りんごと骨 (feel0330)
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りんごと骨

本編を読む前に必ず、一目ください。
この作品は櫻歌ミコを重点して物語を進めていますが、作者の解釈を多く含むため、読者様のイメージ及びvtuberの方とは違う可能性がありますのでご了承ください。
そのことを踏まえたうえで、こういう見方もあるのかと思って楽しんでいただければ幸いです。


りんごと骨

 

 微かな木漏れ日が差し込む森の中を一人の狩人がやってきた。

それを木陰に隠れ見ていた、櫻歌ミコは自分を鼓舞する。

うぅ、がんばってミコ!あれだけ練習したんだからきっと大丈夫!

ミコは決意を固め狩人の前に出た。

 

「あ、あの!」

 

突然声をかけられた狩人は驚き、背中に備えた斧を手に構えた。

 

「お、女の子?」

 

狩人は声の主の姿を確認すると警戒を解いた。

 

「どうして君のような子がこんなところに?ここは村からずいぶんと離れているし…」

 

狩人がミコを心配するように顔を覗き込む。

 

「あ、あの!」

 

ミコは自分の言葉を聞いてもらうために声を上げる。

 

「ん?」

「ミコとお友達になってくれませんか!?」

 

狩人は思わぬ発言に言葉を失う。

 

「ダメ…ですか?」

 

その沈黙を拒絶だと思ったミコは下を向いてしまう。

 

「い、いや、もちろんいいよ!ただ、少し驚いただけさ」

「ほんとですか!?」

 

ミコが目を輝かせる。

ミコは初めての友達に心を弾ませた。

やった!やっと友達ができた!えへへ、ミコだってやればできるんだ!

 

「うん、でもここは狼も出るみたいだし、一旦──」

 

狩人はミコと共に一度、村に戻ろうと言おうとしたとき

 

「うぎゃああああ!!」

 

頭部に激しい痛みを覚えて、走り去ってしまった。

 

「え?」

 

取り残されたミコは遅れながらに気付く。

口から香る血の匂い。

 

「うわあああああん!!」

 

またやってしまった。これまでと同じ失敗。

ミコは嬉しいことや興奮するようなことがあれば、人を少し強い力で噛んでしまう癖があるのだ。

 

「あれだけ、木さん相手に練習したのにーー!」

 

初めて友達ができると思ったのに、これまでと同じように噛んでしまい、逃げられた。ミコはその日も泣きながら家に帰った。

 

 

「ミコって別に変じゃないよね…?」

 

家に着いたミコは鏡で自分の顔を確認した。

薄い茶色の髪にほんのり赤い髪、首にはかわいいチョーカー。

変わっているところなんて、フードを外すと毛の生えた耳と後ろの尻尾それと少し尖った八重歯くらいだ。

それ以外は森を通る人と同じ、はず。

 

「やっぱり、友達になると噛んじゃう癖だよねー…」

 

どうすれば、治せるのか。

そう考えていると、不意にお腹が鳴った。

 

ぐうぅぅ…

 

「えへへ、お腹すいちゃった」

 

ミコはパーカーのポケットからリンゴを取り出し食べ始めた。

 

「ンンー!やっぱり、甘いなー!」

 

朝になると家から出て取りに行くリンゴ。

嗅覚がいいので、一番いい匂いを出しているリンゴをもらっている。

 

「あー、おいしかった!」

 

リンゴを食べ終え、満足したミコはちらりと窓の外を見た。

 

「あ、もう太陽さんが沈みかけてる!」

 

空は夕焼けに染まり、日の入りを知らせていた。

 

「明日は友達出来るといいなぁ…」

 

そんなことを考え、ミコは眠りについた。

 

これは、夢…?

はっきりしない意識の中、ミコは不思議な物を見ていた。

暗い森を駆け抜け、丘に立つ。

無性に叫びたい本能と理性が葛藤する自分。しばらくの葛藤のあと、理性が勝ち肩を落としてきた道を戻る。

それをミコは幽霊のように背中を見下ろすように見ていた。

 

 朝の日差しが窓から差し込み、ミコの瞼を光で覆う。

その光でミコは目を覚まし、大きなあくびをした。

 

「ふぁああ」

 

まだ眠気が残る体を起こし、外に出て川で顔を洗う。

冷たい水を顔に浴び、眠気が引くと共に意識が覚醒する。

川から少し離れたところにあるリンゴの木の傍に行く。

 

「今日も三つもらうね」

 

リンゴの木に一言告げ、いい匂いがするリンゴを獲る。

 

「あーん!」

 

一つは朝食でその場で食べる。

甘い味とシャリと言う触感が口に広がる。

 

「今日は友達になれるかなー?」

 

弾む気持ちを抱え、人が通るのを道の脇で隠れて待つ。

 

しばらく待つと、遠くから足音が聞こえてきた。

心拍が上がるのを必死に抑える。

足音が聞こえてくる方向を注視する。

すると、カゴバックを持った女の子が見えてきた。

 

「きょ、今日こそは!」

 

前日と同じように女の子の前に飛び出す。

 

「あ、あの!ミコとお友達になってくれませんか!?」

 

恐る恐る女の子を顔を見る。

すると、女の子は驚いた顔をしていたがすぐに笑顔になり

 

「うん!よろしくね!」

 

女の子は快く返事した。

 

「ふわぁぁぁ!!」

 

喜びがこみ上げ、顔が熱くなる。

次の瞬間、ミコは体に浮遊感を感じた。

まただ!何とかしないと!!

口に力を入れ、歯を立てないように必死に意識した。

 

「きゃ!」

 

女の子の悲鳴。

そのあとに襲ってきたのはいつもの血の味ではなく、甘い香りだった。

 

「あはは、くすぐったいよー」

 

女の子は痛がるどころか笑い声をあげた。

 

「ご、ごめんね!ミコって嬉しくなるとつい噛んじゃう癖があるんだ…」

 

ミコが謝ると女の子が

 

「えい!」

 

ミコのフードの上から噛みついてきた。

 

「お返しだよ!」

「許してくれるの…?」

「うん!だって、私達友達でしょ?」

 

その言葉でミコの心は再び舞い上がった。

 

「そう言えば、名前聞いてなかったね。なんて言うの?」

「ミ、ミコは櫻歌(おうか)ミコ!三・五才だよ!」

「三・五才?ふふ、変なのー」

 

女の子がまた笑う。

その子を見て、ミコはつられて笑った。

 

「そうかなー、あはは!」

 

この子といるとなんだか、とっても楽しいなあ。

 

「私は、望月ヨイって言うの!よろしくね!」

「うん!」

 

ヨイちゃん…。ヨイちゃん…。

ミコは初めての友達の名前を口の中で転がす。

それだけで、更に幸せになる。

 

「そうだミコちゃん!」

「な、なぁに?」

「私、これからおばあちゃんのためにお花を摘みに行くの!一緒に来ない?」

「うん!」

 

初めての友達と初めてのお出かけ!

ミコの幸せはいっぱいになり

 

「きゃ!」

 

また、ヨイを噛んでしまった。

 

「ごめんね…」

 

 

 しばらく歩くと黄色一色の花畑が見えてきた。

 

「「わぁ、きれ~い」」

 

二人の口から感動がこぼれた。

 

「この山にこんな所があったんだ…」

「前に、お母さんと一緒に来たことがあるんだ。だけど、あの時よりとってもきれい!」

 

ヨイが花畑に向かって走り、ミコも追いかける。

二人が花畑に入ると、黄色の花びらが舞い上がった。

 

「いい香り~!」

 

ミコが深呼吸をし、鼻に甘い香りが広がった。

 

「ミコちゃんー!」

 

離れたところで、しゃがんでいたヨイが手を上げている。

ミコが走って近寄る。

 

「なにー?」

 

ミコが聞くと、ヨイは何かをミコの耳の上に置いた。

 

「ふふ、かわいなー」

ミコが視線を耳に視線を向けると、それは二輪の花を編んで作った髪飾りだった。

 

「ふわぁぁ」

「ミコちゃんはフード、取らないの?」

「う、うん。ミコは…、そう!フードが好きなの!」

「あはは、そうなんだー。可愛いもんね!」

 

ヨイは笑い、また走り出した。

 

「じゃ、摘んでくるね!」

 

ヨイの背中はすぐに小さくなっていった。

 

「……」

 

ミコはヨイの背中を見ながら、フードの端を強く握った。

ヨイちゃんもきっと怖がっちゃうよね…。ミコがフードを外したら…。

 

 ミコはまた夢を見ていた。

ヨイと親しくなればなるほど、抑えがたい衝動が沸き上がる。

そしてミコは自分がヨイを噛みちぎる瞬間を見た。

否定する自分、肯定する自分。

ありとあらゆる感情が渦巻き、分からなくなる。

そして、目から涙が出ると共に

 

「ヨイちゃん…」

 

ミコは自分の声で夢から覚めた。

 

「あ、ミコちゃん起きた?」

 

霞む視界の中、黄色一色の中にヨイの輪郭が映る。

 

「ん、あれ?ミコ、寝っちゃってた?」

「そうだよー」

 

寝起きのせいか少し重い体を起こし体を伸ばす。

 

「んー。はぁ、ごめんね」

「ううん、おひさまも出てるし、気持ちいいもんねー」

 

ヨイの言葉につられ、空を見上げると真上に太陽が来ていた。

 

ぐうぅぅ…。

 

それはどちらのものか。あるいは両方から出たものか。

 

「お腹減ったね。お昼にしよっか」

 

ヨイはカゴバックから小さな包みを取り出した。

 

「お母さんが作ってくれたんだよー」

 

包みを広げると、二つのサンドイッチが出てきた。

 

「ミコちゃんも、はい」

 

ヨイは一つをミコに差し出した。

 

「あ、ありがとう!」

 

ミコはヨイからサンドイッチを受け取った。

パンの中に挟まれているのはレタスとトマト、そしてハムだった。

 

「「いただきまーす!」」

 

二人そろってサンドイッチにかぶりつく。

その瞬間、口に広がる柑橘類の甘味。

 

「んー!おいしいね!」

「うん!」

 

その会話を最後に二人は夢中になってサンドイッチを食べた。

 

 

 「はぁ、お腹いっぱい!」

「ミコも、お腹いっぱいー」

 

二人はサンドイッチを食べ終わり、花畑の上に寝っ転がっていた。

 

「ミコちゃんの家はここらへんなの?」

「うん。すぐ近くにあるよ?」

「そうなんだー。私の家はね、この山のふもとにある小さな村なんだ」

「へぇー」

「夜になると、狼さんが吠えて窓が揺れるんだよ?」

「そ、そうなんだ…」

 

ミコは思わず目を逸らした。

 

「そうだ!村の近くにね、川があるんだ!今から行かない?」

「えっと、もうそろそろ帰らなきゃ!」

 

ミコは村に行くのが怖く、言い訳をした。

 

「そっか…。じゃ、また今度ね!」

「う、うん」

 

そして、ミコとヨイは出会った道まで戻り別れた。

 

 次の日も、ミコがいつもの道で人を待っているとヨイが来た。

その日は山を探索した。

木に登ったり、頂上に行き叫んだ。

次の日もその次の日もミコとヨイは日が暮れるまで遊んだ。

 

 

 「そう言えばミコちゃん」

「なぁに?」

「昨日の夜、村の人たちが村の近くで狼さんの足跡を見つけたんだ」

「え?」

「だから、今日の夜はミコちゃんの家も気を付けた方がいいよ?」

「う、うん。わかった。気を付けるね!」

 

ミコははやる気持ちを抑え、ヨイと別れた。

 

 その日の夜、ミコは落ち着かず眠ることができないでいた。

 

「だ、大丈夫だよね…?」

 

明日も今までと変わらずヨイちゃんと遊べるよね?

そう信じ、ミコは寝ようと必死に目をつむるが眠気が一切起きない。

 

「ちょ、ちょっとだけ…」

 

ミコは居ても立っても居られず、ヨイが住んでいる村の様子を見に行くために、家から飛び出した。

夜道は夜目がきく上に、幼いころからの土地勘で迷うことはなかった。

 

 

 山を走りながら降りていると光が見えてきた。

 

「やっと、ついた…」

 

光は木で組まれた柵の上から飛び越えて出ている、村のたいまつの光だった。

 

「よかった…。何もなってない」

 

村の方から聞こえてくるのは、笑い声でミコが想定していた悲鳴などではなかった。

村の様子を確認したミコは安心したからか、眠気に包まれた。

 

「早く帰って明日もヨイちゃんと遊ぼう」

 

きびすを返し家に戻ろうと足を前に出した瞬間、ミコは確かに聞いた。

 

ワォォォン!!

 

狼の遠吠え。

それはハッキリと聞こえ、肌が震えた。

地面に耳をくっつけ音に集中する。

 

「いっぱい…」

 

その足音は村の方向に向かっていた。

それも一匹だけの足音だけではなかった。

数はミコが判断できるだけでも十には登っていた。

 

「ヨイちゃん…」

 

ミコはヨイのことで頭がいっぱいになった。

言葉を発すると同時に、自分の足がすでに村に向かっていることを後から気付くほどに。

 

「ヨイちゃん…。ヨイちゃん!」

 

ミコは必死に走り、村を囲む柵の元に着いた。

 

「ヨイちゃん!ヨイちゃん!」

 

必死に柵を叩く。手の痛みを忘れ何度も何度も。

 

「誰だ!?」

 

ミコが叩いていたところから数メートル離れたところが開く。

ドアから出てきたのは男だった。

 

「…子供?」

「ヨイちゃん…」

 

ミコはその場に崩れる。

 

「大丈夫か!?」

 

男がミコの方に走って近づいてくる。

 

「早く…。狼が…」

「狼?さっき遠吠えが聞こえたけど…」

「来る…。ここに…。いっぱい…」

「なんだって?本当なのかい?」

 

ミコはゆっくりと頷く。

 

「わかった。信じよう」

 

男はミコを抱え、柵の中に入った。

ミコはそこで気を失った。

 

しばらく揺られていると、ミコを抱えた男は一つの家に入った。

 

「村長。狼が来ます。備えを」

 

男に村長と呼ばれた男は目を見開いた。

 

「何を根拠に!?それにその少女は!?」

「この少女が教えてくれました」

 

男は堂々と答える。

 

「よそ者の子供のたわごとを真に受けるな!」

「子供が手から血が出るまで、柵を叩いて嘘を吐くとお思いですか!?」

 

それまで冷静だった男が初めて声を荒げた。

その声に村長はひるみを見せた。

 

「貴様っ!…たわごとだった場合、覚悟はできているな?」

「はい。この首を差し出してでも」

 

その言葉を聞いた村長は家から出た。

男もそのあとを追った。

 

村中に鐘の音が響き渡る。緊急を告げる鐘の音。

音を聞き、村に住む男たちが村の集会場に駆け足で集まる。

 

「皆の衆、よく聞け。これより村を捨てる」

 

村人に動揺が広がる。

 

「どうしてですか!?やっと作物も収穫の時期に…」

「これよりこの村に狼が襲ってくる。数は不明。だが、先ほどの咆哮に加え情報によると、この村は壊滅することは避けられまい。なら、命だけでも拾う」

「そんな…」

「時間はそう長くはない。家族にも説明し、山とは反対方向の門から出て南を目指せ。そうすれば交流のある村に着くだろう」

 

村長は集会場を後にした。

 

 「ん、んう」

 

ミコは布団の上で目を覚ました。

 

「ヨイちゃん!」

 

布団から飛び起き、友達の名前を叫ぶ。

 

「お、起きたか?」

 

ミコを見つけた男がミコに話しかける。

 

「起きてさっそくで悪いが、狼が来るまであと何時間くらいある?大体でいい」

「み、ミコが確認したときはまだ遠くだったけど、狼さんたちなら一時間もかからない程度、だと思う…」

「一時間…。となると残り二十分もないな」

 

男は下唇に指をあて、つぶやく。

 

「君も早く逃げないとな。家族は?」

「家族は…。そんなことより、ヨイちゃんは!?」

「ヨイ…?あぁ、望月のとこの子か。大丈夫。集会には来てたからいまごろ避難準備して、逃げているだろう」

「そっか…」

 

ミコは安心した。ヨイに二度と会えないような気がしていたから。

逃げたなら大丈夫…だよね?

 

「さぁ、君も早く逃げないと。山とは反対側の門から出て、みんなについていくんだよ。少し遠くに別の村があるから、保護してもらいなさい」

「え?」

 

ミコは、耳を男の言葉に耳を疑った。

 

「どうかしたかい?」

 

男が不思議そうに尋ねる。

 

「今、山とは反対って…」

「あ、ああ。狼は山から来るんだろう?」

「違う…。違うの!」

 

ミコは間違いを正す。

 

「じゃあ、どこから?」

「今、みんなが逃げてる方向だよ!」

「なんだって!?」

 

ミコの言葉を聞いた男は慌てて家を飛び出した。

ミコは男が言っていた門を目指した。ヨイを助けるために。

門に着くまで、多くの人間とすれ違ったが、ヨイの姿は見つけられなかった。

 

「ヨイちゃん…!」

 

ミコに焦りが出始める。

もうすでに門を出ているなら、狼に襲われていてもおかしくない。

群衆をかき分け、門を飛び出す。

門を出ると人が一列になって、狼が来る方向に歩いていた。

 

「早く…!」

 

ミコは列の横を走りながらヨイの姿を探した。

 

「いた!」

 

列の先頭を歩く、人影の中にミコはヨイを見つけた。

 

「ミコちゃん!?」

 

ヨイもミコの姿を捕えた。

 

「よかったぁ…。ずっと心配してたんだよ、ミコちゃん」

「ヨイちゃん、早く、逃げないと、狼が…」

 

長い距離を走ったせいで、息が切れる。

 

「うん。行った先の村の人たちも優しいといいよね!」

 

ヨイは、これから住むことになる村へと興味を注いでいた。

 

「違う、の!今、向かってる方向から来るの!」

 

ミコの大声に、列になっていた村人がざわめく。

 

「何が来るの?」

「狼さんが来るの!」

 

村人のざわめきが大きくなっていった。

 

「君、それは本当なのかい?」

 

ヨイの隣にいた男がミコの方を見つめる。

 

「お父さん…」

 

ヨイはその男の方を見て言った。

 

「冗談では済まされないよ?」

 

ヨイの父はミコの方を見つめる。

 

「冗談なんかじゃない!本当に来るの!」

 

ミコの必死の表情にヨイの父は言葉を失う。

 

「お父さん。私はミコちゃんを信じたいな…」

 

ヨイはミコの隣に行き、そっとミコの手を握った。

 

「ヨイちゃん…」

 

その瞬間、ミコは確かに聞いた。

自分たちの方に近づいてくる、無数の狼の足音を。

 

「もう、こんなに近く…」

 

ミコはしっかりとヨイの手をつないで、山の方向に走った。

 

「あ、待ちなさい!」

「ミコちゃん!」

 

ミコがいる山は別の狼のグループの縄張り。

そこに逃げ込めば、狼たちは入れない。

そう思い、ミコは一心不乱に走った。

 

 ミコとヨイは、ミコが住んでいる家にたどり着いた。

 

「ここは?」

 

ヨイはミコの家の方を見て尋ねる。

 

「ミコのお家だよ」

「そっか…。お父さんたち大丈夫かな…?」

 

ヨイは置いてきた家族のことを心配する。

 

「わかんない…。けど、今探しに行くと狼が…」

「そう、だよね…」

 

ヨイは力なく、頷いた。

 

「り、りんご食べる?」

 

ミコは家に置いているリンゴを一つ手渡す。

 

「ありがとうね…。いい匂い…」

 

ヨイはりんごをかじる。

 

「おいしいね…。お父さんたち、大丈夫だよね…?」

「うん…」

 

ヨイはりんごを食べ終わると、眠りに落ちた。

ミコは眠りに落ちたヨイを抱え、自分の寝床に下した。

 

「待っててね。()がなんとかするから」

 

ミコはヨイの顔を見て、家を出て行った。

 

 

 ミコはヨイの家がある村の門の前に立っていた。

村人たちは、村の中に引き返していた。

このままでは、避難は間に合わず、村に侵入され、壊滅するだろう。

 

「ヨイが悲しむのは見たくないなぁ…」

 

ミコは誰に聞かせるわけでもなく、口にした。

狼たちが目で見える範囲まで近づいてきた。音で聞き分けた通り、十匹に上る数がいた。

 

「あらら、お口にべったりつけちゃって」

 

狼の口には避難先になっていた村の人たちの血であろうものが、こびりついていた。

 

「話し合い…は無理そうね」

 

狼たちは荒い息を立て、ただ目の前のものを、貪りつくすことだけを考えているように見えた。

ミコはフードを外し、肺がいっぱいになるまで吸い込み

 

「わおぉぉおぉん!!」

 

その声を聞き、狼たちが一斉にミコに向かって、牙を突き立てんと飛び掛かる。

ミコはそれを低姿勢になり、横に飛ぶことで避け、右足を軸にし、回転するとともに、いつもはりんごを入れているポケットから骨を取り出し、一番近くにいた狼の腹を思い切り殴った。

 

「キャヒン!」

 

殴られた狼は悲鳴のようなものをあげ、吹き飛ばされる。

しかし、すぐに起き上がりミコを凝視する。

 

「完全に入ったと思たんだけどなぁ…」

 

ミコが愚痴をこぼしている間も狼は容赦なく、ミコを襲う。

前から、横から、後ろから。

それをミコは音と匂い、そして野生の勘で躱しては隙のできたところを骨で殴る、を繰り返す。

また、狼がミコをめがけて襲い掛かる。ミコは今までと同じように躱す。

しかし、ミコは遅れて気付いた。狼の目的はミコではなく、ミコが持つ骨だったことに。

慌てて、骨を持っている右腕を引くが、狼は骨を牙で捕えた。

 

「く、賢いなぁ!」

 

このまま狼と骨を奪い合っていては、他の狼の餌食になる。

ミコはすぐに骨を離し、体を起こす。

しかし、ミコにはもう狼と戦う武器はない。

防戦を強いられ、ミコの体力は底をついた。

足を滑らせ、起き上がろうとすると足が震え力が入らない。

 

「ここまで、かな」

 

ミコは目を閉じ、狼の牙が食い込むのを覚悟した。

その時、後ろの山から狼の声が聞こえた。

ミコを囲んでいた狼たちは声の方を見た。

 

「来てくれたんだ…」

 

ミコは口を緩める。

最初の遠吠えに託した願い。

叶うかどうかははっきり言うと確信はなかった。

だが、彼らは来てくれた。

 

「ありがとう…」

 

ミコを幼いころから育ててくれたもの。それは山を城とし、人々を恐怖させる存在。

そう、目の前にいる狼たちとは別の狼たち。

山の狼たちは二十を超える数で、向かってきていた。

それを見て、ミコを囲っていた狼たちは逃げて行った。

ミコは安心して、今日だけで二度目の気絶をした。

 

 

  朝の日差しが窓から差し込み、ミコの瞼を光で覆う。

その光でミコは目を覚まし、大きなあくびをした。

 

「ふぁああ」

 

霞む目を擦る。

辺りを見渡すと、見覚えのある家の中だった。

隣にはかわいい寝息を立て、まだ眠るヨイがいた。

 

「ヨイちゃん、起きて」

「ん、んう」

 

ヨイが目を覚ます。

 

「あ!お父さんは!?」

 

昨夜のことを思い出し、ヨイは大声を上げる。

 

「見に行こっか」

「うん」

 

そうして、ミコとヨイは家を出て村人の無事を確認した後に、いつもと同じように様々な遊びをした。

 




本作品を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は櫻歌ミコさんを題材にさせていただきました。
理由は私がボカロを好きだからです!!
あと、布教活動になればと(笑)
この作品を読み、少しでも櫻歌ミコさんに興味を持っていただければ幸いです。
vtuberとしてもyoutubeで活動していますのでぜひぜひ!

本作品に関する誤字脱字がありましたら教えてください!
感想や評価も待っています!!


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