絶望は終わらない (ものふぁにー)
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一話─舞い降りし〇〇

 とある世界のとある学園──その瓦礫と化した物の下にこの世の絶望を体現した者がいた。

 そう──いたのだ。

 

 数多の希望を散らし、人を絶望に墜とし入れ、時には己をも其の糧に嵌めて一緒に身悶える様な狂人であり、天災が──

 

 其れが撒き散らした世界規模の惨状と破壊は凄まじく、全人類の生き残りを割る程に混沌の粋を極まった。

 

 一時は、其れ──彼女の関係者、縁がある者とも呼べるものがそこを訪れ、運良く其の亡骸を見つけた。

 ……が、左腕を切り取っただけで埋葬する訳でもなく、残された其れはそのまま御座なりにされた。

 

 

 そして其れは……

 

 

 

 

 ──────いつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 鴉か何かが啄んだのであろうか?

 ──服の切れ端も見当たらず。

 

 誰か埋葬したのでは?

 ──あの後来たものは誰もいない。

 

 瓦礫についていた血痕も綺麗さっぱり消えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────絶望は──終わらない。

 

 

 絶望は加速する。

 ──速度を付けて、

 ──より強靭に、

 ──泥にまみれるように、より深く、濃く、

 ──ッ収束する。

 

 

 

 

 違う世界のゴミ捨て場──ここ流星街、行き場が亡くなり捨てられたものが集う街。

 物だろうが、者だろうと関係ない。ありとあらゆる要らなくなったものが、ここには存在する。

 否──存在させられる。

 

 世の中には一歩外を出れば、他人には理解できない不思議なところが存在するものだ。

 ならば、この世の常での不思議と言えばなんであろうか?

 

 ……"念"である。

 

 様々な事が可能になる。──言ってしまえば生命オーラを利用しての奇跡の体現である。

 ある者は自分の願いを可能にするため望んだ能力を生み出す。

 意図せず生み出されるものもあるだろう。

 しかし、それを得、活用できるまで昇華できるのは、ほんの一握りの選ばれた者のみ。

 

 偶々、掴んだ石が割ってみたら金剛石でした。

 では、純度を測ってカットしてみましょう。

 色は透明ですね、形はどうしましょうか?貴方のお望みのまま。

 ──とはいかないのである。

 

 発現し、眼に見え、制御するのに生死が問われる場合もある。

 どれくらいの力が眠っているのか未知数である。それを使用して稼働できる時間は?

 少しかもしれない、涙ぐましい努力が──時には死ぬほどの努力が必要な場合もあるだろう。

 

 しかし命の価値が薄いこの世において、それを為したものには圧倒的リターンが返ってくる。

 弱肉強食が当たり前、息をふっと吐けば、吹き飛ぶほどの人間の軽さを考えれば──

 その恩恵は計り知れない……。

 

 解る人ぞ解す──これは全人類の可能性であると。

 

 

 

 

 そう────希望なのである。

 

 

 

 

 稀有ではあるが死後に発生する死者の念がある。

 怨念とはよく言ったものだ。

 死んだ後に発生されるそれがその者の残った念で意思を有しているのならば、普通に死んでいくものの念は何処に流れていくのだろうか……

 

 普通に死んでいったものには未練が無いだろう。

 ──いや、全てやり切り死んで逝けるものは、それはとても幸せなことだろうよ。

 

 誰かに殺されたものはどうだろう。

 ──そりゃ怨叉の念を唱え死んでいくだろう。呪ってやるってな。

 

 ……生きてるものはどうだ。

 ──誰かを羨み妬むのは人として当然じゃろ。生存的欲求じゃよ。

 自分にないものを渇望する。欲する。だから頑張る。差を、優劣をつける。

 競争し合う集団社会が発展していく様が何よりの証拠じゃよ。人が成す執念の結晶。

 綺麗だろうが淀んでいようが、正しく人の一念というものじゃ。

 

 

 ────行き場を失った念が──流星街に加束していく。

 

 

 ──コロセ、コロセっ

 ──ドウシテ、オレガ……

 ──寄越せヨコセよこせ。

 ──ばーかしねシネしねしねしねしね死ね

 ──なんで上手くいかないんだ……俺の方があんな奴よりいけてるだろうが

 ──みんな幸せそうだな……なんで俺は独りなんだ。

 ──あの人のところにいきたいな……

 ──会社行くのだリぃ、なくなれ無くなれナクナレ

 

 

 負の意思が……

 

 ──透明な糸をまるで確かに視得るかのように、

 ──ヘドロよりも毒黒くこびりつく執念で、

 ──世を逸脱して手繰り寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 ────絶望が──形を顕現す。

 

 

 

 

 ゴミの山が幾つも連なり、でこぼこな山を織りなす場所。

 そこから──

 場違いな綺麗な右手が出口をかき分けるように──

 

 

 

 

 這い出るっ──

 

 

 

「ァ──ッ、なんだ、ここ……」

 

 自身が埋没していた頂上付近から右手を駆使し這い出、桃色の髪を左右に纏めている女が声を上げた。

 

 ──片腕の制服を着た女だ。

 

 真っ暗で何もわからない状態から脱したはいいが、女独自の天才的察しの良さから周りの状況を視て異様さを感じる。

 

 あたり一帯この世のゴミを集めましたと言わんばかり。

 一般家庭で出される生ごみ、腐ったものからより取り見取り。

 少し遠くを見れば煙があがっている山もある。

 動物の死骸はもちろん、どう見てもヒトの胎児と思える形をしたもの。

 何処かの機械部品や電化製品から医療に使われたとされる注射器。

 大きいものでは車等、崩れた船だと思われるものまで、上には無造作にゴミが積み上げられている。

 

 ────極め付きは防護服を着て徘徊している人。

 

 自身の置かれている環境を把握し思ったのは、

 

「臭っ……なんかベトベトするし、ぁ~もう最悪。」

 

 彼女にとってそんなものはどうでもよかった。

 そして投げ遣りな気持ちを表すかのように、背から再度ゴミ山に倒れて一言──

 

「死にて────。」

 

 そう彼女は満足して死んだ人間だったものだ。

 数年がかりで進めた計画を見事、障害に成るだろうとされた少年に看破され、

 練り上げた構想を粉砕し、作り上げたものを粉微塵に無意味にされる絶望を感じ、

 ──それを抱えたまま幸せに絶望的に死んでいくはずだった人間だ。

 

 なんで今生きてるのかなんてことはどうでもいい、

 もう決して味わえないであろう希望に表裏する絶望。

 ──それを味わい満足して希望するように死を選んだのだ。

 

 そんな彼女がいまさら何を望むというのか──

 ようは完全燃焼……燃え尽きていた。

 

 

 

 しばらく空を眺める。何も映さぬ瞳で澄み渡る空を。

 そんな彼女に話しかける者がいた。先程の防護服を纏った人。

 

「お前…………どこから来た」

 

 雑多に音が立てられ、突然ゴミの中から現われた者を不審、不思議に思ったのだろう声をかけられた。

 何か口に出すのも気怠さげに女は言う。

 

「どこからって、ここ何処よ」

「……ここか、ここは流星街。何を捨てても許される場所、だ」

「何を捨てても、許される…………。そっか」

 

 女と防護服を着たものの会話はそれだけ。

 何も話さぬ女に興味がなくなったのか、しびれを切らす。

 防護服の男は役に立つものはないか、危険なものはないかのゴミ漁りの作業に戻っていった。

 

 空を見ることに飽きた少女は起き上がり当てもなく漂う事にした。

 柳のようにふらふらと揺れながら──。

 

 歩く、

 

 アルク──。

 

 あるく────。

 

 

 

 "幸運"だったのだろう、その日は風が吹いて晴れていた。

 煙が避けられ全体を見渡す視界は良好だ。

 ──誰かが、ゴミの中からお宝を探るには絶好の日和であった。

 

 "幸運"にも彼女はこの世界の中で会ってはいけない種類の人物に、生まれ出で一刻も待たずして会合する。

 

 遠目から見てゴミの小丘の前に人が立っている。

 何をやっているのか、と近づいていった。

 背丈が少し小柄。髪は肩ぐらいにストレートに伸び、外巻きに撥ねている。

 全身黒づくめでローブではないけれど髪のようにスカートみたいに広がっている格好。

 物珍しく、口を開き声をかけようとした──。

 ──向こうも気付いたのか顔をこちらに向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──首を刎ねられた。

 

 

 

 

 視界が落ちていくので理解できたのだ。そのまま意識が落ちていく。

 

「綺麗なフク着てる、目障りね」

 

 下手人は少しも悪びれる事無く。その後、転がった死体を一瞥することもなかった。

 そこら辺を漁り、適当な収穫も見つからなかった彼は拠点としている巣穴に戻っていく。

 

 

 

 念を利用しての特殊な歩行は軽快に歩を進ませる。目的地へと導きのまま。

 見掛けコンクリートの廃屋のアジトに戻った彼は共に生活している仲間と合流する。

 男女混在、武器の手入れをするもの、自分の爪を手入れするもの、筋トレをするもの他様々だ。

 寝そべりながら読書をしている、リーダーと思われるバンダナを付けた少年に今日の活動成果を報告をする。

 

「いつものとこはなにもなかたね」

 

「そうか……────ッッ」

 

 

 

 ────突然だった。

 

 

 

 リーダーが本を読んでいた態勢を変え、青白い顔をして身構えた。

 同時に己にも物凄い重厚な圧力と、何か得体のしれないものに肩に手を置かれているような悪寒が走る。

 各自好き勝手していた仲間の中には膝をつき倒れるもの、泡を吹いて気絶するものもいた。

 

 ──壁を背にし恐らくこの鈍重感を生み出しているとされる外の方に身構える。

 警戒し、瞬きをせず、じっとしている間にそれは嘘のように霧散していた。

 

「なんだこれは……辺り一帯が気持ち悪いぐらい一つの念に覆われたな。

 フェイタン、本当に何もなかったのか?」

 

「団長、なにもなかたはずね。こんなバカげたオーラ出す奴なら目立たはずよ」

 

 顎に手を乗せ思案するクロロ=ルシルフル。

 

「少し早いがここを破棄する。前からここを出るべきかとは考えていた。

 ウボォー、倒れた奴ら頼めるか」

 

 ウボォーと呼ばれた、気丈に耐えていた一人の大柄な男は答えた。

 

「あぁ大丈夫だ。にしても何だってんだ」

 

「わからん……が、ここはもう駄目だ。潮時だったのかもしれん。

 いい機会と割り切るしかないだろう。何が起きたか知りたいが──」

 

「駄目。──これは関わらない方がいい」

 

 薄紫色の髪を後ろで結んだ女が、顔色を悪くしながら手で口元を押えながら即座に答えた。

 

「勘か?」

 

 頷いて目で強く訴える。

 

「わかった。無事動けるものは必要なものを持ちだせ。

 ここを撤収して新たなアジトに向かうぞ」

 

 彼ら一団は迅速に荷物をまとめ、自分たちが警戒した方向とは逆方向にその場を後にした。

 置いて往かれた物の中には、まだ読みかけの本が一冊……残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度あることは二度ある。

 

 とは言うものの、瞼を再度開き、彼女は理解してしまった。

 

「うひっ……ふひひっ」

 

 その時思ったのは生きていたという歓喜ではない。

 

 ──満足して死ねることは二度とないという、底なしの絶望だった。

 

「いひひ……かかかっ」

 

 それを感じた時、身体の中を這いずり回り、収まり切らない何かが溢れ出したのだ──。

 

 そう──"幸運"にも彼女は"念"を纏った斬撃により首を刎ねられたのだ。

 

 精孔が開けてしまったのだ。

 

 絶望は絶望を呼び寄せる──希望もまたしかり。これは決められた運命だったのだろう。

 

 彼女──江ノ島盾子がこの世界に誕生してすぐに最悪の玩具道具を手にすることは──。

 

 

 膨大に溢れて途絶える事のない"自分"から湧き出る何かを認知し、どうにかしようとその力の反流を然も知っていたかのように自然体に体を持っていくことで押し留める。

 

 彼女の一番の能力とは何だろうか?

 類稀な戦闘能力か?

 超高校級のギャルと称される程の美貌と愛嬌?

 絶望を愛して病まない狂児体質か?

 ──否。

 

 力の向き先を操る圧倒的センスである。

 それは自分が振るう物理的なものだけに止まらず。

 他人の思考すらも容易く誘導し、言葉巧みに操り人形と化させ、時には洗脳。

 破滅的に自分の望む結末を導き出させる感覚が──絶望的に優れているのである。

 

 残された片手を握り、開き、確認すること数度。

 目から視認できるようになった滲み出る靄のような不確定な何か。

 ゴミ山の丘に、それを手から己の力を出す様に振るってみる。

 

 彼女が振るった高さからスパッと山が切れ、それより上部分が崩れ去っていった。

 

 手を上にあげ握り締めながら声を弾ませる。

 

「……超、エキサイティーン!」

 

 口元を歪ませ、痺れた様に体を震わせる。

 面白いおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせた。

 

 今までとは違う未知の発見に未だ知らぬ希望を垣間見たのだ。

 自分を魅せ得ることができる何かがあると確信を懐く。

 

 それからはこの力で何が可能かの実験が流星街で行われた。

 

 爆撃、斬撃、圧撃、貫撃、未知の毒の香りが充満する惨状が様々に繰り広げられ──

 

 すぐ止むことになった。

 

 なんせ彼女は絶望的に飽きやすいのだ。

 

 ふーと空気を吸い込む息を吐き、深呼吸して空を見上げる。

 

「さてと……探検してみますかねー」

 

 その空の色は、最初見上げた澄んだ景色とは違い曇り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───時程無くして、白黒の熊の人形を操る隻腕の女が各地で目撃される。

 

 

 

 

 彼女の行く末に新たな希望と絶望と──。

 

 彼等との出会いがあるのかは、まだ誰も分からない──が。

 

 彼女が振るった力の斬骸の先では、バラバラになった本のページが舞っていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




他に書いてるものの息抜き程度に書きました。

負の要素が入ったキャラならこんな設定で誰でもクロスできると思うんだ、うん。

わかるね?

続き?……盾子様の誕生月日ぐらいお気に入ったら考えるわ。感評はお好きに。

=続かない。と思うーよっ。ご視聴ありんす。


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