レナ推しの、レナ推しによる、レナ推しのための小説 (レナ推し)
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GIFT
この話は事件(というかなんというか…)を解決したすぐ後の話です。
詳しいお話はあとがきに持っていきますね。
どうぞ!
俺が目覚めてから1週間。全ては大団円を迎え、俺の傷も癒えたことで本格的に日常がリスタートした。ただ一つ、昔の日常と違うのはその生活の中に俺の恋人、レナがいることである。2人がいたからこそ全てがうまくいった。ハッピーエンドまで持ってこれた。全てを乗り越えてきた俺たちは一緒に素晴らしい日々を過ごす…はずだったのに。
玄十郎「その束には判子を押せ。それが終わればパソコンで入力してもらうことがあるからな。儂の言うこと以外はするでないぞ。」
なんで祖父ちゃんとばっかり顔を合わせてるんだよ!
学生の俺は治りが早かったから良かったものの、手綱を握っていたせいで祖父ちゃんは手首を捻ってしまい書類仕事ができなくなったらしい。そのおかげで放課後はレナとほとんど顔を合わせず祖父ちゃんのもとで書類を捌いていた。
将臣「あのー祖父ちゃん、隠居したんじゃなかったの?なにこの書類の量。老人がやる量じゃないと思うんだけど。」
レナが仕事で会えない気を紛らわすにはちょうどいいかもしれないけど、さすがに高校生にこの量はきつい。
玄十郎「志那都荘にはもうほとんど手を出しとらん。これは穂織の自治仕事だ。観光客についてのものは旅館の者が適切だと言われてな。お前が穂織に残るというのであれば、いずれこういった仕事も任されることになるだろう。」
たしかに祖父ちゃんはまだ健康だし仕事を任せても平気かもしれない。しかし俺は違う。書類仕事なんて初めてだ。祖父ちゃんの手首が治る前に俺を腱鞘炎にさせる気かっての。
将臣「こちらの書類、判子押し終えました。はぁ、レナに会いたい。」
玄十郎「そのセリフももうこれで何度目だ。まあいい、休憩をいれよう。茶を淹れてこい。」
将臣「俺の仕事増えてるじゃん…」
渋々お湯を沸かし始める。たしかこの前レナに教わった淹れ方だと…っは!これ以上レナのこと考えるともうダメだ。会いたくて仕方なくなる!(もうなってる)
将臣「はい、どうぞ。で、なんで今日になって俺に仕事させたの?俺が寝てたときは廉太郎にやらせてたらしいじゃん。」
玄十郎「あいつはダメだ。仕事をせん」
将臣「あー、なるほど。納得したわ。」
あいつのクズっぷりと祖父ちゃんと小春からの嫌われ具合は群を抜いていて、俺もあいつの話は大抵信用してない。因果応報、いい気味だ。
玄十郎「ところで将臣はこれからどうするのだ?」
将臣「どうするって?レナと仲良く愛を育んでいくつもりだけど。」
玄十郎「もう息をする要領で惚気ておるのか……いやそうではなくてだの、これからどこで過ごすつもりだ。ここに居座るつもりならば働いてもらうぞ。」
将臣「働かぬ者食うべからずってことか。」
いくらこの地のヒーローであったとしてもそれがのんびり過ごしていい理由にはならない。それを知っているのほんの数人だ。というかそれも俺1人の力じゃないし。
恥ずかしい話、レナだけがバリバリ働いていて俺がグダグダしているのはなんかヒモみたいでちょっといやなんだよ。
玄十郎「で、どうするのだ?」
祖父ちゃんはいつもの凄みのある目で見てくる。
最初っから答えは決まっていた。俺はもう穂織の地を離れることはできない。きっと一生ここで暮らすことになるだろう。そんなわかりきった問答でも、口に出すことにに意味はあった。
祖父ちゃんが聞きたいのは俺の答えじゃない、俺の心だ。
祖父ちゃんの方へ向き直り姿勢を正す。
将臣「祖父ちゃん、俺をここで働かせてください。」
人生で一番というくらいにビシっとお辞儀をした。
玄十郎「あぁ、わかった。最初は掃除などの下働きになるだろう。昔のお前でも態度だけなら同じことができただろうが、今のはそこにきっちりと誠意がこもってあった。将臣、お前は変わったな。」
顔をあげると祖父ちゃんが穏やかな表情をしているのがわかった。祖父ちゃんの言う通り間違いなく穂織に来る前と来た後の俺はまったくの別人だろう。
経験したこともそうだが、俺は今しんじられないほどの良縁に恵まれている。ここに住んでいる人たちとの繋がりは、俺にたくさんの影響を与えてくれた。まさしく縁だ。
将臣「それもなにも祖父ちゃんが手伝いに呼んでくれたのがきっかけだよ。本当にありがとう。」
玄十郎「ははは。きっかけはそうかも知れんが、今を創ったのは儂だけではない。色々な人の想い、偶然、必然、歴史、そしてお前の志の強さ。すべてが織り成して出来上がったのだ。素晴らしい贈り物まで連れてきてな。」
そうやって祖父ちゃんは日差しの漏れ出た障子のほうに目を向ける。「とっとっとっ」と足音がきこえてきた。俺はついつい頰を緩めてしまう。
レナ「大旦那様、入ってもよろしいですか?」
玄十郎「ちょうど今休憩に入ったところだ。遠慮せず入ってきなさい。」
レナ「失礼します、マサオミ〜!会いたかったでありますよ!!!」
将臣「レナ!来てくれたんだな、ありがとう!!!」
我が愛しのレナだ。なんて可愛い子なんだろう。そして俺はなんて恵まれているんだろう。なのに学校が終わってから3時間も会えなかったなんて、地獄じゃないか。
玄十郎「休憩は15分だからな、」
祖父ちゃんは気を利かせて部屋を出て行った。その粋な計らいを見て俺たちは微笑みあった。そこからはもう2人の世界。
レナ「私、やっぱり穂織に来れて本当に良かったです。将臣はもちろんですが芳乃や茉子、ムラサメちゃんに出会うことができました。大好きな友達がいることはなんというか、すごく幸せですね。」
将臣「俺たち2人なら友達のためになんだってできるさ。これからも穂織で人との縁を繋いでいけたらいいな。」
レナ「まぁ将臣に出会えたっことが一番嬉しいのでありますよ! さっきも将臣のことを好きになれて良かったって思ったところです。」
『俺もだよ』という言葉のかわりにレナのおでこにコツンと自分のを重ねる。それだけで意思が伝わった。
レナ「マサオミの幸せ、温もり、ちゃんと分かりますよ。昔一緒に寝てた時もこうしましたね。」
将臣「あぁ、あのころはまだ付き合いたてだったね。でも、今もそれと同じくらいの幸せを感じてるよ。また同じ夢見れたりしないかな? 」
レナ「昨日わたしの夢には、マサオミが出てきましたよ? 」
目をあけて見てみるとその顔は赤く染まっていた。……どうやら夢の内容は聞かないほうがよさそうだな。
改めて思ったがこんなに近くにてくれることが幸せでたまらない。
しかし少しするとレナはパッと離れてしまった。少し寂しいな…
レナ「マサオミの幸せ、分けてくれてありがとうございます。むふふ、お返しです!」
俺の頭が胸に埋めさせられた。こ、これはすごい圧だ。人類の神秘を感じている気分だぜ。
レナ「こうしていると、マサオミを大事にできてる気がします。私の想い、伝わりますよね。」
暖かい。レナの香りと一緒に流れてくる想いは、ほんの数秒で俺の心をいっぱいにした。こんなにも幸せなひと時、ほかにあるだろうか。
幸せなのは確かだけれど、流石に無呼吸でいるのは苦しい。
もったいない、ひっじょうにもったいないが、レナのホールドを抜け出し、顎をレナの肩に乗せる。俺からも抱きしめ返した。
将臣「俺もレナのことを抱きしめたい。やっぱりこっちも好きだな。」
レナ「まったく、マサオミは欲張りさんです。しょうがないですねー。」
直接見ずとも彼女の笑顔がありありと浮かぶ。レナの笑顔は花みたいだ。太陽みたいだ。どこまでも大切にしようと思える。
将臣「レナ、穂織を救ってくれてありがとう。」
レナ「将臣。目が覚めてから毎日それ言ってるじゃないですか。言った筈です、こうなれたのは私と将臣、2人がいたからだって。」
将臣「それでも言わせてほしい。ほんとうに、ありがとう。」
レナ「そこまで言うならしょうがないですねー。じゃあお礼に将臣との愛を、この変わることのない縁を、約束してください。」
将臣「勿論。」
レナ「手、繋いでいいですか?」
無言でレナの柔らかな手をとる。最初は優しく包み込むように。
俺がぎゅっと強くすると、レナも優しく握り返した。それだけで思い起こされるたくさんの思い出。きっと忘れることはない。
数秒見つめ合うと自然と顔と顔が近づく。
そして、触れ合う。
レナの心と俺の心。最初っから重なっていたように暖かい。
俺はこの2人の絆を、この気持ちを、暖かく繋がれた手と手に誓う。
将臣「レナ、大好きだよ。永遠に、ずっと。」
レナ「私もです、マサオミ。永遠に、ずっと。」
何をしたいのか、つ、伝わったかな?
かなり文章力が不安ですがどんな評価でも乾燥でもくださるとありがたいです。
すみません、最初玄十郎ばっかりでて。あと将臣がキャラ崩壊してますよね。主人公のセリフが少ない上に原作中でもレナと一緒にいる時間に比例してキャラが変わっていくのでとても掴みづらかったんです(言い訳ですが)。
私、レナが好きです。なんかもうこの感情を抑えられなくなってしまい、小説という創作活動に手を出してしまいました。
もし自分もレナが好きだ!っていう方がいらっしゃいましたら是非コメントしてください! 語らいましょう。レナほんとかわいい。もうため息しか出ないくらいにかわいい。共通でもレナ√でも他ヒロイン√でもほんっとにかわいい。
感想、評価、誤字脱字指摘、なんでも真摯に受け止めさせていただきますので、気が向いた方はよろしくお願いします。
※追記:感想を非ログインユーザーからも受け付け可能にしました
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お盆
今年ももう8月。よくよく考えると俺が来てからそこまで時間は経っていない。それなのにここにいることが完全に当たり前となったのはこの数ヶ月がとてつもなく濃かったからだろう。
そんなことを夕食を食べながらぼうっと考えていた。
将臣「もうお盆になるね。夏の間はずっとこっちにいる予定なんだけど大丈夫かな?」
玄十郎「あぁ、構わん。ただし冬や春ほどではないが繁忙期になるからな。容赦なくこき使ってやる。」
将臣「それは心得てる。そういえば曾祖父さんたちのお墓にも随分と行ってなかったな。今年はちゃんと挨拶させてもらうよ。」
レナ「将臣、お盆ってお茶を運ぶときのこれじゃないんですか?」
レナは志那都荘で使われているお盆を指しながら言う。今では祖父ちゃんとレナ、俺で食卓を囲んでいるのだ。志那都荘の従業員は本来別のところで食事をするようらしいけど、レナは女将から特別に許可をだしてもらっていた。
将臣「日本じゃ8月の13日から15日はご先祖様がこっちに帰ってくるとされているんだ。お盆はその間にご先祖様に挨拶したり歓迎したりする日本文化のことだよ。北欧はわからないけど、西ヨーロッパでいうハロウィンとかと似たものだと思う。」
レナ「へぇ、そうなのでありますか。また難しい単語が増えましたね、うむむ……」
お盆、お盆とレナが復唱している。
玄十郎「そのことはきっちり教えとくべきだったか。そうだ、今年はリヒテナウアーさんも一緒に墓参りをしよう。新しい家族ができましたとな。」
俺とレナは顔を見合わせて微笑む。2人とも頬が若干赤くなっていた。
将臣「できることなら朝武家の墓参りにも行きたいな。もう他人事とは到底思えないし。」
レナ「そうですね。明日お参りに行くときにお願いしてみましょう!」
もう学院は夏休みに入ったけれど、建実神社には毎日参拝している。神社としての役目は朝武さんや安晴さんが尽くしてくれるだろうから、知る者としての役目は俺たちが担うべきだ。
俺たちはそのあとすぐに朝武家に連絡して許可をもらうことができた。13日の夕方から来て泊まっていってほしいとの要望が朝武さんから上がったので。俺たちは2回目のお泊まり会を楽しむこととなった。
***************************************
連絡してから2日後の夕方、俺はレナと2人で実誠神社へと歩を進めていた。珍しくも今日はどこも店じまいが早く、あたりは閑散としていた。
レナ「今日はなんだか人気が少ないですね。」
将臣「まぁお盆だしね。日本人の数少ない長期休みだから。」
レナ「日本人は休みが少なすぎます。私は志那都荘で働くことに満足していますが、フィンランドであんな働くことが多かったら苦情が来ますよ。」
フィンランドはとてもゆったりした国らしい。レナから話しを聞くたびに行ってみたいと思ってしまう。
将臣「日本のなかでも穂織はかなりゆったりした場所だろうけどね。」
芦花姉は明らかに働きすぎだろうけど……
とかいってるうちに実誠神社まできてしまった。ここは長い階段の上にあるので穂織一帯が見渡せる。この景色に勇気付けられることもあれば苦しめられることもあったんだろう。それを断ち切れたんだ。本当によかった。
レナ「ヨシノー、マコー、ムラサメちゃんー、きましたよ!」
芳乃「こんばんは、レナさん有地さん。」
楽しみだったのか、朝武さんの頬が笑みをこらえられていない。それをみて常陸さんも笑みを浮かべている。
茉子「お二人ともこんばんは。今日は来てくださりありがとうございます。芳乃様は今日が楽しみで仕方なかったようで、今日一日ずっとにやにやしていたんですよ。」
芳乃「茉子? 言わなくていいことってあると思うの。」
ムラサメ「これこれ、そんな小さなことで怒るものではないぞ? もうすぐ日が落ちる。そろそろじゃ。ほれ、一つ目がつきおったぞ。」
太陽が西の山に隠れ、一気にあたりが暗くなる。それとは対照的に穂織の町の中に一つ、灯がともった。
将臣「迎え火、か……」
レナ「ムカエビってなんですか?」
茉子「お盆でいらっしゃるご先祖様が迷わずここにたどり着けるようにするための印です。『迎える火』で迎え火ですね。」
芳乃「文化が色濃く残っている穂織だとこうして全ての家が火を炊くんです。建実神社からの眺めは見ものですよ。」
さっきの一つを皮切りに次々と灯がともっていく。穂織の端から端まで、どの家もだ。
百数に及ぶそれは、まさしく“絶景”────
レナ「はぁぁ。将臣、綺麗ですねー。」
将臣「あぁ、とっても綺麗だね。」
隣でレナが感嘆の声を漏らす。景色だけでも圧倒させられるが、この灯一つ一つに先祖への想いが込められていると思うと、自然と目頭が熱くなった。
それはレナも同じだったようで互いの目元をぬぐい合う。
将臣「朝武さん、誘ってくれてありがとう。」
芳乃「いえ、こういう感動を友達と分かち合いたかっただけです。お泊まり会の口実にもなりますしね。」
ムラサメ「ご主人、最後のが一番の本音じゃぞ。」
芳乃「もうっ! ムラサメ様まで私をからかうんですか! 」
安晴「おーい、準備したから僕たちも炊こうか。」
芳乃「はい、みなさんもこっちに!」
朝武さんが満面笑みで誘ってくる。どうやらこれも楽しみの一つだったようだ。みんなでやるということからかけ離れた場所にいた彼女はそういったことがすきでたまらないんだろう。
とはいえ火種は一つしかないので灯すのは朝武さんだけなんだけど。
芳乃「じゃあ、いきますよ。」
全員がそれを暖かく見守る。この灯を頼りに来てくれるのかと思うと感慨深い。俺は今、朝武家にとってとても大事な瞬間に立ち会ってるんじゃないだろうか。
芳乃「来て、くれますかね……」
レナ「きっと来てくれるでありますよ。もし私がご先祖様なら、急いでやってきて芳乃を抱きしめます。」
そう言ってレナは朝武さんに抱きついた。可愛い女の子同士がイチャイチャしてる……百合百合しくていいね。
茉子「有地さんは女の子には嫉妬しないタイプなんですか?」
将臣「そりゃ流石にしないかな。そこは寛容でありたい。」
茉子「あは、なるほどなるほど。有地さんは百合がお好きなんですねー。」
将臣「な、なぜバレたっ!」
ムラサメ「ご、ご主人にそういう趣味があったとは……やはり男はわからぬものじゃのう。」
レナ「茉子、ユリってなんですか? 将臣の好きなこともっと知りたいです。」
芳乃「こら! レナさんに変な言葉を吹き込まないでください! 」
レナが純粋無垢な笑顔で聞いてくる。うぅ、胸が痛い。これは聞かれるとマズイ。
芳乃「というか有地さん、今まで私たちをそんな風に見ていたんですか? 」
朝武さんがじろりと睨んでくる。こっちはこっちで攻撃力高いな。
将臣「す、すみません。」
芳乃「もう、まったく。こんなやりとりご先祖様には見せられませんよ。私はもう中に戻ります。今日の料理は茉子だけじゃなくて私の手伝ったんです。」
茉子「楽しみでいてもたってもいられないから…なんて可愛い芳乃様の理由は置いておいて、お二人はもう少し残ってみてはいかかですか? というか、もう少し遅れて来てくださると有難いです。まだ準備が残ってますので。最後に灯が消えるのを確認してから来てください。」
将臣「いや、俺たちも手伝うよ。何から何までしてもらうのは申し訳ないし。」
ムラサメ「ご主人、ここまで2人っきりでこんなろまんてぃっくな場所に残そうとここまで口実を作ったんだぞ?」
将臣「え? あぁ、そういうなら遠慮なく…」
三人は俺の返事に満足したようで、微笑みを浮かべて中にはいっていった。
レナ「将臣、綺麗ですね。」
将臣「レナ、本当に綺麗だ。」
さっきと同じやりとりを今度は手を繋いで。2人きりで。
キスするにはこの景色から目を話すのがもったいない気がして、今はただ肩をくっつけるだけだ。
レナ「将臣、やっぱり穂織のために頑張ってよかったですね。」
将臣「よかったね。大切な友達ができたし、その人たちの幸せを作れた。大事な場所をみつけられたし、思い出もたくさんできた。」
レナ「そこに彼女ができたというのは入っていないのですか?」
将臣「レナと結ばれたのは運命だから。」
レナ「ふふ、嬉しいですね。私と将臣が運命……」
将臣「そうだよ。この土地で巡り会えた、縁。レナ曾曾曾曾おじいちゃんのころから決まってた運命。」
レナ「私のご先祖様たちもきてくれますかね。」
将臣「フィンランドからじゃちょっと大変かもね。でも、きっと来てるよ。」
レナ「そうですね。きっと来てます。今も私を見守ってくれてるはずです。」
もう一度、この景色を目に焼き付ける。来年も、再来年もずっと見にきたい。けれど今日のこの景色は今日だけのものだ。レナと付き合って初めてこの景色を見れた。
将臣「そろそろもどろうか。あんまり待たせるのも申し訳ないし。」
レナ「はい。芳乃と茉子の料理、楽しみですね。」
一呼吸置いてレナは目をつむる。手は固く握られたままで。
美しい眺めを背景に、俺たちは優しく口ずけを交わした。
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次の朝、まずは憑き代にお祈りを捧げようと本殿に行った。
昨日は遅くまで遊んでいたし若干体が重い。
深く深くお辞儀をしてから憑き代の前に正座する。その時だった。
白狛『やっと来たか、遅い!朝から女子と戯れて神の前に出るのが遅れるとはどういうつもりだ。』
将臣「うわぁぁぁぁぁぁ!」
レナ「マサオミ!? 急にどうしたんですか? 」
将臣「い、今コマの声が聞こえたんだけど……レナには何も?」
レナ「そんなことあったら私も驚いてます。少し昨日は夜更かししてしまいましたし、疲れているんじゃないでしょうか?」
将臣「うーん、そういうんじゃないと思うけど。とりあえずお祈りを続けようか。」
そう言って目を閉じた瞬間、
白狛『正真正銘の白狛だ。せっかくきてやったというのに』
将臣『ほ、本物?』
白狛『偽物であってたまるか。今日は盆でこっちとそっちの境界線が甘くなっているからな。特別だ。』
将臣『な、なるほど?』
白狛『わからないならそれでいい。今日は頼みがあってここに来た。』
将臣『…レナはやらないぞ?』
白狛『もうそれには興味がない。』
将臣『レナに興味が無いだと!? 』
白狛『めんどくさいなお前! そうじゃなくてだな、私が朝武家の者に侘びを言っていたと伝えて欲しい。』
将臣『どういう心境の変化だ?』
白狛『けっしてあの男を許したわけではない。ただ、このような長い間に渡って苦労をかけた。そのことを詫びずにいるのは私とてどうなのかと思ってな。』
将臣『…承りました。その伝言しっかりと預らせていただきます。』
白狛『いつもそう恭しくしていればいいものを。これでも神だぞ? 』
将臣『そう言われると途端にやる気が失せるな。けどまあ、来年もここにくるよ。楽しみにしておいてくれ。』
白狛『フンッ、来年もお前と顔を合わせなきゃいけないのか。期待しないで待っておく。』
すると、通信が切れたように白狛の声は聞こえなくなった。でも、なんとなく最後は笑顔だった気がする。
レナ「マサオミ、いくら早朝のお祈りでも寝るのはダメですよ?」
おかしい。俺はぱっちりと起きているし寝息も立てていない。ねぼけているのはレナの方じゃないだろうか。
レナ「マサオミ、いい加減にしてください。」
そう言ってレナはまぶたを開ける。しっかり目を開けている俺と見るとキョトンとしてしまった。
レナ「マサオミは今、起きてますよね?」
将臣「うん、俺は目を開けながら寝るなんて特技は持っていない。」
レナ「そうですか、じゃ気のせいですかね。」
将臣「空耳じゃない? あ、空耳といえばさっきコマと話してきたよ。」
レナ「え!? じゃあさっきのは聞き間違えじゃなかったってことですか?」
将臣「うん。しっかり意思疎通できてたし、伝言も預かってきた。」
レナ「羨ましいですね、私も話したかったですよ。あっ! それなら…」
そう言ってレナは再び目をつむる。最初は難しい顔をしていたがだんだんと優しい面持ちへと変わっていった。
レナ「この寝息、叢雲様のですよ。」
将臣「あぁ、なるほど。」
納得した。俺がコマの声が聴こえるというなら不自然な話ではない。彼の言う通り、境界線が緩くなっているならば可能性は高いはずだ。
レナ「なんだか嬉しいですね。幸せそうに眠ってますよ。」
将臣「2人とも、幸せなら嬉しいね。」
そのあと、朝武家のお墓参りを涙ながらに済ませて伝言も伝え終わった。
なんだか遠い昔の朝武さんのご先祖様がそばにいるような気がしたし、見たことはないけれど俺やレナのご先祖様も俺たちを包んでくれているようだった。
コマの伝言はきっと彼らに届いたはずだ。今までの苦労のお返しはきっと彼らに送られたはずだ。
ある年の盆の日、燦々と夏の日がてる中、
歴史ある穂織の町の大通り、
今までの長い長い旅路の先で、ある二人連れが手を繋いで、縁を繋いで歩いていましたとさ。
読んでいただき、ありがとうございます!
なんか前回初投稿でテンションが上がってたのかレナとしかいっていませんでしたね…
コマと話せなくなるのはなんだか寂しいなと思っていれてしまいました。あの声、好きです。
千恋のキャラが百合百合してくれると嬉しいですね。芳乃は茉子が綾地寧々してたとき起きてましたし可能性としては十分あると思うんですよ。リドジョは初期の方でもう百合百合してくれたので大満足です。
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