悪辣な転生者に裁きを (フライング・招き猫)
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第0話 プロローグ

12月24日 
登場人物の名前を変更しました。また設定の一部を変更しました。


 「馬鹿者!! 何という事をしでかしたのだ!」

 

 「申し訳ありませんでした。 ミスして人間を死なせた事を知られたくなくて・・・それで勝手に転生させてしまいました。」

 

 白い衣を着た壮年の男性が同じような衣を纏った少女を叱っている。 少女は床に土下座して謝っている。

 

 「勘違いをするな! 私が叱っているのはミスをした事ではない。 ミスして死なせてしまった以上は、その人間に対して保障をし、新たな人生を歩んで貰う為に転生させるのも別に悪くはない。だがな、転生させるにも最低限護らなければならないルールが存在するのだ。」

 

 そう言って男性は溜め息をつき

 

 「二次元の創作世界に転生させるのも別に問題はない、だがな転生させるにあたっては、原作の主要な登場人物を歪に歪めるような立ち位置に転生させたり、転生特典を与えてはならない、というルールが存在するのだ。」

 

 それを聞いて女性の顔は青ざめる。

 

 「然るに今回キミが行ったのは、それを違反している。 主人公の双子の兄として転生させ、身体能力に頭脳を強化。これにより主人公は転生者に居場所を奪われてしまった。 このままではあの世界は終焉を迎えてしまう。」

 

 男性が手を翳すと 床に映像が映し出された。 そこには降りしきる雨の中、大きな河にかかる橋と土手の隙間で雨風を避けながら寒さに震える少年の姿があった。

 

 「既に、影響は出ている。 転生者の影響で世界を滅ぶなどあってはならない。」

 

 もう一度、手を翳すと映像が替わり、家のリビングでのんびりと寛ぎながら下卑た笑みを浮かべる少年の姿が現れる。

 

 「本来なら転生者を排除するのが1番手っ取り早いのだが、既に転生者により物語が改悪されてしまっており、本来の物語に戻すのは不可能なので意味がない。そこでキミには今回の一件の罰として主人公のサポート役として、あの世界に転生して貰う。そして主人公を手助けし、世界を終焉から救って貰う。」

 

 少女は顔をあげて

 

 「転生ですか?」

 

 「そうだ、転生だ。キミの魂を3つにより別けてそれぞれ別の立場を与えるので主人公の手助けをして貰う。いいな?」

 

 「わかりました。それで転生する先は?」

 

 少女がそう尋ねると、男性は手に持つ1つの水晶を見せた。

 

 「これはISのコアというものです。これに宿って貰い彼の専用機となって彼をサポートしなさい。そして残りの二つの魂は本来なら厳禁ですが、物語に登場する二人の人間に憑依融合してもらいます。そして主人公のサポートをしてもらう。」

 

 「その人物とは?」

 

 「一人目は****、二人目は****です。」

 

 「わかりました。」

 

 「それではいきます!」

 

 男性が手を翳すと少女は光となり3つにわかれる。1つは男性が持つコアに、残りの二つは消えた。

 

 「さて、私の方でもサポートしなければな。本来なら厳禁なのだが、物語に介入し改悪する転生者がいる以上猶予は無いしな。最悪、登場人物の一部に影響がおよぶが仕方ない。世界の終焉を回避するためだ、赦せよ。先ずはあの転生者の特典だが、特典を消したり変更したりは出来んが、多少制約を加える事は出来るからな。」

 

 




 
更識夏輝【旧姓 織斑一夏】
転生者である、双子の兄の織斑百春により幼き頃から虐められ、更には百春が姉である織斑千冬や周囲の人物達に有ること無いことを吹き込み、能無し・出来損ないといったレッテルを貼られて虐めらる。
そして6歳の頃に家を追い出されてしまう。
だが、事態を知った神により救済措置がなされ更識楯無に保護されて、更識家に養子として迎えられる。
 その後、秘められていた才能が開花し、その力を認めた楯無により娘の刀奈と簪の婚約者に選ばれる。
 また更識家の養子になった頃から篠ノ之束が現れて一夏並びに更識家へのサポートを申し出てくる。束曰く『罪滅ぼし』とのこと。
 この頃には既に織斑家への拘りはなくなり自分は更識家の人間と認識する。そして決別の意味を籠めて束特性のナノマシンによる目と髪の変色、顔の一部、更には戸籍の改竄をして織斑としての痕跡を消す。
 また神より対転生者用の特典を与えられる。




織斑百春(おりむら ももはる)
転生者。 少女の姿をした神のミスにより死亡してしまったが、お詫びとして転生させられると聞き喜んで転生した。転生するに辺り、特典として身体能力の強化、頭脳強化、IS適性の所有、専用機所持、関わった人物への絶対的な信頼、織斑家の長男として転生を貰う。 転生後は自分が物語の主人公になるために一夏の立ち位置を奪う為に様々な策を労した。 その甲斐があり、6歳の頃に家から追い出す事に成功する。 その後は一夏の立ち位置を完全に自分の物にするために原作知識をフル活用し行動する。 その為、千冬をはじめとする周囲の人物達からの信頼は厚い、ただ篠ノ之束だけは接触が無かった為に信頼を得られなかったのが心残り。
 ただ百春は知らない、自分というイレギュラーが加わった事で原作というものは既に無くなったという事を。



 
 
 


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第1話  求める者

 (僕、これからどうしよう。)

 

 大きな橋の下、土手との隙間で一夏は震えていた。

家を双子の兄である百春に追い出されて、途方に暮れていた所に激しく雨が降りだしたのであった。

 行き場の無い一夏はとりあえず雨風をしのぐ為に、この場所を選んだ。 ただ幸運にも、この場所にはホームレスがたまに来るのか木片の入った1斗缶とライターに新聞紙が置いてあり、焚き火が出来るようになっていた。 それで何とか火をつけた焚き火を始め暖を取ることは出来た。

 

 (姉さんは兄さんの事しか信じてくれないし、他の人もおんなじだし、誰も僕の話を聞いてくれないし)

 

 一夏の周囲の人達は千冬を始め、殆どの人が百春の話だけを信じて一夏の言葉は誰も信じてくれない。

 更に要領よく何でも器用にこなす百春が誉められて、同じ事をしても時間がかかる一夏は常に

 

 『出来損ない、いつまでかかっているんだ』

 

 『お兄ちゃんは出来ているのに、何で出来ていないの?』

 

 『何で同じ事が出来ない!』

 

 『何だ、そのできは? もっと上手く出来ないのか?』

 

 となじられるばかり。 そして今日

 

 『おい、出来損ない!お前は目障りなんだよ、姉さんのお荷物何だからさっさと出ていけ!!』

 

 そう言われて着の身着のまま家を追い出されたのである。 

 

 (このまま、ここで死んじゃうのかな・・・)

 

 ただ心残りといえば、自分に唯一優しくしてくれた姉の親友の存在だった。自分にだけ色々な事を教えてくれた女性、兄ではなく自分を選んでくれた女性、お茶目で並外れた知識と身体能力を持つ女性、自分にだけ弱音を吐いた女性、その女性ともう会えなくなるかもしれない。それだけが心残りだった。

 

 「ぼうや、こんな所で何をしているんだ?」

 

 突然、大人の声が上の方からした。一夏が声がした方に顔を向けると、土手から覗きこむように腰を屈めて此方を見ている厳つい顔をした中年男性がいた。 だが、その目は優しそうだった。 

 

 「家から追い出された・・・兄さんも姉さんも、僕がいらないって・・・・」

 

 そう告げると、男性は土手を下りて一夏に近づいていった。 そしてそっと抱き締める。

 

 「辛かっただろう、悲しかっただろう、寂しかっただろう。だが、もう安心していいぞ。これからはおじさんが一緒にいてあげるからな。」

 

 男性に抱き締められて頭を撫でられた一夏は、その暖かさに冷えきっていた心がほどけていく。

 

 「・・・う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」

 

 堰をきったかのように大声で泣きはじめる。男性はそんな一夏の頭をなでながら、ただ優しく見つめていた。

 

 

 

 

 やがて泣き疲れて寝てしまった一夏。一夏をそっと抱き上げる男性。その男性の側に傘を持った女性と黒服を着た男が来る。

 

 「あなた、この子を?」

 

 「あぁ引き取ろうと思う。この子はこんなに小さいのにたくさんの傷を負っているようだ。しかも肉親から・・・・・八坂!」

 

 男性が、黒服の男・・・八坂に声をかけると

 

 「はい、楯無様!」

 

 「すぐにこの子の身元を調べろ!更にこの子の回りの環境とこの子に対する扱いもな!」

 

 「わかりました。すぐに!」

 

 「行こう静香。刀奈と簪の新しい家族を紹介しよう。」

 

 「はい、あなた。」

 

 女性・・・更識静香は男…更識楯無と、その腕の中で眠る一夏に優しい視線を送る。

 

 

 

 

 

 次の日、八坂から一夏に関する報告を受けた楯無と静香は千冬と百春、そして周囲の人物達に対して激しい怒りを表した。 特に普段滅多に怒る事の無い静香の怒りは半端なく、寧ろ普段は宥められる立場の楯無が宥める側に回ったのだから。

  

 報告を受けて楯無は更識家の関係者を集めた。そこで一夏の事を説明した。

 

 「さて、見てもらった通り、織斑一夏の生活環境は最悪と言っても過言でも無いほど酷いものだ。この幼子をあのような環境に晒し続けていい筈は無い。そこで織斑一夏くんを更識家の養子として引き取る。よいな!」

 

 「「「「「はい、全ては楯無様の思いのままに」」」」」

 

 「この日より織斑一夏という少年は亡くなり、更識夏輝という少年が生まれたのだ。そのように手配せよ。」

 

 「「「「「「はい、かしこまりました」」」」」」

 

 こうして、一夏は更識家に引き取られる事になった。

更識家に引き取られ、名前を一夏から夏輝とかえ、今まで味わう事のなかった家族の温もり・・・厳しくも優しい父親の楯無、常に笑顔で温もりを与えてくれる母親の静香、いたずらっ子でありながら年長者として弟や妹を守る姉の刀奈、引っ込み思案ながらも甘えてくる妹の簪・・や更識家の周囲の人達の温かさは夏輝の傷付いた心を癒すだけでなく、押さえこまれていた才能を開花させる事になった。 

 

 それから時は流れ夏輝が12歳になった、ある日のこと

 

 楯無は仕事の合間に織斑家の監視状況の報告を受けていた。 一夏の死亡を偽造し、警察に織斑家に報告に行かせたのだが、千冬も百春も身元確認には行かず、任意提出した髪の毛での照合だけを行った。

 更に葬式はおろか遺体の引き取りにすら行かなかったのである。 ただ戸籍上の死亡手続きのみ、したのであった。

 

 「相も変わらずか・・・・本当に救いようが無いな。」

 

 織斑家の最近の様子が書かれた報告書を読み楯無は呟く。ふと、夏輝と初めて会った時の事を何故か思い出した。

 

 (確かあれは、予定されていた会議が急遽中止となり、いつも通る道がたまたま事故で通行止めになっていて、迂回した道が工事をしていて片側交互通行となっていて、車が橋の側で止められて、何気なしに外を見て橋の下で焚き火をしている子供を見つけて気になったのがはじまりだったな。)

 

 今にして思えば、幾つもの要因が偶発的に重なったことで起きた出会いだった。 そのような過去に思い馳せていた時、楯無は庭に人の気配を感じ取った。 屋敷には更識家に仕える精鋭が控えており常に周囲を警戒している。 だが、庭にいるのは屋敷の者の気配ではない。 となれば答えは自ずと侵入者となるのだが、他の者に気付かれる事なく庭にいる。

 

 「庭にいる御仁、更識家に何用かな?」

 

 楯無は立ち上がり、障子を開けて庭を見る。 そこにはエプロンドレス姿に頭にうさぎの耳のような飾りをつけた少女がいた。

 

 「やあやあ、初めまして私は天災、篠ノ之束さんだよ。」

 

 「篠ノ之束?もしかしてISの発明者の篠ノ之束博士ですか?」

 

 「束さん以外に束さんは存在しないよ。」

 

 「それで、ISコアを467個作った後行方を眩ませていた篠ノ之束博士が、何故この屋敷に?」

 

 「うん、この世界で私にとって唯一無二の存在であるいっくん・・・織斑一夏を保護しているよね。」

 

 「この屋敷には織斑一夏という少年はいないよ。それにこちらの入手した情報では織斑一夏くんは既に亡くなっているよ。」

 

 「そうだったね、今は更識夏輝くんだったね。」

 

 束にそう言われ楯無は黙る。手には汗をかき四肢に緊張が走り強ばる。

 

 「そんなに身構えなくていいよ。別にいっくん・・・じゃなくてなっくんに危害を加えるつもりもないし、そっちと敵対するつもりもないよ。」

 

 「それでは、いったい何の用事でここに?」

 

 楯無の脳裏に篠ノ之束の情報が浮かぶ。ごく一部の身内と束が認めた親しい人物のみに心を開き、それ以外の人間を全く認識しない・・・そういった人物のはず、だが今目の前にいる束はその情報とは何処か一致しない。

 

 「私の用件は、簡単だよ、私もここで保護して欲しいな。あっ、私だけじゃなくてもう一人、私の養子もね。」

 

 突然の発言に楯無は固まる。あまりにも予想外のみ提案に楯無の理解は追い付かなかった。 それでも何とか言葉を絞り出して

 

 「どうしてですか?」

 

 「ひとつはなっくんを守る為に。なっくんに振りかかる有りとあらゆる悪意からなっくんを守りたいから。」

 

 「貴女は知っているのですね。」

 

 楯無は何とは尋ねない。

 

 「なっくんが、家を出て・・・いやあいつに追い出されて初めて知った。そして後悔した、あの子を守れなかった事を・・・気づかなかった事を・・・助ける事が出来なかった事を!」

 

 束の固く握りしめた拳から血が滴り落ちる。

 

 「何より許せなかった、親友と信じていた女の本性と裏切りに気づかなかった事に、溺愛していた妹の非道な行動を、裏で悪意を振り撒いていた悪童を!」

 

 束の目から涙が流れる。そんな束を背後から、いつのまにか現れた静香が抱き締める。

 

 「えっ?!」

 

 「苦しかったのね。一人で苦しんでいたのね。貴女も寂しかったのね。」

 

 束は恐る恐る背後から自分を抱き締めている静香の顔を見る。優しく母性に満ちた顔を見た束は

 

 「?!!!!!!!!!!」

 

 声にならない声をあげて静香の胸に顔を埋めて泣きはじめる。まるで初めて母親の愛を受けた幼子のように。

 

 

 

 ひとしきり泣いて落ち着いた束、それを優しく見守る静香。妻の底知れぬ包容力にただひたすら感嘆する楯無。

 

 「さて篠ノ之博士、夏輝の事が理由のひとつとおっしゃっていましたが、他の理由は。」

 

 「私自身の罪滅ぼし。」

 

 「罪滅ぼし?」

 

 「いま、世界に蔓延している歪んだ女尊男卑の思想。元はと言えば私が不完全な形でISを世に出してしまった事。そしてもう1つ、白騎士事件の隠された真実。」

 

 「白騎士事件は篠ノ之博士の自演自作という噂がまことしやかに囁かれているが、違うのか?」

 

 「違う。私はミサイルの発射なんかしていない。あれは某国のミサイル発射システムのプログラムのバグが原因。でもその国はそれを公表出来なかった、自国の恥を晒すようなものだから。だから裏で噂をながした、私の自作自演と。」

 

 「では何なのだ、白騎士事件の真実とは?」

 

 「被害者が一人もいないという事。」

 

 「「?!」」

 

 束の言葉に驚く楯無と静香。日本の公式発表では白騎士事件で死傷者は誰一人いなく、物的損害が多少あるだけだと。 だが、束の言葉によればそれは嘘ということになる。

 

 「白騎士が全てのミサイルを落とした。でも、その破片は地表に落ちた、そして落ちた先には幾つかの民家や走行中の車両があった。」

 

 「まさか、そこにいた人達が?! 海上で全て落としたと聞いていたぞ!」

 

 「予測では海上で全て落とせるはずだった、でも出来なかった。白騎士のパイロットがより自分の存在を世に知らしめる為に海岸線までミサイルを引き付けて落としたの。私の指示を無視して・・・・・」

 

 衝撃の事実に言葉を失う二人。だが、それだけではなかった。

 

 「だけど、それだけで終わらなかった。白騎士のパイロットは接近してきた自衛隊の戦闘機やヘリを私の撤退の指示を無視して迎撃に向かった。そして機体をパイロット諸共撃墜した・・・・・私は止めたのに・・・・止めてとお願いしたのに聞いてくれなかった。」

 

 「まさか、そのパイロット達も・・・・」

 

 楯無の言葉に束は静かに頷く。 驚愕の真実、日本政府の暗部を司る楯無すら知らなかった、いや知ることを許されなかった事。 恐らく、ISの力に目をつけた一部の政治家達による情報の封鎖と誘導。 その事は楯無を驚かせるのに十分だった。 そして楯無は束の話から白騎士のパイロットの正体の予測がついた。

 

 「もしかして白騎士のパイロットというのはもしかして、君の・・・・・」

 

 再び頷く束。それで楯無は察した。

 

 (しかし、それだけ被害が出ていながら情報が封じられている。しかも更識にすら知らされていないとなると・・・)

 

 楯無は幾つか思いあたる事があった。

 

   



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第2話  狼煙をあげて

 

 

 その日、楯無によって大広間に更識の関係者が集められた。 その中には夏輝は勿論の事、刀奈と簪の姿もあった。

 

 「さて、本日急遽集まって貰ったのには訳がある。先ずは紹介したい人物がいる。入って来なさい。」

 

 そう楯無が告げると、右の襖が開き二人のスーツ姿の女性が姿を現す。その一人を見て夏輝は驚く。幼き頃、まだ一夏と呼ばれていた時に、唯一味方となってくれた束に他ならなかった。

 

 「片方の女性に関しては見覚えのある者もおろう。だが、あらためて自己紹介をしてもらう。」

 

 楯無がそう言うと束は正座をし、深々と頭を下げて

 

 

「篠ノ之束と申します。隣にいますのは、故あって私が引き取り育てている少女クロエ・クロニクルと言います。」

 

 束の言葉に従うように隣にいる少女・・・クロエは同じように正座をして頭を下げる。

 

 「さて、何故ここに世界中に指名手配を受けている篠ノ之博士がいるか説明せねばなるまい。」

 

 そう言って楯無は束から聞いた白騎士事件の隠された真実を打ち明けた。

 

 「ここまで聞いて、この場にいる殆どの者がある事を思い出したであろう。6年前に起きた影森家の滅亡を。」

 

 影森家、それは更識家、四十院家と共に日本政府に仕えていた一族だった。しかし、6年前に影森本家で起きたガス爆発事故で一族全ての者が巻き込まれて命を落とし、滅亡したのだ。 楯無は当初から単なる事故ではないと思っており、四十院家の当主とも色々と話し合っていた。楯無達は影森家がしてはならない不始末を犯してしまい自責から集団自決をおこなったのか、敵対勢力による報復、あるいは知ってはならない情報を知った事若しくは探った事による制裁、の何れかの可能性を考えていた。

 

 だが、楯無達はそれ以上の事を詮索することは出来なかった。自身の命だけならまだしも、妻子・配下・一族全ての命と引き換えになる可能性を理解していたからだ。 だからこそ四十院家の当主と共に詮索することを辞めた。かわりに日本政府に対してより一層用心することにした。一族の命を護る為に。

 

 しかし束から知らされた白騎士事件の真実により、影森家滅亡の理由も判ってしまった。影森家は白騎士事件の被害者達の事実を闇に葬り無かった事にしたのだ。そのためにあらゆる手段を用いて。 そして最後には影森家そのものも闇に葬り去られてしまったと。

 

 確かに影森家も更識家、四十院家と共に日本政府に仕える一族だ。影森家のやったことは日本政府の命によるものだとしても許せるものではない。だが、それと同じく命じたうえに影森家を滅亡させた日本政府の所業は許せるものではなかった。

 

 自分達は影の存在、だけれども軽んじられる存在ではない。同じ命を持つ人間なのだ。 

 

 それ故に楯無は日本政府の所業を許せなかった。 無論、これらは一部の人間達の独断先攻で行われたのは明白だ。だからこそ楯無は心ある者達に何れはこの事を知らせるつもりでいた。変革を促す為に。

 

 

 「我々は今岐路に立っている。決して影森家と同じ轍を踏んではならない。そこで私は篠ノ之博士を我が一族として迎えようと思う。」

 

 楯無の発言にその場にいる者達はどよめく。

 

 「今、世界は女尊男卑に向かっている。そしてISの力が世界を席巻している。我々もそれに対応しなければならない。それには篠ノ之博士の協力は必要不可欠だ。そこで篠ノ之博士には更識美兎と名乗ってもらい、更識家が新たに創業するISメーカー【ウイング】の開発主任として働いてもらう。」

 

 楯無がそう言うと束が、

 

 「篠ノ之束は半年後に宇宙に向けて出発。だけど、それを快く想わない第3国の攻撃衛星のミサイルによってロケットごと破壊されて死亡。というシナリオは既に出来てます。」

 

 束の話に鎮まりかえる室内。

 

 「そしてこれは何より夏輝を護る為でもあるのだ。」

 

 そう楯無が言った瞬間、夏輝に全ての視線が集まる。

 

 「篠ノ之博士によると夏輝にはISの適正があるそうだ。いや、夏輝だけでなく織斑百春にも。」

 

 楯無がそう言うと、全員が漸く納得がいったという顔をする。

 

 「そういう理由だ。全員何卒よろしく頼む。」

 

 「「「「畏まりました。楯無様。」」」」

 

 全員が楯無に頭を下げる。 殆どの者が大広間を出ていき、残ったのは夏輝・刀奈・簪に、布仏当主の布仏誠と妻の雪、そして娘の虚と本音だ。

 

 「え~と、束姉ちゃん?」

 

 恐る恐る夏輝がそう言うと

 

 「久し振りだね、いっくん。今はなーくんか・・・・・・ごめんね、なーくん。助けてあげることが出来なくて・・・何も出来なくて・・・・」

 

 「気にしないで束姉ちゃん、俺は今幸せだよ。父さんと母さん、姉さんに簪がいるし、まわりのみんなも優しいし、何よりもう逢えないと思っていた束姉ちゃんに

また逢えたし。」

 

 「・・・・・・・・・なーくん、なーくん、なぁぁぁぁぁぁくぅぅぅぅんーーー!!」

 

 束が泣きながら夏輝に抱きつく。

 

 

 

 

 やがて、泣き止んだ束。

 

 「そうだ、今日から束さんは束さんじゃなくて美兎さんになるんだ。」

 

 「お父様、た、じゃなくて美兎さんは私達の姉になるのですか?」

 

 「正確には従姉になる。去年亡くなったわしの妹の忘れ形見という形でな。既に美兎が戸籍の方を改竄しておる。」

 

 「陽葵おばさまの? でも陽葵おばさまは結婚なされてなかったのでは?」

 

 「そうだ、だからこそ密かに産み育てていた事にしたのだ。」

 

 束… いや美兎は亡くなった楯無の妹の子供というかなり乱暴な設定をつくったようだ。それに多少呆れる刀奈と簪。

 

 「ところで楯無様、クロエさんは、どうされるのですか?」

 

 「その事だが、クロエは布仏家の娘にし、夏輝の従者にしようと思う。」

 

 虚は刀奈の、本音は、簪の従者になることは既に決まっていたが、夏輝の従者は決まっていなかった。しかし布仏家にもう子供がいなかったこともあり、どうするか思案している最中だったのだ。

 

 「クロエさんは今日から布仏黒江と名乗ってもらい夏輝の従者になってもらう。」

 

 楯無の言葉に誠と雪、虚と本音が頭を下げる。

 

 「さて、話は代わるが刀奈と簪。二人には日本の代表候補生の試験を受けてもらう。刀奈は今年、簪は来年になるがな。」

 

 「どういう事ですかお父様?」

 

 夏輝が聞き返す。

 

 「実はな来年行われるモンド・グロッソのドイツ大会を最後に織斑千冬の引退が既に内定している。本人は知らぬがな。そこで新たな国家代表を決める事になるのだが、今の段階ではそこまでの実力者がおらん。」

 

 そこで楯無は美兎を見て

 

 「そこで美兎の力を借りて今の内から二人には・・・いや夏輝、虚、本音、黒江の6人にはISの訓練を積んでもらう。特に刀奈と簪には代表候補生、ひいては国家代表になってもらいたい。夏輝を護る為にもな。」

 

 夏輝を護る為、と言われれば刀奈も簪もやる気を出す。いや、二人だけでなく虚も本音もやる気を出した。無論、黒江は言われる事なく既に夏輝の為なら何でもするという心構えだ。

 

 「既に屋敷の倉にIS用のシミュレーターを用意してあるよ。それからみんなの専用機を順次作っていくね。とりあえず第3世代機だけど。 」

 

 美兎の言葉に全員が絶句する。何故なら世界は漸く第2世代機が作り始められたばかりで第3世代機なんて研究すら始まっていないのだから。

 

 「とりあえず、来年のモンド・グロッソ終了後に第3世代機を発表。さらに2年後に量産型第3世代機を発表、さらに第4世代機を発表するの。そうすることで更識がIS技術で世界をリードしていることを知らしめるの。」

 

 既に美兎によって計画が立てられているようで、撤回は無理のようだ。

 

 「さあさあ、それじゃあ始めようか!」

 

 そう言って美兎は6人を連れて倉に向かう。

大広間に残ったのは、楯無、静子、誠、雪の四人。

 

 「さて、誠よ。八坂、九重、十束の3家の方で警護体制をより強固なものにしてほしい。このまま、上手くいけばよいのだが、万が一の事態も想定しなければならないしな。」

 

 「もしや楯無様、次期楯無の座を夏輝君に?」

 

 誠の言葉に頷く楯無。

 

 「あの子の才能は素晴らしい物がある。何より人の痛みを理解出来る。刀奈には悪いが、あの子は調子にムラがありすぎる。簪は人見知りがあるから、人の上に立つのは難しい。何より、刀奈と簪の為にも夏輝が楯無になるのが良いと思うのだが。」

 

 「そう言う事ですか、ならば何も申しません。」

 

 刀奈と簪が夏輝に肉親以上の愛情を持っているのを知っているのだ。

 

 「それなら、うちの虚と本音、それに黒江も入れてもらおうかしら?」

 

 「なっ?!」

 

 雪の言葉に狼狽える誠。

 

 「あら、あなた知らなかったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 半年後

その日、世界中の全てのテレビ・ネット配信が一斉にジャックされた。画面には金属性の兎の耳にエプロンドレス姿の束が何処かの草原らしき場所にいるのが映っていた。

 

 『やあやあ、初めましての方も久し振りの方も、こんにちは!世紀の大天災・篠ノ之束だよ。今日は重大発表があって、こうしてみんなの前に出てきたよ!』

 

 束は、そう言うと自分の後ろを指差した。カメラが引くと束の背後には人参の形をした物がそびえ立っていた。

 

 『これは束さんが設計し、作り上げた外宇宙探査用の宇宙船【スーパーアリス・キャロット号】だよ。これで束さんは外宇宙探査に今から出掛ける事にするよ。』

 

 そう言うと束はエプロンドレスを脱ぐ。その下にはウェットスーツのような物を着ていた。

 

 『束さんはね、ずっと待っていた。いつか誰かが、きっとISを宇宙に向けた物にしてくれる事を。でも誰もしてくれなかった。だから束さんはもう諦めた。誰も束さんを理解してくれないと。だから束さんは一人で宇宙に行くことにしたの。ちなみに戻ってくる予定はないよ!』

 

 束はそう言うと見たこともないISを纏う。

 

 『これはね束さんが作り上げた最新のIS【ドリーム】宇宙用に開発した第4世代機だよ。そしてあのスーパーアリス・キャロット号は特別でね。あれはありとあらゆる物質を大気中の元素を取り込んで作る事が出来るの。つまり食べ物や飲み物に困る事は無いの、勿論酸素もね。』

 

 そう言うと束はスキップしながらスーパーアリス・キャロット号に向かっていく。そしてその船の中に乗り込んでいくと。外部スピーカーから

 

 『それじゃあ、バイバーーーイ!!!』

 

 その言葉取り込んで共に宇宙船は空高く飛び上がっていく。 それをカメラが映していたが、急に画面が代わり

 

 『ハロハロー、束さんだよ。最後に地球にいる凡人達に贈り物だよ。ほら、宇宙から見た地球だよ。この美しさを目に焼き付けといてね』

 

 船から撮影しているであろう地球の姿、蒼く輝く星が映し出されている。 だが、その画面の端に光る物が突然映り混む。それは衛星のようだった、その機体にはある国の国旗が描かれていた、赤と白の横縞にその四隅の一角に青地に白抜きの星が無数。

 その衛星から突然、何かが幾つも発射される。束の船に向かって。 どう見てもミサイルのようだ。束はそれに気づいていないように見える。

 

 『さあ、これでお仕舞い。それじゃあ束さんは旅立つねバイバ£%§ⅸ&Åヰ・・・・・』

 

 突然、映像が乱れ音声が途絶える。画面は激しい砂嵐が起きている。

 

この時、空を見上げた人達の目に多くの流星を見た。

 

 

 

 

 

 

 「上手くいったね。」

 

 更識家の広間でテレビを見ていた美兎がそう言う。広間には美兎以外にも夏輝・刀奈・簪・虚・本音・黒江がいた。ちなみに今の美兎は髪が水色に代わっており短くボブカットにしていた。さらに薄く色のついた眼鏡をかけており、一目見ただけでは束とはわからない姿となっていた。

 

 「でも良くできているね美兎姉ちゃん、あれってロボットなんでしょう?」

 

 思わず口から出た夏輝の質問に、

 

 「そうだよ、もっとも念のために培養して作った人工皮膚で覆い、さらに私の切った髪で作ったウィッグを被せていたから、多少はあそこに痕跡が残るよ。」

 

 そう美兎は答えた。 つまり、船の爆発位置を特定されれば、そこに残った僅かな皮膚片や髪から束が本当に乗り込んだという事実を証明することになるのだ。これで束が宇宙船に乗り込んで宇宙に飛び立ち撃墜されたという一連の流れが実証される事になる。そしてミサイルを撃った衛星の所有国が窮地に立たされるが、夏輝達には関係無いことなのだ。 

 

 「ところでなーくん、体は大丈夫?違和感はない?」

 

 「今のところは何にもないよ。」

 

 そう言うと夏輝は自分の髪を触る。黒かった髪は弱冠色素が抜けて青みがかってきた。

 これは美兎が夏輝に投与したナノマシンの影響なのだ。 夏輝から織斑家の要因をなるべく薄くするための処置である。ちなみに美兎も篠ノ之家の要因を薄くするために同じようなナノマシンを投与している。

 美兎が投与したのは短期的で変化するものなのだが、夏輝に使ったのは長期的に変化するものなのだ。既に学校等に行っている夏輝の外見が急激に変化したら流石に不信に思われてしまう。だが、長期的に徐々に変化していけば成長して変化したと言えるからだ。  

 ちなみに最終的には髪は刀奈達と同じく水色に、瞳の色も赤にかわり、肌もやや白くなる予定だ。

 

 「さて、これからが大変だ。そろそろウイング社も動くからね。刀奈ちゃんは来週が代表候補生の最終試験だよね。」

 

 「はい、面接と筆記も合格してるんで、あとは模擬戦だけです。」

 

 既に刀奈の搭乗時間は500時間を越えており、美兎曰く並の代表候補生相手なら楽勝との事。

 

 

 

 そして美兎の言うとおり、刀奈は最終試験を無傷で勝利して合格した。

 

 

 

 



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幕間  百春の転生

 

 

 

 白い何も無い空間に一人の男性が胡座をかいて座っていた。

 

 「ここどこだ? 俺は確か部屋でゲームしてたはずだけど・・・・・」

 

 青年は周囲を見回して、ある可能性に気がついた。

 

 (これってもしかして・・・・・)

 

 「あの~、よろしいでしょうか?」

 

 背後から突然、女性から話かけられて驚く青年。

 

 「うわっ!! あ、あんたは誰だよ!」

 

 「そうですね、あなた方の認識からすれば神という存在にあたるでしょうか。」

 

 「そ、その神様が何の用だよ。そもそも、ここはいったい何処なんだよ!」

 

 「まずは、そこから説明いたします。ここは狭間の世界と言いまして、現世でもあの世でも無い、あらゆる事象の束縛を受けない世界です。そしてあなたは予定外に死んでしまった為にここにいます。」

 

 「予定外に死んだってことは、あんた達のミスなのか!」

 

 「結論から言うとそうなります。幾つもの不幸な事象が重なりあった結果、死ぬ予定ではなかった貴方が死んでしまいました。そこで救済措置として、貴方を新たな世界に転生させる事になりました。ちなみに転生する世界は【インフィニット・ストラトス】というライトノベルを原典とする、それによく似た世界です。」

 

 (よっしゃラッキー!! あのISの世界か!なら、俺が一夏に変わってハーレム生活を送ってやる。)

 

 この時、青年は話をちゃんと聞いていなかった。ISによく似た世界に転生というのをISの世界に転生すると受け取ってしまったのだ。

 

 「さて、転生特典をお渡ししますが、4つ選んでください。」

 

 「それじゃあ1つ目は優秀な肉体と頭脳、2つ目はISの適正と専用機、3つ目は周囲の人間達に絶対的な信頼を得られる力、4つ目は俺を織斑家の長男として転生させる事。」

 

 「わかりました、それでは転生してもらいます。良い二度目の人生を~!」

 

 こうして青年は転生していった。

 

 「そう言えば、彼は専用機が欲しいと言っていたけど指定はなかったわね・・・どうしましょう?よし、この中から選んだ世界のロボットを専用機にしましょう。」

 

 そう言って女神は穴の開いた箱を何処からともなく取り出して、右手を穴の中にいてれ探り1枚の紙を取り出す。

 

 「え~と、何々・・・スパロボ系。そうなるとあの世界にスパロボの機体が存在することになるわね。次にどの機体かな。」

 

 もう一度、箱に手を入れて紙を取り出す。

 

 

「え~と、スレードゲルミル・・・・・・まあいいか。」

 

 

 残された女神は、転生の手続きをしていた。だが、これが後に上位神のお叱りを受ける事態になるとは女神も予見出来なかった。

 

 

織斑百春の転生特典 

 

 1 優秀な肉体と頭脳

 

 2 ISの適正と専用機 

   ※専用機は指定がなかった為にくじ引きでスレードゲルミルに決定

 

 3 周囲の人間達に絶対的な信頼を得られる力

 

 4 織斑家の長男として転生

 

 

 

 上位神による制約修正後

 

 

 1 優秀な肉体と頭脳。ただし、持続させる為の努力をしなければならない。

 

 2 ISの適正と専用機。専用機に関しては、乗りこなす為のトレーニングが必要不可欠。

 

 3 周囲の人間達に絶対的な信頼を得られる力。ただし、信頼を得る為には時間をかけて信頼を得られる努力が必要。

 

 4 織斑家の長男として転生。 ただし、本来いない人物として転生する為に、転生者の知らない出来事が起きたり、起きると思っている出来事が起きない可能性がある。

 

 

 



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第3話  発覚

 

 

 織斑家のリビング

 その日、百春は祭日と言うことで遅めの朝食をとっていた。 一夏を追い出してからというもの、百春はご機嫌だった。

 

 「さて、今日は鈴とのデートだし、遅れないようにしないとな。」

 

 原作通りに、今のところ進んでいる。一夏がやっていた役割を百春がしている事以外は。いや、一夏がしていなかった箒との結婚の約束や鈴との交際等、ある意味自分で原作の流れを壊しているのだが、本人は大丈夫だと思っていた。

 

 「あと、3年か。そうすればハーレムが!」

 

 その時、テレビの画面が乱れ始めた。

 

 「なんだよ、故障かよ!仕方ねえな、千冬姉に頼んで新しいの?! な、なんだ!」

 

 画面が切り替わり突然、束の姿が映し出されたのだ。

 

 「た、束さん!なんで、なんで束さんが?!」

 

 束が映った事で驚く百春。

 

 (そういや俺、束さんとあんまり面識が無いな。千冬姉と一緒に2、3回会っただけだったな。でも原作でも幼少期に頻繁に接触したという描写がなかった気がするし、まあいいか。)

 

 百春の中では千冬の弟であり箒の好きな相手だから、贔屓されていたという認識だった。

 画面の中の束の話を最初は聞き流していたが、

 

 「えっ?! 今何て言った!!宇宙に行く?! なんで!!」

 

 突然起きた事に混乱する百春。事態はどんどん進んでいき、宇宙船に乗って宇宙に飛び立っていった。

 

 「ちょっ、ちょっと待って!何でこんな事に!これじゃあ、俺の専用機が! いや、それどころか箒の専用機も!」

 

 やがて画面が替わって地球が映し出される。 そして衛星らしきものからミサイルが発射されるのが判った。

 

 「おい、何してんだよ! 何でミサイルが! で、でも大丈夫だよな、あの大天災の宇宙船だし・・・・・」

 

 だが、百春の思いもむなしく画面が突然砂嵐となり音声が途絶えた。 そして暫くして先程までやっていた朝の情報番組になっていた。

 

 「う、ウソだろ。こんな事って・・・・どうすんだよ。」

 

 結局、百春は鈴が家に尋ねてくるまで茫然自失となって立っていた。

 そして夕方になって帰宅した千冬から束の死亡が確認されたという事を聞かされるのだった。

 

 「ち、千冬姉。箒はどうなるんだ?」

 

 「おそらく重要人物保護プログラムから開放されてご両親共々、この町に戻ってくる事になると思う。」

 

 百春はそれを聞き複雑な気持ちになった。箒が帰ってくるのは嬉しい。だが、来るべき日になったとき箒がIS学園にいない事が決まってしまったからだ。何故なら箒のIS適正値はC。IS学園の合格ラインに無いのだ。そもそも原作では、箒は重要人物保護の元でIS学園に入学させられたのだ。つまり、それが無ければ箒はIS学園に入学できないのだ。

 

 (どうにかして、箒をIS学園に・・・・そうだ代表候補生になれば!)

 

 百春は自分が思いついた方法を実践するために動く事にした。 自分の転生特典がきっと力になると思い。

 だが、百春は知らなかった。自分の転生特典に何時の間にか制約がかけられていることに。そして、それを知らないばかりに、後に自身の悲劇を生むことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて世間的には束が死んで3年後の冬

 

 東京都内の有名進学高校に既に推薦での入学が決まっていた夏輝はIS学園の一般入試を控える本音と黒江に勉強を教えていた。 勉強の合間に既に推薦入学を決めている簪とISの模擬戦もしていた。美兎から百春がISを起動させて全世界一斉に適正試験が開催される事を聞かされていたので夏輝は準備を怠らなかった。

 

 「ねえ兄さん、本当にその百春って男はISを動かすの?」

 

 「美兎姉さんが言うからには本当なんだろう。」

 

 「ふ~ん、そうなんだ。」

 

 そこに噂をしていた美兎が現れて

 

 「ヤッホー、ついにできたよ。量産型第3世代機が。」

 

 「どんな機体何ですか?」

 

 「刀奈ちゃんのガッデス、簪ちゃんのザムジードとは違うコンセプトの物だよ。宇宙用に開発している機体の技術をマイナーダウンした物を搭載した機体だよ。操作性と機動力を強化した汎用型のIS【ガーリオン】。」

 

 刀奈のガッデスはナノマシンを利用して水や氷雪を作り攻防に利用する第3世代型IS。簪のザムジードは高周波を利用した震動を攻防に使う第3世代型ISだ。それ以外にも虚には火を利用して戦うグランヴェール、本音には機体の損傷を修復し、エネルギー補給機能を備えたノルス・レイ、そして黒江には宇宙用ISの試作型アステリオンが既に渡されている。

 

 「それで発表は何時に?」

 

 「なーくんの入学が決まってからかな。」

 

 どうやら美兎は何やら画策しているようだ。

 

 「そうそう、なーくんの専用機も完成間近だから待ってね!」

 

 「ちなみに俺のはどんなの?」

 

 「そ・れ・は・出・来・て・か・ら・の・お・楽・し・み!」

 

 夏輝の質問に美兎はイタズラっぽく笑って出ていくのだった。

 

 

 

 そして、ついにその時がきた。時は3月の始め

 

『繰り返します。先程、世界初のISの男性操縦者が発見されました。発見された男性操縦者は織斑百春君、15歳。都内の中学校に通う男子中学生で、あのブリュンヒルデ織斑千冬さんの弟さんとの事です。この事を受けて国際IS委員会は全世界で同年代の男性に対してISの適正検査を行う事を決定しました。繰り返します・・・・・・』

 

 

 

 

 

 それから1週間後

 

 『臨時ニュースをお伝えします。先程、都内の中学校で行われた男性に対するIS適正検査で2番目となる男性操縦者が確認されました。男性の名前は更識夏輝君、都内の中学校に通う男子中学生で、現日本国家代表を勤めます更識刀奈さんの弟にあたるそうです。繰り返してお伝えします・・・・・・』

 

 それを見ながら美兎が

 

 「予定通り、それじゃあ色々と仕掛けますか!」

 

 

 

 

 IS学園 職員室

入学式まで、あと1週間に迫っている職員室では教員達が慌ただしく働いていた。本来今の時期は既にクラス分け・寮の部屋割り・年間行事の日程等も決まり、後は生徒の入学を待つだけとなっているはずなのだが、今年はそうはいかなかった。

 3月に世界初となる男性操縦者が立て続けに二人も見つかったからだ。 IS学園への入学は最速で決まったのだが、それからが大変だったのだ。

 世界各国から自国の代表候補生と同じクラスに、寮で同室に、はたまた別のクラスにしろ、という要請が、更に女性権利団体からは、IS学園に入れるな、死刑にしろ、刑務所に入れろ、研究機関でモルモットにしろ、といった要請が連日連夜入ってくるのだ。

 教員が総動員で事態の対処にあたった結果、クラス編成は何とか目処はつき、寮の部屋割りも一部を除き決まった。 それでも例年に比べて仕事のスケジュールが押しているので、教員達に休む暇はなかった。

 

 

 そんな中、千冬は二人目の男性操縦者の事を考えていた。 当初千冬は二人目が見つかったと聞いた時、百春の比較対象として貶める相手が出来たと思っていた。

 しかし、それが更識家の次期当主と知り断念した。

いや、それだけでは無かった。比較するにはあまりにも高い壁だったのだ。百春は優秀だ、文武両道に励み、それなりの成績を残している。 だが、それが霞んでしまう程、夏輝の成績が凄まじかった。

 

 (やれやれ、学園長の言うとおり別のクラスにして正解だな。ISに関しては兎も角、それ以外のところで明確な差をつけられているのではな。だが、ISとなれば話は別、私が百春に指導すれば立場は逆転する。ここはIS学園、ISでの成績が物をいうのだからな)

 

 そんな事を考えつつ、千冬の目に一人の女子学生の内申書が入る。

 

 (それにしても、百春に頼まれて箒を日本代表候補生に推薦したが、やはり代表候補予備生止まりか。適正値Cが大きく響いたか。操縦技術や知識、武道の腕前は私の保証が上手く効いたが、適正値だけはな・・・・)

 

 百春に頼まれて千冬は箒を代表候補生に推薦したのだ。千冬の推薦という事もあり無試験での候補生入りになるかと思われたが、身体測定の際に出たIS適正値がCというのが災いして候補予備生になってしまったのだ。 それでもIS学園には入学することが出来たのが不幸中の幸いだった。

 

 そんな事を考えていた千冬に同僚教員の山田真耶が声をかけてきた。

 

 「織斑先生、先生が席を外している間に倉持技研の方から電話がありました。」

 

 「ありがとう山田先生、織斑の専用機の事だね。」

 

 「確か、IS委員会からの指示で専用機が与えられるんですよね。」

 

 「あぁ、データ取りが主な目的だろうがな。」

 

 束がいない以上は百春の専用機を企業に頼まなければならないのだ。

 

 「そう言えば、そろそろウイング社の記者会見が始まりますね。」

 

 そう言って真耶は職員室に設置してある大型テレビに視線をやる。つられて千冬もテレビを見るのだった。

 

 「でも凄いですよねウイング社は、僅か3年で日本国内で有数のISメーカーになるんですから。」

 

 「あぁ、3年前に突然出来た会社が半年後に発表した第2世代機【アルブレード】。あの汎用性には驚かされた。打鉄やラファールが霞んでしまった。」

 

 そのウイング社が記者会見を行う、いったい何を発表するのか、いやがうえにも注目してしまう。

 

 『本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。 御存知の方もおられるとは思いますが、自己紹介をさせて頂きます。私はウイング社、IS開発部門室長を勤めます更識美兎と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。』

 

 テレビの記者会見場に現れた紺色のスーツの上に白衣を纏った美兎が挨拶をして御辞儀する。

 千冬は美兎を見る度に束を思いだして仕方なかった。周囲に対する対応や言葉遣い、礼儀作法、どれひとつとっても束とは正反対なのだが、その作りだす物に何か束に通じる物を感じたのだ。 

 

 (やはり一芸というか、あの類いの物を作り上げる人種というのは似たような雰囲気を持つのだな。)

 

 千冬は美兎と束が別人と認識していた。

 

 『さっそくですが、本日お集まりいただいたのは理由がございます。御存知の通り、わが社はISの開発をしており既に6機の第3世代機を作り上げております。そしてそのノウハウをフィードバックした結果、この度量産型第3世代ISの開発製造いたしました。それでは、御覧ください、わが社が作り上げた量産型第3世代IS【ガーリオン】です。』

 

 美兎の紹介と共に記者会見場の屋根が突如開き、そこから全身装甲型のISが飛来して美兎の側にゆっくりと降りてきた。

 

  突然現れたISにどよめく会場、一斉に焚かれるフラッシュの嵐、矢継ぎ早に繰り出される質問、美兎はそれらを遮り

 

 『さて、先ずは皆さんにこのガーリオンのスペックについてご紹介いたします。先ずは・・・・・・・』

 

 美兎のガーリオンの説明がテレビの中で続く中、IS学園の職員室は鎮まりかえっていた。それほど迄に衝撃の内容だった。

 

 「お、織斑先生・・・・りょ量産型の第3世代機って・・・」

 

 「これは世界中が荒れるな。殆どの国では、まだ試作段階のコンセプト機が殆どだ。なのにいち早く量産型を作り上げた、となれば業界のみならず国の力関係にも大きく影響を及ぼすぞ。」

 

 そこに別の職員が、

 

 「織斑先生、学園長がお呼びです。至急学園長室に来てくださいとの事です。」

 

 「織斑先生・・・・」

 

 「タイミングからみて、あれの事だろう。」

 

 溜め息をつきながら千冬は学園長室に向かう。

 

 

 

 「織斑です。」

 

 学園長室の前についた千冬はドアをノックして来訪を告げる。

 

 「どうぞ、入ってください。」

 

 「失礼します。」

 

 千冬はドアを開けて一礼して入室する。部屋の中央にある椅子に此方を正面にして学園長である轡木十蔵が座っていた。だが、室内にいたのは十蔵だけではなかった。その右側のソファーに特徴ある水色の髪の少女が座っているのがわかった。そしてそれが誰かは千冬には直ぐにわかった。

 

 「緊急のお呼び出しとの事で参りましたが?」

 

 千冬は刀奈がいることを尋ねずに十蔵に呼び出した用件を尋ねた。

 

 「織斑先生も、これは御覧になっていましたね。」

 

 テレビの画面ではガーリオンによるデモンストレーションが行われていた。

 

 「はい、それが何か?」

 

 「今しがた更識生徒会長から、ある申し出がありました。」

 

 「更識からですか?」

 

 「はい。」

 

 千冬は十蔵に促されて、刀奈の反対側にあるソファーに座る。千冬が座ったのを見て刀奈が口を開く。

 

 「今回、量産型第3世代機の発表と共にIS学園にガーリオン3機を無償譲渡いたします。教員用の機体としてお使いください。」

 

 刀奈の申し出に言葉を失う千冬。それも仕方無い事だ、今しがた発表された最新型を全世界に先んじてIS学園に無償で納入するというのだから。

 

 「更識さん、単刀直入に聞きます。何故ですか?」

 

 「答えは簡単です。更識家の次期当主である弟の更識夏輝の安全をより確実な物にするためです。そのためならば、量産型第3世代IS3機は決して高くはありません。」

 

 刀奈の話を聞き、千冬は納得した。次期当主である夏輝の安全を最大限に確実な物にする為には、教員が警護や非常事態に使うISに不安が残っているのだと言うのだ。それも仕方無い事だ。現在学園にある殆どの機体が第2世代の打鉄やラファール、下手すれば第1世代機になるのだから。

 

 「これはあくまでも、教員用として譲渡される物です。間違っても生徒への貸出は厳禁とされていただきます。それから校外への持ち出しも基本的に厳禁とさせていただきます。よろしいでしょうか?」

 

 「わかりました、詳しい内容は書面で契約を交わす事でよろしいでしょうか?」

 

 「わかりました。」

 

 「さて、織斑先生。このガーリオン3機ですが、教員全員で一度試乗した後、扱う教員を前もって決めておいてください。」

 

 「わかりました。」

 

 千冬は十蔵の言わんとすることを理解した。使用者を事前に決めておく事で非常事態における。搭乗機争いを無くそうというのだ。そしてもう1つ、千冬は外されているという事を。千冬は非常時における総指揮をとる、現場監督に任命されているからだ。

 

 「それでは私はこのあと所用がありますので、ここで失礼します。」

 

 そう言って刀奈がソファーから立ち上がり一礼すると部屋から立ち去ろうとする。

 

 「まて、更識。1つ、いや2つ殆ど聞きたい事がある。お前の弟はどういう感じの男なのだ?」

 

 千冬は刀奈を呼び止めて、夏輝について質問した。千冬はどういう訳か刀奈を苦手としていた。掴み所の無い性格、そして千冬とは違う意味でのカリスマ性を持つ刀奈は多くの生徒や教員から支持を得ている。ただどういう訳か千冬に対してはかなり辛辣な態度をとることが多い。クラスの担当教員では無かったものの、受け持った授業で何度かやり込められた事があった。

 ちなみに1個上の学年に在席する虚にも千冬はやり込められていた。 それ以来、千冬は刀奈と虚を苦手としていた。

 

 「夏輝ですか?そうですね、月並みの言葉で言えば優等生ですね。文武両道、性格は温厚、だけど決して甘いだけでなく、時には厳しさをみせます。私から今の段階で説明出来るのはこれくらいですよ。」

 

 「・・・・・わかった、2つ目は更識夏輝には専用機が与えられるのか?」

 

 「はい、既にウイング社が制作に取りかかっています。美兎姉さんが張り切っていましたね。今までで1番の傑作を作ると。それから、夏輝は適正が判明してからウイング社でISの勉強と訓練を積んでいます。現段階での搭乗時間は既に100時間を越えてます。」

 

 その答えに千冬は驚く。適正が判明してから3週間しかたっていない。なのに既に1年生一学期の合計搭乗時間を上回っているからだ。

 

 「ちなみに私は今日から3日間付きっきりでコーチをすることになってますので。それでは失礼します。」

 

 そう言って刀奈は部屋を出る。

 

 「が、学園長、これはあまりにも差ができています。何故、更識にあのような許可を!」

 

 千冬はこの一件に十蔵が絡んでいる、いや十蔵が許可を与えたのはわかった。

 

 「何を言っているのですか織斑先生、私は弟さんがIS学園に入学が決まった時点、すなわちIS適正がわかった2日後に織斑先生に言ったはずですよ。ISに関する勉強と訓練の為に国際IS委員会日本支部に預けてはと。ですが、織斑先生は入学してからでも訓練は間に合うし、勉強も参考書を渡しての自習で十分と仰ったじゃありませんか。」

 

 十蔵の言葉に絶句する千冬、確かにそう言った記憶はあった。だが、その時はまだ夏輝という存在が確認されていなかったからだった。自分の失態に千冬は自責の念を抱いた。

 今からでは何もかもが手遅れだ。今からでは日本支部での訓練は間に合わない。せめてもの望みは百春が参考書の勉強をしっかりとしている事だけだ。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 



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第4話  入学

 

  

 

 IS学園 1年1組

 

 百春は1年1組の教室でご満足だった。これから始まるハーレム生活に。クラスメイトの顔触れを見回す。

 

 (箒もいるし、おっ!セシリア発見!他にも可愛い娘ばかりだ・・・・・ん?! あれ、本音がいない・・・それに四十院神楽だっけ? 箒と対極的な大和撫子がいない?)

 

 クラスメイトに本来ならいるはずの少女がいない事に疑問を持つ百春。 だが、この時百春は気づかなかった、クラスメイトを見回した時に一人の女子生徒が不快な顔をしたことを。 

 そしてそれは百春に心当たりがあった。それは2日前の事だった。

 その日の朝、百春が自室で目を覚ますと枕元に1通の手紙が置いてあった。中を開くと

 

 [IS学園への入学おめでとうございます。転生してからの人生はどうでしたか?楽しんでますか?ここでひとつお知らせする事があります。既にあなたも気がついているかも知れませんが、あなたが知るはずの歴史・・・ストーリーとは差違が生まれております。ですが、これはあなたが本来ならいないはずの人物、織斑百春とした転生し、更に本来の主人公である織斑一夏が消失した事による弊害です。これ以降もこういった事がおきますので心してください。    神より ]

 

 手紙を読み終わると手紙は、あっという間に細かい塵となって消えた。 

 この時になって百春は恐れた、つまり自分が知っている原作知識が役にたたない事が起こる可能性があるということだ。だが、それでも百春は

 

 (今さら引き返せるか!俺は絶対にハーレムを築くんだ!)

 

 やがてチャイムが鳴り、ドアから真耶が入ってくる。

 

 「皆さん、おはようございます。IS学園への入学おめでとうございます。私はこのクラスの副担当教員の山田真耶と申します。どうぞよろしくお願いします。」

 

 そう言って御辞儀をする真耶、だが生徒達は誰も反応しない。

 クラスが静寂に包まれる。だが、状況は一変する。

 

 「・・・・・・・可笑しいですね? クラスの副担当教員が挨拶したのに返事すら無いなんて。ここには礼儀作法も知らないガキがいるみたいですね。IS学園を退学してから、もう1度小学校からやり直しますか? 」

 

 絶対零度の笑みと毒舌にクラスの生徒達は震えあがる。人畜無害な教員というイメージは無くなり、決して怒らせてはならない人というイメージを持つ。

 

 「「「「よ、よろしくお願いいたします。」」」」

 

 全員が一斉に挨拶をかえす。

 

 「あー、よかったです。毎年いるんですよね。勘違いしてる人達が、ここはIS学園ですが日本の高校でもあるんです。勉強のみならず社会に出る為の一般教養をその身で学ぶ場所でもありますので、気をつけてくださいね。それでは自己紹介をお願いします。」

 

 自己紹介が始まる。

 

 

 

 

 IS学園1年4組

 

 「皆さん、入学おめでとうございます。私がこのクラスの担当教員になりますスコール・ミューゼルと申します。よろしくお願いします。」

 

 「「「「よろしくお願いいたします。」」」」

 

 此方は1組と違い、しっかりと挨拶が返される。

 

 「それでは自己紹介をお願いね。」

 

 此方でも自己紹介が始まる。

 

 「更識簪です。日本代表候補生を勤めています。どうぞよろしくお願いいたします。」

 

 「更識夏輝です。御存知とは思いやりますが、世界で二人目となります男性操縦者です。それから、先程自己紹介した更識簪は私の妹にあたります。どうぞ妹共々よろしくお願いいたします。」

 

 そう言って夏輝が御辞儀するとクラスから割れんばかりの拍手が湧く。

 

 「カッコいい!!」

 

 「頼れるお兄さんって感じ!!」

 

 「それに、あの洗練された所作。痺れる!」

 

 口々に感想が湧く。

 

 「はいはい、興味深々なのはわかるけど、今は自己紹介の途中です。」

 

 スコールが注意して自己紹介は進む。

 

 

 

 

 一方の1組 

 自己紹介が終わったところで千冬が教室に入ってきて、一波乱があった。それも鎮まったところで一人の生徒が

 

 「先生、もう一人の男はこのクラスじゃ無いんですか?」

 

 その生徒の質問に百春は固まった。

 

 (も、もう一人? 俺以外に男性操縦者が?!もしかして、これも・・・)

 

 「もう一人の男性操縦者は4組にいる。言っておくが無闇に押し掛けるなよ。」

 

 千冬はそう念押ししておく。

 

 SHRが終わり、千冬が教室を出たところで百春が

 

 「ち、千冬姉じゃなかった、織斑先生!もう一人の男性操縦者って?!」

 

 「何だ織斑、お前はニュースを見ていなかったのか?全世界で一斉開始された男性対象の適正検査で見つかったんだ。名前は更識夏輝、お前と同じ15歳だ。・・・・仲良くしろとは言わん。だが、下手にちょっかいをかけたりはするな。先に言っておくが、お前と更識とでは既にあらゆる面で大きく差がついてしまっている。これには私にも責任があるから先に謝っておく。」

 

 「ど、どういう事だよ。」

 

 「詳しくは、今日の夜に話す。」

 

 そう言って千冬は立ち去る。

 

 (おいおい、どうなってるんだ・・・二人目がいるだけでも驚きなのに、千冬姉のあの言葉・・・何が起きて・・・・ちょっと待て、更識! 更識って生徒会長の更識楯無と日本代表候補生の更識簪の兄妹ってことか?!)

 

 

 

 

 

 1年4組

 SHRが終わった教室では夏輝の周囲にクラスメイトが集まり質問を続けていた。

 そんな中、一人の女子生徒が夏輝に近付いてきて

 

 「少しよろしいでしょうか?」

 

 「はい? あ、セシリアさん。どうも御無沙汰してます。」

 

 夏輝が顔を向けると、そこにはイギリスの代表候補生セシリア・オルコットの姿があった。

 

 「夏輝さん、簪さん、本音さん、黒江さん、此方こそ御無沙汰しております。その後おかわりはございませんか?」

 

 「はい。」

 

 「セシリアさん、久し振りです。」

 

 「セッシー、おひさーー」

 

 「セシリア様、御無沙汰しております。」

 

 夏輝、簪、本音、黒江が挨拶をかえす。

 

 「まさか夏輝さんがISを動かすなんて驚きましたわ。」

 

 「あーー、俺も驚いているよ。それよりセシリアは何処のクラスに?」

 

 「私は1組になりました。あの織斑百春がおります。」

 

 セシリアは百春の名前を出した時に表情が歪む。

 

 「どうしたのセッシー?」

 

 本音が気づいて尋ねる。

 

 「いえ、あの織斑百春という男性何ですが、何と言いますか、周囲のクラスメイトを見る目が舐めるようなというか、いやらしいのです。まるで見定めるように。」

 

 それを聞いてた4組のクラスメイト達は

 

 「えーー、織斑君って、そんな事してたんだ。」

 

 「うーーーん、イケメンだけど、そんな目で見られるのは・・・・・」

 

 「何か下心見え見えだね。ちょっとガッカリ。」

 

 と、百春の評価は駄々下がりである。

 

 「それよりも、夏輝さん。夏休みになりましたら、是非イギリスにお越しくださいませ、父と母も御会いするのを楽しみにしておりますし。」

 

 

 夏輝達とセシリアの出会いは2年前まで遡る。更識の仕事の研修で、イギリスに行った時のことである。

 

 たまたま乗った特急電車でセシリア達と出会ったのだ。その頃のセシリアは男性に対して嫌悪感を抱いていた。 日頃の父親の弱腰の態度に広まっていた女尊男卑の縮図を感じていたのだ。

 

 だが、そんな列車旅の途中、突然起きた不自然な崖崩れ。幸いにも列車は巻き込まれなかったものの停車してしまった。 そんな時だった、ISを纏った女性が2人と銃火器を持った集団が列車を襲ったのだ。

 

 「目標はオルコット夫妻だ、絶対に始末しろ!」

 

 そう言って銃を乱射してくる集団は次々と乗客を狙っていく。 そんな集団の前に無防備な姿をさらしたセシリアに容赦なく銃弾は迫る。 だが、そんなセシリアを救ったのは他ならない父親だった。体を盾にしてセシリアを守る。

 あわや危機一髪のところで夏輝達が駆けつけて武装集団に対して実力行使に出たのだった。幸いな事にその時は刀奈と虚がISを所持していたので、緊急時における非常使用を適用してISを展開し、刀奈がISの方に虚が武装集団の制圧に出た。夏輝・簪、それに傍についていた警護の者達も襲撃者の銃を奪ったりして迎撃していき、本音と黒江は怪我人の治療や避難誘導にあたった。 

 そのかいもあって重傷者は出たものの奇跡的に死者を出すことなく事件解決となった。セシリアの父親も銃弾を多数体に受けたものの命に別状はなく、またセシリアも毛嫌いしていた父親が命をかけた自分を守った事で父親の本当の強さを知り、今までの自分の認識を改めた。

 そして、その時に夏輝達とは連絡先を交換し度々連絡を取り合ったり、時には家を訪れて友情を育んできた。

 

 「そうだな、夏休みにみんなでイギリスに遊びに行こうかな。」

 

 夏輝がそう言ってところで予鈴が鳴る。

 

 「まだまだお話ししたい所ですが授業の時間も近いので、また昼休みに。」

 

 セシリアはそう言って優雅に御辞儀して教室を後にする。

 

 

 




 
 
  
 とりあえず、書き貯め分はここまでです。
 
 なるべく間を空けずに投稿したいと思います。


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第5話  昼休みに

 

 

   1年4組

 

  4時間目の授業が始まる時、スコールが

 

 「さて、授業を始める前にクラス代表を決めさせてちょうだい。クラス代表というのはクラス委員長と同じ事をすると思ってちょうだい。そしてもう1つ大事な役割が、再来週に行われる学年別クラス対抗戦にクラス代表として参戦してもらう事。ここまでで質問は?」

 

 スコールの言葉に誰も何も言わない。

 

 「それじゃあ、自薦他薦は問わないわ。でも参考までに、このクラスには日本代表候補生の更識簪さんがいるわ。そしてウイング社の企業代表操縦者として布仏本音さん、布仏黒江さんがいるわ。さらに専用機持ちとして更識夏輝君がいます。ちなみに今の四人は実技試験で教員に勝利しています。」

 

 そこまでスコールが言うと

 

 夏輝・簪・本音・黒江の名前が次々と上がる。

 

 「さて、名前が上がったのは四人。どうやって決めようかしら?」

 

 スコールがそう言うと

 

 「先生、もし可能なら私が引き受けたいのですが?本音は生徒会役員ですし、黒江のISは特殊で、こういった事には向かないです。となれば兄さんか私になるのですが、ここはよりクラスの勝利を確実にするために私に任せていただけないでしょうか?」

 

 簪の発言に、暫くクラスに静寂が訪れるが、一人、また一人と拍手を始めると、クラスに割れんばかりの拍手が響く。 それは簪をクラス代表として認めた証でもあった。

 

 「それじゃあ、クラス代表は更識簪に決定。そして更識さんをサポートするために更識君と布仏黒江さんをクラス代表補佐に任命します。」

 

 スコールがそう言ってこの場を締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 昼休み

 校舎屋上に夏輝達の姿があった。昼食を取ろうと学食に向かおうとしていたのだが、そこに刀奈から連絡があり屋上に来たのだ。 

 屋上にはレジャーシートが拡げられており、刀奈と虚が重箱を広げ待っていた。

 

 「いらっしゃーい!今日はみんなの入学祝いに虚ちゃんと一緒に御弁当を作ったの!」

 

 「わーーい!豪華な御弁当だーー!」

 

 本音がいち早く飛びつく。

 

 「本音姉さん、はしたないですよ。」

 

 「恥ずかしい、あれが私の従者なんて・・・」

 

 「まあまあ、あれが本音のいいところなんだし。」

 

 「夏輝様、本音を甘やかさないでください。」

 

 「まあまあ虚ちゃん、いいじゃないの!」

 

 「御無沙汰しております。刀奈さん、虚さん。ところで、私もご一緒してよろしかったのでしょうか?」

 

 御辞儀して刀奈と虚に挨拶するセシリアに刀奈は

 

 「久し振りね、セシリアちゃん。遠慮しなくていいわよ。一杯作ったから。さあ座って座って!」

 

 刀奈が進めて全員がレジャーシートに座り、昼食が始まる。

 

 「ところでセシリア、1組のクラス代表は誰になったんだい?」

 

 おにぎりを片手に夏輝の問いにセシリアはサンドイッチを口に運ぶのを止め、少し表情を歪めて

 

 「それなんですが、その・・・・私と篠ノ之さんと織斑さんとで、来週の月曜日の放課後に試合をして決める事になりました。」

 

 「「「「「「えっ?!」」」」」」

 

 全員が驚く。

 

 「いったい、何があってそんな事に?」

 

 ウインナーを皿にのせながら刀奈が尋ねると

 

 「まず、事の発端は織斑先生がクラス代表を決めるのに自薦他薦を求めた事です。」

 

 「それはうちのクラスでもやったよ。」

 

 右手におにぎり、左手に唐揚げを持ち、本音がそう言った。

 

 「まあ、よくあるパターンですから。」

 

 全員分のお茶を用意しながら虚が毎年どの学年どのクラスでも行われると言った。

 

 「まず私がクラス代表に自薦しました。その後、クラスメイトの殆どが珍しさから織斑さんを推薦しました。それで終わりかと思ったところに織斑先生が篠ノ之さんの名前をあげて候補者が3人になりました。」

 

 「「あの問題児の?!」」

 

 刀奈と簪が驚く。

 

 「どういう事だ?」

 

 夏輝が聞くと

 

 「実は、篠ノ之さんは日本代表候補予備生なの。でも合宿とか合同訓練の時とかの態度に問題があって。」

 

 刀奈の言葉を継いで簪が

 

 「やれ[遠距離攻撃は卑怯だ]とか、[攻撃を避けるな]とか、[銃なんか使わずに刀で戦え]とか、[刀こそ日本人の本分]とか、言って問題起こしている。でも模擬戦では、それが災いして誰にも勝てない。だから候補予備生の最下位から上がれない。」

 

 「よく、代表候補予備生を辞めさせられませんわね?」

 

 セシリアの疑問に刀奈が

 

 「彼女を代表候補予備生に推薦したのは織斑先生なの。本当は代表候補生にしたかったみたいだけど、篠ノ之さんのIS適正Cが引っかかって候補予備生になったの。例え候補予備生からのスタートだとしても本人が努力して実力をつけていけば代表候補生にもなれたかもしれないけど、彼女は刀への拘りと言うか、剣道に拘り過ぎて前に進む事が出来ない。だけれども、推薦者が推薦者だけに辞めさせる事も出来ないの。」

 

 「難儀だな。それでセシリア、それからどうなったの?」

 

 「はい、それから多数決で決めるのかと思ったのですが織斑先生が、IS学園ならISを使って決めようとおっしゃってクラス代表決定戦を行う事になったのです。」

 

 「・・・・・・何を考えているのかしら織斑先生は?」

 

 刀奈の疑問に虚が

 

 「確かに、イギリスの代表候補生に日本の代表候補予備生、それに素人同然の男性操縦者、勝負は目に見えてます。」

 

 「・・・・・それをひっくり返す、何があるのかな・・・考えられるのは専用機だけど・・・」

 

 夏輝の言葉に刀奈が

 

 「織斑君に日本政府の指示で専用機を渡す算段にはなっているみたいよ。開発元は倉持技研よ。」

 

 「倉持って、まだISの開発と研究してたんだ?」

 

 「か、簪お嬢様。流石にそれは・・・」

 

 「しょうがないよお姉ちゃん、かんちゃん倉持嫌いだもん。」

 

 「何があったのですか?」

 

 「それが簪が丁度1年前、代表候補生の序列3位にあがった頃に倉持から専用機制作の打診が来たんだ。簪の専用機は元々ウイング社で作る予定になっていたのに、横槍をいれてきてね。国際IS委員会日本支部の仲裁もあって、とりあえずどんなコンセプトか見に行ったんだけど、これが酷い機体でね。簪が文句を言ったらウイング社とかの悪口を散々言い出した挙げ句に、代表候補生を降ろすと脅しをかけたんだ。」

 

 夏輝の説明にセシリアも呆れる。

 ちなみに、これを聞いた夏輝、刀奈は烈火の如く怒り、倉持に抗議に押し掛けようとしたのだが、その前に美兎が動き、簪に暴言を吐いた職員の事を徹底的に調べあげて、個人情報と共にこれまで行ってきた悪事(パワハラ・セクハラ・経費流用等)をネットに拡散し、その職員は解雇されることとなった。

 

 「もし差し支えが無ければ、どのよう機体だったのかお聞かせ願いませんか?」

 

 「機体名は【打鉄改式第参型】、剣一本だけを装備した高機動型のIS。」

 

 簪の説明にセシリアが呆れる。

 

 「剣一本って本当ですか?他に装備は?」

 

 「無い。本当に剣一本だけ、コンセプトは暮桜の後継機。」

 

 暮桜の名前を聞きセシリアは唖然とする。

 

 「暮桜の後継機・・・そんな物を作ったのですか倉持技研は。ですが、それだと操縦者の技量に大きく左右されるのでは?」

 

 「左右する処じゃない、操縦者の技量に殆どおんにぶだっこの機体。織斑先生並みの技量が無いと十全に扱えない。」

 

 簪の説明を聞いてセシリアは

 

 「余程、ブリュンヒンデの呪縛に囚われているのですね。」

 

 「仕方無いわよ、倉持技研は暮桜に、それをベースにして作られた打鉄、2つの巨頭が存在する以上は、その呪縛からは中々逃れられないわよ。そうなると織斑君に渡されるのってまさか・・・・」

 

 刀奈がそう言う。

 

 「「「「「「まさかね・・・・・・・・・」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

   

 

 倉持技研

 

 「なあ、これが一人目の男性操縦者に渡される機体か?」

 

 「あぁ、そうらしい・・・・・」

 

 二人の男性の前にある、一機のIS。ただその姿は異様だった。

 

 「でもさ、副所長は何だってこんなISを?普通に考えれば打鉄改式だろ?」

 

 「さぁ、何でも突然この機体のコンセプトが浮かんで来たんだって。」

 

 「まあ、確かにさ打鉄改式よりマシだけどさ・・・・・」

 

 「剣一本よりマシだけど、これはこれで・・・・」

 

 機体を前に絶句する二人。

 

 「まあ、あのブリュンヒンデの弟が使うというし、いいんじゃないか?」

 

 「そういや、もう一人の男性操縦者の機体は、どうなるんだ?」

 

 「あぁ、そっちはウイング社が作るそうだ。」

 

 「げっ?! それで副所長の機嫌が悪かったのか。」

 

 「そういう事。うちで作るつもり腹積もりだったしな。」

 

 「でも、何でウイング社に?」

 

 「お前、知らないのか?二人目の男性操縦者は、あの更識の関係者だぞ。」

 

 「更識って、ウイング社の開発室長の!」

 

 「それだけじゃないよ、ウイング社その物を更識家が経営してるんだよ。」

 

 「・・・・・それじゃあ、何処にもうちの入り込む余地無いじゃないか。」

 

 「まあな。」

 

 「それにしても副所長もやりたい放題だな。」

 

 「仕方無いよ、篝火所長が例の一件の責任とらされて謹慎の上に、外部団体に無期限出向なんだし。」

 

 「でもさ、例の一件も元々は副所長の指示だったんだろう。何で篝火所長が責任とらされるんだよ?」

 

 「知らないのか、副所長が全ての責任を篝火所長に押し付けたんだよ。書類や何かを偽造してさ。」

 

 「おい、それって?!」

 

 「だけど、篝火所長も自分の監督不行き届きを認めてさ、反論せずに受け入れたんだ。」

 

 「・・・・・・何か嫌になるな。」

 

 溜め息をつく二人の男性。それを見続けるIS。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 ※この作品において、以下の独自に設定がございます。
 
 ISは篠ノ之束が原型として作った雛型を元に各国で独自に開発が進みました。

 篠ノ之束の失踪は第1回モンドグロッソの1年前です。

 暮桜は、篠ノ之束が残していたISの設計図を元に倉持技研が作り上げた物。

 


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第6話  放課後

 
 
 
 
 後書きの補足設定の補足

 後書きの補足設定に書いてありますが、IS学園の保有しているISコアは32個です。保有している全ての機体にコアを装着しているわけではありません。

 学年別トーナメント等のイベント時には試合の終わった生徒の機体コアを取り外して、待機中の機体に付け替えております。



 

  

 放課後 1年4組

 

 授業が終わり、部活に行くもの、自主トレにいくもの、とクラスメイト達は動く。

 夏輝・簪・本音・黒江は生徒会室に向かう為に教室を出た。刀奈から放課後に生徒会室に来るように求められていたからだ。 だが、教室を出たところで

 

 「よっ! ちょっといいか?」

 

 軽薄そうな声で夏輝を呼び止める男の声・・・百春だ。千冬に止められているにもかかわらず、接触を試みる百春。

 

 「何か俺に用かい、織斑百春君?」

 

 夏輝が振り向き百春と顔を会わせた瞬間だった、百春の顔が驚愕に歪む。

 

 「い、一夏?!・・・・・・いや違う・・・・」

 

 百春は夏輝の顔を見た瞬間、それが一瞬だけ一夏に見えた。だが、良く見ると一夏とは別人だったので安心する。

 

 「あっ?! すまない、ちょっと知り合いに見えてしまってね。でもやっぱり違ったよ。でも、どうして俺の名前を?」

 

 「簡単だよ、この学園には自分以外では君しか男子生徒はいない。それで、もう一度尋ねるけど何か用事かな?」

 

 当然の事を言われて百春も納得する。

 

 「いや、その、この学園に二人しかいない同じ男性操縦者だから出来れば仲良くしたいなと・・・」

 

 「残念だけど、私は君と仲良くするつもりはないよ。君がISを動かしたお陰で、私は望まぬ進路をとらされた。こう言っては何だが、私は君を恨んでいる。」

 

 冷たい声で伝える夏輝。これは百春が接触してきた時に決めていた対応だ。織斑姉弟との接触はなるべく避ける為に。全ては夏輝を守る為に。だからこそ、クラスも同じにならないように学園長に頼んだのだ。

 

 「えっ?!」

 

 「それに私はあまり目立ちたく無い。只でさえ今回の事で注目を浴びている、それなのに二人で一緒にいれば余計に目立ってしまう。私は静かで平穏な学園生活を送りたいので。」

 

 そう言って夏輝達は、立ち去る。

それをただ呆然と見送る百春。

 

 (・・・・・・・あの態度から考えると転生者の線は無いな。同じ転生者ならここに来たことを喜んでいるはずだし、何より目立ちたく無いとか望まぬ進路と言っていたしな。となるとイレギュラーな存在ということか。それにしても更識か・・・・・楯無と簪を引き込むには邪魔な存在だな。何とか夏休み終わりまでに始末しないとな。)

 

 

 百春は夏輝を転生者ではなくイレギュラーな存在と思い、自分のハーレム生活を確実にするために夏輝の排除を誓う。

 何より百春は自分が貰った特典の1つ、絶対的な信頼を得る力を信じていた。 百春は催眠操作系や洗脳系ではなく、刷り込みによる信頼にしたのは、無理矢理従わせるのではなく信頼という絆により、自らの意思で百春の考えに協調したり、百春の行動を指示したり、協力することが、周囲に不信がられる事が無いと考えたからだ。

 しかし、百春は理解していなかった。結局は洗脳や催眠操作と何ら変わりの無い能力だということを。

 他人に信頼という名の首輪を着けて認識を改変して無理矢理従わせていることを。

 自分が絶対の自信を寄せる能力が自分を転生させた神の上位にあたる神により制約がかけられていることをいまだに知らない百春。そして何より夏輝がいることで、その能力が十全に発揮される事が出来なくなっていることも知らない。もう彼の思い通りに事が運ぶことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室

 

 ドアをノックして室内に入る夏輝達。

 

 「刀奈姉さん、わざわざ放課後に俺達を呼び出してどうしたの?」

 

 「うん、1つは部活の件なの。IS学園では生徒は何かしらの部活に所属することが決められているの。本音は生徒会に所属しているから免除されるんだけど、三人はどうするのかなって思って。もし特に無ければ生徒会所属にしたいんだけど?もっとも簪ちゃんはクラス代表との兼ね合いがあるから、万が一の時の非常要員扱いになるけど。」

 

 「まあ、変に勧誘されたり客寄せパンダや見世物にされない為にも、それが無難かな。」

 

 「夏輝様が、そうなさるなら私も御一緒させていただきます。」

 

 「私もそれでいいよお姉ちゃん。」

 

 「よかった。で、もう1つは夏輝の専用機何だけど、美兎姉さんから連絡がきて完成したから明日の放課後に持って来るって。」

 

 「美兎姉さんが来るんですか?」

 

 「そう、来るって。」

 

 夏輝の疑問に刀奈が答える。

 

 「お姉ちゃん大丈夫なの?美兎姉さんがここに来ても、織斑先生がいるんだよ?」

 

 「アリーナは生徒会で貸切状態で予約を入れてあるし、立ち会い教員にはミューゼル先生にしてあるから大丈夫。それに念のために織斑先生には明日の昼から用事で学園から離れてもらうように学園長に根回ししてあるから。」

 

 「もうそこまでしてたんだ。」

 

 あまりの準備のよさに呆れる夏輝達。刀奈の後ろで虚が申し訳なさそうに頭を下げている。刀奈の行動を止められなかったからだろう。

 

 「そこまで準備万端なら大丈夫か。それにしても美兎姉さん俺の専用機がどんなのか幾ら聞いても教えてくれないんだけど、何か聞いてる?」

 

 「いいえ、聞いてないわ。」

 

 「美兎様が、一人でずっと作っていましたので誰も詳細は・・・・」

 

 刀奈と虚の答えに夏輝は

 

 「結局、明日にならないとわからない訳か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室

 

 千冬は百春への特別指導の為にアリーナの予約状況を調べていた。

 

 

 さて、ここでIS学園のアリーナについて説明しておく。

 IS学園のアリーナは全部で9棟ある。そのうち1棟は教員専用の地下アリーナの為に生徒は使う事は出来ない。更に第8アリーナは企業や国が装備や専用機の引き渡しやテストをする為に優先的に使用することが決められており、生徒は当日の放課後にならないと使用可能になるのかわからない。

 また、アリーナの予約も専用機持ちや代表候補生に優先予約権が与えられている(それでも週に2回、後は一般生徒と同じ扱い)為に一般生徒のアリーナ予約の倍率はかなり高くなっている。

 

 アリーナは月曜から金曜まで午後4時から6時までの2時間と土曜の昼1時から6時まで訓練等に使う事が出来る。ちなみに土曜は2部制になっており前半と後半で使用が区切られている。

 そしてアリーナ1棟に対して最大6組(1組最大2名)まで使用することができる。

 無論、これもイベントや試験前では条件が変わってくるが概ね前述の通りに運用されている。

 更に言えば、訓練機の数にも限りがあるために最大人数でアリーナが使用される事はあまりない。

 

 

 

 (さて、来週の試合までにある程度の技量を身につけさせなければな。明日からのアリーナの予約状況は・・・・やはり埋まっているか・・・ならば第8アリーナを?!)

 

 アリーナの予約表を見ていた千冬は第8アリーナに予約が明日入っているのに気がつく。それも生徒会が代行申請した企業予約だった。

 

 (ウイング社の企業予約・・・しかも関係者以外立ち入り禁止の非公開使用か・・・・となれば更識の専用機受領か。何とか立ち会い教員になってデータを収集出来ないか)

 

 そんな事を考えてアリーナの予約申請書を確認する千冬。そこにはスコールの名前が既に書かれていた。

 

 (既にミューゼル先生が立ち会い教員に決まっているのか・・・・)

 

 その時、千冬にタイミング良くスコールが声をかける。

 

 「織斑先生、学園長がお呼びですよ。 あら?それは明日のアリーナの予約表ですね。」

 

 「えぇ、織斑の訓練の為にアリーナの予約状況を確認してまして。それよりもミューゼル先生、明日ウイング社のアリーナ使用に立ち会われるそうですね。」

 

 「はい、更識生徒会長から頼まれまして。それに更識君の専用機受領ですし、担任である私が立ち会いをした方が良いと言われまして。」

 

 「そうか・・・・・そうだ、学園長が呼んでいるのだったな、ありがとう。」

 

 そう言って千冬は学園長の元に向かう。

それを見送るスコール。 この二人、実は浅からぬ因縁があるのだ。

スコールは元アメリカ国家代表で、第1回モンド・グロッソに出場した事もあるIS乗りだった。 そして準決勝で千冬と対戦予定だったもののISの故障により棄権し、戦う事はなかった。そしてスコールは大会後に事故にあい国家代表を引退。そして昨年、IS学園の教員として採用されたのだ。

 ISの故障と事故については様々な憶測が流れており、その1つがスコールの力を恐れたもの達による陰謀であり、その陰謀を企てた人物の名前の一人に千冬の名前が上がっているのだ。

 だからこそ、周囲は色々な意味で緊張してしまうのだ。

 

 

 

 ちなみに学園長室に向かった千冬は明日の午後からIS委員会への出張を命じられるのだった。

 




 
 補足設定

 
 IS学園保有機体

 教員用ラファール・リヴァイブ 5機
 教員用打鉄改         5機
 教員用ファルコンカスタム   5機
 教員用ガーリオン       3機

 生徒訓練用ラファール・リヴァイブ  30機
 生徒訓練用打鉄           30機
 生徒訓練用ファルコン        20機
 生徒訓練用アルブレード        5機

 予備機体 ラファール
      ファントム
      菊花

 
 IS学園保有コア 32個

 ファルコン   アメリカ製量産型第2世代機
 ラファール   フランス製量産型第1世代機
 菊花      日本製量産型第1世代機
 ファントム   アメリカ製量産型第1世代機 


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第7話  四十院神楽

 

 

  IS学園 第8アリーナ

 

 整備室と隣接するピットに夏輝達は集まっており、美兎の到着を待っていた。

 すると扉が開き

 

 「おっ待たせー!! なー君の専用機の到着だよー」

 

 大型ターレにコンテナを積んで美兎とスコールが現れる。 ターレから降りた美兎がコンテナの端末を操作するとコンテナが展開して、中から灰色の武骨なISが姿を現す。 

 

 「これが俺の専用機・・・・・」

 

 「まだだよ、これは仮の姿。最適化と一次移行しないと本当の姿を現さないよ。なー君、それに乗ってみて。」

 

 「わかったよ美兎姉さん。」

 

 そう言って夏輝はISに乗り込み背を預ける。それを見て美兎はISと自分の持つ端末を繋ぎ、凄まじいスピードで端末を操作していく。2分程たったとき、ISに変化が起きる。虹色の光を放ち、その姿を変えていく。光が収まると、そこには白銀の装甲に6枚のスラスターを持つ完全装甲型のISがいた。

 

 「これこそ、なー君専用のIS【サイバスター】だよ。第4世代を越えた第5世代型ISだよ。」

 

 「「「「「「「第5世代?!」」」」」」」

 

 「そう、第5世代。スペックは勿論のこと、第4世代型の定義である展開装甲という可変機構による機能強化を必要としないIS、だから第5世代だよ。ちなみにサイバスターのデータを元に順次みんなのISを第5世代型にアップグレードする予定だからね。」

 

 「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

 美兎の話に全員が言葉を失う。それもその筈、第4世代を通り越して第5世代型を作り上げたのだから、しかも他の面々の機体も第5世代にアップグレードすると言ったのだから。

 

 「さあさあ、時間が無いしテスト、テスト!」

 

 美兎に急かされて、夏輝はアリーナに飛び出していく。 表向き100時間となっている夏輝のIS搭乗時間だが、実際には既に1000時間を越えているのだった。

 最も夏輝に限ったことではない。美兎が更識家に来てからというもの、夏輝を始めとした6人はISの訓練に訓練を重ねており、全員が国家代表並の実力を得ていた。

 最も刀奈以外は世間の目を欺く為に、それを秘匿して過ごしていた。

 

 「スーちゃん、管制室に案内してちょうだい。かたちゃんとかんちゃんはなー君のサポートよろしく!」

 

 「わかりました、美兎様。」

 

 「「はい、美兎姉さん。」」

 

 刀奈と簪はISを展開するとアリーナに向かう。そしてスコールに先導されて美兎達は管制室に向かうのだった。 ちなみにスコールはIS学園の教員であるが、更識家のエージェントでもあるのだ。この事を知っているのは更識関係者以外だと轡木学園長のみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後、一通り訓練を終わらせた夏輝達はピットに戻ってきた。

 

 「なー君、どうだった?」

 

 「なんというか、今まで乗ってきた訓練機とは別物だね。振り回されっぱなしだったよ。」

 

 「それは馴れていくしかないよ。」

 

 美兎にそう言ってくる。夏輝はISを解除する、ISは光の粒子となって消えると夏輝の首にネックレスがさがっていた。

 

 「さてさて、私は今日は帰るね。サイバスターのデータ解析が済んで、アップグレードの準備が出来たら連絡するね。それじゃあバイビーー!!」

 

 美兎はターレに乗ってピットを後にする。

 

 「さて、それじゃあ生徒会室にいきますか。お客さんも来ることだし。」

 

 「お客さん? 誰が来るの刀奈姉さん。」

 

 「そこはお楽しみ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  夏輝達が、生徒会室につくと扉の前に一人の女子生徒が待っていた。その女子生徒に夏輝達は見覚えがあった。

 

 「確か君は四十院神楽さん。」

 

 「はい、1年4組四十院神楽です。以後お見知りおきを。」

 

 そう言って神楽は頭を下げる。 だが夏輝達はクラスメイトだから神楽の顔を知っている訳ではなかった。

 

 「とりあえず話は部屋に入ってからしましょう。」

 

 刀奈がそう言うので全員が部屋に入る。

部屋に入り、それぞれ椅子に座ると神楽が

 

 「改めて自己紹介させていただきます。皇室直属諜報護衛組織【四十院家】所属、四十院神楽と申します。」

 

 「四十院家の次期当主が、態々お越しとは恐悦至極です。」

 

 そう言って夏輝が頭を下げる。神楽が四十院家の立場で挨拶したので夏輝が対応する。

 

 「そんなに畏まらないでください、そちらも次期当主がおいでなのですから。」

 

 そう言って神楽も頭を下げる。

 

 「それで、いったいどういった御用件でしょうか?」

 

 「私をはじめIS学園に在籍している四十院家の者8名、更識夏輝様の指揮下に入れてさせていただきます。」

 

 突然の申し出に全員言葉を失う。 それでも夏輝は何とか口を開く。

 

 「えっと、いったいどういった了見で、そんな事を・・・」

 

 夏輝はあえてストレートに尋ねた。

 

 「・・・・今から10年前、四十院家は一組の母娘を保護しました。しかし母親は重症で意識不明、娘は幼く何が起きたか全く理解していませんでした。そして半年前、奇跡的に母親は意識を取り戻し全てを話しました。母親の名前は影森桜、娘の名前は玲美。」

 

 神楽の話に全員が理解した。四十院家は影森滅亡の真実にたどり着いた事に。

 

 「そして桜の話の裏付けを密かに行い事実であることを突き止めました。四十院家では皇族の方々を御守りする為にも、過激な思想を持つ者たちを排除して誠に日の本を思う者たちによる政を実現させる事を決断しました。」

 

 あまりにも壮大な計画に言葉を失う夏輝達。しかし、よくよく考えれば有り得る事なのだ。更識家と同じく日本政府の暗部という立場で活動しているものの、四十院家の真の主は皇室なのだ。政府と皇室を天秤に掛ければ皇室をとるのは当たり前なのだ。

 

 「・・・・・・・もしかして、皇室への介入が酷くなっているのかい?」

 

 夏輝は四十院家がそう決断した背景に政府からの皇室への介入があると判断した。

 

 「・・・・・・・・えぇ、それはそれは身の程を弁えない輩が色々と皇室の方々に対して難癖とも言える発言に不必要な介入をしてきまして。それをお耳に入れずはね除けるのに、どれ程心砕いているか・・・・」

 

 笑顔でそう告げる神楽からはえもいわれぬ迫力が醸し出されている。思わず引いてしまう更識の面々。

 

 「・・・・・・・・・そ、それで何故、IS学園内で更識の配下になる事に。」

 

 夏輝はこれ以上聞くのは不味いと感じ、慌てて話題を戻す。

 

 「四十院家にはIS開発のノウハウがありません。今の時流においてISは絶大な存在感を持ちます。そして更識家は独自の技術でISを開発しています、となれば協力を求めるのは当たり前かと。」

 

 「なるほど、この学園における指揮権と引き換えにISを、という事ですか・・・・・ですが、それだけでは少々弱いのでは?」

 

 「勿論、そう思っております。先程のは1つ目の引き換え条件です。2つ目の条件として此方を。」

 

 そう言って神楽は制服のポケットから電子キーのついた金属ケースを取り出してテーブルに置いた。そしてキーに人指し指を押し当てた後、数字を入力する。ロックが解除されて金属ケースの蓋が開く。中に入っていたのは。

 

 「!! これはコア!」

 

 そうISコアだった。しかもナンバーが刻んである以上はオリジナルコアに間違いない。しかし、夏輝達は四十院家がISコアを所有しているとは聞いていない。ならばこのコアの出所は

 

 「このコアは半年前に、当家が殲滅した日本の闇マーケットの違法組織が秘匿していた物です。押収したコアは2個、その内の1つです。それをお渡しいたします。」

 

 「コアの無断所有並びに譲渡は禁じられていますが?」

 

 「押収したコアは2個とも、刻まれていたナンバーから本来はIS委員会にあるはずの物でした。」

 

 「つまりIS委員会から横流しされた物・・・・・」

 

 「はい、あるはずの無いコア。それに果たしてそのような規則が適用されるでしょうか?」

 

 「かなり乱暴な理論ですが、わからなくもありません。これを当方に渡すのが2つ目の条件ですね。」

 

 「そして最後の条件が私自身です。現時点を持って四十院神楽は更識家の傘下に降る事をお誓いします。」

 

 「つまり四十院家の次期当主が更識傘下になるとうことは、貴女が当主になった時、四十院家そのものが更識傘下に降るということでよろしいのですか?」

 

 「はい、その通りです。皇室を護る為には当家の力だけでは足りません。ならば力ある者の下に付き、その力を持って皇室を護る。その為ならばどのような事でも。」

 

 同年代ながらも、その気高くも潔い覚悟に圧倒される夏輝達。

 

 「わかりました。本来なら現当主である更識楯無が決める事ですが、若輩ながらもこの更識夏輝が貴方の申し出をこの場にてお受けいたします。」

 

 夏輝の言葉に神楽は立ち上がり頭を下げる。

 

 

 

 

 

 倉持技研

 

 電話口で一人の男性が頭を下げながら電話に応対している。

 

 『ISの納入が遅れるとは、何故だ!』

 

 「ですから先程から申し上げている通り、システム上の不具合が発生し、それの解消を行っており少なくとも最終チェックを含めて2、3日はかかると。」

 

 『何故今頃になって不具合が見つかるのだ!既に最終チェックを終えて納入するだけではなかったのか!』

 

 「その最終チェックの段階で不具合が発見されたのです。幸いにもプログラミング上の物なので部品交換等の作業は必要無いのですが、修正作業と修正後の再チェック、それからもう一度最終チェックを行います。それを終えるのに2、3日かかると。」

 

 『そもそも何故、打鉄改式ではなく新たな機体なのだ?』

 

 「それもお話しした通り、打鉄改式第肆型は武器と機体とのバランスが未だにとれておらず、とてもじゃありませんが素人を搭乗させる物ではありません。少なくとも近接戦闘術・・・剣に精通していなければ扱えません。それに比べれば今回開発した機体は副所長曰く、多少癖はあるものの防御能力は高い上に機動力もあり、素人でも扱い易い武器を登載しているそうです。」

 

 『肝心の副所長が何故応対しない?それに仕様書も未だに届いていないが?』

 

 「副所長は今、不具合の修正作業に集中しております。仕様書に関しては最終チェックが終わり次第お送りします。」

 

 『・・・・・・わかった。ところで先程打鉄改式の話で剣に精通していなければ扱えないと言っていたが、どれ程の腕前が有れば使える?』

 

 「明確な基準を示せる訳ではありませんが、代表候補生の剣道初段者が扱いきれなかった以上は、最低でも剣道の二段の腕前は必要かと。」

 

 『・・・・・・私に一人心当たりがいる。可能ならその者にテストさせたい。』

 

 「わかりました。それでは織斑君の専用機の最終チェックと稼働データの解析が終わり次第、打鉄改式の調整に入ります。」

 

 『なるべく早くしてくれ。』

 

 そう言って千冬は電話を切る。 会話が終わり応対していた男性は受話器を戻すと椅子に座り込み大きく溜め息をつくのだった。 それを側にいた女性が慰める。

 

 「災難でしたね。ブリュンヒルデからの電話を取るなんて。」

 

 「お前、知ってて出なかっただろう。」

 

 「だって、発信先がIS学園でしたから。」

 

 「くそっ!貧乏くじ引いた。」

 

 「でも本当の事言わなくて良かったんですか?」

 

 「言える訳無いだろ!副所長が思いついた新しい武器を搭載する為に調整が遅れているなんて。そんな事言ったらブリュンヒルデだけじゃなく副所長からも責められるじゃないか。少なくとも今は誤魔化せたんだ。後の責任は副所長にとって貰うさ。」

 

 「・・・・・・・・それにしても、副所長は本気であんな物を搭載する気ですかね?雪片弐型より始末の悪い武器だと思いますけど。」

 

 「言うな、開発部の連中が全員頭を抱えているんだから。只でさえ打鉄改式と変わらぬキワモノなのに、それを更に酷くするんだから。とりあえず、パワーアシストとオートバランサー、機体重心の調整を最優先でやっているようだから何とか使えるようにはなるみたいだけど・・・・」

 

 「・・・・・ねえ、何をしてるの?」

 

 女性は男性が机の上にある私物を片付けているのを見て聞く。

 

 「見ての通り片付け。俺、今日付けで退職するし後宜しく。」

 

 「えっ?! 聞いて無いけど!」

 

 「今言った。お前も辞めるなら早めに決断した方がいいぞ。沈む泥船にいつまでも乗っていたら大変だぜ。」

 

 男性はそう言って私物を鞄に納めると、

 

 「それじゃあ、時間だし。」

 

 そう言って男性は鞄を持って部屋を後にする。女性は、慌てて男性を追い

 

 「ちょっと待ってよ。辞めてどうするの?」

 

 「ウイング社の採用試験を受ける。」

 

 「えっ?!本気?」

 

 「本気も本気、ここに居たってどうにもならないし。それなら駄目元でウイング社の採用試験を受けてみることにしたんだ。」

 

 男性はIDカード等を人事部で返却し、退社用のカードを貰い社員通用口に向かっていく。

 

 「それじゃあ、後は宜しく!」

 

 男性はそう言い残して立ち去っていく。その場に残された女性は

 

 「・・・・・・・あの~、退職の手続きをしたいのですが?」

 

 人事部の職員にそう告げるのだった。

 




 
 夏輝の専用機は予想された通り、サイバスターでした。
 ちなみに、この作品に出てくる魔装機並びに魔装機神はオリジナルには無い武器等が装備されていますので悪しからず。


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第8話  クラス代表決定戦

 
 
 この作品に登場するスレードゲルミルには本来装備されていない武器がありますので御注意を。


 

 

 夏輝達がIS学園に入学して1週間が経過した。

夏輝達は今、IS学園の第1アリーナの観客席にいた。これから始まる1年1組のクラス代表を決める試合を見学するためだ。 観客席は1年生のみならず上級生も駆けつけており、満席となっていた。

 

 「夏輝様、どなたが勝つと思われますか?」

 

 黒江の問いに夏輝は

 

 「セシリアが2戦全勝で決まるだろう。」

 

 「兄さんも、そう思う?」

 

 「代表候補予備生で訓練機で参加の篠ノ之、専用機が与えられるものの素人同然の織斑、どう考えてもセシリアの優位は変わらない。」

 

 簪も同じ事を考えていたのか夏輝の考えに同意する。

 

 「あっ!セッシーと篠ノ之さんが出てきたよ。」

 

 本音の言葉通り、専用機ブルーティアーズを纏ったセシリアと訓練機打鉄を纏った箒が姿を表す。

 

 試合が始まると一方的な展開となった。 距離をとりライフルで狙撃していくセシリアに対して、刀だけを持ってガムシャラに突進する箒。 だが近づくことはかなわずセシリアのライフルで狙い撃ちにされていく。

 

 「珍しい、何時もなら飛び道具は卑怯とか、剣を使えとか、言っているはずなのに。」

 

 簪が戦いをみながらそう言う。

 

 「おそらく織斑先生に釘を刺されているんじゃないかな。あれでも代表候補予備生だし、対外的問題で。」

 

 何時もの言動を公の場で・・・しかも世界各国から生徒が集まっているIS学園のアリーナでされると不味いと千冬も思ったのだろう。

 結局、箒は成す術もなくセシリアに一方的にやられて負けたのだった。

 

 「圧勝でしたわね。しかも第3世代兵装を使うことなく。」

 

 「でもくーちゃん、使うことなくと言うより使う必要すらなかったんじゃない。」

 

 黒江の感想に本音がチャチャをいれる。

 

 「15分間の補給整備タイムの後に第2試合だね。兄さん、やっぱりセシリアの勝利は揺るがないよね。」

 

 簪の問いに夏輝は

 

 「まあ、あのセシリアが油断や慢心するとは思えないしね。ただ織斑の専用機というのが少し気になるんだよね。 学園に未だに仕様書が出されていないんだよね。」

 

 それを聞いて黒江が

 

 「それって学園の規約に違反してますよね。全ての専用機持ちは所持している専用機の仕様書を学園に提出するという。」

 

 「そうだ、だけど織斑のはまだそれに当たらないんだ。何故なら専用機が昼休みの段階ではまだ届いていなかったからね。」

 

 「ちょっと待って兄さん、まだ専用機が届いていなかったの?当日になっても?」

 

 「聞いた話だけど、専用機に不具合が見つかって最終チェックのスケジュールがずれたらしいんだ。試合前になって漸く届いたみたいなんだ。」

 

 簪の疑問に答える夏輝。

 

 「でも、それって最適化と一次移行間に合うのかな?」

 

 本音の言葉はもっともだ。普通ISの最適化と一次移行は最低でも30分はかかるものだ。セシリアと箒の試合が10分もかかっていない、そして補給整備タイムが15分、合わせても30分には満たない。

 即ちまだ終わっていないということになる。

 

 「終わるまで試合開始を延ばすのでしょうか?」

 

 「いや、アリーナの利用規約と試合規定の関係上、さっきの試合が早めに終わったとしても試合開始は延ばせない。」

 

 黒江の疑問に答える夏輝。そこに簪が

 

 「ということは、終わらない内に試合に出すと?」

 

 「何か小細工を弄して時間稼ぎしない限りはね。」

 

 夏輝がそう言った瞬間だった。

 

 『お知らせします。アリーナのシールド発生装置の点検の為に試合開始時間を5分遅らせます。』

 

 

 

 

 

 

 

 時間を戻してセシリアと箒の試合開始直前のピット。

漸く百春の専用機が到着したのだった。

 

 「お待たせしました。織斑百春君の専用機です。」

 

 倉持技研から来た女性職員が説明する。その女性に千冬が文句を言う

 

 「何故、こんなギリギリの納品になったのだ!」

 

  「織斑先生、それよりも最適化と一次移行の作業を急がないと。」

 

 真耶に言われて渋々引き下がる千冬。コンテナが開きISが姿を現す。

 

 「織斑、さっさと乗れ。」

 

 「は、はい!」

 

 百春は慌ててISに乗り込み背を預ける。 女性職員がタブレットを接続して作業を始める。

 

 「どれくらいで終わる。」

 

 「最適化と一次移行を合わせて30分程かかります。」

 

 それを聞いて千冬は

 

 「今から始まる第1試合の試合時間が30分、それに補給整備タイムが15分。何とか間に合うな。」

 

 無論千冬とて、箒が試合時間一杯戦えるとは思ってもいない。それでも半分位は持つだろうと思っていた。 射撃能力は兎も角、近接戦闘能力に関しては千冬も一目を置く腕前である。 ただし箒は武術を極めんとする者にとって必要な[心・技・体]のうち心を大きく欠いているので、一流になることはない。千冬もそれを認識しているからこそ、釘は刺しておいた。

 

 しかし、試合は千冬の予測を裏切り箒は10分も持たずに敗退してしまったのだった。

 どう考えても時間が足りない、そこで千冬は管制室にアリーナのシールド発生装置の点検を命じた。

 そしてギリギリで最適化と一次移行が終わり、百春のISが真の姿を現した。 だが、その姿を見て千冬は言葉を失った。全身装甲に加えて、背面部に装着された2つの巨大なドリル、角のようなものがついた頭部、あまりにも異質な姿故に。

 

 「な、なんなんだ・・・このISは?」

 

 「えーーと、スレードゲルミル? 何だこれ?」

 

 百春もまた戸惑っていた。てっきり白式だと思っていた専用機が全く違う物なのだから。

 ちなみに百春は前世においてロボット物には殆ど興味がなかった為に自分が今纏っているのが何なのか全くわかっていなかった。

 千冬は百春に武装のチェックをするように言おうとするが

 

 『まもなく試合開始時間です。選手はアリーナに入場してください。』

 

 アナウンスが入り断念する。 百春はカタパルトからアリーナに飛び出していく。

 

 「おい。何なんだあのISは! ふざけているのか!」

 

 「いえ!ふざけてなんかいません。あれが倉持技研の副所長が設計開発したIS[スレードゲルミル]です。」

 

 そう言って女性職員は仕様書を渡す。それを受け取り中を見る千冬。

 

 「スペックは確かに第2世代機を上回っているな。武装は・・・・・・・何だこれは?!」

 

 

 

 

 

 アリーナ

 既に補給と整備タイムを終わらせたセシリアがアリーナにいた。

 すると反対側のカタパルトから1機のISが飛び出してきた。その異様な姿に眉を潜めるセシリア。

 

 「織斑さん、それが貴方の専用機ですか・・・・何と言いますかジャパニメーションに出てきそうな姿ですわね。」

 

  (セシリアの言う通り多分、前世のアニメとかに出てたロボットだと思うけど俺知らないしな。ん?!)

 

 ディスプレイに武装一覧が標示される。

 

  ( アイソリッドレーザー、スプリットミサイル、ドリルインフェルノ、ドリルブーストナックル、斬艦刀・・・色々あるな。ブレオンの白式よりましか・・・零落白夜が無いのはあれだけど・・・・でも何で白式じゃ無いんだ?)

 

 百春がそんな事を思っていると、開始を告げるブザーが鳴るのだった。

 

 「さあ、いきますわよ!」

 

 セシリアはレーザーを百春に射ちながら空中を飛び回る。 百春は対応が遅れて次々と被弾していく。

 

 「くそっ!! なら、此方もお返しだ。アイソリッドレーザー!!」 

 

 「「「「「「「えっ?! えーーー?!」」」」」」

 

 スレードゲルミルの目の部分から放たれるレーザー。 

その奇抜な武装に当の本人も含めて驚く。

 肝心のレーザーはセシリアには当たらなかった。

 

 「何ですか!その奇抜な武器は!」

 

 「俺も知らねえよ! ならこれだスプリットミサイル。」

 

 「そのくらい問題ありませんわ!」

 

 ショルダーアーマーの内側から無数のミサイルが発射される。だが、セシリアは後退しながらミサイルを次々と迎撃していく。それだけでなく迎撃の合間を縫って百春にもレーザーを放っていた。百春の動きを牽制するために。

 

 「くそっ!! 何で当たらねえんだよ! こうなりゃ、斬艦刀!!!」

 

 ショルダーアーマーのパーツの一部がパージして剣の鍔に変形する。百春の目の前にくると柄が伸びる。だが、それは胸元から足下まで届く異様な長さだった。

 

 (何だ? えらく長い柄だな、斬艦刀って名前だけど槍なのか? えーーー?!)

 

  「な、何ですか?! そのブレードは!!」

 

 百春が柄をつかんだ瞬間、刀身が伸びるのだが、その刀身もまた、柄とかわらないくらいの異様な長さだった。 柄と刀身を合わせれば、百春の身長の倍はありそうだった。

 

 「こ、これが斬艦刀・・・・・な、なんて刀何だ?!」 

 

 スレードゲルミルのおかげか、巨大な斬艦刀を手にしてもバランスを崩す事なく立っていられた。

 

 「よし、いくぞ!! あっ?! 不味い!!」

 

 そう言うと百春は斬艦刀を左薙ぎの構えでセシリアに突進していく。 斬艦刀をセシリア目掛けて振り抜く百春、だがここで予想外の事が起きた。 

 握りが甘かったのか、柄から左手が外れて右手だけで振り抜くかたちになった。 しかし右手だけでは斬艦刀を制しきれず、右手からスッポ抜けそうになり慌てて右手で柄とを確りと握る。ギリギリ柄頭のところで止まるが、今度は体勢が崩れて斬艦刀の軌道が下向きに変わる。

 

 「きゃあ! そんな?! 間合いが伸びて軌道が変わるなんて!!」

 

 胴目掛けての左薙ぎを予測していたセシリアにとって、突然の出来事に回避が間に合わず左足に剣先が当たる。

 だが、これがセシリアに火をつけた。彼女は真剣に戦ってはいたが、全力で戦ってはいなかった。

 

 「行きなさい!ブルーティアーズ!!」

 

 4基のビットがセシリアの周囲に展開される。 それを見ても百春は

 

 (しめた! これで勝てる、セシリアはビットを動かしている時は動けない、その隙に!)

 

 斬艦刀を握りしめてビットの動きを注視する。だが、ここで待たしても百春にとって予想外の事がおこる。

 

 「はっ?! なんで・・・動いて・・・

 

 ビットと共にアリーナを縦横無尽に飛び回り百春を狙撃するセシリア。

  ビットとライフルからのレーザーは百春を襲う。

斬艦刀の刀身を盾にレーザーから身を守るも、防ぎきれずにダメージを負っていく。

 

 「こうなりゃヤケのヤンパチ! ドリルブーストナックル!」

 

 百春はスレードゲルミルの攻防遠近一体型の第3世代兵装のドリルブーストナックルを使う事にした。

 右側に装着されていた巨大なドリルがパージされて左腕に装着される。そして激しく回転するドリル、百春が左腕を突き出すと腕のパーツが肘の部分から離れ、セシリア目掛けて放たれる。

 

 「そんなの当たりませんわ!えっ?! まさか、ブルーティアーズと同じ思念誘導型?・・・・いえ、この反応は自動追尾システムですわね。」

 

 ドリルブーストナックルをかわしたセシリアだったが、避けたドリルが方向を変えてセシリアを追ってくる。 だが、その動きは機械的でありセシリアにとって容易く避けれるものであった。しかしセシリアは敢えてそれをギリギリで避け、更にビットでの攻撃を緩慢にする事で百春に追い詰められているように印象付ける。 そして百春はまんまとそれに引っ掛かるのだった。

 

 「よし!このまま終わらせる!」

 

 斬艦刀を盾にレーザーから身を守っていた百春は、斬艦刀から右手を離し、右手にもドリルを装着する。 

 ドリルが激しく回転すると、百春はそのままセシリアに突進する。

 

 「いっけぇぇぇぇーーーー!!」

 

 ドリルブーストナックルに追われて百春の方に向かってくるセシリアに百春の一撃が迫る、だがその百春の思惑とは裏腹に、それを見たセシリアは笑みを浮かべた。

 

 「かかりましたわね!」

 

 直前でセシリアは瞬時加速を使い、上に向かって飛び上がる。

 

 「き、消えた?! あっ!!」

 

 突然、目の前からセシリアの姿が消えた事に驚く百春、だがそれで終わりじゃなかった。セシリアの変わりにドリルブーストナックルが眼前に迫ってきたのだ。

 ドリルブーストナックルはコースを変える事無く、また百春は避ける事が出来ず衝突する。

 

 「ぐわぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」

 

 そのままアリーナの地面に落下し衝突する百春。

 

 「スレードゲルミル、SEエンプティ!! 試合終了、勝者セシリア・オルコット。」

 

 百春は地面に衝突した衝撃で気絶したようで、全く動かなかった。 セシリアはそれを一瞥してピットに戻っていく。

 

  百春と箒の試合は百春が気絶したままだったので箒の不戦勝となった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、セシリアは千冬に寮長室に呼び出されていた。

 

 「織斑先生、どういった御用件でしょうか?」

 

 「うむ、クラス代表の件だ。試合結果からみればオルコット、お前に優先権があるのだが・・・織斑にその権利を譲って貰えないだろうか?」

 

 「何故でしょうか?」

 

 「簡単な話だ。織斑は立場上、常に結果を残し続けなければならない。その為にはより多くの経験を積ませる必要がある。クラス代表という立場はある意味もってこいなのだ。」

 

 「確かにクラス代表になれば、試合は勿論の事、アリーナの使用やISの貸出等に多少なりとも優先権が与えられる事になり経験を多く積むことになりますわね。」

 

 「そう言う事だ。どうだ、譲ってはくれないか?」

 

 「織斑先生が、そう言われるのでしたら織斑君にクラス代表の座をお譲りします。」

 

 「すまないなオルコット、助かった。」

 

 「いいえかまいません。それでは失礼します。」

 

 そう言ってセシリアは寮長室を後にした。

 

 

 

 翌日、1組で百春のクラス代表就任が発表された。

 

 

 

 

 




 

 


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第9話  ファーストとセカンドと専用機

 
 おまちかねのセカンド襲来ですけど、出番ありません。


  

 

 いよいよ学年別クラス対抗戦が1週間後に迫った。

その日の朝は、2組に転校してくる生徒の話題で持ちきりとなっている。 夏輝達は既に前日に刀奈から転校生の情報を受け取って、それが中国の代表候補生であることを知っていたので驚く事はなかった。

 

 「それにしても、唯我独尊と言うか我が儘な候補生だね。中国政府からの入学要請を断っておきながら、織斑の入学を知った途端に入学すると駄々を捏ねて無理矢理転入してくるんだから。」

 

 夏輝の呟きに黒江が

 

 「ですが、それと引き換えにかなりのペナルティーを与えられたようです。」

 

 「黒江、何か分かったの?」

 

 「はい簪さま。中国代表候補生の凰鈴音はIS学園への転入と引き換えに専用機持ちの情報収集、男性操縦者に対しての情報収集と勧誘、自身の専用機のデータ収集、ウイング社の中国への移籍、以上がペナルティーとして与えられた任務のようです。」

 

 「それ、代表候補生なら与えられそうなもので、態々ペナルティーとして課すほどのものじゃ・・・・」

 

 「凰鈴音は、この手の任務が嫌いだそうです。だからこそ最初のIS学園への入学も断ったようです。」

 

 「なるほど、任務嫌いにはペナルティーとして十分ということか。」

 

  チャイムが鳴り、SHRが始まる。

 

 

 

 

 

 昼休み

 学生食堂の一角に夏輝達4人と神楽とセシリアが姿があった。 刀奈と虚は急な仕事が入ったので生徒会室にいる。 

 

 「その方なら今朝1組に来ましたわ、織斑さんに会いに。どうやら顔見知りらしくかなり騒がしかったですわ。」

 

 「顔見知り? 中国の代表候補生と?」

 

 「会話の内容から察するに日本で以前生活されていたようですわ。」

 

 簪の疑問にセシリアが答える。 鈴の代表候補生としての情報は得ているものの、私生活に関する情報は手元に届いていなかった。

 

 「後で調べておきましょう。」

 

 「頼むよ黒江。」

 

 夏輝達の座るテーブルから一番離れた場所のテーブルで何やら騒ぎが起き始めた。

 何事かと思い、そちらに目を向けると遠目に百春を挟んで箒と鈴が言い合いしているように見えた。

 

 「やれやれ、騒がしいものだ。」

 

 「そう言えば今朝織斑先生が篠ノ之さんに専用機が渡されると仰ってましたわ。何でも試作機のテストだとかで。」

 

 「「「「「えっ?!」」」」」

 

 セシリアの突然の発言に言葉を失う。

 

 「何故、代表候補生ですらない彼女に?」

 

 「・・・・・・・まさか?」

 

 「たぶん、兄さんの考えている通りだと思う。」

 

 神楽が疑問に思い口にする、だが夏輝と簪はある可能性に至った。

 

 「凰さんの事もあるし、食事が終わったら生徒会室に行こう。」

 

 

 

 

 食事を終えた夏輝達は生徒会室に来ていた。

 

 「刀奈姉さんに幾つか聞きたい事があるんだけど?」

 

 「たぶん、その1つは篠ノ之さんの専用機の事よね?」

 

 そう言って刀奈は報告書を夏輝に手渡した。それを受け取った夏輝は読む。 そこに書かれていたのは例の打鉄改式の事だった。

 

 「第3世代型IS打鉄改式第肆型改め第3世代型ISグルンガスト零式の開発推進におけるテストパイロット協力要請? 倉持はまだ諦めてなかったのか。」

 

 「往生際が悪い。虫酸が走る。」

 

 「でた、かんちゃんの倉持アレルギー。」

 

  夏輝が驚くのも無理はなかった。日本の代表候補生の殆どが、使えないと搭乗を断った曰く付きの機体を未だに開発し続けていたのだから。

 

 「倉持も必死ですからね。織斑君の専用機スレードゲルミルのおかげで一命はとりとめたものの、それとは別に機体をきちんと開発しなければなりませんからね!」

 

 「代表候補生の協力が得られないからIS学園と言うわけですか。」

 

 虚の言葉を受けて神楽がそう言う。夏輝はグルンガスト零式のコンセプトに目を向ける。

 

 「スレードゲルミルのデータをフィードバックし、完全装甲型に変更。更に第3世代兵装を2つ搭載し、1つは暮桜の単一使用能力を擬似再現した近接戦闘用大型剣【斬艦刀・雪片零式】、もう1つが胸部に装着された特殊加工された放熱板から放たれる熱線兵器【ハイパーブラスター】。ちなみに武装はそれ以外に脚部に内蔵されたミサイルのみ。」

 

 「聞く限りはブレオンの打鉄改式よりマシ。でも根本的な問題が解決されていなければ、結局は同じ。」

 

 夏輝の説明を聞いて簪が言う。それを聞きセシリアが

 

 「根本的な問題ですか?もし差し支えなければ教えていただいても?」

 

 「まずは機動性、加速ばかりに重きを置いて制動に問題あり。もしマトモに動かしたければスラスターの出力を最低でも100くらいに分割して操作する必要がある。 それからエネルギーの消耗が激しい。零落白夜を連続発動させたら5分もエネルギーが持たない。」

 

 「随分とピーキーな機体ですわね。」

 

 「流石にその辺りの事は書かれていないね。学園に仕様書が提出されればわかるとはおもうけど。それにしても何故、織斑先生は篠ノ之さんを・・・・と、もうすぐ昼休みが終わるね。」

 

 簪の説明を聞いて呆れるセシリア。箒が操縦者に選ばれた事を疑問に思う夏輝だったが昼休みが終わる事に気づいて、この場は解散することにした。だが刀奈が

 

 「あ、夏輝君と簪ちゃんと本音と黒江は残ってくれるかしら生徒会の仕事があるの。担任には連絡してあるから。」

 

 ISの生徒会はその特質性から一般学科に限り授業を受けずに生徒会の仕事をしてもいいことになっている。

 無論、制限もあり1年生なら週に2時限、受けなかった授業の代わりに課題が出される。

 

 「わかったよ刀奈姉さん。 それじゃあ二人共、また後で。」

 

 夏輝がそう告げるとセシリアと神楽は一礼して生徒会室を後にした。 

 

 「さて、刀奈姉さん。生徒会の仕事という建前で俺達を残したのはやっぱり更識の仕事?」

 

 「そうよ、神楽ちゃんには悪いけど今はまだ話す事の出来ない案件も含まれているから。」

 

 「それで、どんな仕事なの?」

 

 「今、世界中である噂が流れているの。その噂を巡って世界中のあらゆる諜報機関に裏組織、そして企業が動いているわ。」

 

 「その噂って?」

 

 「篠ノ之束の遺産」

 

 「「「「えっ?!」」」」

 

 刀奈の言葉に夏輝達は驚く。

 

 「事の真偽を美兎様に確認いたしましたが、更識に来る際に間違いなく全ての秘密研究所は破壊し、コアは勿論の事、設計図や資料・部品、ネジ1本残らず処分したとの事でした。」

 

 「私も協力しましたから間違いありません。」

 

 虚の報告と黒江の話を聞き本音が

 

 「でも~、何で今頃になって遺産の話が持ち上がったのかな~?」

 

 「それもそうね、あの事故が起きた直後に全ての国や企業が世界中を隈無く探して見つからなかったのを、今頃になって・・・・」

 

 簪も本音の意見に同意する。

 

 「まあ、幾つか原因というか発端の予測はつくけど殆どは決め手には欠けるな。ただ、1つだけ最も可能性が高いのがある。ここまで拡がって動いているということは、噂の出所に信憑性があったという事だね。」

 

 「「「「「噂の出所?」」」」」

 

 「そう、その噂・・・というか話をした最初の人物が、その話をしても可笑しく無い人だった。信憑性を持たせるに十分な人物だった。」

 

 「それってもしかして・・・・」

 

 「そう織斑千冬と篠ノ之箒のどちらか、もしくは両方の可能性がある。美兎姉さんに二人に何か渡したり、その手の話をしたことが無いか確認した方がいいかも。」

 

 まるでタイミングを計ったかのように生徒会室に設置してある更識とのホットラインが鳴る。

 

 「もしもし。」

 

 『はいはーい!みんなのお姉さん美兎さんだよ~!』

 

 モニターに美兎の姿が映し出される。

 

 「さて、美兎姉さん。連絡してきたという事は何か思い出したの?」

 

 『流石はなーくん。鋭いね~! 愚妹と織斑千冬もそれに準ずる物を持っている可能性があるね。』

 

 「それで何を?」

 

 『まずは織斑千冬の方だけど、彼女は白騎士の設計図を持っているかも。白騎士に使われている技術の7割から8割は今の段階で実用化もしくは実験段階に入っているけど、残りはまだそれすらいっていないからお宝といえばお宝だね。最も私には既に無用の長物だし、それほど重要な物じゃないからいいんだけど、問題は愚妹の方だね。』

 

 「と言うと?」

 

 『もしかすると愚妹の奴は昔私が構想していた無人型ロボ【ゴーレム】のデータというか設計図を持っているかもしれない。』

 

 「「「「「「えっ?! 無人ロボ!!」」」」」

 

 『そうなんだ、ISを作る前に構想を練っていた探査用の無人ロボの設計図。AIによる自律行動と電波による遠隔操作を両立した奴何だけど・・・・ISコアさえ搭載すれば無人型ISとしてもつかえるの。』

 

 「何でそんな物を篠ノ之が?」

 

 『実はさ、昔あの愚妹がそれを書いていたノートに落書きしてさ、そのままあげちゃったんだよね。』

 

 「そのノートをまだ持っている可能性があると?」

 

 『それがわかんないんだよね? もしかすると実家にあるかもしれない。』

 

 「・・・・・・刀奈姉さん、誰か人をやって調べた方がいいかも。」

 

 「それなら礼子さんに行ってもらいましょう。」

 

 「確かに礼子さんなら大丈夫かな。」

 

 『それじゃあ、そっちの調査はれいちゃんにまかせようかな。 それから朗報だよ、みんなのISのアップグレードの準備が整ったよ。GWにでも作業するからよろしくね。そしてもう1つ、マドちゃんの治療も無事に終わったよ。』

 

 美兎がもたらした2つの朗報は夏輝達を喜ばせた。 特にマドちゃん=織斑真十夏(マドカ)・・・・違法研究所で生み出された千冬のクローン・・・の治療が終わった事は夏輝達にとって喜ばしいことだった。

 

 今から半年前、更識家は人身売買や人体実験、違法薬物製造の情報を掴み、日本の外れの離島にあった女性権利団体の違法研究施設を襲撃したのだ。 

 

 その研究施設で保護されたのがマドカだった。マドカは研究施設で生み出された千冬のクローンの最初の成功体だったようで、第2第3の個体を作る為のデータをとる為に様々な実験や投薬を行われており、保護した時には衰弱しきっていた。 保護した後は美兎がナノマシン等を使い治療をしていた。 

 

 マドカの体内には監視用のナノマシンに、反抗を防ぐ為の処罰用ナノマシン、そして処分用のナノマシン等、数種類のナノマシンが投与されている上に様々な薬物が投与されていた為に美兎と言えども治療に時間を要したのだ。

 

 『とりあえず、後1週間もすれば普通に過ごせるようになるよ。で、マドちゃんの今後の事何だけど、マドちゃんは此方が提示した方針に従うそうだよ。』

 

 マドカに提示した方針、それは勿論マドカを更識家の一員にすることだった。 千冬のクローンとして生まれマドカは、これから先も狙われる可能性がある。そこで夏輝や美兎のように更識に戸籍を作り、更に美兎のナノマシンで遺伝情報や外見を変化させることにしたのだ。

 

 マドカは夏輝の双子の妹=更識円華として、生きることになる。 そして6月にIS学園にウイング社の企業代表操縦者という肩書きを持って編入することになった。 

 

 『マドちゃんの専用機も作らないといけないし美兎さん頑張るぞ! それじゃあ、GW楽しみにしといてね!』

 

 そう言って美兎との通信が終わった。

 

 「それにしても刀奈姉さん、例の研究施設だけど女性権利団体以外にもスポンサーがいた形跡があったよね?その後の追跡調査で何か分かったの?」

 

 「えぇ、とりあえず幾つかのペーパーカンパニーを経由して資金が流れているのは判明したんだけど、そのペーパーカンパニーを作ったのもペーパーカンパニーで、かなり複雑な経路を作っていたわ。その中で2つ程気になる企業があったわ。1つはネストリアス貿易商事、もう1つがヴォルクルス物産、この2つの企業の筆頭株主の一人にフォーラン・テイクゼンという女性の名前が上がっていたんだけど、この人だけが実在しない人物だとわかったの。」

 

 「つまり態々架空の人物をでっち上げて隠れ蓑にした本命がいると?」

 

 刀奈の報告を聞き簪が言うと

 

 「今、追跡調査をしてもらっているわ。本命に繋がる手掛かりを見つける為に。」

  

 ちなみに夏輝達の頭の中から鈴の事はすっかり消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 という事で名前だけでセリフも出番のなかったセカンドの鈴でした。
 
 次話では主人公との絡みがあります


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第10話  米中激突

 

 

 放課後

 鈴の事を頼むのを忘れていた夏輝と黒江は、SHRが終わると生徒会室に向かっていた。 簪と本音は一足先にアリーナに向かっている。 2人が生徒会室の前に着くと

 

 「どうして変更が認められないのよ!」

 

 部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。何事かと思い、扉をノックしてから部屋に入る。

 

 「「失礼します。」」

 

 夏輝と黒江が室内に入ると、刀奈の仕事机に手をつき詰め寄るツインテールの少女の姿と、その少女を宥めようとする金髪の少女がいた。

 

 「凰さん、落ち着いて! それに私はクラス代表を代わってなんて言ってないし。」

 

 「落ち着ける訳無いでしょ! それに私がなりたいんだから代わってよ!!何でクラス代表の交代が認められないのよ!」

 

 「だから、落ち着いて説明を聞こうよ。」

 

 「説明も何も関係無いでしょ! たかがクラス代表の交代くらい返事1つで認めなさいよ!」

 

 興奮して支離滅裂となった鈴が刀奈に詰め寄るが、刀奈の背後に立っていた虚が1歩前に出て、

 

 「いい加減にしてください!」

 

 虚の低く凄みのある言葉に鈴の勢いが止まる。

 

 「ここは中国ではありません、IS学園です。中国では通じたかもしれませんが、ここでは貴女のわがままは通用しません。」

 

 虚はそう言うと、再び刀奈の背後に下がる。

 

 「さて、1年2組クラス代表のティナ・ハミルトンさんと転校生の凰鈴音さんでしたね。まず最初に原則としてクラス代表は任命されたら1年間は特段の理由が無い限り変更は認められません。その理由として、IS学園のクラス代表として任命された段階で国際IS委員会と加盟各国に、その生徒のプロフィールとデータが提出されます。」

 

 刀奈はそこで一旦言葉を切り

 

 「これは、クラス代表という立場はそれだけ注目を集める役目だと言うことです。その生徒の成績次第では代表候補生や企業代表もしくは国家代表の道が開かれる可能性があるからです。」

 

 そう言って刀奈は

 

 「ティナ・ハミルトンさんはアメリカ代表候補生序列第4位という肩書きをクラス全員から認められてクラス代表になりました。そのハミルトンさんに代わって貴女がクラス代表になる理由を述べてください。それにそれはクラス全員の総意なのですか?」

 

 「それは私が中国の代表候補生序列第4位で、更に専用機を持っているからよ!専用機の有無はアドバンテージとして大きいからよ!それにクラスの総意なんて必要無いわよ、私がクラスで1番強いんだから。」

 

 「それじゃあ認められないわね。だいたい専用機の有無は決してアドバンテージとして成り立たないわよ、それに貴女はハミルトンさんより弱いのだから。」

 

 「えっ?」

 

 一瞬何を言われたか理解できなかった鈴。だが、言われた言葉を理解した瞬間

 

 「あ、私が、こんな専用機を持っていないやつより弱いですって!そんなはず無いじゃないの、訂正してよ!」

 

 「なら試してみる?ちょうど第7アリーナを生徒会名義で予約してあるから模擬戦してみる?ティナさんは訓練機を使うけど、貴女は専用機を使ってもいいわよハンデで。」

 

 刀奈に言われますますヒートアップする鈴。

 

 「そんなハンデいらないわよ!私も訓練機でやってあげるわ!」

 

 「後で言い訳しない?」

 

 「しないわよ!そんなこと!!」

 

 「それじゃあ、決まりね。ハミルトンさんも良いかしら?」

 

 「そんな必要ありません、専用機を使ってもらっていいです。後で言い訳にされたく無いので。元々、彼女の申し出自体が気にくわなかったですし、何より専用機の有無で実力を低く見られるのも我慢ならなかったですし。」

 

 どうやらティナも鈴の態度が気にくわなかったようだ。 ティナの言葉を聞き、鈴は顔を真っ赤にしてティナを睨む。 

 

 「それじゃあアリーナに行きましょうか?夏輝達もいいわね。」

 

 「「わかりました更識会長。」」

 

 夏輝達の返事を聞き、初めて夏輝達に気づいた鈴とティナ。

 

 「あっ?! えっと、もしかして4組にいる二人目の男性操縦者の更識夏輝君ですか?」

 

 「そうだけど?」

 

 「初めまして、アメリカ代表候補生序列第4位のティナ・ハミルトンと言います。よろしくお願いします。」

 

 そう言ってティナが握手を求めてきたので、握り返し

 

 「こちらこそよろしく。」

 

 「へー、あんたが二人目ね~。百春と違って地味で平凡で弱そうな男。」

 

 鈴の言葉に刀奈と虚と黒江の顔つきが一瞬だけ変わり怒りの表情が出るも、直ぐに元に戻す。

 

 「そうだ、ついでにあんたも私と戦いなさいよ。百春の踏み台として相応しいか見極めてあげるから。」

 

 再び3人の顔に怒りの表情が浮かぶ。

 

 「凰さん、そこまで大口を叩くならハミルトンさんの試合の後で模擬戦をしましょうか夏輝君と。負けても文句言わないでね。」

 

 「ふん!代表候補生の私が素人に負けるはず無いじゃない。笑わせないで!」

 

 嘲る笑みを浮かべる鈴。

 

 「まあいいわ、それじゃあアリーナに行きましょうか。」

 

 そう言って生徒会室を出てアリーナに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第7アリーナ。

 夏輝達、更識関係者のみで訓練するために生徒会権限で特別に予約したアリーナだ。 そのアリーナの中央で専用機【甲龍】を纏う鈴と訓練機ファルコンを纏うティナ。

 

 『それではただいまより、ティナ・ハミルトンと凰鈴音の模擬戦を国際ルールに従って開始いたします。制限時間は20分です。 それでは試合開始!』

 

  鈴は青龍刀の双天牙月を両手に構えてティナに向かっていく。対するティナは右手にガトリングガンポッドを鈴に向かって射ちながら後退加速で距離をとる。弾丸は甲龍の装甲に当たり激しく火花が散る。

 距離を取られて双天牙月の届かない距離になった、ならばと瞬時加速で、ティナに向かっていく鈴。だが次の瞬間だった。 

 

 「これでも[バンバンバンバン]きゃあ?!」

 

 突然、甲龍の装甲のあちらこちらで爆発が起きて、弾き飛ばされる。 突然の事に鈴は何が起きたのかわからなかった。 一方管制室で見学している夏輝達は何が起きたのかわかっていた。

 

 

 「上手いね。凰さんがわからないように、小型の空中機雷を散布しながら後退加速で下がり自分の方・・・機雷のあるポイントに誘導する。」

 

 「それだけではありません。凰さんの目を機雷から欺く為に、ガトリングガンポッドの弾丸も火花が大きく散る物にしてあります。訓練機でありながらも、その性能差を感じさせませんね。」

 

 刀奈と虚がティナの戦い方を誉める。

 

 

 

 「クソッ! 嫌らしい手を使ってくるわね。本当ならクラス対抗戦まで温存しておきたかったけど、こうなったら仕方ないわ!喰らいなさい龍砲!!」

 

 甲龍の肩部ユニットの一部が開く。何かを予感したティナは左腕にバリスティックシールドを呼び出し構える。

 直後、シールドに衝撃がはしり後方に飛ばされるティナ。

 

 「へーー、初見で龍砲を防ぐなんてやるわね。でも、防ぐだけみたいね。ここからはずっと私のターンよ!」

 

 チャンスと思った鈴は龍砲を連射する。だが鈴は気づいていなかった、ティナがずっと何かを観察している視線を。

 

 

 

 

 「この試合、ハミルトンさんの勝ちだな。」

 

 夏輝の言葉に簪が

 

 「そうだね。でもあれで序列第4位だなんて、中国の代表候補生はレベルが低いの?」

 

 「彼女の技量は決して低い訳じゃ無いわよ。ただ、専用機という驕りと、相手が自分より格下と思いこんで慢心しているのが災いしているのよ。どちらにせよ相手の技量を見抜くのも代表候補生として必要なスキルではあるけどね。」

 

 簪の感想を聞いた刀奈がそう解説する。

 

 「どうやらハミルトンさんは凰さんの分析が終わったようですわ。」

 

 「狙いを~定める時には~視線が、そこにいくよね~。そして~射つ時に左の奥歯を~噛み締めるよね~。」

 

 虚が告げた後で、本音がそう言う。既に管制室にいる面々は鈴の癖を見抜いていた。

 

 「さて、鳳さんの癖はハミルトンさんも気づくとして、その後はどうするかな?」

 

 

 

 

 

 「ほらほらほらほら! 大口叩いていたけど、結局その程度? 専用機の力を思い知ったか!」

 

 (・・・・・さて、そろそろ良いかな。)

 

  ティナはシールドで龍砲の連射攻撃から身を守りながら観察して、鈴の龍砲を射つ時の癖を見抜いた。

 それを利用して避けるのは簡単だが、ティナはあえてその手段を使わずに別の方法で龍砲を無効化することにした。 まずは右手のガトリングガンポッドを一旦収納し、手榴弾を4つ程出して鈴に向かって投げる。 

 

 「グ、グレネード! クソッ!!」

 

 慢心で反応の遅れた鈴は、慌てて龍砲でグレネードを迎撃する。1つ、2つ、とグレネードを破壊する。

 

 ドガァーン ドガァーン

 

 だが、3つめは照準が合わずに外れて甲龍の左足の装甲に、4つめは間に合わず右手に持つ双天牙月に当たる。左足の装甲、そして右手の双天牙月が破損する。

 

 「きゃあ?!、双天牙月が!! えっ?」

 

 ドガァン ドガァン ドガァン ドガァーン

 

 だが、それだけで終わらなかった。突然鈴の真下で幾つもの爆発が起きて、土埃混じりの爆風が鈴を襲う。

 ティナが鈴の真下、アリーナの地面に向けて手榴弾を投げて爆発させたのだ。そして立ち込める煙と土埃が鈴の周囲を覆う。

 

 「視界が! 熱源センサーON、って何これ?!」

 

 周囲を煙で覆われた為に、視界が全く効かないので熱源センサーでティナの居場所を探知しようとしたが、煙自体がかなりの熱を持っていた為に全く役にたたなかった。鈴は直ぐにセンサーを切る。 この時、鈴は気づかなかった、甲龍の装甲に大量の土埃が付着したことを。

 

 鈴は下手に煙の中から飛び出さず、その場に止まる事を選んだ。 

 

 (恐らく、私が煙の中から飛び出してくるのを待ち構えているはず。なら、この場にとどまって逆に迎え射つ)

 

 鈴は龍砲の発射準備をする。だが、肩部ユニットの龍砲は空気の圧縮は行っていない。鈴とて馬鹿ではない、この状況で空気の圧縮をしても煙を巻き込んで、不可視という最大の利点を失う事を理解している。 

 だからこそ、あえて両腕の龍砲を起動して煙を巻き込んだ、囮として使う為に。

 

 やがて、煙がはれると鈴から少し離れた場所で2つのロケットランチャーを両肩に構えるティナの姿があった。 直ぐさま、鈴は両腕の龍砲を射つ。すかさず両肩ユニットの龍砲を起動させる。 だが、そこで鈴は気づいた。

 

 「かかったわね!これで・・・・えっ?! なんで!!」

 

 甲龍の装甲に付着していた土埃を巻き込んで色のついた圧縮空気に。 そうティナはこれを狙っていた、鈴の癖から予測して避けることも出来たが、あえてそれをせずに策を用いた。

 そして鈴は、その策に嵌った。 全く思いもしなかった事態に鈴は動揺する。 それが大きな隙を生んだ。

 

 「これで!」

 

 ティナは鈴に向けてロケットランチャーを射つ。 放たれたロケット弾は圧縮空気ごと、甲龍の両肩ユニットに命中し破壊する。 間髪入れずティナは射ち終えたランチャーを手離すと、ロケットランチャーを新たに呼び出して再び射つ。

 

 「キャァァァーーー!!」

 

 ロケットランチャーの直撃を受けた鈴はバランスを崩して地面に落下する。 落下の衝撃で一瞬意識が飛びそうになるも鈴は何とか堪えて、起き上がろうとする。

 しかし、そんな鈴に瞬時加速を使ったティナが迫る。

 

 「さあ、チェックメイト!」

 

 ティナはそのままキックを放つ。瞬時加速で威力の増した爪先部分の衝角が鈴の腹部に決まる。

 

 「グフッ!!」

 

 絶対防御が発動し、SEが一気に0になる。

 

 『甲龍、SEエンプティー。勝者、ティナ・ハミルトン!』

 

 ティナのキックを受けた後、鈴はそのまま地面に仰向けで倒れこむ。 絶対防御が発動して腹部への外傷や内臓への重大なダメージは受けなかったものの、衝撃は緩和することができず鈴は気を失った。 気を失った鈴は大事をとって保健室に運ばれることになった。

  ちなみに鈴は、キックを腹部に受けた影響で暫くまともに食事をすることが出来ないのであった。

 

 

 

 保健室

 30分程で意識を取り戻した鈴。保健医の診察で内臓に多少ダメージを受けているものの、他は問題無いと言うことだった。

 そんな鈴の側に2組の担当教諭であるレベッカ・ターナの姿があった。 既にレベッカは夏輝達から状況説明を受けていた。

 

 「さて凰、私はお前に言ったはずだよな。クラス代表の交代は認められないと。 なのに今度は生徒会に直談判とは何を考えている!」

 

 レベッカに叱られる鈴。

 

 「全く、転入早々問題行動ばかりしやがって。兎も角、クラス代表はティナ・ハミルトンで変更無し。その実力は体で理解しただろう。 昨夜の寮での騒ぎと今日の行動も含めて、反省文10枚の罰を与える。それからお前の専用機【甲龍】だがダメージレベルCで交換修理には最低でも1週間はかかるそうだ。既に中国には交換パーツの発注が行われている。」

 

 レベッカからそこまで言われて初めて鈴の顔色が変わる。 中国に交換パーツの発注がされていると言うことは、破損した理由も報告がされているという事になるからだ。

 

 「中国政府から言伝てを預かっている。今日19:00に連絡するそうだ。確かに伝えたぞ。」

 

 そう言うとレベッカは保健室を出るのであった。

 

 保健室を出て暫く歩いた所で、レベッカの前に千冬が姿を現す。

 

 「おや、どうしました織斑先生?」

 

 「・・・・・ターナ先生、凰に処罰を与えたとか?」

 

 「早耳だね・・・何か文句でも?」

 

 「・・・・・・それに中国政府にも報告したとか。」

 

 「専用機があそこまで破損した以上は、交換パーツの申請を中国政府にする必要があるからね。」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「言っておくが、ブリュンヒルデの名前を使っても撤回は出来ないからな。」

 

 「・・・・・・・・・・・」

 

 「あんたは、自分がブリュンヒルデと呼ばれる事を嫌ってはいるが、無意識の内にそれを利用して様々な無理を押し込んできた。だが、この際に言っておくが、ブリュンヒルデというのは名誉称号であって、何の権力も権限もない。今のあんたは1、教師でしか無いんだ!」

 

 そう言ってレベッカは千冬の横を通りすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話  開幕クラス対抗戦

 
 
 前話にて内容に一部不備がありました。御詫びいたします。 
 
 



 

 

 寮の一角に、外国から来ている生徒や代表候補生達が自国と連絡をやり取りする為の特別部屋がある。

 そして今、その部屋の中には鈴の姿があった。 壁のモニターには髪をシニヨンで2つに纏め、青いチャイナドレスを纏った女性の姿があった。国際IS委員会中国支部管理官の黄春麗である。

 

 『さて、凰代表候補生。大まかな報告は学園側からされている。全く、貴女はいったい何を考えて行動しているのかしら?』

 

 春麗からの鋭い視線が鈴を射ぬく。

 

 『そもそも、貴女は政府からのIS学園への入学要請を1度断ったのに、織斑百春が現れた途端にIS学園への入学を求めてきた。私が認めないと知ると政府高官の元に押し掛け直談判・・・いや脅し、無理矢理許可を出させた言語道断の仕業。』

 

 不機嫌そうな表情となり、更に鈴を睨む春麗。

 

 『なればこそ私は貴女に、懲罰の意味をかねての任務を与えました。ですが貴女は任務を何一つ達成させぬまま、自分の我儘を押し通す為に模擬戦を行い敗北し、専用機を破損させた。』

 

 画面越しでも春麗の怒りが伝わったのか鈴の顔色が青ざめていく。 そもそも鈴は春麗の事が苦手だった。元中国国家代表という肩書と実力もさることながら、その高潔なる精神が鈴にとって堅苦しい物だった。

 だからと言って、春麗に面と向かって何かを言う事は出来なかった。言葉には言葉で、力には力でねじ伏せられるからだ。 年齢故に引退し、後進に道を譲ったものの現国家代表ですら、全く手足も出ない程の実力者なのだ。

 

 『凰代表候補生、どうやら貴女には代表候補生としての心構えが足りないようですね。学園には私から連絡を入れておき、飛行機の手配はしますので、明日の朝一便で中国に帰国しなさい。私がみっちりと1から代表候補生としての心構えを貴女に説きます、良いですね!』

 

 「ま、待ってください。転入したばかりなのに帰国なんて!」

 

 『もし、嫌なら貴女の専用機並びに代表候補生の資格を剥奪して学園を退学してもらいます。どうしますか?』

 

 春麗にそこまで言われると鈴は何も言えなくなる。

 

 「・・・・・わかりました、帰国します。」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 「これで朝のSHRは終える。それから織斑、少し話がある。」

 

 百春は千冬に呼ばれて廊下に出る。

 

 「織斑、お前に伝える事がある。2組の凰だが、今日中国に緊急帰国した。暫くは戻ってこれないそうだ。」

 

 百春は一瞬、何を言われたか理解出来なかった。

 

 「な、なんで!鈴が何で中国に?! 一昨日、IS学園に来たばかりじゃないか!」

 

 「凰は転入早々に幾つか問題行動を起こしてな、それで中国政府の方から呼び出しがかかったのだ。」

 

 「問題行動って?」

 

 「生憎と私の口から言う事は出来ん。」

 

 「それじゃあ、クラス対抗戦には鈴は出れないのか?」

 

 「出るも何も、凰は2組のクラス代表じゃないから問題は無い。兎も角、その事だけは心にとめておけ。そろそろ授業が始まるからクラスに戻れ。」

 

 そう言って千冬は足早に立ち去っていく。 一方、百春は予想外の出来事に混乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 学年別クラス対抗戦 当日

 

 アリーナの大型ビジョンには対戦組み合わせが発表された。

  第1試合 3組VS4組 第2試合 1組VS2組

 

  アリーナの観客席は満席となり、試合開始を待ちわびていた。

 

 「かんちゃん、どのくらいで勝つかな?」

 

 「相手は確か、イギリスの代表候補生で序列10位のマーガレット・ウォンだったな。」

 

 「はい、夏輝様。専用機は所持しておりません。それと典型的な女尊男卑主義者です。願わくば、余計な事を言って簪様を怒らせないことですね。」

 

 「・・・・・かんちゃん、怒ると怖いもんね。」

 

 アリーナのフィールドに2機のISが現れた。

片方は簪のザムジードで、片方はマーガレットのラファール・リヴァイブだ。

 

 「ふん! 姉のお情けで代表候補生の座と専用機を手にした出来損ないが相手か。」

 

 「「「ムッ!(怒)」」」

 

 マーガレットの言葉に夏輝達の表情が変わる。

 

 「しかも第3世代機なんて宝の持ち腐れ。だいたい、こんなネトウヨ、キモオタが蔓延る文明後進国の小さい島国には勿体ない物だわ。そうだわ、あなたの兄とか言う穢らわしい男の持っている専用機共々、コアごと私が貰って差し上げますわ。大人しく差し出しなさい。」

 

 この瞬間、マーガレットはアリーナ観客席にいた大半の生徒を敵に回した事に気づいていなかった。

 

 『夏輝さん。彼女の無礼な振る舞い、イギリス政府に替わってお詫び申し上げます。 身内の犯した不始末は身内でつけますのでご安心ください。彼女の発言は既に報告してありますので。』

 

 セシリアから秘匿通信が送られてきた。 その間も暴言は続いた。

 

 「だいたい、極東の猿が私に刃向かう事自体が無礼ですわ。」

 

 そんなマーガレットに向かって簪は左手の中指を立ててマーガレットに向ける。

 

 「なっ?! あなた、私を侮辱しますの!」

 

 簪は何も言わずにただ構える。

 

 「・・・・・・かんちゃん怒ってるね。」

 

 「・・・・・・・夏輝様、フォローお願いします。」

 

 「・・・・・・・・PG1/60エクシアで機嫌直るかな?」

 

 そうこうしている内に試合が始まる。

 

 「死になさい!」

 

 マーガレットはマシンガンを呼び出して連射する。だが、簪が右腕を前に突きだして手を開く。

 銃弾が全て簪の右手の直前で弾かれていく。

 

 「なっ?! そんな馬鹿な!」

 

 マーガレットは目の前で起きていることが信じられず、無闇にマシンガンを連射する。

 だが、全ての銃弾はことごとく弾かれていく。

マーガレットのみならず観客達も驚きの声をあげる。

 だが、タネを知っている夏輝達は平然と見ている。 

 

 「ザムジードに内蔵されている超震動システムを防御に利用しているだけなんだけど。」

 

 「空気を激しく震動させて、分厚い空気の膜・・・盾を作り銃弾を弾く。見えない盾で弾かれていく銃弾、パニックになるでしょうね。」

 

 「初っぱなから、あれを使うということは・・・簪はあの女の心をへし折る気だな。」

 

 マシンガンをひたすら乱射するマーガレット、だが銃弾はことごとく弾かれていく。そして1歩、また1歩とマーガレットに近付いていく簪。

 

 「何でよ!何で当たらないのよ! ヒィ?! く、来るな!来るなぁーー?!」

 

 マシンガンの弾が切れたののもわからずにひたすらトリガーを引き続けるマーガレット。先程の強気な態度から一転し脅えながら、簪が近付いて来るのを避けるかのように後退していく。やがてアリーナの壁まで追い詰められるマーガレット。背中が壁に触れたことでもう下がれない事に気づいた。それどころか、ザムジードの生み出す空気の盾を押し付けられて身動きが全く取れない状態となる。

 

 「ヒィ?! 動けない!イヤ、こ、来ないで!」

 

 「これで終わらせてあげる。」

 

 簪はそう言うと、左手をマーガレットの目の前で閉じて握りしめる。

 

 「超震動拳!」

 

 左のストレートが腹部に決まる。顔を歪ませ苦しむマーガレット。 だが、それでは終わらない。

 

 「あーたたたたたたたっ!ほぁたあ!!」

 

 左右のラッシュが繰り出される。サンドバックの如く殴られていくマーガレット。そしてとどめとばかりに決められるアッパーカット。 アリーナの天井まで飛ばされ、そのまま地面に激突する。絶対防御のお陰で外傷は殆ど無いものの激突した時の衝撃で、どうやら気を失ったようで全く動かない。

 

 『ラファール・リヴァイブ、操縦者意識消失! 勝者、更識簪!』

 

 その瞬間、観客達から割れんばかりの拍手が贈られる。

 気絶したマーガレットは担架で運ばれていくが、誰も心配しているようには見えなかった。

 ちなみに、これがマーガレットが目撃された最後の姿だった。

 

 

 

 

 アリーナ医務室

 マーガレットは医務室に運ばれた直後に意識を取り戻した。 直ぐに医務室だと気づいて自分が負けた事を認識した。次にマーガレットの目に写ったのは側に立つ2人の女子生徒・・・セシリアと2年生のサラ・ウェルキンの姿だった。

 

 「おや、気がつきましてねウォンさん。」

 

 「オ、オルコットさん。ウェルキン先輩・・・・も、申し訳ありません。あのような無様な姿を晒して敗北してしまいまして。次こそ「次はありません。」えっ?どういう事でしょうかウェルキン先輩?」

 

 マーガレットは自分を見つめるセシリアとサラの眼差しが険しい事に気づいた。

 セシリアがポケットからICレコーダーを取りだし再生する。 

 そこからは先程の試合前のマーガレットの発言が流れてくる。 だがマーガレットはそれが何を意味するのかを理解出来ていなかった。自分の言った事は正しいと思っているからだ。

 

 「さて、ウォンさん。代表候補生の規約を覚えていますか? 代表候補生の発言は常に国家の発言となることを。 代表候補生たる者、人種差別・性差別をしてはならない。代表候補生は他国のことを無闇に誹謗中傷してはならない。それにお忘れですか?イギリスでは女尊男卑の思想は禁じられていることを。イギリスは男女平等の理念を掲げていることを。」

 

 サラがそこまで言って漸くマーガレットは自分の発言がどれだけ不味かったのかを気づいた。

 

 「マーガレット・ウォン代表候補生。貴女に本国からの決定を伝えます。現時刻をもって貴女の代表候補生の資格を剥奪し、IS学園を退学しイギリスに強制帰国してもらいます。間もなくイギリス大使館の職員が迎えに来ます。帰国後に更なる罰が下されると思いますので、心しておいてください。」

 

 サラがそう言うと、マーガレットの代表候補生の身分証カードを目の前で真っ二つに割る。 そう言って2人は医務室を後にする。

 

 医務室を出た所でサラが

 

 「さて、セシリア。貴女には1年生のイギリスからの留学生と手分けして全てのクラスに謝罪をお願いします。愚か者の尻拭いをさせて本当に申し訳無いけど、流石にそのままにしておける事案ではないから。日本政府とIS学園には本国からの謝罪がされるとは思いますし。」

 

 「わかりましたサラ先輩。」

 

 

 

 

 

 

 アリーナピット

 百春は試合の準備をしながら、鈴の事を考えていた。

百春は千冬から鈴の事を聞いた後、知り合った女子生徒達に色々聞いて貰って鈴が帰国した理由を知った。

 

 (いったい、何で鈴が中国に戻る事に・・・何でクラス代表になってないんだ・・・こんなの原作にはなかったはず)

 

 そんな事を思いながらも百春には懸念があった

 

 (・・・・確かこの後も、何かが起きるはずだったんだけど思い出せない。というか、この先の出来事があんまり思い出せない。どうなっているんだ。原作知識が・・・・)

 

 百春は転生した時には明確に覚えていた原作知識が、最近朧気になっていることに気がついたのだ。

 俗に言うヒロインズの名前以外の登場人物の名前は思い出せない。エピソードも殆ど思い出せないのであった。  幼少期に見たアニメの内容が年月が過ぎる毎に記憶から徐々に薄れ曖昧になっていくのと同じ事が起きているのだ。 

 それが百春に僅かな恐怖心をもたらしていた。原作知識という優位性が無くなってきていることが。

 

 (と、兎も角、試合に勝たないと)

 

 何とか気持ちを切り替えて試合に挑もうとする百春。

スレードゲルミルを纏いアリーナに向かう。 

 

 

 

 

 

 アリーナに出た百春。既に対戦相手のティナは待機していた。 ティナは先日、鈴と戦った時と同じくファルコンを纏っていたが、胸部に追加装甲、脚部にミサイルポッド、顔にバイザーを装着し細部にカスタマイズが施されていた。 公式行事の試合に使用する機体は事前に申請し認められればある程度のカスタマイズは可能なのだ。

 

 百春は対戦相手のティナを見ていると、心の底からフツフツと怒りが湧いてくるのを感じた。

 

 (・・・・・アイツがいなければ・・・アイツがすんなり鈴にクラス代表の座を譲っておけば・・・・)

 

 筋違いの怒りなのだが、百春にはわかっていなかった。

 

 『それではただいまより、学年別クラス対抗戦の第2試合を始めます。 それでは、試合開始!』

 

 開始の合図と共にティナはガトリングガンポッドを百春に向けて連射する。百春は回避するも、回避する場所を先読みしたかのように銃弾が降り注ぐ。

 

 「アイソリッドレーザー!」

 

 銃弾を浴びながらも百春はレーザーを放つ。だが、ティナに簡単に回避される。 

 

 「スプリットミサイル!」

 

 銃弾が途切れた隙を狙ってミサイルを撃つが、ティナも脚部に装着されているミサイルポッドからミサイルを放つ。 中間地点でミサイル同士がぶつかり爆発する。

 

 白煙が立ち込める。百春は後退しようとした時だった、白煙の中からティナが百春に向かって飛び出してきた。 両腕の手甲部分から伸びる大型のコンバットナイフと両足爪先の衝角を使って百春に格闘戦を仕掛ける。

 

 まるでダンスのように変幻自在に繰り出されるナイフの斬刺と蹴技は百春に確実にダメージを与えていた。

 

 (クソッ! 斬艦刀が出せない!それに出したとしても・・・・)

 

 訓練したお陰で百春も斬艦刀の扱いに慣れたのだが、斬艦刀には致命的な欠点があった。その巨大さ故に細かい取り回しが難しいという。 即ち、密着された状態での格闘戦には不向きなのだ。 

 無論、百春とて対応策はこうじていた。

 

 「ドリルナックル!」

 

 2つの巨大なドリルがパージされて両腕に装着される。高速回転するドリルをティナに向けて振るう。それを軽くかわすティナ。

 

 (チッ、何で当たらないんだよ!)

 

 百春は喧嘩の経験はあるが格闘技の経験は無い。ドリルを両腕に装着して戦う以上は何らかの格闘技を修得する必要がある。だが百春はそれをしていない、自分に与えられた身体能力を過信している為、そんなの必要無いと思っているからだ。自分なら直ぐに出来ると思っているから。

 

 大振りのドリルを蝶のように舞って回避し、合間を縫って蜂のように攻撃を続けるティナ。 徐々に追い詰められる百春。

 

 「アイソリッドレーザー!スプリットミサイル!」

 

 至近距離からレーザーとミサイルを撃つ百春、巻き込まれないように距離をとるティナ。

 

 「よし!いまだ斬艦刀!!」

 

 ティナが離れた事でドリルを戻して斬艦刀を呼び出す百春。 だがその瞬間

 

 

  ドガァァァァァァーーーン 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第12話  VS侵入者


 円華の専用機を決める参考にするためのアンケートをしております


 

 

 大音量の爆音と凄まじい衝撃がアリーナを襲う。

 

 アリーナのフィールドは白煙と土煙が立ち込めて、全く何も見えない状態だった。 殆どの生徒達は何が起きたのかわからずに呆然としていた。いや、生徒達だけでなく教師の大半もだ。

 しかし、そんな中でも直ぐに動いた者達がいた。夏輝達だ。

 

 「みんな落ち着いて、直ぐにアリーナから避難するんだ!」

 

 「みんなクラス毎に出口に移動してください。」

 

 「走らないでね~、けど、急いでね~」

 

 「1組のみなさんは此方の出口から、2組のみなさんは隣の出口から!」

 

 夏輝・黒江・本音・セシリアはそれぞれ指示を出していく。生徒達も戸惑いながらも、それに従い出口に移動していく。 それと平行して夏輝は刀奈・スコール・学園長に連絡を入れる。

 

 『緊急連絡です。学年別クラス対抗戦1年の部の会場にて原因不明の爆発がおきました。現在、観客席の生徒の避難を勝手ながら行っております。許可と追加の指示をお願いします。』

 

 『今、アリーナ管制室の教員から連絡を受けました。そのまま避難誘導を続けてください。それから貴方達に特別権限として作戦指揮権と独自行動権を認めます。』

 

 学園長からの連絡が入り。

 

 『夏輝、私と虚ちゃんも今からそっちにいくわ。』

 

 刀奈からも連絡がくる。

 

 『此方、管制室のスコールです。学園長からの指示で私が作戦指揮をとります。今、教員部隊の出動準備をしております。間もなく突入出来ると思います。』

 

 それらを聞いて夏輝は

 

 『簪、黒江、本音、学園長から作戦指揮権と独自行動権をもらった。簪はピットで待機して万が一の際にはアリーナへ。黒江と本音は俺と共にこのまま避難誘導を。』

 

 『『『わかりました。』』』

 

 

 

 

 アリーナ管制室

 

 「織斑先生、山田先生、今しがた学園長から非常事態宣言が成されました。総指揮は私が、織斑先生は教員部隊の指揮に、山田先生は避難誘導に徹してください、既に観客席にいる更識君達が避難誘導にあたっているそうですので指示をお願いします。」

 

 「ちょっと待て!何故アリーナから生徒を避難させなければならない? まだ何が「何か起きてからでは遅いのです。」ぐっ?!」

 

 「いいですか、非常事態というのは常に最悪の事態を想定して行動しなければなりません。見たところ、アリーナの天井が何かの原因で破られています。アリーナを覆うシールドごと。つまり観客席も安全とはいえない、ならば一刻も早く生徒を避難させる必要があるということです。わかりましたか!それから山田先生、フィールドにいる2人も直ぐに避難させてください。」

 

 「わかりました!」

 

 真那は直ぐにフィールドにいる2人に連絡をとる。

 

 「織斑先生、何時まで惚けているのですか?早く格納庫に向かってください!」

 

 「わ、わかった。」

 

 千冬はスコールに言われて格納庫に向かう。

 

 「格納庫の教員部隊、聞こえますか?」

 

 『格納庫の教員部隊リーダーのロザリー・セルエです。教員部隊AチームとBチームの出撃準備できました。』

 

 「そちらの指揮は織斑先生がとります。今そちらに向かってますが、先にAチームだけでもアリーナに出てください。まだ何が起きたのかわかっておりませんので用心してください。」

 

 『わかりました。それではAチームは私が一緒に出撃してBチームは織斑先生と共に出撃させます。』

 

 「よろしくお願いします。」

 

 『りょ&ヰÅⅸーーーープツン』

 

 「えっ? ロザリー先生、ロザリー先生!」

 

 「大変ですミューゼル先生。全ての通信機器がジャミングを受けて不通になりました。 えっ?! た、大変です、学園のホストコンピューターがハッキングを受けてます。カウンタープログラムが対応してますけど、現在アリーナの機能の5割が掌握されてます。あっ!どうやら電算室メンバーが動き始めたようです。」

 

 モニターの1つにその様子が映し出されていた。

 

 「そちらは電算室に任せましょう。ところで山田先生、アリーナの2人には?」

 

 「はい、避難指示は出しました。あっ!教員部隊がアリーナに突入しました。」

 

 「後はロザリー先生に任せましょう。」

 

 「えっ! 大変です。アリーナの隔壁が全て閉まりロックが掛かりました。ハッキングの影響のようです。」

 

 「此方で解除を試みましょう。」

 

 「はい!」

 

 スコールと真那は隔壁を開けようとキーボードを叩きはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ

 

 「山田先生、山田先生!駄目、通信が妨害されてる。兎も角、織斑君避難するわよ。」

 

 「ひ、避難って! 何が起きてるか分からないだから、ここで暫く様子を見ていた方が。」

 

 「山田先生からの命令よ。緊急時には教員の指示に従うのが原則よ。それにもうすぐ教員部隊が来るから、後は教員部隊に任せるのよ。」

 

 ティナに言われて不承不承といった感じでピットに向かう。 するとピットから5機のISが飛び出してきた。教員部隊のようだ。

 

 「織斑君、ハミルトンさんは直ぐに避難を。ここからは教員部隊の仕事だから。」

 

 ロザリーに言われて2人がピットに入ろうとした瞬間だった、隔壁が下りてピットへの道を塞ぐのだった。

     直後

 

 「ウオォォォォォォーーーーー」

 

 アリーナを揺るがす程の雄叫びが木霊す。 白煙と土煙が薄まってきたアリーナ中央部に姿を表す。

 全長5mを越える青銅色の巨体は怪獣映画に出てくるキングコングを彷彿とさせるが、その姿はあまりにも異形だった。

 全身がゴツゴツとした岩のような物で構成され、頭部と思われる場所には禍々しく光る4つの紅い目と口、ハンマーの如く巨大な両腕を地面につけている。

 怪物と表現するに相応しい物だった。

 

 「ゴァァァーーー!」

 

 怪物は飛び上がり右腕を大きく振りかぶると、教員部隊目掛けて振り下ろす。

 

 「ぜ、全員散開!!」

 

 ロザリーの言葉に教員部隊は四方に散る。そしていなくなった場所に怪物の拳が命令する。

 

    ドゴォォォォーーーーン

 

 爆音と共にアリーナが揺れる程の震動が生まれ、アリーナの地面にクレーターが出来る。

 

 「識別不能の侵入者1体の敵対行動を確認!これより迎撃行動に移る。全員攻撃開始!」

 

 ロザリーの言葉に教員はそれぞれ攻撃を開始する。

ラファールリヴァイブ とファルコンカスタムを纏った教員は距離をとり、それぞれ銃器で攻撃を開始する。

 打鉄改を纏った2人の教員は 、それぞれ超振動近接ブレード[葵改]と超振動薙刀[夢現]を構えて銃撃の合間を縫って切りつけていく。

 そしてガーリオンを纏ったロザリーが、遊撃という形で、怪物の目を惹き付けながらも、それぞれのサポートを行っている。  怪獣は殴りつけるが、教員達はそれを回避しながらカウンターを決めていく。

 その連携のとれた行動に目を奪われる百春。

 

 (な、何なんだ? IS学園の教員って、こんなに強いのか!) 

 

 どういう訳か、IS学園の教員がそこまで強く無いというイメージを抱いていた百春(薄れた原作知識の名残)は、その連携のとれたことに驚いていた。

 

 「織斑君、先生達の邪魔になるからギリギリまで下がって!」

 

 「あっ、わ、悪い。」

 

 知らず知らずのうちに前に進み出ていた百春にティナが注意する。

 

 「なあ、俺達も加勢した方がよくないか?」

 

 「何言っているの織斑君?私達が加勢になるわけ無いじゃない、むしろ邪魔になるだけよ。ここで隔壁が開くのを待っているのが1番なのよ。ただ万が一に備えて警戒は怠らず、相手の動きを注視していてね。」

 

 ティナにそう言われ百春がティナを見ると、右手にガトリングガンポッド、左手にバリスティックシールドを構えていた。 慌てて百春も斬艦刀を構えるのだった。

 

 

 

 「SWITCH 、Aー3。」

 

 ロザリーがそう言うと、ラファールリヴァイブの教員と打鉄改の教員がポジションを変える。ラファールリヴァイブの教員はショットガン[レイン・オブ・サタデイ]と近接ブレード[ブレッド・スライサー]を構えて近接戦闘を挑む。打鉄改の教員はアサルトライフル[焔備]を構えて、ラファールリヴァイブの攻撃の合間を縫って攻撃していく。 教員部隊の連携攻撃は怪獣にダメージを与え続けていた。 一方、怪物の攻撃は一向に当たらない。 すると怪物は殴るのを止め

 

 「オォォォォーーーーン!」

 

 雄叫びと共に怪物の口の部分に光がともる。直感で危険を感じたロザリーは怪獣の口目掛けてバースト・レールガンを撃ち込む。光に弾丸が命中すると大きく爆発する。 怪獣の頭部・・・口の部分から下が大きく破損して怪獣の動きが鈍くなる。 

 それを見てロザリーが

 

 「ATTACK 、Bー1!」

 

その指示に従い、ラファールリヴァイブの教員はグレネードを怪物に投げると後退加速で、一気に下がる。

 

 グレネードが怪物に命中し爆発すると、今度は打鉄改の教員が爆裂型突撃槍[火岸華]を構えて瞬時加速で接近して怪物の両肩に突き刺す。 刺さった瞬間に槍先が爆発し、怪物の両腕が肩から落ちる。

 

 打鉄改の教員が下がると、入れ替わりでラファールリヴァイブの教員がグレーター・スケールを構えて瞬時加速で接近して胴体に撃ち込む。 爆発と共に怪物の胸部装甲が破損して内部のメカが剥き出しになる。

 だが、未だに怪物は動いている。

 

 そこでとどめとばかりに、ロザリーが

 

 「ソニック・ブレイカー!」

 

 ガーリオンの第3世代兵装[ソニック・ブレイカー]を使い、怪物目掛けて突進する。

 エネルギーフィールドを纏ったガーリオンが怪物を貫く。

 

    ドガァァァァーーーン

 

 爆発と共に怪物の胴体は上下を別れて地面に倒れる。

 

 「ちょ、ちょっとやり過ぎじゃ? ISの中の人が?」

 

 それを見て呟く百春、だがロザリーは

 

 「織斑君、これはISじゃ無いわ。それに見たところ人も乗っていなかったようだし。何より私達の最優先事項は生徒の安全なの。侵入者の命は二の次なのよ。」

 

 ロザリーはそう言って百春を諌める。教員部隊が警戒を緩めないままでいると、ピットの隔壁が開き中から千冬をリーダーとした教員部隊が入ってくる。

 

 「遅れてすまない。」

 

 「いえ、既に制圧は完了しており現在は警戒態勢に移行してます。」

 

 「しかし、これは・・・・」

 

 「えぇ、無人型ロボットだと思われます。」

 

 「無人型ロボット・・・・ISでは無いのか?」

 

 「少なくともISとは思えませんでした。」

 

 「わかった、後は我々が引き継ぐので織斑達と共に一旦下がってくれ。」

 

 「わかりました。」

 

 ロザリーは千冬との会話が終わるとメンバーに撤収を命じて百春達を連れてピットに戻っていく。

 

  

 

 

 アリーナ観客席

 夏輝達により、隔壁が閉まる前に生徒達は全員避難完了していた。もっとも肝心の夏輝達は避難しようとした瞬間に隔壁が閉まってしまい。観客席に取り残されたのだが。

 

 「どうやら俺達の出番は無かったな。」

 

 「むしろ私達の出番がある方が問題です。仮にもIS学園の教員です。大半が国家代表、または代表候補生出身者ですし。」

 

 「セシリアの言う通りなんだけど、あのセルエ先生の指揮が上手かったのが1番の要因だよね。」

 

 「セルエ先生は2年生の学年主任で元スペイン国家代表ですし実力は折り紙付きですしね。」

 

 夏輝達の背後から虚の声がした。見れば刀奈と虚と簪がいた。

 

 「織斑先生が到着した時点で此方に来たんだけど、お姉ちゃん達は遅かったね。私の後に来たけど?」

 

 「隔壁をぶち破ろうとしたんだけど、ちょっと問題児を見かけて確保するのに手間取って遅れちゃった。ゴメンね。」

 

 刀奈がそう言って、目の前で手を合わせる。

 

 「「「「「問題児?」」」」」

 

 「それは後で説明するけど・・・」

 

 刀奈はそう言って、アリーナフィールドの地面に横たわる怪物の残骸に目を向ける。

 

 「ISじゃ無いみたいね。」

 

 「美兎様のゴーレムに類似する部分があります。」

 

 黒江の言葉に衝撃が走る。

 

 「・・・・更識が入手した極秘情報として学園には報告した方がいいかもな。下手に隠しだてると此方が疑われるかもしれないしな。黒江、美兎姉さんに連絡してデータを送って貰ってくれ。」

 

 「わかりました。」

 

 『・・・・・£§&Å%ますか? 更識君聞こえますか?』

 

 真耶からの通信が入る。どうやらジャミングが解除されたようだ。

 

 「此方は更識、聞こえます。現在アリーナ観客席にいます。アリーナ観客席には避難が完了しており一般生徒は誰もいません。現在は生徒会メンバーのみがいます。」

 

 『この後、学園長を交えての報告会が行われるそうなので全員学園長室に集まってください。』

 

 「わかりました、これから学園長室に向かいます。」

 

 夏輝達はアリーナを後にして学園長室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 学園長室

 

 「さて皆さん、本日は御苦労様でした。初めて顔を合わせる方もいると思いますので自己紹介をさせていただきます。私がIS学園の学園長を務めます轡木十蔵です。それでは報告を伺います。」

 

 「それでは私から最初に。学年別クラス対抗戦1年生の部、第2試合で事件は起きました。試合の最中、突然アリーナ天井部を破壊して所属不明識別不明の機体が侵入してきました。侵入直後に非常事態宣言をし、一般生徒の避難と教員部隊の出撃指示を私が出しました。もっとも一般生徒の避難誘導は事態を先読みした更識君達により開始されていましたが。それから、織斑先生には教員部隊の直接指示をお願いしました。格納庫に待機していた教員部隊の内、セルエ先生がリーダーを務める部隊が出動準備が出来ていたので先行して出撃を命じました。」

 

 スコールがそう言う。

 

 「ミューゼル先生の指示を受けて、フィールドにいる織斑君とハミルトンさんに避難指示を出しました。ただ、その直後に通信ジャミングと学園のホストコンピューターにハッキングを受けてアリーナ機能の約5割を掌握されて隔壁が閉ざされる事態に陥りました。間一髪でセルエ先生の教員部隊が突入出来ましたが、代わりに織斑君とハミルトンさんが避難出来ませんでした。」

 

 真耶が報告を終えると夏輝が

 

 「異変を感知したと同時に万が一の事態に備えて勝手ながら避難誘導を開始しました。誘導しながら管制室に連絡を入れようとしたところで、学園長から避難誘導にあたるように指示がきました。」

 

 夏輝の報告が終わると

 

 「教員部隊Aチームリーダーのロザリー・セルエです。私達のチームがフィールドに突入した直後にピットに通じるゲートの隔壁が下りて織斑君とハミルトンさんが避難不可能となりました。2人にはギリギリまで下がってもらい事態に備えたところでフィールド中央部に謎の機体が姿を現して、我々に攻撃を仕掛けてきました。」

 

 学園長室のモニターにその時の映像が映し出される。

 

 「我々は学園治安維持に基づき迎撃を行う事にしました。そして鎮圧することに成功しました。」

 

 ロザリーの報告が終えると、十蔵が

 

 「さて、織斑君、ハミルトンさん。2人は避難指示があってから行動するまでに若干のタイムラグがありましたが?」

 

 「それは織斑君が、避難を躊躇った事が原因です。織斑君は事態が判明するまで待機した方が良いと言って動かなかったのです。私が非常時には教員の指示に従うのが原則と説明して漸く行動を開始しましたが、残念ながら隔壁が下りてしまい避難が間に合いませんでした。」

 

 「織斑君、間違いありませんか?」

 

 「は、はい。」

 

 「織斑君は初めての事態に戸惑ったかも知れませんが、非常事態に於いては教員の指示に従うのが原則です。 今回は問題にしませんが、次からは気を付けてくださいね。」

 

 「・・・・わかりました。」

 

 「さて、今回の一件に関しては幸いにも生徒に対して被害もなく、目撃者も限られているので他言無用、情報制限をさせていただきます。この場にいる生徒、並びに教員には情報秘匿の誓約書にサインをしていただきます。」

 

 「学園長、何故そのような処置をとられるのですか?」

 

 ロザリーが訊ねると

 

 「そうですね、あなた方には説明しますが、この事を含めて情報秘匿をお願いします。」

 

 十蔵はそう言うとモニターの画像が切り替わり、ゴーレムの姿が映し出される。

 

 「まず第1に、生徒へ悪戯に不安を与えない為です。今回の一件は既にIS委員会へ報告しております。IS委員会は生徒達への影響を最小限に抑える為に情報秘匿を決めました。また、各国からの非難を抑えるのもあると思われます。」

 

 十蔵がそう言う。だが夏輝達にはわかった、生徒達というのは建前で各国からの非難を受けたく無いというのが本音だと。

 

 「第2に、この機体が問題なのです。詳しい解析はこの後で行われますが、実はこの機体に関する情報が得られました。この機体はある国が開発していた無人型機動人形兵器ゴーレムがベースとなっていることに。」

 

 モニターの左半分には元となった茶褐色のゴーレムの画像が映し出される。見比べれば色こそ違えど確かに似ていた。

 

 「この機体がどうして学園を襲ったのかも含めて調査する必要があるのですが、国が相手となると色々と難しい事があるのです。下手に情報が漏洩すると判る事も判らなくなりますしね。わかりましたか?」

 

 十蔵の言葉に全員が頷く。

 

 「さて、以上で報告会を終えますが何か質問等はありますか?」

 

 すると刀奈が

 

 「学園長、篠ノ之箒さんについてはどうされるのですか?」

 

 実は箒は観客席から避難した後で、集団から離れてアリーナの放送室に向かったのだ。 彼女は百春がアリーナに残っているのが気になり、アリーナの様子を知る為に放送室に向かったのだ。生徒は管制室には入れて貰えないとわかっていたので放送室に進路をとった。

 しかし、放送室に着いたはいいが、放送室を施錠して避難しようとした生徒と鉢合わせし、入室しようとして揉めていたのだ。

 偶々、側を通りかかった刀奈と虚がそれを止めて、暴れる箒を拘束して教員に引き渡したのだった。

 

 「そうですね、彼女の行動は確かに問題がありますね。未遂とはいえ危険な行動をしたことに間違いはありませんし、暴力行為を働こうとしたのも問題があります。正式な処罰に関しては職員会で結論を出しますが、恐らく謹慎2日反省文50枚辺りになると思います。」

 

 それを聞いて百春は驚く。だが反論したくても擁護する材料も無ければ箒本人がこの場に居らず弁明が出来ない上に、1番味方になってくれる千冬がいないのが痛かった。 仕方なく百春は口を閉ざした。

 

 「それでは、これで解散します。明日は臨時休校としますので各自ゆっくり休んでください。」

 

 

 

 

 




 
 主人公達の出番はありませんでした。IS学園の教員ならこれくらいは可能だと思うので。 というか原作があまりにもお粗末だと思っております。

 それから、今回登場したゴーレムは魔装機神のデモンゴーレム(強)です。

 それから今回登場した打鉄改ですが、打鉄の背中に大型スラスターが装着されており機動力が増しております。 また武器として薙刀と槍が追加されています。
 機体の改修並びに追加武器に関しては学園の整備部の生徒達の努力の結集であり倉持は一切関わっていません。 武器の特許ライセンスは学園が所持しています。


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第13話  GWと金銀来訪

 
 
 アンケートの御協力ありがとうございました。
 ヴァルシオーネRが頭1つ出ておりましたのでヴァルシオーネRに決定いたします。 ただ、幾つかオリジナルの武器の持たせる予定です

 
 3/24追記:シャルロットのアンケートですが、12時時点の結果で判断いたします


 

 

 ゴールデンウィークを迎えたIS学園。

IS学園では海外からの留学生がいることから特別に28日の日曜から6日の月曜までの9日間の休みが与えられた。ただ本来なら27日の土曜からだったのだが、学年別クラス対抗戦での事件を受けて翌日を臨時休校としたので、そのよう振替として27日に授業を入れた為にずれたのだった。

 

  さてゴーレム事件の顛末だが、ゴーレムに関しては開発元が不明で、目的も不明、ということになった。肝心の機体も動力を含めた重要機関が全て破損しており解析が困難だった。それでも、装甲に使われている素材や関節部の形状が既存の物とは一線を画すものだった。

 しかし、これを公表すれば世界に無用な混乱を招く可能性が高いと判断され秘匿される事になった。

 

 

  だが美兎が危惧した通り外見こそ違えど、美兎(束)が設計したゴーレムだった。多少改良は加えられていたが。 そして肝心の設計図だが更識のエージェントの一人、巻紙礼子の調査により箒が篠ノ之本家に置いて行った事が判明した。だが、何者かが篠ノ之本家に侵入し持ち出している事が判明したのだ。そしてその追跡調査を礼子が引き続き行っていた。

    

 箒に関しては千冬は色々と擁護したものの、裁定は覆らず謹慎2日反省文50枚が課せられたのだった。

 

 

 

 更識家

 ゴールデンウィークを利用して刀奈達の機体のバージョンアップが行われた。全てが終わり、今は更識家で全員がのんびりと過ごしていた。そして治療の終えた円華も加わっていた。

 

 「さて、ゴールデンウィークも今日を含めてあと5日。明日からどうする?」

 

 「流石に前日までには学園に戻らないといけませし、出来れば前々日に戻るのがベストですので、今日から3日間しか有りませんが?」

 

 夏輝の言葉に虚が答える。

 

 「なら今日の午後から温泉でも行かない?更識直営の温泉旅館があるし、そこなら常に更識用に部屋が用意してあるけど?」

 

 刀奈がそう言うと

 

 「賛成ーーー!私、温泉に行きたーーい!」

 

 「私も~温泉に行って、美味しいものが食べた~い。」

 

 「温泉に浸かって、サウナに入って、フルーツ牛乳の一気飲み。楽しみ」

 

 「温泉?! 私は初めてだ!兄さん行きたい、絶対に行きたい!」

 

 美兎と本音と簪が早速食いつく。特にそういった経験の無い円華の食いつきは凄いものだった。その様子に苦笑しながらも虚は直ぐに旅館に連絡をとる。

 

 「夏輝様、ゴーレムの件ですが礼子さんから報告が入りました。」

 

 そこに黒江がゴーレムの一件の追跡調査の報告にきた。

 

 「どうだったのくーちゃん?」

 

 「今から5年ほど前に篠ノ之本家に神話と伝承の調査と称して訪れた団体がいたそうです。団体は大日本神話伝承研究会と言っていたそうです。政府やIS委員会も事前の身辺調査でISとの関連性が無いと言うことで、特例として監視員同行の元で許可を出したそうです。ただ此方の調査の結果、その団体は架空の物で、所在地や構成員、実績に経歴も全て虚偽の物でした。」

 

 黒江の報告に全員が驚く。

 

 「ちょっと待ってくれ黒江、いくらなんでも政府もIS委員会も身辺調査は確りやった筈だ。それでもわからなかったなんて?」

 

 「それには理由があります夏輝様。実はこの団体は篠ノ之本家への調査に入る前に、実際に他の所で調査をし、様々な論文を発表しているのです。」

 

 「ちょっと待って黒江、その団体は架空の物で全てが虚偽の物だったのよね?」

 

 「はい。これには理由があります。実際に調査し論文を作ったのは他の団体や大学のサークルや研究室です。ですが、名義上は大日本神話伝承研究会になっているのです。つまり多額の資金援助を行い実績と経歴を買い取ったのです。」

 

 「なるほどね、流石にそこまで徹底調査はしないか。」

 

 刀奈が呆れ顔で呟く。

 

 「礼子さんの調査では、研究会に資金援助していた企業や団体が複数あったのですが、全てがペーパーカンパニーでした。そして、そのペーパーカンパニーに出資しているのも全てペーパーカンパニーでした。」

 

 黒江の報告に簪が円華の顔を見ながら

 

 「それって、例の研究所と同じ手口じゃ?」

 

 「はい、全てのペーパーカンパニーを調べてみた所、一社だけ引っ掛かりました。ラスフィトート商事、筆頭株主にフォーラン・テイクゼンの名前がありました。」

 

 黒江が又々驚愕する報告をした。

 

 「そのフォーラン・テイクゼンなる人物が怪しいですね。では更識の最優先調査事項に挙げておきます。」

 

 旅館の手配を終えた虚がそう言ってくる。

 

 「ところで、話は変わるが私は何時からIS学園に通えるのだ?」

 

 円華が訪ねてくる。夏輝は

 

 「美兎姉さん、円華の専用機は完成したの?」

 

 「勿論、完成したよ! 後はまどちゃんが乗って軽くテストすればOKだよ。」

 

  その答えを聞いて刀奈が

 

 「編入の準備は書類上は殆ど終わっているから、後は編入テストのみね。ゴールデンウィーク明けに編入テストの予定が組んであるわ。それに合格すれば、編入出来るわよ。」

 

 ちなみに円華はISの技術に関しては問題無かったのだが、学力・・・即ち5教科の国語・数学・理科・社会・英語に問題があった。 そこで夏輝達が心を鬼にしてスパルタで教え込んだ。幸いにも覚えはよかったので短期間で修得した(もっとも、最初の頃は泣きながら挑んでいた)

 

 「では心置きなく、温泉に向かえますね?」

 

 虚の一言で全員が旅行の支度に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 更識家直営の温泉旅館[花の都]

 

 某温泉街の外れに存在する、ガイドブックや旅行サイトには一切掲載されていない、知る人ぞ知る高級旅館である。

 全客室が日本庭園と露天風呂付きの離れ仕様となっており、ロビー以外ではプライベートが保たれる作りとなっている。 その為に内外問わずに人気があり、予約は常に埋まっている。

 

 だが、この旅館に2部屋ある最高級の離れ個室の1つは更識専用として常に確保されており、更識家の者は何時でも泊まれるようになっている。

 

 

 旅館の日本庭園を楽しめる屋根付きの露天風呂の一角に7人の女性が浸かっていた。

 

 「ふあぁぁぁぁーーーーぁ、いいお湯。」

 

 「んーーーー、癒されるーー。」

 

 「ほえほえ~、極楽~極楽~。」

 

  お湯に浸かり、手足を伸ばしだらけた格好で温泉を満喫する美兎と刀奈と本音。

 

 「お二方、それに本音、もう少し女性としての恥じらいを持ってください。」

 

 虚が嗜めるも、3人は何処吹く風とばかりに耳を貸さない。 

 

 「ジーーーーーー。」

 

 「ジーーーーーー。」

 

 「ジーーーーーー。」

 

 そんな3人と虚をじっと見つめる、簪・黒江・円華の3人。3人の視線はお湯の中にプカプカと浮かぶ体の一部に注がれていた。そして自分と見比べては再び視線をやる。

 

 「・・・・・格差社会。」

 

 「・・・・・圧倒的差別。」

 

 「・・・・・絶望の事実。」

 

 3人の呟きを耳にした美兎は苦笑しながら

 

 「大丈夫よ。3人共、これからだから。」

 

 「そ、そうよ。ね、ねぇ虚ちゃん。」

 

 「は、はい。そうですよ。」

 

 「でも~、あんまり~良いことないよ。重かったり~肩が凝ったり~と。」

 

   「「「グフッ!!!」」」

 

 美兎達が慰めの言葉を言ったのだが、何気無い本音の言葉が全てをチャラにして、落ち込んでいた3人にとどめをさした。

 顔を伏せていた3人が、幽鬼の如く立ち上がり、両手を構えると

 

「「「フッフッフッフッフッ・・・・・・もいでやる!」」」

 

「「「「いやゃぁぁぁぁーーーーー!!!」」」」

 

 

 垣根を挟んで反対側にある男の露天風呂

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(〃▽〃)」

 

  一人で浸かっている夏輝は、女湯の騒ぎを耳にして顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

 

  

 

 

 温泉から上がり、客間で寛ぐ夏輝達。もっとも女性陣は露天風呂で騒ぎ過ぎた為か、弱冠グロッキー気味で全員が浴衣姿で畳に寝転がっていた。

  夏輝は一人、藤の椅子に座り刀奈達の姿に若干呆れていたが、此方に足を向けて寝転がっている美兎と刀奈の浴衣の裾が捲れて奥が見えそうになっているのに気づき、慌てて視線を庭に向けるのだった。

 

 そんな夏輝に

 

 「そういえば夏輝、学園長から連絡があったんだけど、ゴールデンウィーク明けにフランスとドイツから編入生が来るみたいよ。詳細は始まってからになるみたいだけど。」

 

 「ドイツねぇ・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 美兎が何やら含みのある呟きをする。そして黒江の顔色が弱冠曇る。

 

 「確か、ドイツといえば黒江がいた研究所が・・・」

 

 「そうだよ。遺伝子強化試験体の研究をしていたドイツが国主体で行っていた非合法な研究施設。彼処で数百人もの命が実験で生み出されては消されていった。」

 

 刀奈の問いに美兎が答える。

 

 「私はそこで生み出されたNo.96E。人工受精により生み出され、名前すら与えられず開発コードで呼ばれ、様々な実験をされました。同じ時期に生まれた姉妹達は一人、また一人、その命を落としていきました。」

 

 黒江がそう語る。既に全員が黒江の身の上を知っているが、黒江自身がその事を自分の口で語るのは、これが初めてだった。

 

 「確か、その非道な行いを知った美兎姉さんが、研究施設に乗り込んで黒江を救ったとは聞いているが。」

 

 「そうだよ、まどちゃん。いや~、あの時は久々にぶちギレたね。美兎さんが行った時には、研究施設から連れ出された成功体と呼ばれる一人以外を、廃棄処分と抜かして殺している最中で、結局救えたのはくーちゃんだけだった。私がもう少し早く知る事が出来ていれば、もっと助けられたんだけど・・・・・」

 

 「そんな事はありません美兎様。私以外の姉妹達は既に度重なる実験と手術で手遅れの状態でした。私とて、境界の瞳(ヴォーダン・オージュ)の適合がもう少し低かったら、早々に処分されていたでしょうし、何より私を救ってくれた時に美兎様は、殺された姉妹達に泣きながら謝ってくださいました。 それだけでも姉妹達は救われたはずです。」

 

 黒江の言葉に美兎は右腕で目の部分を隠した。泣いているのか照れているのかわからないが、それを見られたくないようだ。

 

 「そういえば、成功体がいると言っていたが、そいつはどうしているのだ?」

 

 「No.100Rは境界の瞳を移植する前に、その身体能力を買われて、ドイツ軍に預けられたみたい。今はラウラ・ボーデウィッヒの名前を与えられ、ドイツ代表候補生になって専用機持ちになっているみたいだよ。」

 

 「美兎姉さん、もしかして・・・・」

 

 美兎の言葉に簪が、ある可能性に気づいた。

 

 「・・・・・・その可能性はあるかな。くーちゃんは、美兎さんが色々したから、もう遺伝子強化試験体としての特徴は殆ど残っていないから気づかないとは思うけど、まあ気づいた時に対応を考えればいいかな。」

 

 そう言って美兎は、勢いをつけて起き上がり

 

 「そろそろ晩御飯だよね。美兎さんお腹ペコペコだよ。」

 

 「そうだね、もうすぐ夕食を運んでくると思う・・・・けど(〃▽〃)」

 

 夏輝は美兎の話に返事を返していたが、あることに気づいて再び顔をそらす。 先程、勢いをつけて起き上がった美兎だったが、そのせいで裾は大きく捲れて紫のレースの下着が見え、更に浴衣の胸元がはだけて、メロンのような双丘の一部が見えていたのだ。

 美兎は夏輝が顔をそらした事を不思議に思い、視線を自分の体に向けて気づいた。

 

 「にゃははははぁー! なーくん。な・に・を・見たのかな?」 

 

 顔をそらしている夏輝に向かって四つん這いで近づいていく。 裾は完全に捲れて紫色の下着が完全に見えており、更に四つん這いになったことで、浴衣から双丘は完全にはみ出ていた。

 夏輝は振り向く訳にもいかず、顔をそらしたままだ。

しかし虚が美兎のあられもない姿に気づいたて

 

 「み、美兎様?! 何て格好をされてますか!はしたないですよ!!」

 

 虚は慌てて美兎の浴衣の裾を戻し、浴衣の胸元の乱れを正す。

 

 「ちょっと虚ちゃん、少しくらい良いじゃないの。だいたい、ここにいるみんな、なーくんの事が大好きで、お嫁さんになることが決まっているし、問題無いんじゃない?」

 

 美兎の言葉に全員が顔を赤くする。

 

 「それに、みんなこの部屋に一緒に泊まるんだよ。」

 

 考えてみれば、そうである。今いる15畳の応接間と隣の15畳の和室は障子で仕切れるとはいえ、全員が寝るのに十分な広さだ。 夏輝は慌てて

 

 「お、俺は洋「「「「「「「却下!!!」」」」」」」えっ?!」

 

 別の部屋に移動する事を言おうとするが、全部言う前に直ぐに却下された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       その夜 

 

   夏輝の身に何が起きたかは、あえて語らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールデンウィークも終わり、1週間程過ぎた時の事だった。

 円華は無事に編入試験に合格し、IS学園への編入が認められた。十蔵が気を効かせてくれてクラスは4組になった。 しかし、編入は円華だけではなかった。1組に2人の編入生が加わったのだ。 一人はドイツの代表候補生。そしてもう一人が・・・・

 

 「フランス代表候補生でデュノア社のテストパイロット、そして3人目の男性操縦者ね・・・・」

 

 夏輝の呟きに簪が

 

 「あれは男じゃない、男の娘というか、雄んなの子だと思う。」

 

 「かんちゃんが何を思って言っているか、私にはわかるけど、他の人にはそれだと解りにくいと思う。」

 

 本音が簪に突っ込む。

 

 「骨格からして、あれはどう見ても女だろう。」

 

 円華はBLTサンドを手にしながら、噂の人物を鋭い眼差しで見つめながら言う。

夏輝達は昼食を取りながら、噂の人物・・・第3の男性操縦者、シャルル・デュノアを分析する。

 シャルルは百春と箒と一緒に食堂で昼食を取っているが、その周囲には女子生徒が群がっていた。

 

 夏輝はチキン南蛮定食を食べながら、自分の目の前に座っている銀髪の小柄な少女に視線をやる。 ミックスサンドを栗鼠のように夢中になって頬張りながら食べる様は、マスコットキャラと言っても過言では無い位に愛らしい姿をしている。

 

 「それで、ドイツの代表候補生でドイツ軍IS配備特殊部隊[シュヴァルツェ・ハーゼ]隊長のラウラ・ボーデウィッヒ少佐どのは、どういった御用件で?」

 

 「じゅちゅばはじゃにゃ」

 

 「口の物を飲み込んでから、喋らないと行儀が悪いですよ。」

 

 一杯目のかき揚げうどんを食べ終え二杯目に箸を伸ばそうとしていた簪が、ラウラに注意する。

 

 「(ゴクン)それはすまなかった。」

 

 「しかし、教室とはうって変わってのお姿ですわね。」

 

 セシリアはカルボナーラを食べる手を止めてラウラの姿に呆れる。

 

 「あれは仕方がない、クラスのあの軟弱な雰囲気がどうしても気に触ってな、イライラしていたのだ。」

 

  ラウラはそう言ってオレンジジュースを飲み

 

 「実は、1つ・・・・いや、2つ程大事な話があるのだが、放課後に時間を取って貰えないだろうか?」

 

 「ここでは話せない話か?」

 

 夏輝の問いにラウラは一瞬だけ特盛ロコモコを食べている黒江に視線をやる。黒江はラウラの視線に気づかないのか、気づかないふりをしているのか食事を続けている。かわりに、それに気づいた夏輝が

 

 

 「わかった、放課後に生徒会室に来てくれ。そこなら大丈夫だ。」

 

 夏輝の返事を聞きラウラは

 

 「ありがとう助かる。」

 

 本音は卵ごはんを食べ終えて

 

 「そういえば、ラウラウは編入の挨拶した後に織斑君を睨んだって聞いたけど」

 

 本音の質問にラウラが

 

 「まあ、色々と理由があってな・・・私はあの男が嫌いなのだ。」

 

 食事を終えたラウラはトレーを持って席を立ち

 

 「それでは放課後、生徒会室に伺わせてもらう。」

 

 そう言ってラウラはテーブルから離れていく。

 

 「・・・・で、黒江。もしかしてラウラは?」

 

 「はい、気づいたかと思います。」

 

 黒江とラウラ、髪と瞳の色、顔立ちこそ違えど(美兎特性ナノマシンの成果)、並べば何処と無く似通ったら雰囲気を醸し出していた。 だからこそラウラは直感的に気づいたのであろう。 

 

 「という事は、用件の1つは黒江の事かな。」

 

 「たぶん、そうだと思います。」

 

 「とりあえず、美兎姉さんに相談しとくかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第14話  銀と金の思惑

 

 アンケートの結果
シャルロット救済、友人ルートでいかせてもらいます


 

 

 生徒会室

 ラウラが来る前に、一足早く集まった夏輝達。

 

 『とりあえず、そのラウラって娘が何を考えているのかわからないと、どうしようも無いわな。此処は後手に回るけど、内容を聞いてから判断しようか。』

 

 モニターに映る美兎がそう言う。

 

 「それじゃあ美兎姉さん、カメラはONにしておくから、そっちでも見聞きして判断してよ。」

 

 『了解!』

 

 モニターの映像は一旦消える。

 

 「さて、みんなに幾つか報告があるんだけど、来客の事を考えると、先に此方の方を報告するわね。 来月に行われる学年別トーナメント戦なんだけど、シングルマッチからタッグマッチに変更されたわ。」

 

 刀奈の話を聞き

 

 「いきなりだけど、何か理由が?」

 

 「それはね簪ちゃん、この間の学年別クラス対抗戦の事があり、万が一の場合に備えて教員部隊の出動が間に合わない、若しくは遅れた時の対策なの。万が一の事が起きても、フィールドに4人の生徒がいれば少しは対応が取れるだろうということなの。」

 

 簪の問いに答える刀奈。

 

 「レギュレーションはどうなるんだ?まさか、専用機持ち同士や代表候補生同士でのペアを認めるんじゃないよな?」

 

 「最初、織斑先生が制限無しで通そうとしたみたいだけど、あまりにも不公平だと言う意見が他の先生達からの出て、話し合いに話し合いを重ねた結果、専用機持ち同士のペアは禁止されたわ。専用機は一般生徒とペアを組むことが決定して、代表候補生に関しては専用機を持たない者同士ならOKとなったわ。」

 

 そう言うと大まかなレギュレーションが書かれた用紙を見せる。

 

 「なるほど・・・・本当なら代表候補生同士も禁止して欲しかったけど、あまりいないから、そこまで問題視されなかったのか。それにしても織斑先生も、考えが見え見えだね。恐らく、織斑と篠ノ之をペアにするつもりだったんだろうね。」

 

 夏輝の言葉を聞いて

 

 「そういえば、凰さんが明後日から学園に復帰するそうです。どうやら、向こうでかなり絞られたようです。」

  

 「果たしてまともになっていますかね?」

 

 「あれは無理。織斑への依存というか盲信というか狂愛があるから、直ぐに元に戻る。」

 

 虚のもたらした情報に黒江が疑問を口にすると簪が切り捨てる。

 

   トン、トン、トン

 

 生徒会室の扉がノックされた。

 

 「どうぞ。」

 

 「「失礼します。」」

 

 刀奈が返事をすると、ラウラと共にセシリアが入ってきた。 どうやらラウラを案内してきたようだ。

 

 「それではボーデウィッヒさん、私はここで失礼しますね。」

 

 「すまなかったなオルコット、部活に行く前に。」

 

 セシリアはラウラを部屋に導くと、そのまま生徒会室を後にした。

 虚がソファーを勧めると、ラウラはソファーに座る。早速、夏輝が尋ねる。

 

 「さて、ボーデウィッヒさん。昼休みの時に言った用件について聞かせてもらえるかな?」

 

 「ふむ、まずは更識夏輝との模擬戦並びにガーリオンの購入契約の願いだ。」

 

 「俺との模擬戦はわかるが、ガーリオンの方は何故だ。あれは国が申し込むのが普通じゃないのか?」

 

 「簡単な事だ。今、世界中からウイング社に購入依頼が殺到しており、契約を結ぶ迄にかなりの時間を要してしまうのがわかっている。だからこそ、営業を飛び越えて本丸に申し込むという手段を政府は選んだ。」

 

 「つまりボーデウィッヒさんは伝書鳩にされたという訳ね。でも、その割にはストレートに言ってきたわね。もう少し絡め手を使って有利に事を運ぼうとは思わなかったの?こんな形だと断られる可能性の方が高いと思うけど?」

 

 「結果なぞ、私は知らん。ただ言われた事を伝えるのが命じられた任務なのだ。そもそも軍人の私に商人の真似事をさせる方が間違っているのだ。本当に購入したいなら私なぞに命じるより、他の者にあたらせるべきなのだ。」

 

 ラウラは眉をひそめながら言う。どうやら余程気に入らない任務だったようだ。それでも、上層部からの命令には逆らえないので受諾はした。 やる気の無い任務でもあるし、成功する確率が極めて低い内容なのだから失敗しても構わないと思っていたので、提案したという体裁だけ示したのだ。

 

 「・・・・・・ガーリオンの購入契約に関しては保留とさせてもらいます。生憎と私の一存では判断出来ないので。それから模擬戦ですが、来月に行われる学年別トーナメント戦後ではダメでしょうか?」

 

 「学年別トーナメント?」

 

 「はい、来月に行われる学園行事の1つで、学年別に行われるトーナメント戦です。そこで対戦できればよし、もし出来なければ、終了後に日を改めて模擬戦をするというのは?」

 

 「理由は?」

 

 「1つは、トーナメント開始までの間は特例によりアリーナの利用規約が緩和されて、本来なら1棟につき平日は最大6組12名で2時間というのを50分の2部制に、土曜は4部制にして少しでも多くの生徒に訓練時間を与える為の処置をすることになったんだ。つまりアリーナが混んでいる為に模擬戦をするには問題があるんだ。」

 

 夏輝はそう言うと、レギュレーションの書かれた用紙をラウラに見せて、その項目を示す。ラウラはそれに目を通していく。

 

 「2つ目は、此方の事情が少し入るんだけど、今の所は俺のデータはウイング社が独占していて情報の開示は細心の注意を払い、かなり限定し行ってます。これはうちの技術の秘匿に関わることなので仕方ないのですけど、そろそろ批判が高まっています。そこでトーナメント戦での公開試合という事でお茶を濁しておこうと思ってます。」

 

 「なるほど、その前に私と模擬戦をするとドイツ贔屓という批判が起きて、そちらだけでなくドイツにも抗議が殺到するという訳か。」

 

 ラウラは暫く思案して

 

 「よかろう、トーナメント戦終了後の模擬戦という事で、その提案に乗ろう。どうせなら、タッグマッチではなく、1対1で戦いたいしな。」

 

 そう言うとラウラは夏輝と握手をする。それを終えるとラウラは

 

 「さて、もう1つの用件だが・・・・・」

 

 そう言ってラウラは黒江を見る。そして

 

 「・・・・・・・貴女は、いま幸せですか?」

 

 ラウラにそう聞かれ黒江は

 

 「・・・・・・・・はい、幸せです。私の周囲には私を大切にしてくれる家族がたくさんいます。私は一人じゃないと教えてくれました。」

 

 黒江さん言葉にラウラはそっと頷いて

 

 「それなら良かったです。それを聞いて私は安心しました。私にも大切な部隊の仲間達がいます。お互いに一人じゃないと知りました。これで安心です。」

 

 ラウラはそう言うと夏輝達に頭を下げて

 

 「どういった経緯で姉様が、そちらにいるのかは伺いませんし、他言もいたしません。どうか、これからも姉様をよろしくお願いいたします。」

 

 「ボーデウィッヒさん、黒江は大切な家族です。安心してください。」

 

 ラウラにそう答える夏輝。

 

 「それでは、今日はここで失礼する。」

 

 そう言ってラウラは立ち上がり、一礼して生徒会室から出ていった。

 それを見送り刀奈と簪が

 

 「少し拍子抜けしたね。」

 

 「そうね、表裏というか、隠し事はあまり出来ないタイプみたいね。」

 

 「というよりは、純真無垢なのでは?」

 

 「軍人でありながら純真無垢ね・・・・なんというかあり得ない組み合わせだけど、彼女を見ると納得してしまうな。」

 

 虚の言葉があまりにもはまり過ぎていて納得してしまう夏輝。 黒江の顔を見ると、どことなく嬉しそうな表情をしていた。

 

 「それで、どうする美兎姉さん?」

 

 モニターに美兎の姿が映し出され。

 

 『そうだね、まあくーちゃんの事に関しては信用してもいいかな。ただ、ガーリオンに関しては保留かな。あの娘はまあ、信用できそうだけど国の方がね・・・・・未だにキナ臭い感じがするから、少し探ってみるよ。』

 

 「キナ臭いといえば、あの自称3人目なんだけど。」

 

 『あぁ、あの性別詐称の雌猫ね。』

 

  夏輝の疑問に美兎はシャルルのことを雌猫と言った。つまり・・・

 

 「シャルル・デュノアは男ではなく、男装して性別詐称して編入してきた女という事ですね。」

 

 虚がそう言うと。

 

 「やっぱり雄んなの子だったか。」

 

 「だからかんちゃん、それは文字にしないと誰もわからないよ。」

 

 簪が呟き、本音が突っ込む。

 

 「性別詐称してIS学園に来た目的は俺と百春?」

 

 『そういう事。本名シャルロット・デュノア、デュノア社の社長アルバート・デュノアの隠し子みたいだね。あの雌猫の実家のフランスの大手ISメーカーのデュノア社なんだけど、第3世代機の開発が遅れていて、経営危機に陥っているんだ。』

 

 「ですが、デュノア社はラファールのライセンスとかでかなりの利益を上げているはずでは?」

 

 『残念だけど、それも既に頭打ちで減益が続いている上に第3世代機開発遅延で消えて行く開発費。増え続ける人件費、そしてそれらを直視せずに楽観的に過ごしてきた上層部。もうデュノア社の内情は火の車で、何時倒産してもおかしくない状況になっているよ。』

 

 虚の疑問に答える美兎。

 

 「つまりお尻に火がついて漸く気がついた狸ということか。」

 

 簪の例えに何故か納得してしまうのだった。

 

 「じゃあ、あの子の目的はさしずめ夏輝と織斑君の持つ機体データというところかしら?」

 

 「ですがお嬢様、いくらなんでも機体データを盗んだところで、そのままでは使えませんし、その事がバレたら倒産処じゃすみませんよ。」

 

 『たぶん切羽つまりすぎて、そこまで頭が回らないんじゃないの。というか、既に逃げ出したり、夜逃げの準備をしてる奴もいるみたいだよ。』

 

 「それにしても、何で男で編入できたの?普通は国のやIS学園の審査でバレるんじゃないの?」

 

 本音の疑問に美兎が

 

 『どうやら、デュノア社から多額の献金を受けた複数の議員が手を回したみたいだね。それで誤魔化して貰ったみたいだね。全くお金の使い方が間違っているよね。』

 

 「それじゃあ [トン、トン、トン、トン]と、誰か来たみたいね。」

 

 突然、扉がノックされた事でモニターから美兎の姿が消える。そこで刀奈が

 

 「どうぞ。」

 

 入室を促すと

 

 「失礼します。」

 

 話題にのぼっていたシャルルが入ってきた。

 シャルルは入室して扉を閉めると

 

 

 「1年1組、フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     「僕を助けてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話  金の行く末

 
 

 シャルロット救済?の回です。

 はっきり言って御都合主義満載の結果ですが、御容赦ください。

   
  原作ブレイクです。 


 それから、ついも誤字・脱字・文章の修正等にご協力いただきありがとうございます。
 この場をお借りしてお礼申し上げます。 
 
 





 

 

     「僕を助けてください。」

 

 

 

 

 シャルルが入室すると、いきなりそう言ってきた。

 

 「シャルル・デュノア君、いきなりの発言だけど、どういう事かしら?」

 

 「既に僕の正体は調べがついているんじゃないですか?」

 

 シャルルの言葉に刀奈は

 

 「・・・・・・シャルル・デュノア、本名シャルロット・デュノア。デュノア社の社長アルバート・デュノアの隠し子。といったところかしら?」

 

 それを聞いて、シャルルはいきなり制服のブレザーのボタンを外し、更に中に着ているシャツのボタンまで外し始める。慌てて刀奈が夏輝の目を覆い隠す。

 

 「ちょっ、ちょっと!夏輝は見ちゃ駄目!!」

 

 夏輝は逆らわず、そのままにされている。その間にもシャルルはシャツのボタンを外しおえる。そこにはボディースーツのようなコルセットが見えた。シャルルはコルセットの前のボタンを外すと、女性特有のなだらかな双丘があらわになる。

 

 「この通り、僕は男じゃなくて女だよ。本当の名前はシャルルじゃなくてシャルロット。」

 

 「わかりました、とりあえず服装を整えてください。」

 

 虚がそう言うと、シャルル・・・・シャルロットは服装を整えてる。 ブレザーのボタンを止めたところで刀奈は夏輝の目をふさいでいた手をのける。

 

 「それで本題だけど、どうして助けを求めてきたの?」

 

 「たぶん御存知だと思いますが、僕がここに派遣された最大の理由がデュノア社の経営危機にあります。第2世代機ラファール・リヴァイブの開発後の高利益に浮かれて第3世代機の開発に乗り遅れた結果、ヨーロッパが協同で行われるトライアル[イグニッション・プラン]からも外され、更にフランスからの資金援助も打ち切られる寸前迄追い込まれました。」

 

 シャルロットがそこまで言うと夏輝が

 

 「デュノア社の経営危機に関しては、それなりに情報は入っていたけど、本当に末期にきていたか。」

 

 「はい。そこで会社の上層部が話し合った結果が、僕をスパイとして派遣し、ISの情報と男性操縦者のデータを盗み出すという最悪の物でした。しかも、より男性操縦者との接触機会を多くする為に僕に男装させて男として編入させました。」

 

 「つまり、そこには貴女の賛同の意思はなかったということね。」

 

 「はい。こんな穴だらけで成功確率が0に近い計画なんか賛同なんかしません。ですが、愛人の子供で既に身内がいなかった僕にはそれを拒否する権限はありませんでした。最初は国に直ぐ発覚すると思っていたら、議員を買収して無理矢理押し込んだそうです。しかもIS学園も何故か特に検査することなく編入を認めました。」

 

 刀奈の言葉にシャルロットが答える。

 

 「IS学園が編入を認めた理由に関しては、おそらく学園長が何か知っていると思うから、後で確認するわ。」

 

 「僕は、この計画が成功しても失敗してもスケープゴート・・・捨て駒にされると思いました。何とか助かりたいと思った時に、デュノア社に引き取られる前に近所に住んでいて、仲良くしていた日本人のお爺さんの事を思い出したんです。」

 

 「日本人のお爺さん?」

 

 思わず、夏輝が呟く。

 

 「僕がお母さんを亡くした後でデュノア家に引き取られる時に、『もし、日本で困った事が起きたら更識という家に私の名前を出して頼ると良い。きっと力になってくれる』と言っていたんです。その時は何故、フランスにいるのに日本の家の人に頼るように言ったのか解らなかったんだけど、あのお爺さんは、こうなる事を予測していたんだと思います。そして、僕はIS学園のパンフレットの生徒会長と二人目の男性操縦者の名前を知って、編入後に助けを求める事を考えました。」

 

 「・・・・・・ちなみに、そのお爺さんの名前は?」

 

 「ヤクモ・ムツという名前です。」

 

 「「えっ?!」」

 

 その名前を聞いて刀奈と虚が驚く。

 

 「えっと、刀奈姉さん。知っている人なの?」

 

 「あっ、そうか。夏輝達は知らないか。」

 

 「そうですね。最後に会ったのが、私が6歳でお嬢様が5歳の頃ですし、夏輝様と黒江はともかく簪お嬢様達は覚えて無いでしょう。」

 

 「ヤクモ・ムツ・・・陸奥八雲というのは、ある人の偽名なの。その人というのが、先代楯無・・・・つまり私達の祖父にあたる人なの。楯無を引退した人は代々、陸奥の姓を名乗るの。それでお祖父様の先代楯無は陸奥八雲と名前を変えて、放浪の旅に出たの。まさか、ここでその名前を聞くなんて・・・・虚ちゃん!」

 

 「はい、直ぐに楯無様に連絡します。」

 

 『もう私がしたよ』

 

 「えっ?!、だ、誰?って、更識美兎!!」

 

 『は~い、プリティー美兎さんだよ。楯無様にはもう連絡して確認をしてもらっているよ。』

 

 突然、モニターに美兎の姿が出てきて、驚くシャルロット。

 

 「それで、IS学園に来てみれば更識姓の人間が居たからダメ元で訪ねて来たという事ね。」

 

 「はい。」

 

 「さてと、どうしようか夏輝。」

 

 「まあ、スパイ行為の命令されたけど、本人はする気持ちが無く、直ぐに自白してきたから情状酌量の余地があるから罪には問われないけど、このままだとスケープゴートは勿論の事、捨て駒として口封じ・・・命の危機があるな。それも含めて考えないといけないけど・・・・・・」

 

 『いっその事、その雌猫に死んで貰うのはどう?』

 

 美兎の言葉にシャルロットが怯える。

 

 『別に本当に死んで貰う訳じゃないよ。偽装するんだよ。おい雌猫、お前のIS適正のデータとかは嘘じゃないよな?』

 

  「は、はい。」

 

 怯えながら返事するシャルロット。

 

 『なら、死亡した事にしてうちのテストパイロットにしたいんだけど。このデータを見る限りは、結構優秀でそこらの石ころより使える。』

 

 美兎の突発的な発想に生徒会室にいる一同は言葉を失う。

 

 『よし、戸籍を偽装しようと。まずは雌・・・・おい、名前はなんだっけ?』

 

 「シャルロット・デュノアです。」

 

 『デュノア社に引き取られる前は?』

 

 「シャルロット・フランです。」

 

 『OK、シャルロット・・・じゃあシャルちゃんだ。シャルちゃんの日本での戸籍を作って、更にフランスにあるシャルちゃんの戸籍を全て改変して、シャルロット・フランはそうだね、母親と同じ時期に死んだ事にしてシャルロット・デュノアは戸籍は完全に消しておいて、シャルル・デュノアはデュノア社が作った架空人物にしておく。その上でシャルちゃんは戸籍を持たない子供がシャルル・デュノアに仕立てあげられた事にする。』

 

 次から次に出てくる美兎の提案に生徒会室にいる一同は全く言葉が出なかった。

 

 『日本の戸籍も更識関係の家の娘にしておこうか。どの家にするかは楯無様に相談してからだけど。その上でシャルちゃんには自責の念に囚われて自殺した事にするね。』

 

 あっという間に出来上がったストーリーに全員呆気にとられる。

 

 「相変わらずぶっ飛んだ事を考え着くね、美兎姉さんは・・・まあ、それが1番だと思うけど学園側に色々と根回ししないといけないけど、先ずは学園側が編入を認めた経緯と父さんからの連絡待ちかな。」

 

 『とりあえず、準備にかかるね』

 

 そう言うと、モニターから美兎の姿が消えた。

 乱暴でありながらも確実性のある方法である。

 

 「・・・・ところで、死亡を偽装して日本人にするとして、その後は学園に在籍は出来るの?」

 

 「それも含めて学園長と話をしようかな。多分、あの狸爺は何か企んでいたんだろうし。」

 

 簪の疑問に夏輝は答えると立ち上がる。

 

 「おっと、その前にデュノアは先程の方法でいくのに文句は無いか?」

 

 「僕としては助けを求めた以上は、どんな方法を取ろうが文句は無いよ。」

 

 「わかった。それじゃあ、学園長に聞きにいこうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 学園長室

 

  事前に連絡したところ、学園長とは直ぐに会うことが出来た。

 

 「さてさて、皆さんお揃いでどの様なご用件で?」

 

 夏輝達を前に飄々とした雰囲気で応対する十蔵。

 

 「学園長、既に判っているのではありませんか?シャルル・デュノアの件ですよ。」

 

 「おやおや、早かったですね更識生徒会長。本人がここにいるということは、君達が正体を突き止めたのか、それとも()()から自白したのどちらかでしょうけど。まあ、彼女の表情を見る限り後者のようですけど。」

 

 「やっぱり、わかっていたのですね。シャルル・デュノアが男でなく女だということに。」

 

 「更識生徒会長の言う通り、私は知っていました。フランスからの編入申請があり、更に学園での検診無用という申し出というか圧力がありました。無論、そんなものIS学園には関係無いのですが、今回はあえて飲みました。」

 

 「何故ですか?」

 

 「八雲から連絡があったからです。八雲と私は古くからの知り合いでして、デュノアさんが編入する少し前に連絡があったのです。色々と助力してやってくれと。」

 

 「という事は・・・・」

 

 「お嬢様、おそらく楯無様には既に連絡が・・・・」

 

 「はぁ~、父さんは私達から連絡が来るのを待ち構えているようね。」

 

 まるでタイミングを計ったかのように、刀奈のスマホが振動する。十蔵にことわって、ポケットから取り出すと楯無からのメールで

 

 [学園長が全て聞いている、訪ねよ。by パパより]

 

 ときた。 憮然とした表情でメールを読んだ刀奈はそれを夏輝に見せ、楯無にメールを返信すると、来ていたメールを消去した。

 

 「今、父から連絡がきました。それで、そもそもどういった経緯でお祖父様から学園長に連絡が?」

 

 「八雲は3年程前からフランスの片田舎で、子供相手の私塾をしておったそうだ。そして八雲が借りておった家の隣に住んでおったのが、マリーナとシャルロットのフラン親子だったそうだ。住みはじめた頃から色々と世話になったと言っていた。」

 

 十蔵の言葉にシャルロットは昔を懐かしんだ。母マリーナと慎ましくも幸せだった生活を、そして隣に住んでいた好好爺という雰囲気をもつ八雲とのふれあいを。

 

 「そしてマリーナが亡くなる前に八雲に、色々と打ち明けてシャルロットの事を頼んだそうだ。そこから八雲はデュノア社の事を密かに調査をしたそうだ。だか、デュノア社の動きが思ったより早く、手を打つ前にシャルロットが引き取られる事になった、と八雲は言っておった。そこでシャルロットに万が一に備えて、更識の事を伝えたそうだ。」

 

 「なるほど、お祖父様は既にその段階でシャルロットが何らかの陰謀に使われる可能性に至っていた訳ね。」

 

 刀奈がそう言うと、十蔵は机の引き出しから書類の束を取り出して見せる。

 

 「全く、引退したというのに相変わらずの力よ。たった一人でこれだけの事を調べあげるのだからの。」

 

 マリーナから打ち明けられてから、八雲が一人で調べあげたであろうデュノア社の情報に驚く夏輝達。それを手分けして見た夏輝達は、その内容に呆れるのだった。

 

 「黒も黒、真っ黒ね。資金流用に不正使用、不正献金にインサイダー取引、しかも社長婦人の私的流用の金額が凄いわね。」

 

 「それだけじゃ無いよ刀奈姉さん。保有資産や利益を水増しした粉飾決算をおこなっているね。」

 

 「夏輝様、此方ではラファール・リヴァイブの納入部品の金額が操作されてますね。実際の納入金額より高い金額が記載されていますから、差額が裏金としてプールして、脱税してますね。」

 

 と言ったぐあいに黒い部分が出てきた。

 

 「・・・・・学園長、シャルロットを別の戸籍で改めて編入させる事は可能でしょうか?」

 

 「編入の為の手続きさえしていただければ可能です。後は此方でしますので。それで、デュノアさんの一件をどうするのですか?」

 

 十蔵に聞かれたので、美兎の案を簡潔に述べる。

 

 「なるほど、ではデュノアさんはそちらでお任せいたします。で、それで・・・・」

 

 「・・・・・どうせなら、せっかく火種があるので燃やしてみようかと。」

 

 そう言って夏輝は書類の束に目をやる。

 

 「そうだ更識君、そこにシュレッダー行きの書類があるのですが、お願いしてもいいですか? 別にシュレッダーにかけなくても、廃品回収なり、焼却なり、()()()()()なり、好きにしてください。」

 

 「わかりました、それでは此方で好きに処分させていただきます。」

 

 そう言って書類の束を受けとる夏輝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日 1年1組。

 

 (・・・・・・・シャルロットが昨夜帰って来なかったけど、どうしたんだ? それにSHRが始まるけど、まだ来てないし・・・・)

 

 朧気な原作知識で、シャルルが女で本名がシャルロットという事を覚えていた百春は昨日からルームメイトになるはずだったシャルロットが部屋に戻って来なかった事を疑問に思っていた。

 

 そこに千冬と真耶が教室に入ってきた。何故か二人とも顔色が良くない。

 

 「・・・・・・みんな、おはよう。さて、先ずは全員に重大な報告がある。昨日、クラスに編入してきたシャルル・デュノアだが・・・・今朝、学園南側の浜辺で遺体で発見された。近くの防波堤に遺書が残されており自殺と思われる。ここからは学園外に情報を漏らす事は許されない情報となる。全員には誓約書にサインしてもらう事になる。確りと心して聞くように。」

 

 千冬が語ったのは、シャルルが男性でなく女性であること、本名はシャルロット・デュノアであること、そしてデュノア社の命令で無理矢理スパイにされて、男性操縦者と専用機のデータを盗むように命じられた事、だけど罪の意識に苛まれ、罪を犯すくらいなら命を断つ方法を選んだ事だった。

 

 「おそらく、この事を受けてフランス政府並びにデュノア社に捜査が入る事になるだろう。兎も角、全てが明かになり公表されるまでは一切他言は許さん!それでは山田先生が誓約書を配付するのでサインと拇印を押せ。」

 

 それを聞きながら百春は混乱していた。

 

 (はあっ?! 何でシャルロットが自殺?? 遺書?? 何で、何で、何で??? こんなの違うんじゃ?! えっと・・・・・駄目だ思い出せない、だけど、原作はこんな展開じゃ無かったはず・・・・・・何で!!!)

 

 「織斑、顔色が悪いな。デュノアの事でショックを受けたのはわかる。だが残念ながら今は気持ちを切り替えて欲しい。これは織斑だけでなくクラス全員にも言える事だ。」

 

  「・・・・・・・・はい。」

 

 クラス全員が力の無い返事を返した。

 

 この日、シャルロットの事は学園にいる全ての学生と職員に知らされ、情報秘匿が確約させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その翌日。 事態は一気に動いた。

 

 全世界のマスコミとネットにデュノア社の数々の不正とフランス政府の一部議員との癒着が齎されたのだ。 フランスの検察や警察にも、その情報は齎され、一気に捜査のメスが入った。

 デュノア社の上層部は社長や社長夫人を始め、殆どが逮捕される事態となり企業として立ち行かなくなるのだった。 

 そして2ヶ月後にはデュノア社が倒産するのだった。

 

 一方、癒着していたフランス政府の議員達も、それ相応の報いを受けるのだった。関係していた議員は全て逮捕され退職金を没収された上で解雇された。 それにとどまらず、その議員と繋がりのある女性主義者の議員や、女性主義団体が芋づる式に検挙される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ウイング社

 

 IS学園にシャルロットの自殺が知らされた翌日、ウイング社の本社の一室にシャルロットと美兎の姿があった。 

 学園長室での話し合いが終えると同時にシャルロットは一時的に身を隠すために、密かにウイング社に運ばれる修理部品の入ったコンテナに紛れて連れ出され無事にウイング社に着くことが出来たのだった。

 部屋のテレビにはデュノア社のニュースが報じられていた。 

 

 「凄いですね。告白したのは一昨日だったのに、もうこんな事態になるなんて。」

 

 「ついでに、色々とぶちこんで炎上させる予定だから、風通しが良くなる筈だよ。」

 

 「そう言えば、昨日はまともに聞けませんでしたけど、僕の戸籍と立場はどうなるのですか?」

 

 「シャルちゃんは、八雲様の養女という形になるよ。名前は陸奥紫夜琉(むつ しゃる)になるよ。当て字になるけど、親しんだ名前が良いよね。あと、ナノマシンを使って色々と外見を変える事になるんだけど、短期間での処置になるからね。多少は体の違和感や体調不良が起きるけど少し覚悟しといてね。」

 

 美兎の話に息をのむシャル。

 

「それから、シャルちゃんはウイング社のテストパイロットとしてうちの所属になるよ。今は専用機が無いけど、とりあえずIS学園への再編入するまでの間にデータ収集して、その結果次第で専用機を作るか決めるよ。」

 

 テレビではデュノア社の事件をずっと報じていた。

 

 

  (あれ、八雲さんの養女という事は僕、もしかして更識君達の叔母さんになるの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 番外編?閑話?というか、どうでもいいエピソード

 

 

 更識家邸宅の一室、楯無は書斎で刀奈に八雲の事に関するメールをしたところだった。

 すると、直ぐに刀奈から返信がきたのでメールを開くと

 

 

 [情報ありがとうございます。 

 

    PS、パパ呼びは似合いません。

         子供達を代表して年頃の娘より]

 

 

  それを読んで密かにダメージを受ける楯無だった。

 

 

 

 

 

 

 




 
 シャルロットの名前は完全に当て字になります。 
 ただし、今後の作中の表記としてはわかりやすいように、シャルとします。
 シャルの再登場はタッグマッチトーナメント終了後となります。


 シャルロットの専用機にかんするアンケートをしております。よろしければ、ご協力お願いします。


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第16話  百春と夏輝

 
 
 アンケートのご協力ありがとうございました。
 シャルロットの専用機にかんしては、アルトアイゼンナハトにいたします。 ちなみに作者の予想はガルガーディアかガーバインのどちらかと思ってました。


 それから、あらすじの注意事項にあるように、この作品は原作の流れから大きく逸脱しており読み手を選ぶ作品だと思います。
 どうか閲覧する際には気をつけてください。原作崩壊が嫌だという方は、このまま閲覧せずにプラウザバックされた方がよろしいかと思います。
 

 また、原作と違うといって、感想や評価に反映されても困ります。 
 
 

 


 

 

 シャルロットとデュノア社の事件が起きて、1週間が過ぎた頃。

 IS学園に6月に行われる学年別タッグマッチトーナメント戦の概要が発表された。

 

 

 1、参加自由。不参加の場合は事前に申請すること。ただし、戦績は一学期の成績に反映される。

 2、タッグペアは本日より7日以内に専用の用紙に記入して教員に提出すること。提出後にペアを確認して重複したりレギュレーションに抵触しなければ許可する。 なお、参加者でペア申請がなされなかった場合はトーナメント当日に大会運営のくじ引きによりペアを作る事になる。

 3、専用機持ち同士でペアを組むことは禁止する。

 4、専用機の有無に関わらず、代表候補生又は企業候補生同士のペアも禁止する。※候補予備生は除外する。

 5、使用する訓練機は事前に申請すること。

 6、訓練機のカスタマイズは事前に申請すること。ただし、大幅なカスタマイズは認めない。

 7、トーナメントに参加しなくても機体整備等の裏方として参加する場合も事前に申請するように。整備経歴を考慮して一学期の成績に反映する。

 8、ただし、男性操縦者に関しては3、4の項目の対象外とする。

 9、男性操縦者のペアの決定権は男性側にある。また、むやみに押し掛けて、ペアになるように求める事も禁ずる。

 

 

  これ以外にも細かな大会規約があるが、8と9の項目が大きく注目を浴びた。

 

 

 「以上が、学年別タッグマッチトーナメント戦の概要だ。 さて、既に概要にあるように、男性操縦者・・・1組の織斑、4組の更識にペア申請が集中することはわかっている。だが、概要にあるようにペア申請を求めて押し掛ける事は禁止されている。もし破って押し掛ける者には、それ相応の罰則が用意されているので覚悟しておくように。」

 

 そう言って、千冬は朝のSHRを締め括る。

 

 

 

 

 生徒会室

 

 昼休みになり、生徒会室に集まった夏輝達は購買部で購入した物を食べながら、タッグマッチトーナメントの概要を見ていた。

 

 「・・・・・・いつの間にレギュレーションが変わったの? 4の部分が少し厳しくなったのは?」

 

 「それについては、いくら専用機を持たないとはいえ、流石に一般生徒と候補生とでは差が有りすぎるので、候補生同士のペアはワンサイドゲームになる畏れがあるから、という意見が出て検討して採用したみたい。」

 

 簪の疑問に答える刀奈。

 

 「まあ、4の項目は理解出来るけど・・・・・8の項目は・・・・やっぱり織斑先生の?」

 

 「はい。織斑先生が女尊男卑主義者や女性権利団体からの非難や無茶な要求を跳ね返す為にも、男性操縦者はある程度の戦績を残した方が良い、という意見と一緒に出されたのです。もっともな意見という事で、すんなり採用されました。」

 

 夏輝の疑問に虚が答える。

 

 「まあ、織斑君の戦績を少しでも良くする為に思いついたんだろうけど、そんな事したら余計、夏輝と比較されるんだけど。」

 

 刀奈が呆れながら呟く。

 

 「それで、兄さんは誰とペアを組むんだ?」

 

 「わ「お嬢様は学年が違います。」・・・酷い。」

 

 早速、立候補しようとした刀奈だったが虚の指摘で落ち込む。 簪、円華、本音、黒江の視線が夏輝に集まる。

 

 「四人でじゃんけん「「「「最初はグー!じゃんけんポン!! あいこで、しょ!!!」」」」早いな・・・」

 

 夏輝が言い終わる前にじゃんけんを始める四人。そして

 簪→✊ 円華→✋ 本音→✊ 黒江→✊

 

  「やったぁーーー!!!」

 

 右手のパーを高々と掲げて、喜ぶ円華。

 

 「し、至高のグー様が・・・・・」

 

 膝を着き、右手の拳を震わせて悔しがる簪。

 

 「負けちゃった~♪」

 

 負けたのに、あまり悔しそうにしていない本音。

 

 「仕方がありません、ここは円華様にお譲りいたします。」

 

 冷静さをみせて、円華に勝ちを譲ったという事にしている黒江。

 

 「円華、よろしくな。」

 

 「はい。私と兄さんのペアなら優勝間違いなしだ。」

 

 「それじゃあ、食事が終わったら申請に行こうか。」

 

 

 

 職員室

 

 「「失礼します。」」

 

 ドアを開けて一礼して室内に入る夏輝と円華。 二人はスコールの元に向かう。

 

 「ミューゼル先生、ペア申請に来ました。」

 

 「更識君は妹の円華さんとペアを組むのね。」

 

 「はい。兄さんと組みますので申請手続きをお願いします。」

 

 「わかったわ。うん、記入洩れは無いわね。」

  

 スコールが机の上にあるパソコンに入力していくが

 

 「あれ? 更識君のペア申請がされているわね。えーと、申請者は1組の長篠あかりさんで、受理したのは織斑先生だわ。更識君、覚えはある?」

 

 「いいえ、俺は長篠あかりさんとは面識がありませんし、ペアを組むと約束した覚えも、頼まれた覚えもありません。」

 

 「そう、ちょっと確認するわ。織斑先生!」

 

 そう言ってスコールは千冬に声をかける。

 

 「どうしましたミューゼル先生?」

 

 「実は更識君がペア申請に来たのですが、本人が知らない内に1組の長篠あかりさんとのペア申請がされて受理されているんです。今、更識君に確認しましたが、彼は長篠さんとのペアを約束した覚えも無ければ、頼まれた覚えも無いとの事です。受理したのは織斑先生ですが、長篠さんに確りと確認はしましたか?」

 

 「長篠は約束したと言っていたが・・・・だが、更識が身に覚えが無いのならば、その申請は却下して、新たに更識の申請を受理してください。長篠には私から言っておきます。」

 

 そう言って千冬が離れていく。

 

 「やれやれ、あれだけ注意していたのに無断申請とは。とりあえず、長篠さんとの申請を無効にして円華さんとの申請処理をするわね。・・・・・・・よし、これで申請が登録がされたわ。」

 

 「「ありがとうございます、ミューゼル先生。」」

 

 「午後の授業の時に更識君がペア申請をして登録したことが伝えられるから、もう無断申請はされないわ。」

 

 夏輝と円華はスコールに礼をして職員室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

  

 

 アリーナ

 

 放課後になり、学年別タッグマッチトーナメント戦の日程とレギュレーションが発表された事により参加する生徒達の訓練も、一層力がはいっている。また、アリーナの利用規約が緩和され利用時間が短くなったのも、その一因となっていた。 限られた時間を少しでも有効に使う為に利用する生徒は真剣そのものだった。

 

 しかしそんな中、第3アリーナには百春と箒、そして鈴の姿しかなかった。奇しくも、シャルロットの事件直後に鈴が復学したのだ。

 そして鈴が復学してからというもの、百春と箒の訓練に参加するようになった。 この日で2度目の合同訓練となる。 だが、それが思わぬ悲劇を生んだのだ。

 

 百春と箒と鈴が同じアリーナを使用して訓練すると、周囲の他の生徒達の事を考えずに行動する為に模擬戦や痴話喧嘩の巻き添えを喰らうのだ。 前回の訓練で周囲の生徒達は逃げ回る事態になったのだ。

 

 前回アリーナを監視する教員から注意を受けていたが百春は兎も角、箒と鈴には寝耳に水だった。自分達の認識では、相手は百春が悪いと思っているからだ。

 態度を改めない二人と一緒にいた百春はその事で千冬から説教を受けたのだ。 

 

 この日、アリーナの使用許可を求めてきた時に受付職員は許可をだす前に千冬に確認を取ったのだ。

 千冬は前回の事を考慮して、今回は特別に安全を考えて貸切りで許可して欲しいと願った。

 代わりにこれ以降は、3人が一緒に同じ時間で訓練しないように申し渡すからと言われて今回は許可を出した。

 

 

 「ハァァァァァァーーーーーー!!!」

 

 「太刀筋が甘い! もっとこう、グッとして、シュッとして、ズバットしないと!」

 

 箒が纏うグルンガスト零式に目掛けて斬艦刀を横なぎで振るう百春。だが、それは避けられ箒から擬音だらけのアドバイスがとぶ。

 

 「行くわよ!」

 

 「グアッ! 鈴、いきなりはキツイよ!だいたい、どうやってやるんだよ後退加速なんて!」

 

 「百春! なんとなくでわかりなさいよ。感覚よ、感覚! なんでわかんないのよ!」

 

 斬艦刀が避けられて、体勢の崩れた百春に鈴が双天牙月を振るい、避けられずに右肩に当たる。

 訓練内容は後退加速をマスターするためのものだが、鈴の説明が感覚的なものなので理解出来ない百春。

 

 幾度と無く、同じ事が繰り返される。周囲の被害を全く考えずにアリーナのフィールドを独占して行われる訓練。 

 箒が百春に教えようとすれば、鈴が負けじと教える。二人は互いに張り合い、やがて実力行使に出る。

 そこで百春が仲裁に入る。このやり取りがループしているのだ。

 結局、この日は後退加速の修得どころか、まともな訓練にならなかったのである。

 この時、3人は気づかなかったが観客席の入口の影から、その様子を伺っていたラウラが居たことに。

 

 (・・・・・・・・やはり無能だな。教官の実弟とはとても思えぬ。才能はあるのかも知れぬが、それに胡座をかき高めようとする気が全く無い。更識夏輝と比べる迄もない存在だ。)

 

 興味を失ったのか、ラウラはその場を後にする。

 

 

  ちなみに、この光景は録画されており千冬が確認することになっている。

 

 この日、3人は訓練終了後に千冬に呼び出されて出席簿制裁(死がふたりを分断つまで)を貰い、反省文の提出が求められたのだった。

 そしてこの日以降、3人一緒に訓練することは無くなり、百春はタッグパートナーとなった箒(鈴とじゃんけんをして勝利)と訓練する事になる。

 

 

 

 一方、第6アリーナでは夏輝と円華が訓練をしていた。 夏輝のサイバスターと円華のヴァルシオーネRは射撃系の武器を封じて剣のみで周囲の生徒達に迷惑にならないようにフィールドを制限して模擬戦を行っていた。

 

 「セイヤァァァーー!」

 

 ディスカッターを正眼に構えてから振るう夏輝。

 

 「ハァァァーーーー!」

 

 ディバイン・ブレードで斬りかえす円華。

 二人の剣が交わり火花を散らす。 既に始めて10分は経つものの、定めたフィールドから出ることなく、幾度と無く斬り結ぶ。 

 

 その迫力が有りながらも人を魅了する剣撃に、周囲の生徒達は訓練の手を止めて見入ってしまうのだった。

 

     そして

 

 「イヤァァァーー!」

 

 「とりゃぁぁーー!」

 

 気合いと共に繰り出された鋭い一撃は、互いの喉元…夏輝の剣は僅か1Cm手前で、円華の剣は10Cm手前で止まっていた。

 その光景に周囲の生徒達は息を飲むのだった。

 

 「「フゥゥゥゥーーー。」」

 

 二人は同時に息を吐き、剣を引く。二人は構えたまま1歩だけ下がり数秒或いは数十秒経っただろうか、構えを解き剣を仕舞うと一礼する。

 

  

パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ

 

 その瞬間、割れんばかりの拍手がおこる。

 

 

 「ふう、やはり兄さんの太刀筋は鋭いな。それが更識の剣【神祇無窮流剣術】か。」

 

 「そうだ、基本的な剣技【虚空斬】と足捌きの基本【流水の型】だ。」

 

 「私もそれなりに剣には自信があったけど、実際に斬り結ぶと兄さんには遠く及ばないな。」

 

 「円華は神祇無窮流剣術の技を始めたばかりで、以前の我流の剣の癖が残っていて、まだバランスが取れてないんだ。以前の癖が無くなれば直ぐに上達するさ。」

 

 夏輝は円華にそう言って、先程の模擬戦で気付いた事を指摘して時間まで型の練習をしていった。

 

 

  こうして各々、学年別タッグマッチトーナメント戦の開始まで訓練を続けるのだった。

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

    時は流れ6月

 

  学年別タッグマッチトーナメント戦の幕が開けるのだった。 

 

 

 



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第17話  開幕、タッグマッチトーナメント戦

 

 

 ついに開幕した学年別タッグマッチトーナメント戦。

 

 第1アリーナと第2アリーナを使って1年生の部が行われる事になっている。

 生徒達は観客席でトーナメントの組み合わせが発表されるのを今や遅しと待ち構えていた。

 いや、生徒達だけでなく企業関係者に国の重鎮等も待っていた。自国・自社の選手の活躍のみならず未発掘の原石を得る為に目をこらしていた。

 ペアに関してはを既に抽選組を含めて決定しており、アリーナの正面入口に貼り出してあった。

 

 

 ちなみに、1年生の主なペアとしては

 

 百春&箒  

 セシリア&相川清香 

 ラウラ&夜竹さゆか(抽選) 

 鈴&メフィル・ボーラング(抽選)

 ティナ&ユノー・ヌイーゼン

 夏輝&円華

 簪&貴家澪

 本音&白川美咲

 黒江&神楽

 

 

 となっている。 ラウラは最初から抽選にするつもりでパートナーを探しをしなかったが、鈴は百春とパートナーになれないと決まってから探したものの、クラスで孤立していた鈴とパートナーになるものは居らず、抽選となったのだ。

 

 

 

 『さあ、いよいよ学年別タッグマッチトーナメント戦、1年生の部が始まろうとしています。なお、実況を務めますのは2年生整備科の黛薫子です。 そして、みなさん中央メインスクリーンにご注目を、対戦トーナメント表が発表されます。』

 

 薫子の言葉と共にスクリーンにトーナメント表が映し出される。

 

 おおおぉぉぉーーー!!!

 

観客席にどよめきが広がる。1回戦から注目すべきカードが出来たからだ。

 

 

  夏輝&円華VS百春&箒

 

 鈴&メフィル・ボーラングVS黒江&神楽

 

 

 

 『おぉっと、いきなり1回戦から注目すべきカードが生まれた。なんと世界で二人しか未だに確認されていない男性操縦者、更識夏輝&更識円華ペアVS織斑百春&篠ノ之箒ペアの一戦。そして専用機を持つ者同士、中国代表候補生、凰鈴音&メフィル・ボーラングペアVSウイング社企業代表候補生、布仏黒江&四十院神楽ペアの一戦。これは目が離せない。』

 

 薫子の実況に観客は大いに盛り上がる。

 

 

 『さあ、対戦カードが決まりましたので、選手のみなさんは準備にかかってください。第1試合は今から15分後に開始されます。第1試合から第3試合までに出場する選手はピットに移動してください。』

 

 

 

 

 

 

 「やれやれ、1回戦からあれと試合か・・・なんか憂鬱だな。」

 

 「そう言うな円華。あいつとは何らかの形で戦う事になるだろうし、それが遅いか早いかの違いだ。」

 

 「そうだけど・・・・待って兄さん。どうせなら私があいつと戦いたい。そして兄さんはあの女と戦って、本当の剣というのを思い知らせて欲しい。」

 

 「どういうつもりだ円華?」

 

 「あの女は刀奈姉さんと簪姉さんの話を聞くと剣だけに拘ると聞く。それなら逆に剣だけで戦って、その傲慢な思いを粉々に砕いて、更に普段から相手しているあいつとの格の違いを見せつけ、そして間接的にあいつにも兄さんとの実力の差を思い知らせるんだ。」

 

 なかなか腹黒い事を考える円華。その考えに苦笑しながらも

 

 「まあ、いいだろう。でも円華、油断するなよ。お前が負けたら意味がないからな。」

 

 「わかっているよ兄さん、私も神祇無窮流剣術を少しは会得したんだ。」

 

 「それなら良い。兎も角、試合はまだ先だから今はみんなの試合を見て応援しよう。」

 

 「わかった。」

 

 

 

 

 

 「いきなりあいつとか・・・・(たぶん、これも原作の流れとは違うんだろうな。もう殆ど思い出せない・・・何で思い出せないんだよ)」

 

 「百春!あいつに勝って、お前の方が強いと証明するんだ!大丈夫だ、私とお前なら勝てる!」

 

 「あぁ、そうだな。勝てるさ、きっと!」

 

 

 

 

 

 

 (・・・・・・・いきなり、更識と試合か。不味いな、百春が少しでも戦績を残せるように専用機持ちや代表候補生とのペアを認めさせたのだが、それが裏目に出てしまった。これが凰なら、まだ少し可能性があるのだが・・・篠ノ之では厳しいな。)

 

 トーナメント表を見ながら、自分がとった策が裏目に出た事を悔やむ千冬。

 

 (篠ノ之や凰でなく、私が指導するべきだったな。あの二人は人に教えるのに不向きだったしな。)

 

 箒は擬音だらけ、鈴は言葉でなく感覚任せ、指導というには程遠いものだった。

 

 (まあ、1学期は仕方あるまい。テストでの成績さえ問題無ければいい。あとは夏休みに特別指導という形で私が指導するとしよう。)

 

 

 それぞれ思いにふける事になる対戦表であった。

 

 

    そして試合は始まり

 

 

 

 

 

 

 セシリア&相川清香ペアの試合

 

 

 

 「相川さん、クイックC。」

 

 「はい、オルコットさん!」

 

 セシリアがビットとライフルで二人の生徒を同時に牽制する。打鉄を纏った清香が焔備を連射しながら、同じ打鉄を纏った片方の生徒に突撃していく。頭上から降り注ぐレーザーと清香の放つ銃弾を避けきれずに被弾していく生徒。

 

 「きゃぁぁぁー!」

 

 そして近づいたところで、巨大なメイス・・3年整備科が作った浪漫武器、通称[漢女棒]を呼び出し両手で確りと握り、遠心力を利用して振り抜く。

 

 「ぶっ飛べぇーーーー!」

 

 「グッ£Åヰ&ⅸ%∂$!!!」

 

 腹部にメイスの一撃をまともに喰らい、女性にあるまじき声を出して悶絶する生徒。そしてそのままアリーナの壁まで飛ばされ激突する。

 

 「あっ?! 大じょ えっ!!きゃぁぁぁー!」

 

 パートナーに気をとられ足を止めてしまうラファールを纏った生徒だったが、その瞬間にセシリアからのレーザーの雨をまともに喰らってしまう。

 

 そして、この瞬間に勝敗が決した。

 

 「試合終了! 勝者セシリア・オルコット&相川清香ペア。」

 

 セシリアと清香は近づいてハイタッチする。

 

 

 

 ラウラ&夜竹さゆかペアの試合

 

 「いまだ、しっかり狙って射て!」

 

 「は、はい!センターに入れて、トリガーを引く!」

 

 AICで二人の生徒の動きを止めたラウラはパートナーであるさゆかに命じる。

 ラファールを纏ったさゆかは、ラウラに言われたまま重機関銃[デザート・フォックス]で狙いを定めてトリガーを引くのだった。

 

 「「きゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!」」

 

 銃弾の雨にさらされた二人は、その場から一歩も動く事が出来ずにただ銃弾を受け続けるのだった。

 

  そして

 

 「試合終了! 勝者ラウラ・ボーデウィッヒ&夜竹さゆかペア。」

 

 「よくやった夜竹。」

 

 「あ、ありがとうございますボーデウィッヒさん!」

 

 ラウラに労われて、笑顔で返すさゆか。

 

 

 

 

 

 そして、1回戦の山場の1つを迎えた。

 

 

 『さあ、1回戦の山場の1つです。先ずはこのペア、中国代表候補生、凰鈴音&メフィル・ボーラングペアです。そして続いては、ウイング社企業代表候補生、布仏黒江&四十院神楽ペア!!』

 

 紹介と共にアリーナに現れる四人。

 

 『先ず注目すべきは、それぞれの専用機でしょう。凰さんが纏うのは中国の第3世代型IS【甲龍】。燃費と安定性に重点を置いた、ある意味量産を前提条件としたと思われる機体です。次に布仏さんが纏うのはウイング社の第3世代型IS【アステリオン】。世界初の宇宙専用の機体、その性能は未だに未知数。果たしてどのような戦いをするのか楽しみです。』

 

 黒江のアステリオンは既に第5世代型にアップグレードされているのだが、その事は秘密にしており未だに第3世代型としている。

 

  「ふ~ん、宇宙専用のISね。本当かどうだか?まあ、私の甲龍には敵わないだろうし、化けの皮を剥いであげるわ。」

 

 黒江のアステリオンを見て呟く鈴。そして抽選でペアとなったメフィルに

 

 「あんたは、私があの宇宙専用とかいうのを潰す間に、打鉄の娘の相手をして。直ぐに片付けるから抑えるだけで良いわ。二人共、私一人で十分倒せるし。」

 

 そう言う。抽選で鈴とパートナーになった同じクラスのメフィルだが、決して成績は悪くないのだ。ただ人見知りで若干対人恐怖症がある為に、パートナーをなかなか組めずに当日を迎えたのだ。 だが、クラスで孤立している鈴はその事を知らず、成績が悪いからペアを組めなかったと認識していた。

 

 「神楽さん、おそらく自己顕示欲の強い凰さんは最初に私を狙って来ると思います。」

 

 「わかりました、それでは私が最初のうちに凰さんの相手をすればよろしいのですね。」

 

 両肩のシールドが4枚に増強し胸部装甲に兜のようなヘッドパーツ、更に両腕に小型のシールドを装着し重厚な装いとなった打鉄を纏った神楽は、黒江の考えを理解し答える。

 

 「凰さんは、神楽さんが向かってきたら私と戦う為に短期戦で決着をつけようとするでしょう。」

 

 「わかってます、手順としては玄武の陣でよろしいのですね。」

 

 「お願いします。」

 

 黒江と神楽も打ち合わせを終える。 そして

 

 

 『それでは、試合開始!!』

 

 「いくわよぉーーー?!って、何で!!」

 

 黒江に接近しようとした鈴だが、その行く手を神楽が塞ぐ。

 

 「お相手願います。」

 

 神楽は右手に柄が短く片手で扱える手槍型の近接武装[飛燕]を、左手にこれまた3年整備科がバリスティックシールドをベースに作った多機能型武装楯[紫陽花]を構える。 神楽が紫陽花を構えたことで、ティナとの一戦を思い出した鈴は龍砲を使わずに双天牙月で攻撃する事に切り換える。

 

 「邪魔よ、落ちなさい!」

 

 両手の双天牙月を演舞の如く振るう鈴。神楽は左手の紫陽花と両肩のシールドを巧みに使いながら捌いていく。

 この時、鈴は神楽が一般生徒と思っていた。しかし、それは間違いなのだ。神楽は確かに一般枠で入学したが、その本質は役目こそ違えど、更識家と並ぶ日本政府の諜報組織の一族なのだ。次期当主として幼い頃より教育を受け、それ相応の腕前を有しているのだ。

 入学試験の際は役目上、目立たなくする必要があった為に実力を隠していたが、その力は代表候補生と比較しても拮抗するものなのだ。

 それ故に

 

 「くっ! 何で当たらないのよ!」

 

 中国に帰国させられて、春麗とのマンツーマンの特訓を受けた鈴は確かに実力を上げ、そして表面上は心を入れ換えた風に装った。 だが、春麗はその事に気づいており、本来ならまだ学園に戻すつもりはなかったのだが、学年別トーナメントの時期が迫っている事もあり国は復学を急がせたのだ。

 という訳で鈴の性根は未だ以前のままなのだ。取り繕う事を覚えたので表面上は誤魔化せる。ただ、見抜く者は見抜く。 そして、何より感情の起伏の激しい鈴は興奮すると、それが出来ないのでぼろが出る。

 

 「クソ、クソ、クソォォォォーー!」

 

 鈴の刀撃をシールドを使い、反らしていく。

 

 

 一方、黒江の方だが、メフィルを全く寄せ付けない戦いぶりだ。 高機動型のアステリオンの長所を生かし 右手のアサルトブレードと内蔵されているマシンキャノンを使いヒット&アウェイを繰り返す。

 その試合運びは一方的な展開となっているが、それも仕方のないことだ。決してメフィルの実力が低い訳ではない。 一般生徒の中では、おそらく上位にあたるだろう。もし、対戦相手が他の一般生徒ならその実力を観客に見せる事が出来ただろう。しかしそれは叶わなかった。

 なにしろ、黒江とメフィルの間には大きな壁が存在しているのだから。

 

 

  「ダメ! ぜんぜん捉えられない。」

 

 ラファールを纏ったメフィルはショットガン[レイン・オブ・サタデイ]を構えて、何とか反撃しようと試みるも、黒江の攻撃を完全に避ける事が出来ず被弾していく。 そしてついに

 

 『ラファール・リヴァイブ、SEエンプティー。メフィル・ボーラング試合続行不能。』

 

 SEが0となり敗北したメフィル。その場に留まっていたら試合の邪魔になると考え、アリーナの壁まで移動する。

 

 (負けちゃった・・・・・・でも、次は勝てなくても、もっと接戦になるようにしてみせる。その為にも、もっと頑張らないと!)

 

 意外と負けず嫌いで、努力家のメフィルであった。

 

 

 

 メフィルが負けたのを知った鈴。

 

 「役立たず! 少しは粘りなさいよ!」

 

 言うに事欠いてメフィルを詰る鈴。自分は格下と思っている神楽を相手に苦戦しているのに。

 

 (何でよ?!何で落ちないのよ!あたしは強くなったのに!!)

 

 未だに双天牙月に拘って攻撃を続けるが、シールドを利用して逸らされ続けられ、更に合間を縫って飛燕で突かれ少しづつだが、ダメージを受けていく。

 

 「こうなりゃ、出し惜しみ無しよ!喰らいなさい龍砲!!」

 

 至近距離で放たれた龍砲。左手の紫陽花で防御するも体勢を崩されてしまう。

 

 「流石に、至近距離では受け止めることは出来ませんわね。」

 

 「一気に終わらせる!! 喰らいなさい!!」

 

 鈴が龍砲を撃とうとした瞬間だった、右の肩部ユニットが爆発する。

 

 「きゃぁぁぁー! 何?!」

 

 突然の衝撃に驚く鈴。黒江がアサルトブレードを投げて肩部ユニットを破壊したのだ。

 

 「お待たせしました神楽さん。いきます!!」

 

 「わかりました黒江さん!」

 

 右の肩部ユニットを破壊され黒江に意識が向いた鈴に、神楽は紫陽花を水平に構えて先端部分を向けるとワイヤーアンカーが発射され鈴をグルグル巻きにして拘束する。

 

 「えっ?なに?! 何よこれ!!」

 

 突然拘束された鈴は抜け出そうともがくが、両手も巻き込まれて拘束されているため抜け出せない。

 

 「さあ、楽しい回転木馬(地獄のメリーゴーランド)の時間です。」

 

 神楽は両手でワイヤーを確りと握ると、その場でハンマー投げのように回りはじめる。そしてブースターを使い少しづつ加速していく。

 

 

「にゃぁぁぁぁーーーー、め、目が、目がまわるぅぅぅぅぅーーーー!!」

 

 高速回転により目を回していく鈴。そして神楽はワイヤーを切り離し鈴を解放する。

 

 「ふぎゃあ!!」

 

 遠心力により天井まで飛ばされて激突し、そのままアリーナ地面に向けて落下していく。そこに

 

 「ソニックブレイカー!!」

 

 アステリオンの肩部アーマーから伸びる突起部分にエネルギーフィールドが形成され、鈴に向かって高速で突撃する。

 

  「ぎゃあぁぁぁぁぁーー!!!」

 

 ソニックブレイカーの直撃を受けて、再び天井近くまで飛ばされ、そのまま回転しながら地面へと落下し激突する。アリーナ地面には衝撃と共にクレーターが生まれ、中央に鈴が犬神家さながらの体勢で突き刺さっていた。 そして

 

 『甲龍パイロット意識消失により試合続行不能。試合終了!勝者、更識黒江&四十院神楽ペア!』

 

 

 

 

 

 試合終了のアナウンスと共に、アリーナ壁際に退避していたメフィルが鈴を助けようと近づいていくのだった。




 
 


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第18話  綻ぶ運命

 
 
 新元号は令和ですね。 
 どんな時代になるのでしょうか?
 
 そして最初に言っておきます、この作品はアンチ鈴です。 
 
 その事を心にとめて閲覧してください。 お願いします。
   
 



 

 

 代表候補生のいる国の関係者には、特別生中継で国に居ても観戦出来るようになっていた。

 中国にいる春麗もその一人だ。モニター越しに鈴の敗退を見て春麗が

 

 「さて、あなた方が学園への復学を早めた結果がこれです。私はあなた方に忠告したはずです、凰代表候補生は復学させるべきでは無いと。彼女は表面上は兎も角、内面は未だに未熟だと。」

 

 春麗はそう言って、近くに座っていた数人の政府高官に鋭い視線を送る。視線に気づいて、慌てて目をそらす高官達。

 

 「元々、私は彼女を代表候補生に任命するのを反対していました。確かに相応の実力は有していましたが、精神があまりにも未熟でした。それにも関わらず、あなた方はISの適正と技量のみに重きを起き、彼女を代表候補生にしました。その結果、彼女は増長し自分の我が儘を押し通そうと、無茶な行動に出るようになりました。」

 

 春麗の言葉に身に覚えのある高官達は気まずい表情になる。

 

 「ここで、改めてあなた方に凰鈴音代表候補生に対する対応を提案させていただきます。IS学園を退学し、中国への即時帰国。帰国後は専用機を没収し、候補予備生へ降格し一から訓練のやり直しでいかがでしょうか?」

 

 春麗の提案を高官達は渋い顔で聞く。鈴の実力は中国国内において目を見張るものがあり、中国の力を諸外国に示す為にも必要な処置だったと思っていた。

 だが、結果を省みれば

 

 「わかった、黄管理官。君の意見を受け入れよう。直ぐに()()()()()()()に連絡してくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園

 

 アリーナでは1年生の試合が続いていた。

 

 そして、ついに夏輝達の順番になった、

 

 

 『さあ、1回戦の最大の山場を迎えました。いよいよ世界に二人しかいない男性操縦者同士の戦いが幕を開けます。』

 

 最初に出て来たのは百春と箒だった。

 

 『最初に登場したのは織斑百春&篠ノ之箒ペア。二人が纏っているのは共に倉持技研が開発した第3世代機スレードゲルミルとグルンガスト零式です。どちらも重厚な存在感を示しています。』

 

 次に夏輝と円華が登場する。

 

 『そして更識夏輝&更識円華ペアが登場です。ウイング社が開発した第3世代機のサイバスターとヴァルシオーネRを纏ってます。ある意味、日本を代表する2大ISメーカーの代理戦争と言えるでしょう。』

 

 四人とも無言で向き合っている。そして

 

 

 『それでは、試合開始!!』

 

 合図と共に百春と箒は斬艦刀を、夏輝はディスカッター、円華はディバインブレードを構えて飛び出す。

 

 「箒は円華とか言うやつを、俺がさ?!何!!」

 

 百春は夏輝と戦うつもりで向かっていたが、夏輝と円華が入れ替わり、円華が目の前にいた。

 

 「お前の相手は私だ。光栄に思え、私も兄さんも()()()()()()()()剣で戦ってやるよ」

 

 そう言ってディバインブレードで斬りつける円華。それを慌てて斬艦刀で受ける百春。 何より、自分達に合わせてという言葉に驚きと怒りを感じた。 即ち、自分達はその程度で倒せる、と言われたも同然なのだから。

 

 

 

 一方、箒も円華の相手をするつもりでいたのに夏輝が来たことに驚いていた。

 

 「貴様、何故百春と戦わない!百春が怖いのか!」

 

 「俺の妹が言ったんだよ。俺が相手する必要が無いと。織斑では俺の相手は務まらないとさ。」

 

 夏輝の言葉に激昂する箒。

 

 「馬鹿にするな!!むしろ、お前ごときが百春の相手をするなぞ烏滸がましい!私の手で成敗してやる。」

 

 「それなら、ハンデだ。お前に合わせて剣で戦ってやるよ。射撃武器を使って卑怯だの汚いだの言い掛かりを付けられたくないしな。」

 

 「剣こそ日本人に相応しい武器なのだ!銃なぞ邪道だ!! 見せてやる斬艦刀・雪片零式の力を!」

 

 箒の持つ斬艦刀・雪片零式の刀身が淡く光る。そのまま夏輝に斬りかかる。 

 

 「見よ、これが斬艦刀・雪片零式の力、零落白夜だ!!」

 

 だが、夏輝はその斬撃をディスカッターで受け流し、そのまま斬りつける。ディスカッターの斬撃を受けて箒は下がり間合いをとる。 そしてまるで勝ち誇ったかのように言う。

 

 「ふっ、見たか。零落白夜の力を!少し触れただけでもSEを大きく奪うのだ。今の一撃でお前のSEは・・・・な、何故だ!何故減っていない?」

 

 「なるほど、そういう事か。だが、剣で受け流せば何ら関係無いようだな。何より、もうお前の太刀筋は見切った。もう、お前の剣は俺に触れる事はない。」

 

 その言葉にまたしても激昂する箒は

 

 「ふ、ふざけるなぁーーー!!!」

 

 叫びながら、箒は斬艦刀を振るう。だが、それは剣道有段者とは思えぬ乱雑で力まかせの物で、素人のような滅茶苦茶なものであった。

 

 「右袈裟、横凪ぎ、唐竹、突き、逆袈裟、横凪ぎ・・・」

 

 「くそっ!避けるなぁーーー。」

 

 夏輝は箒の太刀筋を言い当てながら、それをディスカッターで捌く。少しでも隙が出来れば斬りつける。

 それを繰り返す内に、箒の太刀筋が鈍りはじめる。

斬艦刀という竹刀とは全く違う物を使いこなすのは容易な事ではない。まして、激昂したまま無茶苦茶に振るえば、普段より体力を失うものだ。 既に息があがり、肩が大きく上下している。

 

 何より、箒自身は気づいていなかったが零落白夜をずっと発動させ続けている事で自身のSEが3割を切っていることに。 

 零落白夜は発動と引き換えに自身のSEを減らすという諸刃の剣なのだ。 その事を千冬に忠告されていながらも激昂し冷静さを失った箒は失念していたのだ。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・こうなれば!!」

 

 箒はブースターを使い高く飛び上がる。そして斬艦刀を大きく振りかぶり

 

 「くらえ、篠ノ之流剣術一閃、疾風怒濤!!」

 

 瞬時加速と斬艦刀に装着されているスラスターを使いながら夏輝目掛けて斬艦刀を振りおろす。

 だが、夏輝はその斬撃を紙一重で避ける。斬艦刀はアリーナの地面に深々とめり込む。そして

 

 「もう終わりだ。神祇無窮流剣術、虚空斬!」

 

 箒の周囲を風のように舞い、ディスカッターを振るっていく。連撃は吸い込まれるようにグルンガスト零式の装甲を斬り裂いていく。

 

 『グルンガスト零式、SEエンプティー!篠ノ之箒、試合続行不能。』

 

 アナウンスを聞いて箒が喚く。

 

 「ま、まだだ!まだ私は負けてない!私はまだ戦える!!」

 

 『篠ノ之さん、貴女は既に負けたのです。試合の邪魔にならないようにアリーナの壁際に移動してください。』 

 

 管制室の真耶から箒に指示がとぶ。

 

 「いいえ!私はま『いい加減しろ篠ノ之!お前は負けたのだ。大人しく指示に従え。』ぐっ!!・・・・わかりました。」

 

 まだ駄々を捏ねようとした箒だったが、千冬からの叱責に渋々と従う。マスク越しに睨んでいるのが、夏輝には感じとれた。 諦めの悪い態度の箒に溜め息をつき、円華の方に視線をやる。

 

 

 

 

 時間は少し戻り、円華が百春と対峙した直後。

 

 「こっのおぉぉぉーーー!」

 

 斬艦刀を頭上でグルグル激しく回転させ、その遠心力を利用して、横凪ぎで斬りつける。 無論、そんな大振りの攻撃なんて円華には避けるのも容易く、軽々と避け斬艦刀が過ぎた直後に踏み込んで、ディバインブレードで突きを放つ。

 

 「?!」

 

 「ちっ!!」

 

 だが、何かを感じとった円華は百春に突きが当たる前に後退加速で、一気に下がる。

 直後、円華がいた場所を目掛けて斬艦刀が振り下ろされた。  百春も斬艦刀の扱いに馴れてきたようで以前より取り回しが早くなっていた。斬艦刀の重量と遠心力を利用しながら、次々と円華に向かって斬りつけていく。 この時既に百春の頭から斬艦刀以外を使って戦うという選択肢は消えていた。

 そう、試合開始直後に円華に言われた言葉が心に突き刺さっていたのだ。

 

 「何が、お前達に合わせてだ!舐めるな!!」

 

 だが、百春は失念していた。自分の未熟な斬艦刀による攻撃は読まれやすいという事を。

 斬艦刀はその大きさと重量故に常に動作が大きくなる。細やかな動作を必要とするフェイントや切り返しが今の百春では出来ないのだ。 つまり、単調な攻撃になるのだ。

 

 最初の内は百春が攻めていて押しているように見えたが、直ぐにその攻撃の合間を縫って円華の攻撃が当たるようになった。

 

    そして

 

 『グルンガスト零式、SEエンプティー!篠ノ之箒、試合続行不能!』

 

 というアナウンスが聞こえてきた。

 

 「そんな、箒が?!」

 

 箒が負けた事で明らかに動揺する百春。 何より2対1と不利な状況になったことに動揺した。

 だが、そんな百春の考えを読み取ったのか円華が

 

 「心配するな、兄さんは手出ししない。何よりお前は私に負けるのだからな。」

 

 そう言って円華がディバインブレードを振るう。 

 夏輝の指導を仰ぎ、円華は神祇無窮流剣術を徐々に会得していった。

 無論、技量に関しては夏輝はもとより身体能力では円華に劣る黒江の足元にはまだ及ばないものの、生来の学習能力の高さが発揮され1つ1つの技の完成度は目を見張るものなのだ。

 

 「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」

 

 内心で焦りながら斬艦刀を振るう百春、だがその太刀筋は既に円華は見切っており、避けていく。逆に円華の斬撃が攻撃の合間を縫って百春に命中していく。

 

 「神祇無窮流剣術 虚空斬!」

 

 夏輝が風のように舞ったのに対して、円華は百春の周囲を蝶のように軽やかに舞い、ディバインブレードを振るう。連撃はスレードゲルミルの装甲を斬り裂いていくが、少し浅かったようでSEを削りきれなかったようだ。

 

 「くっそぉぉぉぉーー!こんな剣、もういらねぇーー! ドリルナックル!!」

 

 もう後が無い百春は、斬艦刀を投げ捨ててドリルを両腕に装着して殴りかかる。

 喧嘩殺法のように高速回転するドリルで殴り続ける百春。 だが、それすら円華には掠りもしない。

 

 「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」

 

 「悪あがきだな。せめてもの情け、私が今使える最大の剣技で終わらせてやろう。」

 

 そう言って円華は後方に下がると、ディバインブレードを両手で握り頭上で構える。そしてゆっくりとディバインブレードで円を描いていく。

 

 「あたしの顔に照り映える月の光があんた、この世の見納めだよ。」

 

 ディバインブレードの軌跡が真円の月を描いた瞬間、円華は百春に向かって加速して近付き、直前で飛び上がり上段から斬りかかる。

 

 「・・・・・・・・・・あっ?!」

 

 円華が描いた真円の月の軌跡に一瞬目を奪われた百春は反応が遅れる。

 

 「秘剣、円月殺法!!」 

 

 上段で斬りつけた後、後方に少し下がり再び加速しながら近付き横一文字に斬る。 百春は避ける事が出来ずにまともに斬られる。

 

 「うわぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 そして、その瞬間

 

 『スレードゲルミル、SEエンプティー。試合終了!勝者更識夏輝&更識円華ペア!』

 

 勝敗が決したのだった。

 

 円華はディバインブレードを鞘に納めると、夏輝の元に行く。二人はそのままピットに戻る。 

 ピットに戻りISを解除すると夏輝は

 

 「よくやったな円華。 ただ虚空斬の斬りつけが少し浅かったな。あと、10cm程度踏み込むべきだったな。」

 

 夏輝に指摘を受けて少し落ち込む円華。しかし夏輝は円華の頭に手を置いて

 

 「まあ、円月殺法はよく出来ていた。頑張ったな円華。」

 

 そう言って頭を撫でて誉める。円華は撫でられて嬉しそうに頷く。

 

 

 

 

 

 

 反対側のピットに戻って内心で罵詈雑言を吐く百春と箒。明らかに負けた事が納得いっていないようで不機嫌な様子を露にしていた。

 

 (くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!なんだよ、なんで勝てないんだよ!俺はオリ主だろ、この物語の主人公だ。なんで、活躍出来ないんだよ!!主人公補正はどうした!!)

 

 (何故だ、何故負けた!私の方が、私の・・・・・私の?・・・・み、認めるか、認めるものか!あいつが、私より、百春より強いなどと!!)

 

 その時、千冬が入ってきた。

 

 「全く、無様な姿だな。」

 

 入って来て、第一声がそれだったので百春と箒は顔を背ける。

 

 「私が言っているのは試合内容も去ることながら、今のお前達の姿だ。自分達が何故負けたのかを理解せず、負けた事を認めようとしない、その姿だ。」

 

 千冬に指摘されるも、納得がいっていない二人。

千冬は溜め息をつき

 

 「さて、二人とも専用機を私に渡せ。」

 

 千冬に言われ二人は慌てる。

 

 「「ど、どういう事ですか千冬姉!」千冬さん!」

 

 

 「今日の試合を見てハッキリとした。お前達の専用機の武装である斬艦刀は、お前達には合っていない。そこで倉持に戻して武装変更をしてもらう。確かまだ打鉄改式用の雪片があったはずだからな。」

 

 千冬にそう言われ、二人は待機形態のISを渡す。

 

 「それから今後、アリーナでの訓練には私が付き添う。」

 

 そう言って千冬はピットを立ち去るのだった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 アリーナ貴賓室

 中国の関係者が滞在する部屋に鈴の姿があった。鈴の後ろにはSPがおり、その前には3人の中国高官が。

 そして、中国高官の側にはハンディモニターがあり、そこには春麗の姿が映し出されていた。

 

 『さて、試合は確りと見せていただきました()()()()()()()。』

 

 春麗の言葉の一部分に反応し、動揺する鈴。

 

 「ま、待ってください、元代表候補生?!」

 

 『はい、そうです。先程決定しました。凰鈴音、貴女を代表候補生の地位剥奪、並びに専用機[甲龍]の没収。そしてIS学園を退学の上で中国への帰国を命じます。なお、中国帰国後は候補予備生として一からの再教育となります。』

 

 春麗にそう言われ、膝から崩れ落ちる鈴。SPの1人が手首にある黒いブレスレットを取り金属ケースに納める。それをみながら、鈴は首を横に振り

 

 「なんで、なんで・・・・・・」

 

 『元々貴女は、代表候補生としての必要な心構え、精神の資質を欠いてました。ですが、政府上層部は諸外国へのアピールを急務とし、まだまだ未熟だった貴女を代表候補生に任命し専用機を与えました。 ですが、前回と今回の一件を受けて貴女の代表候補生としての資質に問題ありと、判断されました。』

 

 その瞬間、鈴は扉を開けて部屋から逃げ出した。SPが慌てて後を追おうとするが春麗が止める。

 

 『お待ちなさい。あなた達が追う必要はありません。既に手配してあります。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   アリーナ貴賓室を飛び出した鈴。

 彼女は3時間後に、ある町の小さな食堂にいた所を確保され中国へと送還された。

 余談だが、その際に店内にいた少年と壮年の男性が鈴の逮捕に抗議し抵抗したが、事の経緯を説明できる範囲で話したところ、渋々引いてくれたとの事。

 




 
 残念ながら鈴はここで退場となります。
 
 ちなみに最後にでてきたお店はもちろん、空飛ぶお玉の、あのお店です。


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第19話  撃ち破る者

 
 
 いつも誤字、脱字、並びに文章不備の修正の御協力ありがとうございます。
 この場をお借りして御礼申し上げます。

  
 



 

 

 学年別タッグマッチトーナメント戦も、無事に1回戦の全ての試合を終えて、3日目を迎えた。

 

 百春&箒ペアと鈴&メフィルペア以外は、無事に勝ち進んだのだ。 百春は自分が負けた事が、納得出来ずにいたが、それ以上の予想外の出来事が起きた。

 それは、初日の事だった。 夕食を終えて一人部屋となった自室に戻った時に、百春のスマホに着信があった。 相手は中学時代の悪友のひとり、五反田弾だった。

 

 「もしもし、どうした弾? また女を紹介しろってか?」

 

 『バカ!!そんな事を言ってる場合じゃねえよ!!』

 

 何時もと違う話し方に百春は違和感を抱き

 

 「どうしたんだよ?なに興奮してんだよ。」

 

 『いいからよく聞け!さっきうちに鈴が来たんだよ。IS学園から逃げて来たって!』

 

 「何言ってんだよ弾? 鈴なら学園にいるぜ、何より今日は学校行事に参加してたんだからよ。」

 

 そこまで言って百春はあることに気づいた。

 

 (・・・・・そういや、試合が終わってから鈴の姿見てねえな?・・・・・負けたショックで部屋に籠っているのか・・・でも・・・)

 

 『いいから聞けよ!鈴のやつな、今日の試合で負けた事が原因で代表候補生を辞めさせられ、学園も退学させられて、中国に帰されるだと!』

 

 弾の話に絶句する百春。百春の中で4月の出来事が蘇ったのだ。

 

 『泣きながら帰りたくない、学園を辞めたくない、って言ってたんだけどよ。そしたら中国の役人とか警備員みたいなのが店に来て、連れていったんだよ!!』

 

 弾の話に何も言えない百春。

 

 『俺とじいちゃんが、止めようとしたんだけどさ・・・・・』

 

 弾が言葉を濁す。

 

 「どうしたんだよ弾!何があったんだ?」

 

 『鈴のやつな、IS学園に来るために色々とやってはいけない事をやったみたいでさ。お偉いさんの心証が元々良くなかったみたいなんだ。その上、学園に通っている間にする仕事があったんだけど、全然してなかったんだってよ。それで等々・・・・すまねえ百春、俺達にはどうする事もでき』

 

 百春は最後まで聞かずに電話を切り、部屋を出て走って千冬の部屋に向かった。

 

 

   ドンドンドン、ドンドンドン

 

 「ち、千冬姉、千冬姉!いるんだろ!!」

 

 「喧しい!!寮内で騒ぐな!! そんなに怒鳴らなくてもわかる!」

 

 扉を開けるなり、百春の頭を殴る千冬。 殴られた箇所を手で押さえ痛みをこらえて百春は

 

 「そ、それより千冬姉!鈴が、学園を辞めさせられたって「織斑!静かにしろ! 説明するからこっちに来い!」わ、わかった。」

 

 百春は千冬に連れられて寮の端にある特別談話室に入った。 ここは寮生の悩みとかを聴く部屋で防音が確りされているのだ。

 

 「さて、織斑。お前はどこでその話を聞いた。」

 

 「弾の奴からだよ。さっき電話があって!」

 

 「そうか・・・・どちらにせよ明日にはわかる事だしな。仕方あるまい。だが、公表されるまでは他言無用だぞ、わかったな。」

 

 千冬の迫力に弾の話が本当だと確信した百春。

 

 「凰は今日付けで学園を退学し、そして中国に帰国させられた。これは中国本国からの命令と聞いている。」

 

 「千冬姉!何とかならなかったのかよ!例えば特記事項第21で助けることは「無理だ」えっ?!」

 

 「特記事項第21は、あくまでも一般生徒に適用されるものであり、中国代表候補生である凰には適用されない。」

 

 「でも、鈴は代表候補生を辞めさせられたんだろ!なら?」

 

 「凰は確かに代表候補生を辞めさせられた、しかし彼女は中国の代表候補予備生なのだ。つまり彼女は未だに中国所属のIS操縦者なのだ。」

 

 千冬の言葉に何も言えない百春。

 

 「今日は疲れただろう。部屋に戻って休め。」

 

 千冬は話を終えると部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ観客席

 

  未だに百春は鈴が居なくなったショックから立ち直れていなかった。 一方、箒は最大のライバルが居なくなった事は嬉しいが、百春がショックを受けて塞ぎ込んでいるのが気になっていた。

 

 

 そんな中、アリーナの中央スクリーンに2回戦の対戦カードが発表された。

 本来ならトーナメント表通りにする予定だったのだが、専用機持ち同士又は代表候補生同士の対戦で固まっていた。そこで急遽、学園上層部とIS委員会等が話し合いをし、対戦カードを抽選し直す事が決められたのだ。

 

 

 『おおっと!1試合を除いて、代表候補生と専用機持ちのペアはバラけた。そして唯一の試合が、更識夏輝&更識円華ペアVSラウラ・ボーデウィッヒ&夜竹さゆかペアだ。しかも、しかも!このあと直ぐに行われます!!』

 

 観客達は、その対戦カードに興奮するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「兄さん、どうやって戦う?」

 

 「あのAICが、やっぱり厄介だよな。1回戦のを見た限りだと効果範囲は限定的で、前後左右と別れていれば何とかなるとは思うけど、断定は出来ない。とりあえずは俺が彼女と戦うから円華は夜竹さんを頼む。」

 

 「わかったよ兄さん。」

 

 「それから円華、万が一の場合はアレを使うからな。」

 

 「それって私も使っていいのか?」

 

 「構わないよ。」

 

 

 

 

 「ど、どうしようボーデウィッヒさん?!」

 

 さゆかが不安そうにラウラに聞く。

 

 「夜竹・・・すまないが、勝ち筋が見えてこない。私一人では二人に勝つのは不可能だ。分断して個人戦に持ち込もうにも、お前一人でどちらかを押さえる事も難しいだろう。 となれば、勝つのはではなく負けないよう・・・せめて引き分けに持ち込めるように戦う事しか出来ない。かなり分の悪い賭けになるがな。」

 

 「負けないように?」

 

 「そうだ、お前の今後の糧にするためのも、それが最善だと私は考える。」

 

 「私のため?」

 

 「そうだ・・・・正直に言う。私はここに入るまで・・・いや、ここに入って暫くの間、殆どの生徒を馬鹿にしていた。ISに対する心構えのなっていない軟弱者やミーハーの集まりだと。だが、その内にそれは一部の者だけで大半は真面目に学んでいることに気づいた。」

 

 そう言ってラウラはさゆかを見て

 

 「しかも、中には磨けば光る宝石の原石のような才能の持ち主もいた。お前もその一人だ。今はまだ石ころと何ら変わり無いかも知れんが、お前が努力し続ければ、その才能は花開くだろう。それ故に私はその手助けをしたいのだ。」

 

 「ボーデウィッヒさん・・・・」

 

 「さて、その為にも装備を変更しなければならないな。万が一の為に手配していたアレを使うぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『それでは、お待たせしました。学年別タッグマッチトーナメント戦の2回戦の第1試合です。 まずはラウラ・ボーデウィッヒ&夜竹さゆかペア。1回戦ではボーデウィッヒさんの活躍もあり危なげない試合運びで快勝しました。今回はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?』

 

 アリーナのフィールドにラウラとさゆかが現れる。 だが、さゆかの姿を見て観客達はざわめく。 さゆかのラファール・リヴァイブがかなりの重装甲となっていたからだ。

 頭部にはフルフェイスの大型ヘルメット、背中には巨大なキャノン砲、両肩の追加装甲から伸びるガトリング砲の副腕、両脚には移動用のキャタピラが付いた脚部追加装甲、まるで戦車と言っても過言ではない程だった。 

 これまた3年整備科が[クアッド・ファランクス]を参考にして作った露漫武装の1つ[デストロイヤー]だ。

 

 『さて、続きましては更識夏輝&更識円華ペア。こちらも1回戦では織斑百春&篠ノ之箒ペアを相手に完勝しました。今度は如何なる戦いを見せるのか、こちらも楽しみです。』

 

 夏輝と円華が現れると歓声が一層大きくなる。

 

 「兄さん、アレって・・・・」

 

 「・・・・・・・円華、やっぱりアレを使うことになりそうだ。」

  

 夏輝はディスカッターを円華はメガビームランチャーを構える。

 ラウラはプラズマブレードをさゆかは両手にトンファーのような形状の銃を持っている。

 

 

 『それでは、試合開始!!』

 

 「いきます!!」

 

 試合開始の合図と共に、デストロイヤーの装甲が開き中からミサイルが姿を現し放たれる。100発近いミサイルが夏輝達を襲う。

 

 「いきなりかよ!」

 

 「兄さん!!」

 

 「行くぜ!!サイフラァァァッシュ!!」

 

 夏輝がディスカッターを頭上に掲げると、ディスカッターを中心に蒼い光の波が放たれ、アリーナのフィールド全体に広がる。ナノマシンを利用した、サイバスターの広域型拡散波動兵器[サイフラッシュ]である。

 ミサイルが着弾していないにも関わらず次々と爆発していく。

 いや、それだけでなく

 

 「な?! ダメージを?!」

 

 「ボーデウィッヒさん?!」

 

 サイフラッシュの光に触れた事でISがダメージを受けたのだが、同じように触れている筈の円華のヴァルシオーネRがダメージを受けていない事に更に驚く。

 

 「一体、どんなカラクリだ。だが、このままでは!!」

 

 そう、言ってラウラは瞬時加速で夏輝に接近する。

 

 「ハァァァァーーー!!」

 

 「セェェーーーーイ!!」

 

 プラズマブレードとディスカッターがぶつかり、せめぎ会う。

 

 「何やら面白い事をしてくれたな。」

 

 「そりゃどうも。」

 

 「出来れば1対1で戦いたかったな。」

 

 ラウラはそう言うとさゆかに一瞬だけ視線をやる。

そこには円華と戦うさゆかの姿があった。

 

 

 さゆかに向けてメガビームランチャーを射つ円華。

キャタピラを使い地面を滑走しながら、多少被弾しながらも回避し続けるさゆか。そして、ガトリング砲で反撃を試みる。それだけでなく、背中のキャノン砲も撃つ。

 

 「やるわね。貴女は少なくとも織斑百春よりは強いわ。だから、この技を贈るわ。」

 

 ガトリングの銃弾を回避し、キャノン砲の砲弾をメガビームランチャーで撃ち落とす円華はさゆかをそう評価した。 円華はメガビームランチャーを収めると、両手を胸の前で交差してショルダーアーマーに掌を向ける。

 

 「それじゃあ、いくよ!クロォォスソォォサァァァァッ!!」

 

 右肩から青い円盤、左肩から赤い円盤が生まれ、さゆか目掛けて放たれる。2色の円盤は複雑な軌道を描きラファールの・・・デストロイヤーのキャノン砲やガトリング砲を次々と切り裂いていく。デストロイヤーのパーツは原型をとどめていなかった。

  そして円盤は円華の元に螺旋を描きながら戻り球体となる。その球体を右足で頭上に蹴りあげると

 

 「魔球・ミラージュボール1号!」

 

 その球体を右腕でジャンピングサーブで打ち出す。

球体は加速しながらさゆかに命中する。

 

 「きゃぁぁぁぁーーーーーー。」

 

 さゆかはそのままアリーナの壁まで飛ばされて激突する。

 

 『ラファール・リヴァイブ、SEエンプティー!夜竹さゆか、試合続行不能。』

 

 

 

 

 

 夏輝と競り合いながらラウラは

 

 「夜竹が負けたか・・・・よく戦ったな。しかし、こうなると不利だな。それでも夜竹の為に最後まで戦わせてもらうぞ!!」

 

 ラウラはそう言って距離を取ろうと、した瞬間だった。突然、ラウラの動きが止まる。

 

 (・・・・汝、力を望むか?)

 

 (何だこれは?)

 

 (・・・・汝、強者の力を求めるか?)

 

 (いったい何を言っているのだ?)

 

 (・・・・汝、世界最強の力を欲するか?)

 

 (だいたい誰だ、お前は?何を言っている!)

 

 (・・・・汝、更なる力を、無敗の力を、最強の剣を欲するか?)

 

 (いったい何なんだ!試合の邪魔をするな!!夜竹の為に・・・さゆかの為にも私は己の力で戦うのだ!!)

 

 (・・・・VTS・・・誘導発動・・・失敗・・・・)

 

 (・・・・・・・・・VTS・・・・強制発動!!!)

 

 「うぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!」

 

 突然、ラウラが苦しそうな叫び声をあげる。

 次の瞬間だった。ラウラのIS[シュヴァルツェア・レーゲン]から突如として紫電を発する。そして装甲が形を失い融解していく。

 

 「何?」

 

 「兄さん?!」

 

 「ボーデウィッヒさん!!」

 

 やがて原型が無くなり液状と化し、ラウラを包み球体となる。そんな中、ラウラは必死になって足掻いていた。

 

 (止めろ!止めるんだ!!私は望んで無い!!!)

 

 (・・・・受け入れろ、それが運命だ)

 

 (嫌だ!そんなの認めん!!)

 

 (・・・・無駄だ。お前は、この為に作られたパーツなのだ)

 

 (違う!私はパーツではない!!私は、私はラウラ・ボーデウィッヒだ!!!)

 

 

 激しく蠢く漆黒の球体。やがて、その形を変えていくのだった。

 その姿は

 

 「兄さん、アレって・・・・」

 

 「暮桜か・・・・そうなると、アレはVTSか。」

 

 「VTSって確か、開発・研究が禁止されているシステムだよね。」

 

 「そうだ。操縦者の命を奪う危険のある、禁断のシステムだ。」

 

 

 

 

 

 貴賓室

 ドイツ高官達は突然の出来事に驚いていた。

 

 「何だあれは?」

 

 「何が起きている!」

 

 「アレは、もしや!」

 

 「まさかVTSか!!」

 

 「何故、あんなものが!!」

 

 「?! まさか、あの女が!! 直ぐに本国に連絡を!あの女を、ロイズ・レクセルズを拘束せよ!!」

 

 

 

 アリーナ管制室

 

 「な、なんですかアレは?」

 

 「不味いわね。アレはVTSよ!」

 

 真耶の疑問に答えるスコール。

 

 「何であんなものがラウラのISに!!」

 

 千冬は激昂するのだった。

 

 「織斑先生!非常事態です。教員部隊の出動を!」

 

 スコールの要請に千冬は無言で応じるように管制室を飛び出す。

 

 「更識君、聞こえる!」

 

 『聞こえますミューゼル先生。アレは、VTSですよね。教員部隊の出動は?』

 

 「今、出動準備に掛かったわ。あと5分程で出動するわ。」

 

 『・・・・間に合わないかも知れません。』

 

 「わかっているわ!だからお願いがあるの。」

 

 『言わなくてもわかります。ラウラを助けます。』

 

 「ミューゼル先生?!」

 

 「ボーデウィッヒさんを見殺しにする訳には行かないわ。それに彼等なら!」

 

 

 

 

 

 

 アリーナフィールド

 

 ラウラを取り込んだ漆黒の暮桜・・・偽暮桜は剣を構える。だが、そこで異変が起きる。 偽暮桜の腹部が異様に盛り上がった瞬間だった、中から突き破り右手が現れた。ラウラの右手だろう、しかし装甲部分が液状となり右手を押し込めようと絡み付く。

 

 「円華!奴の気を引いてくれ!俺がボーデウィッヒを引き摺りだす!」

 

 「わかった兄さん!!」

 

 夏輝は偽暮桜の元に飛ぶ、そして円華はクロスソーサーで右手の近くの装甲を削っていく。

 

 「更識君、更識さん!ボーデウィッヒさんを、ボーデウィッヒさんを助けて!!」

 

 さゆかが叫ぶ。 そんなさゆかに夏輝が声をかける。

 

 「夜竹さん、ボーデウィッヒに呼び掛けて!!」

 

 「頑張って、頑張ってボーデウィッヒさん!ボーデウィッヒさん、頑張って!!」

 

 さゆかの声に答えるかのように右手がもがく。

 

 

 (・・・・・頑張・・・・・って・・・・・・) 

 

 (・・・・・受け入れろ、お前はパーツなのだ)

 

 (違う、私はラウラ・ボーデウィッヒだ!)

 

 (・・・・・頑張って・・・・って・・・・・)

 

 (・・・・・受け入れろ、力で求めよ)

 

 (嫌だ!そんな力いらない!)

 

 (・・・・・・頑張・・・・・って・・・ボーデウィッヒ・・・)

 

 (パーツとなり、最強の兵器となれ)

 

 (私は人間だ!兵器ではない!!)

 

 (・・・・頑張って・・・・・って、頑張ってラウラ!!!)

 

 (さゆか!!)

 

 その瞬間、ラウラの視界に光が溢れる。

 

 

 

 ディスカッターで偽暮桜の剣・・・雪片を受け止めて、左手でラウラ右手を掴み引っ張る。

 

 「頑張って、頑張って、頑張って、ラウラァァァーーー!!!」

 

 さゆかの叫びに答えるように偽暮桜から一気にラウラが抜け出した。 夏輝はそのまま偽暮桜を蹴り飛ばし、さゆかの元に行く。

 

 「夜竹さん、ボーデウィッヒさんを頼む!」

 

 ラウラをさゆかに預けると、さゆかは

 

 「よかった・・・・よがっだ・・・・よがっだよラウラァァァーーー。」

 

 ラウラを抱き締めて泣き出す。夏輝はそのまま偽暮桜に向かう。偽暮桜はラウラが居なくなった事で、動きが鈍りはじめた。 合流した夏輝と円華はディスカッターとディバインブレードを構え、夏輝は左手を円華は右手を前に突き出して

 

 「円華、合わせろ!」

 

 「わかった兄さん!」

 

 二人は偽暮桜の左右に別れ、斬りかかる。

 二人は偽暮桜の周囲を高速で飛びまわり、連続で斬りつけて行く。 そして

 

 「決めるぞ円華!」

 

 「わかった兄さん!」

 

 再び左右に別れて、同時に瞬時加速で偽暮桜に向かっていき同時に交差して斬りつける。

 

 「「神祇無窮流剣術、合技、歌舞伎十八番、参会名護屋、暫!!」」

 

 二人が離れた場所で剣を振るうと、偽暮桜は砕け散っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話  事後処理

 

 

 アリーナ観客席

 

 偽暮桜が出現した瞬間、百春は立ち上がっていた。

 

 (そうだ!!思い出した!ラウラのVTS事件だ!ここで俺が乱入して偽暮桜を倒してラウラを助けるんだ! )

 

 慌ててアリーナのピットに向かって走り出す百春。百春の突然の行動に驚き、慌てて立ち上がって百春を追いかける箒。

 

 (ようやく、ようやく主人公としての見せ場が!見てろよイレギュラーの奴に、いい顔はもうさせない!俺が活躍して、ヒロイン達を一気に取り戻す!)

 

 「待て!どうしたのだ百春!」

 

 「アレは雪片を持っていた、暮桜だ! アレは千冬姉のものだ、あんな偽物が持っていい物じゃない!俺が、俺が倒してやる。」

 

 並走する箒にキメ顔で告げる百春。

 

 「どうやって倒すのだ?」

 

 「そんなの、決まっ・・・・・あっ!!!」

 

 突然、立ち止まる百春。そう百春は思い出した、肝心の専用機・・・スレードゲルミルを千冬に昨日預けた事に。

 

 「そ、そうだ・・・・昨日、千冬姉に・・・・スレードゲルミルを・・・・・そ、そんな・・・・こ・・・・こんな時に・・・専用機が、専用機が無いなんて・・・」

 

 通路で、ガックリと膝をつき項垂れる百春。

 

 「も、百春! そ、そうだ!ピットに行けば、試合に出る者が使う訓練機があるはずだ!それを使えば!!」

 

 百春に発破をかける箒。

 

 「無理だよ箒、使用許可がおりないよ。勝手に使う事も出来ないし、何より訓練機の無断使用は不味いよ。」

 

 結局、百春と箒は事件が解決するまで何もすることなく呆然としていた。

 

 「なんで・・・・・なんで、無いんだよ・・・・・」

 

 「百春・・・・・・」

 

 「どうして・・・・こんなことに・・・・・・」

 

 「・・・・俺は、主人公・・・・なんで・・・・なんで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、このVTS事件を受けて学年別タッグマッチトーナメント戦は中止された。

 学園は直ぐにドイツに説明を求めた。するとドイツは一人の女性技師が独断で行った事と説明した。

 

 女性の名はロイズ・レクセルズと言い、ドイツのIS技師でシュヴァルツェアシリーズの開発と整備を担当しラウラがIS学園に編入する直前にISの最終チェックを担当していたとのこと。

 ドイツはその後の調査で、彼女はドイツでVTS研究の第一人者であったピレイル・ボーラセンの大学での教え子であった事を知るのだった。 ドイツには、かつて一部の政治家と科学者の独断と暴走により、非合法な研究所が密かに作られていた。

 そこでは人体実験に遺伝子強化素体の製造と改造といった、血生臭い事が常に行われていた。ピレイルもそこに所属していたのだ。

  その研究所の末路は、知ってのとおりだ。

 

 ドイツにとってこの研究所は汚点そのものなのだ。この研究は政府全体の総意で行われた物でなく、一部の人間達の暴走によって、行われたあまりにも醜い所業。それ故にドイツは全ての関係者に厳罰を与え、2度とこのような事を起こさないように周知徹底を行った。 

 

 ちなみにラウラは関係者であっても、被害者としての一面が大きい為に処罰は免れ、寧ろ謝罪や賠償の意味を含めて様々な形で優遇されたのだった。

 

 肝心のロイズなのだが、何故彼女が処罰を免れたのか? それは彼女が研究所に所属しておらず更にピレイルとの関係が余りにも希薄だったからだ。 

 彼女は確かにピレイルの教え子なのだが、教えを受けた期間が短く、大学の研究グループの名簿の初期にしか名前がなかったことで全くノーマークだったのだ。

 

 では何故彼女が事件に掛かったのが直ぐに判明したかと言えば、彼女が最近になりVTSの有効活用を目的とした実験や研究を行おうとして、上司に幾度か注意を受けていたのだ。 

 本来ならその時点で、シュヴァルツェアシリーズの開発と整備から外されそうなものなのだが、彼女が余りにも有能であった為にギリギリまで見送られたのだった。

 それでも上司は念のために上層部に報告し、上層部もこれを受けて監視対象にするか検討に入っていた。

 

 だが、結局は出遅れて事件は起きてしまった。連絡を受けて直ぐにロイズの身がら拘束に動いたドイツだったが、その時には既に彼女は逃亡して行方不明となっていた。 ただ彼女の自宅や職場の引き出しに研究資料が多少残っており、そこにVTSに関する物もあったのだ。

 これにより、ドイツは事件は彼女の独断によるものと発表し、彼女を容疑者に認定し、国際指名手配した。

 

 そしてラウラに関しては、今回の被害者と認定されて処罰されないことになった。寧ろ被害者という事で見舞金が支払われ、更に特別休暇が与えられる事になった。

 それと同時にドイツはウイング社に対してラウラの専用機の製造を依頼したのだ。 勿論、ドイツ政府内並びに国内企業からの反発はあったものの、学年別タッグマッチトーナメントでのウイング社の機体の活躍の映像により、そのポテンシャルの高さが証明され反対意見は一蹴された。

 そして今まで、この手の依頼や要請を悉く断っていたウイング社が、この依頼を受けた事で世界中に激震が走った。 この裏には黒江から美兎へのお願いがあったのだが、それは身内にしか知りえない事であり、受注理由は謎のままであった。

 

 

 

 IS学園 アリーナ医務室

 

 ラウラが目を開けて最初に目にしたのは、ベッドの横で椅子に座り、うとうととするさゆかの姿だった。

 

 「あら?気がつきましたね。」

 

 ラウラに声をかけたのは白衣を纏った女性だった。

 

 「貴女は?」

 

 「私はIS学園常駐の医師でテュッティ・ノールバックと言います。ところで、体の具合はどうですか?」

 

 「体がまともに動かせません。少しでも動かそうとすると痛みます。」

 

 ベッドの中で少し動かし、顔を少し歪め自分の体を自己診断を下す。

 

 「今の貴女は全身筋肉痛になっています。筋肉断裂の1歩手前というところです。暫くは絶対安静です、わかりましたか?」

 

 「わかった。ところで何が起きたのだ?」

 

 「・・・・・・箝口令が敷かれてますが、被害者である貴女には知る権利があると思いますので、私の独断で話しますが・・」

 

 「わかっている。聞いた事を誰にも洩らさない。」

 

 「VTSはご存知ですね?」

 

 「はい。・・・・・まさか?!」

 

 「はい、貴女のISに仕込まれていたようです。ですがドイツが先程、この件は国や貴女の意思で行われたのではなく、一人の女性技師の仕業と報告してきました。詳細はまた後日報告してくるそうですが、貴女が何らかの罪に問われる事は無いそうです。」

 

 テュッティの話にラウラは一人の女性・・・ロイズの顔が浮かんだ。

 

 (・・・・・確かに以前から、何処か怪しい雰囲気を持っていた女性だったな。)

 

 ラウラは以前からロイズの事を本能的に警戒していた。言動も去ることながら、ラウラを・・・家畜やモルモットを見るかのような目付きが、気になっていたのだ。

 

 「兎も角、貴女は安心して休んでください。今から鎮静剤も処方しますので飲んでくださいね。」

 

 「わかった。ところで・・・・」

 

 そう言ってラウラはうたた寝をするさゆかに視線をやる。

 

 「彼女、貴女が目を覚ますまで付き添うと言ってきたの。それだけじゃないわ、貴女の世話人を買ってでたわ。理由を聞いたら、パートナーだから・・・パートナーに選んでくれたから、だそうよ。」

 

 そう言われてラウラは、何か暖かいものが浮かびあがってくるのを感じた。だがそれは覚えのあるものだった。 かつて自分が率いる部隊[シュヴァルツェア・ハーゼ]のメンバーと心を通わせ本当の意味で仲間となった時と同じだった。いや、さゆかだけではなかった。夏輝と円華にも同じような物を感じた。

 

 (確かクラリッサが言っていたな、戦いを通じて仲良くなった者を仲間を親友(マブダチ)と、対戦した相手を好敵手(ライバル)と呼ぶと。どちらも友人を意味する言葉と言っていたな)

 

 そんな事を思い出しながら、ラウラは目を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学年別タッグマッチトーナメント戦が中止になった事は色々と影響を及ぼした。

 先ずは、見学に来ていた国や企業の重鎮。彼らは有能な人材のスカウトや自国の人間の活躍、自社製品の評価が目的である。 その為には一試合でも多くして欲しいのだ。それが、中止となれば不満続出となった。

 これに関しては、2学期にそれに替わるイベントを開催することで、納得してもらった。

 

 次に生徒達である。これは自分達を国や企業へのアピール機会の減少したことで不満が出た。しかし此方も2学期にそれに替わるイベントを開催することで納得してもらった。

 

 そして残りの日程である。学年別タッグマッチトーナメント戦の為に1週間・・・6日間の日程を用意した。しかし、実際に消化したのは3日間のみ。そこで学園は急遽協議した。

 その結果、翌日はフィールドと訓練機の整備の為に臨時休校とし、残りの2日間は前倒しで授業を行う事にした。

 

  

 

 

 臨時休校となった、その日。

 夏輝達の姿はウイング社にあった。

 

 ウイング社には実験用に使われるアリーナが2つある。 一般的に使われるのは、本社に隣接する共用アリーナで、此方はウイング社のみならず、申請すれば他社も使用することの出来るものだ。 そしてもう1つが地下に存在する秘密アリーナだ。此方は夏輝達が使う専用アリーナとなっている。

 そして今、地下アリーナのフィールドにシャルの姿があった。今のシャルは黒髪のショートカットに紅い瞳になっていた。美兎特製のナノマシンにより外見が変化していたのだ。更に眼鏡をかけており、以前の雰囲気はまるでなかった。

 

 『それじゃあシャルちゃん、展開してみて。』

 

 管制室にいる美兎からの指示にシャルは従って

 

 「おいでナハト!!」

 

 首のペンダントが耀き、青と白を基調とした完全装甲型のISが現れる。簪のザムジードに近い重装甲型のISだ。

 

 『昨日に比べてどうだい?バランサーを調整して重心を少し前にしたんだけど。』

 

 「纏った感じは、問題無いと思います。」

 

 『OK~!それじゃあ、少し歩いてみようか?』

 

 シャルは言われた通り歩き出す。アリーナを1周したところで美兎が

 

 『いいみたいだね。それじゃあ解除して戻ってきて。』

 

 シャルはナハトを解除して管制室に向かう。夏輝はそれを見た美兎に尋ねる。

 

 「美兎姉さん、あれがシャルの専用機[ナハト]?」

 

 「そうだよ。シャルちゃんの高速切替(ラピッド・スイッチ)を最大限に発揮するために作った第5世代型IS[ナハト]だよ。最大の特長は重装甲でありながらも機動性を確保し、更に多種多様な武装を装備した万能型ISだよ。」

 

 「・・・・・それはいいけど美兎姉さん、少しやり過ぎじゃ?」

 

 モニターに写し出されたナハトの武装を見て呟く刀奈。そこには30を越える武装が内蔵、外付け、拡張領域に収められていた。

 

 「それがさ、シャルちゃんこれ全部を自由自在に使いこなしたんだよ…まさに万能と言っていいね。」

 

 「・・・・・並列思考が出来てるんだ。」

 

 「並列思考というよりは、脳の瞬間的な処理能力と処理速度が桁違いなんだよ。」

 

 簪の呟きを訂正する美兎

 

 「それが高速切替の秘密ですか。」

 

 虚が驚く。

 

 「それで刀奈姉さん、シャルの編入手続きは?」

 

 「終わっているわ。来週の月曜日に3組に編入するわ。ウイング社のテストパイロットにしておくわ。」

 

 夏輝の質問に答える刀奈。そして簪が

 

 「でも何故3組に?4組はダメだったの?」

 

 「流石にこれ以上、専用機持ちを同じクラスにするのは少し問題があってね。だからと言って同じ1組も不味いし更に言えば、1組と合同授業の多い2組も除外すると、3組しか無いから3組にしたの。」

 

 刀奈の説明に納得する簪。

 

 「そう言えば、1年生は毎年7月に臨海合宿が行われるのですが、それに関して今議論されているらしいです。」

 

 虚が思い出したかのように言う。それを聞き円華が尋ねる。

 

 「どういう事だ?」

 

 「今年は1年生のイベントで2度もトラブルが起きましたから、中止や延期といった選択肢を含めて開催するか検討することになったそうです」

 

 「そもそも臨海合宿で何をするんだ?」

 

 虚の説明を聞き再び質問する円華

 

 「2泊3日の日程で、初日は自由行動なんだけど行き先は毎年同じ場所だから海水浴やビーチスポーツをしたり遊ぶの。それで2日目に野外におけるISの機動訓練や高速機動訓練、そして専用機持ちには国や企業から届くパッケージや新装備のテストがあるの。」

 

 刀奈の説明に夏輝が

 

 「毎年同じ場所だと、万が一の事態が起きやすいんじゃ?」

 

 「それに関しては大丈夫よ。宿泊施設はうちの関係施設だから従業員の身元は勿論の事、施設も万全にしてあるから。それからテストする場所は1週間前からIS学園から人員を派遣して不審物探索に監視カメラやセンサーの設置、立ち入り規制をすることになっているわ。」

 

 刀奈が答える。

 

 「・・・・でも、今年は何かが起きそうな気がするな。」

 

 

 

 

   この時は、夏輝の言葉が現実になるとは誰も予測していなかった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ????????

 

 「それでは、VTSの実験は失敗という事ですねロイズ」

 

 「申し訳ございませんフォーラン様。」

 

 「例のゴーレムの件も含めて、あの方はお怒りですよ。」

 

 「ほ、本当に申し訳ございません。」

 

 「・・・・・ところで、ゴーレムの研究の方は進んで?」

 

 「はい、現在はゴーレムをベースにして作り上げた無人機動兵ナグロッドの開発に成功しました。ただ、ISと比べますと性能は劣ります。」

 

 「構いません。ようは、大量の無人機による一時的な制圧や牽制が目的です。あくまでも本命は、ISなのですから。それでISの方はどうですか?」

 

 「やはりコアに関しましては、解明出来ない未知の部分が多く量産の見通しはたっておりません。外側を動かすだけの機動デバイスは出来ておりますが・・・・・」

 

 「そのような物は、あの方は欲しておりません。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「ロイズ、我々の目指す新世界創造の為にはISが必要です。しかしコアの数が限られている上に大半のコアは国が管理しており、入手はかなり困難です。肝心の篠ノ之博士が亡くなった以上は自力での開発が急務なのは解ってますね。」

 

 「はい・・・・・・・・」

 

 「貴女は引き続きコアの研究開発の続行を。私は彼女に命じてコアの回収を進めていきます。」

 

 「わかりましたフォーラン様。」

 

 「それから、何者かが最近嗅ぎまわっているようです。現存する張り子を一旦破棄し、新たな張り子を作りますので、張り子への出入りや通信は禁じます。」

 

 「わかりましたフォーラン様。」  

 

 

 

 

 

 




 
 さて、ときどき登場します3年整備科の武装に関しては、幾つかモデルとなった物もありますし、オリジナルの物もあります。漢女棒は鉄○メイスとか。


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第21話  期末テストと買い物

 

 

 

 

 

 学年別タッグマッチトーナメント戦が終わり、7月。

 

 

 

 

 さて、IS学園は日本の高等学校にあたる。授業内容もIS関連を除けば日本の高等学校と何ら変わりはない。 

 日本の高等学校は地域によって様々だが2学期制や3学期制で構成されている。 そのうちIS学園は3学期制を導入している。

 そして間も無く、1学期が終わり夏休みを迎える。

 

 1年生は夏休み前に最後の行事である2泊3日の臨海合宿が行われる。 

 

 しかし、その前に大きな壁が存在している。

 

 1学期の授業の集大成とも言える学期末テストである。

 

 IS学園の学期末テストは少し特殊だ。一般学科に加えてISの座学のテストと実技のテストがあるのだ。

 

 IS座学の方は全生徒共通の物になるが、実技に関しては専用機持ちと代表候補生は一般生徒共通と別枠でのテストとなる。 一般生徒は搭乗して歩行、走行、飛行に拡張領域からの武装の出し入れといった基本動作に初歩的な武装取扱いのテストとなる。

 

 しかし専用機持ちと代表候補生は内容がガラリと変わり教員との模擬戦となる。勝つ事が出来れば合格なのだが、勝てない場合でも幾つかの項目があり、それをある程度クリアすれば合格となるのだ。

 

 だが、本当の強敵は一般学科にあるのだった。試験内容は、国語・数学・理科(化学&生物)・社会(地理&歴史)の4教科。そして50点以下は赤点となるのだ。

 そして赤点を取った教科は夏休みに1科目毎に4時間の補習と追試を、更に追試で60点以下の場合は2時間の補習追加で追試、これの繰り返しとなる。下手すれば夏休みが無くなるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 (・・・・・・・・な、何でこんなに難しいんだ?クソッ!)

 

 百春はタッグマッチトーナメント戦以来、ISの訓練に熱をいれていた。夏輝を見返す為に。しかしその分、座学や一般学科を疎かにしていた。そのツケが回ってきたのだ。

 

 (転生特典で優秀な頭脳を手に入れたのに何でだ?)

 

 維持したり高める努力を怠った為に優秀な頭脳も劣化していったのだ。

 

 こうして百春の一般学科のテストは散々な物になった。 ちなみに箒のテストも同じような物だった。

 

 

 一方の夏輝達は余裕でテストを解いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

キーン コーン カーン コーン

 

 

 

 「そこまでです。ペンを置いてください。」

 

 教員の号令と共に試験は終了し、答案用紙が回収される。

 

 「さて、今日で1学期の学期末テストの全日程は終了しました。 そして来週の水曜日から1年生は臨海合宿に向かいます。みなさん、準備を怠らないようにお願いします。」

 

 スコールがそう挨拶して、その日のSHRは終えた。

 クラスの生徒達は来週の臨海合宿に想いを馳せて、明日・明後日で買い物に行く予定を立てている。

 

 「簪・円華・黒江・本音、3組に寄ってシャルと合流して生徒会室に向かうぞ。」

 

 シャルは無事にIS学園へ編入した。外見が変わりメガネを掛けている事もあり、殆どの生徒や教員からは疑われることは無かった。

 

 

 

 「ところでシャル、3組のクラス代表になったそうだな?」

 

 「うん。最初のクラス代表の子が退学してから、暫定的に選ばれた子がしていたんだけど、臨海合宿はあるからって事で正式に決め直す事になって選ばれたんだ。」

 

 夏輝の質問にシャルは答える。シャルが夏輝に尋ねかえす。

 

 「ところで夏輝様、刀奈様の用事ってのは何でしょうか?」

 

 「たぶん、臨海合宿の事だろう。色々と協議を続けていたみたいだし。開催を決定した以上は警備に関しての追加事項が出来たんだろう。」

 

 「・・・・・ねぇ兄さん、まさかと思うけど?」

 

 「あ~、かんちゃんの考え当たっていると思うな。」

 

 「私もそう思うよ、兄さん。」

 

 「それだけで済みますでしょうか?学園側が他に条件を出している可能性も、考えられます夏輝様。」

 

  様々な憶測をしながら進むと生徒会室に着いた。扉をノックして室内に入ると、そこには刀奈と虚以外にラウラの姿があった。

 

 「おや?ラウラ、どうしたんだ?」

 

 「おぉ、待っていたぞ永遠の好敵手(ライバル)。」

 

 「中二病乙」

 

 「それで、ラウラがここにいる理由は?」

 

 「私が呼んだの。ドイツから依頼されていた、ラウラちゃんの専用機が出来たって連絡があったからよ。」

 

 「なるほどね。それで受け渡しは明日?」

 

 「そうよ。明日・明後日で最適化と一次移行、更に慣らしを終わらせるみたいよ。」

 

 「今から楽しみだ。それで明日は何時に行けばよいのだ?」

 

 「明日の朝9時にIS学園の正門に迎えの車が来ますから、それに乗ってください。」

 

 「そうか、わかった明日の朝9時だな。」

 

 そう言ってラウラは生徒会室を楽しげに出て行った。

 

 「嬉しそうだったわね。」

 

 「それで刀奈姉さん、ラウラの専用機[ゲシュテルベン]はどんな感じなの?」

 

 円華の質問に刀奈は

 

 「美兎姉さんが言うには、ガーリオン以上アステリオン以下だって。」

 

 「流石に第5世代機を渡す訳にはいきませんので、第3.5世代型ISという事で収めたみたいです。」

 

 虚が補足する。

 

 「第4世代機にはしなかったんだ。」

 

 「私が止めました。」

 

 簪の言葉に答える黒江。

 

 「もしかして・・・・・・」

 

 「はい、最初の内は第5世代機を作ろうとしてました。気づいた時には6割近く出来てまして、慌てて止めました。そこから新たに作ってもらったのです。」

 

 「ちなみに黒江。その作りかけのは、どうしたんだ?」

 

 「美兎様が言うには、このままにするのは勿体無いから自分用に作り替える、と言っておりました。」

 

 黒江の答えに全員の動きが止まる。

 

 「・・・・・黒江、間違いなく自分用にと言ったんだよな?」

 

 「・・・・・・・はい、間違いなく。」

 

 「・・・・・・・ヤバいものが出来るかも。」

 

 全員が夏輝の言葉に同意するかのように激しく頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで刀奈姉さん、臨海合宿の方はどうなったの?」

 

 「大きな変更点は3つ。1つは教員部隊の1部・・・3名を同行させる事。2つ目は同行する教員部隊の使用するISにガーリオンを1機加えること。」

 

 「ちょっと待って刀奈姉さん、ガーリオンは校外への持ち出しは厳禁で契約してたよね。」

 

 「えぇ、そうよ。でもね一部の教員から、夏輝の安全と引き換えには出来ない、と言われればどうしようも無いわ。無論、使用者を指定させる事にしたわ。」

 

 「・・・・・・それで3つ目は?」

 

 自分をだしに使われた事に少し怒りを覚えた夏輝。

それを隠して3つ目を尋ねた。

 

 「3つ目は、二人の専用機持ちを同行させること。そしてその人物が、私と虚ちゃんなの。」

 

 これはある程度予測がついていたので驚かなかった。

夏輝達が驚かないのを不審に思い刀奈が、

 

 「あれ?驚かないの、私と虚ちゃんが同行するんだよ?」

 

 「ある程度予測出来たからな。おそらく刀奈姉さんが押し通したんだろう。」

 

 「その通りです夏輝様。ガーリオンの持ち出しと引き換えに私達の同行を認めさせました。」

 

 「ちょっと、虚ちゃん?!」

 

 どうやら内緒にしておくつもりだったようだが、虚があっさりと暴露するのだった。

 

 「全く、刀奈姉さんと虚さんが学園を離れたら、学園に何か起きた時の対応に色々と支障が出るんじゃないか?」

 

 「それについて何ですが、明日から学園の専用機持ちが増える事になります。」

 

 虚の言葉に刀奈以外の全員が驚く。

 

 「どういう事なのお姉ちゃん?」

 

 「正式な発表は月曜になりますが、まずは2年生のイギリスの代表候補生のサラ・ウェルキンさんに第3世代型IS[サイレント・ゼフィルス]が与えられます。」

 

 本音の質問に虚はそう答えると、モニターにサイレント・ゼフィルスのスペックデータが表示される。

 

 「ご覧の通り、オルコットさんのブルー・ティアーズの発展型でビット兵器を装備してます。ただ、ブルー・ティアーズと違いAI制御が施されていますので、BT適正が低くても使える様になっているそうです。」

 

 「つまりは、誰でもBT兵器を使える様にするためのテスト機体というところよ。それに元々サラはイギリス代表候補生の中でも、抜きに出た実力と才能の持ち主なの。今まで専用機が与えられなかったのもBT適正が低いという一点だけだったの。むしろ、今回の専用機は与えられるべき人に与えられた、というところかしら。」

 

 刀奈の補足に虚が頷き、口を開く。

 

 「次に、3年生の中国代表候補生の陳白さんに専用機[甲龍]が与えられます。これは凰さんが専用機を剥奪された事によるものです。」

 

 「陳先輩もサラと同じく実力と才能に問題は無かったの、本来なら彼女に甲龍が与えられる予定だったみたいなの。ところが政府の横槍が入って凰さんになったみたい。ある意味、本当の持ち主の元に戻ったというところかしら。」

 

 「それから、これはまだ未確定の事何ですが、1年生のアメリカ代表候補生のティナ・ハミルトンさんにも専用機が与えられるという話もあります。此方はもしかしたら臨海合宿で行われる可能性もあります。」

 

 「虚さん、何故未確定なのですか?」

 

 簪が虚に聞くと、刀奈が

 

 「元々ハミルトンさんには、クラス対抗戦直後から専用機の話があったみたいなの。ただ国の方で色々あって延び延びになっているみたいなの。そして今回、漸く決まったみたいなんだけど、専用機のスペックは勿論のこと、受領時期も未だに学園に届け出が無いの。」

 

 「それはおかしいですね。何かにつけてトラブルでもあったんでしょうか?」

 

 シャルの疑問に黒江が

 

 「例えば、専用機が完成していない。もしくは完成したものの何か欠陥や改修点が見つかり、それを修整している。というのが考えられます。」

 

 「・・・・まあ、今は情報が確定するのを待とう。それで、刀奈姉さんと虚さんは臨海合宿では警護だけするの?」

 

 「警護も任務の内だけど、それ以外にも指導や模範演技に、手伝いとか色々しないといけないの。」

 

 「つまりは教員と同じ事をするんですね。」

 

 「そういう事よ円華ちゃん。それじゃあ、明日は臨海合宿の為の買い物にみんなで行きましょうか。」

 

 「買い物? 必要な物は購買部で揃うんじゃ?」

 

 刀奈の言葉に戸惑う夏輝。

 

 「残念だけど、1番必要な物が購買部には無いのよ。」

 

 含みを持たせる刀奈。その瞬間、夏輝は嫌な予感がした。先手を打とうと

 

 「俺はあ「それはね、み・ず・ぎ! 折角、海に行くんだから新しい水着が必要でしょ。だからみんなで買いに行きましょう。勿論、夏輝が選ぶのよ!」

 

 だが虚しくも、夏輝の言葉は遮られた。そして刀奈の言葉に全員の熱い視線が夏輝に集中する。

 

 「夏輝様、僕も手伝いますし諦めてください。」

 

 シャルが夏輝の逃げ場を塞ぐのだった。がっくりと項垂れる夏輝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

夏輝達の姿はIS学園から程近い商業施設レゾナンスにあった。

 

 「さあ、先ずは水着を買いましょう!」

 

 刀奈が先頭になって水着売り場に向かう。1番後ろを行く夏輝の顔色はあまり優れない。隣を歩くシャルが

 

 「諦めてください夏輝様。まあ、せめて2種類に絞るようには言いますので。」

 

 「それでも、7人✖2の14着も見なきゃいけないんだぞ。」

 

 「夏輝様、7人✖2ではありませんよ。8人✖2ですよ。」

 

 そう言ってシャルは自分を指差す。

 

 「おいおいシャル、まさか?」

 

 「別に僕は刀奈様達と同じ立場になんて思ってませんし考えていません。僕を(デュノア)から解放してくれただけで満足してます。さっきのはサポートする見返りといったところです。」

 

 悪戯猫の如く笑みを浮かべるシャル。

そんなシャルに少し呆れながらも、吹っ切れた様子に安堵する夏輝。 

 

 だが、水着売り場で刀奈達が待ち構えているのを見て、

 

 「・・・・・・・なあシャル「ダメですよ、大人しく諦めてください。」はぁ~。」

 

 シャルに腕をとられて連行される夏輝であった。

 

 「さあ、夏輝!私達の水着を選んでちょうだい♥」

 

 「刀奈様、せめて自分達で候補を選んでからにしませんか?いくらなんでも全員分を最初からだと、時間がいくらあっても足りません。せめて2つまで候補を絞りましょう。」

 

 「シャルさんの言う通りですねお嬢様。」

 

 「む~、仕方ないな~、それじゃあ、2つまで候補を絞ってから夏輝に選んで貰いましょう。」

 

 そう言って刀奈達は水着売り場に入っていく。それを見届けてから、夏輝は自分の分の水着を買うために1番端にある男物の水着売り場を向かう。

 

 「これでいいか。」

 

 サッと見て回り紺色に白い縁取のシンプルデザインのサーフパンツとラッシュガードを選び買うのだった。

 

 商品を受け取り通路に出たところで、夏輝はラウラとさゆかに出会った。

 

 「ん、ラウラ達も買い物か?」

 

 「あぁ水着を買いにな。私は学校指定の物で良いと思っていたのだが、さゆかが新しいのを買えと言うのだ。」

 

 学校指定の水着といえば今では珍しいスクール水着というやつだ。それを思いだし、さゆかに視線をやると苦笑いをし

 

 「水着だけじゃありませんよ。ラウラは寝間着どころか私服もほとんど持っていないんですよ。」

 

 そういえばラウラはIS学園の制服を着ていた。既にさゆかとラウラは幾つか買い物袋も手にしていたみたいで、

 

 「そうか、苦労するな。そうだ、今なら水着売り場に刀奈姉さん達がいるから、手伝って貰ったらどうだ?」

 

 「いいんですか?」

 

 「一人では大変だろう。いいさ。」 

 

 「それじゃあ行きます。ラウラ行こう!」

 

 「あぁわかった。」

 

 何処と無く元気の無いラウラ。どうやら馴れない事で既に疲れているようだ。

 それを見送り夏輝は近くにあったカップ式自販機でコーヒーを購入し近くのベンチに座るのだった。

 そんな夏輝の目の前に大量の紙袋が置かれるのだった。 夏輝が顔を上げてみれば、見知らぬ30歳前後の

ハデな服装に化粧と香水のキツい女性がいた。

 

 「そこのあんた、その荷物を持ってちょうだい。ついでに、買い物するから支払いをヨロシクね。」

 

 そう言ってきた。しかし、夏輝は無視をした。

 

 「ちょっと聞いてるの?卑しい男を使ってあげるのよ、感謝して従いなさい。」

 

 どうやら相手は女尊男卑主義者らしく、夏輝を見下している。 だが夏輝は何も言わずに無視する。少し視線を動かせば更識の警護が既にカメラで証拠映像を撮影しており、更には水着売り場から虚が此方の様子を伺っていた。 

 夏輝が反応しないのに痺れをきらした女性は

 

 「ちょっと、何時まで無視してるのよ。私は女性なのよISを使えるのよ。あんた達のようなISも使えない無能な男は黙って私達に従えば良いのよ。」

 

 だが夏輝は無視を続ける。

 

 「私がここで声を上げて痴漢された、と言えばあんたは問答無用で捕まるのよ。イヤでしょ?さっさとついて来なさい。」

 

 「はぁ~、何で俺があんたみたいな女を痴漢しなきゃならないんだ。自意識過剰にも程があるぞ、おばさん。」

 

 夏輝の言葉に顔を真っ赤にする女性。

 

 「そもそもISが使える、使えると言っていたが、本当にあんたはISを使った事があるのか?そもそもISの適性があるのか?」

 

 「なっ!!」

 

 更に顔を真っ赤にする女性。

 

 「そもそも目の前にいる俺が、世界で二人しかいないISの男性操縦者で、現日本代表操縦者の更識刀奈の弟の更識夏輝だとしたらどうする?」

 

 「そんなはず、有るわけないでしょ!誰か、誰か来て!痴漢よ、痴漢!!」

 

 女性のヒステリックな叫び声に周囲に人が集まる。そして警備係らしき女性も現れて

 

 「どうしました?」

 

 「この男、痴漢なのよ。捕まえて!」

 

 「わかりました。ちょっと警備室まで御同行願えますか?」

 

 「お断りします。私は何もしてませんし、そもそも周囲の人に確認してもらえれば私の無罪は証明されます。何故、問答無用で連行しようとするのですか?」

 

 「うるさい!男の癖に生意気な!」

 

 そう言って警備係の女性は殴ってきた。夏輝は座ったまま左足で拳を蹴りあげる。蹴られた右腕を押さえながら

 

 「きさま!公務執行妨害で警察に連行する!」

 

 「そっちが手を出して来たんだ、正当防衛だ。」

 

 そこにタイミングをはかっていたかのように刀奈が現れる。

 

 「夏輝、何をしてるの?」

 

 「刀奈姉さん、この二人の女性に難癖つけられているんだよ。」

 

 「アラアラ、困った人達がいるわね。」

 

 「何だお前達は、庇いだてするなら同罪で連行するぞ。」

 

 同僚らしき警備員が集まってきた。刀奈はIS学園の生徒手帳を取りだし示す。そこにはIS学園の生徒を証明するエンブレムのみならず、日本の国家代表選手の証明書もあった。 それを見て警備員のみならず、難癖をつけた女性も固まる。

 

 「私はIS学園の2年で日本代表選手を努める更識刀奈です。そしてそこにいるのは、私の弟で世界で二人しかいないIS男性操縦者の更識夏輝です。」

 

 そこまで刀奈が言うと周囲は驚きに包まれる。そして難癖をつけた女性の顔色は真っ赤から真っ青に変わっていた。

 

 「イヤ、その、そこの女性が、痴漢されたと」

 

 警備員が言うと夏輝が

 

 「先程言いましたよね。俺はしていないと、周囲に確認してくださいと。それに問答無用で殴ってきましたよね。ちなみに、その女性が難癖をつけてきた時から今までの状況は全て撮影されています。」

 

 そう言って夏輝はスマホを取りだし、警護から送られてきた映像を再生する。それを見て女性と警備の女性は顔色が真っ白になる。他の警備係達が、女性警備員と最初の女性を拘束し連れて行った。その後、騒ぎを聞き付けた責任者が現れて

 

 「大変申し訳ありませんでした。このような事が2度と起こさぬように気をつけますので、何卒お許しを。」

 

 先程の一件を謝罪してきた。夏輝も騒ぎを大きくしたことを謝罪した。とりあえず、その場はそこで収めたのだった。

 

 

 

 「全く夏輝たら、あんなに騒ぎを大きくして。」

 

 「イヤ、いきなり上から目線の命令口調に、キツい香水で気分が悪くなってね。」

 

 と弁解した。刀奈達は呆れながら

 

 「まあ、いいわ。それじゃあ水着を選んでちょうだい!」

 

 そう言って夏輝は売り場の中へ連行されていくのだった。 

 

 



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第22話  臨海合宿→初日

  

 

 「今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員挨拶を。」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 「よし、これからクラス毎に部屋割りを発表する。部屋に荷物を置いたら、夕方6時までは自由時間とする。ただし、羽目を外し過ぎないように。」

 

 千冬がそう言うと部屋割りの発表となった。

 

 「夏輝は此方よ。」

 

 教員扱いで同行している刀奈が夏輝を呼ぶ。側にいる虚が申し訳なさそうにしている。

 

 「まさか刀奈姉さん?」

 

 「そうよ、夏輝は私と虚ちゃんと同じ部屋だよ。」

 

 事も無げ言う刀奈に呆れる夏輝。部屋に移動しながら刀奈に

 

 「そう言えば、ガーリオンは誰が扱うの?」

 

 「ロザリー先生です。」

 

 「2年の学年主任が来ているって事は刀奈姉さんのお目付け役の意味もあるのか。」

 

 「その通りです夏輝様。お嬢様が羽目を外し過ぎないようにするためのお目付け役です。」

 

 「ぶーぶー、酷いよ夏輝も虚ちゃんも。そんなに私って信用無いの!」

 

 「「信用して欲しがったら、普段からの生活態度を改めて(ください)」」

 

 二人の口撃に項垂れる刀奈。自業自得である。

さて、3人で宿泊する部屋に向かうと生徒達や教員が使う部屋から少し離れた部屋に着いた。

 

 「ここだよ。」

 

 そう言って扉を開けて部屋に入る刀奈。室内は広い和室で、造りも高級感に溢れている。

 

 「へーー、割りと良い部屋だね。」

 

 「夏輝!ジャーーーン!!」

 

 夏輝が荷物を部屋の端に置いた時だった。刀奈が制服を脱ぎ捨てる。そこには黒いストリングのマイクロビキニ姿の刀奈がいた。

 

 「へっ?! か、刀奈姉さんーー!」

 

 「お、お嬢様ーーー!!! なんて格好をしてますか!」

 

 虚が慌てて荷物からバスタオルを取りだして刀奈に被せる。

 

 「べ、別にいいじゃない。夏輝と虚ちゃんしかいないんだし。それに、泳ぐ時は別の水着だから。」

 

 「それでも、そんな破廉恥な水着はダメです!」

 

 「虚さん、後はお願いします。俺は他のところで着替えて海に行きます。」

 

 荷物から水着一式を取りだして袋に入れた夏輝はぐったりとした表情で部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 更衣室で着替えて砂浜に出た夏輝は、近くの売店でパラソルとレジャーシートを借りて砂浜に広げる。

 

 「夏輝様。」

 

 黒江に呼ばれて後ろを振り替えると、フリルスカート付きの白いワンピースの水着に白いパーカーを羽織った黒江と黒いタンキニ水着の円華がいた。

 

 「早かったな円華、黒江。二人共よく似合っているぞ。」

 

 「ありがとう兄さん。」

 

 「ありがとうございます夏輝様。」

 

 二人共、顔を赤くしながらも嬉しそうにする。

 

 「兄さん!」

 

 「夏輝様!」

 

 「夏輝!!置いてきぼりなんて酷い!」

 

 「自業自得ですお嬢様。」

 

 続いて、黄色いネックホルダーのワンピース姿の簪、狐の着ぐるみ水着の本音、水色の三角ビキニの刀奈、赤いワンピースの水着に黒のラッシュガードを羽織った虚が現れる。

 

 「刀奈姉さんは自業自得。それにしてもみんな似合っているな、その水着姿。」

 

 「「「「ありがとう。」」」」

 

 嬉しそうに返事する刀奈達。

 

 「本音、砂の城を作るわよ。」

 

 「・・・・・・かんちゃん、ホドホドにね。」

 

 何やらツールケースのような物を持った簪は本音を連れて、少し離れた場所に向かう。

 

 「円華、ビーチボードと浮き輪を借りに行きましょう。」

 

 「わかった刀奈姉さん!」

 

 円華と刀奈は海に入るようで売店に向かう。黒江と虚はパラソルの下に引いてあるレジャーシートに座る。

 側にいる夏輝に黒江は

 

 「夏輝様は泳がないのですか?」

 

 「もう少しだけここにいるよ。目印になるしな。」

 

 「シャルさんですね?」

 

 「それもあるけど虚さん、他にも声をかけてくる人がいると思いますし。」

 

 そうよ、夏輝が言うと

 

 「夏輝様、ここにいたんだ。」

 

 そう言って声をかけてきたのはオレンジのビキニ姿のシャルだった。しかしそこにはシャルだけでなく青いビキニにパレオを纏ったセシリアとグリーンのワンピース姿のさゆか、そしてバスタオルを身体中にグルグル巻いた人物がいた。

 

 「やぁ、シャルにセシリアに夜竹さん。ところで、それは?」

 

 「あははははははぁ~ー。」

 

 呆れ笑いのシャルに、何処と無く困った様子のセシリアとさゆか。

 

 「ラウラさん、いい加減諦めてバスタオルを取ってくださいまし。」

 

 「そうだよラウラ、折角私が選んだんだし。」

 

 どうやらタオルオバケはラウラのようだ。

 

 「どうしてそんな姿なんだ、ラウラは?」

 

 「いざ、着替えたら普段と違う格好に恥ずかしくなったんだって。」

 

 「えぇーい、うるさい!・・・そ、そんなに見たいなら見ろ!」

 

 シャルが解説するとようやく意を決したのかバスタオルを脱ぎ捨てるラウラ。普段と違いツインテールに纏めた髪型にスカート部分や肩に白いフリルの付いた黒のワンピースの水着だった。

 

 「へーーー、可愛いじゃないか。」

 

 「うーーー、うるさい!」

 

 夏輝に褒められて恥ずかしくなったのか、海に走っていくラウラ。

 

 「ちょっとラウラ、待ってよ!」

 

 「あーーん、もう二人共!」

 

 慌てて追いかけるシャルとさゆか。

 

 「全く、随分と変わられましたわねラウラさんは。」

 

 「夜竹さんのおかげかな。彼女と一緒に行動するようになって随分と変わったしね。色々と気づいたんじゃないかな。」

 

 「そうですわね。」

 

 すると、少し離れた場所が騒がしくなる。視線をやると百春がおり、女子生徒が群がっていた。

 

 「相変わらずだな。」

 

 「浮かれているのも今の内かも知れませんけど・・・」

 

 「どういう事だセシリア?」

 

 「篠ノ之さんとの会話を偶然耳にしたのですが、どうやら期末テストの出来が悪かったようですわ二人共。自己採点をこっそりとしたようですが、半分くらいの出来で赤点ラインのようです。」

 

 「と言う事は、あの二人は。」

 

 「おそらく夏休みに補習が待っていると思われます。」

 

 「「「・・・・・・・まあ、これも自業自得。」」」

 

 その時、夏輝達のところにソースの焦げる香ばしい匂いが漂ってきた。

 

 「おっ!この匂いソース焼そばか。ちょっと買おうかな。」

 

 「すいません、ソース焼そばって何ですか?」

 

 「そうか、セシリアは?知らないか、1回食べてみるか?」

 

 「何やら美味しそうな香りですし食べたいです。」

 

 「虚さんと黒江も食べる?」

 

 「「はい!」」

 

 「それじゃあ行こうか。」

 

 四人で匂いの元を辿ると、少し離れた売店で焼そばやかき氷を売っていた。 メニューを見るとかなりの種類があった。

 

 「そうだ、食事にしようか?」

 

 そう言って夏輝達は店内に入って近くのテーブルに陣取る。

 

 「俺は焼そばとフランクフルトに唐揚げにフライドポテトにラムネ。」

 

 「私は焼そばとコーラで。」

 

 「私も焼そばとコーラで。」

 

 「私は焼そばとカレーと焼きイカとウーロン茶をお願いします。」

 

 「黒江さんって意外と召し上がるのですね。」

 

 「私は昔から消費カロリーが多くて、ある程度食べないと貧血を起こすんです。」

 

 そう言う黒江に、セシリアはIS学園での食事を思い出す。確かに常に大盛りや、2人前頼んで食べていたことを。

 

 「「「「私達も焼そば!!!」」」」

 

 突然響く声、音源に視線を向けると刀奈と円華と簪と本音がいつの間にか来ていた。

 

 「夏輝ズルいよ。自分達だけ、追加でフランクフルトとコーラ!」

 

 「私は焼き鳥と、兄さんと同じラムネ!」

 

 「かき氷を~レインボーで!」

 

 「焼そばをWでトッピングに目玉焼き、それから特盛唐揚げにポテトのLLにラムネ。」

 

 注文を終えると同じテーブルにつく。

 

 セシリアは近くの鉄板で焼かれる焼そばを興味深く見ている。

 

 「これなら私でも出来そうですね。」

 

 セシリアがそう呟いた順番

 

 「「「「「「「セシリアは、絶対作ったらダメ!!!!!!!」」」」」」」

 

 全員に反対されるのだった。

不満げに頬を膨らませるセシリア。

 

 そして出来上がった焼そばが来ると、全員で舌鼓を打つ。

 

 「んーーーー、このチープな味、やっぱり海には焼そばよね。」

 

 「これが焼そばですか、何か甘辛くて不思議な味ですね。でも・・・・・・・美味しいです。」

 

 「オーダー、焼そばW目玉焼き付き。」

 

 「・・・・・・かんちゃん、早い・・・・」

 

 「それにしても、本音のそのかき氷・・・凄い色合いだな。イチゴにメロンにレモンにブルーハワイに巨峰にピーチに練乳・・・・・」

 

 「すいません、追加でラーメンとお握りをお願いします。」

 

 

 夏輝達に誘われてか、他の生徒達も続々と店を訪れて、売店の売上は過去最高のものになったのだった。

 

 食事を終えると、簪の提案で全員で砂の城を作りに行った。全員で作業したこともあり、5m越えの砂の城が出来上がり、全員で記念撮影をした。 なお、この砂の城はたまたま売店の店主で地元の観光協会の会長が目撃し、観光の目玉にするからと言うことでそのままにすることにした。

 

 このあとも泳いだり、ビーチバレーをしたりして日が沈むまで遊ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へーーー、豪華だな。」

 

 目の前に並べられた夕食は、豪華そのものだった。

刺身の盛合せに、天婦羅、蟹の味噌汁、石焼ステーキ、紙鍋、等々、どう考えても高校生に出すレベルの料理ではなかった。

 

 「鯛に鮪にカワハギ、これだけでも凄いな。」

 

 「モグ、モグ、モグ、モグ。」

 

 「ハム、モグ、ハム、モグ。」

 

 「かんちゃん、黒ちゃん、美味しいね!」

 

 「兄さん、これは?」

 

 「それは茗荷の天婦羅だな。」

 

 「虚ちゃん、このお肉美味しいわね。」

 

 「お嬢様、お肉だけでなく椎茸も食べてください。」

 

 普段とは違う料理に生徒達は嬉しそうに舌鼓をうっていた。 ちなみに教員は別室で食事をとっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 さて、旅館ともなれば温泉があるのだが、生徒人数の関係上クラス単位で普段男湯に使っている浴室も使用して1時間交代制になっている。そして夏輝と百春は、それ以降にしか使用出来なかった。

 

 百春と一緒に入りたくない夏輝は室内の内湯を使うことにした。 

 ひとりでのんびりと浴槽に浸かる夏輝。内湯とはいえ

旅館の浴槽。4~5人くらいは余裕で浸かれそうな大きさだ。 

 

 「ふ~ーーーーーーー。いや~ー気持ちいいな。」

 

 大の字に手足を伸ばしてリラックスしている。

 

 「そういや、温泉旅行以来だな。こうやって浴槽に浸かるなんて。しまったな部屋を作ってもらう時に浴槽も頼めばよかったな。」

 

 夏輝の部屋は特別に作って貰った個室だ。最初から更識の手によって作られた防犯や襲撃にも対応できる特別な物になっている。室内も十分な広さを持っているが、唯一の欠点が浴室に浴槽が無いことだった。

 

 「今更、増設も頼めないし我慢するか・・・・」

 

 「そんな事無いわよ!」

 

 「へっ?!!」

 

 聞こえてはいけない声が聞こえてきて驚く夏輝。

慌ててそっちを見るが、慌てて視線を戻す。

 そこには

 一糸まとわぬ姿の刀奈とバスタオルを巻いた虚がいたのだ、

 

 「ちょ、ちょっと刀奈姉さんに虚さん、どうしたの!」

 

 刀奈と虚は顔を見合わせて

 

 「「背中を流しにきました。」」

 

 「冗談はやめてよ。」

 

 「冗談じゃ無いわよ。でも、まあいいわ。」

 

 「お嬢様、先ずは体を洗いましょう。」

 

 そう言って二人は体を洗い流す。そして浴槽に浸かる。夏輝にぴったりと寄り添う二人。

 

 「えーーと、なんでこんな事を?」

 

 「あら、いいじゃない?今更でしょ。」

 

 「たまにはよろしいのでは無いですか?」

 

 何時もは刀奈の押さえ役をする虚が刀奈に同調している以上はどうしようもなかった。

 両腕に触れる柔らかな感触が夏輝を追い詰める。

 10分・・・・いや20分たったようにも感じる。

 

 「えーーと、そろそろ出たいんだけど・・・・」

 

 「まだ、いいじゃない。ゆっくり浸かりましょう。」

 

 「と言うか、最初からの疑問なんだけど何でここに?刀奈姉さん達は大浴場に行かなかったの?」

 

 「その、私達は教員扱いなので入浴は生徒が終わってからになるんですけど、同じ時間に男性の順番なんだけど、ラッキースケベとか起こされて裸を見られたくないし、万が一の事態も避けたかったからね。」

 

 「それはそうだけど、俺が出てからでもよかったんじゃないの?」

 

 「んーーー、まあ、それは勢いというか、虚ちゃんも入りたがってたし。」

 

 「お、お嬢様?!」

 

 「あら、嫌だった?」

 

 「・・・・・・・いいえ。」

 

 「まあ、もう入っている以上は仕方ないけど・・・ところでさっき言っていたけど、増設の事なんだけど?」

 

 「そうそう、夏休みに織斑君用の個室を作る事になったの。場所は織斑先生の寮官室の隣。それで夏輝のも新たに作り変える事になったの。元々、夏輝のはプレハブをベースに作った奴だから、この際に新しく作り直そうと思うの。」

 

 「という事は、俺の要望がある程度反映させられるよね。」

 

 「はい、更識が全費用を持ちますので大丈夫です。」

 

 「それなら色々出来そうだな・・・・と、本当にそろそろ出たいんだけど」

 

 「もう仕方ないわね。」

 

 夏輝は刀奈と虚が離れてくれたおかげで二人より先に上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  こうして、臨海合宿の初日は終わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ????????

 

 

 

 「おっ、トーマスこんなところで何やってんだ?」

 

 「なーに、明日のテストで俺のFー18(ホーネット)ちゃんとレースする女神ちゃんに挨拶をね。」

 

 そう言ってトーマスは目の前にある銀色の鎧に軽く叩く。

 

 「おいおい、傷をつけるなよ。私が怒られるんたからよ。」

 

 「おっと、すまねえな。それじゃあ女神ちゃん、明日はヨロシクな。」

 

 そう言ってトーマスはその場から離れる。それを見送り、整備士の女性は

 

 「・・・・・・・レースねぇ~・・・・・人生最期のレースを楽しんでね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第23話  臨海合宿→2日目

 

 

 臨海合宿2日目

 旅館から少し離れた場所にある、岩場に囲まれた砂浜。

 

 ISを使っての屋外活動の実習。一般生徒組と専用機持ち組と2グループに別れて行われる。

 

 夏輝達は勿論、専用機持ちのグループにいる。だが、そこにはティナの姿もあった。

 

 「さて、お前達は今から国や企業が送ってきた新しい装備を使ってのテスト等を行って貰う。それぞれのコンテナの前に移動し、側にいる派遣されている技術者に従って進めるように。」

 

 千冬の言葉に従い、それぞれコンテナの前に移動する。

 

 「さてと、俺達はラウラの手伝いしかすること無いんだよな。」

 

 「私と本音さんは、セシリアさんの手伝いに行きます。」

 

 黒江と本音は、国際IS整備士1級免許を所持しているので、単独でISの整備を行う事が出来るのだった。

 

 百春と箒は、倉持から来ている技術者がいるコンテナの前にいる。

 

 そしてウイング社のコンテナの前には、一人の白衣を纏った女性・・・・美兎がいた。

 

 「さて、こうして顔を合わせるのは初めてだったね。私がウイング社のIS開発部門室長の更識美兎です。それでは、今回依頼を受けて製作しました第3.5世代型ISのゲシュテルベンだよ。」

 

 コンテナが開き、漆黒のISが姿を現す。

 

 「さあさあ、最適化と一次移行をするから乗った乗った!」

 

 ラウラは促されながらゲシュテルベンを纏うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ティナはアメリカの技術者達のいるコンテナの前に来ていた。

 

 「さてアメリカ代表候補生ティナ・ハミルトンさん。貴女に現時刻を持って専用機を与えます。」

 

 コンテナが開くと、そこには見馴れたファルコンがあった。いや、ファルコンに似ているが少しだけ形状が違っていた。特に背中のスラスターは可動式に見えた。

 

 「これはアメリカが開発した先行試作量産型第3世代ISトムキャットです。」

 

 「先行試作量産型ですか?」

 

 「そうです。ファルコンをベースにして性能を上げ、機能性のみならず操作性を重視した、量産を前提とした機体です。それでは最適化と一次移行の作業に入ります。搭乗してください。」

 

 ティナは言われるままにトムキャットに乗る。そして最適化の作業が始まる。

 しかし最適化の作業が終えようとした時だった。技術者の一人のスマホがなり、電話に出た技術者の顔色が見る見る青くなっていくのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 千冬達は倉持のコンテナ前に来ていた。だがそこにいた技術者は以前来た者ではなかった。

 

 「ん?担当者が変わったのか?」

 

 「・・・・・・・・はい、以前の担当者は一身上の理由により先月末をもって退職しました。私が新たな担当者になります。」

 

 「そうか、それでどのような装備をもってきたのだ?」

 

 「先ずは、お二人のISのメイン武器となります。仮装備させていた雪片弐式と雪片弐式改の代わりにお渡しする雪片参式です。ただし、それぞれ性能が少し変わっております。まず、織斑君の雪片参式白蓮(びゃくれん)は従来通りに疑似零落白夜を刃に展開させます、此方はSEの消費率を多少抑える事が出来ました。次に篠ノ之さんの雪片参式赤蘭(せきらん)は疑似零落白夜を斬撃として飛ばす事ができます。つまり、織斑君は近接での零落白夜、篠ノ之さんは射出での零落白夜となります。」

 

 「何故、別々に分けた?オリジナルと同じ零落白夜搭載の雪片で良かったのじゃないか?」

 

 「これは新しい雪片を作る為には、どうしても射出式零落白夜という機能の実戦データが必要なのです。」

 

 「その為に篠ノ之の雪片参式を射出型にしたという訳か。・・・・・・まあ、いいだろう。それで他には?」

 

 「後は、サイズと形状は違いますが脚部に追加で装着する機動制御ブースターです。」

 

 「なるほど、制御と加速を強化するためのものか。他には?」

 

 「・・・・・・先に断っておきます、これは副所長が作った物で我々開発部は一切関与していない物です。」

 

 そう言って技術者はコンテナを開ける。そこにはドラム缶程の大きさのドローンらしき物があった。

 

 「・・・・・・・先に聞くが、このドローンのような物は何なのだ?」

 

 「フリー・エレクトロン・キャノン(遠隔操作型・自由電子レーザー搭載型衛星砲)の試作モデルです。あくまでも試作モデルなのでドローン形態にしてあります。」

 

 「・・・・・・・・とりあえず幾つか質問するが?」

 

 「威力に関してですが、並のISなら一撃で落とす事が出来ます、無論命中すればという前提ですが。射程に関してですが、理論上は20kmまでは威力を保ったまま使用出来ます。 照準に関してはISのハイパーセンサーとリンクした専用のバイザーを通して行います。」

 

 千冬が質問してくる事を予測した解答をする技術者。だが、その表情は優れない。 その表情を見て千冬は察した、技術者もこの武装の馬鹿さ加減を認識している事を。それでも、上司からの指示故に断れずに持ってきて説明しているのだと。

 

 「これはあくまでも私の独り言として、聞き流してください。倉持技研では固定しての実験でした。ドローンでの発射実験は行ってません。これは副所長命令で行われませんでした。」

 

 流石に千冬も絶句した。それは兵器としての実証実験が行われていないことになるからだ。だが、技術者を責める事が出来ないのもわかっていた。

 

 「・・・・・・これは、そのまま持って帰ってくれ。私が拒否したと言え、文句は私に言えと。」

 

 「・・・・・・・ありがとうございます。」

 

 「とりあえず雪片参式とブースターの装着を頼む。」

 

 千冬に言われて作業にかかる技術者。それを横目に千冬は夏輝達の方に視線をやる。

 

 (あれが、ドイツがウイング社に依頼したらラウラの専用機か。)

 

 ゲシュテルベンを見ながら美兎に視線を移す。

 

 (・・・・・・・見れば見るほど外見こそ違えど、束に通じる雰囲気を持っているな。・・・・・だが束はあの時に死んだ、痕跡も確り残っていた。・・・・・・・だが心の何処かで未だに束の死を受け入れ・・・・・いや、納得していない。何故だ・・・・何故なんだ)

 

 美兎を見ながらひたすら悩む千冬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、見られている事には気づいていながらも、全く気にしていない美兎は作業を続けていた。

 

 「ほいっと!これで完了したよ、どんな具合だい?」

 

 「・・・・・悪くない・・・寧ろレーゲンと同等・・いや、それ以上の感覚だ。何より凄く馴染む、ずっと使っていたような感覚だ。」

 

 「それもその筈だよ、その娘のコアは君が乗っていたレーゲンの物なんだから。馴染むのも早い筈だよ。」

 

 「機体が変われば、コアもリセットされると聞いていたが?」

 

 「基本的には合っているけど、パイロットとコアの親和性が高い場合は当てはまらないんだよ。例え機体が変わってもコアはパイロットの事を覚えていて、機体とパイロットが馴染むように働きかけるんだよ。」

 

 「そんな事が・・・・・・」

 

 「さてさて武装について説明するけど、バイザーに武装一覧表を呼び出してごらん。」

 

 ラウラは言われた通りに武装一覧表を呼び出して驚く。

 

 「えっ? AICがあるのですが?」

 

 「ドイツからデータの提供があってね、此方で解析して搭載させてもらったよ。ただ以前の物とは色々違うところがあるから説明するね。先ずは視覚照準によりポイントを指定し集中してAICを発動させる。すると指定した箇所を中心とした直径5mの球体としてAICを展開出来るの。1度展開すると集中しなくても10秒間は持続するわ。」

 

 それを聞いてラウラは驚く。AICの欠点として集中し続けなければ効果が切れてしまう事にあったからだ。

 

 「それだけじゃないよ。球体の大きさを収縮することで拘束力が増すわ。」

 

 美兎の説明を受けながらも、他の武装にも目を通していくラウラ。

 

 「わかりました。しかし、この機体は凄いですね。ここまでバランスの取れた機体とは。」

 

 「それじゃあ、一通り武装のチェックを始めようか?」

 

 美兎がそう言った時だった。

 

 「た、大変ですが!!織斑先生、ミューゼル先生!!」

 

 真耶が、タブレットを持って走ってきた。

 

 「どうした山田先生?」

 

 千冬とスコールは真耶に近づいていく。

 

 「こ、これを!!」

 

 タブレットを二人に見せる真耶。それを見て驚き顔を歪める千冬、逆に無表情となるスコール。

 

 「ハ、ハワイ「山田先生!」あっ?!」

 

 真耶が何かを言おうとするがスコールが遮る。それからはハンドサインを交えながら小声で話始める。

 それを遠目で見ながら夏輝は

 

 「美兎姉さん。」

 

 「ちょっと待ってね~。」

 

 美兎がタブレットを操作する。そこに刀奈と虚がきた。

 

 「おやおや~・・・・・なんか、馬鹿な事を仕出かした連中がいるみたいだね~。」

 

 そう言って美兎はタブレット夏輝達に見せる。

 

 「美兎姉さん、これって・・・・・」

 

 「みんなよく聞いて。たぶん、IS委員会から特務が与えられると思うよ。こっちでコアネットワークを使って対応してみるけど、あんまり期待しないでちょうだい。私の勘だけど、ネットワークから切り離してる可能性もあるから。」

 

 美兎がそこまで話をしたところで千冬が

 

 「全員、作業を一旦中断して急いで旅館へ戻り各自、教員からの指示があるまで部屋で待機だ。許可なく出た者は厳罰に処す、いいな! それから専用機持ち、並びに代表候補生は此方の指示に従って集合せよ。」

 

 そう指示を出す。教員達も千冬の指示に従い生徒達を誘導していく。

 

 専用機持ちと代表候補生は千冬の元に集合するのだった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を遡り、3時間前のハワイ沖

 

 アメリカの原子力空母エンタープライズは極秘実験を行おうとしていた。

 アメリカがイスラエルと協同開発した軍用IS[銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)]の稼働実験だった。

 パイロットのナターシャ・ファイルスの顔色は優れなかった。 彼女は福音が開発された当初からのパイロットで、最初の内は競技用ISとして開発が進められていたものが、突然軍用ISとして変更された事に憤りを感じていた。 

 アラスカ条約に違反しているにも拘わらず、軍用ISを開発する政府に対して思うところがあった。 それでも国に所属している以上は拒否する事は出来なかった。

 

 

 

 「よっ、どうしたのナターシャちゃん?」

 

 「リカルド。」

 

 そんなナターシャに声をかけたのは、今日のテストに参加するFー18のパイロットの一人、リカルド・シルベイラだった。

 

 「まあ気持ちはわからんでも無いが、軍属である以上はどうしようも無いぜ。」

 

 「わかっているさリカルド。頭では理解している・・・しかし、気持ちは割り切れない・・・・・」

 

 「仕方ねえな、この任務が終わったら何時もの店に飲みに行こうぜ。うちの連中が奢るからさ、何ならイーリスも呼んでさ!何なら後輩も呼んでもいいぜ。」

 

 そう明るく笑うリカルド。それを見て少しだけ笑顔をみせ

 

 「そんな事を言ってもいいの?私もイーリスも飲むわよ。それに後輩達も飲むわよ。」

 

 「かまわないさ、こんな時は! 何なら酔いつぶれてもいいぜ。ナターシャちゃんなら俺が朝まで介抱してやるぜ。」

 

 その瞬間にナターシャのビンタがリカルドの左頬に炸裂するの。

 

 「あんたは、何時も何時も!セクハラよ!!」

 

 「おっ、やっと何時ものナターシャちゃんに戻ったな。」

 

 左頬を押さえながら涙目でリカルドが言う。それを聞いてはじめてリカルドの思惑に気づいたナターシャは

 

 「全く、何時も何時も・・・・そうね、今日のテストで私に勝ったら考えてあげるわ♥」

 

 「ほぉーーいいぜ、乗った。これは今日は絶対に勝ちに行くぞ!」

 

 そう言ってリカルドはナターシャの唇に軽くキスをして立ち去るのだった。 突然の事に呆然としていたナターシャだが、キスをされた事に気づいた途端に顔を真っ赤にして叫ぶのだった。

 

 「リ、リカルド!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛機のFー18のコックピットで準備をしながらリカルドは、相方のトーマスに声をかける。

 

 「トーマス、準備出来たか?」

 

 「此方はOKだぜリカルド!それよりさっきの話は本当?」

 

 「あぁ、この任務が終わったらナターシャちゃんとイーリスと飲みに行くぜ。ただし、俺達の奢りだがな。その代わりに後輩の候補生を連れて来るように頼んであるからさ。」

 

 「それは何とも魅力的な話だな。俄然やる気が出たぜ。」

 

 「さてとそろそろ準備が・・・・・・ん?何だ、トラブルか?」

 

 リカルドの視線の先には福音の周囲で慌てる整備士や技術者の姿があった。

 

 「ちょっと様子を見て来るぜトーマス。」

 

 少し気になったリカルドはそう言ってFー18のコックピットハッチを開けて、機体から降りて行く。 

 福音の方に歩いて行きながらリカルドは近くにいた技術者に聞く。

 

 「おい、何があったんだ?」

 

 「そ、それが福音を起動させている最中にプログラムエラーが出たとパイロットから連絡が来たので調べようとしたのですが、外部からの操作を受け付け無くて、パイロットもISを解除しようとしているのですが、そちらの操作も全く受け付け無いそうです。」

 

 「なに?! それで、どうするんだ!」

 

 「今、外部にある緊急用の操作パネルを使って解除を試みています。」

 

 技術者がそう言った瞬間だった。福音が接続されていたコードを引きちぎり、動きはじめた。

 直感で何かを感じたリカルドは近くにいた技術者を押し倒しながら臥せる。 その瞬間だった。

 

 「WOooooooーーーーー!!」

 

 福音の翼から無数の光が放たれる。光は周囲にいた整備士や技術者だけで無く、整備中だったヘリ、さっきまでリカルドが乗っていたFー18、そしてトーマスのFー18を射ち抜いた。整備士や技術者は放たれた光で一瞬で蒸発し、ヘリや戦闘機は爆発するのだった。

 

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁーーー。」

 

 間一髪避けたリカルドだったが、その背中にはレーザーが通り過ぎた時の熱や、戦闘機やヘリの細かな破片が落ちてきた。幸いにもパイロットスーツのお陰で大きな怪我や火傷は免れたのの、それでも爆風による打撲の痛みがリカルドを襲うのだった。

 

 何とか顔を上げると、福音は浮かび上がっていた。

 

 「ナ、ナターシャ?!」

 

 リカルドの声も虚しく、福音はエンタープライズから飛び立っていったのだった。

 

 「く、クソ!」

 

 痛みを堪えて立ち上げるリカルド。周囲を見てみれば、そこは地獄絵図と化していた。リカルドは咄嗟に押し倒した技術者に視線をやると、破片による切り傷はあるものの、命に別状はなさそうだった。

 自分のFー18の方を見れば、原形を留めておらず、燃え上がっており整備士が消火作業に取りかかっていた。そしてトーマスの機体も同じ状況だった。

 

 「トーマス・・・・・・」

 

 レーザーが直撃したらしくコックピットは跡形もなかった。 

 

 「クッソォォォォーーー!! 待ってろよナターシャ!!!」

 

 リカルドは痛みを堪えて、まだ無事な機体の方に走って行くのだった。

 

 

 

 

 




 
 本作品におけるアリーナについて

 本作品においてアリーナには開閉式の天井が存在します。
 アニメ等では天井がありませんが、この場合ですが雨が降った時はどうするのか?という疑問から始まりました。 アリーナのSEは雨が当たった時に減少するのでは?例え減少しなくても、雨の中で生徒は授業や訓練を行うのか? 
 設定で特に語られていないので、本作品ではそれらの状況を回避するためにドーム型にしました。

 これに対して色々と意見等があると思いますが、本作品の設定として何卒お許しを。


 


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第24話  銀の福音

 

 

 旅館の一室に設けられた臨時指令室。そこには夏輝達が集められていた。

 

 「諸君注目!今から重大事項を伝える。今から3時間前にハワイ沖で実験中だったアメリカとイスラエルが協同開発していた軍用IS[銀の福音]が突如暴走し原子力空母エンタープライズより逃走。現在日本に向かって移動中との事だ。そしてこの事態を受けて国際IS委員会を通じてIS学園に事件解決の協力要請が届いた。」

 

 軍用ISの暴走、あまりの事に全員が言葉を失う。

 

 「国際IS委員会は銀の福音・・・これより福音と呼称するが、IS学園に在席している専用機持ちによる迎撃指令を出してきた。そしてその任務は福音の進行方向に1番近い我々が実行することになった。」

 

 千冬の言葉に刀奈が抗議する。

 

 「ちょっと待ってください。いくら専用機を持つ代表候補生とはいえ、未成年者の実戦行動並びにそれに準ずる行動はアラスカ条約により禁止されてます。何故、教員部隊や自衛隊の出撃がされないのですか?」

 

 「残念だが、今回は例外的に適用外とされた。そして教員部隊には機体の関係から周辺海域の封鎖が任命された。そして自衛隊だが、出撃準備に今少し時間がかかる為に間に合わないそうだ。」

 

 千冬の答えに全員が言葉を失った。

 国際IS委員会と加盟国に寄って定められた条約が、特例で適用外とされたという事。 百春と箒には解らなかっただろうが、それ以外のメンバーは直ぐに、それが国際IS委員会と加盟国の総意ではなく、一部の国・・・・アメリカの意思によるものだと気づいた。

 

 「それでは、これより此方に届いた現段階での福音のスペックを公開する。ただし、これを外部に漏らす事は厳禁だ。そうなった場合は拘束された上に最低でも3年間の監視がつくと思え。」

 

 そう言って千冬は大型モニターに福音のスペックを表示していく。 それを見ながら夏輝達は話し合う。

 

 「広域殲滅兵器を内蔵した射撃主体の高機動型のISか。」

 

 「1対多を前提としている機体ね。下手に囲むと一網打尽にされるわね。」

 

 夏輝と刀奈がスペックを見て話す。その時ティナがある一点に気づいた。一瞬だけ躊躇ったものの

 

 「織斑先生、ここに福音が無人機と表示されてますが、これは間違ってます。」

 

 ティナの言葉に全員が驚く。アメリカが提出してきたスペックのところは遠隔操作型無人機と記載されているからだ。

 

 「どういう事だハミルトン!何故、そんな事が言える。」

 

 「福音のパイロットは私の従姉妹にあたるナターシャ・ファイルスだからです。」

 

 ナターシャの名前を聞きスコールも驚く。

 

 「何ですって、ナターシャが?!」

 

 千冬はスコールに訊ねた。

 

 「ご存知のパイロットなのですか?」

 

 「えぇ、私が国家代表の頃に何度か指導した事がある女性です。」

 

 「ところでハミルトン、その女性がパイロットなのは間違い無いのか?」

 

 「はい、2ヶ月前に会った時にそう話をしてました。」

 

 「2ヶ月前か・・・・・その間に仕様が変わり無人になったとは考えられないか?」

 

 「織斑先生、いくらなんでも第3世代型を使って無人機実験をするとは・・・・」

 

 「ですが、可能性が無いとは言い切れません。山田先生、もう一度アメリカに確認を取ってください。」

 

 「わかりました。」

 

 「兎も角、不確定情報に惑わされる訳にはいかないので、無人機という前提の元で作戦を考える。」

 

 千冬はそう言うと

 

 「私が提案する作戦としては、織斑と篠ノ之の持つ雪片参式の零落白夜による一撃必殺が有効と考えるが?」

 

 だが刀奈が直ぐに千冬の作戦案に否定的な意見を述べた。

 

 「織斑先生、その作戦はどう考えても失敗する可能性が極めて高いと思います。」

 

 それに箒が噛みつく。

 

 「私と百春がするんだ失敗等しない!」

 

 「では失敗する可能性となる根拠を示します。まず、第1に、二人は専用機持ちとしてあまりにも未熟だからです。タッグマッチトーナメントでも露呈した通り、直情的で搦め手やフェイントといった手段が殆どとれません。第2に、二人の機体そのものに問題があります。二人の機体は零落白夜を決め手にしてますが、福音にエンゲージするまでにエネルギーを消耗すれば、折角の零落白夜も殆ど使えなくなるでしょう。第3に、二人はイレギュラーが起きた時の対処が出来ないからです。」

 

 「そんな事ない、私と百春ならどうにでもなる!」

 

 根拠の無い自信で刀奈に反論する箒。しかし千冬にも反論するだけの根拠が無い為に下手に刀奈の意見に文句をつける事が出来ない。 暫し思案した千冬は

 

 「・・・・ならば、メインは織斑と篠ノ之とした上でエネルギー節約の為に二人を作戦ポイントまで輸送及びサポートするメンバーとしてオルコットとハミルトンを任命する。」

 

 「織斑先生、不測の事態に対応する為に第2陣の配備を進言します。」

 

 千冬の作戦を聞いてスコールが進言する。

 

 「・・・・・わかった。それでは、第2陣としてボーデウィッヒ、更識刀奈、陸奥紫夜琉、の以上3名を任命する。他の者は万が一の事態に備えて旅館の警護を命ずる。」

 

 刀奈としてはまだ異論があったものの、作戦指揮官である千冬が百春と箒を中心とした作戦を変更する気がない事、スコールの擁護により第2陣の配備が認められた事、そしてこれ以上は時間を浪費するだけと考え、ここで引き下がる事にした。

 だがひとつだけ納得出来ないのは、夏輝を何故作戦に・・・第2陣に加えないのかだ。

 機体の性能上、シャルやラウラの機体より機動性がある夏輝や円華、黒江を入れた方が得策なのに意図的に外した事が。 千冬の意図は読めている、今回の作戦で百春を活躍させる事で百春の評価を上げる事。

 その為に第2陣に夏輝は元より、機動性のある機体を排除したのだろう。 

 あまりにも底の浅い考えに夏輝達は呆れている。

 だからこそ、夏輝達はこの作戦の成功率が低い事はわかっており次の手の準備を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 セシリアの高機動パッケージ[ストライクガンナー]のインストールとティナのトムキャットの一次移行がギリギリで終わっていた事もあり、直ぐに出撃となった。

 

 その間に夏輝は美兎経由で、今回の指令の不審点を調べてもらうように手配したのである。

 

 

  そして出撃時間となり、百春はブルーティアーズに箒はトムキャットに掴まる。

 

 「ブルーティアーズ、テイクオフ!」

 

 「トムキャット、テイクオフ!」

 

 こうして第1陣の4機が出撃した。そして続いて

 

 「更識刀奈、ガッデス。出撃します。」

 

 「ラウラ・ボーデウィッヒ、ゲシュテルベン。出撃します。」

 

 「陸奥紫夜琉、ナハト。出撃します。」

 

 3機のISがそれを追うように出撃した。 

それを見送り夏輝達は一定間隔で広がり万が一の事態に備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夏輝達が危惧した通り、作戦は失敗に終わるのだった。しかも最悪の結果で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンタープライズ甲板

 

 福音が逃走し、2時間が経過した。漸く甲板上の残骸の撤去作業も、カタパルトの点検も終わり、福音の追跡体制が整った時だった。

 

 

 

 

 「どういう事だ!何故、追跡をさせてくれないのだ!」

 

 リカルドの怒号が艦橋に響く。いや、リカルドのみならず同じ戦闘機のパイロット、そして万が一の事態に待機していたISパイロットも、同じ思いだった。

 

 「何度も説明した通り、本国より追跡無用と連絡があったのだ!」

 

 「俺が聞いているのは、そこじゃねぇ!何で本国は追跡させないのかだ!」

 

 リカルドの怒りの矛先にいるエンタープライズの艦長は、溜め息をつき

 

 「今から私は独り言を言う。私の周りには誰もいない、いいな!」

 

 艦長が妙な前置きをした事にリカルド達は不思議な顔をする。だが一部の士官達は気がついた、艦長の本音に。

 

 「本国は先程、国際IS委員会を通じてIS学園に銀の福音の迎撃任務を依頼した。本国の一部の政治家や軍人は福音の性能テストを兼ねるつもりらしい。各国の最新専用機や男性操縦者がいる、IS学園はうってつけと考えたのだ。」

 

 「おいおい、確か未成年者はその手の任務は従事させられないという規約がアラスカ条約にあったよな?」

 

 リカルドの疑問に近くにいたIS操縦者が答える

 

 「はい、間違いなくあります。」

 

 「それを特例として国際IS委員会は認めてIS学園に通達したらしい。」

 

 艦長の話に全員が言葉を失う。彼等はアメリカに従う軍人だ。命じられれば火の中、水の中に飛び込む覚悟がある。 それでも、今回の自分達の国がしたことには納得がいかなかった。

 

 「それだけじゃない、アメリカは国際IS委員会に銀の福音ですら無人機であると虚偽報告をしている。」

 

 この一言はリカルドの怒りに火をつけた。

 

 「じゃあ何か!アメリカはナターシャを見捨てたということか!!! これが・・・・これが、アメリカのやり方かよ・・・・」

 

    ポタッ  ポタッ  ポタッ

 

 リカルドの硬く握った右の拳から血が床に落ちていく。暫くして顔を上げたリカルドは艦橋から出ようとする。

 

 「何処に行くリカルド、待機任務が言い渡された筈だぞ。」

 

 「そんなの知るか! アメリカ軍人として、今回の一件は納得がいかねえ。未成年者を戦わせるなんて許せねえ!!」

 

 そこでリカルドは一回言葉をきり

 

 「そして何より、惚れた女の一大事に駆け付けなきゃ男が廃るぜ!!」

 

 リカルドの叫びに艦長は再び溜め息をつき、周囲を見渡す。 その場にいる戦闘機パイロット、ISパイロット、士官、兵士にいたるまで同じ目をしていた。

 そう覚悟を決めた目。 処罰等を恐れず、自らの信念・・・自分達の正義を貫く覚悟を

 

 

 

 

 

 艦長は3度溜め息をつき、帽子を目深く被り

 

 「ところで、確かISパイロットが一人海に落ちて行方不明になったよな。」

 

 突然の事に誰も何も言えなかった。何の事か理解出来なかったからだ。

 

 「ん?聞こえなかったのかな、確かISパイロットが一人・・・()()()()()()()()()()()が海に落ちて行方不明になっているのだろう?」

 

 艦長の言葉にリカルドを含め全員の顔に力が甦る。

 

 「その捜索の為に人員を派遣することは禁止されていない。そして見つからないあまりに捜索範囲が日本近海まで及んでも何ら問題無い筈だ。人命救助が目的なのだから。その最中に謎のISと戦闘になっても人命救助の最中の不幸なエンカウントということになる。」

 

 艦長の言葉にその場にいる、全員が次の一言を待つのだった。

 

 「それでは総員、これより海に落ちて行方不明となったISパイロットのナターシャ・ファイルスの捜索に掛かる。総員配置につけ!」

 

 「イエッサー!!!」

 

 全員の声が艦橋のみならず、甲板にまで響くのだった。

 

 

 艦橋から飛び出そうとしたリカルドに艦長が声をかける。

 

 「そうだ!リカルド、さっきのセリフは中々くさかったぞ。そのセリフはちゃんと本人に言ってやれよ。」

 

  その瞬間、リカルドの顔は真っ赤になるのだった。

リカルドはそのまま出て行く。

 

 「さて諸君。リカルドがナターシャにプロポーズできるか賭ける奴はいないか?私は勿論、出来ない方に賭けるぞ。掛け金は任務完了後のステーキ+飲み代だ。」

 

 艦長の掛け声と共に艦橋では賭けが始まるのだった。

 



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第25話  暴走

 

 

 百春と箒を装甲の一部に掴まらせてセシリアとティナは福音を目指して進んでいた。

 そんな中、百春と箒は

 

 (やっとだ、やっと見せ場がきた!3度目の正直!これで更識の鼻をあかして、ヒロイン達の心を鷲掴みにしてやる)

 

 (今こそ百春と共に活躍して、他の奴等を見返してやる。)

 

 それぞれ邪な事を考える二人にセシリア達が声をかける。

 

 「織斑さん、まもなく福音との合流地点に到達します。準備をお願いします。」

 

 「わかった!」

 

 「篠ノ之さんは、織斑君の後ろについて近づいてね。」

 

 「言われんでもわかってる!!」

 

  4人の視界に福音の姿が飛び込んできたのだ。

 

 「「織斑君(さん)、篠ノ之さん!」」

 

 「行くぞ箒!」

 

 「あぁ百春!」

 

 二人はセシリアとティナから離れて瞬間加速を使い福音に迫る。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉーーーー!!!」

 

 百春は気合いの雄叫びと共に零落白夜を発動させた雪片参式白蓮で斬りかかる。だが、ここで百春は大きなミスを犯すのだった。雄叫びを上げた事で福音に存在を気づかせたのだ。

 

 「「織斑君(さん)、何故声を?!」」

 

 セシリアとティナからしたら信じられない事だった。不意討ちをしなければならないのに声を上げて自分の存在を知らせるという愚行。そしてそのつけは百春自身が払う事になった。

 百春の斬撃は福音に当たる事は無かった。直前で福音が気づき加速して回避したのだ。 そして回避した福音の真下には、百春の影に隠れていた箒の姿があるのだった。 福音に無防備な姿を晒す箒、そんな箒に福音は

 

 「テキタイセンリョクカクニン。コレヨリジドウゲキゲキモードニハイル。」

 

 と発音してエネルギー弾を放った。放たれたエネルギー弾が箒を襲う。箒は咄嗟に雪片参式赤蘭の零落白夜の斬撃を放つのだった。

 斬撃はエネルギー弾を次々と打ち消していくが、福音に届く事なく消える。逆に消し損ねたエネルギー弾が箒を襲うのだった。

 

 「きゃぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

 エネルギー弾が命中して落下していく箒。ティナが先回りして箒を受け止める。 

 セシリアがレーザーライフルを射って牽制する。

 

 「織斑さん、直ぐに体勢を立て直して!」

 

 「篠ノ之さん!確りして。」

 

 セシリアとティナが二人に指示をとばす。

 

 「わかってる!今度こそ!!」

 

 再び零落白夜を発動させ瞬間加速で福音に迫る、しかし百春目掛けてエネルギー弾が放たれる。百春は雪片参式白蓮でエネルギー弾を防いでいく。

 

 「それなら私が!」

 

 箒が零落白夜の斬撃を放つ、しかしこれも先程と同じくエネルギー弾で相殺される。

 

 「篠ノ之さん!正面からでなく背後に回ったりして攻撃して!」

 

 「うるさい!私に指示するな!!」

 

 ティナの指示を無視して正面から攻撃を続ける箒。

 

 「織斑さん、一旦距離を取ってください!私の射線を塞いでます。」

 

 「わかってる!クソッ!!」

 

 百春は牽制でスプリットミサイルを撃ちながら距離をとり、もう1度瞬間加速で斬りかかろうとした時だった、視界の端に船を捉えたのだ。

 

 「えっ?! オルコット、船だ!船がいる!」

 

 「そんな!海上封鎖海上されているはずなのに!私が避難誘導します。何とか福音を引き離してください。」

 

 「わかったわオルコットさん!」

 

 ティナは直ぐに返事をしてミサイルを射って船の反対側に追いやる。 しかし、箒がその方向から攻撃を仕掛けてきた。

 

 「落ちろぉぉぉぉーーー!」

 

 「そんな!!篠ノ之さん、逆方向から攻撃しないと!船の方に福音が向かってしまいます。」

 

 「うるさい!そんなの関係無い!あいつを落とせば済むだけだ!! 行くぞ百春!」

 

 ティナの言葉を無視して突撃する箒。 箒の無茶苦茶な攻撃にティナもさることながら百春も攻撃するタイミングを失うのだった。 二人の攻撃しようとする進路を箒が尽く塞ぐのだ。

 

 「箒!一旦離れろ、俺が攻撃出来ない!」

 

 「何を言う!私の攻撃に会わせて攻撃すればいいだろう。」

 

 「篠ノ之さんも織斑君も、こんな場所で揉めないで!」

 

 3人の不協和音は大きな隙を産む。その隙に福音が放ったエネルギー弾が全員を襲う。

 ティナはバリスティックシールドで、百春と箒は零落白夜を利用して防ぐ。しかし、ただ一人防ぐ事の出来ない人物がいた。セシリアである。防御出来ない以上は

回避するしか無いのだが、不幸にもエネルギー弾の射線上には船があったのだ。 セシリアは船を守る為にエネルギー弾を避けずに自分自身を盾にした。

 

 「きゃぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

 エネルギー弾をまともに受けて、セシリアは海に落ちていく。

 

 「オルコットさん!」

 

 ティナはセシリアが落ちて行くのを見て、直ぐに救助に向かう。何とか、海に落ちる前に受け止める事が出来たがセシリアは気を失っておりブルーティアーズの破損も酷かった。 

 

 ティナがセシリアを助ける為にサポートから外れた事で百春と箒は追いつめられていた。

 

 「何をしてる!さっさとサポートしろ!」

 

 箒の叫びに、ティナは

 

 「何を言ってるの? オルコットさんが危なかったんだよ。助けなきゃいけないでしょ!」

 

 「そんな犯罪者共を助ける必要等無いのに助けようとするからだ。」

 

 箒の言葉に流石の百春も

 

 「箒、その言い方は無いぞ!まだ犯罪者とは決まってないし、民間人を守るのは当たり前だろ!」

 

 「百春まで、そいつの肩を持つのか!!」

 

 箒は二人を無視して福音に向かっていく。

 

 「待てよ箒、一人じゃ無理だ。」

 

 箒に続く百春。 ティナはセシリアを抱えている以上はどうしようもなかった。 しかし、そこに援軍がきた。 第2陣の刀奈達である。

 

 「ハミルトンさん!」

 

 「生徒会長、オルコットさんが!それから、彼処に漁船が。」

 

 「わかったわ。ハミルトンさんは、オルコットさんを連れて撤退して。シャルちゃんは海上保安庁と封鎖している教員への連絡、そして漁船に避難指示を。ラウラは私と一緒に福音を押さえるわよ。」

 

 刀奈は直ぐに指示を出す。刀奈の中では既に作戦失敗と認識していた。

 

 「作戦指令室、聞こえますか?此方は更識です。現場に到着しましたが、未だに福音は健在。しかも漁船が作戦海域に侵入してます。またオルコットさんが負傷、ハミルトンさんとともに撤退してもらいます。」

 

 『こちら作戦指令室、了解。更識さん、現段階での作戦続行は?」

 

 スコールの問いに刀奈は

 

 「既に織斑君と篠ノ之さんの機体はエネルギーが残りわずかだと思われます。作戦続行はほぼ不可能かと。」

 

 

 

 

 

 

 作戦指令室

 

 刀奈の報告を聞いたスコールは千冬に、

 

 「作戦は失敗よ。撤退命令を出すわ。」

 

 「待て、まだ戦えるはずだ!更識達も到着したんだぞ、今なら数で押せるだろ!」

 

 「何を言ってるの?もうすぐ織斑君達の機体はエネルギーが切れるわ、そうなったらお荷物になるのよ。下手すれば機体が解除されて海に投げ出されるわ。そうなったら二人を保護して戦わないといけなくなる。戦況を悪化させるだけよ。それとも貴女は生徒を殺したいの?」

 

 スコールにそこまで言われると千冬も何も言えなかった。

 

 「兎も角、撤退命令を出すわ。」

 

 「・・・・・・・わかった。」

 

 千冬は仕方ないという感じで納得する。

 

 

 

 

 

 

 作戦海域

 

 

 『現段階を以て作戦失敗と判断します。総員撤退してください。撤退指揮は更識さんに一任します。』

 

 「わかりました。全員撤退するわよ!」

 

 「何を言ってる、まだ戦えるぞ!」

 

 「そうだ、今倒さないと!」

 

 箒と百春が刀奈に文句を言うが、刀奈は

 

 「これは織斑先生も承認した作戦指令部からの命令よ!」

 

 千冬の名前が出て、流石に二人とも文句が言えない。

 

 「織斑君と篠ノ之さんは先頭になって撤退を。シャルちゃんは漁船の護衛を。私とラウラちゃんが殿をつとめるわ。」

 

 刀奈の指示に渋々といった感じで動く二人。その動作は緩慢だった。 しかし、それが不味かった。二人は未だに福音の側で戦っているのに気を抜いてしまった。

 そんな二人を福音のエネルギー弾が襲った。

 

 「「うわぁぁぁぁーーー!!」」

 

 まともにエネルギー弾を受けた二人。二人共、ISが解除されて落下していく。

 

 「クソッ、戦場で気を緩めるなど!」

 

 ラウラがAICを利用して二人が海に落ちるのを間一髪で救う。 そのまま二人を抱えたラウラ、二人とも怪我をして気を失っていた。

 

 「ラウラちゃんは二人を抱えて先に行って!私が足止めするわ。」

 

 「わかった!」

 

 ラウラは二人を抱えて撤退していく。福音がそれを追おうとするが。その前に刀奈が立ち塞がる。

 

 「悪いけど、ここで暫く大人しくしててね。」

 

 刀奈はラウラ達が離れたのを確認すると、

 

 「いい具合に濡れているわね。これなら!」

 

 福音から放たれるエネルギー弾を軽やかに避けながら刀奈はトライデントを構える。ガッデスを中心に蒼い霧が立ち込め始める。

 

 「絶対零度、ケルヴィンブリザァァァァドォ!」

 

 福音にまとわりついた蒼い霧が一気に凍りつき、福音は氷の中に閉じ込められた。氷に閉ざされた福音は海に落下して、一瞬沈んで再び海上に顔を出す。

 

 「暫くはそこで大人しくしててね♥」

 

 本来なら、全てを凍らせる事も可能だったがパイロットがいる可能性が未だにあるので、氷に閉じ込めるだけに留めた。 おそらく1時間位で解放されるだろう。

 そのまま刀奈は撤退していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀奈が海岸に到着すると、既にセシリア・百春・箒の3人はタンカで運ばれていた。今回の臨海合宿には、万が一の事態に備えて学園に常駐している二人の医師の一人、テュッティが同行していた。

 既に旅館の一室に医務室が儲けられてテュッティが治療に当たっていた。 幸いにも3人とも軽傷という事で全員が安堵したが、未だに意識は失ったままで千冬が側についていた。

 

 漁船の方も、海上保安庁に引き渡しが終わっていた。此方は違法操業をしていた訳でなく、漁から港に戻る途中だったとの事。海上封鎖の連絡は無線の不具合が起きてまともに聞き取れなかったそうだ。 

 ただ、緊急事態という事は何となく感じたので、漁を途中で切り上げて帰港している最中に不幸にも戦闘空域に入り込んでしまったという訳だ。

 漁船の乗組員の方もセシリアが庇った事で誰一人怪我することはなかったようだ。

 今は海上保安庁で事情聴取と少しばかりのお説教を貰っている。

 

 

 

 

 作戦指令室は重い空気に包まれていた。特に千冬は自分がごり押しで決めた作戦が失敗した事で何らかの処罰が下される可能性がある。

 そして今、国際IS委員会とIS学園との話し合いが行われており、その話し合いの結果を待ってる状態であった。

 その一方、夏輝達はISの補給と整備を行っていた。

そこに美兎からの連絡が入る。

 美兎をはじめとした合宿に来ている技術者達は、それぞれ旅館内の別々の部屋に外部との連絡を制限され待機させられている。 

 もっとも美兎には全く問題なく、監視カメラや盗聴器を誤魔化して夏輝達に連絡してきたのである。

 

 『・・・・という訳で、福音の暴走を利用したみたい。それから、福音はやっぱり無人機じゃなくてパイロットが乗っているよ。おそらくパイロットの命と引き換えに学園に色々と求めるんじゃないかな? 渡されたデータには記載されていなかった、と言っても記載漏れとか、改竄されていた、とか言って誤魔化すんじゃないかな。』

 

 夏輝達は作業を続けながら、美兎からの秘匿通信を受けていた。

 

 「それじゃあ、パイロットの件は匿名で学園と国際IS委員会、それに日本政府にも?」

 

 『うん、もう知らせてあるから。今頃アメリカ政府は大慌てしているんじゃないかな。それから、福音の実験をしていた空母の乗務員達が、福音のパイロットが見殺しにされると知って助ける為に動いているみたい。』

 

 「凄いね、処罰を恐れずに動くなんて。」

 

 『美兎さんも見直したよ。この連中が処罰を受けないように色々と下準備しておくよ。』

 

 「あんまりやり過ぎないでね美兎姉さん。」 

 

 そこにスコールが現れた。

 

 「全員、作戦指令室に集まってちょうだい。」

 

 美兎との通信を終えて作戦指令室に向かう夏輝達。

 

 

 

 

 

 「作戦続行が決定されました。」

 

 スコールが部屋に集まった全員に告げる。

 

 「ミューゼル先生、それはどういった理由からでしょうか?」

 

 刀奈が全員を代表してスコールに疑問をぶつける。

 

 「最初の作戦は、戦力的な問題ではなく作戦の問題による失敗と判断されたようです。また、自衛隊の第2世代機では福音への対応が難しいと判断されました。 」

 

 「でも、自衛隊にはガーリオンを優先して納入しましたよね? それに今の自衛隊の主力は打鉄じゃなくアルブレードに移行してますよね、あれならそれなりに戦えるはずじゃ?」

 

 「・・・・・残念だけどアルブレードに関しても第2世代機という事で対応不可と判断されたの。そして肝心のガーリオンなんだけど現在、全てのガーリオンが宮崎県の航空自衛隊基地に訓練で出向いていて、此方に直ぐに来ることが出来ないそうよ。」

 

 スコールの言葉に誰も何も言えなくなる。余りにもタイミングが良すぎる事に。刀奈が全員を代表して

 

 「わかりました。それではここにいる専用機持ちで対応に当たります。」

 

 「それでは、改めて作戦立案にかかるわね。」

 

 「考えられる方法としては、長距離からの狙撃。その後は接敵してからの波状攻撃が打倒だと考えるが?」

 

 ラウラの作戦に夏輝が答える。

 

 「無難な作戦だな。戦力的にも問題はないと思うしな。」

 

 「それでは、10分後に再出撃!」

 

 その場にいる全員にスコールが命じるのだった。



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第26話  暗雲

 
 ご無沙汰しておりました。

 以前よりスローペースになりますが更新を再開いたします。


  

 

 

 ?????????

 

 

 

 

 

 ドーム状に組まれた石造りの部屋。天井部分の中心に開けられた、小さな小さな円形状の穴から射し込むのは極わずかな光。それ以外に扉や窓らしきものも無く、その為に室内は薄暗かった。

 

 

 天井の穴から射し込む僅かな光により、部屋の中央に組まれた祭壇らしきものが見える。

 

 

  そして祭壇には薄紫色の天蓋に覆われた玉座らしき椅子。

 

   

  更に、天蓋越しに誰かが座っているのがわかる。

 

 

 

 

 

 

 部屋に突如として響く女性の声。

 

 

 『御待たせして申し訳御座いません。唯今より御報告致します。』 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『はい、全ては計画通りに動いております。』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

  

 『問題ありません。何者もこの事には気づいておりません。そう神ですら・・・・・・・』

 

 玉座に座る人物は何も語らないが、どういう訳か会話が成り立っている。

 

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『はい、丁度良い具合に歪みを抱えた器がありましたので因子を与えてあります。』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『嫉妬、憤怒、欲情、高慢、強欲をかなり内に秘めて隠おります。』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『贄ですか?』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『儀式の為の贄も集めよと?』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『畏まりました。』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『七の月の滅門日、都より歳破の方位にて儀式を行うと?』

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『それでは万事抜かりなく手筈を整えます。』

 

 

 

 

 

 

  女性の声が途絶えると、再び静寂が訪れる。

 

 風も吹かない空間の中、天蓋だけが静かに揺れ動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

   

 時間は少し遡り、臨海合宿の前日。

 

 

 

 

 中国 ISトレーニングセンター

 

 中国各地から集められた代表候補生や候補予備生、それらを目指す訓練生達が、日々トレーニングする施設で中国が資金に糸目をつけず、威信をかけて作らた、IS学園に優るとも劣らない施設だ。

 

 「凰訓練生がいないだと!」

 

 施設で教官を務める春麗に、一人の女性職員が報告してきた。

 

 「凰訓練生以外にも、2人の予備候補生と3人の訓練生の所在がわかっていません。」

 

 「どういう事だ?昨日の訓練終了後に寮に戻ったはずだが?」

 

 「はい、寮に戻り夕食をとったところまでは目撃されておりますが、それ以降の所在がわかっておりません。今朝、点呼の際に部屋から出て来ないことで不在が発覚しました。」

 

 女性職員の報告を聞き顔をしかめる春麗。 鈴は中国に戻って早々に問題を起こした。彼女は春麗の目を盗み、再び高官を脅してIS学園への再入学を求めたのだ。 だがこの暴挙は春麗が直ぐ知ることになり、結果として鈴は予備候補生から訓練生への降格処分となった。

 そしてそれ以降、春麗は鈴を最重要監視対象として扱い、訓練も身体への基礎トレーニングと座学、そして精神修養を徹底的にした。 そんな最中に起きた出来事に春麗は頭を痛めた。

 

 「今、警備室で監視カメラの映像を確認している最中です。」

 

 そこに別の女性職員が入ってきた。

 

 

「失礼します。警備室の監視カメラの映像を確認したところ、物資搬入用ゲートの監視カメラに細工が施してあり、偽の映像が流されていました。分析した結果、昨日の20:00以降の映像が全てダミーでした。それから昨夜、警備室に宿直していた警備員の一人と、物資搬入用ゲートの警備をしていた警備員の一人と連絡が取れなくなっております。」 

 

 最悪の報告に顔をしかめる春麗。直ぐ様

 

 「公安当局に至急連絡して、空港・港・駅並びに主要幹線道路に非常警戒線を張るように要請を! そして脱走した訓練生と候補予備生並びに2人の警備員の確保を依頼。抵抗した場合は関係各所への手配と顔写真の配布を急げ!」

 

 春麗の矢継ぎ早の命令に今報告してきた職員が直ぐに手配に走る。 そして、春麗の命令に最初に報告してきた職員が

 

 「少し大げさ過ぎやしませんか?」

 

 「今回の脱走劇、あまりにも計画的で手際がよすぎる。おそらく、裏で糸を引いている人物もしくは組織があるわ。 既に私達は後手に回っている、迅速に動かなければ最悪の事態を招くような気がしてならないの。」

 

 春麗はそう言って暫く思案した後、ポケットからスマホを取り出す。

 

 「春麗主席管理官?」

 

 「私の古い友人に電話するだけだ。」

 

 この時、春麗は知るよしもなかった。中国のみならず幾つかの国・・・フランス・スペイン・ロシア・オーストラリア・カナダ・メキシコ・インドで同じ事が起きていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り

 

 日本  花月荘

 

 

 浜辺には既に夏輝達が整列していた。

 

 『福音の現在地は、先程と変わっていません。』

 

 真耶からの通信を受けて刀奈が

 

 「そろそろ氷が溶ける頃、上手くいけば先手が取れると思うわ。」

 

 機動力の優れたサイバスター、ヴァルシオーネR、アステリオン、トムキャットが先行し、それを追うようにガッデス、グランヴェール、ノルス・レイ、ゲシュテルベンが続く。そして最後尾がザムジード、ナハト。

 攻撃は刀奈達が到着してからの予定にはなっているが、福音が動き出したら予定を変更して夏輝達だけで行う事になっている。

 

 「よし、いこう!」

 

 夏輝の合図で全員がISを装着し、飛び立つ。

 

 

 

 

 

 先行した夏輝達は福音が氷浸けになっている場所に到達した。 

 

 「どうやら、まだ氷が溶けきっていないんで動けないみたいだな。」

 

 「それなら今のうちにフォーメーションを!」

 

 夏輝の言葉に円華がそう提案する。

 

 「もし、刀奈姉さん達が到着する前に活動再開したら俺と円華が前衛で抑えるからハミルトンさんと黒江が後方支援で!」

 

 「「「了解」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花月荘 臨時指令室

 

 「更識君達が、目標地点に到達。どうやら福音は未だに動いていない模様です。」

 

 真耶がスコールにそう告げるのだった。

 

 「この様子だと更識さん達の合流も間に合いそうね。」

 

   ビー、ビー、ビー、ビー

 

 突然、臨時指令室に鳴り響くアラート。

 

 「簡易レーダーに反応あり、所属不明の機影を探知! 数は10、場所はここより北北東に10Kの地点。 福音のいる地点に向かって移動中!」

 

 真耶の報告にスコールは近くの教員に指示を出す。

 

 「直ぐに更識君達に連絡を! ターナ先生聞こえる!」

 

 『聞こえてるよ、状況も把握した。私を含めて四人が迎撃に当たるから、抜けた穴を頼む。』

 

 「わかったわ、此方で調整するわ。山田先生、所属不明機の解析をお願い! そこの貴女は抜けた人員のエリアをカバーするように配置の移動を!」

 

 海上封鎖の指揮をとるレベッカに連絡を入れるとスコールは真耶に所属不明機の解析とを命じる。

 

 「ミューゼル先生! 防衛省の許可のもと、観測衛星とリンクして画像を解析した結果、所属不明機の内3機はクラス対抗戦の時に侵入してきた無人機【ゴーレム】です。そして5機は暴動鎮圧用ドローン【グラフドローン】のカスタム機と思われます。残りの2機はデータに無い機体です。」

 

 小型モニターに地球観測衛星から送られ画像が映し出され、真耶の目の前のパソコンのモニターに解析した画像が映し出された。 そこには3機のゴーレムと5機のグラフドローン、そして海上を疾走する2機の四脚のヤシガニのような機体。

 

 「ターナ先生、今から所属不明機のデータを送ります。」

 

 『了解! だけど泣き言は言いたく無いが、少しばかり戦力不足だな。かといって、福音の組を此方に回す訳にもいかないしな。最悪の場合は封鎖組を全機回す事だけは考えておいてくれよ!』

 

 「わかりました。海上保安庁や海上自衛隊に海上封鎖の人員増加お願いしてみます。」

 

 突然の出来事に臨時指令室の中は一気に慌ただしくなった。 そして、それは室外への警戒を薄めてしまっていた。

 

 

 (・・・・・まさか、こんな事になっているなんて。どうする、福音に向かうか・・・いや、ここは所属不明機の方に向かうか、向こうの方が活躍の場がありそうだしな・・・・汚名返上の為にもここで成果を出さないとな!)

 

 襖越しに室内の様子を伺っていた百春。百春は夏輝達が出撃した直後に理由はわからないが、突然目覚めた。

 突然目覚めた目覚めた百春に驚いたテュッティが検査するというのを遮り、トイレと偽って現状を知るために部屋を出たのだった。 そして臨時指令室の前で中の様子を密かに伺っていたのだ。

 

 (幸いな事にISは手元にあるし、このままエネルギーを補給して出撃するか・・・まてよ、ついでにアレも持っていくか何かの役にたつかも知れないしな)

 

 百春は踵をかえして旅館の外に設置された仮設の整備室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 「何、百春が意識を取り戻した? そしてトイレから戻ってこないだと?」

 

 「はい織斑先生。織斑先生が病院への搬送の手配をするために部屋を出て暫くして意識を取り戻しました。そして検査をしようとしましたら、しかし本人がトイレに行きたいという事で許可をだしました。しかし、部屋を出て10分以上立ちます。念の為に近くの男子トイレの様子を従業員の方にみてもらったらいないという事で、今館内の他のトイレの様子を見てもらっています。」

 

 近くの病院に百春達を搬送するための手配をおえて戻ってきた千冬にテュッティが告げるのだった。

 

  (意識を取り戻した・・・・確かに体の方は軽傷だし最初の検査で何の問題もなかったから意識を取り戻しても不思議ではない。だが、なんだこの違和感は・・・・)

 

 百春の目覚めに違和感を懐く千冬。すると突然、室内に置いてある通信機が鳴る。

 

 「織斑だ、どうした?」

 

 通信機の向こうから真耶の焦った声で

 

 『織斑先生、大変です。今この旅館からISが飛び立ったのですが、それが織斑君のISなんです!』

 

 「なんだと!!」

 

 真耶の報告に言葉を失う千冬。

 

 「すぐに追跡隊を出して拘束しろ!」

 

 『手配しようにも、人員が足りません。』

 

 「・・・・・私が臨時指令室に戻りますので、山田先生かミューゼル先生が拘束に向かってください。ノールバック先生、すいませんが間もなくここに救急車が到着しますので玄関で出迎えて、篠ノ之とオルコットの搬送の付き添いをお願いします。」

 

 「わかりました。お気をつけて。」

 

 テュッティにそう告げると千冬は部屋を出るのだった。 そしてテュッティも救急車を出迎える為に部屋を出るのだった。 

 

 

 

 だが、このあと部屋に救急隊員を連れて戻ったテュッティは、部屋で寝ていた筈の箒の姿が無いことに驚くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花月荘から離れた岩場に、箒の姿があった。

もし、この時の箒の姿を目にしている者がいれば箒の異常に気づいたかも・・・いや、そもそもその場にいるのが箒だとわからなかっただろう。

 自慢の艶やかな黒髪は艶の無い白髪に、ISスーツから見える肌は血色を失い白く、そして奇妙な紅いラインの模様が刻まれていた。そしてその顔には無表情で虚空を見つめている、何よりその瞳は異質・・・白目の部分が黒く、黒目の部分が真紅に変質していた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 聞き取れない程の声で何かを呟く箒。

 

 次の瞬間、箒の姿は少しずつ薄れていき消えたのだった。

 

 

 

 

 

 旅館を飛び出した百春のスレードゲルミルは、北北東に向かって飛んでいた。 その左手には仮設整備室に保管されていたとバリスティクシールドがあった。 

 

 (くそ、何で鍵が掛けられているんだよ。銃火器が何にも持ち出せなかったじゃねえかよ!)

 

 百春は本当なら銃火器を持ち出したかったのだが、保管してあるコンテナには電子ロックが掛けられており、百春では解錠することが出来なかった。そこでコンテナの外側に掛けられていたバリスティクシールドを無いよりはマシと、持ち出したのだ。

 だが百春は失念していた、装備品の無許可での持ち出しは重罪だということを。

 

  

 

 

 

 

 

 




 
 大変御待たせして本当に申し訳ありませんでした。


 言い訳になりますが

 足の骨折の完治に思いの外時間がかかった上に、身内の不幸も重なり、色々と精神的に参ってしまい落ち込んでしまい、書き上げる事が出来ませんでした。

 漸く心に少しゆとりができはじめたので、書き上げました。

 ただ以前と同じペースで更新出来るかはまだ未定ですが、それでも完結に向けて頑張っていきます


今後もよろしくお願いいたします。


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第27話  混乱

 
 あけまして、おめでとうございます。

 令和2年も何卒よろしくお願いいたします。 
 
 



 

 

 作戦開始前にもたらされた凶報に夏輝達は頭を悩ませるのだった。

 

 「どうする夏輝?」

 

 「とりあえず、全員で福音の相手をして倒した後に、所属不明機の対処している教員部隊の援護に向かうか、今すぐ教員部隊の方に増援を送るかの、どちらかになるけど・・・・・」

 

 刀奈の問いに悩む夏輝。既に簪達も合流しており全員が揃っていた。

 

 「・・・・・・・・よし、教員部隊の方に増援を送ろう。万が一にも此方に乱入されても面倒だし、何より織斑に下手に動かれても面倒だ。黒江がラウラと簪とシャルを連れて向かってくれ。」

 

 「その人選の訳は?」

 

 ラウラの問いに夏輝は

 

 「黒江の役割は運搬係。アルテリオンなら迅速に3人を消耗させずに運ぶ事が出来る。簪とシャルが迎撃を、簪のザムジードとシャルのナハトは攻防一体の万能型、不測の事態にも対応出来ると思ったからだ。そしてラウラは迎撃もだけど織斑の拘束を頼みたい。一番のイレギュラーになりそうだからな。」

 

 「なるほど、確かに適任と言えば適任か。」

 

 『・・・・・・わかりました。私の権限で増援を許可します。織斑君の拘束には織斑先生が向かう予定で準備していますが、出撃にはあと少し時間がかかると思います。早い内に拘束するに越したことは無いのでお願いします。』

 

 夏輝達の会話を通信で聞いていたスコールが許可を出す。

 

 「それじゃあ頼む!」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「見えた!!」

 

 所属不明機の迎撃に向かっている教員部隊よりも一足先に百春はたどり着くのだった。

 敵の中に学園を襲ったゴーレムの姿があるのに百春は気付き

 

 (あの時は何も出来なかったけど、今の俺なら!)

 

 根拠の無い自信を満ち溢れさせ雪片参式白蓮を構えて瞬時加速を使い、一気に接近する。

 

 「うぉぉぉぉーーーー!!」

 

 百春は中央にいたゴーレム目掛けて零落白夜を発動させて斬りかかる。 雪片参式白蓮はゴーレムを真っ二つに切り裂く、そしてゴーレムはそのまま爆散する。

 

 「よっしゃぁぁーー! 見たか、これが俺の力だ!」

 

 ゴーレムを一撃で倒した事で自信を持った百春は嬉しそうに雪片参式白蓮を掲げる。 だが百春は漸く得た見せ場と手柄(自己満足)に浮かれて失念していた、未だに周囲には敵がいることを。

 

 「もう、アイツなんグハッ?!」

 

 側にいた2体のゴーレムが衝撃波を放ち、百春は避ける事も出来ずにまともに喰らうのだった。

 衝撃により吹き飛ばされる百春。慌てて態勢を立て直す百春。正面にむけて左腕に装着したバリスティックシールドを構える。 

 だが、今度は背後からグラフドローンのパルスバルカンとミサイルが襲う。背後からの攻撃を想定していなかった百春はまともに喰らう。

 

 「グハッ?! な!背後から? ひ、卑怯だぞ背後から攻撃してくるなんて!正々堂々と正面からかかってこいよ!」

 

 無防備の背後から攻撃されて驚いた百春は、思わず敵に対して正々堂々と戦えと毒ずく。

 そもそも敵に正々堂々正面から戦えと言うのも可笑しな話だと百春は気づいていない。

 そもそも百春は今まで1対多の戦闘もその為の訓練も1度たりともしたことが無い。つまり百春には1対多の戦闘に対しての技術も無ければ知識もない。

 そして何よりスレードゲルミルは元々1対1を想定しての装備しか無い。

 百春は活躍の場に乗り込んだと思っているが、実際には自ら死地に飛び込んだのだと気づいていない。

 

 「この! スプリットミサイル」

 

 グラフドローン目掛けてスプリットミサイルを射つも簡単に回避されてしまい、逆にミサイルやパルスバルカンの掃射を受けてしまう。

 それだけでなく、グラフドローンに気をとられた隙に背後からゴーレムに殴られてしまう。

 

 「グハッ!! クソ、背後からまた! この!」

 

 百春がゴーレムに意識を向ければ、今度はグラフドローンが、グラフドローンに意識を向ければゴーレムが、まるで百春を弄ぶように回りを取り囲み攻撃していく。

 それをヤシガニのような姿をした機体・・・ベンディッドはただそれに加わらずにその場で動かなかった。

 

 (クソ、なんだよ、なんなんだよ!何で上手くいかないんだよ! ここは俺がコイツらを一気にやっつけて活躍する場面なのに!)

 

 袋叩きの状態の中で毒ずく百春。スレードゲルミルは完全装甲型故に見た目はそこまでダメージを受けているようには見えないがSEは既に半分以下にまで減少していた。

 反撃しようにも周囲を囲まれての集中砲火に手が出ないのてあった。

 やがてその状況に飽きたかのようにベンディッドが移動を始めようとした瞬間だった。

 

 『織斑百春、その場から動くな!!』

 

 個人間秘匿通信(プライベート・チャルネル)で聞こえてきたラウラの声に驚く百春。

 そして次の瞬間、何処からか飛来してきた幾状ものミサイルとビームがグラフドローンを破壊していく。

 突然の出来事に驚く百春はミサイルとビームが放たれてきた方向に視線を向ける。

 そこには黒江のアステリオンに掴まり此方に向かってくるザムジードの簪とナハトのシャルとゲシュテルベンのラウラの姿があった。

 

 百春の計画(浅はかな)では、夏輝達は福音の対処が終わるまでは此方には来ず、教員部隊も封鎖をなるべく維持するためにギリギリのラインで待機して待ち構えていると予測し、それまでに一人で侵入者達を倒し夏輝達を上回る手柄をたて自分が高評価を受ける、という風になっていた。

 しかし、それも黒江達が来たことで脆くも崩れさっていく。 それでも諦めきれない百春は

 

 (このまま見せ場の無いままじゃ終れない! せめてあと1機くらいは!)

 

 残り2機のゴーレムと2機のベンディッドは百春よりも簪達の方が危険度が高いと認識し、攻撃対象の変更を行い動きだした。

 

 「此方を敵と認識したみたいだ。予定通りに簪とシャルが迎撃をあいつは私が拘束する。姉様は上空で待機しながら周囲の警戒をお願いします。」

 

 ラウラがそう言って指示を出し行動しようとしたが、それより先に百春が飛び出してベンディッドに向かった。 ラウラはAICを使って拘束しようとしたが、位置的に下手に動きを止めると敵の攻撃をまともに受けてしまう可能性があるために使用することが出来なかった。

 

 「勝手な事をするな織斑!お前には無断出撃による拘束命令が出されている。」

 

 だが百春としてはラウラにそう言われたからと言って動かない訳にはいかなかった。 手柄をたてなければ無断出撃した意味も無くなってしまう、せめてあと1機くらいは倒しておきたかった。 

 

 (ウマイ具合にラウラが動きを封じてくれた!)

 

 瞬時加速を使い一気にベンディッドに肉薄する百春。雪片参式白蓮を水平に構えて零落白夜を発動させて一気にベンディッド目掛けて突く。

 

 「うぉりゃぁぁぁーーー!」

 

 身動きの取れないベンディッドは百春の雪片参式白蓮を避ける事が出来ずにボディに深々と突き刺さる。だが、その手応えに違和感を感じる百春。

 

 (ん? 何だこの手応えは? ゴーレムを倒した時と違う感じが・・・)

 

 「£¥%#&%£∀¥!?!!?!」

 

 「へっ?!」

 

 突如ベンディッドからあがる叫び声に驚く百春。

おもわず雪片参式白蓮をベンディッドから引き抜く。するとそこから間欠泉のように噴き出す真っ赤な液体。それを間近で浴びる百春。 百春はそれが何か理解出来なかった、だが他の四人は気づいた。そして黒江がオープンチャンネルで呼び掛ける。

 

 「その機体から生体反応が、有人機です! もう一機からも生体反応が確認されました。」

 

 黒江がアステリオンのセンサーで調べた事を告げる。それを聞いて百春は右手に握る雪片参式白蓮と自身が纏うスレードゲルミルを染めた液体を改めて見る。

 やや粘りのある真紅の液体・・・・黒江の生体反応・・・その2つが教えてくれた、それが血であることを。そして先程ベンディッドを突いた時に感じた違和感、それらが結び付き、ある事実を百春に気づかせた。

 

 「も、もしかして俺・・・人を刺した・・・・こ、殺した・・・・・・・・」

 

 雪片参式白蓮の刺し傷から血を撒き散らしながら海に落下していくベンディッドを呆然と眺める百春。

 

 「姉様は百春の捕獲を! 私があれの相手をする。」

 

 百春にAICをかけて動きを封じたラウラはもう一機のベンディッドに向かっていく。

 黒江は百春に向かってワイヤーを射出し拘束する。呆然自失としていた百春は何の抵抗もせずに拘束されてアステリオンに牽引されていく。 ただ

 

 「人を・・・・俺が・・・・刺した・・・殺した・・・・人殺しに・・」

 

 掠れるような声で呟くが、誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

 一方、簪とシャルはゴーレムに向かっていく。

 

 「速効で落とす! 天翔るサトゥルヌスの大鎌よ。立ちはだかるもの、悉く薙ぎ払え!」

 

 ザムジードの両肩の振動機が激しく稼働し、空間に渦を作りやがて2つのリングを形作る。 そのリングを掴みゴーレム目掛けて投げつける。 リングは輪投げのようにゴーレムの頭上から胴体にはまる。

 

 「カッシーニの間隙!!」

 

 ザムジードは開かれた右手を握るとリングは一気にゴーレムを締め上げ、そしてゴーレムは爆発四散する。

 

 

 

 「いくよナハト!」

 

 シャルはゴーレムに向かって瞬時加速を使い接近していく。 

 ゴーレムはナハトに向かって口から衝撃波を放つ、だがその衝撃波をまともに受けてもナハトの勢いは止まらない。何より衝撃波を受けたナハトはほぼ無傷に等しかった。

 

 「この装甲の厚さは伊達じゃない!」

 

 シャルはそのままの勢いでゴーレムに向かっていき、右腕に装着されているリボルビングステークをゴーレムの胴体めがけて撃ち込む。

 

  「どんな装甲でも、撃ち貫くだけ!」

 

 シャルがトリガーを引くとゴーレムの胴体にリボルビングステークが撃ち込まれ爆発し、胴体に風穴をあけるのだった。

 ゴーレムは、そのまま海への落下していく。

 

 

 

 

 ベンディッドと対するラウラ。 

 

 「カイリー・クレーバー、スラッシュ・リッパー!」

 

ラウラはカイリー・クレーバーとスラッシュ・リッパーをベンディッドに向かって射出する。 

 スラッシュ・リッパーはベンディッドの4本の脚部を切り落とし、更に両肩の砲門を破壊する。そしてカイリー・クレーバーは背面のスラスターを切り裂きラウラの元に戻り2本の短剣に分かれて両手に握られた。

 そのまま瞬時加速を使いベンディッドの懐に飛び込みカイリー・クレーバーで切りつけていく。

 その攻撃はベンディッドの装甲を削りとり切り裂いていく。

 

 「これで終わりだ!」

 

 カイリー・クレーバーの交差させた一撃はベンディッドの胸部装甲を破壊する。 胸部装甲を失ったベンディッド、そこには様々に機器を取り付けられた椅子に手足を拘束された少女がいた。  

 少女の表情はうつろで自我を感じさせなかった。

 

 「まさか生体部品に?!」

 

  ラウラは少女の手足の拘束している器具を壊し、取り付けられている機器やコードを剥がしベンディッドのコックピットから少女を出した。

 少女は全く反応せずされるがままだった。

 

 「ラウラ?」

 

 ゴーレムを撃墜した簪とシャルがラウラの側にきた。

 

 「簪、シャル、これを見てくれ。」

 

 ラウラが少女とベンディッドのコックピットを見せる。

 

 「これって、なんなの?」

 

 「たぶん、この娘を生体部品にして動くように作られた兵器。」

 

 シャルの疑問に答える簪。

 

 「人間の脳の演算能力はスーパーコンピューターを遥かに上回り、神経の伝達速度は機械の電気パルス以上と言われているわ。つまり人間を生体部品にすることで通常では考えられない位の性能持つ兵器が誕生する。」

 

 淡々と答える簪。

 

 「兎も角、この少女の治療と機体を解析をしてもらわないとな。私がこの少女と機体を持っていく。すまないがシャルは沈んだ機体の回収を頼む。」

 

 「わかった。」

 

 ラウラにそう答えて海に向かうシャル。

 

 「予定変更ねラウラ、私は一足先に自力で向こうに戻るから、黒江やシャルと一緒に引き渡しとかを頼むわ。」

 

 「いや、姉様が拘束している百春も私が引き受けよう。運ぶだけだから大丈夫だ。姉様、百春を渡してください。そして簪と一緒に戻ってください。」

 

 「わかったわ。」

 

 黒江はワイヤーで拘束している百春をラウラに引き渡すと簪を牽引して戻っていくのだった。

 シャルが沈んでいたベンディッドを引き揚げて来たのを確認するとラウラは百春と少女を、自分が持っていたベンディッドをシャルに引き渡して、旅館を目指して移動するのだった。

 

 




 
 御無沙汰して申し訳ありません。

 昨年は前半期は兎も角、後半期に怪我をして入院したり身内の不幸が続いて、かなり落ち込んでしまい立ち直りに時間を要したりして中々投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
 本来なら申し少し早く投稿出来ると思っていたのですが、前話を投稿した直後に色々とお世話になっている会社の上司が急に入院されたと思ったら、突然逝去されてショックを受けてしまいました。
 尊敬している人物だっただけに受けたショックが大きく、再び落ち込んでしまいました。1年でこれだけ不幸が重なるというのは本当にこたえました。

 でも、年の瀬になり仕事の忙しさが色々と気の紛らわすのになったのか、とりあえず続きを書く事ができました。

 これからも稚拙ではありますが完結に向けて頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。

 

 


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