FGO二部二章・改「狂焔之巨人王と三人のセイバー」 (hR2)
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第一話 第一のセイバー、見参!

 

 

 白一色の銀世界を、幾つもの斬光が切り裂いていく。

 

 幻想的なその光景の内にあるのは、紛れもなく美と称されるべきもの。

 加え、激突の度に飛び散る火花と打ち鳴らされる戟音が、見る者の心を鷲掴みにして離さない。

 

 戦うは超常なる二騎のサーヴァント、剣の英霊(セイバー)盾の英霊(シールダー)

 世界よりその功績と偉業を認められた存在が、互いを打倒せんと死力を尽くす。

 

 

 その剣の冴え、視認することなど微塵も許さず、

 その盾の構え、泰山よりも確として揺るがず。

 

 

 

 しかし————目を奪われることなど決して許されない。

 

 何故ならこれは、

 

 

「くぅぅぅ————!?」

 

 

 ————戦いというより、一方的な嬲り殺しなのだから。

 

 

 

 

 

[第一話 第一のセイバー、見参!]

 

 

 

 

 

 雪が、溶けていく。

 

 赤い瞳の仮面の剣士が持つ熱量と刃の激しさが、白を塗り替えていく。

 

 

 英国が誇る名探偵の右腕をいとも簡単に切り飛ばしたこの剣士こそ、シグルド。

 破滅と太陽を併せ持つ頂点たる魔剣を持ち、想い人から伝えられしルーン魔術を操る竜殺しの英雄。

 

 シャドウ・ボーダーをいとも容易く切り裂き、ペーパームーンをカルデアから強奪。

 逃すまじと追いすがるマシュ・キリエライトとその主に対し、一方的すぎる戦いを展開している。

 

 

「カカカ。

 愉悦。

 滑稽。

 無様。

 よく凌いでいると褒めてやらんこともないが、何を求める?

 所詮貴様らなぞ、()()()()()()()()()だろう?

 結末はただ一つしかないというのに————何をもがく?」

 

 

 シグルドの手に踊る短剣が、その両の腕により、

 

 

「————っっっ!!」

 

 

 回転式拳銃(リボルバー)より連射される銃弾の雨のごとく空を裂き、

 マシュの掲げる大盾へ吸い込まれるようにぶつかっていき、

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 確かに受け止めたはずなのに、内部まで伝わってくる衝撃に片膝をつかざるを得ない。

 

 

 ————すごい、圧力…………! でも、なんで…………!?

 

 

「おい。

 誰が休んでいいと言った?」

 

 

 両眼を彩る赤の輝きが、どす黒い悪意に染まる。

 

 

「先輩、下がってください!!」

 

 

 マシュの大盾に撃ち込まれた六本の短剣、それら全てが中空を駆け回り————

 この場に存在する最も脆弱な存在、カルデアのマスターを蜂の巣にすべく疾駆する。

 

 マシュの盾は確かに強靭だが、それは()()()()()防ぐことはできない。

 シグルドの投擲した刃達は、全方位より襲いかかる。

 矢より速く、弾より激しく、武技練り上げた剣士の業の狙いは、どうしようもなく正確無比。

 

 

「先輩!!」

 

 

▷ □ 「オッケー!」 □ ◁

  □ 「了解!」   □ 

           

 

 入れ替わり立ち代わり、背中合わせで立つ二人。

 従者はその盾で主に襲いかかる刃群を防ぎ、主人は自分の五感をフル稼働させ従者へと伝える。

 

 まるでそれはダンスを踊っているかのよう。

 物言わずとも、相手に全てが伝わっている。

 背中越しに感じられる相手の温もりが、更なる力を引き出していく。

 

 二人で掲げるその盾が、全ての刃を撃ち落としていく。

 

 

 数えきれない修羅場を共にくぐり抜けたこの二人を討ち取るには、

 いかな北欧に音聞こえた剣士の投擲といえども————足りない。

 

 

「ふむ。

 ()()()か」

 

 

▷ □ 「!?」 □ ◁

 

 

 シグルドの腰に収められていた何本もの短剣が抜き放たれ、

 輪を描きながら回転。

 

 

「守れ。

 守れ。

 お前が守らねば、主人(そいつ)は死んでしまうぞ?

 カカカ」

 

 

 再度その両拳が刃の撃鉄となり、剣の切っ先が血肉求める凶暴な猟犬となる。

 

 火花が所狭しと飛び散り、刃を防ぐ盾の音はもはや管弦楽団の大合唱。

 

 

「見もの。

 見もの。

 そこの主人(マスター)が死んだ時、どんなみっともない顔でお前は泣く?」

 

 

「くぅ————!」

 

 

 ジリ貧。

 防御一辺倒で倒せるような敵ではない。

 かといってこの状態で攻撃に転じても、一本一本が意思を持つかの如く正確にこちらを狙い続ける短剣達をどうにかしなければならない。

 

 そうでなければ、攻撃の最中にマスターを殺されるという大失態を演じることになる。

 

 

 ————震えが、止まらない…………!

 

 

 自分が震えてはいけないことなど分かっている、けれど、()()は何だというのか?

 

 魂の底の底まで破壊するような、シグルドの両眼が放つ悪意。

 

 これまで戦ってきた戦闘記憶の蓄積が警鐘を鳴らし続けている。

 何かがおかしい、何かが噛み合わない、何かが根本からずれている。

 それはバーサーカー召喚による狂化の付与などとは比べ物にならないほどの異物感。

 

 

 何よりも————()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()この状態では、全力の魔剣(宝具)は出せんが、

 ククク、お前ごときに使うはずもない。

 なにせ()()()でも余りあるからなァ?」

 

 

「っ!?」

 

 

 これまでに射出した短剣と、シグルドの腰に残っていた短剣。

 その全てが剣士の元へと集結し、転輪する。

 

 剣士の霊圧が、天井知らずに一気に膨れ上がり、

 冬の大気を散り散りに引き裂いて————

 

 

「恐らく敵宝具、来ますっ!!」

 

 

 世界が…………鞘より抜かれたる魔剣の登場に、恐れ慄き震えながらに刮目する!

 

 

「起動」

 

 

 回り出す刃。

 込められる魔力。

 定められる狙い。

 

 

「お前の矜持、見せてもらおう」

 

 

 赤眼が見据えるは、血、血、血。

 死が見たい、破滅が見たい、お前が慟哭する顔が見てみたい。

 下らぬ英霊、塵芥の人間、その全て————オレが欠片残さず燃やし(殺し)尽くしてやろう!!

 

 短剣の一本一本、切っ先から柄頭まで、余すところなくその全てに破壊のマナが充填される!

 

 

「これなるは破滅の黎明————ッ!!」

 

 

 それは正に戦場を駆け抜ける破滅の流星群。

 マシュの想像を大きく上回る展開・射出速度の流星達は、盾の英霊から宝具を起動する時間を奪い切ることに成功。

 射出され続ける殺意の刃、光芒だけを後に残し————我が最も早く標的穿たんと襲い掛かる!

 

 

 が、その全て、命中し切るよりも早く

 

 

 

「『壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)』ッ!!」

 

 

 

 これまでの投擲を遥かに超える剣の一射が、彗星となって突き進む!

 

 

 

 

 

 

 

 冬の大地に、

 

 破壊と爆裂が、

 

 嵐となって吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先輩…………だいじょ、うぶ、ですか…………?」

      

 

▷ □ 「マ、シュこそ、大丈…………夫?」         □ ◁ 

  □ 「正直、ダメ、かも…………?」          □      

  □  「マシュがいい子いい子してくれたら、大丈夫かも」 □    

 

 

「イエス、マスター…………!

 ダメージは大きいですが、まだ…………まだ、戦えま…………くぅ!?」 

 

 

 敵の一撃で大きくダメージを貰うも、二人の瞳から闘志は消えていない。

 二人とも五体満足、まだ、戦える。

 ここまでの損害で抑えられたことを、良しとすべきか、それとも————。

 

 

「ククク」

 

 

 ————やっぱり、おかしい…………!

 

 

 マシュは自分の直感を確信する。

 確かにこの一撃、()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、北欧有数の剣の英雄(セイバー)シグルドの技たり得るもの。

 

 だが、盾で受けてみて自分が感じたのはまるで違う存在。

 

 

 ————似てる、あの時と…………!

 

 

 ウルクで対峙したクラスビースト・ティアマット。

 冠位時間神殿で相対した魔神王ゲーティア。

 

 そんな、英霊が持ち得るレベルを遥かに超越した()()()()()が、最後の一投に乗せられていた。

 

 

 ————ブリュンヒルデを巡る悲哀の恋で反転した…………?

 

 

 ————違う、絶対にありえない! その域を凌駕してる!

 

 

 恐らく、この違和感の原因を知ることが、

 このシグルドを倒すのに必要な鍵となるか。

 

 

「真似事でこの程度か。

 無様。

 無様。

 多少は使えるかと思ったが、話にならん。

 雑魚。

 劣等。

 駄犬。

 雑種。

 ゴミは燃やして終わらすべきだが、オレが燃やして(殺して)やる価値もない」

 

 

 英雄の周りに、刃が集結する。

 

 

  □ 「ふざけろ」        □ 

  □ 「マシュは、」       □

▷ □ 「最高のサーヴァントだ!」 □ ◁   

 

 

「先輩…………っ!!」 

 

 

「カカカ。

 麗しい主従愛だな。

 悩む、悩むぞ」

 

 

 シグルドが、口を三日月にして嗤う。

 

 

マスター(お前)を殺し、主人を守り切れずに泣き叫ぶもどきの面を見るか、

 もどきを殺し、そいつの死に顔を見ながら絶望するマスター(お前)を見るか。

 ククク。

 実に良い。

 実に良いぞ。

 ああ、こんな感覚はいつ以来だ?」

 

 

 膨れ上がる霊圧。

 告げるのはそう、決して避けられぬ激突の瞬間。 

 

 

  □ 令呪を使うしかない □  

▷ □ マシュを信じる   □ ◁ 

     

 

 使わない、使って良いはずがない。

 このぐらいの窮地、何度も何度も共に乗り越えてきたのだから。

 

 

▷ □ 「マシュ、」 □ ◁       

 

 

  □ 「そいつをぶっ飛ばせ!」  □        

▷ □ 「そいつをぶっ飛ばそう!」 □ ◁ 

 

 

「————っ!!

 イエス、マスター!

 その命令、了解しました!!」

 

 

 その信頼と絆こそが、絶体絶命のピンチに陥っても不可能を可能にする原動力となる!

 

 

「ククク。

 よく吠えた。

 まだ死ぬなよ、ようやく体が暖まってきたところだ。

 次は、()()強いぞ」

 

 

 高まり極まる戦意と戦意。

 最強の矛と呼ぶに値する魔剣の刃と、最貴なる光を担う盾。

 

 己が持ち得る全ての力を、盾に込める。

 外界が震え出し、空間に亀裂が走る。

 霊圧と霊圧が衝突を繰り返し————

 

 

 ————絶対、負けない……っっ!!

 

 

 その決意を示す時は、今をおいて他にあらず!

 

 

 

「起動」

「真名、凍結展開————!」

 

 

 

 そして謳われる伝説の一撃、至高なる輝き。

 例え全知全能の唯一神であろうとも、この激突を止められることはもう不可能。

 

 

 

「お前の矜持、見せてもらおう」

「これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城!」

 

 

 

 天輪する刃は円を描き、

 高々と掲げられる大盾は貴き幻想を歌う。

 

 

 

「これなるは破滅の黎明————ッ!!」

「呼応せよ————っ!!」

 

 

 

 魔剣はただひたすらに狂奔し、

 大盾は遥かなる夢想の城を呼び寄せ————

 

 

 

 

壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)ッ!!」

いまは儚き夢想の城(モールド・キャメロット)!!」

 

 

 

 

 刃の流星群を従える魔剣の彗星が、

 打ち建てられた城門へ、

 その全てを噛み砕かんばかりに穿ち抜かんとする!

 

 

「ぐぅぅぅぅ————っっっ!!」

 

 

 其は速く、烈しく、猛々しく。

 狂えんばかりの悪意を滾らせながら、その力を一点に集約させ、

 

 

「フン」

 

 

 瞬転したシグルド、城門と魔剣が互いを削り合う決戦場へと到来。

 

 

「なっっ!?」

 

 

 吹き荒れる魔力流を全身で感じながら、その右拳に万力を込めて引き絞り、

 

 

 

「言ったはずだ————()()、強いとな」

 

 

 

 一直線に振り抜かれた右腕が、城門を貫かんとしている魔剣の柄頭と接触。

 

 刹那、

 

 

 

 

 

 焔が、爆裂。

 

 全てを、駆逐した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▷ □ 「マシューーーーーーーーーー!!」 □ ◁  

 

 

 

 未だ爆煙収まらぬ中へ呼び掛けても、ただ無音だけが答える。

 

 

「真似事の八割程度でこのざまか。

 英霊もどきの宝具もどき。

 そう考えればよくやった方か。

 カカカ。

 おい、どこか最高のサーヴァントだ?

 道化師(ピエロ)の冗談にしても笑えんぞ」

 

 

▷ □ 「お前…………!!」  □ ◁  

  □ 「テメェ…………!!」 □   

  □ 「あんた…………!!」 □ 

 

 

「まだ…………私は、戦えます、マスター…………!!」

 

 

▷ □ 「マシ、」 □ ◁  

 

 

「————ガハッ!!」

 

 

 銀世界が、血に染まる。

 

 

▷ □ 「……………………え?」 □ ◁  

 

 

 吐き出した血を拭うこともままならない、紛れもない重傷。

 盾に寄りかかり立っていることは立っているが、鮮血に塗りたくられた腹部と滴り落ちる血だまりが示すように、限界はとうに通り越してしまっている。

 

 いかな悠久久遠の城といえども、マシュが宝具として展開するその形、未だままならない。

 まるでそれは、朧なる蜃気楼のように不確か。

 

 宝具ではない、投擲剣技としてのシグルドの魔剣を受け止めると考えれば————分が悪いはずがない、が、

 

 カルデアの者達は現時点で気付くよしもないが…………それは、()()()()()()()()()()の魔剣の場合。

 ()()()()()()であることが問題だった。

 魔剣グラムは太陽の力を持つ。

 本来の壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)は、その太陽から()()撒き散らしながら射出される。

 そう、()()()()()()の悪意が、拘束状態のはずの魔剣から()を滲み出させ、本来あり得る威力よりさらに上をもって行ったのだ。

 

 

 

「よく立った。

 ————では二回目だ」

 

 

 

「負けま…………せん……………………!!

 あなたには………………負けちゃ————、

 ガハッ————ゴホッゴホッッッ、ぐぅぅぅぅ…………!!」

 

 

 世界が歪み、震え出す。

 それは恐怖。

 まるでこれから打ち出される宝具の一撃に、滅ぼされてしまうと恐慌していく。

 

 

▷ □ 令呪を使う!    □ ◁

  □ 令呪を使うしかない  □  

  □ …………それでも、  □ 

 

 

  □ 霊基の完全回復   □ 

  □ 宝具の強化発動   □   

  □ 戦闘からの撤退   □

  □ 他の使い道を考える □

  □ 二画を同時に使う  □

 

 

 円転する刃が、生物に必ず訪れる終焉を描き出し

 

 

「————ヌ?

 ……………………何奴?」

 

 

「…………あ…………?」

 

 

 突如あらぬ方向からシグルドの後頭部へと投げつけられた刃。

 当然のように防がれるも、勝負を決する剣技と令呪の行使に待ったをかけた。

 

 

 衆目の視線が集まる中………… 

 

 

 

「一つ、ひと夜に悪を斬り、」

 

 

 

▷ □ 「あ————!」 □ ◁ 

 

 

 

「二つ、不埒な悪者退治、」

 

 

 

「…………この、声は…………」

 

 

 

「三つ、みんな大好き可愛い娘をいじめる奴は、」

 

 

 

「…………ま、さ、か…………!」

 

 

 

「お姉ーさんが許しません」

 

 

 

▷ □ 「武蔵ちゃん!」 □ ◁ 

 

 

 

 

「新免武蔵守藤原玄信!

 

 義によってカルデアに助太刀いたす!!」

 

 

 

 

 日ノ本古今無双の双剣使いにして第一のセイバー、ここに見参。

 

 

 

 天元の花が、北欧の雪に咲き乱れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第二話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 



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第二話 Blade, Blader, Bladest

 

 

 走り抜けたるは一条の斬閃。

 

 それは斬撃にして、斬撃にあらず。

 剣に生きる者だけにしかその真を分かれない、剣士から剣士へと突きつけられた究極の挑戦状。

 

 

 

 全てを剣に捧げ、遍く世界を旅してきた剣士が辿り着いた武の極みとは、

 

 ()()()()()()の、心魂血脈霊素の一欠片に到るまで凍りつかせて余りあるものだった。

 

 

 

 

 

[第二話 Blade, Blader, Bladest]

 

 

 

 

 

  □ 「武蔵ちゃん、いっけー!」   □ 

▷ □ 「武蔵ちゃん、やっちゃえー!」 □ ◁

 

 

 初撃を終え、無言のまま剣を構える二人に黄色い声援が飛ぶ。   

 

 

  □ 「マシュも一緒に応援しよう、」 □  

▷ □ 「でも無理はしないようにね!」 □ ◁ 

 

 

「は、はい…………、ぐっ!?

 痛っっ…………ぐぐぐぐ…………!」

 

 

  □ 「そのまま無理に立ち上がらないで、」 □  

▷ □ 「二人の戦いを見守ろう」       □ ◁ 

 

 

 その言葉にマシュ・キリエライトは顔をしかめるも、

 一つ頷き、視線を二人のセイバーへと向ける。

 

 

 

「————————フン」

 

 

 

 一瞬、ごく僅かにだが確かに凍りついた。

 それは無論相手の双剣使いに気付かれている。

 

 剣士の技の真実は、同じ剣士にしか分かることはできない。

 

 素人、例えばカルデアのマスターが見ても、なるほど、すごいことは分かる。

 

 

 だが、相手の技術がどの程度なのかは、戦士にしか分からない。

 

 戦闘者としてあらゆる修羅場を経験しているマシュはこう推論している————、

 これほどの剣技を持つ者は、自分が知る数多のセイバーの中でも片手で数えるほどしかいないはず、と。

 

 

 だが、二人とも分かっているようで何も分かっていない。

 

 その技がどれほどまでに奥深く、どれほどまでに天高くあるものなのか————。

 

 そして何より、

 

 それが自分よりどの程度上なのか下なのかは、同じ剣士にしか測ることができない。

 しかもそれは、武蔵と同程度の剣の技量を持つ剣士という但し書きがつく。

 

 

 剣と共に、汗を流し、涙をぬぐい、苦痛に耐え、強敵を乗り越え、血を浴びる————

 

 剣士だけが、剣士を理解し得るのだ。

 

 

 シグルドは黙り、止まり、凍りついた。

 

 それはつまり、

 黙り、止まり、凍りつくに足りる剣の技量をシグルドが有していることに他ならない。

 

 

 

 つまりこの女————、

 

 ()()()()()()可能性がある、ということか。

 

 

 

「————ハッ。

 だからどうした」

 

 

 嗤う、嗤う、嗤い転げる。

 

 ああ、そうだろう。

 こいつの方がオレより剣の腕は上なのだろう。

 

 一つか二つ、いや三つ四つ————そんなもの()()()()()()

 

 

 

 それが人間という種。

 

 極めて短いサイクルで誕生と死滅を繰り返す塵芥の如き有象無象。

 

 その多さ故に、稀に()を持った者が出現する。

 神霊の恩寵を授かるに相応しい英雄という者達。

 

 永久不滅なる神霊では決して持ち得ない、定命の者だけが持つその光————、

 その光こそ、不老にして不死であるはずの神すらも、容易に殺し尽くす。

 

 

 

 その光を持つ者が、今オレの目の前にいる女だということ。

 

 何ら感傷など抱くことがない、()()()()()()()()()

 

 

 

「ちょいとアンタ」

 

 

「何だ?」

 

 

「彼女いじめたケジメはきっちり取らせるとして————。

 名乗ったんですけど、こっち」

 

 

「だから?」

 

 

「相手の名前を聞いたら自分の名前も教えなさいって、()()()()()()()()()()()()()

 それとも、そんなことも分からない狂犬なの、おたく?」

 

 

 

「————————ク、」

 

 

 

 嗤う、嗤う、嗤う。

 

 嗤わずになど、いられるはずもない。

 

 

 

「クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 ククククククククハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 拍手。

 喝采。

 大賛辞!

 クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 道化師、もどきと続いて、今度は()()鹿()か!!

 素晴らしい、素晴らしいぞ、塵芥!

 貴様らのアホさ加減に、今この場で嗤い死んでしまうかもしれん!!!

 クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 その頭の救えなさに免じて一つ教えてやろう」

 

 

 

 シグルドの持つ全ての短剣が、動き出す。

 三つの円を描きながら、シグルドの周りを球体状に流れ動く。

 

 

 

「オレの名だと?

 そんなものに何の意味もない。

 オレはただの、」

 

 

 全ての剣が、

 

 

 

「————お前らの生命(存在)終焉させる(終わらせる)モノだ」

 

 

 

 狂暴なるシグルドの剣意によって、

 

 嵐を超える嵐となるべく————

 

 開戦と終戦を同時に告げんと、雪崩の如く一斉に射出される!

 

 

「————————っ!」

 

 

 速きこと、迅雷の如く。

 

 それは最早、嵐とは到底形容できない、刃群の死檻。

 

 正真正銘、初撃から全力を尽くした短剣の連続投擲。

 

 

「あれが…………セイバー・シグルドの本気…………っ!」

 

 

 抜かれていたのだ、手を。

 

 刃一つ一つが意思を持って状況判断しながら獲物の急所へと飛んでいく全方位殲滅投擲(オールレンジ攻撃)

 

 上下左右、短剣が襲いかからない方角など存在しない。

 

 もしこの場に竜種がいたとしても、あの刃の地獄の中では十秒と持たずに穴だらけと変わる。

 

 あれを使われたら————果たして自分はマスターを守りきれただろうかと、マシュの背中に冷たいものが走る。

 

 

 それだけではない。

 

 飛び交う短剣はその軌道・勢いを細かく変えながら、シグルドの元へと帰ってくるものがある。

 その刃を、

 

 

「————シッ!」

 

 

 再度拳で打ち出し、さらなる勢いで持ってして武蔵の身体を突き穿とうとする。

 

 さらに、

 

 

「————————」

 

 

 その右手、魔剣を打ち出す準備を既に完了している。

 

 

 期すのは必殺、己に相応しい最強の一撃。

 

 一度開けた刃獄の釜の蓋は、決して閉じることなく大口を開けている。

 

 縦横無尽に貫き続ける刃達は、もはや空間そのものを埋め尽くす剣勢で飛び交っている!

 

 

「こんな…………デタラメ、どんなサーヴァントでも…………」

 

 

 躱せない、凌げない、防げない————

 

 マシュの頭が、自然と下を向いて

 

 

  □ 「でも、武蔵ちゃん、」 □    

▷ □ 「さばいているよ?」  □ ◁  

 

 

「え————………………

 

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

 

 

 シグルドの額に、()()()()()()

 

 全く信じられないことだが————、この勝負、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 武蔵は泰然たる巌の身、垂直に立つ背は曲がりも反りもしない。

 

 不動でありながら、不動ではない。

 カルデアの者達の目には動いてないように見えるが、その実動いていることをシグルドは知っている。

 極々僅か、極めて微小な回避行動が、短剣を弾く双剣操作の体捌きに吸収されている。

 

 不動ではないが、不動のように見えるのだ。

 

 

 刀を振りながら短剣をさばききり、シグルドとの距離を詰める————

 言葉にすればこれで終わるが、それがどんなに荒唐無稽な絵空事なのかはシグルドが射出する短剣の荒れ狂う様を見れば誰でも分かる。

 

 

 嗚呼、それなのに————

 武蔵は着実に距離を縮めているのだ。

 

 

 先刻のマシュとの戦いとは比べ物にならないほどの剣戟音は決して休むことなく音に音を重ねて音を掛け続ける。

 刃と刃の激突のフラッシュが、まるでそこにもう一つの太陽があるかのように輝き続けて止まることがない。

 

 その光の影響で、こちらからは武蔵の姿を視認することは難しいが、

 この音と光が未だ止まっていないことこそ、武蔵が健在である何よりの証。

 

 

 たった二つ、たった二つしかないはずなのだ。

 だがその双剣、神楽を舞っているかのように武蔵の身体を離れることなく、己へと降りかかる刃の厄災を一つ残らず打ち据える。

 

 届かない。

 竜殺しの英雄の刃を持ってしても、届かないのか————?

 

 

「————小癪」

 

 

 接近戦では、分が悪い。

 

 魔剣一つで敵の双剣を相手にするは、ほぼ無理だとシグルドは判断している。

 

 剣士が最も無防備になるのは攻撃をし終わった後ではない、攻撃している最中。

 

 ところがこの常識が双剣使いには通じない。

 右で攻撃しながら左で守り、左で突きながら右でさばく。

 攻撃と防御が一体となるのだから。

 

 だからこその中間距離での連続投擲。

 間合いを保ち、一つでも当たりさえすれば崩れた体勢へ魔剣投擲、詰みにすればいい。

 

 だが…………

 その一つは、一体、いつ、当たってくれるというのか?

 

 

 そんなことよりも————!

 

 

 

「————————ッ」

 

 

 

 ()()()()()()

 理由はまるで分からないが、自分はこの女に()()()()()()

 

 何故だ、何故何故何故何故、何故なのか!?

 

 不快な苛立ちが募り、また一つ距離を詰められる。

 

 

「————————————くッ!」

 

 

 あの不愉快極まる()は何だというのかっ!

 

 

 あらゆる方向、あらゆる角度から突っ込んでくる短剣の全てをさばくため、武蔵が両手に持つ双剣は常人では視認することは到底不可能。

 シグルド・武蔵(クラス)の技量を持って初めて目で追うことが許される。

 

 その域の者ならば知れる者もいようか————、

 何故シグルドは開幕からずっと押されているのか、そして何に苛立っているのかを。

 

 

 

 武蔵は、常にどちらかの刀を()()()()()()()()

 

 その剣に、シグルドは押され続け、苛立ち続けているのだ。

 

 

 

 武蔵の身体の中心を表す縦の一本線があるとする、これを中心線という。

 同様に、この中心線はシグルドにも存在する。

 

 二つの縦の中心線を繋ぎ、三次元空間上に平面を作る。

 

 武蔵が置く刀は、この面の上に位置している。

 

 自他の中心線が描き出すこの面上に刀を置くということは————、

 ()()()()()()()()()()ということであり、

 ()()()()()()()()()()()()()ということになる。

 

 その双剣、ここでも攻防が一体となっている。

 

 武蔵はただシグルドの攻撃を凌いでいるのではない。

 凌ぎながら攻撃している————押しているのだ。

 

 

 驚嘆すべきはその正確性。

 ミリ単位どころの話ではなく、その千分の一のマイクロ単位で見ても誤差がまるでない。

 真に中心を押さえているのだ。

 

 さらに武蔵が今いるのは千刃乱舞するシグルドの刃檻の中。

 右で払い左で打ち据え、両手双剣を目まぐるしく動かしている。

 

 それでいて、武蔵は常に片方の刃で中心を取り続けている。

 

 

 異常すぎる、その技量。

 

 魔神か鬼神かと疑わざるを得ない剣の技。

 

 

 

「チッ————————!」

 

 

 

 だから、押される。

 理由分からず、焦燥する。

 油汗が、出てきてしまう。

 

 

 武蔵が仕掛けているこの中心の取り合いこそ、()()()()()()()()()

 

 相手に中心を取られたのなら、取り返すため一手仕掛けなければならない。

 そうしなければ、押される、押され続ける。

 後ろに下がるか、左右に逃げるか————しかしそれは答えではない。

 

 体勢と位置が変わろうとも、武蔵は常に中心を取ってくる。

 

 付け焼き刃は通用しない。

 

 

 そして、武蔵が中心に置く刀があるからこそ、

 それがシグルドからすれば武蔵の()となり、魔剣を射出できないでいる。

 

 

 

 何よりも大きいのが、

 

 ()()()()()()()()西()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 例えそれが未知なものだとしても、シグルドほどの力量を持ってすれば難なく破壊しよう。

 

 だが、

 

 相手は、宮本武蔵————。

 

 己よりも、間違いなく上の剣域にいる相手。

 

 分が悪い、そういうしかないのか…………。

 

 悪夢でしかない。

 

 北欧最大といってもいい竜殺しの英雄譚を持つ剣士が、何もできずに押され続ける剣士が存在するなど————。

 

 

 

 シグルドは何度も後方へ飛び退き、距離を保とうとしているが、

 

 詰める。

 武蔵はその距離を詰めてくる。

 

 空間を縮めているかと見まごうばかりの精妙なる足さばき。

 

 下がらざるを、得ない————。

 

 

 

 両者の距離が、信じられないことに段々と縮まっていき————、

 

 

 

「疾ッ!」

 

「————ぐ!!」

 

 

▷ □ 「届いた!」 □ ◁    

 

 

 

 刃が織り成す監獄を打ち砕くよう払われた、力強い右の一閃。

 

 何本もの短剣を弾き飛ばすその刀勢、魔剣でなければ止めること叶わなかった。

 

 あらゆる無駄を削ぎ落とした末に残った、完璧に合理化された体さばき。

 そこから生成される剣撃は、最小動作で繰り出されたもの。

 されど、刃に乗るその威力————竜の鱗すらも断ち切るほどの力が宿っている!

 

 投擲準備を終えていた魔剣が中断。

 

 だが、手に握る魔剣の刀身が放つ魔力が、破滅させるべき敵を前にして一段と燃え上がる。

 

 

 

 武蔵は、遂に己の斬り間にシグルドを捉え、

 

 シグルドは、魔剣を両の手で持ち、剣士としての全力のスタイルとなる。

 

 

 

「チッ」

 

 

「さーて、お楽しみはこれからよ」

 

 

「驕るな。

 馬鹿は死んでも治らないとはどこの言葉だったか。

 お前は、オレが、()()()()()()()()

 

 

 そして始まる全力対全力、全開対全開。

 

 

 二本の刀を操る双剣使いと、

 一振りの魔剣を握りながら何十もの短剣を意のままに飛ばす剣士。

 

 双方あらん限りの力と技を駆使して激突。

 

 絶人の剣士が二人、死力を尽くす。

 

 その刃で首を刎ねんと何十手先を見据えているか余人には見当もつかない攻防が開幕する。

 

 

「ハッ!!」

 

 

 武蔵!!

 

 凄まじい技の冴え、研ぎ澄まされた業の極み、見切ること困難な術技的な速さ。

 それは剣豪として到達可能な頂点の中の頂点にいるからこそ可能となる、最強の一刀。

 

 鳴り散らす刃、弾け飛ぶ閃光。

 

 何よりも————その一振り一振りには鬼神すらも断たんとする凄みがある!

 

 

「——————フン」

 

 

 刃の監獄地獄は勢いを止めない。

 回り続け走り続け、主の悪意を成し終えるまで短剣達には一秒の休息もない。

 

 だが————魔剣の一振りという本来ならば駄目押しの一手を持ってしても、

 

 その剣へ、()()()()()を乗せて叩きつけても、

 

 武蔵の双剣を崩せない!

 

 

 もはや何合打ち合ったかなど無意味。

 

 殺す(いち)、斬り殺す(いち)、終わらせる(いち)をどちらが先に出せるのかなのだから。

 

 

「劣勢、か」

 

 

 武蔵は、押し。

 シグルドは、下がる。

 いや、下がらされている。

 

 武蔵が刀に乗せる斬撃力が高すぎるが故に、受け止めたシグルドが後ろへ下がらされる。

 

 だが、下がるということは距離が開くということ。

 

 距離が開けば————冷徹な剣士の思考が、武蔵に短剣を雨あられと浴びせかける。

 

 

「あーーー!

 ほんとしつこい!!」

 

 

 冗談のような二刀の操作。

 およそ剣に生きる者であれば、一目見てしまえば生涯忘れえぬ光景と映るであろう。

 

 

 繰り返す。

 接近・激突・吹き飛ばし・後退がくるりくるりと繰り返す。

 

 

 戦闘開始から一体どれくらいの時間が経ったのか。

 

 しかしこの二人、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ダメージで言えば五分の無傷だが、剣の内容は武蔵で押しに押しまくっている。

 

 

 何度目か分からない接近を、再び、武蔵が仕掛けようとしたその時————!

 

 

 

 

 

 

 

▷ □ 「——————は………………?」 □ ◁    

 

 

 

「————————あっ————————!」

 

 

 

「ガッ————ッ!!?」

 

 

 

 シグルドの体が、()()()()()()()()

 

 武蔵の左の突きを魔剣で首ギリギリで受け止めるのに成功したのだが、

 

 両足が地面より離れ、宙を飛ばされる。

 

 

 分からなかった、カルデアのマスターには何が起こったのか分からない。

 

 マシュほどの戦闘経験を積んだ者でもようやく、武蔵が何か仕掛けた()()()としか見えなかった。

 

 シグルド、虚をつかれたのは事実だが、その仕掛けの()を完全に看破。

 二度目を食うことはもう絶対にない。

 

 だが、その刺突により体勢崩され首に穴を開けられるのを寸前で防ぐも、大きく吹き飛ばされる。

 

 

 

 当然のごとく追いすがっている武蔵。

 

 両手に持つ二刀を死を告げる鳥のごとく羽ばたかせ————御首を貰いに、駆ける!

 

 

 

 

 今のシグルドの状態を表す言葉は()()、五輪書が忌み嫌うジャンプ状態である。

 

 飛び上がるには、跳躍前の動作が大きいし、跳躍後の位置と体勢を相手に教えてしまう。

 

 人間の関節には可動域が存在する以上、着地する相手の死角に簡単に回り込める。

 

 ジャンプしながらの攻撃とは、術技的には完全な死に技。

 

 わざわざその場にとどまって攻撃を受けてやるほど、敵対者は優しくなかろう。

 

 

 

 

 

 その()()で吹き飛んでいるシグルド。

 

 飛ぶ己よりも武蔵の走法の方が速度は上!

 

 つまりシグルドの着地点こそ————、

 

 決して逃れられない絶対の死地となる!!

 

 

 

 しかしその刃が、風切り音を残して冬の空気を切り裂いた。

 

 

 

「——————フン、ムサシといったか」

 

 

 

 シグルドが、空中で静止する。

 

 己の短剣を呼び寄せて、その腹に足を置き空中の足場としたのだ。

 

 

 

「忘れん、その名」

 

 

 

 その台詞一つを捨て置いて、

 

 悪意に満ちた赤い瞳の英雄は、短剣を使い空を走り、去っていった。

 

 

 

 

 

「おーわー〜、器用ねぇ〜あいつ。

 ふーん。

 あんな使い方もできるんだ」

 

 

 脅威は去り、

 武蔵が手に持つ二刀を鞘に収める。

 

 

「久しぶり————っていうほど久しぶりじゃなかったりするんだけどね、私としては。

 まさか()()()キミのところに来ちゃうなんて、ね。

 やーーーねーーーーもーーーーー!

 それもこれも、運命の赤い糸ってやつ!?」

 

 

「————!?」

 

 

▷ □ 「ゴホゴホゴホ!?」         □ ◁

  □ 「不束者ですがよろしくお願いします」 □    

 

 

「せせせ、先輩の左手の薬指には物理的には何の糸も指輪も巻かれていないと申しましょうか何といいましょうか、ええええと、その、うぅぅぅぅぅぅ」

 

 

「もー! 顔真っ赤にしちゃって!

 かーいいなーもーー! うりうり〜〜」

 

 

「あう、ああううううぅぅぅ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?

 

 

 

 ここでもあそこ(露西亜)と同じ世直しをやってるってことでいいのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来ならば、この世界では実現するはずのない再会。

 

 ずれてしまった歯車の回転が引き寄せた、有り得ざる剣の異邦人。

 

 英雄の花嫁が存在しない異聞帯に転がり込んだ、剣士(セイバー)が一騎。

 

 

 

 その剣が斬るのは、

 

 果たして、一体何となるのか————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第三話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 



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第三話 彼女という剣

 

 

 砂漠にオアシスがあるように、この雪原にも緑はある。

 

 銀世界に咲いた翠緑の草むらで暖かさを享受できるのは、

 

 

 

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

 

 体格甚大の力強き巨人だけと決まっている。

 

 

 

 その園に、異物が侵入。

 

 

 

「うーーーーーん、でかぁぁぁーーーーーーい!

 いっちょやってやりますか。

 二人とも、ゲルダちゃんをお願いね!」

 

 

 ならば生じるのは、闘争。

 どちらが正しいのか間違っているのか、そんな問題ではない。

 

 生命が持つべき闘争の最も原始的な形には、綺麗事は一切存在しない。

 

 そう————、

 

 

▷ □ 「武蔵ちゃんはそいつらをお願い!」 □ ◁  

  □ 「マシュ、周囲に警戒を!」     □   

  □ ゲルダと手を繋ぐ          □ 

 

 

 

 あるのは二つ、生きるか、死ぬか————その二者択一から闘争が生まれたのだ。

 

 

 

「ひと、ふた、み………………やつ、ここの、とを、あまりがひと、ふた。

 十二か。

 柳生の爺様よりは多いけど、お兄さんには足りない、か」

 

 

 

 武蔵、腰より双剣を抜刀。

 

 構えなくだらりと刀を下げ、

 

 

 

「気をつけてください、武蔵さん!

 数が多いので、くれぐれも慎重に!

 体格の割に、意外と素早いです!!」

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 

 

 戦場を、疾駆する!

 

 

 

 向かう先は十二人の巨人の群れ。

 もはやそれは筋肉の絶壁と呼んでも良い、圧倒的なマッスル密度。

 

 紛れ込んだ乱入者を叩き潰すべく————

 総勢都合十二の塊が、一斉に、武蔵へと、振り降ろされる!!

 

 

 

 武蔵が両手に持つ大小二刀が、その切先の先の先まで剣気に満ちる。

 

 

 

「ハァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 その剣気こそが空間を斬り裂く断界となり、

 巨人達にとって決して逃れられぬ死神となる————!!

 

 

 

「————————えっ?」

 

 

 

 走り抜けた武蔵、巨人の圧撃を躱すだけでなくその後ろへ抜けている。

 

 確かに見えた美しき剣煌。

 世界そのものすら斬り拓くような、宮本武蔵にしか放てない斬線。

 

 時の針の動きを止めなければ、その剣戟が何回だったか数えるのは不可能。

 

 その数、右が六、左が六の、計十二太刀。

 それは正しく、己が斬り捨てた巨人達と同じ数。

 

 

 

▷ □ 「             えっ?」 □ ◁

 

 

 

 武蔵、双剣を大きく振って血振るい。

 同時に鞘に収め————、

 

 鍔が鯉口と接触、そして聞こえる短く甲高い金属音が二つ。

 

 

 

「                  !?」「                  !?」

「                  !?」「                  !?」

「                  !?」「                  !?」

「                  !?」「                  !?」

「                  !?」「                  !?」

「                  !?」「                  !?」

 

 

 

 吹き上がる鮮血。

 

 断末魔を上げることすらできない、一方的で絶対的すぎる斬殺。

 

 斬り飛ばされた肉体が、重い音を立てて何個も何個も大地へ落下する。

 

 そして、その武威を誇っていた巨人達の体躯が、命なき死骸として崩れ落ちる。

 

 

 

 緑の楽園に、血の湖が突如として出現する。

 

 

 

 その抜刀から納刀まで、九秒とかかっていない。

 

 

 

「またつまらぬものを斬ってしまった…………、

 

 とは言えないな。

 この人達もこの人達なりに必死に生きていたはず。

 それをつまらないものって言っちゃうのは、うん、ダメですとも!!

 

 うーーーんーーーーー、何かないかな?

 決め台詞的な…………?

 うーーーーーーーーんーーーーーーーーーーーー……………………悩ましーー!」

 

 

 

 秒殺にして瞬殺。

 

 剣の頂を極める剣士の技は、

 

 ある意味、死という厄災の一側面なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「………………え?

 …………………………え?

 …………………………………………え、え?

 

 せ、先輩…………?」

 

 

 

▷ □ 「な、何かな、マシュ君…………?」    □ ◁

  □ 「な、何でござるか、マシュ殿…………?」 □ 

 

 

 

「ま………………、

 ま…………、

 

 ………………まじっす、か………………?」

 

 

 

  □ 「ま、まじっす、みたい、っす、です…………っす…………」 □  

▷ □ 「結果おーらい、だから、ツッコミは、や、止めやめとく?」 □ ◁

 

 

 

「………………。

 い、いえす、です、まい、ますたー…………」

 

 

 

 

 

[第三話 彼女という剣]

 

 

 

 

 

 空には漆黒。

 

 夜を彩る星達が、今日も輝きを見せる。

 

 ロシア異聞帯と同じく、この異聞帯でも、星々の輝きは————同じように見える。

 

 

 

 ゲルダの村で迎えた夜。

 

 村の皆がベッドの上で寝静まる中————

 

 彼女はやはり、剣を振るっていた。

 

 

 

「ほい、終わり」

 

 

 

  □ 「パチパチパチパチ」     □

▷ □ 「ブラボー、オオ、ブラボー」 □ ◁ 

 

 

 

 一刀での素振りから始まり、二刀、座居合、立居合、そして二刀居合と一通り終える。

 

 それは型と称されるものなのだろうが、武蔵としては格別形式張ったことではない。

 

 名前が何の、初伝中伝奥伝が何で順番がどうのと、そんな無駄な形式を付け加えることはない。

 

 

 

 己が思う身体の鍛錬法と、双剣の操作技法を、確認・研究し続けているだけ。

 

 

 

 だがそれは————

 剣士であるならば誰でも、お師匠様弟子にしてくださいと、額を地に打ちつけながら叫ばずにはおられないほどの美しさ。

 

 

「ふー…………」

 

 

 そのため息、長く、そして重い。

 

 

▷ □ 「どうしたの?」 □ ◁

 

 

「ん、ちょっとね。

 こっちか、元のか…………、かぁ…………。

 キミの歩く道の重みは分かってたつもりだったけど、…………甘かったな、私」

 

 

 そしてまた、特大のため息が聞こえる。

 

 

▷ □ 「それでも、やらなきゃいけない」 □ ◁

 

 

「ええ、そうよね…………」

 

 

  □ 「武蔵ちゃんは、」  □

▷ □ 「もしかして反対?」 □ ◁

 

 

「————いえ、これは、キミのいう通り、やらなきゃいけない道だと思う。

 でも————…………」

 

 

 その手が腰に差す刀の柄を叩く。

 

 

「私にとって小さい子っていうのは、(これ)で守るべきものであって、(これ)で殺めていい存在じゃなかったから…………。

 だから、かな…………」

 

 

▷ □ 「………………」 □ ◁

  □ 「——————」 □ 

 

 

「そう考えると、自分が情けなくなっちゃって」

 

 

▷ □ 「情けない?」 □ ◁

 

 

「だってね、私にとっての旅っていうのは————、

 どこまで強くなれるのか、

 私より強い使い手はいるのか、

 いるのであれば、そいつを私は斬れるのか————、

 ただ、それだけだったから…………随分、安っぽい道だったな、って。

 

 斬られたところで私一人がおっ死ぬだけ終わり。

 キミのように、自分達が倒れてしまったら世界全てが終わってしまう————、

 そんなものを刀に背負えたのは、

 キミと一緒に、旅した時だけだったから。

 キミが歩いてきた道の重みを思うと…………さ…………。

 

 もちろん後悔なんかないわよ。

 剣に生き、剣に笑い、剣に死す————って、まだ死んでないつもりけど。

 剣士として望みうる最良の人生だった、って、言い切ることはできる。

 

 でも、ね————」

 

 

▷ □ 「そんなこと、ないよ」 □ ◁

 

 

  □ 「人はそれぞれ背負っているものが、」 □ 

▷ □ 「もともと違うんだから、」      □ ◁

 

 

  □ 「どっちが安くて、どっちが重いとか、」 □ 

▷ □ 「そんなの全然関係ない」        □ ◁

 

 

▷ □ 「大事なのは、」 □ ◁

 

 

▷ □ 「自分の信じる道を、きちんと懸命に生きられているかどうか」 □ ◁

 

 

▷ □ 「…………じゃないかな?」 □ ◁

 

 

 

「……………………」

 

 

 

  □ 「僕は、」   □ 

  □ 「私は、」   □

  □ 「俺は、」   □ 

  □ 「あたしは、」 □ 

 

 

▷ □ 「武蔵ちゃんに助けられたよ、何度も何度も」 □ ◁

 

 

  □ 「下総国の時だって、」 □

▷ □ 「ロシアの時も、」   □ ◁

 

 

  □ 「武蔵ちゃんが気付いていないだけで、」 □

▷ □ 「本当は数え切れないほど大勢の人を、」 □ ◁

 

 

▷ □ 「その剣は、救ってるはずだよ」 □ ◁

 

 

▷ □ 「だから、言わないで」 □ ◁

 

 

▷ □ 「安いとか、情けないとか」 □ ◁

 

 

  □ 「マシュ達と一緒に歩いてきた道も、」  □

▷ □ 「武蔵ちゃんが一人で歩いてきた道も、」 □ ◁

 

 

▷ □ 「どっちも同じくらい大切で、尊いもののはずだよ」 □ ◁

 

 

  □ 「うん、」         □

▷ □ 「百パーセント、保証する」 □ ◁

 

 

 

「………………うん、

 ありがとう——————。

 

 キミと巡り会えて、本当に良かった」

 

 

 

 剣士の顔から、迷いが消えていく。

 

 

 

「本当はね、私はもう()()()()()()()()なの」

 

 

▷ □ 「終わっている?」 □ ◁

 

 

「私は————()()に、辿り着いてしまったから…………

 本来ならば旅をするんじゃなくて、旅を止め、あるべきところへ行かなきゃいけないはずなの」

 

 

  □ 「それって、」   □ 

▷ □ 「つまり…………?」 □ ◁

 

 

「そう。

 それは絶対にここじゃない。

 極楽————に行くのは難しいだろうから、地獄…………になるのかな?

 さしずめ修羅地獄か、他のどこかに飛ばされちゃいそうだけど…………。

 それは、絶対にここではないはず」

 

 

▷ □ 「そんな…………」 □ ◁

 

 

「だからね、私、露西亜でキミと再会できた時、本当に嬉しかった。

 お釈迦様が、最後の御慈悲でお別れを言わしてくれたんだって思った。

 それなのに、伝えなきゃいけないこと全く伝えられないままここに飛ばされちゃったもんだから、ほんとーーーーーにガックリきてた。

 

 けど…………」

 

 

 

 その瞳が、剣気に燃え上がる。

 

 

 

「露西亜で、あいつを斬った時に分かった。

 

 ()()()()()()()()()

 ()()に至った者として、やらなければならないことがある。

 

 例え今回が最後だとしても————、

 それでも! 何度でも、何度でも! キミのところへ戻らなきゃいけないんだって!

 

 だって————、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

▷ □ 「————うん」 □ ◁

 

 

 

「ねえ、私を、キミの剣にしてくれないかな?

 

 私には、もう、斬れないものは何もない。

 

 鬼も、龍も、仏も、神も、天も、世界や、理すらも————

 

 私の剣は、全てを両断できる、

 

 ————そう、キミが、そばにいてくれるのなら」

 

 

 

▷ □ 「…………うん」 □ ◁

 

 

 

「私が、全てを斬り伏せる。

 

 キミの道を遮るものは、何だろうとこの刃で。

 

 だから、キミは、そのままのキミでいて。

 

 いつだって真っ直ぐで、どんな暗闇だって真昼のように照らしてくれる、

 

 そんな、貴い勇気を持ったキミのためになら————、

 

 私は、どんな奴が相手だろうと、絶対に、負けることはないから」

 

 

 

▷ □ 「——————うん!!」 □ ◁

 

 

 

「以前、見せてたけど、正式にはまだだったよね、

 

 これが私の————、

 

 ()()()()…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第四話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらー、隠れてないで出てきちゃってーーーーー!

 もう私一人よーーーー?」

 

 

「…………ど、どうも…………。

 あ、いえ、その、あの、

 ねねね寝付けなくて、少し散歩しようかなと、はい。

 べべ、別に武蔵さんと先輩のお話を盗み聞きしようとか、そいうのではないです、はい!

 ただ単にちょーっと外歩こうかなぁと。

 

 だってほら、不思議な、夜空ですし。

 月も綺麗じゃないで…………………………

 

 

 

 ————————————うェィぃいぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?

 

 つつつ、()()()()!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 だ、だめです!

 い、いえ! だめじゃないです! でもだめです!!

 

 お二人がですね、どういったおつきあいをしようとも、わわわわ私には、ええ、そうですとも、関係ないわけでありますが、

 しかし、先輩の保護者である身としてはええ、とその、なんとかかんとか、どうのこうの、

 何と言ってもクラスシールダーですので、はい! です、から、あああ、あああぅぅぅ…………

 

 あぅぅぅぅ………………」

 

 

「ほらもー、こっちこっち。

 ここに座って、座って。

 

 ね、一緒にお話ししましょ?」

 

 

 



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第四話 日本で一番強い剣士は誰ですか?

 

 

 何事にも、例外はある。

 

 例えるならば、この異聞帯に乱入してきたカルデアの者達。

 

 女王の統治のもと、着実に育つ空想樹を見守るだけだったこの世界に、大きな変化が訪れようとしている。

 

 見くびってはいけない。

 

 彼女は————彼女達は、人理を滅却から救った者達なのだから。

 

 例え魔術師としての実力はこちらが上だろうとも————

 

 潜り抜けてきた死闘の経験値の方が、恐らく、いやきっと、ずっと上にあるはず。

 

 

「————それで?

 まだ何かあるのかしら?

 貴方が実体化してまで聞きたいことって、何?」

 

 

 戦果物の受領、状況の報告、彼女を傷つけるなという命令を度外視していたことへの叱責。

 

 全て終わったと思っていたが————、

 

 まさかこの剣の騎士が、()()()()()()()()()自分にそばに佇む時が来ようとは、このオフェリア・ファムルソローネ、思ってもみなかった。

 

 恐らくこれも、カルデアの到来が引き起こした例外の一つ。

 

 

 

「…………()()は、何だ?」

 

 

 

 全く何の脈絡のかけらもない言葉でもあるが、無論、誰のことかは分かる。

 

 

宮本(ミヤモト)武蔵(ムサシ)

 日本(ジャパン)という極東の島国において、十六〜十七世紀に活躍した剣士よ。

 二刀流、なんだけど、重要な対決に臨む時は武器は一つだった、という伝承もあるわ。

 男性のはずだけど————、何があったのかしら?」

 

 

「性別などどうでもいい。

 宝具は何だ?」

 

 

「……………………」

 

 

 返答を一拍遅らせる。

 

 赤い瞳は————()()()()()()輝いている。

 

 その内にあるものは正確に推し量れないが————…………

 

 

(やはり…………もう一欠片も残ってない…………。

 だからなのかしら…………。

 これほど探しているのに、()()()()の痕跡が何処にも見当たらないのは、やはりこれが原因…………?)

 

 

 

「分からない」

 

 

「…………おい————」

 

 

 その右手に、魔剣が姿を現す。

 

 しかし、紅蓮に燃えるその眼光を、マスターであるオフェリアは正面から睨み返す。

 

 

 

「少し長くなるけれど————、

 

 いいかしら?」

 

 

 

 

 

[第四話 日本で一番強い剣士は誰ですか?]

 

 

 

 

 

『是非、貴女達の意見を聞かせてもらえないかしら?

 日本という国には、著名な剣士がたくさん存在したと聞くわ。

 その中で————、一番強いのは誰かしら?』

 

 

『…………』

 

 

『…………』

 

 

『何よ、その顔?

 私、何か変なこと言った?』

 

 

『言った』

 

 

『言っちゃったわね』

 

 

『言ったよね、ペペ?』

 

 

『そこんとこを気付いていないのが、どうしようもなくギルティよ、ギルティ。

 ね、ヒナコ』

 

 

『……………………。

 ごめんなさい、理由を教えてもらえるかしら?』

 

 

『その、()()()()()()()()()()()()って、滅茶荒れる話題。

 みんんな自分の好きな剣豪が一番だって押し付けあうだけ。

 結論は出ないし、生産性ゼロね、悪いけど』

 

 

『なら、サーヴァントとして召喚して戦わせれば?

 揃えるのは大変だろうけど、それなら誰が最強か分かるはずでしょう?』

 

 

『あーーーーーん、オフェーーーリアー〜ー。

 どうして貴女はそうオフェリアなのかしら?

 どうしちゃえば、そう連発で! ヒナコの地雷をカチカチっと踏めちゃうのかしらねぇ。

 貴女の眼、もしかしてバッドラックを引き寄せる呪いとかないわよね?』

 

 

『ぺぺの茶々はいつも通り置いといて————、

 それ、意味ないよ。

 サーヴァントとして召喚された時点で、存在が英霊へ昇華されてるから。

 生前なら到底できなかったことが、できてるようになってるはず。

 そうだね…………縮地かな』

 

 

『縮地?』

 

 

『縮地??』

 

 

『中華にも日本にあるけど、()()()()、身体の操作技法の一つ。

 まるで大地を縮めているかのように、動くこと。

 例えば、こう、二歩、左前、左前、ってすすっと歩くとするでしょ?』

 

 

『圧倒的にエレガントさが足りないわね。

 悪いけれど、芸術点はあげられないわよ』

 

 

『はい、外野は黙って。

 で、

 私じゃ上手くできないからそこは勘弁してね。

 

 一歩目を動いたのに、上体を後ろに残しておいて————

 二歩目で、一気に前に持っていく』

 

 

『80点!

 その頑張りに、ペペロンチーノ先生は合格点をあげちゃいます』

 

 

『………………つまり、上半身を注視させて、下半身の足運びから目を逸らすのね。

 上半身から想定する下半身の位置は、相手が思うよりも前にあるのだから、

 二歩目で上半身を正常な位置に戻せば、相手からすれば急に飛んできたように錯覚してしまう。

 その距離の急激な変化が、相手からすると、さっき貴女が言った、空間を縮めて動いたように見える————

 

 で、いいのかしら?

 その、縮地というの?』

 

 

『うん、そ。

 今の私の説明でそこまで分かるなんて、流石オフェリアね。

 考えてみて、この縮地の達人って剣豪がいたとするでしょ?

 そいつはどんなセイバー?』

 

 

『そうか、そうよね…………。

 その伝承が昇華され、空間跳躍を自由自在に扱うセイバーとなる。

 そんなこと、生前はできなかったはずなのに』

 

 

『私達魔術師が一回飛ぶのにどーーれだけの労力とコストを払っているとしても、

 英霊さんはぱぱっとやっちゃうんでしょうね。

 

 だからと言って、ヒナコ、貴女のいうことも大概でしょ?』

 

 

『そうかな?

 本当の一番を決めるなら、それしかないよ』

 

 

『現実性を考えなさいって。

 うーーーんーーーー、なんだったかしら、こういう時の日本のコトワザ?』

 

 

『…………絵に描いた餅?』

 

 

『そう、それよそれ!!

 あーーーーーん、オフェーーーリア、その的確さ、惚れ惚れしちゃう!

 貴女はやっぱりオフェリアなのね』

 

 

『え、ええと…………。

 ヒナコ、貴女の案って?』

 

 

『この子、どうにかして時間旅行しちゃって、全員拉致って残り一人になるまでデスゲームとか言い出すのよ?

 この世界からラーメンが絶滅しちゃうぐらいありえないでしょうに』

 

 

『なるほど…………。

 でも、ヒナコの言う通り本当の一番を決めるなら、そんな手を使うしかないのね。

 

 誰が一番強い剣士だったか、誰が一番強いセイバーになれそうか————。

 

 考えれば考えるほど、深みにはまる。

 まるでダイダロスの作った迷宮のようね。

 礼を言うわ、二人とも』

 

 

『ん』

 

 

『お安い御用よ』

 

 

 

『それはそれとして、それで二人は誰が一番だと思うのかしら?

 間違ってても構わないから、貴女達の意見を聞かせてもらえない?』

 

 

 

『…………戻った』

 

 

『…………戻っちゃったわね』

 

 

『うん、オフェリア』

 

 

『ええ、オフェリアですもの』

 

 

『そのやりとりには賛同できないけど…………。

 ヒナコ、貴女は誰だと思う?

 貴女の意見を、是非聞きたいの、私』

 

 

『私の、か』

 

 

『それはもう、断っ然! 宮本武蔵ちゃんに決まってるじゃない!』

 

 

『うわー、恥ずかしいほどに丸出しちゃん』

 

 

『だまらっしゃい。

 アンタの推しメンの上泉のぶニャンなんて、うちの武蔵ちゃんが二刀流でボコるわよ?』

 

 

『ぺぺは、宮本武蔵?

 五輪書(The Book of Five Rings)の?』

 

 

『読んだことある?』

 

 

『ええ、勿論。

 あの時代の刀剣の決闘を生き抜いた人間が書いたものですもの。

 当時の斬り合いのリアルを知る上で、とても為になったわ。

 日本語は…………かなり手こずったけど』

 

 

『そっか。

 オフェリア、セイバー志望だったね。

 あのレベルの本は————』

 

 

『他にないわ。

 神話伝承の類なら見つけられないこともないけど、

 魔術的要素が全くない、純然たる剣士の本としては、世界最高だと思うわ。

 それが秘蔵されているんじゃなくて、売り物なんてね。

 日本という国に感謝しましょう』

 

 

『もっと褒めて、もっと褒めて! もォォォォォォォォっと褒めちゃっていいのよ!

 その溢れんばかりの武蔵ちゃん愛を発揮しちゃって!!

 

 …………さーーーーーーって、と!

 

 武蔵ちゃんを一位に押す人間を、ニワカ! と痛い暴言吐いちゃうヒナコ大々々先生の講義が始まり始まり〜』

 

 

 

『ま、ありきたりでごめんだけど。

 一位、上泉信綱。

 二位、沖田総司。

 三位、宮本武蔵』

 

 

『ええと…………ヒナコは上泉信綱(カミイズミ・ノブツナ)、が一位なのね』

 

 

『違う。

 一位、上泉信綱。

 二位、沖田総司。

 三位、宮本武蔵。

 この三人が私の思う、日本で一番強い剣豪の、第一位』

 

 

『……………………。

 ……………………ぺ、ぺ?』

 

 

『ほーら、だから言ったでしょ?

 この話題は、パンドラの箱なんて目じゃない()()()()()()なのよ。

 迂闊に触っちゃったら、もう爆死しかないの。

 ギルティなのよ、ギルティ、誰がどうやってもね。

 安心なさい、私も一緒に吹っ飛んであげるから』

 

 

『あ、ありがとう、ぺぺ。

 …………あなたに真剣にお礼を言う日が、まさか来るとはね…………。

 それで…………ヒナコ、解説を、お願い。

 私にも、分かるレベルで、ね』

 

 

『一位、上泉信綱。

 理由は単純。

「剣聖」という肩書にふさわしい剣豪は、上泉信綱以外考えられないから』

 

 

剣聖(ソード・マスター)?』

 

 

『うん。

 強かったエピソード、凄かったエピソードは探せば色々出てくるけど、そういうのは全部カット。

 上泉信綱の真価はそこじゃないから。

 この人はね、弟子がすごいの』

 

 

『え?

 本人じゃなくて、弟子?』

 

 

『そ。

 自流を打ち立てた人がわんさか。

 

 柳生新陰流、柳生宗厳。

 疋田陰流、疋田景兼。

 タイ捨流、丸目長恵。

 後に直心影流の系譜となる、神影流、奥山公重。

 この人は元々やってたけれど、宝蔵院流槍術、宝蔵院胤栄。

 駒川改心流、駒川改心。

 

 孫弟子も入れるとなると————

 

 江戸柳生、柳生宗矩。

 示現流、東郷重位。

 

 一応入る、と思う、夢想流、上泉秀信。

 ならこっちも入る、かな? 民弥流居合術、民弥宗重。

 

 日本の戦国と呼ばれる時代に沢山の武術・剣術が勃興したけれど、

 上泉信綱に師事して日本の剣術史の最前線に躍り出た人達が、列をなしている。

 

 はっきり言って、これは異常。

 教え子達の、質と数。

 後にも先にも、こんな人は上泉信綱しかいない』

 

 

『へぇ』

 

 

『剣術も魔術も、次世代に伝えないとダメでしょ、どれだけ自分が進められたかを。

 そうやって、人間は脈々と技術を発達させてきた。

 根源に行けなかったら、自分の足跡を加えて次に託す。

 例え根源に到達できたとしても、到達した証は自分一人で終わっていいものじゃない。

 

 だから、私は、たった一人だけしか剣聖と呼べる人がいないとすれば、

 

 ——————この人、上泉信綱。

 

 アーサー王伝説の魔術師マーリンを、王の導き手(キング・メイカー)だとするならば、

 

 上泉信綱こそは剣の教え手(セイバー・メイカー)、日ノ本におけるただ一人の剣聖(ソード・マスター)

 

 

『そこんとこは、武蔵ちゃんファンの私としても認めてあげなくもないのよね』

 

 

『武蔵流は弟子が寂しい、と言われちゃうとね』

 

 

『だいたい、それが間違っているわけなの。

 武蔵ちゃんを剣士という枠で測ろうとするからおかしいんじゃない。

 武蔵ちゃんは、武蔵ちゃん。

 ナンバーワンでオンリーワンの武蔵ちゃんなの!』

 

 

『全力で同意かな。

 上泉信綱と宮本武蔵を剣士という同じ秤で測るのは、確かに変。

 武蔵は、その枠だと余裕ではみ出てるから。

 だからこそ武蔵論争は、常に大荒れなんだけど。

 

 あと一つ、忘れちゃいけないのが、

 武蔵非名人説、ってのがある』

 

 

『え————?

 武蔵が非名人?

 どうして?

 私の知る限り、日本で最も多く決闘をして勝った人でしょう?』

 

 

『いちゃもん、に近いけど、結構根が深い。

 フィクショナルな逸話が膨らみすぎて、そのエピソードはおかしい、嘘だ嘘だ、雑魚ばかりと戦って勝っただけだ、ってもう大変。

 武蔵は好きな人は好きだけど、有名すぎるからアンチも多い。

 有名人料みたいなものだと思うけどね。

 

 とにかく私は、一位上泉信綱』

 

 

『上泉、信綱————。

 ありがとう、勉強になったわ。

 

 では次は、ええと、なんて、言えば————いいの、かしら…………?』

 

 

『二位、沖田総司。

 理由は超簡単。

 この人、()()()()()()()()と伝承される得意技を持ってるから』

 

 

『必ず、倒した…………?

 ゲイボルグと似たようもの?』

 

 

『大違い。

 ゲイボルグは、魔術要素を含む呪いがベースでしょ?

 沖田総司の得意技、三段突きは、私の調べた限り、純粋な剣の技。

 それなのに、()()()()()って必殺の太鼓判を押されてる。

 日本で剣士・剣豪といわれる人は大勢いるし、剣術流派、武術流派はそれこそ腐る程あるけれど————、

 

 その中で()()を謳われているのは、沖田総司の三段突き()()

 

 ま、抜けがあるかもだけど』

 

 

『剣士としての技量で実現させた必殺の得意技が、セイバーの宝具として昇華するのね。

 ——————、これは、みものね』

 

 

『だって、ぺぺ』

 

 

『ごめんなさい、ヒナコ。

 あなたのほっぺ、グニャングニャンに引っ張っちゃっていいかしら?

 なんだかすっごく、私にいじめられたそうにしてる』

 

 

 

『宮本武蔵は無いの?

 沖田総司の三段突きみたいな伝承を持つ技は?』

 

 

 

『……………………』

 

 

『……………………』

 

 

『だから何かしら、この空気とその顔?』

 

 

『私、予防線張ったつもりだったのに』

 

 

『負けない、負けない、ええ負けないわよ…………!

 武蔵ちゃんへの愛は、こんなところでくじけたりしないもの…………!』

 

 

『ちょい強引に話題戻し。

 私が沖田総司を押すのは、剣士(ソード・ファイター)として一番強いと思うから。

 上泉信綱は先生の立場が強いかな。

 

 とはいえ、沖田総司、この人間違いなく、病弱ってスキルがつくはず』

 

 

『総ちゃんは、結核で早死にしたって言われてるわね。

 仲間と一緒に敵陣へカチコミかましてる最中に大量吐血で気絶した、なんて話もあるのよ』

 

 

『沖田総司=三段突き、じゃなくて、

 沖田総司=結核で病死、だから。

 セイバーとして召喚できても、血を吐きまくって戦いどころじゃない————、

 そうならないとは言い切れない、それが怖い』

 

 

『長期戦は難しくても、短期決戦の宝具の打ち合いならば————活路はありそうね』

 

 

『そしてここでやっと武蔵の登場』

 

 

『ぶーぶーぶーぶーぶー。

 おーそーいーでーすー。

 はーい、オフェリアちゃんも一緒に、』

 

 

『…………………………………………』

 

 

『ごめんなさい、悪いのは私』

 

 

『三位、宮本武蔵。

 これも理由は簡単なんだけど、

 この人、二刀流で間違いなく日本最強だから』

 

 

『?

 どういうこと?』

 

 

『私、刀一本と刀二本は、()()()()()()()()()()()()()

 どっちが強い、じゃなくて、そもそも比べられない。

 

 短距離速い人は、短距離で足速い人、

 長距離速い人は、長距離で足速い人。

 どちらも同じ足速い人で、短距離の方が偉いとかないでしょ?

 

 ()()()()()()()()のが、()()()()』。

 ()()()()()()()()()()()()使()()()のが、()()()()

 ()()()()()()()()のが、()()()()

 

 だからこの三人が、日本で一番強い剣豪は誰か、というオフェリアの問いへの私の答え、

 

 ————かな。

 

 私も五輪書大好きだから武蔵プッシュしたいけど、それはぺぺにお任せ』

 

 

『それで、ヒナコは三人なのね。

 ……………………貴女、喋る、のね?

 貴女がここまで長いこと喋るの、私、初めて聞いた』

 

 

『ん?

 必要になったら、そりゃ喋るよ。

 口はあるし、発声機能もあるから。

 無駄なことを喋るのが、嫌なだけ。

 静かな方が好きだし』

 

 

『普段は本ばっか読んでるフリしてお高くとまってるのよね、ヒナコは。

 私達のカルデアAチーム女子会にも、毎っ回っ、誘ってるのに来てくれやしない。

 アンタの化けの皮、私が絶対剥いでやるから覚悟しときなさい』

 

 

『フリじゃなく、読んでます。

 ご飯は一人で静かに食べたいだけ。

 隙あらば私を邪魔しようとする、フェノスカンディア・カルボナーラさんが一緒なのはちょっと』

 

 

『…………屋上?』

 

 

『寒いからパス』

 

 

 

『でも、やーっぱりね、私どうにも納得できないのよ、前にも言ったけど。

 アナタの論法で行くなら、剣一本で一番強いのは総ちゃんじゃないの?』

 

 

『それは前にも答えたけど、ヨーダとメンスどっちが強いって言われたら、

 そりゃヨーダ。

 ジェダイ最強のセイバーは、私はヨーダ。

 だってヨーダだから』

 

 

『だ、か、ら! そ、の、論、法、な、ら! あのイケメンの方が上じゃない!

 私の知る限り、そういう設定でしょ! そ、う、い、う、設、定!!』

 

 

『…………つまりヨーダ?』

 

 

『違うわよ!!

 サミュエル・L・ジャクソンにそっくりなイケメンの方よ、イケメン!!』

 

 

『それはヨーダだよ、ヨーダ』

 

 

『髪あるでしょ、髪!!!

 メンスはない人! ヨーダお爺ちゃんはある人!!

 いい加減ヨーダから離れないと、アナタの髪型ヨーダにするわよ!?』

 

 

 

『そのヨーダって、セイバーのクラススキルか何か?』

 

 

 

 

 

 

 

『……………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

『……………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

『だから、何?

 私、何かまずいこと言ったかしら?』

 

 

 

『………………ペペ、』

 

 

『………………聞くしか、ないわよね、こうなったら』

 

 

『………………嫌な予感しか、しないけど?』

 

 

『………………でも、これを知らずして人理の何が分かってるのか、そういうことでしょ?』

 

 

 

『ねえ、オフェリア、』

 

 

『いいかしら、オフェリア、』

 

 

『だ、だから、何??』

 

 

 

『いくね?』

 

 

『いくわよ?』

 

 

『え、ええ、ど、どうぞ…………?』

 

 

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

 

 

『——————は?

 ウォーズ? トレック?

 ごめんなさい、さっきから貴女達が何を言っているのか、私にはさっぱ、』

 

 

『ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!

 ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック、ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 ああ! もう! 驚きのあまり一秒間に十一回もファック言っちゃったじゃないのよ!!』

 

 

『これはまずい。

 マシュはしょうがないけど、違う方向でまずい。

 オフェリアは、やっぱりオフェリアだったか』

 

 

『…………ごめんなさい、

 せっかく私の頼みを聞いてもらっているのに、失礼なこと聞くかもしれないけど、

 もしかして貴女達、私のこと、馬鹿してる?』

 

 

『謝らなきゃいけないのは私達の方。

 その答えは、イエスなんだもの————、

 

 だって、

 

 そーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーでしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーうが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 スタートレックを知らないで、貴女は人理の何を分かった気になっているのよ!!!

 

 人類のこれまでの発展と歴史っていうのは、それこそスタートレックシリーズの発展のことじゃない!!!!!!

 

 人理=スタートレック、

 スタートレック=人理!!!!!!

 

 脈々と続く人理の流れを、ぎゅぎゅっと凝縮してエンタメへと昇華しているのが、すたーーーーーーートレック!!!

 

 ウォーズでは、ありません!!!!

 繰り返しまぁぁす!!

 ウォーズでは、ありまーーーーーーーーーーーーーーーっせん!!

 

 これが真理、永久不変の絶対変わらないただ一つの真理!!!

 私達魔術を志す者が目指さなければいけない到達点こそ、

 

 そうよ、そうなのよ!!!!

 

 スタートレックに、きちんと表現されているんですから!!!!

 

 私達カルデア、何をする人?

 

 人理を守る人、すなわちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 スタートレックのシリーズを永遠に続けさせる人たち!!!

 

 2009年から始まったケルヴィンタイムラインを、ダークネスで終わらせない人たち!!

 

 2016年に、ビヨンドを!! 絶対!! 何が何でも!! 完成させて!!!

 アメリカ初日に!! 最前線で見る人!!!!!!!

 

 行くのよ、私達は——————!!!

 

 そう!! 宇宙という、最後のフロンティアへ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

『…………今の話、もしかしなくても————、

 真面目に聞かなくて、よかった?』

 

 

『それを、聞いてしまう?

 そこのペペさん、トレッキーさん。

 見てよ、オフェリア、超ドン引き。

 恥ずかしー』

 

 

『そんなこと言ってる場合っっっっっっっっっっっっっっっ!?

 私には、信じられないのよ!!

 この地球に住む五十五億の全人類!!

 生まれて一週間も経てば、ウォーズ・オア・トレック? イエス、トレックって! みんなちゃんと喋るでしょうぅぅぅッッっ!!

 なのに、どうしてぇぇぇぇぇぇ、未だにトレックを知らない人がいるのよォォォォォォォォォォ!!!!????」

 

 

『………………。

 ごめんなさい、確かに知らなかったのは私の過失みたいね。

 貴女のいう、とれっく? が何なのか未だに見当もつかないけど————、

 今夜中に全ての調査を終わらせると、ファムルソローネの名にかけて約束するわ』

 

 

『もはやどこをどう突っ込めばいいのやら。

 

 あ————。

 

 おーい、マーーーシュ、マシューーーーー。

 

 こっちこっち』

 

 

『皆さん、お揃いで。

 どうされたのですか?』

 

 

『…………』

 

 

『きゃー、マシュちゃー〜ん。

 今日も素敵な髪がお綺麗よ、とっても』

 

 

『はい、どうも』

 

 

 

『いく?』

 

 

『じゃあ、いくわよ』

 

 

『…………?』

 

 

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?』

 

 

 

『————?

 ウォーズです』

 

 

『やりー』

 

 

『ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ!?!?

 なんで、なんで何で何でなんでなんで、ねぇなんでどうしてなのかしらッッッッ!!??

 

 はっ————!!!

 

 分かった、マシュちゃん人質を取られているのね!

 

 汚い! さすが忍者の末裔日本人っぽい名前!! 汚すぎるわっ!!

 

 あんなにふわふわもこもこキュウキュウのフォウちゃんを誘拐するなんて————!!

 

 私が一番したいのに、それっっっ!!!』

 

 

『日本人を見たら、全員忍者か侍か芸者的発想は流石に?

 人口比率を考えたら、農民がだんとつ一番』

 

 

『そのですね、

 先日、ヒナコさんのお部屋にお泊りさせていただいた時、スターウォーズを観せていただきました』

 

 

『え……………………………………っっっ!?』

 

 

『あら、ヒナコさぁぁん?

 私に抜け駆けして布教活動とか、いい度胸しちゃってるじゃない。

 明日の太陽が上がる様、もう絶対に拝めないわよ?』

 

 

『人聞き悪いなぁ、ぺぺ。

 人の歴史の勉強がしたい、って言われたから、人理の中で最も輝かしいエンタメ作品を紹介しただけ。

 解説あった方がわかりやすいから、部屋に呼んだだけ。

 全部見てたら朝になっちゃったから、お泊りになっちゃった、それだけだけど?』

 

 

『だったら何で、クルクル剣術なんか見てるのかしらねぇ?』

 

 

『もちろん、

 小難しい物理の話されるより、ジェダイかダークサイドかって方が分かりやすい(面白い)から』

 

 

 

『………………泊まったの、ヒナコの部屋に………………?』

 

 

『?

 はい』

 

 

『………………あら、そう、そうなんだ………………』

 

 

『?』

 

 

『マシュちゃん!

 トレックは!? トレックは一体どうしたの!?!?

 トレックは、ノーチャンスでフィニッシュなの!?!?!?』

 

 

『いえ、シリーズが沢山あることは知っていますが、

 なにぶん数が多すぎて、全て見るには、膨大な時間がかかってしまいます』

 

 

『あーら、大丈夫。

 そんなマシュちゃんのために、スタートレックの新シリーズ!

 これは映画二本しか出てなくて、五時間もあれば全部見れるわ!!』

 

 

『それは、』

 

 

『マシュ、クローンウォーズ見る?』

 

 

『え? それは、なんでしょうか?』

 

 

『エピソード2と3の間の出来事のCGアニメ。

 メンス、超かっこいいよ』

 

 

『————!

 是非』

 

 

『ストォォォーーーーーップ。

 今の紳士淑女協定違反は何かしら、芥ヒナコ?

 いい加減しないと、仏のペペロンチーノさんもブチ切れて、アンタをばらっばらのミートソースの塊にするわよ?』

 

 

『…………見たいもの、見せてあげればいいんじゃん。

 つまり、

 ノー・トレック、イエス・ウォーズ。

 ノー・トレック、イエス・ウォーズ。

 ノー、トレック、イエス、ウォーズ』

 

 

 

『ヒナコ、

 アンタ、今夜サーヴァント召喚しなさい』

 

 

 

『え、ペペさん?』

 

 

『——————』

 

 

『明日の正午丁度、トレーニングルームでガチるわよ。

 アンタの思う、最強のライダーをちゃんと召喚しとくように。

 

 私のアーチャー、悪いけど、絶対に負けはないと宣言しておくわ。

 

 ああ、所長には私が言っておくから安心して、

 

 芥ヒナコは、トレーニング中の不慮の事故で死亡しました、ってね』

 

 

『なんでもいいけど。

 

 ぺぺには悪いけど、私————、

 

 例え地球上からトレッキーが絶滅しても、流してあげる涙、一滴もないから』

 

 

『フン。

 そのお馬鹿な勘違いをする救えない貴女へ————、

 

 とっておきの、真紅の死葬礼装(レッド・コスチューム)をプレゼントしてあげるわ!!』

 

 

『そんなネタ、トレッキーにしか伝わらないから』

 

『キィィィィィィ! お黙り!!』

 

 

 

『オフェリアさん、どうすれば?』

 

 

『え、何?

 私?

 私に、聞いてるの?』

 

 

『はい。

 このままだとお二人がとんでもないことになってしまいそうです。

 どうすれば、いいんでしょうか?』

 

 

『私、私、私に、聞いてるのね………………私に………………。

 コホン、そうね————。

 

 ここは公平に行きましょう。

 

 今夜はぺぺのところで、すたーとれっく? の新シリーズ映画を。

 明日はヒナコのところで、くろーんうぉーず? のCGアニメを。

 

 明後日以降は、流動的に。

 今から予定を組んでも、とれっく? と、うぉーず? を見てからのほうがいいはず。

 

 ルールは一つだけ。

 うぉーずを見たら、とれっくを見る。

 とれっくを見たら、うぉーずを見る。

 どちらか一方に偏ることはないようにする————

 

 これで如何かしら?』

 

 

『それよ!』

 

 

『それです』

 

 

『ん、オフェリアだ』

 

 

『ありがとうございます、オフェリアさん。

 オフェリアさんのおかげで、ぺぺさんとヒナコさんが戦うのを止めることができました』

 

 

『あ、あらそう…………?

 べ、別に、大したことは、し、してないけど…………』

 

 

『なんだし、もうこうなったら四人一緒に見る以外の選択肢は、ないわね』

 

 

『…………え?』

 

 

『……………………えー?』

 

 

『はい』

 

 

『ヒーナーコー、アンタはとりあえず強制参加。

 なんなら、アンタの部屋、爆破してでも引きずり出すわよ。

 一緒に見るか、お茶会に来るか、さあどっち!?』

 

 

『……………………。

 ならトレック見る方がまだましかな』

 

 

『あーらら、私、気付いちゃった。

 もしやこれ、カルデアAチーム四人娘、初の全員参加イベントになりそうじゃない?』

 

 

『あ————。

 そう、なると思います』

 

 

『そこはかとない不安を感じるのは私だけかしら?』

 

 

『第一回を前に内紛で空中分解しそう』

 

 

『んー、んー、んー、んー…………。

 四人、四人、四人————。

 四大天使、四天王、四聖獣、四将軍————。

 ピンとこない、どれもダメ、んーんーんー…………』

 

 

 

『————三銃士』

 

 

 

『ん?』

 

 

『?』

 

 

『え?』

 

 

『この四人なら、三銃士。

 マシュがダルタニアン。

 私達は残り三人』

 

 

『それ、いただき!』

 

 

『三銃士?

 なら————…………』

 

 

『自分が誰とか考えなくていいよ。

 オフェリアが言った通り、流動的のがいいし』

 

 

『来た来た来た来た!

 んもーーーー、テンション上がってきちゃったわ!

 はーい、円陣ーーーーっっ!!」

 

 

『え? 組むの? 冗談でしょ————って、うわっ!?』

 

 

『やる流れ、なのね、やる流れ。

 あ————っ…………』

 

 

『隣、失礼します、オフェリアさん』

 

 

『え、え、え、ええ………………』

 

 

 

『私達、カルデアAチーム三銃士、絶対に見るわよ』

 

 

 

『何を?』

 

 

『私もそれを問いたいけど…………。

 諦めましょう、ヒナコ。

 私達にはもう、頷くしか道はないわ』

 

 

『民主主義の二十一世紀に、なんという横暴。

 カルデアって、帝愛グループから資金提供受けてたっけ?』

 

 

『2016年! 新シリーズ三作目!!

 ハリウッドの最前列!! 私達四人娘三銃士が! 完全占拠、しちゃいますっっ!!』

 

 

『はい』

 

 

『……………………はい』

 

 

『はぁ、はい』

 

 

『四人全員で行くわよ?

 宇宙という、最後のフロンティアへ!!

 私達人類の最後の希望、U.S.S.エンタープライズNCC-1701=カルデア号に乗って!!!』

 

 

『はい』

 

 

『……………………はい』

 

 

 

『はぁぁぁぁ、はい。

 

 ————うん。

 最後ぐらい、ちゃんとしよっか。

 

 私達の進む未来に、』

 

 

 

『————未来に!』

 

 

『未来に』

 

 

『……………………未来に』

 

 

 

 

 

『フォースが、共にあらんことを』

 

 

 

 

 

『ヒナコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————と、いうわけなのよ。

 分かったかしら?」

 

 

「まるで要領を得ん。

 つまり何だ?」

 

 

「宮本武蔵の伝承を紐解けば、宝具となりそうなのは三つ。

 一つ、宿敵佐々木小次郎を倒した時の、一撃。

 ただしこの決闘、不明な点が多すぎる」

 

 

「違うな。

 ()()()()()()()()をあの双剣使いが己の切り札とするはずがない。

 次」

 

 

「二つ、一寸の見切り。

 武蔵の記した五輪書で言及されているもの。

 敵の間合いを正確に把握し、最小動作で躱す————そのギリギリが一寸、およそ三センチ。

 急所となるポイントを数センチ外してのカウンターね」

 

 

「………………違う。

 それは宝具でも、サーヴァントとしてのスキルでもない。

 奴は、ただ自然にできていた、そのギリギリの見切りを。

 三センチだと? コンマ三ミリの間違いだろう、それでも大きすぎるぐらいだ。

 呼吸と同じように、できていたとも。

 ()()()()()()()()()()を、誰がありがたがる?」

 

 

「なら、最後かしら。

 三つ、空。

 これが、一番厄介」

 

 

「聞かせろ」

 

 

「そうね、まず空っていうのが、」

 

 

「座りすぎて拗らせた屁理屈男のたわごとだろう?

 無、空、それぐらい知っている」

 

 

「意外、ね」

 

 

「だろうな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————っ」

 

 

「だってそうだろう?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フン、知らぬわけがなかろう————、この、オレが。

 オレが入る空はそれだが、奴の空は、何と謳う?

 あの境域をどう表現しているのか、気になる」

 

 

「それが、厄介な点。

 

 五輪書とは、十七世紀に宮本武蔵自身によって書かれた文章をまとめた五巻の書物。

 色々な方面へこの五巻の写本が伝わっていたのだけれど、写本の伝搬系統によって差異が多い。

 誤字脱字は当たり前。

 写本同士を比べたら、まるで違うことが書いてるあるものまであったわ。

 時代を考えれば、しょうがないわね。

 

 まるで、魔術師同士(私達)()()()()()()()の証拠提示合戦を見ているようで微笑ましかったわ。

 だって()()()()()()()()()()()()

 

 

「無駄な感想など不要。

 結論だ」

 

 

「では、私の結論だけ。

 五輪書は未完成品。

 最後の空之巻を書き上げる前に、宮本武蔵は病死した」

 

 

「待て。

 お前はその空が宝具の可能性があると言わなかったか?」

 

 

「ええ、言ったわ、それが?

 …………いいかしら、結論以外を言っても?」

 

 

「フン」

 

 

「その中のある一派、気になる伝承方法をしていたの。

 その他大勢と比べるとここだけだから、異端といえば異端ね。

 

 その派ではこうしている————、

 

 空之巻の序論を書いたところで、宮本武蔵は力尽きた。

 

 そしてこの派の継承者は、自分が考える空について、その後に付け加えた」

 

 

 

「付け、加える、だと?」

 

 

 

「未完だからこそ、自分達で————そんな心持ちでしょうね。

 ずいぶん大きく出てるでしょう?

 

 そうして出来上がったのが、宮本武蔵の空論に始まって、

 二代後継者の空論、三代目、四代目とずっと続く、

 宮本武蔵の剣を使う者達が考えた、空についての一大論文集。

 

 自分の剣境が高いか低いかが、一目瞭然。

 だって比べられるのは、宮本武蔵の空だから。

 末代までの恥だし、自分の次が下手なこと書いてたら————

 どんな指導をしていたんだと、やっぱり恥。

 

 貴方と戦った女性が、私が調べた五輪書を書いた人物なのかどうかは分からないけど…………

 

 もし、本当の作者が、あの五輪書達の惨状を全部見たとして————、

 唯一不許可を出さないものがあるすれば、間違いなく、これだけよ。

 

 武蔵が辿り着いた空という境地————

 それは、武蔵の剣士達によって書き続けられ、積み重ねられ続けていく、

 その在り方が、宝具になるかもしれない、そう思うの」

 

 

「はまった。

 全て、合点がいった」

 

 

「………………えっ?

 分かったって、どこまで?」

 

 

「議論は好かん。

 結論だけ言う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————え……………………?」

 

 

 

「まず宮本武蔵。

 恐らく世界はそのあり方をこう定義しているはずだ、

 

()()()()()()()()()()()()()()』————とな。

 

 他にもいくつか言葉が続くが、基本はこれだ」

 

 

 

「…………何を、言っているのか?

 あの宮本武蔵は魔術なんて、」

 

 

「使わない?

 フン。

 オレに言わせれば、剣も魔術も何もかも、突き詰めるところまで行ききってしまえば、全て()()に行き着いてしまう。

 お前ら魔術師達が何故か有り難がる、根源というやつに」

 

 

「……………………」

 

 

「奴の剣へ、オレは、()()()()()()()()()魔剣(グラム)を叩き込んだ。

 限定解除はされていなかったがな、三つ、あの時点での()()()()()だ。

 だがその三つ全て、奴の右の一刀に弾き飛ばされた。

 その威力に、オレは、後ろに、下がらされた。

 あの痺れ…………決して忘れられん」

 

 

「————!?

 待ちなさい、空といえば日本剣術の中で最高位とされる剣境よ?

 貴方が隠していたのは不問に付すわ。

 限定状態の貴方では、太刀打ちできないということね」

 

 

「違う。

 例えあの時、最終解除までされていたとしても、()()()()()()()()()()()()

 限定解除を最終段まで進め、霊基状態を最終段階まで進化させる、確かにそれはサーヴァントとしての戦闘力を飛躍的に向上する。

 だが、()()()が、都合よく上がってくれるわけなかろう?

 あの宮本武蔵は、俺の上の上まで行っている、それだけだ」

 

 

「————えっ…………!!??

 本当、なの……?」

 

 

「オレは空から先に行く必要がない、燃やしてしまえれば、良いのだからな。

 宮本武蔵の剣こそは、()()()()()()()()()()

 だから分からなかった」

 

 

「…………………………」

 

 

「全ての無駄を削ぎ落とし、ありとあらゆるものまで限界を超えて削り落とす。

 それが奴の剣の基本骨子。

 ある意味、一芸だけを極め続けている。

 

 なるほど。

 それでもなお残るものがあるのなら————、

 

 極限以上に研ぎ澄まされたその剣は、二つと無い、唯一無二の一なる処、つまり根源へと至るに足りる————可能性を有す。

 

 だが、()()()()()()()()

 

 削って終わって、()()()()()()()()()ら、どうする?

 俗な言だが、回り道をした方が、という奴だ。

 

 あるのは、頑張りましたけど駄目でした、という惨めな己だけ。

 カカカ」

 

 

「…………………………」

 

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()、確実に至るとは言えんはずだ。

 宮本武蔵のそばで、技か、アイディア、何でもいい、

 

 ()()()()()()()()()()()がなければ、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()がなければ、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がなければ、

 

 奴は、至れない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 要らぬのなら、奴が削る。

 

 ()()()()()()()()は、奴が元々持っててもいい。

 それか、()()()()()()()()()はずだ。

 

 例えそれを奴が削り落としまっても、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな剣の()()()がいるのであれば————、

 あの双剣は、根源すらも通り越し()()()()まで、行ってしまうかもしれんぞ?

 

 カカカ、それは到底無理だな。

 あのカルデアの塵蟲どもなら、百度生まれ変わっても無理だろう。

 

 例えフレイとテュールが雁首付き合わせたとて、

 あの宮本武蔵の剣を前に、所詮奴らにできるのは無様極まる敗北宣言だけだ。

 せいぜい、『嗚呼、キミという剣の華は実に美しい』、とぬかすぐらいだろう。

 カカカ」

 

 

「その、何か、が空之巻の追加記述だっていうの?」

 

 

「然り。

 どうせその書の著者は宮本武蔵となるのであろう?

 別に大したことが書かれてなくて良い。

 赤子の手が、新たなる剣界を開くものだ。

 足し続けるものがあること、それが奴にとって肝要」

 

 

「でも…………そんなの、私は認めない…………!

 認められるわけ、ないわ………………!!

 確かにあのセイバーは強かった、強すぎると言ってもいいくらい!

 でも、でも————!

 私が思う根源という場所は、そう簡単に行けるような処じゃない…………!!」

 

 

「だろうな。

 オレの言ったのは、ただの妄想。

 あて推量。

 やまかん。

 根拠などない。

 ただ()()()()()()()()という話のだたの垂れ流し」

 

 

「……………………ッッッ!!」

 

 

「カカカ。

 睨む代わりに一つ答えろ。

 お前達クリプターとやらの企みが、全て成功したと仮定しろ。

 最終局面の際まで、一つ残らず成功したとな」

 

 

「……………………私、さっきみたいな冗談は、嫌いよ?」

 

 

「カカカ。

 

 いいか、

 そうなれば、間違いなく宮本武蔵は逆側に立つ。

 

 そこで尋ねる、

 

 ()()()()()()()に————、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は————()()()?」

 

 

 

「        」

 

 

 

 

 

 

 

「クククククククク!!

 

 ああそうだ、オマエはまだこんな手を使うのか!!

 

 抑止の輪だの綺麗事をほざきよるが、その実ただの奴隷の捨て駒!!

 

 死にたくない、死にたくないと、糞尿撒き散らしながらに泣きわめく!!

 

 星の運命すらも弄ぶ傲慢!! そうであって当然と何ら省みることのないあり方!!

 

 その通りだ!! オマエは何も間違っていない!!

 

 オマエがいなければ、何もないのだから!!

 

 全てのモノは、オマエを活かす為に存在していなければならない!!

 

 良いぞ良いぞ、実に良い。

 

 その甘えきった態度、実に、良い!!

 

 見ろ…………皮を被り縛られているはずが、オレの焔が出てきているぞ!!

 

 ああ、まずいなぁ…………オマエを思えば! オレの焔! オレですら止めらん!!

 

 今度の()()は、いつもながら、実に手が込んでいる!!

 

 怖いのだろう、恐ろしいのだろう、震えているのだろう!!

 

 ああそうとも、オレだけではないのだからな!!

 

 オマエを殺し、蹂躙し、犯し尽くせるモノは、オレだけに、あらず!!!

 

 兵器が何を思い、剣を磨き、技を高め、誰かの力を借りながら、遂に達し————

 

 オマエが描いた通りに、一回限りの捨て駒として、オマエのために、死んでくれる。

 

 ああ、そうだとも————オマエは何も、間違ってはいない。

 

 

 

 だからこそ、オレは、世界(オマエ)殺し(燃やし)たくてたまらないのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終焉が、

 

 焔となって燃え上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第五話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 



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第五話 第二のセイバー、推参!

 

 

 風が、横合いから大気を運ぶ。

 

 この世界は、厳しい。

 そこに生きる者達に、私という厳しさを受け入れてみせよと、挑んでくる。

 

 そうでなければ、

 この世界を生き抜くだけの、最低限の力すら持ち得ぬぞと————

 

 風が、雪が、白が、

 本来ならばあり得ないはずの不思議な暖かさを持って、包み込もうとする。

 

 

 それを全て台無しにする、

 

 

 

「ヴォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーン!」

 

 

 

 巨人が、いる。

 

 その後ろには、やはりまた別の巨人がいる。

 

 また別の、別の、別の、そしてまた、別の巨人が、いる。

 

 

 

「…………かー、ったく。

 どうしてテメェらみてぇな外道っつー輩共は、

 ぞろぞろぞろぞろ、ぞろぞろぞろぞろ、群れを作って()()()()()

 民草に迷惑かけねぇで生きることが、なんでできねぇ?」

 

 

 

 ならば、その前に立つ赤髪の青年が肩に担ぐ刃こそは、

 

 一振りの大身槍。

 

 

「おう、テメェら全員、(オレ)を怨んどけ。

 優しい地獄送りなんざ、期待すンじゃねぇぞ?

 地獄の鬼共に、ばらけたテメェらの身体を全部つなぎ直してもらうンだな」

 

 

 この青年には()()()()()の大型の槍。

 

 穂長一尺四寸、茎一尺八寸、取り付けたる柄の長さは六尺を超える。

 メートル法で言うならば、二メートル五十を優に越す直槍。

 

 切られし銘は二人。

 共に汗を流して鉄を鍛った昔日の友の名と、己の真名。

 

 重厚な造りのその槍を、まるで斬馬刀であるかのようにつぃと構える。

 

 

 どんな争いでも、

 大元にあるはずの業を断ち切ることができるのならば、

 

 もう二度と、誰も傷つかず、

 誰も殺められることはないはずだと、

 信じながらも、願いながらも————

 

 只今は、

 

 

 

「おし————、やるか」

 

 

 

 人の形をした修羅となり、

 

 戦の鉄火場で、一人、鉄を鍛とう。

 

 

 

 吠え狂う刀打ち。

 

 荒々しく全身全霊叩きつけるように、その()をぶん回し、肉を裂いて血を飛ばす。

 その勢いこそは、防御を全て捨てたかのような攻撃一辺倒の決死の特攻。

 

 自分は代価を支払わないという選択肢は、彼にはない。

 

 

 

 後世————、

 

 今はすでに消えてしまった正しき歴史の中で、

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 と、ある日本刀を称えた者がいた。

 

 

 

 そう、そうなのだ。

 

 この鍛治匠には————()()()()()()()()()()()が。

 

 

 

 その刃が持つ過去、未来、可能性。

 数多の持ち手によって繰り出される、

 全ての攻撃、防御、回避、捌き、いなし、弾き、あらゆる戦技、

 これまでとこれからの、()()()()()が、分かってしまう。

 

 

 ただ刀を鍛えることが、何よりも大好きだったはずなのに、

 

 どうしてなのか…………気付けば鍛治匠は、そこに到達していた(いた)

 

 

 例えその使い方を自分の肉体では実行不可能だと理解していても、

 この鍛治匠には、分かってしまう、見えてしまう、理解してしまう、

 

 何よりも————刃が作る、死という現実。

 己が槌を振るっている間も、殺し、殺され、また殺す。

 

 未だ刃とならぬ玉鋼を見ているだけでも————微かに()()()しまうのだ。

 やがて刃となるこの塊で、殺められる子供、女性、老人、その今際の際の表情、最後の叫びを。

 

 

 これは誰かの戦い方。

 誰かが殺し、誰かが殺された戦技の数々。

 己の意思で歴史をなぞり、この手を血に染める。

 

 

 割り切ってしまえば、楽だったのかもしれない。

 体は剣で出来ていて、血潮は鉄、心は硝子、と。

 そうやって自分を高める術も、あるのだろう————。

 

 どこからか聞こえてくる呼び声に、頷きつつも…………

 

 

 

「がぁぁぁぁっーーーーーーーーーーーっっっ!!?

 

 ……………………あー、痛え、派手に飛ンじまったな、痛ぇ痛ぇ。

 よっと。

 

 くたばったはずが何で生きちまってるのかさっぱり分からねぇが、

 ぶん殴られりゃ血が出てえれぇ痛ぇってのは、変わらずか。

 

 逃げねぇ、か。

 こんだけやっちまえば尻まくって逃げ出しちまいそうなもんだが————、

 因果だな」

 

 

 

 遠い昔に決めたのだ、

 それならば————全て背負おうと。

 

 あらゆる罪業、あらゆる怨念、あらゆる因果を。

 分かるのならば、分かるはずなのだから。

 全ての元にある、()()を。

 戦を終わらせ、悲しみを終わらせ、負の連鎖を断ち切り、殺戮の輪廻を止める()()が。

 

 

 

 ()()をもし断ち切れる刃があるのならば————

 

 全てが分かり、全てを背負う己でなければ、鍛えられないはず。

 

 だからその一刀を、この身は今も追い求める。

 

 

 

「ガオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 

 最後に残った一人の巨人。

 一際大きい体躯のそれは、一際大きな大声を張り上げ、やはり一際大きな槍を叩きつけにくる。

 仲間を全て殺したこの人間を、決して許さないというように。

 

 青年、槍を左に持ち替え、

 一振りの脇差を右に取り出す。

 

 

「————唯、空也」

 

 

 押し潰す敵刃と振り抜かれた短刀が交錯。

 

 

「             !?」

 

 

 まるでそこに初めから何も存在しなかったように短刀が走り抜いた。

 敵の石槍をその穂先ごとなんら抵抗を生じさせず断ち切り、

 

 信じられぬ現実に硬直してしまった巨人の腕を、鍛治匠が駆け上がる————!

 

 

 

 剛の旋風が首を刎ね、

 

 血煙吹き上がるよりも早く、投げつけられた大身槍が脳髄を貫き穿つ。

 

 

 

 

 

 天元の花が咲いた異聞帯。

 

 その花の香りが、一つの縁を呼び寄せた。

 

 鉄を携えやってきたのは、一人の刀打ち。

 

 二つの剣が、再開を果たそうとしている。

 

 

 

 第二のセイバー、千子村正————ここに推参。 

 

 

 

 

 

[第五話 第二のセイバー、推参!]

 

 

 

 

 

『————うーーーーーっし! 上がりだ」

 

 

 

「わー」「わー」「わー」「わー」

「おー」「おー」「おー」「おー」「おー」「おー」

 

 

「ねーねー、なんて書いてあるの?」

「なんてなんて」「なんてなんて」

 

 

「こいつか?

 これはな、臨兵闘者皆陣列前行。

 臨む兵、闘う者、皆、陣を(なら)べて前を行く」

 

 

「はー」「はー」「はー」「はー」「はー」「はー」

「なんなの?」「それなに?」「どんな意味なの?」

「なんかかっくいー」「すごー」「すごーー」

 

 

「おめえ達をちゃんと守ってください、っとまぁこんな感じのおまじないだ」

 

 

「りーん」「ぴょー」「トー」「しゃ?」「かい」「じん」「れーつ」「ざい!」「ぜん!」

「かっくいー」「すごそう」「トー」「トー」「トー!」

 

「こっちこっち!」

 

「こっち!」「こっちはなに?」

「こわい顔」「こわい顔してるー」「もしかして」

「ぼくたちのこと怒ってるの?」「ええ? 怒ってるの??」「怒られちゃってるの?」

 

 

「ははっ、違うって。

 こいつはお不動サンっつってな、こーんな怖い顔してお前らを傷つけようとする悪い奴らを、こっちくんなって睨み付けてンのさ」

 

 

「おぉー」「へー」「まぁー」「おふどうさんだー」

「んんー、こんな顔? くわっ!」

「こうじゃない、くわっ!」

「こうよ、くわっ」「えー、こうだよ、くわっ!」

「くわっ」「くわっ!」「くわっ」「くわわっ」「くわっくわ!」「くぅぅわぁぁ!!」

「くわっ」「くわっ」「くわわ」「くくく、わわわ!」「くわっ!」「くわっ!「くわっ!」

 

「くわっ!」

 

 

「ははは、そっくりだぜ、おめえ達」

 

 

「ありがとー」「ありがとう」「ありがとー」

「みつかいさまありがとう」「ありがとう、みつかいさま」「みつかいさまありがとー」

 

 

「だぁーから、(オレ)はそンなご大層なもンじゃねぇって。

 (オレ)は————、カルデアのもンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村を離れ一人、村正は歩を進める。

 

 聞けば、さっきのような村がまだ多数あるらしい。

 

 山に篭って刀を鍛えたい気持ちもあるにはあるが、

 それよりも、子供らの安全がきちんと確保されていることを確かめておきたい。

 

 結界が似たような状況になっている村が、恐らくある。

 

 ほつれかけていた結界を結び、破魔と退魔の印を加えた。

 巨人が押し寄せてもあの結界は崩れないし、そもそも近寄ることすらないはず。

 

 何故そんなことが分かるのか、何故できるのか、そもそもここはどこなのか、

 そんなことより————

 

 

「かるであって、何だ?」

 

 

 かるであ? カルデア? 華留出阿?

 

 分からない。

 何故自分はそんな言葉を知っていたのか、そして何故そう言ったのか。

 

 あの場では、そう言うのが自然なように感じられたのだ。

 

 

「分からン、まるで分からねぇ」

 

 

 なるほど、英霊、サーヴァント、スキル、宝具。

 そういった由来不明の知識があるにはある。

 

 

「分からン」

 

 

 第一、()()()は誰なのか?

 自分はこんな外見の人間ではなかった。

 

 

「考えても無駄か。

 鳥頭の(オレ)に分かるわけねぇもンな」

 

 

 ならば今は、歩くのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————ンだぁ?」

 

 

 どれだけ歩いただろうか?

 

 ふと、何かに導かれるように視界を動かすと、異物を捉えた。

 

 

「っっっ!?」

 

 

 それが何なのか理解するよりも早く、

 

 身体は走り出していた。

 

 地面を蹴り、前へ前へと身体を運ぶ。

 

 

 早く、早く、速く、速く————!!

 

 走る、走る、走る、走る————!!

 

 

 自分が見える光景が何を意味しているかなど、まるで分からない。

 

 只今は兎にも角にも走り続ける。

 

 一分でも早く、一秒でも早く、その場所に行かなくてはいけないのだから————!!

 

 

 

 

 

 音が聞こえ出す。

 

 大気撼わす砲音と、火花散らす鋼の戟音。

 

 それに加わるのは、

 

 

 

「ぜりゃっ!」

 

 

「きゃぁっ…………!!」

 

 

「っ!!!」

 

 

 

 生死入り乱れる戦さ場にて、他を打倒せんとする兵士達の声。

 

 

 号砲炸裂、

 

 

「きゃぁ!!??」

 

 

 直撃をもろに食らってっしまった羽の生えた少女、即座に消滅。

 

 

 対峙しているのは、身長六尺を超える大男。

 

 

「おらっ!!」

 

 

 否、

 

 この男が持つ内なる輝きと外を照らす光を鑑みれば、大男という表現は的外れか。

 

 これなる男こそ、

 

 

「もらったぁ!!」

 

 

 虹の夢を紡ぐ、快男児。

 

 

 

 

 最後に残った少女に対し、砲口がその狙いを核へと定め、

 

 轟音と共に射出された砲撃が、吸い込まれるようにひた走り————!

 

 

 

「           えっ?」

 

 

「ん!?」

 

 

 

 必殺を刻むはずだった砲弾が、空へと消える。

 

 

 

「————おう、大丈夫か?」

 

 

 

 間一髪で間に合った村正、死滅するより選択肢がなかった少女を腕に抱き、その死地より救出するのに成功。

 

 彼女を地に下ろすと、

 

 その前へ、進み出る。

 

 

「————あな、 !?

 ぐぅぅぅ————…………!?」

 

 

「しばらく、じっと休んでろ。

 あンのデカイのは、(オレ)が何とかしてやる」

 

 

 その両拳に力を込め、

 男の目を見る。

 

 こんな輝いた瞳を持つ人間に出会ったのは、生まれて初めてだった。

 

 少女を救い、この男と刃を交えようとも何ら異存はないが、

 どこか、心のどこか奥底が、この男と敵対して良いのだろうかと異論を申し立てようとしている。

 

 

「一つ、尋ねるが、」

 

 

「おう?」

 

 

「おたく、オフェリアのもう一騎のサーヴァントか?」

 

 

「どこのどいつだ、そいつは?』

 

 

「いや、お前、サーヴァントだろ?

 俺がいうのも何だが、マスターは誰だ?」

 

 

(オレ)はその、さーゔぁんと、ってやつのはずだが、誰に呼ばれたのか分からねぇ。

 ますたー? さあな。

 どんな事情でお前らがやりあってたのかも、見当つかねぇ。

 だがな————でもさ、」

 

 

 髪の色と同じく、その瞳も、燃え上がる。

 

 

 

「目の前で苦しんでいる人がいるのに、それを放って知らんぷりだなんて————、

 オレには、絶対にできない」

 

 

 

「フ、

 ハハハハハハハハ!

 いいこと言うじゃねえか、色男!!

 助けたいから助けた、事情は知らん、か。

 いいねえ、同じ男として敬意を送るぜ!

 つってもま、こっちはこっちでやらなきゃなんねえんでね、

 退けねえ」

 

 

 巨大なる砲に、魔力が充電され弾となる。

 

 

「話が早くて助かる。

 じゃ、()るか」

 

 

 村正、一振りの刀を喚び、白刃を抜く。

 

 

「おっ————!?

 おおおおおおお!!??

 その片刃!! その曲がり具合!!

 まさか、まさかまさかまさか、まさかッッッ!!??

 お前、ジャポンのサムゥライか!?」

 

 

「侍だぁ?

 悪い冗談やめてくれ。

 (オレ)は————ただの刀打ちだ!」

 

 

 洗練には程遠い構え。

 しかし、刻まれた記憶が担い手を導くのは、紛れもない戦場の剣。

 

 走る————無造作、大胆を通り越した強引すぎる接近。

 

 

「行くぜ、サムゥライ!!」

 

 

 砲兵、弾を散らし距離を取る。

 自分よりも大きい砲を抱えているはずが、その敏捷性、高いと言わざるを得ない。

 

 放たれた魔力弾が着弾を繰り返し、爆風を撒き散らし村正の接近を防ぐ。

 

 が、

 

 

「うおっ!?」

 

 

「ど、————らぁぁ!!」

 

 

 村正の一刀、いきなり届く。

 

 虚をついた斬撃。

 まさかこちらの攻撃をものともせず()()()()()()()()()()()()()という特攻は、信じがたいことに()()()の不意をつけた。

 

 しかし、

 

 大きい。

 その砲は大きすぎる。

 大きすぎるが故に————それは、盾ともなる。

 

 弾く————。

 村正の白刃が生じさせる大気のうねりを何度も肌に感じながらも、汗ひとつ見せない。

 

 回り込もうかという村正へ、一つ手を打つ。

 小型魔力弾の連射で的確に追い続け、再び距離を取ることに成功。

 

 

「意外と器用だな、髭面!」

 

 

 村正、その身体に負った幾つもの裂傷から血を流しながらも、その声から苦痛は感じられない。

 

 

「髭面ぁ?

 おいおい、困るぜ、サムゥライ!

 こんないい男を形容する言葉はジャポンにもあるだろう?」

 

 

「訂正すっか、そこの三枚目!

 くっちゃべってっと、気付いた時には地獄の一丁目に行っちまうぞ!?」

 

 

「ハハハハハ!

 やれるもんならやってみな!

 しっかし、こんなケンカ、いつ以来だろうなぁ?

 おっと、待てよ、サムゥライは喧嘩ご法度だったか!?」

 

 

「だから、テメェも分かンねぇやつだな。

 (オレ)は刀打ち、鍛治士だよタコ助!!」

 

 

 一度接近されたことで村正の走力を計れたのか、距離が縮まらない。

 

 いや、それよりも()()()

 次なる村正の行動を正確に読んでいる。

 一つ一つの砲撃が、一人の指揮者によって導かれる楽団の音楽のように複雑に絡み合い、導き合い、村正を圧倒していく。

 

 

「随分と速ぇじゃねぇか。

 国崩ってのは、どっしり腰を落ち着けて使うもンじゃねぇのか!?」

 

 

「ふっ。

 古に孫子曰く! 『兵は拙速なるを聞く』!!

 自慢じゃないが、俺の砲は()()

 俺より速い砲兵なんて————、古今東西どこ探したって、見つからねえと保証する!!」

 

 

 天秤は、砲兵へ傾き続ける。

 

 勝機を手繰り寄せるには、一手打たねばならない。

 何故ならば、

 

 

「————がっ!!?」

 

 

 削られている。

 村正、敵の砲撃を無傷でやり過ごせていない。

 

 

「————あンま調子乗ってっと、」

 

 

 しかし、

 

 

「怪我すっぞ!!」

 

 

 手なら、ある。

 

 

 

「————————————は?

 うぉぉぉ!??」

 

 

 

 ()()()、刀を。

 

 狙いは甘すぎたといわざるを得なかったが、砲兵は怯み、そこへ鍛治匠が走り出す!

 

 

「おまえ!!

 カタァナはサムゥライの魂だろうが!!

 投げてどうすんだ、投げて!!」

 

 

「だーからオメェ…………」

 

 

 例えそれで距離を縮められようとも、

 正確につけられた狙いが、

 

 

「百姓だってなぁ————、」

 

 

 砲口を、村正へと導き、

 

 

「————持つときゃ誰だって持つんだよ、刀なんてもンはな!!」

 

 

 発射!

 

 

「っ!!」

「んなっ————————!?」

 

 

 突っ込んだ、()へ。

 

 砲撃と地面の間の僅かな距離へ、頭から突っ込みやり過ごす。

 

 手をついて跳ね上がり、

 

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 上げた気炎をそのままに、間合いを零とすべく接近、

 空拳の右を固め、砲兵の顎を打ち抜くように、振り————!

 

 

 だがその鉄拳が激突するより早く、

 その砲口が()()を向いた。

 

 

「ぐッッッッッ!?」

 

 

 爆風が、村正の身体を押し倒そうとする。

 

 

 

「悪いな、サムゥライ。

 奥の手は隠しておくもんだろ?」

 

 

 

 発射の衝撃と着弾の爆風を利用し、()()()()()()()砲兵。

 

 爆風でたたらを踏んでいる村正へ狙いを定め————、

 

 砲弾が、雨と注がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土煙が、ようやく晴れる。

 

 

 

 そこには、仁王立ちする村正の姿がある。

 

 身体中より血を流しているが、重症ではない。

 相手が本気で殺す気だったら、自分は既に死んでいることは分かっている。

 

 とどのつもり、相手が言ったように、これは、喧嘩なのだ。 

 

 

 

「——————おう、」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「行くあてぐれぇあンだろ?

 ならさっさと帰っちまいな」

 

 

 

 村正、砲撃を()()()()()集中させるため回避行動を取らなかった。

 後方で身体を休める彼女が撃たれないように。

 

 ただ、ひとしきり砲弾を浴びた今なら分かる。

 相手は彼女を狙う気など、最初からなかった。

 

 相手からすれば、傷つく女性を捨て置けず盾となって戦う————

 見事な()()()()()といえよう。

 双方同時に倒そうと思えば倒せたが、それは違う。

 そういう戦いではない、これは、喧嘩なのだから。

 

 

 

「————オルトリンデ」

 

 

 

「ンぁ?」

 

 

 

「オルトリンデ、それが私の名前」

 

 

 

「おるとりんで、

 オルトりんで、

 オルトりンデ————オルトリンデ、オルトリンデ、

 オルトリンデ。

 オルトリンデ、か。

 ははっ、可愛らしいおめえさんにぴったりのいい名前じゃねぇか。

 (オレ)は村正、千子村正だ」

 

 

 

「千子————村正…………」

 

 

 

 村正の名前を呟いた戦乙女、その羽を広げ、空へと帰っていく。

 

 

 

「ムラァマサ…………?

 どっかで聞いた、な…………?

 うーっと…………確かそんな名前の切れ味がすげえカタァナがジャポンにあると————ああ!

 お前、鍛冶屋(forgeron)か!?」

 

 

「はぁぁ…………もう何も言えねぇ…………」

 

 

「分かってる、

 鍛冶屋だってサムゥライなんだろ、ジャポンでは!?

 だからお前はサムゥライ・ムラァマサだ!!

 ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

「…………あれだな、つける薬がねぇってやつか」

 

 

「と、そっちの真名聞いちまったんで俺のも伝えないとフェアじゃないな。

 俺はナポレオン。

 アーチャー、ナポレオン・ボナパルトだ」

 

 

「なぽれおん?

 悪りぃ、聞いたことねぇ」

 

 

「ぐっ!?

 意外とグサリとくるな、その言葉…………。

 それで、どうする?

 俺としちゃお前さんとやりあう理由がなくなったんだが…………?」

 

 

「あン? ————なめンな。

 殴られっぱなしで終われる喧嘩が、どこにあるよ?

 悪りぃが、もちっと付き合ってもらうぞ」

 

 

「いいねえ、いいねえ。

 お前に連れられて、こっちも暖まってきたとこだ。

 最後まで付き合うぜ、サムゥライ・ムラァマサ」

 

 

「————ンな抜けたこと抜かして、」

 

 

 そして村正が、刀を、

 

 

「死ンじまっても、知らねぇぞ?」

 

 

 ————————抜いた。

 

 

 

 

 

「は……………………?

 ————————————はぁぁぁ!?

 オイオイオイオイオイオイオイオイ!?

 なんだよ、そりゃ!!??」

 

 

「見りゃ分かンろ、()だよ、()

 

 

()()()()()()()!?

 (poignée)がお前の身長よりデカいじゃねえか!!」

 

 

 村正が両手で持つ刀、

 ナポレオンの言葉通り、柄だけで村正を超えている。

 

 その柄長、六尺四寸、約一メートル九十六センチ。

 両手で構える、というよりは、地面に置きながら持っているが正しいか。

 

 

「鹿島の神様へ刀納めるか、って若けぇ時分に思いたってな。

 聞いた話じゃ、鹿島神宮に納められてる韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)の二代目は、刃渡り七尺超えって話じゃねぇか。

 そンじゃま、()()()()()()()()()()()()()()()って馬鹿やらかした結果だよ、こいつは。

 神サマの刀なんだ、()()()()()()()()()()()()

 (オレ)としちゃぁ、この()()が出来上がったンで、()()()()()にするかと思ったンだがよ、()()()で断念だ、世知がねぇなぁ。

 でかすぎるンで蔵には入らねぇ、持ち運べねぇ、近所の神社に頼ンでも引き取り拒否。

 すったもンだの大騒動の挙句ボツだ、あー、今思い出しても腹ン内がきりきりするな。

 

 戒めだよ、こいつは。

 調()()()()()()鹿()()()()()()()()()、ってな」

 

 

 光を反射して美しい直線を描く刀身は、長く、大きく、太い。

 だが、()()()

 目線が自然と吸い込まれるような妖しい輝きがある。

 そして、()()()

 ナポレオンの目にもそう映る、誰の目にも()()()()()()()()()()()()

 

 確かにこれは村正のいう通り、武器という兵装ではないのかもしれない。

 その刃長は九尺九寸五分、メートル換算で約二メートル九十八センチ。

 三メートルにはわずか届かないが、柄を含めた全長では四メートル半を超える。

 

 これを()()として使うのは、人の身では不可能。

 

 

「でもよ————、

 ()()()()()()()鹿()()()()()()テメェの面ぶン殴るにはちょうどいいクズ鉄だろ、

 なぁ、なぽれおん?」

 

 

「ハ————、

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 よし、決めたぁッ!

 俺ぁ決めたぜ、サムゥライ・ムラァマサ!!

 この喧嘩が終わったら、お前を我が軍の切り込み隊長にスカウトする!!」

 

 

「終わった時には、おめえ、死ンでンぞ?

 どうせ一度きりしか振れりゃしねぇ。

 ————構えろ、なぽれおん。

 どっちが早ぇか、()()()だ」

 

 

 

 その挑戦状に、ナポレオン、魂の奥に火がつく。

 

 持つ砲が、音を上げながら変形、

 

 その大砲が、真なる姿を世界に示す。

 

 

 

「お前に最大の敬意を表し、()()()いかせてもらう!」

 

 

 

 砲口は光を蓄えながら、砲手の狙いに従う。

 外すはずもない砲撃。

 

 村正の膂力、ナポレオンには見当がついている。

 そう、切っ先を見るには顔を大きく傾けないといけないあのバケモノ刀、村正ならどの程度の速度で振れるか試算は終えている。

 かつ、今、村正には()()()()()()()()()()

 つまり、スキル怪力などの()()()()()()()()()()させる隠し手はないと判断。

 

 

 

「五」

 

 

 

 そしてその常識的な思考を推し進めれば————、

 勝つのは自分、どう転んでもこちらの方が早い。

 まるでギロチンの刃のように佇むあの刀よりも、早い、絶対にこちらが。

 振り下ろすよりも、倒れ込むよりも、間違いなくこちらの砲が早く直撃する。

 

 

 

(quatre)

 

 

 

 だが、と言わざるを得ない。

 もしかしたらこいつなら何かするんじゃないのか、やってくれるんじゃないか、

 そんな、()()()()()()()のだ。

 

 それは————、

 不可能を可能にし、だからどうした、と言ってのける何か。

 

 

 

「三」

 

(trois)

 

 

 

 ナポレオンは己がどういう存在か自覚している。

 人理の英雄、可能性の男。

 人々の願いと期待に応えるもの。

 人が持つ可能性を体現した存在。

 

 そんな自分が————

 

 

 

「二!」

 

(deux)!」

 

 

 

 ()()()()()()()のだ。

 燃えるようにまっすぐな目をした、村正の面構えに。

 

 ナポレオンが体現する可能性とは、

 人々の願い、もしそうあってくれたらという想い。

 村正が内包する可能性は、おそらく違う。

 

 

 

「一!!!」

 

(un)!!!」

 

 

 

 そして、気付く、

 それは、()()()ではなく、()()()可能性なのだ。

 託される可能性ではなく、自分が望むことを成し遂げる可能性。

 その核となるのは、どこまでも追い求める()()()()()()()

 何があっても、どんな犠牲を支払ってでも成し遂げる()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()————その確信が可能性として感じるのだ。

 

 他者からなのか、自分からなのか。

 違うようでどこか自分と似た男が目の前にいる。

 

 

 

 ————なら、俺らが組めば最強ってことじゃねえか!?

 

 そう不敵に笑い————!!

 

 

 

 ゼロ(zéro)

 

 

 

「どらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「『凱旋を高らかに告げる虹弓(アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥレトワール)』っっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 喧嘩の華が、異聞帯に咲く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第六話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 彼という剣

 

 

 雨降って、地固まる。

 

 

 

「————だから、村にジイさン、バアさンの姿がなかったのか。

 胸糞悪りぃ姥捨山だな」

 

 

「あっちにも言い分はあるんだろうな。

 村で生産できる食料を考えれば、今の人数でぎりぎりだ。

 大人は()()、子供よりな。

 大勢の大人を恒久的に養えるだけの食料を作るとなると、中だけじゃ全然足りん。

 それじゃ外はどうかといえば、」

 

 

「デカブツの天下、か。

 そもそもあの童らは村から外に出るってことをまるで考えてねぇ」

 

 

「元の世界じゃ、食物連鎖のピラミッドの一番上だろ、人間が。

 ここじゃ違う。

 最底辺だ。

 その上に巨人がいて、次がワルキューレ達だ」

 

 

「…………」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 外に出ることを考えてないのは、確かにそうだが、()()()()()()()()()、だろ?

 子供達が互いに争わないってのだけが救いだ。

 みんなで仲良く、助け合う。

 逆を言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 巨人を倒して生活圏を広げるなんて、絶対に有り得ない。

 

 仮に、だ、あくまで仮にだぞ、

 俺やお前が最大限手を貸したところで、無理だ。

 戦乙女達に潰されるからじゃない、()()()()()()()()()からだ。

 武器を渡したところで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その発想は、ある意味、見習わなきゃいけんのかもしれんが…………。

 子供達を戦いに連れ出そうってんじゃない、あくまで仮定の話だ」

 

 

「……………………」 

 

 

「この世界にとっちゃ俺達は異分子だ。

 だからおかしく見えるんだな————、

 

 この世界で、この世界の人間が生きるには、あの子供達がやってる方法しかない、

 

 そういうシステムなんだな、ここは。

 動かそうにも、歯車が大きすぎるし、噛み合いすぎてる。

 誰が考えたか、」

 

 

 

「ナポレオン、」

 

 

 

「ん————ん???」

 

 

 

「あんた、知ってるんだよな?

 このふざけた世界に君臨している、神様気取りのクソッタレの居場所を」

 

 

 

「——————————!!??

 ……………………落ち着け、気持ちは分かるが、まず落ち着け。

 俺とお前、正面から行っても、裏口から奇襲かけても、勝てるような相手じゃねえ。

 玉砕覚悟の特攻なら、いつだって誰だってできる。

 やるからには勝つ、勝利以外は認められん。

 俺が道筋をちゃんと作り出してやる、だから、その思いはとっておけ。

 そうとも————、

 俺の辞書に、不可能という文字はないからな」

 

 

「………………」

 

 

 ———…………—何、だったんだ、さっきのあの凄みは…………!?

 

 

 止まった。

 サーヴァントである自分には心臓があるかないか定かではないが、

 

 それでも止まった、止められた。

 

 

 ————あの時と同じ…………いや、それ以上だったかもしれん…………!!

 

 

 

『…………私は、ルイ十六世を処刑しました』

 

 

 

 そう答えた瞳にあったのは————、虚無。

 

 それは老いたムッシュ・ド・パリ、現役を引退していた元死刑執行役人。

 狂った民衆達がギロチンへ人々を送り続け、その首を落とし続けた人物。

 

 当時皇帝であり人生の絶頂期にあったナポレオン。

 老いた元執行役人と偶然出会い、皇帝の俺の首でも落とせるのか、とからかい半分に問いかけ、

 

 返答したのは、四代目シャルル・アンリ・サンソン。

 ルイ十六世やマリー・アントワネット、他、フランス革命の名だたる犠牲者達を処刑した男。

 カルデアがアサシンとしての召喚されていることを確認している英霊。

 

 誰であろうと、何者であろうと、必要あれば刑を執行する————その凄み。

 

 

 ————それを超えちまうか!! くぅ〜ーー! 頼もしいぜ、切り込み隊長!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いていた足が、止まった。

 

 

 

 

「————誰かが、戦ってンな…………」

 

 

「どこでだ?」

 

 

「この先だ」

 

 

「………………見えん。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ここでも俺の前に立ちはだかるか…………っ!!」

 

 

「今の(オレ)()()()()

 (オレ)達みてぇなのが、三人————いや、二人とおまけか?

 デカブツが————…………二十二、だな。

 羽っ()が、………………十九、いや十七になった。

 オルトリンデは、いねぇな」

 

 

「おい!? その戦力差は何だ!?

 何がどうなってる!?」

 

 

「三人対残り全部だ。

 羽っ娘達がうめぇこと立ち回ってんな、けど、

 …………何だぁ、あの傾奇者…………」

 

 

「加勢するぞ、ムラァマサ!

 この世界で戦乙女達とやり合うってことは、間違いなく俺達の味方だ!」

 

 

「いや…………余計なお節介かもしンねぇぞ…………?

 あいつ、桁が違い過ぎる、余裕で全員ぶった切りそうだ」

 

 

「ん??

 どっちにしても、だ、ここで手助けした方が後々の交渉に有利だ。

 だろ?」

 

 

「ああ、だな。

 ンじゃ終わっちまう前に気合い入れて走っか!」

 

 

「フッ、ムラァマサ。

 俺が誰だか忘れたのか?」

 

 

「あン?

 なぽれおん・ぼなぱっちょだろ?

 ふろーれんつの皇帝の」

 

 

「…………俺は、今、とても悲しい…………。

 砲兵のアーチャーだ! 今の俺はな!

 任せろ、見えなくともキロ先のミカンにだって百発百中だ。

 距離、方位、風向き、あと大まかな布陣も頼む」

 

 

「あっちだ。

 敵じゃねぇが、()()()がそこにいる、立ちっぱで一番動きがすくねぇ。

 距離は…………っと…………二十六町、と————十間、そンで、」

 

 

「…………お前、メートルって知ってるか?」

 

 

「夏場の食いもンか? ここぁ冬だぞ!

 ンなこと喋ってる場合かよ、なぽれおん!?

 下手うちゃあっちに当たって大変なことになンだぞ!?

 しゃんとしてくれよな、大将」

 

 

「…………これがジャポンか…………。

 ん…………? ————っっ!!

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 そうだ、そうだった!

 ()()()()()、か!!

 礼を言うぜ、ムラァマサ!

 今の俺は、アーチャーのサーヴァント! 人理の英霊だ!!

 こいつを出すのはもうちょい後かと思ってたが、よ」

 

 

「ン? 被れってか?」

 

 

「切り込み隊長ムラァマサ!

 その()()を被り、観測手を兼任してもらう!!

 今の俺達は英霊だ、なら英霊らしく行こうじゃねぇか!!」

 

 

「————ん…………ああ、なるほどな、なンか()()()()ンな。

 正直こンなもンするのは、生まれて初めてだが…………」

 

 

 

「——————お、お、お、おおおおお!?

 距離が分かるだけかと思いきや、見える、見える、お前さんの視界が俺にもそのま、

 

 ——————…………………………は!!!???

 

 な、な、な、な、何だこのサムゥライお嬢さん(マドモアゼル)は!!!!

 人間か!? いや、サーヴァントか!?

 段違い、いや別次元すぎるぞ!!」

 

 

「あれがほンまもンの、侍、ってやつだ」

 

 

「あのセイバーより…………上、それも、相当な上。

 

 …………信じ、…………らんねえ…………、いるのかよ、こんな剣士が…………!

 

 …………()()()()()()()()…………ッッッ!!

 

 ——————。

 いける…………な。

 例え正面からの力押しでも、あの二人、いや、あの三人と俺達なら…………、

 女神は間違いなく手を出さない、なら、あっち側の全戦力が集まったとして…………、

 地の利は圧倒的に不利だとしても、それは————…………。

 

 よし! 見惚れるのは後だ、まずは助太刀と洒落込もう!

 ぐずぐずしてたらサムゥライお嬢さん(マドモアゼル)に全員倒されちまう」

 

 

「頼むぜ、なぽれおん?」

 

 

 

「任せろ————その期待、百倍にして答えよう!!」

 

 

 

 

 

[第六話 彼という剣]

 

 

 

 

 

▷ □ 「はかどってますか?」 □ ◁  

 

 

「…………おめぇか」

 

 

 決戦を翌日に控えたこの日————

 シャドウ・ボーダーの屋根の上に二人の姿があった。

 

 

 沢山のことがあった。

 

 

 再び巡り会えたことを喜ぶも————

 サーヴァントとしてこの地に呼び出された村正に、二人の記憶はなかった。

 

 

 それなのに、

 武蔵の差し料を見る間、腰が寂しいだろうからと差し出したのが、

 あの時の刀と同じ銘を持つ、『明神切村正・(あらため)』。

 

 

『気付いたら、いつの間にか出来ちまってた。

 おめぇさんの面見たらピンときたぜ。

 ほら、抜いてみな————な、おめぇさんに使われたがってるだろ?』

 

 

『凄すぎて私なんかが持っていいか分からない』、そう話す武蔵の手は刀を握りながら震えていた。

 

 

 

 どうして、そうなったのか————

 ナポレオンへ、ストーカーとはなんぞや、という講義が開催された。

 

 場は紛糾する、意見が割れに割れたのだ。

 犯罪(アウト)なのか純愛(セーフ)なのか、どっちなのかと。

 五人で話していたはずが、ダヴィンチらカルデアスタッフも加わる大論争に。

 

 名探偵曰く、

 

 

『セーフだ、無論だとも。

 何故なら、この世界には二十一世紀のストーカー規制法はそもそも存在しないはずだ。

 法律そのものが存在しないのであれば、違法行為と認定することはできない。

 つまり、ムッシュ・ナポレオンがオフェリア嬢にどんなに醜く言い寄ったとしても————

 遺憾ながら、この国、すなわちこの世界では、それを犯罪行為と糾弾することはできない』

 

 

 名探偵の言は勿論続き、特異点や異聞帯を旅する我々が指針とするべき法とは何か、秩序とは何か、そして正義とは、という大演説に続き、マシュが感動の余り涙ぐみ、村正が大いに頷くというシーンがあった。

 

 が、

 

 純愛(セーフ)派筆頭ナポレオン、

 

 

『ハハハハハハ! お前ら全員、俺達の結婚式へご招待だ! 最前列は、早い者勝ちだぜ?』

 

 

 と、犯罪(アウト)派を意図せず挑発。

 

 

 犯罪(アウト)派武蔵、これにプッツン。

 

 

『ならそのおち○ち○、私がぶった切ります!!』

 

 

 剣轟抜刀! と叫ぶ武蔵を、ダヴィンチを除く全員、死ぬ気で止める。

 

 

『ティアマトより怖かったです…………』、とはマシュ。

『頼むから(オレ)の刀でンな汚ねぇもン斬らねぇでくれ…………』、これは村正。

『あのさ…………俺、普通の人間…………』、しかし、誰よりも早くナポレオンを庇ったムニエル。

『ん? サーヴァントだよ? どうせ再生できるから問題ないんじゃないかなー?

 いや、性欲という因果を斬ればワンチャン再生しないか』、万能の天才は発想が違った。

 

 

 他にも、

 まだまだ沢山のことがあった。

 

 楽しいことも、辛いことも、苦しいことも、悲しいことも————。

 

 沢山の子供達と出会い、そして、別れた————。

 

 

 

 それも今日までの話。

 

 明日こそは、決戦。

 

 勝たなければ、いけない。

 

 

 

 

 

「おう、暇つぶしがてらにちぃと聞かせろ。

 おめぇ、前に決めたなぽれおんの策、どう思う?

 戦の経験じゃ、なぽれおんや武蔵が上だが、世界を救った経験じゃ、おめぇとマシュだ。

 言いたいことは全部言ったと思うが、まっ!

 確認の意味も込めて、その道の玄人の意見ってのを、頭の悪ぃ偏屈爺にビシィっと頼まぁ」

 

 

 鉄を打つ動作とタイミング、生じる音と火花。

 

 何度も何度も叩いているはずなのに、毎回全く同じ現象が繰り返されているように映る。

 

 

▷ □ 「別にプロとかでは、」  □ ◁  

  □ 「ないのですが…………」 □  

 

 

 作戦はいたってシンプル。

 

 自他の戦力差、戦場となる城の特異性、

 

 その城主である女王でありこの世界の神、

 

 ナポレオンが提示した策の中から選択したのは————、

 

 

 

『速攻だ。

 玉座の間、それとも謁見の間と呼ぶべきか、とにかく広間が広い城だ。

 裏道を使ってそこへ抜ける。

 攻められることを全く考えていない、行ける。

 そこを戦場にする』

 

 

『広さはどれくらいでしょうか?』

 

 

『巨人が押しかけて暴れ回ってもなんとかなる程度の広さだ。

 でかい、には、でかいんだか、()()()

 我が麗しのヴェルサイユにはちょいと劣るが、ヒュぅ、見ものではある』

 

 

『うーん、五人で攻めるなら狭い所もありだけど…………、

 ナポレオンさんの火砲の範囲制圧力を重視?』

 

 

その通りだ(c’est vrai )、サムゥライお嬢さん(マドモアゼル)

 大軍に囲まれても、少女の盾、俺の砲、そして我らの切り込み隊長がいりゃなんとかなる。

 十人に囲まれるのも、百人に囲まれるのも、まっ! 大して違いはない!!

 とはいうものの、あまりに囲まれすぎると、()()()()()()()()()()()()の確率が上がる。

 なら俺の砲を有効活用しつつ————、っと何かな、サムゥライお嬢さん(マドモアゼル)?』

  

 

『……………………。

 ……………………。

 ……………………さっきのやつの最初、も一回お願いします』

 

 

その通りだ(c’est vrai )、サムゥライお嬢さん(マドモアゼル)!!』

 

 

『……………………、メルシー・ボクー(ありがとうございます)!!

 

 きゃ〜、言っちゃった言っちゃった。

 ハイカラなお仏蘭西言っちゃった〜〜。

 

 はっ!? いけないわ、心に決めた人がいる人にうつつをぬかしては…………ごめんね?』

 

 

『ど、どど、どうして私に振るのですか…………ええと、そのぅ…………』

 

 

 

()()()()は一丸となって戦う。

 残るサムゥライお嬢さん(マドモアゼル)、あんたは遊兵だ、そしてあんたが俺の作戦の鍵だ。

 最優先で、最高速度で、最短ルートで、一秒でも早く、シグルドを撃破してくれ』

 

 

『早ぇ話、武蔵に丸投げってか?』

 

 

『そうだ。

 最も高い敵殲滅力を持ち、最も高い機動力を持ち、最も高い継続戦闘力を持つ————俺達の中の最強戦力、それがあんただ、宮本武蔵。

 

 俺達と一緒に戦うと、()()()()()()()()()()()

 俺達が()()()()()()()()()んだな、あんたのレベルで戦える奴は誰もいない。

 

 だから、一人だ。

 

 無論俺達四人、援護はするが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 正直、あんたなら戦乙女千人に囲まれても無傷で全滅させちまうだろ?

 

 こっちの最強の駒を最強の状態にして、敵の急所を破壊————すなわちオフェリア確保の絶対条件であるシグルドの撃破を遂行する、

 

 これが俺の作戦の基幹だ』

 

 

 

『————————、斬れっか、武蔵?』

 

 

 

『ええ、無論』

 

 

 

『待ってください。

 それでは、武蔵さんはシグルドだけでなく、マスターのオフェリアさんとも同時に一人で戦うことになります。

 彼女は、ノウブルカラーの魔眼の持ち主です』

 

 

『…………』

『…………』

『…………』

 

 

  □ 「もしかしなくても、」      □   

▷ □ 「魔術の話、分かる人がいない?」 □ ◁  

 

 

『あっ————! 通信は今だめでした…………。

 ざっくりですが、他者への強烈な干渉力を持つ魔眼はノウブルカラーとされます。

 オフェリアさんの魔眼は、そのランクが宝石、大魔術クラスの魔術でも再現できない神秘を一工程(シングル・アクション)で実行します。

 ランク宝石の魔眼といえば、代表的なものはライダー・メデューサの石化の魔眼でしょうか。

 相手を見ただけで石にするというものです』

 

 

『形のない島のゴルゴーン三姉妹末妹の石化か。

 英雄ペルセウスは鏡の盾で頑張ったって話だが、』

 

 

『ん?

 見られたら石になるぐらいのことをされるってことよね?

 なら()()()()()()わ。

 シグルドを斬り、オフェリアさんを気絶させて魔術を使えなくし確保、

 その任務、承りました』

 

 

『えれぇでかくでるじゃねぇか、武蔵』

 

 

『…………ほ、本当、ですか?』

 

 

『言い出しっぺの俺が言うのもなんだが…………、ハードル高いぞ?』

 

 

 

『お任せあれ。

 ()()()()()()()()()()()から、()()()()()()()()()()()()()()ね」

 

 

 

 

 

 

 

▷ □ 「流石は武蔵ちゃん、」 □ ◁  

  □ 「正直、痺れました」  □ 

 

 

「はははっ、そりゃな!

 (オレ)やなぽれおんが言ったところで、馬鹿抜かせド阿呆で終わるだけだしな!

 あそこまで言って、誰にも何も言わせずに全員全部納得させるのは————、」

 

 

▷ □ 「宮本武蔵、」    □ ◁      

  □ 「————ですね!」 □  

 

 

「はははっ!」

 

 

 朗らかな笑い声が、鉄が鍛えられる音に乗る。

 

 

▷ □ 「村正さん、」 □ ◁      

 

 

  □ 「武蔵ちゃんより、」       □ 

▷ □ 「村正さんこそ、大丈夫ですか?」 □ ◁      

 

 

「…………。

 おめさんには、正直に言っとく。

 ()()()、悪りぃ、迷惑かける」

 

 

 

 

『女王は、手を出さない、と?』

 

 

『ああ、間違いなく。

 愛するか、殺すか————その二者択一だ。

 戦乙女を十人殺そうが何しようが、()()()()()()()()()()、だから()()()

 愛する基準が広すぎて大きすぎて、俺の感性じゃ理解できねえ、紛れなりにも神だな。

 故に、()()()

 ただし、気をつけろよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 指鳴らされたら死ぬとかいうレベルじゃねえ、指一本ちぃっと動かされただけで、俺達全員アウトだ』

 

 

『んー〜、でも、説得できるのかなぁ?

 キミの最終目的は、結局のとこ、空想樹の破壊でしょ?

 それはこの異聞帯の全てを殺してしまう行為。

 口先三寸でだまくらかせるような相手じゃないでしょ、間違いなく』

 

 

その通りだ(c’est vrai )、サムゥライお嬢さん(マドモアゼル)

 

 

『————!?

 も一回お願いしまっす!』

 

 

『何度でも言おうとも、

 その通りだ(c’est vrai )、サムゥライお嬢さん(マドモアゼル)!!!』

 

 

メルシー・ボクー(ありがとうございます)!!

 はい!! 一緒に!!』

 

 

『メ、Merci beaucoup(ありがとうございます)…………』

 

 

『あーん、綺麗な発音!

 負けたー、くぅ〜悔し〜〜い!!

 私の完敗だーーーーーーー!!

 

 …………ん?

 ……………………負けた?

 …………………………………………負けた??

 

 負けた。

 ————()()()()()()()のなんて、いつ以来だろ?』

 

 

『………………』

『………………』

『………………』

 

 

▷ □ 「……………………」 □ ◁ 

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

『おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!?』

『………………流石に嘘だと思いてぇが、まじかぁ??』

 

 

▷ □ 「マーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッシュ!!??」 □ ◁

 

 

『先ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 輩ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 、ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 まーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 でーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 かーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 |ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??』

 

 

 

『ふぅ…………。

 ごめんなさい、貴女を斬らずしてこの世界から去ること、できなくなっちゃった』

 

 

 

『!? あ…………………………!?』

『!? う、ぉ……………………!?』

『…………………………………ぉぅ』

 

 

 

  □ 「武蔵ちゃん! お願い! やめてーーーーーーーー!!」 □  

▷ □ 「なんでもするから、それだけはダメーーーーーーー!!」 □ ◁ 

 

 

 

『もーーー! あっははははははは! 本気にしないでよ、みんなっ!!

 冗談に決まってるでしょ、冗ーー談っ!!

 異国語の発音どっちが綺麗か勝負の決着を、どうして刀で決めますか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そーーーいう反応されちゃうと、私また今みたいな冗談言っちゃうわよー〜!?』

 

 

『……………………』

『……………………』

 

 

▷ □ 『……………………』 □ ◁ 

 

 

『えれぇ情けねぇ顔だな、そこ三人、なんだそりゃぁ、褌締め直してシャキッとしろっ!!

 (オレ)らはな、状況によっちゃ、そのカミサマ女をぶちのめすンだぞ、ああン!? 

 武蔵の殺気浴びたぐれぇで動けなくなってどうする?

 そいつが武蔵より上行ってたらどうすんだ!?

 負けられませンけど、びびっちまってやられました、とでも抜かすつもりかッッッ!!??

 キ○タマ付いてんだろッッ!! 頭の血管ぶっ千切るぐれぇ気合ぶっこんどけッッッ!!』

 

 

▷ □ 『————!? はい!!!』 □ ◁

 

 

『はいっ!!!』

 

 

『おう! ————うっしゃぁ!!

 流石だぜ、切り込み隊長、いい一喝だ』

 

 

 

(…………今のって、突っ込んじゃダメなとこよね、うん…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「両方は同時に相手にできねぇ、確かにだな。

 だから片方だけ叩く、そうだよな。

 なぽれおんやらほーむずの言う通りだ、カミサマ女とはまず話し合い、ってのが正しい。

 …………。

 なぁ、この世界ってのは、おめぇにはどう見える?

 他にも色々見てきたンだろ?」

 

 

  □ 「子供達の純粋さを思うと、やり切れないです」 □  

  □ 「ただひたすらに悲しいです」         □  

▷ □ 「理屈は分かります、けど納得できません」   □ ◁

 

 

 その答えに、鍛治匠は鉄を打つことで答えた。

 

 

「同じだ、(オレ)も、オレも。

 だからだな、はらわた煮え繰り返ってしょうがねぇ。

 そいつを前にしたら、抑えきれるか…………分からねぇンだ」

 

 

  □ 「(オレ)と、」     □  

▷ □ 「オレ、ですか?」 □ ◁ 

 

 

「おう。

 ようやく分かりかけてきたンだがな。

 (オレ)に身体貸してる()()()だよ、コイツ。

 コイツがとにかくブチ切れまくってやがる————って風に、(オレ)には思えンだ。 

 コイツがそう思ってるから(オレ)もそう思う、ンな馬鹿な話じゃねぇ。

 こちとら捻くれ糞爺だ、あーおうおうそうですかい、だ。

 だけどなぁ…………」

 

 

 鉄を鍛える手が、止まった。

 

 

「コイツも、おめぇも、マシュも、同じ目してやがンだよなぁ…………。

 真っ直ぐで、光り輝いて、弱ぇ奴を思いやれる暖かさがあって、

 

 ——————()()()()()()()()()

 

 死線くぐり抜けたら目なんざ据わるもンだが、ンな話じゃねぇ。

 コイツがいつの時分の奴だか見当つかねぇが、少なくともおめぇやマシュは、ンな重い目をしちゃダメなンじゃねぇのか、ってな…………」

 

 

▷  □ 「……………………」 □ ◁ 

 

 

「だがなぁ…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()なンだろ、ここは?

 ンでまだ()()ぐれぇ残ってンだよな?

 ()()()じゃ、ダチもいたンだろ? 助けてくれた恩人も、いたンだろ?

 そいつら全員ぶっ殺しちまったンなら…………、()()()()()()()()()()()

 

 

▷ □ 「…………はい」 □ ◁  

 

 

「なンだが…………、」

 

 

▷ □ 「…………?」 □ ◁  

 

 

(オレ)ぁよ、…………実のところ、諦めてねぇンだ」

 

 

▷ □ 「…………え?」 □ ◁  

 

 

 

「あっちの世界も救って、こっちの世界も救う————それが、()()()()()なンだ」

 

 

 

  □ 「いえ、それは、」   □  

▷ □ 「…………出来ません」 □ ◁  

 

 

「そんなうまい話、転がってるわけがねぇ。

 できるってンなら、()()()()()()()()()()、おめぇらなら。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だろ?」

 

 

▷ □ 「…………はい」 □ ◁  

 

 

()()()()()()

 

 

▷ □ 「————え?」 □ ◁  

 

 

(オレ)が斬りてえ()ってのが、()()()()()なンだよ。

 (オレ)ン認識じゃ、こいつぁ力比べ、なンだろ?

 ここの歴史が正しいのか、元の歴史が正しいのか、勝つのは一つ、負ければ消える。

 元の歴史のおめぇらや(オレ)からすりゃ、勝たなきゃなンねぇ、正さなきゃなンねぇ、元の世界の連中がもう何十億と死んでんだ、だから————殺さなきゃ、なンねぇ。

 もし勝ったとして、他の全部を正したとしても、()()()()()()()()()()()()()()()

 繰り返しじゃねぇか。

 いつまでたっても、おめぇやマシュみてぇな若けぇ真っ直ぐな連中が、背負うべきじゃねぇ重りを引きずりっぱなしじゃねぇか?

 

 ふざけンじゃ、ねぇよ…………!!

 そンなの、あっていいわけねぇだろうがッッ…………!!

 

 ()()()()()()()()()()()————あらゆる罪業の元となる大源の、根っこの根っこにある、()()を斬るために。

 どっちかしか生きられない? ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()を斬ることさえできるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 鉄が、一つ、強く打たれる。

 

 

▷ □ 「…………本当に、できるんですか?」 □ ◁  

 

 

  □ 「村正さんの、その刀なら、」        □

▷ □ 「()()()()()()()()()を、斬れるはずだから、」 □ ◁

 

 

  □ 「この世界を滅ぼさずに、」 □  

▷ □ 「元の世界を救う————、」 □ ◁  

 

 

▷ □ 「それが、可能…………?」 □ ◁  

 

 

 

 

 

「千子村正————死んだ後も、刀打ってンのはそンためだ。

 

 …………と言いてぇンだがなぁ…………」

 

 

 

▷ □ 「?」 □ ◁  

 

 

「なまくら包丁持った武蔵と、なんでも切れる名刀を持った(オレ)

 よく切れるのは、どっちだ?」

 

 

▷ □ 「…………あ…………!」 □ ◁  

 

 

「そうよ、例え刀が至ったとしても、使う(オレ)が至ってるのか、って話だよ。

 刀が出来ても、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってことだ」

 

 

  □ 「なら武蔵ちゃんに、」  □   

▷ □ 「…………って、あ」   □ ◁

 

 

「武蔵が斬ろうとしてンのは、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 (オレ)の刀が斬る()()と、全く違ぇとは言い切れねぇが————でも、違う。

 こいつを武蔵が振っても、どっちつかずで両方駄目になる、間違えなくな」

 

 

  □ 「村正さんが武蔵ちゃんに剣を習えば、」 □ 

▷ □ 「行けると思います、はい!」      □ ◁  

 

 

「あーーーーーーーーン?

 寝ぼけんな、ぶっ飛ばすぞ、このヤロウっ!

 (オレ)はこれでも刀鍛えンのに忙しいンだよ、クソッタレっ!

 ()()()()()なのに満足できるわけねぇだろうが!!!

 人にぶん投げしやがってこンにゃろうが。

 ()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

  □ 「えええええええ、」 □  

▷ □ 「ぇぇぇぇぇぇ!?」 □ ◁  

 

 

「二刀握って武蔵みてぇに全部が全部出来るようになる必要はねぇ。

 刀一つで、たった一回だけの一振り————それだけでいい。

 まぁ…………()()()()()()()()()()()ンだよな、おめぇさんの戦いってのは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()————それが、おめぇさんの戦い方、だろ?

 

 でもなぁ、他に頼める奴が誰もいねぇ。

 それに、今回は…………出来なかったとしても、()()()()()()、違うか?」

 

 

  □ 「……………………!!」 □  

▷ □ 「————————!!」 □ ◁  

 

 

「ま、偏屈爺ぃの世迷いごとだ。

 出来るわけなンざねぇのに、見当違いの大ホラ信じてるただのど阿呆なだけかも知ンねぇ。

 ただ、もし、万が一、出来ンだとしたら…………」

 

 

  □ 「挑戦する価値は、」  □  

▷ □ 「…………きっとある」 □ ◁  

 

 

「やって、やろうじゃねぇか、なぁ?

 この世界も、元の世界も————その他の全ての世界も、全部まとめて救うんだ!

 

 なってやろう、

 

 ——————そんな、()()()()()に!」

 

 

  □ 「……………………」 □  

 

 

 

「………………………………………………」

 

 

 

  □ 「……………………は、い?」    □  

▷ □ 「……………………正義の、味方?」 □ ◁  

 

 

 

「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 何だ何だ何だ何だ!?

 何っつった、何つった、今、(オレ)は一体何っつったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 ド畜生! 正義の味方ぁ?? 正義の味方?? 正義の、味方だぁぁぁ?

 何、ケツの穴の青臭ぇガキでもぬかさねぇこと、ほざきやがるッ!

 ()()()か、()()()か! ()()()(オレ)に言わせやがったのかッ!?

 間の抜けた面してるだけじゃ飽き足らず、胡散クセェ香具師でも言わねぇこと喋らせやがって!!」

 

 

  □ 「でもカッコよかったですよ、正義の味方」  □  

▷ □ 「さっきの台詞、なんか決まってましたし!」 □ ◁  

 

 

「てぇぇぇ…………めぇぇぇぇ…………えぇぇぇ…………!

 頭から炉に突っ込んで、刀の材料にしちまうぞ!?

 

 かーーーー!

 

 ったく、ギャーギャー喚く(オレ)がみっともねぇ。

 うし、仕切り直しだ。

 一つ、小話でも頼まぁ。

 おめぇさんが旅した世界の話でもいいし、イカれちまう前の日本の話でもいい」

 

 

 鉄を鍛える音が、また、小気味良いリズムを作る。

 

 

  □ 特異点の話をする   □  

  □ 亜種特異点の話をする □ 

▷ □ 日本の話をする    □ ◁

 

 

▷ □ 「では、日本の話を。日本は————、」 □ ◁  

 

 

  □ 「平和です」              □  

▷ □ 「豊かです」              □ ◁ 

  □ 「エロです」              □  

  □ 「村正さんが登場するゲームがあります」 □  

  □ 「二次元に生きています」        □  

 

 

「いいねぇ! 豊かか。

 あー、言ってたなそいや、このしゃどう・ぼーだーみたいなカラクリ車があンだろ?」

 

 

▷ □ 「車は、大体一家に一台あります」 □ ◁ 

 

 

  □ 「少し物が多すぎるかも知れませんが、」 □ 

▷ □ 「平和ですし、良いところだと思います」 □ ◁ 

 

 

「おぉー、言うじゃねぇか、物が多すぎる!

 ははっ! 腹空かせて泣きじゃくる赤ん坊をあやせなくて困るのはもうねぇってか。

 そんな日本の礎にちぃっとでもなれてたら、文句はねぇなぁ」

 

 

 となれば、畳み掛けるには————、

 

 

  □ 政治かな? 村正さん意外と好きそう                   □ 

  □ 刀剣、剣術、剣道。現代の剣の今を伝えよう                □  

  □ タイガー毒電波を受信! English Only Go My Way、オケー!?      □ 

▷ □ 春画、そう春画一択! 現在までの春画の変遷を語る、いや語らして下さい! □ ◁ 

  □ ゲームとか? スマホゲー、パソゲー、ゲーセン、家庭用、どれにしよう?  □  

 

 

「…………マジか?」

 

 

▷ □ 「マジです」 □ ◁ 

 

 

「大マジか?」

 

 

▷ □ 「大マジです!」 □ ◁ 

 

 

「…………おめぇ、歳いくつだ?

 あンなもんはガキが見ていいもンじゃねぇぞ?」

 

 

▷ □ 「(昔の基準なら)もう成人ですので!」  □ ◁ 

  □ 「こう見えて(精神年齢は)二十歳です!」 □ 

 

 

「その話、ましゅに全部確認取るぞ?」

 

 

▷ □ 「ブッハーーーーーーーーーッ!?」     □ ◁ 

  □ 「お代官様、それはあんまりにございます!」 □ 

 

 

「ばーたれ。

 あンなもンは一人でこっそり楽しむもンであって、誰かと語るような代物じゃねぇ」

 

 

▷ □ 「あたっ」       □ ◁ 

  □ 「肝に命じます…………」 □ 

 

 

 こうなれば————!

 

 

  □ 伝家の宝刀、カルデアあるある小話集、行きます!          □ 

  □ 退かぬ、媚びぬ、省みぬ! 春画を押し通す!!           □  

  □ 基本に帰ろう、よし、政治だ                    □ 

▷ □ 村正さんが宿ってる、()が気になる…………              □ ◁ 

  □ 言うしかないか…………あの最強セイバー決定トーナメントの真の結末! □ 

  □ そういえば、村正さんの他に鍛治匠と呼べる存在を二人知ってる    □ 

 

 

「お」

 

 

「やっほー。

 なーに話してんの?」

 

 

「お二人ともこちらだったんですか」

 

 

「いやな、こいつがとっておきの面白い話をしてくれてるとこだ」

 

 

▷ □ 「………………え?」     □ ◁ 

  □ 「その無茶振りは一体!?」 □ 

 

 

「え…………先輩のとっておき、ですか?

 私、すっごく気になります」

 

 

「おー、こいつは期待できるじゃねぇか。

 ましゅにも隠してた秘蔵話かぁ、さてさて何が飛び出すンだ?」

 

 

「じゃ私、みんな呼んできまーっす!」

 

 

「あ! 私もお伴します、武蔵さん!」

 

 

 

▷ □ 「あわわわわわ…………」          □ ◁ 

  □ 「どうしてこうなった、どうして…………!」 □ 

 

 

 

 

 

 集い集まり、宴は始まる。

 

 

「よし、先陣は俺が切らしてもらう!

 これは————栄光と勝利、逆境と逆転、苦悩と決断、そして…………愛の物語だ」

 

 

 語らい、笑い、共に過ごす。

 

 

「————そうなってしまっては、もう言わざるを得ないではないか、諸君?

『モリアーティー、お前もか!?』、と!!」

 

 

 同じものを目指し、同じ時を過ごす旅人達。

 

 

「一つだけ、どーしても一つだけこれだけはっていうのがあるんだよね。

 あの映画と本は実は意外に楽しめちゃったけど…………これはダメ!

 ダヴィンチ丸秘エピソード集みたいなのに纏められてるんだけどさー、本当は違うんだよなー。

 仕込んだのは違くて————」

 

 

 待っているのは、死闘と決戦、血が流れずして終わるはずもない。

 

 

「私が戦った中で一番強い奴は誰か?

 ————んーーー、選べません! 多すぎて!!

 だけどね、私が戦った中で、一番長い時間戦ったのは、なら一人います。

 もーねー、私よく餓死しなかったなって今でも思うもん」

 

 

 それでも今は、

 

 

「実は…………いつかホームズに聞こうかと思ってたことが一つあんだよ。

 いつにしよ、いつにしよ、って先延ばししちゃっててさ。

 でもなー、これ、ホームズには悪いんだけどさぁ…………、

 この謎、ホームズ(お前)でも絶対解けないから」

 

 

 ただ今だけは、

 

 

「私の番か、うむ、ついに、ついに私の番が来たか!

 ふっふっふっふっふ————————!

 はっはっはっはっは————————!

 これは、事件だぞ、お前達!

 何故ならば、何故ならばだなぁ!

 むふふふふふふふふ!

 この話は、我が、錬金術の大家! いや、現代魔術における錬金術の頂点を極めた! といっても多分過言ではないと日々隠れてこっそりそうなっておくれと私は一人願っておるのだが!

 その我がムジーク家の! 最大! 最強! 至高! 絶品の! 魔術刻印!!!

 その名も! 聞いて驚くなよ、腰を抜かすなよ! 何故なら! その名前すら本来は言うことを禁じられておるのだ! そうとも! 名前を言ってはいけないあの人を真似たんじゃないぞ! ここは絶対に重要だから決して忘れるんじゃない! 名前を言ってはいけないあの人の方が、後だ! きっと!!

 本番はここからだからだぞっ!

 それこそ! 『変成鉄腕・極解、鋼鉄鉄器G(ゲー)ムジーク』!! その全てを————、

 言えるわけないだろ、バカモンがっ!!!

 一族の者でもないお前達に教えてあげると思ったか、バカめが!

 んふふふふふ、しかし、んふふふふふ、私とてTPOを弁えておる大人!

 所長たる私の、人間としての、大人としての! 器と度量の広さをお前達に教えてやろう! んふふふふふふふふ!

 つまりだな、私がこれから! 特別に! 特別に!! 特別に!!! お前達に話してやるのは、その魔術刻印の、」

 

 

 大切な友との、かけがえのない時間を、

 

 

「————それじゃ、長い話を一つ」

 

 

 心から楽しもう。

 

 

「コホン、私の番ですね。

 私は、映画の話をさせてください。

 今まで見た中で、一番面白かった、ある映画の話です。

 その前に…………皆さんに聞かなくてはいけないことが、一つだけあります。

 ————————Wars or Trek(ウォーズ・オア・トレック)?」

 

 

 またいつか、

 こうやってみんなで笑い合える時が来ることを信じて。

 

 

▷ □ 話すのは…………、 □ ◁  

 

 

  □ 聖女の話。自らを魔女と殺した人々を守ろうとした守護者の話          □

  □ 皇帝の話。豪華絢爛にして天真爛漫な我が道を征く少女の話           □

  □ 航海士の話。七つの海を股にかける、強敵と財宝を巡る冒険の話。        □

  □ 反逆の騎士の話。世間から怪物と恐れられた者達の奇妙で優しい友情の話     □

  □ 狂戦士と癒し手の話。たった一人で戦争を成す者とそれを根絶しようとする者の話 □

  □ 騎士達と王の話。騎士達が貫いた忠誠と、それに答えた王が掲げた理想の話    □

  □ 賢き王の話。その庇護の元、どんな窮地でも生きることを諦めなかった人々の話  □

  □ あの人の話。世界を救うため、微笑みながらその命を捧げた勇気ある青年の話   □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦の時、迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第七話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七話 冬の少女は一人想う

 

 女王の城の奥深く、少女は一人想う。

 

 

 この異聞帯に召喚されるもすぐに捕縛され、行動の自由を大幅に制限されている身ではあるが、激突の時が迫っていることぐらい感じられる。

 

 二つの陣営、二つの在り方、二つの信念、二つの生き方。

 それは決して交わらない。

 戦わずして終わることはない。

 血が流れ、死が訪れずして決着することはない。

 

 

「早かったかな。

 もうこの異聞帯が成立するか消滅するかの、決着の時を迎えようとしている。

 

 うーん。

 本来なら、そうね、竜殺しの英雄に招かれるように、その花嫁が現界するはずだった。

 それが英雄の望みであり、彼女の望みでもあるのだから。

 

 どうかな、勝算はあるつもりなのよね。

 勝てる、見込みはある。

 竜殺しの英雄はその花嫁でなければ普通は倒せないといえるけど、あの剣士はすっごく昔に普通を捨ててしまった強さだから。

 でも、()()()と戦うことになったら…………?

 なくはない、勝てるという可能性はゼロじゃないわ。

 けれど、花嫁じゃない、ってのは吉と出てくれるのかしら?」

 

 

 言葉が中断され思考に入る。

 

 感じているのは一つの存在、一つの悪意、一つの終焉。

 この異聞帯の状況を鑑みれば現界して当然であるブリュンヒルデ。

 大英雄の花嫁がいないことから裏付けられる一つの推察。

 何よりも、微かに、いやはっきりと感じられる————炎の熱。

 

 

 勝てるのか、全てはこの質問に尽きる。

 しかし、そう叫ぶ自分がいるが、そんなことよりも重要なことがあるでしょう、と叫ぶ自分がいるのも事実。

 

 

「…………。

 みんなとお喋りしたかったな…………特に、()()()とは絶対に。

 今回はそんな機会はないみたい。

 

 失礼しちゃうわよね、私に気付かないでこの世界を終わらせちゃおうとしてるのよ?

 こんな可愛いレディをエスコートしないでほったらかしにしておくなんて、男としてありえないんじゃないしら?

 むぅーーーーーー、今度会ったらとっちめてやるんだからぁ〜。

 …………怒らない怒らない、お姉ちゃんは怒っちゃダメ。

 守ってあげないとね?

 

 この牢を維持できなくなるか、維持している場合じゃなくなれば会えるけど、そんな状況っていうのはつまり————」

 

 

 勝利を、何よりも再会を。

 今はまだ祈ることしかできないけれど、巡り会えるという運命の糸はほつれていないはずだから。

 

 

 

「汎用人類史の守り手よ、カルデアの者達よ、あなた達の健闘と勝利を祈っているわ。

 あなた達が守ろうとする明日を、私、見てみたいもの」

 

 

 

 

 

[第七話 冬の少女は一人想う]

 

 

 

 

 

 そして、

 

 戦いの時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第八話へ続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話 血戦×決戦

 

 

 言葉など、もはや何の意味があろうか。

 

 

 この世界の在り方を善しとするもの。

 それに異を唱えるもの、

 この世界そのものを認めることができないもの。

 

 何を語り、何をぶつけ、何を話そうとも、

 分かり合えることは、決してない。

 結局はそう————どちらが強いのか。

 

 武力、戦力、魔力————何よりも、

 自分の信念を押し通す心の強さと、隣に立つ仲間との信頼という絆の強さ。

 

 それが、どちらが強いのかということなのだから。

 

 

 

 玉座に座るのはこの城の女王にして、この異聞帯を統べる神。

 慈愛に満ちた優しい瞳は、その眼前で刃を構える両陣営へ等しく向けられている。

 

 

 張り詰められた空気は、沈黙を硬く守る。

 この静寂が破られれば、二度と後戻りのできない血みどろの殺し合いが始まってしまうと知っているからだ。

 

 

 展開するのは、ワルキューレの大軍勢。

 盾を構え槍を携え、広間の上方を埋め尽くすほどの部隊を展開する。

 

 

 彼女らの正面に立つのは、カルデアの者達。

 戦乙女全騎の殺意を真っ向より受け止め、それ以上の闘志を燃やす。

 大盾を、大砲を、心中の刃を握りしめ————その時を待つ。

 

 

 

 その中を、一人、武蔵は歩く。

 

 

 

 腰に差す四刀を抜かぬまま、一つ、また一つと、歩を進める。

 

 

 人域を突破するその剣の位。

 ただ歩いているだけで、五大明王最強の一尊を背後に従えているかのような剣気を放つ。

 

 

 戦乙女達、これを見逃す。

 これまでのカルデア側との各地の戦闘経験・記録によって、自分達では宮本武蔵には何があっても歯が立たないと判断している。

 もちろんだからといって戦うのを放棄するような戦乙女達ではないが、それが女王の命令とあれば別。

 

 

 この剣士と戦えるのは————この騎士しかいない。

 

 

「…………。

 来たか。

 今回は、()()だ」

 

 

 赤瞳より殺意と戦意の焔を滾らせながら、最強の魔剣の主が最強の双剣使いと対峙する。

 

 

 その後ろに控える魔術師、眼帯を外し————魔眼解放。

 

 

 

 

「————霊基強制再臨・最終限定解除。

 立ちはだかる敵のすべてを討ち滅ぼしなさい、我が騎士」

 

 

 

 

 血戦が、始まった。

 

 

 

 

 

[第八話 血戦×決戦]

 

 

 

 

 

 ワルキューレ達が行軍を開始する。

 

「目標捕捉」「目標捕捉」「目標捕捉」

「全騎、戦闘状態へ移行」「全騎、戦闘状態へ移行」「全騎、戦闘状態へ移行」

「敵戦力、セイバー二騎」「アーチャー、シールダー」「そしてそのマスター」

 

「アーチャー、ナポレオン」「アーチャー、ナポレオン」「アーチャー、ナポレオン」

「砲撃は脅威」「直撃は避けること」「密集を避け散開しながら攻撃」

「単純な直線的射線だけじゃない」「散弾や小型連射弾もある」「注意せよ」

「砲も厄介だけど、」「速い」「機動力は非常に高い」

「脅威度、非常に高」「脅威確認」「脅威確認」

「手強い」「強敵だよ」「けど私達なら勝てる」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ」

 

「シールダー、マシュ・キリエライト」「シールダー確認」「シールダー確認」

「見事な盾ね」「私達のものには劣るけど」「でも凄いわ」

「豊富な戦闘経験」「修羅場を潜り抜けた数は私達以上かもしれない」「その推論肯定を保留」

「マスターの死守を第一優先目標と推定」「その推定を断定」「その断定を肯定」

「彼女を倒さずして、」「マスターへの攻撃は非常に困難」「ほぼゼロに近い可能性」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ」

 

「セイバー、千子村正」「セイバー、千子村正」「セイバー、…………村正」

「刀剣を複数所持」「刀を切り替えながら戦闘」「その数は不明、弾切れは無いと推定」

「単体攻撃能力しか保有せず」「上空への有効な攻撃手段を保有せず」「地上での剣による攻撃」

「攻撃範囲内に留まってはダメよ」「高高度からの一撃離脱」「複数機での同時連携必須」

「撃破せよ」「撃破せよ」「撃破せよ…………」

 

「セイバー、宮本武蔵」

「強い」「強すぎる」「私達では歯が立たない」

「お姉様の想い人に任せましょう」「それしかないわ」「ええ」

 

「敵マスター」「敵マスター確認」「敵マスター確認」

「オフェリアに遠く及ばない」「そもそも魔術師なの?」「魔力を全く感知できず」

「ただの人間ね」「貧相な」「ただの人」

「私達が迎える価値もないわ」「その判断を肯定」「判断肯定」

「有効な支援攻撃は皆無と断定」「回復補助も微小と裁定」「令呪だけと推定」

「撃破のためにはシールダーの排除が必須」「しかし撃破せよ」「撃破せよ」

 

「全騎各騎へ通達」「全騎各騎へ通達」「全騎各騎へ通達」

「我らが父のために、」「我らが母のために、」「我らが女王のために、」

「勝利を我らに」「勝利を我らに」「勝利を我らに」

「持ちうる全ての力を使い、」「持ちうる全ての力を使い、」「持ちうる全ての力を使い、」

 

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」「カルデアを殲滅せよ!」

 

 

 空を疾走する戦乙女達。

 その光り輝く槍を手に、勝利と栄光を掴み取るため全騎一斉に攻撃を開始!

 

 

「くぅ————っ!?」

 

 

 膨大な数による攻撃の密度と総数は、まるで熱帯雨林に降るスコールのように激しい。

 雪崩となって押し潰すように、乱れ飛び交う光の攻撃線。

 その一つ一つどれを取っても、終末の黄昏を戦い抜くに相応しい威力が込められている。

 

 圧倒的戦力数による圧倒的殲滅力————だが、

 

 

「負けませんっっ!!」

 

 

 彼女がいる。

 

 その大盾で、自分達に襲来するありとあらゆる攻撃を受け止める。

 盾とは本来一方向しか守れないはず、しかし————!

 

 

「先輩はあなた達のいう通り、魔術師でも、剣士でも、医師でも、技師でもありません!

 それでも————!」

 

 

 修羅場と死戦を潜り抜け、絶人の域に達しているのは何も武蔵だけの専売特許ではない。

 マシュの盾さばき、何よりも攻撃の見切りと読み、仲間へ降り注ぐありとあらゆる攻撃全てを自分が受け止めるという決意から導かれるその戦技、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 戦乙女全騎の圧倒的物量による圧撃とて、

 マシュ・キリエライトという盾を貫くことはできない!

 

 

「先輩は————、最高のマスターです!!」

 

 

 この盾こそは、主人を守り、人理を守る守護の盾。

 例え世界を焼き尽くす業火とて、決して滅ぼすことはできない。

 ——————彼女が何度でも立ち上がり、守り切るのだから!

 

 

「いいたんかだ!

 その気勢、指揮官として鼻が高い。

 ならこっちもいいとこ見せて、オフェリアをさらに惚れさせちまうとするかッッ!」

 

 

 砲口から一つの魔力弾が発射されるも、ワルキューレ達の回避行動が成

 

 

「————キャァ!?」「————つぅぅ!?」「なっ————!?」「————キャア!?」

「————わっっ!!」「そ、んな————!」「ガハッっっっ!!」「————く、グゥ!」

 

 

 空中で爆発。

 硬質化した魔力の塊が周囲へ飛び散り、砲撃を回避したはずの戦乙女達を切り裂いた。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハ!

 魔力がある限り弾切れの心配がねえってのはありがてえが、流石は俺!

 地対空砲をこうも見事に決めちまうとはね!」

 

 

「あんな使い方もあるのね」「初めてみるわ」「可能性の英霊」

 

 

「悪いが、どんどん行くぜえーーーーーっ!!」

 

 

 爆裂する弾、弾、弾弾弾弾!

 衝撃波と破片が、戦乙女達だけのものだった上方という空間を蹂躙する。

 ナポレオンの正確無比な戦術眼により導かれる砲撃のコースとタイミングは、いかな大勢の戦乙女達の統一思考とて読みきれない。

 

 加え!

 

 

「————おおっと!」

 

 

 ()()

 この英霊、()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 砲撃を中断させるべく空駆ける戦乙女達の槍撃を、無傷でとはいえないが、()()()()()()()()()()()

 

 それも戦史を紐解けば納得できようか。

 ナポレオンの軍略で重要な位置を占めたのが、砲兵という兵種。

 相手の急所を見定め、()()()()()()、その砲撃で敵を沈黙させる。

 ()()()()()()()()こそが、ナポレオン・ボナパルトの真骨頂。

 

 

「悪いが、我が軍団(俺達)を相手にするには————ちっと()()()()()んじゃねえか?」

 

 

 

 

 血が乱れ飛ぶ戦場にあって————

 

 ただ一人、戦わない者がいた。

 

 

 

 千子村正、未だ刀を一本も喚ばず握らず。

 自分を貫こうとする戦乙女達の槍を躱し、さばき、前に進む。

 

 しかし、攻撃は確実に当たっているし削っている。

 上半身の赤のシミは時が経つにつれ数を増やして大きく広がり、その足跡を流れ落ちた血が彩る。

 

 

 無言を貫いていたが、ようやく口を開く。

 

 

「よぉ」

 

 

「…………」

 

 

「こんな形で再会しちまうとはなぁ…………。

 因果なもンだ」

 

 

「…………どうして戦わないの?」

 

 

 全身を削られながらも、ただ防御に徹している。

 

 

「その前に、おめぇさんに挨拶しとこうと思ってな」

 

 

 流血や激痛に苛まれているはずだが、眉一つ、顔色一つ変えない。

 ()()()()()()()といわんばかりに、己の意思を貫き通す。

 

 

「私は退かない。

 私達は退かない。

 それが私達という存在。

 だから、」

 

 

 爆風が、二人の間を吹き抜ける

 

 

「戦って、村正。

 私達にはもう、それしかないのだから」

 

 

 その因果に、鍛治匠は強く拳を握るしかない。

 

 

「…………やるしか、ねぇか」

 

 

 邂逅は終わり、逃れられぬ戦いが始まる。

 決意が、己の心鉄に火を灯す。

 

 

「…………悪りぃが、()()()()

 

 

 そして、この男は誰もが信じられないような言葉を口にした。

 

 

 

 

「…………()()()()()()()()()

 

 

 

 

「————ええっ!!?」

 

 

▷ □ 「————日本語!?」 □ ◁ 

  □ 「英語じゃない!?」  □  

 

 

 

()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「恐らくこれは、()()()()()()()()()()()()()()()

 自らがサーヴァントとして持つスキルに、何らかの力を加えて展開しようとしている模様!

 まさか…………村正さんの肉体は、エミヤさんの大魔術の縁者!?

 それとも英霊化する前のエミヤさんそのもの!?」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 前進を開始し、何らかの敵対行動を取ろうとしている村正を止めるべく、ワルキューレ達が殺到。

 しかし、ナポレオンの砲口がそれに待ったをかける!

 

 

「援護は任せろ、切り込み隊長!

 何をしようとしているかは知らんが、一発でかいのをぶちかましてやれ!!」

 

 

 

 戦乙女達に切り刻まれ、全身から血を流しながらも、

 

 ——————詠唱が終了する。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()、『()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 

 しかし、外界を分かつ炎は走らず、冬の城を心象風景が塗り潰すこともない。

 あるのはただ、

 

 

 

「かハァッ!?」「————!!??」「ぁ————ハァッ!?」「————ッッ!?」

「————キャッッ!?」「——————ァ………………カ、ゴ、」「ウワ、   ァ」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()に、串刺しにされている戦乙女達の姿。

 

 

 

「スキル陣地作成!

 村正さんはサーヴァントとして刀剣を作成する工房を持ちます!

 あの詠唱節を加えることで、工房の中から刀剣を保管する『蔵』を展開したんです!

 あの刀は、エミヤさんのように飛ばすことはできないはず。

 ですが()()()()()()()()()()()()()()()、ワルキューレ達へダメージを与えることは可能です!!」

 

 

 それは、お世辞にも無限とはいえない有限の剣製。

 およそ半径七メートルほどの範囲内に、村正が作り呼び寄せた大量の刀剣が刺さっている。

 己でない己が持つ手札を奇手へと変え、戦場へ叩きつける。

 

 

 死亡したワルキューレ達が光に消えていく中、

 村正、一振りの刀を抜き放ち————吼える。

 

 

 

「いいかおめぇら、一度しか言わねぇから全員耳の穴かっぽじって聞きやがれ、

 

 ————テメェら全員そこをどけ、用があるのはテメェらじゃねぇ」

 

 

 

 疾走する————!

 冬の城を、一人の刀鍛冶が修羅となって駆け抜ける!

 

 

「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェッッッ!!」

 

 

 特攻としか形容できないその勢い!

 ただ一人でも前へ前へと突っ走る!

 

 させまいと戦乙女達、迎撃する人数を増やして迎え撃つ。

 

 剣閃が走り、血煙が吹き上がる。

 

 村正の身体を何度も何度も戦乙女達の槍が傷つけるも、信念、ただその信念一つだけで突き進む。

 

 ただ前へ、もっと前へ、さらなる前へ!

 一度火がついてしまったこの男、止めることはもはや何者にもできない。

 己の刃を手に己が進むべき成すべき道を切り開く!

 

 

「ムラァマサ! 突っ込みすぎだ!

 いくら切り込み隊長とはいえ突出しすぎてるぞ!

 無謀な特攻はやめとけとあれほど言っただろう!!」

 

 

「村正さん、心中お察ししますが、今は退いてください!」

 

 

「あぁン? アホ抜かせ。

 退けるわけ————ないだろ」

 

 

 血にまみれながらも剣を振るう勢いは決して衰えることがない。

 いや、一歩また一歩と進む度に己の激情全てを乗せて叩き込まれる一刀は力を増している!

 

 

「女の人に手を上げるのは趣味じゃない、けどさ…………」

 

 

 この血戦が始まる前に、交わされた言葉があった。

 

 

『それがこの厳しき世界で生きるということ。

 汎人類史のお前達に口を出す謂れはない』

 

 

 その言葉に————心が、信念が、爆発。

 

 

 

「てめぇの自分勝手な正義を振りかざして子供達を殺しおきながら、

 それのどこが悪いと平気な顔してる奴を前に、誰が引き下がれるっていうんだ!!」

 

 

 

 犠牲を容認しそれを最小限に抑えることを第一に考える英霊ならば、女王の言葉に異論は挟まず納得しよう。

 しかし、万人を救う何者かになりたいと願う青年にとって、その言葉は到底納得できるものではない。

 

 

「あんた神だろ!? 神サマなんだろ!? 神サマなんだよな!?

 変えちまえよ、こんな世界!

 変えてみろよ、誰もがちゃんと生きていける世界へ!!

 変えられるはずだろ、誰もが最後まで自分の意志で生きていける世界に!!

 神サマだったら、変えなきゃダメだろこんな世界!!

 それが、できないってんなら、あんたは神じゃない。

 そんな偽物、ぶっ飛ばさないわけにはいかないだろうが!!」

 

 

 それは絶対の宣戦布告。

 ワルキューレ達、女王への敵意をむき出し未だ前進を続ける村正を優先撃破目標とする。

 

 

「ふふふ、ここまで跳ねっ返りが強いか。

 愛いやつ、愛いやつ。

 手の掛かる子ほど、可愛さが増す。

 見えておらぬが故に青臭い。

 見た上でそれでも星を掴もうとする。

 よいよい、よいよい。

 どちらへ転ぼうか。

 そんなお前も愛そうか」

 

 

 女王は、動じず。

 

 

 

「マスター、このままじゃ————っ!」

 

 

  □ 村正を援護する             □  

  □ この隙にワルキューレを一人でも多く倒す □  

▷ □ 村正と一緒に突撃する          □ ◁ 

 

 

「先パ、いいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

 

 止まる、その全力ダッシュに。

 

 

 この場にいる中で、正真正銘ただの一般人。

 それでいてカルデア側全サーヴァントのマスター。

 いうなれば、それは死点。

 突かれれば必ず負けるという決定点。

 

 チェスや将棋でいえば、キング(王将)ナイト(銀将)ビショップ(角将)の守る自陣から抜け出し、最前線のポーン(歩兵)へと走る行為。

 

 

 そんな悪手を見逃してくれるほど、彼女達は甘くない。

 

 

 

「同位体、顕現開始」「同位体、顕現開始」「同位体、顕現開始」

 

 

 

 戦乙女達が空中に輪を描いて集結する。

 大神より授かりし槍が大いなる光に包まれていく。

 

 

 

「同期開始、照準完了」「同期開始、照準完了」「同期開始、照準完了」

 

 

 

 女王への悪意を向けるセイバーと、その元に走るマスター。

 双方共にこの一投にて殺しきらんと戦乙女達が————真名を解放する!!

 

 

 

終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!」

 

 

 

 一斉に投擲された光の槍。

 それが一本の巨大な槍となって襲いかかる!

 

 

 しかし!

 チェスも将棋も、キング(王将)が動けば————、

 

 

 

「真名、凍結展開————『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』っ!!」

 

 

 

 戦局が動く!

 

 

「ぐぐぅぅぅぅーーーーーーッッ!!」

 

 

 マスターを追い越し村正の前へと躍り出たマシュ、

 己が持つ宝具を展開、投擲された光の槍をその城壁で受け止める!

 

 身体の芯まで慄わすその衝撃。

 けれど、彼女の盾は、動くことあらずそのままに立ち続ける!

 

 

 

「同位体顕現数増加を承認」「同位体顕現数増加を承認」「同位体顕現数増加を承認」

 

 

 カルデアが相手にしているのは、ワルキューレではない。

 ()()()ワルキューレ()

 

 この機に死点を破壊しきるために、大量のワルキューレ達が天輪に加わっていく。

 

 

 

「追加同位体との同期開始」「追加同位体との同期開始」「追加同位体との同期開始」

「全照準完了、真名解放せよ!」「全照準完了、真名解放して!」「全照準完了、真名を解放!」

 

 

 

 さらなる大量の光の槍が、夢想の城へと投げつけられる!!

 

 

 

 

「誰か忘れちゃいないか?

 

 ————『凱旋を高らかに告げる虹弓(アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥレトワール)』ッッ!!」

 

 

 

 宝具を放つため()()()()()()()()()ワルキューレ達を、ナポレオンの虹が撃ち抜く!!

 

 

 

「ヒュぅ、宝具合戦に横槍を入れるのは無粋の極みだが、悪いなこれも戦争でね。

 …………流石は統率個体だな、致命傷にはまだ足らないか」

 

 

▷ □ 「ナイス宝具、二人とも!」      □ ◁ 

  □ 「サンキュー、マシュ、ナポレオン!」 □  

  □ 「愛してる、マシュ!」        □  

  □ 「結婚しよう、マシュ!」       □     

 

 

 押し上げた戦線に、四人が集まる。

 

 リスクの高い強引な手ではあったが、押し通すことに成功した。

 

 

「マスターの指揮官突撃か!

 ハハハハハ! こっちまで熱くさせてくれるじゃねえか!

 ここぞって時に指揮官自ら突撃するのは戦の常道だが、いい思い切りだ!!

 勲章ものだぜ、新兵!!」

 

 

「宝具を展開し、敵宝具を受け止めましたが、損傷想定範囲内。

 マシュ・キリエライト、問題ありません」

 

 

「おめぇら…………」

 

 

▷ □ 「勝つ時は、みんな一緒です」             □ ◁ 

  □ 「一人でいいカッコするなんてずるいですよ」      □  

  □ 「ビンタ一発入れたいのは、村正さんだけじゃないです」 □  

 

 

「…………おう、分かった。

 んじゃいっちょ、(オレ)ら四人で派手にかますかッッ!!」

 

 

 戦局が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一つ、戦いが繰り広げられていた。

 

 

 いかな超常の存在たるサーヴァントであろうと、この二人の剣戟空間に入り込むことはできない。

 

 片や、宮本武蔵、日ノ本最強の二刀使い。

 片や、シグルド、頂点たる魔剣を操る竜殺しの大英雄。

 

 

 全ての限定を解除され、霊基最高状態であるシグルド、力・速度・耐久性・魔力、戦闘に必要な各項目が最高の状態。

 

 そして何よりこれは一対一ではない、一対二。

 シグルドの背後には、遷延の魔眼を全開にするオフェリア・ファムルソローネがいる。

 

 

 二人の剣士の再戦にして最終戦、本来ならば魔眼合戦となるはずであった。

 

 

 

 武蔵の魔眼は天眼。

 それは目的達成の手段をただ一つだけに絞る力。

 天眼が見定めれば、無数の可能性の中からたった一つの最適解を選び攻撃することができる。

 武蔵が天眼の魔眼を使うことで、武蔵の攻撃はたった一つしか存在しない、相手を斬るための最適解となり、その他全ての可能性を捨てることができる。

 

 

 オフェリアの魔眼は遷延。

 それは発生する未来を見るだけでなく、その未来が到来するのを留める魔眼。

 発生確率が少ない未来は見出すのが難しいし、留めておくことも難しいが、

 相手が望む、相手に有利な事象を、先延ばしすることができる。

 

 

 天眼と遷延、この二つの魔眼がぶつかればどうなるか?

 

 

 天眼が攻撃点を見定めれば、武蔵の行動はただ一つの最適解となる。

 このため、例え遷延の魔眼でも他の可能性を見出すことができず不発となる。

 

 ところがオフェリアからすれば、『武蔵が天眼を使う』というのは武蔵が取る行動の可能性の一つ。

 故に、天眼を使う可能性はピン留めすることができるのだ。

 天眼の使用を抑制・または延滞できるのであれば、武蔵は天眼が導く最適解の攻撃ができなくなる。

 準最適解の攻撃ができたしても、相手はシグルド、魔剣グラムを持つ大英雄、それが通じる相手なのかという問題が出てくる。

 

 

 つまり、これは早打ち勝負。

 

 武蔵が天眼で見定め最適行動を取るのが早いか、

 オフェリアが遷延で留めて最適動作をさせないか。

 

 

 これは一対一の戦いではない、一対二なのだ。

 マスターが付いているから一対二という単純なものではない。

 オフェリア・ファムルソローネは宮本武蔵を殺し得る存在である————だからこそ、この勝負は一対二となる。

 

 

 

 

 

 そう、魔眼合戦となる

 

 ————————()()()()()()

 

 

 

 

 シグルドの世界が、城の中に出来ていた。

 

 

 霊基最終段階での全方位殲滅投擲(オール・レンジ)攻撃。

 乗る魔力は猛々しく、打ち出される投射速度は視認など欠片も許さない。

 全ての短剣の全動作を見切ることなど、一体誰ができるのだというのか?

 

 

 世界、そう称する他はないか。

 

 嵐と呼ぶには、激しすぎる。

 豪雨雷鳴が奏でていい音量は大きく突破している。

 

 結界と呼ぶには、この絶人の剣士の技量を過小評価してはいないだろうか。

 空間そのもの全体全域を行き交うように短剣の刃の軌跡が埋め尽くしているのだ。

 埋めるだけではない、切断して行く。

 

 

 例え竜種がいたとしても、五秒と持たせず塵とする————それほどの殺意と凄みと技量が疾駆する短剣一本一本に込められている。

 

 それだけに終わらない、オフェリアが武蔵を見るための経路も確保している。

 その視線の経路とタイミングを武蔵に読まれないように、短剣を散らしながら飛ばしているという用意周到っぷり。

 

 

 賞賛するしかないこの投擲術の冴え。

 刃嵐、刃獄————いやそれよりも、シグルドの投擲殲滅世界、刃界とするべきか。

 

 

 焔をはき散らす魔剣の一閃が、世界を()()

 

 

 それはシグルド全力の斬撃でありながら、()()()()()()による真の一撃。

 

 グラムが秘める太陽を、()()()()()()の焔が侵食することで、破壊力が更なる天井まで上昇、世界が悲鳴を上げているのだ。

 この世界を統べる女王の体内ともいえる城内ではある、すぐ修復されるが…………、

 

 

 再度、魔剣が通り過ぎた軌跡にヒビ割れのような赤黒い爪痕が残る。

 

 

 空位に達した剣士が最高の魔剣で放つ絶閃。

 加え、投擲され走り続ける短剣達が織り成す刃界。

 

 

「————————っ……………………!」

 

 

 ()()、血が上った。

 

 

 初めの血はとうの昔に床に流れ落ちている。

 

 吹き上がった血流は三秒と持たず短剣によってかき消される。

 刃は止まらない、敵対者の命を破滅させるまでは決して止まることはない。

 

 

 刃界にあって、剣と剣が鳴り散る音は途切れない。

 加え刃と刃の衝突に際し生じる火花閃光が、瞬間瞬間、まるで太陽の爆発のような眩しさを放つ。

 

 だがそれがあるということは、魔剣の敵対者はまだ死していないということ。

 

 

 振り払われた剣が、肉を裂いた。

 切り返した刃が、さらなる血肉を吸う。

 

 

 激痛、だが痛みに気を取られている暇はどこにもない。

 

 

「——————ッッッ!!」

 

 

 嗚呼、またしても、血が吹き上がった。

 

 

 剣でつけられた恥辱に心煮え繰り返る時間もない。

 

 動き続けなければ振り続けなければ、物言わぬ骸となるのは自分なのだから。

 

 

 この日最高の斬光が、一際強く煌めく。

 

 

 当然続くのは、

 

 

「                 !?」

 

 

 間欠泉のごとく噴出する鮮血と、悲鳴上げることもままならない激痛、そして、

 

 ————崩れた態勢へと繰り出される、勝負決する一撃。

 

 

 武蔵対シグルドとオフェリア、この戦い、

 

 

 

「————————ガハァッッッ!!?」

 

 

「シグルド!?」

 

 

 

 ————武蔵が圧倒していた。

 

 

 

 シグルド、()()()()の状態。

 鎧はズタズタに斬り裂かれ、その五体、無傷な箇所を探す方が難しい。

 優秀な魔術師であるオフェリアからの魔力供給・治癒のサポートがなければ既に地面に横たわっていた。

 

 

 武蔵、()()()()

 かすり傷はそれこそ無数にあるが、しかし、食らったといえる直撃は未だもらっていない。

 

 

(ありえない、ありえない、ありえない、ありえない!

 何よこのセイバー!!

 剣の技量という一点において、軽く神域まで行ってそうじゃない!?)

 

 

『武蔵非名人説、ってのがある』

 

 

(この化け物のどこが非名人なのよ、ヒナコ!?

 こんな化け物より強い剣士なんて、いちゃだめでしょう!? 上泉信綱!? 沖田総司!?

 武蔵一人を止めるために、クリプター(私達)が二人以上でかからなきゃダメじゃない!!)

 

 

 

 この勝負がこうも一方的になってしまったのは、この戦いが()()()()()()()()からだ。

 

 

 

 武蔵が斬った者の中に、

 

 柳生宗矩という剣士がいた。

 

 

 江戸における柳生新陰流、通称江戸柳生の開祖であり、

 武蔵が五輪書を書いたように、宗矩は兵法家伝書を書いた。

 

 日ノ本で一番出世した剣豪としても知られており、

 政治家としての側面を描かれることが多いが、れっきとした剣士である。

 

 

 その柳生新陰流の中に、水月という教えがある。

 

 それは、一つの問いかけから始まる。

 

 

『夜、月を写す水がある。

 その水の心境やいかに?』

 

 

 水は月を写したくて写しているのではない。

 写す意図があって写しているのでもない。

 

 ()()()()のだ。

 水は月を()()()()から、その水面に月が写るのである。

 

 そこに水の意図や意思や願望は全くなく、写すのに必要な時間遅延もないとされる。

 

 

 月が変化すればどうなるだろうか?

 水はただ写すが故に、水面の月は()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 さてこの水とは何か?

 

 明鏡止()の『水』である。

 

 

 自らが心中にはる水面に相手の意図を写し取る。

 水が月を写すように、相手の心を()()()()

 

 月の変化を水がただ写すように、相手の変化を()()()()

 

 さすればその変化に応じ、相手の打とう打とうの「う」を、斬ろう斬ろうの「き」を()()()()ことができる。

 傍目からみれば、信じられないような反応速度で繰り出される的確極まるカウンター、と見えようか。

 

 相手の機先を完璧に制するこの術技、流派によっては先々の先としているし、五輪書では枕をおさえると記している。

 

 

 この水月の教えから導かれる術技を、柳生新陰流では水月移写と呼ぶ。

 

 

 

 武蔵は斬った、

 

 この水月移写を極めた宗矩を。

 

 

 

 武蔵、その時の心境をこう述べている。

 

 

『貴殿の水月を破るには、神域に入る他なく。

 すべての読み合いの先の先————

 たった一つの『当たり』を見いだす。

 ————即ち、決して砕けぬ天元を叩っ斬る』

 

 

 こうして武蔵は、己の太刀の奥義である伊舎那大天象を開眼した。

 

 

 ところが、ここで一つ言及されていないことがある。

 この時、武蔵は()()()()()()、いや()()()()()()()()()()、正しくは()()()()()()()()

 

 

 宗矩を斬るため、武蔵は一つ上の位へ行かなければならなかった。

 しかし、例えそこに行ったとしても、見よう見よう、斬ろう斬ろうとして攻撃していたのでは、宗矩に斬られていた。

 

 宗矩の剣域の高さは武蔵も認めるところ。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 例えその位に到達していても、見よう見よう、斬ろう斬ろうとしていたのでは、追って達した宗矩に写し取られて、見ようの「み」、斬ろうの「き」で両拳を斬り飛ばされ、首を刎ねられていた。

 

 

 天眼でそこを見よう見よう、そしてそこを斬ろう斬ろうとしていたのでは、

 

 ————斬られていたのは、武蔵であったのかもしれない。

 

 

 武蔵は宗矩を斬った時、天眼を捨てていた。

 捨てたというより、自分にはもう無駄なものだと自然に削り落としていたのだ。

 

 ()()()使()()()とも、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 天眼が導くのは、最適解。

 相手を殺す、相手を斬るという無駄が絶無の正解動作。

 

 だがそれは、未熟者だから正解が分からないといえる。

 

 

 だから()()()()()()()()()

 全て極まった究極の剣士であれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天眼で見ずとも、自然に「そこ」を斬っている。

 ただ斬るという何気ない動作が、天眼が導き出す最適動作と全く同じになる。

 

 そう、水が月を()()()()ように、武蔵が()()()()()そこ(天元)は斬れている。

 戦った宗矩から言葉なく刀で教えられた、()()()()()()

 

 

 武蔵の動作は既に、()()()()()()になってしまっているのだ。

 

 

 

 その武蔵を、遷延の魔眼で見た時のオフィリア・ファムルソローネの驚愕を何とすれば表せるのだろうか?

 

 

 

 この戦い、初手から異次元だった。

 

 

 武蔵、抜き打ちの一刀でオフェリアの魔眼の()()を斬った。

 

 英霊や神域の存在に日頃接しているとはいえ、刀剣の一閃で魔眼の視線が斬られるとは理解に苦しむ事態。

 

 

 その勝負、最初は拮抗していた。

 武蔵がオフェリアの魔眼の視線を斬りながら戦っていたからだ。

 

 そして気付く、シグルドが窮屈そうに戦っていると。

 オフェリアの魔眼と自分の剣を共生させながら戦っていたのだが、武蔵の剣にはそれが歪みとなって写った。

 

 相手を見ただけで石にしてしまえば、それだけで勝負は決する、()()()()()()()()()剣を振るうはず。

 ところがシグルドの剣はそうは語っていなかった、武蔵には普通に戦っているよう写った。

 そしてシグルドが魔眼を考慮して戦っているとは、シグルドから見てもオフェリアの魔眼は有効なもののはず。

 

 なればと洞察。

 魔眼は勝負が決するほどではないが有利を取れる。

 相手の行動を低下させるか抑制させられ、有利状態をとれるもの————だろうか、と。

 

 

 魔眼についてあたりをつけた武蔵、何とオフェリアの魔眼に全身を晒した。

 

 どうだ見てごらんなさいよと言わんばかりに、ずいとその視線を全身に浴びた。

 

 

 武蔵を見たオフェリア、全身の血液が音を立てて凍りついた。

 

 天眼を削り落とした武蔵、()()()()()()()()()であるが故に、()()()()()()()()()()

 

 その遷延の魔眼を持ってしても、()()()()()()()()()、写らなかったのだ。

 

 

 異常すぎる現実。

 武蔵を万華鏡で見てみれば、鏡には何も写らず、ただ武蔵一人だけがいるというありえない事態。

 

 

 だが————、

 

 それは、()()()

 敵のあらゆる動作が最適解であるならば、こちらの攻撃にどう反撃するかは読めるはず。

 敵の反撃は最適であるから隙をつくのは難しいだろうが、その一手を読めれば————!

 

 

「————————がァァッッツ!?」

 

 

 その結果が、()()

 

 シグルドと武蔵、()()()()()()()

 シグルドが想定する最適動作と、武蔵が実際に取る最適解にズレがある。

 

 

 だが、

 オフェリアの魔眼とは一種の未来視である。

 

 武蔵の可能性が全く一つだけしかないが故に、()()()のだ、武蔵の()()が。

 時間にしておよそ一秒、二秒には程遠い一秒であるが、()()()()()()()、違えることはない。

 

 ならば! シグルドとのパスを強化し、自分が見せる一秒後の武蔵を遅延ロスなく伝えれば———、

 シグルドほどの剣士であれば、武蔵が取る動作だけでなく、二刀の軌道・速度・機・その重さ、およそ斬り合いに必要な全ての項目が分かる。

 そこをつけば————!

 

 

「——————ヅァァァァァァアアアアアッッ!!」

 

 

 それで、()()()()

 

 分かっているはずなのに、知っているはずなのに、()()()()()()()()()

 

 それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 相手に自分の全てを晒しても、何もさせずに斬り倒す————それが、武蔵が今いる位。

 

 

 

 シグルドの刃界にいながらも、天元の華は、美しく咲く。

 

 

 

 唯一、威力。

 

 破壊力という点ではシグルドの魔剣が上をいっている。

 だが、衝突点をつくるのではなく軌道を逸らす、運足の妙でかわす————武蔵の剣が上をいってしまうのだ。

 

 宝具に逆転の可能性をかけてみても、両者互いの刃の届く範囲内にいる。

 起動できる隙がないし、距離を取ろうにもぴったりついてくる。

 

 

 シグルドとオフェリアには何の瑕疵もない。

 シグルドほどの強さを誇るセイバーは数えるほどしかなく、支援するマスターとしてもオフェリアは唯一無二の魔眼を持つ高水準の魔術師。

 

 

 ()()()()()()が異常すぎた。

 

 

 英雄がその花嫁と睦みあっている間、

 武蔵は戦っていた、自分より強い相手と戦っていた、そしてその強敵達を自分で剣で叩き斬っていた。

 その戦闘の生を振り返れば、弱い相手など一人もいなかった、いや、自分より強い相手ばかりだった。

 

 戦闘経験の量だけでなく()————()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これは()()()()()()()()()()()()()()()()、この宮本武蔵の()()()()()()

 

 

 

(負けない…………負けられない…………負けることは許されない…………!!)

 

 

 全てが限界を超えてフル回転している。

 自分もシグルドも、最善を超える最善の戦いをしている。

 それなのに、嗚呼、それなのに————!

 

 

(私は、()()()()()()()()()()()()()()()()のっっ!!)

 

 

 

「ガァァァァァァハァァァァッッッ……………………ッッッ!!?」

 

 

 特大の血柱が天へと伸びる。

 致命傷、心臓の霊核に決して無視できるわけもない大きさの斬線が走った。

 

 武蔵の二刀が首と心臓を破壊すべく————!

 

 

(その未来、私が絶対に来させない!!)

 

 

「令呪を以て命ずる、()()()()!」

 

 

「!?」

 

 

 霊基の完全修復!

 それだけではない! 武蔵は止めを刺すつもりだった、つまり武蔵はシグルドの魔剣の間合いの内にいる!!

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェ

 

 

 全ての短剣と焔纏う魔剣の一刀が、武蔵の命を破壊すべく一点へ

 

 

 

「                 、ウゴブハァァァァァァッッッッッ!?」

 

                  「疾!!」

 

                  「えっ!?」

 

 

 特大の血柱、しかも二つ。

 

 武蔵の二刀、まるで荒れ狂う竜の尾のように踊り舞ったそれはシグルドの刃界を斬り破り、

 完全修復したばかりのその身体に、秒持たずしてより深くより強い致命傷を二条、刻み込んだ。

 

 

 

「————先輩!!」

 

 

 ナポレオンの指揮・作戦の通り、カルデア側の第一目標はオフェリア確保のために絶対必要となるシグルドの撃破。

 

 あらゆる世界で幾度もの修羅場と死線を潜り抜けた二人ならば、この絶好のチャンスを見逃さない!

 

 

▷ □ 令呪を使って一気に押し切る! □ ◁ 

  □ 武蔵ちゃんを信じる      □  

  □ 敵マスターを確保する     □  

 

 

▷ □ マシュの城壁なら————!  □ ◁ 

  □ ナポレオンの砲なら————! □  

  □ 村正さんの刀なら————!  □  

 

 

「イエス、マスター!!」

 

 

 使用される一画目の令呪。

 主人の命を受け盾のサーヴァントが、その宝具を打ち立てる!

 

 

 

「変異展開————『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』!」

 

 

 

「な——————に……………………?」

 

 

 壁が、()()()()()()()()()()

 

 マシュが展開した城壁が円形状にぐるりとシグルドの周りに展開。

 未だモザイクがかかったように確たる姿を掴められないマシュの宝具であるが、その朧げであるからこそ令呪による強化があればこのような展開も可能!

 

 壁に囲まれたシグルド、逃げる場もかわす場もない。

 

 

(まずい、()()()()()()()()()()()()()!)

 

 

 城壁の上には無論のこと、

 

 

「やるぅ〜」

 

 

 剣の死神。

 勝負の決着をつけるべく一直線に走り下りる!

 

 

 

「令呪に以て命ずる、禍を引き起こせッ!

 武蔵を撃破しなさい、シグルドォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

 

「絶技用意ッ! 太陽の魔剣よッ! その身で破壊を巻き起こせェェェェェェェェ!!」

 

 

 

 令呪により強化された破滅の流星群が、天の頂きをも穿ち抜かんと武蔵へ打ち込まれる!

 

 

 シグルドにかわす場がないのは事実だが、それは武蔵も同じ!!

 

 

「悪いんだけどさぁ、」

 

 

 

 

「破滅の黎明ッッ!! 『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』ッッッ!!」

 

 

 

 

「バレバレなのよ、あんたのその投擲術(宝具)!」

 

 

 

 刃と刃が、一瞬に交差する。

 

 勝負の天秤が冷徹なまでに告げるのは、強いものが勝つという非常なる現実。

 

 

 

「な………………に————————?」

 

 

 シグルドも、シグルドからの視界情報をもらったオフェリアも、何が起きたのか理解できなかった。

 

 

 ()()()()()()で駆け下りていた武蔵、

 

 ()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「——————貴様貴様貴様貴様貴様ァァァァァァァァ!!??」

 

 

 無刀であろうとも斬る体捌きで手刀を振れば、本来刀に乗るはずの斬撃力は手刀に乗り敵を倒すことができる。

 武蔵の左手、肉が大きく削り取られ滝のような血が尾を引いているが、手としての機能は以前保っている。

 

 だが、こんなことは認めてはいけないはずではないか?

 たとえ致命傷を食らっているとはいえ、解放した宝具には令呪による強化が入っている。

 西欧における剣の英霊の中で間違いなく五本の指に入る、最高の魔剣を持つ大英雄の全身全霊の宝具が、手刀一つで完全にさばかれたなど、一体何の悪夢か!?

 

 しかし! これは偶然ではない、必然の結果!

 

 武蔵はこれまで()()()()()()()()()勝ってきた。

 源頼光の童子切安綱。

 柳生宗矩の水月。

 佐々木小次郎の燕返し。

 敵の奥義を破るただ一つの未来を掴み取り、強敵達を斬ってきた。

 そして、敵の奥義を破ってきたという経験において武蔵と並ぶものがいる。

 

 そう、何を隠そうそれはマシュ・キリエライト、カルデアの盾である。

 敵の宝具を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という盾の英霊(シールダー)としての方法で、敵の奥義(宝具)を破ってきたのだ。

 

 シグルドは下手を打っていた、本人はそれと気付かずに、しかも致命的なまでに。

 マシュに『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』と同じやり方で、短剣と魔剣を投擲していたのだ。

 ()()()()()()

 

 マシュ、シグルドの宝具投擲の()()、宝具の拍子(リズム)()()()()()()()()()

 もちろんそれと悟られないようにシグルドは散らしていたが、短期間に二度も防いだため、朧げながら()()を掴めた。

 

 当然、シグルドを仕留める立場の武蔵にそれを伝えている。

 象徴的な説明でしかなかった。

 くるるるるーからのどどどんどん、その時に呼吸がぐぉーんと高まっていき、マナがどどどどどんどどどんどん…………、これで分かれというのは難しい。

 

 が、教えられた武蔵、()()()

 共に数多の奥義(宝具)を乗り越えてきた者同士、通じ合えた。

 抽象的で感覚的な擬音の連続も、武蔵には痛いほどよく分かったのだ。

 この時点で武蔵は()()()をつけることに成功。

 

 実際に全開状態のシグルドと戦い、()()()は確信と変わる。

 マシュから伝えられ()()()()()()のだ、その呼吸、その拍子! シグルドの宝具『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』とは()()()()()()()()()()

 

 分かっているのならば!

 武蔵は、敵宝具を破る道筋となる()()()()()()()()を自然に身体がとっていく。

 それは短剣という流星群と魔剣という彗星の、軌道を見切り、逸らし、ずらしながら、逆に突っ込んで間合いを詰め、硬直を斬るというカウンター。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、武蔵に全部さばかれる可能性があることをシグルドも認識していたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 とどのつまりこの勝負、()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ!!

 盾の少女が体得していた敵宝具への分析力が、尋常ならざる宝具破りを成功に導いた!

 

 

 魔剣、破れたり————ッ!!

 

 

「ムサシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 ————()ってるわよ、()()()

 

 

 

 その名が何を意味するのか分からないが、そこにいるのを()っている。

 

 シグルドでなく()()()こそが、己が斬らなければならない相手であると。

 

 

 ならば————斬るのみ!!

 

 

 

 

「南無天満大自在天神、仁王倶利伽羅衝天象————っ」

 

 

 

 

 それは一人で戦っている間は決して味わえなかった不思議な感覚。

 

 

 キミの、ためなら、

 キミが、いてくれるなら、

 キミが、いてくれるから、

 私の剣はどこまでも果てなく行くことができる。

 きっと天元すらも突破して、どこまでも、どこまでも————!

 

 

 

 

「剣轟・四連抜刀ッ!! ————伊舎那大天象・大咲乱ッッ!!!」

 

 

 

 

 抜即斬!!

 

 両腰より放たれる四連の居合抜刀連斬、それでいてただ一つの太刀、即ちこれぞ伊舎那大天象。

 地水炎風を象る降魔の利剣すらも超える刃は、己が斬るべき相手の天元を確実に捉えている!

 

 最後の一刀こそは空の太刀。

 ここまでの剣境にいながらもさらなる上を目指すが故に永遠の未完成となる一撃。

 もはや刀を握っているかなど武蔵には関係ない、私という剣、キミのための剣、宮本武蔵という存在こそが空の太刀となる剣なのだから。

 

 

 例え未完成であっても、キミが足してくれる。

 例え届かなくても、キミが背中を押してくれる。

 私がずっと剣を修行していたのは、きっと、キミと出会いキミの剣になるため。

 私を照らしてくれる、キミの貴い勇気こそが、私に足りなかったもの。

 だから、私という画竜はキミという点睛を得て完璧になる。

 キミと一緒なら、無二なる一の更に先、零すらも通りこしてちゃうって、確信してる。

 キミが一緒なら、私にはもうできないことは何もない。

 そう、だから————、

 

 

 

 

 ————例えその身(スルト)が神仏天魔であろうとも、我が刃にて(私とキミが)一刀に両断せんッ!!

 

 

 

 

「                   !!!」

 

 

 

 

 

 叩き込まれた空の太刀。

 

 

 シグルドの中にいるものは、

 

 

 その一刀に、

 

 

 ——————確かに、神を見た。

 

 

 

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 衝撃で城壁が搔き消える。

 

 

 煙幕と魔力嵐がゆっくりとはれていく。

 その場所には————、

 

 

「…………いな、い…………?」

 

 

 いるべき勝者の姿はなかった。

 首から下全てを斬滅させられた敗者の頭が転がっているだけだった。

 

 

  □ 「まだきっと終わりじゃない、」  □   

  □ 「別の世界に行っただけだって、」 □  

▷ □ 「————そう信じる!」     □ ◁ 

 

 

「————はいっ!」

 

 

「倒された?」「倒された?」「倒された?」

「お姉様の想い人が?」「お姉様の想い人が?」「お姉様の想い人が?」

「首だけ残ってるわ」「消滅は時間の問題ね」「シグルドの脱落を確認」

「敵セイバーの所在不明」「敵セイバー、感知できず」「索敵範囲内に反応なし」

「相打ちと推定」「結論保留、戦闘続行を優先」「思考ではなく行動を優先」

「攻撃せよ」「殲滅せよ」「撃滅せよ」

「破壊せよ」「勝利せよ」「打倒せよ」

「敵全戦力を攻撃破壊せよ!」「敵全戦力を殲滅勝利せよ!」「敵全戦力を撃滅打倒せよ!」

 

 

(————まずい、まずいまずいまずいまずいまずい!!)

 

 

 シグルドが、負けた。

 シグルドが、死滅した。

 つまり、それは…………

 

 

「ハハハハハ! まさか()()()()まで傷つけるとはな!! しかも、()()()()!!

 オマエという剣士は! オレが燃やす価値がある!!

 認めよう! その熱を!! 讃えてやろうとも! その熱を!!

 オマエの剣と! オレの剣!! どっちが上か確かめねばならんなぁ!!?

 だが、何処へ行った!?

 やっと()()()()だというのに、何処へずれた!?

 まあいい、全ての世界を燃やしていけば、いずれオマエがずれた世界へ辿りつこう」

 

 

 狂声が、戦場に木霊する。

 

 

(…………ああ、…………スルトが…………!!)

 

 

 

 その声が告げるのは、

 

 血戦の終わりと————決戦の始まり。

 

 

 

 

 

「俺が死んだぞ、オフェリア?

 

 さあ、オレと共に、

 

 真の神々の黄昏(ゲッテルデメルング)を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 終焉が、

 

 始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最終話へ続く)

 

 

 

 

 

 



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最終話 狂焔之巨人王と三人のセイバー

 

 

「やめろ」

 

 

 魔眼をくり抜こうとするオフェリアの右手を、村正が止めた。

 

 

「おめぇみてぇな先も華もある娘っ子が、自害なんざ選んじゃいけねぇ。

 

 いいか、死ぬのはなぁ————、

 (オレ)やなぽれおんみてぇな、もう人生終わっちまってる奴の仕事なンだよ。

 

 第一、おめぇ()()()()()()()だろうが?

 

 あの野郎、勝手に逝っちまいやがった。

 (オレ)らを残して、指揮官が先にくたばってどうすンだよ、なぁ?

 

 これぁな、()()()()なンだ、あいつのな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あぁン?」

 

 

 

 

 現界したスルトの炎剣の一撃が下された。

 

 

 牢屋に拘束されていたが自由となったシトナイ、その彼女を守る巨人が受け止め、スカサハ=スカディが神鉄の守護を施すも————、

 

 マシュが決死の覚悟でその盾でスルトの炎を防ごうとする寸前、

 

 ナポレオンがその宝具でスルトを砲撃した。

 限界を超えることで消滅という代償を支払いながらも、スルトに深い傷を与えることに成功。

 

 

 この世界に虹がかかり、

 

 彼の声と思いを知り、何よりもその虹を見たオフェリアは、一歩、足を踏み出した。

 

 

 

 

「なら、どうするっていうの?

 ごめんなさい、策があるのなら聞かせてくれないかしら?

 ()()()()()()()()()()

 

 

『スルトの在り方は、神霊というよりはサーヴァントだ。

 例え令呪がなくなろうとも、サーヴァンには現界するために楔が必要だ。

 楔、いや、要石か、その存在をこの世に留めるためには。

 その要であるミス・オフェリア、いや失敬、ミセス・オフェリアの魔眼を破壊すれば、奴の戦力は大幅に低下する。

 我々でも————、十分勝てる程度に』

 

 

「ふざけたこと抜かしてっと、おめぇから先にぶっ飛ばすぞ、ほーむず」

 

 

「ええ。

 私はミス・オフェリアよ、ミス。

 ミセスじゃないわ。

 まがり間違ってでも、ミセスなんて呼ばないでくれる?」

 

 

 

(オレ)はなぁ————もう、オレは、誰にも、死んでほしくない。

 

 そんなことは、もうごめんだ。

 

 誰かの犠牲がなきゃ成り立たないものに、もうオレは、乗りたくない。

 

 このみんなで、誰一人欠けることなく、スルトを倒す」

 

 

 

「だから理想論じゃなくて、現実を、」

 

 

 

「————策ならある。

 

 あの()()()()()をぶっ倒すための策ならな」

 

 

 

 

 そうして、

 

 千子村正は、

 

 ——————その、とんでもなく馬鹿らしい、()()()を語った。

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 

 

  □ 「流石に、」     □ 

▷ □ 「二人とも笑いすぎ」 □ ◁

 

 

「バカじゃないの?

 バカじゃないの?

 バカでしょう、貴方?

 バカすぎるわよ、貴方。

 一秒でも貴方の話に耳を傾けた私がバカじゃない。

 ここでスルトを止められなければ、あらゆる世界が死滅するのよ。

 悪いけどバカは黙っててくれないかしら、時間の無駄よ」

 

 

『そうだ、そうだぞぅ!

 その女と同じ意見なのは癪に触るが、

 第一その女は、自分の意思で、自分から魔眼を摘出する気だったろうに!

 死にたい奴には死なせとけ!

 何もせず黙って死なすんだ、そそそ、そうでなければあんな化け物、勝てるはずなかろう!!』

 

 

『コペルニクス的転回とはお世辞にも言えまい!

 夢想家がその夢想を垂れ流しているか、妄想病患者の鬱的な妄想が重なったものだろう。

 論理性の欠片も無い主張ではあるが、ハハハハハハハハ!

 だからこそ面白い話ではないのかね、諸君!?』

 

 

「…………先、輩?」

 

 

▷ □ 「行けるような気がする、」       □ ◁ 

  □ 「気のせいじゃないと思うけど…………」 □ 

 

 

「やっぱり…………!」

 

 

「確認せねばの、」

 

 

「、の前に…………、

 …………できんのか?」

 

 

「残念ながら、可能という他ない。

 それがルーンというものの在り方なのだから。

 ちと、渡る橋が心許ないが、できる。

 

 二つほど、話しておかねばならぬことがある。

 一つ、オフェリア、お主はスルトと繋がっておるな?」

 

 

「…………はい。

 それに、スルトに侵食されている状態です。

 私という自我を保っていますし、問題はありません。

 ですが…………

 スルトの、炎だと思いますが、が、私の中に、少しですが、入っています」

 

 

「し、侵食!?」

 

 

「であろうな、諦めの悪いあやつならそれぐらいの芸当はしよう。

 ————が、()()()()()()()()()

 

 

「…………え?」

 

 

「お言葉ですが、スカサハ=スカディさん、スルトの、炎ですよ?

 そんなものが体内にあったら、オフェリアさんは…………」

 

 

「あやつを殺せばよい。

 そして奴の本体の中にある核を粉々に壊せし、消滅させればよい。

 炎の通り道があるなら核をおぬしへ移すことは理論上は可能だが、そんなことをされれば人間としての肉体と精神と心魂が保たぬ、すぐさま崩壊し灰燼と消える。

 オフェリアへ流し込まれた炎から新たなスルトが生まれるということはない。

 あやつを殺し、おぬしは()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それだけのこと」 

 

 

「そんなこと、私には…………」

 

 

「できぬか?

 これなる場は、何をしている場か?

 スルトを殺し、この世界を、そして遍く世界を救うための場である。

 本来ならば刃交えなければならぬ我らが、共にあるとはそういうこと。

 全世界の救済と比べれば、()()()()()()()()()()()()()、泣き言を言うでない」

 

 

「………………」

 

 

「二つ、これが一番大切なのだが……………。

 シトナイ?」

 

 

「ふふふ。

 ええ、そうよ。

 同意するわ。

 とんでもないデタラメよね。

 でもそれこそが人という種がもつ可能性」

 

 

「オフェリア、スルトは()()()()()な?

 それも、()()()

 致命傷とはいかぬかもしれぬが、()()()()()()()()()()()()()()()、違うか?」

 

 

「ナポレオンさんの宝具が、クリティカルに決まってたってことですか?」

 

 

「…………いえ、違うわ。

 あの人じゃない、武蔵よ」

 

 

▷ □ 「————!?」   □ ◁ 

  □ 「流石武蔵ちゃん!」 □ 

 

 

『————! そうだったのか! ミス・宮本!!

 神代を終わらせるには、あの炎では熱量が足りていないと思っていたが、ミス・宮本のあの一撃!

 その刃、合理的疑いの余地が入る隙間がないほどに、シグルドの中のスルト、スルトの中の核、それだけに留まらず、核の中にあるべき()()()()()()()へ届いていたのだろう。

 ()()()()————そう、あの一撃はスルト本来の力からすれば、()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 

「とんでもない使い手ね。

 武蔵がスルトに負わせた傷は、()()()()()()()()

 自分という存在の大元への傷、()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

 

  □ 「ということは、」  □ 

▷ □ 「できるってこと?」 □ ◁

 

 

「…………できるんですか!?

 オフェリアさんが死なずに、スルトを倒すのは、できるんですか!!」

 

 

「ゼロではない、という程度にな。

 第一、()()()()()()()()()()

 ナポレオンの砲、シグルドの魔剣、そして、あるならばブリュンヒルデのルーン、か。

 どれか一つでもあれば、であるが…………」

 

 

「それは…………なくはない、手ならある、と言っておくわ、ふふふ」

 

 

『みんな、みんなー。

 もしかしたら気付いてないのかも知れないから確認するけどさー。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()————これが一番勝率高い作戦なんじゃない?

 言いたくないけどさ、こんなことー。

 でも、誰かが言わなきゃいけないから言うけど…………、

 オフェリアには気の毒だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 救わなきゃいけないのは、スルトが滅ぼす()()()()()()()()()()()()()()、これを忘れないで』

 

 

「私は、村正さんの作戦にかけてみたいです!!

 もし、成功すれば、もし、できるのなら、オフェリアさんが死ぬ必要はないんですよね?

 だったら…………私は、かけてみたいです、その可能性に!」

 

 

「でも、それはね、マシュ、」

 

 

「私は、私達は、カルデアは! もっと絶望的なピンチを何度も切り抜けてきました!

 それでも勝ってきた、守ってきたんです!!

 そうしなければ、ならなかったから!

 そうするのが正しいことだと信じていたからです!!

 

 でもこれは、オフェリアさんに犠牲になってもらうのは、私は、私は、絶対納得できません!

 道はあるんですよね、道が、あるのなら、私がそれを切り開きます、私がスルトの炎を全て防いでみせます!

 

 だからお願いです、お願いします、私は、あるんです、オフェリアさんにお聞きしたいこと、お話したいこと、たくさんたくさん、いっぱいあるんです!

 

 オフェリアさんと同じ時間を一緒に過ごすチャンスを、私にください!!

 

 やらせてください、行かせてください、その道を!!」

 

 

 

 

「私もシロウの案に賛成!

 ふふふ、本当にいっつもバカなこと考えつくんだから」

 

 

「勝てるんだったら、バカでいい。

 これでも勝算は十分あると思うけどな」

 

 

「だーかーらー、それが無謀だっていうの。

 もうちょっと大人になりなさいっていつも言ってあげてるでしょ?」

 

 

「イリヤには言われたくないな。

 イリヤこそ、牛乳飲まないといつまでたっても大きくなれないぞ?」

 

 

「それは迷信。

 ミルク飲んだぐらいで大きくなれたら世話ないわ」

 

 

「そうか?

 桜がそんなこと言ってたとか聞いたけど?」

 

 

「————!?

 スケべ! バカ! 変態!!

 私をそんな目で見るとかあり得ないんだから!

 去勢するわよ、このペドフェリアロリコン変態シロウ!!」

 

 

 

 

 

 

「ほほほ、何やらお盛んじゃの。

 じゃが時間がない。

 決めるか」

 

 

 

 

 

 この場にいる者は、

 

 決断しなければならない。

 

 確率の高い道を行くか、夢物語を追い求めるか、それとも————?

 

 

 

 マシュ・キリエライトは盾を握り、

 

 千子村正は刀を執る。

 

 スカサハ=スカディはただ静かに皆を見つめ、

 

 シトナイは嬉しそうに村正の側にいる。

 

 オルトリンデ、ヒルド、スルーズは残る戦乙女達と一緒に女神の決定を待ち、

 

 オフェリアはただ力無く首を垂れる。

 

 ナポレオン、シグルド、ブリュンヒルデは、この場にはいない。

 

 そして、

 

 

  □ 「みんな、」   □ 

▷ □ 「あの虹を見て」 □ ◁

 

 

「?」

 

 

「虹ですか?」

 

 

『ムッシュ・ナポレオンの宝具か。

 対象物となったスルトが弱っていたせいか、未だ残っている。

 だが…………』

 

 

「薄い。

 あちら側が透けすぎておる。

 もう限界ぞな。

 例えスルトが触れなくとも、すぐにでも塵と消えようか」

 

 

「よく保ってるじゃない、褒めてあげなきゃ。

 消滅してなきゃおかしいのに、まだ残ってる。

 よっぽど、この世界が気になるのね。

 ふふふ、この世界じゃなくて、この世界にいる誰かよね、きっと」

 

 

  □ 「オフェリアさん、」 □ 

▷ □ 「何が見えますか?」 □ ◁

 

 

「……………………………………………………」

 

 

  □ 「僕には、」   □ 

  □ 「私には、」   □ 

  □ 「俺には、」   □ 

  □ 「あたしには、」 □

 

 

  □ 「スルトを倒した、」 □ 

▷ □ 「みんなが見えます」 □ ◁

 

 

  □ 「オフェリアさんも、」     □ 

  □ 「マシュも、」         □

  □ 「村正さんも、」        □

  □ 「シトナイも、」        □

  □ 「スカサハ=スカディさんも、」 □

  □ 「ワルキューレのみんなも、」  □ 

▷ □ 「全員一緒です」        □ ◁

 

 

「……………………………………………………」

 

 

  □ 「だからみんなで、」 □ 

▷ □ 「行こう」      □ ◁

 

 

  □ 「終焉を越えて、」 □ 

▷ □ 「明日へ——!」  □ ◁

 

 

 

 

 

[最終話 狂焔之巨人王と三人のセイバー]

 

 

 

 

 

  □ 「でかーーーーーーー!!」 □ 

▷ □ 「メラメラだーーーー!!」 □ ◁

 

 

 近くに行けば行くほど実感せねばならない。

 生物としての違い、内包する力の桁が違いすぎてどうにもならないのだと。

 

 だが、そんなことで諦めてしまっては、

 カルデアの者だとはとてもとても言えない。

 

 

「この戦、()()()()()となる、心せよ!

 村正よ、お主の申す大ボラを真と実現させるか!」

 

 

「頼むぜ。

 っても、あんたには張り手の一つでもかまさねぇと収まりつかねぇ、やっぱな。

 終わったら頼む」

 

 

「此の期に及んでもまだ申すか。

 ふふふ、愛い奴、愛い奴」

 

 

「むー! シロウを誘惑しちゃダメー!

 シロウってば綺麗な女の人にはすぐころっといっちゃうんだから」

 

 

「すまねぇな、シトナイ。

 おめぇさんと漫才やりたいのは山々なんだが————今はマジだ、後でな」

 

 

「はいはい、ちゃんとサポートするわよ。

 でもこの霊基だとルーンが上手く使えないのよね」

 

 

 

 顔を見上げなければ、巨人王の表情をうかがい知ることはできない。

 分かるのはそう、肌を刺すような殺意の塊の熱気。

 

 冬の大地と天空が、スルトが発する炎により塗り替えられていく。

 その悪意————頭がおかしくなりそうなほどの量を、世界にぶちまけている。

 

 

 この戦いは、一度始めたら後戻りは決してできない。

 

 たが————、

 進まなければ、戦わなければ、未来は、明日は、決して掴むことはできない。

 

 

 

  □ 「行こう!!」    □ 

▷ □ 「勝とう!!」    □ ◁

  □ 「ぶっ飛ばそう!!」 □ 

 

 

「————はい!」

 

 

「おう!」

 

 

「うむ」

 

 

「うん!」

 

 

「…………」

 

 

「命令を承服」「命令承服!」「命令承服」

 

 

 

 

 村正、空拳に戻り、

 

 目を閉じて、内なる呼び声に集中する。

 

 

 シトナイ、

 

 村正の胸板に両手を押し当て、

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 

 この世界、最大となる戦いが、

 

 ——————始まった。

 

 

 

「体は剣で出来ている」

「I am the bone of my sword」

 

 

 

「守りの要となるは、マシュ!

 吐いた大言、飲み込むでないぞ、己が盾を持ってして真としてみせよ!」

 

 

「————はいっ!!」

 

 

 

「血潮は鉄で、心は硝子」

「Steel is my body, and fire is my blood」

 

 

 

「攻めの要となるは、村正! そして我が娘ワルキューレ達!

 最も激しい消耗が用意される。

 だがあえて命ずる、死ぬことは許されん、一人も欠けることなくスルトを倒せ!」

 

 

「任務了解」「任務了解」「任務了解!」

 

 

 

「幾たびの戦場を越えて不敗」

「I have created over a thousand blades」

 

 

 

「心せよ、()()()()()()()()()()()()()

 そこなカルデアのマスターが倒れても終わるは終わるが、我らの道、()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

「はいっ!」

 

「任務了解」「任務了解」「任務了解!」

 

 

 

「ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし」

「Unaware of loss, nor aware of gain」

 

 

 

「オフェリアよ、村正らと共に上へ行くとはスルトと直接対峙するということ。

 その覚悟、あろうな?」

 

 

「…………この作戦が失敗すれば、すぐさま私は魔眼を破壊します。

 スルトの存在を弱らせることで、再起に繋ぐための撤退の時間を稼ぐことができるはず。

 そのタイミングは、戦闘を直接見た方が良い、違いますか?」

 

 

「ならば、何もいうまい」

 

 

 

「担い手はここに独り、剣の丘で鉄を鍛つ」

「Withstood pain to create weapons, waiting for one’s arrival」

 

 

 

「勇士達よ、戦乙女達よ!

 お前達が挑まんとするは、神々の黄昏!

 あらゆる神々が死滅し、世界は焔に包まれ、神代の世界が終焉を迎えるもの!

 我らはその終焉を生き残りしもの、歯車が狂ったが故に()()()()()()()()()者!!』

 

 

 

「ならば我が生涯に意味は不要ず」

「I have no regrets. This is the only path」

 

 

 

「我らでは、乗り越えられぬであろう。

 所詮は生きながらえただけの、命ゆえに。

 だが————!

 我ら共にあるは、カルデア、人理の守り手達!

 その守ろうとする人理、我らの人理とは決して相容れられぬものなれど————!!

 この者達と、我らであれば————!!!」

 

 

 

「この体は、『無限の剣で出来ていた』」

「『Unlimited Blade Works』」

 

 

 

「乗り越えて行けるとも、この神々の黄昏を————!!!」

 

 

 

 詠唱が終わり、

 

 世界が展開された。

 

 

 

 シトナイの補助により、完成した詠唱節。

 しかしそれは、固有結界にあらず、宝具にあらず。

 結局のところはそう、鍛治工房という陣地展開。

 

 雪原に、一面の剣が咲き乱れる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「————ほう。

 どれもこれも、惚れ惚れするほどの冴えを見せておるではないか。

 やはりこれならば————足りる。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは、千子村正という刀鍛治が作り出す()()()()

 冬の雪広場に、どこまでもどこまでも刀がある。

 

 千子村正が鍛えた刀剣達だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故ならこの刀達は、千子派と呼ばれる刀鍛冶の一派が作成した全ての刀剣。

 村正の名とは、()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 そう、二代村正も村正を名乗り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 斬味鋭い刀でもなく、刃紋美しい刀でもない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()————その刀こそ()()の名を冠する我らが目指す刀。

 

 

 だからこそ、村正ではない村正達が鍛えた刀達が喚ばれている。

 千子村正という英霊は、この村正だけなのだから。

 

 しかし、どの刀も()()

 同じ理想を掲げ、同じ夢を追い求め、同じモノを斬ろうとしている。

 

 

 その刃へ、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 指揮棒のような杖が動き踊るたびに、刀の刀身一本一本に原初のルーンが刻まれていく。

 

 千子村正が鍛える刀とは、魔術的な特性を持たない。

 そんなものに頼らずに、ただ刀を鍛えるところで、()()を斬ることを目指しているのだから。

 

 刀剣に宿った心中、スカサハ=スカディには、非常に心地よい。

 なるほど、もし影の国の魔女がこの場にいたのなら、自分が招く勇者達にこの剣を与えたいから全部くれないか、と無理難題を言い出していただろう。

 

 筆が乗る、杖が走る、ルーンが踊る。

 刃が目指す罪業の清算、そのためにはスルトを撃破する刃が必要なのだ。

 なれば、刀工が鍛えた刀を、魔女にして女神がさらに鍛える————そう、これならば届くはず、スルトの撃破という大将首を討ち取れる刃へと!

 

 

 

「征くがいい、勇士達! 戦乙女達!

 我がルーンが与えた空駆ける翼にて、スルトの首を()って参れ!」

 

 

 戦乙女達が、原初のルーンが刻まれた刀を手に、空へと登っていく。

 

 

「私が上へ、刀を上げるわ。

 貴方達はスルトの撃破にだけ集中して!」

 

 

 その杖が止まることはない。

 描き続け刻み続け、刃を刃を刃を、刃を————神すらも屠る剣へと変貌させんとする!

 

 

 

 勇士が、戦乙女が、英霊が、鍛治匠が、英霊達のマスターが、

 

 己が持つ武器を携えて、ただ真っ直ぐに空をひた走り————、

 

 高く、ただ高く空を超え————!

 

 

 

 

 そして、

 

 ——————対峙する!

 

 

 

 

  クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

  来たか! 塵芥ども!

  ククク…………! 嗚呼! ()()! ()()!!

  クハハハハハハハハハハハハハハハ!!

  オレは、今、本当の意味で生きているのかも知れん!

  何故ならば、!!                

                           」

 

 

 

 戦意が、炎となって爆裂する。

 空中が何度も何度も爆発する。

 スルトの悪意と戦意が、この世界を終わらせようと爆ぜ狂う。

 

 衝撃と熱量、凄まじいことこの上ない。

 このスルトこそは、スルト=フェンリル。

 終焉の時において、フェンリルを喰らい込み、焔だけでなく氷の権能も有するモノ。

 神霊の域に達している存在は、ただそう思っただけで、外界に破壊の爪痕をばらまいていく。

 

 

 その攻撃の熱波が、

 スカサハ=スカディとシトナイが練り上げたルーンの防壁とぶつかり合う。

 

 

 この威圧感と迫力————!

 かつて対峙したどんな超級の存在よりも、はるかに()()!!

 

 

「くぅぅぅぅ!?

 先輩、オフェリアさん、大丈夫ですか!」

 

 

  □ 「なんとか!」     □ 

▷ □ 「マシュこそ平気!?」 □ ◁

 

 

「この人の心配はしないで、マシュ。

 貴女には遠く及ばないけど、一人ぐらいなら」 

 

 

「はい! 先輩を頼みます、オフェリアさん!」

 

 

「…………っ!!」

 

 

 

  オレは! オレは! オレの意思を持ってして動いている!

  星が押し付けた役割でも! スルトとして定められた事象でもない!

  くだらぬ作り物でオレという存在を歯車とする世界すら不要不要!

  痛みだとも! 痛みだ!

  ムサシ! ナポレオン!

  オレは! オマエを! 殺したい(終わらせたい)!!

  塵芥の分際でオレを傷付けた者共!! 嗚呼! 痛いぞ!!!

  

  オマエ達が存在する証! その全てを灰燼と斬り捨ててやろう!!

  まずはこの世界! だがそれは手始め!! ありとあらゆる世界を滅ぼそう!!

  そして! 全てを成り立たせている世界というふざけたシステムを燼滅させる!!

  そこまでしても! オレのこの昂りはと、

 

  —————————————————グァァァァァァァァァアアアッッッ!!??

                                         」

 

 

 

「悪りぃな、ドサンピン。

 こっちはテメェの次が待ってンだ。

 ————手早くたたませてもらうぜ」

 

 

 

  □ 「一撃が!!」 □ 

▷ □ 「入った!!」 □ ◁

 

 

 村正の一刀、スルトの纏う焔を斬り裂いて————()()()()()()

 それだけに留まらず、()()()()()()

 

 

 スカサハ=スカディの原初のルーンと、『千子村正』が鍛えた剣の冴え。

 何よりも信念、己の信じる道をどこまでも不器用に押し通す鉄心が、焔を裂き氷を割り、

 スルトの体躯に大きな、村正の刀の大きさを考えれば信じられないような、大きな傷をつける!

 

 

 己の何十倍以上も巨大な氷焔の巨人を前にしても、

 この男、千子村正、どこまでも大胆不敵、豪快にして豪胆。

 

 

「スルト=フェンリルへのルーン強化刀による攻撃、入りました!!

 斬り跡、目視で確認!

 焔の体躯にも、氷の体躯にも、どちらにも傷を与えています!」

 

 

 理想とは、口で語るものではない。

 その背中で語ることができなければ、それは理想ではない。

 

 それは生き様であり己の歩いた足跡。

 地面に這いつくばり、悔し涙で前が見えなくなっても追いかけねば、それは理想ではない。

 

 二人の生き様、二人の想い、二人の理想。

 どちらか一つしか現界することができないのだとしたら————、

 

 

「ぷっ、慣れねぇことはするもンじゃねぇが、泣き言言ってる場合じゃねぇ。

 ————チぃぃェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォっっっ!!!」

 

 

 ()()

 二つの理想を体現する己こそ、我が望み。

 己の限界など、どこにもない。

 一つしか選べないなら、そんな己を、限界点より突破させる。

 

 

 再度斬線が走り、

 巨人の体躯を斬り裂いていく。

 

 

 そう、これなる千子村正という英霊こそは、

 

 

「やっぱぶった切るなら、薩摩の太刀(やり方)がピカイチだな。

 一太刀、いや二太刀までは保ってくれるか。

 おう、悪りぃがじゃんじゃん下から飛ばしてくれや。

 ————こいつは、オレが仕留める」

 

 

 ——————『あらゆる罪業の天元(根源)を断ち切る刃を鍛える、()()()()()

 

 

 

 

  □ 「速攻だ!!」       □ 

▷ □ 「急速再生が始まる前に!」 □ ◁

 

 

 

  クハァァァァーーーーーーーっっっ!!

  赤髪! やはりオマエはそうあるか!!

  ムサシには劣る、言わざるを得ん!

  ナポレオンにも劣る、宝具でない故か!? だが劣る!!!

 

  だが! ()()!!!

  まるでムサシにつけられた傷のように、疼いてしまうではないかッッ!!

 

  熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!

  この熱、この傷が癒えてしまえば消えゆく定めかっっ!!

  来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!!

  熱を見せろ! その生を燃やし尽くし熱を見せろ! 熱なくば生に意味なし!!

  オレを超えて! 燃えてみせろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

                                       」

 

 

 

 スルト、文字通り()()()()

 

 これほどの大きさの生物となると、吸う、吐く、振る、ただ身体を動かすだけで、周囲へ壊滅的な打撃を与えうる。

 

 その巨人が、行動を開始する、反撃を開始する。

 

 ただ見ただけで、熱線が飛び、爆発する。

 ただ呼吸をしただけで、熱風が炸裂し、燃やし吹き飛ばす。

 

 腕を振りまわせば、その軌跡に大量の炎と熱を残し破壊が空を埋め尽くす。

 紅蓮が、雪崩となって押し寄せてくる。

 全てを飲み込む炎に、逃げる場所など存在しない。

 

 

「真名、凍結展開————呼応せよ、『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』っ!!」

 

 

 空に打ち立てられる、尊き城。

 スルトが自然発生させた暴焔の嵐から仲間を守るため、()()()()()()()()()()()

 

 

「ぐぅぅぅぅーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 それは生物としての差。

 デカイとは、これほどまでの差となるのだ。

 

 

 だが、マシュが宝具解放という魔力を支払って得た小康状態。

 

 戦乙女達が、進軍を開始する。

 

 

「攻撃態勢を維持」「攻撃態勢を維持」「攻撃態勢を維持」

「状況を」「状況を」「状況を」

「敵戦力、スルト=フェンリル」「スルト=フェンリル確認」「スルト=フェンリル確認」

「スルトの炎と」「フェンリルの氷」「どちらの権能もある」

「近くに行ってはいけない」「至近距離への接近を禁止」「距離を維持」

「あれは神代を終わらす炎」「神殺しの終焉」「神性を殺すもの」

「でも、」「でも、」「でも、」

「攻撃を開始」「攻撃を開始」「攻撃を開始」

「生存優先指令を理解」「生存優先指令を了解」「生存優先命令を承諾」

「でも、」「でも、」「でも、」

「最優先目標スルト=フェンリル」「スルト=フェンリル」「スルト=フェンリル」

「自己の生存を考慮し、「自己の生存考慮!」「自己生存を考慮し、」

 

「スルト=フェンリルを撃破せよ!」「スルト=フェンリルを撃破せよ!」

「スルト=フェンリルを撃破せよ!」「スルト=フェンリルを撃破せよ!」

「スルト=フェンリルを撃破せよ!」「スルト=フェンリルを撃破せよ!」

「スルト=フェンリルを撃破せよ!」「スルト=フェンリルを撃破せよ!」

 

 

 その手にあるものは、大神より授かった槍にあらず。

『千子村正』によって鍛えられた刀を原初のルーンで強化した、スルトを傷つけ得る刃。

 

 戦乙女達は、スルトが発する爆熱暴風をあざ笑うかのように、空を滑空。

 大空を回り、勢いをつけ流星となり————手に持つ刀を、投擲する!

 

 

 

  ————————————————っ!!

                       」

 

 

 

 何十もの刃によって、一瞬にハリネズミと化すスルト。

 

 

「離脱成功」「離脱成功」「離脱成功」

「流血を確認」「流血、確認したよ!」「流血確認」

「敵の損、」「敵の損、」「敵の損、」

 

 

 何本もの刃に貫かれながらも、

 ——————スルトが、()()()

 

 

 

「くぅーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

「ぐォォううう!?」

 

 

「! 回避行、!」「回避、キャァ!!」「!!??」

 

 

 ただそれだけで、マシュを除く全ての戦力が、吹き飛ばされた。

 

 

「うぅぅーーーーー、なんて、バケモノ…………!」

 

 

 

  人形すらもオレを傷つけるか!!

  クハハハハハハハ!!!

  良い! それも良いぞ!

  スカディ! 貴様だな!? ここに顔を出さぬが貴様なのは知れている!

  随分手の込んだルーンを刻んでいるな?

  オーディンより受け継いたものか。

  実に貴様らしい! 無価値なゴミクズだな!!

 

  そうとも! ()()()()()()()()()()()()!!??

  オレの核は! ここだ! ここにあるぞ! 塵芥!!!

 

  オーディンの真似事をすれば! オレがくたばるとでも思っているのか!?

  オレが殺した老いぼれの技で! オレが死んでやるとでも考えるのか!!?

  そんな熱で! このオレがくたばるわけなかろうがァァァァァァァァァ!!

                                     」

 

 

 

 そもそも、スルトは、()()()()()()()

 例えその両眼をくり抜かれたとて、忿怒の核熱をたぎらせながら、

 だからどうしたのだと、終焉を始めるだろう。

 

 

 勝負は劣勢、大幅な劣勢。

 開始わずかで村正の攻撃が綺麗に入ったが、敵対行動を開始したスルトの焔に一つ踏み込めない。

 

 

 スルトが喚ぶ焔は攻防一体。

 敵を焼き尽くすと同時に、敵からの攻撃を燃やし尽くす。

 

 

 確かに、攻撃は入っている。

 

 全身を焼かれながらも村正、さらなる鋭さを以ってしてスルトの体躯を斬り刻む。

 スカサハ=スカディがルーンを施し、シトナイが上空の戦場へ運ぶルーン強化刀。

 斬っては捨て、斬っては捨てを繰り返す

 

 戦乙女達には、もう脱落者が出ている。

 確かにその投擲攻撃は、スルトに通じている。

 決死の特攻で、己の命と引き換えにスルトの体躯を斬り裂くものもいる。

 

 

 だが、

 

 

 だが————!!

 

 

()()()()()()()()…………!

 それを打つための布石の段階とはいえ、私達の布陣、圧倒的に火力が足りない!!

 スルトの急速再生が始まってしまえば、また最初からになる!

 村正の刀も戦乙女達も、数には限りがある! 無限では決してない!!

 もし、ここに————武蔵が入れば…………!)

 

 

 それは思わざるを得ないIf。

 

 シグルドを殺した宝具の一撃。

 あれならば、本当にこのスルトを真っ二つに両断していたはず。

 

 

(もし、シグルドが、私のサーヴァントとしていてくれたなら…………!)

 

 

 その宝具、『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』で、スルトの体躯に大穴を開けていただろう。

 

 

「——————くっ!!

 …………ン、…………あンだぁ?」

 

 

(もし、ブリュンヒルデが現界して、私達の

                             え?)

 

 

▷ □ 「わわわわわぁぁぁぁぁぁ!?」 □ ◁

 

 

「————あ………………きゃっ!?」

 

 

  □ 「ど、ど、ど、ど、ど、どこ投げるんですか、村正さん!?」 □ 

▷ □ 「おおおおおお、オフェリアさんに当たるとこでしたよ!?」 □ ◁

 

 

「悪りぃ、外すよう投げたつもりだったが、むずいンだよな、刀を投げるっつーのは。

 どうにもうまくいかねぇ。

 おう、綺羅目娘、目ん玉見開いてよっっく聞け。

 昔々、あるところにだな、()()()()()になりてぇっつー、ど阿呆がいた」

 

 

▷ □ 「村正さん、今、スルトと戦ってます!!!??」 □ ◁

  □ 「三行にまとめるの、お願いして良いですか!?」 □

 

 

「すぐ済む。

 そいつは、まぁ、頑張った。

 頑張って頑張って頑張って…………頑張った。

 どうなったかは————別にどうでもいい。

 いいか、オフェリア」

 

 

「…………えっ?」

 

 

「そいつは、さ、()()()()()()()()()()

 アーサー王のエクスカリバーがあれば、スルトを倒せるのに、とか、

 クーフーリンのゲイボルクがあれば、人を傷つける悪者を倒せるのに、とか、

 ギルガメッシュの蔵があれば、その中のものでたくさんの人が助けられるのに、とか、

 自分の力が足りずに、助けられなくて死んでいった人達を思いながら、すまない、すまないと、何度も何度も心の中で涙をずっと流しながら、

 それでも頑張った、そいつなりに、正義の味方っていうのを、目指し続け、歩き続けた」

 

 

 村正が、刀を構える。

 

 

「大事なのは、()()()()()なんじゃないか?

 一歩踏み出せれば、二歩目が出る。

 二歩歩ければ、三歩、四歩、次々出てくる。

 そうなれば、もう、()()()()()()()、止まらない、もう何が起ころうと。

 目指すものが遠かったって、高みにありすぎて届かなくなって、()()()()()()()()()()()()

 もっと速く走ればいい、もっと高く飛べばいい、できるんだ、できるんだよ、君がそう、諦めないで挑み続けて走り続ければ、きっと手がそこに届くんだ」

 

 

 その刀は、この世界ではないどこかで、

 武蔵に貸し与え、武蔵が振るった刀と同じ銘を持つ明神切村正。

 

 

「君は、もう、()()()()()だろう?

 あいつが、自称君の旦那のナポレオンが、君を引っ張って()()()()()()()じゃないか。

 ()()()()()()、君が目指すべき場所へ。

 一緒に行ってくれるやつだって、いるだろ?

 クリプターの連中は、置いとくとして————、

 そっちの道ではないところへ、歩いて欲しいんだけど————、

 マシュは、君と一緒に行きたいって、言ってくれるんじゃないか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「はい、オフェリアさん!!

 私達の道は、もう二度と交わらないかもしれません!

 オフェリアさんが、何を思って、汎人類史(私たちの歴史)を抹殺し、空想樹を育てているのか、お聞きしなければならないことは山のようにあります!!

 私達には、戦うか、死か、それ以外の道はもうないのかもしれません!

 ですが! それでも! 私は、あの時! 皆さんと! 私達三銃士が一緒に過ごした時間は!

 絶対嘘なんかじゃなかったって、思いたいんです!!」

 

 

「——————————っっっ——————————!!!」

 

 

「ほらな。

 だからさ、オフェリア、」

 

 

 そして、

 

 

 

「…………投影開始(トレース・オン)

 

 

 

 魔術師の全工程が、始まり終わる。

 本来ならば、できるはずがないその魔術。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ならばこれより始まるのは————、

 

 

 

 

「南無天満大自在天神、仁王倶利伽羅…………ッッ!」

 

 

 

 

▷ □ 「そ、そ、そ、その技は————!?」 □ ◁

 

 

 神域へと到達した剣士の最終奥義。

 握るはあらゆる怨恨の源にある業を断つ刃。

 

 そして何よりも!

 人々を傷つける悪を討つ、正義の味方の一刀!

 

 

 

 

 

「剣轟抜刀! ————伊舎那大天象ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 大上段より真っ向から振り下されたその一刀!

 例え宮本武蔵に至っていなくとも、それ以上の狂おしいほどの理想への願いが刃へと宿る!

 

 その絶閃、雷光すらも遅いと叫ばんばかりに刹那の内に疾り斬る!!

 

 

 

 

 

  ガッ!? ————グァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッ!!??

                                        」

 

 

 

▷ □ 「き、き、き、き、斬った————!!」 □ ◁

 

 

 文字通りスルトを、()()()()()()

 

 

 頭上から股下まで一文字の剣斬が走った。

 大音声の悲鳴と大量の血液が、世界を汚す。

 

 その一刀の斬撃力に耐えられなかったスルト、血を滴らせながらに後ろへと吹き飛ぶ。

 

 神剣の完璧な投影ができないように、神域に入っている武蔵の技は完璧に投影できない。

 ならばと二人の鍛治匠は己の理想と信念を剣に乗せることで足りない力を補った。

 

 

「————好機!

 戦線を押し上げます!

 ワルキューレの皆さん、例のものを!!」

 

 

「好機到来」「好機到来!」「好機到来」

「畳み掛けるわ」「畳みかけよう」「畳み掛ける」

「あれを」「あれを!」「あれを」

 

 

 村正が切り開いた血路へ、

 

 マシュが走り、戦乙女達が走り、

 地上にいるスカサハ=スカディも、シトナイも、前へ前へと動き出す。

 

 理由は皆それぞれ違う、目指す先だって決して同じではない、

 おそらくそれは、きっと、戦わなければならないことぐらい分かっている。

 

 それでも走る、そう走るのだ。

 

 

 勝利へ、

 その先へ、行きたいから。

 

 

 

 皆を導く一刀を放った村正も、走り出す。

 

 

 

「—————————ついて来れるよな?」

 

 

 

 微笑んだのは彼女へ向けた一瞬だけ。

 戦士は前へ、そう勝利へと、ひた走る。

 

 

 

▷ □ 「オフェリアさん!」 □ ◁

  □ 「さあ、行こう!!」 □

 

 

「………………っっ………………!」

 

 

 二歩目から先は、

 

 もう数えなかった。

 

 

 

 

 

▷ □ 「って何ですかアレーーーーーーーーーーー!!??」 □ ◁

 

 

「あー、アレな。

 (オレ)がなぽれおん張っ倒すのに使ったクズ鉄だ」

 

 

  □ 「あんなので殴られたら、」  □

▷ □ 「死んじゃいますよ、普通!」 □ ◁

 

 

「ま、生きてたからいいだろ」

 

 

「…………凄いルーンの刻み方するわね、流石は神代。

 あなたは近づかないで。

 死んだほうがマシな体験というのをしたいのなら止めないけど」

 

 

「標準決定」「標準決定」「標準決定」

「コース確定」「コース確定」「コース確定」

「推力確保、」「推力確保、」「推力確保、」

 

 

 

  これが、()()か!!

  あの木偶の坊達を殺戮しても味わえない充実感!

  神というやつは! ただの! 穀潰しか!!

  だからよく燃えたか!!

  クハハハハハハハハハハハハハハハ!!

  赤髪! オマエなら! これくらいはするだろう! して当然だとも!!

  ああ! あったまってきたぞ! オレが! オレが! オレになる!!

  おもちゃで遊ぶ気か!?

  ならば! オレも! 燃やしてやるとしよう!!

                                    」

 

 

 

 戦乙女達が、超巨大な脇差を担ぐ。

 

 その刀身、可視化されているだけでも何個のルーンが刻んだか分からないほど、

 多数にして精妙なるルーン文字が刻まれている。

 

 

『それが下にあるものの中では大きさでは最大の代物。

 あてよ、なるべく深くまで。

 ただし、狙いをつけ、そこに当てよ。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

「命令了解」「命令了解」「命令了解」

「攻撃開始」「攻撃開始」「攻撃開始」

 

 

 しかし、スルト、未だになおも健在。

 傷口が醜く開き、未だその血流が落ち続けているというのに、焔を、更なる焔を喚び出そうとする。

 

 

「チッ。

 随分元気に育ったごぼうだな。

 効いてねぇってのか?」

 

 

「いいえ、効いてるわ。

 あなた達の攻撃は確かにスルトを傷つけている、削っている。

 けど、()()()()()のよ。

 その耐えられる苦痛やダメージの量が、私達人間やあなた達英霊とは次元が違うだけ」

 

 

 

  我が焔の贄となれ…………ッ!!

                  」

 

 

 

 特大の焔を前に、

 マシュが————、

 村正が————、

 

 

「あなた達はまだ()()()()()()()、魔力を温存して!

 戦乙女達、今よ!!」

 

 

 

「同位体顕現開始」「同位体顕現開始」「同位体顕現開始」「同位体顕現開始」

「同期開始照準完了」「同期開始照準完了」「同期開始標準完了」「同期開始照準完了」

 

 

 数多のワルキューレ達が、空に一つの大きな輪を描く。

 狙い定められる、スルトへと。

 大神を灼き尽くし、神々を焼滅した張本人。

 

 

 

  塵と燃えろォォォォォォォォォォ!!

                    」

 

 

 

 大伸より授かりし槍が、一斉に一点へ————!

 

 

 

終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスランシル)!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスランシル)!」「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスランシル)!」

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 それは何本もの槍でありながら一本の槍!

 スルトの発生させた極紅蓮の焔壁へと注ぎ、その奥にある核を穿ち抜かんとする!

 

 

 

  カカカ! 笑えぬ冗談!!

  ()()()が効くとでも思っているのか!?

  オレは! ()()()! 大神宣言(グングニル)()()()()()()()()()()()()()!!

                                 」

 

 

 

「最優先目標を優先」「最優先目標を優先」「最優先目標を優先」「最優先目標を優先」

「生命転換、限界突破」「生命転換、限界突破」「生命転換、限界突破」「生命転換、限界突破」

「この身を大神の槍とし」「スルト=フェンリルを撃破せよ」「女神へ謝罪を」「しかし勝利を」

 

 

 

「————あれは!?

 自分の全てを注ぎ込んで————!」

 

 

 戦乙女達は、己の残された全てのマナを光へと変換し————特攻。

 スルトが持つ焔の防壁を貫き砕き、勝利のためにその生命を捧げる!!

 

 

 

  ならばよしィィィィ!!!

               」

 

 

 

 その光に負けぬ焔を、いやそれ以上に輝き熱い焔が、

 スルトに喚ばれ作られ、光と化した戦乙女達を飲み込み喰らう。

 

 

「ワルキューレの皆さんが!!

 でも、でも————!!」

 

 

 届かない、ならば!

 戦乙女達が次々と光の槍となり、スルトへと特攻する。

 

 対するスルト、巨大な腕を振り回し、防壁を作り、光に貫かれながらも————!

 

 

 

  何故ないっっっ!?

  我が焔を超えようとする熱量も!!

  我が氷を凍らせようとする殺意も!!

  ()()()()()! 故に!!

  叫んでいるぞ! 我が剣が!! 狂い始めているぞ! 我が剣が!!

  呑み込もうとしているぞ! 我が剣が!! 始めようとしているぞ! 我が剣が!!

  オレの意思こそ我が剣! オレの存在こそ我が剣!! オレこそが我が剣!!!

  オレこそ

 

  ——————————————ガッァァッ!!??

                                         」

 

 

 

▷ □ 「入った————!!」 □ ◁  

 

 

 千子村正が鍛えた中で最大の大きさを誇るその脇差が、スルトの胸へ突き立てられる!

 

 

 が、

 

 

 

  何度言えば分かるのだ!? 塵芥!!??

  足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ足りぬ!!!

 

  分からぬならば! 教えてやろう!!

  ()()()()()()使()()()()!!!

  ()()()!! 枷をかけられていたオレはオマエへ()()()()()()()()()な!?

                                        」

 

 

 

「————っっ!?

 皆さん下がってください!!」

 

 

「やべぇぞ!」

 

 

 

  ()()()()()()!!

           」

 

 

 

 それは宝具。

 かつてその内にいた英霊が扱った、投擲し焔を撒き散らす破滅の剣戟。

 

 シグルドこそ己であったが故に実現される擬似魔剣の投擲。

 本来の魔剣は太陽の力を内包する。

 なれば、スルトによって展開されるそれの太陽とは————!!

 

 

 

  ()()()! ()()()()()()()!!

                 」

 

 

 

 スルト自身であり終焉を始めるもの。

 ありとあらゆる太陽の中で、最も強烈で、最も高熱で、最も危険極まりない最悪の太陽!

 

 

  □ 「マシュ! 宝具で耐えるんだ!」 □  

▷ □ 「ダメだ、今はまだ使っちゃ!!」 □ ◁  

 

 

 

 灼熱地獄の門のように開け放たれたスルトの口から————!

 先の戦乙女達の決死の特攻よりも、遥かに上を行く数の焔弾の超大軍勢が出現・射出、マシュの盾を砕き散らそうとする!

 その数! その速さ! その多さ! その重さ! その圧力! その焔!!

 

 

「ぐぐぐぐーーーーーーーーーっっ!!!」

 

 

 爆発する!! 爆裂する!! 爆轟する!! 爆砕する!!

 

 スルトが吐き出す火炎の大海原。

 英霊シグルドが使う()()()()()よりも、数え切れないほどに危険な焔!!

 打ち出され、射ち出され、撃ち出され!

 リボルバーの回転速度が上昇に次ぐ上昇!

 

 

「がっっっっっっっっ!!!」

 

 

 ()()()()()使()()()()

 シグルドの宝具、短剣の投擲は本番ではない。

 最後に投擲される魔剣の一投こそが最強、その後に魔剣へ叩き込まれる全力の拳こそが最強。

 

 ここで宝具を使ってしまっては、持たない。

 その火炎地獄の雨あられは、()()()使()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして!

 炎の剣がスルトの右手より離れ宙に浮き、

 超極大の最悪の焔を生じさせながら右腕引き絞られ————!!

 

 

 

  ————————『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』ッッッ!!

                       」

 

 

 

 

 

 

「事象、照準固定(シュフェン・アウフ)

 私は、それが輝くさまを視ない(lch will es niemals glǎnzen sehen)っっ!!」

 

 

 

 

「——————オフェリアさんっ!?」

 

 

  □ 「つなぎ、」   □ 

▷ □ 「留めたぁ!!」 □ ◁

 

 

 遷延の魔眼!

 その瞳が、スルトの擬似魔剣が放たれるのをつなぎ留める。

 

 その神秘が、何よりもその決意が、スルトの焔に待ったをかけた!

 

 

「私のサーヴァントの分際で、ふざけたことするじゃない…………ッッ!!

 誰の許可を得て、こんなことしてるのかしら…………ッッッ!?

 

 私の! と————、と、とと、と、ととと————………………!!!!

 

 私の! ()()へ!! 誰の許可を得て宝具を放つつもりだったのかと聞いているのよ!!!」

 

 

  □ 「戦友という漢字には、」       □ 

▷ □ 「ともだちという字が含まれます!!」 □ ◁

 

 

「はいっ!!」

 

「————〜〜ーーーーーーーーー!!」

 

 

 

  おお! オフェリア! おお!! オフェリア!! おお!!! オフェリア!!!

  オマエもあがらうか!!

  ならばよし! それもよし!!

  オマエにまずは空の境域を見せるも一興か!!

 

  おお! オフェリアよ! だがなぁァァ!!?

  オマエは()()()()()()()()()()()!!?

                                          」 

 

 

 

「ぐぅぅぅーーーーーーツツツ!!?」

 

 

「そんな、まさか! 一度成立した魔眼を、強引に力でねじり切るなんて!!」

 

 

 

  我が焔こそ終焉!

  我が焔こそ黄昏!

 

  我が焔こそ! 我そのもの! 我自身!!

 

  神ですら! できなかったのだぞ!?

  神々ですら! オーディンですら! トールですら! あらゆる神々ですら!

  ()()()()()()()()()()()()()!!!

  ()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()!!

 

  ()()()()()()()()()()()()()()!!!???

                                      」

 

 

 

「う、ぐぐぐぅぅぅぅぅぅーーーーーーーー!!

 

 どいつも…………こいつも…………勝手なこと、人の気も知らないで…………!!

 

 留められるのか、ですって………………、! うっぐぅぅぅーーーー!?

 

 ()()()()()()()()()…………ッッ!!

 

 だって、私は————、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()!?

 

 カルデアを捨てた私だからこそ! あなたの焔に! 絶対負けるわけにはいかない!!

 

 あなたの焔ごときに! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()!!」

 

 

 

 燃え上がる闘志、それは決して朽ちぬ意志。

 走り出した彼女は、もう決して止まることはない。

 

 当然襲来するはずの終焉を、引き延ばす!

 

 

 

「ここまでのようね」「ここまでね」「…………え?」

「あとはお願い、オルトリンデ」「お願いね、オルトリンデ」「なら私も!」

「それはダメよ」「それはダメだよ」「…………!」

「あれを止め、」「()()()()()を完成させる」「…………」

「だから私」「そして私」「…………」

「そんな顔をしないで、」「また再会できるんだから」「うん」

「その時、聞かせて頂戴」「スルトをどうやって倒したのかを」「…………うん!」

 

「機体出力限界突破」「機体出力限界突破」

「最優先目標の撃破に全力を」「最優先目標撃破に全力を」

「全生命活動機能の維持停止」「生命維持機能全停止」

「過剰暴走から超限界暴走へ」「過剰暴走を超え超限界暴走へ」

「全てをかけ、飛翔せよ、攻撃せよ」「全てを乗せて、飛翔せよ、攻撃せよ」

「敗北は認められない、失敗は認められない」「勝利しか認められない、栄光しか認められない」

「我ら大神の娘、ワルキューレ」「我ら、大神の娘、ワルキューレ」

「これより黄昏を終結させる」「これより黄昏を終結させる!」

 

「スルト=フェンリルを撃破する!!」「スルト=フェンリルを撃破する!!」

 

 

 

 

 そして彼女達は、

 

 ————星となった。

 

 

 

 

  グッッ、ガッハァァァァァァァァァァァァァァァっっっっっ!!??

                                  」

 

 

 

 スルトが張り上げる特大の悲鳴が、空を焼く。

 

 光となったスルーズ、スルトの右腕を肩口から穿ち落とす。

 もうひとつの光となったヒルド、スルトの体躯へ()()()()()を刻む。

 

 

 

  この痛みすらも心地よい!

  この熱こそが! 我が焔!!

  クルゥゥゥゥゥゥゥゥゥアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!

  しかし、!!

                                 」

 

 

 

 スルト、右肩の傷口から流れ出る血を着火炎上。

 即席の焔の鞭として、残る戦乙女達、カルデアの者達へ叩きつける!

 同時、宝具が中断され擬似魔剣としての機能を失った炎剣をその鞭で確保、

 

 

 

  カルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥアアアアアアアツツツ!!!

  人形とて命と引き換えにすればこれほどの熱を出せるのだ!!

  さあオマエ達はどこまでゆく!?

                                 」

 

 

 

 そして、焔がさらなる大炎上! その大火炎が瞬時に穿ち落とされた右腕へと変化!!

 再生ではなく、作成に近いその強引さ。

 戦乙女達の決死の特攻はスルトに確実にダメージを与えている! これでもまだ足りないのか!

 

 

 

 だが、

 その体躯に刻まれた文様が()()()()()()()()()()()を形作る!

 それこそ————、

 

 

 

  ヌゥゥゥ!?? これは()だ!?

  ()()()か! オーディンのルーンか!!

  なるほど! 知恵だけは回るな!! スカディ!!

  ()()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()! ()()()()()()()()()()!!

 

  だが何だこれは!? 恐怖のあまり頭がいかれたか!?

  これは()()()()()()ではないか! ()()()()()()()()()()()()原初のルーン!

 

  ()()()を祝福するがごとく! 誕生! 成長! 繁栄! 斜陽! 終焉!

  それは一つの輪をなす生命のサイクル! それを実現する祝福と呪い!

  強化! 後に劣化へと転ずる呪いの枷!

  斜陽終焉を迎える前に! オレはここだけでなく! 三つは世界を滅ぼしてしまうぞ!

                                          」

 

 

 

「ま、さ、か…………!!」

 

 

「本当に…………!?」

 

 

「、で、だ、」

 

 

▷ □ 「スカサハ=スカディさん!?」 □ ◁

 

 

『まさか…………()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()、スルトの焔や氷に負けず、()()()()()()()()()()()()

 

 

「ってことは、」

 

 

「なら…………!」

 

 

『うむ。

 だが、気をつけよ。

 先に話した通り、スルトの申した通りだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 強化という祝福を得るが、それが終われば弱化という呪いを受ける。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、本来そういったルーン。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 強化の幅は抑えてはいるが、それでも奴の焔が、氷が、強くなっていることに変わりない』

 

 

 

  □ 「村正さん!」 □

▷ □ 「マシュ!!」 □ ◁

 

 

「イエス、マスター!

 必ず、私が村正さんを守り抜きます!!」

 

 

 

 そして、

 

 鍛治匠が、

 

 ()()()を握る。

 

 

 

「不思議なもンだな、世の中ってのは。

 妙なところで繋がってやがる。

 だから(オレ)が呼ばれたンだろうが、ンなことはどうだっていい」

 

 

 残る戦乙女全騎も集結。

 マシュが盾を構える中、村正の刀を握る手に力が入る。

 

 

「ユグドラシルとは世界()と呼ばれる世界、大いなる生命、九つの世界が存在する宇宙の樹。

 

 ユグドラシルを語るには、()()()()()がなくてはならない。

 ()つの根、()つの泉、九つの世界————すなわち()()の世界。

 

 ()()()()()()()()()()()が、()()()()()()()()()()()()()方が良い、

 ユグドラシルという存在が、()()()()()()()()()()()()()()()ようにね」

 

 

(オレ)ぁな、()()()()()()()を書いてくれればよかったンだが、

 まさかドンピシャなもン描いてくれるとはな。

 あの城で吐いた御託は撤回しねぇが、やるじゃねぇか、すかさは=すかでぃ」

 

 

 村正が、()()()()()

 

 

「その傷はな、()()なンだよ。

 こんな辺鄙なところでぼっちしてたテメェは知らなくて当然だろうが。

 (オレ)もましゅ達から教えてもらった口だ、でけぇことは言えねえ。

 

 そいつはな、

 

 小さな国の領主の息子に()()()

 

 人質生活で苦難を味わうも()()()

 

 天下をテメェで統一しちまうっつー()()()()()

 

 二百五十年以上も泰平の世を作り()()()

 

 幕末だったか、動乱の時代が来て()()()()()

 

 明治となって、()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

「それは()()()()()()()

 このルーンこそは、世界樹の恵みを象徴する()()()()を表す。

 一つでも効果を発揮するが、一番は()()()()()()()()()()時だそうね。

 それが本来の使い方。

 私には、そのルーンが神代の魔術の印にしか見えないけれど、

 

 ————()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「はい、その証こそ————っ!!」

 

 

 

  □ 「()()()()! ()()()()!!」 □ 

▷ □ 「()()()()のシンボル!!」  □ ◁   

 

 

 

「つまりテメェは————、

 

 ————()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「真名、凍結展開!!」

 

 

「同位体、顕現開始!」

 

 

 

「かつて求めた究極の一刀。

 其は、肉を断ち骨を断ち命を絶つ鋼の刃にあらず」

 

 

 

 

  ()()()()()()! 赤髪!!

  オマエは! ()()()()()()()()()()()()()()()()と!!

  ムサシと同じく! ()()()()()()()()()()()()()()()()と!!

  オマエ達の中で! オレを殺し得るのは!! ()()!! ()()()()()だということを!!

  終焉の巨人であるこのオレが! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

  星よ! 終われェェェェェェェ…………!! 灰燼に帰せッッッッッツツツツツツ!!!

                                           」

 

 

 

  □ 「スルトの宝具が!」 □ 

▷ □ 「早すぎる!!」   □ ◁

 

 

「スルトにとって()()()()()()()()()()()()もの!

 宝具の展開が早いんじゃないわ、()()()()()()()()()()()()()のよ!!」

 

 

「これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城!

 呼応せよ————!!」

 

 

「同期開始、照準終了!」

 

 

 

「我が業が求めるは怨恨の清算。

 縁を切り、定めを切り、業を切る。

 ————即ち。宿業からの解放なり」

 

 

 

 

  ————————『太陽を超えて輝け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)』ッッッッッ!!!

                                 」

 

 

 

 

「その炎! 私は、それが輝くさまを視ない(lch will es niemals glǎnzen sehen)っっ!!」

 

 

 

  オレの炎の剣が! たった一種類の斬り(終わらせ)方しかないとは思うまいな!? オフェリア!

  ()()()()()()()()! 炎の剣(宝具)こそが!! これだァァァァァァァァァァァァァァァ!!

                                          」

 

 

 

 その炎剣こそは、ありとあらゆる生命に対する絶対命令権。

 即ち————終焉を迎えその灯火を焼失せよ(死ね)

 

 

 

▷ □ 「二画目の令呪を使う!」       □ ◁

  □ 「二画目の令呪を使うしかない!」   □  

  □ 「二画目・三画目の令呪を同時使用!」 □ 

  □ 「いや、それでも…………!」      □  

 

 

▷ □ 「マシューーーーーーーー        」 □ ◁

  □ 「村正さーーーーーーーー        」 □  

  □ 「ナポレオーーーーーーー        」 □ 

 

 

 

「『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』っ!!!!」

 

「『終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)』っ!!」

  

 

 

 それは遥かな昔、理想掲げる騎士達が辿り築いた城。

 永久久遠の輝きは、人々がその騎士達へと思い願った尊い光。

 

 それは大神の忘れ形見、己が持つ機能を全て攻撃に転じた一投。

 残る全ての戦乙女達の全機能全身全霊をかけた光の槍投。

 

 令呪による強化。

 盾が掲げようとする理想の城、夢想の城が未だ完璧でなくても、

 彼女へ込める思いが、その穴を埋める。

 

 

 スルトの炎の剣、凄まじく。

 熱量、温度、殺意、密度————ありとあらゆる項目で極大。

 星がスルトに神代を終わらせるために与えた神造兵器。

 それを氷炎の巨人王が振るとどんな厄災となるのか————全ては死ぬ。

 

 

 一つ、誤算があるとすれば、

 霊基外骨骼(オルテナウス)による宝具の連続展開。

 令呪を乗せたことによる負荷の上昇。

 クールダウンが必要、しかしそんなことをいっている状況ではない。

 故に、オーバーヒート。

 

 

 

 

  クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

                                       」

 

 

 

 

 炎が、光の槍を飲み込み喰らう。

 炎が、打ち立てられた城壁を泥と溶かしあらゆる防りを灰燼とする。

 

 炎が、その刀を振ろうとする鍛治匠へと襲い掛かり————

 

 

 

『ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!』

 

 

 

 炎が、全てを、飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

  ハハハハハハハハハハハ!! 燃えたか!! 燃えたか!! よく燃えた!!!

                                       」

 

 

 

 スルトの高笑いだけが、冬の世界に木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

「    、    、    、        、       !!」

 

 

「        !    、         !

        !?    、      、         !!」

 

 

 

「さっさと起きなさいッッッッッ!!!」

 

 

▷ □ 「ぉぐぅぅぅーーーーー!?!?」 □ ◁

 

 

()()()()()()()()()

 まだ終わってないわよ!」

 

 

 オフェリアのビンタ()で、飛んでいた意識を取り戻したカルデアのマスター。

 

 

▷ □ 「みんなは!?」 □ ◁

 

 

「ぐ…………く………………負けない、負けない…………私は、負けちゃ、…………!」

 

 

 彼女が、立つ。

 

 己の意思で、戦場に再び立つ。

 盾を携えながら、苦痛をこらえ、歯を食いしばり、煙を上げる身体を奮い立たせ、

 

 

「まだ…………まだ、戦えます! マスター! オフェリアさん!!

 マシュ・キリエライト! まだ、…………ぐっ! …………戦えますっ!!」

 

 

 決して諦めない!

 絶対に————立ち上がる!!

 

 

 戦乙女達は大部分が炎に飲まれ散っていった。

 残るはもう、両手で数えられるほどしかいない。

 

 

 

「————なンで、だ!?

 なンでだ、オルトリンデ!?」

 

 

 炎に飲み込まれた村正を、一人の戦乙女が救い出した。

 

 だが、村正の両腕と右足の膝から下が燃え尽きた。

 スルトの宝具による炎により存在が停止(焼失)させられた。

 

 だけど、彼を救い出した戦乙女の身体の損傷はそんな比ではなく…………

 

 

「…………だって、」

 

 

 そう言って、彼女は、

 

 

「村正、私を助けてくれた。

 だから、今度は私が、村正を助ける番」

 

 

 その長い生で、最初で最後の、心からの笑顔を彼に見せ、光に包まれ旅立っていった。

 

 

 

 

「スルト…………テメェェェェェェェ……………………!!!」

 

 

 

 

▷ □ 「村正さんの刀は!?」 □ ◁ 

  □ 「刀はどこ!?」    □  

 

 

「あの剣は!?

 下に落ちたのかしら————!?」

 

 

 ここは空中の戦場。

 スカサハ=スカディのルーンで地上と同じように戦えているが、

 その手から離れたものは重力に従い自由落下する。

 

 

「先輩、上です!!」

 

 

  □ 「見つけた!」 □  

▷ □ 「取れる!!」 □ ◁ 

 

 

 諦める者など、どこにもない。

 スルトの体躯には、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ならば、

 まだ残っているはず。

 

 自分達が作り上げたスルト撃破への道は、まだ潰えていない!

 

 

▷ □ 「よし取れた!!」 □ ◁ 

 

 

 回転しながら落下する刀を取るという離れ業。

 本人は無我夢中で気付くよりもなかったが、五指全てが切り落とされても仕方なかった。

 

 

 

  オレは! 今! 実に! 爽快な気分だ!!

  オレの痛みが! 熱を喚んだ!! オレの怒りが! 熱を喚んだ!!

  オマエたち塵芥どもが! 熱を喚んだのだ!!

  まだいける! まだいけるとも!! もっと熱を!! さらなる熱を!!

  炎を!! 炎を寄越せ! 塵芥!! キサマらの生きる意味はオレの薪となること!

  炎を!! 炎よ呼び寄越せ!! 灰燼すらも残さず! 全て燃やし尽くしてやろう!!

                                          」

 

 

 

  □ 「この刀を村正さんに渡せば————!」      □   

▷ □ 「覚えてる、村正さんがあの城を斬った時のこと!」 □ ◁

  □ 「他に手はないか、何か他の手は————!!」   □

 

 

 スルトの宝具で両腕を消失させられた村正。

 口一つでも刀を握りスルトを斬る気だが、そのようなことスルトが許すはずもない。

 

 己で村正の刀を握ったカルデアのマスター、?

 

 

 

▷ □ 「って、あれ…………?」 ■ ◀  

 

 

 

 刀が、? 手の内で脈打つ、? ?

 

 

 

▷ □ 「なんだ…………、これ…………?」 ■ ◀  

 

 

    

「先輩————?

 先輩! 一体どうしたんですか!?」

 

 

 

▷ □ 「、熱い…………!!」 ■ ◀  

 

 

 

 声が聞ける、誰かが話している、自分が話している。

 何かが見える? 景色が見える? 誰かが見える? 何かが見える?

 

 誰かが見える、何かが見える、どこかが見える、ここが見える、

 

 

 

▷ □ 「頭が…………!? 胸が…………!? 手が…………!?」 ■ ◀  

 

 

 

 ()()()()()調()()()

 ()()()()()()()()

 

 

 

 神剣接続 神武降臨 霊基上書 体再構成 英霊剣基 対魔騎乗

 

 武神剣神 神剣一如 白鳥変化 獰猛剛勇 耐毒耐性 無刀無転

 

 武雷合一 現人神在 人理継続 宿業斬断 性別変換 快刀強盗

 

 雷刀喚神 赤心丸橋 天元突破 入水凪面 西征東征 一刀無頼

 

 日本無双 神殺神断 切落合打 万理卍抜 断葵村正 超空草薙

 

 

 

 そして、()()()()()

 

 

 

  □ 「僕は、誰…………?」   ■ 

 

  □ 「私は、誰…………?」   ■   

 

  □ 「俺は、誰…………?」   ■   

 

  □ 「あたしは、誰…………?」 ■   

 

 

 

▶ ■ 「違う…………っ」 ■ ◀

 

 

 

  ■ 「()、…………だ」   ■ 

 

  ■ 「()、…………だ」   ■   

 

  ■ 「()、…………だ」   ■   

 

  ■ 「(あたし)、…………だ」   ■   

 

 

 

 

「…………何よ、これ…………!?」

 

 

 その変貌にいち早く気付いたのは、最も近い場所にいる魔術師のオフェリア。

 変化している、いや、単純な変化という言葉で片付けていいものなのだろうか?

 

 ありえない、ありえない。

 遷延の魔眼が見せる可能性が、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない!

 こんなこと、起こっていいはずがない!

 

 

 けれど、一つ、この事象の変化を説明できる言葉は一つしかない。

 

 

 

 

「貴方…………()()()()()()()()だったの!?」

 

 

 

 

「え…………?」

 

 

 二十に遠く及ばなかった回路本数が今はどうだ。

 三十四十を超え、いや、この数え方は正しいのだろうか?

 

 メビウスの輪のように曲がりくねって回路網が構築され、それが動的に変化している。

 それはまるで三次元空間を通過する四次元超立方体のよう。

 

 現代魔術ではこんなデタラメな回路は存在しないし、数えることすら困難。

 

 こんなものは、神代か超古代、加え、()()()()でなければ説明ができない。

 

 

「先、輩…………?」

 

 

 分かる、オフェリアの言っていることが分かる。

 霊圧が違う、何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正真正銘さっきまでただの一般人だった自分のマスターは、人間が持つレベルを超えて、英霊クラスへと至っている————それも、かなり高位の存在!

 

 どうして自分はこの人を先輩と呼んだのか。

 敬意に、値する人だから————果たしてそれだけだったのだろうか?

 もしかしてそれは、()()()()()()宿()()()()()()()ことを無意識に感じ取っていたのではないか?

 

 

「ああ、そうか、なるほどそういうことか」

 

 

 誰も理解できない話が勝手に進んでいる中、

 ()()()()()を知り、()()()()()()であるが故に、村正、全てを悟る。

 どっかりを腰を下ろす————後は全て託したといわんばかりに。

 

 

「おめぇさん、()()()()()()()()()()ンだよな。

 つまり、こう言いてぇんだろ?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そういう話か」

 

 

 カルデアのマスターの剣を握るその姿が、英霊のそれとなる。

 

 

「嬉しいねぇ。

 こう言ってくれてるわけだろ、

 ————()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()、ってな。

 まさか、日ノ本の武神サマからお墨付きをもらえるなンて思わなかったぜ」

 

 

 

 そして、

 

 ————構える。

 

 

 

「後は頼ンだぜ、()()()()()()!!」

 

 

 

 その者————、

 ()()()()敵の宴に忍び込みその首長達を殺害し乱を平定した。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 旅の最中————、

 ()()()()()()が旅人に危害を加えているのを見つけこれを殺害、水陸の経を開く。

 つまり、()()()()()()()

 

 

 その英雄譚、

 神剣によって九死に一生を得るも、その神剣を手放したことで命を失ってしまう。

『嬢子の、床の辺に、我が置きし、つるきの大刀、その剣はや』と歌い、死してしまう(全て失う)

 

 

 この英霊、

 ()()()()()()()()()が故に、()()()()()()()()()()()()

 

 しかも、

 ()()()()()()()()()()がために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 力、スキル、記憶、技術、兵装、肉体、何一つない()()()()()()()()()()と同じ。

 

 ところが、

 ()()()()()()()()()()()()()()()が故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()は低ランクながらも()()()()()()()()となる。

 つまり、一般人としてでも()()()()()()()は使用可能。

 

 そして、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()————

 ()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()となる。

 

 

 その者、獰猛なる剛勇を誇るだけでない。

 日ノ本最強の武神にして雷神武甕雷(タケミカヅチ)より伝えられた無数の剣技を持つだけにとどまらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その英霊が手にしている刀こそ、千子村正が鍛えに鍛えた秘の一刀、銘を()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ。

 

 その剣こそ、天叢雲剣。

 この英雄が成し遂げた剣業により、()()()と呼ばれるに至る剣であり、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ここに、失った神剣と英雄が長い時を経て邂逅を果たす。

 

 

 

 

 その身体が、真白い光に包まれ、

 

 黒の極地用カルデア制服が、

 

 日ノ本最古の剣の英霊が着るべき純白の戦衣へと変貌する。

 

 

 

 最後のセイバー、ヤマトタケル、降臨。

 

 

 

 その圧! その剣気! 雷を纏いながらに立つ威風!

 

 宮本武蔵にも迫ろうかという剣勢! 戦友より借り受けた神剣が闘志に煌く!

 

 

 

 その神剣を掲げ、

 

 ——————言い放つ。

 

 

 

 

 

▶ ■ 「こいよ、スルト」 ■ ◀ 

 

 

 

▶ ■ 「お前に————、」 ■ ◀ 

 

 

 

▶ ■ 「本当の剣の振り方ってやつを教えてやる」 ■ ◀ 

 

 

 

 

 

 

  小癪! 猪口才!! よくほざく!! その熱!! オレが燃やそうか!!

  神の血あれば! 神とでもぬかすつもりか!! その神性ゴミカス未満!!

  オレの前に! 神もどきとして立つ愚劣愚臭!! 燃やせば只のカスか!!

  熱熱熱熱熱!! オレが!! 全て!! 平らげてやろうッッツツツツ!!

 

  星よ終われ! 灰燼と化せ!! ただひたすらに燃えろオオオオオ!!!!

                                     」

 

 

 

 

  ■ 最後の令呪を使う! ■ 

  ■ 最後の令呪を使う! ■  

▶ ■ 最後の令呪を使う! ■ ◀ 

 

 

 

  ■ 「令呪を以って我が身に命ずる! スルトを斬り滅ぼせ!」 ■ 

  ■ 「マシュ! スルトの宝具を今度こそ耐えてくれ!」    ■  

▶ ■ 「もう一度最高の夢を見せてくれ、ナポレオン!」     ■ ◀ 

  ■ 「行くぞ、マシュ! 必殺のツープラトン合体攻撃だ!」  ■  

 

 

 

 

「せ、先輩、一体何を!?」

 

 

「————えっ!?」

 

 

 ナポレオンがかけた虹の橋は未だ消えていない。

 もはや虹なのか色のついた霧なのか、消滅したのか、していないのかという有様。

 

 加え、スルトが暴焔を撒き散らす影響で、虹は刻一刻と色を失っていた。

 

 

 しかし、マスターには、感じられるはず。

 その快男児、未だこの世界を離れていないのだと。

 際の際にかじりついている状況に違いないが、未だ、いる。

 

 仲間の行く末を気にしているのか、惚れた女を一秒でも長く見ていたいのか、

 それは分からずとも、

 

 令呪が輝く!

 もう一度、もう一度だけ、存在が消える直前だった虹が七色を取り戻す。

 

 

 ナポレオン・ボナパルトは、

 人の想いに応える英雄である。

 この世界に来たのは、オフェリア・ファムルソローネの願いを叶えるため。

 

 

 想いを寄せられ、想いを叶える、それがナポレオンをいう英霊の在り方。

 

 

 ならば、()()()()()()にとっては、何だったのか?

 

 

 彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 願いに応え、期待に応える。

 そしてどこまでもどこまでも昇っていく。

 彼が叶えてくれる夢を、可能性を、もっともっと見てみたい。

 自分のこの夢を共に叶えてくれないかと願いたいから。

 

 どこまでもどこまでも、戦友たちは集まった。

 

 

 

 だから、見る。

 

 その夢を、見る。

 

 その宝具は人の想いを叶えるものであり、

 人の可能性を見せるものであり————共に戦う仲間に最高の夢を見せるもの。

 

 

 

「——————あ………………」

 

 

 

 それは七色の虹の可能性がほんのわずかに見せた、彼女の可能性の一つ。

 

 人理の守護者としてある自分のマスターと、

 誰よりも近い場所に立ち、盾を携える自分の姿。

 

 しかし、これはほんの一瞬のこと。

 ナポレオンが見せてくれる可能性は、無限に輝いているのだから。

 

 

 

私は、その輝きが失うさまを視ない(Ich will es nie verlieren sehen)っっ!!」 

 

 

 

 彼女が遷延する、彼が見せてくれる彼女の夢の一欠片が消えてしまうのを留める。

 

 

 それは模範解答から途中の計算式を逆算するようなもの、

 いや、未来の英霊化した自分の盾から、己が進むべき未来を決めるようなことか。

 

 

 

「………………そう、だったんだ………………!」

 

 

 

 これは、

 

 彼女が進むかもしれない、未来の可能性の一つ。

 

 

 

 

「悠久の時の中、永遠に輝き続ける夢想の城、理想の白亜。

 

 集まり語らい、戦い歌い、笑いて泣いて、されどここにあるは永久不変の我らの家。

 

 誓いをここに、

 我らカルデア、この光輝なり不壊の壁となり人々を守る城となる。

 

 絆をここに、

 我らカルデア、数多の英霊と共に遍く果てまで人々を護る城となろう!

 

 決意をここに!

 我らカルデア、この誓いと絆を以って人理を守護する城とならん!!」

 

 

 

 

 

 スルトの炎剣と、

 

 その()が————!

 

 

 

 

 

  ————————『太陽を超えて輝け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)』ッッッッッッ!!!!!!!

                                      」

 

 

 

 

 

「————————『人理よ、久遠の城と永遠へいけ(カルデアス・キャメロット)』————————ッッ!!」

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う! 熱と城壁、殺意と決意!

 

 霊基外骨骼(オルテナウス)を分離・射出させ、打ち立てるのは理想の城、人理の城。

 

 

 熱が、熱が、熱が、炎が!!

 

 傷はある、武蔵に付けられた傷、ルーン強化刀による無数の傷、右腕の切断及び作成による消耗、村正による武蔵の一刀! スルーズとヒルドの特攻! 大量の血が流れ続けている!

 

 

 だが、スルトの炎こそは!

 もはや太陽すらも超えようかという炎!

 その炎が! 熱が! 生命への絶対命令権を振りかざしながらに襲いかかる!!

 

 

  ウウウウウウウイイイイイイイイイィィィィィィィィィィヤヤヤヤヤヤヤヤヤ!!

                                       」

 

 

 もっとその巨人は炎を要求する!!

 もっともっともっとだもっとと!

 世界の終焉、神代の終わり。

 無味乾燥なそんな目標よりも!

 

 この熱を! この炎を!! もっともっと喰らって燃えたいのだと狂いながらに炎を喚ぶ!

 

 

 

「ぐぐゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーー!!!」

 

 

 その盾が築き上げる城は理想の城、想いの城。

 人理と共にある守護者たる英霊達の憩いの場、再会の地。

 

 ()()()()()()()()()こそが、彼女が辿り着いた、絶対不倒の守り手としての答え!

 

 

 

「負けない————、負けません…………!

 私は————ぐ、ぐ、ぐ、ぐ——————でも、でもっ!!!」

 

 

 

 炎が城を焼く。

 ありとあらゆるところを。

 

 この炎とは、世界を、そして生命を、終わらせる炎。

 

 

 

 

  何故だ!? 何故!? オマエは!? これほどまでに()()()()()!?

                                   」

 

 

 

 

 スルトは知るよりもないが、マシュの掲げる盾こそは人理滅却した炎すらも耐え抜いた。

 

 倒れない、もし倒れても何度でも立ち上がればいい。

 

 諦めない、私が諦めてしまったら全てが終わってしまうのだから。

 

 

 

 

 終わらない、そう、終わらない!

 

 この決意は、どんな宝具でも燃やすことはできない!

 

 

 

 人理は滅びない!

 

 その守り手達が何度でも何度でも修復する。

 

 その気高き在り方こそが、最強の盾。

 

 

 

 そして、滅んではならない。

 

 いつかこの星や太陽が消滅する日が来ようとも、

 

 地球という青い惑星に誕生した人という生物種が、

 

 出会い、笑い、助け、教え、導き、愛し、産み、育て、

 

 憎み、罵り、蔑み、戦い、裏切り、殺し————それでも、

 

 手を取り合って、懸命に生きたことは、永遠に伝えなければいけないのだから!

 

 

 

「だって、そうじゃないですか————!!

 です、よね、先輩————っ!!??」

 

 

 

 護り手とは、常に誰かを庇いながら戦う。

 人理、汎人類史、少女が背負うには重すぎるのかもしれない。

 

 

 だが今は、

 

 己の()()()()()が、自分の後ろにいる。

 

 スルトはオフェリアを殺さないだろうから、という理屈は彼女には通じない。

 

 

 

「私の、大好きな、先輩も…………っ!

 

 私の、大切な、オフェリアさん(友達)も…………っっ!!

 

 傷つけ、させません————、何一つ、何一つッッ! だって、だって私は!!

 

 この炎を全て防いでみせますと!! この盾に誓ったんですっっ!!」

 

 

 

 だから、守る。

 

 だから、護る。

 

 大切な二人を、必ずこの盾で守り抜く!

 

 

 

「——————うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」

 

 

 

 城は、崩れない。

 炎を浴び、巻き起こった暴炎嵐に何度も襲われようとも、崩れない!

 

 

 

「負けちゃ、いけないんです——————!!

 

 今を終わらせることしか考えてないあなたに、

 

 明日をつかもうとする私たちは、絶対負けちゃいけないんですッッ!!」

 

 

 

 だから負けない。

 

 だから倒れない。

 

 だから————————!

 

 

 

「ダメ、()()()()!!

 スルトの宝具を、ここまで耐え切ってるのは奇跡に近いけど、でも、足りない!!」

 

 

 

「ぐぐぐぅぅぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥゥゥウウウウウッッッ!!!」

 

 

 彼女が選んだのは、カルデアという城。

 

 

 だが、カルデアとは、人理を()()()()()()()()()()()

 

 

 

霊基外骨骼(オルテナウス)、兵装展開! ()()()()!!」

 

 

 

 彼女から弾け飛んだ外骨骼が、変異変形、集結。

 

 右肩から右腕全部にかけて装着され組み上げられたそれは、()()()()()()()

 

 

 

「剣よ、ここに!

 

 其は、岩に刺さりし選定の剣、

 

 最も気高き王に抜かれ、我らが円卓に集いし始まりの剣。

 

 剣よ、ここに!

 

 其は、泉の乙女より授かりし黄金の剣、

 

 最も勇壮なる王の手により、我らに約束された勝利を賜る願いの光。

 

 剣よ、ここに!

 

 其は、人理と共にある守護の剣!

 

 最も久遠なる人々のため、我らの敵へと振り下ろされる理想の刃!!」

 

 

 

 そしてできたのは、一つの()

 

 魔力が収縮する。

 

 城を展開しながらも、その砲口の内へ、尋常ではない量と密度の魔力が集められていく!

 

 

 

 光が、集約し、その真名が紡がれる!!

 

 

 

「————————『剣よ、人理の敵を討ち滅ぼせ(オルテナウス・エクスカリバー)』————————っ!!」

 

 

 

 人理の中で最も高貴なる願いの名を掲げる極太の光条は、一直線にスルトの炎へと直撃!

 

 

 

  ガァッァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!

                                      」

 

 

 

 ()()

 ()()()()!!

 

 選んだのがカルデアという在り方。

 カルデアとは、()()()()()存在であり、()()()()()()()()()()()()()()存在。

 

 だからこそ、ギャラハッドではない己の戦闘スタイルを追い求めた彼女は、

 守るだけではなく、()()()()()()()()()のだ。

 

 

 この盾の英霊が持つ宝具は、一つではなく二つ!

 その二つの宝具が、スルトの炎界とぶつかり合う!!

 

 

「そうか! あの砲撃はこの城と呼応している!!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のね!

 盾で受け止めた力を、砲で飛ばす!

 スルトの宝具は全方位、一ミリも隙がない。

 だからこそ、()()()の魔力が生成され、砲撃となっている!

 でも、変換にも受け止めるのにも、()()()()()

 それを超えられては————!!」 

 

 

 

 

 だが、

 

 相手は、スルト。

 

 

 

 

              虚無へと燃え尽きろ!!!

                                      」

 

 

 

 

 最大の、超特大の炎が、

 

 砲撃と、城とぶつかって、

 

 あらゆるものを炎へと飲み込んで、

 

 臨界点が、突破され

 

 

 

 

 

「————私は、友の輝きが失うさまを決して許さない(Ich möchte nie meinen Freund Verlust sehen)ッッ!!!」

 

 

 

 

 

「オフェリアさんっ!!」

 

 

「ーーーーーーぅぅううううううううううううううううううう!!!!」

 

 

 崩壊が留まる、留められる。

 焼け落ち始めた城、炎の海へと消えかけた砲。

 

 訪れるはずだった()()()()()()()()が留められ、その未来が到来するのが留められる!

 

 

()()()()()()()()()()()()()()…………ッッッ!!」

 

 

 まだ立ち続ける、人理の敵の攻撃で朽ち果てまいと。

 まだ発射できる、人理の敵を滅ぼすための攻撃を。

 

 

 

 

 その時、

 

 ようやく初めて、

 

 ——————()()()()

 

 

 

 神剣を手に持つ剣の英霊が、

 

 その刃の中へ、己の内へ、奥へ奥へと埋没する。

 

 この刃が断ち斬るべき、あらゆる非業、罪業、宿業、全ての悲哀の、その源へ、

 

 其処を斬る(終わらせる)ためにこそ、我が刀、我が術技、我が存在が、あるのだから。

 

 

 

 

▶ ■ 「かつて求めた究極の一刀  ■ ◀ 

▶ ■  今なお求める究極の一刀」 ■ ◀

 

 

 

 この身は見てきた。

 ありとあらゆる時代の、あらゆる英霊達を、その剣を、見た。

 

 

 

▶ ■ 「其は、肉を断ち骨を断ち命を絶つ鋼の刃にあらず  ■ ◀ 

▶ ■  其は、魂を断ち魄を断ち命を絶つ戦の刃にあらず」 ■ ◀ 

 

 

 

 聖女を見た、そして、魔女を見た。

 己を破滅へと追い込んだ人々を、守る彼女と殺す彼女。

 彼女の勇気と、彼女の憎悪————。

 その腰にある剣の重みを、忘れてはならない。

 

 

 

▶ ■ 「我が業が求めるは怨恨の清算    ■ ◀ 

▶ ■  我らが業が求めるは遥か貴き理想」 ■ ◀

 

 

 

 皇帝を見た。

 我儘で自分勝手、美と芸術が何よりも大好き。

 黄金のように明るく、マグマのように情熱的。

 その帝政がどのようなものであれ、まさにその剣の如く、

 星すらも知り得ないような、希望と共に笑う。

 

 

 

▶ ■ 「縁を切り、定めを切り、業を切る    ■ ◀ 

▶ ■  争いを切り、戦いを切り、修羅を切る」 ■ ◀

 

 

 

 航海士を見た。

 仲間と、冒険と、宴と、強敵と、財宝。

 重責に押し潰されそうな旅の中にあって、

 その船にいる時だけは、その重みを忘れることができた。

 あの強敵の見せた剣技、あの輝きこそが、剣士が目指すべき剣という可能性。

 

 

 

▶ ■ 「————即ち。宿業からの解放なり  ■ ◀ 

▶ ■  ————即ち、戦乱からの解放なり」 ■ ◀

 

 

 

 叛逆の騎士を見た、人々から恐れられし怪物達を見た。

 その友情ははたから見たら不思議かもしれないけれど、とても暖かかった。

 ただしその剣、赤雷を纏う太刀筋は、武の本質の一側面。

 ただ強く、ただ勝利する、その在り方こそが、剛の大剣。

 

 

 

 

  何だ!? これは!!?? 何が!? どうなっている!!??

  ()()()()()()()!? 俺の炎! 俺の宝具! 俺の終焉!! 俺が()()()()だと!?

 

  塵芥! 何をしたァ!? ゴミムシ! 何をしたァァ!? 肉袋! 何をしたァァァ!?

  何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ!!??

 

  我が焔こそは神々を殺すもの!! なぜ!? 神もどきのオマエに御されるのだ!?!?

 

  オレが吸われていくだとォォォォ!? そんな事象は!? 存在しないはず!!!??

                                           」 

 

 

 

 

▶ ■ 「…………其処に至るは数多の研鑽  ■ ◀ 

▶ ■  …………其処に至るは数多の戦火」 ■ ◀

 

 

 

 狂戦士を見た、そして、癒し手を見た。

 対照的な在り方な二人、しかし、その信念は剣のように真っ直ぐ。

 何があっても戦い続けるものと、何があっても癒し続けるもの。

 たった一人で戦争を構築するものと、たった一人で戦争を根絶するもの。

 二人が共にある世界は、果たして存在するのだろうか?

 

 

 

▶ ■ 「千の刀、万の刀を象り、築きに築いた刀塚    ■ ◀ 

▶ ■  千の刀、万の刀を象り、築きに築いた屍山血河」 ■ ◀

 

 

 

 騎士達を見た、そして、その王を見た。

 王の掲げた理想は、やっぱりどこか歪で、賛成できないけど、

 ただ王のため、王の理想のため、王が庇護する民のため、何よりもただ王のため。

 王へと誓う絶対の忠誠、決して崩れることも揺らぐこともない剣、

 彼らこそが、騎士と、呼ばれるに相応しい人達だった。

 

 

 

▶ ■ 「此処に辿るはあらゆる収斂  ■ ◀ 

▶ ■  此処に辿るはあらゆる聚斂」 ■ ◀

 

 

 

 王を見た、その民を見た。

 聡明で傲慢、傍若無人で理路整然、賢いのか暴君なのか。

 どんな窮地にも、常にその思考と判断は正しく的確だった。

 世界を手にした王の一番輝かしい財宝は、その民だった。

 絶望にも下を向かない、明日のために今日を精一杯。

 そんな人々の暮らしと笑顔を守るために、剣は、作られたはず。

 

 

 

▶ ■ 「此処に示すはあらゆる宿願  ■ ◀ 

▶ ■  此処に示すはあらゆる理想」 ■ ◀

 

 

 

 英雄達を見た。

 人々の未来を掴むために、人々が明日を生きるために。

 数多の時代から、この旅を助けてくれた、あらゆる英霊達が集まってくれた。

 かつての怨敵と肩を並べて武器を揃え、己を殺した相手に肩を貸して助け合う、

 みんながいたから勝つことができた、みんなと一緒だったから乗り越えることができた。

 その恩は、まだ、返しきれてない。

 

 

 

▶ ■ 「此処に積もるはあらゆる非業————  ■ ◀ 

▶ ■  此処に積もるはあらゆる悲哀————」 ■ ◀

 

 

 

 あの人を、見た。

 伝えなきゃいけないことなんて、何一つ、伝えられなかった。

 言わなきゃいけないことなんて、全然、言えなかった。

 後に続く者達を信じ、笑って、全てを手放し、あの人は逝ってしまった。

 その心に報いるために、その決断に恥じないために、歩いて、いかなきゃいけない。

 

 

 

▶ ■ 「我が人生の全ては、この一振りに至るために  ■ ◀ 

▶ ■  我らが生の全ては、この一振りを成すために」 ■ ◀

 

 

 

 彼女を見た、そして、彼を見た。

 

 天元を斬るその一刀は、何処までも高く昇っていく。

 彼女の剣は、人として到達できる極点すらも超えて、その花は咲き乱れる。

 

 正義の味方なんて、言っていいのは小学校低学年までだと思ってたけど、

 それなのに、あの人がその言葉を言うと、とてつもなくカッコよく聞こえた。

 彼の剣が断ち斬った後には、あらゆる悲しみから解き放たれた世界が待っている。

 

 

 

 

  コ、カッ、ハ、キュ、プ、ア、ゴ……………………!?

 

  何だ、何が、起きている………………!?

 

  炎剣だけでなく、オレも、オレすら炎も、すオレが、吸われ炎がてくい…………!?

                                         」

 

 

 

「紀に曰く!

 その()()はな、()()()()()()に遭遇した神剣が、するりと抜け出て()()()()()()()()()()()って代物だ。

 だからこそ、()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()が、()()()()()()()()()()()()()()だけ————その()()こそが、()()

 

 テメェがどれだけモノ燃やしてぇか知らねぇが…………、()()()()()()

 

 それ以上に! (ワシ)ら日ノ本の民は! ()()()()()()()()()()()()()()()()()を憎み!

 斬り払われた後の世界! 即ち! ()()()()()()()()()()平和(草薙)がずっと続くようにと! その神剣へ何千年も願いをかけ続けてるンだよッ!

 

 つまり、分るか? ————()()()()()()()、スルト」

 

 

 

 

 

 終わるは神呪、始まるは神楽。

 

 剣の担い手は、一人、内なる二つを重ねて神剣へと宿す。

 

 残すは一つ、成すべきは一つ、その唯一つだけの神行こそ————ッ!!

 

 

 

 

▶ ■ 「剣の鼓動、此処にあり————!  ■ ◀ 

▶ ■  剣の心魂、此処にあり————!」 ■ ◀

 

 

 

 

 彼女という剣の辿り着いた答えこそ、()()を斬ることができる術技。

 

 彼という剣が追い求める刃こそ、()()を断ち斬ることができる刀剣。

 

 

 

 人域を超えた二つの剣、それを()()()()()にて一つとし!

 

 ()()()()()()()()()終わらせる(斬り捨てる)、ただ一刀の神威を成さん!!

 

 

 

 

▶ ■ 「くらえ、」 ■ ◀ 

 

 

 

 神剣の切先が、天を差し、

 

 

 

▶ ■ 「これが、(オレ)達の、」 ■ ◀ 

 

 

 

 無念無想の更なる先、空の彼方の果てなる上が剣を運ぶ。

 

 

 

 

▶ ■ 「『都牟刈(ツムカリ)村正(ムラマサ)』、重ねて————っ!」 ■ ◀ 

 

 

 

 

 定めるは()()、己が斬らねばならぬ()()へ! 悲しみを永遠(とわ)に終わらせるために!!

 

 

 

 

 

 

▶ ■ 「『都牟刈(ツムカリ)草薙(クサナギ)』だ——————ッッ!!」 ■ ◀ 

 

 

 

 

 

 

 三人の人神が鍛え極めた神武の一閃、

 

 

 天元すらも突破し、森羅万象の因果業源たるその   を断と斬鏖する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで、世界の時が止まっているようだった。

 

 それほどの速さの瞬斬。

 

 ありとあらゆる斬るべきもの全てを、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                    」

 

 

 

 真っ二つに両断されたスルトが、消えていく。

 

 断末魔の呟きすら許さないその一撃は、身動き一つすることすらも拒絶させる。

 

 

 

 光に消え去る氷焔の巨人王は、憤怒の表情を貼り付けたまま————、

 

 しかし、どこか満足げな顔をして、消えていった。

 

 

 

 

 

『…………終わったか。

 終わったか…………』

 

 

 スカサハ=スカディの声が響く。

 

 

『スルトの撃破、よくやってくれた。

 やつに殺された神々、散っていった我が娘達へ、良い報告ができる。

 礼を言う、カルデアのものよ。

 見事な、私ですら見たこともない、見事な一撃であった。

 …………ふむ、シャドウ=ボーダーとの通信はもうしばし戻らぬか』

 

 

「…………報告、ですか?

 それはどういう?」

 

 

『オフェリア、()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「えっ!?

 ど、どうやって!?

 ここからなら距離も、」

 

 

()()()()()()、そして、()()()()()()()()

 つまりは、この世界も、消えゆくということ。

 納得するしかあるまい、認めるしかあるまいて。

 あのような、法外すぎる、神ですら理解に苦しむ一刀を、見せつけられてはの。

 あらゆる災いを斬り捨てる一刀、いや、その元の元の、更なる元を、斬る、か?

 私ですら、その真価、理解できておらぬが、オフェリア、体に相違ないか?』

 

 

「体————?

 ……………………。

 ……………………じょ、冗談でしょう…………?」

 

 

「まさ、か…………」

 

 

『言ったであろう、スルトの撃破、よくやってくれた、と。

 さて、では私は失礼させてもらおう。

 この世界が消え去る最後の時まで、しばしはあろう。

 愛らしい我が子らと過ごすとしよう。

 ワルキューレ達よ、お主達は自由だ。

 これまでよく仕えてくれた、最後の時は各自好きにするが良い』

 

 

「…………」「…………」「…………」「…………」

 

 

『そうか、自由が分からぬか。

 ならば、子供らの元へ向かってくれぬか?

 スルトやら巨人やらで、怖い思いをしておろう。

 最後の時に、そのような恐怖を持たせないように頼むぞ』

 

 

「任務了解」「任務了解」「任務了解」「任務了解」

 

 

 生き残った最後の戦乙女達が、空を駆けていく。

 

 

「そンじゃ、喧嘩の決着は、次回へ持ち越しか」

 

 

『うむ。

 すまぬが、そなたをかまってやれる時間がない。

 次あらば、ふふ、茶の一つでも入れてやろう』

 

 

「————時間、か。

 ()()()()()()()()()()()()()()、な…………」

 

 

『オフェリア、最後に、こちらを向いてくれぬか?』

 

 

「え? ————」

 

 

『ふむ、()()()()()()()()

 もはや何も心配することはない、そのまま、行くがよい。

 では、壮健でな』

 

 

 そして、彼女も去っていく。

 

 

「よお、やるじゃねぇか、正義の味方」

 

 

▶ ■ 「刀、ありがとうございました」 ■ ◀  

  ■ 「刀、壊しちゃってすいません」 ■    

 

 

「ははっ、我ながら見事な壊れっぷりだ。

 おめぇに壊してもらえるなんざ、刀打ちとして最高の報酬だ。

 次はよ、()()()()()()()()()()()を鍛えてやるよ」

 

 

  ■ 「またみんなで一緒に、」   ■  

▶ ■ 「正義の味方、やりましょう」 ■ ◀   

 

 

「言うねぇ。

 …………っと、時間か」

 

 

『シーーーーーーーーーーーーーーローーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 

「ごめん、イリヤ、オレもう消える」

 

 

『あーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 

「小言は全部まとめて後で聞くから。

 じゃあな」

 

 

『うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 シロウのバカ!! もう知らない!!!!』

 

 

「…………え、消滅??」

 

 

「なンで、…………だ??」

 

 

「それは私達に聞かれましても…………」

 

 

「細けぇことは、置いとくか。

 今度こそ、そンじゃ、」

 

 

「ごめんなさい! 最後に一つ、答えて、くれ、ますか?」

 

 

「————ん?」

 

 

「その人は、どう、なったのですか?

 どんな、結末、を迎えたのですか?

 どんな最後、だったのですか…………?」

 

 

「ああ、()()()か。

 

 ——————()()()()()、」

 

 

「えっ、星? ま、まさか…………()、を…………!!?」

 

 

「って、()をどっかで聞いたな。

 

 案外そこらへんでやってるんじゃないか? 正ー義の味方」

 

 

 青年は、一人一人へ笑いかけ、光の中へ消えていった。

 

 

 そして、三人が残る。

 

 

「って先輩ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??

 ()()は一体どういうことかとですかーーーーーー!?」

 

 

  ■ 「自分自身、」      ■  

▶ ■ 「何が何やらさっぱりで」 ■ ◀   

 

 

「ダヴィンチより前に召喚された第一号、恐らくそれが貴方じゃないかしら?

 思うに、」

 

 

「思うに?」

 

 

▶ ■ 「思うに?」 ■ ◀   

 

 

「貴方、ヤマトタケルの子孫なのよ。

 召喚の触媒は、あなた自身の血とあの神剣、その両方でしょうね」

 

 

「? でもあの剣は村正さんのでは?」

 

 

「なんていったかしら、源平合戦、だったわね。

 それで草薙剣が沈んだんでしょう? 壇ノ浦?

 本物じゃなくて、レプリカが。

 でも日本神道だと、レプリカにも()入れる(宿す)から()()()()()()()()()()()()、かしら?

 とにかく、龍神の元へ帰ったとか、星へ還元されたとか、諸説あるけど…………。

 ひきあげたんじゃない? 海か、どっかから」

 

 

「あ! それなら、ヤマトタケルを召喚しても、神剣は、ある…………!?」

 

 

「ええ。

 一石二鳥ね。

 ところが、事故があった。

 きっと、召喚の余波で草薙剣が粉々に砕けたのね」

 

 

「ということは、先輩は、先輩のまま、ですが、

 実は体内にヤマトタケルがきちんと召喚されていた、と?」

 

 

「貴方は、最大の成功例であると同時に最悪の失敗例なのよ。

 草薙剣なんて、二本目を用意できるわけないじゃない?

 だから、記憶を消して元の生活へ戻した、監視付きでね。

 カルデアはマスター候補を探すため、広く人材を募ったでしょう?

 いるじゃない、どう調べても一般人のはずなのに、常時マークされてる凄い人間が一人」

 

 

「神剣がなければ何もない、しかしあれば…………」

 

 

「反則ね。

 スルトの炎とあなたの草薙が、相性が最高に良かったからというのもあるけど、

 一発よ、一発。

 武蔵の一撃が二回入って相当ダメージは入っていたけど、一撃は、ね。

 もしかしたら、無傷全開神霊クラスのスルトでも、あの一発なら殺してた可能性は十分ある」

 

 

「先パーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!

 先パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!

 先パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!」

 

 

  ■ 「そんな目で見ないで!」      ■    

▶ ■ 「いつものマシュ、カムバーック!」 □ ◁

 

 

  ■ 「それにそろそろ、」 □    

▶ ■ 「時間みたい」    □ ◁

 

 

「戻る、時間ですよね?

 剣がなくなってしまったので。

 大丈夫なんでしょうか?」

 

 

「ええ、元の状態へ戻るだけだから、何も起こらないわ、()()()()()、クスッ。

 聞きたいことがあれば、聞いたら?

 ヤマトタケルとしての知識や記憶、それに能力はこの状態じゃないとないわよ」

 

 

「えええ!?

 先輩に、聞きたいこと、先輩に、言いたいこと、先輩に、教えてもらいたいこと、

 そもそも今の先輩は先輩なのか、ヤマトタケル先輩なのか、先輩ヤマトタケルなのか、

 ヤマトタケル、ヤマトタケル、それとも先ヤマトタケル輩、うぅうぅぅ!」

 

 

「あら、()()()()()()

 ふぅ〜ん、そう。

 

『先輩、抱いてもらってもいいですか!?』

 

 ですって」

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!」

 

 

  ■ 「!?!?!?」 □    

▶ ■ 「?!?!?!」 □ ◁

 

 

「否定しないのね、意外」

 

 

「その、言い方は…………!? まさか、オフェリアさん————!?」

 

 

「ええ、冗談。

 ごめんなさい、貴女達って付き合ってるのかしら、と思ってね。

 期待させてしまったなら、謝っておくわね」

 

 

「オーーーーーフェーーーーリーーーアーーーーさーーーーん!!」

 

 

「フフ、さて、ご一緒していいかしら?

 投降するわ」

 

 

「そうやって話題を逸らすんですか!!」

 

 

「でも悪いわね、私から話すことは何一つないと思うけど…………。

 それでも、受け入れてくれる?」

 

 

▶ ■ 「分かりました」           □ ◁  

  □ 「さっき見えた可能性について是非!」 □ 

 

 

「そんなごまかしに、私は————、ゔっ、ッッ!!??」

 

 

「マシュ!?」

 

 

「へ、平気です…………あたたたた。

 何やらいっぱい無理しすぎていたのが、いたたた、全部いっぺんに来たみたいです…………」

 

 

「大丈夫?

 ほら、肩貸すから」

 

 

「ううう、ありがとうござい————って、オフェリアさーーーーーーーーん!!??」

 

 

「近い、大きい。

 流石の私でもうるさいと言うわよ?」

 

 

「血が! 血が出てます! 魔眼から!!

 

 

「ああ、これ?

 いつものことよ」

 

 

「それでも! 魔眼からそんな大量の血が出るのはまずいのでは!!?

 早くダヴィンチちゃんに見てもらわないと!」

 

 

「だから大丈夫だってば。

 流血なら、貴女が一番危ないでしょう?

 見すぎて、留めすぎると、こうなるの。

 魔眼使いの宿命よ。

 さ、まずは大地へ降りましょう」

 

 

「…………はい」

 

 

「ねえ、」

 

 

「はい?」

 

 

「………………。

 スルト、強かったわね」

 

 

「はい」

 

 

「………………。

 スルト、暑苦しかったわね」

 

 

「はい」

 

 

「………………。

 スルト、大きかったわね」

 

 

「はい」

 

 

「………………。

 私、ね、」

 

 

「はい?」

 

 

 

▷ □ (!? あだだだだだだだだァァァァァァアアア!?) □ ◁   

 

 

  □ (反動だ! 反動!! 完全に元に戻ったから、)   □    

  □ (反動が、いたいいたいたい! や、やば痛い!!)  □  

▷ □ (そりゃ一般人ではスルトは斬れませんですけど!?) □ ◁   

 

 

 

「あなたが…………その、ね…………。

 …………って、言ってくれて、…………」

 

 

「————?」

 

 

 

  □ 人間としての限界を超える痛みなので、誰かに担いでもらう  □   

▷ □ 二人の時間を邪魔したくないので、死ぬ気で堪える!!!!! □ ◁  

 

 

 

「…………私、すっごい嬉しかった…………」

 

 

「私が、何と、ですか?」

 

 

「だ、だからね、…………その、言ってくれたでしょ?

 

 私を、大切、な、と、と、とと———————……………………とも、だ、         

 

 

 

 

                            

                                         ち、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 役目を終えたことを悟った虹が、消えていく。

 

 

 

 ——————日曜日が嫌いだった少女は、もういない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(エピローグへ)

 

 

 

 



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エピローグ その者達は、

 

 

「————こうして、その旅人達は帰っていった。

 

 終わりを告げる巨人を倒し、本来ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 上書きされることも、漂白されることも、剪定されることも、無くなることもない。

 

 ()()()()()()()()()()へと、我らの世界を斬り飛ばし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」

「すげー!」「すげー!」「すごー!」「すごー!」「すげー!」「すげー!」「ごすー!」

 

「おひげだ! おひげさんがやったんだよ!」「おひげはないよ、だっておひげだもの!」

 

「さむらい? お姉ちゃんじゃないの! ブシドーってやつで!」

 

「ブシドー」「ブシドー」「ブシドー」「ブシドー」「ブシドー」「ブシドー」「ブシドー」

 

「くわっ!」「くわっ!」「くわっ!」「くわっ!」「くわっ!」「くわっ!」「くわっ!」

「くわわ!」「くわっっ!」「くクククわっ!」「くわっっぱ!」「くーぅわっ!」「わっ!」

 

 

 

 

 

「すごい…………! すごい、すごい、すごい! マシュさま、すごい!!

 

 そんなおっきくて怖いめらめら大っきいの、マシュさまたちが倒してくれたんだ!

 

 すごい! すごい! すごいよ!

 

 でも、

 

 ちゃんと、お礼、いいたかったな…………」

 

 

 

 

 

「その人たち、どうしたの?」「いまどうしてるの?」

 

 

 

「その者達か?

 

 ふふ、無論、救いに行った。

 

 我らの世界には、もう、脅威はない。

 

 しかし、苦しい運命にある世界は、他にもまだまだある。

 

 だから、旅立ったのだ。

 

 その世界の人々を、我らと同じように助けるため」

 

 

 

「おーーー!」「おーーー!」「おーーー!」「おーーー!」「おーーー!」「おーーー!」

 

「やっぱおひげだって!」「おひげなの!? おひげのじだい!?」「ないよ、おひげはない!」

「でもかっこいいよ」「それは、そうよね」「かっこいいよね」「ひげないほうがいいよ」

 

「みんな、おっきい丸もってるおねえちゃんのこといわないのへん!」「そうよ!」「そう!」

「きれいよ!」「びじんだもの!」「おっきいもの!」「でもさむらい!!」「さむぅらい」

 

「さむぅらい」「サムぅラァイ」「サムゥライ」

 

「あー、おひげごろくしてるー!」「またおひげー!」「くわっ!」「くわっ!」

 

 

 

「あ、あのね! ぼ、ぼく、あのひとが、めらめら、たおしてくれたと、おもう」

 

 

 

「だれ?」「だれ?」「おひげ?」「さむぅらい?」「ブシドー?」

 

 

 

「おひげでもなくて、くわっでもなくて、さむぅらいでもなくて、おおきいおねえちゃんでもなくて、………………その、さいごのひと」

 

 

 

 

「あーーーー! わたし知ってるもん! それはね、フォウちゃんっていうのよ!!」

「あー、見た見た見た!」「きゅうきゅう!」「きゅうきゅう!」「ふぉーぅ!」「ふぉー」

 

 

 

「うー、ちがうのに〜」

 

 

 

 

 

「あ! そうだ、そうじゃない!

 

 言える、ちゃんとマシュさまへ、お礼!

 

 マシュさまたちがこの世界にこれたなら、私だってマシュさまたちの世界へ行けるはず!

 

 そうして、みなさんに、一人一人、ちゃんと! お礼を言うの!

 

 決めた!

 

 どうすれば、できるのかは、わからないけど…………うん、それでも!!」

 

 

 

 

 

「おはなしー」「ききたいー」「おひげのー」「かっこいいおひげのー」「ふぉー〜」

 

「ほーら、あまり無理言うんじゃありません」「女神様は他にも行かなきゃいけないところが沢山あるんだぞ」

 

 

 

「よいよい、よいよい。

 

 時間はたっっぷりある。

 

 さて、次は、何から話そうか…………」

 

 

 

「今のお話、なんていうの?」

 

 

 

 

 

「名か。

 

 そう、これなるは、

 

 

 

 

 

 ————————カルデアの物語、である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(Fin)

 

 

 

 



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