ビリビリ少女の冒険記 (とある海賊の超電磁砲)
しおりを挟む

1話 ごめんね

 それは、曇天の海の上。とある船のこと。

血溜りに倒れる人たち、その中心に座り込む少女と、一人の老人。

白い髪、蓄えられた髭、ニカっと笑う羽織った男をただ見上げる少女は思った。

 

 

 ――あぁこの人はきっとおバカさん(人好し)なんだろうなぁ。

 

 

「嬢ちゃんがこれを一人でやったのかい?」

「………」

 

 身体を動かす余裕のない私は、頷くついでにパリッと体の表皮を稲妻が伝った。

逃げ出すために武器を探していた私は、腹を空かせていたのもあってある果物を食べたのだ。半分はそれを食べたおかげで助かったともいえる。

 

「悪魔の実かね?見たところ超人系(パラミシア)か」

「……貴方、だれ?」

「私?私は、そうだな。レイさんと呼んでくれ。しがないコーティング屋さ」

「そう」

 

 渾名の様な名前と自分をコーティング屋だと語った彼に対し、少女は小さく頷くのみ。

少女は人攫いに捕まってからというもの、反抗しっぱなしでボロボロだった。

 

「ところでお嬢ちゃん、他に人はいないのかい?この船にキミだけかい?」

「……うみににげて、しんじゃってる、かも」

「海に、か。そういえばお嬢ちゃん、家の場所は分かるかな?ついでといっちゃぁなんだが、送ってくぞ?」

「……もう、ない」

「あー……」

 

 少女の家族を殺し、彼女の住んでいた村を焼いて少女自身を浚った連中はガラが悪いだけでなく、運も悪かった。

なんでも何かに襲われたらしい。確か、『カイグン』とか言っていたような気がする。

彼らは船をくっつけ合って争っていた。

 その騒ぎに乗じて少女はこっそり逃げ出し、武器を探すついでに謎の果物を見つけ噛り付いた。

ナイフを一本持って船を探すついでに捕まってた人達の縄を切って回った。……それを人攫いたちに見つかり、後は乱闘騒ぎ。

 

「アレもキミが?」

「……えぇ」

 

 だが最悪だったのは、少女の放った一撃によってナニカが起きたことだろう。

海中から出てきたデカい化け物は『カイグン』の船を破壊し、少女の乗っていた人攫いの船にも噛り付いてきたのだ。

人攫いだけでなく、色んな人が海に逃げ延びる中、少女は一人立ち向かった。

勝てたが、結局残った人攫い達にまた襲われて……必死に暴れて、今はこの通り一人だった。

 船を動かす知識が無く、仮に動かせたとしてもどこに向かえばいいのかもわからない。

波に揺られて流されて、時間が過ぎた……生きられたのは皮肉にも、文字通り船体に噛り付いている化け物のおかげだ。食料には困らなかった。

 

「そういえば、お嬢ちゃん。名前は?」

「……」

 

 名前を聞かれたのは、何時以来だろうか。

少なくとも捕まってからは誰も知らないはずだし、半年以上は経つと思う。

少女はゆっくりと息を吸って、名乗った。

 

「エレクトロ・D・ミサカ」

「ではミサカくん。行く当てがないなら、うちにこないかい?」

「うち……?」

「あぁ私は一人暮らしで少し寂しいかもしれないが、安全は保障する」

「……」

「よし、決まりだ」

 

 少女は頷いた。

行く当てがない。反抗的だったのは、奴らの言いなりになりたくなかったから、ただの意地に過ぎなかった。

そう、殺した時点で少女の復讐(目的)は終わっていたのだから。

 

 

―――

 

 

 そして、数年の時が流れ……少女、ミサカはとある島にいた。

無人島らしいそこにはミサカしか暮らしておらず、危険で獰猛な野獣も大勢暮らしている。

海に出れば海王類が群れで泳いでいる、そんな危険な場所に少女は一人で暮らしていた。

 

「……!」

 

 ピンっと何かを察した(・・・)彼女は軽やかに森を、丘を、砂浜を駆け抜けていく。

小舟で危険な無人島迄やってきたのは、一人の老人……「レイ」だった。

 

「レイ、こんにちは」

「やぁミサカくん。元気そうで何よりだ」

 

 無表情のまま「そっちも」と返すミサカ。

 

「ふむ……覇気の制御は完璧のようだな」

「レイのおかげ、ありがとう」

「なんのなんの」

 

 覇気……人間の持つ潜在能力、ある種の才能。それを幼いながらも引き出せるようになったミサカは、まさしく天才だろう。

しかし、覇気というのは中々厄介だった。特に『見聞色の覇気』と呼ばれるものは人の思念に反応し、ミサカはその制御の為に無人島で生活することとなったのだ。

 

「「いただきます」」

 

 二人そろって仲良く少し遅めの昼食をとる。

レイがここにやってくるのは一週間に一度のみ、こうして世間話をしながら一緒に食卓を囲む。

そして、少しして帰る前になると……。

 

「さて……では最後の仕上げといこうか」

「はい」

 

 こうしてミサカの成長具合を確かめる。彼女自身かなり力をつけたが、彼女の悪魔の実の能力と見聞色の覇気の相性がとても良かったせいで中々彼から島を出ていいという了承を得られなかった。

 取り合えず構えを取ったミサカ。彼女は別に体術を学んでいるわけではなく、彼や無人島に棲む猛獣との戦闘で培った、彼女なりの戦いやすい格好だ。

 

「――」

 

 暫く向き合っていると、レイの姿が掻き消えた。次に現れたのは、ミサカの斜め後ろ。それを事前に(・・・)察知し、伏せて避けるついでに足払いをする。勿論、レイもわかっていたように跳んで避けて見せた。

消えたと錯覚してしまうほどの高速移動を、能力者でもない老人が行うというのも驚きだが、それを察知したミサカも十分驚愕に値するだろう。

 

「ふむ、よく研ぎ澄ませているね」

「レイのおかげ」

「ふふっさっきも聞いた言葉だ」

「ホントのこと」

 

 始めて見聞色の覇気を発動したのは、レイに連れられて街へ赴いた時。

医者に治療してもらっていたのだが、他人を見て警戒心を強めてしまったミサカは無意識に見聞色を発揮。入院患者の苦痛は勿論のこと、街中で起こっているあらゆることを察知してしまい、彼女は意識を途絶えさせてしまった。

流石にこれは問題だ、とレイはミサカに覇気の特訓を施すことになったのだ。

 

「では、これはどうかな?」

「!」

 

 黒くなった(・・・・・)レイの腕が振るわれる。

武装色の覇気と呼ばれるそれは、自然系(ロギア)と呼ばれる流動する身体を掴み取るだけでなく、破壊力が抜群に増す。

バチッと体から紫電を発し、身体と思考を加速(・・)させたミサカもまた黒く染まった腕を振るい、両者の拳がぶつかり合った。

 

「ふむ」

「っ」

 

 次は脚による蹴り。これも加速して返す。

威力は相殺(・・)され、振動となって空気を伝い、島に棲む獣たちを震え上がらせた。

数度同じように相殺し合い、時に避け、時にこちらから攻撃を繰り出す。

暫くそうしていると、レイが背後に跳んで距離を取った。

 

「よろしい合格だ」

「ッハァァ……レイ、ありが―――」

 

 気を抜いてお礼を言おうとしたその瞬間、レイからとんでもない威圧が放たれた。

白髪の老人とは思えない濃密なそれに圧しつぶされそうになるが、負けるかと堪え、睨み返した。

どうやらまだ終わっていなかったらしい。それならこちらも、と能力を発動させようとしたその時、レイの威圧が消えた。

 

「――ふむ、本当に合格だ。耐えるどころか攻撃態勢に入るとは、成長した」

「……レイ、意地悪」

「ハッハッハ、まぁ許してくれ。私が住んでいるところは荒くれ者が多いからね。このくらい強くなってくれたら、大丈夫だろう」

「じゃぁ」

「あぁ……行こうか」

「はい……レイ、改めてありがとう」

 

 その日、レイから認められたミサカはシャボンディ諸島という場所へ連れていかれた。

そこは確かに荒くれ者が多かった。海軍(カイグン)もいたし、海賊もいた。

 

 そして……奴隷と、それを酷く扱う天竜人という存在がいて。

 

 

「レイ、ごめんね。言いつけ――破る!」

 

 

 ミサカはレイにくれぐれも暴れないように、と言われていたが我慢できなかった。

その後配られた新聞を見て、レイは大笑いしたという。

 

 

 ――――――

 

 

 シャボンディ諸島を訪れたその日、新たに指名手配書が作られた。

初頭でありながら、その首にかけられた懸賞金はなんと1億5千万ベリー。その者は天竜人をボコボコにし、奴隷を解放した上に海軍兵を軒並み気絶させた上、呼び出された大将一人と渡り合い、逃げおおせたのだという。

 

 名前をエレクトロ・D・ミサカ、二つ名『電撃姫』

未だ14歳だという少女は、その名を見事世界中に轟かせた。




『電撃姫』―エレクトロ・D・ミサカ
 ハイライトの無い瞳が特徴的な茶髪の少女。
ビリビリの実を食べた超人系能力者であり、見聞色と武装色の覇気が扱える。
人攫いに反抗していたせいで拷問まがいの扱いを受けるも、最後まで抵抗の意思を示して見せた程に強情。
人攫いからの扱いと、復讐心、人を殺したという行為は少女の人格を歪めるのに十分で、感情を表に出しにくく、あまり表情筋が動かなくなってしまった。だが昔は活発で明るい少女だったという。
 初頭懸賞額、1億5千万ベリー。


《経緯》
 ミサカシリーズって2万人いるじゃないですか、一人欲しいよねという会話を友達としたんですよ。でも現実じゃないので残念だよね、あ、そういえば今週のジャンプ読んだ?
――ということがあり、気付いたら書いてました。反省しています、後悔はしていません!ドン!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 麦わらの一味

 海に浮かぶ船……そこに乗っているのは、1人の少女だった。

 

「………随分、流されちゃったなぁ」

 

 少女、ミサカはシャボンディ諸島から逃げた。

海軍相手に戦った後に、赤犬とか言われていた人に襲われたのだ。

うまいこと逃げられたものの、この船は1人で動かせるものではなかった。

途中で魚と船に残っていた野菜を食べながら、嵐にもあいつつ流されてきた。

 夜も更けてきたころ、ようやく島が見えてきたので、空を駆けて(・・・・・)上陸したのだが……見当たる場所に人が居ない。

 

「……」

 

 トボトボと無人の海岸を沿って歩いていくと、戦闘音が聞こえた。

正確には3人を複数人で囲い、リンチしている状況の様だ。

1人は病気だろうか、少し覇気が弱っている気がした。思わず駆け足で急ぐと、大きなサルの様な、しかし人だとわかる2人が、栗を頭に乗っけた男の人を守っていた。

 1人が刃で斬られると、栗のおじさんが名前を叫んだ。

どうやら、3人の持つ宝を狙ってやってきた海賊らしい。

 

「スプリング……」

「!」

 

 1人の男の足がバネの様に、否、バネになった。

バネになった脚の筋力で弾き跳び、攻撃しようとしているらしい。

狙われているおサルさんは声を攻撃に使っているが、生身でも耐えられる威力にバネ人間が耐えられないわけは無いだろう。

傷の具合から考えて、あれは喰らうのはマズイ。

 

「〝(スナ)――!?」

「……」

 

 だが、バネ人間ということならやりやすい(・・・・・)

此方に引き寄せ(・・・・)、その肌に触れる。

 

「バチッと」

「ウギャァ!?」

「「「「「「ベ、ベラミー!?」」」」」」

 

 電撃を流すと、男は痺れてその場に倒れた。気絶はしていないようだ、意外と頑丈らしい。

傍から見ると触られただけで倒したように見えたのだろう、ミサカ以外、全員が驚いていた。

取り合えず放っておいて、おサルさんの下へ向かう。

 

「大丈夫ですか?」

「ウ、ウォッホッホ、ありがとうよ嬢ちゃん―ガフッ」

 

 血を吐き出したが、驚かない。限界が近いのに声を上げていたからだろう。

一番軽傷の栗のおじさんを見ると、驚いた表情でこちらを見ている。

 

「お前さん、いったい……」

「私は諸事情あって、今困ってます。助けていただけるなら、この賊を蹴散らしますよ?」

「――ア"ァ!?誰が、誰を蹴散らすって!?」

 

 声を張り上げ威圧をしていくるのは、反り上がった変わった刃物を持った男。

 

「不意打ちでベラミーをやったからって調子に乗ってんじゃないか?」

「……あなた達は、海賊ですよね?」

「あぁそうさ。ベラミー海賊団っていやぁここらじゃ名の知れたもんだぜ?」

「私の聴いた海賊は、もっと楽しそうだったんですが……こんなことをして、楽しいんですか?」

「楽しいかって?あぁ楽しいね!こんな現実を見れない夢見がちなバカを甚振って、金塊まで奪えるんだ!こんな愉快なことはねぇよ!!」

「そう、ですか」

 

 レイから聞いた海賊は凄い人たちだと思った。

大冒険を楽しみながら進んできた彼らを、心底尊敬したのに……〝賊〟と付くだけあって、やっぱり基本はみんなこんなものなのだろう。

 

「取り合えず、去るなら何もしません。私は弱い者虐めは趣味じゃないですから」

「っ舐めやがって!ベラミー!何時まで寝てんだ!!不意打ち喰らったからって、お前らしくもねぇ!!」

「ぐ、わかってらぁッ」

「……」

 

 起き上がったベラミーとかいうバネ人間を見て、少し感心する。

根っからの小悪党らしいが、身体はそれなりに丈夫なようだ。

バネ……鉄には電撃がよく通っただろうに。

 

「分かりました……栗のおじさん、後でご飯下さいね?」

「あ、あぁ…――って嬢ちゃんまさか1人でやる気か?!」

「大丈夫です」

 

 こんな時、笑顔が作れない自分が少し憎らしい。

もし余裕の笑みをかけられたなら、少しはこの人を安心させられるのに。

 

「1人で十分なので」

 

 出来ないのは仕方がない。

だからミサカは、瞬時にケリをつけることにした。

難しいことではない。見聞色で何となく敵の強さは察せられる。

レイやあそこの猛獣たちに比べれば、容易い。

 

「……じゃぁ、おやすみなさい」

 

 特に技名なんてない。ただ、背後の栗のおじさんたちに当たらないように、前方に雷撃を放つだけ。

たったそれだけで……ベラミー海賊団は半壊した。

残ったのは手下と思われる者たちのみ。

 

「船は残しました(・・・・・)。まだやるなら、船ごと落としますが」

「じょ、冗談じゃねぇ!?」

 

 1人が逃げ出すと、他の連中も船へと逃げ込む。

ベラミー達を引きずっていく辺り、意外と仲間想いな部分があるらしい。

いや、後でベラミー達にボコられるのが嫌なだけかもしれないが。

 

「怪我は大丈夫ですか?」

「は、ははは……嬢ちゃん強ぇなぁ」

「まぁ鍛えてますから」

 

 座り込んだおじさんは笑う。

 

「助かったよありがとう。ちょうど宴をしてたんだ。食べ残しだが、まだある」

「ありがとうございます……それより、治療が先ですね。包帯はどこですか?」

「ありがたい。あの家の中だ。ちいせぇが、確か机のどっかにあったと思う」

 

 半分の家にハリボテが張ってある家を指さした。

家に上がり込み、包帯を探していると外から声が聞こえた。

 

「ひし形のおっさん!!マシラ、ショウジョウ!!」

「? 知り合いかな?」

 

 包帯を持って外に出ると、7人の人が傷ついた彼らを見て驚いていた。

おじさんやおサルさんはは落ち着け、と彼らを宥めている。

取り合えず救急箱を見つけたので持っていく。

 

「船、わりぃな。まだ時間はある、修理してちゃんと強化してやるよ」

「おっさん、それより何があったか話せよ!」

「あぁちょっとな……そこの嬢ちゃんが助けてくれたんだ」

 

 丁度よく出てきた、とこちらを指さしたおじさんをみて、驚く彼ら。

はて、一体何なんだろうか?

 

「あの子が……?」

「あぁ。ベラミーの奴らを、瞬殺しやがった」

「殺してませんよ……それより、傷の手当てが先です」

「あ、それならオレに任せてくれ!」

「は……たぬきさんが喋った?」

「ト・ナ・カ・イだ!」

 

 小さな小動物が喋ったことには驚いた。

海には不思議なことがあるとレイは言っていたが、なるほどこれは不可思議だ。

ともかく彼は医者らしい。自分の手当てしかしたことが無いため、素直に救急箱を渡した。

 

「ベラミーって、あのハイエナのベラミーよね?賞金5千5百万の」

「賞金は知りませんけど、確かにベラミーと呼ばれていました」

「おやっさんの金塊を狙ってきたんだ。多勢に無勢で、いてて」

「おサルさん、怪我してるのに無理しちゃダメですよ」

 

 とりあえず、ミサカは知っていることを話す。

当てもなく彷徨っていたところ、彼らを見つけたことと、相手が胸糞悪かったので蹴散らしたことくらいしか話すことが無いが。

 

「そっかぁ。お前強いんだなぁ」

「まぁ鍛えているので……そういえば、自己紹介が遅れました。私、エレクトロ・D・ミサカと言います」

「おう!俺モンキー・D・ルフィ!海賊だ!」

「助けられたのに自己紹介してなかったな。モンブラン・クリケットだ。今治療されてんのはショウジョウと、気絶してる方がマシラ」

「私はナミ。航海士よ。あっちで治療してるのはチョッパー、ヒトヒトの実を食べたトナカイなの」

「あぁそれで」

 

 不思議動物に理解を深めたことを頷いていると、クルクルと回りながらポーズを決めた黒服の人が出てきた。

 

「――私、コックのサンジと申します。お嬢さんとの出会いを祝して、出来合いのモノではありますが」

「あ、ありがとうございます。……美味しいです」

「――天使だ」

 

 美味しそうな匂いのお肉を受け取り、感想を述べると感動した様子で傅いた。

この人、変わっているけど面白い。

次に前に出てきた人は、何やら鼻の長い人。

 

「俺はウソップ!勇敢なる海の戦士だ!」

「戦士って、海賊じゃないんですか?」

「いや、海賊であってるぞ……俺はロロノア・ゾロ、見ての通り剣士だ」

 

 三本の刀を持った緑の髪の人は、ツッコミを入れつつ自己紹介をしてくれた。

最後の黒髪の女性は……何やら手に紙の束を持っている。

 

「ロビン、それは?」

「手配書の更新よ……剣士さんは初めてね。船長さんは額が上がってたわ」

「本当か!おぉ!1億ベリー!」

「6千万か………ん?」

 

 ゾロが一枚の手配書を見つけると、驚いたようにミサカを見つめた後、また紙を見つめる。

それを数度繰り返した。

 

「お前……」

「はい?」

「フフッ凄いわよね。私はニコ・ロビン。ねぇこれ、貴女でしょう?」

 

 見せてくれたのは、あの時暴れていたミサカの写真だ。

撮られているのには気づいていたが、あの時は逃がしたり逃げたりで構う暇がなかったが、こんなキレイに撮られているとは。プロ意識だろうか、素晴らしい。

 

「「い、1億5千万~~!!??」」

「しかも初頭金額でこれね」

 

 ナミとウソップが揃って驚き、ロビンが微笑む。

驚きのままウソップが穴が開く様に写真を見つめていた。……恥ずかしいからやめて欲しい。

 

「何したらこんな金額になるの!?」

「気に入らない人をボコボコにして、そのあと海軍の人に襲われたので、自衛の為に暴れました……あ、でもちゃんと手加減して殺したりはしてないんですよ?」

「そういう問題じゃないわよ」

「お前強いし面白い奴だなぁ……なぁ、ミサカ」

「はい?」

「お前、仲間になれよ!」

 

 パチクリと、瞬きをした。

仲間ということは、この人たちと一緒に海賊をする、ということだろうか。

 

「……えっと、でも、私レイの所に帰らないと」

「レイ?もう仲間が居んのか?」

「いえ、私を拾ってくれた人で……暴れちゃいけないって約束破っちゃったし、謝らなきゃ」

「そいつどこにいるんだ?」

「シャボンディ諸島」

「シャボンディってあの?」

 

 ロビンという人は色々知っているようで、驚いている。

確かにあそこは少し特殊な場所だと、レイが言っていたからだろうか。ミサカにはその特殊が分からないが。

 

「ロビン、知ってんのか?」

「えぇ、偉大なる航路(グランドライン)をこのまま進んだ先……丁度半周した場所に位置しているところなんだけれど……そこから流れてきたというのは、驚きだわ」

「途中で嵐にあって、ルートぐちゃぐちゃだったから」

「まぁなんでもいいや。それより、つまり目的地は一緒なんだな?だったら一緒に行こうぜ!な!」

 

 ミサカは思い出していた……レイも似たような誘われ方をしたのを、楽しそうに話していたな、と。

 

「俺と一緒に冒険しよう!」

「……はい。いいですよ、貴方たちは楽しそうですから」

「シシシ!じゃぁ決まりだな!おっしゃー、宴だー!」

 

 治療しながら、船を直して修理しながらではあるが、彼らは飲んで食べて騒いだ。

 

「ミサカも呑めよ!」

「えっと、あまり得意ではないので」

「そっか?あ、それよりその言葉遣い、なんとかならねぇか?」

「なんとか、ですか?」

「そうね、私も丁寧過ぎて少し寂しいと思ってたわ。崩していいのよ?もう仲間なんだから」

「……うん、ありがと」

 

 夜はそうして打ち解けていく……。

 

「そういえば、次はどこの島に行くの?」

「ん?あぁ聞いて驚け!空島に行くんだ!」

「空……?」

「あぁ、えっとね信じがたいとは思うんだけど、この通りログポースが空を指してるでしょ?」

 

 ナミが見せてくれた指針は、確かに空を向いている。

 そういえば、レイが深海には魚人島が、高い場所には空島があるっていう話をしていたのを思い出した。

そういう場所があって大冒険をしたというのを少しだけ話してくれたのを覚えている。

 

「おいおいナミ、そんな説明じゃ」

「ん、わかった」

「って速攻信じてくれた!?」

 

 驚くウソップやほかの人に、レイから空島があるっていう話は聞いたことがあると説明する。

 

「どんな場所かは知らないんだけど、レイは楽しそうに話してたよ」

「そっかぁ。そりゃ楽しみだな!」

 

 シシシ、と笑うルフィは本当に楽しそうだった。

うん、さっきの海賊と違って、この人たちは冒険を楽しんでいる。

この人たちとなら、きっと楽しい旅になる。そう、ミサカは確信した。

 

「改めて、よろしくね船長」

「おう!よろしく!」

 

 乾杯し、飲み干す。

こうしてミサカは麦わらの一味として、正式に海賊になった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空島編
3話 空島!


 宴会の最中、ミサカは空島へ行く方法を主にナミとロビンから聞いた。

難しい話は省略すると、上空へ吹き上がる巨大な海の間欠泉のようなものを使って、空へぶっ飛ぶらしい。

予定では翌日、朝には出向するとのことだった。

 だが、ミサカはその方法云々よりも気になることがあった。

 

(嘘つきノーランド、か)

 

 残念ながらミサカはその童話を聞いたことが無かった。

元々は東の海(イースト・ブルー)出身ということもあり、他の海の童話なんて知るはずもない。

ただ、最後まで嘘つきだと言われ続けて、結果死刑にされてもノーランドは「黄金郷はある」と断言した。

 幾らでも弁明の機会はあったのにもかかわらず、文字通り彼は死んでも言葉を変えなかった。

 

(黄金郷はある、そう仮定したとして海に沈んだとする……)

 

 ノーランドの祖先だというクリケットは、確かに海の底から黄金をいくつか見つけたらしい。

だが、数からして黄金郷から零れたにしては少なすぎる。

 

(情報が少ない……そもそも島が唐突に消えるなんて、どうやったら?)

 

 黄金郷に何かがあった。しかし、詳細不明すぎてどうしようもない。

理由は単純、黄金郷があったという証拠が何一つないことと、嘘つきノーランドの話を、結局彼の仲間以外だれも信じず、追及しなかったからだ。

400年前の当時にもっと詳しく調べていれば、何か残っていたかもしれないのに……。

 

(……考えても仕方ない)

 

 日が昇れば空島へ向けて出港となる。

早く寝よう、そう切り替えミサカは眠りについた。

 

 

――

 

 

 朝になるとルフィたちが乗ってきたという、羊の船首の船GM(ゴーイングメリー)号が改造されていた。

これで水柱に乗って飛べるらしい……外見のモチーフが鶏なところに、そこはかとない不安感を漂わせるが、本当に大丈夫だろうか。

 

「よし!行こう!!」

 

 改造してくれた猿山連合軍に見送られながら、ルフィは堂々と船へ乗り込んだ。

全員乗り込むと、クリケットがルフィに別れの言葉を告げる。彼は船に乗らず、島に残るらしい。傷も深いし、元々病気だったらしいから少しは体を休めて欲しい。

 

「――黄金郷も空島も、過去誰一人〝無い〟と証明できた奴ぁいねぇ!!ばかげた理屈だろうと人は笑うだろうが、結構じゃねェか!!」

 

 夢のような何かが、現実にあるかもしれない(・・・・・・)

追い求めることを他人は愚かだと嗤うだろう、しかし、その誰もが無いと証明できたわけではない。

あるかもしれない夢を追い求める。そう――。

 

 

「それでこそ!!〝ロマン〟だ!!!」

 

 

 ロマンを追い求め、船は出港した。

船は大海原へと進む。目標の場所は島も何もない、これから水柱が起こるであろう場所。

そこに辿り着くためにルフィたちは昨日一羽の鳥を捕まえてきたのだという。

この鳥は南しか向かず、この島から真っ直ぐ南に向かった場所に向かうのに、指針にする(・・・・・)のに丁度いいのだ。

 

 

 そのまま……数時間が経過した。何も起こらなかったが、午前10時になり動き始める。

『積帝雲』と呼ばれる雲が出現するのに暫くかかったが、ようやく現れたその雲。

実態があり、触れるはず(・・・・・)の雲が積み重なり出来る雲で、その分厚さは太陽光を隠し周辺を真っ暗にしてしまう。

 

「っ!?」

 

 GM号が大きく揺れた。波が急に高くなったことで、船が大きく傾いているのだ。

しかし、この先に大渦があり、しかもその大渦は『積帝雲』の真下に位置する。

しかも、ナミの持っている記録指針(ログポース)はその積帝雲を指しているという。

 

「行くぞ~~!!空島ぁ~~!!」

 

 大渦の流れに逆らわず、中心へと向かう。

気の弱いウソップやナミが少し……少し?慌てるが、ルフィは楽しそうだ。

この渦は生半可なモノではなく、ナミという優秀な航海士が居なかったらとっくに飲み込まれて沈んでいただろう。

 

「……ナミ、凄い」

「え?急に何よ?え?え??」

 

 よしよしと撫でると、ナミが困惑した様子で狼狽える。

しかし過去両親に褒めるにはこれがいいと教わっているミサカは、気にせず撫で褒めた。

暫くすると、大渦が消えた(・・・)

 

「……消えた?」

「違う、始まってるのよ!渦は海底から掻き消えただけ……つまり」

 

 ナミが起こった現象を解明していると、遠くから男の声が聞こえた。

見送ってくれた猿山連合ではない、まっすぐ髑髏を掲げた巨大な丸太船がやってきた。

 

「ゼハハハハハハ!!追いついたぞ麦わらぁ!てめぇの一億の首を貰いに来た!!観念しろやぁ!!」

 

 威勢がいいが、所で彼は今からこの船がどこにどんな風に向かうのかわかっているのだろうか?

よりによって丸太船って……。

 

「……―来る!皆、船体にしがみつくか、船室へ!!吹っ飛ぶわよ!!!」

 

 ゴゴゴと大きな音を上げながら、渦があった場所が丸々盛り上がる。

中心にいたGM号は傾くことはなかったが、近寄ってきていた海賊たちは――次の瞬間に勢いよく吹き上がった水柱によって、船がバラバラになって吹き飛んだ。

 

「凄い、水柱の上を船が垂直に走ってる……!」

「面白ぇ~~!!」

 

 今のところは勢いに乗って水柱の上を走ってるが、それも時間の問題。

いずれは重力によって地面へと落ちていく……しかし、この船には優秀な航海士がいた。

 

「帆を張って!!今すぐ!これは海、立ち昇る〝海流〟なの!下から吹く風は、地熱と蒸気の爆発によって生まれた上昇気流!!」

 

 そう、ナミはこの化け物水柱を冷静に分析しきっていた。

周りが驚き、困惑している間に何という航海力。

 

「相手が風と海なら航海してみせる!!この船の航海士は誰!?」

 

 最高にカッコいいナミに従い、全員が動き出す。

帆を張り、翼を着けられ改造されたGM号は――浮いた。

 

「「「「「「と、飛んだァ~~~~!!!」」」」」

「ナミ、凄い」

「ありがと……」

 

 もう撫でられることは諦めたのか、大人しく撫でられるナミ。

船はそのまま空島があるという、積帝雲へと真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

 

 そして、分厚い雲を抜けた先――そこ(・・)に船は着水した。

いや、正確には着()だろう。

 

「奇麗……」

 

 真っ白な、ふわふわとした雲の上にGM号は乗っていた。

 

「ナミ、此処が空島?」

「んー、記録指針(ログポース)はまだこの上を指してる」

「どうやら、ここは積帝雲の中層みたいね」

 

 ナミとロビンが冷静に分析を続ける中、男連中は悪ふざけを始めた。

ウソップが泳ぐといいだし、『空の海』へと泳ぎに降りたのだ。

 

「………ねぇ、ウソップ潜っていったけど、このままじゃ落ちちゃうんじゃ?」

「「「「「!!」」」」」

「ウソップ~~~!!!」

 

 ルフィが腕を伸ばし、ウソップが潜ったであろう場所へと手を伸ばす。

しかし、雲の下は見えない。澄んだ海と違い、此処は真っ白な雲の上なのだ。

 

「任せて。目抜咲き(オッホスフルール)!」

 

 ロビンが伸ばしたルフィの腕に()を出現させた。

彼女は体の一部を違う場所に咲かせる(・・・・)ことが出来るのだという。

しかも花びらの様に数は彼女の実力によって変動するらしく、つまり制限が無い。

 

(ロビンの能力、凄い)

 

 彼女一人で情報収集は百人力……いや、それ以上だろう。

考古学者だという彼女にとって、この能力程適したものは無いのかもしれない。

どうにかウソップを引き上げると、今度はウソップを追いかけて巨大な魚とタコが現れた。

 

「「ッアァアアアアア!!!」」

「そうビビる程のモンでもねェだろ」

「任せて」

 

 驚くチョッパーとナミにそう告げると、ゾロが刀を構えた。

ミサカも腕を前へ突き出し、紫電を発する。

 

「え?」

 

 ゾロの斬撃、そしてミサカの電撃を受けた生物は……破裂した。

どうやら空という空間に棲む生物たちは、抵抗の大きい海と違ってその身を軽くしているらしい。

そのため、タコはまるで風船のように破裂してしまったようだ。

 

「ここが空……」

「楽しいなぁ!」

「そうだね」

「取り合えず空魚(くうぎょ)でソテーを作ってみました……ミサカちゃん、どうぞ」

「あ、ありがと……ん?」

 

 ルフィと話しながら、サンジから料理を受け取る。

美味しいと思っていると、チョッパーが騒ぎ出した。

 

「牛が四角く雲を走ってこっちに来るから、大変だ~~!!」

 

 うん、分からない。

見聞色を広げ、周囲を探知してみる――なるほど、これは。

 

「敵、かも?」

 

 言いながら紫電を発する。明確に敵か分からないが、先に来ていたであろう海賊船を落としたらしいその人物は……雲の上を滑ってやってきた。

 

「排除する……」

 

 明確に敵意を持ってきた相手に対し、ルフィ、ゾロ、サンジの三人が対処しようとすると……動きがぎこちない三人が一蹴されてしまった。

 

「止めてッ」

「!?」

 

 バヂィッと電撃を敵へ発する。仮面越しで表情は見えないが、見聞色によって驚愕の意思が強く伝わってきた。

ミサカという少女に攻撃されたこと……ではなく、どうやら電撃を見て驚いているらしい。

 

「……貴様は、一体」

「これ以上するつもりなら、容赦しない」

 

 三人の動きがおかしかったのは、空気が薄く思ったように体が動かなかったせいだろう。

ミサカも同じ状態だが、能力行使にそれは関係ない。ミサカの意思で電撃がスパークする。

 

「上等、排除する」

「っ」

 

 威嚇のつもりで電撃を見せると、覚悟の決まった様子で突っ込んできた。

ミサカが迎撃するつもりで構えたその時、空から誰かがやってきた。

 

「そこまでだァ!!」

 

 突っ込んできた謎の仮面戦士を槍で弾き飛ばしたのは、鎧を身に纏った老人だった。

 

「誰?」

「吾輩、空の騎士!」

「………」

 

 弾き飛ばされた方は、流石に分が悪いと感じたらしく去っていった。

 

「……去ったか。おぬしら、青海人か?」

「せいかいじん?」

「雲下に住む者の総称だ。つまり、青い海から登ってきたのか?」

「うん」

 

 老人は親切にも現状を教えてくれた。

今ここは海より7000m上空の『白海』。さらに上の『白々海』は一万mもあるという。

つまり、今しがた昇ってきた麦わらの一味にとって、この急激な変化に慣れるのが大変だ、ということらしいが。

 

「おっし、慣れてきた!」

「そうだな、だいぶ楽になった」

「まぁレイとの特訓を思い出せば、別に」

「イヤイヤイヤ、ありえんから。というかどんな特訓したんじゃ娘さんは!」

 

 それはもう、覇気を扱えるように必死でしたとも。

 

「……まぁ、色々聞きたいこともあるじゃろうが、ビジネスの話をしようじゃないか」

 

 空の騎士は呆れたような視線を向けると、話を切り出した。

ここにはさっきの戦士……ゲリラに狙われ、空魚にも狙われ、慣れていない者たちにとっては危険極まりないらしい。

そこで、彼が(ワン)ホイッスル、500万エクストルで助けてくれる、というのだが……。

 

「「「「「「「?」」」」」」」

「えくすとるって?」

「ぬ?!お、おぬしら、ハイウェストの頂から来たんじゃないのか?島の一つや二つ通ったろう?」

「私たち、今来たの」

「……まさか、あの化け物海流に乗って来たのか!?」

 

 偉い驚きようである。

やはり普通のルートでは無かったらしく、突き上げる海流(ノックアップストリーム)は全員死ぬか全員到達するか、0か100かという賭けらしい。

その賭けに勝った一味を認めてくれた空の騎士は、ホイッスルを一つ置いて去っていった。

 

「我が名は空の騎士、ガン・フォール!そして相棒のピエール!!」

 

 ピエールとはウマウマの実を食べた鳥らしく、自称(・・)ペガサス(とても微妙)になり、空の騎士を乗せて飛び去って行った。

 

「………何も教えてくれなかったわね」

「そうだね」

 

 ロビンと頷き合いながら、とりあえず空の海を進むことにした。

空の海には盛り上がった場所があり、そこは人が乗れるほどの弾力があった。

つまり、そこに船は進めない。

それでも何とか進んでいくと……おおきな門がある場所へと辿り着いた。

門には『HEAVEN'S GATE』、天国の門と記されていた。

 

「天国か~~楽しみだ!」

 

 門番のおばあさんに10億エクストル払うように言われたが、持ってない。

進んでいいかと聞くと、進んでいいという。……あれ、門番じゃなく伝令なのでは?

そんな疑問をミサカが持ちながら、船は巨大なエビに捕まり、空へ続く雲の滝をグングンと昇っていく。

 

 神の国、スカイピアと呼ばれるその場所に辿り着く。

そう、その場所こそ空に浮かぶ島――。

 

 

「「「「「「「空島だ~~~~~!!!!」」」」」」」

 

 

 麦わらの一味、空の大冒険が始まった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 入ってはいけない島

 原作準拠を目指しています、が、原作を奇麗に守れる気がしませんゴメンナサイ!

というわけで、色々諦めました。これからはオリジナル展開注意です(今更)


 空島へ辿り着いたルフィたちは、揃って船から跳びだしていった。

砂浜の地面はフカフカ雲で、海岸は雲が押しては引いていく。

しかし、その先には木々があり、地面がある。住居もあるが、雲の上に合わせた白色が中心で、とても幻想的な風景だった。

 

「ここが、空島」

 

 ミサカも船から降りて歩いていると、何やら音色が響いてきた。

覇気を使うまでもない、敵意など全くない少女が少し雲が重なった場所に立ってハープを鳴らしていた。

此方に気づいた彼女は微笑むと、一言。

 

「へそ!」

 

 ……挨拶だろうか、へそとは。

彼女は狐のような生き物を抱き抱えると、親切にルフィが持っていたコナッシュという実の飲み方を教えてくれた。

 

「んんんめへへえ~~~!!」

 

 相当美味しいらしく、ルフィが叫んでいる。

取り合えず自分たちが来たばかりの青海人だというと、親切に説明してくれた。

 

「私はコニス。何かお困りでしたら、力にならせてください」

 

 超親切な娘だった。

雲の上に来てから意味不明な生物に襲われ、ゲリラに襲われ、空の騎士が笛を置いていっただけという中、彼女は非常に親切だった。

 

「あ、父上」

「はい、止まりますよ――あ」

 

 雲の上を謎の乗り物に乗って滑ってきた一人の男性は、止まるといいながら止まり損ねて樹にぶつかっていた。

乗り物は『ウェイバー』といい、一人用の風が無くても走る船らしい。

この船の動力は『ダイアル』という空島特有の貝らしく、風を溜め込んで放つという性質を持っているらしい。

他にも音だったり、火や映像だったり、色々な貝……ダイアルが存在するのだと、彼らは親切に教えてくれた。

 

「ナミ、凄い」

 

 ウェイバーは少しの波でも簡単にバランスが崩れてしまい、正直乗れたものではなかった。

だが、そこは航海士と言ったところだろうか、あっさり乗りこなすナミを皆で感心する。

 コニスの父が取ってきた海の幸ならぬ、『空の幸』から料理を振舞われることになった一行は、彼女たちの家へと向かった。

サンジも協力し振舞われた料理は、海とは違った旨味がありとても新鮮な気持ちで味わえた。

 

「……おい、ナミさんはどこ行ったんだ!?」

「ん?」

 

 少し見聞色を使う。しかし、探知できる範囲にはいない。

仕方ないので少し()を緩めて範囲を広げた。

 

「……――居た、少し離れてるけど大丈夫。私なら追いつけるよ」

「居たって、どこに?」

「さすがに初めてきた場所だから、どんなところかは分からないけど……あっち」

 

 ミサカが指さした方向をみて、一味が感心し、空島の住人である二人が驚いた。

 

「貴女は、心網(マントラ)が扱えるのですか?」

「まんとら?」

「はい。人の気配や感情、思考を読み取る不思議な力です」

「あぁ」

 

 どうやら空島では見聞色の覇気のことを、心網(マントラ)と呼ぶらしい。

納得していると、コニスの父、パガヤが神妙な顔つきで訪ねてきた。

 

「失礼ですが、どれほど離れているかわかりますか?もしかしたら、アッパーヤードに近づいているのかもしれません」

「アッパーヤード?」

「はい。絶対に足を踏み入れてはいけない場所です。この土地は隣接しているので、ウェイバーだと直ぐ辿り着いてしまいます」

「それって、どんな場所なんです?」

「聖域です……神の住む土地」

 

 土地……雲で出来ているわけではない、地面が空に存在するらしい。

ここは神の国であり、(ゴッド)・エネルが治めているのだという。

絶対に入ってはいけない場所と聞いて、ルフィの表情が明るくなった。大冒険の予感がしているのだろう。

 

「心配だから、私行ってくるね」

「ん?俺も行くぞ!」

「ルフィを抱えながら跳ぶのは、ちょっと……ごめんね」

「とぶ?」

 

 そういえば見せたことなかった、そう思いながら()を蹴り上げ、ぴょんぴょんと跳びはねて見せた。

 

「こういうやつ」

「すっげぇ!どうやってんだ!?」

「えっと……見たまま」

 

 水はある一定の衝撃を受けるとコンクリートの様にカチコチになる。

それと似たようなことだと、レイは説明してくれた。

 

「そっかぁ。俺も出来るかな?」

「ルフィなら大丈夫。練習すれば、きっとできる」

「そっか、わかった!」

 

 ニシシと笑うルフィ。

ミサカは初めてこれを習得した時は必死だったため、練習して本当にできるかは何とも言えないが……ルフィなら大丈夫だろうと、何となく思った。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「おう!」

「ミサカちゃん、気を付けてな」

「無茶すんなよ!」

 

 皆から心配の声を掛けられながら、空を駆けていく。

暫くそうして向かっていると、ナミがこちらに帰ってきていた。

 

「ナミ!」

「ミサカ!?え、何それ能力!?」

「ううん。それよりナミ、そっちには入っちゃいけない場所があるって」

「遅いわよ……そうだ、それより皆に知らせないといけないことがあるのよ!」

「?」

 

 血相変えているナミの心配事が何なのかさっぱりだったが、ともかくみんなの元へと向かった。

ルフィ以外は船に乗り込んでおり、ルフィは海で拾った壊れたウェイバーが直るかどうかコニスとパガヤが見ているようだったが、変な一団に話しかけられていた。

犯罪がどうとか言っているあたり、もしかしたら海軍の空バージョンのような一団なのかもしれない。

 

「ルフィ!その人達に逆らっちゃダメよ!!」

「だってよ、こいつら俺が拾ったウェイバーが何とかの犯罪だって言うし、一人700万ベリー払えって言ってんだぞ!」

「そう、罰金で済むのね……700万ベリーって」

「? え、ナミ」

 

 ふと、ナミの怒りが湧き起こるのを感じた。

止める間もなくアクセルを全開にしたナミがかっ跳んで行き、海岸のリーダーらしき男を轢いた。

 

「「オイ」」

「ナミ、手が……脚が速い」

 

 ミサカは行動力半端ないナミを見て、評価を改める。

常識人だと少し舐めていたかもしれない。彼女も立派な海賊なのだ。

 

「ハッしまった、あまりの多額請求につい……今のは事故よ」

「無理だと思う」

 

 ツッコミを入れてもナミは止まらない。

さぁ逃げるぞとルフィを引っ張っていこうとすると、轢いた男に止められた。

轢かれて鼻血ですむとは、頑丈である。

 

「逃げ場など、ありはしない!我々に対する暴言、それに今のは完全な公務執行妨害。第5級犯罪に値している……!(ゴッド)・エネルの御名において、お前たちを雲流しに処す!!」

 

 雲流し……島流し的な感じだろうか?

この雲ばかりの場所で行く当てもなく流す、と。

 

「つまり、死刑?」

「その通り!さぁ、ひっ捕らえろ!!」

「「「ハッ!雲の矢(ミルキーアロー)!!」」」

 

 彼らが放った矢の軌跡に沿うように、雲が形成された。

彼らは雲の上を移動できる、スケートのようなものを履いており、そのまま滑ってこちらへ武器を抜いて向かってきた。

 

「ナミ、下がって」

「ハハハ、おもしれぇな!ゴムゴムの――」

 

 腕を伸ばし、木を使って上空へ跳んだルフィに合わせて、ミサカも紫電を準備する。

そういえば皆技名を言うのだし、自分も何かつけた方がいいのだろうか?

 

「――花火!!」

電撃の雨(エレクティア)

 

 勢いよく回転したまま放たれたルフィの伸びる拳と蹴りが、周りの連中を文字通りノックダウンし、離れた場所にいた敵にはミサカが放った稲妻が降り注いだ。

ゴムであるルフィのことは気にしないで放てるので、何気にこの二人の相性は抜群である。

 

「ば、バカ……な」

「?」

 

 まただ。また、稲妻を見て変な驚き方をされる。

そう、これは――畏怖?

 

「はぁ……これで完全にお尋ね者だわ」

「にしし、いつものことじゃねぇか」

「ルフィ、アンタね!相手は神だか何だか知らないけど、神懸かったわけわかんない力だけは本物なの!」

「でもナミ、どうするの?」

「どうって、そりゃ逃げるわよ。とっととこの国出るのよ」

「出るだと!?アホいえ!!お前は冒険と命どっちが大事だァ!」

「命よ!その次はお金」

 

 ここで航海士と船長の意見が割れてしまった。

コニスに聞くと、海へ帰る手段はあるが、そこに向かうには一度〝白海〟へと降り、東へ向かわないといけないらしい。

逃げるにせよ何にせよ、遠出になるのは間違いなかった。

 取り合えずルフィとサンジは空の幸を弁当にするために一度彼らの家へと向かった。

ウソップは船の修理のための備品を貰いについていってしまう。

 

「アイツ、完全に行く気だわ!ホント怖いのよ!!」

「って言われても」

「知るかよ」

 

 ゾロとそろって「ねー」と頷き合う。

ナミ以外神とやらの力を見たことが無いのだ。

取り合えず三人は置いて残った全員で船へ乗り込み、準備をしていると……急に船が動き出した。

 

「な、なに!?」

「ウワァアアア!?」

「……下に何かいるわね。あの時の、エビかしら」

 

 少し形は違うが、確かに特急エビだ。

更に海に飛び込んで逃げられないように空魚たちが追ってきていた。

 

「追手を出すんじゃなくて」

「俺たちを呼び寄せようってわけか。横着なヤローだ」

「じゃあまたあの島へ!?」

 

 こうなっては仕方ない。ミサカ一人空に逃げるわけにはいかない。

ルフィとサンジは強いし、ウソップも男だ何とかするだろう。

 

「まぁ、なるようになるだろ」

「ゾロは豪気だね」

「ハッ、そういうミサカも動じてねぇじゃねぇか」

「まぁ……人が居る分マシかなぁと」

 

 無人島暮らしのおかげで荒事には慣れているし、何より心強い仲間もいる。

彼らはどうやら覇気を知らないらしいが、それでも十分強い。

特にルフィ、ゾロ、サンジの三人は特別強い。覇気も教えたら使えるかもしれない。

 

 

 ―――

 

 

 連れてこられた場所は、アッパーヤード、神の島の内陸の湖らしき場所。

その中心にある、祭壇だろうか。そこに船は降ろされた。

周りには空サメがウよついており、簡単に岸へ渡れないようになっている。

ミサカ一人で全員岸に連れていってもいいが、出来れば遠慮したいというのが本音だ。

特にゾロは重くて運べそうにない。

 

「あのつる、使えそうだな」

「あら、ホントね。いい考え」

 

 ゾロは良さげな蔓を見つけ、それをロープ代わりに陸へと渡ろうとしていた。

ロビンも祭壇の様子から、相当昔の遺物だと分かり探索する気であり、ナミは金目のものが無いか探すためについていってしまった。

 

「……ミサカはいかなくてよかったのか?」

「チョッパーこそ」

「お、オレはその……少し怖くて」

「そっか」

「ミサカは、怖くねぇのか?」

 

 船番というのは危険度が高いし、何より今の状況で落ち着いているミサカを見て、チョッパーが訪ねた。

 

「……私、怖いって気持ちはね、ずっと味わってないの」

「え?」

「最後に味わったのは人攫いにあったとき、家族と引き離されそうになった時だったかな。でもね、引き離されるとき、私の両親が庇って死んじゃう時にね、吹き飛んじゃった」

「……」

「実際酷い目にあったし、辛かったし、痛かったけど……それよりずっと熱くて重くて、どうしてもどうにもならなかった感情が私を焼いてたから(・・・・・・)

「ミサカ……」

 

 二人きりだからだろうか、チョッパーに少し昔語りをしてしまった。

 

「今はもう大丈夫。レイと会って、皆にあって……燃え尽きたつもりだったけど、今は楽しいって、想えてるよ」

「……そっか!」

 

 頑張って微笑もうとしても無理だし、楽しそうに笑うことも出来ないけど、でも優しく撫でることで思いを伝えたミサカ。

チョッパーは優しいミサカを感じて安心するも、少し少女を見る目が変わった。

 

(ミサカは、多分一回壊れちまってんだな……)

 

 昔、師匠であるクレハに言われたことがある。

人の精神は強かでしなやかで同じくらいとても脆い。

一度崩壊してしまえば立て直すことは壊すこと以上に難しい。

 レイという存在が彼女の柱となり、今は自分達麦わらの一味が繋がりとなっているおかげで、少し少女の壊れた何かが、新しい形になろうとしているのだと、医者であるチョッパーは感じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 雷鳴と共に

 ミサカはチョッパーと船番をしていると、此方に近づいてくる気配を感じ取った。

明らかな殺意を感じる……空島は随分とおっかない場所だ。

 

「チョッパー、敵みたい」

「な、ホントか?!」

 

 チョッパーが空の騎士を呼ぶ笛をしっかり握りしめる。何かがあってもあれで応援を呼べるのは有り難い。

少しして鳥に乗ってやってきた男は、大きな槍を持っていた。

 

「殺していい生贄は、お前ら二人か?」

「初めまして、私ミサカ」

「お、オレはトニー・トニー・チョッパーだ!だ、だだ誰だこのやろー!」

「女、それもガキとペットとはな……我が名はシュラ、こっちはフザだ。とりあえず、死ね」

「な、ふ、ふざけんな!」

「断る」

 

 交渉というほどのモノではないが、話し合いは不可能。

相手は怪鳥、フザに乗ったまま槍を突き出してきた。

 

(避けたら船に穴が開いちゃう……)

 

 バチッと紫電を奔らせ、シュラに放つ。

 

「おっと」

「クカッ!」

 

 フザが旋回し、回避することで避けていった。

空を飛行する相手に、ミサカは跳びはね追った。

 

「能力者、それも稲妻を操るとはなっ!」

「それ、皆驚く。空の上に棲んでるのに、雷が怖いの?」

「これから死ぬやつに……語る理由は、ねぇな!!」

 

 明らかな態度だった。これはつまり、雷を畏れる何かがあるということだ。

 

「そう、まぁ知ってそうな人に後で聞くからいい」

「ふんっこの俺相手に生き残るつもりかぁ!!」

 

 槍に対し、ミサカは電気を操り、副次的に磁力を操ることで砂鉄の剣を作り出した。

空の上だから使えない戦法だと思っていたが、此処、神の島(アッパーヤード)()地。

地面があるならば、砂鉄が存在する。

 伸縮自在の黒い剣を振るい、槍を防いで見せると、困惑した様子でシュラが離れた。

 

「なんだそれは?」

「剣」

「……なるほど。フン、嫌な奴を思い出させる武器だ」

「?」

 

 誰か知らないが、砂鉄の剣……もしくは伸縮自在の武器を扱う人が居るのだろう。

知らない相手のことを考えても仕方ない。切り替え、さらに振るう。

しかし相手は心網、見聞色の使い手。分かっていたように防いで見せた。

 

「……なんだ、この戦い」

 

 チョッパーから見ると、おかしな戦いだろう。

敵へ向けた剣がしなり、背後から襲い掛かってもまるで背中に目があるように避けたり、避けた先に槍の先端が向けられたりしているのだ。

まぁ、一番の理由はミサカが砂鉄の剣を分裂させて、一見(・・)何もない空間を攻撃していることかもしれないが。

 

「ッ貴様、さっきから何のつもりだ!?」

 

 暫くそうしていると、手傷を負ったシュラが、無傷(・・)のミサカに激昂した。

 

「ハァ、……心網での掴みは問題ない。お前の動きは読めた」

「そう」

「だが、その上で此方の試練(・・)を断ち切った上に、動きも読み勝ってやがるくせに、さっきから攻撃はその剣だけときた……舐めてんのか?!」

「別に。それに、貴方に答える理由は無い」

「ッ」

 

 試練というモノが何なのか知らないが、ミサカは先ほどから何かを察知し、断ち切りながら戦っていた。恐らくそれだろう。

それともう一つの理由、砂鉄の剣のみで戦うこと。

これはエビに捕まった時もそうだが、船を自分の攻撃で傷つけないためだ。

 

(チョッパーもいるし、間違えて焦がすわけにはいかない)

 

 だが、このまま長引かせるのも得策ではないだろう。

よって、ミサカも一つカードを切ることにした。

 

「……」

「なんだ、コイン?」

 

 取り出したのは、一枚のコイン。

ベリーを攻撃に使うなんて、ナミが見たら卒倒するかもしれないけれど、今はいないし別にいいだろう。

 

「――死なないでね」

「ッ」

 

 電流は磁場を生み出し、磁力で見えない砲身を(かたど)り、一枚のコインをそのレールへ乗っける。

これをレイに初めて見せたとき、初めて彼を呆然とさせた。

それからはコレは彼女の必殺技の一つになっている。

 

 

超電磁砲(レールガン)

 

 

 少女の指から放たれたコインは、音速を突破し轟音を唸らせながらシュラへと向かう。

避けようとする彼だが、残念――周囲は既に砂鉄の刃が囲んでいた。

ここは島の真ん中に位置する湖、360度砂鉄は調達し放題である。

 

「終わり」

「く、そっ」

 

 無理に避けようとしたおかげで致命傷にはならなかったが、文字通り吹き飛んで行った。

ダメージは深いだろうし、追撃は無いだろう。

 

「す、すっげぇ~~!!ビームみたいだぁ!!」

「………ビーム」

 

 チョッパーが偉く瞳を輝かせるが、ビームではなくどちらかというと大砲や銃に近いのだが……。

どう説明しようか、船に降りてそう考えていると―――気配が現れた(・・・)

 

 

「ヤハハ、面白いな娘」

 

 

 背後に現れた気配、実はこの島に立ち入った時から気づいてはいた。

しかし、島の奥地から動かなかったため無視していた。

その気配が、雷鳴と共に(・・・・・)ミサカの背後に現れた。

 

「………貴方、は?」

「ヤハハ、私に名乗らせるか。しかし許そう、どうやら私と似た力を持っているようだからな。愉快なモノも見れた、今私はとても気分がいい」

 

 長身で金髪、耳たぶが長く四つの小太鼓を背負った男。

彼は、自分をこう名乗った。

 

「我は、神なり。人は私を、(ゴッド)・エネルと呼ぶ」

 

 この人が、神。

雷鳴と共に現れ、分かっていても背後を取って見せた男。

 

「娘、貴様の名は何という?」

「エレクトロ・D・ミサカ」

 

 チョッパーを背に庇いながら、名乗る。

いけない、此処で戦ってはダメだとミサカの勘が警鐘を鳴らしていた。

ここで戦えば、船もチョッパーも、きっと無事では済まない。

 

「ミサカか、良い名だ。ヤハハハ、退屈しのぎの試練だったのだが、どうやら貴様は他の奴とはレベルが違うらしい」

「そう?さっきのも結構ギリギリだったよ」

「抜かせ――」

 

 エネルの姿が掻き消える直前、ミサカは察知し背後に砂鉄を放った。

砂鉄の剣の形を崩し、周囲に散らしていたおかげで直ぐに攻撃が出来たが、それをエネルは持っていた金の棒で防いで見せた。

 

「ほれ、私の動きについてこれている。十分貴様は規格外だ」

「………」

「うぇ?え!?い、何時の間に!?」

 

 チョッパーは自分が攻撃されるところだったと今分かったのだろう、慌ててミサカの近くへ走り寄ってきた。

ミサカは見聞色の覇気を、本気で使うことに決めた。

 

「うわ?!」

「チョッパー、ごめん」

 

 パチっと静電気が流れビックリして少し離れるチョッパー。

 

「な、なんかミサカピリピリしてないか?」

「ごめん、我慢して」

 

 このエネルは、もしミサカの予想通りの能力者なのだとしたら……自分以外、今の麦わらの一味に勝機は薄い。

ルフィなら、あるいは……というところだろう。

ミサカは能力を使うと、自分を中心に球形状に電磁波が発せられる。日頃意識して抑えている電磁波に見聞色の覇気を乗せることで、範囲内の動きを全て知ることが出来る。

 

「ヤハハ、まぁそう急くな。本格的な試練は明日からだ」

「?」

「今、シャンディアの戦士たちと貴様たちの仲間が私の神官と争っている。シャンディア達はいつものように退けるだろうが、なるほどお前たちは中々やるらしい。サトリのやつがやられているな」

「……」

 

 島に少し意識を向けると、ルフィ、サンジ、ウソップが島に入っていた。

少し弱っている様子から、戦っていたらしい。相手は、エネルの言うサトリだったのだろう。

 

「それで、なんで明日なの?」

「なぁにこちらの目的のモノが今日には完成するのでな。明日、退屈しのぎにこの島に決着をつけようと思っていた(・・)。態々今日と明日、二日も戦うことは無いだろう?」

 

 それはつまり、面倒だから一纏めに潰してやる、という分かりやすい宣戦布告だった。

それと同時に感じることが一つ……。

 

「三竦みの潰し合いなど、別に放っておいてもよいのだがな。しかし私が思うに、私とやり合えるのは娘、お前だけだ」

「……」

「何だろうな、今私は凄く高揚している。ヤハハハハ!!娘、ミサカと言ったな。明日の試練、絶対に貴様は参加しろ、よいな!これは、神の意思である!!」

 

 それだけ告げると、ヤハハと愉快な笑い声をあげてエネルは消えた。

 

「な、なんだアイツ……こえぇ」

「……うん。でも」

「?」

 

 本当にうれしそうで、きっと退屈しのぎに決着をつけるつもりというのも本心で。

ただ、少しだけ。本当に少しだけ。

 

「寂しそうだったな、って」

 

 きっと相手(・・)と呼べるほどの存在が現れて嬉しくて現れたんだろう。

きっと子供みたいな理由で、はしゃぐように現れたのだ。

きっと、そんな理由で喜べるほど、退屈していたのだろう……そう、ミサカは感じた。

 

 その後、探索からゾロ達が戻り、ルフィたちもやってきた。

麦わらの一味が合流し、各々分かったことを、サンジお手製の晩御飯を食べながら報告し合う。

 まずナミ達がこの島は過去、空へ飛んできたジャヤ……黄金郷なのだと発見した。

猿山連合のクリケットが暮らしていた半分の家、そのもう半分を見つけたことで確信に至ったのだという。

試しに空から落ちてきた船から拾ったスカイピアの地図と、ロビンがジャヤで手に入れたという地図を合わせてみると、髑髏の形になった。

 

「ノーランドの最後のページの言葉、髑髏の右目に黄金を見た」

「つまり、此処に黄金があるんだな!」

「そういうことよ。ノーランドは島の全形を言いたかったの。けど今は半分しかないんだから、分かるわけもなかった」

 

 凄かった、お金が関わったナミの思考速度はあり得ない速度で回っていた。

 

「明日は真っ直ぐこのポイントを目指せばいいの。船はその間放っておけないわ、二つに班を分けましょう……ふふふ、莫大な黄金が私達を待ってるわよ!!!」

 

 気合一杯に告げるナミに賛同する一味。

もう、これは明日の試練参加も決定だろう。

そう思い、ミサカも冷静に起こったことを説明する。

神官と戦い、神・エネルと出会ったこと。

 

「え、神にあったのかぁ!?」

「チッ残ればよかったか」

 

 羨ましがるのはルフィとゾロの二人。

この二人の好奇心と血生臭さは生半可じゃない。

 

「試練が明日、行われるって言ってた」

「へぇ。試練ってどんな?」

「シャンディアの戦士と、神官と、私達の三竦みの潰し合い」

「要するにサバイバルってわけか」

「黄金探しにサバイバル、面白そうだなぁ!ニシシ!!」

 

 ニヤッと笑うゾロから中々の威圧感を、明るく笑うルフィからも闘気を感じる。

やっぱりこの二人には覇気を教えたい。しかし、今は時間が無いのも事実だ。

 

「それで、私は強制参加だって」

「ハァ!?ミサカちゃんが、サバイバルだって!?」

「まぁ、サバイバルは慣れてるから」

「くっそ、こうしちゃいられねぇ!今すぐ弁当の下ごしらえを完璧にしなければ……それと、明日はぜひこの騎士(ナイト)サンジをお側に」

「えっと……」

 

 取り乱したサンジの扱いに困っていると、落ち着きなさいとナミに一発殴られ少し収まった。

 

「ふーん、ミサカ気に入られたんだなぁ」

「……多分、アレに勝てる、ううん。戦える(・・・)のは、私とルフィだけ」

「俺?」

「なんだ、俺らが弱ぇとでも?」

 

 ゾロの威圧が増した。

しかしそうではないと、首を横に振る。

 

「多分、雷の自然系(ロギア)能力者だから。ゴムのルフィ以外の直接攻撃は効かないと思う」

「その理屈だと、ミサカの電撃も効くのか怪しいんじゃないかしら?」

 

 ロビンの指摘にそうだそうだと頷く彼ら。

基本冒険を愉しむ彼らはおバカなことが多いというのを、此処少しの付き合いではあるが知れた。

しかし、それ以上に戦闘になるとやけに頭が回るというか、勘がいいのも事実である。

 

「私の攻撃は効く。これは、絶対に」

「どうして?」

「……見せた方がはやい」

 

 すたすたと岩の前に歩いていく。

そして覇気を腕に込めた。

 

「武装硬化」

 

 能力を使わず、大岩を殴り割る。

最近自主練以外で使わなかったが、問題なく使えた。

 

「な、なんだぁ!?」

「武装色の覇気」

「は、はき?」

「……ちょうどいいから、覇気に関して説明する。みんなも聴いて」

 

 全員に武装色、見聞色の覇気について説明していく。

同時に覇王色もサラッとだが話す。説明しようにも、レイが使ったことがあるだけでミサカ自身覇王色は使えないからだ。

 

「そういやぁ爺ちゃんに殴られた時、俺ゴムなのに痛かったんだよなぁ」

「覇気、か。なるほど、イイことを聞いた」

 

 ルフィは何かあったのを思い出したのか、渋い顔をした。いつも楽しむ彼らしく無い。

ゾロは平常運転である。もっと強くなれるんだと、彼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「まぁともかく、相手の心網と同じ技術があるのね?」

「うん、見聞色の読み合いしつつ、武装で攻撃が出来る私と」

「ゴムのルフィくらいしか敵になりえない、と」

 

 ルフィの場合は敵というよりは、『天敵』と言った方が正しいだろう。

電撃が効かないゴム人間は、きっと想像以上にエネル相手には鬼札になる。

 

「となると、もう班決めは決まったわね。ルフィとミサカは絶対探索班。それも、神・エネルを相手に勝ちなさい」

「おう!任せろ!」

「ん、頑張る」

 

 他の探索班として、戦闘狂のゾロや遺跡に興味のあるロビン、そして今日は船番をやっていたチョッパー。

船番兼逃走用に船を走らせるのはナミ、サンジ、ウソップの三人。

サンジは最後までミサカの側で護りたかったらしいが、ナミの騎士になってほしい、とミサカが上目遣いでお願いした結果、折れてくれた(KOされた)

 

「んー、仕方ないとはいえ、ちょっと船番が心もとないわね」

「サンジ、強いよ?」

「聞いた感じ三竦みでも相手の数がねぇ……四方八方から狙われてサンジ君だけじゃ無理があるわ」

 

 少し考え、それならと船に保管されていたホイッスルをナミに手渡した。

 

「これ、使えない?」

「そっか、空の騎士!あ、でもいいの?強敵と戦うんなら必要じゃ……」

「いい。船が無いと、海賊出来ないから」

 

 麦わらの一味は本当にいい人ばかりだ。

この人達の居場所に居てもいいのなら、ミサカは全力を尽くしてもいいと思っていた。

 

「私、頑張る」

「……ありがと、ミサカ。あんたイイ子ね」

「イイ子……私、海賊」

「アハハ、そうね。うん、そう、私たち(・・・)は海賊よね」

 

 ポンっとナミに撫でられるミサカ。

しかしミサカは海賊だし賞金首だし、過去に人だって殺している。

ナミの言葉に疑問符を浮かべるが、そんなミサカの頭を撫でることを止めたりしなかった。

 

「ミサカはいい子よ」

「……ありがと、ナミ」

 

 温かな手に撫でられるミサカ。

一味の仲間に入って本当に良かったと、久しぶりに感じる温かな気持ちを大事に感じ取りながらミサカは明日を頑張ることを決意した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 神だった男

 決戦前夜というと、何だかみんな深刻になったり色々覚悟を決めたり、ともかく静かなイメージがミサカにはあった。

物語ではシリアスに描かれ、皆が真剣に心持ちをしかと決める……のだが、この一味はどうやら違うらしい。

 

「アッハッハッハ!!」

「おウォウォウォウォ~~!」

「ウオウオ~!」

 

 酒を呑んで上機嫌なナミが笑って、ルフィや空島特有の狼たちが一緒に声を上げながらキャンプファイヤーを囲む。

皆で歌って踊って、明日がサバイバルなんてきっと誰も信じないだろう。

 

「フフッ。不思議な人たちでしょ?」

「うん、凄く」

 

 ロビンが隣にやってきて、一緒に乾杯する。

クールなイメージがあった彼女だけど、微笑むその姿は普通の女性にしか見えなかった。

ミサカも見習って笑おうと思ったけれど、やはり彼女の表情筋は思ったように動いてくれない。

 

(昔は、ルフィたちみたいに笑えたのに……)

 

 少し、以前の自分を思い出した。

 

――(アタシ)ね、ママみたいに奇麗で何でもできて、パパみたいに格好よくなりたい!

 

 美人で努力家な母が大好きで、豪快でパワフルな父とはよく悪ふざけをしては怒られていた。

母に叱られながら、父とこっそり笑って今度は怒られないようにしよう、って……平和で、毎日が幸せだった。

 過去を懐かしんでも仕方ないのははっきりわかっているが、それでもつい思い出してしまう時がある。

悪いことじゃない、ミサカという少女の原点だ。寧ろ、今の自分が歪なんだと自覚している。

 人攫い達に泣き叫ぶ姿を見せたくなくて、自分という存在を知られたくなくて、必死に押し殺していた。それが常となってしまったのだ。これを歪みと言わず、何と言えばいいのだろう。

 

「ミサカ、おいミサカ!」

「…―ルフィ?」

 

 肩を揺らされ、自分の思考に没頭していたことに気づいた。

前を向くと、輝かしい笑顔を浮かべたルフィがそこにいた。

 

「折角の宴なのになにぼさっとしてんだ!ほら、ミサカも踊るぞ~!」

「……うん」

 

 ルフィの手を取り、一緒にキャンプファイヤーを囲む。

今は麦わらの一味に身を置いているのだ、楽しむべき時は楽しまなくては。

 そうして決戦前夜こと、黄金前夜は賑やかなまま過ぎていった。

 

―――

 

 次の日、不思議なことがあった。

乱暴に祭壇へ置かれたGM号が、誰かに修繕されていたのだ。

ウソップ曰く、少年らしき存在が霧の中直してくれたらしい。

空島特有の翼が背になかったことから、少なくとも青海人のはずなのだが……。

 

「ホラホラ、不思議だけど今はそんな場合じゃないわよ!脱出組は後片付け、探索組は冒険準備して!」

 

 ナミの一声で皆が動き出す。

祭壇に置かれた船をみんなで慎重に運びながら、今日の予定を頭の中で巡らせる。

南へまっすぐいき、地図にある遺跡へと向かう。そこに黄金があるはずだから、それを脱出組が待つ移動した船まで持ってこなければいけない。

まぁこれは他にも人が居るからいいとして……問題は、エネルの打倒。

 

(雷、か)

 

 ミサカも雷撃を放てるし、きっとエネルと同じことをやろうと思えばできる。

ただ一つできないことと言えば、自身の雷化だろう。

ミサカが超人系であるが故、こればかりはどうしようもない。スピードは完全に相手が上だ。

仮に船に乗って移動しようものならば、相手は苦も無く追いついてくるだろう。

流石に船は雷速で動けない。

 

(……レイ)

 

 思い出す、彼との修行を。

外にはもっと想定外の存在がいると教えてくれた。

シャボンディ諸島で戦ったマグマ男もかなり強かったが、今回は強さの質が違う。

見聞色を使う、自分の上位互換の能力者が――。

 

(……上位互換?)

 

 ふと、疑問が生まれた。

彼が雷そのものならば、電撃を放つ自分はいったい何なのだろうか?

超人系のビリビリの実とは、一体どんな悪魔が宿っているのだろうか。

そもそも、悪魔の実ごとに棲んでいる存在が違うのであれば……上位互換など、もとよりいないのではないか?

 

(私の能力って、何なんだろう)

 

 今まで電気をうまく扱うことばかり考えていたミサカは、初めて自分の力に関して考えた瞬間だった。

 

 

―――

 

 

 アッパーヤード、その中心に(そび)え立つ巨大豆蔓(ジャイアントジャック)を上った先にある、神の社。

そこにエネルはいた。

 

「……さぁて、まずは準備運動だな」

 

 彼は久しぶりに高揚していた。

ゴロゴロの実、自然系の能力者である彼を傷つけられる存在など、この空には一人としていなかった。

無敵だと、自分は神なのだと、そう思っていた(・・)

 

「ミサカ、それにレイ(・・)とか言ったか」

 

 彼女の中心に在る存在、その男をエネルはミサカを通して見た。

ミサカは純粋だ。一度壊れたからこそ、今の彼女の内は幼子程無垢と言っても過言ではない。

そんな純粋無垢な彼女が初めて(・・・)出会った男。それがどれだけ彼女の芯となっているのかなど、きっとミサカ自身気づいてはいないだろう。

 

「か、神?一体どうなされたので?」

「んー?」

 

 今日まで船を造らせていた神隊の一人が、立ち上がったエネルを見て疑問を浮かべる。

これから始まるのはサバイバル、神兵と神官たち、そしてシャンドラの戦士と海賊達の潰し合い。

神と呼ばれてきた男が、態々出向くほどのことでもない、そういいたいのだろうが。

 

「あぁすまんな、正直どうでもいいのだ」

「ハ?」

「ヤハハ!気にするな、それよりマクシムは完成したのだろう?お前()とっとと去るがいい」

「は、はぁ……?」

 

 身支度をした彼は、他の者同様空島の自分の家へ帰るだろう。

以前ならばお片付けとして処理していただろうが、自分を認め崇めるだけの者共など、今のエネルに興味はない。

それどころか、空島がなんだ、大地(ヴァース)がなんだというのだ。

 

「神、そう自負していた私だが……ヤハハ」

 

 ミサカ越しに見た男は、それはもう偉大だった。

初めてかもしれない、勝てないと思った存在がいたと実感したのは。

初めての経験だった、きっと自分と戦える存在がいるという事実は。

 

 ――それ等を超えずして(・・・・・・・・・)、何が神か!!!

 

 つまらないと思っていた空島が、どうでもいいと思っていた青海が、今は違って見えていた。

どこかに自分を倒しうる存在がいるかもしれないのだ。

 

「許せるものか、我は神になる男(・・・・・)だぞ。私より上かもしれない(・・・・・・)存在など、認めはせん」

 

 神を語る道化になど、興味はない。

神であるからこそ、大地を目指していたエネルは、たった一人の少女とその憧景に出会い、変貌した。

 自分と戦えるであろう少女と、心網で盗み聞いた自身の天敵だというルフィという麦わら帽子の男。

この二人との決着は後回し、まずは神として君臨した今までに決着をつけよう。

 

「さぁ、我に挑む愚か者どもよ――掛かってこい」

 

 大胆不敵に笑うエネル()は、それはもう楽し気であった。

 

―――

 

 準備を終えた麦わらの一味が動き出した。

脱出組は笛で空の騎士を呼び、事情を話し協力してもらうことに。

探索組のルフィ、ゾロ、チョッパー、ロビン、ミサカは始めは纏まって南に向かっていた。

しかし、道中で空の主と呼ばれる超巨大蛇に遭遇し、バラバラにはぐれてしまった。

 

「あ、ロビン」

「一人合流ね……他の皆は?」

「バラバラ」

「あら」

 

 元のルートにミサカが戻ると、そこにいたのはロビン一人。

見聞色で気配を探るも、全員別方向に散ったらしく、追いかけるだけ時間の無駄となるだろう。

 

「私たちだけで行きましょうか」

「うん」

 

 二人並んで歩いていると、ふとロビンが尋ねた。

 

「そういえば、神様と戦うのよね」

「うん」

「その神様は、どこに居るのかしら。参加を強制させたってことは、その彼も参加しているんでしょう?」

「んー……」

 

 見聞色で探る。

争い合うシャンドラの戦士と神官、兵隊。

そして……超高速で動くエネル。彼が進んだ場所には、他と比べると少し覇気が強い人が居て、軒並み気絶させられている。

というか、神官はともかく兵隊の方はエネルに巻き込まれてすらいた。数がどんどん減っている。

 

「動き回ってる……多分、私は最後なんじゃないかな」

「そうなの。じゃぁ貴女と一緒に居ればとりあえずは安心ね」

「そう?」

 

 一緒に居ると狙われると思うのだが、ロビンは違うらしい。

 

「えぇ。貴女を神が最後に選んでいるのなら、それまでゆっくり遺跡を見て回れるでしょ?」

「他の人に狙われるかもしれないのに?」

「そこはほら――」

「メ~~!!」

 

 言葉を遮るようにして、ロビンとミサカを狙って奇声を上げた兵隊が襲い掛かってくる。

しかし、見聞色を師匠から太鼓判されているミサカと、幼い頃から荒事に慣れているロビンに対し、声を上げて襲い掛かるなど愚の骨頂。

 

「〝クラッチ〟」

「……邪魔」

 

 上空から襲い掛かってきた彼らは、急に体に生えてきた手によって関節を決められ動けなくなった所を、ミサカの磁力による砂鉄のハンマーによって気絶した。

その数5人。最小限の力で最大限の戦果である。

 

「私たち、相性がいいと思わない?」

「そうみたい」

 

 ロビンが能力で生やした彼女に気を付ければ、なんてことはない。

ロビンが抑え、ミサカが止め。

遺跡をロビンが調べている最中に神兵長を名乗る巨漢も現れたが……遺跡を壊してもいいという考えの彼は、見事ロビンを怒らせた。

 

「あっちに誘導しましょう………遺跡を壊させたくないの」

「うん、分かった」

 

 乱暴な神兵長の動きを邪魔しながらなので少し面倒だったが、遺跡を破壊しないように移動しきる。

周りに遺跡が無いことを確認すると、直ぐにロビンが巨漢の動きを封じた。

幾ら力が強くとも、指一本に対し腕一本使われて抑えられては動けようがない彼に対し、ロビンはミサカにキツイ一撃を頼んだ。

 ミサカとしては、関節を決めているロビンを痺れさせるわけにはいかない。

かといって、ハンマー程度では怒りが収まらないらしい……よって。

 

「えっと、ごめんね」

「や、やめ」

磁力圧殺(マグネティプレス)

 

 砂鉄を操り、巨漢を包み込む。

そして、そのまま押し潰した。流石に殺すのは躊躇ったミサカは、手足がバキバキになって内臓破損程度に抑え、ロビンにもういい?と首を傾げて聞いてみた。

 

「えぇ、ありがとう」

(……ロビンは怒らせないようにしよう)

 

 清々しい笑顔を浮かべるロビンを見て、ミサカは一つ学んだ。

宴で優し気に微笑んでいた彼女こそ、怒らせると一番怖いのだと。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 神になる男

 ロビンとミサカが二人で遺跡周辺を見回っていると、ロビンが一つ気付いた。

 

「……ここが黄金郷にしては、狭い気がするわ」

「狭い?」

「えぇ。それに黄金が無いし、保管する場所が見当たらないのもおかしい。もしかして……」

 

 ロビンが考えを纏めながら、ナイフで遺跡の雲を削り出した。

どうやら下に行きたいらしい。

 

「ロビン、任せて」

「?」

 

 ロビンを下がらせ、砂鉄を集める。

雲は足場になる程度に固さはあるが、何なら素手であっさり取り除ける程度の強度しかない。

集めた砂鉄を腕の形にし、爪先部分を超振動させることであっさり雲を削り掘っていく。

階段状に掘ると、確かに底にまだ先があった。

 

「これが、黄金郷のあった遺跡」

 

 巨大な遺跡、風化した街。

神の島と呼ばれるあそこは、この黄金郷の上層部でしかなかったようだ。

 

「………」

 

 感動して言葉が出ないのか、それとも思考に没頭しているのか定かではないが、ロビンは黙ったまま遺跡を探索しだした。

ミサカはついていきながら、見聞色で気配を探る。

もう生き残りは数えられるほどしかいないようだった。ゾロ、空島に来た時に襲い掛かってきた戦士、神官と思われる強めの覇気の持ち主が一人、その近くに動物一匹、それと大蛇。

 

(………あれ?)

 

 なぜか脱出班のナミと、子供らしい小さな気の持ち主、それと空の騎士と微妙なペガサスもセットでいる。

船の方を探ると、そちらはウソップとサンジ……なぜかコニスとその父パガヤまで一緒だ。

 

「……どうなってるんだろ」

 

 全員直上……正確には二本の絡まった巨大な蔓が伸びる先にある、もう一つ上の雲で戦っている。

行けないことはないが、ロビンを一人置いていくわけにはいかない。

 

「あ……」

 

 ルフィが大蛇に呑まれたことは察知していた。

というか、奇麗にルフィの覇気が大蛇の気と重なったままなのだ。

大蛇自身の気が大きいため、よく探知しないと気づけないから、もしかして上で争っている人たちは気づいてないかもしれない。

 まぁそれはともかくとして……今この瞬間、ナミと子供、空の騎士とペガサス擬きも大蛇の気と重なった。

つまり、食べられたらしい。

 

「んー……」

 

 むむむっと集中し、よく覇気を探る。

子供は小さくて分からないが、ナミと空の騎士は生きているようだ。丸呑みで済んだらしい。

 

「………助けに、いった方がいいのかな」

 

 ゾロは忙しそうだし、チョッパーの覇気も大分小さくなってて、少なくとも気絶しているのは確かだろう。

悩んでいるミサカに、背後から話しかけてくる者がいた。

 

「ヤハハ、悩むのなら、呼べばよいではないか」

「ッ!」

 

 止める間もなく、雷鳴が轟いた。

背後に現れたエネルが上空に稲妻を発し、雲も地面も破壊し穴をあけたのだ。

結果として……上空で争っていた全員が落ちてきた。

 

「今の轟音、もしかして来たのかしら?」

「うん、ご登場。……ロビン、少し下がってて」

 

 遺跡の中を探索していたロビンが、雷鳴を聞きつけ出てこようとしたのを止める。

大蛇からナミ、空の騎士が吐き出てきた。ルフィとペガサス擬き、それと子供は中らしい。

 

「ヤハハ、そうかなるほど。麦わらの男が見当たらぬと思ったら、大蛇に呑まれているのか」

「そうみたい」

「そうかそうか。天敵とやら、楽しみにしていたのだがな」

「昨日の会話、聞いてたの?」

「まぁな……さて、生き残ったのは」

 

 ドゴォンと大きな音が聞こえた。

 

「くそっ死ぬとこだ!!」

「……ゾロ、普通死ぬと思う」

 

 どうやら上から落ちてきたゾロは、遺跡の瓦礫に潰されていたらしい。

気絶したチョッパーを護りながら潰されたのにもかかわらず、元気に瓦礫を自分でどかすあたり彼は常軌を逸している。

覇気も使わず同じことをミサカがされた場合、彼女は普通に死ぬ自信しかない。

 

「ここ、どこ!?あ、ルフィとアイサ置いてきちゃった」

「ピエールを信じよ、やるときはやる」

 

 少し離れた場所にはナミと空の騎士。

それと、呆然と遺跡を見つめるゲリラの男。

後は上機嫌な大蛇。

 

「生き残りは、私含め7人と1匹……一応そいつの中身をいれるなら、9人になるか」

「エネルっ!」

 

 ゲリラの男が炎の砲撃を放つが、難なくエネルは避けて見せた。

あの砲撃では遅すぎる。

 

「ヤハハ、この場に招待したのに、随分な挨拶だな」

「黙れ。俺たちの故郷は返してもらうぞ」

 

 殺気立っているゲリラの男に、エネルは――。

 

「あぁ、別にいいぞ」

「……なに?」

 

 あっけらかんと答えた。

思わず呆けてしまうゲリラ。他メンバーも全員エネルの反応に困惑している。

 

「正直、今私にとってこの地に興味はない。用もない」

「エネルよ、私は先ほど貴様の居た神の社を見てきた。もぬけの殻だったが、神隊(しんたい)(みな)はどうした?」

「あぁ帰した。用事は済んだからな」

「用事だと?……貴様の目的は、一体何なのだ!」

「……最初は還幸のつもりだった。私の育った空島では、神はあそこに住むといわれいてる」

 

 エネルは、空を指した。

雲に隠れ今は見えない場所を、差した。

そこは――月。

 

限りない大地(フェアリーヴァース)と呼んでいる場所に、果てしない大地に還る……つもりだった」

「だった?」

「あぁそうだ、ミサカよ。貴様に出会い、私の全てが覆った(・・・)

 

 ゾロもゲリラも空の騎士も、強者としては十分な実力を持っている彼ら全てを無視して、エネルは一人の少女を見つめた。

 

「この能力を持ち、心網の実力も他者に追随を許さなかった私と戦える者がいた。そして、そんな貴様の心には、貴様ですら勝ったことの無い者がいることを知った」

「……」

 

 それが許せないのだ、とエネルは語る。

神ならば、偉大な神より上の者など居てはいけない。

 

「我は神になる男!!故に、私は頂点に居なければならないのだ!!!」

 

 ドンッと言い放つ男からは……強い覇気を感じた。

肌が泡立つような錯覚をミサカは感じ、他の者は怖気を感じた。

 

 これは――覇王色の覇気だ。

 

「我を崇める者に興味などない。邪魔をするものは排除する!挑む者は悉く、打倒して見せよう!!」

 

 自分より強い者がいる、自分と同等かそれ以上の者がいる、自分より下の者がいる。

そう理解した上で、彼は神になると決意した。頂点に立つという決意が、覚悟が、彼の覇王の素質を覚醒させている。

 

「――さぁ、敵は誰だ?」

「ぬっぐぅッ」

「ジュ、ジュラァ」

「ぅ、ぁ……」

 

 空の騎士は過去の敗北もあるのだろう、完全に気圧されている。

大蛇は完全にへたれこみ、頭を垂れた。動物的本能から、エネルに勝てないと負けを認めたのだ。

ロビンは立っているが、足が震えていた。

ナミに至ってはは気絶していないが立てないらしく、座り込んでしまった。

 

「神になる、ねぇ」

「フン」

「……」

 

 エネルの覇気を受けながら、それでも刃を向けるのはゾロ。

その隣では砲門を同じようにエネルに向ける、ゲリラの男。

そして、小さな紫電を身体から発し戦闘準備万端のミサカ。

 

「やはり、貴様らか」

「俺は世界一の大剣豪になる男だ。誰が相手だろうが、引くつもりはねぇよ」

 

 まさに剣鬼と呼ぶにふさわしい威圧感を出すゾロ。

神でも王でもないが、彼は彼の覚悟と決意があった。それがエネルの放つ覇気を捻じ伏せ、威圧を返す。

 

「400年の戦いに終止符を打つ。その為に、お前は消えろ」

 

 先祖の想いを背負って立つゲリラの男、ワイパー。

元より神に挑むために命を捨てるつもりでここに居る彼に、引く道理などありはしない。

 

「お呼びは私、そうでしょ?」

 

 そんな二人よりも一歩前へ出るのは、この中で一番最年少のミサカ。

覇気の存在を知ったばかりのゾロや、よく知らぬゲリラの男に譲った結果どちらかが死んでも後味が悪い。

 

 そんな三人に加え、大きな音と声が響いた。

 

「おぉぉおぉおおおおおお!!!!!」

 

 打撃音がしたと思えば、頭を垂れ力が抜けていた大蛇から勢いよく出てきた者達。

そう、我らが船長ルフィだ。一緒に子供とペガサス擬きであるピエールが出てきた。

 

「出られたぁぁあああーー!!」

「ルフィ、お帰り」

「おう!ん?なんだ、どういう状況だこれ?」

「ヤハハ、私の天敵と聞いていたが、随分能天気だな」

「何だぁお前?」

「私か?私は神になる男、エネルだ」

「そうか。俺はルフィ、海賊王になる男だ!」

 

 エネルの覇気に気付いているのかいないのか、全く動じないルフィは堂々と自己紹介をした。

 

「さて、役者は揃ったな。勝者には栄光と黄金を、敗者には屈辱と死を!サバイバルゲーム最終戦の始まりだ!!」

「ん?黄金?もしかして場所知ってんのか?」

「ヤハハ、あぁ。この地にあった黄金は私が全て所有している。欲しければ、奪い取るといい」

「ニシシ、なるほど。ようはお前をぶっ飛ばせばいいんだな!」

 

 ヤハハニシシと笑い合う二人。

全く持って殺伐とした状況のはずなのに、この二人は今の状況を愉しんでいた。

 戦意喪失者は大蛇、ナミ、ロビン、空の騎士。

生き残りとして、ルフィ、ゾロ、ミサカ、ワイパー、エネル。

 

「行くぞォ!ゴムゴムのぉ――」

「百八――」

雷撃の(エレクティ)――」

燃焼(バーン)――」

「ヤハハ、2000万(ボルト)――」

 

 各々が得意技を放とうと、一瞬の間が出来た。

この一瞬だけが、きっと最後の休憩だろう。

 

銃乱打(ガトリング)!!!」

煩悩鳳(ぽんどほう)!!!」

(スピア)!!!」

(バズーカ)!!!」

放電(ヴァーリー)!!!」

 

 因縁と黄金を掛けた最後の戦いが、始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 決着

 四人の技はエネルへと、エネルは全体へ放電した。

しかし、百八煩悩鳳と灼熱砲はエネルの雷の身体に傷一つつけることなかった。

雷を斬ることも燃やすことも、普通は出来やしない。

 エネルが注視したのはミサカの雷撃の槍と、ルフィの拳だ。

雷撃の槍は放電によって逸らしたが、ルフィは電撃を畏れることなく拳を突き進め、雷を浴びながらエネルへ攻撃して見せた。

 

「なるほど、本当に効かないのだな」

 

 なら、これならどうだと金の棒を持ってルフィへ殴りかかる。

雷化した腕で振るわれるそれは、雷速の一撃。心網の効果もあり、ルフィは避けることも出来ず殴られる。

 

「打撃は、効かねぇ!ゴムだから!!」

「ヤハハ、らしいな。ゴム、か。貴様は空島にはない存在だ」

「このっ」

「くっ」

 

 ゾロが斬りかかり、ワイパーが砲撃するもエネルはそれを無視。

強者ではあるが、神に挑むには実力不足だと言外に告げていた。

 

「なら、これならどうだ?」

「うお!?()っ!」

「! ルフィ、下がって」

 

 金の棒を電熱で変形させ、先を三叉の槍へと変えた。

ゴムのルフィに斬撃は有効、ミサカが砂鉄の剣を作り出し庇うように前へ出た。

 

「ヤハハ、なるほど斬撃は効くんだな?」

「させない」

 

 雷速で動くエネルに対し、ミサカは砂鉄の剣を多数作り出すことで応戦する。

見聞色で相手の動きを察知し、まるで心を読むかのように砂鉄の剣を振るった。

地面から生えた黒い剣が蠢き、瞬く稲妻の様に動き回るエネルを、悉く弾いて見せる。

 ここまで来ると、ゾロにワイパー、そしてルフィも反応が出来ない。

反応が出来たとしても、雷の速さに対応が出来ない。何かする前に、斬り刻まれるだろう。

 

(ッ落ち着け、呼吸を意識しろ)

 

 ゾロは深呼吸をする。

皮肉にもミサカがエネルの攻撃を防いでくれるおかげで、彼らは集中する時間が出来た。

ゾロは昨晩ミサカが話した覇気というモノを思い出す。

 見聞色は気配を、武装色は気合を持って行われる、人ならば誰でも持っている力だと。

そしてゾロは自分なりにそれを解釈した。鉄を斬るために万物の呼吸を意識することを覚えた彼は、その呼吸を気配だと無理やり置き換えた。

 

(いつも通りだ、刀に意思を伝える)

 

 呼吸に合わせ、刀を振るえば自分が斬りたいものだけを斬り裂くことが出来る。

いつも通り、しかし初めてやること故にいつも以上に集中する。

そして、最後にミサカが師匠から教わった一番大事であり、基礎的なことを思い出した。

 

(疑わないこと(・・・・・・)、それが強さ!)

 

 ルフィ、ゾロ、サンジにはそれが出来る実力があるとミサカは言った。

後は覇気の力を引き出せるか否か。

ゾロはイチかバチかにも等しい行為を、碌な練習もなしに実戦で行おうとしていた。

 

 雷と言えども相手も一人の人間。意識すれば、呼吸が分かる。

 雷速で動き続けているため、目で追うのは愚の骨頂。

瞳を閉じ、自分の感覚にすべてを任せ―――ゾロは刀を振るった。

 

「一刀流居合――獅子歌歌」

「ッ!?」

 

 今まで大してゾロを気にしていなかったエネルが、ミサカ以外に初めて危機感を覚え、棒を盾にした。

ゾロの剣は金の棒を斬り裂き…――エネルの肩を浅くではあるが斬り裂いてみせた。

覇気はまだまだ拙く、奇跡にも等しい偶然の一撃だったが、それでも確かにエネルに傷をつけて見せた。

 

「見事、褒美だ受け取れ」

 

 エネルが自身の背中にある太鼓を斬られた棒で叩いた。

エネルにくっついている四つのうちの二つ、叩かれた太鼓が雷となり形を変える。

 

雷鳥(ヒノ)雷獣(キテン)!!」

「っ盾!」

 

 ゾロへ放たれた大きな雷の鳥と狼。

狼はギリギリ砂鉄の盾が間に合ったが、鳥は間に合わなかった。

雷はゾロを貫き、そもそもここまでのダメージもあった三刀流の剣士はその一撃で倒れた。

 

「ガッハ」

「くそ、ゾロォ!!」

「一人脱落だな」

「どこを見ているエネルゥ!!」

「む」

 

 雲で足場を作り、雲を滑るように移動し攻撃を仕掛けるゲリラ。

燃焼砲を放つも、それをエネルは避けた(・・・)

ゾロの様な底力が発揮されうる状況だと判断したエネルは、例え今の今まで自分を傷つけられなかった武器の一撃ですら警戒する。

 

「――ワイパー、貴様何を狙っている(・・・・・・・)?」

「ッッ!!!」

 

 燃焼砲をしつこく撃ってくるワイパーの行動に違和感を覚えたエネルは、心網をワイパーに対し強めに向けた。

問われたワイパーの意識が一瞬、彼の履いているスケートの様なソレに向けられた。

恐らく能力者であるエネルに対し有効な何かが、そこに仕込まれているのだとエネルは把握した。

電熱で斬られた槍を一本に戻すとワイパーの履物、スケート型ウェイバーを狙った。

 

「く、そがぁああああ!!!」

 

 雷速に反応できたとして、身体の動きが間に合うはずもない。

必死に脚を振るい、エネルを蹴ろうとするが雷になった彼に掠ることもなく彼のウェイバーは破壊された。

エネルは履物を破壊した上で脚を掴むと、そのまま電流を流した。

 

「2000万V、放電(ヴァーリー)

 

 容赦も何もない一撃、しかしその一撃を受けてもワイパーは気絶しなかった。

電撃を浴びながら壊された破片を掴み、自分の足を掴んでいるエネルを掴んだ。

 

「ぬっ」

「ハァ、ハァッくらえ」

「ルフィ、今!」

「おう、ゴムゴムのぉー!」

 

 破片に触れた瞬間、エネルから力が抜けた。

無茶な体制のまま、ワイパーは片腕をエネルの胸へ押し付けた。

ワイパーは一撃の準備をし、ルフィも追撃を行う。

 

排撃(リジェクト)ォ!!」

「斧ー!!」

「ゴボァッ!?!?」

 

 破片――海楼石によって雷化を封じ込まれたエネルに、身体が吹き飛ぶほどの衝撃が叩き込まれた。

エネルが文字通り吹き飛んだところに、ルフィがゴムの能力を活用した強烈な踵落としを食らわせ、地面へめり込ませた。

 

「――っ」

 

 反動もすさまじい死力の一撃を放ったワイパーは、膝をつき、倒れた。

意識は失っていないが、もう動くことも出来ないだろう。

 普通ならこれで終わっている。――だが、覇気を振りまきながら稲妻の音が聞こえた。

 

「まだ、だァ!」

 

 雷速で起き上がったエネルから鳴り響く稲妻の音も規模も大きくなっていく。

エネルを中心に鳴り響く雷鳴は、音と共にエネルギーも増大していく。

 

「MAX2億V!!〝雷帝(グロウズ)〟!!」

 

 現れたのは巨大な雷の巨人。

元々技名は雷神だったが、エネルの内心の変化により名前も姿も少し変化していた。

所謂福の神の様なふくよかな巨人だったそれは、戦闘用にシャープに、しかし内包する雷はもっと高威力にと密度を高められている。

気絶しない為に歯を食いしばり、大声を上げながらの大技の発動。そんな状態になりながらも、ルフィへの対策は忘れない。持っていた金の棒が溶け、黄金の棘グローブへと変化した。

 

「くたばれぇえええ!!!」

「やべっ」

 

 雷速で放たれようとするトゲトゲの超高熱の塊。ルフィが受け止められるはずはなく、踵落としの直後で体制が整っていない彼に避けられるはずもない。

文字通り絶体絶命のピンチ。しかし、そこに冷静な少女の声が割り込んだ。

 

「――こうなるって、分かってた(・・・・・)

 

 雷帝が出来上がるよりも少し前、起き上がったエネルに対し、軽い金属音が響いていた。

雷鳴によって掻き消えていた音に、そしてミサカが何を(・・)見ていたか、激昂していたエネルは気づかなかった。

 

超電磁砲(レールガン)、八連」

 

 宙に磁力の砲身を複数作り出し、コインを散らし――手で払うようにして全弾撃ち出した。

覇気を含んだ、青白い閃光となった八つの弾丸(コイン)は、エネルのグローブを砕き、巨大化したエネルへ命中、吹き飛ばした。

エネルは何度もバウンドしながら、最後は壁に激突し……気絶した。

 

「…………ハァ~~」

 

 気絶したことを確認すると、ミサカは頭を押さえて座り込んだ。

本気の全力で見聞色を使用した代償である。自身で得た情報量に対し、処理能力が追い付かないとこうなるのだ。

 

「ニシシ、死ぬかと思った。サンキューなミサカ」

「ん、ちょっと休も?」

「おう。あ、黄金どこにあんだろ?アイツ起こして聞かないとなー」

 

 暫く呑気な会話が続いたのは、ルフィの気質のおかげだろう。

 

(……よかった、間に合って)

 

 笑顔のルフィを見て、少し安心する。

ミサカが見た(・・)最悪の結果として、ルフィの無残な姿も浮かんだのだ。

彼が笑っているだけでも十分、ミサカとしては上等な戦果だった。

 




 グロウズ…ロシア語で恐ろしいという意味を持つ、グロズヌイという単語をちょっと拝借しました。

 ※今は書けていますが、基本更新は不定期です。書くのも基本夜ですし、投稿できるのは0時ごろ、(多分世間的には深夜?)です。朝昼夕、時折晩は仕事なので。12月からは忙しくなりますので、更新速度はあまり期待しないでください。
尚、深夜テンションで書くのは()しいですので、忙しくても書かないとは言いません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 方舟マクシム

オリジナル展開です。


 真っ暗な闇の中、自身が気絶したのだと男……エネルは悟った。

夢、白昼夢のような現実感のない夢だ。

サバイバル最終戦を戦っている過去の自身を、彼は客観的に見ていた。

 

「いい攻撃を喰らってしまったな、ヤハハ」

 

 笑おうとするが、かなり無理な笑い方になってしまった。

こうなった原因として、そもそも電撃を受けて破片を掴んだワイパーが発端だった。

意識を半分飛ばしながら破片を掴んだのは、正しく執念の成したことだ。

エネルを倒す、ただそれだけを考えていた彼の行動は、事実エネルを敗北へ追いやった。

 

「麦わらの男、ゴムも天敵だった」

 

 エネルの技の殆どは電撃だ。電熱や黄金のみで倒すには少し技に精度と練度が欠けていた。

心網を使えない青海人に、槍で掠り傷しか付けられなかった自分に憤慨する。

 

「修業不足、というわけか?神足りえたと思って、多少慢心があったのは否めんか……」

 

 自分に斬り傷を負わせたあの三刀流の剣士の様な技のキレ(・・)、あそこまでとは言わないが、せめてそれなりのモノが必要だったのだ。

自然系(ロギア)の力を手に入れてから、攻撃が大味なものばかり使っていたのも、理由の一つかもしれない。

 

「……ミサカ。貴様にもっと早く出会っていたらなぁ」

 

 慢心などせず、きっともっと修練を積んだだろうに。

彼女との出会いの時期を残念に思う。

神の船、方舟マクシムが出来上がってから自分が神足りえていないと自覚することになるなんて、何たることだろうか。

滑稽で嗤えて来る。

 

「最後、貴様はいったい()を見ていた?」

 

 エネルが立ち上がるより早く行動していなければ、あの技は放てまい。

放てたとしても、とっさでは一発か二発が限界のはずだ。

ワイパーとルフィの攻撃は見事なもので、実際エネルは一瞬意識が飛んでいた。

誰が見てもエネルの負けを予感した中、少女だけが次の技を用意していた。

 

「………ん?そろそろか」

 

 暗闇が晴れていく。意識が戻ろうとしているのだろう。

 さて、起きた自分はいったいどうなっているのだろうか?

ワイパー達に海楼石で能力を封じられ、磔にされているかもしれない。

アッパーヤードを神から奪い取り神隊を無理矢理酷使したのだ、空島の住人達から報復として拷問を受けるかもしれない。

海賊たちは死のゲームへ強制参加させたのだし、恨みくらいあるだろう。

 碌な扱いは受けないな、と自分の結末を想像して苦笑する。

しかしずっと寝てはいられない。なぜなら彼は神になる男……神になりたいだけの、人間なのだから。

 

 

―――

 

 

 ペシペシと軽い音がしていた。

軽い衝撃が頬を叩いており、叩かれているエネルがゆっくり目を開けた。

どうやら場所は大きく移動していないらしい。屋根のある遺跡の一つで、寝かされていた。

 

「お、起きた!」

「…――なにを、している?」

「あ?何って、お前を起こしてたんだよ。だってお前しか知らねぇんだろ、黄金の場所!」

 

 ニシシと軽快に笑う麦わら帽子が似合っているゴムの男――ルフィが、横になったエネルを座ったまま見下ろしていた。

身体を確認すると、治療が施されていた。少し探れば小動物がいそいそと忙しなく動いている。

 

「……あの小動物は、なんだ?」

「チョッパーのことか?うちの船医だ!」

「そうか……私は、貴様らに救われたわけか」

 

 巻くかれているのは包帯で、身体からは薬の匂いがしている。枷の一つもなく、エネルを縛るものは何もなかった。

 

「ヤハハ、青海の男よ、なぜこんなことをした?」

「?」

 

 なんのことだ、と首を傾げるルフィ。

エネルは神の島を奪い取った悪党で、自分は神なんだと高を括った愚か者で、この空島には自身を恨んでいる者が大勢いるというのに……なぜ、そんな奴を治療したのだ?

そう告げると、ルフィはポカンとした表情を浮かべた。

 

「何言ってんだ、お前?」

「なに?」

「悪いことしたって言われてもなぁ、俺らも悪党、海賊だし」

 

 やりたいことをやって、したいことをして、欲しいものを奪い取る。

それが自分たちなのだと、ルフィは語った。

 

「貴様の、やりたいこと?お前はいったい、何を求めて空島に来たというのだ」

「いやー、大冒険の匂いがしてな!」

「……は?」

 

 話がかみ合っているようなあってないような、そんな返答にエネルが理解不能なモノを見る目でルフィを見つめる。

そんな彼らに、仕方ないという様子でナミやゾロ、ロビンにミサカが口を挟んだ。

 

「そいつはそういう奴なのよ。基本な~んにも考えてないの」

「本能で生きてるからな、ルフィは」

「剣士さんがいうと説得力あるわね」

「うん、ゾロも本能強い気はする」

 

 さっきまで殺し合っていた仲だというのに、まるで親しい相手に話しかけるような一味を見て、やはり意味不明だとエネルはため息をついた。

 

「ヤハハ……不可思議、不遜、不届きだな」

「どういう意味だ?」

「訳が分からん、ということだ」

 

 エネルは考えることを放棄した。

それでも強いて言えば、きっと巡り合わせという奴なのかもしれない。

諦めたように力を抜くエネルに、ルフィはきらきらとした笑みを近づけた。

 

「それで、勝者には黄金って話だったよな!?」

「……あぁ、そんなことを言ったな。忘れてはおらん」

「ってことは、あるのね黄金!!」

 

 ナミの活力が増し、不思議と瞳に金のマークが見えた気がした。

きっと気のせいだろうと思いつつ、その言葉にエネルは頷いた。

 

「あぁくれてやる。私はまだまだ神に至らん、未熟者だ。そうなればアレは過ぎたるモノだからな」

「アレ?」

「……方舟マクシム、私は神として天上に昇る為にその船を造らせていた。黄金は雷をよく通すからな」

 

 エネルの言葉を全く理解できていない一同。

見せた方が早いし、口で言っても信じないだろう。

 付いてこい、そう言ってエネルは立ち上がった。

チョッパーはけが人を見るため残ったが、黄金を持ってくるというと目を輝かせて行きたがっていた。

 

「……怪我は、大丈夫?」

「ヤハハ、貴様がトドメだったというのに、不思議なことを言う」

「アレくらいしないと、貴方は止まらないと思った」

「そうか……貴様にとって、アレは全力だったか?」

 

 このサバイバルの中、結局傷一つ負っていない完全勝利者(パーフェクト)なミサカに問いかける。

彼女は何の表情の変化も見せず、淡々と告げた。

 

あの状況(・・・・)で出来る、私の本気で全力だった」

 

 その言葉が、やはり自分は未だ神と名乗るに程遠いのだと、自覚せざるを得ない決定的一言だった。

 

「やれやれ、世界は広いな」

「ししし、当たり前だろ?この世界にゃもっと面白い場所があって、お宝が眠ってるんだぞ?」

 

 ワクワクするよなぁ!とルフィが同意を求めてくる。

彼にとってサバイバルは本当に命を賭けた、文字通り『ゲーム』だったのだろう。

エネルは自分と同じ悪党だが、ゲームの主催者であり、こうして勝利者にきちんと報酬を与えるオーナーに思えていた。

 だからこそ、彼はエネルを治療し、こうして隣を歩いている。

 

「―ついたぞ」

 

 とある洞窟、その奥にある広間にそれは鎮座していた。

黄金を使った空飛ぶ船、方舟マクシム。

麦わらの一味がソレを見て、驚きの声を上げた。

 

「すっげぇ、なんだこれ?船か??」

「ヤハハ、そうだ。方舟マクシム。私はこれで空高い大地へと行こうと思っていた」

「この装飾の顔みたいなの、全部黄金なの……!?」

「それだけではない。動力は雷、つまり私であり、それを伝えるための黄金だ」

「つまり……この船を飛ばす機構そのものが、黄金というわけね」

 

 その通り、ロビンの言葉に頷いて見せるとナミのテンションが爆上がりした。

だが、ルフィがふと気づいたことを述べる。

 

「でもいいのか?これから黄金貰っちまうと、お前もうその大地(ヴァース)ってとこに行けねぇんじゃねぇか?」

「ちょっと、ルフィ!!」

 

 ナミが余計なことを言い出したルフィを止めようとするが、片手を振ってよいよいとエネルが止めた。

 

「未熟も未熟、そう貴様らと空島の連中に気付かされた。私は未だ神ではない、ならば神がいるべき大地に足を踏み入れるわけにはいかん」

「神ってなんだよ?」

「頂点に君臨する者だ……貴様が目指す海賊王というのが青海の大いなる王ならば、神とは全人類より強く偉大な者だ」

 

 しかし、ミサカはともかく心網すら使えない者たちに後れを取ったのだ。

流石のエネルもプライドが傷つけられていた。

 

「ふーん……ん?!いや、一番偉大なのは海の王様!海賊王だからな!!」

「ヤハハ、となるならば、それ(・・)がお前にとっての神なのだろうよ」

 

 海賊王が神より下に聞こえたのが気にくわなかったのか、食って掛かるように訂正させるルフィ。

 

「いやいや、ちげーから。海賊王は、海賊王。神様じゃねーよ」

「では……貴様にとっての神とは、一体なんだ?」

「神だろ?神っつぅんならそうだなぁ。大変そうで窮屈そうなやつだな」

「大変で、窮屈そう?」

「だって奪ったり与えたり、なんかごちゃごちゃした話が多かったりしてよ」

 

 神話とか苦手なんだよ、と渋い顔をするルフィ。

長い御伽噺や頭を使うような物語は、ルフィの苦手とすることだった。

 

「俺はもっと自由にやりてぇ!で、海賊王ってのは世界で一番自由な奴なんだ!だから俺は、海賊王になる!!」

「ヤハハ……そうか、自由か。神は、大変で窮屈、か」

 

 言われてみれば、神は天上の大地に、人は青海の大地に、空は飛ぶ動物に、なんて棲み分けを一々考えて居たり、自由とは言い難いかもしれない。

 

「まぁでもいいんじゃねぇか?」

「?」

「誰より凄くて強ぇんなら、何だってできそうだしな!」

 

 神は神で楽しいかもしれねぇぞ?と笑うルフィ。

 

「何でもできる、か。大変で窮屈なのにか?」

「おう。気に入らねぇなら、自由の神様でもやりゃぁいいんじゃねぇか?」

「ヤハハ、いっていることが滅茶苦茶だな貴様は!」

 

 大変で窮屈な存在、自由とは相反するだろうにそうなればいいとは、いったい何を言いたいのだろうかこの男は。

こんなことをのたまうコイツは、一体これから何を成し、何をしでかすのだろうか。

自由を掲げる男の先を、思わずエネルは想像してしまった。

 

「……貴様は楽しそうだな」

「お前だって楽しそうだったじゃねぇか」

「私が?」

「あぁ、さっきの戦い、おめぇ笑ってたぞ?」

 

 ――子供みたいに、笑いながら倒れたんだぞ?

 

 その言葉に動揺するエネル。

ゴロゴロの実を口にしてからというもの、戦いは退屈でしかなかったというのに、笑っていたのだという。

 

「そうか、私は笑っていたか」

「おう! あ、そうだ黄金結局どうすんだ?とっちまっていいのか?」

「あぁ構わん。貴様の好きにするといい」

「そっか」

「……エネル、貴方これからどうするの?」

 

 暫く船長の会話を邪魔しないようにと下がっていたミサカが、エネルへ問いかける。

ワイパー達はエネルの存在を許容しないだろう。神隊の連中も解放したため、エネルの味方はいない。神官どもは忠実ではあったが、敗北してしまった。

 

「そうだな……やることなど、鍛錬や、世界でも見て回るくらいだな」

「一人で?」

「ヤハハ、まぁ仕方あるまい。好き勝手やったのだ、多少の不便は受け入れる」

 

 以前のエネルならば絶対に出てこないような言葉が出ていた。

こうもスラスラと自分の非を認めるなど、過去の自分にはありえなかっただろうと苦笑を浮かべる。

そんなエネルに、――ルフィが爆弾を落とした。

 

 

「だったら一緒に来りゃいいじゃねぇか」

 

 

 一瞬、間が開いた。

そして深呼吸をして、ナミが声を上げた。

ゾロは大声で笑った、ルフィのいかれ具合は知っていたつもりだったが、この問題児はそれを上回ってくる。

 

「ちょ、ルフィ本気!?っていうか正気アンタ!?」

「だってコイツ悪党だけど、そこまで悪い奴じゃねぇって。それに神になるって本気で言ってんだぞ?面白いだろ!」

 

 ニシシと笑う麦わら帽子の男に、ナミは絶句していた。

 

「海賊王の船員(クルー)に神がいるんだぞ?すげぇし面白いだろ!」

「アンタはねぇ……もう」

「……貴様は、何を言っている?」

 

 絶句していたのはナミだけではない。エネルも同様に、驚愕を隠せないでいた。

 

「ん?いや、だから仲間に成れって!お前神になるんだろ?ゾロは世界一の大剣豪、俺は海賊王!世界一が三人もいるんだ、すげぇことになるぞ!!」

 

 世界一が三人とか訳の分からないワードをのたまう男は、しかし本気だった。

 

「はぁ。ルフィが言い出したら止まらないわ、もうしーらない」

「まぁ好きにしな。俺は船長命令にゃ従う」

「ふふふ、騒がしくなりそうね」

 

 ナミは降参と両手を上げ、ゾロは不敵に笑った。

ロビンに至っては決定事項だと悟りこれからを想像した。

そして、ミサカは……。

 

「わたしも、一人で回るくらいなら、一緒に居た方がいいと思う」

「なぜ……?」

「だって、貴方」

 

 ――最初にあったとき、寂しそうだったもの。

 

「……ヤハ、ヤハハハハハハ!!!寂しそう、私がか!?」

「うん、誰も隣り合う人が居なくて、一緒にいて欲しい人が居なくて、欲が叶ったら空っぽになっちゃいそうな、そんな人」

 

 そう、過去に全部を失って、復讐して抜け殻になって拾われた、どこかの誰かさん(・・・・・・・・)のようで、ミサカは放っておけなかった。

故に、手放さないように軽く手を握って、背の高い彼を見つめ誘う。

 

「一緒に行こ?」

「……只人に望まれては、叶えるしかあるまい。私は、神になる男だからな」

 

 空島、黄金を手に入れたその日……麦わらの一味に新たな船員が加わった。

 

「ニシシ、じゃぁ今日は宴だな!黄金に船員追加!それに――あ、そうだ鐘!?」

 

 ルフィは思い出した様に辺りを見渡す。

鐘、鐘!と探し回るが、目的のモノは無い。

 

「何だ?どうした?」

「この空島に大きな金の鐘楼があるはずなの。見ていないかしら?」

「金の鐘楼……? そんなものは……いや、まて」

 

 400年前、アッパーヤードが降ってきた際、島から奇麗な音色が鳴ったという。

島の歌声などと過去の空島の住人は揶揄したようだが、きっとそれだとエネルは指摘した。

 

「だが、空島中を探すとなると少し面倒だな……マクシムを起動させたとして、上空から見つかるかどうか」

「……いえ、そういうことね」

 

 ロビンが少し考え、一つの方向を指さした。

巨大豆蔓(ジャイアントジャック)、その頂き。

 

「大鐘楼は元々黄金郷の中心部にあった、そしてその場所にはあの巨大豆蔓(ジャイアントジャック)……あるとしたら、あの上でしょうね」

「よーし!じゃぁ登るか!」

「ちょ、ルフィ何言ってんのよ!倒れてるって言ってもゲリラの連中だっているのよ!?」

「ぬぐっじゃぁどうすんだよ」

「ウェイバーでも使って一気に抜けるしかないでしょ……」

「いや、丁度いいのがあるぞ」

 

 全員が疑問符を浮かべている。さっきのエネルの説明を忘れているようだ。

 

 

「マクシムは空飛ぶ船だ。あの蔓の頂程度、飛んで見せようじゃないか」

 

 

 そういうと、エネルは放電した。

最初で最後の飛行となるその船は、未来の海賊王とその船員を乗せて空を舞う。

 

「すっげぇええ~~~!!」

「め、滅茶苦茶よ……こんなのが浮くなんて、自然系の能力者って疲れを知らないの?!」

 

 何物にも邪魔されず空を飛ぶ船を体験し、全員が驚き、感心した。

 

「もうコイツでいいんじゃねぇか?」

「でも、飛ぶにはエネルじゃないとむりだから、船長はエネルになっちゃうよ?」

「船長は俺だ!!!」

 

 マクシムの機構を知らないミサカには、電流を流すことはできても操作は難しい。なにより、この船には帆が無く海賊旗を掲げるのも不便である。

それを聞いたゾロは「なら仕方ない」、と諦めて空中浮遊を楽しみながら昼寝を始めた。

 暫く空を探索していると、蔓の近くにそれを発見した。

 ロビンが能力で近くに『瞳』を出現させ、大鐘楼である証拠の古代文字を発見。

その文字をノートに書き写しながら、ふと別の所にも古代文字を発見して驚く。

 

(我ここに至り、この文を最果てへと導く……海賊、ゴール・D・ロジャー!?)

 

 海賊王が空島に来たことがあり、しかも滅んだ文明の文字を扱える。

その事実に驚いていると、横でナミが鐘を鳴らす方法を考えていた。

 

「アレね。どうやって鳴らそうかしら」

「ニシシ、んなもん決まってんだろ!!ゴムゴムのぉ~~!!」

「え、ちょっとルフィ!?」

(ピストル)!!!」

 

 腕を伸ばしたルフィは、拳で鐘を思いっきり殴った。

浮島に引っかかっていただけだった鐘は、奇麗な音を鳴り響かせながら衝撃で落ちていった。

 

「アンタはホント何やってんのよ!?あんな黄金の塊を落としちゃうなんてぇぇええ!!」

「ニシシ、やべぇな!逃げよう!」

「……エネル、お願い」

「やれやれ、仕方あるまい」

 

 落ちた先ではワイパー達が何やら騒いでいた。

エネルに頼み、チョッパーを雷速で回収してきてもらう。

 

「え、エネル!?貴様一体――ハッ鐘は渡さんぞ!!」

「フン、それに用はない。……おい」

「へ、え?えぇ?!」

 

 ゲリラたちを無視してひょいっとチョッパーをつまみ上げる。

 

「では、さらばだ」

 

 エネルが去った後も、彼らは驚いたまま固まっていたという。

こうして空島から神・エネルという存在は消えることとなった。

 

「鐘鳴らしたし、黄金船奪った!撤収だ野郎ども~~~!!」

 

 ルフィの声に賛同し、GM号の所へ船を飛ばさせる。

大きさからしてマクシムの方が大きい。このまま降りるためにもGM号をマクシムの上へ乗せるため、一度雲を通過し、GM号の真下へ潜り込んだ。

 

「船に船が乗っちゃってる……」

「しかも飛んでるぜオイ」

 

 ナミが呆れ、GM号に待機していたウソップがツッコんだ。

そのまま下へ下へと降りていくと、道中でコニスとパガヤに出会う。

手を振って別れの挨拶を済ませると、麦わらの一味はそのまま空島を去っていった。

 暫く降下していると、一行は何やら違和感に気付く。

 

「ん?おい、なんか落ちる速度加速してないか……?」

「ふむ……どうやら空島では使えていた(ダイアル)がいくつか使えないようだ。マクシムの回路に異常をきたしている」

「つ、つまり?」

「堕ちる」

 

 「「「「「「ギャァァァアアアアアア!!!???」」」」」」

 

「っっ」

 

 ミサカとロビン以外の全員が叫び、落ちていく。

流石のエネルもこれは想定外だったのか、冷や汗を流して軽く叫んでいた。

 

「間に、あって!!」

 

 バジジジッッッ!!!――ミサカから強い電撃が放たれる。

それは強い磁場を生み出し、それを操るように電流を動かし――海底から砂鉄を手繰り寄せた。

 

砂鉄の膜(ブラックカーテン)反発(リフレクション)!!」

 

 船を傷つけないように、砂鉄を薄くばらまき、船へ付着させ磁力で浮かせる。

船底が真っ黒くなった船は、海底から引きあがったもう一つの砂鉄の膜と反発し合い、ゆっくり速度を落としていった。

 

「………つ、つかれた」

「アハハ、やるなぁミサカ!」

「「「命が幾つあっても足りないっっ!!!」」」

 

 大量の砂鉄を離れた場所から引っ張り上げるのは酷い労力を使うため、ぐったりするミサカ。

ミサカの頭を乱暴に撫でるルフィと、ミサカ以上に顔を青くしてぐったりさせるナミ、ウソップ、チョッパー。

ゾロは昼寝を開始し、サンジは宴の続きの為の魚を捕る準備を始めた。

 少し休憩してから、只の重しとなったマクシムから黄金を回収する作業を始める。

マクシムをバラして、黄金を乗せる小型の張りぼて船を造らなければならないほどの量を手に入れた一行は、次の島へと向かった。




空島編終了!!
エネルを仲間に引き入れた一行が次に訪れた島は、あらゆる動物がやけに長い大草原が広がる島で……。


ね、眠……zzz


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 次の島へ

 青海へと降り立った麦わらの一味は、新たな島へ向けて船を走らせる。

黄金は大量も大量、(ダイアル)という空島特有のモノも手に入れ、一味は充実していた。

そんな中、ゾロがミサカに――頭を下げていた。

 

「ぞ、ゾロ、なに?どうしたの?」

「頼みがある。俺に、覇気の使い方を教えてくれ」

「え?覇気?」

 

 戸惑うミサカに、ゾロは頼み込む。

メリー号に戻ってから、エネルを斬る時に感じた気配も、手応えも、一人では再現しきれなかった。

極限の状況で集中して発揮できた底力、しかし自分の意思で振るえないのであれば意味が無い。

 

「俺が目指してんのは、世界一の大剣豪だ。この位のこと出来て当たり前にならねぇと、んなもん夢物語で終わっちまう」

「いい、けど……」

 

 ミサカは暫し言うのを戸惑い、教えるのなら語った方がいいだろうと、少しゾロを待たせた。

他の皆も集め、メリー号の食堂で全員が揃う。

外の監視などは、一時的にロビンの能力で補ってもらった。ミサカとエネルの二人の覇気もあるのだから、これで十分と判断した。

 

「それで、話ってなんだ?」

「ん、その……覇気のことなんだけど。ゾロが身につけたいって言ってて」

 

 船長であるルフィの許しを得てから、発言を開始する。

しかし、途端にサンジが怒りの形相でゾロを睨んだ。

 

「なに!?マリモてめぇ……ミサカちゃんと個人レッスンなんざ、この俺が許すと思うか!!」

「うるせぇクソコック」

「サンジ君、ゾロもストップ!話が進まないでしょ?」

 

 睨みあう二人をナミが止める。

サンジは瞳をハートにしながらとまり、ゾロはミサカの方を向いた。

 

「えっと……教えるのは別に良いし、他にも教わりたい人が居るなら、それも構わないんだけど」

 

 ルフィが自分も自分も、と手を挙げるのをナミが落ち着けと宥める。

この一味は大人しく話を聞くということが出来ないのだ。

 

「その……私自身完璧じゃないってことを、覚えてて欲しい」

「完璧じゃない?この私の心網を完全に読み切っていただろう?」

 

 エネルと戦っていた時、ミサカは確かにエネルの動きを分かった動きをしていた。

それどころか、エネルですら見えていない何かを感じ取っていたのも事実だ。

その言葉にミサカは少し考え、説明するために自分の中で少し整理して話す。

 

「私は、過去に人攫いにあって、酷い目にあって……それのせいか、覇気を出し切ってないってレイに言われたことがある」

 

 覇気は消耗する。しかし、ミサカは戦闘で消耗して倒れたことが無い。

正確には、倒れるほど消耗したことが無いのだ。

フラフラになるほどにはなっても、戦闘は出来なくとも走る程度は出来ていた。

 

「見聞色は得意だったみたいで、そっちはあまり問題は無いんだけどね。武装色の方は、完璧じゃない」

「あれで不完全というのか?」

「うん。レイは、それでも十分なレベルだって言うけど、もったいなさそうにしてた」

 

 そんな半端者な私でもいいのか、とミサカは問うた。

海は広い。探せば自分以上の覇気使いはいるだろう。そんな人物を見つけた後でもいいんじゃないか、と。

 

「ハハ、そりゃ頼もしいな」

 

 不安そうなミサカに対し、返ってきたのは船長の明るい声だった。

 

「つまりそれって、ミサカはまだまだ強くなれるんだろ?」

「それは、そうかも……だけど」

「……私は、教えたいのなら教えればいいと思うわ。半端でも何でも、この船で二つの覇気を扱えるのは、貴女だけなんだから」

「そうね。寧ろ覇気使いが敵として出てこられると、今の私たちじゃ潰されかねないわ」

 

 ロビンとナミの言葉に、確かにそうだとミサカ以外の全員が頷いた。

 

「で、でも変な教え方になるかも、しれないよ?」

「ニシシ、いいじゃねぇか。レイってやつから教わったんだろ?じゃぁ大丈夫だって」

 

 能力と覇気、その両方が使えるミサカは海賊で言えば億、海軍で言えば中将と呼ばれる人を相手に出来るだろうと老人から太鼓判を押されていた。

事実、戦闘を避けたとはいえ、大将から逃げ切ったことすらある。

未熟だろうと不完全だろうと、ミサカという少女の持つ力は一味の中でも随一だと全員が認めていた。

 

「ミサカ、お前はどうしたいんだ?」

「私は……皆に(・・)覇気を、覚えて欲しい」

 

 全員に覚醒するわけではない。しかし、出来ることなら早く覚えて欲しい。

海賊は力がモノをいう世界だ。力ない者は淘汰され、殺されてしまう。

ミサカは麦わらの一味が好きだ。過酷な世界だが、生きて欲しい。

 

「皆に、力をつけて欲しい。ルフィたちは強いから、きっと私より強くなれるから。そうしたら――」

 

 ――きっと、誰も死なないから。

 

 力が無くて殺されてしまった家族や、先生、友達の様には、きっとならない。

ミサカの意志ある言葉を聞いて、一瞬の間が出来た。

そして、やっぱり明るい声が響いた。

 

「ハハハ!!こいつは言われちまったなルフィ?」

「にしし、あぁ」

「……全くもって、我ながら情けなくなっちまうな」

「へ?」

 

 ルフィ、ゾロ、サンジの言葉に戸惑うミサカ。

自分が何を言ったのか、自覚は無いのだろうかとエネルは呆れた視線を向けていた。

 

「お前はこの一味の中で自分が一番強いんだ、そう告げたんだぞ?」

「……あ」

「ヤハハ、まぁ事実だ。相性で言えば、私と麦わら……ルフィが同じ程度になってしまうが、大体は全員貴様より弱いだろう」

「そういうつもりじゃ……」

「どういうつもりでも、そういう意味だ。さて、じゃあどうする船長?」

「にしし!!」

 

 決まってんだろ、とルフィは挑戦的な笑顔を向けた。

 

「憶えるぞ、覇気!全員でな!!」

「いや、皆が使えるわけじゃ……」

「じゃぁ出来る奴だけでいいさ!覇気だけが強さじゃねぇし、大丈夫!」

 

 この船長の明るさがあるから、こんな調子なのだろうが、普通の海賊なら今頃ミサカは船長を含めた全員を侮辱したということで、何かしら私刑にあったとしてもおかしくはない。

しかし、この船長あってこの一味。

こうして覇気の修業を始めることとなった……レイ直伝(・・)、しかし船の上の為全てが同じ状況ではないため、ミサカアレンジで。

 

「えっと……じゃぁ取り合えずはい」

「ん?なんだこの布?」

「目隠し」

「めかくし?え、なんで?」

 

 ウソップが嫌な予感がしたのか、嘘だろう?とミサカを不安げに見つめる。

しかしミサカは当たり前のことを言うように、何時もの無表情で淡々と告げた。

 

「気配を探らないといけないから、目隠しするのは当然でしょ?」

「「「「「「「「……………」」」」」」」」

「全員一度には無理だけど、教わる人は教わる時に目隠ししてね。それで私が武装色で殴るから、避けて。素手で防いでもいいよ?」

((((((((す、スパルタだぁ……))))))))

 

 一味全員、最年少であるはずの少女がどんな修業を始める気なのか察しがついた。

ちなみに彼女曰く、この方法だと避けれなくても殴られることで、武装色の覇気を感じ取れるため、見聞色に素質が無く、武装色に素質がある者は自然と武装色で防ぐようになるという。

 

「おい、私もするのか?」

「エネルは後で。私が殴るから、避けずに頑張って防いで」

「貴様正気か?」

「?」

 

 そう言って硬化した腕を見せるミサカに対し、エネルが思わずツッコミを入れるが、彼女の修業方法はこんな感じだった。

特に見聞色が強かった彼女は、常時目隠しされていたくらいだ。と、いうことで。

 

「あ、じゃぁずっと目隠しする?」

「いや何故?」

「私生活でもずっとじゃなくていいけど、基本は見聞色で察知して。エネルの時以外の時間でも偶に殴るから、受け止める。ね?」

「方法を聞いたんじゃない。おい、こら止めろ、無理やり目隠しを巻き付けるなっ!」

 

 ちなみにこの日、覇気覚醒者はゼロだった。

 

 

―――

 

 

 そうして数日間、一味は目隠しをしてミサカに殴られるグループが出来上がった。

サンジは料理する時間があるし、ナミは航海士。それにミサカもずっと覇気を使うのは疲れてくるため、交代しつつ休憩をはさみつつといった感じだ。

覇気は一向に覚醒せず、皮肉にも打たれ強くなってきた一味はある島を発見し、そこに上陸することとなった。

 

「何もねぇ!!なんじゃここは!見渡す限り草原だ、すげぇー!!」

「なんつぅ色気のねぇ場所だよ」

「人は住んでいるのかしら……」

 

 大草原にひょろ長い木があるだけな場所。

しかし、久しぶりの大地にルフィたちのテンションが上がり、意気揚々と上陸していった。

まぁ地平線が見える程、一見すると何もないため、危険は無いだろう。

 

「というか、修業はいいの?」

「うん、大冒険も大事だから。海賊になったのに、修業三昧なんて私嫌だよ?」

「……それもそうね」

 

 ナミはつい最近ではあるが、天候を不思議と予測しやすくなっていることに気付いていた。

彼女は航海士、随時天候には気を配っているため、集中力の持続という点では一番である。つまり、日頃から辺りを認識する力を鍛えているようなもの。

そのため、いち早く覇気が覚醒しかかっているのかもしれないと、ミサカは考えていた。

 

「修業もメリハリが大事、ってレイが言ってた」

「その人のメリハリの極端さ、凄いわね……いつもこんな感じだったの?」

「いつもは、肉食獣と戦って、レイと修業して、ご飯食べて、修業して、レイがいったん帰って、私は暫く一人で戦ったり休んだりだったから。大冒険はなかったよ?」

「そう……あんた凄いわね」

「???」

 

 鬼の様な修練と、のんびり穏やかな休憩。天と地の差であるが、これをミサカは受けていたのか、とナミは思っていた。

しかし、ミサカの言葉を聞いてさらに酷かったのかとショックを受け、愕然としながらミサカを撫で始める。

ミサカはそれが日常となっていたため、なんでこんなにナミが驚いているのか全く分かっていなかった。

 

「……にしても、広いねぇ」

「そうね。アイツら、どこまで行ったのかしら?」

 

 ルフィ、ウソップ、チョッパーは一味の中でも冒険心が強い方だ。

その為、新しい場所に着くやいなや、駆け出して行ってしまった。

 心配していると、何やら背後から気配が近づいていた。

エネルが目隠しをしたまま、それを告げる。

 

「おい、何か来たぞ」

「ん?」

 

 気配だけでは何かは分からない。

しかし、複数の人の気配がある場合は十中八九船だろう。

それが海賊か海兵か、はたまた運送船なのか、そこまでは分からない。

取り合えず望遠鏡で確認すると、〝FOXY〟という文字と狐に変な鼻の髑髏マークが描かれていた。

 

「海賊だ」

「こっちに来るわっ」

「「落とすか?」」

「でも大砲を向けていないわね。なにか用なのかしら?」

 

 取り合えず攻撃しそうなゾロとエネルを止めて待っていると、メリー号よりずっと大きな船が現れた。

狐の船首のその船は、メリー号の行く手を遮るように錨をおろし、明らかにこちらの船を阻む形をとった。

 

「我々はフォクシー海賊団。我々の望みは、決闘だ」

「つまり敵だな」

「よし、斬るか」

「待て待て待て!!デービーバックファイトを申し込むといっている!!」

「「「「???」」」」

 

 ゾロ、ナミ、エネル、ミサカが揃って首を傾げる。

こいつらは何を言っているんだろうか?

 

「喧嘩、しにきたんじゃないの?」

「黄金を奪いに来たんじゃないのか?」

「デービーバックファイトは、海賊のゲームだ。まぁ、うちの一味は知らない奴おおいわな」

 

 サンジがそういうのも仕方ない。

ゾロは海賊狩りだったし、ナミは海賊専門の泥棒だった。ミサカはそもそも海賊という存在を教わっただけで、実際麦わら以外の海賊で知っているのはベラミー一味くらいだ。

エネルは最近まで神をやっていたため、そもそも海賊のことなどミサカ以上に知るはずもない。

 

「海賊島っていう場所で生まれたっていうゲームね。より優れた船乗りを手に入れるために、海賊が海賊を奪い合ったというわ」

「へぇ。ロビンって何でも知ってるね」

「さっすがロビンちゃん!あ、皆さん、ジュースをどうぞ」

 

 サンジがさっと飲み物を用意し、女性にだけ配った。

 

「おい、私の分は無いのか?」

「野郎は自分で取りに行け。俺は男に優しくする趣味はねぇ」

「ふむ……自分で飲み物を注ぐなど、考えれば初めてだな。」

「……おかしいだろお前」

「ヤハハ、最近は分からないと、ミサカがやってくれていたからな。おい注ぎ方を教えろ」

「ハァ。しょうがねぇ、機材を壊されちゃ敵わねぇからな。っていうか、もうミサカちゃんに迷惑かけんじゃねぇぞ!!自分でやり方覚えろ!!」

 

 ぶつくさ言いながら、サンジとエネルが船の中へ消えていく。

取り敢えず、今は向こうの船長がルフィに決闘を挑みに行っているらしい。

3コインゲームと言って、3本勝負のゲームらしい。

 

「あールフィなら受けそう……」

「まぁアイツなら挑発されりゃ受けるだろうな」

「それじゃあ準備しておいた方がいいわね」

 

 腹ごしらえと昼寝を今のうちにしておこうと、麦わらの一味は船へ戻る。

と、部屋に戻る前にゾロが一言、フォクシー海賊団へ告げた。

 

「あぁそうだお前ら」

「「「「「?」」」」」

「今から船に戻るが、監視がねぇ訳じゃねぇ……勝手なことしてみろ、ゲームの前に潰すぞ」

「「「「「りょ、了解しましたァ!!!」」」」」

 

 ゾロの鬼のような威圧と形相にビビったフォクシー海賊団は一斉に敬礼をした。

……これからゲームという名の戦いをするのに、こんな調子で大丈夫なのだろうか?

多少不安に思いつつ、戻ってきたルフィたちはやっぱり決闘を受け入れていた。

 

 こうして、フォクシー海賊団との三本勝負が開催されることとなった。




 エネルは暫く目隠ししてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 デービーバックファイト

 ゲームを受けることになったが、直ぐにゲーム開始というわけではなかった。

フォクシー海賊団はいくつもテントを張り、露店を開きだしたのだ。まるで祭りの様に騒ぎ出す彼らに、ルフィたちも一緒に騒ぎ出す。

 

「うはー、なんか楽しいことになってきたなー」

「多いなー」

「焼きそば二つ」

「おっさん何買ってんだ!?」

 

 ルフィたちが島で出会ったという、おじいさんと首も足も長い馬。

彼らはフォクシー海賊団に馬を撃たれたらしく、馬は台車に乗っているようだ。

 

「また、変なのに出会ってきたわねアイツら」

「まぁ、ルフィだから」

 

 そんなこんな過ごしながら、オーソドックスルールで行われるゲームに参加するものを決める。

最初はレース、次にチーム戦である球技、締めに一対一の決闘。

最後以外は三人で参加する形となるらしく、参加メンバーを決めることになった。

 

「お、おれはレースに出てはいけない病で……」

「まさか、か弱い私に出ろなんて言うんじゃないわよね!?」

 

 と、ウソップとナミが断固拒否したので仕方なく残りメンバーを采配することに。

 

「戦闘はおれが行くぞ」

「俺に任せろ、足がウズウズしてんだ!」

「ヤハハ、青海の海賊の実力、見せてもらおうか」

「おれもやりてぇぞ!?」

「船長なんだから、最後の決闘でいいだろ」

「おぉ!なるほどな!」

 

 そんなわけでやる気満々のゾロ、サンジ、エネルがチーム戦になり、ルフィが締め。

残りであるロビン、チョッパー、ミサカの三人がレースに出場することになった。

 『ドーナツレース』と呼ばれるボートレースであり、三つの樽とオール二本を使ってボートを造らなければいけない、のだが。

 

「……ウソップ、これ」

「すまん、しかしこれが限界だ。俺は船大工じゃねぇんだ」

 

 ボートを造るのは誰でもいいということらしく、参加しないウソップとナミに作ってもらった。といっても、ナミはそこら辺の知識は皆無の為ウソップの手伝いをしただけだが。

結果造ってもらえたのは樽を割って連接し、どうにか三人乗れるだけの超簡易ボート。

 

「沈みそうだ……」

「きっと沈むわ」

「全員能力者だから、沈んだら大変」

 

 気合入れてレースに臨むことになった三人の相手は、魚が引っ張るちゃんとしたボートだった。しかも魚人まで乗っている。

部品ではなく生物な魚は使っていいとかいう、おかしな理論を使われそのままレースを開始することになった。

島を一周するが、一応島から離れすぎないように永久指針(エターナルポース)を渡される。

決められた方角を示すこれを持っておけば、もし波にあって逸れても問題なく元の場所に戻れるだろう。

 

「……ん、二人とも樽に掴まった方がいい」

「え?」

「あぁ、そういうことね」

 

 チョッパーが進むためにオールを持っていたが、それを止める。

ミサカはフォクシー海賊団がこちらを狙っている気配を感じとっていた。

一人や二人ではなく、岸側にいる者たち全員だ。

 

『レディ~~~――ドーナツ!!』

 

 開始の合図と同時に、狙っていた人たちから砲撃が放たれる。

しかし分かっていた攻撃を受ける程優しくはない。

強い電流を操り、磁界を生み出し弾道を曲げ――相手のボートへと向かわせた。

 

磁界誘導(マグネティックロード)

「「「え――ぎゃぁあああああ!!!!」」」

『おぉっと、我等の砲弾が先を走っていた、キューティーワゴンに向かっていったぁ!!』

 

 キューティワゴンというのは、相手が乗っているボートのことだ。

サメが必死に避けていたが、繋いでいた縄が切れてしまったらしく彼らはこれからオールで漕ぐこととなってしまった。

鉄では邪魔できないと判断したのだろう、今度は大岩を投げてきた。

 

「邪魔」

 

 殴り返してもいいのだが、足場が不安定過ぎるため自粛し……覇気を乗せた雷撃で粉砕する。

 

『こ、これはすさまじい!流石1億5千万は伊達じゃなかったぁ!!』

「お、おのれ!魚人空手――海面割り!!」

 

 鋭い衝撃波が海面を奔り、ミサカたちを襲ってきた。

確かに海面が割れているように見えるが、それは表面上だけ。 

 

超電磁砲(レールガン)

「「「ぎゃあああああああ!!!」」」

 

 相手の空手より威力のあるコインは、凄まじい衝撃波を生んでそのまま相手のボートを欠けさせた。

 

「ねぇ、妨害有りならもう沈めた方がいいんじゃないかしら?」

「それもそうだね」

八輪咲き(オーチョフルール)

磁力球(マグネボール)……落下」

 

 ロビンが三人の動きを封じ、岸の近くにいた者たちから銃や弾丸、砲弾等を集め、彼らの上に一塊にする。

それを……三人に向けて勢いよく落とした。

 

『えー……キューティワゴン沈没!』

「………二人とも、容赦ねぇな」

「チョッパー、仲間掛かってるんだから当たり前」

 

 敵が沈没したので、そのまま自動勝利となりボートを降りる。

相手が何が欲しいかと聞いてきた。

人ではなくてもいい、思いつかないなら何でもいいというので、暫し考えて思いついたことが一つあった。

 

「あ、私着るものが幾らか欲しい」

「「あぁ……そういえば」」

 

 今日までずっとナミやロビンの衣服を借りていたのを思い出し、女性服を所望した。

ナミもロビンも貸すのが当たり前になっていたせいで、一瞬思い出すのに時間がかかっていた。

服をありったけ貰い、あとで丈を直さなければと思いながらメリー号に積んでおく。

 

「そうだ、エネル」

「ん?」

「お疲れ様、ありがとね」

「ヤハハ、なんのことだ?私は何もしていないぞ?」

「次、頑張って」

「フン……まぁ見て居ろ」

 

 何かしようとしていたフォクシー海賊団の船長を威圧して止めていたエネルに感謝する。

実際何かされる前にレースが終わったため、彼は何もしていないと恩を着ることもなく、エールを受け取ってくれた。

目隠しをしたままのエネルはミサカへ手を振り、しっかりとした足取りで次の試合が開かれる場所へと歩いて行った。

 

 次の試合はグロッキーリング。

サッカーの様に球をゴールに入れた方が勝ち。しかし、()はボールではなく人間。

両チームから一名、球の役割の人間を選ぶこととなった。

 

「ヤハハ、ボール役は私がやろう」

「いいのか?」

「なに、一番狙われるのだろう?奴らの実力を測るのには、丁度いい役だ」

 

 そう言って球役の帽子を被るエネル。

神を名乗っていた時代なら絶対あり得ないことだが、これはこれで新鮮だと本人は楽し気である。

 対する敵役は、三人よりも数mは大きな人間二人と、10m以上はありそうな魚人と巨人のハーフ。

ボールの目印は魚巨人が被っており、一見すればこちらに勝ち目は無いように見える。

 

『あ、武器の持ち込みは禁止よ!これは球技なんだから!』

「ん?そうなのか……ま、別にどっちでも構わねぇが」

「ふむ、まぁいいだろう」

 

 そう言って刀と黄金の棒をミサカに預ける二人。

 

「えっと、何で二人とも私に……?」

「「ある意味一番安心できるからな」」

「??」

 

 ロビンはしっかりしているように見えて自分のモノ以外は管理が甘いし、ナミに黄金の棒なんて渡したら無くす(・・・)かもしれない。

黄金そのものは船にあるから今は構わないが、一々造るのも面倒だった。

ルフィに管理なんて論外だし、ウソップに持たせるには少々心もとない。チョッパーは船医であり、何かあったら役割を果たしてもらう必要があった。

 そして、試合開始される直前になってエネルが一言。

 

「あぁそうだ、私は攻撃せんぞ。役目からして、そうした方がよかろう?」

 

 そう言って、後方へ下がるエネル。

 

「オイ待て、お前がこっちのゴールに叩き込まれりゃ終わりなんだぞ!?避けんのはいいが、下がるな!」

「たくっしょうがねぇ!クソコック、とっととケリつけるぞ!!」

「言われなくてもそのつもりだクソマリモ!!」

 

 駆け出した二人に対し、タックルをかましてくる相手チーム。

巨漢なため、一人で二人を叩き飛ばすのに十分な身体の大きさがあった。

 

「やるどー!!」

 

 まるで壁の様なタックル。

しかし、それをみて冷静になる二人。理由など単純明快である。

 

「何だかなぁ……すっごい不本意なんだがっ」

「あぁ……ミサカちゃんには悪いんだがっ」

 

 グッと足を踏みしめ、身体を固定した。

思い出すのは少女の小さな拳。しかし、彼女は頑丈だからという理由でルフィ、ゾロ、サンジの三人には余り手加減をしてくれなかった。

危機感が無いと覇気の力を発揮しにくい、という理由だったから文句を言うのは止めたのだが……あの威力を知っている身として、勢いだけのタックルは二人に脅威とは感じられなかった。

 

「「ふんっ!!!」」

「ど!?」

 

 ゾロが両手で、サンジが片足でタックルを受け止めた。

それだけに留まらず、サンジは踏み台に使い、巨魚人の元へ走った。

サンジが行った直後、ゾロは大男を掴み、もう一人の方へ投げ飛ばすことで邪魔をする。

 

首肉(コリエ)―」

「ん?ああ」

 

 一気に終わらせるつもりのサンジは、そのまま魚巨人の首を狙いに行く。

しかし魚巨人が緩く拳を放ち、避けたついでに彼の腕へ乗ってしまう。

 

「って、なんだコイツの皮膚!?ぬるぬるする!!」

 

 彼はドジョウの魚人を親に持つため、その皮膚はぬるぬるしている。

そのため、サンジは懸命に走るも前に進まない。

 

「バカ、何してんだお前!?」

「あぁ!?誰がバカだマリモ野郎!!」

「イイから降りろ!!」

「うぉー!」

「ッ」

 

 魚巨人のパンチは、見かけ以上に力を持っている。

ギリギリ反応し直撃は避けたサンジだったが、そのまま真横を吹っ飛んでしまう。

 

「隙ありだぁー!」

「ぷぷぷ!」

 

 軽傷の二人の大男は立ち直り、エネルの元へと向かう。

目隠しをしたままの彼は腕を組んだまま立っているだけだ。

 

心網(マントラ)

「ぷ!?」

「い!?」

 

 しかし、当たり前のように彼らの攻撃がエネルにあたることはない。

軽く足を引っかけ、タックルしてきた二人を転ばせ、遊びだした。

 

「ヤハハ、ボールである私に蹴られてどうする?」

「このっ」

「ぷぷっ」

 

 起き上がった二人は、何やらこそこそと弄りだした。

肩パットの仕掛けを発動させ、トゲ付きにした上に、もう一人はメリケンサックを着けている。

 

「オイ、武器はルール違反だろ!?」

 

 サンジがそうツッコむも、向こうの審判は後ろを向いてストレッチをしていた。

 

「まぁ落ち着けコックよ。お前らはボールをさっさとゴールさせろ」

「おい、いいのか?」

「クソコック、その二人の相手はそいつに任せろ……見たところ、あの二人じゃ触れることすら不可能だ」

 

 エネルの実力が骨身に染みているゾロが事実を口にすると、挑発だと思い頭にきた相手チームの猛攻が始まった。

しかし、全てエネルに避けられてしまう。

 

「な?」

「あれが見聞色ってやつか……」

 

 ミサカが修業前に何度か見せてくれたが、あぁやって殺意ある攻撃を避けているのを間近に見ると、その力がよく分かる。

特にサンジはそもそもエネルと戦ったことが無いため、彼の力は自然系であり見聞色が使える、程度のことしか分かっていなかった。

 

「ふむ、青海の海賊、思ったよりつまらんな。これならワイパー達の方がよっぽど手強かったぞ?」

 

 言っては何だが、400年もの間戦い続けてきた部族と一般的な海賊を一緒にしない方がいい。

特に空島の彼らは対エネル用に考え、研鑽していたのだから、比べる相手を間違えている。

 

「何だアイツ!?くそ、手助けする気はなかったが……こうなっては仕方がない!!」

 

 外野にいたフォクシー海賊団の船長が、エネルへ手を向けた。

目隠しをしているエネルは、何かしてくるという敵意は感じても何をしようとしているのかは分かっていない。

特に、能力者の考えを読んでも意味が分からなければ何にもならない。

 

(ノロくしてやる……?)

 

 ふと疑問に思い、立ち止まったエネル。

そんな彼に、光線が放たれた。

 

「ノロノロビーム!」

「エネル!?」

 

 ビームがエネルにあたるが……一見何も変わらない。

しかし、彼の動きが鈍ったのは確かだ。

 

「なぁ~るぅ~ほぉーどぉ~」

 

 喰らって体を動かそうとして、想ったように動かせないことを確認したエネル。

もしこれを喰らったのが他のメンバーだったら、危なかっただろう……しかし、エネルは普通ではない。

 

「ぷぷぷ!!」

「おらぁ!」

 

 両サイドからタックルしてくる二人の気配を察知。

その攻撃を……雷となって回避して見せた。

 

「んなっ!?」

 

 タックルした二人はお互いにぶつかり合い、はじけ飛んだ。

エネルは上空で暫しそれを眺め、動きが戻ったところで落雷となって落ちてきた。

 

「ヤハハ、動きを遅くするのか。体感では時間は分からんが、変わった力を持っているな、貴様」

「お、お前、今どうやって」

「貴様がどの程度動きを遅くするのか知らんが、例え100分の1にしたところで、雷光を人が捉えられるわけなかろう?」

 

 ヤハハと笑う彼に、フォクシー海賊団の船長は呆然とする。

完全に相性が悪かった。雷の速度は秒速150km、条件次第では秒速10万kmを超える。移動手段である雷光だけで言えば、文字通り光の速さだ。これはジグザグに起こる通常の落雷で言えることであり、雷人間であるエネルは更に常識外だといえる。

 どのみちそうとう遅くしない限り、人が追える速度ではない。少なくとも多少喋れる余裕がある程度ならば、エネルにとってさほど変わりなどなかった。

 

 そうこうしているうちに、ゾロとサンジ二人に襲われていたボール役の魚巨人は……それはもう可哀そうなほどフルボッコだった。

身体がぬめるのなら、滑らない場所を攻撃すればいい。単純なことであり、それは相手も警戒していた。

しかし相手が悪いとはこのことだろう。特にここ最近は修練か拷問か分かったものじゃない攻撃を受け続けていたのだ、色々鬱憤が溜まっていたのも事実。

 

「さて、こいつ運べばいいんだな」

「すっげぇ滑るな……滑りとりには塩を……めんどくせぇ蹴るか」

 

 蹴られ殴られ、ボコボコにされた魚巨人は、オーバーキルとなる両者の蹴りを受けゴールへ運ばれた。

 

『あ、圧倒的だァ!っていうかえ、ボール役の人何したの?!』

 

 もはや実況者も状況を分かっていない中、堂々と戻る三人。

さぁ何が欲しい、と言われ、一時タイムを取る麦わらの一味。

 

「で、どうする?」

「船大工取るか?」

「いや、あんな奴らの仲間とか欲しくねぇよ」

「……ねぇ、次ルフィ対あっちのオヤビンよね?オヤビン取っちゃえば不戦勝じゃない?」

「その場合、確かに決着は着くけれど、同時にオヤビンが仲間になっちゃうわよ?」

「「「「あれはいらねぇ」」」」

 

 盗み聞きしていたオヤビンがショックを受けているが、放置して会話を続ける。

すると、そこで一味の視線が甘味であるわたあめを食べているミサカに集まった。

 

「? え、なに?」

「……そういや、空島から航海続きで食料が少ねぇな」

「なに!?そりゃ大変だ!」

 

 一大事だ、とルフィが騒ぎ出す。

どう考えても、小動物みたいに綿あめを食べているミサカが可愛いなぁと思ったサンジの暴走発言なのだが、止める者はいなかった。

 

「食料くれ!ありったけ!!」

「あ、ありったけか……何気に生命線えぐってくるな」

 

 船に積めるだけ食料を積み込み、最後の試合へと進んだ。

最後のゲームは「コンバット」。鉄球が落ちた場所から半径50m以内の場所が戦場となる。

円の中にあるものは何を使ってもよく、決闘者の二人以外は立ち入り禁止。相手を円から出せば勝利。

空中・海中では出たことにはならないらしいが、両者ともに能力者なため海中に沈めばそのまま沈むだけなので、自動勝利だろう。

 

「にしても、小狡いね」

「ヤハハ、まぁ祭りのようなものだ。多少は許してやろうじゃないか」

 

 打ち出された鉄球は奇麗に相手の船の真ん中に落ち、どう考えてもやらせだと分かるほど順調に円のラインが設置された。

最後の選手とセコンドは控室に連れていかれ、何やら着替えをするとのこと。

セコンド役はルフィの近くにいたウソップが連れていかれた。

 

「ま、後はルフィに任せりゃいいだろ。飲むか?」

「んー、私お酒はちょっと……気持ちだけ受け取っておくね、ありがとゾロ」

「みんなぁ~飲み物とポップコーン持ってきたよぉ~♪」

 

 上機嫌なサンジが女性陣に配り、男性陣は各々適当に場を見守る。

覇気の差で言えばルフィの方が上だろうが、ルフィは別に覇気使いではない。覇気として運用できなければ、それはただの気合である。

オヤビンこと敵の船長は今回のルールを熟知しており、戦場も相手の船。何かしらのギミックも用意しているだろう。

 

「ルフィが勝つよな?」

「どうだろうね。応援してあげればいいと思うよ?」

「おう!おれ、頑張って応援するぞ!」

 

 チョッパーが張り切り、他のメンバーは完全に観客に混ざっている。

あとはルフィが勝つだけ……どうなるかは分からないが、見守ろう。

 

「うがーーっ!アーイエーっ!」

 

 控室から出てきたルフィは、なぜかアフロを被っていた。

相手もそうだが、両者ともにボクシングのグローブを装着している。

 

『運命の第三回戦!コンバット、開始~~!!』

 

 開催されるが、ルフィの姿に少し不安を覚えてしまう。

 

「……ウソップがセコンドに着いたのが間違いだろ」

「………かっけぇ!!」

「やるなぁ!!魂が燃え滾ってる!」

 

 ゾロは呆れているが、チョッパーとサンジには好評のようだ。

ナミは真面目にやってほしいと呆れ、ロビンは余裕の笑みで見守っている。

ミサカは……どういうわけか何時もよりルフィの拳が鋭いような気がしていた。ウソップが何か言ったのだろうか?ルフィの強い思念から、思い込みの力が働いているように思える。

 

「なんだろうね?」

「まぁなんでもいいだろう。あとは奴しだいだ」

 

 始まった戦闘は、やはりルフィが苦戦した。

ノロノロビームという不思議光線に翻弄され、想うように攻撃できないようだった。

特に、伸ばした腕を狙われたり、調子を崩されるばかりで攻撃方法が限られてしまっている。

 

「ノロノロフォクシー顔爆弾(フェイスボム)!!」

 

 さらに相手は自分にも拘らず……もしくは自分の船だからなのか、武器の場所を完全把握しており、ルフィを一方的に遠くから狙い撃ち出来ていた。

しかしルフィも負けてはいない。身軽で丈夫な彼は生半可な攻撃では落ちず、しぶとく追い続けた。

 

「………たまに自爆してるのは、わざとかな?」

「いや、アレは素だろう」

 

 時折相手の船長が自業自得のダメージを受けることがあり、演出なのか油断を誘うためなのか疑問に思いながらも、試合は続いていく。

途中船内で戦いはじめ、ミサカ達からは様子が分からなかったが、大爆発が起きて甲板に二人の様子が見えた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 どう考えてもトゲパンチだけでは説明が付かない攻撃を受けたのだろう。

爆発は燃焼、ゴム人間のルフィにも効果がある。

ボロボロのルフィだったが、立ち上がって構えた。

フラフラなルフィにも容赦はなく、ノロノロの力を穴の空いた棒を通すことでノロノロビームソードを作り出した彼は、腕と足を止めた上で攻撃しだした。

 

『立ったぁ!!麦わらのルフィ~~!!』

 

 血だらけでフラフラだというのに、それでも立ち上がるルフィ。

なぜか観客たちもサンジもチョッパーもアフロがパワーアップポイントだと信じており、アフロパワーだと騒いでいる。

ノロノロビームを使い、一方的に殴り続けるオヤビンの方が疲れても尚、ルフィは立ち上がった。

 

「おれの、仲間は……誰一人、死んでもやらん!!!!」

 

 ――………ワァアアアアアアア!!!!!

 

 ルフィの仲間を想う一言に、観客の声援が起こった。

なんならルフィコールが巻き起こり、ペースが逆転したのを感じる。

フラフラなルフィにこれ以上戦えるとは思えなかったが、それでも彼は懸命に拳を振るった。

ノロノロビームを避けるだけの力も無くなっていたのだが、船内で拾っていたのであろう鏡の欠片を使い、ノロノロビームを反射……オヤビンの動きをノロくして見せた。

 

「アレは、超人系だから効く方法だな」

「そうだね」

 

 もしエネルの様な自然系なら、自分の雷でどうとなることもなかっただろう。

しかし、基本原形を保つ超人系は、影響を受ける。

例えばミサカなら、雷が落ちても無事だろうが、電熱で多少の火傷を負うだろう。その身が溶けても大丈夫な能力者ではないからだ。

 

「ゴムゴムのぉ――連接鎚斧(フレイル)!!!」

 

 腕を伸ばし、遠心力を使ってぶん回して威力を挙げたルフィ渾身の一撃が放たれた。

ノロくなったオヤビンの顔がゆっくり歪みだし……ビームを受け30秒後、彼は吹き飛んで行った。

 

『勝者、麦わらのルフィ~~~~~!!!!!』

 

 こうして、三本勝負に決着がついた。

ダメージが深かったのか、勝利コールを聞いて気絶したルフィをチョッパーが急いで治療した。

最後の決着で頂いたモノは……海賊旗。

これは最初から決めていたらしく、勝利の証として海賊旗を奪い、報復の証としておじいさんと馬に渡していた。

 

「お前ら………ありがとうよ」

 

 ルフィたちに礼をしたおじいさんは、一緒に自分の家へ一味を招待してくれた。

食料なら奪い取ったものがあるため、宴でも開くかとワイワイしながら彼の家へ向かうと………おじいさんの自宅の前に人が、立って眠っていた。

 

「なんだ、コイツ?」

「ずっとここにいたの!?」

「………んん?なんだ、お前ら?」

「「「「「いや、おめぇが何だ!?」」」」」

「強い、海兵さん?」

「木かと思った……」

 

 海軍の服を着た男を見て――ロビンの気配が急変した。

 

「……っ!!?」

「ろ、ロビン?」

「どうしたロビンちゃん!?」

 

 クールな何時もの様子は消え失せ、息を乱し、腰を抜かして怯え始めるロビン。

そんなロビンを見て、一味から敵意を受けながら男は笑って言った。

 

「………あららら、コリャイイ女になったな……ニコ・ロビン」

 

 これがロビンとこの男の二度目の邂逅……そして、麦わらの一味が初めて会う立場の人間。

 

「ロビン、知ってんのかコイツのこと!?」

「ハァ……ハァ……海兵、海軍本部〝大将〟よ」

 

 ――そして、ミサカが出会う二人目の、大将だった。




すっごく、ねむ――zzz


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 海軍大将〝青雉〟

 ミサカは怯えるロビンを背に隠すように前へ出た。

理由は分からないが、ロビンとこの青雉とかいう大将は面識があるらしい。

それも只成らない何かが、二人の間にあったのだろう。何時も落ち着いているロビンが、今は恐怖に震える子供のようだ。

 

「大将って……えっと、海軍の凄く偉い人ですか?」

「まぁ、んな感じだ」

「「「会話ふわっふわか?!」」」

 

 サンジとゾロ、ウソップにツッコまれてしまうが、ミサカは本当にそんな風にしかレイに教えてもらっていないのだ。

レイから教わったのは覇気や戦い方の他に、海賊に至る経緯とその後の冒険譚……海軍は冒険譚にちょっと出てきたときに、補足するように説明されただけである。

後は……シャボンディ諸島で赤犬という大将に追われたことくらいだろう。

 

「あー、っていうかお前さんもしかしてエレクトロ・D・ミサカか?」

「うん」

「なるほど……将来が楽しみなお嬢ちゃんじゃないの」

「てめぇミサカちゃんに色目使ってんじゃねぇぞ!!」

「サンジ、喧嘩売っちゃダメ」

 

 サンジを止めながら、取り合えずナミの後ろに隠れる。

 

「あらら……悩殺ねーちゃんの後ろに隠れちまった。そんなに怖いかぁ?」

「赤犬って人は、怒鳴ってばっかりだったから……大将って、みんなそんな感じだと思ってました」

「あーまぁサカズキはアレだ、ほら……何でもいいや。所でスーパーボインなねぇちゃん、今夜ヒマ?」

「何やってんだノッポコラァ!!!」

「サンジ、ストップ」

 

 こんな強い人に喧嘩売れるって普通に凄いのだが、今戦闘するわけにはいかない。

海賊に海兵な彼らはともかく、此処には一般人のおじいさんと馬がいることを気にしてほしい。

 

「……取り合えず、何の用ですか?」

「ただの散歩だ」

「………えっと、お仕事は?」

「ん?海軍大将だが?」

「つまり、サボリ?」

「んなド直球な……まぁアレだ、アラバスタ時後消息不明だったニコ・ロビンを確認しに来ただけだ。予想通り、お前さん方と一緒に居た」

 

 ミサカまで一緒だったのは誤算だったが、と小さな少女を見下ろす大将青雉。

見下ろされるだけじゃない、ミサカは妙な威圧感を感じていた。

一味の皆は感じていないのだろうか?それとも、それでも無視しているだけ?

 

「報告位はするつもりだ。二人も賞金首が加わって、総合賞金額が……えっと、1億と、6千万と、7900万と、1億5千万……まぁそんな感じだ」

「どんな感じだ、しろよ計算」

 

 ものすごいダルそうにしている大将。

ミサカが初めてであった大将の赤犬とは、まるで真反対である。

赤犬は出逢った瞬間に殺しにかかり、怒鳴りながら追ってくるドロドロ男だった。

 

「えっと、確認だけなら帰ってもらっていいですか?」

「んー嫌われたもんだなぁ……ま、海兵と海賊だししょうがないか。わかった、帰るがその前に……あんた」

 

 指を差したのはおじいさん。

一体こんな一般人に何の用なのだろうか、とそのまま様子を見守る。

 

「この島特有の移住民だな、もしかして逸れちまったとかかい?」

「あ、あぁ。皆に出会えるのは、当分は先になるかと……」

「――よし、どうにかしよう。直ぐに移住の準備をしなさい」

 

 ………数瞬の沈黙が流れた。

この男は、何を言っているのだろうか?

 

「移住って、おじいさんは馬が怪我をしてるから……」

「大丈夫だ」

「大丈夫って、貴方何言って」

「出来るわ……その男なら」

 

 追求しようとすると、ロビンが座り込んだまま呟いた。

何も知らない自分達には怪しいことだらけだが、因縁あるロビンがそういうのなら、何か方法があるのかもしれない。

どのみちおじいさんを放っておくのも後味が悪いし、移住する方法があるのなら乗っかるべきだと、青雉も一緒になって荷造りを開始した。

流石というべきか、全員慣れた手つきで荷造りはあっという間に終わり、年に一度引き潮で道が出来る海岸へと帯同する。

 

「偶には労働もいいもんだ」

「ホントだな!お前なかなか話せるなー!」

「……みんな、手際よかった」

「なぁにお嬢ちゃんもよかったぞ。あとは慣れだな」

 

 気づけばすっかり青雉と打ち解け、和気あいあいとした雰囲気になっている。

呆れた様子でナミがこちらを見るが、彼はだらけきっているが、良い奴なので嫌いになれなかったのだ。

 

「それで、どうするの?見たところ、船とかは無いみたいだけど」

「船があったところで行くべき方向が分かんないんじゃァ意味が無い……まぁ、少し離れてろ」

 

 青雉は波打ち際まで歩いていくと、片手を海水に着けた。

数秒後、青雉を獲物だと思ったのだろう海王類が一匹襲い掛かってきた。

ルフィたちはそれを見て危ないと忠告していたが、ミサカとエネルは、何の心配も起こさなかった。

何故ならば……――。

 

 

氷河時代(アイス・エイジ)

 

 

 ――この男は、海王類の一匹程度でどうにかなるような存在では、無いからだ

海王類どころか辺り一面の大海原を、凍らせてしまった(・・・・・・・・)

 

自然(ロギア)系、ヒエヒエの実の氷結人間……これが、海軍本部〝大将〟の能力よっ」

 

 怯えながらそう解説してくれるロビン。

これならおじいさんは次の島と言わず、村へと合流できるだろう。

青雉曰く、この氷は一週間は持つという。

 ルフィたちとおじいさんを見送り、彼の背が見えなくなるまで手を振った。

 

「はーーっ……よかったよかった」

 

 ルフィは仲良くなったおじいさんが、長い間村に合流出来ないことを気にしていた。

だから、敵のおかげとはいえ、どうにかなったことを素直に喜んでいる。

そんな彼の姿を、青雉はジッと見ていた。

 

「……何というか、じいさんそっくりだな。モンキー・D・ルフィ。奔放というか、掴み所がねぇというか」

「じ、じいちゃん……!!」

 

 ルフィが何やら冷や汗をかきだした。

どうやら、お爺ちゃんが苦手らしい。

そういえば、ルフィはじいちゃんの拳骨が痛かった、と語っていたのを思い出す。

大将にも知られている覇気使い……もしかして、有名人なのだろうか?

 

「……やっぱお前ら、今死んどくか」

 

 小さな呟きに、少し緩んでいた気が締まるのを感じた。

青雉の目は、冗談を言っているわけではない。

 

「政府はお前らを軽視しているが、少し探れば中々骨のある一味だ。初頭の手配に至る経緯、これまでのお前らの所業の数々、成長速度……末恐ろしく思う」

 

 大将青雉が、この一味の〝未来(さき)〟を見据え、認めた。

確認しに来ただけだったが、実際会話をし、船長の気質を把握したうえで改めて考えが変わったのだろう。

 

「特に危険視される原因は、お前だニコ・ロビン」

「ッ!!」

 

 その言葉に思わず、急いでロビンの前に立つ。

彼女がこの男を恐れているのは確かであり、事実強いのも明らか。

もし、本当に戦うとなれば、一番に狙われるのは彼女だ。

 

「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表すものじゃない。政府に、世界に及ぼす危険度(・・・)を示す数値でもある。だからこそ、お前は8歳という幼さで賞金首になった」

「8歳……?」

 

 思わず背後のロビンを振り向きそうになる。

14歳で手配されたミサカも中々だが、上には上がいると言ったところだろうか。

 

「子供ながらに上手く生きてきたもんだ。裏切っては逃げ延び、取り入っては利用して……そのシリの軽さで裏社会を生き伸びてきたお前が、次に選んだ隠れ家(・・・)がこの一味というわけか」

「テメェ、さっきから聞いてりゃカンに障る言い方すんじゃねぇか!!ロビンちゃんに何のうらみがあるってんだ!?」

「別に恨みはねぇよ、因縁があるとすりゃぁ一度取り逃がしちまったことくらいか。まぁ昔の話だ」

 

 背後のロビンは、何も言わなかった。

きっと事実なのだろう。色々細かいところは分からないが、事実ロビンはそうやって必死に生きてきたのだ。

今まで、必死に……。

 

「――ねぇ、ロビン」

「何かしら……?」

 

 青雉を無視して、振り向いてロビンに尋ねる。

青雉は何かまだ言いたそうだったが、それを無視した。

 

「私、ロビン好きだよ」

「…………ぇ?」

 

 ミサカが唐突に言い出した言葉の意味が分からないのか、呆けるロビン。

そんな表情も出来るんだ、なんてロビンの人間らしい一面を見れたことを嬉しく思いながら、言葉を紡ぐ。

表情があまり変わらないけれど、出来るだけの感情を、壊れた心から必死に想いを、今のミサカの精一杯を込めて、ロビンへ語り掛ける。

 

「カッコいい服貸してくれたし、頭良くて冷静で……空島の鐘楼見つけられたのだって、ロビンのおかげ。予想してなかった黄金の大冒険が奇麗に締まって、満足して降りてこられた。楽しかった。ロビンは?」

「……私、は」

 

 少し戸惑うようにして、ロビンは言葉に出した。

空島、その第一歩から未知であり、大冒険の始まり。

共闘し、一緒に黄金郷を探索し、鐘楼を鳴らした。

一味の皆と一緒に宴をして、皆で傷ついて、皆で……。

 

「私も、楽しかったわ」

 

 思い出せば出すほど、その言葉に偽りなどないとミサカはロビンを信じた。

 

「うん。じゃぁ、私たちは一緒に冒険を楽しんだ仲間――そうだよね、ルフィ?」

「おう!ロビンは仲間だ!!」

「うん……ねぇ、大将さん」

「………」

 

 ミサカの気配が変わったのを悟ったのか、黙り込んで此方を見つめる青雉の視線には少し敵意……殺意が感じられた。

 

「ロビンの過去を私たちは知らない。でも、一緒に冒険した今のロビンを狙うのなら」

「……なら?」

「容赦、しない」

「そうかい……じゃぁもうニコ・ロビンに関しては言わねぇよ。覚悟(・・)ありってことにしておこう。……()り合う前に、この一味を危険視するもう一つの理由(ワケ)を話そうか」

「何かな」

 

 近辺の温度が下がっていく。

能力行使と共に、明らかな殺意を感じ一味全員が構えた。

 

「お前だ、エレクトロ・D・ミサカ」

「私?」

「そう、サカズキの奴はお前さんを酷く警戒していた。天竜人を害するその倫理観、大将を前にして動じないその気質……そして――」

「ッ」

 

 言いながら氷の弾丸が放たれ、それをミサカは砂鉄の弾丸で撃ち落とす。

ついでに自然系だということを思い出し、冷気を伝って移動してくる可能性を考え、放電することで辺りを電熱で少し温めた。

 

「その実力……お前さんは躊躇なく(・・・・)やらかす(・・・・)大問題児になるだろう。シャボンディ諸島では誰も殺さず、大将とも大して交戦せず逃げたことから、懸賞金はその程度(・・・・)だったが、サカズキはもっと上でいいと何度も打診していた」

 

 電熱で温まった空気が、また冷えていく。

青雉の周囲は既に凍り付き、まるで剣山の様になっていた。

 

「この一味でニコ・ロビンの次に危険なのは、お前だ」

 

 ミサカは数年前、一人の老人に拾われた。

それからは覇気の修業もあり、ずっと無人島生活をしていた。

彼女は老人からの口伝でしか天竜人のことを知らない、海軍や世界への影響力を知らない。

碌に世界のことを知らないまま、彼女は海賊になった。

 無知であり、純粋であり、無垢である。

きっと海賊だった老人に拾われなければ、彼女は今海賊になっていないだろう。もし拾われた相手が海兵だったのならば、そのまま海兵になっていたに違いない。

エレクトロ・D・ミサカとは、そういう少女だった(・・・)

 

「お前さんは、此処で死んでおいた方がいい。――アイスサーベル」

「ッ」

 

 草を直線状に凍らせ、氷の剣を作った青雉が迫る。

それを砂鉄の剣で迎撃しようとして――ミサカの前をゾロが走った。

 

切肉(スライス)シュート!!」

 

 氷の剣を鉄の刀が受け止め、それをサンジが蹴り飛ばす。

そこへルフィが駆け出した。

 

「ゴムゴムのぉ――!?」

「ダメ」

「んが?!何すんだミサカ!?」

 

 それを首根っこ捕まえて止めたのは、ミサカ。

ルフィは止まるが、青雉は止まらない。

剣を弾かれ両手がフリーになった彼は、ゾロの肩とサンジの脚を掴んだ。

 

「ウ!!」

「ん?!」

 

 パキキという、何か高音が鳴りだし、掴まれている箇所が凍りだした。

その光景と痛みに二人が呻き、叫ぶ。

このままでは全身凍らせられてしまう、そう予感した瞬間、雷鳴が轟いた。

 

「ヤハハ、我を無視するとは、不届き!!」

「ッ!?」

 

 雷速の黄金が、青雉に叩き込まれる。

バラバラに砕け散り、ゾロとサンジが解放されるが倒したわけじゃない。

青雉は見聞色で攻撃を察知し、電熱が込められた黄金の棒と電撃から逃げるために、散った(・・・)のだ。

二人の足下の砂鉄を操り、こちらへ手繰り寄せた。

 

「……二人とも、大丈夫?」

「グっくそ、問題ねぇッ」

「わけねぇだろ!?急いで手当しないと、凍傷になったら手足が腐っちまうぞ!!」

「船医命令、二人とも下がってて」

「いくらミサカちゃんや船医命令といえどッ」

「……引くぞ、クソコック」

「ハァ!?おめぇ、なに言ってんだマリモ!?まさかミサカちゃんやあの野郎に全部任せる気じゃねぇだろうな!!」

「……そうだ」

「テメェッ!!! なんだ、臆病風にでも吹かれたってのk――」

 

 喝を入れようとするサンジの胸元を、凍っていない手でゾロが掴み上げた。

彼の表情は……見るまでもなく、怒り心頭だと分かった。だがその怒りは、サンジだけに向けられているものではない。

 

「分かんねぇのかッ!?邪魔なんだよ、俺たちは!!!」

「ッッ!!!」

「今俺らに中てられた緩い殺気とコイツに中てられた殺気の濃さ、違いが分かってんだろ!」

 

 そう、さっき青雉が彼らを凍らせかけたのは、ついでに(・・・・)殺しておこうか、程度の認識だった。

同じ土俵に立てていない、今の彼らでは――この海兵と戦うことすらままならない。

それを分かっているからこそ、サンジは何も言い返すことが出来なかった。

 

「お前らもだ、引くぞ。船まで戻れ!!」

「お、おう!」

「二人とも早く戻って手当しないとな!」

「ほら、ロビンも行きましょ」

 

 一味がメリー号へ走る中、ルフィだけはその場から動かなかった。

 

「おい、何やってんだルフィ!」

「おれは行かねぇ」

「はぁ!?」

「……ルフィ、クソマリモの言う通り、俺たちじゃ」

「分かってる」

 

 ルフィは座り込み、その場から動かないという意思表示を行った。

 

「俺は船長だ。船員(クルー)だけに任せていけるか……俺は残る!」

「……勝手にしろッ」

 

 ルフィの言い分も確かだ。それにゴム人間の彼なら、電撃を扱うミサカやエネルの邪魔にはならないだろう。

そう考え、ゾロ達はルフィを置いて引き返していった。

 

「ミサカ、エネル。俺のことは気にすんな」

「……ん、分かった」

 

 ミサカは一言だけ、応えて前を向いた。

ルフィが自身の手を余りに強く握りしめ、自身の爪で傷つき血を流すほど悔しい思いをしていることを分かりながら、彼女は目の前で戦うことを決めた。

 

「ヤハハ、で、どうする?」

「電熱は通ると思う。エネルは……電流を凍らせることはできない、でしょ?」

「だが相手は覇気使いだ。見ろ、さっき一瞬掠っただけだぞ?」

 

 そう言って少し凍らされひび割れした脇腹を……雷速で動いていたはずの、彼を捕らえた証を見せた。氷を電熱で溶かしてみると、血が少量滴った。

 

「心網は私と同等か、少し上だろう。武装色は分からん」

「取り合えず、やってみよ……ううん、やろ。やらなきゃ、()られるよ」

「それもそうか。先手は貰うぞ!放電(ヴァーリー)!!」

 

 エネルの派手な一撃から、本格的な戦闘が始まった。

海賊成り立てのルーキーに、世界屈指の実力者―――大将青雉が牙を剥く。




 忙しいし眠いけど書きます、です、はい。
ちょっと更新速度遅くなりますけど、許してくださいデス!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 そして、次の島へ

 エネルの放電、を青雉は氷の壁を作り出すことで防いだ。

よく見れば層になっており、一枚一枚の厚さも十分。

これを貫くには只の放電では不可能だろう。

 

「アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)!!」

「ッ砂鉄の壁(ブラック・ウォール)

 

 青雉は盾をそのまま矛へと切り替え放つ。

地面から引き上げた黒い砂鉄の塊は、氷の矛を粉々にした上で溶かして見せた。

砂鉄一粒一粒を振動させれば大抵のものは粉微塵になり、発熱する。

 それだけではない、砂鉄同士が擦れ合うことにより電気、エネルギーが生まれるのだ。

 

超電磁砲(レールガン)

「チィッ!」

 

 今度は盾に使った砂鉄を熱で固め、複数の弾丸へと変える。

砂鉄によって生まれたエネルギーを使い、ミサカを欠片も疲労させずに放たれた。

青雉に中る直前、彼自身が冷気となり散って避けて見せた。

 

「そこだな!稲妻(サンゴ)!!」

 

 しかし、気体になって散ったということは、表面積が増したということ。

青雉の気配を探ることが出来れば、そこへ雷撃を叩き込みダメージを負わせることが可能となる。

 

「自然系と超人系の同質能力者コンビか……随分厄介だなぁ」

 

 そして、顔色変えずに背後へ現れる青雉。

エネルは確かにその気配を探ったはずだ、彼の見聞色の探索範囲はこの島くらい覆えるし、集中すればその索敵力の的中率は跳ね上がる。タイミングとしても、当たったと確信できる一撃だった。

しかし、青雉は雷撃を喰らった様子など微塵も感じさせず、ミサカを襲った。

 

(どうやって、何をして――それより迎撃を)

 

 疑問を横に捨て置き、電撃を放つ。

振り向いている時間などない、そんなことをしている間に彼はこちらに冷気をぶつけてくるだろう。

電撃で背後を焼き払う。紫電が奔り、青雉を襲うがそれをもう一度、今度は半球状にした氷の盾を前方に出現させ、防いだ。

 

「ヤハハ、同じ手が通じるとでも?――「暴雉嘴(フェザントベック!!)」――!? ヒ、雷鳥(ヒノ)!!」

 

 背後に回ったエネルが雷の鳥を放つ。だが、それよりも先に放たれた(・・・・・・・・・・)青雉の氷の鳥が――食い破った。

威力でも性質でもない、覇気の違いであり、今のエネルにあの攻撃を防ぐ手立てはない。

意表を突いたつもりが、あまりに早すぎる行動に驚いたエネルは一瞬の()が出来てしまった。

いくら本人が雷速で走れても、走ろうとしなければ(・・・・・・・・・)動けない。

 

超電磁(レール)――」

「アイスボール!!」

「ッ砂鉄の壁(ブラック・ウォール)―――ッ!!」

 

 氷の鳥を狙い撃とうとしたその時、青雉が冷気を放ってきた。弾丸では気体を貫くだけで、完全に防ぐことはできない。

 砂鉄の壁(熱壁)で防ごうとしたその時、冷気が破裂(・・)する。

砂鉄を覆いつくし、その向こう側のミサカへ冷気が襲い掛かり、凍り付いてしまう――光景を、ミサカが視た(・・)

 

「まさか、今のを避けたのか……?」

「ハァッ、ハァッ……!!!」

 

 頭痛のする頭を片手で抑えながら全力で後退し、一息ついたところで、今の青雉の行動をようやく理解した。

半球状の盾を作っておきながら、態々前方に出現させ背後をがら空きにした(・・)

雷速で動くエネルならば、隙だらけになった背後を狙ってくるだろうと予測した。青雉は避けるつもりが欠片もないため、背後の警戒心(避けるつもり)が無い青雉を狙うチャンスだとエネルがその通りに動いてしまった。

 後は、来ると分かっている背後にタイミングを計って(殺意をもってして)攻撃すればいい。

意表を突かれたエネルは、ご覧の通り覇気の籠った一撃を喰らい、ぶっ飛ばされてしまう。

チラッと確認すれば、氷の塊である鳥が破裂したのだろう、エネルは気絶はしていないようだが、傷だらけで蹲っていた。

 

「貴方、今エネルにわざと攻撃させた、の?」

「あぁ。うまくいって何よりだ」

「エネルが警戒して近寄らないとは、想わなかったの?」

 

 エネルが策に嵌ってくれたからいいものの、これは少しでも警戒されれば成功しない。

それどころか、敵に挟まれる形になり、ピンチを招くことすらある。

しかし青雉はそれを行った。迷わず、顔色一つ変えずに。

 

「あの男は強い。実際、サンゴとかいったか?アレは覇気で防いでも効いたぞ。

……まぁただ、戦闘慣れしてねぇだろ?見聞色が上だと思った、それくらいしか自分の動きについてこれるはずがない(・・・・・)。自分の能力に対する絶対の自信と傲りは、自然系能力者が陥りやすい傾向の一つだ。それと、可能性を一つだけだと思い込んじまうのは、実戦じゃ致命的だ」

 

 彼は大将と呼ばれる程の功績を立ててきた。

その座に就くために様々な強敵と戦い、研鑽を積んできた。

対人戦闘の経験が豊富であり、相手を分析するだけの知識がある。

 

短い時間(リアルタイム)で、エネルの癖を解析したっていうの……?」

「あぁ、お前さんもな――アイスボール」

「ッ!!」

 

 殺気を強く(・・)感じ、いつの間にか周囲に準備された冷気を焼き払うために、ミサカは放電する。

話している間殺気が緩かったのはインターバルではなく、単純に油断を誘うため。

見聞色が強いミサカは相手の気配をより強く感じ取ってしまう。それに緩急を付けられれば、こんな風に冷気を忍ばせ攻撃される。

 

「――アイスタイムカプセル」

 

 準備された冷気を焼き払うが、立て続けに起こった更に強い第二波に覆われてしまう。

準備していた青雉と、急遽迎撃したミサカでは、放出された力に差があり、ムラがある。

球状に放電しながらも、少し弱い場所を狙い撃ちされ、左肩を凍らされてしまった。

 

「っァ!?」

 

 パキパキパキと左肩の氷がミサカを覆っていく。

熱が奪われ、身体の感覚が少しずつ失われていくミサカ。

 

「あとはそこにいる船長と男、エネルだったか?……殺して、終わりだ」

 

 意識すら薄れていく中、青雉の呟きがミサカへ届いた。

彼はルフィを殺すのだという。海賊だし、賞金首だ。感じたところ彼は船で来たわけではないらしい、身柄を拘束せず殺そうとするのは、合理的だ。

 

(ルフィ……――みんな)

 

 ルフィを殺した後は、きっとメリー号へ戻った一味の元へ向かうだろう。

ゾロやサンジは挑んで、そのまま凍らされるだろう。もしくは、みんな仲良く船ごと凍らされるかもしれない

どのみち、麦わらの一味は終わり(・・・)だ。

 

(やだ、やだ……)

 

 駄々をこねようにも身体が凍り付いていくミサカには何もできない。

表面から凍り付いていき、何時かは体の芯から熱を奪い、ミサカの細胞全てを氷へと変えるだろう。

沈んでいく意識の中、ミサカはなにかを幻視した。

 

『『―――』』

 

 こちらへ笑いかける女性と男性……ミサカの両親。

走馬燈だろうか、それとも三途の川の向こう側で待っている二人の元へ、死に行くミサカが向かおうとしているだけなのだろうか。

 

(ママ……パパ……)

 

 死んでしまった二人を思い出した直後、他にも仲の良かった友達や先生の姿が浮かんでは沈んでいく。

全てミサカが過去持ち得て、失ったものだ。

彼女には抗う力が無かった。彼女には、何も出来はしなかった。

今も、何も変わらない。彼女はただ、何も出来ず失うだけだ。

 

――『合格だ』

 

 絶望に意識を失いかけたその時、脳裏に言葉がよぎった。

彼女を拾ってくれた、老人の声だ。

合格……そう、最後のテストで言ってくれた、認めてくれた。

 

 

 ――――今のミサカには力があり、貴女は強いのだと。

 

 

 直後、凄まじい轟音を響かせながら雷光が空へ上がった。

黑雷(・・)の余りの眩さに、青雉が目を細める。

 

「……あらら」

「――わたしは、アタシ、は」

 

 氷を溶かし尽くし、その身を焼く程の雷撃を自身へ(・・・)浴びせながら、ミサカはキッと青雉を睨みつけた(・・・・・)

 

「もう、何も()くさない。奪わせない!!!」

 

 それは一度すべてを失ったエレクトロ・D・ミサカの原点。

彼女を突き動かす、芯からの激情。

今の彼女の全てを開放し、改めて青雉へと向き直る。

余波だけで地面を焼く程の強いエネルギー、黒い雷を迸らせるミサカを警戒する青雉へ――掻き消える程の高速で接近した。

 

「んなッ!?」

 

 雷撃すら防ぐ盾を瞬時に青雉が造りだし、それを黑雷を纏う細腕で粉砕した。

冷気を放つも黑雷の放つ膨大な(エネルギー)により、容易に払われてしまう。

 加速なんてモノじゃない、人間にはありえない爆発力。

それを生んでいるのは彼女の黑雷であり、つまり覇気だ。

武装色の覇気を鎧の様に纏うのではなく、浸透(・・)させ、身体を効率よく最大限まで強化した。

その上彼女の能力で脳内のリミッターを除去、強化された身体の限界点を突破させたその力は、青雉の力などものともしない。

 

(まとい)――」

 

 驚き慄く青雉へ追撃する。

砂鉄を右腕へかき集め、青雉が見上げる程巨大な黒腕を作り出した。

黒く光る雷撃迸る黒い右腕を、真っ直ぐ青雉へと叩き付ける。

 

「武装・鉄黑巨腕(マグネ・ギガントアーム)!!!」

 

 黒雷は冷気を焼き尽くし、巨大な腕は武装防御を取った青雉を遠くへ吹き飛ばした。

 

「―――っ」

 

 だが安心はできない。相手は海を凍らせる実力者。

例え海の上へ飛ばされても、海を地面へ変えてしまえば問題ない。

そしてミサカは感触からして青雉は気絶しておらず、無事な可能性は大いに高い。

 ミサカは一歩を踏み出し―――倒れた。

 

「「ミサカ!?」」

「…………」

 

 覇気は消耗する。

ミサカは気絶するほどの覇気を扱ったことが無かった(・・・・)

この戦闘で、彼女は初めて自身の殻を一枚割ったのだ。

 しかし、そんなことを知らないルフィとエネルはミサカを心配し、駆け寄った。

凍傷に火傷を負っているが、息はしていることを確認し、二人は一安心する。

 

「無事、みたいだな。よかったぁ」

「は、ハハハ。全く、この状況でよく気絶など……」

 

 エネルは笑った。剛毅なモノだと。

ルフィはその小さな少女を抱えた。さっきの戦闘で魅せた強さなど、微塵も感じさせない程に軽く、細い。

 

「ルフィ、今のうちに船へ急ぐぞ。かなり吹き飛んでいったようだが、あの男は無事だろう」

「アレを喰らったのにか!?」

 

 巨大な黒い腕、迸る電撃だけでも受ければ人くらい倒せるだろうソレを、真正面から受けていた青雉がまだ無事だとエネルは断じた。

 

「最大限の冷気の壁を作り、後方へ跳んでいた。武装色とやらを使ってもいたようだったし、アレならば気絶はしていないだろう。あの男は海の上へ落ちたとしても、海を凍らせればいい」

「………じゃぁ急ごう。ミサカがこの状態で襲われたら、勝ち目はねぇ」

「ヤハハ、ハッキリ言うなお前は……まぁ事実、私も今のままでは勝ち目などないしな」

 

 見聞色の差ではなく、経験値の差で一時行動不能にされたエネル。

腹部を中心に胸元が血だらけで、彼自身重症なのは目に見えていた。

今まともに戦えば勝ち目はないが、船の上から迫ってくる青雉を雷撃で追い払うくらいは出来るはずだと、彼らはメリー号へと急いで向かった。

 

 

 彼女は丸一日意識を失ってしまった。

その間、エネルが警戒していた青雉の追撃は無かった。

もう安心していいという状況を確信するのに、三日はかけ、暫くの間一味は静けさに包まれていた。

 ミサカと青雉の戦いは、一味に衝撃を与えた。

特に、間近で見て感じていたルフィとエネルは、ミサカが意識を失っている間、何かを考えこむように黙っていたという。

 

 こうしてどうにか一波乱を超えながら、麦わらの一味はログを辿り、次の島へと向かった。

次の島は北――ウォーター・セブン、水の都と呼ばれる世界最高の造船所だ。




黑雷(こくらい)
 一枚殻を破ったミサカの本領、雷に渾身の覇気を練り込み威力を底上げするだけではなく、覇気を同じように自分に練り込むことで、纏うのではなく浸透させることに成功した。生体電流の操作も相まって、自身の超強化を可能とした。
 なお、覇気の消耗が激しいため、今のミサカでは短時間しか扱えない。今回初めて使ったこともあり、あっという間に消耗した上、回復に丸一日もかけてしまった。意識して扱ったとしても、使用後いくらかインターバルは必要である。

・激情
 ミサカの行動理由、根源、核。彼女の強さの秘訣であり、弱点。彼女がようやく自覚した、彼女が持ち得ている感情の一つ。
彼女はこのためならば、自分の雷で自分が焼けることも構わない。
文字通り、その身を焼き尽くす熱意。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

W7編
14話 修理、不可能


 このキャラクターを入れたかった、後悔はしていません。
というわけで、一名追加、若干?のキャラ崩壊在りです。


 朝起きて、ミサカは身体の調子を確かめた。

怪我はすっかり治り、覇気も充実している。

ささっと着替え、誰もいない女子部屋から出て甲板へと向かった。

 

「あら、おはようミサカ。身体の調子は大丈夫かしら?」

「おはよ、ロビン。うん、もうすっかり……って昨日も言った」

「そうだったかしら、フフフ」

 

 座って読んでいた本を閉じ、ミサカへ微笑むロビン。

今は余裕があるが、彼女には一番心労をかけてしまったらしい。

傷だらけで気絶したミサカが運ばれてきたとき、サンジ以上に狼狽えて右往左往していたらしい。

気絶していて残念に思っていると、ウソップが声をかけてきた。

 

「おー、おはよーっすミサカ」

「おはよう、ウソップ……それ、(ダイアル)?」

「あー色々アイデアを形にしてみてるんだが、中々うまくいかないんだよなこれが……あ、修業はちょっと待っててくれ、直ぐ片付けっから」

「うん」

 

 ウソップは空島の(ダイアル)を広げ、何か工作しているようだった。

最近ウソップは修業にも開発にも力を注いでいる。

彼だけではない、全員やけに考え、試行錯誤している。ルフィが身体中から煙を吹きながら海王類をぶっ飛ばしていたのは、記憶に新しい。

 

「……ねぇ、エネル、何してるの?」

「ん?ヤハハ、修業だ。心網を使わず、釣りをな」

 

 目隠しした彼は、海王類を釣りあげては極力雷撃を使わず気絶させ、リリースを繰り返している。

彼なりに青雉に指摘された実戦経験の不足を補おうとしているのだろう。他にもゾロと斬り合っ(チャンバラし)ている程だ。

 

「――ん?おい、アレなんだ!?」

 

 ルフィの声に全員が「アレ?」と首を傾げ、船の行く先を見つめる。

そこにあったのは、煙を噴き上げる鉄の塊と……カエルである。

 

「船か!?」

「あんな形で海を走れるわけないわよ!!」

 

 ナミの言う通り、どう見てもアレでは浮かないだろう。

というか、船というかあれは……汽車に見えた。

汽車は突き進み、カエルはその前で仁王立ちしている。あの鉄の塊に挑むつもりらしいが、想像通り轢かれてしまった。

 

「………何だったんだ、今の?」

 

 訳の分からない光景に戸惑いながら、メリー号が進んだ先に()があった。

島ではない、家である。そしてどうみても、そこは駅舎にみえた。

近づくと、こちらが海賊だと分かったのか通報を……。

 

「あーもひもひ……えっと……何らっけ!?忘れまひた!!ウィ~~!!」

 

 通報を、しようとしたのが超酔っ払いのばあさんで、全く通報になっていなかった。

取り合えず今の物体に関して情報が欲しかったため、話を聞くために一旦船を止めた。

駅舎にいたのは、おばあさんと少女、それとペットのウサギだ。

 

「あたしチムニー!猫のゴンべと、ココロばーちゃんよ!」

「おめぇら列車強盗じゃね~だろうな?んががが!!」

 

 変わった笑い方をしている老女とペットを紹介してくれるチムニー。

しかし、猫と言われた小動物は耳の形からしてしっかり兎なのだが……まぁ、余計なことは言わないでおこう。

 女性に優しいサンジがパイユを振舞い、ナミが情報を聞きに行った。

さっきの汽車は『海列車パッフィング・トム』といい、造船島であるウォーターセブンを中心に海を走っているらしい。

 

「あのカエルは?」

「あいつはヨコヅナ。このシフト駅の悩みの種なのよ。力比べが大好きで、いつも海列車に勝とうとすんの。アレくらいじゃ死なないし、また現れるわよ」

 

 ルフィが根性あると驚いているが、実際ぶち当たった列車は多少の頻度はあるが壊れ、お客にも迷惑が掛かっているという。

そしてそれはともかく、次の指針(ログ)はその列車が来た方向……つまり、ウォーターセブン、造船島と言われる程、造船業が盛ん。

 

「よーし、次の目標は決まりだな。メリー号を修理して、必ず船大工を仲間にするぞ!!」

 

 パイユのお礼だと、ココロおばさんから島の地図と紹介状を貰った一行は、水の都ウォーターセブンへと向かった。

 

 

――

 

 

 一味が次の島へ向かっているその時、男も一人、そこへ向かっていた。

 

「あぁ()つつ……たく、効いたなぁ」

 

 海軍大将、青雉……彼はミサカにぶっ飛ばされた後、やはり無事だった。

しかしダメージは大きく、動くのがかったるかった彼は少し休憩してから自転車を漕いでいた。

 

「ログから察するに、次はウォーターセブンか……あらら、随分本部に近づいてるじゃないの」

「えぇ、そーですよ近づいてますよ」

「お」

 

 自転車を漕ぐ彼の元へ、海軍の小型船が近づいてきた。

ソレに乗っているのは、若い海兵だ。

 

「おー、ト、と……トーマじゃねぇの。どうした?」

「どうした……じゃねぇよ!アンタが勝手に消えたから、探しに来たんだよ!!それと、ト・ウ・マ!いい加減覚えろ!」

「仮にも大将にえらい口のききようだなぁ」

「アンタが報告、連絡、相談、ほうれんそうをしっかりしてくれたら、もっとちゃんと敬うんですけどねぇ……!」

 

 彼の名前はカミジョウ・トウマ。若くして海軍准将の位にいる、まだ齢16の少年だ。

 

「っていうかなんでお前さんなんだ?ほかに適任いたでしょ?」

「このだだっ広い海で、ちょっと行ってくるっていう書置きだけ残したあんたの車輪の後を、溶ける前に追わないといけなかったんだよ。直ぐ追えるのが俺しかいなかったんだよ。折角休日だったのに……不幸だ」

「あらら、まぁ悪かったな。詫びにこの先の街で奢ってやるよ」

「……え?」

 

 休日を潰されたトウマが落ち込んでいると、流石に罪悪感が沸いたのか青雉……クザンがウォーターセブンで奢ると言い出した。

急に降ってわいた幸運に、トウマの目が点になる。

 

「マジか、それはマジなのですか閣下!久しぶりに固形物を食っていいというのですね!?」

「マジだ、マジだからその顔止めろ。……てかお前、日頃どんな生活してんだよ」

「日頃さばいてもさばいても終わらない書類仕事と実務を、サプリと栄養ドリンクを飲み回しながらこなし続け、何ヵ月ぶりかに訪れた休日すら潰された俺にも、まだ休息は訪れてくれるんだな……!!」

「悪かったって……お前、興奮するとそうやって変な口調になるのやめろ」

「サーイエッサー!!」

「だぁから……あぁもういいや、だるい」

 

 クザンはトウマの船に乗り込むと、そのまま横になった。

奢ってもらえると聞いて上機嫌のトウマは、船を進ませる。

 

 ―――

 

 水の都、ウォータセブンへ着いた麦わらの一味は、黄金の一部を換金し、その金でメリー号を修繕するために動いていた。

ただし、換金の為に動いていたのはナミ、ルフィ、ウソップの三人だ。

サンジとチョッパーはそれぞれ食料や薬品の買い出しにでかけ、ゾロは黙々と修業し始めた。

最後にロビン、エネル、ミサカは……服の買い出しだ。

 

「まさか、エネルの服が下半身しかないなんて……」

「おかしいとは思ってたのよ、いつも同じ服装なんだもの」

「ヤハハ、空島にはあまり気候に差が無くてな。それに私は雷、その気になれば熱など自在に生み出せた」

「でも目立ちすぎでしょ……その太鼓はどうにかできないの?」

「ん?私の能力で制御しているから、服を着るのには困らんぞ」

 

 そういえば太鼓が雷になっていたのを思い出した。

というか、別に太鼓じゃなくてもいいのでは……。

 

「ヤハハ、まぁ丁度いいではないか。ミサカも下着が無いのだろう?」

「……周りの人が発育いいだけ、私も大きくなったら多分あぁなる」

 

 ジーっと隣のロビンの一部を凝視するミサカ。

そう、デービーバックファイトで手に入れたミサカの衣服だが、大体がミサカよりサイズが大きい物ばかり。

服の丈を直すだけならともかく、下着の仕立て方など流石に知らない彼女が四苦八苦してきたのは言うまでもない。

 

「あら、これいいわね」

「ん?……ロビン、それスケスケ」

「えぇ、可愛いと思うわよ?」

「……からかってる?」

「ふふ」

 

「エネル、執事服とか似合わないね……」

「ヤハハ、私程誰かに仕えるということが似合わない存在もおるまい」

「だったらこれなんてどうかしら?」

「……それは、キグルミではないか。カエルか?」

「……………かわいい」

「「!?」」

 

 久しぶりに、楽しい時間が過ぎていった。

青雉との戦闘以来、どこか緊張していたような様子があったことを心配していたが、ロビンがこの調子なら大丈夫だろう。

 

「――」

「!?」

 

 三人が買い物袋を持って暫く歩いていると、ロビンが急に振り向いた。

今日は折角楽しいというのに、邪魔者はいるものだ。

 

「ロビン」

「……ミサカ?」

 

 ギュッと手を繋ぐ。さっき通り過ぎた誰かは、もうどこかへ走り去っていった。

エネルならきっと追えるだろうけど、視線で止める。

今はメリー号の修理もある。あまり騒いで街を壊したりしたら、船を直してもらえなくなるかもしれない。

 

「そろそろ帰ろ?」

「………そう、ね」

「こっちからの方が近いぞ」

「ありがと」

 

 エネルが先導し、ミサカはロビンと手を繋いで、三人で歩いて船へと戻った。

 

 

―――

 

 

 ルフィたちはアイスバーグという、この造船島の総責任者のような存在と会っていた。

メリー号を直してもらえないだろうか、と聞きに来たのだ。

だが、船は直らない。直せない(・・・・)のだと、一流の職人たちは告げた。

 

「んなはずねぇ!まだ修理すれば絶対走れる!!今日だって快適に走ってたんだ!!なのに、急にもう航海できねぇなんて……信じられるか!!」

「沈むまで乗りゃ満足か? ――呆れたもんだ。てめぇそれでも一船の船長か?」

 

 ルフィは駄々をこねるが、しかしそれを一流の職人を束ねる立場であるアイスバーグが放った言葉に何も言えなくなってしまう。

何はともあれ、一時考える時間が必要だろうと船へ戻ることに。

 

「……あれ、こっち軽い」

「え、2億入ってるのよ、そんなわけ――これ、私たちのケースじゃないわ!?」

 

 しかし、話し合いに集中している間に鞄がすり替えられ、4億あったうちの2億が消えた。

同時にウソップも消えてしまう。

誰か見てないかと聞けば、フランキー一家という解体屋に連れ去られたらしい。

 

 探しに走るも、見つかる可能性は低い。

事実、ウソップは裏町にてボコボコにされていた。

 

「ハァ、ハァ……返せよ!!メリー号を直すのに、必要なんだよ!!!」

 

 必死なウソップ、しかしフランキー一家は荒くれ者の集まり。

2億を奪い取り、去ろうとしたその時だった。

 

「はいはい、こんなとこで何してんのおたくら?」

 

 ツンツン髪の海兵が、仲介に入った。

 

「なぁんだてめぇ!!」

「なんだって、まぁ一応政府の犬ってことになるのかな?悪いことしてるやつ見つけたら、捕まえるのが仕事なんだよ」

 

 まぁ、本当は今日非番なんだけど、とぼやく海兵。

相手は海兵、ウソップは海賊……しかし、そんな立場を気にしている場合ではなかった。

ウソップは必死に海兵の元へ寄ると、その手を掴んで頼み込む。

 

「アレ、俺のなんだっ!!俺たちの、船を直すためにいるんだよ!!!」

「ギャハハ!!おいおい、海賊が海兵に頼み事かよ!?」

「頼む!!俺が弱いせいで、こんなことになっちまって……海兵のアンタに助けてなんて、筋が通らねぇよなっ! でも、でもッ!!」

 

 頼み込むウソップの姿を嘲笑うフランキー一家。

暫し考えこむ海兵。今日は厄日だと確信しつつ、右の拳を握った。

 

「まぁ、非番だからな――海賊だのなんだのってのは、聞かなかったことにしてやるよ」

 

 フランキー一家に対し、本日クザンを見失った上に迷子になっていたカミジョウ・トウマが、宣戦布告をした。

 

 

 そこから先は、あっという間だったとウソップは駆け付けてくれたナミに語った。

ボロボロだったウソップには全てを把握できなかったが、フランキー一家を一人で追い返した上に、金を置いていってくれた。

海兵だというのに、休日で仕事に縛られていない親切な誰かさんとして、助けてくれたのだ。

 

「非番なのに軍服着てたっていうの……?」

「あぁ……そうだ、船、これで修理を……」

「……その話は戻ってからよ。立てる?」

 

 ナミはウソップに肩を貸し、メリー号へと戻る。

そこで告げられるのは、もう船は修理できないという残酷な現実。

金があっても無理なのだ、一流の職人が揃ってそう言ったのだと、説明されるもウソップは納得しなかった。

 

「この船だぞ……俺たちが今!乗っている、この船だぞ!?」

「あぁ……沈む。そういわれたんだよ」

「一流と言われる船大工たちが、もう駄目だと言っただけで!!今までずっと一緒に海を旅してきた、どんな波も戦いも!!一緒に切り抜けてきた大事な仲間を、見殺しにするってんのか!!?」

 

 叫ぶウソップに、ルフィも怒鳴り返しそうになるが、歯を食いしばって堪える。

 

「一味に船大工が居ねぇから……一流の腕を持った奴らに見てもらったんだろうがっ」

「ッそうかい、今日あったばかりの他人に説得されて帰ってきたのかよ!?メリー号の強さは知ってんだろ!!?」

「あぁ知ってるよ……俺たちは今まで、その強さに助けられてきたんだ」

 

 ルフィとウソップは一味でも初期の方で仲間になった関係だ。

メリー号も、ウソップの島で手に入れたのだという。この二人にとって、メリー号は酷く思い出深いものなのだ。

だからこそ、そう。だからこそ。

 

「ウソップ、もう船は直らねぇんだよっ。それは、ハリボテ修理してきたお前が一番わかってんだろうが!!」

「っっっ!!!!!」

「船は、乗り換える……」

「ふざけんな!!」

「ふざけてんのはどっちだ!お前、メリー号はもう次の島に辿り着けねぇって言われたんだぞ?!この島に辿り着いたことすら、奇跡だって、一流の船大工たちが言った(認めた)んだぞ!?それがどういう意味か、分かるだろぉが!!」

「俺は傷ついた仲間(・・)を置き去りに、この先になんて進めねぇ!!」

「お前はもう治らねぇ程傷ついた仲間に乗って、沈むってのか!?お前は、メリーに俺たちを殺させる(・・・・)つもりか!!!!」

「ッだから、それは直せば……なお、せば」

 

 段々熱くなっていく二人。

しかし、ルフィの告げた言葉に、静けさが訪れた。

 

「……………」

「………ウソップ」

「………くそ、ちくしょうッ!ちくしょぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

 分かっていた。ウソップは誰より真摯に船に接してきた自覚がある。

ルフィたちだってこの船を大事にしてきたのだと、ちゃんとわかっていた。

 

「船は乗り換える……記録指針が溜まるまで7日ある。それまでに、皆で船を決めよう」

 

 ルフィはそう言ってカタログを置いたが、彼含め誰もそれに目を通そうとはしなかった。

各々思うところがあるのだ、この居場所に。

その日は誰も喋らず、静かな夜が過ぎていった。




『ツンツン髪の海兵』カミジョウ・トウマ 准将
年齢16歳、特徴ツンツン髪。
 大将クザンの部下として働いている。
彼は基本クザンや他の上司の仕事を押し付けられたり、無茶ぶりに応えたりしながら過ごしている。
部下にも気を使っており、人気者ではある。
しかし、何かあればまるで吸い込まれるかのように巻き込まれていく彼に、同情する声は多い。
日頃から忙しい彼だが別に今の職場に不満はないらしい。苦手な上司は赤犬ことサカズキとモンキー・D・ガープだという。クザンは何だかんだ自分のやることを許してくれることがある為、恩を感じている。

 なお、彼は無能力者である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 彼女の内心

 ニコ・ロビンにとって、麦わらの一味は単なる隠れ蓑のつもりだった。

七武海の一人、クロコダイルを倒した船長とその一味。ルーキーにしては実力は中々。

しかし、圧倒的に強いとは思えなかった。……彼女、エレクトロ・D・ミサカが現れるまでは。

 

 14歳にして1億5千万の賞金首になったばかりだという彼女は、悪魔の実以外にも不思議な力を秘めていた。

〝覇気〟と呼ばれるその力は、ロビンを驚かせた。

相手の動きを察知し、小さな少女が放てるはずのない、重い一撃を放つ。

磁場を操るバリエーション豊富な電気系の能力も合わさった彼女は、悪魔の実でも最強だと言われる自然系(ロギア)の能力者を、協力してだが無傷で倒して見せた。

 

 何時も無表情で、遺跡を探索してても戦ってても、彼女は動じない。

強いと思った、凄いとも、呆気にとられるとはきっとこういうことを言うのだろうと。

 

 

 ―――でも、違った。

 

 

 海軍大将青雉、彼と彼女は戦った。

彼女たちの戦いを、ロビンは見ていた(・・・・)。彼女の能力はこういう時便利だ。

まぁ、何をどうしているのかは、超人的な戦いすぎて彼女に把握できなかったが。

 ともかく、一緒に戦っていたエネルは倒され、ミサカも遂に凍り付いてしまった。

善戦していたが、やはり大将という壁は厚かったのだろう。

 もう、ここまでなのだろうかと、ロビンは正直諦めていた。それ以前に、疲れていたのだ。

8歳で賞金首になり、多くの人間に取り入り、裏切られ、追われ続けてきた。

気付けばすっかり大人になったのに、長い時間が経ったのに、仲間なんて出来なかった。

 

 そして、これまでの歩みから、彼女は麦わらの一味を信じていなかった。

船長であるルフィが認めてくれても、それでも、彼女の今までがソレを許容しなかった。

ミサカが、己を焼いてでも青雉にぶつかっていくその瞬間まで、仲間だなんて自覚はなかった。

 

(……ミサカ)

 

 同じ女子部屋で眠る彼女の頭を、起こさないように撫でる。

ボロボロになって、強大な敵にぶつかって、限界を超えて戦った小さな女の子。

ミサカは強い。でも、彼女だって負けることがある。少なくとも、大将相手に無事で済む子ではない。

 

(ごめんなさいね)

 

 彼女が自分を大事にしてくれても、護ってくれようとする彼女が無事でいられるはずがない。

裏切らないのだとしても、傷つき死んでしまうのかもしれないと思うと、怖くなる。

 

 そう、ニコ・ロビンは20年振りに、誰かを失うことに心底恐怖していた。

 

 そこまでにミサカが彼女に食い込んできたのは、ロビン自身予想外だった。

話すだけで心地よくて、着せ替えすると楽しくて、繋いだ手は温かかった。

 

 

 こんなに小さいのに、必死に守ってくれるミサカが―――怖い。

 

 

 深夜、寝静まったメリー号をロビンが降りていく。流石に意識が無ければ、見聞色は効果を発揮しない。

船のことで必死な一味を放っておくのは、非常に心苦しい。

しかしこの場所に甘えきって、誰かが、皆が死ぬと思うとどうしようもなかった。

 

「……もういいのか」

「えぇ……行きましょ」

 

 悪魔の実だろうか、空間を開けて(・・・)現れた大男に、ロビンはついていく。

 

「………さよなら」

 

 その呟きを、誰も聞くことはなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 探索開始

 エニエス・ロビー編本格始動です。
それと、CP9を少し強化しております。


 朝、ミサカは起きて違和感を覚えた。

何時もの女子部屋、いつもの寝床……しかし、そこから減っているものがある。

 

「……ロビン?」

 

 ニコ・ロビンの黒を基調とした衣服や鞄が消えていた。

ミサカが起きた時間は、まだ早朝。日が昇り始めたばかりの時間であり、この時間に鞄を持って外に出かける必要などない。

 

「っ」

 

 甲板、ラウンジ、倉庫、ユニットバス……思いつく場所は一通り探した。

男子部屋も少し扉を開けて確かめたが、やはり彼女の姿は無い。

 

「何をしている?」

「エネル……」

 

 欠伸をしながらゆっくりエネルが起きてきた。

彼は見聞色の覇気で周囲を把握している……ミサカが何を探しているのかも、もちろん分かっていた。

 

「分かっているのだろう。あの女は出ていった」

「……どう、して」

「ニコ・ロビンの選択だ。連れ去られようとしたならともかく、自分から出ていったぞ」

「なんで、止めなかったの」

「私の言葉で止まるなら、止めた。悪いが私にはあの女を止める言葉を持ち合わせてはいない。まぁどうするかはこの一味に任せる。私は新入りだからな、ヤハハ」

 

 それだけ言って、エネルは食料を求めてラウンジへと向かった。

ミサカは甲板の適当な所に座り込み、分かっている事実を纏め上げる。

 恐らく、ロビンは昨日の仮面の人物についていったのだろう。CP9と名乗っていたのを覚えている。海賊という雰囲気ではなかった。もっと、何かに忠実な職人の様な気配。

 

 ――恐らく、海軍。

 

 理由は、きっと大将青雉が言っていた過去絡み。8歳にして賞金首になったという経歴が関わっているに違いない。

 

(………ロビン、どうなるんだろ)

 

 賞金首が政府に捕まればどうなるかなんて、考えるまでもない。

単純に死刑か、学者であるロビンの知識を求めて拷問か……どのみち碌な目に合わないだろう。

そんな子供でも分かるようなことを、彼女が理解できていない筈がない。

 となると、自らそんな状況に陥ったのには理由がある。

きっと、ミサカ達が関係しているような、理由があるはずだ。

 

 その数十分後、起きてきた一味にロビンが消えたことを説明した。

全員が神妙な顔つきになったが、それでも万場一致でやることは決まった。

 

「何も言わねぇなんて、納得できねぇ。探すぞ!」

 

 ルフィの言葉に全員が賛同する。

一味を抜けるというのに、何も言わず勝手に居なくなるなんて誰も飲み込めない。

ロビンの意思をハッキリ聞く為に、麦わらの一味は数人ずつチームに分かれ、ロビンを探すことにした。サンジはフットワークの軽さから自分は一人で探した方が効率がいいと言って、駆け出して行った。きっとロビンが心配でならないというのもあるのだろう。

 しかし、流石20年世界政府から逃げ続けた女性。彼女の行方を追うのはかなり困難だった。

 

「エネル、どう?」

「むぅ……ウォーターセブンにはいる、のだが……どこかハッキリしない。違和感が強い」

「違和感?」

「そうだな……気配が薄い……いや、何かに隔たっている?」 

 

 島を覆うほどのエネルの見聞色でもハッキリロビンの居場所が掴めなかった。恐らく何らかの悪魔の実の能力者が関わっているだろう。

となると、情報が必要だ。昨晩消えた彼女と大柄な仮面の人物。美女と野獣というわけではないが、このコンビは目立つはず。

 そう考え、聞き込みを開始したのだが、此処でさらに想定外が重なった。

 

 

 ――市長アイスバーグ、撃たれる。

 

 

 昨晩(・・)、何者かに撃たれ部屋で倒れている彼を社員が発見したらしい。

英雄と言われる程慕われている彼が暗殺されかけるなんて、町中あり得ないと大騒ぎしていた。

生きてはいるが、昏睡状態である……この情報は町中にあっという間に広まり、ロビンの情報をかき消していた。

 

「どうしよう……どうしようっ」

 

 町で聞き込みを続けていたミサカは、焦ったように呟いていた。

同じ時期に消えたロビンは絶対無関係ではない。だが、街の人間はロビンのことなど碌に知らない。

寧ろ、彼女の消息なんてアイスバーグに比べれば、この街の人間にしたら二の次な情報なのだ。

 

 さらに運の悪いことは続いた。

 

 アクア・ラグナという特大の高潮が訪れた。

とんでもない大津波を引き起こすというアクア・ラグナ、高い場所に避難しなければ無事では済まない。

メリー号を安全な場所に移動させなければいけなくなったため、ウソップ、ナミ、チョッパーの三人は場所を借りに行くことになり、人手が一時的にではあるが減ってしまう。

 

「――落ち着け」

 

 ポンっと大きな掌が焦るミサカの頭を撫でた。

ゴツゴツした硬い手、ゾロだ。

彼は強いし頼りになるのだが、道に迷うためミサカと一緒に聞き込みしていたのだ。

今は迷子を捜す時間も惜しいというナミの英断である。

 

「色々あって混乱すんのは分かるが、テメェがしっかりしねぇでどうすんだ?」

「ゾロ……でも、多分市長さんの件にロビンは関わってる……タイミングが合いすぎてる」

「だとしても、だ。お前、んな(ツラ)であの女に会うつもりか?」

「?」

 

 彼女は自身の顔を触ってみるが、何時もの無表情。

一体何が言いたいのだろうと、ゾロを見上げるミサカ。

そんなミサカに、彼は呆れたように言葉をかけた。

 

「これでもお前と寝食を共にしてんだ……泣きそうな雰囲気位は分かる」

「……わたし、泣きそう?」

「あぁ。迷子になったガキみてぇだ」

 

 わしゃわしゃと乱暴に撫でた後、ゾロはしっかりと見上げるミサカに視線をぶつけた。

 

「いいか、元々ロビンは敵だった奴だ。それを仲間に入れたのはルフィの野郎だ……アイツの気まぐれだろうが何だろうが、船長(キャプテン)の決めたことに従うのが船員(クルー)だ」

「うん……分かってる」

「いいや分かってねぇよ。いいか、船長命令で散らばって探してんだ。もし俺らが見つけたら、場合によっちゃぁ俺らが船長代理(・・・・)も兼ねて、あの女の意思を聞かなきゃならねぇ。そんな立場の奴が、んな顔してんじゃねぇよ」

 

 それはきっと当たり前のことであり、同時に仁義とかプライドとか、海賊をやっていくには重要なことだった。

それをブレずに強い意志を――覚悟を持って行動しているゾロは、立派な船員(クルー)だった。

 

「………ゴメンなさい」

「分かったらシャキッとしやがれ」

「うんっ」

 

 気合を入れなおし、冷静を意識して頭を切り替える。

ロビンと関わりがあるであろう事件……本人が昏睡状態だというが、待っていられる状況ではない。

もし彼女がこの事件に協力していた場合、一味はウォーターセブンに居られなくなるだろう。

 

「――よし、ゾロ。今すぐ市長さんに会いに行こ」

「あ?……なるほど、確かに手っ取り早そうだ」

 

 ゾロは剣士だが、察しが悪いわけではない。

もし関係があるのだとしたら、うまくいけば市長からロビンの消息が掴めるかもしれないのだ。

市長が眠っているという本社には山ほど人が居る。多くの守りをすり抜ける必要がある。

 

「だから、ゾロ。私の手を放しちゃダメ」

「俺は子供じゃねぇぞ……」

「迷子になられたら困る。それに――」

「……おい、何して」

 

 バチッと紫電が跳ねたミサカを見て、嫌な予感がゾロを襲った。

この感覚は……ルフィが無茶やる時によく感じているソレに近く、ほぼほぼ確信でもある。

 

落とすわけには(・・・・・・・)いかないから(・・・・・・)

「このっバカやろぉおおお!!??」

 

 磁場を操り、身を覆うほどの砲身(・・・・・・・・・)を作り出し、撃ちだす(・・・・)

一人(ゾロ)分負担があるが、彼の腰の刀も使って多少軽減しながら―――ミサカはガレーラカンパニー本社、その屋上へぶっ飛んで行った。

 

 

 ―――

 

 ルフィとエネルは高い場所から辺りを見渡していた。

船から気配を探って見つからないなら、その周辺に赴いて精度を上げればいいと考えたのだ。

ルフィはゴムであり、エネルが雷化しても覇気を使わず触ることが出来る。移動時間は文字通り瞬時だった。

 

「……やはり、分からんな」

「見つかんねぇなー……ん?」

 

 ふと、ルフィがおかしなものを見つけた。

事件が起きたり津波が来たりする中、裏町で暴れる影が二つ。

それは偶然にも、彼らの方へと向かっていた。

 

「何か来るぞ」

「一人は海兵みてぇだ……もう一人は、海パン?」

 

 首を傾げてしまうが、確かにもう一人の男はサングラス、アロハシャツに海パンという恰好。

堅気の人間には見えないし、裏町を壊しているのは十割彼の様だ。

 

「待ちやがれぇ!!」

「不幸だぁぁ~~~!!!」

 

 ツンツン頭の海兵を見て、ルフィはふとウソップを思い出した。

そういえば、彼が救われた相手というのがツンツン頭の海兵ではなかっただろうか?

 

「エネル、わりぃちょっと行ってくる」

「なに?」

 

 返事は聞かず、既に跳んでいた。

海兵ならば、海賊や街の人間が把握していないロビンの居場所を知っているかもしれない。かなり親切なようだし、教えてくれるかも、と。

 

「なぁお前」

「今度は何だよ!?」

 

 急に隣に現れたルフィに驚く海兵。

しかし、ルフィは気にせず言葉をつづけた。

 

「俺、ルフィ。ロビン探してんだけど、知らねぇか?」

「あ、あぁ俺はカミジョウ・トウマ。ロビンって、ニコ・ロビン?」

「おう、今朝から姿が見えなくてなぁ。あ、そうだウソップが世話んなったな、ありがとよ!」

 

 しししっと笑うルフィを見て、海兵――トウマはキョトンとした。

まずトウマは長鼻の青年と自己紹介をしていないので、ウソップという人物を認識できず、ニコ・ロビンを探しているという言葉の答えは勿論知らないとしか言えない。

 

「悪ぃんだけど、俺も朝からアイツに追われててな……」

「何かあったのか?」

「いや、昨日鼻の長い奴の金を盗もうとしてたやつらの親玉みたいで……俺、あいつの子分追い返したからなぁ」

 

 正確には子分の半数を一人一発ずつKOして、という言葉が着くのだが、まぁそれは置いておいて、今ある状況を簡潔にだけ説明した。

 

「困ってんのか?」

「まぁ、流石に街を破壊されるのは「ストロング(ライト)!!!」ちょっと、な!」

 

 迫ってくる鎖で繋がった(・・・・・・)拳を、右手で払いのけたトウマ。

上空へハネ上がった拳は、壁に当たると罅を作り、鎖によって海パン男の元へと巻き戻っていった。

 

「何だアイツ、能力者か?」

「いや、改造人間(サイボーグ)って言ってたな」

「へぇ……何でもいいや、助けてやるよ」

「え?」

「ウソップ助けてくれた恩もあるからな。あ、そうだ。ロビン見つけたら連れてきてくんねぇか?」

「……お前、それだと新しい恩が生まれないか?」

「にしし、ってことは断んねぇんだな。お前変わったやつだなぁ、おれ海兵嫌いだけど、お前気に入った!」

 

 そういうと、一緒に走っていたルフィは立ち止まり海パン男の方へと振り向いた。

 

「おい、海パン野郎!」

「アァン!?なんだおめぇ!」

「俺ルフィ、悪ぃけど、コイツには貸しがあるんだ。こっからは俺が相手だ!!」

 

 啖呵を切ったルフィを想わずカッコいいなコイツと思ってしまうトウマ。

しかし、断っていないとはいえ、自分はニコ・ロビンを連れていくとは言っていないのに、まるで味方に話しかけるようなこの陽気さ。

 

(………モンキー・D・ルフィ、か)

 

 脳裏に浮かんだとあるおじいさんを思い出すほどそっくりな彼。

しかし、あの爺さん程滅茶苦茶理不尽というわけでもないようだ、と何となく協力する気になってしまったトウマ。

 

(流石に、海賊に全面協力ってわけにはいかないけど、悪い奴じゃなさそうだしなぁ)

 

 背後で改造人間を止めてくれる麦わら帽子の海賊。

ニコ・ロビンに関しては、『悪魔の子』だとか色々言われているのは知っているが、そんな噂くらいしか知らない。

もしかしたら、彼の様に悪い奴(・・・)じゃないかも(・・・・・・)しれない。

 

「ま、会ってから考えるか」

 

 海軍の正義(世の為)を考えるのならば、絶対あり得ない行動。

しかし、カミジョウ・トウマにその正義は適用しない。

もしそんな聞き分けの良い人物ならば、彼はこんな苦労人ではなかっただろう。

海兵にはそれぞれが掲げる正義(・・)がある。トウマも、それに従って行動していた。

 

「まずは情報収集だな。なんか騒がしいし、皆色々喋ってくれそうだ……結局忙しいな、俺。今日は書類仕事を片付けるつもりだったのに」

 

 こうして、ニコ・ロビンを追うメンバーに、一人の海兵が加わった。




ロビン……CP9協力。消息不明。
ミサカ&ゾロ……聞き込み後、アイスバーグに話を聞くために本社へ直撃訪問。
ウソップ&ナミ&チョッパー……メリー号を安全な場所へ。
サンジ……聞き込み、脚の速さを生かして単独爆走行動中。
エネル……勝手に暴れだしたルフィを無視し、見聞色の覇気をメインに探索。
ルフィ……トウマを探索に誘い、自分はフランキーと戦闘開始。
トウマ……持ってきていた書類仕事を後に回し、ウォーターセブンの現状を把握するため情報収集へ。
青雉……トウマに仕事を押し付け、ロビンの選択を観察中。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 悪だくみ

 ガレーラカンパニー本社の屋上へと着地したミサカとゾロ。

勢いつけ過ぎて通り過ぎようとしたところを、反発と引力でうまいこと調節し、最後は無理やり空を跳ねて着地したのだが、ゾロにはキツイ体験だったらしい。

 

「おまっ殺す気か!?」

「んー……色々能力について考えて、初めてやったから調節が……ごめんね」

 

 ビリビリの実の能力は〝発電〟だろうとミサカは想像していた。

さらに電撃を操り、磁界すら操作するその自由性こそが真骨頂なのだと。

 

「多分、もっと色々できると思う……エネルみたいに雷速で動けない分、私は手札で勝負しなきゃ」

 

 エネルは雷そのものであり、実力もある。そんな彼に磁力操作を教えたところ、磁界は出来はしたのだがかなり大雑把なものとなっていた。

ミサカの様な緻密な磁力操作をものにするにはもっと時間がかかるか……もしくは、自然をモチーフにしたゴロゴロの実では、そこまで細かいことは出来ないのかもしれない。

 

「たくっ……んじゃ、いくか」

「うん、ゾロどこ行く気?扉はこっち」

「下の窓から入った方が早いだろ?」

「下に人もいるのに、派手に窓を破る気?音と姿でばれちゃうでしょ……」

 

 ゾロの方向音痴を防ぎながら、二人はこそこそと移動を開始する。

社員はマスコミの対処に追われているらしく、あっさりとアイスバーグの居ると思われる寝室へ辿り着いた。

彼の部屋だと分かる理由として……分かりやすく、数人職人が心配そうに座って陣取っていたからだ。

 

「……どうする?」

「………」

 

 このガレーラには職人とは思えない実力者がいる、とルフィやナミが言っていたが……なるほど、あの四角い鼻の人と部屋の中にいる気配の人は頭一つ抜いて強い。

特に前者は……ゾロでも厳しい相手かもしれない。

 

「………ん、こっち」

「?」

 

 ゾロの手を引いて、トコトコ歩いていく先は……アイスバーグ部屋の真上の部屋。

誰かいたら痺れてもらうつもりだったが、誰もいないようで良かった。

 

「何する気だ?」

「……――融解」

 

 片手を硬化し地面に指を埋め(・・)、円形に電気を走らせる。

派手な電撃は人を呼び寄せてしまうが、目に見えない電流を延々と同じ場所に周回させればそんなことはない。

電熱によって地面がゆっくり溶けていき、円形にくりぬいた(・・・・・)

 

「っ貴女は――」

 

 アイスバーグの部屋に控えていた、秘書らしき女性が驚いた顔でこちらを見るが、あいにくこれは奇襲。

彼女が言葉を発するよりも先に、彼女の背後に周り電気を首筋に浴びせた。

人を気絶させるのに、派手な一撃はいらないのだ。

取り合えずちょっと隅で寝てもらい、ベッドへと近づいた。

 

「この人が……アイスバーグさん?」

「いや、知らねぇぞ」

「……多分、アイスバーグさんのはず」

 

 二人はアイスバーグの顔を知らないが、暗殺されかけ重症である男が本社で寝かされているという情報を知っている。

この島には病院らしい場所は無い。小さな医院くらいはあるのだが、大きな施設は無いのだ。

海列車で病院のある場所に運び込まれるか、腕のいい医者を連れてくるのが当たり前の島。よって、此処で安静にされているこの男性がそのはずだ。

 

「ん、ここは……っ」

「まって」

 

 叩き起こそうとするゾロを止めていると、丁度意識が戻ったらしい。

ミサカとゾロを見て驚き、騒ぎ出す前にその口を片手で抑えて止めた。

 

「襲撃に来たわけじゃないの……貴方に、訊きたいことがあってきた。お願い、静かにして」

「………」

 

 こくこくと頷いたのを確認して、ゆっくり手を放す。

 

「ンマー……俺に用ってのは、昨日……昨日か?」

「うん、貴方が撃たれたのは昨日の夜。私たちは、それが誰かを知りに来たの」

「そうか……昨晩、俺を撃ったのは仮面の男と――お前たちの仲間、ニコ・ロビンだ」

 

 言うやいなや、布団から突き出した彼の手には一つの銃があった。

 

「こうみえて俺は用心深くてな……こっちからも一つ頼み事だ、今すぐニコ・ロビンに会わせろ」

「………ロビンは昨晩、多分海軍の誰かに誘われて船からいなくなった。どこにいるか分からない。ロビンにあってどうするの?」

「……ッ!?」

 

 無言で引き金を引こうとした彼だが、その前にミサカの手が触れた。

同時にガクンッと腕から力が抜け、そのまま銃はベッドに落ちた。

 

「……何しやがった?」

「生体電流を操って、腕の信号をシャットアウトした……他人のは触れてないと出来ないし、集中力要るけど、貴方なら近づいても問題ない」

「チッ」

 

 憎々し気に舌打ちするアイスバーグ。

素のスペックでは、覇気が使えなければただの少女のミサカにとって、ゼロ距離というのは本来あり得ない。しかし、彼くらいならどんなに暴れられても問題はない。

そう言えるだけの実力が、彼女にはある。

 

「教えて、ロビンは何をしに来たの……貴方は、何に狙われて、こうなってるの」

 

 数分、彼は悩んだ後口を開いた。

 

「………お前らは、あいつが何をして世界に追われてるか知ってるか?」

「……歴史を追ってるってことくらいなら」

「あぁそうだ。その探求が、結果として世界を滅ぼせる古代兵器を呼び起こすことになる」

「古代兵器……」

「ただ歴史を知りたい、それだけの興味が世界を滅ぼすのなら……あの女は死ぬべきだ」

「テメェッ」

「ゾロ、落ち着いて」

 

 憤るゾロは、やっぱり仲間想いなんだとよく分かる。

それ比べてミサカは頭が冴えていくのを感じていた。

 

「ロビンは歴史を知るために、態々暗殺なんてしない……ロビンなら、歴史を盗み知るもの」

「………………お前たちとグルではなく、単独犯でもねぇならあの女は今、おそらく世界政府(・・・・)に使われている」

「世界政府?」

「あぁそうだ。政府はよりによって、あの女を殺すのではなく利用するつもりらしいな」

「……ロビンが興味があるのは歴史。貴女が狙われた相手は、どっちかというと世界政府。その世界を滅ぼすような存在に、貴方が狙われた理由はその兵器絡み?」

「……そうだ。政府は俺にその設計図をよこせと、しつこく迫ってきてたからな。ついに実力行使に出たらしい」

「どういうことだ?」

 

 疑問符を浮かべるゾロだが、ミサカは察し纏めた考えを言葉に出した。

 

「世界政府はロビンを使って、世界を滅ぼせるナニカを、手中に収める気なの?」

「そういうことになるな」

「私たちから離れて、世界政府と一緒に……脅されて?」

「そこまでは知らん……知らんが、そういうことかもな」

「……………ありがと」

「………」

 

 手を放し、アイスバーグを自由にする。

ゾロも察したらしく、黙った。

つまり、世界政府から20年逃げ続けたロビンが、怨敵のはずの世界政府に使われるしかない状況に居る……大半の理由は、弱みを握られている。

この場合の弱みなんて、言うまでもない……麦わらの一味だ。

 

「ロビンは一味を滅ぼす手段を持った、世界政府の脅しに屈している」

「ンマーそういうことだ。両者ともに信じがたい(・・・・・)ことにな。……にしても全く、文字通り命を握られるって体験を、連日とはな」

「ごめんなさい……」

「あぁまぁ仕方ない……それよりお前ら、俺に雇われないか?」

「「?」」

 

 アイスバーグの言葉に揃って首を傾げる。

二人にとって用件は済んだのだし、もうここにいる理由は無い。

しかし、押しかけ色々教えてもらうばかりというのも確かに悪いし、聞いてみることにした。

 

「俺の考えが確かなら、恐らくもう一度襲撃される。その時に切れる手札がもう一枚欲しい」

「私たち?」

「あぁ。俺は死んでも世界政府に渡したくない物がある。お前たちは、世界政府にとらわれ状態のニコ・ロビンを欲している。お互い、相手は同じだ」

「……」

「……いいよ、どうしたらいい?」

 

 ゾロと頷き合い、短い時間だが三人の悪だくみが計画された。

 

 

―――

 

 

 海賊と市長が悪だくみしているその時、ルフィは裏町で暴れていた。

相手はフランキー、ここウォーターセブンでは有名な荒くれ者だ。

 

「オウオウ!!なんだてめぇ、俺様はあの野郎に用があるんだがなぁ!!」

「ん、悪い。でも原因俺らなんだし、別にいいだろ?」

「ア?」

「お前の子分が奪おうとした金、俺らのだったんだよ」

「ほー海賊がどこぞから盗んできた金か」

「にしし、空島からな!」

「?」

 

 冒険を思い出して笑うルフィを怪訝な顔で見つめるフランキー。

海賊と言えばもっと横暴で自分勝手で我儘……こんな子供のような男がそうだとは、見えなかった。

 

「ゴムゴムのぉ~~銃弾(ブレット)ォ!」

「おぉっと」

「ハハ、強ぇな」

 

 腕の()で防ぐと、その威力がよく分かる。

腕っぷしはたしかにあるのだが、笑うその姿は海賊には見えない。

 同様にルフィもあっさり技を防ぐ相手の強さを察し、それでも余裕を保つ。

ルフィは自分に出来ることと出来ないことがあるのを、よく知っている。

彼一人では航海すらままならないことを、よく知っている。

だから今回のこともそんなに焦っていない。皆ならロビンを見つけてくれる、ロビンを見つけたら話を聞くのだ。

 

「あ、そうだ。お前ロビンしらねぇか?」

「ロビンん?しらねぇなぁ!」

「そっか」

 

 言いながら彼らの攻防は裏町に多大な被害を与えていく。

住民は慣れたもので、避難していった。

そんな二人の元に、一報が届いた。

 

「ルフィ、あんた何してんの!?」

「ん?ナミか、どうした!?」

 

 現れたのはナミ。彼女は息を荒げて新聞を見せた。

 

「ミサカが本社で強盗したって!!」

「アイツが?」

「うん。それで、市長暗殺未遂の疑惑(・・)が私たち一味にかかっちゃって、大騒ぎよ」

「まぁ追われんのはいつものことじゃねーか」

「笑い事じゃないわよバカ!! ともかく、まだ疑惑だから何とか船も預かってもらえたけど……盗んだ物がないか、持ち物全部没収されちゃって。疑惑もあるからミカンの木までよ!?ほんと信じられない!」

 

 黄金も衣類食器、ナミのミカンの木まで疑惑が晴れるまで市に没収されてしまったらしい。

ミカンの木はナミにとって何よりの宝物であり、怒り心頭といった具合だ。

 

「まぁ船乗り換えるときに全部移動しなきゃいけねぇんだし、手間が省けたじゃねぇか。それよりロビンは?」

「未だ捜索中!」

「分かった、そっち頼む!強盗はわかんねぇけど、ミサカが意味ないことするわけねェし、今は何よりロビンだ!!」

「分かってるわよ!あんたもさっさと手伝ってよね!!」

 

 ナミは走って探索の続きを始めた。

そこでふと、フランキーからの攻撃が止んでいることにルフィが気づいた。

 

「あの野郎が、暗殺?」

「あぁ、何だ知らねぇのか?」

「あぁ子分共のことで頭一杯でな……っておい麦わら!てめぇどこ行く気だ!?」

 

 ゴムの腕を伸ばして建物の上へ跳んだルフィを見て、フランキーが呼び止めた。

 

「あのツンツン頭も離れたみてぇだし、俺もやることあるんだよ。んじゃーなー海パン野郎~!」

 

 最後まで明るい麦わらの少年は、そう言って去っていった。

 

「………たくっ何だってんだ」

 

 フランキーは改めて、ツンツン頭の海兵を追うことにする。

裏町は彼の庭、ウォーターセブンに居て彼から逃げ切れるなど、通常ではありえないのだ。

 

 

―――

 

 

「ンマー、悪いなカリファ。無理させちまって」

「いいえ……それより不覚です。それに、こんな時に強盗とは」

「こんな時だから、かもな」

 

 起きた秘書、カリファを労わるアイスバーグ。

海賊による強盗は、気絶するその直前に見たカリファが流したものだ。

アイスバーグは起きたその時に二人の海賊に会ったことは告げていない。

暗殺犯もよく覚えていないと告げ、事件は未だ難航していた。

 

「それで、奪われたものは?」

「あぁ……」

 

 ごくりとカリファの入れた紅茶を飲みながら、アイスバーグは言った。

 

「なんてことはない、ただの紙切れだ。木っ端海賊には価値の分からんものだろうよ」

「………そうですか」

「ただ……あいつ等に価値が分からなくとも、他の連中は違うかもしれん。大急ぎで見つけ次第捕まえてくれ」

「わかっています。任せてください」

 

 強盗ということで一味は追われているが、暗殺犯が分かっていない今アイスバーグの防衛の方に人が割かれている。

その為、小規模にしては実力の高い一味を捕まえられるものがおらず、どうにか預けに来た船を取り押さえるのがやっとという状況。

 

(ここまでは思い通り……頼むぞ、嬢ちゃん達)

 

 敵も味方も欺いて巻き込んで、街中大騒ぎにした三人の悪だくみがどうなるのか。

勝負は、アクア・ラグナがやってくるであろう今夜まで。

きっと起こるであろう襲撃を警戒しながら、アイスバーグは静かにその時を待った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 襲撃の夜

 日が落ち、夜がやってくる。

アクア・ラグナが迫っているウォーターセブン、その下町からはすっかり人の気配が無くなっていた。

全員が津波を警戒し、街の上へ上へと非難しているのだ。

 

「………あぁ、入ってくれ」

 

 ゆっくりしていたアイスバーグの部屋に、ノック音が響いた。

促し入れられたのは、神妙な顔つきの職長パウリーだった。

 

「なんです、俺に用って?」

「………………ンマー、色々考えたんだがな。お前さんにも一つ頼んでおこうと思ってな」

「?」

「俺が政府を突っ返してんの知ってるな」

「えぇ」

 

 アイスバーグの元に政府の役人がやってきては、追い返されるのはここ数年で恒例になるほど職人たちは目にしていた。

ここで働いている人間ならば、誰しもが知っているはずだ。

 

「アイツらが狙ってるのは、マー詳しいことは言えねぇが、ある設計図でな」

「設計図?」

「あぁ。今回の件は、それを実力行使でって感じだろう」

「………それで、俺にどうしろってんです?」

「まず、社長室の金庫にある紙束を手に入れに行ってくれ。これは誰に見られても構わねぇ……それともう一つ、麦わらの一味だが」

「確か暗殺未遂の疑惑が掛かってましたね」

「あぁ。アイツら今回味方だ、一芝居打ってもらってる」

「なっ」

 

 よりによって海賊と組むとは、いったい何を考えているのかと驚愕するが、よくよく考えれば相手は政府の人間。

無法者を雇った方が確かに理にかなってもいた。

 

「アンタは、ホント無茶しますね……」

「ンマー、これくらいの無茶無謀には慣れたもんだ。あぁそれで、だ。紙束は偽物なんだが、恐らく襲撃される……だから―――」

 

 その後、金庫の番号を聴いたパウリーは一人で社長室へと向かった。

そこにある偽物の紙束を手に入れ……そして。

 

「此方へ渡したまえ、君にはその価値を見出せん」

「マジで現れたか……外も騒がしいな」

 

 仮面をつけた二人が現れると同時に、本社に爆音が響いた。

外が騒がしいことから、襲撃(・・)されているのだと察する。

 

「てめぇらに渡すもんなんざねぇよ!」

「……致し方なし」

「ッ」

 

 瞬きなんてしていなかったはずなのに、パウリーの目の前に現れる牛の仮面。

高速移動だと気づいた時には、魔の手が彼に迫っていた。

 

(あぁくそ、確かにこんなのが二人相手なんざ俺には無理だっ)

 

 脳裏にアイスバーグから言われた言葉がよぎる。

 

『だから―――隠れてお前についてってる嬢ちゃんに助けてもらえ、腕っぷしは確かだ』

 

 牛仮面の背後に落ちてきた(・・・・・)のは、茶髪の少女。

紫電を体に奔らせる彼女の名は、エレクトロ・D・ミサカ。

ここ最近麦わらの一味に入った少女であり、1億5千万相当の賞金首。

 

「――」

 

 そんな危険人物に、牛仮面が気づいた。

しかし遅い、彼の手がパウリーに伸びて居なければ間に合っていただろう防御行為もなく、少女の加速した黒拳が顔面へ突き刺さった。

しかし、牛仮面も相当な実力者。常人なら地面へ叩き付けられ気絶するだろうに、あろうことかその場で耐えてみせた。

 

「……なっ」

「……」

 

 しかし、耐えたからこそ仮面が弾け飛び、その素顔が露わになる。

パウリーもよく知った男だった。いつも肩にハトを乗せ、腹話術で喋っていた男。

一緒に仕事をして、一緒に騒いで、一緒に呑んだこともある、親しいと思っていた人物だった。

 

「お前、ルッチ?!」

 

 驚愕するパウリーだが、事態は休むことなく進んでいく。

口から一筋の血を流しながら、ルッチは冷ややかな目でミサカを睨む。

パウリーに伸びていた手はそのままミサカへと矛先を変えた。

 

指銃(しがん)

 

 一本の指で少女を貫こうとしたが、それは黒く染まった少女の肌に防がれる。

武装色の硬化だと気づいた時にはミサカの雷撃が放たれようとしていた。

 

「――っ」

 

 しかし、もう一人の骸骨仮面が放った蹴り、その衝撃()によってミサカの小さな体が壁に叩き付けられた。

壁が斬れるその威力、硬化していなければミサカもバッサリいっていたのは言うまでもないだろう。

 

「おい、大丈夫か!?」

「ん」

 

 ミサカを心配してくれるパウリーの声に頷きながら、蹴りの刃という未知の攻撃に驚く。

レイも剣を使って同じような衝撃刃を飛ばしてきたが、それを蹴りでやるとはとんだ人外である。

 

「……エレクトロ・D・ミサカじゃな。まさか、賞金首と組むとはのぉ」

「……全く、度し難い」

 

 骸骨仮面の声を聴き、もう驚かねぇぞと頬を引き攣らせるパウリー。

今聞こえた声は、山風と呼ばれ親しまれていた男。

 

「てめぇもかよ、カク!!」

「すまんのぉ。しかし、政府が大人しく申し出とるうちに渡さんから、こう(・・)なるんじゃ」

「このっ……いや、まて。アイスバーグさんの部屋の前を守ってたお前らがここにいるってことは」

「安心せい、まだ無事じゃ……まぁそれも今だけの話じゃがな」

「カク――っ嬢ちゃん?」

 

 ミサカは憤るパウリーの腕を掴み、止めた。

 

「………この二人の相手は私がするから、行って」

「何無茶言ってんだ!?」

「無茶じゃない」

 

 高速移動し、蹴りで壁を斬って見せた二人にたった一人でいいという少女の言葉を信じられず、怒鳴り返すパウリー。

しかし、あくまでミサカは冷静だった。

 

「私なら大丈夫。それより、今は真っ直ぐ走って。貴方が傷つくのは、誰も望んでない」

「悠長だな」

「逃がすと思うとるのか?」

 

 意見が割れている二人に、高速移動で左右から迫るルッチとカク。

その五指と蹴りには、人体を貫き、斬り裂くだけの威力がある。

しかし、パウリーを背後に放り投げたミサカは、そのどちらも受け止めて見せた。

 

「走って、早く行ってっ」

「っ」

 

 今の両者の一撃をパウリーは、反応できても止められる自信はなかった。

明らかにレベルが違う、自分では足手まといだと自覚した彼は悔しそうに走り去った。

 

「無駄なことを、逃げられんぞ」

「――それは、こっちの台詞」

 

 ミサカはグッと受け止めた腕と脚に力を入れ二人を地面へ叩き付けた。

しかし、鉄の塊でもぶつけたかのような音がして、地面に亀裂が入るだけで二人とも無傷だった。

 

「逃がさない。ロビンはどこ?」

 

 頑丈で、速くて、強い。確かにこの二人は今まで出会ってきた人たちとは違うようだが、それでも大将と比べれば(・・・・・・・)まだ容易い。

 ルッチとカクは少女の手から逃れようとするが、彼女の覇気に阻まれ攻撃が通らない。

1億5千万の賞金首は、探せばざらにいる。だが、この目の前にいる見かけ小さな只の少女は、どう考えてもその額に収まる実力ではないと、二人の認識が切り替わるのはすぐだった。

 

「貴様に教えることなど、何もない――っ」

「?」

 

 ググっと抑えていたルッチの腕に違和感を覚えた。

腕がミサカの胴より圧倒的に太くなって、掴んでいられなくなっていく。

いや、そもそもルッチ自身がどんどん変化していっている。

身体が変化するのは、自然(ロギア)系と――動物(ゾオン)系。

 

「ネコネコの実……モデル〝(レオパルド)〟――生命帰還」

 

 豹と呼ぶには人間らしく両の足で立つ歪な姿。

正しく豹人間と化した彼は、立っただけで部屋の天井に付く程の巨漢になった。

しかし、それがみるみる縮んでいき、最終的にはスマートになる。

比べると威圧感は少なくなったが、この部屋の中で戦うならば先ほどの巨漢よりもこっちの方がいいだろう。

 

「カクを離してもらおうか――嵐脚(らんきゃく)凱鳥(がいちょう)!」

 

 カクが放ったソレとは比べ物にならないほど強大な斬撃。

自由になった片手を黒く染め斬撃を弾き飛ばしたミサカに、更に速くなった高速移動で迫る。

 

剃刀(カミソリ)

 

 それだけでなく、その速度のまま空を駆けてみせた。

負けじとミサカも空を同じように跳ねる。

 

月歩(げっぽう)では逃げられんぞっ!」

「んっ」

 

 動物系は身体能力が向上する。まともに受ければミサカでは一溜りもないのは明らかなため、接近戦は避ける方が無難。

しかし、彼女も退けない理由があった。

嵐脚が乗った蹴りを覇気で受け止めると、返しに雷撃の槍を放ち相手を怯ませる。

 

「別に、それが出来ないわけじゃ、ない」

 

 更に同じように高速で空を駆け、怯んだ豹人間に蹴りを叩き込んだ。

しかし、ルッチもカウンターとして、指先で弾いた衝撃破でミサカの手を狙い、カクを弾き飛ばして見せた。

 

「すまん」

「さっさと行け」

 

 電撃を逃げるカクに向けるも、それを嵐脚で妨げられた。

雷は空気を伝うため、空気を断ち切る嵐脚は相性が悪い。

 

「空気の斬撃は、厄介」

「此方の台詞だ、覇気使い」

 

 首を鳴らしながら、政府でも恐れられている男が本気で、一人の少女を止めるためだけに立ち塞がった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 襲撃の夜②

 対峙し合う二人―――小柄な少女と見かけ化け物の男。

しかしその両者ともに実力者であり、暴れだせば止められるものなど少数しかいないであろう危険人物だ。

 

「覇気、知ってるんだ」

「職務上、貴様の様な奴の相手をしたことがある……数回程な」

 

 覇気使いは強者が多いが、決して無敵ではない。

覇気で防げない威力の攻撃なら通るし、意識外の攻撃は当たる。

暗殺しろと言われれば、幾らでもできる。

 

「凱鳥すら防ぐ相手に、こうして真正面から挑みたくはないが、仕方ない」

「こっちもこの展開は想定外だから、お互い様」

 

 本当ならば紙束を持って逃げたミサカを、仮面の誰かが探し出すのを期待していたのだが、全く持ってそんなそぶりはなかった。

そのため、パウリーに態々頼んでもう一芝居うつことになったのだ。

 

「私が盗んだのが望みのモノだって、思わなかったの?」

「探せる場所は隅々まで探した。だから我々はこうして潜入していたのだ」

 

 盗みに長けた者ならばいざ知らず、武力が取り柄の小娘が容易に盗めるのならば、こんな苦労はしていない。

 

「なるほど……で、ロビンはどこ?」

「ふっ貴様、あの女がどんな存在か知って言っているのか?」

「その問答はもうした。私の答えは変わらない」

「そうか――では、死ね」

 

 殺気を放ち、空中を駆ける二つの影。

狭い一室で始まった戦闘は、過激さを増していく。

 

 

――

 

 

 一方。爆音からしばらくして、アイスバーグの自室でも事件が起こっていた。

隣の部屋の壁をドアにして(・・・・・)、仮面をつけた人物が一人入ってきたのだ。

 

「……驚いた、そんな方法で来るとはな」

「ドアドアの実、どんな硬い壁でもおれの触れた部分はドアになる。壁さえあれば、俺はどこでも出入りできる」

 

 そう言ってベッドに横になっていたアイスバーグへ近づく仮面の男。

 

「さぁ、用事を済ませようか。こちらも時間が無い」

「………今日は、あの女は一緒ではないんだな」

「元々海賊に罪を被せる為に使おうとしていたからな」

「なるほど」

 

 麦わらの一味は暗殺疑惑で追われている。

しかしその追われていることが、同時に彼らの無実を証明してしまう。

特に今日強盗に入っただけ(・・)のミサカなど、殺意が無いのが明らかだ。

 

「命の危機に陥れば、誰かに託すと思っていたが……その相手がパウリーとはな」

「……………仮面で籠って聞こえづらいが、そうか、お前……ブルーノか?」

「……」

 

 男は無言で仮面を外し、その素顔を晒した。

想像通りガタイの良い男で、行きつけの酒場の店主だった。

 

「そうか、ウォーターセブンに潜入していたわけか……じゃぁ他にもいるな?」

「全く、貴方の頭のキレには惚れ惚れするわ」

「本当じゃのぉ。流石と言えば、流石じゃが」

「っ――パウリー?!」

 

 もう二人、扉を開けて入ってきたのは、仮面の女性と、自身もよく知る大工職職長カク。

しかし驚愕すべき点は、パウリーがボロボロになり引きずられているという事実だった。

 

「お前たち……随分遅かったな。爆音が上がる頃には、終わらせているものだと思っていた」

「ちぃと邪魔が入っての。ルッチの奴が頑張っておるが……時間が無い」

「どういうことだ?」

 

 カクの脳裏に一人の少女が浮かぶ。

悪いが、ルッチでもあれはきついだろうと彼は予想していた。

 

「さて、色々聞きたいことが出来たので尋ねましょうか」

「その声は、カリファだな……」

「……まぁ、分かるでしょうね」

 

 あっさり認め仮面を取った、自身の秘書だった女性。

もう驚くことを止め、兎にも角にもパウリーを放せと言うアイスバーグ。

彼女はパウリーが握りしめていた紙束と一緒にパウリーを放った。

息はあるらしいが、十分重症だ。

 

「古代設計図プルトンではなく、それはただの船の設計図……しかし、乗っている設計士の名前に聞き覚えがあります」

「………」

 

 懐かしい図面を見てしまったと思っても、もう遅い。

 

「まずトム。これは過去裁かれた魚人の男……次にアイスバーグ、これは貴方……そして〝カティ・フラム〟……4年ほど前に貴方を訪ねてきた男が、一度だけその名を名乗りましたね。アロハに海パン一丁の非常識人――そう、フランキー」

「………それで、あんな男に俺が何か託したと?」

 

 必死に動揺を隠しながら、アイスバーグは薄ら笑いを浮かべ挑発にも似た言葉を放つ。

しかし、彼らにその言葉の真意を測る時間は無い。

 

「悪いですが、制限時間(タイム・リミット)です」

「なに?――まさか」

 

 とっさに窓の外を見て、気づいた。

黒煙と、下からの明かり―――火の手が上がっている。

 

「もうじき、此処は炎に包まれる。貴方達は死に、真犯人は闇の中だ」

「一般人を殺していいのか?」

「我々は、その特権を持っていますので。まぁだから我々の正義は語られないのですが」

「市民殺しの正義など、あってたまるか!!」

「何と言おうと、これは正義の行いです。貴方たちは放っておいても焼死するでしょうが……一応、この手で殺しておきましょう」

 

 近づいてくる彼らに冷や汗をかくアイスバーグだが、それでも逃げようとはしなかった。

自分ではパウリーを抱えて逃げることなどできはしないと分かっていたのもあるが、それ以上に自分が動く必要など無かったからだ。

 

「いいや、そうはいかねぇ」

「「「!?」」」

 

 聞こえたのはベッドの下。

現れたのは―――飛ぶ斬撃。

 

「三十六煩悩(ポンド)鳳!!!」

 

 三人が驚き、全員が鉄塊という技で斬撃を防いだ。

体重の軽いカリファなど、軽く後方にのけぞるほどの威力。

こんな斬撃を放てるのは、そう。

 

「ロロノアか……!」

「よっと。んじゃ、あばよ」

 

 アイスバーグとパウリーを抱え、彼は窓から跳び去った。

ここは四階、人二人抱えて無事に降りられるものではないのだが、鍛え抜かれたゾロは途中の壁を斬ったり蹴ったりして加速を殺しながら落ちていった。

 

「……してやられたわね」

「まったく、想定外ばかりじゃわい……急いでフランキーの元へ行こう、確かあ奴はどっかの海兵を追って町中を走り回っとるはずじゃ」

「ルッチはどうするの?」

「邪魔をしてはいかん……火事に乗じて、逃げるじゃろうて」

 

 三人はゾロを追うのを諦め、フランキーを探すことにした。

幸か不幸か、フランキーはあっという間に見つかった。

 

「待ちやがれぇ!!!」

「ちくしょー!!なんでどこ行っても見つかるんだ!?」

「この街で俺様から逃げようなんざ、百年早いんだよ!」

「不幸だぁぁああ!!!」

 

 騒がしいツンツン頭の海兵を、フランキーとその子分たちが追っていた。

なんともまぁ騒がしいものだが、都合のいいことに近辺は避難して住民がいない。

……彼にとっては、同時に助けてくれる人が居ないということでもあったため、やはり不幸なのだろう。

 

「嵐脚」

「え」

「アォ!?」

 

 カクの放った斬撃が、トウマとフランキーの間に割り込んで両者を止めた。

直後着地したカリファの棘鉄鞭によって、フランキーを縛り付け、拘束した。

 

「「「「「「アニキ!?」」」」」」

「邪魔は許さん」

 

 子分たちの前に立ち塞がるのは、ブルーノ。

大勢を相手取るも難なく捻じ伏せ、一人たりとも近寄らせない。

 

「おめぇら!!」

「フランキー……いや、カティ・フラムだな」

「ア?山猿に……てめぇら揃って一体何の用だ!?」

「古代兵器プルトンの設計図、そのありかを話してもらおう」

「……知らねぇなぁ」

 

 激昂していたフランキーが、古代兵器の単語を聞いて一瞬表情が変わった。

余裕の表情を作り直すが、その一瞬を彼らは見逃さない。

 

「ふっ……お主は本当、嘘がへたじゃのぅ。アイスバーグを少しは見習ったらどうじゃ」

「………アイスバーグを暗殺しに行ったのは、てめぇらか」

 

 合点がいったと睨みつけるフランキー。

だが、彼らは飄々とした様子でそれを流した。

 

「さて、悪いが此方も時間が無い。おぬしには都合のいいことに8年前、海兵と役人から100人を超える重傷者を出した罪がある。――連行していくぞ」

 

 そう言って連れていこうとしたカク、彼の腕を止める者がいた……トウマだ。

 

「ちょっと待てよ、行き成りなんだ古代兵器とか過去の罪とか」

「………我々は政府の者じゃ。犯罪者を連れていく、その邪魔をすると言うのかの?」

「っ」

 

 とっさに止めただけのトウマにその言葉を論破するだけの理屈などない。

しかし、ただフランキーを連れていくだけの様子ではない彼らを放っておくのも、正しくはないと思っていた。

 

「………俺もついていかせてくれ」

「理由は?」

「そいつには散々追っかけられてたんだ、どんな罰を受けるかくらい見てもいいだろ」

「………まぁよかろう」

 

 彼らは縛ったフランキーを連れ、海列車へと歩き出した。

ボコボコにされた子分たちは、それをただ這いつくばって見ているしかなかった。

彼らには何もできない、はずだった。

 

「………ヤハハ、全く面倒な。さてどうするか」

 

 そこに彼が現れなければ、きっと彼らはその後どうすればいいかも分からなかっただろう。

 

「海兵全員倒してもいいが、私にあの女を止める言葉は無い……しかし、一味の奴らを呼んでくるのも面倒だ」

 

 雷速で告げに行っても、他の者が雷速で動けるわけじゃない。

全員離れた場所にいる為、時間稼ぎが必要だろう。

 

「おい、這いつくばっている者どもよ」

「?」

 

 フランキー一家、その子分たちは痛む身体を起こし、怪訝な顔で彼―――エネルを見る。

さっきこの近辺には誰もいなかったはずなのに、この男は急に現れた。

そのくせ、事情を把握しているという不可思議な存在。怪しく思うのも仕方ないだろう。

 

「アイツらに一泡吹かせたくはないか?」

「な、んで」

「ヤハハ、私は神になる男。――願うのならば、叶えてやるのも役目よ」

 

 ただの戯れだと、エネルは告げる。

だがこのまま慕っているアニキを連れていかれるのを見ているだけなんて、彼らにはできなかった。

しかし、彼らには一人止めることすらままならないのも事実。

 

「力が、欲しいのだろう?」

 

 (まるで悪魔)の様な男の囁きに頷くのに、抵抗などなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 襲撃の夜③

 ガレーラ本社は燃えていた。

避難できるものは避難していたし、消火作業もしていたがそれもままならない状況だった。

 

「おい、気を付けろ!また降ってくるぞ(・・・・・・・・)!!」

 

 消火作業が一向に進まない理由、それは上から降ってくる瓦礫のせいだった。

どういうわけか知らないが、上階が斬られたり吹き飛んだりして落ちてくるのだ。

危ないが、かといって火事を放っておくわけにもいかない。

 

「何が起きてんだ!?」

 

 職人たちがそうぼやくのも仕方ないだろう。

現実的ではない光景。しかし、それを起こしているのは二人の人間である。

 

「ハァ……くそ」

「………」

 

 両手足を黒く染め、瓦礫や鉄くずを磁力で操り浮かぶ(・・・)少女を睨む豹人間ルッチ。

今までの人生で、彼はこの瞬間程苦戦した時は無いだろう。

そもそも月歩で浮かんでいないと勝負すらできないなんて、ふざけている。

 

「だが、もういいようだ」

「?」

「生命帰還」

 

 一瞬下を確認したルッチ。

グググっと彼の身体が巨漢に戻り、さらに片腕がどんどん太くなっていく。

 

「むんっ!!!」

 

 放たれたのは、単純な拳撃。

しかし、強化された腕で振るった全力の拳は、瓦礫を崩し、粉々にし――その姿を砂煙で隠して見せた。

砂煙だけでなく、黒煙も相まって全く姿が分からなくなる。

 

「……え?」

 

 見聞色で追おうとしたその瞬間、急に気配が途絶えた(・・・・・・・)

いや、恐らくこれがエネルが言っていた隔たっているような感覚なのだろう。

 

「………………向こう?」

 

 慎重に気配を探り、少女は後を追おうとして……火事を起こし、瓦礫の山となった本社を申し訳なさそうに見つめた。

 

「………ごめんなさい」

 

 意味は全くないのだが、ペコリと一度頭を下げて彼女は去っていった。

 

 

 ***

 

 

 ルッチを助けたのは、ドアドアの実の能力者であるブルーノ。

彼のエアドア―――空気の壁をこじ開け、隣接している亜空間へとつなげる技で難を逃れたのだ。

 

「……お前がそこまで苦戦するとはな」

「仕方ない、アレは化け物だ」

 

 CP9でも屈指の実力者であるルッチが認める程、ミサカは強かった。

しかし、やはり詰めが甘い。ニコ・ロビンの行方を聞きたいがために、彼女はルッチを一撃で倒せる威力の攻撃をしてこなかった。

もしルッチならば、一度意識を刈り取った後で拘束し、聞き出すだろう。

 

「まぁいい。海列車がもうでるのだろう?急ぐぞ」

「あぁ」

 

 彼らは、海列車がもう出発している可能性まで考え、大急ぎで向かった。

しかし、そこには予想外の光景があった。

 

「どけどけー!!!」

「邪魔だ海兵どもーー!!」

「「「「「アニキを返せぇえええ!!」」」」」

 

 大暴れするフランキー一家と、それを止めようとして吹っ飛ばされる者。

そして、謎の落雷に合って(・・・・・・・・)動きを止められてしまう者。

海兵たちが必死になっているが、少しずつフランキー一家が押し込んでいる。

 

「なんだ、この状況は!?」

 

 エアドアから出たルッチの第一声から、彼の内心の荒れ具合が察せられた。

海列車にはもしもの為に海兵を待機させていた。少なくない数だったはずだ。

それらが勢ぞろいで迎え撃って、この様なのだ。

 

「……あの雷が邪魔だ、ブルーノ」

「言っておくが、長くは保たんぞ」

「問題ない」

「エアドア」

 

 上空に巨大な門――扉が現れ、降ってくる雷を亜空間へと送り込むことで無効化した。

規模が大きいと消耗が激しいため長い時間は持たないが、その隙にルッチが駆け出し、フランキー一家を手当たり次第に制圧していく。

 

「遅かったのぅ」

「カク、貴様何だこの様は!」

「知らんわい。全く、予想外想定外規格外でな。海列車の発車時刻だというのに、お陰でどうしようもできんかった」

「御託は良い、蹴散らすぞ」

 

 そうしてフランキー一家がやられていく中、厄介な人影を認識した。

此方へ走ってくる、二つの影。一人は麦わら帽子を被っており、もう一人は黒服の金髪で眉毛が特徴的だった。

 

「「邪魔だぁあああ!!!」」

 

 海兵たちをなぎ倒しながら、海列車へと駆け出す二人。

フランキー一家の相手をしている彼らに止めることは出来ない。

 

「おのれっ」

「アニキはどこだ!!」

 

 フランキー一家がボロボロになりながらも立ち塞がる。

 

「貴様ら、死にたいようだな」

「ぅ」

「――どけ、交代だ!ゴムゴムの、スタンプ!!」

 

 圧に思わず怯んでいる彼らの頭の上を跳び越え、麦わら―――ルフィがルッチへ蹴りこんだ。

それだけではなく、海列車へと集合する人影が複数……棒を持った女、鼻の長い男、小動物。

全員、恐らく麦わらの一味だと彼は気づいた。

 

「チッ、次から次と!」

「そう易々と」

「入らせはせんわい」

 

 ルフィとルッチの横をカクとカリファが駆け抜け、止めようとする。

しかし、それはエネルが放った雷によって止められる。

直撃はしていないが、それでも余波だけで十分動きを抑制できる。

ナミ、ウソップ、チョッパーの三人は戦闘せずそのまま海列車へ乗り込んでいった。

 

「ヤハハ、遅かったなぁ!ロロノア!ミサカ!」

「ごめん、ゾロが迷子になってた」

「チッ、迷子じゃねぇ」

 

 更にエネルは背後へ声をかける。

ゾロは極度の方向音痴、それを見かねたミサカが、腕を引っ張るようにして連れてきたのだ。

 

「大体てめぇこそ、行き成り現れて海列車へ来いとか、急過ぎんだよ!!」

「仕方なかろう、雑魚を放っておけばあっという間に鎮圧されてしまうからな」

 

 フランキー一家を焚きつけたのはいいものの、やはり彼らでは戦力不足。

従って、戦っている間にエネルは一味を雷速で呼び出し、ついでに強そうな気配に落雷で攻撃していたのだ。

 

「ほれ乗り込め」

「言われなくともっ」

 

 ゾロとミサカが乗り込み、ルフィも続こうとして、高速で動くルッチの動きに翻弄された。

蹴りが外れ、ルッチの拳によってぶっ飛びそうになるところを、たたらを踏み耐える。

 

「強いな、コイツ」

「どけ、交代だ。私にはあの女を止める言葉が無いが、貴様らは違うだろう?」

「っ頼む!」

 

 ルフィが駆け出し、ルッチの真横を素通りしていった。

ルッチはエネルを警戒しており、ルフィのことを完全に無視している。

 

「……先ほどから降っている雷、お前の仕業だな」

「ヤハハ、まぁな。雷だけ降らせても、海列車とやらの運航を邪魔できるか微妙だったが、うまくいってよかった」

「フランキー一家を焚きつけたのもそうか」

「あぁ、弱者の願いを叶えるのもまた一興だろう?私のついでだ」

「見たところ、自然(ロギア)系か」

 

 ルッチは懐を漁り、少しゴツイ手袋を取り出した。

他のCP9も棒やハンマーなど、海楼石で作られた武器を取り出した。

 

「未だ武装色は修練中で使えないのでな……貴様相手にはコイツがいる」

「ヤハハ……海楼石か」

 

 手袋には能力者であるルッチに影響を及ぼさないように、外側に海楼石が仕込まれていた。手の甲の部分など、分かりやすく大粒の石がはめ込まれている。

確かにそれならばエネルも捉えることが可能だ。

 

「……ん?」

 

 蒸気機関の音が鳴りだし、海列車が発車の準備を完了していた。

 

「お前たちを置いていく気か?」

「なに、貴様を排除したら乗り込むだけだ」

「ヤハハ……不愉快な」

 

 ***

 

 走る、走る、走る。

海列車に突入した一味は止まらない。

列車の中には海兵が待ち構えているが、知ったことではない。

 

「麦わらの一味だ!」「止めろぉ!!」「「「「「おおぉおおおーーー!!!!」」」」」

 

「「「「「「「邪魔するなぁああ!!!!!」」」」」」」

 

 ゴムの拳、飛ぶ斬撃、鉄を砕く脚、破裂するパチンコ玉、棒術、獣の拳、雷撃。

数で言えば7人、しかしその威力は並の海兵がどれだけ束になっても防ぎきれるものではない。

大佐も、特殊な体術を体得している者も、CP9になり立ての者も――全員、蹴散らされていく。

そして、最後の車両へとあっという間に辿り着いた。

 

「ハァ………ロビン!!」

「………」

「な、なんだぁ!?」

「麦わら……」

 

 トウマがロビンの対面に座り、隣にはアロハシャツの大男がグルグル巻きにされて同じ車両に放り込まれていた。

しかし、用があるのはロビンだ。

 

「探したぞ、ロビン!」

「ロビンちゃぁぁん!無事だったかい!?」

「ロビン、一緒に……――」

 

 伸ばしたミサカの手は、パシンッと乾いた音を立ててロビンに払われた。

思わず呆然とする彼らにロビンは……。

 

「………なにをしているの」

「なにって、私たち、迎えに」

「誰もそんなこと頼んでない!!私は、自分から進んでこうなってるのよ!!」

「ロビン、お前なぁ――ッあぶねぇ!?」

 

 ルフィは見覚えのある寒気(・・)を感じ取り、ミサカの腕を引いた。

 直前までミサカが居た場所の直上が凍り付き、砕け散った。

降りてきた人物は、つい最近麦わらの一味が出くわした人物――大将、青雉。

 

「それでいいんだな」

「ッ」

 

 歯を食いしばり、こちらを見ずに頷いたロビン。

それを合図に冷気が一味を吹き飛ばそうと牙を剥いた。

 

「ロビンッ!!!」

 

 冷気を阻むのは、ミサカが突き出した両腕から吹き荒れる電熱。

しかし前方にはロビン、後方には仲間がいるこの狭い場所では、ミサカの本領を発揮することはできない。

武装色で防いでいるとはいえ、段々とミサカの腕が凍っていく。

 

「ミサカちゃん、腕がッ!?」

「ミサカ、無理しちゃダメだ!!」

 

 サンジやチョッパーの心配する声を背に、大将すらその眼に入れずミサカは叫んだ。

彼女だからこそずっと(・・・)感じていたことを伝える。

 

「……寂しいんでしょ、一人は嫌なんでしょっ」

「……」

「ずっと、ずっと、貴女は泣いてた(・・・・・・・)!」

 

 ミサカの見聞色は、感情(想い)を強く受け取りやすい。

特にマイナス、人の負の感情に敏感だ。

一味はそれぞれ抱えているモノ(トラウマや信念)があった。

 その中でも、ロビンの感情は大半が悲しいものばかりだ。

悲しくて、辛くて、寂しくて…………夢に幼いロビンが出てくるほどに、彼女の傷は深かった。

もしミサカに真っ当な感情があったとしたら、彼女はロビンに引きずられて(・・・・・・)泣きじゃくっていただろう。

 

「でも……みんなが一緒だと、心地いいんでしょ?」

 

 麦わらの一味は過去を気にしない。

彼らはいつだって未来(冒険)を見つめているから、今を一緒に(・・・)楽しんでくれる彼らだから、彼女は此処に居続けた。

 

「邪魔する奴は倒すからっ。私たちが、護るから!行こう!!」

「ッ――私は、それが嫌なのよ!!!」

 

 ミサカの言葉が琴線を触れたのか、遂にロビンが叫んだ。

それが本心だと見聞色を使わなくても誰もが分かった。

 

「貴女達は強いわ!だけど、最強でも無敵でもない!!傷ついて、ボロボロになって、いつか死んでしまう!!」

「……」

「死ななくても、死ぬようなことが続けばいつか私を捨てるに決まってるっ。そんなのゴメンよ!!!」

「だそうだ、諦めろ」

 

 ロビンの叫びが終わると、一層冷気の勢いが強まった。

青雉が本格的に一味を排除しようとしているのだ。

 

「う、邪魔をっ」

「……お前らもいい加減にしとけ。この女は、お前らの為に取引してんだぞ?」

「え」

「島一つ滅ぼすバスターコール。その引き金を大将命令でCP9に預けてある」

「……ッ! 私達を、人質にしてるってこと?」

「まぁな」

「このっあぐゥ?!」

 

 ミサカが何か言う前に、青雉に蹴り飛ばされルフィたちに受け止められる。

見ればCP9が窓を破り、青雉の背後に揃っていた。

青雉は、彼らが揃うのを待っていたのだろう。

 

「待――」

特大氷塊(アイス・キューブ)両棘斧(パルチザン)

 

 ザン()ッ! 巨大な氷の刃が車両を分断し、麦わらの一味を置いてロビンとフランキー、青雉とトウマ、CP9を乗せた海列車は荒波を超えていった。

 同時に外から雷撃がやって来た、エネルだ。

片脚が凍っており、頬には殴られた跡がある。青雉はミサカ達に冷気を飛ばしながら、ルッチ達が逃げる隙を作っていたらしい。

 

「……ダメだったか」

「ルフィ、私」

「大丈夫だ……俺も納得してねぇ」

 

 ルフィはポンっとミサカの頭に手を乗せた。

わしわしと乱暴に撫でる彼の力強い手は、少しだけミサカをほっとさせる。

 

「俺らが死ぬとか、裏切るとか、ありえねぇこと言いやがって」

「……そうだね、海賊王と神、それに世界一の大剣豪になる男が居るんだもんね」

「にしし、まーな! だからミサカ、おめぇ()気にすんな」

「?」

 

 見上げると、ルフィが真剣な表情で彼女の両腕を見つめていた。

武装色の上からとはいえ、しっかり氷が張り付き、凍傷になりかけている両腕を。

彼らを、庇ってできた傷を見ていた。

 

「俺たちは負けねぇ。だから、お前も負けんな」

「……うん」

「ミサカ、治療しないと!」

「うん、お願い」

 

 アクア・ラグナが接近する中、彼らは傷を癒した。

 

「え、エネルの旦那!アニキは?!」

「ん?ヤハハ、すまんな!忘れていた」

「「「「「えぇぇ!?」」」」」

「まぁ安心しろ、どうせニコ・ロビンの元へ行くつもりだ。ついでに取り戻してやろうではないか」

「「「「「さっすが旦那だぜ!!」」」」」

 

 ……一団、おかしいのが混じってはいたが。




 エニエス・ロビー編、大将青雉参戦です。


 明けました、おめでとうございました。
年末は帰省してPCに触れず、年始は仕事が始まりました……皆さんも大変でしょう、頑張ってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 いざ、エニエス・ロビーへ!

 チョッパーに傷を診てもらったミサカは、直ぐに海列車を追おうと立ち上がった。

あの速度に追いつくのは無理かもしれないが、追わない選択肢は無い。

 

「ルフィ、行こ」

「おう!」

「待て待て待て、どうやって行くつもりだ?お前らの船はもう動けねぇだろうが」

 

 パウリーの言う通り、メリーにこの荒波を超えるだけの力は残ってないだろう。

去っていく海列車を追うための手段がない……否。

 

「だったら船貸してくれよ!いや、海列車もう出ねぇのか!?」

「海列車はこの世に一台きりだ。ありゃ奇跡の船なんだぞ」

「じゃぁ船貸してくれ。一番強くて速ぇやつ!」

「無茶言うな?!アクア・ラグナが来てんだ、海になんて出せるか!!ガレオンですら一発で粉々だぞ!」

 

 特に今年のアクア・ラグナは潮の引きが強く、返ってくるであろう波はもしかしなくとも過去最高になるだろうと彼は予測していた。

海に出れば死ぬと分かっていて、船を貸す船大工はいない。

 

「朝を待て。嵐が過ぎたら船くらい貸してやる」

「――いいや、それじゃおせぇよ」

「なっ!?アイスバーグさん!」

 

 諭そうとしていたパウリーに割り込んできたのは、アイスバーグだった。

この島一番の出来る男は、厳しい現実を告げる。

 

「海列車が向かった先はエニエス・ロビー。犯罪者はそこに連行されることそのものが罪人の証とされ、そのまま碌な裁判もなく素通りし……向かう先は海軍本部か、深海の大監獄の二択のみ」

「……それって、じゃぁ」

「あぁ。朝までなんて待ってたら手遅れだ――だから、出してやるよ海列車」

「ホントか、おっさん!」

 

 大喜びの一味だったが、パウリーは焦った様子で止めに入った。

 

「海列車がもう一台……!?い、いや、馬鹿言っちゃいけねぇ!!あそこは要するに『世界政府』の中枢に繋がる玄関(・・)だぞ!?海賊だけならまだしも、アンタまで世界政府に喧嘩売る気ですか!?」

「………悪いなパウリー。俺もあの人の弟子だ。バカは放っておけねぇのさ」

「ッ」

 

 意志は固い。そう捉えるだけの返事を向けられ、口を噤んだ。

代わりにアイスバーグは麦わらの一味を見渡し、一つだけ注意点を告げた。

 

「ただ今から連れてく海列車は欠陥品でな。スピードが抑えられない暴走列車だ。命の保証はねぇが、いいか?」

「おう!」

「大丈夫」

「「暴走、列車……」」 

 

 少しドン引きしているウソップやチョッパーも引き連れ、麦わらの一味は暴走列車……『ロケットマン』へと向かった。

先頭車両にサメの頭が付けられた海列車は格好良かったし、これならとんでもない速度が出る。文句はない一味は乗り込もうとして、ふとミサカが一つ疑問を呈した。

 

「ねぇ……人多いけど、いいの?」

「あ?誰のことだ嬢ちゃん?」

「おれ達のことじゃねぇよな?」

「うん、貴方たち」

「「えぇ!?」」

 

 職長の二人、ピープリー・ルルとタイルストンが驚くが、他にも人が居た。

 

「ヤハハ、ちなみにそこの雑兵は私の手下として連れてゆくぞ」

「兄貴を助けるんだ!よろしくお願いしやす、旦那がた!」

「いや、お前らがいいんなら良いけどよ……?」

 

 フランキー一家の連中を引き連れ笑うエネル……騒がしいにもほどがある。

サンジが兄貴と旦那を連呼する一行を呆れた目で見るが、正直戦力は幾らあってもいい。

なにせ相手は世界の正義を名乗る者達に繋がる場所。敵は、多く強大である。

 

「……俺は付いていきますからね」

「あぁ、好きにしろ」

 

 騒がしい面々を眺めながら、パウリーとアイスバーグは準備を進めた。

数分後、暴走列車が発進し、エニエス・ロビーへと向かう。

 

 

 麦わらの一味+α一行が暴走海列車で荒波をかき分け進んみ始めた頃。

半壊し一両のみになった海列車の中にロビンが座り、フランキーは鎖で縛られ放られていた。

 

「あー、ちょっとすいませんねー」

「……?」

 

 そんな二人を大将とCP9が囲む中、トウマがロビンの前に座った。

元々トウマはルフィの頼みで彼女を探していた。

奇しくも捕まった後であり、協力できる状況ではなくなっていたが……それでも、あの船長が気に掛ける者がどんな人なのか、知っておきたかったのだ。

 

「俺、カミジョウ・トウマ。色々急でな、状況を呑めずにここに居るんだ。良かったら話を聞かせてくれないか?」

「………私に?」

「賞金首、悪魔の子……そう言った肩書なしでさ、お前の話(・・・・)を聞かせてくれよ」

「………」

 

 チラッとロビンが他の面々の様子をうかがった。

他の者は理由を知っている者ばかり。寧ろ知らないのか、という視線をトウマに向けていた。

 

「概要は知ってるけどさ、当事者から聞きたいんだよ。……そこにいる()()()()()()出来ない大人は、面倒くさがって話したことねぇしさ」

 

 ジトッと椅子に座り込んで寝ている大将青雉ことクザンを、よりによってダメ人間だと豪語するトウマ。

この大将は確かにロビンを気にかけていて、突如として消えては本部にふらっと帰ってきたりする。勿論、その間迷惑を被るのは他の軍属者であり、ここ最近はトウマの役割だった。

 一応補足しておくが、それでも大将である。道すがら(ついでに)億越えに至るであろうルーキーや実力者を倒しては牢屋にぶち込んでおり、ちゃんと活躍しているし尊敬もされている。ただ、副官に好かれないだけである。

 

「………いいわ、聞かせてあげる」

 

 直属の上司である上に大将青雉をここまで言っても咎められないトウマを見て、話してもいいと判断したロビンは口を開いた。

『オハラ』という島に住んでいたこと。そこにはたくさんの学者が居て、色々な世界の本があって……ポーネグリフがあったこと。

 

 ――そのポーネグリフから古代の歴史(・・)を探っていた彼らは、島ごと葬られたこと。

 

 別に世界の秘密を公言するつもりも、過去の古代兵器を復活させる気もなかった彼らは、学者でもない島の者共々消されたのだ。

 

「親切で優しい先生のおかげで、幼いながらに考古学者となった私は……その島で唯一の友達に(たす)けられた」

「………」

「あとは知っての通りよ。人に取り入って、騙して、逃げて。その繰り返し」

「でも、今回は逃げなかったよな」

「それはっ」

 

 麦わらの一味は彼女の大事なモノになっていた。

これまで色々な辛く苦しい目に遭っては傷を負い、何かを捨てる選択を選びながらも生き抜いた彼女が初めて選んだ、自分以外の命。

 

「んー………なぁ、歴史を知ってどうするんだ?」

「知るだけよ。知って、後の世に残す。暴いて晒したいんじゃない。ましてや、脅威を作りたいわけじゃない。

 ――過去の声を受け止めて護りたい。それだけが、それが私の……オハラの、遺志よ」

「……そっか、わかった」

「?」

 

 ロビンの話はトウマの想像以上に時間がかかった。

気付けば身軽になった海列車は、目的地であるエニエス・ロビーへと辿り着いた。

これから彼女は正門、本島、裁判所、司法の塔を歩かされる。

最後は巨大な正義の門を超え、彼女は()()()()()へと連れていかれ、その知識を吸いつくされるまで拷問を受けるだろう。

 

「立て、ニコ・ロビン」

「……」

 

 大人しく立ち上がり、ついていくニコ・ロビン。フランキーは暴れているため、担がれている。

正門を通り、本島前門を抜け裁判所へ向けて歩く中………―――トウマは決心した。

 

「――武装硬化」

 

 時間はかかったが、お陰で彼女の想いがよく伝わった。

()()()トウマは右手を握りしめ、彼女の近くで護衛していたブルーノを殴り飛ばした。

 

「ゴパッ!?」

「なっ」

「貴様、どういうつもりだ」

 

 驚くのはロビンだけではない。他のCP9の面々がトウマ達を囲む。

軍人とは思えない行動をとったトウマに驚きながらも即座の反応は流石というべきだろう。

だが知ったことかと、トウマは左腕でロビンを担ぎ上げる。

 

「ちょっと、なにしているの!?」

「あーらら……本当何してんだ、オイ?」

「クザンさんならわかってるんじゃないか?」

「?」

 

 大将に限らず、将校クラスになると色んな人が色んな正義を掲げている。

トウマも例に漏れず、時折自分の正義を問われることがあった。

 

「弱い奴を護るとか強い悪党を捕まえるとか、そりゃ当たり前のことだ……俺は俺の正義(ココロ)に従う」

「お前さんの正義、ねぇ……」

 

 多分、これは海軍じゃ中々掲げるのに無理があるかもしれないと、トウマは苦笑を浮かべた。

 そして、トウマの過去を知っている青雉も分かりきったことだと理解しており、思わず嗤う。

何よりこう(・・)なったこの少年は、後悔せずに自身の正義をつらぬことをよく知っていた。

 

「世界には死ぬほどつらい目にあってんのに、泣くことをこらえてる奴がいる……俺に正義ってのがあるんだとしたら、きっとそれ(・・)だよ。そんな奴の側に立ってやること、一緒にあがいてどうにかする手段を模索することこそ、俺がやりたいことだ」

 

 そんな立場にいる人を()()()()()()助けて居たら、きっとそのうちこんなこと(悪党の味方)になっていただろう。

将来そうなるのなら、今なったって同じことだと彼は清々しくも堂々としていた。

 

「今のコイツから世界をどうこうするっていう悪性は感じられない。そんな奴を拷問したり、ましてや殺すなんて、俺には()()()()()()!」

「この、大馬鹿野郎がッ!お前一人でどうかなると思って――――――」

「勿論、思ってねぇよッ!」

 

 黒手を思い切り床へ叩き付け、極大の粉塵を巻き上げる。

逃げる気だと察したCP9だが、こうも人が多い場所ではどんな技を放っても味方に中るだろう。

 

 ――勿論、青雉にそんな小細工が通じるわけがない。

 

「……なるほど、此処で反旗を翻したのは考えなしというわけでもない様だな」

「ッ!」

「CP9、お前たちはフランキーを連れていけ!……やんちゃな坊主は、俺が仕置きしとく」

 

 大将となれば(ソル)程度容易に扱える。トウマの(逃げ足)に追いつくのは勿論、可能。

 

暴雉嘴(フェザントベック)!!」

「う、お、ぉおお!!」

 

 迫る大将の能力から逃れる術を、トウマは持っていない。

だから、彼は単純な動作しかしなかった。左側からの攻撃に対し、右拳を振りぬいて消し飛ばし走る。

 

「ハハッ、相変わらず無茶苦茶な覇気だ。前に鍛錬だっつってやりあったときなら、今のでその右手諸共凍らせられたはずだがな……」

 

 大きな雉の形をしているが、本来は冷気の塊。

幾ら弾こうとも、生半可な武装色ではその上から大将の覇気によって凍らされるのがオチだが、トウマはその冷気を()()()()()のだ。

 

「別に可笑しなことじゃねぇよ。撃ちだされる矢や弾丸にだって覇気は込められる。なら、空気(・・)に伝達しても不思議じゃない。事実、アンタだって(気体)に覇気を込めてんだろ?」

 

 これはトウマが利き腕である右、それも『手』に覇気を異常な程込められる上に、操作できるからこそ出来た芸当だった。他の部位に覇気を込めることは出来なくはない。だが、彼は右手だけなら英雄ガープを超える逸材だと、青雉たちに評価されている。

それ程までにトウマの武装色使いとしての素質は上等だった。

 だが現状は、右手だけその異常性が発揮されている。今の彼には右手でしか、この芸当は出来ないのだ。

 

「んーまぁ、オレ自身が冷気だから出来る芸当でもあるはずなんだが……お前さんはホント、逸材だよ。……右手だけ(・・・・)な」

「くっ」

 

 今度は四方八方から迫る氷の矛。

これは右手だけでは防ぎきれない。――だから、トウマは矛を右手で掴んで(・・・)大将青雉の覇気を圧し流し、自分の覇気を纏わせて他の矛を蹴散らした。

武器を手に入れたトウマだが、青雉から逃れられたわけではない。

 

(くそ、速く来てくれッ)

 

 絶対に諦めず追いかけてくるだろうと信じているトウマの脳裏には、麦わらの彼らが浮かんでいた。

 

「今ならまだ仕置きで済むぞ?」

「冗談ッ」

 

 捕まれば悲惨な目に合うことが見え見えの鬼ごっこが始まった。

 




 間が開きましたね……導入をどうしようか、原作通りロビンたちを大人しく司法の塔へ?
でもなぁ~ドタバタ欲しいなぁー、と考えて居たらトウマさんが動いてくれました。
ミサカ達は勿論原作の暴走列車に乗っています。
そして、現状はというと……。

 ――正義の門――
     ┃
 ――司法の塔―― スパンダム ジャブラ クマドリ フクロウ 待機
     ┃
 ――裁判所――
  ルッチ カク カリファ ブルーノ フランキー 連行中

  青雉 トウマ&ロビン (リアル)鬼ごっこ中
 ――本島前門――
    ┃
 ――正門――

海列車
 麦わらの一味 アイスバーグ パウリー ルル タイルストン フランキー一家

 この現状確認は半ば私自身の確認のために残しています、許してください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 集う海賊たち

 暴走海列車に乗った一行。道中は海賊らしく、平穏にはいかなかった。

 

「「つ、津波だぁぁあぁあ!!!」」

 

 ウソップとチョッパーが揃って叫び怯えるのも仕方ないと言えるほど、大きな津波。

巨人ですら飲み込まれるのは想像に容易いほど大きな津波に、海列車が呑まれようとしていた。

 

「おぉー、でけぇな」

「アレがアクア・ラグナね……確かにガレオン船も吹っ飛びそう」

「ンマー、このままじゃ海列車も吹っ飛ぶだろうな」

「そんな……って、アイスバーグさん!?運転席にいなくていいの?!」

 

 航海士であるナミの呟きに肯定どころか、最悪の現実を伝えに来たアイスバーグ。

彼はこの列車を動かす車掌のはずなのだが、平然と座って輪に加わった。

 

「俺の役目は海列車を線路に乗せるまで、だ。なにせ暴走してるからな、そもそも運転できる代物じゃねぇ」

「つまり?」

「常時フルスロットル、なんならブレーキも効きゃしない。ンマー、その代わり間違いなく最速で着くぞ」

 

 彼の言葉は沈まなければという前提があってのこと。

このままでは全員そろって海の藻屑である。

 

「任せろ、フランキー一家特性のキャノン砲がある!」

 

 急げ急げと全員が津波に穴をあけようとバタバタ準備している中、ふとアイスバーグが一人の少女が居ないことに気付いた。

 

「……おい、ミサカの嬢ちゃんはどこいった?」

「「「「「「へ?」」」」」」

「ヤハハ、前だ。面白いものが観られるぞ」

 

 久しぶりに目隠しを外したエネルが指さしたのは、海列車の頭、ロケットヘッドが付けられた場所。

本来ならとんでもない速度で動いているこの列車の上に立つことなどできない。

だが磁力でくっつけられるミサカは吹き飛ばされることなく、そこに立っていた。

 

「邪魔、しないで」

 

 彼女の両手には、それぞれ雷の球体が存在しており、それがどんどん強まっていく。

 

「中々の電圧だ。ヤハハ、気合十分というわけか」

 

 電撃とは思えないほどきれいな球体となった2つの球体、みかけ野球ボールほどの大きさのそれを、両掌を前に突き出し合わせた――瞬間、空気が爆発したかのような巨大な轟音が轟いた。

 強烈な光を直視できたのは、本人であるミサカと雷そのものであるエネルだけだろう。

その構造を二人は理解しきってないが、電気、この場合電子だろうか。いつも使っている大雑把な力をもっと細かく丁寧に加速させ、臨界になったところで放出した、という認識である。

 そして、ほんの一瞬、光の軌跡を見た者たちの反応は……。

 

「「「「ビ、ビ、ビームだぁあああ!!!」」」」

 

 他の者は一瞬だけだが、ミサカが青白いビームを出したように見えていたという。

集中力が必要で隙が大きく、まだまだ実戦で使うには試作段階の技だがコインも砂鉄も必要としない、ミサカにとっての新たな手札。

もし、とある人が居ればこう言ったかもしれない――プラズマ、疑似的な荷電粒子砲だ、と。

 

「すっげぇ、ビームじゃん!」

「ミサカすっげぇ!」

「嬢ちゃんやるなぁ」

「さっすがエネルの旦那の仲間だぜ!!」

「「「「「ビーム!ビーム!ビ-ム!」」」」」

 

「…………………」

 

 なお、男性陣の異様な盛り上がりが予想外だったミサカは、少し頬を染めてそっぽを向いていた。

アクア・ラグナを吹き飛ばしたら多少褒められるかと思っていたが、まさか未完成の技にそこまで喜ばれるとは微塵も考えていなかったのだ。

 

「……ンー、ぅぅ?」

 

 久しぶりに羞恥という感情を得た彼女は、その処理が上手く行えず、そのまま暫く強烈な潮風に中って身体ごと冷やした後に車内へと戻っていった。

 

 

―――

 

 

 ミサカ達が着実に近づく中、トウマはボロボロになりながら逃げ回っていた。

 

「もういい加減に降ろしてっ」

「ハァ、ハァ……んなわけにいくかよ」

 

 大将というのは、海軍組織において最上級の強さを誇る実力者しかなれない。

そもそも将校自体が覇気を一種類でも扱えなければ辿り着けない、険しい頂きなのだ。

 トウマの准将という座も決して低い場所ではない。

ただ、大将という頂と比べると、その間には大きな壁があったというだけの話だ。

 

「そろそろ諦めろ、海列車は一台のみ。いくら待っても来ねぇよ」

「ハハ、ホントーにそう思うか?アンタなら、あいつらの意外性分かってるだろ?」

「………お前さん」

「アラバスタの件なら知ってるさ、俺がどれだけ面倒な書類仕事こなしてたと思ってんだ。それに、アレにはスモーカーたちが大きく関わってたからな」

 

 砂漠の国「アラバスタ」。その内乱を止めたのは海軍とされているが、事実は違う。

 書類仕事も勿論だが、それには同期……と言っていいのか分からないが、それに近いたしぎという女性海兵と、その上司であるスモーカーから少し話を聞いていたのだ。

 

「七武海、クロコダイルの暴走とそれを海賊に救われた事実……その海賊は、麦わらの一味」

「本来なら出回る情報じゃねぇんだが……あぁそうか、白猟たちか……お前さんの奇縁は侮れねぇなぁ」

「ハハ、許してやってくれよ。たしぎが落ち込んでたり、スモーカーのやつがむしゃくしゃしてたりして、気になったんでな」

「お節介焼きだな」

「まー、な!」

 

 語り合いながらも攻防は続く。

青雉に傷一つなく、トウマは傷だらけ。

その差は段々と致命的な結果に近づいていった。

 

「ハー、ハァ……ゲボ」

「もう終いだな」

「っ……なぁ、ニコ・ロビン」

「………なにかしら」

 

 ボロボロのトウマと違い、無傷(・・)のロビンにゆっくりと話しかけた。

正直動くことすら億劫だったが、それでも少しでも己の信じたことを全うするために、彼は伝えたいことを一つだけ告げた。

 

「アンタが、どれだけ仲間想いなのかは、わかったよ……でもきっとアンタの仲間も、同じくらいアンタを想ってる。だから、なぁ――あいつらを信じてやれよ」

「………」

 

「――もういいな?」

 

 凍らせても覇気で冷気が浸透しずらいトウマを、確実に沈める為に覇気を込めた拳を青雉は構えていた。

トウマの答えを待たずに、青雉の拳が一人の少年をぶっ飛ばし、幾重も建物を貫通した彼はそのまま崩れ落ち……。

 

 

「お待たせ」

 

 

 気絶する直前、静かな少女の声を聴いた気がした。

 

 

―――

 

 

 暴走海列車がエニエス・ロビー到着まであと少しというところで、ミサカの見聞色に強い感情が引っかかった。

 アクア・ラグナを超えた後にも強い意志を持った大きなカエル、ヨコヅナが邪魔をしに来た。

アイスバーグ曰く、過去に同じように体一つで海列車を止めようとしたフランキーの意思に共感しているらしく、そのカエルはチョッパーの通訳のおかげで一緒に助けに行くメンバーとして新たに加わっていた。

 そのカエルの時とは違い、距離があって少し感じ取りずらいが……それでも確実に呼んでいた(・・・・・)

 

「ん、どうかしたのかいミサカちゃん?」

「……ごめん、私先にいく」

「え」

 

 女性の機微に敏感なサンジがいち早く雰囲気の変わったミサカに気付くが、その行動を止めるには至らなかった。

代わりにエネルが小さなその背中をポンっと軽く押した。

 

「ヤハハ、仕方ない娘だな」

「ん、皆のサポートよろしくね」

 

 ミサカ以外に見聞色を扱える上に、その範囲を超越しているエネルに後を任せ、ミサカは移動した

 バヂッとまたロケットヘッドに張り付くと、磁力を改めて操作する。

エニエス・ロビーが見えているとはいえ、大分距離がある上に間は海。失敗は許されない。

 

「……」

 

 それでもミサカは我慢できなかった。

必死な想いに応えたかった。その為には、今すぐ飛び込む必要があった。

 ただの磁力砲では足りない。海列車の速度を反発力として扱ってもなお足りなかった。

だから、跳んだ彼女は線路を使うことにした。

 

「んっ」

 

 線路に着地することで海水に触れ、力が抜けるが、能力が使えなくなるわけじゃない。

線路は大きなカエルが乗れる程度には頑丈で、何より鉄分が含まれている。

 磁力を細かに扱い、脚を動かさずに彼女の身体が高速で線路を辿りだす。

 少し浮くことで海水からも脱し、さらに速度を上げたミサカはエニエス・ロビーへと辿り着き、巨人族が守る大きな扉を跳び越え、内側へと急いだ。

 

 そして、破砕音と共に吹っ飛んできた一人の海兵を受け止めた。

 

「お待たせ――あとは、任せて」

 

 気絶した名前も知らない青年だが、彼が自分たちを待っていたのを彼女は感じ取っていた。

限界を超えて戦ってくれたことは裂傷と凍傷の跡を見ればよく分かる。

 恩義を感じたミサカは青年を優しくゆっくりと寝かせると……すでにボロボロの広場を一直線に走りだした。

彼らが暴れたおかげで邪魔者は居ない。彼女が青雉に追いつくのは直ぐだった。

 

「……オイオイ、マジか」

「ロビンは、返してもらう」

 

 近づいてくる海列車の気配を感じながら、彼らは再びの邂逅を果たした。

 

 

 ―――暴走海列車到着まで、残り数分。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 カミジョウの友

 一人の少女が刀を振るっていた。

眼鏡をかけたショートヘアの彼女は、細身に見えても立派な海兵。

その視線は真剣で、根っからの真面目さと優しさが目つきに出ていた。

 海軍基地で特訓していた彼女に、一人の同じく女性海兵が話しかけてきた。

桃色の長髪に勝気な少し鋭い目付きの彼女は、飲み物を片手にやって来た。

 

「今日も頑張ってるわね」

「あ、ヒナ大佐!」

「敬礼はいいわ、ヒナ休憩中だから」

「は、はい」

 

 休憩中なのに何しに来たんだろう、と少し不思議に思いながらも、改めて刀を握った。

少女、たしぎの上司はヒナではない。同じ大佐であるスモーカーが直属の上司だ。

 たまに仕事を共にすることはあるが、たしぎを含め若手実力派である彼らは忙しい。

連絡事項など含め、基本海の上でしか会わないため、こうして陸の上で会話をするのは思えば久しぶりのことかもしれない。

 

「聞いた?()、休日なのに海に出たって」

「へ?トウマくんがですか!?」

 

 彼と言っただけで一人の男性の名前が出てきた。

カミジョウ・トウマ。彼はたしぎよりずっと若い身でありながら、既に自分より位が上だ。

実力もさることながら、そもそも関わってきた……関わってしまった(・・・・・・・)事件の数が多すぎる。

一時期は病院以外で本当に寝ているのか、と心配する程度には生傷の絶えないそんな少年だ。

 

「何でも大将青雉が車輪の跡だけ残して行方知れずで、追いつけそうなのが彼しかいなかったとか」

「むむむ………心配ですね」

 

 彼は不幸(・・)である。

それはもうとんでもなく不幸である。

少し休憩時間にふらっと出歩けば、一つか二つ事件に巻き込まれる程度には不幸体質で、その度に怪我をして帰ってくるのだ。

 心配ではあるが、彼女たちには実力的にそれを手伝えることが出来ない。

一時期は部下であり、書類整理から戦闘の立ち回りまで面倒を見たことがあるゆえに、より一層歯がゆさが増すばかりだった。

 

「トウマくんのことですから、また生傷だらけになってくるんでしょうね……」

「そうね、帰ってきたら流石に休暇はしっかり休みなさいって、注意しないと……言って聞きそうにないのが、ヒナ悔しい」

「わかります」

 

 トウマはその持つ素質の高さ故に、色々な船を転々とたらい回し、もとい研修(・・)させられた。

武器の才能がからっきしな彼に、少しでも生き残れるようにと拙いながらも指導したり、不幸ゆえに後処理が多くなる彼にその効率のいい処理の仕方を教えたり……位は下でも、彼女たちにとってトウマは弟のような存在だった。

 

 だから元上司とか関係なく凄く心配で堪らないのだが、鈍い彼には今一通じない。

半分社交辞令だと思っているのか、性懲りもなく怪我をしてくるだろう。

 

「まぁ事件解決祝いってことで、休日にベッドに縛り付けて、看病するのもありかしら?ヒナ名案?」

「あはは、流石に……んー、でも一日監視するつもりじゃないと、確かに……」

 

 ちょっと過激かもしれないが、それくらいじゃないと彼はまともに休めないかも、とたしぎが揺らぐ。

心配からこんな会話をしながらも、彼女たちはトウマは戻ってくると信じていた。

怪我をして、ヘラヘラ笑って「よかった」って事件解決を喜ぶ姿が容易に思い浮かべられた。

 

 

 きっとまたそんな姿が見られる、その時はしっかり休ませて、無茶していたら怒って、ゆっくりできるように看病しよう。

 

 

 そんな彼女たちの思いとは裏腹に、件の少年は大変なことをやらかしてしまって暫く会えなくなるのだが……それはまだ先の話である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 エニエス・ロビーでの騒動

 心底信じられない、ロビンのそんな感情が呆然とした表情に現れていた。

 

「なんで――どうして、来たの!?私がいつ、そうしてと頼んだの!?」

ずっと(・・・)って、言ったよ?ずっと、泣いてたでしょ」

「それは……」

 

 ミサカの見聞色を思い出し、苦々しい表情を浮かべるロビン。

そう、この少女にはどんな拒絶の言葉も通じない。

今もこちらの奥底を見つめてくる。決意を固めた、真っ直ぐな瞳と無垢とも言える純粋な心を持ってして、ロビンを追い詰めた(・・・・・)

 

「確かに私は無敵じゃないし、最強でもないけど……仲間を見捨てる程、弱くもないよ」

「………」

「ねぇロビン。一人で死のうとしないで……ううん、一人で死なせない。だから、一緒に居よ?」

「―ッ、っッ!!!」

 

 否定の言葉を出そうとしても何も出ない。ロビンはただ悲痛な表情で数度口を開くが、もう何を言ってもダメだと悟っていた。

この少女は止まらない。自分が何を言っても聞きはしないのだ。

 

「……もういいか?」

「うん、ありがと――始めよっか」

 

 ロビンの前に氷の壁が、トウマの前に砂鉄を熱で固めた鉄の壁が現れ、戦えない二人をそれぞれの能力で守護した。

近くに海兵は居ない。青雉とトウマの戦いで大勢が巻き込まれながらも避難したのだろう。

 

 つまり――

 

暴雉嘴(フェザントベック)

 

超電磁砲(レールガン)

 

 ―――遠慮も加減もいらない。

 

 

 さて困ったことになったとエネルは少し考えを巡らせる。

このまま暴走海列車から普通に降りたとして、海兵に阻まれるだろう。

彼一人なら全部無視して雷速で向かうことも可能だが、その場合彼らをおいていくことになる。

 フランキーを助けたい(・・・・)と言ったフランキー一家をエネルが置いていくのはナンセンスだ。

神になるのだから、戯れとはいえ約束事は守るべきだ。

 

「仕方ない……おい、貴様ら」

「ん?なんだ?」

「私とフランキー一家は此処から別行動をとる。まぁ真っすぐ進む」

「いや、何言ってんすかエネルの旦那。これから俺らで門を開けて、そっから列車で突入するんじゃ」

「あの中をか?」

 

 正門では門番と思える海兵が居るのは分かっている。それは望遠鏡でも使えば見れることだ。

そこを超えた先、本島前門に巨人がいるのも見聞色で把握していた。

 

 問題はその奥――地面から氷と雷が立ち昇り、荒れ狂っている地点だ。

 

「心網で確認したがアレは、たった二人が起こしている戦闘の余波(・・)だ」

「あれが……兵士たちも大変そうだな」

「まぁ巨人だろうが何だろうが、アレに巻き込まれれば只ではすまんだろう」

「じゃぁどうすんだ?ロビンやフランキー助けんだろ?」

 

 ルフィの中ではフランキーも救助メンバーにしっかり入っていた。

フランキー一家が一緒についてきた時点で、彼もエネル同様助けるつもりでいるのだ。

 そんなルフィにエネルは一つ朗報を告げる。

 

「なに、ニコ・ロビンに関しては心配いらん。あの戦いの中に気配があるからな」

「なるほど、ミサカに任せりゃいいんだな」

「問題はフランキーと……移動しているCP9だな。余波に巻き込まれるようなことはせんだろうが、巻き込まれないようにミサカの邪魔をする可能性がある」

「ミサカちゃんの邪魔ぁ!?」

 

 そんなことはさせないとサンジのやる気に火が付いた。

CP9の邪魔が入るのは拙い。青雉との戦闘はミサカも流石に綱渡り、危険だ。

 

「つまり俺たちは予定通りこのまま海軍たちとぶつかりゃいいんだな?」

「いや、貴様らはCP9とだけ戦闘しろ。雑魚は私と鍛冶連中、それにフランキー一家で十分だ」

「まぁエネルなら何かあってもひとっ飛びだし、置いてって先に進むのはありか」

「そういうわけだ。ほれ雑魚ども、移動しろ」

「「「「「誰が雑魚だ!?」」」」」

「ヤハハ、悔しかったら大物の一人でも討って見せるんだな」

 

 ナミが納得したところで、エネルはキングブルを切り離し……おもむろに列車の一番後方へ移動した。

列車に片手を付け、ミサカの()を思い出す。

電撃を操り、磁場を形成し――砲身を模る(・・・・・)

 

「ちょっと飛ぶが、死ぬなよ?」

「「「「「は?」」」」」

 

 列車に残った一味と、車掌であるアイスバーグの声が被った。

彼らが自覚する前に、エネルは列車を蹴り飛ばした(・・・・・・)

 

「「「「「ぎ、ぎゃぁああああぁぁぁぁ!?!?!?」」」」」

 

 その疑問符が悲鳴に代わり遠ざかっていく。

暴走列車は宙を飛びそのまま……司法の塔へ突き刺さった。

 

「ヤハハハ、加減が難しいな」

 

 もう少し穏便に墜落(着地)させようと思ったのだが、勢い余ってラスダンに突っ込ませてしまった。

 やはり見様見真似ではうまくいかない。もしエネルがコインで再現しようとしても、数メートルも飛ばずに溶けて消えるだろう。

猿真似は出来るが、そのコントロール力はミサカの方が数段上だとエネルは理解した。

 

「ま、大丈夫だろう」

「んなテキトーな……!っていうかアイスバーグさんや長鼻の兄ちゃんに航海士だって言ってた姉ちゃんは大丈夫なのか?!」

「アイスバーグは知らんが、残りの二人はほれ、そこ(・・)にいるだろ」

「「「「「え?――あれ、ホントだ?!」」」」」

 

 青ざめながらも乗ってなくてよかったぁと心底安心している二人が、確かに後方にいた。

 

「行き成りエネルにキングブルに投げ飛ばされたから、何事かと思ったら……」

「あぁ、ありゃ俺らじゃ死んでたぞ……」

「いや、普通死ぬだろ。っていうか、なんでアイスバーグさんも一緒に下がらせなかったんだよ」

「ヤハハ、まぁ理由としてはフランキーだな。麦わらたちなら意気投合しそうだが、色々説明するなら知人の方がいいだろう。それより貴様ら、やることは多いんだ。しっかり動け」

 

 まず暴走列車はもう使えない。帰るためには通常の海列車か海軍の船でも奪うしかないだろう。

第一目標は正門と前門を開け、激戦区の中央を回避して遠回りしつつ海列車とフランキーの奪取。

正直戦力的に不安だが、まぁ何とかするしかない。

 

「ヤハハ、ゲームスタートだ」

 

 この状況下でも目隠しを外さない舐めプな攻略が始まった。

 

 

 一方、司法の塔では長官スパンダムが騒然としていた。

ロビンとフランキーの到着を待ち、そのまま連行すれば輝かしい未来が待っているはずだった。

 なのに、唐突に始まった青雉と連れの准将の戦闘。その被害は中央を丸々避難させなければいけなくなる程広範囲に及んだ。

理由としては青雉の戦闘力の高さに対し、准将は逃げの一手を選んだことだろう。准将は逃げ続けるだけで海兵たちは巻き込まれないように右往左往するのだ。

 

 そしてそれが終わったと思ったら……今度は目の前の光景だ。

地面から氷が生えたかと思うと、稲妻がソレを迎撃。砕かれた巨大な氷や拡散した稲妻は全方位へ向かって余波が広がって建物は瓦礫となっていく。

 

「な、んなんだこりゃぁあ!?」

 

 スパンダムも長官として成り上がるまでに、それなりに能力者を見てきた。

正直CP9という超人と能力者という最高の組み合わせを従えたことで、最強無敵になったと思っていたのだが……この現実は彼の自信を粉微塵に砕いた。

 

「し、CP9がかすんで見えやがる」

 

 このままではエニエス・ロビーが崩壊するのでは、と疑心してしまうほど激しい戦いに危機感が高まっていった。

 

「お、おい!カクとカリファはとっとと悪魔の実を喰いやがれ!それ喰ったらフランキーを連行するぞ!」

 

 ロビンが未だだが、あの中を突き進んでいけと言える度胸はなかった。

こうなったら古代兵器の設計図を所有しているであろうフランキーだけでも連れていこう。

そう考え、行動を指示したその時……おかしな音が聞こえた。

 

「「「「「―――ぁぁぁぁ」」」」」

「あ?」

「「「「「ぁあああああああああ!!!!???」」」」」

「ハァアアアアアア!??!?」

 

 電熱と空気摩擦によって真っ赤になったロケットヘッドの暴走列車が、宙を飛びスパンダムの眼前に迫る。

あまりに唐突な危機に驚きすぎて勝手に涙が流れ、腰が抜けへたり込んでしまう。

しかし、列車は勢いを失い、そのまま下の階に落ち……轟音が響き、振動がスパンダムの意識をギリギリ繋ぎ止める。

 

「ちょ、長官!突っ込んできた列車から麦わらの一味と思われる一団が!?」

「長官、正門突破されました!」

「長官、麦わらの一味が上がってきます!」

「長官、前門の巨人二名が裏切った模様で――」

 

 そして少し経つと報告の雨あられ。

中央は激戦、下からは海賊が上がってくる、しかもおまけに巨人が裏切ったぁ?

 

「は、はは……こ、殺せぇ!!!裁判所の連中も集めろ!!あそこの守りはもういらん!

 おい、CP9!遊び心はいらねぇ、全力を以てして殺せ!!!」

 

 迷わず切り札を切った。この思い切りの良さと自衛の為に手段を選ばない狡猾さが彼をここまでの地位に押し上げてきた。

それを信じ……というか、信じないと終わる状況に、彼は命乞いのような気持ちで必死に命令を飛ばしていた。

 




 ――正義の門――
     ┃
 ――司法の塔――
 スパンダムSAN値ピンチ! ジャブラ クマドリ フクロウ ルッチ カク カリファ 戦闘態勢
 フランキー拘束中
 ルフィ ゾロ サンジ チョッパー アイスバーグ 飛来
     ┃
 ――裁判所――

  青雉VSミサカ トウマ&ロビン戦闘不可 ブルーノ海兵たちによって避難
 ――本島前門――
  エネル ウソップ ナミ フランキー一家 パウリー ルル タイルストン
    ┃
 ――正門――
 海兵しかおらずあっさり突破


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 VS CP9 ①

 忙しかったり睡眠時間を削りながら音楽を聴くとちょっと書けるようになってきた気がしてるだけの、絶賛スランプですうぐぐ。


 それはそれとして、クマドリの口調が本当に分からなくてそこが本当に無理だった。何だこのキャラ、何なんだこの凄いのにこのキャラ本当に面白いし強いのになんなんだこの、なんでこんな口調なんですかぁぁぁ!ごめんなさぁぁあああい!(泣


 暴走海列車が突撃して数秒後、ゴムの拳がドゴンッと強い打撃音を響かせドアをぶち抜いた。

 

「おぉぉおお!!着いたー!」

「「「死ぬところだ!!!」」」

「ンマー、あの野郎、無茶しやがる……」

 

 ゴム人間で打撃無効のルフィは元気だが、残りは……驚くことに軽傷だった。

全く以てふざけている。物理的に人間を辞めているのはこの中でルフィだけのはずなのだが。

 

「っし、いくか!」

 

 偶然だろうと必然だろうと気合だろうと根性だろうと、何はともあれ全員揃っているのだ。

後はもう動くだけ、走るだけ。止まらずに邪魔するものをぶっ飛ばし、略奪するだけ。

 

「む、麦わらのルフィとその一味だ!!」

「か、かかれぇええ!!!」

 

 

 海賊『麦わらのルフィ』が本格的に動き出した。

唐突な飛来に驚きながら、海兵たちは彼らに殺到する。

 

「「「「邪魔だァ!!!」」」」

 

 ゴムの拳、飛ぶ斬撃、黒い脚、獣の蹄が武装した海兵たちをなぎ倒していく。

まるで塵芥の様に吹き飛んでいく彼らにアイスバーグが同情する程、一味は圧倒的だった。

 

「お前ら、無茶苦茶だな」

「そうでもねぇさ。フぅー……」

 

 走りながら煙草に火をつけたサンジが思い出すのは、今この瞬間に世界でもトップクラスの相手と戦っている少女。

戦闘音も電撃の閃光も瞬いていることから、未だ無事なのが分かる。

しかしそれだけ。サンジが意識を向けてもわかるのは、自分たちとは領域(・・)が完全に隔たった次元の戦いだという事だけだった。

 

「――ん?」

 

 サンジは下の階から海兵が迫ってくることを、ふと気づいた(・・・・・・)

数秒遅れて騒がしい足音が響いてくる。

 前方を見ると、ルフィは正面しか見ておらず、この短い時間でゾロはどこぞへと行方不明。

チョッパーが横に斬り開かれた(・・・・・・)穴へ走っていったことから、ゾロの元へ行ったのだと予測した。

アイスバーグは非戦闘員の為、このまま背後を無視しておくわけにはいかない。

 

「チッ、あぁくそ!しょうがねぇ!!」

 

 サンジは舌打ちをして一人下の階へ降りていった。

 

 

――

 

 

 その戦いはもはや個人で行う規模ではなかった。

電撃が迸り、冷気が爆裂し、鉄の塊が地面を砕き、それ以上に巨大な氷塊が全てを叩き潰そうとする。

一発落ちれば地面程度ならば余裕で砕く氷塊も、少女が放つ電撃で砕かれ一瞬で解けて蒸発してしまう。

片や冷気、片や磁力で重力を無視し、両者ともに縦横無尽に動き回るため広範囲に破壊の波がばら撒かれていく。

 

(なにが、どうなってるのかしら)

 

 ニコ・ロビンは悪魔の実の能力者であるし、実力者だが目の前の光景を追えずにいた。

瞳を増やせばある程度は分かるかもしれないが、この戦場に身を晒すわけにはいかない。

 

(………そういえば、彼は)

 

 ふと、自分同様盾に守られている彼はどうなっているだろうと気になったロビンは、そちらの方へ瞳を生やした。手錠の所為で力が抜けるが、この程度なら問題ない。

重傷を負いながら守ってくれた海兵さんは、ロビンの想像通りそこに……いなかった。

 

「どこに――キャッ!?」

 

 この激戦の中移動したという事実に驚き、あの傷でどこに向かったのだろうかと疑問を抱いた。

しかしその疑問も驚愕も、目の前の激化していく戦闘の前にあっさり霧散していった。

能力のぶつかり合いだけではない、目の前の二人は強大な『覇気使い』でもある。

 

「「ッッッ―――!!!!!」」

 

 両者ともに歯を食いしばり、力を振り絞っている。

あの(・・)青雉が全身全霊を以ってして、齢14歳程の少女を叩き潰そうとしているのだ。

海軍大将の全力は一つの島を容易に破壊できるのに、少女は生き残っている。

 体格差など比べるまでもない、年季の差など確かめる必要はない、本来ならあり得ない光景。

しかし彼女の細く小さな拳が大将の拳とぶつかりあうだけで、物理だけでは説明できない凄まじい衝撃波が島中を駆け巡った。

 

(………)

 

 ニコ・ロビンはこの戦いから抜ける術など持たない。

彼女はただ、自分の行方が決まる瞬間を待つことしか出来なかった。

 

 

――

 

 

 走りながら、彼―――アイスバーグは気づいた。

……あいつら、何処行った、と。

 

「オイ麦わら」

「ん?」

「剣士とコックの兄ちゃん、それとトナカイだったか?何処行った?」

「んー?あれ、あいつら迷子か?」

 

 いや列車からここまでどうやったら迷子になるというのだ。

というか普通もっと早く気付くべきだろうに、目の前の船長が敵をなぎ倒していく姿に魅入ってしまっていた。

時折、視覚外からの攻撃を避けていたようにも見えたが、アイスバーグには自分の視認速度が追い付いていないだけかもしれないと疑問を隅に置いた。

 

「まぁしょうがねぇよ。あいつ等なら大丈夫だ」

「……」

 

 アイスバーグがルフィと邂逅したのはほんの数日前だ。

初めて会ったときは、船を諦めきれず、どうしようもない現実に駄々をこねる子供のようだった。

しかしどうだ。仲間を信じ、前を見据えるその姿。

 

(なんだ、立派に船長出来てんじゃねぇか)

 

 見直し思わず感心したところで、唐突にルフィが立ち止まった。

その視線の先には……二つの人影が。

 

「チャパパ、よくもまぁこんな無理矢理来たものだ」

「よよい!遠路はるばる、あっ!まいった狙いはぁ~~~フラァンキ~かぁ!?」

「お前らは?」

「チャパパパ、おれは噂が大好き音無しのフクロウ!そっちの五月蠅いのはクマドリ。

 フランキーを追ってきたんだろうが無駄だぞ。スパンダムだけならともかく、ルッチが護衛についてるからな」

「えらい喋るやつだな……ま、いいや。俺はルフィ、よろしく!」

 

 軽い挨拶と共に、ゴムの拳がCP9へ放たれた。

しかし彼の勢いある拳はあっさり避けられ、宙を蹴った両者から斬撃が放たれた。

 

「「嵐脚!!」」

「ッ、危ねぇアイスのおっさん!」

「うぉ!?」

 

 乱暴だが蹴り飛ばすことで斬撃からアイスバーグを逃す。

並の海賊なら間違いなく揃って斬り飛ばされていたし、そこそこ腕が経つ程度でも怪我を負っていたであろうタイミングの攻撃。

しかし、無傷でしのいで見せたルフィを、感心したように見つめた。

 

「なるほど、そこそこ力はあるみたいだな」

「あっ、しか~~し!その程度では、――ハブベェ!?」

「……え?」

 

 唐突に吹っ飛んだクマドリを思わず振り返ってみてしまうフクロウ。

吹っ飛ばした張本人、麦わらのルフィの攻撃はゴムによる伸縮自在の体術。

 しかし、その速度はCP9には及ぶはずはない、はずなのだ。

だが事実としてクマドリはぶん殴られ、壁に叩き付けられている。『鉄塊』をギリギリ発動させたからか、どうにか起き上がった。

 

「お、まえ、それは?」

「ふぅーー……――ギア2(セカンド)

 

 全身からまるで汽車(・・)の様に煙を吹き続けるルフィに面食らうアイスバーグ。

ルフィは一言、技名を告げると拳を構えた。

 

「俺からミサカに発破かけたんだ」

 

 ――俺たちは負けねぇ。だから、お前も負けんな。

 

 青雉たちにロビンを連れ去られた時……いや、それよりもっと前から、ルフィはミサカの強さを見てきた。

 だが、全力で戦ったのは。戦えた(・・・)のは、青雉の一戦だけだろう。

空島での戦闘。神官やゲリラでは相手を殺さないように加減していた。

エネルと戦った時は傷ついた仲間が近くにいて、必然と拡散する技を使わないようにしていた。

そして青雉の時は、自分達が(・・・・)戦闘に参加しなかったから全力で戦えていた。

 

「その俺が、負けるわけにはいかねぇ。お前らをぶっ飛ばすし、アイスのおっさんは守る」

 

 確かに今は(・・)ミサカより弱い。

だがまだまだ強くなるのだ。これから自分たちは強くなっていく。

その『覚悟』を『証明』しなければいけない。

 

「お前らが強いのは分かってるから、最初っから全力で行くぞ!!」

「「っ」」

 

 ルフィの背後にいるアイスバーグは、とんでもないルーキーだと思っていた。

この実力は『1億』の枠を超えている。この戦場から生き抜けたのなら、また額が上がるだろう。

 

 だが、真正面から睨みつけられたフクロウとクマドリは。彼らだけは、全く別の感想を抱いた。

 

(今、のは……なんだ、こいつ)

 

 睨みつけられた瞬間、何かがフクロウとクマドリを襲った。

巨大な存在感とでもいうような謎の威圧感(・・・・・)が一瞬で彼を覆った。

ルフィ本人も気づいていないその威圧は、二人の根底にまで届き、脚が震えていることに気付いた。

 

「は、え、な?」

 

 何時も五月蠅いクマドリが二の句を告げれないでいた。

自然の中で生き、『生命帰還』という特殊な術を会得している、仙人のような存在になりかけている彼だからこそ、本能に強く響いたのだろう。

フクロウはクマドリの異常を責めはしなかった。なぜなら、自分もそれは感じていたからだ。

 

 

 ―――コイツには、勝てない。

 

 

 精神状態というのは戦闘においてとても重要だ。

モチベーションの差はそのまま戦力の差に直結する場合すらある。

 

「ゴムゴムのJET――」

 

 これまでに募った想い、覚悟を乗せた新技を放つルフィ。

心底に怯えを植え付けられ、思わず防御に回る二人。

 

 

 数度の戦闘音がした後、分かりきった勝敗はあっという間に訪れた。

彼らの様子はアイスバーグから見てもおかしかったが、ルフィはまるで気にせず『ギア2』を解除すると、改めて走り出した。




 ――正義の門――
     ┃
 ――司法の塔――
 スパンダムSAN値ピンチ! フランキー拘束中 ルッチ護送
 ジャブラ カク カリファ 戦闘態勢
 クマドリ&フクロウ戦闘不能
 
 ルフィ&アイスバーグ
 ゾロ&チョッパー別行動
 サンジ下階処理中
     ┃
 ――裁判所――

  青雉VSミサカ戦闘激化 ロビン戦闘不可 ブルーノ海兵たちによって避難
 ――本島前門――
  エネル ウソップ ナミ フランキー一家 パウリー ルル タイルストン
    ┃
 ――正門――
 海兵しかおらずあっさり突破


 トウマ行方不明


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 VS CP9 ②

お久しぶりです、久しぶりに書けたので投稿させていただきます。


 ロロノア・ゾロは超がつくほど迷子になりやすい。それを心配したチョッパーが、壁を切り裂いて走っていく彼を追いかけていた。

 

「ゾロ、何処行くんだ~!?」

 

 ゾロは方向を見失うというより、頭の中でマッピングをほぼ行わず、勘で行動している。

頭の中の地図はモザイクだらけで、現在地も向かうべき地点もあやふやなのだから、迷って当たり前なのだ。

しかし本人曰く、これでもちゃんと道を覚えているらしいのだから筋金入りと言えるだろう。

 

「ん?なんだ、ついて来たのか」

「ついてくるも何も、ルフィ行っちまったぞ!?」

 

 では目標(フランキー)の居場所不明、詳細な地図(マッピング)無しの状況で、この男はいったいどこに向かっているのだろうか。

チョッパーは彼を追いかけながらそんなことを考えていた。

 

「なぁに、強そうな奴の場所に行ってるだけだ」

「え、もしかして見聞色の覇気か!?」

「いや、騒がしい声が聴こえてんだろ?」

「声?」

 

 耳をすませると、海兵たちの声や雷の音に混じって、確かに場違いな罵り合いが聴こえる。

 

「ギャーハッハッハ、お前その姿面白れぇなぁ!」

「うるさいわい!儂は気に入っとる!」

 

 何をしているのか知らないが、その部屋にゾロは単身乗り込む気なのだ。

ますます一人にしておけなくなったと思ったチョッパーは、ゾロと一緒にその部屋へと乗り込んだ。

 

 そこには、狼男と、何故か四角いキリンがいた。

 

「ギャーハッハハっなぁんでそんなに四角が反映されてんだよ!?」

「えぇい!いつまでも笑うでないわ!……ん?」

 

 狼男の方は知らないが、片方は屋敷で聴いた声だとゾロは気づく。 

 

「よぉ、猿がキリンになったのか?」

「ふんっうるさいわい!」

「ギャハハハ、可愛い子狸だなぁ!」

「オレは狸じゃねぇ!!」

 

 言い合いながら、キリンの男、カクが人の姿に戻った。

 

「何だ、変身はもういいのか?」

「悪魔の実を食べたは良いが、流石に直ぐには使い方が分からんからのぉ……お主こそ、もう刀を抜いておるのか?」

「血を吸いてぇと唸るもんで」

 

 二本の刀を手に、カクがゾロの前へ。

後は言葉を交わすことも無く、両者の『飛ぶ斬撃』がぶつかり合った。

 苛烈な戦闘が始まったのを眺める狼男の前には、チョッパーが立っていた。

 

「じゃ、邪魔はさせねぇぞこのやろー!」

「ハハハ、邪魔なんてするわけねぇだろ。決闘に割り込むなんて趣味じゃねぇ」

「お、おぉ、なんだそっか」

 

 割り込むつもりはない、そう言って座る男、ジャブラの言葉を信じたチョッパーは思わずホッとして――その瞬間、爪がチョッパーを襲った。

反射的に身をかがめたのと、元々チョッパーが小さい形態だったが為に爪は掠るだけで空ぶった。

 

「うわぁ!?あ、あぶねぇ!」

「惜しい惜しい。気を許すなよ、おれぁ『狼』!油断させて、食い殺す…!」

「うっ、ま、負けねぇぞっ」

 

 剣士と狼とトナカイ、それぞれの戦いが始まった。

 

 

 剣士と獣たちが争いを始めたその頃、司法の塔を上っている影が一つ。

 傷だらけで重たい身体を引きずるようにして、彼、トウマはある場所へと向かっていた。

皮肉にも自分たちの戦闘で大多数の兵士は避難しており、大半が海へ逃げている。

そしてその逃げた兵士たちの乗る船には、どう見ても意識があるとしか思えない(エネル)が縦横無尽に落ちたり薙ぎ払ったりしていた。

 

(あれも、麦わらの一味か……すげぇやつばっかだなぁ)

 

 大将と一対一でやり合い、列車で突っ込んで、おまけのように天災を起こす。

超強引で褒められたやり方ではないが、これ以上ない程に海賊として最適解だ。

 

「……海兵が、なに海賊、称賛してんだか」

「本当にね」

 

 人情に甘いとトウマが自嘲を溢すと、女性の声が返ってきた。

 

「司法の塔に態々やってくるなんて……目的は、コレ(・・)?」

 

 女性――CP9カリファは鍵束をトウマに見せつけた。

そう、彼はニコ・ロビンの錠を外すための鍵を探しに来たのだ。

 

「ハァ、ハァ……やっぱ、ついてねぇなぁ」

 

 中央は災害、塔では海賊が暴れて手一杯な状況下で、CP9に見つかる。

疲弊し覇気もほぼ尽きかけている。

とはいえ、誰にも発見されずに此処までこれただけでも上々。

 

「最後通告よ。今なら殺さないであげるわ」

「ハッ冗談よせよ……オレは、何言われようと、止まる気はないっ」

「そう……残念」

 

 『剃』によってカリファの姿が掻き消える。彼女を追えるが、ボロボロになった身体が思ったように動かせない。

覇気で防ぐ余裕もないため、無理矢理身体を捻り、コケるようにして『嵐脚』を避けた。

 

「ハァ、くそっ」

「無様ね」

「ガッ!?ゴホッ、ゲホッ」

 

 一発避けただけで攻撃が止まるわけも無く、トウマはついでの様に腹を蹴り上げられた。

うずくまる彼を見下ろしながら、本当に残念そうにカリファは語る。

 

「貴方の武勇は表裏関わらず飛び込んでくるわ。覇気が使えない時にロギアを倒したとか、休日にも関わらず億越えの賞金首を打倒して事件を解決したとか。

あぁ……たった一人の女の子の証拠もない救けの声に応じて、横暴していた上官をぶっ飛ばしたって話もあったかしら」

「ハァ、ハァ……」

「不幸にも事件の渦中に巻き込まれ、その不幸を覆す。そんな貴方は老若男女問わずファンが居るのよ」

「ハハ、初耳だなっ」

 

 起き上がってカリファへ駆け出す。大将相手にやり合い、怪我を負って疲弊してもまだ動けるのは流石といえるだろう。

繰り出される拳は鋭く、覇気を使わずともカリファの意識を狩り取ることはできる……当たれば(・・・・)の話だが。

 

「ニコ・ロビンは犯罪者……同情はするけど、そこは揺るがない。彼女を自由にすることは、世界の危機に直結するのよ?」

「あのまま明け渡しても、その危機に陥る力を政府が手にするだけだろっ」

「海賊の手に渡るよりいいと思うけど?」

「普通ならなっ」

 

 麦わらの一味は暴れまわるだけの危険な存在ではない。

少なくとも、トウマが少し関わった鼻の長い男、麦わらの船長、そして最後に気を失う直前に来てくれた栗色の髪の少女には、真っ直ぐな想いを感じた。

あの熱い想いはきっと、世界を破滅させることはしないと、トウマは信じている。

 

「アイツらからは善性すら感じた……この判断が間違っていたとしたら、その時はオレが止める」

「そんなボロボロの状態で、何を言って、もっ!?」

 

 カリファはトウマの攻撃を避け続けた。

その結果、もう一歩踏み込めば壁に手が届くところまで来ていた。

壁に追い詰めたところで、CP9、六式使いなら大した意味はない――普通なら。

 

 カリファが避けた拳が黒く染まり、その覇気が壁を伝って(・・・)――天井を粉砕した。

 

「なっ?!」

「お、おぉ!!」

 

 床を粉砕しても月歩がある。だが、天井が崩れればそれへの対応が必要となる。

カリファは他の者と違って耐久力が高くない、よって崩れた天井を『鉄塊』で防ぐか『紙絵』で避ける必要がある。

鉄塊を使えば身動きが取れなくなり、紙絵を使えば目の前のトウマへの対処が甘くなる。

 

「こんなっ」

 

 覇気は纏うものだと知らされていたカリファにとって、『伝わる覇気』は予想外。

しかも、覇気だけで物体を破壊するなど想像すらしていなかった。

思考が乱れ『紙絵』を使う余裕がなくなり、結果として『鉄塊』で瓦礫を防ぐ。そんな彼女の目の前にはトウマの拳が―――。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 トウマは海兵として欠陥だと自覚している。

将校になれたのは六式と武装色の覇気が認められたことであり、『彼の正義』が理解されたことではない。

確かにロビンを自由にするのは危険だ。しかし、だからといって、彼が自分の正義を曲げる必要などない。

 

「かぎ、もらうぞ」

 

 鉄塊も紙絵も使わず、殴ることを選んだトウマは只々瓦礫を受けた。

もはや目の前すらよく見えていない彼は、フラフラのまま鍵を手に取る。

 

「うわっ、なんだこりゃ!?」

 

 そんな彼の背後から、声が聴こえた。

金髪で黒服、海兵ではないということは麦わらの一味だろう。

 

「こ、れ」

「あん?」

「ニコ、ロビンの錠の、かぎ」

「アンタ、一体……」

 

 鍵束を投げ渡す。ボロボロの海兵の言葉なんてどこまで信じるかわからないが、言うことは言っておこうと思った。

 

「がんばれ、よ」

「……よくわからんが、ありがたく貰っておく」

 

 男は鍵をしまうと、そのまま他の仲間の元へと駆け出していった。

その姿を見送ると、気絶したカリファの隣に座り込んだ。もう、立つ体力も気力も残っていない。

 

「オレは、甘いんだろうなぁ……」

 

 海賊を助けてしまうなんて、海兵にはきっと向いていないのだろう。

だが、だからこそ海兵になったのだとその甘さに胸を張っている。

その言葉を最後に、彼は今度こそ意識を落とした。

 




 ――正義の門――
     ┃
 ――司法の塔――
 スパンダムSAN値ピンチ! フランキー拘束中 ルッチ護送
 ジャブラ、カク VS ゾロ、チョッパー 戦闘開始
 クマドリ&フクロウ戦闘不能
 
 ルフィ&アイスバーグ移動中
 サンジ下階処理完了、トウマから鍵を受け取る。
 トウマ、カリファ 両者ともに戦闘不能
     ┃
 ――裁判所――

  青雉VSミサカ戦闘激化 ロビン戦闘不可 ブルーノ海兵たちによって避難
 ――本島前門――
  エネル ウソップ ナミ フランキー一家 パウリー ルル タイルストン
 周辺海兵たちと戦闘
    ┃
 ――正門――
 海兵しかおらずあっさり突破


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 VS CP9 ③

 電撃が氷を砕き、雹霧を熱し飛ばす。

お互いロビンを殺すつもりがない、だからこそ全力でやり合えるわけだが…。

ミサカの周囲に展開した電撃の防御膜を貫く威力を青雉が用意すれば、雷速で破壊は可能。

だがその『用意』が邪魔をして、青雉に届く攻撃に至らない。

 

「………キリがない」

「コレならどうだ?」

「!」

 

 氷の刃を出現させた青雉が、ミサカへ突っ込む。

雷撃を放つが、見聞色に合わせ持ち前の実力で雷撃を凌いで見せた。

青雉の氷は、ミサカが放出する雷撃の熱と威力で壊され、溶ける。

 だが無力ではない。盾にも鉾にもなる、そして電磁のバリアは武装色を纏えば軽減できる。

氷を掴むのではなく、二の腕から刃を生成すれば筋力低下により取りこぼすこともない。

 氷の二刀を、ミサカは電磁操作で集めた伸縮自在の砂鉄の剣で対処する。

本来なら砂鉄の高速振動と熱によって氷は斬れて溶けるはずだが、覇気によって互角に撃ち合うという非現実的な状況を生み出してしまう。

 だが、数度打ち合った後にスルリと砂鉄の網を抜けてほぼゼロ距離へと接近を許してしまう。

場数と経験の差以上に、自然系(ロギア)の特性が厄介なのだ。完全な霧状になってしまえば一気に焼き尽くすのに、一部を氷霧にするというやり方ですり抜けてしまう。

 

「あららぁ、やるねぇ」

「近接戦闘も、ちゃんと習ったから」

 

 だが、その距離でもミサカは焦らない。

砂鉄の剣を抜けられた瞬間、両腕に纏わせ大きな黒いカギ爪を作って防いでみせた。

 

(磁力すら操る緻密な電撃と覇気のコントロール、そして戦闘の心得……こんな小さな子に、誰が教えたんだか)

 

 戦えば戦う程に、少女の影に師匠と思われる存在が浮き彫りになっていく。

これだけの実力を付けながらも慢心する様子がない、その事実は師匠とそれだけの差があるという裏付けにもなる。

イメージは天秤だ。この少女を片側として、彼女の師匠の強さがもう片方の秤に置かれていく。

 

 だが、両者の秤が重くなっていくばかりで――その『誰か』の実力の高さが計り知れない。

 

幼く無垢な少女に知識を与え、自分で考える知恵をつけさせ、そして自分の身を護れるようあらゆることを教えた誰か。

 それらを吸収してしまう、ミサカの学習能力と潜在能力の高さも勿論素晴らしいが……。

 

「ん?」

「スゥ、ハァー……」

 

 氷刀と鉄爪がぶつかり合う中、目の前の少女の集中力が上がっていく。

研ぎ澄まされたことにより武装色も高まったが、それ以上に青雉の脳裏に浮かんだ少女の次の動きが、ブレていく(・・・・・)

 

「――チッ」

 

 こう言った時の嫌な予感には素直に従うに限る。

青雉は氷の刃を大量に生成し――直後その全てを雷に砕かれた。

事前に現れることを察知しないとできない芸当だ。

 

「おいおい、マジか嬢ちゃん?」

「…………………」

 

 歳不相応の覇気の練度の高さに、青雉は驚愕を隠せなかった。

見聞色は極めると未来が視える。勿論青雉はその力を持った実力者との戦闘を経験したことがある。

ミサカも同じように未来を視ている――はずだが、青雉は違和感を覚えた。

 

(なん、だ……?)

 

 見つめているだけの青雉の脳裏に浮かぶミサカの姿が、ぶれて、増え(・・)分からなくなっていく(・・・・・・・・・・)

青雉が察するよりも早く察知し、それを察知したことを察せられる。

ミサカの頭から紫電がパリッと漏れ出ているのを見て、青雉はミサカの無茶(・・)を理解した。

ビリビリの実は発電し、それを操る力。こんな運用(・・)はきっと常用外なはず。

だが、少女は現実に行っている。見聞色の覇気と組み合わせた、特異な能力の行使……それは――。

 

「なるほど――思考を、加速してるのか」

「………」

 

 無意識で察知する見聞色の覇気に、『思考』は本来余分だ。

未来を視れるのは数秒先が限界で、一々あれこれ考えていたら出遅れてしまう。

だが、ミサカは脳の処理速度を上げることで『予知』と『行動』の間に『思考』を挟むことに成功している。

 過去と現在の青雉を参考にして、未来視で垣間見た青雉の動きを『演算』することで未来視の『その先』を想像しているのだ。

そして、そのミサカの視ている光景に、青雉では物理的かつ能力的に追いつけない。

 

(こうなると、俺の見聞色はほぼ無意味になるわけか)

 

 青雉の見聞色が捉えた動きよりもずっと速い速度でミサカの攻撃が通る。

ただ速いだけじゃない、青雉が防ごうと、攻撃しようとした直前の無防備(・・・・・・)を面白い程に突いてくる。

 

「ぐっぉお!?」

 

 武装色による直前の防御は間に合わない、常時全身を覇気で覆い、防ぎ続けることでようやくミサカが何をしたのかを目視できる。

その状態で攻撃を繰り出そうとして、その全てを事前に潰される。

 演算はその先だけではない、現在(いま)の青雉の動きも当たり前に含まれている。

仮に未来が視えたとしても、それを含めて先を行かれてはどうしようもない。

 

「まったくっ想像を超えていくなぁ、お前さんはっ」

「――」

 

 膨大な演算による未来のその先を掴み取る、未来を確定させる(・・・・・)力。

だがそれは覇気の消耗だけではなく、体力や気力の消費も激しい。

今のミサカには青雉の言葉に何かを返すことどころか、喋るという動作すら遅く、思いつく返答があまりに多い。

そもそも敵同士。故に、無言で見つめることで意思をぶつけるのみ。

 

「はぁ、我慢は苦手なんだが……仕方ねぇなぁ」

 

 海軍大将になる前に防戦一方を経験したことはある青雉でも、冷や汗を流してしまう。

少しでも油断すれば一撃で潰してくる怪物少女を相手に、気を緩めない我慢比べが始まった。

 

 

 司法の塔、中階。

 

「ギャハハハ!!もう終わりか小狸ぃ!?」

「お、おれは、…トナカイ、だっ!」

 

 ゾロの戦いを邪魔させないため、ジャブラに追いかけられていたチョッパー。

だが実力差があまりに開きすぎている。こうやってウロチョロできたのは完全にジャブラがチョッパーで遊んでいるからだ。

 

(や、ヤバイ……)

 

 チョッパーは動物系、ヒトヒトの実を食べた動物人間。

動物系は身体能力を直接引き上げてくれるものだが、彼が得たのは力ではなく知恵。

その知恵で医者になった彼の戦闘力は、お世辞にも高いとは言えない。

 そんなチョッパーが作り上げた、自分の身体を戦闘用に作り替える薬丸、ランブルボールの効果は3分。

その3分の時間も過ぎてしまった。脚力強化(ウォークポイント)しても『剃』の速度に追いつけず、毛皮強化(ガードポイント)は普通に防御をぶち抜いてくる。

腕力強化(アームポイント)はまるで当たらず、飛力強化(ジャンピングポイント)は『月歩』と『剃』の合わせ技、『剃刀(カミソリ)』で追い越しついでに攻撃される始末。

 

(ど、どうしよう……)

 

 自由に変身できる数少ない状態、重量強化(ヘビーポイント)となってゴリラのような姿になったが、その体格とは裏腹に思考は詰んでいる状況に絶望してしまう。

 もう一度ランブルボールを使っても、思った変身にならずランダムになる。

こんな強敵相手にそんな阿保なことしてたら、それこそ殺されるだろう。

 

「どうやらほんとに終わりらしいなぁ」

「うっ、ぐぁ!?は、はな゛ぜェ…!」

 

 『剃』で近づかれ、太くなった首を掴まれる。

狼の爪がゆっくり首に刺さっていき、窒息と失血で意識と一緒に生命も絶たれそうになる。

 

(うぁ……ドクト、リーヌ…)

 

 人は命の危機に陥ると、走馬燈を見る。

身体が痛くて、苦しくて、力が抜けていく。こんな風になったことが、過去一度あった。

それは、ランブルボールの3個目(・・・)を食べた時のこと。

 

 チョッパーは自分も知らない形態に変化し、暴れ回ったという。

 

 誰にも止められない狂獣は、そのまま精根尽きるまで暴れ続けた。

目が醒めた時、自分で傷付けた身体の痛みで目を覚まし、力がまるで入らずベッドに横たわったままになっていた。

 

(このまま、殺される、くらいならっ)

 

 一瞬で小型に戻ることで、拘束を抜ける。

ジャブラなら落下した瞬間に止めを刺せるはずだと、小型になる前に取り出した丸薬を二つ、直ぐに口に放り込んだ。

 

(だれも、この階に来ないでくれよっ)

 

 ガリッと丸薬を嚙み砕く感触を最後に、チョッパーの意識は途絶えた。

そして――。

 

「ヴォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!」

 

 誰にも止められない怪物の鳴き声が、司法の塔に響き渡った。




オリジナル技
 ・未来視のその先
見聞色による未来視に加え、ミサカの演算能力を悪魔の実の力で高めることで、本来の未来視よりも先の未来を予測している。
出来るだけ消耗を避けるため、予測可能範囲はミサカが発している電磁波圏内に絞っている。
 事前に情報が揃っており、対象人数が少ない程その予測は確定へと近づく。

 発電操作能力であるビリビリの実を用いた非常識な使い方であり、何より14歳というまだまだ幼いミサカには負担が大きい。
だが情報と条件がそろえば、相手に何もさせずに一方的に蹂躙することが可能となる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。