ツインテールのスーパーヒーロー! (アサルトゲーマー)
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憧れ

 ヒーロー。

 

 それは子供の頃であればきっと誰もが憧れるものだ。古い世代で言えば月光仮面、今も続いている仮面ライダー、巨大ロボで戦う戦隊…それぞれに味があり、浪漫にあふれている。

 当然大人となっても憧れというものを捨てきれない人物もいるだろう。カッコいいものはいつまで経ってもカッコいいのだ。

 

 これは子供の頃からヒーローが大好きで、高校生になってもヒーローが大好きな、瑞鶴という少女のお話。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 五機の戦闘機がボーリングロボによって弾き飛ばされ、時空を裂いて過去へと飛んでいく。

 エジプト、ロンドン、月……様々な場所を経由して怪人の前に現れた戦闘機は空中で合体し巨大なロボットへと姿を変えていく。

 青いシルエットの人型が月夜に照らされて煌めく。このロボットこそ幾度と無く怪人を打ち倒してきたタイムレンジャーの誇るタイムロボだ!

 

「うっひょー!かっこいー!」

 

 ……テレビの向こうのロボに興奮して腕を振り回す彼女の名は瑞鶴。純真な心を忘れない高校生の少女だ。

 瑞鶴はこの番組を見るために倉庫から態々VHSとプレイヤーをひっぱり出してきてリビングに置いてある液晶テレビに繋いでいた。その恐るべき執念はひとえにヒーローに対する愛。

 アメリカナイズなマッチョネスヒーローが出てくる映画だって見るし、顔がアンパンな児童向けアニメも大好きだ。ロリの応援やふれあいによって無限大にパワーアップするマッチョな極楽鳥ロリコンが主人公のコミックだって持ってるし、時折ポーズを取って「ヘシン!」と叫ぶこともあるその姿はまさに少年そのもの。

 瑞鶴は少し変わった少女だった。

 

 瑞鶴がなぜ今日になってVHSを出してまで古い特撮を見ているのか。それにはちょっとした事情があった。

 

 

 

「進路…ねえ」

 

 夕方5時ごろ。学校から帰宅した瑞鶴は先生から渡された一枚のプリントに何を書こうかと頭を悩ませていた。

 それは進路希望を書くプリントで、進学するなら大学を、就職するなら会社を書かなければならない。だが瑞鶴には将来に対するイメージが全くと言っていいほどなかった。

 進学にしても就職にしても未来の自分が想像できないのだ。こうなりたいなーという夢というか、かないっこない希望みたいなものはあるのだが。

 

「あー、ショッカーとかが私を改造してくれないかなー。もうヒーローとして生きていきたい。誰かに感謝されて生活できるって最高だと思うんだけど」

 

 瑞鶴はダメ人間である。

 そんなダメ瑞鶴は現実逃避のためにVHSを引っ張り出し、「過去に戻って純粋なあの頃に戻りたいなぁ……」などと呟きながら、過去に戻って活躍するヒーローの話を見ているのだった。

 ちなみに進路希望には「ヒーロー」とだけ書いて名前も書かずに放置してある。瑞鶴は良くも悪くも純粋だ。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「つまり、ヒーローになってみないかい?と言っているんだ」

「はい?」

 

 その男は日曜日の朝に瑞鶴の家に現れた。とりあえず玄関で話だけでも聞いてみるか…と思ったのが瑞鶴の運の尽き、長々と話しこまれてしまった。

 一週間前の血液検査で血を抜いた事だの、深海からの訪問者(フォーリナー)だの、自衛隊で働いてみないか?だの…。正直今から見る予定のヒーローアニメに意識が向いていた瑞鶴は適当に聞き流していた。

 それを見ていた男は瑞鶴のソワソワしている姿を見てこれ以上の話は蛇足になると考え、玄関に転がっている「幕末ヒーロー大全」なる雑誌を横目にしながら興味を引けるように簡潔に言い渡した。

 そしてその目論みは大いに成功する。

 

「えっと、その。ヒーローってアレ?日曜朝とかにやってる……」

「そうとも。すこし錬成…訓練をする必要があるけど、君にはその素質がある」

「素質って?」

「君の血だよ。詳しくは言えないが君の血には特別なあるものを自在に扱える力がある。ヒーローで云う所の変身スーツかな?」

「変身!?」

「そう、変身」

 

 瑞鶴は興奮しながら仮面ライダーのような変身ポーズを取って見せる。男もそれに合わせて変身ポーズを取った。

 

「とは言っても顔は隠さない。今時のヒーローは顔を隠さないのがスタンダードだ。プリキュア然りね」

「ちょっと待ってよ!今でも顔を隠したヒーローいっぱいいるじゃん!」

「まあまあ落ち着いて。そのかわりカッコいい装備を提供できるから」

 

 ほらこれ、と男が一枚の写真を取り出した。訝しみながら覗き込んだ瑞鶴の目にはカッコいいブーツとイケてる胸当てを付けた自身の姉が映った。それだけでも十分驚きなのに水の上に立って微笑んでいる。アンビリーバブルであった。

 

「これ翔鶴姉じゃん!」

「気に入らなかったかい?」

「確かに結構いいかなって思っちゃったけど!なんで翔鶴姉がこんな恰好してんの!?しかも水の上浮いてる!」

「落ち着いて。君のお姉さんは今は自衛隊に協力してくれている。水の上に浮いているのはここでは話せない。ここにサインしてくれれば話は別だけどね」

 

 トントン、と一枚の紙を叩く男。それには自衛隊に協力する旨と秘密を他言しない約束、もし口にした場合の罰則について長々と書かれていた。

 むううと唸りながら熟読しようと頑張る瑞鶴だが今度は姉について気になってしまい、結局頭の中には何も入ってこなかった。

 

「…ねえ」

「なんだい?」

「簡単にまとめて説明してほしいんだけど…いい?」

 

 こてんと首を倒しておねだりする瑞鶴。男はハァとため息を吐いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

 これは瑞鶴がヒーローになるお話。

 




(続きは)ないです


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