前線異常あり (杜甫kuresu)
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協力作品一覧

いきなり読まなくて構いませんので、本文を楽しんでふと気になったら来てくださいね。


ざっくり登場回に応じて後書きで紹介はしている訳だが、「このキャラ面白いな」ってなったときには物足りない解説だと思うので――――――個人的な推しどころをデデンと置いたバージョンです。あくまで個人の意見だから、全然違うと思ったらそれは悪い事したなスマン、ってことで。

タイトル、作者名は俺が此処を書き直した時点で一応更新するけれど、まあ見つからなかったら作者にごめんなさい。

基本的にある程度読んでから来たほうが良い、結構グイグイ本編の内容を書いています。

 

 

「前線日記」:phes2様作

作者を俺が推している。本人が聞いたら違う理由でヒエッとなるがまた別の話。

えー、ではグレイラット先輩を中心に推していくぞ。日記形式の当作品の見所はズバリ、一人称と三人称の狭間を彷徨く日記から滲むヤンデレみ、ポンコツみ、後指揮官のおもしろ煽り語彙録だ。多分!!!!!

日記らしいぱっぱかと進む時間軸の中にごってりとしたヤバさが臭うのがこの小説の見所なんだけども、何ていうの? こう、ちゃんとダイジェストなんだけど隙間に面白やべー事起きてるなって手触りが有るのが善い!!!!!!

一話はスロースタートだが二話ぐらいから突然マッハ5ぐらいになる。一話切り駄目、絶対。実は俺は一話切りしかけましたすみませんでした(素直バカ)。

何だろうね…………良作だと言葉で語るには言葉は単調すぎるんだよ(説明放棄)。知恵の輪で寝るとか祖国ちゃんとか残念系おもしろヤンデレお姉ちゃんとかとにかくパワーワードを量産する辺りは言葉通り鬼才の為せる技、イチゴちゃんとトチ乙女ネタはphes2尊師より賜ったネタにございます。

 

「前線小話」:文系グダグダ様作

作者を俺が推している(またか~)。地の果てまで追いかけるゾ☆

前線異常あり、は実質この作品の三次創作。もっと言えば第8話に「三人目が居たのなら」を出発点としたもの。よって崇めろ、良いな?

指揮官がドルフロ自体によく馴染む設定で、猶且つ価値観が現代人と同じ。という辺りから親近感が湧か――――――ないんだよなあ、どんどんドン引き出来るから見てろよ見てろよ~?

書かれる人形が俺、phes2氏とはまた違ったはっちゃけてるのとは別の独自性を帯びていて、これがハマるやつは大層ハマる。

何ていうのかな、日常に近いけど日常だけじゃない。ギャグだけでもない。言うなら日常から乖離する瞬間の緩い波、みたいなものを鮮明に描いていると勝手に推す。

後分かりにくいネタを一杯入れてるそうな。ガンシューネタ分かる人は急いで見てあげて、気づいてもらえたら喜ぶはずだから。

感想欲しいんだって。俺じゃ満足できないってか欲張りさんめ。

 

「少女徒然」:しゃち様作

何故俺に許可を出してしまったのかシリーズ。ネーミングセンス死ぬほど好きだからどんどん提供して欲しい。

俺は個人的に地の文の堪能かつ味のある語彙を推す。何ていうのだろうか、こう、地の文で俺はくるくると踊らされちゃうんだよ…………文字を綺麗に追うとね? ゆるゆるジェットコースターみたいに文の濃淡とか緩急に悶絶できるからさ…………分かり手は俺にDMよろしく。

真面目なお話をするとヤンデレシリーズ。一話時点で俺の最推しがやべー事してるよ、でも俺の小説でも一話目でさせてもらったよこっちは許可取ってない殺される。

読者視点から見るとやべー人形達が逃げようと歩く度に立ちふさがって、知らない間に外堀埋まっててもう逃げられねえ! みたいになってるこの世の終わりを感じられる。でも独特のネットリとした白熱の展開(白目)も有るから味に飽きることはないはず。

phes2氏も中々のヤンデレイヤー(とは)なんですけどベクトルの違うねっとりとしたヤンデレです。決して怖いものではない――――――とは言えねえな怖いわ。でもすき。

後はネーミングセンスが可愛らしいと言うか妙にフワフワしてて俺は大好き。モコモコドイツライフルちゃんとか、大天使エムフォエルとか良いよ。俺が盗用してる変態ヤンデレ一服盛りやガールもお勧め、何かいい味出す人って思っておきなさい。

 

「ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー」:通りすがる傭兵様作

来てはいけない世界にやってきた枠。主人公というかラジオのメインパーソナリティのガンスミスはドア・ノッカーを作ったりしてるが一応マトモ、万能じゃないと言うが銃火器関連は普通に万能なので困る。

普段はM1895ナガンと銃火器を人形ごと招待して紹介してる小説。Wiki調べだと謙遜とかしてるが俺が試しにやってみたら二時間どころじゃない下調べを必要としたので間違いなく重労働。濃密な情報をお届けしてくれる銃オタ初心者、もしくはドルフロ二次勢の味方。

情報をわかりやすく届けることには単純な単一スキルでは足りない。例えば集める能力、取捨選択して噛み砕く能力、そしてそれを文章に乗せる能力。これがちゃんと噛み合って存在する紹介モノはかなり少ないし、それは決して変な意味でなく強みな小説になっている。

ドルフロの銃の仕組みだとかに困ったら手を出すと絶対損はない。ちなみにボルトアクションなら俺に聞けばひたすら魅力だけ語ります。



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本編
第一話


指揮官を他作品から拝借出来たので初投稿です。
ホラ食えよ、新鮮な変態ぽんこつ人形だぞ。


「アンタラうんうん唸ってるけど、何してんの?」

 

 オッサン二人が俺に振り向いた。

 指揮官の実戦形式のテストかなんかだと言ってペアを組めと言われたのだが、俺は見事に余っている。日本人顔はもう少ないからね敬遠されても仕方ないね。

 

 此方のお二人も日本人顔だ。

 一人は随分目付きが悪い。年は食っているようだがどうにも食えない表情の気がするし、でも警戒に値しない程度の人柄にも見える。総評して胡散臭い、警戒はしないが信用もできない感じ。

 もう一人は堅物オブ堅物。見た目こそ大して特徴のある感じではないけど背筋の伸びた感じとか、足元も横の方に比べてしっかりとしていて重々しいのが硬っ苦しい。

 

 横のはボクサーかってぐらい地に足の付いてない感じで対照的どころじゃない、何でアンタラが組むことになってるんだ。

 

「うん? いや何となく俺が目をつけてペア組んだわけだが、なーんか協力して上手く行くビジョンが出てこないのよな」

 

 胡散臭い方が困ったようにヘラヘラ笑う。何わろとんねん、笑えないが?

 結構深刻な問題だと思うんですけど、とはいえペア余りも見つけれてない俺が言うのもアレだな。

 

 堅物な方が真顔で俺に尋ねる。

 

「不躾な申し出なのは理解しているのだが、案が有れば教えてもらえるだろうか?」

「え? ええ、まず特技は?」

 

 二人は顎に手を当てると考え込みだす、仕草は似ても似つかない。

 

「俺はな、畳返しとかダミー作るのとか出来るぞ」

「撃ち合いには少し自信がある」

 

 えげつなく噛み合わないんだなアンタ達は。逃げ寄りと攻め寄りとかそういう次元じゃないんですが。

 

 どう見ても絶望的な組み方に憐れみさえ感じるのはともかくだな、嘆いたって状況は好転しない。質問を重ねてみれば何からしい着地点とか有るんじゃないか?

 

「今回はどう乗り切る?」

「正面突破は無理無理、どれだけ上手く躱すか考えてるなあ」

「障害は撃って倒す。が、今回は拳銃のみなので適宜、人形から拝借させてもらう」

 

 また駄目だ。

 

「じゃ、じゃあ今回一番大事なことは?」

「そりゃ人形とぶつからないことだろ」

「必要に応じて銃撃戦に対応し、人形と対抗出来ること」

 

 駄目だ。

 

「と、隣のやつには何を求めてる?」

「誤魔化し方を考えて欲しい」

「人形の身体的欠点を考えて欲しい」

 

 質問、やはり駄目。質問、まだ駄目、質問、どうしても駄目。質問、未だに駄目。

 やけっぱちになるわこんなん。

 

「そうですか!? じゃあもう二手に分かれて各自で好きにやれよ、俺には分からん!?」

『成る程、その手があった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよアンタラ!?」

 

 ガバリと羽毛の布団から起き上がった。見知った天井にホッと溜息、あのままあの地獄をまたリピートされていたら俺は少なくとも三回は精神的に死んでる。あのイカレ中年達についていったら俺は胃と眉間と鼻に穴が開くぞ――――――いや二個ぐらい元から開いてたな。

 

 額の冷や汗を拭って窓側に急いで目線を向ける、登る朝日がカーテン越しに薄く移って軽く一安心。

 俺は今日も指揮官だ。あの日の悪夢は随分としつこいようだが、現実ではアレより辛うじてマシなのである。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、指揮官。平均より3分14秒遅い出勤だけど、体調でも悪いのかしら?」

 

 六芒星の髪留め煌めくピンク髪、ネゲヴとばったり出くわす。扉を開けたら目の前に居るんだ、これはもしや出くわすと言うより待ち伏せなのでは?

 

 ちょっと過った嫌な予想は頭を振って、二酸化炭素と一緒に口からサヨウナラ。何時も通り愛想笑いで俺は少し不満げな彼女の機嫌を取っていく。

 

「まずはおはよう。昨日寝るのがちょっと遅かっただけだっての、っていうか平均取るなよ」

「何で?」

「何でもへちまもねえよ」

 

 お前に欠けているのはプロフェッショナルの流儀でもなければ実力でもない、一般的な倫理観だ。

 

「お前は心配性なんだよ、アイムグレイツ!」

「…………英語、絶望的に下手よね」

「やかましい」

 

 笑うんじゃねえ。痛いところばかり突いてきやがって。

 

「健康管理だってプロに必要な能力でしょ、指揮官はもっとどういうモノを振り回してるのか理解して生活して欲しいわ」

 

 また説教が始まった。ネゲヴは此処で俺と仕事をし始めてからずっとこんな感じで、俺に常に「指揮官たる振る舞いと規律」的なサムシングを要求してくる。

 

 俺はどうでも良いけどな。大事なのは食い扶持に困らないことと、ついでに言えば拾ってもらった恩を返すことだけだし。

 

「あーあーそうですか、じゃあプロフェッショナルなネゲヴ先生が俺を管理すれば良いんじゃないんですか~?」

 

 俺は煽るつもりで言ったのに、何とネゲヴが目を見開いて半狂乱じみたニヤケづらで迫ってくる。

 

「え。いいの!?」

「良いわけねえだろ変態ピンク髪」

 

 冗談なら冗談って言ってよ、と拗ねたような口調で何故か俺が怒られた。ソッチが九割九分悪いと思うんですけど。

 こんな調子では何時まで経っても仕事に向かえない。歩くよう誘導する。

 

「それはともかくだな、どうせだしネゲヴは分かってんだろ? 不調を訴えてる人形は」

「居ないわ」

「禁断症状で俺を要求するアホの子は」

「いっぱい居たわね」

「やる気は」

「皆有るに決まってるじゃない、バカにしてるの?」

「完璧だウォルター、ところでどうして俺を要求してるやつが居るんだ」

 

 知らないわよ、とお門違いの非難に不満げに目を細める。でもそれおかしいよ、上官って普通は鬱陶しくて顔を合わせると仕事だなあってなって無性にどくさいスイッチ使いたくなる存在のはずなんだけど違うの?

 

 知らぬ間についた。自動扉をくぐる。

 

「指揮官さん、お早う御座います」

 

 テーブルの上に散らかした書類を一纏めにしているKar98kが、俺を見るなりにこやかに挨拶。育ちの良いAI設計だからか、仕草も俺に比べて圧倒的に整ったものだ。

 一方俺は首をヘコヘコするぐらいの雑な挨拶。育ち悪いからな、言い訳じゃないぞ。

 

「あ、お早う御座います。相変わらず早い」

「朝食、テーブルに置いてありますからね」

 

 Karの言う通り、使い所さんを見失った客用のテーブルに朝食が置いてある。パン、ソーセージ、スクランブルエッグ、珈琲。俺は随分優雅な身分になったらしい、横にピンクストーカーが居るとは思えねえ。

 

 数少ない俺の平穏を切り崩しにかかるネゲヴ。今日も今日とてKarに絡む。

 

「何正妻ヅラしてるのよ、朝っぱらから食事も献身欲も重いわね」

 

 あからさま極まってギャグに片足を突っ込んだ嫌味、反撃と言わんばかりにKarが口に手を当てると小さく嘲笑して俺の方に視線を誘導した。

 

「指揮官さんはそう思っていらっしゃらないようですけど?」

「めっちゃ食いたい」

 

 思わず口元の緩む俺を見てネゲヴが見捨てられた子犬のような表情で何かを訴えかけてくる。いや、だってなあ…………。

 

 ネゲヴが突っかかっていたKarなど放り投げて俺の脇腹を掴んで揺らす。いや~あんまり無い肉を抓られていてえ、いてえ…………。

 

「マジで痛くなってきた、やめて」

「朝から「私できる女ですよ」オーラを出してるこのドイツ女の何が良いっていうの!? 私じゃ駄目なの!?」

 

 目が潤むのではないかと言うと悲しげなネゲヴに意地の悪いスマイルでKarが追撃。

 

「まあ正妻力の差というものでしてよ、ネゲヴさん。ねー、指揮官さん!」

「いや俺は腹減っただけなんだけどどうしたら良いの」

 

 ねーじゃねえよ、俺は今腹が減ってるだけだわ。正妻力が勝ってるとか一言も言ってねえよ。

 胸を張っていたKarが何故、と言わんばかりに不思議そうな顔で俺を見て固まる。ネゲヴ先生が勢いづいて煽りだす、アンタラ朝から元気ですね。

 

 もういつものこととは言え、よくもうちの人形はこうすぐに揉めてくれるものだ。

 

「ほぉら、やっぱり。たかだか三大欲求を手に取った如きで調子に乗らないことね、これだから古臭いボルトアクションは困るわ」

「言ってくれますね。副官に任命されたこともないのに朝から待ち伏せして、あろうことか起床時間までちゃっかり記録しちゃってるド変態マシンガンのネゲヴさん?」

 

 そう、そうだったよ。今忘れそうだったわ。

 今日の副官は一応Karだ、ネゲヴは副官でもないのに俺の体調管理までやってのけようとしていたわけである。そういうのはちょっと…………。

 

 オリハルコンメンタルなネゲヴは負けじとニヤついて言い返す。

 

「だらしない指揮官を放ったらかしにしてるから、代わりにやってあげてるんじゃない」

「朝から五月蝿いよこの姑の方々…………」

 

 俺の妻役が不在のまま、姑の嫁いびりみたいなのが繰り広げられていくが俺は蚊帳の外。もうそのまま二人で外行ってくれない? 俺は一人で飯食うからさ。

 

 とはいえネゲヴが副官になれないのはこのヤバイ感じにある。変に任せてみろ、何か勘違いして俺の私物を物色しだしかねない。

 というかこの前合鍵持ってた。どうやったんだ、俺は聞くのも怖い。

 

「えーっと、取り敢えず飯食うからネゲヴは帰ろうな」

「指揮官、この女は危険よ。私が居ないと大変なことになる」

 

 ネゲヴが凄い剣幕で俺の襟首を掴んで揺らしてくる。

 

「お前が居ても居なくても俺の身の周りは大変なことになるから。ほら、腹減っただろ? 別に俺は最低限のことは出来るから、な?」

 

 俺の目をじっと見て何かを訴えかけてくるが、意見変わるわけないんだよなあ。腹減ってるのはお互い事実。ついでに言うとお前の横とか斜めとかで食事したくない。

 

 という視線を送り返すと、襟首を投げるように離すと手を組んで捲し立てる。

 

「…………分かった。何か有ったらすぐ呼びなさい、良い?」

「はいはい。大抵は自力でなんとかすらぁ」

 

 ってか食堂へ行け。

 

 さて。ようやく退場してくれたネゲヴ大先生に大変な御礼を心中で申し上げつつ、俺はソファに座って朝食を眺める。

 改めて見ても中々の出来だ。お嬢様風味な人形だから家事はポンコツかと思っていたぞ。

 

「ふぅ、飯だ飯…………そういえばこれってKarの手作り?」

「そうですよ」

「つよい。じゃあいただこうかな」

 

 そう言って俺が食器に手を付けようとすると、何処と無く妖しい笑みを浮かべたKarが俺の手を制すると珈琲を差し出す。

 

「彼女に絡まれて何も飲んでいないのではなくて? そう急がなくても、寝坊したわけでもありませんし」

「うーむ、それもそうだな。作りたてにはちょいと悪いが、まずは珈琲で一服…………」

 

 コーヒーカップを手に取る時の、Karの妙な熱視線が引っかかった。

――何だ、俺の直感が「これを飲むな」と言ってるんだが。

 

 珈琲を見てみるが見た目は何も変わりない。問題は俺が覗き込んだ時、Karがちょっとだけ笑い方にぎこちなさが視えたこと。

 俺の直感は大抵当たる。突いてみるか。

 

「何か入ってないかこれ」

「ま、まさか」

 

 苦笑い。あやしい。

 一旦カップを置こうとすると、Karは万力みたいな力で俺の手を掴むと口元まで持っていく。笑顔が胡散臭いことこの上ない。

 

「………………この手は何ですかね」

「ほ、ほらぁ? 取り敢えず飲んで一息つけばいいじゃないですか。ホットですもの、温かい内に是非!?」

 

 これはヤバイやつだ。途中からKarの目が肉食動物が獲物を見ているソレだった、殺される。

 咄嗟にコーヒーカップを無理くり置いて逃げようとすると、手を引っ張られてつんのめる。

 

 後ろにずっこけたかと思うと流れるようにKarが俺に覆い被さってくる。

 

「うお!?」

「仕方ありません、これは実力行使するしかありませんね」

「――――――はい?」

 

 そう言うと見たことのない速度でサッシュベルトを投げ捨ててチャールストンのボタンを外し始めるKar。待て、待つんだ。

 

「何入れてたんだよアレ!?」

「それは些末な問題です、大事なのは今から既成事実が生まれるという結果ですわ」

「何を言ってるんだこの変態ドイツライフル!?」

 

 Karが頬を上気させて明らかにメスの顔をしながら俺を抑えつけようとする、ヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 コイツひょっとしなくてもこのまま勢いで俺のソレをアレしてドールズフロントラインをおっぱじめる気じゃねえか。サービスは永遠に延期だ馬鹿野郎!

 

――何か無いか、手は。無いか…………いや、有る。かもしれない。

 咄嗟に空いた手で外を指差す。

 

「あっ! あんな所にZF41が落ちてる!」

「え!? 本当ですか!?」

 

 あるわけねえだろ、バカめ! 一瞬目線を逸らした隙に手を払い除けて扉に猛ダッシュ。

 開けたら閉めましょうの精神で扉を投げつけるように閉めようとすると、えげつない勢いで制服の裾に食らいついてきたKarの細い手首が扉にがっちり噛みつかれる。

 

「お、おい! 大丈夫なのかよってか離せ、離せぇ!」

「この程度で諦められるなら、私は戦術人形になんてなっていませんのよ!?」

 

 お前のその根性は戦場で存分に発揮してどうぞ、引っ張られていたコートを脱ぎ捨てて駆け抜ける。

 すぐさま扉が開いた音、振り向かずに全力疾走ですね逃げろ。

 

「一体何を心配しているのですか指揮官さん! 私、優しく手解きしてあげますよ!?」

「はぁ!? 違うわそうじゃねえ、助けてウェルえも~ん!」

 

 半狂乱に我らが救世主ウェルロッドの名前を呼ぶ。とはいえアイツが幾らいつもストッパー役でも朝も早けりゃ今日は会えてない、来るわけが――――――。

 

 がたん。通り過ぎた天井のダクトが外れる音とともに黒い何かが着地する。

 

「私はウェルロッドです――――――ふっ、決まりましたね」

 

 何かそれっぽいポーズを決めて一人でニヤニヤしてる。お前も最近ちょっと変だよね。

 とはいえ救世主は救世主だ。縋るならウェルロッド、はっきり分かんだね。

 

「マジかよ。流石ウェルえもん」

 

 しかし何でダクトにいるんだ、何で俺のそばにずっと居たんだ、謎しかないけどもうお前しか居ない。

 

「頼んだ!」

「了解。指揮官の命に従い救援任務を遂行します」

 

 そう言いながらKarをあっという間に組み伏せたウェルロッドは、何処かの特殊組織顔負けのスーパーアクションをして見せていた。

 この後俺の部屋の方から走ってきたネゲヴとまた一悶着有ったりしたのだが、取り敢えずウェルロッド何時から居たのかという問題から解決していく所存だ。

 

 

 

 

 

 

 

――という訳で。最近鉄血が騒がしい俺達の最前線、S09地区。

 あろうことか此処は身内同士ですら騒がしいというのが今回のオチということになる。俺の敵は鉄血なのかI.O.Pなのか、最近本気でちょっと分からなくなってきた。




P氏とB氏に土下座して許可をもらってきました(大嘘)。普通に頼んで普通に書いた。
見た目の描写とかが事実かどうか、辺りはご想像におまかせします。俺は割と好き勝手書くからね。

ネゲヴが統計型依存スペシャリストになったし、Karは変態ヤンデレ一服盛りやガールになった。あらすじだけ渡してアドリブに任せたのが原因か。


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第二話

倫理観サヨナラ、コンニチワ変態人形。

ところで世の作者は前書きと後書きに困るだって!!??
俺は文字数嵩み過ぎて頭抱えます。


「全く、何で私が副官をしなくちゃいけない訳!?」

 

 ようやく一息とデスクチェアに腰かけるなり、きゃんきゃん五月蝿いパピーの叫び。

 グリムゾンレッドの髪と瞳が印象的な自称「殺しのために生まれてきた女」ことWA2000。俺はわーちゃんって呼んでる、名前長い。

 

 Karが反逆罪に問われてウェルロッドと一〇〇式、と何とも頼りないメンツに連行されたおかげで彼女が副官になっている。ちなみにネゲヴは俺の部屋に不法侵入した疑いがあるが、証拠不十分により不起訴。解せぬ。

 

「ぼくにきれないで」

「キレてないわよ!」

 

 怒ってるような張り上げた声で返してくる。

 でもわーちゃん仕事できるし、俺の起床時間の平均取らないし、一服盛ってこないから凄く助かるんだよ。

 

「でもわーちゃんに任せれば俺も安心だし…………」

「――――――――ふ、ふーん。そうなんだ」

「後、殺し以外も結構ちゃんと仕事できるというかむしろ優秀だろ?」

「ゆ、ゆうちゅう!?」

 

 噛んだ。何故に。

 Karは仕事は非常によく出来る。朝食を用意する気遣いはあるし(一服盛るためだけに作ってたらどうしようもないけど)、雑務はぱぱっと整理して俺に寄越してくれるし「仕事だけなら」むしろ理想の副官たる人形だ。

 

 まあでも一服盛りやガールな以上は駄目だよね。まあモコモコしてる所は褒めてやる、モコモコ。

 

「そ、そうなんだ。まあ当然よね、比較対象が酷すぎるから…………」

「まさか媚薬を盛るとは俺も思わなんだ」

 

 媚薬、という言葉を聞くなりにわーちゃんが眉をしかめて俺に尋ねる。

 

「ビヤクって何?」

「えっ」

「いや、だからビヤクって何」

 

 それをお兄さんに聞いちゃうか~。いやこれマジで分かってないやつや~ん?

 TCGの新作カードの話題で拗ねてる貧乏小学生的な表情で俺にズイと詰め寄ってくるわーちゃん、ズイズイ踊りすんぞこの野郎。

 

 このままでは俺は無知シチュでイジめられてしまう、わーちゃんはむしろイジワルをされていると判断しているのかどんどん機嫌を悪くする。

 

「教えなさいよ、早く」

「え、ええ~…………ホントに? 聞いても殴らない?」

 

 わーちゃんがバカを見るような冷たい目つきをする。

 

「何で殴るのよ、そんな事しないわ」

 

 多分殴られるなコレ。でも仕方ないね。

 

「………………えっとな、媚薬ってのは「指揮官さん、47分も副官の席から離れてしまったことお詫び申し上げますわ! この完璧な副官RF人形のモーゼルカラビーナアハトウントノイツィヒクルツが戻ってきたからには安心してくださいまし! 例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中指揮官さんのベッドの中でも完璧な副官として務めあげてみせる事をお約束致します!」

 

 名乗り口上がなげえよ変態人形。そしてちゃっかり俺と懇ろになろうとするな、もう突っ込みどころしかねえ。

 

「アンタの中での副官ってのは正妻とイコールで繋がってるのか? この脳直プロバガンダ型変態モコモコドイツライフル」

「指揮官、ゲットですわ!」

「もう俺にはついていけねえ…………」

 

 この人はもしかすると俺はボールを投げれば捕まえられる程度のチョロ男と思っているのか?

 思わず肩を竦めて溜息をついていると、火照ったような顔つきのKarがもじもじとして上ずった声を出す。

 

「呆れられたり罵られるのも、その、堪りませんね…………」

 

 キレるぞ俺キレちゃうぞ?

 

 そのまま頬を隠してデレデレしながらにじり寄るKarに俺は貞操の危機どころか生命の危機とか感じちゃってしまっているが、正直わーちゃんの気が逸れたことだけは内心感謝したりしている。

 流石に危険すぎてわーちゃんが間に入ってくれる、天使かな?

 

「あら、どうかしましたか? 私は指揮官さんとそろそろ愛を確かめ合おうと――――」

「いやいやいやいやいや、指揮官からアンタへの愛を感じられなかったんだけど」

「その解釈で正しいぞわーちゃん」

 

 Karの愛の桁ってジンバブエドルみたいに膨らみまくってるから俺は返してない、愛情負債がたっぷりだ。

 息の荒いKar(息荒くなるんだな、人形って)にわーちゃんは若干引きつつも良識を振り絞って変態に立ち向かう――――――とかじゃなくて俺の方へガバリと振り向く。

 

「というかアンタもアンタだからね! メーワクならはっきりメーワクって言いなさいよ、アッチも分かってないじゃない!」

 

 お前それでもアッチを庇ったりしちゃうのかよ…………身体は良心で出来ているんですかね。

 とはいえわーちゃんの指摘はごもっともだ。

 

「全くその通りなんだが、俺一回告白しちゃったことが有って」

「こ、ここここ告白!? 何で!? アレと!?」

 

 色々有ったんだよ、血迷っただけとも言うんだろうが。

 俺達の会話は勿論丸聞こえなので、Karは俺の発言が終わるなり気持ち悪いくらい得意げに俺の左腕に抱きつく。

 

「という訳でわーちゃん? 残念ながら私達は正しくそういう関係ですので」

「それは違う、アンタをこの前フッたじゃないか」

 

 流石にこれはキツすぎたのでちょっと前にな。

 Karがぎこちない動作で俺の顔を見ると凄い作り笑いをして弁明を始める。額からえげつない脂汗が出ている。

 

「なななな何のことかしら指揮官さん? 私そんな記憶は全く、いやこれっぽっちも無いのだけど………………」

「じゃあフッた時の台詞を再現してやるよ、まず「俺アンタのこと好きだけど恋愛的なやつじゃなかったわ――――――」

「ああそうでしたね思い出しました。だからもう一度言うのだけは勘弁してくださるかしら!?」

 

 相当あの時ダメージ入ったらしい、Karはかなり支離滅裂に取り繕う。俺は別にKarを殺したいわけではないので手を振り払って此処は引くことにした。

 今のはKarがあんまりにもしつこい時の最終兵器であって、別にいじめる為のやり口じゃない。

 

 問題はわーちゃんが口をアワアワとさせながら俺の肩をブンブン振り始めた事か。

 

「あ、アンタ告白してたの!?」

「だから別れたって」

「いやそうじゃなくて、人形とそういうのが考えられるかって私は聞いてるのっ!」

 

 まあ、イエスかノーかで言えばイエスだな。頷く。

 するとわーちゃんが俺の肩を放り投げると、顔をリンゴみたいに真赤にするなり顔を覆ってブツブツと一人で喋りだす。

 

「え、要するにチャンスがないわけじゃないってこと? いやでもKarちゃんはフラれてるわけだし、いやでもでも私はこんなにアレじゃないしやっぱりチャンスはゼロじゃないのよね…………ってそうじゃなくてアンタの事なんか別に興味ないわよ!」

 

 いきなりビンタされた。勢い余ってデスクチェアを回転させながら後ろに倒れる。

 

「何で!? クルーガーのおっさんにだってぶたれたこと無いのに!」

「指揮官さん、それは普通経験出来ないかと」

 

 急に神妙な顔して突っ込まないで欲しい。

 

「何か私がアンタのこと好きみたいじゃない!」

「え、俺のこと嫌いなの…………?」

「~~~~~ッ! 嫌いなわけ無いでしょ!」

 

 ありゃ、どっか行っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃなくて仕事だ仕事。それで、そちらのえらく仕事慣れしてそうな姉さん。名前は?」

 

 この直前にあったKarの元カノがずるずる迫ってくる系の下りは長すぎたのでカット。多分お気に入り限定とかで特典作品としてついてくるよ、嘘だけどさ。そもそもそんな下りは書かれておりません。

 

 閑話休題。

 取り敢えず目の前に居るショートのお洒落なお姉さんのお話をしよう。

 

「ああ、随分取り込んでたみたいだから待ってたけど、終わった?」

 

 取り込んでたというより身の危険が迫ってましたね。

 

「取り込んでたと言うかワンチャン俺は襲われるので、今後は積極的に止めてください」

「オーケー、Kar98kはあなたを襲う相当アレなライフルってことは取り敢えず理解したかな」

「誤解です! 私は合意のもとそういうプレイをですね!」

 

 彼女は察しが良いらしく、Karの戯言はそれなりに上手く流してみせた。マトモかもしれない、ウチにマトモな人形が来たのかもしれない…………!?

 

 改めて軽くニコッと笑うと俺に名乗り口上を始める。

 

「私はグリズリーマグナム、よろしく…………それは良いんだけどさ、こっちの指揮官はウチとはだいぶ空気感が違うね。ちょっと今カルチャーショックみたいなのを受けてる最中」

 

 そっちの指揮官と同類ではないですね、当たり前だ。

 

――彼女、グリズリーはウチに派遣された人形だ。送り主はあろう事かあの試験の変態三連星が一人、堅物ゴリラお爺ちゃんだ。何でこんな酷すぎる渾名なのかはアンタも何時か分かる。

 というか何気に同期の指揮官内では俺もやべーやつ扱いらしい、勘弁してくれ。

 

「俺をあのゴリラオジサンと一緒にしないで。まさか作戦でも単騎突撃とかしてないだろうな、あの人」

「えー、ああ~。うん、してる」

「一緒にするな、頼む。俺はマトモだ」

 

 一瞬言い淀んでしまったグリズリーに珍しくガッツリ言い切ってしまう。

 

 ウチの基地はちょっと変わっていて、人材の貸与及び借用が結構多い。今はちょっと人材が足りて無くて…………って所で急にHGの人形を貸してくれるって言うから誰かと思ったらあのオッサンだったという運びだ。

 まあ別に嫌いではない、ついていけないだけだ。性格自体は良い、突っ込み癖が有るだけ。

 

「そう言えば指揮官と知り合いなんだっけ?」

「そうだなあ、アレは知り合いというか…………何だ、ジェットストリームアタックを決めた仲と言いますか」

「ナニソレ」

「要するにマトモな付き合いではないってことですね」

 

 へぇ~、と納得されてしまう。日常茶飯事なのかもしれない、あり得る。

 俺が相当苦い顔をしたので気を遣ってくれているのか、恐ろしいことにKarに積極的に話しかけに行くグリズリー。

 

「オイやめろバカ、アンタにはソイツはまだ早い!」

 

 制止虚しく会話が始まってしまった。

 

「えーっと、それでKarは指揮官にお熱なようだけど…………よし、直球で聞こうか。何処が好き?」

「私の前で息をしてくださることでしょうか」

「ああ、そう…………」

 

 会話が終わってしまった。だから早いと言ったのに。

 俺の放置プレイと狂愛極まって意味不明な言動しかしねえからなこのモーゼルカラビーナアハトウントノイツィヒクルツさんは。

 

 当たり前に苦笑いで逃げるグリズリーにKarが打って出る。オイやめろバカ、これ以上痴態を晒すな変態。

 

「グリズリーさんとしては、そちらの指揮官さんは何が好ましく感じますか?」

「流石に息をしてくれる事、とまでは言わないけど――――――――やっぱり何処となく愛嬌が有るよね」

 

 思わず身を乗り出しちまった。俺の中では素っ頓狂な爺さんみたいなイメージ有るからつい。

 

「時々銃を見てさ、ちょっとだけ触ろうとして躊躇ったりする所とか子供っぽいんだ」

「あぁ~、そういやコールドスリープしてたとか言ってたな。うちの陽電子狙撃砲の写真持っていって良いですよ、俺の私物だけど」

「んー、昔の銃が好きみたい。でも面白いからお土産としてもらっておこうかな」

 

 面白い兵装では有るよな。まあヘリアンはまさか俺が使う想定はしてないんだろうけど。

 グリズリーの語る目つきがだいぶ熱を帯びてくる。何となく「Kar程じゃないだけでこっちも中々なのではないか?」なんて気がしてきたが、そんな一抹の不安は置いておこう。

 

「後寝顔とかも好き。この前は――――――」

 

 この後Karと妙な意気投合なんてしちゃいながら語っていたグリズリーは、まあ馴染めてくれたようで何より。

 だが如何せん長いので、やはり特典ディスクのみの収録とさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官さま~、そろそろヘリアンさんから連絡が~……………」

「あっ」

 

 色々有ってKarに押し倒されている俺と、「その調子だ」とでも言わんばかりに手を組んでしきりに頷くグリズリーを目撃したカリーナ。事故も良いところだぜ全くぅ!?

 顔を真赤にした後、目を逸らして今までにない震え声を絞り出す。

 

「す、すみません…………いえ、人形との良好な関係ってだ、大事ですからね! 要件は後で!?」

「待ってくれカリーナ! 誤解だ! そしてヘリアンってことは急ぎだろ待て!」

 

 手を伸ばしてもKarのせいで届くに届かず逃げられた。

 グリズリーがぼそっと

 

「指揮官、浮気を見られた旦那みたい」

 

 と悲しげに呟いたのを俺は忘れない。アンタも止めろ、ノリノリで傍観しないでねお願いだから。




珍しく人形のやりたいようにしてもらってるんだけど、書き始めと逸れすぎ。「ああ~そっち転がっちゃったか~!」って感じ。Karが未練たらたら年上元カノお嬢様になってたり、何で。

ポジトロンスナイパーライフル兄貴は出番があるかもしれない、対消滅の放射能とかは多分無視する。許して。

【指揮官】
現代オタクっぽかったりメタかったりする。一応指揮官。
陽電子狙撃砲を「私物で持ってる」らしい。設定はある程度有る。

【Kar98k】
元カノ。指揮官を彼氏だと思い込もうとしているが別れた時の台詞を復唱すればトラウマで取り敢えず収まる。普通に外道戦法。
も、ってタイピングするとモーゼルカラビーナアハトウントノイツィヒクルツが出てくる。

【WA2000】
暴力系ツンデレ好きだからぼくはそれで行きます(半ギレ)

【グリズリー】
他所様から取ってきたけど結局おかしなお姉さんに片足突っ込んでる。
海外ドラマの強い女刑事とかみたい所すき。後何着ても着こなせるお姉さん感もすき。


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第三話

統計学を人生で初めて活用し、そして学んできたことに人生最後の感謝をした。


『第一部隊前衛、A-2地点に到着しました。敵影は無し、以上』

「りょーかい、じゃあ引き続き「俺の視野の範囲内」で動くように」

 

 通信終了。一〇〇式の達の位置を横目で確認しつつ、彼は周囲の警戒に戻る。

 高度推定300mのビルから覗ける視界は広い。普通はスコープで確認するせいで偵察にこの高度はあり得ないだろうが、指揮官には特に関係ないのだ。

 スコープは便利だが視野が狭くなるのが弱点であり、利点の理由。遠眼鏡も同様。()()()()()()()()()()()()()の話である。

 

 目線は外さないように気をつけつつ、Kar98kの調子を確認。とはいえそのKar98kと呼んでいる物は長さからして150cm超え、重量も8kgで何処が短騎兵銃(Karabiner kurz)なんだと問われると誰もが答えかねる。弾丸とシルエットの面影以外別物だろう。

 

 考えている内にGuard(盾持ち)Jeager(狙撃兵)、それぞれ六体ずつの小隊が向かっているのを確認。ヘッドセットの通信を切り替える。

 

「…………あぁー、Kar。前衛に合流しろ、小隊が向かってる」

『Kar98k、了解しました。参考程度に頭数を』

 

――――頭数だけ? もっと情報は取れる。

 400m先を睨むと、細められた伽藍堂の漆黒がその走り姿から何かを汲み取っていく。

 

 まるで機械のように忙しなく動き続けた視線を一旦閉じると、目を見開いて淡々と報告が始まる。

 

「GuardとJeager、それぞれ六体のベーシックな編成だ。恐らく前後衛それぞれLink3の2体ずつで構成してる、走り方の癖がそんな感じだ」

 

 彼の報告の途中から、Karの方で絶え間なく人形達の会話をする声が始まっていたが、ちょうど彼が喋り終える頃に途切れる。

 Karが溜息を付きながら返答。

 

『恐らく別部隊でしょう、Vespid(通常兵)Ripper(切り込み型)の計32体の大規模な部隊が正面から接近中。指揮官さん、撃てますか?』

 

 間を置かず即答。

 

「撃てる」

『ではそちらはお願いします』

「了解だ、誤魔化しきれ。終わったら支援する」

『承りました。愛しています、帰ったら誓約しましょう』

「お断りだ。そこはI'll be back.とか言っとけ」

 

――いや、どっちも死亡フラグか?

 すっとぼけながら通信を切るなり深呼吸。

 

 静かに銃を構える。バイポッドの代わりに前腕部を用いる射撃フォームはとても狙撃を行うものではないが、ブレは全く無い。

 慣れたようにJeagerに目をつけると、銃に頬当てして片目を軽く瞑る。その動作全てには堅さがない。

 

 行われていること全てが戦場のセオリーを無視しつつ、それに適応し、彼の身体は遂行の準備をする。

 

「ええっと、息を止めたら当たりやすいんだっけ――――――?」

 

 復唱。そして。

 

 小さく息を切るような、そんなレベルの短い呼吸の途切れの刹那に発砲音。短い動作で放たれたモーゼル弾が遥か彼方のJeagerのバイザーの中央、つまり眉間に吸い込まれた。

 血飛沫を噴き散らし、一体が赤い牡丹を咲かせる。続くように周りの二体も崩れるように倒れだしてしまう。

 

 すぐに残ったJeagerが彼に向かって構えるが、彼に動揺はない。

 

「よしっ、命中。次だ次~っと…………!」

 

 槓桿を引いて排莢するとすぐに頬当てし、また発砲。ボルトアクション式の弱点と言われた速射性の低さが嘘のように、彼は極東の的あてゲームの要領で撃ち抜く。Jeager、また陥落。横の二体も崩れ落ちた。

 

 つまり彼は、様々な要素を類推して「メインフレームだけ」を撃ち落としているということになる。

 Guardが急いで死角に逃げようとするのに彼は焦る。すぐさま周りの荷物を持つと、ビルの端を走り回って第一部隊が走っていた方角に構えて通信をつける。

 

「悪い、Guard6体が行った! 見えないからそっちの奴を撃つぞ!」

『了解です、Guard単体なら致命傷は与えてきません! 早急にこちらのVespidを――――――!』

「OK、全部撃ち落としてやるよ」

 

 ニヤリと笑う彼の瞳が、黒く煌々と輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~、相変わらずヘリアンは細かいよなあ」

「まあ指揮官って滅茶苦茶だし、スペシャリスト的には気になるよね」

 

 スペシャリスト的#とは。

 

 ビルの上から狙撃したぐらいで怒るなよ、勝ったし。曰く「目立つ位置で狙撃手を努めようなどふじこふじこ」との事だが、まあ俺聞いてないから言ってる意味ないぜ?

 お小言を思い出して嫌になりそうなので話を逸らす。

 

「そう言えばスペシャリストさんは俺の体調の良し悪しってどう測ってんの?」

「え? 聞きたい!?」

 

 そこまでは聞きたくはないが、目をキラキラとさせながら俺に詰め寄ってきたネゲヴの熱意に負けておいてやろう。

 ヘタな演技で興味の有るふりをする。

 

「ソウダナーキキタイナー」

「良いじゃない良いじゃない、ようやくあなたにも専門家としての自覚が出てきたのね。例えば統計を取る時は標準偏差*1を取るわけなんだけどシグマの法則*2っていうのが有って、例えば今日の3分41秒のズレは標準偏差が1分38秒だから2シグマ分*3のずれがある事になるわ。これは4.55%以内の少ないパターンだから*4何か理由があったって考えるのが自然よね。でも私が見ている範囲内で指揮官に特段行動が不規則になるような行動は昨日、もしくは一昨日で見てないから体調が悪いのかしらってなるのは当然のことって訳!」

「ヘーソウナノカー」

 

 今読んだやつ居る? 脚注のアレは真面目に読まなくていいと思う。

 俺は正直あんまり良く分かってない(ってか熱意の方が気になって頭に入ってこないと言うか)のだが、ネゲヴは同志を見つけて大変嬉しそうなので何も言えなくなった。

 

 勘違いしないで欲しいが俺だって女の子泣かせたいわけでも、がっかりさせたい訳でもない。コイツラはそういう気遣いをさせてくれる次元に居ないだけ。

 

 そうこうしてる内にタイプライターでも口に備え付けてるのか、カタカタと怪奇文章を吐き出しては時折俺に意見を尋ねてくるネゲヴに耐えて歩いていると、見慣れただらけた背中が目に入る。

 窓拭きをテキトーにやってるソイツの肩を叩いた。

 

「今日も精が出てんな、グレイラット先輩」

 

 何となく付けた灰鼠野郎(グレイラット)の渾名を笑い飛ばすと、キョロキョロとするとすっとぼけた様子で俺の顔を覗き込む。

 

「は? 鼠とか何処だよ? 狙撃キチ君はスコープばっかり見すぎたのかな、肉眼では現実にピントが合わせられなくなっていらっしゃられる?」

 

 アンタも狙撃キチとかひでえ呼び方してくるんだし、俺も灰鼠野郎で一向に構わないなよし。俺は決意で満たされた。

 一体この情けない煽りマスターを誰が変態三連星の一角と思い出してくれるのだろうか、俺には分からん。

 

 ニマニマと俺の顔を見つめていたかと思うと、すぐに横でニヤリとしたネゲヴを見て少し後ずさる。

 

「げぇっ、ネゲヴじゃん。ピンク髪と薄笑いは見てるだけでショック状態になるからドクターストップ掛かってるんだよ、俺は見なかったことにしてすーっと自室に戻ってくれない?」

「失礼極まりないわね、相変わらず。そんな調子だから労働環境もロクに改善できなかったんじゃない?」

 

 ネゲヴは口で言うほど嫌そうな顔はしていない、何だかんだ前から気に入ってるんだとか。

 グレイラット先輩は元々このS09地区の指揮官だったらしいのだが、あまりのブラック労働に一度逃げ出したらしい。ネゲヴは前から此処に居たから見知り合いというわけだ。

 地味に俺の先輩ってわけだ。何か嫌だわ。

 

 ちなみにブラック労働は大マジらしく、後方幕僚のカリーナに聞くとその酷さがわかった。ちなみにカリーナの作戦報告書地獄については一向に改善の気配がない。R.I.P。

 

「そもそも労働環境を辞書で引き直しかねない悪夢のディスコ会場で何を改善するって? あの時は顔色がリトルグレイって煽られた気がするが今の俺を見てみろ、肌色バッチリ隈もない、快適そのものだ」

 

 頬を軽く叩いて眼を指差す。えらくおっさん臭くて尚且人相が悪い、ついでに喧嘩売ってるのはよく分かったな。

 

「そっちの鉛玉とスコープがお友達の奴見れば分かるだろ、この雑用という天のお恵みに預かれた俺の選択はベターオブベター。横のアホ面をもう一度見てみなさい、銃弾の雨あられに頭やられてる」

「お、やんのか鼠野郎?」

「あ、やる? じゃあまず逃げるか――――――」

 

 実際に逃げの予備動作をしてみせるニヤケ面、どれだけ経っても信用しようとはならない。

 

 結局今は捕縛され、「まあ逃げても仕方ない」ってなったクルーガーのオッサンの温情から待遇の良い用務員扱いで落ち着いている。偶に雇われの人形とか…………後、「アイツラ」を率いて出ることもあるかも――――とは俺に言っていた。

 

 ブラックっぷりにはカリーナが今でも「前よりはマシですね」ってレイプ目で言うから流石に同情してるし、ちょっと軽く目の前で泣いた。あんまり酷いみたいだったし、良かったなって…………。

 

「それで、窓拭きの心地は?」

「聞いて慄けよ狙撃キチ、お前の歩いてる廊下だって俺の偉業を賜ってる。ご感想をどうぞ」

 

 確かに鏡張りみたいに輝いてるな。俺は窓拭きの感想聞いたんだけどまあ良いや。

 

「天職じゃん。そのまま能力買われてどっか行け」

 

 無理、と笑っている。もう多少の労働で動じてなさげだよなアンタ、最早社畜。

――さて、ネゲヴの目が光った。むしろ今までよく大人しかった、と言っても良い。

 

 グレイラット先輩もその昏いスカーレットの瞳にビクリとする、俺はもう走るフォームを軽く整えてる。場数が違うんだよ場数が。

 

「ところで元指揮官?」

「指揮官なんてお飾りな肩書で俺を呼ぶなよネゲヴ。雑用を極め、親しみ、そして理解した俺はつまり雑用ガチ。此処まで雑用が手に馴染んだ男を指揮官とか呼ぶって、まあ要するにあのクソッタレ(クルーガー)を傭兵野郎って呼ぶみたいなもん。傍から聞いてアホだろ?」

 

 コイツよくも此処まで煽る時だけ口数増えるな、いっそ感心するわ。

 ネゲヴの口元が三日月に裂ける。

 

「あなた最近、食生活がバランス悪いって匿名のご相談が来てたわよ?」

 

 グレイラット先輩が引きつった面になる。わかるよその気持ち。。。。。。

 恐ろしいロケットスタートで走り出すグレイラット先輩に俺が引っ張られると、同時にネゲヴが走り始めるなり狂気じみた快笑を決めて叫ぶ。

 

「匿名ってそれ絶対45「という訳で指導の時間よ! 退役したからって食生活を怠るなんてこのネゲヴが許さないから!」

「何言ってんだコイツ、含有物不明の缶詰食ってた頃の方が栄養バランス気になるっての! つーわけでお前もほら来い! コイツの食生活指導は1グラム余分に食ったら殺されるディストピアだからな!」

「マジかよ」

 

 とばっちりも良い所だとは思いながら、浮いた足を地面につけて手を引っ張ってくるグレイラット先輩に必死でついていく。この人の足取りはあんまり軽やかで速いから俺は追いつけない、辛うじて足がもつれもつれとなる程度。

 

――――え、それはおかしいな。ちょっとひっかかる。

 

「待て、何かおかしい」

「え、それは気のせいだよ。先輩を信じていけ?」

「アンタ、俺を引っ張ったりしてくれる性格かよ?」

「…………~♪」

 

 アンタもっと口笛上手かったよね。というか目線の泳ぎ方、あまりにも嘘が下手すぎる。

 

 この灰鼠、何かろくでもねえこと考えてる。あの時もそうだった、出会った瞬間からアンタが俺にいい意味で協力的だったことなんかなかった気がするもんな俺。

 嬉々とした表情で石炭過多な機関車的な駆動率で駆け寄ってくるネゲヴ、前には明らかに信用できない先輩。

 

 チラリと振り向いたおっさんの顔が、ちょっとだけニヤリとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「察しのよい素晴らしい後輩にご褒美、この床――――――相当滑る。俺って雑用ガチ勢だからさ、いや凄いな完璧過ぎる」

「はい、というわけで衛生環境のハイレベルさに唸っていこうぜ」

 

 ぱっと手を離されると、スルスルと何とかついていっていた俺の足がツルッツルの床で滑り出す。

 

「よくないぞお! そういうのはよくないぞお!?」

 

 必死で指がアイツの背中を追うがなぞるばかりで追いつかない、駄目押しと言わんばかりに辿々しかったマイフットにアイツの足払いが決まる。駄目だコレ。

 

「悪い悪い、体中の筋肉が滑った。ほら此処ってツルツルだろ? 事故なんだよ、事故。ほらほら笑顔、忘れてるゾ☆」

「減給だ、コイツ減給!?」

 

 俺の絶叫虚しくネゲヴに衝突。さながら知恵の輪の様相の俺達は、ゴロゴロとあの鼠野郎の走る方向の真逆に転がっていく。

 

 ガハハハハとキャラに合わない巫山戯た笑い声に怒鳴りつける。

 

「何すんだ! ネゲヴが怪我したらどーする気だこの狸野郎!」

「鼠も狸も居ないよなあ、おっかしいなあ? やっぱり狙撃ばっかりしてるとスコープのホコリとかまでレッサーパンダに視えたりするの?」

 

 わざとらしくあたりを見回しながら走っていく、ああムカつくアイツ。

 

「頑張れよ狙撃キチ改めソゲキチ。俺は正常な肉眼に感謝しながら缶詰じゃないもん食ってくるから」

 

 そんな狙撃キチじゃねえよ! あんのクソッタレ! 次クルーガーに会ったら減給とか具申してやるからな覚悟しろ!

 

 高笑いしながら消えていく阿呆に舌打ちしつつ、先にネゲヴの安否を確認。

 パット見は怪我はしてないようだが、交通事故もその場で怪我に気づかなかった例とか有るって言うし。ちゃんと確認しないとな。

 

「おいネゲヴ。怪我してないか?」

「え? え、ええ…………」

 

 どことなくぎこちない表情で返してきた。もしかして痛いの隠してないか?

 一応頭の先から足の先、と流し見してみる。それこそあの鼠が雑巾がけでもしてたのか、ホコリ一つついてはいないんだが…………。

 

 手とか足とかを握ってみるとぴくっと震える。

 

「やっぱり痛いんじゃないの?」

「そ、そうじゃなくて…………」

「不調ははっきり言えよ、スペシャリストなんだろ?」

 

 何もじもじしてんだよコイツ、普段からそれくらいから恥じらってください。怪我は戦士の誉れだぞ、ほら報告しろっての。

 顔を赤くして全く口を割る気配がない。仕方なく起き上がらせて取り敢えず保留しておくことにしようか。

 

「…………まあいいや、俺に言えなかったら担当に不調は報告しろよ」

「………………」

 

 耳まで真っ赤にして俯くネゲヴ。どうしたの君、今ので変な所でも打ったか?

 暫く固まって廊下がしーんと静まり返る。いやこれもしかして言語機能とかが異常来してるんじゃ――――――――

 

「い、何時式は挙げようかしら………………」

「ゑ?」

「だ、だって!」

 

 いきなり何を言ってるんだこの自称スペシャリスト…………。

 あまりの頭痛にこめかみを抑えつつ、もじもじとし始めたネゲヴに俺はもう一度質問をする。

 

「えっとですね、何を言ってらっしゃるんだろうか。ネゲヴさん?」

「だって、身体の40%以上を密着させたら責任を取らなくちゃいけないって、タボールが…………」

「そのタボールってやつはよく知らないけど要注意人形のリストに入れとく」

 

 バカな冗談を吹き込むな。信じる方もアレなんだけどさ、でも吹き込むほうが大体悪いっての。

 視線をあちらこちらに泳がせたネゲヴがそっと左手を差し出すと、半ばやけっぱちな叫び。

 

「わ、私まだ指揮官のこと、そんなによく分かってないかもしれないけどっ! 私は、その………………それでも、か、構わないっ

「いやそんな理屈はどの国でもまかり通らないから安心しろ」

 

 説得には数十分かかった。大体Karにネゲヴが殺されるし、俺はそんなホイホイと指輪を渡す趣味もないんでな。

*1
分散の平方根ね、統計学ではよく出てくるのよ?

*2
標準偏差の数字を元にした正規分布表で成り立つ法則よ、詳しくは自分で調べることをオススメするわ

*3
1シグマは平均の±標準偏差の区間、だからこの場合±標準偏差x2の区間が2シグマって事

*4
ちなみに1シグマの範囲を外れるなら31.73%、3シグマを外れるには0.27%よ




恒例の振い落しのお時間でした。あらすじにギャグなんて書いてないから…………。
前線で暴れちゃう系指揮官。Kar98kと書いていますが、現代銃と張り合う変態仕様なので見た目すら似つかない。

基本的に指揮官の借用先の世界とはパラレルってるので適当に。アッチで採用された場合は本設定、かもしれない。

これ書く時に一々原作者に見てもらって、しかも何なら普通してもらえない待遇されてるから結構豪華仕様。俺は将来金を払ってもバチは当たらない。


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第四話

当作品の登場キャラは他作者モノがいっぱいいっぱいファー!って感じだから「人間多め」ってタグ入れようと思ったんですよ。
人間やめてるやつ多いから入れかねた。それじゃ本編です。


「久しぶりだなイチゴちゃん」

「AR-15です」

 

 真顔で返された。つれないやつだ、イチゴちゃんは。

 モニター越しのヘリアンが咳払い。どうやらこの前の狙撃ポイントの件で未だに怒っていらっしゃると見た。

 

「ヘリアン、俺に怒ってるのは分かるんだ。でも絶対合コンで負けた腹いせとか含めてそうだから、もうちょい優しくしてくれない?」

『貴官…………前任の悪い所ばかり引き継いだな、全く』

 

 は? アレの何を俺が受け継いだって? そりゃもうスコープじゃなくてモノクルの見過ぎでピント合わなくなってると思う。

 

 さてさて。イチゴちゃん改めST AR-15。彼女はAR小隊という特殊な小隊のメンバーで、今回の調査の片手間に拾われた重要参考人だ。

 何でも裏で糸を引いているらしき鉄血と接触が有ったとかで、ヘリアンを呼んで大事になってるわけ。

 

「イチゴちゃん、それで鉄血のやべーやつと会ったっていうのは大マジなの?」

「それは事実ですよ。前ならともかく今のあなたは指揮官、上官に対して私は嘘なんてつきません」

「だそうですよ、やっぱイチゴちゃんもヘリアンも合コンで負ける感じする」

【何を失礼な!】

 

 そこで躍起になるあたりが合コン負け組臭すると思うんだけど…………言うだけ無駄か。

 というかさり気なく話をズラしたことに突っ込めない感じとか、もうだめだよね。

 

 気づいたらしいヘリアンが話を戻――――――――さない。

 

『コホン! それで指揮官、少し尋ねたいことが有るが…………いや出来れば聞きたくないのだが』

「どっちだよ」

『聞く』

「よろしい、どうぞ?」

 

 手を差し出すと横で見ていたゾンビみたいな顔のブラック勤務者カリーナが

 

「何で指揮官さまの方が偉そうなのでしょうか…………」

 

 と青白い顔で冷静なツッコミをして倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜ、AR15と貴官の副官の筈のKar98kが縄で縛られているのか。これは、多分、うん聞いた方が良いはずだ。答えなくても良い、私は正直聞かないまま生涯を過ごすべきだと思っている』

「これにはふか~い事情が有ってですね、ここは指揮官の浅ヂエを信じて話を取り進めてくだされ」

 

 この二人はマガマガしいからね、縄で縛るのもやむなし。

 ヘリアンが面食らった後に何事もなかったように話を進めようとしたが、ところがどっこいそうは問屋がおろしません。

 

 縛られていたKarが騒ぎ出す。

 

「ヘリアン! 指揮官さんは人形に対して不当な制限を課しているわ、これは上級代行官として見過ごすべきではない逸脱行為でしてよ!?」

「馬鹿野郎、お前が今入れたコーヒーからどうせ媚薬出てくるだろうが! 騙されねえぞ俺は!」

 

 何をいけしゃあしゃあと涙目で泣き落とし狙ってんだこのクソ○ッチめ。

 大体そこで目を泳がせるぐらいならもうちっとマシな建前もってこいや、アンタもうヘリアンに溜息吐かれてるぞ。

 

 何となく事情を察したらしき上級代行官殿は、俺に一瞥すると申し訳なさそうに目を逸らす。全くだよ。

 

『えー、あー。話題を戻そうか』

「ヘリアン!? これはおかしいわ、あまり酷いと合コンの連敗記録を言いふらすんですからね!?」

『待て、おいそれは辞めろ!』

「何でそんなの知ってんだこの変態女…………っ!?」

 

 昔はヘリアンに密接な関係にある部隊に居た、とは聞いちゃいたがそれにしたって脅し文句にどストレートに有効打な情報だなオイ。

 

 まあそれなりに彼女にも守るものは有るのだろう、ヘリアンが唸ってこめかみを押さえだす。マトモなやつは居ないですかそうですか。

 

『くっ…………だが、だが仕事は仕事だ! 好きにしろぉ!』

 

 ぐぬぬと唸ったヘリアンの死にかけの返答。何を見せられてるんだ俺は。

 

『私は合コンにも負け、同世代の結婚競争にも負け、子供の顔を拝めと宣う同級生に精神的に殺され!? そして職務まで全うできずして何が残る!? 本当に唯の枯れた女になるからな!?』

「そんな切実なお話聞きたくないんだよなあ…………」

「チッ、駄目でしたか」

 

 アンタおっかねえなあ。Karは違う手を考え出したと見える、やっぱ別れて正解だわ。

 ある意味仲は良いのか、なんて適当に済ませて俺が本題に引っ張り戻す。この二人で会話させてるとこのまま南極付近まで話題が逸れて俺達は凍りつく。

 

 凍りつけばおしまいだ、もうお通夜ムードの負け組女達のほろ酔いつらつら自分語りで殺されるのみよ。後、俺が性的に襲われかねない。

 

「はいはい、それでイチゴちゃん」

「AR15です」

「しつこい、イチゴちゃん。鉄血のハイエンドモデルと会ったんだっけ、ソイツはどんなやつ?」

 

 イチゴちゃんがすらすらと答える。

 

「身体的特徴は細身の白い肌、鋼色の瞳、片方をだんご? だんごというか、そんな感じのツインテールにしていました」

「ああ、要するにセーラームーンね。それで?」

「丈の短い夏物のセーラー服…………! そう、そうよ! あのクズ、82/57/80だったわ! 見せつけるみたいにへそ出しルックなんかして、許さない…………ッ!?」

 

 俺はスリーサイズを言えだなんて一言も言ってない。何時になったらお前の貧乳コンプレックスはマシになるんですかね。

 

 わなわなと縛られた手を震えさせて今にも縄を千切りそうなイチゴちゃん。ステイ、ステイと必死で宥めると何とか落ち着いた。

 

「ドウドウ。それで?」

「一人称は「わたし」もしくは「わたし達」、私のことは「AR15」「お主」「阿呆」って呼んだわ。後すっごい自信家、何回か自分の額に銃口を突きつけて煽ってきたもの」

「随分変なやつだな」

 

 鉄血で変なやつじゃないのも珍しいか。

 しかしハイエンドモデルでも更に自信家、となるとソイツは何らかの特殊な製造とか、AI構築環境に居た可能性が高そうだよな。

 

 まあまずは話に戻ろうか。

 

「他には有るか?」

「ないです」

「あ、そっかあ…………」

 

 品切れ思ったより早かったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官」

「駄目だ動くな」

 

 くう、と耳をたたんだ犬のような表情にぐっと歯を食いしばる。

 結局Karとイチゴちゃんは縄で縛ったまま俺の執務室まで連れてきた。

 

 道中機嫌良さげにクラッカーを食いながら歩いてるアイツに

 

『縛りプレイとは若いやつはお盛んだなあ、女だったら部下でも変態でも何でも良いのか? 全く恐ろしいやつだ、流石ソゲキチ*1

 

 って煽られた時には殺意を覚えたが、まあ45にアイツの居場所を報告できたから許してやろう。後は45が何とかしてくれる。

 

――ってあれ? 何か書類が足りてないな。

 

「おかしい、何回か確認したはずなんだがな…………」

 

 机の引き出しを開けたくってみるが出てくる訳もない、鼻息荒くしたイチゴちゃんが俺に迫る。

 

「取ってきますよ」

「いや良いから、俺取ってくるから少し待っててくれ。動くなよ、取り敢えず動くなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………変な所に挟まれてた――――――おい」

 

 見事に引き出しという引き出しがひっくり返されてていっそ感心するわ。

 それこそやらかした犬のように此方を見て固まるイチゴちゃん。Karは何で縄解かれてんだよもしかしなくてもイチゴちゃんですよねコレ。

 

 こっちを見るなり放心状態のイチゴちゃんを引っ張って、Karが威風堂々と躍り出る。

 

「お、どうやらマジで懲罰喰らいたいらしいな?」

「指揮官さん、私達は人形として上官をサポートしようと努めていました!」

「よく言った、アンタには後で話がある」

 

 もじもじするな、ひょっとしなくてもそんなピンク色のお誘いじゃねえよバカ。

 顔を真赤にしたKarに逃げるようにヒソヒソと尋ねるイチゴちゃん、火照った顔でニヤニヤと何かおかしなことを吹き込んだ。

 

 多分予想通りの内容なんだろうなあクソッタレ、イチゴちゃんが顔まで真っ赤になる。

 

「し、指揮官!? 二人きりならとにかく、私が居るのにそういう事を堂々と仰るのは如何なものかと…………っ!?」

「いや違う」

「というか私だって…………」

 

 今変なこと言わなかった? 俺の耳がおかしいだけ? そうかそうか、じゃあ今は忘れておこうな。

 喋りながら引き出しを弄り倒していたイチゴちゃんの手を投げ、引き出しをバンバン閉じる。要らない引き出しはどんどん閉めちゃおうね~。その調子で俺の個人情報とかの漏洩先も締め出したいよチクショウ!

 

捲し立ててくるイチゴちゃんの高いお声をシャットダウン。議論の余地なんかねえよ。

 

「指揮官! やはり一人で仕事をすることはありません、私も手伝い――――――」

 

 がちゃり。懐かしく有って欲しかった金属音、思わず溜息。

 

「そんな台詞吐きながら人に手錠してくるバカは初めて見た。やっぱりお前はトチ狂った乙女だ、グレイラット先輩なんかお前のことトチ乙女ってこの前呼んでたからな」

「トチ狂ってるわけがないわ! 正常かつ有効な一手じゃない!」

 

 お前にとってのプラマイ以前に倫理的におかしいってそれ一番言われてるから。

 まず治安機関が死んで久しいこの時代、彼女は一体どこから手錠なんてオーパーツを手にしているのか。我々は答えを求めて南アフリカに向かった。

 

 まあ予想はついてる。

 

「お前ダネルさんを泣き落として貰ったな?」

「エッ、ナンノコトデスカ~♪」

 

 グレイラットに重なる下手くそな口笛。お前らアホっていう一点においてそっくりだわ。

 

――――改めてST AR-15。イチゴミルクみたいな髪だが油断するなよ、こいつの正体はトチ乙女だ。食っても食えねえイチゴちゃんなのである。

 俺はさ、基本的にあの食えない鼠先輩が嫌いだ。嫌いだがネーミングセンスには唸るし、このピンク髪にトチ乙女というナイスでアイコニックな名前をつけれる的確な危機回避能力は尊敬してる。

 

 言ってる側から扉が開くなり、何時も通り仏頂面のダネル――――NTW-20。うちのライフル陣は俺に恨みでも有るのかという対応ばかり目立つかもしれないが、この人は超まともだ。

 一目散に書類を俺の机にスッと置くと、漸く俺が立っていることに気づいた。マイペースというか、ちょっと不思議ちゃんが入ってる。

 

「ああ、指揮官か。第三部隊、任務完了だ――――――簡単過ぎたぞ、もっとこき使っても構わない」

「おかえりダネルさん。でも俺はどっかのバカみたいな失踪者は出したくないし、今ぐらいで良いと思う」

 

 ダネルは無表情のまま首を傾げて頭を掻く。

 

「あなたがそう言うなら強要はしない」

「ありがとう。さ、お風呂でも入ってきてください、もうクッタクタでしょう?」

 

 俺の心配を笑い飛ばすように小さく笑ってサムズアップ。

 

「問題ない、だが好意には甘えよう。他の部隊員にも伝えてくるとする」

「素直で助かります」

 

 そのままガチャリと扉を閉じてしまう………………閉じてしまう?

 

 

 

 

 

 

 

 あ、ドタドタと走ってくる音。すぐさま扉が乱暴に開けられた。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官!? どうした、何故手錠で繋がれている!?」

「遅すぎる、まあ気にしなくていいですよ?」

 

 良い先輩みたいな人形なのだが、私生活はだいぶ抜けてる。俺は可愛らしい人だなあと思うから正直好きだし指摘しない。

 

 かなり整ったフォームでスライディング再入室したダネル、俺とイチゴちゃんの繋がれた手錠に目を白黒させる。

 

「待て、AR15。私はこんな用途で使うのは全く予想外だったのだが、ちょっと説明してもらっても構わないか?」

「はい? 勿論指揮官が逃げないための拘束です、というより手錠にそれ以外の使い方って私にはちょっと…………」

 

 ダネルはツッコミ待ちなのだろうか、みたいな顔で俺を見る。俺も分かんないですね、半分マジだし。

 イチゴちゃんはトチ乙女だから大真面目にこれが最善だと思ってる、俺と前任が散々な言いようをする理由はコレにある。

 

 それでもマトモなダネルは言うだけ言ってみる、いい先輩ィ…………。

 

「AR15、これでは指揮官は業務に差し支えるだろう。外すべきだ」

「私が全て何とかしますから、問題はないかと」

「…………そうか。指揮官、あなたの幸運を祈る」

 

 諦めたダネルが珍しく困惑した表情を見せると、扉を音もなく閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、少し人形に付き合い過ぎじゃないか」

 

 結局。紆余曲折有ってダネルが副官になると、呆れたように片目をつむって俺を見る。

 彼女の具申は最もだ。薬を盛られても、統計を取られても、手錠を付けられても俺は懲罰という機能を使わない、自分でも頭おかしいんじゃないかなって。

 

 が、理由はある。

 

「とはいえ、俺の所に来る時点でワケありだ。俺はそういうやつの面倒を見てやれる指揮官を期待されてるし、そうしたいと思ってるんですよ」

 

 実はうちの人形は「この型ならこんなやつばっか」とか思わないで欲しい所がある。性能は悪くないのにイカれてるやつとか、コミュニケーションが取りにくい人形を俺は積極的に取ってるし、ヘリアンも俺にそういう能力を期待している。

 

 何でも心理テストの結果的に、俺は妙なぐらい人形と噛み合う性質が有ると発覚していたりするのだとか。それはもう中々なものだから、是非尽力して欲しいとクルーガーのオッサンにまで頭を下げられた。

 

 だがなあ、と唸るダネル。

 

「単純に心配している、距離感として色々とよろしくない」

「ロストした時とかの話ですか」

「それも含めて、な」

 

 それはまあ起きてしまうのだから、考えざるを得ない観点だ。

 

 でも俺が投げ捨てたら行き場を失うやつ居るし…………。

 イチゴちゃんの待遇はアレだ、一応重要任務からは外された俺は「諸事情で預かっている」立場なのも有る。普通に手錠はイヤですね~。

 

「何だかんだ好きですよ、今の生活」

 

 問題ないと笑ってみると、ダネルがしばらくじぃと俺の顔を見る。

 

――納得いただけたらしく、溜息をつくと俺の肩を叩く。

 

「――――――そう言うなら私は協力するだけだ」

「いよっ、ダネル姉貴!」

 

 囃し立てるなりダネルがフッと溢れたように笑う。

 

「おだてるな。バイポッドぐらいしか出てこないぞ?」

「重いし俺はアレきら~い」

 

 無くても腕で立てれるじゃん?

*1
全く不名誉だが「狙撃キチ」を縮めてソゲキチだとか。死ね




もうワードが出揃ってるけど、良い子の皆は感想でバラしちゃ駄目だゾ☆
例のアイツが出てくる、パワーバランスは保てるやろ。「闇鍋のお時間だぞ、愚か者共」

イチゴちゃんはね、俺じゃない人が考えた愛称。可愛いよね、トチ乙女。ダネルさん頑張れ、マトモポンコツおねーさん。
この前「お前のやべー女はリアリティ有って真面目に怖い」って言われた、失礼な! 可愛いだろ!?

次回はまたおっきいゲスト用意したからね、皆是非とも俺にドルフロ二次を布教されていこうな。

あ、そうだ(唐突)。すっげえこまけえネタ集な。

【ここは指揮官の浅ヂエを信じて(ry】
勇なまネタ。ここは魔王の悪ヂエを信じて、だったかな。

【Karとヘリアンが知り合い】
むかーしね、まだドルフロ二次が三件しか無くてね、そのうちの一作として俺が出してた作品の設定の流用。分かる人は分かる。
もう消しちゃったんだよね、ごめんね。

【ハイエンドモデルのスリーサイズ】
EXTRA遠坂。SN遠坂より何処と言わないがデカイ。

【AR15と手錠】
何もかもが懐かしい。キワモノより。

後今までのSpecial Thanksについて軽く紹介。これからは登場するたびにちょいちょいと。

【前線小話】
堅物ゴリラお爺ちゃんと呼ばれてるあの指揮官が出演。ドルフロ二次界隈でも一際落ち着いた空気感と、推しの緩やかな流れの会話による尊さ右ストレートが強い作品。
後マジで堅物ゴリラ。この作品の指揮官がおかしいのはあの堅物ゴリラとグレイラットに第三勢力として楔を打つため。

【前線日記】
404小隊のやべー小説、AEKは絶対おかしくなるぞ間違いない(適当)。
グレイラット先輩を拝借。内容は言わずもがな404小隊と逃げれるやべーやつがじゃれ合い(戦争)をしている感じの小説。
曰く「うちの指揮官は煽りレベル高い」らしい、結果三話で煽り倒すおっさんが出てきた次第。


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第五話

自分で書いたくせにこんな事言うのはおかしいと思うんですが、この話を書いたのが本当にノンケの男ならソイツ多分頭がおかしいです。

俺は多分頭がおかしい。


 ジェロニモは、未だ葛藤していた。

 

「ジェ、ジェロニモ先輩強すぎねえか…………ッ!?」

「そ、そうだな。何か、ツイてるらしい」

 

 ジェロニモ、そう渾名を付けられた彼が出したグーに対して、面食らっている青年のチョキが虚しく視界を蝕んでいる。

 彼が野球拳をしている相手はスコープという渾名が付けられている。素晴らしい狙撃の腕だとかで、人形が指揮官に与える渾名すらもがオプションパーツの名を関するほどならば、彼の腕を一度見てみたい――――と思っていた時期もあった。

 今では懺悔と守るべきものへの使命感がせめぎ合う拷問を生み出す人物記号に過ぎない。

 

 極東出身の黒髪黒目の色男、それも自分より一回り年下のスコープは酒を飲んだとは言え上半身は裸で、ズボンだけという有様。慄く格闘家スタイルの彼に対して、後ろから酷い顔をしたKar98kが忍び寄る。

 

「いやあ? 俺達だってこんな事はしたくないが『ルール』、だからなぁ? Kar君?」

 

 息巻くKarの後ろで煽る悪人面。ブラック労働で顔が青ざめているだとか、リトルグレイみたいだとかでグレイと呼ばれていた男だ。スコープは灰鼠と呼んでいて、妙に仲は悪そうである。

 とはいえ灰鼠は労働環境に耐えかねた脱走経歴持ちで、今は用務員だ。実はスコープの担当区域の先輩で、そして用務員というなんとも奇妙な関係性。しかし何故彼が招かれているのかはジェロニモにもよく分からない。

 

 Karが快楽に火照り歪みきったひどい顔で頷く。

 

「ええ…………ルールですから……」

「Karさん!? アンタ声が上ずってますけど――――――ヒィ!?」

 

 ひたりとKarがズボンの中に指を滑り込ませると、スコープが怖気だったようにビクリとする。脱がし方が妙に艶めかしいのがトラウマになったらしい、哀れなことだ。

 

「指揮官さぁん、あまり力を入れられると脱がせませんよぉ…………」

「お、おいアンタ手付きおかしいだろ!? あっ、やっ――――――――何処触ってんだっ、この変態ライフル!?」

 

 ひえっ、と情けない声を上げるスコープから目を逸らす。ふと目線が合ったシャッターを切る自分の基地のKar98kが、スコープのKar98kと同類の匂いがして鳥肌すら立ちそうだ。そう言えば彼も一服盛られたと言っていた。

 

 恐ろしいことにこの野球拳、本来は脱がす役は一枚で交代するのだが――――――彼の人形は「何故か」Kar以外不在である。というか彼の酷い有様に顔を赤らめて手で覆うネゲヴや、何か悟ったように目をつむって観察しているダネルは確か彼の人形なのだが、Karの圧力に気圧されて出ることが出来ないらしい。

 

 同じ指揮官として実に哀れに思う。しかしジェロニモの後ろで

 

「あわわわわ」

 

 と言うばかりの次の自分の脱がし役、WA2000を思うとその酷い様を見ていることしか出来ない。

 漸く終わった脱衣の後、息を荒くしたスコープはニヤリとして伽藍堂の瞳をまるで手負いの鷹のように鋭く光らせた。裸一貫とは思えない眩しさだ――――――だがパンイチである。

 

 そう言えば思案の最中に男の喘ぎ声がした気がするが、一体どういう了見なのだろう。ジェロニモには分からないし分かりたくもない。大体肌着を脱がすぐらいで喘がせるアチラのKarのド変態っぷりは字面で理解できていても概念として理解したくはなかった。

 

「やってくれますね…………次こそはネタを暴いて俺が勝ちます」

「ははは…………種も仕掛けもございませんってな」

 

 その主人公さながらの懸命さに、ジェロニモは彼と出会ったときのことを思い出す。

 

 彼は指揮官の中でも比較的若いほうで、ジェロニモとも少し年の差が有った。

 しかしある任務で一緒になったスコープは、ジェロニモにフランクながら敬意を持って接する好青年としての姿をまざまざと見せつけた。

 

『あのオッサン達に比べたらジェロニモ先輩はすげえマトモだし、俺尊敬してるんですよ!』

 

 朗らかな笑顔を思い出す毎に心が痛むがもう遅い。ジェロニモにはWA2000を守る使命があるのだ、これは例え軽蔑されようとも守るべきものの一つだ。

 

 それにこれまでだって多くのドラマが有った。服を脱がされることに怯えるもの、何故か喜ぶもの、ランナーズハイで狂うもの、ジェロニモはその勇姿を見届け、そして此処に立っている。

 手加減は出来ない。それがたとえ、スコープの後ろから出るサインに操られた出来レースだとしても。

 

「指揮官さん、意外と可愛い声で啼くんですね…………私は好きです」

「ネタを暴かないと俺は精神的にも社会的にも死んでしまう!? 負けられねえなオイ!?」

 

 ジェロニモも流石に負けてやるべきか一瞬迷った。迷っただけ、もう止まれない。

 

――というか、あのKarは何者なんだ。

 ふと考え込む。後ろのKarは必ず次にスコープの出す手が分かっている、いつもジェロニモに予めサインを出していた。

 最初はKarがニコニコとして見せてくるチョキやらパーやらはただの盛り上げだと思っていたのだが、三回連続で彼と一致して今も参考にすれば三連勝、もうどういうモノかは明らかだ。

 

 彼のところのネゲヴは起床時間まで統計を取る統計バカだったと聞いたが、もしや――――――野次馬のネゲヴと目を合わせ、逸らされたことで全てを察する。

 

 灰鼠は単純にスコープを煽って遊びたいだけのようだ。捻りのないクズである。

 

「いやあ弱いなあスコープくぅん! どうしたの、今日は調子悪いのかな~?」

「うるっせえ鼠野郎! アンタがイカサマしてんじゃねえだろうな!?」

 

 ガバリと振り向き怒号を散らすスコープに、灰鼠はうわ~とニヤニヤして煽り続ける。

 

「負けが込んでるくらいで人がインチキしてるとか言いがかりつけてるよコイツ、大人として恥ずかしくないんですかね? ああ悪い悪い、狙撃ばっかりしてるから頭は中学生ぐらいだったか?」

「クッソォ、ぶっちゃけ反論できねえ! ってか誰が中学生だこの野郎!?」

 

 灰鼠は一瞬だけ普通に笑った、何だかんだただ嫌いというわけでもないらしい。

 

 一頻り口論は終わったのか、スコープはジェロニモにキッと目を合わせると構える。

 

「…………ごちゃごちゃ言っても仕方ないかぁ――――さて、やりますか」

「――――――そうか。お前も決意固めたんだな」

「そりゃそうですよ。俺はジェロニモ先輩をひん剥いて、この後ろのおっそろしい変態女の羞恥プレイから逃げてみせる」

 

 どこまでもヒロイックな言動にイカサマまみれの自分をジェロニモは少し恥じた。しかし彼の縦縞のパンツを見ればそんな恥じる感情も失せた、明日は我が身とはこの事。

 そして眼の前のイケメン、かなりかっこいい感じで啖呵を切ってみせたのだが…………しかしパンイチである。

 

 司会を務めるジェロニモのスコーピオンが煽り文句を入れて盛り上げていく。

 

「さあさあ、あたしの指揮官は何処まで頑張ってくれるのかな!? それじゃ――――――」

 

 

 

「アウト――――――ッ」

 

 

 

「セーフ――――――――ッ!」

 

 

 

『よよいのよい――――――――ッ!』

 

 

 

 スコープは、そして全裸になった。

 Karのテクニックは見事なもので(よくわからないがアレは間違いなくテクニックだ、それだけはハッキリしている)、結果として彼が出してしまった残念極まりない声はジェロニモのKar98kが録音した後、スコープの基地内で高値で売り買いされていると後日ジェロニモは聞いた。

 

 それからジェロニモは時々自棄酒に付き合って奢ってやっている。その理由を推し量れるものは今は少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人共、大変だったようだな」

「「全くだよ…………」」

 

 ゲッソリとしたスコープとジェロニモは服を着込んだはずなのに顔が青褪めている。まあアレは言うなら蠱毒みたいなもので、生き残っても生き残らなくても呪いが残るものだろう。

 

 ホクホク顔の脱がし役だったKarだが――――――正直、久しぶりに恐ろしいと感じる。あまり顔を向けたくはない。

 許されるなら席を変えたいが、彼を放置するのも忍びないので逃げれなかった。

 

 しっかりとスコープの右腕に張り付いたソレからは目を逸らし、軽い慰め。

 

「とはいえ煽ってばかりの鼠もしっかりと脱がされた辺り、結果的にはまあ互角といった所だろう――――――――件の鼠は何処だ」

 

 ジェロニモが酒をぐいと一気飲みすると、グラスをそっと置いて神妙な顔で答えた。

 

「彼なら45達に拉致――――――コホンッ! 連れて行かれてたよ、俺は止められなかったが悪くないだろアレはさあ」

 

 ジェロニモの苦笑いに頷いておく、彼も多少は灸を据えられておくべきだろう。私の事を「相棒」なんて調子のいい呼び方をしているが、面倒事を押し付けてくる性分には変わりない。

 堪えきれんとばかりに大きく高笑いしだしたスコープが急に呻いた、見たくはないのだが…………やはり。

 

 胡乱な目をしたKarが彼の右腕を締め上げている。密着も厭わない積極性はもしかすれば褒めるべき点かもしれないが、スコープの死にそうな顔を見ていると居た堪れなさが上回る。

 

「痛い、痛いです!?」

「今日ぐらい私に夢中になってください! せっかくの祝い事なんですから――――――ね?」

 

 私でも分かる色目を使うKarに、心底不快そうに顔を歪める彼には感嘆すら覚える。私はそこまで徹底できるか分からない。

 

「ペティさん助けて。この変態女、この程度で俺が一夜の過ちを犯すと思ってるんだけど」

「過ちじゃありません、必要なスキンシップですよ?」

「ほらこんな事言ってる」

 

 鮮血色の蕩けた目つきに化物でも見たような怖気だった顔で返すスコープだが、様々な経緯を勘定に入れても中々な忍耐力だろう。

 性格は、まあアレなのだろうが見目だけなら若い君にとっては魅力的だろうに。

 

 ペティ・オフィサーというのが私の渾名らしい。理由は興味が無いから聞いていないが、鼠と彼はよく「ペティ」と雑に略す、かなり失礼な意味になるが分かっていないらしい。別に怒ることもないが、これで友好的なつもりなのは如何なものか。

 二人はそういう大雑把で面倒くさがりな所は似ている、仲はかなり悪いようだが。

 

「私には対応しかねる、他を当たってくれ」

「頼れるのはアンタだけなんだ、頼むよ!」

「…………」

 

 どうしたものか、付き添いのトンプソンに目線でレスキューを要請する。

 んー、と酒臭い息が顔に掛かる。距離が近い…………まあ、滅多にない息抜きだ。今日ぐらいは我慢するとしよう。

 

「ボスは男にもモテモテだな―、助けてやれよ。男の価値は身内の危機でこそ試されてんだぜ~?」

「いや、手段が思いつかない」

 

 おや、と目を見開くとトンプソンが壊れたくるみ人形のようにカタカタ笑う。

 

「ああ、そういうのか! 意外だな、女絡みは手慣れてるもんだと思ってたんだが」

「…………? そんな事はない、が」

「ふ~ん――――――いや皆まで言うなって、ボスは悪い男だなぁ!」

 

 何故だ?

 トンプソンは笑いっぱなしに席を立つと、そのまま違う人形の方に雪崩込んでいく。後で謝っておかなくては、彼女は酒が入ると他所にとっては迷惑極まりないだろう。

 

 よく分からないままに本題に戻ってくる。

 

「そもそも、そちらのKar98kはどうしてそこまで君に拘っているんだ」

「分からん。コイツ多分頭おかしいんですよ」

「酷いですわ!」

 

 Karが私の方を睨んできた、何故? 今日は良く分からないことばかりだ。

 

「ペティさん!」

 

 君もそう略すのか、まあ良い。

 

「あなたは根本的に間違えています、好き嫌いに理由があるわけ無いでしょう!」

 

 それはそうだ、盲点だった。

 好悪に理屈が付けられないのは2062年でも変わらないのだったか、まあ解明される日も来ないのは見えているのだが。

 

「そうだな、すまない。つまらない質問をしてしまったようだ」

「いえいえ、あなたは好きです」

「都合の良い好きだぞペティさん、騙されんなよ!?」

 

 別に騙されては居ない。体よく逃げようとしているだけだ、鼠の気持ちも今なら分かる。世の中には逃げるべき事柄というのは確かに有るらしい、少なくとも今がそうだ。

 

 既に引き気味の私にスコープが血走った目つきで捲し立てる。

 

「それは良いからマジで助けて!?」

「すまない。やはり対応しかねる、二人で楽しんでおいてくれ――――――私は他の人形の様子を見てこよう」

「裏切り者め! やっぱ堅物ゴリラじゃねえか! ジェロニモ先輩助けて!」

 

 どんな謗りも受けよう、どちらにせよ私ではどうしようもない案件だ。

 当然のことだが、私の次に頼られたジェロニモも

 

「いや~、俺には手出ししかねる。お前は良い女性に恵まれたな、幸せな結婚生活の報告とかを聞いて安心できる日を待ちかねておくよ」

 

 とかなり無情な返答をしていた、彼に味方など居なかったというわけだ。




感想返しが気分になってきた。
という訳で今回は「少女徒然」より、かの有名な(多分有名だろウンウン)野球拳。許可取ってるんだぜ? なんか打ち合わせの時にだいぜっさんされた、うれしい(こなみかん)。

思いっきり地雷作品なのに普通に快諾してくれたので五分過呼吸になったりしましたが、俺なりにはいい仕事をした筈。ご協力、有難うございました。次回も宴会ネタ自体は続く、またお誘いする機会は――――――無いといいですね(白目)。

【少女徒然】
今回の野球拳そのもの、及びジェロニモ先輩を拝借。
当方がよくお世話になる「前線日記」とは似て非なるねっとりとしたヤンデレが住まう巣窟。変態ヤンデレ一服盛りやガールとかも居る、可愛い(錯乱)。
俺は地の文が大好きです。詳しくは「協力作品一覧」を参照。

此処らで多すぎる指揮官をちょろっと整理。

【グレイラット先輩】
灰鼠、灰鼠先輩、鼠野郎などとも。鼠先輩っていうと違う人が出張ってしまう。逃げる方のやべーやつ。
「前線日記」の逃走ガン振りしてるアイツ。S09地区で働いていたが、ブラック労働に嫌気が差して逃亡した退役軍人。今は用務員、要するに捕まった。404小隊はこっち狙い。スコープは嫌い、と言うが巻き込まれたら文句は言うけども絶対的な距離は置かない感じ。ただし自分から助けてやるとか絶対ありえないし、巻き込まれると普通に不満たらたら。俗に言う腐れ縁。

【ペティ・オフィサー】
堅物ゴリラお爺ちゃん、相棒、ペティさんなどとも。強行突破する方のやべーやつ。
「前線小話」で人形を素面で誑かす寡黙なオジサン。鼠野郎と同様にスコープのテストの時に同席しており、スコープにトラウマを与えている。
経歴は変わった所はない、事はないがコッチで触れても面白く扱えないのでアッチで見て欲しい。
基本的に良識ある大人だと思われる、スコープには縁があるからちゃんと交流しようとしたりしてなかったりする程度。好きか嫌いかで言えば全然嫌いではないと思う。

【ジェロニモ先輩】
出番をもらえるかは俺のDM送る勇気次第の人。ジェロニモで十分なので別名はない、「少女徒然」の周りがねっとりしてる方のやべーやつ。
本人はマトモで戦争を憂いたり人形可愛いとか言ってるだけのオッサンだが、一服盛られたりパンツ盗まれたりする。
今回は唆されたハリボテ野球拳英雄。スコープには色々申し訳なくなって親切になるのではなかろうか。


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第六話

辛抱足らんかった。


「では、S09地区担当指揮官より簡潔に敵情報告をしてもらう――――頼んだ」

「へいへいっと。おっさんたち、耳の穴よーくかっぽじって聞いてくれよ」

 

 暗い作戦司令室。設備が古くて今は使われてなかったんだが、人数の問題で今回はホコリまみれのこの部屋で会議が行われることになった。

 

 メンツは見慣れたやつが多い。鼠、ゴリラ、後行き遅れた上級代行官。もうひとりは――――――誰だこの人、分厚い専門書を顔にひっかぶって、寝てないか? いや息苦しそうだな、思いっきり自業自得。

 各指揮官の人形も何体か集まっていて、俺がフランクに喋ったぐらいじゃどうにもならない重い空気が漂っている。

 

「えーっと、Kar。資料作ってくれたんだよな…………どうせだからくれるか?」

「勿論」

 

 Karが義手ではない方の手で俺に資料を渡す。ゴツゴツとした金属感に塗れた左腕を見ると、少しだけ後ろめたい気持ちになる。

 

「ほら、読まないと。前を向いて下さい、ね?」

「――――悪かった。無駄な感傷だった」

 

 ニコリと笑うと、また長いホルダーを立て掛けた直ぐ側に戻る。こういう時ばかりはアンタの態度は身に沁みるよ。

 息を吐いて気を取り直す。

 

「…………えぇ~、じゃあ行くぜ。今回の要注意AI、というか特異点なのは通称「蛇」と呼ばれる人形だ。コイツは一応戦闘力自体は高い。ウチの部隊をたかが二丁拳銃で突破してきたヤバイやつで、本人の言を信じるならアイツの半径数百メートルはシステムとやらで通信障害に遭う。はっきり言って滅茶苦茶な性能してる」

 

 あの不敵な笑みを思い出すだけで背筋が凍る。あろう事かあの鉄血、手加減をして俺で遊んだ挙げ句に「愉しい」なんて抜かしてきやがったんだから手に負えない。

 

 鼠がそれを聞くなりぎょっとした顔をして退出をキメようとしたが、ゴリラが手だけで襟首を掴んで席に叩きつけたかと思うと、鼠の後ろから肩に手を置きながら会話に飛び入り参加する。

 

「そうか。君が滅茶苦茶な性能、と呼ぶのならそれは最早グリフィンの1基地では対応不可能。そういうことだろうな」

「そうだな、少なくともウチの部隊はダミーの半数がアイツのせいでメッチャクチャになってる」

 

 後ろのKarを指差す、エリート人形にすら居た彼女が四肢の一つを――――――メインフレームが持っていかれている。

 これでもKar98kという人形が優秀なのは事実なわけで、普通に考えてメインフレームが被害を受ける事自体異常でも有る。

 

 何食わぬ顔で脂汗を流して、目の前で手を組んだ鼠が神妙な面持ちで問いかけてくる。

 

「ソゲキチ、もう俺はその「蛇」ちゃんとやらが月に代わってお仕置きしに来てる感じのヤバさってことはとっくに理解できてんだよね? 問題は何故、そんなヤベー奴との決戦の会議に俺みたいな用務員が呼ばれちゃってんのかってこと。ヘリアンは合コンで失敗しすぎて男なら誰でもヨルムンガンド一本背負投はしてみせるみたいなパワフルイメージでも持っちゃってるわけ?」

「今回は特例だ、此処に居る誰もが「404小隊」を知っている。つまりそういうことだ――――――っていうか合コンの話を此処で持ち込むな!」

 

 怒鳴られるが反省の様子なし、お前脂汗流してるとは思えない饒舌さで驚きだよ。

 ヘリアンが咳払いをして誤魔化そうとするが明らかに無理。仕方なく俺達は忘れたふりをしてヘリアンの語りに耳を傾ける。

 

「それで今回の問題は、その異常存在に対する対応が十分に敵わないことだ」

「具体的に説明願いたいのですが、構わないでしょうか。ヘリアントス上級代行官」

 

 いやに丁寧な呼び方で要請したゴリラに答えが来る。

 

「蛇は未だに前線で戦闘を繰り広げている、想定ではこの基地にも1週間もしない内に到達できるだろう」

「ウッソだろお前、俺は抜けさせてもらうぜ。ついていけねえ、俺は用務員が出来たらそれで良いんだよじゃあな」

 

 スルスルと机下に溶けるみたいに鼠が滑り降りた。そのままGみたいなカサカサムーブメントで出口に直行するが、凄まじい体術でゴリラがすぐさま締め上げると

 

「ひぎぃ!」

 

 とそれこそゴキブリみたいな断末魔が鼠の喉から放たれる。

 仕方なく力ないままの鼠をゴリラが無理やり座らせた体にすると、話が当然のように続いていく。これは酷い。

 あ、45がニコニコしながら鼠の横に立ってる。オイオイオイ、死ぬわアイツ。

 

「帰りたい…………」

 

 ヘリアンは鼠の動きに慣れ切ったゴリラの捌き方にモノクルを落としそうになりながら、もう一度咳払いをした。もうこの異常空間で何かを取り繕う必要ないと思うんですけど。

 

「現実問題として此処まで来られた時点でもう手遅れだ。今は片っ端から人形を掻き集めて破壊されながらも、まあ何とか前線をゆっくりと押されてしまっている状況下に有る」

「よって貴官達と、この近隣基地のガンスミス――――――及び彼の弟の協力の下、ヤシオリ作戦を決行する」

 

 ヤシオリ作戦。正しくは八塩折作戦と書くもので、それはかつての日本神話における八岐大蛇の撃退時に使われた酒だという。

 一見名前が大仰すぎるかもしれないが、アイツはもう殆ど神話生物に片足突っ込んだ戦闘力を持ってる。実のところ作戦名は妥当だった。

 

 俺達が為すべきは、実質神殺しだろう。

 さて、キョトンとした俺達に横で帽子を引っ被っていた男が急いで起き上がって話を始める。

 

「あ、ね、寝てた! ええっと、という訳で今回協力することになったガンスミスだ。弟は16Labに居るから用事の時だけ回線をつなぐ形で参加する」

「彼らには――――――Kar、出してくれ」

 

 ヘリアンが目配せすると、Karが立て掛けていた長いホルダーを開いて――――――アレは。

 マジで出番があるとは思わなかったぜ。Karがそのバカバカしい銃身の中央部分を持ちながら軽く構える。

 

「陽電子狙撃砲を用いる為の狙撃アシストシステムの構築、及び狙撃手専用の微調整を行ってもらうことになっている。それも踏まえて今回の作戦にはS09地区担当、貴官が大きなキーパーソンとなる」

「え、はい?」

 

 聞いてないです。

 

 俺が聞いてないという顔をしてクエスチョンマークを並べあげると、「当たり前だ、つい数時間前に決まったばかりで立て込んでいたから伝えていない」なんてあっけらかんとした顔で言ってくれやがる。

 作戦内容が明文化される。

 

「今回は推定3.02km。この距離から貴官にこの陽電子狙撃砲を命中させてもらうことになっている故、渡した作戦要項をしっかりと確認し、またガンスミスの調整には努めて気を払いながら準備を進めて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で人形じゃなくて俺が狙撃しなくちゃならないんだ!? 意味不明すぎるぜ!?」

「俺だって同意見だが、合理的なんだから仕方ない」

 

 ガンスミスは何でこんな手慣れた感じで作業に入ろうとしてるんだ。頭大丈夫?

 という訳で、ガンスミスがえげつない量の荷物をウチの工廠に打ち込んだかと思うといきなり作業が開始した。恐ろしいことにトラックで運ばれてきたのを数十人単位で運んでいる辺り、この作戦はヘリアンが大マジで決行するつもりらしい事はハッキリしていた。

 

 改めて陽電子狙撃砲を見る。形からして明らかに実弾銃とは言い難い、まあそりゃあ陽電子狙撃砲だしなあ…………。

 Kar、ダネルと言ったライフル人形達も一応呼んでみた。ダネルは左目が損傷したのか眼帯をしている、改めてアイツの与えた被害が恐ろしい。

 

「あの行き遅れ上司も無茶な作戦を立てるぜ、何で人間なんだっけ?」

『へいへい、馬鹿な方の弟だぜ』

 

 置かれたモニターからニヤケた面が映る。後ろではペルシカが死んだように机に突っ伏している姿が見える辺り、この弟くんが16Labというのは事実らしい。

 

『陽電子狙撃砲は地球の自転とか普通の狙撃じゃ思いつかねえ観点で補正を掛ける必要があるんだよ、補正システムを人形に単純に打ち込むんじゃ人形の容量問題とかで時間を食いすぎる。だから人間がアシストシステムを装備する形のほうが合理的ってわけだ』

「じゃあ俺じゃなくて人形がそのアシストシステム装備しろよ」

 

 今度はガンスミスの方が答える。

 

「今回はあの鼠さん? とかゴリラ? とかも前線に出る可能性を考慮するレベルで人員が足りてねえ、指揮なら別のやつが遠隔でも出来るわけで、それを考えると非戦闘要員程度の戦闘力と言って差し支えないアンタが最適解なのよ」

「合理的も突き詰めると狂気だよなあ!?」

 

 いや確かにそれは合理的だよ!? 人数が居ないなら役立たずを上手く扱うっていうのは当然の経営的な考え方なんだけどさ、だからって俺に一番重要な所を寄越しちゃうのは如何なものかな!?

 

 俺記憶喪失なんですけど…………。

 Karが俺にサムズ・アップしてくる。

 

「指揮官さんは強い子です、私が保証します!」

「彼女ヅラに保証されても困るんだけど」

「えっ、おたくのKarは彼女じゃないのか。俺に彼女って言ってなかったっけ?」

 

 ま~た彼女ヅラしてるよこの女。今回は許してやる、俺は怪我してる女にまで酷い扱いはできん。

 ガンスミスが俺に銃を持たせると、何処に重心がかかっているかだとか、Kar98kは何処らへんに重みを感じてるとか持ち直させて確認を取ってくる。正直特に分からない俺は、まあそのまま答えるばかりになる。

 

「うーむ、それは良いんだが高さがキツイな。それこそバイポッドとか欲しい」

「そっちかあ。ええっとな、バイポッドはないが大型の台は用意できる。高さは4cm、5cm、6cmと想定してるがどれが良い?」

「攻め過ぎたくない、5cmで」

「オーケー」

 

 部品の予想リストの中で採用したものにはチェックが付けられていく。

 ガンスミスが傍らにざっくばらんに広げている図面には正確に描かれた陽電子狙撃砲に様々なOPがくっつく想定なのか、矢印が引っ張りまくってある。

 

 ダネルが一息をついて壁にもたれていた俺の肩を叩く。

 

「コーヒーでも飲むか? 間違って2つ買ってきてしまってな、渡し先を探している」

「ダネル姉貴…………すき」

「そうか、それは有り難いな」

 

 知らない間にイチゴちゃんとKarが横に座ってたのはいただけないが。コーヒーを受け取って一気飲みする。

 イチゴちゃんはコーヒーが飲めないらしく、りんご入りおしるこなるトンデモナイ名前の缶を開けるとちびちびと飲んでいる。Karはニコニコとしながら「それください」と言わんばかりに目の前でしゃがみ込む、やるかよ馬鹿。

 

 コーヒーは全く飲まずにダネルが話しかけてくる。

 

「…………狙撃のコツは、何も乗せないことだぞ。指揮官」

「へぇ、面白いことを言うな。ってか狙撃は心配しなくても良いですよ、俺は「当たる」んだから」

「それだけ自信が有るなら問題ない、頼んだぞ」

「指揮官、りんご入りおしるこ飲んでみませんか? これ凄く美味しいです!」

 

 話の流れを切るなよいちごちゃ~~~~~~~~~ん??????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………何だ此奴等、話にならないな」

 

 蛇――――――ウロボロスが人形だったガラクタを軽く蹴るなり、ひっそりと溜息をつく。

 彼女は退屈だった。今回はとある人形を逃さないためにこのS09地区に侵攻しているわけだが、先日であった「あの男達」以外で面白いものをウロボロスは見ていない。

 

 元々言われた通りに動くような人形ではないのだが、今回は命令してきたのがあの代理人だからと従っているようだ。原則気が向けば命令に背くが、代理人に関しては別だった。

 

「おうおう、ウロボロス殿にはつまらん仕事をさせてわりいなあ」

 

 嫌味っぽく笑って返す処刑人。

 彼女達はたった二体しか居ないが、側には物音一つしない。周りでは何十という人形達の死骸が塵のように捨てられていて、真っ白な肌の彼女達はさながら亡霊のような様子にも見えるだろうか。

 

 しかしウロボロスは素っ頓狂な顔で否定する。

 

「いや? M4と会えると聞いたからな、ならば構わないよ…………アレは面白い。唾を付けねばならないだろう」

「へー、ウロボロスに気に入られた人形か。速めにブレードの錆にしねえと面倒そうだ」

「まあそうとも言うかな? 呵々ッ!」

 

 愉悦に歪んだ笑いに処刑人も釣られる、穏やかなようで穏やかではない会話だ。

 機嫌よく雑談をしてる最中、ウロボロスの方に通信が入る。

 

『ウロボロス、作戦は順調ですか?』

 

 声に思わず背筋を伸ばすウロボロス、代理人の声らしいと処刑人はニヤつく。

 さっきと打って変わった堅い声。

 

「はい。鉄クズ共がやたらめったらと物量戦術でけしかけられますが、捜索作業は滞っておりませぬ。M4A1が見つかるのも時間の問題でしょう」

『…………そう。気に入ったからと生かしたりしてはダメよ』

「当然です。少なくとも代理人殿の命令には背きませんよ、わたしは」

 

 本当かしら、と疑念混じりの声に困ったように頭を掻くウロボロス。こういう時だけ、彼女は子供っぽい表情を見せる。

――ありゃ姉妹だな。全く、AIに血縁関係もクソも有るわけねえ筈なんだが。

 

 処刑人は無表情に感想だけ纏めると、そのままクズデータとして消去した。

 暫く戦況報告に興じていたウロボロスだが、どうやら会話も終わりらしい。代理人が少し言葉に迷い始める。

 

「それではそろそろ切りましょう、傍受されたら敵いませんので」

『ああ、少し待ちなさい………………あまり無茶はしないように。ロストするぐらいなら負け犬らしく逃げ帰って来なさい、良いわね』

「え? ああ、はい」

 

 ウロボロスの言葉が終わる前に通信が切れる。

 急に妙な発言をしたのが引っかかるのか、どうにも釈然としない表情で歩き出すウロボロスに処刑人が尋ねる。

 

「変な顔してんな。何て言ってたんだよ」

「いや? ロストするぐらいなら負け犬らしく逃げ帰れ――――――だそうだが、はあ。どういう意味だろうな?」

 

――心配されてんじゃないの、それ。

 不器用極まりない二人に若干引きながらも、変に手出しはすまいと処刑人は取り敢えずその話題を何とかフェードアウトさせることに終始した。




【ウロボロス】
姉貴。余裕で憑依者だが言動を徹底して弄るのでタグは不要とする。
「わたしがウロボロスだ」の主人公、そしてラスボス。神出鬼没でアーカードの如く暴れて去っていく、ハリケーンボンビーとかと大差ない愉快犯。
戦闘力はいつもの5分の1ぐらい。本気だと変態三連星が束になろうが勝ち目は薄い。本編見れば何処を手加減してるかすぐ分かる、だいぶ弱い。
本編終了後に近い人格なので、一体どういう結末なのかも図り知れるかもしれない。イメージで言えばサマーウォーズのラブマシーンの人形版。


好きに言ってくれるじゃあないか、本編を更新しろこの馬鹿。
――――あー、わたしが出てきたら大体後書きも担当している。様式美みたいなものだ、他作品向けのファンサービスだから慣れてくれ。
まあどうせ中身は同じだからな、呵々!

というかコレヤシマ作戦では? いや敵役だからな、やられ方にどうのこうの言う気はないが。とはいえ2062年設定にかこつけて無理をし過ぎではないか…………。
ヤシオリ作戦は自分で考えたらしいが、図らずもシン・ゴジラと被ったそうだ。派手な事故よな。

あ? カンペとはまた珍しい――――――ええと「今回は『ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー』よりガンスミスを招致しています。紹介よろしく、バイバイ」――――――っていやいや。帰るな、わたしに放り投げるんじゃない。

とはいえ貸しは貸しだ。御礼申し上げる、結構な無茶振りをしていたようだからな。でもわたし別に関係ないんだけどなあ…………まあ構わんが。

【ガンスミス】
「ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー」より。アチラもS09地区設定らしい、其処ら辺だけはパラレルだそうだ。
今回はノリと勢いだけで勧誘した…………とか何とか。まあ陽電子狙撃砲なんてガンスミスが触る必要性は皆無だからな。
何でも屋ではないと言うが、割と何でも屋の疑惑は有る。基本はゆるゆるの指揮官のもとでM1895と銃器を紹介するラジオをしているそうだ…………わたしは銃火器に疎いからなあ、傍受でもしてみようか。


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第七話

「蛇」はガリガリの悪役なので「孤島の簒奪者たち」とか「ラーの天秤」が似合う。
今更だけど設定が過去最強すぎて中々制御できない。頑張れビックリ人間ショー。

おらあ急ピッチで投稿だぁ!!!!!!!!!!!


「ほう――――――指揮官の癖に前線に出ているのか、ふむ。わたしも人のことは言えんが、おぬしは相当イカれていると見た」

「うるっせえよ。お前みたいなトンデモ鉄血人形が来るのは想定してなかったんだ」

 

 不敵に笑う彼は手汗も酷く、生唾を飲むのが抑えられない。力を抜いて薄っすらと笑う死人面の少女とはまるで正反対だ。

――コイツが今回の通信異常の原因? いや、だけど敵だ。信用なんて…………。

 

「褒めているんだ、素直に受け取れよ色男」

「奴さんに称賛されて喜べるかよ」

「そうか…………? わたしは嬉しいぞ」

「いやそりゃお前みたいなイカレポンチだけだろ…………」

 

――うーん、信用しても良いのか?

 顎に手を当てて考え込む姿が妙に人間臭くて、思わず認識がブレる。

 

 一頻り考えた後、そうだなあとツインテールをひょこひょこと跳ねさせて頷く。

 

「まあおぬし達弱いしな…………しかもバックアップも無かったか、確かにそんな余裕ないかあ…………」

「敵だからって馬鹿にしすぎだぞお前」

「いや失敬。素直すぎるのも考えものだな、呵々ッ!」

 

 変な笑い方に彼が白けた顔をすると、何か悪いかと少女は拗ねたように腕を組む。どうやら彼の冷たい態度がお気に召さないらしい。

 

「何だ、文句があるのか」

「いやあ。せっかくの美人さんがエゲツねえ笑い方するなあ…………とは思うよな」

 

 あからさまに「蛇」が聞き飽きたような顔をする。ぶっちゃけ彼は「まあそりゃ言われるわな」ぐらいに思っている、幾ら何でも凶悪に過ぎる。

 

「うーん、やっぱりおぬしもそう思う?」

「思う思う」

「うーむ、では――――――――ふふっ。こ、こうか? や、やれと言われてやるのは嫌だなコレ…………」

 

 さっきまで明らかに強キャラ臭を放っていたかと思えば、何だかキラキラした優しい微笑み方をするので思わず彼がちょっと見惚れる。微妙に恥ずかしそうに頬を紅くするのが敵ながら天晴。

 敵なのに、と敗北感を覚えつつ顔を逸らしてサムズアップで返した。

 

「そうそれ、すっげえ良い」

「それは良かった! デストロイヤーに「アンタの笑い方ダサい」って言われてちょっと凹んでいてなあ! 助かったぞ」

「ど、どういたしまして…………こっちも良いもん見たわ。うちの人形じゃこうはならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で敵同士で和気あいあいと会話とかしてるんだろうな…………』

 

 コッチが聞きたい。何してんのアンタラ。

 コホン、とお互いに咳払いをすると喉の調子の確認、髪のセット等を終えると少し前の緊迫感有る表情に戻る。果たして彼らは本当に敵同士かどうなのかはもうよく分からない。

 

「えーっと、わたしは何の話をしていたかな?」

「まだ何も話してない。俺がイカれてるとか抜かしやがっただろうがお前」

「ああそうだそうだ! では――――――まあ、おかしな奴はおぬしにも限らんよな」

 

 二つ結んだ黒髪が特徴の不思議な鉄血、名前は「蛇」と名乗っていた。

 地域でも間違えたような丈の短い夏物のセーラー服に身を包み、まるで大理石さながらの白い肌が特徴的。整った顔や女性らしい丸みも感じさせる華奢な体躯からは想像のつかない異様さを放っている。

 

 彼もその気配には焦らざるを得ない、通信の不調が起きたとは言え下ではKar達の部隊が半壊。僅かに届いた報告ではコイツが其れを達成した張本人なのだ。

 正直な話、ビルを登りきられた時点で彼は相当危険だった。

 

「あのカラビーナは合格だ。マトモに勝負が出来るだけでも中々の腕だ、わたしは所詮性能に物を言わせているだけだからな――――――アレは生かしてやったぞ? 感謝しておけ」

「そうかい、じゃあお礼代わりに銃弾くれてやるよ!」

 

 彼がすぐさまKar98kを構えて放ったが、少女は眉一つ動かさずに拳銃で弾丸を弾いてしまう。

――はあ!?

 

「おま――――――滅茶苦茶な奴め! シリアスでギャグするからそんなこったろうとは思ってましたよ!」

「いや見え見えだしなあ、というかそろそろ真面目にしろ」

「ウィッス」

「仮にも上級AIを舐めないでもらおう。これは撃つだけではなくこういう用途も考えた試作品らしくてな、わたしで試運転とは代理人殿も変わっているが…………まあおぬしなら、何とか試し撃ちは出来るだろうさ」

 

 遊ぶように両手に持った拳銃をくるくると回しながら構えると、撃ったような真似事をする。

 

「加減はしてやる。わたしに一矢報いてみせろ――――――ッ!」

 

 撃ち込んでくる弾丸は「視えている」。刹那に弾道を見切ると間を縫いながら彼は突っ切ってくる。

 機嫌を良くした「蛇」がしゃがみ込むと、走ってきた彼の足が逃げるのにも構わず半ば強引に刈り取った。

 

 まるで動きを読まれているような足捌きに目を剥く。

 

「おいおい、お前マジかよ――――――!?」

「呵々ッ! この程度なら代理人殿には敵わんぞ」

 

――いや、馬鹿だなってさ。

 不敵に笑う。彼は無理やり自分の足を上に空中で押し上げると、手で「蛇」の足を台にしながら飛び跳ねる。

 

「器用な男だ、曲芸というやつか」

「変なおっさんに教わった逃げ技の一つだよ――――!」

 

 サポートハンドだけで無理に跳んだ腕の軋みに耐えながら、片手で彼がKar98kを脳天に向かって構える。

 今ので足の姿勢を崩されたせいで少なからず後手に回らざるを得ない、そういう予想ありきの確実な捕捉だったが――――「蛇」は動じない。

 

「I.O.Pの其処らの人形と一緒くたにするな」

 

 唾棄すると「蛇」が伸ばした足を軸に、螺子のようにくるりと回転しながらクラウチングスタートのような姿勢に無理やり戻す。

 大幅にズレた照準に焦りながら受け身を取るが、逆立ちの体制になったときには遅かった。苦し紛れの発砲は「蛇」の髪留めを軽く掠めるに留まってしまう。

 

「骨の一本で済めばいいが」

 

 そのまま突っ込んできたかと思うと、右肩で思い切りぶつかってくる。

 骨が軋むのなど序章。すぐさま手を交差させて拳銃を彼の腹に押し付けると鋭い発砲音、背中から弾けるように血が撒き散らされる。

 

「あ、やり過ぎた。すまん、愉しかったからつい」

「ケホッ――――――」

 

 訳の分からない謝罪など耳に入らない、勢いのまま彼がビル入口に背中を打ち付けられる。内臓を駆け巡った血が口から吹きこぼれる。

――ヤバイ、コイツかなりヤバイ。

 

 そのまま倒れ込みそうな足を何とか背中を壁に擦り付けて立ち上がる、意識は朦朧。骨は幾つか折れたらしい、立ち上がるだけで悍ましい激痛が襲う。

 見ていた「蛇」は少しばかり冷めた目付きになる。

 

「倒れておけ。何ならば意識もない方が良い、死ぬのは誰だって恐ろしい事だ」

「……やか…………ましい――――」

 

 その忠告は合理的だっただろうが、大事な計算式が欠けている。

 どうにかこうにかと銃を構える。片目も開けない虚ろな表情の男に「蛇」は決して憐れみなど抱かない、それは非情ではなく彼女自身のポリシーだ。

 

――戦う意志があるならば、オレは応えるだけだ。

 すぐに「蛇」は構え直す。笑うことはない。

 

「よろしい。ウロボロスとしてでなく、一つの人格としてお前を認めてやる――――――だから問う。何故、未だに戦う」

「俺が此処で死んだら、部下が関係ないやつに媚薬を盛るんでな…………ははっ」

「その銃は何を撃つ」

「俺の後ろに立つものを狙う全てだ」

「そうか。最後だ、手間を取らせて悪いな――――――『オレ(わたし)達』に殺されることに文句は有るか」

「大アリだが…………俺のミスだ…………」

「合格だ。お前をオレは覚えておこう、加減をしたのは無礼だった。すまない」

 

――殺すには惜しいか。オレよりは上等な神経をしている。

 とはいえ戦場で情けをかける程彼女も落ちぶれていない、拳銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私達はアンタなんか覚えてやらないけどね』

「――――――夢、か…………」

 

 薄く息を吐く。拳銃を向けられたあの時の絶望が、鮮明に手触りとして残っている。

 

「まっ、過去は過去だ」

 

 でも、あの時のAR-15の姿に覚えた希望だって同量だ。プラマイゼロだね。

――わたし達、か。

 

 あの時の「達」の意味は本当によく分からなかったが、全然嘘をついていないヤツだったのははっきりと覚えている。敵だし人も殺してるんだろうが、だからと無下に殺して良いタイプなのかは迷ってしまう――――――

 

「指揮官さんが元気ありませんね。一発ヤッときましょうか」

「ああー! 今元気出ました―! ヤバイなーもう今日徹夜して動けるぐらい元気だわ―!」

「流石に冗談ですよ…………?」

 

 何ちょっと引いとんねんヤクギメ女。お前が言ったらあんまり洒落になってないんだよ自覚しろ。

 何故か俺が「え、まさか本当にするとでも?」みたいなドン引きされているのは本当に理不尽では? イチゴちゃんまで? これは悪夢ですか?

 

「指揮官、それはちょっと引きます…………」

「ヤクギメ逆レイプ人形と手錠かけてくる奴に俺はドン引きされる生き方してないけど?」

「人聞きの悪い事を! 合法ですのに!?」

「合法じゃないです」

 

 何で俺が承諾したことになってんだ、お前マジかよ。

――ああ、そうだ。明日だっけか、作戦。ヤシオリ作戦だっけ、何か特撮でありそうな名前しやがって。

 

 あの「蛇」とやらを超長距離狙撃するというシンプルかつ頭の悪い作戦だ。陽動には近隣地区の指揮官、人形を総動員。人数が足りないから指揮官も出て貰う必要があるとかないとか。

 片割れは「は? 出撃だけでも既に俺の豆腐メンタルがボロボロなのに俺が出る? 寝ぼけちゃいけないなあヘリアン、幾ら指揮官してた頃に合コンネタでからかわれた恨みが有るとは言っても私情持ち込んじゃ駄目だぜ? なあソゲキチ君?」とか言ってた、何で俺に振るんだよ、喜んで駆り出してやるわボケ。

 

 片方は仕方なくやるらしい、慣れっこだとか…………待て、慣れっこなの?

 

 もう調整にガンスミスが俺を引っ張り回すからクタクタだった、一応指揮官業務は鼠が(驚くことに)やっているらしいんだが――――そう言えば45達が見てるってさっき内線で俺に叫んでたな。そういう事ね。

 

「大体完成したぞ―、持ってみてくれー!」

「はいはい、今行くよ!」

 

 また呼ばれた。全く忙しいなあ。

 壁にもたれかかっていた身体を起こしてすぐに向かう、何となしに振り向くとKarが手を振って

 

「今夜、鍵は開けておきますね」

 

 って言ってた。は?




ドールズフロントラジオ、生で聞きたいな…………よし、拉致るか。
わたしは真面目に銃に疎くてな、代理人殿には叱られるしハンターには笑われるしで困ってる。

あのソゲキチとやらとは酒を飲みたい。敵ながら気が合うようだ、もしかすれば――――――わたしの同類やもしれんな、ふふっ…………やっぱこの笑い方は勘弁して。実は本編も序盤は「ふふっ」だったんだけどキツかった。やめよう、うん。

デストロイヤーと喋ってみたのだが、「それはそれで気持ち悪い」等と抜かしおったしな。次はないと思えよあのメスガキ…………。
おっと失礼、此処はお祭り騒ぎの会場だと聞いた故な。ちょっと話が逸れた。
というか武装は縛ってるし手加減してるし今回のわたし良心の塊では? 何時もだったらソゲキチはもう死んでるな。

【蛇】
対人ゲー中に来られるとキレてしまいそうな電波障害姉貴。
ユーモアは有る、本編では余り見せていない一面。
意外と少女チックなところは有る。経済観念は庶民派で、偶に「弾撃ち過ぎた!」と一人で悶絶する。
彼女は「警戒させない、疑わせない」事に突き抜けた話し方をする、無自覚たらし。
「戦いたかったけど殺したくはなかった」みたいな所が有るタイプ。Kar98kだと問答無用で殺したくなるらしい、理由は不明。
パット見で危険には見えない、但し噛ませ犬オーラがないので「凛然たる美しさ」みたいなものは有る。


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