徒会副会長保坂」

 

 生徒会副会長の人が壇上に上がり先生側、つまり私たちに背を向けるような姿勢で右腕を上げる。ウチの学校では生徒会長以外の役職にはそれぞれ男女1人ずつ計2人がつく。つまり、現生徒会副会長は女子が撫子さんで男子があの保坂先輩ということになる。それにしても、これまたイケメンですこと。本当にウチの学校、顔面偏差値高いわね。まあ、そのかわり変人の巣窟なのだけれど。………あれ?そういえば意異名が言われてなっかたわね?前に兄さんが生徒会は例外1人を除いて御歴代含め全員が意異名持ちって言っていたような気がしたんだけど。もしかして、あの保坂先輩がその例外、意異名無しで生徒会に抜擢された人物なのかしら?うーん、でも何で意異名が付かないのかしらね?意異名は良くも悪くも目立っている人に付けられる。それはつまり、問題児だけではなく優等生にも付けられると言うことだ。それが生徒会に抜擢される程の人が何故意異名無し?

 

 「宣誓。我々選手一同はスポーツマンシップに則り正々堂々と全力で戦い抜き、素晴らしい汗をたくさん掻くことをここに誓います

 

 ………ん?あれ?今なんか変なこと言っていなかった?

 私が選手宣誓に疑問を感じている間に保坂先輩は踵を返して壇上を降りようとする。そうなると無論私たちの方に正面を向けることになる訳なのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼のジャージのジッパーが全開になっていた。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまりは、

 

 「なんてステキなシックスパック♡」

 

そう、上半身がはだけて素肌が露わになっていた。と言うか今コウちゃんの声が聞こえたような気がしたのだけれど。

 ……………うん。ごめん。ちょっと待って。何ではだけてるの?え?今日は父兄の方々が来ているけど、その中に薙切の一族でもいるの?おさずけされたの?それとコウちゃん、もしかして筋肉フェチ?

 

 「「「「「「「「「「相変わらずきもちわるい」」」」」」」」」」

 

 2,3年生の人たちが一斉に呟いた。ええと、先輩の皆様方はなんだか慣れている御様子。もしかして保坂先輩はいつもこんな感じなのかしら?でも、だからって慣れ過ぎのような気がする。確かに先ほど変人の巣窟なんて思っていたけれどこれは流石に先生方が何か言ってきてもおかしくないと思うのだけれど。

 

 「これにて北岡市立宮沢中学校2019年度体育祭開会式を終了します」

 

 …………うん。先生方は最早スルーですか。ツッコみすら無いとは。どうやら先生方の方が慣れていらっしゃる御様子で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育際のプログラムの午前の部は

●1年の短距離走

●2年の障害物競争

●3年の借り物競争

●男子棒倒し

●女子綱引き

となっている。そしてお昼休みを挟み午後の部は

●応援合戦

●女子球入れ

●男子騎馬戦

●クラス対抗バトンリレー

●3年生による組体操

という流れだ。まあ、普通の中学校の体育祭と同じようなプログラムだと思う。………体育祭って経験したことが無いから解らないのよね。そう考えると人生初というか前世も含めて初めての体育祭となるのか。小学校時は体育祭じゃなくて運動会だった訳だし。なんだかそう考えると感慨深いものがあるわね。

 

 「その感慨深い初の体育祭の開会式がアレというのはどうなのかしら?」

 

 「あはは、で、でも、ウチの学校らしいと言えばらしいよね」

 

 私の愚痴に苦笑しながらユウちゃんが答える。

 

 「確かにそうかもしれないけど、ユウちゃんとの初めての体育祭なのよ?もう少し雰囲気というかムードというか、そういうのを大事にしたかったわ」

 

 「………そっか、そうだね!」

 

 ユウちゃんが笑顔で答えてくれた。ユウちゃんはいつも私に素敵な笑顔を向けてくれる。その笑顔を見ていると心が癒され、元気が出てくる。それはそうか、なんたって世界一大好きな人の笑顔だものね。…………よし!

 

 「くよくよしてても仕方がないわね!ユウちゃんB組優勝目指して頑張りましょう!」

 

 「友奈だけじゃなくてアタシたちもいるぞ!」

 

 「わ、私も運動は苦手だけど、せ、精一杯がんばるぞ!」

 

 「皆で頑張ろう~」

 

 私が気合を入れていたら、美姫ちゃん、小紅ちゃん、まゆらちゃんが声をかけてきた。

 

 「皆………チカちゃん、絶対勝とうね!」

 

 「ええ!」

 

 ユウちゃんが皆を見た後に私の方を向いて言ってきたので力強く頷いた。

 

 「何だ?今年の1年はずいぶんと活きが良いな!」

 

 「伍華先輩」

 

 私たちが騒いでいると織雅団長が声をかけてきた。

 

 「織雅で良いぜ。なんたって俺たちは同じB組の仲間なんだからよ。なあ?」

 

 「解りました、織雅団長。ところで、何か御用ですか?」

 

 「おお、忘れてた。いやなに大したことじゃないんだが、お前ら校内新聞でインタビュー受けてただろ?」

 

 「ええ、それがどうかしたんですか?」

 

 「いや、あの校内新聞な、こういう学校外から人を呼ぶ場合は関連記事は全部入場者に無料配布してるんだよ。で、『アーカイブ』のヤツがちゃんと教えてるのか心配になってよ。後から聞いてないって言われて慌てられても困るからな。まあ、もう配っちまってるからどちらにしろ遅いんだけどな」

 

 「聞いてないぞそんなこと!」

 

 小紅ちゃんが叫んだ。

 

 「織雅団長、手遅れだったみたいですよ」

 

 「ああ、そうらしいな。悪かったな。気遣いが遅れちまって」 

 

 「いえいえ、実際団長が悪いわけじゃありませんし。というより青葉さんが『アーカイブ』だったんですね」

 

 「はあ?あいつ自分の意異名すら言ってなかったのかよ」

 

 織雅団長がため息を漏らす。それにしても、『アーカイブ』の正体が青葉さんだったとは。

 ……………あんまり意外性無いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えー、テステス。ワレアオバワレアオバ。………良し!さあ、始まりました!2019年度宮沢中学体育祭!実況は私、『アーカイブ』こと新聞部副部長、河原青葉がお送りしまーす!そして、解説はなんとこの御方!」

 

 「どうも、解説をやらさせていただきます。第3学年生担当主任の加々知です」

 

 「パチパチパチパチ~。いやー、解説役は毎年先生方の1人からローテーションで決定しますが、まさか加々知先生が来てくださるとは、嬉しい限りです!」

 

 「そうですか?私はこの学校伝統のハッチャケた解説役ができるほどの面白みのある人間だとは思いませんが」

 

 ((((((((((どの口が言ってんだ!!))))))))))

 

 「多分、貴方のことを知っている人は全員どの口が言ってんだって思ってますよ?」

 

 「河原さん、私、貴女のそのズバズバ包み隠さず言っていくスタイル好きですよ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「ただ」

 

 「ただ?」

 

 「『口は災いの元』、この言葉を貴女は生きていく上でしっかり心に刻み込んでおきなさい」

 

 「!?は、はい!わかりました!!」

 

 「さて、では最初の競技が始まりますよ」

 

 「え!?あ!で、ではまず最初の競技、1年の短距離走です!」

 

 「この短距離走、障害物競走と借り物競走もですが対象学年の全生徒が参加となります。また、我が校では足の速さ等ではなく完全にランダムでしかも男女混合で順番が決められます」

 

 「ぶっちゃけ、運動が苦手な方にとっては鬼畜の極みじゃないですか?」

 

 「そうは言いますが社会に出ればこれ以上の不条理や理不尽に当たり前のように遭遇します。正直言って私は学生時代に勉学だけではなくそういった社会で生きていくために大切なスキルを身につけてもらいたいのです」

 

 「なるほど。お?どうやら第一列目がはじまるみたいです」

 

 「さあ皆さん。全力で両隣のライバルたちを力でねじ伏せっていってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなり個性的でぶっ飛んだ実況解説とともに私たち1年の短距離走が始まった。この短距離走では毎列各組から2名が参加し全16列行われる。

 そして、1位になった人の組に12ポイント。そこから順次1ポイント減された点数が会得ポイントとなる。つまり、もし同じクラスの子がワンツーフィニッシュした場合は会得点が23ポイント。逆に同じクラスの子がワーストワンツーフィニッシュした場合は会得点が3ポイントとなる。

 しかも男女混合で順番は完全にランダムと、先ほど青葉さんが言った通りかなりの鬼畜使用となっている。

 で、私は今回小紅ちゃんと一緒に第3列目を走る。ちなみに、ユウちゃんは第5列目、まゆらちゃんが第10列目、美姫ちゃんが第14列目となっている。

 

 「なあ、千景は自信あるか?」

 

 列に並ぶ前に小紅ちゃんが聞いてきた。小紅ちゃんの声は小さくてその姿からも自信の無さが窺える。

 

 「まあ、短距離ならそれなりにね。小紅ちゃんは、走るのは苦手?」

 

 「走るのっていうか運動自体があまり得意じゃないかな。………ははは、ビリ確定だから皆に迷惑かけちゃうな」

 

 小紅ちゃんが自虐的な笑みを浮かべながら呟いた。私たちの順番の第3列目は私と小紅ちゃん以外は全員男子だ。アクシデントやハプニングが無ければ酷いようだが女子でさらに運動が苦手だという小紅ちゃんがビリになるのは確定だろう。

 

 「小紅ちゃん、織雅団長も言ってたじゃない。まずは楽しむ事だって」

 

 「うん、解ってはいるんだけどな………」

 

 小紅ちゃん自身、頭では楽しまなきゃいけないって解ってはいるのだろう。ただ心と体自体が怯えている。もしかしたら優秀な姉と比べられ続けて少し心が卑屈になっているのかもしれない。こういう場合は多分私の言葉じゃ何を言っても効果は薄いだろう。親友のまゆらちゃんや肉親のお姉さんの言葉じゃないと心に届きにくかったりする。自分も兄さんやユウちゃんに支えられてきたからなんとなくだが解る。

 

 「小紅ちゃん、私には多分だけど今の貴女を励ます言葉を言うことは出来ないと思うわ」

 

 「千景」

 

 「でもね、励ます言葉は言えないけど『皆に迷惑をかける』っていう心配ごとを無くすことはできるわ」

 

 「どうやって?」

 

 「私が1位になれば12ポイント獲得できる。そしたらもし小紅ちゃんがビリでも私と小紅ちゃんで計13ポイント獲得できるわ。………ごめんなさいね。こんな脳筋みたいなことしか出来なくて」

 

 「謝らないでいいよ。………ありがとうな千景」

 

 私のかなりアレで脳筋チックな提案を小紅ちゃんは本当に感謝しているみたい。

 

 「小紅ちゃんは優しいわね」

 

 「え?」

 

 「普通、自分が責められたり恥かくのが嫌だったりするのに小紅ちゃんは本当に皆に迷惑をかけることだけを嫌だと思ってるんだもの。優しいわ」

 

 一番に自分ではなく他人を思えるのが小紅ちゃんなのだ。嘘偽りなく他人を思える娘、それが私が友達になった夜ノ森小紅という娘なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、お次は第3列目です。おっと、この列には私がインタビューさせていただきました焔千景さんと夜ノ森小紅さんがいらっしゃいます。彼女たちのインタビューが気になる方は校門で配布されております校内新聞をどうぞ!」

 

 「露骨に宣伝してきましたね。………インタビューによりますと焔さんは短距離には自信があるようですね。対して夜ノ森さんは運動が苦手なようで」

 

 「それなのに同列の人は同じクラスの千景さん以外は全員男子とは、小紅さんにとってはショックでしょうね~」

 

 「いえ、一概にそうとは言い切れないと思いますよ」

 

 「え?何でですか?」

 

 「彼女の顔からは悲壮感や絶望感よりもやる気が見られます」

 

 パンッ

 

 「と、第3列目スタートしました。一気にトップに躍り出たのは千景さん!おお!これは速、…ホント速ッ!?もうゴールテープを切ってしまいました!」

 

 「一緒の列の男子が失意茫然としています」

 

 「そしてその間に小紅さんもゴールです」

 

 「結果トップ3は1位B組、2位C組、3位F組となりました」

 

 「ちなみに小紅さんは7位です。失意茫然として抜かれてしまった男子はご愁傷様です」

 

 「まあ茫然としていたのは焔さんのせいだけではありませんがね」

 

 「ああ、やはり小紅さんのアレも茫然としていた原因ですか?」

 

 「ええ、アレも原因です」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のもソレが原因ですよね?」

 

 「ええ、間違いなく」

 

 「………男子サイテー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。小紅ちゃんが運動苦手なのってソレが原因だと思う。いや、本当、すごいのよ。走る度にかなり揺れるのよ。なんかもうスンゴい。

 

 「はあ、はあ、はあ、………ありが……とう…な……千景…。はあ、はあ、おか…げで……7位に……はあ、なれた」

 

 「小紅ちゃん、無理して喋らないほうが良いわよ?それに、小紅ちゃんががんばった結果なのだから私にお礼はいらないわ」

 

 息切れ切れで小紅ちゃんがお礼を言ってきた。

 

 「はあ、はあ、………ふう、でも、私だけじゃ7位は絶対に無理だったよ。だからありがとう」

 

 「………そう、じゃあ一応そのお礼は貰っておくわ」

 

 「ああ」

 

 「Bon travail!(お疲れ様!)

 

 「ユウちゃん」

 

 私と小紅ちゃんが話しているとユウちゃんが順位の旗を持ちながら駆け寄ってきた。って、

 

 「しまった!私としたことがユウちゃんの雄姿を見逃すなんて!」

 

 「あ!ごめん、千景!私が話しかけてたから!」

 

 「いいえ!小紅ちゃんのせいではないわ!私のユウちゃんセンサーが弱いせいよ!くっ、修業が足りないか」

 

 小紅ちゃんが自分のせいだと謝ってきたが、小紅ちゃんのせいなんかではない。全ては私のユウちゃんセンサーが弱いせいだ。と、自分の弱さを悔やむ前に

 

 「ユウちゃんもお疲れ様。応援しなくてごめんね」

 

 「C'est bon.(大丈夫。)

 

 「あれ、ユウちゃん、2位だったの?」

 

 ユウちゃんの持っている旗の順位を見ると2と書いてあった。まさかユウちゃんが2位とは。ユウちゃんに勝ったのっていったい?

 

 「うん。はじめ君に負けちゃった。かなりの接戦だったんだけどね」

 

 「へ~、はじめ君に」

 

 ユウちゃんに勝つなんてはじめ君って運動神経良いのね。ふとA組の陣地を見るとはじめ君と目が合い、勝利のVサインをしてきた。ふむ、

 

 「宣戦布告と受け取った」

 

 「いや、何でですかねぇ?」

 

 明希さんがツッコんできた。

 

 「あら、明希さん。おはようございます」

 

 「おはようございます」

 

 「そういえば博斗君の出番っていつですか?」

 

 「第9列目、次ですよ。ほら」

 

 明希さんの声につられてスタートラインを見ると博斗君が並んでいた。

 

 パンッ

 

 合図とともに一斉に駆け出す。博斗君はトップに躍り出てグングンとスピードを上げていき、そのままゴールテープを切る。

 

 「おお~!博斗、結構速いですねぇ」

 

 「知らなかったんですか?」

 

 「お恥ずかしいことで、この1ヶ月と半月程博斗と色々話しましたがまだまだ知らないことだらけです。女の子の好みのタイプも解りません」

 

 「男の兄弟の好みのタイプは普通解らないと思います。私も兄さんの好きなタイプ知りませんし。あ、まゆらちゃんの番ね」

 

 「シエちゃんとラティナちゃんも一緒みたいだよ」

 

 「あら、そうみたいね」

 

 よく見ると、ユウちゃんの言う通りコウちゃんとラティナちゃんもいた。あ、ちなみに、シエちゃんっていうのもコウちゃんの愛称よ。江だからシエちゃん。

 

 パンッ

 

 一斉に走り出す。

 結果はラティナちゃんが3位、まゆらちゃんが7位、コウちゃんが10位だった。ラティナちゃん結構速いわね。

 

 「水泳部ってたまに陸上競技苦手な人いるわよね」

 

 「コウは元々運動苦手で水泳部でもマネージャー志望らしいぞ?」

 

 コウちゃんを見ながら漏らした呟きに小紅ちゃんが答えてくれた。へー、マネージャー志望だったんだ。

 

 『なんてステキなシックスパック♡』

 

 開会式で聞こえた声の幻聴が聞こえた。………もしかして筋肉を見たくて水泳部に入ったんじゃないわよね?

 ………………うん。考えるのはよそう。

 私が変なことを考えてる間に第14列目、美姫ちゃんの番になっていた。というかもうスタートしてた。

 結果は断トツで1位。美姫ちゃんかなり速い。

 

 「ただいま~」

 

 「おかえり美姫ちゃん。おめでとう」

 

 「おう。ありがとう千景」

 

 「super!(すごい!)美姫ちゃんってすごく速いんだね!」

 

 「まあアタシは兄貴とは逆で運動は得意だからな」

 

 「逆って、じゃあ勉強は?」

 

 「わからん全然わからん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあ、1年の短距離走が終わった今の段階でトータルポイントは

 A組192ポイント

 B組213ポイント

 C組208ポイント

 D組214ポイント

 E組211ポイント

 F組209ポイント

となっております」

 

 「今の所1位はD組、2位B組、3位E組となっています。ただまだ最初の競技です。これからどうなるかは、バトンを渡された2,3年生にかかっていますのでがんばってください」

 

 「では、続いての競技は2年の障害物競走です!」

 

 「河原さんも頑張ってきてください」

 

 「はい!頑張ってきます!」

 

 




次話は来週投稿予定です。

今日中に特別編の第6話も投稿予定ですのでよかったらそちらもどうぞ。


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情熱(中編)

第9話中編です。


 「続きまして障害物競走です。2年生は全員参加ですので司会の河原さんも参加します。なので代わりにこの方に来ていただきました」

 

 「どうも、生徒会副会長、『賢者(けんじゃ)』の鹿島撫子です。よろしくお願いします」

 

 「よろしくお願いします。ところで鹿島さん、この障害物競走のコース上の障害物は毎年生徒会が中心となって決めてきましたが、今回はどのような障害物を用意したのか解説していただいても構いませんか?」

 

 「解りました。ではまず、今回の障害物は全部で4個あります。最初の障害物は皆さんもお馴染みの平均台です。全長5mの平均台の上をピンポン球を乗せたスプーンを持って渡り、もし途中でピンポン球を地面に落としたり本人が平均台から落ちてしまったら最初から再チャレンジしてもらいます。次の第2障害物は大網潜りです。5mの距離を匍匐前進で進んでください。そして第3障害物は高さ1,5m、角度80°の急斜面を縄を使って超えていきます。最後は吊るされたパンを口のみで取ってもらいます。パンを食べ終わらないとゴールテープを切ってもゴールしたことにならないので注意してください」

 

 「解説ありがとうございます。昨年はストラックアウトがありましたが今回は急斜面登りに変わったんですね」

 

 「はい。今回の2年生は血の気は多いので、ストラックアウトの球で場外乱闘始められてもこまりますから」

 

 「「「「「「「「「チッ」」」」」」」」」」

 

 「鹿島さん、正しい判断だったようですね」

 

 「ええ、そのようですね」

 

 「もっとも、狙われる人物は今回の2年生の場合は特定されていたかもしれませんが」

 

 「某文化部に所属している男子生徒たちや、見た目が女子のような男子生徒ですか?」

 

 「はっきりとは言いませんが大体そこらへんだと思いますよ」

 

 「「「「個人が特定できそうな時点ではっきり言ってるようなもんだろ!?」」」」

 

 「では、鹿島さん。外野が煩くなる前に始めましょうか」

 

 「はい、そうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年の短距離走が終わり、2年の障害物競走が始まろうとしていました。

 

 「明希さん、ランさん、頑張ってください!」

 

 「Combat!(ファイト!)

 

 私とランちゃんがスタートラインの列に並ぶ為に陣地えお離れようとすると、千景ちゃんと友奈ちゃんが激励を飛ばしてきてくれました。

 

 「ええ、頑張って来るわ!それにしても徹君の妹とは思えない可愛さね」

 

 隣でランちゃんが変なこと言ってますねぇ。まあ、お2人が可愛いというのには私も同意しますが。

 

 「ユウキと一緒に私の妹にならない?」

 

 おっと、ランちゃんのエンジンが掛かってきましたよ。彼女、可愛い子見るとたまに少しおかしくなるんですよねぇ。

 

 「ランさんとユウキさんってやっぱり姉妹なんですね。前にユウキさんにも同じこと言われましたよ」

 

 おや、珍しい。ユウキちゃんもそんなこと言ったんですか。もしかしてお2人は魔性なのでしょうかねぇ?

 

 「あら、ユウキがそんなこと言うなんて珍しい。で、答えは?」

 

 「ユウキさんにも同じこと言いましたが私たち兄さんの妹っていうポジション結構気に入ってるんです。だから他の人の妹になる気はありません」

 

 「それでも妹にしたいという場合はお兄ちゃんが付いてきます」

 

 いや、そんな徹隆さんを食玩のオマケみたいに言うのは妹としてどうなんですかねぇ?

 

 「あ、そういうことなら遠慮しとくわ。徹君は明希ちゃんのものだし」

 

 「え!?ちょっ!?ふぇえっ!?」

 

 まさかの無防備な状態で横から急に銃口を向けられて打たれましたよ!?

 

 「義姉(ねえ)さん」

 

 「La soeur de ma soeur(お義姉ちゃん)

 

 「うぇ!?は、はい!?」

 

 え?え!?なんで千景ちゃんと友奈ちゃんも一緒になってサポートアタックしてくるんですか!?

 

 「まあこの話は置いといて、義姉さん、B組の為にも頑張って1位になってくださいね。1位にならなかった場合はこの『義姉さん』呼びを定着させますので」

 

 千景ちゃんが笑顔で恐ろしいことを言ってきました。

 

 「ええ!?なんで!?」

 

 「En quelque sorte?(なんとなく?)

 

 小首をかしげながら友奈ちゃんが言ってきました。んー、可愛いですねぇ。じゃなくて!

 

 「まさかの理由無しですか!?」

 

 そして、千景ちゃんと友奈ちゃんはそのまま踵を返して行ってしまいました。

 え?え!?ちょっと待ってください!本当に?本気で?ヤバい。これは1位取らないとヤバい!

 

 「ほへ~、流石、徹君の妹ね~」

 

 「ランちゃん!そんなこと言ってる場合じゃないですよ!?あー!ヤバい!これはヤバいです!」

 

 「大丈夫よ。1位取れば」

 

 「………簡単に言いますけどねぇ、私の列にディルさんとフェイトちゃん、そして何より徹隆さん本人がいるんですですよ!勝てると思いますかねぇ!?」

 

 「………ドンマイ!」

 

 「わー!!どうしましょう!?如何すれば良いんですか!?」

 

 「あちゃー、まさかあの3人と一緒の列になるなんて。………………失敗したかな?」

 

 ランちゃんがなんか小声で言っていますが今の私にはそんなことに意識を割いてる余裕はありません。あー、本当にどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさかランさんに明希さんを煽るように頼まれるとはね」

 

 「お兄ちゃんと明希さんの関係、周りの皆も気にしてたんだね」

 

 「まあ、明希さんなら1位を取るくらい出来るだろうし、本来の目的は明希さんに兄さんを今以上に意識してもらうことだけどね。私たちが変に手を出してややこしくなったり、2人の関係がぎくしゃくしても困るし。まあ、私としては逆に自棄(ヤケ)になってくれても良いのだけれど」

 

 「まあ確かに、そのまま大胆になってお兄ちゃんに告白でもし…て………。ねえ、チカちゃん?お兄ちゃんの列って何列目に見える?」

 

 「え?えーと、4列目ね。あ、ディルムさんも同じ列なのね」

 

 「じゃあ、明希ちゃんは?」

 

 「えーと、4列目ね。………!?………ユウちゃん、『明希姉さん』で良いかしら?」

 

 「………『明希ねーね』なんてどう?」

 

 「それ可愛いかも。んー、小紅ちゃん風に『明希姉様』とか?」

 

 「あ、それも良いね!……………で、どうしよう?」

 

 「呼び方を?それともこの状況を?」

 

 「どっちもかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「第3列目の結果は1位C組の木之本さん、2位D組の美樹さん、3位E組のバーニングスさんでした」

 

 「最初にパン食いエリアに到達したC組の里見君は惜しかったですね」

 

 「彼が選んだパンは激辛ドライカレーパンでしたが、あまりの辛さに大抵は一口食べてリタイアしてしまうソレを彼は全部食べ切りましたからね。素晴らしい根性です。が、食べ終わると同時に気を失いました。ゴールラインを越えてから食べるべきでしたね」

 

 「生半可な気持ちじゃ食べ切れないと思ったんじゃないですか?一口食べた時に彼の動きが一瞬止まりましたから。ところで加々知先生、今回のパン食い用のランチパックの中身って何なんですか?あれ、毎回少し中身違いますよね?」

 

 「ええ、あのランチパックの中身は毎回、借り物競走のお題と同じく教職員全員で決めていますからね。今回の中身は激辛ドライカレー、餡子、カスタードクリーム、メンチカツ、苺ジャム、ポテトサラダ、チョコクリーム、ツナマヨ、タマゴ、ハムチーズ、ピーナッツバター、焼きそばの12種類です。それと、何処かの職員の悪ふざけで激辛ドライカレーが1つだけハバネロソースになっています」

 

 「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

 「加々知先生、何処かの教員って、ご自身じゃないんですか?」

 

 「ええまあ、正直に言いますとそうです」

 

 「「「「「「「「「「アンタ何やってんだ!?」」」」」」」」」」

 

 「いや、サプライズは必要かな?と」

 

 「………では、残りの2年生の皆さはその1個に自分が当たらないように祈りながら頑張ってください。続きましての第4列目は、焔君とクリューゲル君、テスタロッサさん辺りの意異名持ちが1位の有力候補でしょうか?」

 

 「…………どうやらもう1人ほど1位の有力候補たり得そうな顔つきの人がいるみたいですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッ

 

 ピストルのスタート合図と共に一斉に私たちは走り出します。

 第1障害物の平均台に着くわずかな距離で予想通りディルさんとフェイトちゃんが私たちとの差をドンドン広げていく。そんなお2人に徹隆さん、私の順番で必死に食らいつく。

 普通の競走じゃあユウキちゃんのスピードに付いていけるディルさんや『雷光(らいこう)』なんて意異名を持つフェイトちゃんには絶対に勝てないかもしれませんけど、障害物競走ならまだ勝てる見込みがあります!

 

 最初の障害物の平均台にディルさん、フェイトちゃん、徹隆さん、私の順番で到着する。この平均台では彼らにできる限り離されないようにするのが目標です。え?1人くらい抜かないのかって?ええ、抜きません。というか、抜けません。

 

 「おや、クリューゲルさんがスプーンに乗ったピンポン球を放物線を描くように放り投げて、そのまま平均台を悠々と歩いて、最後にピンポン球をスプーンで見事にキャッチ。そしてその行動で女子生徒の心も見事にキャッチ。そのまま次の障害物へ移動して行きます」

 

 「ピンポン球を地面に落としていませんし、平均台を降りるときにピンポン球がスプーンの上に乗っていて、さらにピンポン球に手を触れていませんのでルール上、何の問題もありませんので男子生徒はブーイングをやめてください」

 

 「テスタロッサさん、焔さん、蓼原さんは上手にバランスを取りながら平均台を難なくクリア。クリューゲルさんの後を追います」

 

 あんな曲芸染みたこと出来るのってあとせいぜいランちゃんくらいじゃないですかねぇ?いやー、ディルさんってすごいですよねぇ。イケメンで、気さくで、女性にやさしい、そして運動神経抜群で成績優秀。この間の中間試験学年で3位だとか。まあ、そんな彼でも欠点がありますが。その欠点を今回の障害物競走では利用させてもらいます。

 

 さて、続きまして第2障害物の大網潜り。ここで出来る限りフェイトちゃんと差をつけますよ!

 

 「現在1位のクリューゲルさんが大網潜りに挑戦です。イケメンは何をやってもイケメン」

 

 「大網潜りが絵になるってすごいですよね」

 

 「さあ、後続の方々も続々と大網潜りに挑戦していきます。おや、テスタロッサさんが悪戦苦闘しています」

 

 「あ、テスタロッサさんの綺麗な長い金髪が網にからまってしまったようです。しかも彼女の髪型、最近ツインテールを下ろしましたから。纏めていたらもしかしたらあそこまで絡まらなかったかもしれませんね」

 

 良し!これで現在3位になりましたよ!フェイトちゃんのあの長くて綺麗な金髪はいつもなら憧れますが、今回は自身の髪を短くしていて良かったと思いますよ。

 

 そのまま、第3障害物の急斜面登りです。ここでは徹隆さんと差をつけられないようにしなくては。

 

 「さあ、トップのクリューゲル君が急斜面を1、2、3、4、僅か4秒で越えていきました」

 

 「歯牙にも掛けないとは正にこのこと。後続の焔さんはやや力任せに、対して蓼原さんは上手く重心を取ってスムーズに登っていき、ほぼ同着で急斜面を超えていきます」

 

 「クリューゲル君と焔君、蓼原さんの差はそこまで広がっていません。これは最後のパン食いエリアで逆転の可能性があります」

 

 さあ、ここで先ほど述べたディルさんの欠点と徹隆さんの似たような欠点を利用させていただきますよ!その欠点とは、運の無さです!……え?ここに来て運任せかよ!?って?イヤイヤ、運も実力の内って言いますからねぇ。それに、彼らの運の無さはかなりのものなのでどんな時でも大抵は計画に入れます。

 

 「さあ、クリューゲルさんが1番にパンに食らいつきました」

 

 「中身はいったい」

 

 「辛っ!?」

 

 「どうやら、激辛ドライカレーに当たったようです」

 

 「ハバネロソースと区別が付くんですか?」

 

 「あのハバネロソースの場合、辛いというより痛い、もしくは言葉を発する前に意識を手放します」

 

 「先生、それ身体に悪いんじゃないんですか?」

 

 「安心してください。死にはしませんから」

 

 「先生、生死等の問答が出る時点でアウトです」

 

 「おや、クリューゲルさんが辛さで悶えてる間に焔さんと蓼原さんがゴールしました」

 

 「露骨に話を逸らしましたね。………ほぼ同着のように見えましたが結果は?………どうやら焔君がパンを食べ終わってなかったようです」

 

 「よって第4列目結果は1位B組の蓼原さん、2位C組の焔さん、3位E組テスタロッサさんとなりました。なお、クリューゲルさんはパンを食べ終わるのが遅く6位という結果になりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「明希さん、1位おめでとうございます」

 

 「Félicitations!(おめでとうございます!)

 

 陣地に帰ると千景ちゃんと友奈ちゃんが祝福の言葉をかけてくれた。

 

 「ふふふ、ありがとうございます」

 

 「「それからごめんなさい。競技前に変に煽ってしまって」」

 

 千景ちゃんと友奈ちゃんが頭を下げて謝罪してきた。

 

 「ああ、まあ、1位になれたんですから気にしてませんよ」

 

 「………ありがとうございます」

 

 「………Merci beaucoup(ありがとうございます)

 

 「しかし、なんであんなことを言ってきたのですか?」

 

 冷静に考えてみるとあの行動はなんだかお2人らしくないように思います。

 

 「………実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お帰りなさいランちゃん。それから、今度はお2人を巻き込んだんですか?」

 

 陣地に帰ると明希ちゃんが仁王立ちして出迎えてくれた。

 

 「あはは、千景ちゃんたちから聞いたの?」

 

 明希ちゃんの後ろを見ると千景ちゃんと友奈ちゃんが目を伏せていた。どうやら喋ってしまったことを申し訳なく思っているらしい。

 

 「ええ、そうですよ。は~、まったく今度は年下の子を巻き込むなんて」

 

 「いやー、久しぶりの暗躍だったから張り切りすぎちゃって。千景ちゃんと友奈ちゃんも巻き込んじゃってごめんね?」

 

 「いいえ、私たちはランさんに頼まれはしましたが最終的には自分自身の意思で行動を起こそうと決意した訳ですし」

 

 「それより私たちの方こそランちゃんに何も言わず明希ちゃんに話してしまってごめんなさい」

 

 「え?イヤイヤ、謝らなくて良いから!私が好きでやってることだもの!」

 

 まさかこんなにも良い子たちだったとは。ますます、本当にあの徹君の妹なのか疑わしくなってきたわ。

 

 「このように千景ちゃんたちは良い子たちなんですから、変にランちゃんの暗躍に巻き込まないでくださいねぇ」

 

 「うん、そうする」

 

 「………あのう、さっきから言っているその暗躍っていったい何なんですか?」

 

 友奈ちゃんが私と明希ちゃんの会話が気になって聞いてきた。

 

 「ランちゃんの困った癖は知ってますよね?」

 

 「え?うん。可愛い女の子に抱き着くんでしょ?」

 

 「いえ、そっちではなく()()()()()()()()()()だという方です」

 

 「………え?じゃあ、もしかして」

 

 千景ちゃんが勘づいた。

 

 「そう、ランちゃんは私の困り顔が見たいんですよ」

 

 「明希ちゃん、ちょっと違うわ。私は明希ちゃんの赤らめて困っている顔が見たいのよ」

 

 明希ちゃんみたいなキリッとした見た目の子が頬を赤く染めてテンパっていたりアタフタしている姿に一番萌えるのよ!

 

 「………と、まあこんな感じの子なので彼女から頼まれたことに関してはそこまで深く受け止めなくて良いですからねぇ」

 

 「「……解りました」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「真悟、景友、ただいま~」

 

 「おう、徹お帰り。で、どうしたんだよ?いつものお前ならパン1つくらい明希より先に食い終わるだろ?」

 

 「ああ、あれの中身がピーナッツバターだったからだよ」

 

 「ん?お前ピーナッツバター嫌いだったっけ?」

 

 「嫌いって程では無いが好きでもないな。バター系の甘いものが得意じゃないんだよ。ちなみに、駅ナカとかでよく嗅ぐ香ばしいバターの香りなんかは1分以上嗅いでいると胸やけ通り越して吐き気を催す」

 

 「え、そんなに?」

 

 「そんなに。あと、藍子のヤツがまた暗躍してたから」

 

 「ああ、なるほど。…………てか、いい加減、明希の気持ちに気付いていないフリやめたら?

 

 「無駄だよ、真悟。こいつ高校卒業まで彼女作らない気だから」

 

 「そういうこった」

 

 「なら、そう本人に言えば?」

 

 「蓼原みたいな美人を逃すのは惜しい」

 

 「唐変木演じていても逃げられる可能性はあるぞ」

 

 「それなれそれでいいんだよ。俺に愛想が尽きたのならそれならそれで。ただ、自分からモーションを起こして逃げられたら俺は立ち直れない」

 

 「こいつ思った以上にチキンで、最低だ」

 

 「あと、蓼原が右往左往してる姿を健やかな顔で俺は見ていたい。俺が告白したりされたりしたら変に意識して蓼原を健やかな顔で見れなくなるのは当たり前だろ?」

 

 「知らんわ。同意を求めるな。景友、こいつが思った以上に変態なんだがどうする?」

 

 「真悟、もう手遅れだ。俺たちはもうこいつらの行く末に関してはポップコーンを食べながら見守ることしかできない」

 

 「劇場鑑賞気分だな。ドリンクもセットで頼もう」

 

 「じゃあ、俺がハッピーエンドを迎えたら鑑賞料として1人1800円ずつもらうからな」

 

 「やけにリアルな値段だな」

 

 「てか俺と真悟以外運悪いんだけどハッピーエンド迎えられるの?」

 

 「一発で激辛当てた蓮太郎とディルほど俺の運は悪くねえよ」

 

 「てか、由良も運悪いのか?」

 

 

 

 「おや、ハバネロソースが当たったのはC組の木戸原さんですか」

 

 「「「「「「「「「「「しゃー!!ざまーみろー!!」」」」」」」」」」

 

 

 「「「………一番運が悪かったか」」」

 




後編は来週投稿予定です。


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情熱(後編)

第9話後編です。

リアルの方で環境でも自分自信にも多々問題が発生してしまい、投稿がかなり遅くなってしまい申し訳御座いません。

問題の方は解決の目処が立ちましたので此れからは約週1のペースで更新していこうと思いますので宜しくお願い致します。

それでは本編をどうぞ。


 「何やってんだよ!?団長!」

 

 「なんて声出してやがる、来戸(らいど)!」

 

漂う宇宙(そら)の~どこか遠く~

 

 「だって私なんかの為に!」

 

 「俺は宮沢中学校応援団団長、伍華織雅だぞ!こんくれーどうって事ねぇ」

 

残る物など~何もないとし~ても

 

 「お前らが止まんねえ限りその先に俺はいるぞ!」

 

希望のはな~繋いだ絆が

 

 「だからよ。止まるんじゃねえぞ」

 

戻る場所なんてない辿り着くべき場所へと~

 

 「織雅?」

 

今を生きていく~

 

 

 

 「さあ判定は?………合格です!B組の『希望華(きぼうか)』こと織雅団長、借り物競走の『茶番』というかなりアレなお題を見事クリアし、トップでゴールです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆さんこんにちは、焔千景です。初めに皆さんに言っておきます。この小説は『焔千景は日常を謳歌する』です。『乃木若葉は勇者である』の二次創作作品であり、決して『異世界オルガ』シリーズではありません。ページ開いていきなり詠唱が始まったから見る小説間違えた、と焦ってしまった人もいるかも知れませんが安心してください。間違ってませんから。まあ、この小説の存在自体が間違っていると言われたらおしまいですけどね。

 まあ、自虐メタネタはこれくらいにして、勘の良い人は何となく気付いているかも知れないけど、状況を説明しましょう。

 只今の競技が3年の借り物競走で団長が引いたお題が『茶番』ということで、2年B組の来戸菜々(らいどなな)さん(♀)を連れて行き冒頭でのお馴染みのシーンを披露したという訳。ちなみにBGMのフリージアを流したのは加々知先生。………まるで当たり前だと言うように放送機器のスイッチ入れてたわ。慣れすぎでしょ。というより、何で借り物競走のお題が『茶番』なのよ!物じゃ無いじゃない!どちらかといえば概念の部類よね?コレ。

 まあ、他のお題も『ワールドクラス』や『覚悟』、『心の壁』、『決闘者(デュエリスト)』なんて変なものばかりだったけれど。ああ、中には『常壊者』とか『絶剣』とか意異名そのままのお題もあったわね。そういえば、『常壊者』のお題を引いた人、兄さんに対してまるでアイドルの推しメンに接する機会を得たファンの人みたいだったけど、あの人も兄さんのファンクラブの会員かしら?あと、その人が兄さんを連れて行った時に明希さんから黒い炎のようなものが見えた気がしたけど気のせい……では無いわよね、やっぱり。………………嫉妬の炎って想像通り黒いのね。

 あ、余談だけどウチの学校には3年B組に岩山明広(いわやまあきひろ)さん(♂)、流星詩乃(ながほししの)さん(♀)、2年B組に月拝美華(つきおがみか)さん(♀)、彩島貴喜(さいじまたかき)さん(♂)、そしてさっきも名前を挙げた来戸菜々さんがいる。あ、さっきの『「織雅?」』って台詞を言ったのは美華さんね。………うん、似てるよね、皆さん名前が。ちなみに全員応援団に所属してます。は~い、余談でした~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「3年の借り物競走が終了し、ただ今の各組の得点は、

●A組 610ポイント

●B組 623ポイント

●C組 634ポイント

●D組 619ポイント

●E組 619ポイント

●F組 632ポイント

で、順位は1位C組、2位F組、3位B組となっております。加々知先生、確か去年はこの段階で1位と6位のポイントの差は50ポイント程あったと思うのですが」

 

 「はい、確かにそれほどのポイントの差がありました。今年はクラスごとのパワーバランスが程よくとれえいるのでしょう。もしくは、2年生で去年高得点を会得していた人たちが障害物競走で苦戦してしまったのも影響しているかもしれません」

 

 「なるほど」

 

 「ただ、全学年混合の団体戦では、1位から6位までしかない為に配点の差が大きくなります。去年優勝したクラスは50ポイント差を逆転して勝っていて、今年は現時点でのポイントの差が余りありません。つまり、ここから大きく差が開く可能性が高いということです」

 

 「なるほど。では、各組の皆さん!ここからはもっと気を引き締めて頑張っていきましょう!」

 

 「「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」」

 

 体育祭は団体戦に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「最初の団体戦は『男子棒倒し』ですねぇ」

 

 「棒倒しか。………明希さん、細かいルールってどんな感じなんですか?」

 

 棒倒しは男子の団体戦競技の為、新入生の女子は細かいところまで知らない。なので美姫ちゃんが明希さんに問いかけた。

 

 「棒倒しはですねぇ、うーん、まず女子の綱引きや球入れも同じなのですが、男子生徒は棒倒しか騎馬戦どちらか一方に必ず参加します。一方だけなので両方に出るなんてことは出来ませんので注意が必要ですねぇ。で、男子の団体戦競技はどちらも大乱闘と呼ばれているほどにとても過激な競技です。棒倒しの基本的なルールは普通のものと同じで、相手陣地の丸太棒を倒し天辺に付いている鉢巻を取れば勝ちです。ただ、私たちの学校では全クラスが一斉に対戦しますので共闘、裏切り、出し抜き、いろいろな作戦飛び交う正に戦場となります。そして、その大乱闘の末に鉢巻を最後まで守り抜いたクラスが1位で12ポイント会得となり、そこから最後の方まで残っていた順に2位が10ポイント、3位8ポイント、4位6ポイント、5位4ポイント、6位2ポイント、となっています」

 

 「つまり1位と6位では10ポイントの差がある訳か」

 

 10ポイント差とはかなりの差よね。まあ、そのくらいの差がないと50ポイント差を逆転できないか。

 

 「ええ。ちなみに女子綱引きと応援合戦、クラス対抗リレーはさらにポイントの配分法が変わります」

 

 明希さんが補足をしてくれた。前年度の優勝クラスはそれらの競技で高得点を会得し続けて優勝したとか。

 

 「ねえ明希ちゃん、去年優勝したクラスって何組だったの?」

 

 「B組ですよ。ちなみに私がいたクラスで、クラスメイトにはランちゃんと杏子ちゃん、さやかちゃん、徹隆さん、由良さんが居ましたねぇ」

 

 あら、兄さん去年優勝してたのね。というより、真悟さんと景友さんとは別のクラスだったんだ。なんだかいつも一緒にいるイメージだったわ。

 

 「あ、どうやら始まるみたいだぞ」

 

 私たちが話し込んでいると小紅ちゃんが教えてくれたので競技が行われる方を見る。すると、兄さんのクラスのC組の陣地の丸太を守っている人の中に景友さんが、攻める人側に由良さんがいた。

 

 「うっ、景友さんが丸太を守っていますか。これは厄介ですねぇ」

 

 「明希さん、景友さんってそんなに強いの?」

 

 あれ?でも強さは兄さんと同じくらいって言ってたわよね?入学して2ヶ月、この学校の人たち、特に上級生の人たちの強さは下手すると兄さん以上の人が結構いる様に見えたんだけど?

 

 「いえ、まあ普通の強さならそこまで驚くほどでは無いのですが、こと守りとなると景友さんは強いんですよ」

 

 「ああ確かに。兄貴結構堅いからな」

 

 へえ~。景友さん防御主体の戦闘スタイルなんだ。

 

 「あと、由良さんもなかなか厄介ですよ」

 

 「え?由良さんはそんなに強くないって兄さん言っていましたけど?」

 

 「腕力はですよ。ただ俊敏なんですよ。まあ、ユウキちゃんほどではありませんが」

 

 「「「「「へ~、あの人ただの色情魔じゃないんだ」」」」」

 

 私たち1年の声がハモった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッ

 

 「さあ、男子棒倒しが始まりました!」

 

 「おや、C組の木戸原さんが猛スピードでF組の丸太に向かっています。まあ、C組は1位ですから2ポイント差で2位のF組を狙うのは妥当な判断と言えますがね」

 

 「そうですね~。ただ逆に1位のC組は全クラスに狙われていますが。………ところで、由良さん泣いてません?」

 

 「周りの声が声援では無く罵倒だからでしょう。彼のメンタルはそこまで強くありませんから」

 

 「先生~?コレ、いじめじゃないんですか?」

 

 「普通の場合はそうなのですが、この場合は彼の自業自得なところがありますからね。ほら、見てください観客席の一部」

 

 「へ?」

 

 「「「「「「「「「「由良ー!頑張ってー♡」」」」」」」」」」

 

 「………加々知先生、アレは?」

 

 「木戸原さんのファンクラブ(校外)の方々ですよ。別名『木戸原由良被害者の会』または『木戸原由良の嫁たち』だそうです」

 

 「どこからツッコめばいいかアオバには解りません」

 

 「そんな訳で彼の場合はアレはいじめにはなりません。それにメンタルが弱いと言いましたが、以前2年の焔さんが『メンタルがリバイバルスライム』なんて例えていましたが、まさにその通りなので大丈夫でしょ」

 

 「なるほど」

 

 「と、話しているうちにF組の丸太が木戸原さんにより轟沈させられていますね」

 

 「それに比べてB組の丸太は小破すらしてませんね。というより、景友さんが強すぎません?」

 

 「そういえば、豹垣さんは昨年度から鉄壁と言っていいほど強かったですね」

 

 「そろそろ、彼にも意異名が付きそうですね」

 

 「体育祭が終わったら付きますよ、絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子棒倒しが終了した。結果は1位がC組、2位B組、3位A組、4位E組、5位D組、6位F組となった。B組では3年の明広さんと2年の貴喜さんが頑張ってたわ。

 

 「さあ、次は女子綱引きだよ!」

 

 2年の菜々さんが大きな声でB組の陣地の全員に言いてきた。

 

 「やけに上機嫌だな」

 

 「それはそうですよ!今総合順位は2位だし、貴喜も頑張ってたし!」

 

 ………コレはネタ?

 

 「J'ai un mauvais pressentiment(嫌な予感がするよ)

 

 「大丈夫じゃないですかねぇ?織雅団長がフリージアるだけだと思いますよ?」

 

 それはそれで問題が有るのでは?

 

 「明希さん、綱引きって総当たり戦よね?」

 

 「ええ、そうですよ千景ちゃん。一戦につき3分間ですが、全部で15戦。試合だけで45分。午前中のプログラムのなかで一番時間がかかります」

 

 確かに、試合だけで45分なら移動時間等を合わせれば1時間を超すわね。まあ、ほぼ予定通りにプログラムは進んでいるから大丈夫だけど。

 そして、明希さんがさっき言っていた通り、男子の大乱闘のように女子は綱引きか球入れどちらかに必ず参加しなければならない。

 

 「明希さん、さっき確か綱引きはポイントの配分が違うって言っていたわよね?」

 

 「ええ、そうなんですよ。綱引きの場合は試合に勝つと2ポイント、負けると0ポイント、引き分けの時はそれぞれに1ポイントずつが配分されます。つまり、全戦全勝したら10ポイント、全敗したら0ポイントとなる訳ですねぇ」

 

 0ポイントとは、かなり配分がシビアね。ん?でもポイント差の最大が10ポイント差なら他の競技と変わらないかな?それどころか、一回でも引き分けにさえ持ち込めば1ポイント獲得できる訳なのだから美味しい競技だったりして。

 

 「さて、友奈ちゃん、美姫ちゃん、まゆらちゃん、綱引きが始まりますので行きましょうか」

 

 「あの~、明希さん、そういえば私たちの組の綱引き参加者って他の組に比べて多いみたいですけど?」

 

 私がポイントの配分について考えていたら、綱引きに参加するユウちゃんたちに声を掛けた明希さんに、まゆらちゃんが質問していた。確かに私たちB組の綱引き参加者は他の組より明らかに多い。

 

 「ええ。まあ、参加人数に制限は有りませんしねぇ」

 

 そう。男子の団体戦もなのだが、どちらに何人参加させるかは各組毎に自分たちで決めることが出来る。ただ、先ほども言ったように一人一種目にしか出られないので、大抵は半々になるように別けるのが基本になっているのだが、私たちB組はそうはしていない。

 

 「でも明希さん、私たちのクラスの球入れ参加人数は10人くらいですけど大丈夫なんですか?」

 

 「心配には及びませんよ、小紅ちゃん。なんたって私たちのクラスにはランちゃんがいますからねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあ、女子綱引き、最初の対戦カードはB組とE組です!」

 

 「やはりと言うべきか、B組の綱引き参加者の人数は多いですね」

 

 「まあ、B組には『絶投』のランさんがいますから。その分綱引きに人数を割くのは当然と言えば当然な訳ですしね」

 

 パンッ

 

 「おーっと、E組スタートと同時に一気に引っ張ります!が、B組の数の暴力には敵わない!」

 

 「さらにB組には月拝さんもいますから。そんなB組に勝つのは至難なことですよ」

 

 「あー、なるほど。…………ちょっ!?数の暴力+『破壊魔(はかいま)』の美華さんって最早絶望的じゃないですか!?」

 

 「大丈夫です。その程度の絶望で心が折れてしまうような弱い生徒はウチにはいませんから」

 

 「いやいや先生?そういう問題じゃないとアオバは思いますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望のはな~

 

 「だからよ。止まるんじゃねえぞ」

 

 

 

 結果から言って私たちB組は7ポイント獲得出来た。戦績は3勝1敗1引き分け。

 ……え?そんなことより何で団長がフリージアっているのかって?ああ、それはね、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -回想-

 

 ピィー!!

 

 B組対E組の試合終了のホイッスルがなり響く。

 

 「あっ!美華ちゃん!!早く綱から手を離してください!!」

 

 「え?」

 

 終了のホイッスルが鳴ったら直ぐに綱から手を離さなければならないのだが、美華が離そうとしないために明希が注意した。しかし、明希の声に反応し美華が力を込めてしまったために綱はまるで生き物のようにうねり、鞭のように撓りだす。そして、

 

 「ん?…!?ウォォォォォァァァァア!!??

 

 パンッパンッパンッ

 

 ―――ああ、解ってる

 

綱は織雅団長にだけ襲いかかった。

 

 ―回想終了―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という感じにハシュマルの尻尾(綱引き用の綱)の犠牲になったの。で、この試合が反則負け。後の試合はC組とは引き分けで他の組には勝利。

 

 「織雅。なんか、ごめんね?」

 

 「俺は応援団団長、伍華織雅だぞ!こんくれーどうってことねぇ」

 

 あ、団長が蘇ってる。本物のオルガ・イツカ並みの回復力ね。ん?いや、()()()()()()()()()()()()かしら?んー、まあ、どっちでも良いか。それにしても美華さんって本当見た目は三日月・オーガスっぽく無いわね。いやまあ、別人だし性別も違うから当然と言えば当然なのだけど。金色の瞳で長い金髪を低い位置でツインテールにしていて、見た感じは『元気なボクっ娘』って感じかしら。身長は前世の土居さん位かな?ただ、中身(性格)はかなりミカっぽい。一人称『オレ』だし、あんまり喋んないし、声出して笑わないし、『破壊魔』なんて意異名が付くくらいの怪力だし。あ、それと身長については触れない方が良い。知らずに触れてしまったウチのクラスの男子が物理的に殴り飛ばされたから、25m位。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、此れにて午前のプログラムは全て終了です。そして只今の各組のポイントは

●A組 626ポイント

●B組 640ポイント

●C組 651ポイント

●D組 627ポイント

●E組 628ポイント

●F組 637ポイント

で、1位C組、2位B組、3位F組と言う順位になっております」

 

 「1位と6位の差は僅か25ポイント。そして残す競技は組体操を除いて4種目。まだ逆転優勝を狙えます。皆さん、お昼休みでしっかり英気を養って午後の競技に臨んで下さい」

 

 「それでは此れより1時間のランチタイムとなります。ランチタイムが始まって20分程したら、私ことアオバが気になる選手に突撃インタビューを行いますので宜しくお願いしますね~!」

 




次話は来週投稿予定。

今週中に特別編の方も1話投稿予定です。


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焔千景は勇者である
Episode:1 飛花落葉(ひからくよう)


特別編です。

年末年始なのでちょっと特別なことやりたいな~と
見切り発車な感じです。
だいたい4話くらいで一段落するので1日1話三が日まで連続で投稿する予定です。

●時間軸が本編とずれており、千景と友奈は中学2年生になっています。なので本編にまだ出ていないキャラが出てきます。
●特別編はサブタイトルはEpisodeが付いて、全て花(華)の入っている四字熟語になります。


 「福引きで旅行券当たった」

 

 木々の葉が紅く染まり寒さが肌を刺すようになり始めた頃に、買い物から帰ってきた兄さんが()()行きの二泊三日の旅行券をリビングのテーブルの上に置いた。

 

 「あら、良かったじゃない兄さん。今度の連休に()()と行ってきたら?」

 

 はっきりと誰ととは言わないけど、あえて言うなら明希(あき)さんと。

 

 「彼女いないの知ってるよな?皮肉か?」

 

 あ、ダメだこの兄。

 

 「あとこれ、ペアチケットじゃなくてファミリーチケットだから」

 

 「と言うことは」

 

 「ああ、父さん母さんに話したら休み取れるってさ。お前らは連休に用事ある?」

 

 兄さんが私とユウちゃんに問いかける。

 

 「特に無いわね」

 

 「みんな連休中はどこか行くって言ってたから、どうしようかってチカちゃんと話してたところだったんだ」

 

 「んじゃ、決まりだな」

 

 「「…………香川か~」」

 

 私とユウちゃんは行き先について考える。まさかこんな形でまたあそこに足を運ぶことになるなんてね。

 

 「あ、そういやお前らの前世って香川出身だったけ?」

 

 「いいえ、私は高知出身よ」

 

 「私は奈良出身だったよ。でも、第2の故郷みたいなものだったね」

 

 「私は生まれ故郷より楽しい思い出がいっぱいあるわね」

 

 「じゃあ、楽しみだったりするのか?」

 

 私たちは兄さんの質問の答えを考える。どうだろう?楽しい思い出がいっぱいあるのは確かだが、それと同時に辛く苦しい記憶もある。そう考えているとふと隣のユウちゃんと目が合った。……そうだ、香川で私は初めての掛け替えのない大切な友達や尊敬できる人、喧嘩できる人たちに出会えたのだ。なら答えは決まっている。

 

 「「うん、とっても!」」

 

 私とユウちゃんの答えがハモった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは今、神戸を出発して香川県の高松に向かうジャンボフェリーに乗っている。

 

 「船旅って気持ち良いね~」

 

 「あ、そう言えばユウちゃん、高嶋さんの時はどうやって四国に来たの?」

 

 「ん?私の場合は明石から淡路島を経由して来たんだよ。バーテックスが来た日にちょうど家族旅行で四国を訪れてたの」

 

 「私の方の高嶋さんもそうだったのかな?」

 

 「う~ん、それは解んないや」

 

 私たちが前世のことを話していると、3人の女の子が近付いてきた。

 

 「2人とも何の話してたの?」

 

 「こら、ユウキ!人様の話に割り込むんじゃありません!」

 

 「大丈夫よ。ランさん」

 

 「そうそう、香川行ったら何処廻ろうか話してたんだ。うどん屋さんと丸亀城は外せないね~って。ユウキちゃんとランちゃん、明希ちゃんは何処行きたい?」

 

 「そんな、旅行に御相伴預かってるだけでもありがたいというのに」

 

 ユウちゃんの質問に明希さんが申し訳なさそうにする。

 

 「良いのよ。旅行券当てた兄さんが皆を誘ったんだから。楽しんでくれた方が誘った兄さんも喜ぶだろうし」

 

 そう、今回の旅行にはなんと紺野(こんの)姉妹と明希さんが一緒に行くことになったのだ。兄さんが当てた旅行券が最大4人まで有効のファミリーチケット2枚で、計8人一緒に行くことができたのだ。ファミリーチケット2枚とは今回の商店街の福引きは、ずいぶん奮発したな~と思っていたら、どうやら兄さんも気になったらしく福引きの役員をやっていた商店街会長さんに話を聞いたらしい。そしたら福引きの商品は高宮(たかみや)家が全て提供してくれたとのこと。つまりまた、なすのさんがやらかしたと。取りあえず当たったのに使わないのは勿体ないと言うことであと3人、誰かを誘うということになり、行く人は券を当てた兄さんが決めることとなった。

 ちょうど、連休中両親が出張でいないということで紺野姉妹が決定。最後の1人はなんやかんやで周りから明希さんが推薦された。その時に先輩方から『あの2人の仲を少しでも発展させろ』と言われたのだが、イヤー、無理じゃない?兄さん鈍感だし、明希さんは奥手だし。この1年間ネタを変え、手段を選ばず色々やってきたのに進展がこれっぽっちもないのよ?強いて言うなら兄さんの蓼原(たではら)呼びが明希呼びに変わった程度。その後はマイクロ単位で進展無し!くっ、このままじゃ私の『ユウちゃんと結婚計画』に支障が!?あ、ちなみに、私たちの両親は用事があるとのことで今夜ホテル前で落ち合うことになっている。

 

 「ありがとうございます、千景ちゃん。なら楽しまないとですねぇ!………ところで、その徹隆(てつたか)さんは船に乗ってから見てないんですけど、何処に行ったんですか?」

 

 「そういえば徹君見て無いわね」

 

 ランさんも兄さんの居場所を聞いてきた。

 

 「ああ、兄さんなら昨日楽しみすぎて寝られなかったから、今は御座スペースで寝ているわ」

 

 「「小学生か(ですか)!?」」

 

 「あ、それから、はいこれ」

 

 「何です?」

 

 「『旅行のしおり~うどん県ver.~』………なにこれ?」

 

 「眠れなかったってことで昨日兄さんが作ってくれたのよ。一晩で」

 

 「はい!?」

 

 「バカなの!?しかも無駄にクオリティ高!!」

 

 うん、朝に兄さんからこのしおり貰った時は私も思ったわ。香川県の全容や名所への行き方、美味しいうどん屋を地図上にピックアップしてるし、後ろのページにはバスと電車のダイアル表、極めつけは最後のページのお土産リスト。本当に兄さんは無駄なことであればあるほどクオリティを上げようとするのよね~。

 

 「はぁ~、もっとまともなことに心血注ぎなさいよ!おバカ徹君!」

 

 全くもってその通りだと思います、ランさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンボフェリーで約5時間。香川県高松港に到着。秋だからか18時を廻る時間だとすっかりくらくなってきている。

 

 「さて、父さんたちがあと1時間ほどで到着する予定だから、合流する前に夕食食っちまうか。今日泊まるホテルは夕食無いタイプだし」

 

 「徹隆さん、おじさんたち待たなくて良いんですか?」

 

 「ああ、父さんたち、岡山から新幹線で高松に来るんだけど、駅弁食ってくるってさ」

 

 兄さんが自分のガラケーのメールボックスを見せてくれる。そこには『駅弁食べてくるからそっちでご飯食べといて~ 母より』というメールがあった。

 

 「ねえ兄さん、うどんは明日にしない?出来ればうどん県のうどんとの再会は劇的にしたいのよ」

 

 出来れば直ぐにでも食べたいのだけれど、中途半端な気持ちで食べるのはうどんに失礼だと思う。

 

 「ん?う~ん、そうだな~。なら今日は別のもの食うか。みんなもそれで良いか?」

 

 「ボクはそれで良いよ。と言うか、劇的な再会って、大袈裟過ぎない?」

 

 「ううん、ユウキちゃん!香川のうどんは凄いんだよ!だから生半可な気持ちじゃあ、うどんに失礼なんだよ!!」

 

 「あ、はい」

 

 「すまんな、ユウキ。こいつらうどんになると少々我を忘れるんだよ」

 

 「え、あ、うん。びっくりはしたけど大丈夫」

 

 「ん?ねえ徹君、徹君たちって香川に来るの今回が初めてなんだよね?友奈ちゃんの発言だと、まるで前に香川のうどんを食べたことがあるように聞こえるんだけど?」

 

 「んあ?あ、そういや明希以外には言ってなかったか。千景と友奈はほんのちょっとだが前世の記憶があるんだよ。んで、その前世で香川のうどんを食ったことがあるらしいんだ」

 

 「ちょ、ちょっと、兄さん!?」

 

 こともなにげに兄さんが私たちの前世の記憶のことを、ぼやかしながらではあるがランさんたちにばらした。そんなこと、さらっと言ったって信じて貰えるはずが……

 

 「あ、そうなのね」

 

 ………信じて貰えました。え?

 

 「信じるの?こんな荒唐無稽な話」

 

 「うん。実を言うとウチのユウキも前世の記憶があるから。あれ?西暦2026年だから前世じゃなくて後世かな?」

 

 「生前だから前世で良いんじゃない?」

 

 なんとユウキちゃんも前世の記憶持ちだった。しかも西暦2026年って、もしかして私たちのような平行世界なのかしら?まあ、そんなことより、

 

 「西暦2026年ではどんなゲームがあったの?」

 

 「第一に聞くことがそれか、我が妹よ」

 

 「大事なことよ!」

 

 「ん~とね~、ボクたちの世界ではフルダイブ型のVRMMOとかが流行ってたよ!」

 

 「フルダイブ型VR!ktkr(キタコレ)!」

 

 と言うことは上手くすれば後6年で実現する可能性があるということね!

 

 「ユウキちゃんはってことはランちゃんは違うの?」

 

 「私は無いわ。前世でもユウキとは双子の姉妹だったそうだけどね」

 

 「姉ちゃんは現世(いま)でも前世(まえ)でも変わらずボクの姉ちゃんなんだ」

 

 「お二人は相変わらず仲が良いですねぇ」

 

 本当にその通りね。

 

 「さて、ところで何食う?」

 

 あ、そういえば夕食に何食べるかの話だったっけ。うーん、何にしましょう?

 

 「骨付鳥とか?」

 

 ユウちゃんが香川のもう一つの名物を上げた。

 

 「うーん、骨付鳥は丸亀の方に店が集中してるからそっちで食った方が良いんじゃね?」

 

 「ねえ徹、アレは?」

 

 ユウキさんがとある方向を指差す。私たちはその方向にあったお店を見る。

 

 「ラーメン屋ですねぇ」

 

 お店を確認した明希さんが呟く。看板には徳島ラーメンと書いてある。徳島ラーメン、前世では食べたこと無いわね。普通のラーメンと違うのかしら?

 

 「徳島ラーメンか、県名が入っているってことは他のラーメンとは違う特徴があるのか?」

 

 「東京の八王子には刻んだタマネギをいっぱい乗せた八王子ラーメンというものがあるそうです。多分、そんな感じではないですかねぇ?」

 

 兄さんの疑問に明希さんが自身の推測を述べる。

 

 「んー、興味をそそるな。お前らはどうだ?」

 

 「「「「「異議なし」」」」」

 

 「じゃあ、決まりか」

 

 という訳で私たちはそのラーメン屋に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「徳島ラーメンのライスセット、お待たせしました」

 

 私たちの前に徳島ラーメンとライスが置かれる。

 徳島ラーメンは別名すき焼き風ラーメンとも呼ばれていて、ライスと一緒に食べるのが主流らしい。スープは醤油豚骨、トッピングはネギとメンマ、そして何よりも特徴的なのが生卵とチャーシューではなく味が染み込んだ豚バラが入っているところだ。なるほど、見た目確かにすき焼き風ラーメンね。

 

 「徳島ラーメンの唐揚げセット、お待たせしました」

 

 兄さんとユウキさんはライス+唐揚げのセットを頼んだ。

 

 「兄さんはともかく、ユウキさんも結構食べるのね」

 

 兄さんは見かけによらずよく食べる。1食でご飯2合は普通に食べる。と言うか、私の家族は私以外がかなり食べる。まあ、私も前世に比べれば食べるほうにはなったが。そんな訳で兄さんがよく食べるのは知っていたが、まさか小柄なユウキさんも食べるほうだったとは。

 

 「うん、()()()()つい食べちゃうんだ」

 

 「嬉しい?美味しいじゃないの?」

 

 ユウちゃんがユウキさんの発言に質問する。確かに美味しいじゃないのかしら?

 

 「さっき、ボクに前世の記憶があるって言ったけど、前世(まえ)のボクは病気で学校にも、ご飯すらまともに食べれなかったから」

 

 ユウキさんの言葉を皆が無言で聞く。

 

 「だから嬉しいんだ。姉ちゃんと学校に行けることや、こうして皆と美味しいものを食べれることが………ゴメンね、食事前にこんな」

 

 「……よし!なら、食うか!てか、早くしねぇと伸びる伸びる!いただきます!」

 

 「そうだね!徹の言うとおり早くしないと伸びちゃうね!いただきます!」

 

 「「「「いただきます!」」」」

 

 ちょっと強引にいった兄さんに続いて私たちも食べ始めた。

 

 気持ちを切り替えて、私はまずレンゲでスープを一匙掬って飲む。濃厚な、しょっぱいくらいの醤油豚骨の味が熱と共に口の中に広がる。

 

 「ちゅるちゅる」

 

 麺を一口啜る。ストレートの細麺にとろみのあるスープがしっかり絡まって口の中に入っていく。そして麺を噛むと細麺のプチプチとした歯応えと一緒に小麦特有の甘みが出てきて、先ほどしょっぱいくらいに感じたスープと合わさりちょうど良い塩梅になる。

 

 「ん~」

 

 うん、美味しい。徳島ラーメン、かなり美味しいわ。

 

 「すいませーん。替え玉、カタ」

 

 「あ、ボクも替え玉、普通で」

 

 「はーい」

 

 「「「「早ッ!?」」」」

 

 声を聞いて見てみたら、兄さんとユウキさんが麺を食べ終えて、替え玉を頼みながら唐揚げとライスを食べていた。早くない!?食べ始めて5分も経ってないと思うんだけど?

 おっと、いけない。あまりにも早かったからびっくりして食べる手が止まってたわ。私は次に豚バラと一緒に麺を食べる。甘塩っぱく煮込まれた豚バラは麺と一緒に食べてもかなり濃い。今度は生卵を割り豚バラと麺に絡めてから啜る。黄身が絡まることでより濃厚になりながらも味がマイルドになる。

 

 「お待たせしました。替え玉、カタと普通でーす」

 

 「あ、すいません。後、ライスお替わり」

 

 「すいません、ボクもお願いします。後、生卵1つ追加で」

 

 「はーい」

 

 「「「「もう食べた!?」」」」

 

 兄さんとユウキさんは唐揚げすら食べ終えていた。

 …………豚バラとメンマに黄身を絡め、ライスに乗せ一緒に食べる。お米の甘みが豚バラとメンマの濃い味を包み込む。

 

 「お、ユウキ、なんか変わりダネの麺があるみたいだぞ?」

 

 「どれどれ?唐辛子とブラックペッパーとゆず胡椒か~」

 

 「…………すいませーん。ゆず胡椒麺、カタでお願いしまーす」

 

 「こっちは、唐辛子麺の普通で」

 

 「「それと、ライスお替わり」」

 

 「はーい」

 

 「「「「まだ食べるの!?」」」」

 

 2玉目の替え玉どころかライスも3杯食べるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、明日は丸亀城ね!」

 

 「楽しみだね!」

 

 私とユウちゃんはホテルの部屋で明日の予定を話していた。明日、私たちは丸亀城に向かう。()()()()()()()ではあるがとても楽しみだ。

 

 「あの~、ところで、何で私はお二人と一緒の部屋なのでしょう?」

 

 私たちと同室になった明希さんが聞いてきた。今回のホテルでは3人部屋2つと2人部屋1つとなりお父さんたちと兄さん、紺野姉妹、私たちと明希さんに別れた。部屋割りとしては妥当な配置だと思うが何故明希さんがこんなにも困惑しているのかと言うと

 

 「言ったじゃない。明日の予定を立てるって」

 

 そう、私が明希さんを明日の予定を立てると言って同じ部屋にして貰ったのだ。明希さんは、まさか私から同じ部屋に誘われるとは思ってなかったらしい。

 

 「明日の予定と言われましても、丸亀城に行くんですよねぇ?丸亀城はお二人にとって特別だと思うのですが」

 

 だからこそ私抜きで話すべきではないのかと明希さんが言ってきた。確かに、兄さんから私たちの前世のことを聞かされている明希さんも理解している通り、丸亀城は私とユウちゃんにとって特別な場所だ。でも、その特別は『郡千景』と『高嶋友奈』のものでもある。

 

 「確かに明希ちゃんの言う通り私たちにとって丸亀城は特別だよ。でも、その特別は前世からの気持ちもあるの。だからって訳じゃないけどその気持ちだけを優先し過ぎて今の私たちの付き合い(こと)を蔑ろにしたくないんだ」

 

 「記憶を取り戻した当初に兄さんから言われたわ。私たちは『焔千景』と『月城友奈』であって、『郡千景』と『高嶋友奈』では無いって。前世の記憶も含めて私たちなのではあるけれど、もし前世のことばかり気にして今世のことを蔑ろにしたら、それは私たちではないわ」

 

 「そんなことしたらお兄ちゃんや皆に失礼だもんね」

 

 「ええ、皆は()()()の友達になってくれたのだから」

 

 私たちは前世の記憶も含めて今世の私たちなのだから、前世も今世も蔑ろにしない。そう私とユウちゃんは決めたのだ。

 

 「勿論その友達には明希さんも入っているわ。だから、一緒に()()()()()を話し合いましょう?」

 

 「千景ちゃん、友奈ちゃん。……はい!明日の予定、しっかり話し合いましょう!」

 

 「ええ、だからまずは、明日は兄さんと良い雰囲気になりましょう!」

 

 「はい!…………はい!?」

 




飛花落葉……この世は常に変化していると言うこと。

Episode2は明日投稿予定です。

それでは皆さん

友奈『Bonne find'année!(良いお年を!)


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Episode:2 曇華一現(どんげいちげん)

特別編第2話です。

皆様、あけましておめでとうございます。今年もほそぼそと小説を書いていこうと思います。

友奈『Bonne année!(あけましておめでとう!)
千景『今年もよろしくお願いするわ』


 「早く早く、チカちゃん!」

 

 「うふふ、待ってユウちゃん」

 

 「おっと、ボクが1番に天守閣に行くよ!友奈ちゃんには負けない!」

 

 「ちょっと、待ちなさい!ユウキ!」

 

 香川に着いた次の日私たちは丸亀城に来ています。……で、丸亀城に着いたと同時に友奈ちゃんとユウキちゃんが走り出し、千景ちゃんとランちゃんがそれを追いかけて行きました。そして、この場に残ったのは私と徹隆さんだけになりました。

 …………………………ええ、()()()()です。()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―前日の夜―

 

 「と言う訳で明希さんには明日、出来る限り兄さんと2人っきりになって貰います!」

 

 千景ちゃんが明日の計画と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を話してくれました。そうですか、皆さんが。へ~、余計なお世話ですよ!そりゃあ、自分でも奥手だとは思いますけど。そして、千景ちゃん発案の作戦ですが

 

 「ふ、2人っきりですか……」

 

 「ええ。ぶっちゃけて言うと恋人繋ぎとか、腕を組むとか、ハグとかして貰いたいんだけどね」

 

 「む、むむむ無理です無理です!絶対無理です!!」

 

 そんなこと出来る度胸があればここまでこじらせていませんって!………なんでしょう。言ってて自分で悲しくなってきましたよ?

 

 「まあ、失礼だけど明希さんにそこまで出来るとは思ってないわ」

 

 「……残念ながら言い返せませんねぇ」

 

 はあ~、言い返せない自分が情けないですねぇ。

 

 「と、まあ、そこで雰囲気に助けて貰おうかなと」

 

 「雰囲気にですか?」

 

 「ええ、2人っきりになっていれば黙っていても良いムードになってくれるし、後は兄さんが天然で何かしらしでかしてくれる筈だから」

 

 「あ~、あの天然タラシ行動ですか」

 

 「ええ」

 

 ホントなんなんでしょうねぇ?あの行動は。………ふと思ったのですが、私の周りってこの行動を起こす男子、多くありませんかねぇ?特に蓮太郎さんとディルさん、あの人たちは1日に1人は恋に落としているような気がします。まあ、徹隆さんと真悟さん、景友さんも2日に1人は落としてそうですが。え?由良さん?あの人のは天然ではなく計算尽くです。

 

 「まあ、そういうことで明日はバンバン2人っきりにしていくわ!」

 

 「していくって、具体的にはどうするんですか?」

 

 「はいはーい、そこは私とユウキちゃんの出番です!」

 

 元気よく友奈ちゃんが手をあげています。元気いっぱい可愛らしいですねぇ。徹隆さんがシスコン気味なのも仕方がないと思える可愛らしさです!そう言えばこの間、3年生女性陣で誰が千景ちゃんと友奈ちゃんを妹にするかの大会第13回目が行われましたねぇ。その度に皆さんが『徹隆はいらない』って言ってました。そんなにいりませんかねぇ?

 

 「明希ちゃん、聞いてる?」

 

 「は!!すいません。友奈ちゃんの可愛らしさを考えてたら思考があらぬ方向に」

 

 「それは仕方が無いわね!なんたって真理だから!!」

 

 「………で、友奈ちゃんとユウキちゃんの出番ですか?」

 

 「うん!私とユウキちゃんがことある毎にはしゃいで皆から離れるの!」

 

 「で、その2人を追いかける形で私とランさんが離れるから、そうすれば自然とその場に残るのは兄さんと明希さんだけよ」

 

 「あれ?おじさんたちは?」

 

 「栄光(ひでみつ)さんたちは別行動だよ」

 

 「私と兄さんで考えてたのよ。この旅行中は夫婦で楽しんで貰おうって」

 

 なるほど、そうだったんですねぇ。

 

 「と言うことで、明日はこの作戦で行くわよ」

 

 「そう上手く行きますかねぇ?」

 

 「行くわ。明希さんが私たちを追わなければ、絶対に兄さんは明希さんと一緒にいるはずだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―現在―

 

 「アイツらはしゃぎ過ぎたろ」

 

 昨日千景ちゃんが言った通り、徹隆さんは私と一緒にいました。

 

 「徹隆さんは行かないんですか?」

 

 「ん?あの2人が追いかけてるから大丈夫だろう。あ、もしかして1人で楽しみたかったか?」

 

 「い、いえいえ!大丈夫です!!」

 

 「そうか?じゃあ、一緒に行こうぜ」

 

 「は、はい」

 

 私と徹隆さんはゆっくり天守閣に向けて坂を登って行きます。

 

 「それにしても、ユウキはともかく、友奈があそこまではしゃぐとはなぁ」

 

 「やっぱり、特別だったからじゃないですかねぇ?」

 

 「………()()か」

 

 「徹隆さん?どうかしましたか?」

 

 徹隆さんがとても悲しそうな寂しそうな目をしているのに気付きました。……この目を私は知っています。1年前、弟と不仲だった時の私と弟の目と、肉親に対して申し訳なく思っている者の目です。

 

 「………徹隆さん、博斗のこと、ありがとうございます」

 

 「え?」

 

 「1年前、徹隆さんがあの子の高くなった天狗の鼻をへし折ってくれて、『素直になれ』って言ってくれて、おかげで私は博斗としっかり眼を見て話すことが出来ました」

 

 「……………」

 

 「()()()()()は貴方に助けられました。その恩返しと言う訳ではありませんが、私でも()()()()()()()()で、話くらいは聞いてあげられます」

 

 「………そっか」

 

 「はい」

 

 「……俺さ、アイツらの記憶が戻ったとき、アイツらにお前らは『焔千景』と『月城友奈』だろって言ったんだ」

 

 「その話、昨日の夜お二人に聞きましたよ。その言葉のおかげで今世(いま)前世(まえ)も蔑ろにしないように決心出来たって」

 

 「ははは、そっか。でもさ、あの言葉、実は俺がとっても怖かったから言ったんだ。アイツらが別人に成っちまうんじゃないかってさ。酷い話だろう?アイツらはその言葉で励まされたって言っていて、言った本人はそう感じるように言っておきながらその実、自分の妹を信じてやれなかったて言うんだから」

 

 「…………なんだ、いつもの徹隆さんじゃないですか」

 

 なにを心配しているのかと思えば、しんみりした雰囲気で聞いて損しちゃいましたねぇ。

 

 「は?」

 

 「千景ちゃんと友奈ちゃんのこととなると我を忘れる、シスコン気味で過保護ないつもの徹隆さんです」

 

 「シスコン気味って……」

 

 「いきなりしんみりしだしたからいったいどんな暗い話するのかと思ったら。前に景友さんが『徹隆の周りのシリアスさんは5秒で死ぬ』って言っていましたが、本当ですねぇ」

 

 「お前なぁ」

 

 「だって」

 

 「ん?」

 

 「だって、徹隆さんがどんな気持ちで彼女たちに言葉を送ったとしても、その言葉で彼女たちは決意したんです。どんなふうに言葉を送ろうと捉え方は彼女たちだけのものですから、徹隆さんがあーだこーだ悩んでいても彼女たちは歩んで行きますよ。()()()()()()()()

 

 「………そっか」

 

 「そうです」

 

 「……ははは、そっかそっか」

 

 そう言って笑う徹隆さんの雰囲気はいつものちょっとおちゃらけた緩いものに戻りました。やっぱり私はこの雰囲気の徹隆さんが好きですねぇ。

 そう考えてたら徹隆さんが私の頭を撫でてきました。へ?

 

 「ははは、明希、お前本当良いヤツだな」

 

 「ちょっ、て、徹…隆さん」

 

 「ん?あ、悪い悪い。千景や友奈を相手にしてる感覚だった」

 

 や、やられました。まさかここでタラシ行動が来るとは!くっ!このままでは私のLP(ライフポイント)が0になってしまう!?

 

 「なあ、明希」

 

 「ひゃっ、ひゃいっ!?」

 

 自我を保つ為に変なボケを心でしていたので不意を突かれました。

 

 「実はさ、この旅行で俺は少しでも『郡千景』と『高嶋友奈』のことを知りたいと思ってるんだ。協力してくれね?」

 

 徹隆さんは香川に行けたらもしかしたら前世の彼女たちのことが少しでも解るのではないかとずっと考えていたとのことでした。

 

 「………やっぱりシスコン気味ですねぇ」

 

 「そうか?」

 

 「そうです」

 

 「そっか………ん?」

 

 「どうかしましたか?」

 

 「なあ、明希。俺の目がおかしいのか?葉っぱが浮いてるように見えるんだが?」

 

 私は徹隆さんが見ている方向に目を向けます。するとそこには

 

 「………徹隆さんの目がおかしくなった訳ではないと思いますよ?私にもそう見えますもん」

 

 葉っぱが数枚浮いていました。と言うか

 

 「なんか静か過ぎません?」

 

 「……まだ夕方じゃないんだがなぁ?」

 

 「次に聞こえるのはブレーキ音と銃声でしょうか?」

 

 「そして流れるフリージア」

 

 希望の華~

 

 「と、冗談はこれくらいにして千景たちと合流した方が良いな。こいつは明らかに異常だ」

 

 「はい」

 

 私たちは千景ちゃんたちと合流する為に天守閣まで走って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「姉ちゃん、これって!?」

 

 「どうなっているのよ、これ!?」

 

 ユウキさんとランさんが周りの状況を確認して狼狽える。私たちの周りはまるで時間が止まってしまったように全てのものが動きを止め、静かになっていた。いや、()()()ではなく本当に時間が止まっているのだ。

 

 「ねえ、チカちゃん!()()ってまさか!?」

 

 「ええ、考えたくないけど()()()()()()()しているわ!」

 

 私とユウちゃんはこの現象に酷似した事態を知っていた。でも認めたくなかった。何故なら()()

 

 「皆!無事か!?」

 

 そんな時、兄さんと明希さんが私たちの元に走ってきた。良かった、兄さんと明希さんは無事みたいね。

 

 「ここに来るまでに何組かの観光客とすれ違いましたが、皆さん時間が止まったように固まってました!」

 

 「………皆は全員動けるようだな?」

 

 「ええ」

 

 「くっ!1人でも止まっていれば顔に落書きし放題だったのに!」

 

 「「「「「…………………」」」」」

 

 ドコッ!!

 

 「グフッ!!」

 

 私は兄さんに無言の腹パンを喰らわす。

 

 「冗談言う場面じゃないでしょ?兄さん」

 

 「…ケホッケホッ……わ、悪い悪い。でも、少しは落ち着いただろ?」

 

 「!……はぁ~、全くウチの兄さんは」

 

 「ははは、さて。千景、この現象ってもしかして」

 

 兄さんがさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消して真剣な表情で聞いてきた。

 

 「ええ、1番可能性が高いわ。でも……」

 

 「それの場合、お兄ちゃんが動けてるのが不思議なんだよね?」

 

 ユウちゃんが私の考えていた疑問を代弁してくれた。そう、もしこの現象が私たちの知っているものと同じなら男性である兄さんが動けることが疑問なのだ。

 

 「え?まさかの俺、お姉ちゃん説!?」

 

 「無いわね。由良さんの方が信憑性有るわよ」

 

 「じゃあ、生前女性だったとかどうよ?」

 

 「あ、それならあり得そうね」

 

 実際のところはどうしてなのか解らないけど、ただ、兄さんのお陰で心に余裕が持てるわね。戦力としても申し分ないし。

 

 「ねえ徹、話からして徹たちはこの現象を知ってるんだよね?」

 

 「ああ。まあ、正確には1番可能性が高いってことだが、この現象は千景と友奈が前世で経験しているらしい」

 

 「千景ちゃんと友奈ちゃんが前世で……」

 

 「で、この後、強い光に飲み込まれれば確定だよな?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「あの~、その強い光ってアレですかねぇ?」

 

 明希さんが指差す方向を見ると瀬戸内海側から強い光が迫ってきていた。

 

 「確定だね、チカちゃん」

 

 「確定ね、ユウちゃん」

 

 「はいはい、確定だそうだから、皆この後カラフルな根っこが広がる異世界に飛ばされるそうなのでビックリしないようにな~」

 

 「「カラフルな根っこ?」」

 

 「カラフルな根っこ」

 

 「と、言ってる間に既に目の前に光が迫ってきましたねぇ」

 

 「「「「「「うわ!眩しっ!!」」」」」」

 

 こうして兄さんたちは生まれて初めて、私とユウちゃんは生まれ変わって初めて、前世では考えられない緩さで樹海化の光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「カラフルな根っこだ~」」」」

 

 兄さんたちが樹海に足を踏み入れて言った一言目です。うん、緩いわ~。前世では絶対考えられない緩さだわ~。取りあえず見える範囲でバーテックスはいないわね。まあ、兄さんとユウキさんがいるから不意を突かれることは無いでしょ。あの2人の気配察知はかなり凄いし。あれ?バーテックスって気配あるのかしら?

 

 「ねえチカちゃん、私の記憶の樹海に比べて根っこが占める比率が高いような気がするんだけど?」

 

 「ええ、私もそう思うわ。しかも、心なしか根っこが太い気がする」

 

 私とユウちゃんは辺りを見渡し違和感を覚える。どうも私たちの記憶の中の樹海と違うように思う。それとも十数年ぶりだからそう感じるだけかしら?

 

 「ねえ、もしかしてこの異世界は千景ちゃんと友奈ちゃんがいた時代より未来にあるんじゃないかしら?」

 

 ランさんが私たちの話を聞いて予想を立てる。

 

 「私たちの時代より未来?この樹海が?」

 

 「この異世界、樹海って言うのね。うん、多分だけど根っこの占める比率が上がって根っこ自体が太くなっているなら成長したって考えられない?」

 

 「なるほど」

 

 「でも、神様って成長するの?」

 

 私がランさんの意見に納得しているとユウちゃんが呟いた。あ、そういえばそうよね。神様って成長するのかしら?

 

 「神様?」

 

 「ああ、この樹海は神樹って言う神様が作った世界なんだそうだ」

 

 「で、その神樹様があの奥で光っているあれだよ」

 

 ユウちゃんが神樹様を指差す。

 

 「え!あれ神様なの!?」

 

 ランさんが神樹様を見てビックリしている。想像していた神様とは似ても似つかぬ為だろう。

 

 「………ねえ、てことはこの根っこは神様の根っこなの?」

 

 「え?ええ、そうなるわね」

 

 ユウキさんが根っこをじーっと見ながら聞いてきた。

 

 「………こういう根っこってゲームだとかなりのレア度の採取アイテムだったりするよね?」

 

 「!?確かに!!」

 

 そうよね!神様の根っこなんだもの!なんで前世では気付かなかったのかしら!?

 

 「そういう場合、根っこより枝じゃね?」

 

 「いや、根っこも在りそうだとボクは思うな~」

 

 「ん~、俺なら根っこよりは近くに生えてる茸とかの方が考えられるな~。『虹色神樹茸(ニジイロシンジュダケ)』とか霊薬の材料かキーアイテムに在りそう」

 

 「あ、それも在りそう」

 

 「あなたたち!神様相手に失礼も程があるでしょう!?」

 

 兄さんとユウキさんがランさんに怒られた。それにしてもなんで前世では思いも寄らなかったのかしら?私ならちょっとは考えそうなものだけど。……やっぱり心に余裕が無かったのかしらね?

 

 「あの~、今まで誰もツッコんでませんけど、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 今まで黙っていた明希さんが言ってきた。

 

 「あ、そういやそうだな。千景、このコスプレ衣装が勇者装備ってヤツなのか?」

 

 兄さんが聞いてきた。コスプレ衣装って、まあ、初めて見たらそう見えなくもないのかな?

 

 「勇者装備!!格好いい!!」

 

 ユウキさんが喜んでいる。なんか既視感(デジャブ)を感じる。あー、高嶋さんだった時のユウちゃんそっくりなんだ。

 

 「ええ、そうよ。それぞれ花がモチーフになっているの。自身の花のモチーフは自分のスマホの画面にレリーフが浮かんでいる筈だからそれで確認出来るわ」

 

 私とユウちゃんの勇者装備って前世のと変わってるのよね。ユウちゃんのカラーリングは変わってないけど私のカラーリングが黄色になっているのよね~。モチーフの花が変わってるのかしら?そう思い、確かめてみようとスマホをホルスターから取ろうとするがそもそもホルスターが無くなっていた。

 

 「あら?ホルスターが無い?」

 

 「うわ!」

 

 ホルスターを探していたら横からユウちゃんの悲鳴が聞こえた。

 

 「どうしたの!?ユウちゃん!!」

 

 「あ、ごめんね。ホルスターが無いからスマホ何処かなって考えてたらスマホが急に手の中に出てきたからビックリしちゃって」

 

 「……え?」

 

 手の中に急に出てくるなんてあるのかしら?半信半疑でスマホよ出ろと考えたら……………出て来たわ。花弁が集まったと思ったら手品みたいにこうパッと。どうなっているのかしら?コレ。

 …………まあ自分の花のモチーフでも見ておきましょうか。

 




曇華一現……稀にしかない珍しい機会の例え

Episode:3は明日投稿予定です。


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Episode:3 鏡花水月(きょうかすいげつ)

特別編第3話です。


※注意事項
今回からアプリゲーム「結城友奈は勇者である 花結いのきらめき」のネタバレ、キャラ崩壊等が多分に含まれます。ご注意下さい。

●タグ、あらすじを更新しました。


 

 「………あら?彼岸花ね」

 

 私はスマホの画面を確認してみたが、レリーフは彼岸花のままだった。ただ黄色い彼岸花になっている。

 私の今世(いま)の勇者装備は前世(まえ)の装備と比べるとちょっとばかし肌の露出が多い。その面で1番の特徴が肩かしらね。前世(まえ)は肩が隠れてたけど今世(いま)は出ている。そして髪の毛が毛先に行くにつれて黄色に変わっている。後は全体的に装甲具?が無くなっているわね。強いて言うならシンフォギアからプリキュアに変わったって感じかしら?

 

 「彼岸花、花言葉は『陽気』『思いやりの心』なんてものが有りますねぇ。千景ちゃんにぴったりだと思いますよ」

 

 「物知りね。明希さん」

 

 「何が小説のネタになるか解りませんからねぇ」

 

 私の呟いた声が聞こえたらしく、明希さんが彼岸花の花言葉を教えてくれた。彼岸花の花言葉ってそんな明るいのあったのね。

 

 「ちなみに、先ほどの花言葉は黄色い彼岸花特有のものです」

 

 「………明希さん、赤い彼岸花特有の花言葉って有る?」

 

 「え?ええ、『再会』『転生』『思うは貴方1人』なんかですかねぇ?彼岸花全体だと『悲しい思い出』なんてものも有ります」

 

 「………ありがとう」

 

 「………千景ちゃん。思い出は思い出です。今は皆いますよ」

 

 「………ふふふ、そうね。ところで、明希さんのモチーフは何だったんですか?」

 

 明希さんの勇者装備はピンクのインナーの上に赤い道着をモチーフにした装備になっていた。

 

 「私のはシクラメンですねぇ」

 

 「…………………で?」

 

 「………やっぱり言わないとダメですかねぇ?」

 

 「もちろん♪」

 

 私の笑顔に観念したのか明希さんは自身のモチーフの花言葉を話し出した。

 

 「はあ~、全体だと『遠慮』『気後れ』で、私の服装の色だとピンクが『憧れ』赤が『嫉妬』ですねぇ」

 

 「あら、明希さんにぴったりじゃない」

 

 「ピンクはともかく赤は自分でもぴったりだとは思いますけどねぇ」

 

 「ピンクもぴったりよ。()()()()()()()なんて明希さんにぴったりだわ」

 

 「………あー、そう来ましたか」

 

 私の言いたいことが伝わったらしく明希さんが苦笑交じりに肩をすくめる。

 

 「シクラメンか~。明希ちゃんにぴったりだね!」

 

 「あら、ユウちゃん。ユウちゃんのモチーフは変わらず山桜かしら?」

 

 ユウちゃんがやってきたのでモチーフを聞いてみた。今世(いま)のユウちゃんの勇者装備は色は前世(まえ)と変わらないのだが、天の逆手が無くなっていて、籠手や手甲と言うよりはガントレットと言った方が良いような装備になっている。それから、脚の装備が完全に西洋甲冑の足鎧(サバトン)脛当て(グリーブ)ね。ただ、私のと同じく全体的に装甲具は無くなっているわ。そして極め付けは、私から見てユウちゃんの顔の右側の髪の毛一房だけが伸びていて、途中から徐々に桃色に変わっている。

 

 「うん。変わってなかったよ」

 

 「山桜ですか。確か花言葉は『高尚』『淡白』『美麗』でしたねぇ」

 

 「美しいイメージが多いのね。まさにユウちゃんの為にあるような花だわ!」

 

 「…………ぶれませんねぇ、千景ちゃんは」

 

 「はあ~。キラキラした瞳のチカちゃん、可愛い~な~」

 

 「……………………訂正します。ぶれませんねぇ、2人とも」

 

 「なになに、どうしたの?」

 

 「あら、モチーフの花の話?」

 

 私たちが話していたら紺野姉妹が話しかけてきた。

 

 「ええ、私が彼岸花でユウちゃんが山桜、明希さんのがシクラメンだったわ」

 

 「へー、黄色い彼岸花なんてあるんだ」

 

 「2人のモチーフは何だったの?」

 

 紺野姉妹の勇者装備は瓜二つでロングコートの上から軽鎧を纏ったような装備になっている。ただ色が別々でユウキさんの色が濃い紫、ランさんが純白だ。2人とも外見も似ているからぶっちゃけ、片方が2Pキャラに見えるわね。

 

 「ボクたちは2人ともカーネーションなんだ」

 

 もしかしてとは思っていたけどやっぱり同じモチーフだった。こんなことあるのね。双子だからかしら?

 

 「モチーフまで同じなんてお二人は本当に仲が良いですねぇ」

 

 「明希ちゃん、カーネーションの花言葉ってなんだか解る?」

 

 ランさんが花言葉を聞いてきた。

 

 「カーネーション全体だと『無垢で深い愛』、ユウキちゃんの色の紫だと『誇り』『気品』、ランちゃんの色の白だと『 純粋な愛』『私の愛は生きています』なんてのが有りますねぇ」

 

 「純粋な愛なんて姉ちゃんらしいね!」

 

 「誇りね。確かにユウキらしいわ」

 

 自身の花言葉より先に姉妹の花言葉に反応を示す辺り本当に仲が良いことで。

 ん?そういえば、さっきから兄さんの存在が空気ね。どこにいるのかしら?そう思って辺りに視線を向けたらスマホを見ながら微動だにしない兄さんを直ぐに発見したので声をかける。

 

 「兄さん、どうしたの?」

 

 「千景、コレどう思う?」

 

 兄さんは自分が今まで見ていたスマホを見せてきた。どう思うと言われても普通のスマホよね?色もあまり変哲の無い白だし。ん?あれ?ちょっと待って。

 

 「兄さん、兄さんが使ってたのってガラケーじゃなかった?」

 

 「ガラケーだよ」

 

 「………………Bボタン押し忘れたの?」

 

 「『ガラパゴス』のレベリングなんてした憶えないんだけど?」

 

 「だけど現に『ガラパゴス』から『スマートフォン』に進化を遂げてるわよ?ちゃんと『かわらずの石』を持たせていないから」

 

 「この場合、異世界に飛ばされたってことで通信進化と定義して、通信進化って『かわらずの石』で止められたっけ?」

 

 「確かユンゲラー以外なら止められるわ」

 

 「なんでユンゲラーだけ」

 

 「ユンゲラーの闇は深いのよ。初代からいるのにポケモンカード登場も遅かったし、図鑑内容も『ある日超能力少年が目を覚ましたらユンゲラーに変化していた』とか書いてあったし」

 

 「本当は怖いグリム童話かよ。てか、その内容だと進化前のケーシィどうなんだよ?」

 

 「『1日に18時間眠る』って書いてあったと思うわよ?」

 

 「設定ガバガバじゃね?」

 

 「そこが面白かったりすることもあるわ。だから早く図鑑で『ガラパゴス』と『スマートフォン』を調べて」

 

 「いや、図鑑持ってねぇよ」

 

 「え!?」

 

 「いや、『何でこいつ図鑑持ってないの?』みたいな顔してんじゃねぇよ。持ってねぇからな?普通」

 

 「仕方ないわね。後でオーキド博士から貰っておいてよ?もしくはポケモンセンターで買ってくるか」

 

 「後者、ガチじゃねぇか!」

 

 可愛い妹へのプレゼント。これは大切なのよ。

 

 「ところで、お兄ちゃんのモチーフは何だったの?」

 

 私たちのコントが一段落した所を見計らってユウちゃんが兄さんに聞いてきた。

 兄さんの勇者装備は紫の外套にデニムパンツという服装で、手には籠手と手甲、脚にはデニムパンツの上から脛当てが装備されている。そして、瞳の色が黒から赤になっていた。

 

 「ん?ああ、俺のはイキシアだな。花言葉は『協力』『団結』『忍耐』『辛抱』なんてのがある」

 

 「あ、兄さんも花言葉知ってたんだ」

 

 「まあ、文芸部部長だからな。……………ところでさ、そろそろ出て来てくれねぇ?」

 

 「!?」

 

 兄さんが先ほどから私たちを盗み見ていた人に声をかけた。

 

 「あちゃー、バレてたか」

 

 そう言いながら少女が1人私たちの前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「驚いたー。まさかバレていたなんてね」

 

 私たちの目の前にはユウちゃんそっくりな少女が立っていた。

 

 「いつから気付いてたの?」

 

 ユウちゃんそっくりな少女が私たちに問うてきた。

 

 「いつからと言われても、私が気付いたのは、ユウちゃんがスマホを出した辺りね」

 

 もしその前から居たなら最初は気付いていなかったことになるわ。

 

 「この娘が居たのは俺とユウキが藍子に怒られた辺りからだな。千景たちが気付いたのは友奈の悲鳴に気を取られたからだろう」

 

 なるほど、スマホを出した時のユウちゃんの悲鳴に気を取られたから私たちにも解ったのか。でも、それはつまりその前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことよね。

 

 「あららー、そこのお兄さんには最初からバレてたかー」

 

 「俺だけじゃなくてユウキにもバレてたからな。…んで、今回の君の目的は偵察かな?」

 

 あ、兄さんが完全に尋問モードに入ってる。これは、このまま兄さんに任せた方が無難か。

 

 「んー?どうだろう?」

 

 「とぼけなくて良いよ。君が俺らを襲えるくらいの隙は作ってたのに手を出さず、それでいて対峙している今でも、警戒心諸出しで逃げる算段考えてたら偵察としか見れないだろ?」

 

 「!?………はあ~、やり辛いお兄さんだなー。さっきから驚かされてばっかりだよ」

 

 「驚いたってんならお相子だよ。な~んか気配が友奈に似てるな~と思ってたら、容姿まで似ているんだから。これでもビックリしてるんだぜ?なあ、友奈。……………友奈?」

 

 兄さんがユウちゃんに同意を求めるがユウちゃんから返事が返ってこない。おかしいと思い皆でユウちゃんを見ると、ユウちゃんが膝を付いて崩れ落ちていた。

 

 「て、え!?ユウちゃん!?」

 

 「Oh mon dieu(なんてこと)

 

 私はユウちゃんの傍まで駆け寄る。どうなっているの?まさか、彼女がユウちゃんに何かしたの?兄さんとユウキさんがいるのに?そう思って彼女を見るが彼女も何が起こったのか解らず困惑していた。原因は彼女じゃないようね。でも、ならなんで?

 

 「………………………………Pourquoi?」

 

 「ユウちゃん?」

 

 Vous et moi avons le même(なんで私とまったく) visage mais la taille de la(同じ顔なのに胸の) poitrine est différente!?(大きさが違うの!?)Pourquoi!?(何故!?)

 

 「「「「「………………………」」」」」

 

 ……………えー。

 私たちはユウちゃんにそっくりな彼女の胸を見る。……うん、確かにユウちゃんより大きいわね。………でもね。だけどね。……………えー。

 

 「??ね、ねー、お兄さん。そっちの友奈さんは今なんて言ったの?」

 

 「え!?あー、えー……………これ、俺が答えちゃダメじゃね?」

 

 うん。ぶっちゃけセクハラよね。

 

 「えー、では、徹隆さんの代わりに私が答えますので、お耳をお貸し下さい」

 

 「え?あ、うん」

 

 兄さんの代わりに明希さんがユウちゃん似の娘にさっきユウちゃんが言ったことを伝える。

 

 「………!?な、なななな!?」

 

 明希さんから内容を聞いた彼女は自分の胸を両腕で隠すようにしながら数歩後退る。

 ヤバい!ユウちゃんにそっくりな娘が顔を赤らめながら胸を隠す姿とか、ヤバい!!

 

 「~~!?~~~!?」

 

 彼女はさっきから口をパクパクさせて何かを言おうとしてるが声が出ていなかった。

 

 「………これってアレか?悪口を言おうと思ったが、悪口自体が思い浮かばなくて言葉が出ないのかな?」

 

 兄さんが彼女の今の状況を冷静に分析する。ふむ、兄さんの言う通りならつまり

 

 「直ぐに悪口が出ないほど言い慣れてないと」

 

 「優しい娘なんだね!」

 

 「しかも、かなり純粋よね」

 

 「可愛らしいですねぇ」

 

 「~~!?な、なな!?~~~!?」

 

 ユウちゃん以外の私含む女性陣の追撃に彼女の顔がますます赤くなる。

 

 「え、えーと、Je suis désolé.(ごめんなさい)

 

 「ユウちゃんが『ごめんなさい』ですって」

 

 「……あー、もう!貴女はここで謝るの?…………も~、貴方たちなんなの~!?さっきからペース崩されてばっかりだよ~」

 

 彼女は一度頭を掻いてから脱力したように肩を落とす。なんだかさっきまでと比べると喋り方が緩いような。こっちが素なのかしら?

 

 「なんなのと言われましてもねぇ」

 

 「ボクたちはいつもこんな感じだよね?」

 

 「何を今更って感じよね?」

 

 「…………はあ~」

 

 あら、すごい大きな溜息。

 

 「ぶっちゃけ、これから俺らと対峙するならこのノリに慣れとかないと無理だぞ?」

 

 「兄さんが居たら確実だと思った方が良いわよ?」

 

 「お兄ちゃんの周りはシリアスさんが5秒で死ぬから」

 

 「………ははは、そうなんだ?……て、貴女普通に喋れるの!?」

 

 「え?うん」

 

 「俺らのこと観察していた時に会話聞いてなかったのか?」

 

 「………あ、普通に喋ってた」

 

 どうやらさっきの出来事のインパクトが強すぎて忘れていたみたいね。

 

 「………どっと疲れた」

 

 「疲れたんなら早く逃げた方が良いぞ」

 

 「え?」

 

 兄さんの言葉の後を神樹様の方向を向きながらユウキさんが言う。

 

 「21人、こっちに向かって来てるね。この距離と速度なら後15分くらいで来るんじゃない?」

 

 「その団体様、君の仲間って訳ではないんだろ?」

 

 「!?………はあ~、さんざんペース崩されて時間切れか~」

 

 そう言うと彼女の周りに突風が吹き荒れ、彼女を宙に浮かす。

 

 「私は赤嶺友奈」

 

 彼女、赤嶺さんが名乗る。やっぱり名前、友奈だったのね。

 

 「私は月城友奈。よろしくね、赤嶺ちゃん!」

 

 「私は焔千景よ」

 

 「兄の焔徹隆だ」

 

 「ボクは紺野木綿季。ユウキで良いよ!」

 

 「双子の姉の紺野藍子よ。ランって呼んでね」

 

 「蓼原明希です。よろしくお願いしますねぇ」

 

 名乗った私たちを一通り見た後、赤嶺さんは兄さんを見て叫ぶ。

 

 「徹隆お兄さん、このままペース崩されたまんまなのは癪だから、実力測るためにも置き土産、置いてくね~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んー、置き土産ってのはこれか?この団体様の逆方向から迫って来ている変な気配の」

 

 兄さんが赤嶺さんが消えていった方向を見ながら呟く。

 

 「変な気配?」

 

 「んー、なんて言うか、生き物よりは物に近いような。そうだな、機械と植物を足して2で割ったみたいな」

 

 「あー、何となく徹の言ってることが解るような気がする」

 

 兄さんとユウキさんが訳の解らないことを言っている。機械と植物って。

 

 「ごめん兄さん、もうちょっと解りやすく」

 

 「えーとな、植物の気配はお前ら解るか?」

 

 「ええ、あのその場にあるのが当たり前のような、強大でそれでいて静かな気配よね?」

 

 「ああ、じゃあ機械の気配は解るか?」

 

 「あの意思を持っていない置物みたいなのに動く、得も言われぬような気配かな?」

 

 「そうそう、この気配はまるで動く植物みたいな気配なんだよ。その場にあるのが当たり前のような強大で静かな気配が有り得ない程滑らかに猛スピードでこっちに向かって来てんの。しかも生物のような動きでこっちに向かって来ているのに意思を感じないんだよ。ぶっちゃけ、きもちわるい。保坂先輩並みにきもちわるい」

 

 「解る。でも僅差で保坂先輩の方がきもちわるい」

 

 えー、あの保坂先輩並みにきもちわるいってかなりよ?

 

 「多分、この気配がバーテックスってヤツの気配なんだと思うんだが、もし、この気配が本当にバーテックスのものだったのなら、あの赤嶺って何者なんだろうな?」

 

 バーテックスは人類を滅ぼす為に天の神が遣わした尖兵だ。なのに何故、人類である赤嶺さんがバーテックスと行動を共にしているのだろう?

 

 「ねー、徹?そのバーテックスって何?」

 

 「え?あ、あー、そっか」

 

 そういえば、紺野姉妹には前世の記憶が有ることしか話してなかったわね。

 

 「いいわ、兄さん。ここから先は私とユウちゃんで話すから」

 

 「お兄ちゃん、向かって来ている人たちとバーテックスって後どれくらいで来るの?」

 

 「先に団体様の方だな。約10分ってとこかな?」

 

 「なら、要点だけまとめて説明するわ。良いかしら?」

 

 「うん。良いよ!」

 

 「もし時間出来たら、後で詳しく教えてね?」

 

 「ええ」

 

 私とユウちゃんはユウキさんとランさんに私たちの前世の話を聞いてもらった。

 




鏡花水月……長く続かずに消えてしまいやすい幻の例え。この作品のシリアスさんのこと。


元作品の本物タイプのキャラと絡ませるとこの作品の登場人物たちのぶっ飛び具合がよくわかりますね。本作の赤嶺ちゃん、強く生きてね!

第4話は明日投稿予定です。


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Episode:4 栄華発外(えいかはつがい)

特別編第4話です。

プロットではこの回で第一部が終わるはずだったのですが、後、もう1話位続きます。本当申し訳御座いません。




 「さて、もう目の前に近づいているから解ると思うが、千景に似ているヤツが1人、友奈に似ているヤツが2人いるな」

 

 私とユウちゃんが、要点だけだが前世のことをユウキさんとランさんに話終えると同時に兄さんが言ってきた。私たちも兄さんの声を聞きながら此方に向かって来ている人たちを見る。その中に兄さんの言った通り、私とユウちゃんにそっくりな人がいる。と言うか()()って、

 

 「……アレ、もしかしたらだけど『郡千景』『高嶋友奈』かも」

 

 「私もそう思う」

 

 「「「「うわー、めんどくせー」」」」

 

 私とユウちゃんの台詞に兄さんたちが答える。皆さん正直なことで。

 

 「千景、友奈、なんかあったら()()()()()()でごまかせ。皆も千景たちの前世は夢で通してくれ。後は基本俺の話に合わせる感じで頼む」

 

 「「「「「は~い」」」」」

 

 私たちはいつも通りの緩い空気で彼女たちとファーストコンタクトをとるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なっ!?友奈に、千景だと!?」

 

 私とユウちゃんを見た乃木さん(仮)が驚いた。

 

 「「まさかの四人目!?」」

 

 ユウちゃんにそっくりな(多分片方は高嶋さんだと思うのだけど)人たちがユウちゃんを見て驚いている。四人目ってことは赤嶺さんは知ってるってことよね?まさか赤嶺さん以外にそっくりな娘がいるとか無いわよね?

 

 「驚いているところ悪いけど、状況説明とかして貰えるとありがたいんだが?」

 

 兄さんが驚いている一行に問いかける。すると、一拍遅れて黄色い勇者装備で黄色い長髪を2つに分けている人が答える。

 

 「え!?あ、ええ。…………その前にちょっと聞きたいんだけど、あなた、男よね?」

 

 「?見たまんま男だよ。って、この台詞は俺じゃなくて由良が言う台詞じゃね?」

 

 あ、兄さんが勇者は女性しかなれないことを知らない体で通そうとしてるわ。……ここは後々の為に少し乗っておこうかしら。

 

 「由良さん居ないんだから無理よ。それに多分だけど、彼女たちの中に男性が居ないところから、この世界に滅多に呼ばれないか、呼ばれたことが無かったんじゃない?」

 

 「え?じゃあ、俺は一夏君に成れるの?ハーレム目指せるの?」

 

 「目指すの?どこぞのなろう主人公みたいに?」

 

 「………そう言われると一瞬でやる気失せるな」

 

 「ま、止めといて正解でしょうね。アレをリアルで出来るのは由良さんくらいだろうし」

 

 「お前は目指さねぇの?友奈にそっくりな娘がさっきの赤嶺含めて3人も居るけど」

 

 「()()()()()()()()()()()()()よ!私のユウちゃんはユウちゃんだけ!!」

 

 「チカちゃん、私のこと、そこまで思ってくれて!!」

 

 「当然よ!………ユウちゃん…」

 

 「………チカちゃん…」

 

 「あ、これ、帰ってくるまでかなり時間かかるヤツだ。……うん。と言う訳で、今の内に状況説明してくれると助かるんだけど?」

 

 「「「「「「「「「「この流れで!?」」」」」」」」」」

 

 「え?うん。だって見てみ。あの大声ですらコイツら帰って来てねぇんだぞ?」

 

 「………ユウちゃん…」

 

 「………チカちゃん…」

 

 「ねー、徹、あのきもちわるい気配のヤツがそろそろ来るよー」

 

 「あー、あの()()()()()()()か」

 

 「ちょっ!?赤嶺の置き土産って、それ、どう考えてもバーテックスでしょ!?」

 

 「風先輩!端末にも反応が有りました!」

 

 「あー!もー!簡単に説明するけどかくかくしかじかって訳なの!!解った!?」

 

 「かくかくしかじかで伝わるなんてすごい世界ね」

 

 まさか八文字で全て伝わるなんて。え?伝わらなかった?その場合は『ゆゆゆい』本編をプレイすると解るわ!

 

 「「「「「「「「「「うわ!?話聞いてた!?」」」」」」」」」

 

 「あれ?千景、ずいぶんお早いお帰りで」

 

 私がユウちゃんとの異空間から思った以上に早く帰って来たから兄さんが訝しむ。だって仕方が無いじゃない。

 

 「ここまで近づけばイヤでも解るわ。確かに兄さんたちが言った通りきもちわるい気配ね」

 

 「「「「「「「「「「兄妹だったの!?」」」」」」」」」」

 

 「あ、そういえば俺らのこと言ってなかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人数が多いので視界に入る範囲で()()()()()()()()()()に数人ずつ分かれて広がることになった。何か不測の事態に陥ったときに団体行動を起こしやすいようにする為の処置なので()()()()()()()()()()だ。どうやら犬吠埼が言うには今回攻めてきたバーテックスの数はいつもより一層多いらしい。んー、赤嶺をからかいすぎたか?ちなみに、俺ら6人は俺と古波蔵からの発案でバラバラに配置している。理由?俺のは強いて言うなら戦力を分けるためだな。特に俺とユウキが。後は、バラバラに別れた方が面白そうだからだ!古波蔵の理由は、多分だが()()()()()()()()()()のかもな。

 

 「それにしても、男の勇者がいるなんて驚いたわ~」

 

 犬吠埼が俺に言ってきた。俺が暫定的に一緒に行動するのは犬吠埼姉妹と古波蔵、中学生の方の園子の4人だ。しかし、小学生時代と中学生時代の同一人物とは。あ、それ言ったらウチの妹たちは前世と後世か。

 

 「こっちだって驚いてるんだぜ?家族+友達で香川に旅行に来たら異世界に飛ばされて、自分の妹たちにそっくりな娘にあったと思ったら、今度は何処の特撮だって言いたくなるような怪獣退治だぞ?……まったく、次に書く小説のネタに困らなそうで助かるよ」

 

 「いや、そこまで達観したような言い方してたら驚いたって言っても説得力無いわよ」

 

 「達観してるか?ウチの中学の連中なら皆こんなもんだぞ?」

 

 それにこれは達観しているんじゃなくて格好付けてるだけなんだけどなぁ。

 

 「なあ、徹隆、1つ聞いても良いか?」

 

 「ん?なんだ?古波蔵」

 

 「お前たちは今までバーテックスどころか化け物とすら戦ったことが無いんだろ?戦えるのか?」

 

 「「!?」」

 

 古波蔵の言葉で犬吠埼姉妹が気付く。多分、今までここに呼ばれたヤツらは大なり小なりバーテックスとの戦闘を経験しているから失念していたんだろう。いや、寧ろ考えてすらいなかったか?戦闘未経験者つまり下手をすると足手纏いが召喚されてしまうという事態を。まあ、大丈夫だろ。

 

 「それに関しちゃあ大丈夫だろ。なあ園子?」

 

 「え~、私に振る~?」

 

 「振られたくなかったのならびっくりする演技くらいしろよ。ずっとニコニコしてただろ」

 

 「いや~、さっきの()()()()()()を思い出してたらつい~」

 

 あ、コイツ、どちらかと言えば引っかき回すタイプ(こちら側)の人間だ。てか、ほむちとしろーってアイツらのことだよな?

 

 「……この世界に呼ばれた時点で戦力として、つまり戦える存在として一度神樹様が選別しているはずだからな。戦力としては問題無いさ」

 

 「そうか」

 

 俺の答えに古波蔵が納得する。

 

 「それから、ありがとな古波蔵。俺が俺らをバラバラに分けるって言ったときに賛成してくれたのって、最悪俺らを各グループで護ろうと考えてたからだろ?」

 

 「え!?棗、あんたそんなことまで考えてたの!?」

 

 「ん、ああ。だが、いらn「はい、ストップ」……?」

 

 俺は古波蔵の台詞を途中で割り込んで止める。

 

 「いらぬ世話でも、相手を考えてやった良い行いなんだ。自分自身で無下にするような台詞は言わないでくれ」

 

 俺自身の持論を押しつけているだけかもしれないけれど、相手のことを思って行ったことを自分自身だけはなにがなんでも否定しないで欲しい。

 

 「そうか」

 

 「おう」

 

 「解った」

 

 古波蔵が小さく笑う。………うわー、イケメンだわ。おっぱいの付いたイケメンだわ。これ絶対女の子がキャーキャー言うタイプだ。

 

 「………かっこいい」

 

 あ、樹はすでに古波蔵の虜か。

 

 「ね~ね~、()()()()先輩。じゃあてったん先輩はなんでバラバラに分かれたの~?」

 

 なるほど、俺はてったんか。

 

 「それは単純に戦力を分けるためだよ」

 

 「戦力を?」

 

 「バーテックスとの戦闘経験は無いけど戦闘力だけなら多分、俺ら6人が断トツだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へー、あれがバーテックス。保坂先輩ほどじゃ無いけど気配通り、見た目もきもちわるいね!」

 

 「バーテックス以上に気持ち悪いってどんなヤツよ、そいつ」 

 

 ボクが初めて見るバーテックスを保坂先輩と比べていると夏凜ちゃんが声をかけてきた。隣には芽吹ちゃんと歌野ちゃんもいる。

 

 「違うよ、夏凜ちゃん。『気持ち悪い』とか『キショい』とかじゃなくて『きもちわるい』だよ」

 

 「ごめん、言ってる意味がよく解んない」

 

 んー、あの先輩をきもちわるい以外で表せられない。生徒会史上初の意異名無し役員だからな~。きもちわるい以外の表し方がないんだよね~。

 

 「ユウキさん、ちょっと聞いても良いですか?」

 

 ん?芽吹ちゃんがボクに質問が有るみたい。何だろう?

 

 「良いよ。ボクに答えられることならね」

 

 「じゃあ、さっきの会話から察するにユウキさんってバーテックスの気配が解るんですよね?」

 

 「うん、解るよ」

 

 「なら、初対面の時、バーテックスが迫ってきているのを気配で感じていたようですけど、どの位の距離を感知出来るんですか?」

 

 「ん?んー、そうだね、あの解り安いほど変な気配ならだいたい半径20㎞位かな?」

 

 「「20㎞!?」」

 

 「リアリィ!?」

 

 3人が驚いてる。それにしても歌野ちゃん、友奈ちゃんみたいに海外暮らしだったのかな?

 

 「でも、アイツらだけだよ?それに距離があればあるほど曖昧になってくるし」

 

 「それでも凄いわよ!」

 

 「もしかして、ユウキさんってあの中で1番ストロングだったりするの?」

 

 んー?歌野ちゃんの喋り方どこかで聞いたことあるような?何処だっけ?……あ、そうだ!ルー語だ!

 

 「ユ、ユウキさん?」

 

 「え?あっ!ご、ゴメンね!歌野ちゃんの喋り方が気になっちゃって」

 

 「ファット?何が?」

 

 「あ~、歌野の喋り方は気にしないで」

 

 「そうそう、いつものことですから」

 

 「そ、そうなんだ。で、何かな?」

 

 「あっ、そうだった!ユウキってあの中で1番強いの?」

 

 え?んー、どうだろう?

 

 「スピードならボクが断トツで1番速いだろうけど、()()()()()()()()()()()()()かな?」

 

 「「「え?」」」

 

 ~~~♪

 ん?着信?誰だろう?と言うよりここ異世界だけど繋がるの?

 

 「あ、徹だ」

 

 画面を見ると徹からだった。どうしたんだろう?

 

 「もしもし徹?どうしたの?」

 

 『ワルいユウキ、ちょっと格好付け過ぎた。俺と一緒にバーテックスに1発ぶちかましてくれね?』

 

 「ま~た調子こいたの~?」

 

 徹は時たま端から見ると大袈裟なことを言う。本当のことしか言ってないけど、普通の人が聴いたらかなり盛ってるように聞こえることがある。で、そういう時、彼が仲間内に助けを求める場合は格好付け過ぎたって言ってくるのだ。

 

 「はあ~、まったく、報酬にハンバーグを要求する!」

 

 『解った。次の弁当に入れてくる』

 

 「やった~!じゃあ、もう突っ込んじゃって良いの?」

 

 『ああ、周りの人に一言言ったらな』

 

 「りょうか~い」

 

 ボクは電話を切り、夏凜ちゃんたちの方を向く。

 

 「どうしたの?」

 

 「徹に頼まれてね~。バーテックスに1発ぶちかましてくる」

 

 「「「はあ!?」」」

 

 ボクは片手に両刃の剣を出して姿勢を低くしていく。剣を持っていない左手を前に出し、片脚を出来る限り後ろに引いてクラウチングスタートをより低くしたような体勢になる。前世でアスナが後衛から前衛に瞬時に移ったときの体勢。

 

 「行っくよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキさんが猛スピードでバーテックスに突っ込んで行くのが見える。相変わらず速いわー。あ、ユウキさんが通った道のバーテックスが縦に横に真っ二つになっていくわ。あれ、目の前に来たと思ったら切られてるのよねー。しかもスピードが乗っているから竹刀でも痛かったのよ。

 

 「うわー!ユウキさん速ぇー!!」

 

 「ありゃ、ぶっタマげたな!!」

 

 銀ちゃんと()()()()()がユウキさんを見て驚いている。え?呼び方?だって()()()()()()()()

 

 「2人とも驚いてるとこ悪いんだけど、今兄さんが密集地帯に着いたからもっと凄い光景が見れるわよ?」

 

 「焔さんのお兄さんはそんなに凄い人なんですの?」

 

 弥勒さんが聞いてきた。この人、喋り方がなすのさんに似てるけどお嬢様なのかしら?………お嬢様で勇者、普通に有りそうな設定ね。

 

 「スピードはユウキさんの方がかなり上ですが総合的な強さなら同じ位です。つまりスピード以外は兄さんに軍配が上がります」

 

 そう言っている内に兄さんがバーテックスに接近していた。兄さんは瞬時にバーテックスの側面に回り込みバーテックスに底掌をぶち込む。しかも捻りのおまけ付きで。底掌を喰らったバーテックスは錐揉みしながら、飛んで行った方向のバーテックスをも巻き込んでいき、止まったと同時に巻き込んだバーテックスごと消滅した。兄さんはぶっ飛ばしたバーテックスには目もくれづ、近くのバーテックスを片っ端から底掌や蹴りでぶっ飛ばしていく。バーテックスが密集している場所目掛けて。

 

 「おい、焔!?お前の兄ちゃん何なんだよ!?パンチや蹴り1発で何体のバーテックス倒してんだ!?」

 

 「平均7、8体ってところかしら?」

 

 「ずいぶんと冷静ですわね!?と言いますか、貴女のお兄さんは本当に人間ですの!?」

 

 失礼ね。一般人枠から大分かけ離れてはいるけどちゃんとした人間よ。

 

 「あ!!お兄さんの後ろからバーテックスが迫ってきてる!?」

 

 銀ちゃんの声で兄さんの方を見ると後ろからバーテックスが口を開けて迫ってきていた。

 

 「まずい!!」

 

 「銃でも間に合いませんわ!!」

 

 あ、()()()()()()

 

 「ちょっと、焔さん!?何ぼーとしてるんですか!?お兄さんが!?」

 

 「え?ああ、大丈夫よ。ほら」

 

 「「「へ?」」」

 

 そう言って私は兄さんを指差す。すると兄さんに迫ってきていたバーテックスは口から真横に真っ二つにされており、兄さんの手には刃渡り30㎝ほどの太刀が握られていた。

 

 「い、いつ抜いたんだよ?」

 

 「振り返りざまに抜いていたわよ、球子ちゃん」

 

 「焔さんは見えてましたの?」

 

 「ええ、()()()()()()()()()()()()目で追えますよ」

 

 「お~!焔さん!その言い方、ちょーカッケーす!!」

 

 「あら、そう?銀ちゃん」

 

 「なんかこっちの千景は話し安いなー。あっちの千景も見習うべきだろう?」

 

 …………素直と言うかなんと言うか、そういえばオブラートに包むとかしない人だったわね()()()()って。

 

 「球子ちゃんは、そうやって思ったことをズバズバ言うから郡さんに煙たがられているんじゃない?」

 

 「そうなのか?」

 

 「私も『千景』だもの。何となく解るわ」

 

 「でも、焔さんは千景さんとは、その、ちょっと違いますわよね?友奈さんは赤嶺さん以外、皆さん似ていますのに?」

 

 「んー、強いて言うなら環境の違いじゃないですかね?」

 

 「環境の違いですか」

 

 「だって、私の傍には生まれたときから()()()()がいたんですよ?」

 

 「「「あー」」」

 

 私の言葉に3人が納得する。

 

 「さて、じゃあ、私たちも行きましょうか。早くしないと()()()()に手柄を全部持って行かれちゃいますし」

 

 そう言って私は自分の武器の棍を出現させる。この棍は両端どちらからでも自分の意志で鎌の曲刃を自由自在に出せる。私はその棍を()()()()()()軽く振る。

 

 「うん。よく馴染むし、長さも重心もちょうど良いわ。ん?」

 

 視線を感じると思い周りを見たら銀ちゃんたちが私を見て停止していた。そして数秒後、皆が目をキラキラさせながら私に言ってきた。

 

 「焔さん!めっちゃ綺麗でした!!」

 

 「スゲー!踊ってるみてーだった!」

 

 「なんてエレガントな演舞!素晴らしいですわ!」

 

 「え?あ、ありがとう?」

 

 えーと、これは見とれてたってことかしら?

 

 「と、とりあえず、早く行きましょう。兄さんたちばかりに任せる訳にはいかないし」

 

 「焔さん焔さん!後でアレまた見せて下さい!!」

 

 銀ちゃんが興奮やまぬ感じに言ってきた。

 

 「え、ええ。あの位のものなら後でいつでも見せてあげるわ」

 

 私にとってはアレはただのチューニング程度のものだったのだけど、ここまで食いつかれるとは。

 でもまあ、銀ちゃん可愛いし妹が出来たみたいでちょっと良いかな?

 




栄華発外……隠していた美しくて優れた内面が、表に現れること。

過剰戦力過ぎた。
彼ら、彼女らがどうしてあんなに強いかは本編でいつしか明かされます。

最後の一文の『妹』のところを最初、無意識に『弟』と書いてそのまま投稿しようとしてました 。書いてる時、全然違和感無かった。危なー

第5話は明日投稿予定です。


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Episode:5 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)

特別編第5話です。

第一部最終話です。

一度書き終えてから納得が行かず書き直して遅れてしまいました。申し訳御座いません。


 「「「…………………」」」

 

 ユウキちゃんと徹隆さんの戦い方を見て、郡ちゃん、高嶋ちゃん、しずくちゃんが思考停止してます。まあ、あんな超人戦闘シーンを見せられたら誰だってこうなりますよねぇ。

 

 「あ、千景ちゃんたちも前に出て行きましたねぇ。私たちも行きましょうか」

 

 「…………焔…千景」

 

 「……ぐんちゃん」

 

 私の言葉に郡ちゃんが千景ちゃんのことをジッと見ていて、高嶋ちゃんはそんな郡ちゃんを心配そうに見ています。ありゃ、これは。まあ、仕方ないのかも知れませんねぇ。自分の顔と同じ人が目の前現れたら普通はこうなりますよ。

 

 「………蓼原さん…でしたよね?」

 

 そう考えていると、郡ちゃんから声をかけられました。

 

 「はい、そうですよ。で、何ですか?」

 

 「…………………」

 

 ありゃりゃ、黙りですねぇ。んー、どうしましょうか?そんなことを思いながら辺りを見渡して見ると私たちと遠距離戦闘を主流とする人以外がバーテックスとの戦闘を始めていました。完全に出遅れましたねぇ。ただ、どうやらこの世界で合流した勇者の皆さんは郡ちゃんのことを心配している雰囲気ですので、寧ろこの問題を解決してから参戦してほしそうですねぇ。

 

 「………焔、凄い」

 

 しずくちゃんが呟きます。視線をたどって見ると千景ちゃんがまるで踊っているようにバーテックスと戦っています。相変わらず美しく戦いますねぇ、千景ちゃんは。流石は『夜神楽(やかぐら)』です。

 

 「…………」

 

 郡ちゃんも見入っています。ただ、見とれてるというわけではないようで。困惑?いや、アレは嫉妬でしょうか?憧れのようにも取れますねぇ。………ふむ、これは()()()()()()に行きましょうか?

 

 「ねぇ、郡ちゃん?郡ちゃんは千景ちゃんのことどの位知ってます?」

 

 「………どの位も何も今日始めてあったのよ?知ってるわけないわ」

 

 「同じ『千景』なのに?」

 

 「……だから何?顔と名前が偶然同じだっただけよ!」

 

 「じゃあ、何でその()()()()()()()()()()()()()()()に対してグダグダ考えているんですかねぇ?」

 

 「!?……何ですって?」

 

 おや、ちょっと怒ってます?千景ちゃんに比べてかなり煽り耐性低いですねぇ。

 

 「いや、いつまで『焔千景』と言う()()()()のことをウジウジグダグダ考えているのか?と」

 

 「…てめえ、少し黙れ」

 

 「しずくちゃん?」

 

 郡ちゃんではなくしずくちゃんが言ってきました。と言うか、しずくちゃん、雰囲気変わってませんかねぇ?

 

 「俺は()()()じゃない、()()()だ。そんなことより、てめえは少し黙ってろ」

 

 ふむ、シズクちゃんですか。つまり識ちゃん・式ちゃんと同じ多重人格者だと。

 

 「黙れとは、何故ですか?」

 

 「郡のことを何も知らねぇてめえが好き勝手なこと言うんじゃねぇって言ってんだよ!」

 

 「シズクちゃん落ち着いて!!」

 

 今にも飛び掛かって来そうなシズクちゃんを高嶋ちゃんが抑えます。

 

 「()()()()()()ですか。…………ええ、()()()()()()()ねぇ。でも、それは貴女たちもでしょう?私は今、これでも結構怒っているんですよねぇ」

 

 「「「!?」」」

 

 私は少し怒気を放ちます。私の怒気に当てられて郡ちゃんだけでなく、シズクちゃんと高嶋ちゃんも動きを止めました。

 

 「何も知らない貴女が私の友達にそんな()()()()()()()をしないで下さい!」

 

 「!…………」

 

 「するならするでもっと()()()()()()()()()をして下さい!!」

 

 「「「…………え?」」」

 

 酷い嫉妬の仕方です!1年前に私が千景ちゃんや友奈ちゃんにしたような、それはもう醜い嫉妬の仕方です!!

 

 「………おい蓼原、お前、郡が焔に嫉妬してたから怒ってたんじゃ?」

 

 「はい?いいえ、私は嫉妬してたこと自体に、ではなくその仕方に怒っていたんですよ?と言うより、嫉妬をしてること自体に、私はとやかく言う資格も否定することも出来ませんよ。私自身かなり嫉妬深いですからねぇ」

 

 そう!勇者装備のモチーフの花言葉になるくらい!意異名に使われているくらい!

 

 「私が郡ちゃんに怒っているのは餓鬼(がき)みたいな醜い嫉妬の仕方をしないで下さいと言うことです」

 

 「……醜い嫉妬…」

 

 「ねぇ郡ちゃん。………貴女の隣にいてくれる高嶋ちゃんは、貴女の友達でしょう?貴女を守る為に私に食って掛かってきたしずくちゃんとシズクちゃんは、貴女の友達でしょう?バーテックスと戦いながらも貴女のことを心配してくれている勇者の皆さんは、貴女の友達でしょう?そういったものを全て無視して、自分が何も持っていないように思い込んで、飢えたような醜い嫉妬をしないで下さい。そんな嫉妬は貴女にも嫉妬する相手にも貴女のことを思ってくれる友達にも失礼です

 

 1年前の私は博斗のことをしっかり見ることをせず、ただただ、千景ちゃんと友奈ちゃんを嫉妬していました。この嫉妬は周りが見えなくなります。自分の大切なものが解らなくなり、そして、()()()()()()()()()()()()()()解らなくなります。

 

 「『嫉妬をするな』なんてことは言いません。聖人君子じゃないんですから、一つ二つ、多ければ二桁くらい当たり前に他人に憧れ嫉妬します。でも、嫉妬する時は必ず今、自分が持っているものをしっかり確認して下さい。そして、自分に無いものを持っている人に憧れて努力して、格好いい嫉妬の仕方をして下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千景さん、迷いが晴れたみたいな清清しい顔してますね」

 

 明希ちゃんたちの方を見ながら杏ちゃんが言ってきた。私たち遠距離組は小高くなっている神樹様の根の上から全体を見て、支援攻撃を行っている。特にさっきまでは迷いで戦闘に参加出来ていなかった明希ちゃんたちの周りにバーテックスが来ないように牽制していた。でも、郡ちゃんが迷いを断って参戦しだしたので、また全体の支援攻撃に戻る。

 

 「まあ、明希ちゃんがあのグループで良かったわよ」

 

 「本当に凄いです!千景さんの悩みをこんな短時間で解決してしまうなんて」

 

 私の言葉に須美ちゃんが明希ちゃんを称える。まあ、私の場合、アレが『正嫉姫(せいしつき)』の明希ちゃんじゃなくて『常壊者(じょうかいしゃ)』の徹君だったら、今回下手したら郡ちゃん戦闘に参加出来なかったかも知れないって意味だったんだけどね。

 

 「それにしても、ランさんの妹のユウキさんと焔ちゃんのお兄さんの徹隆さんの強さには驚いたわ」

 

 「アレはもう凄すぎでしょう」

 

 美森ちゃんと雪花ちゃんがユウキと徹君の戦闘の感想を述べていた。

 

 「一応言っておくけど、あの2人私たちの学年の強さランキングで徹君が8位ユウキが10位だからね?」

 

 「「「「え!?」」」」

 

 4人が驚く。……これは上位5人は下位5人が1対5で一斉に飛び掛かっても負ける可能性が高いって言ったらちょっとおもしr…大変なことになりそうだから止めましょうか。

 

 「あの人たちより強い人が7人もいるんですか……」

 

 「世界は広いですね……」

 

 須美ちゃんと杏ちゃんがやや放心状態で呟く。

 

 「世界って言っても異世界だけどねー。西暦2020年から来たって言ってたし。………ところでランさん。さっき明希さんの声がちょっと聞こえたんだけど、『格好いい嫉妬』ってなんだか知ってます?」

 

 雪花ちゃんが質問してきた。格好いい嫉妬かー。

 

 「強いて言うなら、それは明希ちゃんの持論みたいなものかな?」

 

 「持論、ですか?」

 

 「そうそう、持論。簡単に言うと『自分の持っているものに誇りを持って、自分の持っていないものを持っている人に憧れ努力する』ってところかな?何で嫉妬なんて言葉を使っているかは、ああ見えて明希ちゃんってかなり嫉妬深いからかな」

 

 見た目が生徒会長みたいな感じで纏ってる空気がポヤポヤしてるからそう見えないけど自他共に認めるくらいかなり嫉妬深い。まあ、意異名が『正嫉姫』の時点でお察しよねー。

 

 「そんなに嫉妬深いの?」

 

 「うん。私とユウキも小学生の時に対象にされたし」

 

 無自覚な恋心と言う乙女チックなもので嫉妬の対象にされたのよ。

 

 「ランさんとユウキさんに嫉妬ですか?当時から強かったからですか?」

 

 須美ちゃんが何で私たちに嫉妬したのか疑問に感じる。

 

 「違うわ。……でも、この理由を聞いたら貴女たちにも協力して貰うことになるわよ?」

 

 「協力って何に?」

 

 杏ちゃんが聞いてきた。

 

 「強いて言うなら恋のキューピット的な?」

 

 「「詳しく」」

 

 杏ちゃんと雪花ちゃんが食いついた。

 

 「美森ちゃんと須美ちゃんは?」

 

 「恋の仲介人って具体的に何をするんですか?」

 

 美森ちゃんが聞いてきた。何故キューピットを和訳したの?

 

 「まあそうね、背中を後押ししたり、相手側に気付いて貰うようにするくらいかな?」

 

 「まあ、そのくらいなら」

 

 「と言うか、ここまで聞いたら相手が誰なのか消去法でだいたいの予想が出来ると思うし、手伝って貰うの確定だから」

 

 「「えー!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?」

 

 今、悲鳴のような声が聞こえたような?

 

 「どうかしたか?月城」

 

 若葉ちゃんが聞いてきた。

 

 「え?あ、ううん。気のせいだったみたい」

 

 「そうか。それにしても、明希さんは凄いな。あの千景の迷いをこんな短時間で解決してしまうとは」

 

 バーテックスを斬り伏せながら若葉ちゃんが感心していた。

 

 「そりゃあそうだよ!なんてったって私たちの将来のお義姉ちゃんだもん!」

 

 「お義姉ちゃん?」

 

 「La soeur de ma soeur.(お義姉ちゃん)

 

 「ねえ、月城ちゃん、さっきから使っているそれって何語?多分、英語じゃないよね?」

 

 結城ちゃんが私のフランス語が気になって聞いてきた。

 

 「フランス語だよ。私、中学生になる前の4年間、向こうで暮らしてたから」

 

 バーテックスを数体連続で蹴り飛ばしながら答える。んー、バーテックスってこんなに弱かったっけ?それとも造反神が造ったニセモノだからかな?

 

 「フランス語を喋れて、それでいてあんなに強くて可愛いとか何?チートなの?」

 

 私を見ながら雀ちゃんが何かを呟く。なんて言ったんだろう?声が小さくて聞き取れなかったなー。

 

 「月城先輩と焔先輩の戦い方ってなんか踊っているみないで素敵です~」

 

 園子ちゃんが褒めてくれた。

 

 「Merci!(ありがとう!)私もチカちゃんも自分の演舞には誇りを持っているから褒められると嬉しいんだ。自分たちの意異名にも反映されてるし」

 

 「「「「意異名?」」」」

 

 「あ、そっか。普通は知らないんだよね。意異名って言うのは私たちの学校特有の通り名みたいなものでね、良くも悪くも有名になった生徒がつけられるんだよ」

 

 私が意異名について説明する。

 

 「ほう、なら月城と焔はどんな意異名なんだ?」

 

 「私のが『明神楽(あけかぐら)』で、チカちゃんのが『夜神楽(やかぐら)』だよ」

 

 「何でその意異名になったの?」

 

 「1年の時の文化祭で急遽神楽を舞うことになって、そしたらその神楽が好評でね。明けと夜は私たちの髪色にちなんで付けられたんだ」

 

 「「「「へー」」」」

 

 あの時は大変だったな~。急なことだったから私もチカちゃんも神楽なんて踊れなくて、お兄ちゃんと真悟さんたちが私たちが踊りやすいような神楽を探して、色んな所に神楽の変更を頼んだりして。

 

 「ねえねえ、月城さん。他の人にも意異名ってあるの?」

 

 当時のことを思い出していると雀ちゃんから声をかけられた。

 

 「お兄ちゃんが『常識を悉く壊す者』って意味で『常壊者』、ユウキちゃんが『絶対無敵の剣士』で『絶剣』、明希ちゃんが『正しく嫉むお姫様』で『正嫉姫』」

 

 と、話ていると私の後ろから8()()()()()()()()()が一斉に襲ってきた。

 

 「月城!?危ない!!」

 

 若葉ちゃんたちが焦りながら私の私の元にかけてくる

 

 「大丈夫だよ。だって」

 

 何処からか微かな風切り音と時々金属がぶつかり合う音が聞こえる。

 

 「ランちゃんの意異名は『絶対必中の投擲手』で『絶投(ぜっとう)』だから!」

 

 私の言葉と同時に形の異なる8()()()()()()がバーテックスに当たり消滅させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、星屑とか言う白玉擬きと中型種はほぼ全滅成功っと」

 

 「ごめん。あんたが言ってたこと、ちょっと疑ってたわ。まさかここまで強いとは」

 

 「ん?ああ、気にしなくて良いよ。どうも俺の感性は一般的な人よりズレてるらしくて、よく間違われるから」

 

 「兄さん」

 

 私は話ている兄さん、風さんと合流する。

 

 「おお、お疲れ千景」

 

 「兄さんもお疲れさま。……さて、後はあのデカイのだけね」

 

 私は奥で鎮座している巨大バーテックスを見つめる。私の記憶の中で1番巨大なバーテックスより大きいのではないだろうか?

 

 「犬吠埼、アレはどうやって倒すんだ?弱点やコアを叩くのか?」

 

 「基本は御魂(みたま)って言うのを潰すんだけど、こっちの世界だと削っていくのが妥当ね」

 

 「うへ~、物理で殴るオンリーかよ。爆裂魔法とか誰か使えね~の?」

 

 「いや、魔法なんて使えないわよ。あんたらみたいな人外、ウチにはいないんだから」

 

 「おいおい、俺らだってマジカルなんて使えないっての。せいぜい出来てマジカルっぽいフィジカルだけだよ」

 

 「ユウキさんでもアレを一刀両断は無理そうね」

 

 「流石にそれをやったらタマげるどころか引くぞ?」

 

 私がバーテックスを見ながら考えていると球子ちゃんが声をかけてきた。

 

 「「………………えー、引いちゃう?」」

 

 「……そうやって同じ台詞と動作をしてると兄妹だって解るわね。てか、その言い方だとまさか出来るの?」

 

 「いや、()()()無理」

 

 「でも、出来そうな人に心当たりがあるのよ、3人くらい」

 

 「「いるの!?しかも3人!?」」

 

 出来ると思うわよ。ディムさんと木更さんと識ちゃん辺りなら。

 

 「ま、とりあえず、あの大型に最大火力ぶつけていきますか」

 

 「そうね。東郷!」

 

 「了解!!目標、巨大バーテックス!」

 

 風さんの声に東郷さん、須美ちゃん、杏ちゃんがバーテックスに照準を合わせる。

 

 「撃て!!」

 

 「南無八幡大菩薩!!」

 

 「ワザリングハイツ!!」

 

 雨のような銃弾と矢が次々バーテックスに着弾していく。

 

 「ユウキ!明希!あのデカ物にぶち込む!手伝ってくれ!!」

 

 「OK!」

 

 「解りました!」

 

 兄さんの声に了承の意を唱えたと同時にユウキさんが猛ダッシュで突っ込んでいき、跳躍しバーテックスの正面に躍り出る。

 

 「とっておき行くよ!」

 

 ユウキさんが台詞と同時に十字を画くように10連続の突きを放ち、

 

 「マザーズ・ロザリオ!!」

 

最後に一際強烈な11連擊目を十字の中央に穿つ。

 

 ユウキさんのマザーズ・ロザリオを喰らったバーテックスの巨体がぐらつく。

 

 「今度は私ですねぇ!」

 

 ユウキさんが攻撃している間にバーテックスの下に入り込んでいた明希さんがバーテックスを掴む。

 

 朽木倒(くちきだお)し!!」

 

 下から掬い上げるように持ち上げ、バーテックスを仰向けに倒す。

 

 「結城ちゃん!高嶋ちゃん!一緒に行こう!」

 

 「うん!」

 

 「勿論!」

 

 倒れたバーテックスにユウちゃん、結城ちゃん、高嶋ちゃんの3人が飛び掛かる。

 

 「「「トリプル勇者パーンチ!!」」」

 

 トリプル友奈の勇者パンチが炸裂する。がバーテックスはまだ消滅せず、起き上がろうとする。さらに複数の火の玉を生成し飛ばしてきた。

 

 「う、うわー!き、来たー!?」

 

 「タマに任せタマえ!!」

 

 「そらそら行きまっせ!!」

 

 「はっ!!」

 

 放たれた火の玉を雀ちゃんと球子ちゃんが防ぎ、生成途中の火の玉を雪花ちゃんとランさんが撃ち落としていく。

 

 「えーい!!」

 

 「大人しくしろー!!」

 

 起き上がろうとしていたバーテックスは樹ちゃんに止められ、風さんに叩かれ、また倒れる。

 

 「ちょろい!!」

 

 「はあっ!!」

 

 「勇者は根性!!」

 

 「「ずがーんと行っちゃうよ~!!」」

 

 「おら!喰らえー!!」

 

 「功績を挙げるチャンスですわ!!」

 

 「花により散れ!!」

 

 倒れたバーテックスに夏凜ちゃん、芽吹ちゃん、銀ちゃん、乃木ちゃん、園子ちゃん、シズクちゃん、弥勒さん、棗さんが攻撃を畳み掛ける。

 

 「行くぞ、歌野!」

 

 「OK、若葉!」

 

 「一閃!緋那汰(ひなた)!!」

 

 「パイナポーボム!!」

 

 若葉ちゃんと歌野ちゃんが重い一撃を放つ。それによりバーテックスの動きが一瞬、完全に止まった。

 

 「喰らっとけ」

 

 その一瞬で兄さんがバーテックスに触れる。

 

 金剛浸透掌(こんごうしんとうしょう)!!」

 

 攻撃を喰らったバーテックスの全身が鐘を打ったような音と共に揺れる。兄さんのこの技は、タメが長くて、一瞬でもしっかり相手に触れないといけない為、普通実戦では使えない。ただ、この攻撃は内部に衝撃を蓄積させ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 「郡さん、一緒に行きましょう」

 

 「!……ええ!」

 

 私と郡さんは鎌を構える。

 

 「「鏖殺してあげる!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上野ひなた

 「お帰りなさい皆さん。それで新しい勇者の方々…は……友奈さんに、今度は千景さんに、だ、男性!?」

 

乃木若葉

 「ああ、ひなた。紹介するぞ。此方……」

 

上野ひなた

 「離れて下さい!若葉ちゃん!男性だなんて!何かされませんでしたか!?」

 

乃木若葉

 「お、おい、ひなた!」

 

上野ひなた

 「若葉ちゃん!若葉ちゃんは美人なんですから!そんな無防備に男の人に近づいちゃいけません!!」

 

焔千景

 「確かに若葉ちゃん美人よね」

 

月城友奈

 「お兄ちゃんが変な気を起こさないか心配になるのも解るよね」

 

紺野木綿季

 「ひなたちゃんだっけ?大丈夫だよ!」

 

紺野藍子

 「そうね、徹君にそんな甲斐性無いから」

 

蓼原明希

 「そこは由良さんと違って信頼出来ますよねぇ」

 

焔徹隆

 「明希、信頼って言葉使えば大丈夫みたいな顔しているけど由良と比較してる時点で、それはもうディスってる部類に入ってるからな?」

 

焔千景

 「流石私の兄さん。皆からの信頼が半端無いわね」

 

月城友奈

 「私たちのお兄ちゃんは伊達じゃ無いよね!」

 

焔徹隆

 「お前ら、俺がディスられてるの解ってる?」

 

焔千景・月城友奈

 「「もちろん♪」」

 

焔徹隆

 「うわー、良い笑顔」

 

蓼原明希

 「と言う訳で、徹隆さんの信頼度は私たちお墨付きですので安心して下さいねぇ」

 

上野ひなた

 「え!?あ、は、はい」

 

国土亜耶

 「何だかとっても面白い人たちのようですね?芽吹先輩」

 

楠芽吹

 「面白いと言うか凄く変わった人たちよ。ただ、かなりの実力の持ち主だったわ」

 

国土亜耶

 「そうなのですか!?芽吹先輩がそう言うということはとても凄い人たちなのですね!」

 

藤森水都

 「そ、そんなに凄い人たちなの?うたのん」

 

白鳥歌野

 「ええ、特に徹隆さんとユウキさんは私たちとは強さのステージが違かったわ!」

 

秋原雪花

 「でも、ランさんが言うには、あの人たちが通う学校にはあの2人より強い人が最低でも7人居るって話だよ?」

 

勇者の皆

 「「「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」」

 

犬吠埼風

 「あ、それに近い話、私も聞いたわよ。最後に皆で倒した巨大バーテックスを一刀両断出来る人に心当たりが3人くらい居るって」

 

三好夏凜

 「は、はあ!?ちょっと、風!いくらなんでもそれは冗談でしょ!?」

 

土居球子

 「いや、徹隆と焔のあの口調は冗談じゃなかったぞ」

 

弥勒夕海子

 「いくらなんでもアレを一刀両断は無理ではありませんの?」

 

国土亜耶

 「あの、ご本人に聞いてみては?」

 

加賀城雀

 「イヤだよ、あやや!そんな怖そうな人の話なんて!」

 

焔徹隆

 「なんか、盛り上がってるけど、どったの?」

 

加賀城雀

 「あひゃー!!」

 

国土亜耶

 「初めまして、巫女をやらせて貰っております。国土亜耶と申します」

 

藤森水都

 「お、同じく、巫女をやってます。藤森水都です」

 

焔徹隆

 「あ、これは御丁寧にどうも。今回呼ばれました。焔徹隆です」

 

国土亜耶

 「あの、徹隆さん、早速で恐縮なのですが、大きなバーテックスを一刀両断出来る人が居ると聞いたのですが」

 

焔徹隆

 「ん?ああ、犬吠埼と土居に話したアレか。居るぞ。俺と同じ学年に2人、千景たちの学年に1人」

 

三好夏凜

 「あ、あんたの学校、おかしいわよ」

 

焔徹隆

 「んー、でも俺らの世界だとウチの学校って括りが無かったら数えるのも恩鬱になるくらい居るぞ?ウチの師匠ならアレを瞬きする間に十字に切ることくらいやってのけるだろうし」

 

犬吠埼風・三好夏凜・加賀城雀

 「「「イヤイヤイヤイヤ、おかしいから」」」

 

古波蔵棗

 「ん?と言うことは徹隆は師匠に勝ったことが無いのか?」

 

焔徹隆

 「師匠に勝つ!?イヤイヤ無理だから。俺まだかすり傷すら与えたこと無いんだぞ?」

 

犬吠埼風

 「あんたがかすり傷すら与えられないってどんだけよ!?」

 

焔徹隆

 「ぶっちゃけ、俺の友達の師匠も含めてあの人たちは人どころか超人の枠すら超えた、正に人外だよ」

 

楠芽吹

 「………ねえ、徹隆さん」

 

焔徹隆

 「ん?」

 

楠芽吹

 「あなたはいつもどんなトレーニングしているの?」

 

焔徹隆

 「え?うーん、師匠に教えて貰った基礎鍛練の繰り返しだな」

 

楠芽吹

 「その基礎鍛練、私にも教えて貰えないかしら?」

 

加賀城雀

 「メ、メブ!?」

 

焔徹隆

 「え?まあ、良いけど」

 

楠芽吹

 「ありがとうございます。では、今から」

 

焔徹隆

 「え?今から!?」

 

楠芽吹

 「はい。ダメでしたか?」

 

焔徹隆

 「あ、いや、俺、今から住む場所探そうと思ってたんだが」

 

焔千景

 「住む場所なら大赦が用意してくれた勇者用の寮になったわ」

 

焔徹隆

 「千景」

 

焔千景

 「別の時代から来た人たちは皆そこで生活しているから私たちも使用して良いそうよ。で、何の話をしてたの?」

 

焔徹隆

 「ん?ああ、楠が俺のやってる基礎鍛練をやりたいって」

 

焔千景

 「……………………………………え?ごめんなさい、よく聞こえなかったわ」

 

焔徹隆

 「いや、だから楠が俺のやってる基礎鍛練をやりたいって」

 

三好夏凜

 「ねえ、徹隆?私も参加して良い?」

 

乃木若葉

 「む、鍛練か?なら私も」

 

焔千景

 「え!?芽吹ちゃんだけじゃなく夏凜ちゃんと若葉ちゃんも!?待って!早まらないで!!」

 

三好夏凜

 「どうしたのよ、焔?たかが鍛練じゃない?」

 

乃木若葉

 「うむ。そうだぞ?」

 

焔千景

 「…………………鍛練内容聞いたの?」

 

楠芽吹

 「え?まだだけど?」

 

焔千景

 「兄さん!!」

 

焔徹隆

 「え?あ、あー。ワルい。また自分基準で考えてた」

 

焔千景

 「普通をもっと学んで!また()()()()()()()()()()()()()()ところだったのよ!」

 

乃木若葉

 「ははは、鍛練で三途の川とは、ずいぶんな冗談だな焔?」

 

焔千景

 「………若葉ちゃん、兄さんのことを超人とか人外だと思った?」

 

乃木若葉

 「え?んー、そうだな少しは思ったな」

 

焔千景

 「じゃあ、聞くけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思う?」

 

三好夏凜・乃木若葉・楠芽吹

 「「「!?」」」

 

焔千景

 「ちなみに、兄さんが兄さんのお師匠様との鍛練で()()()()()は8回よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね。その度にお師匠様に心肺蘇生して貰ったの」

 

三好夏凜・乃木若葉・楠芽吹

 「「「!?!?!?」」」

 

焔千景

 「それでも、死ぬ(やる)?」

 

三好夏凜・乃木若葉・楠芽吹

 「「「……………やめておきます」」」

 

焔千景

 「賢明な判断よ」

 




百花繚乱……すぐれた能力を持っている人物が同じ時期に一斉に現れ、多くの素晴らしい成果を残すこと。または、すぐれた能力を持っている人物や、容姿の美しい人物がたくさん集まっている様子を言い表す言葉。

特別編第一部終了です。この特別編の続編等のプロットは一応ありますが投稿するかは未定です。(もしかしたら息抜きとして書くかも。)
また、もしですが『本編に登場しているこの人とゆゆゆいのこの人のエピソードがみたい』などがありましたら感想に書いて頂ければ書けるだけ書いていこうと思います。(動かすのに無理の無い人数となると9人程度が限界なので、それ以上になると今回の最後のような台詞だけのものになる可能性があります。)

来週日曜日に本編の第7話を投稿予定です。


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Episode:6 走馬看花(そうばかんか)

特別編第6話です。

何とか今日中に投稿出来ました。


 「さて、今日も勇者部の活動始めていくわよ」

 

 「待ってくれ風さん。徹隆さんがまだ来ていない」

 

 私たちがこの神樹様が造った世界に来てから早いもので10日が経っていた。勇者部という名のボランティア部のような活動にも慣れてきたそんな感じの今日この頃、勇者部部長の風さんが部室に集まった勇者部面々に今日の活動内容を話そうとするが、兄さんがまだ来ていないと若葉ちゃんが止める。

 

 「ああ、徹隆なら……」

 

 ガララ

 

 「ワルい、遅れた」

 

 風さんが説明しようとすると同時に兄さんが遅れたことを謝罪しながらドアを開けて部室に入って来た。

 

 「あら徹隆、もう終わったの?」

 

 「ああ、荷物を職員室に運ぶだけだったからな。そんなに時間はかからなかったよ」

 

 「あれ?お兄さん、もう依頼をこなしてきたの?」

 

 兄さんと風さんが会話していると結城ちゃんが聞いてきた。

 

 「いや、依頼というか」

 

 「大量のプリントを運ぼうと困っていた女子生徒が居たから徹隆が代わりに持って行ったのよ」

 

 ああ、なるほど。

 

 「「「「「つまり、また徹隆節をかましてきた訳か」」」」」

 

 私たち西暦2020年組が声を揃えて呆れる。

 

 「徹隆節ですか?」

 

 私たちの1番近くにいた樹ちゃんが訪ねてきた。

 

 「ええ、兄さんの持論から来る恐ろしい天然ジゴロ行動よ」

 

 「徹隆の持論って何よ?」

 

 風さんもこちらの会話に参加してきた。

 

 「『男は格好つけてなんぼの生き物』『女性を泣かす男は万死に値する』『据え膳食わぬは男の恥、暴食為すは(おとこ)の恥』っていうような、兄さんの目指す理想の男性像に成るために貫き通すと決めたことを纏めて徹隆節って言っているんです」

 

 「「へー」」

 

 「そういえば以前徹隆に、いらぬお世話だったかもしれないと私が言おうとしたら自分自身の善行を否定しないでくれと言われたが、あれもその徹隆節というやつなのか?」

 

 今度は棗さんも会話に参加してきた。そういえば兄さんからそんな話聞いたわね。

 

 「ああ、それは『善も偽善も相手をおもうもの』『自身の否定は自身への枷』って考え方ですね。前述は善は()()()()()()()()、偽善は()()()()()()()()()()()()()()()行う行動だから、どちらにしても相手のことを考えて行われるものであるということ。で、後述の方は、人間、悪い行動だと思ったら一瞬かもしれないけど考えちゃうから、なので簡単に言うと『良い行いなのだから次も無意識に出来るように良い評価にしておけ』ってことだと思いますよ?」

 

 「なるほど、そういうことか」

 

 棗さんが私の説明に納得する。

 

 「なんかアレよね。徹隆って歳の割に大人っぽい雰囲気あるわよね。………は~、ウチのクラスの子供っぽい男子も見習って欲しいわ」

 

 「子供っぽいというと?」

 

 「ウチのクラスの男子って休み時間にエッチなサイトや画像なんかを見てるのよね~。徹隆ってそういうことしないじゃない」

 

 「それはただ単に格好つけてるだけですよ?兄さん自身ムッツリで『男はエロい生き物だ』って言ってたし。現に前、事故でユウちゃんのショーツ見てしまって喜んでたし」

 

 「ちょっ、千景⁉お前何言って……」

 

 私の台詞に兄さんが何か言おうとしたような気がしたけど、気のせいよね。

 

 「それでも分別やTPOを弁えているだけまともよ」

 

 風さんがため息交じりに呟いた。うーん、どうやら風さんの中での兄さんへの評価はそれなりに高いらしい。

 

 「……風さん、まさかとは思いますけど、兄さんに対して恋恋慕なんて抱いてませんよね?」

 

 「え?いや、流石にそれほどではないわよ。それに、アタシそこまで安い女じゃないし」

 

 「なら良いんです」

 

 「あ、あの~、聞くってことはそういう人がいたんですか?」

 

 私が懸念していたことを風さんが否定してくれたので安堵していると樹ちゃんが聞いてきた。

 

 「ええ、まあ。さっき言ったような行動でコロッといってしまう人がたまにいるのよ。だから兄さんのファンクラブの会員数は学校全体で4位にもなってたりするし」

 

 「「ファ、ファンクラブ⁉」」

 

 「ええ、ファンクラブ。あ、一応言っておきますけどファンクラブがあること自体はウチの学校の意異名持ちでは当たり前ですからね?意異名持ちは良くも悪くも目立つから、どうしても一定の人たちから偶像化されちゃうんですよ。ねえ?明希さん」

 

 「は、ははは、そうですねぇ」

 

 私に話を振られた明希さんが乾いた笑い声を上げながら目を逸らす。

 

 「あのー、ランさん、反応からして間違いないとは思いますけど」

 

 「やっぱり明希さんもその徹隆さんのファンクラブに入ってるの?」

 

 「入ってるどころか会長よ」

 

 「「ええ!?」」

 

 ランさんが杏ちゃん、雪花ちゃんと何かコソコソと話している。3人の顔からして、恋バナとみた。となると、タイミングからして兄さんと明希さんのことかしら?………ランさん、なんだか兄さんの周りを全員仕掛人にしそうな勢いで仲間を増やしてってるわね。そろそろ兄さんも年貢の納め時かしら。

 

 「会話が聞こえないのに悪寒がする。だけど聞こえないほうが良いような気がする。何故だ?」

 

 兄さんがヒソヒソ話をしている3人を見ながら呟く。聞こえてないようだけど、一応釘を刺しておこうかしらね。

 

 「多分だけど、兄さんのファンクラブについてよ」

 

 「ああ、じゃあ聞かない方が良いな」

 

 「………自分のファンクラブなのに気にならないの?」

 

 私の言葉に兄さんが答えると、郡さんが訪ねてきた。郡さん、なんだかんだで兄さんとよく喋るのよね。郡千景の記憶としては男の人に苦手意識を持っていてもおかしくないと思っていたのだけれど、郡さんの方から声をかけるところをよく見る。うーん、兄さんって人畜無害な雰囲気出してるからそのせいかしら?

 

 「ん?いやいや、気にならない訳無いって。ただ、ウチの学校じゃあ自分自身のファンクラブに対しては絶対不可侵を貫くのが暗黙のルールなんだよ」

 

 「………面倒くさいわね」

 

 「ははは、でもまあ、そうしないと中には自分の私利私欲の為に自身のファンクラブを利用する奴が出てきちまうからな。仕方ないと言えば仕方がないのさ」

 

 「………そう」

 

 兄さんの答えに郡さんが渋々ながらも理解した。

 

 「じゃあ、話が一区切りついたところで部活始めるわよ!」

 

 雑談が終わり風さんの号令で本日の勇者部の活動が始まる。はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「!……皆さん、今新しい神託がありました。どうやら新しい巫女と勇者が呼ばれるようです」

 

 神樹様の巫女であるひなたちゃんが神託で告げられたことを勇者部の皆に伝える。

 

 「ずいぶんいきなりね。ていうか、新しい巫女と勇者って、徹隆たちが呼ばれたのに?残すは高知のみなのよ。なのに何でここに来て神樹様はこんなにも戦力を増加しようとするのかしら?」

 

 風さんが神樹様の神託に疑問を抱く。

 

 「万全を期したいんじゃないか?相手は造反神、神様な訳だし。戦力はいくら有っても多いなんてことはないだろう?いくら神樹様から勇者の力を借りていると言っても俺たちは人間なんだから」

 

 風さんの疑問に兄さんが答える。確かに相手が神様なのだから戦力は多いに越したことは無い。無いのだけれど、

 

 「「「「「「「「「「人間って何だっけ?」」」」」」」」」」

 

 兄さん以外の勇者部全員の声がハモった。うん。そうよね。そう思うわよね。

 

 「兄さん、兄さんの場合は『一応人間』か『まだ人間』って言った方が良いわよ?」

 

 「……焔、自分の兄だから人間と認めたいだろうけど諦めなさい。こいつはもう人外という括りに入れるべきよ」

 

 兄さんへの私の言葉に夏凛ちゃんがツッコんできた。いや、確かに兄だからって考えもあるけれど、一番は兄を人外と認めたら私たちの世界が人外魔境になってしまうじゃない。自分の住んでる世界がそのように認知されてしまったら、流石の私たちも泣きたくなってくるわよ。

 

 「千景、多分もう遅いと思うぞ」

 

 「………そうやって人の心を読むから人外認定されるのよ?」

 

 「妹の心の声1つ聞くことが出来なくて何が兄だ!」

 

 「プライバシーの侵害で訴えるわよ?バカ兄さん」

 

 「ごめんなさい!」

 

 「………コントが終わったようだから、話を戻すわよ?」

 

 「「はーい」」

 

 私たちのコントが一区切りついたのを見計らって郡さんが聞いてきた。なんだかんだ言って実のところ郡さんと1番仲良くなってたりするんじゃないかしら?

 

 「今回の召喚では巫女と勇者2人の計3人が喚ばれるみたい」

 

 「そして、勇者様の方なのですが、どうやら徹隆先輩のような男性の可能性があるみたいです」

 

 水都ちゃんと亜耶ちゃんが今回喚ばれる人たちの詳細を教えてくれた。しかし、男性の勇者か。兄さんだけでもかなりの例外だったのにさらにもう2人も増えるのね。

 

 「まさかとは思うが、俺たちの知人じゃねえよな?」

 

 「……………徹隆さん、それってフラグって言うんじゃないんですかねぇ?」

 

 兄さんの不穏な発言に対して明希さんがツッコミを入れる。と、同時に部室内に光が充満していく。

 

 「神託が来て直後だなんて神樹様もせっかちね」

 

 「チカちゃんたちのコントが結構長かったよ?」

 

 「兵は拙速を尊ぶと言う!勇者もまた然りと神樹様は言いたいのだろう!」

 

 「善は急げとも言うしね!」

 

 「あなたたちってこういう時は本当に兄妹なんだなって思うわ」

 

 風さんが私たちが兄妹である事を急に認めてきた。はて?何故?

 と、私が考えている間にも光は強くなっていき部室全体を包み込むと一瞬躍動するかのように強く輝き瞬く間に収束していく。そして、収束した光が消えた場所には、

 

 「「「ひふみん!?」」」

 

 「フラグ回収早ッ!!ていうか、ひふみちゃんが巫女?」

 

 「ちょっと兄さん、兄さんが変なこと言うからひふみさんを巻き込んじゃったじゃない」

 

 「マジで?俺のせい?」

 

 「………ええと?………あっ!…テッちゃん?………ここ、…どこ?」

 

 状況を掴めず回りをキョロキョロしていたひふみさんが兄さんを見つけて質問してきた。

 

 「伝わるかな?実はな滝本、かくかくしかじかという訳なんだ」

 

 兄さんがこの世界特有の説明の仕方をした。これ、ひふみさんにも伝わるのかしら?

 

 「!?………何故か……解った!?」

 

 「「「「「伝わっちゃった!」」」」」

 

 「便利だな~、これ。っと、すまんが滝本、あと1つ質問したいんだ。もうちょっとだけ頑張ってくれないか?」

 

 「…………うん……良いよ」

 

 よく見るとひふみさんの顔色が少し悪い。周りに知らない人がいっぱい居るからか。ひふみさんには辛いわよね。

 

 「サンキュー。じゃあ、ここに来る時、お前の周りに誰か2人くらい居た?」

 

 「?………ええと、マーちゃん、アッちゃんと一緒に居たよ?」

 

 「あの2人か。ありがとな滝本」

 

 「………ううん、……別に。………ところで、私は…どうすれば……良いの?」

 

 「んー、とりあえずは明希たちと喋って、ちょっと落ち着こうか」

 

 ひふみさんは兄さんの言葉に頷くとフラフラした足取りで明希さんと紺野姉妹のところに向かった。

 

 「ねえ、徹隆。あの子大丈夫?顔色悪いみたいだけど」

 

 成り行きを見ていた勇者部の中の夏凛ちゃんが兄さんに聞いてきた。

 

 「ん?ああ、大丈夫だよ。初対面の人が大勢いたからキャパオーバーしただけだから、少しすれば落ち着くだろう」

 

 「徹!!」

 

 兄さんが夏凛ちゃんに答えているとユウキさんが大きな声で兄さんを呼んだので、そちらを見るとひふみさんが倒れていた。

 

 「どうした!?」

 

 「ひふみんが結城ちゃんと高嶋ちゃん、郡ちゃんを見て気絶した!」

 

 「「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」

 

 「…………徹隆、全然大丈夫じゃないじゃない」

 

 「…………ああ、うん、そうだね」

 

 樹海化警報発令

 

 …………うん、ちょっとバーテックス!少し空気読みなさいよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大変です!神託で勇者様お二人が樹海に召喚されてしまったとのことです!」

 

 亜耶ちゃんが焦りながら緊急事態であることを伝える。

 

 「巫女として喚ばれた人が明希さんたちの知り合いってことは勇者の人もその可能性があるってことだよね?バーテックスを見たことが無いからパニックになるんじゃないかな!?」

 

 水都ちゃんが心配そうに聞いてきた。

 

 「んー、俺たちの予想通りのヤツらが喚ばれている場合はパニックってよりギャーギャー騒いでるだろうな。あっ!もし予想通りあいつらが召喚されているなら電話繋がるんじゃね?」

 

 「え、あっ!確かに電話番号を知っているなら繋がるかも!」

 

 「じゃあっと、えー、景友の番号っと、………………あ、もしもし景友?今お前真悟と一緒?……うん…うん、それってカラフルな根っこの世界?………うん……大丈夫。滝本ならこっちに居るから。………そうそう。で、白い白玉擬きみたいな化け物いる?……うん…そう、そのきもちわるいヤツ。……うん…うん……ソイツらの説明は後でするよ。取り敢えずソイツら抹殺して良いから。………ん?ああ、お前ら服装変わってね?……そうそう、そのコスプレみたいなの。で、戦おうって意志さえ示せば自身の手に武器が出るから。………出た?…………うん、好きに暴れて良いから。………うん、じゃあ、こっちの用が済んだら俺たちもそっち行くから。多分30分くらいで行けると思う。じゃ。…………。よし、これでもうほぼ大丈夫だ」

 

 「「「「「「「「「「イヤイヤ、大丈夫じゃないから!」」」」」」」」」」

 

 私たち以外の勇者部全員がツッコんだ。

 

 「兄さん、真悟さんも居るのよね?」

 

 「ああ、居るってよ」

 

 「と言うことは真悟さんと景友さん、お二人が勇者として喚ばれたということですよねぇ?私たちいります?」

 

 「大型は流石に2人だけじぁあ、骨が折れるだろう。特にアイツらは俺と同じでそういうの面倒くさがるし」

 

 「ああ、確かに」

 

 「で、滝本だけを残す訳にもいかねーし、明希と藍子にはワルいが残ってもらって良いか?」

 

 「構いませんよ」

 

 「ひふみんが目を覚まして私たち全員が居なかったらパニクるもんね」

 

 「という訳で犬吠埼、ワルいんだが今回はコイツら留守番で良いか?」

 

 「え、あ、ええ。それは良いんだけど、ねえ徹隆、さっき話てた人ってアンタやユウキくらい強いの?」

 

 ひふみさんが心配なので明希さんとランさんを残したいと訊ねると了解の旨と真悟さんたちについての質問の言葉が風さんから出た。

 

 「んー、景友は俺と同じくらいだな。真悟もいつもはそのくらいだ」

 

 「いつも?」

 

 風さんが兄さんの言葉に疑問を感じ聞き返す。声を発したのは風さんだけだが周りに人たちも疑問を感じていたらしく皆一様に首をかしげていた。

 

 「ああ、まあ滅多に無いことなんだが、真悟がキレると多分ここにいる全員で一斉にかかって漸く良い勝負が出来るくらいじゃないか?」

 

 「「「「「「「「「「……………………は?」」」」」」」」」」

 

 私たち以外の勇者部全員が間の抜けた声を発した。

 




走馬看花……表面だけ見て、本質を理解しないこと。または、物事がうまくいって、誇らしそうにすること。

特別編の投稿は不定期です。次話は今月中には投稿予定です。


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Episode:7 錦上添花(きんじょうてんか)

特別編第7話です。

リアルがやばい状況なので遅れました。


 「……マーちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう」

 

 秋の大型連休に私はやることが何も無かったので何となく一番誘いやすかった幼馴染みのマーちゃんこと真悟君と2人でショッピングに来ていた。何でも妹であるサクちゃんも友達のお家にお泊まりに行っていて暇してたとのことで誘ってみたら即OKが出た。……そういえば、こうしてマーちゃんと2人っきりでお出かけするのってなんだか久しぶりのような気がする。小さい頃はいつも一緒にいたけど、中学生になってからは違う部活に入って時間が合わなくなったし、お互いの友達と一緒にいる時間の方が自然に長くなっちゃったし。

 

 「ん、いや、俺もやること何も無かったし別に良いぞ。徹がいないと何となく集まらないところあるからな俺ら」

 

 「……テッちゃんと言えば、今日から四国に旅行だっけ?」

 

 「ああ、確か香川県だったかな?『うどん屋巡りじゃー!!』ってほざいてたし。それにしても紺野姉妹と明希を誘うとはな」

 

 紺野姉妹はともかく、明希ちゃんがついて行く事になったのは私たち女性陣が暗躍したからだけどね。千景ちゃんと友奈ちゃんにテッちゃんとの関係を少しでも縮められるようにサポートを頼んでいるけど上手くやってるかな?まあ、ランちゃんもいるから良くも悪くも掻き回されてるか。

 

 「アイツのことだからバカ騒ぎが出来る男友達を誘うと思ったんだが」

 

 「……マーちゃんも香川行ってうどん食べたかったの?」

 

 「え?ああ、いや、そういう訳じゃないんだけどな。まあ、旨いもん食いに行くのは好きだが」

 

 「……マーちゃんたちって結構食道楽なところあるよね」

 

 「旨いもん食ったら人生得した気分になるからな。しかし、明希と一緒か。帰ってきたら彼氏彼女の関係になってたり………徹に限ってそれは無いか」

 

 「……テッちゃん、…何で自分のことになるとあそこまで鈍感なんだろうね?」

 

 「………………………ひふみが自分から他人の恋愛ごとに首突っ込むなんて珍しいな」

 

 「……そう?」

 

 「俺らや周りのヤツらのノリに乗っかってっていうのはよくあるが、自分からってあんま無いだろ」

 

 そうかな?…言われてみたらそうかも。

 

 「……なんとなく、明希ちゃんには幸せになってほしいから…かな?」

 

 「徹と結ばれたらそれはそれで苦労しそうではあるんだが」

 

 「?……マーちゃん、なんか言った?」

 

 「いんや何も。ただの独り言だ」

 

 「…?そう」

 

 変なマーちゃん

 

 「それにしてもカップル多いな。……チッ」

 

 「……私たちも傍から見たらカップルに見えるんじゃない?」

 

 「あ、気にすんな。ただカップル見たら条件反射で舌打ちしてるだけだから」

 

 「……………………」

 

 「てか、俺らの関係って何て言えば良いんだろうな?」

 

 「……友達以上恋人未満?」

 

 「異性の親友?」

 

 「……私はこんな距離感が好きだけど」

 

 「まあ、なんやかんや言って俺も好きだけど。肩肘張らなくて良いし。……にしても、本当カップル多いな。デートスポットここ以外無いのかよ」

 

 私たちの住んでいる街で連休中のデートスポットといえばショッピングモールが挙げられる。

 

 「……田舎だからね。ここら辺、ロマンチックなデートスポットってあんまり無いから」

 

 「まあ確かに、ロマンチックな食事場所に挙げられるのが徹の両親の店以外あまり無いくらいにロマンチックという言葉を聞かない街ではあるな」

 

 「……私たちテッちゃんの知人にとっては使い辛いけどね」

 

 「使った瞬間、焔家全員の周知の事実になるからな。徹のお袋さん、そういう話好きだから」

 

 そうそう、家族で使用した場合にちょっとした会話で子供の通っている学校の名前が解って、それがもし宮沢中だったらそこから焔家に身元がばれちゃうのだ。蓼原家はそうだったって明希ちゃん言ってたな~。

 

 「……テッちゃんもテッちゃんでプレゼントを人にあげたり、サプライズが好きだからね。…明希ちゃん、誕生会をあそこで行った次の年の誕生日にテッちゃんからいきなり誕生日プレゼント貰って驚いてたっけ」

 

 「異性だろうと同姓だろうとアイツは友達に関しての行動パターンを変えないからな。ただ、お袋さんのあの性格には不満があるらしい。この間『なんで俺がどこぞの会社の専務の息子の恋愛事情やどこぞの病院の医院長の娘さんの二股を知らなきゃならん!?さらにはどこぞの子供が東大だの早稲田だの慶応だのに合格したっていう情報を何故俺に伝える!?俺の学力は平均クラスじゃ!ボケ!!』って愚痴ってた」

 

 「…あー、千景ちゃんも似たようなこと言ってたよ。『ウチの親は親バカ通り越してモンペに近いところがある』って」

 

 「まあ、アレだ。焔家は良くも悪くもぶっ飛んでる家系ってことだな」

 

 「…そうだね。あ、ぶっ飛んでると言えば、この間の部活ではやてちゃんがね」

 

 「アイツまたやらかしたのか」

 

 私たちはショッピングそっちのけでクセの強い友達の話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?あれ景友じゃね?」

 

 俺とひふみはショッピングが一段落したので昼食をとる為、フードコートにやって来たのだが、そこには1人でラーメン食ってる景友がいた。

 

 「おーい、景友」

 

 「ん?おお。真悟に滝本、お前らも来てたんだ」

 

 「まあな」

 

 「…アッちゃん、1人?」

 

 「いや、美姫と一緒」

 

 どうやら今回は1人ではなく妹と一緒だったらしい。

 

 「その美姫は?」

 

 「あっちで水泳部員同士でキャッキャウフフしてる」

 

 「言い方!?」

 

 なんだよその言い方は!?ダメだ。やはりコイツ、流石だ!

 

 「お前らは、…お揃いのブレスレット着けて、デートか?」

 

 俺が景友に戦慄を覚えていると俺らが手首に着けているブレスレットに気付いて聞いてきた。

 

 へえ、デートかよ。俺にはまだまだ地味すぎるze☆。腕にもっとたくさんのシルバー巻くとかさぁ。

 

 徹がATMのマネしながら脳内で語りかけてきた。………って語りかけてくんなよ!

 

 「デートに近い何かだ。ちなみにこのブレスレットはさっきそこで買った」

 

 「何かの記念?」

 

 「強いて言うなら久しぶりに2人で出掛けたからかな?」

 

 「熟年夫婦か?」

 

 Oh、その発想は無かったわ。………うん、隣のひふみの顔がどんどん赤くなってるな。

 

 「ブレスレット買おうって言ったの滝本の方だろ?俺らじゃそんなロマンチックなこと考えないし」

 

 「正解。2人で出掛けた記念とか可愛いよな」

 

 「ただ、お揃いの小物とかはやっぱり女の子同士の方が良いな。男女じゃただのカップルにしか見えん」

 

 …………………んー、コイツは何を言っているんだ?ダメだ、理解が追いつかない。

 

 「……アッちゃんは相変わらずだね」

 

 「そうか?」

 

 「「そうだよ」」

 

 俺とひふみの声がハモった。自覚無しかよ。………何というか、コイツは俺らのグループの中で1番の常識人に見えて1番ぶっ飛んでるところがある。何というかコイツの感性や行動は俺らの予想の遥か上を行くというか、斜め上を行くというか、コイツを一言で表すと『読めない』。そんな奴だ。いやまあ、悪い奴ではないし、優しい奴ではある。ただ、良識は有るが常識の枠には収まらない。類は友を呼ぶというが、徹も大概だが、景友もなかなかどうして良い意味で面白いヤツである。突拍子も無いという括りで言うなら行動の徹、言動の景友と言ったところか。

 

 「ところでお前ら、昼飯食いに来たんだろ?何か頼んだのか?」

 

 「あ、そうだった。ひふみ、何食う?」

 

 「……うーん、ハンバーグプレートにでもしようかな。マーちゃんはやっぱりラーメン?」

 

 「まあ、そうだな」

 

 ひふみの言うとおり最近ずっとラーメンばっかり食べてるような気がする。いやまあ、俺と景友はラーメンが好物ではあるのだが、それにしても食い過ぎのような気がしなくも無い。そういえば、徹が今向かっているうどん県の県民は三食全てうどんを食べているって聞いたことがある。まあ、うどんの聖地みたいなものだしな。…………そう考えるとラーメンの聖地って何処だ?中国?いやでも豚骨ラーメンは博多か。北海道は味噌か?んー、徹が帰ってきたら聞いてみるか。アイツ食い物に関しての知識は無駄に詳しいし。

 とりあえず俺とひふみは自分が食べたいものを購入し、景友がいるテーブルで食事を始めた。

 

 「そういえば景友、お前家族で遠出するって言ってなかったっけ?」

 

 俺は食事を終えた後、景友に聞いた。確か連休に入る前に家族旅行に行くって言ってたと思うのだが、俺の思い違いか?

 

 「ん?ああ、行くぞ。今夜から夜行バスで東京に」

 

 あ、やっぱり行くんだ。うーん、徹は妹たちや美少女3人と香川で、景友も家族で東京、蓮太郎は木更と天童の爺様のところ行くって言ってたし、由良は連休入ってすぐに連絡取れなくなった(女性陣に簀巻きで連行された)し、ディルも『妹たちと旅行だ』って言ってたな。そして、我が天使の桜も知世と一緒に桃子の家に泊まりに行ってると。

 

 「明日からの連休どうすっかな~」

 

 「予定何も無いのか?」

 

 「そうなんだよな~」

 

 いや、本当何もねえな。そして、遊ぶヤツもいねえ。

 

 「じゃあ、滝本と親睦深めれば?久々に夫婦水入らずで」

 

 「…!?ゴホッ!ゴホッ!!」

 

 あ、ひふみがむせた。というか景友さんや、アンタ本当流石だわ~。

 

 「そうだな、久々にひふみと一緒にいるか」

 

 「お泊まり?」

 

 「中3に男女でお泊まりってどうよ?小学生の時はしてたけどさあ」

 

 「風呂も一緒?」

 

 「ガキの頃はな」

 

 今一緒に入ったらヤバイだろ。ひふみ美人なんだから、複数の意味でヤバイ。

 

 「まあ、今一緒に入ったら徹が羨ましさで血の涙流すんじゃないか?」

 

 「羨ましいならアイツは明希誘え」

 

 アイツは蓮太郎並みに面倒くさい事になってるからな。まあ、俺と景友以外にばれてないからそういう気持ちを隠すのが得意なんだろうが。……そういえば、ひふみが静かだな。

 ふと思いひふみの方を見るとひふみが消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「ゑ?」」

 

 滝本が消えているのに気付いてすぐ、目の前が真っ白になったと思ったら辺り一面カラフルな根っこが張っている変な世界に飛ばされていた。隣には目の前が真っ白になる前から話していた友人の真悟がいて、この状況に驚いている。いや、俺もかなり驚いているんだけどな。

 

 「ウソダドンドコドン!」

 

 「どういう事だ!まるで意味が解らんぞ!」

 

 俺と真悟はまるで示し合わせたかのように大声でオンドゥル語とどこぞの長官のような台詞を叫んだ。

 コレは俺らの武術の師匠たちが教えてくれた対処法で、自身が置かれている状況と場所が把握出来ず、目視出来る存在が周囲にいない場合に使用する。この対処法には3つの利点があって、1つ目が大声を出す事で緊張していた身体を程よくほぐす事。入れすぎた肩の力が抜け、程よい案配になる。

 2つ目に自身に喝を入れると共に余裕を持たせるという事。こういった状況では冷静さを保っていなければズルズルと悪い方へと引っ張られてしまうからな。冷静さを保つにはネタが一番ってのは徹の案で、もしここに徹がいたらジョジョネタ辺りでも組み込んできたんじゃないか?

 で、最後にこういった状況では静かに気配を消すのがセオリーなのだが、突拍子も無い事をすると人間誰しも一瞬は気を向けてしまう。まあ、何が言いたいかと言うと

 

 「………現在、付近に大声に反応する生物及び物体無しっと」

 

周りに何かしらいるかどうかを瞬時に見極められるって訳だ。このようにこういった時にセオリー通りにしないのもかなり有効な手であると師匠に教えられたんだよな~。まあ、人外認定されている師匠の場合は考えなくても良いんだが一般ピーポーは周りに多数の敵がいた場合に瞬時に対応出来るようにしなければならない事と、対処が1人では出来ない可能性も多いにあるので味方が複数いる状態で使用した方が安全である事、そして味方がこの突拍子も無い事に理解または耐性がなければ逆に隙を作ってしまい危険だという事、この3つの注意点がある事を考えなければならないから気をつけろ。

 

 「………さて、大声でネタやって少しは落ち着いたから状況確認でもするか」

 

 真悟に提案する。

 

 「そうだな。とりあえず知りたい情報は此処が何処で、ひふみが今何処にいるかだな」

 

 「この場所の情報って言ったらあの奥で光っている巨大盆栽がかなり怪しいと思うんだけど」

 

 「…………景友、アレは盆栽と言うより枯れ木じゃね?」

 

 「枯れ木があんなに生命力溢れてるもんかな?下手したら夏休みに諏訪で見てきた御神木以上だぞ?」

 

 「その御神木以上の生命力溢れる大樹を盆栽扱いしたヤツに言われたくねえよ」

 

 そう言われてもなあ、他に思い浮かぶ例えが無かったんだよ。

 

 「あと、気になると言うと逆方向の変な気配か」

 

 「変と言うよりはきもちわるいに近いな、この気配は」

 

 確かに変と言うよりきもちわるいなこの気配は。そんな気配が光る大樹とは逆方向から此方に向かって来ている。目視出来ない遠くからでもきもちわるい事が解るってかなりだな。

 ~~~♪

 ん?着信?いったい誰が、と思いスマホの画面を確認すると相手は徹だった。

 

 「もしもし?徹か?」

 

 『あ、もしもし景友?今お前真悟と一緒?』

 

 「え?ああ、気付いたら真悟と変な場所?世界?にいる」

 

 『それってカラフルな根っこの世界?』

 

 お?俺たちのいる場所について正確に聞いてきたってことは徹はここが何処なのか、または、どのような場所なのかは知っているとみていいか。

 

 「ああ。それから、此処に来る前まで滝本と一緒だったんだけど……」

 

 『大丈夫。滝本ならこっちに居るから』

 

 「あ、そっちにいるんだ」

 

 「ひふみ、徹の近くにいるのか。なら安心か」

 

 真悟が安堵の息を吐いた。顔や態度にはっきりと出してはいなかったがやっぱり心配してたか。幼馴染みだし当たり前か。

 

 『そうそう。で、白い白玉擬きみたいな化け物いる?』

 

 「白玉擬きみたいな化け物?」

 

 「景友、あれじゃね?」

 

 真悟が光る大樹とは逆方向を指差す。見るときもちわるい気配のやつが目視出来る距離まで来ていた。あー、確かにありゃ白玉擬きの化け物だわ。

 

 「あの保坂先輩に迫る勢いできもちわるいヤツ?」

 

 『そう、そのきもちわるいヤツ』

 

 「何なんだアレ?保坂先輩ほどではないにしてもかなりきもちわるいぞ」

 

 保坂先輩に迫る勢いってかなりだぞ。

 

 『ソイツらの説明は後でするよ。取り敢えずソイツら抹殺して良いから。』

 

 「抹殺して良いって簡単に言うが、2人で武器も無しにあの数は面倒くさいぞ」

 

 やって出来ない事は無いだろうがかなり面倒くさいだろうな。かなり距離あるのに肉眼で確認出来るってそれなりにデカイってことだろうし。

 

 『ん?ああ、お前ら服装変わってね?』

 

 「服装?ああ、このコスプレみたいなの?」

 

 『そうそう、そのコスプレみたいなの。で、戦おうって意志さえ示せば自身の手に武器が出るから』

 

 「戦う意志を示せば武器が出てくるって、いったいどこのバトルマンガだよ……」 

 

 そう言いながら徹に言われた事を真悟に伝えながら一応やってみた。すると、何も無かった自身の手に武器が出現した。

 

 「「おお!?」」

 

 俺の手には銃剣、真悟の手には日本刀。カラーリングは黒。

 

 『出た?』

 

 「ああ、出たよ。しかも()()()()使()()()()()()で」

 

 そう、俺の銃剣は少々特殊で銃部分がリボルバー式で剣部分が刺突特化タイプと叩斬るのに特化したタイプの2種類を使い分ける形になっていて、つまり取り付ける剣のタイプを変えながら臨機応変に対応するようになっている。これは俺の師匠オリジナルの流派専用型なんだが、ご丁寧に出現した銃剣はその形ってことだ。

 

 「で?やっちゃって良いの?」

 

 『うん、好きに暴れて良いから』

 

 ほう、好きにねぇ。なら遠慮なくやらせてもらいますか。

 

 「おう、了解」

 

 『じゃあ、こっちの用が済んだら俺たちもそっち行くから。多分30分くらいで行けると思う。じゃ』

 

 「うん、じゃ」

 

 ピッ

 

 俺はスマホを切り真悟に徹から言われたことを伝える。

 

 「なるほど、了解した。んじゃ、やるか。景友」

 

 「おう」




錦上添花……美しいものや良いものに、さらに美しいものや良いものを加えること。


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Episode:8 古樹生華(こじゅせいか)

特別編第8話です。




 「……ねえ、徹隆さん。今から迎えに行く2人って、どんな人なの?」

 

 樹海に突入しスマホの地図を見ながら真悟さんたちの元に向かっていた最中、郡さんが兄さんに聞いてきた。……男性だからやっぱり気になるか。

 

 「ん?真悟と景友か?」

 

 「……ええ」

 

 「ん~、そうだな~。真悟は俺らの中では一番の常識人だな。で、景友の方はかなりぶっ飛んだ奴だ。まあ、2人とも変人では有るが悪人ではないから安心しなよ」

 

 「…………そう」

 

 「真悟たちも一番の変人枠である徹には言われたくないと思うよ?」

 

 「おいこらユウキ!……って言いたいが自分でも他の人と感性がかなりズレている自覚が有るからな~」

 

 「……自覚してたのね」

 

 「まぁな」

 

 「アンタ並みの変人ってかなり疲れそうね」

 

 「あはは、まあ真悟は思考回路は俺と似たり寄ったりだけど一応ツッコミ担当だし、景友は園子たちと趣味趣向が同じだけど他人に迷惑は掛けないから」

 

 話を聞いてた夏凜ちゃんが零した台詞に兄さんが苦笑交じりに答える。

 

 「園子ズと同じってだけで大変そうじゃない!?」

 

 「徹隆さん、アタシも1つ聞いても良いですか?」

 

 「ん?良いぞ。何だ?」

 

 「さっき言ってたことって、アレ本当なんですか?」

 

 今度は銀ちゃんが兄さんに質問してきた。さっきのアレとは真悟さんがキレるとかなり強いってことに対して言っているようね。

 

 「ああ、真悟がキレるとヤバいって話か?本当だぞ。ただ、さっきも言った通り滅多にあることじゃないから。俺はあいつと8年程の付き合いだがブチギレした所を2回しか見たこと無いし。それに、キレたとしても周りが見えない程荒れ狂うって訳じゃなく、少し躊躇と手加減と慈悲が無くなるだけだから大丈夫さ」

 

 「いやそれ明らかに大丈夫じゃないと思いますけど。……てか、その真悟さんって人はキレなくても徹隆さんやユウキさん並みに強いんすよね?」

 

 「ああ。ちなみに学年強さランキングだと景友が俺と同位で8位、真悟がキレた時の強さ込みで6位だな」

 

 「え!?アタシたち全員で一斉に掛かって漸く互角って人より強い人がまだ5人もいるんすか!?」

 

 「いるいる。ぶっちゃけ上位5人には1()()()()()()()()()5()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しな。ははは、懐かしいな~。ディルと天童には伸されて、月拝とテスタロッサ、蓮太郎にはぶっ飛ばされたっけ」

 

 「へ!?」

 

 「……ねえ、焔さん?貴女のお兄さんがなんか変なことを言っているのだけど、記憶障害を起こしているんじゃない?」

 

 兄さんの台詞に銀ちゃんが驚き、郡さんが怪訝そうに言ってきた。というか郡さん、記憶障害って。

 

 「郡さん、いくら兄さんが変態でも記憶障害ではないわよ。………………多分」

 

 「おい!千景!変態って何だよ!?俺は精々変人止まりだよ!!」

 

 「「…………え?そこなの?」」

 

 私と郡さんの声がかぶる。おいおい兄さんや、そこかい?そこなのかい?

 

 「……というか、記憶障害じゃなかったら今の話は本当なの?」

 

 「残念ながら本当よ。私とユウちゃんも近くで見てたし」

 

 「つまり、徹隆さんやユウキさん位強い人たち5人掛かりでも倒せない人が5人もいるってことですか!?」

 

 「まあ、そうなるな」

 

 「それこそ正に人外ね。一体どんな大男よ。ソイツら」

 

 「ん?大男?三好、何故に大男?」

 

 「え?だってアンタたちみたいなの5人掛かりでも勝てないんでしょ?だったらもう見た目から人外みたいになってんじゃないの?」

 

 「イヤイヤ何?そのおかしな理屈?それはいくら何でもアイツらが可哀想だよ。それに、さっき名前を上げた5人の内、3人は女の子だからな」

 

 「「「「「「「「「「え!?女の子!!」」」」」」」」」」

 

 「……何で皆さん私を見るの?」

 

 兄さんの発言を疑うのは、…まあ、仕方が無いかもしれないけど、何故私を見るのかしら?

 

 「いや、本当のことかな~?と思って」

 

 「………………俺って、そんなに信用ないかな?」

 

 皆の気持ちを代弁してくれた風さんの台詞に兄さんがヘコむ。あら、珍しい。

 

 「……一応本当のことよ。さっき兄さんが名前を上げた人の内、天童木更さんと月拝美華さん、フェイト・テスタロッサさんは正真正銘女の子よ」

 

 「ちなみに、全員『絶世の』って枕詞が付く位の美少女だよ」

 

 私の言葉にユウキさんが補足を加える。確かに。3人ともタイプは違うけど美人よね。

 

 「……あの3人が凄い美人なのは確かだけど、アイツらに『絶世の』って枕詞を付けるなら負けず劣らず美人な勇者部の女性全員にもその枕詞は付くんじゃね?」

 

 「「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」

 

 「…………徹」

 「…………兄さん」

 「…………mon grand frére(お兄ちゃん)

 

 「あれ?何、この空気?」

 

 はぁ~、全くこの兄は。

 真悟さんと景友さんがバーテックスと戦闘を行っている為に出来るだけ早く合流しなければいけないので、兄さんの何気ない一言で勇者部の女性全員が嬉しいやら、恥ずかしいやら、呆れるやら、何とも言えない微妙な空気を発生させて黙り込んでいる中、私たちは真悟さんたちの元へと歩を進めた。

 

 「「流石、てったん先輩~!」」

 

 「え?何が?」

 

 …………前言撤回。この状況を何となくで楽しめている猛者が2人いたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……!!今、コレクションに加えるべき若葉ちゃんの貴重な表情を見逃した気がします!」

 

 何の脈絡も無く、急にひなたちゃんが叫びだした。

 

 「……………ねえ?水都ちゃん、亜耶ちゃん、コレは神託?」

 

 「…………え~と、違う…かな?」

 

 私の問いに水都ちゃんが躊躇いがちに答えてくれた。やっぱり、というか当然神託では無かったらしい。…はっ!となるとコレは恋の力!?…って、私は何バカなこと考えているのかしら。

 今、私と明希ちゃんは巫女グループの3人と一緒に部室でお留守番をしている。理由は只今絶賛気絶中のひふみんを介抱するため。まあ、目を覚まして近くに友人の私たちが1人もいなかったら、ひふみんはパニクるわよね~、確実に。

 

 「それにしても、ひふみんが巫女ですか」

 

 そう言いながら明希ちゃんは自分自身の膝の上に寝かしているひふみんの頭を優しく撫でる。…………明希ちゃん、膝枕(ソレ)は徹君にやりなさいよ。でもまあ、ひふみんが巫女だということには私も驚いてはいるけどね。

 

 「確かに驚きよね~」

 

 「……あの、つかぬ事をお聞きしますが、お二人の世界に神樹様はいらっしゃらないのですよね?」

 

 亜耶ちゃんが聞いてきた。彼女の顔には多少なりとも戸惑いを感じる。神世紀の子たちは皆そうだが、多分神樹様がいない世界を想像出来ないんじゃないかしら?そんな中でも彼女は特にそう言った所が顕著に出ている。亜耶ちゃんは幼い頃に巫女になったって聞くし、日常の近くに神樹様が居るのが当たり前みたいに思っているのかも。まあ、そんな戸惑い混じりの困り顔も天使のように可愛らしいから私は好きよ!ああ、本当亜耶ちゃんってどうしてこんなに可愛いのかしら!

 

 「ランちゃんから怪しい気配を感じますが、触らぬ神に祟り無しですからツッコミませんよ。…………とりあえず、亜耶ちゃんの質問に答えますと、確かに私たちの世界には神樹様はいませんねぇ」

 

 明希ちゃんが私を無視して答える。おっといけない、亜耶ちゃんの質問に私も答えなきゃ。

 

 「そうね~、神社や宗教なんかは普通に有るけど、こっちの世界の神樹様みたいな目に見える神様はいないわね」

 

 「天皇陛下を神様と崇めることはしますがねぇ」

 

 「後は精々、神か悪魔に成れるんじゃないかって程強い人外みたいな存在がゴロゴロ居るくらいかな?」

 

 「そ、それはそれで凄いと思うんだけど……」

 

 「あはは。まあ、私たちはそれが当たり前だと思う程慣れてしまいましたがねぇ。ところで亜耶ちゃん、何故急にそんなことを?」

 

 「いえ、ただ、いきなり神樹様から御神託が下されたら、今気絶中のそちらの方が驚かれてしまうのではないかと思いまして」

 

 「うーん、どうだろう?神託の下され方にもよるんじゃない?」

 

 「と、言いますと?」

 

 「もし、神託が言葉とかだったら確実にびっくりするわね。でも、夢とか映像とかならそこまで驚かないんじゃないかな?」

 

 「まあ、そうですねぇ。なんたってひふみんは私たちと6年以上の付き合いですから。そんじょそこらの人よりは非常識に慣れていると思いますよ」

 

 「な、なるほど~」

 

 「な、なんだか凄く解った気がする」

 

 私と明希ちゃんの答えに亜耶ちゃんと水都ちゃんが何となくで納得する。

 

 「……うー…ん…」

 

 と、そこでひふみんが目を覚ました。

 

 「おはようございます、ひふみん」

 

 「…………明希ちゃん?」

 

 ひふみんは焦点の合ってない目をぱちくりしながら明希ちゃんを見つめていたが、徐々に焦点が合い始めると急に膝上から飛び起きて叫びだした。

 

 「……!そうだ!明希ちゃん、ランちゃん、千景ちゃんと友奈ちゃんのドッペルゲンガーが!!」

 

 「ひふみん、落ち着いて下さい」

 

 「だ、だってドッペルゲンガーを見たら死んじゃうんだよ!このままじゃ千景ちゃんと友奈ちゃんが!!」

 

 「大丈夫だから。あの娘たちはドッペルゲンガーじゃないし」

 

 「そうそう、とりあえず落ち着く為に深呼吸して下さい」

 

 「はい、ひふみん、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

 

 「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

 

 「ランちゃん、それマラーズ法です。ベタなボケですねぇ」

 

 「大丈夫よ、将来確実に真悟君との間で使うから」

 

 「何が大丈夫なんですかねぇ?…………で、ひふみん、落ち着きました?」

 

 「……うん、少しは。……それよりあの娘たちは本当にドッペルゲンガーじゃないんだよね?」

 

 「そうよ。まあ、何より徹君があの娘たちのことを知っているから」

 

 「……あ、テッちゃん知ってたんだ。……なら良いか」

 

 「良いんですか!?」

 「良いの!?」

 

 「ヒッ!?」

 

 私たちの会話にひなたちゃんと水都ちゃんが叫びツッコむ。それにびっくりしたひふみんが小さい悲鳴を上げながら明希ちゃんの背中に隠れ、おずおずと巫女の3人を伺うように明希ちゃんの肩からちょっとだけ顔を覗かせている。

 

 「「「…………か、可愛い」」」

 

 そんなひふみんを見て巫女の3人が感想を漏らす。

 

 「ええ、ハァハァ、本当に小動物みたいで可愛いわよね~、ハァハァ

 

 「ランちゃん、呼吸が激しくなってますよ?」

 

 おっと、あまりの可愛さについつい。

 

 「うーん、とりあえずは自己紹介からですかねぇ?」

 

 明希ちゃんの提案で私たちは巫女の3人にひふみんを紹介するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よう、真悟、景友、久しぶr…」

 「裏山死ねや!」

 「ファブレッ!?(悲鳴)」

 

 ゴキャッ ←真悟さんが兄さんを殴り飛ばす音

 ヒューゴロンッゴロンッ ←兄さんが勢い良く地面を転がる音

 ドゴンッ ←兄さんがそのまま近くの樹海の根っこにぶつかる音

 

 真悟さんと景友さんの元に着いた私たち。その後、兄さんが真悟さんに声をかけたら先程のように急に殴ってきた。

 勇者部の面々は急な展開について行けず固まっている。まあ、真悟さんとの付き合いが長い私たちなら何となく理由は解るけどね。

 

 「ふざけんな徹ごらっ!何ハーレム創ってんだテメー!しかも全員美人揃いだし羨ましいわ!だから、殴りました。反省はしません。後悔もありません。俺は悪くねぇっ!」

 

 ああ、やっぱりただの僻みか~。

 と、どこぞの親善大使のようなことを叫んでいる真悟さんに殴り飛ばされた兄さんがゆっくりとした速度で歩いて近づく。そして、

 

 「超振動パンチ!!」

 「アクゼリュウスッ!?(悲鳴)」

 

 ゴキャッ ←兄さんが真悟さんを殴り飛ばす音

 ヒューゴロンッゴロンッ ←真悟さんが勢い良く地面を転がる音

 ズサーッ ←真悟さんの顔面が地面を盛大に滑る音

 

 兄さんに殴り飛ばされた真悟さんは、数秒後に無言で立ち上がり兄さんに向かってゆっくりと歩いてくる。その間、兄さんはどこから取り出したのか髑髏のような仮面を身につけ、真悟さんを待つ。

 真悟さんは互いに一歩踏み出せばぶつかる位の距離でその歩みを止め、兄さんと真悟さんは互いに睨み合う。そして、真悟さんは、自身の腰に差してある刀の柄をゆっくりと右手で掴む。対して兄さんは脱力した体制で自身の左手に太刀を出現させて逆手に持つ。

 

 「「……………………………………」」

 

目と目が逢う~瞬間に~

 

 「(にぶ)れ!『無間喰(なまくら)』!!」

 

 「()かせ!『不見盾陣(エスクード)』!!」

 

生きる事を~投げ出さないで~

 

 シャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリンシャリン

 

 キシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャンキシャン

 

 互いに改号を叫びあい真悟さんの不可視の居合斬り(なまくら)と兄さんの不可視の受け流し(エスクード)がぶつかり合う。ところで、BGMが最初は『目が○う瞬間』だったのに途中から『D-tecno○ife』になってたのは何故?というか、このBGMはどこから聞こえてくるのかしら?

 

 「…………何でアイツらオサレバトル繰り広げてんの?」

 

 「さあ?それよりも、お久しぶりです、景友さん」

 

 「ああ、久しぶり、千景」

 

 「Ca fait longtemps, M.Akito.(お久しぶりです、景友さん)

 

 「おう、友奈も久しぶり」

 

 とりあえず、私とユウちゃんは景友さんと挨拶を交わす。そして、再度兄さんと真悟さんの方に視線を移す。

 兄さんたちは自分の獲物をしまい何故かボクシングを始めていた。あ、BGMがロッ○ーに変わってる。

 まだ時間が掛かりそうなので私たちは無視して会話を再開する。

 

 「そういえば、バーテックス…白玉擬きみたいな生物はどうしました?」

 

 「ああ、アレなら視界に写る範囲で全部潰したよ」

 

 「あれ?白玉擬きみたいなヤツ以外に巨大なヤツとか、他と姿形が違うヤツとか居ませんでした?」

 

 「ああ、居たな。魚や鳥みたいなヤツとか、刀や棒みたいな一回りデカいヤツとか」

 

 「ね~チカちゃん、その刀や棒みたいな一回りデカいヤツって」

 

 「ええ、間違いなく進化体ね。景友さん、その一回りデカいヤツも倒したんですか?」

 

 「ん?ああ、ただデカいだけだったからな。俺が刀みたいなヤツを。で、真悟が棒みたいなヤツを倒したな。……あれ?もしかしてダメだったか?」

 

 景友さんは、私たちが呆然とした態度で話を聞いていた為、何かまずいことをしたと思ったらしい。

 

 「あ、いえ、初戦闘で1人1体ずつ進化体を倒したなんて流石だな~、と思いまして」

 

 「そうか?図体ばかりデカくて白玉擬きと大差無かったぞ?」

 

 いや、バーテックスの進化体をしかも初戦闘で歯牙にも掛けないのは貴方たちだけですよ。

 

 「ところで、後ろの女の子たちは何処のどなた?」

 

 景友さんが私の後ろに視線を送りながら訪ねてきた。振り返り勇者部の面々を見ると兄さんと真悟さんの惨状を見て固まった状態から1人も回復していなかった。

 

 「ああ、彼女たちはかくかくしかじかなんです」

 

 「へ~、勇者ね~。…………まあ、色々聞きたいことは有るんだが、とりあえず、………何でかくかくしかじかで伝わるんだ?」

 

 「さあ?この世界だとそういうモノだと思って下さい」

 

 「ふーん。それじゃあ、仕方ないな」

 

 「いや、仕方なくねえよ!?」

 

 私たちの会話に真悟さんがツッコミを入れてきた。

 

 「あら、真悟さんお久しぶりです」

 

 「Bonjoru, M.Masato.(こんにちは、真悟さん)

 

 「うーす」

 

 「兄さんとのじゃれ合いは終わったんですね」

 

 「おう」

 

 「で?兄さんは?」

 

 私の質問に真悟さんは「ん」と言いながら後ろを指差す。なので、私たちが真悟さんの後ろを見ると、そこにはうつ伏せで倒れている兄さんがいた。

 

 「決め手は?」

 

 「無言の腹パン」

 

 「あ、私も真悟さんに聞きたいことが1つ有るんですけど、良いですか?」

 

 「何?」

 

 「真悟さんの卍解(ばんかい)ってなんて名前ですか?」

 

 「そこ!?友奈、そこ!?」

 

 「あ、それ私も気になる」

 

 「千景もかよ!?」

 

 「で?名前は?」

 

 「…………ぶっちゃけ考えて無かったわ」

 

 「あらら。………………なら、ここは兄さんに聞いてみましょう。と言うわけで、兄さんやさっさと復活しなさいな」

 

 「………最近妹の俺への態度が冷たい」

 

 「「ドンマイ♪(ざまあみろ)」」

 

 「友人すら冷たいorz」

 

 「とりあえず、まなこ和尚、名前を教えて」

 

 「おい!?誰がまなこ和尚だ、誰が!!………んー、虚無間浮喰(きょむまのうわばみ)?」

 

 「ほうほう虚無間浮喰か。……うん、流石現役厨二病!」

 

 「おいやめろよ」




古樹生華………ひどく困難なことの最中に、その状況を抜け出す方法を見出すこと。


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