一夫多才の|契約者《コネクター》 (如月ユウ)
しおりを挟む

プロローグ

はじめての読者参加型の小説です。
至らぬところが多いですがよろしくお願いします。


身体が柔らかい物に乗りかかったような感覚に上半身と下半身が包まれたような暖かさ。

微睡みを払い除けるようにゆっくりと目を開ける

 

「気が付いたかい?」

 

目が覚めて声の主は好青年のようなスーツを着た男性で隣には白衣を着た人が座っていた。

 

「あの……ここって病院ですか? 僕は工事現場を前に通っていたんでしたが」

「安心してほしい。君と同じような人たちも病室にいるから」

「同じ人?」

「すまない、他の人たちの部屋に行かないといけないから、彼から聞いてほしい。あとは頼むよ」

「了解しました」

 

敬礼した人を残して部屋を出ていったしまう。

 

「ここってどの病院ですか?」

「ご安心ください。今から説明します」

 

備え付けの差し込みテーブルを付けて、丸めた紙を広げたら見たことのない土地が描かれてた。

 

「地図?」

「ここは君が住んでいる地球という世界ではなく『アースト』と呼ばれる世界だ」

 

地図に指差しながら大陸や世界について説明してくれる。

僕がいるのは地球ではなく『アースト』と呼ばれる世界でオプロイドと呼ばれる人間が存在していて武器に変化するという特殊な種族らしくて今はまだ見せられないが僕と同じ人たちが目覚めたら会わせてくれるらしい。

コンコン。

 

「ちょっと待ってて」

 

扉をノックされたので開けると同じ白衣を着た人で話をしていると僕のほうを見た。

 

「そうか、わかった。どうやら君が最後らしい。他の人が集まっている場所まで案内する」

「はあ……」

 

ベッドから起き上がると背中から押し潰されるような痛みどころか節々の痛みすら無くなっていた。

病室を出てから後ろをついて行き、大部屋らしき場所に招かれると集まった人は僕のような学生もちらほらいて、サラリーマンのような人や軍隊のような人もいた。それ以外に日本人だけではなくアメリカ人やフランス人のような外国の人も集まっていた。

 

「みなさん、不安になるお気持ちは理解していますが落ち着いて聞いてください。あなた方は様々な理由はあると思いますが起きる前に最後は何をしたか覚えていますか?」

 

ここに来る前になにがあったのか思い出そうとする。工事現場の前を通っていたら急に前から地面に倒れて背中が重いと感じながら意識が無くなった。

 

「思い出せたかと思いますがおそらくみなさんが共有することは一つ──一度、死んで(・・・)この世界『アースト』に来たのかと」

 

死んだという言葉に目眩のような痛みが頭にきた。

 

(そんな訳のあり得ないよ。普通に歩いていたのに起きたら何ともなくていきなり死んだとか、なんでそんな事になるんだ……)

 

考えることが出来ず、周りがどんどん騒いで余計に考えがまとまらない。

 

「死んだとかおかしな事を言うな! 会社に電話して……県外って嘘だろ……」

「妻に逃げられて……積み重なった借金が払えなくて自殺したのに……」

「任務で敵地に侵入して……だが、ここは──」

 

携帯電話を持って連絡しようとするサラリーマンに無精髭で活力のない男性。顎に手を置いて考え込む軍人とパニックになったり、落ち着いている人と様々な反応をしている。

 

「パニックになっているところ申し訳ありませんがもしこの条件を受けるなら衣食住を約束します」

 

衣食住の約束するという言葉に騒がしくなった部屋が静かになる。

 

「なんだよ、約束って」

「詳しい説明はあとでしますが要約すると犯罪者を取り締まるような仕事をして欲しいのです」

「だけどそれって危険な仕事なんだよな? 命が幾つあっても足りないよ」

 

犯罪者の取り締まりって警察のような職業なのかな?それは確かに危険な仕事で刃物を使う人も捕まえることもするのだろう。

静寂を壊したのは軍人さんだった。

 

「俺はこの意見を飲もうと思う。わからない場所に放り込まれてパニックになるのは理解しているが他に道がないなら受けるしかない。その仕事しかないのか?」

「安心してください。もし無理な場合でもそれ以外の職業に就くことも可能です。先ほどのは危険が伴う仕事でして事務職のような職も用意しています」

「事務職なら……受けてみようかな。命に危険がないならいい」

 

サラリーマンのような人が自分に合った仕事を選べると安心したらしく、他の人も釣られて自分に合う仕事ならやると答えていく。

 

「あ、あの僕は学生ですけど。どんな仕事をすればいいですか?」

 

僕を含めた数人が学生で何をすればいいか迷っていると質問に答えてくれた。

 

「それは君たちがやりたい事をすればいいよ。最初に提案した仕事や事務職のような物でも何でもいい」

「なら、最初のやつをやって見ようと思います」

「いいのかい?本当に危険な事をする仕事だが、それでもやるのか?」

「勉強とか全然でして身体を動かすのは得意なので」

 

軍人さんと同じ仕事にすることにして、他の学生も何名かも一緒に参加することでとりあえず方針は決まった。

大半は不安でいっぱいだが無理だと思ったら別の仕事を用意すると言ってくれたのでやってみてからでいいだろう。




活動報告には用語があります。
詳しい内容はそちらを確認してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転生者の会話

今回の話は主人公以外に他の転生者たちと会話します


事務職や専門職をする人たちと警察のような危険が伴う仕事をする人たちに別れて僕を含めた数人が部屋に残った。

 

「じゃあ、早速だが自己紹介といこう。私はラムダ・カーティ。ようこそ国家機関ルーシェンへ。契約者(コネクター)になる道を選んだ君たちを心から歓迎するよ」

「コネクター? ルーシェン?」

「ルーシェンはさっき言った犯罪者を取り締まる機関で契約者(コネクター)はそこに所属する人たちのことだ。どんな事をするかは実際に見せたほうがいい。準備はいいかい?」

「問題ありません」

 

ラムダさんの隣に居た人に触れると光の粒子となって変化して消えて無くなると手には武器を持っていて、その光景に目を疑った。

 

「て、手品? それともCGなのか?」

「手品でもCGでもない正真正銘の現実だ」

 

金髪の日系人のような男性がまばたきをしながら見ていて、武器は光の粒子となりまた人の形へと戻った。

 

「彼はオプロイドという武器に変わる種族だ。見た目は人間だが身体のどこかに必ず紋章が刻まれている」

 

オプロイドが右腕を捲ると刺繍のような紋章が彫られていた。

 

「オプロイドは私たち人間と契約して武器となって共に戦い、互いに共存しあう存在だ。その力は強大で犯罪に染める人も少なくない。それを防ぎ、人々を守るのが我々ルーシェンの仕事だ」

「警察と軍隊を合わせたような機関と捉えてよろしくて?」

「そうだ。君が想像した通りの機関だと思えばいい」

 

腰まである長い金髪をポニーテールにして碧眼の瞳をした気品のある女性の質問に対して頷いた。

 

「どんな仕事をするかわかったが具体的に身体を鍛えるんだよな?」

 

僕よりも大きくて今いる人たちの中で一番背が高い大柄の男性が詳しい内容を聞いてくる。

 

「身体を鍛えるのはもちろん、武器の扱いや乗り物の操作。犯罪者の拘束術も学んでもらう」

「よっし、ともかく犯罪者がいたらぶっ飛ばして捕まえれば良いってことだよな!」

「ニュアンスが違うがそんな感じかな」

 

黒髪黒目で僕と同じ日本人だが手入れのしていないボサボサの髪で、手の平を拳で叩いて鳴らした。苦笑いをしながらも一度、咳払いをして空気を整える。

 

「ルーシェンについて知ってほしい事はまだまだたくさんあるが今はこのくらいでいいだろう。明日は契約者とオプロイドたちによる歓迎会が始まる。君たちは推薦枠という上の人から選ばれた特別な人たちという事にしておいた。今日は先ほど起きた部屋で休んで欲しい」

 

話が終わり、僕たちは自分が寝ていた部屋まで案内されて戻った。

 

「なんか色々あって疲れたな……」

 

工事現場の前を歩いていたら倒れて意識が失い、気付いたら死んだと言われて成り行きだけど犯罪者を取り締まる機関に入ることになって……頭の中を整理する時間の余裕すらなかった。

 

「僕と同じ日本人は少なかったな。それに外国の人の言葉も分かったし、日本語を勉強したのかな?」

 

日本の文化も海外には人気だし、言葉も覚えていればより深く知れるから勉強したのだろう。

 

「携帯電話は……県外か」

 

電気やテレビはあるようで電波も届いているはずだが、無線LANやデータ通信も反応がない。機種の造りが全く違うのが原因か?

 

「あーやめやめ、素人には分からないから。寝るしかないな」

 

ゲームもアプリも通信出来ないなら寝るしかない。

ベッドに入って横になり、目を閉じると非現実的な体験に限界がきていたようで直ぐに眠りについた。

 

 

 

 

ベッドに眠りついて時間が経ち、部屋から出て建物の入り口前まで連れて行かれると病院だったようで、大人数用の大型バスが駐車していたので乗せられて発進する。

病院から離れて数分経つが誰も話そうせず長い沈黙が続き、暇潰しに風景を眺めていると僕たちがいた場所とほとんど変わらず、本当に転生したのか疑問に思えるように感じた。

 

「ちょっと、そこの貴方」

「はい?」

「えぇ、貴方ですわ」

 

座っている位置から反対側に座った金髪碧眼のポニーテール女性が僕に声をかけていた。

 

「貴方、出身地はどこかしら?」

「日本ですけど……」

「英会話は得意かしら?」

「全然駄目でして赤点ギリギリなんですよ」

「そう……嘘を言ってるようには見えないし、言葉を翻訳するように調整されたという可能性も……」

「あの……」

「何でもありませんわ、独り言ですので。気に障るようでしたら謝罪しますわ」

「平気です。えっと……」

「ファーン・ヘイルダルト。ヨーロッパ出身ですわ」

「宮本大和です。あぁ、その……」

 

ゲームに登場するお姫様が現実に飛び出したかのようにとても綺麗な人で会話をするにも緊張してしまう。

 

「何かしまして?」

「ファーンさんはお金持ちの人のお嬢様か何かですか?」

「……いえ、私はただのファーン・ヘルダイト。それだけですわ」

 

お嬢様という単語に眉をひそめて怪訝そうにしてしまう。没落貴族とかそういうのもあり得そうだから変に触れないほうがいいかも。

 

「ごめんなさい。あまり思い出したくないことでしたか」

「お気になさらず。もう過去のことでして、これからは私がやりたい事をやれば良いのですわ」

 

貴族ってお金があるから好きに生きられると思ったけど自由がなくて縛られた人生だからそんな生活が嫌だったのだろう。

 

「過去に浸るのはもうおしまい。今はこの世界に馴染むのが優先するべきでは?」

「それはありますね。死んだと言われてもこうして生きてる訳だし」

「不快にならなければ良いのですが死因をお聞きしてもよろしくて?」

「工事現場の前を歩いてら背中に重い物が乗っかってそのまま地面に倒れて」

「外壁に捲き込まれての圧死……工事現場での死亡例も少なくはありませんし」

「そちらはどんな事をして亡くなったのですか?」

「詳細は省きますが銃弾による出血死ですわ」

 

やっぱり海外だから銃による死亡も多いんだね。日本は銃規制が厳しいからそんな死に方をすると大きく報道される。

お金に関するいざこざで殺されたのかもしれない。

 

「よう、そっちのあんたは日本人か?」

「は、はい」

 

前の座席から顔を出したのは腕っぷしが強そうなボサボサの黒髪黒目の日本人だった。

 

「俺は朝倉武(あさくらたけし)ってもんだ。お宅は?」

「宮本大和です。日本人です」

「ファーン・ヘルダイトですわ。ヨーロッパ出身」

「おぉ、良かった同じ日本人だったか。何かの縁だし、これから仲良くしようや。そっちの姉ちゃんは良い乳してんな。やっぱりパツキン美女はみんなエロい身体してんのか?」

「ノーコメントで。野蛮な人と話はしませんので」

「カッカッカッ!いいね、いいねぇ!良いとこ育ちのお嬢さんみたいだ」

 

朝倉さんは不良みたいな雰囲気だが竹を割ったような性格で悪い人ではなさそう。

 

「会話の途中だけど入ってよろしいかな?」

 

朝倉さんと同じ座席から金髪の青い瞳をした日系人のが声をかけてきた。

 

「俺はリョウヘイ・トリスタン・ツペェリだ。出身はイタリア、よろしくお願いします」

「俺は朝倉武でこっちは宮本大和。そっちの姉ちゃんは──」

「ファーン・ヘルダイトと申します。ヨーロッパ出身でありますわ」

「なんと美しいお方なのでしょう。病弱で満足に外を歩けず亡くなった俺に絶世の美女とお会い出来る機会を与えてくれるとは。神に感謝を」

 

走っているバスなのにファーンさんの前に膝をつき跪いて、僕と朝倉さんは完全に置いてきぼりにされていた。

 

「頭をあげなさい。私はそれほど大した人ではありませんわ」

「いえいえ、俺には分かります。芸術品よりも美しいその容姿に秘めた朽ちることのない信念を持ち、まるで聖女のような」

「聖女ですか、私には似合わない言葉ですわ」

「そんな事ありません。むしろ貴女のような美女に相応しい言葉です」

「おーい、俺らを忘れるな」

「あぁ、すまない。とても綺麗な女性を目にして、つい」

「まあ、野郎より女のほうがいいしな」

 

飄々としてファーンさんと会話に花を咲かせて、言い訳についても朝倉さんはしぶしぶながら納得してしまい、雲のように掴み所がないような人だな。

 

「朝倉さんって筋肉凄いですけど格闘家のような仕事をしていたんですか?」

「あ~前の仕事は用心棒みたいなとこに就いてたんだ」

「ボディーガードをしていたのでしたか。見かけによらず優秀な人ですわね」

「違う違う。どの組かは言えねぇがヤクザの用心棒をしてたんだよ。今となっちゃあカタギだな」

「日本のマフィアでしたか。別の組織とやりあって亡くなったのですの?」

「いや、何をとち狂ったのか味方……雇い主に殺されたんだ」

 

同じ組同士の喧嘩ってヤクザだと内部抗争って言うんだよね?それに身体に刺青をして高いスーツにサングラスをかけた厳つい人たちで朝倉さんはそんな人には見えないし。

 

「あんたらまだ大人になりきってないガキんちょに見えるが俺みたいな野良犬の死に方はしてないよな?」

「僕は工事現場の外壁に捲き込まれて」

「私は銃による射殺ですわ」

「そっちの兄ちゃんはどうなんだ?」

「俺は病気で死んだんだ。家も裕福じゃないから治療出来ず、そのまま亡くなった」

「悪い言い方だが嬢ちゃんは海外で銃を持てる社会だし、お前ら二人も俺よりマシな死に方をしたか。けっこう、けっこう」

 

自分より醜い死に方ではない事に安堵しているというか。汚い人生を歩んでないことに喜んでいるようだ。

 

「湿っぽい空気にしちまったな。わりぃ」

「お気になさらず。こう言うのもあれですが一度、死んだおかげで誰にも縛られず本当の私として人生を歩めるようになりましたので」

「そうそう。肺結核で満足に動けなかったし、外の空気を思いっきり吸えるっていいな!」

 

僕も何か言おうとしたが、二人と違ってただ平凡な日常を過ごしていてどんな言葉をかければいいか分からず、口を閉じたまま黙ってしまう。

 

「そろそろルーシェン本部に着くよ」

 

ラムダさんの声と同時に大型バスが停車して目的地に着いたようで降りていくと目の前には高層ビルのようなとても高い建物がズラリと建てられていた。

 

「ここが今日から君たちが所属する新たな職場だ。改めてようこそルーシェンへ。契約者(コネクター)になる道を選んだ君たちを心から歓迎するよ」




今回登場したキャラの口調は設定を元にこちらで判断しました

ファーン・ヘイルダルト(フゥ太様)
気品のあるお嬢様のような感じ

朝倉武(銃頭様)
溝を作らず、誰にでも話しかけてくる兄貴分

リョウヘイ・トリスタン・ツペェリ(鳳凰院龍牙様)
礼儀正しいがレディファースト精神の伊達男

自分のキャラはそうではないというのがありましたらコメントください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歓迎会

残りの転生者とオプロイドを数名紹介をします
転生者側の契約者は投稿終了しますがアースト側の契約者は新しく制作しますので問題ありませんよ
以前、作ったアースト側の契約者は新たに投稿する必要はありません


ルーシェン本部に入ってラムダさんの後ろに着いてしばらく歩いていると、応接間のような部屋に入って、準備が整うまで待って欲しいと言われて出て行った。

部屋の内装はシンプルで椅子があり、テーブルには茶菓子と電気ポット、カップとティーパックが置かれていた。

 

「紅茶を淹れるわ」

「ありがとうございます」

 

人数分のカップに淹れられた紅茶から柑橘系の香りが広がり、一口飲むと芳醇でそしてしつこくない風味が口から喉に通って渇きを潤してくれる。

 

「この菓子うめぇな。どっかの有名な店のやつか?」

「市販にある物ではないのは確かですね。あぁ、全部食べては駄目ですよ」

 

リョウヘイさんは皿にある茶菓子を一人で食べている朝倉さんに注意している。

僕も一つとって食べてみると本当に美味しいくて、このお菓子は長い歴史がある老店舗かもしれない。

 

「お菓子食べますか?」

「すまないな」

「ありが、とう……」

「感謝します」

 

僕よりも年上で茶髪のドレッドヘアに青色の瞳をして体格は山のように大きな男性は見かけによらず、礼儀正しくて渡したお菓子を大きい手で食べていく。盗賊の頭領だと言っても信じてしまいそうな風貌をしている。

茶菓子を受け取ってしばらく眺めてから口にした長い銀髪を三つ編みにした白いマフラーを巻いた傷だらけのロシア人で僕と同い年くらいかな?

 

「甘い……これがお菓子という物か。知識として知っていたが体験すると身体に浸透するようだ」

 

赤い瞳と長い黒髪の女性は正直に言うとよく分からない。日本人のようには見えないし電波系の人なのかな?

 

「バスの中じゃあ、楽しそうに話をしていて邪魔になりそうだったから控えてたんだ。俺は鉄剛(くろがねたけし)。プロセスラーなんだが『鉄ストロング』っていうリングネームは知ってるか?」

「あ、知ってるぜ。相手の攻撃も全て受け止めてその上で倒すんだよな」

「おう、なんなら押し出し勝負してみるか?」

「面白そうじゃん!」

 

テーブルから離れて広い場所で朝倉さんと鉄さんによる押し出し勝負が始まる。

朝倉さんが突進していくと互いの手をガッシリ掴んでいく。

 

「ふぅんぬぅぅぅ!!くそっ、どんだけデブなんだよ!」

「はっはっはっ、ほらもっと腰を入れんかい!」

「こんなんじゃあねぇよ!絶対、抜かしてやる!」

 

全力でやっているようだが鉄さんは一歩どころか半歩すら動かず、まるで足が床に溶接したように受け止めている。

 

「僕は宮本大和。同い年みたいに見えるけど何歳かな?」

「……十七」

「一つ年下なんだ。名前は?」

「ユーリ・グラウディン……ただの死神さ」

 

自分の名前を言い、マフラーを口元に掛け直す。死神ってまさかじゃないけど中二病じゃないよね?だけど顔は傷だらけだし、服もくたびれてボロボロだ。

 

「あなた、ストリートチルドレンかしら?」

 

ファーンさんの問いにコクリと頷く。ストリートチルドレンって今も社会問題になってるんだよね?

日本は孤児院があるからそういったニュースはないけど海外はまだまだ解決出来ないなんだ。

 

「俺たちストリートチルドレンは裏社会だと都合の良い使い捨ての道具なんだ。野垂れ死んでもニュースじゃあ死亡人数が一人増える程度の価値しかない」

「前の世界に悔いがあるの?」

「あるよ。生まれは違うけど同じ仲間で俺はみんなを置いて死んだから」

 

大切な仲間の前で死んだようで壮絶な人生を歩んだのだろう。平凡な人生を送った僕では慰めの言葉なんてかけられない。

 

「さきほどの件は感謝する。私はアルタープライム・ラスプーチン=ヤハスヴェーラ。呼ぶとは好きにしてくれ」

「名前が長いですけど、貴族か上流階級の人ですか?」

「ふむ、貴族……いや、私はただの人間だ」

「人間?」

「訂正する。出身国はアメリカで死亡動機は戦争で亡くなった」

「軍人という事ですか?」

「形式ではそうなるかもな」

 

戦争から帰った人は精神的不安定から満足に寝れなくてトラウマに対して過敏になったり、パニックを起こしたりするって本にも書いてあったし、電波系のような話し方も一種の現実逃避かもしれない。

下手に刺激すると感情を乱して暴れられると困るのでそっとしておこう。

 

「会場の準備が終わったから案内するよ。それと君は身体を綺麗にして着替えてからだね」

 

ユーリは僕たちとは別行動のようで他の職員と一緒に歩いて行った。それ以外の人は会場に移動して扉を開けると契約者(コネクター)になる人たちやオプロイドたちが大勢いて、テーブルには料理を乗せた皿が置かれて椅子はなく、立食形式のようだ。

突然、扉が開いて何人かがそちらに視線を向けると黒髪の僕や朝倉さんを特に見ているように思えた。この会場にいるのはほとんどが白髪や銀髪ばかりだから珍しいのかな?

 

「あの人ってラムダ・カーティじゃないか?」

「世界で指の数しかいないランク10の最強の契約者(コネクター)で、たった一人で犯罪組織を壊滅させたとか」

「あの黒髪の二人ってどこの出身なんだ? 顔付きからしてフソウに見えるが……」

 

ひそひそと会話をしているのを尻目にラムダさんと一緒に歩いて全体を見渡せる場所で足を止めた。

 

「あ、あぁ~テステス。んんっ、みなさんようこそルーシェンへ。契約者になる道を選んだみなさん、オプロイドのみなさんも心から歓迎します」

 

マイクを持ってスピーチを始めると談笑していた人たちも話を止めて、固唾を飲んで見ている。

 

「私の話より気になる人も多いようだからそちらを先にしよう。彼らは私が直々に指名した契約者たちで一つの専門分野に特化した人たちです」

 

指名したという事に周りがざわざわと騒ぎ始める。推薦枠という形で誤魔化したがまさか専門分野って……他の人たちなら分かるが、僕はやれることなんて指を立てられるかどうかの数しかないよ。

 

「何が得意でどんな人たちかは君たち自身で確かめるといいよ」

 

それから本来のスピーチ内容をスラスラと口にして終えると僕たちを置いて重役の人たちがいる場所まで行ってしまう。

ラムダさんがいなくなるのを皮切りに囲まれて質問攻めをしてくる。

 

「黒い髪をしてる人なんて初めて見た。どこの生まれなんだ?」

「あっ、えっと僕はその……」

「俺らは米が旨いところの出身なんだよ」

「米が特産品ってフサンから来たのか?」

「そ、そう!フサンからやって来たんだよ」

 

出身地を言った人に指をさしてフサンという場所から来たと誤魔化す。本当は別世界から来たんだが、そんな事を言ったら精神異常者と認定されて病院に逆戻りにされるだろう。

 

「そうならそうと言えば」

「いやぁ、フサンと言えば米だろ? 俺、米が大好きなんだよ。こいつは俺の可愛い弟分さ。なぁ、大和?」

 

肩を組まれて歯を見せて笑っていて、この場を切り抜けようと賛同しておく。同じ日本人がいてくれて本当に助かった。

 

「綺麗な髪をしてますね。二人はどういった関係ですか?」

「彼とはただの友人。それ以上の関係はないわ」

「おいおい、お互い同じ国同士なんだから手心を込めた言い方をしてくれよ」

「事実を言っているだけよ」

 

社交辞令のように手馴れているファーンさんはリョウヘイさんを毒付いているが淡々と返されて夫婦漫才のような感じで話している。

 

「山みたいに大きい身体……何を食べたらそんなに成長するの?」

「よく食べて、良く寝て、良く身体を動かすを毎日すれば自然となるもんさ。あぁ、それと早寝早起きは重要だぞ。なんなって寝る子は育つからな!」

 

がっはっはっ!と大笑いしていてまるで小さい子どもに囲まれているお相撲さんみたいだ。

 

(ほとんど同い年くらいの人たちだな。二十歳を過ぎた人もちらほらいるけど)

 

ラムダさんと会話している重役たちは若くても三十歳以上のようで、新卒の人もいれば小学生くらいの年齢をしている子供も会場にいた。

ぐるりと会場にいる人たちを眺めていると気になる子を見つけた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

(赤い髪の女の子……)

 

肩まで伸ばした赤髪に赤茶の瞳。周りは楽しそうに談笑しているのに対して誰とも話をせず、一人退屈そうに立っている。会場は白髪や銀髪の人ばかりで、まるでスケッチブックに描かれた赤い点みたいに目立っていた。

 

「ちょっと、ごめんね。朝倉さんあとは頼みます」

「えっ、おいちょっと」

 

彼女のことが妙に気になり、断り一つ入れてから離れると左右に別れて道を作ってくれて簡単に赤髪の女の子に近付けた。

 

「あの」

「なに?」

「周りが白髪や銀髪の人ばかりで赤い髪をしてる君が気になってね。僕は宮本大和、よろしく」

「フレイ、アンダーソン……それが名前……」

 

自分の名前だけ言って黙ってしまい、なにか話題を作ろうと必死に頭を捻る。

 

「契約者になるために来たの?」

「私はオプロイド」

 

後ろ髪をかきあげると、うなじに紋章が刻まれていた。契約者なら理由を聞こうとしたけどオプロイドは武器になる種族だから、どんな武器なのか聞いてみよう。

 

「オプロイドって武器になるらしいけど君は何になるの?」

「槍」

「へぇ、槍なんだ。どんな理由でルーシェンに入ろうとしたの?」

「あなたには……関係ない」

 

またも黙ってしまう。どうにか話を続けようとしたら扉が開かれて入ってきたのはユーリでボロボロだった服は別の物に変わり、スーツになっていて髪も洗いたてで綺麗になっているがマフラーは外さずに巻いたままだった。

 

「ごめん、知り合いが来たから行くね。また話をしよう」

 

軽く手を振ってから彼女と別れて、ユーリに近付くとスーツを着なれていないのか落ち着かない様子でそわそわしている。

 

「えっと、大和だよな?」

「うん。その格好だとシャワーとかで身体を洗ったらんだよね?とりあえず何か食べようか。前の世界じゃあ、ろくな物食べてないよね?」

「あ、あぁ……」

 

料理皿が置かれたブッフェテーブルに適当に皿に盛り付けてフォークと一緒に渡した。

恐る恐る受け取りフォークに差して一口食べると

 

「もしかして嫌いな食べ物があった?」

「いや、旨いよ。あいつら……俺の仲間にも食べさせてやりたいなって」

 

一緒にいた仲間の前で見せしめに殺されたんだよね。自分だけ綺麗な服を着て、美味しい料理を好きなだけ食べられるのに罪悪感を持っているかもしれない。

 

「ユーリ。別世界に来たとはいえ、まだ生きてるんだ。その仲間の分までこの世界で生きて、前の世界で培った能力で犯罪者たちを倒してもし、同じような境遇の人がいたら助けよう」

「助ける……」

「今は食べて力をつけよう。日本には腹が減っては戦ができぬ、って言うことわざがある。お腹いっぱい食べてゆっくり休んで体力を

つけよう」

「そうだな……!」

 

皿の料理をモグモグと食べてまだ足りなかったのかブッフェテーブルに行って盛り付けてドンドン食べていく。喉を詰まらせて大変なこともあり、ジュースを渡して飲んでまた食べる。

 

「おーい、大和。いきなり俺と別れんなよ。あんな人数を俺一人で捌ききれると思えるかよ」

「朝倉さんってムードメーカーみたいだから、すぐ馴染むかなって」

「って、こいつは誰?」

 

好奇心から逃げるように僕と合流すると見間違えるほど綺麗なったユーリを誰なのか聞いてきた。

 

「ユーリだよ。ほら、一人だけ別行動してたでしょう?身体を綺麗にしてから着替えたんだよ」

「へぇ、おべべを貰ったのか。さっきのオンボロより良い格好になったな。そういや名前言ってなかったな。朝倉武だ、大和と同じ日本生まれだ」

「ユーリ・グラウディン。生まれはロシア、よろしく」

 

自己紹介のあと、小声でお互いの出身地を教える。

 

「あの、すいません」

「お時間よろしいですか?」

 

膝下まで伸ばした青い瞳の少女とボブカットの少女が声をかけてきて、二人とも貴族のような上流階級出身みたいで周りと同じように銀髪だ。

 

「なんだ?」

「私はアリシア・テスタノーヴァ。エディと同じオプロイドでありますわ」

「エディルマ・アインワース。みんな、僕のことエディって呼んでるんだ」

「僕は宮本大和。同じ髪をしたのが朝倉さんで同い年なのはユーリ」

「俺は武でいいぜ」

「ユーリで大丈夫」

「お兄さんたち、ラムダさんが直々に指名した人って言ってたからどんな人かなって」

 

きたかその質問。最強の契約者やランク10の称号を持っているから、凄い人なのは分かるがどれくらい凄いのか分からないので聞いてみるか。

 

「ラムダさんからの指名ってどれくらいすごいの?」

「えぇ、知らないの!?ラムダさんはランク10の契約者で、ルーシェン全体を指示出来る権限を持っているんだよ」

「裏社会からは恐れられた存在で、武装した相手に囲まれても素手で制圧したという事もありまして。契約者や私たちオプロイドからも崇拝される存在ですわ」

 

剣といった武器を持った人を手で倒して捕まえるとか偉業にも程があるよ。

朝倉さんは元ヤクザで喧嘩慣れしてるし、ユーリはストリートチルドレンで生きるための知識を持ってるからなんとかなりそうだけど、僕は平凡な人間だから無理だろう。

 

「二人はオプロイドだったよね? 武器はなに?」

「僕はモーニングスターだよ」

「銃身が二つあるリボルバー……回転式拳銃ですわ」

「へぇ、そっちのお嬢さんはハジキになるのか」

「ハジキ?」

「銃って意味だよ。それにイカサマはインチキと言って米はシャリとか言うんだよ」

「そうなんですか!? 知りませんでした⋯⋯まだまだ勉強不足です⋯⋯」

「いんや、良いとこ育ちのお嬢さんは知らなくて当然さ。そっちの嬢ちゃんはモーニングスターはどんな武器なんだ? スターは分かるけど、モーニングっておはようだっけ?」

「嬢ちゃ……僕は男だよ!ちゃんとアレだって付いているんだから!」

「えっ、男なん?」

 

僕とユーリも同じように驚いていた。どこからどう見ても女の子にしか見えないよ。咳払いをしたエディは自分の武器形態について説明する。

 

「モーニングスターは棒に鎖で繋いだ鉄球を振り回しながら叩き付ける武装なんだよ」

「なんか、使いづらそうな武器だな」

「否定はできないかな。だけど逆に持って棍棒として使えるよ」

 

臨機応変に使える武器なのか、ちょっと興味あるかな。銃は撃つのは簡単そうだが的に当てるとなると技術が必要そうだ。

 

「武さんって僕よりも格好よくてこう……頼れる人に思えます」

「まぁな。大和は俺の可愛い弟分さ」

「僕も弟分にしてください! 武さんのような立派な男になりたいんです!」

「おう、そんなナヨナヨした格好じゃあ舐められるぞ。もっとシャバのような格好にならんとな」

「はい!」

「私も武さんが知ってる事を教えてください」

 

二人は朝倉さんが経験した武勇伝を熱心に聞いて、僕はまた喉を詰まらせてたユーリにジュースを渡して歓迎会を楽しんだ。




ラムダ・カーティ(如月ユウ)
大和たちを発見した最強の契約者
後からですが転生者たちの上官になります

フレイ・アンダーソン(如月ユウ)
口数が少なくて謎の多いオプロイドの少女
挿し絵はカスタムキャストで制作しました

鉄剛(ハレル家様)
豪快な人で明るく、数少ない大人の転生者


アルタープライム・ラスプーチン=ヤハスヴェーラ(レコード disk様)
正体は活動報告で確認できますが今のところは戦争を経験した軍人で現実逃避のために電波系の話し方をしていると大和は思い込んでいます

ユーリ・グラウディン(シズマ様)
ストリートチルドレンの生活で感情が乏しくなったがアーストで新たな人生を歩むことに闘志を燃やす。形見であるマフラーを大事にしている

アリシア・テスタノーヴァ(James6様)
武のヤクザ用語に興味津々で裏人格はまだ登場しません

エディルマ・アインワース(理茶亜弩様)
男の娘と言われてへこんで、男らしい武の舎弟になる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外出

今回は大和とユーリがメインです
あと大和の年齢は15歳でしたが18歳に変更しました


ルーシェンに所属する人は基本的に寮で生活する事となっていて男女は別々の寮で生活している。

歓迎会を楽しんだ後は割り当てされた部屋に行くと内装はシンプルでベッドと机とテーブルなど備え付けの家具が置かれて、トイレとシャワーは別々になっていた。

身体を休めて次の日から個人の能力を確認するために体力測定などをして評価していくと上位に食い込み、周りから称賛の言葉を貰った。

 

(趣味で始めたパルクールがこんなときに発揮するとわね)

 

フランス発端の移動動作で、人が持つ本来の身体能力を引き出し追求する鍛練方法で肉体と精神を鍛えて、どのような環境でも自由に、かつ機能的に動くことのできる心身を得ることを目的にしている。

動画はもちろん、実践者からの視点も人気でヒヤヒヤしたり、身の毛のよだつような場面も多々ある。

 

「壁を蹴って登ったり、屋根の上を飛んだりと縦横無尽だな」

「武がゴクドウなら剛はヨコズナ、大和はニンジャね」

「俺はお相撲さんかよ。まあ、体格からして間違ってはないかもしれないが」

 

ファーンさんや武さん、剛さんは体力に自信があったのか僕より上の成績で趣味じゃなくて本職で身体鍛えているから格差を感じる。

 

「このままでは足手まといになる」

「一人で抱えるなよ。俺も同じ気持ちだから」

「すまない」

 

生前は病弱だったリョウヘイさんはともかく一番意外だったのがアルタープライムさんで、成人した平均女性とほぼ同じくらいの成績で軍人なのか疑問に思えたが乗り物や銃火器に関する知識が豊富で整備士として働いていたのかもしれない。

体力がない同士、スタミナ増加させるために空いた時間にグランドで走り込みをしている。

 

「ユーリも体力あるんだね」

「戦うときはナイフとかリーチの短い武器を使ってたから」

 

一日を生きるのに精一杯だったのか無駄のない動きで歓迎会のときはスーツを着ていたから見えなかったが、今はタンクトップと短パンという動きやすい服を着ていて、ユーリの身体には無数の傷が付いていて一部の人たちには避けられている。

 

「兄ちゃん、すっげぇ傷がたくさんあるな」

「ちょ、ちょっと待って、ルィ」

 

中学生くらいの茶髪の兄弟が傷だらけのユーリの身体を見て怯えたりせず近付いてきた。

 

「兄ちゃんたちってラムダさんから直々に選ばれれたんだよな。俺はルィ!こっちは弟のエル。よろしくな!」

「エル……です、よろしく」

 

兄のルゥは活発で弟のエルがオドオドした性格をして二人の手には紋章が刻まれている。

 

「二人ってオプロイドの兄弟?」

「うん、ルィと僕は剣になるの」

「もし、契約(コネクト)するときは弟と一緒にやってほしいんだ。俺たち兄弟は二人で一つの武器だからな」

 

お互い違う人同士の契約者になったら寂しいと思うよね。もし、契約者になるはこの兄弟を候補の一つとして入れておこう。

 

「僕たちは誰と契約するか決まってないから誰もいなかったら考えておくよ」

「俺たち絶対、兄ちゃんたちの役に立つから」

「もし、契約したときは精一杯頑張る。じゃあ、僕たちは行くね」

 

手を振ってオプロイドの兄弟と別れるとユーリは浮かない顔をして二人の姿を見送っていた。

 

「どうしたの?」

「貧困街にいたときにあのくらいの子供もいた事を思い出して」

 

ストリートチルドレンだった頃を思い出してもう会えないことに寂しいかもしれない。こういう時はやはり──

 

「ユーリはこのあとは暇?」

「やることはないな」

「だったら一緒に外に出ない?ほら、僕たちが持ってた物のおかげでお金とか余裕あるし」

 

アーストにも携帯電話はあるが折り畳み式……過去の遺産であるガラケーが主流で、スマートフォンのような画面にタッチする携帯電話は存在しないので解析材料と新型装備の一つにするために渡したのでそのお礼としてお金を貰ったのだ。

 

「いま着てる服だって借り物だし、自分がほしい物とかあるでしょう?」

「俺、買い物とかしたことないが」

「なら、僕と一緒に行こうよ。検問所で合流ね」

「わかった」

 

ユーリは前世の出来心で自分を責めていて、転生してからは天地がひっくり返るような自身の優遇さに肩身が狭い思いをしている。その溜め込んでしまえば今後に悪い影響に転がりこんでしまう。

そうならないために今まで体験したことない刺激を与えて余計なことを考える余裕のないようにすれば大丈夫だろう。

 

「外出届けと身分証の提示」

「はい、どうぞ」

「問題なし、通っていいぞ」

 

検問所で外出届と支給された身分証を見せてルーシェン本部から外に出る。

お互いの格好だが僕は制服でユーリは前世で着ていたぼろぼろの服は処分したらしく、与えられたスーツを着ている。

 

「ルーシェン本部があるオムニアは都会だから服とか簡単に見つかるよ」

 

アーストには五つの大陸が存在してルーシェン本部が設置されている『オムニア』は近代的な造りをしていて前世の東京都のような土地をしている。

その他の四つの大陸は支部が設置されて乾燥した土地である『ニグラル』は車など乗り物の燃料となる石油があり、地下から掘っている。

ここから遥か北にあるのは山に囲まれて雪に覆われた大陸『サラセン』で鉱脈が豊富で山に穴を掘って天然のワイン貯蔵庫として有名だ。

オムニアから南にある砂漠に囲まれた大陸『イステ』は海岸付近は魚介類が豊富でほとんどがこの大陸から他の土地に出回っている。

 

(もし、配属されるならフサンかな。なんと言っても米があるんだし)

僕と武さんの出身地と誤魔化している『フサン』は、なんと米があるのだ。日本人として米は唯一無二と言える存在で本当かどうかまだ未確定だが江戸時代のような街造りをしている。

 

「まずは服から選んで次はご飯。それからは雑貨を幾つか買ってと」

 

指折りしながら計画を立てて街まで歩いていく。その後ろを無言のままついて来ているユーリに何処に行きたいか聞くが。

 

「任せるよ」

 

その一言で終わってしまう。

ストリートチルドレンとして生きていたから自分がどうしたいか考えられないから無理もないか。

でも、服だけは絶対に購入する。

メンズ専門の服のお店に到着して入り、店員の一人を捕まえて服について聞く。

 

「いらっしゃいませ。どのようなご要件ですか」

「彼が着る服ですが肌の露出を控えた服をお願いします」

「かしこまりました」

 

店員にオススメを聞きながら目に見えた服を選んで試着室にいるユーリに渡して、着替えるのを待つ。

しばらくしてカーテンが開かれると試着した上着は長袖のトレーナーでズボンはルーズストレートのジーンズを着ていて、カーキ色で裏地が橙色のジャケットを羽織っている。

着なれてないスーツから軍人気取りのカジュアルな青年に変わった。

 

「いいね、それに決めた。次は」

「まだ買うのか?」

「当たり前だよ」

 

一着しか買わないなんてあり得ない。次々と良さそうな服を選び、ときに店員に素敵なアドバイスを貰ってコーディネートして、会計を終えたときにはユーリの手には服の入った紙袋を持っていた。

 

「こんなに買っても着る時間がないんだが」

「訓練期間が終わったら買い物する余裕なんてないよ。休みが取れる時間にやれることをしないと」

 

ルーシェンに所属する人は訓練期間が設けられて別名基本戦闘訓練と呼ばれるのを十週間かけて技術を学び、クリアした人は初めてルーシェン所属になれる。

それ以外にランクという階級制度があって訓練期間中は新米という事でランク一で、無事に卒業したらランク二に昇格して本部または各支部に配属されて仕事をすることになる。

ランク五からは部隊の指揮権を持つことになっ、てランク九はランク十の推薦がないとなれない階級である。ラムダさんが所持しているランク十は文字通り世界最強の契約者なのだ。

 

「時間もいいし、雑貨は後にしてご飯食べよう。なににする?」

「任せるよ」

「ご飯くらいは自分が食べたい物にしようよ。ユーリってロシア出身だよね?なにがあるの?」

「お前が知ってるのと言えばボルシチとブリヌイだな。あと殺した人の金を盗んでコトレータを食べたな」

「コトレータ?」

「こねたひき肉を丸めてパン粉をまぶして油で揚げたやつだよ」

 

ハンバーグを揚げたような食べ物かな?パン粉をまぶして揚げるからトンカツとも言えるかもしれない。

 

「まあ、前世にいた頃はライ麦パンと味が薄いスープが普通だったからな」

 

しまった。ユーリの故郷の食べ物について聞いたら自分の処遇の話になってしまった。なにやってるんだよ僕。

 

「ユーリが食べた物は気になるけど、フードコートに行ってからでいい?」

「そうだな」

 

無理矢理だが、着いてから何を食べようか決めようというかたちで話を切り上げた。フードコートだが、お昼時なので満席でベンチに座って食べている人も多い。

 

「まずは席の確保が最優先だけど、こうもいると場所なんて」

「あそこが空いたぞ」

 

指を差した場所を見ると受け取り皿を持って立ち上がり、返却口に行こうとしていて人たちがいたので直ぐ様、そこに移動して席を確保した。

 

「とりあえず座れたから最初はどっちが行く?」

「俺は後でいいよ。ここで待ってるから」

「オッケー、ソッコーで選んで戻るから」

 

ユーリが席を保持してくれるようなので何を食べるか

 

(定番はハンバーガーかホットドッグだけど、食べるならもっとユニークな物を頼もう)

 

どのお店も美味しそうでお互いが切磋琢磨して料理を作っているのを眺めていると気になる料理を見つけた。

 

(ケバブとブリトーか。ケバブは屋台で見るし、ブリトーはコンビニで売ってたよね)

 

違うお店だがこの二つにしよう。ユーリには悪いけど、もう少し待っててほしい。

頼んだのはビーフのケバブとチキンブリトーでドリンクはメロンソーダにしてユーリが座っている席に戻る。

 

「ごめん、頼んだのが別々のお店だったから遅れた」

「気にするな」

 

交代して僕が待つことになる。来るまで暇なので、フードコートを見渡していると腰まである長い銀髪の女性が、お昼ご飯を乗せたトレーを持って一人うろうろしている。座る場所もないし、幸い四人席にいるから声をかけよう。

 

「あの、ここに座りますか」

「えっ? でも、他の人が座ったりしますよね?」

「後で来ますが、一人しかいませんから大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。すぐ食べて離れますので」

 

対極するように座って黙々と食べ始める。

彼女が食事しているのに何もしない訳にはいかず、メロンソーダをストローをすすって飲みながら時間をつぶしているとユーリがお昼ご飯を持って戻ってきた。

 

「大和、この人は?」

「席が見つからなかったからここを使っていいって言ったんだ」

「あ、すいません。もう少しで食べ終わりますから」

「俺らのことは気にせず、ゆっくり食べていいぞ」

「はい、ありがとうございます」

 

お互いにお昼ご飯を購入したので、いただきますと言って食べる。

チキンブリトーはカレー風味。ケバブのビーフは照り焼きでチリソースの辛味が食欲がそそる。野菜サラダも一緒に入っていて栄養バランスが良く摂れる。

ユーリはさきほど説明してコトレータと串焼きを頼んで食べている。

 

「それって焼き鳥?」

「これはシャシリクでロシアの串焼きだよ。食うか?」

「いいの?ありがとう」

 

一つ貰ってシャシリクを食べると香辛料が濃い味付けしてるな。

 

「そういえば、そろそろオプロイドとの契約する話になってるけど、候補は見つかった?」

「いや、全然。そっちは?」

「目をつけた人はいるよ」

 

歓迎会で一人でいたので会話したフレイ・アンダーソンを候補にしていて、訓練しているときにたまに見かけては話をするが素っ気ない態度で返されてしまうがめげずに今も奮闘している。

 

「得意な武器はなに?」

「スピードと手数で戦うスタイルだからナイフとかリーチの短い武器だな。大和はなんだ?」

「中国武術の部活に入部して槍の演舞をしたんだ。あとヌンチャクも好きだったから棍術も習った」

 

世界的有名な中国武術の達人の映像を見て憧れて中学校から中国武術の部活に入って練習を重ねて努力した。

 

「あ、でも一度で良いから銃は使ってみたいかな。僕がいた国は銃社会が厳しくて、本物なんて死ぬまで一度も──」

 

カシャン!

金属の何かが落ちる音が隣から聞こえて、なんだと思って見ると一緒の席で食べていた女性がスプーンを落としたようだ。

 

「すいません、手が滑ってしまって」

「僕たちは平気ですよ。スプーンが置いてる場所は……」

「拭けば使えますので心配なさらず」

 

床に落ちたスプーンを拾って紙ナプキンで綺麗にして、あまり噛まずに残りの料理を食べ終えた。

 

「ありがとうございます。あとはごゆっくりどうぞ」

 

はや歩きで自分が注文したお店に皿を返却して何処かに行ってしまった。

 

「なんだっただろう?」

「さあな?ほら、はやく食わないと帰る時間になるぞ」

「わわっ、そうだね」

 

食事を再開して食べ終えた皿を返却してフードコートを出た。

 

 

 

 

お昼が過ぎて夕暮れになる頃、殺風景な部屋を鮮やかにしようと雑貨店で色んな物を購入して、背中には丈夫な造りをしている登山用リュックサックを背負ってルーシェン本部に戻った。

 

「疲れた……」

「こんなことでへばるなよ。でも、楽しかったでしょう?」

「楽しいかどうかと言えば楽しいと思った」

 

慣れないことにげっそりしているが、嫌そうにはしていないようだ。

 

「じゃあ、明日もよろしくね」

「あぁ、またな」

 

寮に入ってお互いの部屋に戻り、リュックサックから買った物を取り出す。

 

「写真立てと目覚まし時計に置物と」

 

ノートや本を読むテーブルに写真立てと置物を置いて、ランプスタンドに目覚まし時計を設置する。

 

「これでようやく部屋らしくなってきた」

 

本当なら本も数冊買っておきたかったが本棚がないし、それも買ったら荷物が大きくなって帰るのが大変になるので、それらは次の休みにして今はこれで十分。

 

「今日は色んな場所に行ったけど、どんなに探してもゲーセンがないのが一番不満だな」

 

都会であるオムニアにはゲームセンターが存在してなく、ルーシェン本部の遊戯場にあったのはビリヤード台やダーツ台、トランプをするテーブルしかなかった。

現代っ子である僕にとってゲームがないのは生き地獄のような牢屋で前世の人生が恋しくなる。

 

「スマホのアプリにもゲームあったけど、通信が繋がらないからこんな事ならバックに入れておけば良かった」

 

学校に携帯ゲームなんか持って行ったら没収されるのがオチだが、こう言わざるを得ない。




ルィ&エル(もくじん様)
兄のルィはやんちゃ坊主で弟のエルはおとなしい少年をイメージしました

大和たちと食事をした人は次回から登場しますのでまだ発表しません

活動報告に契約勧誘を貼りました。契約者かオプロイドを登録した読者様は確認どうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。