男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! (ネコ文屋)
しおりを挟む

追加設定隔離病棟

24119文字

蛇足ですが筆が進むので冗長な部分を消して、復活させました。2019/11/4

後書きに書きすぎているので隔離します。
設定は読まなくても全く問題ありません。
飛ばしてくだせえ。

なお、当作品は違法改造MODにあたりますので用法・容量を守ってお使いください。

そろそろ陳腐化してきましたが、遺跡として残します。


アップデート情報
2019/11/9 各話の後書き部分にTipsの項目を追加
2019/11/4 追加設定隔離病棟を復活、リニューアルオープン
2019/7/8 表現保管物置を追加
2019/6/7 設定その14追加
2019/5/26 設定その13追加
2019/5/14 第1章第3話を二話に分割
2019/5/12 ファステイア地形を微妙に変更
ファステイアは東の山脈の端に位置
円上に草原が広がる
変更予定箇所
第1章
第4話 ハロワ説明
なお、森林部分の強さは東ほど強くなる構造。
山脈を踏破し海を見るには、
レベル70程度が最低ライン
NMPはかなり早い段階で無理矢理達成
2019/3/17 8に口笛演奏建設完了
2019/2/16 設定その12追加
2019/2/15 設定その11追加
2019/1/23 ファステイア改装
2019/1/13 登場人物設定とモンスター設定を分離、2にチュートリアルを建設完了
2019/1/10 魔法系統設定を基本魔術書に追加
2019/1/9 ムービーを2に移動、2にチュートリアルを建設開始、2のVR機器の描写を変更
2019/1/8 設定その9、その10を追加
2019/1/6 基本魔術書、設定その7、その8を追加、ファステイアの東西と南北を入れ換え
2018/12/22 設定その5、その6を追加
2018/12/18 3にムービーを追加
2018/12/18 アップデート情報と追加設定隔離棟を追加


さーて...ユニークアイテムとクランとNPC組織を充実せねば!バトルロワイヤルまたはスパイ大作戦。いや、インディジョーンズ。はたまた、エイリアンvsプレデターか?考察と設定を投げるのだ深き淵に...うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ...(san0)ライオットブラッドおいちい!

 

 

 

その1 スキルと魔法

アイェェェ!ナンデ

魔術師は初期火だったでござった...生肉ぇ

魔法使いか魔術師かという表記ゆれは魔術師にしておきます。また変えるかも。

 あとINTはステータスに生えましたということにしようと思ったが, 魔力に振ればよいということで行こうかな...魔術師は脳筋だった(?)

 

 

 

 

 ここでこう解釈しよう。魔法は基本決まった分量のMP入れれば決まった現象が起きる。

そこに加算詠唱などのスキルを用いたり杖の増幅機能を使うと現象の規模や威力が増大する。なお、現象がモンスターなどの対象に与えるダメージは固定ではなく、基本的に物理的攻撃と同様に様々な要因が合わさってダメージが決定される。

 

 

このままでは、魔術師はMPだけ振ればいいじゃんという結論ですがところがどっこいそうはいかないぞ!

 

 

DEXが高ければ魔術の細かい運用や加度詠唱などの高等技術が身に付きやすくなる。

TECが高ければ変わった使い方、複合属性などの応用がしやすくなる。

STRは力そのままで、近接との併用したい方向け。基本要らないが...

STMは運動したいやつ向け。基本要らないが...

VITは自爆していきたい特攻野郎におすすめです。銃の反動的な奴の魔法版を打ち消せたり、物理にタフになります。

HPは呪術などやりたいやつはHP代償とする魔法やスキルに必要。

MPはリソース、必須。多いほど大規模で高威力な魔法がバンバン使えるぞ!

AGIは単純にキャラの移動速度に関係。固定砲台にはいらないけどね。

LUCは魔術に基本的に急所にあたったという意味でのクリティカルという概念はないが、アイシクル的な物理要素が絡むと地味に効いてくる。後は全体的に、攻撃魔法、呪術やデバフ、パフなどは魔術的なクリティカルだと1.5倍程度の効果が出る。そういう場合のクリティカルの条件は...単純な運の場合と...

 

 

 

ということにしてくので、

魔術師は固定砲台さん以外、他の職業の適正をSTRとSTM、AGI、HP、VIT以外の要素で済む場合はすぐに即戦力レベルでもっとるんじゃ!

後は意識的に振れば、近接格闘魔、魔法剣士などへのロマン構成にもすぐに行けるぞ。

 

 

 

忘れてはいけないのがシャンフロはスキルゲーだということ、

そこでスキルについて改めて考える。

 

 

 

スキル習得の補正は大体6つの要素で構成される。

 

 

Job、職業、スキル秘伝書、過去のログ、クリティカル、乱数

 

 

 

 Jobは魔術師などで、魔術師に付随するスキルをレベルアップで覚えることができるぞ。後は、魔術に関連するスキルを覚えるときに上昇補正がかかる。

 

 

 職業は双刀使いなどで基本的に武器や盾に関するスキル習得への補正がかかる。魔術師の場合は初期で職業がないがセカンディルあたりで生えることにしよう。フレイルとか短杖とかロッド、魔方陣、ハガ〇ンの炎の錬金術師さんの手袋など。

 

 

 スキル秘伝書はどうしても覚えたいスキルがあるときに魔術師でも秘伝書分だけ補正を受けることができる。例えば、スラッシュや投擲を覚えたいときは秘伝書を買って対応する武器を持ってひたすら頑張れば無理やり覚えることができる。

 

 

 過去のログはプレイヤーがそこまでに習得したスキル経歴から関連性のあるスキル領域への補正を掛ける。これによりスラッシュを無理やり覚えた魔術師は斬撃に関するスキルをちょっとだけ覚えやすくなる。

 

 

 クリティカルは習得の際にこれは無補正でもなかなかやるじゃんと認められるときに発生する。達人や変態は人よりも早くスキルを覚えられるぞ!

 

 

 

 乱数は女神が微笑めば極低確率でスキルを手っ取り早く生やしてくれるゾ

 

 

 

 

 逆に戦士が魔術書を覚えることはできないかということに関しては、

同様に頑張ればできる。

 

 

 

 魔術書は魔法を覚える補正がかかるぞ!戦士は魔術書を使うときにダメージや毒、混乱などの症状が起きたりする。マナに酔ってるんだ。仕方ないね...ランダムテレポは悪用しか思いつかないので起きない。仕方ないね...モンスターランダム召喚も起きない。仕方ないね...戦士系でも魔力を十分に持っていれば緩和されるぞ!

 

 

 

 

 ただぁーーし! 両者の場合も、何も補正がない場合は最初の入り口で20倍程度の苦労が必要になる。戦士系スキルで習得値100で覚えるスキルがあった場合に戦士が1ずつ増えていくのに対し、無補正では0.05ずつしか増えていかない。さらに上級のスキルの場合は単純に再現するのが難しいのでクリティカルの逆で下手じゃねという補正を受けて0.01になるという苦行が起こる。

 

 

 

 スキル習得や魔法習得は基本的にレベルアップ時で、1レベル辺り5ポイント貰える。つまり100レベルで500ポイント、MPやHPの1ポイント当たりの振り幅は正直分からないが10くらいでいいんじゃないかなと思うのでそうします。つまりMP全振りでレベルアップだけで5000まで積める感じです。ただ、称号やアイテム、装備、撃破報酬などでもポイントを得られたりステータスを上げられたりするでしょう。

 

 

 

 

 ついでにギルドについても詰めます。

 

 

 ギルドに入る場合に魔術師でも盗賊ギルドに入れるかということについては、Jobの転職が必要。その場合、転職クエストを受ける必要がある。ギルドへの依頼はNPCとの信頼度を上げれば可能。

 

 

 ファステイアにあるのは職業訓練所(ハローワーク)。ニュービーのための施設。基本的な説明をして、各職業ギルドへの案内をしてくれる。ここで転職したいやつには転職の紹介状(ファステイア限定)を出してくれる。転職クエストスキップ。基本的にギルドはJob系統別だがマイナー職は独自のギルドがあったりなかったり。ない場合はそれっぽいところに担当が兼任されている。

 

 

 職業ギルドは何してくれるのというと、クエストを出してくれたり、紹介状を書いてくれたり、特殊な物品を売ってくれたり、買い取ってくれたりする。あと、職業(仕様武器や特殊な称号的なやつ)の変更をしてくれたりする。

 

 

 

 こんな感じで行こうと思います☆

 

その2

※インベントリは生体機能。1号2号使える。脳キャパ依存らしい。スタンドアローン。

 

 インベントリはパネルを操作せず、仕舞おうと思えば仕舞える感じです。あまり高度な思考は必要としません。ただし、中身が雑多になってくると取り出すのは難しくなってくるのでパネル操作で取り出すのがベスト解答ということ。

 

 

 インベントリについては次のように解釈していこうと思います。

 

 メタ的に言えば個人に与えられるデータ容量。クラウド的なもの。容量は質量が基準となっていて容量からはみ出た場合は質量としてプレイヤーに警告として重量オーバーのデバフを与える。

 

 世界観的に見れば、同じくクラウド的にインベントリ空間へのアクセス権限の付与をする。生物由来のものではないのでアクセス権限の大きさは個人のステータスに依存しない。ただし、STRかVITで重さに対抗できる。アクセス権限の拡張はレベルアップ(40レベルごと)、専用スキルや一部のジョブの補正、クエスト報酬、外付けインベントリなどの方法で可能である。

 

 320kgのグランドピアノ(2kgのロングソード160本分)を運んで歩きたい場合はいろいろやらなければまず運べない。重量オーバーのものをインベントリに入れた場合、その場で圧死し原因の物体はその場で吐き出される。圧死するような場合は、インベントリに入れるのにも時間がかかりその間ダメージを受け動けなくなる。ダメージを受けても動ける場合は、ダメージが原因で死ぬとき圧死と同様に所有権が放棄されるが、ダメージが原因で死なない限り所有権は放棄されない。理論上は建物をインベントリに入れることも可能だが、容量と重量差が著しく異なる場合は起動すらしない。

 

その3

ゲーム内時間は次のように勝手にしています。

下は完全に独自設定なので悪しからず。

 

夜3時間昼3時間

現実     シャンフロ 

00:00~03:00  夜

03:00~06:00  昼

06:00~09:00  夜

09:00~12:00  昼

12:00~15:00  夜

15:00~18:00  昼

18:00~21:00  夜

21:00~24:00  昼

 

 

1日あたりゲーム内4日たっていますが、NPCは4日を1日としてカウントするようにしています。これは語られぬ母星の自転の角速度より4倍速かったということで...あとは神の定めるカレンダー的にそういうことになっています。だから、クエストの期限は信じても大丈夫ということでここは一つ...へへ。

 

 

 

空間はゆがんでいるので、時間を昼と夜の割合を2:1にしようかと思いましたが夜に起こるクエストもあるので1:1のままでいこうと思います。満月は分かりやすく現実時間の30日ごとに来る感じです。

 

 

 

 NPCは3時間起きて3時間寝てを繰り返しているのだ。というわけでなく、NPCの生活は多様性があります。生活リズムはそれぞれの仕事で決まる感じです。夜は危険なので外に出向く仕事についている人は家でおとなしくしています。暗いと大体危ないので、強盗や窃盗を警戒して普通の店は閉まります。農民はシエスタ。衛兵は起きています。酒場は気分で開いています。NPCの体感的には現実同様6時間くらいトータルで寝ればいい感じです。PK規制前は恐らくヒャッハー勢がいたと思うので...神罰が下るようになってからは徐々に安心してきている感じです。

 

その4

当作品では以下のmodが適用されています...

※カルマ値と信頼値の2つの基準があるようです。カルマ値は悪性、信頼値は善性に通ずるところがありそうです。

 

 

プレイヤーがNPCに現実の情報を意図的に悪意を持って暴露したと判定された場合には以下の神罰が課される。

・運営からのイエローカード通達

・対象NPCの好感度の著しい減少

・一定期間嫌なオーラの付与

・デスペナルティ3日間

・カルマ値の上昇

・信頼値の低下

 

また、運営および進行が著しく阻害される行為には、

・王国側NPCによる多額の罰金刑、禁固刑

・関連NPCの隔離、調整

・即時のアカウント凍結

・指名手配

・恒常的なデバフ

が起こりえる。

 

 

運営および進行が著しく阻害される行為とは、

・重要NPCの意図的な連続殺害

・初心者狙いの執拗なPK

 

 

しかし、それ以外の如何なる王国法の脱法行為およびPKに対して運営側が直接に対処することはほとんどない。

 

 

 

間接的なシステム上での対処は追加される。

・指名手配度に従って体制側に属する町および村への指名手配網の付与

衛兵に通報されるか見つかった瞬間に攻撃され、賞金狩人がすぐに現れる。

・NPCの殺害による賞金額上昇、カルマ値の上昇、信頼値の低下、一定期間のステータス低下

・プレイヤーとのレベル差による賞金額上昇、カルマ値の上昇、信頼値の低下、一定期間のステータス低下

 

 

PKのメリット

・殺されたプレイヤーの装備またはインベントリからユニークアイテムのドロップ

(あれば確定で一つ)

・殺されたNPCのインベントリからユニークアイテムのドロップ

(あれば確定で一つ)

・殺されたプレイヤーから預けていない所有マニーの20パーセントをドロップ

・ユニークアイテムを持っていない場合に、装備およびインベントリからレベル差などに応じて3つドロップ

・カルマ値の減少により一部NPCの好感度が上がり、暗殺術、スリや忍び足、聞き耳、ピッキングなどの技能を教えてくれる。

 

 

 

なので、秩序だったPKクランは姿を変えたり、しぶとく生き残っていたりします...

 

 

デメリットはPKKされたときに同様にユニークアイテムドロップして、借金まみれ全ロスト牢獄にボッシュートされちゃうことです。

 

 

 

その7 NPC組織

【ギルド制度の始まり】

その昔、ギルド制度がなかった時代、血と血で争い怨嗟の声が響き渡る戦乱の世の中。様々な技術が世の中に明るみに出た。大陸の統一が成された後、建国王は各民族の融和と監視のため、技術の管理と発展を目指す枠組みを定め、これを国家の管理下に置いた。これが、ギルド制度の始まりである。現在はギルドが肥大化し、国家の管理下にあるものの裁量権が非常に大きく運営はほぼ民営化されている。採算が取れていないところは予算をつけている。現在の役割は技術の保全と発展、公共の福祉である。ギルドは民間供用を主目的とする団体が多い。騎士団や修道院、教会、密偵、暗殺者組織などはギルドにする必要性はないので、ギルドではない。ただし、ギルドを名乗っている場合がある。例)忍者ギルド、暗殺者ギルド。また、商会が出資するギルドもあり、もはや国の監視という意味合いでのギルド制度は形骸化している。現在では、ギルドという言葉で市民が想像するのはプロフェッショナル集団という意味合いだけである。当然、ギルドに所属することに意義を見い出していないプロもいるが、大陸ではギルド員であることは実力の保証の意味合いを持つので、信頼の構築に苦労する感はいなめない。最も、実力があれば何とでもなるのだが。

 

《考古学協会》

神代は今まで認識されていなかった。もちろん遺跡は各地にあり、何らかの文明が過去からあるのは昔からよく知られている。しかし、どのような文明があったのか、どのくらい昔のものなのかという具体的なことは何も分からなかった。神代の遺産はたまに強力な物が発見され武力や権力の象徴として担がれことはあったが、神代そのものの解明の機運は低いままだった。近年、神代と呼ばれる物が存在し、それは我々が知る文明の遥か前にあった文明であり、遥かに高度な文明であるという学説が数々の証拠や測定結果により明らかになった。王国に住む知恵者や金持ち達はこぞって神代の解明へと頭脳と資金を投入し始めたのだった。そうした中、知見を結集し体系化するべく、王国の主導で組織されたのが考古学協会である。

 

・歴史考証派

 

・神代技術復元派

 

・三神懐疑派

 

(・破滅信奉派 san 0)

 

《魔術ギルド》

魔術の始まりは遥か昔の狩猟採集時代にさかのぼる。シャーマンとして、集団の意志決定や治療行為に携わってきた。やがて、戦乱の中で技術は発展し、魔術や呪術として体系化された。現代の魔術師の多くは戦士ではなく研究者である。自然の不可思議な摂理である【魔法】の解明を何よりも望んでいる。魔術とは、魔法の解明の中で作られた理論を利用する実践的アプローチにすぎない。しかし、魔術師にはそのような研究に邁進する者だけではなく、いかに利用するかということに焦点を当てている者も大勢いる。戦闘魔術師はテクニカルにすぎているのだが...魔術師ギルドは研究者と技術者が所属する組織である。魔術院、魔杖隊とのパイプが強い

 

・古代魔法信奉派

 

・神代技術迎合派

 

・独自魔術開発派

・精霊信仰派

(・禁忌求道派 san 0)

 

〈剣士ギルド〉

剣に特化した流派を持つものは剣士ギルドに所属する。剣は武器の中で最も汎用的に使われる武器であり、多様な技術が伝承されている。教会、騎士団や国軍とのパイプが強い。

 

〈戦士ギルド〉

剣に特化せず、様々な近接武器種の流派が戦士ギルドで保護されている。槍や斧の流派は戦士ギルドの管轄である。傭兵団、商会、各街の権力者とのパイプがまあまあ強い。

 

〈傭兵ギルド〉

傭兵の管理のために作られた。流派も武器種も存在しない。その役割は傭兵団の平時の暴走を抑え仕事を割り振り、戦時における裏切りの防止である。国軍や商会とのパイプがまあまあ強い。

 

 

《三神教》

 三神(創造神・運命神・調律神)を信奉する、王国が認める唯一の宗教。はじまりは、一人の少女と出会った聖人の思い付き(運営の導き)である。王国の拡大と共に教化を続け、王国公認の唯一の宗教となった。戦乱の中で自前の騎士団を用いて他の宗教をことごとく殲滅し、現地で崇められていた神や精霊、妖怪、鬼、悪魔を退治し、滅し、弱め、様々なものに封印した。大物については、荒ぶる魂を祠によって縛り付け、長い年月を掛けて、【浄化】し続けている。教団の内部は教皇を頂上として、聖女、修道会、聖騎士団、教会などがあり、教皇が任命権、罷免権を持つ。教皇は全て聖人と同格とみなされる。国王より異端審問権が認められており、異端審問官に委任する形で執行する。もちろん、建前上は神から認められているのである。収入源は喜捨、教会での冠婚葬祭に関わる収入、教会領からの税収、ワインの生産、治療行為による収入、国からの補助金、呪い除けなど聖なる物品販売による収入、悪霊退治や治安維持行為による報奨金である。ゆりかごから墓場まで三神教は手厚くサポートします。

 

 

三神教の存在意義は聖女の保護のほかに、安全上の対策がある。1号計画によって増えた民はマナを保有し、無意識的にも意識的にも怪物たちの出現を助けていた状況にあった。全体の思考を誘導し、害のないものに制御するというのが人数の多い普人族がいる旧大陸で文明再建プランに基づいて実施された。また、副産物として、三船の神格化が行われた。これによりマナの回収機能と権能が三船に備わった。マナを何に運用しているのかは言わずもがな。つまり、計画はセットだったということである。

 

〈総本山〉

教皇や枢機卿、聖女など意志決定にかかわる人や機関はここを拠点とする。教会政治の舞台でもある。

 

〈神学校〉

聖職者の教育機関で、普通はここで教育を受け初めて聖職者として認可される。

 

〈修道会〉

己を神に捧げ高めていく聖職者たちの集まり。地域に縛られず、大陸全土で活動する。

 

〈教会〉

冠婚葬祭を行い、名付けや祝福、市民の教導を行う。墓地の管理も行う。

・司教

・司祭

・助祭

 

〈医療院〉

病気や怪我に対する治療を行う施設

・プリースト

・薬剤師

 

〈神聖騎士団〉

対怪物のために作られた。熱心な信者や修道士で構成されており、総本山に本部を持ち各地で活動する。

・神聖騎士

・武僧

・プリースト

・バッファー

・エンチャンター

・etc

 

〈異端審問会〉

要するにちょっと暴力的なマルサ。汚れ仕事もある。

・異端審問官

・呪物調査官

・暗黒騎士

・密偵

・暗殺者

 

 

《王国》

トルヴァンテ国王を頂上として、中央より各街に代官を派遣する。各街は王国の直轄である。王国に所属する貴族は国王の代弁者である。各街に派遣される(ということになっているが実際は世襲)領主はあくまでも代官である。中央集権型であり、議会という概念は存在しない。基本的にこの世の土地と権利は神から認められた国王が所持し、それを人民に分与するという建前がある。王国法が制定されている。騎士団、軍隊、文官組織、を所持している。牢獄を管理している。裁判も代理で行うという形をとっている。

 

〈王家〉

元々は豪族だった。その血にメタ的な意味はない。(いや、ありますね!ないはずがない!いや...これは勉強ですわ、反省。考察勢フエロオオ)しかし、最も権威を持つという意味で、社会に与える影響は大きく、神からの注目度も、箱庭の管理者からも、怪物からも、実に多くの者の注目を常に集めている。そのため、祝福を受ける一方で、悪意にさらされることも多く、血の存続と後継者の指名問題は頭を悩ませる課題の一つである。要するに、色々な要因で結構死にやすい。かわいそうに...防護は厳重にされている。

 

〈王国騎士団〉

軍の要。騎士爵家の出身者で構成される。従士は領地の平民が多い。代々受け継ぐ村規模の町と農地を持っているが代官を雇っている場合も多い。たまに、戦功のある傭兵が召し抱えられたりもする。魔物に対する組織もある。

 

〈王国軍〉

国内の治安維持と反乱や一揆の鎮圧のために組織された。平民から徴用される。幹部は士官学校の卒業資格が必要である。歴史は比較的浅く、中央集権の強化とコストカットを目的とした軍政改革の一環として整備された。王国騎士団の下部組織に位置づけられている。軍団長クラスは騎士団から派遣されることが多い。

 

〈奉行〉

裁判所的な江戸時代的なやつ

 

〈魔術院〉

国の基幹システムや軍事魔術に関する研究所。

 

〈魔杖隊〉

軍事魔術のスペシャリスト集団。性質上、国王直轄部隊であるが、騎士団の指揮下に入る。国軍との連携に関しては軍団長クラスの指揮権がないと運用できない。

 

〈王家直轄領〉

 

 

〈貴族〉

街の重要度に応じて爵位は順位付けされている。また、首都に住むサラリーマン貴族も多い。

 

 

〈国営郵便局〉

 鳥を大量に飼育している。

 元々は街間の連絡手段として整備された。

 性質上、鳥の確保、飼育、調教が必要であり、それなりの専門性と手間を要する割に、手紙が届かないこともあり市民からは不満の槍玉に挙げられるなど、重要だけど報われない仕事。

 開拓者に向けて整備していくために教会と王国主導の元、各ギルドから専門家が派遣され、鳥の確保、調教などの問題はある程度改善したが、今度は教会と魔術ギルドなどの左遷先の一つとなった。

 内部に諜報組織があるとの噂もあるが...

・郵便局員

 

〈歴史編纂室〉

 

〈牢獄〉

 どこにあるかは一般に知られていない。絶海の孤島だとも、王城の地下だとも言われている。この牢獄に送られるのは普通の犯罪者ではない。極悪人か政治犯である。脱獄不可能とも言われているが、脱獄したものはいる。ただし、マークされているので、表には決して出てこない。

 牢獄への罪人の移送は転移符を用いて行われる。

 開拓者の場合は神の監視下にあり、勝手に牢獄へ送ってくれるので、そこのところの手間がない。

・看守

・処刑人

・拷問官

 

《商会》

商売を大きな枠組みでやりたいのなら商会との付き合いは必須である。商会と言っても形態は様々である。

 

《地霊信仰》

地域に語り継がれている信仰の類。伝説やお祭りなどがそれにあたる。異端審問の対象ではなく、教会が主催したりもする。それは、荒ぶる神霊の魂をなだめ、悪神や悪魔、怨霊へと転じることを防ぐためでもある。古来の信仰の形が色濃く残っており、地域の独自性が強い。中には発覚すれば異端に問われる類のものも存在する。

 

《反社会的非合法組織》

〈理想郷〉

政治と権利の解放を求めた市民の地下組織。根強いシンパが多く発足から長い。スポンサーの資金力を駆使して反乱や法制改革の根回しや暗殺などのテロ活動をする。商会が金儲けなどのために利用したりもする。

〈旧神教〉

破滅論的信仰。この世のありとあらゆる全ては虚飾であり、個々に分かれている現世は苦悩にまみれているため、本当の神の元へ帰り安寧を得ることこそが救いであるとする。大方の信徒は、儀式などによる接続や幻視で精神が発狂しており、一般の人は理解できない動機と言動を持つ。潜伏期と活動期があり、活動期には大勢の市民を狙ったテロリズムが行われる。動機は生け贄だとか、許せないだとかよく分からないものである。

〈犯罪組織とそのネットワーク〉

犯罪による金儲けを主眼に置いた組織が存在する。詐欺、地上げ、恐喝、窃盗、誘拐、暗殺、違法薬物、密輸など。大小様々な組織があり、大きな組織は下部組織を持ち、地元の有力者とのパイプを持っている。全国的な大組織は弾圧されるため存在しないが、各街の組織が裏で連絡を取り合うことで連携を保っている。新興組織との抗争は各地で繰り広げられており、国軍の出動により取り潰されることもしばしばある。もっとも潰された組織の逃げ延びたメンバーはゴキブリのごとく、他の組織に合流するのでイタチごっこである。詮索好きな者や出る杭となっていない限り大多数の市民は実害にあうことはない。

 

 

その8 ユニークアイテム

 elonaでいうところの固定アーティファクト、奇跡、神器に相当する。

 一方で、使い捨てのユニークアイテムもあることから世界規模での数量制限があり複数個存在するものもある。性能は微妙なものから喉から手がでるほど欲しいものまで。売ればそこそこ儲かるか、かなり儲かる。壊れることもある。復元にはそれなりの手間がかかる。

 神代由来のものと、自然発生的なものは文明的にも性能的にも異なる性質を持つ。

 

《酒器》

【永久氷杯】

☆それは酔いを与える

☆それは溶けることのない氷でできている

☆それは冷気を帯びている

☆それは大気中のマナを溶かす

【逆さ山の毒瓢箪】

☆それは酔いを与える

☆それは猛毒である

☆それは体から猛毒を滴らせる

☆それは力をみなぎらせる

☆それは強い耐性を与える

☆それは土へと還る

《釣り竿》

【ドラゴンのひげ】

☆それは丈夫だ

☆それはしなやかだ

☆それは大物を惹きつける

☆それは小物を怯えさせる

【樹霊の宿り木】

☆それはマナに満ちている

☆それは感覚を鋭くする

☆それは環境と対話する

☆それは地面を求める

☆それは水やりを要求する

《本》

【リビングブック】

☆それは悪魔の皮でできている

☆それは生きている

☆それは燃えない

☆それは知識を欲する

☆それは魔術を補助する

【ナルラ詩集】

☆それは全てを感動させる

☆それは幻想を実現させる

☆それは文字が薄れていく

【旧神賛歌】

☆それは禁忌を呼び込む

☆それは狂気を授ける

☆それは道を指し示す

《杖》

【忘れられた骸時計】

☆それは対象の時を止める

☆それは生命を欲する

☆それは記憶を要求する

☆それは忘れられた時を告げる

【煌めく水晶瓶】

☆それは細長い水晶でできた瓶だ

☆それは液体を中に入れられる

☆それは虹色にきらめく

☆それは水魔術に影響を与える

☆それは光の影響を受ける

【かわいい猫の杖】

☆それはニャーと鳴く

☆それは目玉が付いている

☆それは魚を好む

☆それは昼寝を好む

☆それはかわいい

【黄金薔薇】

☆それは背の高い大きな黄金のバラだ

☆それは枯れない

☆それは壊れない

☆それは魅力的だ

☆それは植物を活性化させる

☆それは空気中のマナを活性化させる

☆それは火と相性が悪い

【死神の鎖杖】

☆それは死を束縛する

☆それは魂を溜め込む

☆それは死霊を畏怖させる

《短杖》

【悪辣な指揮棒】

☆それは運がかなり悪くなる

☆それは指された対象を混乱させる

☆それは指された対象を強化させる

☆それは指された対象の増悪を高める

☆それはランダムで魔術を吐き出す

【小人の物干し竿】

☆それは生活魔術を強化する

☆それは布装備と相性が良い

☆それは天候の影響を受ける

【賢者が愛した羽ペン】

☆それは書くのに向いている

☆それは特別なインクを必要とする

☆それは空中に軌跡を残す

☆それは手先の感覚を鋭くする

☆それは手先をかなり素早くする

☆それは手先を補助する

《棍棒》

【怪僧の力こぶ】

☆それは殴るのに向いている

☆それは大きくなる

《片手剣》

《短剣》

【愛切】

☆それは研ぎ澄まされている

☆それは感覚を鋭くする

☆それは愛情を素材にあたえる

《両手剣》

【気まぐれ魔炎】

☆それは魔術だ

☆それは燃えている

☆それは消えない

☆それは不定形だ

☆それは刺突にむいている

【怨嗟の幻影】

☆それは呪われている

☆それは影を纏う

☆それは嘆き声をあげる

【LS_Rx_153】

☆それは太古のものだ

☆それはエネルギー切れだ

☆それは空間を切る

☆それは追撃する

《大剣》

【悪霊送り】

☆それは祝福されている

☆それは輝いている

☆それは軽い

☆それは霊体を切る

【吸血鬼のクレイモア】

☆それは呪われている

☆それは刺々しい

☆それは血を吸う

☆それは体力を回復させる

《刀》

《槍》

【捻じれた掘削器】

☆それはとても堅い

☆それは地面を掘るのにむいている

☆それは回転し続ける

《長弓》

《短弓》

《盾》

【フライングボード】

☆それは浮遊する

☆それは投擲にむいている

☆それは戻ってくる

《ガントレット》

《アクセサリー》

 

その9 情報屋

情報屋はプレイヤーから情報を得る他に、NPCとのやり取りの中で情報を得ている場合が多い。ギャルゲー畑出身のものが多く、あの手この手で情報を取得していく(全年齢)。その手法は一般ユーザーも参考になる場合も多いにあるだろう。

【飴ちゃんいるかい】

プレイヤー謹製のクッキーなどを常備し配り歩く

【プレゼント作戦】

何かお土産を持って行こう

【今だけ、今だけお得だよ!】

それっぽい特別感を出す

【一緒にお茶に行きませんか?】

ご飯を奢り、何か話したくなる雰囲気作り

【髪型変えた?】

とにかく細かい部分を見つけて誉めまくる

【あの子とは遊びさ、君だけだよ】

とりあえずその場をしのぐ

【うん、約束する】

とりあえず約束する

【どうか...どうか...】

土下座する

【あ”?言うこと聞けんのかいワレェ】

包丁を机に刺し、潔く武力で恫喝

【つまらないモノですが】

札束をソッと袖の下に通す

【おま、○○さんに言いつけっぞ】

偉い人との繋がりを強調し強請る

【あ、オレオレ】

立場を偽装し騙す

【そろりそろりと】

侵入し書類などから情報を抜き取る

【普通に】

大人しくクエストをこなす

 

 

その10 アイテム作成について

シャンフロは神ゲーなんで基本的にやろうと思ったことは何でもやれます(盲信)じゃあ、生産職ってなんやねん、スキルってなんやねん、って石を投げないでください。どうどう。僕が言いたいのは、自由度とゲーム的妥協の境界線の話と世界観的整合性の話なんです。例えば生産の話では、プレイヤーやNPCは自分の自由な発想で物を作ることができるとして、それがアイテムとして認定されるには壁があるということを言いたい。本作主人公のギター熊が太鼓を作ったりしましたが、それは物であってゲーム的な効果のあるアイテムではない。極端な話、家具に棒をくくりつけてハンマーと言い張ることもできるわけです。しかし、それはシステム的なバックアップのない物なわけです。家具の重量と形状、耐久値のみが攻撃の際に物理的な攻撃力に換算される。太鼓の場合、演奏しても敵がどんどん集まってくる訳ではないし、誰かにパフが乗るわけではない。つまり、誰でも思い思いに色々な物を作ったり行動できるが、アイテムやスキルとしてシステムに認可されるにはルールや資格という壁がある。しかし逆に言えば、このシステムのルールや資格、バックアップを気にしない限りにおいてプレイヤーとNPCは無限の可能性を持つ。そこにシステム的なバックアップが受けられないという不利益はあれど、本当にできないという制約はもうけられていない。だから、その信じられない自由度と制約があるシステム的バックアップの合わせ技でプレイヤーは力強く羽ばたくことができる。何を言っているんだかと思われるかもしれないが、神ゲーはある程度、全てのユーザーにフレンドリーであるべきだというのがやはり必要であると思う。万人に一定以上の楽しさを提供し独自のやりこみがなければユーザーは離れていく。逆に、クソゲー(神)はユーザーフレンドリーじゃない(断言)尖りに尖っている。好きな人のみが残る。なお、クソゲー(真)はクソゲー好きのみが遊ぶ。シャンフロはライトユーザーにはJRPGを、釣り好きには釣りゲーを、金儲けしたい人にはマネーゲームを、アイドル好きには推しを、考察好きには謎の破片を、料理好きには未知の食材を、高難度クソゲー好きにはクソモンスターを、提供し矛盾なく成立させ攻略可能にし惹きつけるようなゲームであり、一つの世界の中で、同じゲームを遊んでいるのにも関わらず違うゲームをやることができ、なおかつそれに納得できる土壌がなければならない。ゲーム内最速に挑むこともできるし、牧場物語をすることもできる。つまり、工夫次第でやりたいことは実現可能ってのがシャンフロの神ゲー要素ということを言いたかったんやな(自覚)

 

 

その11 スキル・魔法収集基準

単純な分け方だとマナが絡むか絡まないか。ここらへんは非常に曖昧で繊細な設定上ないし、ゲーム上の調整が必要になると思う。まず魔法といったら広いからファイアーボールという魔術とは何かということことを確認しときたい。本来、マナは願望や思考の実現装置として働くということはまあまあ暴露されているんで共通認識としてもっているとする。神代に比べてマナ濃度が下がり、現在の人類が封臓を持ちマナを蓄えられるようになったというのも共通認識とする。そこで、魔術(あるいはスキル)がどうマナに働きかけているかというとファイアーボールの場合は、『火の玉を打ちたい』という願いを叶えている。ここで、魔術(orスキル)の働きとして、人類がマナに何かをして欲しいと考えたときにそれを補助する役割を担っていると推論できる。まあ...魔術やスキルは外付けの補助輪という認識でよいと思われる。

 

ここで再び話は戻ると、魔術やスキルとそれ以外のマナの絡まないものとの境界線はどこかという問いがある。これはなかなか定義しづらい問題だ。一つ考えられる指標として、まずマナを使うか使わないかというのは一つ指標になる。

 

(スキルと魔法を考える時にMPとSTMは案外邪魔くさい区別である。MPは魔法発動に絡み、STMはスキル発動と疲労に絡む。両方ともマナなのになんやんと思うかもしれない。だがそれは恐らくこういうことだ。そもそもステータスとはマナによって上乗せされたものである。MPは流動的に扱えるマナの量で、STMは循環するマナの量であると考えれば分かりやすい。要は臓器やシステムが異なるということで。その他のパラメーターは外装説か変異説を採用するかは甲乙つけがたい。個人的には変異説を採択すると生態系シミュレーションとの整合性が保てるのでそちらを推したい。つまり現在の人類は制御された魔物というわけですな。)

 

さておき、魔術やスキルというのは外装的というようなイメージだが、仮定としてこの二つの大陸周辺を覆っているスキルや魔法の認定システムというものがあると思われる(もちろん世界観側での話でこれはアイテムや武器も同様に。)。仮定から出発する時点で不安定な話になるが、この認定システムに認定されるかどうかというのが、魔法か魔法でないかの境界線だと再定義する。重箱の隅をつっつくと認定される前は『魔法』や『スキル』ではなく、マナを使って補助輪なしで結果を実現したというだけということにしておく。

 

認定というか収集の基準を考えればそこのところがすっきりする。ざっと考えると、

①役に立つか

②マナを使うか

うん...あんまない。他を考えたが蛇足感がある。想定としては①は必ず満たさなければならなく、②は満たさなくてもいいが満たす場合が多い。②を満たさない場合はちょっと考えるのが難しいが、職人技なんかがこれに当たる。ちょっとややこしいが職人は職人技を使うのにマナを使わない。なお、『スキル』として素人が職人技を使うときはマナを使う。また例としてサンラクの役割模倣は職人と職人技の関係に対応する。まあ、なんとなくイメージはついたかと思われる。占いを『スキル』や『魔術』とするなら、素人はその結果を前提知識や経験なしに知ることができるということだ。ただし、マナを使って。しかし、占いというのが役に立つかという点において議論が分かれるので、かなり曖昧なゾーンとも言える。ここで役に立つということを再び考えると、誰にとってというのが考える余地があるところだ。

 

といっても開拓者か現地民かの二択のみだ。開拓者なら、戦闘、生産に役に立つか。現地民なら戦闘、生活に役に立つかということだ。占いはまあ開拓者には毒にも薬にもなるか分からないが(ユニークアイテム神託の代替として使えるなら有用)、現地民としても毒にも薬にもなるか分からない。あれ、やっぱり占いはスキルや魔法になりえないのか?えぇと...まあ待とう。風水導師という家具にパフを載せれる生産職がいたと思う。つまるところ、占いはぶっちゃけ役に立たない(暴論)が、マナを使うかつパフが乗ったりする占いは役に立つので、『スキル』や『魔法』になる!これやな。占いは職人技ではない(許して)。つまり、素人に再現が難しいかつ役に立つというのが認定ないし収集の最低ラインと考えられる。マナを使うようなものは大抵このラインを越えているのでめでたく『スキル』や『魔法』となる。うんうん...すっきりきま。

 

 

そのEx1 VR機器

 うーん、よく考えたら、初心者にはメニュー操作がよく分からんよなぁ。インベントリも。キャラクリの時にそこら辺のチュートリアル描写いれとくか...?でも、イライラ案件だしなぁ。ライブラリの夫婦奥さんがキャラクリしているし、そこも難しいなぁ。

 キャラクリのデータを保存できるのもあれやしなぁ。

 あれやな、現実でのゲーム起動時の設定で一緒にキャラクリできるとかそういうことにしよう。

 そもそも、スクショも現実に送れることを考えるとVR筐体にモニターなどの出力装置が付いていると考えるのが自然だなぁ。パッドは付属されていそう。いや、スクショはメール送信もありだけど。パッドがあった方が便利だよね。アラームの設定とか起こす時とか。あとは、ライブラリの人がシャンフロ内で書いた考察をwikiに載せる時に文書訂正できたほうがいいよね。あれやな、パッドとヘッドギア、筐体でpc機器との互換性がある入力端子、出力端子があり、多分ソフトはディスクで、オフラインはメモリ必要。オンラインはいらない。

 競技用はもうそこら辺がまとめられているうえに、反応速度と寝心地が良いと。

 で、回線はロックマンエグゼ6の世界なので、ラグクソゲーは存在しない!マ?

 アンテナからルーターまでは有線だけど。そもそも、VR機器の端子いらんかもしれんなぁ...筐体をルーターにすれば管理できそう。というか、最近のゲーム機そんな感じするしなぁ。線踏んで抜けたら最悪だし...そやな。筐体に電源ついてて、それがヘッドギアとパッドを管理するような感じだろう。多少のラグはあるだろうなぁ...で、パソコンとはモノホンのルーターを介して連携してくれると。充電は筐体から無線でできる仕様。クッソハイテク。

 

*caution*

 以下、VR自体に関する考察を含みます。脳波うんぬんかんぬんなど電極などアレなので、微グロ案件なので嫌いな方はそっ閉じしてください...あと、あくまでも現在の技術、価値観に沿った実現性に対する考察なので、VR自体を否定するものではありません。軌道エレベーターもテラフォーミングも将来的に達成して欲しいなという立場です。

 

 

 

 

( 考え出すときりがないけど、VR創作最大のアンタッチャブル。脳波の読み取りと錯覚。脳科学が極まらないと無理やろなぁ...

 とりあえず電極ぶっさすのは最終手段だとして。

 夢の映像化の研究ではMRIで輪切りにして読みとるらしい。読み取りはこの方法でできるということにしておこう。思考は疑わしいけど。

 問題はやっぱり送り込むほうだよね...感覚器の神経を乗っ取る方法が一つ。脳に電気信号を与えるのが一つ。神経をハイジャックするのはどう考えてもグロ案件なので却下。

 やっぱり脳に電気信号を与えるというのが良いかな。電極はまださしません!

 今、脳の内部の状況が全て分かっている。つまり、脳科学が極まり、全ての脳活動(感情、記憶、思考、感覚、生命活動)が映像化、文書化、データ化できると仮定します。やべー...ディストピアか...まあ、AIも発展しているし、そこら辺はシンギュラリティ全部通過後ということで、余裕のヨッチャンだったということなんでしょう。当然、量子コンピューターも実用化され一般に使われています。演算力はもう成層圏飛び越えます。おめーそりゃ、世界作れるんだから...脳の電気信号の演算くらい余裕だべ。演算はクラウドのAPIで、AIが量子コンピューター使って一瞬で終わるんでしょう。やべー...まあ、その頃には絶対死んでるからいっか!

 では、あとは、電気刺激を脳の神経細胞に与えるだけです。やっぱり電極さす?

 いやいや、針とか電極とかさしてゲームしたいと思わんよ!

 ということで、ここもやはり夢のある技術を考えましょう。電気あるいは刺激を任意の空間に発生させる技術!もう、神経細胞の位置も分かっているので的確に電気信号を発生させることができたらいいわけです。電気を直接与えちゃうか、神経細胞に刺激をあたえればいいわけですね。こわ...

 ま、とにかく脳の神経細胞たちに複雑な刺激を与えることで、現実を再現するわけですな。

 うーん...やっぱりこわ...

 で、ゲーム内のキャラの身体が動くときにどのように脳内の神経細胞たちの間で電気信号をやり取りしているかというものを仮想的に作り上げ、それを刺激として与えてあげるわけです。で、思考を読み取ってゲーム内の身体に反映して。それを超高速で永遠にループさせていく感じです。

 決して20XX年に達成できる代物ではないんだろうなぁという感じです。脳とかデリケートな問題だしね!もしかしたら、某国ではそこのところの倫理観は後回しであっさり実用化してしまうかもしれないけど...

 (つまり、シャンフロ本編は21XX~23XXくらいだと見積もりが立てられる訳ですが...本作品は現在10代~40代くらいのVRゲーム作品のファン層が生きているうちに神ゲーと山のようなクソゲーどもをやれてしまうというアメリカンドリームあふれる設定です。)

 実証実験はips細胞を使って脳組織が再現できるという医学進歩しすぎぃというところで、実験体にも困りません。人工の臓器を一から作るの滅茶苦茶難題があるらしいですが、もうそれも解決しちゃったというところです。

 よくある時間が増えるタイプ、二時間が1日になる精神と時の部屋的なやつは、攻殻機動隊か銃夢の世界のように脳改造に踏み切るしかないのではないでしょうか。脳にサイバーチップ埋め込んだり取り替えたりしちゃうやつです。あるいはマトリックス。サイボーグやアンドロイドがいるガチSFの世界で、脳改造してあえてVRゲームというのもヤヤウケ案件ですが...

 それか、脳改造しなくてもできる方法があります。もう一つの自分をデータとして作っちゃうということです。つまり、ゲーム世界で自分ではない自分が行動した一日分の記憶を、二時間後に植え付けちゃうわけです。倫理観ヤベェ...もう、イス人と大差ねえぞ...

 まあ、某国はry)

 

 

 

 

そのEx2 言語

世界観側で、古語は存在しないが、神代の人々が暮らしていた母星での言語は存在するはずだ。つまり、英語、ドイツ語、日本語、etcというものが記録として残されているはずだ。ところどころで出てくる様々な文明の言葉から付けられた固有名詞は神代より前の文化でそれを引用しているのだと解釈。船で宇宙を航行しているときは現代のシャンフロ世界と同じ単一の言葉を話しているだろう。

 

 メタ視点で、NPCが話すべき言語は何か?バベルシステムがあるので会話の問題は解決しているから実質何を話しても問題はない。しかし、どの言語を話しているか?エスペラント語?それとも英語?そして、文字は何語なのか?ぶっちゃけ、文字を置き換えるだけなのだからサーバー内でそれを行うにはそんなに手間ではないだろう。ここは、ゲーム的妥協かもしれない。サーバー内でNPCが交わしている言葉は文と文の関連性を表した数字に違いないのだからそれは何語でもない。そして、我々の言葉や思考も数字に置き換えられるということだ...

 

 もはや、言語は何でも構わないということなのかもしれない。つまり、統一言語というものはシャンフロ内には存在しないのかもしれない。世界観側では、言語が存在しているに違いないが、もはやそれをあえて設定する意味はない。

 

 世界観側での我々の言語とNPCの内部で交わす言語との間の違いはバベルシステムが現実で実装されているから、それを拡張現実として持ち出したという理解でいいのではないだろうか。また、多分マナは関係していないだろう。どちらかと言えばナノマシン的なSF要素ではないだろうか。

 

そのEx3 神代

シズ、リヴァイアサン、ベヒーモスの住民はどうやら喧嘩していたらしい。これはひょっとしなくても管理AIも仲は良くないのではないだろうか?

 

 リヴァイアサンに乗ってた人が結構頑張っていろいろやってたが、他は微妙そうな気配?今まで協調しているかと思っていたけど、それは終盤戦だけかもしれない。内ゲバやってる場合かよ。

 

 そしてマナは始原よりも上位の厄ネタのようだ。アザトース様みたいなお方がラスボス。って考えるとこれはマトリョーシカ感がやばみ。

 

 地球との繋がりをあえてほのめかす意味というのは、良く分からんね...

 

 シャングリラ・フロンティアで継久理さんが何を示そうとしたのか。じっちゃんの寝物語というけど、こんなおどろおどろしい話を孫に聞かせるか?まあ、それは置いといて。

 

 継久理さんは 物語の世界は用意したんだ。しかし、そこに主人公はいない。プレイヤーが必要だ。プログラムで操るのでは満足しなかったのはなぜだ。その方が正史に沿うだろう?なぜゲームにしたのか?物語が破綻してしまわないのか?

 

 破綻しない説明は何か?物語の主人公が2号計画で生み出された疑似生命体だったというのはどうだろうか。そして、それは地球の知識を持っている。

 

 SFものでありそうな設定ではないだろうか?逆説的にゲームの形にするのが意外にもベスト解答だったという事情は面白くないだろうか。

 

 我々の側から見ればただログインログアウトしているだけだが、実は物語サイドの設定上では、2号計画に利用している精神というのは遥か古代の地球を再現した仮想現実から持ってきているのだ。という設定を運営さんがプレイヤーに突きつけたらかなりゾクゾクとし.........ツー......ツー..................

 

 

そのEx4 シャンフロシステム

どのくらい演算能力を高めたら、リアルタイムで変動する現実と変わらない世界を作れるようになるんだろうか...?

 

ps4のゲームはかなりリアルに見える。

当たり前だけど現在のゲーム世界は天動説的な平面の世界だ。

 

これが、シャンフロだとおそらく地面の底、つまり球体の反対側まで再現されている(とすると技術ロマンあふれるけど...どっちなのかは判断つきかねる。)月のフィールドがあるとすれば再現されていてほしい(願望)。これが幕末やその他ゲームだと作る意味は薄い。civilizationVRやsimcityVRとかは全球作る価値はある。

 

シャンフロスペック(願望)1

・我々が生活するような惑星での三次元空間が再現されている。

 

これ一つ壁やね...演算能力で殴るしかない。

 

物体がある程度再現できたとする。しかし、このままではCADや3Dモデルでリアルに見える世界ができただけである。材料の特性や色情報なんかは全くない状態だ。想像するに、真っ白な球体に真っ白なごちゃごちゃしたものが乗っているだけの状態。ただの三次元情報をかたどっただけ。どの物体も動かすこともできないグーグルアースの地図がない状態。

 

 それぞれの物体に情報を追加する必要があるだろう。シャンフロではこの情報の追加が静的なものと動的なものに分けられると思われる。この動的に追加する部分に相当な負荷がかかりそうな気がする。例えば水の三様態を再現するだけでもかなりエグそうな書き換えが行われる...(そう考えると水や空気は物体ではなく空間情報にしてゲーム的簡略化をしているかも。海が蒸発しかねない。)静的なものとして、質量が与えられている。

 

 物体の変容・破壊というのは現実世界においては分子、原子の単位や細胞の単位で行われているが、シャンフロ(というかコンピューター上で再現するときには当たり前)ではパラメータによって制御される。そこはさすがにパラメーターだろう。わざわざそこまで極小レベルでシミュレーションする意味はないし、そこまで再現できるなら物理的に小さい宇宙を生み出せそうな勢いある。

 

 よってこう考えることができる。三次元モデル(情報なし)がパラメータによって様々な振る舞いをする。これは同意できるかなと思われる。

 

 さて、つまるところ一般的にもいえることだが「パラメータ」と「振る舞い」の部分がゲームにおいてもコンピュータで再現する上でも肝な部分になってくる。

 

「パラメータ」とは数値と同義である。変数名とも捉えられる。しかし、パラメータは最適なものに設定することは重要だが、それ自身が鍵なのではない。

 

「振る舞い」の方が鍵だ。つまり、式である。物理エンジンがクソなゲームなど誰がやりたいだろうか(やってみてー...便秘)。物理学で表せる式だけでなく、生命活動、天候の変化も式で表すだろう。

 

 そうしたものを一つ一つ設定していったのでは、リアルにするほどの作り込みをするとなると、どうあがいてもバグだらけの終末ゲームになりかねない。

 

 シャンフロはここをなんらかの方法で突破したものと思われる(推測)。つまるところクソゲーオブザデッドからきらめく神ゲーが生まれたのはいわゆるシャンフロシステム。世界作っちゃうぞシステムが爆誕したおかげである(AIがリアルなどうんぬんの面は脇においとく)。

 

 その根底にある解決策として2つ大きな案が考えられる。(他にもあるかもしれない。)

1.「振る舞い」部分の式を自動で作れるようになった。

2.式を作らずに「振る舞い」を表現できるようになった。

 

問題はどのように表現していくかである。

 

 ある程度人間が設定できる大きな幹となる式を設定する。なお、それでは現実と比べて単調なものになる。

 

 ここで、物体に付属された情報が完全に再現された、連続した時間の中での閉じた空間データを多量に与えることができると仮定する。つまり空間の動画である。色、質量など全てが情報としてひもづけられているもの。その情報の入手方法は様々な試験方法により個別に入手できるだろう(例:赤外線カメラ、個別に訓練されたAIによる画像解析)

 

 写真と同様に空間に対して学習させればよいものと考えられる。

 

 1の方式はそんなところである。人間が設定した式を初期値として改変していく。

 

 というか人体の動きについてはモーションキャプチャで情報取得するのは普通にやられているだろう。そうでなければ悲惨。動物の動きもまあできるでしょう。その動きを学習させるのは普通に予算のあるゲーム会社ならやっていないわけはない(なお便秘)。

 

 継久理さんはこれを空間に対してやりだし、完成度の高い再現をしたのが一つミソだと(推測)。しかも、空間の情報を好き勝手にいじれるツールも作っちゃったので、お手本空間群も自由自在に作れて、空想物理エンジンの生成があ”~簡単にゃのぉおおおおという感じなのではないだろうか。これは天下とってますわぁ。億万長者まったなし。

 

 うん...これやな!しっくりきま。

 

 2の方式はボトムアップだけど、まあ結局分子原子から再現しますかという感じだと思うのでやっぱなし。

 

シャンフロスペック2(願望)

物理エンジンの生成がとっても簡単なので、開発側が簡単にバグがない物理エンジンの仕様変更ができる(お手本がバグってる場合はなお×)。

 

なお、運営中における演算能力には関係ない。式が複雑だったらパラメータが増えて死ぬかもしれないけど。

 

 

「パラメータ」については、シャンフロの場合、世界の再現のためのパラメータとゲーム的なパラメータの2つの区分に分けられる。処理のレイヤーも物理演算とゲーム的な演算の層に分かれている。二つは別世界にあるようなものだけど、一つのオブジェクト(物体)の中でパラメータが与えられているだろう。例えば木材なんかは硬さ、しなやかさ、質量、燃えやすさなんかは物理演算の層だろう。耐久値、樹齢、マナ保有量はゲーム的演算の層に関わるパラメータだ。プレイヤーの情報なんかはまさしくゲーム演算的層のパラメータだ。

 

 ゲーム的演算のパラメータは二つのカテゴリーに分けられる。物理演算に関わるパラメータと行動値だ。行動値は歴戦値、カルマ、野生値、ヴォーバル魂、名声値がそれにあたる。行動値の方は静的に用いられるため、演算装置への負荷はそれほど大きくないだろう。問題は物理演算に関係するステータスの方である。

 

 さて、一体この変化するステータスを持つ個体の物理演算をどうやって実現するかというのは大きな問題だ。これは奇天烈生態系シミュレーションを実現する上でも避けては通れない。そうそう、シャンフロシステムがおそらくヤバみあふれるところは生物種の自動生成である。膨大な数の設定の海があることは作中でもあることからそれは間違いない(推測)。そうなるともうもとめられる演算能力は我々の想像を遥かに越えている。もう考えずにいこう。(もしかしたら継久理さんはとんでもない演算装置を作っちゃったのかもしれない。ぐう天。)

 

 生物種の自動生成だがめっちゃ簡単なものだとライフゲームというものがある。超簡単なルールを与えて二次元平面で疑似生命を作ったらどんなパターンのものが子孫を残し生き残るかというものだ。この考えは踏襲しているだろう。ただ、自由度が凄まじい。まず生物を規定する時に物理演算の層とゲーム的演算の層、さらに遺伝情報の層を作っておく必要があるだろう。遺伝情報の層には行動パターン、身体的特徴、ゲーム演算的特徴などが入っているだろう。遺伝形式も定義する必要がある。変異がどのくらいで起きてうんぬん。これを定めるのは骨なので例によって自動で遺伝エンジンも生成してくれないと社員が死ぬかもしれない。お手本はもう分からんね(さじ投げ)。これに関してはもういっそ遺伝子の仕組みをデータ上で再現した方が早いかもしれない。

 

 さらにこれにマナが絡んでくる。マナによる変異や強化、一部機能の代替などが出てくる。まだステータスと物理演算の関連の方が平和な感じである。

 

 そうやなぁ...マナと形態とステータスの関係について定めなければいけないだろうなぁ...つまり...マナの一側面としての形態とステータスにどのような振る舞いがあるかというものを式や量として定める必要がある。

 

 今一度問題を整理しよう。

・ステータスと物理演算

・マナの一側面としてのステータス、形態の表現

・遺伝と多様化、生存競争

この3つがテーブルの上に現在乗っている。

3つ目は他をクリアしないと考えにくい。なぜなら、世界がどのようなものなのか定義しないと生物がどのように生態系を作るかを考えられない。ルールがなければライフゲームはできない。

 

 1つ目だがまず物理演算をどのような段階分けにするかである。知っての通りステータスを振るとまるで違う世界の住人かのような動きが可能となる。方式としては2つある。

1.一つの大きな物理エンジンを作る。

2.個々に対応した物理エンジンを作る。

単一や少数で済むなら問題はないのだ...GH:Cではキャラごとに調整すればよい。しかしシャンフロはMMOなので2の方式だとバグる(確信)。きっと1だろう。

 

 矛盾なく一つにまとめつつステータスによる個体差を出すにはどうすればよいか。答えは...ゲーム的演算による結果を3Dモデルまたは空間に直接、ぶち込むことだ。バグりそうな気もするがまあまあまあまあ。

 

 DEXだと手ぶれ補正がついたり、STRだとパワーアシスト、AGIだと加速度、などが物理演算に叩き込まれる。LUCは急所判定範囲やパリィ判定範囲が広がる。LUCは攻撃の物理演算ではなく、対象の物理演算とダメージ判定に関わってくる。攻撃からダメージ判定の流れは、攻撃物理演算、対象に対する物理演算とダメージ判定である。

 

 一つ目のステータスと物理演算についてはかなり荒っぽいがこんな感じなのではないだろうか。ステータスとプレイヤーの脳との関係は脇においとく。

 

 マナと形態、ステータスについてはどうだろうか。ここでは世界観話ではなく、遺伝子シミュレーションにおいて、マナ値というマスクデータがあるとあると仮定して話を進めていく。

 

 レベルが上がると生物はマナを溜め込み変容する。elona的に言えばエーテルとも言える。

 

 マナ値は以下のように貯められる。

・他生命体からマナを解放したとき

・自己の限界より成長したとき

・マナ濃度の濃い場所に滞在したとき

 

また、生物種によってマナ値の最大値や溜め込みやすさは変わる。これは遺伝的性質による。

 

 マナ値が高いと以下のように生物が変容する。

 

・物理的にありえない形状が形成できる

・特殊な能力を開眼する

・生息地や現象、概念に近づく。

 

 なお、変容時にマナに関する適性が低いとなんやかんやほとんど死ぬ。

 

 また、マナ値が高いのとステータスが高いはほぼ同義である。生物の枠組みを越える値ということである。マナ値は変容と強化に割り振られるという感じ。

 

 なお、遺伝子は生物本来のものとマナに関するものが特に区別なくごちゃっとした感じでシミュレーションされちゃう。遺伝子的な突然変異はある。

 

 つまり、先天的変異と後天的変異がある。先天的変異は遺伝子。後天的変異はマナの蓄積。

 

 これらのルールの元で熾烈な生存競争を実施させる。

 

シャンフロスペック(願望)3

奇天烈な生態系を自動生成するために、マナによる変容を組み込んだ遺伝子シミュレーションが実装されている。

 

シャンフロスペック(願望)4

ステータスの違いによるゲーム的演算の結果を違和感なく物理演算に反映させることができる。

 

 さて大詰めを迎えつつある。

 

 膨大な3Dモデル、物理演算の自動生成、遺伝子シミュレーション、ゲーム的演算から物理演算への変換までが今あるところだ。

 

 残す演算能力的難題は以下である。

・疑似人格の生成と制御

・文明シミュレーション

・莫大な情報の生成と保存

 

 さて、ここで運営3人がそれぞれ何を担当しているのかを触れておきたい。継久理さんはワールドクリエイターを自称していることから、シャンフロシステムを作ちゃったぐう天であると思われる。また、じっちゃんの物語を持ってきたメインプロデューサーでもある。特殊なモンスターへの愛着が強い。人間種は結構どうでもいい。言語が必要ないバベルシステムをひょっひょいと作っちゃえるのでもはや神。

 律っちゃんはゲームクリエイターの天災である。フェアクソ、スペクリを生み出した恐ろしいお方。シャンフロでは反省を生かしつつ、継久理さんが作り始めた世界にちょくちょくゲーム的要素を仕込んでいったと思われる。また、大陸の大きさを小さくするファインプレー。メインクエストやジョブ、スキル、魔法はがっつり作りこんでいる。プレイヤーが楽しんでくれるように苦心していると思われる。なお、過去は過去。

 胃薬さんはデバッカー兼プロモーター兼二人の調整役兼マネージャー。二人に任せられない諸々の、周辺案件を取り仕切っているのではないだろうか。例えばGH:Cやネフィリムホロウとの折衝役やシャンフロ配信網の整備、色々なタイアップ、細かい顧客へのサービスやケアなどなどなど...過労死しゅりゅうううう。

 

 さて、話を戻そう。

・疑似人格の生成と制御

・文明シミュレーション

・莫大な情報の生成と保存

に加えて

・クエストの自動生成

・世界の時系列バックアップ

・スキルや魔法の自動生成

・現実からの膨大な数の複雑なアクセス処理

エトセトラエトセトラ

 

演算能力は現在から考えると、スターウォーズからデススターを持ってきた方がよいかもしれないと思うが、集積回路が凄まじくなっているか量子コンピューター小型化していてクリアできるのかもしれない。世界を生成する時、奇天烈生態系シミュレーションをする時、文明シミュレーションをする時、ゲーム運営時の処理同時に行わなくて大丈夫だから、必要とされる演算能力天元突破するわけではない(今さら感)。むしろ継久理さんの天才っぷりが天元突破。

 

 

 

 




そのExEx1 本作のテイスト群
現在、本作品が影響を受けるテイスト群
・現実
・elona
・ニンジャスレイヤー
・2chスラング
・孤独のグルメ
・クトゥルフ

未来、本作品が影響を受けるテイスト群
・最強の弟子ケンイチ
・北斗の拳
・ジブリ
・scp
・パラノイア
・銃夢
・魔法先生ねぎマ
・ミステリ全般


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人物・モンスター名鑑

3544文字


登場した人物、クランがまとめられています。

 

 

登場人物設定

 

◆第一章

 

村山勝(主人公)

仕事は測量技術者で、距離と角度が目測で分かるリアルスキル(職業病)を持っています。傾斜や水平に対しても患っています。転勤も出張も多めなのでそこはつらいところですが、妻と娘のためにぐっとこらえて仕事に励んでいます。また、剣道1級、柔道初段の資格持ちです。ただ、30年以上前にとったものなので型が崩れています。腹出てるくらいだしね...

 

【挿絵表示】

 

 

《チュートリアル》

 

ナビン

チュートリアルのガイド妖精。殴れる邪悪。ただし、殴ると邪悪になる、ちょっと何を言っているか分からないと思うが、殴らなければ優しいんですよ!まあ、村山さんにとっては邪悪にしか見えません。なのに、チュートリアルのガイド妖精なので核爆弾で爆殺もできないんです...なんて理不尽!ちなみに再戦ができるのはエンドコンテンツ近くです...ニヤリ

 

【NPC】

 

・教会

 

ミシェル

南西区にある教区の一つを取り仕切る司祭。なお、ファステイアの聖職者の中で一番偉いわけではない。落ち着いた30代のおにいさん。

 

デミオ

神学校を卒業したばかりの助祭の一人。

 

・職業訓練所

 

ハゲオヤジ

王国の官吏だが、終わりのない仕事に若干苛立ちを覚えている。しかし、サラリーマン的根性でどうにか耐えている。異動願いを出そうかと思い悩む。なお、髪の毛は着任前にすでになくなっているので本件には関係ない。

 

おばちゃん

パートとして雇った近所のおばちゃんの一人。

 

・魔術師ギルド

 

マリー

魔術学院を卒業し、ファステイアの植物魔術を研究する老女の元で修行する魔女っ子。努力家。

 

【挿絵表示】

 

 

ディアール

魔術ギルドの専属の用心棒として雇われている腕利きの傭兵の一人。魔術への造詣もそれなりに深い。口が軽いように見えるがラインは見極める。

 

エルネ

おっとり肌のメルヘン系お姉さん。とある依頼のために、ファステイアに滞在中の人形魔術師。シフトはかっちり組まれるので、非道。魔術師というよりは呪術師系統。

 

・衛兵隊北詰め所

金髪ちょび髭

 

・北門

門兵さん

 

・賞金狩人

トゥール

筋肉ゴスロリおじさん改め筋肉バニーおじさん

 

【player】

 

「一般店または未定クランの店」

 

棒を売りつける店主

第一章時点

彼はなぜ棒を売りつけるのか?その理由には深い意図があるのだった...

第二章時点

実は、木の棒は無限の可能性を秘めた超素材だった(店主時空)持ち運びのしやすさ、木材の種類により見せる顔の違い、彫りやすさ、コスパの高さ、どれをとっても木の棒が最強だってはっきりわかんだね。ミスリル、オリハルコン?そっちの方が最強だって......はっ...分かっちゃいねえ...木はぬくもりあるやろ...うん。

 

エクスカリバーくじ屋

二束三文で売られて投げ捨てられていくエクスカリバーたちに商機を見いだして血迷った人だが、エクスカリバー業界からその手があったかというコロンブスの卵的な革命さがすこぶる評判がよく謎のシンパが生まれ始めている。

 

パイ屋さん

基本的に動物は肉としかみていない派の料理人。彼女はきっと修羅の道をゆくのだろう。おそらく、SF-zooと敵対関係になったり暗黒料理界にどっぷり漬かってしまうタイプの人である。旨かったらそれでいいんだよっ!

 

ジュース屋

ミキシングという料理魔法の熟練度稼ぎと小遣い稼ぎを兼ねてジュース屋を営む。少し強気の値段設定。果物はとある行商人クランから正規より安めで仕入れている。

 

卵焼き屋

近くの農村から卵を買い付けたりして、着実に地元に溶け込み始めているタイプの料理人。プレイヤーにターゲットを絞った独自レシピの開発を早い段階から目論む。別に卵自体にこだわりはない。

 

鉄装備屋

ファステイアの初心者にはちょっと敷居の高い祝福付き鉄装備を扱う。オーソドックスな品物であり、拡張性やメンテナンス性に優れている。彼のクランは大量生産を目論んでいる。彼は製造ラインと物流網、市場調査を兼ねてファステイアに店を開いている。他のメンバーの中には国軍採用に向けたロビイスト活動をしているものもいる。

 

ポーション屋

 

バールと呪いの品屋

バールとは恐怖に打ち勝つ正義の武器であり、エクスカリバールとは聖剣よりもずっとつよいのである。エクスカリバーなんて持ってたら勝てるとかそんなもんじゃねえ...己に打ち勝ち闘うそれこそが本当の勇者の武器にふさわしい...つまり、このry)なお、呪いの品の方が本職でエクスカリバールはジョークグッズ程度の作り込み。打撃能力はそれなりにある。魔力を通すが、強化度はほぼない。

 

『塹壕線の覇者』

戦闘を始める前に穴を掘ることで有名なクラン。ありとあらゆる攻撃は穴を掘れば防げるし逃げ込めるし落とせるしという謎理論を展開する。そして、その力の象徴として担がれているのがユニークアイテム【捻じれた掘削器】である!!!

 

初心者用品店の店主

スコップっていうのはなあ...何でもできるんだ...これ一本あれば何でもできちまう。そう...何でもだ...

 

『コブシ・ニンジャクラン』

逆輸入されたニンジャ像を実現すべくニンジャヘッズたちが結集し立ち上げたクラン。その感染力は実際、そこまで高くない。別に拳だけで闘うわけではない。だって、ニンジャだもの。

 

ニンジャの雑貨屋店主

ニンジャゲーム愛好家。忍者要素があるゲームに出没する。新人を界隈に誘おうとクランメンバーを説得してニンジャの雑貨屋ファステイア店を設立。しかし、使い勝手の良いアイテムが多く新人以外の方が客層として大多数である。

 

『紳士工房』

・ファステイア出張所店主

 

『小鳥の庭』

・店主

 

『ティーアスちゃんを着せ替え隊』

街中でのPK対策として実装された賞金狩人ガチャにドハマりした男たち(一部女性や特殊な趣味の方も)のクラン

 

サムライ男

正統派PKを楽しむPKエンジョイ勢だったが風当たりが強いのを受けて潔く稼業から引退し、着せ替え隊の門を叩く。シャンフロの戦闘の自由さに惹かれているタイプ。足フェチ。以前にルティアを見たときにバニー似合いそうと思ったのが動機。

 

ボクサー男

リアルでボクシングのジムに通う喧嘩やりたい人。ストリートファイターの春麗がひそかにすこなのでチャイナ服を着せたいマン。とりあえずティーアスちゃんでもルティアでもどちらでもよい。特にPKやってたわけではなく闘技場など対人戦を求めてたら始まりの街に戻ってきちゃった人。

 

赤黒スーツ

審判やってくれる優しい魔法使うマン。ヒールも荷物の管理もやってくれる。くそったれと叫びたくなる魔法でのハメ技が得意。なお、カルマ値は現在も普通に低い。業も深い。

 

パーカーさん

小柄なパーカーとマスクで目元のみ見せるシャイボーイ。素早さと器用が突出している事務処理最強人員。盗賊系パッシブスキルをガン積みしている。つまり、顔を隠すのは職業病。あーまた、盗んじゃったぜ。着せ替え隊に所属しているのは副業感覚だけではなく、ティーアスたんの熱心な信者だからである。なお、スクリーンショットの腕はなかなかのものである。ガチャ敗死したときはパーカーを深く被り耳栓をする。

 

 

《グラッセ村》

 

【NPC】

 

ヨーゾフ

村の狩人

 

ヘンダーソン夫妻

笛作れる爺さんはぎっくり腰

 

【player】

 

『輝ける種』

野菜売ってくれるとこ

 

チコ

カウボーイ風の少年。職業は農家の上位職業。

 

アメリ

職業は盗賊と考古学者、魔法系統あたりは持っていそう。

 

ファーブル

成育状況を確かめるのに便利なモノクルをしている。偉人の名前使っていても別に問題はないんだよ!職業は薬剤師系統は持っていそう。

 

しずゑ

農家から別の何かに派生した職業を持っていそう。お前を耕すんだよ!おばあさんストレス溜まっているのかもしれない。

 

野龍馬

商人という職業はないので、何かしらの職業は持っていそう。うーん、ハート様っぽいから闘士の上位職業ということにしとこう。

 

《現実》

 

・ファニーフォートレス

シゲちゃん

幸子さん

やすし君

 

・街

ウッチャンのお好み焼きの店主

 

 

登場モンスター設定

 

《始まりの平原》

 

ゴブリン

 

開拓者なら余裕で倒せる。群れると少しだけ厄介。

 

大ねずみ(仮)

 

足軽ゴブリン

 

ゴブリン6体分の強さ。武術っぽい動きをする。群れると危険。

 

《跳梁跋扈の森》

 

・北側

 

ブランチパイソン

 

藍色の鱗、緑色の目を持つ10m以上の長さの大蛇。木の枝を伝って移動することを好む。攻撃方法は頭上からの急襲。締め付け、尻尾によるなぎ払い。噛みつき。酸吐き。威嚇音は通常の蛇と同様に尻尾から出る。

 

ホイッスルバード

 

黄色の胴体。緑色のとさか。赤色の目の縁取り。危険を察知すると、けたましく鳴き周辺のモンスターを呼び寄せ飛びさる。卵が美味しい。

 

ウッドランドブル

 

森に住む黄土色の牛。乳白色の尖った角を持ち、群れで行動する。獲物を見つければ、突進する。角が淡い光を帯びるときは要注意。攻撃方法は、突進、突き上げ、刺突、踏みつけ、蹴り上げ。

 

ヴォーバルバニー(鉈)

 

鉈を持った致命兎。素早い動きで鋭い斬撃。小さな体で急所を狙う。

 

 

◆第二章

《野良パーティー》

主人公

 

トマトサイダー

 

マサカ

 

ロッコ

 

 

《始まりの平原》

 

ブラウンドック

 

 

足軽ゴブリン(集団)

天敵である人間が居なくなる夜間に徒党を組んで現れる。付近の小動物を狩る。10Lv以上のプレイヤーには簡単に狩られるので、かわいそう。

 

 

流星フクロウ(幼体)

肉体派のフクロウ。暗殺よりも肉弾戦を好む。夜行性。幼体ゆえに安易な平原の動物を狩りたがる。

 

 

《跳梁跋扈の森》

 

ヴォーバルバニー(新兵)

戦いを求めて旅立つ兎たち。

 

ゴールドベル

悪戯心を持つ古めかしい鐘。

 

イカ

 

リス

 

ネズミ

 

オーク

 

 

 

ビエントコヨーテ(風コヨーテ)

能力

・吠える

・風喚び(遠吠え合唱)4体から暴風

・二段ジャンプ

・加速

・壁駆け

・風読みの眼

・噛みつき

・ローリング

主食

・トカゲ

・沼ネズミ

・荒野ウサギ

・モグラ

天敵

・ブラックピューマ

 

 

 

 




【ここから下、物置】
NPC実力想定
NPCの実力はかなりelona寄り、もしくは強めです。10Lv付近で子ども、ひ弱な老人、30Lv付近で一般人、50Lv付近で店主もしくは用心棒、70Lv付近で騎士と互角に戦えます。なお一般的な平均であり、才能・適性・隠し玉、集団戦闘、役職補正は考慮されていません。傭兵は30Lv以上で、ランクにより料金が変わります。戦闘系クランも同様に30Lvまでは見習いと見なされます。

章タイトル仮置き場
混沌と秩序の森林都市、その『騒動』


「バーチャルたこ焼き」
バーチャルたこ焼き良くないですかねぇ...バーチャルたい焼きもあり



「魔法系クラン考え枠」

『趣味枠』
厨二ロールクラン(洋風)忍者はいない
クラン名
(カッコいい感じの)
理念
・厨二ロールを仲良くやりましょう。
特性
・格好良さ、美しさを無駄に追求する。
・レベル上げより台詞を考える時間の方が長い。
・内部で品評会がある。
1:プレイヤーA
2:プレイヤーB
3:プレイヤーC(暗黒騎士)

魔法薬クラン
クラン名
空飛ぶ大釜
理念
・限界の一歩先へ。
特性
・隠れたニーズに対応
・エナドリ中毒者
・研究熱心。全員、2 ~3のテーマを抱えている。
1:暴血民(代表内定)
2:
エナドリ(仮想体)売ってます。
赤マムシドリンクのノリで売りに来たことにしようそうしよう。

呪術クラン(呪い愛好家の集まり)
クラン名

理念
・呪物や呪い装備を愛でよう
特性
・ピーキーなポンコツほどもてはやされる
・ブレイバーテキストを愛でる
・名状し難きオーラがメンバーから発せられる
・クランハウスからしばしば呪いが漏れる。ロックも何もかけていないため、泥棒が盗みに入るが結構な確率で勝手に死んでいる。
1:千年伯爵的な人
2:
3:ペスト医者のマスク被っている人

「関係ないつぶやき」
鉛筆でちまちまと落書きや模写をしてるんだが、シャンフロでどうしても描いてみたいシーンやキャラがいくつかあるんだよね。誰か描いてもいいのよ。
1:桜の下に立ち刀を振るうウェザエモン。全範囲攻撃。背景は赤黒か薄青、本体は黒め。地面は黒。月は黄色。桜は背景をにじませる。避けるサンラク。隻狼とヘルシングを混ぜたような雰囲気。
2:サードレマでケーキを一人で黙々と食べるレイ氏。黒金の鈍く光る鎧。兜はテーブルの上に。大剣は椅子の後ろに浮いている。見た目はダンディなおじさま。めっちゃ笑顔。花が舞う。
3:ケイオスシティ。ニューヨークの街並み。車輪走行をしながら殴りかかるサンラク。地面は高速で右下へ流れる。画面の隅でクラッシュする車。流星のごとく避けながら機を伺い、鋭いパンチを放つ銀金。
4:爆発する鉛筆城。
5:ラスボスさん鉄砲打つ。浮き世離れした雰囲気。浪人姿に仮面を被ったサンラクが冷や汗。
6:爆発する宇宙艦隊
7:便秘のイアイフィスト
8:クタさんと海底都市決戦か、クタさん触手と海底に引きずり込まれる船
9:鉛筆とアニマリアが戦っているシーン。鉛筆が槍をかっこよく刺し、アニマリアの道連れが発動。
10:奥さんの肩に乗りながら魔法を放つキョージュ。時系列的には本編開始前、黒狼とライブラリの共同作戦。敵はどこかの神代の遺跡の隠しルート最深部。
11:巨大な熊または雪豹を狩る午後十字軍
12:走る、または空中に跳ねる秋津茜。口からビーム。
13:ティーアスと戦うサバイバアル。サバイバアルはビキニ。ティーアスはまあ普通な装備。あれ、サバイバアルって女アバターだからかなり眼福な絵面なんでは?


天啓メモ
農民戦闘マン
でかいフォーク的なフォークあるじゃろ。あれで戦う。服装はオーバーオール。



セカンディルで出す予定のもの
薬剤師 セカンディル特産品感出していきたい
呪術師 同上
泥棒 カオスみをあげていきたい。裏市場を導入したい。裏市場はセカンディルにはなく、サードレマのどこかか、フィールド中か出現する。それかダルフィ的都市。って考えるとセカンディルで出すのは無理やな。話の筋が混線しちまう。やはりファステイアで汚い花火大会を実施するしかないようじゃな。
中二 エンジョイ勢の星


武器制作
やっぱりね...武器も好きな感じで制作できるといいっすよね。こう、創作意欲湧いちゃうよね。武器の形状とかはいろいろな作り方が用意されているとかなりキマスネ。
・スキル秘伝書や魔導書と同じ要領で『設計図』というものを生産界隈に導入したい。設計図を持ち、必要スキルと要求レベルを持っていれば品質(並)の制作物をオートで作れる。オート製作は同時にいくつか走らせることができる。製作物の要求キャパや製作者のレベルによって負荷が変わる。それとマニュアル製作でも成功率の補正がかかる。大工さんとかも設計図ないと家作れないしね。
・お手軽3Dモデラー。工房に何故か付けることができる3Dモデル試作機がある。いや世界観的に無理か?でも欲しい...カメラやビデオがあるなら、もう中世じゃないしこれくらいいいんでは(大胆不敵)。だって材料代高いやつとか適当に作ったらゴミになってしまうもの。まあ、後は船が支援してくれたとかで...
・カラーリングは塗料アイテム用意して、デザイン機器にセットしてパターンを設定すれば自動でできる。自分で筆やハケみたいなので塗ることもできる。
・マニュアル製作は、結構一から作ることができる。木や水晶も根気よく削れるし、金属も炉で溶かして打つことができるし、矢も鳥の羽を毟って作ることができる。性能は劣悪から伝説級まで幅広くなる。細かいところに凝ることができ、複数素材の組み合わせや斬新なデザインをオート製作と比べて反映させやすい。
・性能は材料で発現するものが変わるほか、スキル付与効果を持つオーブ的なものを製作時に使用することで操作が可能である。つまり、基本性能は材料や製作のクオリティ、形状などを含む機能性で決まり、後付け性能はオーブ的なもので付与できる(多分材料でキャパが決まる)。基本性能で発現する武器の固有スキルは製作者のジョブの位階によっては操作できると思う。ヴァッシュは操作できそう。

大統領の顔
いや...これね。フィールドにイタズラしたいって思うんですよね。分かりますかねこの気持ち?崖とかにこう、人の顔とか彫りたいんですよね。リアルだと大儀がないと許されないけどゲームだったらやりたくなる人いると思います。マイクラとかね。ただ、運営的にはふざけんなテメェ案件なので...いやぁこれは難しい...地形破壊や地形改造ってやっぱりキマスんですよ。いや...導入したい...自由度がまるで変わってくる。あれやね。街の近くでやると利権者がケチをつけてくる。秘境でやると危険なモンスターがうろつき始める。というところでバランスを取るということでできることにしようやニヤリ。もちろん表現が倫理規定に引っかかる場合は局所的に天変地異が起きてなかったことにされます。雪のフィールドで巨大雪だるまを作りたい。もし、そんなことができるならもう雪だるま職人になります。核爆弾いれて爆発させましょう(邪悪)。一年中クリスマスじゃい。


「モンスター強さ」
基本的にソロは絶対コロスという強い意志を感じる難易度を想定しています。フロムだったら砲撃もそろそろ出てくるころですが、そこはさすがになしです。まだなしです。多分サードレマまでが難易度イージーで、サードレマを過ぎるといやらしさを増していくんじゃないでしょうか。自然発生モンスターパレードや援護役ありの。新大陸はパーティーもコロスという意志があるでしょう。サンラクさんはプレイヤースキルがTAS並み(人外)なんです。まあ、モンスターに襲われて死んでも、お金も持ち物も減らない優しい仕様なので、ソロは死に覚えゲー難易度でもよいかなと。死ぬとデス値的なものが上がって、一定値を超えると呪術師にメタられたりバッドステータスがつくようにすればよいかなと思います。

「射出方向」
ロングスタッフ魔術師の魔法射出方向は指向性を持たせていない場合、両端のどちらからでも出せるようにします。ただし、強化度は低いです。

「フィールド規模感」
フィールドの規模感はいまいち掴みかねるところがあるけれども、1エリアの直線距離大体10km~20kmくらいじゃないかなと。北アメリカ大陸だったら100km余裕だった。まああんまり遠くない。いや...遠いか...10km全部ワイルドエリアってやべえな。でもそのぐらい離れてないとすぐ終わってしまわない?10kmくらいだったら街から街への移動は超命がけになるはず。まあ常識的に振れば時速15kmくらいはなんやかんやみんな出せるということで。引っ越しは大変でぃ。

「窃盗事情」
そろそろダーティーな面の素振りをば。
窃盗がバレた時点でPCは死罪です。衛兵と被害者が殺しに来ます。一応、中世ファンタジーですし当たり前ですよね。ただ、罰金的には被害額×3倍程度に収まります。初犯は投獄回避です。返すまで公共のギルド、商店の使用が制限されます。殺してる訳ではないので。まあバレてる被害額です。自白はないのですが、監視カメラやサイコメトリーなどでバレることがあります。教会や高位貴族の館への侵入はかなりリスクが高いです。重犯から罰金の倍率が高くなっていきます。基本的に窃盗プレイヤーは、置いてあるものを盗むプレイヤーと相手のインベントリから抜き取るプレイヤーの2パターンです。物品を盗む場合は前者、金を盗む場合は後者が多めです。窃盗プレイヤーとプレイヤーキラーは重複している場合があります。重複プレイヤーは武器を奪うなどの卑怯なプレイングを好みます。純窃盗プレイヤーはPVPを全力で回避します。

「暗殺事情」
アサシン的なことをやりたい人の需要に答えて、実装されています。ただし、PKではなくNPK主体となります。カルマはもちろん悪。基本的にアサシンギルドからの仕事に答えて任務にあたります。基本顧客は商人と貴族になります。暗殺においてはオーダーを満たすことが求められます。よくあるのが事故死に見せかけた殺害。クライアントが満足いかないと査定に響きます。ステータスを見せる機会はほとんどないのですが、暗殺者JOBは一定秒間表示情報を偽造するスキルを取得可能です。純戦闘JOBと比べると隠密性、静粛性、変装術、遁走術に優れる一方、装甲や突破力、継戦性に難ありといったところです。身バレ投獄の場合、アサシンギルドからの信用が厚ければ、謎の権力で堂々と脱獄可能です。信用がなければ、自力脱獄を成功させる必要があります。脱獄できない場合、治安維持部隊の鉄砲玉となるか爆弾紐付き密偵になるか、鉱山労役につくかを強制させられます。なお、人使いは荒いです。

※主人公の倫理観は一般的elonaプレイヤーです。ただ、AIにも共感するところもあり揺らいでいます。どうするか筆者の中でも揺らいでいます。PK・NPK描写は書いてみたいのですが、恐らくPKされる側の方が描写は映える気がするので、被害者側になるかと思います。窃盗に関してはやっていこうかなと。



「魔法周辺」
魔法魔法している魔法を使うPCについて、いかに相手の選択肢を奪い追い詰めるかという詰め将棋ムーブはなかなか強いムーブ。もちろん他の強ムーブもある。

一方、スキルは一概に言えないが、とっているスタンスによる。攻撃を重視、カウンターを重視、防御を重視というのが主要スタンス。攻撃を重視する場合は、近距離回避、一撃必殺、多段コンボ、クリティカル部位破壊、前衛同士の連携などが重要な要素となる。つまり、攻撃をし攻撃をさせないというのが基本ムーブ。カウンターを重視する場合は、攻撃の見極め、防御、受け流し、牽制、誘導、カウンター攻撃などが重要な要素となる。つまり、迂闊な攻撃を誘発し反撃を加えるのが基本ムーブ。防御を重視する場合は、盾による防御、挑発、一撃必殺、カウンターなどが重要な要素となる。つまり、攻撃を防ぎ攻撃を当てるというのが基本ムーブ。


針山の成長性としては阻害力、貫通力、質量、範囲が主なもの。魔法の習得はスキルと同様に自発、魔導書の2パターン。魔法が自発成長する場合は魔法ごとに決められたキャパシティや定義を超えるような要素がある場合。これは生物種の区分のように交配できなくなる(合いの子は優勢遺伝子が結局勝つので考えない。)という明確な定義があるわけではないがあえて考えるとするならば、魔法が別種であるという区分とは、同じ魔法の枠内で捉えることが不可能になったときである。その判断は自己の中にはなく集合知あるいはそれを管理する疑似知能を司るものによってなされる。



情勢
PKK全ロスト神罰でPK過疎気味
ファステイアに着せ替え隊出没中
魔術師向け→魔術師は数が少ない
サイガ-100の剣聖ビルドが人気
AGI型は間違ったビルド
鍛治魔法は便利なので取得しているプレイヤーが多い
料理がち勢
考察というカンテラの光
Lv.99到達
考察勢と完クリ勢
新大陸

仮定
ネットの表に出ているPVは前衛の物が多い。闘技場のPVなど。

勝手なチャートを作っているので悪しからず
プレイヤーのメイン職
前衛多め、後衛少なめ
40% 前衛
戦士→蛮兵→戦王
武器全般
  →武者(刀派生)→
闘士→→
拳、蹴り、投げ 5%
  →破壊者(武器破壊)

剣士→剣豪→剣聖
     →創剣士
  →魔法剣士(魔法派生)→神秘の剣
剣 剣全般 20% 
ロングソード、ショートソード、サーベル、ブロードソード、カットラス、メイルピアシングソード、ハルバー、コラ、フィランギ、ファルクス、日本刀、トゥ・ハンド・ソード、バスタードソード、クレイモア、マンゴーシュ、レイピア、シャムシール、ショテル、グラディウス、ファルカタなど
傭兵→戦巧者→
双剣か小盾と片手剣 10%
円盾、バックラー
槍使い(戦士派生)
槍全般、ジャベリン、ハルバード 前衛から後衛
  →
  →魔槍使い(魔法派生)
斧使い 戦士派生 前衛から中衛
斧全般、タンク技、投げ斧、ハルバード
  →
  →魔斧使い(魔法派生)→
斧全般、ハルバード
修行僧→僧兵→武僧兵
    破壊者(破門派生)
棍棒、小回復薬、木槌、格闘
10% 中衛
盗賊
ナイフ、投擲、鍵開け、毒、鍵爪、忍び足、索敵
  →大盗賊→
  →隠密(王国派生)→
  →暗殺者(暗殺派生)→
  →怪盗(窃盗派生)→
  →忍者(和派生)→
レンジャー(弓使い、盗賊派生)
ナイフ、投擲、鉈、小斧、小弓、罠、索敵
  →    →
  →ライダー(騎獣クエスト)→戦武騎兵
               →竜騎兵
                (新大陸派生)
10% メイン盾
騎士(戦士、剣士、闘士派生)
  →聖騎士→聖輝士
  →暗黒騎士→黒忌士
  →(最強に見える派生)
カイトシールド、タワーシールド
15% 後衛
魔術師
  →魔導師→賢者
      →創魔師
  →呪術師(呪術知識)→陰陽大師
           →ネクロマンサー(瘴気派生)
  →恩寵者(信仰派生)→
5% 後衛
弓使い 弓全般
  →弓術師→
      →
  →魔弓使い(魔法派生)
5% 後衛
聖職者 三神のどの神を信仰するかで派生
ヒーラー→僧侶→司祭
バッファー→洗礼者→
エンチャンター→恩寵者→

     →巡礼者→

5% メイン生産職
鍛治師
薬剤師
ポーション作成、ドーピング作成、薬作成
   →大薬師→薬聖(蘇生薬)
   →魔薬師(魔法派生)→錬金術師
           毒、ドーピング、魔法材料作成
             →狂魔師(禁忌知識派生)
             合成獣、始原の欠片、毒薬
5%
考古学者→→
    →トレジャーハンター(戦闘派生)
    →(魔法派生)
5%
大工
 →棟梁→大棟梁
 →船大工

農家→
  →酪農家
木工職人
家具(木工職人派生)
料理人
5%その他の超エンジョイ勢と独立系隠し職業(メイン)
王国騎士


隠し、ユニーク(サブ)
用意されたジョブ数は500種以上あると想定
「勇者」(勇者武器所持)
神秘
殺戮者(大量PK、NPCキル)

NPC職業
市民
  商人
  農家(農業、酪農)
  レンジャー(狩人)
  斧使い(木こり)
  釣り師(漁師)
  傭兵
  戦士
  鍛治師
  料理人
  メイド
  バトラー
  考古学者
王国
  国王
  王妃
  王子
  王女
  衛兵
  近衛兵


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

基本魔術教本

3245文字


基本魔術教本

 

 『汝、魔の門を叩く者なりや。門を踏み越える覚悟があるものは、知を求めて探求せよ。人の子よ。魔を熟し、暗闇を祓い賜え...

古の賢者ランガン・ドリュレ

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 この教本は魔法的な戦闘技術を必要としている読者を対象にしている。灯りが欲しいだとかお茶を温めたいということをしたい人は生活魔術の教本を求めた方が良いし、足を速くしたいとか体を鋼のようにしたいと考える読者の方々は、聖職者か闘士の道を選んだ方がよいだろう。幸運にも、読者として残られた方々は魔術にある程度の興味があると思われる。

 

 

 

 まず、この書をある程度修め、読者のそれぞれ自身が求める魔道を求めるのが最も懸命なやり方だ。基本的な四元素の魔術について幅広く取り扱っている。著者の長年の経験に基づいて、掲載する魔術を選んだ。ただし、この本の全てを網羅する必要はない。

 

 

 

 この書を書くことを勧めてくれた友人のスペットア、フリューゲルスに感謝すると共に、出版にあたって真摯に支えてくれた魔術師ギルド教導部にも感謝の意を述べたい。この本を未来の賢者のために捧ぐ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【最も初歩的な魔術の章】

 

《火魔術》

 火は四元素のうち最も崇高なるもの。神は万物に破壊をもたらしめるために火を造られた。

 

 

【ファイアーボール】

正式詠唱:飛べ、猛々しい火球よ。ファイアーボール。

短縮詠唱:ファイアーボール

代償:3MP

効果:手あるいは発動体から目標対象へ火球が直線的に飛び、燃え移った火は3分間燃え続ける。

 

 

 

【ヒートハンド】

正式詠唱:熱する我が双手。ヒートハンド。

短縮詠唱:ヒートハンド

代償:2MP

効果:5分間使用者の両手が高熱を帯びる。

 

 

【イミテートウィスプ】

正式詠唱:移ろう鬼火、付き纏い炙れ。イミテートウィスプ。

短縮詠唱:移ろう鬼火、イミテートウィスプ

代償:12MP

効果:3つの浮遊する火の玉が敵の周囲を包囲し行動を阻害する。

 

 

《風魔術》

 風は宙に満ち、最も速く自由に空を駆る。

 

 

【エアーカッター】

正式詠唱:切断せよ、風の刃。エアーカッター。

短縮詠唱:エアーカッター

代償:4MP

効果:手あるいは発動体から横向きの不可視な大きな風の刃を打ち出す。

 

 

 

【コラプスウィンド】

正式詠唱:転べ、風の悪戯。コラプスウィンド。

短縮詠唱:コラプスウィンド

代償:2MP

効果:手あるいは発動体を向けた対象に対して任意の方向に強烈な横風が吹きつける。

 

 

【ダウンバースト】

正式詠唱:大気よ!下降し流れ込め!ダウンバースト!

短縮詠唱:下降せよ、ダウンバースト

代償:9MP

効果:上空に浮かんだ不可視の直径10mの円から強烈な下降気流が5秒間吹き付ける。

 

 

《水魔術》

 水は移ろいゆく万物の輪、生命を生み育てる。

 

 

【アクアウィップ】

正式詠唱:しなり薙ぎ払え、水の鞭よ。アクアウィップ。

短縮詠唱:アクアウィップ

代償:4MP

効果:手あるいは発動体から10mの水の鞭が形成され、杖を振り上げ振り下ろす動作をすると、水の鞭も同様にしなり衝突した物体に対して衝撃を与える。

 

 

 

【ホワイトフォッグ】

正式詠唱:追え、白霧よ。ホワイトフォッグ。

短縮詠唱:ホワイトフォッグ

代償:4MP

効果:手あるいは発動体から真っ直ぐに白いもやが飛び、当たった対象にまとわりつく。

 

 

 

【タイダルドーム】

正式詠唱:空間に満ちし、水の籠よ。敵刃を食い止め守りたまえ。ダイダルドーム。

短縮詠唱:守れ水の籠、ダイダルドーム

代償:15MP

効果:術者の周囲に水のバリアが形成される。分厚さは15cmほど。デフォルトでは敵の攻撃が集中した箇所に水が集中する。継続時間は10分間。

 

 

《土魔術》

土は物質を現界させ、変質させる奇跡の業。

 

【ロックニードル】

正式詠唱:突き刺せ、石の棘よ。ロックニードル。

短縮詠唱:ロックニードル

代償:5MP

効果:手あるいは発動体で指し示した地面から50cmほどの石でできた針山が突き出る。時間経過と耐久値減少により徐々に消滅する。

 

 

 

【サンドウォール】

正式詠唱:せり上がれ、砂壁よ。サンドウォール。

短縮詠唱:サンドウォール

代償:7MP

効果:手あるいは発動体で指し示した地面から高さ1m幅4mほど砂の壁がせりあがりゆっくりと崩れ砂の防塁を形成する。時間経過と耐久値減少により徐々に消滅する。

 

【スタンブリングフロア】

正式詠唱:好きに踊れ、地面よ。スタンブリングフロア。

短縮詠唱:なし

代償:15MP

効果:半径7mの地面の表層部に10秒間ランダムに凹凸ができる。発動後地面は元に戻る。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【間章 ティータイム】

 魔術が上達する最短の道は実践である。呪文を唱えてみよう。最初は失敗するかもしれない。だが、失敗を積み重ねることは魔道を探求する上で大事なことの一つではある。もっとも、自分一人では難しいと感じるのなら師匠を探してみるのも一つの手だ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【覚えておくと良い魔術の使い方の章】

 私が戦闘魔術師として現役の時に、最も気をつけていたことがある。それは、魔力切れだ。この章を読み始めた読者も同意するところであろう。え?まだ、分からない?そう思う読者はさっさと本を閉じて、外で魔法を撃ってきてくれ!...さて、残った賢明な読者は当然、前の章で紹介した魔術を使うことができて、この章を読み始めていると信じよう。

 

 

...

 危険なのは、魔術を連続して打つことだ。同じ魔術にはセーフティが掛かっているが、別の魔術同士では一定期間をおかなくても唱えることができてしまう。魔術制御に関する素養がない初心者は決して手を出すべきではない。マナの暴走を招くので絶対やってはいけない危険行為だ。破裂して死にたいのならば別にいいのだが...そうでなくても身体が傷ついていくのでやめたほうがよい。

...

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

【魔術師のタイプの章】

 

 一口で魔術師と言ってもいろいろなタイプがある。私の友人にもせっかちな魔術師とのんびり屋な魔術師がいる。せっかちな奴はいつも連絡もいれずにこちらへ来たり、まだ早いと言っているのに敵に突撃したりする。のんびり屋な奴も奴で準備に時間がかかったり、待ち合わせにこずにどっかをほっつき歩いていたりする。困った友人たちだ。それはさておき、魔術師にもそうした違いがある。

 

【速攻型】

短い詠唱を好んで用いる。状況の変化への即応性を重視するタイプ。手数と機動性で相手を打倒する。筆者はこのタイプに分類される。近代的魔術師はこちらのタイプになるのではなかろうか。格闘の心得や剣技の心得があるとなおよろしい。さらに詳しく知りたい場合は専門書があるので買い求めてくれ。

【バランス型】

短い詠唱と長い詠唱をバランスよく用いる。前衛の戦闘補助とダメージソースとしてパーティーで好まれるタイプ。相手に不利な状況を作ることで他のメンバーが戦いやすくする傾向がある。実は、本書ではなるべくバランス型になるように意識して選定している。

【火力型】

長い詠唱を好んで用いる。ダメージソースとして一撃必殺を目指し火力を重視するタイプ。機動力を何らかの方法で補うか、強力な前衛が守っている場合が多い。破壊範囲が広く威力が高いのが特徴だが、火力偏重はエレガントさにかけると思うので筆者の好みではない。火力以外にも機能性、コスト、命中率、相性、複合効果、地形天候など考えなければいけないことがある。魔術師ギルド内でも意見の分かれるところだ。しかし、戦闘魔術師の形としての一つの極地であることに異論はない。そうではあるものの、火力を高めることのみが戦闘力に直結するのではないということを覚えてほしい。

【準備型】

魔法陣やゴーレム、薬品などを準備する場合がこれにあたる。搦め手を好む暗殺者や錬金術師上がりの輩が多い。手間がかかる分、強力な効果のある魔術が多いのが特徴である。ただし、いささか火力と即応性に欠けている印象は拭えない。罠をはる陰険な奴ばかりなので、あの界隈はやめたほうがよい。

 

 

 

著:大メルファトス・グロリアス

出版:魔術師ギルド魔術促進委員会




魔法系統設定

【基本魔法】
 四元素魔術 
基本的にギリシャ、インド、中国の四元素に対応
火、風、水、土

 無属性魔術 マナ操作


【応用魔法】
 四元素魔術応用編 魔導師
複合術式、大規模化、緻密化

 儀式魔術
魔法陣、スクロール作成、彫金

 特殊魔術 メジャーからマイナーまで
空間魔術、転移魔術、宝石魔術、結界術、精神魔術、浮遊術、紋章術、血魔術、占術、幻惑魔術...etc

 古代魔法(十五国時代)各国で魔術が発展
暗黒魔術(呪術士)、陽光魔術(上級聖職者)、雷雨魔術(魔導士)、植物魔術(魔導士、ファステイア)、天文魔術(魔導士)、巫術(呪術士、忍者)、氷雪魔術(魔導士)、障壁術(魔導士)、使役魔術(上級テイマー)(犬、猫はアイテムで可能)(特定の鳥は魔導士(フクロウ)、呪術士(カラス)可能)、人形魔術(呪術士)、仙術(魔導士、呪術士、修行僧)、砂塵魔術(魔導士)

使役魔術はなぜだか知らないけどロックされている。アンロックの条件を満たせていないようだ。

あとは、四元素(サードレマ発祥)、呪術(セカンディル発祥)、鍛治魔法・魔剣
この3つはメジャーなので、王国全域に専門家が散らばっている。
陽光魔術は教団の魔法に組み込まれてしまい、魔術師ギルドとしては手を出しにくい分野になった。

 賢者の魔術 自然の理を深く知る知恵者たちの遺産
その魔術は様々な個人によって作られた。故にそれぞれが独立している。真に賢い者のみが理解できる魔術であり、その分野への下地がなければ賢者といえども理解できない。

 魔術を作るという選択肢
 世界の仕様に挑戦し我が物としてきた者は新たな道を作る権利を得る。


【呪術】
 呪詛
体弱体化、サイレント、捕縛

 呪物作成

 陰陽術 陰陽大師
混沌と秩序の裁き、運命操作、代償魔術、元気玉

 死霊術 ネクロマンサー
ゾンビ、ゴースト、瘴気操作、生命吸収、マナ吸収、フィアー

 冥界魔術
道連れ


【召喚魔法】
封印獣召喚(封印物所持、関連知識)魔法適性持ち
精霊召喚(精霊契約、精霊知識)魔導師
悪魔召喚(悪魔契約、悪魔知識)呪術師
英霊召喚(遺物所持、歴史知識)ネクロ
妖鬼召喚(妖鬼契約、妖鬼知識)陰陽師


【三神信仰】
 三神魔法 神聖職
運命神 ヒーラー(僧侶) 
ヒール、状態異常除去、リジェネ、聖域、除霊、解呪

創造神 バッファー(洗礼者) 
各ステータス強化、耐性付与、特殊環境適応付与

調律神 エンチャンター(恩寵者)
武器属性付与、武器特攻付与、武器一時強化、武器解呪

 信徒への恩恵
運命神 (死なないで!)
ランダムで一定期間VIT、AGI上昇、HP回復
創造神 (作れ、壊せ!アハハッ...)
ランダムで一定期間STR、DEX上昇、MP回復
調律神 (運が良かったな?精進しろ。)
ランダムで一定期間LUC、TEC上昇、STM回復

 加護
恩恵の永続版、スキル

 奇跡
神は気まぐれで奇跡を起こす。神器、奇跡の発生
(運営の趣味が多分に含まれるアーティファクト)

 免罪
カルマ値が回復する


【精霊信仰】
ああ、精霊たちよ。自然の脅威よ。何を為し、何を求めるのか?彼らは祠にひっそりと祀られる。精霊の身体は秘境のどこかに眠っているのだ。
 火の大精霊 「我が期待に応えて見せよ。」
 風の大精霊 「この下僕!ゴミの分際で。」
 水の大精霊 「な、なによバカ!」
 土の大精霊 「フハハハ!」
 雷の大精霊 「分解してみたくならないか?」
 氷の大精霊 「ついていっていい?」
 光の大精霊 「うっみゅーうみゅうみゅ」
 闇の大精霊 「争いごとは...醜い」
 枠が一つ余ったので食糧を混ぜておきます。捧げ物をして信仰度を上げよう!なお、本尊は例によって怪物なので信者が多いほど手がつけられなくなりますニヤリ。エネルギー効率の関係で休眠状態です。地雷原でタップダンスする人類。でも、御利益あるから...

八卦メモ
光、水、火、雷、風、闇、氷、地

【禁忌信仰】
旧神
 白神魔法
(白神の寄り代から力を借りる)
(白神の欠片から力を引き出す)
(白神の眷属の力を呼び出す)
 黒神魔法
(黒神の寄り代から力を借りる)
(黒神の欠片から力を引き出す)
(黒神の眷属の力を呼び出す)
その他いろいろ蠢くモノタチ
 いっぱい
   
サブ魔法系統
生活魔術
鍛治魔術
建設魔術
農耕魔術
変装魔術


「魔法とスキルそろそろ考えたい枠」
戦闘のためにはスキルと魔法考えないといけないじゃけん...苦手やけど...まあDQとかFF、テイルズのオーソドックスなものから追加していけばいっか。分類は整理のためなので、ごちゃごちゃ感はあるけどまあまあ。
魔法
「アクティブ(動的)」
・メラ系統
爆発系
火炎系
・ホーリー系統
対アンデッド系
熱量系(レーザー)
照明系
・アイシクル系統
シールド系(防御)
氷弾系
吹雪系
・ウォタラ系統
噴水系
水流系
霧系
・地面から岩飛び出る系統
障害物系
質量攻撃系
・バギ系統
カマイタチ系
突風系
竜巻系
・蔦とか出てくる系統
ゲリラ罠系
毒花系
進路系(妨害)
・召喚系統

・その他系統
「パッシブ(状態変化、静的)」
・武器の補助する系統
・ヒール系統
・魔法陣、スクロール系統
・拳燃やす、魔法剣系統
・呪い系統
・デバフ、封印系統
・シャープニング系統
・シールド系統
・ヘイスト系統
・知覚拡張系統
・耐性付与系統
「その他」
・製作系統(鍛治、木工、宝石など)
・生活系統
・その他特殊な系統
スキル
「アクティブ」
・ステップ系統
・切り系統
・突き系統
・なぎ倒し系統
・投げ系統
・受け流し系統
・射撃系統
・投擲系統
・ローグ系統
「パッシブ」
・知覚拡張系統
・ピーキースタイル系統
・運動性能向上系統
「その他」
・道楽用の系統(クライミング、釣りなど)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

01_中年の暇つぶし、その『人生』の始まり
01_サンサン太陽!微睡(まどろ)みセレンディピティ


3074文字
冷やしシャンフロ始めました。


 陽が燦々(さんさん)と照り外へ出るのも億劫な夏の土曜日の昼下がり。とある地方都市にあるマンション「ファニーフォートレス」の一室。

 

 

 

 暑さでやる気がなさそうになった目をした中年の男が、シロクマのぬいぐるみを枕にしてソファーにあおむけになっていた。

 

 

 

 部屋の中を見渡せば、ベッド兼用ソファ、テレビ、小さめの机、トカゲのはく製、レコード再生機、本棚、ショーケース、作業机、カメラ、スーツケース、ギター、ドライフラワーが活けられた花瓶などがお互いに邪魔をし合わないような配置でおかれている。

 

 

 

 よく分からない組み合わせだが、きっと多趣味な男なのだろう。

 

 

 

 おっと男が起き出したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はうなり声を上げて軽く伸びをした後、数度のまばたきと大きめの欠伸(あくび)をしてから、今度はごろりと横になった。額には少し汗がにじんでいる。

 

 

 

 小さめの机の上の白いリモコンにゆっくりと男は手を伸ばす。ボタンを軽く押すと、部屋に取り付けられたエアコンが涼しい風を部屋中に吹きわたら始める。満足げに男は頷いた。

 

 

 

 今度は黒いリモコンを手にした。

 

 

 

ピッ

 

 

『モイスチャーシャンプー!それは髪のうる...』

 

 

 

ピッ

 

 

『はーい♪よゐこのみなさん♪わくわく♪ティラノ...』

 

 

 

 

ピッ

 

『...今日もクレイジー列島の時間やってきました。今日のテーマはここまで来たか。VRサービス。今、様々な世代で交友関係、ストレス解消、未知の体験、技能の習得など様々なものを求めて仮想現実、バーチャルリアリティーを利用する動きが活発です。現実生活の中で満たされない欲求や経験もバーチャルリアリティーなら満たせるというのです。

 

 

 

「ムカつく上司から解放されてストレス発散」「質感が超リアル」「友達あっちの方が多いけど、全員AI(白目)」「現実じゃできないことができる」「乗るしかない、このビックウェーブに」「移動時間ゼロって最高だよな」「もふもふ、クンクン」「コスプレし放題やねん」「年のせいで足腰が弱ってきたけど、おかげで楽」「ゲームだから許されるよナァ」「料理教室素敵よね」「かねのにおいがプンプン」「毎日早起き毎日ログイン」

 

 

 

 右のグラフはツイッ〇ー上にアップされたVR関連のツイートの10年間の年別累計件数を示しています。ここ2,3年で急激に増加しているのがお分かりになると思います。人々の関心がVRに引き寄せられているのです。十数年前からゲーム業界を中心に技術のフラッシュアップとシェアの拡大を重ねてきたVR市場ですが、さらに驚くべき進化を見せ、VRサービスの範囲は多様化の一途をたどっていました。

 

 

 

 それでは、ムービーどうぞ!

 

 

 

 

【一面に広がる草原の中で臨戦態勢の人間たち。

 

 

 

 そこへ一匹の獣が跳ねるように走りながら頭突きの態勢で突っ込んでくる。

 

 

 

 短剣を持つ剣士は軽快にサイドステップで躱したが、後方に控えていた魔法使いと突進を止めようとした両手剣を持つ剣士がはねられて空中を舞う。

 

 

 

 離れていた場所にいた弓使いが即座に獣の額へと矢を射る。獣は頭を軽く振って矢を後ろの強固な鎧へと受け流す。

 

 

 

 そして暴力的な縁取りの目をした全長2メートルほどのかぎ爪と刺々しい尾をもつ赤いアルマジロが尾をスイングして

...

 

 

 

 

 

 木漏れ日にあたりながら、本を読むメガネの女性。

 

 

 

 木にハンモックを吊るして風に揺られる葉が擦り合う音を聞きながら、うつらうつらとしている。

 

 

 

 そのうちに寝てしまったようだ。

 

 

 

 本に涎が垂れてしまっている。

...

 

 

 

 

 

 カラフルな布で屋根が作られた東南アジア風の店がたちならぶマーケット。

 

 

 

 タオルを頭に巻いた太めのおばさんがほうれん草のような野菜を山のようにして売っている。

 

 

 

 そこへやってきた料理人が値切り交渉をし始めた。

 

 

 

 隣では植物の根っこらしきものが売っていたり、金属武器が無造作に並べられていて、縁日くらいの人の流れの中から立ち止まって手に取ってみている人がいる。

 

 

 

 料理人の値切りはうまくいったようでほうれん草もどきを程よい値段で仕入れることが決まり、屋台のおばさんと握手を交わしている

...】

 

 

 

 

 

 

 

 

 これらは全て一つのゲームの中の映像で、デモムービーではなく、いわば日常風景を切り取ったものです。

 

 

 

 昨年4月からサービスを開始したシャングリラフロンティアというオンラインゲームなのですが、どうでしょう。

 

 

 さきほどもツ○ッターのコメントでありましたが、現実と見分けがつかないですよね。

 

 

 情報によると五感の再現性も非常に高く、ついに完璧な仮想現実の到来かと喜びの叫びが上がっています。

 

 

 運営会社によれば...』

 

 

 

 

 

「今時のゲームは本当にすごいな。ほとんど現実に近いじゃないか。」

 

 

 

 男、シロクマ中年は感心したように頷き、テレビをBGMにしながら再びあおむけになり物思いにふけ始めた。

 

 

 

 

(ここまでVRの技術が進んでいたなんてなぁ。うちの会社は会議でも安いし安定するからと言ってテレビ電話使ってるし、なかなか触れる機会がない。

 

 

 

 さらに言えばゲーム。会社に入ってからは全く遊んでない。時間がなかったしな。もう30年近くは遊んでいないはずだ。そういえば、俺がゲームを最後に遊んだのはいつ頃だったろうか。

 

 

 

 確か...小学生の時はいとこのお古でスー○ァミ、ファ○コンで昔の名作を遊んだ。あと、○クヨン、ゲーム○ーイで4人対戦や繰り返しリセットなんてやってたか。

 

 

 

 中学生・高校生くらいまではゲーム○ーブ、○S2、○ii、○SPを兄とお小遣いから着服してこっそり買って一緒に遊んだり奪い合ったりしたものだった。

 

 

 

 大学生の時は金がなかったしスマホゲーム全盛期でゲームに飽きてやらなくなったっけ。

 

 

 

 いや。確か大学生の時も遊んでいたはずだ。PCで遊べるフリーゲームを。確かelonaというゲームだったか...懐かしいな、今もサイトがあるだろうか。)

 

 

 

 シロクマ中年は体を起こして、作業机についてPCを開いてネットサーフィンをし始めた。しばらくして眠そうな胡乱な目の瞳の奥に輝きが灯った。

 

 

 

 「おお!まだあるじゃないか。とっくに閉鎖されているものと思ったのだが!」

 

 

 

(うーむ、懐かしい。ごみ箱に何度捨てたことか?初めてやったときは最初の洞窟でごみ箱に捨てた。次の時は近くの町で死にまくりごみ箱に捨てた。しかし、段々やり方が分かってくる。

 

 

 

 理不尽さも慣れればソコがいいと思えてくるんだよなぁ。自分なりのこだわりも出てくるんだよな。

 

 

 

 確かなんとなく強くないけどキャラクリはいつも同じ感じだった。ジューア、ピアニストで魅力を最大限に高めて演奏で稼ぎペットで殴りペットの回復を杖でする。そうそう。ひもプレイはバブみがあっていい...。)

 

 

 

 バックステップを刻みつつある頭皮を持つシロクマ中年の恍惚とした表情はもし目撃者がいるならばドン引きされるに違いない気持ち悪い雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 その瞬間、突然ギターが倒れた。スマートハウス管理AIが思わず風の流れを計算してわざと倒したのだ。AIの進化って怖い!もちろん、シロクマ中年はそんなAIの生理的嫌悪を知る由はないし、そんなAIが実装されていること自体知らない(不穏な流れ)。小さく飛び上がり、思わずギターを3度見したオッサンの脳裏にスパークが走る...!

 

 

 

(はっ!さっきテレビでやっていたゲームならもしかしたら、そんなプレイングもできるかもしれないな。あれほど自由度が高いなら楽器だって作れるんじゃないだろうか?

 

 

 

 単身赴任で時間は十分ある。演奏旅行としゃれ込むのもおつなものやんけ!思い立ったが吉日。ビール片手にネットで情報仕入れてキャラクリでもするかな。)

 

 

 

 こうして次の日も予定がないシロクマ中年の夜は更けていった。




Tips.elona
知っている人は知っているローグライクPCフリーゲーム。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02_ 男ならロマンを追い求めて

4225文字
ピギャーー


 「こんにちわ~!村山さんお届け物です!」

 

 

 

 明くる次の週の土曜日の朝、9時頃、俺の手元にはシャンフロのソフトとVR機器一式があった。あの後そのままのテンションでポチポチと衝動買いをしてしまった。平日は時間通りに帰れないことも多いから、今日の受け取りを指定していたのだ。家族に秘密で買ってしまったが、へそくりの口座から出したのでなんとかごまかせるだろう。

 

 

 

 正直、うきうきわくわくしている。

 

 

 

 最近は健康に気を使い酒も飲まなくなった。しかし、体力が衰えて運動もできない。さらに言えば、脂肪もついてしまった。これでも、昔はスポーツマンだったのだが。だが、VRゲームなら、家の中で旅行気分が味わえるし、色々な体験ができるなら一石三鳥くらいは堅い。

 

 

 

 早速VR関係のネット設備を整える。マンションのアンテナがVRに十分耐えられる通信速度を持っていることは水曜あたりに確認済みだ。Wifiルーターと筐体を接続し、筐体に電源を入れる。筐体と同梱されていたヘッドギアとタブレット型の端末を取り出し、スイッチをonにする。そうすると、筐体から勝手に無線で充電されるらしい。

 

 

 

 自動セットアップを待つ間、トイレで用を足す。エアコンのスイッチを適温に調節して、台所の蛇口から直接水を少し飲む。ペットボトルに水を汲んでおきベッドの脇に置いておく。これらをやっておかないと熱中症の恐れがあるそうだ。

 

 

 

 

 ベッド兼ソファー(両方にできるタイプのやつ)でごろりと横になり、端末を見ると、ある程度の充電と自動セットアップが終わったようだ。

 

 

 

 説明書を読んで端末を弄ってID登録、ユーザー登録、パスワード設定、アカウント設定、ヘッドギア設定、端末設定、PCとの連携などの環境設定を終えた後、ヘッドギアを被り端末の指示に従って動作テストを行う。

 

 

 

 

 動作テストは問題なかったので、VR機器の設定が完了した。筐体にディスクを入れる。端末にシャンフロのおしゃれなロゴが表示された。

 

 

 

 今度はシャンフロの説明書を手に取る。痛覚設定、接触設定、グロ描写設定があったがデフォルトで。知り合いのID入力はいないから飛ばす。キャラクリを複数人でやるか一人かは、一人で。音量もデフォルトで。アラーム設定は今はいいや。クレカ設定は月額の料金以外、課金をする予定がないから余分な機能をつけるのを止めておこう。もっともガチャ要素はないようなので安心だ。それどころか課金機能をできるだけ排除したゲームらしい。健全だなぁ。

 

 

 

 

 準備ができたので、ベッドに横になり、ヘッドギアをかぶる。

 

 

 

 

 

 端末でシャンフロのスタートボタンを押すと、60秒のカウントダウンと停止ボタンが表示されたので、机の上に置き目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 キャラクリだが、当初考えていたプレイングは「演奏、ペットのひも、回復薬」の3つで構成されていたが、ネットで情報を漁ると、ペットのひもは難しそうな気配がある。魅力というパラメータはないようだし、今のところテイムできるのは犬と猫しか例がないのだ。これでは無理だろう。最低でも少女くらいはペットにできなければ...じゃあ回復薬もいらなくねということで演奏しか残らない。

 

 

 

 

 よろしい(渋い声)。一旦、ひもプレイは諦めようではないか。だが演奏は捨てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Now Loading...】

 

 

 

 シャングリラフロンティアのロゴが表示された後、真っ黒な空間に照明が灯り、木の椅子に座っている自分がいることに気が付く。ぱっと見、窓と扉のない個室になっているようだ。そこに青色で半透明のウィンドウが浮いている。ここで、キャラクリをしろということなんだろうな。広さがあまりないのは余分なことをせずに早くでていけということなんだろうか。

 

 

 

 しばらくかかりそうだな。

 

 

 

 ひもプレイを辞めるとなるとバブみが足りなくなるほかに自分の戦闘力をある程度高める必要がある。STR型だとDEFかAGIを同時に上げる必要があるがINT型だと一つで済む分、他にステータスを割くことができそうな気がする。これが鍛冶師だとSTRが必要になってくるかもしれないが、楽器を演奏するのにSTRは多分必要ないだろう。

 

 

 

 しかし、様々な楽器を細やかに操作するためにはDEX(器用さ)とTEC(技量)があった方がよいだろう。STM(スタミナ)は演奏に関係があるのか?と思うが例えば息を吐くときに補正がかかったりしそうだ。長時間の演奏には必須だろう。

 

 

 

 もしかしたらDEXやTEC当たりはINT型にもフィードバックがありそうだしな。

 

 

 

 INT型を使う初期職業は僧侶と魔術師があるらしい。僧侶でもよいが毎日ログインできるわけもないし、ヒーラーとして固定パーティに入るのはまずもって無理。辻ヒーラーを気取るのもありといえばありだが非常に面倒そうだ。よって、魔術師一択。盗賊の方が演奏には補正がありそうなイメージだが最近反射神経も鈍ってきて運動するのが億劫な年ごろなので、やめておこう。まあ、高度な柔軟性を維持しながら臨機応変に魔術師で進めていくのがよいだろうな。

 

 

 

 まあ、INT型といってもこのゲームにはINTがなくMPしかない。とりあえずそこに振り分ける感じで行こう。

 

 

 

 演奏の方は対応する情報がないが、何やら異次元に高度な人工知能を積んでるとかで世界の方が対応してくれるとやらの噂もある。これに関しては期待しない。リアルスキルというやつだ。

 

 

 

【ロードが完了しました。】

 

 

 

【キャラクタークリエイトを始めますか】

 

 

 

 はいを押す。

 

 

 

【ボディメイクをしてください】

 

 

 

 ボディが作れるのは確かオンラインゲームならではの仕様かな。とりあえず髪はふさふさにしておこう。年齢はそのままでいいや。顔は会社にばれるとなんか嫌だから変えておこう。種族は人間だけだ。ロボとかバッタとかなくてちょっと残念だ。

 

 

 

「うん、うんんん?顔いじるの大変だわコリャ。気持ち悪い顔しかできない件について。」

 

 

 

 鼻が異常に尖ったり、顎が尖ったり。自分の特徴を崩そうと思うとなかなかうまくいかない。

 

 

 

 すると空間に声が響き渡った。

 

 

 

『レコメンド機能を使いますか?』

 

 

 

 こりゃAIですな。ほいほい。俺が困っているのを見て...

 

 

 

「お、反応してくれるとは!えー、レコメンド機能とはどのようなものですか?」

 

 

 

『キャラクタークリエイトにおいて、プレイヤーの希望に沿うようにボディメイク、キャラメイクの補助を行う機能です。理解度に合わせて適切な構成の提案を行います。』

 

 

 

「じゃあ、それ、お願いしとこうかな。」

 

 

 

『かしこまりました。』

 

 

 

 なんという気の利いたAIだ。わが社のサポートAIにも見習っていただきたい。

 

 

 

『ボディメイクについてのご要望をお聞かせください。』

 

 

 

「背はこのままで。」

 

 

「年齢は同じでいいや。」

 

 

「腹は引っ込めて。」

 

 

「それで髪はふさふさ。」

 

 

「顔は身バレしないくらい違った方がいいかな。」

 

 

 

『少々お待ちください。生成が完了しました。』

 

 

 

 普通の日本人顔で少々つまらないが、まあ自分だとばれない顔に仕上がった。

 

 

 

「うーん?ちょっとつまらないかな?」

 

 

 

 なんか、同僚にいそうな雰囲気を醸し出している。なんというか、ちょっとインパクトにかけるよな。よし、角でも生やしとこう。角の種類はいろいろあるが、適当にデビルっぽい短めのを選んで黒色でいいだろう。

 

 

 

 やっぱり似合わない。まるで、地獄のうだつが上がらない獄卒リーマンだ。却下。髪をいじることにしよう。 

 

 

 

「髪の毛を緑色にして似合うようにしてくれ。」

 

 

 

『かしこまりました。こちらでどうですか。』

 

 

 

「お、いいんじゃないか。それでお願いします。』

 

 

 

 深緑色というのだろうか。上手くおっさん顔にも似合うような感じになった。ワカメ色とか昆布色とかも連想させる色だ。光合成がはかどる。

 

 

 

【ボディメイクが完了しました。】

 

 

 

【キャラメイクをしてください。】

 

 

 

「次はキャラメイクか。とりあえずジョブは先に決めておいた通り魔術師だな。」

 

 

 

 魔術師は最初は火の魔法を覚えているようだ。

 

 

 

 出身はいくつかあるな。まあ、この中なら、DEX(器用)とAGI(速度)に中程度の上昇補正がかかり、LUC(幸運)に下方補正がかかる家無し子を選択しておこう。本当を言えばAGIよりDEXとTEC、スタミナに補正を掛けたいのだがないのでしかたない。装備は普通のものより貧弱なものになるけど許容範囲だ。

 

 

 

 

【キャラメイクが終了しました。】

 

 

 

【プレイヤーネームを設定してください。】

 

 

 

 プレイヤーネームか。全く決めていなかったな。

 

 

 

「すみません、プレイヤーネームおすすめしてください。」

 

 

 

『プレイヤーネームについてのご要望を教えてください。』

 

 

 

「面白い感じで。」

 

 

「年齢にも気を使ってキラキラネームはやめてほしい。」

 

 

「演奏っぽいワードをできれば使ってほしいかな。」

 

 

「魔術師ぽさもありだ。」

 

 

 

『かしこまりました。こちらがおすすめです。』

 

 

 

【和亀、緑茶マン、演奏おじさん、笛風、エアー、アッポロん、音無し草】

 

 

 

 うんんん?なんか悪意を感じるラインナップなんだが。見た目、演奏、魔術師、年齢で自動生成したということかな。微妙な名前ばかりだ。名前くらい自分で決めろということかな。

 

 

 

 そうだなぁ。しばし手を当てて沈思黙考にふけるとするか。名前というのは顔なわけだ。インパクトがありつつかっこいい名前がよいだろうな。いやいや、自分でハードルを上げてどうする?そんな名前なかなか思いつかないだろう。

 

 

 

 まず、自分について振り返ろう。俺の名は村山(まさる)、もうすぐ50代の中年サラリーマン。出世街道からは外れている気楽な技術屋という地位をなんとか確立している。首都圏に家があり、妻と娘を残している。部屋にあるドライフラワーは妻からとシロクマのぬいぐるみは娘からもらったプレゼントだ。趣味は本や漫画、これは読み専だ。他にはギターを弾くことができる。街歩きも趣味かな。なるべく近場で済ませているが。会社の連中と毎年マラソンに出ることも趣味の一つだ。絵も描いているが下手なので秘密の趣味だ。昔は柔道と剣道をやっていたが...

 

 

 

 中年サラリーマン、シロクマ、ギター、...

 

 

 

 これかな?

 

 

 

「ギター熊でお願いします。」

 

 

 

『かしこまりました。』

 

 

 

【ユーザー登録可能です。登録してもよろしいでしょうか。】

 

 

 

 まあええでしょう。ポチりと。

 

 

 

 空間の照明が消えた。いよいよシャンフロの世界か。

 

 

 

 とりあえず楽器探すのが肝心か。いや、口笛もワンチャンありやな。いける気がしてきた。ノリが大事なんだ。いける絶対いける!

 

 

 

「やるぞコラァア!口笛でも裸踊りでもやったるでぇ!」




Tips.初期設定
プレイヤーはゲーム開始前にボディ、生まれ、JOB、プレイヤーネームを決める。性別は現実と逆のものを選ぶことができる。声質はそのままであるので、ネカマプレイは両性類でなければはかどらない。クターニッドの聖杯は声も変わる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03_チュートリアルとは(哲学)

ニヤリ
5685文字


 船団が宙を裂き静かに進む。輝く水の惑星へと迫り消えていく。

 

 

『遥かな太古、神代と呼ばれる時代があった。』

 

 

 繁栄を謳歌する機械都市。強固な防壁と武装。意思ある人形たち。森羅万象を操り、生命をも生み出す絡繰り。

 

 

『偉大なる神人達は後世に命を紡ぎ、その姿を消した。』

 

 

 幻影は砂とかし、荒廃しきった大地となった。

 

 

『時は流れ、神人の遺志継ぐ我々は彼らが願ったように地に広がり、そして大いなる命の流れを紡いでいく……』

 

 

 鬱蒼とした森林。荒涼とした谷。灼熱の火山。吹雪に覆われた平野。移ろう青色の海。空を飛行するように映される様々な都市。

 

 

『今を生きる我々は、歴史と遺跡の中に息づく過去の遺産から神人達の痕跡をたどることしかできない。』

 

 

 黒く厳かな闇が視界を降りていく。

 

 

『シャングリラ・フロンティア』

 

 

 七色に揺らめく光が中空に浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チュートリアルを開始します。』

 

 

 

 

 

 チュートリアルか...初めてのVRゲームだからやってみるか。そのまま待ってみよう。

 

 

 

 

 

 明るくなった。だだっ広い白い空間にいる。

 

 

 

 

 どこかから音が聞こえる。周りを見渡すと目の前に羽がついた青色の光球がいた。

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、ガイド妖精のナビンだよ!』

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあ!」

 

 

 

 思わず殴ってしまった。う...なんだか頭が痛い。

 

 

 

『ひどいじゃないか、何も悪いことはしていないのに。』

 

 

 

 ふらついている。よく見たら心なしか緑がかった青色だな。何故だろう腹が立ってきた。

 

 

 

「悪かったな。はよ、ガイドしてくれ。」

 

 

 

『ヤレヤレだよ。全く野蛮人は!ぷんぷん!まず、メニューを開いてみよう!メニュー開けって念じてみて!メニュー開けって!』

 

 

 

【メニュー開けって念じてみよう。】

 

 

 

 青色の光の文字がナビンから離れて空中に浮かぶ。

 

 

 

 メニュー、メニュー...

 

 

 

 ぱっと空中に青色のパネルのメニュー画面が浮かぶ。

 

 

 

【おめでとう!メニューが開けたね!】

 

 

 

『今メニューを開いたのは頭の中でイメージしたからだよ!イメージすることでいろいろ操作できるから覚えといてね!』

 

 

 

 へー、考えるだけで操作ができるんだ。普通にメニュー閉じろって考えても閉じないけど、メニュー閉じろって念じると...閉じる!不思議な感覚だ。

 

 

 

『あー!なんで閉じるのさ!今からメニュー画面のガイドをするのに。』

 

 

 

 あ”?...いかんいかん。メニューを再び開く。

 

 

 

『ヤレヤレだよ。次は、メニュー画面を見ていこう!』

 

 

 

【メニュー画面を見てボタンを一つ一つ開いてみて!】

 

 

 

 

 青色のパネルにいくつものボタンが表示されているな...えーっと、装備・ステータス、スキル・魔法、インベントリ、フレンド、ツール、設定、お知らせ、ヘルプか。とりあえず装備・ステータスを押してみる。

 

 

 

————————————

 

PN:ギター熊

 

LV:0

 

JOB:無し

 

0マーニ

 

HP(体力):5/5

 

MP(魔力):5/5

 

STM (スタミナ):5/5

 

STR(筋力):0

 

DEX(器用):0

 

AGI(敏捷):0

 

TEC(技量):0

 

VIT(耐久力):0

 

LUC(幸運):0

 

スキル

 

無し

 

 

魔法

 

無し

 

 

装備

 

右手:無し

 

左手:無し

 

頭:無し

 

胴:無し

 

腰:無し

 

足:無し

 

アクセサリー:無し

 

————————————

 

 

 

「な、なにもないじゃないか!」

 

 

 

 そう言えば、おかしいと思ったのだが、キャラクリの時と同じく黒色のウェアを着ているだけであった。髪も...フサフサになっていない?!ステータスも低すぎる!というか0...

 

 

 

『ははっ。そりゃまだ、ゲーム開始前だからね!』

 

 

 

【PNはプレイヤーの名前だよ!

 

 LVはレベルだよ!レベルを上げるには経験値を貯める必要があるよ。モンスターを倒したり道具を作ったりすると経験値を得ることができるよ。今は0Lvだよ。1レベルアップでステータスポイントが5ポイント貯まるよ!

 

 0マーニはお金がないってことだね。お金を持っているとちゃんと表示されるよ!

 

 JOBとステータスは説明不要だね!現在のJobやステータスの状態が表示されるよ。

 

 スキルと魔法は習得していたら表示されるよ!習得のタイミングはレベルアップ時だよ。

 

 装備も装備していたら表示されるよ!】

 

 

 

『さて、装備のチュートリアルを始めるよ!それっ!』

 

 

 

 ナビンが大きく上下にゆれ、光の粒子が床の上に落ちる。そして、輝いた。

 

 

 

 穴があいたボロボロの布きれの服が床の上にあった。

 

 

 

『さあ、装備してみよう!』

 

 

 

【布の服を手に持って、装備したいと念じてみよう!】

 

 

 

 あ”あ”?ふぅー...いかんいかん。所詮チュートリアル、所詮チュートリアルだ。

 

 

 

 手にとって、装備したいと念じる。すると一瞬ボロボロの布切れが光ったと思うと...

 

 

 

 穴があいて糸がほつれているところどころ土で汚れている服を身にまとっていた。ダメージものだと思えば...なんとか許...せる?

 

 

 

【おめでとう!装備できたね!】

 

 

 

『ステータスの装備の部分を見てみよう!服が追加されているはずだよ!』

 

 

 

 ステータスを見るとボロ布の服が追加されていた。

 

 

 

『さあ、次に行こう!』

 

 

 

 メニュー画面に戻り魔法・スキルを押す。

 

 

 

『ブー!今は魔法・スキルがないので使えません!』

 

 

 

【スキル・魔法だよ!スキルや魔法の手動使用やパッシブスキルのオンオフができるよ!】

 

 

 

「...次に行こうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 インベントリのボタンを押す。

 

 

 

————————————

何もアイテムがありません。

————————————

 

 

 

『さて、インベントリのチュートリアルを始めるよ!それっ。』

 

 

 

チャリン

 

 

 

 硬貨が床に落ちた。

 

 

 

【拾ってみて、インベントリに入れって念じてみよう!】

 

 

 

 はいはい...拾って、念じてみる。

 

 

 

————————————

1マーニ硬貨

————————————

 

 

 

『次は、インベントリから硬貨を出すって念じてみよう!』

 

 

 

 念じると手のひらに硬貨がのっていた。

 

 

 

【おめでとう!インベントリへのアイテムの出し入れができたね!ちなみに手動でもできるよ!今度は硬貨ではなく、お金を手に入れると意識して念じてみて!】

 

 

 

 ほい...手のひらからお金が消えた。

 

 

 

『さっきステータスで0マーニと表示されていたところが変わっているはずだよ!』

 

 

 

 確かに1マーニになっている。

 

 

 

【さっきのインベントリでは、アイテムとして認識されていたけど、今のはお金として認識されているよ!

 

 普段はお金として持ちあるこう!インベントリに入れているアイテムが重すぎると、体が重くなってしまうよ!お金を取り出すって意識すれば硬貨が取り出せるよ!】

 

 

 

『次に行こう!』

 

 

 

 フレンドのボタンを押す。

 

 

 

————————————

【登録申請】【郵便】【緊急召還】【解消】

現在のフレンドは0人です。

————————————

 

 

 

『フレンドのチュートリアルを始めるよ!ほいっ』

 

 

 

 ナビンの頭上にナビンという文字が浮かび上がった。

 

 

 

『フレンド登録はプレイヤーとするものだよ!今回は僕の属性を一時的にプレイヤーに付け替えたよ!』

 

 

 

【フレンド登録をしてみよう!登録申請を僕に送って!】

 

 

 

 登録申請を押すと...

 

 

————————————

 ナビンにフレンド申請を送りますか?

「よろしく!フレンドになってください。」

————————————

 

 

【はい/いいえ】

 

 

 ポチッとな。はいを選ぶ。

 

 

 

 

【ナビンさんにフレンド申請が拒否されました。】

 

 

 

 ピキピキ...

 

 

 

『フレンド登録は相手に送っただけではできないよ!相手が了承しないとフレンドになれないんだ!今度はこっちから送るね!』

 

 

————————————

 ナビンさんからフレンド申請が来ました。「よろしく!僕とフレンドになろう!」

————————————

 

【はい/いいえ】

 

 

 

 迷わずいいえを押す。

 

 

 

『ぐっ!なんで拒否するのさ。もう一回送るよ!今度ははいを押してね!』

 

 

 

 しょうがねえな...

 

 

 

【おめでとう!ナビンとフレンドになったよ!】

 

 

 

「ちっ」

 

 

 

【フレンドになると郵便が送れるよ!郵便は鳥さんたちが運んでくれるけど、届かないこともあるよ!

 

 緊急召還はレッドネームのプレイヤーに襲われているときにフレンドに助けを求めることができる機能だよ!召還されたフレンドはデスペナルティの心配をしないでプレイヤーキラーと戦えるよ!プレイヤーキラーがいなくなるかキルされてしまったら元の場所に戻るよ!

 

 解消はフレンドになったプレイヤーとの関係を無くすことができるよ!気に入らない奴はさっさとフレンドリストから消せばいいよ!】

 

 

 

 フレンドリストにナビンが追加された。選択して解消ボタンを押す。確認画面がポップアップされたがはいを選ぶ。

 

 

 

『あ”あ”?今、フレンドから解消した?もう!次いくよっ!』

 

 

 

 ツールを選ぶ。

 

 

 

————————————

【メモ帳】

【スクリーンショット】

【掲示板】

【お問い合わせ】

【通報】

————————————

 

 

 

【メモ帳はメモができるよ!

 

 スクリーンショットは起動するとパネルに写る画面を保存できるよ!アイテムを使って情報を紙に書き出せば、さっきの郵便に添付することもできるよ!ちなみに、カメラや録画は特殊なアイテムを使う必要があるよ!あくまでこのパネル内のスクリーンショットだから注意してね!

 

 掲示板はゲーム内のプレイヤー間で情報交換ができるよ!安全な拠点でしか使えないよ!

 

 

 お問い合わせはゲームプレイ中に不具合やバグを発見したり、疑問に思ったことがあったりしたら運営に直接問い合わせできるよ!

 

 通報はゲームでセクハラやプレイヤーキラーに粘着されるなどの被害にあった時に、運営に通報ができるよ!少しでも、これおかしいと思ったらすぐに通報するんだよ!】

 

 

『次っ!』

 

 

 

 設定を開く。

 

 

 

————————————

【プロフィール設定】

【接触設定】

【パネル設定】

【音量設定】

【アプリ連携】

————————————

 

 

 

【プロフィール設定は、プロフィールに関する設定ができるよ!フレンドリストに表示されているフレンドをクリックすると、フレンドのプロフィールが見えるよ!魅力的なプロフィールを作ろうね!

 

 接触設定は他の人との接触に関する設定ができるよ!異性との接触に抵抗がある人は接触禁止をオンにしておこう!

 

 音量設定はシステム音に関する設定だよ!レベルアップ時の音やアナウンスの音量を調節できるよ!ゲーム内の自然音や人の声の音量は下げることのみできるから注意してね!

 

 アプリ連携は外部端末にインストールされているアプリとの連携の設定だよ!アプリを通して動画配信やSNSへの投稿、外部Webページとの連携がリアルタイムでできるよ!詳しくは公式ホームページを見てね!】

 

 

 

『次!お知らせはアップデート情報やイベント開催の通知だよ!ヘルプは今までのが説明されてるよっ!』

 

 

 

「終わったか、やれやれ。」

 

 

 

『待って、待って!戦闘のチュートリアルをはじめるよ!えいっ』

 

 

 

 ナビンからふわふわと青色の泡のような光が漂って俺の体に当たった。

 

 

 

『特別にチュートリアル専用のスキルを用意したよ!もう一回スキル・魔法のボタンを押してみて!』

 

 

 

————————————

【へろへろパンチ】

かなりのへっぴり腰が繰り出すパンチ。軌道がへろへろしていて、当たってもダメージは期待できない。

 

【へろへろキック】

かなりのへっぴり腰が繰り出すキック。軌道がへろへろしていて、当たってもダメージは期待できない。

————————————

 

 

 

 上等だコラ!

 

 

 

 スキルなしのパンチをナビンに向けて放つ。ナビンが拳に当たり吹っ飛ぶ。

 

 

 

『うわっ!いきなり何するんだよ!もー怒ったぞ!』

 

 

 

 青色の光が地面へと降りかかり、落ちた先の地面が青白く輝く。

 

 

 

 モゾモゾ

 

 

『いけっ』

 

 

 

 地面から青白く光り輝く犬の形をした何かが飛びかかってきた!

 

 

 

「うおっ!」

 

 

 

 とっさの出来事だったが、なんとか避けられた...

 

 

 

『それを倒したら相手してあげるよ!』

 

 

 

 ナビンがふわふわと手の届かないところに離れていく!

 

 

 

 犬が切り返して飛びかかってくる。

 

 

 

 くそったれ!

 

 

 

 腰を回転させて空中に飛び上がろうとしている犬の首を右足で刈りにいく。

 

 

 

 バシッザザザザ

 

 

 

 犬が横滑りで頭を地面と擦り合わせながら飛んでいく。しばらくしてバウンドして止まると青い光に戻り消えていった。

 

 

 

『ファッ?!もう倒しちゃったの!まあ、弱めのものにしといたけど。』

 

 

 

 ナビンの体から青い光がでて空中に文字が書かれる。

 

 

 

【モンスター以外のプレイヤーやNPCをキルすると、頭上のネームタグが赤くなるよ!そうなったプレイヤーはレッドネームと呼ばれるよ!レッドネームになると街のNPCからの評価が最悪になるほか、指名手配されて、衛兵が切りかかってきたり、賞金狩人に襲われたりするよ!特に街中でのPKはご法度だからね!】

 

 

 

『くくく!あれは、ちびナビンというNPCだったのだ!さーて、楽しくなってきたぞ!』

 

 

 

 ナビンが光り輝く...

 

 

 

贖罪の重荷(バーデン・オブ・クライム)!』

 

 

 

 一瞬、視界が白く染まった。体が...おもい?

 

 

 

『あひゃひゃひゃ!罪の重さを感じているかい!倒したのは僕の分身だけどね!こっちからいくよっ!』

 

 

 

 ナビンの周りに光の粒が回転し始めたかと思うと、次第に伸び、高速回転する光り輝く棘の環が横方向に形成された。

 

 

 

『それっそれっ』

 

 

 

 透明な二対の羽でふわふわと迫ってくる。足が重たい!

 

 

 

「のわっ!」

 

 

 

 体をのけぞらせて、後ろ手を地面につく。

 

 

 

『ちえ~っ!避けられた!ちょっと本気出すよ!』

 

 

 

 ナビンの体が環とともに赤色へと変化した。

 

 

 

『えいやっ!光環の投矢(レイ・リング・ダーツ)!」

 

 

 

 ふわふわ移動するナビンの周りを回転する赤の環から矢が射出された。

 

 

 

「うおっ!」

 

 

 

 地面を手と足で押して体勢を変えて、辛うじて避ける。ナビンは高笑いを上げながら、手の届かない空中を漂い続けざまに棘を飛ばしてくる。

 

 

 

 くそっ1発当たった!

 

 

 

『あと、一発で終わりだよ!思ったより弱かったね!もうちょっと体力つけた方がいいんじゃない?張り合いないなぁ、じゃ~ね~!』

 

 

 

 目の前に迫る赤く光り輝く棘はマシンガンの銃弾のごとく足が鈍りうごけない俺の身体を貫通して後ろへと抜けていく。

 

 

 

『戦闘で死亡するとリスポーン地点に送られるよ!初期リスポーン地点のままだと、ペナルティが重くなるから早めに更新してね!今回はチュートリアルだからペナルティはないよ!よかったね!またねー!』

 

 

 

【おめでとう!すべてのチュートリアルが終了したよ!】

 

 

 

 視界が暗くなった...

 

 

 

『ばいば~い!』




Tips.チュートリアル
ゲーム開始後にチュートリアルは存在しない。初心者向け依頼や講習はあっても、チュートリアルおじさんはいない。ガイド妖精は殴れるなら殴り倒したい。緑色は邪悪。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04_ハロハロワールドハロハロハローワーク

6501文字
ブベラ


 気がついたら、建物の横に立っていた。

 

 

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”

あ”い”つ”う”う”う”う””

 

 

 ドンッ

 

 

 壁に拳を打ちつける。

 

 

 

 

 

 ふうふう...落ち着け落ち着け...よし...よくあることよくあること...周りを落ち着いて見渡す。

 

 

 隣の建物は教会だな...

 

 

「ふぅ...家無し子は孤児院スタートということなのか。」

 

 

 

 壁にもたれかかってしばらく休む。

 

 

 

 だいぶ...落ち着いてきた...

 

 

 

 手には本と短い杖。衣服は布のローブと靴。

 

 

 

 ステータスを確認しよう。

 

 

————————————

 

PN:ギター熊

 

LV:1

 

JOB:魔術師

 

3,000マーニ

 

HP(体力):12/12

 

MP(魔力):30/30

 

STM (スタミナ):20/20

 

STR(筋力):10

 

DEX(器用):20

 

AGI(敏捷):20

 

TEC(技量):10

 

VIT(耐久力):10(15)

 

LUC(幸運):2

 

スキル

 

無し

 

 

魔法

 

【ファイアーボール】

 

【ヒートハンド】

 

 

装備

 

右手:若木の短杖

 

左手:基本魔術教本

 

頭:無し

 

胴:布のローブ

 

腰:布の帯

 

足:布の靴

 

アクセサリー:無し

 

————————————

 

 

 

 良かった...ステータスは普通だ...

 

 

 

 魔法が2個使えるようだ。ファイヤーボールは火の玉を打ち出す魔法で、ヒートハンドは手が暖かくなる魔法らしい。2つ目いるか?しかし、戦ってみないと実際にどんなものかは分からない。とりあえず両手に持っているものをインベントリにしまう。

 

 

 

 

 

 教会に入ってみる。石造りでそこそこ立派な建物だ。暗めの青色の屋根でなかなか綺麗だ。地下でワインでも作ってそうな雰囲気だ。

 

 

 

 中に入ると長椅子がそこそこの数並べられている。あまり人気はない。ちょっと暗めで洞穴チックだなぁ。沢山のろうそくに火がともっている。ステンドグラスではない普通のガラスだ。2階にパイプオルガンらしきものが見えるな...。あれ、触れないかな?

 

 

 

 おっと背後から気配が。

 

 

 

 振り向けば、30代後半くらいの修道服に身をつつんだ男がいる。

 

 

 

「おや、どうなされましたかな?」

 

 

 

「失礼、オルガンを初めて見たものでみとれておりました。初めまして。ギター熊です。」

 

 

 

 相手に右手を差し出すと、彼も右手を差し出してくれた。

 

 

 

「はじめまして。ギター熊どの、私はここの修道士を務めているミシェルです。ここは初めてですかな。」

 

 

 

「はい、今初めて来たところです。開拓者というのはご存知ですか?」

 

 

 

「ええ、三神が使わしてくれた人々ですね。我々は新しい友を歓迎します。神々の御心のままに。もっとも、開拓者の方はあまり信仰に関心がないようですが...」

 

 

 

 ミシェルは寂しそうに微笑んでいる。

 

 

 

「それはすまんね。祈っておこう。何かご利益はあるかい?」

 

 

 

「神々はいつもあなたの行いを見ておられます。」

 

 

 

 フレーバーのような気もするが、祈っておこう。神よ!見ているなら欲しいものが3つあります。その1、楽器。その2、髪。現実の方でも。たのみまっせ。その3、ナビンというガイド妖精を殴る機会をもう一度ください。

 

 

 

 適当なことを考えながら、3分間くらい祈っておいた。パイプオルガンのことはそのうち切り出そう。

 

 

 

「また来ます。」

 

 

 

「お待ちしております。」

 

 

 

 ミシェルはにっこりと微笑んで見送ってくれた。

 

 

 

 気持ちよく去ろうとすると後ろから声がかかる。

 

 

 

「ああ、そうだ。初めてこられたなら、職業訓練所によるとよろしいでしょう。大通りを行けばすぐにつきますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通りに出てしばらく歩くと大通りにさしかかった。さっきの通りもそれなりに人はいたが、この通りはなんというか人でごみごみしている印象だ。ミシェルから受けた案内にしたがって、通りを進むと石畳の大きな広場に出た。古めの建物が立ち並び、広場の中央には像が立っている。屋台が立ち並んでいる。少し寂しく、あえて言えば日本の駅前でやったりする夏祭り感がある。町が平常に動いている中でそこだけ少し違和感がある立ち位置というか。非日常と日常が隣合っているあの微妙な感じだ。

 

 

 

 その広場に面したところに大きめの石造りの建物があり、そこが職業訓練所だ。新人開拓者はここで説明を受けろということらしい。

 

 

 

 職業訓練所の中に入ると、それなりに人が集まっている。運よく説明が開始される10分くらい前に受付をすることができた。ぱっと見60人くらいいるかな。

 

 

 

 禿頭のオッサンが出てきた。髭がダンディな感じだ。

 

 

 

『クエスト:初めてのハローワークが開始されます。』

 

 

 

「えー、皆様方。まずはようこそ、ファステイアへ。少し聞き苦しいとは思いますが地声で頑張りますので。いつもは若手の職員が説明をするのですが今日はちょっと休暇を取られてしまって。ははは。聞き苦しいところがあるかもしれませんがご堪忍ください。」

 

 

 

 禿おっさんは頭をなでた。

 

 

 

「まず、皆さん職業訓練所とは何かということなんですが、新人開拓者の皆様を支援する施設でございますね。」

 

 

 

 また、頭をなでた。緊張すると頭をなでるクセがあるのかな。

 

 

 

「主に新人開拓者としての基礎知識、基礎技能習得の支援の他、本建物内の図書庫の閲覧、そして、これが一番重要なんですが職業ギルドへの紹介状の発行を担当しています。」

 

 

 

 

 一息ついたようで、落ち着いてきたようだ。と思ったら今度は髭をいじり始めた。

 

 

 

 

「今回は基礎知識と職業ギルドへの紹介状の発行がメインの目的となります。

 

 

 

 さて、みなさん、受付で配布されたお手持ちの資料をご覧ください。

 

 

 

 ペンが一本、資料が一部あるかと思います。資料の中には二枚の地図がありますね。一枚がこのファステイアの地図、もう一枚が町周辺の地図となっているかと思います。

 

 

 

 まずは、この町の施設について説明いたしましょう。ペンで書きこんでいただいてもかまいません。

 

 

 

 町を見ると四角形の形をしているかと思います。

 

 

 

 中央に今皆さんがおられる大広場があります。そこから南と北と西に大通りが走っているかと思います。南北の通りは少し湾曲していますが。各大通りの中程と門付近には中規模の広場があります。東は山の輪郭に沿って行政府や、練兵場、ギルドなどが立ち並んでおります。

 

 

 武器屋、防具屋、冒険者関連用品を取り扱うお店は西の通りに沿って立ち並んでおります。ここでご自身の冒険のスタイルに合わせて用具を整えるといいでしょう。資料の3ページ目にお勧めグッズの紹介が書いてあります。お買い求めの際には資料の巻末にクーポンがあるので是非お使いください。

 

 

 

 宿屋、食事処は全ての大通りに点在しております。宿は特にクーポンはありません。お好きなところに泊まるとよいでしょう。これも位置を地図に記載してありますのでご活用ください。宿屋は運命神の導きにより開拓者が復活するための基点となっていますので、なるべく早く立ち寄ることをお勧めします。

 

 

 

 あとは、開拓者集会所がこの建物の向かい側にあるのが分かるかと思いますが、パーティの待ち合わせ、新規パーティメンバーの募集、一時的なパーティーの結成など、その他パーティーに関する支援をおこなっております。パーティというのはご存知かと思いますが開拓者の集まりのことです。一般的な開拓者はパーティを作って開拓をしていくかと思います。

 

 

 

 その隣にスキル剪定所がありますね。これはまだ説明するのが早いかもしれませんが、スキルが増えてきた場合、特技剪定師にみなさんのスキルの統合や分離をしていただけます。これに関しては必要になった時にお立ち寄りください。秘伝書の販売もしています。

 

 

 続いて、南北の通りにご注目ください。南北の通りに沿って職業ギルドが立ち並んでいます。北側は傭兵ギルドが北端にあり、戦士ギルド、闘士ギルド、剣士ギルドとなっています。南側は聖職者ギルドが南端にあり、魔術師ギルド、盗賊ギルド、弓使いギルドとなっています。

 

 

 

 生産系のギルドは南北の通りではなく西側の通りにあります。説明は省きますが、冊子の5~8ページ目に詳しい説明が書いてありますのであとでご覧ください。地図にも書いてあります。

 

 

 

 後で、皆さんの適正に合わせた職業ギルドへの紹介状をお渡しします。」

 

 

 

 一気にしゃべったなぁ。肩で息をしている。

 

 

 

「えー、次は町の周辺についてですね。疲れてきたのでさらっと説明します。

 

 

 

 2枚目の地図を見てください。

 

 

 

 西側に平原、さらに西側に森があるかと思います。また、町を東側の半分を囲むように赤茶色の山がありますね。ファステイアはちょうど東側にある山脈の端に位置していまして、ここに来るまでに見てこられたと思いますが。ファステイアから円上に山脈部分を除いて平原が広がっております。平原部分には村がいくつか点在しています。

 

 

 

 西側の森を抜けられるとセカンディルの町に行くことができます。西側の森の中には道がある程度整備されており、力が十分にある開拓者のパーティなら到達することができるでしょう。

 

 

 

 以上で、説明を終わります。詳しい説明は冊子に書かれているのでお読みください。

 

 

 

 それでは紹介状を配布いたします。」

 

 

 

 禿のおっさんはそういうと、受付にいたパーマのおばさんと一緒に名前を読み上げて紹介状を前方の机に手早く配置した。

 

 

 

「違う人の持ってかれても無効ですからね。ちゃんと自分のを持って行ってください。別に紹介状が無くても受け付けてくれますが、これがあれば試験が免除される他、初回特典が付きますから大事にしてください。」

 

 

 

 なんというか、嫌な方にリアルだなぁ。おっとギター熊はこれか。

 

 

 

『初めてのハローワークを達成しました。』

 

報酬

 

・魔術師ギルドへの紹介状

 

・初めてのファステイア(冊子)

   

・ペン一本(消耗品)

 

 

 

 仕事がひと段落して、ある程度暇そうにしているおばさんに話しかける。

 

 

 

「ここで他の技能習得の手伝いをするとおっしゃっていたと思いますが、どんな技能を習得できるんですか?」

 

 

 

「ああ!はいはい。えーと、ここではねぇ。採取や採掘、鑑定、野営方法などのサバイバル術、回復の方法、状態異常など様々な分野の講師をお呼びして、講習をやっているよ。専門に特化せず冒険に関することなら基本的になんでもやっているね。一回大体500マーニくらいでね。」

 

 

 

「ほほぉ、何かお勧めの講習はありますかね。」

 

 

 

「鑑定の講習ですわ。私の息子がやっとります。」

 

 

 

「さいですか。うん、考えときます。」

 

 

 

 そう言って職業訓練所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 広場から出た。とりあえず魔術師ギルドに行ってみるか。南に向かって歩く。

 

 

 

 先ほど次に行ける町はセカンディルと言っていたな。ファステイア、セカンディル。ファースト、セカンド。先ほどのムービーをメタってしまえばここが最初の開拓地ということなんだろうか?ニューヨークかな...女神像立てたい...

 

 

 

 さっきのNPCの人たちはあと何回あの説明するんやろ。そこらへん不満はないんかなぁ。交代制にはしてるようだが。AIのレベルで段階分けできるんだろうか。ガキの頃にみたター○ネータやマト○ックスみたいに反乱起こされないんだろうか。むしろ、俺が不安になってきたわ。

 

 

 

 取り留めのないことを考えながら南へと歩いていくと盗賊ギルドが見えてくるがこれをスルーし、お目当ての魔術師ギルドへと到達した。

 

 

 

 黒い木材で作られた建物だ。どことなく昔の診療所めいた雰囲気を感じる。廊下があり、幾つもの建物がつなぎ合わされた集合体。壁は紫色の葉をした蔦でところどころ緑化(?)されている。

 

 

 

 ここ入っていいんだろうか。と不安になって立ち止まってしまったが、ローブ姿のプレイヤーがススッと脇を抜けて建物へと入っていったので、それに続いてつかず離れずの位置を保ちながらついて行く。

 

 

 

 建物の中へ入ると、受付っぽい台ににいかにも魔女っぽい格好をした紫髪の女の子が座っている。帽子はかぶっていない。何やら熱心に本を読んでいるようだ。偉大なる先輩プレイヤーは通り過ぎ、どこか奥の方まで入っていった。

 

 

 

 女の子に近づき紹介状をひらひらさせながら声をかけてみる。

 

 

 

「こんにちわ、魔女なお嬢さん。紹介状をハローワークから貰ってきたんだがどうすればいいかい。」

 

 

 

 

「ふわっっ。えっえっえ。あっ。」

 

 

 

 魔女っ娘はまるで今さら俺の存在に気がついたかのように慌てて本を閉じ、赤面した。

 

 

 

「ええっと、紹介状ですか?」

 

 

 

 何事もなかったかのように取り繕っているが目がきょろきょろしているなぁ。

 

 

 

「ええ、職業訓練所で説明を受けてきまして。魔術師ギルドはここで合っていますよね?」

 

 

 

「はい!合っていますよ!ああ...!?

 

 

 

 ええっと、ようこそ!魔術師ギルドへ、新人さん。あなたは今日から魔術師ギルドの一員になりました。

 

 

 

 ただし、まだペーペーです!残念ながら...半人前、未熟者、半生卵!」

 

 

 

 紹介状を手から奪い取られた。しかし、テンションの上がり下がりが激しいな。どうみても半人前そうな少女に半人前と煽られてる件について...

 

 

 

「一人前の魔術師ギルド員として認められるまでに様々な艱難辛苦を乗り越え、魔術の深奥を覗き、それをギルド全体の利益のために還元しなければなりません。」

 

 

 

 ふむ、魔術師ギルドというか、研究者の学会的なノリかな?

 

 

 

「でも、そこまでは難しいのが実際のところです。なんか相談があればいつでも相談に乗るよ。」

 

 

 

「具体的に魔術師ギルドに所属すると何ができるんだい?」

 

 

 

「魔術師ギルド自体がやっていることは、魔術情報の提供、発動体や媒体の販売、材料の確保、魔術の研究、魔道具の収集と保存といった感じね。開拓者に魔導書やスクロールを売ったりもしています。これは商店でも売っているけど。魔術師ギルドが生産元だから希少性の高いものも手に入れたりもできるわ。商会との契約もあるから一概には言えないけど。そうね...あなたが魔術師ギルドに所属してまずできることと言えば...

 

 

 

 開拓者向けに魔術師ギルドでは依頼を出しているから、あなたが依頼を解決できれば報酬がもらえるわ。報酬は現金だったり、現物だったりするかな。

 

 

 

 今はまだ簡単な依頼しか紹介できないけどね。見てみる?」

 

 

 

「ぜひにも。しかし、こんなに時間を割いていいのかい。私一人に。」

 

 

 

「別に構わないわ。ここは本当に受付だもの。納品は奥でやってるし、依頼の受諾もそこでできるんだから。私がここにいるのは不審者が入ってこないか見張っているのと、読書のため。初めての人しか話しかけてこないんだから、気楽でいいわ。」

 

 

 

「先ほど声を掛けた時は驚いていたようだが。おっと、私の名前だがギター熊だ。よろしく頼むよ。」

 

 

 

 左手を差し出す。

 

 

 

「あれは...忘れてちょうだい。私はマリーよ。よろしく。」

 

 

 

 少し小さめな手で握り返してくれた。

 

 

 

「ん、依頼だけどね。ちょっとまって紙だすから。えーと、今紹介できるのは3つかしら。

 

 

 

 1つ目は、グラッセ村からの依頼ね。ライフポーション30本の納品。簡単なお使いよ。魔術師ギルドから運ぶだけでいいわ。報酬は1000マーニ。納品は1週間以内に。ただし、ガラスは割れないようにインベントリに入れた方がよいわね。しないと思うけど、窃盗なんてしたら即追放、豚箱行きだから。

 

 

 

 2つ目は、除草依頼ね。衛兵隊からの依頼だわ。ファステイア周辺の雑草を焼き払ってほしいみたい。ファイヤーボールでちゃちゃっと焼き払えばいいんじゃないかしら。練習になるわよ。詳しい説明は詰め所に来てくれということみたいね。

 

 

 

 3つ目は、魔術師ギルドからの常設依頼ね。森から役に立つものを採ってきたらそれにおうじて報酬を払うわ。リストと図鑑は図書室で閲覧できるわ。図鑑が欲しかったら一冊5000マーニよ。該当箇所を写したのが欲しければ10ページくらいの冊子を700マーニで私が書いたのを売るわ。」

 

 

 

 700マーニ黙って差し出す。

 

 

 

「まいどー。はいどうぞ。単に写しただけでなく、私のメモも書いてあるんだから感謝して読みなさいよ。」

 

 

 

 紐で閉じられたら古びた紙束に丁寧に写された植物や動物、虫などの絵と説明文、メモ書きがされている。字が普通に上手いな。

 

 

 

「それは、ありがとう。それと詰め所の場所とグラッセ村の場所を教えてくれるかい。」

 

 

 

「あら、全部やるつもり?でも、欲張りなのはいいことね。魔術師と欲望は切っても切り離せないものだから。」

 

 

 

 マリーは声を立てて笑った。

 

 

 

 俺はニヤりと笑みを返した。




Tips.街と住民
街には沢山の建物がある。街の住民は第二次産業、第三次産業に従事していることが多い。プレイヤーと関わるのは、主に戦闘関連業、流通業、飲食業に従事する住民である。JOBや名声、依頼によっては行政機関、教会、鉄工業などに従事する住民との接触機会を得ることが可能である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05_燃えよ、はじまりの平原

4452文字
ウンウン


「倉庫に行くわ。ついてきなさい。次からはここの倉庫番に言えばいいから。」

 

 

 

 マリーは立ち上がって受付台から降りた。後ろから見ると、紺色の布に植物の刺繍がほどこされた高そうなローブを着ている。廊下を通って敷地の奥の方の建物へ向かう。

 

 

 

 しかし、警備が不安になるほどザルだ...これならこっそり入れば盗み放題じゃないだろうかも盗賊に鞍替えしようか。だが、警報装置や罠とかはありそうだ。まだ判断するには早いかな。

 

 

 

 建物に入るとカウンターがあり、短髪の男が座っている。その男にマリーが声を掛けた。

 

 

 

 

「グラッセ村に納品予定のポーション30本もらえる?」

 

 

 

 

「よっこらせ。そろそろ来るかと思って用意しといたぞ。そいつは新人か?」

 

 

 

 

「ええ。できたてほやほやの新人だわ。」

 

 

 

 

「なら、歓迎しないとな。ハッハー。俺はここの倉庫番、兼、用心棒のディアール。力仕事と酒盛りは得意だ。よろしくなぁ!」

 

 

 

 そういって、立ち上がると左手を差し出してくる。動きやすそうな服装が筋肉で張っている。魔術師ギルドには似つかわしくない暑苦しさを感じる。できれば握りたくない。

 

 

 

 しかし、ここで心象を損ねてはいけないだろう。ポーカーフェースで左手で握り返す。

 

 

 

「よろしく、ディアール。俺はギター熊だ。奇遇だな。こちらも酒は好きだ。もっとも力仕事は苦手だがね。今度飲みにでも行こう。

 

 

 これはもう、インベントリに入れてもよいのかい。」

 

 

 

「ああ、いいぞ。依頼が終わったら俺のお気に入りの酒場に連れて行ってやろう。」

 

 

 

 ディアールはまさしく喜色満面という風で、手を強く握ってくる。普通にいたい。こういう時にヒートハンドをつかうんだろうか?手が暖かくなったらひるんだりして。そういえば、魔法の使い方知らないな。

 

 

 

 手を握り終わったところで、俺は二人に向かって尋ねた。

 

 

 

「魔法はどうやって使うんだい。」

 

 

 

 マリーが呆れた口調で言う。

 

 

 

「そんなの分かるでしょ。魔術書を読みなさい。何でも人に聞けばいいと思わないことね。お金をくれるなら考えないでもないけど。」

 

 

 

「もう1個聞きたいんだが、魔力切れの場合はどう対処すればいいんだい。魔力回復用のポーションをがぶ飲みすればいいのか。スキルとかあったら知りたいんだが。金は払う。」

 

 

 

 フっと笑って、ディアールが口を挟む。

 

 

 

「瞑想すりゃいいのさ。動かずにじっとしていれば魔力は回復する。習得も楽なもんだ。起きている状態で目をつぶって動かずに休めばいいのさ。」

 

 

 

「ああ...教えなくてもいいのに。」

 

 

 

 今度からはディアールに質問するようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラッセ村は北の方の森の端に近い場所にある村らしい。グラッセ村へ向かう前に北の大通りにある衛兵の詰め所に寄っていこう。衛兵の詰め所は各大通りにあるそうで、どこでも依頼の受け付けができるそうだ。

 

 

 

 しかし、NPCもインベントリ知っているようだな。インベントリを持っているのか?そうすると、この大通りにもところどころNPCが歩いているが武器を隠し持っているということか...

 

 

 

 

 

 北の大通りを歩いて10分くらいで詰め所についた。

 

 

 

 衛兵の詰め所は2階建ての石造りの簡素な建物で、アイアンヘルムの意匠の紋章が描かれた木の看板が入り口の上に掛けられている。

 

 

 

 

 

「ウンっ、んん。魔術師殿、貴方に任せたい仕事は北側の門周辺で生い茂っている草の処理だ。

 

 

 担当して欲しい場所はこちらで指定する。おおまかにいえば北側を12個の区画に分割している。草の増加具合を鑑みてそちら側に担当の区画を通達する。

 

 

 担当する区画について、期間内に目標を達成してくれれば問題はない。

 

 

 期間が終わればその都度、登録を更新する形式とする。目安だが、一つの区画に対しておおよそ1000マーニが支払われる。目標を達成できない場合は達成度合を見て報酬を再考する。

 

 

 以上だ。何か質問はあるかね。」

 

 

 

「ありません。」

 

 

 

 ふざけた質問をする雰囲気じゃないな。精悍な体つきで金色の髭を小奇麗に整えてある様を見ると、普段の自分が情けなく思えてくる。

 

 

 

「よろしい。では、契約書にサインをお願いしたい。目を通してくれ。」

 

 

 

 先ほど述べられたようなことが書いてある。特筆すべきことはないな。サインをしよう。

 

 

 

「うむ。少し待っていてくれ。」

 

 

 

 衛兵は契約書を受け取ると建物の奥へ入っていき、しばらくすると緑色のライン入りの小さな長方形の白い布を持って帰ってきた。

 

 

 

「簡易な記章だが登録情報、担当の区画の読み取りが可能だ。また、偽造防止、防炎処理が施されている。門兵に見せれば、担当の区画がどの範囲かを詳細に説明してくれる。

 

 

 

 しかし、他人へ譲渡することは禁じられている。契約を完全に終了させる時には即時に返却して欲しい。」

 

 

 

 ピンがあったのでローブに付ける。装備品には含まれないようだ。

 

 

 

「南側や西側でも仕事をしたい時は同様に登録するのですか?」

 

 

 

「仕事に不慣れなものが重複して登録することは認められていない。仕事に慣れ、実績が認められたならば登録することは可能だ。」

 

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

「では、北門へ説明を受けに行ってくれ。」

 

 

 

 金髪ちょび髭は真っすぐにこちらを無言で見つめてくる。得も知れない圧力に負けて会釈をしてそそくさと詰め所を出た。

 

 

 

 あいつと仲良くするのは大変そうだ。

 

 

 

 だが、懐柔する必要があるかもしれない。演奏をするなら広場使いたいが、ああいう場所って無許可で営業したらまずいよな?いや、まだ結論を出すのは早計だ。しばらくは様子を見よう。

 

 

 

 

 

 東門に行くと槍を持った門兵が二人脇に直立不動で立っている。近づいて声を掛ける。

 

 

 

「こんにちは。お疲れ様です。

 

 

 北の詰め所で北門周辺の草の処理の依頼を受けた魔術師ギルドの者なのですが、こちらで説明を受けることはできますか?」

 

 

 

 すると、門兵の一人がローブに付けられた記章を見て微かに何かを呟いた後、頷いて言葉を発した。

 

 

 

「貴方が該当の依頼を受けたことを確認しました。範囲を教えます。ついて来てください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザァァァッ...

 

 

 

 門を出ると青々とした草原が広がっていた。人が2人分が通れるくらいの道を歩く。太陽の光に照らされて、暖かな陽気がそこら中から漂い、野の花々がかわいらしく咲いている。耳をすまし目を凝らせば、風が通る音が聞こえ、たなびく草の波が見える。

 

 

 

「草原だな...」

 

 

 

 なんだろう。眺めてるだけで、いやされる気がする。しばらく歩いて門兵さんが立ち止まった。

 

 

 

「ここです。この道の両脇に杭が刺さっていますよね。同じような杭が道から離れた場所にもあります。道のどちら側もです。杭から城壁までで囲まれた範囲の草を満遍なく焼いてください。城壁にも赤線が引かれています。2週間以内に行えば大丈夫です。」

 

 

 

 説明すると門兵さんはさっさと持ち場へと歩いて帰って行く。

 

 

 

 俺はうーんと伸びをしたあと、5月くらいの涼しげな風を感じながら、おもむろにインベントリから若木の短杖と基本魔術書を取り出す。

 

 

 

「これから毎日、草を焼こうぜ。」

 

 

 

 ボソッと呟いた。少し恥ずかしかった。

 

 

 

 基本魔術教本を開く。前書きを飛ばして火魔法の最初の項を見る。

 

 

 

【ファイアーボール】

正式詠唱:飛べ、猛々しい火球よ。ファイアーボール。

短縮詠唱:ファイアーボール

代償:3MP

効果:手あるいは発動体から目標対象へ火球が直線的に飛び、燃え移った火は3分間燃え続ける。

 

 

 

【ヒートハンド】

正式詠唱:熱する我が双手。ヒートハンド。

短縮詠唱:ヒートハンド

代償:2MP

効果:5分間使用者の両手が高熱を帯びる。

 

 

 

 なになに、杖を草に向けて...

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 杖の先がほんのり暖かくなり、赤みがかったと思った次の瞬間、両手二つ分くらいの大きさでめらめらと燃える火の玉が杖から勢いよく飛び出し、杖が向ける先の草むらへと着弾した。

 

 

 

「おぉ!ほんとに出た。すっげえ...」

 

 

 

 火の玉が当たった箇所の草むらで燃え残った部分から火がじわじわと広がっている。

 

 

 

 依頼、思ったより簡単そうだな。今度は...

 

 

 

「飛べ!猛々しい火球よ!ファイアーボール!」

 

 

 

 先ほどと同じような感じで、火の玉が飛んでいき草むらに着弾する。詠唱による違いはないのか?

 

 

 

「飛べ。弱々しい火球よ。ファイアーボール!」

 

 

 

 杖がほんのり赤みを帯びたが発動しなかった。そういう仕様ではないのか...

 

 

 

 今度は片膝立ちになって、アンダースローっぽく杖を構えて短縮詠唱の方を言う。

 

 

 

 すると、草を焼却しながら火の玉が30メートルほど直進して消えた。結構射程はあるな。最後の5メートルくらいは減速が激しく大きさがどんどん小さくなっていった。

 

 

 

 よし、次は寝転んで打ってみる。本はしまっておこう。半分地面にめり込むはずだが...

 

 

「うぼぉ?!あっつぅ!!」

 

 

 

 目の前に炎が広がり、顔面に40度くらいのお湯をぶっかけられた感覚がした。潰れた半分が周囲へと押しつぶされるように広がったようだ。

 

 

 

 火の玉はその後、縮小しながら半分が押しつぶされて広がった状態で進み10mくらいで止まった。

 

 

 

 慌ててパネルを操作しステータスを見る。HPが2減って10に、MPが9減って21になっている。自分の魔法でダメージ受けるのか...燃えはしないようだが。

 

 

 

 それよりも重要なことは、火の玉がおそらく回転していること、発生段階で地面にめり込ませればなんか違う魔法っぽく見えることだ。

 

 

 

 ただ、何の役に立つのか分からない..後者は強いて言えば、草を徹底的に除去できるか?ダメージをくらうがな。

 

 

 

 じゃあ、お次はもっとよく分からないヒートハンドいきますか。

 

 

 

「ヒートハンド。」

 

 

 

 両手がじんわりと赤みを帯びる。よくわからないので顔を触ってみるがそれほど熱くない。そこで、草を摘まんでみると湯気を立てて水分が蒸発する音が聞こえてきた。もしやと思い、ローブを撫でてみるとシワがなくなりパリッとした仕上がりに。

 

 

 

「これ、水がないアイロンじゃん...」

 

 

 

 アイロンをわざわざ実装するだろうか。いや、しない(反語)。そうや!分かったぞ...

 

 

 

 両膝立ちで顔を最大限に背け、両手で杖を持ち、地面スレスレ平行に構える。

 

 

 

「ファイアーボォォオオル!」

 

 

 

 燃え盛る火の玉が足元を嘗めるように広がり三角形の燃え跡が目の前の草むらにできた。少し熱かったが成功だ。体力は1しか減っていない。つまり、ヒートハンドは自爆プレイに有効ということだな。

 

 

 

 アイロンにもなり、自爆プレイにもよし。ヒートハンド。なんて便利な魔法なんだ...

 

 

 

 その後もファイアーボールとヒートハンドをいろいろと試してみようとする途中で、突如体がだるくなった。確かめると、MPが残り1になっている。

 

 

 

「おっと、もう魔力切れか。回復するには瞑想すれば良かったよな。」

 

 

 

 焼けてない草むらの上であぐらをかき、目を閉じて手を剣道の黙想の形にする。

 

 

 

 草原に吹く風を感じながら何も考えずにぼーっと座っていると、いつの間にかだるさがとれていた。MPが5程度まで回復していた。

 

 

 

 この分だと30分ほどやっていれば全回復しそうだな。まあまあ長いが、どうせ忙しい社畜の身。たまには休みの日に草原で瞑想というのもなかなか乙なものだ。やっていこう。

 

 

 

 俺は再び目を閉じ、ぼーっと風に耳を傾けた...




Tips.フィールド
街などの拠点以外の場所はフィールドと呼ぶ。フィールドにはモンスターがポップする。自然環境やその他の要因によってフィールドの特徴は異なっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06_なんだ、ゴブリンか...

5180文字
ゴゴブゴブ

本SSでは昼夜を1日4交代制の設定にしています。


 十分にリフレッシュしたと思い目を開ければ、HPは2、MPは全回復していた。もっとも、40分経っていたが...あぁ、アラームが欲しい。あと、割合じゃなくて固定回復なら時間がかかりすぎる。

 

 

 

 草むしりの期限はまだまだ長いので、所々焼け焦げた草原を後にして、グラッセ村へ向かうことにしよう。

 

 

 

 

 ○メイジングブルースで口笛を吹きながら、短杖でペン回しをしつつ歩く。長閑な景色だ。青空の下、草原に黄土色の土が露出した一本道が続いている。長いものがもう2本くらいあったらジャグリングをやってもよいのだがなぁ!あれ、宴会でめっちゃ受けるんだよな。

 

 

 

 草原に口笛で旋律をエンドレスで響き渡らせていると何やら草を掻き分けて北の方から近づいてくる。

 

 

 

 第一モンスターか?!

 

 

 口笛を吹くのを止めポ○モンの戦闘開始を鼻歌で刻みながら、杖を構える。秘技、セルフBGM!

 

 

 

 目を凝らすと石の斧を右手にもった緑色のこびとがキョロキョロしながら近づいてくる。

 

 

 

 思わずのどが鳴り、目玉が飛び出るくらいに驚いた。

 

 

 

 あ、あ、あれは...ゴブリンか?!?あの国民的ファンタジーゲームではもちろん、ありとあらゆるファンタジーもので時には悪の陣営の兵士としての倒され役、たまにはめちゃくちゃ強くなったり、緑色じゃなかったりする...

 

 

 

 へへ...やるじゃねえか!ゴブリンを最初に持ってくるとわよぉ!!!あああああああ、血が騒ぎ出してきたわぁぁ!!!!

 

 

 

 というくらいの喜びを感じながらもここは冷静に、杖を右手に持ち突進されても避けられるように体を斜めにして待つ。

 

 

 およそ、40mくらいか...

 

 

 

「ヒートハンド。」

 

 

 

 両手が熱を帯びる。

 

 

 

 まずはどこを狙うべきか?顔?腹?それとも足か?

 

 

 

 35m。

 

 

 

 よし、腹にしよう。当てやすさ重視だ。足は草むらでどうせ阻害されている。連発を試していなかったのが悔やまれる...

 

 

 

 30m。

 

 

 

「ファイアーボール...」

 

 

 

 杖から火球が発射されるのと同時に斜め右前へ前傾で駆ける。

 

 

「ファイアーボール。」

 

 

 即時に杖を向け再び唱えるが、先端が光るのみ。

 

 

 

 ちっ...リロードおせえよ!?

 

 

 

 ゴブリンは火の玉に気がついたようで慌ててこちらから遠ざかるように避ける。あそこで打てたら良かったのだが。

 

 

 

 距離25m。30mではさすがに無理だったな。まぁ、リキャスト時間を確かめておこう。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 リキャスト時間10秒以内といったところか...?火の玉は3秒くらいで到達したから、秒速10m、つまり時速36kmくらいか?近距離なら避けれないくらいの速度だな...残MPは22か。あと7発。今度もギリギリ避けられた。

 

 

「ギャ...ゴガアアアアアアア!!!」

 

 

 ゴブリンは怒り心頭といった様子で石斧を苛立たしげに振り、こちらへ雄叫びをあげながら走ってくる。

 

 

 

 今度はなるべく引きつけよう...20m...10m...今だっ!

 

 

 ゴブリンが踏み込む先の地面に向かって杖を向け、走り出す。

 

 

「ファイアーボール!!!」

 

 

 

 放たれた火球はゴブリンが踏み込む足元の地面に着弾し、炎がゴブリンの足元を赤いカーペットのごとく燃やし尽くし火球本体は膝半分に直撃したッッッッ!

 

 

 

「ギャアアッッッッ...」

 

 

 ゴブリンは苦悶の表情を浮かべ、勢いのまま足がもつれ倒れる。

 

 

 

 1m...転げるゴブリンに飛びかかると、右足で腹を踏み左膝を地に着け、右手で容赦なく杖を突きつけて、高熱となった左手で石斧を持つゴブリンの右手を抑えた。

 

 

 

「悪いなぁ...ゴブリンさんよ。経験値になってもらうぞ!!!

 

ファイアアアア!!ボォォォオオオオオル!!!」

 

 

 

 杖から放たれた火球はゼロ距離でゴブリンの上半身に直撃し、燃え広がる炎が包み込むように焼き尽くした!

 

 

 

 息絶えたゴブリンは光り輝くポリゴン片へと分解されていき、ついに宙へと消え去った...

 

 

 

「うむ...なんか可哀想なことをした気がするな。」

 

 

 

 とりあえず、ゴブリンはファイヤーボール2発で倒せるということが分かったな。しかし、1体ではレベルがあがらないようだ。

 

 

 ゴブリンが落としたドロップ品と思われる石斧を焼け焦げた草の上から手に取り上げた。

 

 

 

「ナンマンダブ。ナンマンダブ。」

 

 

 

 一応、念仏を唱えてゴブリンの冥福を祈っておく。インベントリへ石斧を収納した。

 

 

 

 しかし、案外弱かったな...魔法なくても勝てるかもしれない。あと5発使えるから2体くらいなら倒せるが、ここで瞑想してMP回復していくか迷うな。

 

 

 

 あれ?なんか腹減ってきたような気がする?このゲームって空腹値あるのかな..........n.......うん?......ああああぁぁ?!それって空腹で死ぬシステムだったらマズいじゃないか?!ゲロ吐いて死んでしまう!!!

 

 

 

 急がねば!

 

 

 

 

 

 

 続く道をひたすら走る。全力疾走ではなく疲れない程度の走りだ。パネルのステータスでスタミナが60%を下回らないように調節しながら脚をルーティンさせる。時速10kmペースくらいだ。

 

 

 

 やはり、走った方が進みがいいな。ひたすらに道を進んでいく。ありゃ、分岐点か...西へ行く道は関係ないのでそのまま北へ進んでいく。

 

 

 

 時折、ゴブリンや大きなネズミの姿がちらほらと見えるがガン無視しグラッセ村へとひた走る。

 

 

 

 日が大分傾いてきた。確かハロワを出たときは太陽は真上にあったと思うが...少し早くないか?時間がずれているのか...ああ分かったぞ。夜2回か4回あるんやな。それでご飯時にぶつけてるやろ!!確かにもうすぐ12時前で、腹が減ってくる頃だ。ありゃ、今腹減ってるのはどっちだ...?

 

 

 

 夕方の色へ空が変わる。夕日が西の森の端の上から空を真っ赤へと染め上げ、雲はピンクサーモン色をしている。向かう道の先にある森の上空は濃紺に滲み、迫り来る闇、夜空の気配を感じさせた。

 

 

 

 夜ってやばいよな...大体強そうなイメージしかない。早よ村に行かないとヤバみある。

 

 

 

 走っていると鉄条網と木の柵で囲まれた畑がちらほらと見えてくる。これは...村の気配がする!!!畑の脇を超え続く畑の横を通り抜ける。

 

 

 

 ヨッシャ!もうすぐ村だぁぁ!

 

 

 

 焦りで占められていた頭の中が喜びで一瞬沸き立つ。ペースを上げて走り出す。

 

 

 

 すると前方に...ヌッと明らかに人の形をした闇が出てくるのが見えた...

 

 

 

 ふと立ち止まって、目を凝らすと村の灯りを背にして鋭い眼光をしたゴブリンが一匹立っていた。

 

 

 

 気がつけば辺りはすっかり暗くなっていた。石槍を持ち革装備一式を着込んだゴブリンは中腰で石槍をゆらりとこちらへ向ける。

 

 

 

 バックステップで距離を思わず、とった。体は半身に構え左足を浮かせて杖を右手に持ち、相手の喉笛へと油断なく向ける。

 

 

 

 摺り足でじりじりと音なくにじりよる。袴だったら起こりを隠せるのだが...ローブはどうだろうか...

 

 

 

 8mか...先手必勝!

 

 

 

「ファイアッボゥウウウウウウウ!」

 

 

 

 裂帛の気合いを入れて相手の顔めがけて火球を打つ。馬鹿めええ...リーチが長いのはおれのほうじゃあああ。

 

 

 

 しかし、強そうなゴブリンは槍で地面をついて横へと体をずらし対処した。そしてニヤりと笑みを浮かべながら脚を進めてくる。

 

 

 

「ゴブウウウゥゥゥゥ.......」

 

 

 

 こいつ、まるで達人のような息遣い。できるな...脱力と緊張を両立させる長い吐き出し、静かな吸いこみ。

 

 

 

 次に何かを仕掛けて来そうだ...

 

 

 

「いいだろう...来いッッッッこらあああああっっっ。」

 

 

 

 威嚇にも動じずに引いた槍が猛烈なスピードで動き出す。この角度、右の腹狙いか!

 

 

 

 そいやっ!即時に右足を引き左足を踏み込み、左手で槍を掴もうとするが敵もさるもの。槍の軸を回転させて手を振りほどく。

 

 

 だが...甘いな一手、遅れたねぇ...

 

 

 右手の杖が左手と交差させるようにして相手の下半身に向いていた。相手からは槍が邪魔になって見えにくい。

 

 

 

「ファイアーボゥル...」

 

 

 

「グガッ?!グウウウウウウ...」

 

 

 

 ゴブリンは身を焼く炎の熱さに耐えるように歯を食いしばった。そして、動きが鈍った脚をカバーするように槍を大きく振り下ろし、殴り倒そうとしてくる。

 

 

 

 おっと...隙だらけだな?右に体を流すようにしてステップを踏み、避けながら相手の左腕に手を伸ばす。

 

 

 そのまま左腕を引っ張り、左足を相手の右足へ添え相手の体を崩す。即座に杖をインベントリにしまい右手で相手の革鎧の脇を掴み上へと釣り上げる。

 

 

 

「ローブだから内股も払い腰もできないじゃないか...まあ、背負い投げでいいかぁあああああああああああ」

 

 

 

 右肘を相手の脇へと差し込み相手を背中に乗せ思いっきり地面に叩きつけるッッッッッッッ!

 

 

 

「おりゃああああああああああああ!」

 

 

「グギャギャギャギャギャギャ...?!?」

 

 

 

 

 ある程度重い荷物を2階から投げたらするような音がした。地面にはゴブリンが震えるように横たわっている。天地動転といったところか驚愕の表情と痛みの表情が強そうだったゴブリンから見て取れる。

 

 

 

 すかさず腕ひしぎで動きを封じる。

 

 

 

「むむむ...捕縛してどうする...?」

 

 

「グギギギギギ、ゴブウウウウウウ!」

 

 

 

 よく考えたら倒さないといけないんだったが、昔とったキヌヅカで抑え込みまでやってしまった。この距離だとさすがに自分もくらってしまう。まあ、いっかぁ。ケセラセラ。

 

 

 

「ヒートハンド、ファイアー...」

 

 

 

 あ、待って。このままだと脚に当たるので、腕ひしぎから横四方に移行してと...あれ、この場合ファイヤーボールはどっちの手から出るんだ?

 

 

 

「えーっと、ファイアー...ボール?」

 

 

 

 右手と左手から手のひら大の火球になり損ねた押しつぶされた炎がゴブリンの体を焼く。

 

 

 おお、威力が杖に比べて2つ合わせても落ちているが、使い勝手いいじゃないか!

 

 

 

「もう一丁、ファイアーボール!!」

 

 

「グガアアアアアアアアァァァァァ....」

 

 

 さすがに、強化ゴブリンでもゼロ距離ファイヤーボール連チャンは耐えられなかったらしく断末魔をあげてポリゴンへと返っていった。

 

 

 よっしゃ勝った。ハァハァ...しんど...

 

 

 槍とか初めて戦ったわぁ。まあ、だが、二段、三段の恐ろしさがない...まだはじめの草原だしな。しかし、案外、久しぶりでも動けるもんだな。現実の体と違うからだろうか。

 

 

 

 お、革鎧落としてくれた...実はローブが結構ボロボロになってきてるのだ。焦げ跡があちらこちらについている。ま、寸法が合っていないので改造が必要そうだが。

 

 

 

 ステータスを見るとレベルアップもしている。MPギリギリだなぁ...もう一発撃てるつもりだったけどヒートハンド使ってたわ。

 

 

 

 

————————————

 

PN:ギター熊

 

LV:4(15)

 

JOB:魔術師

 

2,300マーニ

 

HP(体力):9/12

 

MP(魔力):2/30

 

STM (スタミナ):5/20

 

STR(筋力):10

 

DEX(器用):20

 

AGI(敏捷):20

 

TEC(技量):10

 

VIT(耐久力):10(15)

 

LUC(幸運):2

 

スキル

 

・瞑想

 

・ベースステップ

 

・スライドムーブ

 

・グラウンドクリープ

 

 

魔法

 

【ファイアーボール】

 

【ヒートハンド】

 

【エアーカッター】

 

【コラプスウィンド】

 

【アクアウィップ】

 

 

 

装備

 

右手:無し

 

左手:無し

 

頭:無し

 

胴:布のローブ(VIT+2)

 

腰:布の帯(VIT+1)

 

足:布の靴(VIT+1)

 

アクセサリー:無し

 

————————————

 

 

 スキルと魔法がいくつか生えているな...ま、飯食べてからゆっくり考えよう。そんなことより早く村に入らないと死んでしまう!

 

 

 

 村の明かり目掛けてへ一目散に駆け込んでいった。木の背の高い柵が村を囲っているのが見える。それなりに深い掘りがさらにその柵の前にある。

 

 

 

 道に沿って進むと、村へ入る門は閉じられており、薄暗い視界のために不明瞭だが門の横にはしご付きの簡易な見張り台があるのが見える。

 

 

 

 近づいてみると見張り台の上に弓矢と角笛を引っさげた小太りの男がいるのが分かった。

 

 

 

「すみませーん!ファステイアからライフポーションを届けに来たんですが!」

 

 

 

 声を掛けると上からのんびりとした声が返ってくる。

 

 

 

「おんや、開拓者さんかい?ちょっと待ってって。日が沈んだから門閉じちまったー。」

 

 

 

 そう言うとはしごをトントントンと軽やかに降りて、ゴトンと音がした後にゆっくりと門が開いた。

 

 

 

 門の間からどことなくひょうきんな顔をした愛嬌のある男が入っておいでというように手招きしている。俺はささっと体を門の内側に滑らす。それを見てから、小太りの男は門を閉じ、木板を門扉の中央へ差し込んだ。

 

 

 

「よぉこそ!グラッセ村へぇ。ごくろうさんでぇ。ポーションの納品はぁ。日が明けてからでええから。宿屋とかはもう閉まっとるから集会所の隅に藁しいたるでそこでねやあ。あそこなら夜でも開いとるから!集会所はあっちの大きい建物やー。」

 

 

 

 藁...まじか...グッと何かを言いたくなる気持ちをこらえて、笑顔で言う。

 

 

 

「ありがとうございます...」

 

 

 

 俺の初めてのリスポーン地点は藁の上か...乾いた笑いが零れた。




Tips.ベッド
ベッドの質によって睡眠時のHP・MP・STM回復量、デスペナルティ、異常耐久値、起床時幸運値が変動する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07_昼下がりコミュニケーション

4283文字
筆休み...


 ズズーっ

 

 

 

「ハフハフ、うめっ、うめぇ!!」

 

 

 

 村山はログアウトしてから、同僚からもらったインスタントラーメン(アメリカンロブスター味)を食べて腹を満たしていた。

 

 

 

 まったく、不健康な生活をしていると、病気になりやすいというのに...

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 大味だがそれが逆にいい。

 

 

 食べ終わると冷蔵庫から、野菜ジュースを取り出し飲む。カップラーメン食べといてなんだが健康は大事だ。

 

 

 

「ちょっと散歩するか...」

 

 

 

 机から不健康さの象徴であるタバコの箱を手にとりズボンのポケットに入れ、特に何も置かれていない玄関へと歩いていき、半袖半ズボンのラフな格好のまま南国の島で買ったサンダルを履いて、黒く塗装がされた扉をあける。

 

 

 

 ギギー...

 

 

 

 パタン

 

 

 

 上を見上げると上から光が降ってくる。このガラスは透明度が非常に高い。面白いことに日中は日光が常に降ってくる仕組みになっているそうだ。

 

 

 

 歩くリズムに少し遅れて腹がたぷたぷと揺れる。ああ...ゲームだとすっきりしていたのになぁ。思わず顎を撫でると、髭を剃っていなかったことに気がついた。まあ、いいか...

 

 

 

 この建物は少し変わった作りになっている。本来なら団地のように理路整然と並べなければいけないところを雑然と建物が食い合うように建てられている。どうやら建築家はこの街の不整合さの中にある良さというものを表現したかったらしい。その模型を見たディベロッパーがそのどこか愛嬌のある箱の集合体を見て「これは変な形だが、これからの時代はこういうのもありかもしれない。面白いじゃないか」ということを言って採用されたとか。

 

 

 

 正直不便ではあるとは思う...一体全体アパートに不合理性や雑然さを求める奴がいるのか?およそバリアフリーとは真逆の思想だ。だが、自分の家で昼寝場所や変わった場所を探せるというのは、一風変わった魅力であった。また、狭い部屋は安かったのも良かったといえば良かった点だ。

 

 

 

 

 

 ぼんやりと歩いているといつもの喫煙スポットが見えてきた。そろそろタバコも止めたいのだがやめられんな...休みの日にも拘わらずどこにも出掛けずにタバコを昼にふかすやつなんざそうはいないと思ったがやっぱり数人はいるようだ。

 

 

 

 タバコのケースから一本取り出し、そいつらの輪の一員になってからライターで火をつける。ふー...白い煙が目の前でたなびき立ち昇る。

 

 

 

 とげとげした頭をした中年男性が同じようにゆっくりと煙を吐いてから声を掛けてくる。

 

 

 

「マッさん。最近景気はどうでい。」

 

 

 

「ようシゲちゃん!ぼちぼちだよ...。仕事もぼちぼち、私生活もぼちぼち。」

 

 

 

 中年に差し掛かり気味のふっくらとした女性が口を挟む。

 

 

 

「あら、そうなの?マサルさん、ずいぶん機嫌が良さそうに見えたのだけれど。」

 

 

 

「いんや、特に何もないぞ。いつも通りさ。幸子さんは最近何かないのかい?」

 

 

 

「そうねぇ...最近下の子が料理を手伝うようになって、とっても嬉しかったわ。この前は一緒にハンバーグを作ったのよ。お母さんの料理が好きだから私も作りたいって。」

 

 

 

「それはいいねぇ。」

 

 

 

「うんうん。子どもは可愛いよなぁ。」

 

 

 

 俺もシゲちゃんも目を細めて喜んでいる。我が家の子どもは今ごろ何をやっているのかなぁ。

 

 

 

「子どもといえば、もうすぐ夏休みですね。どこか連れてってやらないと。」

 

 

 

 細目でメガネをかけたひょろひょろした男が言う。

 

 

 

「もう、やすし君とこの坊主も小学生だったっけか。やんちゃで大変だろう。

 

 

連れて行ったらよい場所か...

 

 

夏だから海とかプールとか連れて行けばええんじゃないか。」

 

 

 

 シゲちゃんが顔をしかめて悩んでから、ニカッと笑って言い放つ。

 

 

 

「海ですか。いいかもしれないですね。僕ももう何年も行ってないんで。」

 

 

 

 やすし君がはにかみながら言う。うーん、子どもねぇ…うちは娘だから正直分からないんだよなぁ。

 

 

 

「そうだねぇ、小学生だったら遊園地とか喜ぶんじゃないかな。最近はロボットがテーマの施設もあるらしいじゃないか。

 

 

やすし君、普段そういう仕事しているだろ。お父さんがかっこよく説明してあげれば、うわーっと尊敬されちゃったりして。」

 

 

 

「それは名案ですねぇ!自分の仕事知ってもらうのも嬉しいですし、ロボ愛に目覚めるかもしれないですしね!そうなったら...何か作らせてみるのもありだな。今のうちから英才教育...」

 

 

 

 それっぽいアドバイスを投げたら、ツボにはいったようで、自分の世界に行ってしまった。あらら。

 

 

 

「そうねぇ...映画とかどうかしら。娘もディ○ニーやアニメが好きで良く見に連れて行くのよ。

 

 

 

 子ども向けだけど、ストーリーがしっかりしていて私も見入ってしまうのよね~。でも、最近は大人びてきたから、この前は『00○』を一緒に見たわ!ア○ゾンでね。

 

 

 私、明里には映画の良さをいっぱい知ってもらいたいの。あの子には映画好きの血が流れてるんだから。

 

 

 

 一通り名作を見せたら...ふふ。

 

 

 

 あっ!やすし君も好きそうなのだとVR映画というのもあるみたいね~。私的には視点が固定されていない時点で邪道だと思うけれども、ゾンビ物とかは群がるゾンビと戦う臨場感があっていいのよ。

 

 

 

 色々なバージョンがあるから面白いのよね。感染してゾンビ側の視点しか見れないパターンとか、シーン切り替えなしのオープンワールドで主人公たちの動きについていけないパターンとか、銃器がぶっ放せてシナリオ分岐型とか。うふふ!ゾンビものは捨てがたいわ!

 

 

どうかしら?!」

 

 

 

「ぇぇ..?映画なんですかそれは...。ゾンビは苦手なんで遠慮しときます....」

 

 

 

「あら、食わず嫌いはダメよ。日本ではあまり流行ってないけれど、アメリカではシャークものとかも人気なのよ!アメリカ住みの友人の家に訪ねていくときに見に行ったけどすっごいよかったわ~。」

 

 

 

「へぇ、そんなのもあるんだねぇ...

 

 

 確かに群衆物とは親和性は高そうだな...ゴ○ラとか進○の巨人もありと言えばありだなぁ。」

 

 

 

「あら、ゴ○ラは来年あたりにやるみたいですよ。ウフフ!」

 

 

 

 なん...だと...

 

 

 

「映画もだけど、競馬も面白いのやっとるよ。ジョッキーの頭にカメラをつけてるんだったかな。確かなぁ。

 

 

 

 そいで、レースの最中にジョッキーが見てる景色が見れたりするんや!賭けには関係ないけど、最高やで。アドレナリンどばどばやぁ!」

 

 

 

 それ○夢のボールなんとかであったネタだなぁ。マラソンとか長時間のものはきついけど競輪や競馬なら確かにありだな。

 

 

 

「最近のVRは色々あるんですねぇ。僕が学生の頃は出始めで、そんなに立派なものではありませんでしたが。

 

 

 

 最近ではCADを直感的に扱えるVRサービスもありますよ。とても高額で普通の会社ではなかなか手を出せませんけど、僕の会社は導入していましてね。これがなかなか使い勝手が良いんだか悪いんだか。臨場感があるのはいいけど、細かくなると結局パネル操作が必要なんですよ。動作確認ができるのは面白いですけどね。

 

 

 

 個人的にはフリーウェアやオープンソースの流れもあるので、そっちにも期待といったところです。

 

 

 

 プログラムの方は現実のパソコンとキーボードで書くのがなんだかんだ一番早いんですけどね。」

 

 

 

 へぇ...おっと。あれこれと話しているうちに煙草が一本なくなってしまった。

 

 

 

「よーっし!午後もがんばりますかぁ。」

 

 

 

 少しオシャレな吸い殻入れに煙草を捨てて大きく伸びをする。

 

 

 

「あら、村山さん、何を頑張りますの?掃除でもしてました?」

 

 

 

 おっとっと。シャンフロは秘密にしておきたい...はっちゃけたいしなぁ。

 

 

 

「うん、そう。そうなんだよ...最近掃除していなかったから久しぶりにやっているんだ。チラシとかがたまっていてねぇ。ガラスも拭いたりしてさ。オッサン独りきりだとなかなか大変なんだよね。」

 

 

 

「そうですか!うちもそろそろ大掃除しようかしら。頑張ってくださいね~。」

 

 

 

「ほな、さいなら~。」

 

 

「マッサン、またな。」「さようなら。」

 

 

 

 手を後ろ手にひらひらと振って喫煙スポットを離れる。

 

 

 

 部屋へと戻ろうとするが、もうちょっと出歩きたい気分。暑いけど、実に良い天気だ。青空に良いさじ加減の雲。どうせ、シャンフロ内では夜だろう。せっかくの良い天気なのだから太陽があるほうを歩かねば損だ。

 

 

 

 マイアパートの敷地から出て、ぶらりぶらりと歩いていく。

 

 

 

 道路を歩いているとふと道の脇に目が行く。昔の道路は電柱があったんだがなぁ。

 

 

 

 無電柱化は若い頃から着々と進んでいたが、最近ではすっかり電柱がなくなってしまった。鳥が止まっているのも風情があってよかったが、災害があったときに電柱だと断線する恐れがあるから仕方ない...

 

 

 

 大通りへ出て道路を見れば、自動運転の車も当たり前のように走っている。スマホを操作しながらでも事故をおこすことはほとんどない。しかし、運転中に○ケモンG○は止めて欲しい。

 

 

 

 やはり、散歩をしていると時代の流れ、街の風景の変化が如実に感じられる。しかし、変わらないものも変わるものもまた良いものだ...

 

 

 

 寺社仏閣、河川敷、喫茶店、古本屋、橋、公園などは昔の雰囲気があってなごむ...

 

 

 

 まだ腹が物足りないし、お好み焼きでも買いに行くか。

 

 

 

 しばらく歩いて少しわきに入ると馴染みの店についた。トタンの家屋に雨除けの屋根がしてあり、『うっちゃんのお好み焼き』と書いてある。うーん、昭和チック。エモい!

 

 

 

「いっらしゃい!お好み焼きは350円、たこ焼きは10個で500円ね!」

 

 

 

 鼻腔をくすぐるソースの香り。うまそうだ。

 

 

 

「お好み焼き一つ!」

 

 

 

「あいよ、今作るからちょっと待っとってね!」

 

 

 

 キャッシュレスの時代だけれど、ここは現金のみ取り扱いなんだよね。エモい。何でもQRコードでやるもんなぁ。スマホがなければ会計できない店があるのはどうかしてるぜ...現金で払うと嫌な顔をされることがあるから使ってはいるが。

 

 

 

 お金を入れる茶色の皿に350円を入れる。

 

 

 

 店主が具を鉄板にこてで押し付けて焼いていく。ジューっという音が心地よい響きだ。

 

 

 

 裏返して再び焼く。

 

 

 

 アルミの上に乗せて、ソースを塗って上手く包んだら、ビニールに入れて...

 

 

 

「はい!350円ちょうど!はい!お好み焼きね!ありがとぉ!またよろしくね!」

 

 

 

 食べ歩きには最適な形。アルミホイルを剥くと温かい湯気と共にキャベツの甘い香りとソースのツンとした匂い食欲をそそる。

 

 

 

 ぱくり。

 

 

 

 うーん!うまい。キャベツが多めで真ん中に玉子。ソースも少なすぎず多すぎず。豚肉も普通でうまい。この味は言うなれば、インドカリー屋と同じ安心感がある。

 

 

 

 公園でぶらっとしながら食べて帰ろーっと。

 

 

 

 それから、途中の自販機でお茶を買いつつ、初夏の公園をぶらぶら歩いたのだった。




Tips.時代背景
 21世紀後半を想定。ロボットやAIによる自動化(オートメーション)が日常生活や都市機能の一部となっている。さらに身体感覚の拡張技術が実現し、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が現実、インターネットに加わる生活の第三軸として成立しつつある。現在は、その第一陣が席巻した後の第二陣が出現中。また、その他新技術の出現を受けて、衛星軌道でのコロニーや月面での実験都市、さらには火星のテラフォーミング計画などの太陽系開発プロジェクトが前向きに進められ始めている。
 なお、全球データ網配備計画(G2DP)の進行により地球上表面のあらゆる場所(一部地域を除き)において、G2DP規格対応の機器を持っているか設備を仲介すれば、有線を介さずにインターネットなどの通信網にアクセスすることが可能である。
 世の中に衝撃を与えたVRMMOゲーム、シャングリラ・フロンティアに使われているVR技術及びAI、その他のシステムは技術者から見て明らかに特異点に達し技術革新が行われたことが分かるのだが、開発元であり運営会社でもあるユートピア社が沈黙を続けているためその技術の内容は明らかとなっていない。水面下で技術提供を巡ってユートピア社の窓口、木兎夜枝(つくよぎ)氏と合衆国政府、日本国政府の間で交渉が行われ、ある種の決着を得た。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08_晴!耕!雨!読!アッグ、リカルチャー...

5152文字
さてさて...



 味しない...

 

 

 

 あれから、現実の午後二時半くらいにログインしたら、まだ夜だったので藁のベッドから起きてから、ぼんやりと歩いていたら灯りのついたさびれた小さい酒場があった。

 

 

 

 それで、安いので、ちょっと早いオートミールっぽい麦粥な朝食を食べている。前払いだ。しかし、味がしないのでげんなりとする。舌で感じる触感もぼそぼそしてて気持ち悪い。これは、くそまずいオートミールだからなのか。システム的な問題なのか。

 

 

 

 村の建造物は基本的に木でできているようだった。この酒場も当然の如く木製でコップも木、机も木、椅子も木だ。燃えたら危なそうだ。

 

 

 

 鉄製の簡易な燭台の上の蝋燭で灯りが付けられただけの薄暗い店内には人が2、3人いる。どうやら全員プレイヤーだな。頭上にネームタグが浮かんでいる。

 

 

 

 プレイヤーもいるんだな...

 

 

 

 もそもそと食べていると、外がぼんやりと明るくなってきた。

 

 

 

 食い終わってからしばらくぼーっとしていると、入り口に人影が来た。夜に村に入れてくれた小太りの男だ。辺りを見渡してこちらを見ると、近づいてきて話しかけてくる。

 

 

 

「さっきはぐっすり眠れたかぁ?藁で悪かったがね。そーだ、薬持ってきてくれてありがとなぁ。受領書持ってきたから薬、渡してくれよぅ。」

 

 

 

「夜警お疲れ様です。わかりました...では、魔術師ギルドから、30本ライフポーション納入します。」

 

 

 

 ライフポーション30本が入った箱をインベントリから出す。容器は栄養ドリンク的なやつだ。

 

 

 

「ほい~。確かにいただいただぁ。」

 

 

 

 受領書を受け取る。気になっていることを聞こう。

 

 

 

 

「そういえば、腰の横に角笛を持ってらっしゃるがそれ、どうやって吹くんだい。」

 

 

 

「あぁ、これかぁい。これはウッドランドブルの角だよ。夜警や狩り、豊穣の祭りの時に使うんだぁ。大きな音が出せるだよ。ただ息を吹き込めばいいべさ。」

 

 

 

 そう言って、腰の帯から外して、こちらに手渡してきた。

 

 

 

 ほぉほぉ...牛の角でできている角笛だと!ファンタジー感あっていいではないか...だが、穴がないところを見ると音階を変えるのは難しそうだ。だが、欲しい。とりあえず、楽器ならなんでもいい。

 

 

 

 

「これってそのウッドランドブルというのを狩ってこれば、作ってもらえたりするのか。」

 

 

 

「角笛を作って貰いたいのかい。多分大丈夫だよぉ。村のヘンダーソン爺さんにお願いすれば作って貰えると思う...でんも最近、具合が悪いようだからなぁ。」

 

 

 

 ちょっと困ったように頭を掻いている。

 

 

 

「そうですか...えぇと、そういえば、名前を伺ってなかったな。私の名前はギター熊だ。ヘンダーソンさんに貴方から紹介があったと言いたいので名前を教えてもらってもよろしいでしょうか。」

 

 

 

「大丈夫でさ、ヨーゾフだよぉ。村では小さな畑の他に狩人をやっているだ。」

 

 

 

「ヨーゾフさん、ありがとう。昨日は夜起きていただろうから、もう寝た方がよいでしょう。わざわざ探しにきてくれてすみませんね。」

 

 

 

 もう寝たいだろうから、あんまり束縛してもよくはないだろう。

 

 

 

「あんがとぉ。まぁ、まんだ3時間しか経っていないから眠くないけどなぁ。」

 

 

 

「夜なのに眠くないのか...」

 

 

 

「あぁ、まだこっちに来たばっかでっか?開拓者さんの世界とは違って、こちらでは1日に4回、日が沈むんでよ。だから、見張りは4回交代するからそんなに辛くねえだ。」

 

 

 

 へー、1日に4回ということは3時間ごとに昼と夜が入れ替わる感じか。じゃあ...

 

 

 

「普段はどこにいるんだい。何か困ったことがあったら聞きたいのだけれども。」

 

 

 

「森か畑か、家にいるべさ。ちょっと表に来てくんれよ。」

 

 

 

 そう言って、トコトコ歩いて店から出ていくので慌ててついていく。

 

 

 

 

「ほら、あそこの家だよ!2階にこだわりの丸窓があるから簡単に覚えられるでよぉ。」

 

 

 

 集会所からちょっと離れた森側にある、家を指さす。同じような家が立ち並んでいる中、2階建てで丸窓がついている家はちょっとだけ目立っている。

 

 

 

「ほぉ...確かにおしゃれな丸窓だ。」

 

 

 

「やっぱり、そう思うだ?やっぱりたけぇ金出してつけてもらったのは間違いでなかっただ。」

 

 

 

 ヨーゾフは満足気に頷いている。

 

 

 

「じゃぁ、おらは薬を置きに行った後、一回家に戻ってから狩りにいくだ。またなぁ。」

 

 

 

 

 ヨーゾフは足取り軽やかにスキップして家の方へ向かっていった。なんというか...強烈なキャラだ......あっ...ヘンダーソンさんの家を聞くのを忘れていた...まぁ、のんびり聞いて回るとするか...

 

 

 

 牧歌的な感じだなぁ。中世ヨーロッパの村ってこんな感じだったのだろうか?白い壁に赤茶色の瓦。骨組みは木、とってもヨーロッパです...

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、お?!井戸だ!暗い時には見逃していたが村の中心から正門側寄りにあった。石のブロックで積み上げられていて、釣瓶落とし式だ。少々苔むしている。

 

 

 

 確かあのゲームでは井戸の水を飲めば願いが叶うことがあったな。井戸...飲まずにはいられない!

 

 

 

 さっそく、釣瓶落としの綱をたぐって、カラカラと下から水をくみ上げる。

 

 

 

「ゴブゴブごぶごぶ、ぐびっぐびっぐびっ、ふいぃぃーーーー。」

 

 

 

 桶を両手で持って喉へ流し込む。まあ、このくらいは余裕で飲める。現実でも水2Lくらいの一気飲みは軽くできるからな。

 

 

 

 両手を天に掲げ、渾身の思いを込めて叫ぶ!!!

 

 

 

「神様、仏様、女神様、願わくばギャルのパンティーをおくれえええええ!!!」

 

 

 

 

 

 ........。......。......さて、冗談はこれくらいにしとくか。

 

 

 

 

 

トントン

 

 

 

「あんた、なかなかのシャウトだったぜ!」

 

 

 

 肩を後ろから叩かれたので、びっくりして振り返ると...

 

 

 

 テンガロンハットを被ったウエスタン風の少年が、サムズアップで歯をみせている。

 

 

 

「ギター熊って言うのか!ウハハッ、ギャルのパンティが欲しくても井戸には神○はいねえ。7つボールを集めなきゃなぁ!それか自分で作るんだな!

 

 

 見たところニュービーだな!オレはチコだ!グラッセ村に何の用できたんだ?ここには農民か変わり者しかいねえぞ!」

 

 

 

「いや、ここにはライフポーションの配達で...」

 

 

 

「農業はいいぜぇ!オッサン見たところ魔術師だな!破壊より創造に、生命を育むことに興味はないか!壊すよりも作る!殺すよりも育てる!大地と生き天災に抗い病苦を退け手間をかけ丹念に育て獲られた豊穣の恵みに感謝する!

 

 

 そうか!興味がありそうな顔をしているな!

 

 

 今ならレベル83の農民道を爆走中のチコ様が!懇切丁寧に農業たるや何かについて教えてやろう!

 

 

 ふははっっ!ふははっっははは!」

 

 

 

「あー...申し訳ないが、あまり興味はないのだが...」

 

 

 

「いや!待ったあああああ!よく考えてほしい!めったにない。こんなチャンスめったにないぞ!

 

 

 新人のころは誰もが苦労をする!そんな時、仲間がいれば!支えあえる!そうまるで大樹のように!辛さを共にした仲間と収穫する野菜や果物はうめぇ!

 

 

 農業クランの中では三本指に入る『輝ける種』!今なら新人特別支援中!土地タダ、肥料タダ、レベリングタダ、もう何でもタダね!

 

 

 あ~入らないと損だなぁ!おめえら来いや!」

 

 

 スススススス

 

 

 いつの間にかプレイヤーがぞろぞろと出てきてまわりでぐるぐる手を繋ながら回り始めた...

 

 

 

「その通り!入らないと損よ!あなた見たところ魔術に興味があるようだけど、農業も魔術に通じるところがあるのよ!

 

 

 この世界で野菜や果物、薬草がどこから来るか分かるかしら!ふふ、分かったようね!そう!この広大なフィールドよ!

 

 

 まず!シードシーカーと呼ばれる探索隊が遍く大地を駆け巡り、未知の野生種を探すのよ!冒険心や知的好奇心が疼かないかしら!未知のジャングルや平原、火山、氷雪地帯、果てには海中をくまなく探して株や種を持ち帰ってくるの!腕っ節もインテリジェンスも高いエリート部隊よ!生育状況も丹念にメモをとる必要があるわ!

 

 

 未知を探しにいきたいならこれ以上ないかしら!」

 

 

 

 Theジャングル探検隊風の服で帽子を被りリュックを背負った胸の大きな女性が楽しげに笑う。

 

 

 

「次は、グロウンリサーチャー...トライアンドエラー。理論構築。最適解の模索。

 

 

 シーカー達が持ってきた苗をあの手この手で育てる環境を整える。

 

 

 ああああっっと髪をかきむしりたくなることも度々ある。

 

 

 なんでだよ!分かるか!サボテンじゃなくて実質菌類とか、特定の果実が腐った泥の中でしか育たないとか!ばかやろおおおおおおおおお!

 

 

 だが!努力し続ければいつか必ず答えは見つかる!闇の中に手を伸ばせ!輝ける種はそこにある!!!」

 

 

 

 モノクルを掛けた燕尾服のすらっとしたオールバックの男が頭を振りながら叫ぶ。

 

 

 

「開拓者。その字面について考えたことはねえか?開拓とは何だ?

 

 

 おめぇさん、墾田永年私財法って知っているか?歴史かじったら知っとるかもしれんが奈良時代の法律でな。土地を開墾したらその土地をもらうことができる。

 

 

 そうさ...この世界では未開の土地であれば開墾し一定の税を納めれば土地の権利を主張できる。分かるか...良く聞きなさい...

 

 

 お前さんはまだ若い。未開の土地に新しい畑をこしらえる。これこそ、開拓ではないかね...

 

 

 切り開くもの...カルティベイター。」

 

 

 

 白髪を簪でまとめたムキムキのおばあさんが鈍色の巨大な鍬を背中に担いで囁く。

 

 

 

「うちは!メインは、種苗と品種改良がモットーのクランだからね!そうして生育環境を整えたら生粋の農家メンバーが派遣されて、出荷まで十分になるまで様々な種苗を育てるのさ!俺らはズバリ、ファーマーだ!!!

 

 

 農業クランにも種苗は納めてるし、各街の農業ギルドや王国のお偉いさん、学者さんにも納めてるぜ!B to Bだから安定だぜええええ!

 

 

 もちろん、自分でも作って食べたりするがな!」

 

 

 

 チコがドヤ顔で言い放つ。

 

 

 

 ピタッと回転が止まり、正面に来た恰幅がよく、ゆったりとした縦縞の服を着ている男が正面にきた。

 

 

 

「商売には営業がつきものです!と言うわけで、ワタクシ、ファステイアからサードレマまでのエリアマネージャーをやらせていただいてる野龍馬と申します!

 

 

 こちら、名刺です!」

 

 

 

「あ、どうも...ご丁寧に...」

 

 

 

 思わずローブのポケットを探るがこちらにはなかったな...

 

 

 

「どうですかな?農業クランと一口に言ってもその形態はバラバラです。

 

 

 魔法植物ばかりを育て薬品精製に情熱を注ぐクランもあれば、理想の果実を求めて果樹園を運営しているクランもあります。

 

 

 ワタクシたちはその全てに新たな選択肢を提供することに情熱を捧げているのです。

 

 

 そして、このシャングリラ・フロンティアという世界に眠る、輝ける種を白日の下に晒し、栄光の果実を人々に行き渡らせる!!」

 

 

 

「おおおおおおおおおお!さすがマネージャー!」

 

 

 

 熱気がすごい...この雰囲気に飲まれそうになっている自分がいる。あかん、農業やっちゃう...だが、負けないぞ!困ったら、とりあえず拍手だな!ほめ殺してやる...

 

 

 

ぱち

ぱちぱちぱち

ぱちぱちぱちぱちぱち

ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち

ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち

ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち

ぱちぱちぱちぱちぱち

ぱちぱちぱち

ぱち

 

 

 

 笑顔フルスロットルで手を高速で叩ききめ細かいスタッカートを両の手の平で刻む。

 

 

 

「スウゥィィ...ブラヴォオオオオオオー!熱意伝わりましたよ!農業にかける熱い想い伝わりましたよ!

 

 

 まさしく、あなたたちはこの世界の開拓者だ!

 

 

 未知を探索し、道筋を作り上げ、原野を切り開き、可能性を育て、価値を人々へと還元する。

 

 

 その苦労、頑張り、努力、こころざし、どれをとっても素晴らしい!ビューティーフォォ!プライスレス!グレーーーーーート!」

 

 

 

 その場で3回転しながら褒める。相手に意味の分からないことをされたらやり返すのだ!空気はもう渡さんんんん!

 

 

 

「ではっっっっっっっ!入っていただけっ」

 

 

 

「だがああああっっっっっっっ、私にもやりたいことがある!!!」

 

 

 

 全力のシャウトで発言をキャンセルする!そして、黙る。

 

 

 

.......数瞬の静寂。鶏の鳴き声が風に乗って聞こえてくる。

 

 

 

「おっちゃん...それは、なんなんだよ?!」

 

 

 

 チコが疑問を投げかけてくる。

 

 

 

「それは...」

 

 

 

 チコが、胸の大きなお姉ちゃんが、モノクル野郎が、ムキムキ婆さんが、野龍馬が、意志の強い目で見つめてくる。

 

 

 

 ええい…ままよ!

 

 

 

ぴゅ()っ、ぴゅ()っ、ぴゅ()っ、ぴゅ(ファ)っ、ぴゅ()~、ぴゅ()~~、ぴゅ()~~~、ぴぃ()~~~~~~~~~~~

 

 

 

「くち...ぶえ...?」

 

 

 

 訝しげな顔で囁く面々。いい掴みだ...

 

 

 

 初めて口笛を知り必死に練習して吹けるようになった小1の頃から道で、家で、公園で、学校で、旅行先で、駅のホームで、アパートで、会社で人目のない隙に暇を見つけて吹いていた長年の研鑽を聴くがよい!




Tips.村と第一次産業
村は農業、牧畜、林業、漁業など第一次産業に関わる生産拠点の周辺に構えられている場合が多い。租税や統治方法は街の行政機関に従属していたり自治権があったり様々である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09_暇人の、暇人による、暇人のための口笛

5871文字
シャンナロォ


 口笛、誰もが持っている楽器。その演奏の気楽さは他の楽器の群を抜く。誰もが練習したことがあるはずだ。口笛が吹けない人もいるかもしれない。そうした人は克服法などもネット上に紹介されているので、試してみてほしい。

 

 

 

 口笛を吹ける人は、次の段階として音程の上げ下げを練習するとよいだろう。

 

 

 

 しかし、通常の笛のように指で穴を抑えることで音程を制御できないので、音程の取り方を練習して身につける必要がある。

 

 

 

 その時に大事なのは舌先である。舌を下の前歯の真ん中あたりにつけて欲しい。音楽の音程は、空気の振動の波長幅で決まる。弦楽器であれば、弦の長さが短いほど高音に。吹奏楽器であれば、筒の長さが短いほど高音になる。口笛で音程を表現するには口内で舌を動かし、空気が振動する空間の容量を調節する必要がある。だから、難しい曲を吹くときにはその口の中では舌を器用に忙しく動かさなければならない。

 

 

 

 

 舌先を前歯の裏から下に動かせば音は低く、上に動かせば音は高くなる。音程がとれるようになったら曲を練習するのみ。

 

 

 

 もう一つの方法は喉で音を調節する方法だ。こちらはコツがいるので割愛する。

 

 

 

 俺のオススメの曲はジブ○だ。まず、誰でも知っているし、印象に残る旋律で、何となく覚えているので吹きやすい。さらに、テンポがゆったりとしているため、口笛ならではの味わいというものを出しやすい。

 

 

 

 ということで、ジブ○メドレーを口笛で吹くことにした。

 

 

 

 

 

 軽く息を吸い、すぐに息を吹き込む。流れるようなスラー。つなぎ目を消し音のせせらぎを紡ぐ。脳裏には地平線のかなたに思いをはせ、なるべく叙情的にビブラートや音のアラを作る。

 

 

 

 一つたりとも音を取りこぼさないように今まで数限りなく吹いてきた旋律をたどる。ロングブレスの部分は癒やしだ。長めのビブラートが自然に出る。休める。

 

 

 

 舌先に集中し高音へと切り替える。切り替えるときは危険だ。ハーモニカでも歌でもそうだが、息の吹き込み方の感覚がまるで変わってくる。前の感覚のままで息を吹き込むと音が鳴らず欠落してしまう事態が起きる。俺はまだ円熟の域に達していないので練習した曲でなければ上手く切り替えられないこともある。

 

 

 

 口笛の高音は金属音にも似た鋭さを持っている。尖った音だ。しかし、曲のテイストに合わせて丸みを与えなければならない。ゆっくりとビブラートをかける。

 

 

 

 続いては、みんな大好きトロロだ。楽しげだけれども寂しげな響きがあるこの曲はおっさんの心にもあの少年時代のピュアピュアな心を沸き立たせてくれる。

 

 

 

 全体的に明るめの音にするためにそーっと息を吹き込むことを心がける。しかし、テンポが早いので息を休める暇は全くない。

 

 

 

 神経を集中させ音程の乱高下に対応する。一番難しいのはト!ロ!ロ!の部分だ。ほかの部分は多少音程や柔らかさがなくても誤魔化すことができるが、あの部分は音が一つ、一つ露出している。へい一丁お待ちしました。新鮮なトロロです。という具合に客の好奇な視線にじっと晒されるのだ。あれ、なんかちがくねっと判断されたらもう終わりだ。それはもう、トロロではない。

 

 

 

 旋律も結構難しい。明るさだけでなく寂しげな雰囲気を出すのも難しい。内心で冷や汗をかきながら吹き終える。

 

 

 

 こんな感じで5曲を立て続けに吹き終えた。長く息を吸い、そして、ゆっくりと吐き出す。

 

 

 

 お辞儀をする。ふさふさの髪なのでお辞儀をしても恥ずかしくはない。

 

 

 

 一瞬の静寂。そして、5つの掌から祝福の拍手が鳴らされる。

 

 

「すげー!口笛すげー!」

「ひゃー上手いわね!」

「うまっ。でも、口笛ナンデ口笛⁈」

「最近の若いもんは凄いのう...」

「なるほど...もしかして、色々なところで口笛を吹いて回りたいということなのかな?」

 

 

 

「いえ、そういうことではありません。口笛に限らず楽器を演奏をして回りたいんです。言ってしまえば大道芸人か吟遊詩人のロールプレイがやりたいのです。」

 

 

 

「つまり、土地に縛られる農業はロール的に向いていないというわけですか...」

 

 

 

「分かっていただけたようですね...」

 

 

 

「入らないのかー!残念だな!」

 

 

 

「待ってください!」

 

 

 

 そうやって声を掛けてきたのは、胸が大きいお姉さんが言う。白いたてセタを着せたい...

 

 

 

「私たちのクランに入らなくてもよいですが、変わった植物があったら、情報でも現物でも買い取りますので、連絡ください!」

 

 

 

「おっそうだな!フレンド登録しとこうぜ!あと、農業やりたい奴がいたら連絡くれよな!」

 

 

 

 なるほど、そういうものもあるのか。NPCだけじゃなくプレイヤーからお金をもらうこともできるのか...はー...なるほどなるほど。

 

 

 

 さっそく、5人とフレンド登録をする。

 

 

 

【チコとフレンドになりました。】

 

 

【野龍馬とフレンドになりました。】

【アメリとフレンドになりました。】

【しずゑとフレンドになりました。】

【ファーブルとフレンドになりました。】

 

 

 

 えーと、胸が大きいのがアメリ。ムキムキ婆さんがしずゑ。モノクル野郎が、ファーブルか。おいおい、偉人の名前使うとか無茶するなぁ...

 

 

 

「誰に連絡すればいいのかな?」

 

 

 

「基本的に誰でもいいけど、ファーブルか俺に連絡すればいいよ。野龍馬とアメリは基本的に忙しいし、しずゑさんはなんというかフリーダムだからな!」

 

 

 

「なるほど。情報というのはスクリーンショットでもいいのかな。」

 

 

 

「スクリーンショットと場所、メモがあればなお良しだわ。スクリーンショットは外の景色を撮る場合、カメラみたいな専門のアイテムがいるけどね。

 

 

 えーとね、ちょっと待ってね。確か『ライブラリ協定』では...農業の相場は...」

 

 

 

「ライブラリ協定?」

 

 

 

「情報の取り扱いについて、権利と利益を確定させるための協定よ。

 

 

 考察クラン最大手のライブラリが提唱する『情報の公開と利用の促進』というモットーに乗っ取って、情報を取り扱うクラン同士や一般プレイヤーとの情報の売買と交換が取り決められているわ。半年くらい前に関係クランの代表が集まって会議して決定したの。なんだかんだ情報交換したほうが効率がいいのよ。隠す情報は隠すけどね。そこは会社と一緒よ。

 

 

 参加していない、野良の情報屋も多いけどね。後ろ暗い情報やレアな情報は大勢に知られたくないでしょう。そういう時は法外な価格で取引する情報屋の方が活発だったりもするけど。

 

 

 あったあった。えーっと、植物関連の情報の相場はまず、新種の発見情報なら基本金が3万マーニから、希少性、経済性を考えて増額して、最大100万マーニ。後は、植物の販売開始から6カ月間、純利益の3%が貰えるわ。既存の植物の生息情報なら、1000マーニから20万マーニね

 

 

 まぁ、一回見せに来てください。損はさせないわ。」

 

 

 

 ほぇ...儲かるのか。仮想現実に来てまで仕事をしたいとは思わないが。

 

 

 

「分かった、見せに行くよ。

 

 

 ところで、なんで皆さんはこんな村にいるんだい。チコはレベル83なんだよな?もっと先の街を拠点にしているのはないかい?」

 

 

 

 顔を見合わせた後、野龍馬が言う。

 

 

 

「定期的に集まっているのですよ。最初の街周辺と言っても、跳梁跋扈の森は植相が豊かで育てやすい種が多いのです。各専門家のチームを作って探索することで、新たな発見ができるというのもあります。

 

 

 跳梁跋扈の森はセカンディル方面は比較的整備が進んでおり森も薄くなっていますが、南と北は東に行くに連れて森が分厚くなっています。そのため、分断された南の森と北の森で生息する動物と植物が異なっていて、新たに発見できる種も多いんです。

 

 

 もっとも、グラッセ村付近は東の端に近く森が分厚い一方で、難易度も上がっているので、高レベルのメンバーが必要なんですが...」

 

 

 

「え...?難易度高いんですか?」

 

 

 

「セカンディル方面が10レベル付近だとしたら、東の端の推奨レベルは表層部で20レベル、中層部で50レベル、深層部で80レベルだな。N・M・Mの奴らが言うにはその先は100レベル帯のFOEがうろついていて、もっと先には渓谷があるらしいぜ!おっと!言いふらさないでくれよな。これ、買った情報だから!」

 

 

 

 なんだ、一気に依頼達成はできなさそうだな...

 

 

 

「この村へのライフポーションの配達ついでに、採取をしていこうと思ったのだが難しそうかな?」

 

 

 

 そう言って、インベントリからマリーから買った書き込みのある古びた紙束を見せる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと見せてもらってもいいですか...」

 

 

 

「うん?いいですよ。」

 

 

 

 野龍馬が受け取り、一同がのぞき込む。

 

 

 

「ぱっと見、表層部の動物と植物のようですが...」「このラインナップは『ファステイア森林帯動植物図鑑』から抜き出したものね。ふむふむ、元の図鑑は単なる外見の紹介だったけど、生息地域や危険性、利用法が上手くまとめられているわ。」「僕的にはこのマナ濃度の考察がちょくちょく書かれているのが気になるかな。生育の一つの指標になるかどうか最近、情報を集めているんだ。」「なるほど、なるほど...」

 

 

 

 小声で、なにやら相談をしている。微妙に聞こえにくい。話がついたようで、野龍馬が声を掛けてくる。

 

 

 

「えー...ギター熊さん。この紙束3000マーニで売ってくれませんか。」

 

 

 

「3000マーニですか?それは足元見ていませんかね。」

 

 

 

 おっと...なにやら儲かりそうな気配がするな...

 

 

 

「いえいえ、損はないと思います。私が思いますに、これは、1000マーニから2000マーニくらいで買われたものではないでしょうか。ギター熊さんの装備を見ると魔術師の初期装備であることから、持ち金は3000マーニの範囲内で買えるもののはずです。そして、恐らくこれは魔術師ギルドで買われたものですね。再現性のある情報なのでここで売らなくても私たちが探しますよ。ところが、ここで売っておけば、1000マーニくらいの儲けはでると思います。」

 

 

 

「それでも、売るのはちょっと嫌ですね。そもそも、これは再現性があるものなのかい。古びた紙束に手書きの文字の資料は、作成に手間がかかる。一度だけかもしれないでしょう。それに、仲が良くなったNPCからもらった贈り物を売るわけにはいきません。スクリーンショットで5000マーニなら考えないでもないですね。とりあえず、返してください。」

 

 

 

 野龍馬が大人しく紙束を渡してきたので受け取る。

 

 

 

「お気を悪くされたなら申し訳ありません。そうですね...5000マーニでスクリーンショットの受け渡しでもこちらとしては問題ないのですが、条件を付けてもよろしいでようか。」

 

 

 

 そろそろ、落としどころといったところか。黙って頷く。

 

 

 

「ギター熊さんが情報をもらったNPCと今後もやり取りを続けて、植物に関する情報を引き出して欲しいのが一つ。他の農業クランに情報を渡さないのが一つ。もし、守って頂けるようでしたら、一月あたり5000マーニの報酬と準クランメンバーとしての待遇を約束しましょう。」

 

 

 

 おぉ...これは、抱き込みに来ているのか?外部委託といった腹積もりかな。メリットはカネだが...こんな初期の段階で、ズブズブの関係になるのもなんだかなぁ...

 

 

 

「いや、報酬はいらないよ。自然体でやりたいものでね。やり取りの中で情報を手に入れたら、『輝ける種』のメンバーに声を掛けるというのは考えておきます。」

 

 

 

「そうですか...了解いたしました。えー...とりあえず、紙束のスクリーンショットと5000マーニの交換で取引しましょうか。」

 

 

 

「それでいいでしょう。」

 

 

 

 5000マーニを受け取ってから紙束を渡して、野龍馬がスクリーンショットをするのを待つ。

 

 

 

 撮り終えたようだ。

 

 

 

「ありがとうございます。お礼と言っては何ですが、『初めてのファステイア』を持っていますか?持っていたら、それの地図にこの紙束に登場する動植物の生息域を書き込みますよ。」

 

 

 

 ありがてぇ...お礼を言ってインベントリから『初めてのファステイア』を出して渡す。野龍馬とアメリとファーブルが相談しながら書き込んでいく。

 

 

 

「こんなところですかね。最初はやはり、セカンディル方面の森が薄い部分を中心に活動された方が良いと思います。この辺は20レベル付近になってから森に入るといいですよ。」

 

 

 

「ええ、そうしますよ。」

 

 

 

 まあ、ちょっと見に行くくらいなら大丈夫だろう。

 

 

 

「では、私たちはこれから潜りに行くので。今後ともよろしくお願いします。」

 

 

 

「じゃーな!オッサン!」「またのう...」「さようなら!」「どもども。」

 

 

 

「こちらこそ、また、よろしくお願いします。」

 

 

 

 足早に森の方へ駆けていく『輝ける種』のメンバーを見送った。よっしゃ、4300マーニ儲かったな...

 

 

 

 ポイント振ってからちょっとだけ森に潜ってみるかな。

 

 

 

 

————————————

 

PN:ギター熊

 

LV:4(0)

 

JOB:魔術師

 

7,220マーニ

 

HP(体力):12/32

 

MP(魔力):30/100

 

STM (スタミナ):20/50

 

STR(筋力):10

 

DEX(器用):21

 

AGI(敏捷):21

 

TEC(技量):11

 

VIT(耐久力):10(15)

 

LUC(幸運):2

 

スキル

 

・瞑想

 

・ベースステップ

 

・スライドムーブ

 

・グラウンドクリープ

 

 

魔法

 

【ファイヤーボール】

 

【ヒートハンド】

 

【エアーカッター】

 

【コラプスウィンド】

 

【アクアウィップ】

 

 

 

装備

 

右手:無し

 

左手:無し

 

頭:無し

 

胴:布のローブ(VIT+2)

 

腰:布の帯(VIT+1)

 

足:布の靴(VIT+1)

 

アクセサリー:無し

 

————————————

 

 

 

とりあえず、魔力に7振っておいた。当面は魔力にポイントの半分を振っていき、残りをSTM、DEX、TEC、AGIに振り、時々HPに振ることにしようと思う。VITは装備でなんとかなりそうだから振らなくて良さそうだ。STRは今のところ要らない気はする。

 

 

 

 しかし、ポイントを振った分は振ったからと言って回復しないのか...それじゃあ、スキルも手に入ったことだし、瞑想使ってみるかな?

 

 

 

 井戸のへりを背もたれにして、目を閉じて【瞑想】を使うと念じてから、3分くらい待つ。

 

 

 

 ステータスを確認すると、MPが4、HPが1、STMが3回復していた。HPは1時間半、MPは25分、STMは50分で全回といったところか...取得前より回復量は増加しているが遅いなぁ。やはり、回復アイテムは必要だな。

 

 

 

 もう、十分離れただろうし、行くか。前もってネットで調べたところ、デスペナルティの中に現金ロストはないらしい。安心して、一回死んでおこう。




Tips.農業と牧畜
農業とは様々な種類の植物を育てる産業を指す。牧畜とは家畜を育てる産業を指す。プレイヤーはJOB:農民によって農業・牧畜に関するスキル・魔法を習得することができる。なお、牧畜のスキル・魔法にモンスターをテイムするものはない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10_恐怖?!跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)の森?!?

4568文字
モルサァ


 グラッセ村の道を森側に向けて歩く。

 

 

 

 農業クラン儲かるんかなぁ...種苗専門だとB to Bだから安定してそうだが、そもそも農民プレイヤーそこまで人口いるのか?それとも、農民ギルドにも卸すから維持できているのかな。しかし、冒険ファンタジーで農民になるなんてなかなかキマッてしまってるよなぁ。もっとも、料理人がいるなら材料からこだわるというのも頷ける話ではある。マリーさんから情報を取ってきて欲しいようだが、多分クランメンバーに魔術師は多くないんだろうなぁ。ゲームの本筋じゃないしな...

 

 

 

 

 

 森へ行く門にたどり着いた。閂はかかっていないようだ。門を押して外へ出る。後ろ手に閉めつつ辺りを見回す。

 

 

 

 木の板が渡してあり、空堀になっている。村側は石垣になっている。空堀の前にはトゲトゲしい蔦で柵が作られている。そこから先にオレンジ色の花畑があり、そのさらに先に生垣がある。

 

 

 

 生垣まで歩いていくと、その外側に原木が積まれた広場が見えてきた。建物が2・3棟立っている。林業もやっているのかな。森の方に細い小道があるのが見える。

 

 

 

 呪文もチェックしておくか...基本魔術教本を開く。

 

 

 

【エアーカッター】

正式詠唱:切断せよ、風の刃。エアーカッター。

短縮詠唱:エアーカッター

代償:3MP

効果:手あるいは発動体から横向きの大きな風の刃を打ち出す。

 

 

 

【コラプスウィンド】

正式詠唱:転べ、風の悪戯。コラプスウィンド。

短縮詠唱:コラプスウィンド

代償:2MP

効果:手あるいは発動体を向けた対象に対して強烈な横風が吹きつける。

 

 

 

【アクアウィップ】

正式詠唱:しなり薙ぎ払え、水の鞭よ。アクアウィップ。

短縮詠唱:アクアウィップ

代償:3MP

効果:手あるいは発動体から10mの水の鞭が形成され、杖を振り上げ振り下ろす動作をすると、水の鞭も同様にしなり衝突した物体に対して衝撃を与える。

 

 

 

 癖つよ...アクアウィップは森の中だと使いにくそうだな。どう考えても木に当たってしまうだろう。その分エアーカッターの方が使いやすそうだが...やっぱり木に当たるよな。下向きファイヤーボールで乗り切るとするか。燃えないだろ。多分。燃えたらプレイヤーが放火しまくりで森が消えてるだろうから。ファイヤーボールなら説明文的に燃えても3分間だしな。コラプスウィンドは足止めに使えそうだな...

 

 

 

 よーし、森に入っていこう。魔法はその都度、試せばいいや。MPも心もとないし。

 

 

 

 

 

 西側の林道と思われる道に入る。スニーキング気味に行こう。

 

 

 

 そろりそろりと進んでいく。木漏れ日が差している。動物の気配はない。左手の方に平原がちらちらと見える。

 

 

 

 そういえば、フィールドでのエンカウントはどのようにするのだろうか。グラッセ村に来る途中で出会ったゴブリンは草むらから出てきたが、全てのモンスターはうろついているのだろうか。あの、ゴブリンはひょっとしたら口笛につられてなんだろうと思って出てきたのかもしれないな。だとしたら、悪いことをしたような...まぁ、いっか。音がトリガーだとしたら、なるべく音を立てないように注意しよう。

 

 

 

 木の陰に隠れつつ、耳を澄まし、安全を確認しながら進んでいく。足を踏み込む際に落ち葉が音を立てるので若干不安だ。

 

 

 

 しばらく行くと道がなくなった。木を切っているのはこの辺までということか...

 

 

 

 

 

 道から外れ、その辺の木の陰で落ち葉を掻き分け地面に耳を当て耳を澄ませる。漫画の真似だ。忍者ならやって当然である。

 

 

 

 トトッ...トトッ...トトッ...

 

 

 

 おお、微妙に足音らしき振動が聞こえるな。頑張って方角も割り出そうとしたのだが残念ながら方角は良く分からない。近くに何かいるということだけ気をつけて進もう。右手に若木の短杖を出す。

 

 

 

 木から木へと身を移しつつ辺りを警戒する。30m以内にはいないようだ...

 

 

 

 少し安心した。前の木へと足を進める。

 

 

 

 ふと、嫌な予感がした。

 

 

 

 ズル...ズル...

 

 

 

 何かが這うような音がする。

 

 

 

 予感に導かれるように、上を見上げた。

 

 

 

 

 

 隣の枝から頭上の木の枝へと身を絡めながら10m近い大蛇が静かに渡っているのが見えた...

 

 

 

 NOOOOOOOOOOO~?!

 

 

 

 驚きのあまり声も出ず尻餅をついた。

 

 

 

 へ、へ、蛇だ...しかも、でかい...逃げねば...

 

 

 

 身を翻し逃げようとするときに振り返ると、枝の上から藍色の鱗をした大蛇が緑色の眼でこちらを品定めするようにこちらを覗いていた。

 

 

 

「ひえっ...」

 

 

 

 すぐに首を前を向いて、全速力で走りだした。

 

 

 

「オーマイゴォオオオオッド!」

 

 

 

 ズルズルズルッザッミシッズルズルズルッズルズルズルズルッ

 

 

 

 激しい擦過音を響かせながら、枝を時には飛び移って回り込むように蛇が先回りする。

 

 

 

 はやっ...全速力で踵を返して、違う方向へと走り出す。

 

 

 

 蛇が鎌首をもたげているのが横目で見えた。

 

 

 

 前方に飛び込んで前回りッ

 

 

 

 ジュウッ....シュワワワワワ...

 

 

 

 酸かよ?!畜生め...MPは35だったな?!

 

 

 

「ファイヤーボール、エアーカッター、コラプスウィンド、アクアウィップ!」

 

 

 

 横向きに走りながら大蛇の頭へと狙いをつけ、呪文を唱える。

 

 

 

 頭を振り避けたが胴体へと火の玉が当たり、続いて不可視の風の刃が切り付け、横風が吹き木から体の一部が木から垂れ下がるのを横目に見つつ胴体に上手く当たるように杖を振る。

 

 

 

 ジャスト10mで木と木の間から、水の鞭が垂れ下がった蛇の胴体へと当たったのを確認してから前を向いて走り出す。

 

 

 

 ドオッッン...

 

 

 

 後ろから落下音が聞こえる。やったか! 

 

 

 

「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 

 

 

 威嚇音が聞こえてくる。やっぱり、レベル差的に無理なのかもしれないなぁ...

 

 

 

 後ろを見ると地面で尻尾を荒ぶるように振り回している。

 

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 

 

 逃げつつエイムして炎の絨毯を敷いてあげる。25mといったところか。

 

 

 

 少し走って後ろを見ると、燃え移った地面を怒りを露わにしてこちらへと身をくねらせながら這ってくる。

 

 

 

 さっきより格段に遅いな...このままヒットアンドアウェイしていけば、倒せるんじゃないだろうか...

 

 

 

「エアーカッター!」

 

 

 

 不可視の風の刃が、胴体へと着弾する。大きさ1m時速およそ60km/hくらいだな...

 

 

 

 うむ。なんだか...MPが万全なら絶対倒せそうな感じだな。残りHPがどのくらいかよく分からないから倒せるかどうかというところか...魔力回復用のポーション買っとけばよかったなぁ。

 

 

 

 適度に距離をとりつつ前へと走る。35mくらい離れたな...

 

 

 

 

 油断をしていたせいだろうか、唐突に

 

 

 

 ピピピピピイピピピピぴぴいぴぴぴぃぴぴぴぴぃピピピピピピピピいいいい

 

 

 

 けたたましい鳥の鳴き声が響き渡る。

 

 

 

 バサバサッバサバサッバサッバサッバサッ

 

 

 

 黄色の胴体で、緑色のトサカ、赤い目の縁取りをした鳥が数十羽飛び去って行く。

 

 

 

 ざわめく森の葉。

 

 

 

 

 トットトットトッドドッドドドドッドドドッドッドドドドッドドドドッドドドドッドドッドドドドドドドドド

 

 

 

 おいおい...前方斜め右から地響きを轟かせながら、黄土色の牛の群れが向かってくるのが見えた。

 

 

 

 ありゃあ...ヨーゾフが言っていたウッドランドブルってやつかい...?こんな時に団体で来なくていいからよぉ。

 

 

 

「コラプスウィンド!」

 

 

 

 先頭の牛に向けて呪文を唱える。

 

 

 

 横風を受けて体勢が傾き、こちらから見て左側へと逸れていく。後続の牛たちもそれへと続く。

 

 

 右斜め前へと走る。

 

 

 

「SHAaAaaaaaSHAAAAAAAA」

 

 

 

 後ろから聞こえる威嚇音。どことなく戸惑っているように聞こえる。

 

 

 

 とぐろを巻いた蛇の向こう側に牛の群れが駆けているのが見える。これはまさか...三つ巴!

 

 

 

 よっしゃああああああ。生き残れるかもしれない!よーし、牛の角狙ってこう...

 

 

 

 牛の群れは勢いを落とすことなく、蛇を回り込むようにしてこっちへ向かってくる。

 

 

 

 おいおい蛇を狙ってくれよ...

 

 

 

 駆けてくる牛から逃げるように蛇の体の周りを走る。

 

 

 

「ShaAAA」

 

 

 

 鎌首をもたげた大蛇の口から酸が吐き出された。

 

 

 

「BMOooooooo」

 

 

 

 泡立つ牛の体。群れが二つに割れる。

 

 

 

 ガブリっゴクっズルルルルルル...

 

 

 

 大蛇は倒れた牛を飲み込むと、その隙に木へと体を巻きつけあっという間に木の上へと上がってしまった。

 

 

 

 やべえ...三つ巴が...

 

 

 

 ドドドドッッ

 

 

 

 後方から離脱し、こちらへ向かってくる3頭の群れ。

 

 

 

 酸を受け呑み込まれた先頭の牛を除く5頭はそのまま怒りに任せて蛇がいる木へと向かっていく。

 

 

 

「「「BRRRRrrrrrrrr」」」」

 

 

 

 牛たちの角が淡く光り輝く。角を前に向け突進の姿勢をとる。3頭が併走して駆ける!

 

 

 

「エアーカッター!」

 

 

 

 脚部に向け風の刃を射出し、全力で横へと走り飛ぶ。

 

 

 

 風の刃は真ん中の牛の脚を捉えたが、両脇の牛は横に逸れて向かってくる。

 

 

 

 あわわわわわわ...おわた...

 

 

 

「コラプスウィンド!」

 

 

 

 立ち上がって、迫り来る牛たちに呪文を唱えるが...ほとんど効いていない様子...もう...無理...

 

 

 

 ドゴオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ

 

 

 

「ぐぼおおおおおおおっっっっっっっっ」

 

 

 

 腹から突き上げられるような衝撃を受けて足が地面から離れる。

 

 

 

 視界がぐるぐると回る。

 

 

 

 ガッガガッガガッッガギギギイミシッッッッッッッッ

 

 

 

 視界の端で蛇がいた木が倒れていくのが見える...

 

 

 

 縦に4回転5回転6回転...

 

 

 

 木の枝の高さまで来た。

 

 

 

「うおりゃああああ。」

 

 

 

 腕を伸ばして、枝を掴もうとするが弾かれる。

 

 

 

 くそおおおおおおおお...

 

 

 

 地面が迫る。落下死かよ...

 

 

 

 ドオオオオオン

 

 

 

 光の粒子が体から出て視界が割れていく。

 

 

 

 割れていく視界の中で、鉈を持った兎が二羽、蛇と牛に襲いかかっているのが見えた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い。まぶたを開けると、藁を被って村の集会所の床で寝ていた。

 

 

 

「ほわあああああああ、牛こわっ...」

 

 

 

 おいおい...あれを狩らなきゃいけないのかい...?無理...無理...

 

 

 

 はー...

 

 

 

 デスペナルティを確認するか...

 

 

 

————————————

 

PN:ギター熊

 

LV:4(0)

 

JOB:魔術師

 

7,220マーニ

 

HP(体力):5/25[32]

 

MP(魔力):5/80[100]

 

STM (スタミナ):20/40[50]

 

STR(筋力):8[10]

 

DEX(器用):16[21]

 

AGI(敏捷):16[21]

 

TEC(技量):8[11]

 

VIT(耐久力):8[10](13)

 

LUC(幸運):1[2]

 

スキル

 

・瞑想

 

・ベースステップ

 

・スライドムーブ

 

・グラウンドクリープ

 

 

魔法

 

【ファイヤーボール】

 

【ヒートハンド】

 

【エアーカッター】

 

【コラプスウィンド】

 

【アクアウィップ】

 

 

 

装備

 

右手:無し

 

左手:無し

 

頭:無し

 

胴:布のローブ(VIT+2)

 

腰:布の帯(VIT+1)

 

足:布の靴(VIT+1)

 

アクセサリー:無し

 

————————————

 

 

 

 うわ...0.8掛け小数点切り捨てか...20ポイント以上下がっているから実質的に4レベルダウン...これは、レベルが高くなればなるほどきつくなるなぁ。

 

 

 

 うーん、一回、街にもどるか...角笛はひとまず忘れよう!

 

 

 

 藁をはねのけて、立ち上がる。大きく伸びをする。

 

 

 

 今は4時半か...まだ大丈夫だな。一度装備を整えるか。VITを少しでも高めたいし、杖ももっと良いのがあるかもしれない。情報も集めたいなぁ...ゲーム内掲示板が使えるんだっけ...?野良パも考えた方が良いのかもなぁ...

 

 

 

 集会所を出て、村の門へと歩く。

 

 

 

 よーし、走っていこう!




Tips.エンカウント
(建設予定地)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11_ファステイアよ!私は帰って来た!

4833文字
ヨコイッショ


「どうも~お疲れさまでーす。シャオラッ」

 

 

 

 草原を駆け抜け、門兵さんたちに挨拶してゴールイン!春の陽気の中での草原のランニングは心地よいな!体重減らすのには全く貢献しないだろうが...

 

 

 

 デスペナもあることだし、今日の残りの時間はファステイアで潰すとするか?買い物もしたいしな。装備とかポーションとか。

 

 

 

 

 さて、取り合えず魔術師ギルドに1000マーニ貰いに行くか。

 

 

 

 

 

 

 再びやって参りました魔術師ギルド。

 

 

 

 あれ...?マリーさんと違うNPCの女性が受付に座っている。編み物をしているようだ。ふわふわのドレスに身を包み、白い手袋をしている。リボン付きの丸い帽子がクロークに掛けられている。

 

 

 

「こんにちは~、依頼終わったんですが。こちらの受付でも見て貰えますか?」

 

 

 

「あらあら。お疲れさまです。いいですよ。」

 

 

 

「ライフポーション30本をグラッセ村に持って行くという依頼なんですが。無事配達することができまして、受領証を持ってきました。あ、名前はギター熊です。」

 

 

 

「あらあら。今日が初めての依頼でしたのね。」

 

 

 

 赤色の皮で背表紙が作られた豪華な装丁の本をいつの間にか手に出してめくっている。

 

 

 

「ふふ...受領証いただきますね。」

 

 

 

 受領証が手からするりと抜け宙に浮かび、ふわふわと移動し本の間に挟まった。

 

 

 

 パタン

 

 

 

 女性が本を閉じて、表表紙を人差し指で撫でると1枚の硬貨が表紙の上に出現した。

 

 

 

「どうぞ。」

 

 

 

「あ...どうも。」

 

 

 

 突然だったので若干、呆気にとられてしまった。

 

 

 

「あと、これもどうぞ。」

 

 

 

 そう言って、彼女が本を消し、机の上に手をかざすと、植物の蔦で編まれた紐に丸い青い石が通されたネックレスが卓上に現れる。

 

 

 

「これは...?」

 

 

 

「職業訓練所からご紹介していただいた方が初めて依頼を達成された時にお渡しするものです。失われた魔力の回復に少し効果がありますよ。」

 

 

 

 手にとり、眺める。宝石とまではいかないが、マーブル状のよく磨かれた角のとれた石だ。首から掛けてみる。

 

 

 

「どうも。ありがとう。」

 

 

 

「いえいえ。」

 

 

 

「よろしかったら名前を伺ってもよろしいかな。」

 

 

 

「あらあら。エルネですわ。」

 

 

 

 柔らかい物腰...ぶっちゃけ、タイプかもしれない!お近づきにならなければ!

 

 

 

「エルネさん、今度よろしかったらお茶でもいかがですかな。」

 

 

 

「まあ!」

 

 

 

 ちょっと驚いたようで、片手で口元を隠す。手を下ろしてからちょっと困ったような表情だ。

 

 

 

「魔術のことなど、色々お伺いしたいのですが。」

 

 

 

「ごめんなさい。初めてお会いした方とはちょっと。」

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫に向かう。ディアールが座っていたので、安心して声を掛ける。

 

 

 

「よう!心の友よ!配達してきたぞ!」

 

 

 

「おお!ハハハハ!もう依頼終わったのか!初めての依頼達成おめでとう!」

 

 

 

「ハハハハ!ありがとう!もう報酬はエルネさんから貰ってきた。

 

 

 帰って来たらマリーがいなくてびっくりしたよ...」

 

 

 

「ああ!マリーなら交代の時間が来たらすぐに帰ったぞ。ところで、次の夜は暇か?」

 

 

 

 マリーは定時が終わったら即帰るタイプか。で、ディアールは飲みに行きたいタイプと。

 

 

 

「まあ、暇だな。そういえば、奢ってくれるのか?」

 

 

 

 そんな約束してたなぁ。

 

 

 

「いいとも!6時で仕事終わりだから、そのくらいの時間に受付の右側の待合室で待っていてくれ。」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 さて、どうやって時間をつぶそうか...

 

 

 

 とりあえず、大広場へ行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 エルネさんに行ってきま~すと言ってから、大広場に来た。朝以来の大広場をじっくりと眺める。昔、訪れたヨーロッパの街にあった広場と似ているな。石畳で舗装されている。そして、結構広い。

 

 

 

 さーて、露天商でものぞくか...?

 

 

 

 

「らっっしゃい!らっしゃい!新鮮な木の棒あるよ!15種類から選べて一束30本1000マーニ!安いよ安いよ!突いてよし!叩いてよし!投げてよし!折ってよし!火にくべてもよし!買っといて損はないよ!木材あったら買い取るよ!そこの剣士の方、木の盾はいらんかね!敵の急襲を防ぐならこれだよ!1200マーニ!勉強しまっせ!」

 

 

 

「ファステイア同じみのエクスカリバー屋!何が出てくるかはお楽しみ。エクスカリバーくじやっていかないか一回1000マーニ!」

 

 

 

「祝福付き鉄の剣、鉄の槍、鉄の斧売ってます!ちょっと背伸びして上等なもの買いませんか?長く使えるよー。」

 

 

「幸運を呼ぶアクセサリー、小物類はいりませんか~。装備に含まれない小物袋や帯も売ってますよ~。『小鳥の庭』では布装備の修繕やアップリケの依頼も受けてますよー。」

 

 

 

「初心者向けポーション安く提供しますよー!」

 

 

 

「兎肉のミートパイはいかがですか~蛇肉のミートパイもあります~美食舌習得にもってこい!」

 

 

 

「バフ付き卵焼き売ってまーす。蛇の卵、鳥の卵、謎の卵!いろいろありますよ!未知の味に挑戦しませんかー!」

 

 

 

「つるはしやシャベルはいらないかい!これからは剣じゃなくてつるはしやシャベルの時代!『塹壕戦の覇者』プレゼンツ、初心者向け万能シャベル【ExCALIBER】。1本5000マーニ!水晶体粉末でコーティングしたファステイア限定の超人気モデルだよ!これ1本さえあればあらゆる状況に対応可能!掘るだけじゃない!戦闘職なら斬る、打撃、防御に対応しているよ!鉄心が入っているから重さも十分!さらには熱伝導性がいいからフライパン代わりにも使える!柄の部分は難燃性の木材を使っているから安心!ほら、目玉焼きが焼けます!特注も受けてるぞ!」

 

 

 

「バール...釘はどうですか...打撃特化の【エクスカリバール】...投擲に釘は効きますよ...ふへへ...呪いの品ありますよ...HPリジェネ鈍足効果の【泥濘のアンクレット】、STR中上昇視界不良効果の【暁闇のサークレット】..呪い装備の道は楽しいぞ...フェフェフェ...」

 

 

 

「搾りたてジュースはいりませんか。」

 

 

 

「スク水、レオタード、ブルマ、ビキニ装備!最高品質の逸品を提供する『紳士工房』出張販売店!圧倒的合法!着せ替え隊御用達!かわいい初心者向け装備もありますぞ!にゃんにゃん手袋、にゃんにゃんヘアバンド!」

 

 

 

「ドーモ!ニュービー=サン!『コブシ・ニンジャクラン』です。カラテは最強、古事記にもそう書かれている。忍殺ミーム用グッズは『コブシ・ニンジャクラン』販売部【ニンジャのザッカ屋】まで!爆殺符、鎖鎌、タケヤリ、バクチク、ニンジャソード、マキビシ!実際、ニンジャはどこにでも現れる。備えよう。」

 

 

 

 おお、案外近づいて見るとにぎやかだな。だが、やはり新人の街だけあって、勧誘めいたものを感じる...アイエエ...ハッ!これがNRS(ニンジャリアリティショック)か...恐ろしい。

 

 

 

 ちょっと食べ物つまんでみるか!

 

 

 

「すみません、蛇肉のミートパイ一つ。」

 

 

「ありがとうございま~す!350マ~ニです!」

 

 

 迷彩柄のバンダナとエプロンをした女の子から手に出したお金と引き換えに商品を受け取る。

 

 

 

 手に持ちやすいサイズのミートパイだ!茶色の紙に包まれている。飲み物も買おう。

 

 

 

 

 

 ジュースを売っている出店に行く。

 

 

 

「すみません、ジュース一ついいかな?どんなものがありますか?」

 

 

 

 カラフルな服にベレー帽を被った背の高い男が店主だ。

 

 

 

「ここから3つの果物を選んでもらってブレンドします。一杯400マーニです。」

 

 

 

「そこのオレンジっぽいのとそこのバナナっぽいのとそこのサクランボっぽいのでお願いします!」

 

 

 

「ちょっとおまちくださいね!」

 

 

 

 果物を包丁でぶつ切りにして大きめの薄い木のコップに入れていく。蓋を被せて、コップを両手で持って...

 

 

 

「ミキシング!」

 

 

 

 コップの中身が渦を巻いて粉砕し混ざり合っていく。

 

 

 

「お待たせしました!」

 

 

 

 おお...!そういう魔法もあるのか!バナナのおかげでクリーミーな見た目になっている。

 

 

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 どこで食べようかな...広場の中央にある像の付近が段差になっていて腰掛けやすそうだ。

 

 

 

 

 よっこらせ...

 

 

 

 まずは蛇肉パイから食べるか。円形のパイ生地でで、中からほんのりと熱が伝わってくる。

 

 

 

 サクリッ

 

 

 

 むっ、中に刻んだ野菜が入っているな、餡にしているようだ。野菜も日本のものとは違う気がする。ニラっぽいのがアクセントだ。蛇肉の味は思ったより癖はないが、少し弾力があるな。焼酎のつまみにいいかもしれない。

 

 

 

 ジュース挟むか。上からみる限り、ドロッとした黄味がかったオレンジ色の液体だが...

 

 

 

 ゴクッ

 

 

 

 おぉ、オレンジっぽいのとサクランボっぽいのが意外にも喧嘩せずに同居している。バナナっぽいののおかげで全体にドロッとしたハーモニーが醸し出されている...この組み合わせはありだな!

 

 

 

 サクリッ ゴクッ サクリッ ゴクッ ゴクッ 

サクリッ ゴクッ サクリッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ

 

 

 

 まあまあの満足感だ、げふぅ...食べ歩きもいいかもしれないなぁ...現実の金じゃないから懐も痛まんし...

 

 

 

 何か良いもの売ってないかな?

 

 

 ぶらぶらと歩いて出店を見て眺める。

 

 

 

 あ、ポーションが売ってるな...青色、黄色、緑色、赤色、紫色、橙色の透明な液体がガラス瓶に詰められて売られている。

 

 

 

「ポーションご入り用ですか?」

 

 

 

「ええ、HPとMP、スタミナの回復ポーションを買いたいのですが。」

 

 

 

「赤がHP、青がMP、黄がスタミナ、他は混合ポーションです。薬効は100%のものより半分に落ちますけれども。一番手前から30、50、100ですね。値段は100マーニ、200マーニ、500マーニです。どうされますか?」

 

 

 

「うーん...どうしようかな...初めてなものでどのくらい必要なのかよく分からないんですよ。」

 

 

 

「そうでしたか!お仲間はいますか?」

 

 

 

「ソロでしばらくはやっていくつもりでして...」

 

 

 

「それなら、赤、青、黄を3本ずつ買えば良いかと思います。HP、MP、スタミナの最大値はどのくらいですか?」

 

 

 

「えーっと...HPが32、MPが100、スタミナが50です。」

 

 

 

「赤30が3本、黄30が3本で、青は30でも50でも100でも良いと思いますが。」

 

 

 

 そうだなぁ...

 

 

 

「これってちょびっと飲んで、蓋を閉めればその分だけ回復することできます?」

 

 

 

「できなくもないですが、蓋を開けた場合薬効成分が空気中に蒸散してしまうので、効果は開けるごとにおちていきます。」

 

 

 

「ふむ...飲む時にクーリングタイムのようなものはあるかい?」

 

 

 

「薬効成分が増えてくるほど消化吸収に時間がかかるという設定のようで、消化能力によって変わってきますよ。素だと100で3分くらいですね。ポーションは吸収されたものから効果が出てきます。

 

 

 青と赤を同時に飲もうとする場合は、バラバラに回復する感じですね。

 

 

 で、クーリングタイムなんですが...飲めるだけ飲めますよ。飲むというのは制限されていません。胃の容量の問題や運動の阻害やめまいを引き起こす場合があります。また、ポーション中毒でペナルティや毒死したり、過回復の問題というものもありまして...連続で飲むのはあまりオススメできませんよ。10分くらいはあけるのが良いかと思います。」

 

 

 

「そうかね...じゃあ、赤30が3本、黄30が3本、青50が2本、青100が1本もらおうかな。」

 

 

 

「えーっと、では...合計で1500マーニですね!」

 

 

 

 1500マーニ渡す。

 

 

 

「はい、確かに!毎度ありがとうございます!」

 

 

 

「また、足りなくなったら買いにくるよ。」

 

 

 

 そう言ってポーション屋を離れた。

 

 

 

 ぶらぶら歩いていると、小物店に目がいった。

 

 

 

 『小鳥の庭』とポップな字体で、鳥が花畑の上で飛んでいるような絵柄が布に描かれている。そんな看板(?)が屋根の上に留めてある。

 

 

 

 なんか良いのないかな...

 

 

 

 そう思って、軒先のテーブルに並べられている雑貨を手にして見てみようとしたところ、広場のどこかから拍手やら野次やらが聞こえてくる。

 

 

 

 何やら騒がしいな...喧嘩でもしているのだろうか。関わり合いにならないように、気をつけなければ。

 

 

 

 と、思い再びテーブルの上に目を落とした。




Tips.プレイヤー露店
プレイヤーは行政機関への申請を出すことで街壁内の規定の場所に露店を合法的に出店できる。露店設備は重量があるためレンタルが一般的だが、買い取ることも可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12_理想を賭ける果たし合い

4286文字
ウボォ


 お、この革の小物入れとか雰囲気あっていいなぁ。ポーションや杖入れによさそうだ...

 

 

 

「お、始まるぞ!」「ファステイア新風物詩の着せ替え隊だ!」「なんだと...」「オーマイブッダ!」「ヒャッハーーー」「コポォ」

 

 

 突然、店主たちが騒ぎ始めた。え...なになに?!なにが始まるの...?喧嘩じゃなくてパフォーマンスだったのか?!

 

 

 

 ちょっと見てみようかな。物色を止めて、人が騒がしく集まっている方へ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 円の中心に黒いインナーのみを纏った二人の男が向かい合っている。

 

 

 

「ではっっっ、尋常に。」

 

 

 

「「ンンンンさいっっしょはグー」」

 

 

 

「「ジャアアンッケンぽいいい」」

 

 

 

「ッシャアアアアアアア!」

 

 

 

「ほう、バニーガールが勝ったか...」

 

「うむ...」

 

 

 

 訳知り顔で頷く観衆たち。

 

 

 

「今回は...木刀デスマッチだ。手持ち10本。全部折ったら介錯な。遠隔攻撃禁止スキル宣言禁止だ。投げ銭もなしだ。他は全てあり。立会人。木刀くれ。」

 

 

「くそ...不利な戦いだぜ...」

 

 

「「「オオオオオオオオオオオオオ」」」

 

 

 赤黒いスーツの男から木刀が両者に手渡される。

 

 

 

 

 

「賭ける奴はいないか!一口3000!ファイトマネー2割勝者分与。」

 

 

 フードを被った軽装備の男が鋭い声で叫ぶ。

 

 

「バニー3くれ!」「チャイナ4!」「バニー5!」「バニー4!」「チャイナ3」「バニー4」「チャイナ5」「バニー2」「チャイナ2」......

 

 

 男は高速の指使いで手元のパネルを操り、マーニと賭け券との取引のパネルを声を張り上げた観衆の前にポップアップさせる。

 

 

 

「レート、バニー1.48!チャイナ2.34!取引終了まで60s!」

 

 

「チャイナ6!」「バニー3!」「チャイナ4!」「チャイナ5!」「バニー2!」......

 

 

 

 よく分からないが賭けをやっているようだ。買っとくか。

 

 

 

「バニー1!」

 

 

 

【3000マーニと賭け券(着せ替え隊印)を交換しますか?】

 

 

 

 画面がポップされたのではいを押す。

 

 

 

 

 

 

「終了!バニー1.52!チャイナ1.99!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、始めるとするかァ」

 

 

「しゃあねぇな...青チャイナちゃん待ってろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、お二方ともよろしいですかな!尋常にぃ...ハジメエエエエエエ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自信あり気な方の男は腕をキリキリと上げ力を込めて木刀を振りかぶった。

 

 

 

 

 もう片方の男は左手に逆さまに木刀を持ち、中段に横向きに構える。右拳は脱力して胸の前に置かれている。

 

 

 

 

 

「チェストオオオオオッッッッッッ」

 

 

 

 口火を切ったのはやはり上段に構えた男の方だった。空気を震わせる気合いを入れ、次の瞬間......コマが抜けおちたように掻き消えた...斬るのか?!その予想は誤りだった。

 

 

 

 

 

 突きだ...

 

 

 

 

 

 振り下ろされた木刀は確かに斬る軌道を描いているのだろう。しかし、踏み込みにより高速で射出された男が持つ木刀の切っ先は唸り声を上げて猛然と獲物へと飛びかかっていた。その切っ先の速度おそらく300km/h...!

 

 

 

「シッッ」

 

 

 木刀での防御という選択肢を捨て、迎え撃つ男が選んだのはカウンター狙いの右ストレート...これもただのストレートではない...?!腕がぶれ...いや、体全体がぶれている?...なんと小刻みに小さなステップを高速で踏んでいる。その拳が秘める運動量は...未知数としか言いようがない。

 

 

 

 

 ゴクリ

 

 

 

 冷や汗が流れる。刹那の交差に全神経を集中させてその瞬間を...目に焼き付ける。

 

 

 

 ブウウウウ ザシュッ   ドゴッッ   ザザザザザザ

 

 

 

 コンマ二秒の攻防。

 

 

 

「ぬうううう」

 

 

 前方へと着地したサムライ男の右わき腹は不格好に噛み千切られ光の粒子となって消えた。

 

 

 

「よっっとっとっとっと。」

 

 

 

 遅れて右耳が欠けたボクサー男は横後ろ方向へ地面を手と足で蹴り回転を重ねながら勢いを殺して着地する。

 

 

 

「やるではないか...見事なカウンターだ!」

 

 

 

 ニタリと顔を歪めて、サムライ男は嗤った。

 

 

 

 

 多分だが...

 

 サムライ男が喉元に突きを放ったのを、咄嗟にボクサー男は対応してみせ、後ろに跳びながら寸前で躱す。

 

 その交差の時に、携帯のバイブレーションめいた右ストレートを放ち、さらに衝突時の運動量が乗り、ボディーをえぐり出す凶悪なカウンターへとなった。

 

 さらには、攻撃の反動を複数回の回転により殺し、ダメージを最小限に抑えた。

 

 

 そんな感じの攻防が目の前で繰り広げられた。と思う。一瞬だったから詳しくは分からないが...

 

 

 

 

 

 

 

「へっ...痺れっちまった...」

 

 

 

 

 弱々しく振られたボクサー男の右腕は、ダラリと垂れ下がる。

 

 

 

 

 

「聞いてはいたが、身のこなしが素晴らしい。さらには、その機の合わせ方、恐ろしい、恐ろしい!...手数を増やそうではないか...」

 

 

 

 

 サムライ男は左手だけで木刀を持ち、下段に構える。同時に右手にも木刀を出現させ上段に構えるとゆらりとゆらりと体が揺れ始める。

 

 

 

「へっへ...楽しくなーってきたじゃん。」

 

 

 

 対峙するボクサー男は今度は体を低く構え、右腕を庇うようにサムライ男の周りを左回りで走り出す。

 

 

 ぐるりぐるりと速度を増し、中心へと渦巻く風と化す。

 

 

 

「むっ...攻めに転じるのか...」

 

 

 

 それに合わせて、サムライ男は摺り足で体を最小限の動きで、回転し正面となるように追尾する。

 

 

 また、左手と右手の木刀の剣先が共に外向きに下段へと下げられる。

 

 

 

 

 

「ヒーハーーーー!フハハハッッッッッッ!」

 

 

 

 

 

 事態は加速する。

 

 

 

 

 

 極端な前傾姿勢で走るボクサー男。ぐるりぐるりと渦を巻き中心へと刀を向け、穴へ吸い込まれるように走り続ける。

 

 

 

 

 跳ねるように飛ぶように駆け、その円は急速に縮まっていく。

 

 

 

 

 

「うむ...」

 

 

 

 

 

 

 

 サムライ男のゆらりゆらりとゆれる体はいつの間にか現実感を失い始めた。

 

 

 脚からはその動きは読み取れず、いつの間にか足先から剣先まで全てが揺れ、緩急がゆらぎ始めた。

 

 

 

 

 

 円が小さくなる...ゆらぎが目に追えないほど早くなり始めたその瞬間!

 

 

 

 

「キエエエエエエエエエエエッッッッッッ!」

 

 

 

 

 

 サムライ男は右の刀を高速で振り向きながら振り抜く。

 

 

 

 ボクサー男はより前傾に、より速くなり、行く手を妨げんとする刃を避けた。

 

 

 

 

 

 突然動いた相手に反応して、体が強張るのもつかの間のことであった。頭の上を刀が通るのと同時に、高速で駆け続けるボクサー男の脳髄にざらつく嫌な気配が走り、体は反射的に離れる方向へと横ステップを踏んだ。

 

 

 

 

 

 その気配ははたして殺意だった。

 

 

 

 

 

 

 

 振り抜かれたと思った刀は振り抜かれておらず最小限の弧を描き、返し刀となって首を斬り落としにいく。

 

 

 

 いつの間にか上げられていた左の刀は大きな弧を描き左膝が落とされるのと同時に地面に叩き潰す滝の如く降りかかる。

 

 

 

 今、右の刀は虚であり、左の刀は実である。両刀共に殺意を秘め、命を刈り取とらんとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクサー男は右斜め前方へと宙を跳びながら謀殺の右刀に反応して振り返りもせずに逆手に持った剣を気配のする頭上へと瞬時にかざす。

 

 

 

 

 

 

 

 それに呼応してサムライ男は手首のひねりで右刀の刃ではなく峰を現した。これより、必殺の左刀へとなぎ倒す剛の剣へと右刀は変化した。

 

 

 

 

 

 右刀は今度こそボクサー男をとらえた。ボクサー男は宙から叩き落とされた。牢獄に繋がれた囚人が断頭台で首をさし出すように地面へと向かっていく。

 

 

 

 

 左刀はギロチンの刃のように首を刎ねんと差し迫っていた。

 

 

 

 

 ボクサー男は終わってしまうのか?いや、そうではない。そもそも、彼は無策で攻撃に臨んだのではなかった。

 

 

 

 空中で身を高速でよじり、左手の木刀を地面に振るう。

 

 

 

 そして、サムライ男とボクサー男は眼を合わせた。ここで、サムライ男は騙されていたと気づいた。

 

 

 

 

 ボクサー男の右腕の筋組織が明らかに最初より極端に肥大化している。

 

 

 

 そして、最大限まで引き絞られた弾丸が放たれた。

 

 

 

ドゴオオオオオオオグワアアアアアンン

 

 

 

 凄まじい衝撃音。空間がたわみ軋む音。

 

 

 

「ぐうう...」

 

 

 

 サムライ男は15mほど飛ばされた場所にいた。左肩から下の部分が破裂し消滅していた。右手にあった木刀も中ほどから折れてしまっていた。

 

 

 

 

「かふゅ...へっ...致命傷だこりゃ...」

 

 

 

 ボクサー男も満身創痍だった。立ち上がろうとするがよろめいて立ち上がれない。喉が前から切れて、呼気が漏れる。右腕は第二関節から切断され光の粒子と化している。左腕は何も持たずぷらぷらと揺れて左肩からぶら下がっていた。

 

 

 

「今度は何でもありでやりたいねぇ...」

 

 

 

 そう言ってパタリとうつぶせに倒れると体はひび割れ、光の破片になって宙へと消えていった。

 

 

 

「ナイスファイト!」「やはり、部位破壊ありのバトルは見応えがあるな!」「短期決戦だったなぁ。」「ああああああ、俺の2万4000マーニィ!!」

 

 

 

 そう言いながら観衆たちはさらに近寄るのではなく、離れていく。なんなんだ...?空気を読んで一緒に離れる。

 

 

 ボクサー男がいた地面には青色のチャイナドレスが寂しく横たわっていた...

 

 

 

「エクストラヒール!」

 

 

 

 立会人から、サムライ男に回復魔法が飛ぶ。

 

 

 

 左腕と右の脇腹が光の粒子で補完され、新たに形成された。そしておもむろに両手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして喉が潰れんばかりに叫ぶ。

 

 

 

「バニーィィイを崇めよッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 観客たちはその声を受けて、声を上げた。その声は次第に大きなものへなっていく。

 

 

 

 

「「「「「バニー!バニー!バニー!」」」」」

 

 

 

 

 

 両手を大きく振って、声を挙げるのを止めさせ、静寂になるのを待った。そして、サムライ男は装備した。漆黒のバニースーツを!

 

 

 

 黒ウサギ耳、黒兎の尻尾、黒いバニースーツ、網タイツに黒いブーツ。を着る険しい顔つきのサムライ男。

 

 

 

 悪夢のような光景がそこにあった。夢に出そうだ...

 

 

 

 すると、サムライ男の目の前の地面に魔法陣が書かれる。

 

 

 

「ルティア来い...ルティア来い...」

 

 

 

 サムライ男は両手をすり合わせ拝むようにつぶやく。観衆は遠巻きに見守る。

 

 

 

 光の柱が空へと伸びて...消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは筋肉ムキムキの2mを越す渋いミドルエイジのおっさんだった。ピンクのゴシックロリータの服を着ている。これは...すごい...

 

 

 

 

 

 

 

「ファッッキンジーィザァアアアアアアアス!」

 

 

 

 絶望にまみれた顔をして、中指を天に立てて叫ぶサムライ男。

 

 

 

「トゥーーールウゥかよお!!刀をヨコセエエエエエエエ!!!」

 

 

 

 遠くから高速で投げられる二本の刀をキャッチし、鞘を投げ捨てる。

 

 

 

「隊員たちの積年の恨みはらさずにおくべきか...ここで会ったが100年目、今日こそはキルしてやる。」

 

 

 

 そう言ってサムライバニー男は刀の腹をベロりと舐める。目が完全にイッてしまっている。

 

 

 

 対する筋肉ゴスロリおじさんは無言で右手に大きな丸盾と左に大きな両刃斧を持って威風堂々と立つ。

 

 

 

 

 

 

「シニサラセエエエエェッッッッッッ」

 

 

 

 サムライバニー男は絶叫した。




Tips.スキル発動
(建設予定地)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13_祈りを捧げよう

5422文字
エイメン


 いや~壮絶な闘いだったなぁ...まさか、あれがこうしてああなるとは...

 

 

 

 スキルを使ったサムライバニー男の強さは半端じゃなかった。しかし、それ以上に筋肉ゴスロリおじさんの強さはそれを上回っていた。いや、堅さというべきか。受け流しの技術や盾を用いた防御も素晴らしいものだったが、さらに驚くべきことに真剣の刀が首や胴体に直撃しても全く傷もないということが驚きだった。いやいやいやいや、可笑しいでしょっといいたくなるような光景だった。

 

 

 しまいには、斧と盾を投げ出して素手で闘い始めたのには呆れ果ててしまった。いや、刀に素手って。

 

 

 

 

 ま、そんなことはどうでもよくて、次こそが大事なんだ。

 

 

 

 サムライバニー男が光の粒子へと変わっていった後、筋肉ゴスロリおじさんは何をしたと思う...?

 

 

 

 いや、これは誰も想像で答えることができないだろう。床に残されたバニーガール一式を着たのだ...

 

 

 

 えぇ...?

 

 

 

 

 今、我々の目の前には、名状しがたき恐怖を感じる...筋肉バニーおじさんがいる。

 

 

 

 誰も言葉を発さない。この奇妙なおじさんは一体何なのだろうか...?敵を倒して、服を着る。それが性癖なのか信条なのかというものはどうでもいいことだ。

 

 

 

 だが、この言い知れない怒りというものを私は、いや、我々観衆は感じていた。バニー...それは漢の夢。唯一無二の到達点であり見果てぬ頂。それを...この筋肉バニーおじさんは踏みにじっっっった!あ”あ?戦争しかねえだろ。バニーのために剣を掲げよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というようなことはもちろん誰も考えていなくて、ただただ目の前で繰り広げられた激戦と目の毒としか思えない二人の姿に興奮と罪悪感と気持ち悪さを感じて、グロッキーになっていたのだった。

 

 

 

 筋肉バニーおじさんの足元に魔法陣が描かれ、光の柱が空へと昇った。

 

 

 

 空は青く爽やかな風が広場を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、教会へ行こう...

 

 

 

 このよく分からないものでごちゃ混ぜになった心をどこかで落ち着かせたかった。休憩したいというのではない。どこかに置いときたかったのだ。いや、私は恐怖に怯えていた...目を閉じれば...ああっ!今も瞼の裏にあの筋肉バニーおじさんの姿が...!現実で味わったことのない怯えというものに私はさらされていた。

 

 

 

 手足が震え...目眩がする...そして、脳裏にあの激戦とサムライバニー男と筋肉ゴスロリおじさんと筋肉バニーおじさんがマイムマイムを踊り迫ってくる。あぁ!

 

 

 

 ふらふらとふらつきながら...かつて降り立った教会の方へと歩いていく。人にぶつかりそうになるがさっと避けられて道ができていく。

 

 

 

 

 

 よろめきながら建物の壁に手をついて息も絶え絶えに這う。視界が明滅し、視界が揺れる。

 

 

 

 教会だ...

 

 

 

 中へと転がり込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁ...筋肉...バニー...」

 

 

 

 長椅子の間を箒で掃いていた少年がぽかんと口を開いていた。

 

 

 

「あわわわ...呪いの急患?大変だぁ...司祭様っ...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、恐怖による症状ですね。ギター熊さん最近お亡くなりになりました?死に近づくと瘴気や毒などの耐性が低下し、状態異常にかかりやすくなるんですよね。

 

 

 

 深呼吸してください。吸ってー吐いてー。吸ってー吐いてー。落ち着いてきましたか?

 

 

 

 デミオ、温かい飲み物をギター熊さんのために用意してきてください。」

 

 

 

「ああ...ありがとう...ミ.........シェルさん。」

 

 

 

 

 

 名前を思い出すのにぼんやりとした思考なのでちょっとかかったのはいたしかたなし。長椅子に横になっているとしばらくして、デミオくんがお盆の上にマグカップを持ってやってきた。

 

 

 

「司祭さま!セラリクスティーを持って参りました。セラの実とドリクスの葉をブレンドしてあるので、ちょうど良いかと思うのですが...」

 

 

 

「うん。いいと思います。さぁ、ギター熊さん一度体を起こして、お飲みください。体が温まり休まりますよ。」

 

 

 

 震える手でマグカップを受け取る。ルビー色をしている。フルーティーな香りだ...

 

 

 

ズズズ

 

 

 

 ほっとする香り。ちょっと苦味があるが、ほんのり甘酸っぱさがある。

 

 

 

ズズズ

 

 

 

 体がポカポカしてきた。震えもおさまってきたか...

 

 

 

 さっきの幻覚は、一体何だったんだ...?ミシェル司祭が【恐怖】...の状態異常と言っていたな...

 

 

 

ズズズ

 

 

 

「大分落ち着いて良くなってきました。ミシェルさん、デミオくんありがとうございます。何かお礼でも...」

 

 

 

「いえいえ。大したことではありませんから。結構です。」

 

 

 

「そうはいいますが...突然駆け込んできたのにお茶まで頂いてしまって...悪いような...」

 

 

 

「感謝の気持ちだけで十分ですよ。」

 

 

 

 そこまで言われてしまっては...お賽銭のちょっとやそっとくらい払ってもいいかと思ったのだが...

 

 

 

「じゃあ、感謝の意を込めて神様にお祈りだけでもしていっていいかい?」

 

 

 

「もちろん、よいですよ。」

 

 

 

 よし、祈るか...そういえばどうやって祈ればいいのかな?今朝は実に適当に祈ってしまったが、大体宗教って独自の祈り方あるしなぁ。どうするのが正解なんだろうか?ここは、素直に尋ねてみますか。

 

 

 

「ミシェルさん、誠に申し訳ないのだけれども。神様に祈るときの作法みたいなものを教えていただけないだろうか?なにぶん、きちんとお祈りするのは初めてなもので。」

 

 

 

 そう質問するとミシェルさんはニコーっと満面の笑みで語り始めた。

 

 

 

 

「そうですか、そうですか。ええ喜んで!お教えいたします。まず、私たち三神教では、三柱の神様、運命神、創造神、調律神を祀っています。そうですね…お祈りの仕方の前にこの世の中がどのように三柱の神々から作られたか、創世神話をお話ししなければなりません。信仰なき祈りはただ暗闇に石を投げるのと同じですから。

 

 

 創世神話について話してもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 創世神話か...神が大地を作ったとかいうやつだよな...正直興味が湧かないが聞いてみるとしよう。

 

 

 

「ええ。お願いします。」

 

 

「それでは...ごほんっ!

 

 

神々の世界から天使たちと共に来られた三柱の神々は、暗闇すら広がっていない虚無の空間に世界を作られ始めました。

 

 

 1日目。創造神は灼熱の大地と雷が降る極寒の海を作られました。しかし、何もないところに作られたため、確認することができません。そこで、運命神は神々の世界から光を持ってくることにしました。地上を見ることができた調律神は大地と海をかき混ぜ大地の熱を冷まし、海を温めていきました。

 

 

 2日目。創造神は自らの血から生命の源を作られました。また、運命神は光から闇を分かち、昼と夜を作られました。調律神は大地を削ったり寄せたりして山や谷、川などの地形を作られました。

 

 

 3日目。運命神が光を神々の世界から持ち込む時にできた僅かな隙間から小狡い悪魔が忍び込み、創造神の目を盗んで生命の源を食べてしまいました。悪魔は瞬く間に増殖し、大地と海を埋め尽くしました。ようやく気づいた神々は悪魔たちを取り除こうとされますが、生命の源と一体になった悪魔は取り除いても取り除いてもどこかに体を隠し復活してしまいます。

 

 

 4日目。怒り狂った創造神は青ざめる運命神に詰め寄りますが、調律神のとりなしにより落ち着きを取り戻します。三柱で相談した結果、天使たちに力を分け与え、地上に遣わして悪魔たちを倒させることにしました。

 運命神は、悪しき物を浄化する光を。

 創造神は、生命を断つ破壊の武器を。

 調律神は、自由を奪う時空の鎖を。

 それぞれの天使たちに持たせました。天使と悪魔たちの戦いは3日3晩続き、ついに最後の悪魔を倒しましたが、その頃には連れてきた天使たちもいなくなってしまいました。神々は大層嘆き悲しみました。

 

 

 7日目。生命の源は大気と海に溶け込み、荒れ果てた地上に植物と動物が生まれました。神々は連れてきた天使たちの代わりに土くれと動物をこね合わせて、人間を作られ、大地を管理する役目をお与えになりました。悪魔を倒すために力を失った神々はお休みになられ、私たち人間が正しく役目を果たしているか天から見守られております。

 

 

 というのが創世神話でありまして。」

 

 

 

「神様たちもそんなに完璧な存在ではないのですねぇ...。」

 

 

 

「ええ。神々も間違えることはあります。しかし、神々は常に物事の正しい在り方を私たちに指し示してくださります。神々が間違えた時は、正しさの天秤が極端に傾いてしまったという、ある意味どうしようもないことなのです。

 

 

 

 さて、お祈りをする時は、まず、手で三角形を作り、それを地に向け、お辞儀をします。これは、三神に対して感謝と尊敬を表すと共に役目を忘れていないということをお伝えしています。

 

 

 

 次に少しだけ天を仰いで三回ゆっくりと手を打ち合わせます。一回目は運命神に、心身を健やかに人生を導いてくださいという祈り。二回目は創造神に世の中に生み出してくれてありがとうという感謝。三回目は調律神に、商売繁盛や良好な人間関係など自分の周りの人々との良い関係を望む願いを表しています。

 

 

 

 次に前を向き手を組み合わせ、祝詞を唱えます。」

 

 

 

「祝詞というと...?」

 

 

 

 するとミシェルさんは、先ほど説明してくれた通りに、地面に向けて三角形を形作った両手を向けお辞儀をしてから、少しだけ上を向いて三回ゆっくりと手を打ち、手を組んだ。

 

 

 

「われわれの主たる三神よ。ただあなたがたのみを神として崇めます。

 

 

 今日、地には光が満ち生きとし生けるものが神々の比護のもと楽園を謳歌しております。われら、地の民はこの地を安らかにする務めを忘れません。

 

 

 神々の元に勇気、愛、節制、知恵、正義を知る魂が集まりますように。どうか、われら地の民を遍くまた限りなくお見守りください。

 

 

 慈悲深き三神に栄光あれ!」

 

 

 

 そう言うとミシェル司祭は目をつぶり顔をうつむいた。

 

 

 

 しばらくして、目を開きおもむろに口を開いた。

 

 

 

「私たちは、神々により、生を受け、世界の中で生き抜く力を与えられ、常に見守られながら生きております。まず、そのことに感謝を忘れずにすること。それが一番大切なことです。

 

 

 私たちが感謝を忘れずにしづつければこそ、神々は私たちの救いを求める祈りに答えてくださるのです。

 

 

 ......。

 

 

 開拓者の方々の世界では私たちの世界ほど神はそれほど身近な存在ではないと聞き及んでおります。神々の加護は明確に示されず、その存在すら証明することができないと...。

 

 

 されども。神が例え存在しなかったとしても、感謝というものは忘れてはいけません。心の豊かさというものはそこから生じるのですから。」

 

 

 

 ミシェルはそう言うと手を思い出したように叩いた。

 

 

 

「おっといけません。ついつい講釈を垂れてしまいました。開拓者の方が教えについて尋ねてくださるのは滅多にないことなので、思わず舞い上がってしまいまして。

 

 

 開拓者の方々は三神教の信徒ではありませんから、先ほどのお祈りの言葉、祝詞は唱える必要はありません。実際にやっていただくお祈りとしては最初の礼と三つの拍手だけでよろしいです。ただ、教会ではこのように神々に対して祈りをささげているということを知っていただければ嬉しく思います。

 

 

 さあ、ギター熊さんも実際にやってみましょう。」

 

 

 

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 NPCも宗教というものを持っているのか...。日本人の感覚からして、敗戦を経て古来からはぐくまれてきた宗教観というものが断絶しているために、神というものの存在自体馬鹿らしいと考えてしまうが、神というものがここでは実在しているのか?無論、ゲーム会社が用意した神であり、作られた神であることは変わりないわけなのだが...興味深い。

 

 

 

 そして...何より驚いたのは思ったよりミシェルが、NPCが人間であるということだ。AIもついにここまで来たというのか?

 

 

 

 しばし思いを馳せ、逡巡しながら、内心を悟られぬようににこやかに笑みを作った。

 

 

 

「そうですね。ええ。」

 

 

 

 ぎごちなく三角を作りお辞儀をしてから、先ほどの話を思い出しながら三回手をたたく。そして手を組んで黙とうする。

 

 

 

 神かぁ...いるわけないよなぁ...しかし、ミシェルさんとデミオくんが介抱してくれたそのことを感謝するつもりで祈ろう。これも非日常というものだ。例え、信じていなったとしても祈りを捧げるという行為は本当なのだからきっと神もちょっとは喜んでくれるだろう。本当にいるわけはないのだが。十中八九、このゲームの運営とほぼイコールなんだろうけど...しかし、信じている人に対して泥を投げることは誰も得をしない意味のないことだ。祈るだけならタダであるからして...

 

 

 

「われわれの主たる...三神よ。ただあなたがた...のみを神として崇めます。

 

 

 今日...地には光が満ち生きとし生けるものが楽園を謳歌しております。われら、地の民はこの地を安らかにする務めを忘れません...

 

 

 神々の元に勇気、愛、知恵、正義を知る魂が集まりますように。どうか、われら地の民を限りなくお見守りください。

 

 

 慈悲深き三神に栄光あれ!」

 

 

 

 眼を見開いて祝詞を言った。When in Rome, do as the Romans do. 郷に入れば郷に従えだ。これもまた一興かな。

 

 

 

 

「祈りを捧げていただきありがとうございます。」

 

 

 

「あ、ありがとうございます...」

 

 

 

 ミシェルさんが本当にうれしそうに微笑んだ。それにつづいてデミオくんも言葉をつづけた。

 

 

 

 よしよし...着実にオルガンへの道を歩んでいるぞ...

 

 

 

 俺は2階にあるパイプオルガンをちらりと見てほくそ笑んだ。




Tips.宗教事情
(建設予定地)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14_この一日の終わりに...乾杯!

4848文字
ヘムヘム



 ぶらぶらと歩いて西の通りや通り沿いのところどころにある広場の屋台を物色していると気がつけば、日が傾き始めていた。二度目の夕暮れだ。

 

 

 

 西の方の森の上が真っ赤に染まっている。東の山の方を見れば、赤茶色だった山肌が暖かみのある色合いを見せており、陰がくっきりと刻まれている。そして、山の端にうっすらと夜が滲んでいた。

 

 

 

 もう、そんな時間か。魔術師ギルドに戻るとするか...

 

 

 

 大広場を急ぎ足で通り過ぎ魔術師ギルドへと向かう。大通り沿いの街灯に立てられた蝋燭に火が灯る。

 

 

 

 広場を囲む建物から光が漏れ、店主たちは軒先に並べた品物を仕舞い始める。そして屋台の装飾も取り外してどこぞへと散って行く。大広場にはガランと人気がなくなった。

 

 

 

 当たりの建物は暗いものも、明るいものもある。その明るさの具合もまちまちだ。

 

 

 

 カンテラを腰にぶら下げたプレイヤーたちが通りを行き交う。

 

 

 

 東の大通りを行くと金属のプレートアーマーを着た二人組の兵士が辺りを巡回しているのが見える。右手にカンテラを持ち、左の腰に剣をぶら下げている。しばらくして大通りから逸れて違う通りの方へと歩いていった。

 

 

 

 衛兵(ガード)か...ふぅ!ふぅ...中指を立ててディスりたくなる気持ちを抑える...彼らは治安を守っているいわば警察...そう警察だ...いくら何でも、演奏中に石を投げたりはしない...はずだ...

 

 

 

 魔術師ギルドの前に行くとディアールが頭に腕を組んで門にもたれかかっているのが見えた。

 

 

 

「よう!さっきぶりだな!ハッハッハ!さあ、飲みにいこうじゃないか!」

 

 

 

 サムズアップで歯を見せて陽気に笑うディアール。こちらに近づいて肩を叩く。

 

 

 

「ああ、行こうか。ところでどこの飲み屋に行くんだい?」

 

 

 

「『詩人の隠れ家』って酒場さ!ちょっと歩くぞ。」

 

 

 

 そう言って背を預けていた門から離れると彼は手招きをして歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 南西部の通りから外れて入り組んだ路地に入り、たどり着いたのは何ということもない背の低い赤い屋根の普通の家だった。看板も何もない。

 

 

 

 ディアールは何てこたないようにぶっきらぼうに木の扉を押して、さあ、どうぞというように手を広げる。

 

 

 

 中は階段で下りるようになっており、地下に掘られて作られているのだと分かる。おっかなびっくり降りていくと、中は思ったよりも広く、そして、思ったよりも人がいる。木で骨組みが作られた石壁の半地下には板張りのホールがあり、カウンターの裏に積まれた樽から忙しそうに給仕が酒を運んでいる。雑談や笑い声、愚痴や失敗談が様々なところから沸き立ち、酒場の濃密な匂いが鼻腔を刺激する。

 

 

 

 若いのがいれば老人もいる。農民もいれば職人もいる。聖職者や魔術師もいれば傭兵もいる。NPCもいればプレイヤーもいる。髪の色もばらばら、服装もばらばら。ただ一つ共通して言えるのは、みんな酒を飲んでいるということだけだ。

 

 

 

 空いている席に腰をつける。よっこらせ...

 

 

 

「さて...何を頼もうかな...」

 

 

 

「ここは、酒が安い割に美味いんだ!あとは、ソーセージだな。まあ、俺の奢りだから任せてくれ。おーい、お姉ちゃん!」

 

 

 

 白いワンピース(下の部分が膨らんでいる)に模様が描かれた赤色のバンダナとエプロンを着けた給仕が駆けてくる。

 

 

 

「とりあえず、カザフォス、ハダオラをジョッキ二つずつ。あと、ビアシンケンとカレーソーセージと、ロビス芋を一皿ずつ持ってきてくれ。」

 

 

 

 

 ディアールが厨房へ行く注文を伝えに行く給仕を目で追いながら言う。

 

 

 

「ここのウェイトレスはなかなか可愛いだろ!あのフリフリがいいんだよな。」

 

 

 

 どうやら彼は制服フェチなようだ。

 

 

 

「うーん...まあ、そうかな...?確かに可愛いかもしれない。うんうん...

 

 

 ところで、こんなところがあるんだねぇ...なんというか、いい雰囲気だ!」

 

 

 

 グラッセ村で立ち寄った酒場は陰気くさくて、ジメっとした感じだったがここは全体的に陽気だ。灯りもどうやら蝋燭ではなく何らかの装置(電灯ではない)を使っているようでかなり明るい。

 

 

 

「ハハハハ!そうだろう!」

 

 

 

 肩をバンバン叩いてくる。

 

 

 

 そうこうしているうちに、先ほどのウエイトレスがカウンターから酒を持ってきた。

 

 

 

「お先にカザフォスとハダオラお持ちしました。」

 

 

 

 ジョッキが4つドンっと置かれる。

 

 

 

「カザフォスがこっちで、ハダオラが黒いやつだ。最初はカザフォスからがいいぞ!」

 

 

 

 両方ともビールだな...カザフォスは、日本のビールっぽい色をしている。黄金色のいい色味だ。ジョッキもよく冷えていて旨そうだ。

 

 

 

 ハダオラは黒いビールだな。黒いビールってあまり飲んだことはないが、どんな味だったけな...

 

 

 

「ささ、カザフォスのジョッキを持って!」

 

 

 

 黄金色の液体が入ったジョッキを右手に掲げる。

 

 

 

「えーっごほんっ...ギター熊!今日は魔術師ギルドデビューおめでとう!そして、初依頼達成もめでたい。酒を飲むにはふさわしい日だ!ハハハハッ!今日は俺の奢りだ。遠慮なく飲んでくれ。乾杯!」

 

 

 

「乾杯!ありがとうディアール!」

 

 

 

 ジョッキをぶつけ合う。黄金の液体が白い泡とともに揺れ動く。

 

 

 

 グビッグビッ

 

 

 

「「くふーーーーーっ」」

 

 

 

 キレッキレだなこりゃ。のど越しが滅茶苦茶いい。しかも辛口なんだが、少しだけフルーティーさもある。飲みやすいなコレ。

 

 

 

「ディアールよ...枝豆ない?」

 

 

 

「エダマメ?なんだそりゃ。初めて聞いたんだが、そりゃ豆なのか?」

 

 

 

「ないのか...そうだ。豆だ。酒に最高に合う豆だよ。」

 

 

 

 あとで、チコに枝豆がないか手紙で訊いてみるか...枝豆がないと酒飲みは半分死んだようなものだ...

 

 

 

「ロビス芋お持ちしました!」

 

 

 

 厨房からウエイターが芋のスライスしたものが大量に乗せられた大皿とパンのカゴを持ってきた。

 

 

 

 ダブル炭水化物やん...

 

 

 

「エダマメとやらも食べてはみたいがこれもなかなか酒に合うぞ!食ってみろ!」

 

 

 

 スライスされ焼かれた芋をフォークに差して鼻の前で眺める。ジャガイモより随分白っぽいようだが...?

 

 

 

 カザフォス少し飲んでから...パクリ

 

 

 

 香ばしい香り、うっすらと塩味。若干粘っとしているが逆にとろみがあり外はカリッと中はトロっとしているな...確かに旨いかも...

 

 

 

 洗い流すように黄金色のビールを飲む。うん...ありだな...

 

 

 

「今度はこっちの黒いのも飲んでみてくれ!」

 

 

 

 どれ...ゴクリ

 

 

 

 うっ...癖のある味だな...サザエの壺焼きの残り汁のあの苦味と味がするような...

 

 

 

「どうだ、旨いか?」

 

 

 

「ちょっと、変わった味だな...」

 

 

 

「ハッハッハ!そうか!口に合わなかったか。旨いんだけどなぁ。」

 

 

 

 ディアールは豪快にグイグイビールを飲む。まるで水のように。実際、そこまでアルコールがあるように感じられないけど...

 

 

 

「ところでギター熊よ...ってなんかギター熊は長いし呼びにくいから、ギターでいいか!あ、オーケー?

 

 

 ギターは今日どんな冒険をしたんだ。初めての冒険だったんだろう。おっさんだがな。ハッハッハ!」

 

 

 

 そう言うとディアールは、スライスした芋をフォークに5つ差して大きく開けた口に送り込みモグモグしている。

 

 

 

「まあ、おっさんだが...おっさんが冒険に胸を踊らせたって良いんだ。おっさんの前に少年だったんだからな。」

 

 

 

「なんだそりゃ。ハッハッハ。でも、それは確かにそうだ!」

 

 

 

「で...俺の初めての冒険だったか?順を追って話すのは苦手なんだが、頑張ってみるか...」

 

 

 

 サザエの残り汁の味がするビールをちびちび飲む。

 

 

 

「あれはいつのことだったか?そう今日の昼前のことだったな...魔術師ギルドと衛兵の詰め所でポーション配達と草刈りの依頼を受けた俺はまず北の草原に行ったんだ...そんで草を焼いた。」

 

 

 

「魔法使ったんだな?最初はファイアーボールだっけか?」

 

 

 

「そうだ。火の玉が目の前から飛び出た時は目ん玉が飛び出るほどびっくりしたよ。あれは楽しいな...草がボウッと一直線に燃えていくんだ。あと、ヒートハンドとかいう訳の分からない魔法も最初から使えた。しかし...高温なるのと火に手を突っ込んでも燃えにくくなるのに気づいたんだが、いまいち使いどころが分からなくてな。」

 

 

 

「ああ、ヒートハンドか。あれはちゃんと練習しておいた方がいい。最初はパッとしないが派生が便利だ。ま、軽めの人体改造みたいなもんだ。強敵と戦うためにはマナを体に慣らして融合させていかなければな。この世界では生きていけないぞ。おっと、開拓者は復活できるか!ハッハッハ!!」

 

 

 

 人体改造?!あのアイロンが?どういうことだ...

 

 

 

「まだ一日目のギターにはまだ早い話さ。だがそのうち分かってくることだ。さ、続きを聴かせてくれ。」

 

 

 

 まあ、いっか...

 

 

 

「おう...確かその後、魔法をバカスカ打って、MP切れになった。それで俺は瞑想ってのを試してみることにした。あぐらをかいてぼんやりと座ってたら春の陽気というかな、風も気持ちよくてそのままぼーっとしていた。それで、確かな...草むしりに飽きたんで村へと向かったんだ。こんな感じに口笛を吹きながらな。」

 

 

 

 ア○イジング・ブルースのサビの部分を軽く奏でる。

 

 

 

「おっうまいな!ハハハッ!」

 

 

 

 ディアールが手を叩く。

 

 

 

「ビアシンケンだよ!」

 

 

 

ドンっ

 

 

 

 三角巾を頭に巻いたおばちゃんがテーブルの上にハムのスライスが載った皿を乱暴に置いて去っていった。

 

 

 

「おっきたか!ビールと最高に合うつまみだ。食べてみな!」

 

 

 

 どれどれ。指でハムをつまんで口にいれる。

 

 

 

「う...うまい...?!はっこれはまさか...ビールと合う...だと...

 

 

 衝撃の旨さだ。肉で脳をぶん殴られた気分だ。そして、カザフォスを飲んだときは肉の甘味が引き立ち、ハダオラと飲んだときは肉の香りが引き立つ。いや、このハムの方がビールを際だたせているのか?

 

 

 おーなんてこった...!」

 

 

 

 ニヤニヤとディアールが笑っている。

 

 

 

 肩をすくめてフッと息を吐くと、おもむろにハムを手に取りロビス芋を1枚挟んだ。そんな...まさか...嘘だろそんなことがあり得るのか?!

 

 

 

 そのまま口の前まで持って行くと匂いをすーっとかいでから彼はそのハムと芋のコラボレーションを小さくかじった。そして、黒ビールをちびっと飲む。そして目を閉じて瞑想し始めた。

 

 

 

 僅かな間閉じられたまぶたが開かれた瞬間。グラスの中の液体と手に持っていた物体は消え去った。

 

 

 

「かーーーーっ!うっめえな」

 

 

 

 その飲みっぷりを見て唾が喉を落ちていく。すぐさまハムを手にとり、芋を挟み...口に運ぶ。

 

 

 

「こ...これは、ビール!」

 

 

 

 黒ビールを喉に流し込む。息をつく前に残りを食べる。うまい!

 

 

 

「いい組み合わせだ。舌の上で肉と芋とビールがマイムマイムを踊っているよ!」

 

 

 

「ハッハッハ!!!まだまだ旨いものはあるぞ。だが、旨い飯と酒じゃあまだまだまだ腹八分目!ワクワクドキドキの土産話を聞かせてくれよ!」

 

 

 

「あれ...どこまで話したっけな...?」

 

 

 

 額に手を当て思い悩む。ゴブリンと闘った話ってしたっけ?あれ...いつだったかな?

 

 

 

 ギター熊はワカメ色の髪をかきむしり、記憶の中からゴブリンと出会ったキッカケを思い出した。

 

 

 

 彼は深く息を吸って情景をよく思い出せるように目を瞑った。そして、そっと口笛を吹き始め...

 

 

 

 酒場にゆったりとし、かつ、壮大な大自然を彷彿とさせる旋律が響き渡る。荘厳な神の降臨の音楽かもしれぬ。酔っ払いの耳にとってはだが。

 

 

 

「どうだい見事なもんだろう。俺の演奏に聴き惚れて一匹の哀れなゴブリンが草をかき分けてやってきてな...」

 

 

 

 例えアルコールが実際には一滴も体を流れていなくても、飲んだくれ共は楽しそうに杯をぶつけ口からくだらない与太話をだらだらと吐き続けるのだった。しかし、それは当人たちにとってはどんな英雄伝にも勝るとも劣らない極上の詩であるのだ...一日の終わりにこのような酒が飲めるのはなんとも羨ましいことではないか。

 

 

 

 いや、彼らだけに飲ませるのはもったいない話だ。グラスはもったかな?では、今日という素晴らしい一日の終わりに...乾杯!

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued...




ということで行き当たりばったりの一日目が終了しました。拙い文章ですが、読んでいただきありがとうございます。

さてさて、第一章のテーマですが、メタすぎますが本編の裏を張ることです。

まず、主人公ですがおっさんにしました。(まだ自分おっさんでないのでおっさんじゃないじゃんと言われたら申し訳ねぇ...)おっさんなので、先に行くことにこだわりはなく、シャンフロ内のいわゆる一般ピーポーという立ち位置にいます。そう、この物語は最前線に立つ廃人や変態や外道ではない普通で大多数のモブプレイヤーの物語なのです。いや、サンラクさんラビッツ籠もるから一般プレイヤーの生態に謎が多いんじゃ...だから、爽快な冒険劇ではなく、「あなたは広大なシャンフロ世界の観光客だ。」と思って視聴していただけたら嬉しく存じます。おっと...さすがにelonaの観光客ではありませんよ!はっはっは...(種族が選べないのは残念ですね。)


他の要素は、オマケです。ジョブ選択:魔法使いが本編だと空気なので魔法使い。elona:カルマ値?ユニークアイテム?...親和性高い。精霊にもろもろのアレ(ウミャアアア)やアレ(オニイチャーン)をぶち込もう(狂信)。演奏:VRで特に何の意味もないのに演奏ってクールだろ(適当)。クトゥルフ:ペンギンと亀、ぶっちゃけ神話的恐怖に相当してるからそのままは出さないけど始原以外の発狂生物もありだな...(探索クソゲー待ったなし)。NPC:きっと聖女ちゃん以外にも癒やしはいっぱいおるんやで...。アイドル...?何のことですか。チュートリアル:チュートリアルスキップされたから捏造しよ。宗教:所々の文章を見るにこのゲームってAI同士で生態系・歴史シミュレーションしていたと思うので、宗教もある程度下地があるのでは。PK:幕末やGH:CほどじゃないにしてもPvP見たいなぁ。闘技場?知らんなぁ。農業:きっと神ゲーだから農業もめっちゃ面白いんちゃうか。料理:飯さえ美味ければそれすなわち神ゲー。まずければクソゲー。酒:実質タダで飲めるっていいな。


第二章は主人公がシャンフロに少し慣れてきたあたりから始まります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02_無軌道な喧騒(けんそう)、その『日常』の一つ
01_中年リーマンのルーティン


やっぱりノープラン進行で...(-.-)y-~~
今回は野良パを組んでファステイア周辺のいろいろなところへ行くというとてもほんわかとした章になると思います。
4611文字



 いつものように仕事が終わった後にシャンフロにログインして草を焼いていた。

 

 

 夏も真っ盛りになってきたのにも関わらずここファステイアは相も変わらず5月の爽やかな陽気が漂っている。

 

 

 

「いい天気だなぁ。」

 

 

 ちょっと小高い丘まで登ってみるか...

 

 

 

 ここ最近は草焼きをやり終えたら、散歩がてら最高の昼寝スポットや散歩スポットを探しては地図に書き込むのを日課にしているのだ。

 

 

 

 ファステイアの草原はすべてがまっ平らな訳ではなく、ところどころデコボコしている。ちょっと小高い丘があったり、小さな池があったりする。

 

 

 

 そうしたリアルなら無視するようなスポットもどこで何をやろうが怒らたり咎められないゲームの世界なら、昼寝スポットや演奏の練習スポット、はたまたゴブリン狩りスポットとして有益なのだ。

 

 

 

 ゲームを始めてから2週間、仕事のストレスをシャンフロ内でまったりと癒やす。そんなルーティンができつつあった。

 

 

 

 

 

 

 小高い丘の上には小さな樹が生えていた。地面が少し禿げている。

 

 

 

 インベントリから木の椅子とテーブルを取り出し、テーブルの上に皿を置いて、NPCの店で買ったクソ堅いパンにチーズとベーコンを載せ、鉄串で刺す。地面に適当に集めた折れた木や枯れた草の山をインベントリから出し、鉄串を地面に刺す。

 

 

 

 インベントリからタレにつけたネズミ肉やウサギ肉、鳥肉、カタツムリ肉を出し同じように鉄串に刺し枯れ山の周りに刺していく。

 

 

「おいしくなーれ、おいしくなーれ。」

 

 

 よく燃える木の棒を取り出しファイヤーボールで火をつけ、枯れ山に木の棒を投げる。火打ち石でもいいのだが何だが芸がない気がしてな...

 

 

 

 パチパチと火が爆ぜる音が聞こえる。

 

 

 

 片面が焼きあがってきたところで、追いファイヤーボールをしてから、ヒートハンドで火傷防止をし、鉄串を回す。

 

 

 

 鼻歌を歌う間に焼きあがるの待っている間にサラダとビールを出して置く。野菜はちょっと『輝ける種』から融通してもらった。

 

 

 

 遠くの方に目を凝らすと池で魚が跳ねているのが見える。魚か...ありだな!

 

 

 

 どんな味がするんだろうか?塩焼きもありだなとか考えていると大分串が焼けてきた。

 

 

 

 焼き上がったもろもろを皿に適当に載せる。少し離れたところでアクアウィップを上向きに打ち、豪快に手を洗う。

 

 

 

「いただきます!」

 

 

 パンやサラダ、肉をモッシャモッシャ食いながら考える。

 

 

 

 今日はどうしようか...

 

 

 

 草を焼いて野外で飯を食うのまではなんとなく流れでやっていることであるが、その後というのは大抵違うことをしている。

 

 

 

 この前は、山を登ってみようとしたり、街をぶらついたり、ゴブリン狩りに勤しんだり、初心者講習を受けにいってみたり、オルガンを弾かせてくれと頼んでみだりだ。

 

 

 

 やってよかったのは初心者講習だ。投擲と鑑定の講習を受けたのだが、投擲は汎用性が高く重宝している。石を投げて、ゴブリンにぶつけたり、背の高い草むらに隠れてからの石で注意を引きつけてからの短剣での急襲でゴブリンを狩ったりするなど搦め手にも便利だ。

 

 

 

 鑑定の方は一度、本を読んだりする必要があるので少々使いにくさがある。自動でポップアップする自前の百科事典といったところか...似た植物は見分けがつかない。地味にめんどいな。

 

 

 

 山登りはすんなり登れて、ピクニック気分を満喫していたんだが、ちょっと行った先に崖になっているところがあって、何かあるかなと思って断崖絶壁をクライミングの逆の要領で降りている時に手が滑って死んだ。今度また挑戦してやる...!

 

 

 一方で無駄に終わったこともある。パイプオルガンは素人には触らせれないってさ。はぁ。ケチくさいぜ...

 

 

 

 ビールをグイッとやりながら、深いため息をつく。

 

 

 

「いっそ自分で作ってみるか...?楽器...」

 

 

 

 何も考えずにつぶやいた一言にハッと気がついた。作る。ありかもしれない。

 

 

 

 よく分からない村の爺さんでさえ作れるんだ。俺だって頑張れば作れるのではないだろうか...せやかて、今持ってる材料で何を作れるというのか?

 

 

 

 インベントリの中を全部ひっくり返して並べていく。

 

 

 

 鉄串×10、短剣2本、スロイーングダガー×5、皮袋(石入り)、ゴブリンの石斧×25、冊子(初めてのファスティア、初級魔術教本)、木の椅子、木のテーブル、小さめの樽(ビール)、皮袋(サラダ用の野菜)、壺肉(タレ)、ネズミや犬の皮、よく燃える木の棒、エクスカリバール...

 

 

 

 困ったな...何も作れる気がしない!

 

 

 

 強いて言えば...木の棒に穴を開ければ笛になるのか?髪の毛をガシガシとかきむしる。あの木の棒を売っていた店主に...聞いてみるか?正直期待できない気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「笛が作りたいだァ?木の棒削って笛にするとか。はっ。できると思ってんのか?まあ、やるだけなら自由だけどよ。ちょいと変わってんなぁ!」

 

 

 

 作務衣姿の店主は彫刻刀で木の棒に細工を入れながらぼやく。

 

 

 

「おりゃあ全くやる気が起きんから自分でやりな!とりあえず、サブジョブで木工職人とれよ。」

 

 

 

「木工職人というジョブにつけば笛作れるのか...?」

 

 

 

「知らん!!!とりあえずサードレマまでいってサブジョブ解放してこいや。」

 

 

 

 なんたる塩対応。

 

 

 

 だが、指針は見えたな。まずは、木工職人になる。それで笛を作るのだ。その前にサードレマとやらに行かなきゃいけないらしいな。

 

 

 

 いや、面倒だな...何でサードレマまでいかにゃならんのだ...

 

 

 

「ジョブを取得しないで作れはしないのか?」

 

 

 

「はっ。お前さんに笛を作る技能はあるのかい?ふーっ。」

 

 

 

 木くずを息で飛ばしている。

 

 

 

「ところで、それ何を作っているんだい?」

 

 

 

「火が出る木の棒だ。チャッカマンを作ろうと思ってな。」

 

 

 

「チャッカマン?!欲しい...!」

 

 

 

「ゆくゆくは爆発しながら火の玉をはきだす木の棒を作ろうと思っとる。うーん?この素材はなかなか火力が出ないな...いや、意匠との相性が悪いのか?」

 

 

 

 グリップの部分を握りながら先端から赤色の炎を出し入れし、一人ごとをつぶやいている。

 

 

 

「チャッカマンいくらするんだい?!」

 

 

 

「まだ試作品だから売らねぇ。」

 

 

 

 なんだい...売ってくれないのか。ファイヤーボールで火を起こすの地味にもったいないから欲しいなぁ...

 

 

 

「おめぇ笛じゃなくてもよぉ。太鼓でもいいなら俺が作り方教えてやるよ。」

 

 

 

 ツンデレかな…?

 

 

 

 

 

 

 

 小さめの広場の噴水に腰掛けながら、そこら辺の道端で拾った小さめの酒樽の上の部分を取り外す。

 

 

 

 底の部分に蓋を重ね、NPCの雑貨店で買った釘をエクスカリバールで軽く打ちつけ固定する。

 

 

 

 蓋の横の部分に等間隔になるように目印をしてから、釘の頭が少し出るように打ち込む。

 

 

 

 動物の皮をなめしたものを樽の上にかぶせ、皮にあけた穴に紐を通す。

 

 

 

 紐を釘の頭に引っ掛け力を込め、対角となる箇所同士をきつく張っていく。

 

 

 

 皮の表面がピンと綺麗に伸びていたら完成だ。

 

 

 

「タラッラッッラッラー、樽太鼓ぉ...」

 

 

 

 店主が選りすぐった木の棒で叩けば...

 

 

 

 ポン!

 

 

 

 なかなかいい音じゃないか?二本の木の棒を構え適当に乱打する。

 

 

 

 ポンポン!カッ!ポンポンポンポン!ボン!

 

 

 ポポポポポポポポン!ボン!

 

 

 あのアーケードゲームを思い出すな。バチを上に放り投げ、落ちてくるものをキャッチしながら二連打する。

 

 

 ドドォン!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと静かにしてくれないか...?今最高に来ているんだ。」

 

 

 

 そばに座っていた釣り人が噴水に糸を垂らしながらぼやく。

 

 

 

「いや、俺も相当テンション来ているのだが...初めての楽器で!思ったよりも出来がよくてビビった...

 

 

 あなたはこんな噴水で釣り糸を垂らして何をしようというのだい?」

 

 

 

「シーーーっ」

 

 

 

 人差し指を口先に当てて口を開くなと注意をしてくる。

 

 

 

 黙って一緒になって水面を眺めていると釣り竿がしなり始めた。

 

 

 

「よしよーし、食いついてくれよ...!しゃーキタキタキアァッッッッ!」

 

 

 

 少し淀んだ水底から魚影が水面に浮かび上がる。

 

 

 

「フィーーーーーーーッシュッッ!!」

 

 

 

 宙を光を照らしながら舞う一匹の青白く細長い魚。

 

 

 

「よーっし!これは食えそうだな...!」

 

 

 

「お見事!いやー...しかし、噴水で魚が釣れるんですね。」

 

 

 

 魚を壺の中に入れてから釣り人は答える。

 

 

 

「それはゲームだからではないのかなぁ。それなら、噴水で魚が釣れてもおかしくはないでしょう。まあ、何でも釣れるならいいけどね。」

 

 

 

「なるほど?」

 

 

 

 そう言って釣り人は釣り針に餌を刺し、釣り糸をまた噴水に投げ入れた。

 

 

 

 

 

 

 騒がしくしたら怒られそうなので太鼓をしまい込んで、商店や露店をぶらりと物色しようかな。いや、せっかくMMOなのだから、パーティープレイとやらも経験してみたいな...なんとなく気後れしていたのだが今までソロで十分楽しめたがそろそろ慣れてきたし試してみたいかも。

 

 

 

 大広場に面したところにあるという開拓者集会所に立ち寄ってみるか。まだ早い時間帯だからちょうど人も集まり始めたところだろう。

 

 

 

 

 

 

 ハロワでもらったパンフレットの地図で建物のおおよその位置を目で確認し、てくてく向かう。

 

 

 

 パーティーっていうとドラ○エみたいに前衛と後衛があるんかな?しかし、VRは仮にも3次元だ。ステータスで考えていると痛い目に会うかもしれない。現実世界だと小隊みたいな感じだよな...魔術師は現実にはもちろんいないがどういう立ち位置なんだ...火炎放射器とかそんな感じだろうか?それか戦車や榴弾的な攻撃力か?

 

 

 

 いや...白兵戦が主流なことを考えると戦国時代を想定した方が良いのかなぁ。侍が前衛、弓兵が後衛といったところか。うん。変則的な弓兵が魔術師ということだな...槍とか斧、剣、短剣は全部前衛だろう。で、弓使いや魔術師が後衛っと。

 

 

 

 他にどんな戦闘職があったけ?ああ、聖職者とかもあったな...まあ...傷薬という認識ではだめなんだろうな...前衛の防衛ラインを崩壊させないための要員とみるべきだな。瞬発的な動きができないだろう後衛は近接されるとまずい。そこで前衛が押さえておくということなのだろう。その前衛をゾンビ化させるのが聖職者ということだろうな...

 

 

 

 

 そう考えてみると様々なパーティー構成が考えられるな。前衛だけというのも正解だろう。自己管理になり個人の近接戦闘のセンスに依存する反面で、タンクや後衛というものを切り捨てたスピード感のあるものもできる。ただ、不測の事態、例えば毒や長期戦、遠隔でメタられた時への対応力はなくなるのではないだろうか。

 

 

 

 後衛がいるメリットは、射程が長いということに尽きると思う。狩りの途中で逃げられた時や相手が遠くから向かってくる時、空中にいる時に攻撃を加えられるのは大きなメリットだ。一方で敵が接近したときはそのメリットは消えてしまいむしろ近接対応ができないためにデメリットとなってしまう。

 

 

 

 しかし、一つの部隊に前衛と後衛がいるというのは案外難しいんじゃないんだろうか...?連携が大変そうだ。前衛だけ、後衛だけというのは意外にも最適解なのでは...?後衛だけなら十字砲火や引き打ちもできそうだ。

 

 

 

 いや...連携プレーというものを上手くやれば、リアル寄りなゲームでも前衛後衛というのが運用できなくもないのかなぁ...そもそもどんな敵がでるかまだあまり分かってないしな。木の上にいた大蛇やあの群れで突っ込んでくる牛なんかが今後出てくると考えると、ちゃんと前衛も後衛もいた方が対処できそうな気もする。

 

 

 

 

 

 

 地図の場所にはの石造りの大きな建物があった。屋上から紋様が縫われた垂れ幕がだらりと垂れ下がっており、木と黒い金属で作られた両開きの扉は最大限に開け放たれている。夜も開くのであろうか。扉の両側には篝火の台とおぼしきものが備え付けられていた。

 

 

 

 中へとのっそりと入っていく。さて、仲良くやっていける人がいるといいのだが...




Tips.アイテム生成
アイテムを作成する時にゲームシステムの判定によりステータスや機能が反映される場合とされない場合が存在する。反映されるには熟練以上の技術が必要とされる。素材の性能そのままのアイテムは耐久値などが低く壊れやすい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02_Hi!みんな!グループ作ってね!

ラララコッペパン
5836文字


 中に入るとそこかしこの壁や柱の一面に掲示板が打ち付けられており、奥にはバーカウンターがある。天井かなり高く作ってあるな。外から見たときは二階建てかと思ったが、壁際にちょこっと二階部分がある作りのようだ。体育館や教会の2階部分みたいな感じで真ん中は吹き抜けになっている。

 

 

 

 真ん中の空間には丸テーブルと椅子が乱雑に置かれ、おしゃべりに興じているグループや頬杖をついてボーッとしてたり、立ち上がって話し込んでいる人たちがそれなりにいて賑わいを見せている。

 

 

 

 どういう流儀なのだろうかとキョロキョロ辺りを見渡す。すると、入り口あたりの壁打ち付けられた大きな木の板に何やら彫られているのを見つけた。

 

 

 

【集会所の利用法】

・パーティーの待ち合わせや解散に使ってください!

・その場限りのパーティーに参加したい場合は集会所内だけで利用できるパーティー募集のタグを使いましょう!

・パーティーの結成は戦闘時を除き基本的にどこでも行うことが可能です。

・パーティー内でのトラブルは基本的に自己責任です。アイテム配分や金銭貸与によるトラブルなどは運営から直接対処することはありません。

・違法行為、ハラスメント行為などが悪質なプレイヤーに出会った場合は運営にご一報をお願いします。

 

 

 

 木の板から隣に目を移すと、小さめの黒板が3つくらい並んでいた。萌え系の女の子の絵、名前を言ってはいけないネズミの絵、よく分からない文言が所狭しと描かれている。

 

 

 

 これ、そういう用途では絶対ないよなぁ。そういえば昔は駅にこんな黒板あった気がする。待ち合わせしてたのだろうか、先行っとるわ、とか伝言が書かれてたな。

 

 

 

 それでタグ?メニューを開いてみると...【タグ管理:パーティー募集】という項目が追加されている。

 

 

 

 押してみると設定画面がポップアップしてきた。「希望人数:メンバー3~5人くらい、魔術師、10レベル帯」の情報が頭上のネームタグの近くに表示されるように設定する。

 

 

 

 知らない人に仕事じゃないのに話しかけるのか...少し緊張してきた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りをゆっくりと歩いて見渡しながら誰に声をかけるべきか品定めをする。

 

 

 

 

 

 

 

 お、あそこの机とかいいんじゃないんだろうか?剣を持った男が二人いる。おそらく前衛だけなのだろう。魔術師ならばパーティーが組めるかもしれない。

 

 

 

「こんにちは。魔術師なんですが、パーティー組みませんか?」

 

 

 

「あー...魔術師は特に募集していないですね!」

 

 

 

 声を掛けるとすぐに断られてしまった。前衛だけのパーティーを組む予定なのだろうか?

 

 

 

 

 軽くそうですかと残念ぶっといてから、他のテーブルを歩いて良さそうなところを探す。

 

 

 

 いや、待てよ。さっきの奴ら出会い厨というやつではなかろうか...女の子でないと断るというのは、ありえないことではない。ふむ...違和感がないように現実と馴染む年齢、体でキャラを作ったが早まったかもしれんな...女の子のキャラを作っておいた方が色々と楽だったか...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん...?何だアレ?

 

 

 

 入り口近くからは柱や観葉植物で見えなかったが、テーブルの上で椅子を三段重ねにし、その上で逆立ちをしている人がいた。髪はない。つるっパゲだ。うっすらと青いからどちらかというと丸坊主か?

 

 

 

 なぜ逆立ちをしているんだ...

 

 

 

 気になって近づいてみると、そばに背の低い金髪巻き毛の少年がいて、何やら甲高い声で逆立ちの人に話しかけている。

 

 

 

「ちょっとぉ...まだやるの?!もー危ないから止めた方がいーよ!」

 

 

 

「ぬぬぬ...まだ高さと不安定感が不足しておる!椅子をもう二つほど重ねたいので手渡しして頂けると大変助かるぞ。」

 

 

 

「いーけどさぁ...投げないと届かない高さなんですけど?」

 

 

 

 少年は身長が140cmくらいで、確かに椅子の上で逆立ちしている男に渡すのは少々無理がありそうだ。なぜ、少年が嫌そうにしながら手伝っているのかは疑問ではあるが、どれ...こんな所で逆立ちをしている事情は全く分からないが、少年の困った姿を見ていると手伝ってあげようかな、そういう気分になった。

 

 

 

「こんにちは。先ほどから見ていましたがお困りのようですな...私が代わりに椅子を手渡ししましょうか?」

 

 

 

「こんにちはー。えー?!いーんですか!助かります!」

 

 

 

「ご老公、大変助かるぞ。ご協力感謝!」

 

 

 

「いや...まだそこまで年ではないのだが...」

 

 

 

 年寄り呼ばわりされて内心非常に腹が立ったが、少年から椅子を受け取り、逆立ちの態勢を止めた男に一つずつ手渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬうっん...フハァ...」

 

 

 

 ゆっくりと下半身を持ち上げ...

 

 

 

「ふっっほあ”あ”...ぬぬぬ...」

 

 

 

 野太い声を上げながら椅子のタワーが反動でガタガタ揺れたが、バランスをとり抑えこんだ。見事な逆立ちだ...

 

 

 

 外見に見合わぬ恐るべしバランス能力...心配そうに見守っていた少年もほっと一息をついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチパチパチパチパチパチ

 

 

 

 

 

「おー!なんかすごいっすね!」

 

 

 

 手を叩きながら近づいて来たのは、2mはあるんじゃないだろうかという長身の女性だった。皮鎧を着ている。確かにバランスと度胸はすごいだろうな。

 

 

 

「サーカス団員かなんかかっすか?!すげー!」

 

 

 

 長身の女性は目を輝かせて興奮気味に話しかけている。たぶん声からして男だ。

 

 

 

「賞賛かたじけない。某はサーカス団員ではない。しかし、逆立ちは日課であり趣味である!」

 

 

 

 クワッと目を見開きそう断言する逆立ち坊主。逆立ちが日課なのか...健康法か?

 

 

 

「すごいっすね!まだまだ椅子積むんですか?!もっと高いところで逆立ちするの見てみたいなーっ。いや、あんまりすごいんでどこまでいけるのか気になっちゃって!」

 

 

 

「ぬっはっはっは。では、頑張ってみよう。あと2つ重ねるぞ!」

 

 

 

 

 そう言うと5脚の椅子に器用に立ち片手を差し出してきた。まだやるのかと若干呆れつつ、まだまだやって欲しいという自分がいる。どうせなら限界までやって欲しいものだ。

 

 

 

「手渡しではもう届かない距離なんだがどうするんだ...?椅子かなんかで台を作るか?」

 

 

 

「いや、大丈夫っすよ!これに引っ掛けて渡しますんで!」

 

 

 

 そう言って長身の女性が取り出したのは長い柄の斧、これは...ハルバード...か。

 

 

 

「先端にちょうどよいくぼみができててちょうど椅子の背の部分に引っ掛けやすいっすよ!あら、よいしょっー!」

 

 

 

 そう言うとハルバードの先端に椅子を引っ掛けて逆立ち坊主の元へと近づける。

 

 

 

「これは名案なり!よし椅子を積んでいきますぞ!」

 

 

 

 

 そうして出来上がったテーブル1脚、椅子7脚のタワーはなかなかの高さだ。7mくらいはありそうだ。この建物結構天井高いな...突如作られた椅子タワーを見て、建物内がどよめいている。

 

 

 

「ぬぅ...この高さは某も未経験の領域。それゆえ成功するか失敗するかは分からぬ!それでもよろしいか?」

 

 

 

「いいっすよーーーーーー!頑張ってください!」

 

 

 

 拳を掲げて叫ぶ長身の女性。巻き毛の少年と俺は黙って頷き返した。

 

 

 

「ではいくぞ!フハー、フハー。ヌウウウウウッッッッッン!」

 

 

 

「うっすらと光が差す建物内にそびえ立った椅子の塔。おそらく前人未踏の偉業。ここファステイアの集会所でこんなことをやった男はいるのだろうか、いやいない(反語)。その椅子の塔の頂上に今ゆっくりとゆっくりと栄光のピラミッドが打ち立てられようとしています...!さぁ成功なるかァーッ!」

 

 

 

「わっ急になんなの?実況始めたんだけどこのおじさん...」

 

 

 

 おっと...思わず心の実況が漏れてしまったな。少年がちょっと引いてしまった。だが盛り上がってくれた人もいたようだ。

 

 

 

「ガンバれーーーー!」

 

 

 

 長身の女性はハルバードを振り上げながら応援の言葉を叫ぶ。

 

 

 

 椅子のタワーがグラグラと目に見えるほどに揺れ動きながら、その揺れに抗い乗りこなそうとしているのだろうか。じれったいくらいの速度で脚が上へと運ばれる。雄叫びもあげることなく静かに、壊れ物を運ぶときのように繊細に。

 

 

 

 そして、先端が孤を描き、天頂に...到達した。

 

 

 

 ドッッッ

 

 

 

 固唾を飲んで見守っていたあちらこちらから、安堵と賞賛の言葉、万雷の拍手が飛び交い空間に充満した。

 

 

 

 天頂に向かってまっすぐに伸びた人体ピラミッドは椅子の塔と一体となって、神々しさすらも思わせる。賞味期限はまさに今この時。あと数秒後にはその絶妙な均衡の中でもたらされた妖しくも美しい秩序は、再び混沌に呑まれ、無味乾燥なものになってしまうのだろう...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その終わりの時は唐突にやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 椅子の塔がゆっくりと斜めに傾き、中断あたりの椅子の脚が外れ、折れた塔の上の部分がこちらに向かって迫ってくる。って...

 

 

 

「ヒエーーーーーッ」

 

 

 

 巻き込まれちゃ敵わん。横に飛び込んで、崩壊し、容赦なく雨のごとく降りかかってくる椅子から、男からみっともなく逃げる。

 

 

 

 ドンガラガッシャンとけたたましい音がしたあと、振り返ってみると、幸せそうな顔をした男が椅子の山に紛れていた。

 

 

 

「大丈夫っすか?!」

 

 

 

 そう言いながら長身の女性が駆け寄って、椅子の山から逆立ち坊主を引きずり出す。

 

 

 

「うむ...ぬんっ!大丈夫である。いやぁ、至福であった!」

 

 

 

 満足されたようでぼーっとした様子で頷いていらっしゃる。

 

 

 

「ほらー、やっぱり、くずれたじゃん。無理しちゃだめだよ...」

 

 

 

 巻き毛の少年はそう言って椅子の山を元の場所に戻し始める。

 

 

 

「いや、あれは成功っすよ!ちょっと頑張ってみて新しい境地に達することが出来たから、挑戦して良かったんすよ!」

 

 

 

「うむ!某の逆立ち道に新たな1ページが刻まれた。現実ではさすがに怖くてできぬからな!」

 

 

 

 なかなか良い雰囲気ではないか...これは、ひょっとすると、上手くことを運べばパーティー結成できそうな予感。

 

 

 

「お見事、お見事!私もハラハラしながら見守っていましたが、いやぁ~...良いもん見れましたね~。今度逆立ちをご教授いただきたいくらいです!あっ...そうだ、皆さんはパーティーはお決まりで?お恥ずかしながら一人寂しくやっているもので、ここにこれば仲間が見つかると聞いたものですから。はっはっは。ここで会ったのも何かの縁。もし、良かったらフレンド登録して野良パ結成しませんかね~。」

 

 

 

「あっ私もそのために来てたんだった。」

「それは大歓迎であるぞ!」

「いいっすよ!」

 

 

 

 ...しゃあっ!好感触...逃がさんぞ...

 

 

 

「おっ!ノリがいいね。プレイヤーネームはギター熊で、魔術師をやってるよ。目標は楽器を手に入れて演奏をすることかな。今日はよろしく。」

 

 

 

 

 

「自己紹介ね!私はロッコ。盗賊かな。目標は特にないかな。でも...いや、何でもないよ。」

 

 

 

「某はマサカという名前である。修行僧である。目標は逆立ち道を極めること、それのみ!」

 

 

 

「なかなか濃い面子っすね!俺はトマトサイダーって言います。オフラインのゲームは結構やってきたんですが、オンラインは初めてで。騎士(斧)っす。まー皮鎧なもんで騎士っぽさ皆無っすけどね。目標は強いモンスターを刈りまくることっすよ!」

 

 

 

「自己紹介も終わったし、とりあえずフレンド登録しよっか。」

 

 

 

 すかさず、フレンド登録申請を3人に送る。すぐさま了承のメッセージが送られてくる。

 

 

 

「それぞれの目標を聞くと一番達成しやすそうなのはトマトサイダーさんのモンスター狩りかな?そうだねぇ...今回の野良パの目標はフィールドでのモンスター狩りでもいいかな。」

 

 

 

「まあ、それでいーかと。」

 

 

 

 特に反対意見もなく賛同の声が得られたので、目標物の相談を始めよう。

 

 

 

 

「トマトサイダーさんはどんなモンスターを狩りたいんだい?」

 

 

 

 そう訪ねると彼女(いや、彼か?)は顎に手を当ててちょっと悩んでから言う。

 

 

 

「そうっすねぇ...噛みごたえがあるやつがいいすね。こう、なんというか、捕ったどー!っていう感覚があるような奴です。ゴブリンはもう胸焼け気味なんで。」

 

 

 

「ふむふむ...難しい敵と闘いたいと...時にみんな、跳梁跋扈の森には行ったことあるかい?」

 

 

 

「最近はそちらメインで戦っているっすよ。」

「某はまだ行ったことがないな。もっぱら始まりの平原とファステイアを探索しておった。」

「私もまだ行ってないかな。」

 

 

 

「ふむふむ...これはゲーム内で知り合った人から聞いた話なんだけどね。跳梁跋扈の森は西側ほど森が薄く東側ほど森が分厚くなっていて、そのためなのか知らないけど、出てくるモンスターの強さも西側の方が弱く東側の方が強くなっているそうなんだ。

 

 

 そこで、こういうルートはどうだろうか?」

 

 

 

 ファステイア周辺の地図を開いて指で跳梁跋扈のセカンディル方面を指差す。

 

 

 

「まずここ、ファステイアから西に進んだ所を出発点とする。

 

 

 それから北側の森をぐるりと回ると、この場所にグラッセ村という村がある。ここをゴールとする。

 

 

 このルートで行くとすると敵も徐々に強くなるし、平原からそこまで遠くない場所で戦えば途中で逃げることもしやすいよ。」

 

「レベル帯はどのくらいであるか?」

 

「スタート地点で10レベル、ゴールで20レベルだ。レベル的に厳しそうなら先にスタート地点あたりでレベリングを行ってもいいと思うよ。」

 

「ドロップ品の配分は?均等配分?」

 

「均等配分がいいだろうね。」

 

「ポーションが足りなくてもらった場合はどうします?」

 

「それは、個人間でやりとりすればよくないっすか。」

 

「撤退する条件を決めといたほーがいーかと。」

 

「では、一つは相談して撤退すると決めた時。他は誰かが死に戻りした時でどうでしょうか?」

 

「時間も決めといた方がいいのではないか?」

 

「そうですね...今日何時までやれそうですか?」

 

 

 

「2時頃まで大丈夫っす。」

「某は11時ごろで上がりたい。」

「私は10時ごろかな。明日も学校あるから。」

 

 

 

「私も11時ごろまで大丈夫ですが、ここはロッコさんに合わせて10時ごろとしましょう。そうですね...もし気が合えばゴール地点まで着くまでパーティーを継続するというのはどうでしょう?1日で着く可能性もありますが。」

 

 

 

「それでよいだろうな。」

「さんせーい。」

「それでいっすよ。」

 

 

 

「今6時なので、装備の準備を15分程度でして出発しましょう。ご飯休憩は移動中に呼ばれたりしたら一人ずつ運ぶということで。私はもう済ませてある。」

 

「えっ運ばれるんすか?!」

 

「市場を見て回ってたら背負い子が売っててね。これなら一人で一人を運べる。つまり同時に二人までご飯休憩やトイレ休憩にいける。」

 

「くれいじーだわ...」

 

 

 ふっ...とんとん拍子で話が決まって何よりだ...




Tips.パーティー機能


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03_夜間の平原を駆け?抜けろ!

ギシャアアアアア
4946文字


 ポーション、装備などを各々で準備した後、我々は、西門前の広場に集合した。

 

 

 

って...

 

 

 

「ぶはっマサカさん、まさかの逆立ち。」

 

「逆立ちっアハハハッ!さすがっすね!」

 

 

 

 集合場所に最後にやってきたのは逆立ちで歩くマサカさんだった。あんたすげーよ、すげーよ...!

 

 

 

「移動する時はできるだけ逆立ちで行く縛り故に。これも逆立ち道のため、許せ。」

 

 

 

「そんなんで戦えるのー?」

 

 

 

「某がこのゲームを始めてからもう1週間たったがほとんど逆立ちで過ごしておる。今では逆立ちで小走りもできる。それに、こう見えてもVRカポエイラ道場で免許皆伝を修めた身。戦闘でも安心して任されよ。」

 

 

 

「そ...そうなんだー...」

 

 

 

 あれっ?カポエイラってずっと逆立ちだったっけ?よく知らないから分からないけど...

 

 

 

「よぉし...みんなそろったし、行こうか!」

 

 

 

 カンテラを腰に吊る下げて暗闇の草原へと向けて足を踏み出した。いや...足と手を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の草原はソロだと若干厳しい物があるが、対処できるレベルだ。昼はゴブリン、大ネズミ、角ウサギ、大カタツムリ、やたら攻撃的なスズメやハト、モグラ、羊、ロバなどがいるんだが、夜はそれらの強化体及び捕食者が現れる(当社調べ)。

 

 

 

 基本的に狙いが見えやすく、避けやすいので安心だ。

 

 

 

 GRRRRRRRRRR

 

 

 

 早速野犬たちのお出ましだな...4体で道をふさいでウロウロしている。

 

 

 

 話をしながら歩いていたので横並びだったが、早速トマトサイダーとロッコが前へと飛び出す。

 

 

 

「ひゃっっっっっっはあああああああ!」

 

 

 

 トマトサイダーが敵の真っ只中に行き、ハルバードを持って1回転。

 

 

 

「うわっ危ないよ!奥のもらうよ!」

 

 

 

 ロッコがたたらを踏んで文句を言った後、奥に吹っ飛んだ犬に走り出す。

 

 

 

「はいっすうううう!」

 

 

 

 そのままの勢いで2回転目に突入し、逃げようとする野犬をなぎ倒しながら、上へと飛び上がり振りかぶった斧が、倒れた1体に振り下ろされる。

 

 

 

「オーバーキルだなぁ...」

 

 

 

 その様子を野犬の首根っこを掴んで、エクスカリバールを振り下ろしながらじっくり見て、大技のモーションを堪能する。

 

 

 

「っと...もう全滅させたか。」

 

 

 

 マサカもなんか分からないうちに1体倒していたようだ。どうやって攻撃したのだろうか...気になる...

 

 

 

「インベントリにドロップが入ってたー!ドロップは自動配分されるみたい。」

 

 

「そっすね。これなら後で配分調整する必要はないかもしれないっすよ。」

 

 

「いや、パーティー結成時に配分方法の設定があったんだけど、まだいじってないんだ...多分自動配分になっていない。さっき見てみたら配分方式として、戦闘ごと、パーティー解散時、任意の3方式があるんだが、戦闘ごとだと確認が面倒だし、パーティー解散時でいいよね。」

 

 

 

「まあそうっすねー。」

 

 

 

 

 

 雑談しつつ夜の平原を進んでいく。

 

 

「トマトサイダーくんのメイン武器はそれ?」

 

「今んところそうっすね。」

 

「さっきの回転する技なんてゆーの?」

 

「えーっと...確か大回転切り(トルネードスラッシュ)だったすね!」

 

「使うときは今度から先に言ってよね。」

 

「あ、はい。」

 

「ギター熊殿はバールのようなもので戦っていたがそれはMPの節約のためであるか?」

 

「そうそう。魔術師はMPが切れると一気に置物になっちゃうから節約できるところはしないとね...」

 

「ほほう。」

 

 

 

 カンテラの明かりが歩みと共に左右へと揺れる。

 

 

 

 夜間の戦闘と昼間の戦闘の最大の違いは視界の広さである。一寸先は闇なんて言葉があるが、何も明かりがないところでモンスターと戦うというのはぞっとする話だ。雲がなく晴れている場合は月明かりでうっすらと輪郭が見えることは見える。しかし、それがどのような攻撃をしてくるのかははっきりとは分からない。一方で、夜行性の動物というのは闇を見通す目を持っているものだ。

 

 

 

 そこで我々人間にはカンテラの灯りが必要となる。一部のジョブでは夜目に対応するスキルを身につけることができるらしいが。

 

 

 

 灯りがないのなら、よく目を凝らして注意して見なければ、普通の只人は闇に呑まれて気づかぬうちに死んでしまうだろう。

 

 

 

 最も誘蛾灯に招かれた怪物たちに襲われるのと引き換えの話であり、夜は大人しく街にいるのが正解なのだろう...NPCにとっては。

 

 

 

「右手からゴブリンが来てるよ!」

 

 

 

 闇に紛れてゴブリンどもが6体現れる。槍2体、剣4体。まーた、ゴブリンか...

 

 

 

「よし...ホワイトフォッグ。」

 

 

 

 バールから白いもやが飛んでいく。そう...このバール、杖にもなるのだ。ただし強化率はほぼないが!

 

 

 

 集団で移動するゴブリンたちにぶつかり、顔にまとわりついた。

 

 

 

 ゴブリンたちはゲギャゲギャと、うっとおしそうに手を振って、顔にまとわりつく霧を払おうとする。しかし、散らしてもまた霧は顔に集まってしまい諦めてしまった。

 

 

 

「おぉ!霧であるか?!」

 

 

 

「みんな!ちょっと待っててくれ...ゴブリン狩りは日課なんだ。デモンストレーションがてらゴブリン狩りの技をお見せしよう。

 

 

 まず、多数のゴブリンが出てきた時は霧を出し視界を防ぐ。私はあまり速くないのでね...」

 

 

 

 バールを腰帯に取り付けた鞘に刺し、右手にスローイングダガーを出現させ、ゴブリンたちの足に投擲する。

 

 

 

「視界を奪った後はゴブリンの足を奪う。これでゴブリンたちの機動力はないようなものだ。後は煮るなり焼くなり投げるなりバールでどつくなりするだけだ。」

 

 

 

「いや、ゴブリンただでさえ歯ごたえがないのにこんなんじゃ豆腐より歯ごたえないっすよ!」

 

 

 

 うずくまってダガーを抜こうとしているゴブリンや闇雲に剣を振るって疲れきっているゴブリンを見て、憤りを見せるトマトサイダーくん。

 

 

 

「戦いに卑怯はないのだよ...もっとも暗闇でこれをやるとダガーの回収が大変なのだが、今回は無事全部命中したようだ...良かった。」

 

 

 

 そう言いつつバールで殴りつけに行くかと思ったら、ロッコがいつの間にか颯爽と駆けていき...ゴブリン二体の喉元を切り裂いてゆく。

 

 

 

 うずくまる敵の頭を踏み、飛び上がると身を捻りながら残りのゴブリンの頭へと短剣を投げつけ、シュタッっと着地する。

 

 

 

「ふっ...甘いよギター熊さん。短剣投げるのは私の方が得意だよ!」

 

 

「ぐぬぬ...本職には勝てないか...」

 

 

「みなやりおる。某も見せ場が欲しいぞ。次は譲ってくれぬか?!カポエイラ範士(※自称)の力見せてくれよう。」

 

 

 

 逆立ちのまま膝を屈伸させ、マサカが言った。それなら、任せてみようじゃないかということで次に獲物が来たときはマサカにまず戦ってもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホーッ、ホーッっと暗闇に鳥の鳴き声が響き渡る。

 

 

 

 鳴き声の発生源はどこかとあたりを見渡すと、森から何らかの影が飛んできているのが見えた。

 

 

 

「これはもしかしなくてもフクロウだなぁ...私が相手しようか...?飛ばれるときついだろう?」

 

 

「ぬっ大丈夫である。任されよ。」

 

 

 

 そう言うとマサカは逆立ちの姿勢を止めて地面に足を着けた。えっ...逆立ちのまま戦わないんか...

 

 

 

 

 そして彼は奇怪な動きをし始めた。リズムをとるかのように横に揺れ動き、頭を上下させる。そして、フクロウの方へ声を上げながら向かっていく。

 

 

 

 はっ...そう言えばカポエイラはダンスの要素を兼ね備えた格闘技と聞いたことがある...

 

 

 

 HooooooooooOO!

 

 

 

 全長2mの大きさのフクロウが急降下し、鋭い鉤爪でマサカを掴みとろうとする。

 

 

 

「ぬうっん!」

 

 

 

 マサカの足が地面から離れ宙に浮いた。そして体がグルりと回転し、伸ばされた脚がフクロウを襲う。

 

 

 

 Hoo!

 

 

 

 しかし、フクロウは警戒していたのだろう。直前でスピードを緩め、軌道を変えて危うげなく避けた。再び急上昇し低い鳴き声を夜の平原に響かせながら機を伺うフクロウ。

 

 

 

 そしてまたダンスし始めるマサカ。くぅ~...避けられたか。

 

 

 

 再び急降下してくるフクロウ。

 

 

 

 マサカは今度は態勢を低くして...フクロウの鋭い爪を避ける。そして、片手を一瞬ついて片足立ちで通り過ぎるフクロウに回転蹴りを放った。

 

 

 HgyaAOo?!

 

 

 尾の部分にあたりフクロウの巨体が左右にぐらつく。されど態勢を持ち直し、また手の届かない空へと上がっていく。

 

 

「ぬぅ...浅かったか!」

 

 

 フクロウは大きな翼でゆったりと羽ばたきながら空を旋回して、くちばしをカチッカチッと鳴らし威嚇している。

 

 

 

 しばらく様子をうかがっていたが、上空にいる自分に攻撃することができないと安心したようだ。ホーッと一鳴きしたあと、断続的に鳴き声を上げながら、今度は真上からくちばしを先端にして真上から猛スピードで落下してきた。

 

 

 

 マサカは後方へと身を引いて、堅いくちばしによる一撃死の危機から逃れた。しかし、風圧により足が地面に縫い止められる。

 

 

 

 フクロウ地面へと接触する瞬間、衝撃音と風が辺りに吹き荒れた。

 

 

 衝撃によって小さなクレーターが形成される。

 

 

 地面に突き刺さったフクロウは大きな翼を広げ羽ばたき、くちばしを引っこ抜く。そして、首をかしげ...

 

 

 

 HOOOOOOOO!

 

 

 

 耳がキーンとなるほどの雄叫びをあげた後、マサカに向かって飛び跳ね、獰猛な蹴りを放ち爪で体を貫こうとする。

 

 

 

「ぬぅ...」

 

 

 

 マサカは身を低くしたり、宙返りしながら、フクロウの啄みや蹴りから逃れるも、明らかにペースを持ってかれている。

 

 

 

 これはいけない...と思った。思ったよりもヤバめのモンスターだ...もし、俺がソロで遭遇していたら死んでいただろう。少し甘く見ていたか。夜の森の獣を。

 

 

 介入するか...いや...マサカさんは一人で戦いたいと言った。その思いに水を刺すのも...あぁ...もどかしい。魔法での遠距離攻撃をしてよいものか?ターゲットこちらに移った場合、最初に落ちるハメになるかもしれない。

 

 

 いや、トマトサイダー君に行ってもらって二人で戦ってもらうか...?

 

 

 

 

 思い悩むながら、苦しみつつ闘うマサカさんの姿を見つめる。

 

 

 

 そうしているとふと気づいた。

 

 

 

 太鼓を叩いてみたいと。

 

 

 うん...?ふつふつと湧き上がる謎の欲望に疑問を感じ、その欲望の源泉は何かと考える。

 

 

 そうだ...リズム。最初のマサカさんの動きにはリズムがあった。しかし、今はない。崩れてしまっている。

 

 

 太鼓でそのリズムを整えてあげることはできないだろうか?

 

 

 

 

 インベントリから樽太鼓を取り出し左手に抱える。右手にバチを持って...俺は太鼓を叩いた。

 

 

 

 トントトントントトン

 

 

 

 太鼓を叩き始めると、フクロウ含めみんなこちら顔を向けてくる。それに構わず、太鼓を叩き続ける。

 

 

 

 マサカがハッとした顔をして、太鼓のリズムに合わせて動き始める。左右に前へ後ろへ太鼓の音に合わせてステップを踏み込む。

 

 

 

 それに呼応してこちらに若干気をとられながらも、フクロウは猛然とマサカへと襲いかかる。息のつく間のないコンビネーション。翼で加速したり、風圧をかけ牽制しつつ、マサカを仕留めんとくちばしで突き、鉤爪で切り裂こうとする。

 

 

 

 激しくなる攻防。その中で少しずつマサカの蹴りがフクロウを捉え始める。

 

 

 

 トトトットトトトットトン

 

 

 

 変幻自在な蛇のように相手が攻撃すると形を変えて、そのまま攻撃に転ずる。勢いが死ぬことなく位置エネルギーが両脚に籠もる。蹴りに押され、ジリジリとフクロウの足が後ろへとさがり始めた。

 

 

 

 Hooo?!

 

 

 

 マズいと思ったのだろう。フクロウは大きく後ろに飛び跳ねて、後退する。そして翼を羽ばたかせて...逃げようとするが...

 

 

 

 ぴったりとついていったマサカが飛び跳ねながら、勢いよく脚を回転させて、逆立ちになり手をフクロウのすぐ前の地面についた。そして、手で地面を蹴って...

 

 

 

 2連撃。

 

 

 回転するマサカの二つの脚が続けざまにフクロウに強烈な蹴りを見舞わせる。

 

 

 

 頭から崩れ落ちようとするフクロウ。さらにマサカは身を捻りながら、片足立ちでもう一度蹴りを加えた。

 

 

 

 HOOOooooo...?!

 

 

 ドドンッ

 

 

 気合いを入れて最後に2回太鼓を叩いた。フクロウは爆発四散した。いや、光の粒子となり消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マサカがこちらに歩いてくる。そして、こちらの目を見つめ...

 

 

 

 

 

 ガシィッッッッ

 

 

 セッションが終わった後、俺と彼は掌を思いっきりぶつけ合い、握った。

 

 

 

「ナイスカポエイラ...」

 

 

「ナイス太鼓である!」

 

 

 

 へへっ...こう言うのも悪かねぇな...




Tips.暗闇


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04_J( 'ー`)し ごはんよー、おりてきなさい

4671文字
ガツガツ


 しばらくして、森の端へとたどり着いた。車が2台は通れるほどの道が先へと続いている。

 

 

 

「ほう!これが跳梁跋扈の森であるか!楽しみである!」

 

「ふーん、変な鳴き声も聞こえてくるし、夜の森はちょっと不気味だね。」

 

 

 

 今まで平原と街メインで動いてきたマサカとロッコがそのように初見らしい感想を言う。まあ...俺もそこまで森に詳しくないのだけれども...一番知っているのは多分、トマトサイダー君だろう。

 

 

 

「しかし...これは...なかなか重いな...ステータス分、現実より力がある感覚があるが...地味にきつい。」

 

 

 

 そのトマトサイダー君がご飯の呼び出しを受けてログアウトしてしまったので、誰かが背負子で背負うことになったのだがうっかり失念していたことがあった。

 

 

 

 それは、背負える人材が俺とトマトサイダー君しかいないことだ。マサカは逆立ち道とか言ってきやがるし、ロッコはサイズが小さいので背負っても引きずる羽目になる。それゆえどちらかが休んだ場合は強制的に背負うことになるのだ!なんてこった...

 

 

 

 というわけで、俺の背中には意識を失ったトマトサイダー君があった...

 

 

 

 ふと気づいたのだが...前衛は動き回るから後衛の俺が誰かが休憩入る度に背負う羽目になるんじゃないだろうか...?

 

 

 

「さー森に入ってこー!時は金なりだよ!」

 

 

「うむ!そのとおり!我々ならきっと大丈夫である!ヌッハッハ!」

 

 

 

 困った...今さら休憩しようと言っても格好がつかないし...うーん...まあ......いっか。ダメージ受けてる訳じゃなく、重さによる圧迫感が地味に辛いのと、足取りが重いだけだ。魔法メインでやれば問題ないだろう。

 

 

 

「そうだね...北上していこうか。」

 

 

 

 踏み固められた道から外れ、森の中へ歩きだした。

 

 

 

 

 索敵のスキルを取得しているロッコに先頭を歩いてもらって、敵の接近に注意しつつ足を進めていく。

 

 

 

 夜の森は一層暗い雰囲気だ。風による葉のざわめきも昼間とは違い不気味なものに感じる。カンテラの灯りが揺らめく光のドームを作り、木や地面、草、そして我々を浮かび上がらせる。暗闇の中でほかの物はなくなってしまったかのような感覚。絶海に浮かんだ孤島でもし遭難するとしたら、このような感情と同類のものを味わうのだろうか...?

 

 

 

 しばらく無言で歩いていると、ロッコが手で制止をかけてきた。

 

 

 

「この先...何かいる...」

 

 

 

 その言葉を聞いて我々は戦闘の準備をした。マサカは地面に足を下ろし、俺はバールを左手で腰から抜いて構えた。

 

 

 

 

 

「どーする?戦っちゃう?」

 

 

 

 俺とマサカはサムズアップして、答える。答えはゴーだ。戦うために来たのだ。恐れていては始まらない。

 

 

 

 カンテラの灯りを一度消し、音を立てないように、ゆっくりゆっくりと近づいていく。

 

 

 

 

 しばらく行くとロッコが木の陰に隠れつつ、ハンドサインをした。視界の奥の方ををうかがうのを黙って待つ。そして、ロッコはいぶかしげにじっくりと確認したあとつぶやいた。

 

 

 

 

「えっ...なにこれ。かわいい...」

 

 

 

 かわいいとは...?どうゆう状況?気になった我々も木の陰に隠れて覗いてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 木が生えていない開けた空間。月明かりに照らされて周りの場所より少し明るい。

 

 

 

 草が地面に生えており、土が剥き出しというわけではないようだ。その開けた空間に何か小動物がたくさんいる。あれは、ウサギだな...

 

 

 

 一匹(一羽だっけ?)の耳の欠けたウサギが切り株の上で大きな槌を掲げてキーキー鳴いている。それを囲むように短剣や鉈、斧、槍、剣を持ったウサギ達が無言で佇み、時折、飛び跳ねている。

 

 

 

 ウサギの集会...?

 

 

 

 

 

 

 そう言えば今日は満月だったなぁ。少し雲が多めだったけど。ウサギさんたちも飛び跳ねたい気分なのかもしれない。

 

 

 

 

 槌をかかげていたウサギが柄の先で地面を突いた。

 

 

 

 ピョンとウサギたちが跳ねる。

 

 

 

 切り株の上に乗っていたウサギもピョンピョンと跳ねる。

 

 

 

 ウサギたちは切り株の周りで好き勝手に何度もピョンピョンと飛び跳ねる。

 

 

 

 飛び跳ねながら武器を振り回し、刃物で月明かりが反射し、キラキラと輝きを散乱させる。

 

 

 

 ホップステップジャンプ!スピン、宙返り!小さな体躯であらんかぎりに飛び跳ねる。刃をきらめかせ夜の闇を切り、突き、裂く。

 

 

 

 こりゃぁ随分と物騒なウサギさんだなぁと思いつつも、殺伐としながらも幻想的な景色に目を奪われた。

 

 

 

 十五夜に月で餅をついているウサギさんとどちらが幻想的なんだろうか?ウサギが作った餅も食べてみたい気がするが...

 

 

 

 

 ひとしきり飛び跳ねた後、少しずつ静まりを取り返していく。

 

 

 

 切り株の上の耳の欠けたウサギが槌を天へと掲げた。

 

 

 

 ウサギたちはそれに続いて自分の持っている武器を天へと掲げていく。

 

 

 

 武器たちが月の光を受けて青白く輝く。

 

 

 

 しばらくして耳の欠けたウサギは槌を下げた。

 

 

 

 ウサギたちもそれに続いて各々の武器を下げる。

 

 

 

 もう一度槌の柄の先が地面に突かれた。ウサギたちが一斉に飛び跳ねる。

 

 

 

 それを見た耳の欠けたウサギはニヤっと破顔して大きく飛び跳ねた。

 

 

 

 次の瞬間、耳の欠けたウサギは宙へと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 なんだったんだ...?

 

 

 

 首をひねって呆然としていると、切り株の下にいたウサギたちは一匹、また一匹とどこかへと消えていく。

 

 

 

 そしてあれだけたくさんいたウサギたちが5匹だけになり...

 

 

 

「うーーーーっす!ただいま戻りました!」

 

 

 

 俺の背中で伸びをして大きい声をあげたやつがいた。

 

 

 

「いやぁ!超特急でご飯食べてきたっす!あれ?ここどこですか?」

 

 

 

 ヒェッ...

 

 

 

 つぶらな、殺気立った目でこちらを一斉に見て、ウサギたちは武器を向けてきた。

 

 

 

「ホワイトフォッグ!」

 

 

 

 

 大慌てでバールを向けて呪文を唱えつつ、ダガーで彼をくくりつけた紐をちぎっていく。

 

 

 

 ホワイトフォッグがウサギの方へ向かうのと同時に丸い玉が投げ込まれる。

 

 

 

「目を閉じてー!」

 

 

 

 ロッコが叫ぶ。

 

 

 

 言われるがままに目を閉じると、まぶたの裏が真っ白に何度も光る。

 

 

 

 恐る恐る目を開けると、ロッコが短剣でウサギへと襲い掛かっていた。おお...行動が速い。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 クラクラしているウサギたちへとバールを横へ振りかぶりながら唱える。

 

 

 

「危ないっす!」

 

 

 

 トマトサイダー君の声が聞こえたと思ったら、わき腹にハルバードの柄が突き刺さる。

 

 

 

「ぐえっ...」

 

 

 

 さっき頭が通る予定立った場所をウサギが剣で凪いでいた。こりゃぁ、厳しい。ファイヤーボールも直撃せず間接的に焼いたのみだったのでイマイチだ。大人しく後ろに下がろう...

 

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 

 少し前線から離れて呪文を唱える。地面から砂の防塁が足の付け根ぐらいの高さまでせり上がる。

 

 

 

 飛び上がりながら刃をきらめかせ肉を裂くウサギども。攻撃を避けながら、ダガーで応戦するロッコ。相手と踊りながらカウンターを決めるマサカ。相手の攻撃をはじきつつ強引に攻撃をあてにいくトマトサイダー。

 

 

 

 何だか仲間外れな気分を味わいつつも、防塁から頭とバールを覗かせて、飛び上がる瞬間に合わせてウサギどもの頭上に...

 

 

 

「下降せよ、ダウンバースト!」

 

 

 

 強烈な下降気流を吹かせる!

 

 

 

 飛んでいるウサギが地面へと猛スピードで落下する。そこに加わる追撃の手。たまりかねてキーキーと鳴き声を上げる。

 

 

 

 脅威に感じたのか、1匹が前線を離脱してこちらへと向かってくる。

 

 

 

「アクアウィップ!」

 

 

 

 水の鞭でウサギの進路を横に薙ぎ払う。すかさずダガーを空いている右手に出し待ち構える。

 

 

 

 案の定、飛び跳ねて避けたウサギに向かって2回、時間差でダガーを投げる。

 

 

 

 一度は鉈で弾いたが、次のダガーははじけずに体へと突き刺さる。

 

 

 

 よし!

 

 

 

 後ろへと衝撃で落ちたウサギがダガーを体から引き抜き、左右に飛び跳ねながら向かってくる。

 

 

 

 一度ダガーを投げるが当たる気配はない。

 

 

 

 防塁の横からウサギが回り込もうとする。これはまずいかも...近接だと分が悪い。しょうがない...保険が上手くいってくれることを祈ろう。

 

 

 

「ロックニードル!」

 

 

 

 ウサギが防塁の横を最短距離で通り抜けようとした時、防塁の横から突然鋭利な石の棘が生え、宙へと飛び出した。

 

 

 

 そして、横を通ろうとしたウサギの体はその石の棘の山に深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 よし、このままにしておけば継続ダメージ入るな...接近されそうになったからヒヤッとしたがなんとかなった。接近戦は課題だなぁ...

 

 

 

 砂の防塁から顔をのぞかせると、ウサギが2匹に減っていた。どうやら順調に倒しているようだ...

 

 

 

 状況が落ち着いたので冷静になってみると、ソロだったら間違いなく死んでるな...多数の敵に囲まれた時に、死角から1撃を食らうと避けられそうにない。

 

 

 

 もっと設置型や妨害型の魔術を覚えた方がいいかもしれないな...攻撃魔術よりも戦略を練りやすそうだ。パーティーの時のフレンドリファイヤが怖いし...それもなんとかしないと。

 

 

 

 刺さっていたウサギが継続ダメージで散った。

 

 

 

 落とし穴とか沼とか足を阻害する魔術はないだろうか?後でギルドに行って訊いてみようか...

 

 

 

 おっと、終わったようだ。近づいて行くとトマトサイダー君が声を掛けてくる。

 

 

 

「ターさん、大丈夫っすか?1体そちら行ったすけど。」

 

 

「ターさん?私のことかい?」

 

 

「そうっす!ギとかグとか言いにくいんでターさんって呼ばせていただきたいっす!」

 

 

「あー...確かに...呼びにくいよな...別にいいよ。しかし、それを言うならトマトサイダーもなかなか長いよね...そうだな...トマ君はどうだろう?サイ君だと奥さんになっちゃうからね。」

 

 

 

「トマっすか!まあまあありっすね。」

 

 

「うん、アリだろう。こっちに来た敵だけどね。まあ、問題なく対処できたよ。でも、接近されると厳しいというのはなんとなく分かった...さっきは助かったよ、ありがとう。」

 

 

「いやいや、たいしたことないっすよ!」

 

 

「いやいや...あれはウサギに首を刈られるところだった。まったく気づいていなくて、危なかったよ...」

 

 

「ヴォーバルバニーは油断してるとすぐ隙をついてくるからしょうがないっすよ。」

 

 

 お互い謙遜合戦をしていると、ロッコが割って入ってきてトマ君に指を突きつけて言う。

 

 

「ちょっとちょっと、トマ君でいいのかな!君、忘れてない?ログインする時、大きな声を上げながら入ってきたでしょ!アレであのウサギ達に気づかれたんだけど!パーティーを危険にさらしたいの?」

 

 

 トマ君が思い出したようにハッと表情を変えたあと、ポリポリと後頭部を掻きながら反論する。

 

 

「あー、なんとかなったからいいじゃないっすか...?それにあんなタイムリーな状況になっているとは思わないっすよ...大げさに言い過ぎじゃないっすか!」

 

 

 それを聞いてロッコは目を逆立てた。

 

 

 

「君ねえ!あとちょっと早かったらあんなものじゃなかったよ!もっといっぱいウサギいたんだから!ねぇ、マサカさん。」

 

 

 

 いきなり話を振られてたじろぐマサカ。

 

 

 

「う、うむ...なにやら30匹ほどウサギがおったな!あと、一匹強そうな耳の欠けたウサギがおった!」

 

 

 

「30匹のヴォーバルバニーっすか!それに耳の欠けた強そうなヤツまで!くそ!あぁ...戦いたかったなぁ...なんでこんなタイミングで...母ちゃん...グスッ...」

 

 

「そんなん戦ったら、生き残れないわよ!無鉄砲にもほどがあるわー!」

 

 

 

 ロッコが呆れながら怒るという器用なまねをし、地団駄を踏んだ。

 

 

 

 むしろグッドタイミングだったのか(戦慄)...こいつはヤベー戦闘ジャンキーなのでは...という可能性が頭をよぎる。

 

 

 まともなやつが俺とロッコさんしかいないじゃないか...どうにも先行きが不安だな...

 

 

 やれやれ、とこっそり肩をすくめた。




Tips.急所と防御
あらゆる生物には物理的急所が存在あるいは設定されており、その場所を攻撃するとダメージが増加する。急所判定にはタイミングや攻撃方向も関わっており、ステータスやスキル補正なしでは成功が困難である。

急所とは逆に防御判定も行われる。素ではDEFの値が参照されるが、それとは他に攻撃を軽減する方法が存在する。代表的なものだとジャストガードとパリィ。ジャストガードは相手の攻撃に対して、タイミングを合わせて剣や盾で弾くことで攻撃の威力を軽減する技術。パリィは攻撃の方向を少し変えて命中を避ける技術。それらは盾職系統の他にそれぞれの武器における防御寄りの流派で習得することができる。自前でもできる(そんな奴は...格ゲー中毒者かクソゲー中毒者だけ)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05_あの鈴の音の子守歌(ララバイ)

5086文字
スヤァ



 カンテラに火を点けて、4人で森を進んでいく。

 

 

 

「そういえば、ロッコさんや...さっき光る球投げてなかった?閃光弾めいたやつ。」

 

 

「あ!あれはね、忍者の屋台の人から買ったフラッシュダマってゆーアイテムだよー。5個700マーニ。」

 

 

「ふわぁっ...ニンジャ?!ニンジャ?!」

 

 

 

 再びNRS(ニンジャリアリティショック)が身体を駆け抜ける。いつからここはマッポーの世界になってしまったのだ?!余りにビックリしたので辺りをキョロキョロと見回した。

 

 

「な、なにー?その反応?挙動不審だよ。」

 

 

 ハッ...ここはあの都市じゃない...シャンフロだ...随分前にハマり過ぎて何回も読み返してたら夢にまで出てきたんだよなぁ...

 

 

「大丈夫だ。問題ない。」

 

 

 

 

 何だろう無性に煙草が吸いたい気分だ...スッキリしたい。それに...なんだか口元と手が寂しいんだよねぇ...この世界にもあるんだろうか...?チコに聞いてみようかな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チコと言えば、森をよく見てみると本当にいろいろな植物があるな...木もいろいろな種類のものが生えている。

 

 

 

 『輝ける種』や木の棒屋の店主があんなに熱心になる理由も分かる気がするなぁ。確かにこんだけ試せる素材がごろごろ転がっていたらいろいろやりたくなっちゃうよね...

 

 

 

 

 

 

 

「この木とかハンモック吊せないかなぁ...昼寝に良さそうだ...」

 

 

 

 木を見て自分もなんか楽しめないかなぁと思ってたらそんなことを思いついた。

 

 

「ハンモックであるか?それはナイスであるな。」

 

 

 逆立ちで歩きながらマサカが独り言に相槌を打ってきた。

 

 

 

「おっ...このロマンが分かりますか。ハンモックでゆらゆらと揺られながら気持ちよく昼寝するロマンが。」

 

 

「分かりますぞ。さぞかし気持ちよいでしょうな、高いところで地面から離れて脱力するのは。」

 

 

「そうでしょうそうでしょう。なんか共感するところが違う気もしますが同志がいて嬉しいですなぁ...」

 

 

 

 

 

 ハンモックについて語りあっていると、ロッコとトマ君も話に入ってきた。

 

 

「ハンモックもいいっすけど、木の上ならツリーハウスもありっすね!木の上での生活憧れあるんすよね!」

 

 

「あー、分かるかも!メルヘンチックでかわいいよね!」

 

 

「ツリーハウスか...!その発想はなかったな。フィールドに家って建てられるんだろうか?立てた場合、家も残るのかな?」

 

 

「さあ、どうであろう?」

 

 

「耐久値がなくなるまで残る気がするなー。だって道具や武器だとそうだよねー。」

 

 

「素人が作った家とかすぐ壊れそうっすけどね。2LDK。ただし、日曜大工のお父さんが作ったポチの家的な!」

 

 

「確かに職業持ちじゃないと...厳しそうだな。木の上は特に。」

 

 

「そうよねー...」

 

 

 

 ロッコはちょっとがっかりした様子だ。

 

 

 

「依頼をすればいいのではないか?」

 

 

 マサカが不思議そうに言うと、ロッコの顔がパッと明るくなった。が、依頼するとどんくらい取られるやら...現実だと数千万やろ...ゲームでもそれくらいするとしたらぞっとする...うごご...マイホーム......働かなきゃ...ローンはオッケーですか...

 

 

 どこかに気前のよい大工さんは転がってないかな?いや、俺は自由な根無し草でいきたい。家はナシナシ!

 

 

 

 

 

 暇をつぶすための会話が途切れた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 

 

 微かに鈴の音がした...

 

 

 

 

 

 

 うん?と行った様子で耳をすませる一同。

 

 

 

「これ鈴の音?鈴虫でもいるのかな?」

「なんすかねぇ?」

「風鈴の音にも聞こえましたぞ。」

「何だろうか...」

 

 

 

 

 

 

 

 森林の縁から離れる方になるが好奇心に任せて進んでいこうということで意見が一致し、音のする方へ行ってみようという話になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロッコの先導で先を進む。徐々に、少しずつ音が大きくなっていくのが分かる。一体何がいるのだろう...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな高い鈴の音が辺りに響き渡っている。その音が聞こえる方向を見てみると連なる木々の奥に鈍く光る何かが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはゆっくりとこちらに近づいてきた。近づくにつれて何であるか分かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宙に浮いてるっすよ...?!幽霊だ!」

「鐘であるな。」

「クリスマスベルじゃないかなー。」

「あれは....?!いや、微妙に違うな...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふよふよと浮かんでいるそれは黄金色をしたベルだった。複雑な文様の装飾が施されたもので、表面に不自然な光沢が浮きでている。上の方の輪の部分にはカラフルなリボンがつけられている。マサカが鐘と言ったのもう頷ける大きさだ。寺の鐘というより、教会の鐘というべきか...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか今日はおかしな敵によく遭遇するな...いや...敵なのか...?

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れたところでふわふわと浮かんでいるベルをみてそんな疑問が頭によぎる。何故だか敵意があるように感じられないのだ。それどころか喜んでいるように感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 心地よい音だ。

 

 

 

 

 

 

「あれ?HPが回復しているっすよ?」

 

 

 

 

 

 なんだって...ステータス画面を開いて確認してみると、音が鳴るたびにHPとMPが回復しているのが目にできた。

 

 

 

 

「なんだろー不思議な子だね。かわいいかも。」

 

 

 

 

 ロッコが宙に浮かぶベルの方に近づいて撫でようとする。

 

 

 

 

 

 

 ting*

 

 

 

 

 

 

 伸ばされた手をベルはサッと避けた。

 

 

 

 

 

 ting*ting*ting*

 

 

 

 

 

「あれっ?あれっ?この子、すごく素早い?!」

 

 

 

 

 

 ロッコがなんとか触ろうと手を伸ばすがことごとく素早い動きで避けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつ、どうすればいいっすかね?」

 

 

 

 

 ロッコがムキになって触ろうとする様子を見ながら、バトルジャンキーのトマ君が困惑している。確かに友好的な態度だから手を出しづらいな...

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ...ぜぇ...だめだー...」

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 嬉しそうにベルは音を鳴らす。ご機嫌なようだ。どうしたものかと話していると...

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 構って欲しそうに上下に揺れながら、ベルは音を鳴らす。

 

 

 

 

 

 

「遊んでほしいのではないか?」

 

 

 

 

 

 マサカがその様子を見て推測する。しばらく観察していると音の鳴り方が変わった。

 

 

 

 

 

 

 水音のような、包み込むようなこもった音。さざ波のような音。

 

 

 

 

 

 

 あれ...眠気が...

 

 

 

 

 

 立っていられないほどの眠気が襲ってきて、地面にへたり込む。

 

 

 

 

 そして眠りの世界に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 RRRRRRRRRRRRRRRR

 

 

 

 RRRRRRRRRRRRRRRR

 

 

 

 

 

 ハッ...寝てた?!

 

 

 

 

 けたましい目覚まし時計の音で飛び起きた。

 

 

 

 

 RRRRRRRRRRRRRRRR

 

 

 

 

 

 

 

 ふよふよと浮かんでいるベルから騒音が発生している。

 

 

 

 

 

 

「うるさいっすね!」

 

 

 

 耳をふさぎながらトマ君が叫ぶ。そして、ベルに切りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ting*

 

 

 

 

 

 

 

 ハルバードは空振りした。

 

 

 

 

 

 

 ガサガサと周りの茂みから複数の物音が聞こえる。

 

 

 

 

 GRrrrrrrrrrrruuuuu

 

 Aoooooooooooohhhhhhh

 

 DangDang

 

 Brrrrrrrrrrraaa

 

 

 

 

 暗闇に獣の威嚇音が響き渡る。

 

 

 

 

 

「これは...まずいのでは...........一旦逃げるぞ!」

 

 

 

 

 状況の悪さを考えて、逃げることを提案した。しかし、状況は思ったよりも悪かったようだ。

 

 

 

 

「だめ!四方を囲まれているよ?!」

 

 

 

 

 ロッコが周りの様子を察知して叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 

 ベルは嬉しそうに音を鳴らす。

 

 

 

 

 

「まさか...このベル...眠っている間にモンスターを引っ張ってきたのか...?!

 

 

 

 先ほどまで和気あいあいとしていた雰囲気だったのに...モンスターはモンスターということか!くそったれめ。」

 

 

 

 

 Ring*Ring*

 

 

 

 

 茂みからモンスターたちが飛びだしてきた!

 

 

 

 

 

 KYYYUUUU!

 

 5体の尻尾がふくらんだリス。

 

 

 DangDang

 

 一体の4足歩行するイカ。

 

 

 AoO!AoO!

 

 4体のトサカのあるサル。

 

 

 CHuuuuu...CHuuuuu...

 

 十数匹の血の色をしたネズミ。

 

 

「ゲヒッ...ゴブッ...」

 

 3体の蛮族風な格好のゴブリン。

 

 

「ブフーッ...ブフーッ...」

 

 1体のコシミノだけを身につけたオーク。

 

 

 

 木々の間から飛び出し我々を囲んだそれらの目は等しく充血し、怒りに身を震わせていた。

 

 

 

 

こっちを見ろ!

 

 

 

 

 ギョロリ...濁った目が、目が、目がトマ君に向けられる。

 

 

 

 ハルバードが振られた。

 

 

 上方高く振り上げられた斧が高速の踏み込みと共に、ゴブリンを真っ二つにした。

 

 

 

 けたましい獣たちの咆哮。

 

 

 尻尾で地面を蹴り飛びかかってくるリスを先端部分の穂先で串刺し、そのままの勢いで正面のゴブリンごと木に叩きつける。そのまま柄を払って体当たりで後方のゴブリンを突き飛ばす。

 

 

「ヒハッハハハッ」

 

 

 地面を踏み、慣性を抑えつけながら、込み上げる笑いが押さえきれないように声を上げている。そして、空気を震わせるトマ君から咆哮が放たれた。

 

 

 

かかってこいやぁああアア!!

 

 

 

 

 

 

 おー...これは...っと、仕事せねば...な!

 

 

 

「ホワイトフォッグ!そりゃ!おら!.........ホワイトフォッグ!」

 

 

 うっとおしいネズミどもを蹴り上げバールで横殴りつつ、厄介そうなイカに向けて視界を妨害するホワイトフォッグを放つが触手に阻まれてどうにも上手く目に当たらない。

 

 

 

 うっとおしげにイカが触手を振り回す。余計に当たりにくい。攻撃をし、その隙に距離をとるか。

 

 

「ええい!こんちくしょう!焼きイカにしてやらぁ!ファイアーボール!」

 

 

 

 触手に当たって火の玉が散る。ギロリとこちらを見たイカが余った触手でネズミたちを投げつけてきた。

 

 

 

「つっ...ファイアーボール!」

 

 

 真っ赤なネズミが燃え上がる。

 

 

 

 Chuuuuu!Chuuuuu!

 

 

 

 勢いが死んでないッ!ダガーを使うべきだったか。

 

 

 

「アクアウィップ」

 

 

 火ネズミが飛んでくる方向に向かって水の鞭を小さめに振るう。

 

 

 

 CHuuuuu!!CHuuuuu!

 

 バールから飛び出した水流の勢いでネズミたちがイカの方へ押し返される。

 

 

 

 それをまたイカが触手で打ち返してきた。こ...これは...テニス?!いや、バドミントンだな...

 

 

 

 思わぬハートフルコミュニケーションに胸をほっこりさせる。これが異文化コミュニケーションか...

 

 

 

 

 

「ピッチャーいい球。よーし...フルスイングじゃ!目指せホームラン!」

 

 

 再び飛んでくるネズミにバールを構えて思いっきり振るう。小学校時分、休み時間は運動場で必ず野球をやったものだ。野球の選手のモノマネが得意な奴がいて教えてもらったこともあったなぁ...

 

 

 

 バールにめり込んだネズミの身体が弾かれるように木々の間を縫って、イカを越えバックスタンドへと飛んでいく。

 

 

 

 硬いなこのネズミ...手に残る手応えに見た目と合わない硬さを感じた。

 

 

 

 

「ぬおっっ!ネズミがふってきたぞ!」

 

 

 

 イカの向こう側からマサカの声が聞こえる。うーん...ナイスバッティン...狙い通り...うん、普通に邪魔をしてしまったようだ...すまん...!

 

 

 

 

 これはイカん。どうもイカは相性が悪い。ほっといて他のモンスターは...どうだ?

 

 

 

 イカの地面にファイヤーボールを打ちながら、イカの体から離れるように木々を回り込んで前線の様子を観察する。

 

 

 

 ドンッッッッッ

 

 

 

 移動する横に毒々しい木の実が投げ込まれた。

 

 

 

 紫色をした木の実から液体が噴出する。

 

 

 

「うわぁっっっっ...」

 

 

 

 身体にもろにかかった。身体の熱が異常を知らせる。紫色の液体が装備にべったりとついていた。毒か...くそイカが...薬品店で買った毒消しを頭から振りかけて腹を立てる。相手してやらぁ!

 

 

 

 姿勢を低くしてイカへと駆け出す。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 唱えるのと同時に100マーニ硬貨を10枚右手に掴み投げつける。

 

 

 

 

「コラプスウィンド...炙ってやるぞ...」

 

 

 

 ファイアーボールを通り抜け熱された硬貨がイカの身体に向かってまき散らされる。振り払おうとする触手に向かって横向きの突風を吹かす。そしてまた100マーニ硬貨10枚を思いっきり投げつける。その後にスローイングダガーを投げる。

 

 

 

 触手たちが横へと流され、最初の硬貨たちがイカへと打ちつけられた。

 

 

 BrrraAaaA

 

 

 火の玉が続けて着弾するのを見ながら、次の仕込みをする。

 

 

 

「ファイアーボール!楽しい...キャンプファイアーの時間だフハハハハ!」

 

 

 時間をあけずにまき散らされた硬貨に声を上げてイカはひるみあがった。顔を背けて逃げようとする無防備な胴体にスローイングダガーが突き刺さる。

 

 

 

 Brrrrgyppppppaaa

 

 

 

 良く燃える木の棒に火を付けた俺は燃え盛る木の棒とバールを左手に、右手に鉄串2本ともう一本良く燃える木の棒を出現させ火を移す。

 

 

 

 

 イカが叫び声を上げながら6本足で飛び上がる。何ぃ...動くのか...

 

 

 

 バシッッッッッ

 

 

 

 木の枝に触手を巻きつけ大きく身体をこちらに向かってスイングしてきた。




Tips.状態異常
正常ではない状態への変化あるいはその状態を指す。代表的なものでは、毒、沈黙、睡眠、魅了、呪い、石化が知られる。解除方法は一概には言えず、その要因、程度によって難易度が異なる。時間経過で治るものや薬の服用によって治るものもあれば、複雑な手順をこなさなければ死亡しても解除できないものが存在する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06_ウェルダン、イカの姿焼き

5625文字
マシマシ


 木の枝からぶら下がった大きなイカが振り子のようにして、こちらに向かって飛んでくる。イカす移動法だな...

 

 

 

 

 横に、ステップを踏み、左手をガイドラインとして横側に転がりながら避ける。

 

 

 

 すぐさまイカの進行方向を見ると違う枝にぶら下がり、飛び移り、方向転換をしようとするのが見えた。

 

 

 

 熱く焼けた鉄串を手首のスナップを使って、イカに向けて投擲する。

 

 

 

 しかし、揺れているイカに鉄串は命中せずどこかへと消えていった。

 

 

 

 イカは2本の長い触腕でさらに上方の枝を絡め取り、ターザンのごとく枝を飛び移りながら、牙はないがまるで食べようとでもするかのようにめいいっぱいに触手を広げ飛び込んできた。

 

 

 

 横へ飛び込んで避ける。

 

 

 

 後ろを通り過ぎたイカは地面に落ちることなく、再び幹や枝に触手を伸ばし器用に方向を変えて、再び迫ってくる。

 

 

 

 

 鉄串をもう一つその大口に投げ込む。

 

 

 BrrrrrrrR

 

 

 触手で幹を絡め取り急激に方向転換することでまたしても避けられた。

 

 

 

 くっ...これは...当たらないと当てられないか。手数も技量も速度も範囲も不足している。肉を切らせて骨を断つしかないようだ。

 

 

 

 Brrrr

 

 

 

 触手で折られた大きな枝が回転しながら、こちらに飛んでくる。また投げてくるのか...厄介なイカだ。

 

 

 

 身を地面に投げ出して避ける。起き上がった時、再び触手を広げてイカが飛び込んでくる。

 

 

 

 よし...やってやろうじゃないか...チキンレースを...

 

 

 

 正面からイカを待ち構える。

 

 

 飛んでくるイカが大きく膨らみ飛びかかって丸呑みにしようとしているのがなんとなく察せられた。

 

 

 

 その大きく開いた口に向かって右手に持っているものをすべてお見舞いしてやる!

 

 

 

 よく燃える木の棒と残りの鉄串をすべて一気に広げられたイカの触手の中心へと投げ込む。

 

 

 

「机!サンドウォール!」

 

 

 

 触手がまもなくこちらに到達しようとする瞬間、即座にインベントリから目の前に机を横倒しに出現させ、その後ろに素早く砂の壁を構築する。

 

 

 

 机へとイカがぶつかる瞬間。

 

 

 

 

 ドゴオオオベキッッッッッ

 

 

 

 机が破壊される音が響き、こちら側に砂の防塁が弾け飛ぶ。

 

 

 

 散弾のように飛び散った砂が全身に打ちつける。衝撃に耐えかねて、足を後ろへと下げると、先ほど投げられた木の枝につまづき転倒した。

 

 

 

「ペッ...最悪だな。」

 

 

 

 口に入った砂を吐き出し、よろよろと立ち上がると焼け焦げた臭いがする。

 

 

 

 イカの口からこぼれたよく燃える木の棒が机を焼いていた。机を破壊した時の衝撃で身動きがとれていないようだ。

 

 

 

「ようやく大人しく焼かれてくれるか。燃料を追加しないとな...」

 

 

 

 足元の枝を両手で持ち上げ、砂を被っても火が消えないよく燃える木の棒と一緒にイカの身体の上へと投げ込む。現実でやったら間違いなく腰を痛めている。

 

 

 

「ロックニードル。」

 

 

 イカの下の地面から石の針山が飛び出し、イカの体を地面に縫い止めた。

 

 

 

 

 やれやれ...ようやく安心できそうだ。そう思って、MPの節約のためにバールで殴りつけようとして、近づいていくとイカが大きく身体をうねらせた。

 

 

 

 身をよじって体の上にあった太めの木の枝を振り落とし、

 

 

 

 燃え盛る机から転がって逃げようとするが、イカの身体に刺さった石の針山が行動を阻害する。しかし、逃げようとする動きに合わせて、机と石が破壊される音が聞こえてくる。うかつに近づかない方がいいな...手負いの獣が一番厄介だ。

 

 

 

 MPが半分近く減ったな。一応、飲んでおくか...

 

 

 

 ステータスを確認し、インベントリからMP回復用のポーションを手にとり、飲む。生ぬるい薬品の味だ。若干苦い...

 

 

 

「っと...追い炊き追い炊き。ヒートハンド、ファイヤーボール。」

 

 

 

 机に向かってファイヤーボールを打ち、火が消えないようにする。

 

 

 

「もう一つ固定しとくか、ロックニードル。」

 

 

 

 胴体ではなく頭のほうに石の針山を生やす。

 

 

 

「もうちょっと燃料を追加しとくか、エアーカッター。」

 

 

 風の刃を放ち、切断した木の枝をイカの身体に降らせる。

 

 

 

 重さで身動きが取れなくなるまで同じことを繰り返し、再びファイヤーボールを放った。

 

 

 

 

 めらめらと燃え盛る炎。覆い被さった木の枝がパチパチとはぜる。

 

 

 

 良い火加減。炎が対流する様子がとても綺麗だ...どことなく良い匂いがあたりに漂う。

 

 

 

 はっ...

 

 

 

 冷静になって考えると机を無駄にしてしまったのは地味に痛いな。とっさに盾として使ってしまったが...これは赤字かもしれんなぁ...

 

 

 

 保険としてもう一度イカの身体があるとおぼしきところに石の針山を生やす。

 

 

 

 これで一安心か。

 

 

 

 

 手が空いたので身動きのとれないイカを放置して、いまだ混戦状態の現場へとバールを持って突入する。

 

 

 

 

 現在の状況を確認すると、先ほどよりリス、サルの数がぱっと見て減っている。一方で、オークはいまだに健在だし、ネズミもあまり減っていない。攻撃が当たってはいるが、比較的タフなようだ。ベルは音を鳴らしながらふわふわと浮いている。

 

 

 

 

 混戦状態なので、多少は入れ替わりやバックスタブなどのちょっかいをかけてはいるが、基本的にマサカはサルたち、トマ君はオーク、ロッコはその他の敵を相手取っているようだ。

 

 

 

 

 

 オークは耐久性と膂力、サルは敏捷性で負けそうだから、ロッコと同じようにネズミとリスの駆除に務めようか。

 

 

 

 

 

「このネズミ死ぬほど硬いよー!武器の耐久値が削れちゃう!というか、ターさん!何あれ、放火しないでよ!」

 

 

 

 近づいて来た俺に気づいたのか、ロッコが色々喚いてくる。

 

 

 

「いや放火したけど、好き好んで放火した訳じゃない!イカが悪いんだ。俺は悪くない。できることなら放火したくなかった。一人で対処するには仕方のないことだ。まあ、森に燃え移ったら移ったで別にいいだろう。死んでも死に戻る...そんなことより、ネズミやっぱり堅いのか?」

 

 

 

 目をぱちぱちさせて不満気にこちらをみた後、舌打ちして、ネズミを蹴りながら話す。

 

 

 

「メインで使ってた短剣がもうボロボロ!携帯の研石とかあったら買っとけば良かった!」

 

 

 

 やはり、硬いのか。嫌になっちゃうな。蹴る分にはそこまで硬さは感じないのだが...攻撃するくらいの威力になると...

 

 

 

「確かにこりゃだめだ...弾かれる。」

 

 

 

 これは打撃も思ったより通らないんじゃないか?

 

 

 

 

 二人でネズミを蹴ったり、投げたりしてもあまりダメージを受けている様子がない。弱い体当たりしかしてこないから、こちらにも被害はないのだが。

 

 

 

 うーむ...?ふむ...そうだな。

 

 

 

「いっそのこと武器として使ってみるのはどうだろうか?」

 

 

「ブキ?」

 

 

「そう、武器。」

 

 

 ロッコが訝しげな目で見てくる。

 

 

 

「ほら、ちょうど持ちやすそうな大きさだ。硬さも十分。尻尾を持てば振り回せそうじゃないか?」

 

 

「はぃい武器?えっ本気?」

 

 

 

 やれやれ...ロッコはいささか頭が硬いようだ。

 

 

 

「本気、本気。実演してみようか。」

 

 

 

 そこらへんをうろちょろしているネズミに飛びかかって、抱き上げる。ちょっとジタバタして暴れるがそれほど強くない。

 

 

 

「ほら...こうして抱きかかえて尻尾を持てば...」

 

 

 

 ネズミの尻尾を持って目の前でブンブン振り回す。

 

 

 

「即席モーニングスターの出来上がりだ。有効範囲は短いが投げてもよさそうだ。」

 

 

 

「えー...いやだな...ネズミ持ちたくない。汚そう。」

 

 

 

 ロッコはすごい嫌そうな顔をしてぼやく。

 

 

 

「何が不満なんだい...?ネズミかわいいじゃないか。ほら...あの全世界で有名なキャラクターも、人気ゲームのキャラクターもネズミじゃないか。大丈夫、大丈夫。汚くないよ。」

 

 

 

 

 両手に持った2匹をファイヤートーチの要領でぶんぶん振り回す。

 

 

 

 ぶちっ

 

 

 

「あっ...」

 

 

 

 尻尾が切れた。一匹が明後日の方向へ飛んでいく。

 

 

「尻尾は弱いんだね...」

 

 

「そうみたいだなぁ...」

 

 

 

 飛んでいったネズミが木に衝突しひっくり返って気絶した。

 

 

 

「これって部位破壊ってやつなのかなー?ほら、狩りゲーとかでありがちな。」

 

 

「狩りゲー...あまりやったことないんだよなぁ...」

 

 

 少しはやったことがあるが、本格的にやった経験はない。首を捻っているとロッコが気絶したネズミの方へ走り出す。

 

 

 

「刃が弾かれない。ダメージ通るよー!」

 

 

 気絶したネズミを蹴り上げた後、短剣でネズミにを切りつけてから、ロッコがそう言った。

 

 

 

「尻尾が弱点部位なんじゃないかな!」

 

 

 そう言うとロッコはその辺のネズミを押さえつけ、尻尾を切りつけ始めた。さっきまで触りたくないって言ってなかったか...?

 

 

 

 尻尾を切り終えるとネズミは悲鳴を上げて気絶した。

 

 

 

「やっぱり攻撃が通るよー!気絶したからか、尻尾が切れたからか分からないけどね。」

 

 

 ロッコが何度も切りつけてネズミを倒した。なるほど、尻尾を切ると気絶して攻撃が通るんだな...面倒くさいモンスターだ。ゴブリンの素直さを見習ってほしいよ、まったく...

 

 

 

 もう片手のネズミも尻尾が千切れるまでぐるぐる回して、飛ばす。

 

 

 

 そんなことを続けて3匹ほどやっていると、最初に投げたネズミが飛び起きた。毛が逆立っている。尻尾がないから真っ赤な針ネズミのようだ。

 

 

 

 DhuuuuuuuDhuuuuuuu

 

 

 

「あれ...凶悪になってないか...?刺さったら痛そうだ。」

 

 

「うわっ...トドメささないとあーなるんだ。」

 

 

 どうやら、一匹一匹倒さずに適当に処理していたのは俺の方だけだったらしい。まとめて、倒せばいいかなと思ったのだが裏目に出たようだ。

 

 

 

 やれやれ...骨が折れるな...

 

 

 

 

 

 

 

 

 DangDang

 

 

 唐突に背後から地面を叩く音が聞こえた。後ろを振り返ってみると...

 

 

 

 

BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

 

 

 

 おぞましい咆哮が耳をつんざいた。

 

 

 

 えっ...しつこすぎない...?と思うのもつかの間、

 

 

 

 うぐっ...!

 

 

 

 腹にイカの触手が振られ、そのまま巻きつかれ足が宙に浮いた。

 

 

 

 浮遊感。視界が傾く。上へと急激に跳ね上がる。これはまずい!!!叩きつけられる?投げられて落下死?

 

 

 

 思考が巡る。手札は何かなイカ?ふふっ...

 

 

 

 特に思いつかず、考えている間に地面へと振り下ろされた。

 

 

 

 衝撃が全身に走る。前に落下死した時もそうだが、ゲームだからか痛覚はどうも低めに設定されているようだ。

 

 

 

 再び触手が持ち上がる。そうだ、ポーションを飲んでおこう。ステータスを素早く確認したインベントリからHP回復用のポーションを手にとりグビッとあおる。

 

 

 

 再びなすすべもなく地面に叩きつけられた。

 

 

 

「大丈夫っすか?!」

 

 

 

 トマ君の声が聞こえるが、見ての通り大丈夫じゃない。

 

 

 

 こいつ、俺に恨みでもあるの...あるよなぁ...焼きイカにしようとしてたわ。

 

 

 

 とりあえず触手に向かってゼロ距離ファイヤーボールを放つが、あまり効いていないようだ。イカりのあまり痛さを忘れているのか。ふふっ...

 

 

 

 今度は木に叩きつけられる。

 

 

 

 くそったれめ...インベントリから残りのダガーを出し、触手の根元に向かって投げつける。

 

 

 

 Bomb!!!

 

 

 

 爆発音。振動が伝わる。ダガーに爆発機能はないぞ?!

 

 

 

 触手の力が抜け、地面へと落下する。

 

 

 

 ぐへっ...受け身をとるがほとんど衝撃を殺せていない。ステップと前まわり受け身で再び振られる触手を回避する。

 

 

 

 さっきのは多分ロッコだろう。

 

 

 

 Dhuuuuuuu

 

 

 

 うおっ...針ネズミたちもこっちに突進してくるんだが...

 

 

 

「ターさん任せてください!全力で守るっすよ。」

 

 

 

 迫ってくる針ネズミが振るわれたハルバードにぶつかり、吹っ飛ぶ。触手も巧みなハルバード捌きで横へ逸らされる。

 

 

 

「すまない、助かる!」

 

 

 

 HP回復用のポーションをインベントリから出し慌てて流し込む。今日はポーションを何時もの3倍仕入れたから遠慮なく使っていこう...ポーションでの回復に消化という工程がある以上、飲めるときに飲んでおかねば。しかし、ポーション飲んでると結構腹に溜まるな。というか重い...胃に。

 

 

 

「俺は防衛に徹しますから、ターさん攻撃に徹してくださいっす!」

 

 

「そうか...わかった!」

 

 

 これがメイン盾というやつか!さっきまでバトルジャンキーしていた子とは思えない...てっきり騎士とは名ばかりの世紀末のヒャッハーだと思っていたよ...すまん...!

 

 

「では、お言葉に甘えて現時点での最大火力をぶっ放させていただこうか。」

 

 

「まじっすか!見たいっす!」

 

 

 トマ君が期待の目で見てくる。人前で詠唱をするのは恥ずかしいのだが...お礼とお詫びを兼ねて残りのMPをベットしよう。

 

 

「ごほんっ...えー...っと、これか。」

 

 

 

 パネルを操作し、魔術師ギルドから入手した魔導書を手にとり、しおりを挟んだページを開いて詠唱する。

 

 

 

「えー...悪鬼を焼く残り火は寄り集まり槍となる。」

 

 

 

 宙から現れた細い炎が寄り集まる。そして、長い装飾もへったくれもない槍の形をした燃え盛る炎が掲げた右手の上に現れる。このままでも勝手に飛んでいってくれるのだが...そのままそれを掴み左足を踏み込む。左手を相手に伸ばし右手を引いて胸を反らす。

 

 

「猛き者の投げしその槍は堅き岩をも穿つっと...

 

 

 火焔投槍(フレイムジャベリン)!!!」

 

 

 

 詠唱を言うのと同時に自分が制御できる限界の速度で、槍を投げた。

 

 

 

 ブオォン

 

 

 

 炎の軌跡が空気を切り裂き、音を出しながら目にも止まらぬ速さで飛翔し...

 

 

 

 BrRROoooERRRRRR

 

 

 

 眉間を貫通した炎の槍は体内を焼き、体の先の木を貫通してから霧散した。

 

 

 

 イカが断末魔をあげる。木が倒れる音がする。触手がへなへなと地面へと降りていく。

 

 

 

 やったか...?と一応油断せずフラグを立てておく。

 

 

 

 

 固唾を飲んで見守ると、淡い光がイカの体を包み、光ごと闇へと溶けていった。

 

 

 

 よし...やったな.........うっ...

 

 

 

「ターさん、なんすかすげーっすね!すげー!かっけー!俺もやりたいっす!」

 

 

「......すまん。MPとスタミナ切れたのでしばらく...」

 

 

 

 ドサッ

 

 

 

「守って...」

 

 

「ターさんんんん!?!」

 

 

 

 崩れ落ちて動けなくなった俺はやっぱりこうなったかと思いながら、ロマン砲を打てたことにホクホク笑みを浮かべた。




Tips.激昂状態
モンスターは激昂状態に陥ると対象に対して超攻撃的な行動をとる。逃亡という考えは彼らの頭から消えているだろう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07_コンテナ in the forest

ミンミンミンミン
4856文字


「最後らへん、へばってしまってすまんな...」

 

 

 

 ローブについた土を払い、立ち上がる。

 

 

 嵐は過ぎ去ったようで、あれだけ騒々しかった森林は再び夜の落ち着きを取り戻した。

 

 

 

「ははっ...!気にしないでいっすよ。」

「何やら苦戦していたようであるな...」

 

 

 

 優しい...ささくれた心が癒える。

 

 

「ちょっと手強くてね...思ったよりあのイカ。」

 

 

「うーん、油断するのが悪いと思うなー。しっかりトドメをささないと、危なくないかな?」

 

 

 あー...誤魔化そう...

 

 

「そ、そういえばイカはトドメをさし忘れたな。ま、まぁ、なんとかなったじゃないか。あっはっはっは!見たかい。投擲と魔術を組み合わせたロマン砲を!ギュイーンって行って貫通して向こう側まで行ったぞ!すごかったろう!なぁ!トマ君。」

 

 

「ああ!あれは、すごかったすね。炎の槍なんて最高にクールじゃないっすか。もう一回みたいっす!」

 

 

「ははは!そうだろう!そうだろう...はは...は......その...すまんかったな...」

 

 

 段々顔が険しくなってくるロッコの顔を見て、マズいと察して素直に謝る方針に切り替えた。

 

 

「はぁ...後で爆殺符の代金請求するからね!イカから救出するために使ったんだから!」

 

 

「ああ...分かった...分かったよ...」

 

 

 忌々しげに首を振って前をむくと、ロッコはにっこりと笑顔になっていた。くそ...完全にイニシアチブを取られた...前例を作りやがったな!これで...ポーションだけでなく、その他の道具類についても代金の請求が通りやすくなったか...まぁ...実際危なかったからいっか...

 

 

 

 Ring*

 

 

 

「ぬぅ...あやつ、離れていくぞ。」

 

 

 

 マサカが足で指差して、そう指摘する頃にはふわふわと木々の奥へとベルは消えようとしていた。

 

 

 

「追いかけるっすよ!」

 

 

 そう意気込むトマ君だったが...

 

 

「待って!ダガーの回収をしないと。」

「私もダガーや硬貨の回収をしたい...」

 

 

「まじっすか?!えー...あー...分かったっす...」

 

 

 俺とロッコの一言で、意気消沈した様子。

 

 

 地面に散らばってたり木に刺さっているダガーや硬貨をみんなで回収していく。

 

 

「てか、なんで、硬貨を投げたんすか?」

 

 

「火にくぐらせると高熱になっていい感じなんだよ。残弾も多くていい感じだしな...」

 

 

 

 あらかた片付け終えて一息つく。

 

 

「もう、あんなヘンテコなモンスターが来ても無視していかないか...」

 

 

「ぬぅ。確かにこの調子だと、途中で力尽きそうであるな。」

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して再び出発する。

 

 

 

 それから、夜が明けるまで、何度も何度も襲撃があった。イノシシ、ゴブリン、クマ、フクロウ、オオカミ、コウモリ、キノコ、ゴブリン...

 

 

 

 しかし、あの金色のベルに眠らされた時ほどの集団戦も危機もなく、ポーションをがぶ飲みする羽目にもならずに、順調に進むことができた。チームでの戦い方もずいぶん、形になってきたんじゃないだろうか?

 

 

 

 

 

 葉の間から日が射してくる。木漏れ日が森の豊かさをふんわりと照らし出す。

 

 

 

 木の根元には色とりどりのキノコが生え、茂みには小さなブルーベリーやクラムベリーのような木の実がつき、小さな昆虫が舞い、鳥が木々の間で飛び交っている。

 

 

 

「こんなに色があったんだねぇ...暗くてよく分からなかったけれども。あ...このキノコ?」

 

 

 

 採集依頼にあったやつだ。念のため、NPCの店で買った手袋をはめてもぎ取る。

 

 

 

 ついでに、ずだ袋にその辺のキノコをいれていく。

 

 

 

 

「キノコとってないで先にいくよー。」

 

 

 

 採取していたら、置いてかれてしまった。後ろから慌てて追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「豊かな森であるな。植物の種類がまた最初と違って可愛らしい。」

 

 

 追いついてマサカの横を歩いていると、そんな声が聞こえた。横で逆立ちで歩いている彼の方を見るとやはり奇妙な世界に迷い込んだ気分になる。逆立ちで歩く男など現実ではまず見れない。ちなみに逆立ちで歩いている時どのように前を見ているかというと、どうやら向きを使い分けているようだ。前方が予測しやすい開けた場所だったり、仲間がいるときは後頭部が前方になるようにして、音や気配を感じて歩く。逆に森の中など予想が困難な場合は顔が前方になるように歩いていた。果たしてこのよく分からない逆立ちの縛りに何の意味があるんだろうか...?いや...多分ないな。俺も人のことは言えないが何故そうしたし...

 

 

 

「どうやらギター殿はキノコをとっていたそうだが、やはり売るのであるか?」

 

 

「ええ、売ります。魔術師ギルドに森での採集依頼がありましてね。背伸びしがちな魔女っ娘に渡して売りつけるんですよ。」

 

 

「ほお、魔術師ギルドはそのような依頼があるのだな。」

 

 

 ああ...そういえば俺もソロで活動してたから他のギルドがどんな感じか知らないな。多分、マサカも同じように知らないということか。まあ、間違いなく一人で楽しんでそうだしな。やはり、人のことは言えないが...

 

 

 

「マサカ殿のギルドではどうですか?そも、何ギルドに所属しているんで?格闘家ギルド?」

 

 

 

 そう、見た目と戦闘スタイルは格闘家なんだが、格闘家ギルドなんてあったっけなぁ...

 

 

「うむ。某は修道会の一派、武僧院というところに所属しておる。元々無手で闘いたいという希望があったのでな。」

 

 

「ほお、ギルドではないんですなぁ。そこは格闘家が多いんで?」

 

 

「いや...ギルドではあるらしいのだが、モンクと言うべき修行僧を選ぶと最初はそこに所属させられましてな。その後、諸流派の達人を見つけて細分化していくようでありますが、破門になることも可能であるようですぞ。」

 

 

「へー、破門っていうのは師匠から?武僧院から?」

 

 

「両方ともできるようであるな。」

 

 

 ふーん...何やら職業関係はいろいろ複雑そうだ。魔術師ギルドも破門とかあるんかな?ありそうな気がしてきた...カルマ値とかあるし...

 

 

「某...実はリアルの方でカポエイラの講師をやってましてな。まあ、もう年で思ったよりも機敏な動きができなくなってきて...ヌハハ!それで体が思った通りに動くこの世界でもう一度あの動きを自分の体で経験してみたく思いましてなぁ...」

 

 

「ほぉ!カポエイラ講師をやられているんですか。通りで、動きにキレがあるわけだ...逆立ちはやはり、修行の一環で?」

 

 

「ご名答と言いたいところであるが、これは正直、趣味ですな。昔から逆立ちが好きでしてな。逆立ちで一日中生活するとかやってみたかったのであるが、現実でやると頭のおかしな人に見られてしまうのを、ゲームだったらちょっと頭のおかしな人くらいの認識でやれるんじゃないかと踏みましてな...ヌハハ!意外にもやってるうちにスキルも生えてきまして。行けるんじゃないかと自信がついてきたこの頃であるな。」

 

 

 

 確信犯か...まあ、分かってはいたが。

 

 

「そのスタイル悪くないと思いますよ...ゲームの楽しみ方なんて人それぞれだ。人にどうとでも言われようと、これからも貫いて欲しい。私も楽器を追い求めて頑張るので、マサカ殿も頑張って、な!」

 

 

 肩を叩こうとしたのだが、肩がいい位置にはないので膝を叩いて鼓舞する。

 

 

 

 

 おっさん二人でイチャイチャしつつ敵来ないなぁとぼやきながら歩いていると...

 

 

「ちょっと!ちょっと!何か変なのある!」

 

 

 ふと、何かを感じとって先を行っていたロッコが驚いた顔で戻ってきた。あれ...変なのは避けると決めていたでしょ...

 

 

 

「ロッコさん、何があったんすか?でかいキノコでもあったんすか?それとも、可愛いチワワでもいましたか?」

 

 

 トマくんが冗談めかして尋ねる。怒らせたら知らんぞ...

 

 

「コ、コンテナだよ!苔むしたコンテナ!!!」

 

 

「コンテナァ?コンテナってあの四角い箱っすか?」

 

 

 ふむ...コンテナか...舞台背景がSFであることはムービーと取説から予想できていたことだが...ファンタジーの文脈で現代にも通ずるコンテナという単語を聞くことになるとは...すごい違和感あるな...エッチなビデオに出てくる人が母ちゃん似だったくらいのむずがゆさがある...いや、言い過ぎたな。

 

 

「うん、とりあえず気になるので見に行こう。」

 

 

 好奇心に従ってそう提案した。

 

 

 

 

 

 ロッコの案内に従って歩いていくと、少し植物が生い茂った中にそれはあった。なるほどこれはコンテナだ。青色の金属でできた四角い大きな箱。人間も普通に入れそうなほどのいわゆるコンテナ。

 

 

 

 近づいて観察してみると塗装が禿げていないことに気がつく。いや...そもそも塗装されていないのか?

 

 

 触ってみると苔むした部分をのぞいて、表面がすべすべしている。酸化している様子がない。そもそも金属なのか疑問がわいてきた。ゲーム的表現だからというのも一つの解答ではあるんだろうが...

 

 

「これ...なんでこんなところにあるんだろうね...?」

 

 

 ふと、そんな疑問が口から出た。

 

 

「オブジェクトじゃないっすかね?ほら、SFもこのゲームの背景としてあるらしいっすから、それ関係でとりあえずフィールドに撒いているんじゃないっすかね?」

 

 

「まぁ、そうかもしれんな...あまりにも唐突に出てきたから面食らったけれども、そういうものと思えばそういうものかもしれないなぁ...」

 

 

「なぜここにあるかより、何が入ってるかだよー!開けてみよう!」

 

 

「ぬぅ、開けるのか?また、変なモンスターでも出てくるかもしれぬぞ。気をつけて開けた方がいいのではないだろうか。」

 

 

「大丈夫!変な気配や音は感じないよー!罠はあるかもしれないけど。いやーワクワクしてきたなぁ!こういうのやりたかったんだよね!」

 

 

 ロッコはそう言うとニッコニッコの笑顔でコンテナの扉を調べ始める。なるほど、ロッコが集会所でこのゲームでの目標について口ごもったのはこのことか。ちょっと恥ずかしかったから言わなかったんだろうか?別に恥ずかしがらなくてもいいと思うが微笑ましいな。

 

 

 

「うん、ロック外れたー!ほら、扉開けるよー!」

 

 

 

 しばらくカチャカチャやっていたロッコがそう声を上げた。扉が軋音を立てながら開いていく。

 

 

 

 中を覗くと暗くなっている。みんなで扉をさらに開くと光が奥まで届き、うっすらと中の様子が分かった。

 

 

 

 まず目に付くのは壁から床に垂れ下がる幾つものベルトである。何を固定していたのかと思い、薄暗い箱の中をキョロキョロと見るが...

 

 

 

 何もない。いや...何かがあった形跡のみがある。よく壁を見れば引っ掻き傷があちらこちらに走っている。また、金属のを削った粉のようなものが床に散らばっている。

 

 

 

「お宝!お宝はどこー!ここか!ここか!」

 

 

 ロッコが血眼で探し回る。一緒になって探してやるがアイテムと認識されるほどのものはないようだ。

 

 

「どうやら何もないようだな...」

「肩すかしっすね...」

 

 ベルトをカチャカチャやったり鉄粉をかき集めたりするが特に何も得られるアイテムも情報もない。

 

 

 

「あー!良いもの見つけたと思ったのにちっきしょー!こんな意味ありげに置いてあるのに何もないとか!」

 

 

 

 ロッコが悔しそうに叫んだ。

 

 

 

「まあまあ...誰かに先に開けられただけかもしれないし、開けたとしても何か危険な感じだよ。ほら...壁のベルトとか何か拘束してた感じだ。猛獣でも入っていたのかもしれない。」

 

 

「それは見れば分かるけれども!この虚しさ!分かる?!意気揚々とご馳走を食べようとしたら絵に描いた餅でしたって感覚!」

 

 

「お、おう。分かる。」

 

 

「絶対、分からないでしょ!」

 

 

 ロッコが指を指してくる。あかん、これは面倒くさい絡みだ。えー...この場合の対処法は...うーむ...ない...な。理不尽な二択には耐えて待つのみ。

 

 

「...でしょ!...る?!...さ!」

 

 

 無心で頷きながら、時々合いの手を入れる。

 

 

「はー!次いこ次!」

 

 

 ロッコは盛大なため息を吐いて歩き出す。終わったようだ。修行の末身につけたオートパイロットモードから切り替え、やれやれと肩をすくめてトマ君と呆れ合いながら箱を出た。

 

 

 

「ぬぅ...何がおったのだろうか?」

 

 

 

 マサカが不思議そうに呟くのが後ろから聞こえた。




Tips.遺物(アーティファクト)
長い歴史の流れに消えずに今に残る器物の総称。文明や時代区分によって大きく性質が異なる。最も人類が偉大であった時代である神代においても単一ではなく、設計思想が異なるものが発見される。古代では自然崇拝、祖霊信仰など独自の宗教観が各地で生まれそれらを中心とした生活が形成された。そのため遺物も多種多様である。中世では宗教と国家の統一により平和がもたらされたため、各地の文化や技術の交流が盛んになった。名工や名匠が多く生まれ、数々の作品や業物が後世にも残されている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08_チャリオッツvsウッドランドブル

5853文字


 さらに東へと進んでいくと、幹も枝も太くなって木と木の間隔が大きく、青々と色濃い葉を持った背の高い木々が頭上の光を遮り始めた。

 

 

 広葉樹も針葉樹も入り混じり、地面には様々な落ち葉が積もり始める。

 

 

 

「だいぶ東に来たっすね。」

 

 

 トマ君がそんなことを言う。確かにだいぶ歩いた。どのぐらい東にきたかは分からないが、だいぶ来たことは感覚として分かる。あー...

 

 

「今何時ごろだ...9時24分...ロッコさん、最初の予定だと午後10時解散だけど...延長って無理?思ったよりもサクサクいけるものだから、このままグラッセ村まで行ってしまって解散でもいいんじゃないかなと思うんだけれども。」

 

 

 ロッコに解散時間を遅くするお願いをする。

 

 

「また集まって、途中から始めるのはだるそうな気がしてきたんだ...ねっ!無理なお願いとは分かっているんだけれども。」

 

 

「うーん...まー...あー...うーん...いいよ。」

 

 

 しばらく悩んでから...ロッコはそう頷いた。

 

 

「...明日学校なんだけどなぁ...いいけどそれなら、早く終わらせてよ!」

 

 

「まーいいじゃないっすか!学校なんて寝てなんぼっすよ!」

 

 

「こっちも仕事あるけど...大丈夫大丈夫。」

 

 

「やかましい!行くよ!」

 

 

 若干機嫌を悪くしたロッコがスタスタ歩いて行く。若干無理があるお願いだったか...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何戦か交えつつ、東に進む。

 

 

 

 そして、やっと...やっと...お目当ての敵に逢うことができた...

 

 

 角笛...いや、ウッドランドブル...

 

 

 あの日から俺はこいつを片時も忘れたことはない。乳白色の角に突き上げられて宙を舞い、初めての死に戻りを経験したその日から。

 

 

 魔術師ギルドの書庫やハローワークの書庫で、ウッドランドブルの項目を読み対策を練り、森に突撃し死ぬ。そんなことを数回繰り返した後、俺は気づいた。

 

 

 俺はこいつらの機動力に勝てない。独りでは勝てない。その時...俺は初めてパーティーを組むことを考えた。

 

 

 しかし、俺にはシャンフロ内での知り合いなどいない。いるにはいるが頼ったら農家だ。

 

 

 それで...野良パを組むことを思いついた。しかし、わざわざウッドランドブルの角を狩りに行くというのでは組んでくれる人はいないだろう。そこで、レベル上げを装ってウッドランドブルと戦わせる方法を思いつき、とうとう今日決行したのだ。戦力に不足はない。

 

 

 奴らは呑気にも...地面に生えている草をムシャムシャと食べている。

 

 

 

 黄土色の体に乳白色の角。あの角は体内のマナを集める機能がある。奴らの最大の武器であり、生命線。角が折れた個体は群れから追い出され"はぐれ"となる。武器を持たぬ者はこの厳しい生存競争の中では役に立たないため切り捨てられるのだ。

 

 

 

 

「すまんちょっと足を止めてもらっていいか。あそこで呑気に草を食っているあいつらを狩ろう。」

 

 

 俺はみんなにそう提案する。

 

 

 

「基本、非アクティブモンスターは相手にしないって方針じゃなかったすか?早く着かないとロッコさんに迷惑かかっちゃうっすよ。」

 

 

 うぐ...ぐう正。こちらから言い出したことだから違うことも言いづらい。しかし、ロッコは先にそれを破る前例を作った...それにな、説得材料は前から考えていた。

 

 

 

「まあ、確かにその通りだ。だがな、あの牛たち機動力がえげつない上に、集団で突進してくる厄介な奴らでな。実はあの牛と何回か戦ったことがあってなあ。死ぬまで集団の牛に追いかけられるのさ...おっそろしいぞ。一度補足されたら、もう逃れられない。」

 

 

 

 牛たちの方向を睨みつけ、そこはかとなく訳知り顔で、ベテラン風を吹かす。会社で新人が来たときや慕ってくる後輩や久しぶりに会う同期にこれをやらないと俺の威厳が保てないからな...同じ職場の同僚は?うん...まあな。

 

 

 

「それからここら一帯には、モンスターをおびき寄せる厄介な鳥が生息していてな。大きな音を出して、周りのモンスターを集めて逃げていく。そう、あのベルのようにな。そいつらの巣の溜まり場に立ち入った場合は目も当てられない。四方八方からモンスターたちがこちらを目指して襲いかかってくる。まぁ、ターゲットは別にプレイヤーに固定されているようではないようだが。」

 

 

 

 じゃあ、そっとして逃げましょうと言われる前に議論の逃げ道をふさぐ。ぐふふ...この状況に持ってきた時点で勝利条件は確保しているのだよ。こんな奇襲のチャンスを逃してなるものか...

 

 

 

 しかし意外にも、気合いを入れて土下座まで視野に入れて、どうやって説得しようか頭を捻ってきたのにもかかわらず、みんなあっさり納得してウッドランドブルを狩ろうという話になった。これは...ベルによるモンスターパニックがきいてるのかな。多方面から襲いかかられるのは俺ももうこりごりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今回思いついたことがあったので、またも頼み込んで実行する流れに持って行った。

 

 

「よっこらっせ、おっとっと...動けるかいトマ君?さあ、ロッコ君固定してくれよ、落ちないようにしっかり脚をお願いな。」

 

 

「はいはい。よしっ。こーれで!いいかな?トマ君立ってみて?」

 

 

 しゃがんだトマ君が担いでいる背負子の上に立った後、ロッコに脚全体と背負子をぐるぐる巻きに縄で縛りつけてもらった。

 

 

 トマ君がゆっくりと立ち上がる。それにつれて、視線が高くなっていく...おっ...おお!足元が揺れて慣れない感覚だ。

 

 

「結構重いっすね...まあ、しんどくはないっすけど。ターさん、ちょっと動くっすよ。」

 

 

 トマ君がステップを踏み、ハルバードを素振りする。G(加速度)がかかるので体が引っ張られる感覚がある。

 

 

「ステップがあまり伸びないっす。でも、腕は普通に振れるっすね。まあ戦えなくはないって感じっす。」

 

 

「う...ん...こっちも結構揺れるが大丈夫そうだ。魔法撃てると思う。完全に思いつきだったが、これは案外いいかもしれんな。うん、行ける気がしてきた。名付けて、人間戦車(チャリオッツ)スタイルと言ったところか。ふっふっふ...さあ、いざ行かん。ハイホウ!ハイホウ!」

 

 

「ターさん、テンション高いっすね。」

 

 

 ちなみに、さすがに近くで声を上げていては、気づかれてしまうので全てひそひそと小声で話している。先に見つかったら先制攻撃できないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30m近くまで近づいた。トマ君と私は釣り餌を兼ねた遠近両用火力として正面から戦う作戦だ。ロッコとマサカには木々を盾にして身を隠してもらいながら、ゲリラ的に臨機応変に戦ってもらうことにした。

 

 

 

 ここなら射程範囲だ...よーっし、牛ども地獄へ送ってやろう...開戦じゃ!

 

 

 

「いくぞっファイアーボール!」

 

 

 

 放たれた火球が群の真ん中に真っ直ぐ飛んでいった。のんびりと草を食べていた一頭は気づいて避けようとするが、寝そべった状態から身体を起こしきる前にそのまま直撃した。

 

 

 

 BUmooOo?!!

 

 

 

 牛の全身を炎がなめる。周りの牛たちは慌ててその牛から飛び退く。

 

 

 

 初手ホワイトフォッグ(視界をふさぐやつ)じゃないのは、霧を牛が持ち前の機動力で振り切ってしまうので意味がないからだ。そして、ファイアーボールの熟練度(熟練度があるか良く分からないが)が上がっているおかげかDEXやTECを上げたおかげかも分からないが、最近ファイアーボールのリキャスト時間が10秒から7秒に短くなった。だから...いまだ混乱から抜け出ていない牛に対して、もう一度素早く攻撃する。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 じたばたと暴れて状況が掴めていない牛に容赦のない追撃が襲いかかった。熱さに耐えきれず、地面を転げ回り、草や積もった落ち葉が火で焼かれていく。

 

 

 

 それを見た周りの牛たちは仲間を守るためか、それとも、単純に脅威を取り除こうと考えたのかこちらに向かって走り始めた。

 

 

 

「来た来た来た!テンション上げていくっすよ!」

 

 

「ふはは!チャリオッツの力見せてやるわ!」

 

 

 気合い十分。もう戦闘欲高まりすぎて、待ちきれんぞ!

 

 

 

 向かってくる牛に向かってファイアーボールを放ち牽制するが、何頭かはすり抜けて角を光らせながら突進してくる。

 

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 

 そういうやつには、砂の壁を進行先に設置する。そしたらどうだ!減速して回避するやつもいるが中には足を取られて、そのままの勢いで前方に崩れるように転倒するやつがいる。そんなやつは飛んで火にいる夏の虫。

 

 

 

 どこからともなくやってきたロッコが牛の背後から刺突剣(ステイレット)で攻撃する。そして、牛が起きあがる前に、また木々の中へ消えていく。

 

 

 

 牛が起き上がり、辺りを見渡すが近くに襲撃者の姿は見えない。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 近づく火の玉に気づき避けるが、反応が遅れたために少し掠めて身体が焼ける。

 

 

 

 牛たちは最初の反撃が失敗に終わったことを悟り冷静になったのか、後ろへと駆けていき結集し始める。

 

 

 

 いいね、いいね!悪くない。最高の滑り出しだ。

 

 

 

 集まった牛たちは大きく弧を描くように走り始め、速度を上げてこちらへと勢いをつけて向かってこようとしている。もちろんファイアーボールやエアーカッターを撃って妨害しようとするのだが、やつらは全く止まらない。痛みなど知らないかのように走り続ける。

 

 

 

「これからが本番だ...手はず通りにやろうな。」

 

 

「あはは!ワクワクしてきたっすよ!」

 

 

 

 正面からこちらへ向かって一直線に走る牛たちの暴走列車...さあ、闘牛士(マタドール)気取り暴れ牛をいなしていこうか!

 

 

 

ドドドドドドッッッ

 

 

 

 森の地面の土をえぐり出す蹄がけたたましく音を鳴らす。それは今までに経験した死を想い出させる。

 

 

 

 

 来る...牛がすぐそこまで迫っている。怒り狂った表情がもう目に見える距離だ。

 

 

 

 

 

 

BBMOMMOMOOO!!!

 

 

 先頭の牛に続いて牛たちが次々に咆哮をあげる数多くの獣が立てる威嚇の声により心がかき乱される。

 

 

 

 

 対して、気合いを入れて迎え撃つのは長身のハルバード使い。俺と同じくこの突進に怯えているのか?いや...確信を持っていえる。楽しんでいる。俺と同じく。

 

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 

 地面から砂壁が牛の進行方向に対して斜めにせり上がる。

 

 

 

 それを気にすることもなくそんな壁など蹴散らして突き飛ばしてしまえばいい、と言わんばかりそのままの勢いで牛たちは角を突き出しながらこちらへと真っ直ぐ突っ込んだ。

 

 

 

 

 先頭とそれに続く牛たちが脚をとられ倒れこみながらも砂壁を壊す。しかし、前には誰もいない。

 

 

 

 当然だ。誰がまともに待ち構えるのか。

 

 

 

 砂壁に沿うように前へと脚を踏んだハルバード使いは後ろに引いた得物を腰を使い、大きく振るう。

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 砂壁側の数頭に切り傷が走り、そのままの勢いでなぎ倒される。

 

 

 

 突進がせき止められ数頭が続いて先頭集団に衝突していくが、そのさらに後続の牛たちが左右に割れ砂壁を回避しようとする。

 

 

 

 牛たちの悲鳴と足音、怒号、再び武器が振るわれる瞬間の空気が切り裂かれる音。そして、力が見せる強引な解決。なるほど...これが前衛の、戦士の見る景色か...これは、確かに...うん、あまりよろしくないかもしれないけれども...楽しい!

 

 

 

 

 さて、状況を整理しよう。回り込もうとしている牛が2集団、前には倒れた集団...つまるところ鉄火場ってやつだ。迅速に行動しなければ死ぬ。

 

 

 

「サンドウォール!右だ、右から叩こう!左は二人に任せよう。ロックニードル!」

 

 

 右手から回り込もうとする一団に対して、砂壁をくの字に延長し、回り込みを防止。そして、左手の集団の進行方向に棘を生やす。横目でロッコとマサカの二人が横合いから襲撃をかけようとしているのが見えた。

 

 

「だらっしゃああああっ!」

 

 

 ぐいっと体が引っ張られる。ぐるぐる目が回る。目の前には肩越しにハルバードが見えており、砂壁から突き出して通り過ぎていく牛たちの体を次々と傷つけていく。あっ...これ!最初にトマ君が使っていた技か。

 

 

「これは...酔うんだが...」

 

 

 小声でぼそりとつぶやくも...恐らく聞こえていないだろうし、聞こえても止まれない。三半規管が揺れてしんどい...

 

 

 そして急激に止まる。頭がぐわんぐわんと揺れる...魔術師は揺れに対する逆補正でもあるんか...さっさとスキル生やして...

 

 

 高々と勢いよく掲げられたハルバードがそのままの勢いで孤を描いて落下する。

 

 

 正面の牛の1体が光の粒子となって消え去った。

 

 

 

 反動で足をつくトマ君。しかし、息をつく暇はない。

 

 

 

「トマト殿、ギター殿、すまぬ!一頭逃がしてしまった!背後に注意なされよ!」

 

 

 マサカからの声で振り向くと、左手から後方に回り込んできた一頭の牛が迫ってくるのが見えた。

 

 

 

 ほぉ、飛んで火にいる夏の牛...火炙りにしてやらぁ!

 

 

 ぐ...ぐぬぬ...これはっっっ!

 

 

 身をよじって狙おうとするも腰まで縛り付けられているために可動域が狭すぎるだと...仕方ないですね...見逃してやりましょう。と、言うとでも思ったか!

 

 

 

 一人で脳内問答をしつつ、背を仰け反らせて後ろをぐいっと見る。視界の上の地面を牛が駆けてくる。

 

 

 

「ふははは...これぞ天地無用の術!くらえい、ファイアーボール!ちょっ...このままの姿勢は...あかん...ぐあああ...」

 

 

 

 気持ち悪さを押さえつつファイアーボールを放つと、牛が突進を諦め横合いに逃げた。そして、そんなことも確認している余裕もなく、そのままの状態(だらんと仰け反り)でお代わりの回転技に突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃー...ひぃー...ひどい目にあった...」

 

 

 終わった...終わったよ...ほんと死ぬかと。ジェットコースターというか、絶対に事故らないと言い張るスピード狂の車の助手席に乗った時の気分や...まぁ...まぁ...まぁね...

 

 

「ヌハハハ!ギター殿、げっそりしておられるようで!某は牛の背中で逆立ちができて大満足である。また新たな逆立ち道の1ページが刻まれましたわ!」

 

 

「ああ!あれは、見事でしたっスよ。絶技っす!」

「うんうん...かなりクレイジーだった。走ってる牛に飛び乗りながら逆立ちするというかなりの高得点芸術...さすがカポエイラマスターと言ったところか...」

「確かに、あれはすごかったね。意味はないと思うけれども。」

 

 

「ヌッハッハ!照れますな!」

 

 

 

 難敵を倒した喜びで沸く一同の傍ら、俺は宿敵を倒した安堵とこれから来るご褒美で頭がいっぱいだった。これだけ倒したら角は間違いなくドロップしているだろう。分配の時になくても交渉すればいい。くく...角笛まであとほんの少しだ...ふは...フハハハハ......アッハッハハハ......




Tips.群れと捕食関係
モンスターには群れを作る習性があるものがいる。被捕食者は群れを作ることが多い。小型~中型の捕食者は狩りの効率化のために群れをつくる。一方、大型の捕食者や縄張り意識の強い種は群れを作らない傾向にある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09_いざ、セカンディル~湿布薬を求めて~

5820文字
アカリダ...

掲示板が職業ギルド以外の全エリアで使えるようになるのはウェザエモン戦後の新大陸解放後のアップデートからですが、本SSでは街やキャンプ内などのフィールドではない安全地帯なら使えるという設定で行こうと思います。


 はぁ...はぁ...倒したぞ!!!

 

 

 なんなのこの蛇、尻尾からクソ撒き散らしてきたんだけど!蛇といったら普通口から毒液だろ!!!普通口からだろ...汚ねえじゃねえか!このモンスター作った奴は性格クソだな...まぁ...俺は被害にあってないけどな...

 

 

 しばらく一人で遠隔からチクチクやってたら、ふらっと初心者前衛が二人ほど来たから組んで戦って、しばらくしたらもう二人来たから、ゆったりと遠隔打ってたらあっさり倒せた。そこは動けない門番モンスターの悲しい運命かな...だが前衛のうち二人が吊り橋を渡っている最中に毒で死んだ。毒消しくらい用意しときなさいよ...

 

 

 さて...俺は今セカンディルに向かっている。それは山よりも高く、谷よりも深い悲しい理由でだ。

 

 

 野良パ解散後、牛の角を無事にゲットした俺は後日、グラッセ村でヨ...あれ?ヨ...ヨ...ヨー?............そう!確かヨーゾフという狩人の案内で角笛を作ってくれる爺さんの家を訪ねた。

 

 

 そのときの心境?もうワクワクで心躍って、踊りだしちゃうほどウキウキしてたよ。

 

 

 だがな...そこには笛を作ってくれる元気な爺さんはいなかった。婆さんが出てきて、「爺さんはぎっくり腰やってね...笛なんか作ってる暇なんてねぇ!」って追い返されたんだ!テメエエエエエエエ!

 

 

 酒場に行ってくだを巻いていると、この村でよく見る農業クラン『輝きの種』の初心者メンバーが話しかけてくれて「そいつは湿布薬を渡せばイチコロやんすよ」と教えてくれた。何でも、農民NPCにもぎっくり腰爺さんが居て、湿布薬が利いている間だけはいろいろ教えてくれるんだとか...で、どこに売ってるんだい。ほぉ、セカンディル...えっ行かなきゃならんの?売ってないの...ファステイアで......

 

 

 ほーん...しゃあない。なら行ったろか!ということで翌日の今いろいろ売っぱらって懐が温かくなり、インベントリが軽くなった状態で、蛇倒してからのセカンディルというわけなんですな!

 

 

 

 

 

 釣り糸を川に垂らしてぼーっとしている釣り人たちを避けながら、ギシギシと音が鳴る吊り橋を歩いて抜ける。そうすると、ちょっと行ったところにトーテムポール的なものがポツポツと見えてきた。ヨーロッパと思ったら今度はインディアンかな?

 

 

 

 それ沿いに歩いていくと石壁が見えてきた。ファステイアと同じような格好をした兵士が立っている。

 

 

 

 門兵に軽く挨拶してから、街の中へ入る。さーて...湿布薬はどこにあるのかなぁ...聞いてもいいのだが、せっかくだから散策がてら探すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 門をくぐると目の前がいきなり分かれ道だった。前と左右に道路が伸びている...うんうん...どこに行けばいいのかな?ここはクラピカ理論で右...にしておくか。

 

 

 

 

 通りをぶらぶらと歩く。そうすると、何となくファステイアとは違うなと感じた。ファステイアはカチッとした石造りの都市で真面目で堅物で真面目そうな雰囲気が漂っていたが、ここセカンディルはちょっと違うような気がする。その...何というか...通りの感じとか建物とか。文化が違うってやつですなぁ。

 

 

 

 石畳で舗装されているが大通りというには小さな通り。先を見ると道がカーブしている。道の両側に立つ建物の壁は赤茶けた印象で、屋根はとんがりコーンのように円錐形のものが多く、黒色の瓦のようなもので覆われている。うん、他の国に来た感じでプチ旅行気分だな...

 

 

 

 グキュルルルルル

 

 

 散策を始めたばかりだが小腹が空いてきた。そういえば...ご飯をまだ食べていない。おいしい地元グルメでも探すとするか...

 

 

 

 所々で行き当たる分岐を自分の勘に従って進む。町歩きの楽しみとは予想もしない出会いが待っていることだ。それは綺麗な花だったりカラカラと回る小さな水車だったり。子猫が通りを歩くのを遠巻きに眺めるのもよい。はたまた、行き当たりばったりで進んでいたら、迷ってどこだか分からないところへ、ぽっと出てしまうのも逆に面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らない路地を進むこと数度、ふと美味しそうな匂いがする道に出た。

 

 

 

 スンスン

 

 

 

 匂いの濃くなる方へ歩いていくと、一軒の店があった。軒先の看板には『熊猫炒飯』と書いてある。炒飯だと!

 

 

 

 脳内に電撃が走る。炒飯...食いたい...

 

 

 チリンチリン

 

 

「いらしゃーい!お一人様ですか?こちらへどぞ。」

 

 

 

 

 意識が覚醒したときにはカウンターに座ってメニューを開いていた。

 

 

 

 はっいつの間に!思い返してみると無理もない。ファステイアでは主食はポテトかパンだったのだ...!いくら現実で米を食っているとはいえ、インすればパンポテトポテトパン、ポテトポテトポテトポテトポテトポテトパンでは流石に悪食な俺でもこう精神の奥深いところでどこか変調をきたしていたのかもしれない...

 

 

 

 

 リアルよりのパンダのイラストがところどころ描かれたメニューには、多種多様な炒飯が載っていた。普通に写真だ。文明が低いんだか高いんだかいまいち掴みかねる。

 

 

 

 ふむ...どれがいいかな...

 

 

 

 野菜たっぷりチャーハン、黄金卵炒飯、焼き豚チャーハン、激辛チャーハン......エトセトラ、エトセトラ...

 

 

 

 チャーハン...チャーハン...うーん...オーソドックスなのが一番か...決めた...

 

 

「すみませーん!注文いいですか!」

 

 

「はいよ!」

 

 

 

 社員食堂のおばちゃん風の白い服を来たおばちゃんが伝票を持って飛んでくる。

 

 

 

「えーっと...パンダチャーハン一つおねがいします。以上で。」

 

 

「はいよ!」

 

 

 

 冷たい水を飲みながら、辺りを見渡すとなかなかの混雑具合。これは期待できる。

 

 

 

 しかし、手持ち無沙汰だなぁ...スマホはないし...雑誌でもおいてないかな...

 

 

 

 入口を見るが置いてありそうな棚はない。

 

 

 

 あー...ないかー...よし...そうだな...掲示板でも見るか...

 

 

 

 こめかみを3回叩き、メニューを出現させる。ショートカットの設定をしておけば地味に便利だ。思考操作はなかなか慣れない。

 

 

 

 さて、何気に初めて見るんだよなぁ...ファステイアだと大体フィールドでご飯食べてたからなぁ...掲示板...掲示板っと...どれどれ...

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

《一般板》

おまいらの武器構成教えろpart98

【前衛】バトルロワイヤルpart75【多すぎぃ?】

初心者さん、質問ある?Part59

リアルスキル向上委員会part32

鉄○「こんな開拓者はいやだ」

【簡単】テンプレ攻略part57【サクッと】

【まさかの】闘技場第13回大会part3【大波乱】

シャンフロ内の秘境・絶景スクショください

新大陸ってなにさ?by引きこもり3rd民

絶対PK許さん連盟に110番!part28

...

 

 

 

《雑談板》

???「王国騎士団長なら俺の横で寝てるよ」

SF-zoo協賛フォトコンテストpart30

【孤○の】食べ歩きpart73【グルメ】

ゴブリンテイムチャレンジ(GTC)part3

日々SF日報185「恐怖体験!幽霊村ルポ」

聖女ちゃん親衛隊懺悔部屋part243

釣りバカどもの楽園part89

おれらのょぅι゛ょTASpart175

ああっ鞭で打たれたい...part110

捧げ物はタラバガニ!part65

...

 

 

 

《考察板》

考察中毒者達の日常part568

モンスター行動パターンpart132

スキルチャート作成部会part253

NPC関連考察室part125

「かゆ...うま...」レポート発見!

遺跡探索報告part43

考察・情報クラン間取引所part26

魔法チャート作成部会part78

バグ・裏技探し隊part68

産業革命のトリガーは?

...

 

 

 

《生産板》

総合市場part250

ぼったくりやめろ!

船大工急募

鍛治師総合part131

デザインセンス欠乏症part46

人気店になりたい

変態と性能の両立part90

俺が選ぶ流れの鍛治師ベスト10

最先端技術part78

至高の一皿part54

...

 

 

 

《攻略板》

新大陸情報交換所その9

ボスハメ技完封part43

経験値・素材稼ぎ場所part83

初めての下落ポ無限LV上げpart31

クランメンバー募集用part45

最強パーティーのススメpart29

ユニーク強すぎぃpart14

未踏破エリア・ダンジョン探索part56

すき焼き師匠周回part12

還らずの洞窟探検記part35

...

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

 うわっ...なんやこの情報量...

 

 

 

 若干辟易しながら、スライドしていくとメイン板以外のリンクが貼ってあるのを見つけた。どうやら10件、人気の板のスレがトップに表示されるようだ。

 

 

 

 チャーハンが来るまでの暇つぶしとして楽しんで読めそうなのは、雑談板かな...あまり攻略情報読んでしまうとプレイングスタイルがぶれるかもしれないしなぁ...

 

 

 

 しかし、トップ記事のラインナップを見るとなかなか業が深そうな気配が...見たいような見たくないような...うーん...うむ...こういう地雷は踏まない方が健全に長生きできる。現実に波及したら大変だからな...

 

 

 

 フォトコンテストとゴブリンテイムチャレンジ、幽霊村が地雷でなく面白そうだな。釣りバカはあまり興味が湧かないし、タラバガニは意味不明だ。タラバガニ...なんだかカニ食いたくなってきたな...

 

 

 

 よし決めた。ゴブリンテイムチャレンジ読もう。馬鹿らしそうでいい暇つぶしになりそうだ。

 

 

 

 ゴブリンテイムチャレンジのリンクを開く。

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

【ゴブリンテイムチャレンジ(GTC)part3】

527:スプラッタルト

 

ゴブリンとか今日び見ねえなあ

 

 

528:マウンテンキリン

 

まあ・・・序盤だけだよな

 

 

529:山散花

 

最近ゴブリンとゴブゴブしすぎてつらみ。

 

 

530:鍋ぬこの民

 

ゴブゴブ(意味深)

 

531:炙り明太マヨ

 

一体何をしているんですかねぇ…

 

 

532:山散花

 

ゴブリン語で、おはようはゴブ。さようならもゴブということは分かった。安価どおり草むらに隠れて一日中ゴブリンをつけ回した成果な(白目)

 

 

 

533:ソラニン

 

草w

 

 

534:デストロイレーザー

 

お巡りさんこの人ストーカーです!

 

 

 

通報しました。

 

 

535:通行人A

 

なにも分からないということが分かった。

一歩前に進んだな()

 

 

536:トロヒカル

 

進んでないんだよなぁ

有給使ってなんと優雅な1日

 

 

537:ダッシュ兄貴

 

>>532

これはゴブリン並

 

 

538:ライゾー

 

いっそのことゴブリン捕まえて飼おうぜ!

 

 

539:凸虎V3

 

>>538

テイムチャレンジの意味分かってるか?

 

 

540:シュガーソード

 

>>538

何を言ってるんだお前は

 

 

541:ライゾー

 

いや、テイムせずに。テイムの条件とかもう分かる気しないし。

 

 

542:パンライト

 

>>539

ペットとして飼うという意味では(名推理)

何を言っているんだか分からないが

 

 

543:ガーデンバーデン

 

野生のまま捕まえるってどういうことや。

 

 

544:えのきマイスター

 

檻にでもいれるん?

いや...ありじゃね?!

奴らのstrじゃ突破できねーだろ

 

 

545:Psyスラッシュ

 

カルマ値爆上がりしそう(小並感)

 

 

546:アンナコッタ

 

牛みたいに牧場作るのはどうですか?

柵で囲って放牧すればそこまでストレスたまらずに、カルマ値もそんなに上昇しないんではないんでしょうかと思います。

 

 

547:ソラニン

 

ドナドナが思い浮かんだ

 

 

548:【来世には希望】シュバルツ・ヘンスラー

 

ゴブリン牧場とか想像しただけで吹くんだが。

ストーカーの次は牧場主やろうぜ!

 

 

549:ユークライナ

 

わーい、スローライフだ!

 

 

550:スプラッタルト

 

ゴブリンを家畜として飼うということか

できるんかいな

 

 

551:魚ッ茶アー

 

ありえない話ではない。過去の文献によると、モンスターの家畜化に成功した例がある。実際、NPCの農家や酪農家が飼っている家畜の一部が元々はモンスターだったという裏は既に取れている。

 

 

552:荒野TOFU

 

まじで?!知らんかったわ。

 

 

553:グッキルさん

 

へーいいやん。

グっ解説

 

 

554:渡り硝子

 

考察勢はこれだから…頼りになる!

 

 

555:山散花

 

おっなかなか、良さそうな感じ?

それやるよ!

もう、安価には任せられん。

次はひどい目に会いそうな予感がする(切実)

 

 

556:デストロイレーザー

 

完全新大陸行きの流れがきてる中、レベルカンストしてる奴がやることがゴブリンのストーカーとゴブリン牧場経営とか君には失望したよ(もっとやれ)

 

 

557:通行人A

 

だが、それならSF-Zooの連中がすでにやってそうな

 

 

558:羽毛布団アーマー

 

テイムされてないゴブリンに悪戦苦闘するGTC主の姿が見える見える

 

 

559:ダッシュ兄貴

 

>>557

やらないという選択肢はないからやれない理由考えなくていいんやで(ニッコリ

 

 

560:山散花

 

えーっとところで、何をすりゃいいんだ?

捕まえる方法>>580

牧場建設地>>600

 

 

561:卵プディング

 

やっぱり安価じゃないか(呆れ)

 

 

562:ポセイ丼

 

牧場にするならゴブリンと触れ合える広場欲しいな

 

 

563:荒野TOFU

 

気がはえーよポセ

とりあえず捕まえ方だ

 

 

564:鍋ぬこの民

 

つカウボーイ式捕獲

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 ほーん、みんなゴブリン好きやなぁ...俺も好きだけど。なんというか動きがコミカルで和むところがある。ゴブリン牧場ファステイアにできるなら見に行かないとな。

 

 

 

 

「おまたせしました。パンダチャーハンでず。」

 

 

 

 おっ!お待ちかねのチャーハンがやってきましたか。どれどれ...

 

 

 

 目の前にはTHEチャーハンというべきチャーハンとおまけのスープが置かれている。パンダらしいところはないな。

 

 

 

 レンゲで一すくい。口に運ぶ。

 

 

 

「ハフッハフッ...モグモグ......うま。」

 

 

 

 うまい。うまいチャーハンだ。香り、味、米、全てがうまい。つまり、チャーハンうんめえええええ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 眼と口から光線が出る(幻覚)。くそっ...止まらない腕を押さえつけながらスープにレンゲを通す。

 

 

 ズズ...

 

 

 

 カッッッッッッッ

 

 

 

 その時、宇宙が生まれた。やがて、ガスが集まって星になり、太陽系ができ、初めての生命が生まれ、植物が地上に生え、動物が陸に進出し、恐竜が滅び、サルが二足歩行し、アルキメデスが裸で走り、織田信長が本願寺焼いて、アームストロングが月に着陸して、ジョブズがスマホを作って...

 

 

 

 俺は今...チャーハンを食べている。

 

 

 

 ジーン

 

 

 

 ハフッハフッ...うめえ...ズズ...

 

 

 

 黙々とチャーハンとスープを味わった。




Tips.掲示板
匿名掲示板ではないので発言には注意!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10_ぶらりゆらりと魔女通り

4608文字
イッヒッヒ


 久しぶりにめちゃくちゃ美味い飯を食べた。幸せな気分だ。この美味さのチャーハンを出す中華屋さんが近所にあったら通いつめるレベルだ。値段にはよるけれども。

 

 

 

 

 満足感に包まれたままぶらぶらと適当に歩いていたら人通りがある道に出た。

 

 

 

 ここは...なんだろうか...?

 

 

 

 辺りを見渡すと怪しげな通りだ。ねじ曲がった小径(こみち)に色とりどりの煙がそこらかしこで立ちのぼっている。水晶を磨いている老婆がいたり、店の奥でぶつぶつと呟いきながら羊皮紙らしき古めかしい紙に何かを書きつけている毛むくじゃらの男がいる。また、鍋をかき混ぜてはニンマリとしている妙齢の女性がいる。

 

 

 

 面妖な...雰囲気だ...

 

 

 

 トカゲの干物や瓶詰めされた何かの腕、そういった物が店先に並んでいる店が正面にあるのを横目にしつつ、右手へ曲がる。

 

 

 

 これはもしかして魔法世界の...言わずとしれたハリ○タの...?

 

 

 

 そんな直感が頭をよぎる。

 

 

 ふっ...ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!キタコレ!魔法世界キタコレ!!!見える見えるぞ...長い白髭の校長が手招きしている光景が...目に浮かぶ!

 

 

「ふふーん、ふふーん、ふふんーふふー、ふふっふっふふーふ、ふふーふふー」

 

 

 思い浮かんだメロディーを鼻歌で歌いながら散策する。いいねぇ...いいねぇ...どんな店があるんだろうか...

 

 

 通りを通っている人たちもそうと気づけばローブ姿の人が多い。鎧を着ている人もいるが、金属鎧ではなく皮鎧でかなりの軽装備だ。中には、目元だけを隠す仮面を被った派手な格好をした人も歩いている。

 

 

 

 ニヤニヤしながらこれはと思った店にずかずかと入ってみる。怪しげなものが積まれている店だ。若干暗めだ。

 

 

 

「失礼しまーす...」

 

 

 中は照明がついておらず、店内を照らすのは窓と店先からの薄明かりだけだ。

 

 

 

「ようこそ...何かごいりようかな...」

 

 

 背が曲がった老婆がしわがれた声で返事をする。丸椅子に腰掛けていたのをわざわざ立ち上がってこちらへ向かってくる。

 

 

 

「あ...えと、これって何に使うものなんですか?」

 

 

 

 そこらへんの机の上に置いてある物を指差して尋ねる。特に何かが欲しいということはない、ただ珍しさから店に入ってきた冷やかしにすぎないが...

 

 

 

「あぁ...これはのう.......占い師が使うものじゃよ...」

 

 

 

 老婆はその指指した物を手にとり語り出す。

 

 

 

「これは(さい)を使った占いの道具での......神ならぬ人の身はこのようなものをつこうて...おのが運命(さだめ)を覗きみるのじゃ...」

 

 

「ほぉ...占いの道具ですか...」

 

 

 

 改めて見るに、溝や模様が彫られた八角形の水盆のようなそれほど大きくない器だ。

 

 

 

「さよう...占いの道具じゃ......(さい)ややり方によって占えるものは変わるがの......まあ...気休め程度ではあるが...どれ...お主の運勢を占ってやろうか...」

 

 

 そう言うと机の上の一画に置いてある石のサイコロをいくつか取り、コチコチと掌の中でぶつけあって音を鳴らす。

 

 

「こいつは案外と簡単なものでの......魔力も何もいりはせん...ほれ、このように...(てのひら)の中で転がしてから(ほお)る...」

 

 

 

 8面体のサイコロ2個と6面体のサイコロ一個が器の中でぶつかり合い、カラカラと音を立てて停まる。

 

 

 老婆はサイコロの目を見て、懐から出した冊子をめくる。あるページを指でなぞり、文章を確かめる。

 

 

 目を細め、少し考えてから語り出す。

 

 

「ふむ....悪くないのう...では、占いの結果を言うと、お主の行く先で予想外の出会いがある。その出会いが何がしかの利益をお主にもたらすだろう。幸運な出会いの一方で、お主自身はやりたいことは失敗が続いたり不調が続く。しかし、気に病むことはない。身動きがとれないことで、危険を避けることができる。甘い誘惑には気をつけなされ、迂闊に深入りすれば火傷を負うかもしれぬ...」

 

 

「.........なるほど?」

 

 

 なるほど分からん...気をつけろということだけが分かったが...いつ、どこで、何がということが全く分からないが...まあ...占いとはそういうものだ。要は心の持ちようだ。悪くないと言っていたしな。

 

 

 

「占い、ありがとうございます。」

 

 

「これは当たることもあり、当たらぬこともある...そういうものじゃから...礼は要りゃせんよ...ひっひっひ......」

 

 

「ははは...そういうものですか...。」

 

 

「どうじゃな...占いの冊子と器と(さい)のセットで4000マーニじゃ...これがあればどこでも占いができる...占いの初心者には持ってこいじゃよ。」

 

 

 

 うーん、高い。というか、占いにあまり興味がない。実際。

 

 

 

「他にはどんなのがあるのかな...?これ以外に...」

 

 

 

 薄暗い店内を見やると、まだまだ何がしかありそうだ。

 

 

「そうじゃのう......まぁ...うーん.......これはだめじゃな...よっこらせ......これはどうかのう......」

 

 

 そう言って棚から老婆が取り出してきたのは、古ぼけた袋だった。紐がほどかれ中身が取り出される。

 

 

 金属が複雑に組み合わさった物体が老婆の手の上にある。

 

 

「これは......知恵の輪?」

 

 

「さよう知恵の輪じゃ...無聊(ぶりょう)を慰めるのによいじゃろう...ほれ、手にとって見てみんさい...」

 

 

 知恵の輪なんて触るのいつ以来なのかと思いつつ、手に触れる。ガチャガチャと動かしてみるがとれる気配はない。

 

 

「どうじゃ...なかなか難しいじゃろう。取るには工夫が必要じゃて...」

 

 

「いやぁ...確かに案外難しいようです...これは...」

 

 

「ひっひっひ...解けた時は気持ちの良いじゃろうの...どうじゃ、これを一つ300マーニなんじゃが、5個買うなら1200マーニで勉強させてもらうがの。」

 

 

 つまり、一つタダ。そう高くないし、せっかくだから買っていくか。万が一、飽きたら投擲すればいいだろう。小銭よりは攻撃力が高いという可能性もある。端が丸くないからな...

 

 

「一セットもらおうかな?ところで一つお伺いしたいのですが、湿布薬が売っている店を知りませんか?」

 

 

 せっかくだから湿布薬について聞こう。住民なら知っているかもしれない。

 

 

「ヒッヒッヒ...ありがとう。袋に入れてやろうかね...ほれ。それで......湿布薬を売っている店じゃったっか......?」

 

 

 老婆は一度質問を聞き返してから眉間にシワを寄せて考え始めた。

 

 

「湿布薬...湿布薬......あぁ......!マクスンさんの所で売ってるのぅ......よう効く湿布じゃ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 セカンディルの地図は入手していなかったので、冊子『初めてのファステイア』の余白に簡易的な地図を描いてもらった。どうやら少し通りから小径(こみち)に入ったところにあるようだ。

 

 

 

「えーっと...ここかな?マクスン...薬品店...うん、合ってるな。」

 

 

 

 長年の風雨により黒ずんだと思われる看板にかかれた文字列を読み上げる。老舗というやつだろうか?外壁も黒ずみで汚れている。

 

 

 

 扉は閉まっているが、営業中という札が入り口の縁に掛けてあるので、入ってもいいのだろう。若干建て付けの悪そうな引き戸を開けて、中へと入る。

 

 

 店内はそう広くなく、棚や机に所狭しと瓶やら包み紙、小袋が並んでいた。店の奥にはカウンターがあり、小さな眼鏡を掛けた白髪混じりの初老の男性が帳簿らしきものをつけている。

 

 

 

「おや、お客さんですか...よっこらせ...」

 

 

 そう言うと、書いていたものを折りたたみ片付け、カウンターの前へと出てきた。紺色の前掛けみたいなものを身につけている。下履きはサンダルだ。

 

 

 

「いらっしゃいませ。何かご入り用ですか。」

 

 

 早速、湿布薬のことを聞こう。

 

 

「こちらに良く効く湿布薬があると聞いたのですが...」

 

 

「湿布薬ですか。こちらですね。5枚1000マーニです。とても良く、効きますよ。痛い場所に貼ってください。腰痛、肩こり、筋肉痛、なんでもよろしいですから。」

 

 

「どうも、ありがとうございます...実は、自分が使うわけでなくて、どうしても湿布薬が欲しいという人がいましてね。それで買いに来たんですよ。そうだ...どのくらいの期間、効果はもつんですか?」

 

 

「貼ってから1日というところですね。薬効は未開封の状態だったら半年はもちますよ。」

 

 

 最初は1パックだけで良いかと思ったのだが、せっかくだからいっぱい買って、プレゼントして気が良くなった爺さんに笛の作り方を教えてもらおうかな、と思い立った。そうしたら、牛の角以外の素材でも笛を自作できるしな。

 

 

「そうだな...10パック貰おうか。うん。」

 

 

「10ですか?!いやぁ、ありがとうございます!1万マーニ、どうも!」

 

 

 まともな楽器を得るためならこれくらいの散財はコラテラルダメージだ。

 

 

「あっ...そうだ。こいつは栄養剤?とかの試供品なんですが、いっぱい買ってくれたお礼に1本どうぞ。取引している開拓者の薬剤師さんがこの前置いていってくれてね。なかなかこれが疲れた体に効くんで、是非試してみてください。」

 

 

 店主は湿布薬と一緒の袋に、そう言って1本の栄養ドリンクらしきものを突っ込んだ。

 

 

 

 栄養ドリンク......?

 

 

 

 受け取りながら袋から瓶を取り出し、手にとってまじまじと見る。

 

 

 

「『雷蜂(ライホウ)』......限界の一歩先へ......?」

 

 

 メタリックなデザインの蜂が描かれた瓶に、変わったフォントで文字が書かれている。

 

 

 裏面を見ると、本来なら材料欄のハズの場所に効果が書かれていた。

 

 

 

【効能:疲労回復、体力増強、戦意高揚、集中力向上、状態異常緩和 効果:HP20%回復、HPリジェネ(中)、STM50%回復、STMリジェネ(中)、ATK上昇(中)、AGI上昇(中)、DEX上昇(中)、TEC上昇(中)※効能、効果には個人差があります。上記はLv30~Lv70の開拓者平均です。Lv20以下の服用はおすすめしません。※本製品は効果増強のために微量の毒を複数種含んでいます。一日に4本以上の服用はおすすめしません。※他製品との同時使用および混合や本製品を使った料理など想定外の方法での使用に対する責任は一切負いません。

空飛ぶ大釜(フルーガ・ゲルミル) 】

 

 

 

 Lv20以下はおすすめしないって、どういうこと......?副作用ありそう...しばらく使うのは止めとこう。試しに使ってみるには効果が惜しい気がする。でも、こういう役に立ちそうなのって結局使わないんだよなぁ...○リクサーとかもったいなくて一度も使ったことないわ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 マクスン薬品店を出て手持ち無沙汰になった俺は残りの時間をどうしようかと考え、頭の後ろで手を組んで空を見上げた。

 

 

 終わってみればあっけなく湿布薬が手に入ってしまった。気合いを入れてセカンディルまで来た割には拍子抜けだ。

 

 

 まだログアウトするには早いんだよなぁ...かといって、これからグラッセ村に行って笛を作るのも今日は気が乗らない。......決めた。

 

 

 

 今日はセカンディルで過ごそう。魔術師ギルドに顔を出してみたいし、先のエリアのモンスターも見てみたい。

 

 

 そうだな...ちょっと散財したし、小金を稼ぎに行くとするかな。

 

 

 まずは、魔術師ギルドと宿屋を探すとしますか...

 

 

 ローブのポケットに手を突っ込んで、再びぶらぶらと歩き始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11_ドロドロロ...四駆八駆の沼荒野...

5088文字
ブクブク



 魔術師ギルドの受付にいたお姉さんと早速仲良く(希望的観測)なった俺は、雑貨屋から次のエリアのマップを購入し、意気揚々と宿屋を予約してから、沼地へと足を踏み入れた。

 

 

 と、その前に泥汚れを警戒して装備をもう一セット購入した。どうやらこのゲーム、耐久値の概念が導入してあるらしく、基本的に使えば使うほど劣化していくようなのだ。生産職に優しい...資本主義ぃ(悲鳴)!このエリアだと湿気や泥汚れに未対応な装備は劣化が著しくなったり、見た目が悪くなっていくようだ。ああ、お金を増やそうとするとお金を減らさなければいけない...

 

 

 新調した装備は泥大蛙のロングブーツ、樫木のロングスタッフ(暗緑鉱砂コーティング)、頭装備の森林牛のヘルメット。牛のヘルメットはウッドランドブルの頭蓋骨(ずがいこつ)がインベントリの中にあったので、布装備屋で聞いたら対防水性能がある皮を貼ってくれて改造してくれた。飛び出た乳白色の二本の角がチャームポイントだ。残金はなくなった。ズボンや上着、ローブまで新調するお金は無かった。ぶっちゃけ死ぬと宿屋代が払えない...ピギィ...

 

 

 このゲーム残金ない状態で死ぬとどうなるんだ...デスペナが重い状態で路地裏で放り出されるのか、借金して宿屋に泊まるのか、どちらでもまあいいけど、路地裏の方がいいかな...借金地獄とか笑えない。

 

 

 

 

 

 さて、新しいエリアに足を踏み入れたのだが、流石に未知のエリアに準備無しで突っ込むのは不味いかと思い購入した『簡易攻略MAP~沼荒野編~(編・NMM)』によると、どうやらここは荒野にいる生き物と沼地にいる生き物が縄張り争いや食い合いをしながら生態系を作っているエリアらしい。

 

 

 街の門から出た先の景色を見ると、草木がまばらで大きな岩が剥き出しになっている赤い荒野の部分と、黄土色やら緑白色、さらには、薄青色の様々な色で濁った沼がところどころに広がる湿地帯の部分とが作り出す奇妙なモザイク模様が眼下に見受けられる。どうやら様々な鉱石が産出されるようで、沼の色は地中の鉱物の色を反映しているのだとか。

 

 

 最も確かめたかった(高難度MOBがうろつく)デンジャラスゾーンは南と北らしい。道に迷わなければ大丈夫だと思いたいが、街道は沼地や大岩を避けるように曲がりくねっているので、時折、高レベルモンスターのエリアに近づく必要があるので注意と書いてある。お勧めのショートカットも書いてあるので、利用すれば戦闘を少なくするのも可能なようだ。惜しむらくは気を付けるべきモンスターが書いていない。まあ、廉価版みたいだから文句を言ってはいけないだろう。試しに買ってみたのだが、中々お買い得だったのではないだろうか。必要な情報は自分で書き込めば良いしな...

 

 

 

 

 じゃりじゃりと長靴で音を立てながら進む。早速荒野らしきものと遭遇。サボテンだ。トゲトゲしい。

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 サボテンは湯気を出しながら燃えた。...どうやらこのサボテンは動かないサボテンのようだ。

 

 

 ファイアーボールの火力では燃やし尽くすことができなかったらしく、表面に焦げ跡がつくのみで、ほとんどそのままの形で残った。悪いことをした...

 

 

 世の中には砂漠を這って横断するサボテンなんてのもいるらしく、ファンタジーならなおさら二足歩行で襲いかかってくるかもしれないと思ったのだが。

 

 

 赤い実をつけた個体がいくつかあったので、採取用の皮手袋をして袋に実を突っ込んでおく。少しでもお金を得なければ...

 

 

 チョロチョロと足元を小さめのトカゲが走るので、実を小さく割って放り投げると、咥えて岩の隙間へと潜っていった。フフフ...可愛いな。

 

 

 

 採取をしながら舗装もされていない緩やかな下り坂を下っていく。ゴツゴツした岩が露出した荒れ地に差し掛かった。草木も生えていない。

 

 

 

 サボテンの採取ももう終わりか。そう思い採取袋をしまうと唐突に、音を立てて右手の岩陰から突風が吹く。

 

 

 

 

 赤い砂が巻き上がり、顔面にかかったので思わず右手で払おうとして...ゾッと悪寒が走った。視界の隅に獰猛な牙がちらりと映る。

 

 

 襲撃じゃないか?!あわわわ...

 

 

 慌てて泡を吹きながら、ロングスタッフを突き出して横へと飛びすさぶ。

 

 

 

 突き出された長杖は最短距離で獣の顔面を打ちすえる...はずだった。

 

 

 小さく風が鳴る。犬くらいの大きさの獣が空中で棒をかいくぐり、飛び跳ねてくる。

 

 

「なっ...」

 

 

 慌てて長杖をこちらへと引き寄せ、しゃがみ込む。

 

 

 肩に爪が食い込む。そして...獣は俺の頭へと噛みついた。

 

 

 ガジッッ

 

 

「ひえぇえええ?!」

 

 

 かじられた?!かじられた?!振り払わないと...

 

 

 混乱のあまり地面を転がり回ろうとするが...

 

 

 獣は襲いかかった勢いのまま肩を踏み台にして離れていった。

 

 

 ......痛くない。そうだ...ヘルメットをしていたのだった...

 

 

 そんななんとものんびりしたことを考えつつ、後ろを振り向くと...

 

 

 小さな砂煙を立てながら、狐のような狼のような獣が少し先の地面へと着地するのが見えた。

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 兎にも角にも壁を作る。機動力に劣る立場としてはそうせざるを得ない。暫定狼を隔てる壁が一巡の選択肢をくれる!

 

 

「ホワイトフォッグ。」

 

 

 1m弱の高さの砂壁上部へと当たった白霧は、壁を伝って上へ横へと広がり薄いもやが壁の近辺に立ち込める。

 

 

 数瞬後、砂を蹴る小さな音が聞こえたと思うと、砂壁上方の真ん中のもやが乱れた。

 

 

「アクアウィッップ!!」

 

 

 長杖をもやが乱れた箇所に向けて砂壁上部全体をカバーするように左右へと先端部を振って、水流を蛇行させながら幅広く掃き出す。

 

 

 サンドウォール、ホワイトフォッグ、アクアウィップのトリプルコンボは始まりの草原と跳梁跋扈の森でソロ活動をしていた際に、機動力の高い魔物に絡まれた時に対処できるように編み出した対処法だ。相手の視界を防ぎ選択肢を制限することで、パターンに持ち込むこと容易い。もっとも空を飛ばれたり、4匹以上の群れに絡まれると容易く突破されてしまうのだが...

 

 

 この魔物はすぐに攻撃してくるタイプのようだ。奇襲もしかけてきたし速攻型なのだろう。

 

 

 水流に打たれた魔物の影がギャンと悲鳴を上げながら、壁の向こう側へと落ちていく。

 

 

「ロックニードル。」

 

 

 長杖を砂壁に向けて呪文を唱える。石トゲの呪文は砂壁の呪文と相性が良い。独りで検証したところ、砂壁のどこからでもトゲを出すことが可能なようだ。そして...先日解散してからも、ログアウトする前にMPを吐き出すついでに検証していたところ驚くべきことが分かった。

 

 

【見えていないにも関わらず、砂壁の向こう側に石トゲを発動することができる。】

 

 

 これはシャンフロを始めてから常日頃、戦闘で魔法を使ってきた自分にとって衝撃の発見だった。

 

 

 魔法の発動に恣意(しい)性が存在すると分かったからだ。石トゲの向きを表向きにするか裏向きにするかを選択することができる。それまでは、目に見える部分にしか魔法を発現できないと思い込んでいた。だから、気まぐれで向こう側に出せないかと考えるまでは、全て砂壁の(こちら)側に石トゲが突き出ていたのだ。

 

 

 さらに検証を進めたところ、向きが決定されるのは呪文を言い終える瞬間ということが分かった。この恣意性を含む仕様は魔法を使う上で抜け穴になるかもしれない。要研究だ...

 

 

 

 

 再び悲鳴が聞こえる。上手く砂壁の近場に落ちてくれたようだ。

 

 

 

 上手く反撃が続いているが決して有利な訳ではない。近距離型に距離を詰められたら為すすべもなく攻撃されるのは目に見えている。これまでも幾度となく接近戦で死んできたことか...

 

 

 

 やはり一筋縄ではいかないようで、傷を負いながらも暫定狼は一度、砂壁の横方向へと大きく離れるようにかけていく。

 

 

 赤い大地を駆けていく姿を見て、ふと思い出した。そういえば野生動物のドキュメンタリー番組で、見たことがある動物だ。そうだ...コヨーテだ。北米に多く住んでいる狐のような狼のような...

 

 

 

 コヨーテは、砂壁を大きく迂回して駆けていく。

 

 

「ファイアーボール...」

 

 

 ちっ...流石に素早く動く相手には当てにくいな...ある程度、進行方向を予想して発射しているのだが、なかなか当たらない。慣れが必要か...牽制にはなっていると思うが...

 

 

 

 

 

 もし、狼ないし中型から大型の肉食獣がいきなり目の前に現れたとしたらどのように戦うのが良いのか。例えば銃を持っているとしよう。銃の場合、相手が接近する最中に一方的に攻撃を加えることができる。相手が気づいていない場合は圧倒的遠距離から致命の一撃をくらわせることができるだろう。

 

 

 では銃を持っていなかったら。銃を持っていない時代の人々は獣とどのように戦ったのか。弓矢で遠距離からなぶり殺しにするのだ。罠を使うのも良い。

 

 

 しかし...手元には接近戦の武器しかない。人間の優位性というものが彼我の間で存在しない戦い。

 

 

 そんな現実では味わえない獣との原始の距離感がこのゲームでは味わえる...

 

 

 

 再びこちらに食らいつこうと地面を蹴るコヨーテの姿を見ながらそんなことを思う。しまったな...魔法職ではなく近接職を選べば良かったかもしれない。

 

 

 しかし、魔法というのもまたよいものだ。現実にはあり得ないという点において、これほどまでに人間に自由を感じさせてくれるものはない。

 

 

「守れ、水の(かご)、タイダルドーム。」

 

 

 杖先から水が溢れだし、水球が次々に生み出される。その水球たちが杖から離れ散らばっていくのが見えた次の瞬間......水の網目が宙を走り出し。視界が水に(にじ)む。

 

 

 

 先日の強制レベル上げブートキャンプで取得した魔法は2つ。待望のバリアであるタイダルドームと地形変更型のスタンブリングフロア。タイダルドームの性能としては唱えた術者を中心として水の被膜のドームを形成、敵の攻撃に対して自動的に防御を行う。移動してもついてこないことが難点だが...半拠点型の防御機構と考えれば使えないこともない。

 

 

 

長杖を水のドームの縁に接触させる。そしてこの魔法の何よりも素晴らしいところは...何といっても...

 

 

 

「アクアウィップ...」

 

 

 

 水を媒介として、アクアウィップの射出点を自由に変更できる、それに尽きる!

 

 

 

 術者の意志に従って荒ぶる挙動をする水の鞭。

 

 

 コヨーテの動きに沿って水の被膜の上を上下左右に激しく振れ、宙を跳ねて逃げようとするが、勢いをつけて攻撃態勢に入っていたその身体は大きく避けることができない。

 

 

 容赦なくコヨーテの体はあらゆる方向に打ち据えられた。

 

 

 

 

 安全圏から一方的に攻撃する。これが人類の叡智(インテリジェンス)やでぇ。

 

 

 

 ゴクゴク

 

 

 セカンディルで買った比較的味の良いマナポーションを飲む。そういえばこのマナポーション、少し甘く赤味を帯びているところを考えると...サボテンの実のエキスでも使っているのかもしれない。

 

 

 

 ドヤ顔で水ドームの中でマナポを飲んでいると、コヨーテが立ち上がって離れる方向に足を向けるのが見えた。

 

 

「おん?今更逃げられてたまるかよ。」

 

 

 ドームから急ぎ足で出る。ついでに長杖をしまい、バールとダガーに持ち替える。追撃は手数が命だ...

 

 

 先ほどよりたどたどしい足取りのコヨーテに対して、火の玉を打ち出し、一山いくらの廉価ダガーを投げつける。背を向けていて飛来物を直接見ることができない相手にはまあまあ当たる。

 

 

 コヨーテの足取りがさらに重くなる。この速度なら俺でも走れば逃げられるということはないな...

 

 

 

 さらに追い立てると、コヨーテは大岩の巨大な亀裂の中に入っていく。

 

 

 

 それを追っていくと薄暗い亀裂の奥に傷だらけのコヨーテが座っていた。

 

 

 

 ここで終わりだ...トドメを刺してやる。

 

 

 

 そう思いダガーを投擲するために振りかぶった瞬間...

 

 

 

 

 

 

 アオオオオオォォォン...アオオオオオォォォン...

 

 

 

 

 赤い岩壁に反響して何度も何度もその甲高い遠吠えが聞こえる。

 

 

 

 ビュォオオオ

 

 

 風が強く...強く...強く吹き荒れ始める。

 

 

 

 

 砂が舞い上がり、砂塵の暴風が亀裂内を渦巻いて吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 そして...その抑えきれない流れが俺の体を巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁ...あぁ..........かぁ...ペッ...」

 

 

 

 亀裂の外のそれなりの大きさの岩に砂まみれでぶつかった鈍い衝撃で、コヨーテにまんまとしてやられたことを悟る。赤い砂を口から吐き出す。

 

 

 

 亀裂の奥を見るとすでにもぬけの殻だ。

 

 

 

 

 

「ち...ちくしょおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 魔法職が獣風情によりにもよって魔法で謀られるとは...!うっぐぐぐぐ...

 

 

 なんとも言い難い悔しさで思わず歯ぎしりを鳴らした。




Tips.魔法仕様
なんとなく納得できる魔法のルール。意識すると向きが変更できる。マナで形成された物体はマナを浸透しやすい(魔法によっては攻撃の起点に指定できる。)。
魔法は置いて行くという使い方が大切。実際にマナが物量やエネルギーとして変換されて出現しているので、空間制圧力がスキルより断然強い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12_万民よ、神聖なる聖女ちゃんを(たた)えよ!

コンコン
6672文字
※本SSでは午後十字軍の闇の企業戦士たちに配慮して昼夜4交代制を導入しております。


 ちょっと悔しさで頭がかっとなってしまったが、もう冷静である。冷静である...やっぱり、めっちゃ悔しい。

 

 

 なんや...あれ、急に使ってきやがって...最後の最後によぉ...

 

 

 

 思い出して地団駄を踏んでしまいそうになる...が思いとどまる。冷静に考えてみると最後の最後にしか使えなかったともとれるな...

 

 

 

 そもそも、あのコヨーテが魔法を使ったのは、どのタイミングだ。

 

 最初に接近した時、長杖で突いたが空中で避けられた。空中で地面を蹴ったように見えたが...あれが魔法だったのかもしれないな...そういえば、突風が吹いて砂が顔にかかったのも、そうか...風の魔法だな。確信めいたものを感じる。

 

 

 風の魔法を使うコヨーテだとすると、最後の砂嵐は風で砂を巻き上げて起こしたということだな。違いは...遠吠えか。近接の補助として用いていた時に鳴き声はなかった。

 

 

 人間の魔法が呪文をトリガーにしていることを考えると、あの遠吠えがトリガーになったと考えるのが自然な考えだ。遠吠えをした方が風の威力が高まるのだろう。

 

 

 だが、亀裂にわざわざ入っていたことには疑問が残る。

 

 

 自分を追い詰める行為だ。袋小路の方が気合が入る...?どう考えても不自然だ。戦っている最中は亀裂の先に抜け穴があるだろうと思って慌てて追いかけたが、その先はどう見ても逃げ場がなかった。

 

 

 そうすると...あそこがコヨーテの切り札であったと考えられる。あの場所で遠吠えをするのが最も生存可能性を高める、そういう選択だった...

 

 

 脳裏にコヨーテの遠吠えがリフレインする。

 

 

 あっ?!...反響か!

 

 

 広いとは言えない亀裂の壁に跳ね返されて何度も何度も遠吠えが聞こえていた。風魔法が何重にもなって行使され、あの亀裂の中を吹き荒れていた...のか?

 

 

 ゴクリ

 

 唾を飲み込むのと同時に、得も知れぬ悔しさの溜飲が飲み込めたようだった。

 

 

「完敗だ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近取得したスキル『失せ物捜索(ロストサーチ)』を使って、ダガーと小銭を素早く発見して回収。気を取り直して再び街道を歩くと右手に大きな水たまりが見えてきた。もしかしなくても沼...だな。

 

 

 

 白っぽい緑色の色をした沼のほとりには長草が生い茂っている。沼地のモンスターにも興味があるのだが、さすがに対策せずに水場に突っ込むのは怖い…ワニでもいるかもしれない。そしたら引きずりこまれてお陀仏だ。というか、水の中にいるモンスターに有効な魔法って今持ってないな。手持ちは水、火、土、風。火は水には弱いだろ多分。水棲の生物に水与えても喜ぶだけ。風は水を巻き上げるほどの威力は今のところない。土は、まあ無理だよな。

 

 

 

 兎にも角にも苦戦しか予想できない水棲モンスターを警戒して沼からできるだけ離れて歩くように...しよう。特に何も舗装されていないとは言え、馬車2台分くらいの大きな道の沼側じゃない反対側の隅っこを警戒しつつ歩く。

 

 

 

 

 しばらくして、右手の沼は遠ざかり、今度は切り立った崖と見間違うほどの巨大な岩が見えてきた。道はこの巨大な岩を真っ二つにしたかのような切通しに続いている。少し遠くにプレイヤーが2、3人切り通しの先を走っていくのが見える。巨大な岩の形は綺麗な一枚岩ではなくいびつな尖りや亀裂をそこらかしこにあり、長年の風や水の流れを感じさせる。

 

 

 

 すぐに付け根へとたどり着いた。岩本体自体は場所を選べば登れなくもないくらいの勾配と、高低差だ。

 

 

 岩の上には植物も生えており、白い岩肌をところどころにぎやかしている。

 

 

 ふと耳を澄ませると甲高い金属音が聞こえた。

 

 

 

 一度だけではなく何度も聞こえる。

 

 

 誰かが戦闘しているのかな...?と初めは思ったが、定期的にリズミカルに聞こえるので、どうやら違うなと思う......となるとこれはツルハシの音か?

 

 

 

 ほとんど聞き慣れない音なので...断言はできないが、きっとそうだろう。採取・採掘はアイテム制作ができるタイプのゲームだったらまあまあの頻度で出てくるものだった気がする。気になるな金策的に...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音がする方の岩の方へ岩に沿って回り込む。切通しから少し入ったところに上りやすそうな場所があったので、手も使いながら登っていく。平らな場所も多く、次に上に行けそうな足場や勾配の緩やかなところを歩いて探す。

 

 

 

 

 前に崖でクライミングをした時に、スタミナが切れてしまって落下死してしまったから、急斜面を無理して登ろうとしてまた死ぬのは避けたい。人知れず死ぬのって悲しい...せめて、モンスターでもいいから目撃していて欲しいものだ...

 

 

 

 

 

 

 のんびりと登っているうちに音の発生源にたどり着いた。一人のプレイヤーがツルハシを一心不乱に岩壁に打ち付けている。

 

 

 

 振るわれたツルハシは岩壁に衝突し独特な高い音を辺りに響かせる。砕かれた岩の破片は飛び散り、その足元へ乱雑に積もっていく。

 

 

 声を掛けるのもはばかれるほど熱中しており、邪魔したら怒られそうな雰囲気がある。

 

 

 よっこらせ...

 

 

 地べたに腰を下ろしてからあぐらをかき、インベントリからブレンドティーが入った木のボトルを取り出しコップへと注ぐ。

 

 

 ゆっくり待つとするか。

 

 

 

 金属音が鳴り響く中、高所から見る青空の広さと下界のミニチュアっぽいかわいさを感じながら、のんびりと景色を眺める。

 

 

 おぉ、ハイキング日和だな。素晴らしい。

 

 

 ブレンドされた柑橘系の果実の香りを楽しみながら、遠方の街や沼、岩、川を見る。時折、飛んでいる鳥が空中に円を書いているのが面白い。いつまでも見ていられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅっ......休憩しよ...って?!」

 

 

 金属音が止んだので景色を見るのを止めて後ろを振り返ると、大きな伸びをして振り返るプレイヤーさんと顔が合う。

 

 

 

「あっ...どうも。」

 

「どっ...どうも。」

 

 

 思わず会釈をすると相手も会釈を返してきた。ものすごく気まずい...

 

 

「あー...そのですね......下を歩いてたら、カキンカキンと音が聞こえてきたので何をやられてるんだろうなと...思いまして、来たら一生懸命やられているんで邪魔したらいけないなとお茶を飲みながら待っていたんですよ。」

 

 

「そうなんですか...」

 

 

 あまり弾まない会話。バッドコンタクト。

 

 

「そうだ、あなたもお茶でもどうですかな。」

 

 

 返事を待つ前に机と椅子を二脚インベントリから取り出し、青のテーブルクロスを掛けてセッティング。木のコップをもう一つ置き、ボトルからお茶を注ぐ。

 

 

 トゥクトゥク

 

 

「オレンジフレーバー紅茶みたいな味ですからミルク無しでも飲めますよ。ささ、冷めない内にどうぞ。」

 

 

 自分のコップにも足してからちょびっと飲む。

 

 

 

 プレイヤーさんは最初驚いた顔をしていたが、小さく返事をしてから、恐る恐る近づいて来て椅子に座った。

 

 

「あっ...美味しい...」

 

 

「農業系クランのツテがあって、そこから譲ってもらったんだよ。仮想現実とは言えど侮れないねぇ...」

 

 

 種苗クラン『輝ける種』との植物の情報をゆるく売り買いする関係は、シャンフロ内でのQOLの向上に物凄く貢献していた。情報提供のついでにちょっとお願いすれば、関係先や取引先から品物を安く入手してきてくれたりするのだ。全く素晴らしいクランだ...

 

 

 

「ところで、そこでやっていたのは採掘なのかい?」

 

 

 石ころが積み上がっている壁の方を指差す。彼女はそちらを見てからお茶を再びすすり、落ち着いた様子で話し出した。

 

 

 

「採掘...といえば採掘ですね...」

 

 

「うん...?採掘でないかのような...」

 

 

「採掘ですよ。ただ、採掘する時に...壁に像を彫っているんです...」

 

 

「掘っている...?ああ、彫っているね......像を?!」

 

 

「まだざっくりと削っている段階ですが...はい...」

 

 

 そう...像を彫ってるのか。なんで......???

 

 

 ズズズ

 

 

「あー...えーっと......何の像を?」

 

 

「聖女ちゃん像です!!!」

 

 

「聖女...ちゃん...?」

 

 

 回答は食い気味に被せられた。聖女ちゃん......あれ?頭の隅になんかそのワード存在するような気がする。

 

 

「聖女ちゃんは本当にかわいくて優しくて慈愛に満ちあふれていて聖女ちゃんマジ聖女ちゃんなんですよ。聖女ちゃんの為にこの世界があると言っても言いすぎではないんです。

 

 わたしが培ってきた彫刻の技術と石工のスキルはぁ聖女ちゃんという神様が作った奇跡の美を少しでも多く広めるためにあるんだと、聖女ちゃん見た瞬間にビビビーっときたんですよ。聖女ちゃんかわいい。聖女ちゃんマジ天使。聖女ちゃんマジ聖女ちゃん。

 

 ふぅ......聖女ちゃんはシャンフロのメイン宗教である三神教の聖女なんですよ!めちゃくちゃかわいいです!」

 

 

 .........おぅ。やばい人や。聖女ちゃんとやらに首ったけということは怖いほどに分かった。

 

 

「なるほど..................それで聖女ちゃん像を彫ってるんだね......」

 

 

 なぜこの岩壁に彫っているのか、聖女ちゃんに首ったけになったきっかけとか、聖女ちゃん像彫ったら偶像崇拝になって三神教から怒られないかとか、フィールドのオブジェクト好き勝手加工していいのか、とか色々と疑問が駆けめぐったがやぶ蛇を突っつきそうな気がしたので飲み込んだ。でも、なんだか面白そうだ。

 

 

「素晴らしい!そうだな...是非とも...かわいい聖女ちゃん像の完成した姿がみたいのだけど、ここで見学させてもらっても...いいかい?」

 

 

「そんな...そんなの...大歓迎ですよ!いいに決まっているじゃないですか...?!一人でも多くの聖女ちゃんラヴァーを増やすために私はここにいるんです。聖女ちゃんのかわいさは世界の壁を超えて信仰されるべきなんです!聖女ちゃん語録の192P目にも、『みなさんが幸せに過ごせること、それが私の幸せです。今日もお勤めありがとうございます。にこっ...(尊すぎる笑顔)』と記されています!ああっ?!かわ尊い......」

 

 

「おぅふ......いいんだね...?ここで座って見ているよ?」

 

 

「もちのロン!やったぁ、聖女ちゃんのためなら、やる気100万倍です!どぅるるるるるるる~ああ~我らの聖女ちゃんっ。やりますよおおお!」

 

 

 やっぱり判断を間違えちゃったかなぁ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「ちょっと君、鳥が襲ってきたぞ!ハゲワシみたいな奴が3羽くらい!」

 

 

「まかせまああああぁぁーーーーす!ぐへっへへへ......聖女ちゃんのおみ足の曲線美削るのたまんねぇっすわぁ......ふへっ......ふへっ......」

 

 

 ひえぇ......段々酷いテンションになってんなこの女性(ヒト)...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~更に数時間後~

 

 

「日が暮れるなぁ...もう眠くなってきたよ...もう12時か...まあ明日は土曜日だから徹夜も悪くないが...ビール飲も...そう言えば星空を肴にするのも悪くない。むしろ最高かもしれないな......」

 

 

「聖女ちゃん......いやっっっ!まだ聖女ちゃん足りない。聖女ちゃんぱわぁああがこの像にはまだ宿ってにゃいのおおおお!ふああああぁぁ?!何で!何で!ナンデエエエエエエエエウェエ!う"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"え"っ”......ごほっ......ごほっ......

 

 あれ......暗くなってきた?灯りつけますね...

 

 太古から残りし聖なる光よ...御力(みちから)を持って人の身で見通せぬ宵闇に安寧の灯りをもたらし賜えっ。アークライト・聖女ちゃん・トランクィル・クレイドル♪」

 

 

 長い梯子の中程で器用にバンザイして広げられた両手から夕焼けからすっかり暗くなってきた闇を浸食するように、ジワリと光が宙に広がっていき、最後には自分たちと像の頭頂部から足元までスッポリと覆う。

 

 

「あっ...聖女ちゃんを呪文の間に入れると気持ち東京タワー分くらい神聖さが上がる気がするんですよ!オススメですっ!聖女ちゃんは聖女ちゃんゆえ神聖なんですね、うんうんわかりみぃ...!魔物除けで一石二鳥!ぶぃ!イエエエエェィ!ヒイイイイハアアアアアア!聖女ちゃんさいいっっっっこうううううううううう!!!!」

 

 

「星空が見にくくなった......肴が一つ消えて悲しみなんだよなぁ...グビグビ。仕方ない。秘蔵の自家製ビーフジャーキーで優勝していくしかないな........................ったく最近はよぉ......仕事がなぁ増えすぎ............家にぜんっっぜん帰れねぇよおお.........おいクソ上層部、東京に帰せよ......ぢぐしょう......う”っ......嫁と娘に会いでぇ......ガジガジ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~更に更に数時間後~

 

 

「.....................ふぅっ..................ふぅっ.........」

 

 

「...............ねみぃ......この栄養ドリンク飲んだら眠気冷めんのかな......?いや......流石にもったいねぇな......?」

 

 

 夜が明けて(午前3時を回って)からは、聖女ちゃん大好き過ぎてヤバすぎる人は奇声を上げるのを止めて、像の細部のディテールを整え始めた。道具もなんか小さいものに持ち替えてる。夜の間もちょくちょく持ち替えていたが、完全に仕上げに入ったようだ。

 

 

 時折、ぶつぶつと喋っている音が聞こえるけど、何言ってるか分からない......道具が光っているのを見るとエンチャントの詠唱かなんかか......?光らない時もあるから単に聖女ちゃんを礼拝しているだけなのかもしれん......

 

 

 ヤバいな......寝落ちしそうだ......ここまで来て寝落ちとか.........ないわ!

 

 

 ゴンっ

 

 

 痛てええええええ!地面に向かって思いっきり頭ぶつけると流石に目が覚めるぅ!俺は聖女ちゃん像の完成を見届けるまで死なん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~そして~

 

 

「たどりついた......りそうのせいじょちゃんに.........いや、またいっぽちかづいた......シャオオラアアアアアアア!!!聖女ちゃんシャオオラアアアアアアア!!!」

 

 

「はっ......寝落ちしてた?あー...頭いてぇ......って、おお?!」

 

 

 

 いつの間にか突っ伏していた机から顔を上げると、そこには......純白の白い巨大な像が岩壁の(くぼ)みに納まるようにしてそびえ立っていた。

 

 

 

 その像は全てが真っ白だが、造形は細かく衣服のシワや生地の厚みが再現されていたり、髪の美しさ、体の健康的な曲線美、聡明さを感じさせるがどことなく物憂げな表情、それらはその像のモデルとなったであろう少女の儚げだが神秘的で力強い美しさを見るものに感じさせる。恐らく、とても繊細で、少しでも何かが違ったら台無しになってしまう、そんな美しさだ。

 

 

 

「素晴らしい......とても美しい......」

 

 

「えへへ......褒められると頑張ったかいがありますねぇ!聖女ちゃん美しいし、かわいいし、尊いんですよ。」

 

 

「いや......本当に良いものを見せてもらった。素晴らしいアートだ。」

 

 

 最初見たときはただの荒れ果てた岩壁にすぎなかった。そこから一晩でこのようなものができてしまうとは、途中経過を見ていたといってもどこか現実味のないことだった。ましてや、目の前にいる一人のプレイヤーから生み出されたとはにわかに信じがたい事実だった。しかし、目の前に聖女ちゃん像があり、その存在は否が応でも幻想が現実となっていることを突きつけている。

 

 

 

「ありがとありがとー!おじさんも聖女ちゃん教に入信しちゃいな。イエーッ!」

 

 

「それは遠慮しとこう。良いものを見せてくれてありがとう!そろそろ落ちるよ。」

 

 

 

 長くインした割にはモンスターと全然戦えなかったが、今日はなんか楽しかったなぁ...意外な出会いがあったというか。

 

 

 

「ちょっっ...ちょっと待って!」

 

 

 

————————————

 

 ハイパー黒糖さんからフレンド申請が来ました。「聖女ちゃんは最高ですよねええ!」

 

————————————

 

 

 

「ここであったのも何かのご縁。や!聖女ちゃんの導きですっ。フレンドになりましょ......どうです?」

 

 

「もちろん、いいとも。」

 

 

 それほど多くないフレンド欄に一つ新たな名前が追加された。そして、またインしたときにハト便で連絡することを約束し、貴重な土曜日の朝を使って惰眠を(むさぼ)るために速やかにログアウトしたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13_怪物と狂信者は黒雨に(うた)

ニャンニャン
5375字


 夕方再びログインすると、ハイパー黒糖さんから手紙が届いていた。

 

 

【件名:ログインボーナス獲得!

おめでとうございます。ログインボーナス!アイテム『聖女ちゃんを崇めたてる権利』を手に入れた。これを手に入れたあなたは毎日聖女ちゃんがいる方向に向けて礼拝しなくてはいけません。そうしないと呪います。毎日お祈りをささげることで心が浄化されて幸せになれます。

 

追伸、このメールを見た人はその日のうちに他の人に10通同じ内容のメールを送らなければ不幸が訪れます。】

 

 

 うわぁ..............もう1通あるな...

 

 

【件名:採掘レクチャー☆彡

こんばんわ?昨日ぶり、いや今日ぶりですね。そういえばモンスターから守ってくれたお礼をしていなかったの、ごめんなさいm(。≧Д≦。)m 集中しすぎちゃって後から思い出して反省…採掘初心者さんみたいだし採掘レクチャーしてあげましょうか?インしたら連絡くださいね☆】

 

 

 なるほど、採掘レクチャーか...ここはありがたく受けよう。金欠状態から脱出したい。そこはかとなくメールの文面の精神分析をしたくなるが、地獄の(かま)のふたを開けたくはないからやめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ朋友(ぱんゆー)。聖女ちゃんキメてますか。愛の伝道師ハイパー黒糖さんだよ!今日は最高のハイキング日和みたいだね。これもひとえに聖女ちゃんのおかげに違いないにゃ。」

 

 

「ふぐっ...こんばんは、ハイパー黒糖さん...今日は採掘レクチャーありがとう。金欠だったから助かるよ。そうだな、こんな天気がいいのは聖女ちゃんのおかげに違いない。間違いない。」

 

 

「話が分かるね朋友(ぱんゆー)。そんな君に聖女ちゃんグッズをプレゼントしよう。ほれほれ、ミニ聖女ちゃん像だよ。毎日崇めてください。あっそうだ。ちょっと耳を拝借......可愛いからって下からのぞいては不敬ですよ。ふへへ(小声)」

 

 

 あまりにも早い手渡し。手元のクリスタルの聖女ちゃん(聖女ちゃんと呼んで不敬じゃないか知らないがまあいいだろう)像が夕陽で光輝いている。いや、クリスタルだから下から見ても透過してよく分からないのでは...

 

 

 

「おお、これは素晴らしい(これ高く売れるんちゃうか...?)」

 

 

「でしょう!これは水晶像シリーズでして私の十八番の一つなんですよ。この透明さと光で変化する聖女ちゃんの佇まい。これはまさしく現時点でできる最高傑作(シェフ・ドゥーヴル)。ああ!そのピュアな心を通して我々に語りかけてくるかのようです。ちなみに売ったり放置したら分かるような細工がしてあるので絶対に肌身離さず身に着けてくださいねっ☆さもなくば神罰が下るでしょう。そんなことしたらめっですデスから!」

 

 

 何それこわ...完全に呪いのアイテムじゃないか...

 

 

「ノンノン!呪いのアイテムなんかじゃありませんよ!嫌そうな顔をしないでください。聖女ちゃん像はきちんとお祈りを捧げるものに見返りをくれるのですっ。」

 

 

 

 お祈りで見返りねぇ。まぁ...インベントリに放り込んでおこう。家かなんか建てたらインテリアとして飾ってもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 採掘の基本は何か。そんなことは猿でも分かる。掘るだけだ。だが、目の前の光景は自分の知っている採掘じゃない。

 

 

 耳をつんざくような凄まじい爆音。それをもたらす暴力的なフォルムの、節くれだったその鉄塊をハイパー黒糖は哄笑(こうしょう)を上げながら振るう。

 

 

 破壊し破壊し破壊する。繊細さの欠片もないただ自分の為だけにエンチャントされた破壊の為だけに調整された鶴嘴(つるはし)を振り下ろす。

 

 

 ダイナマイト爆破だってもう少し品があるだろう。そう思うほどに元採掘スポットは破壊され、無惨(むざん)な姿を(さら)した。

 

 

「あーっ、たーーーのっしいいいいいい!これが採掘!採掘だよっ!!!破壊から全ては始まるんだよっ!!!うひゃあああああああああ!!!あはは、はは!」

 

 

 

 そこはかとなく、超越者(やばい人)のあり方にどん引きして、声もかけがたい。ダメかもしれんな...うーん...これはダメかもしれませんな...コミュニケーションとれるんか。ガチ変人やんか...

 

 

 おっ!これが鉱石ですか。破壊の後には少なくともアイテムは残るかぁ...

 

 

「ふぅすっきり!!あっその鉱石は黒鉄ですね!ごく一般的な鉱石ですよ。鉱石についてレクチャーすると、普通に採掘して出てくるものは純度低めなので精錬しなきゃ強度や特性を引き出して使えないんですよ~。まっ生産職じゃなきゃ関係ない話ですけどね!」

 

 

「......なるほど。」

 

 

「どうやら今回はハズレですね~ 宝石なんかも出ることがあるのでなかなか良い採掘エリアなんですよ。後半の街でも出ないものが時たま出てくるんで~ 一獲千金にはもってこいです!」

 

 

「一獲千金!それは素晴らしいね...!」

 

 

「あんまり期待しちゃダメですよ。でも、アテはありますから、次行きますよ!」

 

 

 宝石とはなんと蠱惑的(こわくてき)な響きだろう!ルビー、サファイア、ターコイズ、ダイアモンド...さらには見たことも聞いたこともないファンタジー宝石なんかもあるに違いない!ハイパー黒糖さんから貸与されたツルハシを思わずナデナデする。金策ついでに、宝石でお猪口かジョッキでも作りてぇな...そいつで地酒でもビールでも飲めたら最高じゃないか...!

 

 

 でかい宝石拾ったらハイパー黒糖さんに削ってもらうとするかな。売ってしまうなんてもったいない!あの彫刻の腕前ならさぞ優美な酒器にしてくれるだろう。問題はどうだまくらかして削ってもらうかなんだが。先生は聖女ちゃん以外創作意欲無さそうな気配がある。

 

 

 まぁ冷静に考えて売った方がいいかもしれない。悩みどころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取らぬ狸の皮算用をしつつ、ハイパー黒糖先生からこの世の生きとし生けるものはなぜ聖女ちゃんを礼賛しなければいけないかについての説法を聞いていたら、あっという間に次のスポットについた。

 

 

 

 もちろん途中モンスターに襲われたりしたが、ハイパー黒糖先生の荒々しいピッケルの猛威によりアッという間に無残に散っていった。その姿鬼神のごとし。可愛いらしい大きめの四角いカエルから、巨大なハサミを振り上げるザリガニ、砂煙と共に地中から現れるアリジゴク、岩の鎧を纏って歩き回るワニ。そのようなものどもにハイパー黒糖先生はツルハシを振り下ろし高笑いを上げながらツルハシを突き立てたのだった。

 

 

 

「さて、ここはですね~。少々危険なんですがいいスポットなんですよ。やっぱりですね!虎穴に入らねば虎児を得ずというか、ハイリスクハイリターンなんですよ!」

 

 

「なるほど、いいものが出るスポットということだね。さっきの場所と何が違うんだい?」

 

 

「まぁ私ほど石と戯れていればわかることなんですが、初心者さんにはわからないですかね~」

 

 

「まぁ、分からないなぁ...」

 

 

「色々なものがいい感じに(よど)んでいるんですよ。汚れというべきか、吹き溜まりというべきところには良い鉱石が生まれるんですよ!」

 

 

「なるほど...」

 

 

 なるほど分からない。

 

 

「鉱石というのは基本的にそういうでき方ではないと思うが...?まぁファンタジー鉱石ということかね。」

 

 

「そのとおり、ファンタジー鉱石なんです!それがインスピレーションを与える!聖女ちゃん!可愛いい!!!!!!!!!!尊死する!!!!」

 

 

「なるほど。で、ハイリスクの方はなんだね?」

 

 

 ピタッと首振りを止めたハイパー黒糖先生はニッコり笑う。

 

 

「ふへへ...もちろん聖女ちゃんは尊いし、その題材となる鉱石も尊いんですが、普通のものより高位な、高貴な鉱石、宝石は尋常じゃない(よど)みから生まれるんですよ!そして、そんな(よど)みには尋常ない怪物がいたりするんですよね。いなかったりもするんですが、たまに。それで、ここはちょっと目星をつけていた特級のスポットなんですよ~」

 

 

「おい、それは聞いていないぞ。もう、死んだら金がないから借金で宿屋泊まることになるんだが。」

 

 

「死んだら(しかばね)は拾いますよ~。ちょっと恵んであげますから安心してください。大丈夫、上手くやれば間違いなく儲けられます!護衛はしてあげますからほら掘ってみましょうよ!」

 

 

「それは、あれかね。地雷除去を私がやるということかね。」

 

 

「やだなぁ~。役割分担ですよ。ギター熊さんが本来掘れないレベル帯の鉱石を採掘しようっていうんですぜ。完璧な善意以外にそんなのありえないでしょう。ほんのお礼ですよ。お礼。私が戦って掘って鉱石を恵んで上げるのは流石にアレでしょ。」

 

 

「まぁそうだな...」

 

 

「さぁ行きましょうよ。ゴールドラッシュはすぐそこなんです。うへぇ...これはやばいな...」

 

 

 様々な色が終わって形容しがたい色へ変わっていくヘドロのような沼を指さして、ハイパー黒糖先生は若干躊躇いの声を上げる。所々にそれまた形容しがたい色をした岩が生えている。あんな中で気色の悪い岩を掘れというのか...体に(さわ)りそうだ...

 

 

 

 おそるおそる足を沼へと踏み入れる。形容しがたい感触が脚を覆う。泥に脚を取られながら沼の中にある岩まで寄る。うん....?

 

 

 

「ハイパー黒糖先生は、こっちへ...来ないのかね?」

 

 

「あーし、泥苦手っていうか、ヘドロ苦手っていうか。ここまでのヘドロじゃなきゃ我慢して入るんだけどここまでのはねぇ!代わりに掘ってくれて...ありがと~。遠隔から援護するから大船に乗った気分でツルハシ振るんだよ~頑張っていい宝石掘ってね!」

 

 

 こいつ!ヘドロが嫌だからって押し付けやがった?!

 

 

「こんんおの、てめぇ!人に沼入らせといて、自分は入らないとか!人としてどうなの?!聖女ちゃんに恥ずかしいと思わないのか!!!」

 

 

「聖女ちゃんは全てを許してくれます~。穢れなき純粋無垢な微笑みの中に、全てを包み込むような包容力があるんです。あの子はたとえ、人でなしであっても許してくれますよ!まぁ、ギター熊さんが掘らないというのならば掘らないでもいいんですよ!目の前に黄金が眠っているのにも関わらず棒に振って、クエストやモンスターでちまちま小金を稼げばいいんですよぉ。」

 

 

 ぐぬぬ...

 

 

「畜生めぇ!」

 

 

 

 ヤケクソになってツルハシを振り下ろす。

 

 

 ゴロり、転がった鉱石が沼地に落ちる。さすって眺めているとハイパー黒糖が声をかけてくる。

 

 

「鉱石はこちらに投げてよこしてください。聖女ちゃんの名にかけてちゃんと査定しますから。お金をYOUが得て、鉱石は私が得ます。ほら、ほら!」

 

 

「後で、ちゃんと払えよ!」

 

 

「カルマ値が本当に溜まりそうなことはやらないですから安心してください。聖女ちゃんが許してくれるといっても壁作られちゃうんで~」

 

 

 鉱石を投げてよこす。ハイパー黒糖は布で拭いて、しばらく眺めてからニコニコしだす。

 

 

「これはいいですね~。(鉱石うんちくが入る)。よろしい、2000マニーで買い取りましょう。この調子で掘ってよこしてくださいね~」

 

 

 まるで鵜飼の鵜のようだな、俺。掘ったものは全て吐き出す感じの。

 

 

「後で、ちゃんと払えよ、本当に!」

 

 

「信じる者は救われるですよ~。」

 

 

 まったく!本当かよ?!

 

 

 

 続いて、ツルハシを振り下ろすとふたたびゴロリと落ちたので再び投げやる。

 

 

「どれどれ~、ほむほむ、ふんふん~.....これ...は....にゃにい?!!(宝石うんちく)。これは素晴らしい。これは素晴らしい。いや、これは聖女ちゃん像にしたい。したい。したい!!!100万マニーが適正価格だけど、この抑えきれない喜び分色を付けて120万マニーでハイパー黒糖さんが買い取ってあげようじゃないか!!!!!!!!!」

 

 

「まじか...120万マニー????」

 

 

「おめでとう!!!(これは純度が高いから本当はもっとお高いんだけどまぁ喜んでるからWinWinだよね。ビギナーズラックって最高だね...)」

 

 

 

「うおぉぉぉおおおおお!!!!!!」

 

 

 採掘って最高だな!おい!そのままのテンションでツルハシを振り下ろす。

 

 

 

 ピシピシッ...ガラガラガラ

 

 

 

 岩にひびが入り、岩がバラバラに砕け散り沼へと沈んでいく。ツルハシはそのままの勢いのまま沼地へと先端が突き刺さる。沼地にツルハシが深く食い込んだ時、足元が震えた。

 

 

 

「おい!なんだこりゃ...まずいかも...」

 

 

 足元が、いや、沼地全体がゆっくりとせり上がり、そのことに危機感を覚えたので、足を沼地から抜いて岸へと向かおうとするが脚が抜けない。

 

 

「あちゃ~ハズレ引いたね。なんかモンスターでてきそう。」

 

 

「てやんでぃ!死んでたまるか!!!」

 

 

 脚が抜けないなら転がりながら避難すればいい!

 

 

 ドロドロになりながらも転がりながらやっとの思いで沼地から這い出してきて、ヘドロの沼の方を見ると、沼が山のようになっていた。

 

 

 沼の山から首が伸びる。首の先端には二つの触角に変わった形の口がついている。胴体の方はヒダヒダになってきた。

 

 

「あれは...アメフラシ!」

 

 

 沼から現れたのは巨大なアメフラシだった。

 

 

 ポツ、ポツ、ポツポツポツポツポツポツ。

 

 

 アメフラシのその名を表すかのように雨が降り出した。形容しがたいほどどす黒い雨だ。

 

 

「鈍足効果、スリップダメージが付くみたいだね~。そして、多分これ速度的に逃げれないやつだね。倒せばいいんだけど。うへぇ......」

 




4連休!4連休!
休みじゃああああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!

人間性回復!!!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14_巨大アメフラシと戦う

ボキボキ


 ヌメりを帯びた薄汚れた黒い雨が降り注ぐ。

 

「ずいぶんと淀んだマナを浴びせちゃって…あゝ罪業の渦巻く美しく罪深く汚らわしい‼闇あれば光は強く輝き、光輝けばまた闇は深くうごめく。ニャハハハ、あ~インスピレーションが降りてきましたヨ!」

 

 

 ハイパー黒糖先生の神聖で冒涜的な気配のするツルハシが謎のエンチャンテッドをまとい赤黒く白く光輝く。

 

 

 さてさて、どうやって戦うかなぁ。いや、もう死にたくない。まぁ、彼女が約束を果たすのならマニーはもらえるのだから死んでもいいのだが。遅滞戦術?逃げるか?脚は逆に封じられ、メイン街道からは遠い。現状、手を出している魔法の火はダメ。水もダメ。土もダメ。風もロクな攻撃力ないしな。雷でもあったらワンチャン、ポケ〇ン的に効果抜群とかはあったかもしれないが。投げナイフもこのヘドロをまとったアメフラシに効果あるとは思えない。

 

 

 あれれ?これは帰ってもいいですかね。そういえば用事を思い出したんだけど、爺さんに角笛作って貰わなきゃいけないしな。

 

 

「ハイパー黒糖さん、自分役に立てなさそうので抜けますね。ノリで荒野に突っ込んだけどやっぱり2人で無茶な探索は早かったようです。いつか、宝石の代金払ってくださいね!!」

 

 

 

「URRRRYYYYY!!!!! 刻む刻み刻めェッー。ヒャッッフーーーーーー!!!! 聖女ちゃん。見ててください!!!! 貴女のためにまた一つ愚かな供物を捧げましょう。エイメンンンン!」

 

 

 天高く跳び上がった彼女がバチバチッと危険なエネルギーをほとばしらせるソレをただただ暴力的に振り上げている。

 

 

「ではでは。」

 

 

 あ~やっぱりヤバい人だ。うん。ファステイアに帰るか…鈍足とスリップダメージを受けながらゆっくりゆっくりと後ろに下がる。てか、超黒糖まったく鈍足効果あるような動きじゃないんだが。はぁ~、これだから高レベルは。適正レベル帯ってのがあるんだよ。初心者を巻き込まないで欲しいなやれやれ。

 

 

 

『神罰の効果発動…スリップダメージ効果上昇。神敵を前にしての敵前逃亡はメッです!』

 

 

 

  エッ???これは…? おいおいおい、スリップダメージ増えてくんだけど…インベントリからクリスタル聖女ちゃん像を出して蹴り飛ばし、ライフポーションを出してぐいっと飲む。ファッ〇ンジーーーザスゥ!!! 逃げられない、確実にタヒぬ。えっ財布と精神攻撃して楽しいかオイオイオイ。この死に戻り不名誉じゃね。このミニ聖女ちゃん絶対に壊ス。後でハンマーで破壊しよう。壊れなかったら火山探して火口に投げ入れよう…

 

 

 

 とりあえず遠目から眺めておこう。迷惑料でなにか追加でもらえないだろうか。あの巨体に今の自分の手持ちで戦うのは正直難しい。なんかこう重力魔法とか核爆発とか使えるようにならないとなぁ。

 

 

 そうこうしていると戦っていたハイパー黒糖さんがこりゃだめだと言うように肩をすくめながらこちらに下がってきた。

 

「ツルハシがズブズブに体の中に入っていくし、ヒットした感覚がないよ。もーめんどーになってきたね。とりあえずこれで逃げよう。」

 

 そう言って外套のポケットから取り出したのはスクロール。

 

「ワンチャンこれが効くって線もあるけど、びみょい予感だからなぁ逃げよう。あっ聖女ちゃん像の機能はオフにしとくね。」

 

大アメフラシの体から4本の黒い泥でできた触手が振り回されてこちらに迫ってこようとしている。

 

 

「フリージングボックス」

 

 スクロールを掲げながらそうつぶやいた瞬間、大アメフラシの体が白氷で覆われた。さらにそれだけでは留まらず何重にも氷の帯が凍った体に積み重なっていく。沼荒野の中にそこだけがポツンと雪景色になっていた。

 

 

「さぁこっちだよ。メイン街道は。走るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ。エラい目にあった。しかし、ハイパー黒糖先生ならあれしきのモンスター倒せるんじゃないですかね~?」

 

「いや、あれは無理だね。マナの属性が闇、土、水ときて泥を装甲のように纏っている。ソロで正当法で殴り合うんじゃ削りきれないよ。泥の中にいるせいなのかリジェネ回復もしていたし。割に合わないんだよね。」

 

 

「ふ~んそんなものなのか。というか闇なんて属性があるんだな。光属性の対極ということは分かるけど。冷やしたミルクティーだ、どうぞ。」

 

 ハイパー黒糖はカップを受け取ってミルクティーを飲んだ。

 

「案外冷やしたのもいけるね、っとおっとさっきのスクロールの拘束が破られたようだよ。とりあえず巨大聖女ちゃん像か街かどっちかに逃げ込みたいが...」

 

「街に迷惑かけるのはマズイだろ。好感度的に。あの作ってた聖女ちゃん像に何か仕掛けがあるのかい。」

 

「まぁ後のお楽しみということで。」

 

 

 メイン街道に出るといかにも魔術士って格好をした団体さんが歩いていた。後ろから破砕音。どうやら何らかの方法で追ってきているらしい。

 

「おーいそこの人たち、後ろからやばいモンスに追われてるんだ。あっちの方に行くからどこかに避難したほうがいいよ。」

 

「我は豪炎のバク。それほどのモンスター試し打ちにしてくれよう。」

「ワタクシは最近手に入ったユニークアイテムの試運転をしたいですねぇ。」

「封印されし右目が疼くぞ。」

「雷こそ最強ナンだよな。」

「今回は前衛は俺に任せてくれよ。暗黒騎士とった意味がない。」

 

 

「あっバクさんじゃんおひさ~。ちょっと巨大聖女ちゃん像をエンチャント込み込みで彫ったからさ。試運転したくて効果範囲まであとちょいだからここで戦うのはナシで。」 

 

「あい、分かった。」

 

 ハイパー黒糖と豪炎のバクは既知の間柄だったようで、バトルフィールドを巨大聖女ちゃん像近辺にしようという話が瞬きする間にまとまっていた。

 

一同で後ろからくる破砕音を聞きながらメイン街道を進むと後ろの方で暴れていた大アメフラシの姿が街道に現れた。王蟲2体分の体に相変わらず黒い雨が降り注いでいる。

 

沼から出たから移動速度が遅くなるのではと思ったが、どうやら泥の足を生やして移動しているようでそれほど鈍くはないというのが分かった。

 

ビリビリビリッ

 

空気を裂くような音とともに巨大アメフラシから大量の土砂が辺りに降り注いだ。あちこちでヘドロが泡を作り、地面を溶かして小さめの沼を作った。

 

「おー!環境構築型モンスターじゃないか。こんな序盤に潜んでいたとは知らなかったな。」

 

 包帯でぐるぐる巻きになったミイラのような痩せ細った、カルメットという男が驚いた様子で話した。

 

「なんかヌメってるし乾燥だな。十八番だ任せろ。赤き砂塵よ、火焔と踊れ。風は吹き荒ぶ、水は渇き、木は枯れ果て、残りし土は砂と散れ。嵐よ来たれクルール・ヒート・サンド・ストーム」

 

 

 豪炎のバクが続けて唱える。

 

「よしでは闇属性対策として合わせよう。疾く拡大せよ古より来たりし火の悪魔、名は知れず焚べるは哀れな道化。冥き闇夜に火をつけよ。フォビドゥン・トーチャード・ヘルファイア」

 

 

先に放たれた砂嵐の中に十数体の火焔の悪魔が放たれた。

 

「聖女ちゃん像はまだ先だから足止め程度にとどめといてね。」

 

「我はもとよりそのつもりだ。」

 

「まったまったせっかく環境構築してんだ一発でかいのやらせてよ。」

 

暗黒騎士の人がそういって出現させたバカでかい赤い線が走る黒い斧を縦回転で投擲した。

 

砂嵐の中の巨大アメフラシに当たった後に爆発するような音とともに火炎の柱が上空へと吹き出した。そして暗黒騎士の人はスクロールを取り出し、

 

「ほいほいリターン・ウエポン。行きますか。」

 

武器を手に取り戻してから装備解除した。

 

 

それを見ていた私は連携の鮮やかさに感心するとともに魔術について色々と聞き出したくなったが戦闘中ということもありぐっと我慢した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15_巨大聖女ちゃん像の麓にて

アパアパ


 

「よーしここなら巨大聖女ちゃん像の効果範囲に入ってるね。、ここをキャンプ地とする!陣営構築はまかっせなさい。ジ・アース・クリエイト・キャンプベース」

 

 

 ハイパー黒糖はツルハシを振り下ろして地面に突き刺した。すると周囲の岩が隆起し、みるみるうちに小さめの小屋が出来上がった。ハイパー黒糖はそして小屋の中に入り等身大のメイド姿の聖女ちゃん像をしっかりと台座を作って安置した。

 

「ちょっと巨大聖女ちゃん像と星々のパスを繋ぐ作業やるから、ギター熊さんは小屋の見張りお願い。ブギホビの人たちは巨大アメフラシを寄せ付けないように戦ってちょーだい。これ終わったらリジェネとマナ回復、闇属性弱体化、光属性エンチャ入るから。」

 

 

「えっすぐに恩恵ないのか。それならもう少し足止めしとけばよかったじゃん。野郎ども行くぜ。」

 

 

「まった。これを人数分持っていきなさい。」

 

 おもむろにクリスタル聖女ちゃん像をブギホビの人たちに手渡すハイパー黒糖。

 

「げっ、おいおい。前ももらったんだが捨てるの大変だったぞ。」

 

 豪炎のバクが嫌そうな顔をして言う。

 

「捨てんなコラ。今回は増幅器として使うから後で回収するよ。もー、捨てるとか聖女ちゃんに対する冒涜だよー。」

 

 

 若干戦力外通告を受けた気がするがここは優雅にティータイムと行こうか。ブギボビの人たちが砂嵐と火の悪魔をうっとおしげに泥の触手で払いのとしている巨大アメフラシの方へ向かっている間に 、小屋の上に登ろうとしたが手がかりがなく断念。

 

 しょうがないから小屋の前に椅子を置きのんびりと観戦することにした。水筒をインベントリから取り出しフタへと注ぐ。セカンディルの雑貨屋で見つけた紅茶だ。水筒は冷却機能があるものを使用している。

 

「やれやれ、笛が欲しいだけだったのに何やらとんでもないことになってきたな。ズズズ」

 

 

 ほのかに柑橘系のフレイバーだ。ファステイア、セカンディルときて街の探索はなかなかに楽しく、ログイン時間の結構な時間を費やしている。次のサードレマも楽しみではあるがまだまだ探索したりない部分が多々あるものだ。

 

 時々小屋の中から光が出てきたりするのにつられてか、モンスターが1匹寄ってきた。

 

 

「ハイパー黒糖さん、モンスター来たよ。倒しとくよ。」

 

 

 さてさて魔女通りで買った本と杖を取り出して、新魔術の試し打ちでもしますか。レベルアップでも魔法は手に入るけど本から魔法を習得するのもありだ。魔術士ギルドにも売ってたりする。

 

 

 寄ってきたモンスターはミノタウロスだった。ちょっと回避に専念しないと危ういかもしれん。というか無理だな。

 

 

「ハイパー黒糖さん、ミノタウロスだった。一人で倒せそうもないから前衛はってくれんか。」

 

「ミノタウロス。雑魚だから一発で倒せちゃうよ。」

 

「いや、試し打ちとかしたいのよ。こうね。」

 

「ふ~ん、じゃあゴーレム貸すよ。」

 

 そう言ってインベントリから取り出したのは2mくらいの銀色の像。

 

「はい、認証キー。名前はベータ。雑な命令で動くからヨロシクね。」

 

「なるほど。ベータ、小屋の外に出てミノタウルスと戦え。」

 

 のっぺらぼうの銀色の人型がミノタウルスに向かって体当たりをする。ミノタウロス持っていた斧で斬りつけるがこらえきれず倒れてしまった。

 

「よし、トリプル・マジック・エッジ」

 

 魔法の斬撃がミノタウロスを三回襲う。

 

「次は、サンドウォール、ロックニードル。」

 

 基本の防御壁とトゲを出しておく。ミノタウルスはゴーレムの相手で手一杯のようだ。

 

「マジック・アロー・レイン」

 

ミノタウロスとゴーレムがわちゃわちゃしている地面に魔法陣が描かれ、その上から魔法の矢の雨が降り注いだ。

 

「物理攻撃よりなのはいいね。風属性と似てるところはあるが。さて、トドメと行きますか。死をも恐れぬ断罪人よ、魔によって魔を断て。マジック・エグセキューショナー。」

 

 この魔法は召喚魔法にあたるもので魔界やらなんやらから部分的に召喚するというものだ。豪炎のバクが使ってた火の悪魔の魔法もこれと似たようなものだろう。

 

 半透明の覆面を被った処刑人がミノタウロスにエクセキューショナーズソードを振り上げる。ザクり。ミノタウロスの首は一刀両断。南無三。

 

 

「ベータ、戦闘終了。小屋に戻れ。」

 

 小屋に戻って作業しているハイパー黒糖に言う。

 

「ハイパー黒糖さん、ベータむっちゃ便利だね。コレ欲しいなぁ。」

 

「あげてもいいけど重量制限あるからインベントリに入らないと思うよ。サブジョブでポーター鍛えているから色々と持ててるけど、序盤でベータをうまく運用するのは無理だよ、鈍足だしね。よーし、パス繋がった。」

 

 

 

 そして小屋から出てから入口を綿密に封印し、ハイパー黒糖は唱える。

 

 

「運命神、創造神、調律神と星々との約定を古より伝えし聖女ちゃんはいわば母。あるいは父。幼くして老獪であり。その身から発せられる聖なる光は万物を照らさん。悪しきは去り平穏が訪れるまで止まることのなき身を案じて我ら聖女ちゃん親衛隊は全ての信仰を聖女ちゃんに捧げ、更には未開の蛮族にも教導しその素晴らしきことを世界のあまねくに伝えん。巨大聖女ちゃん像アーク・スター・ブート!」

 

 

 

 その瞬間、巨大聖女ちゃん像とクリスタル聖女ちゃん像が光りだした。おお、HPとMPが回復していく。

 

「よし狩り場は整ったよ。さあ行こう。」

 

 

 

 ブギホビの人たちが戦っているところに行くとマナの回復がついてからなのか好き勝手に魔法を打ちまくっていた。巨大アメフラシにまとわりついていたヘドロも闇属性の弱体化の効果かただの泥になっていた。これなら勝てるんじゃないか。

 

 

「そろそろワタクシのユニークアイテムの試運転をしておきましょうかね。ジャ~ン、かわいい猫の杖!効果がいまいち分からないのでぶっつけ本番で使っていくしかないんですよね。」

 

 

 そういってヘックスなる人が取り出した杖を見ると、猫の耳尻尾が杖についていた。いやよく見るとあらぬところに目や口も就いていた。そして、にゃーと鳴いた。

 

「まずはオーソドックスにファイアーボール、ウィンドカッター。あんまり効果かわりませんね。ええい呪術でも試してみますかね。」

 

 試運転はあんまり芳しくないようだ。ユニークアイテムというと1点物の武器だろうな。elonaだったらどうやって奪おうか考えているところだが、あまり強くなさそうだ食指が動かない。だがペットとして考えるとどうだろうか。にゃーと鳴いたしな。

 

「ヘックスさん、口ついてるしなんか食べさせてみてもいいですか。ハンバーガーあるんでちょっと試してみましょう。」

 

「確かに口があるので何か食べるかもしれないデスね。」

 

 許可を取ったのでハンバーガーをかわいい猫の杖の口の部分に近づけてみた。

 

ペロリ

 

 かわいい猫の杖はハンバーガーを食べるとにゃーと鳴いた。

 

「食べたデスね。何か効果があると嬉しいのデスが。グラビティ・ボール。エアロ・バースト。」

 

 すると魔法とともに巨大な猫の手が射出された。巨大アメフラシに着弾すると猫じゃらしで遊ぶように巨大アメフラシをいたぶり始めた。

 

「おーこれはファンネルタイプの杖かもしれませんね。これも食べるかな。」

 

そうやって取り出したのは雷蜂の栄養ドリンク。薬品店で試供品としてもらったやつだ。ビンのフタを開けて口に近づけてみる。するとビンごとペロリと食べた。

 

にゃにゃにゃにゃ

 

 そう鳴いてかわいい猫の杖は目玉をギョロりとさせて震えだした。その瞬間、煙がポンと立ち込めた。

 

 煙が晴れたとき杖はすでにヘックスの手になく眼の前に一匹の大きなかわいいトラ猫がたたずんでいた。そして巨大アメフラシの方に駆けていった。

 

「あっ装備が強制解除されたデスよ。ユニークアイテムがモンスターになった!」

 

大きなトラ猫は巨大アメフラシの近くによると猫パンチで大きくひっかいた。かなりの威力だったようでえぐれた引っ掻き傷が見てとれた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16_不穏な雰囲気に包まれて

ヌクヌク


 戦況がこちらに傾きつつある中、流石にダメージが積み重なり苦しいと思ったのか巨大アメフラシは額にあるドリルで土の中に潜っていってしまった。

 

「逃げたぞ、追え!」

 

「とはいっても地中だからどこへ行ったかわからないよ。」

 

 

 

 辺りを探したものの見つからず砂嵐と火の悪魔が消えていった。

 

ドゴーン!!!

 

 しばらくして大きな沼地に泥をまとった巨大アメフラシが現れた。そこからこちらの方に泥の3メートル級の津波を発生させてきた。かわいい大きなトラ猫は津波を飛び越えて巨大アメフラシと戦い始めたが泥の厚さからか効果がないようだ。

 

 遠くからの攻撃だったので壁を作って津波をやり過ごし、近づいていった。

 

ビリビリビリッ

 

 空中にできた裂け目から大量の土砂が降り注ぐ。辺りはすっかり泥だらけになった。

 

 異変を察知してか、セカンディルの方からプレイヤーが集まってきた。レベルの低いプレイヤーが多いのか巨大アメフラシには攻撃せず野次馬をしに来たのがほとんどのようだ。自分の状況と同じだ。

 

 

 ハイパー黒糖と暗黒騎士の人が光り輝くそれぞれの武器を持って巨大アメフラシに向かって突っ込んだ。

沼地に岩の足場を作ってかわいい大きなトラ猫がひっかいた泥の跡に攻撃を加えていく。

 

 自分も含めた後衛は沼から出てくる泥の触手を避けながら様々な種類の魔法を放っていった。

 

 様子を伺っていた野次馬たちも勝ち目があると見たのか次々と巨大アメフラシの攻撃に加わり始めた。

何のパフも受けていないので死に戻りするものも大勢いたが、デスペナルティを受けてもセカンディルから戻ってきて攻撃をつづけているようだ。

 

 泥の鎧は沼からすぐに補充されるが、それを削り返してまた攻撃するという地味な戦いを繰り返した。

 

 触手になぎ払われたり、津波に押し流されたりしたりして地道に削り続けて2時間、ついに巨大アメフラシの息が尽きた。

 

 

 歓声にわく沼荒野。レベルが2上がった。自分に配分されたドロップアイテムは2点。

・ギガントアプリシアの皮×3

・ギガントアプリシアの鉱石×3

 

「かわいい猫の杖が戻ってきました。いなくなるかと思った。」

 

 にゃーと鳴いて煙と共に杖に戻ったかわいい猫の杖はヘックスの手元に戻った。

 

 

「スティール」

 

 

 いつの間にか野次馬から抜け出した小柄な男がかわいい猫の杖を奪った。続いて矢がヘックスの足に3発突き刺さった。

 

 

「こいつはユニークアイテムだよなぁ!いただいていくぜ。」

 

 

 小柄な男はセカンディルの方へ駆けだしていった。

 

 

 ブギホビの人たちは慌てて追おうとするが野次馬の中から何人かが通せんぼする。

 

 

「長いこと戦闘ご苦労様。ドロップアイテムも置いて行ってもらおうか。」

 

「魔術師クランに親衛隊の生産職じゃないか。こいつは楽勝なキルになりそうだな。」

 

「掲示板見てたらよう。セカンディルで面白そうなことになってんじゃねーか。はるばるやってきたよ。」

 

「レッドネームが雁首そろえてセカンディルまでご苦労様。ここはうちのシマだ。好きにはさせん。」

 

「全員火あぶりにして埋葬してやるよ。」

 

 初心者の野次馬たちが慌てた様子でセカンディルへと逃げていく。

 

 その時セカンディルの門の前で大きな爆発音がした。

 

 フシャー

 

 猫の威嚇音と共にセカンディルの門がガラガラと崩壊した。

 

 巨大な目と口が体のあちこちにある巨大な黒猫が小柄な男をくわえてペロリと丸のみにした。

どうやら防犯登録もなされているようだ。

 

 

「おっと。ユニークアイテムのゲットは無理そうだな。」

 

「まー街がどうなろうと関係ねー。さっさと全員キルして帰るぜ。」

 

 

 ブスリ

 

 ぼーっと眺めていた自分の喉笛に矢が突き刺さった。

 

 暗くなる視界。

 

 気づいたらセカンディルの宿屋のベッドにいた。デスペナルティをくらっている。

 

 ドロップアイテムを確認するがPKにやられてロストしてしまったみたいだ。後でハイパー黒糖に埋め合わせを請求しよう。

 

 

 さて、どうしたものか。門付近に戻ってかわいい猫の杖がどうなっているか見に行くか。はたまた疲れたから、もうファステイアまで戻って笛を作ってもらうか。

 

 うん、少し悩んだけどかわいい猫の杖がどうなっているか見に行くとしよう。レアイベントみたいなもんだし野次馬しなければ損した気分になる。

 

 宿屋から出て沼荒野につながる門の方へ向かう。

 

 ユニークアイテムかー。elona民的には欲しかったんだよね。餌付けもしてるし、ワンチャンゲットできるかもしれない。

 

 

 しかし、魔女通りのお婆さんが言っていた占いの通りというか。あたってる部分もあるな。災難と幸運がやってきた感じだ。

 

 

 長い戦闘の間にハイパー黒糖から受け取った前金の10万マーニがあるので、ヒーリングポーションとマナポーションを10本づつ屋台で買って、後餌付け用の食べ物も買ってと。

 

 

 緊急時の人の往来で騒がしくなっている大通りを抜けて元門へとたどり着いた。

 

 

 

 そういえばデスペナルティ入ってるけど、能力値低下や恐怖耐性下がってるのは頭になかったな。まー猫に餌付けに来たようなもんだしなんとかなるだろ。はっはっは。

 

 

 

 崩れた瓦礫の上にちょこんと座っている巨大な目玉と口だらけの黒猫がいる。周りの人を襲う様子もなく大人しいもんだ。

 

 

 だが、3人のプレイヤーがこいつはヤバ目なモンスターだぜ退治せねばと覚悟した様子で武器を持って近づいていくようだ。

 

 

 ここは野次馬に徹しておこう。近づいたら食われたらたまらないからな。

 

 

 聖職者らしき格好をした女性がロッドを掲げて唱える。

 

「月光を湛えし聖なる雨よ。ホーリーレイン」

 

 大盾を持った聖騎士が大盾と剣を打ち鳴らし言う。

 

「異端たる邪片を持ちし大猫。只人の領域にあってよい存在ではない。三神の裁きをその身に受けるがよい。」

 

 フード付きのローブをまとったシャムシールを持つ痩身の男は何も言わず。黒猫の背後に回り込み毒々しい色をしたナイフを背後の目へと突き立てた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17_当機はこれより危険物処理シークエンスを実施します。

ウィーン


 背後の目にナイフを突き立てられたにもかかわらず黒猫は叫び声をあげなかった。フードの男は黒猫へとシャムシールを振り横へローリングする。

 

 フードの男を追っていくつもの巨大な尾が地面へと叩きつけられた。

 

 

 どうやら尾はいくつもはやせるらしい。黒猫が立ち上がったところで聖騎士の男が光る剣で突進を仕掛けた。

 

 

 黒猫が鬱陶しげに爪で払おうとするが、先程から降っていた光の雨が黒猫の行動を阻害する。猫パンチを仕掛けようとするが光に阻まれて遅くなっている感じだ。

 

 

 果たして自分はどちらに味方すべきか。心情的には猫の杖を手に入れたいので、猫が可愛いのが何よりも第一なことを考えると猫なのだが。ロールプレイに忠実そうなプレイヤーさんを見ると応援したくなる。しかし、街中で戦闘が始まったせいか石畳とかが割れたりしてて、今後家屋に被害が出ないか不安ではある。

 

 

 ここは、平和に収める方向で行きたいと思うがいかんせん来るのが遅かったな。もうちょっとタイミングが早ければ餌付けルートもあっただろうに。

 

 まぁ、猫の杖手に入れても使いづらそうだし。ここは聖騎士さんたちの応援をしておくか。

 

 

 着実な連携でダメージを与えていく聖騎士さんたち。ヒーラー、タンク、アタッカーとバランスが取れているからか危うげもなく黒猫と戦っている。

 

 

 野次馬たちもあーコイツラ玄人ですわ。見応えあるねとか言いながらポップコーンらしき物体をボリボリむしゃむしゃしていた。もう勝ったじゃんブラボーという野次を飛ばすやつまでいた。

 

 HPが低下してきた黒猫は闇を体中の口から、闇を放出した。闇は執拗にヒーラーを追い始めた。さらに黒猫は建物の上にジャンプし、甲高い声を上げ始めた。

 

 

 行動変化だな。ボスにはよくあることだ。あと少しだぞ頑張れ。そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

 その時だ。膝ががくんと落ちた。周りの野次馬や通行人も膝を地面についたり、倒れたりしている。体から7色のモヤが立ち上る。そして、黒猫に向かって7色のモヤが集まっていく。

 

 

 黒猫はモヤを体中の口から吸収すると、ひときわ大きな叫び声を上げてまばゆい閃光を放った。

 

 

 

 

 その場にいた全員が立ち眩みやらあまりの眩しさに目が開けられなくなる。

 

 

 

 黒猫の叫び声が断続的に続き、目が慣れてきた頃に一体何が起きたのかと思い、屋根の上を見ると。そこには、相変わらずの黒猫と赤、青、緑、黄、ピンク、オレンジ、紫の色をした黒猫の半分くらいの大きさをした7匹の猫がいた。目や口は黒猫と同様にたくさんあるようだ。

 

 

 ニャーオ

 

 

 何重にも重なった鳴き声がすると黒猫と7匹の猫たちがが黒いモヤにまとわりつかれている聖職者ちゃんのそばへとワープした。

 

 

 ドロリと溶け出した猫たちは不定形の生命体となり、不安定に色を変えて明滅するそれは聖職者ちゃんを大きな口で食べた。

 

 色とりどりの光が周りに拡散し、聖騎士を貫き、その頭部が唐突に爆散した。

 

 

 

 くらりと視界が暗くなる。間のあたりにした恐怖のあまり逃げ出したくなる。その様子を見ていた野次馬たちも喚き声を上げて一目散に逃げ出し始めた。

 

 

 

 グビり

 

 

 ファステイアの森で集めた恐怖によく効く薬草茶を飲む。慌てる時間じゃない。落ち着いて考えよう。逃げる逃げない。逃げたら餌付けできないが、もう猫じゃない。なんかヤバそうな生命体xと化したかわいい猫の杖。いや、やっぱ逃げるか。

 

 

 ふつふつと生命体xから泡のようなものが浮かんできた。猫だ。まだら模様の猫たちが最後の一人ふー、のフードの男を囲う。

 

 

 

 飛び越えて路地へと逃げたフードの男を数多のちび猫たちが追いかける。

 

 

 

 ウゥ゙ーーーウーーーーーーーウーーーーーー

 

 

 

 その時だった。東の空からけたたましいサイレン音が鳴り響いた。

 

 

『大気中マナ濃度の異常な上昇を確認。セカンディル方面のナノマシンより敵性生命体を確認。敵性生命体を確認。機体番号swiper-gf356、当機は危険物処理シークエンスを開始します。ホログラムスクリーン内の民間人は直ちに避難してください。5秒後にレーザービーム照射、20秒後に爆撃を開始します。』

 

 

 赤いスクリーンが広めに黒猫を囲った。警告色の強いディスプレイが自分も含めた残りの野次馬に表示される。

 

 

【特級危険物処理エリア設定中、危険直ちに回避行動を回避してください。】

 

 

 うわっ。何なんだ一体。何が起ころうとしているのか。ファンタジーらしからぬ響きの言葉が並べ立てられて、目を白黒とさせていると。とりあえずアナウンスにしたがって逃げねば。

 

 

 

 駆け出すと同時に、生命体xを幾重もの赤いビームが貫いた。質量を持った光の矢が生命体xを石畳へと縫い止める。

 

 

 時々生命体xの様子を振り返りながら、エリアの外へと逃げ切ることができた。野次馬根性で爆撃とやらを見物することとする。

 

 

 アナウンスから約束の20秒後、まずは小型のミサイルが様々な方向からエリアに降ってきた。続いて、大型のミサイルg中心部へと飛来。ドゴンと重低音と爆発の煙と暴風が辺りに吹き荒れて、複数の建物もろとも生命体xは消し飛んだ。

 

 

『敵性生命体の消失を確認。原因物質回収のため危険物処理エリアにおける当機は汚染物質回収ボッドによる近接活動を開始する。』

 

 

 東の空より円盤型の機械がいつの間にか飛んできてエリアの中空から回収ボッドをゆっくりと排出した。

 

 

 

 空飛ぶルンバだ! 爆撃と相次ぐ驚きに開いた口がふさがらない。猫ちゃんが消し飛んじゃった…

 

 

 

 石畳に散らばった猫ちゃんの残骸を回収ボッドが吸引していく。

 

 

 粛々と進む回収作業。瓦礫の山と化した危険物処理エリアに再び立ち入って近距離から回収ボッドと空飛ぶルンバの様子を見る。しぶとい野次馬たちも数は少ないが、ぞくぞくと集まってきた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18_復活の猫。そしてセカンディルは半壊へ。

フイフイ


 こっそりと生命体xの残骸を瓶ですくってインベントリに回収しておいた。小さな断片でも復活するかもしれない。そしたら、餌付けしてペットにするんだ。ペット枠はこれで確保だな。任務完了ってやつだ。

 

 

 おおまかに瓦礫の山から残骸を回収した回収ポッドに空飛ぶルンバがワイヤーをドッキングさせて、空中へと引き上げていく。

 

 

 

「なんだかよく分からんが終わったな。」

 

 

「巨大アメフラシといい。今日は一体なんだってんだ。見世物がいっぱいあったな。」

 

 

 野次馬たちも怪物たち襲来というレアイベントに立ち会えて満足した様子だ。

 

 

 夕焼けが辺りを包む。

 

 

 ニャーオ

 

 

 

 猫の鳴き声が中空の回収ボッドの中から聞こえた。ぐにゃりと回収ボッドが歪む。ぐにゃぐにゃと変形し一匹の大きな猫へと変化した。

 

 

 機械の猫だ。体中からギザギザの口と蛍光色に光る目が生えてくる。

 

 

 

 電撃がワイヤーを伝って空飛ぶルンバへと放たれる。

 

 

 

 鳴り響く雷鳴。振動とともに高度が下がる空飛ぶルンバ。けたたましく鳴り響くサイレン。

 

 

『敵性生命体の生存を確認。深刻なエラーが発生。危機対応シークエンスを実行します。ワイヤー切断後、積極的攻撃態勢へと移行。対象のマナ濃度を消滅ラインまで減少させ封印するまでマギデバイスによるエラーコード処理を実施します。特級危険物処理エリア内の民間人は直ちに避難してください。』

 

 

 

 空飛ぶルンバから複数の飛行体が放たれる。また本体から大量のホーミングするレーザービームと小型ミサイルが射出された。

 

 

 

 地面や宙を駆ける機械猫が攻撃を受けながら、放たれたものたちを食べていく。流れ弾で崩壊する建物たち。そして自分も含めた野次馬たちは、我先へとファステイアへ逃げる方向へと走り出す。

 

 

 

 驚いたことに機械猫は、蛍光色に光る目からビームを照射し、口から小型ミサイルを射出し始めた。

 

 

 夜空に飛び交うレーザービームとミサイル。破壊されるセカンディルの街。これはもう駄目だな。生命体xのブツを手に入れて目的は果たした。さーて、村に行って角笛を作ってもらうとするか…

 

 

 

 怒号と噴煙が飛び交う人混みを抜けて、セカンディルを脱出する。愛着の湧く街だったのだが。慌ただしく去ることになろうとは。

 

 

 

 

 

 

 一杯やりたい気分だったので夜の跳梁跋扈の森と平原を抜けて、ファステイアへ。

 

 

 イミテートウィスプという魔法を使って、鬼火を浮遊させ光源を確保する。本来は敵に向かってホーミングする魔法だが、魔法を使ってマナ操作の熟練度が上がったおかげなのか、比較的自由度高めに操作することができるようになった。

 

 

 

 強めの敵が出てくるが、サクッと抜けて街へ到着。門兵に挨拶して大通りのプレイヤーが運営する飲み屋「肉呑み屋」へと入る。

 

 

「ビール一杯、それとウッドランドブルのステーキ一つお願いします。」

 

 

 

 

 注文後早速来た。木製のジョッキに注がれたビールをグビグビとやる。

 

 

 

 二杯目をお代わりしているとステーキもやってきた。

 

 

 ナイフでカットして、テーブルにおかれた調味料で味付けして、食べる。うまい。

 

 

 

 ビールと肉を交互にやる。うまいうまい。

 

 

 

 

 一息ついて、インベントリから生命体xの入った小瓶を取り出し、眺める。7色に明滅している。小瓶の中にステーキを小さく切り分けて入れてやる。

 

 

 

 ニャーオ

 

 

 

 小さな猫の声とともにステーキがゆっくりと消えていく。これはいいものを手に入れた。ペットだ。ついにelonaでかつてやっていた演奏家、ペットという要素を少しだけ実現したのだ!

 

 

 ギター熊は満足気に頷き、テーブルの上に蓋を締めた小瓶をおいてうっとりと眺めた。

 

 

 波乱万丈の一日が終わり、日常はまた新しく更新された。

 

 

「もっと強い魔法が欲しいなぁ。近接戦闘もどうにかしなきゃな。あと、サードレマに行ってサブジョブを開放して、木工職人取って笛やギターを自作してみたい。目標は色々あるぞ!」

 

 

 肉を食ってやる気が充填された彼は天高く拳を突き上げた。その前に半壊したセカンディルで、復旧作業員として駆り出されることを知る由もなかったのだった。

 




ということで、第二章がなんとか終わりました。

テーマとしては、第一章がNPCだったのに対して、プレイヤーをとにかく出すということでした。パーティ戦闘もやってみたかったことです。

巨大アメフラシ、かわいい猫の杖、空飛ぶルンバは怪獣大戦争を起こそうと思いやったのですが、3つどもえは流石に無理だと諦めて断念。マナを巨大アメフラシからたっぷり吸ったかわいい猫の杖が本来の姿を取り戻し、空飛ぶルンバと戦うというところを思いつきどうにかこうにか書こうとしてだいぶ年月が過ぎてしまいました。もうちょっと戦闘描写を上手くかければよいのですが淡々としたものになってしまうのは筆力不足を痛感。また折を見て加筆できればと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03_交錯する分岐路とその『旅路』
01_新たな地平線を求めて


ギョギョギョ


 寝ていた布団をはねのけた。ログイン天誅してくるサムライを長杖で足払いする。

 

 容赦なく襲ってくるおかわりログイン天誅サムライ2に低めの態勢から跳ね上げる突きをお見舞いする。

 

 

 呻いている間に刀を奪い取り、長屋から外に出ていつもの散歩ルートとなっている城下町へと向かう。

 

 

 

 戦闘力不足に悩んでいた時に出会ったマイナーコンテンツVR杖術教室。久しぶりに武道をやってたら楽しかったので、オフラインの免許皆伝まで技術を鍛えた。せっかくだから対人戦に使いたいと思い、その道で定評のある幕末というオンラインゲームを購入してみた。

 

 プレイヤー全員が敵で切りかかってくるというなかなかのクソゲーなのだが、まず杖を見つけるのに苦労した。初期刀で油断大敵とばかりに天誅と叫んで、突撃してくるプレイヤー達。リスポーン地点から抜け出すのに時間がかかった。杖術で戦いたいの、物干し竿を庭から盗んだり、竹林から竹を切って竹槍のようなものを作ったり。

 

 

 

 散歩していると団子屋が見えた。ちなみに老人アバターでやっている。杖突いているお爺さんが強いってのはロマンがあるからだ。団子屋でみたらし団子を3本食べる。店の奥の方にはいつもすごい数の団子を食べている男がいる。どうやら有名な団子屋というプレイヤーらしい。団子の串を投げてくるんだとか。

 

 

 団子を食べたあとは再び戦いを求めて城下町をぶらりと探索。

 

 

 3人組のサムライが正面からやってくる。

 

 素早く建物の陰に隠れ、背後から奇襲。続けて残りの顎を突き上げる。地面に倒れ伏すまで正中線を連続付き。天誅と叫ばないマナー違反になっているが悶絶、または、気絶させるだけなので許してもらおう。絶対叫ばない方が確実に仕留められるのだが、彼らが天誅と叫んでしまうのは本能的なものなんだろう。きっとそうに違いない。

 

 一人残ったサムライが敵討ち天誅と叫びながら刀を振るうのを少しだけ飛び退って回避。そのままの勢いで前方に跳躍し、頭の斜め上に打ち下ろす。

 

 刀をある程度回収したので質屋に寄って現金化してから、鍛冶屋へと移動。前から頼んでいた鉄杖を入手し、今日は天守閣を見に行くことにした。天守閣には強いNPCがゴロゴロいるのだ。

中でも一番強いNPCがショーグンというらしい。そこまで行けるかは分からないがアタックしてみよう。

 

 

 老人のアバターだが別に運動性能はデバフを受けるということはない。

 

 城門の見張り2名を正面から倒し、刀を奪ってから縄で縛って放置。場内に侵入し天守閣を目指す。

 

 

 1時間後

 

 

 アタックした結果、杖術の限界が見えた。敵を死亡させないのでどんどんNPC増えて、逃げ回っていても詰んでしまう。殺傷力のある矛を持ってきたほうが良いかもしれない。また資金集めからだな。

 

 さてと、そろそろシャンフロに戻るか。魔法の補助という意味では十分だろう。シャンフロでも矛を作ったほうが良いだろうか。

 

 セカンディルの復興も進んできたし、サードレマへと進んでもいい頃だろう。ある程度規模の大きい街だと聞いているしホームを構えてもいい。エリアも3つに分岐するそうだしここはじっくり攻略していこう。

 

 せっかくだし門出の祝いに打ち上げ花火でもやろうかな。花火屋の長屋へと向かう。

 

 

 お、今日は留守なようだ。筒入りの打ち上げ花火3発と火打ち石をパチる。どこで打ち上げるかな。まぁ適当な屋根でいいか。

 

 

 適当な家の屋根に登って火打ち石で打ち上げ花火に着火。

 

「た~まや~、昼だから色がはっきりわからねぇな。」

 

 ま、こんなもんだろう。ログアウトするか。

 

 

 ログアウト後、花火屋による絨毯爆撃が実施され、周辺の長屋は全壊した。あゝ無情。

 

 




書きたいことが出てきたので、サードレマ編続けていこうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02_サードレマ、サブジョブ開放!!!

ムニムニ


 セカンディルの開拓者集会所で野良パに参加して、ソロ殺しボスことマッドディグを突破。

 

 丘の上にある城郭都市サードレマへとやってきた。サードレマについてはセカンディル復興を手伝った時にいろいろな意味で金策でなかなかの魅力的な拠点だと聞いていた。

 

 

 エインヴルス王国の王都ニールセンと同じような規模で、昔は別の王国の王都だったようだ。現在ではサードレマには大公がいて城郭エリアに住んでいる。

 

 

 魔術師ギルドサードレマ支部に行く。庶民が住む下層にある比較的大きな建物だ。周りには図書館や本屋、博物館、考古学協会の建物がある。建物内に入って受付に行く。

 

 

「サードレマで、サブジョブの開放ができると聞いたのだけれども。」

 

 

「ああ、開拓者の人だね。はい、この水晶に手を手をおいて。もう開放したよ。サブジョブの説明は聞いてくかい。」

 

 

「よろしく頼む。」

 

 

「メインジョブは100%の効果を発揮するが、サブジョブの効果は70%、スキルも制限されたものとなる。状況に応じてメインとサブを入れ替えたりするのがいいだろうね。複合ジョブが出現あるから控えでジョブを育てておくといいよ。メイン、サブ、控えの切り替えはギルド内でないとできないから注意すること。」

 

 

「木工職人と運搬人、巡礼者をサブジョブとして取得したいのだがどこでできそうだろうか。」

 

「巡礼者は大聖堂で申し入れれば取得できると思うよ。運搬人は交易商のクエストを何回かクリアすれば取得できる。木工職人はファステイアの方が工房が多く弟子入りしやすいのではないかな。」

 

「ありがとう。大聖堂と交易商の場所を教えてくれるかい。」

 

「ああ、この街の地図があったら詳しい場所を教えるんだが、まだ持っていないだろう。そこの本屋に地図が売っているから買ってくるといい。」

 

 

 本屋で地図を買い、目的地を教えてもらったあとは習得済みの魔導書を売って、新しい魔導書を何冊か購入した。ギルドクエストの達成度と魔法を覚えている数が20を超えたため、魔術師ギルドのランクがEからDになった。

 

 

「これでランクDになったな。巡礼者をサブジョブにいれたら、教会巡りと合わせて、大精霊の祠巡りをお勧めする。

 

 精霊信仰は古代の旧教にあたるが新教である三神教との折り合いは悪くない。魔術師としてはマナのエレメントとの繋がりを高めることが期待できるだろう。

 

 サードレマから一番近い祠は栄古斉衰の死火口湖のファイヴァル側にあるので、珍しい鉱石や宝石を捧げ物として持っていくとよい。」

 

 

 なるほど精霊か。自然の化身とかそういうやつなんだろう。それにしても神と精霊が対立してなくて良かった。異端者になると教会でオルガンを弾くという目標が果たせなくなる。

 

 

「ところでの話ですが、闇市場があると噂で聞いたのですが。どこにあるか分かったりします?」

 

 

 そう言うと受付の男性は渋い顔をした。

 

 

「あそこは盗賊ギルドの管轄だ。大きな声では言えないが禁制品を仕入れたりするのに利用したりもするが、盗品なんかもある。そういうのが興味のあるクチか?まぁ、まず盗賊ギルドで割符を譲ってもらうところから始めた方が良いだろう。紹介状は書いてやろう。魔術の発展には多少法を犯す覚悟も必要だ。」

 

 

 お礼として5万マーニを支払って、紹介状を受け取った。盗賊ギルドは『グリフォンの尾羽』という服屋の地下にあるようだ。大聖堂の近くにあるのでついでに寄っていくとしよう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。