とある指揮官と戦術人形達 (Siranui)
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9A91 護れなかった貴方を私は

 pixivにて投稿してある話を、pixivにアカウント作るのが難しいからこちらで見たい という意見があったのでこちらにも乗せております。
2000文字という制限に何とか間に合わせられるのがこれだけだったので、順次つなぎ合わせたり加筆したりで2000字以上にして投稿していきたいですね。

ヤンデレ……? というか9A-91が病んでいるのでファンの方は許してください、某生放送で呷ってきた視聴者が悪いんです!!


 初投稿と言う事で、色々と不手際あるかもしれませんが、宜しくお願いします。




「幽霊……ねえ」

 

 自分の姉、UMP45から任務の内容を思い出していた時、UMP9は呆れたという風にため息を吐きながら呟いた。

雪が降る中出撃だと伝えられるから、どれだけ重要な任務化と思いきや……まさか現代兵器で幽霊退治とは誰だって思わないだろう。

 

「そういう噂なだけで、正体不明の何かというのが実際の所よ……第一、幽霊なんて居る訳ないじゃない」

 

 呟いた声が不満に聞こえたのだろう、生真面目に周囲を警戒しながら歩いている416から補足が入る。

鉄血の部隊がある区域を中心に数を減らしているらしい。

実際に偵察部隊からの報告だと、バラバラにされた機械人形や機械の残骸が散乱していた と言うのだ。

グリフィンでは部隊を出して居ない事から、その惨状が何故起こったのか、また何が起こしているのかを調べろ という指示だ。

404小隊に依頼する仕事なのだろうか……とも思ったが、指揮官からは

 

 

 何かあった時でも君達なら対処できると思うから と言う事だ。

 

 

 まあ、評価されていて悪い気はしない。

それに今回はハンドガンの増員もされている……別に必要では無いが、指揮官の心遣いを無下にする訳にもいかない。

きたきたきたきた~! と明るい娘だし、基本的には真面目そうだから問題無いとは思う。

さて……とりあえず何事もなく接近できれば良いのだけれども。

 

 

 

「ねえ……やっぱダメだって、帰ろうよ……」

 

 しばらく何事も無く歩いていたが、また何時ものが始まった様だ。

G11が416に帰ろうと訴えている、しかも今回は夜間任務な為余計眠いのだろう。

 

「何がダメなのよ、任務だからよほどの事でもなければ帰れる訳無いじゃない」

「その任務がダメなんだって……ほら、嫌な予感ってあるじゃん。 あれ」

「はあ……あのねえ、嫌な予感がしましたので帰還しました、偵察任務失敗です。 なんてガキの遣いよ」

「うう~~」

 

 と、忘年会シーズンなら良い漫才として出せるだろう……よし、今年はこの線で行こう。

ただ、G11の表情を伺って見るに本気で嫌がっているようにも思う。

それに……大体416に一回怒られれば観念するのだが何故今日はこうも何回も言い続けるのだろうか?

 

 

 

「しっかしまあ……何て言うか、パーツ墓場ね ここ」

 

 月明りに照らされた雪原に、ばら撒かれた鉄の塊が静かに存在感をアピールしている。

目の前に聳え立つ工場の跡地らしいものが冥界の門にすら思えてくるほどだ。

45姉が呟いた通り、墓標が乱立しているようにすら見えてくる。

 

「ただ全て鉄血製の様に見えますね、私達グリフィンのI.O.P製のパーツらしきものは見当たりません」

「だとすれば本当に同士討ちか……果てまた、あの工場跡地に鉄血を敵とする何かが居るか だね」

 

 監察してみると、残骸は工場跡を囲むように散乱している。

これで間違いなく工場跡地に何かが潜んでいるのは間違いはないだろう。

逆に言えばあそこに侵入し調査しなければならない と言う事だ。

 

「工場へはあそこから侵入できそうね、2階に続いているから……G11、ちゃんと聞いて居るの?」

「ううっ……ヤバいって、絶対ヤヴァイって……」 

「ヤバいヤバいさっきからそればっかりじゃない! もうしっかりしなさいよ!!」

 

 バンバン と416が背中を叩いて活を入れている。

私ももう一度工場の方へ向き直るが、なぜG11がそこまで怯えているのかが分からない。

周りに散らばっているのは鉄血製の機械ばかりなのだ、I.O.P製の物は一つ足りとて無いのに……

 

 

 

「ほら、さっさと上がる!!」

「うええぇ……お、押さないで、手摺が壊れちゃう……」

 

 渋るG11を416が強引に錆び付いた外部階段へ押し上げていく。

45姉とC96は先に工場内の索敵をしているので、G11を引っ張り上げるのは私の役目だ。

ギイギイと金属製の階段が悲鳴を上げ、ノタノタと登ってくるG11と、片手で引くだけで軽い着地音を立てて登ってくる416.

これで全員、2階部分から内部に入る事になる。

非常階段の部分には壊れかけた階段しか無い上に窓が無かったので、トラップにさえ注意すれば問題ないと判断した。

 

「45姉、どう?」

「ん……まあ、誰かが居るのは確実ね」

 

 工場内部で周囲を調べていた45姉に声をかける。

空気が淀んでいるかと思いきや、外とあまり変わらない……換気がされているという事だ。

周囲に配置されてある機械群に埃が積もっておらず、通路となる部分に簡易的な照明らしきものもある。

それに沿って目線を上げてゆくと……円筒の容器を発見した。

 

 照明で目線を誘導している所から、見つけてくれと言わんばかりの配置だ。

警戒しながら近づいてみると、中は液体で満たされている様であり……まだ電力が生きている事が分かる。

 

「これは……何かしら?」

「電力的には生きているみたいですけど……何でしょうか、生命維持装置?」

「それにはあまり触らないで欲しいですね」

 

 即座に声がする方向へ銃口を向ける。

C96が照明弾を打ち上げ、赤い光に相手が映し出されるが……

 

「9A-91……? グリフィン所属じゃないの?」

「はい、もうあそこには所属していませんよ。 指揮官がそこには居たくないみたいですから」

 

 戦術人形の脱走? いや、指揮官が脱走したと言う事?

ドローンからここを見ているであろう指揮官からは脱走者が出たという情報はない と通信機越しに返信がある。

 

「指揮官って……」

「目の前に居るじゃないですか」

 

 スタッ と上にあった配管から飛び降り、先ほど調べようとした円筒の容器横に立つ。

目の前って……まさか?

 

「指揮官は今寝てしまっているんです。 戦場に立つ私達を気に掛け過ぎて……

 敵をまだ掃討仕切っていないのに、心配だからって見に来て」

 

 そっと優しい手つきで容器を撫でる9A-91、それに答える様に容器内部の照明が点灯する。

何かの溶液に満たされた中に、人が浮かんでいた。

各所にチューブが繋がれ、グリフィンの制服を纏ったまま……

ただ唯一、額付近をなぞる様に傷がついて居なければ。

 

「指揮官は撃たれました、私の目の前で……そこからずっと眠っているんです。

 応急処置もしました、でも目を開けてくれないんです……だから、ずっとここで護ってあげるんです。

 目が覚めるその時まで、ずっと……」

「いや……その人はもうs」

「寝ているだけです、指揮官が亡くなる訳がありません。 私をずっと見てくれると言ってました、指揮官は嘘をつきません」

 

 45姉が言おうとした事は分かる、けど9A-91はその声に耳を傾けない……いや、理解しようとしていないのだろう。

額の傷は致命傷だ、あれではどう頑張っても即死に近い状態だ。 それが分からない筈も無いだろうが…

 

「ねえ、そのドローンからあなた達の指揮官はこちらを見ているんでしょう? 伝えて欲しいの、私達を放っておいて下さいって」

「それを伝えるメリットが見えないんだけど…?」

「ここに近づく鉄血の部隊は殲滅します、一機残らず……外を見たでしょう、私の力は分かると思います」

「……もし、嫌だ と言ったら?」

 

 二コリ と9A-91が笑う……濃厚な殺気をその体から放出しながら。

 

「指揮官の意思にそぐわない人形は殲滅しますよ?」

 

 

 

 

 結局、あの場所は居住地からも遠く戦略的価値が無いとされ、9A-91が鉄血を倒し続ける限り放置することが決定された。

最も、弾薬も食料も9A-91は全て自給しているらしいからコストがかからず敵を減らしてくれるのなら構わないだろう というのが上層部の意見らしい。

 

「骨折り損 とは言わないけど……疲れたわ」

「うう……これならまだ残敵掃討とか、区域のパトロールの方が楽だったよ」

「あんたがそう言うなんてね、次はそうしましょ」

「でもできれば寝ていたい」

 

 帰還するヘリ内部で、416とG11は相変わらず仲良さげにじゃれ合っている。

C96は座席に身を任せて眠っている……時折うなされているのは、最後の殺気が効いたのだろうか。

指揮官がすぐさま45姉に停戦命令と相手方の意思を汲む と言わなければ……

 

「ねえ、45姉……9A-91だけど」

「ん、多分もう壊れてしまってるわね。 指揮官を目の前で狙撃された時には既に……」

「それだけ大切だった って事?」

「あの人形の左手を見た? 指輪がしてあったわ……それだけ愛されていたんでしょうね」

 

 45姉が何を考えているのかは分からない。

ただ、何故こんなにも悲しそうに月を眺めているんだろうか とだけ思った。

しかし、私も何が原因か分からない燻りを感じていた。

何故……9A-91を最後に見た時、羨ましいと思ってしまったのだろうか?

 

 

 

 

 指揮官、グリフィンの部隊は私達を放置してくれるみたいです。

全部貴方の指示通り、私はずっと貴方をお守りし続けます。

だから……何時か、何時の日か目が覚めたら、その手で私を撫でてくださいね?

そしてその声で、私の事を褒めてくださいね……?

約束 ですよ? そう……約束 です。

 




 なぜ友人達は濃厚なヤンデレを好むのだろうか?
反撃のつもりで書いたSSがご褒美ですありがとうございます! と返信が来た時はどう反応すれば良いか分からなかった……





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UMP45 ST AR-15 ため息

 お風呂回はみんな好きだって良く分かるんだ。

仕方ないだろう、そこには花園があるのだから。





「あら、珍しいじゃないこんな時間に」

「そっちこそ、作戦は終わったの?」

「当たり前でしょ? 第一あんな簡単な任務直ぐに終わらせられるわ」

 

 今日の任務を終え、グリフィンの基地大浴場へと向かった私は、

同じく脱衣所に入ろうとしているUMP45に気がついた。

すると向こうもこちらに気づいたのか笑みを浮かべていた。

確か今日、45所属の第一部隊は山岳部を一気に突き抜け、

敵司令部を占拠しては押し寄せてくる鉄血人形を殲滅する作戦・・・・・・作戦? だったはずだ。

指揮系統を刈り取り、混乱した相手を殲滅するのは理に適っているかもしれないが、

やっている事は警戒の薄い場所を浸透強襲し、只管敵司令部に突き進む突撃戦術だ。

 

 

 何だろう、昔指揮官が持っていた古い漫画・・・・・・だっけ?

そこに「猪突猛進こそ、我等が本懐よ!!」と叫んでいる艦隊司令官が居た気がするけど・・・・・・

まあ向こうは突撃強襲、こっちはどちらかと言うと奇襲突撃、突撃する順番が違うだけね。

 

 

 そうじゃなかった。

つまる所敵に見つからない様に最小限の敵を隠密に排除して敵司令部を占拠し、

味方部隊が増援として到着するまで現地を維持して敵部隊を蹴散らせる練度を持つ部隊の隊長。

それがUMP45という戦術人形だ。

簡単な任務 と言っていたが、一つ間違えば敵中央で孤立する可能性がある任務でもある。

朝同じ出撃し、廃墟市街地の見回りと偵察やはぐれた鉄血部隊の掃討とほぼ同じ時間に終わらせるのだ。

ドンパチ賑やかであった事は疑いようが無い。

 

「指揮官に報告はしたの?」

「しようとしたんだけど、臭いのは嫌だって9が聞かなかったのよ。 で、連絡したら先にお風呂へ行って来なさいってさ」

「ああ成る程・・・・・・じゃあ雨が降ったのね」

 

 勿論、紅い雨がね。

 

 UMP45の口端が上がる。

何時も浮かべている笑みではなく嘲笑、気を許しているからか404小隊や指揮官にしか見せない黒い部分を見せる。

よくよく見てみると、脱いだ衣服に紅い染みが着いている所も見えた。

少しは落としてきたのだろうが、硝煙と血の臭いなど早々落ちてはくれない。

 

「・・・・・・ま、さっさと洗い流してしまうことね。 本性出てるわよ」

「おっとと、まあまあ良いじゃない。 お風呂ってのは全て曝け出してリラックスする場所よ」

「湯船に入る前に体と心を洗うべきだわ、じゃないとお湯が深紅か漆黒に染まってしまうもの」

 

 生意気! という声を背に大浴場へと向かっていく。

まあ、どうせ浴室内で話す事だってできるのだから問題は無い。

 

 

 

 大浴場 元は古い国の習慣であった入浴 という物を効率よく行う為の施設であったらしい。

大人数が入れるよう大きい浴槽に、体を洗う複数のシャワーとケロリンと書かれた桶と椅子が置かれている。

汗を流すだけなら、シャワーだけで良いのでは無いか と指揮官に聞いた事があったのだが、

 

『それでは疲れが取れない、それに寒いだろう? 雪が降る中任務をこなして来た君達にそれくらいの配慮はするさ』

 

 何でも、温かいお湯によって血行の巡りを良くし、水圧でマッサージ効果がどうのこうの……

んん……人形の私達に効果があるか分からないけれども、これが楽しみで頑張ろう!

という人形もチラホラ見かけるので、士気高揚には効果があるのだろう。

自分も適当な場所に座り、シャワーのコックを捻りお湯を出す。

温かい水滴が自身の白い肌を流し、サラサラと床のタイルへと落ちてゆく。

最も肌年齢など無い私達にとって、肌の張りが衰えたとかそういった悩みは無い。

……まあ、他の悩みはあるけれども。

 

「何よ~そんなじっと自分の事見つめて……え、ナルシスト?」

「煩い、そんなもんじゃないわよ。 まあ、貴方は悩む事はないでしょうけど」

「……どうゆう意味よ」

 

 隣に座り、体を洗っていたUMP45が茶化してくるので反撃する。

目線を頭上からゆっくりと降ろしていき……一部で固定する。

言うなれば平原……いや、肌の白さから雪原だろうか。

体を包む泡は何の障害もなく重力にひかれ滑り落ちてゆく……雪原に対しての雪崩の様だ。

 

「ふっ」

「よし、その喧嘩買った。 第一あんただってそんなに変わらないじゃない」

「ぐっ、でも貴女よりはあるわよ。 それに体形だって計算されて作られている」

 

 自分の胸部へと目線を落とす……うん、まだUMP45よりはあるはずだ。

湯舟の方に目をやるとM16A1やM4A1は年相応の膨らみであるし、SOPMODⅡは……うん、あれは大きい。

逆にあんなに大きくて行動阻害しないのかしら? そう考えれば私やUMP45の方が……

 

「何くだらない事言い合いしてるのよ」

「HK416……っ」

 

 ドンッ である。

こいつは着痩せするタイプだったのね……くっ、落ち着きなさい。

続々と404小隊が近くで体等を洗い始めるのだが、UMP9もかなり大きい。

焦燥を悟られない様、無表情を貫き通すが……

 

「AR-15」

「なによ」

「止めない? これ以上は虚しいだけよ」

「……同感、それに指揮官はそんな事気にしないわ」

 

 UMP45より停戦交渉、即時締結し手の甲をお互いに軽く打ち当てる。

良く分からない という表情をしていたHK416は、既に興味を失ったのかG11の髪を洗ってあげている様だ。

定期的に動くな や寝るな と言った小言を言っているものの、洗う手を緩めてはいない。

G11もそれが分かっているらしく、大人しく身を委ねている……のよね? 寝ていないわよね?

 

「指揮官はどうゆうタイプの娘が好みなのかしらね」

 

 湯舟でリラックスしているUMP45が呟くように問う言葉も、流れる水音に消えてしまう。

知らないわよ と返す気力もないまま、温かいお湯に身を任せる。

 

 

 あの人の隣に立つ娘が、どうか自分でありますように。

 

 

 その為にも、明日もまた頑張ろう。

少しでも指揮官の役に立てる様に……




 UMP45姉もAR-15も好きなんですよ? 別に他意がある訳ではなく、好きだからこそ動かして書きたい と言う事なのです。


AR-15には儚い恋をして欲しい、初恋というかそういった少しの衝撃で壊れてしまいそうな綺麗な思い出になるモノを。



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指揮官から送られた指輪 ST AR-15の場合 / M4A1 もし私がそうなったとしても

 文字数が少なくて投稿できなければ、二つの話を合わせてしまえばいい。
何て言う事だ、そんな簡単な事に気付かなかったなんて……
(投稿的にはこちらの方が後ですが、こっちが最初であって前話はこの後に書かれたものでした)

 誤字・脱字の指摘や感想ありがとうございます。




 

「敵全滅! 各員残弾のチェックと損傷個所報告!!」

 

 雪山に轟いた銃声が止み、銃口から立ち上がる硝煙がゆっくりと空気中に消えてゆく。

視界に動くモノは自分達グリフィンの戦術人形だけとなり、ゆっくりと銃口を降ろし肩から力を抜いてゆく。

ここの鉄血人形達は今ので最後であり、司令部も占領できた。

後は回収用のヘリを呼んで帰るだけ……

 

「M4、少し周囲を見てくるから連絡をお願いね」

「了解AR15、ただあまり離れない様にしてね」

「分かっているわよ、あとSOPⅡからあまり目を離さない方が良いわよ……またバラしてる」

 

 この小隊指揮官であるM4A1に声をかける。

周辺警戒をしてくる事を伝えると、少し笑いながら忠告をしてくる。

分かっている と返事はするものの、気遣いは嬉しいので私も忠告を返しておく。

先ほどの戦闘で倒した鉄血人形周囲を、鼻歌歌いながら歩き回る姿はネコが獲物を定めている様にも見える。

M4が慌てて走り出すが、一歩遅かったか。

無造作に腕を振り上げたと思うと転がっているガラクタに手を振り下ろすSOPⅡ。

吹き出るオイルが彼女の体に降り注ぐが、それをまったく気にせず引きちぎったパーツを嬉しそうに眺めている。

……恐らく司令官への手土産にでもするのだろう。

まあ良い、事後処理はM4に任せてしまおう……それに、あまり時間はないだろうから早く周辺を見回ってしまおう。

 

 

 

 

 サクッ、サクッ……

自分のブーツが新雪を踏む音だけが森に溶けてゆく。

周辺を見回ってくる と言ったが、元より敵がいない事は知っている。

それでも何故周囲を見て回るなんて言ったのか?

まあ……誰にも見られたくない事の一つや二つはあるという事よ。

後方を確認、誰にも付けられては居ない。

木に背を預け、銃を落とさない様腕で固定してから左手のグローブを外す。

左手の薬指、銀色に輝く指輪を見て安心する。

 

 

 ああ、夢じゃない。 あの人と誓約できたのは夢ではないんだ。

 

 

 頬が少し暖かくなり、少し笑みを浮かべているのが自分でも分かる。

それは良い事なのだろうか、それを私は今判断する事は出来ない。

ただ、何が何でも任務をこなし生きてあの人の元に帰らなければならない と思える様になったのは良い事だと思う。

 

「指揮官……早く会いたいです」

 

 口付けを指輪にそっと落とし、またグローブを上から装着してM4達の元へ歩き出す。

そろそろ回収用のヘリも到着するだろう……さて、表情を引き締めよう。

雪を踏みしめる音がまた森に響き、そして消えてゆく……

 

 

 

 

「AR-15も澄ました顔してるけど、やっぱこっち側だよね~」

 

 

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 M4A1 もし私がそうなったとしても

 

 

 

 

「指揮官、一つお聞きしたいことがあります」

 

 書類を捲り、ペンを走らせる音だけが室内で聞こえる空間に、私の声は良く響いた。

採光用の窓を背に、執務机に置かれた書類を確認していた指揮官は私の声掛けに直ぐ反応してくれた。

書類越しに私の顔・・・・・・いや、瞳だろうか?

目線が合う という言葉があるが、それと同じであったと思う。

 

 どうかしたのかな?

 

 そう言いながら指揮官は書類を手元に置き、私の方へ体を正対させる。

俗に言う聞く姿勢に入った と言う状態でしょう。

他の人形に対してもだが、指揮官は私達を道具や人形ではなく、意思を持つ一人として見てくれている。

こうして声をかける時でも、他のカリーナさんやヘリアンさんと接するのと同じ様にしてくれます。

 

「個人的な質問で申し訳ありませんが・・・・・・その、どうしても気になりまして」

 

 どうしてこんな前置きを置くのか、恐らく指揮官は答えてくれるだろう。

口を慣らしておきたい? 違う、質問する事に問題点が無いかを確認する為?

答えを聞くのが怖い? エラー 肯定と同時に否定。

 

 ポン と頭に触れる温かい感触。

いつの間にか項垂れていた私の頭を、指揮官は優しく撫でてくれていた。

 

 

 ゆっくりで良いよ、私は落ち着くまで待っているから。

 

 

 逆に顔全体に熱を持った様な感じがしますが、とりあえずの決心は付きました。

 

「AR-15の事です。 彼女は自身が危機に陥ろうとも私達の為、組織の為に尽力します。

 指揮官はそれを理解しつつも、彼女に気づかれない様に色々と手を回している事も知っております。

 ……指揮官、それはAR-15だからですか?」

 

 指揮官の指揮は、常に犠牲を強いない……

偵察隊であろうと、戦闘部隊であろうと、どの人形であろうと十分過ぎる訓練を積んでから戦地へと赴く。

訓練などで消費する弾薬や糧食等の予算は決して少なくない筈だが、それを苦にしている様子はない。

だからこそ確認しておきたかった、指揮官にとってAR-15は特別なのかどうかと言う事を。

 

 

 んん……?

 

 

 どうも質問の意味を理解してくれていない様子です。

困った様にポリポリと頬をかく仕草は、指揮官が考え事をする時の癖だと覚えています。

ならば言い方を変えてみましょう……恥ずかしいですが、指揮官には遠回しな言い方は通じないと理解しました。

 

「指揮官、では質問を変えますが……仮定です、もし私がAR-15と同じ様な状態に陥った場合……

 もし私がそうなったとしても、貴方は私を助けてくれますか?」

 

 

 ああ、当たり前だ。

 

 

 真剣な顔、何時もの優し気な瞳のまま指揮官は即答しました。

そんな事を気にしていたのかい? とでも言いたげに指揮官は少し強めに頭を撫で始めました。

……良かった、まだ指揮官に特別な人も人形も居ない様です。

最も、士気を損ねない為に嘘を言っている可能性はありますが……指揮官はそんな事は無いと思います。

 

 

 さて、モヤモヤは無くなったかな? それじゃ仕事に戻ろうか

 

 

 温かい手が離れてしまう事に、少し未練がありますが……仕方ありません。

これ以上は我儘と言う物、少しでも仕事のお手伝いをして……また頭を撫でて欲しい と頼んでみましょうか?

 

 




 AR-15はこのくらい恋心を抱いて欲しいよね と試しに書いてみたら言われました。
指輪の話が初ドルフロSSで、M4が次の話だったりします。

 M4は淡々と自己分析と現状の状態を考察して判断して言葉にしていそう。
小隊長だから、報告書を出したり作戦の打ち合わせをしたりとちょくちょく執務室に来ては何だかんだ理由を付けて指揮官を手伝ったり、傍に居たりしてほしい……欲しくない?




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Vector 駒と兵

 ドルフロなのに戦闘描写ないやんけ! と言う事がありましたが描写が難しいのです。
銃撃戦上手に書ける人凄いですよね・・・・・・精進しましょう。


「なんの意味も無い……全く、雑魚ばかり多いわね」

「哨戒部隊です、これに苦戦していたら訓練を1からやり直さないといけないですよ」

 

 崩壊した市街地、グリフィンと鉄血の緩衝地帯にて始まった遭遇戦はとりあえずグリフィン側に軍配が上がった様だ。

弾倉を交換しながら吐き捨てる様に呟くVectorに、この分隊長であるFAMASは生真面目に答えた。

瓦礫の山、コンクリートジャングルを形成するこの地域はその特性上、不意遭遇による近接戦闘が良く発生していた。

故に銃身の短く、取り回しの良いSMGを扱える人形が先頭を切り、それにAR・HG等の人形が続き、

最後にMG・SRの支援人形というのがこの部隊での体形となっていた。

 

『ダネルNTW-20、現時点で敵は見当たらないわ……移動する?』

「了解、もう少し待機してて下さい。 まだ先の索敵が終わってません」

『MG5、こちらは装填完了した。 移動許可があれば移動したい。 こっちからでは通りの射線が確保出来ない』

「許可します、射撃地点は任せるけど離れすぎないようにして下さい」

『了解している』

 

 狙撃地点という物は余り多いものではない。

高所から無防備な相手を一撃で葬れる優位は、一度放棄したら取り戻すのには相当時間がかかる。

また室内を移動する為、長物である対物狙撃銃は人形が扱っているとは言え移動速度は落ちる。

急いで移動し、構造物にぶつけて銃身に少しでも歪みが生じたら悲惨な事になる。

MGも種類によるが、大きな火力を生かす為に基本的には地面に固定しなければいけない。

そうしなければ大きすぎる反動を抑えきれず、弾幕を張るでなく弾を空中に無駄撃ちする になってしまう。

また、固定した銃座は簡単に移動する事は難しい上狙撃兵の格好の的である。

それでも今回、MG5を連れてきたのは制圧射撃を仕掛け、敵の身動きを封じ込めた所をNTW-20が狙撃し数を減らす。

頭上からの対物狙撃ライフルは、盾を装備した装甲鉄血人形の装甲を容易く打ち貫く。

防御を崩した所に、VectorとFAMAS、C96が突撃し制圧する。

一人一人の役割が分散し、何事に対してもとりあえず対処可能な編成を指揮官は好んで採用していた。

 

「さて、次の区画が最後よね」

「そうですね、しかし道は一本道で更に正面は百貨店らしき4階建てのビル。

 両脇は商店街だったのか二階建ての建物がずっと並んでいます。 突撃は難しいですね」

「NTW-20からの支援は?」

「MG5が到着したら移動して貰います、あの場所では射角的に一部しか支援できません」

「しかし、時間的余裕はあまりありませんよ? とりあえず索敵だけでも行っておいた方が良くないですか?」

 

 現在時刻は既に15時を過ぎている。

夜間用のヘリもあるが、昼間に撤収するより危険度は確実に上回る。

FAMASもそれは分かっているのだが、安全に移動する為にはこうして相互支援しながら進むしかない。

その苦悩を汲み取ったか、Vectorは提言する。

 

「私に任せてくれれば良い、索敵くらいなら可能だよ」

「許可出来ません、瓦礫と平原じゃ走り方に差がありすぎますし、ルートも限られます」

 

 いくらSMG型の人形は足が速く設計されているとはいえ、それでも限界はある。

人型であると言う事もある、確かに不整地適正はあるだろうがそれは歩いている場合であって決して走れるという事では無い。

 

「やるしか無いじゃないか、どちらにしろこのままじゃ進まないだろう?」

「しかし危険です」

「……じれったいな、どちらにしろ行くぞ」

 

 静止する間もなく、瓦礫の散乱する道路に突入していくVector。

丁度ビルと私達の中間、廃棄された車両の傍を通り過ぎようとした時……大きい銃声が鳴り響いた。

 

 

 

「狙撃兵! 状況報告!」

 

 FAMASも身近な遮蔽に背を預け、道路を覗こうとするが自身の遮蔽物が着弾により削られる。

良い腕です、相手の狙撃手はこの路地に大体の射撃ポイントを設定しているのかもしれない。

 

「C96、Vectorさんは道中央部に倒れ込んでいます! 撃たれていますが、直撃は右足関節部のみかと……」

『MG5、移動は完了したが頭を出せない! 狙撃手の排除を要請する!!』

『ダネルNTW-20、敵狙撃手は視界内に非ず。 あの正面デパートだろうがこちらからは見えない。

 移動許可を求める……なるべく急ぐけど、かなり辛いと思うわ』

「NTW-20、即時移動許可。 Vectorを援護できる位置へ行って」

『了解、最善は尽くす』

 

 さて……どうした物だろうか。

MG5を射線がVectorを支援できる位置に移動させた事により、狙撃兵からも射線が通ると考えられる。

支援射撃をしたら最後、場所を特定され額に穴が開くことになるかもしれない。

また狙撃兵から射程距離外だとしても、敵が突撃してきた場合押し留められない可能性もある。

 

「FAMASさん、敵の機械達が集まり始めました。 突撃してくるかもしれません」

「ちっ!」

 

 C96からの報告は更に負担をかける。

最悪を予測すればするほど深みにはまる……NTW-20はまだ移動中、敵は押し寄せてくる、MG5の支援は期待出来ない。

エラー表記が増える中、通信機からの呼び出しに意識を引き戻される……指揮官だ。

 

『FAMAS、状況は確認しました。 転倒した際に通信機が損傷したのか、Vectorと通信が繋がりません。

 ですから部隊長である貴女に繋ぎました』

「申し訳ありません、彼女の行動を諫められませんでした」

『気にしないで下さい、実験とは言え戦術人形に指揮官からのサポート無しに全てを任せるのは無茶です』

「ありがとうございます、それでVectorは……」

 

 私が心配しているのはVectorの事だ、止められなかったとは言え見捨てる事はしたく無い。

彼の指揮下、ずっと戦い続けてきたがこういった場面に陥る事は始めての事だった。

グリフィンの規約から言えば、破損し戦闘力を無くした人形は見捨てる事を推奨している。

その戦術人形を助ける為に、部隊員全てを危険に晒しては本末転倒である と言う事だ。

人間ではない、使い捨てても資源さえあればいくらでも量産できる駒 それが戦術人形。

それは理解できる……だが、理解している筈なのに、微かに表示されるエラーは何なのだろうか?

 

『その事で相談です、支援部隊を出撃させますから現状の戦線を維持して下さい。 側面より奇襲させます』

「……はい、感謝致します。 指揮官」

『それは全員無事帰って来てから聞ける言葉です、幸運を』

 

 幸運か……大丈夫、この指揮官は私達を見捨てる事はない。

それが知れただけでも十分幸運だ。

 

「C96、支援して下さい。 私はVectorの位置まで前進します」

「で、でも支援と言っても私の射程では届きませんが……」

「いえ、拳銃ではなくても支援は出来ます。 特殊装備とは使い方次第 です」

 

 

 

「くそっ……ドジを踏んだ」

 

 痛覚を遮断し、何とか近くの瓦礫に這いずり盾としたは良いが右足は現状使い物にならないだろう。

簡易的にチェックしただけでも、要修理とエラー表記が即座に帰ってくる。

転倒した際に銃だけは手放さなかったのは幸いだったが、どちらにしろもうここから動けない。

狙撃からは身を隠せるだろうが、突撃してくる鉄血の車両型や人形等には回避する術がない。

 

「通信機も……壊れてるか、FAMASの奴等下がれると良いんだけど」

 

 瓦礫の陰から相手側を見てみると、ビルの正面に人形や車両型が集まっているのが見える……

1体でも多く敵を道連れにするしかないな そう覚悟を決めた時だ。

FAMAS達の方向より、しゅぽん という軽い音と、しばらくすると真上が明るくなる。

 

「いけいけいけいけいけいけ~~!!!」

 

 C96が叫ぶのと同時に石ころを蹴り、何かが走ってくる音……まさか

 

「よしっ! 合流に成功!! 生きてますねVector」

「FAMAS……あんた何やってんだよ、部隊長が見捨てるべき人形助けに来て」

 

 車両の陰に背中を押し付け、息を整えるFAMAS。

嬉しい という以前に何で来たのか という疑問しか出てこない。

使えなくなった道具は捨てられるのは運命だというのに。

 

「指揮官からお願いされましたので、ここを維持して欲しいと! そうすれば増援を送ってくれるそうです。

 まあもう少し地獄に付き合って頂きますよ」

「……はあ、見捨てるって手は無かったの?」

「ありません、指揮官はそれを望んで居なかった」

 

 ニッ と笑うFAMASに最早何を言った所で無駄だと悟る。

仕方ない、こうなったらもうこいつは梃子でも動かない……なら、生き残るしかない。

 

「すまないが、引っ張ってそこの壁に座らせてくれ……ここじゃ狙撃される」

「了解、やっとやる気になりましたか」

「部隊長を戦死させる趣味は無い、それが自分の失態でなんて屈辱だ」

 

 初弾を装填し、腕の動きを確認する。

 

『C96より部隊長、敵突撃隊形を取りました! 射程に入り次第支援します!!』

「さて、パーティーの始まりよ」

「途中で離脱しないように」

 

 FAMASも私に合わせてくれる。

 

「上等」

 

 手の甲をぶつけ、お互いの健闘を祈る。

……さて、早めに来てよ援護部隊。

 

 

 

 

『まあ、要点は大体理解した……詳細な報告書は後程提出してくれ』

 

 了解しました、と答えるとヘリアンさんは通信を終え画面が暗転する。

詳細な報告書か……M4A1の様な特別性の人形でなくても、部隊指揮を取りつつ戦闘が出来るか?

という実験は残念ながら失敗した。

簡易的な報告書は先ほど提出したが、部隊長であったFAMASの演算機能に大量の負荷をかけてしまった。

あの状態が続けば、ほどなくエラーが多発して自閉モードに陥るだろう。

要するに機能を守る為に負荷から強制シャットダウンされる と言う事だ。

 

「さて、お待たせVector」

「……」

 

 執務室に据え付けられた応接用の椅子に座ったVectorに声をかけるが、難しい顔をして反応をしない。

足の方は既に修理が済んでおり、整備班からの報告では歩行には問題が無いという見解だ。

作戦が完了し撤収してきた彼女達は即座に整備班による修理を受け、FAMASには報告書の提出をお願いしたが

他の部隊員には休息を指示していたのだ。

が、Vectorはここに来た。 難しそうな顔をして……

何か言いたげであったが、とりあえずヘリアンさんへ通信しなければならなかった為、応接室で待たせていたのだが……

まあ良い、話がしたいのは私もそうだったのだから。

適当に湯気の立つカップを机に置くと、ようやく気付いたのか彼女が反応を返した。

 

「……これは?」

「とりあえず飲みなさい」

 

 黒い液体にほのかに香る甘い匂い……ココアだ。

甘く温かい物は人をリラックスさせる……彼女は人形だけど同じ効果は期待できるだろう。

 

「甘い物は貴重品だろうに、勿体ないんじゃないか?」

「必要経費であれば構わないので…‥それに、私も飲んでいますしね」

 

 ズズッ と一口自分のを飲み様子を伺うが、カップをじっと見たまま動かない。

 

「毒とかは入っていないよ、何なら交換するかい?」

「……そんな事考えて無いよ」

「それは良かった、部下にそんな事を考えられたら私は立場が無いしね」

 

 そっとカップを包むように持ち、ふうふうと息を吹きかけている。

……猫舌だったかな? まあ一息付くまでは待っていよう。

 

 

「で、何で助けたの?」

 

 甘く温かいココアを飲んだ時の少女の様な柔らかい表情は直ぐに潜め、何時もの冷静な彼女が私に問う。

何で助けたのか という問いは逆に私を困惑させる。

 

「助けられたから」

「ふざけないで!!」

「ふざけてなど居ない」

 

 ガタンッ! と机を叩き立ち上がるVectorに私は真っ直ぐに瞳を見つめ返す。

何故怒っているのか、私にはそれが分からない。

だからこそ話さなければならない、この齟齬は今是正しなければ後々重要な間違いを引き起こす。

 

「見捨てるべきでは無いと判断した、援軍を出せば助けられると確信した。 だからFAMASに前線の維持を相談し、耐えてくれとお願いした」

「費用対効果が割に合わないでしょう!? 私たった一人助ける為にいくら資源を使ったんだ!」

「たかがそんな物、また集めれば良い物だろう。 それで兵が救えるなら私はそうする」

「私は道具だ! あんた達人間が使う武器だ!! 話す事も感情も疑似的に作られたプログラムに過ぎない、兵士という個では無い!!」

 

 うん、ここが決定的な違いだ。

Vectorは自身を武器として定義しており、私は彼女達を兵士として見ている。

 

「必死に否定しないで貰いたいな、何時もの冷静さはどこに行ったのか」

「っ……!! 貴方が変な事を言うからでしょう……っ!」

「変な事は言って無いよVector……はっきりと言わせて貰うと君は兵士だ、物言わぬ駒ではない」

 

 机の下からチェス盤を取りだし、駒を1個存在を示す様に軽く横に振る。

 

「君達はこれではない」

 

 

 

「じゃあ、どうしろってのよ……」

 

 暫くの沈黙の後、絞り出すような声でVectorは呟いた。

 

「ん~……それは君に探して欲しいんだけどなあ……折角意識を持って、人の体を持ったんだから。

 好きな事すれば良いと思うけど」

「戦う以外、何にも考えて来なかったのよ……今更どうしろってのよ」

 

 Vectorの顔を見る。

武器として、物として人に使われ評価される事しか存在意義を見出せなかった彼女は大きく揺らいでいる。

ただ私からしてみれば、そんな彼女はやはり武器と言う物ではなく一つの個体、人間とほぼほぼ変わらないんじゃないかと思っていた。

 

「……まあ、安心してVector」

 

 こういう時は冗談か何かで重い空気を払ってあげた方が良いだろう。

 

「この戦争が終わって、君が何処にも行く場所が無かったり、何かを見つけられなくても私の隣なら空いてるだろうから来ると良いさ。

 それまでに料理とかその辺りを学んでおいてくれるとありがたいけどね」

 

 アッハハハハハ! と笑い飛ばしてみるも、Vectorは笑ってはくれなかった。

むしろ思案顔で手を顎に当て、何かを考えている様な……

失敗したかなあ……と言うかこれセクハラかな? と、どう冗談だと打ち明けようか悩んでいると服の袖を引かれる。

足音も気配もしなかった筈だが、Vectorは私の隣に膝立ちの状態で服の袖を引いていた。

 

「指揮官……それは、本当か?」

 

 ……あれ? これは冗談だと言える状況じゃないぞ?

 




 ゲームのNPC部隊ですら、助けられないと分かっていても全滅するのは辛いです。
能力的にこっちの部隊が強いから下がって欲しいなあ・・・・・・とすら思うほどに。

 火力で圧倒して、敵に攻撃をさせない様な部隊を組みたがるのは犠牲を出したくないから という意識が強い。 故にMGは強い(小並感)
敵の被害は最大限に、味方の被害は最小限に これ、基本だと思いますけど?(某蒼い秋桜盟主話)

 Vectorにはクーデレを感じる・・・


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G41 温かい場所

あけましておめでとうございます、本年もまたよろしくお願いいたします。



 

 瞼に朝日が差し込む……そうか、もう朝になったか。

微睡の中、自分の意識が覚醒していくのを感じる。

うっすらと目を開け、枕元の時計を確認すると起床時間少し前くらいでありもう慣れたものだな と苦笑する。

既に猛暑だった夏は過ぎ、山頂が白い雪を頂く時期になりつつある。

室温もそれに伴い低くなり、昨今は肌寒いと感じる時期になってきたのだが……何だろうか、何故か布団の中が妙に温かい。

自分の体温が残っているのか? とも思ったが妙にこんもりと……いや、はっきり言おう『布団の中に何かが居る』

ゆっくりと布団をまくり上げてゆくと金色の髪に……猫耳? の少女が丸まっていた。

 

「すうっ……すうっ……」

 

 穏やかな寝息に、規則正しい寝息が聞こえてくる。

……試しに頭を軽く撫でてみようか。

サラサラとした、肌触りの良い髪に触れ軽く撫でてみると、寝ている少女……G41の表情が嬉しそうに和らぐ。

ふむ……うん、確信した 夢じゃないなこれ。

 

「指揮官、起きてる?」

 

 コンコンッ と私室のドアがノックされる。

やましい事をした訳では無いが、その音に心臓が飛び跳ねる。

何か声をかけなければ! と思うのだが、口から出てくるのは浅い呼吸音だけで自身の口とは思えないほど重い。

 

「ん? 開いているのか……よし、失礼するよ」

 

 結局、声をかける事が出来ないまま開かれる扉。

太陽の光を受け輝く銀色の髪、金色の瞳……Vectorだ。

部屋を少し見まわし、まだ私が布団の上に居ると気づくと少し口元が緩む。

 

「起きて居たのか、なら返事くらい……」

 

 と、言いかけて目が見開かれる。

恐らく私の布団がもう一人入っていると確信できる程こんもりとしているからだろう。

 

「お、落ち着いてくれVector……その、話せば分k」

「問答無用!!」

 

 まあ、最初からちゃんと説明していなければそうなるな。

両手を上げ、降伏の意思を示すも問答無用の様だ。

ああ、そういえば昔もそんな事言って撃たれた要人が居たかな……そう考えながら私の意識は闇に墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鍵が開いていて、寝ぼけて布団の中に入ってしまった か」

 

 ヒリヒリと痛む頬に氷を当てながら目の前に立つ少女、G41から報告を受ける。

既に制服に着替え執務室に場所を移し、正面に立つ3人……G41、Vector、FAMASがそれぞれ別々の表情で見ている。

勘違いしやすい状況とは言え、Vectorは殴ってしまった事に後ろめたいのか私を直接見る事はなく、チラチラとこちらを伺っている。

G41も自分が原因で指揮官が殴られたと言う事を自覚しているらしく、頭部に生えている? 猫耳もしょんぼりと垂れてしまっている。

FAMASは今日の副官であり、事態を聞きつけ私室へと駆けつけてくれたらしい。

生真面目な彼女の事から、気絶している私の介抱から事態の把握・収拾を図ってくれたようだ。

 

「ごめんなさい……」

「ああ、もう謝らなくて良いよG41、私の不注意がいけないのだから」

 

 私室の鍵を閉め忘れるなんて自分も間抜けである。

確か締めたと思っていたのだが……Vectorも朝開いていると言っていたのだから間違いないだろう。

 

「ふん、そうならそうと言いなさいよね……全く、紛らわしいんだから」

「Vector、貴女が言わなければならない事は他にあると思うのですが?」

「うっ……いや、だってあれは……」

「…………」

 

 自分でも悪いとは思っているのだろうが、Vectorは素直には慣れない娘だ。

FAMASもそれは分かっているのだろうが、それはそれこれはこれ である。

戦場で相棒として戦い抜いた戦友であろうと、現在のFAMASは副官モードである。

しどろもどろに言い訳を探すVectorに、彼女は無言で薄っすら笑みを浮かべるだけだ。

うん、あれ怒ってるね。 笑みは浮かべているが目は笑っていない。

 

「……ごめん、指揮官」

「気にしないで良いよVector、行動的には間違えていないのだから。

 FAMASもこれは油断した私が悪いんだ、これ以上咎める必要は無いよ」

「はっ、指揮官がそう仰るのでしたら……しかし、鍵の閉め忘れと言う些細な事ですがこれは重大な問題です」

「そうだね、指揮官は私達と違って眠ってしまったら無防備だ。 寝室前に護衛を付ける事も必要かもしれない」

「あの……味方の基地でそこまでする必要ある?」

「「あります!!」」

「あ、はい」

 

 バン! と机を叩かれて二人から迫られれば私は頷く他無い。

何時の間にか取り出したボードタイプの端末を手に、会議を始める二人……

気遣ってくれるのは嬉しいが、何もそこまで過激にならなくても良いだろう。

銃だって一般兵並には撃てるし筈だし、護身術だって教わったのだから問題ないとは言える……と思う。

 

「そうじゃないのよ、ご主人様」

「そうじゃない とは?」

 

 ひょこ といつの間にか隣に居たG41が膝立ちの状態で私の左手を取る。

 

「vectorもFAMASも、ご主人様の事が本当に大切なのよ。

 ……勿論、私もそうよ? だから少しでも危険な目にあって欲しくないの。

 護身術を学んでいたって、兵士みたいに戦えたってご主人様は人間なの。

 怪我もするし、万が一当たり所が悪かったら死んでしまうの……それは、嫌なのよ」

 

 壊れ物を扱うように私の手を撫でるG41。

その手から感じる温かみは、人間のそれとほとんど変わらないと思う。

見た目も、触り心地も変わらないけど……彼女達は人形だ。

 

「……ありがとう」

 

 ワシャワシャとG41の頭を撫でる。

嬉しそうに目を細める彼女を見ていると、自分も微笑を浮かべているのが分かる。

子供を持つとこういう気持ちになれるのだろうか? 最も私には妻は愚かお付き合いのある女性すら居ないが。

 

 

「そうだ、今日みたいに私が指揮官に添い寝しながら護衛してあげれば良いんじゃないかしら?」

「うん……うん?」

 

 G41は名案だ! と言わんばかりに頭を左手にグリグリを押し付けてくる。

もっと撫でて! と言いたいのだろう……とりあえずそのまま頭を撫でまわしておく。

添い寝で護衛なんて出来るのだろうか、それ以前に今日みたいな事が起きないとは限らないんじゃないか?

等と問題点が多すぎると思うのだが……ガチャン という金属が落ちる音で思考の渦から現実に引き戻される。

音がした方を振り向くと、vectorとFAMASがこちらを驚いた表情で見ていた。

音は端末が床に落ちた音だったのだろう、FAMAS達の足元に落ちたボードタイプの端末が存在を主張する様にチカチカと光っている。

 

「し、指揮官……まさかその提案を受ける訳ではありませんよね?」

「え? いやまあ……」

「ご主人様は嫌……ですか?」

「え、いや、そう言う訳では」

 

 FAMASの声に否定を告げようとするが、G41から弱弱しく上目遣いに見つめられる。

その瞳が僅かに水気を帯びていれば、否定する事は難しいだろう。

 

「指揮官?」

「ご主人様?」

「えっと……あっち!!」

 

 指さした方向にはもちろん何もない。

三人が指さした方向を見ている内に執務室から飛び出し全力で逃げる。

答えが出ない? ならば逆に考えるんだ、答えなくても良いやって考えるんだ。

後ろから追いかけてくる声に、どうしてこうなったんだ と自問自答しながら逃げだしていた。

 

 

 後日、結局の所添い寝は指揮官の許可を得れば不承不承だが良いという事になり、

彼の予定表に昼寝(人形達の付き添い)という業務が増えた事はまた別の話である。

 

 

 




 子犬には癒されたい……癒されたくない?
寝ていると大体布団に潜り込んできたり、膝の上に座りたがったりするんですよね。


 日記形式の指揮官の独白や、各人形の整備記録・評価記録なども書きたいな…とは思うのですが、仕事が忙しくて時間が……

 マイペース更新ですが、のんびりとお待ちください。


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スプリングフィールド 気を許すという事

 今回はスプリングフィールドのお話。



「これで最後、っと」

「……はい、本日もお疲れ様でした」

 

 最後の書類にサインし、本日の副官であるスプリングフィールドに渡す。

蒼を基調とした制服に、白いロングスカートを合わせた彼女は受け取った書類を一通り確認してくれる。

視線を書類に合わせて左右に動かしていたスプリングフィールドだがどうやら問題は無かったようだ。

最初期の頃に比べて、問題点も間違いも少なくなりましたね 等と冗談交じりにトントン と机で書類の束を整理し、決済済みの棚へと入れてゆく。

言われる通り、着任したての頃は書類の種類も提出するべき場所も分からず、FAMASや彼女に相当な迷惑をかけていたかもしれない。

双方とも丁寧な仕事を行い、指導してくれる事から副官をお願いする事も多かったのだがそれも良い思い出だ。

うんっ と一息付きながら背中を伸ばすと骨の鳴る音がすると同時に気持ちの良い感覚が襲ってくる。

大体同じ姿勢で仕事をしているから、筋肉が凝り固まっているのかもしれない。

 

「ふふっ、お疲れですか?」

「まあ、毎日ずっとこういう仕事だからね……偶にはのんびりしたいと思う事もあるよ」

「でしたら、振り分けられる仕事量の調整を致しましょうか? その為の副官制度でもありますし」

 

 ニコニコと微笑みながら、彼女は腕まくりの様な仕草をする。

確かに集中力や持続力から考えても、雑務は彼女達任せた方が効率は良いだろう……が、それはそれで駄目な気がする。

と言うよりも、こうして副官として書類仕事を手伝ってくれる事自体かなり贅沢な事だろう。

自分が決済しなければならない書類と、報告書を分けてくれるだけでもかなり捗る。

1から10まで全て目を通さなければならないのと、重点にだけを集中して読み進めるのでは違うという意味でもだ。

 

「いいや、書類仕事と指揮で音を上げてはいられないよ。 実際敵前に身を晒すのは君達なんだから。

 このくらい私に頑張らせて欲しいな」

「では、その頑張りに報いて肩もみは如何でしょうか?」

「……ん、じゃあ少しだけお願いしても良いかな」

「はい、喜んで……では、向こうの応接机の方で宜しいでしょうか?」

 

 了解、と答え彼女の先導に従い応接机に設置された長椅子の方へと移る。

事務作業を手伝ってくれた後に、この様な事をして貰うのも少し気が引けたが……ただ肩が辛い事も事実だ。

何か別の事でお返しをする事を心の中で決め、両肩に乗せられる彼女の両手に身を委ねる。

 

「はい、では肩の力を抜いて下さいね……よいしょっ と」

「うっ、おおっ?」

「あっ、ごめんなさい。痛かったですか?」

「だ、大丈夫…気持ちよかっただけだから気にしないで」

 

 変な声を出してしまった事から、痛かったのかと心配して声をかけてくる。

そうでは無い、と伝えるとどことなく安心した様子でまた指を動かし始めるスプリングフィールド。

痛い部分のコリを丁度いい塩梅で指圧してくれるので、変な声が出てしまうのも仕方がないのだ。

その丁寧な指使いに、眠気を誘われながらも彼女のマッサージを受け続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふうっ……本当に助かったよ、ありがとうスプリングフィールド」

「いえ、お役に立てたのでしたら幸いです」

 

 血流の巡りが良くなったのか、ポカポカとする体に景気よく腕を回してみた所快調である! という返答が各所から帰ってくる。

勿論人形ではない私にそんな機能は無いが、そう思わせる程肩のコリも首の痛みも無くなっていたのだ。

 

「スプリングフィールドには何かお礼をしないといけないね」

「……でしたら、一つ我儘を宜しいでしょうか?」

「ああ、私で出来る事なら」

「えっと……その、お酒に付き合って頂けませんでしょうか と」

 

 そんな事で良いのか? と言うのが最初に頭に浮かんだ言葉であった。

まあ、そのくらいお安い御用であろう。

 

「ああ、そのくらいなら喜んで」

「ほ、本当ですか? 嬉しい……っ!」

 

 了承の返事を返すと、不安げに見つめていた彼女が嬉しそうに微笑む。

何時もの冷静な彼女らしくない……と言うより、こっちが素なのだろうか?

小さくガッツポーズを取っているのを見てしまうと、何時もは姉の様に頼れる人形が年相応の少女の様に見える。

 

「では指揮官、早速行きましょう?」

「ん? 今からかい?」

「ええ、善は急げです。さあさ、早く行きましょう?」

 

 腕を取り急かす様に、それでも強引にならない様にスプリングフィールドが服を引っ張ってくる。

何かお礼をすると言ったのもそうだし、付き合ってあげないのは酷だろう。

 

「分かったよ、じゃあ行こうか」

「はい、ではこちらへどうぞ」

 

 立ち上がり、執務室から出ようとすると自然な動作で私の腕に自身の腕を絡ませるスプリングフィールド。

当たり前の様な動作だったので、執務室を出てから数歩歩いてようやく気付いたくらいだ。

 

「えっと……」

「……いけませんか?」

 

 頬を朱色に染め、俯き気味にそう言われては嫌とは言えない。

腕を絡ませた事によって、左腕から彼女の温かさと少し早い鼓動を感じる。

……柔らかい、と言う事は意識しない様にしよう、意識してしまっては自分の顔まで熱くなってきてしまう。

無言をどうとらえたのかは分からないが、彼女が歩き出したのでそれに合わせて自分も歩を進める。

それから数分の間、少し気まずい空気の中歩き続けていたのだが彼女が急に歩みを止める。

 

「スプリングフィールド?」

 

 バーは人形達の宿舎から少し歩いた所にある。

執務室から移動すれば宿舎を通り過ぎてもう少し歩いた所になるのだが……

 

「バーでは他の人形も居るでしょうし……その、指揮官と二人で飲みたいと言いますか、一緒に居たいと言いますか……」

 

 宿舎は既に消灯されており、非常口を示す誘導灯と月明りがぼんやりと照らしている。

窓から差し込む灯りでも分かるくらい、彼女の頬所か顔まで紅く染まっている。

 

「ご迷惑でしょうか……?」

 

 少しだけ上目遣いになり、瞳が私の顔を映し揺れている。

付き合いの長い人形の一人であるが、この様な事を言われた事は始めてだ。

 

「いや、君に腕を組まれた時点で迷惑だったら振り払っているよ。 宿舎に誘われるとは思っていなかったけど……

 お邪魔しようかな」

「……ありがとうございます」

 

 揺れていた瞳が閉じられ、絡められた腕が僅かに締められる。

震えそうな声で絞り出した声に反し、彼女は花のような笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 宿舎と言っても内装を変えられる場所は人形達の共用スペースの様な物であり、その奥に個室が設けられている。

スプリングフィールドに続いて共用スペースを抜け、案内された部屋は整理された本棚、ベットに書き物用の机と一般的な部屋だ。

机の上に写真立てがあったり、本棚の中身が料理に関する本であったりと細かい差異はあるが……

 

ベットにスプリングフィールドが、椅子に私が座り向かい合って乾杯する。

良いブランデーが入ったのは良いが、バーに出してしまうとあっという間に無くなってしまうと思うから と私室に隠していたらしい

冬だからと言う訳でもないだろうが、温かい紅茶にブランデーを数滴入れて飲んでいく。

これまでにあった事、作戦での出来事、仲間達の事……昔話に花が咲く とはこういう事を言うのだろうか。

着任してからこうして誰かと二人っきりで飲む事なんて無かったが、こうして昔話をしながらコミュニケーションを取るのも悪くないのかもしれない。

 

「ふふっ、指揮官、指揮官?」

 

 上機嫌に紅茶入りブランデーのティーカップを両手で持ち、首を傾げながら私を呼ぶスプリングフィールド。

コロコロと微笑み、頬が朱色に染まっている事から酔いは回りつつあるのだろう。

ちょいちょい、と手招きする彼女に、何の疑問も持たずに近づき……

 

「えいっ」

 

 軽い声に対し、ぐいっと強い勢いで引き寄せられ背中に手を回される。

なす術も無く彼女に抱きしめられ、彼女の顔がすぐ真横にある状態だ。

僅かに香るのは香水だろうか、先ほど左腕に感じていた柔らかさが包み込む様に感じる。

 

「良く、ここまで私達を導いてくれました。

 良く、ここまで立派な指揮官に育って下さいました。

 貴方は素直に私達の言葉を受け入れ考えて作戦を立ててくれます。

 貴方は私達を使い捨てにせず、常に無事帰ってこれる事に心を配っております。

 私は貴方の補佐を行えて光栄です、指揮官」

 

 ポン、ポン、と背中を優しく叩きながら彼女は私に語り掛ける。

彼女が語り、褒めてくれている事は私にとっては当たり前の事だと考えていた。

自分は戦場に立てない、指揮所で彼女達に戦えと、敵を打ち倒せと命令するしかできない。

確かに道具だと言われればそうなのだろう、見捨てたとしてもすぐに変えの効く兵器……

だがこうして話して、彼女達を近くに感じているとそんな事は出来ない。

指揮官としては失格なのだろうが……それが最後の細い一線だと私は思っている。

 

「……スプリングフィールドが思っている程、私は立派な指揮官じゃないよ。

 でも、そう思ってくれて……ありがとう。

 君達の期待に応えられる様に今後とも努力する、だから君達も力を貸して欲しい……良いかな?」

「勿論です、私は貴方が命令する限りその任務を遂行します。

 書類仕事も、戦場で戦う事も、貴方が命令する事でしたら喜んで……

 ですから、どうか……貴方は、貴方のままで……」

 

 ぼそぼそ、と声が徐々に聴き辛くなると、背に回されていた手が力を無くしスプリングフィールド自体私にもたれかかってくる。

肩に彼女の顔が押し付けられ、瞳は閉じられている……スリープモードになった様だ。

恐らく許容量以上のアルコールと稼働時間に達し、居場所が自室であり安全であると判断しAIがシャットダウンしたのだろう……

目の前に男性の指揮官が居るのだが……まあ、信頼されているのだと考えよう。

 

「……おやすみ、スプリングフィールド」

 

 制服のまま寝かせるのはあまり良い事ではないかもしれないが仕方がない。

彼女をベットへと寝かせ、カップやブランデーの瓶を机に纏め部屋を出てゆく。

その際に声をかけるが、勿論彼女からの返答はない。

 

 ただ、スリープモードの彼女が少し微笑んだ様な気がしたのは間違いではないだろう。

 




 春田さん好きに闇討ちされないか それが一番心配です(白目)


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Kar98k 本心は……

 Kar好きな方に注意として性格が変更されています、ご注意下さい。




「お疲れ様、各員良く帰って来てくれた」

 

 バタバタとヘリのローター音が響く中、作戦から帰還してきた彼女達を出迎える。

作戦は担当区画の外郭に現れた鉄血の偵察部隊を迎撃し、その足跡を捜索し敵の集結地点を叩こうという事だ。

その為に編成はある程度何事にも対応できる様、UMP45、UMP9、M4SOPMODⅡ、マカロフ、Kar98kの五人。

作戦自体は成功し敵はほぼ壊滅させたと言って過言は無いだろう……僻地における小さな勝利ではあるが。

 

「UMP45、以下4名ただいま帰還致しました……って、真面目に報告した方が良いかしら? 指揮官」

「ははっ、気を引き締める時引き締めてくれれば良いよ。 兎にも角にもお疲れ様」

 

 砕けた敬礼をするUMP45に、何時もの様に肩を叩き労う。

人前ではあまり触れられる事を好まない彼女だが、だからと言って全く触れないのも嫌ならしい。

妥協案として肩に手をくように叩き、

 

「指揮官、ちゃんと任務終わらせてきたよ! で、ご褒美には何かくれる?」

「勿論だよ、食堂に君達様にショートケーキを用意して貰っている。 修復が完了したら食べに行きなさい」

「やった! でも今出来るご褒美もあるよね?」

 

 UMP9がキラキラした目でこちらを見上げてくるので、その期待に応えるべく頭を撫でてあげる。

姉とは違い、彼女は逆に頭を撫でたりしてあげないと後々拗ねられてしまう。

まあ、拗ねた姿も可愛い物なのだが……45姉からの凍てつく視線と殺気に耐えながら見た所で嬉しいとは思わない。

 

「ふふっ、指揮官も無理しなくて良いのに」

「迎えに来る時間くらいなら作れるさ……最も君が手伝ってくれたら更に楽になるんだけどね」

「あら、永久副官にでも任命してみる?」

「……負けました」

「まだ勝てると思わない事ね?」

 

 クスクスと笑っているマカロフの白く長い髪の毛に手を乗せそれをなぞる様に撫でる

彼女もまた部隊長の人形らしく、人前で撫で回されるのは好まない。

なので撫でるというよりは髪を愛でる 様な撫で方をする。

あくまで人前での場合は、私がマカロフの髪に触りたいから触っている と言う事になる。

 

「指揮官! ただいま~!」

「お帰りSOPMODⅡ……っとと、あまり勢いよく抱き着かれると支えられないよ」

「ん~? これでもちゃんと手加減してるよ??」

 

 この中で一番触れられる事を好むのはSOPMODⅡだ。

彼女は私に抱き着いてくる、更に言えばAIが幼いのか人の目をあまり気にしない。

最初の頃などは受け止めきれず、良く彼女の下敷きとなって転んでいたものだ。

ワシャワシャと少し乱暴に頭を撫でると、髪が乱れるよ なんて言うが離れようとはしない。

 

「もう、指揮官さんもSOPMODⅡさんもあまりはしたない真似はよしなさいな」

「ん? お姉ちゃん……どこが?」

「周囲の目がある所で、殿方に抱き着く事が ですわ」

 

 はあ、とため息を吐きながらこちらに近づいてくるKar98k。

何時も被っている軍帽を脇に抱え、SOPMODⅡに離れる様に伝えている。

渋々とSOPMODⅡは腰に回していた手を離し、元居た隊列へと戻っていく。

 

「すまない、Kar」

「お気になさらず……しかしあまり時間が無いのでしょう?」

「ま、まあそこまで切羽詰まっては……無いよ」

 

 世話のかかる事ですわ と少し憂いているような、優しい様な表情で彼女は微笑む。

 

「んっ、Karもお疲れ様。 報告では特に頑張っていたと聞いて居るよ」

「そうそう、私達の支援もしっかりしてくれたし、痕跡を探すのも服が汚れるのも気にしない程度には頑張ってたよ」

「よ、余計な事は言わないで下さいませ。 当たり前の事を当たり前にやっただけですわ」

 

 SOPMODⅡの言葉に、Karがはずかしい様で手をワタワタさせている。

そんな彼女が何時もの凛とした表情や姿かたかけ離れていて、くすくすと笑ってしまう。

 

「もう、指揮官さんも!」

「あはは、ごめんごめん」

 

 そう謝りながらも、頭を撫でようと手を……

 

「指揮官様~!! 申し訳ありませんが急ぎ執務室へ戻って来て頂けませんか~!!」

 

 ヘリのローター音に負けない声で後方幕僚のカリーナが叫んでいる。

手に持った書類の多さに顔が引きつるのを感じる、しかしKarが……

そう迷う私に、軍帽を被り直したKarが手を下げさせる。

 

「指揮官さん、早く行った方が宜しいのではなくて?」

「……すまない、それじゃあ各員は修復後自由行動で」

 

 クルリ と回れ右をKarに促されながら背を押され、私は慌ただしくヘリポートから去っていく。

カリーナと合流し、歩きながら報告を受けていたが……事務処理だけでも夜中になりそうだ。

 

 

 

 指揮官さんがヘリポートから建物の中へと帰っていく……振り返る事は決してせずに。

致し方のない事だ、あの人は多忙である中で私達を迎えに出向いてくれたのだ。

あまり多くを求めてはいけない、私が我慢すれば良い事で……

 

「あ~あ、指揮官ももう少し気を使ってあげればね~?」

「仕方ありませんわ、多忙な方ですもの」

 

 隊長であったUMP45が傍に寄って来て、私を慰めてくれている……のかしら?

微笑を浮かべながら見上げてくる彼女の本心は私には分からない、ただ気遣ってくれている事は良く分かる。

 

「聞き分けの良い女は好かれるけど、自分が傷付いてたら長くは続かないわよ~?」

「そんな事……」

「じゃあさ、何でそんな寂しそうな顔してるのよ」

 

 微笑を消した彼女に言われ、咄嗟にポケットから手鏡を取り出す。

そこには自分だけど、自分の表情とは思えない……何時もの凛々しい自分は居らず、目尻を下げ迷子になった子供の様な自分が……

 

「別に貴女が壊れようが何だろうが私は気にしないんだけど、指揮官を傷つける事は許さないから」

「私は……」

「何の為に言葉があるのよ、あの人が多忙だって分かっているなら猶更、伝えなければ貴女がどう思ってるかなんて通じないんだからね」

 

 言いたい事は言った、そう言わんばかりにUMP45は歩き始める。

私は……どうすれば良かったのでしょうか?

 

 

 

「ふぁあ……ようやく終わったか」

 

 既に時計の針は天頂を示し、日付は変わろうとしている。

机に積まれた書類は全て確認、サインを終え朝カリーナに引き渡せば完了という所までは持って行けた。

気が抜けた事により、あくびが出てくると同時に気怠さが自身の身に襲い掛かり、このまま椅子に座って寝てしまいたい……

が、流石にそう言う訳にもいかないので怠い体を動かし、執務室のドアを開けるのだが……

 

「あっ……」

「うん? ……Kar?」

 

 ぼんやりとした視界に、驚いた様な深紅の瞳が映る。

普段の彼女であれば、次の日に備えて宿舎でスリープモードに入っている時間帯なのだが……

 

「こ、こんばんは?」

「ああ……こんばんは」

「少し、お話を宜しいでしょうか?」

 

 珍しい事だが、彼は即座に思考を切り替えた。

深夜にわざわざ話したい事がある と言う事は人目を避けたいという事なのだろう。

とすれば何かしらの異常があったのか、それとも指揮官である自分にしか言えない事なのか……

どちらにしろ、聞かないという選択肢はないだろう。

 

「ああ、構わないよ。 温かい物を淹れるから先に座っていて」

「ありがとうございます……申し訳ありません、この様な時間で……」

「気にする事じゃないよ、それに少し休憩しようと思っていた所なんだ」

 

 執務室の隅に備えられている簡易式のキッチンへ赴き、ココアを淹れて応接スペースのKarの基に向かう。

机にカップを置くと、お礼を言って彼女は口をカップに付ける。

 

「落ち着いたかい? 廊下は寒かったんじゃないかな?」

「……申し訳ありません、お気遣いさせてしまいました」

「重ねて言うけど気にしないで良いよ……さて、どうしたんだい?」

 

 じっ と彼女の瞳を正面から見つめる。

ユラリユラリ、と彼女の瞳は揺れていたが、一度目を閉じると私に向き直る。

 

「指揮官さんは、私の事がお嫌いでしょうか?」

「……はい?」

 

 突然そんな事を言われたら目が点になる。

何故彼女がそう思ったのかすら分からないが……

しかし、彼女の表情は本気であったし、声は震え瞳は揺れている。

 

「そんな事は無い、私は君の事が嫌いだと思った事は無いよ」

「でしたら、何故、私に触れて下さらないのですか……?」

 

 遂に限界を超えたのか、Karの瞳から頬にかけて筋が伸びていく。

触れてくれない……? もしかして昼の事なのだろうか?

グスッ、グスッ と嗚咽が混ざる彼女に、私は考える事を即座に放棄した。

慌てて立ち上がり、彼女の隣へと座りゆっくりと抱きしめる……壊れ物を取り扱うように。

ビクッ と彼女の体が強張るが、慣れさせる様にそのまま触れ続ける。

 

「ごめん、不安にさせたね」

 

 胸元の制服が彼女に強く握られる。

拒絶されている様では無いので、幼子をあやす様に頭を撫でる。

 

「Karはさ、真面目で頑張ってくれているのは分かっているよ。 忙しいって理由で無理させちゃったね」

 

 あの時だってそうだ、彼女は帽子を外していたではないか。

それに気付いておきながら、早く行った方が良いと言う言葉に甘えて仕事を優先してしまった。

他の娘達に触れておきながら、Karだけ触れなかったら嫌われていると感じても仕方のない事かもしれない。

 

「一生懸命、頑張りましたのよ?」

「うん」

「お洋服が汚れても、怪我をしても、指揮官さんの為なら戦えます」

「ありがとう、と言うべきかな」

 

 ボソボソ、と私の胸中でKarが話し始める。

 

「私は我儘ですわ」

「そんな事は無いよ、逆にこうして思い悩むよりも、もっと言って欲しいくらいさ」

「嫌いになりませんか?」

「大丈夫、そんな事で嫌いになんてならないよ」

 

 モゾモゾ と腕の中でKarが動く。

下を向くと、泣きはらした顔で彼女が私を見上げてくる。

 

「……本当に?」

「うん、本当に」

 

 ようやく安心してくれたのか、彼女も腕を私の体に回し抱き返してくる。

温かく、細い腕だがギュッ と、離れたくない様に抱きしめている。

 

「我慢しなくても宜しかったのですね……」

 

 そう呟くと同時に、Karが私に寄りかかる。

どうしたのだろう と思ったが、どうやらスリープモードに入ってしまったようだ……昼の時から不安で気が張り詰めていたのだろう。 

立ち上がろうとしたが、思いの外Karの拘束が強く動きたくても動けない。

また、彼女の温かい体に疲れていた体は正直に睡眠を要求する。

 

「……風邪、引かないと良いんだけど……お休み、Kar」

 

 致し方ない、とその場で寝る覚悟を決めKarに回した腕を気持ち強く引き寄せる。

戦術人形は夢を見ない と言うが、少しだけKarの表情が和らいだ気がした。

 

 

 最も、翌日そんな恰好で寝ている所を見られ、ひと悶着ある事を彼はまだ知らない……




 Kar可愛いんだけど、書く人や見る人によって性格が変わるのは面白いですよね。
凛々しい女性だったり、ポンコツ残念だったり……

 そう、だからこういった性格のKarが居ても問題ないはずなんです。
お助け下さい! 私は電波を受け取っただけでただいまその発信源を一生懸命調査しております!!


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M16A1 戦友 / PPK 嫉妬

 忙しくて書く事が出来ないからと言って、短編を二つつなげて何とか3000文字以上にして投稿しています。
ウサギの巣作戦ですが、損傷した娘をどうしても放置できず修理したい病が発病している為、最初でも13万5千点で30%以内に入れれば良いんじゃないかと思い始めました。
次回のときは目指せ14万点 という事で。

 気付きましたらUA10000を越えておりました。 あとゲージに色ついて嬉しい限りです。
見てくださった方、評価してくださった方 ありがとうございます。



「んじゃ、今日も作戦成功を祝して乾杯!!」

「「「乾杯!!!」」」

 

 ガラスとガラスがぶつかる甲高い音が聞こえ、最初の一杯と各員がグラスに口を付けていく。

一息に飲む者、とりあえず口を湿らせる者……酒とは飲む人、雰囲気によって味わい方は様々だ。

因みに、私が所属するAR小隊でも飲み方もそうだし飲む種類も違う。

M4は弱めのサワーを自分のペースで飲んでいくタイプだし、SOPⅡはビール、AR-15は果実酒……私はブランデーかな。

グラスもバラバラ、ペースもバラバラだが話は弾むしリラックス出来る。

それもこれも、司令官殿のおかげだな。

 

 

『多数の戦術人形達からの要望を受け、下記箇所を昼はカフェとして 夜はバーとして運営する事とする。

 各部隊員の懇親場所として利用されたし。  掲載許可番号 0000-0012 』

 

 

 指揮所近くの掲示板にこの様な張り紙がされている時は目を……いや、私達の場合はセンサーか?

まあどっちでも良いか、大切なのはそこじゃないしな。

とりあえず機能をチェックしてみるが問題なし、全技能オールグリーンという奴だな。

宿舎をとりあえず整える指揮官は多いが、こうして専用の場所を作る指揮官は少ない……と言うか聞いた事がない。

試しに と書いてあった場所に向かうと笑顔のカリーナが居た。

彼女曰く「指揮官様からのご厚意です」としか教えてはくれなかった。

問いただそうか とも思ったが折角厚意だと言ってくれているのだ、

渋るM4の背中を押して、早速バーへと乗り込んだのは間違いでは無かっただろう。

私達が通うようになり、指揮官も偶に様子を見に来る事から噂は広まり……

今ではお堅いファーマスの部隊や、任務ばかり気にしていた404小隊の連中もほぼ固定のテーブルを囲むようになっている。

 

 

 

「M16A1!! 今日こそ私はお前を超えて見せる!!」

「416、どうせ結果は同じだぜ?」

 

 ガンッ! と机に酒の瓶を叩きつけながらHK416が啖呵を切ってくる。 

カラコロ とグラスに残った氷を揺らしながら相手を見てみるが、すでに向こうの席でも飲んでいたのだろう。

顔は紅潮しているし、目線も私を見ている様で少し外れている……

チラッ と404小隊が何時も使っているテーブル席を見てみると、UMP姉妹がカラカラと笑っている。

面倒だが……まあ、銃口突き付けられて勝負仕掛けられるよりはマシか。

 

「まあ、良いぜ。 かかってきな!」

「上等よ!!」

 

 

 

 カラン カラン と扉の開く音が聞こえる。

頭がぼんやりとしているが、いつの間に机に突っ伏していたのだろうか?

確か……416と飲み比べをして、あいつが机に突っ伏したのを見て……

うん、そこから覚えてないわ。 良い時間が過ぎているだろうが……

呆れた様なAR-15の声、謝罪するM4の声、かすかに聞こえてくるSOPⅡの寝息……

全く、こんな人形達の世話を見るなんて大変だろうな。

さって起きて宿舎に戻るか

そう思っていた時、体が宙に浮いた。

 

 ……はっ?

 

 一瞬体が硬直するが、膝裏と背中に回される温かい感触に全てがどうでも良くなった。

少し顔を動かすだけで、頬に触れる感触が心地よい……

AR-15の息を飲む音が聞こえ、M4が何かを呟き、SOPⅡの寝息が瞬時途絶えた気がする。

ははっ、残念だが今夜は私の勝ち……と言う事かな?

 

 

 カラン カラン と扉の開く音がする。

指揮官に続いて慌てているM4達の足音が続いていく。

 

 

 

「なあんだ、やっぱりあいつも拒まなかったじゃない」

 

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

PPK 嫉妬

 

 

 

 

 

「指揮官が自分に対して余所余所しい?」

 

 コクン と頷く彼女に、何でそんな事を私に相談しに来たんだ…… としか思えなかった。

時を少し戻そう、私は何時もの喫茶店兼バーで一人のんびりと飲んでいた時の事であった。

 

 

「すこし良いかしら?」

「ん? ……なんだ、PPKか」

 

 声をかけられた方を見ると、ハンドガンの戦術人形 ワルサーPPKが微笑みながら立っていた。

話しかけて来る理由は分からないが、無下にしなくても良いだろう と隣の席を指さす。

最も、現状を見るに過去の私をぶん殴りたくなっているのだが……

まあ過ぎた事はどうでも良い、次に生かす事にしよう。

 

 

 話を聞くに、以前より指揮官が自分に接して来なくなった との事らしい。

良い事じゃない、触られたくなかったのでしょう? と冗談で言ってみたのだが、何故か彼女の顔は沈みこむ。

 

「やっぱり……嫌われたかしら?」

「今のは冗談だから落ち着きなさいよ……」

 

 温くなりつつある黒ビールを口に含む。

普段であれば深い味とコクが自分を迎え入れるのだが、どうも今日はその苦みが強い気がする。

PPKを横目に見てみると何時もの不敵な笑みは鳴りを潜め、目尻にうっすらと涙すら浮かべているようにも見える。

手に持つワインも普段の持ち方で無く、抱える様にして俯いている。

全く持ってらしくない としか言いようがない。

はあ……全く、こういう事は9の方が得意だろうに。

 

「で、あんたは正直どう思っているのよ」

「どう……とは?」

「それだけ落ち込む癖に、何とも思ってない 何て言う陳腐な答えが返ってくるとは思わないのよね」

「…………」

「好きなんでしょ?」

 

 ボソッ と耳元で囁くと、ポンッ と音が出る様に耳まで朱色に染まる。

酒のせいだけではあるまい、自覚しているのにウジウジ悩まないで欲しいものだ。

 

「ふん、ならさっさと覚悟を決める事ね。 第一待っていたら相手から告白してくれる、なんて甘い期待はしない方が良いわよ。

 AR小隊も、私達404小隊の中にも指揮官を慕っている娘は多いのだから」

 

 さっきまでの沈んだ空気が嘘のように霧散し、勢いよく置き上がったPPKの瞳がこちらを睨みつける。

顔を赤くして、涙目な彼女に睨まれた所でなんとも思わないし、むしろこの事を基地内にばら撒いてやろうかとも思う。

 

「……がと」

「ん?」

「ありがとうって言いましたの!」

 

 バンッ! と机を叩き、その上に酒の料金と思われる硬貨を数枚置いてヅカヅカと歩き始める。

全く、相手が精神的に無防備となった瞬間に付け込め との教えを下さった教本には感謝してもし足り無いな。

どちらにしろ、明日が楽しみだ……いや、楽しむ為にはもう一押し か?

 

 

 

 

 

 ううっ……頭が痛いですの、最悪とも言えますわね。

あの後、宿舎に戻ってベッドに倒れ込んだ後も、416に言われた事を延々と考えて反復してましたが……

仕方ないじゃないですの、あんなに純粋な好意なんて向けられた事なんて無かったんですもの。

また顔の辺りにが熱くなるのを感じ、枕へ顔を埋めては消化するように押し付けて見るものの、全く収まらない。

バタバタと無意味に足を動かしても、ただ単に埃を舞い上げるだけだ。

 

「どちらにしろ……もう、覚悟は決めましたの」

 

 そう、もう逃げてはいけませんの。

逃げずに、向き合って、自分なりに考えをぶつけなければこのモヤモヤは消えない……

枕から目を上げた彼女の瞳に、もう迷いは無かった。

 

 

「と、気合を入れましたのに……」

 

 

 時刻は既に夕方、カラスも家路に帰る時間帯である。

任務もあったり、出撃があったりと忙しかったのもあるがどうにもこうにも二人きりになれない。

出撃時にも、帰還時にも基本的に部隊員が居てしまうし、休憩時も副官が傍にいる。

こうして廊下を移動するのを見極めて、ストーカー紛いの事をしているのが何だかとても情けないにも程があるのだが……

 

「では指揮官、私は資料室に寄って行きますので」

 

 今日の副官、FAMASが指揮官から離れた様ね。これならチャンス……

 

「指揮官、少し良いですか?」

 

 この声は416?

廊下の角から少し顔を覗かせると、指揮官と416が話し込んでいるのが見える。

何のつもりかしら……? と静観していたのだが、昨日の話を思い出す。

 

 AR小隊も、私達404小隊の中にも指揮官を慕っている娘は多いのだから

 

 そう、あいつは404小隊とぼかしていたが自分が例外だとは一言も言っていない……

あれ、いや そんな まさか?

視界が狭くなる、なぜかぼやけても来る。

416の肩に指揮官の手が伸びる……ああ、駄目、駄目よ。

駄目ダメだめ……

 

「ダメェェ!!」

 

 真後ろから駆け寄り、咄嗟に抱き着いてしまう。

指揮官の驚いた声が聞こえるが、もう構わない。 

獲られるくらいなら、恥も外聞も投げ捨てた方が良い……!!

 

 

「……と、まあこういう訳です。 指揮官」

 

 笑いを堪える声 とは今の416が出す声がそうなんだろう。

いや、クスクスと笑う声が聞こえる事から隠してはいない。

 

「恐らく、気づいて居ないのは本人同士だけですので。

すれ違い続けるのを見ているのも面白いでしょうが……巻き込まれるのはごめんです。

では、良き物も見れましたので私はこれで」

 

 すれ違い様、ニコニコとした416が肩を叩いてくる。

あの人、絶対に確信して……!! 後で絶対に仕返ししますわ!

 

「指揮官」

 

 頬をかいて、どうしたら良いのか分かっていない指揮官に顔を向ける。

 

「貴方は私の心を奪ったの、その責任は取りなさいよ」

 

 そう一方的に告げ、彼に唇を捧げる。

もう、貴方の心は返しませんからね? わたくしの指揮官様……

 

 

 




 短編を書き上げてたいのですが、仕事終わりが23時という状況で文字を打つのは中々厳しい今日この頃・・・・・・
次回作は色々な人形達が出てくる予定です。


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 好感度?

 注意書き 今回のSSはUMP45が病んでいる様な描写があります。
何時もの凛々しいUMP45姉を見たい方、病んでいる彼女を見たくない方はブラウザバックを強く推奨いたします。





「好感度?」

「はい、誓約指輪を送る際に必要な数値ですよ、指揮官様」

 

 執務室において、報告書を確認していた指揮官の疑問にそれを提出した後方幕僚殿……カリーナは笑顔でそう告げた。 自分の目を疑ったが、真に残念ながら正常ならしい。

 

 午前の仕事もひと段落し、指揮下に居る人形達の能力や戦力を把握する為に提出されたデータを閲覧している時の事だった。 名前・製造番号・編成数・耐久力・火力……とその戦術人形の詳細が数値化されている欄の一番下に記されている文字が指揮官の目に止まり、疑問を投げ書けるというよりは思わず出てしまった言葉が先の会話である。

 

「え~っと……確かその誓約をすると彼女達の性能が少し上昇するんだっけ?」

「はい、一般的に人形の能力は制限されております。 その制限を限定的に解除する装置があの指輪には込められております。 しかし会社側としては人形が指揮官を信頼していなければ制限を解除する訳にはいかず、その人形が指揮官様に対しどれだけ信頼しているか と言うのを抽象的に表現したのがその数値ですわ」

「ふむ……」

 

 パラパラと書類を捲っていく。

FAMAS 好感度100 Vector 好感度100 スプリングフィールド 好感度100……

……何だろう、ほぼ全ての書類に100の数値が並んでる様に見えるのだが?

 

「……100は最初期の数値かな?」

「またまた御冗談を、100は誓約を行える数値ですわ」

「報告書には100が並んでいるように見えるけど?」

「そう言う事ですわ」

 

 にっこりと笑いながら彼女は私を見つめる。 そう言う事……と言われても、私には彼女達が何故好意を持ってくれているのかは分からない。

 信頼されているのは正直に言えば嬉しいものだが、それは人形は指示を出す人間を求める と言う意味での事だろうか?

 

「俄かには信じられないけれど……」

「そうでしょうか? 日々人形達との接し方を見ていれば妥当かと思いますけど……

 まあ、それでしたら試しにその目で確かめてみては如何でしょうか?」

「確かめると言うけど、どうやってやるんだい?」

「じゃじゃ~ん! ここにペルシカさん特製、簡易測量用の眼鏡型媒体があります。

 まあ、あくまで簡易なんで数値は多少の誤差がありますが……如何ですか?」

 

 16LAB との掘り込みがフレームに輝く黒縁眼鏡……ペルシカさんも良く分からないものを作るものだ。 だが今回は渡りに船、書類に記載されている数字程自分が信頼されているかどうかというのは気になるものだ。

 

「なら少し試してみるよ……で、どう使えば良いのかな?」

「では簡単に説明させて頂きますね、眼鏡をかけたまま人形を見て縁に触れて貰えれば測定するそうですわ。眼鏡のガラスに情報が表示されますので、眼鏡の装着者以外には見えませんから、彼女達にはバレない……筈ですわ?」

「そこは自信をもって断言して欲しかったかなあ……まあ、丁度良いから基地を巡回しながら試してみるよ。 申し訳ないけど通信とかが来たら連絡を宜しくね」

「了解致しました! ではお気をつけて~」

 

 カリーナに見送られ執務室を後にする……さて、何処に行ってみようかな?

 

 

 

「あれ? 指揮官~!」

 

 執務室から人形達の宿舎へと歩いている所、後方から声をかけられる。

振り向いてみると、落ち着いたカーキ色のセーラー服を纏った戦術人形 M14だ。 パタパタとリボンで結ばれたツーサードテールを揺らしながら、こちらに駆け寄って来る様子は近所の子供のようだ。

 期待に応えて見せます! と意気込んで任務に出かけたり、勝利に対して強い意識を持っている真面目な娘だ。

 

「こんにちはM14、休憩かい?」

「はい、午前の訓練が終わりましたのでこれからお昼です」

「そうか、お疲れ様」

 

 つい自然に頭を撫でてしまうが、彼女も笑いながらそれを受け入れている。

えへへ、と撫でられている様子を見ているとこちらの心も少し温かくなるようだ。

 

「そういえば眼鏡をつけてるなんて、どうかしたんですか?」

「いや、たまにはイメージチェンジ と言う奴かな、似合っているかい?」

「ええ、何時もとは少し違って理知的な気がしますよ!」

 

 どうやら誤魔化せた様だし、丁度良い所に来てくれた事だ、少し悪いと思うがこの眼鏡を試してみよう。 えっと・・・M14を見て、眼鏡の縁に手を触れて・・・・・・

 

 M14 製造盤号0002865713 編制数3…… ○▼度44

 

 

 眼鏡のガラスへ現れた数値は確かに彼女のデータと一致していた。

ただ最後の好感度の文字がバグを起こしているようだが、最後の数値は好感度であると分かっているならば問題はない。

問題なのは書類上は100となっていた数値が44と、初期値の50を下回っている事だ。

 

「・・・・・・M14」

「はい、何ですか指揮官?」

「何か不満とかは無いかな? 例えば指揮が悪いとか宿舎に家具が少ないとか・・・・・・」

「いえ! 指揮は最適だと信じていますし、宿舎に関しても十分配慮してくれてます! 特に不満と言う不満は無いですけど・・・・・・」

 

 M14の表情に無理をしている感じはしない。 むしろ何故そんな事を利くのか不思議がっているようにも見える。

 ならば何故好感度・・・・・・まあ、信用されているかどうかの値が初期値を下回っているのだろうか。 それとも不満や要望も言えないくらい私は信用を失っているのか?

・・・・・・相談してみよう、ライフルタイプの戦術人形に関することはスプリングフィールドが適任だ。

 

「そう言って貰えると嬉しいよ、ただ何かあったら相談して欲しいかな」

「了解致しました! 何かあったら頼らせて頂きますね」

 

 その後も少し雑談をしてM14と別れるが、表面上は私に対し嫌悪を抱いていると思われる言動は無かった。

 ……結局、あの数値が低い理由は分からなかった。 が、少し低い程度ならば嫌われている訳ではないようだ。

 

 

 

 射撃演習場に赴くと、甲高い射撃音が空気を震わせ、ゆっくりと消えていった。

その音に続くように、軽い銃声が単発で続いていく。 音からしてライフルとハンドガンだろうか?

 

「あら、お疲れ様ですわ。指揮官さん」

「なぁに? 見回りかしら」

「Kar、PPKもお疲れ様、少し巡回している所だよ」

 

 演習場に居たのは同じ部隊員であるPPKとKarであった。

硝煙の上がる銃を持って居る事から、先ほどの銃声は彼女達のものだろう。

 

「巡回と言ってサボりとかじゃないわよねぇ?」

「PPKさん、それは些か不躾過ぎますわ」

「そうかしら? でも事実執務机の上には書類の山よぉ?」

「……ごめん、言われても仕方の無い状態だね。頑張って片付けるよ」

 

 頑張りなさいな とクスクス笑いながら彼女は微笑む。

もう…と頭に手を当て、指揮官さんは優しすぎますわ とKarは少し困った様な笑みを浮かべた。

 

「そう言えば指揮官、眼鏡なんて持っていたのね」

「私の記録では、書類等細かい文字も普通に読んでいたと思われますが……視力が落ちましたの?」

「視力は平気だよ、少し気分転換と言うか巡回しながらデータの閲覧をしようと思ってね。 その媒体だよ」

 

 よし、PPKが話題を振ってきたからさりげなく眼鏡に触れて……

 

 PPK 製造盤号000037564 編制数4…… ○▼度19

 Kar98K 製造番号002442953 編成数4…… ○▼度39

 

 ……何故? え、いや、ちょっと待って欲しい。 こうして雑談してくれる娘達すらこの数値なのか? PPKやKarは初めの頃部隊に編入された戦術人形なのだが……逆に、私の指揮を見てきて愛想を尽かしたのだろうか……

 

「指揮官さん? 如何かなされましたか?」

「顔色が悪いわよ? また無茶な残業でもしてるのぉ?」

「あ、ああ……いや、大丈夫だよ」

 

 こうして心配してくれているのも、私が人間で彼女達が人形だから なのだろうか……?

KarもPPKも本当に心配しているように見えるのだが……ただ見せかけなのだろうか?

 

 

 その後も二人と何かを話していたと思うのだが、何の話をしていたのかはあまり覚えていない。 気が付いたら夕方となっており、カフェからバーへと様代わりした場でグラスを傾けていた。

 

「……苦い」

 

 慣れない酒はやはり自分の舌には合わないようだ。

喉に流し込んでいるがどの種類も苦いか辛い、または喉が焼ける様な痛みを伴う物であった。 酒が逃避になる……と言うのは、飲める人間にしか通用しないのだろう。

 

「よおボス、珍しい事をしてるじゃないか」

 

 隣から声をかけられ、その方向をぼんやりとした頭で見上げてみると、SMGの戦術人形「トンプソン」が苦笑いしながらこちらを見ていた。

 隣、失礼するよ と一声かけ、こちらの了承を得る前に勝手に座り込む。

まぁ良いか と頷く事で彼女に同意を伝える。

 

「飲み慣れてない人間が1人でヤケ酒なんて危なっかしくて見てられない……どうした? 何かあったのか?」

「……いや、私は指揮官として責務を果たせているのかな と思ってね」

 

 カリーナも報告書も人形達は自分の事を信頼している としてくれていた。

だが実際はどうだ、配属された当初の数値より全員が低い数値となっている。

これは自身の指揮能力が足りない、または彼女達に不信感を植え付ける何かがある と言う事だろう。

そう後ろ向きな思考に陥っていると、肩に手を置かれる。

 

「ボス、弱気になる気持ちも分かるが滅多な事を言うもんじゃないぜ。

 何があったかは分からないし、どんな事を言われたのかも分からない。

 だけどな、ボスの指揮で少なくとも私達は今まで生き残れている。

 ボスの言う責務 と言うのが何なのかは分からない が、今こうして話せているのはボスのおかげなんだ」

 

 何時もならバンバンッ と少し乱暴に肩を叩いてくるトンプソンだが、何かを察したのかその口調は何時もと比べ柔らかい。

 茫然と彼女を見ていると、言っている事が気恥ずかしくなったのか手に持ったグラスを一息で呷る。

 

「あ~……そのだな、だからあまり考えすぎない事

 愚痴なら聞いてやれる、相談になら乗れる。 ボスは抱え込み過ぎなんだ、荷物が重ければ誰かを頼れ。

 良いか、ボスは1人じゃないんだ。 私達やカリーナが居て、仲間が居るんだ。 だからそんな顔はするなよ」

「……ああ、ありがとうトンプソン」

「ん、笑っていた方がボスらしいぜ」

 

 カラカラン と氷がグラスを鳴らす。

丁度良く話もキリが良い上に、トンプソンと話していて心が落ち着いた為か猛烈な眠気に襲われる。 摂取したアルコールを分解しようと体が休息を求めているのだろう。

 

「すまないけど、私はここでお暇するよ……落ち着いたからか、眠くなってきてね。

 ここのお代は持たせて貰うから、好きに飲んでね」

「そうか、もう少し話して居たい気持ちもあるが……まあ、無理はいけないな。

 良い酒を飲ませて貰うよ、だが大丈夫か? 部屋まで送ろうか?」

「平気だよ、少し夜風に当たりながらゆっくりと帰るさ」

 

 手を振り、別れを告げ酒場を後にする。

トンプソンも少し惜しげではあったが、ヒラヒラと手を振り私を見送ってくれる。

……ああ、そういえばトンプソンのデータは……

 

 トンプソン 製造盤号000025251 編制数5…… ○▼度67

 

 たかが17、されども17なのだろうか……

初めて初期値50を超えた人形に出会えた事を喜ぶべきか悲しむべきなのか……

 

 

 少し覚束ない足で宿舎棟を歩いている。 既に深夜に近い時間で夜空には満月に近い月が浮かんでいる。

 休憩しながら歩けば良い、と思ったが思いの外足に来てる。 今も肩を壁にぶつけ、よろめいた所でバランスが取れずに座り込んでしまった。

 

「しきかぁん? 大丈夫?」

 

 少し間延びした声で呼ばれ、顔を上げると月を背景にUMP45がこちらを見下ろしていた。

・・・何時の間にとも思ったが、元々気配を消して歩く事が多いこの娘の事だ。 酒に酔っている私では到底捉えきれないだろう。

 

「UMP45? 君こそこんな夜更けにどうしたんだい?」

「質問に質問で返すのはどうかと思うけど……まあ良いか、夜戦任務が完了したから報告書を提出しようとしたんだけど、カリーナに聞いたら昼頃から帰って来ていない。 って事だから少し探していただけだよ」

「……すまない」

「ほんと、何時もならそんな事無いのにね」

 

 クスクスと笑い始めるUMP45。

立ち上がろうとするものの、足が言う事を聞かずそのままへたり込んでしまう。

困ったものだ と癖で頬をかこうとした時、指先が縁に触れたのか目の前にUMP45の情報が出現する。

 

 UMP45 製造盤号000500501 編制数5…… ○▼度32

 

 ……ははっ、そりゃそうだよね。

部隊長として、こんなにも情けない姿を晒す指揮官は信頼に値しないだろう。 それに彼女達はヘリアンさんより仮に預かっている部隊であり、自分の配属部隊ではない。

 

「UMP45」

「なあに?」

「別に無理して私の指揮下に居る必要はないんだよ」

「……指揮官?」

 

 独立部隊として動いている方が楽な場合もある。

留まる場所が無いから、丁度良いので指揮下に居てくれるなら別に構わないのだが……

 

「君の方が優秀だって事は分かっている。 何故私の指揮下に居てくれるのかすら分からない。

 人間が嫌いだってのも、何時も無理して笑っているのも分かっている。

 少しでも君達が信じてくれれば と、休めればと思ったんだけど不信感は拭えなかったみたいだね。

 だから……」

「指揮官」

 

 その声は静かな廊下に良く響いた。 声の大きさは大した事ない筈なのに……

良く響きすぎて、自分の頭が急速に冷えていく錯覚に捕らわれる。 少なくとも酔いによって自嘲気味に口から漏れ出ていた言葉は止まった。

 

「どうして、そんな事を言うの‥…?」

「……UMP45?」

 

 その声は聴いたことが無かった、何時だって飄々として本心を悟られない様に少し間延びしてフワフワした音程で……そんな話し方をずっと崩さなかった彼女の声が震えている。

 

「他の奴らに何か言われたの? 戦果が規定値を満たしていないの? ねえ、何でそんな事を言うの?」

 

 顔を上げると、月を背にUMP45が一歩一歩近づいてくる。

俯き、その表情は窺い知れないが……

ピピッ と軽い電子音が響き、情報が再度ガラスに表示される。

 

 UMP45 製造盤号000500501 編制数5…… ○▼度42(+10)

 

「言えないの? 何で誰かを庇おうとするの? 別に何かをする訳では無いよ…?」

 

 カツン、カツンと底の固いブーツが廊下を叩く。

自分自身、何故UMP45がそこまで切羽詰っているのか分からないが、兎にも角にも今の状況が不味いと言う事は分かる。 が、立ち上がろうにも足は言う事を聞かず、何か言葉を出そうにも口は無意味に開閉を繰り返し言葉を出そうとしない。

 

 UMP45 製造盤号000500501 編制数5…… ○▼度70(+28)

 

 また情報が更新された? いや、それよりも何故今好感度が上がっていくのか?

 

「……ねえ、聞いてるの?」

 

 ついにUMP45が目の前に到着し、座り込んでいる私に上から覆いかぶさる様にかがみこむ。

ひんやりとした手が頬に添えられUMP45の方へ向くように固定された。

彼女の揺らめいた金色の瞳が私を映している。

 

「まぁ良いよ、 私が自分で見つけ出すから。

 指揮官を傷付けた奴は許さない、私達から遠ざけようとするなんて絶対に許さない。

 無理して指揮下に居なくていい? 冗談じゃない、何時使い捨てられるか分からない、帰る場所すら定かでないあの時に比べれば指揮官の下の方は気が休まるのよ。

 それなのにこんな勘違いをさせられるくらい傷付けられるなんて……」

 

 UMP45 製造盤号000500501 編制数5…… ○▼度130(+60)

 

 また更新されたが、ついに値が100を超えている。

……もしかして、最初からこの装置は壊れていたのではないか とすら思えてくる。

 

「大丈夫だよ、指揮官は私がちゃんと守ってあげるから。 私と404の皆で護ってあげる。

 だから何にも心配しないで、他の人間に何を言われようと気にしないで。

 そういった奴等は私がちゃんとオハナシしてくるから」

 

 UMP45 製造盤号000500501 編制数5…… ○▼度フノウ(+△×◆)

 

「だからね、離れちゃ……ヤダよ?」

 

 

 

 

 ん? やあ指揮官。 朝早くからどうしたんだい? ええ? 16LABのマークが入った私の品が初期不良??

ん~……それ、見せてくれないかな? ああ、直接じゃなくて良いよ? 充電コードをそこの端子に取り付けてくれ。

 それで解析出来る……ほら、もう出来た。 早すぎる? いやこんなもの片手間で出来るわ……それと指揮官、表示がバグを引き起こしているのは確かに認めるけどこれはちゃんと機能を果たしている。

 好感度じゃないのかって? これは違うわ、これはその人形がどれだけ自立しているかを測る装置だもの。 言うなれば君にどれだけ依存しているかを調べる装置、依存度が一番最後に表示されるんだ。

 好感度は書類で提出されているだろう? あれの計測は中々難しいから人形のメンテナンスやバックアップデータの保存時に計測しているんだよ。

 

 ん? その依存度が高いと何か不味いのか だって?

高ければ高いほど君に依存し、グリフィンでなく君に対して忠誠を誓っている様な形になる。 人間と言う種族、会社と言う組織でなく君個人に対して献身する という事だね。

人形のメンタルモデルにもよると思うが、君の事を最優先に思考する様になる。

……悪い事かって? そうでもないと思うけどね。 物は考えようさ指揮官。 私はあの娘達が出した答えを尊重したいし、君と接してできた絆を否定したいとは思わないよ。

まあ、何かあったら頼ってくれても構わないわ、君には色々とお願いした事もあるからね。

うん、ではまた

 

 




 お仕事で精神をやられた時に組んだプロットで文字の進むままに書いて居たらこうなりました。
お久しぶりです、季節の変わり目ですが体調にお気をつけて日々をお過ごしください。

 次ですか? ツイッターで呟いていた指揮官と添い寝のシリーズとか書いてみたいですが……またお仕事次第かな と。
申し訳ありませんが、気長に待っていただければ と思います。
ではまた、失礼いたしました。


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指揮官から送られた指輪 M16A1の場合

 第八戦役、ノーマルをクリアして書き上げました。
…敬礼、綺麗だったよね……


「ねえねえM16、そういえば指揮官から貰った指輪なんだけど何で指に着けてないの?」

「うん? ああ、常に付けてなければならない物でもないし、それに指や手だと被弾した際に吹っ飛んでしまいそうだからなあ……」

「ふーん、じゃあ今は持っていないの?」

「いや、こうしてネックレスにして身につけている。 服の下なら暴れる事も無いし、身に着けていれば問題なく機能はするしな」

 

 作戦終了時、帰還しているヘリの中でSOPⅡが暇つぶしなのだろうか、誓約指輪の事について聞いてくる。

私はネクタイを緩め、シャツの首元を緩め銀色のチェーンを取り出す。

先端まで手繰り寄せると、チェーンを通した状態のリングが輝いているのが良く見えた。

……作戦時に出したら、その輝きから狙撃の的にされかねない具合だ。

 

「うーん……でも折角貰ったのに着けてあげないのは可哀相じゃない? 」

「……いや、このくらいの距離の方が丁度良いのさ。 ベタベタされるのは指揮官だって苦手だろう」

「そうかなあ……まあ、指揮官に一番近いM16がそう言うならそうなのかな」

 

 指揮官に一番近い と言うのは、誓約指輪を貰ったのが私一人であり、副官を務めている事が多い事からなのだろう。

納得したのか、SOPⅡはまたプラプラと流れゆく外の景色を眺め始めた。

私もつられて外を眺めると、グリフィンの管理区域が遠めに見え始めていた……私達の帰る場所だ。

 

 

「小隊長お疲れ様M16、他の皆もお疲れ様でした」

「よう指揮官、わざわざお出迎えありがとう」

 

 バタバタとヘリのローター音が響く中、私達の指揮官が出迎えてくれる。

SOPⅡやほかの隊員達は、思わず駆け出そうとするのを指揮官が私を見ているのに気付き数歩進んで堪える。

いつも通り朗らかな笑みを浮かべている事を確認してから今回の作戦を纏めた簡易報告書を手渡す。

受け取った報告書をその場でパラパラと速読し、小脇に抱え込む。

 

「鉄血の動きも特に変わりなく、何時もの小競り合いの様だね」

「ああ、まだ偵察の延長線だろう。 相手側もこちらの戦力を測り切れてないのかもしれない。

主力は出さず、実戦経験を積ませたい小隊を出すのが良いと思うな。第五小隊辺りでどうだろう?」

「分かった、その線で調整しよう……その辺を相談したいから、M16は整備と補給が終わったら執務室まで良いかな?」

「了解、じゃあまた後でな……そら、行って良いぞ!」

 

 私の言葉に、待ってましたと言わんばかりにSOPⅡが走り出し指揮官に抱きつく。

他の隊員も彼に近付いて行き、労いの言葉や頭を撫でて貰う等をねだっている。

 

「宜しいのですか? 本来なら貴方もあの位置に居て然るべきだと思いますが」

「あぁ、指揮官は私だけのものじゃない、あぁして他の奴にも平等に接してこそあの人なんだ。

私はそんな奴に惚れたのさ」

「……難しいものです」

 

 ウェルロッドはそう言い、顎に手を当てて考え込んでいる。

別に難しい話ではない、こうして公の部分で特別扱いして欲しい訳では無いだけだ。

妹達を見ている様で、指揮官も娘や子供に接するように他の人形達と触れ合っている。

じっと見ていると、視線に気付いたのか指揮官と視線がぶつかる。

ニッ と微笑むと彼も柔らかく笑った。

その程度に、私達は繋がりあっていると信じている。

 

「さ、ウェルロッドも行ってきたらどうだ?」

「私は、別に……」

「無理すんなっての、逆に奪うくらいの気持ちで行ってみたらどうだ?」

「むっ…信頼されてるのですね」

「当たり前だ、私がその身を預ける事を決めた指揮官だぞ?」

「はぁっ……分かりました、なら遠慮せず」

 

 そう言い残し、スタスタと歩いていき……しゃがんでいる指揮官の手を取り、手の甲に当たるか当たらないかの位置で唇を捧げた。

それ、やってる方とやられてる方が逆だろうが。

 

 

修復施設で被弾した箇所を修復し、宿舎に備え付けられたシャワールームで簡単に汗を流し、着替えてから報告書を纏め指揮官の待つ執務室へ向かう。

 

「よっ、お疲れ指揮官」

「お疲れ様、少しは休めた?」

「シャワーを浴びればサッパリするもんさ、休むなら仕事を終わらせてから存分に休むよ」

「あはは、すまないね・・・・・・じゃあ今回の作戦区域であった場所のルート策定を、幾つか叩き台として考察したルートがここにあるのでそれを参考に」

「了解、任せておけ……それと指揮官、今夜は空いているかい?」

 

 書類を受け取る際、右手でなく左手で受け取る・・・・・・その薬指には指輪がはめられていた。

それを見た指揮官の表情が少し和らぐ・・・・・・少しだけ嬉しそうであった。

 

「うん、21:00位からなら平気かな・・・・・・部屋で良いかい?」

「構わない、2人の方が良い」

「了解、じゃあ早めに片付けようか」

 

 

「んっ・・・・・・はあっ、こんなものかな」

「お疲れ、こっちも終わったぞ」

 

 既に日は沈み、夜の帳が基地を包み込んでいる。

手を頭上に伸ばし、ゆっくりと首を回したりしている指揮官の横に立ち、纏めた書類を差し出す。

それを受け取り、その場で速読をしようとする指揮官の目線を自分の手で遮りながら、書類を持つ手をゆっくりと机に持っていく。

 

「今日はもう終わりだろ? 確認は明日でも良いじゃないか」

「折角纏めてくれたのに?」

「仕事に真面目なのは良い事なんだけどな、休む時に休む事も必要だ……それに」

 

 椅子に座っている彼の手を引き、自分の胸元へと引き寄せ寄せる。

指揮官は引っ張られた事に驚き、私に抱きしめられた事に一瞬体を強張らせたが直ぐに力を抜いた。 

 

「もう公の時間は終わっているんだ、私の時間は私を見てくれ」

「……そうだね、そうするよ」

「分かってくれれば良いさ」

 

 指揮官を離すと、彼は書類を要確認と書かれたケースに入れ、戻ってきた指揮官の手を取り指を絡めると、彼も握り返してくる。

執務室を消灯し鍵を閉めて、私達は歩き出した。

 

 

 

「今日はどうしたんだい?」

「偶にはこういう日もある、それだけだ」

 

 指揮官の私室はまあまあ広い、本棚やソファー、簡易的なキッチンに冷蔵庫等一式は揃っている。

時刻は21:00、既に夕食も入浴も済ませあとは寝るだけ と言った状態で大きめなソファに身を預けた彼の隣に座る。

彼は特に何も言わない、ただ私を受け止め包み込む様に肩を抱き傍に寄せるだけ。

 

「しかし、面白い合図だよね」

「何が?」

「指輪を薬指に着けてる時は傍に居たい合図だって話、M4達にだって話していないのでしょ?」

「……ふん、私は頼れる姉でなきゃいけないんだぞ? 迷いも弱さも見せてはいけない存在だ。

 そうしてきたと言うのに……指揮官が悪いんだぞ、そういった所を見つけてしまうんだから」

 

 不機嫌そうに顔を逸らしてみると、彼はごめんごめん と少し困ったように笑いながら私を強く抱き寄せる。

……ずるい奴だ、そう思いながらも彼の背中に手を回し少しだけ力を込める。

 

「こういった表情を見せてくれるのが嬉しくて、言い過ぎてごめんよ」

「ん……ったく、しょうがないな」

 

 お互い本気で言っている訳ではない、ただ触れ合いたいと思いじゃれている様な物だ。

ただ、そのじゃれ合いが愛おしい。

 

「指揮官」

「ん?」

「愛している」

 

 指揮官の為なら、私は迷わず使命を果たせるだろう。

だから……どうかその日が来るまでは、この行いに付き合って欲しい。

妹達にも見せられない、弱さを貴方になら見せられるから……

 




指揮官が【何時か帰る場所】になる事を祈りつつ…


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第二部隊 子猫の扱い方

 最初はここまで個性的になるはずでは無かったんです……


「やーったらやーなのー!!」

「MG5、そっちに行った!」

「ハッハッハッ、任せ……ダメだ、早すぎるぞ?」

「何をして……っ! ええい、すり抜けられた!」

 

 ドタンバタンと何かが走ったり倒れたりする音が第二部隊の宿舎から立て続けに聞こえてくる。

何事か と非番の人形が何人か様子を窺っているみたいだが、誰も扉を開けようとはしない。

それはそうだ、開けた瞬間顔面にGという名の古代生物が飛んで来られても困る。

気にはなるが、かと言って二次被害に合うのは嫌だとお互いに顔を合わせ、どうしようか……と悩んでいる様だ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 とりあえず声を掛けてみよう、と近くに居た娘に聞いてみるが、どうにも要領を得ない。 騒ぐ声が聞こえたから見に来たけど具体的な事は分からないという返答のみである。

致し方ないと一応ノックして自動扉に手をかけるとロックがされている様だ。

手元のタブレットを操作し指揮官権限で開錠を要求、部隊副長権限より上位者命令により承諾……

軽いモーターが動く音と共に自動扉が開く。

 

「フーッ!!」

「威嚇されているぞ?」

「……分かってる、とりあえず半包囲して逃げ場を絶たないと……」

 

 そこには無残にも倒された調度品や本棚、散らばった書類……荒らされた宿舎が広がっていた。

部屋の隅には何故か耳を逆立てて威嚇するG41、それを逃がさない様に両手を広げながらジリジリと距離を詰めるMG5にダネルという図であった。

……なんだこれ? それがこの光景をみた最初の感想であった。

 

 

時は少しは戻るが、本日の第二部隊は休日であった。

隊長であるFAMASはいつも通り指揮官の所へ向かったが、珍しくVectorも外出許可を貰い街へと出掛けていた。

丁度良い日差しにウトウトしたくもなるだろうが、窓際で本を読んでいたダネルは偶にはこんな日も良いだろう と休日を満喫していた。

元々騒がしいのは余り得意ではないし、一人静かに過ごす方が好きだが……

 

「やーっ!」

「待つんだG41、無駄な逃走は諦めて大人しくしろ!」

 

 前言撤回、何時も通り騒がしい事になりそうだ……部屋のドアが開かれ、外からG41とMG5が慌ただしく入ってくる。

G41はMG5から逃げているらしく、ピョンピョンと小柄な体を生かし脇をすり抜け腕を交わし、長身なMG5を翻弄する。

ただG41は逃げるのに、MG5は追うのに必死で気づいていないだろうが、彼女達が動き回る度に備え付けられた家具が倒れ、書類が散らばり本棚が倒され中身がMG5に襲い掛かる。

 

「いい加減にしろ! 休日だと言うのに仕事を増やして……何が原因なんだ!」

「むっ……居たのかダネル、丁度良い手伝ってくれ」

「ダネル、MG5が無理やり飲ませようとするの! お願いだから逃げるの手伝ってよー!」

「お互いに手伝って欲しいと言われても私は一人しか居ない! 兎に角落ち着いて話を聞かせてくれ……」

 

 MG5もG41もお互いに牽制し合っている為、私の方を見ようとはしない。

別の場所でやっているのなら関与しない、又は落ち着くまで暴れさせても構わないと思うのだが……

ここは私達の宿舎であり、解決しない限り被害は増え続けるだろう。

お互いの中間に入り、双方とも落ち着く様に声をかける。

 

「G41に増幅カプセルを飲ませようとしているのだがどうも嫌がるんだ。 苦いとかどうとか……」

「嫌よ、そのカプセル苦いんだもん! 前に甘いって言ってたのに騙されたんだから!」

「味がしないからと噛み潰す奴が居るか……それに薬は苦い物だ」

 

 薬は苦い物だ、と告げられた時のG41はショックを受けた様な表情であった。 口を半開きにし絶望した様に眉を八の字に下げている。

……まあ、ここまでの話的に私がどちらの味方をするかは決まった様なものだ。

 

「……とりあえずの話は分かった。 MG5、手伝おう」

「ダネル!?」

「Good、良い判断だ」

 

 MG5と並ぶように立つとG41が更に怯えた様に一歩下がるが、この娘に増幅カプセルさえ飲ませてしまえばこの騒動は収まるのだ。

MG5が少しの間目を閉じて何かの処理をすると、宿舎の扉がロックされる。 これで逃げ場はこの部屋以外無くなった。

 

「さて……抵抗は無駄だぞG41、2対1で敵う筈も無い」

「……もう、本気で怒ったんだから!」

 

 G41の瞳が赤色に変わる……言葉通り、戦闘モードに移行したという事だろう。

……そんなにも嫌なのか、たかがカプセルを飲むだけなのに。

そんな考えをしたのが間違えだったのかもしれない、G41はアサルトライフル、私はライフルの戦術人形でMG5はマシンガンだ。 機動力に重きを置いて居ない私達はG41を捕まえられずにいた。

直ぐに終わると思った捕り物は修羅場となり、遂には総力戦だと言わんばかりの様を晒している。

 

「やーったらやーなのー!!」

「MG5、そっちに行った!」

「ハッハッハッ、任せ……ダメだ、早すぎるぞ?」

「何をして……っ! ええい、すり抜けられた!」

 

 最早何が可笑しいのか、MG5は笑いながら捕獲しようと腕を伸ばした所、身を屈め腕を掻い潜り走り抜ける。

私も捕獲しようとするが、足の間をスライディングしてすり抜けられる。 ええい、どうにもならないものか!

MG5と共に隅へと追い込むが、壁を背にしてG41は私達を威嚇する様に唸り声を上げる……なんだ、野生化してないか?

 

「フーッ!!」

「威嚇されているぞ?」

「……分かってる、とりあえず半包囲して逃げ場を絶たないと……」

 

 背後から空気が抜ける様な音が響いたのはその時だ。

振り返る余裕も無くG41を注視していた私達の耳に彼の声が聞こえる。

 

「……何が起こっているのかな? MG5、ダネル」

 

 

 

「……何が起こっているのかな? MG5、ダネル」

 

 部屋の惨状に頭を抱えたくなるが、とりあえずは現状を把握しなければならない。

蹴散らされた物を踏まない様に部屋の中へと進んでいく。

 

「ああ指揮官、すまないが簡単に説明だけするとG41が増幅カプセルを飲む事を拒んでいるのだ。 それをどうにかしようと私は追いかけている」

「私はそれに付き合っているだけだ、静かな休日を二人に壊されてはたまらない」

「……うん、大体分かったよ。 後は任せて……」

 

 この惨状が引き起こされた理由を知り頭を抱える。 増幅カプセルを忙しいからと理由を付けて自分で与えなかったのが悪かったと思っておこう。

真剣な表情をしているMG5とダネルを見てしまうと何も言えなくなる。

 

「ご主人様でも、嫌なものは嫌ですよ!」

「あはは……G41、無理やりには飲ませたりしない、約束するよ……ほら、おいで」

 

 MG5もダネルも身長が高い戦術人形であり、小柄なG41が追い掛け回される事は怖い事だったかもしれない。

こういう場合はまず警戒心を解く所から始めるしかないだろう。 両手を広げ、敵意が無い事を示しつつG41に近づいていく。

逆立てていた耳がゆっくりと落ち着いてゆき、目の色も赤から青へと戻っていく。

 

「……本当ですね?」

「うん、約束する」

 

 ポフッ と柔らかい髪の毛が私の腕の中に当たり、G41が身を預けてくる。 私は荒れ果てた部屋で床に物がない場所を確認し、胡座に座り込んでその上にG41を乗せる。

子供の頃、怖い夢を見た時やテレビを見る時良く父親の膝上に乗せてもらった記憶があるのだが、その時に感じた暖かさは安心感を得るのに十分だった。

膝の上に乗ったG41は頭を胸元に摺り寄せ、私の手を引っ張り抱き締める様に彼女の体の前でクロスさせる。

 

「んっ……はあっ、少し落ち着きましたよご主人様」

「おお~……流石だな指揮官」

「……やはり追いかけ回すのは失敗だったかな、獲物は絡め捕って仕留める方が……」

 

 パチパチと感心したように拍手するMG5に、ブツブツと先ほどの追いかけっこの反省をしている……筈だ。

獲物とか物騒な事を言っている気がするが……まあ気のせいだと思っておこう。

少し落ち着いた所で、MG5に話を振ってみる。

 

「MG5、増幅カプセルは今持って居るのかい?」

「ああ、とりあえず飲ませなきゃいけない分は持って居る」

「ん~……MG5、増幅カプセルの役割ってなんだっけ」

 

 何を今更? とMG5の表情が語っているが、微笑みながら目線をG41に向けると理解した様子で少しだけ頷いた。

恐らく彼女ならそれだけで理解できているだろう。 ダネルにも確認の意味で目線を送ると彼女も分かっている と言わんばかりに片目を閉じた。

 

「戦術人形の駆動部分や人工筋肉等の動きを補助、または補修する薬だ。 ある程度の期間を置いて飲んだ方が効率の良い動きが出来る。 勿論パーツ交換や定期メンテナンスでも可能な事ではあるが、予算が掛かるのが難点だな。 そういった意味では、指揮官に負担をかけない為にも定期的に摂取する方が助かるだろうな」

「……それだけではない、私達は何時戦場に身を置くか分からない身であり、メンテナンスを常に受けられる訳ではない……そんな時、増幅カプセルに含まれたナノマシンが補修したりしてくれる。 要は自分の為でもあるんだ」

「ううっ……それは分かってますけど……苦いのはやーなの……」

「いや、噛み砕かなければ苦くは無いのだがな?」

 

 ふむ……どうもG41も飲まなければいけない と言う事は理解してはいる様だ。 だがどうしても昔に経験した苦さが忘れられないらしい。

ならば記憶を上書きしてあげれば良い筈だ、飲み方を教えてこれが苦い物では無いと理解できれば次からはここまで強い拒絶反応はおきないだろう。

 

「MG5、水とオレンジジュースを貰ってきてくれるかな?」

「それならここの冷蔵庫にあるが……また何故?」

「飲み方さえ分かれば良いと思うんだ。 だからG41、私と一緒に頑張ってみないかな?」

 

 少しだけ強張ったG41の頭をポンッポンッ、と優しく撫でながら大丈夫だよ、と伝える様に少し体を抱き寄せる。 うーんうーんと唸りながら猫耳? を揺らし考えていたG41が私を見上げる。 頬が朱色に染まり目が潤んでいる事から、やっぱり怖いのだろう。

 

「……ご主人様と一緒なら、良いです……よ?」

「うん、ありがとうG41……MG5、カプセルと水を」

「ああ、了解した。 ほら」

「ありがとう、ほらG41、あーん……」

 

 MG5から受け取ったカプセルを摘み、膝上のG41に口を開けさせる。 背中を私に預け目を閉じ、舌を少し出しながらあ~っ……と口を開く。

摘まんだカプセルをなるべく奥の方に……

 

「はむっ」

「……何故G41は指揮官の指が抜ける前に口を閉じてしまうのだ?」

「分からん……だが羨ましい……」

「ダネル、何か言ったか?」

「いや……?」

 

 舌に置いた瞬間、G41の口が閉じられてしまった……ん~ワニだったかな、舌に触れると反射で口を閉じてしまう生物が居るとか居ないとか……何て考えてる場合じゃないか。

カプセルはそう簡単には溶けないだろうが、早めに飲ませないとまた苦い思いをさせてしまう。 ピコピコと機嫌良さげに動く耳が少しくすぐったいが、右手を引き抜き水の入っているコップを渡すと、両手でコップを持ち、コクッコクッと喉を鳴らしながら飲んでいく。

プハッ、と飲み終わった事を知らせる様に息継ぎをし、私を見上げながらニコニコと褒めて欲しそうにして居たので、口に含まれていない方の手で撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 

「あ~っ……」

「……あれ、あと何個あったっけ?」

「あと9個だ指揮官」

「これ、全部飲ませないとダメかな?」

「うむ、すまないが頼みたい……なにせな」

「なにせ?」

「FAMASが帰ってきた様だ、今すぐ片づけをしないと……」

「今すぐ片づけをしないと何でしょうか?」

 

 ピシリッ とMG5が固まり、ダネルの表情が消え落ち着きが無い様に目線が泳ぎ始める。 変わらないのはG41くらいで、私の腕の中であ~っ と3つ目のカプセルを飲み込んでいる所であった。

声のする方向を見ると、自動ドアの前でFAMASが笑顔で仁王立ちしていた。

 

「お帰りFAMAS、書類は問題無かったかな?」

「ただいま戻りました指揮官、特に問題なく受領されました。 早速で申し訳ありませんがMG5とダネルをお借りしても宜しいでしょうか?」

「あ~……うん、まあ手加減してあげてね? 半分くらいは私がカプセルを自分で渡して飲ませれば良かったのだと思うからさ」

「はあっ……分かりました、手加減は致します」

「ま、待ってくれFAMAS、私は……」

「……言い訳はしない、だからMG5よりは短くしてくれ……私は静かに過ごしたかっただけなんだ」

「なっ、裏切るのか!」

「問答無用です、お二方は私の私室へ同行して頂きましょうか? はい、早くしなさい」

 

 トボトボとダネルが先行し、MG5が何とかしてくれないか と言いたげに私に振り返るが……ごめん、これはどうも弁解できない。 ごめん、と手を立てて謝ると全てを理解したのか気落ちした表情でFAMASの私室へと向かった。

 

 

「……模様替えでもしているの?」

「そんな所だ」

「…………」

 

 夕方、宿舎に戻ってきたVectorが見たのは、表情が全く変わらず黙々と片づけをしているMG5とダネルだった。

MG5はまだ返事をする気力があるようだが、ダネルは目線を向けてくるだけで何も言葉にしない事から酷く疲れている状態だと感じた。

 

「指揮官は?」

「そこに居る」

「…………」

「ダネルはいい加減目線で話すのをやめな、私は分かるから良いけど……指揮官、ただいま」

「お帰りVector、休みは楽しめた?」

「そこそこ、探していた物は見つけられたし……ん、G41は寝ているだけ?」

「そうだよ、走り回って疲れたのかもね」

 

 スウッ……スウッ……と指揮官にその身を預け、腕の中で眠るG41……ん~……やはり噂は噂でしかない と言うよりは面白半分で誰かが広げただけだろうか。

 

「そう、じゃあ指揮官がG41に苦い物を無理やり飲ませている というのはただの噂だ と言う事か」

「……どういう事なの……?」

 

 指揮官がキョトン とした顔で私を見上げる。 やっぱり自動ドア越しに聞いていた耳年増達の仕業か。 とりあえず噂をまき散らしている奴を捕まえ、当事者から説明をして貰えれば誤解も解けるだろう。

 

「……いや、指揮官は必要な事をしただけだぞ?」

「そうだな、私達では出来ない大切な事をしただけだな」

 

 ……あ、こいつ等に説明させる事だけはやめた方が良いな。 ダネルは慣れた相手でないと口数が少なく言葉足らずになり易いし、MG5はわざと勘違いさせる様に誘導する可能性がある。

Vectorはそう判断したものの、自分も当事者ではないしFAMASが動いているのなら大丈夫だろう と静観する事を決める。

 

「いや、ただそんな噂が流れていると言うだけだよ。 FAMASに任せておけば大丈夫だろうから、私から報告する事は無い」

「はあ……まあ、Vectorがそう言うならそうなんだろうね」

 

 指揮官は私の言葉に安堵したように笑みを浮かべる。 少しは疑ったりした方が良いんじゃないかな……まあ、私もこの時FAMASが破損した備品や書類の確認で手一杯だと言う事に気付いておけば良かったんだけどね。

後日、G41やMG5にダネルが中途半端に指揮官を庇ったり説明不足で噂に信憑性を持たせちゃうもんだから、その事を知ったFAMASがまた笑顔で説教する事になるんだけど……まあ、私には関係のない事だからここで話を終えるよ。

 

 




 子猫や子犬は人懐っこい個体と気難しい個体がございますが、私の近くに居る猫・犬は無防備にお腹を晒してくる子ばかりでした……野生の野良猫、それで良いのかい……?


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G11 護衛任務?

 今回は数値系SSとして、なぁのいも(水上ナギ)さん(https://syosetu.org/novel/179060/)よりG11と数字を頂いています。




≪拝啓 桜が芽吹き、春の気配が漂う季節となりました。 本社におきましても新入社員が入社するに辺り……≫

 

 パソコン画面に並ぶ文字を淡々と読み上げていくが、季節の挨拶に始まり会社に新入社員が入る事や、今年の桜はどうのこうの……どうも上層部と言う物は対面を気にして肝心な中身を出し渋る傾向がある。

 

『指揮官、本部からの通達は読んだか?』

「現状読んでいる所ですが……ヘリアンさん、何と言いますかもう少しスマートになりませんかね? 装飾が多すぎて肝心の結論にたどり着くまでしばらくかかります」

『まあそう言うな、知っての通り民間軍事会社と言う物は金がかかる。 スポンサーから少しでも資金を引き出す為には見栄と言う物が必要なのだ』

 

 通信機器に映されるヘリアンさんについ愚痴を言ってしまう……失敗した、気が緩んでいる証拠だろうか? 幸いな事にヘリアンさんは気にしては居ない様で、会社にも会社の都合があるのだ と私を宥める様に説明する。

 世界がどの様になろうとも金は何をするにも必要であった。 それを稼ぐ為に人は働くし企業だって動く、現に私もそうして生きてきているのだから文句は言えないだろう。

 

「……気を使って頂いて申し訳ありませんっと、定例会議ですか」

『そうだ、今年は管理区画内の会場で行う予定だ。 注意書きにある様に護衛の戦術人形を1体選抜し報告しろ』

「この護衛人形の変更は認めない とは?」

『文字通りの意味だ、一度決めた護衛人形の変更は許可できない。 きちんと考えて選抜するんだ……迷っている様ならカリーナに相談してみろ、良い助言を貰える筈だ』

「了解致しました、決まり次第報告致します」

 

 通信画面からヘリアンさんが消え、先ほど読んでいた通信文に再度目を向ける。 定期報告会議への出席命令と護衛戦術人形を1体選別し会議開始2週間前には報告する事……また選別した戦術人形の変更は禁止、貴官が最も信頼する者を選別せよ と。

 

「最も信頼する……か」

 

 ヘリアンさんが迷うならカリーナに相談しろ、と言っていた筈だ。 私の中でも候補は数名が直ぐに出てくるがわざわざヘリアンさんが助言してくる程だ。 聞いておいた方が良いだろう。

 

「カリーナ、すまないが執務室まで良いかな? 次の定例会議での護衛について相談したいんだ」

『了解致しました! 準備出来次第向かいますのでしばらくお待ちください』

「うん、宜しくね」

 

 さて、カリーナが来るまでの間は書類を整理しておこう……

 

 

 

「お待たせいたしました、指揮官様!」

「お疲れ様カリーナ、わざわざありがとう」

「いえいえ、それで次の会議に連れて行く護衛についてですよね?」

「そうだね、何時もの通りだと思ったんだけど最も信頼する人形を選抜せよ。 なんて事が書いてあったかね、相談させて欲しいんだ」

「はい、とりあず戦績・普段の言動や指揮官様との交流等のデータや、私から見た時にこの娘達なら大丈夫だと思われる5人を選びました」

 

 小脇に抱えたファイルから写真とデータシートを取り出し私の前に並べていく……G11、PPK、Kar98k、M4A1、ST AR-15の5人だ。

 

「指揮官様でしたらどの娘も喜んで付いてきてくれると思われますよ?」

「そうかな……しかし選べと言われても」

「勿論、護衛無しという事は許可されておりません、それにヘリの搭載容量から1人以上選ぶ事も不可能です、ここは腹を括ってご決断を!」

 

 何故そこまで意気込まなければいけないのだろうか?

盛り上がるカリーナに対し、私の頭は妙に冷静に考えている。

キラキラした興味深々です! といった表情のカリーナを気にしない様に、背もたれに身を預け深く深呼吸する……

うん、やっぱり信頼しているのならこの娘だろう。

 

 G11 111

 

 

 

バタバタとローターが回る音が響く中、あたしは座り心地の悪い椅子に身を預けうたた寝をしていた。 また指揮官が隣に座っているのを良い事に、彼の腕辺りを枕代わりにしてみたが振り払う様子もない。

むしろなるべく動かさない様に、と気を付けながら今日の会議資料を再確認している素振りさえある。

 

数週間前、指揮官から御願いされた事は定例会議へ護衛として出席する事であった。 護衛……と言っても会議へ出る事は無い。会議の中身が最重要機密となる為、私達は近くの待機所で待つ事となる。

あたしが出席を承諾したのもここが大部分を占めている。 つまりUMP45やHK416に邪魔されず居眠りする事が可能だからだ。

……まぁ、小さい部分に指揮官があたしを選んでくれた という事も無くはない。 あたしで本当に良いの? と確認した時、G11が良いからこうしてお願いしてるんだ と言ってくれた。

その時は胸が温かくなる様な感じに、異常かと確認してみたが特に何も異常だと思われる箇所は無かった。

 

「G11、G11、そろそろ到着するから起きて……」

 

ユサユサ、と指揮官が肩を揺らす。 これがUMP9だったら頬を抓られながら横に引き伸ばされるのだが……ううっ、思い出したら抓られてないのに痛くなってる気がする。

 

「んっ……分かった」

「まぁ何も無いと思うけど宜しくね?」

「任せて、選ばれたからにはちゃんとやる」

 

 着陸前に自分の分身に問題が無い事を確認し、通常モードから警戒モードへと頭を切り替える。 さて……お仕事の時間だ。

ヘリポートに到着し指揮官とあたしの識別番号や声紋を確認され、さてこれから会議だ……という所で、護衛人形は何時もの待機所でなく別のルームへと案内される事になっていた。 本部の人間の案内に従って付いていくと……他の戦術人形も集められている様であった。

 

「さって、じゃあとりあえず各々は専属の人が付くから番号が振られている場所に座っていて下さい」

 

 ……専属? と疑問に思うが、どちらにしろ指示に従わないと話が進まないだろう。 指定された席に座ってみるとその横を固める様に櫛や化粧道具を持った人が……えっ?

 

「まあまあ、気楽にして下さいね~?」

「そうそう、素材は良いのですからすぐ綺麗になりますよ~?」

 

 ……それからは一方的な蹂躙戦だった。 来ていた上着やズボン、装備をはぎ取られ採寸通りだわ! やらお肌に化粧の乗りが良いわ! だの……無抵抗なのを良い事にあれよあれよという間にドレス姿へと変貌させられてしまった。

モスグリーン色で統一され、エンパイア型……肩口で揃えられた上着は動く事に支障を感じさせず、胸の少し下辺りから膝上までのロングスカートも走ったりする際には邪魔にならないだろう。 少し首元がスースーする気がするけど……

 

「はあ……会議が終わったと思ったら今度はパーティーか、それならそうと最初から通知してくれれば……っと、お疲れG……1、1?」

「ん……えっと、お疲れ?」

「あ、ああ……うん、お疲れ様」

 

 化粧や着替えが終わった時には会議が終わっていたらしく、案内に従って歩いていくと幾人かの指揮官に混ざって彼が居た。 どうやら私達がドレスに着替えている事やこの後にパーティーがある事もまったく知らされていなかったらしい。

私を見つけた時、彼の表情はポカン としたと思うと頬を朱色に染め視線を逸らした。 何というか分かりやすい……まあ、そんな表情を見ているのも新鮮で面白いのだが……無言で目をそらされたままと言うのは少し居心地が悪い。

 

「……指揮官、流石のあたしでも目を逸らされて無言なのは応えるよ……?」

「あ、ああ……ごめん、その、えーっと……綺麗だ」

 

 しどろもどろ、視線を彷徨わせていながら最後の言葉だけはあたしの目をしっかりと見て言うのは卑怯だろう。 自分の頬が熱くなるのを感じるが……聞きたい事は聞けた、これ以上ここに留まる必要は無いだろう。

 

「……ありがと、ただ会った時直ぐに言えないのは減点かな……」

「うっ……ま、まあ……見惚れていたんだよ、そう恥ずかしい事を言わせないで欲しい」

「ん……まあ、良いけど……とりあえず会場に行こう? そろそろ始まるはずだよ」

「もうそんな時間? ふむ……じゃあ、お手を頂けますかレディ?」

 

 先ほどの減点と言ったせいだろうか、彼は片膝を付き私を見上げながら手を差し出す。 これが廊下でなければ良かったんだけどなあ……まあ、あたし達にはお似合いかもしれない。 形式ばった事より実利を好むのだから。

 

「喜んで……エスコートを宜しく」

 

 そっと手を置くと、温かい手があたしの手を包み込んだ……

 

 

 

「……疲れた、寝ちゃダメ?」

「悪いけどもう少し頑張って、あとちょっとでラストダンスだろうからさ……」

 

 新年度の挨拶に続いて、立食形式で料理を楽しむ場とダンスホールに分かれてパーティーと言う名の情報交換、新任の戦術人形と顔合わせや新しい武器等の売り込みが行われている。

 指揮官も新型の戦術人形や、その他車両・基地防衛システム等様々な分野の人と話し、その中の何人かからダンスを誘われてもいた。 断るのも角が立つのだろう、私に伺うような目線を向けてくるので行ってきたら? と告げておく。 離れた所でも壁際に寄って指揮官を追尾していれば良い……そう思ったんだけど、壁際で一人寄りかかっているのを好機だと思われたのか私にもお誘いが掛かってしまった。

 仕方が無いと何人かの別部隊指揮官と踊ったが、殆どは引き抜きの提案だったり彼の情報が欲しい連中だった。 引き抜きに関しては404部隊の小隊長にでも言ったら? と流し、指揮官の情報が欲しいと言外、直接構わず告げてきた相手は全て顔をデータ照合にかけてUMP45に通信を送っておく。

 何回か踊って、指揮官と合流した時にはもうラストダンスの時間……そういえば指揮官はどうするのだろうか?

 

「もし宜しければ、ラストダンスを踊っては頂けませんか?」

「えっ……私ですか?」

「はい、宜しければ」

 

 考え事をし過ぎたのだろうか、俯いていた私の横で指揮官が声を掛けられている。 見た所新型の人形……おそらくSGだ。 ドレスに合わないI.O.P.所属を示す証が首元にかかっており、本日お披露目の花形だろう。

 ならば断わる理由もない、指揮官の対応から誘ってはいないのだろう。 わざわざ本日の花形が向こうからお誘いをしてくると言う事はそれ相応の理由と今後があるのだろう。

 

「申し訳ない、ラストダンスは彼女にと決めているので」

「そちらの……404の方と?」

「ええ、それが何か?」

「そうですか……いえ、申し訳ありません。 余計な詮索でした……残念ですが次の機会があればよろしくお願いします」

 

 ペコリ と頭を下げ、あたしを少し羨ましそうに一瞥し他の場所へと歩いていく……って、指揮官は良かったのだろうか? そんな事を考えている間もなく、指揮官はパーティーが始まる前の時同様、片膝を付いて手を差し出していた。

 

「……と、言う事でさ。 あまり恰好良くないけど、ラストダンスを踊っては頂けませんか?」

「あのさ……もう少し何て言うか、雰囲気とか……時間が無いのは分かるからまあ、良いけどさ?」

「あははっ、オッケーが貰えればこちらの勝ちさ」

 

 手を取り、ダンスホールの中央付近へと躍り出る指揮官。 左手はここで、右手はここ……と手の位置を教えてくれるが、踊り方なら民生時代の記憶から引き出せるので問題ない。 むしろ男性の踊り方をサポートしながら踊れる程度には動ける。

 音楽が演奏され始め、指揮官の動きに合わせる様に踊りだす。 彼は少し驚いた様な表情をしていたが、直ぐに笑みを浮かべる。

 

「良かったの? あのSGの誘い断っちゃって」

「ん? いや、だって君と踊る為にラストダンスが始まるまで横に居たんだからさ。 悪いとは思うけどこれは譲れないからね」

「……それに、あたしの所属は404だし……」

「言いたい奴には言わせておけばいい、私は君達を受け入れた時に交わした約束を違えるつもりはない。 と言うよりもだ、本部にG11を護衛にすると報告した時点で何も言ってこないんだから良いって事でしょ?」

「はあ……なんでそう言う事は恥ずかしい事に入らないのさ……」

 

 頬が熱くなるが嫌な熱さではない、あの新型SGより私を選んでくれた事が嬉しい。

ヘリアンも私がこの場に居る事は認めてくれているのだろうか……それとも、指揮官がまた何かしら手を回したのだろうか? まあ……良いや、誰からも何も言われないと言う事は探らない方が良いと言う事だろう。 そう言う事は45に任せれば良い。

 

「指揮官」

「ん?」

「~~」

「え? ごめん、良く聞こえなくて……何だい?」

 

 曲が終わる……その前に彼に伝えなければならないことがある。 ボソボソと呟く様に声を下げると、指揮官は無防備に腰を曲げ顔を近づけてくる。

そっと腕の制服を掴み、反射的に身を戻そうとする指揮官をグイッと引き寄せる。

 

「ありがと、あたしを今日護衛に選んでくれて……」

 

 驚いた顔で頬に手を当てる指揮官に微笑みかける。 指揮官の顔と同じ様にあたしの顔も紅いのだろうが……

 

「さっ、帰ろ」

 

 まだ茫然としている指揮官の手を引き、ヘリポートへと向かう。 基地に帰ったら何が待っているかも知らずに……

その後の話? うん……能面みたいな表情って……怖いよね、本当に……

 




なぁのいも(水上ナギ)さん、キャラ選択と数値指定ありがとうございました。


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耐久試験? 序章

 今回は説明回、次から試験をしていく予定です……思いの外長くなりそうでしたので分割して投稿です。


「やあ指揮官、あの時以来だね」

「……ペルシカさんです……よね?」

「ん? まあ何で此処に居るんだ とか16LABから連絡なんて無かった と言いたいのだろうけど本物だよ?」

 

本日の勤務も終わり、後は私室に帰ってのんびりしようか……そう思い、執務室のドアを開けた所にその人はいた。 いや、何で執務室の前で待っているんですか とか今何時だと思ってるんですか とかツッコミの言葉は幾つか浮かんできたが、ボサボサの髪によれた白衣を着込む彼女を前にしたらとりあえず置いておこうと思った。

I.O.P.の16LAB主任技術者殿が、前連絡も護衛も無しにこんな時間に突如現れるのだ。 何かしら重大な事件が発生したのかもしれない。

とりあえずは執務室に招き入れ、応接用の椅子へ迎え入れる。 その間彼女は物珍しそうに執務室を眺めていたが……備え付きの給湯室から前にVectorへ出したココアを入れて渡し、しばらく待っても話を始めないのでこちらから要件を訪ねる。

 

「えっと……ではペルシカさん、何か御用でしょうか?」

「うん、これは指揮官にしか頼めない事でね。 重大な事なんだ」

 

重大な事……と人差し指を突き立てながら彼女が真剣な表情を見せる。

思わずゴクリ と唾を飲み込むが、彼女には日頃から世話になって居る。 協力は惜しまないつもりだ。

 

「その重大な事とは……?」

「……例えばの話で聞いてくれ。 機械にはどの位の負荷まで耐えられるかという数値が決まって居てね、その数値の負荷を掛けてちゃんと機能するかを検査する耐久試験という工程があるんだ。 完成品のチェック、または試作品検査に該当するかな」

「は、はぁ……」

 

何故そんな話を? という疑問から生返事を返してしまう。 それにペルシカさんは頷きながら分かっているよとでも言いたげに続ける。

 

「うんうん、工学系の人間でも無ければよくは分からないだろうね。 まぁ製品が許容範囲内のストレス値に対し、有効にその機能を喪失せず稼働し続けられるか というテスト、または許容範囲外の数値に晒された場合にどのような事が起こるかの確認だ」

「えっと……何となく理解は出来ました」

 

私の言葉に、彼女は何となくでもいいさ と軽く返事を返す。 しかしそんな説明が必要で私ができる重大な事……とはなんなのだろうか?

 

「それで、私に何をさせたいのですか?」

「直結に言おう、AR小隊の敵になって欲しい」

「……それは無理です」

「んじゃ404小隊でも良いよ?」

「そういう問題ではありません……はぁ、あのですね、彼女達の敵になって欲しいなんてどうしてそうなったのですか?」

 

淡々と何故そうなったのか、どうしてそう簡単に言ってくれるのかと怒鳴り声にならないように丁寧に問い質す。 表情筋がひくつくのを感じるが、まだ冷静な面を保てているだろう。

AR小隊がダメなら404小隊でも良いよ と言うのも何処か論点がズレている、そういう問題ではないんだ。

 

「最初に言った通り、負荷試験を行いたいだけだよ。 彼女達のメンタルモデルにストレスをかけ、それがどのような反応を示すのか実験を行いたい。

君の基地で彼女達を預かっているだろう?そして彼女達から並々ならぬ信頼を得ている事もデータから判別できる。 だからこそ君でなくてはいけないんだよ指揮官。 他の人間だとAR小隊は兎も角、恐らく404小隊は平然と射殺する、敵は排除するのが彼女達だ」

「それは……」

「違うと言えるかい? 絶対にそれは無いと」

「……」

 

彼女の瞳が真っ直ぐに私を捉える……私は返答出来なかった。 何故、指揮官権限のうちの一つに、対人射撃許可命令権があるのか……又、人形の思考プログラム内に対人攻撃を行う迄のプロセスが組まれているのか 等だ。

それに404小隊は特殊な人形の部隊、敵が誰であろうとそれを押し潰し、排除して任務達成を第一とする部隊のはずだ。 一々対人攻撃を躊躇って逆撃を貰っていたら彼女達は今ここに居ないだろう。

無言を肯定と受け取ったか、それともそれ自身にはそれ程関心が無いのか、ペルシカさんはんんっ、と咳払いをし私の意識を思考の中から呼び戻す。

 

「まぁ良いんだ、それはさして重要な事では無いし、今議論すべき事でも無い。 話が脱線したがこれは負荷試験、つまりストレスをメンタルモデルに与えた時、どの様な反応を示すかの試験をしたいと言う事だ」

「私が敵対する事で、彼女達の感情が揺さぶれる と?」

「うん、そりゃーそうでしょ。 あんだけ扱いが難しい404小隊に、他も悪いが更に相性が悪いAR小隊を同基地に居させるだけでなく、殺気を出さずに口喧嘩する程度までに抑えてる。 その上で好感度も高ければまず間違いなく良い実験が出来ると思うよ」

 

そう太鼓判を押して協力して欲しそうにこちらを見てくるペルシカさん。 ただどうしても敵対となると……

 

「……しかし、私に彼女達を敵として見ろ と言うのは難しいです」

「んー……ま、そう言うと思ったからさ」

 

パチンッ と指を鳴らすペルシカさん。 その音と共に背後からウェルロッドが入室してくる。

この時点で私は席を飛び跳ねる様に立ち上がり、逃げ出そうとするが、私より瞬発力の優れたウェルロッドに組み付かれ行動を封じられる。

 

「指揮官、申し訳ありませんが大人しくして下さい」

「大人しくしろと言われて素直にそうなれば楽だよね……っ!」

「すみませんが、軽口も御遠慮下さい」

 

背中に組み付かれた腕が軽く締め上げられる。 痛みは微々たるものだが本気になれば骨を折る事も可能であろう。

……何故、基地所属のウェルロッドが指揮官である私に対してここまでするのかは分からないが。

 

「まぁまぁウェルロッド、私が頼んだ事とはいえ怪我はさせないで頂戴。 真面目なのは良いんだけどね?」

「はい、ペルシカリアさん」

「うんうん、素直なのは良い事だ。 それが仕事以外のプライベートな時間でもそうだと良いんだけどね」

「…………」

「それはどういう……痛い痛い!!?」

 

関節部が悲鳴をあげ、ウェルロッドの体が強く押し付けられる。 情けなく声を上げるのも仕方がないだろう、腕の骨が折れたら執務する所か普段の生活すらままならない。

 

「指揮官、そういう所だぞ? もう少し彼女達の気持ちに目を向けなさいよ」

「何が……」

「ウェルロッドが何で私に協力してくれるかとかさ、シミュレーションでも良いから抱き締めて欲しいなん」

「ふっ!!」

 

一体何が何なのだ…… 疑問に対する答えを得ることなく、意識を刈り取られる。悪い事にはなりません様に……まぁ、ペルシカさんが関わった時点でそれは無理か……

 

 

 

「対象が気絶しました、致し方ありませんので抱えて持っていきますね」

「気絶したと言うか、させたと言うか……ま、私は彼のデータが貰えれば何でもいいんだけどさ」

 

 うむ、たった一息で大きい怪我をさせることも無く指揮官を無力化出来るのは流石である。 最も電脳の方でエラー警告は出ているだろうから自分の権限を使って先程の攻撃は対象保護の為 という認証を通す。 顔を顰めていた彼女の表情が少し和らいだ事から効果はあるだろう。

 

「さって、早速LABまで運ぼうか?」

「了解、書き置きとかは宜しいのですか?」

「メールか何かで命令書を作れば良いさ、とりあえず他の誰かに見つかる前に急ご、面倒な事はゴメンだよ」

「了解です、では背を低くして此方に……」

 

 警備をしている人形や、整備等で残業している場所を潜り抜けヘリポートへ潜り込み、待機していた研究所所属のヘリへ乗り込み離陸する。 夜間用の為か駆動音は思っているより静かで、基地から森林地帯を越え管理区へと戻ってくる。

 ここまでスムーズに行けたのも、目の前のウェルロッドが協力してくれたお陰だろう。 少なくとも基地を警備している人形達の巡回ルートや、通信報告をリアルタイムで覗き見ながらヘリポートまで安全かつ素早く導いてくれたのだ。

 そのウェルロッドだが向かいの席で指揮官を横たえ、その頭を膝に置いている……要するに膝枕をしている状態だ。 後頭部に一撃を入れ意識を奪った事を気にしているらしい……気にするくらいならやらなければ良かったのに。

 

「大丈夫だよ、指揮官はそのくらいでどうにかなる人じゃないさ」

「……いえ、簡易的に触診しましたが怪我等はしていません。 ただ私の方に問題がありまして」

「問題?」

「はい……こうしていなくても良い事は分かります。 しかしこうしていると、こう胸の辺りが温かくなります。 数値的には特に何もない筈なのですが……こうして居たい そう思ってしまうのです」

 

 これは故障かバグでしょうか? そう不安げに問う彼女に私は自身の考えが正しかった事を確信する。 こうして人形達の感情プログラムへ自分の居場所を作り出し、必要とされると言う事は簡単な事ではない。

 

「それは君が答えを出さなければいけない事だ、ただ故障でもバグでもない事だけは保証してあげよう。 どういった答えが出てくるかは分からないけど……まあ、悩みなさい。 その方が君の為になるだろうさ」

「……はい」

「さって、そろそろ到着する。 運び出す準備をしておいてね」

 

 

 

「じゃあそこに寝かせておいて……そうそう、それで良いよ。 後は私がやるから」

 

 カタカタとコンソールを操作し機械を立ち上げ、プログラムを実行していく。 歯医者の診察台に似た椅子に指揮官を寝かる様に指示を出し、頭部を覆う機械を取り付け……ウェルロッドの表情が僅かに怪しげな物を見る表情になるがキニシテハイケナイ。

 パソコンを操作し体調や状態を示すパラメータを立ち上げ、不安げにしているウェルロッドから見える様に大型モニターへ状況を映していく。 白一色であった空間にコンクリート製の建物、木製の椅子や本棚等の家具から防御用の兵器等次々に配置され設定されていく。

 

「これは……訓練用のVR空間ですか?」

「お、流石に分かるかい? 今回は君達の基地を模倣して作ってあるんだよ」

「執務室まで正確に作られているなんて……いったいどうやって?」

「蛇の道は蛇さ、知らなくていい事もある……そうだろう?」

 

 ニヤリ と笑うとウェルロッドは少し悩んだ様だったが追及を諦めてくれたようだ。 何でもない、ただM4達の映像データや基地の竣工図を見て作り出しただけだ……違法性は無い、イイネ?

 そうこうしている間にも指揮官のデータを機械は収集し、VR空間に作り出した彼をコピーとして正しく機能する様に設定していく。 偶に診療台で寝ている本人が悪夢を見ている様に魘されているが直ちに影響はない……筈だ。

 

「後は作っておいた素体に人格を設定して……っと、これでヨシ」

「……これで正常に動くのですか?」

「ああ、その筈だよ……試しに話しかけてみるかい?」

 

 VR空間に配置された指揮官に起動命令を出すと、画面内の彼は執務机に置かれた書類を確認し始める……うん、見ている感じに違和感はなさそうだ。 ウェルロッドの質問にマイクセットを渡し、VR内の執務室へ通信を繋げる様に設定する。

 

「分かりました……こほん、指揮官、お疲れ様です」

『ウェルロッド? お疲れ様、どうかしたのかい?』

「いえ、火急の事ではありませんが次の作戦について……」

 

 画面内で指揮官が通信に気付き、手元のスイッチを操作してウェルロッドと話し始める。 少し驚いた様に言葉を紡ぐ所から、声や話し方に問題は無い様だ。 暫く雑談を交わし通信を終了したウェルロッドに感想を伺う。

 

「どうだった?」

「教えられなければ指揮官だと信じてしまう程でした……話し方や考え方もほぼ一致していたと思われます」

「ま、気合入れて作ったからね……よし、じゃあこの設定を保存して実験に移ろうか」

「指揮官に言われていた、AR小隊か404小隊……ですか、しかしどの様にして?」

「そこは抜かりなく、両方共今日はI.O.P.にて精密検査をしていてね、数か月に1回の定期検査だからスリープモードで待機している所さ。 そして検査は無事終了しているけどまだスリープモードは明日まで続くんだ……まあ、ここまで言えば分かるよね?」

 

 同意なしにやるんですか……という言葉は無視する、科学の発展に犠牲は付き物デース。 最もその犠牲を最小限にする為に、安全なここでやろうっていう意味はあるんだけどね。

 スリープモードに入っている404小隊の一人にアクセスし、仮想空間へデータを展開する指示を出して……ん~……まあ、最初はUMP45で良いかな。 宿舎に戻ったという体にして……よし。

 

「それじゃあ、実験スタート」

 

 さて、君はどんな反応を見せてくれるかな?

 

 




404小隊、AR小隊は書こうと思くつもりです。


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耐久試験? UMP45

 始まってしまった試験、止められないのは野望か、それとも欲望か。
猜疑に歪んだ視線が訴えかける、どう頑張ってもこれは貧乏くじだ と。
しかし彼を見捨てる事は出来ない、ならば皿事毒を食らうまで……


 状況1 UMP45 基地襲撃……

 

「んっ……?」

 

 微かな物音をセンサーが捕え自分の電脳がスリープモードから通常モードへと移行する……霞む目元を擦り、状況を整理しようとして違和感を感じる。 いつの間に宿舎に戻ってきたのだろうか? 確かI.O.P.の整備部門で精密検査を受けていた筈なのだが……

 

 そう疑問に思っていた所、部屋に設置されているスピーカーから警報音が鳴り始める。 この音は……接近警報!?

 

「9、416、G11応答せよ」

 

 即座に部隊内通信を立ち上げCALLするが……誰からも応答が無い?

 

「FAMAS、Kar、WA2000……誰か応答できる部隊長は居ない?」

 

 次に自分以外の部隊長を同じくCALLするが、やはり帰ってくるのは無音……そう、まるで自分以外の人形が全て破壊れているか、存在していないかのような無音状態である。

 

「指揮官、応答して」

 

『UMP45、こちら指揮官』

 

 指揮官へのCALLでは直ぐに指揮官が現れる。 相当切羽詰まっているのか、何時もの柔らかい微笑は浮かべておらず手元のコンソールを忙し気に動かし指示を出し続けている様だ。

 

「まだ無事だったみたいね、現状の報告をお願い」

 

『ああ、どうやら基地の防衛システムがシャットダウンされたらしい。 現状各部隊は基地外壁で防衛戦闘中だ。 数が多く少し押されている』

 

「了解、指揮システムには問題は無い筈よね? さっきから通信に誰も応答が無いのは……」

 

『妨害電波が出ている様だね、こっちも短距離しか通信ができない。 外で防戦している部隊にはドローンで中継しているが、それも撃墜されたら危険だ……対応を考えたいから一度司令室まで来て貰って良いかな?』

 

「分かりました、武装していくから少し待ってて」

 

 手早く身支度を整え、宿舎のガンラックより分身を持ち出す。 初弾装填良し、安全装置解除・・・・・・全て問題なし。

 

 宿舎を飛び出し小走りに基地内部を駆け出すと遠くから断続的な銃声が聞こえてくる、急がなくてはいけない。

 

 

 

「お、出てきた出てきた」

 

 基地の監視カメラを通した体で映された画面上でUMP45が基地内を駆け出す、窓の部分で身を屈めたり射線の通る広い場所を避ける等から相当訓練されている事が伺える。 既に基地内部のMAPを広げてどのルートが安全且最短時間で司令室にたどり着けるかの演算は終わっているのだろう。

 

「しかし危なかったね……やっぱり小隊長を務めるだけの事はあるよ。 少しでも違和感を感じたら冷静にそれを見極めようとするし……咄嗟に警報を鳴らして思考を中断させなければ実験も失敗だったかもね」

 

 コンソールを操作し、銃声や砲声が聞こえる様にすると少しだけ目線を動かし、直接的な脅威が無いかどうか、敵の位置は何処か、移動するべきか反撃するべきか瞬時に判断している。 UMP45を計測している手元のデータからはまだ異常と言える数値は検出されず、通常戦闘時程度のストレス値だと判断できる。

 

『指揮官』

 

『UMP45、お疲れ様……と言いたい所だけど状況はかなり不味い、外郭に敵部隊が取り付きつつある』

 

 そう考察している間にもUMP45は司令室にたどり着いた様で、彼女の呼びかけに指揮官が対応している。 戦術MAPを投影し、敵と味方の配置を図に示していく。

 

 画面上の指揮官とUMP45は普通に状況報告と意見交換をしているように見えるが……手元のデータが狂い始める、UMP45が感じているストレス値が上昇の傾向を示したのだ。

 

『外郭が突破されるのも時間の問題かも知れない、カリーナや他の基地に居る非戦闘員には退避命令を出している』

 

『指揮官、図から見るに敵の狙いは包囲殲滅。 一箇所でも突破された防壁はもう塞ぐ事が出来ない筈よ……指揮官も脱出するべきじゃないかしら』

 

『……それは最後の手段として考慮はしておくよ』

 

 何故ストレス値が上昇しているのか、その原因が分からないまま彼女達の話は進む。

 

 時間経過と共にプログラムは順調にその役目を果たし、VR内で砲撃が炸裂したのと同等の揺れが司令室を襲う。揺れに対し、身体を屈め揺れに対応する指揮官がUMP45を気遣う様に声掛けようとするが……

 

『4……』

 

『ああ、ごめん。 やっぱりこれ以上は無理、その口と声で私を呼ばないで』

 

 UMP45がUMP45の銃口を指揮官に突き付ける。 比喩でも揶揄でも無く、金色に輝く瞳に殺意を滾らせて……先程から話していた緊張しながらも柔らかい声では無く、敵に向けて吐き捨てる様に彼女は無理だと口にした。

 

 はっ……? と開いた口が塞がらない私の前で、彼女はそのトリガーを引き絞った。

 

 フルオート、マガジン内の全弾を至近距離から指揮官に叩き込む……冗談でなく彼の体はズタズタに引き裂かれ風穴が空いた体から鮮血が溢れ出す。

 

『あら、人間だったんだ……人間は最後まで聴覚が残ってるって言うから教えてあげる。 指揮官はね、脱出するのは最後の最後で私達が全滅するならそのまま玉砕する様な人よ。 私が脱出の選択肢を示しても、曖昧に笑いながら拒否する甘ちゃんなの。 声や姿を幾ら似せた所で、そう言った所は似せられないわ……私も舐められたものよね、そんな中途半端で私は騙されない』

 

 淡々と事務事項を伝える様に倒れ付す指揮官……いや、既に息絶えている素体に話しかけている。 至近距離からの銃撃にも関わらず彼女には返り血の1つも浴びていない上、足元に広がる血液すら触れない様にしている。

 

『最初からおかしかったよね、攻めてきているのが鉄血の連中だと言うのなら、奴等の通信が拾えないどころか雑音も無しに無音だってのもおかしいもの。 妨害されていると言っても、自分の通信まで妨害するバカは居ない筈よ。

 それにいくら日常生活が壊滅的な奴等とは言え戦闘に関しては一流、そんな奴等が私に救援要請も出せないまま全滅する筈も無い。 9が私の傍を離れる時に何も伝えない事も、416が戦闘が始まっているのに叩き起こさない事も、G11が宿舎で寝て居ない事も……落ち着いて考えれば考える程矛盾点が出てくるのよね……』

 

 ブツブツと状況を整理する為か、腕を組み片手を顎にあて考えを口に出していくUMP45。 うーんやはり性急過ぎたかなあ……と反省しながら、次の実験では気を付ける注意点として脳内にメモしていく。

 

『まあ良いや、どうせ今考えた所で仮説に仮説を重ねていくだけだし……ただ』

 

 データを収集している機器から警報音が鳴る。 これは……ハッキング警報? いや、まさか……

 

 額から嫌な汗が流れ固まる中、ゆっくりと彼女が顔を上げ、監視カメラの方へと顔を向ける……彼女は笑っていた。 口元を三日月形に歪め、金色の瞳に影を落としつつ真っ直ぐにこちらを見ている。

 

『モドキとは言え、指揮官を私に撃たせたのは……ゼッタイ二ユルサナイカラ』

 

 ピーッ っと心音が止まった医療機器の様な音がする。 UMP45のステータスを示していた画面がエラーを吐き、表示されていたデータが消え、朱い一文が表示される。

 

 ミツケタ と。

 

 

 

 私は即座に緊急停止ボタンを拳で叩き押し、UMP45とVR空間の接続を切断した。 削除される世界の中、彼女は笑顔のまま最後まで監視カメラを見ていた……まるで画面越しに私を覗き見る様に……嗤っていたのだ。

 

「……ペルシカリアさん、深淵を覗き込む時は深淵もまた私達を覗き込んでいる というたとえ話があるのですが……」

 

「だ、大丈夫よ。 VR内での記憶は持ち帰れない様にプログラムしてある。 例えあの場所でこちら側に干渉したとしてもその記憶を覚えていないのだから問題ない……ハズだよ?」

 

 ダラダラと冷や汗を流す私と、あの視線に中てられたのかウェルロッドは大型モニターと私を目線が落ち着きなく行き来する。

 

 ええい狼狽えるな、それでも戦術人形か!? 大丈夫大丈夫出来る出来る絶対出来る何でそこで諦めようとするんだ。 いざとなったらそこで寝ている指揮官を盾にO・HA・NA・SHIするしかない。

 

 あ、この人禄でもない事思いついたな という表情をウェルロッドが浮かべるが気にしてはいけない。 勘のいい戦術人形は嫌いだよ? どちらにしろルビコンの川は渡ってしまったのだ、どうせ怒られるのならば全員試して怒られた方が損はない!!

 

「……そういえばUMP45、指揮官モドキが敵対行動をとる前に気付いてしまったみたいなんですけど……それは良いのですか?」

 

「まあ、ストレス値は測定できたし経過も見れたんだ。 こちらの想定した過程を通らなかったとしても目的は達成できたのだから問題ないよ……まあ、あれはちょっと怖かったけどね……」

 

「ちょっと……?」

 

 あれでちょっとなのか と言いたげなウェルロッドに君達はもっと恐ろしい物と戦っているじゃないか と言いたくなるがそれは置いておこう、過ぎた事よりこれからの事を考えて行こう。

 

「過ぎた事を今考えたって無駄さ、今するべき事は次の実験を行う事だよ」

 

「今からでも遅くはないので中止するというお考えは?」

 

「無い、もう一度別の時期に指揮官を攫う事は不可能になるだろう。 そして正面から依頼したが今回拒否されているんだ。 ならばもうチャンスは今しかないんだ、≪何時やるの? 今でしょ!!≫こういう標語もあるんだ。 今更中止は出来ないのさ」

 

「はあ……分かりました、乗りかかったタイタニックです。 行く先が分かっていても最早降りる事は出来ませんのでお付き合い致します……その方が指揮官も守り易そうですし……」

 

 HAHAHA、私も護って欲しい物だよお願いだから……まあウェルロッドも実験の継続に納得してくれたようだし、次の実験を始めようじゃないか……UMP45の妹、UMP9の耐久試験を。

 




 試験結果は最後に講評として解説回を設ける予定です……ハイ。


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ST AR-15 ただ貴方に溢れんばかりの愛を囁く

 誰と話していたのか、何処で会話していたのかすら忘れましたが頭に残っていた単語が
AR-15に耳元で愛を囁かれたい という事だったので書き上げました。

 私はベトナムにもロシアにも行った事が無いから脳内で数字が見える幻覚も無いし、戦友が居ないのに見えると言う事はないのでアンシンシテクダサイ


「……良い天気だなあ」

 

 珍しく書類仕事が午前中で終わり、昼食を食べ終わった時間帯……休憩時間だからと応接用のソファーに身を預けて休んでいた私の耳にドタバタと廊下を走る足音が聞こえる。

 

 何事だろうか……そう思いながらも、春の涼しい風と温かい日差しに気が緩み頭がぼんやりとして眠気に負けそうになる。 また緊急の場合は警報か通信機が鳴るだろうと言う点もそうだが、季節の変わり目と言う物は体が疲れを感じやすいのだろう。

 

 うつらうつら と船を漕いでいると足音が近づいて来る事に気付く……目元を擦りながら扉の方に意識を向けると、ドアの蝶番が悲鳴を上げる勢いで開かれる。 その音量で驚き眠気が一息に吹き飛び霞んでいた視界が一気にクリアになる。

 

 ドアを蹴破る勢いで開けたのはST AR-15であった。 普段の彼女ならば執務室に入る前は必ずノックをする娘だし、逆にノックせず入ろうとするSOPMODⅡを注意する方であるはずだが……

 

「AR-15……? どうかしたのかい?」

 

 声を掛けるものの、俯いたまま無言で近づいてくる彼女。 カツ、カツとブーツが床を叩く音と自分の心音が執務室に響く。 無言のまま私の前に立つ彼女に心音が早くなるのを感じる……それはそうだ、こういう場合は大抵怒っている事が多いからだ。

 

 AR-15が爆発する事は時たまある、殆どの場合はそうなる前に小言と共に注意してくれるのだが……重大作戦で少し徹夜した事が怒られたのは記憶に新しい。 何が彼女の琴線に触ったのかは分からないが、爆発される前に謝る内容を探った方が良いだろう。

 

「えっと……AR-1」

 

「指揮官」

 

 ソファーから立ち上がろうとした所で彼女が私を呼ぶ。 その声は想像していたより柔らかく怒っているというよりは……

 

「あははっ、しきか~ん!」

 

「……はいっ?」

 

 満面の笑みを浮かべながら彼女は私に飛びついてきたのだ。 突然の事で態勢を整える事も出来ず、彼女の成すがままにソファに押し倒される。 花のような香りがするのは石鹸か……宙に浮いた両手をどうする事も出来ず、首の後ろに回った両手の温もりも耳元にかかる湿った空気も、頬を掠める長い髪も……全てが夢でなく現実であると言う事を示している。

 

「ふふっ、指揮官……愛しています」

 

「はいいい!!??」

 

 耳元で囁かれる言葉が自身の理解を超え……いや、言っている意味は分かるのだが何故そう言われているのかが分からない。 引きはがした方が良いのだろうが、かなり強い力で抱き締められているので敵いそうにない。

 

「指揮官! すまないがAR-15が……って遅かったか!」

 

「あ、ああ……うん、AR-15がどうかしたか教えてくれるかな、M16」

 

 打つ手無し と途方に暮れていた所、再度ドタドタと廊下を走る音が聞こえ開けっ放しであった執務室の扉にM16が現れる。 ちっ と舌打ちしながら遅かったか という言葉に事情を知っているだろうと説明を求める。

 

 M16は頭を掻きながらどうした物かな と数秒悩んでいた様だが、意を決した様にその名を口にした。

 

「ペルシカ」

 

 魔法の言葉である。

 

「うん、全部分かったし直ぐにどうにかできないと言う事も分かったよ……あれ、M4やSOPMODⅡは?」

 

「ああ……まあ、ペルシカにO HA NA SIがあるって言って16LABの方に向かったよ……笑顔で」

 

「……自業自得かな?」

 

 はあ……とため息が双方共に示した様に合わさって口から出ていく。 お互い大変なようだ。

 

 

 

 その頃のM4さん達。

 

「や、やあM4……あのだね、これはちょっとした手違いであって決してワザとではなくてだね。 まあ落ち着いてコーヒーでもどうかな? やはり冷静になって考えて貰えないと単なる八つ当たりに起因する怒りと言う感情も生まれるだろうから」

 

「ペルシカさん」

 

「はい」

 

「こうなりたくなければ正座」

 

 早口に捲し立てるペルシカにM4は笑顔を張り付けたまま取り付く島もない様に切り捨てる。 彼女が聞きたいのは言い訳でも謝罪でもなくただAR-15がどうしてああなってしまったのかであり、それは1秒でも早く知らなければならない事だ。

 

 故に最初に一撃を加える。 背後に控えていたSOPMODⅡを前に出し、SOPMODⅡはM4に促されるまま左手の鋭い爪でリンゴを握り潰し右手に持ったコップにその欠片と果汁を満たしていく。

 

 それを目にしたペルシカの行動は素早かった。 椅子から立ち上がろうとした状態から膝を床に落とし両手をその上に乗せる。 怒っている事を理解したからだ。

 

「宜しい、ではお聞きいたしますが何をしたのですか?」

 

「素直になれないのならと、冗談半分で精神が子供になる様に感情モジュールを調整した。 これは時間で正常に戻る様に設定してあるから明日の朝には元に戻ると思う」

 

「強制的にプログラムを修正する事は」

 

「不可能だよ、急激に感情モジュールを調整したら自分を見失いかねない。 見失ったら最後、自我が崩壊するまでトライ&エラーの繰り返しでオーバーフローする」

 

 冗談半分で と言っていたが、彼女が何かしらAR-15を思いやってこうした事は分かっている。 何だかんだ言いながらも彼女は私達を大切にしてくれていると言う事は本当は分かっているのだ。

 

「はあ……分かりました、ではAR-15はとりあえずこのまま……」

 

『指揮官、何故M16に意識を向けるのですか? 私を見て下さい……』

 

『わああっ!? 分かった、分かったから頬を舐めないでくれ!!』

 

『何やってんだよお前!! あとそれは別のARの口癖だろうが!!』

 

 M16から通信が送られてきているらしく、肩に装着された通信機から指揮官の悲鳴とM16の叫び声が聞こえる。 その瞬間のM4は目が座っており〈あ、これもう絶対許されないわ〉 と覚悟を決めたと後に語られた。 隣に居るSOPの目元に光るものがあった事から、この圧力は私の勘違いでない事を理解する。

 

「ペルシカさん」

 

「YES,Ma`am」

 

「急用が出来ました、今すぐ基地に帰還しなければなりません。 現状はこれ以上追及致しませんが次回があるとは思わない事です。 宜しいですね?」

 

「YES,Ma`am」

 

「SOPⅡ、今すぐ帰りますよ……え、ヘリがまだ整備中? ならば陸路でも構いません……敵地の中央を突っ切る事になる? ソレガナニカ?」

 

 うーん育て方間違えたかなあ……正座しながら去っていくM4の背中を見送るペルシカ。 その際目線で救援を求めるSOPMODⅡから視線を逸らす。 誰だって逃れた射線に再度躍り出る事はしたく無い。

 

 呪ってやるうう!! と何か聞きなれた少女の声が聞こえるがアーッアーッ聞こえない聞こえない。 だって……

 

「誰か助けて……」

 

 私も足が痺れて動けないのだから……

 

 

 

「離れろおおお!! AR-15おおお!!」

 

「嫌よおおお!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!!」

 

 柔らかく生暖かい舌で頬を舐められた後、M16も手加減をする必要が……と言うよりは我慢の許容限界を超えたのか、AR-15を私から引きはがそうとするがAR-15がそれに全力で抵抗する。 首に回していた腕に力を入れ私から意地でも離れない様にしようとしている。

 

 ここで困るのは私だ、AR-15の両腕が離れまいとギリギリと締め上げてくるので胸部が圧迫される。 前面に覆いかぶさっているAR-15、背面はソファーと逃げ場がない。

 

 更に力を入れ引き離そうとしたM16の手がAR-15の掴む場所を変えようとしたその一瞬の隙をAR-15は見逃さなかった。

 

「ふっ!」

 

「なっ、ゴハッ!?」

 

 腹部に良いストレートを貰ったM16が執務室から廊下の壁へと吹き飛ばされる。 恐らく人形同士である為人間相手にはかかるセーフティーが掛からなかったのか、壁に打ち付けられたM16が呻き声をあげるものの立ち上がれない様だ。

 

 少し待っていて下さいね と耳元で優しく囁いたAR-15が私から離れドアの方へと向かう。

 

「……ごめんねM16、でも指揮官とは離れたくないの」

 

「A R……15、お前 なあ……手かげん、しろ よ……」

 

「ごめんなさい、でも今は邪魔されたくないの……埋め合わせは後でするから、じゃあ ね」

 

 執務室のドアを閉め、横に据え付けられた端末に手をかざし何かの操作をするAR-15。 電子ロックを示すランプが点灯し出入口が閉鎖した事を理解した。

 

「じゃあ指揮官、続き……させてもらいますね」

 

 ニコニコと最初の様に笑いながら再度私の頬に自身の頬を触れさせるAR-15。 きめ細かく柔らかい肌の感触を感じながら私はこれからどれだけ自分の我慢が続くかの耐久試験を行われる事になるようだ。

 

「指揮官……愛しております」

 

 零れる吐息に囁かれる儚げなAR-15の声、潤んだ瞳を眼前に何処まで耐えられるかは……神のみぞ知る。




 OK、AR小隊好きな人は落ち着いて欲しい。 うん、すまないまたST AR-15なんだ。
そろそろ指輪のM4A1はまだか、そもそも耐久試験のUMP9書いているのかと言いたい事も良く分かっております。

Hai! GWは3日しかなかった上に初日が仕事でお呼び出しされたからでふ!! チマチマ書いているので許してください……


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UMP40 運命に付き合って

 閲覧前に注意

 このSSは現在進行形のイベント内容を含む可能性があります。
ネタバレ・性格の不一致等がある可能性がありますのでご注意ください。


 どうしても彼女を編入したかった とだけ言い訳を……



 ピーッ……音声記録を再生致します。 再生番号……

 

 これで合ってるの? まあ良いわ、現状の報告を致します。 分散された情報の搔き集めが完了……メンタルモデルの再構成に成功しました。 また現状での義体再生成進捗状況は良好、既に最終シークエンスへ移行中です。

 

 プログラムの書き換えも既に完了、計画は最終段階へ移行している事を報告致します。 後は……何も知らない奴等にやらせるだけで、おにんぎょうさん達が勝手に処理してくれるでしょう。

 

 ……了解致しました、では……

 

 

 

「はあっ……はあっ‥…!!」

 

 雑木林を疾走する……自身の体から悲鳴が上がる事を自分自身分かっているが、足を止める訳にはいかなかった。 後ろから同じ様に草が掻き分けられる音がする……ガサガサと、その下にナニカが居るのだぞ と存在を主張する様に。

 

 何故こうなってしまったのだろうか……私自身、やはり組織ではお荷物でしかなかったのかな? 初の実戦でそのまま見捨てられるなんて……戦術MAPを読みだそうとしても、現れるのはNot found……通信機器も既にザーザーという砂嵐の様な音しか聞こえない上に通信ログも真っ黒に塗りつぶされており、既にあたいは存在しない人形になっている……

 

 あたいは作られてからそう間もない戦術人形だけど、どうやら型が古いらしくネットワーク戦用のデータでリソースがほぼ埋まってしまっているらしい。 武器の扱い方も、戦闘移動も全てにおいて現行機に劣っている。

 

 なら何故あたいは創り出され、武装を施され、そして……今こうして戦場を駆けているのだろうか? 分からない……分からないけど、それすら分からないままやられてしまうのだけは嫌だな。 いや、今はもう何もかも分からないのだ。 最初の命令が示していた地点に向かうしかない……それが敵に追撃されている状態であったとしても。

 

「……あっ……!!」

 

 足が上手く動かなくなってきたかな、そう思う間もなく植物に足を取られて転倒する。 銃だけは手放さなかったのは意地か、それとも鈍器の代わりにはなるだろうと思ったからだろうか……

 

 ガサガサ という草を掻き分ける音に、金属が擦れる音が混ざって聞こえてくるのが分かる。 距離を詰められているから……タンッ と地面を蹴る音が断頭台のギロチンを落とす音に聞こえる……嫌だ、嫌だ嫌だ……壊されるのは怖いよ……誰か、助けてよ!!

 

「ひっ……!」

 

『そのまま伏せて居ろ!!』

 

 通信モジュールから誰かの声が聞こえるが、言われなくても転んだまま自分は一歩も動けない。 放り投げ出さなかった銃を胸元に抱えるのが精いっぱいだ。

 

 甲高い銃声が聞こえるとほぼ同時に、飛び上がった何かが空中ではじき返される。 連続する銃声に目の前の空間を幾つかの線が通っていく……銃撃されている様だ、後ろから追いかけてきていた何かが。

 

 数分だか、数十秒だかは分からなかったが銃声が停止する……ガサガサ と今度は逃げようとした方向から草を掻き分ける音が聞こえる。 起き上がり、咄嗟に銃を構えようとして……失敗する。 スリングが引っかかって上手く銃口を上げられなかったのだ。

 

「……大丈夫か?」

 

 そう声を掛けてきたのは、大型の狙撃銃を持ったピンク髪の人形……銃口はこちらに向けているが、撃つ気は無いのかトリガーから指は放している。 コクコクと頷き、銃口を見つめると彼女はそれに気付いた様で少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「すまないな、鉄血に追いかけられていたから敵ではないと思いたいのだが……確認の為だ。 所属と名称を教えてくれ」

 

 所属……そう言われても、あたいも何処から来て、何処に行けば良いのかすら分からない。 もしかしたら見捨てられる前なら分かったのかも知れないが、今では全て真っ黒に塗りつぶされてしまっているのだ。

 

「所属は……ごめん、あたいにも分からないんだ。 もう全部消去されちゃったみたいでさ。 あ、名前なら分かるよ? あたいは……」

 

 

 

 戦術人形 UMP40

 

 その名前が見えた時、彼女は今まで見た事が無いくらい取り乱した。 その名は本当なのか? 無事に生きているのか?? そう何度も問いただしてきた。

 

 現地で簡易検査を行い、今は基地の修復施設に収容し治療を行っているよ。 そう伝えると居ても立っても居られなくなったのか、執務室のドアを蹴破る勢いで走って行ってしまった。

 

「……あ、待ってよ45姉!!」

 

 パタパタとその後を妹であるUMP9が追いかけ、呆れた様にため息をついたHK416が、途中から立った屍と化しているG11を引きずりながら執務室を出ていく。 その際、ドアを閉めようとしたが蝶番が壊れているらしく、ガタガタと音を立てて無理矢理ドアを閉めて行ったのだが……何が彼女の琴線に触れたのかは分からない。

 

「……UMP45があれ程感情を表すのは初めて見たね」

 

「ええ、少なくともこの基地に預けられてからは初めてですね……私の記録にもありません」

 

 嵐の去った執務室で、副官のFAMASと私は呆然と彼女達を見送った。 救難信号が発信されているとの連絡を受け第二部隊を出撃、対象を救助したまでは良かった。 現地から所属不明、グリフィンのデータベースに登録されていない戦術人形を保護したとの報告を聞くまではだが……

 

「カリーナ、保護した娘はどうですか?」

 

『はい、とりあえずの外傷は修復が完了致しました。 身体的には問題はありませんでしたので、現在内部データベースを洗い出してメンタルモデルに異常が無いか等の検査を行っております』

 

 カタカタと手元のコンソールを操作しながら、後方幕僚であるカリーナが通信機器に現れる。 どうやら今は修復施設に居るらしく、真っ白な壁で覆われた部屋が背景に映し出されている。

 

 どうやら外傷は既に修復されたらしいので、あとは内部に問題が無ければ戦場で救出した人形として本部に報告し、書類提出をする事で指揮下の人形に登録が出来る。

 

「了解しました……ん?」

 

 収容したUMP40も問題は無さそうだと判断し、さてでは書類整理を行おう……そう思った指揮官の画面に個人呼出しが掛かる。 それも会話ではなくチャット型式の物で暗号強度は高ランク……差出人は今目の前で話しているカリーナだ。

 

 呼び出しに答え、画面の目立たない場所にチャット欄を広げカリーナに報告を促す。 わざわざ文章に残しつつ、メール等の返信がリアルタイムでない物を選ばない事から緊急を要しつつも、指揮官としての判断が要求される案件なのだろう。 口頭では責任問題に発展した場合の保障が無いが、こうして文章に残せばデータとしてやり取りしたという証拠が残せる。

 

≪指揮官様、これから報告する事は守秘義務の項目に当て嵌まります。 守秘事項の漏洩は厳罰を持って処理されますのでお気をつけ下さいませ≫

 

≪構いません、続けて下さい》≫

 

≪……UMP40戦術人形ですが、I.O.P.管理下施設外で製造された疑いがあります。 現在内部構成機器を調査中ですが、製造証明のシリアルナンバーが全て偽造コードです。 また、メンタルコア付近に現行機に無いブラックボックス化された情報媒体を確認しました。 解析を行おうと思いますが……メンタルコアは彼女の生きた証そのものです≫

 

≪つまり繊細に、脳手術をする様に神経を使う作業だと言う事ですね……時間はどれくらいかかりそうですか?≫

 

≪……現状、解析を開始して常駐プログラムに監視命令を出すのが精一杯です。 専用施設で無ければこれを処理する事は不可能だと考えられますわ≫

 

 さて、そうなってしまうとI.O.P.本社の方にメンテナンスに出さなければならない……だが、違法製造の可能性が高い人形をそんな場所に送ったらどうなってしまうか そんな事は考えなくても分かる。 十中八九解体される未来しか見えない。

 

 UMPと名前が着く事から、恐らく404小隊のUMP45、UMP9と関係がある人形なのかもしれない……いや、あの取り乱しようから確実に関係者だろう。 送るわけにはいかない。

 

≪……報告書の偽造が必要ですかね?≫

 

≪指揮官様!? ……仰っている事の深刻さは理解されていますよね?》≫

 

≪理解しています。 救助を求めていた戦術人形を1体、無断で保護しそれを協力業者であるI.O.P.に報告しないのは違法行為だと言う事くらいね≫

 

≪なら何故……≫

 

≪……UMP45がね、この名前を見た時普段では想像出来ないくらい取り乱したんだよ。 その名は本当なのか、無事なのか……ってね。 それがどうしたんだっていう指揮官も居るだろうけどさ。 あんな45を見ちゃったら……ねえ?≫

 

 何時も世話になっている事だし、少しくらい無理してだって守ってあげないと と思うじゃないか。 そう告げる私は、他の誰かから見れば大馬鹿野郎なのだろう。 だが……まあ、そういう人間が居ても良いじゃないか。

 

≪はあ……このやりとりは文章として保管されます。 現在の所報告の要無しと判断されますが、然るべき場合には責任は全て指揮官様が負う事になりますよ?》

 

《正式命令として発令します。 本件は私の独断で指示し、指揮下の者全ては私の命令に従ったに過ぎず、責は全て私の任とします。 それに……何も手立てを使わないとは言っていませんしね? それなりに裏で手を回しますよ》

 

 文章として正式な命令書を発行する宣言を出せば否応なしである。 呆れたと言うよりは、しょうがないなあ……という表情を浮かべているであろうカリーナに、その内ちゃんとした謝礼を送らないといけないかな。

 

≪了解致しました指揮官様、とりあえずこの件は内密に処理しておきますわ……それと、修復施設へご足労頂きたいのですが宜しいでしょうか?≫

 

≪少し待って欲しいけど……どうしたんだい?≫

 

≪……UMP45 戦術人形が、電子ロックを強引に破ってしまいましたので、復旧許可の申請書とお見積りにサインを頂きたいのです♪≫

 

 ……これ、必要経費で落ちるのかな? そう思いつつもとりあえず書き終えた報告書を添付したメールを送信しながら立ち上がり、重い足を引きずる様に修復施設へと足を向けるのだった。

 

 

 

「うっ……ううっ……4 0……U MP……40……っ!!」

 

 再起動した時、聞こえてきたのは誰かの泣いている声であった……何でだろう、初めて聞いた声の筈なのに何処かあたいの中でその声の主は泣かせてはいけない と何かが叫んでいた。

 

 各部チェック……オールグリーン、修復完了。 胸部に圧力を検知……起動準備完了。

 

 ゆっくりと瞳を開けると、見知らぬ天井であった……って、そりゃそっか。 起動してからまだ3回目のスリープモードだしね。 ただほの暗い最初の目覚めとは違い、今いる場所は明るく清潔感が漂う医務室の様だ。 顔を少し上げ、胸部を覗き込んでみると月を彷彿させる瞳と目が合った。 目元からは幾筋も洗浄液(疑似的な涙)が流れた後があり目元が赤く泣き腫らした様になっている。

 

「えっと……あの、大丈夫かい?」

「……うわああああん!!!」

 

 え、ええ?? と頭の処理が追い付く事無く目の前の少女はあたいの首元へと抱き付き、そのまま大声で泣き始めてしまった。 何かしでかしてしまったのだろうか? いや、ただ声を掛けただけで何もしていないし……そもそも、この少女とは初対面だ。 もしかしたら誰かに似ているのだろうか?

 

 だが目の前で泣いているこの少女をそのままにしてはいけない。 それだけは良く分かっている……壊れ物を扱う様に頭に両手を添え抱擁し、ゆっくりと落ち着く様にその髪を剝いていく……あ、ちょっとだけ引っかかる。 多分外部に出ていたのかもしれないね。

 

「ん……何があったかは分からないけど……大丈夫、大丈夫だよ……」

 

 あたいの声を聞いて、更に胸元が濡れる様な感覚が増えた様だが……まあ、多少はしょうがないかな? こんなあたいでも誰かの涙を拭う事くらいは出来るのかもしれないし……気が済むまで泣かせてあげよう。 何となくだけど、目の前の娘はずっと頑張っていた様な感覚があるからね。

 

 

「ねえ、指揮官……」

 

「ん、分かっているよUMP9。 暫くはそっとしておこう……」

 

「ぐすっ……ありがとう、指揮官……」

 

 修復施設にたどり着いた私にUMP9が揺れる瞳で見上げてくる。 感情を押し殺してきたUMP45があの様に泣く事は殆ど無かったのだろう。 貰い泣きをしながら9は自身の袖で涙を拭いながら感謝を伝える9。 見積書と修復許可の書類を確認しながら、廊下で施設内を覗き込んでいた404小隊の面々と響く声に耳を傾けていたのだが……

 

「……ありえない、そんな事……」

 

 ぼそり と呟くようなHK416の声に気が付き、そちらへと視線を向けると大きく目を見開き、見ている物が信じられないと言ったありさまである。 どういう意味で……そう問おうとしたが、やる事が出来たわ と告げて速足にその場から駆け出してしまった。

 

 追いかけようかとも思ったが、ニコニコをした表情で目が笑っていないカリーナの前から逃げる事は出来なかった。 修復施設の機密ドアが破壊されているので、衛生部門から苦情が上がってきているらしい……しかも廊下の外部に接した部分だから余計に性質が悪いとの事だ。 今でも職員が衛生状態を保持しようと消毒を行ったり機密を保つようビニール等で囲いを作ったりと後始末に追われている。

 

 仕方がない……責任を取るのが私の仕事だ。 そう気を持ち直し、自身の仕事を果たす事にする。

 

 

 

 ピーッ……音声記録を再生致します。 再生番号……

 

 作戦は順調に推移しているな……全く、こんな手がかかるとは思っていなかった。 それに粗悪品とはいえ、あんな物を作らなければならなかった事自体気に入らない。

 

 まあ、どちらにしろこれで……後はその時を待てば良い……ふふっ、神に唾吐く背信者共め、己の手で滅ぶが良いわ。 その時が来るのが楽しみだ……

 

 

 

「指揮官、これはどういう事なんだ!」

 

「どういう事だ とは?」

 

「UMP40と呼ばれる戦術人形の事だ! あれが基地に配備されているなんて聞いてないぞ!!」

 

 I.O.P.本社でのメンテナンスを終えたM16A1が帰還してくると即座に執務室へと駆け込んできたのだ。 普段怒りを出さない彼女がこれほど怒る事等珍しい事である。

 

 副官として控えていたFAMASが間に割り込もうとするが、手で制して控える様に伝える。 何か言いたげではあったが、言うとおりにしてくれた。

 

「通達はしていたよ。 基地内部での極秘情報として だけど」

 

「ああ、確かに着いた時に内容は確認したさ。 だがそれが極秘事項だと言う事は何故なんだ? あの戦術人形が以前どんな事をしたのか知っていて……!!」

 

「以前? M16はあの娘を知っているのかい?」

 

 報告ではUMP40はグリフィンのデータベースに登録されていない事が確認されている。 とある人物に確認を取った所、昔は存在していたかもしれない……という非常にはぐらかされた答えを頂いた所であった。

 

 そんな中、M16はUMP40を知っている様な口ぶりで私に怒鳴り込んで来たのだ。 そこから彼女が何者であるか確信を得られるかもしれない……そう期待したのだが、M16は私の反応に冷や水を浴びせられた様にしどろもどろに口内で言葉を濁す。

 

 いや……だの、それは……と、何時もはっきりとした物の言い方をする彼女にしては酷く言葉を選んでいるように思える。

 

「……すまないが、その事は答える事が出来ない。 これは機密事項に係る事だ……だがこれだけは確実に言える。 指揮官、アレは指揮官に害を与えるものだ。 404小隊は監視さえしていればまだ許容出来る、HK416は捻くれただけだから修正は容易で無いが可能だ。 だがアレは……」

 

 確かにM16が言う事も理解は出来る。 所属不明、構成パーツは違法品だらけ、オマケに存在しない小隊絡み……慎重な者でなくても関わりたくない事は一目瞭然だ。 だけど……

 

「M16、心配してくれてありがとう……でも、あの娘の扱いは変わらないよ。 ここで保護する」

 

「……理由は?」

 

「UMP45がまるで童みたいに泣いてたんだよ、あの娘の前でさ……そう、あのUMP45がだよ? 君も知っての通り、何時も張り詰めた様な感じで、誰にも内側を見せない様な娘がさ。 私も安心できるようにと思って色々と手は打っ付ているんだけどさ……何だろうね、やっぱり色々と敵わない事って沢山あるよね」

 UMP40は多分45の中心を支えてくれているんだと思う。 だからさ、もうあの娘は引き離せないよ。 私が私である為にも……私が指揮官として何がしたかったのか、忘れて無い為にもね。

 

 そう告げる指揮官に、私はもう何も言えなかった。 この人は常にこうだ、行動した時には全てに覚悟を決めている。 過去を悔やむ事があったとしても指揮官として常に前に前にと引っ張ろうとしていく。

 

 危うくて仕方が無い、目を離すとそのまま横で撃たれているかもしれない。 そう思わせるからこそ、彼の周囲には人形が集まるのかもしれないが……そうなって欲しくは無いんだ。

 

「分かった、ならもうこれ以上何も言わない……だが指揮官、貴方には何人もの部下が居るんだ。 そいつ等は貴方に命を預けている……貴方に何かがあったら、そいつ等も一蓮托生になってしまうんだ。 それだけ忘れないでくれ……そして、もしもの時は躊躇うんじゃないぞ?」

 

「あぁ、分かっている……つもりだよ」

 

 つもりだよ の部分は、恐らく自分に言い聞かせる為だろうか その時だけ彼の瞳は揺らいでいた。 無意識にだろうが頬をかき、右腰に付けられた銃を確認する様に撫でた……そう、それは飾りじゃ無いんだ。 危機が迫ったらちゃんと撃つんだぞ? それが例え……部下であったとしても……

 

 さて、気分を切り替えてゆこう。 確か次の作戦は北部の無人工場地帯の探索だ……5日は帰れないだろう。 指揮官、その間無茶はするんじゃないぞ?

 

 

 

「……っ……?」

 

 初めは違和感から始まった。 視界がぼやけ、体の奥底が熱を持った様な感覚……目の前のUMP45が何かを言っているのだがそれが何なのかが分からない。 姿勢制御の機能が停止……あ、駄目……

 

 

「UMP40!?」

 

 恐れていた事態が発生したのがUMP40を保護してから3日後か……早すぎず遅すぎずかな。 目の前で崩れ落ちるUMP40を抱えつつ、私はカリーナをCALLしていた。

 

「40! 40!!?」

 

「落ち着いてUMP45、強制自閉モードに入っている……簡易スキャン……監視プログラム情報の検索を……」

 

 予測は出来ていた。 人が碌な休息を取らずに正常に判断できるのは2日までが限度だ。 3日以降は思考が短絡的になったり怒りやすくなったりと異常事態に陥る。 かと言ってそれ以降では仕込まれた情報媒体が解析される可能性がある。 現に監視プログラムから引き抜いた情報でこれが鉄血側の物である事が今日判明した。

 

 強制的に自閉モードに入ったのは何らかの攻撃を40の電脳が受けている状態だからだろう……どれくらい持ち応えられるかは分からないな。 既に防壁が何か所も破られつつある……

 

「……ごめんなさい」

 

「気にしないで良いよ。 大切な娘なんでしょう? 取り乱すのも仕方がないさ」

 

「情報処理と解析なら手伝えるわ。 データを回して貰っても良い?」

 

「宜しくお願いするよ、正直手が回り切らない……ただ、情報は隔離して処理をして。 鉄血の技術が使われている」

 

「……屑鉄共が」

 

 流石は電子戦用の戦術人形だ。 手伝って貰う事によって少なくとも作業効率は4倍にまで跳ね上がった……まあ、私が情報戦が得意ではないと言う事もあるのだろうけれども……さて、UMP45と協力して整理した情報を整理しよう。

 

 1つ、今起こっている状況はメンタルモデル付近の情報媒体から行われている侵攻プログラムである事。

 

 2つ、恐らくそれはメンタルモデルを書き換え、鉄血側へと裏切らせる行動を行おうとしている事。

 

 3つ、外部から介入する事はほぼ不可能、現状はUMP40の内部防御機能で書き換えを妨害しているが……少しずつ防壁が削り取られつつある。

 

 そして最後、UMP40が乗っ取られた段階で電子戦特化型である彼女に基地機能は奪われる。 UMP45が対抗できるかもしれないが、まず間違いなく鉄血の攻勢が始まるだろう……それに、乗っ取りのプログラムがネットワークを通じて他の戦術人形に感染しないと言う保証はない。 今はUMP40が自閉モードでネットワークから遮断されているから感染しないのかも知れないが……

 

「……じゃあ、他に手は無いのか……?」

 

「残念ですが……私達が出来る事は……」

 

 合流したカリーナと纏めた情報を見返してみるが、打つ手なしという答えしか出てこない。 場所を指揮所に移し正確に情報を精査しようとしたが……基地のネットワークを使う訳にはいかず、個人用の端末で操作するしか無い為、時間がかかるだけで進展が無い。

 

 ならば……もう、破壊するしかないのだろうか? いや、だが……

 

「指揮官」

 

「UMP45……」

 

「404小隊長として進言します、直ちにUMP40を破棄するべきです……そうでなければ、貴方は全てを失います。 この状態に対応するには……UMP40戦術人形の中に侵入し、データ空間で鉄血の侵攻プログラムと戦い、その書き換えを阻止し相手側の機能を停止させる事です。 これははっきり言って賭けです、そこまでベットして得られるのはUMP40という戦術人形1体のみです」

 

 淡々と表情を読み取らせない口調で事実のみを告げる。 その口調に迷いは無い……今の彼女は影の小隊長だ。 心を殺し、ただ状況に対しどう対応すれば良いかを考え発言する。

 

「……でも、私として発言が許されるのなら……信じて。 私を、私達404を……お願い、指揮官……」

 

 ギュッ と硬く手を握り、縋る様に目線を私に向ける45……そういえばちゃんと言った事は無かったかもしれない。

 

 そっと頭に手を乗せ、彼女の髪を整える様に撫でる……今更何を言ってるんだろうと少しだけおかしくて笑ってしまった。

 

「今更疑うものですか、信じますよUMP45。 作戦を許可します。 私が出来る事なら全て行いましょう」

 

「……良いの? 失敗したら命は無いかもしれないよ?」

 

 私から見て今ここでUMP40を見捨ててしまう事はベターなのかもしれない。 自分の命、部下の命、守備している管理区の住人の命……何気なく背負っているものが、改めてずしりと感じる気がした。 だが……

 

「良いよ、君達なら信じれるから」

 

 ビクッ と彼女の体が跳ねる。 ポタッ、ポタッ……と床に何かが落ちる音がしたが、ポンポンと頭を優しく撫でる事以外はしない……良いんだ、偶には振り回してくれったって。

 

「行こうUMP45、あの娘は待っているんだろうからさ」

 

 

 

 グリフィン戦闘報告書 第〇△×基地

 

 当該基地において鉄血より受けた襲撃に関するレポート

 

第〇△部隊の哨戒任務中、管理地域において友軍戦術人形を救出。 該当人形がデータベース内に存在しない事によりこれが何らかの策略であると判断。 当基地所属指揮官は上級指揮官・及びI.O.P.技術部への問い合わせと当基地で処理する事を提案。 これを承認され……

 

 

「……つ、疲れた……」

 

 カタカタと報告書を打つ作業をひと段落させ、腕を伸ばし凝り固まった筋肉を解す。 詰んである書類はまだまだ高く、いくら処理してもその数は減りそうにない……これに普段の報告書・整備状況や陳情・管理区からの警備状況等が増えていくのだ。 カリーナが普段から仕訳したりしてくれているとは言え対処しきれるものではない。

 

「しきか~ん? 情報整理に有効な戦術人形は如何かしら?」

 

「私も私も! 如何~!」

 

「副官としても完璧な私が、貴方の書類仕事を完璧にサポートするわ」

 

「ねむ……いけど、戦うよりは楽だから手伝うよ……?」

 

 執務室のドアが開き404小隊が姿を現す。 何処か柔らかい雰囲気で私を気遣っている様な感じがした。

 

「でもさ、その前に……」

 

「新しい家族の紹介かな?」

 

 コツ、コツ……と床をブーツが叩く音が聞こえる……どうやら義体の方は上手く馴染んでいる様だ。

 

「UMP40、ただいま参上~! 指揮官、改めて宜しくね」

 

「改めて宜しくお願いします、UMP40」

 

 太陽を思わせる様な笑顔を浮かべ私と握手するUMP40。 だが握手してから彼女は中々手を離してくれない……どうしたのだろうか と思っていると、少し不安げに彼女は私を見上げてきていた。

 

「あ、あのさ……あたい、新しい義体に組み替えて貰ったのは良いんだけど……その、射撃とか戦闘移動とかその辺りのデータが全部旧式で新しく取り直さないといけないんだ。 それで……多分、いや、絶対戦術人形としての役割をまだ果たせないと思う……それでも、それでも……あたいはここに居て良いのかな……?」

 

「UMP40……」

 

 戦術人形は人間の代わりに戦う事を求められている……碌に戦えない彼女に、その存在意義はあるのか? そう不安になるのは仕方のない事であろう。

 

「そうだね……じゃあ、次は私がお願いする番かな?」

 

「お願いする……?」

 

「うん、お願い。 UMP40、私を信じてくれませんか?」

 

 にっ と微笑むと、彼女はポカン と呆けた様な表情を浮かべたが……言葉の意味を理解すると、微笑を浮かべた。

 

「変な指揮官……でも、信じるよ! まだ上手く出来ないかもしれないけど……絶対力になるからさ!」

 

 そう力強く笑う彼女に、もう不安は無かった……

 

 

 

 戦術人形 UMP40についての報告書

 

 当該基地において回収されたUMP40戦術人形は、前事件〇△×当時に酷似しているが類似機体として再生産されたものと判断される。 問題なのは当該基地に404小隊が預けられており、既に接触済みであった為これを極秘裏に破棄する事は不可能であった。 廃棄を強行した場合、404小隊の使用が不可能、反逆の可能性が大である。

 

 また、指揮官よりも申請があり彼女の再構成を受け入れる事とする……これで会社への忠誠を稼げるのならば安い物であろう。 彼はAR小隊・404小隊を我が社に繋ぎ止める優秀な楔となっているのだから……

 

 また、義体を再構成時全てをチェックしたが事件当時の記憶は見つからなかった。 これらの事柄からメリットとデメリットを換算し、I.O.P.において義体を再構成。 行動のすべてを指揮官の責任とする事で手打ちとする。

 

 疑問点への調査依頼

 

 UMP40戦術人形が再生産された施設の調査・違法パーツの流出経路・及びメンタルモデルの再構成を如何にして行ったのかの調査を意見具申致します。 大型の組織が動いている可能性大……

 

 

 報告書 No.000193937564  作成者……

 

 

 

 ピーッ……音声記録を再生します……暗号解読……記録ナンバー……

 

 

 クソックソックソッ! 何故だ! 何故失敗した!! 奴らの言う通りやったのに……あんな捨て駒を作るのにどれだけ苦労したか……

 

 それは残念でしたわね。

 

 何を人事のように! 元はと言えばお前があの人形ならば同士討ちさせられると!

 

 ええ、残念ながら……非常に残念ながら、貴方達では役者不足だったみたいですわね。

 

 何を言って……

 

 いえ、相手が悪すぎただけですので貴方はお気になさらずに……そして役目を終えたマリオネットは操者の手で舞台から降りるのですわ。

 

 っ!! ま、待て!! まさか……貴様は!!

 

 人間とは愚かな者……忌み嫌っていた者すら、恨みの感情の前では歪んで見える。 私の正体に気付かないままよく手の平の上で踊って下さいました。 私、嘘はついておりません……人形(ひとがた)同士、殺し合って頂けたらと思いましたのにねえ!

 

 

 PAN! PAN!!

 

 

 失敗した? いいえ、威力偵察としては十分すぎる戦果ですわ……戦力の見積もりが甘かった事も……いいえ、戦力の見積もりは間違えていなかった。 別の観点からは特異点があった……成長した? nein、成長もしたでしょうが予測数値を超えすぎている。

 

 人間が? もし人間の指揮官を得たのが原因だとしたのならば……? ありえないと一笑するか、それとも……

 

 ……楽しくなりそうね……

 

 ……音声記録の再生を終了致します……このデータは再生後、削除されます…… 

 




 イチャイチャは次にするから許して下さい……


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Kar98k 静かな湖畔の森の陰で

ドウシテコウナッタ karは静かに壊れそうだと思ったらこうなりました。 推しの人ごめんなさい……
イベントですが、そろそろランキングに突入しようと思ってますが……よし、とりあえず突撃しようか!(強行偵察 威力偵察部隊)
Twitterでネタを呟いてはまとめ切れていないという……全部仕事が悪いんです


 貴方は目が覚めると同時に心地よい風を感じた。 昨日の夜は空調を付けたまま就寝したのだろうかと些か不安になるが、瞼の裏から優しい光が注がれている事に気づいた。 おかしい、自分の部屋はカーテンに仕切られ日光は届かない筈……意を決し、目を開くとそこは見なれた基地の私室では無く、ログハウスの様な木製の家具が多く設置された個室であった。

 

 見慣れない部屋に困惑する貴方、涼しい風は開け放たれた窓から入り込んでいるらしく揺られた薄手のカーテンがゆっくりと揺らいでいた。 ここまで来ると多少は落ち着く物で、先ずは自身の確認をしてみようと思った。 少なくとも衣服に乱れはなく、昨日就寝時に着ていた服装のままだ。

 

 クローゼットの中になにかあるだろうかと確認してみると、ピシッとアイロンをかけられたであろう白いYシャツに黒のズボン、靴下を発見した。 驚く事にサイズはピッタリである……怪しい事この上ないが、寝間着のまま動き回るよりは良いだろう。 着替えて脱いだ物は折りたたみ、寝ていたベットの上にとりあえず置いておく……何故か視線を感じたが、その方向には誰も居ない……

 

 さて、これで歩き回れる服装にはなっただろう。 武装が何も無いのが心許ないが……とりあえず先程からたなびいているカーテンの着いた窓から外に出てみよう。 カーテンを端へ寄せ、開いたままの窓からベランダへと抜ける……どうやら、ログハウスらしいというのは正解のようだ。

 

 木製の丸太を組み合わせて作られた物の用であるが、経年劣化などは見られない……よく手入れされているものだと思える。 欄干に手をかけ、体重を預けてみても木材独特の軋み音は出るが、それは緩みやガタから来ているのではなく膨張や縮小を計算して作られた遊びなのだと理解が出来る。

 

 さて……現実逃避はここまでとしよう。 周囲を見渡してみたが森、森、湖……自分が所属していた基地にも庭園や中庭はあったのだが、こんなにも大自然に囲まれた場所では無かった。 映像でしか見た事の無い景色に、一瞬心を奪われるが同時に恐怖を感じた。 そう、何故このような場所に連れてこられたのか と言うのと、自分以外にも誰か居るのか という点だ。

 

 カタン と硬い何かが木を打つ音がした。 ここは目測だが3階の様で下の階にログデッキのような物が見える。 もしかしたら誰かが下の階に居るのかもしれない……人である保証は無いが。

 

 ……だがここでずっと外を眺めている訳にも行かない。 貴方は1度室内に戻り、反対側にあったドアを慎重に開け様子を伺う。 蝶番が僅かに金属音を上げたが、それ以外は鳥の囀りしか聞こえない中、自分の足音と心音が耳朶を打った。

 

 廊下は薄暗いが、キャンドルを模した照明が点っており足元に特別注意を払わなければならない程では無かった。 人2人は通れる横幅の壁向かい側にもうひとつ扉があり、左右どちらにもそれ以外の扉は無さそうである。 壁を目で追いかけていくと、下へ続く階段があるであろうスペースを確認できた。

 

 ギシッギシッ と木独特の軋みを上げながら貴方は階段があるであろうスペースまで進み、予想通りあった階段を降りていく……2階だと思われる場所は広いリビングの様であった。 正面にダイニングキッチンがあり、清潔感が感じられる……恐らく、手入れはきちんとされている様だ。

 

 物音がしたログデッキが見えた方向を振り向くと、こちらに背を向け誰かが湖畔の方を見ながら椅子に座っているようであった。 物音がしたのはあの人物が何かしら動いたからであろうと想像に容易い。

 

 貴方は覚悟を決めて、背を向けている相手にゆっくりと近づいていく……遠目にでも見える流れる様な銀髪が、座っている人物は女性の様に思える。

 

 Kar……? 呟くように問うた声が目の前の人物に聞こえたかどうかは知らないが、その声に反応する様に振り返る。

 

「おはようございます、指揮官さん」

 

 戸惑う貴方に、彼女は何でもない様に微笑みながら朝の挨拶を告げる。 返事をすれば良いのか、迷いながらも挨拶を反射的に返す貴方は育ちが良いのかもしれない。

 

「はい、おはようございます……それにしても、随分と長い時間寝ていらしましたわね……やはり疲れていらしたのかしら?」

 

 クスクスと笑う彼女に、情けない部分を見られたと謝罪するが、彼女はむしろそういった弱みを見せられる相手にして欲しいと言う。 と和みそうになるがそうは言って居られない、ここが何処なのかkarは知っているのだろうか?

 

「ここは何処……ですか? そうですね……森林地帯ですわね」

 

 冗談を聞きたい訳じゃないんだけど……と困った様な表情をすると、彼女はあら、冗談ではありませんでしたのにとキョトン とした顔で返事をした。

 

「まあまあ、そこにお座りなさいな」

 

 対面の座席を指さし、彼女は座る事を勧める……カフェテーブルには湯気を立てる珈琲が置かれていた。 彼女の目の前にも同じ物が置いてあり、それを時たま口に運び少しずつ飲んでいる様子であった。

 

 致し方ない、はやる気持ちはあるが座らないと話してくれそうに無さそうだと判断した貴方は椅子に座る事にする。

 

「ここは何処 という質問でしたわね。 ここはS〇〇区域、ポイントX2501 Y1108ですわ」

 

 脳内で告げられた座標を展開してみると、基地から遠い事に気付く……先ほどの室内にも時計らしきものは見当たらなかったが、日差しからもう10時は回っているだろう事が容易に想像できた。 兎に角基地に連絡を取らなければ……

 

「連絡方法ですか? 何故その様な事を気にするのかは分かりませんが……連絡も何も出来ませんわ? 私に搭載されている通信機器も全て妨害されておりますもの。 何をしても無駄ですわね」

 

 ……では待って欲しい、つまり今ここには私と君しかいないのか……? 何故……

 

「何故こんな事を? だって指揮官さん、私に指輪を渡しておきながら私以外に目移りするんですもの……」

 

 そう彼女は左手、薬指に付けられた指輪を愛おし気に撫でる……確かに彼女とは誓約を交わした仲であり、他の戦術人形とは交わしていない、それ故に特別な存在である。 だからこそ彼女以外を副官に据える事は無かったのだが……

 

「お気になさらず、貴方にとって指揮官という業務上仕方のない事だとは分かっておりますので。 前線で盾となっているMP40の頭をご褒美に撫でる事も、確実に相手を削っていくStG44が貴方の傍に近づこうとも、それは仕方のない事……そう我慢しておりましたのよ?」

 

 磁器の合わさる音がする……彼女がカップを置いた様だ。 俯いたままで彼女の表情は分からない……

 

「指揮官、私ずっと我慢しておりましたの。 他の人形に貴方が笑う事も、貴方が手を繋ぐ事も、話す事も食事をとる事すら……ですが、これ以上我慢していては自分が自壊しかねないという判断が出ましたの。 だとしたら、もう我慢せず行動するしかないと判断致しました」

 

 二コリ と彼女が笑いながら顔を上げる……赤い瞳が自分を捕えるが、その目が澄んだ色では無く……血の様な紅であった……

 

「だから、私以外誰も居なければ…ね? 貴方は私を頼らざるを得なくなる、私以外に気を配らなくて済む」

 

 ゴトリ と彼女が拳銃をテーブルの上に置く。 グリフィンから支給されている銃ではない、貴方が個人的に持って居た護身用の物だ。

 

「基地に向かいますか? 生真面目な貴方の事です、それも選択肢にありますでしょう……ですが、ここからでは汚染区域を通らなければならない上に、湖面から発生する霧が視界を遮り、凶暴化した野生動物、鉄血の部隊……それらを越えなければなりません。 貴方一人で出来ますか?」

 

 クスクスと笑う彼女……答えは出ている。 不可能だ、拳銃一丁に装填できる弾薬ではどうにもならない。 だが、それなら彼女に向けると言うのはどうだろうかっ!

 

「ああ、それで私を脅すと言うのも選択肢にはなりませんわ。 だって……貴方になら、私は殺されても満足ですもの。 あらあら、何故かと聞きますの? だって私が居なければ貴方は何処にも行けません、食料は愚か、水だって……湖畔の水が使えるだろう? おやめなさいな、化学兵器と細菌で汚染された物を飲めるとでも? 私が浄化しなければ水分補給だって出来ませんもの。 つまり私が先に逝くか、貴方が後から追いかけてくるかの違いだけですから……」

 

 ねえ、指揮官さん。 だからもう諦めなさいな……もうここから出る事もしなくて良いのですから。 私を頼り、私の事だけを考えて過ごして下さいませ。 私は貴方を見捨てませんわ、従者を養いそれに恵みを施すのも主人の責務ですもの。 だから……ねえ、今まで他の人形にしていた事……それ以上の事を私にして下さいませ。 もう、我慢する事は出来ませんから

 

 茫然とする貴方を、Karは優しく抱きしめ口付けを交わす。 もう二度と手に入れた貴方を離さないと言わんばかりに

 




ネタは多いのですが、纏めきれないという……申し訳ないです、気楽にお待ちいただければと思います。


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Kar98k 言葉で伝えなくても

 ダミーリンクシステムのお話です。 この頃ライフルの話ばかり書いている気がします……?



 メインシステム、通常モードで起動致します……おはようございます、Kar98kダミー二号機が起動致しました。 オリジナル一号機、応答をお願い致します。

 

 ……? オリジナル一号機、応答を……応答なし、システムを非常モードに切り替え自立行動へ移行します。 事前行動は……メンテナンスを受ける為、基地修復施設においてスリープモードに移行。 予定終了時間は20:00予定……現在時刻は19:00?

 

 はあ……成程、どうやら係員の方がメンテナンス時間を設定し間違えたみたいですね。 瞳を開け周囲を確認すると、メンテナンス台に繋がれた自分達が瞳を閉じて眠っている姿が見える……どうやら、設定をミスされたのは私だけの様ですね。

 

 さて困りました、オリジナル機はメンテナンス中で命令を発信出来ません。 非常モードはオリジナル機が命令を発信出来ない状態……つまり破壊されたかそれに近い状態の場合、命令を受信するだけのダミー人形にデータをコピし、それを持ち帰る事を目的に設計されています。

 

 その為会話をする機能はありませんし、意思や行動もオリジナル程考えられません。 ダミー人形の存在理由がオリジナルを守護し、その命令に従い敵を撃ちオリジナルの代わりに敵に撃たれ……まあ、そう言う事ですから。

 

 鉄血の部隊も、敵が人間かそれとも私達人形かによって戦法を変えてきます。 人形はダミーを多用しますが、ダミーは痛みを喚きませんし、負傷したからと言って撃たれた個体の性能は低下するでしょうが命令が無い限り後退しません。

 

 しかし人間は違います、どこか撃たれたら痛みによって集中力は削がれますし、血液を失う事によって死を恐れます。 どんなに訓練された兵でも恐怖という心を蝕むモノには勝てません。 そして恐怖は伝染し、あっという間に部隊を壊滅させます。

 

 鉄血はそれを理解しています、人形を撃つときは急所である頭部か関節部、又は腕を狙い戦力を削る事に集中しますが、人間を撃つときはわざと急所をわずかに逸らします。 なるべく痛みを感じ、喚かせ、周りの人間に恐怖を感じさせる為に。 勇気ある兵は負傷兵を助けようとするでしょう、即死でなければもしかしたらと、急所から外れているのだから助かるかも と。

 

 ジリ貧です、救助するには一人の兵に最低二人は取られます。 戦力は倍算でドンドン減っていきます。 かと言って見捨ててしまったら兵は命令に従えなくなります。 次見捨てられるのは自分かもしれない という疑心暗鬼から……

 

 そういう意味でも、人形と言う戦力は便利なのかもしれませんね。

 

 閑話休題、気を取り直して今状況を指揮官に報告しなければいけないでしょう。 執務室に向かわなければ……会話が出来れば、室内の内線電話が使えるのですが無い物ねだりはしない方が良いでしょう。

 

 時刻的には夕方、夕食を終えた人形達が自由時間を過ごしているか自己鍛錬をしている所でしょうか? すれ違う人形が昼間より多い事が観測されます。 基地の廊下を執務室に向け歩いていきますが、何人かの戦術人形が不思議そうな目でこちらを見ているのが分かります。

 

 最も、話しかけられたとしても私に応答する事は出来ないのですが……ネットワーク通信機能もオミットされていますからね。 オリジナル機との短距離通信が出来れば戦闘に問題はありませんから。

 

 さて、執務室前に到着しました。 コンコンッ と二回ドアをノックし指揮官の返事を待ちます。 彼は他の上官みたいにぞんざいにおう、やら入れ でなく、どうぞ と返事をします。

 

「あれ? Kar……メンテナンス中じゃなかった? どうかしたのかい?」

 

 書類仕事をしていたのでしょう、ペンを片手に手元の書類へサインをしている所でした。 見た所副官の戦術人形は居ない模様です……さて、どうしましょうか? 勢い余って報告しなければと思い、こちらにまで来ましたが報告する術を考えてきていませんでした。

 

 副官が居れば、何らかの意思疎通ができるかと思いましたが……致し方ありませんね。 言葉で伝えられないのならば体で表現するまでです。

 

 

 

 思えば、執務室に来た時から少し不思議な感覚はしていたのかもしれない。 Karは礼儀と規則を守る方であったから、入室を許可した時に返事をしなかった事に多少の違和感は感じていた。

 

 どうかしたのかい? 私がそう聞いても、彼女は何時もより少し柔らかい笑みでニコニコ微笑んでいるだけであった。 その内、何かを考えているのか僅かに首を傾げながら人差し指を口元に当て、ユラユラと少し揺れている……いったいどうしたのだろうか? まあ……見ている分には可愛いから何も問題は無いのだけれども。

 

 さて、問題は彼女が何故来たのか と言う事だろう。 メンテナンスに何か問題があったのだろうか? いや、問題があったのなら内線か通信機器を使えば良い筈だ。 なら……何だろうか?

 

 コツコツとブーツが床材を叩く音がする……考える事を一旦止め、彼女の方を向いてみると私の隣にまで来ており、やはり無言で私をニコニコと見ているだけである。

 

「Kar?」

 

 彼女が私の手を取り、手のひらに人差し指で何かを書き始める……くすぐったいが何を書いているのかは何となく分かる……私 ダミー オリジナル メンテナンス プログラムミス……どうやらこの娘はKarのダミー人形の様で、何らかの手違いによってメンテナンスが早期に終了してしまい、こうして私に報告しに来てくれたらしい……

 

 成程、ダミーには最低限の機能しか搭載されていないから、彼女はこうして手のひらに文字を書くことで意思疎通をしようとしているのだろう。 こうして伝えようとしてるんだね? と聞いてみると彼女は嬉しそうに笑みを強め、手をそっと握り締めてくる。

 

 至近距離から見上げる様に私を見つめてくるkarが、そっと膝を付いて頭を低くし私の手を頭に乗せゆっくりと撫でる様に手を動かす……撫でて欲しいのかな? 梳く様に彼女の銀髪を撫でる……ダミーでも品質は変わらない様で、オリジナルと変わらず柔らかい髪に撫でていて心地よい。

 

 撫でられているKar自身も心地よさそうに目を細め、頭を撫でやすい様に位置を調整する……そういえば、ダミーの行動はオリジナルの意思が強く出ると言われている。 前にも頭を撫でる事を我慢させてしまった場合メンタルモデルから感情が溢れてしまった事があったが……うん? と言う事はKarは私に撫でられたいのか??

 

 と、廊下が少し騒がしくなる。 具体的に言えば何人かがこちらへ小走りに走ってきている音だ。 ダミーも気付いたらしく、少しだけ眉を顰め残念そうな表情をする。 が、直ぐにまた微笑み立ち上がる……かと思いきや、私の胸にその身を預け、苦しくない程度に背後へと手を回し抱き締める。

 

「指揮官さん! こちらに私のダミーが来て……何をしてますの!!?」

 

 突然の事で対応できず、ただ頬を朱色に染めていた私は何もできない。 何をしているのか と聞かれても君のダミーがしたい事をしています。 と返すべきなのか否か……

 

「私だってやった事がn……んんっ!! ともかくダミー2号機、指揮下に戻りなさいな!」

 

 その命令を受信したのか、彼女は先ほどの笑みを浮かべていた表情は消え立ち上がり、オリジナルの後ろに立つ他の3人の元へ向かう……前に、私の手を取り二文字の言葉を書いた。

 

「女 子……キ?」

 

 ピッ と敬礼し彼女はオリジナルのKarの元へと戻っていった……咳払いをしているオリジナルに、ダミー二号機は優しく微笑みながら声の出ない唇を動かす。 読唇術が出来れば何を伝えたのか分かったのかもしれないが……

 

「……全く、メンテナンスの担当官に文句を言わなければなりませんわ。 ダミー二号機からどのような事になっていたかは報告として受け取りました。 ダミー二号機を通常モードへ移行します」

 

「うん、了解しました……体に異常はないですか?」

 

「特に問題ありませんわ、ダミー二号機自身にも問題はございません」

 

「了解しました。 では今日の予定はこれ以上ありませんので自由にして下さい……その前にKar」

 

「何ですの?」

 

「お疲れ様でした」

 

 彼女が被っていた制帽を手に取り、ダミーにした様に頭を撫でる。 あの娘が私の手を取り撫でて欲しいと訴えていた様に。

 

「な、なななっ、何を……」

 

「い~や、言葉にしないと分からない事もあるけど、少し相手の事を見て考えれば色々と分かる事もあるんじゃないかな と言う事を覚えただけさ」

 

 そうだよね と彼女の後ろに立つダミーへと微笑みかける。 もう通常モードへと移行し、感情を表す事が無い彼女だが……少し微笑み、頷いたのは目の錯覚ではないと思いたい。

 

 Kar98kがそれからという物の、二人きりの時に限り指揮官の手を取り、手のひらに文字を書いて自分の意思を伝える様になったというのは……また別の話である。

 




 ディープダイブ(DD)終了まであと5日……皆様方はUMP40を救出出来ましたでしょうか?
ランキング戦で無きを見ている私です……くっ、金装備が足りない……っ!!

 誤字脱字報告、ありがとうございます。 気づかないものでして申し訳ありません……


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UMP40 焦らなくて良い

 あまり甘く出来なかった……が、これで40を本格参入させる土台は出来たかな と。


 タタタタタンッ と銃声が響き、肩を蹴られる様な振動が銃口を上へと向けようとする。 それを制御し、跳ね上がらない様に押さえつけつつ動き回る的へと射撃を続けていく。 マガジン内部の弾を全て撃ち切り、リロードの動作に入ろうとした所で手がもたつく。 胸部辺りに取り付けたポーチのボタンが上手く外せず、現実と理想の乖離が始まっている……それを修正しようとしてエラーが続出し、あっという間に自分の演算領域を侵食していく。

 

 どうして、どうしよう 迷う暇も無く目線を下に向け、何とかボタンを外しマガジンを自身の分身へと突き刺しリロードする が、遅い。 他の戦術人形なら数秒で出来る動作に何十秒かけているのだろうか。

 

 射撃を再開しようとした所でスピーカーより自身が大破した事を告げるブザー音が無慈悲にも鳴り響く。 訓練終了……これが実戦だったらと思うと嫌気がしてくる。

 

「はあ……こんなので本当に大丈夫なのかな……」

 

 計器が出力する命中率・弾薬投射率に対しての敵撃破率が表示される……ほぼ全てにおいてランクD、落ちこぼれ 訓練やり直しの落第点だ。 こうして毎日練習しているが成果は芳しくない……

 

「……こんなのじゃ、戦術人形失格だよ」

 

「ほぉー……ふむふむ、確かにろくに抵抗出来ずにスクラップ行きかもね」

 

 予期せぬ他人の声に、うひゃぁ!? と素っ頓狂な声を上げ振り返ろうとして失敗し尻もちをついてしまう。 肩に顎を乗せ、手元を覗き込み声を掛けた者すら驚いた様に手を挙げ、きょとん とした表情であたいを見ている。

 

「UMP45……? 一体なんなのさ……」

 

「あははっ、ごめんごめん……深刻な表情をしてたから大丈夫かな……と思ってね。 まあ理由は……分かったけどさ」

 

 UMP45が手を差し出してくるので、その手を取り腰を上げる。 パンパンッ と軽く服を叩いて埃を取り払う……室内の射撃演習場に据え付けられた椅子に座り込むと、UMP45も隣に座ってくる。

 

「……訓練も練習もずっとしてるんだけどさ……どうにも上手く出来なくて」

 

「指揮官には相談したの?」

 

「ん~ん、だって……こんなにも成績が低いなんて知られたら見捨てられちゃうよ……」

 

 ギュッ と手に力を入れ握りしめる。 指揮官があたいを指揮下に入れる為に手を回してくれた事も、鉄血に乗っ取られかかった時に自身の生命・名声を賭けてくれた事も後々少し調べればすぐに分かった。

 

 彼は私がしたかった事だから気にしないで構わない なんて笑っていたが、そうしてくれたのもあたいに何らかの価値を見出したからだろう……価値を証明できなければどうなるかは想像したくない。

 

「そんな事は無いと思うけどなあ……あの人、かなりのお人好しだから、相談したらちゃんと聞いてくれると思うよ?」

 

「人間なのに?」

 

「ん~……まあ、人間って言っても千差万別だしね。 あの人は特殊な部類に入るかな~……」

 

 人間はあたい達の創造主で、あたい達は彼等の代わりに戦う事を目的に製造されている……それが出来ないとなると、行きつく先は……

 

「そんな暗い顔しないの……ほら、そんな貴女にプレゼントよ」

 

「プレゼント?」

 

 そう45が差し出してくるものを見ると……大量のフロッピーディスク? 軽く数えるだけで100枚くらいありそうだ。 それをニコニコと差し出してくるのだが……

 

「……え? これ全部読み込むの……?」

 

「そうだよ? これも用意するの結構大変だったんだからね」

 

「うっ……ただ、あたいの容量だとこれ全部読み込むのは無理じゃ……」

 

「ん~……あ、やっぱりそうなんだ……じゃあこっちならどうだろ?」

 

 大変だった という割にあっさりと彼女は大量のフロッピーディスクを取り下げ、ネットワーク上であたいにを呼び出してくる。 CALLに応えると、許容出来るギリギリの容量のデータが送信待機状態で待っている様であった。

 

「これは?」

 

「基本的射撃姿勢の姿勢データ、及び照準補正プログラム、それから反動制御プログラムに装填動作補正プログラム……まあ、戦うのに必要な補正プログラムを纏めたものよ。 これなら圧縮されているから必要な時に引き出して起動させれば問題ない筈よ」

 

「……最初からこっちを送ってくれれば良かったのにさ」

 

 ぶすっ と不貞腐れた表情を見せると、彼女は確認したかったのよ と、笑いながらごめんごめんと謝った。 圧縮データをダウンロードし、読み込んで整理してみるとあたいに最適化する様にデータ整理されている事に気付いた。 姉妹機である45が整理してくれたのだろうか……彼女はあたいと違って、この基地で第三部隊長として任務に就く事もある。 日常の業務を熟しながらこの様にデータを整理する事は……容易ではないだろう。

 

「確認できた?」

 

「うん……ごめん、手間かかっただろうにさ、悪態ついちゃって……」

 

「気にしないで良いのよ、私もそうして貰った事があったから……経験則で作ったものだから、そこまで手間はかかってないのよ」

 

 そう話す彼女は少しだけ遠い目をしていた……何だろうか、あたいを見ている筈なのに、あたいを見ていない様な……そんな感じ。

 

「そうだ、少しだけ気分転換しようか?」

 

「気分転換?」

 

「指揮官がまだ信じられないのでしょ? だからちょっとだけ指揮官の内情を見せてあげる」

 

 いたずらをする子供の様に45は笑っていた。 人差し指を唇に当て、しーっ と息をひそめる様に……どうするつもりなのだろうか? と、興味本意であたいは頷いていた。

 

「じゃあ、このコードを接続して……そう、それで良いわ。 ネットワークを起動して、権限を一時的に私に付与して……よし、じゃあ行ってみようか? 電子戦機の本領発揮という奴よ」

 

 スッ と視界が黒に染まっていき、意識が遠のく……次に目を開いた時、そこは見た事が無いような電子の世界であった。 無機物なコンクリート製の建物でなく、蒼に近い空と、所々光るラインにチップの様な模様が描かれた世界であった。

 

「おお~……ここが電子の世界か……」

 

「そうよ、ただ見やすい様に私が補正をかけているけどね……後、あまり離れないでね? 統括出来ないと異分子と見なされて攻撃されちゃうかもしれないからさ」

 

「うええ!? それって不法侵入って奴じゃ……?」

 

「良い事を教えてあげるね40、バレなければ犯罪じゃないし、バレても証拠を掴ませなければ問題ないのよ?」

 

 それ、絶対不味い事してるって宣言だよね? 本当に大丈夫なのかな……??

 

「その話は置いておいて……ほら、見えてきたわ。 あれが指揮官の端末情報よ」

 

 すっ と指をさした方向を見ると、執務机に座り指揮官がパソコンの端末に向かい何かの作業をしている姿が見える……ここは電子の世界の筈なのに、どうして……?

 

「補正をかけているって言ったでしょ? あれは指揮官の端末が何らかの作業をしている事を示しているだけよ」

 

「あ、そっか……ん? 今って23:00くらいだよね……指揮官、まだ仕事してるの?」

 

「ふふっ、してるわ……それも貴女の為のね」

 

 あたいの為……? それってどういう事なんだろ?

 

「指揮官、お疲れ様」

 

「お疲れ様、UMP45」

 

 そんな事を考えている内に45は指揮官に話しかけていた。 指揮官も45に声をかけられ、何時もの様な優しい笑みを浮かべている。

 

「何の仕事をしているの?」

 

「ん、UMP40の射撃プログラムの見直しをしています。 また、電脳の容量アップの申請が如何にかならないかの検討も同時作業中だね」

 

「ふーん‥…それ、40には言ってあるの?」

 

「いいえ、内緒に……あの娘も私に隠れて訓練しているのは、知られたくないからだろうから……今の所、私は何も伝えるつもりは無いよ。 プログラムが完成したら、45から渡して欲しいかな」

 

「それで良いの? 40に指揮官の気持ちは伝わらないかも知れないけど」

 

「ん~……まあ、ほら 彼女は私の事を信じるって言ってくれたじゃないか。 なら私も彼女を信じるしかないんだけどさ……今は戦えなくても、練習や訓練を続ければ何時かは……とね。 今のあの娘は焦っている、私がいくら声を掛けても気遣われているとしか感じないだろう……だから、すまないけど45。 あの娘を気にかけて欲しい」

 

「……言われなくても、そうするわ」

 

 良かった と、安心したように笑みを浮かべる彼に、あたいはどういう表情を浮かべれば良いか分からなかった。 ただ自分が思っている以上にあたいは心配され、想われているのだと言う事だけは良く分かった。

 

「……この指揮官は、本物なのかい?」

 

「いいえ、指揮官が使っているパソコンの情報体よ。 だから彼が行っている仕事の内容を彼の姿を借りた装置が話しているだけ……でもね、だからこそ打算や嘘が無い。 彼の本心が見える所よ」

 

「どうして、指揮官はこうまで優しいのかな?」

 

「ん~……どうなんだろ、それは私にも分からないわ。 裏があると思ったんだけど……彼、素でああ見たいなのよね~……だからさ、焦らなくて良いのよ。 40は40のペースで歩けば良いの、彼はそれを応援してくれる」

 

 あたいのペースで……本当に大丈夫だろうか? あたいは甘えていないだろうか? 不安に思い、情報体である指揮官を見る……彼はただ微笑みながらあたいの頭を少し撫でてくれた。

 

「頑張っている事は知っているよ、UMP40。 だから無理だけはしない様に……困った事があったら頼って、何度もいう様で悪いけど、君は今独りではないのだから」

 

 ね? と、彼はやはり少し困った様に笑っていた。 あたいは視界が揺らぎ、溢れそうになるモノを食い止めるので精一杯だった。

 

「どうかな、気分転換になった?」

 

「……うん、ありがとう45」

 

 ニッ と笑う。 そういえばこの頃は落ち込んでばかりだったような気もする……それに45も気付いていたのだろうか? 姉妹機だからか、最初にあった時以来気付かない様に指揮官と謀って色々と手を回してくれている様だ。

 

 ……余裕が出来たら、一度ちゃんと話してみようかな……雑談や、任務の話はした事はあるがそういえば身の上話などはした事が無い。

 

「それじゃあ、帰ろうか……また来たくなったら言ってくれれば良いよ」

 

 45が手を差し出してくるのでその手を取る……情報体の彼はまた執務机に座り、書類の整理へと戻ろうとしていた。 あたいが見ている事に気付くと、手をヒラヒラと振ってくれる……そして言葉に出さず唇を動かす。

 

 また、不安になったらおいで……もう来ない事を祈るけれども。

 

 ……ありがとう、でももう大丈夫だよ。 指揮官の事、もっと理解出来る様になるからさ。

 

 その日から、UMP45を誘って執務室へと頻繁に出入りするUMP40の姿が見受けられる様になったと言われているが……それはまた別の話。

 




次はFNCの予定です……が、仕事が修羅場確定なので更新速度が落ちると思われます……気長にお待ちください。


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Kar98k 雨降りでも平気

 今週から梅雨に本格的に突入する時期、じめじめとした本格的な夏が到来しようとしています……熱中症にお気をつけてお過ごしください。
Karのあの服装……夏場では熱中症待ったなしですよね、人形に熱中症があれば……? オーバーヒートという概念はありそうですがどうでしょうね。





 ザーザー……と大地に雨が降り注ぐ。 人類にとっても、この大地を生きる動植物にとっても恵みの雨である事は確かだが、今の貴方にとってはうっとおしい事この上なかった。

 

 基地外部に出る仕事があった貴方は、今日の天気予報を確認せずに出た事を後悔した。 ついてない事は続くもので、その仕事に時間がかかり、雨足が強くなってしまいある程度の撥水効果があったグリフィンの制服も既にずぶ濡れであり、下着にも雨が貫通し風が吹くたびに容赦なく体温を奪っていく。

 

 このままでは風邪をひいてしまうかもしれない……そう考えた貴方は、とりあえず基地に帰還したら着替える事を念頭に通信を繋げカリーナへと連絡を取る。 仕事についての報告を代理で行って貰う為だ。

 

『仕方ありませんわね……今度、お茶でもご馳走して下さいね?』

 

 苦笑交じり了承してくれる彼女に礼を言いつつ、足早に自室へと向かう……すれ違う人形達が何事かと道を開けてくれるのが幸いで、自室へはすんなりとたどり着いた。

 

「お帰りなさいませ、指揮官さん……あらあら、本当にずぶ濡れですわね」

 

 自室にたどり着くと、本日の副官であるKar98kがパタパタと駆け寄って来る……両手にバスタオルを持って、滴り落ちる水滴を包み込む様に私を拭いてくれる。

 

「何故? という表情ですわね。 指揮官の通信ログが副官権限で閲覧出来ますから、報告の代行を依頼した時点でこちらに戻ってくるのは予想できますわ」

 

 少し屈んで下さいな という彼女の要請に答えて膝を曲げる。 玄関口を濡らしていた水滴が彼女にも滴り落ちそうだったので自分でやるよ と伝えるが、彼女は全く気にしない。

 

「頑張った人にはご褒美が必要ですもの」

 

 どう言った理論でその答えを導いたかは分からないが、彼女の中ではこれはご褒美らしい。 ワシャワシャと優しく労う様に手を動かし、丁寧に水分を取っていく様は確かにご褒美かも知れなかった。

 

「帰って来る時間が少し遅れたのも、やらなくても良い事をしていたからでしょう? 迷子になった子供の親探しは業務の内に入るのでしょうか? まあ、市民の困り事を解決すると言う姿勢を見せる という意味では正しいかもしれませんが……まあ、指揮官さんはそんな事を考えていないかも知れませんが」

 

 そう、貴方が仕事から帰るのが遅れたのは仕事先の市街地において迷子になった子供の親を探していたからなのだ。 管理区内の市街地における警備状況の確認と、住民からの要望や陳情内容について、市街地の担当官と打ち合わせを行っていたのだが、その帰り道に不安げに周囲を見渡す子供を見つけてしまったのだ。

 

 担当官が報告するには、市街市の治安状況は悪くはない……いや、むしろこんな荒廃した世界においてでは十分すぎるとも言われていたが、だからと言って放っておくわけにはいかなかった。 空も雲が下がってきており数十分以内には雨が降って来るだろう……野外での行動経験上、雨が降る前の空気と言うのは独特で予測が出来た。

 

 そんな中で見かけただけの子供とは言え、貴方は無視する事は出来なかった。 膝を付き目線を合わせ、どうかしたのかい? と不安にならない様に声をかけていたのだ。 結論から言うと子供の親御さんは見つかった、少し目を離してしまった隙に離れてしまったらしく街頭警備に立つ戦術人形に相談している所であった。

 

 親が居ると気づいた子供は母親へ駆け出し、母親はそれをしっかりと抱き締める。 隣に立つ父親らしき人物がグリフィンの制服である事に気付いたらしく深く頭を下げている。 お気になさらず、無事に見つけられてよかったですよ。 そう告げる貴方に、戦術人形達は何処か誇らしげであったり、又は流石指揮官だ。 と言ったような様々な表情を浮かべているがそのどれも肯定的であった事を覚えている。

 

 何度も頭を下げる親子を見送り、警備に立つ戦術人形達にねぎらいの言葉をかけた所で帰路に着いたは良いが……予想通り、空から雨粒が降り始めたのはその直後であった。

 

 ただ、その事はカリーナにも告げていなかった筈だ。 通信をした訳でも無いし仕事の報告書にも書いて居ない。 何故Karがその事を知っているのだろうか……

 

「クスクス……警備に立っていたのは誰だったでしょうか? 通信ログが残るのは指揮官さんの記録だけでは無いのですよ? あの娘達は嬉しそうに通信をしていましたよ。 些細な事ですけどやっぱり指揮官さんは指揮官さんですって」

 

 表情に出ていただろうか、Karはおかしそうに笑いながら答えを教えてくれる。 街頭警備に立っていた戦術人形の誰かが通信で仲間に伝えたのだろう。 それをKarが見たか……いや、彼女なら調べたのだろう。

「さあ、お風呂も沸いてますから温まっていらっしゃいな?」

 

 ポンポン、とタオルの上から軽く撫でられ、浴室の方へと手を向ける。 それとも風邪をひいてから看病をされる事をお望みかしら? とウインクをされるものだから慌てて浴室へと足を向ける。

 

 着替えを洗濯籠に叩き込み、熱いシャワーで軽く体を流してからKarが言った通り沸かしてくれていた浴槽に身を沈める。 疲れと寒さがお湯に滲み出して行く様な感覚に目を閉じふうっ と一息付く貴方。

 

「お湯加減は如何かしら?」

 

 脱衣所でゴソゴソと何かをする音が聞こえる……籠から制服を出して、洗濯機に入れているのかもしれない。 丁度良く気持ちが良い と答えると、次からもその温度にする様にするようにしますわ と返答があった。 次からも……って、どういう意味なんだろうか?

 

 鼻歌を歌いながら洗濯機を回しているKar……そういえば着任当初は洗濯どころか掃除や整理すら出来なかった彼女だが、いつの間にか学びいつの間にか貴方に合わせる様に……寄り添う様に、彼女は貴方の隣に立つ様になっていた。

 

 お背中でも流しましょうか? という申し出を丁重にお断りする。 少し残念そうな気配がしたが流石に許可する訳には行かない……まあ、そう言う事はちゃんと……何時までも、甘えている訳には行かないだろうから。

 

 

 

 彼が眠っている……疲れていたのでしょう、ベッドに入ると気絶する様に眠りに入っていきました。 それはそうです、雨に濡れて行動すると言う事は予想以上に体力を使いますし……奪われる体温を保ち続けようとする為でもありますし、水分を吸った衣類やぬかるんだ地面は歩くだけでも訓練になる程度に負荷がかかります。

 

 最も私達人形は歩き方をインストールし、アシストで補助される為大した事は無い。 ですが人間には……この環境は辛い。 その程度が分からない指揮官さんでは無いだろうに、それでもあの人は子供の安全を優先しました。 それが甘いと言えば甘いのでしょうが……だがまだ私達で補助出来る範囲内であるし、その甘さが私達を引き寄せ、付いて行こうと決めさせた要因ですね。

 

 この荒廃した世界で、他人を思いやり自分でなく弱きモノを守る事を願い、消耗品に心を配り取り戻す為に、救い出す為に上層部へ自らの印象を悪化させる事を厭わずに意見具申した。 私にはそれが心配だ……彼は他人ばかり気にしている。

 

 だから、私は彼を心配する事に決めました。 副官を務めるのも、他の戦術人形から情報を集めるのも、身の回りの事をお世話出来る様に学んだ事も……最初は失敗だらけでしたし、彼に頼りっぱなしでしたが……今ではこうして洗濯から整理まで、身の回りの事を一通りこなせるようにはなりました。

 

 ねえ、指揮官さん。 貴方が他人を心配している様に、私も貴方を心配しておりますのよ? だから……どうか、何時か気付いて下さいましね?

 

 その時、この思いが慈愛なのか、恋なのか、それともただの感情モジュールのバグなのかが分かるでしょうから……

 




 迷わないで書いた結果がこれです……Karの正妻力を上げたかっただけで書き上げたものです。 はい……7月中は投稿速度が今以上に落ちると思いますので、のんびりお待ちください……申し訳ありません。


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UMP40 ネコネコ子猫

 猫耳生やした戦術人形って可愛いと思うよね との呟きにより生まれた1作。
UMP40を甘やかしたかっただけなんです……


 てしてし と軽く頬が何かに叩かれる。 まだ日が昇り始めた早朝、自室のベッドで眠っていた私は微睡みの中に居た。 今日は休日であり、少し遅めに起きようと思っていたのだが……誰かが起こそうとしてるのだろうか?

 

 てしてし と、今度は先程より僅かに強く頬を叩かれる。 うっすらと瞳を開け、目の前が滲みながら目を開いていくと……灰色が見えた。 サラサラと流れるような毛並みを、無意識に撫でるように手を差し出すと、その物体は起きた事に気付いたのか、手に自身を擦り寄せる……

 

 なんだ、猫か犬でも迷い込んだのかな? そう思いながら撫でつつ起き上がると、その物体はどうやら服を着ている様だ。 見た所UMP系統が装備している物に非常によく似ている。

 

 ボーッと観察していると、手が止まったのが不満なのかまた私の手に収まる様に身を寄せ、てしてしと前足……いや、これは手? で叩いてくる。 いい加減目を覚ませ とでも言いたげである。

 

「……UMP40?」

 

「にゃぁ!」

 

 目を擦り、焦点の合った瞳で確認してみるとそれはUMP40に非常に良く似た生き物……生き物? であった。 違いといえば、彼女は私の手に収まるくらいの小柄な体では無いし、頭に猫のような耳も、おしりの方に尻尾も生えていないということだ。

 

 確認の為に名前を呼んでみると、元気よく片手を上にあげてにゃぁ! と鳴いた。 成程、返事のつもりらしい……ここまで理解し、寝巻きのままであるが枕元に置かれていた通信機を起動させる……通信式は勿論、トラブルメーカーでもあり、AR小隊の庇護者の様な存在でもあるI.O.P. 16LABO主任である彼女だ。

 

 

 

『やぁ、おはよう指揮官。 驚いてくれたかな?』

 

「おはようございますペルシカさん、それはもう……驚きましたよ?」

 

 いつも通り、ヨレヨレの白衣に寝不足そうな顔をしたネコミミ付研究員、ペルシカさんは悪気も無い笑顔を浮かべながら通信に応答した。 いきなり寝室に侵入された挙句、小さくなった姿を見せられでもしたら驚くだろう。

 

『あはは、軽いジョークの一種なんだが……まぁ、その形になったのには理由があるんだよね』

 

「はぁ……一体どのような理由でしょうか?」

 

『君の申請していたUMP40の記憶媒体増設が認められた。 その交換、更新の為にUMP40の本体を預かる事になったんだけどね、デリケートな作業だからメンタルモデルから記憶やら全部バックアップを取って作業してる為に、どうしても時間がかかってしまうからね……それまで仮にと愛玩用に作られていた素体にメンタルモデルとデータを写してそっちに送り返した って奴さ』

 

 記憶媒体の増設は、言うなれば戦闘情報の蓄積や姿勢制御のデータ等をより多く積み込む事が出来る様になるという事であり、情報戦の為に必要なデータで大幅な容量を取られているUMP40にとってそれは戦力増強に直結する。 圧縮データを取っかえ引っ変え展開し、その場その場で最適に活用する様にしてもやはり齟齬やログデータの蓄積で活動が鈍るのだが、容量が増えればそれも改善される。

 

 グリフィンの上層部が何故か渋っていたのだが……ようやく改造の許可がおりたようで、UMP40猫(小柄で猫耳なども着いているからそう呼ぶ事にした)も胸を張ってどうだい? と言いたげである。

 

 よしよし、良かったね。 その意味を込めて彼女を再度撫でると、くすぐったそうにしながらも私の手から逃げる事は無かった。

 

『増設事態は今日中には終わるだろうから、その愛玩用素体のテストに付き合うつもりで1日面倒を見ていてくれ。 食事や行動については問題が無いと思うが、何かあったら連絡してくれて構わない。 回線は開けておく』

 

「了解しました」

 

 敬礼を送ると彼女は頷いて通信を切った。 にゃっ と膝に立っている彼女もその小さい手で敬礼の形を取っていた事から、意識があると言うのは本当の事なのだろう。 問題は彼女が猫の鳴き声でしか話せない事であるが……

 

 にゃあ? と彼女が私を見上げてくる。 その瞳からはどうかしたの? くらいの感覚で、不安等は一切感じられなかった。

 

「いや、どうやって移動すれば良いかなってね。 今の君だと歩幅が違いすぎるからさ」

 

 にゃあ? にゃー! なんだ、そんな事かい そう言いたげに鳴いた彼女は、私の服に爪を立ててロッククライミングの要領で登っていき、手乗りならぬ肩乗り猫として座り込んだ。

 

「あははっ、確かにこれなら移動は大丈夫そうだね。 じゃあ着替えるから1度降りようか?」

 

 にゃっ と肯定の声は聞こえるが、彼女が動く気配は無い。 両手をこちらに向け期待する様な瞳でこちらを見つめてくる……どうやら下ろして欲しいらしい。

 

 ひょい と脇に手を入れ、40を床に下ろしてあげる。 にゃっ!と片手を上げ笑みを浮かべた。 じゃ、外で待ってるよ! と声を掛けた様に彼女はとてとてとドアに向かい歩き出した……どうやら今日はずっとこんな調子になりそうだ。

 

 

 

「指揮官……それって、40?」

 

「へぇぇ! 可愛いねー45姉ぇ!」

 

「……指揮官の肩に乗るなんて……(ギリギリ)」

 

「416が怖いよ……」

 

 執務室で待機していた404小隊の面々の第一声はこれであった。 当の本人である40と言えば、肩に座ったまま羨ましいかー? と言わんばかりに胸を張ってピスピス と鼻を鳴らしている。

 

 まるで猫だ……あ、いや、今は猫か。 416がグローブの親指部分を齧りそうな勢いでイライラした視線を向けてくるのが後々怖い事になりそうだ。

 

「ねぇ、ちょっと抱っこしてもいい?」

 

「UMP40が良ければ良いけど……どうだい?」

 

 にゃっ と朝私に向けた様にUMP45に向けてその小さい両手を伸ばす40。 良いよ、という事だろう。 ゆっくりと私の肩部分に手を伸ばしUMP40を抱きかかえるUMP45。 ピコピコと猫耳を上下させている事から機嫌が良さそうだ……45も45で片腕で40を下から支え、落ちない様に腕を胴体部分に回してしっかりと胸元で抱き締めている。 人形を抱き締めた少女 と見た目は絵になるだろう。

 

「……♪」

 

 にゃ~にゃ~にゃ~ と歌の様な鳴き声を上げている事から、抱き心地は悪くない事は明らかであるし、45も45で目元を緩めて40の頭を撫でている……これなら少しの間彼女達に40を任せても良いだろう。 そう判断し執務机へと向かい書類を手に読み始める。 さて、今日の報告は……

 

 

 暫くワイワイと猫の姿となった40を中心に騒いでいたのだが、触られ飽きたと言うかずっと抱かれたり膝に乗せられたりと拘束され続けたのがストレスになったのか、額に怒りマークを浮かべて404小隊の手を抜け出し書類を整理している私の足元に逃げ込んで来たのだ。 しゃああ!! と毛を逆立てて威嚇している事から彼女の怒り具合が良く分かる事だろう。

 

「……ちょっと調子に乗っちゃったかしら?」

 

「まあ、あそこまでベタベタ触ってたら嫌がるよね……普通の猫だってあんまり触られるのは嫌いだっていうし」

 

「一番触っていた人形が言うと説得力があるわね」

 

「え、416だって触って……あ、うん……メンドクサイ事になるからいいや……」

 

 ギロリ とG11を睨みつける416に黙り込むG11。 45と9は申し訳なさそうにしゃがみながら40を見ているが、40の方も今は捕まるのが嫌ならしく、足の後ろ側へ回り込みべえっ と舌を出している。

 

「まあ、少し時間を置いたらどうかな? ずっと触られっぱなしも疲れるだろうからさ」

 

「ん、仕方ないかな……じゃあ、少しお仕事を手伝ってあげるよしきかん」

 

 パンパン と手を打ちながら手伝いをしてくれるという45の一声で書類整理の手伝いを始める9、弾薬のチェックと在庫確認へと向かう416、G11は掃除を始めている。

 

「じゃあ、私は配達された物とかが無いか確認して来ますね~」

 

 416と共に執務室から出ていく45、にいっ……と足元から息を吐く声が聞こえると、40がやれやれ と言った様な表情で扉を見つめていた。 私が見ている事に気が付くとやはり両手をこちらに向けて差し出してくる……私は抱き上げて良いのだろうか? 脇に手を入れて抱き上げ膝の上に乗せると、そのまま膝の上で丸くなりくああっ……と可愛げなあくびをして寝始めてしまった。

 

「……やっぱり、40姉は指揮官の元だと安心するのかな?」

 

「そりゃそうでしょ、あの時だって40を助ける決断をしたのは指揮官だし、こうして40が普通に暮らせるように手配したのも指揮官だしね……」

 

 丸くなって寝息を立てている40を覗き込むように9とG11が身を少しだけ乗り出す。 小声で話す辺りは40に気を使っているのだろう…… ピクッ と少しだけ耳が動いた様だが、目は閉じたままでそのまま眠っている。

 

「ねえ、指揮官……40姉の事、手を離さないであげてね?」

 

「……急にどうしたんだい?」

 

「ん~……ほら、私達は本来存在しない小隊で人形だけでも行動出来る様になってるからさ、指揮官がもし引退したりして私達の前から居なくなってもある程度の期間を置けば……悲しいだろうけど大丈夫になるんだろうし、小隊として存続できれば私達に居場所はあるんだけどね」

 

 ボソリボソリと呟く様に、自分に言い聞かせる様に9は話を進める。 G11も何も言わない事からそれは間違いではないのだろう。

 

「でもね、40姉は指揮官しか居ないよ。 404小隊に入る事も出来るだろうけど、それは多分歪な形になっちゃうと思うんだ。 だからね指揮官、40姉の手を一度でも取ったんだから……絶対に手を離さないで。 それだけは約束して」

 

「……ああ、勿論。 約束するよ……まだ、言葉でしか言えない口約束だけど……信じてくれるかな」

 

 そっと丸くなっている40に手を添え、彼女を優しく撫でる……朝、彼女が身を寄せてくれた手のひらに伝わる温かさが愛おしい……まだ準備が出来ていないから今はまだ言葉で約束するしかできないが……それでも近いうちに、私はその証を彼女に送れるだろう。

 

「あははっ、指揮官はやっぱり真面目だけどおかしいよね? 私みたいな何の法的制限も約束しなかったからってどうにかなる様な存在でもないのにさ」

 

「ん~……まあ、それが指揮官だし……それに、そういう人だからあたし達にも色々と良くしてくれるんだろうからさ……嫌いじゃないよ」

 

 え~、私も指揮官の事嫌いだなんて言ってないじゃ~ん? とクスクス笑っている9に何時も眠たげな眼を少しだけ緩めているG11……双方ともに名言はしてくれなかったが、少なくとも否定的では無いだろう……そう信じてる。

 

「そんなしきかんにお届けものみたいよ~?」

 

 扉を開け、UMP45が段ボール箱を手に戻って来る。 送り元は……I.O.P.の16LAB……ペルシカさんだ。 中身が何なのか早速開けてみるが……黒い猫用の首輪であった。 ご丁寧にネームプレート付きでゆーえむぴーよんまる と書いてある。

 

「……で、それ付けてあげるの?」

 

「飼い猫にはちゃんとした証明って必要だと思わないかな~? 指揮官」

 

「……ま、さっき信じてって言ったけど、やっぱり言葉より物があった方が安心するよね……?」

 

 まさかの全肯定的意見に頬が引きつるのを感じる。 いや、だってまだ誓約をした訳でも無いのにこれは……そう躊躇い視線を下げると、いつの間にか起きていたらしいUMP40が膝上から机に手を付け、首輪をしげしげと眺めている……ここで彼女が否定的な意見を言ってくれれば彼女達も考えを……

 

 にゃん と40が一声鳴きながら首輪を差し出してくる……ご丁寧に包装を取り両手で冠を捧げる様に……それで良いのだろうか? そう疑問にも思わないでも無かったが、信じて欲しいと言った手前もう断る事も出来ない。

 

 40から特製であろう首輪を受け取り、彼女の首に装着する……にゃ~♪ とご満悦そうな鳴き声が執務室に響いた。

 

 

 夜になるまでも404小隊や他の戦術人形達からからかわれたり、食事のサイズが違い過ぎて小分けにして食べさせてあげなければならない事、執務を終えて入浴をしようとした時にガラス戸をかしかしと不安げに叩いていたので開けっ放しにしなければならなかった等、手間がかかる事も多かったが……偶にはこんな日も良いと思えた。

 

 既に夜も更けて、後は寝るだけ……既に彼女はベットで丸くなり、枕元で眠そうにあくびをしていた。 待って居なくても良いのに……だが一緒が良かったのだろう。 彼女の頭を撫でてベットにその身を預ける……にゃ……と、40も一声だけ鳴き、その目を閉じた……

 

 てしてし 顔を何かが叩いている……意識は朧げに浮かぶのだが、目を開ける事が出来ないし、体も動かない……金縛りの様な状態だ。 にゃあ と恐らく横で寝て居たであろう彼女が鳴く。 恐らくだが……お別れの挨拶なのだろう。

 

 にゃっ、にゃあ~ にゃご、にゃ~……にゃ。 チロッ と頬に生暖かいザラザラした舌が走り、小さい体が遠ざかる……待って欲しい、私はまだ君に伝えて居ない事が……

 

 

「UMP40!」

 

「うわあっ!? い、いきなり大声で叫ばないでよ!」

 

 覚醒すると同時にベットから跳ね起きた私を、ベットの横に尻もちをついた状態で驚いた表情のUMP40が……

 

「……UMP40?」

 

「そうだよ? ニューヴァージョンのあたい! ただいまさんじょ~ ってね」

 

「改装は無事終わったみたいだね……お疲れ様」

 

 昨日付いてしまった癖か、40の頭を撫でてしまうが……んふふ~と彼女は嫌がるそぶりを見せなかった。

 

「これからもっと頼ってくれて良いからね? 」

 

 彼女の首元に真新しいチョーカーが付けられているのが目に移ったが……それが何を意味しているのかが分かる時はそう遠くない未来のような気がする。

 




 UMP40との誓約フラグが立ちました! イベントを発生させる事によりUMP40と誓約が可能です!!(システムメッセージ)

お仕事により次回投稿は少なくとも8月くらいになりそうです……実家でPCが使えないと段落編集とかその辺りが出来なくて……あ、暇を見て書き続けはしますので、一気にあがるかも……?
 スローペースですが、またよろしくお願いいたします。


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SPAS-12 ふわふわ護衛

 暑い……沈む……海に還りたい……雷鳴に魂は還るのか……


「ん~……やっぱり指揮官の管轄区! 商業も治安も一定の数値以上を維持しているお陰で流通が安定しているから食料の質が高いね!」

 

「あ、あはは……お褒めにあずかり光栄……って所かな?」

 

「ああ……基地内部の食事も美味しいけど、やっぱり民間のご飯は味がジャンク風で濃い……」

 

 両手にその辺りで購入した揚げ物や串物を手に、恍惚とした表情で美味しそうに料理を頬張っていく彼女……SG型戦術人形 SPAS-12 は本日、グリフィン管轄区を視察に向かう私の護衛として随伴したはずなのだが……武器や盾と言った武装は手放して居ないものの、食品を次から次へと購入しては頬張っていく様は食べ歩きに着ている様である。

 

「あっ、指揮官指揮官! 次はあのお店で良いですか!?」

 

「……良いよ、街頭警備の状況も確認できるし商店の状況も見れるから問題は無いからね……」

 

 許可を出すと、えへへ……と微笑みを浮かべながら駆け足で露天へと駆け寄り、売り子をしている男性へと商品を注文する。 どうやらその店はかき氷を取り扱っている様で何を注文したのだか山盛りのかき氷に練乳と小豆、そこに缶詰の果物を乗せた物が差し出される。

 

 貧民街ではこれ一杯で1週間は暮らせる代金がしそうだが……まあ、彼女も戦術人形。 ちゃんと金銭管理や体調管理はしっかりしている……筈だ。 毎度あり~ と売り子の男性はニコニコとした表情を浮かべている……SPASは良い稼ぎ相手だったのだろう。

 

 スプーンを手に ん~!! と感嘆の声を上げる彼女に、私はもう何も言うまい……と心に決めたのだ。 まあ、視察の仕事はこなせるのだから問題は無い とそう思うしかない。 それに民間へお金を落としている事は事実なのだ……それが何処から出ていようが金は金だ。 それで糧を得る民間人が居るのならば文句は出てこないであろう。

 

 

 

 管轄区の視察 と言っても千差万別であり、普段であればこの様に歩いて視察する事は少なく、実際に見て回るとしても自動車で該当区域を一周する等が主流である。 また、市街地も大型化すれば細かい所までに目が届かない為、市街地にて指揮官の代理担当官が配備されており、担当官に任せ報告書が定期的にあげられてくるのだが、彼は書類だけで確認するだけでなく、自分の目で見てみたいとするタイプの指揮官であった。

 

 さて、管轄区と言えども治安状況は決して良いとは言えない。 一度崩壊した物が再建されるには膨大な時間がかかるのだ……旧世界でいう日本の様に、護身用の武器も持たずにフラフラ歩き回る事は中央区域……上流階級の限られた人に許される特権であり、それ以下の区域は中央から離れる程治安も悪化していく。

 

 この事から、中流階級の民間人をいかに安心出来る様に囲い込むか、安心して働ける環境を作り出せるかが管理区を担当する指揮官達が頭を悩ませる事であった。 安全な土地には人が集まり、人が集まれば必要な物資を運ぶ流通・それを売り出す商業・銀行、そして資金が集まる。

 

 それを管理・守護すると言う事は莫大な税収を生む事に直結するので、グリフィンの上層部も推奨している事である。 現実としては鉄血の侵攻や人間同士のイデオロギーの違いによる内部抗争によって上手くいかないのだが……蛇の道は蛇と言う様に、ヘリアンさんよりそれらの対処は404小隊に任せれば良い という指示が出ていた。

 

 ただし対処方法や内容は決して聞いてはならない という条件があるのだが……彼はそれを忠実に守っていたのだ。 それ故に未だに彼女達はここに居るのかも知れないし、治安は一定の値を維持できているのかもしれない。 全てを知る必要は今の彼に必要な事では無いのだ。

 

「はあっ……満足です」

 

「……一体その体の何処にあれだけの食料が入るんだろうね」

 

 ポンポン と軽くお腹を叩き満足そうに笑顔を浮かべている彼女に対し、苦笑を浮かべながら自動車が待機している駐車場へと向かい歩いていく……露店が立ち並ぶ中央通りを抜けてゆくのだが、SPAS-12はその中でも私との距離を一定に保ちながら歩いてゆく。

 

 SPAS-12が行きたがった露天等がルート上だった事もあったから視察事態は順調に終わり、後は基地に戻るだけとなったが買い物の時間と重なってしまったらしく人通りが多くなってしまった。

 

「指揮官、この町は良い所ですね」

 

「……そうだね、人は笑顔だし治安も良いみたいだ。 商店も色々な種類が出ている……少しだけ余裕がある所だ」

 

「それを育て、守る一翼を貴方は担っているんですよ? 誇っても良い事です」

 

「私の力だけでは無いよ、君達の力を借りて、他の職員の力を借りて……ようやくさ。 だから誇るなら君達こそ誇って欲しいかな」

 

 突然良い所ですね と話しかけてきたSPASは相変わらず笑顔であった。 ニコニコと笑いながら私に近づき……突如としてネクタイを引き顔を下げさせる。

 

「ふふふっ、ありがとうございます……でも、貴方が居てこそ私達が居られるのです。 ですから、貴方はもう少し自分が重要人物であると言う事を自覚してくださいね?」

 

 顔を近づけ、耳元で囁く様に呟いた彼女から更に力を入れられ抱き寄せられる。 と同時に背後で金属が擦れる甲高い音に続き、金属と金属が衝突するような音が響く……っ、撃たれた? こんな市街地で??

 

「大丈夫ですよ? 私は貴方の堅牢な盾ですから……だから安心してその身を委ねて」

 

 カンッカンッカンッ! と連続して甲高い音が背後から聞こえる。 銃撃されている……恐らくハンドガン、至近距離……悲鳴と怒声に人が慌てて走り去る音に紛れて銃声が響く。 SPASは自分の分身でもあるSGを相手に向け接近される事を牽制しているだけで射撃をする事が出来ない。

 

 相手が人間であるからという事は、銃撃されている事により対人攻撃禁止プログラムの思考ロックは外されているが、周囲に民間人が多すぎて散弾を撃つ事が出来ない。 万が一でも民間人への誤射が想定されてしまう為に攻撃許可が出せないのだ。

 

「人形遣いが!」

 

「人である誇りを捨て、人モドキに媚びを売る裏切り者め!!」

 

「ん~‥…それ、私達に言われても困るよね。 鉄血か、はてまた暴走した人形によって何かを失ったとかは知らないけど……関係のない私達に八つ当たりされてもね」

 

 彼女が動かないのは、最初に撃たれた狙撃を警戒しているのか、はてまた動くことにより相手の銃撃が周辺に散る事によって民間人へ被害が出る事を想定して動けないのか……ただSPASは相手に軽口を叩ける程度には落ち着いている事が私を妙に安心させた.

 

「人形にいくら撃ち込んだ所で不意打ちでもなければハンドガンで致命傷を与える事は難しいのに……そんな事も分からないのかな? ううん、それすら分からなくなるくらい恨み、辛みがあるのかな?」

 

 可哀そう……そう呟いた声が妙に頭に残った。 それは……どういう意味で呟かれた言葉だったのだろうか? パラタタタッ!! と先ほどから撃たれていたハンドガンと違う射撃音に続き、男性の悲鳴が上がる。

 

 ブーツがアスファルトを叩く軽快な音が近づいて来るが、その足音は非常に速い……人間では無いだろう。

 

「指揮官!」

 

「SPAS-12、指揮官は無事!?」

 

「無事よ、ただあそこの尖塔を潰してくれない? 狙撃兵がさっきから狙っていて動けないの」

 

「スモーク! 榴弾投射!!」

 

 ポンッ と軽い音とひゅるひゅると風をきる音に続いて爆発音。 更に投げられたグレネードから白い煙が噴き出し周囲を囲っていく……これで遠くからの狙撃はほぼ不可能になるだろう。

 

「……謝罪は後回しにするわ。 裏をかかれるなんて私らしく無い……今回は助かったよ」

 

「大丈夫よ、売店で襲撃しようとか人込みに乗じようとか色々と奴等も考える様になってきたよね……大丈夫?」

 

「少し光を浴び過ぎたかも知れないわ……これじゃ誰かさんを笑えない。 もう一度洗い出してくるから、指揮官をお願いできる?」

 

「了解、そっちも気を付けてね」

 

 足音が離れて行くのを確認し、更に少し歩いてからSPASは私を放してくれた……恐らく話していた彼女達を見せない様に配慮したのかもしれない。

 

「指揮官、もう大丈夫ですよ」

 

「ん……すまない、ありがとうSPAS-12」

 

「お礼は別に構わないよ、私は私の仕事を果たしただけだし」

 

 あははっ、と笑う彼女。 肩の部分に装備された装甲に傷がついたりしているが怪我はなさそうである……何を言うべきなのだろうか? 油断していた事を謝れば良いのか? それとも傷つけてしまった事? または……

 

 ぐううっ……

 

「……あはは、動いたらお腹すいちゃった」

 

「ぷっ、あはは! そうだね、とりあえず帰ってご飯にしようか」

 

 奢りで良いんですよね? と期待した瞳でこちらを見上げるSPASに苦笑しながら頷く。

夕暮れが世界を包み込む中、私とSPASの影が長く路上に伸びていた……

 

 

 




救援イベントが開催されております。 とりあえず最低限必要だと思う2-4緊急の戦術人形は確保出来ましたので、後はのんびり頑張っていきます……

 次の予定? 今度こそUMP9で……


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内緒でキスをしよう

こちらの診断メーカーさん https://shindanmaker.com/890944 での結果を元に、頭空っぽにしてとりあえずキスさせたいからと細かい所なにも考えずに書き上げました。
UMP9の分が無いぞ? 二人分描いたら4000文字行ったから次の分に回してしまいましたごめんなさい!

 まだまだ残暑厳しい中、体調にだけはお気をつけて……


UMP45 本部から帰還中のヘリ内部でキスをしよう

 

「はあ……ようやく終わったか……」

 

 バタバタとヘリがエンジンを温めながら駐機場で私の搭乗を待っている。 半日以上に及ぶ会議で既に歩く事すら億劫であるが歩かなければ帰れない、そう自分自身に言い聞かせ鉛の様に重い足を見た目だけは何とか保たせヘリの発着を誘導する係員に一言二言の労いの言葉をかけて搭乗する。

 

 どうやら一緒に物資も輸送するらしく……いや、物資のついでに私を乗せていく と言う方が正しいだろうか。 折りたたみ式の椅子に身を預けシートベルトを締めるとパイロットから離陸しますので揺れますよ との通信が入る。

 

フワッと地面から浮く感触と同時に力強く前に進む力を感じ、折りたたみ椅子がキシキシと音を立て真後ろの荷物からガタガタゴソゴソと何かが擦れたりする音が聞こえる……荷崩れ等の心配はない筈だがどうにも不安になり後ろを振り返ると、月と目が合った。

 

「……はぁい、指揮官」

 

「なっ、えっ!?」

 

 しいっ と人差し指を口にあてウインクを送ってくる相手……戦術人形 UMP45は悪戯が成功した子供の様に微笑みながら積まれた荷物からスルリとその身を私の膝と移動させた。

 

「来ちゃった♪」

 

「来ちゃったって……一体何処から?」

 

「ん~? その辺りの荷物の情報改ざんしてちゃちゃっとね」

 

 膝上に座り考え込むように人差し指を口に当ててどうやったかを教えてくれる45。 いや違う、確かに私は何処からと聞いたがそうじゃない、何で此処に居るのか と言う事が聞きたかったのだ。 わざわざハッキングをして積み荷の情報を改ざんしてまで乗り込んできた意味を。

 

「そんな事よりさ指揮官……折角二人っきりなんだよ?」

 

「そんな事って……」

 

「そんな事だよ」

 

 グイッ と彼女がネクタイを引きコツン と額と額を当てられる。 至近距離から彼女の月の様な瞳が視界一杯に広がると洗浄液か、疑似涙液かは分からないがその瞳が小さく揺れている事が分かる程の至近距離に、彼女の吐息を感じる。

 

「わざわざ二人っきりになれる様にしたのに、指揮官は何もしてくれないの?」

 

 その言葉で彼女は何故ここに来たのかという意味は分かった。少なくとも彼女は私に会う為だけに密航まがいの事をしたのだろう。

 

 偶にある事であるが彼女はこうして密かに会いに来る事がある。 それは夜の私室であったり、こうして基地から他の場所へ移動している時であったりと神出鬼没である。 大抵そういう場合は二人きりになれる密室、又は他人が干渉できない場所で密着し、普段見せない様な表情で私に甘えてくる。

 

「……瞳は閉じないのかい?」

 

 片手で彼女を抱き寄せ、もう片方の手を頬に添える。 横向きで私の膝に座る彼女が嬉しそうに頬を緩め、身体を預ける様に胸元へしなだれかかり口元をわずかに上げ瞳を閉じた。

 

 ここまで期待されたらそれを裏切る訳には行かないだろう と45の柔らかい唇に自身の唇を触れさせた。 普段であれば軽い口付けくらいで良いのだが……どうやら今日はそうでは無い様だ。 数秒の軽い接触で離れようとする私に、大人しく抱き締められていた45が腕を回し頭を抱える様に引き寄せ強く求める様に唇を押し付けてくる。

 

 ちゅっ……ちゅっ……

 

 唇から吸う様に少し強めに口付けを交わし、息が苦しくならない程度で一旦彼女が離れる……微笑みながらその頬を朱色に染めて。

 

「誰も見ていないのだから、他の人なんて気にしなくて良いよね?」

 

 そう問う45であったが、残念だが所属の基地まであとちょっと……そう思い肩を少し押して彼女を遠ざけると、露骨に不満げな表情を浮かべる。

 

「……まだ5分はあるよ?」

 

「もう5分しかない だよ……ここに君が居るのがバレるのは不味いでしょう」

 

「もう一回だけ」

 

 そうせがむ45に心がグラグラと揺れる思いだが……それでも駄目だ。 手をさし伸ばし触れたいという彼女を手で制する。

 

「ダメだよ、そう言って止まらないんだから……2回目はおあずけ」

 

「…………」

 

 ぷくっ と頬を膨らませ、捨てられた子犬の様な瞳を向けてくる45。 私が言った言葉の意味を考えればすぐわかると思うのだけどな……どうやら今日の45はもっと甘えたい様だ。

 

「今はおあずけ というだけだよ。 基地に帰還して、仕事を終えたら私室で続きをしよう ね?」

 

「……約束だからね?」

 

 そう言いつつ、小指を出してくるので自分の小指を絡め指切りげんまんをする。 ポンポン と頭を撫でると名残惜しそうにしながらも現れた時同様にスルリと背後の荷物へとまたその身を隠していった。

 

 さて……なるべく早く仕事を終わらせるようにしないと、睡眠時間が足りなくなりそうだ。 窓の外を見るとヘリは降下態勢に入っている様で、グングンと地面が近づいていた。

 

 

 

UMP40 台所で料理中の君とキスをしよう

 

「~♪ ~~♪」

 

 宿舎の台所から彼女の歌声が聞こえる……それに合わせる様に、包丁がまな板を叩く音がリズムよく相手の手を告げている。 ソファーに座ってその音楽を聞いて居る私には心地の良い子守歌の様でウツラウツラと船を漕ぎたくなる。

 

「疲れてるね、指揮官」

 

「んっ……ああ、ごめん。 なんだっけ?」

 

「あははっ、40姉のご飯楽しみだねって話だよ」

 

 テーブルを挟んで同じ様なソファーに座っているUMP9が嬉しそうに笑っている。 UMO45も口元を僅かに緩めリラックスしている様だ。

 

 何故二人と共に居るかというと、彼女達の同じ宿舎の住人……UMP40に食事に誘われたからだ。 先日記録媒体の増設を行い、容量が増えたUMP40が前からやってみたかったという調理用のプログラムをインストールしたので試しに食べて欲しいとお願いされたので宿舎に招かれお邪魔したと言う事だ。

 

「インストールしてから試しはしてるんだろうけど、40の味覚が指揮官と合っていると良いね~」

 

「45、変な事を言わないで欲しいな……」

 

「あはは、40姉の味覚がエンフィールドみたいだったら……あれ、そうなると今ここに居る私達も道連れになるんじゃ……?」

 

 不意に放たれたUMP9の一言に、部屋の空気が静かに凍る……いや、まさかそんな事が……と言いたい所ではあるが、誰もUMP40の腕前は知らないし面倒見の良い彼女だが偶に悪戯をする事もある。 初めて他人にふるまう料理だから多少はふざけて……なんて事が無いとは言い切れない。

 

「……少しだけ様子を見てくるよ」

 

「い、いってらっしゃ~い」

 

「私達の昼食は指揮官に委ねられたわ……」

 

 嫌な予感がした為、少しだけ様子を見てくると伝えソファーから立ち上がる。 額に汗を浮かべた姉妹から見送られ台所へと向かう……UMP40は私の足音に気付かず台所に向かったまま、フライパンを振り鍋の様子を見てと忙しなく動いている。

 

 さてここで問題だ、UMP40は無防備な背中を晒している。 何時も着用しているジャケットは脱いでいるが、その代わりにエプロンを付けている……その背中は無防備であるし、何時もは降ろしている髪を衛生面からかポニーテイルへと結びあげ普段なら見えない首筋が晒されている。

 

 後ろから奇襲的に抱きしめたい衝動に駆られるが、包丁を持って居た場合やフライパンを握っている時に驚かせてはいらぬ怪我をする場合があるかもしれない……まあ、ここは無難に声をかけておこう。

 

「40、何か手伝う事はあるかい?」

 

「いや、今は平気だよ~……ってあれ、指揮官……どうかしたの? あ、もしかして心配してくれたのかい?」

 

 小皿で何かの味を見ていたらしい40が振り向きながら答える。 私だと気付くとニカッ と笑みを浮かる。

 

「ん~……まあ、それもあるんだけど……ちょっと味見できないかなってね」

 

 ワザとらしく腹を押さえ、お腹空いてますというアピールをする。 流石に面と向かって君の味覚が信用できないから味見させて 何て言う指揮官は居ないと思う。 居たとしたら相当空気が読めないか、正直な人なんだろう。

 

「ふふっ、仕方ないな~……ちょっと待っててね」

 

 また台所へと振り向き、小皿に茹でている物を取ろうとする40。 どうかな~……と様子を見ているのだが……うん、だめ 我慢の限界。

 

「あ、ちょっと待って40」

 

 ん? と疑いも無く振り返る40に手を回して捕まえ少し強引に唇を奪う。 目を見開き茫然としている間に彼女の口内へスルリと舌を侵入させ、彼女の舌を捕え味わう様に絡ませる……再起動した40からくぐもった抗議の声があがっている様だが、暫く抱き締め続けていると諦めたのか私に身を預ける様にしてくれた。

 

「んっ……ソースの味は問題なさそうかな」

 

「……馬鹿っ、いきなりなにするのさっ!」

 

「あはは……ごめん、我慢できなかった」

 

 むうっ と睨みつけてくる彼女だが、真っ赤な顔でそう言われても全然怖くない。 むしろ可愛いとすら思える。 ポカポカと胸を叩いて来るが、力が全く入っておらずあまり痛くは無かった。

 

「隣の部屋に45や9が居るんだからね? それは分かってる筈なんだけどなあ……」

 

「ごめんって、後で埋め合わせはするよ……それよりも自分でやっておいて何だけど、鍋大丈夫かな?」

 

「鍋って……うわわっ!! ああもう全部指揮官のせいだからね!」

 

 慌てて鍋の方へと向かう40、それを追いかけ隣へと進み何か手伝う事はあるかな? と再度聞いてみる。

 

「…………」

 

 返答はジト目であり、どうやらここは40に任せるしかない様だ。 ごめん と再度謝り両手を胸の前で振り苦笑いを浮かべる。

 

「指揮官」

 

 流石にこれ以上邪魔をする訳には行かないだろう、と台所から出て行こうとすると40から呼び止められる。 何だろうか と振り返るとネクタイを掴まれグイッ と引き寄せられると、唇に柔らかい感触と視界一杯に彼女が映し出される。

 

「んっ……それじゃ、隣でちゃんと待っててよね」

 

「……ああ、待ってるよ」

 

 頬を染めた40が私から離れ料理の続きへと戻っていく。 ほんのりと香るミートソースが印象に良く残った……

 

 

 

「ねえ、なんだか麺が水っぽくない?」

 

「あ~45姉もそう思う? 何て言うか柔らかいと言うか、茹ですぎてるような?」

 

「あ、あはははっ……まあ、初めてだから多少は……ね?」

 

 そう苦しい言い訳をする40に、何とか援護をしたい所ではあるが……45が相手では迂闊な事は言えない。 そう思い黙々と40が作ってくれたスパゲティを口に運ぶ……うん、確かに少し水気が多いが私的には問題無いと思う。 と逃げの一手を打っていると胸元のタブレットからコール音が鳴る。 何であろうか と見て見ると相手先は45で、URLが張り付けられている。

 

 嫌な予感がするものの、放置する事は更に不味い事になりそうだ と先を見て見ると……台所でキスをしている私と40の姿が、監視カメラ越しであろう位置から映し出されていた。

 

 口の物を吹き出しそうになりつつも堪えゴホゴホを咳き込む。 続いてきた文章が≪止めはしないけど時と場所はちゃんとわきまえよ~ね~?≫と……次からは気を付ける事にしよう。




 書きたいSSが多すぎてまとめ切れない……子供9の話もあるし、AUGの話もなんか思い浮かんだのですが纏める力が……?

 うーん……連休(土日休み)が欲しいなあ……
評価やコメント ありがとうございます。 誤字脱字があったらすみません……


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UMP9 幼い約束

 遅くなりましたが9の子供スキンの時に思いついたお話です……
え、二か月前?? 月日が経つのは早いデスネ


「……もう一度説明して貰っても良いかな?」

 

「指揮官、聞きたいならもう一度でも三度でも言ってあげるけど……現実は変わらないのよ?」

 

「はあ……つまり、配布されたスキンのバグによってUMP9が子供化した と言う事は本当の事なんだね?」

 

 確認の為、もう一度45が報告してきた事を口に出して聞き返す。 何時もの薄っすらと笑みを浮かべている彼女は鳴りを潜め、何処か頭が痛いと言う様な疲れた様な表情を浮かべたまま頷いた。

 

「……私の事、分かるかな?」

 

「ん! ちきかん!!」

 

 UMP45の後ろから覗き込んでくるUMP9(子供)に、しゃがみ込み目線を合わせながら聞いてみると元気よく笑顔でお返事をしてくる……良く教育の行き届いてる娘ですね、手を上げながら答える様は微笑ましい。

 

 45の後ろから覗き込んでくる事から分かる様に、身長も子供スキンと言われる様に低くなっておりこの身体で銃を持つ事は難しそうだ……45が困っているのもそれなのだろう。 知能も外見に引きずられている様子で舌足らずな口調で指揮官と呼ぼうとしている事が分かる。

 

「……指揮官にも分かる様にこの身体で銃は持てないし知能レベルも子供並になっているから今日の作戦には連れていけないの。 技術者から修正プログラムは今日中に仕上げると言質を取っておいたから明日には修正されるけど、今日一日私達は出撃しないといけない……だから、後は宜しくね指揮官~」

 

「分かりました、執務室で預かりましょう……ないん、私とお留守番出来るかな?」

 

 キョロキョロと私と45を交互に見つめ、45が頷くのを確認するとん、 とこちらな両手を広げ突き出してくる……これはあれですか、抱っこという事でイインデスカネ?

チラッ と45の方を伺ってみると何時もの微笑を浮かべながら片目を瞑りお願い というポーズを送って来る。

 

 やってくれないかな?

 

 そういう意味であろう……まあ、これなら抱っこしても問題は無いだろう。 両手を突き出している9の脇に手を入れ一息に胸元へ抱き寄せ持ち上げる。 落ちる心配が無い様に自分の左腕に9を座らせ、右腕で背中に手を回す。

 

「ふふふっ、顔は似てないけど親子みたいだよ指揮官」

 

「……慣れている、という意味でだよね?」

 

「そう言う事にしておいてあげるよ~……じゃあ、行って来るね」

 

「行ってらっしゃい、気を付けて無事に帰って来るんだよ」

 

 ヒラヒラと手を振る45に手を振り返すと、抱えている9もブンブンと手を振るのでユラユラと揺れるツインテールがくすぐったかった。 45はそんな私達を微笑みながら見返し執務室のドアを閉めた。

 

 

 

「45姉……」

 

「寂しいかい?」

 

 キュッと私の制服を握る9に目線を向けると、彼女はブンブンと首を横に振る。

 

「ちきかんが居るから平気だよ?」

 

「そっか……強いね9は」

 

「ん……強くは無い よ? ちきかんが暖かいから、平気なだけ」

 

 私の方へもたれ掛かり頭を預ける9、その無防備な姿は私の事を信頼していると言う事なのだろう。 子供は正直なのだから……多分。

 

 このままで居たい気持ちもあるが、書類仕事は待ってはくれない。 執務机まで9を抱いたまま座り膝上に乗せ報告書を確認する。 膝上の9は手持無沙汰にならない様、重要度の低い書類を渡して読んでいてもらう……ただすぐに飽きるだろうからカリーナに何かしら児童用の絵本、又はそれに類似した電子データが無いか確認して貰う。

 

 カリーナの良い所は必要としている物に対して何故必要なのか と言う事を聞かない事だ。 早々に絵本のデータを探し出しこちらへと送ってくれる……まあまあな値段がしたが、それでも闇市の適正価格より少し安いくらいだ。

 

「9、こっちで絵本を読むかい?」

 

 予想通り、難しい漢字に文字だらけの書類はつまらなかった様子で折り畳んだり何かの形を作ろうとして遊んでいる所であった。 書類的には問題ない、近くの街でバーゲンをやるという報告書だったからだ。

 

「ん~……読んでくれる?」

 

「……少し待ってくれれば、良いよ」

 

やった! と喜ぶ彼女に胸が痛み、書類を捲る度に終わった? 終わった?? と期待を込めた瞳で見上げ、まだ枚数がある事に気付いてまだかぁ……とシュンと顔を伏せ、足をプラプラさせる9に良心は限界を告げた。

 

無理、地頭と泣く娘にゃ敵わないとも言う事だし、とりあえず即時に対応しなければならない事案は無いみたいなので今日の業務は全て明日に回そう。

 

「……よし、終わったよ9」

 

 本当に? と言いたげな9を抱き上げ、執務用の椅子から立ち上がり応接用のソファへと移動する。 膝上に乗せデータパッドに転送された絵本のデータを展開させる。

 

「どんなお話?」

 

「ん……シンデレラか、え~っと……」

 

 適当に概要を説明しながら絵本を読み進めていく。 私の膝上で楽しそうに物語を聞く9は物語の進展に一喜一憂し、大げさに小さい体を動かし、手や足をパタパタさせながら続きを聞きたがる。

 

 子供が出来たらこんな感じになるのだろうか……と頭に出てくる感想に何を考えているのやら と苦笑する。 明日も知れない仕事をしている所に嫁いでくれる者など居ないだろう。 普通の幸せはこの仕事に就く事を決めた時に諦めたのだから……

 

「ちきかん?」

 

「ん? ああ、ごめんごめん。 えっと続きは……」

 

「ん~ん、ちきかん 寂しそうな顔 してた」

 

「……そうかな」

 

 誤魔化す様に笑みを浮かべるが、9は納得してくれていない様だ。 不満げ……と言うより、心配そうに眉を八の字に落とし私の頬に両手を添える。

 

「大丈夫だよちきかん、あたしが傍に居てあげるから。 寂しくさせないよ?」

 

「あはは、参ったなあ……心配してた立場が逆転しちゃったかな」

 

「……ちきかん、私は本気だよ?」

 

 むっ と眉根を寄せ不満を表情に出す9. 疑っている訳でもないし、傍にいると言うのも友達としてとかの面が強いだろう。 それに……スキンのバグと言う事だ。 明日には今日の事は忘れているだろう……

 

「疑ってはいないよ9、何なら約束しようか?」

 

「……指切り」

 

「良いよ、大人になって覚えていたら傍に居て貰う 約束だ」

 

 小指を差し出すUMP9に私の小指を絡める。 ひまわりの様な笑顔を浮かべ「ゆ~びき~りげ~んま~ん……」と歌いながら小指を上下に揺らす9はご機嫌だ。

 

「約束 だよ?」

 

 念を押す様に言葉を重ねる9に私は頷き彼女の頭を優しく撫でる。 擽ったそうに笑いながらはしゃぐ9。 それからも彼女はジッと私の挙動を見つめ、何か手伝える事……例えるなら掃除や片づけをしようとするとパタパタと後ろからくっついて来て整理を手伝ってくれたり、雑巾やはたきを一緒になってかけてくれたりしてくれた。

 

 手伝いが終わると私の前に立ち、頭を撫でて欲しそうに見上げてくるのでその度にフワフワとした柔らかい彼女の頭を撫でているのだが、その度に嬉しそうにするのでこちらとしても嬉しくなってくる。

 

 ただやはり子供になってしまった体では長い時間行動する事は難しかったのかもしれない。 気付くとウトウトと船を漕ぐようになっていたので宿舎に戻って眠る様に伝えるとハッ と目を見開いて眠くないと彼女は服を掴んで訴えるものの、無理をしているのは一目瞭然である。

 

「私も少し疲れていてさ、眠くなってきたんだ。 一緒に少し眠らないかな?」

 

 一緒に という所で安心したのか、服を掴みもたれ掛かる様にすぅすぅと寝息を立て始めるので、毛布を掛けようか と腰を上げようとするも掴まれた手が思いの外硬くこれは仕方ないとそのままソファーに背を預け9を抱き直して目を閉じる。

 

 人の体温は安らぎを与えると言うのはあながち嘘ではないのだろう、少し目を休めるつもりだけだったのだが意識が少しづつ薄れて……

 

 

「指揮官……指揮官?」

 

 気が付くと既に時刻は夜間、目の前でUMP45が私の肩に手をかけ体を揺さぶり心配そうにのぞき込んでいる。 大丈夫だと告げ、腕の中に居る9を見て見るが眠る前と同じ様に眠っていた。

 

「随分と好かれている様ね」

 

「まあ、姉である君には敵わないけどね」

 

「ふふっ、そうそう簡単に抜かれちゃ困りますよ……ほら、9起きて」

 

 ニコニコと微笑みながら眠っている9を起こす45。 数回揺すってあげると半分寝ぼけているだろうが目を覚ました9は、私と45を交互に見つめる。

 

「ほら、帰ってちゃんと寝よう?」

 

 両手を脇に入れ9を抱っこする45に、9は少しだけ私の方を見るが頷くと45の方へとしがみ付いた。

 

「じゃあ指揮官におやすみしとこっか」

 

「ん……おやすみ……ちきかん」

 

「おやすみ9、また明日ね」

 

 明日には今日の記憶は無いだろうけど、45の胸に抱かれた9に手を振り執務室から出て行く彼女達を見送り、私も執務室を後にする……幸い先ほど片づけていたから、明日の業務には問題無いだろう。

 

 

 

「おっはよ~指揮官!!」

 

 翌日、執務室で書類を整理しサインをしている所にUMP9が姿を現した。 昨日の様な子供姿ではなく何時もの服装に身長だ。

 

「おはようUMP9、身体に問題は無いかい?」

 

「大丈夫だよ! オールグリーンって奴だね!!」

 

 ふんっ と両腕を上いっぱいに上げ、元気元気とアピールする彼女に問題は無い様だ。 が、今日も昨日と同じでそれほど忙しくは無い。 本当に各所異常が無いか調整の為に射撃場や運動場で少し慣らしをする方が良いのかもしれない。

 

「ねえ、指揮官」

 

「ん?」

 

「家族になろうよ!」

 

 今日の予定を見直し、射撃場や運動場のスケジュールを確認していた私に、9がキラキラした瞳で告げたのだ。 何時も仲間達の事を家族だ! と言う事があるが、それとは少し違い決定系でなく提案である事が私の頭に残る。

 

「家族って……今までは家族じゃなかったのかな」

 

「んも~、指揮官ったら……そうじゃなくて本当の家族になろうって意味だよ!」

 

「本当の家族?」

 

「大人になったら傍に居てあげるって約束したでしょ?」

 

 ピシッ と私の思考が止まり身体が硬直する。 何故それを覚えているのか……?

 

「しきか~ん? もしかするんだけどスキンのバグだから、バグの間の事は全部無かった事になるとでも思ってたのかな~?」

 

「UMP45……」

 

 ニコニコと昨日と打って変わった張り付けた様な営業スマイルを浮かべ扉に背を預けつつ腕を組んでいるUMP45。

 

 私は知っている、この時の45は大抵怒っている時の表情だ。 ダラダラと背中を伝う冷や汗をシャツが吸い込み不快感を増していくが、笑顔を浮かべながら冷たい声を発する45に即座に冷却される。

 

「話は聞かせて貰いましたよしきか~ん? 9に大きくなっても覚えていたら傍に一生居て貰う なんて約束したって」

 

「えへへ……ちゃ~んと覚えているよ指揮官!」

 

「へええええ……ふう~ん……まさか、約束を破るなんて事は無いですよね~しきか~ん??」 

 

 詰みという状態である。 もしここで否定すれば待っているのは妹を弄んだ重罪人として裁かれる未来だ。 かと言って肯定したら人生の墓場直行便だろう、9は既に嬉しそうに指揮官と家族! とその気であるし、45も約束を履行しろ と言わんばかりである。

 

「「指揮官?」」

 

 さてどうした物だろうか……左右から聞こえてくる追及の声に、私は何を用意すれば良いか前向きに考え始めた。 明日も知れない仕事に就いた私ですが、幸せになっても良いのでしょうか?

 

 その答えを知るのは、最早居なくなってしまった神ですら分からないのかも知れなかった。

 




お仕事が修羅場ったのがいけないんです! お、おれは悪くない! だって上司が……上司が言うとおりに残業して、指示通りに仕事をしてたら体力ごっそり持って行かれて風邪が治らなく……

とネタを一通りやれるくらいには回復しました。 これから秋です、皆様も体調にだけはお気をつけて


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Vector 誕生日に贈り物を

 Twitterでお誕生日のたぬきさんが居ましたので、急遽呟いた物を再編集したものです。
短い物ですがよろしくお願いします。


「誕生日を祝いたい?」

 

「んっ」

 

 ある昼過ぎスプリングフィールドの運営するカフェでエスプレッソをのんびりと飲んでいた私に、普段事務的な会話しかしない副長から告げられた相談に私は目をパチパチと瞬きさせた。

 

 偽物か? と思い目線を合わせ網膜の奥に設置されている受光部から情報を読み取る……型式番号確認、Vector本人だ。 頼んだ珈琲を添えられたティースプーンでくるくると回すだけで、今の所一口も飲んでいない。

 

「突然どうして?」

 

「親しい人にはそうしなさいって雑誌で読んだ」

 

「それでなぜ私に?」

 

「FAMASなら指揮官の隣に居る事が多いから、何か良い案があるかと思って相談した」

 

 Vectorとの会話……会話と言うより質疑応答という方が正しいだろうが彼女の言う事は間違いではない。 この基地で副官を最初期から務めているのは私だ。 今でこそ負担を軽減させるという名目で副官は交代制となったが、指揮官の隣に居る時間が最も多い戦術人形は私だろう。

 

 ふむ……しかしどうだろうか、指揮官に物を贈りたいと言う事だが……贈る物を仮定しシミュレートを開始……

 

「んー…指揮官でしたら、何を送っても喜んでくれると思いますが」

 

 シミュレートを手作りお菓子、万年筆、ネクタイ……と考察していくが、指揮官ならば喜んで受け取ってくれるだろうという結果が出た。 むしろ誕生日を覚えてくれている事を喜んでくれそうでもあるが……

 

「…それでも」

 

「それでも?」

 

「他の人形より覚えていて欲しいから、相手が本当に喜ぶものを選びたい」

 

 目線を珈琲から上げ、私に目線を合わせるVector。 綺麗な黄金色の瞳が真っ直ぐに私を見ており想いの強さを示していた。

 

 何事も冷めた様にしか見ていなかった彼女が、ここまで強い思いを持てる事は良い事だ。 それが指揮官に対して自分の事をもっと覚えて欲しい、見て欲しいという事であるのならば尚更だろう。

 

「……でしたら、マグカップはどうでしょう」

 

「そんな物で良いの?」

 

 以外だと言いたげに目を開くVectorに、そんなものだからこそ良いのだ と思う。 皆そうやって特別になりたいと思う人形は何かしら自分でなければ贈らない物を探したがるものだが……珍しい物や価値の大きすぎる物では指揮官は必ず遠慮するだろうし、高価な物ならあの人の興味を引けると言う物では無い。

 

 資金ならはっきり言って指揮官の方が持って居るのだし、本当に必要で珍しい物でも彼は欲しいと思えば手に入れられるのだ。

 

「身近で良く使うものであり、執務室でよく目に入る物……定番かもしれませんが、それ故に他の人形は避ける物です。 ただしVectorが指揮官を思い考え、選んだ物でしたらどんな高価な物よりも指揮官に思いが届くでしょう」

 

 東洋の言葉ですが、思いは物に宿りその物は思いを相手に届けるだろう という事だと伝える。 指揮官は東洋出身であるのなら尚更効果があるだろうと言う助言も付け加えて だ。

 

「……ん、ならそうする。 ありがと」

 

「どう致しまして、上手くいく事を祈りますよ」

 

 グッ と一息に珈琲を飲み、請求書の置かれた付近に珈琲一杯にしては随分を大目の貨幣を置いていく。 お礼だから気にしないで良い。 そう彼女の瞳は告げていたのでありがたく受け取っておこう。 ヒラヒラと片手を振り歩いていくVectorに軽く手を振り返す……上手く行くと良いのですが……

 

 

 

「……マグカップって、こんなに種類があるんだ……」

 

 FAMASからの助言を元に、マグカップを贈り物とするのを決めたのは良いのだが……今目の前で広がる雑誌や検索をかけているネット上のカタログを読み込んでいるのだが、マグカップと一口に言っても陶器の物やステンレス、保温性のあるサーモマグカップと呼ばれるものまで、素材を決めたら今度は絵柄が描いてある物か無い物か、白の無色か単色か……

 

 FAMASが言っていた、本当に相手の事を思い贈る物ならば……という意味が何となく分かった気がする。 これは答えが複数あり、そのどれもが正解であり間違いであるものだ……そして答えは誰にも分からないものだろう。

 

「……指揮官に似合う物 か」

 

 記憶媒体より保存した画像データ、動画データを呼び出し展開する。 私服の彼を見た事は無いのでグリフィンの紅い制服のみだが……そのどれもが私に気付くと微笑んでくれるものであった。

 

 もう少し考えてみよう……私は戦う事が本分であるが、指揮官が言ってら戦う事以外に何かを見つけてみたらどうだろうか という事に、私なりに答えてみようと思ったからだ。

 

 

 

 悩んで悩んで……ようやく決めた物は陶器の真っ白なマグカップだ。 ステンレス物でも良かったのだが光を反射しやすいので目立ってしまうのはあまり良くないと思ったのだ。

 

 執務室の扉をノックし、返事を待ってから入室する。 指揮官は相変わらず執務机で忙しそうに書類を整理している所であった。

 

「指揮官」

 

 私の呼びかけに視線を上げ、何時も通り笑みを浮かべながら要件を聞いてくる指揮官に包装した箱を差し出す。

キョトン とした顔をして私を見上げる指揮官に誕生日でしょう? と呟くと驚いた様な表情の後嬉しそうに笑って箱を受け取り開けても良いかい? と聞いて来るので頷いて了承する。

 

 指揮官は、私の気持ちに気付いてくれる?

 




 次は12月にお誕生日の人が居るので、スプリングフィールドが確定しています。
間に合うのか……? 頑張りましょう


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一限目 ST AR-15犬

 ドルフロの宿舎に届けられたメッセージに、AR-15犬の講座 と言う物が書かれていたので衝動で書いてみました。
 ネコが居るのなら犬だっていて良いじゃないかの精神です。


 おはようございます、さて受講者諸君は初めまして。 当講義を預かる者ですが、まあ助教授という役職を頂いているので名前でなく役職で呼んで貰えればと思います。

 

 さて、初めての講義としましては人形ネコと呼ばれるネコ型の人形……についてではありません。 そこの肩を落としている方は猫派でしたかね? 申し訳ありませんが人形ネコは別の方が講義したり解説をしていますのでそちらを受講して下さい。

 

 ではどの講義をするのか……という事についてですが、猫に対を為す動物とは何でしょうか? そこの人正解、犬ですね。 人類の最初のパートナーが犬であると言う事は考古学的に間違いが無いと言われています。

 

 何故そんな事を話すのか と言いますと、人形ネコが居るのに人形犬が居ないという訳がない という事ですね。 では紹介しましょう、この娘が人形犬です。

 

「ワンッ!」

 

 はい、今回連れて来ました人形犬はST AR-15犬です。 少し長いのでAR-15犬と呼称しますが、この様に専用カバンに入るくらいの小さいサイズで大体二頭身の可愛い生物となっています。 個体差はありますが大きくても小型犬程度の大きさにしかなりません。

 

 特徴としては犬の様な耳と尻尾を持ってる事が確認されており、本物と同様に喜怒哀楽を表したり聴覚を備えている事が分かっています。 それ故に人形犬という名称が付けられているのですね。

 

 また犬と呼ばれていますが四足歩行でなく二足歩行をしています. 手足が短い為全力で走ったとしても子犬より遅い為、遠い距離を移動する際は専用のカバンに入れてあげたり抱っこしてあげる必要があります。

 

 人形と最初に付く様に、この娘達は戦術人形に非常によく似ておりますが言葉を発する事は出来ません。 しかし私達の言葉を多少なりとも理解し学ぶ事が研究によって解明しております。 貴方方がこの娘達と共にいる時間が長ければ長い程彼女達は貴方方を理解し自分で考え行動する様になります。

 

 個体によっては私達の生活のサポートをしてくれたり、仕事を手伝ってくれたり……少し人見知りな娘が居たりと様々な個性を持って居ます。 その個性を理解し、自分に合った人形犬を迎えるのも主人として貴方方に必要なスキルとなります。 初歩的な事ですが、相手を理解して受け入れると言う事はとても大切な事です。

 

 

 さて、前置きが長くなりましたが今日はこのAR-15犬について説明していきましょう。

 

 

「……(ピスピス)」

 

 さて、先ほどは元気に挨拶をしてくれたAR-15犬ですが、今は鼻を鳴らして周囲を探っている様な状態ですね。 これは初めての場所であり、周囲に多数見知らぬ人間が多数居る為緊張している事を示しています。 この場合飼い主である貴方は落ち着くまで慌ただしい行動をしない方が良いでしょう。 暫くすると周囲に危険が無い事を確認し一息ついて飼い主を見上げてきます。

 

『問題ないですね?』

 

 そう確認する様にこちらを見上げてきますので、問題無いよ と答えながら労う様に頭を撫でてあげましょう。 そうする事によってようやく彼女も少しリラックスできるようになります。 気が真面目な為、飼い主である貴方方が気を使って安心しても良いんだよ と教えてあげてください。

 

 因みに頭を撫でる際ですが、彼女は余り気にかけて無い様に見えますが、よく見て下さい……そう、この部分ですね。 手が頭に触れるか触れないかの距離で耳を下げています。 これは撫でやすい様に彼女がそうしているという事なので、遠慮なく撫でてあげましょう。

 気にしてない様に見えて尻尾は嬉しそうに振っていますので、そのサインを見逃さない様にして下さい。

 

 

 最初からそうなのか? と聞かれるとそうではありません。 貴方の家に受け入れられた彼女は最初期程精神的に不安定です。

 

 こちらのデータからも分かる様に、自分は選ばれたが見捨てられないか、飼い主に存在価値を示し、求められている事に応えられているか……その事ばかりとは言いませんが、とにかく貴方に認めて貰いたい、見ていて欲しい という欲求が強いです。

 

 その為、家に来た数週間は張り詰めた糸の様に貴方の一挙手一投足を見て、自分が何をすべきなのかを理解しようとします。 貴方が自分に何を求めているのか、自分はどうすれば認めてもらえるか……精神的に余裕が無いその間は非常に病気にかかりやすい期間となりますので、なるべく傍に居てあげて下さい。

 

 その為自分に出来る、出来ないではなくやらなければいけないと自分で自分を追い詰めてしまう時期ですので、普段なら自分で持てないと判断できるであろうマグカップも片付けようとしたり、掃除をしようとして自動掃除機に吸い込まれかかってしまったりと、危険である事も率先してやろうとしてしまします。

 

 もし失敗してしまったり、危ないと思う行動をしようとした時にはやんわりと諫めてあげて下さい。 君にはそれをするのは危ないから、こういう事をして欲しいな と別の事をお願いするようにしましょう。

 

 ここで注意する事は、心配だったからと怒る事だけをしてはいけません。 感情的に怒ってしまうと、自分は認められていないと感じてしまい強いショックを受けてしまいます。 彼女は賢く聞き分けが良い分、貴方の言葉を誠実に受け止めますので、その点にだけは注意してあげて下さい。

 

 

 

 さて、ある程度貴方の家で生活し貴方に認められていると感じ始めると、少しだけ精神的に余裕が生まれる為貴方以外にも目を向ける様になり始めます。 必要最低限の事にしか興味を示さなかった彼女があらゆるものに興味を示す様になるのもこの時期です。

 

 元々、知識を学ぶ事が嫌いでは無い彼女なので、貴方が呼んでいる本や電子書籍に興味を示すでしょう。 時間があるようでしたら膝の上に乗せ一緒に読んであげるととても喜びます。 表情にはあまり出しませんが、こちらの映像データからも分かる様に尻尾をパタパタと振っているのでとても分かりやすいですね。

 

 小さな本を用意してあげると、時間がある時に一人でリラックスしながら読む事をし始めます。 これは家に貴方が居ない場合の寂しさを紛らわせるのにも有効ですので、仕事場に理由があって連れていけない場合などには率先して用意してあげましょう。

 

 また体を動かす事も好きなのでケージに居れる事はなるべく避けた方が良いでしょう。 もしあまり動いて欲しく無い時はちゃんと説明してあげれば、彼女は理解し言いつけを守るようにしてくれます。

 

 この時期になれば危険な事をする事はほぼなくなります。 貴方が何をして欲しいのか、何が危ないからやってはいけないかをしっかりと伝えてあげていれば自分が何を出来るのか、貴方がどうすれば喜んでくれるかを考えて行動する様になります。 心配する必要はありませんが、家に居る時は余り目を離さない様に引き続きしてあげて下さい。 四六時中見て居なければならない、と言う訳ではありませんが、鳴き声が聞こえたら手を一旦止めて彼女の方に向き直ってあげましょう。 その事で彼女は更に安心と信頼を覚える筈だからです。

 

 

 

 さて、信頼して貰えたと感じたAR-15犬は貴方に対し従順で愛情や献身は深く、自身が怪我をしてでも貴方を守ろうとします。 また他の人形犬に対しても不器用ながらも優しい一面を見せる様になります。

 

 この研究データから見て分かる様、特に『M4犬』、『M16犬』、『SOPⅡ犬』との相性が良い事が分かっています。 彼女達と共にいる場合、個性豊かで我が強い彼女達の引き締め役となります。 ワンワンと吠えている時はしっかりしなさい! と言っているようです。 やり過ぎているな と思っても余り口を出さないで上げて下さい、彼女なりに調節はしています……ただ頑張り過ぎているなと感じたのなら、膝の上に乗せ休ませてあげましょう。

 

 信頼を覚えた彼女は貴方の膝上でゆっくりと眠る事が出来る筈です。 ウトウトしている時、赤子をあやす様にポンッ、ポンッ、とお腹を叩いてあげると、繋がっている事を確信して貴方に身を委ねるでしょう。 その信頼を裏切らない様に……難しい事ではありません、この娘達が寄せる想いに応えてあげる……ただそれだけで十分です。

 

 

 さて、まだ色々と伝えたい事はありますが……時間が来てしまったみたいですね、本日はここまでとしましょう。 ST AR-15犬もお疲れ様、今日は頑張ったね。 戻っておいで。

 

「ワンッ!」

 

 よしよし……ん? 私にこの娘は随分と慣れている様だ ですか? まあ、私以外にこの娘達の研究をしている人があまり居りませんから……この講義で使われているデータも全部私が取った物ですからね。

 

 質問事項、又は他の人形犬について聞きたい事がある場合は、研究棟のナンバー12の部屋に居るのでそこまで来て下さい。 では本日はここまで、お疲れ様でした。 

 




 小型犬って可愛いですよね、家でも飼っていますが、疲れて帰って来た時足元でビョンコビョンコ飛び跳ねてくる様には癒されます


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AK-12 捕まえていて、痛いと感じる程 AN-94 貴方のかけがえの無い存在となる為に

 特異点が開始されました。 製造確立アップのその日に「確率アップで来てくれたらSS書くぞ!」 と言い放った所、待って居ましたと言わんばかりにAK-12が来てくれたので書き上げました。
 AN-94は……まあ、財布が無事大破しましたが来てくれたので……

 注意点ですか? 好感度が高めの設定で書いてますのでご注意下さい。


AK-12 捕まえていて、痛いと感じる程

 

 

 ギシッ、ギシッ……と床を踏みしめる音が聞こえる。 まだ日が昇り始めた早朝に足音を抑えながら自分に近づくモノは何であろうとも目を覚ますには十分すぎる理由になるだろう。

 

 足音が止まる時を狙い、勢いよく布団を捲り上げ物音がした方向を見定めてみると……

 

「あら、おはよう指揮官」

 

 目を閉じたまま何時もの戦闘服でこちらを見つめているアサルトライフル戦術人形 AK-12 が立っていたのだ。

 

 周囲を確認の為に見渡すと、就寝前と変わらず何時もの見慣れた私室であり、ここが仮眠室や執務室ではない事を寝起きの頭でも理解する。

 

「……どうしてここに?」

 

「ん~指揮官の寝顔が気になったから かしら?」

 

 あと朝最初に会った人に挨拶すらしないのかしら? と涼しい顔で言ってのける彼女にため息が出てくるのは仕方のない事であろう。 軽い頭痛を覚え額に手を当てて見るものの、彼女はニコニコした表情を崩さず私を見つめ続ける。 何処までもマイペースな娘だ……こうなってしまうとこちらが合わせる他無い。

 

「おはようございます、AK-12」

 

「おはよう、今日も良い天気よ」

 

 丁度朝日が差し込んで来たのだろう、彼女の銀髪が光を浴びてキラキラと輝く。 何時もの様に見える笑顔が幾分か機嫌が良い様に見えたのは錯覚なのだろうか?

 

「朝食は出来てるわ、待っててあげるから早く着替えてきて頂戴ね」

 

「朝食を?」

 

「気が向いたから よ」

 

 そう告げ寝室のドアを閉めて行く彼女……しかし、朝食とは気が向いたら作ってくれるようなものなのだろうか? と考えそうになるが早く着替えないといけない。 あまり遅くなると機嫌が悪くなるからだ。

 

 暖房がかけられている様で、さっさと寝間着を脱ぎ適当に洗濯用のカゴに放り込みクローゼットを開けるとノリが効いたグリフィンの制服とシャツがかけられている……恐らく手入れしたのは彼女だろう。 何時の間にやったのだろう、昨日寝る時には特に何もしていなかった筈なのに……

 

 

 

「どうかしら?」 

 

「うん、美味しいですよ」

 

「ふ~ん……そう」

 

 興味がありません と言う様な言葉遣いではあるが、閉じられた瞳が微かに開けられ私を横目で見ている事は分かっている。 ただそれを迂闊にも指摘した場合、今日一日の業務を副官無しで務める事になるので過ちは繰り返さない。

 

 最もその場合、気を使ったAN-94が代わりを務めAK-12が更に拗ねるの悪循環が待って居たりする。 AK-12が手伝うから下がりなさい と伝えるとAN-94はあっさり引き下がるのだが、提出書類等の行進状況を確認しているのか、一定の効率以下になるとまた執務室へ訪れるのだ。

 

「AK-12は食べないの?」

 

「ええ、もうここに来る前に頂いたもの」

 

 朝食はトーストにスクランブルエッグとソーセージにサラダ、卵のスープと定番ではあるが作るとなると多少時間がかかるものであった。 作った当の本人は頬杖をついてこちらを眺めているのだが……小さな声で呟く様にデータ、とか保存 という言葉が聞こえてくるのだが……眺めていると言うよりは観測している、という方が正しいのだろうか?

 

 その観測結果からか、最初の頃は珈琲を淹れてくれていたのだが、苦い物が苦手だと表情に出ていた事から気付いたのか、それとも誰かから聞いたのか、私の好物がココアであり甘い物は食事には合わないので食事が済んでから飲むようにしていたのだが……

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして食べ終わり、食器を下げる時に交換としてココアを出してくれる様になっていた。 勿論最初の頃はそんな事をやらなくても良いと何度か告げたのだが、『好きでやっている事なのだから、嫌でなければ受け取っていて』と伝えられて以来、彼女が飽きるまではそのままにさせておこうとしている。

 

 ココアも最初は濃かったり薄かったり、熱かったり温くしてみたりと様々なパターンの物を作っては反応を伺っていた様で、今では丁度良い温かさに味の濃さを提供してくれる様になっている……これ、全部データとして取っていたのかな?

 

「さて指揮官、今日の予定は……」

 

 スラスラと聞き取りやすい発声で今日の予定を簡単に伝えてくれる。 ココアで温まった身体に脳が活性化していき考えを纏めながら今日の編成と配置を考えて行く。

 

 朝食と少しの休憩を挟んで執務室へと向かう。 私室の鍵は電子ロック式なので、AK-12が出てきた所で振り返り鍵を閉めようとした所、カードキーを持って居ない筈のAK-12がチョイと手をかざすだけで電子音と共に扉がロックされた。

 

 

「はあっ~……疲れました……」

 

 打ち込んでいた報告書を送信し、目頭を押さえて痛みを和らげる……今日の業務はここまでだ。 AK-12が適度に手伝ってくれる為に定時では上がれそうだ。 まあ適度と言うのは誤字・脱字がある部分をどうやっているのかは知らないが、PC上で色を付けて誤字・脱字と計算違いの場所を指摘してくれるのだ。

 

 その事に気付き、副官席で姿勢よく座ったままのAK-12に謝意を伝えると何て事は無い と言いたげにひらひらと手を振って来るのだ。 ただ少し問題なのは任務から帰還してきた他の人形と話していると、視界の片隅でこちらを覗き込んだり、報告をしている人形の後ろを資料片手に歩き回ったりと存在をアピールし始めるのだ。

 

 そう言った事をしながらでも彼女は仕事を進められるので、全く問題は無いのだがそう言った事をする理由が分からないのでどう対応すれば良いかが分からない。 以前少しだけ注意した所『その程度で意識がそれてしまうのは問題じゃないかしら?』との事だそうだ。

 

 かと言って反応せず報告を聞いて居ると、報告が終わり人形が宿舎へと戻ると執務室のPCがシャットダウンされたり、突然操作を受け付けなくなる等の電子的問題が多発するので、それ以降無視をすると言う事だけはやめる事にしんた。

 

「お疲れ様ね、指揮官」

 

「AK-12もお疲れ様でした。 この後は好きな様にして下さい」

 

「ん~……そう、なら頑張った副官にはお礼が必要じゃないかしら」

 

 そうソファーに移動して両手を広げるAK-12。

 

 彼女は何時からか自分への報酬として私から触れる事を望むようになっていた。 最初は手を繋ぐ事や頬に触れる程度だったが、次第に頭を撫でて欲しい やハグをして欲しい と少しずつ触れる面積が大きくなってきている。

 

「必要ですね……じゃあ、行きますよ?」

 

「そお、素直なのは良い事よね」

 

 ソファに座る彼女に覆いかぶさり、背中の方へと手を回す。 その際ソファと彼女の間に隙間が出来る様、彼女が体を浮かす為に私の背中に手を回して軽く密着する。 彼女は手が後ろに回る事を確認するとまた力を抜いてソファに収まるので、彼女を自分の身体とソファで挟み込み押し付ける様に抱き締める。

 

「苦しくはない?」

 

「ん~……この位が丁度良いのよね……ふふっ」

 

 密着している為彼女の表情は見えない為、声で判断するしかないが苦しそうではない。 よくよく聞いてみると鼻唄の様な声が微かに聞こえてくる事からこの状態を楽しんでいるのだろう。

 

 と言うよりも嫌であるのならば自分から誘う事は無いだろうし、大人一人の腕力で抱き締めた所で彼女達なら容易に振りほどける。 特にAK-12という特別な人形であるのならば余計にだ。

 

「私以外の別の事を考えているでしょ?」

 

 力が緩んでいる と指摘され再度力を入れ直す。 それで良いのよ と彼女が耳元で囁き、私の背中に回した腕を少しだけ強く引き寄せる。

 

「ちゃんと捕まえておいて」

 

 耳元で彼女が蠱惑的に囁き、甘える様で少しの我儘を言うような声が私の脳に響く。

 

「そうじゃないと、何処かに行ってしまうかも知れないわよ?」

 

「それは困ります」

 

 ギュッ と力を込めて彼女を強く抱きしめる。 逃がさないという意識と、この場に居て欲しいという希望を込めて……彼女はそれに対して嬉しそうに息を漏らし、応える様にポンポンッ と背中を叩いた。

 

「良いわ、貴方がちゃんと捕まえていてくれる限り私はここに居られる様に努力してあげる」

 

 だから、ちゃんと捕まえて逃げられない様に束縛して。

 

 

 指揮官からは見えなかっただろうが、その時のAK-12は指揮官から自分が必要だという言葉を引き出せた事に笑みを浮かべていた。

 

 ただ、指揮官に正面からその笑みを見られる事はまだ駄目だ。 流石に彼女だって恥ずかしいという感情はあるし、惚れさせるのは良いとしても自分が相手に興味を持ち、それが欲しいと思う事など……まだ、彼女は自分が彼に何故ここまで興味を惹かれるかの本当の意味を知らない。

 

 それが分かる時、彼女がどう変わるのだろうかは……それはまた、別のお話……

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

AN-94 貴方のかけがえの無い存在となる為に

 

 冬の朝と言う物は目覚めが悪くなるものであると言う事が、実は科学的に証明されている事である。 目覚めを促す成分が日の光によって分泌を促されるのだが、冬は日差しが弱くなる事によってその活動が阻害されるらしい。

 

 ゆさゆさ……

 

 少しづつ浮かんでくる意識に感じた事は誰かが私の体を揺すっているという事であった。 肩の辺りに両手を添え、優しく意識を覚醒させる様に、一定の間隔でゆさゆさ……と揺すっている。

 

「……起きませんね……AK-12の言う事には、指揮官はこうして起こす方が好みだと聞いたのだが……」

 

 うーん……と悩む様な声が聞こえ、肩に添えられていた手が離れて行く。 恐らく顎に手を当て考えているのだろう……生真面目な彼女らしい。 体を揺さぶって起こされる と言うのは確かに目覚まし等で起こされるよりはマシではあるが、休日はゆっくりと寝て居たいと言うのも本音である。

 

「んっ……仕方がない、次の起こし方を試してみよう」

 

 次の起こし方……? 疑問に思っているのもつかの間、近づいて来る気配がすると同時に耳元で囁く様にアサルトライフル戦術人形 AN-94の声が聞こえる。

 

「指揮官……朝だ、起きて欲しい」

 

 少し湿った風が耳の奥に響く様で、思わず目を開けてしまうと目の前ほぼ数センチくらいの所で空色の瞳がこちらを見つめていた。 起きた事を確認した彼女が少しだけ離れる。 その際頬にかかっていた髪が引き潮の様に流れ少しくすぐったかった。

 

「おはよう、指揮官」

 

 他の人間、人形が居る前ではあまりこうした笑顔は見せない彼女が、微笑みながら朝の挨拶を口にする。

 

「おはようございます、AN-94……今日は休日だと覚えてましたが、何かありましたか?」

 

「えーっと……いや、得に何かあった訳では無いけど……」

 

 気になった事と言えばそこだ。 何故休日に何時もの時間に起こしに来たのか という事。 緊急の事であれば内線を使えばいい事だが……

 

 AN-94は何時ものはっきりとした口調では無く、何かを言い淀む様に視線を左右に振り手を握ったり開いたりしている。 それを数回繰り返し、落ち着いたのか意を決したのかAN-94は少し前のめりになりながら私に視線を合わせる。

 

「……指揮官が休日の過ごし方を教えてくれると言ったから、教えて貰おうと……それをAK-12に相談したら、そういう時は朝から起こしに行きなさい と教えてくれたから……起こし方も、身体をゆすったり、名前を呼ぶと寝て居る人でも、自分を呼んでいると脳は理解するから起きやすいと……」

 

 AK-12の言う事は間違いない と信じる彼女は、AK-12より色々と教えて貰ったり、意見を聞く事が多い と言うのは知っていたが、まさか戦闘以外でも彼女の言う事だけを信じるとは思わなかった。

 

「……迷惑だったか?」

 

「いや、得に予定は無かったから迷惑では無いですよ。 ただ突然だったから驚いただけで……だからそんな顔をしないで欲しいかな」

 

 迷惑をかけてしまっただろうか と落ち込む彼女の頭に手を置き、ポンポンッ と軽く撫でる。 ほっ と、少し安堵した様に息を付き、はにかむ様に微笑みを浮かべるので私はそのまま撫で続けてみるのだが……

 

「指揮官……その、嬉しいのだが朝食が冷めてしまう。 その……」

 

「朝食を?」

 

 聞き返すとコクリと頷く。 少し自信が無いのか視線を逸らし少し頬を染めながら、それでも口調だけははっきりとその思いを告げる。

 

「ああ、簡単な物だが指揮官の為に作ってみたんだ。 なるべくなら温かいうちに食べて欲しい」

 

「……ええ、ありがたく頂きます。 ただ着替えたいので少し待って下さい」

 

「はい、では隣で準備しておきます」

 

 名残惜しそうに私の手を退け、寝室を出て行くAN-94……さて、今日は仕事ではないから動きやすい服装で良いだろう……ベッドから起き上がり、支給品のシャツとスラックスへと着替える。 その際暖房が効いている様で部屋の温度は温かく、加湿器も動いている……今日は休日であったので昨日の夜にはタイマーを設定させていなかった。

 

 つまり、AN-94が気を使って動かしてくれていたのだろう。 だが今更だが疑問がある……彼女はどうやって私室に入ってきたのだろうか、またどのくらい前からか と言う事だ……

 

 

「……おいしい」

 

 思わず漏れた言葉だ。 AN-94が作ってくれた食事はオムレツにサラダ、シチー……キャベツを煮込んだスープであった。 温かい食事はその日の活力になる。

 

 AN-94はその言葉に少しだけ頬を緩めた。 やっぱりAK-12の意見は正しい と聞こえてきたのは……

 

「これもAK-12から教わったのかい?」

 

「ええ、指揮官が食堂で頼むメニューや普段の食生活から最適であろう物を教えてくれた。 作り方から最適な温度、ふわふわになる卵の炒め方まで……ああ、それとこれも好物だと教えて貰っている」

 

 そう言って差し出したマグカップにはこげ茶色に甘い匂い……ココアだ。

 

「ありがとうございます、確かに私の好きな飲み物ですね……うん、美味しい」

 

 一口ココアを飲んでみると、丁度良い温度であり甘すぎず、落ち着ける味わいであった。

 

「ふふっ、そう言って貰えるのなら精度にこだわった甲斐があります。 本当なら少し熱めに入れた方が冷やす間に会話をする時間が出来る という手法もあるのだが……指揮官ならそんな事をしなくても付き合ってくれるだろう?」

 

 微笑を浮かべ、両手で顎杖をつきながらリラックスした表情で視線を向ける彼女。 常に気を張っていた昔とはいい意味で変わってきたのでは無いだろうか?

 

「……その信頼に応えましょう、さて……どんな話をしましょうか?」

 

「ああ、そうだな……じゃあ、AK-12に助言された事だが……」

 

 AK-12は凄いぞBOTと化したAN-94の報告によって、私室のキーカードが偽造されていた事、人形にとっては涼しくて過ごしやすい環境であっても人間にとっては寒いと思うから部屋を暖めておいた方が好まれるという事、オムレツの上にはケチャップで文字を書いた方が……等を教えて貰ったとの事だ。

 

 嬉々としてAK-12の凄さと判断の正しさを伝えてくるAN-94だが、次から次へとよくAK-12の事が出てくるものだな……と少しだけ関心する。 それだけ彼女の事を見ているし、意識していると言う事だろう……

 

「羨ましいな」

 

「それで……突然にどうしました?」

 

 彼女とAK-12は姉妹機にして相棒……ずっと傍に居た分、それだけ話す事や情報も多いと言う事は分かる。 ただ彼女がAK-12の事を話している時はとても楽しそうで……

 

「いや、AK-12の事が本当に好きなんだなって思ってね」

 

「勿論だ、AK-12の為なら私は何だってできる……彼女の補佐をし、守る事が私の使命だからな」

 

 だが、と彼女は続ける。

 

「だが、私は指揮官も特別であると思っている。 誰かの為に戦い、生きる私を指揮官は支え、励ましてくれる。 休暇の過ごし方だって、ずっと戦術書を読んだり訓練したりし続けている私を気遣っての事だろう? 嬉しかった」

 

 AN-94は空色の瞳がその奥まで見えると感じる程、真っ直ぐに私を見つめている。 彼女の言葉に迷いは無い、ただ自分がそう思っている事を真っ直ぐにぶつけてきている。

 

「だから指揮官、今日は私に色々と教えて欲しい。 指揮官がAK-12に羨ましいという感情を持って居る事が分かった、つまり指揮官は私を意識していると言う事なのでしょう? なら私もその気持ちを返そうと思っただけです」

 

 目を逸らす事は出来ない、彼女は彼女なりに私の気持ちに応えてくれようとしているのだ。 彼女は私の手を取りそっと両手で握りしめる。

 

「私にはこうして気持ちを正直にぶつける事しか出来ない。 皆の様に回りくどい事や、何かに例える事とか……風情が無い、つまらない私かも知れないが……それでも、指揮官を想う気持ちは負けない筈だ」

 

 言葉が出ない、ここまで正面から気持ちをぶつけられる事は無かった。 恥ずかしいという思いよりも嬉しいという思いの方が強い。

 

「指揮官、この気持ちはもう偽りません。 これからも私を支えて下さい、私も私の全てをかけて貴方を支えます」

 

 貴方だけの為に……そう告げる彼女に、私は顔全体が熱く感じていた。 みっともなく顔を真っ赤にしているのだろう。 そんな私をAN-94はただじっと見つめている……

 

「……ああ、その……宜しくお願いします」

 

「ふふっ……今はそれでよしとします、もっと積極的な答えが貰える様にこれからも頑張ります」

 

 涼しい顔でくすくすと笑う彼女に、私はどうすれば良いのだろうか? 休日はまだ始まったばかりである……

 

 




 次はAK-12とAN-94の休日編を書きたいと思いつつ、試験やワンコの話も続き書かないとな……時間が……

 書く癖を付ければ、文章は進みますでしょうか?


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AUG 貴方を見送らない為に

 以前ツイッターで呟いたAUGを纏めて投稿しました。


「……また、いらしてたのですね」

 

 こんにちは と何時もの紅い制服を着た彼は挨拶をしてきます。 朗らかな笑みで、両手に抱えきれないくらいの白い花束を手に彼は毎月、決まった日にここを訪れます。

 

 ここはグリフィン関係者の共同墓地……そして管轄区で無くなった方々の眠る場所でもあります。 彼の親族が眠っているのでしたら、彼が来る理由も分かるのですが……以前社員証を確認し、埋葬されている方々の登録されている分のデータを照合しましたが、それらしき人は居りませんでした。

 

 最もここで言うデータ登録されている方とは、しっかりと葬儀が行われ本人だと確認されて埋葬された方のみですから……もしかしたら、登録されていない無名墓地に埋葬されているのかもしれません。

 

「今日もまた、多くの花を持参したのですね」

 

 管理区の方で今日は良い花が沢山仕入れられててね。 と答える彼ですが、生け花がそんな都合よく今日集まる訳はありません……恐らく、お店の仕入れ担当者が今日は彼が来る日であるから と気を使って仕入れ量を調整しているのでしょう。

 

 最も、彼なら適正価格であれば買ってくれる という商売心もあるのでしょうけれども……過去数か月、彼が花束を持って来なかった日はありませんでした。

 

 また持ってくる花も紫苑・ローズマリー・キンセンカ……季節によって変わりますが、その全ての花が鎮魂や哀悼を示す意味の花でした。 それを前大戦の戦死者……識別不能な程に損壊した者や、遺留品すら残らず行方不明となった兵士達の魂を慰める為の慰霊碑に捧げ、更に管理区の無縁墓地・殉死した職員の共同墓地にも花を送ります。

 

「何故この方々に花を送るのですか?」

 

 前に一度、彼にその真意を問う事がありました。 花を供えた後、時間がある時に私は彼と話す事が出来る様になっていました。 管理者用の小さな小屋で、机を挟んでお茶をする程度ではありますが……その行動自体は興味本意で、この時は気づきませんでしたが私は話し相手が欲しかったのかもしれません。

 

 この共同墓地にはほとんど人が訪れませんし、訪れたとしても皆一様に下を向き言葉少なげに黙祷しては去っていくので……管理人としての業務報告以外、私は滅多に他の人と話すと言う事が無かったのです。

 

 彼はポリポリと頬をかきながら、変かな? と聞いてきます。 まあ、珍しいとは思います。 と無難な返事を返しておきました。

 

 あまり特別な理由は無いんだけど、彼らを忘れたくないからかな……と、何処か寂しそうに話し始めました。 彼らの犠牲があったからこそ今の自分達は生きて行けるのだと、E.L.I.Dとの戦い方然り、戦術人形の運用方法然り、それらの教本や指導書は斃れていった人達の血で書かれたものだと。

 

 だから彼らの死を悼んで、感謝と哀悼の念を忘れない様にしないといけないと思うんですよね。 他の人が忘れてしまったとしても一人くらい定期的に貴方方の死は無駄ではなかったと、安らかに眠って下さい と祈る人が居ても良いかな と思いましてね。

 

 自己満足なだけですよ と困った様に微笑を浮かべ、私が居れたお茶を口にする。 彼は特に私の意見を求めるでも無く、ジッと彼を見ていた私に少しだけ居心地が悪そうに苦笑を浮かべていました。

 

 私は……この時代、こんな世の中にもそう言った考えを持てる人が居るのだな と感心していたのですが、それを言語化する事は出来ませんでした。 その日も、彼は何時も通り私のお茶を貰ったお礼を言ってから市街地へと戻っていきました。 また来ます と、軽く会釈をして……

 

 

 

「……今日は遅いですね」

 

 共同墓地の掃除を終え、管理小屋の中でラジオから流れるニュースを聞き流しながら窓から見える墓地の入り口をチラチラと確認し、やはり誰も来ていない事を確認して手に持ったお茶に目線を落としました。

 

 あの人は今まで、時間を違えた事は無かったのですが……まあ、グリフィンの指揮官は多忙だと言いますし今日の様に雨の降りそうな日には、日を改める事もあるのでしょうか……

 

≪それでは、引き続き市街地における抗議活動……あ、いえ。 たった今公式発表がありました。 一部民間人が暴徒化した暴動現場について……≫

 

 軽く聞き流していたニュースが、人間でいう所の嫌な予感を誘発する。 暴動が発生している場所は? 規模は? その間に、彼の赴任している基地とのルート上となる部分はあるか?

 

 抗議活動の内容についてや、最初は届け出の出された正式な……等とどうでも良い情報がラジオキャスターの口から紡がれる。 違う! 違う!! 私が知りたいのはそんな事では無い!! 焦れる思考に、焦りの様なノイズが混じり気付かず胸元に寄せた両手を握りしめる。

 

≪該当区域は市街区F-〇〇地区、商業区C-〇〇地区……≫

 

 ガタンッ と椅子が倒れる音がする。 私が立ち上がり椅子を蹴倒した音だと気付いたのは小屋の隅に置かれたケースから自分の分身を取り出し素早く残弾と整備状況を確認している時であった。

 

 電脳の冷静な部分では、彼が巻き込まれている可能性は低い筈だと訴えている。 だが、私を構成するAIはこう強く訴えている。 彼が巻き込まれていないという確証が得られない以上、自分から動くべきである と。

 

 弾薬チェック完了、同調率問題無し……よし、行きましょう。 管理小屋の扉を開け外に飛び出す。 空は相変わらずの曇り空だが色が鈍色に濃くなりつつある……時期に降り出すだろう。 急がなくては……

 

 

 ポツポツと小雨が降る中、警戒しながら街中を走り抜ける。 前に確認しておいた社員証のデータを元に管理区での活動データ……簡単に言えば何処で何を購入した や、管理区を跨いで移動する時に検問所で提示された社員証のデータを元に彼がどの辺りに居るかを絞り込む。

 

 以前使用していた戦術人形の権限を元に、対暴徒鎮圧作戦の一環でありグリフィンの指揮官を護衛する為に捜索している。 と各所のデータ管理センターや自動警備システムには送信しデータ提供を依頼している。 グレーすれすれ……違法行為だとエラー警告が表示されるが、それを強制的に黙らせる。

 

 絞り込んだデータによればこの辺りの筈だが……聴覚センサーを最大限に、降り続く雨が地面を叩く音、遠くに聞こえる人の声……そして、目の前に立っているのが私だと気付くと、向けていた拳銃を降ろし、こんにちは、管理人さん と微笑もうとして痛みで顔を顰める彼が居た。

 

 建物を背に座り込んでいた彼の傍に自分の銃を置き、触診を行う……打撲と切り傷、額から出血しているものの傷は浅そうです。 頬に打撲された痕跡があり口を切ったのか、唇から少し血が流れています……まずは出血を止めなくては……

 

 大丈夫だよ や、平気だから と言う彼の手を押さえ応急処置を開始する……と言っても医療用の人形では無いので本当に血を止める為にハンカチで圧迫止血をする程度しか出来ないのですが……

 

 ただ、化膿するのを防ぐ為にも殺菌しなくてはいけません。 人間の唾液には多少の殺菌効果がある……と言う事を模倣し、戦術人形の唾液にも多少の医療用ナノマシンが含まれて居るので、必然的に彼の額に舌を這わせ唾液を塗布する事になります。

 

 驚き身を下げようとする彼の頭を抱える様に腕で固定し、傷口に沿うようにゆっくりと唾液を塗布していきます……汚いとか、汚れるとかそんな事を言っていますがそれが気になるようでしたら最初から行っていません。

 

「じっとしていて下さい……逆に汚れます」

 

 うっ…… と呻き、ばつが悪いのか目線を下げ大人しくなりました。 理解して頂いた様ですからこのまま処置してしまいましょう。 血を拭い大体の部分に塗れた所で白いハンカチを傷口に押し当てます。

 

 痛かったのか、唇から空気の漏れるくぐもった声が聞こえますがそれは生きているという証拠なので……気にせず圧迫止血します。 じわじわと白いハンカチに朱色が混ざって少しずつ黒くなっていきます……その色は死神の色でしょうか……

 

 ……させませんよ、彼はまだ貴方には渡しません。 まだ……まだ? 私は何故まだと……?

 

 助かりました、ありがとうございます。 という彼の声で思考から引き戻されます。 気にしないで下さい、と答えたと思いますが……考えている内に彼の通信機が鳴り始め、誰かと通信をしている様です。 上級代行官の様ですが、負傷している事も知るとその口調が厳しくもその身を案じている様でした。

 

 今度からは護衛を付けろ と怒られました。 何て頬をかきながら苦笑していましたが当たり前です。 負傷した事よりも、今日はお墓参りに行けない事を考えている様でした。 捧げる花が血で汚れてしまった など……

 

「……そんな事よりも、自分の身を案じて下さい」

 

 苦笑を止め、私の言葉にきょとん とした表情をしますが……この人は自分の評価が低い様ですね。

 

「貴方が思っている以上に、貴方は大切に思う人が多いという事ですよ……」

 

 押さえていてください と頭部のハンカチに彼の手を添えさせ、付近に置いた分身を取り周囲を警戒します。 彼を守る為に……もう一度、銃を取る事を決めましたから。

 

 

 

 後日、彼はまた共同墓地を訪れていました。 頭にはまだ包帯が巻かれていますが、傷事態は浅いのであと数日で取れるであろう と言うのがお医者様の見解です。 墓地はあの日からも変わらず静寂を保っています。 変わったのは私の居る場所と立場でしょうか……

 

 あの日、反違法行為と知りながらも、昔のデータを利用して動いていた私の事は彼に話しました。 彼は少し驚きながらも、そうまでしてでも探して守ってくれたのなら、今度は私の番ですね。 と、私を引き取る手回しをしてくれました。

 

 一度置いた銃を私は再度手にしましたが……私に後悔はありません。 でも、そうですね……あの人の葬儀に参加しない為にも、あの人の為に戦い続ける事を決めた私は、何処かしら壊れてしまったのでしょうか?

 




 次にAUGを書く機会がありましたらもう少し甘くしたいですね(どうしても基地に編入させる話は甘く出来ない気がします)


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行動実験? 序章+NTW-20

違うんです、肩に頭を預けて指揮官の心音を聞きながら穏やかに指揮官を慕っているダネルを書こうとしたんです。 何故かこう動いてしまったんです、電波が送られてきたんです。
 


「やあ指揮官、お久しぶりだね」

 

 定期報告会を終え、基地の主要通りを歩いていた私は突如声をかけられた。 指揮官と呼ばれる人は他にも周囲に沢山居るが、にこやかに私に向かって手を振る彼女に周囲の指揮官達は咄嗟に壁際へと歩を進めて道を譲り、嫌でも私に対して言っているのだと分からされたのだ。

 

「ペルシカさん……何時も思う事ですが、フットワークが軽過ぎはしませんか?」

 

「良いかい? 覚えておくと良い事だが研究者と言う物は自身の興味・研究対象に対しては身軽にならざるを得ないんだよ」

 

 ふふん と鼻高々に彼女は胸を張った。 相変わらずよれよれの白衣に外を歩くから靴は履いていたが靴下は履いておらず、近所のコンビニに行くので最低限着替えました というレベルであった。

 

「まあまあ、色々と話したい事はあるだろうから珈琲でもどうかな? 」

 

「……頂きましょう」

 

 にこにこと私を手招きしながら研究室のある棟へと誘う事から、最初から要件があったのだろう。 ならばせめて通信でも何でもいいから、事前に伝えてくれれば良いのに……と思ったが、それを伝えた所「だってそうしたら君逃げるじゃん」との事であった。

 

 逃げる様な案件を頼もうとするからそうなるのではないだろうか……とも思ったが、どちらにしろこうして目の前に来られて、大勢の前で誘われてしまったら逃げ道は無い。 大人しく彼女の後について行こう……

 

 

 

「まあ、また実験に付き合って欲しいんだ」

 

「また……ですか」

 

「うん、だが今回は敵対じゃあない。 負荷試験では無く逆に彼女達が内に秘めている事を引き出して欲しいんだ」

 

 彼女の研究室……相変わらず書類まみれで何が何処にあるか分かり辛い部屋でソファーに対面に座る。 出してくれたココアに口を付け一息ついた所で聞かされた要件というのが再度実験に付き合って欲しいという事だ。

 

 説明によると、また前と同じように装置の上で寝て貰えれば後は勝手にこちらでやる という事らしいが、その勝手にやる内容次第で協力出来る事と出来ない事があるだろう。 だが敵対では無く、内に秘めている事……とは?

 

「あははっ、そんなに難しい事は考えなくて良いよ。 つまる所あの子達が普段どうゆう事をしたいのか という事を知りたいと言う事なのさ。 データ上ならば読み取る事も出来るし、どんな事を考えているという事もわかるんだけどね」

 

 データだけではニュアンスが違うんだよね とペルシカさんは笑いながら答えてくれた。 好きだというデータでも、likeなのかloveなのかで意味は違うでしょう? と続ける事で何となく理解は出来た。

 

「しかしどうやって調べるのですか?」

 

「ふっふっふっ、I.O.P.には各人形のバックアップデータが保存されている事は知っているよね? 今回は指揮官の基地に所属している人形のバックアップデータを呼び出して、仮想空間で指揮官と二人きりの状況を作り出す。 その時指揮官は人形各位に、これはデータ空間であるという事と指揮官とやりたい事を再現できる限り好きにして良いという事を説明して貰えれば良い」

 

「好きな様に……って、どのような事まで想定していますか?」

 

「そりゃもう、S「いえ、分かりましたそれ以上は結構です」君から聞いてきた癖になあ……」

 

 聞いたのは確かに私だがまだ時刻は日が高い時間帯である。 流石にそんな時間にそんな事を言わせる訳にはいかない。 キッパリとペルシカさんの口上を遮ると、文句を言いながら珈琲を啜った。

 

「ああ、それと重要かどうかは分からないがここで行われた情報はここだけで処理されるので、バックアップデータに戻される事は無い。 つまりどんな事をしようとも彼女達の行動ログデータには残らないという事だ……まあ、望めばバックアップデータを上書きしてあげても良いけど……」

 

「彼女達次第、と言う事ですね」

 

「強く覚えていたいと願えば、そうしてあげようとも思う物さ。 さて、他に質問はあるかな?」

 

 どうやら早く実験をしたい様で、眠たげな瞳が僅かにキラキラと光っている様な気がする。

 

「……協力するのは良いとしますが、その間に執務が滞るのが心配ですが何かしらフォローはされるのでしょうか?」

 

「上級代行官が基地に指示を出してくれるよ。 ついでにこれも勤務に入るから給金は出るし特別手当も出るから文句は無いだろう?」

 

 ほらほら、と手を引かれ昔見た診療台の様な装置に身を預けると、透明なカバーの様な物が私の前方を横切って行き、何らかの文字が現れだす。

 

「それじゃ、後は向こうで会いましょうってね、おやすみ指揮官」

 

 ペルシカさんの言葉を最後に意識が薄れていき、本当に眠る様に視界は暗転した……

 

 

 

≪おはよう指揮官≫

 

 ペルシカさんの声に起こされ目を覚ますと、目の前に広がるのは真っ白な光景であった。 見渡す限り白、白、白……病院の一室だとしてもまだ他の色が混ざっている筈だと思う。 その白一色の世界にホログラフィックで浮かぶペルシカさんにここがVR空間だという事を意識させられる。

 

 眠っていた診療台はそのまま再現されているらしく、その上に座りポリポリと頬をかいてみる……うん、ちゃんと感触とかも感じるので問題は無いのだろう。

 

「おはようございますペルシカさん……で、ここがそのヴァーチャル空間なんですか?」

 

≪ああ、本来は銃撃の訓練や行動訓練を行う空間だよ。 人間でいう所の脳内シミュレーションって奴かな? だからこうして指揮官の意識と直接話が出来るという奴なんだけどね。 まあその辺りはどうでも良いか……さて、では早速始めようか≫

 

 ポチっとな~♪ と古臭い言葉を口にしてボタンを押すと、空間が少しだけ波打ち背後に何かが入ってくるような感覚がした。

 

「んっ……指揮官? ここは……」

 

 ピンク色のロングヘアに略帽を乗せ、鷹や鷲等の猛禽類を思わせる瞳をした彼女……『NTW-20 ダネル』は頭を軽く押さえながら私と周囲を見渡し顎に手を当てて何かを考え始めた。

 

「私はやられてしまったのだろうか?」

 

「いや、そうじゃないんだダネル……まあ、落ち着いてよく聞いて欲しいんだけど……」

 

 よく見ないと分からない事だが、僅かに彼女の目尻が下がり落ち込んだ様な表情に見えたのでとりあえずペルシカさんから言われた事を説明する。

 

やられた訳では無く、元々バックアップデータを利用して呼び出しているのだから前後の記憶が無い事も、この真っ白な見慣れない空間で立っている事も理解出来なくて仕方の無いことなんだと言う事だ。

 

「ふむ……つまり、私は指揮官に選ばれたと言う事なんだな」

 

「あ~……まあ、そう言う事かな?」

 

「ふふっ、そう恥ずかしがらなくても良い」

 

 いや、君が選ばれている事すら知らされていなかった とはっきり言うべきなんだろうが、口元が緩むのを隠す為に口元に手を持ってゆくダネルという珍しい表情も、少し微笑む彼女にも真実を言うのは躊躇われた。

 

「それで、私は指揮官にやりたい事をして良い と言う事だったな」

 

「そう言う事になるね……ただ、ペルシカさんが観測している という事だけは忘れないようにね」

 

「分かっているさ、常識の範囲内にするつもりだ」

 

 そう言うと片方の耳に手を当て通信をしている仕草を取るダネル。 人形である事からその様な仕草は必要ない様に思われるが、作戦行動中でもない限り人間が近くに居る場合や会話をしている時はこの様にして通信している という行為をする様に設定されている。 人に似せられて作られている限り、人間との差異はわざと作らなければいけない。

 

≪あ~……本当にそんなもので良いのかい?≫

 

「ああ、それで良い」

 

 ペルシカさんの困惑した声に、ダネルは頷き返す。 どんな事をお願いしたのか私に教えてくれても良いだろうが、ダネルは静かに微笑むだけだ……

 

≪じゃあ指揮官、空間を生成し直すから目を閉じて貰って良いかな?≫

 

「空間の生成?」

 

≪そう、そりゃこんな真っ白な何もない空間でやれる事なんて限られているからね。 だからその空間に物を配置したりするんだけどその際に高速で色々なものが動くから空間酔いをするかもしれないので目を閉じていてって事だね≫

 

 確かにそう言う事なら目を閉じていた方が良いだろう。 高速で動く物体を見続けると目が疲れるし、目が回って倒れ込み床にダイブする趣味は持って居ない。 言われた通りに目を閉じておこう……

 

≪まあ、ぱぱっとやっちゃうから安心してね……はい、もう良いよ≫

 

 ほんの数秒目を閉じている間に空間を作り直したらしいペルシカさんが声をかけてくれる。 恐る恐る目を開けてみると……

 

「……執務室?」

 

 そう、何時もの見慣れた執務室でありその内装から置いてある本棚まで全てが再現されていた……まさかと思い執務机の蓋を開けてみるが、そこに収められているのは普通のボールペンやラインマーカー等の一般的な事務用品だけであった。

 

「指揮官? 机の中がどうかしたのか?」 

 

「ああ、いや……良く再現されてるな と思ってね」

 

 隠し棚や重要書類まで複製されていなくて良かった 等は言えない。 もしそこまで再現されていたら防諜を見直さなければいけないからだ。

 

「そうか……てっきりそこに何かあるかと思ったぞ」

 

「あはははは……で、ダネルのやりたい事ってなんなんだい?」

 

「ああ、それなんだがな……」

 

 とりあえず強引に話題を逸らしておく、あまり内容的には触れて欲しくない物もあるからだ……それに気付いたかダネルもそれ以上聞いて来る事は無かった。

 

「指揮官、休憩の時に読んでる本を持ってこっちに来てくれ」

「本って……あの戦術書?」

 

「そうだ、それでここに座ってくれ」

 

 本棚を漁り、表紙や表面はおろか中身すら手垢や経年劣化でボロボロになりつつある本を取り出しダネルの元……応接用のソファが置かれた場所に向かう。 彼女は既に座っており、座る様ポンポンッ と隣を軽く叩いた。

 

 座ってくれ と言うのだから大人しく隣に座ってみると、彼女はそのまま私の肩に頭を預け腕に背中をぴったりと付けそのまま体を預け、リラックスする様に体から力を抜き本を読み始めた……

 

「うん……中々良い物だ」

 

「……え? いや……え??」

 

「どうした指揮官、あまり動かないでくれ……位置がずれる」

 

 ダネルの方を向こうとすると、身体を動かす事から肩の位置を動かすことにより乗せている頭がずれると文句を言われる。 そう言われてしまうと動けなくなるのだが……

 

「ダネル……あの、これがやりたい事なのかい?」

 

「変な事か? 静かに本を読みたいと思う事は」

 

「……いや、変ではないけど……」

 

「ならば良いだろう、そのままにしてくれ」

 

「静かにだったら、別に私とでなくても」

 

 そう続けようとした所、ダネルの頭がぐるりと動く感触がする。 背は預けたまま、首だけをこちらに向けた様だ。 目線をそちらに向けるとムッ とした様な、ジト目と言うのだろうか……

 

「指揮官、それ以上言うと私は怒るからな」

 

「……もう怒っている、と言うのは野暮かな……?」

 

「余計な事を言うからだ……第一にだ、わざわざこんな所でこうする事を望んだのも分からないのか?」

 

 正直分からない……と言う訳では無い、だが相手はダネルである。 仕事以外あまり干渉してくる事は無かった彼女が自分に興味を持って居るのかと言われると……

 

 そう考え答えを出せないでいる私にしびれを切らしたのか、それとも考え込んでいる姿が隙だらけだったのか、スッ と顔の横をダネルの腕が横切り後頭部に手を添えられ引き寄せられる。

 

「隙を見せる上に即座に行動を起こさないからだ……狙撃兵が狙う事は一撃必殺、その一撃に全てを乗せる事だ」

 

 それに、これは夢の様な物……なら、今だけは私だけの指揮官と言う事で……貴方は私を拒まないだろう?

 

 唇に感じる温かく柔らかい感触、ダネルの顔が直ぐ間近にあり視界がぼやける程だ……以外とまつげが長いんだな……と。

 

「……指揮官、こういう時は目は閉じるものだぞ」

 

「残念ながら、キスなんてしなれていないからね」

 

「そうか……そうかそうか、ふふっ……」

 

 クスクス笑うダネルに、頬が赤い私では何を言っても負け惜しみにしかならないだろう。 ポリポリと頬をかいて誤魔化そうとするもダネルにはお見通しの様で、またおかしそうに笑みを深めるだけであった。

 

「さて指揮官、理由は分かったのだろうからまた肩を貸してくれ。 私はその場所が落ち着ける所なんだ」

 

 上目遣いに私を見上げる紅の瞳、その瞳から感じられる感情は……信頼では無く甘えを感じる親愛。 その想いに今は答えよう……ただこの思いはこの空間だけで消えてしまう、残らない一時の夢でしかない……

 

 ペルシカさんは何を考えてこの様な実験を行っているのだろうか……?

 

 

 

 本当はただ傍に居られれば良かった事であった。 ただ傍に居て彼の力になれれば私は幸せであった。 彼は唯一変えの効かない皆の指揮官であったのだから。 だがそれもいつしか傍に居るだけでは足りなくなってしまった、私を見ていて欲しい と、仕事以外でも雑談をしたいとも思い始めていた。

 

 しかしそれは我慢しなければならなかった。 彼を慕う者は多い……勿論人形も、私達の仲間も、戦友も、部隊員も……私一人でも動き出したら全員が一斉に動き出すだろう。 それはダメだ、動き出す前に一撃で彼の思いを奪うつもりでなければ……機会を待つ、私は待つ事や機会を伺う事は得意であるのだから……

 

 だがそんな指揮官が、記録に残らないからと言って私と二人きりで、観測されていると言われてもその無防備な姿を自身の前にさらけ出す好機などこれ以上の機会があるだろうか!

 

 でも、それでも最初はまだ意識して貰えれば良いと、ただ指揮官の心音を感じながらゆっくりとした時間を過ごせれば……それだけで満足するつもりであった。 指揮官が私を意識しているかどうかはっきりとしない言葉を聞くまでは……それで我慢は限界を超えた。

 

私の記憶に残らない? 指揮官の記憶にも残らないかもしれない?? そんな事は関係が無い!! 私は私と言う存在を指揮官に刻み込むのだ! 貴方の事が好きですと、どんなに不器用であろうとも、私は貴方を慕っているのだという事を!!

 

 今こうして肩を借りて読んでいる本も内容は入ってこない、ただ文字列を視線で追いかけているだけである。 そこで考えている事……それは、この記憶をどうにかして外部に残せないか という事を試し続けていた。 彼は私を拒まなかったという事実だけでも良い、それだけでも残せれば私はそれを糧に機会を伺う事が出来るのだから!

 

 ……まだ時間は少しある、どうかどうか……何処か、それだけでも残せる場所があれば……! そう、強く願ったのだ。

 

 




あれか……実験系は軽く病んじゃってる娘をそれが暴走しない様に確認して制御する為に行っているという事にすれば……あ、ペルシカさん良い人になるからその案でも良いんじゃないだろうか?(夜更かし書きのテンション)


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UMP9 少しだけ寂しい日に

もう5か月も前が最新話……というのを見てしまった作者はSANチェック。

 リハビリ作ですがUMP9のお話です。


「ええ~っ……夜間訓練?」

「そう、その指導教官って訳……突然お願いされちゃってね」

「あははっ、45ったら指揮官から『君が適任だと思って、申し訳ないけどお願いできるかな?』なんてお願いされたから二つ返事で受けちゃうもんだからs」

「40?」

「オーケーオーケー、余計な無駄口は叩きませんよっと……」

「ったく……で、416達は?」

 

 ケラケラと笑うUMP40に、呆れた様に額に手を当ててUMP45は視線を隣のHK416の方へと向ける。 不機嫌そのものの表情で夜間用の装備を整えている所で、更にその隣に居るG11を小突きながら急かす様に準備を進めている。

 

「そこの寝坊助がサボっていたツケを払う為の夜間作戦よ……ったく、最低限のノルマすら熟してないなんて……」

「ううっ……査定の期限を忘れてただけじゃん……」

「それを含めて呆れているのよ」

 

 どこの基地であってもノルマと言う物はある。 治安維持から鉄血の掃討まで……書類とドローンの録画データで報告されるもので、最低限職務を遂行しないと給金や資材の補給等が削減されるという事になるのだ。

 

 その査定日が明後日までであり、仕方なしに掃討任務や偵察任務などを詰め込めた結果がこれらしい……全く持って仕方ない事だ。

 

「んじゃあ私も……」

「9は明日休みでしょ」

「だからこそ付き合おうと思うんだけど……」

「ダメよ、休む事も仕事の内よ」

 

 自分もどちらかに付いて行こうと思ったのだが、45姉に額を押さえられベッドへと押し戻される。 付いていきたいのになあ……と額を押している45姉の人差し指を見上げるが、相手は苦笑とも困った娘だな とでも言いたいような表情で、こうなってしまったら私は何も言えない。 45姉を困らせる事は私の本意では無いし……

 

「分かった……大人しく休んでいるね」

「ん、良い子ね」

 

 ポンポン、と45姉の手が私の頭を軽く撫でる。 心地よいと思うけどそれで宥められるほど子供でも無いと思うんだけどな……

 

「じゃあ、行って来るわね」

「行ってらっしゃい、気を付けてね!」

「お土産は無いわよ」

「言われなくても分かってるよ……G11じゃあるまいし」

 

 宿舎の扉から出て行く皆に手を振って見送る……416もやれやれと冗談を言いながらG11を小突きながら出て行く。 まあ自業自得だから仕方ないし、それで来月お金が足りないと嘆くのもG11本人なんだから、それを防ごうとしてくれている416はやっぱりなんだかんだ言って面倒見が良いと思う。

 

 体の力を抜いてベッドへと横たわる……静かだ、空調が室温を保つ為に風を吐き出す音しか聞こえない。 そういえば基地で一人眠る事なんて初めてでは無いだろうか?

 

 自分の隣へ顔を向けると、何時もは45姉が寝て居るが今は綺麗に畳まれている……最初の頃はもっと離れていた場所に寝て居たんだっけ? と、最初この基地にお世話になりだした頃を思い出してしまう。 纏まって寝て居たら爆発物で一網打尽だって全員四隅で眠っていたっけ……

 

 クスクスと思い出し笑いをする。 仕方が無かったのだ、その当時はこの基地の指揮官の事が良く分かっていなかったのだから……私達の持ってる情報とか技術とかを奪おうと考える人っていっぱい居たしね。

 

 まあそれがただの杞憂だったのは直ぐ証明されたんだけど……それからだっけ、徐々に物が置けるから~とか、掃除が面倒だからって皆集まって眠りだしたのは…… ベッドだって新品でふわふわしてて、段ボールや廃棄されたソファー等で眠っているよりはリラックスできるし……

 

 何時も難しい顔をしている416も、ここで眠っている時は安らかな寝顔だっていうのも内緒の話だ。 私の隣で眠るのが416だから偶に早起きすると寝顔を見れたりするからだ。

 

 寝返りを打つと45姉とは少し違うが、直ぐに眠れるようにベッドメイクされている。

 

 その奥にあるG11は何時だって眠れるようにシーツだけはちゃんと敷いてあるが、その上に抱き枕やら掛布団が一見乱雑に見えるが、あの配置が直ぐに眠れるベストポジションの様で、前に整理しろと怒っていた416がその後あれはあれで整理されている と諦めたのは記憶に新しい。 外に設けられたセーフハウスにあるG11の寝床を見て基地のあれはちゃんと掃除もされているという事で妥協したらしい。

 

「……静かだなあっ……」

 

 周りを見渡して、少しの私物や要望した机や椅子、書棚などが置かれている宿舎……何故だろうか、安心して眠れる場所な筈なのにそこに仲間が居ないというだけで随分と寂しいなんて……

 

 これもマインドマップが成長している証なのだろうか? でも仲間が居ないと寂しいと言うのは人形としては弱くなっているのではないだろうか? 変わった原因は……間違いなくあの人なのだろうけれども……

 

「……まだ起きてるかな?」

 

 そう考えた時、既に足は動き出していた。 ふわっ とした足取りで宿舎の扉を開けると、 既に照明は常夜灯のみに落とされているが足元はしっかりと見えている。 光量が絞られても調節して増幅すれば良いのだからそういう意味では私達は便利だ。

 

 ペタペタとスリッパが廊下を叩く音が響くが、既に寝静まった宿舎だから余計大きく聞こえるだけだ。 それに足音を抑えるのは指揮官が居る区画周囲だけで構わない。 人形の宿舎に設置してある監視カメラは映像だけだと分かっているからだ。 カメラの死角を潜り抜け、目的の部屋へ歩いていく事など造作もない事だ……

 

 

 

 執務を終え風呂にも入り後は眠るだけの状態で本を読んでいた指揮官の耳に扉がノックされる音が聞こえる。 時刻は既に消灯時間を過ぎているが……誰だろうか?

 

「はい、誰かな?」

 

「えへへ……私だよ指揮官、まだ起きてる?」

 

「9? ああ、起きてるよ……こんな時間にどうしたのかな?」

 

「うん……ちょっとね」

 

 扉を開けると髪を降ろし、寝間着なのだろうか何時もよりラフな服装で私を見上げていた。 要件を聞いてみると言いにくいのか、人差し指通しをくっつけもじもじと上下させたり目線が泳いだりしている。

 

「良いよ、とりあえず中に入るかい?」

 

「……うん、お邪魔します」

 

 こんな時間にわざわざ自室を訪れたのだ、何か理由があるのだろう……公に言えない相談かも知れない。 彼女が所属する小隊の性質上からも十分あり得る事だ。

 

 部屋に招き入れ、電気ケトルでお湯を沸かしている間適当な場所に座って待ってる様に伝える。 物珍しそうにグルグルと見回っていた9だったが、は~い という返事と共にベッド横にある折り畳み式の机に付属している椅子に座る。

 

 普段であればパタパタと足をばたつかせていたり、鼻歌を歌っている事が多いのだが今日はじっ と私の方を見続けている……やはり何か話したい事があるのだろう。

 

「はい、ココアだけど……夜に甘い物はダメだっけ?」

 

「あははっ、だいじょーぶ! 私はあまり太らないみたいだから」

 

 白いマグカップにこげ茶色の液体……ココアを淹れて渡すと、ありがとうと微笑みながら受け取る。 向かい側のベッドに腰かけ同じ様に自分のマグカップに口を付ける……うん、何時も通り優しい甘さだ。

 

「それで、何か話したい事でもあるのかな?」

 

 ゆっくりとココアを飲みリラックスした頃合いを見計らって9に話しかける。 受け取ったマグカップを両手で持ち、ちびちびと口を付けていた9は私の呼びかけにえ~っと……と、先ほどと同じ様に言い淀んでいる様子だった。

 

「……笑わない?」

 

「勿論」

 

「一人だと寂しかったから……」

 

「……へっ?」

 

 9から予想外の言葉に思わず聞き返すと、彼女はカップに口付けたまま上目遣いにこちらを見つつ先を続ける。

 

「だから……45姉も、416も誰も居ない宿舎で1人で居るのが寂しかったの! 指揮官ならまだ起きてると思ったし、側にいて安心するし、家族だし……だから、来たの」

 

 そこまで一息に言って自分が何を言っているのか気付いたのか、うーっ……と呻きながらマグカップで顔を隠そうとする9。

 

 頬が赤いのはココアが温かくて血流が良くなったと言う訳ではあるまい。 ただそこは指摘しないのが方が良いだろう、気づいた事全てを正直に話す事は必ずしも正しいことでは無い。

 

「……おかしいかな? そんな事を考える人形って……」

 

「そんな事は無いよ」

 

 9の頭に手を当て少し強めに撫でる。 人を模して造られたのならそういった感情が芽生える事が悪い事だとは思わない。

 

「色々と考えられる様になったり、感情を覚えたりする事は成長したって事だと思うよ? 少なくとも私はそう考えるかな……それにまあ、頼られて悪い気がする人間はいないさ」

 

 ふわふわとした髪を撫でていると、9は気持ちよさそうに目を細めている。 口元が緩み声が漏れているのだが……まるで猫みたいだ。 喉を撫でたらゴロゴロと鳴くかもしれない。

 

「ふあぁっ……」

 

「あっ……ごめんね指揮官、もう眠いよね?」

 

 柔らかい髪が気持ちよく気を抜いた瞬間あくびが出てしまう。 それに気が付いた9が彼女らしく謝りながら困った様に眉を下げる。

 

 まだ大丈夫だよ と答えたいのだが、日付をそろそろ超える時間帯であり職務上あまり夜更かしもできない。 だが……寂しいと言っていた彼女を宿舎にそのまま帰らせても大丈夫だろうか とも思ってしまう。

 

「じゃあ、そろそろ宿舎に戻るね……話を聞いてくれてありがとう指揮官」

 

「あ、待って9」

 

 呼び止めた9は首を傾げながら振り返る。 呼び止めた自分ですらどうしたいのか分からなかったが、寂しいから とわざわざ私の元に来た娘をどうにかしたいと思っていたのだ。

 

「あ~……えっと、9が良ければここで寝るかい?」

 

 少し冷静になれば何を言っているんだ と思う事だったのだが、その時は妙案だと思ってしまったのだ。 9は寂しいからここに来た、私はそろそろ寝なければならない。 なら一緒の場所で寝てしまえば9は寂しくないし私は眠れる 一石二鳥じゃないだろうか と。

 

「え……でも、良いの?」

 

「うん、私は構わないよ。 家族なんだし同じ部屋で寝るくらいね」

 

「ん~……なら、お邪魔しちゃおうかなっ」

 

 えへへっ と笑いながらまた向かいの折り畳み椅子へと座る9。 それに対し自分はベッドから立ち上がりソファに向かおうとすると9が袖をつかんでいた。

 

「指揮官はベッドで寝なきゃダメだよ?」

 

「いや、提案したのは私なんだから9がベッドを使って良いよ。 一日くらいならソファでも眠れるし……」

 

「むう……駄目だよ指揮官、良い睡眠が取れないと体の疲れが溜まっちゃうんだから。 それに私のせいで指揮官が辛い思いをするのは嫌だよ……」

 

 目尻を下げ悲しそうな表情をする9。 だが私がベッドで眠るとしたら9は何処に……

 

「あのね、その……指揮官が良ければだけどね?」

 

 9からの提案は確かに全ての条件を達成していると思われるし、唯一の懸念である事も9からの提案である という事からクリアしている。 まあどうしたのかと言うと……

 

「……んふふっ、添い寝するって本当に家族みたいだよね」

 

 すぐ隣でクッションを枕にした9が嬉しそうに微笑んでいる。 そう、べッドは一つしかなく双方ともお互いにベッドで寝て欲しいと思っている ならばもういっその事一緒に寝てしまおうという事なのだ。

 

 躊躇したものの他に案がある訳でも無く、9なら何かが起こる訳もないだろうとこれを承諾。 ただ一人用のベッドで小柄な9とは言え二人で寝るには少々手狭だ。 実際に9は私の胸元に頭を預ける様に横になっているし、どうしたものかと困っていた私の手は9を包むように彼女の背中に回されている。

 

 気を付けの姿勢で眠ろうとしたのだが、無理な姿勢を取るよりは抱きしめてくれた方が寂しくないな と言ってくれたのでその言葉に甘えたのだが……

 

「指揮官は暖かいね……」

 

 それは自分もそう思う、くっついている部分で体温が交換されているのか、はてまた9の体温が高いのか湯たんぽの様にポカポカとしているので眠気を誘う。

 

「眠いんだよね? いいよ指揮官……疲れているんでしょ? おやすみなさい……」

 

 9の声が私を夢へと誘う……瞼が重くなり目の前がぼんやりとしていく内に意識を失った。 おやすみ と返事を出来たかどうかだけが心配事項であったが……

 

 

 

 本当に寝ちゃったのかな? ふふっ……本当に無防備な人なんだなあ……

 

 指揮官を見上げてみると、既にその眼は閉じられ穏やかな寝息が聞こえてくる……やっぱり疲れているのかな? 目の下に少し隈らしきものが見えるし……

 

 耳を指揮官の胸に当てると、とくん……とくん……と一定のリズムが刻まれている。 人が生きている証……この音は私を安心させてくれる。

 

 任務が終わった時、訓練が終わった時、後方支援が成功した時……指揮官は優しく頭を撫でてくれたり、その胸に飛び込んでも受け止めてくれる事が好きだ。 この暖かさを守りたいから……私は頑張れる。

 

 何時でも一緒に居て欲しい、でも私達も元は根無し草。 それは安定とは程遠い生活であり人間にとって望むべきものではないだろう。

 

 でも彼ならば……指揮官ならば、来て欲しいと言ってしまったら、恐らく……来てくれてしまうのだろう。 それはとても魅力的であるが、同時に大切なモノが危険に晒される矛盾を生んでしまう。

 

 それはまだ嫌だ、彼にはまだこちらの世界に来てはいけない……だから、私達がちゃんと守ってあげよう。 どんな敵であろうとも……例え、形式上の味方であろうとも……だって家族は支え合うものでしょ?

 

「おやすみ……指揮官」

 

 目を閉じて今はこの暖かさに身を委ねよう。 まだ時間はあるのだから……




夏もそろそろ終わりそうですが、まだ残暑が厳しいですので皆さまお体にお気をつけて……


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