シーマ様が救われ無さ過ぎたので救ってみたかった (柚子檸檬)
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シーマ様が救われ無さ過ぎたので救ってみたかった

 ――――これは救われなかった二人の姉弟が救われたもしもの物語(if)

 

 全ては白の民も黒の民も関係ない、人里離れた小さな小屋に住まう一人の青年から始まった。

 

 朝早く起きて畑を耕し、木を切って薪を補充し、時には町へ行って必要な物資を買い足し、ある時は畑を襲いに来た魔物を追っ払い、雨の日になれば小屋で本を読む。

 

 そんな気ままな生活を繰り返していたある日、唐突にそれは起こった。

 

 白の王国と黒の王国の戦争。

 

 そして白の時代の終わり。

 

 青年の知らぬことだが、光の王は闇の王を倒すために白の王国を、白の民の多くを犠牲にした。美しき白の王国はソウルへと還ったのだ。

 

 何も知らずに畑を耕していた青年は天から降り注ぐソウルの光を見て――――。

 

 ――――綺麗だ。

 

 しかし、何と儚い光だろう。何と悲しい光だろう。降ってくる光は泣きじゃくる少女の涙の様だ。

 

 そして――――。

 

「は?」

 

 二つの光が青年の小屋の屋根に大穴を開けるのだった。

 

 これは一体何事だと急いで家へと戻った青年。

 

 そこに会った光景に言葉を失った。

 

 家の中が滅茶苦茶になったのはショックだが今は後回しにしよう。問題は家の中に呻きながら横たわっている二人の人間だった。

 

 一人は高価な装飾品を身に纏う銀色の髪の美しい女性。

 

 もう一人はペールグリーンの髪を逆立てたツンツン頭の少年。

 

「天使……?」

 

 一体どこから落ちてきたというのか。そしてあれだけの速度で落ちてきたのに何故五体満足なのか。疑問は尽きなかったが、二人は呻きながらも呼吸をしていた。

 

 とりあえず青年は二人を幸いにして無事だった寝床の上へと運ぶ。細かい事はそれから考えればいい。滅茶苦茶になった残骸を外へと出し、簡単な掃き掃除を済ませた。

 

 それから数日が経過しても二人は目覚める事は無く、青年は悩むようになった。

 

 ――――町へ行って医者を連れてくるべきだろうか。

 

 青年は基本的に自給自足の生活を送っていたためにそれ程貯えがあるわけではない。物資の買い足しの金は作った作物や薪を売りに出して作ったもので、それだけでは医者に支払えるような額には届かない。

 

 綺麗に直した小屋の天井を見て一息ついた青年は一先ず今日の分の食事を作る事にした。野菜と干し肉をたくさん入れて作った彩の良い栄養満点のスープだ。このスープにパンを浸して食べるのが青年の楽しみの一つ。

 

 スープを煮込んでいる最中に女性の方が呻きながら目を覚ました。

 

「あ……ゥ……ファイ……オ……テ……オ……。ここ……は……?」

 

 女性は全身を強打したせいか起き上がる事が出来ないようだ。

 

「大丈夫ですか? 起き上がれますか?」

 

 青年の言葉に女性は首を横に振った。

 

「あな……た……は……?」

 

「家主のゴーシュと言います。家主っていっても小さな小屋ですけどね」

 

 青年はちょっとしたジョークのつもりで苦笑した。苦しんでいるのだから少しでも愉快な気分にさせてやりたかった。

 

「シーマ……よ」

 

 シーマと名乗った美女は隣で眠っている少年の姿を確認してほっとした表情を見せた。目が覚めて落ち着いてきたのか口調も断端流暢になってきて青年は少し喜ぶ。

 

「もう一人……いなかった……?」

 

「いえ、二人だけでした」

 

「そう……」

 

 美女は目を伏せた。青年は今、自分が彼女に何をしてやれるだろうかと考えて、煮立った鍋に気が付いた。

 

「スープを作ったんですけど、良かったらどうですか? 何か腹に入れておいた方が元気も出ますし」

 

 青年は美女の返答を聞かずにスープを木製の器によそった。

 

 美女は身体を動かす事が出来ないので必然的に青年が食べさせる事となる。火傷しないように軽く冷ましてから美女の口へと運んだ。

 

「ど、どうですか?」

 

 生まれてこの方他人に料理を振舞ったことが無い青年は緊張の眼差しで美女を見る。美女は柔らかくなった野菜をゆっくりと噛み締めて喉を鳴らし、そして涙を流した。

 

「もしかして口に合わなかったですか……?」

 

 美女は青年の言葉を否定するように必死に首を横に振った。

 

「違う……違うの……とても美味しくて、温かくて……安心したら涙が止まらなくて……」

 

 青年はその泣き笑いの顔を心の底から美しいと感じた。

 

 それから一人で気ままに暮らしていた青年の生活は一変した。

 

 次の日には、彼女の弟である少年テオも目が覚めた。しかし彼も同じく身体を動かす事が出来ない。彼女が言うには全身を強打した事よりも全身のソウルが枯渇した事の方が問題らしい。

 

 そんな彼女たちも青年の献身的な介護もあって2週間後にはフラつきながらも立ち上がれるようになった。動けるようになってからは恩返しにと二人は青年の手伝いをするようになり、一人暮らしは三人暮らしへと変わっていった。

 

 耕していた畑はどんどんその範囲を広げていき、家も3人で住むには狭いと3人で改築作業を進めている。 

 

 そんなある日、シーマが切り出してきた。

 

「何も聞かないのね」

 

「はい?」

 

「気にならないの? 私とテオがどこから来たとか」

 

「シーマさんが話したいのでしたら聞きますよ」

 

 シーマは「そう」と微笑んだ後に自分たちが白の王国に住む光の民であった事を打ち明けた。あの日、闇の王が攻めてきて、白の王国がどんどん闇に浸食されていき、白の民が魔物と化していくのを自分の力でどうする事も出来なかったと嘆いた。

 

 そして白の王国は自爆という形で最後を迎えたという絶望を訴えた。

 

「何でアイリスはあんな事を……」

 

「アイリス?」

 

「当時の光の王の名前よ。私達はかつて光の王になるために競った仲だったの。それなのに……それなのに……!」

 

「シーマさん?」

 

 青年はシーマの様子がおかしい事に気が付いた。彼女にあるのは親しい友人を語るものでは決してない。まるで親の仇の様な怨敵を思い浮かべているようではないか。

 

「そうだ! アイリスは光の王に相応しくなかった! 私ならもっと上手くやれた……あいつが王にならなければ……!」

 

「シーマさん落ち着いて!」

 

 青年はシーマの肩を抱く。今のシーマを放っておけばもう元の彼女には戻れないのではないかという不安が彼を襲った。

 

 最初は抵抗して暴れていたシーマも段々と落ち着きを取り戻して元の彼女へと戻った。

 

「……ごめんなさい」

 

「気にしないでください」

 

「それでも……ごめんなさい」

 

 彼女の謎の発作はその日だけでは終わらなかった。特に目立った予兆も無く、シーマは発狂し、光の王アイリスを罵倒しだした。

 

「きっと不正したに決まってる! そうじゃなきゃあんなやつが王になんて……! ファイオスだってあいつに誑し込まれたんだ、あの淫売がぁぁぁぁあ!」

 

「や、やめてよ姉ちゃん……」

 

「落ち着いてください!」

 

 彼女の弟であるテオはその度に青年が宥めるのを泣きそうな目で見ていた。自分は無力だと、弟でありながら何も出来ないと嘆いた。

 

 テオはある日、青年に問いかけた。

 

「ゴーシュさんは姉ちゃんの事好きなの?」

 

「……突然どうしたんですか?」

 

「なんとなくそう思っただけ。それで、どうなの?」

 

 青年はゆっくりと目をつぶってシーマの姿を思い浮かべた。自分はきっと彼女に惹かれているであろうことは自覚しているし、これからも彼女を守りたいと思っている。

 

 だから正直に答える。

 

「うん、好きだよ。シーマさんの事を愛してる」

 

「そっか」

 

 二人の会話が一度途切れ、目の前の池に住まう魚が跳ねるのを一緒になって見つめている。

 

「う~ん、テオ君は自分は無力だって思ってないかい?」

 

 テオは青年の言葉に目を見開いた。青年は彼の一番の悩みに気づいていたのだ。

 

「だって僕じゃ姉ちゃんを助けてあげられないし。それにまだ子どもだし」

 

「そうだね。テオ君はまだ子どもだし、出来る事も限られている。でもね、人はいつまでも子どもじゃいられない。いつかは君も大人になって守られる側から守る側にならなきゃいけないんだ」

 

「守られる側から守る側になる……?」

 

 テオはかつて姉が言った言葉を思い出す。白の民は永遠なのだと。であれば白の民は、兄と姉はどうやって大人になったのか。青年の言ったように守る側になりたいという強い気持ちがあったからではないか。

 

「僕も、なれるかな?」

 

「テオ君がなりたいと思っていればなれるさ」

 

 テオはその日からまた白の王国で暮らしてきたように強い大人になりたいと願うようになった。兄のように強く、姉のように優しく、そして目の前の青年のように誰かを導く事が出来る、そんな大人へと。

 

 そして青年もまた決意した。シーマに自分の想いを伝えようと、心身ともに彼女の支えになってあげたいと。

 

 その時は然程遠くない未来に起こった。

 

「畜生! 畜生! あいつのせいで……アイリスのせいで白の王国は滅んだんだ! あいつさえいなければぁぁぁあ!」

 

 青年は焦っていた。シーマが発狂する頻度が明らかに増えている。以前なら数日に一回だったはずが今では一日に一回は発作が起きている。このままでは本当に狂ったまま元に戻れなくなってしまうかもしれない。

 

「姉ちゃん、もうやめてよ!」

 

 姉がおかしくなっていく様をただ見ていただけだったテオは、勇気を振り絞って姉の目の前に立つ。足元が若干震えているが歯を食いしばって耐えていた。

 

「一番悪いのは攻め込んできた闇の王じゃないのかよ! それに、何でもかんでもアイリス様のせいにしたって何にも変わらないじゃないか!」

 

「黙れぇぇぇぇぇえ!」

 

 シーマはもう目の前にいたのが誰なのか分からない程おかしくなってしまったのか。乱暴に腕を振り回してテオを殴った。

 

「テオ君!」

 

「いてて……僕は大丈夫だから、姉ちゃんを止めて!」

 

 テオはもうかつてのようにおかしくなった姉に怯えながら何も出来ずにいる弱い少年ではない。その姿の彼に勇気を貰った青年は先程の彼と同じくシーマの前へと立つ。

 

「邪魔だぁぁぁあ!」

 

 パァンと紙風船が割れた様な音が響き渡る。騒いでいたシーマは一気に大人しくなり、右の頬を撫でる。彼女は少し遅れて自分がはたかれたのだと理解した。

 

「もう、やめましょう。あなたが本当に憎いのは闇の王なのか、それともアイリスさんなのかは分かりません。でも、二人ともここにはいません」

 

 シーマは青年の言葉に無言で目を伏せた。

 

「憎むなとも恨むなとも言いません。でも、目の前にある大切なものにもう少し目を向けられませんか?」

 

 青年の目線につられた先には尻餅をついた己の弟がいた。聡明な彼女はその原因は自分にあるのだと即座に悟った。

 

「っ!」

 

 その光景に耐えられなくなったシーマは身を翻してその場から逃げ出そうとした。青年はそれを彼女の手首をつかんで防ぐ。

 

「放して!」

 

「放しません!」

 

 青年には絶対にこの手を離さないという確固たる意志があった。それに女性魔導士であるシーマに男の腕力を振り解けるだけの力があるわけもなく、膠着状態が続いた。

 

「私、恐いのよ。自分の中に自分でないものが出来て、どんどん自分が自分で無くなっていく感覚が恐くて。とうとうテオに手を上げてしまった」

 

「シーマさん……」

 

「ここにいたらまたおかしくなってテオやあなたに危害を加えるかもしれない。ならいっそ……」

 

 ここを出て一人で朽ち果てた方がマシだとシーマは語った。彼女とて本心で望んでいるわけではない。しかし、弟を、恩人を傷つけてしまうのであればそれこそが最善なのだと訴えた。

 

 青年は腕に力を込めてシーマを抱き寄せる。そしてシーマが暴れる前にガッチリとホールドして逃げられなくした。全身に互いの体温を感じ、心臓の鼓動を感じている。傍から見ている方が恥ずかしくなる光景だった。

 

「な、何で……?」

 

「あなたの事を愛しているからです。だから、何処にも行って欲しくない」

 

 青年の愛の告白。それにシーマは顔を紅くして思わず目線を逸らした。しかし、青年はそれを許さないといわんばかりにただ彼女を見つめ続けた。

 

「何で私なんか……こんな狂った女なんかに……」

 

「人には誰しも綺麗な面と汚い面があるものですよ。その二つをひっくるめてシーマさんと添い遂げたいと思ったんです」

 

「また暴れるかもしれないのに?」

 

「そしたらまた引っぱたいてでも止めます」

 

「こんな迷惑しかかけてない女なのに?」

 

「あなた達と出会って大変な事も多かったですけど、楽しい事も多かったですよ」

 

 互いの感情が溢れてくるように二人は言葉を交わしていく。その様子をテオはにこやかに見つめてその場を去った。

 

「えっと……その……こんな、おかしな女でよかったら……よろしく、お願いします」

 

「ふふっ、こちらこそ」

 

 その日、二人は家主と居候から恋人同士へとなったのだった。

 

 そしてまた彼らにとって嬉しい事にシーマの発作が次の日から起きなくなったのだ。愛の力によるものか、それともシーマが自分の中にある闇を『それもまた自分自身なのだ』と心から受け入れたからなのかは誰にも分からない。

 

 二人は幸せだった。テオは色々と察して日々大人になっていった。暫くすれば何となく察して青年と姉を二人きりに出来るくらいには精神的に成長していた。

 

 愛の言葉を交わし、口づけを交わし、互いの愛を確かめ合った。2年後には子宝にも恵まれて、産まれた赤子を見たシーマは涙を流しながら喜んだ。

 

 やがて時が経ち、産まれた赤子には弟や妹が出来る。成長して大人になった青年とシーマの子は町に住む商人の青年と恋をして結ばれ、そして彼らには孫が出来た。

 

 それからというものコミュニティは広がっていき、青年達と町の住民達との交流も深くなっていく。

 

 3人は幸せだった。

 

 こんな幸せがいつまでも続くといいと思っていた。

 

 しかし、現実は無情だった。

 

 ある日、もう老人と言っていい年齢になった青年は病に伏した。

 

「大丈夫、大丈夫だから。きっと良くなるから」

 

 いつまでも若く美しいままの妻を見た老人は精一杯の力を込めて彼女の涙を拭った。老人はもう自分の命がそう長くない事を悟っている。

 

 永遠の時を生きる光の民と常命の人間の間に最初から永遠の幸せなど無かったのだ。寧ろただの人間にしては長生きした方ではないだろうか。

 

 自分が持てるあらゆる手段を用いてなお、日に日に弱っていく夫の姿を見て何も出来ないシーマはただただ涙を流した。

 

 テオや二人の間に出来た子ども達は腕の良い医者や新しい治療法を探して遠出したが、多少死を先送りに出来ただけでそれ以上の成果は見込めなかった。

 

 そして、最後の時が訪れた。

 

 掛かり付けの医者におそらくは今日だと言われて親族たちは老人を看取りに来た。その最も近くにいたのがシーマとテオであった。

 

 最初は自分一人だった。

 

 あの日からは3人になった。

 

 そして今はこんなにも多くの家族に見守られている。

 

「シーマさん、私はね。一人で生きて一人で死んでいくもんだとばかり思ってましたよ。でも、こんなにもたくさんの家族に囲まれてね、幸せですよ。全部シーマさんとテオのお陰だ。本当にありがとう」

 

「お礼を言うくらいならもっと生きて」

 

「それは難しいなぁ」

 

 次の瞬間には死んでいるかもしれないというのに、老人は笑っていた。

 

「テオ君、大きくなったね。身長も抜かれたし、もう子ども扱いは出来ないよ」

 

「もう、今更何言ってるんだよ」

 

 テオはもう昔のような力なき少年ではない。背が伸びて筋肉もつき、憧れだった彼の兄のようにしっかりとした身体つきになっている。

 

「子ども達も大きくなって、死ぬ前にいいもんが見れた……」

 

 自身の人生を振り返った老人。その多くを占めていたのは妻であるシーマの姿であった。楽しい事ばかりではなかったが、それでも笑顔で支え合った。一人の女性を幸せに出来たのだから、自分の人生にも意味はあったのだと 

 

「手を握ってくれませんか?」

 

「ええ」

 

「笑って、見送ってください」

 

「はい」

 

 シーマは老人の手を両手で、愛おしそうに握った。頑張って笑っていても、その眼から流れ出す涙を止めることは出来ない。その泣き笑いはかつてシーマに見惚れたものとよく似ている。

 

「やっぱり、綺麗だなぁ……」

 

 彼女が笑う姿をもう見れなくなるのは悔しい。そう思い残して彼の一生は幕を閉じた。シーマやテオは勿論、子ども達や孫達、彼の友人であった人々は彼の死を惜しんで泣いた。彼の遺体はシーマの希望で家の傍に埋葬されて町の職人が立派な墓石を立てて弔われたという。

 

「テオ、白の王国を再建しましょう」

 

 夫の死から数日たったある日突然、シーマはテオに呼び掛けた。

 

 テオは勿論驚いた。姉の夫の死後、丸一日は泣きはらしたかと思いきやそれからずっと無気力に青空を眺めていた姉が突然王国の再建などと突拍子も無い事を言いだせば当然だ。

 

「急にどうしたのさ? 旦那が死んで悲しいのは分かるよ。俺だって悲しいさ。でも、自暴自棄になっちゃだめだよ」

 

「自暴自棄になんてなってないわよ。王国の再建は前々から考えていた事。私にはわかる、きっと闇の王はまだ何処かで生きている」

 

 テオは驚愕した。もしそれが本当だとしたら、アイリスは白の王国を滅ぼしてでも闇の王を道連れにしたというのに、これでは犠牲になった者たちが報われないではないか。

 

「だから、いずれ闇の王が復活したときに備えて白の王国を復活させる。もう幸せな夢は終わり、これからは私が未来のために使命を果たす」

 

 シーマはその日から動いた。近くの町に住まう者達や、立ち寄った旅人達に闇の王やそれに従う闇の勢力の危険性を訴えて廻った。最初こそ、夫が死んで気が狂ったのかと心配されたが、続けていくうちにそれに耳を貸してくれるものも出てきた。

 

 シーマやテオは彼らをまとめ上げて武器の扱い方やルーンを使った魔術の指導をして回った。そうして成長していった者たちは町の自警団として町や近くの村に出没する魔物を追い払ってさらに力を付けていく。それを繰り返していくうちにその町は自警団が守ってくれるから安全に商いが出来ると人が集まり、町に移住してくれる人々の護送も請け負うようになったら、いつのまにやら町は都市になるまでに拡大していった。

 

 都市はシーマによって第2の白の王国『センテリュオ』と名付けられ、都市は王国となった。他所もそれを真似したのか、白の民の末裔だと名乗った者が建国をしたのだが、それはまた別の話。

 

 そうして国の基盤が出来上がり、初代国王にシーマが指名された矢先、今度はシーマは倒れた。

 

 闇の王に闇を混ぜられて永遠を生きられなくなった彼女は、それでも休まずに働き続け、とうとう限界が来てしまった。

 

 彼女は夫の元に行けるのだと思えば、死など恐れなかった。

 

「テオ、初代国王にはあなたがなりなさい」

 

「お、俺が!?」

 

「あなたはもう守られるだけの弟じゃない、違う?」

 

「……うん。何処までできるか分からないけど、やってみるよ」

 

 シーマが懸念していたことが一つ、また一つと無くなっていく。

 

 残る懸念は二つだけだった。

 

 一つは未だに行方不明の兄、ファイオス。長きにわたり探し続けて来たが、手掛かり一つ見当たらない。それでもあれだけ強かった兄ならきっとまだ生きていると信じている。

 

 もう一つは光の王アイリス。もし生きているのであれば直接文句を言ってやりたかった。でも、それはもう叶わないのが残念で仕方ない。

 

「ファイオスは……きっとまだ何処かで生きている、そんな気がするの。だから、見つけてあげて。あれで結構ナイーブなところがあるから」

 

「うん、分かったよ。きっと見つけてみせるから、安心して」

 

「それと、アイリスへの遺言を貴方に託すわ」

 

「後は全部俺に任せていいから。心配しないで」

 

 シーマは最後の懸念が無くなって微笑んだ。

 

「最後に、お願いを聞いてくれる?」

 

 シーマの最後の願い。それは、夫の墓の傍で最期を迎える事だった。

 

 弟に背負われた彼女は弟の大きくなった背中に安心して身を任せた。死が近づいているからか、音がどんどん聞こえなくなってくるし、目の前もよく見えなくなってきている。

 

「ついたよ、姉ちゃん」

 

 テオは墓の傍へと姉を降ろした。

 

 シーマは墓石に刻まれた夫の名を愛おしそうに撫でている。

 

「ああ、大好きなあなた……私ももうじき、そっちへ行くわ」

 

「縁起でもないこと言わないでくれよ姉ちゃん」

 

 姉弟二人は笑い合う。最後の遣り取りだが、そこに特別なものはいらない。

 

「大好き……本当に大好きなの……ゴーシュ。あなたと出会えて本当に……よかっ……た……」

 

 シーマは幸せそうな顔で、ゆっくりと眠るように息を引き取った。

 

「……おやすみ、姉ちゃん」

 

 彼女の墓は夫の隣に作られて、その命日には毎年多くの参拝客が絶えないという。

 

 テオはシーマの願い通り、センテリュオの軍備を強化していった。自警団はいつしかルーンナイトと呼ばれる組織となって、国の防衛を確固たるものにしたという。

 

 これにて救われなかったはずの二人の姉弟の物語は幕を閉じる。

 

 

 

 

 ――――永き時を経て再び運命は動き出した。

 

 アストラ島と呼ばれる小さな島。

 

 その森の奥で出会う記憶喪失となった光の王と闇の王子。

 

 その運命の出会いがまた新たな物語の始まりとなるのであった。

 

 

                    ――Fin――

 

 




出来るなら闇落ちして黒ボンテージ姿になったシーマ様とか見てみたかった。
プレイアブルで名星会インヘルミナみたくスキル3で衣装が変わったりとか
星に願いをプロジェクトはもうやらんのかなぁ


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