イナズマイレブン〜紅蓮の華〜 (奇稲田姫)
しおりを挟む

第1章 序章
プロローグ


モスクワ。

露国主催フットボール選手権大会選手控えホテル付近。

 

 

 

 

 

馴染みのないレンガ造りの壁に背中を預けて曇天の空を見上げた俺のポケットに入れていた左手に軽い振動が伝わってくる。

 

特に視線を向けるわけでもなく、ゆったりとした動作でポケットから携帯端末を取り出すと知らない番号が映し出された画面が目に飛び込んできた。

電話帳に登録されている訳でもない電話番号からの着信に若干眉をひそめつつ俺は雪国特有の寒さによってそろそろ悴見始めた指でどうにかこうにか通話ボタンを押した。

 

「もしもし波久奴(はくぬ)です。……………もしもし?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……その通話の声はその当時から数日ほど時間が経過した今でも鮮明に俺の脳裏に記憶されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………砥鹿(とが) 火蓮(かれん)という人物に心当たりはあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

思いがけない一言に俺は反射的に聞き返した。

 

 

「カレンに何か用ですか?」

 

 

知らない人物からの電話なのに加え、何故自分のチームメイトの名前が上がるのか分からないことに若干の苛立ちを覚えつつも、電話の向こうの低音ボイスに流されるまま電話を続ける。

 

「彼女は近日開催が決まったFFI……通称フットボールフロンティアインターナショナル日本代表候補選手に抜擢された。」

 

「日本代表候補?」

 

FFI。

基本的に日本の大会とはほとんど無縁の自分たちにとってはどうせ縁のない大会だろうと思っていた矢先の出来事だった。

 

そもそもなぜ本人に直接ではなくこちらに連絡をしたのかという意図も不明。

 

「彼女にも近々連絡が行くだろう。要件は以上だ。手間を取らせてしまって済まない。それでは。」

 

「おい!ちょっと!………………切れた。」

 

なんだったんだ今のは。

見知らぬ電話番号から電話がかかってきたと思ったら、いきなり自分のチームメイトが日本代表候補に抜擢されたと突拍子もないことを言われた挙句、一方的に電話を切られたわけだ。

端末を耳から離し、画面に映し出された通話時間に1度舌打ちをしてからポケットに突っ込む。

 

それとほぼ同時くらいだろうか。

 

「おい、カオル!またてめぇはこんなところほっつき歩きやがって。明日日本に戻るんだからさっさと準備しやがれ。」

 

「洋か。」

 

「洋か……。じゃねぇよ。てめぇ以外の支度は出来てるんだぞ?」

 

神奈川県に建てられた比較的新しい学校、私立桜林学園。

そこは表の舞台とは異なり、人知れず日本全国から屈指の実力を持った選手をスカウトし、国内と言うより世界の各大会での成績を残すことを目的に作られた学校だ。

そのため、サッカーのみならずほかのスポーツでも国内の大会の出場はなくとも世界の各大会では割と名の知れた学校だったりする。そんな学校のサッカー部のフォワードを任されている目の前の少年は自分よりも僅かに低い身長とつり目、最後に頭にパイレーツハットのような帽子がトレードマークになっていた。

 

歌舞天寺(かぶてんじ) (よう)

 

その容姿も相まってみな彼のことをキャプテンと呼んでいる。

ただ、チームのリーダーという訳ではなくあくまでニックネームのようなもの。真のキャプテンは他にいるのだ。

 

そんな洋は面倒くさそうに舌打ちをしながら左手を腰にあてた。

 

「ホテル戻って身支度整えたらミーティングだって監督言ってたろ?」

 

「はぁ、言ってたな。」

 

「覚えてるんなら早く戻れ。出ないと…………」

 

そんな洋の言葉が終わらないうちに左手の手首に振動が走る。

 

どうやら監督が呼んでいるようだ。

 

手首に取りつけた青いリストバンドの細い液晶にメッセージが表示された。

 

"さっさと帰って来なさい!"

 

ついでに少しお怒りなのか。

 

「言わんこっちゃねぇ。」

 

「まぁいい。だだ、ロシアなんてなかなか来れないから観光がてらふらふらしていただけさ。やましいことなんてない。」

 

「どうだか。また、その辺の女引っ掛けようとしてたんじゃないのか?」

 

「まさか。」

 

「当たりだろ?」

 

「はずれさ。」

 

そう短く言い残し、俺はゆっくりと洋の横を通り過ぎていく。

 

俺は波久奴(はくぬ) 花王瑠(かおる)

 

私立桜林学園サッカー部、通称十二天王のキャプテンを務め、3人いるFW陣のトップを務めるストライカーの一角である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルロビー。

 

自動ドアをくぐると案の定監督が比較的高めの身長とスレンダーな体型で腕組をしながら仁王立ちしていた。

ついでに、額には青筋を立てて。

 

「カオル、またあなたはどこをほっつき歩いていたの!」

 

「ほっつき歩いていたと言う表現は少々外れています。曇天という悪天候の中でも美しい外観を損なわないモスクワの街並みと北国特有の冷たい空気を肌で感じていただけですよ。」

 

「つまり、理由もなく無断外出していたわけね?」

 

「無断外出とはまた酷い言われ用ですね。確か春紀には伝えておいたはずですが。」

 

「"監督、カオルが少し出かけてくるとの事です。と、伝えましたが監督に先に言わずに出かけて行ってしまったのでこれは無断外出ですよね?"との事よ?」

 

「はぁ。」

 

伝える相手を間違えたようだ。

 

こんなことならカレンにでも言っておくんだった…………カレン?

 

「っ!あ!そうです監督!さっき意味不明な電話が俺の携帯にかかってきたんです。なんでもカレンがFFIの日本代表候補に選ばれたとかなんとか。どういうことなんですか?」

 

そう言うと監督は腰までの長髪を僅かに揺らしながらため息をついた。

 

「あなたにも連絡が来たのね。まぁ、言葉のとおりみたいよ?明日選抜メンバーの顔合わせというか選考試合があるとかだから急遽さっき飛行機に乗せたわ。今から行けばギリギリ間に合うんじゃないかしら。」

 

「なんでまた。」

 

「こっちが聞きたいくらいよ。まったく、どこから情報を拾ってきたんだか。」

 

「カレンはなんて?」

 

「今までとは違った景色を見てきたい、だそうよ。」

 

「だそうよじゃないです。止めなかったんですか?」

 

「言ってあの娘が止まるならあなたも苦労してないでしょう?」

 

「…………失礼します。」

 

そう言い残してくるりと踵を返す。

 

俺たち十二天王のフォワードは俺と洋、そしてカレンのスリートップ。

その中でも群を抜いて決定力を持ったカレンがチームから一時的とはいえ離脱するということは、チームとしての力がガクンと落ちることと同意だ。

それをわかっていない監督じゃない。

何か考えが…………。

 

いや、さっきの表情は本当にどうしようもないと言った表情だ。

抵抗はしたのだろう。

それでも覆ることは無かったということか。

 

俺は携帯をポケットから取り出す。

 

そして、電話帳からとある人物の番号を表示させ、通話ボタンを。

 

「"もしもし?"」

 

「あぁ、サソリか。」

 

「"カオル?あんたから連絡してくるなんて珍しいわね。明日あたり嵐になるのかしら。ふふふ"」

 

数回の呼び出し音の後、スピーカーの向こうから少々トゲのあるような声が響いてくる。

 

電話の相手、佐曽利(さそり) アンはそんな声でケラケラと笑う。

 

「ふざけてる場合じゃないんだよこっちは。カレンが────」

 

「"カレンが日本代表候補に抜擢されたって?" 」

 

「あぁ、日本代表候補に………………なぜ知ってる?」

 

そう返すと電話の向こうの少女はくすくすと笑った。

 

「"そんなことだろうと思った。"」

 

「……。」

 

「"まぁ、知ってるも何もその話、うちの学校まで来たから。"」

 

「は?」

 

「"聞こえなかった?うちのチームのメンバーにもその話が来たって。"」

 

「誰に?」

 

「"スピカに。"」

 

「まぁ、納得は行くけど。ということはスピカも明日?」

 

「"行かないわよ?"」

 

「は?」

 

「"いやだって、当然じゃない。うちの貴重なストライカー陣の一角をどうして見ず知らずのチームのためにわざわざ差し出さなきゃいけないわけ?うちのメンバーはそんなに安くないのよ。"」

 

「そりゃそうだけどさ、よく断りきれたな。こっちの監督ですら折れたってのに。」

 

「"あら、そうなの?こっちも監督は折れたけど私が「でも、タダで参加させるなんて一言も言ってないわ。参加させたきゃ相応の対価を支払って貰わないと。でないと、割に合わないわ。彼女はそれほどの逸材なのよ。」って言って対価を要求したら渋々引いてったわよ?"」

 

「……お前、時々やたら凄いことをやるよな?」

 

「"当然でしょ?私はゾディアックスのキャプテンよ?メンバーを守るのは当然の責務よ"」

 

「はぁ、かなわないな。」

 

「"ま、カレンなら大丈夫でしょ?決定力だけならうちのスピカより上なんだし。"」

 

「天川のキャプテン様にそう言ってもらえるなんて、光栄だね。」

 

「"何言ってるんだか。じゃ、明日の朝こっちに着くんでしょ?それを選考会場までエスコートすればいいってことね?"」

 

「まぁ、いうなればそうだね。」

 

「"なんでライバルチームのメンバーをエスコートしなきゃいけないのかなんて思うけど、この際仕方ないわ。引き受けてあげる。でも、私もそんなに時間は取れないわよ?"」

 

「分かってる。確か明日からイタリアだったか?」

 

「"そう、あんた達がロシアから帰ってくるのと入れ替わりでね。なんでも、FFIイタリア代表と合同演習なんだってさ。そのためにわざわざ来てくれって。はぁ、面倒だわ。"」

 

桜林学園と同時期に設立され、目的も桜林同様世界に焦点を合わせた学校、同じ神奈川の私立天川学園中学校。

そんな学校で世界に羽ばたくサッカー部、通称「ゾディアックス」をまとめあげる毒舌キャプテンにして、魅毒の鉄蠍の異名をもつ世界基準だとしても鉄壁のセービング能力を誇っているのがこの電話の向こうの少女、佐曽利 アン、コードネーム「スコピウス」なのだ。

 

故に、桜林学園と天川学園は共に世界各地の大会で常に上位争いをしているようないわゆるライバル関係に当たるわけだ。それも相まってなのか分からないが、選手同士の仲は意外にも良かったりする。まぁ、試合になれば別だが。

 

「"ま、聞く話によると日本人がイタリア代表に選ばれたって聞くし。白い流星とどんな連携を取ってくるか楽しみではあるけどね。"」

 

「アルデナ君か。彼なら大丈夫だろう。じゃあ、明日は頼んだよ。カレンのことよろしく頼む。」

 

「"はぁ、あいよ。後で私とスピカにご飯の奢りだから。よろしくね。じゃあ。"」

 

「分かった。それじゃあ。」

 

その言葉を最後に俺は携帯を耳から離して通話を切る。

 

ついでに舌打ちしながら頭をガリガリと掻く。

 

どうせもうカレンは飛行機の中、電話したところで圏外だろう。

 

俺は手早く端末のアプリでメッセージを打ち込んで送信ボタンを押す。

 

ちょうどエレベーターの前で送信を終え、それをポケットに突っ込むのと同時に、エレベーターに乗り込むといつもより強めに3階のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

モスクワ空港発東京大江戸国際空港行き405便機内。

 

 

 

 

窓際の席で私は頬杖をつきながら窓の外からボーッと雲海を見下ろしていた。

 

日本代表、か。

 

そこならまた違った世界の景色が見えるのだろうか。

 

今までのチームに飽きたとかそういうものではなく、ただ単に興味本位と言った方がいいかもしれない。

 

それに、日本代表候補と言うだけにどんなすごい選手が集まってくるのかという点も興味深かったりする。

 

天川の選手達はいるのだろうか?

もしくはその他にも突出したセンスの持ち主でもいるのか。

 

いずれにしろ、私は私のプレーをするだけ。

 

そんなことを考えながら主翼の下を高速で通り過ぎていく雲を見ながらふと私は笑みを零したのだった。

 

その直後。

 

 

 

 

 

 

ピロン。

 

 

 

「ん?メッセージ?…………フフ、カオルからね。」

 

 

ここは既に雲の上。

本来ならば電波など届かない圏外のはずなのだが、なんの因果かそれとも偶然の産物なのか、受信したメッセージの文面を見た瞬間思わず声を出して笑いそうになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"カレン。君が決めたことなら文句は言わない。なら、その力存分に奮って、勝って来い。"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと数時間で日本に着く、か。

 

 




ん〜、そう言えば、ゲーム内のキャラを主人公にする場合って、『オリ主』タグ必要なんだろうか。

とりあえずつけておこう←


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 日本代表決定編
選抜メンバー集結


最近艦これの脚本ばかりで息抜き兼間の繋として書き始めたイナズマイレブンものです←

主人公は言わずと知れたイナズマイレブン3(もしくは2)の人脈ルートの最末端に位置するグランフェンリルを自力で覚えることで有名な少女、砥鹿 火蓮さんです←

この物語は基本的にはオリキャラは登場せず、全てアニメキャラ+ゲーム内で登場するキャラで書いていく予定です。
が、必殺技だけはどうしてもオリジナルになってしまうので、そこだけはご了承ください。


ついでに、一応どんな技がいいとかの案は受け付けますので活動報告の方にどしどし書き込んでみてくださいね←
ただ、やはり各キャラの技の枠は決まってるので出してもらった案を全て出すことは難しいということだけははじめに、謝っておきます。


それでは
本編スタート♪


東京大江戸国際空港。

 

 

私はキャリーバッグをゴロゴロと転がしながらゲートをくぐり、自動ドアを抜けた。

 

「…………暑い。」

 

ここ一週間ほどモスクワに滞在していたためか、日本の早朝の気温でさえ若干の暑さを感じてしまった。

この寒暖差があるからロシアは正直あまり好きになれない。

 

スマホを持つ左手で日差しを避けながらため息をひとつ。

 

ちょうどその時、日除けにしていたスマホの画面に天川学園のキャプテン、佐曽利 アンから通知が入った。

 

 

 

"着いた?"

 

 

 

確かカオルが言うには選考試合の会場、雷門中学校までは天川の佐曽利(さそり) アンとヴァーゴこと早乙女 スピカが案内してくれるらしい。

 

 

 

「着いた……っと。」

 

 

 

手早く返信し、自動ドアの前からゆっくりと日陰から出ないように移動する。

 

確か集合時間までは…………あと1時間か。

 

返信ついでに時計も確認してポケットからモスクワの売店で買った棒付きの飴玉の封を切った。

 

やはり日本のお菓子に比べて少し甘みが強い。

 

ロシアはあまり好きにはなれないが、甘いもの好きの私にはちょうどいい甘さだった。

 

メッセージを返してから数分後。

不運にもすぐに棒から外れてしまった飴玉を口の中でコロコロさせていると、迎えのふたりが到着した。

 

黒く長めの髪を後ろで比較的大きな編み目の三つ編みを首に巻き付けるように右肩に乗せておりさながら蠍の尻尾を連想させた。視覚的にも蠍を彷彿とさせるハサミのような前髪をしており、長髪の先端と共に毛先だけ紫色が入れられている少女。

佐曽利 アンこと『魅毒の鉄蠍』スコピウス。

 

その隣で笑顔を浮かべている少女は肩のラインよりも少し長めな若干暗いピンク色の髪が特徴のつり目が印象的なアンとは対照的にたれたアイラインと相まってどちらかと言うとほんわかとした印象を受ける少女だ。

早乙女 スピカ。

世界の大会でも折り紙付きで私と同等の得点力を誇ったゾディアックスのエースストライカー、『星刻のストライカー』の異名を持つヴァーゴと呼ばれている。

 

「久しぶりねカレン。その変に長くて曲がってるクセ度MAXの前髪も相変わらずみたいね。」

 

「アンも久しぶり。その毒舌は前よりキレが落ちてるんじゃない?」

 

「そんなことないわよ。」

 

「一週間ぶりなんですけどね。火蓮さん。」

 

「そうね。」

 

アンと毎度お馴染みの会話を交わし、朗らかなスピカと軽く言葉を交わしてからキャリーバックを転がしながら2人に並んだ。

 

しばらくの間、ロシアでの試合の結果報告やプレー関係の雑談などを続けたあとスピカが本題を切り出した。

 

「にしても、日本代表候補の話を火蓮さんが承諾するなんて思ってませんでした。と言うより、そちらの監督がOK出すなんて。」

 

「そこなのよね。私としてはあんたがいないと張合いが無いのよ。なんでまた日本代表候補なんかに参加しようと思ったわけ?」

 

「また唐突に。」

 

「細かいことは気にしないのよ。」

 

「だって、気になるじゃないですか。あの十二天王のエースストライカーが自分のチームを一時的とはいえ離脱する決断をした理由。カオルさんとも相談はしたのですか?」

 

早朝の横に長く伸びた日陰だけをあっちこっち変えながら3人並んで歩いていく。

アンを真ん中に左側がスピカで反対に私と言った配置で歩きながらスピカの問いに小さく笑みを零した。

 

「カオルにね。相談する時間もなく飛行機に乗っちゃったから。でも、連絡は来たみたいで…………ほら。」

 

そう言いながらポケットに入れていたスマホを取り出して、カオルから送られてきたメッセージを画面に映し出す。

 

「なになに?うわ、またカオルらしくない文面。普通すぎ。」

 

「いいじゃないですか。応援してくれてるみたいですし。」

 

文面を見た瞬間若干引き気味のアンに対して、嬉しそうにニコニコするスピカ。

 

「とまぁ、カオルの件はこんな感じ。で、どうして参加する気になったのかと言うと…………。」

 

「言うと?」

 

「アンさんも興味津々ですね。」

 

「うっ……うるさいわね。ほら、早くその『言うと。』の先を言いなさい。」

 

「はぁ、せっかちなのも相変わらず、か。モテないわよ?」

 

「……へぇ、言うじゃない。ちょっとグラウンド入りなさいよ。」

 

「上等じゃない。飛行機に揺られてたおかげで体がなまってるの。」

 

「あの、話が進まないんですけど……。」

 

危うく話が脱線しそうになるのを辛うじてスピカが修正を加えた。

 

「ま、勝負ならいつでも受けてあげる。それより、私がどうして参加する気になったのかってことよね?」

 

「そうよ。」

 

ため息をつくアンから視線をそれに泳がせて立ち止まる。

 

「……たまには違うチームから世界っていう景色を見てみたくなったのよ。」

 

私の一言にアンとスピカが顔を見合わせた。

 

「あなた…………いつからカオルみたいに小っ恥ずかしいセリフを平気で吐くようになったわけ?」

 

「いや、酷くない?」

 

「でもそんなカオルさんみたいな言い回しを火蓮さんがするなんて思ってなかったので。」

 

「これは本格的に天変地異の予感ね。」

 

「昨日は雹が降るって言ってませんでした?」

 

「あなた達…………。」

 

ため息をつく私には何も言い返せるネタがある訳じゃないので、その先を喋ることなく肩を落とす。

 

そんなやり取りを続けていながら電車とバスを乗り継ぐこと1時間、東京の市街地を抜けて河川敷へ。

そこから川に背を向けるようにアスファルトの道を北上していけば目的地に到着した。

 

どこにでもあるようなシンプルな正門とその正面に広がる広大な敷地のど真ん中に位置したサッカーグラウンドと「雷」のロゴが大きく描かれた4階建ての校舎が目に飛び込んでくる。

噂によると先日ニュースで話題になっていたエイリア学園事件によって1度校舎は崩壊しているらしく、今見えているこの校舎はその後再建されたものらしい。

左手に見える正面の校舎とは造りもデザインも異なる校舎を見れば一目瞭然か。

 

雷門中学校。

 

例のエイリア学園事件を解決したという自称地上最強イレブンを作ったチームの所属する学校だ。

 

あいにくそのニュースを見ていた時には日本にいなかったため実際はどのようなことが起こっていたのかというのはテレビという画面越しにしか分からなかった。

 

そんな雷門中であるが。

 

さて、確か選抜候補メンバーの集合場所は…………。

 

 

 

「体育館……か。」

 

 

 

そう呟いた私達の横を僅かに髪が揺れ動く程度の風が通り過ぎていく。

 

「…………ってどこよ。」

 

私のどう考えても至極もっともな質問に対しても、案内役の2人は溜息をつきながら首をふるふると横に振っていた。

 

……いや、なんで案内役の2人も知らないのよ。

 

「え。それじゃあどうするのよ。」

 

「知らないわよ。」

 

「なんで。案内役なんじゃないの?はぁ、てことはその辺歩いてる生徒にでも聞かなきゃいけないわけね。」

 

「賛成。」

 

「いいのでしょうか。」

 

「じゃあ、スピカは他にいい案があるの?」

 

「…………聞き込みしか無いみたいですね。」

 

「はぁ、もう少しマシな案内役が欲しかったわ。」

 

そうすたすたと前を歩く私のつぶやきにも似た小言は幸運にも後ろの2人には聞こえていないようで、ため息を漏らす。

 

そんなことを考えながら3人は第1村人ならぬ第1生徒にコンタクトするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火蓮(かれん)達が体育館への道を聞き込みしているその頃、体育館では。

 

 

1人の少年が体育館の片隅で気配を殺しながら壁にもたれかかっていた。

ここに居るのはざっと見渡して20人と言ったところか、自分を含めて21人。

 

面倒だ。

 

小さく舌打ちをして足元のボールを軽く蹴りあげてポンポンとリフティングをはじめた

 

そして、自分を勧誘した響木という男の登場とともにそいつの元に人だかりができはじめる。

 

俺は溜め息と同時に口角を不気味に釣りあげながらその中の一人、赤マントにゴーグルを装着した少年に向かって足元のボールを思い切り蹴りこんだ。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

不意打ちだとしても瞬時に体を切り返して正確にボールを蹴り返してくるあたりそこそこ反応速度はいいようだ。

 

この行為に対してゴーグルの隣の眼帯が声を荒らげた。

 

「不動!」

 

驚愕の表情を浮かべるゴーグルに向かって、蹴り返されたボールをポケットに手を突っ込みながらトラップし、そのまま床に思い切り押さえつけるようにボールに足を乗せた。

 

「不動!なんの真似だ。」

 

僅かに眉を寄せるゴーグルの少年、鬼道に向かって軽く鼻で笑いながら言葉をつなぐ。

 

「挨拶だよ挨拶。洒落のわかんねぇやつ。」

 

そう言うと再び眼帯、佐久間が今度は響木に対して声を上げる。

 

「響木さん!まさかあいつも!」

 

そんな様子の佐久間の予想通りというような反応に何故か響木はニヤリとした。

 

「これで残るメンバーはあと一人か…………」

 

そんな響木に1番近くにいた額にバンダナのようなものを巻いた暑苦しい熱血バカ、円堂が反応する。

 

「これで全員じゃないんですか?響木さん。」

 

「あと一人…………来たようだな。」

 

正直この俺、仲間とか信頼とかその類のものが大嫌いな不動 明王にとっては残りのメンバーが誰だろうが興味すらないのだが、今回ばかりはその最後の一人の姿を見た瞬間動揺した。

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。飛行機の時間がギリギリだったもので少し遅れてしまいました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう真ん中の少女が言うのとともに後ろにいた2人が片やため息を漏らし、片やにこやかに会釈をしている。

 

 

 

「さて、お()りも済んだし私達は帰るからね。あとはよろしく。」

 

「では、カレンさん。頑張ってくださいね。」

 

 

 

そう言ってキャリーバッグの少女と一緒に来た2人はそれぞれの言葉を掛けて立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館の入口に現れた3人の少女。

 

ここにいるお花畑の連中はどうだか知らないが、この3人は…………。

 

 

 

その3人の中で真ん中にいた少女。

僅かにグレーの混じったようなブラウンの髪は前髪に特徴的なクセがあり、遠目に見るとまるで三日月でも見ているかのような長い髪が特徴の手にはキャリーバックを転がしている少女。

 

恐らくあいつが響木の言う最後の一人と言うやつだ。

 

そいつだけでも相当有名なのだが…………。

 

それと同等に後ろにいた2人も本来こんな所にいていい人物ではなかった。

 

 

 

 

「女の子?これはまた意外だな。」

 

ピンク髪の日焼けで真っ黒な少年、綱海が呆れたように言う。

 

「確かに意外だね。」

 

薄めの水色の髪を両サイドで外ハネさせた少年、吹雪が便乗。

 

どいつもこいつもその最後の一人のことを知っているやつなど居ないようだ。

やはりこいつらに期待など…………。

 

そんなことを考えているうちに響木が何かを話し始めた。

だが、話の内容は全く頭に入ってこない。

 

俺の頭の中はどうしてこんな大物、砥鹿 火蓮がここに居るのかという事で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

「不動!」

 

 

 

不意に名前を呼ばれた。

 

 

 

 

「っ。」

 

 

その声で我に返る。

 

 

 

 

「お前は鬼道のチームだ。」

 

 

 

「へっ。」

 

 

 

代表選考試合のチーム分けを聞いた俺は1度鬼道に視線を移してから、ゆっくりと移動する。

 

そして、ニヤニヤとしながら軽く頭を下げた。

 

「どうぞよろしく、鬼道クン。」

 

「黙れ!」

 

例にもよって最初に突っかかってくるのはやはり佐久間か。

佐久間は…………へっ、向こうか。

 

鬼道に関しては冷静さを保っているようだが…………どうだろうなぁ。

 

「ご不満のようだけどさぁ。俺だって響木監督に認められてここに来てんだ。」

 

「……分かっている。」

 

「分かりゃいいんだよ分かりゃ。へへ。」

 

俺はそう言い残して後が面倒なのでその場を去っていく。

そのついでに視線だけを軽く火蓮に向けた。

 

この視線と火蓮の視線がたまたま重なった。

 

「よろしく。」

 

「…………ふん。」

 

なんだ、こいつも同じチームかよ。

複雑だ。

 

 

俺は体育館を出てすぐの所で思い切り地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

時刻は正午。

 

朝方東の空で鮮やかに輝いていた太陽も、今や天球の中心でギラギラと地表の気温上昇に大いに貢献している。

 

持っていたキャリーバッグを体育館の隅に置くと早速練習のためにゾロゾロとこの場所から立ち去っていく選抜メンバー達を見送りながら徐々に静けさを増していく館内で大きく伸びをした。

 

この後はとりあえず選考試合までの2日間はそれぞれのチームで練習ということになった。

元帝国の鬼道 有人のチームに分けられた私は雷門中ではなく、河川敷のグラウンドで練習することになった。

 

しかし、初日だと言うのに既にジャージ姿でやる気満々の男子達には申し訳ないが、私は空港から直接ここに来たためバリバリの私服だった。

とりあえず練習着に着替えてから向かうとキャプテンの鬼道くんには伝え、誰もいなくなった体育館の隅で手早くキャリーバッグから練習着を取り出してサッと着替えを済ませた。

 

キャリーバッグはさすがにここに置いておくわけにもいかないので練習着のまま再びゴロゴロと転がして行くはめになった。

 

そのせいで小さくため息を漏らしながら体育館を出たその直後。

 

意外というか案の定というか、とある人物から声をかけられた。

 

 

 

 

「待てよ。どうしててめぇがこんな所にいる?」

 

 

 

 

他のみんなが練習着やジャージでいる中私服という完全に浮いた外見に、モヒカンという特徴的な髪型をしたつり目の少年が近くの木にもたれ掛かりながら眉を寄せてポンポンとリフティングをしていた。

 

 

 

 

「どうしてって、それはあなたにも同じことが言えるんじゃないの?不動」

 

 

 

 

 

不動 明王。

1度愛媛まで遠征に言った時に、当時の真・帝国学園が設立してからまもなく練習試合に行った時に知り合ったというか顔見知りになった。

これほどの逸材をこんな所で腐らせておくには勿体ないとうちの監督も言っており、1度勧誘を試みたのだが見事に断られたという思い出もあった。

 

「はっ。これはこれは、世界のトッププレイヤー砥鹿(とが) 火蓮(かれん)様に覚えていてもらえるなんて光栄だね。」

 

「そっちこそ私のことを覚えているなんてね。」

 

「…………ふん、忘れるわけねぇ。あの日の屈辱はなぁ!」

 

「屈辱って、単にあなた達が試合にならないほど弱かっただけじゃない。それから実力はつけて来たんでしょ?」

 

「当然。一泡吹かせてやるから覚悟しな。」

 

「同じチームなんだけどね。」

 

「選考試合なんだ、同じチームでも蹴落とす時は蹴落とすさ。」

 

「あら怖い。じゃあ、蹴落とされないように注意しないとね。」

 

私の言葉に不動はふんと鼻を鳴らしてポケットに手を突っ込んだままリフティングしていたボールを1度大きく蹴りあげると、そのままこちらに向かってシュートしてきた。

 

咄嗟にボールの正面から体を逃がして右足のトラップから今不動が行ったように彼の正面に向かってボールを蹴り返す。

 

それを私と同様のトラップでボールの勢いを殺すとそのままポケットに手を入れながらダンと地面に押さえつけた。

 

「…………挨拶がわりってわけ?」

 

「あぁ、挨拶がわりだ。ハハッ」

 

そう言いながらニヤリと口角を上げてから踵を返す不動の背中を見ながら先程トラップをした右足のインサイドに視線を落とした。

 

「(確かに、実力はあの時とは比べ物にならない、か。)」

 

未だにジンジンと麻痺する右足を気にすることも無く再び私はキャリーバッグを転がして河川敷を目指した。

 

 

 

 

 




キャラ紹介

プロローグ

波久奴(はくぬ) 花王瑠(かおる)
登録名:カオル
ポジション:FW
→白の混ざった金髪で癖の強い長めの髪と細く半開きの瞳が特徴的なストライカー。神奈川の私立桜林学園サッカー部に所属しており、チーム名「十二天王」のキャプテン。マイペースな性格とキザったらしい言い回しのセリフをよく好み、目を離すとすぐ道行く女性にナンパするほどの女好き。しかし、試合中はなぜだかプライベートとは打って変わって冷静にグラウンドを見渡せるほどの広い視野とFWのポジションにいながらゲームメイクを出来るほどの腕前。


歌舞天寺(かぶてんじ) (よう)
登録名:キャプテン
ポジション:FW
→身長はカオルよりも僅かに低く、キツめのつり目と頭にのせた海賊帽が特徴の十二天王FW陣の左サイド。十二天王の中で最も海が好きな少年で、そのおかげなのか体力はチーム内でダントツ。基本的に小技は苦手。その反面ボディの強さとドリブルのスピードは世界でも折り紙付き。


佐曽利(さそり) アン
登録名:スコピウス
ポジション:GK
→桜林学園同様、神奈川に校舎を構える私立天川学園中学校サッカー部のキャプテン。チーム名「ゾディアックス」の誇る不動の鉄壁GK。『魅毒の鉄蠍』の異名が示すように、魅力的な容姿とは裏腹に毒舌の持ち主。そして、彼女がゴール前に鎮座している限りまるで蠍が一瞬にして死角から獲物を一突きするかのような必殺技で無力化されてしまうという噂がある。



第1章

砥鹿(とが) 火蓮(かれん)
登録名:カレン
ポジション:FW
→カオル、洋と同じく「十二天王」に所属するFW陣の右サイド。本作品の主人公。世界でも指折りの得点力を誇るチームのエースストライカー。炎のように激しいプレーと共に時に鮮やかなトリックプレーを挟んだりと、意外に器用な1面もある。遠目に見ると三日月にでも見えるような大きくカーブした前髪は彼女のトレードマークみたいなものであるが、実際はただのくせっ毛。甘いものが好きで、好物はスピカの作るクッキー。

早乙女(さおとめ) スピカ
登録名:ヴァーゴ
ポジション:FW
→アンと同様天川学園中学校の「ゾディアックス」所属でチームのエースストライカー。小豆色にも似た色の長めの髪と垂れたアイラインも相まって全体的にほんわかとした雰囲気を醸し出している少女で、どんな時でも笑顔が良く似合う少女。しかし、その実態は十二天王のカレンと肩を並べて得点力を競えるほどのストライカー。料理が得意で結構頻繁にお菓子を作ってはいろんな人に食べてもらっている。



とりあえず今回はここまで←

また次回、お楽しみに♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

選考試合 前編

とりあえずなんとか書けたので投稿。


言い忘れていましたが、候補メンバーに火蓮が加わってしまったことで原作と比べてストーリーに若干の変更点が生じてしまいますのでご了承ください←



では、本篇どうぞ←


雷門中に日本代表候補メンバーが招集されたその翌日。

 

その選考試合のチーム分けで元帝国学園の鬼道有人のチームに配属された私は、雷門中に通う知り合いの家の一室で洗濯から上がったばかりの練習着に袖を通していた。

立てかけの姿見を見ながら僅かに目を細める。

 

昨日の練習でこちらのチームの戦力は何となく分かってきた。

 

主なストライカーはあのサッカーの名門校、木戸川清修から転校して来た炎のストライカー豪炎寺修也、FWとして機能できるのは彼と私…………それからあの宇都宮虎丸という何故かシュートを打とうとしない不思議な少年の3人のようだ。

豪炎寺修也は有名だが、宇都宮虎丸の方は正直言って情報がない。

実力の底が分からないと言えばいいか。

ただ、シュートを打たないというのはFWとしての存在意義を問われそうなものだが、黙っておく。

 

そしてMF。

天才ゲームメイカーと呼ばれる元帝国の鬼道有人を始め、真・帝国の不動、噂に聞くエイリア学園から緑川リュウジの3人。

鬼道と不動の個人的なスペックは言わずもがなではあるが、積極的にチームの中心としてあっちこっちに指示を出している鬼道とは対照的に不動の方は相変わらず。

見てるこっちが溜息をつきたくなるほど。

で、…………緑川リュウジ()があのエイリア学園の元メンバー。

確かに見たところフットワークや突破力と言った基本的なステータスは比較的高めと見えた。

 

DFはフットボールフロンティアの裏の王者と名高い漫遊寺から木暮夕弥、雷門中の風丸一郎太、目金一斗、闇野カゲトの4人。

あの漫遊寺が表にでてくるのは予想外ではある。

確かに、小回りの効く小柄な体格と高いディフェンス能力は相当なものだ。

風丸はスピード、闇野はブロックが他とは飛び抜けたステータスと言える。

が、目金。

確かに悪くない動きではあるのだが………………あの響木という男の選考基準に疑問を抱かざるを得ない。

 

最後にGKは立向居勇気。

………………誰?

学校名は…………陽花戸中学校?

知らない学校だ。

この選考試合に呼ばれているのだから確かな実力は持っているのだろうが、高々1日一緒に練習をしただけではその実力は未知の一言に限る。

昨日見た限りでは確かにGKとしてのセンスはある方だと感じたくらいだ。

 

もう一度言うが、あの響木という男の選考基準が分からない。

 

確かに名実共に有名な学校から引っ張ってきている選手もいれば、全くの無名と言っても過言ではないのかと思うほどの学校から引っ張ってきた選手もいる。

単に選手自体が有名なのかもしれないが、少なくとも私は耳にしたことは無い。

 

なんにせよ、試合はこのチームで行われる以上文句は言えないが。

 

そういえば、昨日不動が味方でも蹴落とす時は蹴落とすって言ってたけど、不動と私じゃポジションが違うのよね。

争うだけ無駄だと思うけど。

そこのところわかってて言ったのか。

 

まぁ、そういう勝つことにとことんこだわるその姿勢はあの時から何一つ変わってないようだ。

 

そんなことをダラダラ考えつつ、スマホを起動させて来てるかどうかもわからないメッセージのチェックを入れる。

 

そこで再びため息をついた。

 

画面に映し出されたのは、「メッセージ件数22件」の文字。

 

 

 

「22件って…………なんでまた1人一言ずつ律儀に送ってくるのよ。あ、監督からも………………はぁ!?明日の選考試合見に行きますぅ!?」

 

 

 

危うくスマホを落としそうになった。

 

世界各国どこもかしこもFFI。

そんな最中大会などどの国でも開かれる訳もなく日本代表として試合に出る訳でもないので余程暇なのだろう。

明日の選考試合、うちのチーム「十二天王」の面々がどういう風の吹き回しなのか見に来るらしい。

…………見に来るだけで済んで欲しいものだが。

 

「行ってきます!」

 

私は慌ててバッグを引っつかむと遅刻しそうになったことをメッセージのせいにして知り合いの家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

河川敷。

 

「ごめんなさい。少し遅れちゃったかしら。」

 

「砥鹿か。大丈夫だ。まだ全員揃ってはいない。」

 

「全員じゃない?」

 

河川敷のベンチに持ってきたバッグを下ろし、軽く腕のストレッチをしながらグラウンドを見据えて腕組をするゴーグル+マントの少年、鬼道 有人の横に並ぶ。

 

全員じゃない?

見たところ昨日のメンバーは全員…………あぁ、いや。

 

無意識のうちにため息が漏れた。

 

「はぁ。不動ね。」

 

「あぁ、まだ不動が来ていない。」

 

「来ると思う?」

 

「期待はしていない。ただ、今はチーム。全体のリズムを崩す訳にもいかない。」

 

「ごもっともだわ。」

 

鬼道くんの隣から既にグラウンドに集まっていた他のメンバーを流しみる。

各々ペアを作ってストレッチを始めていたり、軽くパスをし合っていたりとしっかりウォーミングアップを行っていた。

 

私も両腕のストレッチを切り上げ、アキレス腱を伸ばしてからちょうど近くに転がっていたボールを蹴りあげて2、3度ポンポンと足の上で跳ねさせてから軽く隣の鬼道くんにボールを渡した。

 

「付き合ってもらっていい?」

 

「ふ、構わない。」

 

と何となくパス練習をやる雰囲気を作ってみたが、それ以前に柔軟などのストレッチをほとんど行っていない私にそんなわざわざ怪我しに行くような行為を行えるはずもなく、やることはとりあえず柔軟。

それのパートナーが欲しかった。

 

一通りのストレッチを鬼道に背中を押してもらいながらこなし、ついでに鬼道くんにも同じく背中を押してやる。

 

そんな調子で集合時刻からちょうど30分が過ぎた辺り。

 

「そろそろウォーミングアップもいいだろう。みんな!集まってくれ!これからパスや陣形の確認を各ポジションに別れて練習を行う!立向居には豪炎寺、砥鹿の2人がシュート練習も兼ねて付いてくれ。」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「あぁ、分かった。」

 

「了解したわ。」

 

鬼道くんの指示にグッと気合いの入ったガッツポーズをする立向居くんに、クールな反応を示す豪炎寺くんと何だか難しい顔をする宇都宮くん。

それをちらりと横目で見てから再び鬼道くんに視線を戻した。

 

「風丸、目金、緑川の3人と俺、闇野、木暮の計6人はパス回しの確認とポジショニングを実戦形式で行う!」

 

「分かった。」

 

「分かりました。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「了解した。」

 

「うん、わかったよ。」

 

MF、DF陣に指示を飛ばし終えた鬼道は最後に宇都宮くんに視線を向ける。

 

「それから虎丸。お前にはチームの起点として動いてもらいたい。」

 

「起点!?ぼ、僕がですか!?」

 

いきなり何を言い出すのかと思えば。

 

「そうだ。昨日の練習。虎丸のパスのタイミングや正確性を考慮した結果、俺たちMFから回ってきたボールをFWの豪炎寺と砥鹿に繋ぐ役割を行ってもらいたい。出来るか?」

 

「そ、そんな重要なこと、僕がやっちゃっていいんですか!?」

 

「あぁ、これはお前にしか出来ない。」

 

「…………分かりました。やってみます。」

 

「まずは俺たちMF陣とDF陣の動きを見てもらいたい。だから少しの間グラウンドの外から観察してみてくれ。1時間後に今度はピッチの上で実際に動きながら指示を出す」

 

「はい!」

 

なるほど鬼道くんも少なからず疑問は抱いているわけだ。

しかしそれがこの少年、宇都宮虎丸のプレースタイルだと思ったのか。

その辺の立ち回り方は不動の方が適任なのではないかと思ったりもしたが、この場所に当の本人が不在なのと彼とこのチームとの摩擦の強さが大きすぎるのであえて口にはしないでおこう。

 

確かにFWとMFの繋ぎとして動かしていれば前の2人にマークがピッタリとついてしまっていれば当然パスなど通るはずがない。

点を取るためにはおのずと自らがシュートに持ち込むしか無くなるわけだ。

 

そこでどう動くかを鬼道くんは見極めたいのか。

 

「では、各自グラウンドに入れ!」

 

その一言でメンバーがそれぞれグラウンドに散っていく。

 

私は指示通り同じFWの豪炎寺くんとGKの立向居くんと共に片方のゴールネットの前に集まった。

 

やることは昨日の最後に行ったシュート練習兼セービング練習との事らしい。

 

片方が打ったシュートをキーパーが止める、これの繰り返し。

 

「それじゃあ御二方!お願いします!」

 

ゴール前に立った立向居くんがグローブをパシンと1度叩いて腰を落とす。

 

「行くぞ立向居!」

 

「しっかりとゴールを狙いに行くからね。」

 

「はい!」

 

気合いの入った掛け声とともにまずは豪炎寺くんが一発目のシュートを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻。

 

 

「よし、今日の練習はここまでだ。明日はいよいよ選考試合。みんな、自分の全てを出して望むんだ!」

 

 

太陽も西に傾き、地平線ギリギリのところで赤く変色し始めた頃。

額の汗を軽く拭った鬼道の声がグラウンドにこだました。

 

それと同時にみんな一斉に脱力する。

 

中にはその場で大の字に倒れているメンバーもいた。

 

私もその場で乱れた息を整える。

ついでに足元のボールを拾い上げながら隣の豪炎寺くんに話を振る。

 

「ふぅ、なるほど、凄いわね彼。」

 

「立向居か?」

 

「そう。センスって言うのかしらこれは。」

 

「そうかもな。何せ円堂の技を見様見真似で再現出来る程らしいからな。」

 

「技……必殺技ってこと?なるほどね。正直なところ日本代表候補のGK枠は円堂くんと帝国の源田くんだと思っていたんだけど。」

 

「源田を知っているのか?」

 

「知っているも何も有名じゃない。帝国の『KOG(キング・オブ・ゴールキーパー)』源田幸次郎。むしろ正GKだと思ってた。でも、なんとなく立向居くんを選んだ理由、わかるかも。」

 

「確かに俺も最初見た時は驚いたな。円堂に負けず劣らずのガッツと気迫は凄かった。…………そういえば、砥鹿。」

 

「火蓮でいいわよ。」

 

「ふむ、火蓮は不動のこと、知っているのか?」

 

「へ?」

 

あまりにもド直球な質問に一瞬だけ目を丸くする。

 

「いや、すまない。答えられないならそれでもいいんだ。正直に言うと俺はあいつとほとんど面識が無いんだ。ただ、その不動に対して鬼道や佐久間と言った帝国の面々に加えて色んなやつが不信感を抱いていたからな。でも、なかなか当の本人達には言いづらい。そんな中お前と不動のやり取りが周りと違ったから聞いてみただけなんだ。」

 

…………。

なるほど。

まぁ、あんなつんつんした態度を取っていたらそれは少なからず疑問は抱く人も出てくるわよね。

 

「別に私としては答えられない内容じゃないんだけど。彼の…………不動のプライドに深く関係する内容なのよ。」

 

「プライド?」

 

「そう、プライド。うん、今の段階で言えることはちょっとした顔見知りって感じかしら。」

 

「ふ、なるほどな。まぁ、深く詮索はしないでおこう。」

 

「そうしてあげて。」

 

ふっと小さく笑う豪炎寺くんに向けて軽く苦笑いしながら二人並んでベンチに戻る。

結構思ったより話し込んでいたのか、ほかのメンバーはもう誰もいなかった。

ついでに先程まで西の空で赤々と燃えていた太陽の姿はもう地平線に半分ほど埋まってしまっており、空の大半は夜空となってしまっていた。

…………このグラウンドは夜でも使う使わないに関わらずナイターが着くのか。

電気代が大変なことになっていそうだ。

 

まぁ、これに関してはそんなはずもなく照明は必要だから着いているだけだったりする。

 

そこでちょうど荷物をまとめ終わった豪炎寺くんがカバンを肩にかけた。

 

「?火蓮は帰らないのか?」

 

「私はもう少し練習を………………いや、練習に付き合ってやろうかな〜って思っただけよ。」

 

「練習に付き合う?」

 

「そう。そろそろ来るんじゃない?あ、ほら。」

 

そう言いながら私はにやにやしながら階段の上を指さす。

 

「?…………!不動!?」

 

そこにはいつもの私服に身を包んでポケットに手を突っ込みながら右足でボールを押さえつけている不動の姿があった。

 

ついでに私が指をさした瞬間舌打ちしたわね。

 

意外な人物の登場に豪炎寺くんが目を丸くする。

 

そんな豪炎寺くんの横を不動は面倒くさそうに通り過ぎる。

 

「どうしててめぇらがこんな所にいんだよ。」

 

土手の少し長めの階段を降りきった不動は私の前まで来ると心底嫌そうに眉を寄せた。

 

「なによ。いちゃ悪いわけ?そもそも、私たちの練習グラウンドはこの場所だし、たまたま練習後に豪炎寺くんと話してたら時間が過ぎちゃっただけよ。」

 

その一言で不動がキッと豪炎寺くんを睨む。

 

「で、事のついでだから一人寂しく練習をするサッカー少年の練習相手になろうかなと思って。」

 

「てめぇ…………。」

 

「偶然よ偶然。」

 

「はっ!偶然ね!知ってて残ったクセに何言ってんだか!」

 

「分かってるなら話は早いわね。」

 

「ふざけんじゃねぇぞ!誰がてめぇなんかと!あぁあ。興が醒めた。じゃあな。」

 

そう言って踵を返す不動に向かって私はある意味挑戦状………………いや、挑発を促す言葉を投げかけた。

 

「まって。せっかく二人揃ったんじゃない。あの日の続きしましょうよ。」

 

「あの日?」

 

あの日。

そう、あの日とは不動と私が初めて出会った日のことを指している。

試合でボロ負けした不動が私に仕掛けてきた挑戦状、その途中でうちの監督の怒声によって中断されていた勝負の行方のことを指している。

 

「そうよ、あの日。一騎打ちを仕掛けてきたあなたとわたしの勝負は保留状態のまま来ちゃってるでしょ?ここらで1つ、白黒付けておかない?」

 

「…………。」

 

私の言葉に階段を登りかけていた不動がその歩みを止めた。

 

「不動。」

 

ちょうど豪炎寺くんの目の前で歩みを止めたおかげで反射的なのかどうかわからないが豪炎寺くんが呟くように言葉を零した。

 

その瞬間。

 

「ふっ、ククククク。あぁ、そういえばそうだったなぁ!」

 

一瞬にして口角を吊り上げた不動が勢いよく振り返る。

 

その勢いのよさは隣で眉をひそめている豪炎寺くんを見ればその激しさがどれほどのものかを物語っていた。

 

「あん時はてめぇが尻尾巻いて逃げ出したおかげで潰し損ねたからなぁ!今日こそぶっ潰してやるから覚悟しな!」

 

「実力の違いすら分からなかったほどあなたが弱かったからね」

 

「はっ!負け惜しみは見苦しいぜ砥鹿火蓮様ァ!クククク」

 

「御託はいいからかかってきなさいよ。…………負け犬」

 

私の言葉が最後まで終わらないうちに先程まで練習していたメンバーとは威力、スピード共に一回りも二回りも高いシュートがちょうど右足辺りに着弾する…………いや、厳密に言うと体の正面に向かってきたボールを即座に体を逃がして昨日同様右足のインサイドでトラップしただけだ。

 

ただ…………重い。

 

「言わせておけば!」

 

「沸点の低さも相変わらずっ!!」

 

着弾した時に軽く宙に浮かせたボールを思い切り蹴り返す。

 

それを空中でトラップして再び蹴り返してくる不動。

ジャンプしてそのままグラウンド内に降り立つ不動の正面で、私は蹴り返されたボールを足の裏で受け止めつつグラウンドに押さえつけた。

 

「やっとやる気になった?」

 

「吠え面かかせてやる」

 

「ルールはあの時とおなじ1対1のサシ勝負。先に1点取った方が勝ち。いいわね?」

 

「ふん」

 

「豪炎寺くん。ジャッジ、お願い」

 

「あ、あぁ」

 

不動と視線を交わしながら足元のボールを軽く転がして豪炎寺くんに渡す。

 

その後、私達の真ん中にボールが置かれた。

 

そして……。

 

豪炎寺くんが向かい合う私と不動に1回ずつ視線を移してから真上に振り上げた右手を、掛け声とともに振り下ろした。

 

 

直後。

 

 

中心のボールに向かって私達が同時に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。
あとがきという名前のキャラ紹介です←(笑)

原作のメンツは省きます←

…………そうなると今回は紹介するようなキャラは出てなかったですねw

まぁ、そんな時もありましょうw

ろくなこと書いてないけど終わりにしようかな〜←



では、なんのための後書きなのか分からなかったですが、また次回もよろしくお願いします♪



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

選考試合 中編

まさかの選考試合編が三部構成となってしまいました←(笑)


でもまぁ、いいでしょう。

一応火蓮が入ったことによって若干原作とは異なる試合展開になってしまってますけど、ご了承ください←

では、どうぞ


選考試合当日。

 

 

 

集合場所の雷門中では選抜メンバーからも観客からもざわめきが起こるほどの異様な光景があった。

 

その視線は相当激しい特訓でもしてきたのかと思うほど全身傷だらけで現れた二人の選抜メンバーに全て集まっていた。

選抜メンバーの中で唯一の女子である砥鹿 火蓮と、唯一の異端児不動 明王の2人。

両者はムスッと腕組をしてお互いから顔を背けながら集合場所に現れたのだ。

 

 

 

そんなふたりの様子を見ながら豪炎寺はため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

選考試合。

基本的には試合の勝ち負けよりは個人のレベルを測る試合。

故に連携技は禁止となっている。

そして、この試合の結果と日本代表を束ねる監督の目によって選手が選ばれ、2チーム合わせて22人の代表候補生の中から16人に絞り込んでいくのだ。

試合前の説明では誰が落ちてもおかしくはないと言っていた。

このフィールドに立てば誰もがすべて同じラインに立つことになる。

 

という響木による簡単な試合の説明の後、グラウンド内の両ベンチに集まったお互いのチームは軽くミーティングと円陣を済ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはどう考えても俺の勝ちだ!」

 

「何言ってるのかしら!私の勝ちに決まってるじゃない!」

 

「バカ言ってんじゃねぇ!てめぇの目は節穴か?」

 

「節穴?そっちこそ、負けを認めたくないからってペラペラ言い訳並べてるなんてかっこ悪いわよ!」

 

「なんだとこのアマァ!」

 

「調子に乗るなこの二流が!」

 

鬼道のチームも円陣を済ませたあと各々が軽くストレッチをしている最中、やはりこの2人はワーワーギャーギャーと騒ぎ立てていた。

 

再度大きくため息をついた豪炎寺に鬼道が小さく耳打ちをする。

 

「……豪炎寺、何があったか知っているか?」

 

その問いに対して、豪炎寺は無言のまま首を縦に1度振ることで応えた。

 

「どうしてこんな状態になってるんだ」

 

「いや、まぁ、実はな…………」

 

半分呆れ気味とでも言わんばかりの表情をする豪炎寺に鬼道は僅かに眉を寄せ、続けて豪炎寺から事の顛末を聞かされた彼はやはりため息をつくのだった。

 

「そんなことで口喧嘩しているのか」

 

「2人にとってこれがそんなことで片付けられるのか疑問ではあるがな」

 

「まぁいい。砥鹿にはチームの輪を乱したくないとは言ったんだが」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。砥鹿に対してじゃなくて不動に対しての言葉だったんだが、あの調子じゃ同じようなもんだ」

 

「ふ、だな。だが、ある意味良い緩衝材になってると思うぞ?」

 

「緩衝材?」

 

「不動とほかのメンバーとのな」

 

「…………否定はしない」

 

鬼道が僅かに声のトーンを落とした。

 

「まぁ、それはあとで考えようぜ。今はこの選考試合に集中だ。みんな待ってる。行くぞ!」

 

「ふ、あぁ!」

 

そう思い切り鬼道の肩を叩いてからニヤリと笑みを浮かべてグラウンドに走る豪炎寺の背中を見ながら、鬼道もその口角を僅かに上げてマントをなびかせながらグラウンドに向けて1歩を踏み出した。

 

 

 

 

────────────────────

 

Aチーム

 

FW:吹雪 染岡 基山

 

MF:佐久間 武方 松野

 

DF:飛鷹 土方 壁山 綱海

 

GK:円堂

 

────────────────────

 

Bチーム

 

FW:豪炎寺 砥鹿 宇都宮

 

MF:鬼道 緑川 不動 闇野

 

DF:風丸 目金 木暮

 

GK:立向居

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、運命の選考試合が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国から集まった代表候補生の通う学校のチームメイト達の応援の中で、よく晴れ渡った青空を突き抜けるかのごとく甲高いホイッスルの音によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!特訓の成果を見せるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キックオフとともに先に仕掛けたのは円堂くん率いるAチーム。

 

FWの基山くんがドリブルで上がってくる。

 

緑川くん同様元エイリア学園出身の彼は聞くところによるとエイリア学園の最高ランクチーム所属でしかもキャプテンだったとか。

 

そんな経歴を持つ相手に私の好奇心が掻き立てられた。

 

前線に向かって走り出した足を無理やり切り返して基山くんのプレスに入った。

 

「早速来たね」

 

「元エイリア学園ジェネシスの力、見たかったのよ」

 

「なるほど。でも……」

 

そう言った基山くんが僅かに口角を上げる。

 

刹那、視界の端に走り込んでくる青いユニフォームが見えた。

 

「試合は始まったばかり。焦らず行こうよ。染岡くん!」

 

「おう!」

 

「っ!?」

 

完全にドリブル突破を狙ってくるかと思っていた私は完全に意表を突かれ、反応が遅れてしまう。

低くするどい弾道を描いたパスは寸分狂わず走り込んできた強面のFW、染岡くんの右足に収まった。

 

「やるじゃない」

 

「それはどうも」

 

短くやり取りを交わし、同時にお互いの横を駆け抜けた。

 

そのまま私は前線に向かい、豪炎寺くんと同じラインに到達した所でくるりと体を反転させた。

慣れ親しんだこのポジションは攻撃の要。

味方の選手が繋げてくれたボールをなにがなんでもゴールに叩き込む、それが私達FWの役目だ。

 

後方で行われた激しいボールの奪い合いの末、染岡くんからボールをカットした風丸くんから鬼道くんへ、そして今回は豪炎寺くんのもとへ。

 

そのままドリブルで上がる豪炎寺くんに今度はAチームのDF、土方くんがプレスに入る。

器用にボールをキープさせながら一瞬、ちらりとこちらに視線を向けた。

 

あぁ、そういう事ね。

 

その一瞬で次の行動の意図を察した私は豪炎寺くんの影に隠れるように走り込む、そして、まさに完璧のタイミングで豪炎寺くんからノールックのパス。

それを後方から走り込んできた私がカットしてそのまま土方くんの右サイド、豪炎寺くんは左サイドから同時に抜き去った。

 

「なにィ!」

 

「豪炎寺くん!」

 

「あぁ!」

 

そのままボールを戻し、受け取った豪炎寺くんが加速する。

 

キーパーと一対一。

 

両者の必殺技がぶつかり合い、会場がさらに熱を帯び始めた。

 

残念ながら止められてしまったがまだまだ先は長い。

 

 

 

 

 

「さぁ!反撃だ!」

 

そして円堂くんのゴールキックからボールは前線に、松野くん、吹雪くんと渡り、そのまま吹雪くんがBチーム陣内に切り込んでいく。

 

その様子をAチーム陣内から眺めながら私は1つ息を吐いた。

 

「やっぱり個人の能力はみんな結構高め、か」

 

軽く息を吐いて既に下がり始めていた宇都宮くんを見ながら豪炎寺くんに目配せをする。

 

味方DF陣に向かって素早く指示を送る鬼道くんに対して不動は相変わらず、相手チームの選手を観察していた。

 

共有してあげればいいのに、強情なやつ。

 

そしてDF2人のプレスを掻い潜った吹雪くんから再び染岡くんへ、龍を纏ったシュートが立向居くんに迫る。

それをいくつもの手がそのボールに何度も何度も衝突する事でシュートの威力を完全に封殺した。

 

「あれが立向居くんの必殺技ね。なかなかすごい技じゃない。白虎には及ばずとも、ね」

 

小さく笑みを浮かべて隣の豪炎寺くんと視線を交わして同時に無言のまま頷いて、センターライン付近でくるりと進行方向を変えるとゴール付近を目指して上がっていく。

 

ボールは立向居くんのゴールキックから鬼道くんにわたりそれから…………不動へ。

珍しいと思いながらも今は上がることを優先にする。

 

しかし、そんな不動も帝国学園のストライカー佐久間くんによって阻まれ、そのせいで私と豪炎寺くんは急ブレーキをかける羽目になった。

 

相変わらず自チームにも相手チームにも嫌味MAXな不動に向かって小さく舌打ちをかまし、再び前線からセンターライン付近までラインを下げていく。

 

残念ながらそんな不動の失策からなのか分からないが、佐久間くんのカットしたボールはそのままAチームのFW陣に渡り、染岡くん、そして基山くんと繋がってペナルティエリア内、基山くんの必殺シュート「流星ブレード」によってついに均衡が破られた。

 

A - B

1 - 0

 

「先制点取られちゃったわ。どうする豪炎寺くん」

 

「取られたら取り返せばいいさ。こっちのボールからだしな。行くぞ!」

 

 

 

 

 

そしてBチームからのキックオフ。

 

隣の豪炎寺くんから渡されたボールをそのままかかとを使ってバックパス。

右サイドから駆け上がる宇都宮くんを視界に入れながら真後ろに陣取っていた鬼道くんにボールを委ねた。

 

「みんな上がれ!」

 

鬼道くんからの指示がグラウンドに響き、DF陣を残して緑川くんと闇野くんが両サイドから鬼道くんが真ん中を上がっていく。

しかし、何故か不動だけが自陣に残っていた。

 

何やらDFの風丸くんと木暮くんに指示を出しているようだけど、勝手に何やってるんだか。

 

鬼道くんは左サイドを走り込んでいた闇野くんにボールを渡し、不動に注意を促している。

勝手に指示を出すなとかなんとかだと思うが。

あいつがそれを素直に聞くとも到底思えない。

 

しかし、そんな最中。

 

左サイドを走っていた闇野くんが松野くんにボールをカットされた。

その直後。

 

今までMFのポジションにいた武方くんがいきなり前線に向かって走り出した。

 

「うそっ!?」

 

驚いて咄嗟にふりかえった瞬間、風丸くんと木暮くんの取っていたポジションを見た瞬間まさかと思った。

いや、本当にこんな罠に引っかかる人なんているわけないだろう…………。

 

二人のポジショニングが普通よりも前よりになっている。

それに伴ってここが好機とばかりにグングンと駆け上がっていく武方くんを引きつけるように立ち回る不動。

 

極めつけはそれっぽく見せるために風丸くんと木暮くんにはほかのパスが有り得る選手へのマークへ向かわせた。

 

そしてペナルティエリア内にまで上がった武方くんに松野くんがパスを出す。

 

しかし…………

 

 

 

 

ピピーーー!!

 

 

 

 

「オ、オフサイド!?そんな馬鹿な!みたいな!!」

 

 

 

 

 

 

「オフサイドトラップ……。なんて大胆なことするのよあのバカは」

 

オフサイドトラップ。

敵選手にあたかもゴール前ががら空きだと思わせて駆け上がってきたところ、放たれたパスが通る直前に対象よ選手よりも自分が前に出ることによって意図的にオフサイドを取らせる戦術。

 

私はセンターライン付近でそれを見ていて若干口元がぴくぴくするのを感じていた。

 

それ、ここでやる必要ないんじゃない?

 

手段は選ばないと言ったような不動の奇策。

当の本人はポケットに手を入れながら私と目が合うやいなやふんと鼻で笑った。

 

「だから嫌われるのよ。まぁ、本人がいいならいいけど」

 

「どうした火蓮」

 

「いや別に。さて、不動の奇策のおかげでピンチは潰えた。今度はこっちの番よ。豪炎寺くん!」

 

「分かっている!」

 

 

 

 

木暮くんからのセットプレーがスタートする。

 

大きく蹴りあげられたボールは緑川くんに、そして司令塔である鬼道くんに渡り、そして……。

 

「行け!砥鹿!!」

 

ボールは私の元へ。

 

「やっと私のアピールタイムなのね!」

 

「決めろ火蓮!」

 

「当然よ!」

 

豪炎寺くんの後押しを受けて一気に加速した。

 

そこにAチームの壁山くんと飛鷹くんが立ち塞がる。

 

「ここは通さないっス!!ザ・ウォール!!!!!」

 

なるほどこれが壁山くんのディフェンス技ってわけ。

でも、

 

「この程度の壁じゃ簡単に乗り越えられちゃうわよ!」

 

「えぇ!?」

 

目の前に現れた巨大な壁を三角跳びの要領で軽く飛び越え、キーパーの円堂くんと真正面から向かい合った。

 

「さぁこい!絶対止めてやる!」

 

「じゃあ、私は必ずゴールをこじ開ける!」

 

ふっと小さく笑みを浮かべてから、地面に置いたボールを思い切り踏んだ。

 

「なっ!」

 

ボールを中心に波紋状に砕けた地面からゴボゴボと湧き上がる真っ赤な炎。

地熱の熱風によってボールは地上から空中へはじき出され、高速回転をしながら周りの炎を纏っていく。

そして炎をまとって一回りほど大きくなったボールに向かって自分も大きく跳躍し、空中でくるんと一回転。

最後にボール同様火炎を纏った右足をこれでもかと言うほど体の内側にまで引き付け、思い切りボールに右足を叩きつけた。

 

「スカーレットバーナー!!!!!」

 

エネルギーの留め金が外れたボールは熱線となり、円堂くんへと突き進む。

 

「へへ、すげぇシュートだ!だけど、必ず止める!」

 

そう心底嬉しそうに笑った円堂くんは一瞬にして左足を真上に掲げる。そして、その完璧な体重移動と体のひねりを使って大きく右手の拳を突き出した。

 

「正義の鉄拳!!!」

 

自身の全体重が上乗せされたパンチングに私のバーナーが真っ向からぶつかり合う。

 

凄まじい衝撃が巻き起こる。

しかし、下から迎え撃つより上から叩きつけた方が有利なのには変わりはない。

 

徐々に私のバーナーが正義の鉄拳を押し始め、最後にはその拳ごとゴールネットを焼き尽くした。

 

ゴール。

 

これで同点。

 

 

 

A-B

1-1

 

 

 

「ふぅ、まあ、しっかりアピールできたかしらね」

 

「…………凄いシュートじゃないか火蓮!あんなシュート見たことないぜ!今でも右手が痺れてるよ」

 

「ふふ、ありがと」

 

「へへ♪でも、次は止めてみせるからな」

 

「期待してるわ」

 

そう円堂くんとやり取りを交わして私は自陣に戻っていく。

 

すれ違い際に豪炎寺くんとハイタッチを交わした。

 

「ナイスシュートだ、火蓮」

 

「ありがと。次は豪炎寺くんの番よ」

 

「あぁ、任せておけ」

 

 

 

 

しかし、チャンスの後のピンチとはお決まりのパターンだ。

Aチームのキックオフから再開した試合は、一気に劣勢に早変わりした。

 

吹雪くんからパスを受けた基山くんがドリブルで駆け上がり、逆サイドの吹雪くんへ、チームの中でもずば抜けたスピードの吹雪くんがディフェンス陣を突破し再び染岡くんへセンタリング。

 

そこから染岡くんの必殺技、「ワイバーンクラッシュV2」が炸裂しまたもや1点突き放された。

 

 

 

A-B

2-1

 

 

 

「やるわねAチームも」

 

「だな」

 

 

短くやり取りを行い、キックオフによって豪炎寺くんから渡されたボールをかかとで鬼道くんに向けてバックパスを出してそのまま前線へ。

 

先程のシュートを見たからなのか気持ち私と豪炎寺くんのマークがきつくなった気がする。

 

「上がれ!シャドウ!」

 

「おう!」

 

鬼道くんから左サイドを駆け上がる闇野くんへボールが渡るが、その直後、正面から迫っていた松野くんの「クイックドロウ」によって奪い返される。

 

私は二人体制のマークによって思うように身動きが取れないまま小さく舌打ちをした。

 

それでも味方陣内に切り込まれたボールは目金くんのパスカットによって流れが引き戻される。

 

そのまま宇都宮くんにボールが回り、宇都宮くんが敵陣内に切り込んできた。

 

しかし、

 

「豪炎寺さん!」

 

「こっちは無理だ!」

 

プレスをかけてきた土方くんをトリックプレーで抜き去った宇都宮くんはゴールがすぐ目の前なのにも関わらず豪炎寺くんへパスを出そうとする。

 

「砥鹿さん!」

 

「こっちも無理よ!自分で行きなさい!」

 

豪炎寺くんが無理だとわかると今度はこっちに。

当然のようにマークが2人も付かれていては身動きなど取れる訳もなく、パスは受けられない。

 

それがわかったのか、一瞬だけ俯いたかと思うとすぐさまボールを止めてなぜかバックパスを出した。

 

「嘘っ!?」

 

「っ……!?」

 

つい反射的に私と豪炎寺くんは顔を見合わせてしまった。

 

その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無常にも前半終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 




ちゃんと火蓮目線で試合の流れを書けているだろうか……。


次回後半戦になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

選考試合 後編

どうも、毎度おなじみ奇稲田姫です。


やっと選考試合編が終わりました。


サッカーのルールはよく知らない方なのでちょくちょく調べながら書いたんですけど、大丈夫かなぁ〜。


一応、原作には沿ってますけど必殺技とか覚える過程とかちょっと変えていくかも、なんて思ってます。

まぁ、それでもよろしくお願いします〜ってことで本編入りましょう。


どうぞ♪


ハーフタイム。

 

 

 

渡されたタオルで軽く額に滲んでいた汗を拭き取りながら私は1つ息をつく。

 

「みんな気合入ってるわね」

 

「当たり前だろう。日本代表がかかっているんだからな」

 

「豪炎寺くんは余裕そうじゃない」

 

「ふ、お前には及ばないさ」

 

「冗談だったのに。でもまぁ、全員が全員必死だからこそ」

 

「…………」

 

「気になるってもんよね」

 

「あぁ」

 

私は話していた声のトーンを僅かに落とし、視線を豪炎寺くんから宇都宮くんに移す。

 

前半終了直前のバックパスがどうしても気になってしまうのだ。

 

そんなことを考えているうちに豪炎寺くんは宇都宮くんの元へ歩き出していた。

 

「虎丸」

 

「はい」

 

豪炎寺くんのその声にベンチから少しだけ離れた位置で1人呼吸を整えていた宇都宮くんが振り返る。

ついでに私も豪炎寺くんの隣に並ぶことにした。

 

「ゴール前、何故バックパスをした?」

 

「あそこは決定的なシュートチャンスだったじゃない」

 

そんな私たちの言葉に対して一瞬だけ間を置いてからゆっくりと宇都宮くんが口を開く。

 

「……先輩達がいるのに、前に出るべきではないと思いました」

 

「…………」

 

「失礼します」

 

「ちょっと…………」

 

そのあとの言葉を寸でのところで飲み込み、ベンチに向かって少し早足気味に去っていく宇都宮くんの背中を見ながら私は豪炎寺くんに軽く視線をなげかける。

 

「…………」

 

僅かに私と豪炎寺くんの間に沈黙が訪れ、それを打ち破るように鬼道くんが加わった。

 

「どうした?」

 

「いや、ちょっと、ね」

 

「あぁ、誰もが代表に選ばれようと必死になっているのに、あいつ」

 

「不思議な子」

 

軽く溜息をつき、私はタオルを首から外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、後半戦がスタートした。

 

 

 

 

 

後半は前半に較べてさらに両チームとも慌ただしく攻撃と防御が入れ替わる攻防戦となった。

 

そのせいでFWである私と豪炎寺くんはゴール前のエリアとセンターライン付近を行ったり来たりしていた訳だが、時折中盤に残って相手選手にプレスをかけたり味方からのパスを受けたりと色々動いてみたりもした。

 

とりあえずFWとして前線でボールをキープしてシュートまで持ち込めるところと、前線だけでなく中盤でもドリブルのブロックやボールのキープも出来るという所をさりげなくアピールしつつ自分についたマークをどうやって前線で振り切ろうかアイディアを巡らせていく。

 

意外とこのチームも面白いところはあるようで、例えばDFの風丸くんも頻度こそ高くないものの持ち味のスピードを活かして隙あればサイドから一気にゴール前までドリブルで上がることも出来るらしい。

それだけにとどまらずシュートにまで持ち込めるのは正直驚いた。

 

さて慌ただしく攻撃と防御が入れ替わりながら選手がそれぞれ自分の持ち味を最大限に引き出している必殺技が次々とあっちこっちで披露されている。

 

ディフェンスエリアからのロングシュートを打つ奴がいたり、青い龍を纏ったシュートだったり、 巨大な壁を出したり、手が沢山出てきてシュートを止めたり……。

 

まぁ個性的な必殺技の数々であった。

 

そんな中で味方陣内でボールをカットした木暮くんから再び宇都宮くんへボールが回る。

 

身体能力の高さとその技術力でほかの選手を圧倒しながら宇都宮くんが前線へ。

綱海くんのチャージによって体勢を崩されながらもギリギリのところでボールを繋げる。

 

それを受け取った緑川くんの必殺技シュート、「アストロブレイク」によってBチームが同点に追いつくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

A-B

2-2

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスシュート、緑川くん」

 

「ん?あぁ、ありがとう」

 

「張り切ってるわね」

 

「当然だろ。俺だって日本代表に選ばれたいからさ」

 

「ふふ、そうね。お互い頑張りましょう」

 

「あぁ!」

 

自陣に戻りながら緑川くんと会話を交わして、軽くお互いの拳をコツンと合わせた。

 

それから自分のポジションに戻る。

 

 

 

 

 

 

再びボールはAチームから試合再開。

 

 

 

 

 

 

ボールは基山くんから染岡くんへ、そしてバックの武方くんにわたりドリブルで駆け上がる武方くんからスライディングでボールを奪った風丸くんがそのままチームの司令塔、鬼道くんにボールを回す。

 

今は攻め時。

 

緑川くんの同点ゴールによって勢いに乗っている今がチャンスだ。

 

駆け上がる鬼道くんが松野くんを「イリュージョンボール」で抜き去ると、1度豪炎寺くんと私に視線を送りマークによってパスが通らないことを察知するとボールを闇野くんへ回した。

 

「シャドウ!!」

 

「……!」

 

鬼道くんによって大きく空中に蹴りあげられたボールを今度は闇野くんが空中でそれを受け取りそのままシュート体勢へ。

 

左足に黒い炎を纏った必殺シュート、「ダークトルネード」が炸裂しAチームのゴールに迫る。

 

FWの豪炎寺くんか私にパスが通ると思っていたのだろうか、サイドから駆け上がってきていた闇野くんにAチームのディフェンス陣は一瞬だけ対応が遅れた。

闇野くんのシュートコースにはこの試合の中でも特段、いやそれこそお世辞にもサッカーが出来るとは言い難い飛鷹くんしか間に合わない。

 

しかし、試合中は何が起こるかわからないというのがまたサッカーというスポーツであった。

 

私はなにか嫌な予感が背中を駆け抜けたのを直感的に感じて、円堂くんの言葉に反応したことによって出来た一瞬の隙を突いて壁山くんと土方くんのマークを振り切ると今の位置からでは逆サイドになってしまっていたシュートコースへ走り出す。

 

「(間に合うかしら。)」

 

僅かに唇を噛む。

 

そんな私の目の前で事は起こった。

 

「くそっ!今度こそ!!」

 

前半の失敗を取り返そうとしているかのように気合いの入った飛鷹くんの右足が、大きく真上に振り抜かれるのと同時にその周囲の風の流れが乱れた。

 

その風の影響を受けたのか一瞬にして「ダークトルネード」が失速した。

 

これは…………。

 

何かしらが起こる前に私がシュートの威力を上乗せしようと考えていたのだが、シュートの威力を無力化されるなんて思ってもみなかった。

 

考えるのは後回し。

ペナルティエリア内で急ブレーキをかけ、ゴールキックに備えていく。

 

「(初心者で警戒はしなくていいかと思ってたけど、もしかしたら化けるかもしれないわね。注意しときましょうか)」

 

多分今のは鬼道くんなら分かったはず。

 

軽く鬼道くんに視線を流し、彼からの返答を受け取る。

 

後半も残りが少なくなってきた。

 

円堂くんからのゴールキックによって綱海くんに、そこから綱海くんが「ツナミブースト」によってディフェンスエリアからの超ロングシュートを放つ。

 

プレスに入ろうと移動していた矢先、いきなりボールが味方陣内の方に飛んでいってしまったのでまたもや急ブレーキをかける羽目になった。

 

そのシュートは味方ディフェンス陣によってかろうじて防ぐことが出来たが、そのこぼれ球を佐久間くんがカットしたことによって基山くんを経由して吹雪くんへとボールが繋がってしまう。

 

まずい!

 

そんな私の予感は的中し、味方陣内に戻ろうと足を出したまさにその瞬間。

 

吹雪くんの放った「ウルフレジェンド」によって立向居くんの「ムゲン・ザ・ハンド」が破られた。

 

 

 

これによって再び突き放される。

 

 

 

 

 

 

A-B

3-2

 

 

 

 

 

 

残り時間ももう無いに等しい。

恐らく次のプレーが最後となりそうだ。

 

「豪炎寺くん」

 

「あぁ、分かっているさ。このまま負ける訳には行かない」

 

「最後、頼んだわよ」

 

「任せておけ!行くぞ!」

 

そして、豪炎寺くんのパスから試合が再開し、受け取った私は今度は鬼道くんではなく不動にパスを出した。

 

「不動!」

 

「なんのつもりだ?」

 

「いいから!さっさと上がってきなさい!」

 

「俺に指図すんじゃねぇよ!!」

 

軽く挑発してそれに分かってて乗ってきた不動がサイドから駆け上がり、そのままペナルティ内まで切り込むとシュート体勢に入った。

 

ゴールの隅っこギリギリに狙い済まされた不動のシュートは儚くも円堂くんのパンチングによって弾き返される。

 

だが、狙いはそれだ。

 

「ち!」

 

悔しそうに舌打ちをする不動を横目に運良く相手のディフェンス陣の間に飛んだボールを素早く拾って、すぐさま逆サイドを駆け上がっていた豪炎寺くんへパスを通した。

 

「しまった!」

 

「よろしく!豪炎寺くん!」

 

「あぁ!」

 

それを受け取った豪炎寺くんがすかさずシュート体勢へ移行。

 

体の内側から放出した業火とも言うべき炎のエネルギーによって豪炎寺くんの背後に炎の化身が出現する。

 

そして、空中へと蹴りあげたボールを炎をまといながら力強く蹴りこんだ。

 

そんな豪炎寺くんの必殺技、「爆熱ストーム」は真紅の炎を纏いながらゴールへ。

 

対抗して円堂くんも「正義の鉄拳」で応戦する。

 

私の時のように炎を纏ったシュートと正義の鉄拳が真正面からぶつかり合って、周りに衝撃をまき散らした。

 

結果は最後に豪炎寺くんの爆熱ストームが正義の鉄拳を押し返し、土壇場での同点ゴールを決めた。

 

 

 

 

 

 

A-B

3-3

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピッピーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了のホイッスルが高々と鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、なんとかなったわね。ギリギリ」

 

「あぁ、最高のパスだったよ」

 

「ふふ、ありがと。でも、それを確実に決められる豪炎寺くんも凄いわ。ナイスシュート」

 

そう言いながらお互いの拳をコツンと合わせた。

 

「ま、とは言っても今回は不動の影響が大きいんだけどね」

 

「どういうことだ?」

 

そう言いながら僅かに眉を寄せる豪炎寺くんからちらりと不動の方へ視線を流しながら続ける。

 

「簡単なことよ。他のメンバーから信頼されているからこそその動きが相手にも読まれやすい鬼道くんより、ほかのメンバーからの信頼が薄いが故に動きが読まれにくい不動の方がこの短時間で攻め込むには向いていた。それだけよ」

 

「…………」

 

「でもまぁ、私もちゃんと動いてくれるのか半信半疑ではあったけどね」

 

「賭けに出たってことか?」

 

「そういうことよ。結果は見ての通りだけど」

 

ため息をひとつついて私は首をふるふると軽く振った。

 

鬼道くんと円堂くんは未だにグラウンド内で各々乱れた息を整えているメンバーより少しだけ離れたところで話し込んでいる。

 

私はベンチに戻り備え付けの長椅子にストンと腰を下ろした。

 

そう言えばうちの連中が見に来るとかなんとか言ってたけど、あの件はどうなっているのだろうか。

 

ざっと見渡す限りでは観客席にはいないけど…………。

 

一息つくついでにマネージャーの娘達が用意しておいてくれたドリンクを1本掴むと軽く煽って口の中に含ませた。

 

そんな時。

 

「やぁ、砥鹿さん、だっけ?隣いいかな?」

 

青いユニフォームの2人組が話しかけてきた。

 

元エイリア学園のストライカーの赤髪の少年と、薄めの水色の髪を外側に跳ねさせた若干タレ目の少年、基山くんと吹雪くんはタオルを肩にかけながらニコッと笑った。

 

「……んく。はぁ、いいわよ。それから私のことは火蓮でいいわ」

 

口に含んでいたドリンクを一気に飲み干して長椅子の真ん中付近から2人が座れるように少し横にずれた。

 

「そう?じゃあ、火蓮さんで」

 

「吹雪くんがそれでいいならそれでいいわよ」

 

「そうさせてもらうよ。ま、今回はそれよりも、ね」

 

「うん。選考試合、終わったね」

 

「終わったわね。個人的には序盤で基山くんにパスを通されたことが気がかりなんだけど。」

 

「あはは、いや、僕も本当はドリブルで抜くつもりだったけど直感的にね」

 

「その判断力には頭が上がらないわ」

 

「正直想像以上で驚いてるよ」

 

「あら、吹雪くんは私のことどの程度だと思っていたのかしら?」

 

「いやいや、悪気があったわけじゃないんだよ。だって1人だけ女の子だったでしょ?」

 

「まぁ、否定はしない」

 

「そうそう。それに、僕のこと「元エイリア学園ジェネシスのキャプテン」って言ったよね。面識ないはずだったのに何でかなってね」

 

「なんでも何もテレビで全国放送されてたじゃない」

 

「あぁ、そう言えば」

 

「あれ、全国放送されてたね」

 

そんなやり取りを交わしながら2人が恐らく本題であろう内容を切り出した。

 

「そう言えば、火蓮はどこの中学出身なんだい?」

 

「私?」

 

自分を指さしながら聞き返すと吹雪くんと基山くんは同時に頷いた。

 

「言ってなかったっけ?」

 

そう返すとまたもや2人は同時に頷いた。

 

「あぁ、それはごめんなさい。私は神奈川の私立桜林学園サッカー部からきたの」

 

「桜林学園?聞いたことないな。フットボールフロンティアには出場してる?」

 

「してるわよ。とは言っても日本の大会には出場してないけど」

 

「?どういうことだい?」

 

「ん〜、そうねぇ。ヨーロッパ大会、ロシア大会、アメリカ大会…………って所かしら。ここに来れたのもちょうどロシアからの飛行機がたまたまあったからだし」

 

「世界の大会に出場してるってことかい?それはまた大きく出たね」

 

「嘘だと思うかしら?」

 

「そんなことないよ。あんなプレー見せられたら嘘だなんて言えないよ」

 

「その通り。代表入り出来たら心強いってものさ」

 

小さく苦笑いをうかべる吹雪くんとそれに同意する基山くん。

 

「ま、そのおかげで日本のサッカー事情に疎いのが珠にキズなんだけどね〜。あと、あんまり大事(おおごと)にはしないでよ?恥ずかしいから」

 

そう言ってため息をついたちょうどそんなタイミング。

 

周りのみんなも徐々に回復し始めた頃だった。

 

ついにこのグラウンドに先日の響木という男が現れた。

 

それと同時に各々が彼の周りに集まる。

 

そして、彼の口から告げられたのは日本代表メンバーを束ねる監督の名前。

彼から代表メンバーは発表されるとの事だった。

 

久遠 道也。

 

そう呼ばれた男が響木の背後から1歩前に進み出る。

 

「私が日本代表監督の久遠 道也だ。よろしく頼む。」

 

全体的に凛としていると言うよりかはなんとなく誰も寄せつけないような、そんなオーラを醸し出している人だ。

例えて言うなら、氷のような人とでも言ってみようか。

 

私はそんなことを考えながら不動の隣で軽く息を吐いてみる。

 

 

 

それもつかの間、ついに彼の口から選考通過者の発表が行われようとしていた。

 

 

 

 

「では、代表メンバーを発表する」

 

 

 

 

その一言だけで候補者一同に緊張が走る。

 

 

そして、その緊張の糸を一本一本切りながら久遠が名前を読上げて行った。

 

 

鬼道有人。

豪炎寺修也。

基山ヒロト。

吹雪士郎。

風丸一郎太。

木暮夕弥。

綱海条介。

土方雷電。

立向居勇気。

緑川リュウジ。

 

 

と続き、次の11人目。

 

 

不動明王。

 

 

 

あたかも呼ばれることがわかっていたかのような笑みを浮かべながら鼻で笑う不動を横目に12人目の名前が呼ばれる。

 

 

砥鹿火蓮。

 

 

 

私の名前だ。

とりあえず安堵のため息を漏らし、ホッと胸をなでおろした。

 

「へっ、てめぇも選ばれたようだなぁ、火蓮様よォ。せいぜい俺の足を引っ張ってくれるなよな?クククク」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわよ」

 

「けっ、口の減らねぇやつ」

 

そんな不動の煽りも軽く受け流し、残りのメンバーの発表を待つことにする。

 

 

残り4枠。

 

 

 

 

宇都宮虎丸。

飛鷹征矢。

壁山塀吾郎。

 

 

立て続けに3人の名前が呼ばれ、最後に代表のキャプテンを務める選手の名前が読み上げられる。

 

 

 

「最後に、円堂守。以上16名だ」

 

 

 

 

 

 

これで代表メンバーにはなんとか入ることが出来たわけだけど、正直メンバーの大半は私とほとんど面識がないため行く先不安になりそうだ。

 

グラウンド内では選考に落選した者が通過した者にエールを送っている姿がちらほら見受けられる。

 

つまりそういう事だ。

 

でもまぁ、これでいつもとは違うステージから世界の景色が見れるというわけだ。

そう考えると俄然ワクワクしてくるというものだ。

 

 

 

 

「今日からお前達は日本代表イナズマジャパンだ。選ばれた者は選ばれなかった者の想いを背負うのだ」

 

 

そう言い残して背を向けた響木に続いて久遠が監督として初めての言葉を述べた。

 

 

「いいか、世界への道は険しいぞ。覚悟はいいな」

 

その言葉に対してメンバーは全員が大きく返事を返し、キャプテンの円堂くんを中心に円陣を組んだ。

 

各々が各々の言葉を述べ、改めて世界という舞台への期待と意気込みを確認し合った。

 

私もその円陣の中でもう一度この先に待ち受けるステージとそこからの景色への期待を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

代表メンバーは専用の寮での部屋が割り当てられたが、監督に頼んで今日は外出許可を貰ってとあるメンツにあっていた。

 

 

 

私はいつ、どこから見ていたのか不明な十二天王の面々+監督から日本代表メンバー入りのお祝いとして監督が自ら幹事を買って出てくれたとかで居酒屋の宴会場を貸し切って盛大な宴会が行っていた。

 

居酒屋を貸切ったのは、単純に監督が飲みたいだけだと思うけど。

 

久々にチームのメンツと話が出来て楽しかった。

 

中学サッカー界の四天王と称される4人。

青龍(せいりゅう) 春紀(はるき)

玄武(げんぶ) 冬樹(ふゆき)

朱雀(すざく) 夏彦(なつひこ)

白虎(びゃっこ) 秋人(あきと)

 

メガネが特徴的で基本的に敬語で話す青龍に、プレーを含めて何事も豪快な朱雀。

そんな2人にいつもは真面目で固い玄武がコーラを片手に絡んでいる。

なぜか玄武はコーラにめっぽう弱く、1口飲んだだけでも酔ってしまうほど。

それを白虎がなだめながら近くにいるパイレーツハットが特徴の歌舞天寺(かぶてんじ) (よう)に助けを求めていた。

 

そして、チームの控えキーパーの沼上(ぬまがみ) 泥江(どろえ)ことピエローヌが執拗に絡んでいるいつもトランプのマークの形をした覆面を被ってプレーしている4人のうちの1人、スペードこと(つるぎ) 恭平(きょうへい)はいつもの光景に大爆笑しているクローバーの(こん) 健斗(けんと)、ハートの(このみ) 桃妃(ももき)、ダイヤの(ひし) 拓夢(たくむ)の3人に対して声を上げている。

 

貸し切った居酒屋内がワイワイガヤガヤと騒がしさを増す。

 

私はその様子を見ながらオレンジジュースを飲んでいた。

 

「やぁ、火蓮」

 

そんな中、私の隣の席に久しぶりに聞く声が頭上から降ってきた。

 

「花王瑠………………って、なによその両手の皿は」

 

振り向くとそこには色々なテーブルからこれでもかと料理が盛り付けられた皿を両手に持った波久奴(はくぬ) 花王瑠(かおる)が立っていた。

 

「…………座ったら?」

 

「そうさせてもらうよ。はい、これは君の分だ」

 

そう言って私の前に持っていた片方の皿を置いた。

 

「私の?」

 

「僕からのささやかなエールさ」

 

「じゃあ、もう少し綺麗に盛り付けるってことは出来ないの?」

 

「あいにくその手の事は苦手でね」

 

さっと前髪を軽く流してから皿に盛り付けられたサラダを食べ始める花王瑠。

 

私もさらに盛り付けられたポテトを1本口に運んだ。

 

「で?君から見たあのチームはどうだい?行けそうかい?」

 

「さぁね。面白いメンバーではあるから退屈はしないかもね」

 

「確かに。僕達とはまた違った強さのチームって感じかな?」

 

「そうかも」

 

そう返すと不意に花王瑠がサラダを食べていた手を止め、軽く口元を拭いてから話を切り出した。

 

「ま、火蓮がいいならそれでいいさ。それはそうとして、君は僕に言わなきゃいけないことがあるんじゃないのかい?」

 

「はぁ?そんなことあるわけ……………………」

 

「あるでしょ?」

 

ニヤニヤと意地悪げにこちらの反応を楽しんでいる花王瑠。

 

「…………黙って来たこと?」

 

「そう。それに対しての謝罪がないと思うんだけどな〜。僕になんの相談もせずに勝手に決めたことに対しての謝罪が」

 

「そうよ火蓮。花王瑠ったらアンタが相談してくれなかったことに対してめちゃくちゃショック受けてたんだから」

 

そう言われ、返答に困っているとアルコールによって既に軽く出来上がっている十二天王の監督がジョッキを片手に現れた。

 

「か、監督!?そ、それは言わないって!!」

 

監督の一言にさっきまで意地悪げにニヤニヤしていた花王瑠が今度は珍しく赤面しながら焦りの声を上げた。

 

私はそれを好機と見た。

 

「へぇ、そんなにショックだったわけ?ふふふ」

 

「か、火蓮まで」

 

「花王瑠ったらあなたが帰路に着いてから入れ違いになるように私のところに来て、ね。必死になってくれてたのよね。花王瑠♪」

 

「っ//ほ、ほっといてくださいよ!火蓮はチームメイトで僕はキャプテンなんですから当然のことをしたまでです」

 

「ついでに想いびt………………モゴモゴ!!!?」

 

「は?」

 

「監督っ!!!」

 

「どういうこと?」

 

「なんでもない!」

 

そう言うとものすごい速さで監督の口を塞いだ花王瑠は小声で何やら監督に一言喋ったと思うといきなりその手を離して再び皿に残ったサラダにがっつき始めた。

 

 

私はポテトをまた1本口に放り込み、ついでにオレンジジュースも流し込んだ。

 

 

 

 




後書きです。

いやぁ、代表選考試合終わりましたけど、サッカーの試合って文章で書くの相当きついですね…………。
姫なりに頑張って書いてみましたけどどうでしょうかね←

基本ゲーム版とは別にあの辺のキャラにはオリジナルの技をあげよう♪




それから、十二天王の監督さんの紹介を。


十二天王監督

栗崎(くりさき) 夏澄(かすみ)
性別:女性
⇒20代半ばという脅威の若さで桜林学園のサッカー部を世界の舞台へ送り出した天才監督。攻撃は最大の防御を座右の銘に掲げるほどそのスタイルは基本的に攻撃オンリー。故に十二天王はどのポジションの選手も攻撃に参加できるほどの技術と機動力、そしてシュート力を兼ね備えている。ただ、それでも防御面を全く考えていない訳では無いところもある。ちなみに、大のお酒好きで噂ではまぁまぁ強いらしい。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 FFIアジア地区予選編
練習禁止


奇稲田姫です。


とりあえずアジア地区予選編始まります。


ここはサッカー協会。

 

 

 

 

 

ここでは現在FFIの予選大会、つまりアジア大会の抽選会が行われていた。

 

 

この抽選会によって私たちイナズマジャパンの初戦の相手が決まるのだ。

 

私は今か今かとソワソワしっぱなしの代表メンバー達の一番後ろで施設の食堂にある備え付けのテレビをぼーっと眺めていた。

 

アジア最強と名高い韓国代表を始め、大会の優勝候補に名乗りを上げたオーストラリア、西からは砂漠によって鍛えられた足腰が武器のカタールやサウジアラビアなど全部で8ヶ国ものチームの監督がその会場に集結していた。

 

私個人としてはほかのチームはいいとしても、韓国代表と初戦で当たることだけは絶対に避けて欲しかった。

 

韓国代表と言えば当然あの男が出てくるはず。

 

どうも私は彼だけは苦手でならないのだ。

 

初戦で韓国だけはやめてください!

 

それだけを心の中で入念に祈りながら背もたれに寄りかかって椅子をカタカタ揺らす。

 

そしてついにその時は来た。

 

ナレーションをしている若い女性が私たちイナズマジャパンの名前を呼んだのだ。

 

 

 

 

 

 

わずかな間を置いて画面の向こうで久遠監督がゆっくりと席から立ち上がる。

 

そして、堂々とした態度で壇上まで上がると空気の流れによって縦横無尽に飛び回っているクジの中から1枚を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

埋まっているマスは、

 

1-B オーストラリア代表「ビックウェイブス」

2-B カタール代表「デザートライオン」

3-A 韓国代表「ファイヤードラゴン」

4-B サウジアラビア代表「ザ・バラクーダ」

 

となっており、残る枠は4枠。

 

つまり、私たちイナズマジャパンはこの4チームのどこかと確実に当たるわけになるのだが、先も言った通り3-Bだけは勘弁して欲しいところ。

 

久遠監督!

お願いします!

 

そんな想いを表に出さないように平静を装いながら、私は心の中では思い切り神様に祈りを捧げていた。

 

 

 

そして、久遠監督が引いたカードは…………。

 

 

 

 

 

 

 

"日本代表「イナズマジャパン」、1-A!"

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、わずかにこの部屋がざわめいた。

 

 

 

 

初戦の相手は、オーストラリア代表「ビックウェイブス」に決定した。

 

 

 

 

私としては内心ほっとしているのだが、実際はそうも言ってられない状況になったらしい。

 

初戦から韓国代表と並ぶ優勝候補が相手なのだから。

 

しかもフットボールフロンティアインターナショナルアジア地区予選の第1試合とは…………。

試合は2日後と言っていたが、正直これと言って十分な準備は出来るとは思えない。

 

さて、久遠監督はこの状況からどうやって私たちを鍛え上げていくつもりなのかしら。

 

うちの猪突猛進という言葉がバッチリ当てはまる監督なら恐らく「やられる前にやれ!」とでも言いそうなもんだけど。

 

このチームはそうはいかないし。

 

「(どうするの?呪われた監督さん。)」

 

先日マネージャーの音無さんが使った言葉を引用して心の中で問を作ってみる。

 

それから1つ息をついて、カタカタ揺らしていた椅子から立ち上がると初戦から強豪と戦えるということでモチベーションも右肩上がり傾向のメンバーを横目に食堂をあとにした。

 

そして退出して扉を閉めた直後。

 

「おい」

 

食堂の壁にもたれかかっていた不動に声をかけられた。

 

「なに」

 

オーストラリア代表(アイツら)の試合、見たかよ?」

 

意外な質問に思わず振り返ってしまった。

 

「は?なんだって?」

 

「だから、オーストラリア代表の試合、見たかって聞いてんだよ」

 

「見たか見てないかと言われたら、一応目は通したわよ。たまたま目金くんが出場チームの情報持ってたからそのレベルしか見れてないけど」

 

「戦術は?」

 

「見た」

 

「ならよかった。てめぇもあいつらみてぇに脳までお花畑じゃなくて安心したぜ。クククク」

 

「はぁ、あなたも面倒な性格してるわよね。答えが出てるなら教えてあげればいいじゃない。チームメイトなんだし」

 

ため息混じりにそう言うと不動はふんと軽く鼻を鳴らした。

 

「言っても理解出来ねぇよ」

 

「そういうところが良くないの」

 

「大きなお世話だ」

 

「あ、そ。で?そんな不動は私になんの用かしら?」

 

そう言うと不動は寄りかかっていた壁から離れると、ポケットに手を入れながらいつものニヤケ顔………………じゃなくて珍しく真剣な顔で人差し指をクイッと動かした。

 

「ちょっと付き合えよ」

 

「なに?デート?」

 

「はん。馬鹿かお前」

 

「冗談だって。分かってるわよ。20分でいいわね?」

 

「長ぇ。10分だ」

 

「釣れないわね。まぁ、いいわ」

 

軽く冗談を言いながら私は不動に連れられて食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンド。

 

 

 

 

 

 

「……っはぁ!はぁ!…………っ……」

 

「ふぅ、掴めたかしら?ま、私一人じゃあの戦術の再現には役不足だったと思うけど」

 

私は目の前で膝に手を当てながら荒い息を整えている不動に向かって言葉を投げる。

 

「………………」

 

「……大丈夫そうね。じゃあ、私は部屋に戻るわよ?シャワー浴びたいから」

 

「…………ちっ」

 

「素直じゃないんだから。ま、いいけど」

 

ため息混じりに呟いて私は不動に背を向け、グラウンドを後にした。

 

 

 

 

そんな私たちの姿を校門前で車をおりた久遠監督に見られていたとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿舎の玄関で練習着に付着した土を軽く払いながら靴を履き替えていると、少し遅れて不動も玄関に入ってきた。

 

いつも通りツンとした態度で手早く靴をはきかえて不動は下駄箱を通り過ぎたあたりで足を止めた。

 

「不動?」

 

その視線の先を追うと2階に上がる階段の前で先程帰宅したのだろうか久遠監督を取り囲むようにメンバー達が集まっていた。

 

ちょうど今後の練習スケジュールの発表をするのだそうだ。

 

私は、舌打ちをしながらその場で立ち止まったままの不動の背中を無理やり押しながらその輪の1番外に加わる。

 

 

そこで久遠監督の口から突拍子もない一言が出るとは夢にも思ってなかったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同「練習禁止!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言い渡されたのは試合までの2日間グラウンドでの練習はおろか、そもそも宿舎から出ることするも禁じる、というもの。

 

それに対しての抗議は当然起こり、チームの司令塔である鬼道くんを筆頭にみんな猛反発をしていた。

 

みんなの勢いに押されて止めに入るタイミングを完全に見失ってしまった私は横目でちらりと不動に目を向ける。

 

しかし、その意味をいち早く理解した不動は小さく鼻を鳴らしながらその輪の中から1人抜けて足早に自分の部屋へと戻って行った。

 

「(…………まぁ、確かにあの戦術のイメージを掴むためにはいいのかもしれないけど。久遠監督ももう少し言葉を選べなかったのかしら。そういうところ不動に似てる気がするのよね)」

 

言葉足らずと言うのはやっぱり厄介だ、と思いながら私も2階へ上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その猛抗議からしばらく経ってからのことだった。

 

みんなこの「練習禁止」の意味を理解してきたのだろうか、最初に比べてそれぞれの部屋からドカドカバタバタという音が至る所から聞こえ始めた。

 

ただ、一つだけ問題がある。

 

昼間ならまだいい。

 

昼間ならまだ許容範囲だ。

 

 

でも………………。

 

 

 

 

 

 

いくら練習したいからと言って夜までやるのだけは勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

………………寝れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日(オーストラリア戦まで残り1日)

 

 

 

 

今日も昨日に引き続き朝食後は左隣の部屋だけに飽き足らず上と下の部屋からもドカドカ音が聞こえ始めた。

 

ちなみに私の右隣の部屋は不動だからやけに静かだった。

 

若干寝不足の目を擦りながら部屋を出る。

 

部屋には備え付けの冷蔵庫やシャワールームといった贅沢なものは無いので飲み物などは基本的に食堂に行かなければならない。

そんな面倒なシステムに心の中で文句を言いながら階段を降りていく。

 

…………つまり、喉が乾いたのだ。

 

昨日壁に向かってボールを蹴りすぎてあと1回壁にぶつけたら恐らく崩れてしまいそうなところまで行ってしまったため、崩れる前に切り上げ、そうなるともう部屋でやることなんてなくなってしまうわけで、朝食から戻ってきてもベッドの上でウトウトするしか無かった。

 

食堂に向かうため、1階へ続く階段を降りながら欠伸をひとつ。

 

そんな時、ちょうど特例だかなんだかわからないけど帰宅を許されていた宇都宮くんが玄関口から入ってくるのが見えた。

 

「おはよう宇都宮くん…………いや、やっぱり名前で呼んだ方がいい?」

 

「あ、火蓮さん。おはようございます。呼び方は…………やっぱり名前で呼んでもらった方がしっくりきます」

 

「そう?じゃあ、そうするわね」

 

「はい」

 

「それで、虎丸くんはどうして家から通ってるの?」

 

何となくそんな質問をぶつけてみた。

会話が途切れそうだったからだと言うことは口が裂けても言えないが。

 

まぁ、コミュニケーションよコミュニケーション。

 

「本当にこの間不動が言ってた理由ってわけじゃないわよね?」

 

「まさか、そんなことないじゃないですか。家の事情ですよ家の」

 

「家の?へぇ、困ったことがあるんなら相談に乗るわよ?」

 

「いや、特に今困ってることは…………」

 

「乗るわよ?」

 

私は退屈なこの時間から抜け出したいその一心で虎丸くんに詰め寄った。

でも、なにか隠しているなと思っていたのもまた事実なのでタイミングとしてはちょうどいいのかも。

 

「いや、別に…………母さんの手伝いg……っ!?…………はぁ」

 

私に詰め寄られて若干顔を赤くしながら視線を中に泳がせる虎丸くん。

しかし、その表情もすぐに戻して軽くため息をついた。

 

…………それもそれでなんか複雑ではあるのだが。

 

「はぁ、なんでしょう。火蓮さんには隠し通せる気がしないです」

 

「白状したわね」

 

「こんな無理やり詰め寄られたらつい口が滑っちゃいますよ」

 

「あら、そんなに詰め寄った覚えはないけど。まだまだ経験が浅いわね。クスクス」

 

「なんなんですか!!」

 

「ほらほら怒らない。あ、そうそう、これから食堂行くんだけど一緒に行かない?」

 

キーっと少しふくれ気味になった虎丸くんをなだめながらそれとなく食堂に誘ってみる。

 

「あ、行きます!今日はちょっと寝坊しちゃって朝ごはんろくに食べられなかったんですよ〜。それからここまでダッシュできたからもうお腹ペコペコなんです〜」

 

「あらそうwwそれは災難ねww」

 

「わ、笑わないでくださいよ」

 

そんなこんなで虎丸くんと一緒に食堂で色々な話をしたり聞いたり。

途中からだんだんと人数が増えていったのは気の所為ではないはず……。

最後には不動以外の全員が集合するという始末だったし。

 

まぁ、今日もやることと言ったら徒にベッドの上でゴロゴロしているか、不動から屋上に呼び出しがかかるかの2択しかないわけなので出来ればこういうコミュニケーションは積極的に取っていきたいところ。

早くチームに溶け込まないと居ずらくなってからでは遅いからね。

 

そんなことを考えながら食堂に集まったメンバー一人一人に軽く挨拶も兼ねて簡単なおしゃべりをした。

 

 

 

 

 

この日の朝はこんな感じで過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ太陽も頂上から傾きだし、辺りも若干赤みを帯び始めた頃。

宿舎の屋上に金網の乾いた音が響き渡った。

 

 

 

ガシャン!!

 

 

 

 

「ほら、もうおしまいなの?なんか掴めてもそれを実行できないんじゃ意味無いわよ〜」

 

 

 

私は右足でボールをポンポンとリフティングしながら屋上の金網に思い切り肘打ちをかました不動に向かって言葉をかける。

 

「けっ!うるせぇなぁ!んな事言われなくても分かってんだよ!!!はぁっ…………!はぁっ…………!っ!」

 

不動は乱れに乱れた荒い息が整いもしないまま再び私からボールをうばうと、数メートル離れて私と向かい合った。

 

「いくぜ!!!!」

 

「どこからでも来なさい!」

 

不動が掛け声とともにドリブルを開始。

 

それに対して私はそのドリブルをブロックしてボールを奪う。

 

それの繰り返しなのだが、不動の要望で100%全力で向かってこいとの事なので仕方なくそれに応じた私は若干後悔気味ではあった。

何せ私が不動から屋上に呼び出されてかれこれ4時間は過ぎているのだが、不動は一向に私をドリブルで抜くことが出来ないでいた。

趣旨としては主にボールキープ。

私のブロックからひたすらにキープし続けることが出来れば恐らくあの戦術は攻略可能ではあるだろう、ということだった。

 

ただ、私は本職はFWなのでディフェンスはあまり得意ではないのだよ、不動。

 

だから私を抜いたところで実践で使えるかといえば……………………まぁ使えなくはないだろうが、正直微妙なところではある。

 

私は奪ったボールを再びリフティングして軽く蹴って不動に戻した。

 

「ねぇ、たしかに私にボールを奪われないようにするのはいいかもしれないけど、その前に不動の方が倒れるんじゃないの?」

 

「はっ!馬鹿言え。っはぁ……、誰に物言ってやがる」

 

「……強情だなぁ」

 

「いいから次いくぜ!!」

 

「はぁ、じゃあ、気の済むまで奪い尽くしてやるわ!」

 

こんな感じで私は不動の秘密特訓(私命名)に付き合うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

 

 

 

 

 

結局あれから1度も私をドリブルで突破できなかった不動に、さすがに今日はここまでだと若干語調を荒らげながら言って屋上をあとにした私はドリンクでも貰おうと食堂へ行く途中、またもやちょうど玄関から家に帰宅しようとしていた虎丸くんと遭遇する。

 

「おーい虎丸くん。帰るところ?」

 

「あ、火蓮さん。はい、また明日よろしくお願いします!」

 

律儀にカバンを肩にかけながらぺこりとお辞儀をする虎丸くん。

 

「じゃあ私も一緒に行ってもいい?」

 

「それじゃあ…………え?……えぇ!?」

 

唐突の提案に案の定虎丸くんが頓狂な声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎丸くん宅、虎ノ屋前。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ここが虎丸くんの家。定食屋さんだったのね、あなたの家」

 

「…………はい」

 

「知る人ぞ知るみたいな感じかしら」

 

「…………はい」

 

「…………」

 

虎丸くんの家の前まで来た私は年季の入った…………とまでは行かずとも結構味がある看板の前で驚きの声を上げた。

 

外出許可は久遠監督をなんとか言いくるめたというか事実を話したら普通に貰うことが出来たため、少し拍子抜けしているふしはある。

 

ちなみに、どうして虎丸くんがこんなに元気ないのかと言うと…………。

 

「で、ついでに聞きたいんだけど…………」

 

「あん?却下だ」

 

この場に私と虎丸くん以外にもうひとりいるからだ。

 

「どうして不動がここに居るのよ!」

 

意外にして意外な人物、不動がなんの気まぐれなのか分からないがついてきていた。

 

「虎丸くんが怯えちゃうからさっさとどっか行きなさいよ。」

 

さっきからグラウンドでも宿舎でも元気のいい虎丸くんが、少し縮こまってしまっている。

 

そんなことなどどうでもいいといわんばかりにわたしの言葉に反発するといつものニヤニヤした笑みを浮かべながら不動は小さく肩を震わせていた。

 

「はん。俺がどこにいようと勝手だ。人の弱みは握っておいて損はねぇんだよ。ククク」

 

「そんなことで……」

 

「まぁ、自分の家でしか寝れない赤ちゃんの弱みなんか握ったところで使い道なんかねぇと思うけどな」

 

そう嫌味をガンガン吐きながら不動が踵を返したちょうどそのタイミング、いきなり虎ノ屋の入口が思い切りガラガラと開かれた。

 

 

 

 

 

 

「い、いってきまーす!!!って、あら、虎丸くん。おかえり!じゃあ、私は出前に行ってくるからちょっとお店の中お願いできる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから私より少し背の高い女の人が大慌てといった様子で出前ケースを持ちながらバタバタと勢いよく飛び出してきた。

 

「の、乃々美姉ちゃん!?」

 

そんな様子に私と不動は顔を見合わせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎ノ屋店内。

 

 

 

「はい、ハヤシライスと生姜焼き定食ですね。承りました」

 

私はお客さんからの注文を手に持った伝票に手早くメモすると1度ペコッとお辞儀をしてからカウンターの方へ。

 

「不動!注文!ハヤシライスと生姜焼き定食!」

 

「叫ぶんじゃねぇ!聞こえてんだよ!!ちっ、なんで俺までこんなことしなきゃなんねぇんだ!」

 

「ほら、あんたが勝手についてきたんだから文句言わない」

 

「後で覚えてろよ。ほらよ」

 

そんなことをグチグチ言いつつも似合わない作業の手をとめない不動に込み上げてくる笑いをなんとか堪えながら渡された料理をトレーに乗せ、老夫婦の2人組のテーブルへ。

 

しかも不動のやつやけに手際もいいし。

 

「不動さん。オムライス追加です!」

 

「ちっ」

 

ちょうどカウンターを出ようとしたタイミングで店内から注文の伝票をヒラヒラさせた虎丸くんとすれ違った。

 

「お待たせ致しました。焼き魚定食2つになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか。それでは」

 

簡単な定型文を喋ると老夫婦のテーブルに伝票を裏向きで置くと1度頭を下げてからカウンターへ戻った。

 

そこに虎丸くんも戻ってきてふぅ、と一息ついた。

 

「あの、すみません火蓮さん。なんか手伝いをさせてしまって」

 

「ん?あぁ、いいのよ。乗りかかった船ってやつ」

 

「でも、助かりました。いつもは母さんの代わりに俺が店を切り盛りしてるんですけど、最近それだけじゃ人手が足りなくなってきた所なんですよ!あ、でも…………その、ほかの人には…………」

 

「分かってるわよ。秘密にしとくから」

 

そう言ってパチッとウィンクをしてから虎丸くんのおでこを指でツンと押した。

 

それから視線をキッチンの方に戻す。

 

「それにしても………………」

 

「はい…………人は見かけによらないってことですね」

 

「えぇ」

 

「おい!なにぼさっと突っ立ってんだよ!さっさと次運びやがれ馬鹿どもが!」

 

厨房の窓口から不動が出来上がった料理を差し出しながら怒鳴る。

 

「…………なによこれ。なんで不動って変なところでスペック高いの」

 

「俺、不動さんのこと誤解してたかもしれないです」

 

「イメージダウンもいい所よ」

 

「しかも……普通に上手いですし」

 

「なんなのあいつ…………」

 

「聞こえてんだよバカが!」

 

「「す、すみません不動料理長!!」」

 

「ふふふ、虎丸のお友達は面白いわね」

 

いつの間にか厨房の隣の勝手口から顔を覗かせていた虎丸のお母さんも嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

そんなやり取りをしながら結局私達は虎丸くん家の手伝いをしてから宿舎に帰ってきた。

 

 

 

 

さすがに時間もいい時間になってしまったので久遠監督からは注意を受けた。

 




さて、原作ではオーストラリア戦の前の練習禁止回です。

…………というか壁にボール蹴りまくって崩れる寸前って、どんだけ蹴ったんでしょうね。

そんな感じで書いてました。




次回はいよいよ第1試合、オーストラリア代表「ビックウェーブス」戦になりそうです。

よろしくお願いします。



それでは、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1試合 VSビッグウェイブス 前編

奇稲田姫です。


さて今回からFFIが正式に始まっていきますね。

では、本編どうぞ←


試合当日。

 

天気は快晴。

 

私としては若干暑いくらいの気温の中、このFFIアジア地区予選メインスタジアムは集まった満員の観客によってさらに熱気を帯びていた。

 

そんなスタジアムの上空に打ち上げられる花火とともにスタジアムのスピーカーから大きな声が流れ始める。

 

 

 

"いよいよこの日がやって参りました!第1回フットボールフロンティアインターナショナルアジア地区予選!フットボールフロンティアスタジアムは超満員!アジア地区予選は全てこのスタジアムで行われます!そして本大会に進めるのは出場した8チームの中でもただ1チーム!果たして、アジア代表の栄誉を勝ち取るのはどのチームになるのか!"

 

そんな言葉が放送された直後、アナウンスによって紹介された財前総理が言葉を述べた。

 

私はイナズマジャパンの最後尾で話半分聞き流しながら軽く左右に視線を流した。

 

顔見知りは………………韓国のあの男だけか。

 

ある意味良かったというかなんというか。

 

ため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開会式が終わるとすぐに第1試合となるため、第1試合出場のイナズマジャパンは開会式後もすぐにグラウンドへ集まり、軽くストレッチを行った。

 

そしてストレッチも一段落し、ほかの選手も全て退場して行ったタイミングで久遠監督が集合をかける。

 

 

「スターティングイレブンを発表する。FW、豪炎寺、吹雪、基山。MF、鬼道、風丸、緑川。DF、壁山、綱海、土方、木暮。そしてGK兼ゲームキャプテンは円堂」

 

なるほど、私は初戦はベンチスタートか。

軽く息をついて不動に視線を向けると呼ばれなかったのがそれほど意外だったのか、不満そうに舌打ちをしていた。

 

「へっ、分かってねぇなぁ」

 

「っ!」

 

不動の嫌味に鬼道くんが反応する。

 

鬼道くんも真面目に反応しなくてもいいと思うんだけどな。

 

私は別に監督を信用してないわけじゃないからそれに従うだけだし。

 

「呪われた監督」とまで言われている久遠監督の実力、見せてもらわねばならないから。

 

本当に呪われているのかそうでないのか……。

 

私はそんなことを考えながら不動に小さく耳打ちした。

 

お互いスタメン落ちしちゃったわね

 

うるせぇ!大きなお世話だ!

 

あら怖い

 

へっ、俺を使わなかったこと後悔するぜ。ククク

 

私にはなにか考えがあるように思うけど?

 

どうだかな

 

そう吐き捨てるようにいうと不動は相変わらず無愛想にポケットに手を入れたまま誰よりも早くベンチにドカッと腰を下ろした。

 

そんな様子の不動に半ば呆れながらスタメンとなったメンバー達の輪の中へ。

 

「豪炎寺くん、鬼道くん、初戦頑張ってね」

 

「あぁ、任せておけ」

 

「まずは1勝。これで流れをつかみたいところだな。それに、FWを封じる鉄壁のディフェンス…………」

 

「そうね。気をつけるべきはそこね」

 

「火蓮はなにか分かったのか?」

 

「確証がないのよ。だからまだ話せない」

 

「なるほどな」

 

「なんにせよ。いつでも出られるようにはしておいてくれ。砥鹿」

 

「分かってるわよ。鬼道くんも…………油断はしないでね」

 

「ふ、お前に言われなくてもそのつもりだ。そろそろ時間だな。みんな行くぞ!」

 

鬼道くんらしく小さく口元だけで笑みを作ってからほかのスタメンを連れてグラウンドへ向かっていった。

 

確証がない…………と言うより、彼らが自分達で久遠監督の意図を理解しなければ話したところで無駄になってしまいかねない。

それだけは絶対に避けなければならないのだ。

 

私は未だに不動とほかのメンバーとの間に空いたスペースを埋めるようにベンチに座る。

 

同時にお互いの選手がグラウンドへ散り、実況の高らかな音声に導かれながら試合開始のホイッスルが高々と鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FFI第1試合 VSビックウェイブス

 

キックオフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホイッスルと同時にイナズマジャパンボールで始まった試合は、豪炎寺くんから吹雪くんへ渡されさらにバックパスで鬼道くんへ。

 

司令塔である鬼道くんはそのままドリブルで敵陣内へ攻め込んでいく。

 

 

…………なるほど、たまにはベンチ内から試合を見るのも面白いのかもしれない。

フィールド内に居る時よりも、試合全体が見渡せる。

 

そんな呑気なことを考えていられるのも束の間だった。

 

一瞬、ほんの一瞬の出来事。

刹那と表現するにふさわしい時間の中で、ビッグウェイブスの陣形が流れるように変わった。

 

鬼道くんを中心に4人の選手が四方を取り囲むようにプレッシング。

 

私は当の本人ではないので今の鬼道くんがどのように感じているのかまでは分からないが、前に後ろにキョロキョロしているところを見るとパスコースもバックパスも防がれているのだろう。

 

これがあの戦術か。

 

名前は確か…………「ボックスロックディフェンス」。

 

あの鬼道くんが苦戦しているとなると相当なのだろう……。

 

そう考えているうちにボールは鬼道くんから瞬く間に奪われてボックスの外へ。

 

しかし、それを追う綱海くんと土方くんがクラッシュ。

 

ポジショニングってやっぱり大事なのね…………。

 

零れたボールはすぐさま相手に拾われてFWに繋がれてしまった。

 

こちらのDF陣のプレッシングも難なくかわされ、ペナルティエリア内まで切り込まれる。

 

そして、ついにビッグウェイブスのFWによる必殺技、「メガロドン」が円堂くんの「正義の鉄拳」を粉砕した。

 

 

 

 

 

 

A-J

1-0

 

 

 

 

 

先制点を許したイナズマジャパン。

 

ボールを奪って果敢に攻めるもビッグウェイブスのボックスロックディフェンスによって阻まれ、ゴール前まで持ち込むことすら出来ないまま時間が過ぎていく。

 

私はベンチの中からこの状況の打開案を必死に探っていた。

 

どうすればこの状況をひっくり返せる。

 

まず頭に浮かぶのは「私ならこうする」というものだった。

 

私ならこうする………………そうすればあのボックスロックディフェンスの攻略は可能だ。

恐らく不動も。

 

でも、監督が私達を使わないのには必ず理由があるはずだ。

と、言っても今はそんなことを考えている場合ではないが。

 

それでも久遠監督の意図はだんだん読めてきた。

ベンチの中からフィールドの選手達に向けて放った一言、「箱の鍵は、お前達の中にある!」。

その一言は、ボックスロックディフェンスを攻略するためのヒントにしては最高の一言だった。

 

そのヒントにいち早く気づいたのは、やはり鬼道くんだった。

 

再びパスを受けた鬼道くんがドリブルで上がっていく。

 

しかし、そのドリブルもすぐにボックスロックディフェンスによって封じられてしまった。

これでは今までの二の舞。

さぁ、鬼道くんはどうする?

 

そんな私の期待に応えるかのようにビッグウェイブスが作り上げた狭いボックスの中で、次々と迫ってくる足から器用にかわしながらボールをキープし続けはじめた。

 

狭いボックス、それがどういう事だったのかようやく気づいたのだろう。

久遠監督による「練習禁止」というのも含めて。

 

そして、それほどボールをキープし続けることが出来るならば当然焦るのは…………相手の方だ。

 

ここまでプレッシングしても一向にボールを奪えないのだ。

当然激しさも増していくことになるが、その焦りが命取りなことに気付かない。

 

その焦りが最高潮に達したその瞬間。

 

選手同士の肩が接触して陣形が崩れた。

 

「今だ!!」

 

その一瞬を見逃す鬼道くんではない。

 

瞬時にボールを浮かせ、接触した選手同士の間を綺麗に通して見事にボールをボックスの外へ繋げることに成功した。

つまり、ボックスロックディフェンスを破った。

 

ベンチ内でそれを見ていた私もふっと小さく笑みを零したのだった。

 

それも束の間。

フィールド内ではボックスロックディフェンスを破って押せ押せムードのイナズマジャパンだが、久遠監督だけはそうではなかった。

 

私たちに向かってアップの指示を出してきた。

 

あぁ、なるほど。

たしかに久遠監督の考えは正しい。

 

日本のチームはどうなのか分からないが、世界を相手にしていた私ならこの指示の意味は痛いほど理解出来た。

 

隣に座っていた立向居くんは不思議そうな顔をしていたが。

 

まぁ、経験だろう。

 

正直私としてはこの選択を出来るだけでも、この久遠監督という人物を信じるに足りる要素を持っていた。

 

ビッグウェイブスはその直後、クリアでボールを外に出したと思えば、フィールドプレーヤーを2人も交代してきたのだ。

 

……やはり切り替えが早いわね。

 

先の1プレーによってボックスロックディフェンスを攻略し、勢いに乗るイナズマジャパンは再び鬼道くんを起点に攻め込んでいく。

 

「緑川!」

 

「おう!」

 

鬼道くんからパスを受けた緑川くんがサイドからドリブルで駆け上がるが、プッシングに来たのはたったの1人。

 

それを好機と見たのか緑川くんがボールを持ったまま加速した。

 

「(……やられたわね)」

 

私の嫌な予感が的中し、今度は個人技によるディフェンスに切り替えてきたビッグウェイブス。

 

この切り替えの速さはやはり世界ならでは。

一瞬でも対処が遅れるとそのまま畳み込まれてしまうこともある程だ。

 

だから、久遠監督(この人)の判断は的確だと言える。

 

そんな中、ドリブルをする鬼道くんからボールを奪おうと2人のディフェンダーからの強烈な2連続スライディングタックルが鬼道くんの右足に直撃した。

 

偶然か?

もしくはボックスロックディフェンスを破られた腹いせか?

どちらにせよこれは…………。

 

「っ!」

 

思わず私は立ち上がるが、今ここで抗議の声を上げてもどうすることも出来ない。

私にペナルティが課せられるだけだ。

 

「そう熱くなんなよ」

 

「不動」

 

「黙って見てな」

 

不動の一言で我に返った私は、もう一度その場にストンと腰を下ろした。

 

それと同時にフィールド内に前半終了のホイッスルが高らかと鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前半終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィールドにいたメンバーがベンチに戻ってくる。

 

先程のスライディングタックルで足を負傷した鬼道くんは円堂くんの肩を借りて、右足を引き摺りながら引き上げてきた。

 

思わず駆け寄って声をかける。

 

「大丈夫?鬼道くん」

 

「あぁ、大丈夫だ…………っ!」

 

「無理をするな鬼道」

 

鬼道くんをベンチに座らせながら円堂くんも心配そうに声を掛けた。

 

ベンチに座って応急処置を受ける鬼道くん。

その様子を誰もが心配そうに見守っていた。

 

それも当然か。

なにせチームの司令塔が怪我をしてしまったのだ。

不安にもなるだろう。

 

「うぐっ!?」

 

「っ……。この試合は無理です」

 

彼の足の応急処置をしていたマネージャーの木野さんが監督に判断を求める。

 

「これくらい大丈夫だ!」

 

「鬼道、交代だ」

 

そこに監督から交代の指示がおりる。

 

脛をスパイクでモロに蹴られているのにも関わらず、まだ戦う意思を曲げない鬼道くん。

 

「その足じゃ無理よ鬼道くん!」

 

「砥鹿……」

 

「あぁ、火蓮の言う通りだ。鬼道!気持ちはわかる。でも、さっきも言ったけど無理はするなよ」

 

「円堂…………。分かりました」

 

そう悔しそうにグッと拳を握る鬼道くんの答えに久遠監督は1度小さく頷いてから控えの選手を指名する。

 

「後半、頭から行くぞ!虎丸!砥鹿!」

 

またしても意外そうな顔をした不動の横で名前を呼ばれると思っていなかったのか、虎丸くんがビクンと肩を震わせた。

 

ん?…………わ、私も!?

 

「は、はい!」

 

「私も、ですか?」

 

「不満か?」

 

「あ、いえ」

 

「なら問題ないな」

 

なんとなく複雑な心境になりながらも、私は一つ息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後半の指示を伝える。吹雪、お前は中盤の底に下がって攻撃の芽を摘め。そして、緑川は砥鹿と交代。1度下がって体勢を整えておけ。砥鹿はそのまま前線に、基山は中盤まで下がれ。虎丸はそのまま鬼道のポジションに入れ。前にボールを繋げろ」

 

「っ!…………はい!」

 

「そ、そんな大事なポジション、俺でいいんですか?」

 

「お前がやるんだ」

 

「……はい!」

 

そんな少しオドオドとしたような虎丸くんとは対照的に、悔しそうに唇を噛む緑川くんの代わりに私が入るのか。

でも、ここで私が出る意味がイマイチ理解出来ない。

 

今のままの方が流れはできていると思ったんだけど。

 

続けて練習禁止という指示が出ていたにもかかわらずそれを無視して特訓を続けていたらしい綱海くんに課題を課して後半の指示は終わった。

 

「砥鹿」

 

そう思っていた矢先。

緑川くんが私に声をかけてくれる。

 

「緑川くん」

 

「……後半、頼んだぞ」

 

「分かってるわ。あなたの分まで、ね」

 

「…………」

 

分かってるわよ、緑川くん。

あなたの思いは私が引き継ぐから。

 

それから、ショックを受けてるのが全部顔に出てるわよ。

 

そう考えながら緑川くんの肩をぽんと叩いた。

 

「ほら、そんな怖い顔してないで、試合は終わってないのよ。落ち込む暇があったらちゃんと試合を見てなさい」

 

「……あぁ、任せたぜ!」

 

私の言葉でいくらか表情が和らいだ緑川くんの肩をもう一度叩いて、私は後半戦に望むため、メンバーとともにベンチを出た。

 

その途中でちらりと久遠監督に目を向けた。

 

すると、私の視線に気づいたのか久遠監督も小さく頷いてみせた。

 

………………もしかして。

 

虎丸くんのサポートもしろってことなのかしら。

 

私にそんな器用なことが出来るか分からないが…………久遠監督の指示だ、やるしかないか。

 

私はため息をついてスリートップの右サイドのポジションに着くと深呼吸を一回し、ぴょんぴょんと飛び跳ねることで体を解した。

 

 

 

 

…………よし!

 

 

 

 

気合を入れ直すのと同時に、後半開始のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 




あとがき


さて、第1試合の前半戦が終了しましたね〜。

原作に沿いながらもどうやって火蓮を混ぜていこうかめちゃくちゃあーでもないこーでもない言いながら書きました←(笑)

ごめんよ緑川くん〜。

これも二次創作の性だと思って許してケロ←

そんなこんなでこれからも地味に書いていきます奇稲田姫ですw

読んでくれた方に感謝しつつあとがきにしようと思いま〜す♪

それではまた次回♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1試合 VSビッグウェイブス 後編

ビックウェイブス戦の後半戦です。


どうぞ


"さぁ後半戦もキックオフ目前!ここでイナズマジャパンは負傷した鬼道有人に代わって宇都宮虎丸を、緑川リュウジに代わって今大会唯一の女性プレイヤー、砥鹿火蓮を投入してきました!両者ともフットボールフロンティアに出場経験のない実力未知数の選手であります!この2人がどう活躍するのか見ものです!"

 

 

後半開始間近。

実況のアナウンスとともに私と虎丸くんの紹介がなされ、それに呼応して会場がさらに熱気を帯びる。

 

…………あぁ、よく見れば観客席にいるのはほとんど日本人なのね。

そりゃ私のデータが無くても不思議ではないか。

 

というか、これで完全に韓国のアイツにバレたわ。

 

…………はぁ、今は目の前の試合に集中しよう。

 

…………でも、虎丸くんのサポートをしろって言ったってどうすればいいのか正直検討もつけられないのだけど。

 

なるようにしかならないだろうしとりあえず自分のプレーをしておこう。

 

そう心に決めてセンターラインから少し後ろの位置で軽く構えた。

 

直後、会場一帯に後半戦開始のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は相手ボールからスタートした後半戦。

 

右サイドからなのでとりあえずボールを取りに行くのを諦めて前線へ走ろうと足を出した瞬間。

 

「あ…………」

 

相手チームのMFからパスが通ったのは、どういう訳か私がいるサイドと同じ場所。

つまり今私の走る目の前にドリブルをする相手FWがいるのだ。

 

…………いっか。

 

うわ、結構ガタイがいい選手だなぁ。

この選手が確か前半で点を入れた選手か。

 

近くで見るとすごい迫力。

 

そう思いながらブロックに入ろうとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「砥鹿!お前の力、見せてみろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「え…………?」

 

ベンチから響いてきた久遠監督の一言でブロックに入りかけた足が止まる。

 

そのせいでFWの彼は私の横を特に何もプレッシングされることなく通り過ぎて行った。

 

そんなことには目もくれず、私は思わず久遠監督の方に再び視線を移してしまった。

 

ベンチでは久遠監督だけでなくほかのメンバーも私の方を見ていた。

 

…………あれ?

私が入ったのって虎丸くんのサポートじゃ……。

 

普通に私の勘違いだったってこと?

 

「『炎環の女帝』と言われるお前の力。今ここで見せてみろ!」

 

再び監督からの指示が下る。

 

私としては願ってもいないチャンスではあるけど……、いいのかしら。

久遠監督のその一言でベンチもフィールドも若干どよめきが起こってるし。

 

「(…………久遠監督。どうしてそんなこと…………あ、まさか)」

 

足を止めて久遠監督を見つめる私に向かって、一つ小さく頷いてみせた久遠監督。

私が今考えついたことと久遠監督の意図が一致しているかは不明ではあるが、仕方ない。

 

そんなに見せたいなら見せてあげるわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は後半早々攻め込まれた自陣に向けて全力で戻る。

 

再びFWの選手が味方DF陣を突破して必殺シュートの体勢に入った。

前半戦では円堂くんはこの技を止めることは出来ないでいたが、さすがに1度見たシュートは止められるだろう。でも、今回ばかりは申し訳ないけど貰うことにするよ、そのボール。

 

「くらえ!メガロドン!!!」

 

大きなテイクバックから放たれたシュートはさながら大海原を滑る巨大な鮫の如くゴールに向かって突進していく。

 

「この技はもう一度見た!正義の…………」

 

「待って円堂くん!!私が止める!!!」

 

「え?え?火蓮!?」

 

私は正義の鉄拳を繰り出そうと構えていた円堂くんの前に陣取った。

そして、迫り来るメガロドンにタイミングを合わせて全力…………までは行かずともそこそこの力を込めてそのシュートに右足をぶち当てた。

 

「なにっ!!?」

 

刹那、シュートは私の足を押し返すことなく威力は一瞬にして相殺されて小さく真上に浮いた。

 

それが地面に落ちるのとともに足をのせ、軽く視線だけを後ろの円堂くんに向けた。

案の定驚きの表情を隠せないでいるが…………いや、このフィールド内の選手だけでなく観客も含めて言葉を失っているのか。

 

しかし、当の久遠監督を除いてだけど。

 

「円堂くん。ごめんなさい。このワンプレーだけ、私にちょうだい。あまり個人プレーはやりたくないけど監督からの指示なの。」

 

「……どういうことだ?」

 

「それが分かればここまで強引な手段は取らなかったわよ。そういう事だから、このワンプレーだけは許して。」

 

そう言って円堂くんの答えを聞かないうちに足元のボールを軽く前に蹴り出した。

それと同時に一気にドリブルをトップスピードまで押し上げて、目の前の選手を2人、1歩も反応させることなく抜き去った。

自チームのメンバーが各々声を上げる中、気にせず私は次に3人がかりでプレッシングしてきた敵チームの選手達を巧みなボールコントロールで流れるように抜き去ると、今度は先程緑川くんを止めたディフェンダーと一対一になる。

 

「行かせるか!グレイブストーン!!」

 

両手で作った拳で地面を殴りつけ、隆起した岩盤によって相手のドリブルを防ぐ必殺技。

 

左右に隆起する岩盤のタイミングを見計らいながらせり出す岩盤を足場にして、突破。

 

意外とディフェンスタイプの必殺技なんかは攻略してしまえば大体の選手が硬直状態になっているため普通に突破するより楽なのだ。

 

そのままペナルティエリア内へ。

 

最後にディフェンダー1人をルーレットでかわし、小さく浮かせたボールが地面と接触しないうちに遠心力を利用しながらシュート。

必殺技ではないノーマルなシュートだったが、相手のキーパーは何かを感じとったのか必殺技で応戦した。

 

「入れさせるか!グレートバリアリーフ!!!!」

 

「そうそう」

 

ある意味それは正解の選択肢なのかもね。

 

相手にとっても……そして、こちらにとっても。

 

ゴール前に水の壁が立ち塞がった。

 

しかし、そんな壁に負けるほど私のシュートは軽くない。

 

壁にぶち当たるのと同時にモーターボートに搭載されているモーターのようなスクリュー回転をかけられたシュートは一瞬で水の壁を貫きゴールネットへ………………とまでは行かず、キーパーの伸ばした右手に触れて軌道が逸れた。

 

「あら、惜しい」

 

軽くパチンと指を鳴らしながら久遠監督の方に視線を向ける。

 

惜しくもゴールネットを揺らすことは出来なかったが、久遠監督に私というプレーヤーを見せることに加えて、とある重要な目的は十分に果たせただろう。

 

…………後で個人プレーに走ったことをチームのみんなに謝らないといけないわね。

 

はぁ、監督の指示とはいえこれのおかげでやるべき事がなんだか増えたような気がするわ。

 

ひとり溜息をつきながら自分の陣地の方へとぼとぼ歩いていく。

 

そして、戻ってくるのと同時に一時中断されて自陣に集まっていたメンバーに向けてとりあえず謝罪の一言を行った。

 

「あー、みんなごめんなさい。監督の指示とはいえ個人プレーに走っちゃって」

 

私は若干の居心地の悪さを感じながら空中に視線を泳がして軽く指で頬を掻いた。

 

しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「凄い!凄いな火蓮!俺、あんなすげぇプレー見たの初めてだ!」

 

「え、円堂くん!?」

 

「あぁ、まさかあのFWの必殺シュートを素で止めた挙句あの場所から1人でシュートまで持って行けるとは」

 

「豪炎寺くんまで……」

 

「ま、あんまり見ちゃいけないものだったのかもしれないけどな」

 

「それでも凄かったです!火蓮さん!」

 

「風丸くん……、虎丸くん」

 

目をものっすごいキラキラさせて詰め寄ってきた円堂くんを筆頭に私の周りに集まったメンバーからは誰一人非難の矛先を向けてくる人はいなかった。

しかもみんなそれぞれが本心で言っていることが伝わってくるのだ。

…………全員表情にそれが滲み出てる。

 

「(…………。十二天王やゾディのメンバー以外のチームで非難とか言われなかったの初めてかも)」

 

そんなことを考えながら泳がせていた視線を戻して、集まったメンバー達を一通り見渡した。

 

「みんな、ありがと」

 

最後にその視線を綱海くんに向ける。

 

「じゃあ、綱海くん」

 

「ん?」

 

「ヒント、掴めたわよね?」

 

私の問いに綱海くんは一瞬だけ驚いたがその表情もすぐに引っ込め、当然と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「……あぁ、お前のおかげで良いビジョンが浮かんできたぜ!ありがとな!」

 

「なら良かった」

 

その言葉には私にいきなり個人プレーをしろと言ってきた久遠監督の意図と自分が考えた答えが合っていたという安堵の意味も込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチ内。

 

 

フィールド上では砥鹿火蓮が監督の指示のもと個人プレーに走っているさなか、俺はベンチの背もたれに全体重を預けながら腕を組んでいた。

 

パワー、スピード、技術、どれをとってもトップレベルのプレーを涼しい顔で平然とやってのける砥鹿火蓮を見ながら舌打ちをひとつ。

 

「ちっ、相変わらず規格外なやつ」

 

その声は自分で思っているより大きく出ていたようだ。

 

前半で右足を蹴られた鬼道がそれに対して反応する。

 

「不動。お前は知っていたのか?」

 

「だったらどうした?むしろ知らない方が不思議だと思ったくらいだぜ」

 

「なに?」

 

「…………」

 

なにかと突っかかってくる鬼道を軽く鼻を鳴らすことで流し、視線を再びフィールドに向けた。

 

「(規格外、ねぇ……)」

 

規格外……それは、通常は商品などで決められた基準を満たさない商品のことを指し、簡単に説明すると一般的には不良品のことを示すことが多いが、日本語というのは不思議なものでそんな一見マイナスの意味が強い言葉であってもその場の状況や文法によってはプラスの意味に昇華したりする場合がある。

ちょうど今みたいに。

 

脳内でキャラに似合わないような思考に花を咲かせていると、今の状況の説明を求めて治療中の鬼道クンが久遠監督に詰め寄っていた。

 

「監督。監督は砥鹿火蓮という選手について何か知っているのですか?『炎環の女帝』とはいったい……」

 

「知ってどうする?鬼道」

 

「それは…………」

 

フィールド上では砥鹿火蓮に続いて宇都宮虎丸も己の実力を示し始めていた。

俺としては正直こちらのほうがよっぽど興味をひかれる。

あのガキにこんな力があったのか……。

 

再度鬼道に視線を戻すと、監督の一言に口ごもっていた鬼道が今の虎丸のプレーを見てから意を決したという表情でもう一度監督に詰め寄っているところだった。

 

「砥鹿といい虎丸のことといい、あなたはチームをダメにするような監督じゃない!桜咲中でなにがあったんですか!」

 

「お前が知る必要は無い」

 

それも一蹴され、監督はそのあとはもう何も語らずフィールドを見渡していた。

久遠監督の過去は何故かフィールドに降りてきていた響木によって語られることになったが、そんなものは俺にとって正直どうでもいい内容であった。

 

フィールド上では少しずつ試合も動き始め、先程の火蓮と虎丸の動きによって何かをつかみ始めていたイナズマジャパンが怒涛の反撃を見せている。

 

まずは意外にもチームの起点として機能している虎丸を中心に歯車が噛み合い始め、久遠監督の助言からなんとか答えまでたどり着いたらしい綱海条介によって同点に追いついた。

 

俺は寄りかかっていた背もたれから体を起こし、自分の膝に肘をついてそのまま指を組んだ状態でフィールドを見渡しながら無意識のうちに舌打ちをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっしゃーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

A-J

1-1

 

 

 

 

 

ペナルティエリア内では綱海くんが身につけたばかりの新必殺技によってゴールを決め、大の字になって歓喜の声を上げていた。

 

「やったぜ綱海!」

 

これには円堂くんもガッツポーズをしていた。

 

私も綱海くんとハイタッチを交わす。

 

「ナイスシュート。綱海くん」

 

「あぁ、サンキューな火蓮。お前のおかげで完成させられたぜ」

 

「私はほんのちょっとヒントを出しただけよ。下地が良かったんじゃないの?」

 

「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、この調子でバンバン点とってやるぜ!」

 

そう意気込む綱海くんだったが、試合再開早々に選手交代を行ったオーストラリアのマークの餌食となってしまい思うように身動きも取れなくなってしまう。

 

私は前線へ走る足を軽く緩めながら敵側ベンチで意味深な笑みを浮かべるメガネの男性を見た。

 

やっぱりあの1点で綱海くんのことを脅威認定したらしい。

 

視線を後方に動かしてもピッタリとマークに付いた選手が綱海くんから離れない。

つまり、先程のように意表を突いたオーバーラップはもう出来なくなってしまう。

 

ちなみにマークに付いているのはなにも綱海くんだけではなかった。

 

全員に1人ずつマンツーマンでマークがピッタリとくっついている。

 

つまり、今しがた相手の油断を誘ってマンツーマンマークを振り切りボールを確保した綱海くんであっても、前線にパスなど出せる訳もなく同じディフェンダーの壁山くんへパスを送らざるを得なくなってしまっていた。

 

それでも、マークは外れることなくパスコースは全て塞がれたまま。

 

私にも付いているから動きにくいったらありゃしない。

 

しかしそんなに状況をひっくり返す一言を久遠監督がフィールド上であたふたする壁山くんに向けて言い放った。

 

「1人で持ち込め!!」

 

その一言でなにかを察した壁山くんが敵FWの激しいチャージを振り切ってドリブルで上がってきた。

 

「(……やっぱりこの人のサッカーは凄いわ。この人なら、勝てる!)」

 

私はいつの間にかこちらに視線を向けていた虎丸くんと小さく頷き合って今壁山くんのドリブルに目を奪われているディフェンダーを同時に振り切ると、壁山くんから虎丸くんに向けてパスが通る。

 

その瞬間オーストラリアのマンツーマンディフェンスが崩壊した。

 

豪炎寺くんに付いていたディフェンダーと先ほどまで私についていたディフェンダーがこれ以上進ませまいと同時に虎丸くんへブロックに入る。

 

1人目を難なく避けた虎丸くんもさすがに2人目には若干反応が遅れてしまい、体勢が崩された。

 

「うわっ…………か、火蓮さん!お願いします!!」

 

そんな体勢が崩されてボールが奪われるギリギリのタイミングでそのしなやかな身体能力で私にパスを繋げてくれる。

 

ボールを受け取った私はすぐさま豪炎寺くんにアイコンタクトを送った。

 

それを受け取る豪炎寺くんもひとつ頷いて走り出す。

 

「行くわよ豪炎寺くん!!」

 

「あぁ!」

 

私は目の前に立ちふさがる残りのディフェンダーを前にして、ふとドリブルを止める。

 

そして視界の端に豪炎寺くんをとらえるのと同時にその場で大きく足を真上に振り上げてスカーレットバーナーの態勢へ移行。

 

「はぁっ!!」

 

振り上げた右足で思い切りボールを踏みつけるとそこから波紋状にフィールドが砕け、岩盤の隙間からはごぼごぼと真紅の炎が沸き上がりながら周囲に熱波を振りまいた。

 

その大地をも焦がす灼熱波によってボールは炎のエネルギーをまといながら空高くにはじき出される。

 

……本来ならばこの後大きく跳躍した私が思い切り蹴り込むところだが、今回の主役は私じゃない。

 

「豪炎寺くん!!!!」

 

そう叫ぶのと同時に走り込んできていた豪炎寺くんが空中で赤く脈打つボールに向かってキリモミ回転をしながら大きくジャンプ。

ちょうどボールの真横に来た瞬間に炎をまとわせた左足をたたきつけた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

「入れさせるか!!グレートバリアリーフ!!」

 

先ほど私が撃ったようなスクリュー回転をかけられて撃ち出された脈打つ炎の塊は、再び相手キーパーの作り出した水の壁にぶち当たる。

 

しかし、以前までのシュートであればそこでボールが水圧に負けて失速してしまうところだが、今回は違う。

 

進行方向に対して垂直になるように掛けられた回転は、空気を後方に向かって高速で流すためこれが水中を進むための推進力を生みだしている。

 

私の目論見通り豪炎寺くんのシュートは相手キーパーが作り出した水の壁を見事に突破してそのままゴールネットを大きく揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォォォォーーーーーーーーーーール!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

実況の興奮してスピーカーが壊れるのではないかと思うほどに張り上げられた声とともに観客席から盛大な歓声が巻き上がった。

 

その歓喜の渦中、私と豪炎寺くんは小さく笑いあってから無言でハイタッチを交わした。

 

 

 




ふぅ。


やっと一回戦が終わりましたね。

サッカー(サッカーに限らず)に試合って映像とかで見る分にはいいけど、いざ文章で書こうとすると難しいですね……。

私はあまりサッカーには詳しいほうではないのでちょくちょく調べながら書きましたよもう。
なので相当駄文で見苦しかったかもしれませんが、ここまで見ていただき感謝感激です♪

では、また次回期待せずにお待ちください←(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の相手は……

久々にこちらの投稿。


いつもの事ながら読者参加型の方が煮詰まってまして…………。


と言うより、ストーリーの流れは出来てるんですけど、文字に起こせない現象であります←
語彙力と表現力が欲しい今日この頃であります……泣


ま、そんな状態ですけど、見てってくだせぇ。


ピピピピッ、ピピピピッ。

 

 

 

「んあ………………。」カチッ

 

 

 

 

私はセットしておいた目覚ましのスイッチを寝ぼけ眼のまま止めた。

 

「ふわぁ〜あ。」

 

そして欠伸をひとつしてからモゾモゾと布団から這い出す。

 

未だに半分寝ている脳を起きてるもう半分で無理やり稼働させて持ち込んだ姿見の前で寝巻きからジャージへゆっくりと着替えた。

 

その間にも2回ほど欠伸をかましたのは他人には言えない。

 

ついで手ぐしである程度髪を整えつつ最後に櫛でちゃんと梳かす。

 

くるんとクセのある髪をセットし、もう一度欠伸をしながら部屋の電気をつけ、壁掛けの時計に目を向けた。

 

時計の針は6時を少し過ぎたところだった。

 

…………なぜ私はこんな早い時間に目覚ましなんかセットしてしまったのだろうか。

 

電気をつけたことでようやく覚醒した脳で状況を整理する。

 

「はぁ。今日の練習開始は8時だったし。今から寝たら絶対起きないし…………。少し走ってこようかしら。」

 

真上に大きく伸びをしながら部屋のドアに手をかけた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FFI1回戦。

オーストラリア代表ビックウェイブスを下してから一夜明けた今日。

 

一段と練習にも熱が感じられるメンバー。

 

「行かせないよ!」

 

「残念。プレッシングがまだまだ!甘いわよ吹雪くん!」

 

「忠告!ありがとう!…………なっ!?」

 

「基山くん!!」

 

「ナイスパス!!」

 

プレッシングしてきた吹雪くんを数回フェイントを掛けてからのヒールリフトで抜き去り、そのまま前線へ走っていた基山くんへの逆サイドパス。

 

受け取った基山くんはそのままドリブル、ペナルティエリアに到達と共にシュート。

 

横っ飛びに飛び込んだ立向居くんのパンチングは僅かに届かず、代わりにゴールネットが揺れた。

 

「ふぅ。」

 

私は一つ息をついて基山くんからボールを受け取ると次の人へそのボールを回した。

 

「相変わらず綺麗なテクニックだね。」

 

「そんなことないわよ。今のだって吹雪くんのタイミングが一瞬遅れたから抜けたようなものだし。」

 

「謙遜し過ぎだよ。」

 

「そうかしら。」

 

「そうそう。」

 

そんな会話を2人して交わしていると、今度は円堂くんのキーパー練習に付き合っていた豪炎寺くんから呼び出しがかかった。

 

「カレン。」

 

「ん?あら、豪炎寺くん。キーパー練習はもういいの?」

 

「その事で少し手を借りたくてな。」

 

「あらそう?私は構わないわよ。ついでにアレの合わせもやっておきたかったところだし。」

 

「ん?あぁ、昨日のアレか。」

 

「そう。昨日は土壇場でたまたまタイミングが合ったけど次はどうなるか分からないでしょ?ここらでちゃんとタイミング確認しておきたいな〜って。」

 

「同感だ。」

 

そう言いつつ2人ならんで円堂くんのもとへ。

 

「お!来たなカレン!」

 

「えぇ、お待たせ。」

 

ゴール前まで来ると円堂くんは同じキーパーの立向居くんに一言二言指示を大声で出して持っていたボールをこちらに投げて寄こした。

 

「ちょっと練習に付き合ってくれよ。カレン!豪炎寺!」

 

「元からそのつもりだ。」

 

「同じく。」

 

「そうか。そうだよな。昨日のオーストラリア戦を戦って改めて感じたよ。世界の壁ってやつをさ。」

 

「まだまだ始まって序盤なんだがな。」

 

「細かいことはいいんだよ豪炎寺。次の試合だって昨日みたいに毎回カレンに助けてもらうわけにも行かないもんな。」

 

「あら、私ならいつでも大丈夫なのに。」

 

「お前みたいに飛び級する訳には行かないってことだ。」

 

「あぁ、まぁ、そうよね。私だってでしゃばる気はないわ。あくまで『チーム』として戦いたいの。昨日のはイレギュラーよ。」

 

円堂くんから受け取ったボールをパッと足元に落としてから数回リフティングをして、再び手の中に収めた。

 

「それはいいとして、早いとこやりましょ。次の試合も近いのよ。相手はまだわからないけど…………どこが来ても対応出来るようにしとかないと。」

 

「そうだな。ならそろそろ始めるか。行くぞ円堂!」

 

「来い!」

 

私はボールを軽く豪炎寺くんの前に転がし、それを勢いよく受け取りつつドリブル。

その横にピッタリと私が張り付き、お互いにアイコンタクトを交した。

 

「行くぞカレン!」

 

「了解よ!」

 

続けて豪炎寺くんからパスを受けた私がすかさずシュート体勢に入る。

 

右足をおおきく振りあげて思い切り地面に置いたボールを踏みつける。

その衝撃で波紋上に砕けた地面からゴボゴボと炎が沸き上がり、その熱波によってボールが空高くにはじき出された。

 

それを今度は豪炎寺くんが左足に炎をまとわせながらきりもみ回転でボールの真横までジャンプし、小さな炎塊と化していたボールに思い切り蹴りを浴びせることによってさらにエネルギーを爆発的に増幅させた。

 

膨大な炎のエネルギーを放ちながらスクリュー回転をするシュート、目金くん曰く『轟熱スクリュー』が直線と言うよりも下に頂点のきた逆放物線を描きながらゴールへ迫っていく。

 

「よし、タイミングは大丈夫そうだな。」

 

「意外とできるものみたいね。あとは…………。」

 

「円堂を抜けるかどうか、だな、」

 

「えぇ。でなきゃ使えないわ。」

 

素早く会話を交し、自分たちの撃ったシュートとそれを待ち構えるイナズマジャパンの守護神の出方に集中する。

 

円堂くんもこの数日でかなりの進化を遂げている。

オーストラリアとの試合、暇さえあれば特訓している彼の成長速度は凄まじい。

選考試合ではシュートは決めることが出来たが、今はどうかと聞かれると………………いや、それでも負けないな。

とはいえ、これは私が1()()()シュートを撃った場合だ。

合体技となれば話はガラリと変わる…………らしい。

どんなに個々の能力が高くとも、合わせるタイミングや2人の相性が悪ければ威力は2倍、3倍になるどころか2分の1、3分の1にすらなりかねない…………らしい。

 

『らしい』と言うのはそもそもの話、私に合体技・連携技の知識が乏しいだけだ。

 

「よし!」

 

円堂くんははじめに両手で頬を叩いてから、拳をパンと一つ打つとそのまま左足を真上に大きく振り上げた。

 

そして、接地の衝撃で若干土が舞い上がるほど力強い踏み込みとともに限界ギリギリまで体を捻ってからツイスト回転のパンチングを繰り出した。

 

「正義の鉄拳!!!!」

 

円堂くんの18番『ゴッドハンド』をパンチングバージョンにしたような技は絶対にゴールは割らせないと言わんばかりに私たちのシュートに真正面からぶち当たった。

 

「だあぁぁぁ……………………ん?」

 

そして、次の瞬間。

 

 

 

 

『正義の鉄拳』が『轟熱スクリュー』を弾き返した。

 

 

 

 

自分の拳を見ながら不思議そうに眉を顰める円堂くんとは対照的に弾かれたボールを足で受止め、私と豪炎寺くんが同時に舌打ち。

 

「…………軽い?」

 

「円堂くん?」

 

「いや、なんか思ったより軽かったんだ。」

 

「軽かった?」

 

「あぁ、なんて言うかな〜、昨日みたいなすげぇ衝撃がなかったって言うか……。う〜ん、上手く表現できないんだけどさ。とにかく、何か違う感じがするんだよ。」

 

「何か違う、か。タイミング…………」

 

「多分、タイミングじゃないと思うわ。あれ以上にピッタリと合わせろなんて言われても正直無理よ。」

 

「あぁ、ゴール前(ここ)から見ててもそれはズレてなかったぞ。でもなんか……こう、違和感はあったと言うか……。だぁ!もう!モヤモヤするな!!」

 

そんなセリフを吐きながら頭を両手でガリガリと掻きながら大声を出す円堂くん。その様子から察するに相当もやもやしているのだろう。

しかし、それはこちらとしても同じだった。

 

確かに昨日のような完全にギアが噛み合ったような感じはしなかったが、それほどまでに影響するのか。

合体技と言うのはこれほどまでに難易度が高いのか…………。

 

そもそも元のチームでは全員が全員個人の能力が高かったゆえに合体技、連携技と言った技を使える選手がいなかった。

と言うより使う必要がなかったと言った方がいいだろう。

なぜなら、それぞれが個々で完結しておりそれでいて相応の力を持っているため、その高い個人技でゲームを進めた方が勝率は高かったからと言うのが大きい。

監督も監督で合体技や連携技を提案することもなかったため、今までそんな技にご縁がなかったわけだ。

 

なるほど。

 

これは面白い。

 

合体技・連携技と言うのは単純に2人ないし3人の技の加法乗法の話では無いということか。

 

さて、話が脱線しそうなので軌道修正するが、タイミングは合っているそれに私と豪炎寺くんなら同じ炎を纏うシュートを得意としている、さしずめ火属性とでも表現すると完全に属性面でも同じはずなので単純に考えれば相乗効果が出てもおかしくないと思う。

 

にも関わらず球威は軽くなる。

 

なぜだ?

 

……無意識のうちにため息が零れたのが分かった。

 

「ふ、お前でもそんな顔するんだな。」

 

「……どういう意味よ。」

 

「なにか煮え切らないような顔に縁があるとは到底思えなくてな。」

 

「珍しく嫌味のつもり?」

 

「まさか。率直な意見と受け取ってもらいたかったんだが。」

 

「そう、ごめんなさいね。不動(アイツ)と話してるとなんでもかんでも嫌味に聞こえてきちゃうのよ。これだけは考えものね。」

 

「不動、か。」

 

「まぁね〜。」

 

さて、そんな会話をちょうどしていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員集合!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな言葉がフィールド全体に高らかと木霊し、つい先程まで次の対戦相手が決まる試合の偵察に行っていた久遠監督がいつも通りどこかムスッとした表情で帰還したことを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂。

 

 

 

 

「フットボールフロンティアインターナショナル。アジア予選第2試合の相手が決まった。」

 

その一言で食堂に集められたメンバーのあいだにピリッとした空気が流れる。

 

「カタール代表。デザートライオンだ。」

 

「デザートライオン?」

 

カタール。

正直私も初耳のチームなので込み上げてくる疑問は円堂くんと全く同じだった。

1番後ろの席で隣で腕組みをしながら珍しく真剣な表情をしている不動に「カタールってどんなチームでしょうね?」なんてメモを書いて茶化してみる。

 

案の定舌打ちとともに心底嫌そうな表情をこちらに向けた。

 

「(俺が知るかよバーカ。)」

 

「(バカぁ!?バカとは何よ!)」

 

「(うるせぇな。こんなくだらねぇマネしてる暇があったらマネージャー共(アイツら)が調べてきたっていう情報にでも耳を傾けときゃいいんじゃねぇかよ。)」

 

「(あぁ、はいはい。そうさせてもらうわよ〜。)」

 

相変わらずの不動にため息をひとつ着いてから意識をマネージャーの音無さんの方に傾けた。

 

曰く、一言で言えば足腰が強くてスタミナが無尽蔵、との事だった。

 

無尽蔵のスタミナねぇ…………。

 

確かに疲れ知らずって言うのは案外厄介ではあるのかもしれないけど、それだけじゃ正直さほど驚異になり得るような要素に感じられないのは私だけなのか?

 

そんなこんなでテーブルの上にもたれながら何となくこのあとの監督の言葉が容易に想像できた私はそのまま額をテーブルにくっつけたまま右手で隣の不動の肩を軽く殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーティング後。

 

宿舎廊下。

 

 

 

 

「てめぇ、さっきはよくも…………。」

 

「仕方なかったのよ。たまたま空いてた右手の先にあんたがいただけじゃない。運が悪かったと思って諦めて。」

 

「ほぅ、言うじゃねぇかこのアマ!」

 

「だって体力強化トレよ?なんで今更。」

 

「けっ、俺が知るかよ。ま、うちの甘ちゃん連中共には分かりやすくていいんだろうよ。」

 

「あなたねぇ…………もう少し言い方ってものはないの?」

 

「ふん。」

 

そんな調子の不動と話しながら廊下の壁によりかかっていると、ガラッといきなり食堂の扉が開き、中から虎丸くんが大急ぎで駆け出してきた。

 

その背中に声をかけた。

 

「虎丸く〜ん!もう帰り?」

 

「あ、カレンさんと不動さん。はい、すみませんが僕は今日はこれで。」

 

「そうなの。気をつけてね〜。あ、今日あたりまた手伝いに行くわね〜。不動と一緒に。」

 

「ふざけんな。なんで俺様まで行かなきゃ行けねぇんだよ!」

 

「いいから来る!」

 

「あはは、分かりました。母にも伝えておきます。それでは!」

 

そう言い残してくるりと踵を返した虎丸くんの背中を見送り、私は食堂の中へ戻った。

 

「あ、カレン。どこいってたんだよ。ミーティングの後からふらっといなくなっちゃうしさ。」

 

「あぁ、ごめんなさい。たいしたことじゃないから気にしないで。」

 

それよりも、と続けて私は近くの椅子にストンと腰掛けた。

さっきまで虎丸くん関係の話をしていたのだろう、私が加わってからもしばらく続いたその話題は音無さんが鼻息を荒くしながら調べると言い張ったことで収束したが、私は内心冷や汗が流れていた。

 

ということで話題転換。

 

「そうそう、デザートライオン…………と、戦うために基礎体力強化、よね。どうするの?やっぱり走り込みかしら。」

 

「そうさ、走って走って走りまくる!それしかねぇぜ。」

 

「綱海の言う通りだ。やはりここは単純だがそれしかあるまい。」

 

「やっぱりそうなるのね……。」

 

「お、さすがのお前も走り込みは苦手か?」

 

「そうじゃないわ。苦手じゃないけど疲れるから嫌なのよ。風丸くんは好きなの?走り込み。」

 

「俺は元々陸上部だからな。」

 

「…………それはずるいわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ……はっ……はっ…………ラ、ラストスパート……………………ゴール……。

 

 

 

 

 

 

「よし!今日の特訓はここまで!」

 

 

待ちに待った円堂くんの高らかな特訓終了宣言と共にメンバーがいっせいに脱力する。

 

普段なら特になんでもないペースではあったのだがここ数日やけに高くなってきた気温の中ではいつも以上に体力を消耗してしまうのだ。

走り込みの後にしては珍しく私はしばらくその場から動けずにいた。

 

「けっ、高嶺の火蓮様も……、さすがに体力の限界か?」

 

「はぁ……バ、バカ言ってんじゃないわよ…………これくらい。」

 

「…………その割には、足に来てるんじゃねぇか?クククク。」

 

「お互い様……でしょうが。」

 

不動に茶化し茶化され大きく深呼吸をしながら呼吸を整えていく。

 

「はぁ〜、落ち着いた…………って、あら、緑川くん…………。」

 

みんな特訓終了で休んでいるというのにただ1人だけ…………緑川くんだけはいっこうに止める気配もなく、はたまた円堂くんの静止すらも無視して黙々と走り込みを続けていた。

 

「…………。」

 

…………気持ちは分かる。

多分、他のみんなには負けたくないって気持ちなのだろうが、特訓だってやればやっただけ強くなれる…………だけだったらいいのだ。

ここはゲームの世界じゃない。

確かにやればやるだけ上達はするだろうが、その分怪我のリスクも高まってしまう。

 

先日のオーストラリア戦。

 

後半から下げられたことが余程悔しかったのか。

それとも、戦術の切り替えを見抜けなかった自分への戒めか。

あるいは…………焦り、か。

 

初日のあの無邪気な笑顔はどこへやら…………。

 

私は腰に手を当てながらふと空を見上げた。

 

そんな私の頬を風がそっと………………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………暑い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………残念ながら撫でてはくれなかったようだ。

代わりにギラギラする太陽の紫外線だけをわんさか降らせてきてる。

 

もう、これにはため息しか出てこない。

 

日焼け、勘弁して。

 

 

 

 

 

「おい!」

 

 

不動にいきなりド突かれて一瞬にして我に返る。

 

「あ、な、なによ!」

 

「あぁ?てめぇ、ついに脳ミソ沸騰したんかよ?」

 

「沸騰…………あぁ、思い出したわ。あんたが吹っ掛けてきた喧嘩を買うか買わないかってことよね?もちろん…………」

 

「はっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。行くンじゃねぇのか?行かねぇのか?」

 

「どこに…………あぁ。」

 

そう言えば虎丸くんちに手伝いに行く約束してたんだったわね。

 

……不動ってば意外と行く気満々じゃない。

 

なに?

料理って言うキャラのイメージダウン待ったナシの扉を開けちゃったわけ?

 

あなた、そんなこと鬼道くんにでも知られてみなさいよ。

ショックで引きこもりになっちゃうかもしれないんだからね。

 

そんなことを考えつつ、私は先に上がることをみんなに伝えて宿舎の方に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

牙を無くした虎

はい、久しぶりですね。
凍結?
してるわけないじゃないですかヤダー☀︎

続き、書けたので投稿しますよ!
どうぞ!


虎ノ屋。

 

 

 

本日もまたお店の回転率は上々だった。

 

それもこれも前回に引き続きキッチンへと降臨したモヒカンのツンデレ料理長のせいでもあり、お店のマスコット的な存在である虎丸くんがホールをパタパタ走り回っているからでもあった。

 

「おーい、姉ちゃん!こっちのテーブル焼き魚定食2つね〜!」

 

「はーい。承りました〜。(焼き魚2つ……っと)」

 

「こっちは生姜焼き定食とロールキャベツ!」

 

「はーいはい少々お待ちください。(生姜焼き1、ロールキャベツ1………………ロールキャベツって、不動出来るのかしら。)」

 

そして私はと言うと、何故かテーブルに行く前から飛び交う注文の数々をどうにか聞き逃さないようにサラサラと伝票に書き込んで、そのままキッチンへと戻っていく。

 

「不動!虎丸くんのお母さん!注文!焼き魚2、生姜焼き1、ロールキャベツ1!」

 

「てめぇ、わざとまとめて来てるんじゃねぇだろうな?そんな量覚えられるわけねぇだろうが!」

 

「だから伝票書いてるんじゃない!はいこれ!ここに貼っとくから!お母さん無理しなくていいですよ。不動(コイツ)が何とかしますから。」

 

「はァ!?」

 

「あらあら、助かるわ。でも、大丈夫よ。ありがとうね。」

 

「ちっ、調子狂うぜ。ほらよ揚げ物盛り合わせとカツとじ出来たからこれ持ってさっさと行きやがれ!」

 

「あーハイハイ、そうしますよ〜だ!」

 

「お母さん注文………………あ、もしかして今火蓮さんが注文したばかりでしたか?」

 

「大丈夫よ。不動に全部押し付けたから。お母さんに無理させたら元も子もないでしょ?」

 

「ありがとうございます。不動さんも。」

 

「ふん!」

 

「みんなただいま!出前戻ったよ!」

 

そんなやり取りを行っていると、今度は出前に出ていた乃々美さんがハアハア息を切らせながら無事に戻ってくる。

 

「はぁ〜、やっぱり出前は疲れるわ〜。」

 

「乃々美姉ちゃんおかえり。」

 

「乃々美さんおかえりなさい。水飲みますか?」

 

「火蓮ちゃんありがとう〜。ふぁ〜生き返る〜。」

 

「お疲れ乃々美姉ちゃん。じゃあ、出前交代。今度は俺が行ってくるから。」

 

「虎丸。気をつけるのよ。」

 

手早く出前のボックスへ注文の品を入れ、パタパタと慌ただしく出ていこうとする虎丸君にお母さんが心配そうに声をかける。

 

私と不動が手伝いに来るようになる前は、出前を虎丸くんが1人で回していたらしいしそれに加えて体の弱いお母さんを気遣いながらお店を切り盛りしていたことを考えると素直に凄いと思うことが出来る。

ただ、虎丸くんももう少し誰かを頼るということを覚えた方がいいと思うのもまた事実であった。

 

乃々美さんの手伝いもあるとはいえ、この量を捌くのは相当な体力は必要だ。

抱え込みすぎてはいずれ………………なーんて考えている暇があったら手と足を動かさなければ今の私のスペックでは捌ききれない。

 

私も店の扉を出ていこうとする虎丸くんに気をつけてと一言声をかけてから自分の持ち場に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎ノ屋にて不動と火蓮が慌ただしくバタついているのとほぼ同時刻。

 

1人の「鷹」は自分の元部下を引連れた「鴉」と睨み合っていた。

 

その後ろには円堂(キャプテン)と豪炎寺、マネージャーの木野と久遠がいる。

 

「…………と、飛鷹さん!?」

「えっ!?」

 

薄い青紫のパーカーを羽織った赤髪の「鴉」は自分の姿を見るに一瞬だけたじろいだ。

しかも寄りにもよって自分の名前を呼びやがった。

そして、その取り巻きにいる3人にも見覚えがある。

 

………………なるほどな。

 

「……お前ら、何している。チームの掟、忘れたのか?」

「っ!」

 

3人の取り巻きが言葉を詰まらせる。

 

「唐須、お前が新リーダーって訳か。鈴目はどうした?」

「鈴目?あぁ、あいつなら追い出してやりましたよ。ボコボコにしてね。」

「っ!!てめぇ!!」

 

追い出した?

しかも…………。

唐須!!!

 

「飛鷹さァ〜ん、あんたの時代は終わったんだよ。やれ。」

 

「鴉」が取り巻きの3人に向けて一言命令を下した。

その3人も一瞬だけお互いの顔を見合わせてから、覚悟を決めたかのように向かってくる。

 

「この…………馬鹿野郎共が!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそんな3人の元部下を………………一蹴した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻って『虎ノ屋』。

 

相変わらず客足は落ち着く気配を見せないまま時間は過ぎていく。

 

「不動!ミックスフライ1と生姜焼き2!」

 

「そこに貼っとけって言ってんのが聞こえてねぇのかこの役立たずが!」

 

「な、なんですって!!このハゲ頭!」

 

「あぁん!!?」

 

「うふふ、あらあら仲良しね。」

 

「「誰がこいつなんかと!!」」

 

「不動さん!お母さん!焼き魚2!」

 

「はいはい。待っててね。」

 

店の賑やかさに負けす劣らずの賑やかさを厨房付近で行い、私は不動から渡された料理をトレーに乗せ変えて再びホールの方へ。

 

「お待たせ致しました。生姜焼き定食になります。ご注文はおそろいでしょうか。」

 

そう言って軽くぺこりと頭を下げ、戻ろうとしたタイミングで違うテーブルから注文のお呼びがかかる。

 

「はいはいただいま〜。お待たせ致しましたご注文の方……………………げ。」

 

テーブルに着き、腰から注文票を取り出して胸ポケットからペンを取り出しつつ顔をあげた私はつい…………いや、ほんとに条件反射で眉をひそめてしまった。

 

理由は至極単純である…………。

 

「やぁ、火蓮。この定食屋さんで働いているって風の噂で聞きまして、つい。」

 

「半信半疑だったが。まさか本当だったとはな。」

 

「いい感じに似合ってるじゃないですか。」

 

「あんた達……………………」

 

「ははは。まぁ、結論をいえば大会がなくて俺達も暇なんだ。大目に見てくれよ。それとも、泥江の方が良かったか?」

 

「やめて。」

 

こんな所にジュニア四天王が全員顔を揃えていれば…………いや、べつにチームメイトだから嫌って訳じゃないんだけど、なんでよりによってこのタイミングなのか、そこがちょっとなって感じ。

 

喋った順番に紹介すると、最初に口を開いたのが眼鏡が特徴的な青龍(せいりゅう) 春紀(はるき)、次いで、4人の中では1番ガタイのいい朱雀(すざく) 夏彦(なつひこ)、その次は4人の中では最も小柄な玄武(げんぶ) 冬樹(ふゆき)、1度私を挟んで、中学サッカー最強のキーパーの異名すら付いた白髪の白虎(びゃっこ) 秋人(あきと)

 

そんなメンツが小さな定食屋さんに集結しているわけなのだが………………人だかりが出来ないのはこいつらの影が薄いのが問題なのか。

 

まぁいい。

そんなことは問題じゃない。

いずれにしても今のこいつらは客だ、相応の対応はしなければならない。

 

「えー、ご注文はお決まりになってからお呼びください。では(ニコッ)」

 

そう言って一刻も早くこの場所から離脱しようと思ったのだが………………。

 

「甘いですね。注文が決まったから呼んだんじゃないですか。火蓮さん。」

 

「春紀………………あんたは毎度毎度……。」

 

「そんなことはいい。俺はこのミックスフライ定食とオムライス。」

 

「あ、俺もオムライス。」

 

「悪い火蓮、オムライス3つ。」

 

「はいはい、夏彦にミックス。で、あんた達3人(夏彦・冬樹・秋人)がオムライス…………って、夏彦あんた完食できるんでしょうね?」

 

「ん、当たり前であろう?でなければわざわざ頼まん。」

 

「いや、それで毎回残すから言ってるんじゃない。で、春紀は?」

 

「あぁ、僕は湯葉を。」

 

「んなものないわ、いい加減にしなさいよ?」

 

「冗談さ。君は冗談が通じないなぁ。」

 

「……ご注文は以上のようですねそれでは……」

 

「わかったよ。僕は逸品物のもやし炒めだけでいいよ。」

 

「それだけでいいの?」

 

「だってどう考えても夏彦がその量を完食できるとは到底思えないからね。ついでに僕も少食だからあまり食べすぎると処理に困る。」

 

「なんだかんだ言ってあんたも憎めないわよね。」

 

「嫌味と受けとっておくよ。」

 

「なんで。素直に受け取ればいいのに。まぁいいわ、注文確認するわね。ミックスフライ定食1、オムライス3、もやし炒め1これでいいかしら?」

 

注文の確認を終わって厨房へ戻っていく。

相変わらず厨房では不動と虎丸のお母さんが忙しく動き回っていた。

流石にお母さんの体調の方も気がかりではあるが、そこは不動に何とかしてもらうしかない。ホールの仕事もまだ残っている手前それを放り出して厨房を手伝う訳にも行かないので、少し心は痛むがお願いすることにした。

 

「不動注文よ!ミックス1、オムライス3、もやし炒め1!ごめんなさい量が量だから虎丸くんのお母さんにもお願いしても良いですか?」

 

「なんだよその量!どこのどいつだそんな量注文するような輩はよォ!!」

 

「あんたとも顔見知りの奴らよ。ごめんなさいお母さん。厳しければいつでも変わるので言ってくださいね。」

 

「はぁっ!?」

 

「えぇ。ありがとう火蓮さん。」

 

そう言いつつ、優しくニコッと笑いかけてくれたお母さんのためにもどうにか負担を軽く出来ないか思考を巡らせながらホールのテーブルから食器をバッシングし、手際よくパレットに並べ洗浄機の中へ。

ホールの方は乃々美さんに任せて洗浄機から取り出したパレットの食器を所定の位置に戻し、その足で再びホールに戻る。

もう、あいつらが来てることを気にしてる場合じゃない。

 

「乃々美さん手伝いますよ。」

 

「ありがとう。火蓮ちゃん。」

 

2人でそれぞれ1つのテーブルをバッシングし、返却口へ置いたちょうどそのタイミングで不動がオムライスを3つ仕上げた。

それをトレーへ移しホールへ。

 

「お待たせ致しました。オムライスでございます。」

 

夏彦、冬樹、秋人と順番にオムライスを置いていく。

 

「ふふ、忙しそうだね火蓮さん。」

 

「そう思うなら手伝ってくれるかしら?春紀。」

 

「すまないけど、今の僕は一人のお客さんだ。そのおねがいには応えられないね。」

 

「じゃあ、言うんじゃないわよ。」

 

そう言いながらため息をついて次の料理をトレーに乗せるため厨房に戻っていく。

 

「おらよ!ミックスともやし!」

 

「わかったから怒らないでよ!」

 

「誰がキレてるって?」

 

「あぁ、もう、行ってくるから!」

 

私は料理をトレーに移し替え、再度同じテーブルへ。

 

「お待たせ致しました。ミックスフライ定食ともやし炒めでございます。ご注文は以上でよろしいでしょうか?それでは。」

 

もう手早く料理をテーブルに置くとさっさと帰ってきた。

案の定朱雀が渋い顔をしていたのは言うまでもないが……。

 

さて、それを境に客足も落ち着きを見せ始めた頃。

ちょうどそんなタイミングだった。

 

 

 

「キャ……キャプテン!豪炎寺さん……。」

 

 

 

店の前から出前帰りの虎丸くんのそんな声が聞こえたのは。

 

あぁ、もしかして、円堂くんたちが来ちゃったのか。

 

そんなことを考えながらすぐさま厨房にいる不動に簡易的なハンドサインを送り、不動は無言で頷いて店の裏口から退散していった。

流石に、虎丸くんのお母さんから笑顔で感謝され、キャラにも合わず若干照れていたのは言うまでもないが。

まぁ、それは置いておいて。

私はともかく、不動はこんなのがバレたらメンツなんてあったものじゃないので私の慈悲によって逃がしてあげました。

 

「お母さん大丈夫ですか?そろそろお客さんも落ち着いてきたので休んでてください。あとは私が片付けておきますから。」

 

「ありがとう火蓮さん。」

 

そんな会話をしてからすぐ。

キッチンへ行こうと歩き始めた時。

 

「……ん?なんだ砥鹿じゃないか。」

 

あぁ、…………もう。

 

「あら、円堂くんに豪炎寺くん………………それにマネージャーのみんな。どうしてここに?」

 

「いや、それはこっちのセリフだぞ火蓮。どうしてお前がここにいるんだ?」

 

「どうしてって。虎丸くんちのお手伝いよ。ほら。」

 

着ているエプロンを見せつけるようにくるんと一回転してからポーズを決めてみた。

 

「そ、そうなのか。あぁ!そんなことより、虎丸がどうしてすぐに帰っちゃうのか聞かないと!」

 

あれ?反応薄い。

というか『そんなことより』って……。

なんかちょっと悲しい。

 

「虎丸の?それは…………。」

 

と、慌ただしい円堂くんの反応に虎丸くんのお母さんが静かに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!虎丸がこのお店を1人で切り盛り!!!?」

 

一通り話をお母さんが話しているのを私はキッチンで皿を洗いながら背中越しに聞いていた。

確かに円堂くんが驚くのも無理はない、ここで手伝いをして思ったが結構ここは地元の人には人気らしく出前を頼む人やお店に足を運んで来てくれる人はそこそこ多い。それを今まで1人で捌いていることにはもはや脱帽するしか無かった。

 

お母さんも体が弱いみたいだし。

正直、さっきまで少しキッチンに立っていてもらっただけでもありがたいものだった。

 

あとは、休んでいてもらって私と乃々美さんと虎丸くんで捌けば特に問題は………………。

 

ちょうどそんなことを考えていた時だった。

 

「虎丸!!!!」

 

「わっ!!!?」

 

円堂くんの大声によって驚いて危うく皿を落としそうになる。

 

………………それは、近くで黙ったまま料理を黙々と食べていた例の4人も同じらしい。

噎せていた。

振り返るとこんな大事なことを隠していたことに対して円堂くんが喝を入れたらしく、今度は自分が出前に行くと言い出したようだ。

それに豪炎寺くんが便乗し、マネージャーの3人もそれに乗ったらしい。

 

いやぁ、人手が増えてくれるのは素直に嬉しいわ。

 

不動を逃がした今厨房に立てるのが虎丸くんしか居なくなるわけで……………………いや、私が入ればいいのか。

円堂くんと豪炎寺くんはそのまま出前を手伝うと言っているし、乃々美さんのもとマネージャーの3人(木野さん、音無さん、久遠さん)にはホールをやってもらえば、あ、全然足りるじゃない。

 

そんなことを考えてパレットに残った最後の皿を拭きあげ、場所に戻してから例の4人のテーブルへ向かい、会計の催促をしてやった。

 

「ちょっとこれから忙しくなるから、そろそろご退席願えますか?お客様?」

 

「そうだね。君の仕事の邪魔をする訳には行かないから。」

 

「相変わらずあんたは…………。」

 

そんなことを春紀と話していると、木野さんが声を掛けてきた。

 

「?あれ?この人たちは…………砥鹿さんのお知り合い?」

 

「ええ、ちょっとね。」

 

私が渋っていると、春紀が軽くメガネを押し上げながら余計なお世話を始めた。

 

「初めまして。僕は………………あ、いや、僕達は火蓮のチームメイト、だよ。僕は青龍 春紀。よろしく。」

 

「同じく朱雀 夏彦だ。」

 

「玄武 冬樹。」

 

「最後に白虎 秋人。よろしくな。」

 

「はぁ、よろしくお願いします。」

 

「ほら困っちゃってるじゃない。うちのマネージャーを困らせないでくれる?」

 

「おやおや、これは失礼。じゃあ、僕達はこれで失礼するよ。あ、領収書、貰えるかい?」

 

「は?」

 

「飯代は監督に落としてもらうから。」

 

嘘くさい春紀にため息をついて、秋人の方に話を振る。

 

「秋人?」

 

「まぁ、監督から『私宛で領収書切って持ってきてくれれば経費で落とす』とは言われてるのは本当だ。」

 

「あらそうなの?なら切っとくわ。」

 

「…………少し扱いが酷くないかい?」

 

「いいのよこのくらいで。」

 

「はぁ、全く。じゃああんまり長居しても仕方ないし帰ることにするよ。それじゃ、行くよ朱雀………………帰り道吐かないでくれよ?」

 

「無論だ。冬樹じゃあるまいし。」

 

「待ったそれは聞き捨てならない。俺がどうしたって?」

 

「いいから行くぞ。火蓮すまない。ご馳走になったな。」

 

夏彦と冬樹が啀み合うのを白虎が宥めながら店の扉を押し開ける。そんな白虎の背中に言葉を投げて引き止めた。

 

「秋人。」

 

「ほらほら2人とも……………………ん?火蓮?どうした?」

 

引き止めた理由は当然、『あの技』の事だ。

まずは秋人に見てもらいたかった。

本当はどっかのタイミングで呼び出そうかと思っていたので、その手間が省けてちょうどいい。

 

「夜、ちょっと空けておいてくれる?」

 

「夜?まぁ………………良いけどさ。監督が。」

 

「私の練習に付き合って欲しいのよ。そう言っておいて。」

 

「?…………わかった。夜だな?」

 

「えぇ、そう。夜。河川敷のグラウンドに来て。」

 

「わかった。」

 

そう言って4人を見送った私は中にいる3人+虎丸くんの元に戻り、自分はキッチンを虎丸くんと何とかするから3人はホールの方をやってもらうようお願いをした。

 

「でも驚きましたよ。まさか、砥鹿さんも虎丸くんのお手伝いをしていたなんて。」

 

「火蓮さんには助けて貰ってばかりです。」

 

「いや、たまたまよ。たまたま虎丸くんの家の事情を知っちゃっただけで、なんかほっとけなかったから。」

 

「言ってくれれば。私達も手伝ったのに。」

 

「ごめんね。木野さん。なんか虎丸くんに口止めされててさ。でも、虎丸くんも悪気があったわけじゃないのよ?」

 

「砥鹿さん。優しいんだね。」

 

「人には優しく。でしょ?さ、そろそろもう一波来るわ。準備しましょう?」

 

その一言に3人がそれぞれの返事を返し、持ち場に散っていった。

私があの4人と話している間に乃々美さんがある程度のことを説明してくれていたらしく、テキパキと効率よく物事が進んでいく。

 

しばらくそんな準備段階が続き、空も少しオレンジ色に染まり始めた頃。

仕事帰りのサラリーマンだろうか、スーツ姿のお客さんが比較的数を占め始める。

…………いや、にしてもこの人数は多すぎよ!

もう満席じゃない!

 

内側をやると言った手前引き返すことは出来ず、キッチンに立った私と虎丸くんでひたすら料理を作り続けた。

 

それは……………………

 

 

 

 

 

 

…………改めて不動のスペックの高さを実感した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 

あたりもすっかりと暗くなり、街灯の明かりが頼りになり始めた頃。

私たちは宿舎への道を並んで歩いていた。

 

来てよかった。

 

そう口にする木野さんに相槌を打ちながら円堂くんを先頭に歩いていく。

そこでふと隣を歩いていた豪炎寺くんが振り返る。

 

なにか思うところがあるらしく僅かに顔を顰めた豪炎寺くんに私は声をかけた。

 

「大丈夫?豪炎寺くん。」

 

「ん?あぁ、大丈夫さ。」

 

「虎丸くんのこと?」

 

「まぁな。」

 

「…………いずれ打ち明けてくれるわよ。」

 

「そう、かもな。」

 

そうやり取りをしたあと、私はある話を切り出した。

 

「さて、そこは虎丸くんに任せるとして、ちょっとこの後練習しない?」

 

「今からか?」

 

「そう。『轟熱スクリュー』の練習。」

 

「……なるほど。わかった。」

 

「OK。それじゃ、……円堂くん!」

 

「ん?どうしたんだ?火蓮?」

 

「ちょっと私と豪炎寺くんは少しだけ練習…………あ、いや、特訓してから帰るから。久遠監督に伝えておいてくれる?」

 

「特訓?」

 

「あぁ、『轟熱スクリュー』のな。すまない円堂頼めるか?」

 

「豪炎寺がそう言うなら。わかった。監督には俺から伝えておく。だから、完成させてこいよ!2人とも!へへっ。」

 

「当たり前でしょ。任せなさい。」

 

「火蓮の言う通りだ。」

 

そう言って私と豪炎寺くんは宿舎への帰路なら外れ、河川敷のグラウンドに向かった。

 




次回:おそらく多分何となく気分によってはカタール戦入るのかも
しれない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2試合 VS デザートライオン 前編

さて、ようやくこうにかデザートライオン前半戦へ入ることが出来ました………………←



サボってただろって?

またまたそんなわけないじゃないですかもう、ちゃんと考えてましたよ〜←(笑)





はい。
茶番はこのくらいにして本編どうぞ←


本日は快晴。

気温も高く、スポーツするには熱中症が心配される。

風もない。

まさに猛暑日と呼ぶにふさわしい気候の中、私たちイナズマジャパンは、グラウンドへあがり、久遠監督を中心に円陣を組んでいた。

 

いや、そんなことよりも…………。

 

「(………………あっつ)」

 

相変わらずこの日のお天道様も女の子に容赦してくれないようだ。

 

ユニフォームをパタパタと仰ぎつつ熱中症とかシャレにならんのでまだ運動していないにもかかわらずダラダラと流れてくる汗を拭きながらドリンクを1口口に含む。

 

軽く口元を拭い、ひとつ息をついた私に豪炎寺くんが近づいてくる。

 

「カレン。体調は大丈夫か?」

 

「えぇ、まぁ。これはスタミナのペース配分が鍵になりそうね。はぁ、暑っ…………」

 

「だな。しかし、いきなりここまで気温が上がるものなのか。」

 

「わかんないわよ。天気の変化なんてある意味気まぐれ以外のなにものでもないんだし」

 

と、そんな話をしているとモヒカンの第三者が割り込んでくる。

 

「けっ、気温くらいで情けねぇなぁ天下のカレン様よォ」

 

「あのね不動……喧嘩売ってるの?」

 

「おぉ、怖い怖い、クククク。ま、せいぜい頑張りな。俺は日陰で悠々自適に過ごしてるからよ」

 

不動のこの言葉。

実はそのままの意味で今回もスタメンから外れた不動に対し、私は今回スタメンなんだなこれが。

 

「準備くらいしときなさいよ」

 

「その必要があればな」

 

軽く鼻を鳴らし、前回のオーストラリア戦同様ベンチに深々と腰掛けながら「俺は手を出さねぇ、勝手にやれ」とでも言わんばかりの態度で足を組む不動を横目に私は軽くぴょんぴょん飛び跳ねながらアップを始める。

軽く真上にジャンプしつつ両腕を震わせて力を抜きながら筋肉を解していく。時折腕を大きく上に振りながらジャンプしたり、腰を左右に捻ってストレッチもしておく。

 

…………………………しかし、たったこれだけの動作で汗が出てくるのは如何なものか。

 

確かにいきなりここまで気温が上がるのもなかなか珍しいように感じる。

 

「お、砥鹿も準備万端って感じだな」

 

「ん……そういう風丸くんもね。そういえば元陸上部だっけ」

 

「まぁな。そういえばあの時はまだ部員が円堂とアキの2人だけだったし。なんか必死に走り回る円堂に引かれてサッカー部に来たんだ」

 

「なんというか、すごいカリスマ性」

 

「だよな」

 

近くでストレッチをしていた風丸くんと雑談しながら体全体の筋肉を満遍なく解しつつ最後に手首と足首をぶらぶらさせてジャンプ。

パシンと両手で軽く自分の頬を叩き喝を入れると先に名前を呼ばれた豪炎寺くんに続いてピッチへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

フォーメーション

 

Japan

 

FW:--吹雪-豪炎寺-砥鹿--

 

MF:--基山- 鬼道 -緑川--

 

DF:-綱海-壁山-土方-風丸-

 

GK:----- 円堂 -----

 

 

 

Qatar

FW:---マジディ--ザック---

 

MF:-ユスフ-スライ--セイド-メッサー-

 

DF:-ファル-ビヨン--ジャメル-ムサ-

 

GK:------ナセル -----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホイッスル直前。

 

「火蓮、お前はどう見る?」

 

「どうって?」

 

「この相手のことだ。音無が言っていたように『無尽蔵のスタミナ』を誇るチーム。本当にそれだけだと思うか?」

 

豪炎寺くんの問いに対して若干返答に困る。

 

「…………さぁ、それだけとは思えないわね。少なくとも初戦は突破してきているわけだから相応の実力はあると見積もるのが普通じゃないかしら」

 

真上に大きく伸びをしながら答え、ちらりと視線を相手のチーム、カタール代表の方へ向けた。

 

「そう、それが【普通】なのよ」

 

「?火蓮?」

 

「いえ、なんでもないわ。先制点取っていきましょう」

 

若干の含みを持たせた私に少しだけ間を置いてから短く返答をくれた豪炎寺くん。

その視線も直ぐに相手ゴールの方へ向けられ、ホイッスルが響き豪炎寺くんから私にボールが渡る。

 

 

 

 

刹那、開戦のホイッスルが同時に観客までも湧きたてた。

 

 

 

 

試合開始。

 

 

 

 

ボールを受け取った私はかかとのバックパスで鬼道くんへ渡し、豪炎寺くんとともに若干左右に広がるように走って前線へ。

中盤の激しい競り合いにも負けずに突破してくれる味方陣に頼もしさを抱きながらテコ入れがてら最前線でパスを待つ。

無論、パスかドリブル突破かどちらが効果的かと言うのを探る目的もある。

そうできるのも中盤以降のメンバーが当たり負けしていないおかげだ。

そうでなければこんなテコ入れなんか初めから出来ないわけだし。

 

話を戻そう。

 

豪炎寺くんとともにオフサイドラインギリギリ………………から少し手前あたりで体を反転させ、味方の位置と敵の位置を視界に収める。

 

絶え間なく飛び交っている鬼道くんの指示を聞きながらボールを持った選手に合わせて位置取りを微調整。

…………ディフェンダーのマークの仕方に何となく違和感を覚えるのは私だけだろうか?

 

いや、今は細かいことはいいからてこてこをちょくちょく入れていかないと。

 

……………………待った『てこてこをちょくちょく』ってw

ついに私の脳は気温のせいで沸騰したらしい。

 

無意識に考えた自分の言葉に軽くツボりながらディフェンダーの動きを見つつ空いている場所へ走り込む。

 

「鬼道くん!」

 

私を視界に入れた鬼道くんが1つ頷いてパスを出した。

 

「よし。いい感じ!繋がった!」

 

相変わらずいいパスを出してくれる鬼道くんに感謝しながらボールをキープしつつ上がっていく。

同時に豪炎寺くんも視界に収めながらディフェンダーを抜き去ると、走り込む勢いにブレーキをかけながらボールを豪炎寺くんの所へ浮かせた。

相手ディフェンダーのマークを振り切ってフリーとなった豪炎寺くんがすかさずシュート体勢へ。

 

「うおぉ!!爆熱、ストーム!!!!!!」

 

背後へ現れた炎魔と共に放つ爆熱の一撃。

 

「させるか!」

 

しかしその射線上にギリギリのタイミングで間に合った相手チームのキャプテンの体を張ったディフェンスにより威力が削がれ、飛んだコースは良かったが流石にキーパーに弾かれてしまった。

しかしゴールラインは割ったのでまだまだ攻めることは出来る。

私たちのコーナーキックだ。

 

小さく舌打ちをした豪炎寺くんの肩に手を乗せて「どんまい」と一言言ってからポジションへ戻る。

 

この流れはどうにか途切れさせたくない。

 

コーナーキックのキッカーは風丸くん。

 

私からは逆サイドのコーナーからの再開なので正直ゴールを狙うと言うよりはこぼれ球をいつでも拾えるように心の準備をしておく方がいいかもしれない。

恐らく私へのパスは距離を考えるとリスクが高い。

であれば豪炎寺くんへ回して連続で打つか、1番近い場所の吹雪くんへ渡すか。

先程のシュートと気持ち豪炎寺くんのマークが増えたことを加味するとここは吹雪くんg……………………………………

 

「ふぅ…………これが俺の、新必殺技だ!!」

 

ちょっ!?

 

 

 

……………………。

 

 

 

…………ふぅ、わかるかしら私のこの心境。

わかってくれるかしら?

 

いや、いいのよ?いいの。

風丸くんの放ったボールはペナルティエリアの外側を大きくカーブさせながらゴールネットの角っこに突き刺さったのだから。

そういいのよ。

何せ先制点だし。

1点入ったのよ1点。

これは大きいわ先制点。

でもね風丸くん…………………………撃つなら撃つって言ってよ。

 

 

 

 

J-Q

1-0

 

 

 

 

はぁ、と息を吐きながらみんなと共に自陣へ戻る。

 

「ナイスシュート、風丸くん」

 

「あぁ、ありがとう砥鹿」

 

「はぁ、先制点は取られちゃったわね。撃つなら撃つって言ってくれたらいいのに」

 

「サプライズだよサプライズ。なんにせよ、あれは1発限りしか通用しないだろうからな。追加点は任せたぜ」

 

「任せなさい」

 

風丸くんはそう言いながらディフェンスのポジションへ戻っていく。

私も少し遅れて豪炎寺くんの隣へ戻った。

 

「してやられたな」

 

「まさか直接狙うなんて……………………なんというか私が言うのもなんだけど、大胆と言うか」

 

「しかし攻めることは出来ているな。あとはこの流れを維持し続けたいところだ」

 

「同感」

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

残り時間はまだまだ20分以上残っている。

相手チームのキックオフから試合が再開。

 

こちら側(左サイド)にはパスが通らなかったため私は逆サイドで行われている攻防を視界の端にお収めながら取り敢えずいつパスが来てもいいように前線で待機することにする。

 

それから割とすぐのタイミングだった。

 

相手選手からボールを奪った緑川くんがドリブルで上がる。

 

そしてボールは同じく駆け上がっていた吹雪くんへパス。

しかし、吹雪くんの機転による咄嗟のスルーによってボールは基山くんの元へ。

 

意表を突かれたデザートライオンディフェンス陣の対応が遅れる。

 

その隙に基山くんの「流星ブレード」が炸裂しイナズマジャパンの追加点となった。

キーパーに反応すらも許さないそのシュートはまさに「流星」の名前にふさわしい。

 

 

 

 

 

 

J-Q

2-0

 

 

 

 

 

よしよしこれで2点勝ち越し、いい感じの滑り出しと言えるでしょう。

 

あれ?

案外いけそう?

私の考えすぎかしら。

 

何はともあれこの調子が続けば勝てる。

 

カタールの選手の強い当たりにも負けずにボールを取った緑川くんも凄いが、あの咄嗟の場面でパスをスルーする吹雪くんも、それにぴったり反応する基山くんも基山くんだ。

よく合わせたな、事前の打ち合わせとかしてたのかしら。

 

でもまぁ深くは追求しないでおこう。

 

まだ前半も半分弱はある。

もう一点取りに行きたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

再びカタールのキックオフ。

 

 

今度はこちらのサイドへ流れてきたボールを追いかけながら、相手のドリブルに歩幅を合わせる。

数回のフェイントを交えながら……………………

 

「取らせるか!」

 

「っ!…………ふぅ」

 

かっこよくボールを取ろうと思ったのだが、取れませんでした。

とは言え深追いし過ぎるのはあまり良くないのですぐに頭の切り替えを行う。

まぁ、今の彼らなら取り返してくれるだろう。

 

そんなことを考えながら前線へ上がるが………………ん?

 

「……?なんだかすこしみんなの様子が……………………。気の所為であることを祈りたいけど」

 

ふとバックの動きに違和感を感じた。

 

それでも強い当たりで押されながらもどうにかボールを奪い取った綱海くんから鬼道くんへ。

鬼道くんが必殺技、【イリュージョンボール】でMFを抜き去ると………………。

 

「砥鹿!」

 

マークの薄くなった私の方にパスをくれる。

厳密に言うならば私がマークを振り切ったからなのだが、まぁそれはいいとしよう。

 

鬼道くんから受けとったボールをトラップしながら前へ向き直り、豪炎寺くんを呼ぶ。

 

「豪炎寺くん。あれ!やるわよ!」

 

「【轟熱スクリュー】か、わかった!」

 

ずくに私の意図を汲み取り私に合わせるようにしながら僅かに前を走る豪炎寺くん。

そして、私の合図とともに右へ散開した。

 

「行くわよ!!…………はっ!」

 

大きく振り上げた左足でボールを思い切り踏み、その衝撃波で地面を円形上に割った。

その隙間からゴボゴボと溢れる熱波と灼熱のエネルギーを纏うボールを左足を使って空高くへ蹴り飛ばす。

それを炎を纏いながらきりもみ回転でジャンプをした豪炎寺くんが頂点に来たところで思い切り蹴り込む火属性連携技。

その威力は既にオーストラリア戦で実証済みだ。

…………細かいことはとりあえず置いておいて、だが。

 

 

 

 

「「轟熱スクリュー!!!!!」」

 

 

 

 

小さな炎塊と化したボールが緩やかなカーブを描きながら激しい熱波と共にゴールへ向かっていく。

 

「(タイミングはバッチリ!私たちのコンディションも悪くない!でも、昨日白虎に言われたことを反映できていなければ失敗だ!)」

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが頭を過り、私はもう一度昨日の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

─【回想】─

 

───

 

 

 

カタール戦前日。

虎ノ屋で虎丸くんの手伝いを終えた私と豪炎寺くんはその帰り道、円堂くんたちと別れて河川敷のグラウンドへ来ていた。

 

そこには既に1人の少年が来ており、グローブをベンチに置いてスパイクの紐を結び直している。

 

当然、その少年は自分が特訓のためにわざわざ呼んだのだ。

なのに自分が遅れてしまうとは………………。

 

「ごめんなさい、秋人。少し遅れちゃったわね」

 

「いや、俺も今来たところだ」

 

「監督何か言ってた?」

 

「いや、特に何も」

 

「そう?それならいいわ」

 

「カオルは『俺が行く』って言ってたけどな。春紀に引きずられてたよ。………………っと、そういえば君は」

 

白虎が私と一緒に来た豪炎寺くんへ視線を向ける。

 

「あぁ、そう言えば紹介がまだだったわね?秋人、こっちが今一緒のチームでやってる豪炎寺くん」

 

「豪炎寺 修也だ。よろしく頼む」

 

「豪炎寺、あぁ、あの木戸川清修のか?」

 

「今は転校して雷門中在籍なんだがな」

 

「?そうなのか。まぁ、深くは詮索しないでおくよ。事情があるんだろうし。にしても、フフ、火蓮の相手は疲れるだろ?」

 

「あぁ、かなり疲れるな」

 

「ちょっと2人とも?それはどういう意味かしら?」

 

2人揃って本人の目の前で失礼なこと。

 

「冗談だ。怒るなよ火蓮」

 

「ふんだ」

 

「あらま、拗ねちゃったな。まぁすぐに治るか。さて、今度は俺だな。俺は白虎(びゃっこ) 秋人(あきと)。チームメイトからは『白虎』だったり『秋人』だったり呼ばれてる。好きに呼んでくれて構わない。よろしくな、豪炎寺」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

ひとしきり自己紹介が終わったところで本題に移っていくことにする。

私は白虎に昼間の出来事を掻い摘んで説明をした。

 

「…………ふむふむ。なるほどな。であれば百聞は一見にしかず、見た方が早いか。火蓮、豪炎寺、打ってきてくれ」

 

「わかった」

 

「頼むわよ秋人」

 

「あぁ」

 

そう言いながらパシンとグローブを叩きながらキーパーのポジションへ向かう白虎の背中を見ながら私は軽くリフティングをしてセンターライン辺りにボールをセットする。

 

「よし、来い!」

 

白虎がこちらに向き直る。

私は豪炎寺くんと小さく頷きあってから軽く前へ蹴りだしドリブルを開始。

豪炎寺くんを前にフォーメーションを組みペナルティエリアに入ったところで技の始動に入った。

 

大きく足を振り上げてボールに向かって叩きつける。

その衝撃で円形上に地面が割れると、その隙間からゴボゴボと熱波とともに炎が吹き上がりボールにエネルギーを注ぎ込んでいく。

そのエネルギーによって空中へ弾き上げられた小炎塊と化したボールをきりもみ回転をしながら近づいた豪炎寺くんが左足で思い切りゴールへ向かって蹴り込む。

灼熱のエネルギーを放出しながら必殺技【轟熱スクリュー】が放たれた。

 

「これが例の技か。フッ!!!」

 

…………しかし、奇しくも秋人によって受け止められてしまう。

とは言え、いくら相手が白虎だからってなんの危なげもなくキャッチされてしまうのはFWのプライドとしてなにか複雑ではある。

 

「…………素手で止めるのか」

 

「わかりきってはいたけど…………実際に間近で見るとショックがでかいわね」

 

「分かりきっていた?」

 

僅かに眉を寄せた豪炎寺くん。

構わず私は続けた。

 

「そうよ。言ってなかったかしら?『白虎 秋人』、うちの正GKは…………………………()()()()()()()()()()()()()()()4()()()()()()?あ、厳密には『現』四天王の一角という方がいいかしら」

 

「四天王?」

 

「あら?知らない?中学サッカー界で『最強』と言われる4人に付いた称号のようなものよ」

 

「最強、か。円堂といい勝負か」

 

「残念だけど、彼と秋人じゃ勝負にならないわ」

 

「それほどか…………」

 

「えぇ、本当に残念だけど」

 

「火蓮、本人を目の前にあまりホイホイ尾ひれをつけるのはやめてくれ。夏彦は気に入ってるっぽいけど俺は恥ずいんだよ」

 

私と豪炎寺くんの会話を聴き、ため息をつきながらボールを投げ返してくる白虎…………苗字呼びは慣れないからいつも通り『秋人』と呼ぶことにする。

 

「だが、そんな選手がどうして代表に選ばれなかったんだ?」

 

「さぁ?秋人達の影が薄いだけじゃないかしら?だって考えても見なさいよ。国外の大会でひっそりと結果を残していたチームと、国内の騒動を収束させたチーム、日本全国で広く認知されているのはどちらのチーム?」

 

「…………なるほど」

 

私の問いかけに納得の表情を浮かべる豪炎寺くんに対して秋人が抗議の声を上げた。

 

「影が薄いとか…………俺は気にしてるんだから勘弁してくれよ。それよりさっきのもう一度撃ってくれ。何となく目星が付いたから確認がてら、な」

 

「了解」

 

秋人に急かされながら受け取ったボールを転がして最初の位置、いわゆるセンターサークルへ戻った。

 

「もう一度行くわよ」

 

「あぁ」

 

短く言葉を交わして再び【轟熱スクリュー】のフォーメーションへ。

それから技発動。

再び灼熱のシュートがゴールへ迫っていく。

 

「ふん!!!」

 

…………しかしこれもがっちりと押さえ込まれてしまった。

 

「……やっぱりな。おそらくこれかな?って言う感じのものはわかった」

 

「なんでそう曖昧な表現使うのよ」

 

「うるさいな。俺だって連携技の指摘は初めてなんだから大目に見てくれよ。まぁとにかくだ、火蓮は知ってるけど………………豪炎寺、君の利き足は?」

 

「利き足?左だが?」

 

「やっぱり」

 

「やっぱり、と言うと?」

 

「火蓮の利き足は右だろ?おそらくそれのせいで威力が相殺されちゃってるんじゃないかと。もっと言えば火蓮は瞬間的な爆発力と言うより徐々に火力を上げていくタイプだし。で、豪炎寺くんは…………俺の予想だとシュートの一瞬の間に爆発的に火力をあげるタイプ。違う?」

 

「……確かにシュートの瞬間だけ思い切り力を込めることが多いな」

 

「予想が外れなくて良かった…………。まぁ、結論から言うと火蓮も豪炎寺も同じ『炎』のシュートを扱うプレイヤーでもその性質が真逆ってことだ。簡単に言えばプラスの電気とマイナスの電気を合わせたら打ち消しあうだろ、ってこと。つまり……………………」

 

脇の下にボールを挟みながら話していた秋人がふと言葉を切り、心底言いずらそうな表情を浮かべた。

 

「つまり?」

 

「つまり……………………相性×」

 

予想外の答えに一気に肩から力が抜けるのを感じた。

 

「え、ほんと?それ」

 

「オーストラリア戦では手応えがあったんだが」

 

「あぁ、見たよ最後のやつだよな?多分、これは俺の予想なんだけど、ある意味『不幸中の幸い』みたいな感じだと思う。シュートの回転がたまたまあの技を破るキーになっていたって感じじゃないか?手応えがあったのはおそらく試合の流れやその場の空気みたいなものに流されたから、と今のシュートを受けた俺はそう結論づけるな」

 

ただ、と秋人が続ける。

 

「ただ、最初にも言ったが俺は連携技のアドバイスなんて初めてやったんだ。間違っているかもしれないし、もしかしたら相殺する時のエネルギーを上手く利用できる方法が何かしらあるかもしれないからな。あくまで俺のは一案。…………と言うくらいしか正直出来そうにない」

 

申し訳なさそうに頬を掻く秋人。

 

「いや、正直に言ってくれてありがと、秋人。でなきゃ対策の立てようがないしね」

 

「そうだな。それより課題が増えたな。俺と火蓮で相殺されてしまっているならばそこにもうひとつ要素を加える必要が出てきたわけだ」

 

「新しい要素ね。単純に考えるなら私が左足で蹴りあげる、とか?」

 

「お前左で蹴れるのか?パス以外で」

 

「そ、それは…………その…………」

 

秋人につっこまれて思わず口ごもる。

 

「れ、練習あるのみ?」

 

「はぁ……そう言うと思ってたよ」

 

「だーってしょうがないじゃない!それしか思いつかないんだもん!」

 

「ふむ、とりあえず可能性がありそうなら試してみよう。判断するのはそれからでも遅くはない」

 

「俺も豪炎寺の意見に賛成。ほら、こんなこと監督に言ってみろ。『頑張りなさい!応援してるから!』の一言で終わる案件だぞ?」

 

「う…………た、確かに……………………」

 

「まぁ、うちの監督の話は置いておいて、とりあえずは火蓮が左足で蹴り上げる方向でいいんじゃないか?俺も正直力にはなりたいが…………連携技はな」

 

「いや。ありがとう、白虎」

 

「そんなこと気にしなくてもいいぞ豪炎寺。俺も君も火蓮に巻き込まれているんだ。そもそも厄介事になるのは百も承知だ」

 

「ふ、違いない」

 

「だーーから本人が目の前にいるんだからそういうこと言わないでってば!」

 

 

 

 

 

 

 

その後拗ねた私は秋人と豪炎寺くんになだめられてからしばらく利き足と逆の足で蹴り上げる【轟熱スクリュー】の特訓をした。

 

結果は………………まだまだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで今日を迎えたわけである。

 

 

 

 

───

 

─【回想終了】─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎塊と化したシュートがカタールゴールへ迫る。

 

「追加点は入れさせるか!」

 

「うおおおぉぉぉ!!!!」

 

…………しかし、カタールサイドの決死のディフェンスでボールの威力は削がれ、横っ飛びに飛び込んだキーパーによってがっちりとキャッチされてしまった。

 

つまり、まだ相殺しきってしまっているということだ。

私が左足で蹴り上げるのに慣れていないのもあるが、まだまだ完成までの道のりは長そうだ。

…………と言うか普通に私も豪炎寺くんも単騎で技を撃った方が強いのでは?と考えたがおそらくこれは禁句だろうな。

もう言わない。

 

 

 

ピッピーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけでリードしてるにもかかわらず私と豪炎寺くんにとっては微妙に煮え切らない前半戦が終了した。




そう言えば、なんか知らないですけど、不動って料理させたらめちゃくちゃ面白そうじゃないですか?←(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2試合 VS デザートライオン 後編

よし!

とりあえずカタール戦後半です←




「………………ふぅ。暑い……」

 

前半戦が終了し、ベンチへ戻ってきた私はもういの一番にドリンクを口に流し込んだ。

その勢いたるや。

若干口元からこぼれてしまっている気がするが、知らぬ。

 

大きく息を吐いてからタオルで汗を拭う。

 

「火蓮。大丈夫か?」

 

「私は全然大丈夫。豪炎寺くんこそ暑さにやられてたりとかしないわよね?」

 

「あぁ、もちろんだ…………………………と言いたいがいつもよりかなり体力は消費してしまっているな」

 

「全くもうみんな揃って情けないんだから」

 

「?どういう意味だ?」

 

「ほら、あれよあれ」

 

若干眉を寄せる豪炎寺くんからの問いにクイクイっと顎で他のメンバーをさして豪炎寺くんに周りの情報を伝える。

百聞は一見にしかず、ってね。

 

その先では、ゴール前でほとんど動いていない円堂くん以外の選手が各々ドリンクやタオルを使いながら話す余裕すらも無く早い呼吸を繰り返していた。

 

「……これは」

 

「ケッ、単純な話じゃねぇか。攻めてるからって後先なんにも考えずにペース配分を怠った報いだよ報い」

 

「不動」

 

「あんたは言葉を……………………」

 

「ふん、こんな調子で本当に勝てるかねぇ〜。後半が()()()だな。クククク」

 

わざと監督に聞こえるように言いながらベンチ内でふんぞり返っている不動にため息を漏らしつつ、ドリンクを置いてから立ち上がり軽くジャンプでダレた体を戻していく。

 

「よし、そろそろ後半も始まるわ。行きましょ」

 

「あぁ」

 

と、そんな感じで始まった後半戦。

 

私の嫌な違和感がそのまま現実になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピーーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半開始のホイッスルが鳴り響く。

 

カタールの陣形は前半よりも攻撃的なスリートップへと変わり、今まで守備に回っていたチームが攻撃に転じたことを意味していた。

 

始まる直前に実況の人が喋っていたが、相手チームの監督の采配に注目が集まっていることだろう。

私からしたら今から攻撃に転じられたらめっちゃめちゃ困る。

 

理由はハーフタイム時のみんなの様子を見ていれば一目瞭然。

この気温の中あれだけ体力を消耗していたら後半なんて確実に戦えない。

意図的なのか偶然か…………………………いや、どう考えても後者に決まっている。

前半戦での相手の動き、守備特化のフォーメーション、ファウルスレスレのラフプレー、そして……………………あそこまで走り続けていてなお息が乱れないあの体力の量。

 

今、私の頭の中で全ての事象が結びつき、最悪な結末が弾き出された。

 

 

 

 

 

 

このままでは2点差などあっという間にひっくり返される!

 

 

 

 

 

 

そんな考え事をしていたのが災いして、たいして相手にプレッシャーを与えられずに突破されてしまう。

 

「チッ!」

 

舌打ちをしてそこでまた迷う。

 

戻るべきかそのまま信じて前で待つか。

 

いや、戻るべきだ!

点を入れられてしまったら元も子も…………

 

「火蓮!!!!」

 

「っ!?ご、豪炎寺くん…………」

 

「俺たちは前だ。円堂を信じろ!」

 

豪炎寺くんの一言で後ろへ戻りかけていた足が止まる。

 

「………………わかったわ」

 

その答えに豪炎寺くんが小さく頷き視線を円堂くん(味方ゴール)へ向ける。

その視線も何となく険しいように感じた。

 

私もゴールへ視線を向けると私の後に緑川くん、それから綱海くんと壁山くんも吹っ飛ばされたようで倒されており、その先ではちょうど相手選手のシュートを円堂くんが止めたところだった。

何やらボールを見つめながら頭の上に疑問符を浮かべている。

 

「円堂!」

 

「あ、あぁ!鬼道!」

 

その疑問が晴れることなくボールは鬼道くんへ渡り、私たちよりも若干下がっていた吹雪くんへ。

 

しかし、相手選手の激しいタックルによって吹雪くんも弾き倒されてしまう。

 

が、そのこぼれ球を鬼道くんがどうにか拾い前線へ持ち込む。

 

 

 

もう一点欲しい。

 

 

 

吹雪くんが倒されたことで私と豪炎寺くんの動きが若干止まるが、フォローに入った鬼道くんのジェスチャーを受けて再び前へ向く。

 

そこに吹雪くんが走り込んでくる。

 

「僕にパスを!!」

 

なっ!?

 

何を言って、そんなに息が上がってたら

 

「無茶よ吹雪くん!そんなに息が上がってて…………」

 

「僕は大丈夫……だから!倒れる前にせめてもう一点…………僕にやらせて!」

 

「吹雪くん………………」

 

「必ず決めてみせるよ。だからそのあとは、任せたよ。火蓮さん、豪炎寺くん」

 

「わかった。頼んだぞ吹雪」

 

「ありがとう、豪炎寺くん!」

 

豪炎寺くんの鼓舞を受け、鬼道くんからのパスを吹雪くんが受ける。

 

ギリギリで相手ディフェンダーをかわしきり、吹雪くんがシュート体勢に入った。

 

右足の蹴りと共にボールが爪による連撃が襲い、吹雪くんの雄叫びと共に3つに分裂してから相手ゴールを抉る吹雪くんの必殺シュート『ウルフレジェンド』が炸裂する。

 

よし!

これが決まれば!

 

しかし……………………

 

 

 

 

「フッ…………………………『ストームライダー』!!!!」

 

 

 

 

っ!!

 

間一髪………………というわけではなさそう。

吹雪くんの放ったシュートは無情にも相手キーパーの必殺技によってがっちりと止められてしまった。

 

あのキーパー、前半じゃあえて必殺技を使わなかったということになるわね。

それも考えてみれば当然か、相手チームに警戒させないように攻めさせて攻めさせて、最後に疲れきった相手から逆転していく。

そんなシナリオだとしたらこうなることは必然だ。

 

この流れは宜しくない。

 

「ふん。この程度か?」

 

「そん………………な…………」

 

キーパーの挑発じみた一言と共に、ついに吹雪くんが体力の限界を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪くんと同じように緑川くんも体力の限界を迎え、あえなく久遠監督から交代が告げられる。

 

私は吹雪くんに肩を貸しながらベンチへ戻っていく。

 

「…………ごめん、火蓮さん。点、取れなかったよ」

 

「気にしないで。今は体を休めることに専念した方がいいわ」

 

「あ、ははは、そうさせてもらうよ」

 

「あとは任せなさい」

 

「うん。頼んだよ」

 

ベンチへ下がった吹雪くんをマネージャーの木野さんに預け、不動に視線を向ける。

 

案の定ニヤニヤしながら出番を確信しているようなので………………と言うか、状況打開には恐らく不動が必要だと思う。

私が予想するに、MFを4人とFW2人に戻してMFに不動と虎丸くんを入れれば問題なく後半戦を戦えるはずだ。

 

不動に向かって軽く顎でフイっとピッチを指して『よろしく』と合図を送る。

 

しかし……………………

 

「選手交代。吹雪に代わって宇都宮、緑川に代わって立向居!」

 

「えっ!?」

 

「何っ!?」

 

予想外の選出に思わず私と不動が同時に声を出してしまった。

 

「なんだ?文句があるのか?」

 

「あ、いえ…………」

 

「ならば砥鹿、お前はピッチに戻れ。フォーメーションは吹雪のポジションに虎丸。それから豪炎寺と場所を入れ替える。いいな」

 

予想外の言葉に呆気を取られた私は『はい』、その2文字がどうしても出てこない。

それは不動も同じだった。

 

確かに立向居くんは才能があるとは言えメインポジションはキーパーのはずだ。

もしかしたらサブポジションみたいな感じなのだろうか。

いずれにしろこの土壇場で………………。

 

ベンチに居たのはFWの虎丸くんにGKの立向居くん、木暮くんと飛鷹くんのDF2人。

それから最後にMFの不動の計5人だ。

MFの緑川くんを替えるなら同じMFの不動を入れる方が合理的のはず。

どうして久遠監督は頑なに不動を使わない?

 

私の事と言い不動のことと言い、この監督は一体何を考えているのだろうか。

というか……………………()()()()()()知っているのだろうか。

 

いや、今は考えるだけ時間の無駄だ。

 

ピッチへ戻れと言われた以上従うしかない。

 

信頼できるけど疑問が残る監督だということは理解した。

 

私は恨めしそうな不動の視線を無視してピッチに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールキックに備えて虎丸くんを真ん中に右側を私、反対側を豪炎寺くんがポジション取りを行う。

 

直後に試合再開のホイッスル。

 

相手キーパーからボールが蹴り上げられ、MFが受けて即座にFWへ。

流れるようにボールが動き、ふたたび私のプレスが突破される。

 

あぁ、もう!

ディフェンス苦手!

 

こっちサイドにはさっき変わったばかりの立向居くんが入っており、体力的にも余裕があるためどうにかボールを弾いてドリブルだけは阻止するが、すぐに別のFWによって拾われてしまった。

すぐさま相手FWがセンタリング。

 

それをヘディングで止めに入った綱海くん諸共円堂くんまで押し返され、無情にもボールはそのままゴールネットを揺らす羽目になった。

 

………………こちらに体力の消耗があったとはいえ、綱海くんと円堂くんの2人を押し返すなんて。

 

そんなことよりも。

そこそこあっさりと1点返された。

 

その事の方が今は重要………………………………

 

 

 

 

「綱海!!!!」

 

 

 

 

状況打破のために思考を巡らそうとした矢先、円堂くんの一言で我に返る。

 

先程吹っ飛ばされた際に体力を持っていかれたようで、南国育ちっぽい綱海くんですらもう立つことが出来ないようだった。

しかも彼らの周りに何故か相手選手が集まって何やら話し込んでいるようだが………………何してるのかしら。

 

いや、それは後回しだ。

 

1点差。

 

「選手交代。綱海に代わり飛鷹」

 

久遠監督の指示で………………あれ?

ここで飛鷹くん?

漫遊寺出身の木暮くんの方が良いような気がするけど。

 

考えても仕方ないか。

 

私はキックオフを虎丸くんに譲り、右側で大きく息を吸った。

 

実況の言う通り【起爆剤】となるか。

頑張ってもらわないと。

 

さて、試合は虎丸くんのキックオフから始まり、豪炎寺くん、鬼道くんへと渡り自チーム全体のラインが上がる。

 

私も右翼を駆け上がりパスを待つ。

 

その直後、鬼道くんから逆サイドを駆け上がっていた風丸くんへボールが渡った。

そのタイミングで私は足を止め、数歩中へポジションを取る。

 

僅かに前へ出されたパスも持ち前の足でどうにか追いつき追ってきていたDFをフェイントで躱した風丸くんから大きくセンタリングが蹴りあげられた。

対象は鬼道くん。

流石、ボールを拾った時にしっかりと鬼道くんの動きも視界に入れていたらしい。

完璧なセンタリングが上げられた。

 

だが、それ故に相手DF陣もそれに連動してマークに動く。

 

しかし、その次の瞬間!

 

「えっ!!?」

 

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

"なんと!宇都宮飛び込んだ!!!!鬼道へのセンタリングをカット!この大胆な作戦にデザートライオンディフェンス陣が崩れた!!!"

 

 

 

 

 

 

虎丸くんがセンタリングをカットした。

 

嘘!?

なんの打ち合わせもなしに!!?

 

い、いやでもこれは追加点のチャンス!

ここで1点入れることはかなり大きい!

 

「今だ!打て!虎丸!!」

 

「虎丸くん!!決めて!!」

 

私と豪炎寺くんがほとんど同時に叫ぶ。

 

しかし………………

 

 

 

 

 

ポン!

 

 

 

 

 

私と豪炎寺くんの叫びも虚しく、ゴール目前で若干表情を曇らせた虎丸くんはわざわざ相手キーパーの目の前にいる豪炎寺くんの方へパスを出した。

 

あの時と全く同じ。

 

選考試合での………………あのバックパスと。

 

「ちっ!火蓮!!」

 

「いや、1人で打つ方が早いわ!頼むわよ!」

 

「わかった!」

 

短いやり取りを交わしたあと、豪炎寺くんが大きく炎のエネルギーを爆発させ【爆熱ストーム】の体勢に入る。

 

「爆熱、ストーム!!!!!」

 

炎を纏う爆炎のシュートがゴールへ迫る。

しかし、そのシュートもキーパーの真正面に飛んでしまったが故がっちりと抑え込まれてしまった。

 

「っ!」

 

「あぁん、惜しい!」

 

追加点ならず、か。

厳しいわねこれは。

 

「惜しかったな!!でも、ナイスアシストだったぞ!虎丸!」

 

ゴール前から円堂くんの声が聞こえるが、今のプレーは正直【ナイスアシスト】とは程遠い。

あんなところでわざわざパスするくらいなら決めた方が確率は高いからだ。

円堂くん、流石にそのフォローはダメよ。

どんまい言うついでに豪炎寺くんの横に並ぶ。

 

「虎丸、何故シュートしなかった?」

 

「何故って………………」

 

「今のは決定的なシュートチャンスのはずよ?どうして?」

 

私も気になって疑問を投げかける。

すると、数秒の沈黙の後静かに虎丸くんが言葉を繋いだ。

 

「…………俺が決めたらダメなんです」

 

その言葉に私と豪炎寺くんが同時に顔を見合わせてしまった。

 

「それ、どういう意味?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が決めたらダメなんです』、その言葉の意味を聞くまもなく今度は相手キーパーからのゴールキックによって試合が再開してしまう。

 

「話はあとね!戻るわよ2人とも!」

 

「あぁ!」

 

「はい!」

 

ボールはキーパーからFWへ、そして止めに入った立向居くんを蹴散らしながらオーバーラップしてきていたキャプテンの元へ回ってしまう。

 

戻れと鬼道くんの指示も飛んでいるが、後半残り数分のこのタイミング。

体力もかなり落ちてきているこの状況で、速攻の対処は困難を極める。

 

案の定、私達が完全に戻りきる前に相手キャプテンの必殺シュート【ミラージュシュート】が炸裂してしまった。

 

まるで砂漠に立ち昇る陽炎が写し出す幻のごとく、2つに分裂したボールが重なりながらゴールへ迫る。

 

円堂くんも【正義の鉄拳】で応戦するが、完全に弾き返すまでには至らずかろうじて軌道を逸らしてラインから出すことで精一杯らしい。

1度目のピンチは防いだが、まだまだ気は抜けない。

相手側のコーナーキック。

ただし、この時点で既に残り時間もほぼ無し。

もしかしたらロスタイムくらい入っていてもおかしくない時間帯故にここを乗り切ればそのまま逃げ切れる………………可能性が高まる。

 

正直FWの私にはどうすることも出来ずにハーフラインよりも若干後方でカウンターの準備に取り掛かった。

 

まぁ、カウンターを準備しておいてマイナスにはならないだろう。

点は取っておいて損にはならないし。

 

さて、そろそろ相手キャプテンがキッカーを務める勝負コーナーが始まる。

 

3人いるFWのうち誰に渡すか。

 

 

 

 

 

 

しかし、その問いの結果は全て『否』となった。

 

 

 

 

 

 

相手チームの勝負コーナーはペナルティエリア内へ蹴り込む訳では無いミッドフィールダーへの短いパスからプレイがスタートしたのだ。

 

つまりどういうことかと言うと……………………

 

 

 

 

完全に意表を突かれた!!!!

 

 

 

 

 

「コースを切れ!!」

 

そのせいで鬼道くんの指示もワンテンポ遅れてしまい、そのせいでショートコーナーでボールを受けたMFのシュートを許してしまった。

しかしこれは円堂くんの真正面。

運がいいと言うしかない、が…………いや、本当の狙いはそうじゃない。

 

こちらのDF陣の後ろからFWの1人が動いていた。

 

「円堂くん気をつけて!!」

 

私の咄嗟の叫びも虚しく、選手の間をするりと抜けたFWが円堂くんの前に飛び込む。

 

「何!?」

 

「はあぁぁぁああっ!!!」

 

シュートに合わせて飛び込み、そして円堂くんの目の前でヘディングによってボールの軌道を変えた。

 

当然円堂くんを含めたDF陣は1歩も動くことが出来ないままボールは無情にもゴールラインを割った。

 

この1点は………………絶望的な1点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴール。

 

 

これで同点。

 

 

 

 

 

 

J - Q

2 - 2

 

 

 

 

 

 

 

"うあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!ボールは無情にもゴールへ!!!!イナズマジャパン!なんと後半ロスタイムという土壇場で同点に追いつかれてしまったぁ!!!!!!!!"

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

「くっ……やられたか」

 

走りかけていた私は唇を噛み、豪炎寺くんも拳を握りしめて吐き捨てるように呟いた。

 

これはもう。

私がやるしかなのかしら?

 

私はまだ体力的に余裕がある。

なんせチャージを受けた訳でもないし特段激しく走り回った訳でもないからね。

それにスタミナ管理には自信あるから。

 

視線を久遠監督の方へ向けるが、監督は無言のまま小さく首を横に振った。

 

「………………」

 

若干眉を寄せてから軽く頷き、ポジションへ戻る。

 

虎丸くんからのキックオフで試合再開。

ロスタイムも残り少ない。

 

こちらのボールであるこのプレーでどうにか得点したいところ。

 

右サイドから若干中央に寄りながら走り、いつパスが通ってもいいように準備をする。

 

その時!

 

 

 

 

 

 

虎丸くんからのパスを………………豪炎寺くんが虎丸くんへぶつけ返した。

 

おかげでボールがサイドラインを超えてしまう。

 

 

 

 

「な、ななな……………………」

 

何やってるのよあの2人!

こんな大事な時に!

 

「ちょっと豪炎寺くん!?」

 

「さっきからなんだ!お前のプレーは!!」

 

豪炎寺くんは虎丸くんから視線を外すことなく、止めようと近づく私を片手で制した。

 

「残り時間は残っていないんだぞ!精一杯!ベストと思えるプレーをしろ!」

 

「どうどう、落ち着いて豪炎寺くん。虎丸くんだって………………」

 

「っ!これが俺のベストです!」

 

その言葉に私の方がぴくんと反応してしまった。

 

「俺のアシストでみんなが点を取る!それがベストなんですよ!そうすれば俺がみんなの活躍の場を奪うことも無い!みんなで楽しくサッカーが出来るんです!!」

 

「ふざけるな!!」

「いい加減にしなさい!」

「っ!」

 

それに対する返しの言葉は、偶然なのか必然なのか……………………私と豪炎寺くんの声が被ってしまった。

 

一応虎丸くんを擁護するために割って入ったのだが……………………今のはちょっと、ね。

いくら温厚の私でも流石に癇に障った。

 

まさか庇おうとした矢先に手のひら返す羽目になるとは…………

 

「そんなもの本当の楽しさじゃない!」

 

いきなり声を荒らげた私と豪炎寺くんのおかげで虎丸くんがビクりと体を震わせて縮こまってしまった。

 

「見ろ!ここにいるのは日本全国から集められた最強のメンバー達!そして!」

 

豪炎寺くんが自チームを指さしてから相手チームを指す。

 

「敵は世界だ!俺たちは、世界と戦い勝つためにここにいるんだ。それを忘れるな!」

 

「そうよ。ピッチにいる以上勝ちにこだわらないと」

 

続けて私も一言つけ加え、バトンをいつの間にか集まっていたメンバー達に渡した。

 

「そうだぞ虎丸。みんなが、全力でゴールを目指さなくちゃ!」

 

私のバトンは円堂くんが拾い、それから鬼道くんへ手渡される。

 

「虎丸。ここには、お前のプレーを受け止められないやわなやつは一人もいない」

 

2人の言葉に力強く頷き返す面々。

その顔を順番に見渡した虎丸くんが最後に私の顔を見た。

その視線に対してパチンと軽くウィンクで返してあげる。

 

おかげで表情がパッと明るくなり、ゆっくりと立ち上がった。

そして、

 

「……良いんですか?俺、本気でやっちゃっても!」

 

今はまでにないくらい生き生きとした笑顔を見せる。

 

それを受けて私と豪炎寺くんが互いに顔を見合せ、豪炎寺くんへ最後の言葉を掛けてあげるようにクイッと軽く頭を動かした。

 

「フッ、俺達を驚かせてみろ」

 

「はい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵チームからのスローインで試合が再開。

 

試合開始直前に久遠監督からのアイコンタクトを受けてハーフラインちょっと上あたりまで下がっていた私の真正面。

ドリブルをするMFにプレスをかける。

 

数回のフェイントを混ぜて同時にパスコースも塞ぐ。

その直後、ボールをコントロールする足から僅かにボールが離れた。

その一瞬を見逃すことなくスライディングタックルでボールを奪うとそれを見越して走り込んできていた鬼道くんへパスを通す。

 

ロスタイムも残り少ない。

 

このワンプレーをものに出来なければ事実上の敗北が決定する。

故に私もパスを通したあとすぐに前線へ駆け上がった。

 

ボールは鬼道くんから虎丸くんへ渡り、自分の殻を破った虎丸くんが怒涛の突破劇を披露した。

 

「やるじゃない虎丸くん」

 

「こんなの序の口ですよ!」

 

「ほほう?」

 

「俺もう色々溜まってるんですから!あれもこれももう本当はずっとシュートが打ちたくて打ちたくて!」

 

その言葉に豪炎寺くんが頷く。

 

そして

 

 

 

 

 

 

「行け!虎丸!」

 

「決めてきちゃいなさい!この試合!」

 

「はいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

私と豪炎寺くんの両翼からの声援を受けてボールを持った虎丸くんが加速し最後のDFを突破してGKと一対一になる。

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと封印してきた俺のシュート!唸れ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

空手の型のような力強い構えから背後に現れた虎の咆哮で威力を爆発させた必殺シュート。

 

 

 

 

 

 

 

「タイガー、ドライブ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「やらせるか!ストームライダー!!!!」

 

しかしキーパーも同様に必殺技で応戦する。

巻き上げられた砂塵が渦巻く砂嵐。

 

その中心を【タイガードライブ】が撃ち抜いた。

 

「なにっ!!!?」

 

ボールがゴールネットに突き刺さり、同時に会場が一瞬にして歓声の嵐へと巻き込まれる。

 

 

 

 

 

"ゴーーーーーーーーーール!!!!!!"

 

 

 

 

先程以上に興奮した実況の声が会場全体に広がり、さらに歓声の渦が激しくなる。

 

そしてその直後。

 

 

 

 

 

ピッピッピーーーーーーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

主審による甲高いホイッスルの音がこの試合の終幕であることを告げた。

 

長かったこの試合にもついに終止符が打たれたわけだ。

 

はぁ、疲れ……………………てはいないな。

私あまり走らなかったしラフスレスレチャージも喰らわなかったからかな?

まぁ、南米の気候に比べたら………………ということかしら。

 

何はともあれ…………………私たちは最後の決勝点を入れた虎丸くんの元へ。

 

「今のがお前の本気のプレーか?俺達に着いてくるにはまだまだ時間がかかりそうだな、虎丸」

 

「……でも俺、まだ本気出してませんから」

 

そんなやり取りを聞きながら輪の外から見ていると、ふと目が合った虎丸くんが親指を立ててくれる。

それを同じジェスチャーで返しベンチへ戻ろうと視線をふとそっち向けると今度はポケットに手を突っ込んだままムスッと脇の柱に背中を預けていた不動と目が合った。

顎で『ちょっとこい』のジェスチャーを受けて、先に歩き出していた不動の後に続いてグラウンドから連絡通路へ入った。

 

「……………………」

 

「何よまたこんなところに呼び出して。特訓の打ち合わせでも…………」

 

「【力を出し惜しんで行ける世界は無い】だとよ」

 

「は?いきなり何?」

 

「さっきあの監督が俺に言ったンだ」

 

「いつ?」

 

「んな事ァどうでもいいだろうが」

 

「まぁ、確かに。それで、私に共感でも得ようとしたわけ?」

 

「当てはまるんじゃねぇのか?俺も、()()()な」

 

「……………………言ってる意味がわかんないわね」

 

声のトーンを落とし僅かに目を細めて答える。

 

そしてその後の言葉を言おうとしたちょうどそんなタイミング。

 

「あ、火蓮さん。こんなところで何してるんですか?あ、不動さんも一緒だったんですか?監督が集合かけてますよ。もうみんな集まってます。あとはお2人だけですよ」

 

通路の角から虎丸くんが現れたことで中断される。

 

「…………あ、あれ?なんか俺変なタイミングで来ちゃいましたか?」

 

私と不動のピリッとした雰囲気を感じ取ったのか虎丸くんがしゅんとしてしまった。

 

「あぁ、いやなんでもないのよ。集合ね、わかったすぐ行くわ」

 

「わ、わかりました」

 

そう言い残して足早に虎丸くんが戻っていく。

 

「ケッ」

 

その後に続いて大袈裟に吐き捨てた不動が相変わらずポケットに手を入れながら私の隣を通り過ぎていく。

 

「………………」

 

私はしばらく立ち尽くしたあと、足早にグラウンドへ戻った。




ようやくカタール戦終わった………………

虎丸覚醒まで終わった………………



とりあえず、次回お楽しみに←(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砥鹿 火蓮

なんだか知らないけど続きが書けたので上げときます←(笑)


まぁでも今回は物語も微妙に進んでるようで進んでないような変な回です。
あ、閑話みたいなw

それは置いておいて、本編どうぞ←


先日のFFIアジア地区予選第2試合カタール代表デザートライオン戦から数日。

その興奮と熱が未だ覚めやらぬ中、それ以上にてんやわんや大忙しの虎丸宅。その雰囲気には大方そぐわないような怒声が響き渡る。

 

「火蓮は2番と4番!あんたは8番のバッシング!虎丸は唐揚げ定食(からあげ)野菜炒め定食(野菜)を5番に持ってったあと出前だ!さっさと行って20分で帰って来い!!」

 

「は、はい!!すぐ行ってきます!」

 

「わかってるってば!」

 

「もう、なんで私だけ『あんた』呼びなの〜?乃之美さん、って言ってくれればいいのに〜」

 

「仕方ないですよ、あいつ、あぁ見えて結構な恥ずかしがり屋………………」

 

「ベラベラくだらねぇこと喋ってる暇があったら手を動かせバカ共が!!!」

 

特段バタバタと慌ただしいわけでもなくいつも通りに作業をしている訳だが、お客さんの量は試合前よりも段違いに多く、ざっと見積もっても倍くらいの差はあるっぽい。

どう考えてもカタール戦で虎丸くんの活躍が影響しているのは言うまでもない。

それでもカタール戦前と同じ感覚で回せているのはやはりキッチンに降臨せし鬼料理長のせい(おかげ)であった。

やっぱり試合に出れなくてストレス溜まってたのだろうか、それともゲームメイカーとしての本能のようなものだろうか。

虎丸くんのお母さんを無理やり休ませると私に虎丸くん、そして乃之美さんの3人に的確に指示を出しながら料理を作り続けていた。

 

一応今回お手伝いしている経緯はさすがにお客さんの人数が多すぎで手が足りなすぎるという事で虎丸くんから直々にお願いされてしまったので手伝っている。

断じて面倒とか仕方ないからとか思ってる訳ではなく、あまり深く首を突っ込みすぎるのも良くないと思ってあれ以上深くは詮索しないでおいたのだが、向こうから来てしまっては断る訳にもいかなかった。

 

「でもすごいね不動くん。このお客さんの数を私たち4人で回しちゃうんだから。………………口調は少し荒っぽいけど」

(カチャカチャ)

 

「それに関しちゃ私も同意します。とは言え不動にこんなハイスペックな面があったなんて私も驚いてるところですよ…………。サッカーよりこっちの方が向いてるんじゃないかしら」

(カチャカチャ)

 

「そう言えば、火蓮ちゃんと不動くんは虎丸くんと同じチームなんだっけ」

(カチャカチャ)

 

「えぇ、そうなんです。あ、カタール戦の時はお弁当ありがとうございました。すごく美味しかったです」

(カチャカチャ)

 

「いいのいいの。喜んでくれたんなら作った甲斐があったってこと。………………っと、不動く〜ん。7番さんの料理上がった〜?」

 

「当たり前だ!あんたはこれとこれを7番、それから8番に次の客を入れて人数分おしぼりとお冷(セット)を出して来い!」

 

「りょうか〜い」

 

「不動、2番と4番終了。ついでに6番の会計とバッシングも終わって、1番から追加注文が入ったから聞いてきたわ。ホワイトボード(ココ)に貼っとくわね」

 

「あん?ポテトサラダだァ?………………それくらいお前で何とかしろ!冷蔵庫上から三段目右!」

 

「はいはい。っと、そうだ………………………………乃之美さーん!今テーブル3つ空けたのであと3組入れます!!」

 

「はーい。おまたせしましたお席の方準備出来ましたのでご案内しますね〜」

 

店内に3人の会話が絶え間なく飛び交う。

 

とは言え、今のこの状況は………………チームのみんなに見られたらかなりやばいのではないだろうか。

そう、色んな意味で。

 

「不動さん!今戻りました!」

 

「不動くん!2番と4番から注文!」

 

「18分28秒…………ふん、上出来だ!それから注文は貼っとけ!虎丸!岡持ち(ハコ)置いたらホワイトボード(そこ)の2番と4番作れ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じでモヒカン料理長のおかげで閉店間際の客足が落ち着くまでフル回転を続けた虎ノ屋。

 

前言撤回。

いつも通りに動けたとか言ったけど、これはいつも以上ですわ。

以前お手伝いした時よりもはるかに疲れた。

 

乃之美さんと虎丸くんとともに4人がけのテーブルへ腰掛けて3人同時に息をついた。

 

「ふぅ〜疲れた〜。火蓮ちゃんもご苦労さま〜」

 

「乃之美さんも…………はぁ……」

 

「あの量のお客さんを捌き切るなんて……さすが不動さんですね」

 

最後に使用したフライパンを洗い終えてフックに引っ掛けた不動が後頭部を掻きながら4人がけの最後の椅子へカタンと座ってテーブルへ肘をついた。

 

「ケッ、なんで俺様がこんなこと…………」

 

「そう言う割には手際良かったじゃない。あんた、こっちの方が向いてるんじゃないの?」

 

「喧嘩売ってんじゃねぇだろうな」

 

「まさか」

 

そんなやり取りをしていると店の奥から虎丸くんのお母さんがゆっくりと顔をのぞかせた。

 

「今日は本当にありがとうございます。お2人もサッカーの練習で疲れているでしょうに。その上お店をおまかせしてしまって…………」

 

「いえいえ、このくらいなんてことないですよお母さん。ね、不動?」

 

「チッ…………」

 

「ほら不動も顔にはでないですけど内心では大丈夫って言ってますし」

 

「………………テメェ……」

 

「また人手が必要なら言っていただければ手伝いますから。不動も」

 

「俺は却k……………………」

 

「OKですって」

 

「……………………ケッ」

 

ツンと頬杖をつきながらそっぽを向く不動。

 

まぁ言葉とは裏腹に本人のストレスが緩和されたならいいのではなかろうか。

 

さてと。

取り敢えず明日はどうなるか分からないから一応手伝いに来ることも頭の片隅に置いておこう。

と言うか、不動(こいつ)さえ連れてきておけばお客が何人来ようが万事OKな気がしてきた。

それはいいとして、そろそろ豪炎寺くんとの特訓の時間だ。

この時間とは言え不動なら1人でたったか帰るだろう。

 

「さて、そろそろ時間ね。私はこの後用事があるから先に上がるわね。虎丸くんのお母さんすみません先に上がらせてもらいます」

 

「そんないいのよ。こちらがお願いしていますし、気になさらないでください」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、虎丸くんもお先に」

 

「はい、ありがとうございました。お気を付けて」

 

「わかってるわよ」

 

「ありがとね火蓮ちゃん。またやば〜くなったらお願いね」

 

ひとしきり挨拶をして私は虎ノ屋を後にした。

 

 

 

その後ろ姿を不動が横目で見ていたことに私は気づく良しなどなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

河川敷。

 

 

「行くぞ火蓮!」

 

「OK!」

 

 

 

「「轟熱、スクリュー!!!!!」」

 

 

 

ナイター照明が照らす中、私と豪炎寺くんが生み出す真紅の炎がグラウンドに放出される。

 

「ふん!!!……………………………………っと、うん。最初に比べるとしっかり威力は上がり傾向にあるな。とは言えかなり緩やかな上がり幅だからこの分だと実践投入は絶望的かもしれないか」

 

そんな感じで涼しいセリフを吐きながら炎の塊と化したシュートを受け止めた秋人が片手にボールを乗せながらうむむと考え込む。

 

「……はぁ、はぁ、これでも、まだ足りないって言うのね」

 

「……だいぶ重ね合わせられたと、はぁ、はぁ、思ったんだがな」

 

GKの秋人は私達のシュートをひたすら止めてただけだからそこまでの疲れは見えないようだが、こちとらもう何本シュートを打ったか正直あやふやで鼓動も尋常じゃなく早い速度で脈打っていた。

 

練習着の袖で額の汗を拭い、両膝に手を当てながら早い呼吸を繰り返す豪炎寺くんに並んだ。

 

回転の都合上最後の一蹴りは豪炎寺くんの方が適任なので、毎度毎度シュート体勢に入る度に大きく跳躍している彼の方が肉体的な疲労はかなり大きい。

 

変わってあげたいのは山々だが………………。

 

「ごめんなさい。豪炎寺くんにばかり辛い役を任せてしまって」

 

「はぁ……ふぅ、気にするな。俺は大丈夫だ」

 

「ならいいのだけど……」

 

膝から手を離した豪炎寺くんが腕に巻いたリストバンドで汗を拭う。

 

「よし、緩やかな変化とはいえ確実に完成へ近づいているんだ。ここで根をあげるわけにはいかないさ」

 

「そうね」

 

「もういいか2人とも〜!」

 

そのタイミングで秋人がそこそこ大きな声を出しながらボールを投げ返してきた。

それを足で受け地面に押さえつける。

 

「1つ提案と言うか気になったことなんだけどさ〜!」

 

少し考え込んだ秋人が人差し指を立てながらこちらに向かって声を上げた。

 

「提案〜?」

 

「そう。1番最初の時からずっと気になってたんだけど〜!!」

 

「言ってみて〜!!」

 

「あの技〜!今火蓮と豪炎寺くん、別々に蹴ってるだろー?」

 

「あぁ!それがどうかしたか?」

 

「それー!()()()()()()()()()()()ー?」

 

思わず私と豪炎寺くんが顔を見合わせてしまった。

 

「そう言えばなんで別々なんだっけ?」

 

「…………その場の空気と成り行き……だよな?」

 

「ならいっそ同時に蹴ってみたらどうだー?」

 

秋人の提案に私と豪炎寺くんがお互いの顔を見合ってから1つ頷いた。

 

確かに秋人の言う通り別々に蹴るのに特に深い理由は無い。

完全にその場の空気と成り行きだ。

ということはこれも可能性のひとつとして考えられるわけで、同時に打つと言う選択肢があっても何も不思議ではない、か。

 

「モノは試しだ、やってみよう。手応えがあれば路線を変更するのもありかもしれない」

 

「そうね。いっちょやってみますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

方針が決まり私と豪炎寺くんがセンターサークルに並ぶ。

 

「とりあえず最初はタイミングだけ合わせることを意識してみよう。空中に蹴り出すんじゃなくて軽く前に出してそれを同時に蹴る。いいか?火蓮」

 

「OK。それでいきましょう。よし、Go!!!」

 

私の合図とともに2人同時にスタートし、GKとハーフラインのちょうど中間点辺りで豪炎寺くんへ合図を出す。

その合図を小さく頷くことによって返事をした豪炎寺くん。

 

走るスピードを微調整し、私が持っていたボールを2人の中間点になる前方斜め前に軽く蹴り出した。

 

そのボールへ向けて私はボールの左側から右足を、反対に豪炎寺くんはボールの右側から左足で全く同じタイミングで蹴りを浴びせた。

 

「ん?」

「これは…」

 

刹那、ボールにバチッと雷が弾けたかと思うと瞬く間に発火し炎上。

周囲に熱波を振りまく炎塊と化したボールが真っ直ぐにゴールへ向かって放たれた。

 

「む………………んんっ……な、なんだこれ!?」

 

それはいつものように受け止めようとした秋人を今までで1番の威力でグイグイ押していく。

そして…………

 

 

 

 

「…………っく!!」

 

 

 

 

最後に何かを悟った秋人が伸ばした腕から力を抜いたことでボールが秋人後方のゴールネットへ勢いよく突き刺さった。

 

その事実を目の当たりにして私と豪炎寺くんはと言うと。

 

「え?入った?」

 

「…………みたいだな」

 

呆気に取られて思わずお互いの顔を見合わせてしまった。

 

今までで1番いい手応えだったのは確か。

私達からしたらタイミングだけ合わせて同時に蹴っただけのただのシュートのつもりだったのだが…………意外といい感じ?

 

「にしても今の感じは……………………アレに似てるな」

 

「アレ?」

 

「あぁ。俺と円堂の必殺技に【イナズマ1号】っていう技があるんだが、さっきの感覚、と言うか蹴った時に出た雷がそれに似ていたんだ」

 

「ほーん。どんな技?」

 

「どんな………………確かFWとGKのコンビネーションシュートだったな。両者の間にボールが来るように走り込んで2人の回転の力を乗せた雷を纏うシュートだ。ポイントは2人の選手が同時にボールを蹴り込むところか」

 

「同時に………………ヒント、かしら」

 

「どうだろうな」

 

そんな感じであーだこーだ色々と言い合っていると。

ボールを持った秋人がその会話に加わってきた。

 

「今までで1番の威力だったな。驚いたよ」

 

「それは」

 

「俺達も同じだ。予想外の結果過ぎて次のステップが見えてこない」

 

「まじか…………。でもさ、一応中和で起こる力の減衰に対する光は見えてきたんじゃないか?順番に蹴るより同時に蹴る方が減衰が小さくその分爆発力に回すことが出来る………………可能性が見えたわけだ」

 

「ポジティブに捉えるとそうなるわね…………」

 

「?なんかあるのか?火蓮。しっくり来ない?」

 

「いや、その可能性はわかるんだけど……………………私的には何か引っかかるものがあるというか……足りないような気がするというか」

 

「火蓮もそう思うか?」

 

「じゃあ、豪炎寺くんも?」

 

「あぁ、確かにこのままタイミングやパワーを上げていけば完成はするだろうが………………なにか足りない気がするんだ」

 

そんな私たちの様子を見ていた秋人が息をつきながら後頭部を掻く。

 

「……………………はぁ、俺も今まで色んな技を受けてきたし見てもきたけど、ここまで一筋縄が複雑に絡まってるものは初めてだぞ」

 

「奇遇ね、私も」

 

「俺もそうだ。いつもの特訓とは違う意味で厄介な手応えというか…………。あるんだがしっくり来ないような、そんな感じだ」

 

「ふむ、なら最初の型に戻す方がいいか…………。難しいな連携技って」

 

「全くよもう」

 

「ま、ここらで1回休憩でも挟んでおこう。2人とも始めてからぶっ続けでシュートを打ち続けてるだろ?なにか飲み物買ってくるよ」

 

「大賛成〜、喉もカラカラ〜」

 

「………………」

 

ぐでっと項垂れるようにため息をついてベンチにストンと腰を下ろす。

そんな様子の私に、豪炎寺くんが少しだけ間を空けてからとある話を切り出した。

 

「………………火蓮」

 

「ん〜?どうしたの豪炎寺くん〜?」

 

「いや、休憩ついでと言うか…………聞きたいことが1つあるんだが」

 

「私に?……あぁ、不動とのこと?」

 

「不動?あぁ、あの真帝国の?なんだ彼も同じチームだったのか。はい水。豪炎寺くんも。ただの水だけど」

 

「ありがと〜♪」

 

「ありがとう。…………いや、それじゃなくてな。オーストラリア戦、覚えているだろう?」

 

秋人から受けとったペットボトルの口から思わず口を離す。

 

「覚えているけど…………それがどうかした?」

 

「あの時。あの試合の後半始まってすぐのお前のプレー。それと監督が言っていた【炎環の女帝】。もし、俺の予想が間違っていたらすまない…………」

 

そう言うと豪炎寺くんが口篭る。

 

私は秋人に視線を移してからもう一度豪炎寺くんへ視線を戻す。

…………秋人、【そこでなんで俺を見るんだよ!?】みたいな表情しないでよ!

ため息をひとつついてゆっくりと言葉を返した。

 

「いいわよ。言ってみて」

 

「……わかった。火蓮、お前はこのチームで……………………あのプレー以外で()()()()()()()()()()()()()()?」

 

………………。

まぁ、流石に訝しむわよねそれは。

あんなことを突然やったら。

 

「さぁ〜。私は私のプレーをしているだけ……………………」

 

「別にいいだろ?見せてあげればいいじゃないか」

 

私の言葉に被せるように秋人が口を挟んだ。

 

こ、こいつさっきは俺に振るなムード出てたくせに!

 

「あのね……」

 

「だってさ。今は豪炎寺くん(こっち)がチームメイトなんだろ?それに、あのお前が連携技やるってんだし、その相方なんだからさ。ほら、お互いのことを知るのも大事ってなんかどっかで聞いたこともあるし」

 

「………………という事は」

 

「ま、豪炎寺くんの予想通り。本当の火蓮はこんなもんじゃないぞ?なんせ世界中の大会で得点王を争ってるうちのエースだからな」

 

「そうか」

 

「あら?怒らないの?」

 

「まぁ、不思議と怒りの気持ちはないな。虎丸の時のようなあれはない。ただ、全力のお前のシュートを1度は見てみたい、とは思う。同じチームメイトとして、連携技の相方として知っておきたい。頼めるか?」

 

そこで再び秋人に視線を向ける。

 

「だからなんでそこで俺を見るんだよ。こっちじゃなくて豪炎寺くん(あっち)だろう?」

 

「はぁ、秋人。予想通りのセリフありがと」

 

ため息混じりに答え、豪炎寺くんへ向き直る。

 

「別にいいけど………………これでなんか変に気にしてこれからのプレーに影響が出ました〜なんて私は嫌よ?そうならないって確証ある?」

 

「ない。ただそれでもこの目で見て、知らないことには始まらない。なんせ、俺はお前のことは何も知らないんだ」

 

ふむ。

確かにそうか。

恐らく今のチームで私の事を知っている人がいるとしたら不動1人だけ。

その不動ですらほかのメンバーとの摩擦によって必要以上に……………………と言うか必要事項ですらも干渉しようとしないし。

 

少しだけ考え込んでから、わかったと一言答えを返す。

 

「1回だけ。よく見ててよ?」

 

首にかけていたタオルを外し、ベンチから立ち上がる。

足を軽く揺すり、筋肉を震わせて準備を整えながら秋人からボールを受け取ってハーフラインへ。

 

「ゴール前に立とうか〜?」

 

「いや、要らないわ。秋人はそこいて〜」

 

後ろ手に手を振り、センターサークルからゴールを見据える。

 

腰に手を当てながら大きく息を吸い込み、頭の中でカウントダウンを始めた。

 

 

…………3。

 

……2。

 

1。

 

 

 

 

 

 

0!

 

 

 

 

「フッ!!!!」

 

 

 

0カウントとともに地面を思い切り蹴り、瞬時にドリブルをトップスピードへ押し上げる。

 

体が空気を切り、激しい摩擦によって私の後方に真紅の光が揺らめいた。

 

そして、ゴール手前。

 

大きく足を振り上げてボールに向かって思い切り踏み付ける。

必殺技【スカーレットバーナー】の初動モーションによってボールを中心にしてべコン!と円形に地面が砕けた。

その大きさは、目測で代表選考試合(あの時)の2倍〜3倍程度だろうか。

 

地割れの起きたその地面からゴボゴボと熱波と共に灼熱の炎(プロミネンス)が吹上がり、炎のエネルギーは中心のボールその一点に注がれる。

まるで生き物のようにドクンと脈打つ炎塊を上空高くに蹴り上げると空中でその炎塊はさらに大きさを増しさながら太陽のようにドクンドクンと脈動を繰り返した。

 

続けて私も大きく跳躍し、くるんと宙返りをしてから右足を限界まで体に引き付けてからインサイドの蹴りを浴びせる。

イメージするならそうね………………あれよ、仮面ラ〇ダーのジャンプキック、みたいな感じ。

 

大炎塊は私の蹴りによってエネルギー爆発を起こしながらゴールへ向けて一直線に、まるで巨大なレーザービームのように迫り、最後にはゴールネットのど真ん中を突き破らん勢いで突き刺さった。

その衝撃でゴール諸共後ろに数メートル後退させていた。

証拠にゴールの置いてあった地面から真っ直ぐに引き摺られた線が残っている。

 

これが正真正銘本当の【スカーレットバーナー】。

私の中の最大にして最強の武器。

まだ秋人と佐曽利 アン(スコピウス)以外には止められたことはない私だけのシュート技だ。

 

「ふぅ」

 

スタンと綺麗に着地を決め私は大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

火蓮が今までに無いほど爆発的な加速をした直後、豪炎寺はぞくりと背中になにか冷たい感覚が走り抜けて行った。

それと同時にこめかみ辺りを汗の雫が伝っていくのが鮮明に感じる。

 

それほどまでに火蓮の瞬間加速は衝撃的だった。

 

「おぉ、ありゃマジだな。なかなかないぜ?火蓮(あいつ)本気(マジ)を見れる機会なんて」

 

そう言うのは風に乗って流れてくる熱風を腕で遮りながらこちらに視線を向けている白虎。

彼は火蓮が練習のためと言って連れてきてくれた選手だ。

火蓮のチームメイトであり中学サッカー界『四天王』の異名を持つ選手らしい。

豪炎寺も『炎のストライカー』の異名を持つプレイヤー故に、自ずとその類の選手の名前を耳にする機会もそこそこ多かった。

その中でも『四天王』と称される人物の噂は全くと言っていいほど聞いたことがなかった。つまり今日初めてこの中学サッカー界にはそのレベルの選手が存在していることを知ったわけだ。

しかもその一角が目の前にいるというのもまた驚愕の事実だが……。

 

「あれが…………本気」

 

「あぁ、滅多にないんだぜ?あぁなったことは。十二天王(俺ら)とタメ張ってるゾディアックス以外で……………………あ、ゾディも多分知らないか、まぁ、ライバルみたいなもんって考えてくれ。で、そことの試合以外ではまず見かけたことはないな。だから実は俺も驚いてんだ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ」

 

「………………なら、あれが本来の『女帝』の姿というわけか」

 

豪炎寺がそうポロリと言葉を漏らすと白虎は小さく吹き出してから豪炎寺の言葉を拾って回答を述べる。

 

「ははは、あぁ、知ってるのかあいつの2つ名」

 

「この前のオーストラリア戦で俺たちの監督、久遠監督がそう言ったんだ」

 

「なるほどね。ま、名前の由来は完全に()()さ」

 

そう言いながら白虎が指さす先を見るとグラウンドの中心あたりの空気が高温によって沸き立ち、夜だと言うのにゆらゆらと怪しく陽炎を立ち昇らせている光景が目に飛び込んでくる。

 

「空気のゆらぎ?」

 

「それもある。でも一番の原因は、ほら、さっきセンターサークルから一瞬で加速して行っただろ?」

 

「あぁ」

 

「その時の火蓮の背後、見てたか?」

 

「確か一瞬にして炎が火蓮の背後に広がって行った………………………………!?いや!」

 

白虎の問いに対して顎に手を当てながら答えていた豪炎寺がなにかを閃いたかのように顔を上げて白虎の方へ視線を向けた。

 

「あの時、火蓮の背後の炎がまるで()()()()()()()()()()()()()!」

 

「正解。あれが『炎環』。灼熱の轟炎を背中に纏い、その環は太陽を司る天照大御神が如し」

 

「?」

 

いきなりの口上じみたセリフに思わず豪炎寺が頭にはてなマークを浮かべながら白虎の方へ視線を向けた。

 

「ん?これか?これはあの本気の火蓮を真正面から対峙したあるキーパーが火蓮を形容した一言だ。なかなか上手いところついてると思わないか?くくくくw」

 

「なるほどな」

 

「ま、こんなことを言えるのは世界中回っても1人しかいないんだけどな」

 

「1人?」

 

「そう。さっき言ったろ?火蓮の本気を見ることが出来たのは…………」

 

「ライバルチームのキーパーのみ、か」

 

「その通り」

 

それを聞いた豪炎寺は大きく深呼吸をしてからぽつりとつぶやくように言葉を漏らした。

 

「……………………俺たちは、とんでもないやつと同じチームにいるんだな」

 

続けて冗談交じりに言葉を繋げ、ふと豪炎寺が口元を僅かにあげてみせる。

 

「ま、あいつも珍しく楽しそうにしてるからな。今までは興味も示さなかった連携技をしたいと言い出しているんだ。悪いが付き合ってやってくれ」

 

そんな豪炎寺に苦笑いを浮かべながら白虎が小さく笑って見せた。

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

シュート後私はふぅと軽く息を吐き出してから髪を靡かせてゆっくりと2人がいるベンチの方へ戻る。

 

「さてと、今のシュートを見た感想は?豪炎寺くん?」

 

「…………………………いや、衝撃的……以外に上手く表現出来ない」

 

汗を拭いながらベンチに戻って感想を聞いた私に大きく深呼吸をした豪炎寺くんがようやく言葉を出した。

 

「ま、いきなり火蓮の10割を見たら誰だってそうなるよなw」

 

「これが『世界』か…………」

 

「そんな大層なものじゃないわよ。周りに合わせて練習してたらいつの間にかこうなった。それだけ」

 

「え!?そうだったのか!?」

 

「そこでなんで秋人が驚くのよ」

 

()()()()()()()?」

 

秋人のボケを……………………あ、いや別にの顔は素で言ってるわ、じゃなくて、秋人とのやり取りを気にする様子もなく豪炎寺くんが切り込んでくる。

 

「そう。周りに合わせて。と言うかそもそもね、私、無意識に合わせちゃうのよ。ピッチに私以外いなければそういうこともないんだけど。頭では考えてても体は合わせちゃう。ある意味困りもの」

 

「なら、オーストラリア戦の時のあのプレーは」

 

「あの場所、あのピッチ上での最大出力。といことになるわね。まぁ、今ならあれこれ考えられるけど、いざピッチに立ったらこれが丸ごとすっぽり抜けちゃうんだから、変な感じよ」

 

「それは俺も初耳だな。栗崎(ウチの)監督は知ってるのか?」

 

「知ってるわよ。でもまぁあの人はああ言う性格だから………………」

 

「まぁ、そうか」

 

「監督とは、あぁ、白虎と火蓮のチームの監督か」

 

「そう。豪炎寺くんにも後で紹介してあげるわね」

 

もう一度ベンチに腰掛けた私はふぅと息をつきながら水を1口口に入れた。

 

「ごめん。私今日は上がるわ」

 

ペットボトルから口を離して2人にそう告げ、そのままタオルをポーチに突っ込んで腰に巻く。

 

「あぁ、わかった」

 

豪炎寺くんの短い返事を聞いてから私はグラウンドを後にした。




一応【轟熱スクリュー】練習がメインの回ですね。

はい実はまだ完成しません←(笑)
理由は単純、火蓮に連携技のノウハウがいまいちわかっていないからですw

まぁいつかは完成するでしょ、多分♪←(笑)

とは言え、頑張って完成してくれないと決勝戦やばそうなんでw
頑張りますww

やば、火蓮が元いたチームの監督の名前素で間違えてたw

栗山監督×→栗崎監督〇

はい、ということであとがきでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とある休日の砥鹿さん達 前編

………………何故か試合以外だと言うのに前後編になりました、深い意味は全くありません


イナズマ町ファミレス店内。

休日のお昼時ということもあって店内家族連れや学生達の声でごった返していた。

 

本日はイナズマジャパンも休日で、練習は午前中で終わりになっている。

 

午後の自由時間は各々自由に過ごしていることだろう。

 

1部自主練を続けていそうなメンバーもいるが、まあ、1部だろうな。

 

そんなお昼時の時間に私はファミレスの店内で人を待っていた。

 

一応不動にも声を掛けてみたのだが、予想外に乗ってきたので現在2人でドリンクバーを頼んでダラダラ待っていた。

 

 

「はぁ、もうぜーんぜん上手くいかない!どうしてくれるのよ〜」

 

「ハッ、俺が知るか。つーかよォ、なんで俺様がてめぇの愚痴に付き合わなきゃなんねぇんだ。こんなんなら来なけりゃよかったぜ」

 

「そんなこと言って、満更でもないくせに強がっちゃってさ」

 

「ふん、俺様は高嶺の花が嵐で真っ二つに折れるところが見たかっただけだ」

 

「あっそ」

 

だらりとテーブルに上半身を投げ出しながら片手でまだ若干氷が残っているお冷のグラスをカラカラと振る。

 

麦茶色のグラスが風鈴のような涼しい音を奏で、結露した水滴が腕を伝って肘へ、最後にテーブルの上にぽたぽた落ちて小さな水たまりを作っていた。

 

「あんたはいいわよね〜、連携技とは到底縁が無さそうだし」

 

「俺様は群れていなきゃ何も出来ない甘ちゃん連中とは立ってる土俵が違ぇんだよ」

 

長椅子の背もたれにどっかりと背中を預けながら不動が鼻を鳴らす。

 

「だいたいよぉ、てめぇが連携技?冗談も休み休みに言えって感じだかな」

 

「いいじゃない別に。ほら、仲間と力を合わせて………………」

 

「それ以上喋んな反吐が出るぜ」

 

「あんたが聞いてきたんじゃない」

 

そんなやり取りをしていると遠くからファミレスへ入店のベルが響く。

 

入店してきたのはまだ中学生くらいの男女1組で、彼らはキョロキョロと店内を軽く見渡したあと、私と目が合うやいなやこちらに向かって歩いてきた。

私たちの席に着いた2人のうち女の子の方は私と目を合わせてから不動の方に視線を向けていた。

 

「…………てめぇ、確信犯だろこれ」

 

「知らない仲じゃないんだから気にしないの。はーい、カオル久しぶり。それからアンも」

 

「あぁ、久しぶり。まさか火蓮の方から呼び出してくるとは予想外だったよ。それに不動も久しぶり」

 

「俺様はもうてめぇの顔は二度と見たくなかったけどな」

 

「釣れないなぁ。キャプテン同士がっちりと握手を交わした仲じゃないか」

 

「あの後いつもより念入りに手を洗った」

 

「そ、それは結構傷つくんだけど?」

 

「ケッ」

 

「あーそろそろいい?私全く知らないんだけど。誰こいつ」

 

後から合流した2人のうち花王瑠じゃない方、私を空港から雷門中へ送ってくれた蠍のしっぽのような髪型が特徴の佐曽利 アンが心底嫌そうに不動を指さしながら私に向かって言った。

 

「彼?不動よ。不動 明王。ほらこの前話した………………」

 

「あぁ、火蓮と花王瑠(あんた)達に負けたって言う負け犬か」

 

「てめぇいい度胸してんじゃねぇか、ちょっと表出ろよ」

 

「はぁ?負け犬を負け犬って呼んで何が悪いのよ。図星突かれたからってキャンキャン絡んでこないでくれる?」

 

「へぇ、本気でぶっ潰されてぇようだなァ。アァン?」

 

「身の程知らずは決まって同じセリフを吐くものよ。あんたも同類ね同類。それから、自己紹介もしてないのに勝手に私の名前使わないでくれる?」

 

「言ってねぇし、知りたくもねぇなァてめぇの名前なんざ」

 

「はぁーん、じゃあ教えてあげようじゃない私の名前」

 

「要らねぇっつってんだろ?」

 

「あぁ、やっぱりその心底嫌そうな顔って大好きだわ、私。それが見たいから無理矢理にでも喋ってやろうじゃない。はじめまして〜()()()()不動くん。私は佐曽利 アン。天川学園サッカー部、通称【ゾディアックス】のキャプテンよ。よろしく〜」

 

「こいつはマジで癪に障ることしかしねぇんだなァおい!この不動 明王様に喧嘩売ったことを心の底から後悔させてやるから覚悟するんだなァ!」

 

私が不動を紹介するよりもさらに早いスピードで不動とアンの間に火花が飛び散っているのをめちゃくちゃ感じる………………と言うかもう見たまんま。

 

額に青筋を立てながら睨み合う2人の背後に不動明王(ふどうみょうおう)と巨大な鉄蠍の姿が浮かびが上がっているようだ。

 

「…………えぇ、あんた達ってそんな仲悪いのね。同じような嫌味ったらしい性格だから絶対にウマが合うと思ったんだけど」

 

「ぶっ飛ばされたいわけ?」

「ぶっ飛ばされてぇかァ?」

 

「…………息はピッタリ」

 

「まぁまぁ不動もあつくなるな。アンもいいから座りたまえよ」

 

花王瑠(アンタ)は引っ込んでなさい!」

花王瑠(てめぇ)はすっこんでろ!」

 

「………………怖いねぇ似た者同士って」

 

やれやれと言いながら花王瑠(カオル)が自然な感じで私の隣に座り、テーブル上に備え付けの呼び鈴を鳴らした。

 

「あ!ちょっと待って花王瑠!なんでアンタはさも当然のように火蓮の隣に座ってる訳?私にコイツの隣座れっての?」

 

「ふん!俺様こそこんなやつの隣なんて真っ平御免だ。用がねぇならさっさと帰れ」

 

「なんですって?負け犬が偉そうに」

 

「その負け犬にここまで言われてるんじゃ、てめぇはそれ以下ってことになるよなぁ?よォ?クククク」

 

「あんた達ほんとに初対面?」

 

「あ?知るかよこんなセンスの欠片もねぇちんちくりんな頭してる様なやつ」

 

「その言葉そっくりそのままお返ししてあげるわよ。ただのハゲが可哀想に。まだ中学生だってのに毛根全滅してるなんてご愁傷様」

 

「あぁ!!?」

「やんの!!?」

 

両者額に限らず顔のあらゆる場所に青筋をピキピキ立てながら睨み合いを続けているその最中、花王瑠が呼んだウェイトレスが注文を聞きに来た。

 

若干困り顔を浮かべるウェイトレスに気にしないでくださいと笑顔で釘を指し、お冷のグラスをカラカラ鳴らして見せた。

 

「あ、すみません注文を。季節限定のこれ…………マスカット?のアイスとドリンクバー2つ追加で」

 

「は?ドリンクバー2つ?」

 

「?そうだけど?だってカレンと不動はもう頼んでいるんだろう?だから俺とアンの分」

 

「あぁ、なるほど、ほらそこの2人、取っ組み合うのは良いけど注文は?」

 

「適当になんかやっとけ!」

 

「それには私も同感!」

 

両手を組みながらまだまだ決着の気配もない不動とアンが互いから視線を逸らすことなく吐き捨てるように言う。

 

やっぱりそういう所は似た者同士なんだ。

 

「だってよカオル。今回も経費持ちでしょ?なら適当に頼んじゃえば?私達だけだと自腹になるから頼まなかったけど」

 

「カレン………………まさか狙いは最初っからそれかい?」

 

「さぁ、なんのことかしら〜」

 

「これは監督に報告案件だな」

 

「それだけはやめて!」

 

「…………あの、ご注文は……?」

 

「あぁ、すみません。じゃあ、フライドポテト(コレ)唐揚げ(コレ)2つずつ。それからクリームドリア(コレ)4つ」

 

「かしこまりました。それではメニューの方をお下げ致しますので………………あ、すみませんありがとうございます。それではごゆっくり」

 

年齢的には自分たちよりも一回り大きい、おそらく高校生くらいのウェイトレスの子がカオルから受け取ったメニューを持ちながらぺこりと頭を下げてそのまま厨房へと帰っていく。

 

その背中を相変わらずの視線でカオルが追っていた。

 

「カオル」

 

「っ…………い、いや別に俺はそういうわけで見てたんじゃない!断じて結構可愛かったな〜なんて思ってない!」

 

「嘘下手すぎ。付き合ってるわけじゃないけど、なんか見てて腹立つ」

 

「……結構堪えるなその一言………………?」

 

不意にバツが悪そうに頭を掻いていたカオルがふと言葉を止めて視線を私から外した。

 

その視線の先に目を向けると、今度はアンと不動がまるで信じられないものでも見たかのような表情でこちらを見ていた。

 

「?何2人とも?ケンカは終わったの?」

 

「んなわけねぇだろ?そんなことより、お前らできてなかったんかよ!?」

 

「ぶふっ…………ケホケホ……」

 

不動の一言に追加で出されたお冷に口をつけた花王瑠が盛大に噎せた。

その反応に対して今度はアンが反応する。

 

「嘘でしょ?どっからどう見ても付き合ってる流れだったでしょ!?なに?こっちは恋人関係じゃない奴らの惚気話を今までずっと聞かされていたって訳?冗談でしょ」

 

「はぁ?どうしてそうなるわけ?」

 

「誰がどう見てもそうとしか見えなかったぜ?なぁ?佐曽利」

 

「そうね〜。だとするとめちゃくちゃ腹立ってくるわよね〜?不動?」

 

………………いきなりの展開に困惑を隠せない私だが、それよりも、やっぱり不動と佐曽利(この2人)は仲が良いのではないだろうか。

 

どうしてこう変なところで意気投合するのかしら。

 

私達から視線を戻してお互いを睨み合う不動とアンは先程までの険悪ムードとは一変して何かを企むかのようにニヤリと互いの反応を確認し合っていた。

 

「流石にこれは見過ごせねぇよなァ?」

 

「奇遇ね〜、私と意見が一致するなんて。あんたを小馬鹿にしたこと撤回しようかしら」

 

「それなら俺も撤回しようかねェ。クククク。なぁ?」

 

「ねぇ?」

 

不動とアンが同時に視線をこちらに向けた。

 

え?

何?

この2人を敵に回すとかほんとに嫌だから勘弁して欲しいんだけど!?

 

「な、何よ、カオルも何か言い…………」

 

「………………ブツブツ」

 

「カオル?」

 

「はっ!な、何かな?火蓮!?」

 

「何取り乱してんのよ。違うって言ってやって」

 

「いやぁ、俺からはノーコメントで……………………」

 

「カ オ ル ?」

 

「っ!………………コホン、不動、アン。これは断じて付き合っている訳では無いのだよ。紛らわしくてすまないが。火蓮とはその…………チームメイトとして信頼している、という事さ。チームメイト同士なんだから距離だって自然と近くなるものだろう?」

 

「今更否定しても遅いぜ波久奴クン。クククク」

 

「ふふふふ♪この後の予定決まったわね〜砥・鹿・サン♪」

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

…………次からこの2人を合わせるのは本当にやめようと心に強く誓った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「「花王瑠に火蓮(お前ら(アンタら))、この後グラウンドな?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ため息混じりにおでこに手を当てる私の横で花王瑠はバツが悪そうにふいっと私から視線を逸らした。

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

あれからしばらくしてから花王瑠の注文した料理が運ばれて来たことで一時休戦となり、当初の予定通り自分の現状やチームについてといったその他もろもろの話題を花王瑠やアン(2人)に相談しつつ時間を消費していく。

 

案外不動も乗り気だったのが意外だったけど。

 

どうして私達とは普通に喋るのにほかのメンバーとは距離を置こうとするのか全く分からない。

別にいいじゃない、話をするくらいさ。

あんなツンケンしてたらチーム内がギスギスするのだって目に見えるわけだし。

 

不動って…………

 

「……………………変なやつ」

 

「聞こえてんだよバカが」

 

「バカはやめて」

 

「知るかよ。ンなことよりボーッと何考えていたか知らねぇけどな、てめぇ、いつまでその席いるつもりなんだ?」

 

「は?それどう言う………………」

 

不動の言葉にふと我に返って周りを見渡してみるが、私を除くほかの3人は既に席を立っていたらしく1人でボーッとしていた私は取り残されてしまったらしい。

 

………………いや待って!

席立つならひと声かけてくれればよかったじゃない!

みんな酷い!

 

「会計するなら言ってよ」

 

「面白そうだったからつい、な。でも、一向に気づく気配がねぇから仕方なく呼びに来てやったんだよ。感謝しろよ?」

 

「どうして呼びに来るだけで感謝しなきゃ行けないのよ」

 

「俺様が呼びに来なかったらお前、退店のベルが鳴っても気づかねぇだろ?」

 

「ぅぐ…………………………はぁもう。アンと花王瑠(2人)は?」

 

「先に出た」

 

「わかった」

 

短く返答して席を立つ。

さっさと歩き出していた不動の横に並び、レジ打ちしていた女の子に軽く会釈をしてから店を出た。

 

外で待っていた花王瑠とアンと合流しその足でグラウンドへ。

 

改めて他の3人を見渡してみてとあることに気づく。

……………………あれ?ひょっとしてこの4人のうちキャプテン経験が無いのって私だけ!?

 

花王瑠は言うまでもなく桜林学園サッカー部通称『十二天王』のキャプテンだし、アンも天川学園サッカー部『ゾディアックス』のキャプテン。

加えて不動も元とは言え真帝国学園でキャプテンをしていた過去もある。

当時はまだまだ発展途上的な面もあったが今では不動も私達と対等に近いレベルにまで進化している事は明白だった。

 

性格面を除けば……。

 

そんな不動も似た者に出会えて珍しく饒舌なアンの話を面倒くさそうにしつつもしっかりと相槌を打っている。

 

「……だからさ。そう言うところほんとに勘弁して欲しいわけよウチの監督。コンディションなんて全く考えてないし、そもそも練習メニューも私が手を加えなければ絶望的よ絶望的」

 

「知るかよてめぇんとこの事情なんざ」

 

「何よつれないわね。こんな愚痴言える奴なんて数える程度しかいないんだからいいじゃない。そんなことよりも、あんたんとこの事情も教えてよ。気にはなるのよね〜日本代表ってやつ」

 

「ならなんで断んだよ。おかげで俺様が穴埋めする羽目になっちまってるんだぜ?」

 

「それとこれとは話が別よ。で?どうなの?」

 

「こっちのチームは全員頭ん中お花畑まみれで呆れを通り越してどうでも良くなってきてるところだ」

 

「ふーん。どんな感じで?」

 

「………………『次の試合もみんなで勝つぞ〜!がんばろー、おー』だな」

 

若干間を開けてから不動が顎をしゃくれ気味に言った。

 

「あ、私もその空気無理だわ。甘ったるくて背中がムズムズする」

 

「へっ、わかってるじゃねぇか」

 

「アンは関係ないとも思うが、不動はいいのかい?そんなに自分のチームを卑下するような発言してしまって」

 

「知らねぇな。あまちゃんサッカーしか出来ないようなヤツらと一緒にされる方がこっちとしては不快なんだよ」

 

「それは言い過ぎじゃない?不動。円堂くん達だって確かな実力があったから選ばれたんでしょ?」

 

「ふん。火蓮(お前)()()()()かよ」

 

「そうじゃなくて。少しは認めてあげたら?」

 

そう言うと不動は頭の後ろで手を組んだままふんと鼻を鳴らす。

 

「万が一にでも俺様のプレーについて来れたら考えてやる」

 

全くもう!

なんでこう男子って強情なのかしら。

 

どうしてここまで頑なに和解しようとしないのか私からしたら本当に不思議。

不思議でしょうがないのよね〜。

 

あるいはそれ相応の理由があるのか。

 

例えば過去に不動とほかのメンバーの間になにかいざこざがあったか。

………………99.9%ぐらいの確率でこれだな、答えは。

今までの会話や反応を見ていれば一目瞭然だった。

 

まぁでも他の理由をあげるなら『完全に初対面』、という線も…………………………いや無い。

 

他には……………………。

無いわ。

完全に『過去になにかいざこざがあったから』だわ。

 

うーわ。

なんというはた面倒な関係なのかしら。

これ和解とかできるの?

不動がこのツン期を越えてデレ期に突入しなければ無理なのでは?

 

ん?

不動のデレ期?

 

あぁ、それはね。

今、私たちとは普通に会話出来ているでしょ?

こんな感じでつんけんしながらでも言うほど邪険には払い除けて来なくなるとデレ期の兆候有りね。

ほらほら、さっきのファミレスでの出来事みたいに嫌々言いながらもなんだかんだでちゃんと会話もしていたし、女の子と取っ組み合いの言い合いをするなんていつもの態度からじゃ到底想像できないでしょ?

 

最近では虎ノ屋に行くようになって料理に目覚め始めてきたのではないだろうか。

めちゃくちゃ生き生きとしているというか気持ち楽しそうと言うか………………。

虎丸くん以外には内緒の話だけどね。

 

つまり、『人付き合いが良くなりだしたらデレ期』。

 

そんなことを考えていると目的地である河川敷のグラウンドが遠くに見えはじめてきた。

 

いつものように練習着とスパイクなんてものはなく全員が完全に私服+運動靴と言うある意味『お遊び感覚』でグラウンドへ入る。

 

よく『グラウンドは神聖な場所だ』という人もいるが、私としてはちゃんとした試合や練習以外であれば別にそこまでこだわらなくてもいいじゃないか、と思う。

しっかりと手入れが行き届いているドーム等の人工芝や天然芝グラウンド以外はね。

 

センターラインを挟んでそれぞれ2人ずつのチームに別れて向かい合う。

 

こちらの方は当然事の発端である発言をした私と花王瑠、そして相手はボールに片足を乗せながらニヤニヤしている不動とその隣で腕を組んでニヤニヤしているアンの2人。

 

「さぁ、ゲームの時間だぜ?お二人さん。覚悟は出来てんだろうなァ?」

 

「覚悟もなにも………………そもそも騙してるつもりなんてなかったし」

 

「あ〜ら無自覚?それじゃ尚タチ悪いのよね〜♪クククク♪」

 

「…………はぁ、どうしてこうなった」

 

不動とアン(2人)の言葉に溜息をつきながら額に手を当てる花王瑠。

 

「なんであんたはため息ついてるのよ」

 

「いやまぁ、大変なことになってしまったな〜、と」

 

「別に気にすることないじゃない。付き合ってなかったんだし、それより始めるって」

 

「……………………はぁ。困ったものだ」

 

もう一度ため息をついてから花王瑠が髪をかきあげる。

それを見て再び不動達に向き直った。

 

「不動、アン、こっちは準備できたわ。どっからでもかかってきなさい」

 

「俺と火蓮に勝負を挑んだ事、後悔させてあげよう!」

 

「へっ!そう来なくっちゃなァ。おい、佐曽利。足引っ張んじゃねぇぞ?」

 

「あら、誰に向かってものを言ってるのかしら?その言葉そっくりそのまま不動(アンタ)に返してあげるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りの直後。

 

不動からのキックオフで2点先取のサッカーバトルが幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは、キックオフと同時に両者が一斉に行動を開始し、ボールを持った不動がトップスピードで正面から切り込んでくる。

 

「正面突破なんて私達に通用しないことくらいわかってるでしょ!」

 

プレスをかけながら私が正面に立って進路を塞いだことで不動がボールを止めて足を乗せた。

 

「悪いけど貰っていくわ」

 

「へっ、そう焦ンなよ」

 

相変わらずニヤニヤした笑みを崩さないまま私のディフェンスを様々な小技を混ぜながらボールをキープする不動。

 

っ!

 

このっ!

いくら私が本職では無いとはいえボールに全く触れないどころかむしろ遊ばれているなんて。

 

心の中で舌打ちし、フェイント等の小技では不動に太刀打ちできないと判断した私は正面からのタックルでボールを奪うことを試みる……………………しかし。

 

「ククク、来たなァ?」

 

「何?」

 

不動はそれをさも当然のように待ってましたと言うかのように口角を上げると軽く転がしてボールを戻し、それを思い切り右足で踏み付けた。

厳密に言うならばボールの少し前辺りを踵で踏んだ、そんな感じ。

 

おかげで不動の後方に向かって急激なバックスピンの掛けられたボールは彼の1mほど後ろへ。

 

しかも不動はそれに対して一切後方を確認することも無く前に向かって駆け出した。

 

「ボールの軌道も見ないでいいのかしら?」

 

「あぁ、全然構わないぜ?むしろ、取れるもんなら取ってみな?クククク」

 

「っ!調子に乗らないでよね」

 

その言葉の直後、後方へと放たれていたボールがそのバックスピンによってバシッと地面から弾かれて真上に浮かび上がる。

 

不動のやつ、咄嗟に小技で私を抜くつもりだったみたいだけど残念ね、スピンが足りなすぎて戻るどころか真上に跳ねてるわよ。

これじゃイージーすぎるわ!

 

そう思ってボールを取りに行った瞬間、目の前のボールがふと消える。

 

「っ!?」

 

「困るわね〜、私を忘れてもらったら♪」

 

反射的に視線を上に向けると浮き上がったボールを私がキープするよりも早く膝蹴りでさらに上に蹴り上げてボールを奪ったアンがいた。

 

なっ!?

 

ま、まさか不動、ここまで計算していたの!?

と言うか、なんでこういう連携を打ち合わせ無しにぶっつけ本番でできるのかしら!?

今日初対面よね、この2人!

 

「タイミングバッチリ。不動!」

 

再び私が反応する前にアンが空中で即座に体勢を立て直し前を走る不動へパスを送る。

そのパスもほぼシュートと言っても過言では無いほど鋭いボールで。

 

不動のスピードとキープ能力、利き足など様々な計算がなされたボールが鮮やかに不動の右足に収まる。

それをまさにそこにボールが来ることが分かっているかのように背後を確認しないまま不動が飛んできたボールをキレイに右足に収め、走るスピードを一切落とさないまま数歩ドリブルした後軽く浮かせてシュートを放った。

 

「花王瑠!!」

 

「っ、無茶を言わないで、くれ!!」

 

私のプレスと同時に前に向かって走りかけていた花王瑠も全力でゴール前へ戻るが僅かに届かず、不動のシュートは大きくゴールネットを揺らした。

 

「まずは1点」

 

唖然とする私の横を通り過ぎながら不動がボソリと一言。

それに対して反射的に振り向くと不敵に笑みを浮かべる不動と目が合った。

 

「…………やってくれるじゃない」

 

「あと1点でお前らの負けだな。クククク」

 

そう言うと不動はふいっと視線を外し、自陣の方へ歩いていく。

珍しくハイタッチ…………ではなくお互いに握った拳の甲同士を軽く打ち合わせる不動とアンを見ていると、私の横に花王瑠が並んだ。

 

「ふぅ、やられたね。不動も以前とはレベルが段違いに高くなっているようだ」

 

「そうね」

 

「しかし、このまま黙ってやられているつもりは………………」

 

「毛頭無いわ」

 

改めて気合いを入れ直し、花王瑠から受け取ったボールをセンターサークルに置いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とある休日の砥鹿さん達 後編

前回の続き


パタン!

 

不意に吹き抜けた風によってベンチに置いていたペットボトルが倒れるのとほぼ同時。

 

花王瑠(カオル)が火蓮にボールを渡した瞬間両者がトップスピードに乗る

それをまさに同じスピードで不動が追い、一瞬で火蓮の進路を塞いだ。

 

「ククク、焦ってんのが丸見えだぜ?」

 

「焦ってなんか無いわよ!」

 

「図星かァ?」

 

「うっさい。花王瑠!!」

 

「させるかっ!っ!!?」

 

左右へ細かく歩を刻みながら視界の端に映る金髪に向けて、カットのために伸ばした不動の左脚のさらにその下をキレイに通す。

 

「っちぃ!」

 

パスのカットを空振りした不動はそのまま伸ばした足でブレーキをかけて体の向きを変え、舌打ち混じりにボールを追う。

 

「珍しくいいパスじゃないか火蓮。これも日本代表メンバーで鍛えた成果かい?」

 

「あーーんたもいちいちうるさいわね花王瑠!いいからこっちの負け分取り返してきなさいよ!」

 

「ふぅ、全く相も変わらず人使いが荒い、なっ!!」

 

ドリブルをしながらギザったらしく前髪に触れた花王瑠が今度はシュート体勢に入り、先程の不動のように軽く浮かせてから思い切りゴールへ向かってシュートを打ち込んだ。

 

花王瑠を追っていた不動もディフェンスには間に合わず、ボールは一直線にゴールへ向かう。

 

「これで負け分はチャラにさせてもらうよ」

 

「あーらそれはどうかしら?」

 

しかし……

 

 

 

ヒュッ!

 

 

 

「っ!!…………………………っと、忘れていたよ」

 

 

 

 

ボールはゴールネットを揺らすことは叶わず、代わりにゴール前に陣取っていたアンの左脚にコースを阻まれて威力を相殺されていた。

 

アン()がいた事」

 

「忘れんなって言ってんでしょうが、蹴り倒すわよ?…………っと不動!」

 

花王瑠に毒づいてから間髪入れずに小さく浮いたボールを右足を軸にしながら一回転したアンが自陣ゴール前から敵コート陣内へロングパスをだす。

花王瑠のシュートと共に既に体を切り返して前へ走り出していた不動が完璧なタイミングで追いつき、そのパスを右足に収めた。

そのままドリブルで上がってくる。

 

再びゴール前に残っていた私と1対1となり、不動は先程同様私の前でドリブルを止めてボールの上に右足をダン!と乗せた。

 

先程は私が抜かれたせいでゴール前ががら空きになってしまったが、同じ手はもう食わない。

次こそ止める。

 

「私に同じ手は通用しないわよ?」

 

「んな事ァ言われなくてもわかってンだよ」

 

そう漏らす不動の顔にはいつの間にか相手を茶化すような笑みはなりを潜め、射抜くような視線を私に向けていた。

今頃不動の頭の中ではありとあらゆる可能性の模索と比較、そしてここにいる4人全員のスペックを加味した方程式が超高速で処理されていることだろう。

 

それが不動 明王が持つ無二のステータスだった。

 

だからこそあの嫌味な性格であるにもかかわらず栗崎(ウチの)監督が勧誘の話をもちかけたのだ。

実際栗崎監督は普段はおちゃらけて頭の中まで筋肉で出来ているのではなかろうかと思うほどの感覚派ではあるが、人の才能を見抜く目は他に類を見ないセンスを持ち合わせていた。

そのセンスによって集められたのが今の私立桜林学園サッカー部。部員の人数から名前がつけられて通称『十二天王』と呼ばれている。本来なら人数も12ではなく13になる予定だったわけだ。

 

並外れた視野の広さに加えて高い洞察力とフィジカルの強さ、相手の意表を突く奇抜なプレースタイルに何より『勝利』に貪欲なまでにこだわりを持っていることが監督の直感にビビッと反応があったらしい。

 

まだ未完成ではあるとはいえ、ほとんど完成系が近い鬼道くんに比べて磨けば光る原石という意味では軍配は最終的には不動の方に上がるのではないだろうか。

 

彼はそれほどの選手だ。

 

私以外のイナズマジャパンのメンバーにはまだ閉じ切っている殻も、私や花王瑠達には少しずつ開き始めている。

こんな遊びに真剣になってる彼を見ているとふとそう思う。

 

私は不動の計算が終わる前にボールを奪取するためにプレスをかける。

それを軽く後ろにさがりながらボールをキープしつつ私の動きを事細かに観察していく不動。

足元のボールも不動の動きに合わせて前後左右に細かく位置を変えてするりとまるで水を捉えようとしているかのように私の

足から逃げていく。

 

このままでは埒が明かないと内心舌打ちをし、トンと軽いステップで距離を取る。

 

そんな私の行動にわずかに眉を寄せた不動をよそに私は大きく足を振り上げ、ダン!!!と地面を思い切り足を打ち付けた。

 

「っ!?」

 

ぐらりとわずかに地面が揺れ………………………………るわけはないがイメージとしてはそんな感じ。

傍から見ればそうだが、不動からしたら本当に揺れたような錯覚があったかもしれない。ほんの一瞬ではあるが不動が視線を足元へ落としてしまった。

 

そこが一瞬のスキとなる。

 

「もらった!!……っと、カオル!!」

 

「ちっ……!!」

 

素早くスライディングタックルで不動の足元からボールをかっさらうとすぐさまゴール前の花王瑠へパスを出した。

 

そして私からパスを受け取った花王瑠が即座にシュート体勢に入る。

今度は先程のような単純なボレーシュートではない。

 

軽く浮かせたボールを前に花王瑠が天を指差す。

するとその指の指す先の空が大きく割れて真っ白な光が花王瑠に向かって降り注いだ。

さながら舞台のスポットライトのごとく降る純白の光を受けながら右手で前髪に触れる。直後背中から真っ白な翼が6枚顕現されて大きく羽ばたかせながらボールと共に空高く舞い上がった。

 

その翼によってグラウンド全体に純白の羽が舞い、光がボールの一点に収束した瞬間に激しい衝撃とともに螺旋を描きながら光をまとったボールが脈を打つ。

 

それから空中で大きく足を振り上げるテイクバックから光輝のシュート(光の奔流)が勢いよく放たれた。

 

 

 

 

「エンジェルドライブ!!!!!!!」

 

 

 

 

まさに神聖。

神々しい光を纏ったボールがゴールへ向かって一直線に突き進む。

 

「ちっ、必殺技か!佐曽利!!!」

 

ボールを追いながら不動が舌打ち混じりに叫ぶ。

 

アンの方もしっかりとゴール前に陣取ってゴンと両手の拳を打ち付けていた。

 

「わかってるって。しっかり止めてあげるから安心しn……………………あ」

 

「あ?」

 

しかし、その直後、何かを思い出したようにアンが視線を下げた。

おかげで花王瑠のシュートは特に何かに妨害されることなく大きくゴールネットを揺らすことになった。

 

「ふぅ。これで同点。気を悪くしないでくれよ?」

 

シュートを決めた花王瑠もスタンと綺麗に着地を決めてこちらのゴールへ戻ってくる。

アンが技を出していたら分からなかったけど、どちらにしろ結果オーライと言うやつだ。

 

向こうのゴール前ではアンに駆け寄った不動が何か言葉を投げているらしく片手を腰にあてながらアンを問いつめていた。

しかし等の本人はそれを聞きつつ両手を不動の目の前に見せつけるようにしながら開いたり閉じたりしている。

それを受けて不動がため息をついた。

 

「ふぅ。ただいま火蓮。見てくれたかい?僕の華麗なる………………」

 

「もうそういうのはいらないわよ」

 

「つれないなぁ。いいじゃないか。久しぶりなんだからノッて来てくれたって」

 

「ナイスシュート」

 

「それだけ!?」

 

「何よ、不満でもある訳?いつも通りじゃない」

 

「はぁ、君はわかってない。いつの時代も女性の声援は男性の血となり肉となり活力となり。しいては無限を生み出す可能性の起爆剤と………………」

 

「わかったってばもう」

 

「…………むぅ」

 

呆れたように肩を落とす花王瑠は置いておいていつの間にか『遊び』から『本気』に変わっていたサッカーバトルもついに1対1の同点。最終戦までもつれ込んだわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

トン。

 

 

再びアンのキックオフからゲームが再開し、ボールを受け取った不動がドリブルで駆け上がる。

 

 

こちらは先の2戦同様に不動のマークに私、そしてカウンターを待つ花王瑠に逆側から上がってもらってボールの奪取と同時に攻撃に転じられるような布陣を敷いた。

 

不動が私を抜くか、それとも私がそれを阻止するか。

 

勝敗はその勝負にほとんど委ねられていると言っても過言ではないだろう。

しかし、先の2戦によってお互いの手札がほぼ公開されていると言っても差し支えない手前、両者に残されたカードは………………。

 

 

 

 

 

 

「佐曽利!!!!」

 

「花王瑠!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

全くの同時というタイミングで両者がそれぞれのパートナーの名前を叫んだ。

 

 

 

直後。

不動から先程のように低い弾道………………ではなく、大きく浮かせ気味のパスがコートの端から端へ蹴り出される。

 

それを名指しされた2人が返事もせずに追っていき、パスを受け取ったアンが左右に細かくフェイントをかけつつ花王瑠を抜き去った。

抜かれた花王瑠もすぐに体を切り返してアンを追う。

 

それを横目に据えながらゴール前に向かって不動が走り込み、それを追う形で私も続いた。

 

「不動!」

 

サイドから放たれるアンの地を這うような低いパスに合わせながら不動がシュート体勢に入る。

 

「これで、トドメだァ!!」

 

「させるかっての!!!」

 

間髪のところで間に合った私は走り込む勢いを右足のブレーキで殺し、自分も数歩の助走をつけて右足に軸を作る。それから力強く左足のテイクバックを行い不動が左足を振り下ろすのと同時に私もボールへ左足を振り下ろした。

 

 

 

ブァッ!!

 

 

 

接触。

凄まじいエネルギーがボールを中心に巻き起こり、周囲に黒い炎と紅い炎が小さく渦を作った。

 

「っ!くっ………………んん!!!」

 

「っはぁ!!ぁぁあ!!!」

 

次の瞬間。

バチッ!とまるで雷が弾けたかのようにボールに充填されていたエネルギーが弾け、その衝撃によって不動と私はお互いに反対の方向へ弾き飛ばされた。

 

それから両者それぞれが同じタイミングで受身を取り、不動は私たちのゴールへ、そして私は不動達のゴールへ向けて今度はしっかりと利き足で蹴られるように踏み込む。

 

そして

 

 

 

 

「勝つのは俺様だ!!!」

 

「勝つのは私だ!!!」

 

 

 

 

ズガァン!!!!

 

 

 

 

再び私たちの右足がボールを挟んでぶつかり合う。

 

同時に黒炎と紅炎がさっきよりも激しく周囲を包み込み、地面を抉りとらんばかりの勢いで吹き荒れた。

 

それでもそのエネルギー波は長くは続かずに、一瞬で乱れ狂ったあとバチッと弾け飛ぶ。

その衝撃で再び私たちは逆方向へ飛ばされた。

 

今度は受け身も取れずに不動は回転しながら吹き飛ばされ、私は軽くバウンドしたあと後ろのゴールネットを大きく揺らすことになった。

 

 

 

 

両者言葉を交わすことなくよろよろと立ち上がると、3度目の接触(力比べ)をするために走り出そうとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

「ストップ!」

 

 

 

 

 

「っ!」

 

「…………」

 

私たちの間にひとつの声が響き、2人の中間点で転がっている若干コゲついたボールに片足を乗せたアンが静止をかけた。

 

フイに静止をかけられたおかげで私と不動の動きはピタリと止まってしまい、それを確認したアンは足を乗せていたボールをポンと軽くかかとで後ろの花王瑠へ渡しながらため息をついた。

 

「はぁ…………、あのさ、私はほんのお遊びだと思って付き合ったんだけど?ここまでマジになるとか聞いてないわけ。お分かり?お二人さん」

 

「はぁ……はぁ…………チッ」

 

「アン…………はぁ……はぁ」

 

「それから、ん」

 

そう言いつつアンは無言のままクイックイッと親指で自分の背後を指して「見ろ」の指示を私たちに出した。

 

そこには、私たちのエネルギー衝突による余波や音によって若干萎縮してしまっている子供や、なんだなんだと興味本位で集まってくる野次馬がぞろぞろと集結しつつある光景が広がっていた。

 

「やりすぎ」

 

「うっ……………………ごめん」

 

「…………………………」

 

「不動、あんたは言うことないの?」

 

「………………ケッ、なんで俺様が謝んなきゃならねぇんだよ」

 

「な〜にか言いました〜?不 動 明 王 く ん ?」

 

「っ!!………………わかったよ!やりゃいいんだろ?やりゃ!………………悪かった

 

口答えをしようとした不動もさすがに青筋をピキピキと額に浮かべながら引き攣り気味に笑顔を浮かべ、全身からどす黒いオーラを滲ませていたアンには折れたようでふいっと顔を背けながらボソリと謝罪の言葉を述べた。

 

「よろしい。で?なーんでこうなるかね、さっき私と不動の仲が悪いだのなんだの言ってた割には自分の方が悪いじゃないの、火蓮?」

 

「うっ………………」

 

「いやまぁ、これは悪いというか………………意識しすぎてバッチバチって感じかしら」

 

それからペシと自分の額に手を当てて肩を落とすアンに、並ぶようにして花王瑠が戻ってきた。

 

「ふぅ、ようやくみんな解散してくれた。『サッカーの練習をしていたんです』っていう理由で無理矢理納得してもらったよ。俺はあまり強引な手は好きじゃないんだけど。あぁ、それからあれを見ちゃった子供たちのケアもやっておいた。感謝してほしいね2人とも」

 

さっきから話に参加してこないと思ったら…………そんなことやってたのね。

いや、ありがたいけども。

 

 

 

 

 

 

 

それから小一時間ほど正座させられた挙句、アンにこっぴどく絞られた私たちであった。

 

なんか不動とやってるとどうしても熱くなっちゃうのよね…………。

まだあの時の決着が着いていないから…………だと思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

河川敷のサッカー勝負から解散後の帰り道。

 

火蓮と不動、その2人と別れてからすぐ。

ポケットに押し込んでいた携帯か振動した。

 

予想通りとはいえ、本当に別れた直後とは……。

 

俺は画面に表示された名前を確認すると通話ボタンを押した。

 

「やぁ、アン。君から電話をくれるなんて、デートの誘いかい?」

 

第一声は軽口を言ってみたが、電話の向こうからはため息が聞こえてきた

 

「"はぁ、茶番は結構。そんなことよりなんなのよアレ。途中からガチ勝負に発展しちゃったアレ。あの2人って本当は仲悪いの?"」

 

「あぁ…………まぁ、仲悪い、わけじゃないんだよね、これ」

 

「"じゃあやっぱりお互い意識しすぎちゃってバッチバチで合ってるってこと?"」

 

「まぁ、そういうこと。聞いてるんだろう?俺たちと不動が前に1度試合したことがあるって」

 

「"聞いた。あんた達の圧勝だったんでしょ?"」

 

「そう。で、その後にね、ちょっとしたいざこざが」

 

「"いざこざ?"」

 

「そう。まぁ簡単に言えば不動の挑発に火蓮が乗せられて一騎打ちに発展したって感じかな」

 

「"は?なんでそれであーなるかね"」

 

「それがさ、その勝負………………まだ決着ついていないんだよ」

 

「"どういうことよ"」

 

「決着着く前にうちの監督が乱入して決着はお預け。で、それから1度も会わないまま今に至るって感じさ。今日会った感じたと目が合った瞬間勝負に発展、なーんてことにはなってないようだったから俺としては一安心してるのさ、一応」

 

「"あーそう。で、ちょっと頭に血が登り始めちゃうとあーなっちゃうわけね"」

 

「みたいだね。悪い奴ではないんだけどね〜2人は。実力もお互いのことを認め合ってはいるんだろうけど。そういうところは不器用なんだよ、2人とも」

 

「"日本代表の監督には同情するわ"」

 

「あはは。そう言うなって」

 

「"あんな濃いヤツ2人も抱えてお気の毒"」

 

携帯のスピーカーからふたたびため息が聞こえる。

 

「さて、これがあの二人に関して。で、わざわざさっき聞かないで電話をかけてきた理由は他にもあるんだろう?アン」

 

ふと立ち止まりつつそう問いかけると僅かな沈黙の後アンが言葉を出した。

 

「"あぁ、まぁそうね。あんたは()()()()、聞いた?"」

 

「あのこと?どのこと?」

 

「"…………今めちゃくちゃイラッとして携帯を地面に叩きつけそうになったわ"」

 

「悪かったってほんの冗談じゃないか」

 

「"で、どうなのよ"」

 

()()()()のことかい?」

 

「"そう。分かってんならわざわざ変な茶番挟まないでくれる?時間の無駄"」

 

「だからごめんって……」

 

苦笑いをしながらこめかみを軽く掻く。

 

「"ウチとあんたんとことの混合チームになるって私聞いてるんだけど間違いないわよね?キーパーの件で相談があるんだけど"」

 

「あぁ、俺もそう聞いてる。で、キーパーに関してはアンが出た方がいいんじゃないかって白虎は言ってた。実力的にもお前の方が適任だって」

 

「"あ、そう。じゃあ私で登録しておくわ。他のところは近いうちに打ち合わせしましょ。今日は疲れた"」

 

「あぁそうだね。近いうちに」

 

「"OK。それじゃあね"」

 

「あぁ」

 

その言葉を最後にプツリと通話が切れ、携帯の画面に通話時間が表示される。

 

FFIアジア地区予選決勝戦。

 

日本代表はその舞台にまでコマを進めそれに勝てば晴れてアジア地区代表として世界へ進出できるわけである。

しかしただ1つ懸念点があるとするならば…………。

 

"今の代表メンバーで世界へ行くことが本当に可能なのか"

 

ということらしい。

技術的に然り精神的に然り。

とある人物の意向によって練習試合の依頼が舞い込んできたわけだ。

どのような脈を使ってここまでたどり着いたのかは不明だが、どうやら俺たち率いる桜林学園サッカー部『十二天王』と天川学園サッカー部『ゾディアックス』の混成チームで試合をして欲しいらしい。

どちらか一方のチームと組めば良さげな話ではあるのだが、あえて混成にする意味がわからかった。

さっきの話しぶりからするとアンは快諾、までしたのかは分からないが了承済みであるようだ。

俺としても別にいがみあっている訳では無いのでNoでは無い。

いつもは好敵手(ライバル)として敵対しているチームと同じフィールドで戦うことが出来ることなどこんなこと以外では絶対に実現しないからな。

たまにはライバルに背中を預けてみるのも面白い。

 

話が脱線した。

詰まるところ日本代表の全体的なレベルアップのために貢献して欲しいと言うのがこの練習試合の主旨となっている。

俺は同じチームの火蓮が日本代表に選抜されているため力を貸す理由はあるが、アンがこの条件を呑んだのは珍しいか。

今度の打ち合わせの時に聞いてみよう。

 

こんな感じで日本代表メンバー(彼ら)の知る由もない水面下でチームの命運を分ける一大イベントの準備が着々と進んでいた。

 




日常編の後編終わり。


もうすぐ原作ではネオジャパン戦に入っていく、という感じであります。
ただ今回はオサームさんには出番はありません。
迷ったんですけどね、そうすごく迷ったんですけどね!!(大事)
火蓮のレベルアップを図るには「本気の火蓮を確実に止めることの出来るキーパーが必要」だと感じたのでこうなりました←

ネオジャパンに組み込む案もありましたが………………色々な要因がありボツになりました←

まぁ、兎にも角にも更新は気ままに亀更新なので暖かい目で見守ってやってください。
更新してたら生きてます、失踪してないと思われますw

では、本編あとがきでした。
また次回もお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習試合は突然に

今回は原作でいうところのネオ・ジャパン戦のところです。


事情により砂木沼さんの出番はありません。


先に謝罪しておきます。


でも作者は砂木沼さん大好きですw


 

…………ハプニングとは得てして自分が意図しない場所で起こり、思いもよらぬ形で日常風景を壊すものだ。

 

 

 

 

…………『今日』という日はまさにそれを体現したかのような1日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

 

AM 9:00

 

 

 

 

 

 

「集合!!」

 

先日の猛暑日が嘘かのような過ごしやすい気温となった快晴日。

そんな青空の下、私たちイナズマジャパン監督である久遠(くどう) 道也(みちや)の号令が高らかに響く。

 

つい先日は半日休暇だったにも関わらず思いのほか不動達とバッチバチにやらかしてしまったことが原因でいつもよりも若干体に疲れが残っている今日この頃の私です。

 

でも顔には出しません。

 

と、私はそんな感じなのだが、そんなことはお構い無しにこの日も練習開始と同時にグラウンドの中央に集められた私たちの前で監督が腕を組みながら練習メニューの発表が行われようとしていた。

 

「今日は2チームに別れて練習試合を行う。いいな」

 

ほう、紅白戦とな。

いつもの練習メニューよりもより実戦形式の練習をするということか。

 

久遠監督の指示に全員で返事を返す。

 

それを受けて久遠監督は1度頷いた。

 

「それでは、チーム分けを発表する」

 

紅白戦か、どっちのチームになるんだろうと思いつつ私もあーだこーだ考えていく。

実戦形式の練習となればいつもの練習よりも刻一刻と状況が変わるので臨機応変な対応が求められる。

 

そんなことを考えられるほど特に何事もなくこのまま紅白戦が始まると、誰しもが思っていた。

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として鳴り響いた音と共にどこからともなくこちらへ向かって強烈なシュートが放たれた。

 

「(おっ?)」

 

1度見た感じでもそこそこの威力が込められていたであろうシュートに感心しつつチラリと視線を不動に向けるが彼は既に視線をシュートが飛んできた方向へ向けられていた。

相変わらず興味無さそうな表情ではあるが……。

 

「なんだ!?」

 

そのシュートの存在にいち早く反応した円堂君が真正面からがっちりと受け止める。

 

なるほど、威力だけではなくボールの回転もかなりのものだったようだ。

円堂君ががっちりと掴んでもなお少しの間手の中で急回転していたボールはそのまま回転が無くなるのとともにグローブとの摩擦によって僅かに煙を立ち昇らせた。

 

私も視線を円堂君のほうからボールが飛んできた方向……厳密には雷門中の正門のほうへ向けた。

シュートした人物(おそらく少年)はなぜかローブを1枚はおっており、重ねてフードもかぶっているためこの距離では残念ながら顔まで視認することはできないが今のシュートの威力からしてかなりの実力者であることが予想できた。

 

こんなぽかぽか陽気な日和によくローブなんて羽織っていられるものだ。

見てるこっちも厚くなってくる。

 

そんなことを考えていると、ボールの飛んできた方向から声が響いてきた。

 

「へぇ、いい反応じゃないか。日本代表キャプテンの君」

 

「(?)」

 

「誰だ」

 

円堂君の問いかけにボールを蹴った本人が一瞬だけ驚いたような表情を浮かべてから答えた。

 

……あれ?

なんか今の声色、聞き覚えがあるような……。

 

「誰……か、ふむ、そうだな、そこまでは考えていなかった。少し待ってくれ、今考える…………」

 

「はぁ……」

 

応えたと思ったら今度は何やらこちらに向けて静止を促してきてそのまま手を顎に当てながら考え込んでしまった。

なんだか気の抜けるほどマイペースな人だななんて思いながら苦笑いを浮かべたその直後。

彼の背後から姿を現した少女の姿を目視した瞬間、言葉を失った。

 

「?火蓮?大丈夫か?」

 

私の反応に疑問を抱いた豪炎寺君が肩に手をのせてくるが、正直それどころではなかった。

一応反応は返すが。

 

「え、えぇ、大丈夫…………だけど、ちょっと、いやかなりびっくりしてる、今」

 

「今、あの二人にか?」

 

「そうよ、多分私だけじゃない、不動のほうも見てごらんなさい」

 

「不動……?」

 

さっき一度不動のほうに視線を移したが、案の定いつもは余裕そうに腕組みなんかしてるのに今なんか心底びっくりした顔してました。

その表情を見れば豪炎寺君もきっと驚くこと間違いないだろう。

 

いやちょっと待って、彼女がいるってことはあのローブのほうって…………。

 

彼女はローブを羽織っていない……それもそのはず、なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その少女はいまだにブツブツと何かを考え込んでいる少年に頭を思い切りどつくと大きくため息をついた。

 

「……ふむ、誰だ誰だ……(ゲシッ!)……痛っ!な、なにをするんだ!」

 

「何心底くっだらないことで時間を無駄にしてんのよ。ほら行くわよ」

 

「わ、わかってるさ」

 

黒い長髪を丁寧に編み込んで首に巻き付けるようにしながら肩にのせている特徴的な髪形。

蠍の鋏をほうふつとさせる前髪。

 

つい先日あったばかりの少女が片手を腰に当てながら立っていた。

 

「あいつは……そういえば代表メンバーが集まったときに火蓮と一緒についてきたやつだよな?」

 

代表メンバーが集まったときの記憶を必死に呼び起こしながら円堂君が問いかける。

 

「あら、覚えてくれていたのね。私のほうはあなたのことなんて全く記憶にございませんが」

 

「む……」

 

「改めて、()()()()()イナズマジャパンの皆様。私は佐曽利(さそり) アン。以後よろしく」

 

相変わらずのどぎつい一言にさすがの円堂君も若干表情が険しくなっていた。

 

「そんなことよりも、今日はあんたたちに用があってきたのよ。あんたたち、()()()()()()()()に、ね。練習試合、やりましょ?」

 

その一言で、円堂君を含めここにいるメンバーがざわつく。

彼女の突拍子もない一言に反応したというのも一つの理由だが、それ以上になぜ今このタイミングでそのようなことを言い出してきたのかというのもあった。

 

「部外者との練習試合は許可しない」

 

さすがに展開が急すぎるのか久遠監督も腕を組みながらきっぱりと練習試合の申し入れを拒否した。

今日は実戦形式の練習を行うといっていたためそれが練習試合に代わるのだから正直に言えば願ったりかなったりだとは思うが久遠監督はそれを断った。

 

私もいつもなら、練習試合しましょうみたいな感じで意見の一つでも具申するところだが、これはだめだ!相手が悪い。

 

「はっきりとお断りしていただいたところ悪いんだけどね、こっちだって直々に頼み込まれてるから引けないのよ。あきらめて練習試合、受けなさい」

 

「頼み込まれている?誰に?」

 

久遠監督がわずかに眉を寄せた。

 

「あら、何にも聞いていないの?あの……響木っていう人からよ。あんたたちのレベルアップのために踏み台になってくれってさ」

 

「響木さんから?」

 

『響木』の名前が出たとたん腕組みを解いてアンのほうに顔を向ける久遠監督。

 

「いやいや踏み台って、そこまでは言っていなかったじゃないか、誇張しすぎだ…………あぁ、俺の自己紹介もまだだったね」

 

そういいながらローブの少年が佐曾利の肩をポンポンとたたきながらその隣に並び、ゆっくりとフードをとった。

フードの下から出てきた顔は、予想通りの顔だった。

 

「俺は波久奴(はくぬ) 花王瑠(かおる)。よろしくお願いするよ。それから、うちの火蓮がお世話になっているね」

 

肩に手を置かれて心底いやそうに顔をゆがめているアンの横で軽く前髪をなびかせたカオルがふっと笑みを向けた。

 

「火蓮、あの二人ってお前の知り合いか?」

 

二人の言動に続いて花王瑠が私の名前を出したことによって一同の視線が一斉に私のほうへ向けられる。

 

「知り合いっていうか……花王瑠のほうは私のチームのキャプテンで、アンのほうは私たちのライバルチームのキャプテンよ」

 

「火蓮の元いたチームのキャプテンとそのライバルチームのキャプテンか、そんな奴がどうしてここに?」

 

円堂君がふと視線を落として考え込む。

 

その答えが出ないまま、久遠監督が問いを投げる。

 

「響木さんからの頼まれたということはどういうことだ?」

 

「それは……」

 

「それは私から話すわ」

 

久遠監督の問いに対して案が答えようとしたその言葉をさえぎって、二人の後ろから第三者の女性が姿を現した。

それには珍しく久遠監督もわずかに眉間にしわを寄せた。

 

明るめなブラウンのボブカットにしつつ前髪は左に分けてピンでとめられており、腰に手を当てながらわずかに口角を上げて仁王立ちする姿から快活そうな印象を受ける女性だった。

いやそうよね、花王瑠がいるんだもの当然十二天王(うち)の監督もいるわよね……。

 

しかしその女性が放った第一声を聞いた瞬間私も含めて再び全員がざわつく。

 

 

 

「……お久しぶりですね。()()()()

 

「お前は……栗崎」

 

 

 

まだ練習が始まったばかりのグラウンドにイナズマジャパン全員の驚愕の叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--数分後--

 

 

 

 

 

数分の混乱を経てようやく落ち着いた一同。

 

正直この数分だけでもかなりの情報過多だ。

 

急に来た練習試合の依頼。

相手はあのアンと花王瑠。

それを頼んだのは響木監督という人で、代表選考の時にいた太ってサングラスをかけていた人だとか。

さらにさらに、十二天王(うち)の監督と久遠監督がなぜか知り合い関係だったという驚愕の事実が判明。

……マジ?

こんなことってありえるの?

 

「改めましてイナズマジャパンのみんな。私は栗崎(くりさき) 夏澄(かすみ)。よろしく」

 

相変わらずの仁王立ちでにかっと笑みを浮かべる栗崎監督。

私の後ろではマネージャーの音無さんが「栗崎?栗崎栗崎……なんかどこかで聞いたような気がします……」と言いながらぶつぶつ何かをつぶやいていた。

 

「それで、響木さんから頼まれたことというのは?」

 

「あぁ、そうですそのことなんですけど。私のところに直接電話がありまして。イナズマジャパンの子たちのスキルアップのために試合をしてほしいって頼まれたんです。本当なら断るところなんですけど…………久遠監督、あなたの名前を聞きまして」

 

「……」

 

「久しぶりにお会いしたいと思ったんですよ。半分は個人的な理由です。…………資格停止、解けたのですね」

 

その言葉を受けて、さっきまでぶつぶつぼやいていた音無さんが大きな声を上げた。

 

「あぁ!!」

 

「わっ、ど、どうしたんだよ音無」

 

その声にびっくりした円堂君が視線を音無さんのほうへ向ける。

 

「栗崎……って、もしかして、10年前の桜咲木中のエースストライカーだったあの『栗崎 夏澄』ですか!?」

 

「?ん?よく知ってるね、もう10年も前の話なのに、ははは懐かし」

 

「え?」

 

 

 

「ええええええぇぇぇぇぇっ!!!!!!?」

 

 

 

……今日はなんだか驚く日のようですね。

今日一日だけでのどがかれそうです。

 

そういってはにかみながら頭をかいた栗崎監督は、もう一度久遠監督に向き直った。

 

「ふう、さてそろそろ本題です。さっき半分は個人的な理由と言いました。あとの半分ですが、あなたのチームが世界に通用するかこの目で見定めるため、です」

 

さっきまでのへらへらした雰囲気とは一変し、きりっと真剣なまなざしでまっすぐに久遠監督を見つめ返す栗崎監督は若干声のトーンを落としながら言葉を続けていく。

 

「仮にも久遠監督、あなたが率いたチームが世界で通用しなかったなどということになれば世界における日本のサッカーレベルは大したことないと言われかねませんので。とはいえ、私はあなたのことわかっていますからしっかりと世界に通用するチームに育ててくれることだとは思います。それに伴って一つだけ懸念点があります。それは……」

 

「わかった。練習試合を許可しよう」

 

「へ?」

 

「言いたいことはわかった。確かにいくつか方法は考えていたが、そのほうが手っ取り早いと判断した」

 

栗崎監督の言葉をさえぎるようにして久遠監督が練習試合の許可を出した。

あまりの出来事にみんなびっくりしてた…………って、今日何度目のびっくりかしら、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、急遽実戦形式の紅白戦は栗崎監督率いるチームとの練習試合になった。

でチーム名は…………そうそう、『エゼルフォトン』だっけ。

命名は花王瑠だろうな~。

 

右サイドのFW(フォワード)の位置についてグッグッと肩のストレッチをしながらため息をつきつつ先ほどのミーティングの時の久遠監督の言葉を思い出していく。

 

 

 

―「FW(フォワード)は砥鹿、豪炎寺、吹雪の3人だ。砥鹿、この試合はお前にとっても重要な試合となるだろう。油断をするな」―

 

 

 

 

あの時はわかっています、なんて軽くいったが正直なところ相手はほぼ身内同然なわけで手の内はほとんどわかっている手前緊張感も何もないのよね。

当然私の手の内も相手にばれていることはあるが、円堂君たちのデータは花王瑠達にまだ浸透はしていないと思いたい。

 

いやでもオーストラリア戦とカタール戦は観戦してただろうからそれくらいのデータはあるか。

 

そんなことを考えながらぼーっと相手側のベンチを眺めていると、私の視線に気づいたメンバーの一人、赤紫色の髪をした早乙女(さおとめ) スピカと目が合いにこやかな笑顔で会釈を返された。

…………うん、いつも通りの笑顔すぎて逆に怖くなってくるわ。

 

ちなみにスピカ以外のメンバーはっと、ふむふむ、FW(フォワード)が『早乙女 スピカ』にパイレーツハットがトレードマークの『歌舞天寺(かぶてんじ) (よう)』、それからゾディアックスの『獅子谷(ししたに) 音目矢(ねめや)』君か。

……あれ?

花王瑠は?

あいつFWじゃなかったっけ……って思ったら、今日はMF(ミッドフィールダー)で出場なのね。

なるほど。

MFは花王瑠を含めて三人か。

残りの二人は両方ゾディでおっとりしたたれ目が特徴の『二面(ふたおもて) 双子(そうこ)』ちゃんと見た目の奇抜さならピカ1の『天秤(あまはかり) 明日人(あすと)』さん。

天秤(あまはかり)さんは耳に天秤の皿を模したピアスをつけているので一度見たらもう二度とその顔は忘れないだろう。

毎回思うけど、あのピアス重くないのだろうか。

それはさておき、あとはDF(ディフェンダー)

人数は4人。

十二天王のほうから青い帽子のような被り物をした『(つるぎ) 恭平(きょうへい)』と赤いハート上の被り物の『(このみ) 桃妃(ももき)』、それから黄色い被り物の『(ひし) 拓夢(たくむ)』、それからゾディから水色の髪を器用にまとめてカニっぽく結んでいる『蟹江(かにえ) 亜留太(あるた)』君の4人。

そして最後にGK(ゴールキーパー)はキャプテンマークを腕につけた『佐曽利(さそり) アン』がついていた。

 

さてここで今日の試合の結果を軽く予想してみよう。

 

…………いや無理!無理でしょこれ!正直な意見を言っていいのであれば勝てる見込みは0だ。

 

ほぼほぼ完成形に近いチームとまだまだ発展途上にいるチームの試合なのよ!?これ!

 

いや、え!?

何の意図があってこの試合を組んだのかしら響木さんは!

 

ほらベンチの不動だってダルそうにして……して?

あれ?

ダルそうにしてない。

あら、これもこれで珍しい。

割と真剣にエゼルフォトン(あちら側)を観察してるってことは、そういうことか。

一応ほかのメンバーもマネージャーたちに情報があるか聞いていたりしているが、音無さんも目金君も首を振っているのでそこまでは調べられていない様子。

 

「(私にとっても重要な試合、か)」

 

頭の中で久遠監督の言葉を復唱し、キックオフを待つ。

 

そんな時、ちょうどポジションが私と向かい合っていた獅子谷(ししたに) 音目矢(ねめや)が話しかけてきた。

 

「よう、火蓮。久しぶりだな」

 

「えぇ、そうね」

 

「この前のオーストラリア戦とカタール戦見てたぜ。カタールんときはよくあの状況で勝てたよな。みんなバテバテだったろ?」

 

「それは私もそう思う。虎丸君がいなかったらあの時点で世界への挑戦失敗になってたわよ」

 

「間違いねぇ。にしても、お前が日本代表に参加するって聞いたときは驚いたぞ」

 

「そんなに?」

 

「おう。うちのキャプテン(アン)もあきれてため息ついてたぜ。ククク」

 

「なんでため息……。まぁ、それはいいわ。あいつから直接言われたから」

 

「なんだそうなんかよ。でもま、メンバー聞いたときはお前の一強になるかと思ってたけど思ったよりチームになってるんだな」

 

「まぁね、そもそも私が加入する前からある程度メンバー同士の面識があったみたいだから当然と言えば当然なのかしら。私以外全員顔見知りみたいだったし」

 

「もしかしてお前、はぶられてんの?」

 

「ハブられてないから。だからそのにやけ顔やめて」

 

「つまんね」

 

「あんたねぇ……」

 

いつもの冗談だとは思っていてもとりあえずあのにやけ顔に腹が立ったので口元を引くつかせながら怒ってますアピールをすると、「悪い悪い」と言いながら音目矢(ねめや)君が両手でなだめるようなしぐさをする。

それから軽く息をついて冗談もほどほどにして、と言おうとしたのとほぼ同時のタイミングだった。

 

試合開始のホイッスルが鳴り響いたのは。

 

 

 

 

 

フォーメーション

 

Japan

 

FW:--吹雪-豪炎寺-砥鹿--

 

MF:--緑川- 鬼道 -基山--

 

DF:-綱海-壁山-土方-木暮-

 

GK:----- 円堂 -----

 

 

 

AgelPhoton

 

FW:--獅子谷-洋-早乙女--

 

MF:--二面-波久奴-天秤--

 

DF:--剣-好 - 蟹江-菱--

 

GK:-----佐曽利-----

 

 

 

 

 

 

かくして、イナズマジャパンのスキルアップを目的とした練習試合の火蓋が今ここに切って落とされた。

 




イナズマジャパンスキルアップ編始動です。




一応ゲームの中では十二天王の面々もゾディアックスの面々も本名と選手の登録名みたいなものが違うので(例えば「佐曾利アン」は本名で選手としての表記は「スコピウス」みたいな)どうしようか迷った結果、本名で統一にしようと思います。


そういうわけで今回のあとがきは以上です。
それではまた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習試合 VS エゼルフォトン 1

練習試合編の全編です

おそらく前中後の三部構成になると思われます

では本編のほう、どうぞ


試合開始。

 

 

主審を務める古株さんの長いホイッスルが開戦を告げ、話し込んでいた私と音目矢(ねめや)君もお互いに短く「よろしく」と言い合ってからそれぞれの役割を果たすために走り出した。

 

私たちイナズマジャパンボールから始まった試合は豪炎寺君から吹雪君へと渡り、吹雪君が持ち味のスピードを武器に敵陣内へ切り込んでいく。

その様子を右サイドから確認しつつ先ほど自分とすれ違うように駆け上がってきた音目矢君に一度視線を流し彼の動きを確認。

内に走る進路を変えるのであればボール奪取のサポート、もしくはボールを奪ったMF(ミッドフィールダー)からのパスを受けやすくする等の可能性が考えられる。逆にそのまま外を駆け上がるのであればたとえ吹雪君がボールを奪われたとしても右サイド(こちら側)へのパスが放たれる可能性は低くなるわけだ。進路変更することなく外を走っていっているということはつまり右からの攻撃の可能性は比較的低い。

であるならば、現在右サイドを上がる音目矢君にはDF(ディフェンダー)の木暮君がマークについているし、警戒は音目矢君以外のFW(フォワード)へ向けるほうが得策になるだろうな。

正直に言えばそちらのほうにボールが繋がれた時のほうが私としては絶対に避けなければならない事象だ。

 

グラウンドの逆サイド側ではボールを持った吹雪君がドリブルで上がっていき、双子(そうこ)ちゃんのチェックに若干渋い顔を浮かべながらどうにかキープし続けている。

 

……っと、うまい。

若干後ろに押し戻されながらも今吹雪君がボールを取られそうになるそのぎりぎりのタイミングで後ろを走っていた緑川君へボールを渡すことに成功した。

 

そこからすぐに緑川君から司令塔の鬼道君へとボールが回り、鬼道君からの「上がれ!」の指示を受けて私を含めたFW陣が前線のラインを押し上げていく。

 

攻撃の起点となる鬼道君を抑えるために花王瑠(かおる)が鬼道君のブロックに入りプレッシャーをかけていくがそれを基山君とのワンツーで鬼道君が抜き去り私とは逆サイドを駆け上がる吹雪君へパス。

次いで吹雪君がDFの拓夢のプレスを受けるよりも1テンポ早く中央に走り込む豪炎寺君へセンタリングを上げた。

 

私はサイドから若干内側へ走る進路を変更しこぼれ球に狙いを澄まして攻撃の流れを断ち切らないように努めよう。

 

ただ一つだけ気がかりなことといえば…………花王瑠の奴、やけにあっさりと抜かれていたな。

 

「豪炎寺君!!」

 

「あぁ!!」

 

吹雪君からのセンタリングを受け、マークのいないフリーな状態の豪炎寺君がそのままシュート態勢に入る。

 

パスを受けたタイミングで一瞬だけこちらに視線を投げてきたが私としてはどうにも間に合いそうにないので軽く首を振ってNOのサインを返した。

私の意思をくみ取った豪炎寺君はすぐに視線をゴールへ戻してシュートを放つ。

 

「はぁっ!爆熱、ストーム!!!!」

 

シューターの豪炎寺君から炎のエネルギーがあふれ出し背後に炎を纏う魔神が姿を見せる。

その魔神によって空中へ大きくきりもみ回転しつつ跳躍した豪炎寺君がその回転力と背後の魔神による正拳突きによって爆発させた爆炎のシュートが勢いよく放たれた。

 

よし、あいさつ代わりとしては上々だと思う。

 

さて、アンのほうは。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ、なるほど。実力的には日本代表に選ばれるだけのことはあるってことね。でも、ま……」

 

 

 

 

 

 

相変わらず腕を組みながら余裕綽々と言ったところだろうか。

 

「足りないわね」

 

それからすっと腕組みを解いて近くにいたDFの二人に素早く指示を飛ばした。

 

亜留太(あるた)桃妃(ももき)、よろしく」

 

「了解キャプテン!」

 

「承りました!」

 

その声に短く返答を返したDFの二人が素早く反応する。

 

「なにっ!?」

 

その光景を目の当たりにした豪炎寺君が思わず呻いた。

なぜか。

それは……。

 

「確かになかなかの威力のシュートを打つじゃない。それに関しては拍手を送ってあげるわ。でもね、世界目指すと豪語するからにはこんな程度で満足されちゃ困るわね」

 

腰に手を当てながらまっすぐに豪炎寺君を見据えるアンの目の前で、今しがた豪炎寺君が放った『爆熱ストーム』がDFの亜留太と桃妃のブロックによって完璧に止められている光景が広がっているのだから。

横から見ていた私も豪炎寺君のシュートに関しては信頼も寄せているしその決定力も高く評価していたからさすがに目を疑った。

アンが相手である以上私を含めて簡単に点を取らせてもらえないだろうとはふんでいたが、正直キーパーにすら届かないとは思っていなかった。

あの豪炎寺君のシュートを………。

 

そこまで考えてふと思考が現実に戻ってくる。

 

今はそんなことを考えている場合じゃない。

よく考えたらまだインプレー中だったことをすっかり忘れていた。

足を止めている場合じゃない、状況としては豪炎寺君の『爆熱ストーム』を亜留太君は左足で桃妃が右足で同時に蹴るような形で受け止めている状態だ。

何か嫌な予感が頭をよぎる。

何の策もなくただただボールの勢いを殺すためだけにこんなことをしたとは考え難い。

 

となると、非常にまずい状況かもしれない!

 

「豪炎寺君!切り替えて下がるわよ!まだインプレー中……」

 

唇をかみながら動きを止めた豪炎寺君に対して切り替えろと叫び、自分はサイドからセンターへ向けて全力で走り出す。

 

「鬼道君!中心に選手を集めて!カウンターが来る!」

 

「あぁ、わかっている!壁山!土方!センターを固めろ!」

 

「はいっス!」

 

「おう!」

 

「あら、さすがは火蓮、と天才ゲームメーカーってところかしら?対応が早いわね。だったらほら、頑張って止めてみなさい」

 

再び腕を組んだアンがにやりと笑みを浮かべる。

その直後。

 

「はぁっ!!いっけぇ!!」

 

「やああぁぁっ!!!!」

 

シュートを受け止めていた亜留太と桃妃が『爆熱ストーム』の威力を上乗せしたボールをこちら陣内へ勢いよく蹴りこんできた。

一応必殺技ではないにしろ『爆熱ストーム』の威力が乗ったボールはほぼほぼ必殺技といっても過言ではない威力となって私たちイナズマジャパンのゴールへ向かって真っすぐにせまってくる。

もう見ただけで私の直感がやばいと警鐘を鳴らしている。

どうにか一度私でカットするか威力を削り取っておきたいところではあるが……あぁもう!だめ!間に合わない!!

 

「鬼道君!!」

 

「わかっている!ふっ……っ!」

 

グラウンドの中心あたりで自陣へ戻るために走っていた体を反転させてシュートのカットを試みるがただの一瞬すらも変化を起こすことなくはじかれてしまった。

 

続けて壁山君の『ザ・ウォール』と土方君の『スーパーしこふみ』によってわずかに威力が削がれたシュートがキーパーの円堂君のほうへ。

さすがに微々たるものではあったが鬼道君のブロック、そして2つのシュートブロック技で威力減衰を起こしたシュートは円堂君の『正義の鉄拳』によってコート外へはじき出すことには成功した。

とはいってもギリギリのところでシュートの軌道をずらし、ゴールバーに当たって跳ね返ったボールがそのままサイドラインを割ったに過ぎない。

『止めた』というよりは『運よくゴールに入らなかった』と表現するほうが正しい状態だ。

 

その衝撃で円堂君もわずかに後方へはじかれて尻餅をついているし、壁山君と土方君も技を破られた衝撃で軽く吹き飛ばされている。

 

まだ始まって数分しか経過していないがイナズマジャパン(こちら側)としては試合開始早々いい感じに出鼻を挫かれた。

 

試合前に円堂君が相手が誰であろうと全力でぶつかるだけだとチームの士気を上げて試合に臨んでいたが、今の1プレーによって不穏な空気が流れ始める。

だとしてもそんなショック受けることかしら。

私としてはそこまで気にしなくてもいいとは思うんだけど……ふとベンチに視線を向けると指を組んだ状態でいつにもまして真剣な表情で相手チームを観察していた不動と一瞬だけ目が合うがすぐにふいっと視線を外された。

というか、この試合の意図は私たちのチームのスキルアップなんだから落ち込む暇があったら次どうすれば止められるのかとか、再発防止に努めたほうがいいと思うんだけど。

 

小さくため息をついていると隣に豪炎寺君が歩み寄ってくる。

 

「火蓮、今のは」

 

「?どうしたのよ豪炎寺君。ただシュートが一本止められただけでしょ?気にしない気にしない」

 

「いや、それはまぁいいんだが…………」

 

「言いたいことは何となくわかる。あの二人、に限らず今私たちが相手しているチームに関してでしょ?正直に告白させてもらうとね……」

 

「……」

 

「今現在で日本一のチーム、といっても過言じゃないかもしれないわ。つまり、私たちが今目指している目標、世界を取るってことはこのチームを超えるってことと同義よ」

 

「…………このチームを超える、か」

 

「怖気づいた?」

 

「……ふ、まさか。この程度のことで気持ちが折れるほど俺は、いや俺たちはやわじゃないさ。だろ?」

 

私の試すような問いに対して豪炎寺君は小さく笑みを浮かべ、私の肩をポンとたたいた。

 

「特に俺たちのキャプテン、円堂ならなおさらな」

 

「そうだよ、いきなりのことで驚いたけど、こんなすごいシュートを受けたらキャプテンは……」

 

「あぁ、円堂ならあのとおりだ」

 

豪炎寺君に続いて吹雪君と鬼道君も加わり、くすりと笑いながら視線をキーパーの円堂君のほうへ向けた。

そこでは若干気持ちが沈みかけていたメンバーの中で一人だけすごいシュートを受けて興奮している円堂君の姿があった。

その姿に呼応するように一人また一人とモチベーションを回復させていく。

 

「あのポジティブさは円堂らしい」

 

「こういうところは頼りになるわね。精神的支柱って感じ」

 

「あぁ、それがあいつなんだ。すぐに慣れる。さて、そろそろプレー再開だ。今のプレーだけではまだ情報が足りない。かといって砥鹿から情報を聞くにも時間がない。とにかくまずは1点が必要だ。先制点を取りに行くぞ」

 

鬼道君が私たちの顔を順番に視線を流す。

それに対して私と豪炎寺君、吹雪君が無言のままうなずきそれぞれのポジションへ戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイドラインを割ったことでコーナーキックは免れたがそれでもエゼルフォトン側のスローインから試合再開の時点でピンチであることには変わりない。

 

天秤(あまはかり)君からのスローイン。

ボールは綱海君のマークを一瞬にして振り切ったスピカから真ん中のほうへ走りこむ花王瑠に渡された。

 

く、容赦ないな。

このままじゃ前線でボールを受けるどころの話じゃなくなる。

攻められっぱなしはちょっといただけないし。

前線で待機する豪炎寺君と吹雪君にアイコンタクトを送り、私の意図を汲んだ二人は一つ頷いてすぐにディフェンスのために自陣のほうへ走り出した。

 

私も急いで戻らないと。

取り返しがつかなくなる前に…………って。

 

そう簡単に下がらせてくれない、か。

 

「悪いな火蓮、お前だけは自由にさせるわけにはいかない」

 

「恭平……」

 

「行きたきゃ俺を振り切っていくんだな」

 

「このっ、アンの作戦ね」

 

「正解」

 

自陣に向けて走り出そうとした私の前に立ちふさがるように進路を妨害してくる恭平に渋い顔を向けながら舌打ちを1つ。

私もドリブル突破やマークを振り切るのには自信があるほうではあるが、こいつは別だ。

私の癖や特徴を知り尽くしている上に恭平と逆サイドにいる拓夢は1on1のマークではほぼ負けなしなのだ。

現に今まで恭平のマークを真正面から振り切れたという記憶が見つからない。

 

「火蓮!!」

 

「私は大丈夫!豪炎寺君と吹雪君は急いで戻って!それから右サイドのスピカには絶対にボールを渡しちゃだめ!!あの子にシュートを打たれたら今の円堂君だと確実に止められない!」

 

「わかった。右サイドのFWだな!」

 

今の現状において最も最悪な一手だけを豪炎寺君に伝えると自陣で容赦ない攻撃を受け続けている味方に心の中でごめんと一言言ってもう一度恭平に向き直る。

 

「助言送ってたところ悪いけどさ、あの感じじゃスピカじゃなくったって止められないと思うぞ?」

 

「わかってるってば、でも全部伝える暇なんてなかったじゃない」

 

「それもそうか。ま、救援には………………っと、行かせないって今言おうとしたのに」

 

「なーーーーんなのよもう!」

 

自分もどうにか恭平(コイツ)を振り切って助けに行こうと思い、恭平がしゃべってる隙に突破を試みるがそれすらも対応されてしまっては叫びたくもなる。

 

この状況はまずすぎる。

私がここに釘付けにされていたら現状花王瑠やスピカに対応できる人員が減る。

 

今は前線から舞い戻った豪炎寺君をはじめ吹雪君や基山くん、鬼道君がかろうじてついていけている状況だ。

それもいつまで持つか……。

合間を縫ってはシュートが放たれているが必殺技を使っていないあたり相手には余裕を感じられる。

しかしそれでも円堂君のほうははじくのでいっぱいいっぱいになってしまっている。

どうにかエンドラインは超えないように全員が必死になっているが、相手側に隙ができない以上攻撃に転じることができない。

 

私もマークを振り切るために右に左に小刻みに動いたりフェイントを入れたりするが、その努力もむなしくぴったりとしたマークは全く崩れない。

 

「何やっても無駄よ火蓮。その特等席から自分のチームを眺めてなさい」

 

「冗談じゃないわよ。見てるだけなんて性に合わない」

 

「あんたの性なんか知らないわよ。でも一つだけ言えることは」

 

「は?」

 

「これがあんたに課せられた試練……の一つってことよ」

 

「何それ、意味わかんないわ」

 

「あっきれた」

 

やれやれと言いながらゴール前でアンがため息をつく。

 

「この調子じゃ今日のあんたは大した脅威にもならなそうね」

 

「?どういう意味?」

 

「それくらいそのでっかい頭で考えなさいよ」

 

「どーーー言う意味かしら?」

 

「ほらそろそろ試合が動くからあっちに注目」

 

「くっ、あんたは後で絶対シバく」

 

ナチュラルに言われた悪口に頭のてっぺんが熱くなる感覚を感じながらアンに言われたように自陣のほうへ視線を向けると、ちょうどトリックプレーで鬼道君を躱した花王瑠がドフリー状態になっていたスピカへパスを通した瞬間だった。

あぁ、もう!

さっきあの子にはボール渡すなって……。

 

ボールを受けたスピカが一瞬私に視線を向けてくすりと笑った。

 

その直後。

スピカがシュート態勢に入る。

それは今までのようなノーマルなシュートではなく、必殺技だ。

 

始動とともに天高くボールを蹴り上げるスピカ。

く、あそこまで高く蹴り上げられたらジャンプなんかじゃ届くわけない。

つまり妨害も絶望的。

 

来る。

 

上空高くに浮いたボールのさらに上から1度目の踵落とし(左足)でボールに回転を加えながら膨大な量のエネルギーを充填し、そのまま1回転して二度目の踵落とし(右足)で充填させたエネルギーを爆発させることでボールを燃え盛る巨大な隕石のように変化させて放つスピカの必殺技。

 

 

 

 

 

 

メテオライト・レイ!!」

 

 

 

 

 

 

「円堂君!」

 

エゼルフォトン陣内に釘付けにされた状態でどうにか自陣の円堂君へ声を飛ばす。

 

それを見ているしかできない自分に腹立たしさを覚えながら同時に焦りもこみあげてくる。

今の状態じゃ一点を入れるどころの騒ぎじゃない、一刻も早く自陣に戻らなければ。

しかし、焦れば焦るほど……

 

「っと、へへ、どうした火蓮。動きが雑になってるぞ?」

 

「大きなお世話よ。あぁ、もうどきなさいよ」

 

「断る」

 

自分の単調になった動きは恭平によって悉くシャットアウトされ身動きが取れないまま時間が過ぎていく。

 

自陣のほうではスピカから放たれた『メテオライト・レイ』によってブロックに入った綱海君と木暮君が吹っ飛ばされ、先ほど同様に壁山君と土方君のダブルシュートブロック技が炸裂している。

が、両者ともにあっさりと破られて吹き飛ばされた。

 

そして最後の砦である円堂君の必殺技『正義の鉄拳』すらも簡単に打ち崩し驚愕の表情を浮かべる円堂君のすぐ横を通ってゴールネットを大きく揺らした。

 

 

 

 

ゴール。

 

 

 

 

先制点はエゼルフォトンとなってしまった。

 

 

 

 

 

A - J

1 - 0

 

 

 

 

 

あれに関してはさすがスピカであると言わざるを得ないが、何度も言うが容赦ないな。

 

しかしまだ戦況はわからない、何せ1点入れられただけだから。

まぁ、その1点を取り返すのがかなり骨の折れる作業になりかねないのではあるが。

それから点が入ったことでプレーの中断となるのだが、それに関してはすべてが悪いわけでもなくなる。

今まで釘付けになていた私もプレー再開に伴って自陣に戻る必要があるわけで、つまりルールのおかげで強制的に自分のマークを外すことができるわけだ。

それに、アン(むこう)がそういう作戦をとってくるというのであればこちらとしても策を講じやすい。

 

同じ作戦には引っかからないんだからね。

 

自陣に戻り、大きく息をついて考え込んでいる鬼道君の元へ。

ほかの面々のほとんどは円堂君の周りに集まっており、再びネガティブ志向が蔓延しそうなチームを円堂君が鼓舞している光景が広がっている。

それを横目に私は鬼道君の隣に並んだ。

 

「ごめんなさい鬼道君。私も戻って守りを固められたらよかったんだけど……」

 

「気にするな、俺も見ていたがあれほどお前がぴったりとくっつかれて身動きを封じてられいては仕方ないさ。どうやら、相手はお前を警戒しているようだな。あそこまで露骨に自由を奪っているところを見ると」

 

「みたいね」

 

「そうなるとかなり厳しいな。今現状奴らのスピードについていけているのは俺と豪炎寺、吹雪、ヒロトの4人。プラスお前だ」

 

腕を組みながら眉間に眉を寄せる鬼道君。

 

「先のプレーを見ると攻守の両方でお前は絡むことができない状況だ。少なくとも守備には参加できない、と考えておくのが妥当だと思う」

 

「私も同意見。もどかしいけど」

 

「あぁ、厄介極まりない」

 

そんなことを話していると、ちょうどこちらのゴール前から自分の陣地へ帰ってくるスピカが隣をすれ違った。

すれ違いざまににこやかな笑顔で軽く会釈をしたスピカにこちらはむすっと肩を落とすしぐさをして見せた。

 

そしてそのままゆっくりと通り過ぎ、彼女と私たちが背中合わせになったタイミングで背後からスピカがふと声を出した。

 

「もし、世界の頂点にいくというのでしたらこの程度のシュートくらいは止めていただきませんと」

 

「……円堂君なら絶対に止めてくれるわ。心配無用よ」

 

「ふふ、そうですか。楽しみにしています。それでは、試合は始まったばかりですのでお互い頑張りましょう」

 

その言葉の直後、足を止めていたスピカが再び歩き出して自陣に戻っていく。

 

「なるほど、アレが【星刻のストライカー】早乙女 スピカか」

 

「鬼道君も知っていたのね」

 

「いや、最近お前のことを調べたときに何度か名前が出ていたから覚えていたんだ」

 

「え、調べたの?私を?」

 

「まぁな。オーストラリア戦とカタール戦のお前の動き、それから同じチームメイトとしてお前の正体については知っておく必要があると思ったからな。……不動とも何らかの関係があるようだ」

 

「いや別に不動とは特別なことは……」

 

「調べた、といっただろう。当然お前たちの関係も知っている」

 

「あ、そう」

 

「それよりも今は追いつくことが先決だ。豪炎寺と吹雪、お前の3人にどうにかしてボールを集める。砥鹿、お前も積極的にゴールを狙ってくれ」

 

「OK」

 

短く返答し自分のポジションへ戻りながらプレー再開のキックオフに向けて作戦を考える私であった。

 

スピカの言う通り、まだまだ試合始まったばかりだ。

私も含めて豪炎寺君も吹雪君も疲れはほとんどない。

……さっきのマークで精神的には若干来るものがったが、まぁ誤差の範囲ではある。

 

次はどうにか1on1の状態にならないように考えなくちゃ。

 

そのタイミングで再びプレー再開のホイッスルがこだまするのであった。




あとがきです


まだまだ試合は始まったばかりのタイミングですが一度切ります
なんか長々としちゃいそうだったので


本当は前編後編の二話で収めたかったんですけど…………無理でした




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習試合 VS エゼルフォトン 2

どうも

更新しました


そしてこの試合なんかいろいろやりたいことが多すぎて前中後の3部じゃおさまらない事実が浮上してしまいました

まぁ、大事な試合なんで許してください


点差は1対0のままイナズマジャパンボールのキックオフで試合が再開。

 

豪炎寺君から吹雪君に渡されたボールはすぐに司令塔の鬼道君へ渡され、FWの私たちはいっせいに敵陣内へ上がっていく。

一応その中でも私は豪炎寺君と吹雪君(ほかの二人)よりも少し遅めにかつ気持ちサイドから中心に向かって斜めに走るようにしながら前線へ上がる。

理由としては私単騎で切り込んでしまった場合、先ほどのように恭平に1on1のマークをぴったりつけられて身動きが取れなくなっていしまうためだ。

できるだけ後ろを走る基山君と距離が離れすぎないように調整しつつ恭平のところで1人対2人の状況を作ることができればベスト。

さすがの恭平(きょうへい)でも1人対2人となってしまえば分が悪くなる。

DFさえ突破してしまえばあとはキーパーのアンと対峙するだけなのでそれがまずは第一段階となるだろう。

あくまで私は。

豪炎寺君と吹雪君のほうに関しては私ほどきついマークになるとは思えないが…………いや、私とは反対側の吹雪君のほうはそうでもないのか。

あっち側には恭平同様1on1ではかなりの猛者である拓夢(たくむ)が控えている。

アンのことだ、私以外の選手を眼中に入れていないなんてことはしないだろう。

危険因子は徹底的に排除する主義の彼女なら拓夢にも恭平と同じく1on1で選手の動きをシャットアウトしろとかなんとか指示は出してそうだし。

 

つまり孤立してしまえば相手の思うつぼ、逆に彼らに対して複数人で対峙することができれば突破口は開ける。

後はゴール前のDF2人、亜留太君と桃妃(ももちゃん)をどうにかできれば1点が見えてくるはず。

それもそれで厄介だが……。

 

と、ある程度の理想論としてはこんな感じだがそう簡単に進まないのがこのチームである。

 

私が後ろの基山君との距離を測っていることを察知したMFの天秤(あまはかり)さんが基山君のほうへ接近しマークに入ってしまう。

やっぱりばれるか。

これだからゾディアックスのメンツは厄介なのよね。

 

キャプテンのアンを中心に敵が最も嫌う場所をとことん突いてくる戦術。

しかもそれのすべてがアンからの指示ではなく各選手一人ひとりがそれぞれの役割を理解し、一つの作戦から10の行動を導き出すことができる。

今の私が突かれてもっとも嫌なことは基山君をマークによって足止めされて私自身が敵陣内で孤立してしまうこと。

豪炎寺君を頼る手もあるにはあるが豪炎寺君はCFW(センターフォワード)

私の助けに入るためにはゴールへ向かう縦の移動からコートを横切る横の移動をしなくてはならなくなってしまう。

そうなってくると中盤の司令塔である鬼道君からパスを出せる相手がいなくなってしまい、攻め手が消えてしまう可能性が出てきてしまうわけだ。

正直この試合中どれだけのシュートチャンスが巡ってくるかはわからない。

少しでもチャンスにつながる確率を上げていくにはできるだけFWの私たちは横の移動よりも縦の移動を優先させていきたいところ。

ゆえに豪炎寺君に頼る案はあまりよろしくない。

 

となると、私が恭平を突破するか基山君に天秤さんをどうにか振り切ってもらうしかない。

 

つまりどうなるかと言うと……

 

「おっと、待ってたぞ火蓮。ここからは通行止めだ」

 

「あぁもうやっぱり!」

 

さっきと同じ状況になったということ。

 

二度も同じ罠にはまって少しイラっとした私は思わず後ろの基山君のほうに視線を向けてしまう。

 

「(…………いや、基山君のせいじゃない。私も警戒が足りなかった。少し考えればわかることだったのに)」

 

後方で天秤さんのマークに苦しそうな表情を浮かべている基山君を見た瞬間我に返った。

 

試合はボールをキープしながら敵陣へ上がる鬼道君から私との逆サイドを走る緑川君のほうへパスが通り、そのまま緑川君がドリブルでボールを持ち込んでいく。

対して双子(そうこ)ちゃんがチェックに向かうが緑川君の前を走る吹雪君の咄嗟の機転のおかげでその進行を妨害されてわずかにブロックが遅れた。

チェックのタイミングをずらされた双子ちゃんをしっかりと抜き去った緑川君からセンターを走る鬼道君へボールが戻される。

花王瑠のマークの一瞬のスキをついて緑川君からのボールを奪取した鬼道君がFW(私たち)に視線を向けるが、私と逆サイドの吹雪君には恭平と拓夢がぴったりとマークがついており正直なところパスが通る見込みがない。

それをくみ取った鬼道君が今度は視線を基山君のほうへ向けた。

しかし、残念ながら基山君のほうも天秤さんがマークについており容易に抜け出せる状況じゃない。

基山君のほうも厳しいと判断した鬼道君はそのままドリブルでエゼルフォトン陣内へ切り込んでいく。

その前では豪炎寺君もゴールへ向けて走りこんでいるのだがこのまま安易に豪炎寺君へボールを渡してしまえば最悪の場合最初の1プレーの二の舞になりかねないという可能性が出てきてしまうのがめちゃくちゃ厄介なところである。

それは鬼道君も豪炎寺君も理解はしているだろう。

 

そんな鬼道君に対して今度はこの試合MF(ミッドフィールダー)のポジションに入っている花王瑠(カオル)が再びチェックに入った。

 

恭平のマークによって思うように動けない私はあきらめて自陣の選手のほうへ焦点を合わせる。

 

ボールを持った鬼道君は花王瑠のブロックからどうにかボールをキープしながら周囲の状況に視線を巡らしていた。

とはいえ、涼しい顔で鬼道君の動きを邪魔していく花王瑠に対して鬼道君のほうは取られないようにキープすることも一苦労だという表情をしている。

同じMFの基山君には天秤さんがマークについていて思うように動けないが、その逆側の緑川君には1on1のマークはついていなかった。

 

それを視界の端に収めた鬼道君が緑川君へ向けてパスを放ったその直後。

鬼道君からのフェイントを難なくかいくぐった花王瑠が一瞬でそのパスをカットし、前髪を手で軽く払うと(余計な仕草を挟むと)その場で鬼道君へ向けてなにやら2、3言話しかけからドリブルで前線へ向かいだした。

それに対してわずかに眉を動かした鬼道君もすぐに全員へ「戻れ」の指示を出して花王瑠の後を追って走り出す。

 

その指示を受けて豪炎寺君、吹雪君も前線から後退し天秤さんのマークで動けないでいた基山君からもマークが外れて基山君も自陣へ向けて走り出した。

いや、厳密に言うならマークが外れたというより花王瑠がボールをカットした瞬間両翼で控えていた天秤さん、双子ちゃん、それからFW陣の三人が一気に攻撃に転じたため自動的にマークがいなくなっただけだ。

鬼道君の指示によって右サイドを走るスピカには綱海君と壁山君の二人体制でマークを付け、残りの二人、音目矢(ねめや)君と(よう)にはそれぞれ木暮君と土方君がぴったりとマークについている。

そんな状態であるならばスピカはおろか洋のほうにもパスを通すのは難しいだろう。

パイレーツハットのおかげで若干身長が高く見える洋だが実際のところは私よりも少し小柄な体形をしているゆえ、ガタイがよく身長もある土方君が壁となってさえぎっていることが要因としてあげられる。

ついでに音目矢君のほうだがこちらは単純にボールから遠い。

中に向かって移動させないように木暮君も動いているためこちらのパスもほぼないとみていいだろう。

 

だが、油断は禁物。

 

あぁ、もうこうまで何もできないとほんとに嫌になってくるな。

どうにかしてさっさと恭平を振り切って守備に参加しないと。

 

私はちょくちょく動きながら横目で恭平を見てからもう一度自陣のほうへ視線を戻す。

 

何か手はないか……。

 

そんなことを考えていると再び自陣のほうから強烈な力の奔流が流れた。

 

「(あ!花王瑠の奴!パスができないからって自分で打ちに行ったわね!)」

 

後ろを走る鬼道君を置き去りにしつつゴールを見据えてドリブルを止める花王瑠。

そのボールにのせられた右足にまばゆいほどの光が収束していく。

 

それから軽くボールを胸の高さにまで浮かせ、その場でくるりと1回転して回転蹴りの要領でボールを薙ぎ払うようにしながら放つ花王瑠の必殺技。

 

『残光一閃』。

 

蹴りこまれたボールはまるで剣や薙刀の水平切りのような斬撃波とともにまっすぐにゴールへ向かって突き進んでいく。

 

「(『残光一閃』。まだエンジェルドライブ(もう一つのほう)じゃないだけましか。でもこの技もどうか止めてほしいわ円堂君。世界を目指してるなら!)」

 

マークにつくことに固執しすぎてしまっていた土方君と壁山君の反応も遅れてしまいシュートブロックは間に合わない。

洋もスピカもこれを見越していたのかマークについたDF陣に悟られないように細かく動きながら3人をサイドへ誘導しつつゴール前から少しずつ引き離していたし、それにはあの鬼道君ですらもグラウンドのあっちこっちでいろいろなことが起きすぎてしまっているせいで洋とスピカ(2人)の動きまでは把握できていなかったようだ。

 

放たれたシュートに対して円堂君が再び『正義の鉄拳G3』で応戦する。

回転するこぶしが勢いよくシュートにぶつかり衝撃波が広がった。

 

しかし、それでも拮抗することはなく先ほどのスピカの時と同様に一瞬で崩された。

 

ボールは若干勢いを殺されはしたもののまだ十分な威力をのせたままゴールへ向かう。

 

絶体絶命かと思いきや、FWの位置から驚異のスピードで自陣に返ってきた吹雪君のブロックによってどうにかシュートの軌道をそらすことに成功しボールはゴールバーに激突してエンドラインを割っていった。

 

前線からの景色にしてはめちゃくちゃもどかしい状況が続いている。

 

ゴールにはならなかったもののまだまだ円堂君が止めたというには無理があるこの状況。

相変わらず花王瑠は円堂君に対して何か言葉をかけているようだが前線にいる私には全く聞こえてこない。

それでも円堂君の表情を見ているとそこまで変なことは言われていない様子ではあった。

花王瑠の話を聞きながら何かに気づいたような表情を浮かべたり自分の両手に視線を落として開いたり閉じたりしている。

 

試合は進行し、またしてもエゼルフォトンのコーナーキックから試合が再開された。

 

双子ちゃんから放たれたコーナーはゴールエリア内で待機していたスピカの元へ。

それに呼応して彼女にマークでついていた綱海君と壁山君がジャンプで競り合いにいくが、混戦する中ボールを奪取したスピカは着地とともにすぐさま体を切り返してゴールを狙う。

放たれたシュートは間一髪のところで円堂君のパンチングが間に合ってはじかれ、ゴールならず。

こぼれ球を抑えた綱海君はすぐに前線へ向けて大きくクリアしようとするが、ボールは放物線の頂点まで上ることなく途中の段階で大きく跳躍した洋の体によって進行をさえぎられてしまっていた。

 

今度は洋が綱海君に対して何かしゃべりかけたと思えばすぐにシュート態勢へ移行した。

 

洋を中心に激しい水流が渦を巻き始め、それが爆発するように周囲へ拡散しつつ海のようになったフィールド上に巨大な波が無数に現れた。

その波へ向けて洋がボールを蹴りこむとボールは波の内側をすべるようにしながら波から波へ連続でぶつかり続け、波のエネルギーを充填していく。

 

あぁ、()()()()()()()

私も戻らないと!

 

「おっと、いかせないぜ」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp~~!!!!!」

 

前線に釘付けにされていた私もさすがにまずいと思って自陣に戻ろうとするが恭平によってそれすらも阻害され、思わず変な声が出てしまった。

 

「(『タイダルウェイブ』はまずすぎる!!)みんな止めて!!」

 

止めてとは言ったものの正直なことを言っていいのであれば、今のこのチーム状況で洋の『タイダルウェイブ』を止めるにはあまりにも酷すぎる。

あの技はそれこそ世界のトップレベルの技だ、今の彼らではまだ届かない。

スピカと花王瑠に関しては今の現状においてイナズマジャパンのレベルアップに最適な威力に抑えつつ打っていることは遠目からでもわかったが、そういう繊細なことはてんで苦手な洋にそんな芸当などできるはずもなく……。

 

 

 

 

 

「大海に沈め!『タイダルウェイブ』!!!」

 

 

 

 

 

気持ちいいくらい全力で打ちやがりました。

 

大海のエネルギーを充填したボールは巨大な津波を巻き上げながら空中に滞空しゆっくりとした回転に合わせて海を纏う。

そのボールに向かって荒波を足場にして跳躍した洋がオーバーヘッドでゴールに向かって打ち込むシュート技。

ボールは特大の津波となってゴールを襲う。

 

さすがのスピカと花王瑠も驚きを隠せないでいる様子……。

 

そうこうしてるうちにも津波と化したボールはDF陣を飲み込みながらゴールへ向かい、円堂君の『正義の鉄拳』との一騎打ちとなる。

が、結果は『タイダルウェイブ』が『正義の鉄拳』ごと円堂君を飲み込んだことで『正義の鉄拳』をはじき返し、そのままボールはゴールネットを思い切り揺らした。

 

 

 

ゴール。

 

これで2点目。

 

A - J

2 - 0

 

 

とまだ前半にもかかわらず相手に2点の得点を許してしまったわけで、ここからの逆転の難易度がさらに爆上がりしてしまった。

 

ただ、結果としては2点目を決められてしまったことに変わりはないのだが、その2点目に関しては思いのほか悪くはない感じではあったと思う。

なぜなら、洋の『タイダルウェイブ』と正面からぶつかった円堂君の『正義の鉄拳』だが、今までの技と比較してもいい変化の兆しを見せてくれたからだ。

今までのようにあっさりと破られるのではなく、洋の『タイダルウェイブ』をわずかではあるにしろ押し返す兆候を見せたのだ。

それはつまり、さっきまでの『正義の鉄拳』よりも大幅にパワーが上昇したことを意味する。

今現状の力でこの結果はかなり良い傾向だ。

技のレベルアップも近いかもしれない。

 

「ふぅ……」

 

私は相変わらずこのプレー中も何もできずにため息を漏らす。

 

これじゃレベルアップどころじゃないわ。

何もさせてもらえないし、誰の助けも借りることができない。

完全に孤立状態となってしまっている。

 

本当に何も手はないのか……。

 

自陣に戻りながら頭の中で必死に考える。

このままじゃ私は孤立させられただけで、この試合中何も得るものがないまま終わってしまいかねない。

 

「火蓮」

 

ふと声をかけられたことでパッと我に返る。

 

「?どうしたの?豪炎寺く……ん?」

 

声の主の豪炎寺君へ返答するために視線を上げた私は「……まじか」と声を漏らしてしまった。

 

「考え事か?それはいいんだが……ポジション、通り過ぎているぞ」

 

「~~~~」

 

考え事をしながら自陣に戻ってきたせいで、それに集中しすぎて自分のポジションをすっかり通り過ぎてしまうという失態を犯してしまっていた。

思わず声にならない叫びがこぼれて、顔が熱くなるのを感じる。

 

 

 

もーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!

 

考え事に夢中になりすぎてポジション通り過ぎちゃうなんて……恥ずかし!

顔から火が出そう!

 

 

 

「すまない、配慮が少し欠けていた。そこまで気にするとは思っていなくてな」

 

「いや、気にしないで、周りが見えていなかった私に非がある」

 

真っ赤に紅潮した顔を片手で押さえながらもう片方の手で豪炎寺君を制しながら答える。

 

「あ~恥ずかし。っと、そんなことよりも今の状況を何とかするのが最優先よ。そう最優先なのよ」

 

私はとりあえず恥ずかしさを紛らわすために話題転換を試みる。

それでなくても現状押されっぱなしの状況ゆえに打開策を見つけることは何よりも優先すべき相談であった。

 

「あぁ、それもそうだな。であれば……吹雪!」

 

プレーが中断されたこのタイミングで軽く腕を組んでいた豪炎寺君が私とは逆側のポジションについている吹雪君を呼ぶ。

 

「どうしたんだい?豪炎寺君……と、火蓮さん?」

 

「どうしたもこうしたもない作戦会議よ」

 

「あ、なるほど」

 

「率直に聞きたい、吹雪。お前のほうのマークはどんな感じだ?やはり火蓮同様徹底したマークがついているのか?」

 

「そうだね。かなりしつこいマークが僕のほうにもついたよ」

 

「やっぱり。そっちには拓夢が。はぁ、徹底してるわね」

 

「あのマークを振り切るのはちょっとやそっとじゃできないかも」

 

「そうか、となるとサイドからの攻撃はあまり有効にはなりそうにないか」

 

「そうなるわね。かといってセンターから打とうもんなら最初みたいに威力上乗せで打ち返されっるリスクが伴ってしまう。いくらうちのエースとはいえ一度打ち返されていることを顧みると豪炎寺君も単騎でシュートを打つのは現実的な作戦とはいいがたいわね」

 

「俺も同意見だ。そうなるとどうにか合体技を打つ必要があるわけだが……」

 

「僕と火蓮さんが両サイドに釘付けにされているのが痛いね」

 

「それなのよ」

 

「火蓮、あいつらの情報を教えてくれないか?」

 

豪炎寺君が腕組みをしながら視線を向けてくる。

 

「この中であのチームのことを知っているのはお前だけだ。何かヒントになるかもしれない」

 

「確かに。一理あるね。お願いできないかな、火蓮さん」

 

「そうはいっても……ね、うーん。……わかった。豪炎寺君の言う通りこのままじゃ埒が明かないわ」

 

「その話、俺も聞いていいか?」

 

そこに遅れて眉間にしわを寄せつつ厳しい表情をした鬼道君が話に加わってきた。

いつもよりも険しい表情をしていた鬼道君はそのことを豪炎寺君に軽く突っ込まれて、「なんでもない。それよりも」と言って話題を戻した。

 

「今のこの状況は砥鹿と吹雪に1on1のマーク、それから同じくヒロトにもMFがマークについている。これによって砥鹿とヒロト(右サイド)はほぼ機能不全。対して吹雪のほうも機能不全まではいかずとも吹雪の機動力を十分に発揮できるかと言われれば難しい状態だと言える。中心の豪炎寺のシュートは試合開始直後のカウンターを見せられている以上むやみに打つことはできない。そしてディフェンス陣も現状奴らの動きにちゃんとついていけているものは少ない。何か糸口がないまま進めるのはチームの士気としても限界がある」

 

鬼道君の言葉に吹雪君と豪炎寺君が小さくうなずく。

 

「そうね、今のまま真正面からぶつかるだけじゃ分が悪いのは仕方がないと思うわ。それを念頭に置いた状態で聞いて。糸口になるかわからないけど、少なくともヒントにはなるかもしれない」

 

そんな私の言葉に三人の視線が私に集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

ピーーーーー!!!!

 

試合再開のホイッスルとともに私はさっきよりも若干内側に向けて進路を取りながら走り出す。

作戦はさっきと同じどうにかして恭平の場所で基山君と一緒に2対1の状況を作って突破すること。

その前段階として、音目矢君の右腕側を走り抜けた私は、MFの天秤さんの前で一度足を止めた。

 

「おや?今度は私を無視していかないのですか?火蓮さん」

 

「さっきそれでまんまと孤立させられたからね」

 

「さすが、もう気づかれてしまいましたか」

 

「当然。だから今度は確実に抜かせてもらうために、ね。鬼道君!基山君!」

 

キックオフによって豪炎寺君から吹雪君、そしてボールはすぐに鬼道君のほうへ下げられており、鬼道君に続いて左の緑川君とこちら側の基山君もそれに呼応するように一気にラインを押し上げていた。

私は後ろを走る基山君にアイコンタクトを送り、基山君からの返答を受け取ったのとほぼ同じタイミングで鬼道君から基山君へパスがつながる。

そこから若干下がって天秤さんから距離を取った私にボールが渡りドリブルの突破を試みる、のだが。

 

「来ましたね。しかしここは通しませんよ!!『裁きの天秤』!!」

 

必殺技の宣言とともに一瞬にして私と天秤さんの体が巨大な天秤の皿の上に乗り、私が乗っている皿のほうだけがガクンと下がり天秤全体のバランスが崩れた。

それによってシーソーのように皿の位置が高く上がった場所で天秤さんが思い切り自身の乗る皿を殴りつける。

直後、天秤がさながらてこのように勢いよく私の体ごと皿を空高くへ打ち上げた。

打ち上げられた拍子に思わずボールから体を離してしまったことでボールはそのまま天秤さんの足元へ。

 

「っち……」

 

「残念でしたな火蓮さん。ドリブルで突破しようとするのはいい作戦だと思いますよ」

 

「そうね、ついでにそれが上手くいけばもっと良かったかもね」

 

「おっしゃる通りで」

 

「でも……」

 

打ち上げられることは予想済みだ。

どうにか空中でできうる限りの受け身を取って着地時にバランスを崩さないようにだけは気を付けた。

おかげで着地による硬直もなくすぐに行動に移ることができる。

 

作戦通り。

 

「?」

 

「今回は私ひとりじゃないのよ」

 

「それはどういう……」

 

 

 

 

 

 

「はああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

私からボールを奪取して油断していた天秤さんへ後ろから走りこんでいた基山君のスライディングタックルが炸裂し、一瞬にして天秤さんの足元からボールをお奪い返した。

 

「なっ!?」

 

「火蓮さん!!」

 

基山君のスライディングタックルとほぼ同時に前線へ走り出していた私の元へ再びボールが回される。

そのままドリブルで中央寄りの右サイドを駆け上がっていく。

 

そこでふと足を止める。

 

「……来たわね」

 

「まあな」

 

「ここから先にはいかせません」

 

案の定ディフェンスに来た恭平と桃妃の前でドリブルを止めてボールに足をのせた。

 

「悪いけど、いかせてもらうわ……よっ!」

 

そういって私は再び前方に、具体的には恭平と桃妃の間に向かって走り出す。

しかしその足元にあったボールは……。

 

「!?」

 

「え!?ボールが!?」

 

走り出した私の足元にはすでにボールはない。

カラクリを言えば走り出す勢いとボールをまたぐようにしながら踵を使って軽く後ろにボールを転がしただけにすぎないが、一瞬の出来事ゆえに二人からしたらボールが消えたように見えたかもしれない。

 

驚きのあまり一瞬だけ二人の動きが止まる。

そして後ろに転がされたボールはというと……

 

「ふ、作戦通りだな」

 

2人に感づかれないように接近していた鬼道君が抑え、私が2人の間を抜けたタイミングで中央の豪炎寺君を介してボールを私の足元へ。

 

豪炎寺君からボールを受け取り最後の砦、キーパーのアンに向かい合った。

 

相変わらず腕を組みながらこちらに視線を向けていたアンも、さすがに腕組みを解いて臨戦態勢をとった。

 

「あら、案外早く攻略されちゃった感じかしら?」

 

「そういうことね、まずは1点返させてもらうわよ」

 

「はぁ、そういうことはちゃんと決めてから言いなさい」

 

「言われなくても!」

 

含み笑いを浮かべながら構えるアンの挑発を受けて炎のエネルギーを爆発させる。

 

 

 

スカーレットバーナー!!!!」

 

 

 

力強く振り上げた足で思い切りボールを踏みつけると衝撃を受けたグラウンドが円形に割れ、さらに周囲一帯を爆炎が支配した。

べコリとひび割れた地面からはごぼごぼと灼熱が吹き上がりプロミネンスのごとく燃え盛る。

その炎は中心のボールへと収束していきドクンと脈を打つ。

続けて大きく空へ蹴り上げられたボールは上空高い位置で充填されたエネルギーを周囲へ放出させながら太陽のように膨大な量の熱エネルギーを放出した。

 

それに向けて大きく跳躍した私がくるんと空中で一回転。

赤く炎を纏わせた右足を限界ぎりぎりまで体に引き付けてから最後にインサイドキックによって打ち出す私の必殺技。

 

蹴りだされたボールは真っ赤な炎を纏いながらゴールへ向かって巨大な熱線のような軌道で突き進む。

 

 

 

()()()()()()()()()()、この1点は必ず決める!!

 

 

 

この試合、私が点を取らないと勝機はない!




あとがき


まずはここまでのご読了ありがとうございます。
よかったら感想とか頂けると嬉しいです。



それはともあれ、今回の試合はちょっと長くなりそうです。

温かい目で見ていただけると幸いです


では、また次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。