愉悦道中記(凍結) (壇クロト)
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注意事項

アニメ開始と共に嵌ったニワカなので期待はしないでください。

 

ドチートオリ主が出ますが、ただの傍観者です。物語を引っ掻き回したら役目を終えるので、TRPGでいうところのGMだと考えてください

 

作者TRPGの知識もないので詳しいことは一切書けません。GMの役目についても物語の進行役との認識しかないので許してください。

 

原作のゴブリンスレイヤーよりも感情が出やすくなっています。

理由はプロローグを読めば分かりますが、どうしても必要だと考えたので最低限の原作改変については、お許しくだされ

 

原作においての幕間部分しか書かないので、戦闘などを期待される方には面白くないと思います。

 

最後はハーレムエンドではなく個別エンドで終わらせます。

 

戦闘描写は存在しませんが、原作の先取りをしてしまうこともあるので、アニメを楽しみにしている方には優しくないと思います。

 

作者知識は、立ち読みで呼んだ漫画版5巻までと原作小説1~8巻です。食い違いが起こることもあると思いますが、許してください

原作面白過ぎて全て買いましたw

 

ヒロインはここで明記しておきます(ヒロインの定義は作者基準のため異論は認める。しかし、書き直すとは言えません)

 

 

牛飼い娘cv井口裕香さん

女神官cv小倉唯さん

エルフ(漢字が分かりません)cv東山奈央さん

受付嬢cv内田真礼さん

剣の乙女cv遠藤綾さん

 

女商人(5巻で助け出された女冒険者です)

 

を予定しています。

また、作者は以前書いていた小説をエタらせたことがあるので書き切れるかはわかりません。エタった時は、残念なものを見る目で見逃してください

 

 

 

 

 

 

 

以下、時数稼ぎのゴブスレへの感想

 

何故アニメは原作1巻最後のあのイベントを飛ばしたんですかね?あのイベントがあることでゴブリンスレイヤーの面白さに磨きがかかると思うんですよ!はい、作者なんども言う通り完全なニワカの発言です。

というか、あんなに可愛いヒロインがたくさんいるのに淡々と物語を紡いでいく彼の在り方を見ていたら、何が何でもヒロインとくっつけてやろうと思い立ってしまい、この作品を作った次第です。辛いことがあったのなら幾らか報われてもいいだろうと考えています。

 

だいたい、最近の異世界モノはやれチートだ、弱い能力でも突き詰めれば最強になれるだ面白くないんですYO!もっと泥臭く戦う作品があってもいいのにと思っていたときに始まったゴブリンスレイヤー。もう見事にド嵌りしましたよ!チートなんて存在しないのに練習と考えるという強くなったら誰もやらなくなることをずっと続けてゴブリンを狩り続けるとかもう最高でしょ!

 

以上オタク特有の一人語りでした



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プロローグ

ここだけオリ主がオリ主していますが、あくまでこの作品の主人公はゴブリンスレイヤー本人です。

物語進行役がどのような存在かを分かってもらうためのプロローグだと思って貰って構いません


どこだ・・・ここは?

俺としての記憶の最初は何にもない大地の真ん中でポツンと立っていたところから始まった。何故俺がその場にいるのか、自分は何者なのかということも分からなかった。だが、確かに己が使うことのできる力は理解出来ている。よくわからない状況だった。その場から歩き続け幾日か経ったころ、集落と思わしきところから煙が上がるのが見えた。己が確立されてから人に会ったことのない俺は、一縷の望みをかけて火の手の上がる集落に向かった。不思議なことに走る速度も、常人とは思えないほど早く、息も全く上がらないという今となればオカシイと思うことができる状況だったが、当時の俺にそんなことに意識を割いている暇などなかった。俺に有ったのは、誰でもイイから人に会ってみたいという感情だけだった。

 

俺が集落に辿りついた時にはほぼ手遅れと思われる状況だった。あちこちに集落の人間だったと思わしき死体が転がっていた。どれも男の死体だけだったのを不審に思い息を潜めながら辺りを探っていると集落の中央に付近から女の悲鳴が聞こえた。警戒を緩めずに向かえば、正に悪魔と言える容姿をした化け物が集落の女こどもを中央の祭壇のようなものに載せ何かの儀式をしていた。

 

その様子を伺っていた俺の存在に気付いたであろう子どもの一人が助けを求めたことで状況は一変した。悪魔が俺の存在を明確に知覚し手下と思わしき化け物どもを俺に放ってきたのだ。当然これまで歩くことしかしてこなかった俺だ何も出来ないと思ったが、存外何が起こるのかは分からないものらしい。俺の体は初めて戦闘を行うというのにスムーズに動き、一番最初に俺と接敵したやつの攻撃をまるで分っていたかのように躱し、その反動を利用した手刀の一閃にて首を跳ねた。それからは、語らずともわかると思う。他の化け物に対しても同じように動き、首を直接狙えないような的には雷を纏った刺突にて体に穴をあけて殺す。例え、化け物といえども生物を殺したことに不快感を感じるかと思えば、何も感じずただ、敵を殺す作業を繰り返していた。手下を全て片づけたと思えば、親玉であろう悪魔が俺に向かってきたが、特に苦戦することもなく対応した。俺に攻撃が効かないと分かると、人質であろう己の背後にいる女子供に狙いを定め、そちらに特大の火球を放った。

 

間に合わない。例え間に合っても特大の火球だ。防ぐ方法など存在しない。それでも俺の体は人質と火球との間に立っていた。悪魔としてはこれで俺を始末できると踏んでいたであろう。かくいう俺もそう思っていたが、なんと俺の周りに半透明の骨のようなものが浮かび上がり火球を防いでいた。更に呆気に取られている悪魔を攻撃しようとすれば、骨がまるで鎧を着込んでいくかのように武装されていき武者のような様相となった。体を動かすイメージで浮かび上がった鎧は俺の意思のままに動き、悪魔を攻撃していく。その威力たるや鎧が持つ刀の一振りで、集落の外まで切れ込みが出来るほどだった。当然そんな攻撃を受ける悪魔は堪ったものではないだろう。不利と分かるや羽を広げ空へと逃げたが、鎧は刀でなく弓矢を具現化し逃げる悪魔に黒い炎を矢の形状にして放った。矢は、悪魔を打ち抜いたかと思えば、引火を起こし悪魔の亡骸を完全に消し去った。

 

これが俺の記憶の中で一番古い戦闘の記憶だ。

今となっては俺は転生者であり、当時嵌っていたゴブリンスレイヤーの世界にチートを持って転生したのだと分かる。この世界を創りだした神々よりも高位の神にチートを授けられ転生した俺の役割は、この世界のバランスを保ち、存続させることだという。その役割を果たすために俺は一切年を取ることなく、体の衰えなど存在しない言葉にすればGMという呼び方が正しいであろう存在となった。それでも一応は冒険者の体裁を保っておく必要があるため、ギルドに登録し活動を始めた。どうやら俺が転生したのは原作が始まるよりかなり昔のであるらしく、白金等級の冒険者はまだ存在していなかった。つまり、俺がこの世界初の白金等級であり、就任以来白金等級内に存在する格付け。その頂点に君臨し続ける最強の冒険者である。

 

そんな俺の目的は・・・

 

 

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「今日は雲行きが怪しいか」

 

その日俺は依頼を果たした後、その報告をすべくギルドへと向かっていた。普段俺は依頼を達成した後は使い魔などを使い早急に帰路に着くのだが、その日はたまたま歩いて帰るという選択肢を取っていた。だが、夕暮れというのに雲が出始め周りには不愉快な湿度を帯び始めていた。今からでも使い魔を呼び寄せるかと思い始めた時に、俺の感知にモンスターが引っ掛かった。どこからその反応が出ているか確認したところ、数キロ先にある小さな村のような場所が原因だと分かりそこに向かい走り始めた。俺は暇潰しを兼てモンスターに襲われている村を身分を偽って助けることもあるが、今回に至っては何故か先を急がなくてはならないと俺の本能が警鐘を鳴らしていた。

 

襲撃を受けた村に辿り着いた時には、ほとんど手遅れと思わしき状態だった。村を襲ったのは、この世界で一番弱いとされているゴブリンだったが、その数は村の大人では対処できない数だったのだろう、性別関係なく殺されていた。ゴブリン共は不愉快な声を上げながら村を我が物顔で歩いていたが、俺を見るなり獲物が増えたと思ったのだろう襲い掛かってきた。まぁ、返り討ちにしてやったが、何度見てもこのような光景は気分が悪くなる。生存者がいないか感知を発動してみれば、まだ息のある反応が固まったおり、その近くに1つ反応があった。急いで駆けつけてみれば、村のお姉さんという言葉一番当て嵌まると思わしき娘が、今まさにゴブリンに凌辱されそうになっている場面であった。娘の近くには、既にゴブリンに犯されたのであろうまだ子ども言える年の女子が転がっていた。そちらはもう用済みといったように体にナイフを刺されていて間に合いそうもなかった。

 

「薄汚い畜生どもが・・・」

 

娘に群がっていた4匹のゴブリンは瞬殺することはできたが、いかんせん俺が到着するのが遅かった。生存者はこの娘と、隠れているもう1人だけだろう。そして、ゴブリン共は村の外にも多数潜伏しているだろう。本来なら安全な所まで運ぶべきだが、そうも言ってられない。先にそちらを片づけなければ被害はもっと大きくなる可能性もある。俺はゴブリンの殲滅を優先した。

 

「そこに隠れている少年。すまない・・・。来るのが遅すぎた。君もこの娘も安全な所まで運んであげたいが、生憎時間がない。俺の使い魔を置いていくから運んでもらってくれ。

・・・友達や村人を助けられなくて悪かった・・・」

 

 

 

そう言い残し去ろうとする俺の目が見たものは、ゴブリンへの憎悪を宿した、少年の眼だった。

・・・俺は不謹慎にも嬉しくなった。この世界に転生して幾百年。漸く俺が会いたいと思っていたゴブリンスレイヤーに出合えたのだから・・・

 




どこからどう見てもNARUT●の能力を使っているオリ主
実はこれで序の口ですw

でも、原作の戦闘には一切加わらないそんな傍観者


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1話

原作でいうところのゴブリンスレイヤーが神官娘と初めてゴブリン退治に行く前の一時の場面です


俺が未来のゴブリンスレイヤーを見つけてから早10年が経過した。あの後、助けた姉弟の様子を見に行ったが姉の方は簡単に見つかった。なんでもゴブリンに犯されそうになったことがトラウマとなり神殿に入ったそうだ。だが、PTSDを患ってなお気丈に振る舞い同時期に入った娘を励ましたり、幾何か先輩である娘から相談を受けるなど原作のゴブリンスレイヤーの姉そのままといった具合である。その姉が絶えず心配していたのは弟のことで、姉が神殿に入ったその日の夜に行方を眩ましたそうだ。俺自身そのことを神官長から聞いただけに過ぎないが、おそらく原作の通りにレーアに師事し訓練をしているだろうと考え放置した。そして、俺の考えている通り彼は5年後再び現れた。

 

それからは、彼に気付かれないよう姿を変えたりしながら彼の活躍を傍観している。俺はあくまでこの世界を存続させるのが目的の存在であるがために、彼1人を贔屓に手を貸したりしない。いや、そんなことをせずとも彼は知略を巡らし、練習を怠らず、絶えずゴブリンを殺す手段を考え続けている。強者になればなるほど止めてしまうことをもう5年も続け、ゴブリンを殺し続ける。正にゴブリンスレイヤーと呼ぶのが相応しい存在へと成長している。

 

そんなゴブリンを殺すことしか考えていないと周りから思われている彼が唯一常時苦戦するのが、ゴブリン退治を行った後に必ず行っている神殿への挨拶。つまり、彼の姉への生存の報告だ。彼の姉は弟が冒険者になったことを知ったときに泣き崩れてしまい、兜で顔が見えないはずの彼が慌てながら姉を慰めている様を見た時は、周りに気付かれないように爆笑したものだ。やはり、弟という存在はどれだけ強く成長したとしても姉には勝てないらしい。冒険者になったことを伝えただけで泣き崩れた姉が、弟がゴブリンを殺すことを目的として生きていると知った時は、もう泣きながら説教をしていた。やれそれがどれだけ危険なのか、ゴブリン程度と言っても死んでしまうことがあるだの、独りにしないで欲しいだの、心配する身にもなれだの、支離滅裂になりながら彼を引き留めようとしていたが、彼のゴブリンへの憎悪と顔に出さない秘めた思いを聞いて苦渋の決断として認めたようだ。残念ながら俺はその場に居合わせなかったので後日神殿でその様子を見ていた姉の同僚から上手く聞き出したのだが、その時の盛大な姉弟喧嘩を生で見たかったと切に思う。

 

そして、姉がゴブリン退治に行く弟に出した条件というのが

1つ 大きな怪我をしたら完治するまでゴブリン退治を休むこと

2つ ゴブリン退治を終えたら自分の下まで来て生存の報告をすること

3つ 冒険者としてやっていけなくなるような怪我をしたのなら、無理をせず辞めること

というものだった。本心から弟を心配する優しい姉の心使いなのだろうが、今の彼にとっては面倒な約束だったろう。しかし、俺からしたら正に願ってもいない条件を出してくれた。

 

何故なら俺のこの世界での目的は、前世で嵌っていたゴブリンスレイヤーの主人公である彼が幾多の困難を乗り越える様とその彼に惹かれていくヒロイン達をどうにか結婚させて、冒険者から夫にジョブチェンジさせてやりたいと思っていたからだ。その前世からの妄想が叶う可能性が出てきたのだから俺としては楽しみで仕方ない。原作と違い姉だけは助け出せたので彼も少し柔らかくなっているし、原作同様幼馴染の牛飼い娘の牧場で寝泊まりしている模様。時折彼の様子を見にギルドに行けばどう見ても彼にゾッコンとなっている受付嬢の様子も確認してある。今正に俺の幾百年かの妄執を叶える時が来たのだ!

 

 

 

 

ある日久しぶりに彼の様子を見に行くかと彼が所属するギルドに行った時の事だ。俺は顔が割れているので変装をしながら彼の様子を見るのだが、丁度彼がギルドに着いたようで依頼の確認をしている時に聞こえてきた陰口に俺の気分は最低へと叩き落された。

 

―小汚い装備。自分たちでももう少しましな装備をしている

―あれが自分たちと同じ銀等級か。雑魚狩専門でもなれるだ

―銀等級のくせにゴブリンしかやらない臆病ものだ

 

聞いていて腹が立ってくる。俺からすればお前たちの存在など取るに足らない塵芥程度でしかない。少し腕が立つ程度で一番被害を出すゴブリンを格下と見下し、初心者にやらせようとするお前たちの方がよほど意味のない存在だというのに・・・。

 

実入りが少ない?それはそうだ。依頼するのは国が確認することもできない小さな村なのだから金などない。面白くない?それはゴブリンという存在の本当の恐ろしさを知らない馬鹿が宣うことのできる言葉だ。有象無象のお前達が少しばかり大物を倒した所で、苦しんでいる村は救われない。ゴブリンへの復讐をしているだけの彼の方がよほど、冒険者として沢山の命を、人の笑顔を守っているというの・・・。本当意味のない肉塊どもだ・・・。

 

そんなゴミ共への不満を漏らしている内に彼が面白い話をしていた。受付嬢のゴブリンは何故村を襲うのかという質問に対して、彼の返答は完結だった。それを聞いて知らず知らず笑みが浮かぶのが分かる。彼は、俺が何もしなくともちゃんと原作通りゴブリンスレイヤーとなっている。俺がコイツぶっ飛んでるけど面白いな!と感じた主人公そのままだ。やはりこの世界は面白い。彼が受付嬢の逆鱗に触れて角を出させてしまっている様を上から覗いて人知れず笑みを深くする俺だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

最近パーティを組んでいる神官の娘と彼がゴブリン退治に向かったのちギルド内にいる冒険者もまばらとなった頃、俺はそれとなしに受付嬢に話しかけた

 

「銀等級の彼は今日もゴブリン退治ですか・・・」

 

「あ、貴方は?」

 

「そうですね・・・。彼のファンだとでも言っておきましょうか」

 

「へ、へぇ、そうですか(ゴブリンスレイヤーさんのファン?それだとしたら何故直接本人に言わないのかしら?)」

 

「ギルド内での彼の評判は余り芳しくないようですね。彼がゴブリンを退治することで近隣の村などは安心して暮らせているというのに・・・」

 

「!そうですよね!ゴブリンスレイヤーさんは、自分がどれほど人を助けているのかもっと客観的に見て受け止めるべきだと思うんですよ!」

 

「その通りです。汚れた装備はゴブリンを相手にするのに臭いを消すため。煌びやかな上物の装備を使わないのは万が一の可能性を考慮して。常に考え続け戦い続けることが出来るというのが、どれほど凄いのか彼も彼を批評した塵(ry。う、うん!同業者も理解すべきなんですがね」

 

「!(この人はゴブリンスレイヤーさんをちゃんと評価してるんだ!)あの、貴方は?ゴブリンスレイヤーさんのファンだと言ってましたが?」

 

「ええそうですよ。私は彼のファンです。彼の行く末がどうなるのか見届けたいと思っている偏屈な旅人ですよ。

 しかし、彼ももう20。そろそろ人生の伴侶を見つけてもよい頃でしょうに」

 

「人生の伴侶!?そ、それってつまり、あの、お、奥さんという事でしょうか?」

 

「ええ。冒険者はいつも命がけです。何時命を落としてしまうのか分かりません。そんな折に命を懸けて戦い続けた彼らが残せるものは何でしょう?武勲?平和?装備?いいえ違います。必死に生きて戦い続けた彼らの血を残すことが大切だと考えているのですよ。私は。

特にあちこちを旅していますと優秀な冒険者の血を残すことの大切さを痛感しますね」

 

「ああ!白金等級の冒険者さんの血を残すべきですもんね!」

 

「残念ながら、白金等級は血筋ではなく光の神の祝福を受けることが出来ればそこいらの村娘でもなることが出来るので余り意味は無いんですよ。本当に残すべきは銀等級、金等級と言った、人の中から己の力で駆け上げる冒険者の血ですよ」

 

「詳しいんですね・・・」

 

「ええ。何かと関わることも多いので。私としては、彼のような人としての強さを持つ冒険者の血が末代まで残ってほしいと思う所存です。

彼のお姉さんもそれを望むでしょうし」

 

「ええ!?ゴブリンスレイヤーさんにお姉さんがいらっしゃるのですか!?」

 

「はい、この町の神殿に入っていると聞き及んでますよ?彼もゴブリン退治を終えた後にはいつも報告をしに行っていると聞きました。一度お会いしてみては如何ですか?」

 

「わ、私がゴブリンスレイヤーさんのお姉さんと!?」

 

 

そう仰天した後顔を赤く染めながらぶつぶつ言っている受付嬢を放置して俺は帰途に着いた。脳裏には、彼と一緒にゴブリン退治に向かった神官娘が原作と同じだったことに神への感謝と、新しい火種をどうやってぶち込むか考えながら・・・

 




白金等級の冒険者が生まれる過程については真勝手ながらオリ設定とさせてもらいます


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2話

ゴブリンスレイヤーがエルフ、ドワーフ、リザードマンとパーティを組む前の僅かな幕間が舞台です

また、今回は3人称視点で物語が進んでいくので多少読み辛いかもしれません


後書きにて今話の解説があります
お手数ですが、一度目を通していただけるとありがたいです


感想にて作者自身直した方がよいと思う部分があるので書き直します



本のページを捲るように時間もまた進む。ゴブリンスレイヤーと女神官が幾度かのゴブリン退治を終えギルドに帰還した。彼らを待ち受ける新たなクエストとは・・・?

 

ゴブリンスレイヤーを名指しし3人の冒険者がギルドを訪れた。一目その顔を見れば釘づけになるであろう美貌を持つエルフ。恰幅のいい身体を持つドワーフ。3人組の中で一番特異な容姿をしながらも一番落ち着いているリザードマン。彼らは、己が種族の領主の命を受けゴブリン退治を行うべく、ゴブリンスレイヤーを勧誘しに来ていた。

 

その様子を誰にも気づかれることなくギルドの2階から見ているフードを目深に被った冒険者が一人。奇妙な一座の行く末を楽しみにしているかのように、僅かに見える口元は緩んでいた。そんな彼が、ゴブリンスレイヤーと組んでいた神官娘に、新人であろう2人組みが近づいていることに気付いたのは単なる偶然といえよう。2人組みは、神官娘に自分たちと組まないかと勧誘をしているが、その理由は何も知らないのであれば当然のことであった。要約すれば、銀等級であるのにゴブリン退治しかしないことを不審に思い新人を囮にしているのではないかと考え誘っている。本来ならば、この町一番の魔術師の女がやんわりと煙にまくが、それより先に傍観者が手を出した。

 

 

「少しいいかい?」

―そう静かだが確かな重みを持つ声が神官娘と2人組みの後ろから掛けられた

 

「な、なんだよあんた?」

―2人組みのうち前衛を担っているだろう男の方がそう答えた

 

「いや、先程から君達の発言を聞いていたが、少し釘を刺しておこうと思ってね。先ず、囮を使うような奴を冒険者ギルドが銀等級として認めることはないよ。更に言えば、そちらの神官は曲がりなりにもあの変なのと依頼を達成している。そんな彼女が否定しているんだ。間近で確認した訳ではない君たちが難癖つけるのはお門違いじゃないか?」

―ぐうの音も出ないような正論。しかし、声を掛けた手前このまま下がる訳にはいかないのか反論する2人組み

 

「た、確かにあんたの言う通りだけど!俺たちが話しかけたのは彼女なんだから俺たちの話に入ってくるなよ!」

「そうよ!彼女いつもあの変なのに連れられてゴブリン退治ばっかりやってるんだから、心配するのは当然でしょう!?」

―多少の下心はあるのだろうが、それでも純粋に神官娘のことを心配しての発言だったことに笑みを深くする男

 

「なるほど確かにその通りだ。だが、君たちはゴブリン程度と思っているな?その認識は少し変えた方がいいぞ?」

―穏やかに2人組に注意するが、逆に勘に障ったのか声を荒げる2人組み

 

「まだやったことないが、ゴブリンなんて村の力自慢でも倒せる雑魚だろ!装備さえ用意できれば直ぐにでも殺してやるよ!」

―思った通りの答えが返ってきたことに男はため息を一つ吐いてその考えを是正する

 

「その甘い考えは捨てた方がいい。質問を変えよう。仮に敵対しているのが田舎者や術師だったとしたらどう対処する?」

―男が問いかける

 

「仮にそんなのが居たとしてもどうせゴブリンでしょ?奇跡の一発で終わりよ!」

―連れに触発されたのか強気に言いはる神官であろう女

 

「やはり考えが甘い。だが、未来ある若者をむざむざ死なせないために一つ教えておこうか。いいかい?君達が知っているゴブリンなど、群れから追い出された只の雑魚でしかない。そんな奴は痩せ細り、村から家畜を奪うなどしてどうにか命を繋いでいる状態だ。家畜に手を出される可能性はあっても直接人命に関わる事態にはなりにくい。

だが、そんなものでもモンスターを倒したと思いこんでしまう奴はいる」

―君達はどうかな?そう告げる男の質問「似たようなものです・・・」と片割れの少女が応える

 

「意気揚々と冒険者になり、たかがゴブリンと見下し慢心する。そしてゴブリン如き見逃しても問題ないと考え子供だけは見逃してやろうなどと宣う「お優しい莫迦」が出てきてしまうの一種当たり前なのかもしれないね。

だが、この世界で一番人に被害を与えているのがゴブリンなんだよ。奴らは腐ってもモンスター、莫迦であっても間抜けではないよ」

―鼠や虫との違いは何かわかるかい?とまたもや質問をしてくる男

 

え?うーん・・・なんだ?

―いきなりの質問だが、答えを出そうとする少年

 

「正解は、考えて動いているということだよ。一般にゴブリンは人間の子どもと同じくらいのことしか考えらないと言われている。だが、逆に考えてみれば、子どもが出来ること、出来るようになることはゴブリンも出来るということだ。

誰しも子供の頃にあった嫌な出来事はいつまでも覚えているだろう?ゴブリンも同じように恨みを永遠に忘れることはない。まぁ、これはモンスター全般に言えることだが、人間よりも執念深い。見逃して後で報復されて殺されるということがないようにちゃんと息の根は止める。これを徹底すべきだね」

―2人組みに言い含めるように言う男

 

「そ、そうだな。不意打ちで死にたくないし・・・」

「虫なんかは、死んだと思っても足が動いていることもあるもんね・・・」

―思い当たる節があるのか若干青ざめる2人組み

 

「話をゴブリンに戻そう。経験を重ね生き延びたゴブリンは「渡り」と呼ばれる存在になり成長していく。奴らは成長と共に力が増していき。、術が使えるようになればそれを使い恨みを晴らす。「渡り」は巣穴の長や用心棒となり、近くにある村から家畜を奪い女子供をさらい喰らい、犯し、数を増やしていく。

慢心と傲慢からくる甘さは君たちだけじゃなく、近隣の村や集落も危険に陥れてしまうことあるんだよ」

 

教師が生徒に教えるかのように丁寧に説明していく男。たかがゴブリンと見ていた周囲の冒険者も一人また一人と耳を貸していく。

 

「ゴブリンスレイヤーがやっているゴブリン退治はこの世界に大きな変化を与えるものではない。だが、彼がゴブリン退治の依頼を受けることで本来助かること叶わない小さな村の小さな命を救われているということもちゃんと理解すべきだと俺は思う。

だからと言ってゴブリン退治だけするというのはそれはそれで問題だろうがね。」

―苦笑しながらも確かにゴブリンスレイヤーに対して尊敬を抱いている様子が見受けられた

 

「勿論、自らの等級にあった依頼、振る舞いをすることは大切だ。依頼をしに来たものが、彼の様子を見れば銀等級は全員あんなのかと勘違いを起こしてしまうかもしれない。それでは本末転倒だからね。でも、確かに銀等級となったからには彼にも等級に相応しい評価がされたということさ」

―先程より落ち着いた2人組みが最後に訪ねてきた

 

「なぁ。アンタはどこでそんなことを知ったんだ?ゴブリンスレイヤーに関してやけに詳しいし・・・」

 

「ん?あぁ、彼に関して詳しいのは調べたからさ。私の村も彼に助けてもらったんだよ。だが、再興するにはどうしても金が必要だからまだ動ける私が冒険者となった次第さ。いざギルドに登録しようとした時に偶々彼が目に入ってね。これも何かの縁かと思って依頼を果たし行った先でいろいろ聞き込んださ

ゴブリンの知識に関しては、彼にゴブリン退治の助っ人を頼んだ際に教えて貰ったんだ」

―そう笑いながら、長話に付き合わせて申し訳ないと男は去っていった。

 

男の話を聞き終えた後、女魔術師が神官娘を連れて離れた。他の冒険者も同じように散らばっていたが、ある一人の冒険者が溢した一言がその場に残ったのであった

 

―あれって史上最高齢で冒険者になって銀等級まで上り詰めた、噂に聞く銀の教育者じゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

これにより何かが変わるということはない。だが、確かにゴブリンスレイヤーと共にあるく小さな神官娘の覚悟が本来の物語よりも強くなったこと。そして、ギルド内でゴブリンスレイヤーがやっていることの凄さが僅かばかり伝わった程度の変化はあった・・・。

 




傍観者にちょっとゴブリンスレイヤー贔屓させ過ぎたかと迷っております。意見などがあれば聞きたいです。

ここまでオリ主しか出てないようですが、次話からゴブスレ君と多少話すようになりますよ

3人称は難しいですね



読者の方から質問があり、その質問の内容から今回のお話しにて混乱を招いてしまう可能性があることが分かりました。故に後書きにて少しばかりの解説をさせて頂きます。

オリ主の目的はゴブスレ君を人生の墓場にぶち込むことです。
しかし、ゴブスレ世界に転生された際の役割は世界の存続です。

白金等級として活動することがほとんどですが、時としてそれより下の位階の冒険者として活動することが必要な場合が出てきます。そんな折にオリ主は、自分の能力を使い全く別の人間として振る舞う場合があります。

例としては、悪魔やドラゴンよりは弱いがそれでも位階4位以下だと手に負えないモンスターが大量発生した場合等に手が足りないからと白金等級を送り込み問題を解決してしまうと、本来世界の未来を決める戦いをすることを望まれている白金等級を様々な場面で送り込めると思われてしまう可能性があります。そんな時に銀等級として振る舞い、他の同業者と共にモンスターを倒すといった具合です。

何が言いたいのかと言えば、オリ主は白金等級として世間に広まっている顔以外に様々な位階、職業の人間としての顔を持っています。


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3話

また1人称に戻ります

時系列はオーガを倒した後の何気ない日常


世にも珍しいパーティの結成から半月。ゴブリン退治の成否の確認の為にギルドに向かってみれば、珍しいものを見ることが出来た。普段は薄汚れた鎧で全身を覆っているゴブリンスレイヤーがなんと軽装でギルドへと来ていたのだ。思わず2度見した俺は悪くないと思う。幼馴染の牛飼い娘と別れた彼は、その足で冒険者の装備を揃える工房に向かうのかと思ったが、その逆方向にある神殿へと向かっていった。恐らく姉への報告をするのだろうが、普段鎧を着込んでいる奴が軽装な場合十中八九装備が大破するような大怪我をしたと考える。そんな状況であの過保護な姉に報告するのだ、絶対に面白いことになる!

 

案の定俺の予想は当たっていた。何度も言うが、彼は神殿に向かう際も鎧を着込んでいるので余り良く思われないが、鎧を着ていなければ誰だか分かって貰えなかった。その時点で俺の腹筋は痙攣を始めているのだが、弟が装備を脱いで神殿に来ていると知った彼の姉が血相を変えて走ってきていた。彼が報告をする前にいきなり拳骨を落として、何があったのか全て話せと威圧感たっぷりに迫るさまは、傍観している俺でも多少冷や汗が出てきた。彼が拳骨のダメージから抜け出せず途切れ途切れに報告を進めれば、顔色を青くしたり、赤くしたりの一人百面相を始め最後にはどうしてそんな無茶をしたのかと、震える声で静かに怒っていた。これには彼も焦ったらしく、どうしてもやる必要があったことや切り札を用意していたことを説明したが、逆に切り札があるなら直ぐに使えと怒られていた。最後は無事に帰ってきてくれて嬉しいと抱きしめていたが・・・。よく考えて欲しい。2人は姉弟であるが、いる場所は神殿で若い娘が修行を積む場所だ。そして10~20代の娘が一番好きなものは恋愛話と相場が決まっている。つまり、弟を抱きしめている姉だが、普段その弟は鎧を着ているため他の娘から見れば自分たちの同僚が見知らぬ男を抱きしめているように見える訳だ。これで盛り上がらない訳がない!更に彼もいきなり抱きしめられると思っていなかったのか、普段表情が分からないのに赤面しながら姉に離すように懇願する始末。俺の腹筋は大崩壊を迎えた。

 

あまりに笑いすぎて呼吸が止まりかけたが、そこは腐ってもチート転生者の俺だ。彼が何故かやつれた顔をしながら工房に向かったのを見届け、彼の姉に挨拶だけでもしようと思い話しかけた。先に言っておけば彼の姉は俺の存在を知っている。なんでも神殿に入ったときにお告げを受けて知ったそうだ。が、俺の目的自体は知っておらずあくまで自分たちを助けた存在が誰でどんな奴なのかをぼんやり理解している程度だという。話がそれた。俺が話しかけたら何故弟があんなになるまで傍観していたのかとすごい剣幕で言及されたが、白金等級の冒険者が銀等級の冒険者一人を贔屓にするわけにはいかないと伝える渋々引き下がった。その後は彼女の弟自慢と早く冒険者を引退して子どもを抱かせて欲しい等と言った望みを語られたのでうっかりおばあちゃんかと呟いてしまった。・・・その後の事は言いたくないが、一言いうなら白金等級だって痛いものは痛いのだ。

 

その後は、取り立てて何かがあった訳ではない。彼と同じ銀等級の槍使いが彼の素顔を知らずに気安く話しかけてるのを見てニヤニヤし。彼と冒険を共にしていた神官娘が位階が上がったことを彼に嬉しそうに報告している様子を眺めていたら犬の耳と尻尾を幻視してニヤニヤし。オーガを倒したパーティに仲間と話しているのを見ながら彼も成長したんだなと感慨深く思っていたら、エルフになにやらフラグが立っていそうなのを見てニヤニヤした。俺なんかずっとニヤニヤしている気持ち悪い奴になりつつあるが、今度は受付嬢から熟練の冒険者が新人を指導しているのを聞いて感慨深そうに見つめている内に受付嬢から軽い脅しを込めた注意を受けて焦る彼をみてニヤニヤした。

 

全く今日1日でどれだけ俺のコイツ面白いゲージを満たしてくれるのやら・・・

 まぁ、最後に一つだけ火種を放り込んで撤退するとしよう

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「誰だ!」

―辺りを警戒しながら鋭く尋ねるのは、先程まで幼馴染の牛飼い娘と会話をしていた彼だ

 

「いや、悪い悪い。あの子には聞かれたくないから気配を消していたんだが、逆に警戒を強めてしまったか?まぁなんであれすまないな」

 

「いや、敵意が無いことは分かった。それで貴様は一体・・・!?アンタは!?」

 

「おー。あの時以来会っていなかったのに覚えていてくれるとは嬉しいね。少年?」

 

「アンタはあの時の!?しかし、あの時から年を取ったようには見えない。一体どういう絡繰りだ?」

 

「そこは気にしなくてもいいところ。俺は君と軽く話をしたいだけさ」

 

「・・・。(敵意はないが信用する訳にはいかない。しかし・・・)いいだろう。ただし、手短に頼む」

 

「ありがとよ。話つってもそこまで沢山ある訳じゃない。君がゴブリン退治しかしないことに口を出す気もない。ただ、俺が気になっているのは、俺を怨んじゃいないのか?ってことさ」

 

「?何故俺がアンタを怨んでいると?」

 

「・・・難しい話じゃない。あの時俺は君と君の姉以外を助けられなかったからな。

もう気付いているだろ?俺がどういう存在か」

 

「あぁ・・・。アンタはギルドの位階1位である白金等級の冒険者。その頂点に君臨している<生きる伝説>だろ?」

 

「御明察。ま、だからと言って何か変わるって訳じゃないが、あの時何故もっと早く来てくれなかったのか、とかあの幼馴染の両親を助けてくれなかったのか、といった具合に糾弾されても不思議じゃないからな」

 

「・・・あれは仕方のないことだった。いきなりゴブリンが襲ってくるなど当時の俺たちには考えもつかないことだったからな」

 

「それでもだ。俺が何を成し遂げてきたか位知ってるなら理不尽に怒ってきても仕方ないと思うのは普通だろ?」

 

「・・・何度も言うが、あれは仕方のないことだ。仮にアンタがもっと早く助けに来てくれても村は無くなっていただろう。今さらどうしようもないことだ。

逆に俺から尋ねるが、何故今になって俺の前に現れた?」

 

「・・・、只の気紛れさ。」

 

「そうか・・・」

―辺りに夜特有の寒さを含んだ静けさが満ちる

 

「あ!あともう一つ気になってることがあるんだが、聞いていいか?」

 

「構わん」

 

「それじゃ遠慮なく。君は、あの幼馴染のことをどう思っているんだ?」

 

「?大切な存在だが?」

 

「あーいや、そうじゃなくて異性としてどう思っているのか聞きたいんだよ。君の周りには、親身になってくれる受付嬢だったり、一緒に依頼をこなす神官娘だったり、また冒険を一緒にすることを約束したあのエルフだったりと異性が多いだろ?そんな中で君は彼女たちのことをどう思っているのかと思ってね」

 

「・・・よくわからんな。誰も大切であることに変わりはないが」

 

「なら質問を変えよう。もし今挙げた娘たちがゴブリンに犯されそうになったらどうする」

―明確に彼の周りの空気が変わった

 

「殺す。生まれてきたことを後悔するように無残に殺す!」

 

「ほら、分からないと言っておきながら、そうやって感情が表に出てくる分君は彼女たちの事を気にかけているんだよ」

 

「そう・・なのか?」

 

「ああ。人生の先輩が言うんだ間違いない。ただ、俺が言いたいのは、人は一人までしかちゃんと向き合って愛せない存在だ。君がどのような選択を取るのかまだ分からないが、今の言葉を心のどこかに置いておいてくれ。」

 

「そもそも、俺に懸想するようなもの好きがいるとは思えんが・・・」

 

「そうかもな。まぁ、今は置いておこう。長話に付き合わせて悪かった」

 

「いや、大丈夫だ。」

 

「君は明日も早そうだからなもう休むといい。俺ももう帰るしな。

 ・・・これはなんでもない助言の一つだが、もし困ったことがあるのなら自分の心境を残さず吐き出して、助けを求めるといい。案外救いの手というのはどこにあるか分からないものだからな」

 

「ふむ、覚えておこう」

 

「じゃーな少年君、いや、ゴブスレ君」

―そう言い放った後その場から一瞬で消える白金等級であった。

 

「・・・なぜ、奴は俺のことをそこまで詳しく知っているんだ?」

―疑問が残るゴブリンスレイヤーを残してこのお話はお終い

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

―もし君が彼を失いたくないと思っているなら、君の心の中で燻っているもの全てを彼にぶつけるといい。それで何かが変わるという保証はないが、何も変わらないという事は絶対にない。自分の心に正直になれ

 

どこか別の場所で助言を貰う娘がいたことは、誰も知らない・・・

 




ゴブリンスレイヤーは神々に賽子を振らせない
だが、それは彼が冒険をするときの話だ。
彼の行く末がどうなるかの賽子は既に振られようとしている


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4話

ここから投稿時にはアニメでやっていない部分の話になってくるので、ネタバレ注意が必要となります

1巻最後の戦闘後~水の町の討伐後のお話です

今回は時系列が飛び飛びな上に、オリ主の1人称とセリフパートとがごっちゃになっているので、また読み辛いかもしれませんが、お許しください


彼がギルドの同僚に助力を願い、あの牛飼い娘のいる牧場を守った。という話を聞いたのは、事件から数日が経ってからだった。俺としては、その光景を実際に見たかったのだが、同時期に現れた魔神王の軍勢を殲滅するために招集されていて向かうことができなったのだ。全く、あの程度の雑魚ごときの為に俺の楽しみを奪うとは許せない。俺抜きでも対処が出来るように新たに白金等級の小娘を作ったというのに、件の小娘と仲間たちは別件で動いていたという。これには、流石に腹がったのでお灸を据えておいた。

・・・俺が彼に対して働きかけてやる要件もほとんど無くなってきている。俺の目的を果たすために俺がなんにでも介入していたのでは、意味がない。あくまで決めるのは彼であり、彼の心を射止めるのが誰であろうといいのだ。彼が人生の墓場にぶち込まれて四苦八苦する様を見れれば俺は満足なのだから!

 

それでも様子だけは見に行こうと思いギルドに行ってみれば、彼の人徳を見込んで昇級審査の立会人を頼まれていた。彼は自分が選ばれたことに疑問を持っていたが、受付嬢の飾ることない称賛を受けたからか立会人を引き受けることにしたようだ。俺としても彼にはゴブリン退治だけでなく、こういった銀等級の冒険者が任されることのある仕事をこなしてもらいたいと思う。結婚した暁には、自分一人の命で好き勝手に動くことなどできなくなるのだから、もう少し落ち着きを覚えて欲しいと思っている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(ん?あれは確か・・・。ゴブスレ君を暗殺しようとして返り討ちに遭うレーアか・・・。見るからに憤慨しているようだが、俺の目的が崩れる可能性もある。ここで始末しておくか?)いや、あいつには原作通り咬ませになってもらおう。その方があの受付嬢との距離が縮まる。万が一暗殺が成功しようものなら俺が妨害すればいいだけだ。

 だから、まだ生かしておいてあげるよ。咬ませ君?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんなやりとりがあった数日後。彼の下に水の町の大司教、つまり剣の乙女から依頼が来た。

原作でもいろいろなフラグが立つ所だけに是非とも直に見学したいところではあるが、剣の乙女に俺は顔が割れているし、なにより奴は俺の変装を見破ることができる。近くで見るとも叶わず、使い魔越しでも気付かれる可能性があるから今回に至っては完全に結果を知ることだけに重きを置くとするか。原作通りならあの腹黒乙女さんは彼に惚れるだろう。彼の一行が町を離れた時に確認するとして、俺は彼らの冒険がいきなり頓挫することのないように、魔神の手先を先んじて始末することにしよう。丁度、あの新人白金等級も向かっていると聞いたから一緒に灸もすえるとするか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「やあやあそこまでだ!ってボク一遍言ってみたかったんだよね!」

―地下に潜み生贄を用いて計画を進めていた魔神の手先にそう声高に告げたのは、最近白金等級として認めれた少女。その脇には仲間である同じ白金等級が2人いる。彼女らの出現に対して、憤る手先であるが、コイツのそして彼女たちにとっての絶望が直ぐに現れた。

 

「声高に自分の存在を告げる前にこの程度の塵芥直ぐに片付けろ。この場所を見つけ出すために俺を刈り出させたというのに今さらのこのこと黒幕に対峙している時点で自らの無能さに気づけ」

―不機嫌。正にその一言が当てはなる声色がどこからか聞こえてくる。声だけなの押しつぶされるような錯覚に陥る声の持ち主など一人しかいない

 

「っ!この声は!?先輩!?」

―かろうじて声を出せたのは先程意気揚々と現れた少女。他の2人は身が竦んでしまったのか声を出すことができない。

 

「何時聞いてもきゃんきゃんと煩いやつだ。お前達は此奴を見つけるまで何をやっていた?」

 

「!僕らだってこいつを探すためにあちこち行ってたんd」

 

「黙れ。ならば何故お前達より後にこいつを探し始めた俺に追いつかれる?貴様らは白金等級ということに満足して弛んでいるんじゃないか?」

―あまりにも一方的な発言に対して反感を覚える一同だが、目の前にいる男がどういう存在なのかを思い出し堪える。最も堪えることのできない間抜けがここに1匹いるのだが・・・

 

「ごちゃごちゃと何を言っている!魔神様の仇ここで執らせてもr(ry」

―全て言い切る前に魔神の手先は細切れにされていた。少女達が動いた素振りなどなかったため、成したのは誰か一目瞭然だが、男の方もまた動いた様子などなかった。だが、男の周りには確かに変化があった

 

「それが、スサノオというものですか・・・」

―先程から一言も喋らなかったフードを被った少女がポツリと溢す

 

「この程度の奴に使うまでもないが、不愉快な上に煩わしかったのでな。それよりもお前たちは自分の身の心配をした方がいいんじゃないか?

 不愉快な思いをさせられたのはお前達からでもあるんだ。丁度ここに人はいない。先輩に仕事を押し付けて成果を出せなかった後輩に教育的指導といくか」

―その発言を聞いて竦みあがる3人組。ありていに言えばこれから行われるのは、自分たちが全員で戦っても返り討ちにされるような相手からの八つ当たりなのだから・・・

 

「魔神の軍団よりもあなたの方がよほど悪魔ですよ・・・」

―鎧を身に纏った女が絞り出すかのように一言告げた後、戦闘は始まった。

  いや、戦闘と言うには余りにも一方的な蹂躙であった・・・

 

―後日王都へ白金等級の3人組が帰還したが、全員怪我をしており、震えていたという・・・

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ふむ。八つ当たりを終えて幾分か不機嫌を直した俺が向かったのは、あの見た目は淑女腹の中は真っ黒と魔神の手先に評された剣の乙女の下だった。ただ単に彼に対する評価を聞きに行っただけのつもりが大収穫だ。あの魔神を討ち果たしたという伝説の元冒険者が恋い焦がれる町娘のような貌をしているじゃないか。これは、下手にちょっかいを掛けるより火種を放り込んだほうが得策判断した俺の行動は素早かった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おーおー。剣の乙女ともあろう存在が珍しい表情をしているじゃないか」

 

「あなたは・・・。いくら白金等級の冒険者といえど、いきなり淑女の後ろを取るのはいかがなものかと思いますが?」

 

「冗談はよせ。どこに淑女がいるっているんだ?」

 

「あら?貴女の目の前に居りますでしょう?目の見えないわたくしより目が悪いのかしら?」

 

「抜かせ。まぁ、お前と口喧嘩をするためにここの赴いた訳じゃない。お前が依頼を出した冒険者が依頼を達成できたのか確認しに来ただけだ。」

 

「そうでしたか。ならばわたくしが認めましょう。あの方々は見事わたくしの依頼を達成してくれたと」

―そう言い切る剣の乙女の顔は晴れがましかった

 

「お前がそんな貌をするなんて珍しいな。なんだ?あの一行の誰かにでも惚れたか?」

―分かり切った質問をして動揺をさそう

 

「ぇ?あ、いえ、そうではなく。あの、えっと・・・」

―しどろもどろになりながら否定するが徐々に顔が赤くなっていく

 

「確かお前の依頼はゴブリンの退治・・・。あぁそうか。辺境の町にいるというあの何と言ったか?ゴブリンスレイヤーだったかに惚れたか?」

 

「!!・・・っ。」

―顔を真っ赤にしながら小さく頷く剣の乙女

 

「図星か・・・。だが、それなら尚の事茨の道だな」

 

「それはどういう?」

 

「なんでもあの変人の周囲には意外にも彼に好意を向ける女が多いと聞いてな。近場で水面下の闘争をしているのに、こんな離れた町での遠距離恋愛は流石に形勢不利だと思っただけだ」

 

「っ!それは・・・困りましたわね・・・」

―意気消沈していく

 

「まぁ、手が無い訳じゃない。またこの町にゴブリンが出たら依頼を頼めばいいし、お前の人脈を活かしてゴブリンに困っている者を見つけ、お前が彼に依頼の手紙を出したりすればいいんじゃないか?己の感情も載せて送ってやれば鈍感だとしても、多少意識するだろうよ」

 

「それはいいアイデアですね!しかし、なぜ貴方がわたくしにそこまで助言をくださるのかしら?」

 

「何、昔のよしみだ。このままだとお前結婚出来なさそうだから。年長者のお節介とでも思っておけ」

―そう告げると用は済んだのだろう。剣の乙女に背を向けて出口へと歩いて行った

 

「相変わらず口の悪い人ですね。わたくしだって結婚したいですよ!

相手だって見つけましたし。しかし、敵は多い模様・・・。彼の助言は大いに役立たせてもらいましょう」

―人知れず決意する剣の乙女であった。

 

 

 

 

傍観者が手を出せることは多くない。あと少しで役目は終わる。その際傍観者が見るのはどのような結末か。いまは誰も分からない

 




本日は多分この1話で終わりかな?

プロローグから続いてきたオリ主のちょっかいもあと1回で終わりを迎えます。
それからどういった結末を辿るかは作者にもわかりませんw


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5話

3巻終わりの一幕です


暑い夏が過ぎた。肌を焼くような強い日差しとうだるような熱気。えてして、過ごし辛い季節と言える夏が過ぎた後に何が待っているか。忌々しい暑さからの解放。むわっとする不快感を増す湿気からの解放。吹き抜ける風は暑さのことなど忘れてしまったかのように涼しく、ともすれば肌寒さすら感じさせる。そう秋の到来で合った。

一般に秋と聞いて先ず最初に思い浮かべるのは、農作持の収穫の時期というのがこの世界の常識である。寒い冬を乗り越え、過ごしやすい春に新しいタネを蒔き、暑さに耐えながら夏に農作物を育てる。そして1年かかりで苦労を積んだ結果を秋に収穫する。普段は貧しい村でもこの季節位は少しの贅沢を甘受するであろう。そして、人にとって最も喜ばしい季節に行われる行事と言えば一つしかない。そう、豊穣を祝っての祭りである。

 

通常ならば冒険者と行商人が大半を占めている町でも、祭りがあるとあっては普段村や集落に引きこもりがちな人々も意気揚々と町に出てくる。年に数回あるかないか、更に言えばゴブリンやモンスターの襲撃に怯える日々を送っているのだ。こんな時くらい楽しんでも罰は当たらないだろう。

事実、ギルドも開いてはいるが、常と比べれば訪れる冒険者の数は圧倒的に少ない。誰だって冒険よりも祭りを優先して楽しむのは当たり前だ。せっかくの祝いの日に冒険に出掛けるのは、遊ぶ金どころか明日が危ない者か、よほどの偏屈だろう。それだけ祭りというものを楽しみにしている人が多いということだ。毎日ギルドに顔を出して「ゴブリンだ」と言うギルドの名物?珍品?と言われている「辺境最優」の冒険者でさえ午前と午後にそれぞれ別の女性と町を歩いている。それが意味することを分からない奴はいないだろう。最も、連れ歩いている女性が容姿が整いスタイルがいいとあれば多少のやっかみは仕方ないと言えよう。片や近くにある牧場の娘。意外と彼女のファンだという冒険者も少なくはないうえに、もう片方はギルドの顔といっても差し支えない笑顔を絶やさない受付嬢。彼女に心ときめかせている野郎も多いことだろう。・・・一緒に歩いている男がともすれば「生ける鎧(リビングメイル)」に見えなくはないという事が珍妙ではあるが・・・。

 

 

しかし、こういった祝い事の中に悪意とは潜むものである。例えば、原因は己にあるというのにそれを認めずその事実を突きつけてきた存在に逆恨みを持つ者がいたとする。そいつの身分は冒険者であるが、信用はなく転属させられていたとしてもそれを一発で見抜くことが出来る者の方が少ないというものだ。そして、そんな存在こそ簡単に悪に墜ちると相場は決まっている・・・

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

突然の襲撃に対し冷静に対処をすることが出来たのは、彼が常日頃不意打ちや悪知恵を働かせてこちらに襲い掛かってくる世界で一番弱い。だが、舐めて掛かれば容易く命をおとしてしまうゴブリンと戦い続けてきたからであった。そも、襲撃の予兆は有ったのだ。彼が対策を怠るはずなどない。何故なら、対策を考え用意することは己の存命に繋がる、そして彼の目的はゴブリンを殺すことなのだから死ぬ訳にはいかない。故に突然の襲撃に対して敵の攻撃は通らずとも確実に息の根を止めるために彼が選択したのは不意打ち。敵を殺すということに対しては効果的だが、仮に連れが居たとすれば、その連れが勘違いしてしまう可能性があることは明白だった。そして、今回は見事に起こしてしまった。

 

「ヒック、グス・・・。死んじゃったのかと、思ったんですよ・・・!?」

 

「む・・・・。すまん」

 

「謝る、くらいなら、グス、しないでください・・・!」

 

「・・・・善処しよう」

 

 

 

突然の襲撃と一連の終息。未だ泣き止まない彼女に対し彼が出来ることはない。ただ真摯に謝罪をするだけだった。そして、そんな状況のままいる訳にはいかない。祭りの夜に襲撃された。それがただの逆恨みで殴り掛かるなどであれば酒に酔ったのかと思うこともできる。が、襲撃者は明確にこちらを殺すために武器に毒を塗り、変装をまでしている。彼への復讐だけが目的じゃないことは一目瞭然である。そして、この場にいる2人は片や冒険者。片やギルドの受付である。故に双方己の成すべきことを見誤ることなどしない。

腰が抜けているため上手く立ち上がれない彼女が近くにある卓に捕まりながらも、ふらふらと立ち上がるのを見届け、後始末を依頼し彼は駈ける。この町を襲うであろう脅威を退けるために

しかし、その様子を心配そうに見送る彼女は気が気でないだろう。その眼には確かに不安が宿っている。だが、同時に彼に対する信頼も見て取れる。相反する感情だが、それを持つということは相手を大切に思っている証拠。

 

この一件から彼の周りの女性が彼を狙う狩人となるのは時間の問題であった・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

闇人の脅威から町を守った彼が後始末を終えて寝泊まりしている牧場に着いたのは祭りが終わった翌日のことだった。幼馴染にした約束の時間を過ぎてしまったことをチクチクと責められたが、反論することもできず、遅めの朝食を取った後眠りについた。目が覚めれば夜の帳は下りきっていて辺りは月の明るさあるものの静寂が一面を支配していた。そんな中で幼馴染に膝枕してもらいながら耳掃除を受けていた彼がことも終わり、家に戻る彼女を見届けた後、またも声が掛けられた。

 

 

 

 

「闇人の計画を潰したんだって?君の活躍は下手な武勇伝よりもよほど勇者している」

―気配もなく牧場の柵に腰かけ話しかけてくる男。以前とちがうのは驚いたりせず反応したことか

 

「力もある。手札も多かった。しかしゴブリン共のほうが面倒だった」

 

「そうかい。君も変わっているね。

そうそう。聞いたよ?祭りに日に襲撃されたんだって?大丈夫だったか?」

 

「不意の襲撃はゴブリンで慣れている。明確に俺を敵視していた。それで対処できないということはない」

 

「なら良かった。君が同業者?の襲撃で命を落としたとあっては君の姉にどう報告すればいいか分からないからね」

―何がおかしいのか笑みを浮かべながら言う男

 

「今回は何の用だ?」

―秋の夜は冷える。そろそろ体を休めるために寝たいゴブリンスレイヤーとしては、会話を早く終わらせるために目的を尋ねた

 

「少しばかり忠告をね」

―男の雰囲気が変わる

 

「君は自分の命にどれだけの価値があると思う?」

 

「・・・・・?」

―質問の意図を理解しかねるゴブリンスレイヤー

 

「少なくとも君が死んでしまったかもしれないと泣きながら告げた女がいる。君のゴブリン退治で命を救われた少女がいる。君の活躍で心が救われた淑女・・・?淑女かあれ?まぁいい便宜上淑女としておこう。君に興味を持っているエルフがいる。君の事を常に心配している姉がいる。そして、君の帰る場所になろうと背伸びを続けている女の子がいる。これだけで君の命は自分だけでなく5人の女に対して意味を持つ。

それだけじゃない。君がいなくなれば助からない人がたくさんいる」

 

「何がいいたい?」

―多少の苛立ちを含んだ声で問う

 

「もう少し周りを見ろと言いたいんだ。いつまでも君の周りにいる人が生きているとは限らない。結婚や冒険で命を落とすこともあるだろう。そんな時君はどうする?いつものようにゴブリンを退治するのか?それを・・・独りではなく仲間と冒険をすることを経験した君は耐えられるか?」

 

「それは・・・」

 

「無理だ。断言するよ。君はもう一時1人で冒険をすることはあっても、独りに戻ることなどできない。何故なら、確かな温かさというものを君は知ってしまったからね。

 人は孤独には耐えられない・・・」

 

「なら・・・!どうすればいい・・・!」

―言葉にできない苦しみを込めてぶつけてくる

 

「簡単だ。もっと周りの存在に対して関心を持て。感情を解放しろ。内に眠る思いを言葉にしてぶつけろ!

・・・君が10年前の一件から感情が外に出にくくなっているのは分かっているつもりだ。だが、君の感情は死んでなどいない」

 

「・・・・・・どうして言い切れる?」

 

「感情が死んでいたら、もうとっくの昔に君は死んでるよ。君が死にかけた時に息を吹きかえしたのは彼女たちのことを思い出したからだろ?ゴブリンにここが襲われそうになったとき、同僚に助けを求めたのは幼馴染を守りたかったからだろ?」

 

「・・・」

―もはや言葉を返せないゴブリンスレイヤー

 

「しっかり考えなよ?君のこれからを。そして、彼女たちとのこれからを。時間はあるようでないものだ。知らない内に結婚話が持ち込まれて、冒険から帰ってきたらどこかに嫁いでいたっていうのもあり得ない話じゃない。そんな時に後悔しても遅いんだ。君のこれからにちゃんと君自身が答えを出しなさい」

―最後の言葉だけは父親が息子に掛けるもののように暖かかった

 

ゴブリンスレイヤーは何も言葉を返さなかったがしっかりと頷いた。

それを返事だと考えたのか男もまた夜の闇に消えるように姿をくらました

 

 

 

 

 

 

 

賽は投げられた。傍観者として彼にちょっかいを掛けることはもうない。やるべきことは全て果たした。憂はなく、されど彼のこれからに対しての興味は沢山だ。しかし、彼がどんな答えを出しても口を出すことはない。何故なら、未来のことに関して答えを出せるのはいつだって己自身なのだから。

 




今までで一番文字数が多かった・・・



これにてオリ主のこの小説での役目は終わりました。

いよいよ、結婚エンドと行きたいのですが、少し悩んでいることがあります。
それは、この話の次にゴブスレ君の内心を纏めるかについてです。

主な理由としては、原作とどのくらい違いが出ているか分かりやすくした方がいいかと考えたからです。


故に少し充電タイムに突入するので数日更新が止まると思いますが、お待ち頂けたら幸いです。

なお、個別ルートに関しては、牛飼い娘、受付嬢、剣の乙女に関しては大体案が纏まっています。

だが、エルフに神官娘!君たちの扱いに困っているんだよ!特に神官娘さん?君のルートまさかに鬱展開入りそうで内心戦々恐々としている!

あと、個別ルートの書き始めと書き終わりは誰にしようか決めていますが、他に4人は未だ順番を決めていないので、更新が長期間停まったしまう場合、展開に躓いたと思ってくださいw


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幕間 前編 はじまりとこれまで

お待たせしました。
結局ゴブスレ君視点でどのように変化しているかを書くという結論になり書き記した次第です。
ですが、予想外に長くなってしまったので前後編に分けました。
また、今までの倍近い文字数となったので読みにくかったらすいません


「子鬼を殺す者」。そう呼ばれるようになったのいつだったか・・・。自分では思い出すことも出来ない。とにかくゴブリンを殺して殺して殺し続けてきた。とにかくゴブリンが憎かった。己の中に残っている故郷の記憶は曖昧で、共に過ごしていた村人の顔ももう思いだせない。皆で遊んだ場所も朧気で、過去を思い出すために村のあった場所に赴いてもそこは雑草が生え辛うじて昔人が住んでいたと分かる痕跡が残る程度。正しく俺の故郷は無くなってしまった。故に、その原因となったゴブリンを許すことなどできない。奴らは一匹残らず皆殺しにする。

 

 

 

10年前、俺の故郷はゴブリンの襲撃を受けた。村の力自慢が幾度かゴブリンを追い返すことはできても、集団で奪いにくる奴らに対して力自慢がいるだけの村は無力だ。最初に奴らに向かっていった大人は、数の暴力の前に殺された。村を守る者がいなくなれば、残るのは奴らによる略奪のみ。そして、奴らの略奪するものの中には、村にいる女が含まれる。奴らは女を自分たちの数を増やすための「孕み袋」にし、それで飽き足らず欲求を満たすための慰み物にする。村には自分と同年代の女子や大人の女性もいる。その人たちは一人の例外もなく奴らに蹂躙された。その場で犯されるもの。気に入らないのか殺されるもの。俺はそんな光景を隠れながら見続けることしか出来なかった。

 

俺には、たった一人の家族であり優秀な姉がいる。村で一番勉強も出来たし、まだ成人していないのにも関わらず俺の面倒を見てくれた。村の子ども達全ての姉のような人だ。その姉は、あの日も村の女の子を守るために立ち向かった。それに対し俺は隠れることしか出来なかった。悔しかった。何もできない己自身が。許せなかった。俺たちの日常を壊したゴブリン共が。しかし、俺には立ち向かうどころか立ち上がる勇気すらなかった。姉が隠れている場所を見つけられ逃げてきた女の子を庇ってゴブリン共と対峙していた時も、その光景を震えながら見ていることしか出来なった。ゴブリンは弱い。それこそ武器を持った姉が何匹か殺すことが出来る位に。しかし、数の暴力に勝つことなどできようはずもない。1匹2匹なら同時に相手できても3,4匹が相手では牽制位しか出来ず、5匹以上なら手が回らなくなる。奴らを殺す術を持つ者ならいざ知らず。武器を持った女が相手を出来る数には限りがあり、その数を超えられたのであれば結果は言うまでもない。姉の牽制を躱して姉が庇っていた女の子をゴブリンの一匹が捕まえた。その様子に気が取られた姉が余所見をした瞬間に、他のゴブリンが姉を押さえつけた。当然もう1人の女の子も同様の結末を迎えた。奴らは、自分たちの邪魔をした姉の歪む顔が見たかったのだろう。姉を押さえつけながらも手を出すことがなく、目の前で最初に捕まえた子を凌辱した。辺りに響く悲鳴。それを愉快そうに聞きながらもう一人の子に手を出し始める。まだ幼い女の子が耐えることなどできる訳もなく、外では村人の悲鳴。小屋の中には女の子の悲鳴。地獄そのものだった・・・。

 

それでも、この苦痛から逃れたかったのだろう。女の子が手足を暴れさせ抵抗していた。それが奴らには鬱陶しかったのか、手に持っていたナイフで暴れていた子の腹をなんども刺した。それを見た姉が悲鳴を上げたので、それを楽しむかのようにもう一人の子の腹にもナイフを突き立てた。即死ではないが、もはや死を待つだけの肉塊となった女の子に興味を失ったのか、それともお楽しみに手を出そうとしたのか遂に姉の服を破ろうとその場にいたゴブリンが群がろうとした時に、その声は聞こえた。

 

「薄汚い畜生共が・・・」

 

明らかにその場に似合わない軽装の青年が立っていたのである。村周辺に住んでいる人が凡そ身に纏うことも叶わないような上質は、何かの返り血で汚れており、その眼には明確な侮蔑の感情が宿っていた。だが、それよりも目を引いたのはその眼で、火の海になっているがために赤くなっている周りの風景よりもなお紅い。血のように真っ赤な眼に不思議な文様が浮かんでいた。その男は、お楽しみを邪魔されて苛立ったのか武器を振りかぶりながら向かってくるゴブリンまるでゴミを払うように手で両断した。その光景に一瞬動きが止まった残りのゴブリンも数秒も立たない内に始末し、姉の様子を伺っていた。姉は気を失ってしまったが怪我などは無かったのだろう。男は安堵の息を吐いていたが、表情は険しく何事かを考えているようだった。その男が俺の隠れている場所を向き言い放った。

 

「そこに隠れている少年。すまない・・・。来るのが遅すぎた。君もこの娘も安全な所まで運んであげたいが、生憎時間がない。俺の使い魔を置いていくから安全な場所まで運んでもらってくれ。

・・・友達や村人を助けられなくて悪かった・・・」

 

その言葉には申し訳なさと何より後悔が滲んでいた。男が自分の手首を咬みきり、流れ出た血を掌に押し付け地面に叩きつけると、白い煙と共に黒いフードを被った女が顕れた。男の言葉通りなら使い魔だと今なら考えられるが、当時の俺には理解できず、姉と俺を抱きかかえると何事かを呟き俺たちを眩い光で包み込んだ・・・。

自分の安全が確保されたからか、恐怖に支配しれていた感情が段々とゴブリンへの怒りを出し始めた。俺は、光で前が見えなくなるまで死んだゴブリン共を睨み続けていた・・・。

 

光が消えるとそこは村から一番近い町の中にある神殿の目の前で、辺りには人はいなかった。俺は急いで神殿の中に入り人を呼んだ。対応してくれたのは立場の高い者が着るであろう神官服を纏った初老の女性で、俺たちの身に起きたことを説明すると何人かの人を呼んで神殿の前に倒れたままの姉を運び込んでくれた。

今にして思えば、気が動転して上手く話せていなかったであろう俺の話をちゃんと聞いてくれて、子どもの法螺話など決めつけずに対応してくれた女性には頭がさがる。

 

姉が運び込まれるのを見届けたあと、俺は村の様子が気になった。俺たちのほかにもあの男に助けられた存在がいるのではないか?と思ったからだ。だが、当時の俺に金などなく、村へ安全に還る方法などなかったため、村の近くまで行く馬車の荷台に潜り込んで村へ向かった。拙い字で姉をお願いしますと地面に刻み込んで・・・。

 

俺の故郷はもう無かった。住んでいた家も遊んでいた場所もどこもかしこも焼けてしまいその残骸を残すばかり。町からここにくるまで雨は降っていないからあの男が火を消してくれたのであろう。そうぼんやりと考えながら俺は佇んでいた。故郷が無くなっている様をただ見続けていた俺を拾ってくれたのはレーアの老人で、俺はその老人の下でゴブリンを殺す術を、生き残るための知識を習った。

ある時俺がどうやって助かったのかを先生に伝えたところ、普段からしかめっ面を絶やさない先生がよりその渋面を険しくしてこう呟いた。

 

「お前を助けた奴は、生きる伝説の呼び名で呼ばれている白金等級の冒険者だ」

 

助けられた時も顔は良く見えなかったが、その男のことを教えてくれた。なんでも、この世に生まれた最初の白金等級の冒険者で、とっくに死んでいてもおかしくない年齢だが見た目は青年のままで体の衰えもないらしい。その特異な性質から生きる伝説と呼ばれていること、先生が死にかけた時に一度共闘したことを教えてくれた。ただ、先生はその男のことを毛嫌いしているのかその日の修練はいつもの何割増しか厳しかった・・・。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

拾われてから5年。先生は「教えることは全て教えた。後は自分次第だ」といきなり告げた後、旅に出ると言って姿をけした。俺は先生の教えを反芻しながら冒険者登録を終え、ゴブリン退治に赴いた。一番最初のゴブリン退治を成功させることが出来たが、手酷い失敗をしふらつきながらギルドへ戻っているといきなり話しかけられた。その相手は5年前のあの日、けんか別れをしてしまった幼馴染で今は叔父の経営している牧場に住んでいるという。彼女は、俺の事を住まわせてくれないかと叔父に頼んでいたが、あまり良い反応は貰えなかった。当然だ。冒険者など管理された荒くれ者という認識がある。仮に幼馴染だとしても、娘同然に育ててきた姪の近くに荒くれ者など置きたくはないだろう。結局、我儘を通した彼女に根負けしたのか離れにある蔵を使わせてくれるという形に落ち着いた。

 

依頼達成の報告を終え、次のゴブリン退治に向かおうとしたが、ふと姉はどうしているのかあの日以来会っていない故に気になったので神殿に赴いた。

様子を確認したら帰るつもりだったが、全身皮鎧を纏った奴が神殿に来たらそれは怪しまれる。神官に囲まれなんの目的で足を踏み入れたのか尋問されたので姉の様子を見に来たと伝えたら、神官長と思わしき存在が近くの神官に何事か言伝を行い少し待てと言ってきたた。慌ただしい足音と共に姿を現したのは、神官服に身を包んだ姉だった・・・。

 

「今までどこに居たの!?」

そう泣きながら詰め寄ってくる姉になんと言い返せばいいのか分からない。なんとか掻い摘んでどう過ごしてきたのかを伝え、ゴブリンを殺すために冒険者になったと伝えれば、

 

「それがどんなに危ないことか分かっているの!?いつ死んだっておかしくないんだよ!?貴方しか私の家族はもういないんだよ?もう独りにしないでよ・・・」

いつも毅然として皆の憧れだった姉はそこにはいなく、ただ寂しさに耐えている娘がいるだけだった。言っていることは俺の心配なのか、溜めこんだ胸の内なのかすら分からないくらい動揺しており、服が汚れるのも気にせずに抱き着いてきた。あんなに大きく見えた姉は、今はその姿が幻だったかのように小さくなり震えていた。姉を安心させることが正しいはずだが、俺は故郷を襲ったゴブリンを、皆の命を奪ったあの薄汚い畜生を許すことはできない。なんとか俺の現在を話し終え、それを黙って聞いていた姉が苦渋の表情をしながら俺に告げた。

 

「貴方の気持ちは分かった。姉として、弟が覚悟を決めてやろうとしたことを止めるのは良くないと思う。だから、貴方が冒険者を続けて、ゴブリンを退治することに関してはもう何も言わないわ」

 

「・・・そうか」

 

「ただし、これだけは守りなさい!

1つ 大きな怪我をしたら完治するまでゴブリン退治を休むこと

2つ 依頼を達成したら私の下まできて報告すること

3つ 冒険者としてやっていけなくなるような大けがをしたのなら、ゴブリン退治をすっぱり諦めて、冒険者も辞めること

これが条件。いいわね?」

 

「・・・分かった」

ゴブリン退治に全てを掛けたい俺としては、面倒な条件だがまた姉の悲しそうな表情を見たくは無かったので受け入れた。

それからはギルドへ行き、ゴブリン退治の依頼を受け、達成し、神殿に赴いて姉へ報告を済ませ、牧場に戻る。それが俺の日常となっていた。

 

 

 

そんな日常が何年も続いたが、変化は突然やってくる。その日もギルドへゴブリン退治の依頼を受けに訪れた際に、冒険者になってから5年間世話になっている受付嬢に、新人がゴブリン退治に向かったので応援に行って貰えないかと相談された。俺としてはゴブリンを殺すことができるのならそれでいいが、10年前に俺と姉が助けられた時のように一人でも助けることが出来ればいいと考えその依頼を受けた。最も、その日に限っていつもと違うのではなく、姉と一度大喧嘩をした時から多少なり俺の考えに変化が出た程度であったが・・・。

 

案の定、新人のパーティは壊滅していた。逃げてきたであろう神官娘と魔術師の2人はゴブリンに襲われており、魔術師に至っては毒が全身に回っていたため楽にしてやることしかできなかった・・・。パーティの内2人は死亡。一人は田舎に引きこもるという結末になったが、助けることができた新人の神官娘の面倒を見ることになり、せめて彼女がゴブリンに殺されることがないよう、色々と教えることとなった。昔俺を拾った先生もこんな心境だったのだろうか・・・。

 

それからは、怒涛のように日常が過ぎていく。ゴブリン退治を終えてギルドに戻れば、呼ばれたこともない呼び方で俺にゴブリン退治を依頼する銀等級のエルフ、ドワーフ、リザードマン。神官娘と共にゴブリンの巣に向かえば、よく分からんモンスターと戦った。不意の一撃を受けたため一時戦闘不能に落ちかけたが、何とか生き残ることが出来た。が、姉との約束を果たすためにも数日休み羽目になってしまった。体が思い通りに動くようになったので幼馴染の牛飼い娘と町に行き、姉への報告をすればいきなり拳骨を落とされ、本気で怒った時の表情のままに何があったのか全て喋れときた。病み上がりで拳骨を落とされ、途切れ途切れに方向をすれば、何故そんな無茶をしたのかと怒られた。切り札は準備していたと告げれば、直ぐに使えと怒られた。最後は抱きしめてきたが、周りは様子を伺っていた姉の同僚が多くいる。そんな中で皮鎧の冒険者に抱き着いたとあればあらぬ誤解を招いてしまうのは至極当然。結局火消に中々の時間を有してしまい、余計疲れることとなった。

 

ギルドに向かえば、まだ荷卸しが終わっていないとのことで手伝っていると、ゴブリン退治を依頼してきて共に巣に向かった一同が俺に声を掛けてきた。チーズが欲しいとリザードマンが言えば、今度はエルフがまた俺に声を掛けるかもしれないと言ってきた。それに対し、俺は考えておくと返した。失敗もあったが、あの時のゴブリン退治は一人で黙々とやるいつもの依頼よりかはなんというか心持が違ったからだ。

手短に会話を終えれば今度は神官娘が俺に昇給の報告にきた。自分が昇給できたのは俺のおかげだという。仲間を助けられなかったことを謝罪したが、それでも自分は助けられたのだからと逆に感謝された。

外に出てみれば、受付嬢が新人の冒険者に先達が色々と教えていると伝えてきた。

ずっと一人でゴブリン退治をしていた俺の周りが急に賑やかになったことに戸惑いはあるが嫌ではない。前は、いつもゴブリン退治しかやらない俺に向けられるのは嘲笑や侮蔑だったが、何か確実に変化があるということは俺でも分かった。

 

それから穏やかな日々を送り、幼馴染にゆっくり考えようと提案され、寝ようとした時に声を掛けられた。10年前、俺と姉を助けてくれた生きる伝説に・・・。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

話した事と言えば他愛のないことだ。自分の事を怨んでいないか?と問われれば、仕方のないことだったと今は割り切っていると伝えた。男は安堵したような表情だったが、次にされた質問は俺の精神を揺するものだった。

 

―あの幼馴染のことをどう思っているんだ?

大切な存在だと即答すれば、微妙そうな顔をされ、異性としてどう思っているのかと再度問われ、他にも俺の周りにいる女性のことをどう思っているのか聞かれた。

大切な存在であることに変わりはない。ただそれだけだったはずだが・・・

 

―もし今挙げた娘たちがゴブリンに犯されそうになったらどうする?

質問の意味を理解し想像してみる。言いようのない怒りを抱く。その怒りのまま答えをぶつければ、その分だけ俺は彼女たちの事を気にかけていると指摘される。そうなのかと確認を取れば、人生の先輩が言うんだ間違いないと言い切られた。

だが、同時に人は誰か一人しかちゃんと愛せないと言われた。愛・・・。そんなものがゴブリンへの憎悪に染まった俺の中にまだ残っているのか疑問だが、その疑問を晴らす前に会話は終了した。別れ際、言われた一言が頭に残った・・・。

 

―もし困ったことがあるのなら自分の心境を残さず吐き出して、助けを求めるといい。案外救いの手というのはどこにあるか分からないものだからな。

俺が他人に助けを求めることなどないと思うが、覚えておこうと返答する。満足したかのようにその場を去る生きる伝説だった・・・

 




以上前編でした。

近況を一つ。この作品を書くにあたり、原作を知らないとだめだと思い原作小説全巻購入しました。それを読んでいたので投稿が遅くなった次第です。

また、私の小説で始めて評価バーに色がつきました。ありがとうございます

ただ、評価を見るに評価0で投票された方がおりまして、何故評価0になったのかを知りたいと思ってしまうのは、欲しがりなんでしょうか?

私の技量不足で評価が下がるのは受け止めるつもりですが、面白くないや気に入らない等の理由で評価0を付けるのであれば、最初から読まなければいいのではないかと思ってしまう初心者作者でした。

愚痴になってしまいましたね。

完結までもう少し。読んで頂ける方が、面白いと思うような作品にしたいと思いますので、見放さずにいて貰えればありがたいです


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幕間 後編 これまでとこれから

お待たせしました。
作者の事情により執筆することが出来なくて遅くなりました。
また、アニメの最新話がOAされてから更新しようと思っていたので、遅くなったというのもあります。
今話にて、5話の内容と相違点が出ています。修正するまで暫しお待ち下さい


ガッツリネタバレしていますので、お気をつけください!!!!!

また、ゴブスレ君の性格が改変していることを伝えたかったのですが、オカシイ所もあると思いますので、ご注意ください


穏やかな日々。それは、突然壊される。ある朝、日課である牧場周辺の見回りをしていると、泥と汚物に塗れたいくつもの足跡を見つけた。

直ぐに幼馴染に逃げろと告げた。ゴブリンが来るからと。そんな俺の様子を訝しんだのか俺に、君なら倒せるのではないかと問いかける。その質問は正しく、同時に間違いだ。例え100匹を超える大群であろうが、洞窟の中等の奴らの巣の中でなら殺し切る。しかし、何の遮蔽物もない文字通り実力が全ての場所で、そんな大軍を相手にすることは不可能だ。普段と明らかに違う俺の様子に彼女が動揺する。そんな彼女に、敵がどういう存在かを手短に告げ逃げることを促すしかない。10年前と同じように何もできない己を憎んでいると、鹿野が小さく「良し」と呟いた。逃げることを決めたのだと思えば、口から出てきたのは謝罪で自分は逃げないという。俺が残るから自分も残るのだと。どうなるか伝え不安を煽るように脅しても彼女は首を縦に振らない。何故かと考えれば、彼女の口から答えが出る。二回目は嫌だと、俺の帰ってくる場所がなくなるからと。俺たちの故郷は既になく、ここが俺と彼女の故郷なのだと考えているのだろう。その通りだ。姉は神殿に入り、気軽に出かけることなどできない。ギルドでも孤立している俺に気軽に話しかけてくる相手も多くない。そんな俺にとってここはもう故郷だといって差し支えない場所になっていた。

彼女が謝罪と共に我儘を言っている自覚はあると伝えてくる。それがどうした?そんな貌をさせてしまったのはどこのどいつだ?手が足りない?なら用意する。力がない?有る者に応援を頼む。やれるだけの事はやってやる。それで彼女の表情が和らぐのなら!

 

姉の事が蘇る「女の子は守ってあげなくちゃダメ!」と。そんな俺に吐き捨てるように掛けられる言葉。10年間彼女を育ててきた牧場主が俺に伝えてくる。「あの娘は、良い子だ」と。「良い子に、育ってくれたんだ」と。最後に泣かすなと言われた。本当は冒険者である俺にそんなこと言いたくなかったに違いない。それでも意を決して伝えてきた牧場主に嘘偽りを吐くことなどできようはずもない。本当は任せて下さいと言いたかった。だが、俺に一人で何とかする力がないことは俺が一番よく分かっている。それ故に「努力します」としか言えない自分に葛藤しながらギルドを目指す。あの夜に言われたこと。どうしようもないなら胸の内を全て吐き出して助けを乞う。今がその時だろう!?

 

――――――――――――――――――――――――――

すまん。聞いてくれ

―彼の静かな言葉が喧噪の中であっても響く

 

頼みがある

―今まで彼がそんなことを言ってきたことは一度もない。いつも一人でゴブリン退治をするだけ。そんな奴がいきなり頼みがあるという。ざわめきが起きないはずがない

そんなざわめきを無視して彼らに話しかける。名前を知る者、知らぬ者。だが、全員の顔は分かる

 

ゴブリンの群れがくる。町はずれの牧場にだ。数は恐らく100を下回ることはないだろう。そして、時期は恐らく今夜。更にロードもいると思われる。洞窟の中でなく、野戦となると手が足りない、力が足りない。故に

手伝って欲しい

―淡々と状況を説明した彼が最後に感情をこめて頭を下げた。

 

――――――――――――――――――――――――――

今まで関わってこなかった俺がいきなりこんなことを言い出せば困惑するだろう。実際、何人かの冒険者はノリ気ではなかった。だが、辺境最強と言われる槍使いがここは冒険者ギルドで自分たちは冒険者だといい、依頼と報酬の提示を求めてきた。周りの冒険者も口々に同意する。それに対しての返答は決まっていた

 

「全てだ。俺の持つ物全てが報酬だ」

 

あの場所を、故郷を守ることが出来るなら全てを失ってもいい。そう考えていたが、槍使いが受付嬢を俺にくれるのか?と聞いてきた。何故そんなことを俺に聞くのだろうか?彼女は俺の物ではないのは分かり切っていると思うのだが・・・。しかし、この言葉から間違った解釈をされる可能性もある。故に、俺の裁量で自由にすることが出来る物全てが報酬だと言い切ろうとすれば、槍使いが「俺が死ねと言ったらどうする」と聞いてきた。その質問は予想していた。今までの俺ならそれでもいいと考えただろう。だが、先程まで話していた彼女の顔が頭をよぎる。俺が死んだら彼女はどうなる?牧場主にも泣かすなと言われたのだならば答えは一つしかない。

 

「いや、それはできない。俺が死ぬとなくかもしれない者がいる。泣かすなと言われた。なにより、俺自身がその者の泣いている姿を見たくない。笑っていてほしい。だから、俺の命は俺の裁量で決めることはできない」

 

ありのままを伝える。その言葉に本気かと問われれば本気だと即答する。その答えを聞いた槍使いは頭を掻きむしりながら、俺に一杯奢れと言ってきた。それがゴブリン退治の報酬だと。その言葉を皮切りに、共にゴブリン退治を行ったエルフが自分も協力すると言ってきてくれた。報酬は冒険一回だと。俺が生きていたら引き受けると答えればそんなこと言わなくいいと呆れられたが、エルフがドワーフ、リザードマンにも問いかける。ドワーフは報酬に酒樽をよこせといい、冒険に着いて行っていいかエルフに問えば、エルフは当然だと応える。同じパーティなのだからと。その言葉はずっとソロでやってきた俺には少し衝撃的だった。仲間というものと一番縁がないと思っていた俺に仲間ができたのだとぼんやりと考えていれば、リザードマンが友人の頼みだ行かない訳にはいかない。と言ってきた。ただし、報酬が貰えるというのならチーズが欲しいと言われたので、あのチーズは狙われている牧場で作られていると応える。更に槍使いと組んでいる魔女も手を貸してくれるという。これで6人。他の冒険者は手を上げないが、ダメ元で頼み込んでいるのだ。銀等級の冒険者二人が手を貸してくれるのであれば心強い。そう納得しようとした矢先、俺の担当をしている受付嬢がギルドからもゴブリン一匹につき金貨一枚の報酬を出すという依頼を持ってきてくれた。それを聞けば他の者も立ち上がる。意外だったのは、彼又は彼女らの俺に対する評価で、良く思われていないのだろうと決めつけていたが、俺の評価はこのギルドの中ではそこまで悪いものではなかったらしい。ギルドの名物、風物詩、珍品とまで言われる始末だったが・・・。

 

彼らの怒号を聞きながら、奔走してくれたのであろ顔に汗を浮かび上がらせている受付嬢に顔を向ければ、笑顔で返事をされた。それに対し、感謝を込めて頭を下げる。5年間ゴブリン退治しかやらなかった俺にずっと付き合ってくれて、緊急時に奔走してくれる。今頭を下げないでいつ下げろというのだ。その様子見て笑いながら良かったですねと俺に声をかけてくる神官娘。そんな彼女に一つ頼みを伝え、ゴブリン退治に向かう。俺がこれまでに蓄えてきた知識を共に向かう冒険者に伝えながら・・・。

 

――――――――――――――――――――――――― 

 

結果は言うまでもなく俺たちの勝利で終わった。とはいえ、何人かの冒険者は生きて帰って来なかったらしい。彼らの名前は分からずとも、顔は覚えている。彼らは俺を怨んで死んだのだろうか?そう考えてしまう自分がいることに驚く。自分では自覚していないが、長年このギルドに所属している内に俺にも人並み(と言うと言いすぎかもしれないが)も感情を持つようになっていたのだと自覚する。

感傷に浸りながらもロードを倒した賞金としてもらった金貨を神官娘の掌に握らせていると、彼女が話しかけてきた。感謝と女の子に無理をさせるなと注意をされたが他愛ない会話があの場所と彼女を守れたという実感を与えてくれる。

それが何故だか嬉しくて口元が緩むのであった・・・。

 

最も、姉への報告でまた説教をされたので後味は大分悪くなってしまったのだが・・・

 

――――― 

 

牧場防衛線が終わり手伝ってくれたパーティの報酬を果たす日々。エルフの冒険に付き合いゴブリンを狩る。ドワーフ曰く、俺に合わせてなるべくゴブリンが居そうな遺跡を選んでくれたらしい。そんなエルフの気遣いに少し嬉しいと思う自分がいる。冒険が終われば、姉の報告の後牧場に戻る。戻れば彼女が絡んできて、流暢とは言えない俺との会話を楽しんでいるように思う。そんな日常を過ごしていると、ある日冒険者の昇給審査の立会人を頼まれた。ゴブリンではないのでギルドを後にしようとすれば、世話になっている受付嬢の残念そうな声が後ろ髪を引く。前回あれだけ尽力してもらったのだからその恩を返す意味でもその依頼を受けた。結果として俺は立ち会っただけであったが、受付嬢にとってはそうではなかったらしく、感謝の言葉を向けられた。だからなのか退室する前に受付嬢にまた立会人が必要なら声を掛けろと言ってしまった。もちろんその事に不満がある訳でない。ただ、今までゴブリン退治のみを生きる目的として行動してきた俺の感情に確かな変化が生じていることに俺自身が困惑しているのだ。

 

2階から1階に降りると丁度俺宛にゴブリン退治の依頼が来ていた。そのことをパーティに伝え相談をすれば俺の相談は2択を迫っているだけだと苦言を呈される。それでも付き合ってくれる辺り気の良い連中なのだと思う。

依頼の内容は水の町に出没するゴブリン退治。依頼主は至高神の大司教。下水道にいるゴブリンを退治することが依頼であったが、ただのゴブリンではなくチャンピオンが率いる群れで教育された痕跡があった。最初の遭遇では、失敗を犯し俺だけでなくパーティ全体の落命の可能性すらあった。今までは独り故に失敗も成功も己だけのものだったが、今はそうもいかない。己の失敗が仲間の命すら危険に晒す。改めて実感させられた・・・。

 

三度目に下水道に潜った際に、エルフに禁止されていなかった爆破を試したがこれもエルフ的に禁止らしい。更に、一度撃退したチャンピオンとの再戦を終え、依頼主である大司教に問い質せば全て知ってのことだったという。その理由は、ゴブリンの恐ろしさを知る女なら当然持っている恐怖からだった。大司教が俺に求めたのは理解であったが、俺はそれを見ていた側だ。理解することなどできようはずもない。更に言えば、俺と姉はあの男に助けられた。大司教の悲痛な思いに軽々しく同意などできない。だが、俺と姉が救われたように、俺もまたゴブリンに怯えている者を救いたい。俺は世界を救わないしゴブリンを殺すことしかしない。しかし、ゴブリンに怯える人だけなら俺でも救うことができるかもしれない。だからだろう。去り際に震えている大司教に向けて「ゴブリンが出たなら、俺を呼べ。ゴブリンは、俺が殺してやる」と告げた。夢の中でも?という質問が来たが、その答えは決まっている。

「俺は、ゴブリンスレイヤーだからな」

―背を向けて歩きながら言い放ったため、大司教が最後に何事か言っていたが聞き取れなかったが、大した問題はないだろう。

 

――――――――――――――――――――― 

大司教からの依頼を終え、季節も巡る。恵みの秋。豊穣を願い、恵みに感謝し、収穫を祝う。辺境の町でも祭りをやるのは毎年の恒例だ。去年までは、一人でゴブリン退治を行い、帰ってくれば彼女の手伝いで牧場の納入品を作るだけだったが、今年は何故か祭りの日に、彼女ともう一人。受付嬢と祭りを回ることになった。午前中は幼馴染と、午後は受付嬢と回るのだが、ギルドで受付嬢から誘われて承諾すれば全身に鋭い視線が突き刺さる。帰り道に彼女からの誘いを承諾すれば今度は、牧場主から言いようのない無言の圧力を感じる。だが、今までと同じように祭りを迎えていれば感じることのなかったものだ。それだけ、俺の周りは変化したということだと無理やり自分を納得させた。

 

祭り当日、いつもと同じ服装だと思っていた幼馴染が蒼いドレスを身に纏い俺に手を振ってくる。見慣れた格好ではない彼女に一瞬なんと声を掛ければいいのか悩むが、素直に似合っていると告げると、照れくさそうに笑いながら「ありがとう」と返事を返される。何とも言えない気恥ずかしさを誤魔化すために先導を切るが、それが照れ隠しだと見破られているのだろう。いつもよりご機嫌な幼馴染と祭りを回った。途中、以前相談された新米冒険者と、銀等級のパーティに所属している二人組みから幼馴染に、祭りの出し物に手をこまねいていると相談され、俺に手本を見せてほしいときた。特に問題がある訳でもないからやってみせると、男陣からもっと詳しく教えてくれと請われたが、練習するしかないと伝えると再度チャレンジしていた。そんな俺たちを見ていたであろう彼女の顔は笑顔だったという。

 

幼馴染から「受付さんによろしくね」と言われ、別れた後、約束の場所に向かえばそこにはいつものギルドの制服ではなく私服を着ている受付嬢の姿があった。約束の時間に少し遅れたことを指摘され謝ることしか出来なかったが、時間が勿体ないと思ったのか先導しながら俺に声を掛ける。本来なら同じ言葉を別の女性に掛けることは、誠意に欠けることだろうが、生憎そういったこととは無縁で生きてきた身だ。気の利く言葉など用意できるものでもない故に、その服似合ってると告げた。俺がそんな言葉を掛けるとは思っていなかったのか、数舜ぽかんとしていたが、直ぐに笑顔に戻った。その後は、午前とは別の場所を回ったが、祭りの最中でもゴブリンがどこに隠れられるか、どうやって始末するか考えながら行動してしまう。我ながら、切り替えも出来ず、気の利かない男だと思うが安心することなどできない。そんな折、受付嬢が見せたい場所があると俺を連れてきたのはギルドの職員のみが立ち入ることのできる部屋で、そこからの景色を見せてくれた。それは、祭りの参加者が死者を追悼するために拵えた灯篭を空に浮かべている状況だった。死者は帰れただろうか?と言葉か口から出れば、きっと帰れたと思うと肯定された。安心できましたか?と問われれば、その答えに安心することなどできないと応えてしまう。どれだけ策を練っても、準備をしても手に入るのは勝算だけで勝利ではない。そう伝えると、、俺の行動は神様のお墨付きだと言ってくれた。

お互いに無言になったが、嫌な沈黙ではなく、空に浮かぶ明かりを静かに見送りながら鑑賞に浸っていた・・・。

 

――――――――――――――――― 

楽しい時間であるからこそ、その中に悪意とは潜むものである。以前、俺が立ち合いをした昇給審査で降格処分を言い渡されたレーアの斥候が復讐として不意打ちをしてきた。まともにやり合えば、一緒にいる受付嬢も危険に晒すと考え、死んだふりからの不意打ち返しを行ったのだが、受付嬢に要らぬ心配をかけしまったらしい・・・。

 

「ヒック、グス・・・。死んじゃったのかと、思ったんですよ・・・!?」

 

「む・・・・。すまん」

 

「謝る、くらいなら、グス、しないでください・・・!」

 

「・・・・善処しよう」

 

どうしてか、最近俺の周りにいる人が泣いたり、苦しんでいる様を見るのが心苦しい。そんな葛藤を心の隅に追いやりながら、未だに泣き続けている受付嬢に応える。十中八九祭りの時を狙って襲撃を掛けてきた存在がいる。そいつを対処するために、ギルドを出ようとするが、受付嬢は腰が抜けたのか立ち上がれないでいた。それでも、卓に手を掛けながら懸命にギルド役員としての職務を全うしようとしている受付嬢に

 

「・・・また。また、機会があるのなら声を掛けろ。時間があれば付き合う」

 

と伝えると

 

「っ!はい!その時はちゃんとエスコートしてくださいね?」

 

まだ足は震えていたが、冗談交じりに返してくれた。その様子を確認しギルドを後にし、黒幕に対しての策を移動しながら練る。途中パーティとも合流し手短に策を伝え、町の外に出た。

黒幕を討つために一度牧場に戻れば、まだ明かりが着いていた。幼馴染が声を掛けてきたので朝には戻ること。朝食はシチューが食べたい事を伝え、用心しろと言い残してパーティと合流すべく行動する。頭には、泣きながら俺を見送る受付嬢と心配そうに俺を見る幼馴染。彼女たちの不安な様子に苛立ち、そんな顔をさせた黒幕への怒りが湧き出る。全ての手を使って討つことを決意しながら、戦場へと舞い戻った。

―――――――――― 

 

夜の内に討つことはできたが、その後の後始末に時間を取られ牧場に戻ったのは昼頃だった。朝には戻ると約束し朝食のリクエストまで出したのに時間を守れなかった俺にお冠むりの幼馴染のチクチクとささる小言を流し睡眠をとる。目が覚めたのは、既に日も落ちた夜であった。彼女が耳掃除をしてあげると言ってきて、強引に彼女の膝に頭を乗せさせられ、月明りを頼りに耳掃除をされる。静かな時間に心が安らぐのを感じ、再び眠気に襲われる。耳掃除が終わり、彼女がもう寝ようかと告げ帰っていくのを見送りながら、空を見上げていると、後ろから声を掛けられた。以前と同じように柵に腰かけながら、生きる伝説が言葉を掛けてくる。

 

―闇人の計画を潰したんだって?君の活躍は下手な武勇伝よりもよほど勇者している

力もある。手札も多かった。しかしゴブリン共のほうが面倒だった。そう答えれば愉快そうに笑う。それから、襲撃されたことを聞かれ、俺が死んだら姉にどう伝えればいいか分からないと言っていたが、姉はこの男の事を知っているということか・・・。

秋の夜は冷える。会話を早く終わらせようと話の核心をつけば、男の雰囲気が変わり忠告をしに来たと言われた

 

曰く、自分の命にどれだけの価値があると思う?と

―「少なくとも君が死んでしまったかもしれないと泣きながら告げた女がいる。君のゴブリン退治で命を救われた少女がいる。君の活躍で心が救われた淑女・・・?淑女かあれ?まぁいい便宜上淑女としておこう。君に興味を持っているエルフがいる。君の事を常に心配している姉がいる。そして、君の帰る場所になろうと背伸びを続けている女の子がいる。これだけで君の命は自分だけでなく5人の女に対して意味を持つ。

それだけじゃない。君がいなくなれば助からない人がたくさんいる」

 

要領を得ない説明に軽く苛立ち核心を問えば、

―もう少し周りを見ろと言いたいんだ。いつまでも君の周りにいる人が生きているとは限らない。結婚や冒険で命を落とすこともあるだろう。そんな時君はどうする?いつものようにゴブリンを退治するのか?それを・・・独りではなく仲間と冒険をすることを経験した君は耐えられるか?

 

と返される。言い返そうとするが、言葉が出てこない。

 

―無理だ。断言するよ。君はもう一時1人で冒険をすることはあっても、独りに戻ることなどできない。何故なら、確かな温かさというものを君は知ってしまったからね。

 人は孤独には耐えられない・・・

 

そんなことは良く分かっているつもりだ!故郷が無くなった時も、目の前で村人が殺されるのを見ていた時も、牧場を守るために助力を求めた同僚が生きて帰って来なかった時も!そんなものはとうに自覚している!だが、それでも・・・!言葉が出て来ず、言い返せたのは、どうすればいい!?と絞り出せた一言のみ。それに対し、もっと周りの存在に関心を持って、感情を解放しろと言われる。それと同時に感情は以前よりも豊かになっているとも指摘された。チャンピオンからに一撃で死にかけた俺が、「リザレクション」で息を吹き返したのは、幼馴染やパーティ、周りの人を思い出しから。牧場を守るために助力を求めたのは、彼女を守りたかったから。と告げられれば、もう言葉も出てこなかった。

 

最後に、俺のこれからをしっかり考えるように言われた。その言葉は、もう顔を思い出すこともできない父親と同じような温かさを持っていて、同時に俺の思考を乱すものでもあったが、しっかりと頷き理解を示す。しかし、

 

―しっかり考えなよ?君のこれからを。そして、彼女たちとのこれからを。時間はあるようでないものだ。知らない内に結婚話が持ち込まれて、冒険から帰ってきたらどこかに嫁いでいたっていうのもあり得ない話じゃない。そんな時に後悔しても遅いんだ

 

という言葉が俺の頭から離れることはその日なかった。同時に、冒険者として戦えなくなる、つまりは、ゴブリンを殺せなくなった時、俺が進む道はどうなるのだろうと考えるようになった・・・。

 




過去最多文字数です。

そして、結婚エンドまでに終えておきたい全チャプターが終わったのでいよいよラストスパートです!

また、お時間頂きますが、できるだけ良いモノになるよう努力します!

※注意事項
次話からは、所謂パラレルワールド設定となりますので多少本文や原作と乖離すると思われます。許してください


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牛飼い娘End

長らくお待たせしました。本当はもう少し早く投稿したかったのですが、作者の体調が良くなく、師走ということで何かと忙しかったこともあり、ここまで遅れました。

読んで頂いた方の中には、これじゃない感を覚える方もいるかもしれませんが、作者にはこれが限界です。
許して下しさい


小さいころ私の故郷は無くなった。あの日、叔父さんの牧場で牛の出産のお手伝いをして町を見に行くと言った時彼と喧嘩した。そして、泣きながら叔父さんの牧場に行って帰って来た時には、故郷は無くなっていて、お父さんとお母さん。村の人たちは誰もいなくなっていた。中に誰も入っていない棺を埋めて、お葬式をしたことは覚えているけど実感なんて無かった。その後は、叔父さんの下で暮らしながら牧場のお手伝いをしてたっけ。ある日、牧場の外を歩いている全身鎧姿の彼を見た時は嬉しかったな。あの日以来会えてなくて、死んじゃったと思っていた彼が生きていたことが嬉しくて、同時にまた会えなくなることが恐ろしくて必ず帰ってきてとお願いしちゃった。そして、彼は帰って来てくれた。住む場所がないという彼が牧場にいるように叔父さんにお願いしたら、すごく渋られたけど泣きながらお願いしたら許してくれたっけ・・・。

 

でも、村で一緒に遊んでいた時の様にはいかなかった。彼は、ゴブリンを殺すことを目的として生きていたから、冒険をしに行ってボロボロになって帰ってくることも多かった。それなのにあまり休まずに、時にはそのままゴブリンを退治に行くこともあった。全く心配するこっちの身にもなってほしいというものだ。でも、一緒に暮らし始めて分かったこともある。彼は、あのころのように明るくはなくなってしまったが、本質は全く変わっていなかった。口数は少なくなっても、言葉に詰まると話題を変える。言葉が出なくなると黙り込む。昔から変わらずシチューが好きだってことも分かった。私にはそれがたまらなく嬉しくて、彼に絡むことが増えていった。最も、彼はあまり反応してくれないんだけどね?

 

彼と暮らし始めて2年くらい経ったときに、あの日何があったか彼に聞いてみた。彼が怒るんじゃないかって思ったけど、意外にも言葉を荒げることもなく、しかし淡々と語ってくれた。あの日ゴブリンに襲われていた彼と彼のお姉さんを助けてくれた人がいたのだという。その人は、冒険者の位階で最上位に位置する存在で、畏敬をもって「生きる伝説」と呼ばれるほどの人だと言うのだけれど、私としては、彼のお姉さんが生きていたということの方が重大だった。だって、私も彼のお姉さんにはよく面倒を見て貰っていたし、あの日も彼と喧嘩した時に仲裁してくれたのはお姉さんだったから。彼が一度も口にしなかったからてっきり既に亡くなっているのだと考えていたらこれだ。流石に彼に詰めよっちゃったっけ。

 

「もう!どうして君はそういう大事なことを聞かないと教えてくれないのかな!?」

 

「む・・・。すまん」

 

「すまんじゃないよ!私てっきりお姉さん死んじゃったんだと思ってたんだよ!?生きているなら挨拶とか君がここで暮らしていることとかいろいろ伝えることがあるのに!」

 

「大丈夫だ。姉には既に伝えてある」

 

「だから!そういうことじゃなくて!わ、わたしだってまた会いたいの!!」

 

こんなやりとりが有ったのだけど、後半はもう私が泣きながら彼に言葉をぶつけ続けていたから会話というのはおかしいかもしれない。彼も彼で、泣いている私に対して言葉を掛けることもできず、かといって話題を変えることもできずで困惑しながら受け入れていたのだと思う。

・・・。今思い出してもやっぱりこれは彼が悪い!だってこんな大事なことを私が聞くまで教えてくれなかったのだから、ある意味当然の結果だったのだ!誰が何と言おうと私は考えを変えないよ!

 

こんなやりとりが有ったからか、次に牧場の品をギルドに納品に行ったときに彼がお姉さんがいるという神殿に案内してくれた。今でも綺麗とは言い難い薄汚れた全身鎧の冒険者と汚れてはいないが、なんども着てすっかりよれてしまっている作業服を着た女の子が一緒に神殿に行った時の神官さんたちの目は忘れない。物珍しいものを見るような目。よく考えれば、お姉さんに会うというのならもう少し身に着ける者に気を配るべきだったなと思う。彼はよく来るのか気にしないようだったが、一緒にいる私は恥ずかしかった。

彼がいつものように「姉に会いにきた」と神官に言うと、もはや恒例となっているのか全く疑問も抱かずにお姉さんを呼びに行ってくれた。少し待っているとパタパタと走りながら一人の女性が私たちの下に来た。衣服は神官服になっていたが、小さい頃村の子どもたちの面倒を見てくれたお姉さんのままで私は気付かず泣いてしまっていたらしい。久しぶりの再会だというのに言葉もなく泣いていた私をお姉さんは優しく抱きしめてくれて、「よかった。元気そうで安心したわ」と言ってくれた。その言葉に感極まった私はお姉さんに抱き着いたまま声を上げて泣き出してしまった。彼はそんな私達を見て気を使ったのか、それとも面倒に思ったのかは分からないが神殿を後にした。まぁ、その時は私は彼がいなくなったことにも気づかずにお姉さんに抱き着いていたっけ・・・。

 

 

 

「グスっ。お久ぶりです。また、また会えて嬉しいです!」

 

「えぇ。本当に久しぶり。あの日貴方が叔父さんの牧場に行くのを見送った時以来ね。

今は叔父さんの牧場で暮らしているんでしょ?元気にやってる?」

 

「はい。叔父さんも良くしてくれるし、彼も何かと気にかけてくれますから」

 

「そう。それは良かった。心配していたの。弟から貴方が無事で叔父さんの牧場で暮らしていることを聞いても、ある日突然故郷が無くなって、家族もいなくなってしまって。元気にしているのか気になっていたから安心したわ」

 

「お姉さんこそ。私生き残ったのは彼だけで、お姉さんは亡くなったものとばかり思ってました。この前、彼に聞かなければ今でもそう思ったままだったと思います」

 

「あらあら。あの子はそういうところがあるからね。今度報告に来たときはお説教ね♪」

 

「ひっ!あ、あのお手柔らかに・・・」

 

「貴方も!あの子はもう感情が表に出てくるのは難しくなってしまったからもっとぐいぐい行っていいのよ?」

 

「ええ!?それはその・・・どういう?」

 

「だって貴方あの子のこと好きでしょう?」

 

「え!?あ、いや、その、そう・・ですけど・・・」

 

「私の未来の妹になるかもしないのだから、もっとあの子に我儘言って、言いたいことを伝えて、振り回してもいいの。

大事な人が出来れば、あの子も冒険者を辞めるかもしれないし・・・」

 

「お姉さんは彼が冒険者を、ゴブリン退治を続けることには反対なんですか?」

 

「勿論。できればすぐにでも辞めて欲しいと思ってるわ。いつどんな危険があるか分からないし、もしあの子が命を落とすことがあれば私ももう立ち直れないから・・・」

 

「お姉さん・・・」

 

「だから、貴方には勝手だけど期待しているの。あの子が無茶しないように気をかけてくれると姉としても嬉しいわ。貴方は妹になってくれるのならもっと嬉しい」

 

「も、もう!お姉さん昔とちっとも変わってない!また私のこと揶揄って・・・」

 

「いいえ。貴方が妹になってくれると嬉しいというのは本当。無茶ばかりする弟に家族が出来ることは嬉しいことだから。

無茶なお願いかもしれないけど、弟のことよろしくね」

 

「はい!」

 

 

こんなやり取りがあったのは彼には秘密かな?だってすごく恥ずかしいから。

でも、私が彼の居場所になれるなら、それはとても嬉しいことだって思う。

 

彼と一緒にギルドに牧場の品を納品に行くと、彼に陰口をたたく人もいる。銀等級なのにゴブリンしか退治しない臆病者だって。彼は気にしないのかもしれないけど、私は嫌だった。彼がゴブリンを退治してくれるから平和に過ごすことができる人がいる。その事実は変わりないのに、たかがゴブリンだと言って評価しようとしない。同じ銀等級の冒険者なら分かるが、新人だと分かる人たちにまで言われるのは面白くない。まぁ、彼の事をちゃんと評価してくれる受付嬢さんがいるからいいんだけど、あの受付嬢さんの彼の事を見る目は、明らかに違っている。それに対してはやっぱり面白くない・・・。前はあの受付嬢さんだけだったのに、最近は新人の神官の女の子の面倒を見始めた。新しく組んだパーティには、同性の私でも見惚れる位綺麗なエルフの冒険者までいる。何時から彼はこんなにも女の子に囲まれるようになったのか・・・。

 

冒険に行って帰ってきたら、いきなり倒れ込んで3日も寝続けていた時は、そのまま死んじゃうんじゃないかって考えちゃって余り寝れなかった時もあったっけ?最も、彼は目が覚めればけろりと牧場周辺にゴブリンが来ていないか確認していて、私の心配を返せ!ってことも多々あったど・・・。

そんな私にとっての幸せな日常を過ごしていたら、彼が朝いきなりゴブリンが来る。と言って私に逃げるように告げてきたあの日。ぶっきらぼうだけど、どこまでも私を心配してくれる彼の思いやりが嬉しくて、同時に、彼の居場所がなくなるのが怖くて無茶を言っちゃった。彼は、ギルドの冒険者に依頼をして私たちを助けてくれた。私が、思っていたより彼はギルドの冒険者から受け入れられていたというのは嬉しかったけど、同時に彼が遠くに行ってしまったようで寂しかったな。私の世界は、牧場とギルドのある町くらいしかないのに、彼はもっと多くのものを見ているというのが分かって言葉にできないけど寂しく感じた。

彼が他の人と仲良くすることを勧めているのに、いざ自分の知らない世界に彼が赴くというのは余り良い気がしないって、嫌な子だなって自己嫌悪したこともあったかな?それだけ私にとって彼は大きな存在だったから・・・。

 

私はたった一度だけ白金等級の冒険者に会ったことがある。

月明りの綺麗な夜に彼と話して、もう寝るだけだって時に牧場の牛たちが少し鳴いていたのを不思議に思って、牛舎に足を運んだら、牛たちを撫でているあの人に出会った。

貌は月明りで見えなかったけど、首から見える認識票は白金等級を示していて、そんな人がこんな夜に何故ここにいるのか不審に思って警戒していた。その人は、私が警戒していることなんて気づいていたのだろうけど、特に態度を変えることもなく私に話があるから少し時間を貰えるかと言ってきた。私がどう返答するか迷っていると、彼のことについてだと話始めて、色々と彼のことを話してくれた。伝えることは伝え終わったと私に言い、最後に告げてきたのは・・・。

 

「もし君が彼を失いたくないと思っているなら、君の心の中で燻っているもの全てを彼にぶつけるといい。それで何かが変わるという保証はないが、何も変わらないという事は絶対にない。自分の心に正直になれ」

 

私の心を読んだかのような発言に驚きながら視線を向けると、薄く笑いながら「君たちの行く末に幸せがあることを願っている」と言って、また牛を一撫でして夜の闇に消えるように姿を消した。あの人が誰なのか分からなかったけど、私には彼が言っていた「生きる伝説」と呼ばれる人だという確信があった・・・。

 

 

 

 

 

この出来事から数年。彼は大怪我を負って帰ってきた。パーティでゴブリン退治に行った際、神官の子を庇って大柄なゴブリンからの攻撃を何度も受けたのだという。どうにか退治することに成功して、応急処置を施して命を繋ぎとめることはできたが、意識が何日も戻らないという。彼を背負いながら牧場に連れてきたリザードマンの僧侶と彼のパーティが目を伏せながら説明してくれた。彼をあまり好意的に見ていない叔父さんも、意識が戻らないからか何も言わずに世話を買って出てくれて、彼の容体を聞きつけたお姉さんも合流して看病すること数日。彼がようやく目を覚ました。しかし、目が覚めたからといって元通りとはいかない。彼は、ゴブリン受けた攻撃で血を流し過ぎた上に、呼吸も幾度か止まっていたらしく、体が思うように動かなくなっていた。勿論日常生活を送るのには十分に動くのだが、冒険者を続けることは不可能だと、彼を見てくれたお医者様が言っていた。そう告げられた時の彼の顔は忘れられない。全てに絶望したような暗い表情をしていた。お姉さんも彼に掛ける言葉が見つからないのか言葉を失っていたが、叔父さんが珍しく彼に言葉を掛けた。

 

「・・・。もう冒険者を続けるのは無理なんだろう?受け入れて新しい生活を見つけなさい」

 

ぶっきら棒だが、彼のことを案じた言葉。彼も小さくはいと返事をしたが、胸中どのような思いが有ったのかは私達には分からない。あの夜、彼にこれからをゆっくり考えようと提案したが、突然これからを考えなくてはならなくなるとは露にも思っていなかった・・・。

 

 

それから、彼はギルドに認識票を返還し冒険者を辞めた。周りの人たちもまさか彼が辞めるとは思わなかったのかざわめいていた。特に受付嬢さんは、この世の終わりのような表情をしていたっけ。彼がゴブリン退治を出来なくなり、周辺の村の被害が増えるという問題も出ていたが、彼が現役の時に行ったゴブリン退治の教訓と彼に助けられた村の冒険者が彼の後を継いでくれるらしい。安心したのと同時に彼がいる場所がなくなってしまったようで、悲しかった。

冒険者を辞めた彼は、叔父さんが雇うという形で牧場に住み込みで働き始めた。前から手伝ってくれていたから手際はいいのだが、時折遠くを眺めことが多くなった。彼もこれからをどうするか悩んでいるのだろう。だから彼を支えようと決心した次の日に叔父さんが新たな火種を創りだした。それは、私のお見合いだった・・・。

 

叔父さんから見れば私は娘も同然で、この牧場の跡継ぎとして婿を取って欲しいのだという。そして、婿を取るのなら嫁の近くに男がいるのは問題があるから彼に出て行って欲しいと言ってきた。当然反対したが、叔父さんは意思を変えることはなく、牧場の仕事は叩き込んだから他所の牧場でもやっていけると彼に言い放った。そして、一月以内に次の就職先を見つけて出て行ってくれと言ってその場を去った。彼からしても突然のことで動揺しているのが見て取れるが、私も現状を飲み込めずに困惑していた。暫く一言も話さずに静寂がその場を支配していたが、彼が外の空気を吸ってくると言ってその場を後にした。

 

残された私の心境は荒れていたが、何よりも彼と離れてしまうという事実が私の心を締め付ける。故郷が無くなって、喧嘩別れをしてしまった彼ともう二度と会えないと思い絶望した。環境の変化に漸く追いついた時に偶然彼と再会できて、もう会えないと思っていた彼のお姉さんとも再会できて、毎日が大変で彼がゴブリン退治の冒険に出掛ければ無事に帰ってくるように願う。そんな日々が続き、彼の周りに仲間が出来たことに安心と寂しさを感じながらも楽しいと思える毎日を送ってきた。それが、そんな私の大切な日常が壊れる?そんなの嫌だ!もう彼の帰れる場所が無くなることが嫌だ。私の周りから人がいなくなることが嫌だ。お見合いをすると言われても見ず知らずの人と結婚するなんて考えられない。一回で決まる訳がないのに、彼が私の下からいなくなってしまうなんて認めたくない!それに結婚するのなら何も他の知らない人とするんじゃなくて牧場の仕事も出来て、ずっと私たちと過ごしてきた彼でもいいのに・・・。

 

 

 

(ん?私と彼が結婚する?・・・それでいいんじゃないかな?私は彼が好きだし、彼もなんだかんだ私を気にかけてくれた。最近だと私の着替えを間違えてみてしまった時に顔を赤くしてくれたし意識されてないってことはないはず。

・・・お姉さんにも弟のことを頼むってお願いされた。障害は叔父さんだけ。感情論じゃ叔父さんは説得できないから何か引くに引けない理由があればいい。牧場を継いで残す為には跡継ぎがいる・・・。)

 

思考が早くなりここまで考えが纏まるまで数秒程度だったと思う。私と彼の間に子どもが出来れば叔父さんも文句は言えない。牧場の跡継ぎだって子どもたちに託すことが出来る。

私が彼と離れる必要も無くなる。いいこと尽くしじゃないか。問題があるとすれば彼の貞操観念がお姉さんの教えで固いということ。私から迫っても断られる可能性が高い。ならば彼から迫ってもらうにはどうすればいい?そう考えていた私が目にしたのは、町で買ってきた桃のブランデーが入った瓶。彼は普段深酒はしないが、こんな状態だ。気分を緩めるためと言えばいつもより多く飲んでくれるのではないか?

そこまで考えた私は既に他の考えなどないというかのように瓶を手に持ち彼を探すために外に出た・・・

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おはよう。直ぐに朝ごはん作るから待っててね。あ!あの子ももう起きなきゃいけないから起こして来てくれる?」

 

「分かった。他に手伝うことはあるか?」

 

「ふふっ。ありがとう!なら食器を出してくれるかな?」

 

「それだけでいいのか?食後に皿を洗うなどやってもいいが」

 

「嬉しい申し出だけど、今は忙しい時期でしょ?私はあんまり動けないから君が頼りなんだよ?だったら君が力を発揮するのはどこか分かるよね?」

 

「そうか。そうだな。だが、何か手伝って欲しいことがあればいつでも言ってくれ。お前とお腹の子に何かあったら大変だからな」

 

 

こんなやり取りが出来ることに幸せを噛みしめる。あの日彼も困惑していたのだろう、私がお酒を進めても疑問も口に出さずにグビグビ飲んでくれた。いつもは酔いが回る前に止めるのに傍から見ても酔っていると分かるのに飲むのを止めなかった。酔っぱらった彼に私のことをどう思っているのか聞いてみれば

 

「目が離せない。子どもの時に言ってしまったことを謝りたいと思っていた。一緒に過ごすことに安堵をと安らぎを覚えている。端的に言えば好き・・・なんだと思う。

だから、俺はお前と離れたくない。だが、叔父さんの思いも分かる。

どうすればいいと言うんだ!」

 

感情のまま言葉を放つ彼。そんな言葉に私への思いが込められ、好きと言われたことに嬉しさを感じる。彼がこういう風に思ってくれているのなら問題はないだろう

 

「・・・私も君と離れるのは嫌だよ。だから離れなくする方法があるんだけど、私一人だと駄目だから手伝ってくれないかな?」

 

私が伝えると

 

「分かった。俺は何をすればいいんだ?」

 

彼は二つ返事で応えてくれた。彼が使っている小屋に2人で向かって。その後は・・・。

 

私は無事に彼の子を宿すことが出来た。これで問題はないと叔父さんに報告すれば、やれやれと言った表情で

 

「漸くお互いの気持ちに素直になったか」

 

と言ってきた。なんでも私のお見合いの話はまだやろうかなという段階だったが、私と彼の仲が一切進まないことにしびれを切らして進むようにしてくれたのだという。勿論私達がくっ付かなかった時には本当にお見合いをする予定だったのだという。

 

「私はお前の親としてちゃんとした相手を見つけて欲しかった。彼も冒険者を辞めたから問題はないが、心ここにあらずといった具合だったからな。娘と結ばれるのであればちゃんと娘のことを見るようにすべきだと思ったまでだ」

 

と言われたらもう何とも言い返すことが出来なくなってしまった。横に居た彼は気まずそうに顔を掻いていたけど、思い当たる節があったのかもしれない。そんなこんなで私たちは叔父さんとお姉さん公認で結婚することが決まり、その後はとんとん拍子で進んでいった。

盛大に結婚式をする訳にもいかないから、彼と私の知り合いを招いてささやかな結婚式を挙げた。参列してくれた人たちは祝ってくれたけど、一部焦った表情をしていたり、ハンカチを噛みしめている人がいたこともいい思い出だ。

 

 

 

 

 

私は故郷と家族がいなくなってしまったけど、育ててくれた叔父さん。再会できた彼のお姉さん。よく話をした冒険者さん達。そして、私が大好きな彼と愛すべき子どもがいてくれてとても幸せです。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これは特別な者を持たないが神々に賽子を振らせない冒険者とその幼馴染のお話。

彼と彼女はこれからもお互いを助けあいながら、一生を過ごしていきます。

願わくば彼と彼女の人生が穏やかなものでありますように

 




過去最長にして難産でした。

なんとか今年中にendの一つは書きたかったのでひとまず安心しております。

アニメも最終回を迎えましたが、とてもよかったと思います。
そして最後に意味深な告知があったので2期を期待せずにはいれません!


次回のendは受付嬢を予定しております。牛飼い娘endと分岐をした物語を予定しているのでいくつか言い回しなどが被ることもあるかと思いますが、そこな広い心で許してやってください


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