バカがバカやる物語 (柳龍)
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設定集

 

宗馬真一(そうま しんいち)

 

役柄 主人公

 

役職 宗馬隊 隊長

 

あだ名 「エロバカ」

 

能力 視力強化のサイドエフェクトを有している。最初は単なる視力アップだったが(遠くのパンチラを見て発現)、絶え間無き努力(パンチラを)により相手への影響力を持つレベルにまでなった(不快な視線を強く与える)。

 

メイン武器はバイパー。サイドエフェクトでは無いが、土壇場や集中力の高まった時の思考能力が高く、出水公平や那須玲よりは見劣りするがバイパーを上手く使う。

 

サイドエフェクトがサイドエフェクトなので、スナイパーを最初は目指していたが才能が無く辞めた。

 

近接戦においてはスコーピオンを愛用。

しかし、孤月を使って何やら企んでいる模様。

 

近距離、中距離タイプ、対戦相手や気分により変わる。基本的には汀目のサポートがチーム内での役割。

 

かなり集中力を使うが、強力な影響(強力なセクハラ)を与えられる(女性にのみ)。

 

サイドエフェクトの進化という異例のモデルケースの為、馬鹿をやらかしても放り出せない。

 

 

 

汀目俊希(みぎわめ としき)

 

役柄 半オリキャラ 戯言シリーズ、人間シリーズの零崎人識、汀目俊希がベースで、ワールドトリガーの住民。

 

役職 宗馬隊 隊員 メインアタッカー

 

あだ名 「怠けバカ」

 

サボりの常習犯

 

零崎人識本人では無く、ワールドトリガー世界軸における一人の人間。汀目俊希も本名。裏の世界や零崎一賊はこの世界に存在していないが、彼の実力は本物。

 

殺人衝動はこの汀目も持っていないが、人殺し関連のサイドエフェクトを有している。

殺人衝動のサイドエフェクトでは無く、相手の動きと自分の体を把握し、殺し方が思い浮かぶ能力。

 

料理する際にレシピと手順が何となく頭に思い浮かぶ感じ。

 

この能力の為に人付き合いを避けてサボり癖になっている、、、という訳は決して無く、サボり癖は生来のもの。思い浮かぶが実行しなければいいと考えていて大して不安に思っていないし、本人の正確に影響を与えていない。(異常)

意識をしていないと人を見る度にいちいち思い浮かぶので、鬱陶しいとは思っている。(異常)

ボーダー上層部はかなり警戒している。

 

危険性の高いサイドエフェクトの性質から、馬鹿をやらかしても放り出せない。

 

メイン武器はスコーピオン。トップクラスの技量を誇るが、模擬戦などをしない為ポイントは低い。

 

1人っ子。両親も一般人。(作者の技量が無いため断念)

 

 

 

瀬戸 穂花 (せと ほのか)

 

役柄 半オリキャラ ゴブリンスレイヤーの受付嬢がイメージ

 

役職 宗馬隊 オペレーター

 

オペレーターを用意しないといけなくなったので、悩みながら選出。

出番があるかもしれないし、あんまり無いかもしれない。

 

バカ達に振り回される常識人にして被害者。



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第1話 ある〜日、作戦室の中、虎さんに、出会〜た。

ボーダー

 

それは、近界民(ネイバー)という異世界からの侵略者から人々を守る組織である。

 

戦闘員は皆若く、何人かの例外を除けば上は20代前半、下は10代前半といった具合である。

 

そんな育ち盛りで活発な年頃と、トリガーというボーダーが独占している未知の道具、そしてソレを安全かつ最大限に使用できる場所が揃ったのならば、彼等が熱を上げて競い合うのは自明の理であろう。

 

戦力が向上する事は当然ボーダーにとっても好ましいことだろうし、ランキング戦といったものを考案したことからも分かるように、ボーダー上層部は彼等の切磋琢磨する姿勢を止めはしないしむしろ推奨している。

 

けれども、何事にも限度があるし、血の気が多いのも当然考えものである。

 

 

 

 

ボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

 

 

「死に晒せや、オンドリャアーーー!!!」

 

「テメェがくたばれよッ、クソッタレがーーー!!!」

 

「両方纏めて死ね!ブチ殺してやるッ!!!」

 

上から順に、宗馬真一、汀目俊希、荒船哲次である。

 

この作戦室の主である宗馬真一は、何故かスコーピオンを大剣の形にして振り回している。

 

そんな彼の部下であるはずの汀目俊希は、彼を守るどころかスコーピオンをオーソドックスな短剣型にして殺しに掛かっている。

 

そして、3人目のこの部隊のメンバーではない荒船哲次は、孤月を逆手に取って元マスタークラスの攻撃手に恥じない腕前を見せている。

 

 

 

 

ランク戦でも、仮想訓練室での訓練でもなく、ボーダー基地内の普通の作戦室で。

 

「らぁッ!!」

 

荒船の孤月が、宗馬の腕を斬り飛ばした。

ついでに壁も大きく切り裂いた。

 

「ちぃ!」

 

宗馬の顔に焦りが浮かぶ。

 

元々、3人の中で専門の攻撃手ではない上、今回のような時しかブレード系のトリガーを使わないのだ。悪ふざけの延長線のような戦いであったとしても、どうしても不利になる。

 

しかも、容赦なく片腕を無くした隙を見逃さず、汀目と荒船が2人掛かりで攻めて来た。

 

(くそっ、どうしてこうなった!?)

 

恐らく、数瞬後に落とされる己を予感し、宗馬はこの様な状況に陥ったキッカケを思い返す。

 

 

 

 

 

10数分前のボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

始まりはオレの純粋な疑問からだった。

 

「お前さー、何で帽子被ってんの?」

 

「・・・・・・は?いや、ビックリした。急にどうしたんだよ、お前」

 

特に用事も無かったのか、来てからずっと駄弁っていた荒船が豆鉄砲に撃たれたかのように目を丸くして聞き返してくる。

 

聞かれた質問に答える、という人として最低限のマナーすらも出来ない男だ。

 

「何だよその目は。絶対にロクでもないこと思ってるだろ」

 

「だな。それも難癖付けてる感じのだぜ、多分」

 

何故だろう。オレの部下であるはずの汀目すらも呆れた顔で見てくる。

だが、そんなことは今はどうでもいい。今はコイツだ。

 

「いやさー、ちょくちょく聞くんだけどさー、荒船クンさー、女子に人気あるみたいじゃない?」

 

「いや、知らねーよ。何か言われたのか?」

 

「別にー、何も言われてないですけどー、ただ廊下歩いてたりラウンジで休んでる時に聞こえてくる話しでチョイチョイ聞くだけですけどー」

 

「あー、それ地味に効くヤツだよなー。裏表ない本音って感じでさー「シャラップッッ!!!」っおう、結構キてんな」

 

喧しいのは放っとくとして、腹立たしいのは事実だ。

オレとコイツとで何が違う?言っちゃあ何だが、オレだって顔は悪くない。凄いイケメンって訳じゃないが、そこそこ良い。事実そう言われたことがある。

 

、、、、、、いや、そこそこって。嬉しいけど素直に喜べねーよ。

 

んん!話しが逸れた。つまりだ、オレとコイツとの明確な違い。それは帽子だ。帽子の有る無しがモテるポイントだったんだ。

 

「違ぇーだろ。お前がモテないのはそういう捻くれた所と、危ない思考回路な所とセクハラ野郎な所だろ」

 

「だな。っつーか、だったらお前も帽子被ればいいだろ?」

 

「バッカ、お前バカ。オレが今から被り出しても荒船の二番煎じだろ?男で帽子は荒船、女子で帽子は茜ちゃんってボーダー内のイメージはもう固まっちゃってるんだよ。だからオレは考えた。荒船が帽子を被ってるのはハゲ始めているからだ、ってな」

 

「スマン、全く意味が分からん。分かるか?」

 

「バカの思考回路なんざ分かる訳ないだろ」

 

「トッシー、お前後で殴るから。勿論お前達の言いたいことは分かる。荒船がハ ゲてないのは知ってるし、ボーダー内でも知ってるヤツが何人もいることも。被ってない時もあるもんな。キャラ作りが甘いんだよボケが」

 

「結構荒んでるなー。ってか、帽子ならウチの半崎も被ってるけどな」

 

「溜め込んでたのかね?」

 

荒船とトッシーが好き勝手に言う。人の話しの最中に喋るなよ。何でコイツらがモテるんだよ、クソッ。

あと、半崎は別にいいんだよ。アイツは愛され属性の後輩キャラだから。荒船に似てきたら潰すけど。ついでに太一もな。

 

ちなみに、トッシーというのは汀目のアダ名だ。汀目俊希(みぎわめ としき)、俊希(としき)なのでトッシー。銀魂の土方と同じアダ名だ。

 

「そこー、静粛に。これは深ぁーい考えによってようやく導き出された答えなんだよ」

 

「手短に言うと?」

 

「荒船の印象下げとけば、オレの帽子デビューが明るいものになる」

 

「上手くねーし。浅ぇー」

 

「いつものこったな」

 

コイツら、いくら何でも興味無さ過ぎだろ。

あっ、スマホ出しやがった。まだ終わってねーぞコンニャロー共。

 

「へーへー、余裕ですねー。色男様はよー」

 

「おいおい、いい加減よせよ。流石に哀れになってきたぜ、お前」

 

あ?誰様が哀れだと?コラ、このトッシーめ。

 

「黙ってろドチビ」

 

「あ?」

 

「おい、落ち着けお前ら。」

 

大人の対応がムカつく。

 

「んだこのノッポが」

 

しかし、オレより先にトッシーが荒船に噛み付いた。大人の対応と大人な身長を妬んだのだろう。ちっさい奴め。

 

風間さんの次くらいに気にしてるもんな。女っぽい顔にはそれ程イラつかないのに。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

「オラー聞いたんだぜ?色男様よぉ」

 

「言ってやれ、言ってやれ!」

 

はて?コイツは知らないはずだが?

まあ、いい。

 

「荒船ぇ、お前さん犬が苦手なんだったなぁ〜?」

 

「・・・それがどうした」

 

チッ、スカしやがって。気にいらねぇな。

 

「ワンワン!おら、ワンワン!怖いでちゅか〜???」

 

「ワンワンワンワンワンワン!」

 

ゲス顔でトッシーも煽る。なんてクソ野郎なんだ。

 

「お前ら、、、、、、」

 

おや?プルプル震えてる。チワワかな?

 

「「ワンワン!ワンワン!ワンワ「うっせぇぞ!永久童貞と成長打ち止め野郎!!!」ッンだとゴルァ!!プルプルチワワがァぁアあッッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

現在時刻 ボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

避けようのない状況だった。切り替えよう。

まず、オレは落ちるだろう。これはもう変えられない。エリートのサイドエフェクトが無くても分かる。

 

次だ、最適解を弾き出せ。

 

出た!!!

 

「おぉオオオッッッーーーー!」

 

オレは自分の首を荒船に向かって斬り飛ばした。

 

トラウマになるといい。

 

「うぉう!?」

 

荒船の動きが止まる。

 

オレのトリオン体が解ける。

 

トッシーが隙を見逃さず荒船を落とす。

 

「オレの、勝ちだ!!」

 

生身に戻ったオレが勝ち誇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒船に嫌がらせをし、落とせたからだ。

 

仮に、あの状況でトッシーに仕掛けて隙が生まれても荒船は状況について行けずトッシーを落とせなかっただろう。そういう所が荒船はまだ甘いし、素の実力でもトッシーに劣るしな。

 

最悪の結果とは、戦闘が中断してしまいオレ1人が落ちるという場合だった。危ない所だった。何とか道連れを作れたぜ。

 

「いやいやいや、甘いんじゃなくて真っ当なんだよ。お前らと違って。戦ってる相手の生首が突然飛んできたらビビるだろ。しかも、白目剥いて舌出してたし。ホラーだろ」

 

負け犬が言い訳をする。恥ずかしいヤツめ。

というか、作戦室で孤月を振り回す奴の何処が真っ当なんだ。ちゃんと周りに被害が出ないようスコーピオンを使いなさい、スコーピオンを。

 

オレ達はひっくり返ってたソファーを元に戻しながら駄弁る。

 

つーか、トッシーはまだトリオン体なんだから1人で充分じゃね?

 

「おいおい、勝ち残ったのはオレだぜ?それなのに手伝ってやってんだから文句言うなよ。」

 

「ソファー蹴り飛ばしたのお前だろ。それに、オレが勝ったのは試合に負けて勝負に勝ったの勝ちだ」

 

「いや〜?そいつはどうだろうな」

 

「あん?何だよ?」

 

トッシーが苦笑しながら意味の分からないことをのたまう。

 

「本当に分からないのか?」

 

ピョッ!?

 

聞こえてきた声はトッシーよりも低く、抑えきれない怒りを無理矢理押し潰しているかの如き声だった。

 

壊れかけのブリキおもちゃのような音を出して、オレは声のする方を向く。

 

「お前ら、随分と好き勝手にやったようだな」

 

そこに居たのは飢えた野生の虎、もとい怒り心中の忍田さんであった。

 

まだ野生の虎の方がマシだな。

 

「「「すいませんでした」」」

 

オレ達は3人仲良く土下座をして許しを乞うた。

 

 

 



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第2話 ボーボボ最高

 

「何かさー、トリオン体だから出来る遊びしねー?」

 

ソファーに寝転びながら、今週のジャンプを読んでいたトッシーが唐突に語りかけてきた。

 

「んだよ、いきなり。つーか、まだジャンプ途中だろお前」

 

そう言って、オレはトッシーに目線を向ける事なくスマホをイジり続けながら、今の自分のメイントリガーが何だったかを思い出そうとする。

 

ジャンプを読んでいる最中に別の娯楽を求める者には死しか無い。

 

「いやー、もう3周目に入っちまったからよー。あ、今週のオススメはアクタージュな。やっぱ、景ちゃんの雰囲気好きだわー」

 

オレはトリガーの起動を取り止めた。

 

「なら良いか。あと、それ以上言うなよ?ネタバレしたらマジで殺るからな?」

 

オレはスマホを仕舞ってトッシーの方に顔を向ける。

ちなみに、今のメイントリガーはスコーピオンだった。最近のオレの推しはアクタージュなのだ。

 

「んで?急にどうしたんだよ?」

 

「いやさー、ハンターハンター見てて思ったんだけど、トリオン体だったらヤバイシーンも再現出来んじゃね?って思ってよー」

 

そう言いながら、トッシーはジャンプを閉じてオレの方を向いて座り直した。

 

「あー、第4王子?のシーンか?まー出来るっちゃあ出来るな」

 

ややこしかったよなー、アレ。いや、ソコが見所なんだけどさ。

 

「アレじゃなくてもさ、色々やってみたくねーか?」

 

コイツは、この前こっ酷く叱られたのを忘れたのか???

 

この間の、何の合図もなく3人同時に決めた華麗なるトリプル土下座だったが、残念なことにお怒りの虎を宥めることは叶わず、猛説教を受けた挙句三ヶ月間給料9割カットの罰を受けた。

ハァー、仕方ない。ここらでビシッと注意してやるか。まあ、偶にはな、部下を嗜めるのは上司の仕事だしな。

 

ぶっちゃけ上層部からのオレの評価がマジで怖いし。

 

よっし、んじゃあビシッと言ってやるぜ。

 

 

 

「メッチャやりたい。何やる?」

 

ちゃうんや、工藤。だってオモロそうなんやもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず何か思い付くか?」

 

諸悪の根源が尋ねてきたので、巻き込まれたオレは案を出そうとする。

 

「んー、カッコいい系もいいけど、やっぱりギャグがいいな〜。ボーボボとかどうよ?」

 

「おお!いいな!ボーボボ!生身じゃキツすぎるもんなアレ」

 

ジャンプ史上有数の流血漫画だ。ギャグ漫画なのに。

いや、ギャグ漫画だからこそ出来たとも言えるのか?

 

「そんで、どのシーンやってみるよ?」

 

「そうだなー」

 

何かないかと思い出そうとするが、あっという間に出てきた。

 

「ロシアンルーレット」

「アレか」

 

そう、アレだ。何だろう、自分でも驚くくらい急に出てきた。

 

「んじゃー、リボルバーがいるな。アステロイドベースに寺島さんに頼んでみるか」

 

「ああ、頼む。この前漫画貸した借りです、って言っといてくれ」

 

そう言って、オレは自分のトリガーを渡した。

 

「あいあい」

 

トッシーは駆け足で開発室に向かって行った。

 

「さて、と。他の準備はどうするかなー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

「さてっ、小道具も出来たが次はどうする?」

 

寺島さんからアステロイドの調整をして来てもらったトッシーが、笑顔を浮かべながら聞いてくる。

 

「あー、それなんだけどよ。5発も頭に食らったら、途中でベイルアウトしちまうよな」

 

最初から気付けよという話しだが、2発目までなら早撃ちでいけるかもしれないが、5発は流石に無理だ。

 

仮想戦闘室でなら出来るかもしれないが、こんな理由で使用許可は降りないだろうし、スマホで動画に撮ることも出来ない。

 

「そこは大丈夫だぜ。威力とサイズを低めに設定して貰ったから、撃ち終わった後に一言くらい言えるようになってるはずだ」

 

「マジかッ、グッジョブ!んじゃあ、どっちがどの役やる?」

 

「オレはどっちでもいいぜ。でもまー、キャラ的にオレが金天ボで、お前が首領パッチじゃね?」

 

「はぁ?って言いたいけどオレもそう思うわ。「宗馬はアレだな。ヤラレ役が染み付いて来てるな」って、この前東さんに言われちまったしな」

 

「かはは、東さんにそこまで言わすなんてよっぽどだな!」

 

「うっせー、誰のせいだ。いいからもうやろうぜ。あ、あと動画撮ろうぜ。やり直し出来ないしな」

 

「おう、いいぜ。じゃあオレのスマホで撮るな」

 

「ああ。じゃあオレのスマホで三つ目の奴のセリフ入れて流すから」

 

「ああ、そうか。それも必要だったな」

 

「だろ?あと、場面の切り替えけどよーーー」

 

 

 

 

うし、じゃあ準備も出来たことだしヤルか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

カチカチカチカチカチ

「1、2、3、4、5・・・・・・オレの勝ちだな」

 

コ、、、コイツ

イカレてやがる

 

ドンドンドンドンドン

「1、2、3、4、5・・・・・・チョロイね」

 

コイツもイカれてやがる

 

ドンッ!(ベイルアウト音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぎゃははは!!!」」

 

マジで出来ちまったよ!

ヤベー、何度も見返してるのに笑いが止まらねー。

 

「こ、これ。皆んなに送ろうぜ。テロるはマジで」

 

息も絶え絶えになりながらトッシーが提案してくる。

 

「だな。ぶっちゃけ城戸司令とかに直ぐバレるけど遅かれ速かれだしな。ププッ、だ、誰から送る?」

 

「ま、待て待て、見た時の反応も見たいから、片方が話してる間にもう片方が送ろうぜ」

 

「ナイス!トッシー!冴えてる!!んじゃ早く行こーぜ!先ずは公平からだな、アイツなら言いふらさないだろうし、ボーボボも知ってるかもだしな」

 

「おっし!かはは、楽しくなって来たぜ!」

 

 

 

そうして、オレ達はあちこちに出向いた挙句、ボーダー内の知り合いに動画を送りまくった結果、速攻で城戸司令達にバレてしまい、またこっ酷く叱られた上に給料の9割カットの刑を半年に延長させられた。



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第3話 ボーダーNo.1の男 (呼び出され率)

「太刀川隊と全力で試合をしろ」

 

「パワハラっすか?」

 

おっと、いけない。つい心の声が漏れちまった。

 

けれども仕方ないことだと思う。

なんせ相手はA級1位。紛れも無くこの組織、いやこの世界で最強の部隊なのだ。

 

そんな奴らの相手をランク戦や自分の意思で申し込む模擬戦でなく、上司からの命令でやらされる。

 

パワハラだろ、これ。

 

 

急に城戸さんから司令室に呼び出されて要件を聞いたらコレだ。

流石は我らがボス。強烈だねー。頼もしくすらあるけど、それは敵に向けてね?話通じるか分からんが、ネイバーとかマスメディアとかに。

 

 

「口答えできる立場にいるつもりかっ!!散々規律違反をしおって、本来ならばとっくに記憶を消して追放しているのだぞ!!」

 

「それをしないのはオレ等への温情じゃなくて、オタクらの欲目だろ。強力で異常なサイドエフェクトに進化したサイドエフェクト。何とか制御したいし、解明したいですよねぇ?もしかしたら、新しいS級のサイドエフェクトを獲得できるかもしれない。自分達の陣営に」

 

小さい体で苛烈な性分の鬼怒田さんに皮肉交じりで応える。

ダメだな。別に嫌いなわけではないんだが、こう厚かましく言われるとついつい生意気になっちまう。

 

若気の至りだ。つまり大人が度量を見せて許すべきだ。

 

「まあまあ、2人とも落ち着いて。その話は今しなくていいでしょう。この話は別に罰という訳ではないんだよ、宗馬くん」

 

マジで大人の度量を見せられちまったぜ。タイムリーに。

 

流石は唐沢さん。何だ?アメフトやったら心もナチュナルに読めるの?ヒル魔?高見?あの「〜と言うと思ったかい?」の下り好きです。

 

話が逸れた。

 

「罰じゃないって言うと、どういう事ですか?」

 

「厳密に言えば、追加の罰じゃないってことかな。今君達が課せられている減俸処分を、太刀川君達との模擬戦で減らせるってことだよ」

 

「あー、成る程。何だそれならそうと言って下さいよー」

 

「勝手に話を進めたのはお前だ。まあいい、減刑については丸一日太刀川達の相手をすれば、最初の処分通りの3ヶ月間へ短縮する」

 

ふんむ、どうやら本当に拒否権は無いみたいだな。

 

仕方ないか、正直9割カットを半年ってのはキツかったからな。

3ヶ月間なら他所の作戦室に強奪、もといおやつを恵んでもらえば耐えしのげるだろう。

 

 

 

 

さて、本腰を入れるとするか。

 

「分かりました。了解です。けど、一ついいですか?何で模擬戦で減刑、なんて異例な判断をなさったので?」

 

さっきまでの緩い感じを消し、真剣な声音で場の空気を重くする。

 

そう、これは結構キナ臭い。

 

城戸さん達は規律を重んじ守る立場にいる側だ。勿論、組織の為になるのならば公にならない範囲、もしくは露呈しても余りあるリターンを得られるならば平然と違法行為を行うだろう。

 

しかし、組織を運営していく中でトップが毅然とした態度を示さなければ組織の統率は乱れてしまう。一度決定した処罰を覆すなんてことはあり得ない。

 

オレ達の生活を慮っての救済措置なんかでは絶対無い。これは確かだ。

ならば何がある?減刑なんていう甘い誘いでオレ達に模擬戦をさせる理由。

 

最悪の可能性として、オレ達のデータを集めて処分する可能性。

けれども、これはどうだろうな?たった丸一日の模擬戦で用済みに成る程十分なデータを取れるか?

 

データ収集も目的の一つかもしれないが、本命は別か。

 

「ハハハ、そこまで警戒しなくて大丈夫だよ。これは君達だからこそ頼める案件なんだ」

 

言葉通り、場の空気が和むよう唐沢さんが明るく話しかけてくる。胡散臭ぇー。

駆け引きとかそういうのだと、この人が1番警戒しなきゃいけない人なんだよな。

 

「ふー、いいか。今から話す内容は最上級機密だ。もし他言した場合、今までのように済むとは思うな」

 

警戒を解かないオレを見かねたのか、城戸さんが話し出す。

 

他の人達の様子を確認してみると、鬼怒田さんは渋い顔をしているが特に慌てたり止めようとしたりはしていなくて、唐沢さんはいつも通りの笑みを浮かべていて何も読み取れない。

 

どうやら理由を説明することは織り込み済みだったようだ。

 

「分かりました。お願いします」

 

「うむ。内密にだが、近いうちにA級上位のチームをあちら側に派遣する遠征計画を行う」

 

「・・・・・・それはまた、思い切った決定ですね」

 

告げられた内容はかなりの機密内容だった。

成る程、確かに今のボーダーの戦力は充実している。トップチームがいくらかいなくなって前回と同規模の大規模侵攻があったとしても、耐え切れるだろう。

 

そして現状、ゲートを誘導出来ているとはいえオレ達は一方的に攻められている。向こう側に渡って調査を行うのは必須だ。

 

だから注意するのはそこじゃない。この話の肝はA級上位を派遣するって所だ。

話の流れから言って、太刀川隊は決定だろう。上位ということは他にも行くか。太刀川隊は真っ当な戦士系のメンツだ。工作兵の冬島隊、隠密行動の出来る風間隊は有力だな。

 

そうなると、事実上ボーダーのトップ3部隊が行くことになる。そんな大事過ぎるメンバーを危険に晒すか?

いいや、そんな事は絶対にしないだろう。戦力的な問題は低い。問題は異世界に渡るって所だ。どのように渡る?意図的にゲートを操れる?本部の設備がなくても、向こうの世界からコッチに帰還できる?

 

つまり、この豪華メンバーを派遣するってことはこれらの問題技術的な問題は既に解決済みということだ。

 

どうやら、この大人達をまだ見誤っていたみたいだ。いくらボーダーがトリオン、トリガー等の未知の技術を大侵攻前から有していたとはいえ、開発局長の鬼怒田さんはそれ以降からの参加だろ。ゲート誘導装置も作ってるし、いくらなんでも早過ぎじゃね?

 

サイズと立ち振る舞いが小物感を醸し出してるけど、この人ノーベル賞ものの人だよな。

 

オレは最大限の敬意を表して鬼怒田さんを褒めちぎった。

 

「それで、その遠征に参加する太刀川さん達の相手をオレ達がすることにどんな意味が?」

 

「いくら太刀川君達が強いといっても、敵は未知だ。だったら、異質な相手と戦い慣れて貰いたいと思ってね」

 

横から唐沢さんが答えた。異質ってアンタ。

 

「ははは、ごめんごめん。まあ、それでも君達がユニークなのには違いないし、加えて君達はランク戦にも参加してないし、模擬戦も滅多にしないときた。こういう機会でもないと全力で戦わないだろう?」

 

うわぁー。

 

明るく笑顔で言ってるけど、言外に「それでも戦闘ブース以外で私闘をやってるけどね笑」って責められてる気がするぜい。

唐沢さんは特に怒ってないだろうけど、鬼怒田さんと城戸さんの機嫌はあからさまに悪くなったな。

 

「了解です。太刀川さん達との試合、喜んでやらせて頂きます」

 

「・・・ああ、日程については後で連絡をする」

 

これ以上ボスの機嫌を損ねる前にとっとと撤退するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー基地内 廊下

 

さて、トッシーの奴にも伝えとかなきゃな。まー、流石に命令って言われりゃーアイツも本気出すだろ。

 

自分達の作戦室に戻りながら、さっきの話を思い返して今後のことを考える。

 

遠征ねー。これが成功したら、次はもっと大々的に動くのかな?

世論やら親御さん達やらが大分うるさくなると思うけど、そこは根付さんが上手くやるか。

 

オレ達はどうなんのかねぇ〜?実験段階の今じゃあ連れて行かないと思うけど、正式に派遣されるとなったら選ばれちまうかもな。まぁ別に選ばれても選ばれなくてもどっちでもいいけど。

 

意外かもしれないが、自分達の性格や今までの日頃の行いに問題があることは理解している。してるけどやめないけどな。面白いから。

そして、そんな自分達をある程度自由に放し飼いにしてくれている城戸さん達にも少しは感謝している。

 

人見たら殺しの手順が浮かんでくるサイドエフェクトや、成長したサイドエフェクトなんて解剖してでも分析したいよなー。特に成長するってのが組織的に喉から手が出るほど欲しいはずだ。あのエリート様が持つ未来予知なんて代物がゴロゴロ得られたら、こんな心強いもんは無いよなぁ。

 

トリオン量が関係するのに加えて何なんだろうな?感情か?

ヤベーな、オラ超サイヤ人の素質あったんか?

 

オレが自分の中に眠るとびっきりの才能にワクワクを止められず廊下を歩く中、

 

さっきまでの話なんかがどうでも良くなっちまう出来事が起きた。

 

思えば、もしこの出来事がなければオレはこの世のものとは思えない地獄をこの先何度も味わうことはなく、いつも通りの穏やかな日常を過ごすことができたのかもしれない。

 

 

 



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第4話 前を向いていても、同じ所をぐるぐると回る

ボーダー基地内 宗馬隊作戦室

 

時刻はまだ午前10時前ほど。

 

もうすぐ、例の太刀川隊との非公式な模擬戦が始まる。模擬戦は昼休みも挟み複数回行われる予定だ。

 

何でも、ネイバー達が住む異世界に太刀川さん達が調査に出向くんで、その為の実戦訓練がしたいらしい。

何でオレ達が、って思うけどボーダー内でトップクラスの問題児であるオレ達にこういう面倒ごとが回ってくるのは仕方がないかもしれねーけどな。

 

(にしても、まだ来ねーな)

 

問題児の中の問題児。我らがリーダーがまだ来ない。今日だけじゃなくて、例の城戸さんに呼び出されて行く前の時はいつも通りの様子だったんだが、それ以降会ってねえ。

 

一応電話があって模擬戦のことや遠征については知らされたが、随分と説明不足で雰囲気もおかしかった。結局、その後の詳しい日時や段取りもオレと瀬戸ちゃんが受け持つことになって、あいつにはメールで伝えただけだ。

 

「遅いですね、宗馬さん。もしかして時間を間違えているんでしょうか?」

 

さっきから何度も時計と扉を見やり、焦っている瀬戸ちゃんが声を掛けてくる。

 

普段ならばいつものこととしてもう少し落ち着いてただろうが、今回は城戸さん達直々の真面目な仕事の話であるのと、アイツの様子がおかしかったことがあって不安になってるんだろう。

 

「んー?そいつは無いんじゃないか?確かに様子はおかしかったけど、キチンとメールの返信は来たんだしな。ま、もう少し待ってみようぜ」

 

「そうですね。でも、汀目さんは大丈夫何ですか?宗馬さんとロクに打ち合わせできていないんでしょう。タダでさえチーム戦なんて久しぶりなのに、相手はあの太刀川隊ですよ?」

 

「カハハ、まあその点は特に気にしなくていいぜ。作戦なんて元からねーし、瀬戸ちゃんもご存知の通り分断するか、その場その場で上手くやるかのどっちかだからな」

 

「その、その場その場で上手くやる、という所を細かく考えるのが作戦なんです。はぁーーー、毎度毎度そのせいで私までゼロから対応をしなくちゃいけなくなるんですよ」

 

やべ、地雷踏んだ。いやまあ、分かるぜ?割りかし無茶な動きをするオレ達2人のオペレートするのは大変だもんな。

 

ただでさえいつも迷惑を掛けてしまっているので、大人しく愚痴を聞き流しすことにした。

 

曖昧に相槌を打っている時、部屋のドアが開き待ち人がやってきた。

 

「オッ、やっと来たか、って何だ?」

 

ようやくウチのバカが来たかと思えば、バカはいつもと明らかに違う雰囲気を醸し出していた。バカなのに。

 

まず目につくのが、何故か一度もつけた姿を見たことのない真っ黒でとんがっているサングラス。バカなのに。

服装は黒一色。けれども持ち合わせがなかったのか、二宮隊の様なカッコイイ黒スーツなどでは無く、安そうな黒のTシャツに黒のジーパン、そして何故か黒革のジャケットに黒のローファー。バカだ。

部屋に着いてからこちらに向かって来る歩みはゆっくりとしていて、まるで見えない鎖を全身に巻きつかれているかの重厚な印象を与える。バカなのに。

背は少し丸くなり、肩も下がっていて普段の明るい雰囲気を感じさせない。バカなのに。

 

けれども、全体的に重く暗くなっているが、何処と無く覚悟を決めた男の様な落ち着いた力強さを感じさせる。バカなのに。

 

ゆっくりと室内に入って来た宗馬は、何か言葉を発することは無く、黒いサングラス越しに俺の方をジッと見ていた。

 

そんな明らかに異常な様子の宗馬に、思わず寒気を感じた。

 

「えっと、大丈夫ですか?宗馬さん」

 

同じく不気味に感じていたであろう瀬戸ちゃんが、堪り兼ねて声を掛けてくれた。

 

「あっ、ああ。大丈夫だ、悪りーな遅くなって」

 

ボーとしていたのか、声を掛けられてようやく雰囲気が少し戻ったように見える。

 

「オイオイ、本当に大丈夫なのか?明らかに様子がおかしいぜ、お前」

 

「いや、大丈夫だ。むしろベストコンディションと言っても良いくらいだ」

 

頭を強く振りながら、よく分からんことを抜かす。

 

目の前のバカをいつもの様にバカを見る目で見ていたら、頭を降るのを止めて力のこもった声でコチラに話し掛けてきた。

 

「トッシー、公平の相手はオレがする。お前は太刀川さんの相手を頼む」

 

「ん?別に構わないぜ。間合い的に、どっちかっつーと公平より太刀川さんの方がやり易いしな」

 

「ああ、助かる。公平はオレのエモノだ」

 

どうやら、この異常状態には公平が関わっているらしい。

 

何があったんだか、今回は関わったら面倒臭い案件のようなので、オレは大人しく太刀川さんの相手に集中しようとする。

 

しかし、面倒事から手を引こうとするオレと違って、優しい瀬戸ちゃんはバカのことを気に掛けるようだ。

 

「はぁー、何をしようとしているのかは知りませんけど、今回の試合は真面目に重要な案件なんですからね」

 

「ああ、そうだな」

 

「それに、試合は何度もやるんですから変に意気込んで、途中でバテないでくださいよ」

 

「分かってる。一度じゃあ足りないだろう。最悪なことにな。オレが保つかアイツが保つか、どちらにせよ最悪だが仕方ない」

 

「・・・・・・うんっ、諦めました!弁護はしませんが、もう勝手にやっちゃって下さい!」

 

あーあ、ついに瀬戸ちゃんも見捨てたか。

まあ、そうした方が気持ちは楽になるだろうぜ。常識人は苦労するよな。

 

標的にされてる公平には悪いが、処置無しだ。ちなみに、狙われていることは教えてやらない。模擬戦だからな。俺はバカどもの見世物を高みから見物させてもらうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は夜。人っ子一人いないシミュレーションで作られた街を1人歩く。

 

未知の世界への対策と公平性の為、フィールド選択の決定権はどちらにも無くランダムとなった。

ここ数年、何度もこのシミュレーションを使用してはいるが、都市と言っていいこの街並みに人の気配が全く無いこの景色にはどうしても違和感を覚える。

 

こうした違和感を覚えるのは、オレが他の連中と違い戦闘に集中していないからだろうか。だが、感じるものは仕方ない。それに、シミュレーション以外にも防衛任務の時の危険地帯にも感じるものはある。

当たり前だが、あの放棄された街は瓦礫の撤去も修復もされない。そして、日々の戦闘によって瓦礫の山が増えていく。

そんな光景を目にすることで、どうしても非日常を意識させられる。

 

「あの荒れ果てた風景の様に、オレの心は傷付けられたんだぜ。公平ぃ」

 

自前の目の良さを活かして、いち早くターゲットを発見した。

しかし、オレは先制するチャンスを捨てて、ある程度近づいてから表通りの中央に出てゆっくりと歩いてゆく。

 

向こうもコチラに気付いたようだ。

だが、急には仕掛けてこない。

公平は弾バカなどと言われている感覚派の天才クソ野郎なのだが、戦場全体を見通すことが出来、行動も一々手が込んでいて実は頭を使うタイプだ。

 

だからこそ、相手が不可解な行動に出て急な危険性が薄いと感じたら様子を見て攻めて来ない。多分。

 

「よぉう、公平。大変だなぁ?遠征任務とは。

ジャンプもマガジンもサンデーも存在しない世界に行かなくちゃいけないなんてな。

 

正気の沙汰じゃねえ」

 

「いやソコかよ」

 

どうやら賭けは上手くいったらしい。公平は隙こそ見せないものの、攻めては来なかった。それどころか会話に乗って来た。

 

意図せずに口角が上がる。

 

い〜い流れだぁ。オレが新たに得たこの力はまだ人に試していない為、ぶっつけ本番となる。感覚的にはイケると思うのだが、成功率を上げる為に公平の精神状態を揺さぶった方がいい。

 

「オイオイ、大切なことだろうが。少年心を忘れた時から子供は大人になっちまうんだよ。つまり、少年誌を読まなくなった時点でトリオンの成長は止まる」

 

「止まるか!確かに大人になったらトリオンの成長も止まるが漫画は関係ないだろ」

 

「おーおー、ご立派ですなー。そんな所なのかねぇー」

 

「あん?何がだよ」

 

いつも通りの下らない話を切り上げてオレは語り出す。目の前のこの男に、オレの心が踏み躙られた出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー本部基地内 廊下

 

「凄かったねー、出水さんの試合!」

「うん!凄かった!あの米屋先輩を中々近づけさせなかった所もそうだけど、わざと間合いに誘い込んだ所が凄かったよね!」

「ねー。米屋先輩が攻め込むタイミングを分かってたってことだよね。打ったバイパーが曲がって囲い込んでたもんねぇ」

「あんな早い攻防の中でどうやって考えてるんだろ?」

「それにそれに!出水先輩ってバイパーの弾道をその場で設定してるんだって」

「それね!それが出来るのってボーダー内でも殆どいないんだよね!?」

「そうそう。確か、出水先輩と那須先輩、後はあ〜あの何か変な人?」

「あ〜、あのよく揉め事起こす人ね。でも、実際に見たことないよね?」

「うん。それにあの人、何かエッチな目で女性隊員のこと見るんだって」

「うわ、最悪。クビになればいいのに」

「もういいよこの話。それよりさ、出水先輩が始めて合成弾作ったんだよね!」

「本当に凄いよね!ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふざけんなぁぁァーーーーーー!!!!

 

ボーダー隊員をエロい目で見たことなんて無えよ!!いや、あるけど!あるけど、そんなじろじろ見て無いし!体のラインが出すぎてる服装見たら少しは意識するだろ!?アレはするだろ!年頃だぞ!??

サイドエフェクトが進化した時は、追い詰められててファイティングハイみたいになってたから!何もしなかったら死んでたから(ベイルアウト)!少年はいつだって生きる為に虎の爪を立てるんだ!ってヤツだよ!中島敦くんだってそう言ってたよ!!」

 

「あーーー、まあ言いたい気持ちも分からなく無いが、その言い訳全部自白になってるぞ?つーか、ネタ挟む余裕はあるのな」

 

「ウルセェ!どいつもこいつもチヤホヤされやがってッ!オレだってリアルタイムでバイパーの弾道少しは引けるよ!なのに何でお前ばっかチヤホヤされんだよ!?」

 

「那須にはチヤホヤされてんだろ?」

 

「あ、それ止めて。マジ止めて」

 

いかん、テンション下がった。

 

「公平ぃ。貴様がオレに付けた傷はこれだけじゃねぇぞ?」

 

「え?これオレが悪いの?」

 

当たり前だボケめ。

 

ん?何か最近、同じ流れがあったような?

まあいい。オレは今を生きる男、モチベーションの為に自身の怨念を更に燃え上がらせる。

 

「都合良くお前達との対戦が決まってたあの時、オレはお前に最大限のダメージを与えると決めた。オレの全てを費やしてでも」

 

そう、オレは未来を棄てたんだ。

 

「オレのサイドエフェクト。本来の強化視力から少しズレた進化をしちまった。しかさそ、もしかしたら、もしかしたらそこから軌道修正をすることができたかもしれねぇ。根拠は無い。可能性の片鱗もなかったさ。けどなぁ、それでも出来たかもしれないんだ。

 

だがッ!それも今回の件で無くなった!!これも根拠は無ぇッ!だが感じるんだ!もう、オレは完全に後戻り出来ない方向に進んでしまったと!!!」

 

憤怒、悲哀、絶望、それら全てを込めたオレの怨嗟の怒号が無人の街に響き渡る。

 

目の前の公平が気圧され後退りをする。声はしないがオペレーターの瀬戸ちゃんの息を呑む雰囲気が伝わってくる。

 

そして、オレは叫ぶ。あり得たやもしれぬ、己の手で捨て去ってしまった可能性を。

 

「正き成長をすれば!オレのサイドエフェクトは!!

 

 

 

 

 

 

透視能力へと進化出来たかもしれないっっ!!!!!!!」

 

 

棄て去った楽園に後ろ髪を引かれまくりながら、オレは前を向く。

 



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第5話 執念の果てに

無人の街に、オレの魂の咆哮が響き渡る。

反応の無いこの街並みが、まるでオレの心の中の虚しさを表しているかのようだった。

 

「・・・・・・お前だったら出来ちまいそうだな、、、」

 

公平がオレを褒め称える。

 

「そう!出来たやもしれない!しかし、その可能性をオレは自分で棄てたんだぁ!

 

おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーーッ!!」

 

「辞めろ。もう辞めちまえ」

 

何故か疲れ切って投げやりに言ってくる。

友人がこんなに追い詰められ一大決心をしたというのに冷酷なヤツだ。

 

「公平よぉ。油断してるようだが、いいのか?オレは自分の崇高なる可能性を捨ててまで別の力を得て、お前に報復しようとしたんだぜ?」

 

そう、これはまさに制約と誓約!リスクと覚悟が大きい程、念は強くなる!!!

 

オレの言葉によってようやく脅威を察したのか、公平の顔に緊張の色が戻る。

そうだ。もっと動揺しろ。貴様の心が揺れ動く程、この術の成功確率は高くなる!

 

「あの日、オレの心が傷付けられたあの日から、オレは一歩も外に出なかった。来る日も来る日も地獄を味わい続けたんだ。全ては、公平、お前にも地獄を味あわせる為にナ」

 

「回りくどいな。それで?結局お前はどうなったんだよ?珍しくぶら下げてるその孤月を使うのか?」

 

「いいや、コレは必要ないぜ。単純にトリガーの入れ替えをし忘れてただけだ」

 

そう、トリガーは要らない。オレのサイドエフェクト、オレ自身の力でお前を倒すのだ。

オレは更なる動揺を誘う為に、今日までの過酷な修行を打ち明ける。

 

「あの日からっ!オレはソッチ系の動画や漫画、小説を今日に至るまでひたすら見続けた!!!来る日も来る日も、ひたすら延々と!分かるか!?この苦しみが!!」

 

もう止まらない。もう洗いざらいぶち撒けたい。

 

「寝ても覚めても男と男の絡み合い!瞼を閉じちまったら自然と光景が浮かび上がる絶望!侵食が進めば進むほど、小説を読んでいてキャラクターはおろか、表情や濡れ場の描写が鮮明になっていく苦しみ!無意識の内に自分の中にBLの中から更に好き嫌いのシチュエーションの分類分けが出来ていて、ふと我に返った時に気付いた時の自分が自分でなくなる喪失感!危機感!!」

 

公平の顔が青ざめていく。あア、そういう系もあったナァ、、、、、、

 

「ひたすらに自分が壊れていく中!足を止めることが出来ない!止めちまったら今までの地獄が全てゴミクズと化すから!自分が壊れて汚れていくのを止めるどころか加速させなくちゃいけなかったっ!そうやって、ボロボロのグチャグチャのベチャベチャにして、ようやくサイドエフェクトが進化すると信じたから!!そシてぇェッっ!!!」

 

 

 

「・・・・・・・ついに至ったァ。」

 

ゾクッ

 

公平に悪寒が走る。今のオレには見て取れる。公平の外はもちろん、ナカもナ。分かりたくなかったが、必要なことだった。

 

「公平よぉ。貫かれた、オトコが、どんな表情をするのか、想像出来るかぁァ???」

 

(さあ、行こう。結局その先に地獄しかないとしても。大丈夫、オレは1人じゃないから)

 

一抹の諦観と道連れのいる安堵を抱えながら、オレが新技を公平にお見舞いする。

 

『左です!宗馬さん!!』

 

オペレーターの瀬戸ちゃんから危険信号が飛んできた。

 

オレは反対側の右に飛んだ。

 

「お?」

 

すると、さっきまでオレがいた空間を太刀川さんが切り裂いた。

 

ホッとする間も無く、すかさず公平の弾群が襲い掛かって来た。

 

「グラスホッパー!」

 

しかし、その動きは視えていた。グラスホッパーで距離を取ると同時に、公平の弾を太刀川さん避けの壁にする。

 

されども、流石はA級1位部隊。

公平の無数の弾群には一筋の隙間があった。丁度、剣幅一本分程の横一線。

 

「旋空孤月」

 

「チィッ」

 

今度は避け切れなかった。クリーンヒットこそしなかったものの、太刀川さんから放たれた旋空孤月はオレの右足を深く切り裂く。

 

倒れ込むのを堪え、アステロイドを自分の周囲に展開し、加えて孤月に手を掛けて牽制をする。

 

「2対1、いや3対1か。まさか、瀬戸ちゃんに裏切られる日が来るとはね」

 

『私はまあまあ感じていましたよ。というか、今日までよく頑張ったと思いません?」

 

うん。思う。

 

いや、本当に瀬戸ちゃんには苦労ばっかり掛けて申し訳ないと思ってるよ。

 

『出水さんはこれから遠征に行くんですよ。流石に、後遺症の残りそうな精神攻撃は看過出来ません』

 

大変ごもっともだ。しかし、それでも男にはやらなくちゃいけない時があるのさ。

 

「にしても、今のはどうやって避けたんだ?完全にお前の死角からだったはずなんだが?」

 

油断した様子は無いが、太刀川さんが普段の軽い感じで聞いてきた。

 

「公平の目ですよ。一瞬ブレて、後ろから誰か来たんだと思いました」

 

「成る程、ホントによく見えてるな」

 

ちっ、ヤバイな。流石にこの2人を相手取るとなると、勝ち目がほとんど無い。

 

だが、オレにも相棒はいるのさ。早く来い、トッシー!

 

『多分、支援を期待してるかも知んねーけど、言っとくが助けねーからな?』

 

まさかの相棒にまで裏切られた。

 

『テメェッ!そりゃー、どう『お前、さっきのアレだろ。作戦室に集まった時にオレのことジッと見てたのそういうこったろ?』、、、、、、チッ』

 

相棒を見捨てるとは、このゴミが。仕方ねーだろ、ぶっ壊れるまで追い込んでたんだよ。多少の暴走は大目に見ろよ。まあ、オレがそっちの立場だったら同じように見捨ててただろうが。

 

「もういいか?」

 

「ええ。しょうがない、こうなったらアンタを倒した上で公平には地獄を味わってもらうとしますよ」

 

「つーか、お前。もう女子隊員にあーだこーだ言われたことよりも、自分が苦しんだから巻き添えを増やしてやる、としか考えてないだろ?」

 

「当たり前だろ。こんなに苦しんだんだぞ。なんでオレ1人で終わらなきゃいけねーんだ」

 

「こんの、クズエロ馬鹿が」

 

不名誉な単語が増えた。おのれ、この弾バカめ。

 

 

 

 

 

 

 

まあいい、ここからは真面目ファイトだ。

オレは自分の右足の具合を確認する。踏み込みは甘くなりそうだが、どうやら一発分くらいならいけそうだ。

 

(弟子の義務は師匠を超えること、か。奇しくも同じ右足、いいだろう。今日、オレは師匠を超える)

 

周りに展開したアステロイドを意識しつつ、宗馬は左半身の構えを取る。そして、左手でまだ納刀状態の孤月を鞘ごと少し前に出し、右手で逆持ちの形で握りの所を持つ。

 

『気を付けろ、公平。空気が変わった』

 

『そうっすね。アイツはバカだけど、集中力だけはバカに出来ないですからね。高い集中力あるから、強化視力を使いこなして、コッチの初動の動きを見逃さない。まあバカだから、普段その集中力の向け方がメチャクチャなんすけどね』

 

軽口を叩きながらも、公平も太刀川も見慣れぬ構えをする宗馬への警戒を緩めない。

 

そして、お互いに膠着状態が続き、弾ける。

 

「っ!」

 

最初に動こうとしたのは公平。

太刀川の背後から、太刀川を大きく避けて左右と上の3方向から宗馬へと弾を発射する。

 

しかし、最初に動いたのは宗馬。強化視力のサイドエフェクトにより公平の初動を感知、先んじて前方の太刀川に突っ込む。

 

「上等」

 

自身に突撃してきた宗馬に対して好戦的な笑みを浮かべながら、太刀川も前に出る。

 

宗馬と太刀川が交差する前に、公平が放った弾、ハウンドが弾道を更に曲げて3方向から宗馬へと襲い掛かる。

 

対する宗馬。目線と神経を目の前の太刀川から逸らさない。

しかし、

 

「アステロイド」

 

周りに展開していた弾をもって、見向きもせずに公平も弾を迎撃する。

 

(やはりハウンド。軌道は常に最短ルート、機械的な無駄のない動きは軌道の予測つき易い)

 

普段、真っ当なことには発揮されない類稀なる能力を見事に発揮して、切り抜ける。

 

「神成流最終奥義、、、」

 

1対1、公平の次なる援護は間に合わない。

 

「卍抜き!!!」

 

宗馬と太刀川が激突した!!

 

そして、競り勝ったのは、

 

「くっ」

 

宗馬だ。

 

宗馬の孤月は振り抜かれ、逆手に持った孤月は太刀川の片方の孤月の先端部分が折り、左胸から左肩にかけて切り裂いた。

しかし、間に孤月を挟んだ為か太刀川の傷自体は深く無い。

 

つまり、

 

「チィッ!」

 

手傷を負わせたといっても致命傷には至らず。そして、通常の宗馬の腕ではボーダーNo. 1近接攻撃手を相手に孤月で勝つことは100パーセント叶わない。このままでは順当に敗北する。

 

(お前だけは!)

 

刹那、宗馬は切り替える。

 

(同時展開、そしてあらかじめ落ちる覚悟をしていればトリガーは起動できる!)

 

高まり切った宗馬の集中力は、ボーダー内の誰も思い付きも実践したりもしない偉業を成し遂げる。

 

逆手に持ち振り上げている孤月の側面に、グラスホッパーを展開し、

 

そしてっ、躊躇すること無く己の首を切り落とす!

 

グラスホッパーによって宗馬の生首が勢いよく公平目掛けて飛び出す!

 

そして、宗馬の執念が燃え上がる!

 

口の中にメテオラを展開し叫ぶ。

 

「狒骨大砲!ブッ」

 

ボッ、ドォン!!

 

哀れ。

宗馬の狒骨大砲は、公平のギムレットによって貫かれ、誘爆し自身を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「荒船から散々愚痴られたんだよ、それは」

 

どこか呆れた様子を浮かべた公平の呟きは、当然宗馬の耳に届くことは無かった。

 

宗馬、ベイルアウト!

 




元ネタ

「神成流最終奥義 卍抜き」
・出典:週刊少年マガジンにて連載されていた「我間乱」168話から172話
宗馬は漫画を読んでハマり、この技だけひたすら練習した。
なので、師匠云々はその場のノリであり実際に我間乱の登場人物が存在するわけでは無い。
作者は単行本もアプリでも購入しちゃいました。

「狒骨大砲」
出典:週刊少年ジャンプにて連載されていた「BLEACH」に出てくる阿散井恋次の技。
注釈 阿散井恋次の首が飛ぶ技ではありません。

当初の予定では、宗馬の新技によって公平が擬似的に掘られる考えだったのですが、流石に友人にそれやるのはどうよ?とか、そこまでいったら主人公ボーダー内で完全に腫れ物扱いになっちまうな、と思ったので止めました。日和ました。

けれども、味方でなければ問題無いと思うので将来的には日の目をみることになるやもしれません(エタらず続けば)。


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