ベル君がジョーカーアンデットなのは間違っているだろうか? (オンドゥル)
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ジョーカー、神の【眷属】になる

少年、ベル・クラネルはオラリオへとやってきた。義理とはいえ育ててくれた人が死んでしまい1人で生活せねばならなくなったため、冒険者になろうと思い立ち、ここにやってきたのだ。賑わう辺りを見渡しながら、彼はぼそりと呟く。

 

「ここがオラリオかぁ」

 

ベルはオラリオに来るのは初めてだった。自分が住んでいたところが田舎であったため、こう言う所謂都会は初めてなのだ。まず、手始めにとベルは【ファミリア】に入ろうと、手当たり次第に【ファミリア】に入れてくれと頼んだ。しかし、結果はどこも門前払い。話すら聞いてくれないのだ。ベル自身、自身を外見だけで判断すると弱そうに見えるのは承知なのだが、だからといって実力も見ずに門前払いとは何事かと多少腹をたてる。

 

「しかし、よくここまで……」

 

ベルはそう呟く。神が地上に降り立った千年前よりももっとずっと前、大体今から約一万年ほど前だろうか。何らかの生命体の祖であるアンデットという存在が自らの眷属の繁栄を賭けて争うバトルファイトというのが起こった。その結果、何の祖でもない特殊な存在のジョーカーアンデットが勝ち残ってしまい、世界は一度リセットされた。が、リセットされてから神が降り立つまでの間世界は急速に成長した。あらゆる生命が再び現れ始めたのだ。そして、ある程度元どおりになった辺りで神が降り立ち今の世があるのだ。バトルファイトは勝利したアンデットの眷属を繁栄させる。がしかし、それ以外のアンデットの眷属が繁栄しないわけではないのだ。あくまで、最も繁栄するだけ。それはジョーカーが勝ち残っても例外ではない。ジョーカーアンデットが勝ったとして世界は一度リセットされるがリセットされ続けるわけではないのだ。

 

「僕が勝者にならなければもっと良くなったのかな?」

 

オラリオを見渡しながらそう言うベル。何を隠そうベルこそがジョーカーアンデットなのである。ジョーカーアンデットには腕に付いている鎌でアンデットを倒すとラウズカードにして封印する能力があり、そのカードを腰についているジョーカーラウザーにラウズするとその能力を使うことができる。今のこの姿は人間の祖となるヒューマンアンデットの力を借りて人に擬態しているに過ぎない。最初こそ冷酷非情な戦闘マシーンの様な彼だったが、ヒューマンアンデットの力で人に擬態し感情を獲得した事でその凶暴性は次第になりを潜め、今ではこの通りである。

 

「よし、次に行こう」

 

少し感傷に浸った後、ベルは再び【ファミリア】に入るために動き出そうとして、ふと足を止める。誰かの視線を感じたのだ。辺りをぐるっと見渡すと、黒いツインテールが目に入った。ベルがそこに近づいてみると、そのツインテールの持ち主も見ていることがバレたと気づいたのか物陰から出てきた。出てきたのは少女だったが、纏っている雰囲気から神だとわかった。その神は、ベルが口を開く前に話しかけてきた。

 

「な、なあ君【ファミリア】に入りたいんだろ?」

 

「ええまあ。もしかして、貴女の【ファミリア】に入れてくれるんですか?」

 

「!!……こんな見た目してるのにボクを神だと見抜くとは……。初めてだよ、君みたいな奴は。それでさっきの質問の答えだけど、答えはYESさ。まあ、最もボクがこんな見た目だから、誰も神だって思ってくれなくて【眷属】は誰もいないんだけどね。それでも良いかい?」

 

そう聞いてくる神様。ベルとしては冒険者になれればどの【ファミリア】でも良いので、それでも良いと返した。

 

「そうか。なら今日からボク達は【家族】だ。ボクの名はヘスティア、君の名前を聞かせてくれるかい?」

 

「ベルです。ベル・クラネル。神様、僕を貴女の【眷属】にしてください」

 

「喜んで、ベル君。これから色々あるかもだけど仲良くやっていこうぜ!さあ、こうしちゃいられない!ベル君、【ファミリア】入団の儀式をするから、ついてくるんだ!」

 

「はい!神様!」

 

そうして、ベルとヘスティアは歩き出した。



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ベル、正体を明かす

初めての【眷属】なのだから特別感を出すためにと、ヘスティアはベルと共にとある書店に来ていた。その書店の二階の書庫にて、ヘスティアはベルに【恩恵】を渡す準備を始める。

 

「それじゃあベル君。【恩恵】を刻むから上裸になってくれるかい?」

 

「ちょっと恥ずかしいですけど、そういう事なら……」

 

そう言いながら、ベルは上着を脱いで上裸になった。それを見たヘスティアは、なかなかの肉体をしているベルの身体に多少驚きながら、近くの椅子に座らせ、【恩恵】を刻み始める。

 

「よし、こんなもんかな。さてさて、【ステイタス】はっと……え?」

 

「ど、どうかしましたか?神様」

 

そう聞くベルの声に反応する事なく、ヘスティアはベルの【ステイタス】をじっと見つめていた。そこには、他の神が言っていたような【ステイタス】は微塵もなく、その悉くが文字化けを起こし全く読むことができなくなっていた。それは、彼の名乗ったベル・クラネルという名前さえも例外ではなく、唯一読めるのは《スキル》の部分のみで、そこに書かれているスキル名も驚愕のものだった。そこに書かれていたのは、

 

始祖の力(ラウズカード)

・様々な力を使うことができる

 

終焉の獣(ジョーカーアンデット)

・神に嘘をついても見破られなくなる

・他のアンデットに擬態できる

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

の2つだけであったが、2つ目が問題であった。ジョーカーアンデットと言うのは、神ならば誰しもが知っている【世界のリセット】を起こした原因。それがなぜ人間のベルの《スキル》にあるのかなど、疑問がいくつも湧き上がってくるが、とりあえず心配そうに自身を見てくるベルになんでもないと返し、

 

「えっと、ベル君。とりあえずはボクが生活してる場所に行こう。いつまでもここにいるわけにはいかないからね」

 

と言って、彼女の住む古い教会へと向かった。

 

 

その教会の中で、ヘスティアとベル君は向かい合って座っていた。ヘスティアは先程見た【ステイタス】を写した用紙を見せる。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「とりあえず、これが君の【ステイタス】だ。文字化けを起こしているのも不思議なんだけど、それよりもコッチが問題なんだ」

 

そう言って、ヘスティアは先程の《スキル》ジョーカーアンデットに指を向ける。それを見て、ベルは露骨に目をそらした。が、いずれ言わねばならないとはわかっていたのだ。それが思っていたより、早く来ただけで。まさか、《スキル》に反映されているとは思わなかったのだ。

 

「ジョーカーアンデット。神々(ボク達)が地上に降りる前に起こったバトルファイトで勝利し、世界をリセットした存在。神の中にはもう二度とバトルファイトを起こさない為に降りてきた奴だっている。ベル君、君は人間だ。そうだろう?でも、この《スキル》を見る限り、君はジョーカーアンデットとはなんらかの繋がりがあると思うんだ。だから、ボクにジョーカーアンデットについて教えてくれないかい?」

 

ヘスティアは、ベルがジョーカーアンデットだとは微塵も思っていないらしい。ベルもこのまま隠し通せばいいかなとも考えたが、【家族】に嘘をつき続けるのも如何なものか思い、結果全てを話すことにした。

 

「……わかりました。ジョーカーアンデットについて話します。まず、僕がジョーカーアンデットです」

 

「……え?べ、ベル君は人間だろ……?それなのになんで……ま、まさか……」

 

「ええ、多分神様が思ってる通りですよ。この姿は、人の始祖であるヒューマンアンデットの姿を借りてるだけで今から見せるのが僕の本当の姿です。ベル・クラネルという名前も僕を育ててくれた人がくれた名前ですしね」

 

そう言って、ベルはゆっくりと立ち上がり擬態をやめジョーカーアンデットに戻る。一瞬にしてジョーカーアンデットに姿を変えたベルを見て、衝撃を受けたような顔をするヘスティア。ベルの手には彼を人の姿に変えていたヒューマンアンデットが封印されているハートの2のラウズカードが握られていた。

 

「これで人間になっていたんですよ。神様」

 

そう言って、腰のジョーカーラウザーにそのカードをラウズする。

 

《Spirit》

 

ジョーカーラウザーからそんな音が響き、ジョーカーアンデットは再び人の、ベル・クラネルの姿になった。

 

「といっても、ジョーカーアンデットのことなんてこれくらいですよ。バトルファイトも僕が起こしたわけじゃないんです」

 

「え!?そうなのかい?」

 

「はい。統制者と言うのが始めたんです。それに、僕が持っている52枚のラウズカードの封印が解かれない限りバトルファイトは二度と起こりません」

 

「ラウズカード?」

 

「僕以外のアンデットを封印したカードです。僕にはアンデットを封印する能力があるので」

 

「なるほど……」

 

ヘスティアはそのままなにかを考え始め、少し経ち突然顔を上げた。そのまま立ち上がり、ベルの肩を掴む。

 

「ベル君!いいかい?このことは誰にも教えちゃダメだ。さっきも言ったが、ほとんどの神はバトルファイトはジョーカーアンデットが起こしたものだと考えているし、そうでなくともジョーカーアンデットがいる以上世界のリセットがまた起こると思ってる奴がほとんどだ。たまにそう思ってない神もいるけど、そんなのは稀だ。だから、このことは絶対に誰にも教えちゃダメだ。どうしてもの時は仕方ないけどね」

 

「……僕を追い出さないんですか?」

 

「なんでボクがベル君を追い出す必要があるのさ」

 

「だって、僕はジョーカーアンデットなんですよ?」

 

そう言うと、ヘスティアはなんだそんな事かと笑い始めた。そして、一通り笑った後、

 

「ベル君がジョーカーアンデットだとしても、つい先程から君はボクの【ファミリア】の一員になったんだぜ?その正体が何であれ、ボクは自分の【家族】を捨てるなんてことはしないさ」

 

と言った。真相を話した事により、【ファミリア】を追い出されるものだと思っていたベルもこれには驚くばかりだ。しかし、ヘスティアはだけどと話を続けた。

 

「君がボクの事を襲おうとしてるのなら話は別だけど、ベル君はボクを殺すのかい?」

 

「しませんよ。昔の僕なら問答無用で殺したかもしれませんけどね」

 

「フフ、だろう?なら大丈夫さ。それに、僕に最初に出来た【家族】を捨てさせないでくれよ」

 

少し、悲しそうな顔をしながらヘスティアは言う。ベルがいなくなった後、もしかしたらヘスティアの【ファミリア】は大きくなるかもしれないが、【家族】を捨てたと言う事実はヘスティアの心に残り続けるだろう。

 

「分かりました。神様、改めて自己紹介をしますね。僕は、ベル・クラネル。ジョーカーアンデットです。それでも良いなら、僕を【ファミリア】に入れてくれますか?」

 

「なに言ってるんだベル君。もう君はボクの【ファミリア】の一員だぜ?」

 

笑ってそう言うヘスティア。それを見て、この神様の【ファミリア】に入れて良かったなと思うベルであった。



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ベル、冒険者登録をする

翌日、ベルは冒険者登録を済ます為に冒険者ギルドへと向かった。ヘスティアから教わったギルドの建物に着き扉を開け、中へ入る。如何にもな格好をした厳つい男や、エルフなどの人ならざる種族など多種多様の人たちで溢れていた。人混みに流されることなく、ベルは空いていた受付に座り受付嬢だと思わしき人へ声をかける。

 

「あの、冒険者登録をしたいんですが……」

 

「え?あ、はい!」

 

声をかけた事により、受付嬢がベルの方を振り返る。そして、ベルを見るなり怪訝な顔をし始めた。大方ベルの見た目で判断しているのだろう。

 

「えっと、君、冒険者登録をしたいって言ってたけど、本気?君が考えてるよりずっと危険なんだよ?命の危機に晒される事だってあるし、Lvがずっと上がらないかもしれない。それでもいいの?」

 

「大丈夫です。覚悟はできてますから」

 

まあ、アンデットである以上、命の危機なんて言葉とは無縁なのだが。そんな事を全く知らない受付嬢は、ベルの返事を聞くと用紙を取り出し、机の上に置いた。

 

「この用紙に、君の名前と種族、それから年齢とLvと所属している【ファミリア】の名前を記入して」

 

そう言われて、ベルは用紙に書き込み始める。Lvに関してはヘスティアから1と記入しておけと入念に言われた為、そう記入し、年齢も実際のを書き込むと優に1億歳を超えるので14歳と記入し、それ以外は普通に書き込み、それを受付嬢の渡す。

 

「えーと……名前はベル・クラネル。種族はヒューマン。年齢は14歳でLvは1。【ヘスティア・ファミリア】に所属している……【ヘスティア・ファミリア】?初めて聞く名前だけど、最近できた【ファミリア】なの?」

 

「あ、はい。何分僕が初の【眷属】だったもので」

 

「なるほどね。新規の【ファミリア】っと……」

 

その後誤りがないかなどを再度確認し、受付嬢がサインを記入した。

 

「これで良しっと。ヒューマン、ベル・クラネル。只今より貴方をオラリオの冒険者として登録します。宜しいですね?」

 

「はい!問題ないです」

 

「では、これより私が貴方の攻略アドバイザーを担当させて頂きます。私の名前はエイナ・チュール。これから宜しくね。ベル君」

 

「はい!ベル・クラネルです!宜しくお願いします!」

 

「さて、じゃあこれからダンジョンの注意事項を教えてあげるね……“しっかりと”ね」

 

やけに強調されたしっかりとという言葉を聞いた瞬間、あ、これは不味いと思ったベルだった。

 

 

結果だけ言うなれば、受付嬢……エイナはスパルタであった。とりあえず一通り教え込んだ後テストを実施し、間違えた所を徹底的に教え込みの繰り返し、元々記憶力は悪くないベルであったが、これは少々応えた。まあ、最終的に全問正解を叩き出し、明日からダンジョンに潜っても良いと許可ももらった。明日から頑張るぞと心の中で意気込みながら、ベルはヘスティアの待つ古い教会へと足を向けた。



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ベル、ダンジョンへ

翌日、ギルドから支給された防具とナイフを身に付け、ベルはダンジョンへと足を踏み入れる。不死の存在であるアンデッドとしては、防具は重りと大差ないが、防具無しで突っ込めば必ず怪しまれるので渋々身につけているといった感じだ。ナイフに関しては、やたらめったらラウズカードを使うわけにもいかないのでありがたいが。

 

「さて、今日はまだそんなに深く潜らなくても良いかな」

 

表記上はレベル1なので、あんまり深く潜りすぎると不審に思われるので、ベルは第一階層にて獲物を探す。程なくして、獲物を発見した。

 

「あれは確かゴブリンだっけ?ま、良いや」

 

そう言いながら、ナイフを構えゴブリンに接近する。それに気づいたゴブリンは手に持った棍棒の様な物で、ベルを迎え撃つが、ゴブリンが腕を振り下ろすより早く後ろへ回り込み、その首にナイフを深々と差し込む。そのままナイフを動かし首をはね飛ばすと、ゴブリンは倒れ魔石へと変わる。ヒューマンとは言え、アンデッドである事には変わりないので、この程度は造作もない。

 

「こんなものかな」

 

魔石を拾いながらベルは辺りを見渡す。それなりに稼ぐ気ではあるので、出来れば大量にいる所に行きたいのだが。

 

「あ、これ使ってみるか」

 

思い出した様に言うベルの手にはバットアンデッドが封印されているダイヤの8のラウズカードが握られていた。誰も周りにいないことを確認したベルは、ジョーカーラウザーを出現させラウズカードをラウズする。今回は、そのアンデッドに擬態するわけじゃなく能力のみを使うのだ。

 

《Bat》

 

このラウズカードには何個か能力があるが、今回は索敵能力を使う。蝙蝠が超音波で周囲の様子を察知する様に、人には感知できない超音波を放ち、反響定位(エコーロケーション)を行い第一階層の構造を理解。最も獲物が多い場所へと急ぐ。

 

「よし、此処だ」

 

たどり着いたその場所には、ゴブリンが5、6体はいた。早速注意を引くために、足元にあった石を投げる。

 

「キキキッ」

 

それによって、ベルに気づいたゴブリン達が、ベルへと襲いかかる。

 

「よし、行くよ」

 

一体目のゴブリンが先のゴブリン同様棍棒を振りかぶる。今回は、後ろに回っている暇はないので、振り下ろすより早く懐に入り込み、ナイフを刺す。そのまま、その後ろの二体めがけて蹴り飛ばし、迫ってきていた別のゴブリンの一撃を避ける。

 

「よっと」

 

そのまま腕を掴み、捻り上げ棍棒を奪い、ゴブリンの頭を粉砕。流れる様に持ち方を変え、別のゴブリンに投げつける。ここで漸く先に巻き添えを食らったゴブリン二体が攻撃を仕掛けてきたので、一体の足を払う。結果、そいつの持った棍棒はあらぬ方へと振り抜かれ、もう一方を葬った。ナイフを回収し、残りの三体を相手取る。と言っても、避けて刺すだけだが。

 

「ふう、終わった」

 

転がっている魔石を回収して、また別の狩場を探す。先の索敵時に2、3体で固まっている所は割と多めだったので、全部倒し終える頃には、それなりの量になっているだろう。

 

 

「神様、ただいま帰りました」

 

ギルドにて、魔石の換金を済ませたベルは一切寄り道することなく帰ってきた。というのも、量が多いためにエイナにちょっとしたお叱りを受けた事により、遅くなってしまったからだ。

 

「おっかえりーベル君!」

 

「うわ!神様、突然抱きついてくるのは危ないですよ」

 

ヘスティアを優しく抱きとめながら、ベルはそう言う。なんでも、ベルが無事に帰ってきてくれて嬉しかったんだとか。

 

「なあ、ベル君。不死の君に言うのもおかしな話かもしれないが、無茶はしないでくれよ?」

 

「当然ですよ。不死と言ったって痛みは感じるんですから」

 

「フフ、なら良いんだけどね。さて、そろそろ夕食にしようかベル君。バイト先の店長から在庫処分とか言ってジャガ丸くんいっぱい貰ったから食べ放題だぜ?まあ、賞味期限が近いから、今日か明日までには食べないといけないんだけどね」

 

「ああ、在庫処分ってそう言う……」

 

「まあ、ちゃんとした食事の方が良いとは思うけど、たまにはこう言うのも良いと思ってね」

 

「そうですね。たまには良いかもしれませんね。じゃあ、準備始めましょうか」

 

今日の稼ぎの五千ヴァリスを机に置いて、2人は夕食の準備を始めるのだった。

 

 

 




お待たせ致しました。リアルが忙しいので、これからも不定期になりそうですが、現状失踪だけはする気はないので、首を長くしてお待ちください


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ベルと【剣姫】

端末が治ったぞぉぉおおお!!!と言うわけで投稿です。お待たせいたしました。


冒険者になって、大体半年くらい経っただろうか。怪しまれない様に少しずつ下の階に足を伸ばしていたにも関わらずエイナにバレて叱られたりもしたが、なんとか言い包め四階層進出の許可を得て数日。四階層にも飽きてきたベルは、エイナの言いつけを破り五階層へと足を運んだ。そこで最初に遭遇したモンスターはベルの胸を少しばかり高鳴らせた。

 

「ブモォォォオオオオ!!」

 

そのモンスターというのが、本来はもっと下の階層にいるはずのミノタウロス。なんでもない冒険者なら死の覚悟を決めなければならない相手ではあるが、ベルはむしろようやく少し骨のある奴が現れたかと口角を上げた。

 

「何かから逃げてきたのか。それともないとは思うが迷い込んだのか。どっちにしろウォーミングアップ位にはなるかな?」

 

そう言ってベルは背を向けて走り出した。当然のように逃亡したベルを追いかけるミノタウロス。少しばかり走った後、ベルの目の前に壁が現れる。行き止まりだ。血走った目で追い込んだ獲物であるベルを睨むミノタウロス。しかし、ベルはそれでも余裕の態度を崩さなかった。そもそも、ベルは本来逃げる必要なんてないのだが、誰かに見られると面倒なのであえて人が余り通らなさような場所へとミノタウロスを誘導するように逃げていたのだ。

 

「被害が出る前に倒させてもらうよ」

 

そう言って、腰にジョーカーラウザーを出現させようとして、辞めた。瞬間、常人ならば目で追うことすらできないであろう剣撃がミノタウロスを細切れにした。細切れにされた事による血のシャワーが降りかかり、真っ赤になってしまったベル。そんな彼を、こんな状況を作った元凶であるミノタウロスを細切れにした人物が話しかけてきた。

 

「…………大丈夫ですか?」

 

腰まで伸びた金髪に金色の目。そして、彼女から感じる強者の気配。彼女こそが噂に聞いた女性冒険者最強の一角と名高い【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインなのだろう。アンデッドであるベルとしては、獲物を取られた上血塗れにさせられた事に文句も出てくるが、此処で文句を言うと側から見たら冒険者初心者が上級者に文句を言ってる構図になる事は分かっていたので、それを飲み込んでベルはアイズに礼だけ言って、血に濡れた服の不快感から逃れる為に走ってダンジョンから抜け出した。

 

     *

 

「あ、おかってなんでそんな血塗れなの!?」

 

ギルドに戻ったベルを待っていたのは、エイナの困惑の悲鳴だった。さっさと血を流したかったベルとしては此処でエイナに捕まりたくはなかったのだが、見つかってしまった以上仕方ないと腹をくくり今日の出来事を語った。

 

「私の言いつけを守らずに五階層に行ってミノタウロスに襲われた!?前にも行ったけど、なんで君は私の言いつけを守らないの!」

 

「いや、物足りなくって」

 

「物足りないじゃないの!何度も言うけど、冒険者は冒険しちゃダメなの!ソロの君は特にね!!ソロだとやられちゃった時に助けてくれる人もいないんだからね!?」

 

アンデッドであるベルは死なないし、そもそもそんじょそこらのモンスターでは相手にすらならないので平気なのだが、それを知らないエイナとしては気が気がないのだろう。自身のことを人間として心配してくれるエイナに感謝しながらも、血塗れのままエイナの説教を聞かされているベルはシャワー浴びたいなぁ等と考え始めるのだった。

 

「それで、換金はしていくの?」

 

「あ、はい」

 

説教を終えたエイナは、一度シャワーを浴びに行ったベルを待ちそう話しかけてきた。勿論ミノタウロスに遭遇するまでは普通に別のモンスターを狩っていた為、ベルは換金所へと歩を向けた。なんでかエイナもついてきたが、此処最近で余りにも倒して稼ぎすぎると不審がられるのを知っていた故、あえて少な目に倒していたにも関わらず、それでも多かったようで再びエイナのお叱りを受けてしまった。

 

     *

 

「ただいま帰りました」

 

「おかえりベル君」

 

「あ、神様。ちょっと報告なんですけど、今日【剣姫】に助けられました」

 

「なんだって!?」

 

なんでもないことのように告げたその言葉を聞き、ヘスティアはすぐさまベルに近づき怪我はないかと身体を弄り始めた。

 

「ちょ、ちょっと神様!最後まで聞いてください!!助けられたと言っても結果そうなっただけで、僕は怪我してませんよ!?」

 

「え?……なんだそっか。余り驚かせないでくれよ」

 

「すいません神様」

 

落ち着いた様に息を吐き椅子に腰掛けたヘスティアを見て、伝え方を間違えたなと心の中で反省するベル。ヘスティアはベルを物凄く可愛がっている。それこそ溺愛していると言っても過言ではないほどに。ちょっとした怪我でも伝え方を間違えればすぐ様パニックになってしまう可能性もあるだろう。

 

「ベルくーん。稼いで来てくれたのはベル君だから知ってるかもしれないけど、結構潤ってるし今日はどこか食事に行かないかい?」

 

「そうですね。偶には良いかもしれませんね」

 

「よし、そうと決まれば混んでるのも嫌だしすぐ行こうか」

 

「元気ですね。神様」

 

ささっと準備をするヘスティアを見ながら、ベルはクスリと笑みを浮かべそう呟いた。

 

 



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