ゴッド★ロックシューター (榊 樹)
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第1話:ブラック★ロックシューター

ブラック★ロックシューターというゲームをしていた。

 

ラスボス手前のスキル?武器?を解放させる為の強キャラがバグかなんかで出現しなかったので、ありとあらゆる敵を倒したり、クエストをクリアしたりしたが、結局出なかった。

 

仕方無く、初めからやり直して徹底的にクリアして来たが、結局現れることは無かった。もう面倒臭くなったので電源を切ると同時に視界が暗転した。

 

 

 

 

次に目が覚めると一面何も無いだだっ広い荒地が広がっていた。空には大きくて丸く白い月が世界を照らしていた。

 

 

わぁ、綺麗・・・・・・じゃねぇよ。何処だここ?

 

 

どうやらしゃがんで居たようなので、取り敢えず立とうと手を地面に突く為に下を見れば、今までの男のようにゴツイ脚ではなく、少女のような華奢で白い生足があった。序でに左手にはゴツくて、大きくて、黒光りする太い棒が。

 

 

ん?あれ?俺、男だよな?

 

 

今は左手に持っているものは地面に突き刺して後回しにし、立ち上がって自分の記憶を探りつつ、身体を確認する。

 

まず、性別は元は男だが今は女になっていた。そして、黒髪を右側が短く左側が長い、左右非対称のツインテールにしている。長くても腰くらいかな?肌は雪のように白く、健康そうには見えない。

 

 

服装は上はビキニのようなものと裾がコートのように長い前開きの黒いパーカーを羽織っている。パーカーの背中と左胸には白い星マークがあり、袖には白のラインが走ってる。

 

下は黒いホットパンツに白いベルト、黒のロングブーツを着用している。あぁ、それと両手には黒い手袋をしてる。生憎、容姿に関しては鏡のようなものが無いので確認出来ないが、大体見当は付いた。

 

 

ふむ、と自分の状態を確認した後に突き刺した物に目を向ける。自身の身の丈程もある余程の事が無ければ壊れる事なんて無いだろうと思わせるような機関砲。

 

凄く・・・大きいです・・・。

 

 

これを俺は何か知ってる。というか、さっきまでこれを振り回して敵を爆発四散させまくっていた。ゲームの中だけど。

 

“★Rock Cannon”、これがこの機関砲の名前で合ってると思う。

 

 

と、まぁここまでダラダラと確認して来たが、さっさと結論から述べよう。俺、ブラック★ロックシューターのゲームの主人公のステラになってました。

 

 

イヤッホォォォイ!!!

 

 

 

 

自分では無くなった事に発狂しそうだったが狂喜乱舞する事で回避した。あれ?これ結局、狂ってね?ま、いいか。

 

落ち着いてから冷静に思考してみた。って、寒いな。今までそこまで気が回せ無かったけど、冷静になるとかなり寒いぞ。肌も寒さで少し痛い。

 

まぁ、今は置いておこう。でだ、話を戻すが俺は今ステラになっている。多分、憑依とかそんな所だと思う。

 

 

もうこの際、ステラになった事はいいよ。美少女で可愛いしな。

 

ただ、問題なのはこの世界だ。多分、ステラに憑依した事からここはゲームの方のブラック★ロックシューターの世界の可能性が高い。周囲を見た限り、アニメ版の裏の世界?という可能性は限りなく低い。

 

そして、ゲーム通りの展開だと何が問題かって言うと、ステラが目覚めた時には既に人類が殆ど滅亡しちゃってんだよね。序でに言うと、目覚めた時に周囲は町の中で地球最後の人間達が戦ってる。

 

最終的にこの人達も死んじゃうけどな。だが現状は周囲に人どころか建物すらない。

 

何が言いたいかと言うと、下手したらステラが一人ぼっちになった所で俺が憑依した、とかの可能性がある訳だ。

 

 

・・・ふっ、どないせぇっちゅうねん。

 

 

あと気になる所は侵略しに来た宇宙人を倒したかどうかなんだが、今の所は判断が付け難いんだよな。一面見渡しても本当に何も無くて、地平線が続いているだけなんだよな。不安しかないです。

 

 

そんな訳で宇宙人の有無は後回しで今は・・・食料調達か?いや、情報収集が先か?うーん・・・よし、どっちにしろ歩いて建物とかを見つよう。自然とかでも可。

 

 

360度、同じような景色なので、“★Rock Cannon”を引き抜いて適当に立てて倒れた方に行く事にする。

 

さぁ、はじめの一歩を踏み出そう、とした瞬間に周囲の惨劇を漸く認識した。

 

荒地である事は変わりないが俺の周辺は至る所に穴が空いていたり、地面が割れてたりした。狂喜乱舞した結果である。

 

 

あ、これは俺の身体能力が確実に上昇してますね。さっき“★Rock Cannon”を持った時に鉄の塊にしてはやけに軽いなと思ったが、身体能力も原作と同じくらいになってると考えるべきだな。

 

そこは良かったと喜んでも良い所だろう。武器があるといっても流石にそれだけだと心許なさ過ぎるからな。

 

そんな訳で、先に自分のスペック確認の為に全力で走ってみますか。

 

 

 

 

ざっと身体能力を確認してみたんだが、あれだな。

 

走った後に砂煙が舞ったり、踏み込みで地面が凹むのって、なんか興奮するな。つい、瞬歩とかしてしまった。まぁ、気持ちの問題であって全く一瞬ではないんですけどね。

 

検証の結果としては、先の仮定は殆ど正しいで合ってると思う。武器は軽々振り回せるし、息切れも中々起こらない。軽くジャンプしただけで数メートルは飛べる。本気で飛んだらかなり高く飛んで、バランス崩して頭から落ちた。まさか荒地で犬神家をする事になるとは思わなかったよ。軽傷で済んで本当に良かった。

 

後、身体能力か分からんが、平衡感覚やら身体を思い通りに動かす能力とかも強化されてた。

 

その例として、アニメとかでよくあるバク転しながら攻撃回避するという、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きをやってみた。

 

すると、まぁ回る回る。何回やっても平衡感覚を失わなくて、フィギュアスケートの選手ってこんな感覚なんだなぁと思った。

 

 

やり過ぎて放置してた“★Rock Cannon”を見失った時はマジで焦った。荒地だった事もあり、飛んだらすぐに見つかった。

 

 

“★Rock Cannon”を回収して思った事があった。武器を手放した状態でやっても何も意味無くね?と。そんな訳で“★Rock Cannon”を片手に持ったままさっきと同じような動きを一通りやった。

 

まぁ、重さに関しては考えなくていいようなものだから、粗方全部問題無くできた。強いて言えば、バク転とかで偶に引っかかる程度だけど、それもそのうち慣れるだろう。

 

 

以上が経過報告。

 

さぁ!地平線の彼方へと再び歩き始めよう!

 

 

 

 

 

日が登り始めた。

未だに周囲は荒地しかない。

その事に少し、疑問を持つ。

 

仮に宇宙人が侵略中だろうと、宇宙人を倒した後だろうと人間の文明(ビル等の建物)が消えると思えない。

 

最後にあったエンディング後のafterstory?は多分、南極か北極だから参考にはならないけど、ここまで綺麗に建物が無くなるとは思えない。

 

単純にそういう地域に居るって言う可能性が今の所濃厚。仮にそうだったとして、何の為にこんな所に居たのかはよく分からんがな。

 

 

なんて考察をしながら、刀を片手でブンブン振り回しながら、早朝の荒地を歩いていく。

 

ん?その刀はどうしたって?ゲームとかアニメで“★Rock Cannon”が変形、と言うよりも変態だな。いや、変換か?変換しているから、出来るかなぁと思って心の中で刀になれ、とか念じてみたらなんか出来た。

 

そんなに大雑把でいいのか未来の技術、と思うものの便利だからいいかと考える事を止めた。

 

 

他の武器に成れないかなぁ、とか思ってマシンガンやらスナイプやら念じてみたが、無理だった。でも、“★Rock Cannon”をランス?みたいなのに変形する事は出来た。今の所、初期装備しか出来ないって事だな。因みに、この武器変換は触れてないと駄目みたい。

 

後、変換だけじゃなくて、仕舞う事も出来る。つまり、何も持たない状態の事。この状態なら武器に触れてなくても問題無く変換できた。

 

刀、名前は確かイクサ・ブレードだった筈。いや、これスキルの名前か?・・・面倒だから、イクサ・ブレードって名前でいいや。

 

イクサ・ブレードを仕舞わずにブンブン振り回してる理由は単純に何か左手が物足りないなぁと感じたから。

 

“★Rock Cannon”では、純粋に邪魔なのでイクサ・ブレードにしたってこと。この呼び方も面倒だな。もう刀でいいや。

 

 

 

 

日が完全に登って、今は太陽が上の方にある。大体、昼くらいだろう。気温は夜に比べればマシだが、相変わらず寒い。時間の流れがあっちと同じか分からないから、正しいとも言えないがだからと言って特に問題は無いな。

 

 

昨夜から不眠不休で移動し続けているが未だに何の収穫も無し。身体的には何も問題は無いが、精神面でかなり疲労してきた。

 

この身体が幾ら凄かろうが、所詮は人間の身体。走り続けると体に負担が掛かるだろうから、こうやってある程度のインターバルを適当に設けてる。

 

でも、超人的なパワーを手に入れても元は平和ボケした日本人だからな。変わらない景色をただただ歩き続けるのは流石に堪える。

 

 

そんな訳で、一旦休息を取る事にした。

 

刀を収納して、横になる。いっその事寝てもいいかもしれない。きちんとした寝具があれば夜でもいいのだが、薄着の今は夜に寝るのはなんか危ない気がする。寒さ的な意味で。

 

だから、晴れで気温が少しはマシな今の内に寝ておくのがいいと思った。幸い、周囲に敵対生物はいなさそうだしな。

 

 

仰向けになり、空の雲の動きをボーッと眺めながら眠くなるのを待つ。太陽は上と言っても、真上ではないので心配する必要は無い。あっ、綿菓子みたいな雲。・・・どれも似たようなもんか。

 

 

 

眠気が少しずつ襲ってきた所である事を思い出した。

 

そう言えば、ここがゲーム版の世界線なら、あの三輪バイクがあるかもしれないな。

 

名前は確か・・・フェンリルだったか?

 

最高時速が360くらいだった筈だから、移動手段には持ってこいなんだけど・・・はぁ、無い物ねだりしても仕方無いか。

 

 

閃いたと同時に落胆して、眠気に身を任せて眠りに着いた。

 

 

 

 

目が覚めた。

視界に広がる夜空。

昨夜のような丸くて大きい月。

そして視界の隅に映るトライク。

 

 

・・・・・・トライク!?

 

 

夜空を少しの間だけ堪能していたが、右端に何か映ったので少し顔を横にずらすと三輪バイクとも呼ばれるトライクがあった。

 

予想してなく、無理だと思ったものがあり、驚いて飛び起きた。そして、想定していなかった故に、身の危険と不気味さを感じた。同時に低い姿勢のままトライクとは逆の方向に飛び退き、地面スレスレを飛んで落下し始めた所で飛距離を伸ばす為に左手を地面に付けて身体を押し上げる。

 

更に浮かんだ身体を捻りながら進行方向とは逆の向きに体の正面を持ってきながら“★Rock Cannon”を呼び出して、着地と同時に地面を滑りながらも対象に照準を合わせる。

 

 

身体が止まってから、銃口をトライクに向けたまま対象を観察する。

 

動く様子は無い。誰か乗っている訳でもなく、周囲に気を配ったが気配はしない。一応、空もちらっと確認したが、夜空が広がるだけだった。

 

今の俺の動きカッコよくね?という自己陶酔に浸りながらも、問題は無さそうなので、“★Rock Cannon”を小回りが利く刀に変換してゆっくりと近付く。

 

 

夜だから分かりにくいが、月明かりに照らされて色もある程度なら見分けられる。

 

まず、これはトライクだ。

二輪では無く、三輪のバイク。

色は黒が目立ち、所々に白の線が入った、全体的に刺々しい印象を受ける。

 

俺が欲しいと思っていたブラックトライクだ。

 

何故ここに?という疑問が湧いてくる。これは元々、ステラの専用装備という訳では無い。

 

結局は専用装備のようになってしまったが、元々はPSSの隊員が普通のトライクを改造しまくって常人では扱えなくなった代物だ。

 

周囲を見渡してみるがやはり人の影は無い。そもそもこのトライク、走行中は無音と言う訳では無いから、ここまで近付かれたら普通は音で気付く筈だ。

 

寝て起きたら、気付かぬ間にそこに欲しいものがあった。・・・そうか、サンタさんか。今が寒さ的に冬ならその可能性も無くは無い。

 

いや、ある訳無ぇだろ。なんだサンタさんって。こんな世紀末な世界線にいる訳ねぇだろ。居たとしても死神が精々だよ。

 

 

ボケるのもこの辺にして真面目に考えてみる。

 

音がしなかったから、誰かが乗ってきたと言う可能性は限り無く0に近い。なら、今考えられる中で一番可能性が高そうなのは・・・。

 

 

少し気になる事が出来たので、トライクに触れて戻れ、と念じてみる。すると、トライクは青い光を放ちながらその場から消えた。更にトライク、と念じてみると目の前で青い光を放ちながらトライクが現れた。

 

 

・・・まさか、ブラックトライクまで初期装備の中に入っているとはな。何を基準にしてこんな初期装備になったのか、もう分かんねぇよ。

 

 




武器の名前は基本的にゲームの方を優先します。
主人公はアニメは見たものの、ただ見ただけで調べてないのでアニメ版の武器の名前などはよく知りません。
なので、スキルの名前が武器の名前になる、なんて事があります。

憑依した身体の身体能力等はアニメ版の方が参考にしやすかったのでそちらを参考にしています。



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第2話:アラガミ

まず、初めに前回の話で主人公の服装がアニメ版しかないものなのに、作者がゲーム版にもあると勘違し、名前がステラになっていました。

修正すべきではあると思うんですが、元々ゲーム版の衣装は出すつもりでいたので当分はこの衣装のまま、名前もステラのままで進行していきたいと思います。

知識不足による、困惑を招いてしまって申し訳ありませんでした。


P.S.
テストがあるので、暫く投稿が出来なくなります。
12月以内にはもう一話投稿出来るように頑張ります。


軽く走って、ドリフトをしながら綺麗に停止。

 

 

早速、ブラックトライクを走らせてみたが、中々に快適だった。スピードは直ぐに出るし、道は基本的に平坦で障害物も無いから、初心者に持って来いだった。

 

相も変わらず寒いが、この程度なら我慢出来なくもないので、娯楽を優先させる。

 

 

段々調子付いて来て、超人パワーでウィリーとかしてみたが、前がかなり見え難いし、あまりカッコよくも無さそうだったので普通に走る事にした。

 

走行中にフロントカウルを取り外して剣にする事も出来たし、二丁の機銃も普通に撃てた。ただ、機銃を撃つと身体から何かが出ていく感覚がしたので、数発撃って止めた。

 

そう言えば、"★Rock Cannon"をまだ撃ってなかった事を思い出し、冒頭のようにドリフトをして停止した。トライクを降りて"★Rock Cannon"を呼び出す。左手の周辺が青く光り、"★Rock Cannon"が姿を現す。

 

地面とかに撃ったら確実に巻き添えを喰らうだろうから、丁度いい角度にあった月に向かって引き金を引く。

 

 

銃口に1、2秒の間、青い光が溜まり、そこから弾丸のように青い煙を纏った岩石が飛んで行き、夜空へと消えて行った。

 

撃った反動で思った以上に強い衝撃が身体を襲った。と同時に、機銃の時と同じように身体から何かが抜けていく感覚がした。

 

 

感覚的に制限がありそうなので、撃つのは極力控える事にしよう。

 

気になる事も解消出来たし、"★Rock Cannon"を仕舞ってから再びトライクに乗った・・・?トライク呼び出して無いよな?

 

もしかして、複数同時に呼び出す事が可能なのか?ゲームだとその描写はあんまり見なかったけど、無い訳では無かったし、アニメでは結構やってた気がする。

 

試しに無意識に収納しないように意識して、イクサ・ブレードを呼び出してみた。右手に刀が現れた。トライクも顕現したままだ。同じように"★Rock Cannon"を呼び出してみる。左手に機関砲が現れた。トライクも刀も普通に顕現したままだ。

 

 

ふむ、これは戦い方の幅が拡がるな。でも、まだ慣れてないから当分は片方ずつにするか。今度こそ両手の物を仕舞って、トライクのグリップを持つ。

 

 

さて、俺も今は女だが、元は男だ。なら、あれに挑戦したいと思うのも全く自然な事だ。

 

 

エンジンのスタートボタンを押し、トライクからエンジンの音が鳴り出した。グリップを強く握り直し、前を見据える。

 

 

逝くぜッ!限界のその先に!!

 

タリィィィ・ホォォォォォォウゥゥゥ!!!!

 

 

アクセルを踏んでトライクが夜空の荒地を走り出した。

 

 

 

 

正直、調子に乗りまくっていた。そうとしか言い様がない。事実、最初は順調だった。

 

 

────俺は今日、風になる!

 

 

ブラック★ロックシューターの身体能力は、人間では不可能な領域の速度でさえ、容易に操縦できた。時速360キロなんて何やかんやで出来て、更にその先にいけるだろうと思っていた。

 

 

────キタキタキタァ!時速200キロ!あと160!!

 

 

だが、悲劇は突如、訪れた。

 

 

────はっ!?この速度は・・・ギャラクシーマウンテン!!ヒャッハァァァ!!・・・・・・へ?

 

 

どうやら、荒地にトライクがバランスを崩してしまう程の段差があったらしい。運が悪い事に時速200キロに過ぎた所で、その段差を通り、車体が急に前屈みになり、アホは宙に投げ出された。

 

 

────グハッ!グッ・・・!あ、ちょ、ギャァァァァァ!!!

 

 

投げ出された身体は地面に打ちつけられ、数度バウンドしてからゴロゴロと高速で転がり出した。

 

 

────か、かたな、刀!よし!地面に突きsゴハッッ!さ、刺す位置ミスったぁ・・・。

 

 

イクサ・ブレードを地面に突き刺し、何とか止めようと試みたものの、刺した位置が進行方向だったので身体に直撃した。時速200キロで投げ出されたので、衝突と同時に刀は抜けて転がっていった。

 

だが、かなり減速したらしく、右手で地面を叩いて身体を跳ねらせる。足がブレーキになるように進行方向に背を向けて着地し、足を地面に擦らせて一気に減速させていく。

 

 

────おー、思ったより足が熱くない・・・ん?

 

 

正面を向くと見事なまでに横転したトライクがこちらに突っ込んで来ていた。

 

 

────え、は?うおっ!危nウッソだろおい・・・へぶっ!

 

 

飛んで回避しようとしたものの、自分は減速中でトライクが数段速かったのもあり、飛んだ後に足が引っ掛かって、遠心力で頭から盛大に地面に突っ込んだ。2度目となる犬神家。相変わらず軽傷なのは最早驚かない。寧ろ、刀との衝突の方が重傷な気がする。

 

 

────プハッ!うぅ、腹痛てぇ・・・絶対あばらが何本か逝ったよ。あばら折れた事無いから本当かどうかは分らんが。でも、ある程度の事なら思ったよりも何とかなりそうだな

 

 

起き上がって刀を回収し、煙を上げてるトライクを回収しに行く。

 

 

────うわぁ・・・あのトライク絶対嫌な予感がする

 

 

トライクを起こしてエンジンを入れてみたものの、案の定、動かなかった。

 

 

────はは・・・乗って1時間もせずに壊しちまったよ

 

 

取り敢えず、収納する事は出来たので、収納した。これからどうしようかと周囲を見渡すと、何やら見覚えのある景色だった。

 

 

至る所にクレーターのような穴が空いて、地面が割れている、そんな景色。

 

 

────どう見ても、狂喜乱舞した所です。本当にありがとうございましたぁ!!!

 

 

両手と両膝を突いて _| ̄|○ みたいな体勢に自然となった。

 

 

 

そんなこんなで、最初のスタート地点にて、精神的にマイナな上に再スタートをする事になった。

 

 

 

 

宛もなく彷徨うだけでは、また同じような事になってしまう。そう考えた結果、取り敢えず日の出の方に歩いて行く事にした。これなら、滅多な事が無い限り、折り返して戻るなんて事にはならないだろう。

 

 

そんなこんなで走ったり歩いたりしながら、道無き道を歩いていると、遠目に複数の影を見つけた。

 

今はあれから大体一日経った夜中だが、雲は出ているものの、層が薄いのか、月の光は移動に支障が出ない程度には世界を照らしている。どうやら視力も強化されているらしく、かなり離れていても、シルエット程度なら何とか見えた。

 

 

数は4くらい。全部、人と言うよりも犬とかの四足動物みたいな感じ。エイリアンとかではなさそう。俺が歩いている方とは逆の向き、つまり、俺の進行方向からこちらに進んで来てる。

 

ハイエナとかの群れ的な何かか?気温的にハイエナは無さそうか。にしても生き物、まだ居たんだな。人間は・・・期待しないでおこう。

 

 

暫くの間、自分以外の初生物を物珍しさから突っ立ったまま、進んで行くのを眺めていた。すると、丁度真横くらいまで来た時に先頭に居た一匹が立ち止まり、こちらを向いた。それに続くように後ろの三匹も立ち止まり、こちらを向いた。

 

暗闇でシルエットくらいしか分からないので、何とも言えないが、多分俺は今、あの四匹と見詰め合っているんだと思う。

 

 

数秒程、互いに動く事無く見詰め合っていると、あちらが吠えて、こちらに走って来た。

 

独特な鳴き声だった。犬とかでは出せなさそうな鳴き声。猛獣が威嚇する時のような、そんな鳴き声。どっかで聞いた事があるような、無いような?

 

 

もしかして、あれって結構ヤバい生物だったりするのかなぁ?でも、生き物見たの初めてだから、どんなのか見てみたいんだよなぁ。

 

 

そんな思いで、変わらずボーッと突っ立っていた。

 

大体あと二十メートルと言った所で、雲が風邪に流されて、顔を出した月が先程よりも鮮明に世界を照らした。

 

 

映し出された獣は、四足歩行ではなく、二足歩行。犬と言うよりもティラノサウルスを小さくしたような感じ。全体的に白のような青のようなそんな色が目立つ。

 

先頭の一匹だけ横顔が傷付いているようだが、それ以外は四匹全てが同じような容姿をし、何やらブチ切れているような雰囲気だった。

 

 

・・・・・・え?は?え、こいつらって、アレ・・・だよな?

 

 

現実では有り得ない生物を目の当たりにして驚いたと言うよりも、予想の斜め上を来た事に命の危険にも関わらず困惑した。

 

 

この珍獣達を俺は知っている。ブラック★ロックシューターと同じように昔、プレイしたゲームに登場した敵キャラクター『オウガテイル』

人類の天敵である、アラガミだ。ぶっちゃっけ、やってる事はブラック★ロックシューターのエイリアン達と大して変わらない。

 

 

そんなオウガテイルが居るという事は・・・

 

 

 

 

ここ、もしかして、『GOD EATER』の世界?




言い忘れていましたが、もし誤字・脱字などがあればできれば報告お願いします。確認出来次第、修正を行います。


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第3話:初戦闘

テストが終わったー!
・・・・・・二重の意味で(´-﹏-`;)


今回は戦闘回


先頭に居た顔に傷が出来たオウガテイルが口を大きく開き、命の危険を感じて我に返った。取り敢えず、バックステップで後方数メートル程まで飛んで距離を取った。飛んだ瞬間にオウガテイルが口を閉じ、歯が噛み合う音が響いた。

 

後方に居た三匹の内、二匹が尻尾からニードルを飛ばして来た。距離があまりなかったが毎秒20発は伊達ではなく、“★Rock Cannon”を呼び出し、二発放って迎撃する。着弾すると爆風が上がり、ニードルは全て撃ち落とした。

 

煙から残りの一匹が飛び出して来て、喰らい付いて来たが“★Rock Cannon”で横顔をぶん殴り、怯んだ隙にまた距離を取る。

 

 

喰らい付いて来たオウガテイルは追撃してくる事は無く、その場で立ち止まった。煙が晴れ、隠れていた三匹が姿を現し、四匹が体勢を立て直して、向かい合った状態で互いに足が止まった。

 

 

さて、どうしたもんか。アラガミで確定なら普通にやっても勝ち目無いだろうしなぁ。オラクル細胞なんて俺にもステラにも無いから、傷が付くかすら怪しい。となると、適当に戦って隙を見て逃げるか。

 

 

少しの間、睨み合っているとあちらの二匹が飛び出し、残りがニードルを放って来た。到達するのはニードルの方が早く、横に飛び退いて前転して躱し、起き上がると同時に“★Rock Cannon”を構えて照準を飛び出して来た二匹の方に合わせる。

 

引き金を引こうとした瞬間に片方が上に飛び跳ねて、背後の二匹からニードルの追加攻撃が来た。跳んだ方に気を取られて迎撃に間に合わず、後ろに跳んでニードルを回避する。

 

着地地点に、跳ねたオウガテイルが上からニードルを飛ばして来る。反応が遅れ、“★Rock Cannon”を盾にして防ぐ。

 

衝撃で身体が仰け反るも、無傷で“★Rock Cannon”も壊れる事無く防げた。一息する間も無く、飛び出して来た残りの一匹が口を開いて近接戦闘を仕掛けて来る。

 

 

仰け反った力を利用して、そのまま身体を仰け反らして空いた手を地面に着き、バク転の要領で顎を蹴り上げて顎に罅が入り、敵が怯む。そのまま片手でバク転をしながら距離を取り、再び互いに対峙した状態になった。

 

 

む?バク転が役に立った。何事も出来るようになっておくものだな。それ自体が役に立たなくても応用なりすれば役に立つと言う事か。

 

てか、このオウガテイル達強過ぎじゃね?オウガテイルって確かあれだろ?初期の雑魚敵な立場のキャラとかじゃなかったけ?何でこんな歴戦の猛者みたいに強いの?反撃する隙が殆ど無いんだけど。

 

まぁ、でもこちらの攻撃が普通に効く事は最後の蹴りで分かったから何とかなりそうだな。“★Rock Cannon”でぶん殴った所もよくよく見れば欠けている部分がある。となると、理由は分からんがこいつらアラガミを倒せると言う事。

 

そうと分かれば、こいつらの強さ的に隙を狙って逃げるなんて事は難しそうなので作戦を殲滅に変更。生かしててもいい事なんて無いからさっさと始末してしまおう。うん、それがいい。

 

 

あちらが動き出す前に、“★Rock Cannon”を素早く構えて引き金を引く。数発撃つも、左右に一匹ずつ、上に二匹避けられて、カウンター気味に反撃を貰う形になった。

 

四匹それぞれがニードルを前方三方向に一瞬タイミングをずらして、別々に放って来た。適当に“★Rock Cannon”を横薙ぎに払いながら引き金を数回引く。

 

当たればいいなぁ程度の気持ちでやったので、どれもニードルに当たる事はなかった。だが、すり抜けて行った弾丸が丁度、左右のオウガテイルの所に向かって行った。ニードルを放った直後だったので、回避が遅れて二匹とも回避行動を取ろうとしたものの、半身に直撃して爆風を上げながら吹っ飛んだ。

 

こちらへ迫って来たニードルは跳んだオウガテイル達より上へ、思いっきり跳躍して回避。そのまま、降下中の二匹の背中に順番に照準を合わせ、引き金を引いていく。

 

上はオウガテイルの身体の構造上、見難いらしく、そのまま直撃して二つの爆風が上がった。撃ち終わり、自分も降下している最中に最初に吹っ飛ばした二匹の方を見て状態を確認する。

 

どうやら、“★Rock Cannon”の威力がかなり強いらしく、身体の半分近くが吹き飛んで確実に致命傷となっていた。あの傷なら未だに爆炎の中に居る二匹は大丈夫だと判断し、着地して警戒はしながらも瀕死の二匹の方へ、武器を刀に変えて瞬歩(笑)でオウガテイルが消えない内に近付く。

 

刀にした理由は少し、試したい事があったから。ここがGOD EATERの世界と言うなら、弾丸を撃ち出す時のあの喪失感は恐らく、オラクルポイントを消費したからだと思う。なら、弾丸での攻撃ではなく、近接武器での攻撃なら回復する筈。

 

手負いの獣は恐ろしいとか何とか聞いた事があるので、反撃を受け無いように慎重に近付いて刀を振るう。刀はオウガテイルの装甲を難無く切り裂き、オウガテイルは絶命した。同時に身体の中に空になっていた分が溜まっていくような感じがした。

 

 

うん、感覚的に仮説は間違っていなさそうだ。残量はかなり有るが、満タンにしといて不都合は無いだろう。

 

 

その後は、消えるまで死体蹴りをして失った分のオラクルポイントを回復し、爆炎が晴れて跡形も無く消し飛んでいた事から、四匹のオウガテイルが絶命した事を確認した。

 

 

はぁ、安全を確保して漸く緊張が解けた。身体的疲労は相変わらず無いが、やはり精神の方がだいぶ疲弊した。

 

もう一度、周囲を見渡して誰も居ない事を確認すると“★Rock Cannon”を仕舞い、地面へ寝転がった。

 

 

それにしても、勝てたのはいいが疑問も残った。まず、何故オウガテイルがブチ切れていたのか。襲って来たのは、たまたま目に入ったから襲った、と言えば納得はいく。だが、あれはたまたまにしては殺気が溢れ出過ぎていたと思う。

 

多分、あの顔の傷が原因だとは思うが、あれ俺関係無くね?完全に八つ当たりって事?・・・はぁ、いい迷惑だよ、全く。

 

 

次、アラガミに攻撃が通じた理由。普通に考えれば俺の身体にオラクル細胞があったり、武器が神機に類するものだったりとかの理由だろうが、腕輪が何処にも見当たらないからその可能性は低そうだし、仮にそうだとしたら現状は非常に危険だ。

 

俺自身がアラガミに成りかねん。GOD EATERは定期的に偏食因子とやらを注入しなければ神機に捕食される。俺の場合は“★Rock Cannon”やイクサ・ブレードに捕食されると言う事か。

 

・・・これ、収納してる場合、どうなるんだろう?あれ?そもそも今は腕輪が無いから既に捕食が始まっていても可笑しくないのにそれが無い。て事は、俺はGOD EATERでは無いと言う事か。

 

なら、どういう存在なんだ?

・・・・・・ふむ、考えても分からんし、別に何でもいいか。現状、アラガミに成る事は無い&アラガミを倒せる、と言う事が分かればそれで十分だ。

 

 

あぁ、それと一撃で死んでたりしてるから、恐らくゲームのようなシステム的な体力じゃなくて、リアルな体力だろうから、俺自身が受ける攻撃にも気を付けるべきだな。

 

 

 

 

移動しようと思ったものの、月が上の方にあったので、しばらくその場に留まって、月が動くのを武器の点検をしながら待った。ある程度、月が動いたのを確認して、動いた方とは逆の方向へ歩いて行く。

 

太陽が昇って来てから、移動する位置が合っていた事を確認すると刀で地面に矢印を掘って、トライクを呼び出す。何の為に呼び出したかと言うと、座席で寝る為。そんな気持ちで出したんだが、トライクは出ていた筈の煙が無くなっていた。汚れや傷も無くなっていて、まるで新品のようだった。

 

試しに、エンジンを掛けてみると普通に動いた。軽く走らせてみても何も問題無かった。理由はよく分からんが、直っていた事にテンションが上がって爆走しようとしたものの流石に自重した。太陽が昇る方向にトライクの進行方向を向けてエンジンを止めて、座席で横になった。

 

 

あぁ、うん。寝心地は地面よりはマシだな。ベットとどちらが良いかと言われると、ベットだな。運動後で熱を持った身体が冷たい風に当たって気持ちよく寝れた。 




オウガテイルの傷は前話で月に向かって撃った弾丸が当たった結果。
距離的に威力が落ちていたので、顔に傷が出来た程度で済みました。
射程は明確には決めてないですけど、取り敢えず凄く長いとだけ。

因みに、主人公がこの事実に気付く事は無いです。


それから、この世界のアラガミはアニメ基準なので、ゲームのように戦闘中に目の前で威嚇行動を取るなどの意味不明な行動は取りません。


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第4話:廃都

何とか今年中に間に合った。
年内はこれで最後になります。


顔に冷たい何かが当たる感触がして、目が覚めた。空は青空では無く、分厚い雲が覆っていた。自然に起きたのではなく、起こされたので頭が上手く働かなかったから、目覚めた原因が分からなかった。空から冷たい液体がポツポツと降って来ているのを確認して、漸くあの冷たい何かが雨である事に気が付いた。

 

 

それに気付いてからは、即座にエンジンを起動し、トライクを走らせた。目的は雨宿りする所を探す為。だが数十分後、結局雨を凌げるような場所は見付からず、大雨になり冷たい雨が身体を打ち付けていく。

 

 

ヤバいなー。ちょーヤバい。もうこの際、建造物とか自然とかじゃなくていいから、兎に角、雨を凌げる場所を探さなければ。幾ら頑丈とは言え、体温に関しては別だろう。現に体温が徐々に下がっているのを感じる。

 

日本だとまだマシだったろうが、今いる所は推定氷点下並の寒さ。手がまだ(かじか)んでいなのは、不幸中の幸いかもしれんな。と言うか、さっきから目に入ってくる雨が非っ常に鬱陶しいんですけど。ゴーグルとか無いんかな?無い?あ、そう。

 

あ、目から蒼い炎を出したら、少しはマシになったりしないかな?・・・炎、どうやって出すんだ?

 

 

不思議に思い、運転に集中しながらも目に力を込めるイメージをしてみたりと、出来る事を試したが出る事は無かった。

 

 

うーん、戦闘中は・・・どうだっけ?正直な所、そんな事まで覚えてないから、あまり期待はできんか。

 

 

 

 

雨で先が見え難くなって、道間違えて無いかなぁ、と不安になりつつも走っていると、黒く大きな影が見えて来た。

 

 

お?景色に変化あり、と思って早る気持ちを抑え切れずにスピードを上げて、その影へ走った。

 

 

影の正体は倒壊したビルやマンション、家などがある廃都だった。

 

 

うぉぉぉしゃぁぁぁ!!!ktkr!!!

 

 

早速、トライクを止めて収納しようとしたが、車体を横向きにして止めようとしたので、思いっ切りスリップした。めっちゃ焦って身体が固まって冷や汗が出たものの、建物に激突する前に自分だけ飛び退いて直撃を回避。トライクはそのまま民家へ向かって行き、綺麗にボッシュートした。

 

倒壊して行く家を死んだ目になりながら眺める俺。

 

 

瓦礫の山を探したらトライクはちゃんとあった。かすり傷が付いていたがそれ以外に問題は無かった。トライクを収納して、取り敢えず近くの穴だらけの家に入った。数分後、その家が倒壊し、瓦礫の山を飛ばして何とか脱出。

 

 

ぶはっ!?ビックリしたー!何で階段に足を掛けただけで倒壊するんだよー!?

 

 

家が思った以上に脆く、収穫無し。

 

続いて、簡単には倒壊しなさそうなビルへと入った。中は確かに壊れる心配は無く、雨もある程度凌げたので探索が捗った。中層辺りまで終わり、上へ登ってみたが文字通りの廃墟だった。

 

他の所も探索しようと下へと降りていき、最後の階段を降りた所で目の前の床から何かが飛び出して来た。飛び出して来たのは人間の数倍大きく、全体的に金色のような色をして、背中に赤く大きなパイプのようなものが付いたアラガミ、『コンゴウ』だった。

 

 

完全に予想外で見上げたまま呆ける俺。コンゴウも予想外だったらしく、見下げたまま止まっていた。

 

 

見合った状態が少しの間続き、正気に戻ったのは互いに同時だった。取り敢えず、距離を取るべきだと判断して、体制が整っていなかったので後ろではなく横に跳んだ。だが、視界いっぱいに拳が現れ、顔をぶん殴られた。吹き飛ばされ、壁を容易く突き破って外に出た。

 

 

あぁ、やっべ。ただのパンチだけで頭がぐらっぐらする。おまけに痛過ぎて感覚が麻痺してやがる。

 

 

体勢を整えていると、ビルの中からコンゴウが風を纏って回転しながら突っ込んで来た。慌てて横に跳んで回避はできたものの着地に失敗して転げ回り、コンゴウは民家へ突っ込んで行った。

 

起き上がり、コンゴウの方を見ると民家からのっそりと出て来た。こちらの姿を認識すると体を起こして後ろ脚だけで立ち上がり、両手を上げて万歳のような動作をした。

 

ゲームで見たことがあるような動きだったので恐らく、空気を圧縮して空気砲のように撃ち出すか、今俺がいる地点に風を起こすかのどちらかだろう。どちらにせよ、撃った後が隙になるので“★Rock Cannon"を呼び出して神経を集中させ、その機を窺がった。

 

してきたのは撃ち出す方だったので大体前方四十五度くらいに瞬歩(笑)、ゴッドイーターの世界だからダッシュってことにするか。ダッシュして回避し、予想通り隙が生まれたコンゴウに“★Rock Cannon"の照準を合わせて引き金を引いた。

 

三発放ち、最初の一発が外れたものの、残りは全て直撃し爆炎が上がった。因みに最初の一発は奥にあった建物に当たり、建物が倒壊した。その衝撃で周囲の建造物まで幾つか崩れていき、その中に先程まで探索していたビルもあった。

 

つまり何が言いたいかと言うと、見事にこちらへ倒れて来たって言う事だ。

 

 

畜生ーーーー!!!こっちの世界に来てから碌な事が無ぇーーーーーーーー!!!!

 

 

回避が間に合いそうになかったので、兎に角“★Rock Cannon"をぶっ放したが、奮闘虚しくビルはそのまま倒れ、下敷きになった。

 

 

 

 

収まった時は周囲は真っ暗で瓦礫の中であることだけが辛うじて分かった。身体は埋まっているらしく、動けない事は無いがそこまで大きな行動は出来そうになかった。精々、腕が少し持ち上がるくらい。あと、殴られた傷は気付いたら完治してた。

 

幸い、“★Rock Cannon"は握ったままだったので、どうにもならないという訳では無い。暫くの間、解決策をじっとして考えた。

 

 

腕が自由になったとしても、体勢的に重さ的に持ち上げる事は無理そうだし、立ち上がる事も出来そうにない。

 

瓦礫を少しずつ退かすにしても終わるのが何時になるのか分からない。ビルが倒れて来た事を考えると少なくとも数時間は掛かる事を覚悟しなければならない。ビルと言えば、それの下敷きになってもピンピンしてる俺の身体は正直引くレベルの耐久力だな。コンゴウに殴られた時よりも何倍もマシだという事実になんか違和感を覚えるが、この際それは置いとこう。

 

さて、以上の事から俺が取った選択肢は“★Rock Cannon"をこの状態で撃って爆発の衝撃で瓦礫を吹き飛ばす、だ。

 

・・・いや、もっと他にあるかもしれないよ?それは俺も分かってる。分かってるけど、撃ったらどうなるのか、それが気になった瞬間にどうしてもやりたくて仕方なくなってしまった。

 

 

てな訳で、景気良くイッてみよー!

 

 

 

 

結論から言うと瓦礫からは脱出できた。変わりに身体がボロホロになった。所謂、自爆と言うやつだ。

 

まぁ、ここまではいいよ。覚悟してた事だし、傷は一瞬で治ったからな。

 

問題は脱出してからだ。周囲を見渡せば、『オウガテイル』に『ザイゴート』、『コンゴウ』に『シユウ』や『ヴァジュラ』まで勢揃いで居やがる。これが四面楚歌ってやつか。

 

・・・フフ、フフフ・・・・・・アッハハハハハ!!!

やってやろうじゃねぇか!!!纏めてかかって来やがれや神様共!!!

 

 

 

 

動かないっす。もう無理っす。指先一つとして動く気配無いっす。傷も治んないっす。

 

何なんだよアイツら。強過ぎでしょ。アイツら互いを喰い合う仲じゃなかったのかよ。日を跨いで何とか倒せたけどさ、即席の癖にコンビネーションが相変わらずスゲーよ。仕舞には全部倒した瞬間に帝王ことディアウス・ピターまで来やがったからな。

 

あの帝王様、本当に敵が弱った時に出てくるの好きだよな。なんやかんやで逃げ切ったけどさ、右の腰部分を突き刺されてさ、もうくたくただよ。

 

 

こんな世界で戦うゴッドイーターはどんな化け物達だよ。てか、生き残ってる人間が居る事が信じられなくなってきたレベルだぞ。居るよな?まだ絶滅してないよな?流石にこの世界で一人はキツイぞ。

 

はぁ、それにしても疲れた。本当に疲れた。あ、視界が霞んで来た。おお、瞼が自然に落ちていく。徹夜明けの授業にも似たような事あったな。このまま寝たらさぞかし気持ちいいんだろうが、雨の中で寝るのは流石に勘弁して欲しい。

 

うぐぐ、腕だけでもいいから動け〜・・・あ、ダメだ。力すら入らね。あぁ、視界が暗くなっていく。

 

 

 

 

・・・・・・コア寄越せやー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もぐもぐ・・・・・・ウマー!はっ!?俺は今まで何を?視界が半分蒼い?あれ?人?おお、人じゃん!もっと言うならゴッドイーターじゃん!なんかボロボロになってるけど・・・。

 

よかったぁ、まだ残ってた。ん?何か踏んでる?うおっ!?コンゴウ!?なんか身体が裂けてるし至る所に傷が出来ててこっちもボロボロになってる。

何があった?

 

 

んー、ま、いっか。

死んでるみたいだし結果オーライ。

 

ところでさ、何で君ら(ゴッドイーター)────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────俺に神機、向けてるん?




良いお年を~(^^)/




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第5話:幼女

お待たせしました。
今回は、ちょっと長め、
タイトルの時点で既にネタバレしてる気がする。
・・・今更か。



冷たい。他に宛が無かったから、飛び込んでみたが、やっぱりビキニとホットパンツ一丁で極寒の海は無謀過ぎたか。水を殆ど吸ってないのが救いだな。

 

てか、今更だが俺、ほんと凄い格好してるな。ビキニにホットパンツって・・・贅沢言えないけどさ、せめてビキニは何とかならんのか。考えれば考えるほど冷えた身体が熱くなってくるよ。

 

 

それにしても、いやぁ、大漁、大漁。案外、居るもんだな。途中でグボロ・グボロが泳いでたのは想定外だったけど、水中戦も割と楽しいな。これなら暫くは何とかなるだろ。

 

 

さて、コートは何処だっけ?・・・あぁ、そうだ。あの子に渡してたんだった。あまり一人にさせとく訳にもいかないし、早く帰ろ。

 

 

 

 

廃墟の中では割とマシな部類に入る一軒家に出来るだけ隠密行動をして到着。水は途中で乾いた。

 

中に入ると、部屋の隅に廃墟には場違い感が半端無いモッコリとした黒い物体があった。俺の上着+αである。

 

床が軋む音で気付いたのか、その上着の下にいる人物がビクッとすると、恐る恐るといった風に上着の隙間から顔を出してきた。

 

整った顔立ちに特徴的な白髪。それからハイライトが無い青眼の美幼女と言って差し支えない容姿。顔の特徴的に日本人では無い事は窺える。だからと言って、どこの国かは分からんが、アジア系では無いことは確か。

 

縋るような、助けを求めるような、そんな眼差しでこちらを見てくるので両手に魚を抱えたまま近付いくと、俺の足付近に抱き着いてきた。

 

 

おお、おお。怖かったな。

お姉さんが来たからもう大丈夫だぞー。

 

 

魚を落とさないように片手で持ち直して、張り付いてた幼女の頭を撫でてやるが、怯えは消えない。子供に甘えられる?頼られる?というのは悪い気はしないし、このまま愛でていたいが、まずはこの魚をどうにかしたい。

 

その気持ちが伝わったのか、幼女は一旦離れると、足の隙間に入り、俺の両足をがっちりと握り締めた。

 

 

・・・うん。君、何してんの?

 

 

現状の問題が何も解決してなかったので、首根っこを掴んで背中に貼り付けさせておいた。子供の暖かい体温を直に感じて、俺の体が冷たくないのかと疑問に思ったが、離れてないからいいって事にしよう。

 

俺も湯たんぽになるからWinWinってやつだ。手を足から離れさせるとき、暴れたというか錯乱したというか、とにかく大変だったが、知ったこっちゃねぇの精神で引き剥がした。

 

流石にこれ以上、この子が何も食べないというのは許容できない。

 

 

動けるようになって、切れ味抜群のブレードで作った簡易的な台所へ魚をドサリと置く。よし、捌こうと思ったが、捌き方なんてさっぱり分からん。何度かテレビや動画で見た事があるが、そんなもの事細かく覚えてるわけもないし、何より魚の種類が違う。

 

 

そんな訳で、最低限やる事を決めた。鱗を除ける、頭を切り離す、鰭を除ける、骨と内蔵を全て取り除く。

 

ふむ、まぁ数はあるから取り敢えず捌いてみよう。

 

 

 

 

あの時、ゴッドイーターに囲まれた時、背後から篭った子供の声が聞こえた。しかし、振り向いたが誰も居なかった。

 

 

え、なに?怖っ、とか思ったが声は止むことなく聞こえてくる。よく観察して見れば、古びたタンス?があり、その扉が少し開いていた。

 

半分青くなった視界で、暗い中は見難いかと思ったがいつも以上に鮮明に見えて、中に子供が居る事が確認出来た。 何故そこに?と思ったが、その思考はゴッドイーター達が何かを叫ぶ声に遮られた。

 

意味の無い言葉を発したからなのか、それとも言語が違うからなのか、とにかく何を言ってるのかがよく分からなかった。頭にクエッションマークを浮かばせていると、スナイパーの神機を持った一人が何かを投擲してきた。

 

強化された視力と動体視力をもってそれが何かを注視してみると、ピンのようなものが付いた筒状の何かだった。

 

 

咄嗟にグレネードだと判断し、逃げようとしたが子供の事を思い出した。巻き添えを出来るだけ避けるようにタンスの前へダッシュして、扉を閉める前に時間切れとなった。結果的に自分の無駄に頑丈な身体を盾にできたのは幸いだった。

 

 

だが、衝撃が来ることは無く、変わりに鼓膜が破れそうになる程の音と目を瞑ってても分かるくらい明るい光がやってきた。

 

 

グレネードではなく、スタングレネードだった。ゴッドイーターの世界線で考えれば、そっちの方が妥当なのに何故そう判断したのだろうか・・・。

 

 

収まって目を開いてみると、耳はキーンとしていたが平衡感覚はすぐに戻り、視界もある程度は良好だった。振り向くと、あちら側は投擲してきた残り一人を置いて目や耳を抑えて行動不能になっていた。

 

 

・・・・・・?

 

 

これにはマジで意味が分からなかったが、その疑問が解消される前に残ったスタングレネードを投擲してきた一人が錯乱したかのように銃を乱射してきた。アサルトでは無く、スナイパーだったので何故か強化された状態の俺には回避自体はそれほど難しくはなかった。

 

それに錯乱していたので命中率も悪かった。だからと言って悠長な事は言ってられない。今の内に背後に隠れてる子供を無理矢理引っ張り出して、抱えたまま建物の上を飛びながら退避した。

 

 

その後、今の住処を発見して、子供改め幼女は気絶してたみたいだから、朽ちた木材を粉々にしてその上にコートを被せて簡単な寝床に寝かせておいた。

 

その間に周囲を広い範囲で探索して、アラガミを軒並み排除した。そこそこ手傷を負ったが許容範囲内。拠点に戻ると幼女が部屋の隅で敷いてたコートを羽織り、両手で自身を包むようにして手を交差させてコートの端を握ってガタガタと震えていた。

 

慌てて近寄り、抱きしめてやったが一向に収まる事は無く、仕舞には俺に抱き着いて泣きじゃくった。何か同じ言葉を繰り返していたがやはり意味は全く分からん。

 

暫くあたふたして持て余していると幼女のお腹も同時に鳴り出した。本人は気付いていないようで、そのまま何かに怯えるように泣き続けた。幼女の悲痛な泣き声と喧しい腹の音を聞いて、俺の顔は一体どうなっていたのだろうかと現実逃避をしていた。

 

 

 

 

まぁ、そんでまたこの子が寝だしたからその内に食料調達をして、なかなか見つからないから行って戻ってを繰り返して、最終的に海に潜って魚を捕ってきた。体温に関しては上限はいまいち分らんがある程度下がるとそれより下に下がることは無く、神経が痺れるなどの行動に支障が出るような症状もない事が分かった。

 

隠密行動を取ったのは、アラガミに見つからないのも然る事ながらゴッドイーターにも警戒した結果だ。何でかって?途中で出会ったから事情を説明しようと近付いたら、何かを話し掛けてきたから聞き返そうとした。

そしたら、攻撃してきた。意味が分からんが、そんな訳で余り敵対したくないから逃げてる。

 

幼女を渡せればいいんだけど、これじゃ渡す時に巻き添えを喰らいかねない。

 

 

閑話休題

 

 

魚は結果的に食べられん事も無かった。ただ生臭いし、無駄も多かった。一番美味しそうな所やあんまり不味くない箇所を幼女に食べさせてみれば、黙々と食べた。俺の背中で。

 

気に入ったのかな?足の隙間よりはマシだからいいけど、作った椅子が無駄になりそうな気がする。まぁ、食べられるみたいで良かった。

 

数匹分食べるとお腹が一杯になったみたいで、ウトウトしだした。ほんと良く寝るな。健康的でいいと思うぞ。

 

さて、思った以上に残った魚を片付けるか。・・・あんまり口に合わねぇから、気が進まねぇんだよな。冷蔵庫の無いこの状況下では、あんまり保たないだろうし・・・・・・はぁ。

 

 

 

 

魚をある程度片付けてから、幼女の苦しむような声が聞こえたので様子を見てみると案の定、魘されていた。取り敢えず、右手で手を握ってやると腕に思いっきり抱き着かれた。

 

地味に関節極められてねぇか?・・・痛くは無いし、暫く動けなくても問題ないから別にいいか。

 

 

さて、漸く一段落付いたのでちょっと暇潰しをば。私のホットパンツの左ポケットから取り出しましたるは、途中で倒したオウガテイルのコア。

 

それを一口で口に含んで咀嚼して飲み込みます。

すると、あら不思議。左半分の視界が蒼くなるではありませんか!

 

 

はい、そんな訳でできちゃいました。ステラの戦闘モード時?みたいに左目が蒼い焔に包まれるあれ。・・・いやぁ、推測な部分が大半を占めてたから成功してマジで良かった。失敗してたら侵食されたかもしれんからな。

 

 

勿論と言うか、発動にはコアを丸々一つ分喰らわないと発動しなかったし時間制限有り。大体三分くらいかな?焔は熱くはない。

 

何が変わるのかはよく分かってないけど、ゴッドイーターに囲まれた時に身体が軽かったから、身体能力が高くなるのは確かだと思う。ゴッドイーター風に言うとバーストモードかな?

 

後これ、完全に余談になるかもだけど、コアって凄い美味いんだな。どう美味いのかは説明しにくいけど、少なくとも前の世界ではこれに勝るものは食べた事がないくらい。食感は林檎と桃が合わさったような感じ。個人的にポテチのような依存性があると思う。

 

 

試そうと思ったのは、気を失って正気に戻った時、何かを飲み込んでから視界が半分蒼くなったから。ここまでヒントがあれば猿でも分かるってもんだ。

 

 

んで、もう一つ割と重大な事だと思うんだが・・・俺ってもしかして、アラガミなのか?シオみたいな人型の。そうと仮定してみると、ビルの下敷きになっても無傷だったり、アラガミを倒せる自分の武器で傷を負ったりと不可思議な怪我の仕方に納得が行く。あと、コアを食べられるのも説明がつく。

 

なんで気を失ったかは・・・捕食行動をしてなかったから自動的に気を失ったとかだと思う。・・・かなりこじつけだけど。その後、なんであの場面で目を覚ましたかはよく分からんが、多分アラガミ的な本能かなんかで動いたとかだろ。

 

それに、ゲームの方でも一応、食事を摂らないと活動停止するとかなんとかあったから、食事はきちんと摂るべきだな。

 

 

・・・・・・そっか。アラガミか。だから、ゴッドイーターに敵対されたのか?その線が濃い気がするな。

 

あ、でもシオはレーダーに映らなかったはず。なら、シオよりも人間っぽい俺がアラガミと判断するのは難しいんじゃないか?・・・腕輪無いじゃん。

 

 

ビルとビルの間を飛んだり、アラガミを倒したりしてる所を見られてたら、ゴッドイーターだと思われるだろ?

その人物が制御する為の腕輪が無いとしたら?アラガミ化する恐れがあると思われて殺すだろう。

 

まぁ、元からアラガミだろうから、アラガミ化もクソもないんだけどね。だからなんだって話だけど・・・。

 

 

あ、榊博士に匿って貰えば・・・何処にいるか分かんねぇや。月にシオがいるかは、今まで見てた月を思い出す限り、居ないと判断できるからゲーム開始時よりも前か、アニメの世界線か、だな。

 

・・・どっちでも不都合は特に無いな。

 

 

そう言えば、極東って日本の事でいいんだよな?移動要塞のフライアが普通に走って行ける所だから、大陸続きの可能性もあるんだよな。 それとも、道が完成していたのか?いや、この世界に限ってそれはないな。あ、元からフライアが日本列島を走ってるって可能性もあるか。

 

まぁ、ゴッドイーターという宛が外れたから、暫くはこの辺の廃都をウロウロするつもりだから特に関係は無いか。

 

お?焔が消えた。消えた直後に身体が少し重く感じるけど、これは強化された状態と差があるからそう錯覚するだけだろう。

 

 

さて、本当に必要かどうかは分からんが、食事が必要だったから寝る必要もあるかもしれん。寝れる時に寝ておかないとな。

 

 

 

 

幼女と住むようになって大体二、三週間くらい経過した。まぁ、その間にいろいろあったし、試した。

 

取り敢えず、蒼い焔に関しての情報から。やはり、コアを半分に分けたりして、二口で食べても身体的強化はされなかった。半分だろうと何分割だろうと、丸々一個分を一度に食べれば強化はされる。効果時間は、脳内時計だけどやはり三分ってところ。

 

効果中に更にコアを食べた場合、時間が三分にリセットされるだけ。つまり、強化の上乗せとかはなく、単純に効果時間が三分に戻るだけ。この辺はバーストモードと同じと考えて大丈夫。身体能力は、何もしてない状態から七割プラスで強化した感じ。

 

あとは、弾丸を撃つ為のOPの消費量も減るし、消費した分はそこそこのスピードで回復していく。威力も身体能力程に激的な強化は無いけど、それなりに上がってると思う。

 

・・・これ、もうバーストモードとほぼ同じと思っても問題無いな。発動条件も似てるし、効果内容も似てる。違う所といえば、明確なのは効果時間が長いって所か?あ、二段ジャンプもできねぇわ。うん、そうだそうだ。二段ジャンプできなかったんだった。

 

あれは・・・無理だ。そもそも何で神機を解放した程度で空中を足場みたいにして更に跳べるのかが納得出来ない。この世界ではどうか知らないけどさ。あと、食べた時にOPと傷が全回復する。仙豆が頭を過った俺は悪くないと思う。

 

 

次にあの幼女なんだけど、あの子ね。外に出たがらないんだよね。それに、俺が外に出ようとしたら凄ェ必死に阻止するんよ。そう言えば、あの子の親はもう居ないって事でいいのか?

 

居ないなら居ないでいいんだけど、もし居るならきちんと返してあげたいな。今の症状を見るに、流石にそれは高望みし過ぎか・・・。多分、アラガミにトラウマ的なのを感じて、部屋から出たくないんだろうけど、そうすると食料が魚しかない現状では、幼女の身体的には割と深刻。

 

水はそれなりに綺麗な湖を見つけたからなんとかなった。氷が張ってたから表面を殴ると一気に罅が広がっていく光景は中々爽快なものだった。実を言うと、その時に立っていた場所が湖の上だったからそのまま落ちてまたずぶ濡れになったりした。勿論、水を吸わない衣服のおかげで移動してたら乾いた。

 

っと、話が逸れた。そんで・・・あぁ、そうそう。外出を必死に阻止する幼女の話だ。・・・・・・字面だけ見ると、その・・・色々と凄いな。

 

ま、まぁ、気を取り直して話を戻すけど、それを無視してまで外に出るのは多分、この子が一人になるからそれがかなりのストレスになると思った。だから、外出するのは基本的にこの子が寝静まってから、慎重にしてる。

 

 

昨日、ちょうど部屋から出た瞬間に幼女が目が覚めた事があって、その時は本当に本っ当に落ち着かせるのに苦労した。多分、俺がどっかに行くのが不安だったんだろう。ただでさえハイライトの無い瞳が更に曇っていったからな。おかげでその日の夜はがっちりとホールドされて寝る事になった。・・・アラガミだけに、ホールドトラップ。

 

そんな幼女の拘束をなんとか解こうと動いた瞬間に、幼女が目が覚めてこちらをじーっと見つめてくる。想像してみろよ。月明かりが少ない真夜中に目と鼻の先に光を失った瞳が瞬きすらせずにこちらを一切目線を逸らさずに覗いてんだぞ?

 

そこらのアラガミに感じた事の無い恐怖が俺を襲ったよ。因みに、そのまま何事もなく目を閉じて寝たフリをすると幼女も俺を抱き直して眠りに就いた。俺もその後は大人しく眠りに就いた。

 

 

あ、アラガミはちょくちょく狩ってるよ。ここら辺は初期の敵キャラばかりだから最近は無傷で終わる日もある。徒党を組んでくるのは未だに納得出来ないが、慣れればどうという事も無い。それに、倒した後のおやつ感覚で食べるコアが最高。ちょっと狩る目的が変わってきた今日この頃。

 

 

最近、この世界に完全に馴染んだというか慣れた感じがしてきた。




一体、何乳・アミエーラさんなんだ(すっとぼけ)

はい、そんな訳で時系列が判明。
貴重なぺったんこ時代。
因みに主人公はこの事に全く気付いてないです。
アニメと実写を見て、同年代ならまだしも、子ども時代で同一人物だと判断するのは難しくね?って事でそんな設定にした。
ディアウス・ピターが居るじゃんって?
そもそもロシアだとすら気付いていない。
考えればすぐわかる筈なのに、何故かそちらへ思考が働かない。

食料に関しては、気にしないでくれると有難いです。
仮にゴッドイーターから奪った場合、殺さないとしてもすぐに警戒されたり、討伐隊が組まれたり、そもそも危険区域なのでそんなにゴッドイーター来るか?などの理由から止めました。

極東に関しては、調べてみると普通に日本の事だとあったので、設定をそのまま使います。

数話後あたりで他者視点を入れられたらなぁ、と考え中。
アンダーワールドを読んでないのでこれから、独自解釈やらキング・クリムゾンが多発する恐れありです。
タグ追加するべきでしょうか?



それから、この回は割と重要かもしれなくもないので、何回か書き直すかもしれません。
その時は活動報告にてお知らせします。


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第6話:新発見+報告書

今月2本目。
少しずつだけど、執筆速度が上がってる気がする今日この頃。でも、その分いろいろと目移りするので結局は大して変わっていない模様。

そんな訳で本編をどうぞ!
因みに、殆ど進んでいない気がしたので最後にちょっとヨハネス視点をば。幼女視点を期待してた人はすみません。もう数話後に出すのは確定しているので、それまでお待ちを。



幼女にホールドされた日の朝。子供特有の体温の高さは中々のもので、この極寒の地の朝で初めて、前の世界の冬の布団の中のような恋しさがあった。

 

布団のように包まれてる訳ではなく、どちらかと言うと俺が包んでる側なので布団と言うよりも抱き枕とかの方が近いか?

 

懐かしい感覚に浸りながらも目を開けてみると案の定、ホールドされたままだった。身動ぎしてみると、幼女も目を覚ましたがホールドを解く気はないようだ。試しに朝になったことを外を指差して知らせてみたが承知の上らしい。

 

 

これは・・・思った以上にトラウマが酷いのかもしれないな。とは言っても、トラウマの対処法なんて知らないし、医者に見せるにも医者が見つからない&金が無い&言葉が通じないのフルコンボでその案は論外。

 

だからと言って、幼女の為にもずっとこのままって訳にもいかないしなぁ。主に食料的な意味で。

 

 

幸いにも力は大人と子供以上の差があるから、それなりの力を込めれば、このホールドを解く事ができる。だけどその場合、絶対に抵抗するだろうから、怪我をさせかねないんだよな。力加減も難しいし。

 

前回は手だけだったから何とかなったけど、今回は脚まで絡めてきてるから、難易度は上がってる。クッ・・・この身体の小ささがこんな所で仇となるなんて思わなかった。

 

元の世界の日本の成人男性のサイズなら、俺の脚まで届かないか、届いたとしても移動にはそれほど支障は出ない程度だったんだろうな。今ではがっつり脚を絡められて思うように脚を動かせない。

 

待って、考えてみればおかしいぞ。なんで力が大人と子供以上の差あるのに、ちょっと力を込めただけじゃ動かせないんだ?この子、見た目だけだとかなりサバを読んでも十歳前後がいいところだぞ?あれか?ソーマみたいな偏食因子を投与された子供とかってオチか?

 

なら、安心して引き剥せるな、なんて割り切れたらどんだけ楽だろうか・・・。

 

アラガミに成ったからなのか、他者がアラガミか人かを判別出来るようになってるんだよな。いや、うん。まだゴッドイーターばかりで純粋な人間に会ったことないから人かを判別出来るとは断言出来ないし、ソーマみたいな人間はどう感じるかは分からんが、少なくともこの幼女は確実に体内にオラクル細胞は無い。

 

だから、恐らく幼女のこの力は火事場の馬鹿力的なものだろう。こんなに継続して火事場が働いてたら、身体が耐えられる筈ないから、無意識的に上手く制御してるのか、子供特有の柔らかさ故に何とかなってるとかだろ。

 

てか、火事場の馬鹿力が出る程ってどんだけ必死やねん。

 

 

 

 

暫く、どうしたら退いてくれるだろうかと試行錯誤してみたが無理だった。なので、退かす言うよりもホールドを抱き着くに変更させる、という計画に変更。つまり、俺が動き易い位置に幼女を移動させるってこと。あ、結局、掴んでる手やら巻き付いてる脚をどうにかしないといけないから、やってること大して変わんねぇや。

 

 

あー、マジでどうしよう。

 

・・・・・・よし、考えるの面倒臭い。

 

引き剥がそう!

 

 

取り敢えず、幼女を片手で掴んで軽く引っ張ってみた。案の定、全く離れない。

 

慎重に力を込めていく。一気にやると、力があると言っても幼女の身体は幼女なので、下手をすると骨が折れたり、筋肉が壊れたりする危険すらあるので、五感に神経を研ぎ澄ましてゆっっっっくりと力を込めていった。

 

 

ちょ、止めて。そんな光を失い切った目で俺を見詰めないで。怖いから。本当に怖いから。せめて瞬きくらいはしよう?

 

 

そうしてどれくらい経っただろうか。徐々に幼女の身体は離れていき、遂には力尽きたのかいきなりパッと離した。

 

 

あ・・・。

 

 

まぁ、そんな事をされるとベクトルが一気に引っ張っていた方向に向く訳で。おまけに片手しか使ってないときた。結果、手から幼女が離れて外に放り出された。

 

 

幼女ぉぉぉぉ!!!

 

 

即座に立ち上がって、飛んで行った出口の方向へ跳躍し、ギリギリの所でスライディングでキャッチをして事なきを得た。

 

 

あ、あっぶねー。なんで俺は片手で引き剥がそうとしたんだ?マジで焦った。地面からコンゴウが生えてきた時くらい焦った。

 

 

一旦、自分の中の焦りを落ち着かせてから怪我が無いか確認する為に、腕の中に収まっている幼女へ目を向けると俺の身体にコアラよろしくガッチリと四肢をフル活用して引っ付いていた。

 

 

自分の脚は自由になっていたので、試しに抱えていた手を離して立ち上がってみると、手足がプルプル震えているものの幼女は引っ付いた体勢のまま、俺の下手をすればこの幼女よりも小さいのではなかろうかと思われる程の虚胸に顔を埋めていた。

 

 

!?おい!今、若干胸がフニってなったぞ!フニって!マジか!胸有ったのか!?今までで一番の驚きだぞ!?虚胸ではなかっ━━━━━あ、よく見れば凹んでるの幼女の頬っぺだ。この身体の胸は凹む側ではなく凹ませる側か。

 

・・・・・・えぇ(困惑)。胸が幼女の頬っぺに負けたのか・・・。いや、別に胸が無い事にショックを受けた訳じゃないよ?格好が痴女だけど、これでも元は男だからな。たださ、この身体が何歳かは分からんが、俺自身は17歳だったんだぜ?だから、元々は自分の身体では無かったとは言え、今の身体が子供に負けたという事実が・・・結構、心にきた。

 

 

閑話休題

 

 

さて、驚愕の真実が発覚して精神に多大なダメージを受けたものの、手で支え直して部屋に戻った。理由はコートを取ってくる為。寝る時は大体、幼女の為に床に敷いたり、上から被せたりしてるから部屋に置きっぱなしになっていた。

 

回収して、腕を通してから気付いた。これ、前を締めたらカンガルーの気持ちも分かるんじゃね?って。まぁ、だからなんだって話だけどな。しかし、パッと思い付いただけのしょうもない事だったが、冷静に考えてみると割といい案だったりした。

 

このコート、今までいろんな事があったけど、実はアラガミor俺の武器以外で破れた事が無い。アラガミの攻撃にもある程度なら破れないし、破れたとしても気付いたら傷と共に直ってたりする。つまり、今の状態で幼女を守る盾には割と絶好であると言う事。それに、途中で落ちてしまう可能性も減る。

 

物は試しで早速締めてみる事にした。何気に前を締めるのは初である。

 

 

あ、そう言えばこれファスナーを上げるタイプじゃなくて下げるタイプか。完全に締まる事になるけど、幼女は呼吸的な面で大丈夫かな?

 

 

懸念はあるものの締める事は難なく出来た。サイズ的には難しいと思ったが、コート自体が伸縮性がそこそこあるらしく、激しく動く事を考えると寧ろちょうどいい感じの締め付けとなった。

 

襟元を軽く引っ張って隙間から確認してみると幼女も今の所、苦しんでる様子は無かったので一安心。

 

 

 

 

さて、所変わっていつも魚を取りに来ている海へやって参りました。いつもは走ったり跳んだりして来てたけど、今回は幼女も付いて来ているので揺れが走るより少ないトライクを飛ばして来た。

 

来る途中にアラガミとちょくちょく遭遇して、無視して突っ走ってると、ふと後ろから殺気を感じたので横に避けてみると元いた場所が爆発した。慌てて振り向いてみるとアラガミ達が追って来ていた。

 

スピードはこちらが圧倒的に上だったので撒いて逃げるのもよかったが、機銃の威力を試したくなったので、片方を取り外して後ろにぶっ放してみた。結果は数発当たると絶命したので一瞬で全滅した。

 

ただ、OPの消費量も多くて、トライクに溜まっていたOPが全滅させると同時にすっからかんになった。後から実験をして分かった事だが、実はこの機銃の手元辺りにOP残量のメーターがあり、ブレードとしてアラガミを斬ると回復していく。

 

この補充に俺の中にあるOPは、エンジンの供給に使うからなのか、使用する事が出来ない。故に回復方法はアラガミを斬るしかない。トライクの頑丈さを利用して、コクーンメイデンを轢いたりしてみたが回復しなかった。

因みにコクーンメイデンは即死だった。

 

 

それはさておき、考えてみたら大体1ヶ月ぶりにトライクを使用した気がする。正直な所、使う必要性があんまり無く存在自体を忘れてた節があって、メンテナンス自体一度もした事が無かったが、故障などしておらず車体もピカピカだった。このよく分からない維持機能は思いの外、有能かもしれないと思い始めた極寒の早朝。

 

そんな訳で、数回しか乗らないまま1ヶ月のブランクがあるものの、初めからそこそこ乗りこなしてた俺に死角など無く、高が子供一人加わった程度でなんて事はない。寧ろ、重くなったお陰で少し運転し易くなったし、走る時に前を閉めてたのでいつもより寒くないし、中は中で幼女が天然カイロみたいになっていて良い事づくめだった。

 

 

はい、そこ。前を締める事の有用性に今更気付いたのかよとか言わない。ちょっとナイーブになってる俺の心はもう瀕死状態だ。それ以上言うと泣くぞ?いいのか?いい歳こいた男がみっともなく泣き喚く姿は見苦しい事この上ないぞ?罪悪感やら何やらで居た堪れなくなっても知らんからな?あ、俺今ロリ体型か。

・・・・・・いや、別にロリなら有りか、とか思ってないから。うん。思ってない思ってない。

 

 

閑話休題

 

 

海の近くは、拠点よりも風が強く、数段寒いのでさっさと終わらせて戻ろう。

 

そう思い、トライクを仕舞っていざ、極寒の海へダイブしようとして気が付いた。まだ、服の中に幼女が居た事に。つまり、結局は幼女を引き剥がさなければならないと言う事だ。

 

取り敢えず、ファスナーを開けてみると、全体的にホカホカしてスヤスヤと眠っている幼女が出て来た。頬が火照って、何処と無く恍惚とした表情に見えるのは気の所為か?

 

どうやら思っていた以上に服の中の気温が高まっていたらしく、走行時間が一時間以上もあったから寝ちゃったんだろう。

手で抱えているから大丈夫なものの、恐らく手を離すとこの幼女も落ちるくらいには手が緩んでいる。これならあっさりと手や足を離す事が出来るので、何処かに寝かせようと思い、周囲を見渡して廃墟が幾つかあったものの、中には家具の残骸だったり、腐ったり錆びたりした何かばかりだった。

 

なので、廃墟内でトライクをまた呼び出して、シートの上にコートを敷いて起こさないようにゆっくりとシートに寝かせて手足を離す事が出来た。ついでにコートの前を締めて寒くないようにしようとした時、幼女がモゾモゾと動き出した時は焦った。

 

だが、心配は杞憂に終わり、俺のコートをギュッと抱き締めただけで、そのまま眠りに着いた。

 

 

今ので座席から落ちる可能性に気付いたが、周囲は基本的にコンクリートだったりして硬いものばかりだから、寝るのには適してないんだよな。

 

まぁ、この幼女、寝相はすこぶる良いから落ちないのを祈ろう。落ちたとしてもそこまで酷い傷は追わないだろうし、大丈夫だろ。

 

 

 

さて、先に周囲に集まって来ているアラガミをさっさと倒して、魚を捕って帰ろう。

 

 

 

 

極東支部支部長のヨハネス・フォン・シックザールはロシアから届いたとある報告書を見ていた。

 

 

それらの内の一枚は連合軍の作戦失敗後、残存するアラガミの討伐を行っていた雨宮リンドウからだった。彼はアラガミの討伐中、行方不明の娘を捜しに危険区域へ向かった夫婦のことを聞き、彼の後を追うも間に合わずに夫婦はアラガミに喰われて死亡。

 

その後、リンドウは彼らを喰い殺したアラガミ、ディアウス・ピターと呼ばれるヴァジュラ神属の接触禁忌種に分類されるアラガミに果敢に挑むも、歯が立たず、止めを刺される寸前でピターの動きが停止。ピターは明後日の方向へ何かを追うように走り去って行った。

 

何とか一命を取り留めたリンドウは、捜索を続けられるような怪我ではなかった為にそのまま撤退。事後処理は救護班に任せた。

 

 

そして、もう一枚がロシア支部に居る、リンドウに後を任された救護班のリーダーだった人物からの報告書。こちらは本来、極東支部には届かないが内容が内容なだけにヨハネスの所まで送られてきたのである。

内容としてはこんな感じだ。

 

事後処理を任された救護班はリンドウが動けはするものの、戦闘は出来ないような状態で子供の存命も絶望的だった為、護衛を申し出た。実力的に危険区域で護衛するのに四人居なければ難しいと判断し、一時的に全員で撤退。

 

リンドウを安全な区域まで送るとそのまま事後処理をしに現場へ向かう。行方不明の子供はまだ見付かっていなかったので戦闘があった場所であり、夫婦が殺された場所周辺を念の為に再捜索。

 

周囲を警戒しながら捜索していると乱入者が発生。乱入者は自身の身体と同じくらいのコートを着て、その下には水着のような下着とホットパンツのみという特徴的過ぎる格好をした少女だった。

 

情報とは違うものの、行方不明の子供または迷い込んだ子供である可能性があると判断し、声を掛けようとすると少女は何処から取り出したのかは不明だが、黒く巨大な筒状のブラストのようなものを手にしていた。

 

こちらが状況に付いていけないでいると、少女がこちらへ銃口を向け、そこから蒼色のオーラのようなものを纏った岩石が射出された。それに私は反応が出来ずに防ぐだけが精一杯であり、盾に直撃して壁に叩き付けられた。

 

その後、身体は動かなかったものの視界はなんとか確保でき、ダメージ故か声が出せずにただ傍観するしかなかった。

 

 

少女が次のゴッドイーターへ照準を向けようとした時、ボロボロになったコンゴウが少女の上から降って来て、そのまま押し潰した。

 

攻撃して来たものの少女が凄惨な事になったのは想像に難くなく、目を閉じてしまった。だが、次に目を開けた時に凄惨な事になっていたのはコンゴウの方であり、身体中を更に斬り刻まれその場に倒れ伏した。

 

潰された筈の少女は倒れたコンゴウの上に立っており、黒い筒のようなものは何処かへ無くなり、変わりに氷刀のような刀を手にしていた。

 

少女は絶命したコンゴウに追い討ちを掛けるように手にした刀を突き刺し、コンゴウの身体を裂いていった。そのあまりにも現実的では無い光景に私達は呆然として、目を逸らせずにいた。そして、少女は裂く手を止めると手を中へ突っ込み、コンゴウのコアらしきものを取り出した。

 

すると、少女は何を考えたのか、そのコアを一口で飲み込んだ。息をするのも忘れ、驚きと少女の皮を被った何か不気味な存在に誰も動けないでいると変化が訪れた。

 

少女の左眼に蒼く揺らめく焔が出現した。それについに限界が来たであろう後ろに居た隊員の一人がスタングレネードを投擲。位置的に私は防ぐことが出来たが、他二名は前衛の為、グレネードによる被害を受けた。幸いな事に標的にも効果があったらしく、標的の背後にあった壁に手を突いていて、隙を与える事が出来た。

 

しかし、グレネードを投げた隊員は錯乱していたが故に残りの仲間がダメージを受けた理由が標的に一瞬でやられたからだと判断し、絶望的な状況と認識して発狂。自身のスナイパー型の神機を標的に向けて乱射しだした。

 

だが、そんな状態でまともに命中する筈が無く、標的はゴッドイーター以上の跳躍でその場を後にした。その時に標的が何かを抱えていた事を確認出来た。 人か、それに似た何かである事は間違いなく、後に捜索を引き継いだ班から死体どころか血の一滴すら確認出来なかった事から、もしかすると抱えていたモノは行方不明であった少女である可能性がある。

 

 

何回か見返したヨハネスは一息吐くと背もたれに背を預け、思考に耽った。 報告書にはまだ続きがあり、それは件の攻撃して来た少女の腕に腕輪は無く、アラガミ化の最中である可能性があると言うものだった。

 

 

だが、ヨハネスが考えていた事はそこでは無く、個人的に調べてみた所、その少女がどの支部にもゴッドイーターとして登録されておらず、刀に銃の二形態を持った神機は未だに製作段階であり、実戦投入どころか物が完成してすらいないという事。

 

勿論、この報告書が届いた瞬間に緘口令を敷き、情報統制を行い、この少女を見付け次第、ただちに討伐し、その神機のコアを持ち帰るように指令を出した。

 

 

その為、この事実はリンドウにすら知らされてはおらず、ボロボロになって戻って来た救護班を見て、救えなかったと己の未熟さをこの先数年は悔やみ続ける事になるだろうが、それはまた別のお話。

 

 

「眉唾物とは思っていたが、まさかこんなに早く訪れるとは・・・ふふっ」

 

 

自分以外誰も居ない支部長室でヨハネスは独り言ちた。

 

 

「彼女はゴッドイーターではなく、十中八九アラガミだろう。捜索対象だった子を攫った事はよく分からないが、大方、餌にでもするつもりか、己の姿形と似た者に興味が出たのだろう」

 

 

ゴッドイーターを狙わなかったのは恐らく、戦闘能力があった為だと思われる。

 

 

「だが、コアが特異点であるという保証が何処にも無い以上、手放しに期待するものでも無いか」

 

 

それを最後にヨハネスは残りの仕事を片付けに入った。

 




親には犠牲になってもらいました。
最初は救済しようかなぁ、とか思いましたけどその後をいろいろ考えてあんまり面白そうじゃなかったので原作通りにしました。

仮にやるとしたら感動の再開って感じの話になると思います。
まぁ、やりませんけどね。


ヨハネス視点でのこういった報告書ってどんな感じかよく分からないので、どんな内容かを当事者視点と報告的な言い回しで書いてみました。
分かり難かったりしたら、すみません。

ヨハネス視点と言うよりも、気を失った時にどんな事があったのか、という説明になった気がするけど気にしない気にしない。
それと、ヨハネスが居る所は一応、極東にしてるんですけど、いつ頃にロシアに行くか分からないので、その辺は適当に決めると思います。

まぁ、大して重要でもないのでお気になさらず。


それと、救護班は完全にオリキャラです。
もしかしたら、原作のロシア人の殆どは存在自体が消える可能性があるので、ロシア支部を楽しみにしていた人はすみません。




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第7話:ぅゎょぅι゛ょっょぃ

まさか、今月になって3話いけるとは思わなかった。
ちょっと事情があって、急ぎ足気味での投稿なので後から修正が入るかもです。
誤字脱字などの修正でなければ、その時は活動報告にてお知らせします。


あ、それとUAが1万超えてました!
このUAって、You○ubeの再生回数的なものって認識で大丈夫ですかね?


幼女と海に行くようになって、それなりに時間が過ぎた。今も普通に引っ付いて来るし、我慢してるようだけど奮闘虚しく到着した時には眠ってしまうのも変わらない。最近は、魚達も学習し始めたのか、それとも取り過ぎたのか、それなりに泳がないと大きな魚を見る事は出来なくなってきた。

 

遠くに行く程、泳いでいるアラガミとの遭遇率が何故か高くなるから難易度は結構高くなる。

 

 

そんなある日の事。かなり深い所まで泳いで、いざ水面へ戻ろうとした時にマグロの如くグボロ・グボロの大群が押し寄せて来た事があった。

 

アイツらって水中だとビックリするくらい速いからな。基本的に停止せずに泳いでない時も波に乗ってたりいきなり急角度の旋回とかするから、お前らなんで陸に上がってんの?っていつも思う。

 

気付いた時には既にロックオンされて、逃げようにも頭上に結構な数が既にスタンバっていたから息苦しい時に戦わざるを得なくなった。マグロ・マグロなんてアホな事考えてるんじゃなかったよ、全く。

 

水中でも戦えるしそれなりに慣れていると言っても、使う得物は本来は陸用のものばかりだ。

 

だから、どうしても威力が落ちてしまうが時間が掛かるだけで倒せない事は無い。ただ、今回はその時間が問題となってる訳で、あと数メートルの所で体内の空気を全て吐き出してしまい、おまけに動きが鈍くなった所をグボロ・グボロ達が水面から飛び上がり、ハイドロポンプみたいなあの技を連射してきて海底まで叩き付けられた。

 

どう足掻いても海上までは間に合わず、諦めて意識が失うのをただ待つだけとなり、ここで終わりか、と一人シリアスになっていた。

 

 

だが、いつまで経っても意識が消える事は無く、少々気まずくなってくる中、気付けば死ぬ所か寧ろこの状況に慣れてきた。流石にここまでくると自分でも死なないのか?と疑問に思ってくる。

 

 

試しに身体を起こそうとすれば普通に起き上がったし、息苦しくはあるものの、身体は若干鈍いが思うように動く。

 

 

そう言えば、とここである事を思い出した。それはアラガミがオラクル細胞入りの攻撃?とかじゃないと死ぬ所か傷一つ負わないという事。そして、シオが月に行って普通に生きているという事。

 

 

つまり、アラガミ(推定)であるこの身体には呼吸そのものが必要無いのではないかと思うわけですよ。うん、そう考えれば割と納得できる。今現在も苦しく感じるのは単純に慣れていなから、とかかな?まぁ、その辺はどうでもいいや。

 

 

死体蹴りをしようとこちらへ泳いでくるグボロ・グボロ達を"★Rock cannon"で一掃するのもよかったが、生憎水中だと余波が凄い事になるし、何より"★Rock cannon"で倒すとグボロ・グボロ程度なら大抵の場合はコアまで吹き飛んでしまう。

 

ここまで散々コケにされて、倒して終わりでは割に合わない。 コアを飽きるまで食べ尽くしたい。出来る事なら満腹になりたい。

 

 

そんな思いを胸に抱いて、ブレード一本でグボロ・グボロの大群に突撃して行った。

 

 

結果は分かる通り、全滅させた。ただ、コアは取り除く前にアラガミが消えたり、抱えきれないから食べようとした最中に襲われたりで総数の半分ちょっとしかなかった。

 

それでも相当な数はあったが、満腹に成る事は無かった。腹が膨れて動けなくなるよりはマシだが、食べても食べても満たされないのは、なんだかなぁ、と思ってしまう。

 

 

最後の一つを食べた時に身体の中で、何がが詰まった様な、喉に小骨が刺さったかのような違和感があったので、一先ず陸に戻った。上がった時、息をしようとすると身体の穴という穴から海水が大量に出てきて、暫く跪いて全て吐き出すのを待っていた。

 

人の体内って思った以上に容量があるらしく、水槽程度なら一杯になるんじゃなかろうかってくらいまで出ると漸く治まった。さっきまで食べていたコアは既に身体が取り込んだのか出てくる事は無かった。

 

 

身なりを適当に整えて本題の方をいろいろと解決方法を模索していると、ブレードのような感じで棒状のようなものが出てきた。そのフォルムはトライクのように尖った印象を受け、持っている装備と同じく基本的に黒で所々に蒼の線が入っている釣り竿であった。

 

 

釣り竿であった。

 

 

 

 

 

 

いや、うん。

まだ防具とかの方が納得出来たけど、これは関連性が分かんねぇ。ゲーム所か二次作品とかでもこんなの無かったぞ。原因としてはタイミング的にコアを食べ過ぎて武器化?したとかだと思うんだけど、なんで釣り竿?しかも、腹立つくらい俺好みに仕上がってるし、蒼色の糸の艶が凄く、妙にテカってるような気さえする。

 

そして、擬似餌の如く先端にぶら下がってる蒼色の球体。色は違うものの、思いっ切りコアである。

 

・・・これで一体何を釣れと?アラガミか?アラガミを一本釣りしろってか?

仮にも神様だぞ?そんな存在が釣られるなんて無様を曝す筈が━━━━━━

 

 

ザッパーン!

 

Guaaaaaaaa!!

 

 

━━━━━━曝しやがった・・・。

 

 

試しに思いっ切り遠くに放り込んでみたら早速当たりやがったよ。お前・・・お前さぁ。そう言う新喜劇みたいなノリはいいから、水中で大人しく泳いどけよ。グボロ・グボロ、あれだけ狩ったのにまだ居たのか。

 

てか、なに空中で左右のヒレを翼の如くはためかせてんだよ。カッコよくもなんともねぇよ。てめぇは自分が釣られたという事実をもっと自覚しろ。あと、さっさと餌から口離せよ。サラッと口を閉じながら叫ぶなんて妙技を披露してんじゃねぇよ。

 

・・・よく良く考えればコレと俺って同族なんだよな。

・・・・・・うわー、ないわー。

 

お?なんだ?その状態で撃ってくんのか?させねぇよ面汚し。

 

 

勢い余ってかなり高くに釣り上げたマグロを"Rock cannon"で正確に撃ち抜き、爆散した。

 

 

フッ、キタネェハナビダ

 

 

とまぁ、余韻に浸ってから魚を捕って来てない事を思い出して、幼女がまだギリギリ寝ているらしい事を確認して、急いでアラガミが激減した海底に泳ぎに行った。

 

あ、採る量は幼女が食べる量より少し多め程度まで自重するようにしました。

 

 

 

 

なんて事があったんだよな。その日以降、やけにゴッドイーターと遭遇するようになったから、多分この辺に居るって特定されたな。

 

そろそろ幼女を向こうに渡すチャンスが来るだろうかと思ったが、何言ってるか分かんないし、アラガミを一掃してる時に来るし、出会い頭にスタングレネードやら弾丸のオンパレードでもう諦めたよ。俺の腹部が盛り上がってる事に疑問を持たないのだろうか?

 

ゲームやアニメのゴッドイーターだと、名前からしていろんな国籍の人が極東にいたりするから日本語が喋れないなんて事はある筈が無いんだけど、まさかゲームだからとか言わないよな?

 

 

あ、あと偶にゴッドイーター達が何言ってるのか聞こえる時があるんだけど、それが明らかに俺を探してる時とかに耳に手を当てて「ブラックロックシューター」っぽい事言ってるんだよね。

 

一度聞こえた時に気になって、強化状態の聴覚でも確認したから間違いない。人間って一度そう思ったら、脳が勝手に補正する場合が結構あるから正しいとは言い切れないけど、これに関しては高確率で当たってると思う。

 

なんだろ、個体名とかかな?それとも、実は人体実験の素体だったから名前があったとか?

 

どちらにせよ、凄いな。俺と同じようなあっちの世界出身者だったりしたら、ちょっと萎えるけどそうじゃない場合、何か知らない力が働いてるような感じがする。修正力的な何か。

 

まぁ、変な名前よりはマシだからいっか。真っ黒くろすけとかだったら、確実に怒鳴り込みに行ってた。

 

 

 

 

半年くらいは過ぎたかな?最近になって、幼女の依存具合が少しずつ緩和されるようになってきた。

 

抱き着くのはいつも通りだが、離して欲しい時はすぐに離れてくれるし、先日には魚を捌こうとしてくれた。離れた時はコートの裾を掴んでるし、魚を捌く時は少し離れようとすると途端に中止して抱き着いてくるが、良い傾向だと見て問題は無いと思う。

 

捌く時にブレードしかないから何も考えずに渡したんだけど、よく良く考えればかなり危険な事をしてたよな?

これを神機に類似したものだと考えれば、それを適正の無い者に持たせたんだから侵食する筈なんだが、特にそんな様子は無かった。

 

あれか、持ち主の俺が喰らおうと思ってないから大丈夫だったのか?確かアラガミには意志があるとかなんとか。あ、声か。意志云々はラケル博士の事だったような。

 

ん?でも、単細胞生物なアラガミが考える事ってそれ即ち本能のようなものだろうから、結局は意志のようなものか?

 

・・・駄目だ。混乱してきた。考えるの止めよ。

 

 

結果的に侵食しなかったのでオーケーとしよう。

 

 

あ、声と言えば、俺もアラガミであるんだし、聞こえたりしないのかな?今まで一度もそんな事は無かったけど、今度試してみるか。聞こうとしてなかっただけかもしれないし。

 

 

 

 

幼女の成長速度にビックリ。まだやり始めてから数日しか経ってないのにもう、ブレードを己の手足のように扱って捌いてる。その年でそこまで迷いなく身の丈に合わない得物で魚を捌くのか・・・。なんか、この世界らしいな。

 

 

ふむ、今まで考えた事なかったけど、ある程度身体の使い方を教えた方がいいかもしれんな。

 

アラガミ相手には通用しないだろうけど、人間が誰しも善人って訳でもないだろうし。

 

 

捌いてる姿を見てる限り、どうやら俺の真似みたいな感じがするから見て覚えたんだろう。これなら、言葉が通じなくても何とかなるかもしれない。

 

 

 

 

教え始めた事は超人的戦闘になると割と使用するバク転やらその応用。身体は結構柔らかかったので、蹴りの入れ方やらを教えた。

初めは頭に疑問符を浮かべられたけど、俺が同じ事を繰り返しては見詰めてをしてる内にこちらの意図を察したのか真似をし始めた。

 

 

この子、あれだな。運動神経が子供とは思えないレベルで凄いわ。バク転で躓くかなぁ、とか思ってたけど何度か失敗してすぐにくるくる回り出した。結局、大した怪我の一つも無く、殆どを習得しちゃった。

 

楽しくなって刀の振り方まで教えてたら、つい調子に乗っちゃって実戦形式で教えてしまった。あ、実戦ってのは俺とじゃなくてアラガミと、って意味な?

 

勿論、一対一じゃなくて、俺が仕留めてコアの位置を教えたり、相手の動きを身振り手振りで出来る限り教えたりとかしする程度だ。

 

 

今考えれば、流石にこれはやり過ぎだと反省した。俺とやってみようとしたが、本人がそんな発想すらないのか、かかってくるようにジェスチャーしてもとてとてと寄って来てギュッと抱き締めて下からこちらを覗くばかりだ。

 

冷静になって、何やってんだろって自問自答してしまった。

 

 

それ以降は基本的に基礎的な事を教えたりして、あとはいつも通りの日常を過ごした。だが、ある日のこと定期的に行う周囲のアラガミ掃討の時に、服の中にいる幼女がアクションを起こしてきた。

どうしたのかと、一度落ち着いてからチャックを開けてみると、なんと幼女が自分から離れた。赤ん坊が初めて立ち上がった時のような感動に打ち震えていると、幼女がこちらを指差した。

 

差して方を辿って行くと片手に持ったブレードへ至った。だから何だ?と思って幼女の方を見ると掌を上にしてこちらへ差し出していた。

 

 

・・・もしかして、殺る気?

 

 

首を横に振ったりして、渋ってみたがあちらも引く気は無く、段々涙目になってきたので、仕方なく幼女を担いで近くに居たアラガミの所まで跳んだ。

 

そこに居たのは一匹のオウガテイルで、俺が着地と同時にこちらに気付き、走って来た。そんなオウガテイルを見ても怯えた様子が無い所か、むーって感じに頬を膨らませてたのでお望み通りにブレードを渡してやった。

 

渡した瞬間にパァーっと顔に喜色を浮かべてそれを受け取った。

 

 

お前さん、随分と表情豊かになってきたな。昔は怯えた表情ばっかり浮かべてた癖に、この短期間で本当に逞しくなったな。

 

てか、この子はアラガミが怖くないんだろうか?俺がバッサバッサ倒してた所見てチョロいとか思って慢心してないよな?駄目、慢心の精神を忘れるな。俺が言えた事じゃないけど・・・。

 

 

俺のそんな心配を他所に幼女は迂回するように突っ込んでくるオウガテイルの横に回り、その身体を斬り裂いた。

 

 

・・・え?弱くね?

 

 

コアを忘れずに斬り裂いて取り出し、コアを空いた手に持ちながらぴょんぴょん跳ねて身体全体で喜びを表現する幼女を視界の端に置きながら、俺は妙な違和感を抱いていた。

 

 

明らかに、弱過ぎる所か幼女を見てすらいなかった。

一応、援護出来るように腰を低くして構えていたものの、"★Rock cannon"では幼女に被害が及ぶだろうから両手には何も持っていなかったし、攻撃をするつもりもなかったので殺気を出してすらいなかった。

それに加え、幼女は対象でない俺から見ても殺す気満々である事は見て取れた。いくら単細胞だからって、人間である幼女をチラ見する所か意識すらしてないなんて事があるのか?

 

 

思考に耽ってると掛けられた意味が分からない声と差し出された手に考える事を一時中断して、そちらを向くと幼女が喜びと不安を抑えきれてないような顔でコアを差し出していた。

手に取ってコアを見たが普通のコアだった。

 

不思議に思って幼女を見るとこちらを更に不安そうな顔で見ていた。

 

 

・・・食えって事か?まぁ、幼女が使い道を知ってるとしたらそれくらいしかないから、遠慮なく頂きます。

 

 

丸呑みして、幼女の方を見ていると、少し嬉しそうな顔になった。既に慣れたいつもの力が溢れる感覚に浸りながら、感謝の念を込めて頭を撫でてやると擽ったそうに目を細めた。

 

手を下ろすと「あっ・・・」みたいな外国語的な発音で寂しそうにしていたが、こちらの顔を見ると何やら驚いて、縋ってきた。

 

一体何事かと疑問に思い、落ち着くように膝を着いて目線を合わせると俺の左眼に手を伸ばしてきた。

 

 

暫く意味が分からなかったが、恐らくこの状態を見たのが初めてだったのだろうと気が付いた。何やかんやでこれまで、食べてる事は知ってたけど、顔を埋めてたりして俺の顔を見る事ってあんまり無かったんだろうな。

 

 

大丈夫だと、この世界で初めて笑顔を浮かべてみたが上手くできただろうか?表情筋が思った以上に動かないぞ、これ。

 

 

どうやら、幼女にも害はないと分かったらしく、さっきとは打って変わって眼をキラキラさせて俺の左眼を見だした。

 

あぁ、うん。綺麗だもんな。分かるよその気持ち。それにこの歳の女の子って綺麗な物が好きなイメージがあるし、この世界だと物が無いからそれが更に顕著になりそうだな。

 

うおっ、ちょ、眼を抉ろうとしないで!?多分だけど、これ眼から出てる訳じゃないから、取っても意味無いよ!?

 

 

 

その後、消えたので掃討を再開して、簡単な相手の時に任せて幼女がコアを食べようとしてそれを止めたり、俺にコアを毎回食べさせてそれを鑑賞したりしたけど、何とかその日の内に終わらせる事ができた。

 

 

あ、そうそう。アラガミの声の事なんだけど、聞こうと思えばそれっぽいのが聞こえてきた。

 

確か、殺せ、だったような。実を言うと曖昧でよく分かんなかったんだよな。聞こえたと言うよりも脳に直接響いてくる感じだったし。でも、なんか引っ掛かるんだよな。なんでだろ?

 

 

それから、幼女がアラガミを倒す時は何故か俺の時と違って、初めての時のように全て幼女が無視されていた。

 

なんか納得いかねぇ、とは思ったけど楽だからいいやと思い直した。




これ、オリ設定やオリ武器的なタグなどを追加した方がいいですかね?
正直な所、釣り竿はお巫山戯で出しただけなのでそんなに出番が無い予定なんですよね。
強いて言うなら話の途中や出だしで暇潰しに釣りしてるくらい。

それとグボロ・グボロの海に関しては今更ながら完全にオリ設定になります。
確か、水中で泳ぐのはゲームであったけど、どんな風に泳ぐとかは無かったはず。

呼吸が必要無いのもオリ設定というか、明言されている無いものの、本文中のようにアラガミの特性やらシオの現状を考察して考えたものなんですけど、こういった考察とかは公式設定って事になるんですかね?


コメ稼ぎって訳では無いんですけど、タグを追加した方が良かったり、追加して欲しいタグ等があれば上記のもの以外は出来れば理由も含めてお願いします。

検討した後、どうするかを感想と活動報告にてお知らせします。


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第8話:一年ぶりの再会

すみません。
本来は幼女視点の予定だったんですが、思った以上に進まなくて息抜きに書いてた本編の方が先に出来上がったのでこちらを投稿します。

ちょっと短めです。



幼女と出会って・・・大体どれくらい経つだろうか?

 

ざっと数えてたけど、一年経つかどうかくらいだと思う。気が付けば、ブーツの少し上がった踵込みの俺の鳩尾辺りまでしか無かった幼女の身長が今では肩くらいまでには成長した。

 

あ、因みに俺の身長やらその他諸々は全く変わってません。・・・まぁ、薄々分かってたけどね。別に成長しない事に気付いて心が折れそうになって、そんな雰囲気を感じ取った幼女に心配されたとかそんな珍事件は無いから。無いったら無い。

 

 

・・・・・・胸の大きさで完全に敗北を期した時は流石に少しの間、寝込んだけど。で、案の定心配した幼女が必死に慰めようと抱き着いたりなんなりしてくるんだけど、その度に当たって逆効果という悪循環。

 

流石に大人気無いと思ってすぐに切り替えたんだが、どうしても完全に切り替える事が出来ずに元の世界での豊胸方法でどんなのがあったか思い出してたら、揉めば大きくなるという迷信があった事を思い出した。

 

早速試してみようと胸に手を当てたら、揉む胸すら無ぇよと、自然と膝から崩れ落ちてしまった。

 

あぁ、地面のアスファルトがまるで俺の胸のようだ・・・。

 

 

そんな俺を見て、例の如く幼女が駆け寄って来て、また必死に外国語をちょくちょく喋りながら理由が分からずに慰めようとして、気付けば俺に馬乗りして遊んでた。なんか、もうどうでもいいやって思えて慰めようとしてくれたお礼として大人しく馬になって一緒に遊んだ。

 

 

閑話休題

 

 

成長したって事はつまり、身体が大きくなったって事である。何が言いたいかと言うと、幼女がコートに収まりきらなくなったって事。いや、一応、まだ収まるには収まるんだけど、かなりギリギリになってきた。

 

 

体重に関しては重くなろうが誤差の範囲なんで問題は無いんだが、身長に関してはそろそろコートを卒業してもいいかもしれないと思っている。数ヶ月前くらいからはトライクに乗る時に顔を胸元からひょっこりと出して、そこからの景色を嬉しそうに見るくらいには外界に対して精神的な余裕もある。

 

 

てな訳で、後ろに乗せてみた所、最初は最近結構な頻度で使うようになった外国語(多分、幼女の母国語)で抗議しながら渋ってたが、コートを脱いで着せてやったら嬉しそうに座って、前に座る俺にひしっと抱き着いてきた。

 

俺の背中に頬擦りする程嬉しかったらしく、少し(くすぐ)ったかったものの、まだまだコート離れ出来ないなと心の中で溜め息を吐いた。

 

 

一日は基本的にアラガミの掃討や食料調達、幼女の特訓やらで終わる。そんな生活ばかりだと流石に飽きが来る。だから、食料調達とは別に海へ行って釣り糸を垂らしてボケーっとしたり、アラガミが掛かったら引き上げずにそのまま糸を伸ばしたり偶に巻いたりして、文字通り泳がせてたりする。

 

そんな時、幼女はどうしてるのかって?後ろでコートをはためかせながらトライク走らせてる。

 

 

 

・・・・・・平和だなぁ。

 

 

 

あぁ、うん。

分かってる。

ちゃんと説明する。

 

食料調達に行く時、道中は殆どの場合は起きていられるようになった幼女をトライクに置いて、海へ潜って帰ってきたら走らせようとしてトライクを弄ってたのが始まり。足がギリギリ届くようになったらしくてね、あと走らせてる時の景色が気に入ったりしたのかな?

 

俺のを何度も見てたからか、それなりにいい線は行ってたけど、どうしても分からない部分があったらしく、走らせる事は叶わなかったって感じだった。

 

 

近付くと俺に気付いたらしく、なんか慌てて言い訳しだした。言ってる事は分らんが、これあれだ。

 

親が買い物とかで車の中に子供を一人にした時にその子供が運転席に行っていろいろと弄ってた所で親が戻ってきた時の気まずさだ。

 

 

いや、そんなに必死にならんでも、怒ってないから大丈夫だぞ?

 

 

落ち着かせようと頭を撫でようとして手を伸ばすと、幼女が目をギュッと瞑って身を強ばらせた。軽く頭を撫でてやると恐る恐る目を開けて、ポカーンとしだした。

 

 

才能があろうと、強くなろうとやっぱり子供は子供だな。

 

 

そんな当たり前の事に気付きながらも手を離し、幼女を抱えてシートに座って膝に座らせた。トライクの状態を幼女が弄る前に戻して、そこからゆっくりと操作を見せていった。

 

状況に付いて来れてなかった幼女も途中から俺の意図に気付き、真剣な眼差しで操作方法を見ていた。

 

一通り終わらせ軽く走らせて、すぐに止めて最初の状態に戻す。幼女を抱えて俺は立ち上がって、シートに幼女一人を乗せた。

 

 

幼女はトライクと俺を交互に見ると、意を決したのか思い出すようにゆっくりと操作していった。間違えれば止めようと思ったが、なんと一発で成功させた。

 

 

楽でいいんだが、なんだか教え甲斐が無いなー、とか思ったが、幼女の嬉しそうにハンドルを握る姿を見て、ま、いっか、と反射的に思い直した。

 

 

その後も普通に発進させて、俺は念の為に並走して後を追った。最初は自転車よりちょっと速いくらいのペース。操作をミスるかなぁ?とか全く心にも思ってない事を考えていたが、予想通りというか期待を裏切らないというか、まぁ兎に角、ビックリするくらいの安定性で走った。

 

三輪付いてるから、自転車よりは安定性あるのは確かだけど、ホントに凄いよな。これでまだ幼子なんだから。

 

 

 

まぁ、そんな訳でさっさと乗りこなした幼女は暇があればこうしてトライクを走らせるようになったって訳だ。

 

注意しなくてもあんまり遠くには行かないし、アラガミを一掃してから走らせてるので基本的に自由にさせてる。ある程度、走って来たら普通に戻ってくるからその時にドライバーを交代して拠点に帰ってる。

 

本人的にも偉く気に入ったらしく、乗り始めてからは笑顔が増えた気がする。別に消耗品でもないからいい事づくめだ。

 

 

 

 

さて、いきなりだが、俺は幼女をどうやって人間の集団に戻すか、割と真面目に考えている。どうしたいきなりとか、何を今更とか思うかもしれんがこれには理由がある。

 

前にアラガミの声を聞いた時があっただろ?あの殺す、って聞こえたって言ったヤツ。

 

なんか引っ掛かると思ってずっと考えてたんだが、漸く思い出した。アラガミの行動理念って本来は食べたい、なんだよな。人間に対してもまた然り。

 

いや、もっと他にもあるかもしれんが、最終的にこれに帰結する・・・多分。

 

 

つまり、「〜たい」といった風の別にそこまで執着してない言い方なのに対し、俺にだけ「殺す」という執念すら感じる感情を向けてるんだ。

 

どんな事をしていても、例え食事中だろうと睡眠中だろうと近付く俺の存在を認知した瞬間から、見えなくなっても暫くは追い続ける程の殺意を俺に向けて、他は眼中にすら無い。

 

幼女が攻撃を喰らわずにあっさりとオウガテイルやらを倒せた理由の一つがこれだ。そして、周辺のアラガミを一日という短期間で一掃出来る理由も。この謎の特性を利用して誘導してる。それに一点に沢山集めるとコンビネーションも疎かになるという利点もある。

 

 

だが、なんやかんやあって今まで生き抜いてきたが、それはあくまでも周囲にいる敵がディアウス・ピターを除いて弱いヤツらばかりだからだ。

これからはそうもいかない。極東の話になるが、ヨハネスが死んだ後からアラガミ側の戦力がインフレする。

 

ゴッドイーター2があるから、対処できない程ではないのだろうが、俺一人でははっきり言って自信が無い。ディアウス・ピターは冗談抜きで強過ぎる。それに幼女は幾ら強くても人間だ。俺が軽く小突くだけでも死に至り兼ねない程に脆く、弱い。

 

 

ここは大丈夫かもしれないという可能性もあるが、進化を呼吸のようにするアラガミ達に限って、その可能性は絶望的だ。

 

 

以上の理由から、結構真剣に考えてはいるんだが━━━

 

 

「・・・?〜〜〜♪」

 

 

右手を見ると隣で手を握りながら嬉しそうに歩いてる幼女が、俺が見ている事に気付き、えへへー、みたいな擬音が聞こえそうな笑顔で手をにぎにぎしだした。

 

 

━━━━あ〜、心が浄化される〜。

 

 

偶にはのんびりする事も大事だろうと思い、数週間前からアラガミを一掃した後に手を握って廃都やらを散歩してるんだが、これが幼女に大変お気に召したらしく、歩いてる時は終始笑顔だ。

 

 

それ以来、アラガミを一掃した後はこうして歩いてるんだが、俺もこの時間は結構好きだ。景色は良いとは言えないが、人が居ないし、アラガミも狩り尽くしてるから静かな時間をまったりと満喫できる。

 

慣れてるとは言え、それなりに身体も火照る。冷たい風が当たって結構気持ちいい。まさか、こんな世界でこれ程までにゆっくりできるとは思わなかったがな。

 

 

 

だけど、ここは人間の天敵であり、掃除屋のような存在であるアラガミが跋扈する世界。平和なんて一瞬で崩れ去るし、どれだけ備えても足りないくらいだ。

 

そこんとこは、それなりに分かってた筈なんだかなぁ。

 

 

 

 

 

ザシュッッッ!!!

 

「っ!!!??」

 

 

 

 

 

上から降って来たディアウス・ピターに、背中辺りから生えたその鋭利な翼で、幼女と手を繋いでいる右手を肩からコートごと綺麗に切断された。




はい、そんな訳でいろいろと考えた結果、こっち側のルートにしました。
どんなルートになるかはこれからのお楽しみで。
ついでにもう一つのルートがどんなのかも、このルートの内容がある程度分かったら、説明みたいなの後書きかなんかで入れます。

一応、補足みたいなの書きます。
最後の方は主人公がコートを着ています。
幼女が来てなかったのは、大した理由は無いんですが、強いて言うなら着る理由が無かったからです。
あと、書いててトイレとか風呂とかどうしてんだろ?って思ったので考えたのですがいい案が思いつかなかったのでその辺はスルーしてくれるとありがたいです。
ただ、その種族上、主人公はどちらも必要としません。

それと、次回は展開的にも幼女視点は絶対に入れます。
思ったよりも長くなりそうなので、何話かに分けると思います。
因みに主人公と出会うちょっと前からです。




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閑話:私にとってのお姉ちゃん

お待たせしました。
幼女視点です
幼女視点です(迫真)

本来は一話で終わらせるつもりだったんですけど、思いの外長くなったので分けます。感想で次話くらいにコアについての説明を入れると言いましたが、出来ませんでした。すみませんがもう少し待って下さい。

それと興が乗っちゃって、アラガミに食べられるパパとママについてオリジナル要素を少し付け加えました。
・・・誤差の範囲だよね?


P.S.


ブラック★ロックシューターの身体に付いた縫合後について、ちょっと思いついたので修正します。現在は右腰部のみにあり、それは縫合ではなく刺傷のようなものにします。原因は幼女と出会う前のディアウス・ピターとの戦闘です。

特に話が左右される訳ではなく、せっかくだからこうしよう、と思って変更しただけなのであんまり気にしなくて大丈夫です。因みに左脇腹にはまだ傷は付いてない状態です。

そんな訳で、タグに「オリジナル要素」と「ご都合主義」と「ガバガバ設定」の三つを追加しときました。
それと今までの傷に関しての説明があった部分を辻褄が合うように変更しました。





寡黙なあの人はちょっと強引な所があったけど、絶望の中にいた彼女を助け出してくれた恩人であり、短い間ではあるものの育ての親のような人でもあり、そしてもし彼女に姉が居たらこんな人なんだろうなと、そう思える程に彼女、アリサ・イリーニチナ・アミエーラにとってパパとママと同じくらい、もしかすればそれ以上に大切な存在だった。

 

 

出会いは、彼女の我儘のせいでパパとママがアラガミに喰われた時だった。

 

仕事で滅多に遊んでくれない二人の気を少しでも引きたくて日頃から隠れたりして、二人を困らせていた。そんなある日、アラガミを核と言う兵器でやっつける事になったと言ってアリサの誕生日の日にその後始末やらで帰ってくる事ができないと言われた。

 

だから、その日は一緒に居て欲しくて、いつも以上に困らせてやろうと当日の前日に置き手紙を置いて、行ってはいけないと言われた場所に入り、いつものように隠れた。

 

 

前に危険だからと言われたが、すんなり来れた事にもしかして本当はそんなに危険な所でもないんじゃないかと不安になったが、暫くして不安を裏切るように二人はアリサを探しにやって来た。パパとママは最初は心配するような声でもういいかい?とアリサを呼んでいた。

 

彼女が置き手紙に隠れんぼと書いたからだろうか。隠れていたタンスの隙間から覗くと、パパとママがこちらへ歩いて来ていた。それが嬉しくあったものの、ちょっとした悪戯心が湧いた彼女は、二人が近くに来た時に飛び出して少し驚かせてやろうと思った。

 

早く早くと逸る気持ちを抑えてどんな反応をするだろうと、わくわくしながら待ち構えていた。

 

だから、次第にもういいかい?とは言わず、アリサの名前を呼ぶようになって、その声が段々焦っている事に気が付かなかった。アラガミが来ている、と言う言葉を聞き逃してしまった。

 

 

あと数メートル歩いたら、つまりあと数歩歩いたら飛び出そうとタンスの扉に手を掛けたその時━━━━━

 

 

『GRRRAAAAAA!』

 

「きゃあ!!」「うわぁ!!」

 

 

━━━━襲って来た黒くて大きなアラガミにパパとママが目の前で血飛沫を上げながら乱暴に喰い散らかされていった。

 

 

「・・・パパ?・・・ママ?」

 

 

何が起こっているのか脳が理解する事を拒否していた。

嘘だ、と頭の中でそんな言葉が何度も流れた。だが、パパとママを食べたアラガミがこちらへ向いた時、否が応でも見てしまった。アラガミの口からはみ出て血だらけのダラーンとしたパパとママだった顔を。生者の者とは到底思えない、二人のどこまでも無機質なその瞳を。

 

 

「・・・ち、違う・・・そ・・・そんな・・・そんな、つもり・・・じゃ・・・」

 

 

歳の割には聡明なアリサにとって、目の前で起こった光景が自分のせいだと気付くのにそう時間は掛からなかった。それを必死に否定しようと無意味と分かっていても許しを乞うように言葉を紡ごうとするが、震えて上手く喋れない。

 

 

そんな彼女を他所にアラガミはこちらを向いたまま、まるでこうなったのはお前のせいだと言わんばかりに徐に口を開けて、はみ出ていたパパとママの顔を何度も何度も噛み砕いていった。

 

ゴリュッゴリュッと骨が砕ける音が、グチョッグチョッと肉が噛み千切られる音が聞こえる中、開いたタンスの隙間から何かが入ってきて、アリサの頬に当たり、べチョッという音と共に足元に落ちた。

 

 

頬に垂れる生暖かい感触を感じながらも恐る恐る下を見ると血に濡れた目玉が転がっていて、その開き切った瞳孔がこちらをじっと見詰めていた。

 

 

「あ・・・ああぁあぁ・・・違うの・・・私・・・そんな・・・つもり・・・そんな・・・違う・・・」

 

 

必死に違うと否定する中、気付けば咀嚼する音が止んでいた。隙間から外を見るとあのアラガミがこちらをじっと見詰めていた。

 

 

「来ないで・・・いやぁ・・・あ・・・あぁああ・・・ぁああ・・・イヤァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

気が付けばアラガミは居なくなっていて、アリサは未だにタンスの中で隙間から見えるただ一点を見詰めて震えていた。その視線の先には赤い血溜まりだったもの。

 

どれくらいそうしていただろうか?その血溜まりは既に固まって、一目見ただけでは、血溜まりだとは判断しにくい程になっていた。

 

 

何度もあの景色がフラッシュバックする。その度に口から無意識にごめんなさいと繰り返していた。そんな時、急に目が開けれない程の強い光が襲った。目が焼ききれんばかりの光に思わず手で目を覆って、収まるのを待った。

 

光が収まって目を開こうとしたがまだチカチカして上手く見えない。そんな中、扉が開く気配がした。

 

ここから出る事が途端に恐ろしくなったアリサは、慌てて閉じようと手を伸ばしたが、その手を力強く掴まれて抵抗する暇も無く、思いっ切り引っ張り出された。

 

外に出た事への恐怖心を感じる前に冷たくも暖かく感じる何かに包まれ、全身に浮遊感を感じて意識を失った。

 

 

引っ張り出された時にまだよく見えなかったが、目の辺りが蒼く光っている人の影がアリサの脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

目を覚ませば、黒のコートを下敷きにして横になっていた。寝惚けていたものの、あの光景がまたフラッシュバックして、辺りにタンスが無いかを必死に探した。

 

だが、探しても探しても見付からず、身体の震えがどんどん大きくなり、パパとママのあの瞳を、砕ける音を思い出してはそんなつもりじゃないと否定し、気付けば部屋の隅でコートに(くる)まって違うの、と何度も何度も呟いていた。

 

タンス程では無かったものの、全身を包むコートは何も無いよりかは安心できた。だけど、震えは止まるどころか益々酷くなるばかり。呼吸も荒くなって息苦しくなってくる。

 

そんな時、誰かに抱き締められた。震えが治まることは無かったが妙な安心感を覚えた。だからなのか、自然と涙が溢れ出した。もうパパとママに抱き締められる事は無いのだと。その原因をつくったのが誰でもない、自分なのだと。

 

 

「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛・・・!パパ!マ゛マ゛!こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛!」

 

 

静かに力強く抱き締められながら、アリサは泣き疲れて眠るまでパパとママに謝り続けた。

 

 

 

 

再び目を覚ますと、ここで目覚めた時と同じ部屋に同じように敷いてある黒いコート。アリサの周りにあるのはただそれだけ。

 

 

居ない。

 

誰も居ない。

 

 

彼女を包み込んでくれた人は居らず、アリサは不安に駆られた。

 

 

あの人は?

 

どこ・・・?

 

 

「と゛こに゛・・・・・・いる゛の?」

 

 

不安と恐怖で涙が溢れて来た。あの光景がまたフラッシュバックする。身体が自然と震え始めて、助けてと願った。

 

コートで身体を出来る限り包み込んだ。こうすれば、少しだけ安心するし、何よりもあの人がまた来てくれるかもしれないと思ったから。

 

姿形も分からないあの人。もしかしたら、あれは彼女が作り出した幻かもしれない。それでもと、そんな淡い希望を持ってコートに身を包み、部屋の隅で震えていた。そんな時、背後から物音が聞こえた。

 

嫌な想像をしてしまう。あのアラガミが私を食べに来たのではないかと。パパとママと同じように食べられてしまうのではないかと。

 

恐る恐るそちらを振り返って、コートの隙間から覗いてみると、部屋の出口辺りに左右非対称のツインテールでホットパンツにビキニという派手な格好をした、左の脇腹に切り傷が付いた雪のような肌の女の子が両手に何かを抱えて立っていた。

 

その女の子を見た瞬間、アリサは何故かタンスから引っ張り出された時の記憶が一瞬蘇り、脚が勝手に動き出した。

 

その人がこちらへ寄って来ると同時に、そちらへ駆け出し、腰辺りに抱き着いた。当の本人は抱えていた物を器用に片手で持ち直すと、その冷たい手でアリサの頭を撫で出した。

 

 

この人なら大丈夫だと分かったからだろうか。タンスの扉の隙間に似てると思った私は目の前の脚の隙間に入って、己の身を守るように足を閉じようとしたがビクともしなかった。

 

奮闘していると、首根っこを掴まれて引き離されそうになった。

 

一度安心してしまい、その安心を奪われるからと頭が真っ白になり、出てしまえばアラガミに食べられるから出たくないと抵抗するように脈絡の無い言葉を発しながら暴れた。

 

 

「嫌だ嫌だ嫌だ!!違うの!!そんなつもりじゃなかったの!!!パパ!!ママ!!ごめんなさい!違うの!!違うの!!」

 

 

だが、あの人はそんな事は歯牙にもかけないと言うように、彼女を脚から引き剥がした。恐怖で身体が固まり、暴れる事すら出来ずに居たアリサは引き剥がしたのが誰かも忘れ、終わった、とどこか諦めていた。

 

このまま食べられちゃうんだと、泣き喚く気力すら湧かずにいると突然、身体の前面に柔らかいけど固くて、冷たい何かを感じた。

 

 

何かは分からないが、離したくないと思い、一生懸命に両手両足を回してギュッと抱き付いた。

 

それは肌を殆ど晒した人の背中だった。氷のように冷たく、しかしそれ以上にとても暖かくて昔、ママにおんぶしてもらった時のような暖かさに似ていた。勿論、アリサにはママとは違う事は分かっていたが、前をママのような背中に、後ろをコートに包まれて、今まで以上に安心出来た。

 

精神が落ち着いて来て、余裕が生まれると自分が酷くお腹が空いている事と同時にその背中があの女の子で、引き剥がしたのも彼女だと気が付いた。それが分かって、首に回した手とお腹辺りに回した足に甘えるようにもっと力を入れた。

 

そんなアリサに満足したのか、彼女は手に持っていた物を台所に置いて何かを始めた。

 

 

首元に顔を埋めて分からなかったアリサは、肩をトントンと叩かれて顔を上げてみると女の子が目の前に滅多に見ない生の魚のお肉を摘んで差し出していた。

 

 

食べろ、という事なんだアリサは瞬時に理解した。だがロシア人であるアリサにとって、正直、生で食べるなんて正気の沙汰じゃないと思ったけど、この人の言う事を無視したらここ(背中)に居られなくなるかもしれない。

 

そんな事になるくらいならどんなに不味くても食べようと決心してそれを咥えた。

 

 

感想を一言で言うと美味しかった。生臭くはあるものの、それを無視出来るくらいに噛む度に旨みが溢れ出してきた。アリサが次から次へと食べるからか、差し出されるタイミングも早くなってきた。

 

そうしていく内にお腹も膨れたアリサは、次第に眠くなってきた。ウトウトしていると何度も落ちそうになる。その度に少し目が覚めては体勢を立て直しているとあの人が空いた片手で支えてくれた。

 

落ちる心配が無くなって、アリサは眠りに落ちた。

 

 

 

 

「━━━━━━ッ!!?・・・はぁ、はぁ」

 

 

怖い夢を見て目が覚めたアリサ。もう何度も同じ夢を見ている。あのアラガミにパパとママが食べられた時の夢だった。パパとママが食べられた日から毎日見る。

 

 

目が覚めれば、お姉ちゃんとアリサが心の中で呼ぶようになった脇腹に傷があった女の子がいつも抱き締めてくれている。恐怖で抱き締め返すと眠ったまま更に強く抱き締めてくれる。それがアリサにとっては何よりも嬉しく心が安らいで、寝るのは嫌いだが起きるのは好きになった。

 

 

アリサにとって、お姉ちゃんは不思議な人だ。近所だった年上の人と同じくらいだと思うが、まるで大人の人みたいに感じる。それに一言も喋らないし、表情も動かない。けど、不快感はまるで感じない。あんな格好で居れば、ここの気候に慣れたアリサたちでも寒くて震える。現にお姉ちゃんの肌はいつも氷のように冷たい。

 

それでも震える事無く、さもそれが当然のように過ごしてる。素直に凄いと思った。

 

 

そんなお姉ちゃんがアリサを置いて外に出ようとした。

 

 

「嫌!行っちゃヤダ!!アラガミが居るから出ちゃダメ!!お姉ちゃんが死んじゃうよ!」

 

 

タンスの中だけが安心出来る場所では無いと分かってはいるものの、心の奥底に刻み込まれたアラガミの恐ろしさ故にそれでも外は怖い。そんなアリサを見兼ねたお姉ちゃんは、アリサも一緒に連れ出そうとしたが、アリサはそうじゃないと心の中で否定した。

 

 

「嫌だ!出たくない!!いい子にするから!もう困らせたりしないから!!外は嫌!」

 

 

お姉ちゃんに抱えられたアリサはただただ錯乱して暴れた。そんな彼女を抑えて外に出る事だって出来ただろうに、お姉ちゃんはそうしなかった。

 

外に出る事を止め、部屋の中でギュッと抱き締めて頭を撫でてくれた。お姉ちゃんの抱擁は大好きだ。こうしてくれる間はあの事を忘れていられる。私のせいでもう居ないママとの最後の記憶以外の事を思い出せる。

 

 

もう、手放したくない。手放しちゃいけない。どんな事があっても、手放してなるものか。

 

 

両親というかけがえのない人を失い地獄に放り出さたアリサにとって、お姉ちゃんはその地獄から少しでも私を守ってくれる一種の鎧のような存在だった。

 

その日以来、お姉ちゃんに絶大な信頼を寄せ始めたアリサは彼女に抱かれて寝ると夢を見なくなった。

 

 

 

 

ある日、久しぶりに夢を見た。パパとママがアラガミに喰い殺されていく。

 

見慣れた光景であるが、いつまでも慣れる事はできない。見ている事しか出来ず、恐怖に身を震わせるアリサだったが、この後は必ずお姉ちゃんが助けに来てくれるという安心があった。

 

その想いの通りに夢の最後は、いつもアラガミが何処かに行き、左眼が蒼い焔に包まれたお姉ちゃんがタンスの中から引っ張り出してくれる。

 

このまま、全身をお姉ちゃんに包まれて夢が終わる。そう思い、瞳を閉じて夢が覚めるのを待っていたアリサだったが、いつまで経ってもお姉ちゃんの抱擁が無い。

 

訝しんだアリサは閉じた目を開くと、差し伸ばされた腕が切り落とされ、その場に崩れ落ちたお姉ちゃんと、その後ろで嘲笑うかのように立っているあのパパとママと食べたアラガミだった。

 

 

「ッ!?」

 

 

そこで目が覚めた。

 

だが、身体が動かない。

呼吸が思うようにできない。

 

そして、何よりも目が覚めればいつも自分を抱き締めて寝ているお姉ちゃんがいない。その事に気が付いた瞬間に今しがた見た夢を連想してしまったアリサ。目を動かせる範囲で血眼になってお姉ちゃんを探した。

 

何処かで諦めかけている自分を必死に無視して、遂に見付けた。寝ている自分を背に何処かへ歩いて行くお姉ちゃんを。その後ろ姿を見た瞬間、今まで動けなかったのが嘘のように起き上がって走り出し、その背中に抱き着いた。

 

骨がミシミシと鳴る音が聞こえる。これが自分のものなのか、お姉ちゃんのものなのかは分からない。ただ、全身から感じる痛みから自分のものであると推測できるがアリサにとって、そんな事はどうでもよかった。

 

 

一度、不安定な精神状態からある程度良好な状態へと戻っていたアリサは、その精神の支柱となった存在の擬似的な死とその直後の明確に自分の傍から離れて行く後ろ姿。

 

壊れていく心を本能的に察したアリサは、ただ身を任せるのではなく、どんな手を使ってでも自分の傍に置いておくという判断をした。だが、自分の力ではお姉ちゃんを止める事はできない。お姉ちゃんの意思で私の傍に居てくれるだけでは不安。

 

だから、彼女の脳は人間が己自身に制限を掛けている枷を無意識に外し、人間が出せる100%の力を引き出した。

 

所謂、火事場の馬鹿力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズットイッショダヨ?オネエチャン」




はい、そんな訳で幼女はアリサ・イリーニチナ・アミエーラさんでした。いろんな人が当てて驚きました(すっとぼけ)

書いてる時にこの子いっつも気を失ってんな、とか思ったんですが、作者の発想の貧困さ故にこれ以外思い付きませんでした。(だって、このタイプの人間って殆ど知らないんでふもん)

・・・これってヤンデレタグもいりますかね?正直、ヤンデレって個人的に書くのがめっちゃ難しいから、そういうヤンデレっぽい描写は結構少なくはなると思います。

あと、最初はアリサの一人称視点だったんですけど、途中から三人称視点に変更したので文章がおかしな事になってると思います。 ここおかしくね?ってところがあったら、出来る限り修正していきたいと思います。・・・まぁ、作者の文才的にそんなに変わらないとは思いますが。


次の話はまだ書いてないし、テスト期間&それが終わったら海外に行くんで、投稿は4月になるかもです。・・・今まで言った通りになった事が殆ど無いので、もしかしたら早くに投稿したり、もっと遅くなったりするかもです。


そんな訳で次回も気長にお待ちください!


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閑話:ごめんね

・・・出来ちゃましたので投稿。
結構長め。
具体的には9000字弱。
実を言うとキリが悪いからもう書いてしまおうと思ってさっさと書いたので書き直しするかもです。

それと、ヤンデレが好評過ぎてちょっとビックリしました。
作者なりに期待に応えられるように頑張りましたが無理でした。
いや、だってタダですら難しいのにその上会話無しなんて難易度高過ぎますって。

なので会話文がマジで無かった事に気付いたのもあって、最初の方に後から付け足した感満載のセリフ入れました。
ヤンデレ分、これで補給って事でいいですかね?


P.S.


原作キャラ一部強化と精神的BL(報告忘れ)を追加しました。


気を抜けばすぐに何処かへ行ってしまう。お姉ちゃんがそうだと知ったアリサは、自分の事など二の次になった。

 

例えば、寝ている時。アリサは深く寝るどころか、浅過ぎる程の睡眠しかとらなくなった。自分が寝ている時にお姉ちゃんが何処かへ行っている事に気付いたから。

 

 

手遅れになって後悔するくらいなら、この身など壊れようが構わないとすら思うようになった。だから、全身を襲う激痛なぞ気にならなかった。

 

だが、当のお姉ちゃん本人がそれを許さない。現に早朝になって早々引き剥がされている最中だからだ。

 

 

(ねぇ、なんで?どうしてそんな酷い事をするの?)

 

 

アリサには理解できなかった。何故、引き剥がそうとするのかを。自分はお姉ちゃんと一緒に居たいだけなのに。それを許してくれないのか。

 

 

それでもお姉ちゃんは引き剥がす事を止めない。

 

子供とは言え、人間の100%の力を引き出し続けるアリサと片手で逆綱引きを容易く行って見せるお姉ちゃん。そんな時にお姉ちゃんの目が批難するかのように自分を見ている事に気が付いた。

 

それに気付いた瞬間、今まで湧き上がっていた力がふっと抜けた。

 

 

(あ・・・)

 

 

力を引き出していた目的がお姉ちゃんと一緒にいる為ではあったが、だからと言って嫌われてもいいという訳ではない。

 

生きる意味がお姉ちゃんと居る事くらいしかなくなったアリサには、一緒に居られないのは勿論、そこまで執着している人物に嫌われるというのは耐え難かった。

 

 

そんな心境から力を入れる意味が無くなり、抵抗をいきなり止めたアリサは宙に投げ出された。それがいきなり離したから、なんて考えに至るよりも投げ飛ばされたから、という考えに至る方が早かった。

 

受け身をとる所か身体が硬直する事すらしない。そんな無気力なアリサだったが、襲った衝撃が思ったよりも小さかった事には疑問を持った。

 

思考を再開すると、身に覚えのある感触に温度、そして安心感。それだけで、お姉ちゃんに抱き締められていると感じ取れた。守ってくれたのがお姉ちゃんという事実に嬉しくて堪らないアリサは力が戻り、自分のものと遜色無い胸に顔を埋めて抱き着いた。

 

先程の事を許してくれたのかは分からないが、抱き着いた位置が殆ど同じ。また引き剥がされるかと思ったが、そんな心配は無く、お姉ちゃんは立ち上がった。

 

 

力が戻ったと言っても、微妙なインターバルを挟んだ事により疲労が顕著になった為、全身を襲う痛みが強く感じられ、今にもずり落ちそうだった。

 

それでも必死にしがみついて離れないアリサにお姉ちゃんがそっと身体を抱っこするように支えてくれた。一気に身体が楽になり、痛みはあるもののさっきよりも格段に楽になった。

 

 

その後、お姉ちゃんがコートを羽織り、ジッパーを閉めてアリサごと自分の身体を包み込んだ。真っ暗になった視界ではよく分からなかったが、高速で移動している事はなんとなく分かった。

 

 

(ふぁ~・・・♡)

 

 

少し窮屈に感じたものの、それ以上にこの閉鎖空間がアリサにとっては楽園のように感じられた。いつもの抱き着くような包み方ではなく、お姉ちゃんの身体とコートに文字通り包み込まれた、そんな状態。その上、一定のリズムを刻みながら聞こえてくる心臓の鼓動。

 

未だに精神が不安定なアリサを正常(?)に戻す程に彼女の心は幸せに満たされていた。そして、今までの大人ですら堪え難い程の疲労を溜め込んできたアリサはあっさりと深い深い眠りに就いた。

 

 

 

 

怖い夢を見て目が覚めた。時間的にパパとママが帰って来てる頃だったが、隣にパパとママはいない。何度も寝直そうとしたが、怖くて上手く寝れなかった。もしかしたら、もう少しでパパとママが帰って来るかもしれないので布団に(くる)まって恐怖を押し殺そうとした。

 

 

するとリビングの方からギシ、ギシという物音が聞こえた。パパとママ達が帰って来たのかと嬉しくなったが、怖い夢を思い出し、布団を被ったまま恐る恐る部屋を出た。リビングの方を見ると明かりが点いていなかった。その事実がアリサに更なる恐怖が襲ってくる。

 

 

ゆっくりと歩を進めて、音がするリビングへと歩いていく。次第に音は大きくなり、扉をそっと開けると誰かが苦しむかのように押し殺した声が聞こえてきた。

 

強盗か、それともアラガミでも来たのか。そんな恐怖に支配されつつも、中が見える程に扉を開けてバレないように覗く。

 

 

そこで目にしたものは━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━ソファーで苦しそうに声を押し殺す裸の女性とそれに覆い被さる裸の男性だった。

 

 

 

 

 

それを見た瞬間にアリサは隠密行動を止め、扉を思いっ切り開けて二人の元へと走り、男性を女性から引き剥がそうとした。

 

 

「うわっ!なんだ!?」

 

パパ(・・)ママ(・・)を虐めちゃダメ!」

 

「ふぇ?・・・どうしたの、アナ・・・タ・・・・・・え、アリサ!?」

 

「パパ!早く離れて!!」

 

「あ、いや違うんだ、アリサ。これはその・・・」

 

「ア、アリサ?ママは大丈夫だから、ね?だから・・・えーと・・・その・・・あ、お布団に戻りましょう?怖い夢でも見ちゃったのね?さぁ、ママが一緒に寝てあげるから、先にお布団に戻っておいで?」

 

「・・・ママも一緒じゃないとや」

 

「う、うぅ・・・行くから。後でちゃんと行くから。だから今は言う事を聞いて?」

 

「・・・でも、またママがパパに虐められちゃう」

 

「ま、待てアリサ。あれは・・・」

 

「アナタ!いつまでその格好でいるつもりなの!?早く着替えて来なさい!!」

 

Да мама(ダ マーマ)!」

 

「さ、アリサ。お部屋に戻りなさい?」

 

「いや、ママとがいい」

 

「うぅ・・・分かったわ。一緒に戻りましょうか」

 

「・・・うん」

 

 

 

 

(・・・。・・・・・・・・・)

 

 

目が覚めたアリサ。

 

いつの日かから聞こえるようになった自身のモノとは異なる鼓動の音。それがきちんと聞こえる。それでも何処か心細くなり、お姉ちゃんの存在を確かめるように強く抱き締めた。

 

 

その動きでアリサの不安に気が付いたお姉ちゃんはちょうど拠点に戻った事もあり、ジッパーを上げてアリサの頭を撫でだした。それで安心したアリサはお姉ちゃんが離れてほしそうにしていたので身体から離れて、コートの裾を握って歩き出したお姉ちゃんの後を追った。

 

 

お姉ちゃんと出会ってからかなりの月日が過ぎた。その月日とお姉ちゃんという存在により、アリサの心を確かに癒されていった。

 

現にアラガミが出てくるような悪夢は見なくなったし、外への恐怖心が拠点内であるならばお姉ちゃんの一部に触れていればある程度の行動が出来るようになった。

 

変わりに過去の記憶を偶に見るようになり、その度に寂しくなるが、そこはお姉ちゃんに甘える事で欲求を満たして事無きを得ている。

 

 

外に少しずつ目を向けれるようになったアリサは、お姉ちゃんが普段どれだけ自分の為に尽くしてくれているのか気が付き出した。

 

そんな余裕が出来始めたアリサの心には、お姉ちゃんの役に立ちたいという気持ちが湧き始め、同時になんでもソツなくこなすお姉ちゃんに子供が持つ、身近な年上に憧れて真似をしたい、そんな欲求も抱くようになった。

 

 

そして部屋の中であり、お姉ちゃんの一部であるブレードを使用する調理はこれらの気持ちが満たされ、偶発的に刀の扱いが上手くなるという都合がいい事ばかりだった。

 

 

そこまで頭が回っているかはさておき、アリサはコートの裾をクイックイッと引っ張ってお姉ちゃんにジェスチャーで自分が魚を捌く事を伝えた。

 

お姉ちゃんは言葉が通じないのか、こちらの言っている事を理解出来ていない。だからアリサは、このようにジェスチャーを始めた訳だが、最近はちょっとの動きで伝わる事があり、本人的に心が通っているみたいで棚から牡丹餅のような気分だった。

 

 

意図が伝わり、お姉ちゃんはあっさりとブレードをアリサに渡した。早速、見てきた通りにしてみようと思ったが案の定、かなり不格好な事になった。

 

ショボーンとするアリサにお姉ちゃんは二人羽織りの形で捌き方を教えていった。

 

 

それから数日後。お姉ちゃん程では無いにしても、及第点程度には捌けるようになったアリサ。アリサ的にはもっと二人羽織りで教えて貰いたかったが、一日だけだったのが不満な所。ただ、そうなった原因が出来てしまった自分にあり、早くお姉ちゃんに近付けて嬉しいもののどこか複雑な心境だった。

 

 

そんな才能を見せたアリサにお姉ちゃんは、アリサにでも出来るような自らの技術を伝授していった。

 

お姉ちゃんに近付けるのも然る事ながら、アリサにとっては遊びのようなものでもあった。お姉ちゃんと別の意味での触れ合い。パパとママとはあまり出来なかったそれは、今のアリサには一瞬で時間が過ぎていく程に充実していた。

 

次から次へと吸収し、自らのものへと無意識に昇華させていくアリサ。

 

 

遂には恐怖の象徴だったあのアラガミと同族のアラガミをブレードで倒せるようになっていた。お姉ちゃんと慕う人物が食べていたモノがアラガミの中にあり、喜んでもらおうとそれを掴んだ。コアを掴んだ時に痛みが走ったが、いつもの事なので特に気にする事はなかった。

そして、コアをお姉ちゃんが口に含むと左目が蒼い焔に包まれた。

 

 

「お、お姉ちゃ・・・か、顔が・・・燃え、て」

 

 

どう言った原理かは分からないが恐らく、タイミング的に自分が渡したコアが原因だとアリサはすぐに理解した。どうにかして消そうと手を伸ばしたが、手を合わせるように優しく握られた。

 

どうしたのかと焔ではなく、表情を見てみると変化は少ないものの確かに微笑んでいた。

 

 

不器用な笑顔だった。それでも、初めて見たその笑顔にアリサは目が離せなかった。

 

だが、微笑みはすぐに消え、残ったのはいつもの無表情の顔に未だに煌めくように燃える蒼い焔。まだ、さっきまでの笑顔が忘れられなくて暫く顔を見続けているとある事に気が付いた。

 

それは自分があまりお姉ちゃんの顔を見ていなかった事だ。ジェスチャーやらで意思疎通が行えるようになったが、それは身体全体であり、寧ろ無表情のお姉ちゃんの心情を悟るのに顔色を窺う事は殆ど意味が無かった。

 

だが、こうして改めて見ると人形のように綺麗な顔立ちをしており、宝石のように輝く蒼い焔がそれを一層際立たせていた。

 

熱くない炎、というのはこんな世界でも珍しいものであり、そして綺麗な物や可愛い物が好きな年頃となるアリサは興味が惹かれた。どうなっているのか気になり、焔に手を入れてみたりすると、暖かいような何も感じないような不思議な感覚だった。更に手を伸ばすとその手を掴まれた。

 

どうやら、これ以上は目だったらしく、それ故に止められたのだろう。暫くすると焔が消えた。ちょっと残念な気持ちになった。

 

焔の無い顔も綺麗でいいが、その上を知ったならそっちの方がいい。そんな気持ちでその後も狩っては食べさせてを繰り返した。

 

途中で自分も食べたらお揃いになるだろうか?と思い、コアを食べようとしたアリサだったが、お姉ちゃんに全力で止められた。不満に思ったものの、両親のように信頼するようになった人がそう言うんだから危険なのだろうと渋々諦めた。

 

 

 

 

更に月日が過ぎていった。

いつの間にか身長が伸びて大好きなコートの中に居にくくなってきた。最近では少しキツくなって胸元から顔を出してみた所、そこからの景色が気に入った。

 

乗り物なんて滅多に乗らないし、こんなスピードを出せる物自体が殆ど無い。これまでコートの中に包まっていた事を若干後悔するレベルだ。

 

そんなある日の朝。

いつも通りに魚を捕りに行こうとお姉ちゃんが魔法みたいに四輪のバイクをどこからともなく取り出し、アリサはコートの中に入ろうとするとお姉ちゃんから待ったが入った。

 

何事かと思ったアリサはお姉ちゃんの行動に驚いた。

なんと、後部座席に座らされたからだ。近頃、だいぶ精神が回復し、遠慮が無くなったアリサは勿論、抗議した。

 

 

「お姉ちゃん!確かに最近はコートの中が窮屈になった気がするけど、これはいくらなんでもあんまりじゃない!?いや、別にお姉ちゃんの中に居たいとかそんなんじゃなくてですね?ただアリサはあんなスピードで後ろなんていう危ない場所に乗ったら確実に吹き飛ばされるんじゃないかと危惧して、こうやって意義を申し立てている訳であって決して━━━━━」

 

 

だらだらと言い訳してなんとかコートの中に入ろうと言いくるめようとするアリサだったが・・・

 

 

「!・・・えへへ~♡」

 

 

コートを羽織らされてあっさり堕ちた。嬉しさのあまり前に乗るお姉ちゃんに抱き着き、頬を擦り付けると擦り付ける度に少しビクっとしている事に気が付いた。

 

それに味を占めたアリサは案外、後ろも捨てたもんじゃないなと大満足であった。

 

 

 

 

いつも通りにお姉ちゃんが食料調達しに行って、アリサがトライクと呼ばれる乗り物で暇を持て余していた。成長したアリサは今では寝る事すら無くなり、それにより新しい発見があったものの、こうして暇な時間が増えた。

 

寝ようと思ってもいつも寝れる訳ではなく、寧ろ寝過ぎて睡魔のひとつも襲って来ない程だ。アラガミを掃討したりなどの運動後は寝れるのだがいつもいつも狩っている訳では無い。

 

 

そんなアリサには目の前に絶好の玩具があった。要は魔が差したのである。アリサ本人もイケない事だと分かってはいるが、だからこそ止められない。だが、こういうのは大抵の場合、バレる。

 

 

現に思ったように出来ずに焦り出すアリサは戻って来たお姉ちゃんに見下ろされるまで気が付かなかった。お姉ちゃんの影で気が付き、冷や汗を流しながら見上げるアリサ。アリサ本人からは影が差した無表情のお姉ちゃん。

 

普通に怖かった。

 

 

「お、お姉ちゃん!?あ、いや、これは違くて・・・だから・・・えーと・・・その・・・あ、手が滑っちゃってー・・・あ、アハハ・・・ハハ・・・・・・あぅ・・・」

 

 

聡いアリサでも流石に言い訳を思い付かなかったし、そもそも嘘を吐きたく無かった。それでも今のお姉ちゃんが怖く感じたし、嫌われたくないとも思い、その結果、手が滑ったなどと分かり易過ぎる返答した訳だ。

 

そんなお姉ちゃんの反応は手をゆっくりと上げた。

 

 

「っ!」

 

 

それにアリサは眼をぎゅっと瞑って身構えたが、やって来たのは頭に乗る大好きな人の手。目を開けてみると無表情ではあるもののお姉ちゃんがどこか生暖かい眼差しでアリサを見ていた。

 

お姉ちゃんはそのまま手を退けるとアリサを膝に乗せて一から教えて見せていった。

 

 

そして特に躓く事無く乗りこなせたがお姉ちゃんが平気な顔で並走しだした事にアリサは少しだけ驚いた。が、隣で走れる喜びでどうでも良くなった。

 

その後、暇さえあればコートを着せてもらってトライクを走らせて貰えるようになり、アリサはもう訳が分からなくなるくらいに歓喜に打ち震えた。

 

 

 

 

ある日、突然お姉ちゃんに外へ連れ出されたアリサ。何事かと思い、顔色を窺うが何をするかはよく分からなかった。まぁ、付いて行けば分かるか、と思い付いて行ったがいつまでもよく分からず歩くだけ。

 

 

 

どうやら文字通り歩くだけと気付いたのは何日か後の話。意図は掴めなかったが、アリサにはいつしかこの時間が恋しくなってきていた。

 

特に何をするでもない。強いて言うならただ歩くだけ。それだけなのに、とても心が満たされた。アラガミに食い尽くされた嘗ての美しい町が輝いて見えた。今、この世界に自分たちだけだとさえ錯覚した。いつまでもこんな時間が続いてくれと終わりが近付く度に何度も願った。

 

 

その日は、ちょっと我儘を言ってもう少しだけ、ほんの少しだけ歩く事になった。まだこの時間に浸っていられると嬉しくて堪らなかった。

 

そんな時だった。左側から肉が切り裂かれるような音が聞こえたのは。嫌に時間の流れが長く感じながらも、何があったのかと振り向いた。

 

 

 

「・・・え」

 

 

 

そこには斬り離された片腕と肩口から噴水のように蒼と黒が混ざった血を吹き出すお姉ちゃんだった。

 

 

「・・・ッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

思考が現実に追い付く前に何かに吹き飛ばされ、宙に投げ出された。時間の流れが遅くなった世界で見えたのは片脚を蹴り上げたまま、あの綺麗な笑顔で何かを伝えるように口を動かしたお姉ちゃんと、それを踏み潰すいつかのあの黒いアラガミだった。

 

 

「がはっ!」

 

 

子供の軽い身体はバウンドせずに壁まで直撃し、時間の流れが元に戻ると同時に漸く止まった。

 

 

「ぁ・・・ぁあ・・・ぅぅ・・・」

 

 

すぐに助けに行こうと起き上がろうとしたが、呼吸もままならず中々起き上がれない。克服した筈のあの時の記憶が蘇ってくる。

 

這い蹲るようにしてなんとか顔を上げると、目の前の地面に転がる斬り落とされた片腕に、あのアラガミがお姉ちゃんが居た所を何度も何度も攻撃している光景だった。

 

 

「・・・え・・・あ・・・・・・ぁぁ」

 

 

視界が歪み、整い始めた呼吸が悪化しだした。いつまでも不気味な血を流し続けるその腕から目が離せない。気付けば攻撃する音が止んでいた。

 

 

あの時の光景が何度も何度も繰り返される。パパとママが喰い殺された時と状況があまりにも酷似していた。

 

 

(大丈夫。お姉ちゃんは強い。あんなアラガミなんかに・・・負ける・・・筈が・・・・・・筈、が・・・)

 

 

ない、とは自らが浴びたどう考えても致死量の血に心の中ですら言い切る事が出来なかった。それに片腕を目の前で斬り落とされたのだ。不意討ちだったとはいえ、今の状態で適うとは思えなかった。それでも、もしかしたらお姉ちゃんがやっつけたから音が止んだんじゃないのかと希望を抱いた。

 

 

だって、私よりもあんなに強いのだから。アラガミなんかに負けない。負ける筈がない!!

 

 

自分の身体が震え、心が完全に屈している事すら気が付かずに、アリサは音が止んだ方向を向いた。そして、目にしたのは━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中の鋭利な翼で吊るされたお姉ちゃんがアラガミの口へと落ちていき、その身体を噛み潰される瞬間だった。

 

 

「待っ・・・」

 

ブシャァァァァ!!

 

「・・・ッ!・・・ッ!」

 

 

待ってと口にする前にアラガミの口から蒼と黒の血が再び吹き出す。その隙間に苦しむお姉ちゃんが見え隠れする。

 

 

「ぁぁ・・・ぁぁ・・・!」

 

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度もあの時の光景が蘇ってくる。

 

まただ。また奪われた。

私が何をした。なぜ、私ばかりなのか。

少しの我儘も許してはくれないのか。

ただ、この時間が終わって欲しくない。だから、ほんの少しだけ我儘を言っただけじゃないか。

なんで・・・なんで・・・。

 

 

「!」

 

 

己の中で応えの返って来ない問い掛けを繰り返しているとふと、口から出したお姉ちゃんの上半身が起き上がろうとしている所が見えた。

 

 

まだ終わってない。まだ間に合う。

希望の光が見えた。針の穴のように小さな光。それでもアリサにとっては太陽のように明るい希望の光が。

 

 

助ける為に掴み取る為に立ち上がろうとした。

 

 

だが、脚は動かなかった。

 

 

「なん・・・で・・・」

 

 

己の脚を見下ろせば、震える脚と一緒に震える身体が見えた。ここに来て、漸くあの頃に戻ったのだと理解したアリサ。タンスの中で震えて、ただ見てるだけの弱くちっぽけな自分に戻ったのだと。

 

 

「なん・・・でよ・・・・・・お姉ちゃんが・・・お姉ちゃんがまだ助かるかもしれないのに!なんで動かないのよ!!また失うのよ!!その恐怖が分からない訳ないでしょ!忘れた訳ないでしょ!それでも!・・・それでも・・・なんで・・・動かないのよぉ」

 

 

それでもあの時の自分とは違う。もう繰り返さない、もうあんな思いをするのはごめんだとどれだけ自分を奮い立たせてもその場から一歩どころか、立つ事すら叶わなかった。

 

 

「お願い・・・動いて・・・動いてよぉ。嫌なの。もう何も失いたくないの。だから・・・だからぁ・・・」

 

 

グシャッ!

 

そして、未だに抵抗しようとしていたお姉ちゃんに遂にトドメを刺すかのように思いっ切り顎に力を入れた。

 

 

「・・・ぁ」

 

 

更に勢い良く血を吹き出し、力無く項垂れるお姉ちゃん。もう、アリサの心は限界をとうに通り越していた。

 

 

(こんな世界・・・もう・・・・・・嫌だァ)

 

 

 

 

「ん・・・ここは・・・」

 

「目が覚めたかね」

 

 

病室である少女が目を覚ました。そこへちょうど来ていた医者が声を掛けると少女はそちらへゆっくりと振り向いた。

 

 

「貴方は・・・?」

 

「私は大車。医者であり、まぁ、君の担当医だ」

 

「医・・・者・・・?」

 

「覚えてないかね?君は危険区域で倒れていた所をゴッドイーターに救出されたんだ」

 

「危険・・・区域・・・・・・危険・・・危険・・・・・・!」

 

「ど、どうした!?」

 

「パパ!ママ!ごめんなさい!違うの!!そんなつもりじゃなかったの!!」

 

「ちっ、鎮静剤が切れたか。おい!新しいのを持って来てくれ!」

 

「は、はい!」

 

 

突如、錯乱しだした少女に医者は近くに居た者に薬を持ってくるように伝えた。その後も薬が届くまで少女の錯乱は収まらず、それを止めようとした他の医者達が逆に重症を負ってしまった。

 

原因はその少女の人間とは思えない腕力によるもの。明らかに、その少女は異常だった。

 

 

「ふむ。今日、いや、当分は無理そうだな」

 

 

事態を大人しく見ていた大車はそう結論付け、病室を後にし、何処かに電話を掛け出した。

 

 

「あぁ、支部長。私です。大車です。・・・はい、その件ですが、少女の精神状態的に当分は無理そうです。暫くは治療に専念すべきかと。てはい、分かりました。・・・それでは失礼します」

 

 

電話を終えた大車は思考に耽った。

 

 

「まさか、生きていたとはな。ちょうど一年前に死んだとされた少女、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。しかも蒼と黒の液体(まみ)れで。人型のアラガミと行動を共にしていたようだが、さっきの会話でなんとなくは分かった。恐らく、めぼしい情報は彼女からは得られないだろう」

 

 

そう口にするや大車は次の患者の元へと向かった。

 

 

 

病室には鎮静剤を打たれ、眠る少女が。その小さな口からある言葉が寝言のように紡がれた。

 

 

「パパ・・・ママ・・・」

 

 

その紡がれた言葉にはあれだけ慕っていた人物を呼ぶ言葉が確かに無かった。

 

 

 

アリサ・イリーニチナ・アミエーラは、一年の時を経て救出され、そして、その一年の記憶が丸々消えていた。




・・・いや、ちゃうねん(唐突)

シリアス無しとか言ってましたけど、この世界では無理でした。
閑話って事で勘弁してくだされば幸いです。

あと、ロシア編?がほぼ終了です。
後はアラガミと戦って極東に行きます。
それはマジで4月頃になります・・・多分。


そして、アリサには記憶喪失になってもらいました。
いやだって、あれだけの体験したら、そりゃ記憶の1つや2つは無くなるでしょうって思ったので。
・・・まぁ、そっちの方が話を進めるのに都合がいいってことがあるかもしれなくもないかもですけど。
一年だけ、正確には主人公との記憶が消えたのも上と似たような理由です。
流石に完全な記憶喪失は話が思い付きませんでした。


因みに、アリサが動けなかった理由ですけど、精神的なダメージは勿論のこと、実は主人公が蹴り飛ばしたダメージも割と深刻な原因だったりするんですけど、それが明かされる事は永遠に無いでしょうね。

なんせ、当事者二人がその事に気が付いてないんですから。


さて、これからどうやって倒そうか・・・。


それでは次回も気長にお待ちください!
あ、主人公は健在ですよ?


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第9話:VSディアウス・ピター

テストが終わって、科目的に休みの日が3日くらい増えたので書き終わっいゃいました。
今回から暫く戦闘回が続くのであんまり面白くないかもです。

ディアウス・ピターが思った以上に強くなったと思ったけど、アニメやゲームを見返して似たような強さだった事にあっるぇ?ってなった。


右腕を綺麗に斬られ、俺が即行した事は幼女を逃がす事だった。追撃が来るだろうから、あの斬れ味に対して守りながらそれを躱すのはほぼ無理と判断し、幼女を蹴飛ばした。

 

焦って力の制御が上手くできず、結構強い力で蹴ってしまい、幼女の(あばら)が何本かイッた音がしたような気がする。危ないとは言え、正直すまんかった。

 

でも、これで結構距離は稼━━━げぇっ!?

 

 

安堵した瞬間に頭部から何かに潰された。十中八九、ディアウス・ピターにやられたんだろう。

 

 

ちょ、ま、がっ!・・・お、ぐふっ、おい、お前、がはっ!?

 

 

その後、一切の休む暇を与えられず、為す術も無くボコボコにされた。痛みでまともに動けなくなった頃に漸く乱打の嵐は止まったが、背中の鋭利な翼で右腰部を貫かれた。

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 

 

今まで負って来たダメージの九割以上が表面的なダメージであった為、貫かれた時の痛みは初見だ。だからなのか、耐性が無い為、叫ぼうとしても息が詰まって上手く声が出せず、テレビで叫ぶようなシーンを無音の状態で見た時みたいになってる。

 

 

ん?ついさっき腕を斬られてただろって?

そっちは痛すぎて感覚が無いっす。

 

 

そんな俺をヤツはそのまま、器用に持ち上げて己の顔の上に持ってきた。

 

 

あー、うん。何をするのか分かったわ。抵抗したいけど、身体動かすと刺さってるから悪化するんだよなぁ。だから、このままその刺した翼を傾けたりなんてされたら、その大きく開けた臭そうなお口にダイブする羽目になああああああああ!

 

 

予想通りに俺の身体はディアウス・ピターにパクっといかれた。だが、案外口が小さかったのか、胸より下辺りまでしか咥えられなかった。それでも中々に顎の力が強く、牙がある部分、つまり噛み付かれた部分から俺の血が大量に噴き出してくる。幸いだったのは、この程度の痛みなら慣れてるのでそこまで苦では無かった事だろうか。

 

そんな訳で俺が唾液の気色悪さを堪能(強制)しつつも、抵抗しようと身体をゆっくりと起き上がらせようとすると徐々に噛む力が強くなってきた。

 

 

あたたた、ちょ、ちょっとタンマ。

それ以上は流石に━━━━ゴシャッ!

 

 

流石に身体が耐え切れず、噛み付かれてる部分から嫌な音がして、血が大量に噴き出すのと同時に身体の力が抜けた。それに満足したのかディアウス・ピターは咥えた時の顔を少し上げた態勢で静止し、顎の力が弱まった。

 

どれ位そうしていただろうか。血も止まり、両者が完全に停止して一種のオブジェのようになっていた頃、俺は口の中に入っている残った左手に“★Rock Cannon”を展開した。

 

 

何を隠そう、今までやられていたのは全て演技だったのだ!演技だったのだ!!ここ、重要ね?決して、このジジイが油断してくれてマジで助かったぁ、とかそんな事は欠片も思っていないからね?

ホントダヨ?

 

 

閑話休題

 

 

ふははははははは!!

油断したなクソじじぃが!!

そのまま、その翼で止めを刺しておけばよかったものを!こちとら、この程度でやられるような軟な性能じゃねぇんだよ!このまま顔面花火でも体験してみるか!!

 

 

だが、瞬時に危険を察したディアウス・ピターは弾丸が射出される前にぺッと俺を吐き出した。吐き出され、顔から突っ込んで行った俺は地面に激突する前に“★Rock Cannon”を仕舞い、左手で地面を叩いて滞空時間を少し伸ばしつつ空中で身体を回転させ、思いっ切り地面を蹴って跳躍して屋根の上に着地した。丁度、幼女とは反対の位置で幼女、ディアウス・ピター、俺の順で直線になった。

 

 

あー、クッソォ。流石にそう簡単にはいかないか。ん?・・・うへぇ、全身唾液と血で塗れてるぅ。バッチィ、バッチィ。こんな時、液体が付着しないこの身体と服にはホントに感謝感激だよ。

 

 

今までの出来事を解説すると、咥えられた時の最後の変な音は背骨?が普通にイッた音で間違いない。では、なぜピンピンしているのか?それは単純明快。あの短時間で回復したから。いやぁ、ディアウス・ピターが顎の力を緩めてくれてホントに助かった。因みに腕の方は止血が限界らしく、幼女が持っている腕を何とか回収しないと不利なのは変わらない。

 

だが、普通に回収しに行ったらいつの間にか気絶している幼女が巻き添えを負い兼ねない。そんな訳で、作戦としてはまず俺が単独で遠い所まで逃げて、そこからトライクで全力で戻って腕を回収する。その後は、引っ付くか分からんがどうにかして腕を引っ付けて応戦だな。

 

流石にこいつ相手に幼女を抱えて逃げれる気がしない。しかも、こいつが居るって事は他にもアラガミが居たり、湧いてくる可能性が微レ存だがあるという事。故にそんなに長時間の戦闘は行えない。

 

 

・・・そう言えば、ディアウス・ピターってどこから来たのだろうか?俺には大雑把だし、距離は狭いもののオラクル細胞に関してはそれなりに索敵能力がある。それに全く引っ掛からなかったぞ?

 

 

空から降って来た事を思い出して、チラッと上に視線を送るとそこには、それはそれは高いビルがあった。

 

 

あー、マジかー。そんな感じかー。

そんな感じで来ちゃったかー。どうやって知ったのかはよく分からんが要は探索範囲外からの急接近によって、察知する事が出来なかったんだろう。他のアラガミと違って、相変わらず頭が回るアラガミだこと。

 

 

疑問を解決したと同時に騙されたと気付いて怒髪天となったディアウス・ピターが、電球を放って来た。この距離なら簡単に避けれるし、ディアウス・ピターの反応を見るにやはり、幼女に気が向く心配はなさそうなので、背を向けて全力で屋根伝いに距離を取った。

 

屋根から別の屋根に飛んだ瞬間に立っていた所の建物に電球が直撃して、建物が爆散した。崩れ去る建物にまるで気を止めずに、体当たりで吹き飛ばしながら真っ直ぐに突っ走ってくるディアウス・ピター。

 

走りながらも電球を休む暇無く撃ち続け、ただ逃げればいいだけじゃなくなった。例えば、跳んだ時にも狙って撃って来るし、着地点を予想して撃って来るしで、もうホント嫌になる。

 

 

なんとか撃ち落として回避出来ているが、距離がどんどん縮まるわ、相変わらず鬼のような形相で迫って来るわでいつ墜とされてもおかしくないこの状況。・・・ってかなんでコイツ初っ端から背中の翼出してんの?

 

ゲームだと中盤辺りからだった筈だが・・・やはり、ゲームとリアルでは違うという事か。ってウソォ!?

 

 

無数に迫ってくる電球の内、撃ち落とした電球と重なるようにして迫って来る電球に気が付けず、迎撃も間に合わずに次の足場の建物に直撃した。

 

爆風や爆煙により、着地地点が見えない中での着地。距離はなんとなく分かっていたのでなんとかなったが、爆煙を突き破って追加の電球がやってきた。

 

流石に避け切れなかったが、適当に放ったらしく、周囲に爆発するだけで直撃はしなかった。それでも爆発地点が近く、被害は中々のモノ。ただ、怪我に関してはすぐに治ったから問題無いが、爆煙が更に酷くなり、そこへ次々に電球が撃ち込まれて来た。

 

流石に何度もされると慣れるので、横へ飛んで回避しながら、爆煙が酷く姿が見えないアイツの大体の位置を感じ取って“★Rock Cannon”を四、五発撃ち込んだ。

 

弾丸が何かに着弾して爆発音と新しい爆煙を生み出す。

まるで当たっておらず、ピンピンしているのが感じ取れたのでその場でしゃがんで斜め上に“★Rock Cannon”を構える。

 

その瞬間、さっきまで頭があった所に俺を突き刺した翼が爆煙を切り裂くようにして横に薙ぎ払われた。そして、爆煙から現れたディアウス・ピターの顔面に“★Rock Cannon”の照準が合っており、迷い無く引き金を引いた。

 

弾丸は真っ直ぐにディアウス・ピターの顔面まで向かって行ったが、後方に飛んで避けられ、おまけにサマーソルトのように回転しながら電球を撃ってきた。

 

避けられるなんて前回の邂逅で分かり切っていたので、慌てず距離を取るように俺も後ろへ飛んで電球を避ける。相変わらず次々に出来る爆煙が邪魔で相手の姿が見えないが、空中移動が殆ど出来ず、オラクル細胞探知も合わさって場所は丸分かり。

 

幼女との距離も結構取れているのでここらで隙を作る為にも軽く戦闘をする事にする。なので、そこへ連射してみると妙な手応えと着弾時の爆発音がした。そして、違和感を覚える間も無く、撃ち込んだ方向と同じ所の爆煙からピンピンしているディアウス・ピターが突っ込んで来た。

 

 

え、はぁ!?その巨体であれを避けたの!?

いや待て、それはいくらなんでもおかしくない!?

 

 

いくら驚こうとも非難の声を叫んでも(心の中で)現実は変わらない。冷静さを失った訳では無いので、横へ飛んでタックルを避けられた。直後にディアウス・ピターがこちらへ振り返ると同時に背中の翼を思いっ切り横薙ぎに振るった。

 

それを身体を屈めて避けると頭上に風を斬り裂く、例えば向かい風の時のゴルフの数倍は鋭そうな音がした。あまりの斬れ味と今までで一番の速さで振るわれた事に肝が冷えるが、己を鼓舞しつつ“★Rock Cannon”で牽制しながら距離を取る。

 

 

さて皆様、突然だがお分かりだろうか?先程から俺が“★Rock Cannon”しか使ってない事に。ん?何が不味いのかって?ヒント、“★Rock Cannon”の残弾。

 

はい、あと少しで弾切れっす。撃ってばっかで近接戦してなかったから当然っちゃ当然だけどね。まぁつまり、このまま戦闘を続ける場合はあのこんにゃくを斬れるのか試してみたくなる程の斬れ味を誇る背中の翼をブンブン振り回すおじいちゃんに近接戦闘仕掛けないといけません。しかも片腕で。

 

・・・・・・何処かに小型のアラガミはいらっしゃいませんかー!?居たらコアを即抜きしてあげるんで出て来てー!

 

 

しかし、そんな都合よく居る訳もなく、ここら一体には自分と目の前の電球を撃ちながら突進してくるディアウス・ピターしか居ない。そもそも、ついさっき殲滅したばかりなので復活までのインターバルがまだある。要は自業自得である。

 

あれば仕組みはよく分からんが残弾を完全復活出来るし、パワーアップも出来るんだけどなぁ。おっとっと、危ねぇ危ねぇ。戦闘に集中しなきゃ。

 

 

電球を回避しつつ、隙を見ては残り少ない弾を撃つ。そろそろマジで心許無くなってきたので、戦闘の合間にいい加減“★Rock Cannon”を仕舞って刀を呼び出す。両手があれば、斬ったり殴ったり撃ったりするのをタイムラグ殆ど無しで出来るが、生憎、今は片腕のみ。

 

だから、相手が相手なだけにいつもみたいに両手に武器の戦闘方法は出来そうにない。まぁ、出来たとしてもコイツ相手にはあんまり効果無さそうだからいいけどな。

 

 

急に武器を変えた俺を見て若干警戒の色を出して動きが止まるディアウス・ピター。だが、それは一瞬のもので持っているソレが大した脅威でないと見るや否や電球を撃ってきながら突進して来た。

 

 

今更だけど、お前さんそれ好きやな。こちらとしては確かに鬱陶しい事この上無いけどさ、流石に飽きたわ。

 

 

何発も撃って来るとは言っても大きさ故に銃弾なんかよりも丸見えで隙間も大きいので避けやすい。その隙間を身体を捻りながら躱して行き、こちらへやって来るディアウス・ピターに向かって俺も駆ける。電球が当たらないと早々に理解したディアウス・ピターは一瞬、目を見開いたが直後に間近にまで迫った俺へ横薙ぎに翼が振るわれた。

 

 

うん、知ってた。

近付くと大抵の場合はその翼で迎撃してくる事を。そして、スピードが乗った翼の横薙ぎだと、その攻撃の直後は重ねて攻撃が出来ない、つまり隙が出来る事を。何が言いたいかって?同じ手を使い過ぎだぜ、おじいちゃん?一年ぶりだから戦闘の勘でも鈍ったのかい?

 

 

スライディングで攻撃をギリギリで躱しながら股下へと潜り、両前脚一回ずつ、腹部を横に三往復、両後脚一回ずつに斬撃をくれてやった。力の入り難い体勢なのと普通に皮膚が硬いので、大したダメージにはなっていないが、それでもそれなりの残弾は回復出来た。

 

滑り終えた先に目の前にヴァジュラ系の弱点である尻尾があったが、流石に欲張り過ぎだと考え、即座に立ち上がって身体をディアウス・ピターの方に反転させながら距離を取った。

 

直後、頭の中で警報が最大限に鳴り響き、しゃがんだ体勢から上体を地面と水平になるように寝かせた。寝かし終え、上(状態的に後ろ)を向くように顎を上げようとするのと同時に目前を赤黒い何かが轟音と共に通った。何かを判断する前に顎を完全に上に向けると視界に映ったものは、周囲の全ての建物が横一線に切断され、崩れて行く様だった。

 

冷や汗が止まらない。そんな心境。

実際には出てないが些細な問題だ。ゲームで今の状態のディアウス・ピターにぐるりとその場で回転する技がある。俺は大回転って呼んでる。多分それ。それ・・・なんだろうけどさ、強過ぎじゃね?ついでに範囲も広過ぎじゃね?あれ喰らったら確実にお陀仏になっちまうよ。

 

この身体なら、なんやかんやで二つに分かれても生きていけそうだけどさ、一撃必殺とかは卑怯だと思うんだよねー。あー、もう戦いたくねぇー。早く幼女の下に行って目一杯抱きしめたい。でも、その為にはまずコイツをなんとかしなきゃだし・・・はぁ、もう少し頑張ろ。

 

 

身体を起こすと、一回転してこちらにケツを向けたままのディアウス・ピターがゆっくりと振り向いた。その顔には怒りが振り切って逆に冷静になったような、そんな静かな怒りを宿していた。ついさっき固めた意思が早くも折れそうになる。だが、生き残る為やら幼女を守る為やらと適当に己を鼓舞してなんとか立ち直った。

 

取り敢えず、今のアレには近接を仕掛けたくはないので刀を仕舞うか。

 

刀を仕舞い、先に地を這うように電球を撃って来たので、後方に飛びながら“★Rock Cannon”を呼び出した。空中で照準を合わすと遠吠えのように吠えていた。疑問に思いながらも引き金を引こうとして、下が光っている事に気が付いた。

 

だが、そもそも空中にいるので避けるなんて事は出来ず、引き金を引く前に落雷に撃ち落とされる。そんな好機を奴が見逃す筈も無く、即座に起き上がった時には既に周囲一帯の地面が赤く光っていた。

 

一歩すら踏み出せず、視界が光に染まり、全身に衝撃と痺れが襲う。雷という特性上、衝撃は一瞬であるが痺れは継続する。今はまだピリピリする程度だが、ダメージ自体洒落になってないのであまり喰らうのは得策ではない。

 

とまぁ、このくらいの思考をするには余裕がある訳だが、状況がまったくもってよろしくないのも事実。冷静になったからだろう。攻撃の多彩性が一気に増したとみて間違いない。

 

ここに来て難易度アップとかそりゃねぇよ。

 

 

連発は無理らしく、連撃がやんだので距離は取れてた為、体勢を立て直しつつどのように攻めるかを考えていく。さっさとトライクでとんずらという案が浮かんだが、初速が遅いので却下。

 

考えが纏まる前に予備動作を始めたので、回避に専念して隙を見て反撃という結論を付けてこちらも戦闘態勢に入る。

 

 

数発のカーブする電球と直進する電球を放つディアウス・ピター。いきなりの変化球に困惑はするものの、冷静に隙間を潜り抜けて“★Rock Cannon”で本体に迎撃。

 

それをジグザグに跳んで避けられ、最後にこちらへダイブして来た。横へ飛び退くと、ディアウス・ピターが着地した所を中心に半円のドーム状の雷が現れた。

 

後一歩遅ければこちらにも被害があった攻撃は、運良く当たらずに済んだ。ディアウス・ピターは雷のドームが消える間もなくこちらへ翼を横に振るった。

 

跳躍中なので、跳んで避けるのは無理。だから身体を思いっきり捻って、ブレード状の翼の側面を下から膝蹴りして、その衝撃で身体が下に落ちてギリギリ回避。

 

が、力を込め過ぎて地面に思いっ切り叩き付けられた。

周囲が赤に染まって危機感を覚え、全力でその場から退避。雷が発生するには少しだけタイムラグがあるようで、思った以上に余裕を持って回避成功。

 

攻撃後の硬直?で動きが止まったディアウス・ピターに

“★Rock Cannon”を撃ち込むが、硬直はすぐに解けて横に跳んで回避される。そのまま、ディアウス・ピターは横に走りながら、そして放物線を描きながら距離を詰めつつ電球を撃って来た。

 

既に避け慣れたそれらを横へダッシュのように駆けて避け、“★Rock Cannon”で迎撃しつつ建物が無事なエリアへ走る。流石に瓦礫ばっかよりも建物ばかりの方が撒きやすいし、壁にもなる。

 

因みに弾丸は電球で撃ち落とされた。俺がやった事をそのまんま返されちゃった形だなこれ。

 

 

そんなこんなでなんとか住宅やらが密集してる所へやって来た。純粋な速さなら俺の方に分があった事が判明したのはよき情報だ。まぁ、微々たるものだがな。てか、あの巨体で俺と同じ速度を出すという事が分かったって事だから、寧ろ絶望的な状況を更に叩き付けられた感じだな。

 

さて、建物がある時の戦い方なんだが、屋根の上は駄目だ。走る速さは俺の方が上だが、飛ぶと速度が落ちる。最初に距離を縮められたのはこれが原因だな。それに残弾もまたやばい事になってる。さっきよりは余裕があるものの、節約するのに越した事はない。それにそろそろ戻らないと本格的に幼女がアカン。

 

そんな訳で即席で出した解決策は建物の合間合間を隠れながら駆け抜け、十分な距離を稼いでからトライクでトンズラこくってものだ。

 

 

何故初めからそうしなかったのか、自己嫌悪に浸りながら、俺は住宅街の中へと突っ込んで行った。




今更ですけど、前回の閑話の主人公が口を動かした時の台詞はごめんね、です。
副題が思い付かなかったので、セリフを副題にするというちょっとした小ネタとでも思っとってください。
因みに日本語なので幼女には伝わってない模様。

本編に関してなんですけど、ディアウス・ピターが最初に他の雷の技を使わなかったのは背中の翼が一番有効だと判断していたので、撹乱程度にしか使う意味が無いと思ったからです。
でも、冷静に考えてみればそれで麻痺させたり、ジワジワとダメージを与えた方が嬲り易いと気付き、戦法が変わった感じです。

技のインターバルや発動までの時間とかはあまり正確ではありません。
どちらかと言えば、速度は速くなってます。
理由としては、あまりにも隙だらけでこれだと、主人公があっさり倒してしまい兼ねないと思ったからです。

そして、意図せずゴッドイーター達が更に苦戦する事になってしまったが、まぁなんとかなるでしょ。


次回も気長にお待ちください!


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第10話:意外な使用方法

すみません、遅れました。
理由としては様々あるんですが、一番は戦闘シーンを書くのが飽きた事ですね。なので元々五話分くらいだったのを二話まで削りました。

・・・戦闘シーンなんて、そんなに要りませんよね?


建物をまるで気にせずに次々に壊してこちらへ直進して来るディアウス・ピター。その動きからして、こちらの位置が分かる精度は俺の上位互換のようなものだと分かった。つまり、位置が殆どバレてはいるが、完璧ではないという事。

 

何度か建物の影に隠れては壊されてを繰り返して、ある程度の爆発ならそこまで吹き飛ばないような他よりも大きめの建物の前で振り向いてこちらへ突進して来るディアウス・ピターを待ち伏せ。

 

電球を撃ちまくりながら走って来るディアウス・ピター。その電球を数発撃墜して、残ったものは後ろの建物や地面に直撃して爆発した。

 

一か所での爆発な為に撒き上がる大量の爆煙。そこへ何の迷いも無く突進してくるディアウス・ピター。

 

 

 

こちらも、ディアウス・ピター程では無いにしても索敵能力はある。突進してくる位置を計算して足と翼の間を全力で駆け抜ける。

 

思った通りに間をすり抜けられ距離を離す為に全力疾走。ディアウス・ピターは、即座に身体の向きをこちらに向けて急ブレーキしていた。

 

 

狙い通りの動きをしてくれたから敢えて言おう。

そりゃ悪手だろ、にゃんこ。

 

 

勢いを殺し切れなかったディアウス・ピターは後ろの吹き飛び切らなかった瓦礫に突っ込んで埋もれた。ダメージは無いだろうが、障害物である事に変わりはない。

今まで障害にならなかったのはスピードが出ていたから物を吹き飛ばせていた。だけど、今は自分から速度をほぼ0にした。

 

 

時間は少ないだろうが、それなりに時間稼ぎにはなっただろ。さてと、トライク呼び出して幼女の下へ急行するか。ふむ、片手でも問題は無いな。

そんじゃ、アデュー!

 

 

 

 

瞬く間に加速していくトライク。何故か分かる幼女の方向へと走らせる。埋もれたディアウス・ピターが完全に探索範囲外になった。しかし加速はするが、そこまでの最短距離が分からないし、道も直線ではない。だから120キロ程度に抑えてはいるが、焦る気持ちが抑えられない。

 

無事でいてくれと願いながら飛ばしていた時の事だった。横から飛び出して来た黒い何かに吹き飛ばされた。完全な不意打ちをもろに喰らい、トライクから投げ出されて近くの建物の壁を何度も突き破って漸く停止。同時に頭上から聞き慣れた雷の音がして、咄嗟に横へ跳び退く。

 

元の場所には人の数十倍の大きさの物体が突っ込んで来ていた。一回半の前転をし、突っ込んで来た方向に身体を向かせる。上がる煙からのっそりと出て来たのは、今まで相対していた、トライクで逃げ切った筈のディアウス・ピターだった。

 

 

・・・待ってくれ、マジでタンマ。

えっと・・・え?・・・えぇ。

なんで居んの?

お前そんなに足速く無かったじゃん。

精々が俺が走るのと同じくらいだったじゃん。

仮に直進してきたとしてもそれはおかしい。

一体、どんな手品を使った・・・ん・・・・・・だ。

 

 

ある可能性に気付いた。もしそうなら、完全に詰むであろう可能性。もう一度、件のディアウス・ピターをよく見てみる。こちらへ王のような貫禄を醸しながらも、その顔は憤怒の表情。背中から生える一対の鋭利な翼。

紛れも無くディアウス・ピター。そう、ディアウス・ピターだ。

 

俺が瓦礫に埋めて撒いたのもディアウス・ピター。今、目の前に居るのもディアウス・ピター。ディアウス・ピターはこの辺では珍しい種類のアラガミだ。この約一年間、姿すら見ていなかったから断言出来る。

 

だが、飽く迄も珍しいと言うだけで、例えば極東の支部長のヨハネス・フォン・シックザールがアラガミと同化したような、ただそれだけの個体しか居ない、と言う訳では無い。

 

オウガテイルのようにうじゃうじゃ居る訳では無いだろうが、それでもディアウス・ピターはそれなりの数の別個体が居るし、生まれてくる。それにどう見ても小さく見えるのだ。

 

だが、それはまだ可能性の話。単純に俺が見間違えているという可能性も捨てきれない。・・・本音を言えば捨てたくないという願いのようなものである事は否定しない。

 

 

そんな僅かな望みに縋るようにディアウス・ピターの攻撃を避けては反撃してを繰り返していた時の事だった。遠くの方から次々に建物をぶっ壊す音が聞こえてくる。

 

凄い速さで音は近付き、一際大きな音を上げたと思えば音が止んだ。不思議に思い、目の前のディアウス・ピターの隙を見てそちらを向いた時、目と鼻の先に見慣れた大きさのディアウス・ピターが落ちて来た。

 

 

・・・お前、それホントに好きだな(現実逃避)

 

 

反射的に地面に残弾の少ない“★Rock Cannon”を撃って身体を飛ばす。着地したのは丁度、二体のディアウス・ピターに挟まれる位置だった。

 

 

なんか、目が死んでいくのを感じる。あー、この二体から撒けと?同じ方法は元々居たデカい方には通用しなさそうだしなぁ。かと言って、何か策があるかと言われればノー。あったとしても、それは単体用であって複数に対してでは無い。・・・・・・あ、あれ使えるか?

 

 

少しの間熟考していたが、ディアウス・ピター達がそんな長々と暇を与える筈も無く、どちらからともなく突進して来た。

 

挟み撃ちでは“★Rock Cannon”は不利なのでさっさと仕舞う。その直後に射程内に入ったらしく、左右のディアウス・ピターが同時に翼を上下で並行になるように横に薙ぎ払った。

 

跳んで身体を捻り、両者の翼の隙間に身体を入れて回避。対空中に刀を呼び出して、着地と同時にディアウス・ピター(小)の足元へダッシュして斬る。

 

だが、後方に跳んで躱され、カウンター気味に電球をプレゼントされた。ディアウス・ピター(大)は既に距離を取って電球発射の準備中。

 

ならば、とディアウス・ピター(小)へ電球の下をダッシュで潜り抜けて、電球が地面へ直撃して爆発する勢いを利用してディアウス・ピター(小)へ猛スピードで接近。

 

ディアウス・ピター(小)が着地した時にはその眼前へと迫っており、刀で斬り付ける・・・事はせずに地面を思いっ切り蹴って横へ跳び退く。

 

俺が居た背後からやってくるディアウス・ピター(大)が放った数発の電球。俺が攻撃したのなら別だっただろうが、流石にこれには対処が間に合わないらしい。直撃してディアウス・ピター(小)の顔辺りで爆発が起こる。

 

案外簡単に引っ掛かるものだと思ったが、煙が晴れたそこには翼で完全にガードした無傷のディアウス・ピター(小)。

 

驚きと同時に納得がいった。視界が悪い時に“★Rock Cannon”を撃っても何事も無かったようにディアウス・ピター(大)が突進して来たのは翼でガードしたから。考えてみれば分かる事なのに自分は思った以上に間抜けだったらしい。

 

ゆっくりとディアウス・ピター(小)が翼を開いている時にディアウス・ピター(大)から、地面を蹴る音がした。振り向くと空中でこちらへ突進してくるディアウス・ピター(大)。反射的に後ろへダッシュすると、ディアウス・ピター(大)が着地すると着地地点を中心に電気の半球が出現した。幸い、今自分が後ろに跳んだ目の前が範囲だったらしく、被害は無い。

 

運が良かったので、それを有効活用するように半球が消えた瞬間にディアウス・ピター(大)に向かってダッシュして斬り付ける。

 

ギャイィンという音が響いた。手が若干痺れる感覚がする。刀はディアウス・ピター(大)の身体を斬り付ける事は叶わず、横から飛び出して来たディアウス・ピター(小)の翼に阻まれた。

 

 

ウッソー!?

お前ら守りあったりするの!?

そりゃ無いよー!

 

 

守るとはいかなくても、精々が俺の攻撃の妨害程度だろうと思っていた為に明確に守った事に驚きを隠せない。追撃は無理そうなので防御に使った翼を足場にして後ろに跳んで距離を取る。

 

その間に体勢を整える二匹。ディアウス・ピター(大)が遠吠えをし、ディアウス・ピター(小)が突撃してくる。俺を中心として地面が光り、真後ろへダッシュするとディアウス・ピター(小)が雷撃の攻撃範囲ギリギリで溜めを作り、雷撃が終わった瞬間にダイナミックお手をして来た。

 

それを横にダッシュしながら、ついでに足を斬り付ける。流石にタイミングが合わずに掠る程度だったが、OPはちょっと回復。回避と攻撃に成功したのも束の間、ダッシュ終了地点にディアウス・ピター(大)からの電球七発連続発射が襲って来た。

 

もう一度同じ方向にダッシュして、四発避けれて一発が直撃、残りは俺が吹き飛ばされたのが原因で勝手に回避出来た。前回の雷撃から時間が経っていたからか、蓄積されていた麻痺は0に戻っていたようで、少し痺れるだけで収まった。

 

起き上がった頃には案の定、ディアウス・ピター(小)が着地した所から遠吠えをし、俺の周囲が光った。ある程度の予想は着いていたので、範囲外へとダッシュで回避。

 

そこにスタンバっていたディアウス・ピター(大)が翼を振り下ろしてきたのを刀を左から右へ横に思いっ切り振るい、ギリギリ軌道をずらせた。

 

 

硬ッ!?

 

 

どうやら、刀は切断する事もされる事も出来ず、互いの刃を弾いただけで終わり、無い腕辺りを刃が通った。それに速度的にあまり弾けず、足下スレスレの地面を切り裂きながらその周囲の地面も衝撃で弾け飛んだ。

 

割と決めるつもりだったのか、ディアウス・ピター(大)が隙だらけだったので、反動で上手く動かせない手に握っている刀を収納。同時に残った地面を蹴って、ディアウス・ピター(大)へ突進し顔面を蹴り抜いた。

 

 

うっし!やっといいのが入ったぁ!まぁ、首を横に曲げて若干避けられたので、俺から見て左端辺りしか蹴り抜けなかったけど・・・。

 

 

蹴り抜けた跡は結合崩壊時のように、赤ピンクのような肉?が少し見える。蹴り抜いた拍子に怯んだディアウス・ピター(大)。追撃を加えようとしたが、後ろからディアウス・ピター(小)が襲い掛かって来たので追撃出来ずに距離を取った。

 

 

横に並んでこちらを睨む二匹。刀を呼び戻して、握り締める。ディアウス・ピター(大)が翼を構えて、ディアウス・ピター(小)がこちらへ跳躍してきた。

 

 

ッ!

ここ範囲内か!?

 

 

身体を屈めて頭の上を通り抜ける翼を回避。続いて、ダイナミックお手をしようと突っ込んで来たディアウス・ピター(小)の下をダッシュで抜け、そのままディアウス・ピター(大)へ猛ダッシュ。

 

迎え撃つかのように翼をもう一度構えるディアウス・ピター(大)。着地と同時にこちらへ振り向き、翼を構えたまま追い掛けて来るディアウス・ピター(小)。

 

 

ある程度の距離が縮まり、ディアウス・ピター(大)の範囲内辺りに入ると、後ろのディアウス・ピター(小)が跳躍した。その後に待ってましたと言わんばかりに振るう翼。

 

無論、急ブレーキしながら、しゃがんで回避。同時に刀を手放し、先に得物を左手に出現させてから刀を仕舞う。頭上を通り過ぎて行った直後に続いて跳んだディアウス・ピター(小)が上空で翼を構えながら降って来る。と、その前に手にしていた得物を振るい、何かが横に放物線を描きながらディアウス・ピター(小)へと飛んで行くが、それは当たること無く、飛来物を無視しているディアウス・ピター(小)の股の下を通り過ぎて行った。

 

気にする事無く、翼を振り下ろそうとするディアウス・ピター(小)。そして、こちらが本命なのだろう。回転し終え、もう一度、翼を構えるディアウス・ピター(大)。仮にこのままディアウス・ピター(小)が落ちて来ても翼しかディアウス・ピター(大)の射程範囲内に入らない。今までの戦闘から、恐らくダッシュで避けるか刀で弾くかのどちらかしか出来ないと踏んだのだろう。

 

まぁ、そう思ったのはこれまでこちらも何度も似たような攻め方を見せられ体験したからだ。だから、それを利用させてもらうとしよう。

 

 

得物を持っている手を引くと、飛んで行った物の軌道が急激に変わり、それに繋がっていた蒼い糸が前足に引っ掛かって飛んで行った物は高速で足を何度も回転した。

 

そして、左手に持っている釣り竿(・・・)のリールを固定して、身体を捻りながら左膝を突いて、そこを起点に全身の回転を使ってフルパワーで左後ろに引っ張る。

 

ずっしりとした大型のトラックに荷物を敷き詰めたかのような重さが襲ってくる。それでも、空中で攻撃の直前という事もあり、ディアウス・ピター(小)が抵抗出来ずにいるのが幸いしたのか、ディアウス・ピター(小)はディアウス・ピター(大)の射程範囲内に頭から地面へ突っ込んで行った。

 

そして、頭上を通り過ぎて行くディアウス・ピター(大)の翼。前足辺りから下半身が丸々綺麗にお別れしたディアウス・ピター(小)。

 

 

よっしゃあああああ!!

グボロ・グボロで鍛えた一本釣り!

こんな形で役に立つとは思わなかった!!

 

 

コアを摘出しに行こうとしたが、ディアウス・ピター(大)からのまさかの二連続大回転が来て、頭上ギリギリを翼が再び通り過ぎて、頭が冷える。

 

 

予定変更。

まずはコイツをこの死体から遠ざける所から。

・・・俺が普通にこの場から去るか。

 

 

まだ息がある可能性があったので、ディアウス・ピター(小)を迂回して、兎に角、距離を取りまくる。案の定、電球を放ちながら追い掛けて来るディアウス・ピター(大)。仲間が殺された動揺なんてものは欠片も無いようだ。本当、可愛げのないアラガミだこと。

 

釣り竿を仕舞って、刀を呼び出す。

 

十数秒程、全力で走った地点辺りで方向転換。途中で偶々、壊れたトライクも発見したので回収。そして相も変わらず、電球をバンバン撃ちながら突っ走って来るディアウス・ピター(大)。大雑把に電球を避けながら、真正面からこちらも突っ走る。

 

ディアウス・ピター(大)が別の攻撃動作をした瞬間に思いっ切り刀をぶん投げる。黒い円盤に見える程に顔面に向かって高速で回転する刀。それを咄嗟に翼でガードし、刀は横に弾かれる。そして刀を追うように跳んでキャッチ&ダッシュ。

 

空中で仕舞い、“★Rock Cannon”を呼び出して、地面に残りの数発を全弾撃ち込む。巨大な爆煙やらなんやらが上がるが、数秒後にディアウス・ピターはその煙の中から飛び出して来て追い掛けて来た。

 

だが、数秒もあれば充分。

“★Rock Cannon”を戻して刀を呼び出す。

 

後は全力で死体の所まで突っ走るだけ。

 

 

すぐに見えて来た死体。尚も続く背後からの電球を気にしつつも、上半身をヴァジュラのコアの位置と同じ辺りに目星を付けて斬り刻もうとした瞬間に足下に電球が直撃して死体の肉片がそこら中に飛び散り、コアが飛んで行くのも見えた。

 

咄嗟に手を伸ばすと同時に次々に電球が撃ち込まれ、辺り一帯に爆発が連鎖的に引き起こされた。

 

 

 

 

炊き上がる爆煙。

滅多打ちに滅多打ちを重ねて、それでも警戒を緩めないディアウス・ピター(大)。何故なら、分かっているから。今まで相対していたあの憎き者が、急激にその存在感を増して爆煙の中に佇んでいるのを。

 

そこへ再び、様子見のように電球を数発程放つ。

 

電球が通る道を中心に爆煙が払い退けられて行く。そして、感じる位置へ電球が到着すると同時に全ての電球の軌道がズラされたのが分かった。

 

 

電球による離れた位置での爆発により、爆風で煙が晴れていく。その中心には、左眼から蒼い焔を放ちながら無傷で黒刀を左に振るった状態で佇み、こちらを見据える少女がいた。

 

 

 

 

復ッ活ッッ!!

 

腕は治らなかったけど・・・。

刀を手放しながら収納。そして取り敢えず、感知で一番強い反応がした所に手を伸ばしたらコアを何とか取れて、急いで丸呑み、そして強化&全回復(腕以外)。その後、爆煙が上がる中でやって来た電球を呼び出した刀の側面に沿わせて軌道をズラす。

 

実はこれ、格好良いと思ってヴァジュラで何度も練習した小技なんだが、強化状態じゃないと成功率が雀の涙程だったから、今まで封印していた。

 

 

さて、と。

一匹倒せたのはいいが、そろそろマジで幼女が危険。この戦闘音で目を覚ましてくれていれば、逃げる程度なら出来るだろうが、ディアウス・ピターが二匹出て来た以上、更に強い奴が出てくるかもしれないのでそう楽観視もしていられない。

 

うーん・・・でも折角だし、やっぱ先に強化された今の内にディアウス・ピターを倒そう。よくよく考えれば、トライクが使えない現状、幼女を抱えて逃げる事になるだろうし、そうなれば危険な事に変わりは無い。今現在も危険に晒されてるかもしれんが、すまないが持ち堪えてくれ。

 

出来る限りさっさと終わらせるから。




ディアウス・ピター(小)、登場してすぐに死亡。
理由としてはディアウス・ピター(小)が普通よりも少し弱個体であったから。
つまり、弱個体と強個体の凸凹コンビということ(だからなんだ)

釣り竿に関しては、マジでどうやって倒すかを戦闘シーンを書きながら思い付いた物です。
単純な力とかではなく、策で倒したのでいろいろと丁度いいかなと思いました。
まさか、こんな形で役に立つとは作者も思いませんでした。

それから、なんかいろいろとお粗末な気がしますがスルーして下さい。
早く、対ディアウス・ピターを終わらせたいんです。
本当にすみません。

次回は幼女が出て来ます。
それから、ディアウス・ピター戦が終わると思います。


次回も気長にお待ちください!



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第11話:極東は魔境

戦闘はさっさと終わります。
その後は極東に行きます。

後半は台本形式とダイジェストが混ざったようなものになってしまいました。
苦手な方はすみません。

後、少しキャラ崩壊します。


幾重にも刃を交わせ、互いにかすり傷が増える。まぁ、俺の方は怪我をした端から回復してるけどね。その為のOPも少し減ってはいるけど、斬る度に粗方回復してる。

 

傍から見たらどう見ても俺の方が優勢ではあるが、早急に倒さなければならないのでそうでもない。はっきり言って、このまま行けばジリ貧となり、時間切れで俺が負ける確率が格段に上がる。

 

今の強化された状態で、やっと互角か少し上回れるレベル。詳しく言うと回避回避回避回避攻撃回避だったのが、回避攻撃回避攻撃みたいになった。武器の斬れ味やらが上がる訳では無いので、翼には相変わらず弾かれる。

 

電球は基本的に刀で逸らして何とかなるから脅威にはならないと思ってたら、学習したのか足下などの逸らし難かったり、逸らしようが無い所に撃って来るようになった。

 

しかも、それを完全に囮として使い始めやがったから、更に面倒になった気がする。

 

 

そんな事を考えながら、電球を捌いたり避けたり、翼を受け流してその側面を利用して居合斬りみたいなのをしてみたりと頑張ってはいるが、有効打になるのは未だに与えられず。

 

焦りで行動が単調になったのか、翼の横一線を掻い潜ってカウンターを決め込もうとしたら、翼を振るった力を利用してのタックルで吹き飛ばされた。建物を幾つか突き破っての漸く停止。怪我は大した事ないし、すぐに治ったので問題は無いが、それとは全く別の問題が発生した。

 

 

えっ、幼女!?と・・・ゴッドイーター!?

 

 

気付かない内に結構な距離を移動していたらしく、なんと吹き飛ばされた先のすぐ近くに俺の返り血を浴びて蒼黒くなった幼女とそれを運ぼうとしている数人のゴッドイーターが居た。付近に落ちていた俺の腕は既に内一人が手にしている。

 

突然、現れた俺に困惑しているようだが、手が空いている二人がこちらへ即座に武器を構えていた。俺の右腕を持っている奴は腕とこちらを交互に見回している。

 

そんな中、俺は普通に困惑していたが、突如自身が飛んで来た方向から、砂煙を掻き分けて電球が幾つか飛び出して来た。慌てて、幼女達に当たらないように逸らそうとしたものの、着弾地点が近く、爆風の巻き添えになってしまった。

 

とは言っても精々風に煽られた程度だったので、幼女達も大丈夫だろうと判断し、急いで幼女達から遠ざかるように飛び退く。同時に居た場所にディアウス・ピターがダイナミックお手をして来たと思ったら、着地時に向きを変える動きを利用して翼を振るって来た。

 

回避は間に合わないので受け止めようとした瞬間、時間切れとなり、左眼の焔が消えた。そして、襲って来る虚脱感。その所為で、翼と刀の接触時に押し負け、刀が宙を舞い、俺自身は仰け反ってしまった。

 

更にディアウス・ピターの猛攻は終わらず、気付いた時には振り切った翼とは逆の翼で大回転の構えを取っていた。

 

俺はこのまま地面に倒れれば回避出来るものの、恐らく幼女達が射程範囲に入っていてる。その考えに至った瞬間、強引に身体を捻って前転しながら飛び上がり、宙を舞っている刀の(かしら)を踵で蹴り抜いた。

 

刀は切先をディアウス・ピターに向けて一直線に飛んで行き、人間で言う所の左の肩甲骨辺りに突き刺さった。

 

流石に大きく怯むディアウス・ピター。その隙にトライクを呼び出して幼女達とは逆向きに発進。後ろを振り向けば、電球をぶっ放しながら激走して来るディアウス・ピターに既に姿が見えなくなったゴッドイーターと幼女。

 

それに安堵しながらも、ディアウス・ピターとのライディングデュエルに挑んだ。

 

 

 

 

結果、無事逃げれました!

簡単に説明すると障害物があったり、片手運転だった事もあり、安全運転で妨害も出来ない状態。だから、上手く距離を稼げないまま気付けば海岸まで走っていた。いっその事、もう突っ込んじゃえと海にそのままダイブして海底に逃走。ディアウス・ピターも最初は海底に追って来ていたものの、死ななくとも動きはかなり制限されるらしく、簡単に撒けた。

 

このまま戻ってまた遭遇したら面倒なのでそのまま直進して、辿り着いた陸地が現在地。途中でグボロ・グボロが襲って来たけど、その時はトライクを止めて、刀が無くなったのでフロントカウルを片方だけ取り外して応戦した。重さ的には問題無かったけど、海の中だと面積的に抵抗が大きかった。

 

このフロントカウル、刀としても銃としても使えるから戦闘時は便利なんだけど、トライクの付属品的な立ち位置らしく、トライクを出し続けていないといけないのが難点。

 

まぁ、無いよりはマシ。

 

 

何があったかについてはこんな感じかな。あ、幼女はもうゴッドイーター達に任せるって方針で決定。今更、戻ってもいろいろと手遅れだろうしな。ただ、方角は分かるから生きているとは思う。方角が分かると言えば、ディアウス・ピターの方角も何故か分かるようになった。

 

原因を考えて思い至った事があったので、釣り竿をその辺に放り投げて距離を取ってみると方角が追加された。

この事から、武器の位置からディアウス・ピターの方角を認知出来ているって事が分かる。でも、そうなると幼女は何故かって事になるんだけど・・・特に持たせたりはしてないよな。まぁいいか。

分かるからって不便な事は無いしな。

 

刀が無くなったのはかなりの痛手だが、その内取り返せばいいだろう。そう簡単に壊れるような代物でも無いし。

 

・・・・・・あ、“★Rock Cannon”をランス状に出来るの忘れてた。・・・ま、まぁ、いいや。うん、これから忘れずに使用していけばいいだけだし。

 

 

さて、新大陸?にやって来た訳ですけども、これから何しようか?うーん、取り敢えずその辺をトライクで爆走してみようか。

 

 

 

 

ちょちょちょ!!

多い多い!

どんだけ居るんだお前ら(アラガミ)

 

 

暫く走ってみたが、廃墟だったり荒野だったりで、何の面白みも無いなぁと思いながら途中からボーッと走ってると気付けば数十匹の小型・中型種に追われていた。

 

そこから始まる第二回ライディングデュエル。運転技術向上の丁度いい練習相手になると思って乗車しながら応戦してみたものの、殺っても殺っても減る気配がしない。

面倒臭くなってトライクで突っ込んで薙ぎ倒そうとしたが、数匹吹っ飛ばした所でバランスを崩して横転。起き上がれば四方八方をアラガミに囲まれてる状態。横着をすると禄な事が無いって身に染みたよ。

 

 

んで、適当に近場にいた奴に飛び掛かって手と足で引き裂いてコアを奪取。そこから怒涛の勢いで“★Rock Cannon”をランスや銃にして振り回したり足技使ったりして薙ぎ倒しては、また途中で引き裂いてコアを奪取して殲滅。ランスでも弾を補充出来たのは助かった。

 

まぁ、マジで数が減らないので途中から作業感覚でしてると痛い目見たりしたけど(俺って学習能力、無いのかな)、気付けば半分程倒していた。

 

そんな時だった。別方向からアラガミを引き裂く音が聞こえて来たのは。かなり激しい・・・と言うよりも速い、かな?気になったのでそちらのアラガミを倒しながら向かってみると、大量の血飛沫が舞っているのが見えた。

 

誰かが倒してるのだろう。まぁ、ゴッドイーターだろうけど。さて、となるとどうしようか。ゴッドイーターとは敵対関係(一方的)なんだよなぁ。しかも俺、アラガミ(推定)だし。

 

あ、でも第一部隊みたいな連中だとシオと仲良くなれたから俺でも行ける・・・言葉、通じるかな。やっべ、超不安になって来た。日本語なんて贅沢な事は言わない!

責めて、英語にしてくれ!ペラペラって訳じゃないけど、聞き取るのは得意な方だから!って、なんで出会う前提で話進めてるんだろうか?

 

・・・まぁ、取り敢えず会ってみるか。

 

 

その後もバッサバッサと敵を薙ぎ倒し、こちらを向いていた二匹の内の片方のオウガテイルを“★Rock Cannon"ランスver.で吹き飛ばすと同時にもう一匹も向かいからやって来た人影に吹き飛ばされた。

 

互いに武器を振り抜いた状態ですれ違い、視線を交わす。そのまま示し合わせたかのように同時に視線を外し、背中合わせのまま目の前のアラガミを殲滅していった。

 

 

・・・何今の?ねぇ何今の!?

滅茶苦茶恰好良くね!?

やっべ、興奮が全然収まんねぇ!

おら!さっさと次来いや!!

 

 

 

 

最後にこちらのアラガミをあちらに蹴飛ばして、あちらに居たアラガミと激突。そこを透かさず助っ人が諸共一刀両断して終わり。

 

ふぅ、と一息吐いて睨むような鋭い目付きでこちらを見遣る助っ人。片手で人一倍程の大きく黒い(のこぎり)のような神機を軽々と持ち上げて肩に掛ける姿から普通の人でない事は明らか。

 

その人物に対して、どう反応すればいいのか分からずに“★Rock Cannon"を地面に突き立てて、敵意無いですよー、という意志を示しつつ視線を合わせる俺。

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

・・・。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

ち、沈黙が痛い。さっきから何を黙っているのかと思えば、何やら俺の身体を観察するかのように見られている気がする。なら、俺も遠慮無しに見させてもらおう。てか、もう言うね。

 

お前、もしかしなくてもソーマ?その神機といい、浅黒い肌といいどうも見てもソーマだよな。

 

実はさっきまでテンションが上がってたのは、件の助っ人がソーマじゃね?って思ってたってのもある。なんて言うか、こう、燃え上がるモノが無い?偶々やって来た助っ人が、知ってるとか格好良いなぁとか思ってた人物だったら、妙にやる気が出たりとか。

 

 

ただ、その、何て言うかさ、ソーマである事はほぼ確定してもいいと思うんだが、やけに若々しいと言うか瑞々しいと言うか、子供っぽい?まぁ兎に角、違和感があるんだよな。なんだろ?これもゲームとリアルの差って奴なのか?

 

 

「お前、何者だ?」

 

 

突然のソーマ(推定)の問い掛けに言葉が詰まった。驚いたってのもあるが、単純になんて応えればいいか分からなかった。

 

何者、か。なんて応えよう?

自分が何者なのかは俺が知りたいくらいだしなぁ。ゴッドイーターって嘘は通じないだろう。言ったら言ったでその後の嘘も面倒だし、そもそも腕輪無いし。

・・・ん?あれ?

俺、追われてるんだよな?なんで知らないの?自分で言うのもなんだけど、相当分かりやすい容姿と格好だと思うよ?

 

 

「・・・ダンマリか」

 

 

あわわ、ちょ、待って!

応える!応えるから!そんな、ちょっと悲しそうな表情しないで!あれか?お前、無視されて傷付いたのか!?案外可愛い所あるなぁ、もう!

 

つて、今はそこじゃない。えーと、俺が何者かね。

あー・・・うーん・・・あ、そうだ!

 

 

「・・・ステラ」

 

「・・・ん?」

 

「お・・・私の名前」

 

「・・・そうか。俺はソーマだ。見ての通りゴッドイーターだが、お前は何なんだ?ゴッドイーターか?腕輪はどうした?」

 

 

おぉ、やっぱりソーマだ。この重低音ボイスが凄い格好良い。てか、今更だけど久々の日本語だ!ひゃっほい!

 

にしても・・・もしかして、情報が伝わっていない?ソーマの神機を見る限り、まだシオの件が終わった訳じゃなさそうだから、人型のアラガミに対して情報統制をするのも当然と言えば当然・・・か?いや、そもそもあの後もあんまり知られていなかったような?

 

 

「お・・・私は・・・・・・アラガミ」

 

「何!?」

 

 

ちょ、待って!武器構えないで!!

そんなに殺気を飛ばして来ないで!

 

あ、あっれぇ?おっかしいなぁ?もう少し、え?は?みたいな反応すると思ったんだけどなぁ?そして、その隙に事情説明しようと考えてたんだけど・・・まさか、シオの事を知ってるとか?

 

 

「・・・アラガミ?お前がか?」

 

 

あ、流石に疑問に思ってくれたのか、少し呆けた表情になった・・・と思う。表情の機微が思った以上に少ないな。構えは解いてくれないのね。まぁ、緩んだだけでも重畳か。

 

 

「多分。お・・・私も自分が何なのか、よく分からない。・・・気付いたら、荒野に居た」

 

「・・・」

 

 

うわっ、すっごい胡散臭いモノを見るかのような顔になった。えぇ・・・いや、気持ちは分からんでもないが、嘘を吐いていない手前、どうしようもないぞ。

 

 

「・・・いろいろ言いたい事はあるが、敵対しないって事でいいんだな?」

 

「・・・それは保証する。・・・そもそも、お・・・私には人間を襲う理由が無い」

 

「・・・分かった」

 

 

ホッ、何とか敵意が無い事を信用してくれた。それにしてもいい加減、一人称が『俺』になるのをなんとかしなければ。別に『俺』じゃなければいけない理由は無いけど、個人的にこの姿で俺って言うの凄い違和感というか、忌避感のようなものがある。

 

それに一人称について言及されるのも面倒だし・・・。

 

 

「それで、ここで何があった?あそこまでの規模は見た事も聞いた事も無い」

 

 

・・・それ聞いちゃうかぁ。

聞くよねぇ。

そりゃそうだ。

 

 

「・・・トライク」

 

「ん?」

 

「トライクで走り回って・・・気付いたら、あんな事になってた」

 

「・・・」

 

 

すみません。傍迷惑な事して本当にすみません。俺もまさかあそこまで大事(おおごと)になるとは思わなかったんです。

 

 

「・・・トライク?」

 

 

そう言って辺りを見回すソーマ。

 

あ、そっか・・・まぁ、いっか。

いつかはバレるだろうし。カモーン、トライク!

 

 

そんな訳で俺の目の前に修理が完了したトライクが出現。これ、推測でしかないけど、多分コアを食べたら身体だけじゃなくて、武器とかも直るのかな?どのくらいで直るかは知らないけど少なくとも、さっきの今でここまで完璧に直る事は無いだろう。

 

 

「・・・」

 

 

あら、唖然としてる。そんな顔でも様になってるのは、なんと言うか美形の特権だよな。

 

 

「今のはなんだ?」

 

 

・・・なんなんでしょう?武器変換とか換装とか言葉は思い浮かぶけど、正解かどうか分かんないしなぁ。

 

 

「・・・よく分からない」

 

「なのに出来るのか?」

 

「・・・うん」

 

「・・・」

 

 

やめて。

そんな残念な人を見るような目で俺を見ないで。

 

 

「他に仲間は居るのか?」

 

「・・・今は居ない」

 

「・・・そうか」

 

 

ん?なして悲しそうな顔を?

・・・あ。

 

 

「・・・いや、別にそういう訳じゃ」

 

「言わなくてもいい。すまなかった」

 

 

待って。違う。

今は死んだから一人とかそんな暗い事情じゃないの。でも弁解しようにも、この話題は終わりみたいな雰囲気だし・・・うーむ、ま、いっか。

 

 

「これからどうするんだ?」

 

 

どうしよう?

この地に来た理由なんてディアウス・ピターから逃げる為だしなぁ。どうでもいいけど、文脈無さすぎじゃね?言葉が少ないからそう思うだけかな?

 

 

「・・・ソーマは・・・私をどうしたいの?」

 

 

よし、「お・・・」って言わずに出来た。さて、ソーマはなんて答えるのだろうか?捕縛するとか、連れて行くとか言われてもヨハンが居るだろう極東だと正直、いい事なんて無さそうだから全力で逃亡。

 

ここで殺すとか言われたら、死にたくないし殺したくもないので同じく逃亡。・・・結局、選択肢が逃亡しかない。

 

 

「お前と会った事は忘れる。他のゴッドイーターに出会ったら気を付けろ」

 

 

そう言い残して何処かへ去って行った。

 

 

・・・え?これ、見逃された・・・のか?

忠告までしてくれるとは、根はいい子なんだな。

 

えーと、取り敢えずこの場から俺も去るか。ソーマが居たって事はこの辺りはソーマ達ゴッドイーターの仕事範囲内なんだろうし。

 

 

 

 

トライクを走らせて新天地へ行き、数日後。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

ソーマと再会した。

 

 

「・・・なぁ」

 

「違う」

 

「・・・何がだ?」

 

「・・・あの辺りはゴッドイーターが頻繁に来ると思って移動しただけ。ここもそうなら移動する」

 

「・・・そうしてくれ」

 

「・・・ごめん」

 

 

数十日後

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

・・・また、再会した。

 

 

「・・・なぁ」

 

「違う」

 

「・・・何がだ?」

 

「今まで他の場所に居た」

 

「・・・それで?」

 

「・・・ツーリングして、気付いたらここに居た」

 

「・・・」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「・・・」

 

「待って。武器構えないで。もう二度としないから」

 

 

数日後

 

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

「待って!出会い頭に襲って来ないで!」

 

 

今回はコアを調達してたら、ソーマと遭遇してただけなんだけどなぁ。なんでソーマとリアル鬼ごっこしてるんだろう?あ、ちょっかい出して来たアラガミが細切れにされた。

 

・・・本気で逃げよう。

 

 

数ヶ月後

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

どうしてこうも遭遇するのだろうか?

 

 

「・・・追わないの?」

 

「・・・もう、面倒だ」

 

「・・・そう」

 

 

なんだろう・・・。

空気が・・・重い。

 

 

「・・・なんでだ?」

 

 

相変わらず言葉は少ないが、幼女と言葉を交わさずに意思疎通をしていた俺には問題無い。多分、何故こうも遭遇するのか聞いたのだろう。

 

 

「・・・こっちが知りたい。ただ散策してただけ」

 

「こっちは仕事だ」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・仕事、手伝おうか?」

 

「いや、いい」

 

「・・・ん」

 

 

数ヶ月後

 

 

「・・・何か釣れるのか?」

 

「グボロ・グボロ」

 

「は?」

 

「見てて・・・・・・ふっ!」

 

「・・・」

 

「ほら・・・遠い目してどうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

「・・・そう」

 

「・・・美味いのか?」

 

「コアが美味しい。癖になる」

 

「・・・痛っ」

 

「・・・人が触ったらそうなるでしょ。私に触った時もそうだったじゃん」

 

「それもそうだった」

 

(さては俺がアラガミだって忘れてたな?)

 

翌日

 

 

「・・・これ。昨日言ってた魚の刺身ver.活け造り」

 

「ん・・・ッ!?」(美味いて)

 

「・・・♪」

 

「ん・・・どうした?」

 

「いや、食べてる姿が子供らしいなぁ、と」

 

「・・・」

 

「照れ隠しに神機振るうの止めてッ」

 

 

数日後

 

 

「・・・」

 

「・・・顔に何か付いてる?」

 

「・・・いや、兄妹が居たらこんな感じなのかと思ってな」

 

「・・・」

 

「・・・どうした?」

 

「お姉ちゃんって、言ってみて」

 

「断る。それにどちらかと言えばお前が妹だろ」

 

「一回。一回だけでいいから」

 

「もう時間だ。帰る」

 

「先っぽだけでいいから!」

 

 

そんなこんなで気付けば一年程関係が続き、互いに冗談を言える仲になっていた。最初はリアル鬼ごっこなんてしてたのに、世の中どうなるか分からないものだ。

 

特に待ち合わせはしていないのに、かなりの頻度で出会う。ここ一年ずっとだ。出逢えば、これと言って何かをするでもなく、ただアラガミを狩ったり釣りをしたり魚を振舞ったりと適当に時間を潰している。

 

俺は何も考えずにその辺をフラフラしてるから偶然だとは思う。狙ったとしてもかなり凄い。

 

だが、ある日を境に急に出逢わなくなった。少し寂しくはあるものの、ソーマの実力はよく分かってるので殉職とかの心配は無い。寧ろ、今までがおかしかったのだ。

 

とは言っても、ソーマと一緒に居ただけでも時間潰しになっていたので、居ない今は物凄く暇なのだ。だから、トライクで日本一周を完走したりするくらいには暇を持て余していた。

 

しかし、完走した次の日、ソーマと出逢った。何やら連れが居る様子。

 

 

「・・・久しぶり」

 

「あぁ。今まで何してたんだ?」

 

「・・・日本一周してた」

 

「・・・・・・実は紹介したい奴が居るんだ」

 

「・・・ん」

 

 

そう言い、横に視線をズラしたソーマ。その視線の先にはブラストの神機を手にした、赤という印象を受ける格好をしてグラサンを掛けたソーマと同い年くらいの青年が居た。

 

 

ま、まさか、貴方は・・・

 

 

「君が例のアラガミらしいステラちゃんかい? ソーマから話は聞いているよ。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ。よろしく」

 

 

う、上田さん・・・だとッ!?

 

 




ソーマ&エリック参戦。
エリックは多分、こんなに早く加入してないでしょうけど、明確な時期が分からなかったのでソーマが大体、14か15の時に加入。
そして、ソーマと出逢って半年後くらいにステラと出逢ったという感じの展開にしました。

コアに関しては深く考えないで下さい。
作者自身、ほんの少しだけなら触れても問題無い程度にしか考えてないので。

本編がいい感じに締め括れた気がしたのでおまけとしてこちらを。おまけなんで文は割と適当で簡単なものになってます。見なくても大丈夫です。
キャラ崩壊あります。


おまけその1

極東支部支部長室にて


「はぁ・・・。ここ一年は多忙で疲れた。よし、久しぶりにアレを見るか」


椅子に座ってパソコンを弄るヨハネス・フォン・シックザール。少しして画面に映ったのは黒いノコギリのような神機を背負った少年だった。


(ふぅ・・・我が息子、マジ天使。あぁ、あの鋭い目付き。綺麗な浅黒い肌。アイーシャをつい重ねてしまう。だが、ソーマはソーマだ。あの子自身の良さがある。つまり、妻と子で二倍で楽しめるという訳だ。やだ、私って天才?・・・む?)


件の少年が誰かと会っていた。
容姿からして恐らく女性だろう。
いや、少女か。どこか楽しそうに会話する我が息子を見ながらヨハンの顔は険しいモノとなっていった。


(あ?なんだあの雌?人様の可愛い可愛い息子を誑かしやがって。ソーマ、そんな雌と話してはいけません。お父さん、そんな雌は認めませんよ!服装はいいが肌がダメだ。やっぱり肌は浅黒くないと・・・ん?あ、これブラック★ロックシューターか。居なくなったと思ったらこんな所に居たのか。やはり、ソーマは騙されているんだな。取り敢えず、引き離すか)


今日も支部長は元気です。


おまけその2


ロシアのとある施設にて


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


鼓膜が破れてしまう程の少女の甲高い絶叫が響き渡る。
声の発生源には身体を抱き締め、何かに耐えるように蹲る少女が居た。


(あぁ・・・またこの感覚だ。アラガミを倒した後はいつもこれだ。全身を駆け巡る痛み。何度味わっても慣れない。・・・だけど、心が満たされていくのはナゼダロウ?)


少女は今日もアラガミを喰らう。


そんな訳でおまけ終了。
あ、少女はアリサです。
時系列的にはステラが日本一周してる時くらい。
何故こうなってるのかは、追々説明出来たらなぁ、と思ってます。因みにゴッドイーターにはなってますが、実験的なものが強いので正式なゴッドイーターかと言われると、何とも言えない感じです。



支部長はなんやかんやで息子大好きだと思うんですよね。けど、決して表には出さないようなツンデレ。
好きな人はすみません。こういうヨハンを書いてみたかったんです。因みに途中でステラとソーマが逢えなかったのは支部長の仕業。絶対に出逢わないようなクエストに行かせていた。けど、再び多忙になってステラとソーマwithエリックが出逢う。

ソーマと出逢うのは本当に偶然です。
絡み方的にこれが一番楽だったから。


次回も気長にお待ちください!


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第12話:『お兄ちゃん』と『義妹』

書けた・・・。
約二ヶ月ぶりの投稿ですか。
ペンタブが欲しいと思う今日この頃。

お待たせしてすみませんでした。

少し短めです。


「君が例のアラガミらしいステラちゃんかい? ソーマから話は聞いているよ。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ。よろしく」

 

 

芝居掛かった口調で、爽やかな笑みを浮かべてそう挨拶をするエリック。慣れているのか、自然に膝を少し曲げて威圧感を感じさせない身長に調整してから、右手を差し出して来た。

 

 

「聞いてると思うけど改めて。ステラと呼んで。よろしく、エリック・・・あ」

 

「・・・あ、おいッ!」

 

 

返答ついでに握手を返そうとこちらは左手を差し出すが、よくよく考えなくても握手的にそれはおかしい。

 

それとは別にソーマが何かを思い出したかのように珍しく顔色を変えて俺の動きを止めようとした。しかし、それに対して誰一人反応出来ずにおかしな形で触れ合う俺の手とエリックの手。

 

瞬間、まるで熱い薬缶(やかん)を触った時のようにエリックが悲鳴を上げて手を引っ込めった。

 

 

()ッ!?」

 

「エリック!」

 

 

神機を落として蹲るエリックに慌てて駆け寄るソーマ。その光景を呆然として見ていた俺は漸く原因に思い至った。

 

 

しまった。

触れたらいけないんだった。

 

「ご、ごめん・・・なさい」

 

 

触れようにも触れたらいけないジレンマにどうしたら、と思って漸く発した言葉は、自分でも驚く程に弱々しい声だった。しかし、そんな事が気にならない程に今は罪悪感で胸が満たされていた。

 

 

「!・・・ゴホンッ。いや、失礼。先日、右手を怪我しているのを忘れていた。全く、素で忘れていた自分が恥ずかしいよ。もう一度、お願いしてもいいかな?」

 

「お、おいッ」

 

 

途端に立ち上がって、自然な微笑みを浮かべて、今度は左手を差し出すエリック。ソーマが制止の声を掛けるが、エリックはそんな事はお構い無しにこちらへ左手を差し出し続ける。

 

 

「え・・・で、でも」

 

「あぁ、怪我をしたのは内側だから、見た目では分かり難いけどね。それに何もしていなければ、特に問題は無いから、すっかり忘れていたって訳だ。それよりごめんね。右腕が無いのに不躾な真似をしてしまって」

 

 

そこまで言うなら、と俺も恐る恐る左手を差し出してみる。すると、エリックが手を伸ばして来てガッシリと掴まれ、握手した。

 

 

「これから宜しく。僕の事は兄のように思ってくれて構わない。なんなら、お兄ちゃんと呼んでくれ」

 

「え・・・え、あ、あぁ、うん・・・あ、いや、エリックでいい」

 

「そうか・・・」

 

 

あれ?さっき痛がってた筈だけど、それどころか何で少し残念そうにしてるんだ?

・・・あれ?

 

 

疑問はあるが、取り敢えず今回は簡単な自己紹介と少し話して解散となった。

 

ゲームだと一言二言しか台詞が無いから分からなかったけど、流石は妹の為に約束された未来と裕福な暮らしを捨ててまで、ゴッドイーターなんて命懸けの職業に身を投じただけの事はある。

 

 

ソーマとここ一年くらい関わって来て気付いた事なんだけど、俺はこの世界に来てから喋るなんて事が極端に減った。だからなのか、大体の事は頭の中で完結してどうしても口数が少なくなってしまう。

 

そんな今の俺でも楽しそうに話し掛けて来るエリックに心を開くのは少しの会話だけで十分だった。流石は初期の主人公が絆す前のあのツンドラ時代のソーマと親しい間柄になるだけの事はある。

 

近所の気の良いお兄さん感が凄かった。

 

 

 

 

「エリック、どうしてあんな真似をした」

 

「・・・あんな真似?」

 

 

つい口を滑らせて、エリックに散々問い詰められ、渋々ステラに会わせる事にしたソーマ。

 

本当はあまり会わせたくは無かった。ステラの存在は必ず厄介事に繋がる。知り合いというだけで、下手をすれば殺される危険性すらある。

 

闘病中の幼い妹を持つエリックには、唯でさえ危険なゴッドイーターという仕事をしているのに、その上そんな不要な危険まで背負って欲しくは無かった。

 

だが、予想以上に、と言うよりも分かっていた事だがエリックはかなり根気強く訪ねて来た。こんな自分に今まで嫌な顔せず付き合って来たのだ。エリックの頑固さは身に染みてよく分かっている。

 

そんなエリックを躱してはいたものの、ある時、ついに耐え切れなくなってぶん殴ってしまった時があった。我に返って慌てて謝ったが、その時のエリックはそれでも尚、折れる事は無く、したり顔でこう言って来た。

 

 

『では詫びとして、ソーマがご執心中のお姫様に会わせぶへっ』

 

 

顔面にもう一発叩き込んでしまったが、あれはエリックの方が十割ほど悪いと思っているので後ろめたさは無く、いっそ清々しかった。

 

そんなエリックに根負けしたソーマ。会わせる前に事情を話し、それでも来るかと問うた。

 

『お前の妹よりも三、四歳程年上の容姿』と言った辺りから、何故かキラキラと目を輝かせ、余計にやる気になったのは未だによく分からない。

 

因みに、エリックが情報を漏らす様な真似をするという考えをソーマは始めから持ち合わせていない。

 

ソーマのエリックへの信頼は普段の態度を見るとよく分からないが、実の父親が何らかの事件の黒幕だと証拠も無しに言われても「だろうな」と思うくらいには、厚いものだ。

 

だから、包み隠さず知っている事は全て話した。

 

勿論、触れると危険という事も。しかし、それでもエリックはステラと出会うと自ずから手を差し出して握手を求めた。ステラ自身は忘れていたのか、それに応じるように手を差し出そうとしていた。

 

 

その手だと握手出来ないだろと、心の中でツッコミをしていたソーマだがそれどころでは無いと気付き、慌てて止めに入ろうと声を掛けたが時既に遅し。二人の手が触れる瞬間にエリックが痛みで仰け反った。

 

言った筈だ。

ステラとそれに付随する物を触ると激痛が走る、と。エリックは見た目は巫山戯ているが、聡明な方だ。仮に忘れていたとしてもその後に再び握手を求め、少しの間握り続けたのはソーマにとって理解不能だった。

 

それでもエリックなりに何か考えがあるのだろうと思い、ステラの前で問い詰める事は止めたが、それでも気になるものは気になる。

 

ステラに会った帰りがアラガミも周囲に居おらず、絶好の機会だったので問い詰めた。何処か怒気を含んでいたのは自身も少し驚いた。

 

 

「何故、アイツに」

 

「不用意に触れたのか、かい?」

 

「!?・・・そうだ」

 

「・・・ククッ」

 

 

尋ねようとした事を言い当てられ、面食らうソーマ。それでも何とか肯定の意を伝えると、エリックが唐突に嬉しそうに笑い出した。こちらは心配しているのに、本人はどこ吹く風。それがソーマを余計に苛立たせた。

 

 

「・・・何がおかしい」

 

「いや、何だかんだ言って、優しいんだなと、そう思っただけだよ。僕の身を案じて心配してくれているんだろ?ありがとう」

 

「なッ・・・巫山戯るな!こっちは真剣に」

 

「茶化してるつもりじゃないさ。それでも少し前のソーマが今の君を見るとどんな顔をするのか、少し興味が湧いて来た」

 

「おい、エリック!」

 

 

もしかして、話を逸らそうとしているのでは?と、疑ったソーマ。普段なら気付いても元に戻そうとはしないソーマだが、今回は内容が内容なだけに、そうもいかず声を荒らげてしまった。

 

決して、照れ隠しなどでは無い。

 

 

「分かった分かった。ちゃんと説明するよ」

 

「・・・ちっ」

 

「あんな事、か。ソーマ、僕に妹が居るのは知っているだろ?」

 

 

何を今更、と訝しんだソーマの顔は唯でさえ鋭い目付きが更に酷いものとなったが、それでも慣れていると言わんばかりにエリックは話を続けた。

 

 

「単純な話、妹の面影を重ねてしまっただけさ」

 

「・・・は?」

 

 

エリックの妹を見た事は無い。それでも重ねる程に容姿が似ているとは、エリックの容姿から見て到底思えない。二段構えで騙そうとしているのか、と疑ったがどうやらそうでもないらしい。

 

 

「別に容姿が似てるとか、そんな理由じゃないよ。容姿は全然似てない。僕が恥ずかしくも最初に痛がっただろ?その時の彼女の顔がどうにも、ね。いつかの妹を思い出したのさ。エリナの奴が一人で入院する事になった時に・・・同じ顔をしてた」

 

「・・・」

 

 

あまり人の心を理解する事が出来ないソーマだが、何となく分かった。

 

一人心細く、寂しそうな妹と同じ顔をした、してしまったステラを否定してまえば、ソレはエリックにとっては妹を突き放すのと同義なのだろう。

 

それが例え、妹とも自身とも何の関係も無い赤の他人だとしても。人ですら無かったとしても。エリックは手を伸ばし続けるのだろう。

 

 

これが家族か、と何処か自分でも分からない部分で情景の念が灯るソーマ。

 

 

「・・・だとしても、あまり無闇矢鱈な接触はよせ。何が原因なのか分からない現状でお前が実験体になる必要性は何処にも無い。お前の身体はお前だけのモノでは無いんだ」

 

「え・・・あ、あぁ」

 

「・・・どうした?」

 

「いや、今日はエラく話すな、と思って・・・そう言えば、偶にこんな時があったな。・・・成る程、その時はステラちゃんに会った帰りだったって事か。クッ、つまりはまだステラちゃんの方がソーマの中では好感度が上って事グァハッ!?」

 

「無駄口叩いてねぇでさっさと戻るぞ。これ以上は怪しまれる」

 

「な、何も、神機で殴らなくても・・・」

 

 

その後、二人は特に問題も無くアナグラへと帰還を果たした。

 

 

 

 

たった一言の台詞に対して絶大な人気を誇る上田さんこと、エリックとの初邂逅を果たして数日後。トライクの上で横になり、夜空に浮かぶ月を眺めているとある事を思い出した。

 

 

そう言えば、シオって何処に居るんだろうか?

 

 

過去に日本列島を一周してみたが、それらしき影が欠片も見付からなかった。もしかして、今はまだ誕生していないのだろうか?それとも内陸部の方に居るのか。

 

 

まぁ、 その内出会うだろう。

 

 

最終的にはそんな楽観的な結論で落ち着いたが、別に根拠が無い訳では無い。名称は忘れたが、リンドウがディアウス・ピターに襲われるあの廃都のような場所。

 

何処かは粗方目星が付いているので、ソーマの世間話から時系列を推察してタイミング良くいけばリンドウを助けたシオと出会えるだろう。

 

 

・・・ん?リンドウってシオにディアウス・ピターから助けてもらったんだよな?ディアウス・ピターから逃げた先にシオが居たってオチじゃないよな?

 

んー、ま、なるようになるか。会えなかったら会えなかったで、別にいいんだけどね。動機は好奇心だし。

 

 

さて、そろそろ寝るか。あ、幼女、今は何してるんだろ?方向が頻繁に変わるから、生きてはいるんだろうけど、本当に何してるんだ?

 

まさか、ゴッドイーターになってたりして。・・・有り得なくも無い、か。

 

それなりに実力はあるからあまり心配では無いけど、あの歳で早くも戦場か。本当、とんでもない世界だよなー。

 

 

 

 

「キヒッ・・・ヒヒヒ」

 

 

正常では無い。

一目で分かるそんな精神状態の少女が右手に神機と思われる武器を持ち、廃都に居た。周囲には無数の動かなくなったアラガミ・・・がズタズタに引き裂かれ、身体の大部分を失い最早、原型を留めていないナニかと成り果てていた。

 

目を濁らせ、全身を真っ赤な血に染め、俯いて不気味な笑い声を上げる少女の前には他に比べてまだ綺麗な小型アラガミの死体。神機を捕食形態にすると、身体の大部分ごとコアを抉り取った。

 

神機が完全に捕食を完了した直後、少女が唐突にその場に蹲った。

 

 

「ギッ・・・!ぁ、ぁ゙ぁ・・・アアぁぁぁああ゛ア゛!! アアぁぁぁあああアァァぁあ゛あ゛ア゛!!」

 

 

痛みからか、抑えが利かない程のまるで人ならざる者の絶叫を上げるそのおぞましい声は、次第に笑い声へと変わっていった。

 

 

「ぁぁあ゛ア゛ぁぁ・・・くくっ・・・くはっ・・・はは、キャハハハハハ!!」

 

 

その声に導かれたのか、朽ちた建造物の隙間から新しいオウガテイル達が顔を出す。それでもお構い無しに笑い続ける少女に四方から次々に飛び掛かるオウガテイル達。

 

しかし、迫り来る牙は針は少女に当たる事無く空を切り、血飛沫を上げたのは襲い掛かったオウガテイル達の方だった。

 

山積みにされたオウガテイルを捕食形態で一気に喰らい、再び蹲る少女。先程とは比べ物にならないのか、神機を手放し、蹲った状態から飛び跳ねるように海老反りとなって声にならない絶叫を上げていた。

 

しかし、必然的に空を見上げる形となったその顔には狂気的ではあるものの、確かに笑顔が浮かんでいた。

 

 

「キヒッ、ヒヒ・・・キヒヒッ・・・」

 

 

次第に治まっていく激痛から開放されると、再び不気味な笑い声を上げる少女。

 

 

「・・・もっと・・・」

 

 

両手をその豊満な胸に当て、()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じる少女。以前よりも大きく聞こえるようになったそれに、少女の心は満たされていく。

 

 

「もっと・・・アラガミ・・・」

 

 

誰の魂動なのかは分からない。知っている筈だが思い出せない。それでもソレを聞いているだけで心は温まり、自身に立ち上がる力をくれる。弱く脆く臆病な自分の精神を守ってくれる、大切なナニか。

 

 

「もっと・・・もっと・・・まだ・・・足りない・・・」

 

 

それをいつまでも聞いていたい。その為なら、痛みなんか何も怖くない。戦う事なんて喜んでやろう。

 

自分は一人じゃないと、分かってるから。

 

「キヒッ・・・ヒヒヒ・・・ヒヒッ・・・いただき・・・ます・・・♡」

 

 

だから今日もアラガミを喰らう。




遅れた理由として、別の書いていたり、イラストの練習してたり、ゲームしてたりと色々理由があるんですけど、主な理由はネタ切れです。

大まかな道筋とか展開とかは出来てるんですけど、そこに辿り着くまでのネタが枯渇してました。

そんな訳で、これからも陥りそうな案件という事もあり、活動報告にてネタの募集をしたいと思います。
詳しくは活動報告の方に書いておきます。
苦肉の策ではあるんですけど、投稿が停滞するよりマシかなと思ってこうしました。

あと、最後の少女はアリサです。
因みにまだロシアに居ます。
原作と違い、もう実戦経験済みです。

・・・原作の方ってロシアでは訓練だけでしたよね?
あれ、でもオレーシャは作戦中に死んだから・・・ん?この辺はどうなんでしょう?
間違ってたらすみません。

ゲームの方では実戦は初めてみたいな会話を聞いた覚えがあったので、もしかしたら勘違いかもしれません。


今更なんですけど、エリックの口調変じゃないですかね?ここはこっちの方がよくね?みたいな意見があったらドンドンお願いします。
正直、たったのワンシーンだけで性格の大部分を理解出来る程、作者は精神分析には長けてませんので。

副題はエリナの『お兄ちゃん』であるエリックとステラと『姉妹のような関係』であるアリサ、という意味です。


次回も気長にお待ち下さい!



(2019/06/17)

右腕が無いのに右手で握手してました。
その辺りを辻褄が合うように変更しました。
ここがおかしい、なんて部分があればご報告下さい。
ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。


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第13話:千羽鶴

思ったよりも早く書けた。
序盤に申し訳程度の戦闘シーンを書きました。

飛ばしても問題は無いです。


俺の周囲に居るのは我らがシユウ先生。

しゅうい、だけに。

 

・・・・・・。

 

 

正確には四体のシユウに囲まれ、四体同時に手首(翼)をクイックイッとして挑発してくる。分かり難いので、正面をA、右をB、左をC、後ろをDとしよう。

 

俺に対してだけ、何の警告も無しに襲い掛かって来るアラガミの中でも珍しい部類であり、その事に気付いた当初は驚いたものだ。

 

そんな俺は武器を持たず、無造作に中心に突っ立ったまま。それに業を煮やしたのか、はたまた別の理由か、四体がこれまた同時に動き出した。

 

正面に居るシユウAが一瞬で間合いを詰め、右翼にエネルギーを纏って横に薙ぎ払ってくる。それを右翼の下をダッシュで潜り抜ける事で回避。

 

着地時に身体を捻って横腹へと正拳突きを放とうとしたが、シユウAが右翼の脇下からエネルギー弾を形成している左翼をこちらに狙いを定めていた。気功波を放ってメカフリーザを消し飛ばしたトランクスを連想してしまったのはここだけの話。

 

踏み込もうとした右足でシユウAの後ろ側に飛んで強引に回避。案の定、居た所に小型のエネルギー弾が通過し、少し離れた所で爆発した。

 

隙だらけのシユウAの背中を取ろうとしたが、シユウAの両サイドからカーブするエネルギー弾が来たのでバックステップで回避し、エネルギー弾は互いに衝突して爆発した。

 

その爆煙の中からシユウAと続くようにシユウDが低空飛行で出て来た。だが、この技は反撃のチャンスなので、再びシユウAの右翼に潜り込んで横腹をぶん殴って、反動で振り上げた左足を折り曲げてそのままシユウDの顔面を蹴り抜く。

 

吹っ飛んで行くシユウA、Dを他所に奥にはエネルギーを貯めているシユウB、Cが。あの溜め具合からして、連射エネルギー弾だろう。シユウBが予想通りに撃って来て、ワンテンポズレてシユウCが撃って来るので、弾の間をすり抜けるようにダッシュで交互に左右に飛んで気合いで避ける。

 

二体の連射が止むタイミングで正面で止まり、そのまま二体の下まで直行。それを防ごうと、前の方に居たシユウBがエネルギー付きの回転を繰り出して来るが、ジャンプして振り回してる片翼の手の部分を掴んで地面に叩き付ける。

 

この時にエネルギーの余波をちょっと喰らうけど、慣れたので気にしない気にしない。

 

着地ついでに叩き付けたシユウBの後頭部を蹴り抜いて、シユウCに意識を移すと懲りずに大玉エネルギー弾を溜めていた。撃って来る前に踏み抜いたシユウBを掴んでシユウCに向かって放り投げる。

 

シユウCが撃った時には放り投げたシユウBは既にシユウCの目の前に居り、エネルギー弾の爆発に撃ったシユウC自身が巻き込まれた。因みに既に瀕死状態だったシユウBは爆発四散して、コアまで吹き飛んだ。悲しみ。

 

爆煙の中に飛び込み、正面から爆発を受けてよろめいていたシユウCの足を払いつつ身体を回転させ、落ちて来た頭部をジャンピング膝蹴りで蹴り上げる。頭から真っ逆様に落ちて来た所をぶん殴り、頭部完全破壊。

 

 

「・・・勝利」

 

 

意味も無くVサイン。

 

正確には殆どが瀕死状態だけど、横腹を殴ったシユウAは殴った所を中心にコアごとグチャグチャになってるので直に消滅、他シユウCとDは顔面を吹き飛ばしたので同じく直に消滅するだろう。

 

何故、こんな事をしていたかと言うと、片手での近接徒手格闘戦に慣れる為。片腕とイクサ・ブレードが無く、小回りが利いて近接と中距離または長距離の攻撃が可能な武器が無い現状下ではどうしても徒手格闘の割合が増えてしまう。

 

なので格闘大好きシユウ先生を相手取ってみたんだが、これが思ったよりも難しかった。なんせチームワークが凄い上にゲームに無かった達人みたいな動きを次々にしてくるから、予想が面白い程に外れて逆に利用されて二体相手取るのも最初はキツかった。

 

まぁ、今ではゲーム知識に頼る事が殆ど無くなったから、割と普通に倒せるし、元から武器持ってれば普通に倒せるんだけどな。

 

 

 

 

時間というのは楽しかったり充実していたりする程、早く感じる。えーと・・・あ、思い出した。相対性理論ってヤツだ。

 

まぁ、何が言いたいかって言うと、エリックと出会ってからもう数ヶ月の時が過ぎた。いや、ホントついさっき気付いた事実なんだが、自分でもビックリだ。

 

数ヶ月単位で早く感じるって中々無いよな。そんな風に驚いていると、動きが止まった俺を不思議に思ったソーマが声を掛けて来た。

 

 

「おい、お前がサボるな」

 

「てん」

 

 

咎められ、考え事は後にしてまずは目の前の事に集中し直す。何をしてるかと言えば、千羽鶴を折ってる。エリック、ソーマ、俺の三人で。

 

 

発端はエリックが俺を妹に会わせたいと言い出したのが始まりだ。兄として妹の寂しさはそれなりに紛らわせてはいれるが、同性で同年代の友達が居ないというのは、兄である自分ではどうしようもないのだそうな。

 

悩んでいる所をソーマにどうしたのかと尋ねられ、容姿的にあまり歳が離れていないステラならどうだと提案したらしい。

 

という話を聞かされた俺は快く了承した。しかし、手ぶらで行って年頃の女の子と仲良くなれる程、今の俺はコミュ力に自信が無い。そもそもこの時代の子供は何が好きなのかが皆目見当がつかない。

 

そこで千羽鶴という風習を誤魔化しながら伝え、装飾としても悪くないし、妹の励ましにもなると提案してみるとエリックも乗り気になり、1000枚ちょっとの紙を用意した。

 

この時代の紙ってあまり貴重でも無いのか?と思ったが考えても仕方の無い事なのでそこはスルー。

 

 

そして折り方を教えて効率良く分担作業で黙々と折り続けているんだが、この二人の優秀さにビックリ。一回教えただけで折り方を完全に覚えたし、出来上がるのは全部綺麗な鶴達。

 

途中の休憩でもっとレパートリーが無いかとエリックに聞かれ、余りで教えれるものを全て教えたんだが、気付いたら自分で折り方考えて立体の鳥を折って来たのは度肝抜かれた。切らずに折っただけって言うんだから、余計に驚かされたものだ。華麗なんてものじゃないぞ、エリック。

 

それに対抗意識が芽生えたのか、次に出会った時にソーマが折り紙で手の平サイズの自分のあの黒い鋸型の神機を作って来た時は変な笑いが出た。その手の平神機で紙程度ならアッサリと切っていたのは意味が分からなかった。

 

 

取り敢えず、千羽鶴のインパクトが欠けるから渡す前にそれらをエリックの妹には絶対に見せるなと釘を刺しておいた。片手で綺麗な鶴をかなりのスピードで折れたなんて内心喜んでた自分が恥ずかしい。

 

 

そんなビックリ特技をそれぞれが披露しつつ、鶴は着々と数を増やして、漸く残り百羽を切った。

 

 

「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」

 

 

最初は口数は少なかったが、それでも雑談はしていた。

がしかし、流石にネタが尽きて今は本当にただ黙って折り続けるだけ。

 

途中からエリックは完成した鶴を糸で通す仕事へ移り、俺とソーマだけで鶴折りをする事となった。身体は問題無くとも、精神的にどうしても飽きがやって来るのだが、あと少しだと自分を鼓舞して気合いで乗り越える。

 

あのエリックでさえ、表情筋を死滅させて出来上がった鶴を糸に通してるのだから、そのツラさがよく分かる。一番やる気に満ち溢れていたが、妹への愛だけではどうにも足りなかったらしい。

 

しかし、気合いを入れた分、ガス欠が早くなり一番最初に華麗にリタイア。なので糸通しになったって訳だ。

 

そんなこんなで九百五十羽目が出来た時だ。効率アップの為にコアを喰らって強化状態だった俺の聴覚がとある鳴き声を聞き取った。

 

再び手が止まり、ソーマが咎めようとしたがそれよりも早くに動き出す。風圧で鶴が飛ばないように注意して、ギリギリの脚力でスタートダッシュを切る。

 

 

「もう少・・・おい、どうした!」

 

 

背後でソーマの声が聞こえるが、何か異常事態だとすぐに認識したのか、神機を担ぐ音が聞こえる。それでも速度を落とさず、寧ろ上げて目的地へと急行する。

 

少し走った所で釣り竿を呼び出して、走りながら構える。目標はすぐ目の前。

 

こちらへ向かって来る目標のコアを壊さないように身体の中心より少しズレた所を目掛けて思いっ切り突き刺す。目標は俺が強化状態だと攻撃を避けれないのは最早確認済み。

 

この釣り竿はアラガミ用だからなのかちょっとやそっとの力ではシならないし、頑丈で尖ってる。速度も合わさり、正確に真っ直ぐ突き出すと何の抵抗も無く、アッサリと目標の身体を貫いた。

 

 

「ピギィ!?」

 

 

今の断末魔で分かる方もいるだろう。

そう、目標とは『アバドン』だ。

 

ゲームではチケットを入手出来る数少ない手段の一つだったりして、乱獲しまくったものだが今回はちょっと違う。

 

アバドンは━━━美味いのだ。

もうと・に・か・く!美味いッ!!

極東に来て始めて出会って食べてみると、他のアラガミはコア以外はあまり美味しく無いが、アバドンの肉は他のアラガミのコアと同レベル、コアそのものに関しては慣れるまで暫く腰砕けになってしまった程だ。

 

序でに言えば、アバドンは逃げずに立ち向かって来るので捕獲するのも超楽。初めてアラガミに襲われる体質に感謝した。

 

現状では英気を養うに持って来いの一品だ。

 

 

「はぁ・・・おい、何があった」

 

 

これから口にしようと涎を垂らしてるとソーマが追い付いたらしく、何事かと問われたので突き刺したアバドンを見せた。

 

 

「・・・超美味しい」

 

「・・・そうか」

 

「ピ、ピギィ・・・」

 

 

なんかジト目向けられてるんですけど・・・。

まぁ、いいや。早速、食べちゃいましょう!

 

 

「あむ・・・ほむ〜♡」

 

 

あ゙〜駄目になりゅうぅぅ♡♡

 

 

「・・・幸せそうだな」

 

ひゃいこ(最高)〜♡もきゅもきゅ♡」

 

「・・・・・・そうか」(生け捕りにして丸齧り・・・)

 

 

ドン引きされてる気がするけど、気にしない気にしない。竿を回しながらコア以外を食べていき、残りは竿に刺さっている部分とコアだけとなった。

 

 

「はぐ・・・はぐはぐ・・・んく・・・はぅ♡」

 

「喰い終わったなら戻るぞ。エリックが俺たちの事に気付かず、ずっと作業してる。さっさと解放してやるぞ」

 

「ん、分かった」

 

 

さてさてさ〜て、アバドンのコアは他よりも強化する時間と割合が大きいし、さっさと終わらすか。

 

 

 

 

数分後に千羽の鶴を折り終わった。歓喜に打ち震えるかと言われると、別にそうでも無くアバドン摂取の反動でぐったりとしていた。そんな俺を介抱してくれるソーマ。

 

まさか、膝を貸してくれるとは思わなかった。ソーマもそんな気遣いが出来てしまうくらいには疲労したのだろう。自身も疲れてるだろうに、俺には休むように言って自分はエリックがやってる糸通しを手伝うなんてええ子や。

 

ちょっと硬いけど地面よりはマシなのでボーッとソーマの下からのアングルと空のセットを眺めてると顔に何かが乗って来た。

 

 

「・・・はふっ」

 

「ん?・・・すまん、ボーッとしてた」

 

「んん、大丈夫」

 

 

作業中の鶴の束だった。提案した俺が完全にリタイアしたのはかなり心苦しいが、アバドンの超強化による反動が元の疲労と合わさり凄い事になってるから、本当にまともに動けない。

 

 

あ゙ぁ゙あ゙〜ダルい〜〜

 

 

そう言えば、こうしてソーマの顔をマジマジと見るのは初めてだな。通常状態でも人間に毛が生えたくらいには視力が良いから、ソーマの肌の綺麗さがよく分かる。

顔もよく整ってるし手も指先まで綺麗だし、もしかして手入れしてんのかな?

 

それとも遺伝的な物?

ソーマの母親の・・・えー・・・あ、アイーシャだ。

アイーシャも肌はかなり綺麗そうだったし、外見的特徴もよく似てる。その辺が遺伝していてもおかしくないか・・・。

 

てん、となると父親と同じだったり似てる点ってなんだ?まず髪の色だろ、で・・・性別だろ、そんで・・・・・・・・・股間の大きさ?

 

あかんあかん、何を阿呆な事を考えてるんや。疲れがピークになってる証拠やな。考え事はしないで、今は休息に専念しよう。

 

 

 

 

「んっ・・・んんー・・・はぁ、あー・・・漸く終わりか」

 

 

千羽鶴を一纏めにやり終え、背伸びをするソーマ。少しの間、ボーッと空を眺めてから、膝上の存在を思い出した。

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 

そこには仰向けで少し首をもたげているステラが居た。

 

 

「・・・」

 

 

外見は何処からどう見ても人間の少女。実際、何も知らない奴に人間と言っても何一つとして疑われる事は無いだろう。だがしかし、正真正銘のアラガミ。

人類の天敵である。

 

 

先の光景が思い出される。普段はコアを丸呑みしているから、そこまで何かを思う事は無かった。だが、先程のアバドンと呼ばれる最近発見された謎多き希少なアラガミの生け捕りからの丸齧り。

 

本人は何も感じていないらしく、それは正しく化け物の類だった。

 

 

『化け物』

 

 

その言葉が頭を過ぎった時、ソーマの中には恐怖では無く、シンパシーのようなモノが生まれた。

 

アラガミでありながら、他のアラガミから執拗な迄に命を狙われる孤独な少女。人間どころか、同じゴッドイーター達にすら化け物、死神と恐れられ、居場所を失った少年。

 

 

無意識に膝の上の少女の頭へと右手が伸びる。

 

 

「ッ!?」

 

 

だが、触れた瞬間に電流のような激しい痛みが右手を襲い、咄嗟に引っ込めた。

 

 

(・・・何を呆けてんだ。思った以上に疲れが溜まってんのか?)

 

 

正気に戻ったソーマは、終わった事を伝える為に声を掛けて起こそうとした。だが、ある事に気が付いた。

 

 

「・・・脚が・・・痛くない?」

 

 

自身の膝の上で寝ているステラ。痛まなくなった訳では無いというのは、数秒前に検証済みだ。もう一度、念の為に指先で髪に触れてみたが、案の定、先程と同じような激しい痛みが襲った。

 

となると、パッと思い付くのは一つ。ズボンの布という名の障害物があるという事。手には指抜きのグローブをしているが、そこだけで触れても痛みはある。

 

恐らく、布の厚さの問題だろう。どれだけ隙間を無くしても、繊維の間にどうしても隙間が出来てしまう。そういう用途で開発されていないなら尚の事。

 

絶対に触れ合えない、なんて悲しい未来が解決出来るかもしれない事にソーマは安堵した。

 

 

(!?・・・安堵?安堵だと?何故、俺がそんな人間みたいな感情を・・・)

 

 

しかし、その問いの答えは出そうにない。そう悟ったソーマは再びステラを起こす事にした。

 

 

「おい、起きろ」

 

「ん・・・んぅ・・・眩しぃ・・・」

 

 

寝惚けてるのか、晴れ渡る空に浮かぶ太陽の光が目に入り、ソーマのお腹へと身体を埋めるステラ。そして、数秒後に再び籠った寝息が聞こえてきた。

 

 

「・・・寝るな」

 

 

付近にあった自身の神機の柄尻で頭を軽く叩くと、ステラは頭を抑えて声にならない悲鳴を上げながら、ゴロゴロと転げ回った。

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!!?!?」

 

 

そんなステラを他所に溜め息を一つ吐きながら、立ち上がるソーマ。首の骨を鳴らしたりと身体を解していると、先程からエリックがやたら静かな事に気が付いた。

 

 

エリックが作業していた方を見るとそこには、虚ろな目で虚空に何かあるかのように手を動かすエリックが居た。

 

 

「エリック・・・おい、エリックッ!」

 

「ッ!?・・・な、なんだいソーマ?僕は今、鶴を糸に通すのに忙しいんだけど・・・」

 

「鶴って・・・もう終わったぞ」

 

「へ?・・・いや、でもここに」

 

 

そう言ってエリックは手元に目を落とすが、やはりそこには何も無かった。

 

 

「あ、あれ?千の鶴は?」

 

「だから、もう終わったぞ。これを見ろ」

 

 

出来上がった千枚の鶴の束を見せると、エリックは呆然とした後に瞳に涙を溜め、思いっ切り飛び上がった。

 

 

「終わった・・・終わっ・・・た・・・イヤッッホゥゥゥゥゥゥゥ!!!終わったぜイェア!あぁ!空がこんなにも青く澄み渡ってる!見たまえ!ソーマ!ステラちゃん!この世界のなんと美しい事か!!アハッアハッ!アハハハッ!アハハハハハハハハハ!!」

 

 

「・・・・・・」 「・・・・・・」

 

 

 

気が触れたかのように踊り出すエリックをステラは痛みを忘れて寝転がった状態で、ソーマは神機を担いだ状態で呆気に取られたように見ていた。

 

 

「ステラ・・・アイツは頑張った。だから、労いの一つでもしてやれ」

 

「・・・ん。正直、悪かったって思ってる」

 

「あぁ・・・そうだな」

 

 

未だに笑い続け、喜びの舞を踊るエリック。そんなエリックを暖かい目で見守りつつ、周囲を警戒する二人であった。

 

 

「アハハハッ!アハハハハハハハッ!!」




まさかダジャレスタートするとは思わなんだ。

そして不定の狂気に陥ったエリック。
あ、次回には治ってます(ネタバレ)

それからアバドンなんですけど、独自解釈入ってます。
強化の割合や時間が長いのはキュウビのような限り無く純粋なオラクル細胞だから。
ステラが完全にバテたのは他にもちゃんと理由があります。
矛盾が無いかと問われると『はい』とは言えませんけど・・・。

次回、新キャラ出ます!
一体何デレなんだ(すっとぼけ)


あ、一応言っておきますけど、ソーマのヒロインはシオです。異論は認めません。


おまけ


「ぼ、僕は一体何を・・・」

「・・・ちゃん」

「ん?おや、ステラちゃんか。どうかし」

「お、お兄・・・ちゃん」

「( ꒪Д꒪)」

「・・・・・・エ、エリック?」

「気絶してるな」

「・・・記憶、無くなってくれないかな・・・」

「そう都合良くは無いだろ」

「夢と思ってくれれば・・・」

「どちらにせよ、目を覚ますと詰め寄られそうだな」

「ソーマがヤレって言うから・・・」

「お前もノリノリだったろ」


おまけ終了!


次回も気長にお待ちください!


P.S.


ネタ提供ありがとうございます!
お陰様でこの先の展開の解決策が思い付きました!(計画性皆無)


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第14話:穴だらけのアナグラ

新キャラとオリキャラが出ます。

アナグラの侵入に関してはエリックが華麗だったって事で深く考えないで下さい(何も思いつかなかったんです)


『・・・ソーマ』

 

「・・・なんだ」

 

『無理・・・絶対に無理』

 

「・・・・・・そうだな」

 

 

俺の篭った声にソーマが目を合わせずに反応する。なんか笑ってない?絶対に笑ってるよね?ソーマって慣れると表情が分かり易いよねって事に最近気が付いた。

 

そんな俺達に前を歩いていたエリックが先を急かす。

 

 

「どうしたんだ、二人とも!早く行くよ!」

 

「・・・行くぞ」

 

『ソーマ、実はノリノリ?』

 

 

なんやかんや言いつつも、これくらいしか方法が浮かばなかったのも事実であり、成功する見込みが無い訳でもない。しかし、流石にそこまで警備がザルだとも思えない俺にとっては不安で仕方無かった。

 

寧ろ、エリックは何故あれ程までに自信満々なのかが理解出来ない。失敗したら、最悪殺されるかもしれないのに。

 

 

「お?見えて来たようだ」

 

 

エリックがそう知らせてくる頃には既に俺にも見えていた。地平線の向こうではあるが、それでもしっかりとその城壁が見え、そこからアラガミと似たような嫌な気配を感じる。

 

 

『あれが・・・アナグラ』

 

「・・・そうか、見るのは初めてか」

 

『狙われてたから・・・それっぽい所には極力近付かないようにしていた』

 

「・・・そうだったな」

 

 

あ、なんかドヨーンとしてる。同じゴッドイーターだから、罪悪感みたいなものでも湧いたのか?対してエリックは先程から何処かウキウキしてる。念の為に上を確認。・・・ふむ、晴れ渡る青空だ。

 

周囲にアラガミは居ないが、念の為に警戒しつつ入口まで到着。対アラガミ装甲壁から嫌な気がビンビン伝わって居心地悪くしてる俺を他所に、門番が近寄って来て何とも言えない表情をしていた。

 

 

「あの・・・そちらの着ぐるみは?」

 

 

そう言って俺を指さす門番。もうお分かり頂けたかもしれないが、俺は今エリックが用意した兎のような着ぐるみに身を包んでいる。

 

そう、ゲームでも登場していたあの正体不明の『キグルミ』だ。

 

 

「療養中の妹にちょっとしたサプライズで、とあるゴッドイーターに中に入って貰っている。本人も今の格好をあまり他人に見られたく無いらしいから、出来れば早く入れてくれないか?」

 

 

流石に無理が無いか?確かにハリボテではあるけど腕輪はしてるし、付近にトライクを停めて一丁のフロントカウルで神機っぽく演出してはいるけど、絶対に無理だと思う。

 

ほら、現に門番が訝しげな視線をこちらに向けてくるし、ソーマも戦闘態勢(逃げる為)を整えている。てか、トライク仕舞うとフロントカウルまで強制的に仕舞われるのは不便だな。

 

 

 

「分かりました。どうぞ」

 

『!!?!?』 「!!?!?」

 

「ありがと。あぁ、後これは差し入れだよ。お勤めご苦労さま」

 

「いえいえ。妹さん、早く良くなるといいですね」

 

「あはは、そうなる事を祈るばかりだ」

 

 

そんな世間話をエリックと門番がしつつ、俺達は難無くアナグラの中に入れた。あ、凄い。ソーマが目を点にしてエリックを見てる。

 

 

「ふぅ・・・ま、こんなものだよ」

 

 

そう言って、爽やかな笑みを向けるエリックは華麗だ。普通に華麗だ。エリックが死に芸以外でここまで華麗さを披露するとは思わなんだ。

 

 

「おい、エリック。どういう事だ」

 

 

幾ら何でもあの対応はおかしい、と確信を持って言えるソーマ。目を細め、睨んでいるように見える。しかし、実はそういう風に見えるだけであり、本人的にはただ疑問に思ってるだけ。これまでこんな感じの表情をする事が多かったから、自然とこんな表情になってしまうんだとか。

 

その事を知っている俺とエリックだからこそ、悪い空気にはならなかったし、真正面から受けたエリックも慣れているとばかりに軽く受け流している。

 

 

「まぁ、疑問に思うのも無理は無い。実際、ステラちゃんのその格好だけで普通に入ろうとしたら、確実に失敗するだろうからね」

 

 

あ、その辺の自覚はあったんだ。よかった、エリックが常識人で。これがコウタとかだと割と本気で成功するとか言いそうな気がする(偏見)

本当、コウタってマジでコウタなんだから。

 

 

「そもそもソーマと僕は他のゴッドイーターとは違って普通ではないから、そこを利用したんだけどね」

 

 

普通ではない・・・ソーマは分かるけど、エリックも?

 

 

「ソーマは・・・まぁ、簡単に言えば色々な噂があるって事で、僕は貴族出身だ。本来ならこんな命懸けの仕事をする必要も無く、裕福な生活を送れていた。・・・あぁ、その事を知っているのは数少ない。けど、妹の事を知っているのはそれなりに居るものだ」

 

 

・・・あ、成る程ね。つまりは信頼、のようなものか。さっきの会話を聞くにエリックは門番とそこそこの仲だと伺える。おまけに支部長の実の息子で実力も確かなソーマ。この二人と一緒に居るなら問題無いと判断したんだろう。

 

・・・でも、確認も無しに通すか?

 

 

「ステラちゃんの方は何となく分かったみたいだね。ま、一言で言うなら、ソーマのお陰さ。ナイス殺気」

 

 

あー、そう言う事。つまりは脅しか。

強か。エリックが超強かだ。

 

 

「何の事だ」

 

「あ、やっぱり無自覚なのか」

 

 

未だに要領を得ないソーマ。本人的には殺す気なんてサラサラ無かったから、当然と言えば当然かも。

 

ん?となると、そんな不確定要素もエリックの計画の内?やっぱりかなり危険な橋を渡ってたのか・・・いや、長年付き合って来たエリックならでは、か。

 

 

「さて、ここに長居する訳にもいかないし、早くエリナの所に行こうか。今日は病室の方に居るから、案内は任せな」

 

そう言って、キリッとキメ顔をするエリック。

 

今更、気が付いたけどエリック超はしゃいでるな。妹と会うのがそんなにも嬉しいのか。相変わらず、妹想いのお兄ちゃんだ。

 

しかし、味を占めたかのように俺にお兄ちゃん呼びを強請るのはやめろ。

 

 

 

 

取り敢えず、壁ギリギリに密着して、なんとか範囲内に入ったトライクを回収し、それに伴ってフロントカウルも消える。序に対アラガミ装甲壁の凄さを身をもって体感した。

 

触れても大した危害を被る訳では無いが、生理的にあまり触りたくない感じがする。あれは確かに他のアラガミも中々近付かねぇわと思いつつ、俺のこの体質(アラガミを引き寄せる)とどっちが効果が上なのか、ちょっと試してみたくもなった。

 

・・・あ、いや本当にやらないよ?気になっただけだから。

 

 

ソーマはあまり関わりたくないのか、途中で自分から別れて先に何処かへと歩いて行った。エリック曰く、恐らく怖がられるのが目に見えてるからだろう、とのこと。

 

めっちゃ納得してしまった。

ああ見えて、心の方はかなり繊細だからな。

 

前に俺が釣り上げたグボロ・グボロをエリックが空中で吹き飛ばすっていう遊びしていた事がある。遊びを交えたエリックの射撃訓練だったんだけど、エリックが大分慣れ始めるまでしてると背後から巨大な岩石が吹っ飛んで来てグボロ・グボロに直撃した。無論、グボロ・グボロは無傷だったが、慣性の法則で遠くに吹き飛んで海に沈んだ。

 

そんなグボロ・グボロは置いといて、岩石が吹っ飛んで来た方向を見てみると、念の為に周囲の警戒をしていた筈のソーマが神機をバットのように持って、振り抜いた姿勢で立っていた。心做しかドヤ顔になってた気がする。

 

 

どうしたのか、と尋ねてみると「なんでもない」と言って背を向け、再び周囲の警戒をしだした。疑問符を浮かべる俺の横でエリックが笑うのを堪えるように顔を背けて肩を震わせていたので、何か事情を知っているのかと聞けば、「嫉妬・・・のようなものだよ」とのこと。

 

なんだ混ざりたいだけか、とその時になって漸く分かった俺はチラチラとこちらを窺い見るソーマを呼び戻して、エリックと一緒にグボロ・グボロを吹き飛ばしていた。銃であるエリックですら苦戦していたのに、ボールを打つ要領でその辺の瓦礫や岩石を飛ばす手法で百発百中なのは素直に驚いた。

 

エリックと揃って賞賛すると、顔をプイッと背けて「大した事は無い」って無表情ながらも嬉しそうに言うもんだから、更にエリックと一緒に褒め倒した。結果、限界値を超えたソーマにその辺の瓦礫を今度は俺らに向かって本気で打って来た。

 

しかも、打ち方で変わるのか、打った衝撃で飛来物がバラバラの散弾みたいになって飛んで来て、あの時は本当に(エリックが)死ぬかと思った。

 

俺?俺は大丈夫。仮に当たっても傷付かないから(痛くないとは言っていない)

 

 

閑話休題

 

 

そんな、お可愛い所があるソーマ。何が言いたいか端的に言うと、少しズレてる所はあるけど、ソーマもきちんと心ある人間って事だ。エリックの妹を怖がらせたくないって思いもあるんだろうさ。

 

 

てな訳でソーマの分まで沢山交流しようと、道行く人々に奇異の視線を向けられつつアナグラに到着。ここからどうするのか、と思っていると普通に中に入って病室の前に着いた。

 

うん、意味が分からなかった。

 

 

すれ違うゴッドイーターにはエリックがソレ(キグルミ)の中身は誰かと問われ、「知らない方が面白いだろう?」と簡単に要約するとこんな感じの事を言って誤魔化した。無理があるだろ、と思っている俺を他所に尋ねたゴッドイーターは「ははは、それもそうだな」と言って俺に肩ポンしてどっかに行った。

 

呑気にも程があるぞ。出会えた事による俺の感動を返せ、リンドウ。

 

 

そんな色々と台無しな第一部隊隊長との初邂逅の次に受付嬢みたいな事してるヒバリさんに止められた。今度はさっきみたいな誤魔化しでは無く、小声で「中身はソーマ」と言うと、何かを察したヒバリさんは何とも言えない表情をこちらに向けるだけで事無きを得た。何を察したというのだ。

 

自業自得ではあるが、バレてエリックが殺されないか冗談抜きで心配だ。後、ソーマに対する変な噂が流れないかという事も。

 

 

その後は慕われているリンドウが受け入れたのを大多数が見ており、加えてそもそも身の安全はゴッドイーターである時点で心配する必要も無いし、深入りする程興味がある訳でも無いという者ばかりで、特に関わってこられずにここまで来た訳だ。

 

ここの警備がザルなんてものじゃなかった事に不安を覚えて仕方ない。そんなだから殆どの大事件の原因がここなんだよ。もっとアラガミだけじゃなくて人に対しても守りを固めろよ・・・・・・俺、アラガミだったわ。ごめん、こんな入り方して。

 

 

因みにここに来る前にエリックの部屋へ寄ったんだが、普通に綺麗だった。貴族のボンボンでその辺は使用人とかに任せていそうなイメージがあったけど、そんな事も無いのか、普通に整理整頓がされている整った部屋だった。

 

・・・というか、物が無かったんだよな。いや、あるにはあるんだが、ぬいぐるみとか女の子が喜びそうな物ばっかだった。つまり、これは彼氏部屋ならぬ妹部屋という事か?・・・今度、何かプレゼントしよう。日頃のちょっとした感謝も込めて。

 

 

「準備は出来たかい?」

 

 

俺が緊張していたのが伝わったのか、ノックをする前に言葉を掛けてくるエリック。誤魔化す為の長考を止め、頷いて問題無い事を知らせる。

 

 

「それじゃ・・・エリナ、僕だ。エリナのお兄ちゃんのエリックだ。入っていいかい?」

 

『お、お兄ちゃん!?・・・うん!いいよ!』

 

 

中から元気そうな女の子の声がした。それはゲームで聞いた事があるエリナの声に何処か似ているが幼さが残っている気がした。

 

 

「先に入って事情を説明して来るから、少し待っててくれ」

 

 

そう言って、千羽鶴を片手に先に入室して行くエリック。中から少しの間、話し声が聞こえるが何て言ってるかは篭っててよく聞き取れなかった。盗み聞きする気も無いので最初にどんな挨拶をしようか考えていると、聞き取れる声量でエリックが入室するように言って来た。

 

扉を開いて中へ入ってみると、幾つか並んでいるベッドの一つに身体を起こした少女と傍らに座るエリックが居た。千羽鶴は既に飾られてぶら下がっている。少女の方が恐らくエリナ(ロリ)だろうけど、表情が驚愕から恐怖に変わってるような気がする。

 

 

あ、エリックの背に隠れた。

 

 

「そんな所で突っ立ってないで、こっちに来たらどうだ?」

 

 

怖がられてどうしようか、と立ち竦んでいた俺にエリックが促してくれた。取り敢えず、エリックの言う通りここで立っていても仕方無いので扉を閉めて二人の下まで歩いて行く。近付けば近付く程に背中越しに覗き見てるエリナがビクビクしているのが分かる。

 

いつかの幼女を思い出す反応だ。恐怖の対象は俺だけど・・・。

 

 

「・・・もう大丈夫だから、ソレ(キグルミ)を脱いだらどうだ?エリナも怖がってる」

 

 

結果的に棒立ちのままエリナを凝視する事になった俺に呆れた風に苦笑いしながら、エリックはそう言う。身長差的にキグルミで見下され続けるのは確かに恐怖するわな、と反省しながらカポッと頭の部分を外す。

 

 

「!?」

 

 

キグルミが()()()()()()()()という行為に驚くエリナがだったが、気にせずに頭を置いて背中のジッパーを下ろす。胴体の方も脱いで、ビキニとホットパンツ姿になり、上着のコートを呼び出して着替え完了。

 

 

「ふわぁぁ!」

 

 

身軽になって肩を(ほぐ)したり、乱れた髪を簡単に綺麗にしたりしていると感嘆するような、何かお気に召したかのような喜びの歓声が聞こえた。何事かと思えば、エリックの背に隠れていたエリナが目をキラキラさせながら、エリックを踏み台にして乗り出すようこちらを見入っていた。

 

 

「?・・・??」

 

 

突然の対応の変化に付いていけない俺を他所に、興奮状態のエリナは本当に病人なのか疑いたくなる程に軽やかな動きでベッドを降りて、俺の下に駆け寄って来た。

 

 

「凄い!凄い!今のどうやったの?もしかして魔法ってヤツ?!」

 

「え・・・あ、えっと・・・」

 

 

どうやら、先程の換装がお気に召したらしい。しかし、困った事にどうやったかを聞かれてもなんとなく、とかそんな曖昧な事しか言えない。

 

 

「エリナ、気持ちは分からなくも無いけど、あまりはしゃぎ過ぎると身体に障るし、彼女も困ってる」

 

「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」

 

 

エリックに咎められ、顔を赤くして俯くエリナ。恥ずかしそうにベッドへ戻る彼女を見守っていると、手が引っ張られ不意打ちなだけにそのままそちらへ歩いてしまった。手を見てみると、手の裾をちょこんと摘ままれていた。

 

ホッコリとしながらベッドまで付いて行き、エリナがベッドに腰掛けてエリックが椅子をもう一つ出してくれたのでそこに俺も座る。

 

 

「え・・・えっと、私はエリナ。エリック・デア・フォーゲルヴァイデの妹のエリナ・デア・フォーゲルヴァイデ・・・です」

 

 

あまり慣れてないのか、少し辿々しいがきちんと出来た自己紹介。何かを期待するかのような眼差しを向けられたので普通にこちらも挨拶する事にした。

 

 

「ステラ。エリックとは・・・友達・・・かな?よろしくね」

 

 

そう言って、左手を差し出してついくせで握手をしようとした。そう、握手だ。本当、自身の学習能力の低さが嫌になる。

 

ヤバい、とエリック共々思った時には既にエリナと手が触れており、完全に手遅れ。このタイミングで下手に慌てて引っこ抜けば、子供であるエリナに怪我をさせてしまうかもしれない。故に大人しく握手するしか無かったのだが。

 

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 

特に痛がる様子が見られなかった。

 

 

「「??」」

 

 

エリックが面白い顔をしながら首を傾げている。俺も首を傾げている。そんな俺達を見てエリナも首を傾げている。

 

 

「「「・・・・・・?」」」

 

 

なんだこの時間。

 

 

「エ、エリナ・・・手は大丈夫か?」

 

 

我に返ったエリックが動揺しながらそう尋ねる。当の本人は質問の意味がよく分かってないのか、答えに迷っている。目をキョロキョロさせながら何を言うか考える彼女は何でもないかのようにアッサリと口を紡いだ。

 

 

「うん、別に何ともないよ?・・・あ、でもちょっと()()()()する・・・かな?」

 

 

あ、そんな感触はするんだな。しかし、ピリピリか。ソーマとエリックさえも手を引っこ抜く程の痛みがこの子には無い?考えてみれば、エリックも最初は痛がったがそれ以来、触れても痛がる事は無かった。

 

もしかして、フォーゲルヴァイデ兄妹ってその辺の才能があるのか?痛みによる耐性的な・・・。

 

 

「そ、そうか・・・」

 

 

エリックが納得してるようなしていないような、そんな返事をしているが、そんな訳の分からない兄(エリナ視点)よりも今は俺の方に興味があるらしい。

 

 

「え、えっと・・・その、貴女の事は・・・お兄ちゃんから色々と・・・それでいつか会ってお話したいなぁ・・・って」

 

 

モジモジしつつ、手をにぎにぎしながら緊張気味に言う彼女に初対面ではあるもののゲームでのイメージが強くて少しギャップを感じる。正直、エリックが妹大好きになるのも少し分かる気がする。

 

にしても、エリック話してたのか。言っちゃなんだが、俺に関する事は現状ではかなり危険な話題だと思うんだがなぁ・・・ま、バレなきゃ問題無いか。エリックに視線を向けてみれば、グッドってジェスチャーしてくるし、その辺の気配りはきちんとしてるんだろう。仮にバレたとしても、基本的に誰も信じないだろうし。

 

それはそうと、いつまで手を握っているのだろうか?

 

 

「・・・あ、あの〜?」

 

 

黙っている俺に何か失礼な事をしてしまったのではないか、と不安そうに覗き込んでくるエリナ。この歳の少女に無視は流石に酷い事したわ・・・個人的にどうしてもあの時の幼女と少し重ねてしまうから、無視と言うよりも癖のようなモノなんだけど。

 

 

「ごめんね。少しボーッとしてた。折角だから隣、座っていい?」

 

「!・・・うん!」

 

 

いそいそと横を空けるエリナ。そんな彼女の横に座り、何からどう話そうかと悩んでいると、隣でエリナが緊張しているようだったので、ひょいっと持ち上げて足に乗せた。

 

おぉ、この小ささに暖かさ、懐かしい。

 

 

思わずギュッと抱き締めると、わちゃわちゃと暴れ出したが、その程度で抜け出せると思うな。

 

 

「わひゃっ!?ちょ、ちょっと!いきなり、何をッ!」

 

 

あの幼女の場合、喜んで抱き着いてくるのでこんな反応は新鮮だ。抱き締めたまま、つい頭を撫でていると次第に大人しくなってきた。

 

 

「ん、ピリピリが・・・気持ちいぃ♡」

 

 

どんな感じかはよく分からないが、言葉から察するに電気風呂の弱いバージョンみたいな感じか?それにしても抱き心地が良いし、暖かいわ〜。凄いポカポカしてるし、ホント子供っていいよな〜。片腕しか無いのが恨めしいぜ、全く。

 

 

 

 

抱き締めていて、気付いたらエリナが寝てしまったので今日はお開きとなった。まさか、あんな簡単に寝てしまうとは思わなかった。幼女でももう少しは抵抗・・・出来そうにないなぁ。あの子、寝るの大好きだったし。

 

そんな事を考えつつ、アラガミ装甲壁から大分離れた所まで歩き、見送りに来たエリックとも今日はお別れだ。

 

 

「今日はありがとう、ステラちゃん。また、機会があったら逢いに来てくれるかい?あんな幸せそうなエリナは久しぶりに見た」

 

「うん・・・私でよければ」

 

 

喜んでもらえたようで何よりだ。しかし、何故ここまで好感度が高いのだろうか?原因としてはエリックがした話の内容なんだが・・・。

 

 

「エリック」

 

「ん?」

 

「あの子に何を話したの?」

 

「大した事は話してないよ。偶に会った日に何をしたとか、こんな事があったとか、そんな他愛も無い事ばかりだ・・・どうして、エリナがあそこまで懐いていたのか、不思議かい?」

 

「・・・うん」

 

「僕もよく分からないけど、ある日突然、『お兄ちゃんが楽しそうに話すから会ってみたい』って、言い出してね。僕が信頼しているから、問題無いって思ったんだろう。とまぁ、それもあるがステラちゃん自身が単に幼子に好かれ易いんじゃないかな?」

 

「・・・好かれ易い?」

 

「あぁ、傍から見ても君は子供に好かれ易いだろうし、扱いも何処か慣れてるような気がする。子供、好きなんだね」

 

「・・・」

 

 

扱いに関しては幼女の保護者代わりのような事をしていたからだろう。それにしても子供が好き、か。確かに好きだけど、それは別におかしな事でも無い気がするし、それだけで子供から好かれるもんかな?

 

 

「ふふっ、本当に君がアラガミなのか忘れてしまいそうになるよ。・・・いいかい?幼子は兎に角、純粋だ。良くも悪くも、ね。だからこそ、相手が善か悪かを大人以上に見抜く。どれだけ取り繕っても、子供達には筒抜けだ。だから、ソーマにも会って欲しいんだけど・・・どうにも上手くいかないものだ」

 

 

・・・ん?いい話っぽいけど、それって要は子供に好かれてるから俺が子供みたいだって事か?もしかして、アホの子だって思われてないよな?

 

 

「さ、そろそろ行った方がいい。あまりここに長居するものじゃないだろう」

 

「ん、それじゃ、また」

 

「あぁ、またいつか」

 

 

トライクを呼び出してさっさと離れる。チラリと後ろを振り向けば、もうエリックの陰は見えない。もう一段階速度を上げて、アラガミが跋扈する荒野を駆け抜けた。

 

 

 

 

エリックへのプレゼントを何にしようか、と考えながら寝落ちした次の日の朝。寝床にしていたトライクから身体を起こして、朝日に目を細めているとあの声が聞こえた。

 

 

「ピギィ・・・」

 

 

反射的に声が聞こえた方である、真後ろに腕を振るう。何かを掴み、目の前に持ってくるとそこには本来のアバドンの赤っぽい所の色が蒼で黒っぽい所は漆黒とも言うべき真っ黒になった見た事も無いアバドンが手の中でジタバタしていた。

 

 

「いただきまーす・・・あむ」

 

 

だからと言って気にする事は無い。色が違ったとしてもアバドンはアバドン。美味しく頂きましょう。

 

 

〔痛ッたぁぁ!?おい、噛むな!私は食い物では無いぞ!〕

 

「!?」

 

 

え・・・は?

 

 

〔おい!いつまで噛んでる!いい加減に離せ!この食いしん坊が!〕

 

 

その優男のようなボイス?で抗議の声を挙げている存在は現在、噛んでいるアバドンから。つまり・・・えっと・・・アバドンが喋ったって事?

 

 

〔おい!聞いてるのか!ちょちょ、本当に痛い!兎に角、離せー!〕

 

 

えぇ・・・。

 




次回はアバドン?のお話。

実はリクエストで漫画の『ロン』みたいな相棒キャラの要望があったので急遽出演する事になりました。ロンとはまるで似ても似つきませんけど、相棒&解説役のような立ち位置になります。なので次回辺りから謎を解明していくと思います。

アバドン?のCVは子安武人さん(イメージ)
“ソウルイーター”の“エクスカリバー”や“血界戦線”の“機装医師リ・ガド(ミジンコ)”などを担当している声優さんです(超好き)


次回も気長にお待ちください!


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第15話:アバドゥン

執筆中の全てのデータが何故か消えて心が折れてました。自動保存に少量ですが、データが残ってたのでそれを元にある程度復元しての投稿。

これまでの努力が一瞬で水の泡。新作も書いてたのに・・・はは。


それでも感想を見返して、テラ子安アバドンの反響が凄くてやる気出た。
今回は説明回みたいなものです。


〔離せと言うのが聞こえ━━━ぶへっ!〕

 

 

アバドン(?)を食べようとしたら、まさかまさかの優男ボイスで喋るという中々ぶっ飛んだ事態に陥った。取り敢えず、色々と不明瞭な点が多過ぎるので噛むのを止めて思いっ切りその辺に投げ捨てる。

 

ゴロゴロと転がって行くアバドン(?)から目を離さず、“★Rock Cannon”を呼び出して照準を合わせる。

 

 

〔痛てて・・・全く、離せとは言ったが誰が放り投げろと言ったのだ。このお転婆娘め〕

 

 

漸くアバドン(?)が止まり、のそのそと起き上がりながら何やら失礼な事を呟いていたが、こちらが構えている事に気が付くと俊敏な動作で浮き上がり、両方の(ひれ)のような部分を手の様に使って見るからに慌て出した。

 

 

〔ま、待て待て撃つな!私は決して怪しい者ではない!〕

 

 

と言ってはいるが、俺からしたら怪しさ満点この上無い。そもそも人型でも無いのに喋っている時点でどうかしてる。

 

 

〔ええい、銃口を近付けて来るな!危ないだろ!全く、近頃の若い者はそんな礼儀もなっとらんのか・・・はぁ、嘆かわしい嘆かわしい〕

 

 

人が腕を組むように鰭で再現し、全身を使って首を振るかのように左右にフリフリしている様は傍から見たら可愛らしいのだろうが、何を思ってそのような動きをしてるのかが分かれば無性に腹が立ってくる。

 

なので自分が今どういう立場にあるのかを分からせる意味も込めて一発お見舞いしてやった。

 

 

〔いいか!この見るからに可愛らしいフォルムと美しいデザインを併せ持つ私に銃口を向けるのがど━━━れぇええ!!?〕

 

「・・・ちっ」

 

 

外したか。

 

 

〔『ちっ』じゃねぇえ!!今、私が避け無かったら直撃していたぞ!〕

 

「させたかった」

 

〔何ドヤ顔で言ってるんだ、このジャジャ馬娘が!!その本物のロリっ子にすら劣る悲しすぎる程に無い貧相な胸、いや胸と呼ぶのも烏滸がましい。まな板と同じくらい無い脳ミソでもう少し知的生命体らしく思考という物をしてみた━━━らぁあああ!!?〕

 

 

よし、取り敢えず全弾ぶち込むか。

 

 

 

 

〔ぜぇー・・・はぁー・・・〕

 

 

眼前には無数のクレーターと見るからに満身創痍なアバドン(?)が浮いている。それに向けて引き金を何度引いてもカチカチと空かした音がするばかり。

 

コイツ、あの数十発もの弾丸を全て避け切ったのか。中々やるな。

 

 

「・・・何者?」

 

〔そ、それは・・・はぁはぁ・・・最初に・・・聞く、べきだろ・・・はぁはぁ〕

 

 

アバドン(?)が息を整えている間に弾切れになれば鈍器みたいなものなのでさっさと“★Rock Cannon”を仕舞い、寝床にしていたトライクのフロントカウルを外して一応警戒しておく。

 

戦闘力は皆無そうだが、何か搦手のような手段を持っているかもしれない。例えば、周囲のアラガミを呼び寄せたり、新しくアラガミを生み出したり。まぁ、そんな事はほぼ無いだろうが警戒するに越した事は無い。

 

 

そう言えば、いきなり俺の後ろから現れたな。もしかすれば瞬間移動の類か?よし串刺しにするか。コアをズラせば死なんだろ。

 

 

〔うぉ!?今度はいきなりどうした!?〕

 

「動かないで・・・下手したらコアを突き刺すよ」

 

〔いや、まず突き刺すのをやめんか!そもそも私にはコアなど存在せんから、そんな気遣いは無用だ!〕

 

「じゃ、遠慮無く」

 

〔ギャーッ!!?っていい加減にしろ!!〕

 

 

無強化状態とは言え、不意打ちの全力の突きが躱されて顔面に体当たりされた。とは言え、その程度は大した事無いので何とも思わんが、取り敢えず逃げたり敵対する意思が無いのは分かったので大人しくする事にした。

 

 

〔お、おぉ、漸く大人しくなったか〕

 

「・・・それで何者?」

 

〔産まれてまだ十分も経ってないのに、なんて小娘だ全く〕

 

「何者?」

 

〔分かった!話すから切っ先をこちらに向けるな!話しづらいだろうが!〕

 

 

話す気になったそうなのでフロントカウルを下ろして話を聞く体勢に入る。アバドン(?)もこちらが襲う気配は無いと確認出来たのか、態とらしくゴホンと咳払いをすると(ひれ)で腕組をして話し始めた。

 

 

〔私は・・・あー何て言えばいいか・・・うーん・・・〕

 

 

おい、いきなり躓いたぞ。

 

 

〔そうだなー・・・お前さんが持ってるその武器やさっき撃ちまくってた大砲がどうやって作られてるかは大方、見当が付いているだろ?〕

 

「体内・・・で作ってる?」

 

〔まぁ、そんな所だ。体内と言うと少し語弊があるが、細かい事は今はどうでもいい。話を戻すが私はその作られた武器の内の一つだ〕

 

「武・・・器?これが?」

 

〔おい、心の声が漏れてるぞ。まぁ確かにこの如何にもマスコットキャラクターのような愛らしい見た目からは想像も出来ッ〕

 

「早く話進めて」

 

〔悪かったから耳を引っ張るな〕

 

 

頭の二つの突起物、これ耳でいいのか。触感は大して柔らかくないな。機械みたいにガッチガチだ。

 

 

〔まずは武器を作る過程から説明しよう〕

 

 

纏めるとこんな感じ。

 

・コアを捕食

・捕食したオラクル細胞を俺の細胞で侵食

・それを基に体内(?)で各パーツを生成

・部品が揃えば完成

 

基本的には神機と似たような物だな。

 

 

〔分かったか?そうか、ま、当然だろう。この私がここまで分かり易く説明してやったんだ。まさか、分からないとは言わないよな?〕

 

 

まだ何も言ってないのに、どうしてコイツはここまで無意味に煽って来るんだ?

 

 

「話は理解した・・・質問が幾つかある」

 

〔よし、言ってみろ。今の私は月光蝶である。どんな質問にも答えてやろう〕

 

 

いきなりその場で空中をパタパタと旋回し始めたんだが、情緒不安定なのか?コイツ。

 

 

「お前は・・・どうやって作られたの?」

 

〔私か?私はお前が先日食べただろう?〕

 

「・・・アバドン?」

 

「あぁ、あれで材料が揃ってな。ついさっき完成した」

 

 

えーと、つまりアレか。瞬間移動したんじゃなくて、換装で俺から出て来たのか・・・え、こんなのが?俺から?・・・えー。

 

 

〔・・・おい、何故いきなり嫌そうな顔をしている〕

 

「・・・別に」

 

〔まぁいい。因みに他よりも早かったのはアバドンというアラガミの特性故だ〕

 

 

アバドンの特性と言えば・・・確か色が無色とか、だっけ?あ、色が無いから染めやすいって意味か。となると他のアラガミを捕食しても新しい武器が中々出来ないのは既に違う色だから染め難いとか?

 

 

〔何を阿呆みたいな顔をしている〕

 

「・・・他の武器が中々出来ないのはなんで?」

 

〔む?それは色があるからに決まっているだろう。それにお前さん自身の燃料にもしなければならない。そちらが優先され、残りを武器の方に回す。中々出来んのもその為だ〕

 

「そんなに・・・燃費、悪いの?」

 

〔正確には吸収効率が物凄く悪い。今までお前さんが喰らって来たアラガミから得た燃料はアバドン数匹分だ〕

 

 

アバドン凄ッ!?俺が喰らったアラガミって下手したら四桁いってるよ!・・・この場合は他のアラガミがショボいのか?

 

 

「・・・なら、アバドンから作るのは」

 

〔無理だな。アバドンから作られるのは私だけだ。さっきは分かり易く色で例えたが、細胞ごとにそれぞれが異なる進化を遂げている。それらを作り替える能力までは無い〕

 

「・・・同じのが二つとか出来ないの?」

 

〔それも無理だ。これは一種の進化だ。一つ完成した時点でその物の制作は停止する。それにその為の修復機能だ〕

 

 

あぁ、やっぱり修復されてたのか。

 

 

〔無論、この修復にも自身の色に染めたオラクル細胞を必要とする。仮に私が跡形も無く消し飛んでもアバドンを何体か喰らえば修復出来るという訳だ〕

 

 

ほぇー、案外制約があるんだな。やっぱり、そんな何でもかんでも出来る訳じゃないのか。

 

 

「・・・所で、何でそんなにも詳しいの?」

 

〔当然だ。私には知能があるからな。お前みたいな頭パッパラパーとは違うのだ!〕

 

「どうせ復活するから、その減らず口を引き裂いてやろうか?」

 

〔あだだだ!!ひゅ()ひゅまへぇん(すみません)はへにひひはふのやめへ(縦に引き裂くのやめて)!!〕

 

 

全く、一言多いんだ。誰が『頭パッパラパー』だ。コウタと同じにしないで欲しい。

 

 

〔てて・・・そもそも、お前にもその辺の知識はある筈なのだ〕

 

「え、そうなの?」

 

〔当たり前だ。私の知識に関する部分は全てお前を基にしているからな〕

 

 

んー?なら、なんでその辺の知識がまるで無いんだろう?思い出そうとしてもそれらしい記憶は欠片も出て来なかったし。

 

 

〔大方、精神が『人間』だからだろう。私はその身体を基にして作られたので、『人間』が入る前と後の知識と記憶をある程度持っているのだ〕

 

 

一見、かなり馬鹿に見えるけど、もしかしてそれなりに頭が良かったりするのか?てか、俺が人間だって事は初めから知ってたのか。

 

 

「・・・あ、知能があるから勝手に出て来れるの?」

 

〔勿論だとも。当然、その辺の主導権はお前が持ってはいるし、他の武器は出せないが自身をある程度好き勝手に出し入れするのは可能だ。他には何か聞きたい事は無いかね?〕

 

「・・・遠くに離れても武器とかならある程度、位置を感知出来るのは何で?」

 

〔アラガミの基本的な特性として、例え一つの個に見えてもそれは単細胞生物であるオラクル細胞の群体だ。そしてそれらの司令塔はコア。それは私達も同じだ。・・・お前、胸辺りから心臓の鼓動みたいな音が聞こえるだろ?〕

 

「え?・・・あぁ、うん。聞こえる」

 

〔おかしいとは思わないか?生前のゲームとやらで、それらしい描写はあったとしても人間の心臓のように定期的に脈打ち続けるなんて事は無かった筈だ。そもそもコアは心臓の全身に血液を送るなんて役割は持ってないからな〕

 

「・・・じゃあ、なんで」

 

〔電波のような信号を送って互いの場所を確認する為だ。始めの頃には無かったが、お前が色々と無くし物をするからそういう風に進化したんだ。全く、なんて情けない理由なんだ〕

 

 

ぐぅの音も出ない。

 

 

〔しかし、そこまで高性能と言う訳では無い。分かるのは方向だけだし数が少なければ当然、反応をキャッチする事も出来ない。そもそも基本的に放置しておけば他のアラガミによって喰い尽くされる〕

 

「あ、そう言えば、なんでこんなにも狙われるの?」

 

 

ずっと疑問だった。特異点であるシオですらここまであからさまに狙われたりはしなかった。それに幼女の時みたいに人間が近くに居ても俺を優先的に狙って来る。

 

 

〔あぁ、それは・・・何と言えばいいのか・・・一言で言ってしまえば、お前が裏切り者だからだ〕

 

「・・・裏切り者?」

 

 

裏切り者ってなんだ?他のアラガミを積極的に狩ったりはしてるけど、それは他のアラガミだって積極的云々は置いといて、結構している事だ。

 

 

〔これに関しては『人間』であるお前がその身体に入る前の話だからな・・・私の記憶も曖昧だし、推測も入っている。そこから導き出した答えは、やはり要因は『人間』であるお前が入ったのが大きい〕

 

 

うん、まぁそうだよな。人間の天敵の中に人間が入ったら、そりゃ色々とおかしくはなるだろ。

 

 

〔しかし、その身体自体が異端でもあったからでうん、やっぱりお前が入ったのは言わばダメ押しのようなものだ〕

 

 

えっと、話を聞く限りだと結局は俺が居ようが居なかろうが、似たような現象が起きたって事か?

 

 

〔その身体は元々は数多居るアラガミの内の一つだった。しかし、進化の過程で人間に(くみ)するようになったんだ。どう言う過程を辿ればそうなるのかは、私にもよく分からんがな〕

「・・・それなら特異点(シオ)も似たような物じゃない?」

 

〔いや違う〕

 

 

え、違うの?

 

 

〔特異点にはこの世界を白紙に戻すかどうかの意思決定権のようなものがある。要はどちらの味方になろうが、その決定を他のアラガミも形はどうあれ、甘んじて受け入れる。従うかどうかは別としてな〕

 

 

それって受け入れてんの?

 

 

〔しかし、私達は違う。私達は特異点のような特別な存在では無い。人間に近い姿へと進化した唯のアラガミだ。特異点以外のアラガミは基本的に絶対君主制の兵隊のようなモノ。理由はどうあれ、敵である人間の味方をする事は御法度なのだ〕

 

「つまり、狙われているのは同胞を殺したからでも、『俺』が入ったからでも無く、完全に人間の味方をしたから?」

 

〔あぁ、細胞レベルでな。と言っても生来のアラガミの本能のようなものまでは未だに抑えられていない。微量ではあるが触れていれば他者に捕食という名の侵食をする。アラガミや人間と触れて互いに痛みを感じるのはその所為だ〕

 

「・・・私はあんまり」

 

〔それはお前が鈍感なだけだ〕

 

 

鈍感系主人公ってか。喧しいわ。

 

 

〔他にはもう無いのか?無いのなら別のステップへと進みたいのだが〕

 

「・・・聞きたい事では無いのだけど」

 

〔何だね?私達は一応は一心同体なのだ。何でも聞いてくれ給え〕

 

「・・・名前、何?」

 

〔名前?そんな物は無い。飽く迄も武器だからな。付けたければお前が付けるがいい〕

 

 

考えてみれば、そりゃそうか。他の武器だって俺が勝手に命名しただけで夢の中で聞いたとか、そんな選ばれし者みたいな現象が起こった訳でも無い。

 

となると・・・うーん・・・どうしようか。

 

 

〔・・・・・・〕

 

「・・・・・・」

 

〔・・・・・・〕

 

「・・・・・・」

 

〔・・・・・・まだかね?〕

 

「もうちょっと・・・・・・・・・非常食、なんてどう?」

 

〔あれだけ考えて出て来たのがソレか!!?お前、本ッ当に食い気ばッッかりだなッッ!!〕

 

「まぁ落ち着いて欲しい」

 

〔・・・なんだね?私を納得させるに値する言い訳でもあるのかね?〕

 

「お前は仮に消滅してもまた蘇る」

 

〔だから何度食べても無くならない、とか言うのは無しな〕

 

「・・・・・・ちっ」

 

〔言う気だったのかよ!!そもそも幾ら喰っても総量は増えはせん!!出した物をまた喰らってるだけだから、当然だろ!〕

 

「・・・・・・うんこみたい」

 

〔誰がうんこだ!?〕

 

「もう名前うんこでよくない?」

 

〔お前はそれでいいのか?一生を共に過ごす存在がうんこで本当にいいのか?〕

 

「・・・・・・いや、かな」

 

〔何故、そんなにも悩むのだ!〕

 

「いい気味だって思った」

 

〔そもそもアラガミは排泄なんてせんわ!〕

 

 

あぁ、そう言やそうだな。

 

うーん、でもなー・・・本当にどうしようか?普通にアバドンだとややこしい事に成り兼ねないだろうし・・・あ、そうだ。

 

 

「・・・『ロン』なんてどう?」

 

〔・・・・・・あぁ、お前さんとソックリな漫画に出て来るアレか。まぁいいだろ。今までにくらべれは何倍もマシだ〕

 

「ん、それじゃよろしくロン」

 

〔あぁ、よろしくなステラ〕

 

 

まさか鰭と握手する日が来るとは思わなかった。コイツ、鰭も硬いのになんであんなに滑らかに動かせるんだ?




名前、思い付かなかったので思い切って同じにしました。ま、原作を真似たからいいよね。ね?

ロン(アバドン)はそう言った知識が普通にあるのでメタイ?内容がこれから出て来ると思います。苦手な方はお気を付けて下さい。


次回はロン(アバドン)の性能お披露目回・・・に出来たらいいな。


次回も気長にお待ち下さい!


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第16話:ロリコン

いや、ちゃうねん。
ホンマに忙しかったんですよ。

年末は暇になるかと思ってたんですけど、逆でした。寧ろこの一年で一番ヤバかった。まぁ、その反動で新年からは割と暇になるんですけどね。

それはそうと流石にこれ以上はマズイと思ったので取り敢えず投稿です。

駆け足で書いたので書き直しはあるかもです。


注意として、後半にキャラ崩壊が起きます。


アバドン改め、ロンは武器である。そんな訳でどんな性能なのかと尋ねたのだが━━━━

 

 

「・・・おぉ、これは・・・中々」

 

 

適当に武器でも出せと言われたので“★Rock Cannon”を取り出してみると突然、ロンが手元に噛み付いて来た。

 

驚いて叩き落とそうとしたのだが、それよりも先に変化が起こったので観察する。

 

ロンの身体が流動体のように“★Rock Cannon”の手元に巻き付き、銃口の方に口をガバりと開けた状態で変化は終わった。合体というよりも侵食と表現した方がよいだろうか?見た目が完全に神機のソレである。

 

ちょっと興奮するな。

 

 

〔構えて念じてみろ。捕食形態になるぞ〕

 

 

マジで?

 

言われた通り、ゲームで見たのと同じように銃口を正面に腰を落として・・・取り敢えず、捕食、と念じてみる。

 

すると、“★Rock Cannon”が引っ込むように小さくなり、反比例するように手元に居るロンが肥大化し、人一人をパクリといけそうなくらい大きくなって停止したので“★Rock Cannon”を前に突き出すと虚空にガシンッと噛み付いた。

 

 

「・・・おぉ・・・!」

 

 

無理だと思った神機(擬き)を手に入れた気持ちになり、感嘆の声が漏れ出てしまった。他の武器でも試して捕食が可能である事が分かったのだが、一番驚いたのがトライク本体にロンが侵食出来た事だ。

 

どんな風に捕食するのかと言えば、フロント部分がガバッと開き、走りながらも捕食可能という優れ物。これで大抵の障害物は無視して、しかも回復しながら押し通れるようになりました。

 

やったね、ディアウス・ピターに追われても高確率で逃げれるようになったよ!

 

 

そんな訳で一通り試してから、いざ実践。

 

捕食形態の時は念じろ、とか言ってたけど、アレは初心者向けであり、慣れれば形をイメージするだけで簡単に出せるし、ある程度サイズの調整が自由になるらしい。なのでいきなり本番でやってみたが色々と分かった事や疑問に思う事が出来た。

 

大きさに関しては現状、基本サイズはゲームの普通の捕食形態と同じで、そこから侵食した武器によって大きさが異なり、一番大きかったのがやはりトライクだった。武器を構成する細胞を使って大きくなっていたらしい。サイズの調整というのはその大きさを分配する事だ。

 

えーと、だから・・・十個のブロックがあるとして、それを上下左右に自由に並べ変えれる、って言えば分かり易いかな?

 

今はこのサイズが限界だけど、〔これから喰いまくれば少しずつ大きくなるだろう・・・いや、無理だろうな・・・〕とロンは俺の胸をガン見しながら首を横に振りやがったのでシバいておいた。・・・軽くしたつもりがめり込むとは。思った以上に力が入ってしまったようだ(すっとぼけ)

 

 

続いて疑問なんだが、これは前世でも感じてた事。

 

さっき、生きてるオウガテイルを捕食してみたんだけど、結果は咥えただけで噛み切る事は出来なかった。死んだらあっさり削り取るんだけど・・・この差は何?

 

 

「・・・生きてるのは食べれないの?」

 

〔生きている?・・・あぁ、活動中か。出来るぞ〕

 

 

え、出来るの?

 

 

〔条件はあるがな。そもそも私は武器とは言え、副武装のような物だ。主武装では無いから、ブレード程の切れ味も機関砲のような破壊力も無い。捕食を簡易的に行うのが私の本来の性能だ〕

 

 

ほへぇ・・・かなり、要らん機能が多い気が・・・うん、考えないようにしよう。

 

 

「・・・条件って?」

 

〔その前に出来ない理由からだ。アラガミを構成するオラクル細胞は細胞同士がしなやか且つ強靭なもの・・・私は頑丈ではあるがこれを断ち切る程の切断力は有していない〕

 

「・・・あぁ、そういう事」

 

 

成る程、スッキリした。

死んだらその結合が緩むのか。となると、生きてる間は結合崩壊とかするとそこだけ削れ取れたりする?

 

 

「・・・結合崩壊したら」

 

〔どうだろうな。理論上は可能だろうが・・・〕

 

 

何故か言い淀んでいる。いや、言い淀んでいると言うより、よく分かってないのか?ほーん、コイツでも分からん事があるんか。

 

そいじゃ、聞いてばかりもツマランから、自分で試してみるか。

 

 

 

 

検証結果。

 

めっちゃ柔らかい所、ゲームで言うクリティカルが出る部位は確実に削り取れる。大ダメージの所は結合崩壊させればその部分だけ削り取れる。それ以外は結合崩壊した後にそこの柔らかさがクリティカルなら削り取れる。

 

 

それ以外は殺さないと無理。

 

・・・そう言えば、ゲームだと死んだ後も部位のダメージは変わらなかった気がするんだが・・・何故に喰える?

 

 

「・・・そこの所、どうなの?」

 

〔現実とゲームを一緒にするな。活動停止すればコアの抜き取り関係無しに崩れ落ちるだろ。全く、脳と胃袋が直結してる奴はこれだから・・・はぁ〕

 

 

いや、まぁ・・・うん。そりゃそうだけどさ。それ言ったら、これまでの例えとか・・・後、一言多い。

 

 

 

 

ふと、思った。

俺の武器と俺の身体は同じモノで出来ている。なら、ロンは同じように俺の右腕にも侵食出来るのでは?

 

 

〔可能だな〕

 

 

そんな快い返事を聞けたので早速試してみる。

 

中身が無い右袖口から侵入しようとしたが、穴が小さ過ぎてバタつく馬鹿を掴んで引きずり出す。抗議の声を無視して袖ではなく胸元から肩口に寄せてやるとそこに噛み付いた。その後、服の中で固い筈の身体をグニョグニョとスライムのように形を変え、何本も注射に刺される感覚がした後、右腕として俺の身体と合体した。

 

ミニョーンと袖の中を何かが通り、肩口に食い付いていた筈の口が袖口から顔を出し、俺の意思でその口を開閉出来る。

 

 

〔どうだね?無くなった右腕の調子は〕

 

 

物珍しくてガシンガシンとロンの口を動かしているとそのロンの顔が勝手にぐりんっとこちらを向き、普通に話し出した。

 

あぁ、お前の意思でも動かせるのね。

 

 

「・・・キモイ」

 

〔キモイ言うな。これでも一応、主導権はそちらにあるのだから、それで我慢しろ〕

 

 

自分の身体の一部が勝手に動くというのは中々に変な気分だ。まぁ、主導権がこちらにあるなら別にいいか。

 

 

この状態での戦闘は楽にはなるが、やはり前のようにはいかない。武器を両手に掴む事は出来るが、指が五本有る訳では無いので“★Rock Cannon”やトライクのフロントカウルの引き金を引く事が出来ない。

 

ロンの腕で殴ればダメージは入るのだがロンから猛抗議が来て、今後は滅多に出来そうにない。

 

 

それでもロン自体が最大5メートルくらい伸びて小型のアラガミなら余裕で掴めるから、戦い方の幅は広がるだろう。

 

 

個人的には普通に両手がある方がやり易いんだが、無い物強請りしても仕方無いので早くこれに慣れよう。

 

 

 

 

「・・・何だそれは?」

 

「・・・アラガミ?」

 

「殺すか?」

 

「うん、いいよ」

 

〔待て待て待て!出会い頭に私を殺そうとするな!お前も!なんであっさり承諾してんだ!蘇るからって痛い事に変わりは無いんだぞ!〕

 

 

ロンと出会って数日。慣れる為とは言っても合体し続けるのは流石に精神的に少し苦痛だった。寧ろ無い方が落ち着いたので少しばかり離れる事にした。

 

━━━と言うのは建前で本音は思った以上にキモかったから。最初は・・・まぁ話し相手が身近に出来て少し嬉しかったけど、一日もすれば嫌気が差して来た。

 

だって、一日中右腕から喋りまくってるんだぜ?勝手に動きまくって、自分の意思とは別にグニョングニョン動き回るとか・・・まるで寄生虫だ。

 

戦闘面では普通に役に立つんだけどなぁ。

 

 

「まぁまぁ、ソーマ落ち着きなって。見た目通り、実害は無いみたいだし」

 

「・・・冗談、神機下ろして」

 

「・・・そうか」

 

〔おい、なんで揃いも揃って残念そうにしてるんだ。エリックを見習え、エリックを。この中で実力はカスだが人として一番出来てるぞ〕

 

 

ソレ褒めてんのか?一応はお前の味方してくれたんだぞ?もっと言葉を選ぼうな?それから、普通のゴッドイーターであるエリックを俺と特別性のゴッドイーターであるソーマと並べるのは流石に可哀想だろ。

 

これでも数年はゴッドイーターとしてやってるから、頑張ってる方なんだぞ。

 

 

「それよりステラちゃん、その・・・アラガミ?はなんなんだい?」

 

 

ロンのセリフがまるで聞こえていないかのようにエリックが疑問を投げ掛けて来た。先日会った時は影も形も無かったので当然と言えば、当然の疑問であった。

 

 

「名前は『ロン』・・・・・・新しい・・・自立型の・・・武器?」

 

「へぇ・・・」「・・・・・・」

 

 

考えてみれば、なんと説明すればいいのかよく分からないので疑問形になってしまった。そんな俺の説明?を聞いて、2人ともふよふよ浮かんでいるロンをマジマジと見詰める。

 

観察されている事に気付いたロンは機嫌が悪くなる事は無く、寧ろその場で旋回したりと嬉々として観察対象となっていた。

 

 

「・・・おい、これ前に喰らってた・・・アレか?」

 

 

そこでソーマはある事に気付いたようだ。それはあの時ノリで始まった千羽鶴作成の時に俺が英気を養う為に喰ったアラガミ━━━━アバドンにソックリであると。

 

 

「ん・・・それを基にしてる」

 

「・・・・・・ふむ」

 

 

珍獣を見る目から、興味深そうな物体を見る目に変わった。やはり、腐っても親子なのか、色々と気になるのだろう。

 

 

「それにしても僕達の天敵であるアラガミにこんなに可愛らしいのが居るなんて・・・なんとも妙な気分だ」

 

「・・・それを言うとコイツ(ステラ)もだな」

 

「あぁ、それもそう・・・か・・・・・・・・・!!?」

 

「「?」」

 

 

ソーマの返答に引っ掛かりがあったのか、何やら驚愕の表情でソーマを凝視して固まるエリック。突拍子が無さ過ぎて俺もソーマも主に頭の心配をしてしまう。

 

 

「ソーマ、今何て言った!?」

 

「うぉッ・・・どうした急に」

 

 

再起動を果たしたと同時に神機をほっぽり出して、ソーマの肩に掴みかかった。しかし、なんの事かサッパリ分からないらしく、ソーマは目を白黒させている。

 

 

「い、いい今!君は僕の言葉にステラちゃんも当て嵌るって言ったのかい!?」

 

「??・・・あ、あぁ」

 

 

いや、そんな驚く事じゃないだろう、というソーマの困惑の表情から考えている事がヒシヒシと伝わってくる。俺もエリックが何に反応しているのか、よく分からんが仮にエリックの言葉に肯定した、という事実に驚いて居るのであれば・・・・・・普段、どんだけ冷たい態度を取られてんだ・・・。

 

 

「つまり!君は!ステラちゃんが()()()と認めたんだね?!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・あ」

 

「いやッッッ・・・・・・ふぅぅぅぅ!!!」

 

 

エリックの言葉の意味が漸く理解出来たのか、ソーマは目が点になって固まった。そんな彼を他所にエリックは誰も居ないだだっ広い地平線に向かって「ソーマがデレたぞぉおおおお!!!」と木霊しそうな程の大声で叫び散らしていた。

 

プライバシーもヘッタクレも無いが、幸い世紀末のようなこの世界では誰も居ないので聞かれる心配は無い。

 

 

「おい!そういう事じゃねぇぞ、エリック!!」

 

「イエェェーイ!!」

 

「『イエェェーイ』じゃねぇ!!ステラ!お前からも何か言って━━━━なんだその顔!?」

 

 

考えてみれば、確かにエリックの言う通りだ。ソーマの滅茶苦茶貴重なデレ。しかも遠回し。シオが来てからはデレまくってたけど・・・それ以前というのはかなりレアだ。いいもの見れた。

 

 

「・・・むふふ」

 

「腹立つな!やめろそのニヤケ面!」

 

「ヽ( ▼∀▼)ノ フォー!!」

 

「テメェはいつまで叫んでんだ!!」

 

 

テンションが天元突破したエリックに今度はソーマがあの浅黒い肌でも丸分かりな程に顔を真っ赤にして掴み掛かる。

 

だが、その程度で止まるエリックでは無く、一旦叫ぶのをやめてキリッとした表情で肩に片手を置き、ソーマに語り掛けた。

 

 

「大丈夫、分かってる」

 

 

信用度ゼロである。

 

 

「そうか・・・ならいい」

 

 

そして、何故か納得して手を離すソーマ。それでいいのかお前。エリックのこと好き過ぎするだろ。

 

 

「ソーマって・・・()()()()だったんだね」

 

「は?」

 

 

エリックの余計な一言でリアル鬼ごっこがスタート。互いに神機を担ぎながら、鬼の形相で迫って来るソーマから笑いながら逃げるエリックは流石だと思う。

 

・・・おい待て、誰が()()コンやねん。

 

 

「アハハハ!今の僕には幾らソーマでも追い付け━━━━━とぅえぇえええ!!?なんでステラちゃんまで!!?」

 

 

ソーマの後ろからトライクで追い掛け、ノーハンド運転でフロントカウルを取り外し、ソーマと並走する。

 

 

━━━━━━撃ち込んで足場を崩せ

 

━━━━━━お易い御用

 

 

一瞬のアイコンタクトで意思疎通を行い、少し横に避けてエリックの正面に撃ち込む。

 

 

「おわっ!?ちょ!やめ!」

 

「せいッッ━━━━━やぁぁぁ!!」

 

「どぅわぁぁ!!?死ぬ!今の絶対に死ぬってば!」

 

 

脚が止まりかけたエリックに、走っていた勢いを利用して構えを取りながら滑り込み、チャージクラッシュで一刀両断しに掛かるソーマ。横薙ぎじゃない分、まだ慈悲はあるみたいだ。・・・あれ、横薙ぎ出来たっけ?

 

直撃と同時に地面が爆発し、寸前の所で避けたエリックは爆風の勢いを利用してその場から上手く逃げ出した。

 

その後も二人で追い掛けてはいたが本気じゃないとは言え、結局最後まで捕まらなかった。(スタミナ的にエリックが死にかけてたけど)

 

度々、現れる小型のアラガミも片手間に撃ち落としてたし・・・エリック、何気にレベルアップしてたな。

 

 

〔・・・・・・めっちゃ空気〕

 

 

感心してる俺を他所にそんな寂し気な声が聞こえたと聞こえないとか。

 

 

 

 

ロンを度々連れてソーマ達と会うようになったが三人で談笑していて、とある疑問が浮かんだ。

 

 

「・・・ねぇ」

 

「「ん?」」

 

「・・・もしかして、聞こえてない?」

 

「「・・・・・・?」」

 

 

ロンを指さして言ってみたが、どうやら上手く伝わっていないみたいだ。そこで少し噛み砕いて質問の意味を伝えてみる。

 

 

「・・・喋ってるの・・・分かる?」

 

「・・・・・・・・・あ、もしかして、その・・・ロンが、って事かい?」

 

 

暫しの逡巡の後にエリックが合点がいったらしく、その答えにコクコクと頷く。すると二人は顔を見合せ、何やらアイコンタクトを取るとこちらに向き直った。

 

 

「えっと・・・鳴き声なら聞こえるけど・・・そういう意味じゃないんだろ?」

 

「・・・鳴き声?」

 

 

詳しく聞いてみた所、何やら可愛らしく「ピギィ」と聴こえるらしい。・・・えぇ、マジかよ。

 

 

「ステラちゃんはどんな風に聴こえるんだい?」

 

「・・・・・・旅人だったり」

 

「え?」

 

「・・・・・・吸血鬼だったり」

 

「んん?」

 

「・・・・・・犬の餌だったり」

 

「・・・・・・??」

 

「・・・・・・黄色いカエル・・・みたいな声」

 

「・・・・・・・・・そっか」

 

 

うん、絶対に伝わってねぇ。可哀想な子を見る目になってるもん。

 

でもま、そりゃそうか。そういう文化は殆ど廃れてるもんな。こういう『中の人』ネタを共有出来ないって・・・なんかちょっと寂しいな。

 

 

〔なんだ、知らなかったのか。私はマスコット的な存在だからな。所謂、アイドルはトイレ行かない、の派生型だ〕

 

 

・・・要は素がダメだから、それを誤魔化す機能ってこと?・・・自覚、あるんだな。いや、時々毒舌になるから、無駄な敵を作らなくて済むからいいけどさ・・・なんか、納得いかない。

 

 

〔だから、こんな事だって可能だ・・・・・・おい、ソーマ〕

 

「・・・?」

 

 

何かをするつもりらしく、ソーマに近付いた。当の本人は全く意思疎通が出来ないので真顔のまま困惑してる。

 

 

〔このロリコン野郎め!〕

 

 

言った。言いやがった。うわ、何あの「ふふん」って感じのポーズ。メッチャ腹立つ。死ねばいいのに。

 

しかし、ロンの言った通り言葉は伝わっていないのか、表情が抜け落ちた顔でソーマがこちらを向いた。あ、違う。あれ物凄く怒ってる。え?普通に伝わってるんじゃね?

 

 

「・・・おい、通訳頼む」

 

「『このロリk━━━━━』」

 

 

全てを言い終わる前に周囲に一陣の暴風が吹き荒れ、気付けばロンが遥か彼方まで飛んでいた。断末魔は普通に「ピギィィィィ!!」なんだと、どうでもいい事を考えながらソーマの方を見てみる。

 

そこには美しいフォームで神機を振り抜いた彼の姿が。それ、気に入ったのだろうか?

 

 

「・・・分かったの?」

 

「・・・そんな気がしただけだ」

 

 

ダメ慢心、という事だな。言葉は通じなくても野生の勘みたいなもので分かったのか。これで少しは懲りてくれたらいいが・・・無理だろうな、きっと。マジで反省しろよ。

 

 

「いや、いやいやいや!それでいいのステラちゃん!?あれ大丈夫!?」

 

「・・・きっと・・・その内、帰って来る」

 

「雑過ぎィ!」

 

 

因みに、俺の細胞を通してテレパシーのような感じで意思疎通しているので他者には聞こえない、と判明したのはそれから数日後に帰って来たロンの談からだった。

 

 

 




次回は何時になるのやら・・・。出来れば今年中にもう一本上げたいんですけど・・・望み薄ですね。


一応、補足しておきますと釣り竿は地上でも使えます。誘導には持って来いですね。彼らが使うかどうかはさて置き。

エリックを初めとした数名のキャラがレベルアップしてるんですけど、タグにそれっぽいの要りますかね?その場のノリで強くしただけなので殆ど何にも考えて無かったんですよね。

まぁ、現状では一名だけ魔改造レベルのが出て来るんですけどね・・・どうしよっかな。


そろそろ事態を進展させたいなぁ、とは思ってるんですがエリックを書いてると愛着湧いてしまいまして・・・なんか、もうちょっと書きたいなぁ、て思って展開が後回しになってしまう。キャラ崩壊してるけど・・・。

もう一話くらい、日常?を挟むかもです。


次回も気長にお待ちください!


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第17:今更ながらに紙装甲

(少し早いけど)メリィィクリスマァァス!
同居人が今日明日は仕事だから、結局クリぼっちだぜ!
そんな作者からのクリスマスプレゼントだ!
( ゚∀゚)o彡゚ソイヤソイヤ(∩゚∀゚)∩ドッコイショ


(八つ当たり気味に書いたので)後半エロ注意。
完全な蛇足になるので苦手な方は前半だけでバックしても問題無いよ。


「・・・こう来たら・・・こう」

 

「・・・ごめん、参考にならない」

 

 

極東では『ヴァジュラを単独で倒せば一人前』と言われている。そんな訳で数年ゴッドイーターをしているエリックもそろそろいいんじゃないか、との事でヴァジュラの倒し方を見せたが・・・・・・むぅ。

 

 

「・・・出来れば・・・その、()()()()んじゃなくて、銃としての立ち回りを教えて欲しい」

 

「・・・それもそっか」

 

 

憐れみの目で地面にめり込むヴァジュラを見るエリックに言われて気付いた。殴れるどうこうの前に人は神機でないとヴァジュラ━━━━アラガミを倒せない事に。

 

ソーマが牽制で何の違和感も無く殴り飛ばしてたから、普通に忘れてた。

 

 

「・・・で、近付いて来たら・・・こう」

 

「いや、だからなんで殴るの!?途中までそれっぽかったのに!」

 

 

新しく見付けたヴァジュラに対して、遠距離用の立ち回りを教えて、トドメにヴァジュラを“★Rock Cannon”で殴り倒したらツッコミが入った。

 

動きとしては(あなが)ち見当違いって訳でもないと思うんだけどなぁ。

 

 

「・・・でも倒せるよ?」

 

「いや、そうだけど!それだと整備士の方々に怨まれるよ!!」

 

 

ふむ、成る程。確かにそれは盲点だった。俺のは自己再生するからいいけど、神機はそうはいかないのか。そういう想定をされていない銃なら尚更だな。

 

 

「・・・ん?・・・まだやってたのか?」

 

「・・・あ、ソーマ・・・終わった?」

 

「あぁ・・・かなり回収出来た」

 

 

続いて新しいヴァジュラを探そうとしたら、沖の方から戻って来たソーマと合流した。少し水に濡れた彼から、自身の釣り竿と数個のコアを受け取る。

 

釣りという物を知識としては知っているが経験は無いみたいで、やってみたそうな目で見ていたソーマに渡してみたらドハマりしたらしく、ここ最近の彼のマイブームとなっている。

 

実はあのコートの下、シレッと自身の服に似せた釣り用の服だったりする。細胞の侵食に関しても指貫きでは無い釣り用の手袋をしてるので、短時間なら問題は無いから特に気にする事も無い。それに趣味の片手間にアラガミを駆除出来て、コアも回収出来るという一石三鳥なので何かと生産的なのである。

 

その内の数個を俺が貰えるので、働かず手に入る食事は個人的にも色んな意味で美味しいから、その趣味は大変賛成だ。

 

 

「ソーマ!聞いてくれ!ステラちゃんがヴァジュラを殴り倒せって言うんだよ!?君からも言ってあげなよ!もうちょっと普通の倒し方を教えてって!厚かましいのは理解してるけど!」

 

「・・・・・・。・・・そうか」

 

 

周囲を一瞥して事情を把握したソーマはこちらに近寄って来ていたヴァジュラの前に立つ。恐らく、説得するよりも代わりに教えた方が早いと判断したのだろう。まっこと遺憾だが否定出来んな。

 

そして、未だに十数メートル距離が空いているのに神機を構え━━━━

 

 

「ふんッッ!!」

 

 

チャージクラッシュで消し炭にした。

 

 

「・・・・・・こんな感じだ」

 

「しまった・・・同じ人種(例外)だった・・・」

 

 

膝から崩れ落ちるエリック。そんな彼に俺とソーマは一緒に小首を傾げる。普通じゃね?と。

 

 

「あー・・・取り敢えず、次は僕が対峙してみるから、おかしな所があれば指摘してくれないかい?」

 

「・・・分かった」

 

 

これ、自分がなんとかしないと駄目だ、と悟ったエリックの提案により、いつでも援護が出来るように意識を張り巡らせつつ、取り敢えずヴァジュラと立ち会う事となった。

 

 

「・・・居たぞ」

 

「・・・走って来てる・・・エリック、構えて」

 

「こ、この華麗なる神機使い、エリック・デア=フォーゲルヴァイデが━━━━」

 

「・・・・・・あ」

 

「エリック上だ!」

 

「■■■■■■■■!!!」

 

「━━━━━━え?」

 

 

緊張故か、声が震え気味のエリックが悠長に名乗りを上げ、髪をサラリと払う。理性が獣畜生と殆ど変わらない相手に対してはあまりにも無謀であり、隙を作る事になってしまうその行為。いつもならしないであろうミスも根本的には割とヘタレの部類に入るエリックはしてしまった。

 

しかし、これでも数年はアラガミと戦い続けて来たし、ヴァジュラの平均的な身体能力も攻撃方法も頭に入っている。故に本来なら髪を払うだけの時間的な余裕があったのは確かだ。

 

ならば何故、こうしてエリックはピンチに陥っているのか。それはヴァジュラが想定よりも遥かに速い速度で一心不乱に突撃して来た為に他ならない。故に最悪のタイミングになってしまった。

 

ヴァジュラから目を離した訳では無いが認識は出来ておらず、飛び上がったヴァジュラに脳が追い付いていないみたいだ。そして、完全にエリックの死角へと入ってしまった。

 

一瞬、敵の姿を見失ったエリックは呆けた顔で()()()()()()()()ヴァジュラを立ち尽くしながら見送る。

 

 

「・・・あれ?」

 

「・・・ん・・・やっぱり・・・・・・ソーマ」

 

「・・・分かってる」

 

 

状況に付いていけないエリックは一先ず置いといて、ソーマと共に迎撃に入る。ロンを右腕として変化させつつ、跳び掛かって来たヴァジュラに対して迎え撃つ様に跳び上がり、それに反応したヴァジュラが爪を振るって来た。

 

そんな安易な攻撃は予想済みなので身体を軽く捻って、股下をすり抜ける。そのまま振り向き様に右腕(ロン)を伸ばして尻尾を掴み、右腕を引いて地面に叩き落とす。

 

その後、ヴァジュラには構わず、そのままエリックの下までダッシュで向かい、担いで端に避ける。

 

瞬間、今居た所に赤紫色のオーラが大地を裂いた。

 

 

「・・・ふぅ、なんとかなったな」

 

「・・・エリック・・・大丈夫?」

 

「ん゛んッ!・・・あ、あぁ・・・大丈夫だよ、ありがとう」

 

「・・・?どうしたの?」

 

「い、いや、なんでもない・・・それより、その・・・早く降ろしてくれるかい?・・・流石に・・・これはちょっと」

 

 

エリックの神機が壊れないように一緒に持って来ないといけなかったから、必然的にエリックを横抱きにしてしまった。神機を手で持てたら良かったんだが普通に痛いんだよな。

 

だから、エリックの身体の上に乗せて一緒に運んだって訳だ。

 

 

〔おい、私もエリックの意見には賛成だ。いつまでも男の尻の支えに使うな〕

 

「ん・・・ごめん」

 

「いや・・・うん、いいんだ」

 

 

エリックを降ろして後ろを見る。そこには神機を振り抜いたソーマと彼のチャージクラッシュで粉々に砕け散ったヴァジュラだったモノがあった。

 

エリックが巻き添えを喰らう恐れがあったが、イレギュラーが起きた為にそうも言ってられなかった。実力があっても予想外の事態に陥れば、下手をすると命を落とす。(まぁ、今回は完全に俺のド忘れだけど・・・)

 

だからこそ、ソーマに一撃で確実に倒すように指示を出したけど・・・・・・やり過ぎたかもしれん。ま、相手はアラガミだし、別に気にする事も無いか。

 

 

「それにしても、どうして僕はスルーされたんだろうか?」

 

「・・・ごめん、私の所為」

 

「あ!・・・あー、そっか・・・そうだったね」

 

 

俺の言葉で察したのか、「あちゃ〜」みたいな表情で空を仰いでいる。気合いが入ってるらしかった所に水を差してしまったので申し訳無い気持ちになってしまう。

 

だが兎に角、今はエリックが無事で良かった。ソーマがあのセリフを横で叫んだ時はマジでビビった。オウガテイルからヴァジュラって・・・幾らなんでも格が上がり過ぎでしょ。

 

 

「・・・大丈夫か?」

 

「・・・ん」

 

 

周囲が安全だと確認したソーマが寄って来る。チャージクラッシュ直後だからなのか、それとも単に冷や汗なのか、額に少しだけ汗を掻いているみたいだ。

 

 

「そうか・・・今日はどうする?」

 

「僕は構わないけど・・・」

 

「駄目」

 

「え、いや・・・ステラちゃん?」

 

「駄目」

 

「・・・ステラ?」

 

「今日は駄目」

 

「・・・・・・」「・・・・・・」

 

 

おい、どうした二人とも。そんな呆けた表情で顔を見合わせて・・・何か言いたい事でもあるのか?

 

え、そんなにおかしな事を言ったかな?いや、ただちょっとソーマのセリフの所為で不安なだけだし。そんな変な顔をする事も無いじゃん。

 

 

「・・・どうしたの?」

 

「・・・いや、なんでもないよ。うん、ステラちゃんの言う通り、今日はやめようか」

 

「・・・ふっ、そうだな」

 

「・・・?」

 

 

なんだ二人揃って、その「しょうがないなぁ」みたいな態度は。おい、やめろ。生暖かい視線を向けるな。ソーマ、お前だって滅茶苦茶焦ってただろ。エリック、お前に至っては死に掛けてたんだぞ?・・・俺の所為だけどさ。

 

なんでそんなホンワカオーラをに出せるんだよ。

 

 

「あ、そうそう。ステラちゃん、エリナが会いたいって駄々を捏ね始めてね。良ければ、会ってくれないかな?」

 

「ん?・・・うん、いいよ」

 

 

気を使ってくれたのか、少し強引だがエリックが話を変えてくれた。実を言うとエリナとはあんまり会っていなかったりする。

 

いや、エリック達と会う度に割とエリナにも会いに行くんだが、そもそもエリック達とも平均で週に一回くらいしか会っていない。

 

今はエリナとは二ヶ月と数週間くらい会っておらず、過去最高で期間が開いてしまった。・・・会う度に拗ねながら何かしら要求されるから、ちょっと怖いな。前なんて、普段のお兄ちゃんを教えて、なんて言われたし。

 

エリックは教えてくれないらしく、だから俺に聞いたらしいんだが・・・。俺が知ってる普段のエリックは、強いて言えば戦闘面が多くて・・・それなりに強くはなったんだろうけど、多分いつもエリックがエリナに聞かせてる俺の奴に比べたら見劣りするんだよな。

 

なんか俺、エリナの中で神格化されてるみたいだし・・・お兄ちゃんの事が大好きなんだろうなぁ。うん、なんとも微笑ましいね。だけど、俺に山を斬る所を見せてと強請(ねだ)るのはやめなさい。吹き飛ばすくらいなら出来るけど、斬るのは無理だから。

 

因みに普段のエリック云々については仕返しの気持ちも込めて、エリックの武勇伝をかなり脚色して大袈裟に伝えて上げた。キラキラと目を輝かせるエリナの後ろで凄い慌ててるエリックはとても見物(みもの)だった。

 

ふふふっ、俺が帰った後に大好きな妹からの純真無垢な尊敬の眼差しと悪意無い無茶振りを受けて、見栄を張って自ら墓穴を掘るエリックが容易に想像出来る。

 

今度はどんな話をしてあげようかな。凄く楽しみだ。

 

 

「・・・変な顔をしてるぞ」

 

「そんな事は無い」

 

「・・・・・・そうか」

 

 

 

 

はい、そんな訳で特に苦労する事も無く、アナグラ内のエリナの病室へとやって来ました。相変わらずのザル警備でなんか安心するわ。

 

 

「んー♡んふー♡・・・スンスン♡・・・ほわぁぁ♡♡」

 

 

だがなんだ、この状態は。

 

 

「・・・・・・エリック」

 

「さーて、僕は少し用事があるからこの辺で失礼するよ」

 

「エリック」

 

「じゃ、時間になったら呼びに来るから、それまでお楽しみに」

 

 

脱いだヌイグルミを片手に途轍も無い程の満面の笑みで手を振っているエリックが扉の向こうへ消えた。あの野郎、押し付けやがったな。

 

 

「んふふ〜♡」

 

「・・・・・・」

 

 

さて、兎にも角にも今は上に乗って俺を抱き枕?にしているエリナをどうするか。病室に入って俺を認識した瞬間に着ていたヌイグルミを剥かれ、こうしてベッドに押し倒されてしまったのだ。

 

いつの日かの幼女よりも力は子供らしいそれだが、逆に壊してしまうんじゃないかと不安になって無闇矢鱈に抵抗出来ず、されるがままにアッサリと今の体勢になった。

 

俺の胸辺りに顔を擦り付けたり、鼻息が当たって擽ったいのだが下手に頭を押さえてしまえば、怪我をさせてしまうのでやられたい放題だ。ほぼ全裸のこの格好が仇となってしまった。

 

あ、そうだ。ジッパーを降ろせば少しはマシになるんじゃね?

 

 

「・・・少し離れて」

 

「〜♡・・・・・・ヤダ」

 

「・・・ジッパー降ろすから」

 

「・・・・・・ヤダ」

 

 

・・・変な所で頑固だなー。うーん・・・もうエリナの意見は無視して無理矢理降ろしていけば、勝手に退くだろうか?

 

そう思って、少しずつ降ろしたのだが━━━━

 

 

「はにゃ!?・・・スーーッ♡・・・ハァ〜〜ッ♡♡ぁぁ♡」

 

 

━━━━意地でも退かないエリナに焦っていると気付けば、彼女がすっぽりコートの中に入っていた。

 

・・・おかしいなぁ、なんだか途轍も無い程に既視感を覚えるぞ、この状態。それに割とすんなり降ろせたが、俺よりも少し幼いエリナでは割とギチギチな事に変わりは無い。

 

しかも、下の辺りでエリナがモゾモゾと動いたので勝手にジッパーが一番下まで降りて、手がジッパーに届かなくなってしまった。立ち上がろうにも片手しか無いのでそれなりに力が要るし、こんな不安定な状態ではゼロ距離に居るエリナがマジで危ない・・・・・・やっべ、どうしよ。

 

 

「・・・・・・」

 

「〜♡・・・スンスン♡・・・ゴクリ・・・・・・・・・ペロ♡」

 

「ッ!!?!?」

 

 

うわっ!?何!?なんか胸の辺りがヌルッとした!?ッ!?まただ!?今度は鳩尾か!おい待て、エリナ!今、お前何をしている!?

 

 

「ぺろぺろ♡・・・んふふ〜♡」

 

「んッ・・・んん・・・・・・んふッ」

 

 

ちょ、やめ!擽ったい!マジで擽ったいから!!あ、馬鹿!脇を(さす)るな!それにそこをそんなに(まさぐ)ったら!・・・・・・あ。

 

 

「・・・〜♡・・・・・・ん?・・・これは・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・!?・・・・・・・・・あむあむ♡」

 

 

ほわっ・・・気付いたのか、スルスルと取られた・・・ヤバい、滅茶苦茶スースーする。でもエリナの体温が暖かいから寧ろ心地良い・・・これじゃ、完全にマッチポンプじゃねぇか。なんか悔しいな。

 

 

「んん〜ッ♡・・・んぐんぐ♡・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

あぁ、やっと大人しくなった。なんか口に入れてるみたいだけど、俺に被害が無いならいいや・・・。あー、疲れたー。おーい、エリックー。怒らないから早く帰って来てー。そしてこのお転婆娘をなんとかして〜・・・。

 

 

「・・・はむはむ♡・・・ん〜ッ♡♡・・・〜ッ♡〜ッ♡」

 

「・・・ん・・・・・・んん・・・」

 

 

うっ、また弄り始めた。・・・うん、やっぱり何かモゴモゴしてるな。全部は口に入れ切れていないのか、頬を擦り付けて来る時に口からはみ出した紐みたいな物が一緒に身体の表面を撫でて来て、更に擽ったいなぁ。

 

 

「〜♡・・・んー・・・んん?」

 

「んひゃ!?」

 

 

おわっ!?ちょ、何処触ってんだ!?変な声が出ちゃったじゃんか!・・・あ、馬鹿!そこは駄目!

 

 

「・・・・・・」

 

「んん゛ッ!・・・ぁ・・・・・・ひぅッ」

 

「!・・・ッッ〜〜〜♡♡」

 

「はぁあん♡・・・あ・・・いや、違ッ・・・・・・んんッ♡」

 

 

く、クソッ・・・俺が動けないのをいい事に(つつ)いたり、摘んだり、捏ね繰り回したりと好き勝手しやがって〜ッ!!もう怒っ・・・う、嘘です!嘘だからもうこれ以上はやめ━━━━ッ♡

 

 

 

 

「エリナー、ステラちゃーん。そろそろ・・・・・・何をしているんだい?」

 

「・・・・・・あぁ・・・エリック・・・」

 

 

エリックが帰って来たのは二時間後の事だった。それまで俺は・・・・・・エリナの玩具となっていたとだけ。精神がゴリゴリと削られたよ、ハハハ。

 

 

「えっ・・・と・・・エリナはその中に?」

 

「・・・うん」

 

「・・・新しい遊びかなんかい?」

 

「大人の遊び」

 

「え?」

 

「・・・なんでもない」

 

「え・・・あ、そう」

 

 

うん、思ったより相当参ってるな。これ以上はボロが出そうだから、さっさとエリナを出してもらうか。

 

 

「・・・エリック」

 

「ん・・・あ、あぁ・・・なんだい?」

 

「ジッパー・・・上げて。一人じゃ出来ない」

 

「ふむ・・・お安い御用さ」

 

 

ジジジとシレッと紳士さを感じさせる優しい手付きでジッパーを上げていく。やっと解放される、という安堵感からか、リラックスしていると途中でエリックがジッパーを降ろし始めた。

 

 

「?・・・どうしたの?」

 

「えぁ!?・・・あ、いや!うん、えっと・・・ごめん、これより先は自分でやってくれないか?僕は出ているから」

 

「・・・?別に出なくていいよ?」

 

「い、いや!そ、そそれは騎士として、何よりも紳士として許されない事であって」

 

「・・・私だとエリナを剥がせない」

 

「・・・・・・分かった。なら、あっちを向いているから、準備が出来たら声を掛けてくれ」

 

 

何をそんなに慌てふためくのか、全く分からんがもう自分で出来るのも確かなのでこちらに背を向けるエリックを尻目に大人しくジッパーを上げる。

 

そして、コートの下から出て来たのは俺に身体を預け、口端に黒い紐が出ているものの、何かを口一杯に入れて幸せそうにモゴモゴしているエリナだった。

 

 

「・・・エリック、いいよ」

 

「そ、そうかい・・・それじゃ、そちらに向く━━━━よぅ!?」

 

「・・・?」

 

 

エリックが奇声を上げながらおかしなポーズを取り、その勢いを利用してまた後ろに向いた。さっきから何をしてるんだコイツ?ブツブツと「変な扉が開きそう」とか、どういう事だ?そこの扉ならしっかり閉まってるぞ。

 

 

「す、すすすステッ、ステラッ・・・ちゃん!し、下!下をぉ!」

 

「・・・下?」

 

「服、服!見えちゃってるから!!」

 

 

言われてよく見てみる。・・・確かに今の俺はコートの下は何も着ていない。一体誰の所為だろうね。

 

エリックと反対側にあるアレはエリナにしっかり手で揉まれ(揉む程の大きさも無いけど)、エリック側のアレは頬を擦り付けて若干咥えられているような状態だ。

 

うん・・・。

 

 

「で、それが?(憤怒)」

 

「・・・え?」

 

「エリナを剥がして」

 

「え・・・いや、だから」

 

「エリナを剥がして」

 

「あ、はい」

 

 

明後日の方向を向きつつもチラチラとチラ見しつつ、優しく起こさないようにエリナを剥がすエリック。幼女程の力は無いので割と簡単に引き剥がせた。

 

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

「エリック」

 

「僕は出ておくから・・・」

「エリック・デア=フォーゲルヴァイデ」

 

「は、はい!」

 

「そこに座れ」

 

 

逃げようとしたエリックが腰掛けた俺の眼下で正座をした。因みにエリナは俺の膝の上でスヤスヤと眠っている。おかしいな、さっき横に寝かせて居た筈なんだがな。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・あ、あのー」

 

「・・・何?」

 

「で、出来れば・・・前を閉じたり、あの下着?を着たり・・・責めて、腕を組むなりして・・・・・・その、前が・・・」

 

「こっち向け」

 

「え、で・・・でも・・・」

 

「こっち向け」

 

「・・・はいぃ」

 

 

観念したようにこちらに顔を向けるエリック。しかし、目は(せわ)しなくあちらこちらに動かしている。・・・まぁ、いい。

 

 

「ねぇ、なんでこんな格好か・・・分かる?」

 

「え、えっと・・・それは・・・そのー・・・」

 

「何処かの華麗な神機使いが華麗に退出して行きやがった所為だよね」

 

「あ、はい・・・そうですね・・・」

 

「・・・別にそこはいいよ。何か用事があったんだろうし。・・・問題はこの子だよ」

 

「・・・エ、エリナが何か?」

 

「その通りですが?」

 

「あ、はい。すみません」

 

 

・・・本当にこの子は気持ち良さそうに寝てるな。そこそこ五月蝿くしてるのに全然起きる気配が無いぞ。

 

 

「ねぇ・・・なんで前を開けっ放しか、分かる?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういう・・・ご趣味が?」

 

「殺すよ?」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 

この野郎、綺麗な土下座を決めやがって。この服を着てるのは単にこれじゃないとしっくり来ないからだ。そういう趣味なんて無いに決まってんだろ。・・・・・・お前、さてはずっとそういう風に思ってたのか?

 

 

「・・・この胸の辺り、なんかキラキラと光ってない?」

 

「え、あー・・・と・・・そのー」

 

「誰のだと思う?エリナのだよ。ここで気持ち良さそうに眠ってる少女のだよ。・・・・・・ねぇ」

 

「・・・はい」

 

「この気持ちが分かる?こんな幼い少女に身体を好き勝手に弄ばれる屈辱が。純粋無垢だと思ってた子供に欲望のままに貪られる恐怖が」

 

「・・・・・・」

 

 

うん、分からんわな。俺だって分からなかった。分かりたくなかった。でも分かってしまったんだよ。そういう事態に陥ってしまったんだよ。

 

 

「想像してみて。血を分けた実の妹が同性の、それも人外を押し倒して、自分勝手に己の欲望を発散してる姿を」

 

「とてもエッチだと思います」

 

「あ゛?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

・・・空耳という事にしておくか。

 

「・・・お陰でこの有様。前を閉じるのも腕を組むのもヌメってるからやりたくない。仕舞いには服」

 

「・・・そう言えば、どちらに」

 

「・・・・・・ん」

 

「え・・・・・・おぅふ・・・」

 

 

俺が指し示したのは膝の上。つまりはエリナの顔の頬や口辺り。それを見て全てを察したのか、なんかエリックが凄い微妙な表情をしている。

 

 

「・・・これが貴族のやり方か?」

 

「い、いや・・・そういう訳では・・・」

 

「・・・軽いホラーだよ。他者の衣服を口に含むなんて・・・」

 

「え」

 

「・・・え?」

 

「あ、あぁ!そうだね!うん、ホラーだ!」

 

「・・・・・・」

 

 

おう、なんだその反応は。なんか冷や汗ダラダラじゃないか。まさかとは思うがお前が教えた訳では無いよな?

 

 

「・・・兎に角、その辺の教育はきちんとして。将来が不安過ぎる」

 

「はい・・・キッチリ言い聞かせておきます」

 

 

言いたい事も終えたので肩の力を抜いて溜め息を一つ吐く。そろそろ他に怪しまれそうなのでなんとか服(?)を回収して、綺麗にしなくては。少女とは言え、唾液(まみ)れになって喜ぶ趣味は俺には無い。

 

 

「・・・エリック、エリナから出して」

 

「え・・・僕が?ステラちゃんの方が・・・」

 

「・・・怪我させるかもしれない」

 

「うっ・・・そうだけど・・・じゃあ、失礼するよ」

 

 

渋々と言った感じに意地でもこっちを視界に収めないようにエリナに手を伸ばす。そんな時だった。背後の自動ドアがプシューッと音を立てて開いた。

 

咄嗟にエリックは振り向き、誰が来たのかを確認する。果たしてそこに居たのは━━━━━━

 

 

「おい、エリック。いつま・・・で・・・」

 

 

━━━━━━━何処か、焦っているソーマだった。

 

恐らく、中々出て来ない俺達を心配して来てくれたのだろうが、タイミングが最悪だった。エリックにとって。

 

コートを着ているとは言え、その下には何も着ていない俺に手を伸ばすエリック。しかも何処か挙動不審。ソーマの表情が一瞬にして抜け落ちた。

 

 

「・・・・・・」

 

「待ってくれ、ソーマ。君は今、洒落にならない勘違いをしている」

 

「・・・・・・・・・邪魔した」

 

 

エリックの弁解に答えず、一言だけ残して再びプシューッと扉が閉まる。しかし、ソーマは中に入って来ず、廊下から足音が遠ざかる音が聞こえる。

 

 

「待ってくれ、ソーマ!!本当に待って!誤解なんだ!」

 

 

血相を変えて、後から追い掛けるエリック。まるで浮気現場を見られた彼氏みたいな反応だな。・・・・・・いや、他意は無いよ?

 

ドアの向こうで言い合っているのが微かに聞こえて来るがアレはソーマが揶揄ってるだけだから、問題無いだろう。実際、俺の膝の上で眠るエリナをソーマはバッチリ見てたしね。

 

手持ち無沙汰になったので、エリックが部屋を出て行く時に然り気無く渡されたハンカチを使って身体を拭う。それから服なんだが・・・・・・どうしよっかね。

 

仮に口の中から取り出したとしても、それを着ようとは・・・流石に思えない。

 

 

〔・・・おい〕

 

 

本格的に困り果てているとロンが自ら出て来て、声を掛けて来た。どうやら、珍しく助言をくれるみたいだ。

 

 

「・・・どうしたの?」

 

〔服も武器の一種・・・正確には防具だと言う事を忘れてないか?〕

 

「・・・・・・あ」

 

 

まぁ、つまりは態々エリナの口から取り出さ無くても、換装を利用して仕舞えるという事だ。今まで服を変える、なんて事が無かったから完全に頭から抜けてた。

 

これ、服の紐が解けた時も使えば、手を使わずに着直せたのになぁ・・・・・・後の祭りか。

 

しかし、状態は壊れた武器と同じく少しの間、修理期間みたいなのがいるのでその間はエリナ汁塗れな訳で・・・・・・暫くはコート一枚とホットパンツオンリーという痴女仕様。

 

 

エリックには厳しく教育してもらわなければ。でないと俺の身が危うい。




ごめん、魔が差した。
本当はここまで過激にするつもりは現状無かったけど、筆が思ったよりも乗ってしまった。綺麗な百合を期待してた人はごめんなさい。作者の心は汚れ切っているので。

一応、明言しておきますと。
エリックは冗談で言っただけで列記とした騎士であり、紳士です。決して、単語の前に『変態』が付いたりはしません。

エリナを大事だと思ってはいるけど、飽く迄も兄として。妹の裸を見たとしても勿論興奮なんてしませんし、ステラに対しての反応は紳士として当然である。・・・ウチの上田さん、ちょっと初心なんですよ。


今回の話は所謂、日常回みたいなものであり、本来なら別に無くてもいい話です。そこを作者がなんか物足りないなぁ、と思って無理矢理挿れた話なので次回からは本筋に戻ります。なので次回は展開が一気に変わると思います。

このペースなら今年中にもう一本上げれるかも・・・?


次回も気長にお待ちください!


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第18話:超弩級アラガミ(笑)

今回のあらすじ

ロリコン「エリック!!」

シスコン「上か!」





エリックが華麗に逝った。

 

誰かに聞いた訳では無く、なんとなくそんな感じがして、何処か暗い雰囲気のソーマを見て確信した。と言っても感傷に浸るかと思えばそうでもなく、「あ、やっぱりか」程度にしか思わなかった。

 

一応、ソーマ達が新人と任務に行くって言うから、密かに目星を付けていた場所に先回りし、クエストクリア出来ないが死ぬよりはマシと考えて周辺のオウガテイルを全滅させたが、それでも上田さんの運命から逃れる事は出来なかったらしい。

 

 

 

やはり、そういった運命力みたいなものが働いていたりするのだろうか?

 

 

「・・・そこの所、どうなの?」

 

〔は?・・・・・・って、今それどころじゃないだろ!?〕

 

 

質問を応えられずに怒鳴られたなう。

 

 

〔うぉお!!飛び込んで来たぞ!!〕

 

「よし来たー」

 

 

走っていた脚を止めて、振り返りながら拳を構える。飛び掛かって来た無数の眼が着いた顔に向けて思いっ切り振り抜いたら、一切の拮抗無しに押し潰された。

 

因みにロンはシレッと換装を利用して、少した後に離れた所に出現するという器用な避難の仕方で難を逃れていた。おい、右腕として仕事しろ。

 

 

〔おいぃぃ!?ちょ、おまっ!もっとやりようがあったろうが!馬鹿かお前!どう見ても無理だろアホ!!〕

 

「ふんッッ・・・ぬッッ!!」

 

〔おぉ・・・無事だったか〕

 

 

自身の数十・・・下手したら百倍以上はある巨体を垂直蹴りで蹴り上げる。蹴った位置的に若干向こうに飛んだのでそのまま所々()()()()()トライクを目の前に出現させ、上に飛び乗りつつ片方のフロントカウルを取り外す。

 

トライクを足場に、落下している蹴り上げた物体(と言っても浮かんだのは数メートルくらい)の腹に飛び乗り、フロントカウルを突き刺して、外れないように捻る。

 

 

「■■■■■■■■■!!!」

 

 

見事にひっくり返った巨体が重低音の咆哮で空間を震わせ、ジタバタと暴れるがその(ことごと)くを無視して引き金を引く。

 

 

「■■■!!■■■■■■!!!!■■■■ッ!!」

 

 

威嚇のような声が突如として悲鳴のように変わる。それに気を良くしたのか、ロンが嬉々とした様子で声援を送って来た。

 

 

〔おお!効いてるぞ!そこだそこ!もっとぶち込んでやれ!〕

 

「あ、弾切れ」

 

〔アホォ!!〕

 

 

仕方無いので飛び退くと同時に無駄に多い手足を回転斬りの要領で2、3本斬り落としておく。更に最高点に達したと同時に体を仰け反らせて、顔面に向けてフロントカウルを全力投擲。イメージは潔癖兵長。

 

無数に眼がある顔面に一直線に向かって行き、見事サクッと突き刺さった。本来ならもう一本で単純計算して二倍のダメージを与えられた、と考えるとやはり、どうしても右腕が無いのが悔やまれる。

 

 

 

「■■■■■■ッッ!!!」

 

 

馬鹿みたいにデカいのに相変わらずのマシュマロボディに安堵しつつも“★Rock Cannon”を呼び出してフロントカウルの柄に向けて撃ちまくる。

 

あっちに転がったりこっちに転がったりとのたうち回っているので全く当たりそうに無い。しかし、外れたとしても巨体に当たり、脆い装甲を次々に剥がすので特に気にせずガンガンぶっ放す。

 

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 

“★Rock Cannon”を撃ち尽くすのと同時に柄に当たり、顔面部分が見事に吹き飛んだ。その衝撃で仰け反ったかと思うと、そのまま逆再生のように身体を地面に沈ませた。

 

“★Rock Cannon”を仕舞い、その巨体━━━━ウロヴォロスに近付く俺を戦闘が終わったと認識したのか、注意深く警戒しながらロンが近寄ってくる。

 

 

〔・・・・・・やったか?〕

 

「あ、馬鹿」

 

〔あ・・・〕

 

 

見事にやらかしてくれたロンに呼応するように突如として、無惨な姿となったウロヴォロスが動き出す。顔が無いので叫び声は上げれないが、顔が無くなったアリのように無差別に暴れ出した。

 

 

〔・・・じゃ、そういう事で〕

 

「ちょ、こら。逃げんな」

 

 

全て丸投げして換装で俺の中に逃げるロン。呼び戻そうにもウロヴォロスが残った触手をビタンビタン振り回しているのでそんな余裕が無い。

 

後方へ跳んで逃げようとしたが余裕で奴の範囲内らしく、横から鞭のように触手が襲って来た。

 

 

「ぐっ・・・!」

 

 

紙装甲だが見た目通りの馬鹿みたいな攻撃力を誇る一撃を諸に喰らえば、幾ら強力な回復力と防御力を持っていても割と洒落にならないダメージとなる。

 

てか、体重は軽い方なので面白いくらい吹き飛んでしまった。

 

 

「あぅ・・・ぐっ・・・・・・!」

 

 

なんか昔に似たような事をトライクでしたなぁ、なんて思いつつもバウンドしていた身体を制御して、身体をウロヴォロスの方に向けて片手と両足でブレーキを掛ける。

 

ウロヴォロスはと言うと、顔が無いから俺の位置が分からないのか、それとも単純にそんな余裕が無いのか、その場でジタバタと暴れ回っている。

 

しかし、腐っても超弩級の巨体を持つウロヴォロスが暴れ回れば、正直笑えない事態になるのは火を見るより明らか。具体的に言うと周囲の一切合切が瓦礫と化し、おまけに局地的な地震が発生したでごさる。

 

 

「おっ・・・とと・・・ほっ・・・あ、やば」

 

 

地震程度なら今更屁でもないが、その余裕が仇となった。適当に無事な足場を見付けてはそこへ跳んでいると、次の着地地点の地面が裂けた。所謂、地割れだ。

 

今更どうしようも出来なくて、簡単に地割れに呑み込まれてしまう。跳ぶ事は出来ても飛ぶ事は出来ないし、足場にトライクを呼ぼうにもさっき出したままでまだ仕舞っていない。

 

まぁ、落ちたとしても登るのが大変ってだけでその程度でダメージは受けないだろうけどね。

 

 

登るの面倒だなぁ、と呑気に思いながら落下し掛けたその時、横からさっきの一撃と比べると物凄く軽い衝撃が襲って来た。

 

何事かと意識を向けてみると、どうやら横抱き・・・つまりはお姫様抱っこをされているみたいだ。と思った瞬間、「痛ッてぇ!?」という悲鳴が響くと同時に落とされた。扱い雑だな、おい。

 

しかし、割れてない地面に投げ出されたのは幸いだった。互いに予想外の事態にゴロゴロと転がり、それぞれにのっそりと起き上がる。

 

 

「嬢ちゃん、大丈夫か?」

 

 

少し離れた位置から話し掛けて来たのは生前、お供として滅茶苦茶お世話になった人であり、個人的に同じ武器も愛用した張本人。『雨宮リンドウ』その人だった。

 

 

「・・・・・・」

 

「ん?おーい!大丈夫かー?」

 

「!・・・うん、大丈夫」

 

「そうか、大丈夫なのか・・・」

 

 

突然の登場にボーッとしていて心配されたので、立ち上がりながら返事を返せば、なんか奇妙な物を見るような目をされた。

 

Do you kotoyanen.

 

 

「いやぁ、すまんすまん。カッチョ良く助けようとしたんだがこのザマだ。色々と聞きたい事があるが・・・そうだな。取り敢えず、アレをどうにかするか」

 

「どうにかって・・・どうするの?」

 

「・・・・・・どうしようかね」

 

 

視線の先には懲りずに暴れまくるウロヴォロス。見た感じ、未だに旧世代のリンドウではどうしようも無い。決死の覚悟で突撃すればなんとかなるだろうが、相手が瀕死の状態であそこへ突っ込むのは愚策だと素人でも分かる。

 

 

「・・・そう言えば、さっき遠距離攻撃をしていなかったか?」

 

「・・・全部使い切った」

 

「・・・そっか」

 

 

正確にはもう片方のフロントカウルが残っているが、トライクに付けたままなので今この場には無い。リンドウは着地を失敗した時に放り出した神機を回収しに行きながら「どうしたもんかな・・・」と悩み始めたので俺もキョロキョロと見渡すと無事なトライクを発見。

 

だが奇跡的に被害を受けていないだけで、普通にウロヴォロスの攻撃範囲内に入っている。無闇矢鱈に回収しに行って、要らん反撃を喰らうのもなんか嫌なので今は放置しておこう。

 

そんな時、(しば)し思案顔だったリンドウは戻ってくると「おぉ!」と何かを思い付いたように手をポンッと叩いた。(因みに神機は傍に突き刺している)

 

 

「・・・何か思い付いたの?」

 

「あぁ、俺はこういう頭を使うのが苦手だって思い出した」

 

「・・・・・・」

 

 

新しく火を付けた煙草を手に持って、ワッハハハと笑うリンドウに阿呆を見るような目になってしまう。つまりは解決策は無しということ。

 

まぁ、このまま暴れさせていても更地が荒地になるだけだから、問題無いと言えば問題無い。なので必然的に傍観という形になってしまった。

 

 

「・・・嬢ちゃん、どうせする事も無いんだ。ちょっと暇潰しに質問させてくれないか?」

 

「ん、いいよ」

 

 

煙草を吹かしながら、雰囲気を変えたリンドウがそう語り掛けてくる。別に疚しい事なら答えれ無いと言えば、その場は納得してくれるだろう。そうじゃなくても、あまりこの人に悪印象は抱かれたくないので素直に答える事にしよう。

 

 

「一先ず、自己紹介からだ。俺は『雨宮リンドウ』。見ての通りゴッドイーターだ。リンドウでいい」

 

「分かった。ステラ」

 

「そっか・・・んじゃ、単刀直入に聞くぞ。お前は人間の敵か?それとも味方か?」

 

 

おぉう・・・答え難いのをいきなりぶち込んで来たな。いや、俺自身は人間の味方のつもりだし、現に人間を襲った覚えは無いけど・・・無いけどさぁ・・・。

 

アンタらゴッドイーターに敵認定されてんだよね。

 

 

「・・・敵ではない」

 

「んー・・・煮え切らねぇな」

 

「私、アラガミだし」

 

「ほー、そりゃまたエライこっちゃ」

 

 

再び、煙草を吹かすリンドウ。周囲の音はウロヴォロスが暴れる音だけが響き、いつになったら絶命するのだろうかといい加減焦れったくなってくる。いっその事、暴れる触手を引き千切ってやろうか。

 

 

「・・・・・・え、アラガミなのか?」

 

「・・・なにが?」

 

「嬢ちゃんが」

 

「え・・・知らなかったの?」

 

「・・・??」

 

 

何やら話が噛み合っていないような・・・もしかして、俺の情報ってそんなに知れ渡ってないのか?

 

ソーマもエリックも知ってる風には見えなかったけど、ソーマは父親と仲が悪いから話を聞く気が一切無くて、エリックは単純に戦闘力が低くてあまり階級が高くないから、とかだと思っていたがそうではないのか?

 

海の向こう・・・ここが極東だから中国辺りか?そこだとゴッドイーターに執拗に追われたんだが・・・うーむ、少し聞いてみるか。

 

 

「人型のアラガミって・・・聞いた事無い?」

 

「・・・()ぇな。似たようなもので、サリエルとかなら」

 

「そっか・・・」

 

 

嘘を吐いているようにも見えないし、ここでソーマやエリックの名を出すのはマズイかも。この人なら誰にも言わないとは思うけど、変に疑いを持たせるのも悪いし。

 

 

「なるほどな。だから、さっきあの巨体に吹き飛ばされてもピンピンしてたのか」

 

「・・・見てたの?」

 

「あぁ、ちょいと前からな。元々、アレを狩るように指令が出てたんだ」

 

「・・・一人で?」

 

「残念な事に一人だな。全く、支部長のドSっぷりにも困ったもんだ」

 

「ふーん・・・」

 

 

見られてたのか、全然気付かなかった・・・。あぁ、人だと思ってたから、さっき奇妙な物を見るような目で見られたのか。納得した。あんな攻撃、大男ですら生きてるか怪しいレベルだもんな。

 

ん?ちょっと待てよ。リンドウがウロヴォロスの討伐任務を受けたって事は・・・ふむ、そろそろメンバーが揃うのかな?

 

つまりはあの人も来るって事だから・・・生の下乳を拝みたいものだ、ぐへへ。ゴッドイーターやってる人なら誰もが思う。しかも、理由が『胸が大き過ぎて締められない』とか最高じゃね?

 

アングルを下から上が見える向きにして、何度覗こうと奮闘した事か・・・まぁ、見えないんだけどね。けど、そこがまたいい。

 

 

「なぁ、あのアラガミを狩ったのは・・・もしかして、食事の為とかだったりするか?」

 

 

いきなりどうしたんだろうか?仮にそうだとして、何か困る事でもあるのかな?

 

 

「いや、トライクで走ってる時に空から降って来て、そのまま襲われたから返り討ちにしただけ」

 

「そう、か・・・」

 

 

本当、あの時は度肝抜かれた。アニメで似たような光景を見た事はあったけど、本当にあの巨体が空から降って来るんだもんなぁ。お陰で見ての通り、トライクが一時的におジャンだ。

 

何をどうしたら、あんな高さまでいけるのやら。・・・もしかして、空で生まれたり?・・・まさかな。

 

 

「あー・・・こう言うのもなんだが・・・その、だな・・・卑怯だとは分かっているが・・・良ければ、あのアラガミのコアを譲ってくれねぇか?」

 

「え・・・」

 

「頼む!この通りだ!アレが無いと色々と面倒な事になっちまうんだ!この恩は必ず返す!」

 

 

ウロヴォロスがそろそろ力尽きて来たのか、ピクピクしているのを横目にリンドウが九十度の綺麗なお辞儀をした。

 

難易度は兎も角、アレを喰えばかなり大幅なパワーアップが出来るのは確かだと思う。これ以上追われるのは面倒というのもあったが、そう言った下心もあって迎撃をした。

 

だから、俺的にはご褒美を丸々お預けされた様なものなんだよな。

 

 

「分かった」

 

「本当か!?いやぁ、すまんな!マジで助かるよ!」

 

 

だがその申し出は素直に受けよう。うん、まぁ・・・確かに喰えないのは残念だけど・・・残念で残念で仕方無いけど、支部長の命令だしな。

 

下手したら俺が狙われ兼ねん。いや、もしかすればもう狙われているかもしれない。そうなると一番の障害はこのリンドウになるだろう。

 

単体では現時点で支部長の最高戦力だろうからな。リンドウの実力を見た訳じゃないけど、この人は強いってヒシヒシと感じる。何より瀕死とは言え、人間なのにあのウロヴォロスを前にして駄弁ってる程の胆力は中々のモノだ。

 

一対一でやって負ける事は無いだろうけど、その場合はこっちも多大な損害を受けるのは確実だろうな。

 

 

「お?そろそろいいんじゃないか?」

 

 

まるで肉が焼けたかのように言うリンドウの視線の先には物言わぬ死骸となったウロヴォロスが。流石にもう動かないとは思うが、用心するに越した事は無い。

 

そんな訳でカモン、投擲物(ロン)

 

 

〔ん?・・・どうした、終わったの━━━━くぁ!?〕

 

 

アホ面晒してる投擲物を鷲掴みにし、後方に腕を大きく振り被る。そのまま身体をやや屈めて、渾身のサイドスロー。

 

 

〔ま、待て!悪かっ━━━━たあああぁぁぁぁ!!?〕

 

 

元々浮かんでいるので抵抗が少ないのか、ロンが横回転のまま綺麗にウロヴォロスにジャストミート。そのままめり込んでシュルルルルと摩擦音と煙を出して停止した。

 

我ながら惚れ惚れするような内角(直撃)に抉り込む見事なクロスファイアーだった。

 

 

「・・・なんだあれ」

 

「疫病神」

 

「にしてはヤケに可愛らしい容姿だが・・・ま、いいや。もう動かないみたいだし、サッサとコアを頂きますか」

 

 

全く、反省しろよ。フラグ建設は別にいいとして、自分だけ逃げるなんて何事だ。少しは仕事しろ。あの程度の肉質なら余裕で噛み千切れるだろうに。

 

 

「えーと・・・どの辺だ?」

 

「中心部とかじゃない?」

 

「・・・・・・これの中心部?」

 

「手伝うから、嫌そうな顔しなくても・・・」

 

「いやー・・・ははは、こういう地味な作業はどうも性に合わなくてな」

 

 

トライクを回収しつつ、近寄れば余計に強調されるその規格外の大きさに度肝を抜かれたのか、リンドウが遠い目をしている。分かる、と内心で同意しながらも埋まってたロンを回収。もう一仕事あるので叩き起こす。

 

ほれ、もっとキリキリ働け。

 

 

〔んがっ・・・あぁ、主人が鬼畜過ぎて吐きそう・・・〕

 

「・・・それは酔っただけ。後、何かを吐ける程の体積無いじゃん」

 

〔いや、諦めなければ何事も成せるやもしれん〕

 

「・・・その先は地獄だよ」

 

 

出てくる物なんて、身ぐらいしかないだろう。

 

下らない事を言っているロンの相手をしながら、“★Rock Cannon”を呼び出してそれに装着させる。軽く動作確認を手早く済ませ、捕食形態にしてガップリとウロヴォロスを喰らう。

 

コアは駄目でも身体の方は貰ってもいいだろう。・・・まぁ、コアと比べる微々たる物だが。

 

 

「・・・『人が神になるか、神が人になるか』ねぇ・・・」

 

「・・・ん?どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない・・・嬢ちゃん、こっちも削っていていいか?それとも全部喰うか?」

 

「んー・・・・・・いや、コアを探してていい。見付けたら、気にせず回収して構わない」

「りょーかい」

 

 

モタモタしてるとあの激戦に加えて俺が居るから、アラガミが寄って来るだろう、と思って提案した訳だが・・・。よくよく考えてみれば、コアの回収ってそんなに時間が掛からないから、殆ど喰えないで消滅してしまうよな。

 

今更、前言撤回するのも格好悪いし、かと言って半分も喰えないのは勿体無いし・・・よし、急ぐか。

 

 

腰を落として狙いを定める。ある程度、溜めを作ってジャンプし、横薙ぎに“★Rock Cannon”を振るうと捕食形態のロンの上半分が一瞬で最大サイズになり、ウロヴォロスの肉を抉り取る。

 

元のサイズに戻る瞬間に下半分も少し大きくなり、抉り取った部分が落ちないようにバクりと口を閉じた。

 

 

「ふぅ・・・よし、次」

 

 

今度はダッシュや振り返り際だったりとその時その時で最適の捕食行動を行う。何をしているのかと言えば、捕食の簡略化。別に跳んだり等のモーションは必要無いがそこはイメージし易いからだ。

 

即座に捕食出来たり、攻撃範囲が一瞬で伸びたりと利点はある代わりに本家は知らんがこっちは切断力が二段階くらい下がる欠点がある。

 

だが倒してしまえば、肉質については気にする必要が無いのでこの通り、短時間でガンガン喰らい尽くせる。ハッキリ言って超便利。

 

 

「すげぇなアレ。・・・こんな感じか?・・・・・・おぉ、なんか出来た」

 

 

リンドウの邪魔にならない位置を中心に喰らい尽くしていき、3分の2程を喰らった時点でリンドウからコアを発見したとの知らせが届いた。

 

一旦、何処にあるのかを確認して、再び捕食再開。抜き取った後の消滅までの猶予が勝負。折角ここまで喰ったんだから、どうせならそれで全部喰らい切ろう。

 

 

「ふぃ〜・・・一時はどうなるかと思ったが嬢ちゃんのお陰で助かったよ。ありがとな」

 

「ん、モーマンタイ」

 

 

なんやかんやでアラガミが来る前にコアの回収も食事も終わり、あの場は地盤の緩みも含めて色々と危ないので今は一緒にピョンピョンと廃墟を跳びながら移動中。

 

割と話好きなのか、それとも単純に気になるのか、その間に俺の体質?の事だったりと色々と説明したりもした。

 

話し上手というか、聞き上手というか、いつもより口が饒舌に回った。やっぱ、個性的なゴッドイーター達を纏めるベテラン隊長なだけある。コミュ力が高いというよりも年長者としての落ち着きというか・・・将来的にはコウタもこの人と同じ立場になるんだよな。

 

・・・・・・うーむ、実物はまだ見てないけど、リンドウと比べるとやはり少し心細いよな。まぁでも、コミュ力に関しては個人的にコウタの方が上?と思うし、リンドウの頼もしさを知らなければ、コウタも充分な筈。・・・今はまだ新人だろうけどね。

 

 

それと時系列的に確か、リンドウがシオと会ったのはディアウス・ピターに襲われた後だった筈。それが一年以内に起こると仮定してもシオは普通に誕生していると見るべきか。

 

・・・未だに一度も会ってないどころか、その痕跡すら無いんだよな。自身の体質を考慮すると誘き寄せ易いとは思うんだが・・・本当に居るか不安になってくる。

 

 

「よっと・・・ここまで来れば充分だろ」

 

 

開けた場所に着地し、周囲にアラガミが居ないかと見渡してみる。取り敢えずは大丈夫みたいで、互いに警戒を解く。

 

 

「んじゃ、ここでお別れだな。・・・あぁ、心配するな。嬢ちゃんの事は黙っとくよ」

 

「ん、ありがと」

 

「いいって事よ。今日の事を考えれば、お釣りが出るくらいだ。・・・本当、助かったよ。ありがとな」

 

「・・・・・・聞かないの?」

 

「んー?何の事だ?俺にはサッパリ」

 

「・・・そっか」

 

 

別れの挨拶を軽く済ませ、その場から跳躍して移動する。対空中にリンドウの方を見てみれば、こちらを背にのほほ〜ん、と歩いて行っていた。

 

 

〔・・・気付かれていたな〕

 

「・・・そうみたい」

 

 

ビルを越えるとロンが出て来て並走しだした。何の事かと言えば、ソーマ達との関係だ。隠そうとはしていたみたいだが、やはりそう言った事は苦手なのか、割と直ぐに分かった。

 

全ては聞かされていないみたいだが、ある程度の概要は知っているのだろう。ビジュアル的に分かり易いインパクトを放つウロヴォロスを前にして、霞んで見えたのもあるかもしれない。

 

だが、あまりにも反応が淡白過ぎた。個人的にはそっちの方が助かるし、一応驚いてはいるようだった。それでも例え幾らかの恩があったとしても、もう少し警戒してもいい筈だ。

 

支部長か、榊博士か・・・あの天才共の本拠地に本当に何の機能も無いただのヌイグルミだけで侵入しまくっているのだ。バレてない方がおかしい。

 

ならば何故、なんのアクションも起こさないのか。恐らくだが黙認されているのだろう。となると、その可能性は榊博士の方が高い。

 

単にアナグラ内で暴れられたら困る、というのもあるだろうが、それならソーマという分かり易い目印があるので外で迎え撃てばいい。

 

どうせ彼の事だから、「実に興味深い」と頷きながら監視カメラとか眺めてるんじゃないかな。ロマンチストではあるが科学者でもあるあの人にとって、俺は物凄く興味深い対象に違いないのだから。

 

 

「・・・うぅ、悪寒が」

 

〔残念ながら、幼女は居ないから暖まれないぞ〕

 

「・・・分かってる」

 

〔エリn〕

 

「早く戻って」

 

 

懐かしき幼女。生きているなら、もう少女・・・いや、立派な女性になっていてもおかしくない年齢だ。最後に見た時は少女にしてはかなり歳とは不釣り合いな身体だったから、さぞや綺麗でご立派になっているだろうな。

 

会えるかどうかはさて置き、久しぶりに海を渡ってみるのもいいかもしれない。

 

 

エリナ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・知らない子ですね。




今年はこれで最後。
力尽きたので少しだけ冬眠します。

エリックに関してはその辺を書くとどうしてもシリアスになるので前書きのあらすじで丸々カット。なので、その時になったら閑話を挟みます。

リンドウさん、数も数えられない馬鹿らしいけど、ベテランカリスマ隊長なのでこんな感じのキャラになった。ステラの考察はあながち間違って無い。

だが、正確には最近のソーマやエリックを見ててピンッと来た後に榊博士にそれなりの情報を渡された感じ。

ウロヴォロス、リザレクションの時に一人で鎌をブンブン振り回してたら、ノーダメ&五分以内討伐が出来た時は流石に笑った。


それでは良いお年を〜!


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