一般貴族の革命録 (C・S)
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親友との出会い

自分には守りたい人がいる。その人は自分の中で一番大切な人だ。大切な人であるからこそ「守りたい」という感情が生まれるのであろう。

 守りたいものを守るためには手段を選ぶことなどない。そのために、何もかもを捨てて戦いに挑む。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

街を一望できる丘の上に、白く大きくそびえたつ屋敷がある。広い庭園に大きな門がまえ。この屋敷はこの街を支配する貴族が暮らしている。

 

「アルロンド様、お客様です」

 

「えっ?こんな朝早くに?」

 

この街を支配する貴族であるアルデリア家の跡取り息子、アルロンド・アルデリア。朝食をとり、一休みしていると彼に客人が訪れた。

 

「お仕度ください」

 

初老の執事はアルロンドの身支度を手伝う。

 

「どうせレオポンドでしょう」

 

「左様でございます」

 

レオポンド・J・トルネーゼはアルロンドとは旧知の仲である。同い年でもある彼らは乗馬や剣術など、貴族としてふさわしい教養を身に付けるべく日々切磋琢磨しているような関係だ。

アルロンドは身支度を終え、レオポンドのところへ向かった。

 

「やあ、アル!今日は遅いじゃないか」

 

「アポなしで来られちゃ準備なんてできるわけがないだろう。まあ、いつものことだが」

 

「日々の生活でも気を抜かず日々鍛錬に励むのが貴族のあるべき姿だ。」

 

レオポンドは高い声で笑いながら言った。

 

「で、今日は何の用だ?」

 

「今日は馬に乗って山へ行こうと思うんだ」

 

「この寒い中?」

 

11月も終わろうとしている今の季節、ほとんどの人は馬に乗って山へ行こうとは思わないはずである。しかし、彼の考えは違っていた。

 

「貴族たるもの、暑さ寒さに負けてはならないのです。とっとと行くぞ!」

 

早朝であるのにもかかわらず非常に元気なレオポンドとやれやれといいつつも彼についていくアルロンド。

そんな中の良い彼らであるが、過去に大喧嘩をしたことがあった。それは今から2年ほど前、彼らが12歳のころの出来事であった。

 

「貴様それでも貴族か!」

 

「貴族の両親から生まれたんだから貴族だよ」

 

二人は手に剣をもちあわせ、お互いを睨みつけている。彼らの周りには、彼らの決闘を一目見ようとたくさんのやじ馬が群がっている。

 

「家系は貴族にとって重要なことだ。しかし、それに甘んずるということは恥ずべきことだとは思わないのか!?」

 

「誰が貴族になるかは家系が決めることなんだからそのことについて誇りを持つとかこういう感情は浮かばないよ」

 

「貴様!」

 

レオポンドは剣を振り上げた。するとアルロンドは、レオポンドの攻撃を避け、反撃した。

 

「別に貴族に必要な最低限の技術は身に付けているんだから、他人に何か文句を言われる筋合いはないよ」

 

アルロンドはレオポンドの喉元に剣を突き付ける。すると一人の少女が、

 

「やめてよアル!ここまですることはないでしょう」

 

と、瞳に涙を浮かべながら叫んだ。

 

「いや、だってこいつが」

 

アルロンドはレオポンドから目を離して言った。するとレオポンドは、

 

「隙を見せるくらいじゃ所詮貴様はその程度だな」

 

そう言って彼はアルロンドを吹っ飛ばし、この場を後にした。

 

「卑怯な技を使いやがって……」

 

アルロンドが立ち上がろうとしたとき、

 

「もういいでしょう。こんなことやったって意味ないよ」

 

少女はアルロンドの腕を引っ張りながら言った。

 

「いや、でも」

 

「彼を挑発したのはアルでしょう。悪いところは悪かったって謝りなさい。そうすればもうこんな非生産的な争いは起こらないのです。」

 

「まあ、エリスがそう言うのなら……」

 

アルロンドの恋人「エリス」のアドバイスもあり、彼はレオポンドに謝ることができた。すると、二人は親友といえるほどの仲になっていった。

 



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「やっと着いたなあ」

 

レオポンドは馬を降りた。

屋敷から馬を走らせて2時間ほどのところにあるこの山では、落葉広葉樹林が広がっていて今は紅葉の季節の真っただ中である。

 

「どうせここに来るなら、エリスを連れてくればよかったなあ」

 

「またお前は恋人のことしか考えていないんだな」

 

「エリスは大切だからね」

 

「くっさいこと言うやつだな」

 

レオポンドは、クスクスと笑いながら言った。

彼は、貴族に恋人は不要という考えを持ち合わせており、今までに恋人ができたことは一度もない。

 

「お前も恋人ができればわかるもんさ」

 

「どうだかなあ」

 

二人がしばらく話をしていると背後から平民のような服装をした男がやってきた。

 

「恐れ入ります、二人はアルデリア様とトルネーゼ様ですか?」

 

「あなたは?」

 

レオポンドは不審者を見るような目を見せながら言った。

 

「失礼、私はジャン・ヴァウマンといいます」

 

するとアルロンドは驚きながら、

 

「隣国の貴族、ヴァウマン様ですか?なぜあなたのような方がこのような格好を?」

 

「私の国ではもう貴族とか平民とかいう身分の違いがなくなってしまいましたからね」

 

「どういうことです?」

 

レオポンドはヴァウマンの言っていることが一つも理解できなかった。

 

「守りたい人がいるので、貴族や、平民をはじめとした格差がある国を変えました。まあ、あなたたちはまだ若い。私の言葉を理解できる日がいずれくるでしょう。そのときはまた、あなたたちとぜひお会いしたい」

 

ぺこりとお辞儀をして彼は去っていった。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

ヴァウマン氏が去ったのち、二人は弁当を食べることにした。

 

「なあレオポンド」

サンドウィッチを口にほおばりながらアルロンドは言った。

 

「どうした?」

 

「貴族がいない世界ってどんな感じなんだろう」

 

「知らんよそんなこと。国というものは貴族がいて成り立っているんだ。国防も国政も、しっかりとした家系と教養を持ち合わせた貴族がいなければ国は崩壊してしまう」

 

「そんなもんかなあ」

 

「お前、貴族という身分に対してほこりを持とうとは思わないのか?」

 

「……」

 

アルロンドは黙り込んでしまった。それも仕方がない。2年前に彼と喧嘩した原因が貴族という身分の考え方の違いから生じたものであったためだ。アルロンドは自分の中でも貴族というものがどのようなものなのかを整理できておらず、この話になるといつも自分の考えを出せずにいる。

 

「お前は、あの時から変わっていないな」

 

二人は食事を終え帰路についた。しかし、その道中に二人の会話が生まれることはなく、鞭をいれる音と馬の足音のみが響き渡っていた。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

アルロンドとレオポンドが山に出かけて1、2週間ほどたった後のことであった。

山での出来事がきっかけで二人は学校でもあまり口を利かずにいた。そんな二人の状況を不安に思ったエリスはアルロンドに話しかけた。

 

「ねえアル、レオポンドと何があったの?」

 

「別に、なんでもないよ」

 

するとエリスは顔をしかめて、

 

「何でもないのになぜこんな状況になっているの?ここ最近二人とも話してないみたいだし」

 

「そんなの、エリスには関係ないよ」

 

「直接的には関係ないけどちょっとは心配になるわよ」

 

「どうして?」

 

「どうしてもなにも、二人は友達でしょう。友達同士が仲良くするということは当然のことなのです」

 

「そりゃそうだけど、考え方の相違とかは生まれてくるものだよ」

 

アルロンドがそう言うと、エリスはため息をついた。

 

「貴族の在り方のことについてもめたのね」

 

「どうしてわかったんだよ」

 

アルロンドは不機嫌そうに言った。

 

「2年まえに二人が喧嘩した原因もそれだったからよ。アル、まだそのことについて整理ができていなかったの?」

 

「うるさい」

 

エリスは顔をしかめて、

 

「あなたが思っているものが答えだと思うわ」

 

「どういう意味?」

 

「そんなことくらい自分で考えるべきなのです」

 

エリスはニタッと笑いながらアルロンドへそう言い残し、去っていった。

二人がしばらく会えなくなることを知ってか知らずか。

 



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決意

アルロンドが屋敷に帰ると早々、執事が彼に話した。

 

「アルロンド様、あなた宛てに密書が届いております」

 

「密書?だれから?」

 

今まで密書が彼宛に送られてきたことなど無かった。しかし、手紙のあて名はアルロンド・アルデリアと書かれており、それは間違いなく彼宛の密書であることを示している。

アルロンドは足早に自室に入り手紙を開封することとした。

 

封蝋(ふうろう)をはがし、密書を開封するとそこにはエリスからの手紙が入っていた。

 

「エリスがなぜ密書なんて……」

 

そう疑問に思いつつ手紙を読み始めたアルロンドであるが、手紙の内容を読み始めると彼の手は震えてきた。

 

その手紙には、エリスがトルネーゼ家へ嫁に行く旨が書かれていた。トルネーゼ家。つまり、アルロンドの親友であるレオポンドがエリスと結婚するということになったのだ。もちろんそのことは、アルロンドは今初めて知ったことであった。

 

この世界の、この国の、この時代の貴族にとって急に決まる結婚というのは全く持って珍しい話ではなかった。貴族において結婚というのは家と家を結ぶものであり、恋愛の感情というよりも、家と家同士をつなぐ重要なものという認識だ。誰と誰が結婚するかは、結婚する本人が決めるものではない。この国において貴族というものは、このような方法で家系をまもってきたのだ。アルロンドに何かできるというわけではないのだ。

 

しかし、そのことを十分に理解できているアルロンドであるが、納得できずにいた。自分はなぜ貴族なのか、エリスはなぜ貴族なのか。貴族はなぜここまで縛られなければならないのか。そもそも、平民と貴族の身分の格差というものは必要なものであるのか。

 

「貴族というものは、国を守るために鍛錬を積まなければなりません」

 

思い悩んだアルロンドは、学校の教官から最初に教わった一言を思い出した。

 

「貴族には、守るべきプライドが必要です。貴族ということに誇りをもって生きていかなければなりません」

 

なぜ自分は貴族になったのか。そもそも、両親が貴族だという理由で貴族であっていいのか。

貴族についていろいろ考えているうちにある出来事を思い出した。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

今から数えて3年ほど前のことであった。幼いエリスは、学校でいつも仲間外れにされていた。それは、彼女はいつも説教口調でものをいう性格によるものであった。

 

「きみ、こんなところでどうしたんだ」

 

幼いエリスにアルロンドは話しかけた。

 

「私は、いつもみんなに仲間外れにされるのです。普通に話しているだけなんだけど……」

 

「別に無理して相手に合わせることはないじゃないか」

 

「無理して相手に合わせることはない?」

 

「人にはそれぞれの考え方があるんだ。自分の思考と全く同じものを持ち合わせている人なんて一人としていない。だから無理して相手に合わせる必要なんてないんだよ」

 

「……」

 

エリスから一粒の涙がこぼれた。その涙をアルロンドが掬い取り、

 

「君にどんなことが起きようと僕が必ず守って見せるから涙なんて流さないで」

 

 

この出来事がきっかけで二人は恋人の仲になった。そう、アルロンドはエリスを守りたかったのだ。

 

「守りたい人がいるので、貴族や、平民をはじめとした格差がある国を変えました。まあ、あなたたちはまだ若い。私の言葉を理解できる日がいずれくるでしょう」

 

それは、レオポンドと山に行ったときの出来事であった。ヴァウマン氏は守りたい人を守るために国を変えたといったのであった。

 

「そうだ、俺はエリスを守りたかったんだ。自分には守りたい人がいる。その人は自分の中で一番大切な人だ。大切な人であるからこそ「守りたい」という感情が生まれるのであろう。

守りたいものを守るためには手段を選ぶことなどない。そのために、何もかもを捨てて戦いに挑む」

 

貴族は国を守るためにある。一人の女性を守ることもできずにこの国を守ることなどできない。そうかんがえ、アルロンドはこの国の仕組みをヴァウマン氏のように変えることを今決意した。

 

そして、アルロンドは机の引き出しから羽ペンとインクボトル、封筒と便箋を用意して手紙を書き始めた。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

後日、アルロンドは馬に乗り隣国の旧ヴァウマン領まで足を延ばした。

ヴァウマン氏の屋敷は跡形もなくなっており、アルロンドは唖然とした。

 

「立派だった屋敷がこんなになってしまったのか」

 

外壁は崩れ落ち、装飾物はすべて破壊されていてそれはもう見るも無残な姿であった。そんな屋敷にヴァウマン氏はもちろん住んではいなかった。

 

どうしたらよいのかわからなくなったアルロンドはそこへ呆然と立ち尽くすしかなかった。

そうした中、急に背後から声をかけられた。

 

「もしもし、……」

 

「だれだ?」

 

アルロンドは急に声をかけられたのに対して驚き、剣を抜いた。

 

「お忘れになりましたか?」

 

すると深くかぶっていた帽子をとり、

 

「このあいだ山でお会いしたヴァウマンです」

 

「あぁ、ヴァウマン様。大変失礼なことをいたしました。私はあなたにお会いしたくここへ訪れたところであります」

 

アルロンドは膝をつきながら言った。

 

「まあまあ、頭を上げてください。この国には身分なんてものは存在しないのですから」

 

「しかし……」

 

「私の言葉の意味が分かりましたか」

 

「はい、私にはどうしても守りたい人がいます。また、貴族として、いえ、人としてこの国を守るためには国の在り方を変えるしかありません」

 

貴族が平民に対してしたことはお世辞にも良いこととは言えなかった。明らかに平民を見下した態度は、アルロンドは子供心ながらあまり良いとは思っていなかった。この数日で整理した自分の考えをヴァウマン氏に思うままを伝えた。

 

「あなたなら、あなたの国を変えることができます。ぜひ、あなたの力で国を変えてください」

 

「自分の力で。私の力には限界があります。ぜひ、ヴァウマン氏にご協力をいただきたい」

 

「それはできません」

 

「なぜです?」

 

「私はあなたの国の民ではないからです。あなたがあなたの国の民を率いて国を変えなければなりません」

 

アルロンドは目の前に大きな壁がそびえたった気分がした。しかし、彼にとって成し遂げたいことはただ一つ。迷う暇もなくその高い壁を乗り越えなければならないということを決意した。

 

「わかりました。ヴァウマン様。あなたにお会いできたことを非常にうれしく思います。絶対に私の手でこの国を変えて見せます」

 

そう言ってアルロンドは故郷に戻った。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

アルロンドは平民街へ訪れた。

さっそく、貴族による国の支配を倒すための軍隊を作り上げようとしたがそれは困難を極めた。

いままで平民を見下していた貴族についてくる平民なんておらず、ほとんどが振り向いてくれなった。

 

「どうか私の考えを聞いてください……」

 

「今は忙しいんだ」

 

「そんなの信用できん」

 

「俺たちに何の力があるっていうんだ」

 

声をかけるたび冷たい声が返ってくる。これはもちろん今まで貴族が平民に対して行ったことの悪さが響いている。しかし、彼はこんな対応にもめげることはなく、平民に対して交渉をつづけた。

 



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革命

アルロンドが国を倒すため軍隊を作り上げようとしていることはもちろん貴族の間にも瞬く間に広がった。その話を聞きつけ、いち早く駆け付けた人物がいた。それはもちろん、彼の親友であり敵でもあるレオポンドであった。

 

「貴様、何を考えているつもりだ!!!」

 

レオポンドはアルロンドに怒鳴りつけた。

 

「自分は国を守るために戦っている」

 

やじ馬の住民が集まる中、レオポンドはアルロンドに剣を向けた。

 

「お前、それが貴族のやることか。貴族の支配をなくすということは貴族のプライドを捨て、国を守ること、国を治めることを住民にやらせることになる。そんなことで国を守れると思えるのか!」

 

するとアルロンドも剣を抜き、

 

「貴族なんて、家系だけによって生まれるものだ。そんなものに価値など無い」

 

レオポンドに剣を振り下ろした。するとレオポンドはそれをはじき返し、

 

「貴様、貴族にほこりを感じないのというのか」

 

「当たり前だ!」

 

二人の戦いは激しくなる一方であった。すると群がっている平民のほうからある声が聞こえた。

 

「アルロンド、俺も参戦したい。俺もこの国を変えたいんだ」

 

彼は、アルロンドが交渉した人物のひとりであった。

 

「おっ、俺も、できることなら力になりたい」

 

次々に平民からアルロンドに協力したいという声が上がってくる。そう、アルロンドの絶え間ない努力によって、住民からの信頼関係の構築に成功していたのだ。

 

そしてアルロンドは、レオポンドに言った。

 

「貴様が、貴族による国の支配を継続させたいというのならば自分たちと戦うことだ。自分たちは必ずこの国を変える」

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

アルロンドは、平民を主体とした軍隊を作り上げることに成功し、貴族たちの軍に匹敵するほどの力をつけることができた。そして、貴族対平民の戦いが始まった。

 

高価な武器を用いた貴族の軍隊に平民たちの軍隊は圧倒された。

 

「人数は、こちらの軍隊のほうが圧倒的です。国を変えるために皆さん、結束しましょう!」

 

アルロンドは軍隊の指揮をとっている。

 

今まで貴族に不満を持っていた平民たちは貴族たちに多大なる恨みを持っていた。それを原動力に彼らは一つに団結し、貴族と戦いに挑んだ。

 

最初は平民たちの軍隊を倒し続けていた貴族たちの軍隊であったが、しだいに平民たちの軍隊が勢力を巻き返し、平民たちが勝利することができた。

 

しかし、勝利することができたのであるがその代償はやはり大きなものであった。建物という建物がすべて破壊され、田畑は荒れ果てたものになってしまった。そんな状況になってしまったこの国であるが平民たちはアルロンドに言った、

 

「あなたのおかげで私たちの生活に希望を持つことができました。ぜひ、この国の王になっていただきたい」

 

「それはできません。この国には身分などもう存在しないのです。誰もが平等です。国を治めるリーダーは多数決により決めるのです」

 

多数決で決めるリーダーの決め方はヴァウマン氏に後日送られてきた手紙から知ったことであった。貴族をなくしたとしても、平民が主体となって国を治めるという文化がなく、結局元のような状態に戻るということが頻発するということが書かれていた。そのことを踏まえアルロンドには、国を治める方法を平民、いや、住民たちに教えることをした。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

国を変えるための作業をある程度終えたのち、彼は一人の女性に会いに行った。それはもちろん彼の恋人「エリス」である。

 

「エリス、会いたかった」

 

「どうしてアルがこの国を変えたいと思ったの?」

 

「そんなの言うまでもないだろう」

 

アルロンドはエリスの頬に手を触れながら、

 

「君を守りたかったからだ。僕は言っただろう。君を守ると」

 

「アル……」

 

エリスは涙を流した。

 

「エリス涙を見せないでくれよ」

 

「アル!」

 

「どうしたんだ」

 

エリスは泣き出したい気持ちを押し殺しながら彼の名前を言った。

 

「わたしね、実はこの国を変えさせるという使命をもってこの世界に来たの」

 

「どういうこと?」

 

「わたしは、あなたにこの国を変えてほしいと願ったからあなたのところへ来たの」

 

アルロンドはエリスに何のことを言われているのかさっぱりわからなかった。

 

「あの手紙も、あなたとの出会いも全部私が仕組んだものなの」

 

「嘘だろ」

 

「私は、この国の未来から来たのです。今までだましていてごめんなさい」

 

「冗談はよせって」

 

「私はもう元の時代に戻らなくてはならないの。あなたのこの努力は未来までずっと残っているわ」

 

「そんな、エリス!この時代で僕と一緒に暮らしたいとは思わないのか?」

 

「アルと一緒にいたいと思うわ。でも私はもう未来に帰らないといけないのです」

 

エリスの瞳にはアルロンドの姿が映っている。

 

「さようなら」

 

「エリス!」

 

アルロンドはエリスを引き留めようと、エリスに抱き着いた。

しかし、数秒後にエリスの姿はそこから消え失せてしまった。

 

「エリスー!」

 

泣き叫ぶアルロンド。しかし、エリスがこの地に戻ることは二度となかった。

 




最終話まで読んでいただきありがとうございました。
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