IS ~世界は私達4姉妹を中心に回っている~ (とんこつラーメン)
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金剛4姉妹 紅茶を飲む

もう止まりません。

どうなっても知らんぷり。

一度走りだしたら止まらない。

それがキアヌ・リーブスの『スピード』なのです。






 春も麗らかな午後。

 少女達はIS学園の生徒会室にて優雅なお茶会を催していた。

 

「ん~♡ やっぱり、榛名の淹れてくれた紅茶は最高デ~ス♡」

「お褒め頂いて光栄です! 金剛お姉さま!」

「この味は容易には真似出来ませんものね」

「桜が舞い散る様子を見ながら飲む紅茶も美味しいですね」

 

 女性だけが動かす事が出来るパワードスーツ『インフィニット・ストラトス』

 通称『IS』と呼ばれるソレの事を学ぶために設立された学園が、この『IS学園』であり、彼女達はそこに通っている生徒達であった。

 

 カタコトの日本語を話す長女の『小西金剛』

 活発なイメージの次女の『小西比叡』

 姉妹の中で一番お淑やかな三女の『小西榛名』

 四姉妹の中の頭脳とも言うべき四女の『小西霧島』

 

 全ての教師や生徒達から尊敬の眼差しを一身に集める彼女達の事を人は『金剛四姉妹』と呼ぶ。

 しかし、それはあくまで仮の姿。

 彼女達四人の真の姿は、また別に存在していた。

 

「って、どうして生徒会室で態々、お茶会を開くのよ!」

 

 そう叫んでいるのは、一年にして生徒会長を務めている『更識楯無』

 IS学園は実力主義な為、その気になれば一年生でも充分に生徒会長を務めることは可能なのだ。

 

「生徒会室から見える景色が一番綺麗なんですから、仕方がないネ~」

「だからと言って、ティーセットまで持ち込んでする事は無いじゃない……」

「別にいいじゃないでスか。アポも取らずに来てしまった詫びとして、こうして霧島が生徒会の仕事を手伝っているんだかラ」

 

 四女の霧島は、器用に紅茶を嗜みながら書類整理を行っていた。

 こんな芸当が出来るのは、この世界広しと言えども彼女だけだろう。

 

「なんだか申し訳ありません……」

「いえ、お気になさらず。金剛お姉さまの御命令とあれば、この霧島、マグマの海でもクロールをする覚悟です」

「命掛けすぎじゃないっ!?」

 

 霧島に対して申し訳さ無そうにしているのは、楯無の従者にして生徒会の書記を務めている二年の布仏虚。

 霧島と同じメガネキャラで、彼女とは同じ雰囲気を漂わせている。

 

「それにしても、今度の新入生達は、なんとも個性的ですネ~」

「全くよ。来年は私達も先生方も大変な一年を送る事になりそうね」

 

 書類の一部を手に取って眺めている金剛の視線が、ある部分でストップした。

 

「一年一組……。これまた、学園側は随分な事を仕出かしてますワね……」

「本当だ……。金剛お姉さま。これってアリなんですかね?」

「普通はoutでしょうけど、委員会がゴリ押ししたに決まってマ~ス」

「懲りない連中ですよね。ホント……まるで雑草みたいにしぶといんだから……」

 

 僅かに黒い部分を見せた榛名を無視して、金剛はジッと書類を凝視していく。

 ある生徒の名前を見ると、その口がニヤリとなった。

 

「これはまた……懐かしい顔がいますネ……」

「それって、例のイギリスの代表候補生の子? 確か、金剛ちゃん達四姉妹は前にイギリス留学していたのよね?」

「yes。と言っても、私達の場合は元々の生まれがイギリスなので、正確には里帰りに近かったデスね」

「そっか……」

 

 この四姉妹、実はイギリス生まれの帰国子女。

 そんな経緯もあって、昔から彼女達の人気は留まるところを知らない。

 

「それに……」

 

 ティーカップを口に運んでから、込み上げてきた笑いを必死に堪える。

 金剛の視線の先には、一人の『男子生徒』の名が記入してあった。

 

「織斑一夏……実に面白そうな玩具だと思いまセンか?」

「「「はい。金剛お姉さま」」」

 

 その男子の名前を見ても、彼女達は全く動揺なんてしていななかった。

 先程も言ったが、ISを動かす事が可能なのは女性のみ。

 であるにも関わらず、男子の名が載っている。

 普通に考えればおかしい事だが、四姉妹は彼が学園に来ることを予め知っていた。

 その理由は実にシンプルで、それは彼女達が所謂『転生者』だからだ。

 

 転生に至るまでの描写や転生時に神様に会った様子とか全く描かれていないが、間違いなく彼女達は転生者なのである。

 作者が言うのだから、例え読者に死に設定と言われようとも、これから先、転生に関する話題が全く出てこなくても、彼女達は転生者なのだ。

 これは覆しようのない事実だ。

 

 前世に置いて、彼女達は俗に言う不良男子だった。

 特に金剛は、全国的にも名が知れた存在で、数多くの猛者達が倒しに来たが、それを全て返り討ちにした挙句、誰もが一度は口にして、言った者には蔑みの笑いを送る『全国制覇』と言う目標を、本当に達成してしまったトンデモない奴だったりする。

 他の三人は、金剛につき従う鋼よりも熱い忠誠心と絆で結ばれた仲間達で、常日頃から金剛の事を支え続けた。

 死因は不明だが、四人は何らかの原因で死亡し、そして転生をする事になった。

 その時、転生を司る神が彼等四人の絆を見て(生きていた頃の所業は全く見ていなかった)感動し、四人を四つ子として転生させることにした。

 その時、神の気紛れ&趣味で四人はTSし、艦これに出てくる金剛型戦艦4姉妹の姿で第二の人生を歩むことになった。

 女になった事で恨み言に一つでも言うかと思いきや、そんな事は無く、四人は割と普通に自分達が女になった事を受け入れて、中身はそのまま、口調などは女にする事でこれまで生きてきた。

 実は今でも、知る人ぞ知る最強不良四姉妹でもあり、その美しい容姿とは裏腹に、その実力は元々の身体能力に加え、神から密かに与えられた転生特典(人間としてのリミッター解除、つまりはワンパンマンのサイタマ化)によって、とんでもない美少女集団となっていた。

 人呼んで、『IS学園四天王』

 

 前世で好き放題していたように、今世でも好き放題しているようで、中学の頃から全国を行脚して様々な学校を拳一つで制覇し、高校に上がってからは天下に名高いIS学園も手中に収めようと企み、割とあっけなく首席で入学してみせた。

 因みに、比叡、榛名、霧島が全く同じ点数で次席だったりする。

 楯無は四姉妹の丁度、下に位置していた。

 

 こうして長々と語っていると目が疲れて読者が離れていきそうだが、これはこれで必要な説明なので、どうかご容赦願いたい。

 

「にしても、まさか男の子がISを動かして、ここに入学する事になるとはね~……」

「そんなに驚くようなことでスか?」

「そりゃ驚くでしょ。だって、ISは女にしか動かせないのよ?」

「確かにそうデスが、何事にもirregularが存在します。それを否定していたら、科学の発展なんて望めないデスよ?」

「それもそうよね……。金剛ちゃんの言い分は普通に納得だからいいんだけど、問題は寮の部屋割りとかよね~……」

「先生方、苦労なさってそうですよね」

「特に織斑先生はね。なんたって、自分の弟が入学してくるんだもの。その心境は窺い知れないわ」

「織斑先生……デスか……」

 

 一瞬、金剛が悪い顔をしたが、本当に一瞬の出来事だったので妹達以外は誰も気が付かなかった。

 

「あら? 布仏先輩と同じ苗字の子がいますね。ご家族ですか?」

「はい。私の妹です」

「ワァ~オ! 虚のsisterですカ~! それはめでたいネ~!」

 

 この『めでたい』には複数の意味があるが、聞いただけでは誰も分からない。

 

「もうすぐ、私達も二年生。後輩が出来ますね」

「そうですね。今から楽しみです」

「間違いなく、波乱の年になるでしょうね」

 

 なにやら確信めいた事を言っているが、それもその筈。

 彼女達は転生者のお約束である『原作知識』を所有している。

 故に、先々に起きる事は愚か、文字通り『インフィニット・ストラトスと言う名の物語の真実』を知っていた。

 かと言って、それらをそのまま見逃すような間抜けはしないが。

 4人共、介入をして原作崩壊させる気満々だ。

 その結果、起きるであろうバタフライエフェクトなど知った事じゃない。

 この四姉妹は、それすらも全力で楽しむ。

 

「そんな事よりも、楯無は口より手を動かした方がいいんじゃナイ?」

「ちゃんと動かしてるわよ」

「楯無さん。紅茶でも飲んで少しリラックスしてください」

「ありがとう、榛名ちゃん。……この紅茶、虚ちゃんの淹れたものにも勝るとも劣らないわね……」

「榛名さんの腕前は本当に見事ですよ。私も勉強させて貰っています」

「そんな……。榛名なんてまだまだです……」

 

 恥ずかしそうに俯くが、本当に照れているわけじゃない。

 これは単なるキャラ作りだ。騙されてはいけない。

 幾ら見た目が美少女でも、中身はスーパーサイヤ人ゴッドなのだから。

 

「これが終わったら、また私の部屋でたっぷりと可愛がってあげますから、頑張ってくだサイね」

「ちょ……金剛ちゃん!」

「アハハ♡ 昨日もあんなに可愛らしく一杯喘いで、柄にもなく私も興奮しちゃいマシたネー!」

「うぅぅ……」

 

 この会話からも分かると思うが、既に楯無は金剛に堕とされている。

 学園内には他にも四姉妹に堕とされている少女達が数多く存在していて、中には教師もいたりする。

 楯無が金剛に堕とされているのなら、当然のように虚も堕とされているが、その相手は金剛ではない。

 

「あらあら、金剛お姉さまったら。私達も負けてられませんね、虚さん?」

「そ……そうですね……」

 

 この通り。

 虚は霧島によって見事に陥落されていた。

 後に登場する五反田弾にはご愁傷様と言っておこう。

 

「新入生の子達も、金剛ちゃん達の毒牙に掛かっちゃうのかしら……」

「人聞きの悪い事は言わないでほしいネ~。もしかして……嫉妬デスか?」

「違うわよ!」

 

 必死に否定しても、その真っ赤な顔が彼女の気持ちを肯定している。

 

「まぁでも……」

 

 ペラっとページを捲ると、そこにはまた別の新入生の名前が記載されていた。

 

「興味のある子ならいましたけどネ……」

 

 そこには『篠ノ之箒』と書かれている少女の顔写真がプリントされている。 

 

「あぁ……今から……入学式が待ち遠しいデスね……♡」

 

 金剛が一体何を企んでいるのか、それは妹達と作者しか知りえない。

 少なくとも、碌な事じゃないのは確実だ。

 

 




4000字ジャスト!

ミスタが見たら卒倒しそうな数字ですね。

まずは原作少し前からスタート。

入学式前なので、まだ楯無は一年生です。

金剛達四人は原作パートでは楯無と同じ二年生としています。

なので、大体の部分がオリジナルになると思います。


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金剛 入学式にて祝辞を言う

まだ第一話を書いただけなのに、想像以上の反響があってビックリしてます。

これは、ご期待に添えて爆発するしかありませんなぁ~?(ニヤリ)

それと、前回説明し忘れていたのですが、金剛達の制服は改造制服となっていて、
艦これにてオリジナルの金剛達が着用している服を模した制服となっています。
ですので、脳内再生をする時は、皆さんのよく知っている彼女達で想像して貰って構いません。
勿論、頭に付けている装飾品とかもちゃんと装着していますのでご安心を。










 入学式。

 それは、新しい門出を祝う神聖な儀式。

 金剛は今、その入学式の舞台裏に虚と一緒に立っていた。

 

「本当に申し訳ありません……。ご実家の用事でどうしても来られないお嬢様の代わりに、新入生たちに行う祝辞を言って貰う事になってしまって……」

「気にしないでくだサ~イ。私達の仲じゃないデスか。それに、私達も日頃から楯無と虚にはお世話になってマス。困った時はお互い様……ですヨ?」

「金剛さん……。霧島さん達が貴女の事を慕い、敬う気持ちが改めて理解できた気がします……」

「そんなハッキリと言われると、私も流石に照れるネ~……」

 

 苦笑いをしながら頭をポリポリと掻く金剛。

 先程の一連の会話で分かったとは思うが、生徒会長である楯無が実家の用事で不在となってしまった為、今回だけ生徒会長代理として金剛が在校生代表として祝辞を述べることになったのだ。

 別に金剛は生徒会に所属しているわけではないが、楯無や虚が最も信頼しているのが金剛であり、同時に在校生全員の認知度も高いという事で、殆ど満場一致で決定したも同然だった。

 金剛自体も決して嫌がってはおらず、寧ろやる気満々だった。

 裏からは泣く子も黙るような極悪な女子高生として名が通ってはいるが、受けた恩と借りた義理は何があっても忘れず、絶対に返す主義なのだ。

 こういった律儀な一面も、また彼女達四姉妹の人気に拍車を掛けている。

 勿論、受けた痛みと恨みも絶対に忘れない。

 基本的に、左の頬を叩かれたら、右の頬に遠慮無く核ミサイルをぶっ放す。

 それが、金剛四姉妹だ。

 

「あら……。そろそろ出番のようですよ」

「了解デス。では、張り切って行ってきマスね」

 

 意気揚々とした足取りで、金剛は壇上の上へと歩いて行った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

『続きまして、在校生祝辞。在校生代表。生徒会長代理、小西金剛さん』

「ハ~イ」

 

 こんな場においてもいつも通りの口調を忘れない。

 マイペースも、ここまでいけば勲章物だと思う。

 

 マイクが設置してある場所まで歩いて行く途中で、金剛は件の織斑一夏の姿を捉えたが、向こうはガチガチに緊張をしていて、全くこちらには気が付いていない。

 それを見て金剛は密かに笑みを浮かべたが、すぐにソレは引っ込んだ。

 

 マイクスタンドの場所まで行くと、金剛はスタンドからマイクを取り外して自分の手に持った。

 

「皆サ~ン。初めましてデ~ス。今回、どうしても外せない用事が出来てしまった生徒会長であり、私の大切なfriendである更識楯無の代わりに、生徒会長代理として皆に御挨拶をする、二年生の小西金剛デ~ス。皆サン、よろしくお願いしますネ~?」

 

 いきなりやって来たカタコトの日本語を話す美少女に、親友生たちはポカ~ンと開いた口が塞がらない状態になってしまった。

 中には、金剛の美貌に早くも魅せられた女子もいるようだ。

 

「こうして皆サンを眺めていると、自分達が入学してきた頃を嫌でも思い出しマスね。あの頃の私達も、今の皆のように不安と期待と緊張が入り混じった顔をしていまシタ。

でも、何も心配をする事はありまセ~ン! 困った事があれば、いつでもどこでも私達のような上級生になんでも聞いてくだサイ! それに、ここにはとっても優秀な先生方もいらっしゃいマ~ス! 遠慮無く相談すれば、必ず力となってくれる筈でスよ!」

 

 ハキハキと笑顔で話す金剛の姿に、新入生たちは次々と魅了されていく。

 そうでなくても、こういった人間は須らく好印象に捉えられる。

 金剛達姉妹は腕っぷしや頭脳だけでなく、人心掌握術も完璧にマスターしていた。

 言葉巧みに数多くの人間達を懐柔し、それら全てを味方に付けてきた。

 

「このIS学園には素晴らしい施設も沢山あって、どんな要望にも答えてくれマス。広くて美味しい食堂に、各種トレーニング施設、更にはなんと、射撃演習場なんて場所まであるんですヨ! 他の学校では決して考えられまセン! ま、銃器を普通に扱う様な学校自体、日本には非常に希少ですけどネ!」

 

 そりゃそうだ。

 新入生達(一部除く)は揃って心の中でツッコんだ。

 

「それになんと言っても、もっとも特筆すべきはIS競技専用のアリーナの豊富さ! アリーナは合計で六か所も完備してあり、ちゃんと然るべき手続さえすれば、皆さんも放課後には学園に配備してある訓練機でISの操縦訓練を自主的に行う事が可能なんデスよ!」

 

 ISの話が出た途端、新入生たちの目の輝きが変わった。

 それもその筈。彼女達はISの事を学びたい、その一心で艱難辛苦の道を潜り抜けて、恐ろしく倍率の高い入学試験を勝ち残り、IS学園の門を潜ったのだから。

 約一名を除くが。

 

「しかし、流石にまだ新入生の皆さんは自由に使う事は難しいと思いマ~ス。この時期は学園側も私達も色々と忙しく、基本的に訓練機とアリーナの仕様は上級生が優先されてしまうからデス……。こればっかりは仕方がないので諦めて貰うしかありまセ~ン」

 

 少しだけテンションが下がる事を言う。

 しかし、下げてから上げるのが金剛クオリティ。

 

「でもでも、心配は無用デ~ス! 一学期の最初は難しいかもしれませんが、それも今だけの話! 学園全体が落ち着き始める一学期後半から二学期辺りになると、一年生の皆さんも私達と同じように自由な訓練が可能となる筈デスよ! 実際、去年の私達もそうでしタ!」

 

 一気に新入生達に笑顔が広がる。

 それを確認して、金剛は締めに入ろうとした。

 

「さて、あまり長くなっても皆サンが退屈してしまうでしょうから、この辺で終わろうと思いますけど、その前に……私の最愛の妹達を紹介しようと思いマ~ス!」

 

 いきなりの展開に教師陣と奥で控えている虚の目が『ギョッ!?』っとなった。

 何も事情を知らない新入生達は逆にキョトンとしているが。

 

「ではカモン! 私の可愛いmy……sisters!!!」

「「「はい!!」」」

 

 ここで会場全体が暗くなり、壇上にいる金剛にスポットライトが当たる。

 それに合わせて、新入生達が座っている場所の後ろから、複数の人間が走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「「「とう!!」」」

 

 三つの影が飛び上がり、金剛の所に着地をしてからの決めポーズ。

 

「小西家次女、比叡! 気合! 入れて! 狙い撃ちます!」

 

 どこからか『キュピーン!』とSEが聞こえてくる。

 誰がやっているのやら。

 

「小西家三女、榛名! 全力で飛翔します!」

 

 普段は大人しい榛名もここでは大胆に。

 地味にスカートの中が見えそうになっているが、誰も何も言わない。

 

「小西家四女、霧島! この頭脳で目標を殲滅します!」

 

 眼鏡がキラーンと光って反射する。

 眼鏡っ子キャラのお約束だ。

 

「そして、私が小西家長女、金剛! 斬って斬って斬りまくって! 目標を駆逐しマース!」

 

 もう完全に入学式を無視してノリノリである。この四姉妹。

 こうなったら誰にも止められない。

 

「私が! 私達が!!」

「「「「金剛四姉妹です!!!」」」」

 

 最後に誰が放ったのか分からない紙吹雪。

 後で掃除をする者達に激しく同情する。

 

「私達四姉妹から目を離しちゃNO! なんだからネ!」

 

 バチコーンとウィンクでトドメ。

 本人達のテンションとは逆に、会場はまるで森の湖畔のように静まり返っている。

 それも、僅か数秒の間だけだったが。

 

「「「「「「キャァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァッ♡♡♡♡♡」」」」」」

 

 次の瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれていた。

 何が彼女達を興奮させるのか、女子高生の気持ちはよく理解出来ない。

 

「金剛お姉さまステキ――――――――――――!」

「比叡お姉さまカッコいい――――――――!」

「榛名お姉さま可愛い―――――――――――!」

「霧島お姉さま抱いて―――――――――――!」

 

 どうやら、あっという間に四姉妹それぞれに新入生のファンが出来たようだ。

 金剛達も心の中で『計画通り』と怖い笑顔でほくそ笑んでいる。

 

『そ……それでは、これにて在校生祝辞を終了させていただきます。金剛四姉妹の皆さん、ありがとうございました……』

 

 司会をしている生徒も困惑をしまくっていたが、『この姉妹なら仕方がない』と、半ば諦めの境地に至った。

 

「では新入生の皆サ~ン! これからよろしくお願いしますネ~!」

 

 手を振りながら壇上を後にして舞台裏へと戻っていく金剛達。

 最後の最後まで新入生達のスタンディングオベーションで見送られていった。

 

 余談だが、この時の一夏は緊張で金剛の話を全く聞いておらず、彼女の姿すらも碌に目に入っていなかった。

 妹達が登場してからの派手な自己紹介の時も、本気で困惑しまくって誰一人として名前を覚えずに式を終えたのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「金剛さん! なんなんですか、最後のやつは!」

「HAHAHA~! I,m sorry虚~。tensionが上がり過ぎて、つい調子に乗ってしまいましタ~」

「その割には、ちゃっかりと妹さん達をスタンバイしていたみたいですけど?」

「タハハ……」

 

 いつもは四姉妹に甘い虚も、この時ばかりは怒らずにはいられなかった。

 結果的には成功かもしれないが、いきなりのサプライズな演出には肝を冷やされたからだ。

 

「でも、金剛お姉さまが考えたのは、まだ大人しめの方ですよ?」

「え?」

「昨日、楯無さんから聞いたんですけど、もしも私達が代理をせずに彼女がそのまま在校生祝辞を述べていた場合、窓から専用機に乗って登場して、そのまま台本も無い適当な祝辞を言う気だったって」

「流石の私達も、それは無いな~って思って、あの程度で済ませたんですけど……」

「あの人は……!」

 

 この時、虚は生まれて初めて自分の主人に本気の殺意を抱いた。

 と同時に、もしもこの四姉妹が自重しなかった場合、何をしていたのか少しだけ興味が沸いたらしい。

 

 楯無が帰ってきた後、虚から瀕死になる程の説教を受ける羽目になったが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 




次回、やっと原作突入?

そして、四姉妹に堕とされたヒロインがまた……。


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比叡 再会する

どうやら、私には性格的にアンチ系の作品は向いてないようで、まだ始まったばかりですが路線変更しようと思います。

一夏はアンチせずに、『歴代最愚の白龍皇』の一誠と同様にツッコみ要因にしようと思います。
その方がサクサクとネタを思い付くんですよね。
だからと言って、四姉妹のハーレムには変更無しなんですけどね。






 入学式が無事(?)に終了し、金剛達は教室に戻って授業を受ける。

 授業態度は真面目の一言で、問題を出されてもサクッと答えてしまう。

 成績も非常に優秀で、一年の頃から妹達と一緒にワンツーフィニッシュをキープし続けていた。

 

 二次創作のお約束、キングクリムゾン大先生の能力で、一気に昼休みの昼食時間へと突入する。

 四姉妹は教室を後にすると、仲良く一緒に食堂へと足を運ぶ。

 一言に食堂と言っても複数存在し、各学年の寮に一か所づつ点在し、それとは別に校内にも大きな食堂が存在している。

 校内の食堂には各学年の生徒達が一堂に会し、様々な会話が入り乱れていたが、それも金剛達が来るまでの話。

 彼女達が食堂に入ると、その瞬間に全ての視線が四姉妹に注目される。

 ここに来るまでの間も廊下を歩く生徒達に眩しい視線を浴びせられていたが、食堂ではそれ以上に熱い熱視線を浴びせられている。

 

「朝から色々な意味で疲れましたから、とってもHungryネ~」

「何を食べましょうか?」

「今日はご飯を食べたい気分ですね」

「じゃあ、私は無難にカレーにでもしようかしら?」

 

 食堂なので皆は騒がずに静かにしているが、それでも食事をする手は完全にストップしていた。

 この学園で唯一の男子生徒以外は。

 

「なぁ……なんで皆して黙ってるんだ?」

「お前……入学式での事を覚えてないのか?」

「あの時、緊張しまくって頭の中が真っ白だったから、あんましよく覚えてないんだよな~」

「お前……」

 

 隣で呆れているポニーテールの女子。

 すぐさま二人の姿を視界に入れる四姉妹だったが、今はまだ接触すべき時ではないと判断し、ここでは何も見なかった事にした。

 四人が食券販売機へと歩いて行こうとした時、彼女達に近づく勇気ある人物がいた。

 まるで幼子のように無邪気な笑顔を浮かべ、その美しいブロンドの髪が嫋やかに揺れている。

 

「お姉さま方!」

「「「「ん?」」」」

 

 聞き覚えのある声がしたので振り返ってみると、そこに立っていたのは懐かしい顔。

 金剛達が嘗てイギリス留学した際に知り合った少女であり、今は英国の代表候補生を務めているセシリア・オルコットその人だった。

 

Cecilia(セシリア)! long time no see!(お久し振りデスね~!) Are you doing well?(元気にしていましたカ?)

Yes!(はい!) Your sisters were also relieved to behealthy.!(お姉さま達もお元気そうで安心しましたわ!)

 

 余りにも懐かしすぎて、反射的に英語で話してしまう金剛とセシリア。

 とても流暢な二人の英会話がちゃんと聞き取れるのは、比叡達と英語圏出身の生徒達だけだろう。

 他の生徒達には未知の言語にしか聞こえていない。

 

「おっと。日本にいるのに向こうの言葉で話すのは無粋でしたネ~」

「郷に入れば郷に従え……でしたわね。嬉しすぎてついやってしまいましたわ」

 

 ついさっきまで教室で怒号を発していた少女とは別人のように可愛らしい笑顔を浮かべる彼女を見て、一夏は思わず見惚れてしまう。

 

「あいつ……あんな顔も出来たんだ……」

「何を見ている?」

「あ……いや。ナンデモアリマセン……」

 

 なんだかフラグが立ちそうなセリフだったが、悲しいかな。

 もう既に彼女も攻略済みなのだ。

 

「セシリア。私よりも先に挨拶するべき人がいるんじゃないんですカ?」

「そ……そうでしたわね……」

 

 コホンとワザとらしく咳払いをしてから、セシリアは金剛の隣にいる比叡と向き合った。

 

「御久しゅうございます……比叡お姉さま……♡」

「うん。私もセシリアにまた会えて嬉しいよ」

「う……うぅぅ……」

 

 二人の間に流れる、何とも言えない雰囲気。

 目には見えないが、間違いなく比叡とセシリアとの間にはATフィールドが張られている。

 それぐらいの近寄りがたい空気が流れている。

 

「比叡お姉さま~!」

 

 我慢の限界が来たのか、セシリアは見栄も外聞もかなぐり捨てて、比叡の胸に飛び込んだ。

 そんな彼女を優しく抱き留めて、頭を撫でて落ち着かせていく。

 

「ずっと……ずっとこうしたかったですわ……比叡お姉さま……」

「私もだよ。セシリアの事を抱きしめる日を待ち望んでいた」

 

 もうお分かりの方もいるだろうから説明させていただく。

 セシリアと金剛四姉妹とは、イギリスの滞在中に知り合った。

 彼女が原作ヒロインの一人だと予め知っていた四人は迷うことなく接触し、そのままの勢いで仲良くなった。

 その際に色々な事をセシリアに伝授したのだが、それは後々に明らかとなるだろうから、ここでは言及を避けておく。

 じゃないと、作者と金剛達に殺されるかもしれないし。

 

 セシリアと交流していく中で、比叡が特に仲良くなっていき、気が付けばセシリアは本気で比叡の事を好きになっていた。

 その気持ちに気が付いていた比叡も、打算的な意味を捨て去って、彼女の気持ちに応えた。

 結果として、比叡とセシリアは相思相愛の仲となったのだ。

 と言っても、やっぱり一番は敬愛する金剛なのだが。

 

「比叡お姉さま達がIS学園に在学していると聞いて、すぐにここに入学する事を決めましたわ」

「そうだったんですね。日本語の練習とか大変じゃなかったですか?」

「大丈夫ですわ。また比叡お姉さまに会える日を想えば、なんて事は無かったです。前にお姉さま達に軽く日本語を習っていましたし」

「そんな事もありましたね。セシリアは物覚えがいいから、私達も教え甲斐がありました」

 

 比叡を最も愛しているセシリアだが、他の三人の事をなんとも思っていない訳じゃない。

 金剛も榛名も霧島も、セシリアの中では両親と同じぐらいに尊敬し、同時に目指すべき目標として映っている。

 出身地が同じと言う事もあり、四姉妹とセシリアとの絆は半端じゃない程に固かったりするのだ。

 多分、悪魔将軍の鎧と同じぐらいに固いんじゃなかろうか。

 

「折角ですし、一緒にlanchを食べませんカ?」

「勿論! ご一緒させていただきますわ!」

 

 四姉妹はそれぞれにカレーを選んだが、その種類は別々だった。

 金剛はサックサクのカツが乗ったカツカレー。

 比叡は鶏肉タップリのチキンカレー。

 榛名はスパイス豊富なキーマカレー。

 霧島は栄養が沢山の野菜カレー。

 セシリアも姉妹に合わせて、王道のビーフカレーに決めた。

 

「おや、今日は姉妹仲良くカレーなのかい?」

「yes! Calaisriceの美味しさは万国共通ですカラ!」

「相変わらず発音がいいね~。待ってな、すぐに用意するから」

 

 金剛四姉妹、食堂のおばちゃん達にもその存在が知れ渡り、名実共に有名人となっている。

 食堂のおばちゃんとも仲がいい生徒は割と素で珍しいだろう。

 

「こうしてセシリアと会うのも本当に久し振りデスね~。あれからも鍛錬は欠かしていまセンか?」

「えぇ。お姉さま方からご教授して貰った事は一時も忘れず、ずっと継続してきました。そのお蔭で並列思考を完全にマスターしましたわ」

「それはよかったわ。あの頃のセシリアは動きが単調で、ビットと同時に動く事もままならなかったから」

「いつか、それを見させてもらう機会があるといいですね」

「それならば、一週間後の今日の放課後、第3アリーナに来て下さりませんこと?」

「第3アリーナ?」

「そこで何かeventでもあるんデスか?」

 

 本当はぜ~んぶ知ってます。

 でも言いません。その方が面白いから。

 

「私のクラスに身の程知らずの愚かな男がいまして、彼と試合をする事になりましたの」

「入学早々にやってるね~」

 

 原作での結果は知っているが、金剛達の目の前にいるセシリアは原作での慢心しきった少女ではない。

 身も心も四姉妹によって魔改造された、劣化版金剛四姉妹のようになっている。

 唯でさえ勝率が低い一夏の敗北が、より濃厚になっていた。

 

「なにやら楽しそうに話してるじゃないのさ」

「おばちゃん」

「ほれ、お待たせ」

「「「「おぉ~」」」」

 

 自分達の元に運ばれてきたカレーの美味しそうな匂いが鼻孔を擽り食欲をそそる。

 

「あそこの席が空いていますネ。早く行きましょうカ」

「「「「はい」」」」

 

 まるでモーゼのように生徒達が金剛達の道を譲り、何の障害も無く目的の席に座る事が出来た。

 それから、セシリアはまるで本当の姉妹のように金剛達と楽しい昼食タイムを過ごす事が出来た。

 

 そんな彼女達を見つめる一人の男。

 そう、我等が原作主人公の織斑一夏だ。

 彼の視線は真っ直ぐにある少女に向けられていた。

 

「あの茶髪の人……綺麗だな……」

 

 まさか、自分が一夏にそんな風に見られているとは流石に予想していない金剛は、美味しそうにカツカレーのカツを頬張っていた。

 

「ン~♡ やっぱり、この食堂のカツカレーは最高デ~ス♡♡」

 

 

 




比叡のヒロイン一人目、セシリアの登場でした。
四姉妹には最低でもそれぞれ二人以上のヒロインを予定していて、主人公である金剛は最もヒロインを多くするつもりです。
地味に共通点があるカップリングもあったりします。
今回で言うなら、比叡とセシリアですね。
二人共、揃ってメジマズコンビですから。
それから、霧島のヒロインはずっと眼鏡っ子一択です。
これだけでネタバレしているようなもんですね。


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金剛 夢を見る

今回は攻略済みの金剛のヒロインが一人追加されます。

個人的にも好きなキャラなので、これからも出番は多いかもです。







 暗い暗い海の上。

 『私』は満身創痍となった己の体を気力だけで支えながら、ゆっくりと周囲を見渡す。

 そこに浮いていたのは、先程まで共に戦っていた仲間たちの成れの果て。

 

「翔鶴……」

 

 敵の奇襲によって戦線は乱され、そこを一気に突かれた。

 

「最上……」

 

 次々と仲間達は倒れていき、私自身も瀕死の重傷を負ってしまった。

 

「衣笠……」

 

 左腕は持っていかれ、右目も失い、左太腿と右手の薬指と小指も無くなった。

 

「名取……」

 

 装備もズタボロで、辛うじて無事なのは一門だけ。

 

「比叡……榛名……霧島……」

 

 もう誰もいない。残っているのは私だけ。

 私だけが残ってしまった。

 だけど、それも時間の問題。

 

「前門のtiger、後門のwolfとはよく言ったもんですネ……」

 

 眩暈がして視界が定まらない。

 憎むべき『敵』の姿がぶれる。

 

「大人しく鎮守府まで帰させてはくれないわよネ……。それ以前にもう、戻るだけの気力も体力も燃料もないんだケド……」

 

 絶体絶命。

 今の状況を示す最も相応しい言葉だと思う。

 

 他の艦隊の皆はちゃんと無事に帰投出来たのだろうか。

 不思議と今はそれだけが気がかりだった。

 

「Ammunitionも枯渇寸前……Enemyはまだ大量に残っている……」

 

 眼前の敵が攻撃態勢に入る。

 私の命はもう風前の灯。どうしようもない。

 

「いいでしょう……私の命はくれてやりマス…………でも!!」

 

 正真正銘、最後の力を振り絞って前に出る。

 これこそが、今の私が出来る唯一の事。

 

「タダではくれてやらないワ!! 一匹でも多く、お前達を道連れにしてやる!!!」

 

 敵の砲撃が開始される。

 なんとか避けようと試みるが、今の体では無駄な足掻きに等しく、肉体だけでなく艤装にも直撃していく。

 けど、これでいい。これでいいのだ。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 最後の瞬間、私が思ったのは愛するあの人の事だった。

 

「I love you……My Admiral……」

 

 そして、私の意識は永遠に消えた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 いつもはけたたましい音で私を強制的に起床させる目覚ましが、今朝に限っては大人しかった。

 目を擦りながら体を起こして目覚ましを確認すると、まだ6時30分だった。

 起床予定時刻よりも一時間以上早い。

 

「また……あの『夢』を……」

 

 この『体』に刻み込まれた『本物(オリジナル)』の記憶。

 私達四姉妹は時折ソレを夢と言う形で見る事がある。

 

 そもそも、私達は普通の転生者たちとは少し事情が違うのだ。

 魂は前世のままだが、この体はまた別の世界から転生してきたもの。

 魂と体がそれぞれ別個に転生し、それが神の手によって一つに融合されたのだ。

 俗に言う『憑依転生』に近いのだと思う。

 

 それ自体は別にどうでもいいのだが、問題は体の方にまだ『前世の記憶』が染み着いている事。

 これが中々に精神に堪える。

 特に今日の夢はこれまでで一・二を争うレベルで胸糞が悪かった。

 血なまぐさい争いには慣れっこだが、没する寸前の記憶はかなりくるものがある。

 

 なんて事を読者に向けて心の中で説明しながら、私はベッドから抜け出した。

 私達の寮での部屋は、自分達の使える特権をフルに利用しての一人部屋となっている。

 誰かと一緒の相部屋でも悪くは無いのだが、それでは好きな時に好きな相手と部屋で色んな事が出来なくなる。

 それだけは絶対に嫌なので、こうして完全なプライベート空間を作って貰ったわけだ。

 

「…………起きよう」

 

 完全に目が覚めてしまった。

 いつもならまだ夢の世界にいる頃だが、もう眠気は完全に無くなった。

 時間まで何をしようか考えたけど、何にも思いつかない。

 

「外の空気でも吸ってくるネ……」

 

 そうすれば少しは気分が和らぐかもしれない。

 そう思って、私は寝巻(【ソフト&ウェット】と書かれたジャージ)を着たまま、部屋を後にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 二年生の寮の廊下を歩きながら、昨日の事を思い出していた。

 確か、昼食時にセシリアと会った後、放課後にでも少し一年生の教室に主要人物達の顔でも覗きに行こうと思ったけど、よくよく考えたら、まだこの時期はこれと言った目立った動きは無かったと思い返し、そのまま私達が所属している部に顔を出して、そのまま寮に戻ったんだっけ。

 

「静かですネ……」

 

 いつもは無駄に騒がしい寮の中も、早朝ともなれば嫌でも静かになる。

 平日のこの時間帯に起きている生徒など殆どいないだろう。

 時折、熱心な子達が早朝トレーニングと称して朝早くに起きて体を動かしているようだが、詳しい事は知らない。

 

 頭の中を空っぽにしながら寮の入り口をくぐって思い切り背を伸ばしていると、そこに意外な人物がやって来た。

 

「ん? 金剛か?」

「織斑先生……」

「今ぐらいは別に名前呼びで構わんぞ」

 

 私と同様にジャージを着て汗を掻いている千冬さんが、タオルで自分の顔を拭きながらこちらを見ていた。

 

「trainingですカ?」

「まぁな。まだまだ小娘共には負けてられんしな」

 

 何を言うかと思えば。現役引退をしたと言っても、その実力は未だに最強クラスだろうに。

 ま、私達四姉妹には到底敵わないけど。

 

「なんだか顔色が悪いように見えるが、どうかしたのか?」

「ちょっと……夢見が悪くて」

「そうか……」

 

 こんな話を聞かされても、あまり深くまで踏み込んでこない。

 私はそんな彼女の事を地味に尊敬していた。

 

「まだ時間はあるな……少し話すか」

「ハイ……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 寮内にある自販機が置いてある一角。

 そこは幾つかのベンチが備え付けられている、一種の休憩スペースとなっていた。

 

「ほら、コーヒーだ。暖かくなってきているとは言え、まだ朝は冷える」

「Thank you……」

 

 紙コップなので熱く感じたが、これぐらいならば全然平気だ。

 猫舌でもないので、このまま飲んでも問題無し。

 

「夢見が悪かったと言っていたが、前にも聞いた『前世』の夢か?」

「yes……」

 

 この夢を見たのは今日が初めてじゃない。

 前にも何回かあって、その時も今日のように気分が優れなかった。

 そんな時に今回のように千冬さんと遭遇し、今みたいな話をした。

 普通なら一笑に伏すような話を真剣に聞いてくれたことで、かなり救われた覚えがある。

 教師に向いてないと散々自分で言っているが、女性としては普通に尊敬できる。

 その生まれがどんな風であろうとも。

 

「あまり気にするな……と言いたいが、そんなのは気休めだな」

「そうでもないですヨ? 言ってもらえるだけでも随分と違いマス」

「そうか」

 

 気休めでも、あるのとないとじゃ大違いだ。

 

「そうそう。聞きましたヨ? 来週の月曜日に千冬さんのCLASSで試合をするそうですネ?」

「そうなんだ……はぁ……」

 

 内容を知っているだけに、普通以上に同情してしまう。

 この人も苦労をしているな~。

 

「セシリアから聞きましたけど、例の男の子が試合をするとか? 確か千冬さんのbrotherでしたっけ?」

「あぁ。世間知らずの馬鹿な奴でな。オルコットともそれが原因で試合に発展したようなもんだ」

「セシリアは何か変な事は言ってませんでしたカ? 例えば、Japanを貶めるような事や女尊男卑を助長するような事は……」

「いや、それは無かったな。言い方はアレだったが、オルコットの言っていた事は正論だった。主に一夏の至らない所を指摘していたしな」

 

 どうやら、私達が危惧しているような事は起きなかったようだ。

 イギリスで矯正した甲斐があったと言うものだな。

 

「アイツをISに関わらせないようにしていたことが、ここでこんな形で響いてくるとは思わなかったよ……。そうでなくても、一夏は世間知らずな所があるし……」

 

 私の相談の筈が、いつの間にか千冬さんの愚痴を聞くことになってない?

 別に私は気にしないけどネ。

 

「ん? 金剛……いつの間にか顔色がよくなったな」

「え?」

 

 言われてみれば。

 さっきまでの気分の悪さが完全にどこかに行っている。

 千冬さんとこうして話をしたのがよかったんだろうか?

 

「その様子なら、もう大丈夫そうだな」

「そうですネ。Thank you 千冬さん♡」

「……………」

 

 あ……あれ? 普通に礼を言っただけなのに、どうして後ろを向く?

 

「What,s wrong? どうしたんですカ?」

「金剛……その笑顔は反則だ……。可愛すぎて、自制しなければ本気でキスしてしまいそうだったぞ……!」

「フフフ……♡ 私ならいつでもOKですヨ? ち・ふ・ゆ・さ・ん♡」

「その言葉……後悔するなよ?」

 

 これは来るなと判断して、急いでコーヒーを飲み干して、空になったカップをゴミ箱に投げる。

 カップが入ったと同時に、千冬さんが私の顔を掴んでキスしてきた。

 

「んん……」

「んちゅ……」

 

 私と彼女がこんな関係になったのは、私がまだ一年生だった頃。

 当時、私達のクラスの担任だった、原作でも重要人物の一人である千冬さんと少しでも交友を持って、いざという時に備えようと思って色々と手伝ったりして話す機会を多く設けてきた。

 姉妹全員で手伝っていたのだが、私が手伝う頻度が不思議と多くなって、気が付いた時にはプライベートでもよく話すようになり、あの頃もよく酒の勢いでよく愚痴を聞かされてきたもんだ。

 私の事を好きだと言ってきた時も、酒に酔っていた時だった。

 その時は完全予想外の事に本気で頭が真っ白になったが、すぐに望外の幸運と捉え、彼女の気持ちに応える事にした。

 勿論、私が楯無を初めとした数々の女子とも関係を持っている事も承知していて、大人の懐の深さで軽く了承してくれた。

 その次の日の朝に完全に酔いが醒めて、顔を真っ赤に染めていたが、告白した事だけはちゃんと記憶していたらしく、改めて告白された。

 それから私達は、人気が無い所などでよくキスをしたり、夜にはどっちかの部屋でセックスをしたりした。

 勿論、リードするのは私。

 

(セックスと言えば、比叡もセシリアと寝たのかな……?)

 

 昨夜、セシリアが比叡の部屋に入っていくのを見たから、久方振りにベッドの上で仲良くしていたに違いない。

 

「朝一番のキスというのも悪くは無いな……」

「そうですネ……」

 

 今度は私から唇を寄せる。

 舌を絡ませ、手は恋人繋ぎ。

 涎が零れてもお構いなし。

 只管にキスに夢中になっていた。

 

「こうしていると、なんだか昂ぶってくるな」

「気持ちは分かりますけど、今は流石にダメですヨ? するなら夜デ~ス」

「分かっているさ。今日一日頑張って、夜にお前からご褒美を頂くとしよう」

 

 この体の熱を少しでも逃がすために、私達は三度キスをした。

 結局、生徒達が起き始めるまで、ずっと唇を重ねていた私達だった。

 




そんな訳で、金剛のヒロインその2の千冬でした。

もう一人の教師枠の山田先生もヒロインですが、金剛の相手ではありません。

前にも言った通り、眼鏡は眼鏡同士でイチャイチャして貰う予定です。


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金剛 部活に行く

今回は金剛が未攻略ヒロインに会いに行きます。

誰かは……言わずとも分かりますよね?






 前にも言ったと思うが、IS学園の寮は学年ごとに分かれており、それぞれの寮にも食堂が一か所ずつ完備されている豪華仕様だ。

 私は『一年どもの様子を見に行く』と言った千冬さんと別れて、部屋に一旦戻って制服に着替えてから食堂に向かった。

 妹達はもう食堂に行っているようで、行く途中で会う事はなかった。

 確かに私達は仲睦まじい四姉妹だが、いつでもどこでも一緒にいるというわけじゃない。

 姉妹だからこそ、それぞれのプライベートは尊重しあっている。

 

「あ! 金剛さんよ!」

「おはよう、金剛さん」

「Good morning! 今日もいい天気ネ~!」

 

 もう完全にテンプレと化した挨拶を道行く同級生と交わす。

 軽く手を振るだけでワーキャーと騒ぐ彼女達を見ると、どうして朝からこんなにも元気なんだろうと疑問に感じてしまう。

 精神年齢が完全にオッサンだからだろうか。

 

 軽い足取りで食堂に入り、そのまま食券を購入。列に並ぶことに。

 今日の朝食はフレンチトーストとレモンティーのセット。

 榛名の淹れてくれる紅茶も絶品だが、この食堂の紅茶も中々に侮れない。

 

「あいよ。おまちどうさま」

「Thank youネ~」

 

 注文の品を受け取ってから食堂を見渡すと、すぐに妹達を発見した。

 隣には目立つ水色の髪の少女がいた。あれは間違いなく楯無だ。

 

「Good morning! ここいいですカ?」

「「「金剛お姉さま! おはようございます!」」」

「金剛ちゃん。おはよう」

 

 妹達はともかく、楯無は家の方で色々と忙しかったはずだけど、疲れた様子が無い。

 私達程ではないけど、彼女も彼女で結構タフだ。

 

「あら? 金剛ちゃん……ちょっと元気無い?」

「楯無さんも気が付いたんですね。榛名も一目見てそう思いました!」

「私も! 私も!」

「ふっ……。幾ら金剛お姉さまとは言え、私の目は誤魔化せませんよ?」

「どうやら、そうみたいですネ……」

 

 妹達だけでなく、楯無にもバレているとは。

 いやはや、隠し事は出来ないもんだ。

 

「実は……また見ちゃったんですヨネ……」

「見たって……まさか」

「アレ……ですか?」

「Yes……」

 

 妹達も私と同じ境遇が故に、『体の記憶』を夢と言う形でよく見ている。

 だけど、今回見たのは私だけみたい。

 

「どうして今更……。最近は全く見なくなっていたのに……」

「恐らくですケド、(原作に)入ったからでしょうネ……」

 

 真の意味で物語が始まった事で、私達にも何らかの影響が出ているのかもしれない。

 あくまで可能性の話だが。

 

「でも、心配は無用デ~ス! 悪夢程度でどうにかなる程、心も体も軟な鍛え方はしていまセ~ン!」

「そうですよね。あの金剛お姉さまが夢如きに屈するなんて有り得ません!」

「比叡の言う通りです」

「私達の心配は杞憂だったようね」

 

 私が大丈夫なように、この子達もきっと大丈夫であると私は信じている。

 何故なら、共に無数の苦難を乗り越えてきた掛け替えのない同志なのだから。

 

「なんだか分かんないけど、何か嫌な夢でも見たの?」

「そんなところデス。でも、もう大丈夫デス。妹達と楯無の顔を見て元気が出ましたし、さっきは千冬さんとも会いましたしネ」

「え? 織斑先生と?」

「えぇ。すっかり励まされたネ~」

「どんな風に励まされたかは……聞かない方が良さそうね」

「別に聞いてもいいですヨ? さっきまでずっとキスしてただけだシ」

「なっ!?」

 

 ここで楯無の顔が真っ赤に沸騰。

 少し声量を抑えていたので、周囲の生徒には聞こえていないかったみたい。

 

「流石は金剛お姉さま……朝からお盛んですね」

「いや、キスから先はしてませんからネ?」

「でも、続きはするんでしょう?」

「Of course! 夜にすると約束したネ~!」

「あらら」

 

 今度は頭から湯気が出始めた楯無。

 普段は大人ぶっているくせに、根っこの部分は純情少女なのよね~。

 だからこそ、一緒にいて楽しいんだけど。

 

「よかったら楯無もご一緒しますカ? 偶には3Pも悪くないネ~」

「えええええええええっ!?」

 

 もう何回もセックスしたのに、この乙女な部分はどうにかならんもんか。

 これで原作では水着エプロンとかしてるんだから、意味が分からない。

 

「わ……私はその……ゴニョゴニョ……」

「金剛お姉さま。楯無さん、完全にキャパオーバーしてます」

「榛名の言う通りみたいネ。どうやら、Overheatしちゃってるみたいね」

「後で虚さんでも呼んでおきましょうか」

「それが良さそうネ~」

 

 全く……こんな可愛い顔を見せられたら、普通に夢の事なんて忘れてしまう。

 今日は楯無の初心さに感謝ネ。

 

 それと一応言っておくけど、こうして話しながらも器用に食事はこなしていマ~ス。

 そこら辺は抜かりがないのが金剛四姉妹ネ~。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 昼食時になにやら食堂で一悶着あったみたいだけど、今日の昼食は姉妹揃って中庭のベンチで優雅にクロワッサンを初めとしたパンを食べながらのティータイムだったので、全く知りまセ~ン!

 どうせ原作と同様に上級生が織斑一夏に迫って、それを篠ノ之箒が追い払ったって感じでしょうケド。

 

 午後の授業が終わり、放課後になった。

 私達姉妹はそれぞれが所属している部活をする為に部室棟へと向かうが、私だけは違う方向へと足を向けた。

 私の部の活動場所は部室棟がある場所から少し離れているから。

 

「どうしてここまで弱くなっている!」

 

 おやおや? なにやら剣道場から大きな声が聞こえてきた。

 なんて、声の主はもう知っている。

 剣道場に大勢の女子生徒が群がっているのが、私の予想が当たっている事を示している。

 

「皆サ~ン。どうしましたカ~?」

「こ……金剛お姉さまっ!?」

「えっ!? どこどこっ!?」

 

 Ou……あっという間に見つかってしまったネ~。

 

「えっと……道場で織斑君と篠ノ之さんが試合をしてたんですけど……」

「Ah~……もう大体分かりましたネ~」

 

 そういや、二日目だったっけ。

 あの二人が剣道場で揉め事を起こすのは。

 

「ちょっと失礼~」

 

 人込みを丁寧に掻き分けながら進み、道場に入る。

 

「Hey Hey! そこのBoy&Girl! どうしましタ~?」

「あ……」

「こいつは……!」

 

 早速の先制攻撃。

 篠ノ之箒から睨みつけるを喰らったネ~。

 

「どうして貴女がここにいるのですか?」

「そりゃいるでしょ。だって、金剛さんは剣道部の部長をしてるんだもの」

「な……なにっ!?」

 

 HAHAHA~! 原作ヒロインの驚いた表情を見れて満足ネ~!

 そこにいる剣道部の子が言った通り、私こそがこの剣道部の部長なのデ~ス!

 

「こ……この人は二年の筈だ! なのになんで部長なんだ……」

「それは単純だよ。金剛さんがこの中で一番強いから」

「強い……だと?」

「お……おい? 箒?」

(この似非外国人のような喋り方をする女が、この部で最強だというのか? 馬鹿馬鹿しい。こんな女に部長が務まるのなら、IS学園の剣道部もたかが知れているな)

 

 な~んて思ってるんだろうな~。

 思っている事が顔に出過ぎて、一瞬で理解出来た。

 

「今……私とこの部の事を馬鹿にしましたネ?」

「なっ……!(心を読まれたっ!?)」

 

 ……この子はpokerfaceと言う言葉を知っているのカシラ……?

 

「まぁ、初対面の人間の実力を疑うのも無理はありまセン。それなら、今からアナタと私とで戦ってみますカ?」

「いいだろう……! IS学園の剣道部の実力、見極めさせて貰う!」

「ちょ……止めとけって箒! 仮にも先輩なんだぞ!」

「お前は黙っていろ!」

 

 Wow……一蹴したし。

 完全に立場を無くした織斑一夏がちょっとだけ哀れに感じた。

 

「それじゃあ……」

 

 ここで本気を出すのは大人げないから、ちょっとした趣向をしようと思う。

 竹刀が置いてある場所でなくて、木刀が立てかけられている場所に向かって、二本の木刀を手に取ってから、その内の一本を彼女に向かって投げた。

 

「っと……。これは……」

「防具をつけての試合も悪くはないけど、私はこっちの方が好みなのよネ」

「フン! 私に木刀を持たせるとは、いい度胸だ」

 

 私の意図を読んでくれたようで、篠ノ之箒はその場で防具を脱ぎ去って道着姿になった。

 

「あの……金剛さん。その赤いテープが巻いてある木刀って……」

「ウフフ……♡ 血気盛んな新入生には丁度いいhandicapよ」

 

 軽く木刀を振って具合を確かめる。

 うん。悪くない。

 

「道着には着替えないのか?」

「そんなもの着なくても、何も支障はないでショウ? それよりも、いつでも掛かってきていいですヨ? C,mon~」

「ならば……お言葉に甘えさせてもらうぞ!」

 

 真っ直ぐに向かってくる彼女を見据えながら、だらんと木刀を持った手を下に下げる。

 

「舐めているのか! 貴様!!」

「舐める……ねぇ……」

 

 眼も剣筋も、その性格を表すかのように真っ直ぐ。

 でも、それじゃあ私は倒せない。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

 

 両手持ちからの真っ向唐竹割り。

 それを私は軽くガード。

 

「な……んだと……! ビクともしない……!」

「ホラホラ。これでfinishですカ?」

「いいやまだだ!」

 

 次々と繰り出される鋭い剣。

 斬り上げに薙ぎ払い、連続突きに渾身の力を込めた一撃。

 そのいずれもが、私の前では無力だった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。どうして一発も打ち込めない……!」

「もうマジで止めろって! 長い間剣道から離れてた俺でも分かるぐらい、その……金剛さんって人と箒の実力差は開いてるぞ!」

「五月蠅い! 今のお前に何が分かる!!」

「分かるさ! だって金剛さん、いや先輩か。兎に角、さっきからその人、その場から一歩も動かないで(・・・・・・・・・・・・・)左手一本だけで戦ってたんだぞ(・・・・・・・・・・・・・・)!」

「なん……だって……?」

 

 なんと……。まさか、私のhandicapを一目で見破るとは。

 成る程、その観察眼だけは原作通りのようね。

 

「ほ……本当……なのか……?」

「バレたのなら仕方がありまセ~ン。確かに私は、この場から全く動かないで、利き腕じゃない方での腕でやってましタ」

「そんな……」

 

 剣道の全国大会で優勝をしたとは聞いていたけど、その程度で調子に乗られては困る。

 世の中には、想像を絶するような強者が腐るほどひしめいているんだから。

 

「ついでに言うと、もう一つハンデはあったわよね? 金剛さん」

「そうネ。そこのえ~っと……織斑くん? ちょっとこっちに来てくれますカ?」

「は……はい」

 

 年上の先輩のご指名を受けて、ちょっと緊張気味?

 なんか顔が赤いですよ?

 

「コレ、持ってくれマス?」

「分かりまし……ぬわぁっ!?」

 

 私の木刀を持った途端、彼は床に倒れ込んだ。

 

「ちょ……この木刀……マジで何キロあるんだよ……! 全然持てなかった……」

「200㎏ちょいだった……カナ?」

「「ハァッ!?」」

 

 木刀を落とす直後に手を放したお蔭で大事には至らなかった様子。

 こんな事で怪我でもされたら、流石に悪い気がする。

 

「この木刀は私がtrainingをする為に作って貰った特注品で、いつもこれで練習をしてるんデスよ?」

「じょ……冗談だろ? 200キロを片手でって……」

「一応言っておくと、織斑先生もこれと全く同じ木刀で自主練を行ってマス」

「千冬姉もっ!?」

「私がコレの事を話すと、自分も欲しいと言ってきたので、もう一本注文しましタ」

「なにやってんだよ……」

 

 弟としては、姉がこんなとんでも木刀を所持しているのは複雑なんだろうな。

 私の妹達も、私がこれを購入した事を話すと同じような顔をしていたし。

 特に楯無の顔が凄かった。あの顔は一生忘れないだろう。

 

「私の……私の剣が……どうして……」

 

 あらら。どうやら少しやり過ぎてしまった様子。

 床に膝をついて、呆然自失になっていた。

 これは、アフターケアが必要かもしれない。

 

 

 

 

 

 




意外! まさかの二話構成!

私の小説あるあるの、書いていく内にいつの間にか想像以上に長くなっているの巻。

今回は接触編。

次回、箒攻略の第一歩?


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箒 堕ちかける

前回の続きで、金剛と箒のお話になります。

今回で少し箒が柔らかくなるかも?








 原作ヒロインとの出会いと言う事で、少しばかり調子に乗り過ぎてしまったのか、想像以上に篠ノ之箒の事を落ち込ませてしまった。

 まさか、彼女の精神がここまで紙装甲だとは予想出来なかった。

 

「え……えっと……大丈夫……デスか?」

「………………」

 

 反応無し。

 心なしか青い筋が見えて『ズ~ン』と言う効果音も聞こえてくる。

 

「ほ……箒?」

 

 織斑一夏もどうすればいいのか戸惑っている様子。

 私だって同じ立場なら多少は動揺する。僅かな間だけだけどね。

 

「先輩は……」

「ん?」

「小西先輩は……どうして、それ程までに強いのですか……?」

「どうしてと言われても~……」

 

 なんて答えればいいのかしラ?

 転生特典? それは流石に違う。

 私達の実力は特典だけに偏ったものじゃないから。

 それじゃあ……。

 

「Experience……経験かしらネ」

「経験?」

「えぇ。無数の実戦をこなしてきたからこそ、今の私達があると思いマス」

「それは……沢山試合をしてきたという事ですか?」

「Nonon。『剣道』を始めたのはIS学園に入ってからヨ?」

「え? でも、実戦をこなしたって……」

「私は一言も『剣道の実戦』なんて言ってないケド?」

「では……先輩が仰る『実戦』とは……」

「勿論、ルール無用の喧嘩。当時の私は剣なんて握ったことは一度も無かったけど、ふとした事が切っ掛けになって木刀で戦う事があったノ。それが始まりだったカナ……」

 

 男子ならば無手でなければ『シャバ僧』と呼ばれて卑怯者呼ばわりされていたが、生憎と今の私は立派な女。

 武器を使ったところで馬鹿な連中は『それがどうした』と言って突っ込んでくる。

 偶然にも相手が落とした木刀を拾って戦い、いつしかそれが癖になっていった。

 それからだ。私が『剣術』に興味を持ったのは。

 

「一つだけ言っておくと、まだまだこの国には『真の強者』と呼ばれるに相応しい連中がゴロゴロいるワ。それこそ、私達四姉妹が本気で戦わないといけない程の相手が」

「そ……そのような者達が存在しているんですか……?」

「Of course。しかも、その大半が現役の男子高校生ばかりヨ」

「わ……私と同年代の者達がっ!?」

「中には、とある不良高にて一年生であるにも拘らず、全校生徒を叩きのめして番長に戦いを挑み、見事勝利を飾って後を託されたような漢もいるのヨ」

「い……一年生の身で番長に学校の看板を託される……!?」

「今では彼、惚れた女を追ってアメリカに渡って、その強さに更なる磨きをかけていると聞いていマス」

「先輩と同等の強さを持ちながらも、更に強くなろうとしているのか……!」

 

 今頃は何をしているのやら。

 もうそろそろ帰国してきてもおかしくないんだけどな~。

 

「私は……なんて情けないんだ……」

「箒……」

「剣道の全国大会で優勝した事で、私はどこか慢心していたのかもしれない……。しかし、それでは昔と全く変わらない。力に溺れているだけじゃないか……」

 

 その自覚があるだけ、彼女は随分とマシなんだけどね。

 世の中には、自分が力に使われているっていう自覚も無い馬鹿が多くいるから。

 

「どうやら私は『井の中の蛙大海を知らず』だったようだ。このような体たらくでは、篠ノ之流の名が泣くな……」

 

 袖で涙を拭って立ち上がった彼女の姿はとてもスッキリしていて、先程までイラついていた彼女とは別人のようだった。

 私から見ても惚れ惚れするようないい笑顔だ。

 これは……損得抜きで本気で欲しくなってしまうわネ。

 

「小西先輩……いえ、金剛部長! 私をどうか、この剣道部に入部させてください! そして、この未熟で身の程知らずな私に『剣術』を教えてください! お願いします!」

 

 O……Ou……たった数分で様変わりしすぎじゃない?

 セシリアである程度は分かっているつもりだったけど、原作ヒロインは想像以上にチョロインだったみたい。

 他人の言葉に影響受け過ぎでしょ。

 別の意味で将来が心配なってきたんだけど。

 

「いいでしょう、篠ノ之箒サン。貴女の入部を認めます。後で職員室に行って入部届を書いて私の元まで持ってきてくださいネ。恐らく、貴女の担任である織斑先生に言えば快く渡してくれる筈デス」

「はい! わかりました!」

「ただし、他の事にかまけて幽霊部員にならないように気を付けてネ? ちゃんとした理由があって休むのは認めますが、意味も無く部活に来ないのはダメダメだからネ? そんな事をしたら、すぐに退部させますカラ」

「そのような事が無いように、肝に銘じます!」

 

 原作では男の尻を追いかけて部活には殆ど顔を出していなかったけど、ここでは私が見ていれば大丈夫だろう。

 う~ん……私も地味にワクワクしちゃってマ~ス。

 

「大丈夫。貴女も私もまだまだこれからなんでスから、きっと今以上に心身共に強くなれるワ」

「金剛部長……先程は生意気な発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「別に気にしてないわヨ。あんな風な言葉遣いを使われる事なんて、今に始まった事じゃないシ」

「部長は、私等が想像出来ない程の修羅場を潜ってこられてきたのですね……」

 

 そりゃね。各校同士の戦争なんて、ここにいる皆じゃ想像も出来ないような規模で起きてるからネ。

 一見すると不良同士の喧嘩に見えるけど、あれにはちゃんと『守る側』と『攻める側』がハッキリと別れている。

 私達は殆どが『守る側』だったけど。

 

「そういう訳だから、お前の特訓には付き合えそうにない。今の未熟な私では、お前に剣を教える資格は無い……。私はまだ『教わる側』であると言う事を完全に忘れていた。すまない」

「い……いや。俺は別に気にしてねぇよ。なんつーか、俺も凄いものを見れて普通に驚いてるし……」

 

 篠ノ之箒……いや、ここは敢えて箒と呼ばせて貰おう。

 彼女がここで織斑一夏に剣道をさせなくても、結果は大して変わらないと思う。

 何故なら、対戦相手のセシリアが大幅に変わっているから。

 でも、ここで何もせずに放り出すのは後味が悪いから、少しだけアドバイスでも送っておこうか。

 

「織斑一夏クン」

「あ……はい」

「君は確か、来週の月曜にセシリアと試合をするそうですネ?」

「一応、そういうことになってますけど……」

「それなら、私から細やかながらAdviceを授けマ~ス」

「いいんですか? 食堂で見ましたけど、オルコットさんと仲がいいんじゃ……」

「それはそれ。これはこれ。困っている後輩に助け船を出す事ぐらいの甲斐性はあるつもりヨ?」

 

 それで試合に勝てるかどうかは、また別問題だけどね。

 

「まず、君は昔にSports……剣道をしていた事があるでショ?」

「なんでそれを……」

「さっき、チラっと二人の試合を見たからネ」

「でも、金剛さんが来たのって試合が終わる直前じゃなかったっけ?」

「なんと……! 僅か数秒、一夏の動きを見ただけで看破してしまうとは……」

 

 嘘です。本当は原作を読んで知ってました。

 でもでも罪悪感なんて微塵もありまセ~ン!

 

「確かに剣道はしてましたけど、小学四年生の時に箒が転校してからこっち、竹刀も握ってませんでした」

「成る程。箒がしようとしていた昔の勘を取り戻すのはいいケド、それは長いスパンでやるべきだと思うワ。それは何故か……箒になら分かるんじゃナイ?」

「剣道に限らず、アスリートは概ね、一日の遅れを取り戻すには二日掛かると言われているから……ですね?」

「Correct answer! 正解デ~ス!」

 

 それを知っていながら剣道を無理矢理やらせようとしていたとは……。

 恋は盲目とよく言うけど、度が過ぎやしないかい?

 

「だから、今は剣の腕よりも肉体を作る事を重視した方がいいと思うワ。腹筋、背筋、スクワットに軽いランニング。どれでもいいから、まずは少しでも筋肉をつけることから始めなサイ。色々とするのはそれからでも遅くは無いでショ?」

「でも、ISの練習とかは……」

「今の君はそれ以前の問題。それに、この時期はまだ訓練用のISもArenaも使えないって入学式で言わなかった?」

「そういや、そんな事を言っていたような気が……」

「だ・か・ら。無い物強請りをする暇があるのなら、今の自分に出来る事を精一杯やりなサイ。当然だけど、勉強も忘れずにネ?」

「は……はい。(か……可愛かった……)」

 

 ちょっと固くなり始めた空気を緩和する為にウィンクをしてみたけど、それ程の効果は無かったみたい。

 目の前の男子と箒の顔が赤くなってる程度で、ウチの部員はいつもの事のように受け流している。

 

「取り敢えず、今日はもう休んだ方がいいワ。入学してまだ二日目で疲れてるだろうし、体を休める事も立派なTrainingヨ」

「そう……ですね。いつまでもここにいたんじゃ先輩達の迷惑だろうし、もう引き上げさせて貰います。その……箒の事、よろしくお願いします」

「任せておいてくだサ~イ! なんだったら、君も入部しますカ?」

「お……俺も? あはは……考えておきます。それじゃ、失礼しました」

 

 アララ。慌てるように走り去って行っちゃった。

 彼……まだ道着から着替えてなかったわよネ?

 あれ……どうするのかしラ?

 

「あの……私はどうしたら?」

「箒も戻っても構わないわヨ? 入部届は明日にでも持ってきてくれれば問題Nothingだかラ」

「よ……よろしいんですか?」

「休む事も大切……さっきそう言ったばかりデショ?」

「そうでした……。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 丁寧なお辞儀と共に箒は剣道場の更衣室へと歩いて行った。

 

「金剛さん……あの子、狙ってるでしょ?」

「はて? 何の事かさっぱりワカリマセ~ン!」

「誤魔化してもダ~メ! 気が付いてないかもだけど、さっきからアナタの目、捕食者モードになってたわよ」

「Ou……ウチの副部長の目は誤魔化せないわネ」

「当然じゃない。もう一年以上の付き合いなのよ? 嫌でも分かるわよ」

「アナタ……少しずつウチの妹達に似てきたわネ……」

 

 年単位で顔を合わせ続ければ、少しの感情の機微も理解されてしまうか。

 嬉しいような、情けないような。

 

「もう今更の事だから、他の子を狙うなとは言わないけどさ……私の事も忘れないでよね……」

「そんな寂しい声を出さなくても、忘れたりなんかしないわヨ」

「だったら、証明して」

「どうやって?」

「行動で」

「フフ……了解♡」

 

 副部長の顎を少し上げてから、ゆっくりとキス。

 先程まで織斑一夏を見ようと集まっていた新入生の女子達がまだいるけど、構わずにキスを続ける。

 本物の百合を見て興奮しているのか、さっきからキャーキャーと五月蠅い。

 折角のいい雰囲気が台無しだ。

 

 その後、更衣室から出てきた箒が私と副部長がキスをしている姿を見て、他の女子達以上に顔を真っ赤にして固まっていた。

 彼女の視線が私達の唇に向けられていたのを、私は見逃さなかった。

 

 次の日の朝から、織斑一夏が自前のジャージを着てグラウンドで密かに走り込みをしているのを目撃した。

 色々と叩かれる事が多い彼だが、ちゃんと誰かが方向修正してやれば何の問題も無いと思うのは私だけだろうか?

 

 箒の方は放課後にちゃんと入部届を持ってきてくれて、私の方で受理しておいた。

 その際、こっちの顔を見て、またもや瞬間沸騰していた。

 粗削りな初心少女……いいわネ……。

 

 




金剛×箒の第一弾でした。

まだ箒の方は完全に堕ちてはいませんが、それも時間の問題。

学年が違っても、部活が同じならばいかようにでも堕とせますから。


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セシリア ボコる

原作通り、一気に飛ばして最初の戦闘シーンです。

少し一夏はアンチ気味になりますが、ちゃんと救済してから物語に絡ませていきますのでご安心を。

どうもアンチ方向に持っていこうとすると変になっちゃうんですよね……。

頭の中じゃちゃんと物語が成り立ってるのに……。






 なんやかんやあって、あっという間に次の週に突入。

 セシリアと織斑一夏との試合の日がやって来た。

 原作では、この試合の後にセシリアが彼に惚れるのだが、元男の私から見ても惚れる要素が皆無だと思う。

 あれは間違いなく主人公補正が働いてるな。間違いない。

 その『正体』を知っているから猶の事そう思う。

 

 そんな訳で、私達四姉妹は試合が行われる第三アリーナに向かっていた。

 

「金剛お姉さま。今回の試合、どう思いますか」

「どう……とは?」

「試合の行く末です」

「私が言わなくても分かっているでショウ?」

「そうですね。今のセシリアは原作(あっち)とは違って、私達の手によってかなり鍛えられてますから。勝利は確定事項でしょうけど、かなり圧倒するんじゃないかと」

 

 少なくとも、私達が知っている彼女は、相手が素人とは言え油断なんてするような子じゃない。

 兎を狩るのにも全力を尽くす獅子だ。

 

「一応、彼にも金剛お姉さまがアドバイスをしたんですよね?」

「軽くだけどネ」

「それだけでも十分だと思います。金剛お姉さまから直々にお言葉を頂けたんですから」

 

 なんて事を話していたら、もうアリーナの入り口に到着した。

 

「さて、どうしましょうか?」

「それでは、私と霧島がAピットに向かって、比叡と榛名がBピットに行くとしましょうカ」

「Aには織斑君が、Bにはセシリアが待機していましたよね?」

「その通り。四人でゾロゾロと行ってもアレだから、ここは二手に分かれましょう。それに、セシリアも比叡が応援に来てくれた方が喜ぶでしょうシ」

「え? たはは……」

 

 比叡、思いっきり顔に書いてありましたヨ?

 姉の目を誤魔化せるとは思わない事ネ。

 

 確か、Aピットには彼以外にも色々といたわよネ?

 私達と彼女達の関係を知って、彼はどんな反応をするかしラ?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ピットに入っていくと、なにやら話している姿が見えた。

 原作通りの会話でもしているのだろうか?

 

「ハ~イ! ちょっと様子を見に来ましタ~!」

「あ……金剛先輩」

「金剛部長!」

「金剛か」

「金剛さん。それに霧島さんも……」

 

 織斑一夏は少し驚いた様子で、箒と千冬さんは嬉しそうに、緑色の髪のメガネ女教師の山田真耶先生は私よりも霧島の方を見ていた。

 それに関しては仕方がない事だけど。

 

 もう既に彼のISは届いて搭乗していたようで、少しだけ見上げる形になる。

 

「ふ~ん……これが君のISですカ……。幾ら特殊な立場とは言え、入学したての生徒に専用機を与えるとは、これはアレですネ? 貴重な男性操縦者の実戦データを少しでも取得する為の処置……と言ったところかしラ?」

「え? そうなのか?」

「前にちゃんとそう言った筈だが? そうでなければ、普通はこんな事は無い」

「そうだったけ……」

「お前と言う奴は……」

 

 これは……健忘症?

 それとも天然なのか?

 

「ところで、なんで山田先生はお疲れなんですか?」

「少しでも早くISが届いた事を知らせようと思って走ってきちゃって……」

「相変わらず、慌てると冷静じゃなくなる人ですね。ほら、これでよかったらどうぞ。さっき私が買ったお茶ですけど」

「こ……これ、霧島さんが飲んだんですか?」

「そうですけど?」

「そ……それってつまり、間接キス……? でも、今更感はあるし……」

 

 この眼鏡っ子コンビも私と千冬さんのような関係にある。

 どうも昔から霧島は自分と同じように眼鏡を掛けた子にばかりモテる。

 これが眼鏡パワーなのか……!

 

「それで、この機体の名前は何と?」

「白式って言うらしいです」

「ふ~ん……」

 

 そこら辺は変化なし……と。

 流石に専用機が変わるような事は無かったか。

 でも、そうなると必然的に彼女は……。

 

(いずれは接触するつもりではいるけど、ファーストコンタクトは霧島に任せた方が無難かもしれないかな……)

 

 眼鏡っ子には眼鏡っ子をぶつける。

 これはもはや常識!

 

「あの……金剛部長」

「ん? どうしましタ? 箒」

 

 箒が小声でこっそりと話しかけてきた。

 たった一週間で随分と懐いてくれたもんだ。

 これは普通に嬉しいな。

 

「今回の試合……一夏に勝ち目はあると思いますか?」

「箒だから包み隠さずに言うケド……絶対に負けるわネ」

「やっぱり、そう思いますか……」

「と言うと、箒も?」

「はい。相手は代表候補生。どれだけ奇跡が起きても善戦がやっとだと思います。勝つなんてとても……」

 

 それが至ってノーマルな考えだ。

 けど、彼はそれでも勝つつもりでいるんだよな~。

 それがどれだけ無謀な事とも知らずに。

 

「私としては、敗北をしてもそこから何かを学べれば十分だと思うんです」

「そうネ。『失敗は成功の母』と言う言葉もあるぐらいだかラ」

 

 今までどれだけ世間知らずで温室育ちだったのか、簡単に分かってしまうよな~。

 

「どうやら、向こうは既にスタンバっているみたいネ」

 

 ステージの様子を表示するモニターには、自身の専用機『ブルー・ティアーズ』を纏って滞空待機しているセシリアが映し出されていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 空中浮遊しながら、セシリアは精神を集中させていた。

 比叡と榛名から激励を貰って気合は十分。

 相手が格下の素人だからと言って油断はしない。

 少し前の彼女、もしくは原作のセシリアならば完全に舐めきっていたことだろう。

 だが、今の彼女にそれは無い。

 イギリスにいた頃、セシリアは金剛四姉妹によって心身共に徹底的に鍛え上げられたから。

 

(『勝利』に飢える獣にならなくては勝てる試合も勝てない。金剛お姉さまは私にそう仰ってくださいましたわね……)

 

 例え地を這い蹲っても、泥水を啜り石に齧り付いてでも勝利をもぎ取る。

 それまでの過程なんてどうでもいい。大切なのは結果だ。

 過程を大切にしたがるのは、勝利の美酒の味を知らない愚か者だけ。

 それが金剛姉妹の教えだった。

 

「……織斑先生。一つ聞いてもよろしいですか?」

『なんだ?』

「試合開始はお互いがアリーナに姿を現してから……でよろしいんですの?」

『いや、武器を構えてからにしようと考えている』

「承知しました」

 

 気になる事があったので通信で千冬に聞いたセシリア。

 疑問が氷解したことで再びコンセントレーションを高めていく。

 数秒後、一夏が届いた専用機に乗ってステージへと現れた。

 

「随分と時間が掛かりましたわね」

「この機体が来るのが遅れちまったんだよ。俺に文句を言われても困る」

「そうですか」

 

 別に一夏のISに興味なんて無い。

 相手がどんな機体でどんな方法で来るとしても、今の自分に出来る全ての能力を駆使して勝利を目指す。ただそれだけだ。

 

「では、さっさと武器を構えてくださらない? じゃないと試合が始められないようですから」

「わ……分かった」

 

 ぎこちない動きで武器を取り出そうと四苦八苦する一夏。

 その動作だけで彼が想像以上の素人だと判断できる。

 それは相対しているセシリアだけでなく、興味本位で試合を見学しに来ていた、観客席にいる無数の生徒達も同様だった。

 

 数秒後、彼が装備したのは一本の近接ブレード。

 それ以外には何も手にしていない。

 

「射撃兵装を装備している私を前に自分は近接装備。私の事を舐めているのか、もしくは、よっぽど自分の実力に自信があるのかしら?」

「ち……違うって! これしか武器が無かったんだよ!」

「そう」

 

 銃を構えた玄人と剣を構えた素人。

 誰が考えても勝敗は明らかだった。

 だがそれでも、このセシリア・オルコットに油断は無い。

 彼女の背には国と実家にいる者達、そして、比叡を初めとする尊敬する師達の想いがある。

 故に、今の彼女に精神的動揺によるミスは無いと思って頂こう。

 

「では……始めましょうか」

「こ……こい!」

 

 あくまでも心静かに。

 セシリアは装備しているエネルギーライフル『スターライトMk-Ⅲ』を片手で構えた。

 それを見てすぐに避けようと試みる一夏だが、彼の思うように白式は応えてくれない。

 それもその筈、今の白式はまだ初期状態。何の設定も済ませていないのだ。

 本来ならばちゃんとした準備をしてからの出撃になる予定だったが、予想以上にアリーナの使用可能時間が迫ってきていて、仕方なく試合をしながら設定をする羽目になったのだ。

 無論、今の白式がまだフルスペックではない事は瞬時に見抜いていたが、それで手を抜くような軟な鍛えられ方はされていない。

 

「はいそこ」

「なっ!?」

 

 セシリアから見て鈍重に見えた一夏の動きを簡単に見切り、彼の手をピンポイントで狙撃し、ブレードを弾き飛ばす。

 

「言っておきますけど、無手になったからと言って手加減なんてしませんから」

「だろうな!」

 

 ここでセシリアが動き出す。

 ライフルを撃ちながら距離を詰め、一夏がブレードを回収出来ないように身動きを封じる。

 

「これじゃあ動けねぇ!」

「射出」

「いっ!?」

 

 唯でさえレーザーの雨で動けないというのに、ここで更にセシリアの手数が増える。

 ティアーズ系列の機体の最大の特徴であるビット兵器。それが射出された。

 その名も『ブルー・ティアーズ』。本体と同じ名を冠したビットである。

 

「ちょ……ちょっと待っ……ぐぁぁぁぁぁっ!?」

 

 四方八方からレーザーが降り注ぎ、確実に白式のSEを削っていく。

 その間もセシリアは接近を止めず、遂には手で触れられる程まで近づかれた。

 普通なら、接近さえしてしまえばライフルなんて使い物にはならないと思うだろうが、セシリアは違った。

 彼女は迷わず長い銃身を一夏の腹部に突き刺す。

 

「ぐはぁっ!?」

「銃使いだからと言って、決して近接戦が不得手だとは限りませんのよ?」

 

 完全なゼロ距離で引き金を引かれ、そのまま青白い軌跡を真っ直ぐに描きながら吹っ飛び、そのままステージの壁に激突する。

 その衝撃で息を吐き、地面に倒れて伏してしまう。

 普通ならここで一度間を置くだろうが、セシリアは攻撃の手を止めない。

 敵は倒すまで敵なのだ。

 

「ダメ押し」

 

 レーザー発射型とは違う、ミサイル型のビットが発射され、ダメージで身動き出来ない一夏に直撃する。

 この時点で完全に勝敗は喫しているが、まだ互いに終わる気は無いようだ。

 

「ようやく……取ったぜ……!」

 

 ミサイルの爆発の衝撃で煙が上がるが、それが晴れた所に一夏が先程落とした近接ブレードを手にして立っていた。

 だがしかし、彼のISのSEはもう僅か。しかも、まだ設定が完了するまで20分近く時間が掛かる。

 例えプロでも、ここからの逆転劇は難しいだろう。

 

 ここで問題だ。この絶望的な状況で、どうやって試合に勝利するか?

 

 ①織斑千冬を姉に持つイケメンの一夏は、いきなり逆転のアイデアを思い付く。

 ②奇跡的にいきなりISの設定が終わり、SEが全回復して試合が元に戻る。

 ③このまま敗北。現実は非情である。

 

 本人としては迷う事無く①を選択したいだろうが、自分がそこまで頭がいいわけでもなく、ここで逆転出来る程の実力も経験も無いのを自覚している為、これは却下。

 

 ならば②はどうか?

 急にタイマーが早送りになって、いきなりISの設定が終了。ここから驚異の追い上げが始まる……訳も無く、こうしている間も一秒一秒と時を少しずつ刻んでいる。

 

 と言う事は、必然的に残った答えは一つだけ。

 

「チェックメイト。日本では王手と言うのでしたわよね?」

 

 答えは③。眼前に銃口を突きつけられ、なんの躊躇も無く引き金が引かれる。

 よく見たら、セシリアは右手だけでライフルを構え、左手は反撃を受けないように一夏の持つブレードの刀身を握っていた。

 結果、攻撃する暇も与えられないまま派手に吹っ飛び、そのまま仰向けに倒れた。

 シールドエネルギーや絶対防御の恩恵で肉体的なダメージは無いに等しいが、精神的なダメージは計り知れないだろう。常人ならば。

 不幸中の幸いは、彼が吹っ飛んだ衝撃で敗北した瞬間の事を覚えていない事か。

 

 これで試合は終了。ブザーが鳴り響き、セシリアが勝者であることを告げるアナウンスが流れる。

 

 ピンチからの奇跡的逆転など普通は有り得ない。

 現実はどこまでも非情である。

 

 勝者 セシリア・オルコット。

 

 男性IS操縦者、織斑一夏の初陣は完膚なきまでの完全敗北で幕を閉じた。

 




金剛四姉妹によって魔改造(?)された上に、慢心も油断もしていないセシリアによって負けた一夏。

私的には、原作でもこれぐらいの実力差はあっていいと思うんですけどね。

実はまだ、セシリアは全力を出していません。
 
出したくても、その前に試合が終わってしまいましたから。

もうちょっと一夏が粘れば、セシリアの魔改造っぷりがお披露目出来たかも?

どっちにしても負けることには違いないんですけどね。


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一夏 現実を知る

今回は試合後の話の一夏ルートです。

まさかの完全敗北をしてしまった彼は、一体何を思うのでしょうか?







 まぁ……案の定と言うか、予想通りというか、見事なまでにComplete defeatした織斑一夏。

 原作ではあった慢心&弱点をキチンと克服した本気モードの彼女を相手にしたんだから、この結果は当然だったと言えるだろう。

 ほんのちょっぴり、強くしすぎたかな~感は否めないけど。

 

「これはまた……」

「なんとも……」

「圧倒的でしたね……」

 

 実力差は歴然だったとは言え、ここまで手も足も出ないとは誰が想像しただろう。

 いや、私達は最初から分かってたんだけどね。

 

「あ、起き上がった。戻ってくるみたいです」

 

 試合が終わると同時にセシリアはすぐにピットに戻って行った為、残っていたのは少しだけ気絶していた彼だけ。

 ISに搭載されている操縦者保護機能によってすぐに回復したみたいだけど、心まではそうはいかなかったみたい。

 ピットに戻ってきた織斑一夏の顔はとても沈んでいて、陰で目が見えなくなっている。

 まだ初期設定が完了していないので、機体は待機形態にならずに、直立不動のまま彼を放り出した。

 

「俺……負けちまったんだよな……」

「そうだな。お前の負けだ。見事な完全敗北だった」

「そこまで言うっ!?」

「事実だろうが」

「もうちょっとオブラートに包んでくれても……」

「ここで変に気遣っても結果は変わらん」

「そうだけどさ……」

 

 オォ……流石は実姉、遠慮も容赦も全くNothingネ……。

 

「全く何も出来なかった……」

「まさか、設定完了まで粘る事すら出来ないとはな。ま、仕方あるまい」

「仕方あるまいって……」

「そうだろう。相手は仮にも代表候補生。国の名を背負った存在だ。そう易々と勝ちを譲ってくれるわけもあるまい?」

「それは……」

 

 元国家代表様の言葉は説得力がありますネ~。

 重みも段違いデ~ス。

 

「まぁ、そんなに落ち込む必要はナイと思うわヨ?」

「な……なんでですか?」

「だって、今の君が勝つなんて誰一人として予想してなかったカラ」

「えぇっ!?」

 

 何故にそこで驚く?

 まさか、勝つつもりでいたの?

 

「金剛の言う通りだ。幾ら専用機を受領したとは言え、ついこの間までISの事を何一つ知らなかった素人以下のお前が、これまでずっと鍛錬を積んできた代表候補生に勝つ? 寝言は寝てから言え」

「まさか……千冬姉も俺が勝つとは思ってなかったのか……?」

「当たり前だ。お前には私が神聖な試合で身内贔屓をするような非常識な人間に見えるのか?」

「それは……見えないけど……」

「もし仮にお前が勝つ可能性があったとしたら、それはオルコットが慢心と油断をしていた場合に限るが、それは無かったようだな」

「当然です。彼女は私達四姉妹によって、徹底的に鍛えあげられていますから」

「なんとっ!?」

「だと思ったぞ」

 

 原作のセシリアはもういない。

 ここにいるのは、身も心も立派に『漢女(おとめ)』となった一人の戦士。

 

「身体や技術だけでなく、その心も立派になっていますから。もう彼女が戦いの場で油断をする事は無いと思って頂いた方がよろしいかと」

「だろうな。それはここから見ていてもよく分かった。随分と強大に育て上げたようだな」

 

 もう普通に並列思考(マルチ・タスク)偏光制御射撃(フレキシブル)もマスターしてるから、現時点で相当に強くなってると思う。

 少なくとも、一年生じゃ最強クラスじゃない?

 

「もしかして俺……かなり無謀な勝負を挑んてた?」

「男とか女以前の問題として、ISのプロ中のプロに何一つ知らない坊やが勝負を挑むとか、明らかに勇気と無謀履き違えた馬鹿にしか見えないわネ~」

「マジですか……」

 

 その場に膝をついて落ち込みまくる。

 彼の事だから、明日にはケロっとしてそうだけど。

 

「箒も俺が負けるって思ってたのか……?」

「私もISの知識や技術は少し齧った程度だが、それでもお前とオルコットの実力差は明らかだったぞ。この前の私と金剛部長と同じようにな」

「うぐっ!」

 

 あ、ここでそれを言いますか。

 結構、根に持ってたのね。

 

「私もあまりお前の事は言えないが、それでも一矢すら報えないとは思わなかったぞ。開始5秒で唯一の武器を手放すとか、有り得んだろ」

「いやいや! いきなり手を狙撃されたんぞ! 飛ばされて当然だろ!?」

「そこは、しっかりと握りしめていれば事足りるのではないか?」

「凄く当たり前の事なのに、心に鋭く突き刺さる……」

 

 その当たり前が出来なかったわけだからね。

 

「ここで落ち込んでいたって何も始まらないわヨ? そもそも、素人が初陣を勝利で飾れるなんて、そんなのはアニメや漫画の主人公だけ。実際は大抵の人間が敗北からStartしてるワ」

「それって……千冬姉や金剛先輩達も……?」

「Exactly」

「当たり前だ。確かに一度は世界の頂点に立ちはしたが、私とて一人の人間だ。今までの人生で何度も敗北をした事がある」

「………………」

 

 尊敬してやまない姉が負けた経験があると簡単には飲み込めないようで、彼は黙り込んでしまった。

 

「だがしかし、負けを知ったからこそ私は強くなれた」

「負けを知って強くなった……?」

「そうだ。私だけじゃない、金剛達4姉妹も、ここにいる篠ノ之も、お前が戦ったオルコットだって、幾度となく敗北をしたからこそ、そこから這い上がり強くなったんだ」

「一夏も実際に私が目の前で負ける姿を目撃しているだろう?」

「あ………」

 

 そう。私と箒が初めて会って敗北した次の日から、彼女は生まれ変わったかのように鍛錬を繰り返し、メキメキを腕を磨いていった。

 それこそ、本当は初心者がやるような基礎中の基礎から初めて、改めて一からやり直そうとしていた程に。

 

「あの時、金剛部長に叩きのめされていなかったら、今でも私は力に溺れた愚かな人間のままだっただろう」

「人は、負けを知る事で勝った時以上に大きく成長出来るのです。反省をし、己を見つめ直し、そして鍛える。単純ですが、それが一番大切なんですよ」

「反省……見つめ直し……鍛える……」

 

 自分に言い聞かせるように反芻する。

 この試合による敗北で、少しはこの壊れた精神が矯正されれば幸いなんだけど……。

 

「さて、話はそこまでだ。お前がISの設定が終了する前に負けてしまったから、まだ機体が初期状態のままだ。だから、お前はこのまま残って設定の続きをする事にする」

「俺だけ居残りかよっ!?」

「お前が持たせられなかったのが悪い。同じ負けでも、せめて設定が終わる30分は粘れば、こんな手間を掛けずに済んだものを……」

「自業自得だ。精々、設定をしながら今回の試合の反省でもするんだな」

「箒ぃ~……」

「そんな目で私を見るな。そこまでは付き合いきれん」

「じゃあ先輩達は……」

「残念だけど、さっき比叡からメールが入って、今からセシリアの先勝祝いを兼ねたお茶会をする予定だから、ここで失礼するデ~ス!」

「心配しなくても、15分ぐらいで終わりますよ」

「俺を目の前にしてそれを言いますかっ!?」

 

 別に彼に対して遠慮するつもりは無いので、これからもこのスタンスでいきマ~ス!

 きっと、いいツッコみ役になると信じてるわヨ?

 

「では、ここらでお暇するわネ。Goodbye~!」

「あ……あの! 金剛先輩!」

「What? なんですカ?」

「俺の事も鍛えてくれませんか!? お願いします!」

「ウ~ン……そうねぇ~……」

 

 彼を鍛える……ねぇ~……。

 

「今はまだ無理ネ」

「なんでっ!?」

「君はまず、体の前に心を鍛えないとダメ。そして、それは私達じゃ不可能」

「どうしてですか?」

「私が女で、君が男だから。単純な鍛錬なら問題無いけど、心の問題となれば話は別。男女で心の構造は似て非なる物だから。私では君の心は鍛えあげられない」

「そう……ですか……」

「でも、心配ご無用。そんな君にピッタリのコーチに心当たりがあるカラ、その人を紹介してあげるワ」

「コーチ……?」

「えぇ。君はまず『漢』を知るべきヨ」

「漢……」

「それって……まさかっ!?」

 

 おや? 霧島には分かったみたいネ。

 

「まさかとは思いますが金剛お姉さま……『ヤスオさん』を紹介するつもりですか?」

「そうだけど?」

「幾らなんでもスパルタ過ぎませんかっ!? 彼の実力は私達にも匹敵するんですよっ!?」

「だからいいんじゃナイ。それに、ヤスオならきっと私達以上に彼をいい方向に導けると信じてるかラ」

「まぁ……私も、彼には全幅の信頼を置いてますけど……」

「他にも候補は何人かいたけど、一番身近なのは彼だったのよネ」

「その代わり、難易度はUnknownですけどね」

 

 ハッハッハッ! そこは気にしたらダメよ~!

 

「暇な時にでも会わせてあげるかラ、それまでは今まで通りtrainingでもしてるといいネ~」

「わ……分かりました!」

「では、私も失礼する」

「箒も行っちまうのか?」

「言った筈だ。そこまでは付き合いきれんとな。もう部屋で休みたいんだ」

「そ……そうか……」

 

 私達と箒は並んでピットから立ち去る事にした。

 後ろで捨てられた子犬のような目でこっちを見ていたが、気にせず出て行った。

 そう言えば、後でちゃんとあの超分厚い本を受け取るのかしラ?

 私達は一日で完全読破したけど。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 アリーナを出て廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた榛名達と合流出来た。

 

「三人共、来ましたネ」

「お疲れ様でした」

「ありがとうございますわ。金剛お姉さま、霧島お姉さま」

 

 試合の直後だというのに、汗一つ掻かず、優雅さも全く乱れない。

 流石はオルコット家の現当主だ。

 

「彼との試合はどうだった?」

「比叡お姉さまにも聞かれましたけど、どうにも消化不良ですわね。全力は出したけれど、出しきれてないというか……」

「セシリアはスロースターターですからね。あそこから猛攻が始まる予定だったんでしょうけど……」

「あのバカはその前に力尽きたのか……」

 

 箒が頭を抱えて呆れた。

 とてもデッカイ溜息を吐いているけど、大丈夫?

 

「幾ら相手が殻を被ったヒヨコだったからと言っても、この勝ちに慢心せずに、これからも鍛錬を怠ってはいけないからネ?」

「承知しておりますわ」

「勝って兜の緒を締めよ、ですね」

「あら? それは日本の諺ですの?」

「そうだ。戦いに勝利しても、決して油断しないで気を緩めず、気持ちを引き締めて行けと言う意味の言葉だ」

「成る程……。いつ、どんな時であっても緊張感を忘れるべからず、と言う事ですわね」

「ま……まぁ、そんな所だ」

「日本の文化は勉強になりますわ」

 

 今のセシリアは他の国を見下さず、決して侮らない。

 それどころか、吸収できる物はなんでも学ぶ姿勢すらある。

 

「ところで、お茶会はどこで致しますの?」

「私の部屋でいいんじゃナイ?」

「こ……金剛お姉さまのお部屋ですのっ!?」

「えぇ。偶にはいいでしょう。折角、こうして数年振りにセシリアとも再会出来たことですシ」

「お姉さま……」

 

 それに、こんな機会でもないとセシリアを自分の部屋に招待するなんて事無いだろうし。

 

「そうだ。どうせなら箒も一緒に来なイ?」

「わ……私も? いいのですか?」

「勿論!」

「歓迎しますよ」

「箒さんも、女の子同士で話をするのも悪くないと思いますよ?」

「どうぞご一緒しましょう? 篠ノ之さん、いえ……箒さん」

「そ……そこまで言うのなら……お邪魔させて貰うとしよう……その……セシリア」

「うふふ……」

 

 あら。意外と二人が早く仲良くなった?

 これはまたいい傾向じゃない?

 

 こうして、私達は揃って寮にある私の部屋に行く事にした。

 箒に合うような茶葉って、何かあったかしラ?

 

 

 

 

 

 




早くも一夏強化フラグを立てました。

ヤスオが誰なのか、分かる人はいるかな~?

それと次回、箒の本格攻略に入ります。


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箒 (無自覚に)惚れる

先日、虫歯を抜歯して口の中が異物感と出血だらけな上に、なんだか熱っぽくて眩暈までしているにも関わらず、なんでか小説書いているアホアホ星人の私です。

ついでに言うと、来週は親知らずを抜く予定です。

年末になって何をやってんだ私……。







 箒とセシリアを伴って妹達と一緒に自室に戻ってきた。

 多少見知っていると言っても、始めてはいる部屋と言う事もあってか、一年生二人組は緊張と興味が入り混じっている様子で部屋の中をキョロキョロと見渡している。

 

「どうしましタ?」

「あ……いえ。とても綺麗になさっていると思いまして……」

「そ……そうだな。こまめに掃除をしているのですか?」

「まぁね。元から綺麗好きだったというのもありますけど、健康上の問題もあるからネ」

 

 埃とか溜まっていたら、確実に体調壊しそうだし。

 部屋の中にある機器にも影響を与えるだろう。

 

「金剛部長はお一人なのですか?」

「えぇ。私達四姉妹はちょっとした事情でそれぞれ一人部屋になっているノ」

 

 嘘。本当は普通に職権乱用です。

 事情なんて大層なものも無いし、単純に他の女の子を部屋に誘いやすくするため。

 

「では、準備しましょうカ?」

「お手伝いします。金剛お姉さま」

「わ……私もしますわ!」

「No。今回のセシリアはguestなんですから、ちゃんと待っていてくれなきゃダメよ?」

「わ……分かりましたわ」

 

 榛名だけを連れて、私はキッチンで紅茶の準備をする事に。

 向こうには霧島と比叡を残して、二人を釘付けにして貰っている。

 別に来てほしくない理由は無いけど、これはあくまでも一年生達を客として誘ったお茶会。

 客に準備を手伝わせるなど、金剛四姉妹の名が廃る。

 

「金剛お姉さま。なんだか今日は上機嫌ですね」

「そう?」

「はい。鼻歌なんて歌っちゃって」

「へ?」

 

 は……鼻歌? そんなの歌ってた?

 

「その様子だと無意識でやってたみたいですね」

「恥ずかしいところを見せてしまいましたネ~……」

「お気になさらないでください。珍しいシーンを見られて、榛名は大満足です」

「ホント……明るいわよネ……」

「???」

 

 普段はあざとさすら感じるレベルで明るいのに、いざ戦闘になるとアレだもんなぁ~……。

 割と忠実に『再現』してる辺り、転生者としての業を感じる。

 

「でも、どうしてそんなにも機嫌がいいんですか?」

「久し振りにセシリアとお茶を飲めるから、というのも大きいと思うけど……」

 

 横目でチラっとテーブルに座って雑談に花を咲かせている箒の姿を見る。

 

「あぁ~……成る程。榛名、納得です」

「そう言う事。大きい魚なだけに、絶対にreleaseはしたくないカラ」

 

 色んな意味で……ね。

 

「それじゃあ、ちゃっちゃと準備を済ませましょうか?」

「yes!」

 

 え~っと、お茶菓子は何があったかな?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 お茶会の準備を済ませテーブルに戻って来ると、すっかり箒とセシリアは打ち解けていた。

 生まれた国が違えども、同じ年頃の少女同士で何か息が合うものがあったのかもしれない。

 

「お待たせしましたネ~!」

「今回はセシリアが試合後と言うのもあって、ハイビスカスのハーブティーにしてみました」

「ハイビスカス……ですか? あの花の?」

「えぇ。ハイビスカスには疲労を回復させる『クエン酸』が含まれていて、スポーツなどで体を動かした後の水分補給にうってつけなんです」

「その代り、利尿作用も高いから、お花摘みに行く回数も増えるかもだけどネ?」

 

 榛名は私達四姉妹の中で一番ハーブティーに関する知識がある。

 だから、基本的に紅茶を淹れるのは榛名の役目となっていた。

 本人も喜んでしているみたいだし、問題は無いみたい。

 

「強い酸味があるけど、酸っぱくてサッパリとした味わいなんですよ」

「酸味と酸っぱさ……か」

「百聞は一見に如かず。まずは飲んでみるのが一番ネ」

 

 予め温めておいたティーカップに丁寧にハーブティーを入れていく榛名。

 もうここまで来ると職人芸みたい。

 

 全員に行き渡ってから、私達も席に座った。

 

「お茶菓子として、買い置きしておいたスコーンとクッキーを用意したワ」

「どっちも遠慮なさらずに召し上がってくださいね」

「で……では、いただきます」

 

 恐る恐るといった感じでハーブティーを口に含む箒。

 少し熱そうにしていたけど、すぐに慣れたのか、4分の1程飲んでしまっていた。

 

「確かに酸味と酸っぱさもあるが、なんとも味わい深いな……」

「お気に召しましたか?」

「はい。紅茶を飲むのは初めてでしたが、悪くないものですね」

「それはよかったネ~」

 

 箒が飲んでから、私達も飲み始める。

 うん。今日も榛名の淹れてくれたお茶は最高ネ~!

 

「相変わらず、榛名お姉さまのお淹れになるハーブティーは美味しいですわ。ISの腕だけでなく、こういった部分もこれから見習っていきたいですわね」

「そう言えば、前々から気になっていたのだが、セシリアと金剛部長達は既に知り合いだったのか?」

「そうネ。元々、私達は両親は日本人だけど、生まれはイギリスだったノ。幼少期と小学生時代は向こうで過ごしたワ」

「つまり、部長達は俗に言う帰国子女であると」

「その通り。で、高学年ぐらいの頃に日本に戻ってきたんだけど、それも少しの間だけだった」

「両親の仕事の都合上、私達はまたとんぼ返りのようにイギリスへと行くことになったんです」

「その時に知り合ったのがセシリアだったってわけ」

「何とも忙しい人生を歩んでおられるのですね……」

 

 第三者からすれば、そんな風に映ってしまうのか。

 別に私達は忙しいとは感じた事は無かったから、ちょっと新鮮だ。

 

「私が自分の実力に思い悩んでいた頃、金剛お姉さま達が私の前に現れた。最初はビックリしたけど、すぐに四人を尊敬するようになっていきましたわ」

「指導を受けたから……か?」

「はい。金剛お姉さまからは近接戦闘を、比叡お姉さまからは狙撃のコツを、榛名お姉さまからは高機動戦闘を、霧島お姉さまからは砲撃戦のコツを教えて貰いましたの」

「徹底的だな。あれだけの実力を持っていたのも頷ける」

「当時はかなりのスパルタでしたけど、とても感謝していますわ。お蔭で、今まで越えられなかった、いえ……越えようとも思わなかった壁を乗り越える事が出来たから」

 

 原作でも中盤以降で習得する技能を、この時点で既にマスターしているからね。

 これからの戦いで不覚を取るような事は無いだろう。

 

「私も超えられるだろうか……己の壁を」

「金剛お姉さまに御指導して頂いているのでしょう? 箒さん次第だとは思いますけど、きっと超える事が出来ますわ」

「そうだな。優れた師がいても、自分が怠けていては論外だ。これからは心機一転して努力しなければ。金剛部長、これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 

 ホント……どこまでも真面目な子よね~。

 でも、今の顔はとてもよかったかな。

 

「ふふ……」

「ど……どうしました?」

「いえね。ようやく笑ってくれたな~って思って」

「私が……ですか?」

「うん。ついこの間までは、ずっと眉間に皺が寄ってて余裕が無いように見えたから。でも、今は違う」

 

 箒の顔に手を添えて、その眉間に人差し指をくっつけて軽くコネコネする。

 

「今の箒は気持ちに余裕が出来た。それはとてもいい事ヨ」

「!!?」

 

 顔を真っ赤にして驚いちゃって。可愛いな~♡

 

(な……なんだ!? 金剛部長に眉間を触られた瞬間、物凄くドキドキした……。一夏の時もここまでドキドキした事は無いのに……)

 

 あらら。なんか固まっちゃった。

 

(そう言えば、一夏から私に触れてくれたことは一度も無かったな……。いや、されたらされたで恥ずかしくて殴ってしまいそうなんだが。あれ? それじゃあどうして金剛部長に触れられても手が動かないんだ? 寧ろ、安心するというか、このままもっと触れていてほしいというか……)

 

 なんかさっきから面白いように百面相してるんだけど。

 比叡とか声を殺して笑ってるし。

 

(これは金剛部長が同性だからか? いや、もし仮に同性……例えば姉さんとかに触れられたりしたら……うん。絶対に拳が飛ぶな)

 

 なんで拳を握りしめてるの?

 あ、このクッキー思ってるより美味しい。

 

 ジーっと箒の顔を見ていたら、いきなり私の手を掴んで顔から放した。

 

「セ……セシリア。唐突で申し訳ないのだが、一つ聞いてもいいか?」

「なんなりと」

「その……だな。比叡先輩とセシリアは……アレ……なのか?」

「アレってなんですの?」

「だから……えっと……ごにょごにょ……」

「あ~……なんとなく言いたい事が分かりましたわ」

 

 ジト目のセシリアとか貴重だな。

 比叡も物珍しそうに見てるし。

 

「箒さんのお察しの通り、比叡お姉さんと私は貴女の考えているような関係ですわよ」

「や……やっぱりか……」

「でも、どうして急に……あ(察し)」

「な……なんだ」

「い~え~。なんでもありませんわ~(笑)」

「………?」

 

 いきなりセシリアが箒の傍によって、耳元でひそひそ話をし始めた。

 

「箒さん。愛に性別なんて関係ありませんわよ?」

「なっ!?」

「別に恥ずかしがる必要は無いですわ。『好き』の気持ちだけは誰にも止められませんから」

「し……しかし……」

「それにしても意外でしたわね。てっきり、あの男の事を好いているものとばかり……」

「そうだった……筈なんだがな。久し振りに一夏と再会して、分からなくなった……」

「なにやら深い事情がありそうですわね。困った時は金剛お姉さまに御相談するとよろしくてよ」

「こんなふざけた悩みでも聞いてくれるだろうか……」

「寧ろ、嬉々として聞いてくれそうですけど」

 

 は~い。何を話しているのか丸聞こえですから~。

 私だけじゃなくて、他に三人にも聞こえてますから~。

 

「金剛お姉さまは四姉妹の中で一番の『食いしん坊』ですけど、私は応援してますわよ」

「く……食いしん坊っ!?」

 

 おいこら。それはどーゆー意味だ。

 私は食いしん坊じゃなくて、無数の愛の形を持っているだけだよ。

 

「ところで箒。いつまで私の手を掴んでいるんですカ?」

「ふえっ!?」

 

 気が付いてなかったんかい。

 つーか、その叫び声可愛すぎ。

 ここは少し攻めてみますか。

 

「よかったら、このままずっと握ってますカ?」

 

 と言いながら、両手でがっちりと彼女の手をホールド。

 

「はわわわわ……ぷしゅ~……」

 

 しまった。今の箒にはまだ刺激が強すぎたか。

 羞恥で顔が真っ赤に沸騰して、完全にフリーズしてしまった。

 

「………どーしましょ」

「金剛お姉さまが介抱してあげればいいんじゃ?」

「それしたら、今度こそ箒がDownしちゃいそうな気がするわネ」

「寝込みは襲ったりしませんもんね、金剛お姉さまは」

 

 結局、箒は完全停止したまま放置され、お茶会が終わる頃に正気に戻された。

 暫くはこっちからは何もせずに、普段の生活を通じて好感度でも上げていきますかね。

 彼女が完全に意識し始めた頃に部屋に誘って……じゅるり。

 その時が本当に楽しみデ~ス♡

 

 

 




まずは第一歩。

箒が本当の意味で金剛を意識した時が、彼女が大人になる時かもしれません。

え? 一夏?

彼はまぁ……なんとかなるんじゃないッスか?

基本的に彼って花より団子でしょ? 


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一夏 犬神家になる

なんかいいサブタイが思いつかなかったので、適当に決めました。

今回は所謂『繋ぎ』で、次回からストーリーがまた動きます。

因みに、一夏の強化回その1は原作ストーリーの合間に挟んでいこうと考え中です。






 セシリアと織斑一夏との試合から少し経ち、学園内も新入生達も落ち着き始める四月下旬。

 私は学生らしく自分の教室にて静かに授業を受けていた。

 先生の言葉に耳を傾けつつ、視線が教科書とノートを往復し、ペンを走らせる。

 至って普通の授業風景だ。

 このIS学園が幾ら特殊だとは言え、こう言ったところはそこら辺の学校と大差ない。

 

 あの試合の後の織斑一夏に対する周囲の反応が気になって、後でセシリアに様子を聞いてみたら、別にバッシングの類などは別段なかったらしく、他の生徒達もあの結果は予想出来ていたようで、試合に挑んだだけでも立派じゃね? 的な空気だったらしい。

 それはそれで安心はした。

 私達四姉妹が番を張っている学校でイジメなんて絶対に許さない。

 過去にもそういったバカをやらかす連中がいたりしたが、そいつらは根こそぎ私達姉妹と楯無の力で退学にさせた。

 

 なんて、なんでもないような事を窓の外を眺めながら考えていると、グラウンドにISスーツを着た生徒達が並んでいるのが見えた。

 

(あれは……セシリアに箒? って事は、あそこにいるのは一年一組か……)

 

 これはアレか? 原作における織斑一夏がド派手に墜落する、あのシーンか?

 

(ジャージを着た千冬さんもいる。見慣れているとは言え、やっぱスタイルいいよなぁ~)

 

 布地が厚いジャージ越しでも、あの大きな胸が見事に強調されている。

 山田先生はそれ以上だけど。

 あれはもう一種の突然変異だと思う。

 そんな人を霧島は堕としたんだよね~。

 よくよく考えれば、霧島も私達姉妹の中で一番の巨乳だし……。

 眼鏡巨乳同士で何か惹かれあう何かがあったのだろうか?

 

(あ、飛んだ)

 

 ISを纏ってセシリアと織斑一夏が空高くまで飛んで行った。

 勿論、熟練者であるセシリアの方が圧倒的に速い。

 幾ら機体が優れていても、操縦者が性能を引き出せなければ意味が無い。

 このままではいずれ、怯えて竦んでISの性能を引き出せないまま死んでいくかもしれない。

 

(落ちた)

 

 セシリアの後に織斑一夏が急降下したが、あれは降下ってよりは落下と表現した方が正確だ。

 事実、グラウンドに見事なクレーターを作っているし。

 

「ポチっとな」

 

 先生の目を盗んで、私は密かに自分のスマホのカメラで彼が犬神家をしている姿を写真に収めておいた。

 これは後々、面白い事に使えそうな気がするから。

 

「あ~……小西。あ、長女の方な。この73ページの4問目を解いてみろ」

「ハ~イ。分かりましたネ~」

 

 ここで私をご指名ですか。

 まぁ、話を半分聞き流していても、問題は余裕で解けるからいいんだけどね。

 私達四姉妹は同じクラスに在籍している。

 本来なら有り得ない事だが、そこは私達の『特権』を存分に利用させて貰った。

 これは昔からずっとで、私達姉妹が学校のクラスで離ればなれになった事は一度も無い。

 

 さて、チャチャっと問題を解いてしまいますか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂。

 昼休みになって、私達は姉妹仲良く並んで食事を楽しんでいた。

 だが、今回は私達だけじゃなくて、最近知り合ったばかりの後輩二人と昔馴染みの少女が一人おまけでついている。

 

「はぁ……疲れた……」

「あれは明らかにお前が悪いだろう」

「だからって、後始末を全部俺にやらせるか?」

「ご自分があのクレーターを作ったのでしょう? だったら、あなたが埋めるのは当然ではなくて?」

「そ……それは……そうかもしれないけどさ……」

 

 三人は早速、先程の実技の授業の話をしているようだ。

 あれは傍から見ていて面白い……じゃなくて、凄かったからね~。

 

「その光景なら、私達の教室からもバッチリと見えてたわヨ?」

「マジっすか!?」

「マジもマジ。校舎にまで振動が来てたワ」

「えっと……スンマセン」

「それを私達に言うのはお門違いじゃない?」

「ですね。アナタが謝る気なのは、クラスの皆だと思いますよ?」

「クラスの皆?」

 

 あ……これは全く気が付いてないな?

 

「あの時、もしも少しでも織斑君の落下軌道がずれていれば、大参事になっていたんですよ?」

「は?」

「纏っていると分かりにくいけど、ISは紛れもなく鋼鉄の塊。そんな物が人が密集している場所に落下してきたらどうなると思う?」

「あ………」

 

 ここまで言われて、初めて自分が仕出かした事を自覚したようだ。

 言われて気が付くだけ、まだマシかな。

 場合によってはどれだけ言われても気が付かないクソ野郎もいるし。

 

「今回は偶々、被害が最小限で済んだけど、次もそうとは限らない」

「俺……なんて事を……」

「そもそも、なんであんなスピードで地面に体当たりを敢行したノ?」

「オルコットさんが上手に熟してたから、少し焦って……」

「それでクラスの皆を危機に晒していては意味が無いな」

「ウグッ!?」

 

 ワオ……ここで箒の追い打ちですカ……。

 これは私から見ても強烈ね……。

 

「あのような場合は、例え速度が大幅に低下してもいいから、安全を第一に考えるべきです」

「コントロール出来るスピードで降りていって、そこからゆっくりと着地すればいい。それだけの話ですよ?」

「そうすれば、グラウンドにクレーターも作らずに済んだし、多少は何か言われても、織斑先生に盛大に怒られる事も無かったかもね~」

「全くもって、先輩方の仰る通りでございます……」

 

 完全に落ち込みモードになった男子。

 こうやって少しずつでもいいから改善していければ、原作のようなクソ蛆虫にはならずに済むかもしれない。

 私達の学園(シマ)に蛆虫は必要ないからな。

 

「今のところは、基本的な事を一つ一つ学んでいくのがいいと思うワ。何事も基礎こそが最重要であり究極なのヨ?」

「金剛部長の仰る通りだ。基礎も碌に出来ない奴がいきなり技を魅せようとか、他人から見たら滑稽にしか映らんぞ」

「アナタとて、過去に少しはスポーツを嗜んでいたのでしょう? でしたら、それぐらいは理解出来るのではなくて?」

「ソウデスネ………」

 

 トドメはクラスメイトの女子からの口撃。

 男として、これはキツいわな。

 

「セシリア」

「はい。分かってますわ、比叡お姉さま」

 

 流石は比叡とセシリア。

 たった一言だけで言いたい事が分かるとは。

 

「このままでは余りにも不憫。何より、金剛お姉さま達の前で無様を晒すなど愚の骨頂。ここは、この私が直々にご教授して差し上げますわ」

「い……いいのかっ!?」

「仕方なく……ですわよ。私自身は不本意ですけどね。比叡お姉さまと過ごす時間が僅かでも減ってしまうと思うと、もう憎たらしいやら恨めしいやら……!」

「い……一刻も早く上達できるように頑張ります……」

 

 じゃないと、セシリアに何をされるか分からないもんね。

 

「箒さんはどうしますの?」

「私はまだ部活に専念したい。金剛部長に御指導して頂けるしな……」

「あらあら。お熱い事ですわね」

「言うな~!」

 

 若い子は元気でいいわね~。

 え? 私達も十分に若い?

 肉体的にはそうだけど、中身は相当いってますよ?

 

 一年生達のやり取りを眺めながら、私は自分の昼食である焼き魚定食を食べ進めた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後になって、私達四姉妹は生徒会室に来て、いつものティータイムと洒落込んでいた。

 部活にはもう少ししてから顔を出す予定だ。

 

「またここで飲むのね……」

「おや。楯無は私が生徒会室に来るのが嫌なんですカ?」

「そうは言ってないでしょ。私だって金剛ちゃんに会いたいに決まってるじゃない……」

 

 素直じゃない所も彼女の魅力の一つだと思うのは、惚れた弱みだからだろうか。

 

「で、例の男の子はどうだったの? 接触、したんでしょ?」

「えぇ。そうネ……」

 

 少しだけ考えて言葉を纏める。その間、約5秒。

 

「色んな意味で自覚が足りない……カナ?」

「自覚って?」

「自分の特殊性。自分の置かれている状況と立場。他にも諸々」

「彼自身は女子高に一人男子が放り込まれた、一昔前のラノベ主人公みたいな感じにしか思ってないみたいだけど……」

「実際は、少しでも油断したら最後。すぐに全ての尊厳を奪われて、あっという間に細胞の一片まで分解されて分析されるでしょうね」

「自分がどれだけ恵まれた場所にいるのか、身を持って分からせる必要があると思いますが……」

「それが簡単に出来れば、苦労しないわよねぇ~……」

「「「「「ハァ~……」」」」」

 

 私達四姉妹と楯無の溜息が重なる。

 そこに虚が空いた私達のカップに紅茶をお代わりを注いでくれた。

 

「どうやら、相当にご苦労されているみたいですね?」

「今日のグラウンドでの出来事、虚さんもご覧になったでしょう?」

「はい。あれはなんとも……凄かったですよね」

「今までISに乗って墜落した子は数あれど、自らクレーターをこさえた子なんて彼が初めてよ。私のクラスの皆が驚いてたわ」

「こっちはあんまりビックリはしてなかったネ~」

「金剛さんのクラスの子は、ある意味で場馴れしてますからね」

 

 私達のお蔭で驚きに対する耐性が付いたって事かしら?

 

「出来れば近い内に、織斑君をヤスオに会わせたいと考え中なのヨ」

「ヤスオさんって、あのヤスオさん? 極東連合の初代総長にして、極東高校の現番長」

「彼の名を聞くのも一年振りですね……」

「そうね。今から一年前に起きた黒真連合と極東高校との決戦。金剛ちゃん達四姉妹もヤスオさんと一緒に黒真連合に立ち向かって行ってたわね」

「あれからもう一年……か。時が経つのは早いわネ……」

「楯無さんも影ながら情報収集などでバックアップしてくれましたよね」

「あの戦いは私達にとっても無視出来なかったから。それに、少しでも金剛ちゃん達の役に立ちたかったのよ」

「そのお蔭で随分と救われました。ヤスオも凄く感謝してたワ」

「そう言って貰えると、虚ちゃんと一緒に頑張った甲斐があるってものよ」

 

 情報は最も強力で重要な武器の一つ。

 それを楯無達が補ってくれたお蔭で、私達は戦いに集中出来た。

 

「あの戦いを通じて、私も学ばせて貰ったしね」

「何を?」

「まだまだ男子も捨てたもんじゃないって。ヤスオさんのあの腕っぷしと天性のカリスマ性は決して真似出来ない。だからこそ、彼を中心に『極東連合』なんて存在が誕生したんだしね」

「嘗ては敵対していた者達も、ヤスオさんとの戦いを通じて友情を育み、やがて掛け替えのない仲間となっていった。まるでアニメやドラマのような光景でしたが、ヤスオさんならば納得出来ます」

「同時に、性根から腐った奴もいるって知っちゃったけどね」

「そんな馬鹿共から人々を守るために、極東連合があるのヨ」

「そうね……」

 

 あれは本当に壮絶な死闘の連続だった。

 現役高校生に、私達とほぼ互角の戦いをする連中が沢山いた事は純粋に驚かされた。

 

「彼もヤスオさんと会えば、何か学んでくれるのかしら……」

「漢として大切な事を、ヤスオは教えてくれる筈ヨ。きっとね」

 

 なんせ、この私が認めた数少ない男なんだから……。

 

「さて……と。それじゃあそろそろ部活に行ってこようかしラ」

「例の箒ちゃんが待ってるから?」

「えぇ。私の最近の楽しみなのヨ?」

「嫉妬しちゃうな~。私も暇な時に行っていい?」

「こっちはいつでもOKよ? 箒も楯無のような実力者と手合わせできることは嬉しいと思うし。でも、その前に……」

「な……なに?」

「まずは、その後ろにいる鬼をどうにかした方がいいわヨ?」

「はへ?」

 

 楯無の背後には鬼の形相をした虚が立っていて、今にも襲い掛かりそうな勢いだ。

 

「別に行くのは構いませんが、ちゃんとやるべき仕事を片付けてからにしてくださいね……?」

「りょ……了解……」

 

 私達は、そんな楯無を横目に静かに退出しますかね。

 それじゃあ、お仕事頑張って~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、チャイナ娘登場。

勿論、一夏には渡しません。

四姉妹のうちの誰かのヒロインになって貰います。
 
誰になるかはまだ内緒。


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比叡 中華少女と会う

久方振りの更新~!!

明日も別の作品を更新します。






 夜になり薄暗さが辺りを支配するIS学園の正面ゲート前。

 そこに、少し大きめのボストンバックを持ったツインテールの少女が校舎を見上げるように仁王立ちをしていた。

 

「ここがIS学園ね……」

 

 まだまだ幼さが残る顔とは裏腹に、大人びたニヒルな笑みを浮かべる。

 本人としては大人ぶっているつもりかもしれないが、実際には子供が背伸びをしているようにしか見えない。

 

「まずは受付に行かないといけないんだっけ。どこにあるのかしら?」

 

 上着のポケットから丸められた紙を取り出して、それを広げて目的地を再確認する。

 

「本校舎一階総合受付……名前だけ書かれても分かるわけないでしょうがよ」

 

 メモを書いた誰かにツッコミを入れつつ、紙を再びポケットに仕舞う。

 

「こんな時は、どっかで校舎全体の地理を詳しく書いている地図とか見つけるのが得策よね」

 

 特殊であるとは言え、IS学園も立派な学校法人。

 ならば、来客用の地図ぐらいは廊下などに張り出している筈。

 まずはそれを探す事にしようと決める。

 

 キョロキョロと挙動不審にも見える動作で周りを確認する。

 

(出迎えが無いとは聞かされていたけど、少しは誰かいても良かったんじゃない?)

 

 最初から期待などしていなくても、それでもそう思わずにはいられない。

 人としての悲しい性である。

 

(都合よく、誰かが通りかかって道案内とかしてくれないかしら?)

 

 そんなご都合主義がまかり通ったら、この世に迷子なんて存在しない。

 他の生徒達も、教師陣の雷を受ける覚悟までして外出しようとはしないだろう。

 

「…………取り敢えず歩くか」

 

 ここでジッとしていても何も始まらない。

 なにより、自分の性に合わない。

 迷った時は、まずは行動あるのみ。

 これまでだってずっとそうしてきた。

 

「そう言えば……アイツ……元気にしてるのかな……」

 

 少女がここに来た目的は唯一つ。

 彼女の想い人に再会する為である。

 しかし、それはあくまで個人の理由。

 体面上は国からの命令で日本に訪れていた。

 

 彼と会った時の事を妄想しながら歩き始めると、途端に誰かの話し声が聞こえてきた。

 

「今日は本当にありがとうございます。マジで勉強になりました」

「そこまで畏まらなくてもいいよ~。私も久し振りに誰かに何かを教える経験が出来て楽しかったし」

「しかし……本当に見事としか言いようがない指導だったな。流石は金剛部長の妹君だ」

「当然ですわ! 比叡お姉さまのお蔭で、私は今の地位にいるようなものですから!」

「本当に、お前は比叡先輩の事となると急に元気になるよな……」

 

 驚きのあまり歩みが止まる。

 来校して数分で想い人に会えたのは本当に嬉しかったが、その彼が見ず知らずの少女達と楽しそうに歩いていたのが気にくわなかった。

 

「にしても、箒さんは今日は部活に行く予定ではなかったんですの?」

「私もそのつもりだったんだがな。今日は金剛部長が用事があるらしく、いきなり部活は休みになったんだ」

「そうだったのか……」

「お姉さまもそうだけど、私達って色々と忙しい立場だからね。いつでも部活に行けるわけじゃないんだよ」

「先輩達も大変なんだな……」

「そうだな。折角だから、今日は一夏達の特訓に付き合ってみればいいと言われたんだ。そこから学べることもきっとあると仰ってな」

「金剛お姉さまらしいお言葉ですわね」

 

 仲睦まじく少女達と話す彼を見て、知らず知らずのうちに嫉妬心が沸き上がってくる。 

 ダメだと分かっていても、止める事は出来ない。

 

「比叡先輩はなんの部活に入ってるんですか?」

「テニス部だよ。本当はクレー射撃部を作りたかったんだけど、だ~れも興味を持ってくれなかったんだよね~。だから、妥協してテニス部に入った」

「それは無理もないかと……。というか、妥協してテニスなのか……」

「クレー射撃が得意なんですか?」

「クレー射撃が得意ってよりは、狙撃が得意なの。セシリアのスナイピングスキルのイロハを叩き込んだのも私なんだよ」

「マジっすか……」

「比叡お姉さまは四姉妹で一番の射撃の腕を持ってますから。まだ見た事はありませんけど、その気になれば地上から成層圏にある目標物まで打ち抜く事が出来るとか」

「いやいやいや……それは流石に不可能過ぎるだろ……」

「ここから成層圏まで、一体どれだけの距離があると思ってるんだ?」

「いいえ。比叡お姉さまならば、ちゃんと装備と条件さえ整えれば絶対に可能ですわ!」

「にゃはは……」

 

 彼の傍にいる女子3人の内、二人は一年生だと分かる。

 リボンの色がそれを示していたから。

 だがしかし、もう一人の巫女服のような改造を施した制服を着ている少女はリボンの色が違う。

 彼女だけが上級生、二年生だった。

 嬉しい気持ちが急激に冷めていき、気が付けば近くの物陰に姿を隠していた。

 

 その時、急に上級生の少女が立ち止まった。

 

「どうしました?」

「ん~……ちょっとね。少し用事を思い出しちゃった。皆は先に行ってていいよ」

「お待ちしてましょうか?」

「別にいいって。急がないと遅れちゃうよ?」

「先輩がそう言うなら……お先に失礼します」

 

 彼を含めた一年生組が一足先に校舎の中へと入って行き、残ったのは上級生の少女だけ。

 後輩達の姿が消えた途端、彼女は周囲を見渡し始める。

 

(何をしてるのかしら……?)

 

 意味不明な行動に小首を傾げていると、彼女の視線が少女の隠れている場所で止まった。

 

「そんな所にこそこそと隠れて、何をしているのかな?」

「ひぅっ!?」

 

 ば……バレたっ!?

 気配は消していた筈なのに、完全に居場所を把握されている。

 ここで下手に隠れ続けるのは逆効果だと即座に判断して、静かに物陰から出ていくことに。

 

「え……えっと……別に私は怪しい者じゃ……」

「あら。貴女は……」

 

 少女の顔を見た途端、上級生は僅かに驚いた顔を見せた後に笑顔を見せた。

 

(そっか……もう彼女が来る時期になってたか……)

 

 心の中でほくそ笑みながら、上級生は軽やかに歩いてきた。

 

「貴女、中国の代表候補生の凰鈴音さんでしょ?」

「え? なんで私の事を知って……」

「私ね、生徒会の仕事を手伝ったりすることがあって、その時に近々転入してくる予定の子のプロフィールなんかもチェックしてるの」

「そ……そうなんだ……。生徒会の人なんですか?」

「いいえ。私はあくまで『お手伝い』。お姉さま達とよく生徒会室にお邪魔してるから、そのせめてものお詫びとして……ね」

「成る程……」

 

 役員でもないのに生徒会の仕事を自主的に手伝う。

 不思議と嘘に聞こえなかった彼女の言葉は、すんなりと鈴の中へと浸透していった。

 

「私は小西比叡。二年生よ。もしかしてだけど、何かを探していたりとか?」

「あ……はい。実は『本校舎一階総合事務受付』って場所を探していて……」

「そこなら知ってるわ。こっちよ、着いて来て」

「あ……ありがとうございます!」

 

 色々と複雑な気持ちではあったが、それでも幸先はいいと思った。

 想い人の顔は見れたし、頼れる先輩に会う事が出来た。

 

「あの……小西先輩」

「私の事は下の名前でいいわよ。私、これでも四姉妹の次女だから。紛らわしいでしょ?」

「四姉妹?」

「そう。私達は世にも珍しい四つ子の姉妹なの」

「へぇ~……」

 

 双子でさえ相当なレアケースなのに、四つ子の姉妹が実在する。

 事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。

 

「私の事も『鈴』って呼んでください。その方が呼ばれ慣れてるんで」

「分かったわ。それで鈴ちゃん。さっきは何を言おうとしてたの?」

「えっと……比叡先輩は一夏と仲がいいんですか?」

「一夏……あぁ、織斑君ね。仲がいいと言われると……そうねぇ……」

 

 比叡はここで改めて自分と一夏の関係性を考える。

 友達……というよりは接点が少ない。

 本格的に話したのも今日が初めてだったし。

 ならば……?

 

「普通に先輩後輩の仲かな? 多分、これからもそれ以上にもそれ以下にもならないと思うわ」

「そ……そうですか……」

 

 それを聞いてホッと胸を撫で下ろす鈴。

 目の前の美少女がライバルでないと分かったから。

 同じ女の鈴から見ても、比叡はかなりの美少女だった。

 顔も非常に整っているし、体のスタイルも抜群。

 更には面倒見も良くて、とても話しやすい雰囲気を持つ。

 恋愛など関係無しに、純粋に好感が持てる人物だと鈴は思った。

 

「一夏って何組なんですか?」

「彼なら一年一組だって聞いてるわよ。んで、鈴ちゃんが割り当てられるのが二組。隣のクラスになるわね」

「そうですか……」

 

 一緒のクラスじゃないのは残念だったが、こればかりはどうしようもない。

 

「彼、一組のクラス代表をしてるんだって」

「クラス代表? なんでまた……」

「この間ね、クラス代表の座を賭けた試合があったんだけど、それで……」

「一夏が勝ったんですか?」

「うんにゃ。ボロ負け、そりゃもう見事に完全敗北だったわ」

「相手は?」

「イギリスの代表候補生」

「それは~……」

 

 どう考えても無謀な勝負だと分かった。

 寧ろ、なんで試合をしようと思ったのかが分からない。

 

「でも、ならどうして?」

「自分から辞退したの。なんでも『クラス代表なんてしていたら、比叡お姉さまと会う時間がすり減ってしまいますわ!』って皆の前で言ったらしいよ」

「うわぁ……」

 

 その一言で全てが理解できてしまった。

 つまり、一夏は比叡に惚れている少女の恋愛の犠牲になったのだ。

 だがしかし、それは鈴にとっても好都合だった。

 比叡の情報から、また一人ライバルが減ったのが確認できたから。

 

「そのイギリスの代表候補生って、もしかしてさっきいた金髪の?」

「正解」

「あ、やっぱり」

 

 会話の内容を聞いていたから、なんとなく予想は出来ていた。

 別に同性愛を否定はしないが、実際に見せつけられると少し驚く。

 

「二組のクラス代表ってもう決まってるんですか?」

「よくは分からないけど~……決まってるんじゃない? 入学式から時間は経ってるから」

「そうですか……」

「どうしてそんな事を?」

「いえ……もしも決まっているのなら、ちょっとクラス代表を代わって貰おうと思って……」

 

 常人ならば、鈴の体から放たれる怒気を感じて恐れおののくだろうが、比叡は全く違った。

 

(ここまでは私達が知っている展開(・・・・・・・・・・)通り。でも、ちょっとぐらい楽しくしても罰は当たらないわよね?)

 

 鈴には見せないように、比叡は静かに舌なめずりした。

 その目は完全に獲物を見つけた獣の目になっている。

 

 そうして歩いている内に目的地である総合事務受付に到着した。

 受付嬢は比叡の姿を見て笑顔を見せたが、鈴の様子を感じ取った瞬間に恐怖に引き攣った。

 そうして、鈴は転入手続きを終えてから比叡と別れる事に。

 

 こうして、比叡と鈴のファーストコンタクトは、少し変則的な形で幕を閉じた。

 この一件で、鈴の中で比叡に対する好感度が上がったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで、比叡のもう一人のヒロインは鈴ちゃんでした。

一応、比叡のヒロインはセシリアと鈴の二人でいく予定です。

となると、未だに出番が少ない榛名のヒロインは……?


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比叡 夢を見る

今年始まって、早速の衝動買い。

本当はシナンジュ・スタイン(ナラティブ)だけを買うつもりだったのに、気が付けば隣にあったシナンジュも買っていました……。

だって! ガンプラを通じてフロンタルが『是非とも買ってくれたまえ』って言ってたんだも~~~ん!!






 それは、自分でも分かっている泡沫の夢。

 私であって私じゃない人の夢。

 

「比叡さん!! しっかりしてください!!」

「くっ……うぅぅ……!」

 

 涙目になりながらズタボロになった『翔鶴』が私に向かって必死に呼びかけていた。

 いきなりの奇襲によって戦列は完全にボロボロ。

 殿(しんがり)を務めていた私がもっとしっかりしていれば、被害をもう少し軽減できたかもしれないのに……。

 

「翔鶴さん! 比叡さんの様子は!?」

「艤装が殆ど破壊されて、本人も……」

 

 もう意識もハッキリしない。

 揺らぐ視界に、大切な姉達が決死の攻撃を繰り返しているのが見える。

 

「急いで比叡を後退させたいのに! このままじゃ撤退どころか全滅してしまう……!」

 

 いつもはカタコト言葉で話す金剛お姉さまが、流暢に話している。

 もうそんな余裕すらないのだろう。

 

「翔……鶴……! 離れて……!」

「な……何を言ってるんですか! 誰かが傍にいないと比叡さんが!」

「自分の体……の事は……自分…が……一番分かってる……よ……!」

 

 己の命が風前の灯な事も。

 碌に身動きすら出来ない事も。

 私は完全に分かっている。

 このままでは、数分足らずで『轟沈』してしまうだろう。

 だけど……だからと言って……!

 

「このまま終わったら……金剛型の名が廃るのよ……!」

 

 痛みで軋む体を根性で動かして、辛うじて生きているたった一門の砲を敵に向ける。

 

「比叡さん……!」

 

 いつの間にか翔鶴が私の体を支えてくれていた。

 私はそのまま、彼女に甘えて体を預ける事にした。

 

「狙い撃つ……狙い撃つ……狙い撃つ……!」

 

 頭から流れる血が右目にかかって、視界が更にぶれる。

 だが、もうそんな些細な事に構っている場合じゃない。

 

「比叡!! 気合! 入れて!! 狙い撃ちます!!!」

 

 正真正銘、私の最後の一撃が放たれ、それは真っ直ぐに敵に向かって飛んでいき、直撃した。 

 だが、それで奴は倒れる事は無く、すぐに私に反撃してきた。

 

「翔鶴!!」

「比叡さん!!!」

 

 残り力を振り絞り、寄り添っていた翔鶴を突き放す。

 彼女が海面に倒れたと同時に、凄まじい衝撃が体に走る。

 全てがスローに見えて、私の体はゆっくりと海に沈んでいった。

 

(ねぇ……金剛お姉さま……満足ですか……こんな世界で………)

 

 急激な眠気がきて、私はそれに抗う事無く目を瞑った。

 

(私は…………嫌だなぁ…………)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

「どうしましタ? いつも元気な比叡が朝から溜息なんて珍しい」

「ホント。明日は雪かしら?」

「霧島……それはないよ~……」

「反撃も覇気がないし……。本当にどうしたんですか?」

 

 朝の教室。

 私はいつものように金剛お姉さま達と一緒に話していたが、夢の事もあってどうにも元気が出ない。

 あまり食欲も無かったから、朝食も軽く済ませてしまったし。

 

「もしかして……『夢』を見たノ?」

「……金剛お姉さまの目は誤魔化せませんね……」

 

 流石は私三人が敬愛してやまない金剛お姉さま。

 これ以上隠しても意味ないし、ここは素直に白状してしまおう。

 

「その通りです。私も『夢』を見ました。しかも、前にお姉さまが言っていたような夢を……」

「アレ系ね……」

「私達はまだ見てないけど、かなり辛いわよね……」

「今日は休む?」

「ううん。ちょっと気分が優れないだけだし、大丈夫だよ。セシリアに心配掛けたくないし」

「気持ちは分かるけど、無理は禁物ヨ? キツいと判断したら、いつでも遠慮無く言ってネ?」

「はい。ありがとうございます……金剛お姉さま」

 

 この優しさに何回救われてきたか……数えきれないな……。

 

「そうだ。お姉さまにご報告する事があるんだった」

「なんですカ?」

「昨日の夜、凰鈴音が転入してきました」

「そろそろだとは思ってたけど、もう来てたのネ……」

「接触はしたんですか?」

「一応は。事務受付まで道案内をしました」

「どんな感じだった?」

「容姿、性格共に私達が知っている通りでした。特にこれといった変化は見受けられませんでしたね」

「成る程。でも、短い接触じゃ詳しい事まで分からないし、私達も一度会ってみようかしラ」

「それがいいと思います」

「原作通りならば、彼に会いに食堂に行くはずですから」

 

 金剛お姉さま達に会ってどんな反応を示すのか。

 それは純粋に興味がある。

 確実にセシリアとも会うだろうから、お昼までに最低でも空元気にならないと。

 

「あら。予鈴が鳴ったわネ」

「席に着きましょうか」

 

 さて……と。

 私、ちゃんと午前中の授業を切り抜けられるかしら……。

 今はそれだけが心配……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 お昼になって姉妹揃って食堂に向かうと、こちらの予想通りに彼女達は揃って一緒のテーブルに座って食事をしていた。

 

「比叡、もう大丈夫?」

「朝よりは随分とマシになりました」

「顔色も心なしかよくなってる気がします」

「これなら午後も問題無いかしらね」

 

 こっそりと授業中に居眠りをしたのが功を奏したのかもしれない。

 バレなかったのは奇跡的としか言いようがない。

 

「まずは食事を頼もうカナ?」

「私は消化にいいお粥とかを……」

「なら、私はミートスパにしようかしら」

「カレー……ううん。ここはうどん……?」

 

 悩みながら歩く霧島を余所に、私達は食券を購入して並び、いつものようにそれぞれに食事を受け取る。

 

「それじゃあ、行きますカ」

「「「はい」」」

 

 金剛お姉さまを先頭に、私達は一年生専用機組が一緒にいるテーブルに向かう。

 すると、セシリアと篠ノ之さんが真っ先にこっちに気が付いて、手を振っていた。

 正確には、振っていたのはセシリアだけだけど。

 

「ハァ~イ♡ ここいいですカ~?」

「はい! 勿論ですわ! 金剛お姉さま!」

「ちょっと! なに勝手に決めてんのよ!」

「勝手じゃありませんわ。箒さんもいいですわよね?」

「あぁ。金剛部長を拒む理由は無いからな」

「アンタもっ!?」

「俺も別にいいぜ? 食事は賑やかな方がいいだろ?」

「一夏ぁ~……」

 

 はい、多数決。

 民主主義万歳ね。

 

 それぞれに空いている場所に座った……と言ってるけど、実際には私はセシリアの隣に、金剛お姉さまは篠ノ之さんの隣に座った。

 榛名と霧島は他に空いた場所に。

 

「比叡から聞いてマ~ス。貴女が中国の代表候補生の凰鈴音さんですネ?」

「って事は、アナタ達が……?」

「YES! 比叡の姉にして、小西四姉妹の長女の小西金剛デ~ス! 初めましてネ~!」

「あ……どうも。初めまして。凰鈴音です」

 

 案の定、金剛お姉さまのキャラと勢いに飲まれてるわね。

 初めて会う人の大半が似たような反応をするから、今更だけど。

 

「で、こっちが妹の……」

「小西榛名です。よろしくお願いしますね?」

「はぁ……どうも……」

「私は小西霧島。何か分からない事や困った事があったら、なんでもいつでも遠慮無く相談してくれて構いませんから」

「あ……ありがとうございます」

 

 さっきまでの勢いはどこに行ったのやら。

 打って変わって大人しくなっている。

 

「なんだよ鈴。急に静かになって」

「う……うっさいわね!」

 

 ムキになってる。

 そんな姿も可愛く見える辺り、本当にいいなって思う。

 

(まさか、比叡先輩の姉妹がここまで美人揃いだったなんて思わなかったわよ! そりゃ、比叡先輩がかなりの美人なんだから、同じ血を持つこの人達が美人なのは予想がついてたけど、顔だけじゃなくてスタイルも抜群だなんて反則じゃない!? 特に霧島先輩のあの胸! 明らかに高校生がしていい胸じゃないわよ! それを言ったら箒もだけど)

 

 ……面白いぐらいに表情がコロコロと変わる子だなぁ~……。

 まるでサイコロみたい。

 

「金剛部長! 今日は部活はあるのでしょうか!?」

「昨日は出来なかったから、今日はちゃんとするつもりヨ」

「そうですか!」

 

 眩しいわね~。

 金剛お姉さまは順調に篠ノ之さんとの絆を育んでいるみたい。

 

「比叡お姉さまはどうなさいますの?」

「そうね~……。まずは部活の方に顔を出してから、昨日のようにソッチに行こうかしら?」

「まぁ! それでしたら、今日も頑張らないといけませんわね!」

 

 いや、私がいなくても頑張ろうね?

 ちょっとだけ心配になってきたな……。

 

「ん?」

 

 さっきから鈴がこっちを見てる?

 

「どうしたの?」

「あ! ……いえ……なんでもないです」

 

 ま、何を考えているか大体は予想出来るけどね。

 熱っ! このお粥……結構冷ましてる筈なのに、まだ熱い……。

 

「あ……あの! 比叡先輩! 昨日はありがとうございました!」

「どういたしまして。あんな事ぐらいなら、いつでもしてあげるよ」

 

 道案内ぐらいで、そこまで畏まらなくいてもいいのに。

 律儀な子だなぁ~……。

 

「あれ? 鈴と比叡先輩って知り合いなのか?」

「知り合いって言うか……昨日ね、先輩に道案内して貰ったのよ」

「そうなのか」

「比叡お姉さまに道案内……なんて羨ましい……」

 

 セシリアはセシリアで本音を隠そうとしないのね。

 

(呼んだ~?)

 

 今の誰っ!?

 

(さっき話した時も違和感を感じてたけど、この二人の様子……もしかして、あの箒って子は金剛先輩の事を? そんでもってイギリスの子は比叡先輩を……)

 

 よし、やっとなんとか食べれる熱さになった。

 うん、IS学園はお粥一つとっても美味しいから、いいわよね。

 

(なに……? 今、ちょっとだけ胸がチクってしたような……)

 

 この調子なら、夕飯は普通に食べれそうね。

 よし、夜は思い切ってハンバーグでも食べますか!

 え? 油断大敵? 気にしない気にしない。

 気合入れれば、なんとかなるって!

 

「そう言えば、織斑君と凰さんは妙に仲がいいみたいですね。どんな間柄なんですか?」

「ど……どんな間柄って……それは……」

「ただの幼馴染ですよ」

「そ……そう! 唯の幼馴染……はぁ……」

「なんで溜息なんか吐いてるんだよ」

「うっさい」

 

 自分で言って自分にダメージ受けてる。

 鈴はあれか。勢いで突撃して、後になって落とし穴とかに気が付くタイプね。

 

「い……一夏。アンタってさ、クラス代表をしてるって比叡先輩に聞いたんだけど?」

「一応な。完全に成り行きなんだけど」

「よかったら、あたしがISの特訓に付き合ってあげようか?」

 

 ここでまた自分で言った『付き合う』って言葉に反応して顔を真っ赤にしてる。

 自爆が好きな子だなぁ~。

 

「いや、それは拙くないか?」

「へ?」

「いやさ。今朝、教室で話してたんだけど、もうすぐクラス対抗戦ってのがある……んですよね? 金剛先輩」

「その通りヨ~。だから、対抗戦一週間前になると部活は全面的に出来なくなるノ」

「まるで運動会みたいッスね」

「このIS学園では割と日常茶飯事ですよ。なんせ、一年間でかなりの数のイベントがありますから」

「その度に部活は中止になるんですけど、そこまで深刻に考える必要は無いわ」

「なんでですか?」

「ここの部って他の学校とは違って、大会とかに出場出来ないから」

「マジっすか」

「マジもマジ。大マジよ。だから、IS学園での部活は大会で勝つのが目的って言うよりは、大学のサークル活動に近いのよ」

「知らなかった……」

「なのに、なんでか全校生徒は部活に入るのが義務化されてるのよネ~。そこだけは未だに不思議デ~ス」

 

 地味にIS学園の七不思議だったりするのよね。それって。

 

「話逸れてない?」

「おっと、そうだった。でだ、俺と鈴は違うクラスで、対抗戦でぶつかる可能性もある訳だろ?」

「そうね」

「試合相手同士が一緒に訓練をするってのは体面的にも拙いんじゃないか?」

「うぐ……! それはそうだけど……」

 

 矢張り、後先考えずの発言だったか。

 

「だからさ、その申し出は本当に有難いけど、対抗戦が終わってからにしてくれないか?」

「わ……分かったわよ。あたしだって、無理矢理にしようとは思ってないし……」

「解ってくれて助かるよ」

「でも、妙に頭が冴えてるじゃない? 一夏にしては珍しい……」

「失敬な奴だな。俺だって色々と頑張ってるんだよ。特訓もそうだけど、暇そうな時を見計らって先輩に勉強を教わったりとか」

「先輩に勉強っ!? 誰にっ!?」

「金剛先輩にだよ。後は霧島先輩にも教わった事があるっけ」

「ちょっと待て! お前が金剛部長に勉強を教わっているだとっ!? そんな話は初めて聞いたぞ!」

「そりゃ、言ってないしな」

「なんで言わない!?」

「いや、別に聞かれなかったし」

 

 まるでキュウベエみたいな言い訳だ。

 

「まさか……比叡お姉さまにも……!?」

「それはまだだ」

「そうですの♡ それはよかったですわ~♡」

 

 今一瞬、セシリアから危険な香りがしたような気が……。

 

(なんか妙に一夏の奴、金剛先輩に懐いてない? まさか……一夏ってば先輩の事を……? でも、先輩の方は一夏の事をそんな風に見てないっぽく見えるし……。それじゃあ、今は一夏の一方通行? でもでも、今はそうでも、これからどうなるか分からないし……。あ~……もう! このメンツってどんな関係性なのよ~!!)

 

 派手なリアクションをするのはいいけど、そのままだとラーメン伸びちゃうよ?

 

「はぁ~……」

 

 本当に緩急が激しい子だ。

 でも、だからこそ攻略のし甲斐があると言いますか。

 

 それからも一緒に食事を楽しんだが、鈴は終始、挙動不審だった。

 彼女が気になっている織斑一夏は全く気にしていなかったけど。

 あの鈍感具合は本当に国宝級だと思う。

 色々と知っているからこそ、そんな目で見れるんだろうな。

 

 

 

 

 




初めての比叡の一人称。

今後も、姉妹の誰かが主軸になる話の時は彼女達の主観になります。

果たして、比叡は無事に鈴を攻略出来るのか?




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鈴 拍子抜けする

まだまだ比叡視点は続きます。

一応、四姉妹全員が主人公ですから。






 放課後になり、私は予定通りに自分が部長を務めているテニス部へと顔を出していた。

 部員の子達はコートの傍で柔軟をしていたが、私が来た途端に目を輝かせて動きを止めた。

 

「比叡お姉さま!」

「今日もなんて凛々しいの……♡」

「私……テニス部に入って正解だわ……♡」

 

 今年になってテニス部に入った子達の大半が、私目当てらしく、こうして時折姿を見せるだけでテンションが一気に上がる。

 単純と言えばそれまでだが、こっちからしたら御しやすいのは都合がいい。

 

「こっちに来るのも久し振りね。比叡部長さん」

「無理に『部長』って呼ばなくてもいいわよ」

 

 同じクラスの子がやってきて、茶化すように部長と呼んできた。

 確かに私は部長ではあるが、同い年の子に言われると流石に恥ずかしくなる。

 

「ゴメンゴメン。でも、本当に忙しそうにしてるわよね」

「まぁね。一応、私達って色んな国と交流してるから、代表候補生を蔑には出来ないし、例の男子君の事もしないといけないから」

「あ~……彼の事ね。私も少し見たけど」

「どう思った?」

「別に。顔はイケメンかもだけど、かと言って恋愛対象には発展しないでしょ。そもそも、私って年下よりも年上の人の方が好みだし」

「初めて知った」

「初めて言ったからね。てなわけで、誰かいい人知らない?」

「そう言われても、急には思いつかない」

「だよね~。なら、思い出したら教えて。即行で合コン組むから」

「合コンって……」

「なんなら比叡達も来る? 絶対に四姉妹で独占されそうだけど」

「じゃあ呼ばないでよ」

「なんとなくよ」

 

 前世でも今世でも、合コンなんて一度も行った事が無い。

 そもそも、私達全員が俗世間的な事に対する興味が薄いんだけど。

 

「二人共、話が完全に脱線してるから」

「おっと、そうだった」

「今からどうするの?」

「少しだけ後輩に指導してから、彼が訓練してるアリーナに向かうつもり」

「そう。着替える?」

「簡単にするだけだから、そこまではしなくてもいいんじゃない?」

「それもそっか」

 

 それから私は、30分ほどに渡って後輩ちゃん達を指導してから、その場を後にした。

 これは私達四姉妹共通なんだけど、部活は私達が息抜きできる数少ない時間なのよね。

 だからこそ、可能な限りは顔を出すように努めていたりする。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「………………」

 

 精神を極限まで集中させ、無言で引き金を引く。

 薬莢が排出されると同時に硝煙の匂いが辺りに充満する。

 銃声と共に弾丸はターゲットを射抜き、周りが再び静寂に包まれる。

 

「ふぅ……」

 

 耳宛てとゴーグルを取ってから、私は一息ついた。

 私が今いる場所は、IS学園内にある射撃演習場。

 ここでは本物の銃を使っての射撃の訓練が行える。

 実際に使用している人間はかなり少ないが。

 

 タイミング的に向こうの訓練が終わる頃にやってきて、例の鈴ちゃんに偶然を装って接触しようと企んだのだが、思っているよりも早く部の方を抜けてきたため、まだ時間が余っていた。

 そんな時、ふと目に着いたのが、この射撃演習場だったというわけだ。

 実は私、一年の頃からここに通っている常連さんだったりする。

 

「相変わらず、射撃の腕は超一流よね」

「サラ………」

 

 いきなりやって来たのは、私と同じ二年生で、セシリアと同じイギリスの代表候補生である『サラ・ウェルキン』

 ISの腕は申し分ないが、その代わりビット適正がセシリアよりも低く、結果として専用機を受領出来なかった過去を持つ。

 その事で昔はセシリアと少しだけ確執があったが、私達四姉妹が仲裁に入る事によって、今では普通に接するようになっている。

 いずれは彼女も専用機を持つ事が出来るとは思うのだけど……。

 

「ホント、どんだけ努力すれば、こんな芸当が出来るようになるのかしらね?」

「こんな芸当って……」

 

 サラが近くにある機器を操作して、私が撃ち抜いたターゲットの紙をこっちに引き寄せて、止め具から引きはがした。

 紙には銃痕と見られる焼け焦げた穴が一つしか開いていない。

 

「0コンマ数ミリのズレも無く、全ての弾を全く同じ場所に撃ち込むなんて神業、国家代表選手でも絶対に不可能でしょ。マジでどうなってるのよ」

「私に聞かれても困るんだけど」

「やった本人がそれを言う?」

 

 と言われてもな~。

 これぐらいなら、歳が一ケタの頃から普通に出来てたし。

 その気になれば、目隠しをした状態でも出来るし、後ろを向いた状態からの振り向きながら撃って、全く同じ場所に当てるなんて事も可能だけど、ここで言ったらまらサラの癇癪が始まるから止めておこう。

 

「比叡もそうだけど、四姉妹全員が間違いなく代表候補生は愚か、国家代表すらも凌駕する実力を秘めているのに、実際にはどこにも所属していない」

「こっちにも事情があるの」

「でしょうね。じゃなかったら、ISを所有する全ての国がひっきりなしに勧誘合戦をしてるだろうし」

 

 それを危惧して、私達は予め先手を打っていたりする。

 何事も先手必勝。小西家の家訓の一つだ。

 

「サラも撃ちに来たの?」

「ううん。比叡がここに入っていくのを遠目から見かけたから、追いかけてきただけ」

「アンタはストーカーか」

「比叡限定なら喜んでストーキングするけど」

「お願いだからマジで止めて」

 

 仲のいい同級生にストーキングされるとか、どこのヤンデレホラー劇場よ。

 

「これから用事があるから、そろそろ行くわね。サラはどうする?」

「そうね。折角だし、私も少しだけ撃っていこうかしら」

「それじゃ、お先に失礼~」

 

 銃を借りに受付まで行くサラを見ながら、ゴーグルなどを返却して射撃演習場を出ていった。

 アリーナに行く前に、何か買っていこうかな?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 第三アリーナのピット入口。

 予想以上にピッタリのタイミングで鈴ちゃんと出くわした。

 

「比叡先輩。こんにちは」

「こんにちは。鈴ちゃんも様子を見に来たの?」

「えっと……そんな所です」

 

 彼女が手に持っているバッグには、二人のスポドリとタオルが入っているに違いない。

 今回は篠ノ之さんが金剛お姉さまを追いかけて部に行っているので、入っているのは二人分か。

 

「ここでこうしててもアレだし、さっさと入ろうか」

「はい」

 

 ドアの傍にある開閉装置を操作すると、自動で扉が開く。

 もう既に訓練は終了しているようで、ISスーツ姿のセシリアと織斑君がステージの方からやってきていた。

 

「疲れた……」

「あの程度で音を上げるとは情けない……」

「いやいや。オルコットさんの訓練って、かなりのスパルタじゃんか……」

「私が比叡お姉さま方に受けた訓練に比べれば、何百倍もマシですわ」

「あの四姉妹……どんな訓練をしたんだよ……」

 

 なんか話してるけど、私達がセシリアに行った訓練の内容は、読者の皆のご想像にお任せしよう。

 

「「お疲れ様」」」

「鈴。それに比叡先輩も」

「比叡お姉さま~♡」

 

 訓練で疲れている筈なのに、セシリアはまだまだ元気が有り余っているみたい。

 それでこそ、鍛えた甲斐があったってもんだ。

 

「鈴ちゃん。ほら」

「そ……そうね。一夏!」

「なんだ?」

「タオルとスポドリを持ってきてあげたわよ。良かったら使って」

「マジでっ!? サンキュー! 助かるよ!」

 

 気持ちよさそうにタオルで汗を拭きとって、手渡されたスポドリを美味しそうに喉に流し込む織斑君。

 まるで砂漠で迷子になった放浪者のような飲みっぷりから、相当に喉が渇いていたことが予想出来た。

 

「い……一応、アンタの分も持ってきてあげたわよ」

「ありがとうございますわ」

「これはついでなんだからね! 勘違いするんじゃないわよ!」

 

 ツンデレ&テンプレ乙。

 

「はいはい。そうですわね」

 

 精神的にも成長しているセシリアは、鈴ちゃんのツンデレ攻撃を軽くスルー。

 出会ったばかりの女の子には効果は薄いよね~。

 

「私からはコレを」

 

 ここに来る途中で購買部で買ってきた10秒チャージのゼリー。

 勿論、程よい温度に調整してある。

 

「お腹空いてるでしょ? かと言ってガッツリと食べたら夕飯に支障が出るから。これぐらいなら問題無いと思って」

「例の10秒チャージのやつですね。丁度、何かを食べたいとは思ってたんですよ。ありがとうございます」

「比叡お姉さまからのプレゼント……♡ 一生大切にしますわ♡」

「「いや、ここで食べなさいよ」」

 

 まさかの私と鈴ちゃんのダブルツッコみ。

 

「にしても、鈴と比叡先輩が一緒に来るとは思わなかったな」

「扉の前で偶然にね」

 

 本当は偶然を装っただけなんだけど。

 

「一緒に………はっ!? まさか……鈴さんも比叡お姉さまを……!」

「なんでそうなるのよ。確かに先輩には道案内をして貰った恩はあるし、話しやすくて気さくな人だとは思うけど。それだけよ」

「本当ですわね……?」

「こんな事で嘘なんて言わないわよ。第一、私はちゃんと異性が好きな女の子だから」

「それなら安心ですけど……」

 

 でも、人の心っていつ、どこでどんな風に様変わりするか分からないからね。

 転生した私達が言っても説得力無いけど。

 

「ん? 箒からメール?」

 

 織斑君がゼリーを飲み込みながら携帯を触っていると、篠ノ之さんからメールが届いたみたい。

 なんとなく想像はつくけど。

 

「箒って、あのポニーテールの子? なんて言ってるの?」

「『自分は剣道場のシャワーを使うから、部屋のシャワーは先に使ってもいい』だってさ。これまた助かるわ」

「……………は?」

 

 ここで鈴ちゃんがフリーズ。

 数秒してから再起動した。

 

「い……一夏! まさかとは思うけど、あの箒って子と同じ部屋なのっ!?」

「そうだぞ。いや~、幼馴染が一緒の部屋で助かってるよ。これが初対面の子とかだったりしたら、最低でも数週間は気まずい空気の中で生活してたな」

「幼馴染……一緒……」

 

 断片的な単語だけを呟いて、鈴ちゃんはまたもや完全停止。

 絶対にアレを企んでますな。

 

「だったら……いいのね……」

「はい?」

「幼馴染だったらいいのよね!?」

「いや何がっ!?」

 

 これは彼じゃなくても理解不能かも。

 幼馴染だったら何がいいのやら。

 

「また後でね! 比叡先輩、お邪魔しました!」

 

 早足で去って行きながらも、キチンと私への挨拶は忘れない。

 粗暴なのか礼儀正しいのか。

 

「はぁ……一体何が言いたかったのかしら……?」

 

 この場で一番空気と化していたセシリアの溜息が大きく聞こえた。

 

(これは念の為に私も行くべきかな)

 

 もう既に色んなバタフライエフェクトが発生している以上、ここで無視は出来ない。

 何かがあってからでは遅いから。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「そんな訳だから、部屋変わって」

「はぁ?」

 

 数時間後。一年寮の織斑君&篠ノ之さんの部屋の前。

 案の定、鈴ちゃんがいきなり押しかけて篠ノ之さんに退去通告をしていた。

 当事者である織斑君は状況が上手く飲み込めなくて呆然としている。

 

「一応の為に来ておいて正解だった……」

「ひ……比叡先輩っ!? なんでここにっ!?」

「こんな事になるような予感がしてたから」

「流石は比叡先輩。見事な慧眼だ」

「ご迷惑お掛けしてすいません」

「あれ? なんか私が悪い流れ?」

「「明らかに悪いだろ」」

「うぐっ!?」

 

 見事なツープラトン。

 因みに、今回の事は金剛お姉さまから私に一任されている。

 任されたからには、きっちりとこなしてみせる!

 

「別に私自身は、この部屋を出ていくのは一向に構わないぞ」

「へ?」

「お互いにそろそろ潮時だと話し合っていたしな」

「マジで?」

「おう。千冬姉達も部屋割りを考えてくれてるみたいだし」

「あ……あれぇ~?」

 

 鈴ちゃんは、ここで篠ノ之さんが部屋を出ていくのを渋ったり、それに対して怒ったりすると思っていたに違いない。

 だが残念。彼女は日々、金剛お姉さまと特訓を重ねることで心身共に成長している。

 今では完全無自覚で懐いてるけど。

 あれはもう、くっつくのは時間の問題じゃないかな?

 

「と言うか、その話をここでするのは間違ってない?」

「比叡先輩の仰る通りだ。その手の話はまず、一年の寮長に通すべきだろう」

「い……一年の寮長って?」

「「「織斑先生」」」

「はぅわっ!?」

 

 予想はしていたけど、考えたくはなかった。

 そんな心境が丸分りになる悲鳴だった。

 

「あの人と交渉とか完全に無理ゲーじゃない……。レベル1の勇者が布の服と檜の棒で魔王にタイマンを挑む事と同義よ……」

「それ、絶対に本人の目の前で言うなよ。グラウンド1000周とかさせられるぞ」

「そんな命知らずな真似、死んでもしないわよ」

 

 昔馴染みだからこそ理解出来る恐ろしさか。

 基本的に織斑先生が家族以外でデレるのは金剛お姉さまだけだしな~。

 

「どうする?」

「お……大人しく引き下がる以外の選択肢が無いじゃないのよ……」

「常識的に考えて、今すぐに部屋を交換とか普通に不可能だがな。荷物の整理だけでも数時間は掛かるぞ。来たばかりのお前とは違って、こっちはもう完全に私物などを部屋に置いているのだからな」

「そ……そうだった……!」

 

 恋は盲目と言うけど、ここまで猪突猛進なのも珍しい。

 ちょっと頭を冷やせば簡単に気が付くでしょうに。

 

「そ……そう言えば一夏。昔、私とした約束って覚えてる?」

「約束?」

「そう」

「えーっと……昔のことな上に、ここ最近は覚えることが一杯あり過ぎて、断片的にしか覚えてないぞ……」

「え……?」

 

 例の『中華版味噌汁プロポーズ』のことか。

 

「鈴の料理が……なんだっけ? 酢豚が関係しているのは確かだと思うんだけど。あ~……喉まで出かかってるのに思い出せない~! なんかモヤモヤするぞこれ……」

 

 誰もが一度は経験する感覚よね、それって。

 テストの時とかに同じ現象に見舞われると、めっちゃ焦るわよね。

 

「………もういいいわ。騒がしくして悪かったわね。おやすみなさい」

 

 途端に大人しくなって部屋を後にする彼女を見て、流石に放置は出来ない。

 二人と軽く言葉を交わした後に、鈴ちゃんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から、比叡が鈴の攻略開始。


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比叡 慰める

HGBDベースガンダムを購入しました。

最初は構造的にGM/GM系列の派生機と思っていたのですが、考えが甘かったですね……。

可動域は同じぐらいでも、やっぱ『ガンダム』ってだけで興奮度が段違いです。

お蔭で、ベースガンダムで一つアイデアが出てしまった程に。

多分、かなりの確率で何らかの形で登場します。







 早歩きで寮の廊下を歩く鈴ちゃんを追いかけていくと、彼女が途中で立ち止まった。

 肩でも叩いて話しかけようと思ったけど、彼女の肩が震えているのが見えたので止めておくことに。

 

「……大丈夫?」

 

 鈴ちゃんは無言で頷いた。

 頭では分かっていても、どうしても返事をする気になれないんだろう。

 なんとなくだけど気持ちは分かる。

 誰だって生きていれば、似たような気持ちになる事があると思うから。

 

 肩を叩く代わりに、後ろからそっと頭を撫でてあげると、いきなり鈴ちゃんが抱き着いてきた。

 

「ひっく……ひっく……」

「………………」

 

 ここは敢えて何も言わず、頭を撫で続ける。

 話を聞くにしろ、部屋に帰るにしろ、まずは気持ちを落ち着かせることが最優先だ。

 

「……私の部屋……来る?」

「え?」

「こんな場所で泣いてたりしたら、変な噂になっちゃうでしょ? それに、まずはどこか落ち着ける場所に行く方がいいと思うの。私の部屋で鈴ちゃんが落ち着けるかどうかは分からないけどね」

 

 でも、少なくとも廊下よりはマシだろう。

 寮の廊下なんて、聞き耳を立てている連中ばかりだ。

 特に新聞部の連中に見つかったりしたら厄介この上ない。

 そうなった場合は、霧島を通じて新聞部に話をつけに行くけど。

 だって、霧島の入ってる部って新聞部だし。

 

「で、どうする?」

「……………………いきます」

「ん」

 

 話は纏まった。

 私は鈴ちゃんの手を握りながら二年の寮まで行き、そのまま自分の部屋に直行した。

 字だけで表現すると、なんだかイヤらしい感じに聞こえちゃうわね……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 私の部屋に入った途端、鈴ちゃんが驚きの表情を見せてくれた。

 

「広い……? いや、そうじゃない。一人部屋だから広く感じるんだ……」

 

 そうなのよね~。

 部屋の広さは全く違わないのに、一人部屋ってだけでここまで印象がガラリと変わるんだから驚きよ。

 錯覚って恐ろしいわよね~。

 

「比叡先輩ってお一人で住んでるんですか?」

「そ~だよ」

「てっきり、他の姉妹の人達と一緒だと思ってました……」

「ちょっと事情があってね。私達四姉妹は、全員がそれぞれに一人部屋なの」

「事情……」

 

 なんて、仰々しく言ってはみたけど、本当は一人部屋の方が色々と都合がいいから、こうしてるだけ。

 例えば、今回みたいに女の子を連れ込みやすいでしょ?

 他の子と一緒だったら、こうはいかないわよ。

 

 私姉妹の部屋は一人部屋であるが故のスペースの広さを最大限に利用して、実家から様々な家具を運び込んでいる。

 他の部屋には設置が難しいであろうソファーなんかもあったりするしね。

 

「適当にそこら辺に座ってて。今、お茶を淹れてくるから」

「あ……お構いなく……」

 

 さっきまで泣いていたせいで、鈴ちゃんの目が赤く腫れている。

 お茶と一緒に、氷水を淹れたビニールとか用意しておいた方がいいかも。

 

「これでよしっと」

 

 緑茶か紅茶かで迷ったけど、ここはなんとなく緑茶の方がいい気がした。

 別に根拠とかないんだけど、こっちの方が落ち着くと思ったのよね。

 

「お待たせ」

「ありがとうございます……」

 

 さっきの説明がフラグになったのか、鈴ちゃんは緊張しながらソファーに座っていた。

 これはアレね。普段からソファーとか座り慣れてない感じ。

 

 彼女にお茶を渡しながら、私も隣に座らせて貰う。

 それによって少しだけソファーが揺れたけど、お茶が零れることはなかった。

 

「美味しい……」

「よかった」

 

 ちょっとドキドキだったけど、ちゃんと飲めるようでなにより。

 

「私さ、実は料理とかすっごい苦手でさ~。金剛お姉さま達はバッチリ出来るのに、次女である私が出来ないのは拙いって思って、頑張って練習中なんだけど、あんまり上手にいかなくて~」

「そ……そうなんですか……」

「んで、料理が駄目でも、せめてお茶ぐらいは上手に淹れられるようになりたいって思って、榛名とか茶道部の子達に教えて貰って、なんとか飲めるレベルにはなれたの」

 

 あの時の榛名達の反応は凄かったな~。

 茶道部の子達は感動のあまり、急に泣き出すし、榛名に至っては嬉しすぎて両親にいきなり電話を掛けて報告したぐらいだし。

 その両親も両親で、私がお茶を淹れられた事実に驚きまくって、実家に戻った時は盛大にパーティーを開くとかぬかしやがった。

 私って家庭科方面でどんだけ信用されてないのよ。

 

「でも、これは本当に美味しいですよ?」

「本当に頑張ったからね~」

 

 いかなる時も研鑽を怠らない。

 小西家家訓の一つだ。

 

「それとこれ」

「氷?」

「目、腫れてるわよ。少し冷やした方がいいと思う」

「そ……そうですね……」

 

 感謝を述べながら、鈴ちゃんは目頭に氷水の入った袋を当てながら背凭れに体を預ける。

 

「気持ちいい……」

「暫くはそうしてた方がいいよ」

「分かりました」

 

 ここで少しだけ黙って見守る事に。

 その間に、何を話そうか考え中。

 

「……なんで……」

「ん?」

「なんで比叡先輩は、あたしにここまで優しくしてくれるんですか……?」

「そうねぇ~……」

 

 理由は色々とあるんだけど、自分の中で一番の理由と言えば……。

 

「放っておけなかったから……かな」

「放っておけない?」

「うん。なんだか鈴ちゃんを見てると、『昔の自分』を思い出すんだ……」

 

 昔と言っても、それはこの世界での『昔』ではなく、かと言って『私の前世』の事でもない。

 ここで言う『昔』とは、この体に刻まれている『少女の体に戦艦の性能と記憶』が宿っていた『金剛型2番艦 比叡』の事だ。

 

「頭では分かっていても、いつも反射的に嫉妬して、早とちりが多くて……。金剛お姉さまの事が一番大好きなのに、お姉さまの気持ちは別の人に向いていて……」

 

 これは金剛お姉さま達も言っていたけど、自分の記憶じゃないのに、自分の記憶のように鮮明に覚えている。

 まるで、実際に自分が体験してきたかのように。

 

「空回りして周りに迷惑をかけた事もある。考えるよりも、まずは行動って事も多かったし……」

「………………」

「無意識のうちに私は『艦娘()の自分』と今の鈴ちゃんの姿を重ねてしまっていたんだね……」

 

 別に、何から何まで似ているって訳じゃない。

 彼女の今の様子が、どことなく『艦娘の比叡』を僅かに彷彿とさせたに過ぎない。

 

「たはは……。なんかゴメンね? 急に変な事を言い出しちゃって」

「いえ、別に気にしてませんから。それどころか………」

「それどころか?」

「………………ほんのちょっとだけ……嬉しかったし………」

 

 ヤヴァイ。これは可愛すぎる。

 思わずガチで抱きしめたくなっちゃったし。

 

「でも、いいんですか? こうしてあたしを部屋に入れて。セシリアが黙っていないんじゃ……」

「大丈夫だよ。あの子はこれぐらいじゃ文句なんて言わないから」

 

 そんな心の狭い子に育てた覚えはないからね。

 原作のままならいざ知らず、私達が育てたセシリアはとても寛容な女の子になっている。

 多少なりとも何かは言うかもしれないが、直接何かをする事は決してないだろう。

 寧ろ、嬉々として挑戦状を叩きつけてくるかも。

 

「あの……聞いてもらえますか? あたしの事……」

「いいよ」

 

 そこから私は彼女の口から色んな事を聞かされた。

 と言っても、殆どが私達が最初から知っていた内容なので、おさらいをするような気分で聞いていた。

 

「鈴ちゃんは、織斑君に会いたい一心で頑張って、そうしてIS学園に来たんだね」

「最初は行く気なんて無かったんですけど、一夏がISを動かしてここに入学するって聞いたから……」

 

 お上の方から散々と催促されたんだろうけど、それをいつもの態度で突っぱねてきたんだろう。

 それが急に手の平返しをしたんだから、向こうも戸惑っただろうな。

 私的には『ザマァwww』なんだけど。

 

「あの『約束』だけが、あたしの心をずっと支え続けたんです。でも……それももう……意味無くなっちゃった……」

 

 思い出して、また涙が込み上げてきてしまったみたい。

 流石に罪悪感が出たので、今度は私から静かに抱きしめてあげた。

 

「あたし……今まで何のために頑張って………」

 

 そりゃ……初恋の人との約束を唯一の支えで頑張ってきたのに、肝心の相手が約束を忘れていたんだから、ショックは大きいよね……。

 鈴ちゃんの言い方にも問題はあると思うけど、織斑一夏の鈍感具合も相当だ。

 その『理由』を知っている身としては、一概に彼だけを責められないんだよね……。

 

「一応言っておくけど、あまり彼を責めないであげてね? 織斑君も慣れない環境に馴染むのに必死だったり、難しい勉強に追いつく為とかISの知識や技術を少しでも頭や体に叩き込むのに大忙しだったから。少し前まで、かなり大変だったみたい。最近になって、ようやく生活にも落ち着きが出始めたっぽいし」

「分かってるんです……頭じゃちゃんと理解はしてるんです……。一夏がISの事を頑張ってて、昔の事なんて思い出す余裕なんて無かったんだってことは……。でも……でも……」

「鈴ちゃんの心はそう簡単には割り切れない」

「はい…………」

 

 人の心がそう簡単に出来ていれば誰も苦労はしない。

 私達四姉妹でさえ、未だに『体の記憶』に苦しんでいるのに、鈴ちゃんは本当に年端もいかない15歳の女の子で、精神の方も未だに未成熟。

 これで『相手が約束を覚えていないんだから、仕方なく割り切れ』と言うのは、余りにも酷だろう。

 鈴ちゃんじゃなくても、相当に心が傷つく。

 

「あたし……これからどうしたら………」

「……別に、今すぐに結論を出さなくてもいいんじゃない?」

「え?」

「鈴ちゃんはまだココに来たばかりなんだよ? 最低でも卒業まで2年半以上は時間があるんだし、それまでゆっくりと自分の気持ちを整理していけばいいんじゃないかな?」

「あたしの気持ち……」

「そう。急ぐ必要はどこにもないんだよ」

 

 この手の事は急いだところで全く意味がない。

 時間を掛けて解決していくしかない。

 

「あの………比叡先輩」

「どうしたの?」

「今日はその……ここに泊まらせて貰ってもいいですか?」

「それは構わないけど、なんで?」

「こんな目じゃ、ルームメイトの子に会わせる顔が無いって言うか……。比叡先輩の傍にいると不思議と落ち着くって言うか………」

 

 確かに。ルームメイトが目が真っ赤に腫れた状態で部屋に戻ってくれば、嫌でも何かあったと思って勘ぐってしまうだろう。

 それが噂大好きな女子高生ともなれば猶更だ。

 私といると落ち着くって言われたのは純粋に嬉しかったけど。

 

「分かった。さっきも言った通り、私の方は一向に構わないから。これからも、何かあればいつでも好きな時に来ていいよ」

「いいんですか?」

「勿論。セシリアだって暇さえあればここに来てるよ?」

「あの子も………」

 

 お蔭で、最近は去年以上に暇してません。

 賑やかなのは好きだからいいんだけどね。

 

「取り敢えず、シャワーでも浴びる? お湯で体が火照れば、少しは気持ちが落ち着くかもだよ?」

「そうですね………お借りします」

 

 スローな足取りでシャワールームまで行く彼女を見送ってから、私は鈴ちゃんの着替えを用意する事に。

 私と彼女とじゃ服のサイズが違うから、絶対にダボダボになるだろうけど、それはそれで非常に萌えるのでアリ。

 あ、下着はどうしよう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「ふぅ………」

 

 泣き疲れた体にシャワーの温かい湯が当たって気持ちがいい。

 

(なんだか今日は密度の高い日だったわね……)

 

 朝に一組の教室に行って一夏と会って、一緒にお昼を食べて、そこで比叡先輩と再会すると同時に、先輩のお姉さん達にも出会って、放課後にアリーナまで行って差し入れをして、それから……)

 

 それから、ムキになって一夏の部屋まで行った私に待っていたのは、衝撃的な事実だった。

 今の今までずっとあたしの心を支えていた昔の約束を、一夏が断片的にしか覚えていなかった。

 比叡先輩が言っていた通り、頭じゃちゃんと分かってる。

 一夏だって本当に大変だった。

 いきなりISを動かしてしまって、周りが異性だらけの学校に放り込まれて、勉強にISにと覚えることが沢山あって……。

 

「でも……だからと言って……そんな簡単に納得なんて出来ないわよ………」

 

 自分の我儘だって分かってる。

 あたしが一方的に告白染みた約束をした気になっていただけであって、向こうはそんなつもりで聞いていなかったんだって。

 昔から一夏は恋愛関係に関しては驚くほどに鈍感で、沢山の女の子が泣かされてきた。

 そして今、あたしもその一人になってしまったわけだ。

 

「あの箒って子も幼馴染なのよね……」

 

 あの子は一夏の事を好きだったのかな……。

 あたしからみても、今の彼女は一夏の事を異性として意識しているようには見えない。

 なんだか吹っ切れたような、清々しい顔をしていた。

 

「別に、またもう一度初めからやり直すって手もあるんだろうけど……」

 

 今はそんな気分にはなれない。

 ここまで気持ちがネガティブになるのは、中学の時に中国に戻らないといけなくなった時以来だ。

 あの時も相当に落ち込んだ事をよく覚えている。

 

「比叡先輩……あたしと昔の自分を重ねてたって言ってたわね……」

 

 まだ出会って少しだけだけど、それでもあの姉妹が凄いのはよく分かった。

 そんな人達でも、人並みに弱い部分があるって知った時、不思議と嬉しかった。

 なんでそんな事で喜んでしまったのは分からない。

 けど、比叡先輩に抱きしめて貰った時、凄く落ち着けたのは分かる。

 人肌が傍にあったからだろうか? それとも……。

 

「ダメだ……頭がゴチャゴチャする……」

 

 気持ちはある程度、落ち着いてきたけど、逆に頭の中はこんがらがったままだ。

 

「どうして、今日泊めて欲しいなんて言ったのかな……あたし……」

 

 完全に無意識に出てしまった言葉。

 言った後で慌てて言い訳を考えてしまったけど、あながち嘘とも言い難い。

 ルームメイトのティナにこんな顔は見られたくないし、見せたくもない。

 けど、今日一日はずっと比叡先輩と一緒にいたいと思ったのも事実なのよね……。

 

「やば。なんだかボーってしてきた。そろそろ出ようかしら……」

 

 抵抗感はあるけど、下着だけは同じのをまた着るしかないわね……。

 こんな事なら、少しぐらい荷物を持ってきてればよかった。

 あの後、碌に準備もせずに一夏の部屋まで行ったからなぁ~……。

 ほんと、あたしって後先考えずに行動してるわね……。

 

 

 

 

 

 




想像以上に長くなり過ぎぃぃぃぃぃぃっ!!

二人の部屋での話の続きは次回。


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鈴 明日を見つける

アヴェンジャーのメイヴ強いよぉ~!!

二体のBBで地道に削る作業で心が折れそうになりました。

ちみっこオルタニキも普通に強かったし……。






 鈴ちゃんのシャワーが終わったようで、用意しておいたバスタオルを巻いた状態で濡れた髪をタオルで拭きながら出てきた。

 ……もう襲ってもいいですか?

 

「えっと……シャワー……ありがとうございました」

「いいのいいの。気にしないで」

 

 こっちはいい光景を見られましたから。

 髪を降ろした鈴ちゃん、マジカワユス。

 

「比叡先輩はシャワーはいいんですか?」

「私は後で入るからモーマンタイ」

「そうですか……」

 

 別に誰も、私のシャワーシーンなんて期待してないでしょ?

 

「こっちおいで。髪を乾かしてあげるから」

「いえ、そこまでは流石に……」

「いいからいいから。鈴ちゃんはお客様なんだし、遠慮しないの」

「はぁ……」

 

 少し強引に鈴ちゃんを椅子に座らせて、長くて綺麗な黒髪を櫛で梳きながらドライヤーでゆっくりと乾かしていく。

 

「随分と手慣れてるんですね」

「実家にいた時は、よく金剛お姉さまや榛名の髪を乾かしてたから」

「そうなんですか……。なんか簡単に想像出来るかも」

 

 それだけ私達姉妹が仲良しな証拠かな?

 

「鈴ちゃんの髪って長くて綺麗だよね~。羨ましいな~」

「比叡先輩は髪を伸ばそうとはしないんですか?」

「伸ばそうとしないって言うか、性に合わなかったと言いますか」

「へ?」

「実はね、昔は私も髪を伸ばしてた時期があったんだ」

「そうなんですか?」

「うん。確か、小学生の頃だったっけ。金剛お姉さま達のようになりたくて、真似して髪を伸ばし始めたんだけど、腰の辺りまで伸びた辺りで鬱陶しくなってきちゃって。それでバッサリと」

「勿体ないな……。髪が長かった頃の先輩……見てみたかったかも……」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、どうも性格的に合わなかったみたい。今みたいにサッパリとした髪型のほうが自分には似合ってると思うし、個人的には好きなんだよね」

 

 だからと言って、別に髪の長い人達を否定しているわけじゃないからね?

 金剛お姉さまや鈴ちゃんやセシリアみたいに、長い髪が似合ってる人達だって世の中には大勢いるんだし。

 

「はぁ………」

 

 髪の話題で少しは明るくなったと思ったら、今度は溜息。

 そう簡単にはいかないか。

 

「あたし……これからどうしたらいいんですかね……」

「……………」

 

 ここは敢えて、聞き役に徹してあげよう。

 その方が鈴ちゃんもいいだろうし。

 

「一夏の事を追いかけてIS学園まで来たのに……いつかまた会える日を夢見てずっと頑張ってきたのに……」

 

 段々と髪が渇いてきた。

 長いと矢張り、ドライヤーを使ってもそれなりに時間が掛かるんだよね。

 

「全部……無駄だったのかな……。分からなくなっちゃった……」

 

 ふぅ~……。

 仕方がない。本来なら、こういった役は金剛お姉さまが適任なんだけど、彼女の事を任されたのは私だし、ここは柄にもないアドバイスでもしてあげましょうか。

 と言っても、私が今から話すのは先人の言葉なんだけど。

 

「分からなくなったのなら、一旦さ、全部を受け入れてしまいなよ」

「全部を受け入れる……?」

「そう。昔の恋をしていた自分も、ISを頑張っていた自分も、今の自分も、全部受け入れればいい」

「…………」

「そして、全部を受け入れたら、そこから探していけばいい。鈴ちゃんが進みたいと思う『本当の明日』をね」

「本当の……明日……」

「さっきも言ったけどさ、慌てて結論を出す必要は全く無いんだよ。ゆっくりと見つけていけばいいんだから」

「見つけられるのかな……」

「それは鈴ちゃん次第。でも、これだけは言っておくね」

「先輩……?」

「君がどんな結論を出そうとも、私はそれを支持するし、応援もする。だからさ、一人で抱えて悩むような事だけはしないでほしいな」

「比叡先輩………」

「私に言いにくかったら、セシリアや篠ノ之さんでもいい。誰かに言うだけでも相当に心は軽くなるよ?」

 

 これは大抵の人が一度は経験することだと思う。

 言っても無駄だ~とか、迷惑を掛けたくないから~とか。

 そうして自分一人で悩んでいくにつれて、最終的には思考の迷路に迷い込み鬱状態に陥る。

 無理にとは言わないが、それでも相談する癖はつけておいて損は無いだろう。

 ……私、何言ってるんだろう。

 まるでカウンセラーみたいなことを言ってるし。

 

「はい乾いた」

「あ……ありがとうございます」

「うんうん。ちゃんとお礼を言えるのはいい事だ」

 

 素直なのが鈴ちゃんの一番のチャームポイントだと思うのは私だけじゃないと思う。

 そんな彼女だからこそ、困った時は力になってあげたい。

 

「少しサイズが大きいけど、私のパジャマを貸すから。でも、流石に下着までは……」

「分かってます。別に今日は特に汗とか掻いてないから。一日ぐらいなら我慢出来ます」

「おぅ……意外と強かなんだね……」

 

 ここまで、強い部分と弱い部分がハッキリと分かれているのもまた凄い。

 でも、だからこそコミュ力が高いんだろうな。

 

「それじゃあ、まだ少し早いけど、君が着替えたら寝ようか」

「はい」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「えっと……本当に大丈夫なんですか?」

「気にしない気にしない。ここのベッドって割と大きい方だから、二人一緒に寝ても何の支障も無いよ」

 

 この部屋は一人部屋。って事は必然的にベッドの数も一つな訳で。

 私と鈴ちゃんは並んで一つのベッドに入って向き合っている。

 

 あれから私も軽くシャワーを浴びて、パジャマに着替えてから一緒のベッドの中に。

 こーゆー時にショートヘアーは便利だよね。すぐに乾くから。

 

「こうやって誰かと一緒に寝るのなんて、生まれて初めてかも……」

「そうなの?」

「はい。少なくとも、物心ついてからは誰かと一緒に寝た記憶は無いですね」

「普通はそうかもね」

「比叡先輩は違うんですか?」

「実家じゃよく、大きなベッドに姉妹並んで寝てるから」

「四人が寝れる程に大きなベッドがある事をツッコむべきか、未だに姉妹で一緒に寝ている事にツッコむべきか……」

 

 私達は『大金持ち』で『仲良し姉妹』だからね。

 ツッコむ場所は無いと思うけど?

 

「さて。お話はこれぐらいにして、そろそろ本当に寝ようか」

「分かりました」

 

 手元にあるリモコンを使って部屋の灯りを消して、モゾモゾと体を動かして少しだけ縮こまる。

 

「おやすみ……鈴ちゃん」

「おやすみなさい、比叡先輩」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「………あれ?」

 

 気が付くと、辺りが真っ暗な場所にいた。

 上も下も右も左も真っ黒で、何も見えない。

 

「夢?」

 

 だって、あたしは比叡先輩の部屋で一緒にベッドに入って……。

 

「今更ながら、なにやってんのよアタシは……」

 

 幾ら心細くなってるとは言え、知り合ったばかりの先輩にそこまで甘えるとか……。

 図々しいにも程があるじゃない……。

 

「起きたら、ちゃんとお礼言わないとな~……」

 

 何回も言ってる気がするけど、それでもちゃんと言わないとダメだ。

 

『汝………」

「はい?」

 

 急に声が聞こえてきた? 誰?

 

『汝はこれからどうする気だ……?』

「どうするって……」

 

 意味不明な声が聞こえてきたと思ったら、急に私の周囲に光の道が形成された。

 その道は幾つにも分かれていて、その先におぼろげながらも人影が見える。

 

『お前には選択肢がある』

「選択肢?」

 

 道を照らす光が大きくなり、人影の正体が明らかになっていく。

 一つは一夏で、もう一つは両親。

 その他にもこれまでに知り合った何人もの人間が道の先にいて、最後の道には比叡先輩が立っていた。

 

『昔の想いを追いかける道。故郷へと戻る道。全てを忘却し日常を謳歌する道。平穏を捨て修羅の世界へと行く道。どれもが正しく、どれもが間違っている』

 

 これは……さっき比叡先輩が言っていた事と同じ?

 

『何を選んだとしても汝を責める者はいまい。お前はどうする?』

「あたしは……」

 

 あたしはどうしたい?

 IS学園に来た時みたいな気持ちで一夏と一緒にいる?

 ううん……それは何か違う気がする。

 自分でも不思議だけど、前のような熱い気持ちは完全に冷めきっている。

 別に一夏の事を嫌いになった訳じゃない。

 今のこの気持ちは、それ系のじゃなくて……。

 

「分かんないよ………あたしはどうしたいの……?」

 

 また頭がゴチャゴチャしてきた。

 思わず頭を掻き毟るけど、一向にゴチャゴチャは収まらない。

 

「はぁ……昔……か……」

 

 一夏()と過ごした日本での日々は本当に楽しかった。

 毎日遊びまわって、一緒に色んな事をして、下らない事で大笑いして……。

 

「また……皆と遊びたいな……」

 

 あ。

 

「そっか……そうだったんだ……」

 

 昔の想いに縛られて、わたしは一番大切な事を忘れていた。

 あたしが……今のあたしが望んでいる事。

 一夏()としたい事。それは……。

 

「あたしは……どれも選ばない」

『ほぅ?』

「あたしは! 皆と一緒に笑って楽しく過ごせれば、それだけでいい! それ以外は何もいらない! 欲しくない!!」

『本当にいいのか? 汝はあの男に恋焦がれていたのだろう?』

「いいって言ってるでしょ! もし仮に誰かを好きになる事があったとしても、それは別に今じゃなくてもいいじゃない! 無理に恋する必要なんて、どこにもないのよ!」

 

 こんな当たり前の事を忘れていたなんて。

 恋は盲目って言うけど、本当だったみたいね。

 

「都合の悪い事は全てを忘れたりとか、子供染みた事なんてしない。自分が一夏を好きだった想いも覚えていて、その上で皆と一緒にいたい!」

 

 もう迷わない。迷ったりしない。

 

「動機はどうであれ、IS学園に来たのは自分の意思! だから、自分勝手に帰ろうとは思わないし、代表候補生になった時から、自分が戦いの道に足を踏み入れた事は自覚してる。覚悟もしてる!!」

 

 生半可な決意で国の看板を背負ったりするほど、私は愚かじゃない。

 

「だから……あたしの進みたい道はここには無い。あたしの望む『本当の明日』はここには無い!!」

 

 後ろを振り向いて歩き出すと、一歩進む度に足元が光り出す。

 

『それでいい。汝は元々、そのような人間ではない。他者が決めた道を行かず、己が道を自ら切り開く者』

「当たり前じゃない。それが凰鈴音の生き様よ」

『ならば行くがいい。今の汝ならば、眼前に何が立ち塞がろうとも、止まる事はあるまい』

 

 声を後ろに聞きながら、私は歩みを止めない。

 

『それでも迷った時は【天使の鎧】を纏う四姉妹を頼るがいい。必ずや汝の力となる筈だ』

 

 【天使の鎧】がなんなのかは分からないけど、四姉妹が誰を指しているのかは分かった。

 

「言われなくても。後輩が先輩を頼るのは当然の事じゃない」

 

 あんなにも皆に慕われている人達、他にいないわよ。

 少なくとも、あたしが知る限りではね。

 

『さらばだ、我が主よ。いずれまた会おうぞ……』

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは比叡先輩の部屋のベッドの上。

 まだ部屋は暗いままで、夜中であることが窺える。

 目だけを動かして目覚ましを見てみると、時計は早朝の4時を指していた。

 

(めっちゃ寝てる時間なんですけど……)

 

 こんな時間に目が覚めたのなんて生まれて初めてなんですけど。

 訓練生時代でも、もうちょっと寝てたわよ。

 

「あ……」

 

 目の前には未だに熟睡中の比叡先輩の顔が。

 

(うわぁ……すっごい美人……)

 

 起きている時も相当に美人だったけど、寝顔は別格だ。

 天使の寝顔とはよく言ったもんだ。

 この顔を見た途端、あたしの中にちょっとした悪戯心が芽生えた。

 

(少しぐらいは……いいわよね?)

 

 そっと、静かに体を動かして、比叡先輩の胸元に潜り込んだ。

 そのまま抱き着くようにくっつく。

 

(暖かい……)

 

 人肌の温もりは安心感を与えるって聞いた事があるけど、本当だったみたいね。

 これはマジで落ち着くわ~……。

 お蔭で、眠気が復活してきたし。このままの状態で眠らせて貰おう。

 それじゃあ、おやすみなさい。

 次に目が覚めた時はきっと、昔みたいに一夏とも笑いながら話せると思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 




また一歩、鈴ちゃんルートが前進しましたね。

最後はやっぱり、あのイベントですかね。


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金剛 問いかける

久方振りの金剛お姉さま。

ちょっと先のフラグを立てておきます。






 朝起きると、ベッドの中に鈴ちゃんはいなくなっていて、その代わりにパジャマが丁寧に折りたたまれていた。

 よく見ると、テーブルの上に置手紙が置いてある。

 

「律儀な子だな……」

 

 ベッドから起き上がって、彼女が書いたと思われる置手紙を読んでみることに。

 

『何も言わずに出ていってしまってごめんなさい。でも、早めに部屋を出て自室に戻らないと、先生に何を言われるか分からないから、こうして置手紙を残しておきます』

 

 そりゃ、そうだよね。

 誰だって同じ立場ならそうするだろう。私だってそうする。

 

『先輩に慰めて貰って、色々と話を聞いてもらって、本当に心が楽になりました。先輩がいなかったら、きっと自分一人でネガティブになってたと思います』

 

 だったかもね。人ってのは、一人でいると勝手に落ち込んでいくもんだから。

 

『私なりに色々と考えた結果、自分の進みたい本当の明日ってのがやっと分かったような気がします。どうやら、私は目の前ばかりを見続けて、一番大切な事を忘れてしまっていたみたいです』

 

 一番大切な事……ね。

 それがなんなのかは書かれてないけど、何となく想像は出来る。

 誰もが当たり前だと思っていて、普通は分からないもの。

 だからこそ、ソレを知っている者はソレを守るために命を賭ける事が出来る。

 

『今ならきっと、昔みたいに笑顔で一夏達とも話す事が出来ると思います。先輩と話さなかったら、こんな簡単な事にも気が付けなかったかもしれないと思うと、自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れます』

 

 いや……そこまで卑下しなくてもいいんだよ?

 それが普通の事なんだから。

 

『この恩は絶対に忘れません。いつか必ず恩返しをしますから、楽しみに待っててくださいね! 比叡先輩! 本当にありがとうございました! 凰鈴音』

 

 最後まで読んでから、私は手紙を丁寧に降りたんでから、丁重に机の引き出しに仕舞った。

 

「私も……誰かの役に立てたのかな……」

 

 これまでの人生、ずっと私は金剛お姉さまに頼ってばかりだった。

 前にセシリアを指導した事もあったけど、あの時は他の皆も一緒だったし。

 私がセシリアと個人的に仲良くなったのだって、四姉妹の中で私が一番彼女と接していたからに過ぎない。

 もしも何かが変わっていたら、また違い結果があっただろう。

 

「とにかく……元気になってくれてよかった」

 

 正直、私なんかで大丈夫かとも思ったけど、なんとかなったみたい。

 少しは先輩らしいことが出来たかな。

 

「なんだか肩の荷が下りた感じだし、さっさと着替えてお姉さま達と一緒に朝ごはんでも食べに行こうかな」

 

 今日のご飯はきっと、凄く美味しく味わえる気がするから。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一年生寮の食堂。

 いつものように朝食を食べに来た一夏と箒の傍に、鈴が笑顔を振りまきながらやって来た。

 

「おはよ、一夏! 箒!」

「お……おう。おはよう、鈴」

「なによ~。朝から元気なくない? どうかしたの?」

「いや、どうかしたって言うか……」

「そっちこそ大丈夫なのか?」

「大丈夫って何が?」

「その……それは……」

 

 昨日とは打って変わってのハイテンションに驚く一夏と、それを見て流石に心配になる箒。

 二人は昨日の出来事の当事者故に、否が応でも気を使ってしまう。

 

「あ。別に昨日の事なら気にしなくてもいいから。あれは、アタシが勝手にアホやっただけだから」

「いや、しかしだな……」

 

 鈴の気持ちが理解できてしまうからこそ、必要以上に心配する箒なのだが、そこに鈴がこっそりと耳打ちをする。

 

「本当に大丈夫。昨夜ちょっと色々あってね。あたしなりに吹っ切れちゃったの」

「なに?」

「多分ね、アタシが望んでたのは一夏と付き合う事じゃなかったんだと思う」

「お前……」

「こうして、一夏やアンタを含めた皆と一緒に笑って過ごせる毎日。あたしはそれが欲しかったのよ。中国にいた頃はそんな事出来なかったし。きっと、それを渇望する想いと昔の恋心がどこかでごっちゃになってたのね」

 

 完全に自分の心と過去を吹っ切った鈴の顔は、とても大人びて見えた。

 箒は自覚していないが、それは以前に彼女が金剛に剣の教えを頼んだ時と同じ種の顔だった。

 

「そうか……お前は変われたのだな」

「っていうと、アンタも?」

「どうかな。少なくとも、もう一夏に恋慕の類の感情を抱いていない事は確かだ。別に嫌っているわけではないが、異性と言うよりは腐れ縁の昔馴染みとして接している感じだ」

「それが一番よ。中途半端に拗らせたら、後で絶対に後悔すると思うから」

「そうだな」

 

 同じ経験をし、同じ気持ちを共に抱いた事のある者同士で不思議な友情が出来上がったようだ。

 変にいがみ合うよりは、とてもいい関係だろう。

 

「なぁ、さっきから二人して何話してるんだ?」

「残念だが、女同士の秘密だ。な、鈴」

「そうよ。あまり女の子同士の会話に割り込むもんじゃないわよ」

「えぇ~……」

 

 仲間外れにされて困った顔になる一夏。

 そのまま、二人は仲良さげに話ながら券売機へと歩いていった。

 

「ところでさ、箒って金剛先輩の事をどう思ってる訳?」

「なにぃっ!?」

 

 それでもやっぱり、恋バナは大好きな鈴なのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「礼!」

「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」

 

 放課後の部活が終わり、私は防具を外して棚に置く。

 私の隣では金剛先輩が同じように防具を体から取っている。

 

「フゥ~……今日もタップリと汗を掻いたネ~」

「………………」

 

 同じように体を動かして汗を掻いているというのに、金剛先輩だけが何故か輝いて見えた。

 本当に美人な人は、何をしても、どんな状況でも美しいんだな……。

 

「ん? 私のFaceに何かついてますカ?」

「え? い……いいえ! なんでもありません!」

 

 言えない……金剛先輩の顔に見惚れていたなんて……。

 

「私達はシャワーを浴びていくけど、金剛ちゃん達はどうする~?」

「私も後で行くネ~。箒はどうしますカ?」

「わ……私っ!?」

 

 シャ……シャワー……金剛先輩と一緒にシャワー……。

 いやいやいや! 何を邪な事考えている! 篠ノ之箒!

 真剣に剣を教えてくれている金剛先輩に失礼ではないか!

 だが……このまま汗を掻いたままでは不快なのも事実だし……。

 部屋でシャワーをすればいいだけかもしれんが、少しでも早い方がいいだろうな……。

 風邪を引いたりしたら元も子もないし。

 

(そ……そうだ! 風邪を引いて、もしも金剛先輩にうつしたりしたら大変だ! 故に、これは決してやましい事ではない! 正当な事なのだ!!)

 

 なんか自分に対しての言い訳のようにも思えるが、事実だから仕方があるまい!

 

「私もシャワーを浴びてから部屋に戻りたいと思います」

「OK! じゃあ、さっさと着替えてからGOネ~!」

 

 後で思ったのだが、風邪を引いた金剛先輩を看病するのもいいと思った私を心底イヤになった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「ハァ~……生き返るワ~……♡」

「本当に……気持ちがいいですね……」

 

 程よい熱さの湯が上から流れ出て、私の体から汗を拭っていく。

 気分爽快で、自然と笑顔になってしまう。

 

「~♪」

 

 よっぽど気持ちがいいのか、金剛先輩が鼻歌を歌い始めた。

 とても綺麗な歌声で、私では到底真似出来そうにない。

 

「…………………」

 

 シャワー室はそれぞれに個室になっているが、部屋を分けているのは薄いすりガラスのみ。

 しかも、そのガラスも体だけを上手具合に隠すようになっていて、首から上と足元だけは普通に見えている。

 だからこそ、少しだけ見える金剛先輩の体のライン。

 同じ女性として羨むほどに美麗な体つき。

 程よく筋肉がついて引き締まっているから、より一層、その美しさが際立っている。

 更に言えば、普段は縛っている金剛先輩の髪が解かれている状態を見るのはとても新鮮だ。

 思わずドキドキしてしまう。

 

「金剛ちゃん。私達、先に行ってるからね~」

「ハ~イ。分かったネ~」

 

 他の先輩方達が先にシャワー室を出て、残ったのは私と金剛先輩のみ。

 こうなると、嫌でも緊張してしまう。

 何かを話すべきなのだろうか……。

 しかし、私に今時の女子高生が好きそうな話題は思いつかない……。

 

「箒」

「な……なんですか?」

 

 こ……金剛先輩から話しかけてきた!?

 

「箒は『スパイダーマン』って知ってル?」

「えっと……コミックが原作のヒーロー映画……でしたよね?」

「YES! 正解ヨ」

 

 よ……よかった。

 前に一度だけ、テレビで放送された映画を見ただけだったのだが、あっていたようでなによりだ。

 

「その劇中で、主人公であるピーター・パーカーのおじいさん……だったかしラ? が言った印象的な言葉があるノ。知ってる?」

「いえ……」

 

 一回見ただけだから、セリフの一つ一つなんてよく覚えていない。

 

「『大いなる力には、大いなる責任が伴う』」

「………っ!?」

 

 それは……。

 

「この言葉って、色んな事に当て嵌ると思うノ。例えば織斑先生のような教師。学校と言う環境では高い立場にあるけど、その代わりに生徒達を守り、正しい方向に導く義務と責任がある。他にも、政治家や軍隊の隊長、高い階級にいる者達。そして……」

 

 急にシャワー室の空気が張りつめていくような感覚がした。

 

「代表候補生や国家代表を初めとする専用機持ち達」

 

 こちらを真っ直ぐに見てくる金剛先輩の顔を見るのを心苦しいと思っていても、何故か目が離せない。

 専用機……選ばれた物だけが持つ事を許された特別な機体……。

 

「今の世に置いて、専用機持ち程、大いなる力を持っている者はいないでしょうネ」

「あの……前々から疑問に思っていたのですが……」

「なんですカ?」

「先輩達も……セシリア達のように専用機を所持しているのですか?」

「エェ。私だけじゃなくて、比叡も榛名も霧島も専用機を持ってるワ」

「そう……ですか……」

 

 今思えば当たり前だった。

 あれ程の実力を持つ人達が注目されない訳がない。

 絶対に政府などが専用機を持たせてくるだろう。

 

「私が剣道を始めたのだって、自分の専用機が剣を主武装としているから」

「剣を……? それは、一夏の白式のように……」

「アレとはちょっと違うカナ~。あんな博打同然の完全玄人向けの機体じゃなくて、もう少し汎用性がある機体ヨ」

「そ……そうですよね……」

 

 そうだった。剣一本しか武装が無いなんて、ISの世界ではそれが異常なんだ。

 よくよく考えれば、銃を持つ相手に剣一本で立ち向かえとは無謀な話だ。

 

「今から少し酷な事を言うけど、許してくださいネ」

「金剛先輩?」

 

 この人がそんな前置きを言うとは珍しい。

 何を話そうというのだろうか。

 

「これから先、かなりの確率で箒は専用機を持つ機会が来ると思う。それは何故か分かる?」

「私が……篠ノ之束の妹だから……ですか……」

「ン~……その答えじゃ50点ネ」

「え?」

「正解は『篠ノ之束の妹であるが故に、色々な連中から狙われる可能性があるから』」

「あ………」

 

 その通りだ。

 あの人の頭脳を利用しようと企んだ連中が、私と人質にして脅してくるかもしれない。

 

「そんな事にならないために、何らかの形で箒に自己防衛の手段を持たせようとするでしょうネ」

「自己防衛……」

 

 私の誘拐を企むとすれば、それは間違いなく裏の連中だ。

 そして、その手段としてかなり高い確率でISを使ってくるだろう。

 ISはISにしか倒せない。

 それは常識となって世の中に浸透している。

 だからこそ、私にISを持たせて誘拐犯などを己の手で排除できるようにするわけか……。

 

「自分の身は自分で守れ……ですか」

「マッチョな考えだけど、つまりはそーゆーこと」

 

 これもまた一夏と同じような理由なのだろう。

 別に特別に選ばれたわけではない。

 単純に自分の身を守る為だけに専用機を与えられる。

 だが、本当にそれでいいのだろうか……。

 

「ねぇ……箒……」

「なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしも、私が箒に専用機を授けるって言ったら……どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた途端、私の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。箒専用機取得フラグが立ちました。

でも、それは紅椿じゃありません。

あんな、兎がベタベタと触った代物じゃ怪しすぎますから。

次回は、今まであまり出番が無かった霧島姐さんが主役の話の予定です。


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霧島 出会う

久方振りの投稿は、なんと霧島お姉さまが主役です。

今回は、彼女のヒロイン候補と出会って貰います。

お相手は勿論、原作ヒロインで唯一の眼鏡っ子である彼女です。











 『ヒーローに命は救えない』

 これが、この私『小西霧島』の座右の銘だ。

 

 私は『正義』と言う言葉が嫌いだ。

 私は『ヒーロー』という存在が嫌いだ。

 奴等はよく口を揃えて『正義の味方』とか『正義を護る為』とか抜かすが、私にはなんでそんなクソみたいなことを言うのか微塵も理解出来ない。

 『正義』なんて形の無い概念を守って、一体何が救えると言うんだ。

 『正義』を守る事が『命』を守る事に直結するとでもいうつもりか?

 ふざけるな。お前達はいつも『悪』を倒すために手段を選ばないじゃないか。

 一度でも『悪』に対して慈悲の心を持ったことがあるのか?

 『悪』だからと言って容赦なく倒す、お前達が私は恐ろしくて仕方がない。

 

 ヒーローとは人間ではない。

 あいつ等は、人の形をした別のナニかだ。

 そうでなければ、ああも淡々と作業のように『悪』を倒す事なんて出来ないだろう。

 特撮だから、フィクションだからと言われればそれまでだが、世の中には実際にヒーロー染みた事をするバカも実在する。

 ハッキリ言ってアホ丸出しだが。

 

 人間を守るのは、いつの世も人間だ。

 世界を二分するのは『正義』と『悪』ではない。『敵』と『味方』だ。

 だから、私達四姉妹は『味方』にはどこまでも寛容で、『敵』には一切の容赦はしない。

 だって、『敵』に手心を加える理由が無いから。

 ほんの少しでも敵に慈悲を見せたが最後、それが引き金となって破滅する。

 『霧島』の記憶の中で、そんな光景を幾度となく見てきた。

 それは恐らく、金剛お姉さま達も同じだろう。

 なんせ、『あの世界』でも私達は同じ血潮を分かつ姉妹だったのだから。

 

 そんな私がこれから会わなければいけないのは、そんな『ヒーロー』に憧れている少女。

 私とは『水と油』のような感じだが、果たしてちゃんと話す事が出来るのだろうか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 比叡が凰さんと交流を持ったり、金剛お姉さまが部活を通じて篠ノ之さんと絆を育んでいる時、私は放課後に一人で格納庫に向かって歩いていた。

 IS学園の生徒が放課後に格納庫に向かう理由なんて一つしかない。

 

「今度のクラス対抗戦、少しでもいい成績を残さなくては」

 

 である。

 私達のクラスの代表は、あろうことか私なのだ。

 故に、私の体だけでなく、自身の専用機の状態も万全にしておかなくてはいけない。

 本来ならば金剛お姉さまが最も相応しく、それは他の姉妹は愚か、クラス中の生徒達も全員がそう思っているのだが、金剛お姉さまは小西家の長女という立場もあり、かなりお忙しいお立場にある。

 それ故に、クラス代表はお姉さまを除く私達三人のうちの誰かが務めることにしている。

 因みに、一年生の頃は榛名がクラス代表をしていて、その圧倒的な強さで見事に優勝してみせた。

 だから、今度は私の番だ。

 榛名に続き、金剛お姉さまの名を汚さない為にも、なんとしても優勝をしなくては。

 だが、それには唯一の懸念材料が存在している。

 

「あの『天災』がどう動くか……。それが問題ですね」

 

 原作では、一年生のクラス対抗戦の一回戦の第一試合に乱入するような形で無人機が登場した。

 今回も、同じようなシチュエーションで出現する可能性は否めない。

 

「一応、念の為の対策は考えてるんですけどね」

 

 流石に私は試合がある為すぐには対処できないが、その代わりに比叡か榛名がどうにかしてくれるだろう。

 特に、比叡ならば向こうが明確な戦闘行為に至る前に排除することも可能だろう。

 彼女の狙撃能力(スナイピング・スキル)は常人のソレを遥かに凌駕しているから。

 

 そんな事を考えている内に、いつの間にか格納庫に到着。

 新入生はあまり格納庫に訪れることは少ないから、いるとすれば二年生か三年生が大半だ。

 しかし、この時期は三年生も色々と忙しいから、もしかしたら今日は、事実上の私の貸し切りになるかもしれない。

 それはそれで嬉しくもある。

 余計な横やりが入るよりは、一人で黙々と作業をしていた方が性に合ってるから。

 

 なんて思っていたら、予想外の先客がいた。

 

「あれは……」

 

 どこかで見た事のあるような、水色の髪の後姿。

 でも、私達の知っている『彼女』よりは少しだけ小柄で髪も長い。

 となると、必然的に導かれる答えは一つだけだ。

 

(彼女が例の『妹』か……)

 

 原作でもよく格納庫にいることが多かったが、まさか今の時期に遭遇するとは思わなかった。

 彼女の担当は私となっているが、これは少し会うのが早くは無いか?

 いや……遅かれ早かれ話す事にはなるのだし、別に構いやしないか。

 開いているハンガーは沢山あるが、私は敢えて彼女の横に陣取る事にした。

 

「お隣、失礼しますね」

「え?」

 

 いきなりの来訪者に驚いたのか、彼女の作業の手が一瞬だけ止まった。

 横目で覗き見たけど、あれが未完成と言われている彼女の専用機の『打鉄弐型』か。

 

「あ……貴女は……」

「私がどうかしたのかしら?」

「い……いえ……入学式の時に見たから……」

「あ~……」

 

 彼女も新入生だったわね。

 それなら、入学式のパフォーマンスを見ていても不思議じゃないか。

 

「なら、自己紹介は不要かしら」

「小西霧島先輩……ですよね……」

「そうよ。小西四姉妹の四女の小西霧島。それが私」

 

 ちょっとだけ気取って、眼鏡を上げながら答える。

 なんか、これが癖になりつつあるわね……。

 

「そういう貴女は、日本の代表候補生の『更識簪』さん……よね?」

「な……なんで私の名前を……」

「四姉妹の中で、私が主に情報収集を担当しているから。少なくとも、各国の代表や候補生の簡単なプロフィールぐらいは全て頭に叩き込んであるの」

 

 それぐらい出来なきゃ、金剛お姉さまの妹は名乗れないから。

 

「それなら、私の家の事も……」

「勿論、知ってるわ。簪さんが楯無さんの妹であることはね」

「……………」

 

 表向きは情報収集の結果となっているが、実際には原作知識が大半を占めている。

 私が調べる時は原作でも詳しく明言されていない事柄や事象を調べる時だけだ。

 

「だからと言って、別に何も言うつもりはないけどね」

 

 今回の主目的は、そんな事を話す事じゃないから。

 とっとと機体の整備をしてしまいたい。

 

「来なさい」

 

 耳に付けてある、透明な緑のレンズが取り付けられた真っ白なイヤリングを触りながら、頭の中でイメージすると、ハンガーの中に私の専用機が量子変換されて姿を現す。

 

「それは……!」

「私の専用機。名前は『ヴァーチェ』よ」

 

 全身装甲タイプの、全体的にボッテリとした機体だが、見た目に反して機動性は高い。

 四姉妹の専用機の中では、最も火力と防御力に秀でている。

 

「凄い……まるでロボットアニメに登場する機体みたい……」

 

 それは否定しないけどね。

 だって、ヴァーチェは『あの作品の人型機動兵器』をそのまんまサイズダウンしただけだから。

 それは勿論、金剛お姉さま達の機体も同じだ。

 

「私のISを見るのはいいけど、そちらの作業はいいの?」

「あ!」

 

 思い出したように声を出して、彼女も自分の作業に戻った。

 さて、私も私の作業を始めますか。

 手元にある端末を使い、作業用アームを駆使して各部の状態を診ていくことに。

 

「GNキャノン……問題無し。GNコンデンサーも……大丈夫っと」

 

 GNバズーカとGNビームサーベルも大丈夫だった。

 日頃から細めに点検しているから、これといった異常は見当たらない。

 

「各部関節も異常は無いわね。念の為に、パッケージの方も見ておきましょうか」

「換装装備もあるんだ……」

 

 また簪さんがこっちを見てる。

 どれだけヴァーチェが気に入ったんだ。

 

「パーティクルパッケージはいいとして、問題はフィジカルパッケージの方ね」

「パーティクル? フィジカル?」

「はぁ………」

 

 そんな好奇心に溢れた目で見られたら、説明しなくちゃいけないような気になっちゃうじゃない……。

 

「私のヴァーチェには二種類のパッケージが存在してるの。一つは既に装着してある、この『パーティクル』。有体に言えば、武器の殆どをビーム射撃兵装で固めた仕様で、圧倒的な火力を秘めているわ」

「もう一つは?」

「『フィジカル』は反対に実弾兵装を主としたパッケージで、長期戦に向いているの。更に、パーティクルの時に攻撃に使っていたエネルギーを他に回せるから、防御力もかなり向上してる」

 

 要は、ビーム兵器か実弾兵器かの違いであり、どっちにしても大火力で敵を圧倒する事には違いない。

 なんともシンプルな機体だが、だからこそ強大なISだとも言える。

 

「あの……」

「なに?」

「霧島先輩が専用機を持ってるって事は、他の先輩達も……」

「専用機を所持してるわよ。当然じゃない」

 

 何気に私の事を名前で呼んできたわね。

 『小西』が四人もいる以上、仕方がないんだけど。

 

「………そんなに気になる?」

「はい!」

 

 そこまで力強く頷かなくてもいいのに。

 オタク気質なのは楯無さんから聞かされてたけど、これは想像以上ね。

 だって、目がキラキラして、遊園地で開かれてる特撮ヒーローショーを見に来た子供みたいな目になってるし。

 

(私達が忘れてしまった瞳の色ね……)

 

 こんな無邪気な顔、前世も含めてもかなり長い間してないわね……。

 特に、この世界に転生してからは心の底から笑った記憶が無い。

 金剛お姉さま達と一緒にいる時は心が安らぐけど、それとこれとは別な気がするし。

 

 そこから暫くの間、私は後輩の少女の視線を感じながら作業を続けた。

 滞りなく作業は進んでいき、彼女がトイレをしに少しだけこの場を離れた隙に『本体』の点検も完了させた。

 

 彼女が戻って来る前に、私はヴァーチェを待機形態に戻して、隣にある製作途中である打鉄弐型をジッと見ていた。

 

「あ………」

「これ、まだ完成してないわね。まさか、一人で作業をしてるの?」

「それは……その……」

「どうかした?」

 

 ふむ。少しだけ踏み込んでみたつもりだけど、早計だったかしら?

 

「お姉ちゃんも一人で自分のISを完成させたから、私もそうしなきゃ……って……」

「……………は?」

「へ?」

 

 思ったよりも素直に話してくれたのは嬉しいけど、今なんて?

 姉が一人で造ったから、自分もそうしなきゃいけない?

 

「まさか……貴女………信じちゃったの(・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 




霧島だけに、キリがよさそうなので今回はここまで。

次回は簪の問題について話します。

戦闘もしてないのに、金剛に先んじて霧島の専用機が明らかになりましたね。

彼女がヴァーチェなら、他の三人の機体も必然的に分かります……よね?
 
でも、その答えは本編に登場するまでは心の中に締まっておいてください。


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霧島 諭す

霧島×簪の後編。

今回は色々と誤解を解いて姉妹仲を復活させるフラグを建築しましょう。







「「……………………」」

 

 痛いほどの沈黙が場を支配する。

 色々と聞きたい事はあるけど、まずは一言。

 

「え~っと~……簪さん?」

「は…はい?」

「なんで一人でISを製造しなくちゃいけないって思ったのか、その経緯を良かったら教えてくれる? 勿論、無理強いはしないわ。言いたくなかったら言わなくてもいいし」

「だ…大丈夫です」

 

 そこから彼女の口から出てきた話は、私達がよく知っている原作と全く同じ内容だった。

 姉である楯無さんから当主になった時に『貴女は無能でいなさいな』的な発言をされて突き放されて(と思い込んだ)落ち込んだ上に、そこから更に追い打ちをかけるようにして織斑君がISを動かした事が切っ掛けとなって、彼女の倉持技研で開発中だった彼女の専用機の製造がいきなりストップ。

 流石に怒った簪さんは直談判した結果、中途半端な状態のISだけが送られてきて、その直後に例の噂を聞きつけて今に至る……らしい。

 随分と端折りまくったけど、大体はこんな感じ。

 

(倉持技研がISの開発を中途半端な状態で停止させるなんて、今では考えられない。昔の倉持は上の方が真っ黒だったけど、私達四姉妹の『掃除』によって、文字通り一掃されてからは、かなりホワイトな職場となっている筈……)

 

 どうにも嫌な予感が拭えないから、ここは本人に直接確かめよう。

 

「簪さん。直談判ってどこにしたんですか?」

「政府に電話で。そっちの方がいいと思ってお父さんに頼んだら、快く連絡を繋いでくれたんです」

「はぁ~……」

 

 前当主様は、自分の娘の事を思って善意で行ったのかもしれないが、それは完全な悪手ですよ……。

 せめて倉持に連絡をすれば、こんな事にだけはならなかっただろうに……。

 大体、自分達の利益の事しか考えない俗物共が、まだ少女な代表候補生の言い分なんてまともに聞くわけがないでしょうが。

 

「ツッコみ所は満載だけど、取り敢えずこれだけは言っておくわね」

「はい?」

「貴女が聞いた『楯無さんがたった一人で自分の専用機を造り上げた』って噂、あれはロシアが自国の力を示すために全世界に流した単なるプロパガンダですから」

「………………は?」

 

 いやいや、なんでそこで鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔になるの?

 

「常識的に考えてみなさい。もしも本当に楯無さんが一人で何もかもを作りだせたのなら、世界中のIS関係者が彼女の事を何としてもロシアから引き離して自国に招き入れようと躍起になる筈でしょ?」

「あ…………!」

「一人でISの全てを製造するなんて、それこそあの篠ノ之束博士ぐらいしか不可能よ。噂が真実だったら、彼女は今頃はIS学園になんていないわよ?」

「う…………」

 

 ズバっと言いすぎたかもしれないけど、彼女にはこれぐらいの方がいいと思う。

 変に回りくどい事を言っても効果は薄かっただろう。

 

「で……でも、なんで先輩はそんな事を知って……」

「そりゃ知ってるわよ。だって、楯無さんの専用機の開発には、私達四姉妹と虚さんも大きく関わってるんだから」

「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 格納庫は声が響くから大声は止めて欲しい。

 

「後学の為にと思って、少し無理を言って私達も参加させて貰ったの。なんなら証拠写真でも見る?」

 

 確か、私のスマホにあの時の写真があったような……あった。

 

「ほらこれ」

「ホントだ……」

 

 彼女に見せた写真は、作業着を着た私達四姉妹と楯無さんと虚さん、それからロシアのスタッフの人達が一緒に専用機の前に並んで立っているものだった。

 

「なんなら、動画も見てみる? 向こうのスタッフの人が後で思い出になるからと言ってビデオで撮影してくれたのをスマホに入れてるから」

 

 これをこうして……こうと。よし、準備完了。

 

『金剛ちゃん。アクア・クリスタルの調子が変なんだけど、ちょっと一緒に見てくれない?』

『OK~! ちょっと待っててくださいネ~!』

『虚さん。この配線なんですけど……』

『あ。これはですね、ここをこうすれば……』

 

 なんとも懐かしい思い出だ。あの頃は何もかもが純粋に楽しかった。

 いつから私達は、こんなにも擦れてしまったんだろう。

 

「楯無さん本人だって、あの噂を聞いたのは日本に帰国した後なのよ。本人は激怒してたけど」

「お姉ちゃんが怒ってた……?」

「そりゃそうよ。自分と周りの努力を全否定されたも同然な上に、お偉方が勝手に色んな情報を捏造したんだから。ま、そんな噂、どこの国もまともに耳を貸さなかったけれど。当然よね。まだ未成年の少女が一人でISを作るなんて、普通に有り得ないもの。だから、噂はすぐに沈静化していった。この学園で一人でもあの噂をしている人間を見かけた事がある?」

「ない……です……」

「でしょ? つまりはそれが答えよ」

「………………」

 

 遂に簪さんが黙ってしまった。

 しかし、聡明な彼女ならきっと分かってくれると思う。

 でも、少しはフォローしておいた方がいいかも。

 

「でもまぁ……貴女の気持ちも理解出来ない訳じゃないんだけどね」

「え?」

「ほら、私も上に三人も姉を持つ『妹』だから」

「そういえば……」

 

 そのせいで気苦労も絶えないけど、それ以上に楽しいから全く気にしてない。

 私にとって、姉妹の絆こそが全てだから。

 

「でもね、私は一度たりとも姉達に追いつかなくちゃ…なんて思った事は無いわ」

「……なんでですか?」

「同じ血が流れていても、私と金剛お姉さま達は別人だもの。得意、不得意なんて違って当たり前じゃない。それを比べても意味無いと思わない?」

「………………」

「それは、貴女達姉妹にも言えることよ。お姉さんが自分のISを手掛けたからと言って、妹である簪さんも同じ事をする必要は全く無い」

 

 少し顔を伏せていたが、ハッとなってからこっちの顔を見てきた。

 ちょっとは心に届いたってことかな。

 

「楯無さんには楯無さんだけの武器が、簪さんには簪さんだけの武器が必ずある。相手の舞台で相手の得意な武器を使って戦ったところで、貴女の本領は全く発揮されない。それどころか、周りとの軋轢がより一層激しくなるかもしれない。それだったら、自分の最も得意な分野で全力を思う存分に発揮して、周りに『更識簪ここにあり』ってところを見せ付けてやりなさい。簪さんだって、苦手な事よりも得意な事で戦った方が気持ちいいでしょ?」

「はい……そうですね」

 

 いい目になってきた。心なしか、瞳の中に力が蘇ってきたような気がする。

 

「それに、簪さんは一人じゃない。ちゃんと寄り添って見守ってくれる人がいるじゃない。そうでしょ?」

「え?」

 

 私がワザとらしく、入り口近くにある物陰に向かって話しかけると、そこから少し袖がダボダボしている制服を着た少女が姿を現した。

 彼女は『布仏本音』といって、私の大切な人である虚さんの妹だ。

 私達四姉妹ともよく交流があるから、これが初対面という訳じゃない。

 

「えっと……かんちゃん……」

「本音……いつからそこに……」

「最初からよ。多分だけど、簪さんの後ろをこっそりとついてきたんじゃないかしら?」

「そうなの?」

「う……うん。かんちゃんのことが心配で……」

 

 やっぱりね。そんな事だろうと思ったわよ。

 本音ちゃんはとても優しい子だからね。

 

「きりりんさん……私……」

「私に遠慮なんてしなくてもいいわよ。いらっしゃい」

「はい。かんちゃ~~~~~ん!」

 

 なんて遅い走りなのかしら……。

 因みに、『きりりんさん』とは彼女が付けた私の渾名らしい。

 金剛お姉様は『こんごーさん』で、比叡は『ひえーさん』、榛名は『はるるんさん』と呼ばれている。

 なんで私と榛名だけが芸名みたいになってるのかしら……。

 

「わっぷ。ちょ……本音……」

「かんちゃ~~~ん!」

 

 あらら。なんとも仲睦まじい事。

 羨ましい限りね。と言っても、本音ちゃんの本命は金剛お姉さまみたいだけど。

 

「人間、一人で出来る事にはどうしても限界がある。だから、これからは彼女にも手伝って貰いなさい。友達なんでしょ?」

「そうします……」

「よろしい。それでも困った事があれば、その時は私達四姉妹を呼びなさい。いつでもどこでも手伝ってあげるから」

「いいんですか?」

「勿論。同じ妹のよしみだし、可愛い後輩の助けを断る理由も無い。なにより……」

 

 入口に向かって歩きながら、私は出る直前で二人の方を振り向いた。

 

「私達四姉妹は、来る者は何があっても絶対に拒まない主義なの。喧嘩を売られれば全力で買うし、助けを求められれば笑顔で応える。覚えておきなさい。これから先、何があっても、私達四姉妹は貴女の味方だってことを」

 

 ちょっとカッコつけすぎかな。

 こんなキャラは本来なら金剛お姉さまや比叡の役なのに。

 柄にもない事はするもんじゃないわね。

 

「そうだ。いつか機会を見つけてお姉さんとも話してみなさい」

「お姉ちゃんと?」

「そうよ。噂の真偽を問いただすもよし。今までの鬱憤を晴らすもよし。どんな話題でもいいから、まずは彼女と話す事から始めなさい。ほんの僅かでも前進する事が大切なの。今の貴女になら……分かるわよね?」

「多分……」

「結構。分からないって言うよりは遥かにマシだわ」

 

 これでよしっと。そうだ、ちゃんとあれも言っておかないと。

 

「今日はもう止めておきなさい。作業の続きをするにしても、ゆっくり休んでから明日以降にすること。いいわね。ちゃんと帰る前に片付けておくのよ」

 

 無理をして倒れられたら本末転倒だものね。

 根が素直な簪さんなら、ちゃんと聞き入れてくれると信じて、私は格納庫を後にした。 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

  

 

 格納庫を出て暫く歩いていると、視界の端によく知っている人物の姿が映る。

 

「ちゃんとお膳立てはしてあげましたよ。後は貴女達次第です」

「うん……ありがとう……霧島ちゃん……」

 

 物陰に隠れていた楯無さんは、いつもの飄々とした仮面を外し、本当の表情で泣いている。

 性格的にも場面的にも、そんな彼女を茶化すような外道ではない私は、そのまま黙って見守る事にした。

 

「お気になさらないでください。貴女達姉妹の事は金剛お姉さまも気になさっていましたから。お姉さまの妹として、ちょっとしたお節介を焼いただけです」

「それでも……お礼ぐらいは言わせて頂戴」

 

 彼女の普段は見せない表情を見られるのは本当に珍しい。

 恐らく、この顔を知っているのは彼女の御両親と虚さん、そして金剛お姉さまぐらいだろう。

 

「頑張ってくださいね。同じ姉妹を持つ身として、お二人の仲が昔のように回復する事を祈っています」

「どこまでやれるか分からないけど、やるだけやってみるわ。ちょっとだけ怖いけどね……」

「それが普通です。でも、それでいい。お互いに本当の気持ちをぶつけあいなさい」

「流石は金剛ちゃんの頼りにする妹ね。笑った顔なんて、金剛ちゃんにそっくりだわ」

「四つ子ですから」

 

 その後、二人がどんな話をしたかは私は知らないが、校内でよく二人で笑いながら話している場面は見かけるようになった。

 更に、私と色々な話をした事が原因なのか、その日を境に簪さんが私に懐いてくるようにもなった。

 特に、昼食時に食堂で食事をしていると、毎日と言っていい程に私の隣を陣取ってくるようになった。

 そのことを私も悪いと思っていない部分もあり、初めて妹を持った姉の気持ちを理解したような気がした。

 

 

 

 

 

 

 




更識姉妹が仲直りをしたシーンは敢えて省きます。

何故なら、この物語はあくまで金剛四姉妹の話ですから。

これからも、敢えて省くシーンが出てくると思います。
 
ですが、それは金剛四姉妹の出番を少しでも増やそうと四苦八苦している作者の無様な抵抗だと思って笑って見過ごしてくださると嬉しいです。

仲直りついでに、霧島が簪フラグをゲット。

彼女も着実に百合ハーレムを建築してます。

それから、しれっとアンケートをした本音をヒロインにするキャラですが、10票以上の差をつけて金剛に決定しました~!
 
ドンドンパフパフ~!

いつかまたアンケートをするかもしれないので、その時はどうかよろしくお願いします。

投票してくださった皆さん、本当にありがとうございました。


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金剛四姉妹 迎撃準備をする

MGデュナメスをゲットしたのぜ~!

ついでにMGエクシアもゲットしたのぜ。

生まれて初めてのMG二体の大人買い、とっても楽しかったです。






 クラス対抗戦も間近に迫った、とある日の放課後。

 金剛は珍しく一人で生徒会室に訪れていた。

 

「金剛ちゃんが他の子達も連れずに一人でここに来るなんて、一体どうしたの?」

「少し大事な話があるノ」

 

 いつもとは違う真剣みを帯びた口調の金剛を見て、向かい合っている楯無も思考を切り替えた。

 丁度、虚はまだ用事で生徒会室に来ていない為、込み入った話をするなら今の内だ。

 

「今度のクラス対抗戦。間違いなく、何らかの邪魔者が来ると予想出来るワ」

「その根拠は……って、聞くまでも無いか」

「えぇ。『彼』を狙って、どこかの組織、もしくは『個人』が動くかもしれない」

 

 金剛が言う『彼』とは、織斑一夏の事を指している。

 世界で唯一の男性IS操縦者である彼の事を狙う輩は世界中に存在している。

 例え、IS学園に在学しているからと言って油断は出来ない。

 その程度の事で諦めるようなら、最初から狙ってなどいない。

 一夏の存在にはそれだけの価値がある……と、連中は思っているから。

 

「私や轡木さんだって、それぐらいの事は想定しているから、警備はいつも以上に厳重にするつもりだけど……」

「それだけじゃ足りないワ」

「え?」

「私は『最悪の場合』も想定している」

「最悪の場合……?」

 

 金剛は、人差し指をピンと立てて天井を指差した。

 

「ISを使って、試合中の彼を直接襲撃する可能性」

「まさか! 幾らなんでも、そんな大胆すぎる事をする奴がいるとは……」

 

 普通ならそう思うだろう。

 だが、いるのだ。そんな大胆な事をする輩が、たった一人だけ。

 彼女は……否、彼女達だけが知っている。

 クラス対抗戦の日に誰が何をするのかを。

 

「………そうね。常に最悪の事を考えておくことは当たり前よね……」

「だから、当日は私達も学園周辺を警備しておく事にしたノ」

「具体的には?」

「霧島はクラス代表だから、流石に警備に参加できないから普通に試合に出て貰う。その代わり、比叡と榛名の二人を学園周辺の林に待機させる」

「比叡ちゃんと榛名ちゃん……そうか……あの二人なら……」

 

 楯無と四姉妹は一年の頃からの腐れ縁と言ってもいい位に長い付き合いになる。

 だから、楯無は四姉妹それぞれの特性も理解していた。

 

「何かあれば、すぐにプライベートチャネルで私に報告するように言ってあるから」

「って事は、金剛ちゃんが全体の指揮を担当するの?」

「それが妥当じゃない? 私達全員が警戒心バリバリでいたら、それこそ他の生徒達に不信感を抱かせてしまうから」

「そうね。当日はかなりの人数がアリーナに殺到するでしょうから、変に混乱してしまえば、それこそ目も当てられない状況になりかねない」

「それを未然に防ぐために、比叡と榛名には万が一、外から直接攻め込んでくるような馬鹿がいた場合には、その場で容赦なく撃墜するように言ってある」

「撃墜って……。そこはせめて『捕獲』とかでいいんじゃ……」

「いいえ。『撃墜』よ。何があってもね……」

「金剛ちゃん……」

 

 どうしてそこまで撃墜する事に拘るのか、楯無には理解出来なかった。

 こればかりは、原作知識を有する者にしか分からないだろう。

 

(本当は、撃墜以外にももう一つ『命令』を下しているんだけどね……)

 

 『敵』を知っているからこそ、彼女達は先手を取れる。

 本気になった金剛四姉妹を止められる者は、どこにも存在しない。

 そう……どこにも。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦当日。

 IS学園はいつも以上に賑わいを見せていた。

 生徒達は試合を見る為にアリーナに集まって、出場する生徒達は待機室にて集中力を高めている。

 クラス対抗戦は基本的にトーナメント制で進行していき、三学年のクラス代表が凌ぎを削る。

 だが、試合を一つ一つしていけば、それこそ時間が幾らあっても足りない。

 だから、この対抗戦は6つあるアリーナをフルに使って行われる。

 まずは三年生のトーナメントの第一試合が全てのアリーナで行われ、その次に二年生の試合が行われ、最後に一年生の試合が行われる。

 三年生が一番最初なのは、単純に新入生の試合にそこまで期待が持たれていないからだ。

 一年生とは言え、代表候補生のような専用機持ち同士の試合ならば盛り上がるかもしれないが、そんなのはごく一部のみで、殆どの生徒が初心者同然に近い。

 そんな中、一年で専用機を持ち、かつクラス代表なのは一組の一夏と二組の鈴だけ。

 まだ四組の簪は機体が完成していないから、今回は打鉄に搭乗して試合に臨む形になる。

 しかも、一夏と鈴は一年生トーナメントの一回戦第一試合に組み込まれている。

 つまり、どっちが勝とうが負けようが、その後の試合はイマイチ盛り上がりに欠けてしまうのだ。

 だから敢えて、専用機を持っていなくとも華のある試合が出来る上級生を優遇する事になるわけだ。

 

 だが、今回ばかりはそれでよかったのかもしれない。

 何故なら、一年生達はまだ知らないからだ。

 金剛四姉妹の実力を。その専用機を。

 四姉妹の四女、霧島。

 一年生達は、後に伝説的存在となる四姉妹の一角の実力をその目で目撃する事となる。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「なんで私がこんな場所に……」

「まぁまぁ、いいじゃない。偶には協力してくれたってさ」

「はぁ……」

 

 クラス対抗戦の三年生の試合が全て終了し、若干の休憩時間を挟んだ後に次は二年生の試合が開始される。

 私は別に試合に参加する訳じゃないから、これといった準備をしなくてもいいんだけど、だからと言って暇をしているわけじゃない。

 それなのに、どうしてか私は第一アリーナの観客席に即席で作られた実況席に座っている。

 隣には霧島が所属している新聞部の副部長にして、仲のいい友人でもある『黛薫子』が一緒に座っていた。

 彼女は事あるごとにスクープを追い求めて学園中を東奔西走している。

 そのせいで余計な事にまで首を突っ込みそうになる事もしばしばあるが、その時は私達が事前に対処している。

 一年生の時は純粋な記者って感じだったのに、最近じゃあまりスクープが見つからないせいか、記事を捏造しようとしているし。

 霧島というブレーキがいなかったら、今頃は学園中が嘘に塗れていたかもしれない。

 実際、織斑一夏にインタビューをした時も発言を捏造しようとしたとか、箒が言っていたような気がする。

 もう、呆れてものが言えない。

 

「金剛ちゃん達は学園中の人気者にして有名人なんだから、こうした方が絶対に盛り上がるわよ!」

「それにつき合わされる私の身にもなってくださいネ……」

 

 見た目は確かに可愛いけど、性格に癖があり過ぎる。

 こんな彼女をよく制御しきれているなと、霧島には本当に感心している。

 

「にしても、霧島ちゃんが一回戦の第一試合なんでしょ? なんだかワクワクするわね~! 金剛ちゃんもそうでしょ?」

「いいえ? 私は妹の勝利を信じているかラ、いつも通りに振る舞うだけヨ」

「相変わらず、いつもどこでも優雅なのね……」

 

 それが金剛四姉妹だから。

 

 そう言えば、箒やセシリア達は今頃どうしているのかしら?

 彼女達は試合に出ないから、後学の為にも上級生たちの試合を見る為に観客席で見学すると言っていたけど……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 金剛がいる場所とは反対側の観客席。

 そこの一角に箒とセシリア、それから同じクラスの本音が並んで座っていた。

 鈴と一夏、それから簪は出場選手の為にここにはおらず、アリーナの更衣室で試合を見ながら待機をしている。

 

「まさか、本音さんが金剛お姉さま達とお知り合いだったとは知りませんでしたわ」

「セッシーとは違って、私がこんごーさんと初めて会ったのは一年前ぐらいだしね~」

「それは、前にも話していた生徒会繋がりでか?」

「うん。きりりんさんとお姉ちゃんが仲が良くて、その関係で会ったんだ~」

「今更だが、本当に金剛部長は顔が広いのだな……」

「世界中に知り合いがいらっしゃるらしいですから。まだまだ私達が知らない方達が後から続々と登場してきても、全く不思議じゃありませんわ」

「セシリアが言うと、何故か本当に有り得そうだから怖いな……」

 

 この中で金剛達と最も古い仲であるセシリアが言うと、言葉では言い表せない説得力があった。

 

「二年生の第一試合は霧島先輩が出場なさるんだったな。金剛部長がクラス代表でなかったのは驚いたが……」

「金剛お姉さまは小西家の長女として、非常に多忙な方らしいですわ。ですから、学園では妹である比叡お姉さま達がその代わりを務めていらっしゃるとか」

「ならば、一年の時も霧島先輩がクラス代表を?」

「去年は榛名お姉さまがクラス代表だったらしいと聞き及んでいます。順番から察するに、来年は恐らく比叡お姉さまがクラス代表をするのでしょうね」

「それはそれでまた凄いな……」

 

 普通に戦えば、まず勝ち目のない四姉妹と同学年の先輩達に同情を覚えざるを得ない箒であった。

 

「金剛部長が格闘戦、比叡先輩が狙撃戦、そして榛名先輩が高機動戦闘が得意ならば、今回試合をする霧島先輩は何が得意なんだ?」

「霧島お姉さまの最も得意とする戦術は、圧倒的な火力による広範囲砲撃ですわ」

「あのインテリ感溢れる霧島先輩が高火力の砲撃が得意……? あまり想像が出来ないな……」

「気持ちは分かりますけど、事実ですわ。今から始まる実際に試合を見れば、嫌でも分かりますとも」

「私もきりりんさんの試合を見るのは初めてだな~」

「そうなのか?」

「うん~。私はISの操縦よりも整備の方が得意だから~」

「本音さんは整備科志望でしたわね」

 

 人は見かけによらないもの。

 それは本音とて例外では無く、彼女もまた暗部に連なる家系の人間として、それ相応の実力を秘めていた。

 

「む……そろそろ試合が始まるようだぞ」

「霧島お姉さまの専用機……久し振りに見ますわ」

「どんな機体か楽しみだね~」

 

 試合直前になり、観客席も盛り上がり始める。

 中には『霧島お姉さま』と書かれた旗やTシャツを着た熱狂的なファンもいる程。

 別にここはワールドサッカーの試合会場では無いのだが。

 

「そう言えば、比叡お姉さまは一体何処に行ってしまわれたのかしら……。用事があるから見に来れないと言ってらしたけど……」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 第二アリーナの更衣室。

 そこには、次に行われる一年生の第一試合に備えて待機している二組のクラス代表の鈴が溜息混じりでベンチに座っていた。

 

「はぁ~……」

 

 別に彼女は試合をするのが億劫な訳ではない。

 この溜息には別の理由が存在した。

 

「比叡先輩……試合を見られないんだ……」

 

 クラス対抗戦の前日。

 とても大事な用事がある為、当日は試合を見に行けないと比叡に言われてしまい、そのせいでイマイチやる気に火が着かない状況になっている。

 比叡がいないだけでダルくなると言う事は、それだけ彼女の事を強く想っている証拠なのだが、鈴はまだその事実に気が付いていない。

 

「用事があるなら仕方がないけど……はぁ~……」

 

 まだIS学園に来て日が浅い鈴ではあるが、金剛たち四姉妹が学園で重要なポジションにいると同時に、他の生徒達よりも格段に忙しい立場にいる事は分かっていた。

 だから、子供染みた我儘を言うつもりは毛頭ないが、だからと言って簡単に納得出来るかと言われれば、そうではなかった。

 頭では納得していても、心では納得できない。

 今の鈴はまさにそんな心境だった。

 

「そういや、第三アリーナでは霧島先輩が試合をするんだったっけ……」

 

 四姉妹の中であまり交流が無い霧島。

 鈴から見た印象は、眼鏡を掛けたインテリ女子みたいな感じだが、そんな彼女がどんな試合を繰り広げるのか想像が出来ない。

 だからこそ、霧島の試合に若干の興味はあった。あくまで『若干』ではあるが。

 

「……あ!? ひ…比叡先輩からメールっ!?」

 

 暇潰しに弄っていた携帯にいきなりメールが届く。

 差出人は鈴の待ち望んでいた比叡で、こう書いてあった。

 

『君の事だから、私が来なくてがっかりしてたりやる気が出てなかったりしてそうだったから、こうしてメールをしました。確かに私は見には行けないけど、だからと言って決して応援をしていない訳じゃないからね? 寧ろ、私個人としては君の事をかなり推してるんだから。今回のトーナメント、ぶっちゃけ言って君は一番の優勝候補なんだよ。だから、私や皆の期待に答えて優勝してみせて。それと、よかったら霧島の事も応援してくれたら嬉しいな』

 

 まるで現在の鈴を状況を完全に見抜いているかのような内容。

 別にどこかで見ているわけじゃなくて、比叡の観察眼の成せる技だ。

 

「そ……そっか……比叡先輩は私の事を応援してくれてるんだ……えへへ……♡」

 

 途端にニヤニヤ笑顔になる鈴。

 メール一つでこれなら、本人が実際にここにいたらどうなっていた事やら。

 本当に昇天していたんじゃなかろうか。

 

「そうよね! 先輩も頑張ってるんだし、私も頑張らないといけないわよね! よし! なんかやる気出た! 待ってなさいよ一夏~!」

 

 本人の知らない所で、対戦相手の気力が試合前に180になってしまった一夏。

 唯でさえ無理ゲーなのに、更に勝率が下がってしまった。

 彼の学園生活に明るい未来はあるのだろうか。

 

「あ! 霧島先輩が入場してきた! 頑張れ~!」

 

 さっきまで興味が薄かった霧島に対しても、この対応。

 第一アリーナの様子を映しているモニターに霧島が登場した瞬間にテンションが上がって騒ぎ出す鈴。

 ここまで感情の起伏が大きい少女もまた珍しい。

 

 そして彼女も知る。

 自身が尊敬する比叡の妹である霧島の実力の一端を。

 金剛四姉妹の凄さの一部を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クラス対抗戦編は思っている以上に長くなりそうです。

次回は比叡と榛名と霧島の専用機が登場&活躍があるかも?




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比叡 目標を狙い撃つ

今回、ようやく比叡と榛名の専用機がお披露目です。

もう分かっている人も多いでしょうけど、一応の報告です。








 IS学園の周辺に群生している林の中。

 そこに、専用のデザインのISスーツに身を包んだ比叡と榛名がいた。

 比叡は緑、榛名はオレンジ色のスーツで、それぞれ胸の部分には天使の翼と輪をモチーフにした紋章が描かれている。

 

「これでよし……っと」

「誰にメールしたの? セシリア?」

「ううん。鈴ちゃん。試合前に少し励ましておこうと思って」

「あらあら。もうすっかり仲良しさんなのね」

「そうね。似た者同士ってのもあるんだろうけど」

 

 自分の携帯を専用機の拡張領域に収納しながら、もう片方の手に持っているペットボトルのジュースを一口飲む。

 

「そういや聞いた? 織斑君とヤスオさんを会わせる日」

「ええ。向こうの都合とかも考えて、夏休みにするみたいね」

「夏休みとは言え、あの人達もいそがしいからな~……」

 

 番長ともなれば、一介の高校生のような穏やかな生活は送れない。

 大切な仲間達を護る為に、毎日が戦いなのだ。

 

「もうそろそろ、霧島の試合が始まる時間かな?」

「そうね。今回も楽勝だろうけど。去年、榛名が出た時もそうだったし」

「あの頃はまだ『進化』してなかったものね」

「そうだった。てことは、今年は去年以上に楽勝ムード?」

「だと思う。かと言って手加減はしないでしょうけど」

「そんな事は金剛お姉様が絶対に許さないし、私達も嫌だ。同じ学び舎に通っている学友だからこそ、全身全霊で戦いたい」

 

 いかに彼女達が絶対的な強者とはいえ、共に学び競い合う相手を見下すような真似だけは決してしない。

 仮に彼女達が相手を見下す事があるとすれば、それは明確な『敵対者』だけだろう。

 それが彼女達四姉妹の流儀なのだ。

 

「さて、それじゃあコッチも準備しますか。多分、もうすぐだと思うんだよね」

「分かったわ」

 

 そう言うと、比叡は右の太腿に付けているホルスターから緑色のピストルを、榛名はオレンジ色の羽飾りがついたネックレスを握りしめた。

 

「デュナメス、狙い撃つよ!」

「キュリオス、飛翔します!」

 

 比叡の体が緑の光に、榛名がオレンジの光に包まれて、一瞬のうちにその体が量子化された装甲に覆われていく。

 従来のISとは違って、全身が満遍なく包まれていく。

 そうして現れたのが、彼女達の専用機。

 射撃、狙撃に特化した比叡の『デュナメス』

 高機動戦闘に特化した榛名の『キュリオス』

 見た目は殆どと言っていい程に違う二体だが、それでも共通している部分が存在している。

 それは、胸部中央に円形のコンデンサーが装備され、バックパックがある筈の背部には、コーン型のユニットが装着されている事だ。

 

「うん、いい感じ」

「こっちも大丈夫。各部、異常なし」

「よし。んじゃ、アレも出しますか」

 

 頭の中で今回の為だけに拡張領域内に収納した装備を頭の中に思い浮かべ、外に出して地面に置く。

 それは、非常に巨大なビームスナイパーライフルで、銃身内にもコンデンサーが内蔵されている。

 

「超高高度を狙撃する為だけに生み出された、デュナメスだけしか使えない専用のスナイパーライフル。これ一丁だけでIS一体分の費用が掛かってると思うと、嫌でも気が引き締まるね」

「そうね。はい、姿勢安定用のテールコンテナ」

「サンキュ」

 

 完全にデュナメス本体よりも巨大なスナイパーライフルを両手で抱えながら、その場に座り込むように斜めに構えるが、榛名から貸して貰ったキュリオス用のテールコンテナのお蔭でいい具合に斜めになる。

 

「本当は衛星軌道上に存在する目標物を狙撃するヤツなのに、まさかコッチから一方的に蹂躙する為だけに使用する羽目になるとはね」

「別にいいんじゃない? 道具の使い方はその時その時でしょ」

「違いないね」

 

 デュナメスの頭頂部とアンテナが稼働し、額から精密射撃用のガンカメラが出てくる。

 これにより、デュナメスと比叡は完全な狙撃モードに移行する。

 

「お……見えた見えた……」

 

 比叡の目には、非常に小さな黒い点がポツンと見えている。

 それこそが今回のターゲットだ。

 

「どんな感じ?」

「成る程ね~。速度と距離から考えて、コッチに到着する頃には丁度いい感じで一年生の試合が中盤に差し掛かるんじゃないかな?」

「その前に『ゴミ掃除』をするのが、今回の私達のミッションよ」

「了解。それじゃ、ちょっと集中するから、後は手筈通りにお願いね」

「分かったわ。『回収』は任せておいて」

 

 デュナメスのマスク部分にある内部モニターに、デフォルメされた二次元の美少女が映し出され、比叡に狙撃に必要な情報を計算し教える。

 

Target Insight(ターゲット インサイト)! You can always sniper(いつでも狙撃出来るよ).Hiei(比叡)!』

Roger that(了解).Start an attack from this(これより攻撃を開始する)

 

 ピリピリとした空気が周囲を包み込み、完全に比叡がゾーンに入る。

 そんな彼女の事を知ってか知らずか、デュナメス内のサポートAIは遠慮無く発射を促す。

 

Search&Destroy(見敵必殺)! Search&Destroy(見敵必殺)!』

 

 僅かな点にしか映っていない目標がセンターに入った一瞬、比叡は躊躇う事無く引き金を引いた。

 

Dynames(デュナメス).Shoot the target(目標を狙い撃つ)!!」

 

 雲一つない青空を、一筋の閃光が真っ直ぐに切り裂いていき、デュナメス本体と比叡自身に凄まじい衝撃が走った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 最初、ソレは自分に起きた事態を全く理解出来なかった。

 自分を生み出した『主』の命令(プログラム)に従うがまま、『目的地』に向かって命の無い漆黒の兵器が飛行する。

 ソレは人の形をしていた。人の形をしていたが故に、その一撃が致命的だった。

 

 ソレのセンサー外からの放たれた超長距離射撃。

 その兵器のハイパーセンサーは通常のISよりも遥かに優秀で、その気になれば十数キロ先の目標物すらも容易に探知が可能だ。

 今回の攻撃は、そのセンサーから感知不可能な距離から撃たれた。

 有り得ない。絶対に有り得ない。常識的に考えてもおかしすぎる。

 たった一回の射撃だけで、相手が人知を完全に超越した存在であると嫌でも認識する。

 だが、その事に気が付いた時にはもう、その強力なビームによって右足が撃ち抜かれ爆散していた。

 

 雲一つない青空に響き渡る爆音。

 足を片方失いバランスを崩した所に、もう一発発射される。

 今度は左腕。主武装であるビーム砲が失われ、攻撃力が大幅にダウンしたが、この状況では大して意味が無い。

 何故なら、攻撃するべき相手が射程距離の遥か彼方に位置しているのだから。

 

 まるでこちらの動きが見えているかのように、もう二発撃ち込まれ、右腕と左脚も破壊。

 完全な達磨状態となり戦闘不能となったソレは、緊急プログラムに従い、その場からの離脱を試みるが、それを許さぬ存在が目の前に現れる。

 

「どこに行くんですか?」

 

 それは、凄まじい速度でこちらに向かって飛翔してくる一体の全身装甲のISだった。

 全体的に細身で、脚部にウィングユニットが存在している事から考えて、高機動戦闘に特化した機体なのだろう。菱形の盾とオレンジ色が特徴的だ。

 ここで出現したと言う事は、恐らく狙撃した奴の仲間だろう。

 

「そーれ!」

 

 いきなり盾が変形し、まるでクローのようになってからソレを捕獲した。

 五体満足な状態ならば抗う事も出来ただろうが、今の状態では何も出来ない。

 文字通り、手も足も出ない。

 

「ふふ……金剛お姉さまも面白い事を考えますよね。普通に撃墜するだけじゃ面白くないから、そのコアだけを頂いてから、空っぽになった機体をそのまま完全破壊する。実に私達向きの仕事だわ」

 

 こっちを捕縛している相手の腕に力が籠る。

 きっと、先程言った通り『コア』を内部から摘出しようとしているのだろう。

 こうなってはもう、逃れる術は無い。ただ黙ってやられるのみだ。

 

「そうそう。まだこの状態でも聞こえている筈だから言っておきますね」

 

 いきなり相手がソレのヘッドユニットに顔を近づけて、さっきまでの口調からは信じられないような大声を出した。

 

「馬鹿の一つ覚えみたいにISに依存しっぱなしのクソウサギ風情が……」

 

 胸部が粉々に破壊されながら、コアが強奪される。

 そこでテンションが上がりきったのだろう、相手が笑い声交じりに叫びだす。

 

「私達四姉妹に勝てる訳ねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 魂の拠り所とも言うべきコアが無くなった『体』は、そのまま落下を始めるが、その前に例の狙撃で頭部が破壊され、同時にコアを奪った張本人が発射した複数の大型ミサイルが直撃し、地面に落下する前に木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「任務完了……です♡」

 

 こうして、誰が製作し、どこからやって来たのか、何を目的にしていたのかも不明な謎の機体は、己の任務を全うする事は愚か、襲撃者に反撃すら出来ずに一方的に破壊された挙句、その相手に手土産まで渡してしまう結果となったのだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「おや?」

 

 第一アリーナの実況席にいた私の携帯にメールが届いた。

 相手は比叡で、内容は一言だけ。

 

『終わりました』

 

 これだけで、私は全てを理解した。

 

「ふぅ……」

「あれ? もうすぐ妹の霧島ちゃんの試合が始まるのに、なんでこのタイミングで安堵の溜息?」

「いえ、ちょっとネ。面倒事が一つ減っただけヨ」

「??? なんか分かんないけど、よかったね!」

「ええ。お蔭で気分がよくなってきたネ~! 実況したい気分になってきたワ!」

「ホントっ!? それは願ったり叶ったりだよ! それじゃあ早速、どっちが勝つと思う? って、それは無粋な質問だったかな?」

「当然。霧島が勝つに決まってるワ。身内贔屓とか関係無くてね」

 

 一応、念の為に楯無にもメールで教えておいた方がいいかしら?

 実況しながらでもメールぐらい楽勝だから、この試合中にしておけば大丈夫でしょ。

 

「霧島の専用機は、単純な攻撃力だけならば私達四人の中でも間違いなく最強ヨ。去年を知っている二年生や三年生はよ~く知っているだろうだけどネ!」

「そうだよね~。あんな大人しそうな顔をして、霧島ちゃんってかなりエグいよね~。一年生の子達は、この試合で霧島ちゃんの強さを再認識するかもだね」

 

 あと数秒で試合が開始される。

 懸念材料が無くなった今、純粋に試合を楽しむ事が可能となった。

 ちゃんと霧島にもプライベートチャネルで連絡は行っている筈だから、あの子も心置きなく試合に集中出来る。

 

 学園にあるリヴァイヴを装備している相手とは違って、霧島はまだISスーツの状態のままだ。

 霧島のISスーツは基本的なデザインは比叡や榛名と同じだけど、その色が違う。

 彼女のスーツは珍しいライトパープルになっている。

 スーツの色に、そのスタイルが相乗効果となって、女子高生では有り得ない色気を醸し出している。

 実際、過去に何度も霧島は女子大生やOLに間違えられた事があったっけ。

 あれ、地味にあの子の黒歴史になってるのよね。

 

 5、4、3、2、1。

 ブザーが鳴り、遂に試合が始まった。

 それに合わせて、霧島が専用機の待機形態であるイヤリングに触れて、そっと呟く。

 

『ヴァーチェ、粉砕しなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゴーレムさん、比叡と榛名によってフルボッコにされて退場。

相手が悪すぎましたね。

これで余計な邪魔者がいなくなったので、霧島の後に控えている鈴と一夏の試合も普通に行われます。

勝敗は……言うまでもないですよね?


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霧島 試合に挑む

正真正銘、平成最後の更新だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

明日ってゆーか、あと数時間後には元号が令和になるんですよね!

いや~、自分がまさか一つの時代を丸々生き抜く人間になろうとは。

少し前からは想像もしてませんでしたよ。

そんな訳で、令和になってもよろしくお願いします!







 大勢の生徒達が見守る中で、霧島の呟きと共に専用機が展開される。

 緑色の粒子が彼女の周囲に煌めきながら踊りだし、徐々にその細い体を覆い尽くしていく。

 そうして現れたのは、彼女の姿からは想像も出来ないような重装甲の全身装甲型の真っ白なIS。

 あれこそが霧島の専用機である『ヴァーチェ』だ。

 

「ぬぁっ!? あ…あれはぁっ!?」

「いきなり大声を出したりして、どうしたんデスか?」

「いやいやいや! どうしたも何も! なんなの、あの機体は!?」

「なんなのと言われても」

 

 驚くのは理解出来るけど、ちょっとは落ち着きなさいな。

 今からそんな風だと、これから先が持たないよ?

 

 でも、驚いているのは薫子だけじゃなく、他の生徒達もだった。

 特に今年入学したばかりの一年生達にはかなり衝撃的に映ったようだ。

 

「なんで……霧島ちゃんの機体が変わってるの(・・・・・・・・・・・・・・・)……!? 私が知っている霧島ちゃんの専用機は、スマートな外見をしている『プルトーネ』だった筈だよ……?」

「そうね。確かに霧島の専用機は第二世代全身装甲型の『プルトーネ』だった(・・・)

「だった……? ってことは……」」

「そう。薫子が今、頭の中で想像した通りヨ」

「冗談……でしょ……? まさか……」

「えぇ。霧島の『プルトーネ』が第二形態移行(セカンド・シフト)を経て『ヴァーチェ』に進化した。だから、あの子は決して機体を乗り換えたって訳じゃないカラ。それだけはよく覚えておいてね♡」

 

 近くにいた他の生徒に向かってのウィンク。

 その子はすぐに目をハートにして昇天しちゃったけど。

 

「は……ははは……。まさか、この目で実際に第二形態移行(セカンド・シフト)したISを目に出来るとはね……」

「あら。これから先も見る機会は幾らでもあるわヨ?」

「へ?」

「だって、私は一言も『形態移行したISは霧島の機体だけ』なんて言ってないし」

「はぁっ!? それじゃあ……」

「オフコース」

 

 しれっと手に持っておいたティーカップを傾けて、のんびり紅茶を飲む。

 うん、これも中々。

 

「私の専用機『アストレア』。比叡の専用機『サダルスード』。榛名の専用機『アブルホール』。そして、霧島の専用機の『プルトーネ』。いずれも第二世代で全身装甲だけど、その全てが第二形態移行に至って第三世代機になってるワ」

「あはは……。もう何を聞かされても驚かない……」

「因みに、形態移行したのは今年の春休みのことだったネ~!」

「でしょうね。じゃないとおかしいし」

 

 あの時はまさか、四姉妹揃って形態移行するとは思わなかったけどね。

 流石の私達も柄にもなく驚いてしまった。

 

「そんな訳だから……鈍重な見た目に騙されてると、痛い目に遭いますヨ?」

 

 さぁ……霧島。我が愛しき妹よ。

 今こそ、何も知らない新入生達に、私達四姉妹の矜持を存分に教えてやれ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「まさか……霧島お姉さまの機体が形態移行していたなんて……!」

 

 殆どの生徒達が霧島の機体を見て驚いているように、既に深く知り合っていたセシリア達も驚いていた。

 実際には、驚いていたのはセシリアだけで、一緒にいる箒と本音は驚愕というよりは困惑していた。

 

「え…えっと……セシリア。さっきから言っているセカンド・シフトとはなんだ?」

「簡単に説明しますと、ISが進化する事ですわ」

「し…進化だとっ!? 機械であるISが進化するというのかっ!?」

「そうですわ。俄かには信じられないでしょうけど、同じ事例は世界各地で確認されていますの」

「そんな事が……」

 

 箒から見たISは、機械の鎧程度の認識しかない。

 それが生物のように進化をする。

 ISのプロとも言うべき代表候補生であるセシリアから教えられても、そう簡単には納得いかなかった。

 

「まだ詳しい形態移行プロセスは解明されてませんけど、一説ではISコアに蓄積された戦闘経験値とISと操縦者とのシンクロ率、それからコアの内部にあるとされている意識体と対話をする事が原因ではないか……とされてるんですの……」

「それを霧島先輩や金剛部長達は成したというのか……」

「そうですわ。一体だけでも相当にレアなケースですのに、それが四機一度になんて、それこそ世界中でISの研究をしている人間達がひっくり返りますわよ……」

 

 自分達が敬愛してやまない人物達が、まさかそれ程だったとは。

 セシリアも箒も本音も、己が惚れてしまった女達の凄さを改めて実感した。

 

「私……前に格納庫できりりんさんが専用機の整備をしている場面に出くわしたけど……まさか、あれが形態移行を済ませていたなんて思わなかったよ……」

「それが普通の反応ですわよ、本音さん」

 

 三人の目に映っている霧島の専用機『ヴァーチェ』は、お世辞にも軽快な機動が出来そうな機体には見えなかった。

 だが、その全身から溢れ出る力強さは、決して馬鹿には出来ない迫力を秘めている。

 

「にしても……あの姿を見せられれば、さっきセシリアが言っていた霧島先輩の最も得意とする戦法にも得心がいくな……」

「あの、手に持っているバズーカ……威力が高そうだよね~……」

「あれは恐らく『ビームバズーカ』ですわね。前から霧島お姉さまが愛用していた武装ですから、形態移行をした際にISの方でバズーカの方も強化したのでしょう」

「バズーカが主武装な時点で、とんでもないな……」

 

 もう苦笑いしか出せない箒を余所に、試合は開始されようとしていた。

 そして知る。霧島と言う女の恐ろしさを。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「そんな見た目だからって、私は騙されないからね。霧島の実力が化け物級なのは去年、私達は嫌という程に思い知ってるから」

「それがいいわね。少しでも油断をしていたら、あっという間に試合は終わっちゃうでしょうから」

「言ってくれるじゃない……!」

 

 なんて言ってはいるが、この試合、霧島は絶対に本気は出さない。

 もし仮に全身全霊で戦いに挑めば、目の前にいる対戦相手の少女を瞬殺し、彼女の心に深い傷跡を付けることになるだろう。

 そんな事は四姉妹の誰も望んでいないし、後味も悪い。

 なにより、一部の例外以外は、この学園にいる人間達は全て護るべき仲間であり、互いに切磋琢磨し合える友である。

 その友を傷付けるなんて論外中の論外だ。

 だから、こんな時の四姉妹は『試合モード』になって、適度にセーブして戦うようにしているのだ。

 それでも十分過ぎる程に強いのだが。

 

 そうこうしている内に、試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

「先制攻撃! 貰ったわよ!!」

 

 少女が纏っているラファールの拡張領域から二丁のマシンガンが取り出され両手に装備。そのまま乱射しながらのサークルロンドに持ち込もうと試みる。

 だがしかし、そう易々と霧島がそんな事を許す筈がなかった。

 

「甘いわよ」

 

 まるで地面を滑るかのように横移動し、彼女と少し距離を開けつつ併走するようにしながらGNバズーカを構えた。

 

「ちょ……冗談でしょっ!?」

 

 射撃体勢をしつつも、霧島のヴァーチェはその図体からは想像も出来ないような軽快な機動で攻撃を的確に回避していった。

 

「そのボディでどうしてそんな動きが可能なのよっ!?」

「先んじて動けばいいだけの話よ」

 

 霧島は四姉妹の中でも最も賢く、頭の回転が速い。

 だからこそ四姉妹の頭脳と呼ばれているのだが、その頭脳明晰さは戦闘時にもいかんなく発揮されている。

 相手の動きを読み、計算し、予測する。

 言葉にすれば簡単だが、それを自分の頭脳だけで出来る人間は非常に少ないだろう。

 霧島は、その非常に少ない人間達の一人に数えられている。

 

「まずは牽制っと」

「バズーカで牽制とか有り得ないんですけどっ!?」

 

 GNバズーカから太いビームが発射され、それが少女に向かって放たれる。

 牽制と言ったように、これは当てるのが目的ではない為、とても回避がしやすい。

 実際、彼女もなんとか避けてはいるが、それが却って彼女の警戒心を促す切っ掛けとなる。

 

(あんなの……掠っただけでもヤバいじゃない! 去年から霧島の攻撃力は四姉妹の中でも群を抜いてたけど、それがもっと強化されてるじゃないの!)

 

 昨年の四姉妹の活躍を知っているからこそ、同級生である少女は油断も怠慢もしない。

 そもそも、最初から勝てるとすら思っていない。

 この試合は霧島と当たった時点で最初から負け戦なのだ。

 どうせ負けるのならば、今まで積み上げてきた物をフル動員して、少しでも一矢報いる努力をしたい。

 

(マシンガンじゃやっぱり攻撃力不足か……! それなら!!)

 

 回避をしながらマシンガンを収納し、それと入れ替えるようにして肩から担ぐタイプのミサイルランチャーを展開。

 このミサイルには誘導機能が備わっているから、多少の無茶は聞いてくれる。

 

「こんのぉっ!!」

「む………」

 

 ミサイルが放たれると感じた霧島は、敢えて急停止して迎え撃つ事にした。

 

「ミサイルごとビームで私を撃つつもり? それでも多少は!」

 

 その予想は間違ってない。間違ってないが、もっと別の部分が間違っていた。

 

「…………GNフィールド展開」

「え?」

 

 四基のミサイルが全て霧島に命中。

 ステージは爆音と爆煙に包まれたが、何かがおかしかった。

 ダメージを受けたのなら、多少は霧島が呻き声の一つでも上げる筈。

 だが、それが全く聞こえないばかりか、煙の合間からドーム状に広がった緑の光が見える。

 

「貴女の行動は間違ってなかったけど、その前にもう少し私の戦力を計算するべきだったわね」

「うそ……でしょ……? そんな事って……」

 

 煙が晴れて見えたのは、緑色に光るバリアーに包まれたヴァーチェの姿。

 勿論、そのボディには傷一つついていない。

 

「冗談キツイわよ……」

「では、反撃開始ですね」

「くっ!」

 

 気を取り直して試合を再開しようとした矢先、彼女は更に驚かされる事となる。

 GNフィールドを展開した状態で、霧島はGNバズーカを構えたのだ。

 

「まさか……」

「えい」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 そう。実はフィールドを展開したままでも攻撃は可能なのだ。

 その代わり、その場から移動が出来なくなってしまう致命的な弱点があるが、そんな事を知らない相手は、鉄壁の防御をしながら攻撃が出来る事実に文句を言う事しか出来ない。

 GNバズーカのビームはラファールの右足を掠め、SEに確かなダメージを与えた。

 

「こうなったら!!」

「今度は何をする気? って……」

 

 何を思ったのか、少女はいきなり煙幕手榴弾を投げて自分の身を隠した。

 恐らくは何らかの奇襲攻撃を仕掛けるつもりなのだろうが、霧島とヴァーチェのコンビには悲しい程に無力である。

 

「どこから来るのやら」

 

 一応、念の為に周囲を警戒していると、相手は煙を突き抜けながら突撃してきた。

 その手には近接用武装の『ブレッド・スライサー』が握られている。

 

「成る程。射撃戦で勝てないのなら、近接戦で叩こうと。それはいいけれど……」

 

 ここで霧島は相手と生徒達に見せつける為に、ワザとフィールドを解除した。

 そして、手首部分に収納されているGNビームサーベルを取り出して受け止めてみせた。

 

「んなっ!?」

「こっちにだって剣ぐらいはあるのよ?」

「そうよね……。幾ら砲撃戦仕様の機体とは言え、一個ぐらいは近接戦用の武器ぐらいは所持してて当然か……」

 

 激しい火花が散り、鋼と光の刃が交わる。

 しかし、機体のパワーはヴァーチェの方が圧倒的に上。

 すぐに力の均衡は崩れ去り、ラファールは押され始める。

 

「では、そろそろ終わりにしましょうか」

「なんですって……?」

 

 刃を交えながら、ヴァーチェの背部に接続されたGNフィールド発生装置と一体化した四門のGNキャノンが展開される。

 

「そっか……前とは違って、今回はバズーカだけじゃないって訳ね……!」

「何か言いたい事は?」

「次こそは絶対に勝ってやる。それから、霧島とこうして戦えて楽しかったよ。ありがとう……」

「どういたしまして。それじゃあ……」

 

 エネルギーが収束し、それがGNキャノンの四つの砲身から一気に放たれる。

 至近距離にいた為、当たり前のように砲撃は直撃する。

 

「これで終わりよ」

「あぁ……悔しいなぁ……」

 

 真っ直ぐな閃光に包まれながら彼女は派手に吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられてISが強制解除された。

 それは、ラファールのSEが全て無くなった証でもある。

 つまり、ヴァーチェの最後の一撃は、相手のSEを一気に削った事になる。

 その威力は語るまでも無いだろう。

 

【勝者! 小西霧島!!】

 

 勝者を告げるアナウンスが流れ、その途端にアリー全体が歓声に包まれた。

 そんな事なんて知らないと言わんばかりに、霧島は淡々とヴァーチェを解除し、そのまま地面に倒れた対戦相手だった少女の元まで近づいて、彼女を横抱き、つまりはお姫様抱っこをしてピットに向けて歩き出す。

 

「ちょ……めっちゃ恥ずかしいんですけど……」

「あら。まだ意識があったのね」

「アンタに抱えられて目が覚めたのよ」

「それはゴメンナサイ」

「まぁ……別にいいけど……」

 

 俯く少女の顔は赤くなって、まるでリンゴのようになっていた。

 

「このままピットまで運ぶから、ジッとしててね」

「は~い」

 

 観念したのか、少女は暫しの間、霧島のお姫様抱っこを堪能する事にした。

 

(んな事ばっかしてるから、アンタ達に惚れる連中が雨後の筍のように増えていくのよ……バカ……)

 

 こうして、クラス対抗戦二年生の部の第一試合は霧島の圧勝で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




な…なんとか平成中には間に合った……!

でも、読者さんがこれを読んでる頃には、もうとっくに元号が平成から令和に変わってるんですよね。

なんか変な感じですね。


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金剛 愉悦に笑う

今回は基本的に霧島の試合が終わった後の皆の反応が主になっているので、場面切り替えが多いと思います。

そして、遂に彼女が……?






 うんうん。私が望んだ形で勝利してくれたわね。

 流石は霧島。後でちゃんとハグして頭をナデナデしてあげなきゃ。

 

「うわぁ~……。相も変わらず、霧島ちゃんは強いね~……」

「当たり前ネ~。伊達に四姉妹の四女をやってる訳じゃないのヨ?」

「ダヨネ~、知ってる」

 

 隣にいる薫子を始めとした上級生達はそこまで驚いていないが、下級生達はそうはいかなかった。

 一年生の殆どの子達が完全に固まって、目が見開かれた状態でお口をポカ~ンと開けっ放しにしていた。

 女の子がそんな顔をしちゃいけないと思うけど?

 

「つーか、機体が強化されてから、砲撃戦闘能力が大幅に増加してない? 明らかに第三世代機の火力じゃないんですけど?」

「そうね。確かに霧島の『ヴァーチェ』の総合火力は、私達の中でも最強を誇ってるワ。でも、ヴァーチェの真の力は、まだまだあんなものじゃ済まないワ」

「え? それって、その気になれば、もっと火力を上げられるって事?」

「オフコース。まだ『ハイパーバーストモード』は使ってないし、単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)も使用してないしね」

「なんか物騒な単語が聞こえたんですけどっ!? ってか、もうそこまで覚醒しちゃってるの?」

「勿論♡」

「あはは……。霧島ちゃんがそうなら、金剛ちゃん達も……」

「そうよ。もうとっくに使えるようになってるわ」

「デスヨネ~」

 

 もう乾いた笑いしかしなくなった薫子を見て楽しんでいると、またもや私の携帯にメールが届いた。

 送ってきたのは比叡。今度は何の用なのかしら?

 

『今、急いでそっちに向かってるんですけど、まだ鈴ちゃんの試合は始まってませんよね?』

 

 あぁ~……そーゆーこと。

 やっぱり、見られるのなら見たいとは思ってるのね。

 だったら、姉としてちゃんと安心させてあげないと。

 

『大丈夫。たった今、霧島の試合が終わったばかりだから、急げばなんとか間に合うかも?』

『分かりました! 比叡! 気合! 入れて! 超特急です!!』

 

 超特急って……。

 その気になれば、高速道路を走ってる車よりも速く走れるでしょうが。

 

「ん? メール? 誰から?」

「心配性の妹から」

「ふ~ん」

 

 さて、今度は一年生の試合か。

 まだ原作主人公(織斑一夏)は超未熟状態だし、無粋な乱入者もいなくなった。

 これは、凰鈴音ちゃんの圧勝かな?

 

(今頃、あの『天災』はどんな顔をしているのかな……?)

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「すげぇ……」

 

 霧島の試合の光景をモニター越しに見ていた一夏は、思わず感嘆の言葉を漏らす。

 この一夏は、金剛達によって色々と僅かに矯正されている為、『射撃武装ばかりで卑怯』なんてアホな事は一切言わない。

 それどころか、霧島の強さに対して純粋に敬意を表していた。

 

「あんなゴツい機体なのに、まるでスケート選手みたいに動いてた……」

 

 それもだが、彼は霧島の戦闘技術に驚きを隠せない。

 鉄壁の防御と一撃必殺の砲撃。

 そして、愛機の弱点を技術で補ってみせる実力。

 

 機体の弱点を技術で補う。

 まるで少年漫画の主人公のような能力だが、実際にはそう上手くはいかない。

 そもそも、そんな簡単に弱点を技術で補えれば誰も苦労なんてしない。

 それが現実で本当に可能なのは、世界中でもほんの一握りしかいない、正真正銘の天才達だけだろう。

 そして、言うまでも無く金剛四姉妹はその『天才』の枠の中心に居る。

 

「霧島先輩でアレなら、金剛先輩や比叡先輩とかも……」

 

 想像するだけで身震いがする。

 それが恐怖から来るものなのか、武者震いなのかは本人にしか分からない。

 だが、それでも一つだけハッキリとしている事があった。

 それは、彼のやる気に火が付いたという事だ。

 

「あんな凄い試合見せられて、燃えないのは男じゃねぇ! 俺もやるぜ!!」

 

 拳を手に叩きつけて、自分に気合を入れる。

 だが、彼は致命的な事を失念していた。

 

 やる気がどれだけ出ても、それで自分の実力が向上する訳ではない。

 特に彼の場合は、気合が空回りする事も有り得るだろう。

 だが悲しいかな。本人はその事に全く気が付かないまま、試合に臨むことになった。

 その結果は……言うまでもないだろう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あれが霧島先輩の実力……」

 

 他の控室で試合を見ていた簪も、自身が敬愛している霧島の試合を見て感動していた。

 その目はとてもキラキラしていて、まるでヒーローショーを見に行った子供のようだ。

 

「凄く強くて……少しだけ厳しくて……でも優しくて……その上、美人でスタイルもよくて……」

 

 唯でさえ、前の出来事で霧島の事を意識し始めていたというのに、その心にいい意味でトドメを刺したのが、今回の試合だった。

 もう簪は、完全に霧島の虜となっている。その感情がラブかライクかは知らないまま。

 

「でも、あれで終わりじゃない……。多分、霧島先輩は……」

 

 簪とて暗部の家系の人間であり、かなりの技量の持ち主なのだ。

 そんな彼女だからこそ、今回の試合で霧島が全く本気を出していない事を見事に見抜いていた。

 

「恐らく、今回のは本領の10%にも満たない筈……。だとしたら、本気になったらどれ程の強さを誇るというの……?」

 

 全く限界が見えない憧れの人。

 自分はとんでもない人と知り合ってしまったと、今更ながらに実感した簪であった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方の鈴も、霧島の試合を見せつけられて、顔が完全に引きつっていた。

 

「あ……ははは……。何よアレ……幾らなんでも桁違いでしょ……」

 

 比叡の実力を僅かとはいえ見ている鈴は、霧島も相当な実力の持ち主だとは思っていた。

 だが、実際に蓋を開けて見れば、そこには自分が想像すらしていなかった光景が待ち受けていた。

 

「実質的に被弾ゼロって……。あのミサイル攻撃も、バリアーを皆に見せつける為に態と当たりにいったみたいだし……」

 

 非常に短期間で代表候補生の地位まで上り詰めただけあって、その鋭い観察眼にて霧島の意図を僅かながらに見抜いていた。

 それだけでも、これから彼女が試合をする一夏との実力差がハッキリとしている。

 

「これは……否が応でも気合が入るじゃないのよ……!」

 

 霧島の試合は、どうやら鈴の心にも火を付けてしまったようだ。

 しかし、彼女の中に付いた火は一夏のソレとは熱量が違う。

 一夏の火が炎ならば、鈴は業火だ。

 更に、ここで彼女をもっとやる気にさせる要因がやって来る。

 

「え? このタイミングでメール?」

 

 携帯の画面を見ると、そこには『比叡先輩』の文字が。

 急いでメールを開くと、こう書かれていた。

 

『予想よりも早く用事が終わったから、現在進行形で急いでアリーナに向かってる! もしかしたら鈴ちゃんの試合が最初から見れるかもしれない! とにかく頑張って!! 私はめっちゃ応援してるから!』

 

 ソレを見た鈴は、刹那の間、完全に硬直してしまっていたが、すぐにまた動き出す。

 だが、再び動き出した時にはもう、鈴は先程までの鈴ではなくなっていた。

 

「あ~あ……どうしよう。一夏には悪いけど……物凄く勝ちたくなった。本当は少しぐらいの手加減を考えてたんだけどな~……」

 

 待機室を出る際、鈴の顔が力強く笑っているのが垣間見えた。

 

「こりゃ……最初からクライマックスで行くしかないじゃないのよ……!」

 

 一夏、ご愁傷様。

 この後に一夏と鈴の試合が行われたのだが、その結果は言うまでもなく鈴の圧勝で終わった。

 最初から微塵も容赦のない猛攻を受けて、一夏の白式は成す術も無くSEを枯渇させた。零落白夜を発動させる暇すら無かった。

 試合が決着した時、一夏は地面にめり込んで目を回しながら、頭の上でヒヨコちゃんを数匹回していた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「なんというか……凄かったな……」

「うん……」

「流石は霧島お姉さま……」

 

 時間は少し遡り、霧島の試合が終わった直後。

 他の生徒達と同様に、セシリアと箒と本音も例外無く驚嘆していた。

 

「分かってはいましたけど、実力が驚くレベルで向上してましたわ……」

「昔はあれ程では無かったと?」

「いいえ、そうではありませんわ。嘗ての霧島お姉さまならば、もっと容赦なく薙ぎ払っていた筈ですもの」

「それって……」

「ご想像の通りですわ、本音さん。霧島お姉さまは、相手を必要以上に傷付けずに、尚且つ、私達のような新入生達に自身の技量と機体の性能を見せつけながら戦い、その上で圧倒してみせた……」

 

 信じられない。

 そんな目でセシリアを見る二人だったが、彼女の顔を見て、それが決して冗談ではない事を理解した。

 

「なぁ……セシリア……」

「なんですの?」

「霧島先輩があれ程の強さならば、金剛部長は……」

「……完全に異次元の実力ですわ。前に一度、私は金剛お姉さまの全力の試合を見た事がありましたけど……」

「どうだったの……?」

 

 当時の事を思いだしたのかセシリアは急に顔を伏せた。

 

「これからの人生の全てを鍛錬に注いでも、あの方の足元にすら絶対に到達出来ないと実感しましたわ……」

「「………!?」」

 

 箒達からすれば、セシリアもかなりの実力者だ。

 その彼女がそこまで言う人間。それが小西金剛と言う少女。

 自分が試合をするわけでも無いにも拘らず、箒は体が震えてしまっていた。

 

「もしや……私はとてつもない方に師事しているのか……?」

 

 その時、ふと箒の脳裏に金剛から専用機の事を聞かれた時の事が思い出された。

 

(あの時は答えを出せずに保留としてしまったが、もしも『欲しい』と言っていれば、どうなっていたのだろうか……)

 

 それは完全なIF。

 どれだけ考えても答えは誰にも分からない。

 この日から、箒は『力』について真剣に考えるようになる。

 それが、彼女を大きく成長させていくことになるとは、まだ本人は知らない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 モニターの光だけが照らす真っ暗な空間。

 足元には多くのコードが散らばっているが、今は部屋中がそれ以上に荒れまくっている。

 まるで癇癪を起こしたかのように、この部屋の主が暴れまわっているせいだ。

 

「なんなんだよアイツ等は!! 私の超最強な計画を滅茶苦茶にした挙句、ゴーレムを木っ端みじんにしやがって!! しかも、コアまで奪っていきやがった!!!」

 

 その蹴りが机を破壊し、その拳がパソコンをぶっ壊す。

 それでも彼女の腹の虫は収まらないようで、破壊したパソコンを何度も何度も踏みつけている。

 

「お蔭でいっくんは、あの中国女にカッコ悪く負けちゃうし!! ちーちゃんもちーちゃんで変な女とラブラブになってるし!! その女に箒ちゃんも惚れてるし!! マジでふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 ここで息が切れたのか、呼吸を荒くしながらも、やっと止まった。

 

「はぁ……はぁ……! 私がISに依存してる? ああそうだよ! 依存してるよ!! でも、私が作った物なんだから依存して何が悪いってんだ!! クソが!!!」

 

 壁に向かって拳を叩きつけると、その壁が大きくひび割れた。

 だが、当の本人は全く気にする素振りを見せない。

 

「アイツ等……絶対に許さねぇ……! 絶対に素性を調べて、この手でぶち殺してやる!!」

 

 殺る気満々なのは結構だが、彼女は最も重要な事を失念している。

 世の中には必ず、上には上があるという事を。

 そして、彼女が殺すと宣言した少女達こそが、その『上』の存在である事を。

 

 例え何があっても絶対に喧嘩を売ってはいけない相手と言うのは必ずどこかにはいるのだ。

 

 

 

 

 




激おこプンプン丸(笑)

さて、これからどう料理しようかな?


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霧島 普通に優勝する

見せ場はもう終わったので、残りのクラス対抗戦はダイジェストでお送りします。

下手に長引かせると、最悪の悲劇を招きかねませんから。







 私と鈴さん、それから簪さんも無事に一回戦を突破したまではよかったのだが、そこからはお世辞にも盛り上がった試合というのは殆ど無かった。

 というのも、本来なら出場する予定だった私四姉妹以外の二年生の専用機持ち達が揃いも揃って出場していなかったから。

 

 まずはロシア代表でもある楯無さんだが、当初は普通に出る気満々だったにも拘わらず、クラス対抗戦前日になっていきなり実家の方からお呼び出しをくらってしまい、仕方なく出場を取りやめた経緯がある。

 本人はとても悔しがっていたが、いかに当主とは言え本家の命には逆らえないので、どこかでその鬱憤晴らしをするだろう。

 

 もう一人は私達や楯無さんとも違うクラスでギリシャ代表候補生の『フォルテ・サファイア』という少女。

 氷を操るISを駆る稀有な存在なのだが、機体のオーバーホールが思った以上に時間が掛かってしまったようで、今回は仕方なく断念した。

 先生方からは『訓練機で出場しては?』と提案もされたが、本人は『自分の愛機で出場して勝たないと意味が無い』と言って頑なに拒否。

 普通ならば一笑に伏すところだが、私達としては彼女のような拘りは嫌いではない為、その事に関しては黙っている。

 

 となると、残りの出場した二年生の専用機持ちは私だけということになるため、もう殆どの試合の勝敗が決したも同然になった。

 事実、決勝までの残りの試合の全てが私の完封勝利。

 しかも、そのいずれもが一分以内に決着が着いている為、先生達の想像以上にスムーズにプログラムが進んでいき、結局、二年生のトーナメントが三学年で一番早く終わってしまった。

 喜んでいいのかどうなのか微妙な気持ちの優勝だった。

 余談だが、私の決勝戦の相手はセシリアと同じイギリスの代表候補生である『サラ・ウェルキン』さんだった。

 流石に彼女はそこらの連中とは違ったが、それでも私が勝利した。

 

 因みに、一年生の部で優勝したのは比叡が目を掛けている凰鈴音さん。

 こっちは初々しい少女達の初陣ということもあり、それなりに盛り上がっていた。

 特に、一年の部の決勝戦は今回の対抗戦で最も燃え上がった試合になったのではないだろうか。

 なんで、鈴さんの最後の相手は、あの簪さんだったのだから。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「アンタ……中々やるじゃない……! まさか、甲龍の『龍砲』を薙刀でぶった切るような芸当をする子が同年代にいるとは思わなかったわ……!」

「それはこっちのセリフ……! 中・近距離共に全くもって隙が無い……! 同年代の相手でここまで苦戦したのは貴女が初めてだよ……!」

「それは光栄ね。更識簪……日本の代表候補生達の中で頭一つ分飛び抜けた実力を持つ子がいるとは聞かされたけど、その子とこうして決勝戦で戦う羽目になるなんて……」

「それもまたこっちのセリフ。中国にたった一年と半年ぐらいで代表候補生にまで上り詰めた天才児がいるって噂になってた……」

「ふ~ん……そう言われて嫌な気分じゃないわね」

「「………………」」

「次の一撃で!!」

「この戦いを終わらせる!!」

「「ハァァァァァァァアァァァァァァァアァアァァアァァァァッ!!!!」」

 

 

 

 

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・・・

・・

 

 

 

 

 てな感じの激熱な試合が展開されて、観客性はそりゃもう大盛り上がり。

 最終的には鈴さんが勝利を収めたんだけど、それも僅差の勝利だった。

 二人の実力は殆ど互角で、その勝敗を決したのは文字通り『機体の性能差』だったのだ。

 簪さんはまだ専用機が完成していない為、訓練機である『打鉄』での出場となった。

 だがしかし、彼女は日本代表候補生。

 その秘められた真の実力はそこら辺の生徒達とは比較にすらならない。

 結果、鈴さんと同様に決勝までは見事なまでの無双プレイが続いていた。

 そんな二人が最後の大舞台で激闘を繰り広げたのだから、熱狂しない筈がない。

 一応、今回の結果はメールで楯無さんに送っておいたので、今頃は複雑な顔をしているに違いない。

 大事な妹が決勝まで進み、準優勝した事を歓喜しているか、それとも、決勝戦で惜しくも敗北した事を悔しがっているのか。

 ま、私にとってはどっちでもいい事なのだが。

 それよりも、試合を通じて鈴さんと簪さんの間に奇妙な友情が芽生えたようで、試合後に仲良く握手を交わしていた。

 戦いの中で生まれる友情……金剛お姉さまが最も好きなシチュエーションだ。

 試合を見ていたお姉さまはとても満足そうな顔をしていたし。

 

 そして、何事も無くクラス対抗戦が終了し、私達生徒はいつもの日常に戻るわけで……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「霧島。優勝、Congratulations! よく頑張ったネ~!」

「ありがとうございます。金剛お姉さま」

「いや~。私達は途中からしか見れなかったけど、凄かったね~」

「やっぱり、いつ見てもヴァーチェの火力は凄まじいですね」

 

 二年生寮の食堂にて、私は金剛お姉さま達に労われていた。

 実はさっきまではどんちゃん騒ぎをしていたのだが、皆疲れてしまったのか、あっという間に収束してお開きとなった。

 つまり、今は四姉妹だけの二次会みたいなもの。

 でも、私はこんな時間こそが一番好きだったりする。

 

「そういえば、優勝賞品であるデザートのタダ券はどうするの?」

「あれね~。どうしようかしら?」

 

 私も年頃の女の子達の例に漏れず甘いものは大好きだけど、かと言って毎日食べたいって程でもないのよね。

 一応、有効期限は今年いっぱいらしいし、のんびりと消費していこうかしら。

 

「う~……。簪ちゃんの試合が見れなかったばかりか……私も試合に出れなかった~……」

「本当に情けないッス……恥ずかしいッス……」

「ちょっと二人共。そんなに落ち込まないでよ」

「サラちゃんはいいじゃない! ちゃんと試合に出れたんだから!」

「そうッス! そうッス!」

「それ……決勝戦でボコボコにされた私に対する嫌味かしら……?」

 

 なんとも賑やかな三人組が食堂へと入ってきた。

 一人は楯無さんで、もう一人は密かに比叡の事が好きなサラさん。

 そして、二人よりも小柄で黒髪で三つ編みな女の子が先程言ったギリシャの代表候補生である『フォルテ・サファイア』。

 楯無さんとフォルテさんはどうやら意気消沈している様子だが。

 

「ヘ~イ! 楯無~! こっちネ~!」

「あ……金剛ちゃん……」

「Oh~……。かなり落ち込んでるわネ~……」

「そりゃ……ね……」

 

 気のせいか、二人の背中に青筋があって『ズ~ン』と効果音が聞こえるようだ。

 ここは友として励ますべきなのだろうが、どう励ましたらいいのかが分からない。

 

「あう~……。榛名ちゃ~ん……ダメダメな私をどうか激しく罵って欲しいッス~……」

「そんな事しませんから。ほら、泣かないでください」

「えぅ~……」

 

 しれっと榛名にハグされているフォルテさん。

 彼女には三年生でアメリカの代表候補生である『ダリル・ケイシー』先輩とお付き合いをしているという噂があるのだが、どうも同学年では榛名に最も懐いているようだ。

 一体何処でどんな風に彼女を攻略したのやら。

 

「き~り~し~ま~? よくも決勝戦では私の事を愉快なオブジェにしてくれたわね~? お蔭でピンク色が少しトラウマになっちゃったのよ?」

「そんな事を言われても」

 

 私は別に管理局の白い魔王じゃないですし。おすし。

 

「この借りはぜ~~~~ったいのいつか返してみせるんだから……!」

「その日を楽しみに待っていますよ」

「ウワ~~~~ン!! 比叡~~~! アンタの妹が私の事を馬鹿にする~~~! 慰めと詫びの意味を込めて私とキスして~~~~!」

「しないから! つーか、食堂でそんな事言わない!」

 

 しれっと比叡に迫ってるし。

 あと、別に私は馬鹿になんてしてないんですけど。

 サラさんの実力なら、いつの日かセシリアすらも超えてイギリスの国家代表になれるだけの実力を秘めていると思うのだけど。

 

「ほら。楯無もそろそろ立ち直るネ~」

「分かってるけど~……ハァ~……」

 

 三人の中でも、特に彼女の落ち込み具合が凄い事になってた。

 まるで残業で終電を逃したOLみたいな表情と化している。

 

「仕方がナッシング。こんな事もあろうかと、密かに用意しておいたこれを楯無に進呈するワ」

「これって……USBメモリ?」

「YES。楯無のsisterの試合を録画した映像を薫子に頼んでコピーして貰ったノ。さっき少しだけ確認したけど、アングルやざらつきも無い綺麗な映像だったワ」

「あ……あ……あ……金剛ちゃ~~~~~~~~ん♡♡♡」

「わっと」

 

 あらま。いきなり大胆。

 泣き声を出しながらのハグとは。

 食堂に残っている生徒達も何事かと思ってこっちを見てるし。

 

「金剛ちゃんのそんな所が本当に好き! 本気で愛してる! もう嬉しさが天元突破してるからどんどん言っちゃう! 好き好き! だ~いしゅき~~~~♡♡♡」

「私も楯無の事が大好きヨ」

「うんうん! 私……金剛ちゃんを好きになってよかった……♡」

「あはは……。流石にストレートな言葉は照れるネ~……」

 

 照れ顔の金剛お姉さまも素敵過ぎて最高です! っていうか可愛すぎ!!

 ああもう……一刻も早く金剛お姉さまを人間国宝に指定するように掛け合わなくては……!

 

「しかし、私としては楯無さんやフォルテさんと試合が出来なかった事が純粋に残念でした」

「それは私もよ。去年から大幅にパワーアップした霧島ちゃんの火力にどこまで私の『水』が対抗出来るか試したかったもの」

「私もッス。あの圧倒的な弾幕を今度こそ私の『氷』で攻略してみせると気合入れてたんスから」

「そうですか」

 

 なんとも嬉しい事を言ってくれる。

 対抗戦が終わってまだ間もないが、消化不良で燻っていた私の闘争本能に再び『火』をつけてくれるとは……!

 これだから、IS学園は私達四姉妹にとっていい場所なんだ。

 ここならば、私達は対戦相手に事欠かない。

 特に、原作が始まった現在は今まで以上に楽しくなるに違いない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一方その頃、一年生達は……?

 

「んでさ~! 三回戦の霧島先輩の砲撃、凄かったわよね~!」

「うん。あれは掠っただけでも致命傷になると思う」

「しかも、恐ろしい程に正確無比。悔しいけど、まだまだアタシじゃ敵わないわね~」

「同感。多分だけど、あの四姉妹は私達とは完全に別格」

「そうね。前にアタシも比叡先輩の動きを少しだけ見たけど、どうしたらあの域に達するのかガチで聞きたいレベルだわ」

 

 一年生寮の食堂にて、鈴と簪が仲良く金剛四姉妹の話に花を咲かせていた。

 

「いつの間にか、あの二人が凄く仲良くなってる……」

 

 完全に状況に置いてきぼりになっている一夏は、目が点になりながらお茶を啜る。

 そんな彼を余所に、鈴と簪の間に箒とセシリアも加わってきた。

 

「全くだな。特に金剛部長の剣筋は完全に人智を超越している。一体どれ程の鍛錬をすれば、あそこまで強くなれるのか……」

「それを仰るなら、比叡お姉さまの狙撃スキルも凄いですわよ。数十キロ先にある針の

穴すら撃ち抜く目と技術は、まさに神業ですわ」

 

 こうして、金剛四姉妹を切っ掛けに女の友情が築かれていくのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 夜。金剛自室。

 そこにいつものように四姉妹が揃っているが、今回の彼女達の表情は真剣みを帯びていた。

 

「これが、今回ゴーレムから奪取したコアです」

「ご苦労様」

 

 榛名から無人機のコアを受け取った金剛は、それを眺めながら薄く笑った。

 

「これで……『三つあるフラグ』の内の一つが回収されたわけネ」

「はい。あと二つの内の一つは金剛姉さまの修練次第。最後の一つは……」

 

 ここで金剛の携帯にメールが入る。

 送り主は四姉妹にとって大切な人物で、そこには短く一言でこう書かれてあった。

 

『完成しました』

 

 それだけで全てを察した金剛は、美しい笑みを浮かべながらお礼の言葉を返した。

 

『ありがとう。そっちも少しは休んでね』

 

 鋼よりも固い絆で結ばれた姉妹は、長女の顔を見ただけで何があったのか理解する。

 

「……出来たのですか」

「えぇ。これで後は私次第になるわけネ」

「それならば問題無いでしょう。金剛お姉さまなら楽勝です」

「油断と慢心は禁物ヨ、榛名。あと少しだからこそ、慎重に行くべきヨ」

「はい。榛名、肝に銘じます」

 

 コアを拡張領域に収納してから、ベットに体を投げ出す。

 

「無人機の性能はどうだった?」

「ハッキリ言って拍子抜けでした」

「原作の様子からして、もう少し歯ごたえがあるのを予想していたのですが、まさかあそこまで弱かったとは」

「もし仮にアレが大量に制作されて、それらが一斉に押し寄せて来たとしても、私達ならばものの数分でスクラップに出来ます」

「所詮は決められた行動しか出来ない、お粗末なAIしか搭載してないガラクタ。私達四姉妹の敵じゃありません」

「無論。製作者である例の『兎』も」

 

 暫し目を瞑って頭を真っ白にして、そっと目を開ける。

 

「あの女には微塵も容赦なんてしなくていい。仕掛けてきたら徹底的に叩き潰せ。この世に生まれてきた事を後悔する程に」

「「「はい。金剛お姉さま」」」

 

 その日はそのまま解散した四姉妹。

 一つのイベントが終わり日常に回帰するが、今がまだ嵐の前の静けさに過ぎない事を、四姉妹以外は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実にアッサリとしたクラス対抗戦でした。

でも、ヒロインズが仲良くなったのでよかったのかな?


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金剛 『熱』を発散する

今回、アニメ第一期の折り返し部分に突入する前に、少しだけ寄り道をして、金剛の専用機のお披露目イベントを敢行しようと思います。

ここで出しておかないと、初登場がかなり先になってしまうからです。

と言っても、大体の人達が予想してるでしょうけど。


ここで非常にどうでもいい情報公開。
金剛達四姉妹は、それぞれに自分達のパーソナルカラーのジャージを寝巻代わりにしていて、そこにはあるテーマにそった名前が書かれています。

金剛:青色のジャージでスタンドの名前が書かれている。

比叡:緑色のジャージでペルソナの名前が書かれている。

榛名:橙色のジャージで仮面ライダーの名前が書かれている。

霧島:紫色のジャージでプリキュアの名前が書かれている。





 何事も無くクラス対抗戦が終了し、イベントの熱気もすっかり冷めて、私達はいつも通りの日常に戻っていく。

 そして、私や一夏やセシリアに、最近になって仲良くなった簪や鈴も加えたメンバーで今日もアリーナにて訓練に励む……つもりだったのだが、今日だけは少しだけ趣が違った。

 

「ハァ~イ♡」

「失礼するわね」

「こんにちわ」

「これ、差し入れよ」

 

 なんと、金剛部長たち全員が一堂に会して私達の訓練に駆け付けてくれたのだ。

 これまでにも比叡先輩や霧島先輩がご指導してくださったことは多々あるが、四姉妹全員が揃って訓練に来てくれたことは今まで一度も無かった。

 実に今更だが、この四人が揃うと、それだけで場の雰囲気が引き締まるな……。

 

 ISスーツに着替え終わり、後はステージに降りてから訓練をするだけになっていた私達は、金剛部長達の突然の来訪に驚きを隠せないでいた。

 といっても、純粋に驚いているのは一夏だけで、セシリアや鈴は嬉しそうに比叡先輩の傍まで行っているし、簪もいつの間に親しくなっていたのか、霧島先輩と仲睦まじげに会話を楽しんでいる。

 かく言う私も、金剛部長の所まで行って話をしているのだが。

 

「金剛部長。今日はどのような御用件ですか?」

「ちょっとね。霧島や比叡だけじゃなくて、偶には私も色々と教えげあげようと思ってネ」

「ぶ…部長がISの事を直々にっ!?」

 

 これまでにも剣道部にて様々なご指導をして頂いたが、よもやISの事まで教えて貰えるとは……!

 一体何を思ってそうする事にしたのかは不明だが、これは非常に貴重な機会なのではないかっ!?

 

「って言うのは表向きの建前で、実は……」

 

 ニコニコと微笑みながら、金剛部長は鈴と簪の頭にポンと手を乗せた。

 

「クラス対抗戦で、この二人のNiceFightを間近で見せつけられて、久々に私も熱くなってきちゃっタ♡」

 

 その気持ちはとてもよく理解出来る。

 私も一人の武人として、観客席で対抗戦を見ていて心が熱くなった。

 金剛部長程のお人ならば、その熱量は私等では及ばない程だろう。

 

「この熱を少しでも発散させる為に、織斑クン」

「お…俺?」

「今日は特別に、私が直々に専用機を使って実戦形式で教えてあげるわ」

 

 え? 一夏をご指名?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 金剛先輩が準備の為に向こう側のピットに向かってから、俺は白式を展開してステージの空中で待機していた。

 場の空気を読んでくれたのか、箒達はピットの中で見てくれている。

 にしても、金剛先輩の専用機ってどんなのだろうな……。

 前に箒が話してくれた情報によると、金剛先輩の機体も俺の白式と同じような『剣』での戦闘を主体にした機体らしい。

 ってことは、超接近戦仕様ってことになるんだよな?

 俺……ちゃんと先輩の動きについていけるのかな……。

 

「お待たせしましたネ~」

「あ……」

 

 いつもと同じ綺麗な声と一緒に、一体のISが向かい側のピットから出て来た。

 V字型のアンテナを頭に頂き、鮮やかな青が上半身を彩っている。

 両腰には二本の長短の剣が一本ずつ、右手には折り畳み式の巨大な剣が装備されていて、左手には鋭い形状の盾があった。

 全身装甲の機体で、その顔はフェイスマスクに覆われていて表情が窺えない。

 でも、そのデュアルアイから僅かに見える鋭い目だけはよく分かった。

 

「それが……金剛先輩の専用機ですか?」

「YES! これこそが『アストレア』が第二形態移行(セカンド・シフト)した私の今の専用機……その名も『エクシア』」

「エクシア……」

 

 成る程……! もう見ただけで剣で戦う事を前提とした機体だって分かる。

 なんせ、ここから拝見するだけでも既に三本の剣が見えているから。

 

「さぁ……準備はいいかしラ?」

「は……はい!」

 

 俺も急いで雪片弐型を展開して両手で構える。

 その瞬間、まるで全身が金縛りにあったような感覚が襲う。

 

(な……なんだこれは……! まるで……心臓が抉り出されて鷲掴みされてるみたいだ……!)

 

 これが……これが金剛先輩の戦闘モードか……!

 あの普段の優雅な姿からは想像もつかない程に戦闘的な人だったのか……!

 俺みたいなトーシロにもハッキリと理解出来る……!

 一瞬でも気を抜けば、俺は絶対に真っ二つにされる……!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

(な……なんという……! 未だ嘗て、これ程に鋭くて、鋭利で、真っ直ぐな『剣気』は感じた事が無い……!)

 

 超一流の剣士のみが発する事が可能な刃の如き鋭い気。

 それこそが『剣気』と呼ばれる物。

 私はまだまだ発する事は遠く及ばないが、父さんや姉さん、千冬さんなどが剣気を発している光景を目撃した事がある。

 発する事は出来なくても、感じる事は出来るからな。

 

「箒さん」

「榛名先輩……」

「金剛お姉さまに師事しているのなら、あの方の動きをよく見ておきなさい。今から垣間見る光景こそが、貴女がこれから到達しなければいけない場所よ」

「私が……到達しなければいけない場所……」

 

 私の隣に来た榛名先輩の言葉を聞き、思わず唾を飲んだ。

 金剛部長と同じ場所に私は至る事が本当に出来るのだろうか……。

 

「金剛お姉さま……ありがとうございます……!」

「セシリア?」

 

 どういう訳か、さっきからセシリアが嬉しそうに涙を流している。

 いきなりどうしたというんだろうか?

 

「セシリア? アンタいきなりどうしたのよ?」

「きっと、金剛お姉さまの機体の名前を聞いて感動してるんじゃないかな?」

「機体の名前で?」

「はい……そうですわ……。『エクシア』とは、私の大切な幼馴染にして最も信頼を寄せるメイド長である『チェルシー・ブランケット』の妹の名前なんですの……」

「そのエクシアちゃんはね、幼い頃から体が悪くてベッド暮らしの生活を余儀なくされているの。私達もそれを知って、イギリスにいた頃はよく話し相手になってあげてたんだけど……」

「エクシアはISに強い憧れを持っていて、いつの日かISに乗って自由に大空を翔てみたいと言っていましたわ……」

「でも、さっき言ったように彼女は体が弱い。ISになんて乗れるはずもない」

 

 そうか……。

 金剛部長は自分の機体に『エクシア』と名を付ける事で、ISに乗れない彼女に少しでも希望を与える為に……。

 

「……流石は霧島先輩のお姉さんですね」

「ただ単に強いだけじゃなくて、他者を慈しむ心も持っている。あの人が皆に慕われているのも納得だわ……」

 

 簪と鈴も金剛部長の素晴らしさを理解出来たようだな。

 この模擬戦でもっと、その魅力に気が付くだろうが。

 

「始まるみたいよ」

「む……!」

 

 金剛部長と専用機エクシア……。

 一瞬も見逃せないな……!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「エクシア……目標を駆逐する」

 

 先輩がそう呟いた途端、一瞬で目の前から姿が消えた。

 これは瞬間移動とかじゃない。先輩の動きが速すぎて目が追い付かなかったんだ!

 

「ど……どこに行ったっ!?」

 

 急いで辺りを見渡すと、背後にいきなり強烈な気配を感じた。

 

「そこだ!!」

 

 反射的に振り向きざまに雪片で斬りつけるが、そこには誰もいなかった。

 

(そ…そんな馬鹿なっ!? 確かに後ろから気配を感じたのにっ!?)

「こっちヨ」

「!!!」

 

 すぐに声のした方を向くと、もうそこには眩しく光る一本のビームサーベルの切っ先が眼前まで迫ってきていた。

 

「おわぁっ!?」

 

 咄嗟に首を傾けて回避するが、それだけで攻撃を終える程、この人は甘くは無かった。

 

「へぇ~……手加減をしていたとはいえ、今のを避けるとは……でも!」

 

 突き出したビームサーベルを、今度は横薙ぎで払ってきた!

 俺はそれをギリギリでしゃがんで避けるが、体を縮めた俺の視界に移ったのは、左手に持ったもう一本のビームサーベルが切り上げようとしている所だった。

 

「ぐあぁぁあぁあぁぁっ!?」

 

 そんな体勢で避けられるはずも無く、俺は呆気なく金剛先輩の斬撃を胸に受けてしまい、そのまま軽く吹き飛ばされた。

 

「大丈夫ですカ~?」

「ま…まだまだ!」

 

 さっきのは俺でも分かる。

 最後の斬撃こそが本命で、それまでの攻撃は最後の攻撃を当てる為の囮!

 同じ剣同士での戦いなのに、恐ろしく緻密に計算されたコンビネーション!

 

(そういや、さっきまで右手に装備してた折り畳み式のデカい剣が無くなってる……)

 

 あれこそが確実にエクシアの最強武装の筈だ。

 それを使わないって事は、その資格すらないって事か……。

 

「……前に俺が教えてくれって言ってもダメだったのに、なんで急にこんな事を……」

「あの時と今とで、少しだけ君の目が変わったから」

「俺の目が……?」

「えぇ。君の目には、ほんの少しだけど私と同じ『熱』がある。そんな今の織斑君……いや、一夏君なら少しは私も手解きをしてもいいと思ったノ」

「熱……」

 

 俺が……この人と同じ物を……?

 少しだけど認められたって事なのか……?

 

「それと、少しだけ勘違いをしているようだから付け加えておくけど。私はエクシアの剣を用途に応じて使い分けているだけだから、別に態と使っていない訳じゃないのヨ?」

「そ…そうッスよね……」

 

 少し考えれば分かりそうな事だった。

 手加減をされている事は分かっているけど、かと言って相手を舐めるような真似だけはしない人でもあったっけ。

 はぁ……まだまだ、俺ってこの人の事をなんにも分かってないんだなぁ……。

 

「さぁ……ここからペースを上げていくわヨ! せめて、私に『セブンソード』全部を使わせてみせなサイ!」

「はい!」

 

 気合を入れ直せ俺!!

 ここで頑張らないと、絶対に後で後悔するぞ!!

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「当たり前だが、手加減をされまくってるな……」

「ですわね」

「金剛先輩の事をよく知らないアタシでもよく分かるわ」

「多分だけど、金剛先輩は本気の10000分の1も出してない」

 

 そうでもしないと、訓練にすらならないだろうしな。

 

「しかし……まさか、多種多様な剣を使いこなすとは……」

「あれこそがエクシアの真骨頂。伊達に『セブンソード』の二つ名は持ってないって事」

「セブンソード?」

 

 比叡先輩が言った言葉。

 それは……そのままの意味として捉えていいのか?

 

「エクシアには全身に七本の剣を装備しているの」

「な…七本っ!?」

 

 パッと見では三本しか見えなかったが、一体何処にあと四本が隠されているんだ?

 

「左腰に装着されている『GNロングブレイド』に右腰にある『GNショートブレイド』。腰には『GNビームダガー』が二本、肩部装甲の背部にあるサーベルラックに『GNビームサーベル』が二本あって、エクシアのメイン武装である折り畳み式の『GNソード』。これで合計七本になるわ」

「因みに、GNソードは折りたたむ事で牽制用のライフルモードにする事が出来る」

 

 長い剣に短い剣。

 実体剣と非実体剣。

 多種多様な剣をあそこまで見事に使い分けているのか……。

 

「金剛お姉さまは昔から近接戦が非常にお得意でしたから、ISの方が形態移行する際にその癖に適応したんでしょうね。元々、エクシアの前身機である『アストレア』は距離を問わず活躍できる汎用機でしたから」

 

 セシリアの説明を聞いて、私はとても納得出来た。

 金剛部長がISに合せたのではなく、ISが金剛部長に合せて進化したのだな……。

 前に山田先生が授業で言っていた『ISはパートナー』とは、こういう事を示していたのか……。

 

「そろそろ終わるみたいよ?」

 

 霧島先輩の言葉に反応して全員がモニターに注目する。

 そこには、息も絶え絶えな一夏と、全く疲れた様子が無い金剛部長がいた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 全然ダメだ……! メチャクチャ手加減されてるにも拘わらず……手も足も出ない……!

 今までも鈴やオルコットさんと試合をしてきたけど、ここまで勝ち目がない人は初めてだ……。

 勝つビジョンどころか、一撃当てるビジョンすら浮かばない……。

 普通ならとっくの昔に心が折れてると思うのに、なんでかな……。

 絶対に負けると分かっていても、降参だけはしたくない!

 一歩でも前に出て、剣を振りかざせ!!

 

「うぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「いいわ。その気合に免じて、コレでFinishにしてあげる」

 

 あれは……最初に引っ込めた折り畳み式のデカい剣!

 俺の突進に合せて、金剛先輩も例の剣を水平に構えて突撃してくる!

 

「当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

「はぁぁっ!!!」

 

 最後のSEを全部込めた零落白夜だ!! どうせ終わるなら、これでいってやる!!

 けど、そんな俺の一撃は空を切り、すれ違いざまに音も無い斬撃が白式と俺を斬り裂いた。

 

「結局……一発も当てられなかった……」

「かもね。でも、動きは悪くなかったワ」

「え?」

 

 SEが尽きて強制的に待機形態に戻ろうとする白式を見て、金剛先輩が素早い動きで俺の体を支えてくれて、そのままゆっくりと地面に降ろしてくれた。

 

「私の予想通り、体の方は少しずつだけど出来上がって来てるみたいネ。後は『心』を鍛えるだけ……か」

「心を鍛える……」

 

 前にもそんな事を言ってたけど、それってどういう意味なんだ?

 俺にはさっぱり分からない。

 

「夏休みを楽しみに待ってなさイ。最高の師匠を紹介してあげるカラ」

「はぁ……」

「それじゃ、お疲れ様」

 

 ISを解除してから、その青いISスーツ姿の金剛先輩を見送りながら、俺はバリア越しに見える空を見上げた。

 

「遠いなぁ……」

 

 千冬姉。俺が憧れた人は、凄く近くにいるのに、とても遠い場所にいる人だったよ……。

 

 その後、俺達の模擬戦を見て触発されたのか、箒達も先輩達に手取り足取りと直に色んな事を教えて貰っていた。

 それはいいんだけど……確実に俺と皆との差が更に広がるよな?

 俺ももっと頑張った方がいいのか? でも……体の方が疲れ果ててソレを許してくれない……。

 まずは……体力面を強化しないとな~……。

 

 

 

 

 




これにて金剛の専用機お披露目会を終了します。

ま、最後に残っていた時点で想像は出来てましたよね?
金剛の専用機は『ガンダムエクシア』でした。

そして、次回からアニメ第一期の折り返しに入ります。
暫くは榛名無双が続くかと思います。


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金剛四姉妹 一時帰省する

今回、金剛達以外の転生者たちが登場します。

その全員が彼女達の頼もしい味方であると同時に、大切な舎弟でもあります。

そんな人物達も勿論……?





 六月初頭の日曜日。

 金剛四姉妹たちはちょっとした用事があった為、久方振りに実家へと帰省していた。

 彼女達の実家……というか屋敷は、都内某所に大きく存在しており、敷地面積だけでも軽く東京ドーム10個分ぐらいはある。

 更に、家族全員分それぞれの屋敷まで建っている程。

 金剛専用屋敷や比叡専用屋敷などを始めとして、四姉妹の両親もそれぞれに自身のプライベート空間とも言うべき屋敷を敷地内に所有している。

 それ以外にも家族で食事をする時に利用する巨大な食堂や、ISの整備をする為の工廠なども完全完備。

 ここにいるだけで大抵の事は出来てしまうほどの万能性を誇っていた。

 更に、この場所に住んでいるのは小西家の人間達だけではなく、実は彼女達の舎弟や、その家族の為の屋敷も敷地の中に建設してあるのだ。

 今回、金剛達はその舎弟の一人に用事があって帰省をした。

 

「ハァ~イ♡ ちょっとお邪魔しますヨ~」

「あっ! 金剛さん! お帰りになってたんですね!」

 

 金剛達がやって来たのは、屋敷と言うよりは工場のような場所で、一応の生活スペースはあるものの、建物の殆どが作業スペースや格納庫などが占めている。

 そんな場所に住んでいるのは、ピンクの長い髪が特徴的で、横髪をおさげのように纏めている、金剛達にも勝るとも劣らない抜群のスタイルの持ち主の美少女。

 彼女の名は『藤川明石』といって、金剛達と同じ転生者である。

 前世からずっと金剛達の舎弟をしていて、元々は機械弄りが好きな根暗な少年だった。

 そんな少年がイジメの対象にならない訳も無く、案の定、クラスメイトからのイジメに遭った。

 だが、それを金剛達に救って貰い、その事に多大な恩を感じ、それ以来ずっと自分の得意な機械技術で四人に貢献してきた。

 喧嘩は全く得意ではないので、主に裏方として活躍していたが、その腕前はプロさえも唸るレベル。

 そこを四人に非常に高く評価され、今でもこうして影から金剛達を支え続けている。

 因みに、金剛達の専用機の開発者はこの明石だったりする。

 転生してからはただでさえ突出していた機械技術が更に向上し、世間には全く知られてはいないが、実は束以外に唯一のISコアを製造可能な人間だったりする。

 実際、金剛達の専用機のコアは明石が製造した物を利用している。

 そんな彼女は今、IS学園とは別の学校に通っている。

 

「比叡さんに榛名さん。霧島さんもお元気そうでなによりです」

「そっちこそ。相も変わらず楽しそうにしてるわね」

「ハイ! 思う存分に機械に触れる環境は、私にとっては天国みたいなもんですから!」

「その嬉しそうに笑う笑顔を世の男共にも振る舞えば、間違いなくイチコロでしょうね……」

 

 今の明石の恰好は、緑のツナギにタンクトップと、どう見ても狙っているとしか思えない格好になっている。

 事実、彼女が動く度にその大きな胸が揺れまくっている。

 

「そうだ! 金剛さん専用の無人サポート戦闘機が完成したんですよ! 見てください!」

「オ~! 遂にアレが出来上がったのネ!」

 

 明石を先頭に連れてこられたのは、地下にある大型格納庫。

 ここには明石がこれまでに開発した数々の機体と、それに付随する装備やパーツなどが沢山置いてある。

 明石にとっての聖域であると同時に、大切な仕事場でもある。

 

「あれ? もしかして先客がいる?」

「そうだった! あの子が来てたのすっかり忘れてた!」

「ん? そこにいるのは……戻って来てたんですね」

「久し振りネ。大淀」

「そうね」

 

 金剛達の姿を見つけて端末片手にやって来た少女は『川澄大淀』

 黒く長い髪と眼鏡がよく似合う、典型的な委員長っぽい彼女もまた、明石と同じ金剛達の舎弟の転生者だ。

 前世では金剛達が通っていた学校の生徒会長を務めていて、最初こそは犬猿の仲だったのだが、学校に振りかかるトラブルの解決を手伝っていく内に少しずつ友情を育んでいき、最後にはお互いにとって掛け替えのない存在となった。

 表向きは舎弟となってはいるが、実質的には立場はほぼ同じである。

 今では事務関係や雑務などの仕事で金剛達を支えていて、大淀がいてくれるから四姉妹はいつでも遠慮無く戦える。

 そんな大淀は、明石と同じ学校に通っていて、実は同じクラスに在籍していたりする。

 

「今年は原作が開始した年だったのでしょう? 例の主人公君はどんな感じでした?」

「大まかな所は私達が知っている人物と同じかしラ。でも、今の内ならまだ矯正が十分に可能だから、徐々に『普通』にしていく予定ヨ」

「具体的には?」

「肉体面は私達が暇な時にでも鍛えればいいとして、精神面に関しては『彼』に助力して貰おうという話になりました」

「彼……田中ヤスオ氏ですね。成る程、男子の精神面を鍛えるという事に関して、彼以上の適任者はいないでしょう。いつ会わせるつもりで?」

「夏休み辺りにしようと思ってるわ」

「了解です。では、私の方で手配をしておきましょう」

「thank you。いつもいつも恩にきるネ」

「それは言いっこなしです。私や明石のように表では戦えない者は、こうして影から支える事しか出来ない。故に、自分に出来る事を全力ですると決めているのだから」

「それでも……よ。本当に二人には感謝してもしきれないんだから……」

 

 滅多に見せない素の表情でお礼を言う金剛。

 それを見て、明石と大淀は思わず顔を赤らめた。

 

「その顔は……ズルいですよ……」

「あわわわわ……」

「金剛お姉さま。話が完全にずれてます」

「おっと。そうだったネ~!」

 

 霧島のファインプレイにより話が軌道修正され、全員の視線が目の前のハンガーに固定されている小型の戦闘機に向けられる。

 

「オーライザー。金剛さん専用の無人支援戦闘機で、脳波コントロールで動かす事が可能です」

「うん。相も変わらず見事な出来栄えネ」

「と言っても、こいつの本来の役目は別にありますけどね」

「そうそう。実は『その件』で用事があったのよ」

「と言いますと?」

「コレを見て頂戴」

 

 金剛がエクシアの拡張領域から、以前に無人機から強奪した未知のISコアを取り出した。

 

「これって……無人機『ゴーレム』のコア……ですか?」

「YES。比叡と榛名が無人機を撃破してGETしてきたノ」

「流石です。比叡さん、榛名さん」

「あの程度、普通に雑魚だったけどね~」

「そうね。全く手応えが無かった。あれなら、昔のセシリアの方がまだいい動きをしていたわ」

 

 これは別に自分達を強く見せようとしているわけではなく、彼女達にとって本当にタダの雑魚だったから言っているのだ。

 戦いにすらならなかった無人機は、比叡と榛名にとっては単なる硬いだけの的に過ぎなかった。

 

「幾らコアを製造出来るといっても、それにはそれ相応のコストと時間が掛かる。それならいっそのこと、あの『兎』が造ったコアを奪ってから、私専用に改造してしまえばいい」

「成る程。このコアを調整して、もう一つの『ドライブ』に組み込むんですね?」

「その通り! 妹達の機体はともかくとして、私のエクシアが更なる高みに至るには、どうしても二基のISコアが必須になるから」

「ですね。分かりました! この明石、全力で造らせて貰います!」

「お願いネ」

 

 話が一通り終わった所で、ふと霧島の視線が隣のハンガーに向けられる。

 そこには、全身装甲型の真紅のISが鎮座していた。

 

「あの機体は……まさか」

「そういや、『二号機』の事も報告しておかないといけないんだった!」

「二号機?」

「はい! 金剛さんに頼まれて、取り敢えずの組み立てだけは済ませたんです!」

 

 隣に移動してから、明石が両手を広げて機体をアピールする。

 

「アストレアの二号機。通称『Type-F2』です! これを例の後輩……篠ノ之箒にあげる予定なんですよね?」

「えぇっ!?」

「そうなんですかっ!?」

「聞いてませんけどっ!?」

「言うのを忘れてたネ」

「「「お姉さまぁ~」」」

「ハハハ! ソーリーソーリー! でも、これで盤石の態勢になってきた」

「そうですね。アストレアの予備パーツで組み上げただけなんで、細かな調整などはこれから行うんですけど」

「頼んでおいてなんだけど……本当に大丈夫? ちゃんと寝てる?」

「大丈夫ですよ~! 寧ろ、ISを触ってる時はテンション上がって眠気なんてどこかに吹っ飛びますから!」

「………大淀。ちゃんと明石の事を見ててあげてね……」

「言われるまでもないです。この子ったら、目を放したら2徹とか3徹とか普通にするし」

「……お願いだから、最低でも6時間以上は睡眠をして健康的な生活を送ってネ……?」

「むぅ~……金剛さんに言われちゃ、仕方がないですね~」

 

 膨れっ面になる明石ではあるが、金剛が自分の事を想っての助言なのは百も承知なので、心の中では実は嬉しかったりする。

 

「四人は今から何か用事でもありますか?」

「いや……今回は別にこれと言ってないけど……」

「でしたら、あの『三姉妹』の所にも顔を出してあげてください。きっと喜びますから」

「そうね。もしかしたら、あの子達にも仕事をお願いするかもだし。顔出しぐらいはしておいて損はないかも」

「彼女達にも仕事をさせる予定があるのですか?」

「あくまで『可能性』の話なんだけどネ。でも、念には念を入れて損は無いと思うし」

「御尤もです。では、そっちの方もいつでも出撃出来るようにしておきましょう」

「私も、あの子達の機体の整備もやっておきます!」

「頼むわね、二人共」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 次にやって来たのは、四姉妹もよくここにいる時は利用している広大なトレーニングルーム。

 そこらにあるトレーニングジムよりも圧倒的に器具の種類や量が多く、様々な訓練が可能になっていて、特に注目すべきなのはISのシミュレーターが完備されている事。

 このシミュレーターは霧島の要望で明石が製作し、合計で10台ほど置いてある。

 色んな状況での特訓が可能で、個人戦からチーム戦など、兎に角出来る事が豊富な代物だ。

 

 そんな10台設置してあるシミュレーターの内の3台が現在も稼働していて、誰かが使用しているのが分かる。

 並んで動いているシミュレーターに三人分のタオルとドリンクを持って近づいていく金剛達。

 すると、丁度いいタイミングで特訓が終了したようで、中から使用者たちが揃って出て来た。

 

「ふぅ~……疲れたぁ~」

「良い調子ですね。姉さん」

「那珂ちゃん、今日も絶好調~!」

 

 それぞれに話しながら来たところで、金剛が代表して声を掛けた。

 

「お疲れ様。川内、神通、那珂」

「「「こ…金剛先輩っ!?」」」

 

 さっきまでヘトヘトになっていた三人は、急に姿勢を正して背中を伸ばした。

 彼女達もまた金剛の舎弟の転生者で、三人揃って『佐倉三姉妹』と呼ばれている。

 茶髪のセミロングをツーサイドアップにした明朗快活で自由奔放な長女『佐倉川内』

 姉と同様の茶髪を先で縛って、前髪は外ハネになっている少し気弱で真面目な次女『佐倉神通』

 明るさが売りの元気な三女で、実際にアイドル活動までしている『佐倉那珂』

 転生前から金剛達四人に絶対の忠誠を誓い、転生してからは前以上に金剛達を尊敬して敬っている。

 主に金剛達が忙しくて動けない時に実行部隊として動く事が多く、三姉妹専用の専用機まで与えられるほどに信頼されている。

 

「「「お…お疲れ様です!!」」」

「久し振りなのに変わらないわネ……」

「それがこの子達らしさですから」

「比叡先輩! お久し振りです!」

「久し振り。頑張ってるわね川内」

「榛名先輩……私……」

「ふふ……別に恥ずかしがることは無いのよ? 神通」

「霧島先輩! この前発売したニューシングル聞いてくれましたっ!?」

「勿論。とてもいい曲だったわ。あれならまたミリオンヒット間違いなしね、那珂」

 

 この三姉妹。実は金剛とは別に、それぞれに比叡達にべったりと懐いている。

 ある意味で他のヒロイン達の強力なライバルでもあった。

 そんな彼女達は、シミュレーターに入っていた事もあり、専用のISスーツに着替えている。

 川内は黒いISスーツに、神通は橙色、那珂は紅色だ。

 金剛達同様に自分達のパーソナルカラーになっている。

 

「はいこれ、ドリンクとタオル。差し入れに持ってきたワ」

「そ…そんな! これぐらいなら自分で取りに行くのに!」

「気にしなくてもいいワ。私が好きでやってる事だし」

「金剛先輩……♡」

 

 手渡されたタオルを顔に押し当てて、目の奥がハートになる。

 もうお気づきかと思うが、とっくの昔に三姉妹はこの四姉妹にゾッコンLOVEだ。

 いや、彼女達に関してはもう愛情を通り越して信仰の域に達しているかもしれない。

 

「ところで、普段はIS学園の寮にいる先輩達がこっちに戻って来るなんて珍しいですね」

「何かあったのですか?」

「何かある……ってよりは、これから何かが起こるって言った方が正しいカナ?」

「それはつまり……」

「うん。近い内、三人には海外出張に行ってもらうかもしれない」

「三人の学校にはウチから事情を話しておくから、その点は安心して」

「ありがとうございます。んで、私達はどこに行けばいいんですか?」

「貴女達に行ってもらう場所……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランスよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明石に大淀、川内と神通に那珂ちゃんまで登場しました。

このメンバーは割と準主役級の存在で、特に原作第二巻以降の話の一部で川内三姉妹はかなり重要な役割があります。

次回は恐らく、原作通りの一夏が弾の家に遊びに行く話になると思います。
話の中心は金剛達になるでしょうけど。


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男子二人 自慢話をする

今回の話はズバリ『男って本当に馬鹿ばっか』です。

一夏の今の心境が地味に露呈しているかも?







 6月初頭の日曜日。

 俺は久し振りに中学の頃からの親友である『五反田弾』の家に遊びに来ていた。

 弾は、俺が本来だったら入学する筈だった私立『藍越学園』に通っていて、何故かIS学園に行くことになった俺の事をいつもいつも恨めしそうに言ってくる。電話で。

 

「オラァ!! こいつでトドメだぁ!!」

「ウソだろぉっ!? こんなコンボありかよっ!?」

「ふっふっふっ……。今の俺に死角など無い……!」

 

 年頃の男子高校生らしく格ゲーで遊んでいたのだが、まさかの完敗。

 最近は色々と急がしくてやってなかったとはいえ、ここまで見事に負けるか普通……?

 弾は長く伸ばした髪を見せつけるようにフサッとして、俺を見下しながらニヤリと笑った。

 

「もうお前の天下は終わったって事なのだよ、一夏君」

「いきなり君付けすんな。なんだよ天下って。俺は一度たりとも天下なんて取った覚えはない」

「うっせっ!」

 

 なんなんだよもう……本気で意味が分からん。

 

「俺もようやくリア充の仲間入りを果たしたって事だよ」

「はぁ?」

 

 リア充って……久し振りに聞いたわ。

 まだ使ってる奴、いたんだな。

 

「フッフッフッ……。なぁ一夏……」

「な…なんだよ」

「俺は中学まで一度もやった事が無い事を高校に入ってやっている。それは一体なんだと思う?」

「中学まで一度もやった事が無い?」

 

 なんだ? そんなの探せば幾らでもあるだろ?

 そんなのクイズとは言えんだろうが。

 

「分からないか? 分からないだろうなぁ~……。うんうん。そうだよなぁ~」

「さっきから本気でなんなんだよ。あと、この口調が純粋にウザい」

 

 というかキモイ。普通に似合ってないから。

 

「正解は……」

「正解は?」

「生徒会だ!!」

「生徒会?」

 

 生徒会って……あの生徒会だよな?

 全校生徒の中心となって、色んなイベントとかを進めていく。

 あの弾が生徒会に入った?

 

「弾って生徒会活動に興味なんてあったんだな。なんか意外だよ」

「んな訳ねぇだろ! 普通なら絶対に入ったりなんかせんわ!」

「んじゃ、なんで入ったんだよ? ちゃんと説明しろ」

「いいだろう……鈍感なお前にも一発で分かるように、この俺が懇切丁寧に教えてしんぜよう……」

 

 まだ続ける気かよ、その口調。

 

「俺が生徒会に入った理由……それはこれだ!!!」

 

 ババ―――――ン!!

 そんな効果音が出そうな勢いで自分のスマホの画面を見せつけてくる。

 そこには、藍越学園の制服を着た二人の女子生徒が映っていた。

 

「この人達は?」

「よくぞ聞いてくれた!! この二人の美少女こそが俺が生徒会に入った最大にして唯一の理由!! こっちの眼鏡を掛けた清楚な感じの美少女が二年生にいて生徒会長を務めている『川澄大淀』先輩で、その隣にいるピンク色の髪の笑顔が超キュートな美少女が副会長の『藤川明石』先輩だ!!」

「そ…そうか……」

 

 この時、俺は生まれて初めて親友に対してドン引きした。

 

「大淀先輩は超頭もよくて成績優秀で、皆の憧れの的なんだ! 俺が生徒会に入りたいって言った時も二つ返事で快くOKしてくれてさ! 分からない事があれば何でも教えてくれるし、暇な時は勉強とかも教えてくれるし……もうなんつーの? 控えめに言ってもマジ女神だわ」

「ソ…ソッカー……ヨカッタナー……」

「明石先輩はめっちゃ明るくて元気でさ! 見ているこっちが思わず笑顔になっちまうような魅力があるんだよな~! しかも、すっごい機械に強くて、壊れた冷房やテレビとかすぐに修理しちまうんだよ! いや~……天に二物を与えられてる人間って本当に居るんだな~って実感しちまったもん。あんなに可愛いのに機械も得意とか反則だろ! 最強にギャップ萌えだろ!!」

 

 こ…こいつがここまで興奮してる姿なんて初めて見た気がする……。

 弾ってこんなに饒舌に話す奴だったんだな……。

 

「しかも、これだけじゃないんだぜ!! 生徒会じゃないけど、同学年にこれまた超高校生級の美少女がいるんだからな!!」

「へぇ~……」

 

 もう俺は適当に返事だけをする事にした。

 下手に相手をすると痛い目を見そうだ。

 

「その名も『佐倉三姉妹』!!」

「三姉妹? 同学年なのに?」

「三つ子の姉妹らしい。三人共、とんでもない美少女揃いだけどな!」

 

 さっきからコイツ、何回も『美少女』って言ってるけど、そのフレーズ気に入ったのか?

 

「長女の『佐倉川内』ちゃんはかなりの元気っ子なんだけど、実はかなり面倒見がいいリーダー的な女の子でさ~。次女の『神通』ちゃんは見た目通りの清楚で大人しめの女の子なんだけど、いざって時は一番行動力があって、三女の『那珂』ちゃんに至っては現役のアイドルなんだぜ!! 信じられるかっ!? 同じ学校にあの超人気美少女アイドルの『NAKAちゃん』が在籍してるんだぞ!! こんな奇跡普通に有り得ないだろっ!?」

 

 いや、俺別にアイドルとか興味無いし。

 

「っていうか、よくもまぁそこまでスラスラと話せるよな。仲がいいのか?」

「ま……まぁな。一応、那珂ちゃんとは同じクラスだし? 話すぐらい余裕でしょ」

(ま…前に日直が一緒になった時があったし、嘘はついてないよな……?)

 

 急に弾の奴が目線を逸らした。

 これはアレだな。本当はまだ碌に会話もした事が無いと見た。

 

「ま、流石の一夏君も先輩方とお近づきにはなれてないだろうし? 同い年の子達でハーレムでも築きたまえよ! はっはっはっ!」

「いや、俺は別にハーレムとか全く築いてないし。築く気も無いし。興味も無いし」

 

 でも、なんか言い方が腹立つな……!

 なんでかセルジオ越後になって超偉そうにしてるし。

 こっちにだって凄い先輩がいるんだぞ!

 

「IS学園にだって……」

「ん~? なんだね~? よく聞こえないな~?」

「IS学園にだって凄い先輩がいるんだよ!!」

「なら言ってみろやゴラァァァァ!!!」

 

 上等だ……言ってやるよ!

 俺が本気で尊敬している先輩達をな!!

 

「IS学園には『小西四姉妹』っていう学園中の皆に尊敬されまくっている先輩達がいるんだよ!!」

「四姉妹……ってことは、まさか四つ子なのかっ!?」

「そうだ! しかもな……帰国子女だ!!」

「な……なぁ~にぃ~っ!? 帰国子女だとぉ~っ!?」

「そうだ! 長女の金剛先輩は剣道部の主将を務める傍らで俺みたいな新入生達の面倒まで親身になって見てくれる超優しい女性で、めっちゃ美人なんだよ!!」

「……写真はあるのか?」

「ある!」

 

 俺は、密かに箒から買い取り、その後に自分のスマホの壁紙にしている金剛先輩の写真を見せつけた!

 

「どうだ!」

「た…確かに凄い美人だ……! 笑顔が可愛すぎる……!」

「次女の比叡先輩は活発な印象が強い人なんだけど、本当は誰よりも乙女だったりするんだ! その上、狙撃の名手でクレー射撃の世界大会で優勝したって聞いてる!」

「写真は?」

「これだ!!」

 

 今度は鈴から買い取った写真を見せつけた。

 お蔭で今月の俺の小遣いはカツカツだが、なんでか後悔は全く無い!!

 

「こーゆータイプのお姉さんもいいなぁ……」

「三女の榛名先輩はな、とにかく清楚だ! すっごい清楚だ!! 料理も紅茶淹れるのも超上手で、容姿も雰囲気もTHE・お嬢様って感じの人なんだ!! 傍に寄られると本気で緊張して言葉が出せなくなるぐらいの美人だ!!」

「写真は~?」

「勿論ある!!」

 

 これは前に知り合った新聞部の先輩から貰った写真。

 流石に金は取られなかったが、その代わりに今度、取材をさせられる約束をしてしまった。

 

「おぉぉ……! なんで優美な笑顔……! まるで漫画から飛び出してきたかのような清楚系美人……!」

「四女の霧島先輩は、お前のとこの生徒会長と同じような眼鏡美人だ!! 頭の回転が兎に角速くて、常にクールな印象がある女性なんだけど、本当は熱血な性格をしていて、しかも強い!! 俺も先輩の試合を見た事があるんだけど、見ているこっちが奮い立たさせるような人だった! これは噂だけど、霧島先輩は四姉妹の中で一番スタイル抜群だとも聞いた!!」

「写真はあるのかぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あぁぁぁぁぁぁるぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 こいつは、なんでか写真を持っていた布仏さんに誠心誠意頼んだ結果、なんでか購買部に売ってあった駄菓子詰め合わせセット(500円)と引き換えに譲って貰った。

 

「大淀先輩とはまた違った眼鏡美人!! しかも、ボンッ! キュッ! ボンッ! これはズルいだろ~!!」

「ハァ……ハァ……どうだ……! 俺にだってな……美人の先輩の知り合いぐらい……いるんだよ……!」

「くっ……! 悔しいが……これは認めざる負えない……!」

 

 ……なんで俺……ここまでムキになって先輩達の事を自慢したんだ……?

 自分でもよく分からないんだけど、急に言いたくなったんだよな……。

 

「一夏……」

「なんだ?」

「お前も成長したな……」

「そうか?」

「あぁ……そうだよ。昔のお前なら、女の話でそこまで熱くなることは無かった。俺はそれが嬉しい……!」

「弾……」

 

 お前……。

 

「今日は男同士、とことんまで語り尽くそうぜ!」

「あぁ!」

 

 なんかもうどうでもよくなってきたわ! ははは!

 妙にテンションだけ上がるまくってるけど、気にしたら負けだよな!

 

「大淀先輩はさ……完璧超人のように見えて、実がドジっ子だったりして……そこがまた可愛いんだよ~!」

「金剛先輩もさ、皆から慕われて何でも出来て憧れる事も烏滸がましいって思ってしまう事もあるんだけど、会話の端々に出るカタコトの英語が……その……いいんだよ。思わず可愛いって思っちまうんだよ……」

「分かる! その気持ちはよ~く分かる! カタコト英語は帰国子女系美少女にとって必須スキルであると同時に最強のチャームポイントだよな~! 一夏も徐々に『萌え』を理解し始めてるんだな……」

「そ…そうか……この気持ちが『萌え』なのか……」

 

 俺は金剛先輩に『萌え』てるんだな……。

 先輩を見る度に胸がドキドキして緊張しちまうのは、俺が先輩に萌えてるからなのか……。

 

 その後も俺と弾は『男同士の会話』で盛り上がっていたが、話す事に夢中になり過ぎて後ろにいる弾の妹である蘭の存在に全く気が付いていなかった。

 

「…………男って」

 

 少しして蘭が部屋に来ている事に気が付いた俺達だが、なんでか彼女に腐ったみかんを見るような目で見られ続けた。

 俺、蘭に何かしたかな? 全く原因が分からん。

 

 蘭は昼食が出来た事を知らせに来てくれたらしく、皆揃って一階にある店舗スペースに入っていく。

 言い忘れていたが、弾の家は『五反田食堂』という食事処を営んでいる。

 空いているテーブルに俺達の分の食事が用意されていたのはいいが、食べている途中もずっとジト目で睨まれ続けたのは本気で謎だった。

 

 

 

 

 

 

 




弾に釣られて一夏まで自慢話をする羽目に。
しかも、いつの間にか四姉妹の写真まで入手していたし。

前回、少しぼかした大淀や明石、川内達三人の通っている学校も判明しましたね。
弾と同じ学校に通ってはいますが、彼よりは確実に出番は多いです。

次回はやっと原作二巻にしてアニメ第一期後半のエピソードに突入します。

榛名、頑張ります!


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榛名 夢を見る

今回から榛名のターン。

勿論、榛名の一人称で物語は進みます。





 これが夢なのは私自身が良く分かってる。

 夢だと分かってはいるけれど……この胸に宿る感情は夢じゃない。

 この燃えるような怒りと悲しみは間違いなく本物だ。

 

「比叡!?」

「比叡さんっ!? なんで私を庇って……!」

「比叡さん!!!」

 

 信じられなかった。

 私達四姉妹の中で最も射撃能力が優れている比叡お姉さまが沈められるなんて。

 けど、それ以上に私の中に真っ黒に燃え上がるような憎悪が私の体を無意識の内に動かした。

 

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「榛名!! 前に出過ぎヨ!!」

 

 いつもなら、どんな状況に陥っていても決して聞き逃さないし無視もしない金剛お姉さまの声も、この時だけは素直に聞くわけにはいかなかった。

 

「殺す!! 殺す!!! 殺す!!!! 殺す!!!!! 殺してやるぅぅぅぅぅうぅうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」

「榛名お姉さま無茶しないで!! 今の貴女は右腕と右脚を負傷してるんですよ!!」

 

 霧島に言われなくても、そんな事は最初から分かってる。

 戦う事は愚か、満足に戦う事すら出来ない体なのは。

 でも、それがどうした。そんなの関係無い。

 痛みなんて全く気にならなく程に、私の憎悪は大きく深かった。

 

「ナンダコイツハ!?」

「アノ体デ、ドウシテアソコマデ動ケルッ!?」

「相手ハ既ニ半死人ダ!! 集中シテ確実ニ殺セ!!」

 

 私の突然の奇襲で連中が混乱しているのが楽しくてしょうがない。

 こんな状況なのに、私は心が高揚している。

 

「ははは……! はははははははははははははははははははははははっ!!!!!」

「は…榛名……?」

「ど…どうしちゃったんですか……!?」

 

 笑いが止まらない。

 私の砲撃が当たる度に、相手の攻撃を避ける度に、自分が早く、強くなっているような気がしてくる。

 

「死ね!! 死ね!!! 死ねぇ!!!! あははははははははははははは!!!!」

「コノ……化ケ物ガ!!」

「お前等がそのセリフを言うんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 もう私は止まらない。止められない。

 こうなったら、私一人でこいつ等を皆殺しにして仲間達と生き残った姉妹を救ってやる。

 けど、それは私の思い上がりだった。

 

「ぐあぁっ!? 足が……!」

 

 私は何にも気が付いていなかった。

 自分が強くなっている気がしているだけだった。

 本当は分かってた。自分の体が徐々に鈍くなっている事を。意識が朦朧として視界が歪んでいる事を。

 でも、私はその事実を憎悪の感情で封じ込めた。

 その結果がこの有様だ。なんて情けない。

 

「私はまだ……『世界の答え』を聞いてない……! だから……こんな所で死ぬわけには……!」

(だったらよぉ……あの化け物どもに見せつけてやろうじゃねぇか……! 私の……艦娘の真の戦いってヤツをよぉ!!!)

「………そうね!!!」

 

 頭の中に聞こえてきた得体のしれない謎の声に、私は何故か素直に従う事にした。

 不思議とそれが正しいと信じて。

 

「思考と……」

(反射の……)

「(融合!! さぁっ!! 艦娘の力をとくと思い知りやがれ!!!)」

 

 何かがガッチリと噛み合った気がした。

 まるで、今までずれていた歯車が修復されたかのように。

 その瞬間、私の頭は驚くほどにクリアになった。

 

「バ…馬鹿ナっ!?」

「完全ニ限界ハ超エテイル筈ダゾッ!?」

「コッチノ攻撃ハ命中シテイルノニ! ドウシテ倒レナイッ!?」

「奴ハ不死身ナノカッ!?」

 

 不死身なものか。

 さっきから体はボロボロで、今にも轟沈しそうなのに。

 でも、だからこそここで引くわけにはいかない。

 私の……私達の後に続く者達の為に!

 

「あああぁああああぁあぁぁぁあああぁぁあぁあああぁぁあぁあっ!!!!!!」

 

 消えゆく意識の中、私は最後の瞬間まで砲撃を続けた。

 でも、その一撃が砲身から放たれる事は無かった。

 

(ゴメンナサイ……金剛お姉さま……霧島……後は……お願いします……)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

 朝の寮の食堂。

 私は自分が注文した『トースト&ハムエッグセット』を目の前にして、大きな溜息を吐いていた。

 

「どうしたの?」

「その溜息……まさか?」

「榛名……アナタも『夢』を見たのネ?」

「金剛お姉さまにはなんでもお見通しなんですね……その通りです」

 

 本当に……この人に隠し事は出来ないなぁ~……。

 

「どんな夢だった……とは聞かないワ。あの『夢』は筆舌に尽くしがたいものがあるから……」

「そうですね……。金剛お姉さまや比叡が落ち込んだのも分かります……」

 

 あんな夢を見せられたら、そりゃ誰だって表情が暗くなるわよ……。

 これは……かなりクルわね……。

 

「これで、まだ『夢』を見ていないのは私だけになった訳か……」

「怖い?」

「そうね。本音を言うと怖いわ。自分はどんな『夢』を見るんだろうって」

(呼んだ~?)

「「「「誰っ!?」」」」

 

 なんか聞き覚えのある声がいきなり聞こえたんですけどっ!?

 

「今日は休んでおく?」

「いいえ……お姉さまも比叡も頑張ったんです。ここで私だけは休むわけにはいきません」

「無茶だけはダメよ」

「ありがとうございます」

 

 せめて、食欲だけは取り戻さないとね。

 まずは、目の前のご飯を食べましょうか。

 

「そうだ。もうそろそろ『例の二人』が転入してくる頃じゃないですか?」

「あぁ……フランスとドイツから来る二人ね……」

 

 ある意味で一番の問題児二人か。

 どっちとも、なんとも言えない身の内だからなぁ~。

 

「榛名。前にも言ったと思うけど、あの二人に関しては貴女に全てを一任するわ」

「分かりました。榛名、頑張ります!」

 

 比叡も霧島も頑張ってる。

 なら、私も頑張らないとね!

 

「今回で、一応の『ピース』は揃う」

「全ては『最悪の未来』を防ぐ為に」

「だからこそ、私達がこの世界の中心になる」

「そう……」

「「「「世界は私達四姉妹を中心に回っている」」」」

 

 見てしまった未来。知ってしまった結末。

 それだけは絶対に、この命に代えても防がないといけない。

 

「まずは、放課後に生徒会室に行きましょうか」

「そうね。楯無さんなら、彼女達が転入してくる前に色んなデータを揃えてるだろうし」

「あら。噂をすればなんとやら……ネ」

 

 金剛お姉さまが顔を向けると、そこには手を振りながらやって来る楯無さんとフォルテさんとサラさんが揃ってやって来ていた。

 

「やれやれ。朝から賑やかになりそうネ」

「ですね」

 

 でも、だからこそ毎日が楽しい。

 この日常を守るために、私達は立ち上がる。

 さぁ……今日を楽しもう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 フランス デュノア社前

 

「ここがあの『デュノア社』か……」

「大きいビルですね……」

「那珂ちゃんの個人的なスポンサーになってくれないかな~?」

「「なるわけないでしょ」」

「二人共ひっど~い!」

 

 巨大なビルの前で騒いでいるのは、金剛四姉妹の最強の舎弟である『佐倉三姉妹』の三人。

 今回、彼女達は前に金剛達に言われた通り、フランスへと足を運んでいた。

 

「ここに『彼女』がいるんだよね……」

「そう思うと、なんだか不思議な感覚になりますね……」

「私達も大概だけどね~」

 

 彼女達は金剛達を通じて学校側にキチンとした休み申請を行っているため、面目上はズル休み扱いにはなっていない。

 会社で言う所の有給みたいなものだが、ちゃんと後で補習を受ける事を約束しているから、厳密には違うかもしれない。

 

「けど、ドイツの方はいいのかな? この時期にフランスから『彼女』が日本に来るって事は、同時にドイツからも『あの子』が来るって事でしょ?」

「今はまだ動くつもりはないらしいですけど、近い内に明石さんが開発したあの『無人機部隊』を派遣するらしいです」

「それってもしかして『アレ』が発動してから?」

「らしいです」

「またなんで? もっと前に動いて事前に防げれば、それが一番じゃん」

「恐らくですが、確固たる証拠をぶつけた上で完膚なきまでに叩き潰すつもりじゃないかと」

「それに、あの四人がヘマをするとは思えないしね~。きっと、那珂ちゃん達が何もしなくても普通に防ぐでしょ」

「それもそっか」

 

 どこまでも四姉妹に対する信頼度は高い。

 それは、彼女達の過去……正確には前世が関係しているのだが、それはまた別の話。

 

「ここで話しててもあれだし、まずは移動しようよ。私達の今回の仕事の主目的はデュノア社じゃないんだし」

「そうですね。お仕事は夜からですから、それまでは下見をしつつ食事をする場所でも探しましょう」

「夜のお仕事なんて、那珂ちゃんの玉のお肌が荒れちゃう~」

「いいじゃん夜戦! 最高じゃん!」

「そこに反応するんですか……」

 

 何気に川内も体に精神が引っ張られている様子。

 思春期真っ盛りの男子が聞けば、間違いなく勘違いしそうな会話である。

 

 因みに、弾は三姉妹が休みである事を心から嘆きつつ、生徒会活動にて明石や大淀に癒されていた。

 

 

 




榛名編の導入部分なので少し短めに。

次回からは原作に沿って行くと思います。


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