もし、女神官ちゃんが○○の神を信仰していたら (ネイムレス)
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マ神

思いついたので書いた。
反省と後悔しかしていない。


 少女の目の前では今、臨時の仲間として共に小鬼退治に挑んでいた女魔法使いが地に倒れ伏していた。

 

 幾ら優秀な魔法の使い手と言えども、多勢の小鬼たちに群がられては非力な女性にしか過ぎず、このままでは彼女がどんな目に遭わされるのかは分かったものではない。

 

 今まさに、暴れる獲物に業を煮やした小鬼が、その腹めがけて短剣を振り被った時。その瞬間、女神官の少女の脳内に電流が走った。

 

「いと慈悲深き地母神よ……あとマッスルの神よ(ぼそ)……か弱き我らに、魔を退ける一時の力をお与えください!」

 

 祈りの詠唱と共に、華奢だった少女の体は何倍にも膨れ上がった。

 それは、それは正に鋼の肉体であった。筋肉と筋肉が作り出すアート。躍動美が醸し出されるそれは、今まさに蹂躙を続けていた小鬼たちすらも呆然と見惚れる程に逞しい。

 でも、その筋肉の上に乗る顔だけは、元のままの愛らしい女神官のままだった。

 

「やめなさい、離れなさい!」

 

 マッスルの女神官が錫杖を振り、女魔法使いに群がる小鬼たちを蹴散らして行く。弱々しさとは無縁のその杖の一振り一振りに、小鬼たちは文字通り振り払われて壁に激突し絶命して行った。

 

「大丈夫でしたか!? 待っていてください、今癒しのマッスルを!」

「えっ、ちょっ!? まってまって、私はそんなの要らないから!?」

 

 程なくして、犠牲者が増えた。

 

 

 背後の異変には気が付いたものの、先行し過ぎてしまった前衛二人も小鬼達に囲まれてしまっていた。

 後衛たちの事が気がかりになり、むちゃくちゃに男剣士が剣を振るう物だから女武闘家は隣に立って援護する事もままならない。

 

「ちょっと、そんなに振り回したら私が戦えない!」

「お前は後ろの連中の所へ! あっ!?」

 

 話しかけられて気が反れ、そして更に力任せに振り回していた事が災いした。洞窟で振るうには長すぎる長剣が、ガツンと岩肌にぶつかり剣士の手から離れてしまう。

 そこに飛び掛かって行く小鬼たちの群れ。手に手にもった凶器を、狂気の笑みと共に振り被る。

 

「いと慈悲深きマッスルの神よ! か弱き我らに、魔を退ける無限の筋肉をお与えください!」

 

 その時だ。洞窟内に響く力強い祈りの詠唱。もう地母神への信仰もどっかへ行った。

 神の起こした奇跡の力で、男剣士の肉体が内側から膨らみ、発達した筋肉が小鬼たちの凶器を阻み刺さりすらしなくなる。これぞマッスルの神の生み出す、無限の筋肉のなせる技なのだ。

 

「ファイアボルト(物理)!」

「お二人とも大丈夫ですか!? 今直ぐ奇跡の力で助けますから!」

 

 そして、女武闘家の背後から猛烈な勢いで筋肉二人が駆けて来て、残りの小鬼達を合流した筋肉三人が滅茶苦茶に殴り飛ばして駆逐してしまった。圧倒的な筋肉の奇跡の前には、小鬼如きは話にもならないのだ。

 

 女武闘家に振り返った顔だけはそのまま女神官が、にっこりと地母神のごとし優しい微笑みを浮かべて言う。

 

「後は貴女だけですね?」

「え? あの、私何処も怪我とかしてないから。大丈夫だから、そんなにじり寄って来ないで!?」

「慣れますよ?」

 

 また、犠牲者が増えた。

 

 

 

 ギルドの受付嬢に新人のパーティがゴブリン退治に向かったと聞かされ、万全の準備を整えて巣穴へと駆けつけたゴブリンスレイヤーがやや遅れて到着した時。

 入り口にシャーマンのトーテムが突き立ったゴブリンの巣穴の前には、やたら筋骨逞しい四人の冒険者達の姿が有った。皆一様に顔だけが幼さを残す子供のまま、首から下だけが肉体美を誇るアンバランスな姿をしている。

 

「…………、田舎者(ホブ)か?」

「「「「違う!!」」」」

 

 なんかもう諦めきったような顔をしていたマッスラーたちが、ゴブリンスレイヤーの言葉に口をそろえて異を唱えるのであった。

 

 

 【真実】「いや、思ったよりヤバかったな」

 【幻想】「ないわー。ないわー」

【地母神】「(#^ω^)ピキピキ」

 【真実】「次、行ってみよう」




いやー、新人冒険者達助かって良かったなー(棒)
続きなんてありませんとも。


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炎上神

これのどこがギャグなんだと、お思いの方もいらっしゃるかもしれません。
大丈夫、私もそう思います。


 小鬼殺しが弓を引き絞り、炎の灯る矢を目標目がけて打ち放つ。一射二射と続けるうちに、枯れた木製の砦は面白い様に火の手を上げて行った。

 その様子を眺めながら、女神官は火打石で予備の矢に次々と火を灯す。火を点けてから鏃を地面に突き立てて、小鬼殺しが弓矢を円滑に連射出来るように手伝うのだ。

 炎を纏った矢が撃ち出され夜空に尾を引くのを、女神官は複雑な心境で見送る。心の奥底では叫びたいほどの衝動が、彼女の胸を焦がしていた。

 

 そう、この程度の炎では物足りない、と。

 

「あの、ゴブリンスレイヤーさん。良ければ私の奇跡で、もっと大きな炎上を起こそうと思うのですが……」

「……構わん。出来るのならやれ」

 

 普通ならば、地母神に仕える神官に炎上の奇跡など、備わるはずが無いと一蹴する物。今の女神官の言葉など、狂人の戯言と思われても仕方のない事であろう。

 だが、この子鬼殺しもまた狂人。小鬼を殺す為ならば、ありとあらゆる手練手管を使うのに躊躇いはしない。欠片も迷わずに、やれるのならばさっさとしろと女司祭の提案を受け入れた。

 

 許可を得た女神官は、余りある嬉しさを零れさせる様に微笑を浮かべる。だが、その笑みを浮かべる顔は、限り無く気狂いのそれであった。

 瞳に光は無く、まるで何度も何度もゴブリンのはらわた汁をぶっかけられ慣れた後の様な目をして、口元は耳まで避けているのではないかと幻視する程につり上がる。

 間違いない、今の女神官のSAN値はゼロだ。正しく狂信者の姿がそこにはある。

 

 誰も止める人が居ないので、冒涜的な詠唱が始まった。

 

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」

 

 聞く者に、どこか怖気を感じさせる言葉の羅列。遥か古より定められた祝詞によって、異界の門は今開かれり。呼び出された神格が、ゴブリン達の根城である枯れた砦の上で産声を上げた。

 

 そして、世界は炎に包まれた。あらゆる生きとし生けるものすべてが平等に焼き尽くされ、信仰の名の元に世界の全てが灰となり一つとなる。只人も、森人も、鉱人も、蜥蜴人も、圃人も、ゴブリンさえも。一切合切区切り無く。

 そこには、全ての争いの無くなった炎のみの世界があるだけだった。

 

 ゴブリンスレイヤー、完!!

 

 

 【真実】「いや、まさか終わってしまうとは予想外だったな」

 【幻想】「ちょっとちょっと! これどーすんの!? どーすんのこの惨状!? こんなの絶対おかしいよ!?」

【地母神】「(´;ω;`)シクシク」

 【真実】「次、行ってみよう」




やっぱり筋肉が足りないのかな……。
続きはもちろんありません。


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武神+α

豪華二本立て。
注意、豪華かどうかには個人差があります。


 女神官は跪いて祈りを捧げていた。焼け出された砦に奇跡によって閉じ込められ、蒸し焼きになった小鬼達とその犠牲者達の為に。彼等の魂が迷い出ない様にと、ささやかながらも天に祈りを捧げていたのだ。

 

「む、思ったよりも火勢が強いな……。面倒だが、周囲に燃え広がる前に消火するぞ」

 

 一緒に燃える砦を見つめていた小鬼殺しが、淡々と次の坑道に移ろうとする。今すぐにでも泣き出しそうな曇天だと言うのに、神の悪戯か一滴も振り出す事は無かったので仕方のない事だろう。

 そこで、女神官の脳裏に電流走る。

 

「ゴブリンスレイヤーさん。消火なら私に心得があります、少し任せてはもらえませんか?」

「……好きにしろ」

 

 何だかここの所女神官の発言で碌な目に遭っていない様な気がするが、此処は別の卓上なのでそれは全くの気のせいだった。なにより、小鬼殺しの頭の中には小鬼を殺す事しか入っていないので、迷わず女神官に任せる事にした。

 

 少しだけ燃える砦から距離を取って、女神官は祈り始める。自身の信仰する、武術の神とまで言われたあの人物を心の中に思い浮かべて。

 

「はああああああ……、ぬぅんっ!」

 

 深く息を吐いて、気合と共に力を籠める。それと共に華奢だった少女の体は上半身だけがボコンと膨れ上がり、筋骨隆々を通り越した筋肉の塊へと変貌した。MAXパワー全開で、全身にはちきれんばかりの『気』が充実している。

 もちろん、可愛らしい顔はそのままである。これが奇跡。

 

「か……、め……、○……、め……」

 

 独特な詠唱と共に、両手の手首を合わせて掌を突き出して行き、全身に漲る『気』を掌に集めて高めて行く。そして、それが限界を迎えると同時に、裂ぱくの気合と共に解き放った。

 

「波ーーーーーーーっ!!!!!」

 

 迸る気のエネルギーが波となって撃ち出され、青白い閃光を周囲に放ちながら一直線に砦へと向かう。膨れ上がる光の波は取りで全てを覆い尽くして、そしてその砦自体を炎と共に跡形も無く吹き飛ばしてしまった。

 後に残るのは、耳が痛い程の静寂と、気まずい二人の間の空気のみだ。

 

「……少し、やり過ぎてしまいました。砦まで吹き飛ばしてしまいましたね」

「…………、そうか」

 

 武骨な兜の格子状の面頬の奥で、いったい小鬼殺しは何を思っているのだろうか。外れ者の思考など、常人には理解できぬと言う物だろう。

 

「えっと……、この姿だとパフパフとかも得意ですよ?」

「いらん。そんな事よりゴブリンだ」

 

 小鬼殺しの頭の中には小鬼の事しかないので、魅惑の肉体から繰り出されるパフパフになど興味はない。このあと滅茶苦茶、ゴブリンの残党狩りをした。

 

 

 【真実】「武術の神って呼ばれてたのは確かだし、信仰の対象になってもおかしくないよって事で一つ……」

 【幻想】「また筋肉じゃないですか、ヤダー!! 泣いてる地母神だっているんですよ!?」

【地母神】「・゚・(ノД`;)・゚・」

 【真実】「そこで今回は二本立てです。次、行ってみよう」

 

 

 それは、ある日の冒険者ギルドの片隅で起こった悲劇であった。

 ギルドの片隅にあるソファー席を陣取って、他の冒険者達が依頼争奪戦を繰り広げている眺める小鬼殺し。そんな彼に女神官が近づき、ぺこりと恭しく頭を下げた。

 

「ドーモ、ゴブリンスレイヤー=サン。実は見てもらいたい物があるんです。今はお時間よろしいですか?」

「そうか。構わん、見せてみろ」

 

 短い返答を返した小鬼殺しの目の前に、一冊の本が差し出された。装丁などは殆ど無い真っ黒な表紙に、何やら見慣れない文字でタイトルの様な物が白く書き殴られている。酷く薄っぺらいので、本では無くメモ帖の類かも知れない。

 これは何だと問う前に、女神官は晴れ晴れとした笑顔で説明を始める。

 

「これは私の信仰する新世界の神から賜った奇跡のアイテムです。なんとここに名前を書かれたものは、例えどんな相手でもたちどころに死に至らしめる事が――」

「ゴブリンだ」

 

 説明の途中ですが、小鬼殺しは前のめりになって女神官に詰め寄った。

 

「えっ、あの、ですから――」

「ゴブリンだ」

「いえ、あの「ゴブリンだ」アッハイ……」

 

 そう言う事になった。

 

 やがて世界からは、小鬼の姿が一斉に消える事になる。混沌の軍勢は便利な無限沸き兵隊を失ったが、別に他にも雑魚は居るので特に変わり無く。秩序の軍勢もまた、小鬼など端から相手にしていなかったので、喜んだのは小さな農村程度であろう。

 そして、全ての小鬼を殲滅する事が出来た小鬼殺しは、女神官と妖精弓手と幼馴染と受付嬢によるドロドロの修羅場に突入するのだがそれはまた別のお話である。

 

 ゴブリンスレイヤー、完。

 

 

 【真実】「イイハナシダナー」

 【幻想】「終っちゃだめだから!? 終っちゃったら駄目だから! 思考放棄しちゃだめだよ!」

【地母神】「( ゚д゚)ポカーン」

 【真実】「次、いってみよう」

 




最近これのネタばかり思い付いてオリジナルが全然進まない。
続きはもちろん書いて居ません。


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聖☆神

ギャグに大切なのはその場の勢いと存じ上げます。
口調にちょっと自信がありませんがぶっこみます。


 これは、小鬼殺しが女神官を伴い、妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶等と共に小鬼退治に初めて向かった時の話。

 平野での野営の為に焚火を囲い、各々が持ち寄った食材を出し合ってささやかな酒宴を催す。そんな折に巻き起こった、一晩だけの奇跡のお話である。

 

「こりゃあ美味い! なんじゃいなこの肉は!!」

「聞きなさいよ!!」

 

 種族的に相性の悪い妖精弓手と鉱人道士がじゃれ合う中で、女神官は黙々と乾燥豆を焚火に掛けた鍋でスープに仕立てていた。その様子を武器の手入れをしながら眺めていた小鬼殺しは、ふと周囲の状況に違和感を感じる。

 何かが――否、女神官の周囲が明らかにおかしい。

 

「おや、乾燥豆のスープかい? でもお豆だけだと少し寂しいから、私の持って来たジャガイモも入れちゃおうか。それからこれ、ガラムマサラとオリーブオイル。これを少し入れると風味がとてもよくなるんだよ」

「わぁ、良い香りですね。これはアナタ様の故郷のお味なのですか?」

「私の故郷の料理はもっと良く煮込んだ物が多いかな。機会があれば、そっちの方もご馳走したいね」

 

 女神官の隣になんか居る。

 頭をパンチパーマに見える螺髪で覆い、豊かな福耳をモチモチさせる一人の御仁。額には思わず押したくなるようなポッチが付いていた。とんでもなく徳の高そうなご尊顔である。旅の空だと言うのにとってもラフなTシャツ姿です。

 だが、小鬼殺しはその存在をスルーした。だってどう見ても小鬼じゃなかったので。

 

「ちょっと!? 何時の間にか一人増えてるわよ!? アンタいつの間に――って言うか馴染んでんじゃないわよ!!」

 

 妖精弓手が状況に気が付いて騒ぎ始めた。小鬼殺しは密かに兜の奥で安堵する。

 そんな騒ぎ立てる妖精弓手に対して、女神官は落ち着き払ってにっこりと笑顔まで浮かべながら状況を説明し始めた。

 

「すみませんご紹介が遅れてしまいましたね。このお方は私の信仰する宗教の――」

「おおっと、今の私はただの通りすがりのパンチパーマの人だから。パンチとでも呼んでほしいな。短い間だけど、どうかよろしくお願いします」

「私の奇跡に応えて、こちらにいらしてくれたのですよ」

 

 また女神官の奇跡か。いや、正確には別卓の出来事なので小鬼殺しは何も知らない筈なのだが、何故だか最近妙に女神官がらみで碌な事が起こっていない様な気がするのだ。

 でも、何も言わなかった。だって小鬼じゃないから。

 

「なに、貴女の知り合いだったの? それならそうと先に言っときなさいよね、びっくりしちゃったじゃない」

「ははは、ごめんなさい。驚かせてしまったのなら申し訳ない」

 

 妖精弓手は今の説明ですっかり納得してしまった様だ。チョロすぎやしないだろうか、流石二千歳児。

 

「おおーい、耳長の!! こっち来てみい、面白い物が見られるぞ!」

 

 そして今度は、今まで放置されていた鉱人道士が大声を上げ始める。なんだなんだと視線を向けてみれば、鉱人道士と蜥蜴僧侶に挟まれてもう一人。

 それはもう見事なロン毛のお兄さんが一人、居た。

 

「見ろ! ワシの水袋の中身が全部、ぶどう酒に代わっておる! しかも美味いと来た、ガハハハハハ!!」

「いやぁ、皆会えたのが嬉しくてつい。あと、そっちのエルフの子のツッコミが鋭くて、妙にツボに入っちゃって。フフッ……。あ、思い出し笑いで小石がパンに……」

 

 すらっとした痩躯に背中まで届く長い髪の男性が、水袋一杯のぶどう酒にご機嫌の鉱人道士の隣でにこやかに佇んでいる。額に巻かれたいばらの冠が、Tシャツ姿に実にミスマッチだった。

 

「ふむ、お見受けした所、かなりの術の持ち主ですな。身に纏われる気配からして、ただ者とは思えませぬ」

「いやいや、ごらんの通りぜんぜん奇跡、制御出来てませんから。いやぁ、お恥ずかしいなぁ。あ、パン食べます? 柔らかくてチーズに合いますよ」

 

 まさかもう一人いるなんて。小鬼殺しは兜の奥で密やかに驚いた。だが、あえて自分からは何も行動はしない。だって、どう見てもあれは小鬼ではないからだ。

 

「どうも、『パンチとロン毛』のロン毛の方でーす。皆さんにお会いできたのが嬉しくて、もう奇跡が止まりません!」

「ガッハッハッハッ! こんな奇跡なら幾らでも起こしてもらいたいもんだわい。のう、蜥蜴の?」

「然り、然り。このパンはチーズの味わいがより深まって、実に甘露ですぞ」

 

 向こうも向こうで馴染んでいた。そんなこんなで冒険者達の夜は更けて行く。

 沼地の獣の肉の串焼きに、滅多に見れない妖精の保存食。ジャガイモと香辛料の加わった豆のスープに、トロトロチーズの乗ったパン。これに鉱人秘蔵の火酒とぶどう酒が加わって、ささやかだった筈の酒宴が、ずいぶんと豪勢になってしまった物だ。

 

 それから料理が食べ尽くされるまで、酒宴は大いに盛り上がる事になった。

 妖精弓手が酔っぱらって小鬼殺しに絡んだり。胡坐をかいたパンチが宙に浮きあがったり。小石がパンになったり。

 蜥蜴僧侶がチーズに感動して甘露甘露叫んだり。奇跡に感動した女神官が五体投地したり。小石がパンになったり。

 鉱人道士が他の連中の水袋もぶどう酒にしてもらおうと提案して、そんな事したら冒険できなくなると総突っ込み入れられたり。そして小石がパンになったり。

 とにかく、わいのわいのと騒ぎ続けた。そんな楽しい時間も、何時しか終わりの時がやって来る。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ帰るよ。ちょっと上の方で、OHANASHIしないといけないので」

「ああうん、今回が五回目だからね。もうとっくに四回目越えちゃってるからね。仕方ないよね」

 

 パンチ、ロン毛と順に立ち上がり、二人は唐突に帰ると言い始めた。その頃にはみんな酔いが回って、うつらうつらとしていたので何処に帰るかだなんて特には気にはならない。

 全員がぼんやりと見守る中で、やおらパンチがここぞとばかりに締めの挨拶を始めた。

 

「この世界は深い悲しみと痛みに満ちている。そんな中で君たちは、深く傷つ尽き苦痛にさいなまれる事もあるだろう。でも、諦めずに乗り越えて貰いたい。苦行の先には、確かに得る物があるのだから」

 

 その言葉は、誰に対しての物だったのだろうか。しかし、薄く微笑みながら紡がれた言葉には、力強さと共にしっかりとした説得力が備わっていた。

 パンチの優しげな表情に、全員の視線が集まる。彼等にはパンチの顔が、まるで後光が差すようかのように光輝いて見えていた。見えていたというか、どう見ても輝いている。

 

「ちょっ、パンチ光ってる光ってる、ほんとに光ってるよ!! えらい後光が差してるから! だから夜中に徳の高い事言っちゃ駄目だって、前にも言ったじゃないの!!」

「ええっ!? どうしよう、これ自分じゃなかなか消せないのに!」

 

 最後の最後でそんなわちゃわちゃとしながら、現れた時と同じように二人は唐突に去っていた。

 

「…………結局、何だったのよあの二人は……」

「知らん。ゴブリンでない事は確かだ」

 

 そんな事は言われずとも解っている。妖精弓手が突っ込みの蹴りを入れたら、倒れた小鬼殺しはそのまま寝入ってしまっていた。どうやら火酒とぶどう酒のちゃんぽんは思いのほか効いたらしい。

 酒が良く進む、心地よい時間だったと言う事だろう。

 

 

 【幻想】「えー、と言う訳で今回は【真理】君は隣室でOHANASHIの真っ最中なので不在です。仏メーターの残機が切れたんだそうです。パンチさんからちょっと近寄りがたいオーラが出ていたので、尊い犠牲になってもらいました」

【地母神】「ヽ(´▽`)/ ザマア」

 【幻想】「ちょっと何時もとは毛色の違う結果になったけど、まあたまにはこう言うのも良い物だよね。【地母神】ちゃんも楽しそうだし」

【地母神】「( ゚∀゚)ティヒヒ!!」

 【幻想】「え、これも私が言わなくちゃいけないの? つ、次、いってみよう」

 




みんな、お酒を飲む時は聖人してからにするんだよ。
ちなみにこんなのお兄さんたちじゃないって思ったら、原作コミックスを買って読みましょう!(ダイマ)


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漫神

これはギャグなのだろうか。
きっとシュールギャグと言う奴だろう。


 小鬼達が住み着いていた遺跡の中に入り込んだ小鬼殺し達の一党は、小鬼退治よりも先に汚物溜めに捕らわれていた生き残りの森人の救出に成功していた。

 

「とにかくまずは治療を優先せねば。巫女殿、奇跡をお願いいたしますぞ」

「はい、お任せください」

 

 一番体格の良い蜥蜴僧侶が酷く痛めつけられた森人の女性を抱き上げ、汚物溜めよりもとりあえずは清潔な通路へと運ぶ。その後に追従していた女神官が、任せてくれとささやかな胸を張り両手を組んで奇跡を祈った。

 そう、祈ってしまったのだ。

 

「いと慈悲深き――」

「ちょっと待った。そのオペ、私にメスを執らせてはもらえないか?」

 

 女神官が正に神への祈りを言葉にしようとした時、通路の暗がりから一人の男が現れそれを遮った。一党の視線がその男に集まり、中でも一番気の強い妖精弓手が食って掛る。何よりも同族の惨状を目の当たりにしていたために、不信感よりも先に突然邪魔をしてきた男に怒りが沸いたのだ。

 

「何よアンタ! いきなり現れて、何訳わかんない事を言ってるの!?」

「見た所、右半身にかなりの数の裂傷と擦過傷。劣悪な環境に置かれていたせいで感染症も酷い。寄生虫の心配もある。ちまちまとした奇跡に頼って居たら、間違いなく手遅れになるだろう」

 

 その怒りに対して男は全く取り合わずに、怪我人の現状を的確に見抜いた発言をしていた。手遅れになると言う言葉で、勝気だった妖精弓手も流石に鼻白む。それ位に、男の言葉には自信と威圧感があったのだ。

 

 奇妙な男であった。全身を黒いマントで包み、顔には禍々しい縫い痕を顕わにしている。しかもその縫い痕を境にして、くっきりと肌の色が違う。まるで異なる人の皮膚を繋ぎ合わせたかの様だ。

 

「アンタになら、助けられるって言うの……?」

「私なら確実に助けられる。ただし、タダではやらない。そうだな、金貨で三千枚は貰おうか」

「なあっ!?」

 

 人満々な言葉とともに放たれた男の要求に、妖精弓手どころかその場の全員が驚愕した。

 それが途方もない額なのは、幾ら世間知らずでも解る。だからこそ妖精弓手は葛藤した。幾ら銀等級と言えども易々と手放せる額ではないだろう。

 

「どうした? アンタに取っちゃこの同法の女性の命は、金貨三千枚の価値も無いのかね?」

「っ!? いいわ、払う! どんな事をしたって絶対に払ってやるわよ! その代り完璧に治せなかったら承知しないわよ!!」

 

 嘲るような調子で放たれた男の言葉に、妖精弓手は激高した。

 激高しながらも、それでも冷静に資金の事を考えて男の要求を呑む。しっかりとした決意を宿した瞳で男を見返して、その脳裏では既に資金繰りについて目覚ましく検討を繰り返してた。

 

「その言葉が聞きたかった!!」

 

 妖精弓手の強い言葉を耳にして、男は不敵に笑いマントを翻す。直ぐにオペの準備だと言って透明な膜の様な物を膨らませ始め、その中に患者と共に入り込む。そして、神の様なメス捌きの執刀が開始されるのだった。

 

 程なくして、手術は無事成功。傷跡は人工皮膚を移植したので残らなくて済むだろうと言い残し、男は現れた時と同じようにふらりと居なくなってしまった。

 まるで奇跡の様な手腕で、深く傷ついた森人の娘は治療されたのである。

 

「ちなみに、こういう方もいらっしゃいます」

 

 女神官の隣に突然、巨大な鳥が現れているのに一同は気が付いた。

 キラキラとした黄金の眩い光を放ちながら、女性めいた優し気な瞳を持つその姿は正に荘厳。不思議な事にその孔雀に似た鳥は、翼から尾羽に至るまで、全身が煌々と炎を揺らめかせている。

 生きながらにして、永久に燃え続ける美しい鳥であった。

 

「ダメ!! この鳥だけは絶対に頼っちゃいけない様な気がする!! お願いだから元いた場所に返してきなさい!!」

「まあ、それは残念ですね。きっと輪廻転生させてくれたはずなのですが」

 

 得体のしれない恐怖を覚えた妖精弓手の反発にあい、女神官は残念そうに薄く微笑んだ。

 女神官に申し訳ないと頭を下げられて、燃える鳥は去って行った。ただ一声だけを残して。

 

「アナタは死ぬのです。次に生まれ変わるのはゴブリン。その次はホブゴブリン。その次はゴブリンシャーマン。そして、チャンピオン、ロードと続く事でしょう……」

「それ鳴き声なの!? とんでもなく不吉な事言って、本当に帰って行っちゃったわよ!?」

 

 そもそも一言ではないと言うオチ。

 この後はもちろん、みんなで仲良く小鬼退治に戻りました。頑張れ妖精弓手、手術費用は膨大だ。

 

 

 【真実】「いやー、漫画の神様はやっぱり偉大ですね。皆も一度読んでおくと人生が豊かになりますよ」

 【幻想】「い、良いのかな……。これ本当にいいのかな……? 訴えられたりしないかな!?」

【地母神】「ヽ( ´ー`)ノ オコガマシイトオハモワンカネ?」

 【真実】「次、いってみよう」




ゴブリン成分が足りない。


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福神

蜥蜴僧侶さん可愛い。可愛くない?


 それは、何でもない様な毎日の繰り返しの中で起こった、とんでもない悲劇であった。

 事の始まりは、冒険者ギルドの何時もの指定席であるソファーで開始される。何時もの様に掲示板の混雑が解消するまで座って待っている小鬼殺しの所へ、まるで飼い主を見つけた子犬の様に女神官が駆けて来るのだ。

 

「ドーモ、ゴブリンスレイヤー=サン。実は見て欲しい物があるのですが、今はお時間よろしいですか?」

 

 また来た。いや、同じ卓ではないのでまたではないのだが、なんとなく覚えがあるこの既視感。まるで似た様な事を前にもやった様な気がするが、きっと気のせいなのだろうと小鬼殺しは了承する。

 だってそうしないと話が進まないからだ。

 

「先日私の信仰する神様から神託が降りまして。絶対に儲かるから大量生産しろと言われて、丹精込めて作り上げたのがこちらです!」

 

 そう言って、女神官は背負っていた背荷物を漁り、その中身を一つ取り出して見せて来た。

 それは包み紙に包まれていた。そこからは独特の甘い香りとほのかな酸味、そしてとても嗅ぎ慣れたある物の匂いが混じっている事に小鬼殺しは気が付く。

 

「ほう、これはもしやチーズを使った料理ですかな?」

 

 そして、同じくその香りに誘われてきた物が居た。高い身長の上に乗った青い鱗の蜥蜴顔の偉丈夫。彼等の民族独特のの衣装に身を包むのは、小鬼殺しと何度も依頼を共にした蜥蜴僧侶であった。

 

「あ、どうも、こんにちは。ええ、チーズもたっぷり入っているんですよ。よろしければおひとつどうぞ。まだまだ沢山ありますから!」

「これはかたじけない。ふむ、どうやらチーズと何やら黒いペーストに魚の切り身をパンで挟んだ物ですな。では早速……」

 

 蜥蜴僧侶は包み紙を受け取ると、イソイソと開封して中身の検分もそこそこにあんぐりと口を開ける。彼のチーズへの渇望は、もはや崇拝と言っても良いレベルに達している様だ。

 

 そんな様子を傍目に、女司祭は小鬼殺しにも包み紙を差し出して来る。それを無言で受け取った彼は、とりあえず包装を剥がしてしげしげと中身を確認する。蜥蜴僧侶も言っていたが、横切りにしたパンの間に具材を挟んだ料理らしい。

 

 だが、これは果たして口にしても良い物なのだろうか。得体のしれない感覚が、小鬼殺しに静止を訴えかける。

 そう言えば、チーズを口にすれば甘露甘露とやかましいはずの蜥蜴僧侶が、今回はやけに大人しくはないだろうか。ふと気になって、先に口にしただろう蜥蜴僧侶を見た。

 

「私の信仰する福の神様が教えて下さった、『チーズ餡シメサババーガー』のお味はいかがですか?」

「ごふぁっ!!??」

 

 豪快に半分ほど齧りついた格好で固まっていた蜥蜴僧侶が、ぶるぶると小刻みに震えた後に豪快に噴き出してぶっ倒れる。そして、その体からふわりと出てはいけない何かが浮き上がって来た。半透明になったモヤの様な蜥蜴僧侶の上半身。それはまごう事無く、彼の離脱した幽体である。

 

「『おお、これは何とも……、天にも昇る様な心地ですぞ……。偉大なる恐ろしき竜よ、今そちらへ……』」

「きゃああああっ!? そんな、どうして急に!? しっ、しっかりしてくださぁい!!」

 

 ギルドの中はそれはそれは大騒ぎになりました。

 受付嬢さんがすっ飛んで来て事態の解決に奔走し、女神官が蜥蜴僧侶の体を泣きながら揺さぶるのを傍目に、小鬼殺しは手の中の殺傷兵器をしげしげと眺めるのであった。

 

「…………これは使えるな」

 

 食べると魂が抜ける程の味である件の食べ物は、在庫と負債を残してお蔵入りになるかと思われたが、それらの全ては小鬼殺しが買い取る事となった。もちろんこの男が買い上げた以上は、小鬼を殺す為に使われる。

 

 もともと雑食性で悪食でもある小鬼は、巣穴の前に放置されたこの危険物にどいつもこいつも無警戒に食いついたのだ。そして、魂の抜けた体めがけて小鬼殺しは無造作にトドメを刺して行く。

 実に理想的な、小鬼殺戮用アイテムが完成したのだった。

 

「確かに収支はプラスになりましたけど……。これでいいのでしょうか?」

「知らん。そんな事よりゴブリンだ」

 

 女神官のボヤキにも、小鬼殺しは関知しない。何故なら彼の頭には、小鬼をどうやって殺すか以外の物は入ってはいないのだから。

 

 ちなみに蜥蜴僧侶さんは、チーズを鼻先にお供えしたら帰って来ました。

 

「甘露!!」

 

 めでたしめでたし。

 

 

 【真実】「何十年前のネタだよ!! 知ってる奴いるのかよ!?」

 【幻想】「極楽に行けちゃうお味かぁ。食べたくはないけど、どんな味なのかはちょっとだけ興味あるよね」

【地母神】「( ̄¬ ̄)ジュルリ」

 【真実】「色気より食い気かよ。次、いってみよう」




20年ぐらい前になるのかな。
古いネタばかりで申し訳ない。


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歌神

覚えていますか? ゴブリンスレイヤーと出会った瞬間を。


 これは小鬼殺しが初めて妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶達と小鬼退治の依頼に向かった時のお話です。

 捕らわれていた森人を介抱し、蜥蜴僧侶の呼び出した竜牙兵に森人の里まで送り出した一行は、小鬼を殲滅しつつ遺跡の更に奥まで侵入を果たしていた。

 

 斥候役を担う妖精弓手を先頭に、警戒しつつ進んだ先で辿り着いたのは今までに無い広い空間。吹き抜けになった天井から夕日が差し込むそこは、何階層にも別れたテラスを持つ劇場めいた広間であった。

 

 そして、小鬼殺し達一行が見下ろす広間の底には、無数の小鬼達が夕暮れの光の中で眠りこけている。正面から戦うには、あまりにも多すぎる小鬼達が。

 

「私に良い考えがあります」

 

 そんな小鬼達を見下ろしながら、策があると言い放ったのは女神官であった。小鬼殺しでは無く、女神官だったのだ。

 

「…………奇跡か?」

「はい、ゴブリン達を一網打尽に出来る、私の信奉する神様から授かった奇跡です!」

 

 小鬼殺しは訝しんだ。奇跡の内容にではなく、女神官から溢れ出るやる気にだ。彼女は果たして、こんなに積極的に自分を売り込んで来る様な性格だっただろうか。心なしか、全身から漲る熱気がオーラとして立ち上っているかの様だ。

 本来ならば、白磁の新米に事を任せる様な事はしないのだが、小鬼殺しはその時強く反対する様な事は無かった。何故なら、彼は小鬼が殺せれば何でも良いのであって、なによりそうしないと話が進まないからだ。

 

「では、私……行ってきます!」

 

 そうして、小鬼殺しの許可を得た彼女は駆け出して行く。両手で錫杖を抱えるながら、自らの奇跡を披露する舞台に向けて。

 

「よし、私達も行くわよ!」

「そうさな、ワシらも負けてはおられん!」

「いざ参りましょうぞ!」

 

 何故か小鬼殺し以外の面々も急に張り切り出して、全員が女神官を追いかけて走り出した。取り残された小鬼殺しは、立ち尽くしたまま仲間達を見送る他無い。

 

 女神官はテラスの縁に立ち上がると、錫杖を両手で構えたまま一度深呼吸をする。それから、あらん限りの声を張り上げて叫び声を上げるのだった。

 

「どいつもこいつも、私の歌を聞けーーーーーっ!!!」

 

 それから始まったのは唐突なライブ。何処からとも無く伴奏が流れ、女神官は錫杖をスタンドマイクの様にして歌い始める。それは、まるで愛の心が突撃していくかの様な、情熱的な歌唱であった。

 

 本来であれば、寝静まる小鬼達の群れを前にして、叫んだり歌い出すなど狂気の沙汰だ。もちろんの事、この突然始まったゲリラライブに、寝入っていた小鬼達はすべて目を覚まして女神官を見上げて来る。

 だが、小鬼達は群れを成して集まりこそすれど、小鬼殺し達の所に殺到してくる様子は欠片も無かった。むしろ、女神官の歌を聞いて、ぎゃいぎゃいと歓声を上げている様子である。

 そう、女神官の歌は小鬼達を全て魅了していた。醜悪な小鬼達が、一匹の例外も無くライブの観客として盛り上がりを見せているのだ。これは正に奇跡だろう。

 

 唐突な伴奏の出所は、後を追いかけて行った他の仲間達だ。鉱人道士がその器用さで巧みにキーボードを操作し、それに対抗して妖精弓手がベースを繊細な手つきで奏でる。蜥蜴僧侶はどっしりと中央に構えて、すらりとした手足を活かしドラムを担当していた。まるでシングルのジャケットになりそうな絵面である。

 何処からその楽器の数々は出たんだとかは特に気にしてはいけない。何故ならばこれこそが、神のもたらした奇跡なのだから。

 

「…………」

 

 小鬼殺しの足元にも、当然の様に独特なデザインのギターが落ちていた。小鬼殺しはギターを拾い上げると、それを肩に担いで仲間達から離れる。向かうのはもちろん、階下の小鬼達の所だ。

 なぜなら彼は、小鬼殺しなのだから。

 

「いったい何の騒ぎだこれは!! この耳障りな爆音はなんだ!? 小鬼どもは何をはしゃいでおるのだ!!」

 

 小鬼殺しが最下層まで降りて来ると、遺跡の更に奥へと続く道からドスドスと足音を唸らせて異形の怪物が現れた。それは食人鬼等とも呼ばれる、優れた膂力と体躯に魔法まで操る上級の魔物。どうやら奴が小鬼どもの親玉らしい。

 

「この爆音と歌声はあの小娘が原因か! ゴブリンどもよ、何故雁首揃えて見守っておるのだ! さっさと捕らえて孕み袋にでもすればいい物を! あの小娘が何だと言うのだ!?」

「ご存じ、無いのですか!?」

 

 ここからは小鬼語でお楽しみください。

 

「彼女こそ、ゴブリンスレイヤーヒロイン界でデビューして以来、読者と視聴者をその健気さと可憐さで引き付け。失○姿と悲鳴でファンを魅了する、ヒロインレース上位者の女神官ちゃんです!!」

 

 小鬼語終了。

 声を荒げる食人鬼に、歌に聞き惚れつつも小鬼の一匹がご丁寧に解説を入れる。それがどうしたと言わんばかりに食人鬼は鼻を鳴らして女神官を見上げるが、その姿を睨み続けるうちにその腕からずしんと金棒が落ちてしまった。

 

「な、何だこの歌声は。胸の奥が熱い……。こ、これはいったい何の……。おお、デカルチャー……っ!!」

 

 こうしてまた一匹。奇跡の歌声に魅了され、戦いを忘れた者がゲリラライブに熱中して行く。人と魔物の心を繋ぐ、歌と言う文化の煌めきが、今この場には満ち満ちていた。

 

 それから彼等は一体となって、昼夜問わずのぶっ続け耐久ライブに突入――する様な事は無い。何故なら、ライブに夢中になっていた小鬼達と食人鬼に、文字通り横合いから冷や水が浴びせ掛けられたからだ。

 

「はっ!? ごぼぉっ!? 何だ、何をした……?」

 

 気が付けば、食人鬼は両手と下半身を失って水辺に横たわっていた。周囲には小鬼達と思わしき、バラバラになった惨殺死体が転がっている。彼等の身に何があったのかは直ぐに判明した。

 

 目前から、兜の奥に鬼火を宿した修羅が迫って来ていたからだ。

 

 その腕には今しがた使われて燃えて行く転移のスクロールと、ヘッドの方を掴んで肩に担がれた奇妙な形のギター。小鬼殺しは転移の巻物を深海へと繋げ、溢れ出した海水が刃の如く小鬼達と食人鬼を纏めて一掃したのだと説明する。

 

「貴様、あの奇跡の歌を耳にしても、平然と攻撃を仕掛けたと言うのかぁ!?」

 

 当然だ。この男の脳裏には小鬼を殺す事しか入っていない。小鬼どもと心を通わせるなど、小鬼殺しにとっては良い小鬼と出会う程にあり得ない事なのだから。食人鬼など、物のついでに過ぎない。

 

「貴様なんぞよりも、ゴブリンの方が――いや、あの娘の奇跡の方が余程手強い……」

 

 最後にそう呟いて、小鬼殺しは動けない食人鬼の脳天にギターを振り下ろした。無論、死ぬまで。

 

 

 【真実】「プロトカルチャー。それは、文明を生み出した神の様な存在……」

 【幻想】「あ、フャイヤーでボンバーな人が信仰対象じゃないんだ? 歌の神様扱いになってるのかと思ったけど違うんだね」

【地母神】「( ´∀` )シンカンチャンノキャラソンキボンヌ」

 【真実】「これだけ人気なら出るんじゃないか? 出てくださいお願いします! 次、いってみよう」




ちなみに、ゴブスレさんが一緒に演奏に参加した場合、敵達が死ぬまでライブが続きました。
奇跡ですからね。仕方ないね。


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大神

ゴブリンスレイヤー+公式チート=ゴブリンは死ぬ。


 それは唐突な始まり。

 冒険者ギルドの何時もの席に腰かける小鬼殺しの目前に、一匹の白い犬が鎮座していた。白くて毛むくじゃらで、どかこポアッとした表情の白い犬だ。あと、やけにドヤ顔をした女神官もその隣に寄り添っている。

 

「という訳で、こちらが私の信仰する神様です!」

「ワン!」

 

 どういう訳かは知らないが、彼女の隣に居るのはどうやら神らしい。尻尾を嬉しそうにパタパタ降って、間の抜けた顔でへっへっへっと舌を出している。

 それに対する小鬼殺しの答えはこうだ。

 

「そうか。ゴブリンでないのなら、俺はもう行くぞ」

「待ってください! 今日はそのゴブリン退治に、このお方も連れて行ってほしいのです。何でも、お手伝いをして報酬を頂きたいのだとか、仰られておりまして」

 

 元々小鬼退治の依頼を受ける為に、掲示板の混雑が収まるのを待っていただけである。小鬼ではない犬の為に割く時間など彼にはない。

 しかし、今すぐにでも掲示板に立とうとした小鬼殺しを、女神官は通せんぼして食い下がる。ワンコも後ろ足で立ち上がって、精一杯前足を広げようとしていた。

 どうもこの犬はゴブリン退治に同行したいようだ。

 

「…………。具体的には何が出来る?」

「はい! 穴を掘ったり、遠吠えしたりすることができます!」

 

 すんごい笑顔で言い張る女神官。それが小鬼退治にとって、どんな優位性を見せると言うのだろうか。流石にそれだけでは同行されられないと断られると、女神官は両手を組んでうーんと唸り始める。

 

「後は、『筆しらべ』と言う魔法の様な筆業で様々な現象を引き起こせる事でしょうか。遠くの物を触れずに切断したり、枯れ木に花を咲かせたり、壊れた物を直したり……。それから輝玉という爆弾を――」

「詳しく話せ」

 

 今までかなりどうでも良さそうに聞いていた小鬼殺しが、最後の言葉に反応してズズイっと身を乗り出した。兜の奥で紅蓮の鬼火が揺らめき、思わず女神官とワンコが抱き合って身を引く程に。

 

 

 結論から言えば、小鬼退治はとても捗った。白い犬改め、狼がとても優秀であったからだ。

 そもそも単身で小鬼どもを蹴散らす身体能力があり、小鬼殺しには見えないのだが神器と言う優秀な装備も持っているらしい。それから更に十三もある筆業まで持っているのだから、これはもう至れり尽くせりと言う物だろう。

 

 小鬼殺しは、特に筆業をいたく気に入っていた。無尽蔵に爆弾を出させて巣穴を破壊したり、入り口で焚いた毒煙を突風で巣穴に流し込んだり、近くの川から水を移動させて巣穴を水没させたりとやりたい放題。問題があるとすれば、倒した小鬼の死体が何故か花に変わる程度の事だ。もたらされる恩恵に比べれば些事ですらない。

 これには思わず、小鬼殺しも兜の奥でニッコリだ。

 

「素晴らしい狼だ。ゴブリン退治が捗る」

「はい! 大神様は素晴らしい神様です!」

 

 ご満悦の小鬼殺しの隣で、自信の信仰する神を誉められた女神官もまたニッコリ。多分、尻尾が有ればブンブンと振っていたに違いない。ワンコが二匹居る様だ。

 

 そして肝心の、大神が要求したお手伝いの報酬なのだが。それを渡す為に、一行は小鬼殺しが間借りさせてもらっている牧場へとやって来ていた。

 

「えっと、この子にチーズを渡せばいいの? あはは、可愛いねぇ。よしよし、よく頑張ったねー」

 

 小鬼殺しの幼馴染が何時もの作業着姿で、丸のままのチーズを抱えて持ってくる。そしてそれを手ずから大神に差し出して、がつがつとチーズに齧り付く様子に喜びその頭を撫で始めた。

 無邪気な笑顔を浮かべてお犬様を撫でる牛飼娘。そのバストは豊満であった。

 

「何でしょう、凄くイラッとしました」

「そうか。しかし、こんな事が報酬になるとは思えんのだが、良いのか?」

 

 何故かちょっとだけ怒っている女神官に、小鬼殺しは確認の為に声を掛ける。二人の視線は自然と、牛飼娘に撫でられながらチーズを貪る大神へと向けられた。

 なんと言うか、その表情はデレーっとしていて、とてもとても幸せそうである。視線がずっと牛飼娘の胸元に向いているのは、きっと気のせいではないのだろう。

 トボケ顔のワンコの周囲には、幸と画かれた玉が無数に湧きだしているに違いない。

 

「良いのです。あんなに幸せそうにしているじゃないですか」

「そうか。チーズなら幾らでも買い与えられるからな。これでゴブリン退治を手伝ってもらえるなら安い物だ」

 

 きっと大神が求める報酬はチーズ自体ではないが、小鬼殺しはこれからも気が付く事はないであろう。何故なら、彼の頭には小鬼を殺す事しか無いからだ。

 

 そんなこんなで、小鬼殺しは頼もしい助っ人を得る事になった。ゆくゆくは魔神王との大決戦で、なんか変なのを乗せた狼が大暴れしたとかしないとか。そんな未来が来るかもしれないが、それはまた別のお話である。

 ただ確実なのは、どんなに世界が暗黒に覆われようとも、大神の暴れた場所では太陽はまた必ず昇ると言う事だった。

 

 

 【真実】「おいおい、おっぱいで世界が救われちまったぞ。おっぱいには夢と希望が詰まってるんだな」

 【幻想】「チクショウ、なんだかとってもチクショウ……。みんなそんなにおっきいのが良いのか……」

【地母神】「(-人-) アリガタヤ」

 【真実】「次いってみよう」




辛に一閃で幸。この言葉が大好きです。


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龍神

えー、ギャグが嫌いな人は今回の話は絶対に見ないでください。


 それは、とある日に酒場の片隅で行われた、食事会での出来事であった。

 その日は珍しく何時もの一党の面子に加えて、牧場の牛飼娘も同席しての会食の場である。幼馴染が傍に居るせいか、小鬼殺しの雰囲気も和らいでいる様に見えた。

 

 そんな和やかな空気の中で、小鬼殺しの隣に座る女神官が唐突に声を上げる。とっておきの何かを見せ付ける子供の様に、その表情は喜色満面であった。

 

「これは私の信仰する、龍の神様を呼び出す神器の一つです」

 

 そう言って彼女が取り出したのは、掌に収まる程度の橙色の玉だ。不思議な事にどの角度から見ても、その玉の中には赤い色の星が四つ浮いて見える。それ自体には特に価値はなさそうだが、女神官はそれを親の形見の様に愛おし気に抱えていた。

 

「へー、綺麗な宝玉ね。神器って言うからには、何か特別な力でもあるのかしら?」

「はい、これは七つ集めると龍の神様が現れて、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるのだそうです」

 

 最初に興味を示したのは、やはり好奇心旺盛な妖精弓手。長い耳をぴこぴこ揺らしながら、興味津々とばかりに玉を覗き込んで来る。それに対応した女神官の言葉は、彼女を更に高ぶらせるに足るものであった。

 

「凄いじゃない!? 今あるのはこれだけなの? 龍の神様だなんて凄い存在、呼び出してみたいわ!」

「ふぅむ、何でも望みが叶うとなりゃあ、金銀財宝どころか極上の酒も思うのままじゃのう!」

「うむ、異端なれど龍の神とあらば、恐るべき竜の末裔としては一度まみえてみたい物ですな」

 

 意外にも、普段耳長娘と嘲る事の多い鉱人道士がこれに同調する。そして蜥蜴僧侶もまた、それに倣い思慮深い瞳を閉じて祈りの印を組む。三人ともに、一瞬で願いを叶える宝玉に心を奪われてしまった様だ。

 

「そうとなったら早速準備しなくっちゃ! 他の奴らに先を越される前に、全部集めちゃわないといけないもの! オルクボルグも当然行くわよね!?」

 

 そうなると、当然もう一人の仲間に視線が集まる。黙して語らぬ一党の中心人物。薄汚れた鎧姿の小鬼殺しである。

 

「……俺は――」

「行ってきなよ」

 

 お馴染みの『小鬼にしか興味はない』と断ろうとした小鬼殺しの言葉を、なんとその隣の幼馴染が遮った。豊満な物をお持ちの彼女は、どうやら小鬼殺しを宝玉集めに送り出したい様子だ。

 

「何でも願い事が叶うんだよ? やり直したい事も、取り返したい事も何でも。だから、行ってきなよ」

「……………………。わかった」

 

 そう言う事で、不思議な旅が始まった。

 空を駆け抜け山を越え、この世のどこかで光ってる宝玉を探し出す為に。幸いな事に女神官には他の玉の位置がレーダーの様に感じ取れるらしいので、一党は意気揚々と大冒険に繰り出せた。

 この世はでっかい宝島。その道の険しさは正に艱難辛苦。荒野で女が苦手な山賊に襲われたり、愉快な三人組の世界征服計画を阻止したり。亀に乗ったスケベ爺さんと出会ったり、謎の赤いリボンの軍隊と熾烈な宝玉争奪戦を繰り広げたりと、色とりどりのアドベンチャーの連続だ。

 そんな単行本十冊分ぐらいの冒険の果てに、ついに一党は七つ全ての宝玉を集める事が出来たのだった。

 

「それでは呼び出しますね。『出でよ、神龍(シェンロン)』っっ!!」

 

 旅を終えた一党は、今は小鬼殺しが滞在していた牧場に戻って来ている。幼馴染の牛飼娘も加わった一党の目の前で、女神官が呪文を唱えると、集めて並べられた宝玉が眩い光を放ち始めた。そしてその光は龍の形を成して、閃光として天高くへと飛び上がって行く。

 

 寸前までは晴れ晴れとしていた空があっと言う間に曇天へと変わり、周囲を暗く塗りつぶして行く。だと言うのに視界は良好で、雲の隙間から長い長い胴体を持った生き物がうねりながら泳いでいるのが見えた。

 それはやがて、ゆっくりと一党の頭上へとその全貌を顕わにする。

 

「『さあ、願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』」

 

 現れたのは蛇に四肢を付けた様な姿の龍であった。神と称されるだけあって、その姿は神々しくまた雄々しくある。それを目前にして、一党の反応は様々だ。

 

「おお、これが異端の龍の神……。拙僧の祖とは違えども、この雄々しさ雄大さには感服を覚えますな。いやはや、これで拙僧の願いは叶ったようなものです」

「そうさのう。財宝も酒も冒険してるうちにたっぷり楽しめたし、今更願いで求める程でもねえやな。耳長娘はどうじゃ?」

「私はみんなで一緒に沢山冒険が出来て大満足よ! これ以上求めたら罰が当たっちゃうわ」

 

 蜥蜴僧侶はその姿を見れた事で満足し、鉱人道士と妖精弓手は旅の道程で既に願いがかなっている。女神官はニコニコとするだけで特に何も言わないので、またもや視線は最後の一人に集まってしまう。

 

「…………」

「ね? どんな願いでも、人を生き返らせる事も出来るのなら……」

 

 沈黙を守る小鬼殺しに、牛飼娘が気遣わしげな表情で言葉を掛ける。それはきっと、愚かな願いなのであろう。だが、誰もが願わずにいられぬ願いなのだ。

 

「俺の……。俺の願いは――」

 

 俯いていた小鬼殺しがその視線を龍の神に向けて、己の胸の内に湧き上がる願いを口にする――その寸前で、表情を真剣な物にした女神官が小鬼殺しの隣に並び立ち、割り込む形で魂の籠った大音声を上げるのだった。

 

「ギャルのパンティ、お~~~くれ~~~!!!!」

「容易い願いだ……」

 

 龍の神の二つの目が赤く輝き、天空からひらひらと小さな布切れが落ちて来る。それはまごう事無き女性用の下着で、小鬼殺しの兜の上にふぁさりと覆いかぶさった。

 

「『さあ、願いは叶えてやった。さ~ら~ば~だ~!』」

 

 龍の神は再び宝玉へと戻り、その宝玉は中空から七方へと光の尾を引いて飛び散ってしまう。後に残ったのは、微妙な空気の中でニコニコする女神官と、小鬼殺しの兜に乗った下着だけであった。

 

 

 【真実】「えー、件の下着は妖精弓手によると『受付嬢の匂いがする』との事で本人に返却されました」

 【幻想】「え!? 誰が返したの? ま、まさかゴブスレ君じゃないよね!? ねえ!?」

【地母神】「( ´Д`)y-~~ シリアスドッカイッタ」

 【真実】「この話がシリアスで終わるわけないじゃないの。次、行ってみよう」




死んだ人間は絶対に蘇らない。
だからってこの終わらせ方はどうなんだよ!

そう思う方がいらっしゃいましたら、私も同じ気持ちです。


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マ神再び

私は夜も寝ないで一体何を書いているんだろうか……。
とにかく今は、限界まで投下を続けるのみ!


 

 これは、女神官が信仰する神がマッスルの神だった場合の世界のお話。その続き。

 

 何時だったかに助け出す事が出来た新人冒険者一党達。その頭目らしき青年剣士が小鬼殺しと女神官の前に現れ、沈痛な面持ちで相談を持ち掛けて来ていた。

 何でも、筋肉的に助け出された後に、何やら深刻な悩みが出来たのだそうだ。

 

「女武闘家だけ元に戻らないんです……」

 

 非常に珍しい事だが、小鬼殺しが飲んでいたお茶を噴き出した。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!? だ、大丈夫ですか?」

「……問題ない。続けてくれ」

 

 心配して覗き込んで来る女神官を手で遮り、小鬼殺しは青年剣士に話の続きを促す。とにもかくにも、情報収集は大事なのだから。

 

「俺や魔法使いの奴は暫くしたら元に戻れたんだけど、アイツだけなぜか時間が経っても体が元に戻らなくて……。それどころか、本人も『格闘技にはこの体は便利かもしれない』とか言い始めちまって……。俺……、俺っ! 一体どうすればいいのか全然わからないんです!!」

 

 青年剣士の心は憔悴しきっていた。こんなんじゃ故郷の親御さんに顔向けできないと、涙すら浮かべている。確かに田舎者小鬼と見紛う程の体躯になった娘の姿など、親には見せられないだろう。

 

 というか、そもそもこの青年が悩んでいるのは隣の女神官が原因だと言うのに、何故か相談先は完全に小鬼殺しになっていた。若干の理不尽さを感じなくもないが、助けを求めるならば女神官は確かに不適格なのだろう。

 何せ、筋肉モリモリになる事を無上の喜びとしているのだから。

 

「何が問題なのかは全く分かりませんが、それはおそらくマッスルの神様のお戯れでしょう。恐らくは彼女の事を気に入ってしまって、奇跡の加護を与え続けているのだと思われます。大丈夫、元に戻す方法はありますよ」

 

 それを聞いた青年剣士は顔を綻ばせる。それに対して女神官は柔らかく微笑んで、ただしと付け加える。

 

「ただし、蜥蜴僧侶さんの協力が得られればの話ですが。他にも方法はありますが、一番手っ取り早いのはあの人に頼む事だと思います」

 

 それについては問題ないだろうと小鬼殺しは思い浮かべた。なにせ、彼の僧侶には目がくらんでしまう大好物があるのだから。

 

 実際、蜥蜴僧侶は牧場のチーズを報酬としてちらつかせたら、ホイホイと協力を申し出てくれた。そして適当な空き地に、天にそびえる筋肉を誇示する女武闘家を呼び出し、早速その力を貸してもらう事となる。

 

「禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ」

 

 触媒をばら撒き祝詞を唱えれば、現れ出でるは蜥蜴僧侶お得意の竜牙兵。その姿たるや、正に骨だけになった蜥蜴人そのものである。

 その姿を見た女武闘家は、その逞しい筋肉をぶるりと震わせ身悶えた。

 

「ほ、ホネホネ人間だああああああああああっ!?」

 

 大げさに驚愕して見せる女武闘家のその背後に、うっすらと眼鏡に七三分けにしたムキムキの何かが現れ、そして驚愕のままに霧散して消える。マッチョはホネホネに弱い。その法則のままに、憑りついていたマッスルの神は天に帰ってしまった様だ。

 

「も、戻った! ほんとに戻った! やったああああっ!!」

 

 その言葉と共に、すっかり元のサイズに戻った女武闘家に青年剣士が飛び付いた。女魔法使いも二人に寄り添い、眼鏡の裏に大粒の涙を浮かべている。当の武闘家本人は何が何やらと困惑するばかり。どうやら、憑りつかれていた間の記憶が飛んでいる様だ。

 

「すみません、私の信仰する神様がご迷惑をおかけしてしまいました。お詫びにこちらを進呈いたします」

 

 このまま大団円で終るかと思われた雰囲気の中、女神官が新人一党に近寄って何やら飲み物の入ったグラスを手渡していた。祝杯替わりなのだろうか。中々に気が利いていると、新人達はそのグラスを受け取り乾杯して飲み干してしまう。

 

「……今のは何だ?」

「はいっ、今の飲み物は私がいろいろそれっぽいのを混ぜて調合した、強い体を作るスペシャルなお薬が配合された健康ドリンクです!!」

 

 小鬼殺しが恐る恐る尋ねてみれば、女神官は輝かしい笑顔でそう宣う。程なくして、新人冒険者一党は全員、白目を剥いて全身を痙攣させながら声を揃えて絶叫した。

 

「「「おおおおおおオオオオ、オクレ兄さんっっっ!!!」」」

 

 あ、これやばい奴だ。そう確信した瞬間、小鬼殺しと蜥蜴僧侶はダッシュで逃げ出した。

 

 

 【真実】「最近迷走していたんで、原点に立ち返ってみました。ところでふと思ったんだけど、俺らってなんでこんな実験繰り返してるんだっけ?」

 【幻想】「君がそれを言っちゃうの!? 全部君が発端じゃない!? 返してよ! あの可愛かった純粋無垢な女神官ちゃんを返してよ!!」

【地母神】「(ノ∀`)ハハハハ/ヽ/ヽ/ヽ/ヽ・・・・・・,、,、,、」

 【真実】「さ、気持ちも新たに。次、いってみよう」




フッ……、とうとう限界みてぇだ……(ガクッ


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転生神

今回はシリアス風味。
面白いかどうかはちょっと自信がありません。


 牧場に小鬼の大群が攻めて来る。

 その言葉を小鬼殺しが素直に告げて、依頼として大量の冒険者達が防衛線の為に集まっていた。ギルドからも小鬼一匹につき金貨が一枚もたらされると言う事もあって、冒険者達は異様な熱気に包まれている。

 

「諸君、我々の任務は何だ!? 殲滅だ、一騎残らずの殲滅だ! 成すべきことはただ一つ、地獄を作れ!!」

 

 防衛の為の準備も済み、気の早い連中が集まって逸っている所で、その先頭に立って大演説をぶちあげている存在がいた。そう、小鬼殺しの良く知る女神官だ。

 

「もう二度とゴブリンによって、家族を失う悲しみを作らないために! そして、神の正義を成す為に! 主を信じる、善良なる心に誓って! 神の、ご加護が在らん事を!!」

 

 いや、彼女はあんなにも激情家であっただろうか。そもそも、人前に出て大声があげられる様な人柄であっただろうか。気のせいかもしれないが、青かったはずの彼女の瞳が今は金色に輝いて見えていた。

 

 そんな風に熱狂する冒険者達の一団を遠巻きに見ていた小鬼殺しの下へ、すっかりと戦支度を整えた妖精弓手がやって来る。彼女もまた仲間達の盛り上がりを見て顔を綻ばせ、そのまま小鬼殺しに声を掛けて来た。

 

「大盛況みたいじゃないの、あの娘の演説。相変わらず、奇跡を使うと凄い変わりっぷりね」

「…………そうか?」

 

 どうやら女神官の豹変は何時もの事らしい。そう言われると何だかそんなような気もしてきた。小鬼殺しが感じている違和感は、きっと別卓の出来事なのだろう。

 

「オルクボルグの方は、もう準備は良いの?」

「ああ……。…………?」

 

 気が付けば周りの騒音が止んでいた。それだけではない。あれだけ熱狂していた冒険者達も、そして隣で語り掛けてきていた妖精弓手もその動きを止めている。それどころか、小鬼殺しの体すら思う通りに動きはしない。

 まるで、時が止まったかの様に。

 

「『戯れと言えども、わざわざ出向いて奇跡を与えるなど、つまらぬ些事だと思ってはいたが……。なかなかどうして、面白味の有る人間が居るではないか』」

 

 静寂の中で声がした。それは、すぐ隣の妖精弓手の声で、そして遠くに居る冒険者達の誰かの声で。あるいは、近くの家畜の口までもを借りて、小鬼殺しに語り掛けて来る物が居た。

 

「『賽の目を貴ぶ世界で、それに抗う者。貴様もやはり、信仰心の欠片も無い不心得者であろう。神の意志に抗う事こそがすでに不信の表れ。だが、神の存在自体を信じていないわけでも無い。むしろ、存在を認識した上で挑戦しているかのようにも見える。その一点だけは、面白くある』」

 

 その存在は、数多の口でたった一つの意志を語る。それはまるで、珍しいおもちゃを見付けたかのように楽しげであった。

 

「…………何者だ?」

「『存在X、等と呼ぶ輩も居る。今はただの来訪者に過ぎない。だからこそ、貴様の存在を面白く思える。小娘に奇跡を与えるよりも、貴様に恩寵を与えて見せた方が余程有意義であろう』」

 

 たとえ相手がどんな存在だとしても、小鬼殺しが興味を持つのはただ一つ。故に、訊ねる事があるとすれば一つしかない。

 

「ゴブリンではないのか……?」

「『…………。成る程、この世界の神が手を焼くだけはある。愚かな子羊には道を示してやらねばならんのだろうが、ここは管轄外の世界。せいぜいその矜持がどこまで続くのか、見守って居てやろうではないか』」

 

 そして、世界に再び時が戻った。

 

「――って聞いてるの、オルクボルグ!? どうしたのよ、ボーっとしちゃって……」

 

 喧噪の中で隣の妖精弓手ががなり立て、それから心配げに覗き込んで来る。兜越しに視線を向ければ、怪訝そうな顔が、一秒二秒と経つ内に徐々に赤らんで行く。その変化が気になって更に視線は注がれる。

 

「な、何かあったの? 何時もよりだいぶ様子がおかしいわよ? それとも私の顔に、気になる所でもある?」

 

 気恥ずかしさを頭を振って吹き飛ばし、妖精弓手は無理矢理に言葉を繋ぐ。長い耳をピコピコ揺らす彼女の顔を真っ直ぐに見つめながら、小鬼殺しはこれに簡潔に応えた。

 

「ゴブリンでは無かった……」

「…………は?」

 

 何かあったのかをいつも通りの調子で報告した小鬼殺しは、壮絶な笑みを浮かべた妖精弓手に後頭部を蹴り飛ばされて吹っ飛んだ。

 

「さあ、戦友諸君! 戦争の時間だ!!」

 

 こちらも壮絶な笑みを浮かべた女神官が、遠くの方で演説を締めくくる。

 さて、今回の一番被害者は誰であろうか。それこそは、神のみぞ知ると言う物であろう。

 

 

 【真実】「彼女は、女神官の皮を被った化け物です」

 【幻想】「っていうか、あの神様勝手に納得して勝手に帰っちゃったんですけど。つかみどころ無さ過ぎて、何考えてるかさっぱりわからないよ。地母神ちゃんも、女神官ちゃんがあんな風になっちゃってショック受けてない?」

【地母神】「( ´ー`)イガイト……、アリカモ……」

 【真実】「!? つ、次、いってみよう」




本当にシリアスだと思った?
残念、大体何時も通りですよ。


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機神

誕生日おめでとうございます、イエッサ。

今回の文章の頭の悪さは過去最強かもしれません。
覚悟を決めてお楽しみください。



 百の小鬼を引き連れて牧場を襲わんとした小鬼王。今、その企みは数多の冒険者達によって打ち砕かれ、王は軍勢を囮に一人敗走していた。

 そして、その王の前に立ちはだかるは小鬼殺し。既に返り血に塗れた彼は言う、お前の故郷は既に無いと。

 

 そして始まった戦いは、実に一方的な物だった。

 何の事は無い、小鬼殺しが弱かったのだ。小鬼王が振るう豪奢な斧を危なげに躱し、中途半端な長さの剣で脇腹を突くも致命傷には至らない。闘う内に力の差がはっきりと表れて行く。

 盾は砕かれ剣は折れて、地に這いつくばる小鬼殺しの頭を王は何度も踏みつける。

 

 そんな時だった。『それ』が空から降りて来たのは。

 

「手こずっているようだな、手を貸そう」

 

 ゴー、ズシャッって感じで舞い降りたのは、小鬼殺しが良く知る女神官であった。姿形は確かにそうだ。いや、一つだけ記憶と違う部分がある。何故か今の彼女は、その首に犬に付ける様な革製の首輪を付けていた。首輪付きだ。

 

 愛らしい容姿の彼女の出現に、小鬼王は獲物が向こうからやって来たと喜んでいる。

 だが、小鬼殺しはその姿はともかく、言動を見聞きして激しく後悔していた。なぜ自分は、彼女の奇跡に頼る様な作戦を立案してしまったのだろうかと。

 

「メインシステム、戦闘モードを起動します」

 

 短く告げた女神官の周囲に、陽炎が立ち上り緑の粒子がばら撒かれる。その粒子はやがて彼女の周囲で集まり、透明度の有る球体へと凝縮した。プライマ――もとい、聖壁の奇跡である。

 奇跡を発動させたその姿を見る小鬼殺しは、思わず呻くように呟いてしまう。

 

「コジマは……、まずい……」

 

 流石に目の前で不可思議な現象を起こされた小鬼王は、獲物では無く邪魔者として彼女を排そうと戦斧を振り上げた。小鬼殺しの盾を容易く切り裂いたこの得物、華奢な少女が当たれば形が残るかすら怪しい物だ。

 それに対峙する女神官はただ無言。その様子を恐れと見た小鬼王は、戸惑う事無く脳天へ向けて戦斧を振り下ろす。

 

 そして次に小鬼王が見た物は、己の戦斧が地面に食い込む姿と、先程と寸分たがわぬ姿で少し離れて位置に移動した女神官の姿。

 目前の嗜虐に酔っていた小鬼王には回避の動作すら見えなかったが、離れた位置に居た小鬼殺しには見えていた。女神官の体が慣性を無視して、右、後ろ、左と連続で移動したのを。

 緑の粒子を炎の様に吹かして、瞬時に身体を押し上げ移動したのだ。音にすると、『ドッ、ドッ、ドヒャア!』って感じに。

 

「匪賊には、誇りも無いのか。生き易いものだな、羨ましいよ」

 

 囁きと共に後方に滑る様に女神官は移動し、手にした錫杖の先を小鬼王へと向ける。そして、杖の先から『カァオ!カァオ!』と二条の光弾が放たれる。もちろん奇跡の聖光である。

 

「殺しているんだ、殺されもするさ。恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ」

 

 放たれた光弾は視認すらも困難な速度で飛翔し、小鬼王の戦斧と足を撃ち抜く。二つの月が浮かぶ夜空に、薄汚い悲鳴が高々と響き渡った。

 

「あいむしんかー、とぅーとぅーとぅーとぅとぅー……」

 

 足を撃たれ這いつくばって逃げる小鬼王を、女神官は鼻歌混じりに追いかけて行く。可愛らしい声なのに、なぜか大量殺人者を想起させられる歌声である。

 

 だが、その歩みを遮るモノが在った。森の中の茂みを掻き分けて、わらわらと武装した小鬼どもが現れる。完全に想定外の事態だ。イレギュラーである。

 

「GOBURURU(あなた方にはここで果てて頂きます。理由はおわかりですね?)」

「GOBUGOBU(どうせ確信犯なんだろう? 話しても仕方ない)」

「GOBURU!(所詮は人、小鬼の言葉も解さんだろう)」

「GROOOO!(殺しすぎる……お前らは……)」

 

 生憎と小鬼語は解らないが、なんとなくピンチなんだろうと言う事は女神官にも理解は出来た。その表情に初めて戦慄が走り、わなわなと体を震わせる。

 

「馬鹿な……、こんなことは……。……とでも、言うと思ったかい? この程度、想定の範囲内だよぉ!!」

 

 完全に小鬼達をおちょくっている。狂気的な笑みを浮かべ、女神官は急激に加速して小鬼達の只中へと飛び込んで行く。『キュゥゥン、ドヒャアアアアン!!』と実にオーバーに。

 

「ハラショー!」

 

 まばらに放たれる小鬼の粗雑な矢などは、全てプラ――聖壁で防がれる。そしてそのまま敵の中心部で着地し、次いで球体の中に緑の粒子が凝縮され、直後には閃光を伴い半球状の衝撃波となって解き放たれた。これぞ正に強襲防壁。

 暴虐な嵐の様な緑の爆散に飲み込まれ、小鬼王もその部下達も全て纏めて消滅してしまった。

 

 後に残るのは、ぽかーんと見守る小鬼殺しと緑の粒子の残滓ばかりだ。そんな小鬼殺しに振り向いて、女神官はにっこりと微笑みを見せる。

 

「昔話をしてあげる。世界が破滅に向かっていた頃の話よ」

「……いや、いらん。しなくていい」

「神様は人間を救いたいと思っていた。だから、手を差し伸べた」

 

 小鬼殺しの断りの言葉は無視されました。言葉は不要か……。言葉など既に意味をなさない。

 

「でも、その度に人間の中から邪魔者が現れた。神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者。神様は困惑した。人間は救われる事を望んでいないのか、って……」

「……知らん。そんな事より牧場の方の様子を――」

「神様は間違えてる。世界を破滅させるのは、人間自身だ!!――あいたぁ!?」

 

 ここに来て、話を全く聞いていない女神官に、小鬼殺しは無言で近づき脳天にチョップを一撃。可愛らしい悲鳴と共に頭の上の帽子が落ちて、その下からひょっこりと猫耳が現れた。首輪付きの獣だ。

 

「しっかりしろ。もう終わった……」

「あっ私……、またトランス状態になっていたのですね……」

 

 この卓では、彼女の豹変は日常茶飯事である。それの戻し方もすでに手慣れたものだ。

 意識を取り戻して素に戻った女神官を引き連れて、小鬼殺しは一党の仲間達と冒険者達、そして幼馴染の牛飼娘の様子を見に牧場へと戻って行った。

 

 

 【真実】「はい、今回はみんな大好きアーマードコアからです。世に平穏のあらん事を」

 【幻想】「世界の管理者って……。え、これって神様なの? 神様って扱いで良いの? なにこれ……、ふざけてるの……?」

【地母神】「(´・ω・`)イカレテルヨ、オマエ」

 【真実】「それの何が悪い。次、行ってみよう」




続きはもちろん有りません。


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駄女神

今年も最後だって言うのに私は何を書いているのだろう……。


 小鬼王とその軍団の完全討滅。見事それを成した冒険者一同は、ギルド内部の酒場に集まり祝杯を上げる事になった。

 

「私達の勝利と、牧場と、街と冒険者。それからいつもゴブリンゴブリン言ってるあの変なのに! かんぱーい!!」

 

 何故こやつが仕切るのかと言った無粋な言葉は必要ない。妖精弓手の高らかな宣言と共に、勝利を称える為の宴が始まった。

 蜥蜴人も鉱人も只人も獣人も?圃人も例外なく誰もが笑顔を浮かべ、酒に料理に勝利に酔いしれて笑い声を上げている。チーズをひたすら貪る者、樽で酒を呷る者、慣れない酒に早々に酔い潰れる者。実に多種多様であった。

 

 そんな酒宴の空気の只中に、無論のこと小鬼殺しも鎮座している。何時もの特等席に腰かけ、幼馴染の牛飼娘との間にすやすやと眠る女神官を挟んで。身長差もあって、まるで娘を挟む両親の様に見えなくもない。

 

 だが小鬼殺しは、可愛い女の子が肩に寄りかかって眠っているとか、かつて救いの来なかった村の思い出とかがどうでもよくなる様な違和感に苛まれていた。

 その原因は、聞こえて来る冒険者達の話し声である。

 

「それにしても、怪我人も死者の一人も出る事無く勝ち越せたよな。これもアクア様の思し召しだよな」

「ああまったくだぜ。小鬼王を討伐の決め手になったのも、アクア様の授けてくださった奇跡の力なんだろう? ありがたい事だよな、最高の女神様だぜ」

「水の女神だってのにアンデッドや悪魔には容赦のない武闘派だし、今回のゴブリン退治にもお力を貸してくれるなんざ流石この世界の一大宗教だけはあるよな」

 

 何時からこの世界の宗教は水の女神一色になったのだろうか。耳を澄ませずとも酒宴のあちこちから、やれ素晴らしい水の女神様だのアクシズ教万歳だのと言った文言が聞こえて来る。

 

 確かに、今回の小鬼王討伐には女神官の奇跡を頼った。緑色の粒子とかは別卓の話なので、もちろん自分を囮にした奇跡での奇襲攻撃でだ。

 しかし、誰もが口々に褒め称える女神については、とんと心当たりがないのである。まるで悪い夢でも見ているかのようだ。

 

 それどころか――

 

「所でオルクボルグ、この洗剤使って見なさいよ。アクア様のご利益でどんな汚れでも綺麗に落ちるし、自然由来の成分だから環境にもいいのよ。しかもこれ、飲めるの!!」

「よお噛みきり丸! この鍋をみてみぃ、どんなに荒く扱っても焦げない逸品じゃぞ! これで作った料理にはアクア様のご加護が宿って、火酒が余計に進むってもんだわい!!」

 

 妖精弓手や鉱人道士までもが、何処からか取り出した洗剤や鍋を押し付けて来る。この二人が宗教家だったなんて、今まで全く聞いて居なかったはずなのだが。というか洗剤って飲めるのか。

 

「小鬼殺し殿。我が父祖たる恐るべき竜も、かつて麗しき水の女神様と共に巨悪を征伐したと伝わっております。異端なれどもひとかどの敬意を感じずにはいられませぬなぁ。そんな訳で是非とも小鬼殺し殿も、これを機にアクシズ教へ……。貴方の為、あなたの為ですぞ!!」

 

 蜥蜴僧侶、おまえもか。その体格と顔で目を血走らせて迫って来るのは、怖いからやめてほしい。

 

 何だこの状況は。なんなんだ一体。鉄兜の下で小鬼殺しは思わず混乱する。誰か、誰でも良い。誰かこの凶悪な状況に流されて居ない人物は居ないのか。

 そんな事を鉄兜の奥に隠して表には出さず、一縷の望みを賭けて隣の女神官越しに幼馴染へと視線を移した。

 

「どうしたの? 君がそんなに狼狽えるなんて珍しいね。悩みがあるんだったら、聞いてあげようか?」

 

 そこには果たして、何時も通りの眩しい笑顔を向けて来る牛飼娘の姿が――

 

「アクシズ教の神官じゃないけど、真摯に祈ればきっとアクア様にも懺悔は届くはずだよ」

 

 否、この娘も汚染されていた。

 小鬼殺しにとっての最後の聖域。縋る思いと共に差し向けた希望は、無残にも打ち砕かれてしまう。小鬼殺しは目の前が真っ暗になって、意識を手放してしまった。

 

 そうして、目が覚める。

 

「……はっ!?」

「わっ!? ど、どうしたの? もしかして寝てたのかな?」

 

 当たりを見渡してみれば、そこは宴の真っただ中。小鬼殺しは何時もの席で座ったまま眠っていた様だ。今のあれは、どうやら悪い夢だったらしい。

 心配げに覗き込んでくる牛飼娘も、周縁で騒ぐ冒険者達も誰一人として水の女神の事など口にしては居なかった。

 

 ホッと胸を撫で下ろして、それからちらりと傍らの眠り姫を見る。悪夢に驚いたとはいえ、ずいぶん騒いでしまった。

睡眠を妨げてしまったかもしれないと、確認の為に視線を向けた。

 

「あ……。わ、私寝てました!? すみません、ギルドへの報告書も書きかけなのに……。あ、でも、後はゴブリンスレイヤーさんの署名を頂ければ完成です。申し訳ありませんが、この紙に一筆を……」

 

 視線を向けた途端に起き出す女神官。狸寝入りじゃないかと言いたくなる様なタイミングの良さだ。

 彼女は一方的に喋って、一枚の用紙とインクの付いた羽ペンを手渡して来る。そうして手渡された紙は、無論のこと冒険記録用紙などではない。

 でかでかと書かれているのは、『アクシズ教入信証』の文字。

 

「……糞喰らえだ」

「ああっ!? ゴブリンスレイヤーさぁあああああああん!!!」

 

 小鬼殺しは、力任せに入信証を引き裂いた。それはそれはもう見事に、真っ二つに。

 

 

 【真実】「はい、本日のゲストは水の女神様でした。いやー、誰もが同じ宗教で思いを一つにするとは、素晴らしい世界ですね」

 【幻想】「え、何これ。意味わかんないんですけど? なんか得体のしれない物で汚染されてるんですけど!?」

【駄女神】「ねえちょっと、アクシズ教を汚染って言わないでよ! 私の可愛い信者達の事、悪く言わないでちょうだい! あの子達はやればできる子達なのだから、上手く行かないのは世間の方が悪いだけなの!!」

【地母神】「Σ(`д`ノ)ノ ヌオォ!!」

 【真実】「おおっと、ここでまさかの乱入だー! 収拾がつかなくなる前に、次、いってみよう」




私は敬虔なアクシズ教徒なので、既にこのすばクロスはあるのですが敢えて書かせていただきました。
それでは皆さん、良いお年を。


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三仏神

短編集にしようとしてたのに気が付いたら単品になっていたと言う悲劇。
インフルエンザに罹った頭で創作してはいけないと、この作品ははっきりわからせてくれた気がします。


 水の都から小鬼退治の依頼が来た。報酬は出るので一緒に行かないか。意訳するとその様な内容の言葉で、小鬼殺しが一党を誘った冒険の旅。

 依頼主の話もそこそこに切り上げて、何時もの一党は地下迷宮めいた都市の下水施設へと降り立って居た。

 

 そうして時折遭遇する小鬼を駆逐しながら突き進めば、水路と見紛う様な大きな下水の流れの向こうからゴブリンが乗った船がやって来るではないか。

 何者かが小鬼に造船技術と武装を与えたゴブリン海賊船である。

 

「準備はいいか、野郎ども!」

 

 そんな勇ましい言葉と共に、先陣を切ったのは何と女神官であった。彼女は手にした銀の短銃を立てつづけに発砲し、船長気取りの小鬼と周囲に居る小鬼弓手をたちどころに始末してゆく。

 硝煙くゆる銃を中折れさせて、排された薬莢が石畳みを打つ中で悠々と装填をこなす。実に熟練された淀みの無い技術であった。

 

「……ねえ、オルクボルグ。あの子ってあんな性格だったかしら? あのへんてこな武器も見た事ないし、なんかいきなり人が変わった様な気がするのだけれど」

「知らん……。俺に聞くな……」

 

 むしろ誰か俺に教えてくれ。小鬼殺しは飛んで来る小鬼のまばらな矢を斬り払いながら、兜の奥で人知れず苦悩していた。

 そう切り返されては妖精弓手も二の句が出ない。仕方ないと諦めて、女神官に倣って小鬼弓手を優先的に狙い矢を射かけ始めた。

 

「どれ、ワシらも参加しようかの」

「これもまた、父祖の道に通ずる苦行なれば……」

 

 鉱人道士も投石紐で遠距離攻撃を行い、蜥蜴僧侶と小鬼殺しが後衛達を守る。先制で射手を減らす事が出来たので、船上と橋上の射ち合いは小鬼殺し一党に利が在った。しかし、一方的になったとしても船いっぱいの小鬼を駆逐するには威力が足りない。

 

「木造船ならば、燃やすのが一番早いのだが……」

「火は禁止!!」

 

 小鬼殺しがちらりと妖精弓手を見やれば、件の美姫は縛りプレイをお望みだ。だとすれば頼れるのは、残りの術師の内でまともな方の――

 

「オン、マニ、ハツメイウン……。『魔戒天浄』ーーッッ!!」

 

 蓮華手菩薩に極楽往生を唱える呪が紡がれて、いつの間にか女神官の肩に掛けられていた経文がぶわりと勝手に広がって、まるで蠢く無数の触手の様に小鬼の船に群がって行く。

 神秘の体現の様に襲い来る経文によって、小鬼の船は縛られ砕かれ中身の小鬼ごと下水の流れにぶちまけられた。

 

「……これは小鬼退治に使えるな」

「アレを見て言う事がまずソレ!? 何処まで思考がゴブリン中心なの!?」

 

 何時も通りに騒ぐ小鬼殺しと妖精弓手を傍目に、女神官は不機嫌そうに顔を顰めて懐を探る。そして取り出したのは、真新しい紙巻きタバコの箱であった。

 

「うるせぇ、殺すぞ……。ったく……」

 

 愛らしい顔以外はもうほとんど別人と言った態度で、女神官は悪態を吐きながらタバコの箱から一本取り出して唇に乗せる。

 堂の入った仕草でそのまま百円ライターで火を点け、すぅっと深く煙を吸い込み――

 

「ゲホッ! ゴホッゴホッ! ゲヘッゲフンゲフンッ! ふぇぇ……」

「「「「そこまでやっといて吸えないのかよ!?」」」」

 

 その場の全員から総突っ込みが入ったのは言うまでもない。

 

 

 【真実】「不良坊主にはなり切れませんでしたとさ。やー、せっかく仲間達も同じような構成だったのになぁ」

 【幻想】「え、でも人数的に一人余っちゃわない?」

【地母神】「(´-ω-`)トカゲサンハ、ハクリュー」

 【真実】「ほら、同じ竜だしね。無理があるって? なら仕方ない、次、いってみよう」




最新のアニメは2017年にやってたからそんなに古くは無い、筈……。
誰か健康をください。


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唯一神

今回はちょっと、自信がありません。
お目汚しにならなければ幸いです。


 巨大な棍棒で殴られた小鬼殺しの体が宙を舞う。軽々と跳ね上げられて一度天井にぶつかり、それから立ち並ぶ石棺の一つに墜落して動かなくなる。

 

 そこからはもう、ありふれた冒険者の末路と言う奴だ。

 

「ひっ、ぎっ!? ああああああああっ!!!」

 

 動揺した女神官は聖壁を維持出来ずに、小鬼英雄に捕らえられ生きたまま腕に食いつかれ泣き叫ぶ。聖壁と言う守りを無くして、妖精弓手は小鬼達に群がれられて服を剥かれ、鉱人道士も蜥蜴僧侶もその物量に身動きが取れなくなった。

 

 賽子の出目一つで、どんなに調子づいていた一党もあっと言う間に瓦解する。これにて物語は終わり。さあ、次の冒険者を用意しよう。

 

「ああ……、あ、え……。え、エエエエエエエエエエィィィィッメェェェェェェェン!!!」

 

 そんな神々の気の移ろいを、事も有ろうに神の信徒が否定した。

 そうあれかしとの言葉と共に、愛らしい顔を狂気の笑顔に引き攣らせ、自らの血肉を咀嚼する小鬼英雄の顔面に向けて握った拳を突きさした。

 

 この場で今一番驚いているのは、他ならぬ顔面を殴り飛ばされた小鬼英雄であろう。思わず掴んでいた女神官を手放してしまい、彼女はすたりと石畳に降り立つ。

 

「我らは神の代理人。神罰の地上代行者……」

 

 言葉と共に払った腕の両袖から、滑り落ちる様にして二振りの銃剣が零れ落ちて小さな掌に握られる。その二振りを顔の横で交差させる独特の構えは、まるで小鬼達に向けられた手向けの十字のようにも見えた。

 

「我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること……。AMEN!」 

 

 そうして、女神官は小鬼達に躍りかかる。笑顔を絶やさぬままに刃を振るい、女一人と侮る小鬼の群れを、そのこと如くを轢殺するのだ。腕が食いちぎられかけていようとお構いなしに。

 

「まだ腕が一本千切れかけただけじゃねぇか!! 能書き垂れてねぇで来いよ、かかって来い!! HURRY!! HURRY!!」

 

 腕の一振りで無数の首が飛び、投擲された無数の銃剣が小鬼の全身を床に壁にと縫い付ける。ここに在るのは純粋な暴力だ。生まれながらの嵐であり、神罰と言う名の銃剣だ。

 

「貴様等は震えながらでは無く、藁の様に死ぬのだ!!」

 

 逃げ出す物にも容赦なく投擲で追い打ちし、一体どれだけ刃を隠しているのかと次々に取り出して小鬼らを串刺しにして行く。その攻撃の手は、仲間達を襲う小鬼達にも例外なく振るわれ、仲間達はさして被害も無く解放されていた。

 

「ふんっ! ふー……、まったく酷い目に遭ったわ。それにしても、毎度毎度すさまじい戦闘力ね。私達も負けてられないわ、援護しましょう!」

「涙目だったくせに、気位ばっか高いのな」

 

 女神官からの援護もあり、纏わり付く小鬼を撲殺した妖精弓手と鉱人道士も戦線に復帰。小鬼の気が反れた事で、蜥蜴僧侶も脱出して獅子奮迅の戦働きを見せている。

 

「ブルゥアアアアアアッッ!!」

 

 そして、右目を銃剣で貫かれた小鬼英雄が逃げ出したのを皮切りにして、生き残った小鬼達も我先にと墓所の出口に殺到して行った。頭目を失った烏合の衆が、暴力の嵐の様な女神官に立ち向かう事など在りはしない。

 

「なんとか、なり申したな。……巫女殿、怪我の具合はいかほどか?」

「ふしゅるるるるる……あ、はい。奇跡のおかげで、もうすっかりと再生しています」

 

 化け物に対抗する為に作り上げられた技術と神秘の結晶たる再生者にとって、腕が噛みちぎられた程度では痛痒には値しない。奇跡のトランス状態から抜けてしまえば、異端の僧侶とも普段通りに仲良しだ。

 

「あっ!? そう言えばオルクボルグの事忘れてた!?」

 

 全てが終わってから、唐突に妖精弓手が声を上げる。

 すっかりと忘れ去られていた小鬼殺しは、悲鳴によってトラウマを呼び起こされる事も無く死の淵から復活する程奮起する事が出来ず。そのせいで水薬を飲む事も出来なかったので、ひっそりとその小鬼を殺す一生に幕を閉じようとしていた。

 

「糞くらえだ……」

「お、オルクボルグー!? まだ早いわ! 終っちゃう、水の都編終っちゃうから!!」

「もう全部アイツ一人で良いんじゃないかな……」

 

 最後に、誰にともなく恨み言を呟いて。

 

 

 【真実】「うん、今回はオチが弱いな」

 【幻想】「声優はこれでもかって位強力なのにね」

【地母神】「('Д')キョウリョクワカモト」

 【真実】「要、精進。次、いってみよう」




キャラクター性が強すぎてギャグの入り込む余地が無い。
こういう弊害もあると言う事で、精進してまいります。


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上位者

○○神じゃないサブタイを付けてしまいましたが私は元気です。


 昏睡していた小鬼殺しの目が覚めると、そこは見慣れぬ寝台の上であった。

 ただし、豪奢な天幕のついた寝台などでは決してない。拘束具が付けられた、施術用の特殊な寝台である。そう、小鬼殺しは今、その両手両足を革製のベルトでしっかりと寝台に括りつけられているのだ。

 

 地下墓で小鬼英雄に殴り飛ばされて重傷を負った事は覚えているが、それがどうしてこんな薄汚い場所で拘束する羽目になるのだろうか。さっぱり訳が分からない。

 状況を確認する為にも、兜を付けたままの頭を動かして周囲を観察する。いささか薄汚れた感のある室内に、中央にある寝台とそれを取り囲む医療器具の数々。どうやらここは、病院内部の手術室らしい。

 

 そして、状況を確認すると同時に、部屋の隅に何かが蠢いているのも発見できた。それはブヨブヨとした青白い皮膚と、奇妙に肥大化した頭を持った奇怪な人型の生物。シルエットだけ見れば、まるでキノコが人型になったかの様だ。

 そいつは何をするでも無く、部屋の隅に立って拘束されている小鬼殺しを眺めていた。ゆらゆらと微妙に揺れながら、無機質な瞳が小鬼殺しを観察している。

 その見た事も無い不気味さと、奇怪な状況に思わず脳の奥で未知の啓蒙が生まれてしまいそうだ。

 

「あら、目が覚めたんですね。無事で良かった……」

 

 その時、部屋の戸を開けて誰かが入室してきた。奇怪な生物に目を奪われていた小鬼殺しに、部屋の外から入って来た人物が声を掛けて来る。

 それは、他でもない小鬼殺しの仲間の女神官であった。

 

「ずっと目を覚まさないから、みんな心配していたのですよ。剣の乙女様だって……、ね?」

「そうか……。それよりこの拘束は一体なんだ。何故俺はこんな場所に運ばれている?」

 

 女神官の言葉を小鬼殺しは何時も通り軽く流す。だが、そうしてから違和感に気が付いた。この良く知る女神官は、果たして知り合いが拘束されている状況を是とする性分であっただろうかと。

 

「……お前は――」

「ウフフフ。大丈夫、何にも怖くないですよ。直ぐに気持ちよくなるから……、大人しくしていてくださいね」

 

 問い質そうとするも、そもそも話が通じる雰囲気ではない。どうしたものかと沈黙していると、女神官はそれを無抵抗の意思表示と受け取り満足気に微笑んだ。

 

「ゴブリンスレイヤーさんの治験……、きっと得難い物になりますよ。今度は古い血を試してみましょう。他の皆さんよりも、有意義な結果が出るに違いありません」

「何……? 他の連中はどうした。まさか、もう既にあいつ等にもこんな事を?」

 

 口元を歪に歪めながら語られる女神官の言葉に、小鬼殺しは鋭く反応した。例え小鬼にしか興味を持たない狂人であっても、旅を共にした仲間を無碍にする程愚かではない。

 小鬼殺しの言葉に対して、女神官は更に口元を歪めて答えてくれた。狂気じみた、真実と言う物を。

 

「他の皆さんならもう既に、治験を終えて治療されていますよ。今はこの部屋の外で、生まれ変わったように元気にしています。それに、剣の乙女さんならずっとそこに居るじゃないですか」

「……………………、何……?」

 

 剣の乙女はそこに居る。女神官は確かにそう言った。

 何を言っているのかと小鬼殺しは訝しむ。なぜならこの部屋に居るのは、小鬼殺しと女神官と、キノコ頭の奇妙な生き物しか居ないのだから。

 と言う事は――全てを理解した時、小鬼殺しの脳裏に恐怖と共におぞましい真実が知識として刻まれた。

 

「……一体何をした?」

「治験を。そして治療を施しました。彼女の全身の傷跡も心すらも、完璧に治療されているでしょう? 大丈夫、あなたも直ぐにこうなりますから」

 

 冗談ではない。誰が好き好んでキノコになりたがるものだろうか。がむしゃらに暴れて手足の拘束を解こうとするも、なめし皮を引きちぎる様な膂力は小鬼殺しは持ち合わせていない。

 

「ほら、良い子だから。大人しくしなさい……。……さあ、死ね! 大人しくしろ! するんだ!」

「やめろ……。やめろおおおおっ!!」

 

 女神官が持っていた杖をヒュンと鳴らして振るうと、杖が幾つものパーツに分かれて紐で繋がれた蛇腹剣へと変形する。そして、本性を現して壮絶な笑みと共に近づいてくる彼女に、小鬼殺しは動けぬ身でもがきながら、張り裂けんばかりの慟哭の叫びを上げるのだった。

 この悪夢の様な現実からは、逃れ様がない。

 

 ――と言う所で、小鬼殺しの目が覚めた。

 

「はっ!? っ……、ハァハァハァ……」

 

 飛び起きて上体を起こし、胸の中で暴れまわる心臓を掌で抑える。乱れた息を整えながら周囲を見渡せば、そこは見た事も無い様な豪奢な調度品と天蓋のついた大きなベッドのある部屋であった。

 少なくとも、薄汚れた手術室では断じてない。その事には一つ安堵する事が出来た。

 

「う……、ん……、ん……? ん~~……」

 

 だが直ぐに、ぎくりとしてベッドから飛び出す。傍らに全裸の女神官が横たわっている事に気が付いたからだ。夢見のせいで、何よりも恐怖心が先に立ってしまっての行動である。

 

「え? あっ、わっ、あっ!? あっ、とっ!?」

 

 少し距離を取って警戒していると、起き出した女神官は何やら一人で大騒ぎをし始める。どうやら、彼女は普段通りの女神官らしい。

 彼女は顔を真っ赤にしながら、小鬼殺しに恐る恐ると言った様子で訊ねて来る。それに対して、小鬼殺しは妙に神妙な声になって答えるのだった。

 

「えっと……、み、見ました……?」

「ああ、見た……」

 

 裸では無く、とびきりの悪夢を。

 

 

 【真実】「いやぁ、ヤーナムの医術は啓蒙が高まるね」

 【幻想】「上位者ってそもそも神様なの? 確かに教会で崇拝されてるのも居るみたいだけど……」

【地母神】「(´-ω-`)ジャシンモ、カミノウチ」

 【真実】「確かな事は全て霧の中に。それがフロム。次、いってみよう」




ヨセフカの診療所には何時もお世話になっております。
全員生存ルートに繋がりますからね。LOVE&PEACEですね。


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