第7学区、第34警備員出張所の活動記録 (あきとし)
しおりを挟む

書庫
「とあるシリーズ」をよく知らない?この作品をもっと楽しみたい?もっと知りたい?そんな時はここ!「用語解説」、「能力解説」、「オリジナル能力解説」、「オリジナル設定資料」


当作品のオリジナル設定資料等となります。
※ネタバレ要素ありです。ネタバレが苦手な方は辞書のような使い方で読み進めていってください。※


・用語解説・

 

・風紀委員―読み:ジャッジメント

 学生のみで構成され、主に学校敷地内における安全管理を担っている学園都市の治安組織の一つ。

 

・警備員―読み:アンチスキル

 教師のみで構成され、主に学校敷地外での犯罪捜査などを行い、凶悪犯罪にも対処できるような高度な制圧技術と最新装備を有する学園都市の治安組織の一つ。

 

・先進状況救助隊(英名:[MAR] Multi Active Rescue)―読み:せんしんじょうきょうきゅうじょたい(英名:[エムエーアール] マルチアクティブレスキュー)

 警備員傘下の救助隊。隊員は警備員の教師らが所属している。高度な救助技術と最新装備を有し、駆動鎧などを用いた救助活動を行う。略称は「MAR」。

 

・学園都市統括理事会―読み:がくえんとしとうかつりじかい

 学園都市の全て(司法・立法・行政・軍事・貿易・外交)を掌握する学園都市の最高機関。理事長を含め12人の理事によって構成されている。

 

・無能力者、低能力者、異能力者、強能力者、大能力者、超能力者、絶対能力者―読み:レベル0、レベル1、レベル2、レベル3、レベル4、レベル5、レベル6

 学園都市が定める、各能力者の規模や精密性、強さなどを基準にした客観的な判断指標。

 

・強度―読み:レベル

 学園都市が定める、各能力者の能力レベルを表す格付け。またその言い方。

 

・スキルアウト

 学園都市内にいる無能力者たちの集まり。主に犯罪行為に加担しており、学園都市の治安を揺るがす大きな一因となっている。

 

・An_Involuntary_Movement拡散力場(略称:AIM拡散力場)―読み:アン・インボランタリー・ムーヴメントかくさんりきば(略称:エーアイエムかくさんりきば)

 能力者が無自覚に発している微弱な力場の総称。「An_Involuntary_Movement」とは、直訳して「無意識の動き」という意味となり、つまるところ「無自覚に発している力場」と言える。この力場は非常に微弱なもので、専用の測定機器を用いなければ人間に感知することは不可能である。また、能力者のレベルによってもその力場の強さはさまざまであり、例えば御坂美琴のような超能力者の電撃使いともなると、無自覚に発せられている微弱な電磁波(AIM拡散力場)の反射波を用いて空間把握をすることができる。また、各能力に応じてその人自身のAIM拡散力場は千差万別であり、例えば電撃使いなら微弱な電磁波、発火能力者なら炎による熱などである。ついでに言うと、各能力者によって千差万別のAIM拡散力場を探ることによって、能力者の心や、「自分だけの現実」を調査するといったことも可能であると言われている。

 

・自分だけの現実―読み:パーソナルリアリティ

 これは能力者自身が持つ独自の感覚で、超能力を発動するためのいわば「土台」である。つまり超能力そのものの源であり、発火能力者なら「手から炎を出す可能性」、電撃使いなら「身体から電気を出す可能性」など、現実の常識とはズレた世界のことであり、またその「ズレた世界」を観測し、「ミクロな世界」を操る能力の総称でもある。より強い個性、より強靭な精神力、より確固たる信念を持つことがこれの強化に繋がるとも言われており、能力者の精神制御方法の一つとしても考えられている。「自分だけの現実」は「信じる力」などとも揶揄されており、その言葉の意味通り、能力者によって見ているものは千差万別である上に超能力の性質上、その能力者自身が観測できる「自分だけの現実」によって所持する能力も決まってくる。これによって基本的に、能力者一人につき能力は一つであると言われている。

 

・書庫―読み:バンク

 学園都市にいる全ての人たちの年齢や性別などの個人情報はもちろん、学園都市に関するほぼ全ての情報が記録されているデータベース。主に風紀委員や警備員などが事件捜査などの為に閲覧することが多いが、基本的には誰でも閲覧することができる。しかし、ある一定以上の情報にアクセスするためには正式な理由と許可が必要となる。

 

・駆動鎧―読み:パワードスーツ

 学園都市にて盛んに研究がおこなわれているものの一つ。その名の通り人が中に入り、自らの手足のように操ることができる。また電子的な補助によって常人よりも遥かに強い力を出したり、着用者の安全性を容易に確保できるなど利点が多いために需要も高い。警備員でもMARのように救助目的で採用したり、特殊部隊が武装した駆動鎧を用いた治安維持活動を行うこともある。

 

・幻想御手―読み:レベルアッパー

 都市伝説の一種。Joseph’sにて男子高校生らが話していたもの。どうやら音楽のようで、聴くだけで能力が上がるらしいが・・・?

 

・守護神―読み:ゴールキーパー

 都市伝説の一種。学園都市にいるハッカーたちの間でささやかれている、「絶対に突破できない防壁」を作り出すインターネット上に存在する最強のハッカー。彼、あるいは彼女が管理する小さな詰め所と、とある学校のセキュリティシステムは「書庫」のセキュリティシステムよりも数段強固だと言われている。

 

・冥土帰し―読み:ヘヴンキャンセラー

 半ば伝説と化している、第7学区の病院で働く、とある凄腕医師の異名。その医師の腕は凄まじく、その腕前の高さから「神の摂理すら曲げる」とまで言われている。そしてその通り名として、この名前が囁かれるようになった。この医師の腕にかかれば、全ての患者は命を救われると言われている。

 

・カエル医師(本名不詳)―読み:かえるいし

 第7学区にある病院に勤務する医師。本名は分からないが、カエルによく似ていることから、当作品においては「カエル先生」などと呼ばれている。基本的に患者に必要なものは全て揃えると言うのをモットーにしており、そしてどんなに重症だったとしても絶対に患者を見捨てず、救うためなら手段を選ばない。ちなみにかなりの凄腕で、その腕前の高さから一部の人たちの間では「冥土返し」などと呼ばれたりもしているという。

 

・身体測定―読み:システムスキャン

 学園都市内部の学校にて行われる能力測定などを指す。

 

・時間割―読み:カリキュラム

 学園都市内部の学校にて行われる、能力開発などの授業の時間割りのこと。

 

・グリーンマート

 第7学区内にあるコンビニ。御坂美琴がよく立ち読みをしているのもグリーンマートである。当作品では、略して「グリマ」と呼ばれたりしている。

 

・Joseph’s―読み:ジョセフ

 第7学区内にあるファミレス。アニメでもたびたび登場し、御坂たちの行きつけの店でもある。

 

 

・能力解説・

 

・一方通行―読み:アクセラレータ

 学園都市第1位の超能力者が所有する能力。また、その能力者の通称。運動量、熱量、光、音、電気量などの「ありとあらゆる種類の力の向き(これをベクトルという)」を観測し、自身の身体に触れたベクトルを自由に変換することができる。

 ちなみに、この能力に関しては力が作用する「向き」だけに干渉する能力であるため、力そのものの大きさや量を操作することはできない。しかし、そのベクトルを適切に制御することで、高い攻撃力などを発揮することも可能である。

 そしてこの能力名は正式なものではなく、後から能力者本人による自己申告により付け直されたものらしい。

 

・電撃使い―読み:エレクトロマスター

 能力者カテゴリの一つ。電気を自在に操ることのできる能力の総称。「超電磁砲」、「欠陥電気」などがこれに該当する。

 その名の通り、電気を自在に操ることができ、単純に電気を操ったり、磁力やローレンツ力の制御、電磁場、電磁波等の知覚、電子線などの目視も能力レベルの高さによっては可能である。また、応用的な面としては電子ロックなどの解除、ネットワークへのハッキングなども行うことができる。

 そしてこの能力のAIM拡散力場は「無自覚に発している電磁波」であり、これを用いることによって高位の能力者であれば視覚や聴覚に頼らずとも、空間把握などが可能である。ただし欠点として、微弱な電磁波を常に周囲に発しているため、これを敏感に察知出来る動物にはあまり好まれないという点がある。

 

・超電磁砲―読み:レールガン

 学園都市第3位の超能力者、御坂美琴が所有する能力にして、彼女の二つ名でもある。

 「電撃使い」系の中では最強の部類に入り、その威力を見せつけられた「電撃使い」は「力を行使する前に恐怖で気を失う」とまで言わしめるほどの差が存在する。それもそのはず、最大で10億ボルトもの出力を誇る電撃、強力な電磁波によるジャミングや電波傍受、電気を用いた磁力操作による「砂鉄の剣」に代表される様々な金属類の操作、極めつけは電撃によるローレンツ力を用いて、コインを音速の3倍以上のスピードで撃ち出す、いわば必殺技ともいえる「レールガン」など、圧倒的な攻撃力を誇る。

 更にかなりの応用が利き、例えば電子機器ならほとんどの場合は操作できるので、その点を利用してハッキングやセキュリティの無力化など、電子的なものに関してはほとんど操作が可能である。また、人体を流れる生体電流にも干渉可能なため、それを応用して自身の神経回路をブロックされている状態にあるにも関わらず、電流を体表面に流し、電気信号そのものを直接制御することによって肉体を動かすような荒業も可能である。

 しかし逆に、アナログチックなものに関しては全くと言っていいほど能力が通用しないため、いわゆる「ガチャガチャ」などの物理的干渉以外に操作する方法が無い場合は、そのものを何らかの手段で破壊するか、ピッキングなどの手段を取るか、あるいは正規の方法で操作する以外にない。

 ちなみにこの能力名は、御坂自身による自己申告により、後から付け直されたものである。

 

・欠陥電気―読み:レディオノイズ

 「電撃使い」系の能力系統の一つ。強度は異能力~強能力程度。御坂美琴と同種の能力ではあるが、単純な出力の差はもちろん、電磁力線を目視することもできないなど、その差は歴然である。

 しかしいくら弱いとはいえ、最大で5万ボルトほどの電撃を放つことができるために侮ることはできない。そして御坂と比べれば見劣りするとはいえ、強度は異能力~強能力程度であり、一般的な能力者として見れば標準の域にあるため、特に劣っているというわけでも無いと言えるだろう。

 

・心理掌握―読み:メンタルアウト

 学園都市第5位の超能力者が所有する能力。そして学園都市最強の精神系能力でもある。

 記憶操作、読心、人格の洗脳、念話、想いの消去、意志の増幅、思考の再現、感情の移植、人物の誤認など、精神に関することなら何でもできる、いわゆる「十徳ナイフ」のような能力。

 洗脳の射程と処理能力としては、ある一定のプログラム通りにオートで動かすような形であれば、少なくとも3桁近い人間を同時操作することができ、身体の全てを掌握するような精密操作でも同時に14人は操作可能である。当然、能力者を使役した場合はその能力者の有する能力を行使することもできるが、操作している人間の脳を介して更に「心理掌握」を行使することは不可能である。

 能力使用時にはリモコンを操作しているが、これは能力の応用範囲が広すぎるために、それを安定制御する必要があるため自分で『区切り』を設けるためである。このように「自分ルール」で細かく制御しなければ、本人ですら能力の全容が把握しきれなくなってしまうという弊害がある。

 しかしこのような大きい弊害もさることながら、それを補って余りある圧倒的な出力と応用性を併せ持つこの能力ではあるが、その動作原理としては『ミクロレベルでの水分操作』によるもの。主として脳内物質の分泌、血液や髄液などの配分の制御などによって精神に干渉している。生体電流にも影響を与えているが、これは電気を通す媒体である液体を操作して、伝導効率を変更することによる間接的な干渉だと思われる。

 その一方でこの性質上、身体の水分バランスが著しく乱れている対象(例として大出血を起こしている、熱中症を発症しているなど)に使用すると、予期せぬ副作用や悪影響をもたらす恐れがあると言われている。

 ちなみにこの能力が通用するのは人間のみであり、ロボットなどの電子機器はもちろん、動植物に対しても効果は無い。

 

・空間移動―読み:テレポート

 読んで字のごとく、空間を移動する能力である。風紀委員に所属する白井黒子は、この能力の大能力者である。

 この能力は、3次元空間を無視してあらゆる物体を転移させることができ、また「自身の身体(が触れている物体)を転移させる能力」を「テレポート」と言うのに対し、「離れた物体を手元に引き寄せる能力」を「アポート」と呼ぶなど、「何をどう移動させるか」によって呼び方も異なる。

 3次元から11次元への特殊変換を計算するため、他の能力よりも脳への演算負荷が大きく、発動に時間がかかり、痛みや動揺などで集中力が乱れるとすぐに使用不能に陥ってしまうという欠点もある。しかしその原理の複雑さからか、総じて能力者の強度は高い。

 ちなみにこの能力は、「空間移動」であって「瞬間移動」ではないため、物体を飛ばしてから移動した地点に出現するまでに、若干のタイムラグが発生する。またこの能力は、「飛ばした物体が、重なる地点にある物体や物質を押しのけて、割り込むように転移する」ため、能力自体は無音だが、使用時には飛ばした物体が空気を裂く「ヒュン」という音が発生したりする。また、飛ばしたものは双方の硬さに関係なく、たとえ障害物があってもその障害物に刺さったりする形で出現する。

 そのため、理論上は紙一枚でも複合装甲などの非常に硬い物体を「裂く」ような形で転移させれば、その複合装甲を真っ二つに割ることも可能であるとされる。しかしこの点は、利点でもあり欠点でもある。例えば攻撃に用いる際は前述のように、物理的な防御力を無視できるため非常に強力ではあるが、対して自身や、ある物体を転移させる際には座標の指定を徹底しないと、その先にある物体にめり込んだ状態になる可能性があるためだ。

 ちなみに空間転移という特性上、例えば銃弾などのように軌道を見て避けるなどと言うことは不可能であり、また物理的防御力すらも無視するため攻撃手段としては非常に有効かつ強力である。しかしそれと同時に「出現の瞬間」にしか破壊力が無いため、ピンポイントの座標攻撃しかできず、幻覚を見せられたり、対象が高速移動していたりすると照準が定まらず無効化されてしまう。更にある物体を転移させる際に、その物体の向きも変更できるため、例えば相手を瞬時に地面に倒すなど格闘戦などにも応用が利く。

 なお同系統のAIM拡散力場が干渉しあってしまうために、空間移動で他の空間移動能力者を転移させることは不可能である。

 

・定温保存―読み:サーマルハンド

 風紀委員の初春飾利が所有する、「触れているものの温度」を一定に保つ能力。彼女自身の強度は低能力者。当然のことながら熱すぎたり、冷たすぎたりするものは触っていられないため、実質的には触れているものを常温に保つ能力だと言えるだろう。

 しかしその特性上、例えば(人が触っていられる範囲で)対象の温度を一定に保たなければならない時などには、非常に役に立つと言える。だが逆に言えばそれだけの能力であるため、応用もあまり効かず戦闘向きでもないので、強度は低くても致し方ないともいえるだろう。

 

・発火能力―読み:パイロキネシス

 炎を生み出す能力のこと。また、その応力を使う能力者の総称は「発火能力者―読み:パイロキネシスト」と言う。学園都市では「電撃使い」と並んでポピュラーな能力の一つ。

 科学的な理由付けでは、念動力を用いて対象物の分子運動を促進、摩擦を増加させることによって発火させるらしい。しかし作中で可燃物もなく火を出していたところからすると、単なる加熱、発火能力ではなく具現化要素もあると思われる。

 ちなみに作中の大覇星祭では、「拳に空気中の水分を集めて分解、燃焼」させるという方法を用いている発火能力者もいたため、一概に木や紙などが無ければ火を出せないとも言い切れないのかもしれない。

 また、この能力系統は単純に火を出すだけではなく、煙などを出して酸素を奪ったりすることも可能らしい。

 

・窒素装甲―読み:オフェンスアーマー

 空気中の「窒素」を自在に操ることができる能力である。その力はきわめて強大であり、圧縮した窒素の塊を制御することで自動車などの重量物を持ち上げたりすることや、弾丸などの攻撃を受け止め、防御すること等が可能である。

 しかしその効果範囲は非常に狭く、拳から数センチの位置が限界なため、見た目では自動車などを「手で持ち上げている」ように見えてしまう。また、この能力の特徴として圧縮した窒素の「壁」を生成することにより、あらゆる方向からの攻撃を防ぐ事が可能。ただしその一方で防げる限界もあり、強すぎる攻撃を受けると防ぎきれない可能性もあるという。

 またこの能力の弱点として、窒素を操る能力であるが故に、空気中に窒素が存在しなければ一切の能力が発揮できない。その点を利用できれば勝機はあると言えるだろう。

 

 

・当作品オリジナル能力解説・

 

・集中治療―読み:インテンシブトリート

 当作品オリジナル能力。新橋恵の所有する能力であり、他人や自分の受けた怪我や病気を、重症度にもよるが瞬時に(長くても1時間程度で)回復することができる。患部に自分の手を触れれば手足の離断した部位を再結合させたり、人体の深部に受けたダメージを体表面から回復できるなど、超人的な能力であるがその分使用後の反動も大きく、かなり体力を消耗する。しかし一方で死んでしまった細胞に関しては再生できないため、例えば脳梗塞などで死滅した脳細胞などは再生不可能である。

 能力の発動原理としては、自身のAIM拡散力場をもって、対象となる体細胞の生命活動に干渉し、生命力を最大限にまで増幅、細胞そのものの自然治癒力を極限まで高めるというシンプルなものではあるが、細胞レベルでの演算が必要となるため連続使用は不可能である。ただし、この能力の欠点としては、対象の体細胞に干渉し自然治癒力を極限まで高める一方、その代償として対象となる体細胞にも大きな負担がかかる。そのため治療する範囲、箇所にもよるが、患部または患者は、ある一定期間の安静、及び休息が必要となる場合がある。

 また、いわゆる「暗黒面」としての一面も併せ持っており、対象となる体細胞にAIM拡散力場を用いて干渉、生命活動に直接アクセスできる点を逆手に取り、「体細胞そのものの生命活動を停止させ、自壊(壊死)させることも可能」であることも判明している。

 しかし、この能力系統に関しては学園都市内部にもごくわずかな人数しかいないため、目下研究中である部分も多く、まだ十分に解明されていない能力でもある。

 

・健康診断―読み:セルフチェック

 「集中治療」に付随している付加属性。特技ともいう。主に研究者たちの間でこう呼ばれている。この特技は、自身のAIM拡散力場をもって、対象となる体細胞の状態を体表面から把握するというもの。それによって、体表面から見えない深部のダメージを診断したりすることが可能であるが、しかしそれには使用者自身が、正確な人体解剖医学を履修、或いは習得している必要がある。そうでなければ正確な診断はできない。

 イメージ的には、レントゲン画像を医師が見れば骨折箇所などを発見できるが、一般人が見てもよく分からないのと同じである。

 

 

・オリジナル設定資料・(芝浦先生監修)

 

・第34警備員出張所

 主人公の芝浦先生が勤務している警備員の詰所の一つ。出張所としては比較的規模が大きく、2台のパトロールカー、1台の護送車を配備し、一通りの個人用装備(制服から防弾装備に至るまで)を各隊員ごとに備えている(爆発物処理用の防爆スーツのみ共用)。

 また、非常時には風紀委員第177支部と協力体制を取り、事件解決に尽力する。シフトは基本的に固定されており、例外なく8時間勤務で統一されている。教職もその間に行う形にはなるが、異常事態等が起きなければ私服で教鞭をとるという柔軟なシステムとなっている。ただし、最低限の個人装備として警備員の教師は常日頃から特殊警棒と手錠、セキュリティカードの携帯を義務付けられている。

 休憩は学校での昼休みなどとは別に1時間取る形となっているが、状況によっては取れないこともままある。休みは完全週休2日制であるが、固定されている曜日は特にないためシフトの変動によって曜日も変わる。長期休暇は学校での長期休暇中に申請すれば1週間取ることができる。何かしらの事情で休む際にはその時に変わってくれた人のシフトに代わりに入ることとなる。

 配備されている車両はすべて防弾仕様であり、パトロールカーなら小銃弾程度、護送車なら対物ライフル弾程度は防弾可能である。

 

・第7学区警備員本部

 第7学区の中心部にある警備員の本部。第7学区内にある警備員の施設では最大の規模を誇り、配備人員は総員150人程度。ここには証拠品の解析を専門に行う部署や、MARの部署も併設されている。また、ヘリポートを屋上に備えているためヘリの離発着も可能であり、迅速な部隊展開を可能としている。

 通常のパトロールカーや護送車に加え、MARの所有する救助トラック、捜索用ドローン、救急車も少数配備しており、他にも放水銃を備えた暴徒鎮圧用特殊車両、凶悪犯罪者対処用の重装甲車、現場にて仮の指揮所と情報収集施設になる大型トレーラー、空中からの追跡も兼ねた人員輸送ヘリコプターなど圧倒的である。

 また各種装備も最新鋭のものを備えており、自律型警備ドローンや自律人型武装警備ロボット、半自律型服従式犬型ロボットなど多岐にわたる。

 中でも対凶悪犯罪用に設立された特殊部隊に至っては武装型駆動鎧の完全配備、対能力者用演算妨害装置である車載型キャパシティダウンの配備、様々な状況に対応するよう設計された多目的大型重装甲車、状況によっては対戦車ヘリと同等の武装を施すことができる重装甲ヘリコプターなど軍隊とほとんど遜色ないほどの装備を有している。

 しかしその一方で、学園都市統括理事会の影響も大きい施設であり、上からの命令によっては隊員一人として現場配備ができなくなってしまう恐れもあるという。

 

・セキュリティアラートレベル

 当作品オリジナル設定。犯罪や事件などへの警戒レベルを示しており、レベル6が平時、あるいは全く緊急度のない事案などに用いられ、対してレベル1が非常事態宣言の発令、学園都市全域への警備員の緊急配備、警備員各員のフル武装・実弾装填、特殊部隊の緊急出動、一般市民等への避難指示発令及び、避難支援の開始、学園都市外部ゲートの閉鎖、学園都市領空の閉鎖及び、ヘリコプターなどによるパトロールなどなど、もはや国家危機レベルの事態が起こった際に発令される。普段はレベル5~3がよく用いられる。この辺りは迷子の捜索や落し物の捜索から、能力者同士による喧嘩などまでが範囲となる。

 

・グリーンマートの略称「グリマ」

 略称のみオリジナル設定。グリーンマートそのものは原作に出ている。

 

・芝浦先生(本名:芝浦 誠(しばうら まこと)

 この物語の主人公。22歳。基本的に昼間(8:00~16:00)のシフトに入っている。また、昼間のシフトに入っている分隊の分隊長も兼任している。

 古賀とは警備員訓練所からの腐れ縁であり、それ以来ずっとコンビを組んでいる。身体能力や格闘能力は普通の警備員と大差ないくらいだが、銃の扱いと命中率にかけてはずば抜けており、立射姿勢で500m先を横に移動する大型犬サイズの的を、警備員に支給されている小銃で光学照準器を使わずに確実に命中させるほど。たとえ拳銃でもその技量は衰えることはない。(立射姿勢で200m先の横に移動するバスケットボール大の的に確実に命中させられる。)

 また、指揮能力も総じて高く、それもあって若干20代でありながら、比較的安全とは言え第34警備員出張所の分隊長を任されたのである。優しい性格で、基本的に女性と学生(子供)に対してはいかに凶悪な犯罪者であったとしても殺傷系の武器を使わないとしており、特に女学生に対してはそもそも武器を使わずに拘束することを第一主義としている。

 逆に言えば女性や学生を守るためには一切の躊躇をせず、相手を速攻で無力化することを第一目標としている。

 古賀先生曰く、「隊長って女の子にはめちゃくちゃ優しいくせに、俺にはつれない態度取るんだよねぇ。そういえば聞いた?実は隊長と新橋ちゃんってさ、どうやら付き合っ―――・・・。」・・・えー、このコメントは気にしないように。趣味は学生たちと談笑したり、一緒に遊んだりすること。特に趣味が無いとか言わないこと。

 

・古賀先生

 芝浦先生の相方。年齢は20代前半(自称)。普段から芝浦先生とコンビを組んでいることもあり、行動を共にしているが時たま自分で墓穴を掘るような発言も多く、しばしばそれが原因で痛い目を見ることもある。

 身体能力、格闘能力、射撃技術のどれも平均的だが、車両操縦にかけては他の追随を許さないほどに磨きがかっており、それもあって主にドライバーを担当する。

 どちらかというと学生に舐められないように警備員になった気が強かったが、芝浦先生と行動を共にしてきたことで共感し、今では芝浦先生のサポート役に徹している。

 芝浦先生曰く「古賀の奴に犯人の車を追わせたら、逃げる間もなく捕まっちまうだろうよ。」とのこと。趣味で休日はサーキットでの走り込みなどをしている。

 

・林先生、鈴木先生

 第34警備員出張所に所属する教師。林先生は昼間のシフトに入っている分隊の副分隊長であり、芝浦先生のサポート、分隊長の代役などをこなす。主に昼間のシフトに入っており、芝浦隊長の指揮下で行動する。この二人はコンビを組んで行動している。主に昼間のシフトに入っており、芝浦隊長の指揮下で行動する。

 

・中山先生、神田先生

 第34警備員出張所に所属する教師。この二人でコンビを組んでいるが、主に出張所に残り現場部隊のサポートとバックアップを担当している。特に神田先生は初春ほどではないにせよ警備員の中では情報処理能力が高く、そういった事件も多く担当している。しかし非常時には現場に便乗し、分隊と他組織や部隊との通信役を担ったりもする。

 

・坂上

 第7学区の病院に勤務する医師。・・・これ以上は胸糞悪いので割愛する。(ちょっ、芝浦先生!?きちんと説明してあげて!?by作者)

 

・ひったくり犯

 当作品オリジナルキャラクター。新橋のハンドバッグを強奪し、芝浦先生に拘束された犯人。どうやら電撃使いのようだが・・・?

 

・新橋恵

 当作品オリジナルキャラクター。長点上機学園の1年生。年齢は16歳で身長152cm。スリーサイズは不明だが、スレンダーな体型である。ちなみに御坂に負けず劣らずの美少女で、ヘアスタイルはさらさらのミディアムヘア。

 すでに医療分野での研究を独自に行っており、新たな医療機器や技術の研究開発に日夜取り組んでいる。成績も総じて良く、頭の回転も研究などに関してはかなり早いが、普段は優しいおっとりとした性格で、人当たりもいい。ひょんなことから芝浦先生と知り合うこととなる。能力は強能力者の「集中治療」。(年齢、身長は「書庫」より引用。)

 

・セキュリティ管理AI「REX(レックス)

 当作品オリジナルシステム。カエル先生が用意した家のセキュリティのほぼ全てを管理する、超高性能AI。もともとプログラムされている対処法に加え、各種状況に対して臨機応変に対応する柔軟性と、それらの記録を基にした新たな対処法の自己生成が可能であり、将来的に利用期間が長ければ長いほど、対処できる状況への効率性が上がっていく、いわば「成長するAI」である。

 芝浦先生と新橋恵の2名を最重要保護ターゲットとしており、家の半径30m以内を保護区域と設定している。そして簡易的ではあるが負傷者への応急処置をするための医療ドローンの制御を個別に持っており、非常時には警備員へと緊急連絡を行うことも可能。セキュリティレベルは1~5まであり、1が最も厳重なセキュリティを敷かなければならない時、5は平常時である。このAIのホームコンピュータは地下室に設置されており、それが破壊・停止されない限りAIは稼働し続ける。

 

※以降は物語の展開次第で随時追加予定。※




不明瞭な点、改善点、誤解している点などあればご指摘いただけると助かります。

2018.11.30追記
前書きを更新しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
プロローグ


―今ここに、新たな視点からの物語が幕を開けます。


 7月のある暑い夏の日、第7学区第34警備員出張所の教師たちは各々雑務をこなしていた。今日もいつも通り真夏日である。

 

 「今日も外は暑そうだなぁ・・・。迷子の通報とか無けりゃいいけど。ね、隊長?」

 

 隣に座っている男性教師が話しかけてくる。

 

 「そうだなぁ、確かに熱中症の危険もあるし、暑くなってくると変な輩も沸くからなぁ。パトロールは気を引き締めていかなきゃならんな。」

 

 それに対し、俺は適当に答えを返す。

 

 「そうですよねぇ・・・。まぁ最近はいたって平和だし、今日はまだ落し物の届け出が2件だけですからね。調子良いですよ。」

 

 「ま、確かにいきなりデカいのがドカンと起こる気配はないよな。良いことだ。」

 

 そう、最近は目立って事件が起こることもなく、平和な日々が続いているのだ。

 

 この出張所の人員は18人3交代制、1シフト8時間当たり6人態勢で24時間365日、学園都市の治安維持にあたっている。しかし、この規模は出張所か支部か、あるいは本部直轄か等で変わる上に学区ごとにもまちまちであるが、大方1シフト当たり4人~12人程度である。それに各学区の治安状況にも左右され、治安が悪いところでは20人以上の人員を配する支部もあるので、その警備員の詰所の人数を見れば、大体の治安状況を推察できるのは警備員のみが知る裏事情というやつだ。

 この出張所のある第7学区は比較的治安がいいうえに、名門校である常盤台中学などもあるのでスキルアウト等もそれなりにおとなしい学区である。がしかし、油断はできない。相手がスキルアウト、無能力者や、低能力者~強能力者程度の能力者であれば制圧も容易である場合が多いが、大能力者以上の能力者が暴動などを起こした際は我々に犠牲者が出かねないからだ。幸いなことに最近は大きな事案や事件は起こっていないが、それは風紀委員の力によるところも大きいだろう。

 風紀委員と警備員、この学園都市の治安維持を担う2つの組織は互いに連携、協力して防犯・安全の確保に尽力している。ちなみに、風紀委員は学生が、警備員は教師が希望して加入するので、いわゆる有志の集まりである。もちろん両組織とも治安維持を担う以上、命の危険にさらされることもままあるが、風紀委員は学生が所属しているために基本的には危険な事案、事件は警備員が担当する。ちなみに、この第34警備員出張所では、1シフトに入る6人が一個分隊として編成されており、出張所全員を合わせると一個小隊規模の警備員がいることになる。もちろん緊急時や応援が必要な時には非番の教師も呼び出しをすることはあるので、最大で18人一個小隊規模の戦力展開ができると考えれば相当な規模になる。まぁ、そんな事態にはならないのが一番だが。

 

 

 「そういえば今日と明日って、『見学ツアー』の日でしたっけ?」

 

 再び隣の男性教師が話しかけてくる。

 

 「あー、そういえばそうだったか。まぁ特に問題ないだろ。一応パトロールでも強化しとくか?」

 

 そう、今日と明日はこの学園都市に来年度の入都市希望者たちのための見学会が催されているのだ。やはり科学の粋を集めた天下の学園都市の一つの大きな目玉といえば、「能力者開発カリキュラム」だろう。

 一般的に、学園都市の中と外では20年~30年の科学技術の差があるとされているが、一歩踏み込めばそれは一目瞭然であり、まず目に留まるのは自動清掃ロボットに自律型警備ロボット。天気予報や様々なニュースなどを表示する大型電光掲示板を備えた飛行船、そして大きな風力発電用の風車などだろう。

 そしていたるところにいる能力者たち。彼、彼女らはこの学園都市で特別な時間割を経てその能力を手に入れているのである。能力に関しては個人差が大きく、その能力の高さや能力の種類など十人十色であるが、中でも有名なのは学園都市に7人しかいないといわれている「超能力者」の能力者たちだろう。そして、その7人は学園都市に来るすべての人たちの憧れとなっている。

 とりわけ有名なのは第1位の「一方通行」というベクトルを自在に操る能力者や、この第7学区で言うなら常盤台中学の超能力者である電撃使いの「超電磁砲」、そして精神支配系最強と言われている「心理掌握」あたりだろうか。

 

 「いやぁ、遠慮しときますよ。いつものパトロールスケジュールで十分です。」

 

 隣の男性教師が外に出たくないと言わんばかりに断りを入れてくる。

 

 「ったく、だらしないぞ。こういう時にこそ気を引き締めてだな―。」

 

 

 ―突如として警備員出張所内のすべての電子機器が作動を停止した。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非みなさんの評価・感想などをお聞かせいただければ幸いです。また、できうる限りとあるシリーズを知らない方にも読みやすいように書いたつもりですが、改善点などがあれば教えてくださるとうれしいです。ちなみに、今回のプロローグではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の美琴が不良たちに絡まれるところから、「見学ツアー」の観光バスが信号トラブルに巻き込まれ、事故を起こすところまでのお話になっています。
 次回、第1話「信号トラブルと電撃使い」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


2018.11.22追記
細かい部分及び、指摘された該当箇所を修正いたしました。
同日23:54追記
再度細かい部分の修正を行いました。
修正箇所「今日って『見学ツアー』の~」、「そう、今日はこの~」を「今日と明日って」、「今日と明日は」に修正。

2018.11.23追記
より読みやすくするための大幅な修正を行いました。

2018.11.24追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.11.25追記
「用語解説」を削除しました。

2018.11.27追記
より読みやすくするための細かい修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

記録1「能力値が上がらないことを悩む生徒を前に、一人の教師として何ができるのか」
第1話「信号トラブルと電撃使い」


 皆さんこんにちは。前回「プロローグ」では、突如として出張所内の電源が落ちてしまったところでお話が終わりました。今回から主要なメンバーが続々と明らかになっていくことでしょう。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 閃光、そして、学区内のすべての信号が消えるという事からすべては始まった。すぐに非常用電源に切り替わり、各種電子機器が再立ち上げを始めた途端に鳴り始めたのは出張所内の固定電話だった。そしてそのどれもが主に「信号が消えた」という旨の通報であり、至る場所で交通事故も発生しているというものだった。その中に、エリアBの路地裏付近で電撃のようなものが見えたという通報もあった。

 

 「よし!みんな落ち着け!まずはこの分隊を3つのチームに分ける!まず俺(芝浦(しばうら))と古賀(こが)(さっき隣に座っていた男性教師だ。)をAチーム、(はやし)鈴木(すずき)をBチーム、中山(なかやま)神田(かんだ)をCチームに分け、A、Bチームは現場及び交通整理に向かい、Cチームは出張所に残り情報収集及び各隊、各組織との連絡を頼む。以上!」

 

 その場にいた全員がすぐに動き出した。ちなみにこういった大規模な事案が発生した際には、最寄りの風紀委員支部と協力体制をとることになっている。

 

 「古賀!行くぞ!」

 

 警備員に支給されている出動服の上から水色の特殊ベストを身にまとい、古賀とともにパトロールカーに乗り込む。そして青色灯を回し、サイレンを鳴らして出張所から飛び出した。

 

 「Bチームは最寄りの交差点に向かい交通整理を行いつつ他部隊と連携して事態の収拾にあたれ!Cチーム!風紀委員支部との連絡はどうだ?」

 

 急行する車内で無線機を掴み各種指示を飛ばす。すぐにCチームからの返答が返ってきた。

 

 「こちらCチーム!すでに風紀委員177支部も事態を把握し、白井黒子(しらいくろこ)という生徒が現場に向かっているとのことです!なお、現場近辺には犯人と思しき男性が複数人いる模様!接触する際は武装している可能性を考慮されたし!また、その男性らに囲まれていた女学生が一名いた旨の情報もあるため、慎重な対応を求む!現場の位置情報転送します!」

 

 「こちらAチーム、了解した!」

 

 第1報はすでに風紀委員の第177支部に伝わっており、そこに所属する風紀委員の白井黒子という生徒が現場に向かっているという。とにかく、早く現場に向かわねば。パトロールカーのナビ上にGPS衛星から転送されてきた現場の位置情報が表示された。それを基に現場へと急行する。

 

 「こちらCチーム!どうやら風紀委員が犯人の一人を拘束した模様!位置情報転送します!」

 

 即座にナビに位置情報が表示される。

 

 「へぇ、なかなかやりますねこの生徒。まさか犯人の一人を拘束してのけるとは。我々も負けてられないですよ!」

 

 古賀が興奮気味にそう言うが、それに対して俺は「いや、これ風紀委員としては権限逸脱しすぎだろ。こりゃ始末書書かされるなこの生徒。ともかく急ぐぞ。」と答えた。

 

 

 しばらくして現場に到着。先ずはすでに拘束されているであろう犯人のもとへと向かう。

 

 「よし、気をつけろよ。テーザーガンの用意はしておけ。」と古賀に伝える。

 

 「了解。」

 

 静かに古賀が答える。そして小走りで向かい、犯人のもとへ着くと片腕のみが拘束されている状態だったため、犯人は最後の抵抗と言わんばかりにナイフを振り回してきた。

 

 「動くな!警備員だ!そのナイフを置き、手を頭の後ろに回せ!さもなくば撃つ!」

 

 俺がそういうと犯人は「へっ、撃てるもんなら撃ってみやがれってんだ。俺が無能力者だと思ったら大間違いだぜ!お前らなんか一瞬で叩き潰してややyyyyyyyy」

 

 すでにテーザーガンは犯人に命中し、犯人はその電撃を受けて気絶していた。

 

 「ったく・・・。だから言ったのに。よし古賀、こいつの手錠をしっかり両腕に着け直してやれ。俺は現場のほうを見に行ってくる。」

 

 テーザーガンのカートリッジを交換しながら古賀にそう言うと、俺は小走りで現場へと向かった。すると、なにやら焦げ臭いにおいが鼻先をかすめる。そして現場に着くと、そこには倒れている男性が5人と、常盤台中学の制服に身を包む二人の少女の姿があった。

 

 「これは・・・いったい何が・・・?」

 

 状況が読めない俺はバツの悪そうにしている二人の少女と、そして倒れている男性らを見てはたと気づいた。

 

 「これ、もしかして君たちが・・・?」

 

 するとショートヘアの少女が「べ、別に先に手を出したわけじゃないわよ!正当防衛よ、正当防衛!こいつらが先に喧嘩売ってきたんだから。」

 

 それに対しツインテールの少女が「お、お姉さま!ここは風紀委員であるわたくしにお任せくださいまし。」と答える。

 

なるほどよく見るとツインテールの少女は風紀委員の腕章をつけている。どうやらこの子が真っ先に現場に向かい、犯人を拘束した白井黒子という生徒のようだ。

 

 「えっと、とりあえず君たち二人はこっちに来て、詳しく話を聞かせてもらえるかな。とりあえず救急車5台と警備員の応援を要請しておくから。」

 

 「こちら第34警備員出張所の芝浦です。ただいま現着し、対応にあたっておりますが負傷者5名を確認、おそらくその負傷者らが犯人かと思われます。なので救急車5台と警備員の応援を要請します。」と警備員の第7学区本部へと連絡を入れる。

 

 「こちら本部、了解した。だが今は交通状況がかなり悪い。到着はおよそ20分強かかると思われる。負傷者の状況はどうか?」

 

 「こちら芝浦。負傷者はいずれも軽症です。ただ、電撃によるショックの可能性があるため警備員附属病院への収容を要請します。」

 

 「こちら本部、了解した。では現場周辺の封鎖及び犯人らの拘束を頼む。」

 

 「こちら芝浦、了解しました。」

 

 そして彼女ら二人を連れて一度パトロールカーに犯人を乗せていた古賀の元へ戻り、古賀を現場近辺の封鎖と気絶している犯人らの拘束へと向かわせた。先ほどテーザーガンによる電撃を受けた犯人はすでに意識を取り戻していたが、既に戦意喪失しておりしょんぼりとしている。

 

 

 「さて、それじゃあ詳しく話を聞かせてもらおうか。」

 

 そう言った途端に「だからそれはあいつらが先に―!」「ここは風紀委員であるわたくしが説明を―!」見事に被った。

 

 「ま、まぁまぁ落ち着いて。別にさっきのを見たからって捕まえるつもりはないから、だから最初から順に話してよ。ね?」

 

 そう二人をなだめると、二人は話し始めてくれた。

 

「-なるほど。そういうことだったのか。それは災難だったね。まぁ犯人も気の毒なのは否めないが・・・。とにかく怪我もないみたいでよかったよ。」

 

 事情を聴き、そう答えると「まぁ確かにあたしもやりすぎたとは思ってるけど・・・。」とショートヘアの少女。

 

 「まったく、犯人もバカですわよね。よりにもよってお姉さまを狙うだなんて。」と白井。

 

 「あはは・・・。あ、そういえば風紀委員の白井黒子さん。今回はお手柄だったね。おかげで助かったよ。」

 

 「へ?あぁ、そういえば犯人を一人拘束してましたわね。もっとも残りの犯人は皆お姉さまによって倒されてしまいましたけど。」とパトロールカーに乗っている犯人を一瞥しながら白井。

 

 犯人はビクッと震え、顔は青ざめている。

 

 「だからあたしは悪くないって!」赤面しながらショートヘアの少女が言う。

 

 「はいはい、分かったから。次からは気を付けるように。」

 

 ショートヘアの少女にそう言うと、またバツが悪そうにしながら「は、はい、以後気を付けます・・・。」と答えた。

 

 そこにちょうど古賀が戻ってきて、「隊長、さっき言われたこと全部終わりましたよ。」と言った。

 

 「うん、お疲れ様。あ、ところで学校と名前を聞いてもいいかな?一応今回の被害者でもあるわけだし。でも白井黒子さんは風紀委員だから大丈夫かな。」というと、ショートヘアの少女は「あたしの名前は御坂美琴(みさかみこと)。学校は常盤台(ときわだい)中学よ。」と答えた。

 

 次いで白井が「わたくしのことはすでに存じ上げているかと思いますが、改めて自己紹介させていただきますわ。わたくしの名前は白井黒子。学校はお姉さまと同じ常盤台中学ですわ。それと、わたくしのことは『白井』と呼んでくださいまし。今回の件は警備員の皆さんもご苦労様でした。」と言った。

 

 「うん、御坂さんに白井さんね。了解。ありがとう。」

 

 すると白井が「あなた方のお名前もお伺いしてもよろしいですの?」と聞いてきた。

 

 「もちろん。俺は芝浦。んでこっちは古賀。俺は柵川(さくがわ)中学の警備担当教員で、古賀は同じ柵川中学の事務員なんだよ。まぁ勉強とかを教える教師とはちょっと違うけど、よろしくね。」と答えた。

 

 「芝浦さんに古賀さん・・・。ありがとうございますですの。」と白井が答える。

 

 すると御坂がこんな質問をしてきた。「芝浦さん、警備担当教員ってなにしてるんですか?古賀さんみたいに事務員だったらまだわかりますけど、あまり想像できなくて・・・。」

 

 「ああ、確かにあまり聞きなれないかもしれないね。難しい言い方してるけど、要するに風紀委員の顧問ってわけ。まぁ顧問って言っても学校の敷地内だけだから特にこれと言ってすることはないんだけどね。全部うちの風紀委員がやってくれてるし、言うなれば非常時のための切り札ってところかな。」などと大げさな言い方をしてみる。

 

 御坂はすこし引き気味で「なるほど、まぁ確かに警備員でもある芝浦さんなら適任かもしれないですね。」と答えた。

 

 「さてと、それじゃあそろそろ応援も来るだろうし、二人は行っても大丈夫だよ。白井さんは風紀委員として御坂さんをしっかり寮まで送り届けること。こっちから何か渡す資料とかあれば支部のほうに送るから。」と冗談めかして二人に言う。

 

 そして御坂と白井は「あはは・・・じゃあ私たちはこれで。ってか黒子じゃま!くっつくな!」

 

 「あん、もうお姉さまったらまた暴漢どもに襲われたらどうするんですの?わたくしがしっかりと風紀委員としてお姉さまをエスコートいたしますわ。」

 

 「あぁ、もう!暑苦しい!芝浦さんが余計なこと言うから!」と言いつつ帰っていった。

 

 「はは、仲いいなぁあの二人。さてと古賀、応援も来たしこの犯人を護送していくぞ。」

 

 「はいよ、了解です隊長さん。」

 

 俺が御坂美琴は常盤台の超電磁砲だと知るのは騒動も一段落し、出張所に戻ってきて書庫の検索をした後になるというのはまた別の話である。(ちなみに古賀はすでに噂程度には知っていたらしい。)

 

 

 「いやはや、今日は本当にお疲れさまでした。」

 

 古賀が帰ってきて早々、玄関口にある自販機でコーヒーを買いながらおもむろに話しかけてくる。

 

 「ああ、お疲れさん。でもまだ事態が収拾したわけじゃないからな。あともう一息だ。」

 

 俺もコーヒーを買いつつ古賀を労う。

 

 「そういえば、あとエリアCの傷病者の搬送と、3箇所の信号機の点検、修理だけでしたっけ。」

 

 「そう。まぁこの程度なら林と鈴木のいるBチームと、風紀委員で手は足りるだろ。俺たちは今回の騒動の報告書をまとめるぞ。」

 

 そう言うと、古賀は分かりやすく嫌な顔になると、「うへぇ~、報告書を書くくらいなら現場にいたほうがマシですよ・・・。」と言ってきた。

 

 「ほう?ならばエアコンの効いてて涼しい出張所で報告書をまとめるか、或いは暑くて汗がダラダラ出てくる外回りとどっちがいいか今ここで選べ。」と意地悪な感じで言ってみる。

 

 すると古賀は「えっと・・・、報告書まとめてきます・・・。」と言いつつ事務室に入っていくのだった。

 

 「おう、よろしくな。俺も後で行くから。」とコーヒーを口に運びつつ古賀の背中に声をかける。

 

 

 やはり、今回の騒動はあの「超電磁砲」の仕業なんだろうか。しかしどう報告書にまとめたものか・・・。『暴漢が襲ってきたので正当防衛で電撃を放ったら信号トラブルを引き起こしちゃいました』なんて書くわけにはいかないしなぁ・・・。

 結局、悩んだ末に編み出した内容が、『暴漢5人が常盤台中学の生徒1名を囲み、危険な状況であったがその暴漢はすべて風紀委員177支部の学生によってスタンガンにて無力化されたものであり、本件とは一切の関係が無いものである。該当する風紀委員177支部の生徒はすでに始末書を提出済みであることを確認している。なお、今回の信号トラブルその他の事案については当出張所も目下捜査中であり、新規情報等あれば第7学区警備員本部に逐次報告するものとする。以上で本件における第7学区第34警備員出張所からの報告を終わる。』という、(若干の無理はあるかもしれないが)当たり障りのないものに留めたのは決して彼女らの今後の学校生活を案じてだとか、風紀委員の学生がたまたま現場にいたからだとか、そういった諸々は一切ないことを明言しておく。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの評価・感想などをお聞かせいただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の「見学ツアー」の観光バスが交通事故を起こした直後のシーン、黒子が犯人を拘束、現場に向かい美琴と出会ったところまでと、その後のストーリーを拡張する形で展開してみました。なんというか、美琴がこういったことを起こすたびに警備員の人たちがこんな感じで対応しているのかなぁとか思いながら書いてみました。
 次回、第2話「身体測定と無能力者」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.11.23追記
より読みやすくするための大幅な修正を行いました。

2018.11.24追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.11.25追記
「用語解説」を削除しました。

2018.11.30追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「身体測定と無能力者」

 皆さんこんにちは。前回「信号トラブルと電撃使い」では、美琴が引き起こした信号トラブルへの対応と、それが元となって芝浦と古賀が美琴、黒子とたまたま知り合ったところでお話が終わりました。今回は芝浦と古賀の職場でもある柵川中学校が登場します。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 翌日、朝礼が終わり、シフトに入って間もなく出張所内に警報が響き渡った。次いで自動音声アナウンスが流れる。

 

 「セキュリティアラートレベル3、自動販売機、登録番号7116号にて不具合発生、器物損壊の可能性あり。警備ロボット出動済み、直ちに現場へ急行し、事態の収拾にあたってください。」

 

 俺は飲んでいたヤシの実サイダーの空き缶をゴミ箱に投げ入れつつ、「うおっ、マジかよ。まったく今日は朝からサービスデイってか?おい古賀!行くぞ!」と、事務室に声をかける。

 

 すると古賀が参ったというような顔で急いで出てきた。

 

 「ちょっと隊長、今日は朝から一体何なんですか?」

 

 「わからん、とにかく行くぞ。」

 

 そしてパトロールカーに飛び乗り、出張所を飛び出していったのだった。サイレンを鳴らし、急行する車内で無線機を手に取り出張所にいる神田に連絡を取る。

 

 「神田、こちら芝浦だ。現場近辺の監視カメラはどうだ?」

 

 「こちら神田。いやぁ、それが犯人はどうやら昨日の『超電磁砲』のようで・・・。ツインテの子が空間移動で一緒に連れてっちゃいましたよ。」と返答する。

 

 「はぁ・・・。わかった。引き続き監視カメラの映像の確認を頼む。」

 

 無線機を切り、俺は大きなため息をもう一度ついた。

 

 「まったく、おてんば娘の電撃使いも困ったものですね。」と古賀。

 

 「まったくだよ。ただ、どうにもここの自販機は不具合が多い気がするんだよなぁ・・・。まさか毎回・・・?」と俺は予想する。

 

 「いやぁ、さすがにそれはないと思いたいですけどね。」

 

 苦笑しながら古賀が答えを返してきた。

 

 

 しばらくして現場に到着。事前情報にあった通り、警備ロボットが3体、自販機の周りを取り囲むようにして警戒態勢に入っていた。そのうちの一体に近づき、警備ロボットのセンサー部に警備員のIDと認証番号が入力されているICチップ入りのセキュリティカードをかざし、警備ロボットの接近許可を得て現場検証を始める。

 

 「古賀、お前は警備ロボットの記録を調べてみてくれ。俺は自販機とその周辺を調べてみる。」と古賀に指示を出し、俺は自販機を注意深く観察する。

 

 「ん・・・?この自販機、小さいけど側面に凹みが・・・。まさか蹴ったのか・・・?いやでも、そんなので飲み物出てくるかなぁ・・・?」と頭をひねらせていると、古賀が近づいてきた。

 

 「隊長、警備ロボットの映像には有力情報はなかったんですけど、多目的センサーの記録に能力使用後と思われるAIM拡散力場の残滓(ざんし)が認められました。種類としては断定はできませんが、空間移動と電撃使いのようです。」

 

 「はぁ・・・。分かった。他に警備ロボットから何か情報は出てこなかったのか?」と本日3回目のため息をつきながら古賀に確認をとるが、「いえ、これ以上は何も。強いて言うなら出てきた飲み物は『黒豆サイダー』って事くらいしか。」と言ってきた。

 

 「てことは、やっぱり発電系の能力を使って自販機の制御機能を一時的に奪い、飲み物を出したもののセンサーに感知されたために空間転移を使って警備ロボットから逃げた・・・おおむねこんなところかな。つーかそれならなんで蹴ったんだよ・・・。超能力者級なら自販機のセキュリティくらい簡単に封じ込めるはずなのに・・・。」と頭を抱える。

 

 「まぁ、この自販機は別に壊れてるわけでも無いみたいですし、とりあえずセキュリティをリセットして引き揚げましょう。」と古賀が言ってくる。

 

 「そうだな、念のために今日1日は自販機の横に警備ロボット置いとくか。」

 

 また蹴られて出動するのはごめんだし。

 

 そんなことは微塵も知らない古賀は「そうですね、そうしましょう。」と言い、自販機のセキュリティをリセットする作業を始めた。

 

 俺も1体の警備ロボットを自販機の横での警戒待機モードに設定し、そして残りの2体を所定の位置に戻させ古賀とともにパトロールカーに戻り、出張所へと帰った。昨日の今日ということもあり、常盤台中学と風紀委員第177支部への連絡をするかどうか、帰途の間ずっと悩んだ末に言わないと決めて、報告書だけに留めたのはここだけの話である。

 

 

 そして出張所に着き、しばらく雑務をこなしていたがふと時計を見ると、時刻は午前8:40ごろを指していた。

 

 「うおっ、時間やべえ!古賀、早く学校に行くぞ!」と古賀に声をかける。

 

 しかし古賀は「どうしたんですそんなに慌てて?今日何かありましたっけ?」と不思議そうな顔をしている。

 

 「お前忘れたのか?今日は身体測定の日だろうが!」というと、古賀はしまったという顔になり、「えっ、時間やばいじゃないですか!早くいきましょう!」と我先にと事務室を飛び出していった。

 

 事務室を出ていく直前、俺は振り返り事務室に残る皆に「じゃあちょっと行ってきます!帰りは昼過ぎくらいになると思うので、何かあればすぐに連絡してください!」と言い残して飛び出した。

 

 背中から「行ってらっしゃーい!」と声が聞こえてくる。いつもの出動並みに――いや、それ以上に焦りながらパトロールカーに飛び乗り、自分たちの勤めている学校「公立(第7学区立)柵川中学校」へと急ぐ。

 

 しかし、こういう時に限って様々な不運が重なるものである。

 

 古賀がハンドルを握りながら、「ああくそっ、なんでこんな時に限って道路工事なんか・・・、緊急走行すればすぐなのに・・・!」と言いつつ、時計と前とを交互に見ている。

 

 俺も内心焦りつつも「いや、それはさすがに駄目だし、それにまだ5分ある、このまま行けば・・・!」と言う。

 

 今日の身体測定はうちの学校では午前9時から行われることになっていて、俺はそれに伴う安全管理の監督をしなきゃならないし、古賀に至っては諸々の記録の保管、管理をしなければいけなかった。

 

 「ちくしょー、校長に叱られる未来しか見えないぞ・・・、古賀、もっと飛ばせ!」と古賀に言うと、「いやいや、この道路は40km制限ですよ?警備員たるもの速度違反は駄目ですよ。」と顔を引きつらせながら言ってきたので、「お前は変なところでまじめだな!?」と盛大にツッコんでしまった。

 

 

 しばらくして学校に到着。時計は午前9:12を指していた。確実に遅刻。急いで職員室に向かう。そして職員室のドアを勢いよく開けて、「おはようございます!」と二人同時に入った。そして待ちかねたと言わんばかりに古賀は各担当教員に連れていかれたし、俺はというと安全管理用のタブレット端末を取りに行き―。

 

 「あれ?端末がない?」

 

 端末は忽然と消えていた。

 

 それを見ていた女性教師が「ああ、芝浦センセ、タブレットなら初春(ういはる)ちゃんが持っていきましたよ?」と教えてくれた。

 

 それを聞いた俺はお礼を言いつつ職員室を飛び出し、次に風紀委員室に急いで向かった。

 

 しかし初春飾利(ういはるかざり)はそこにもおらず、どこに行ったものかと探すこと数分。廊下を歩いている初春を見つけた俺は駆け寄り声をかける。

 

 「初春!遅れてすまない!」とまずは謝り頭を下げる。

 

 すると、まるで飴玉を転がすような甘ったるい声が「芝浦先生!もう、遅いですよ!」と、まったくもうと言った感じで、しかしそのあとに「朝から警備員のお仕事があったんですか?」と俺の服装を見ながら聞いてくる。

 

 「ああ、まぁ遅れたのは普通に俺が悪いんだが・・・。ところで、今日の身体測定の安全管理チェックはもうやってくれてたのか?」と俺が聞くと、初春は当たり前ですと言わんばかりの口調で「もう全部終わってますよ。今は校内の見回りをしながら先生の到着を待っていたところです。」と言ってきた。

 

 それに対し俺はもう一度謝りながらタブレットを受け取る。

 

 「なあ初春、お詫びと言ってはなんだが今度何か奢るよ。食べ物でも洋服でも、何でも好きなものをな。だから今日はほんとにごめんなさい。」と初春に言うと、初春はちょっと申し訳なさそうにしながら、「分かりました。もう、次は遅れちゃダメですよ?あ、それと奢ってもらうときは私遠慮しないので覚悟してくださいね。」と最後は笑顔で言われてしまった。やっぱり怒っているんだろうか。

 

 

 初春こと、初春飾利は、この柵川中学の風紀委員であり、そして俺の担当している生徒でもある。どうやら巷では彼女は、それこそ指折りの凄腕ハッカー達の間で「守護神」と呼ばれているらしく、どんなハッキングプログラムや経路、暗号化したプロトコルなどでも絶対に彼女に阻止されてしまうことが由来らしい。その恩恵あってかは分からないが、うちの学校ではPCや端末など全て市販のウイルス対策ソフトは導入しておらず、代わりに風紀委員の初春にそう言った部分の管理は任せてあるのだが今までその「防壁」が突破されたことは一度も無い。(ちなみにアクセスは日に数百件を超える時もある。)

 しかし運動神経などはお世辞にも良いとは言い難く、能力も低能力者の「定温保存」であったりと風紀委員向けとは言えないが、しかし情報処理能力は確かにずば抜けて高く、噂ではその一点突破で風紀委員の試験もパスしたとか何とか。警備員の中にもそこまでのレベルにいる者はなかなかおらず、俺から風紀委員の初春に個人的にサイバー関係の事件等を相談することもままあるのである。ちなみに、初春は黒子と同じ風紀委員第177支部に所属している。(ただ、警備員である俺はなかなか風紀委員の内情までは知る機会が無いため、以前の信号トラブルの際に初春と黒子が同じ支部であることを知ったのである。)

 

 

 とりあえず初春を身体測定へと向かわせ、俺は本来の業務に戻る。校内の見回り、監視カメラのチェック、そして身体測定の安全確保などをしていると、向こうからセミロングヘア―の女子生徒が俺の姿を見つけて手を振ってきた。

 

 「芝浦センセー!初春とは無事会えました?」

 

 

 柵川中学の生徒であり初春と同じクラスで、かつ親友の佐天涙子(さてんるいこ)である。彼女は風紀委員ではないものの、よく風紀委員室にいる初春に会いに来るため、実質的に俺の監督している生徒のような形になっている。彼女は初春と違い、無能力者であり成績も普通であるが、友人想いで優しい心を持ち、持ち前の明るさで場を盛り上げてくれるムードメーカー的な存在である。しかも弟がいるらしく、小さい子の扱いにも慣れているらしい。

 それに好奇心旺盛で、噂話や都市伝説といった類の話を追求することが趣味らしく、またさまざまな厄介事にも首を突っ込みたがるのでそのうち重大な事件に巻き込まれたりしないか心配ではある。

 

 

 「佐天、どうしてそれを知ってるんだ・・・?」とやや構え気味になりつつ聞いてみる。

 

 「いやぁー、だってさっき初春が『芝浦先生が遅刻してて本当に困りますよ。でも警備員の仕事だったら心配ですけど・・・。』とかって言ってましたしー。」と佐天。

 

 ん?今さりげなく初春が心配してたって言わなかった?とは思ったものの、考えすぎかと思いつつ「そ、そうか、初春には申し訳ないことをしたなぁ・・・。って、佐天は身体測定に行かなくていいのか?」と聞くと、「だって私たちのクラスは10時からですし。」と佐天が答えた。

 

 今は9:40を回ったところだった。「そうか、なら教室に戻っていなさい。初春もたぶんいるだろうからな。」と諭す。

 

 しかし佐天は「えー、でも芝浦センセー独りぼっちで寂しいんじゃないんですか~?」とニヤニヤしながら言ってきた。

 

 俺はそれに対し「ほう、確かに一人よりも二人のほうが仕事の効率も上がるよなぁ・・・?」と言いつつ佐天のほうを見ると、とっさに佐天は「あっ、ちょっと用事思い出したんで教室に帰りまぁーす!」と言いつつ小走りで行ってしまった。

 

 

 「まったく・・・、さて、仕事に戻りますかね。」と校内の見回りを再開する。

 

 その後は特に大きなトラブルが起こることもなく、時間通りに身体測定は終わったのだが、警備担当教員もとい、風紀委員顧問の俺と風紀委員の初春はまだ風紀委員室で一通りのセキュリティチェックや雑務を行っていた。時刻は11:30を回ろうとしており、すでに大半の生徒が昇降口前で級友と談笑したりしていた。本来ならば11時には下校できているはずなので、俺は初春に声をかける。

 

 「初春、あとはこっちでやっとくからもう帰って大丈夫だぞ。」と言うと、「え、でも芝浦先生、まだ半分以上は仕事が残ってますけど・・・。」と言ってきたので、それに対し「何言ってんだ。ここは警備員でもある先生に任せて、思いっきり放課後ライフを満喫して来い。これくらい普段の仕事に比べたらなんてことないさ。」と答える。

 

 「じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・。」と初春は席を立ち、「あ、でも今朝の約束はきちんと守ってくださいね?じゃあ後はよろしくお願いします。」と仕事を引き継ぎ部屋を後にしたのだった。

 

 

 「はいはい、分かってますよっと。さて、それじゃあ一気にやっちゃうか。」と腰を据えたときに再び風紀委員室のドアが開き、「お疲れ様です。芝浦先生。」と古賀が入ってきた。

 両手には缶のカフェオレが2本。

 

 「おう、お疲れ。ん、サンキュ。」

 

 俺は返答しつつカフェオレを受け取り、口をつける。

 

 「あれ?隊長もしかして初春ちゃんの分の仕事もやってあげてるんですか?」と古賀はPCの画面をのぞき込みつつ訪ねてくる。

 

 「まぁな。本来なら今日は11時下校なんだ。教師の俺らが残るならまだしも、あくまでも生徒である初春にそれをさせることはできないだろ。ただでさえ30分も残ってくれていたんだし。」とそれに対し答えつつ、なんとなしに視線を窓の外へとむける。

 

 「いやあ、さすが隊長ともなると違いますねぇ。ま、俺も警備員の一員ですし、手伝っていきますよ。って、隊長聞いてます?」

 

 古賀に声をかけられた俺はハッと我に返り、窓から視線を外しながら「あ、あぁ、助かるよ。」と答えたのだった。

 

 

 ―――窓の外には、舞い上がるスカートの裾、そして、初春の悲鳴が木霊(こだま)しているのだった。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの評価・感想などをお聞かせいただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の美琴の「チェイサー!」のシーンから、身体測定が終わり涙子が飾利のスカートをめく・・・、「挨拶」をしたシーンまでを書いてみました。なんだかんだ仲のいいあの二人。きっと涙子は飾利のいる風紀委員室に入り浸っているに違いない。とか思いながら書いてみました。
 ちなみに芝浦先生は淡いピンクの水玉模様のパンツなんて見ていませんよ。ええ見ていないはずです。
 次回、第3話「日常と非日常」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.11.24追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.11.25追記
「用語解説」を削除しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「日常と非日常」

※今回以降は「用語解説」を前書きで省きます。その代わりに「用語解説」を「オリジナル設定資料」にまとめました。また、一元化するためプロローグ~第2話までの用語解説を削除いたしました。※
※当作品のオリジナル設定をまとめた設定資料を新規作成しました。※

 皆さんこんにちは。前回「身体測定と無能力者」では飾利と涙子が初登場し、そしてなんだかんだで平和な学校生活の放課後に入るところでお話が終わりました。芝浦先生たちは朝から大変だったみたいですが・・・。今回はアニメの方では美琴、黒子、飾利、涙子の4人がファミレスで落ち合い、その後クレープを食べに行くところのお話となります。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。



 学校での残りの仕事を終えて、最後のセキュリティチェックを済ませた俺は古賀と共に駐車場へと向かった。そして駐車してあるパトロールカーへと乗り込み、無線機で出張所と連絡を取る。時刻は12時を回っていた。

 

 「こちら芝浦。これから出張所に帰投する前に、一通りパトロールしていくよ。特に大きな事案はなかったか?」

 

 「こちら出張所、神田です。了解しました。特に大きなものは無かったですよ。パトロールお気を付けて。」

 

 「こちら芝浦、了解。ありがとう、何かあればすぐに連絡する。」

 

 そして無線機を置き、帰るついでに学区内を一通りパトロールすることにした俺は古賀に巡回する順路を一通り指示すると、車窓の外に目を光らせた。しかしパトロールを始めてすぐに古賀が話しかけてくる。

 

 

 「隊長、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。」

 

 「どうしたんだ改まって?遠慮せず聞いていいぞ。」

 

 俺は若干驚きつつ聞き返してみる。

 

 そして古賀はやや深刻な顔になりつつ「じゃあ聞きますけど・・・、隊長って初春ちゃんと佐天ちゃんのこと、ぶっちゃけどう思ってるんですか!?」と意味不明なことを聞いてきたのである。

 

 当然、俺は一瞬何を言われたのか意味が分からずフリーズしてしまったがそれも束の間、ものすごい勢いで古賀に振り替えると「お、おま、お前は何を言っているんだ!?」とやはり意味が分からないので盛大に聞き返してしまった。

 

 それに対して古賀は「いやぁ、だって隊長あの二人と結構仲いいじゃないですか。だからてっきりそういう思いもあるのかなぁーって思いまして。」とニヤニヤしながら聞いてくる。さらに追い打ちをかけるように「しかも隊長ってまだ20代前半でしょ?全然チャンスありますって。」と言ってくる。

 

 俺は最初こそ取り乱したものの、すぐに冷静になり「いや、古賀、お前は俺をなんだと思ってるんだ?」と聞き返す。

 

 そして古賀の返答は「んー、ロリコン教師?」であった。

 

 

 ふむ、これは一発蹴りを入れないといけないようだな・・・。と思った矢先、車外から女性の悲鳴が聞こえてきた。どうやらひったくりのようである。

 

 「古賀!」と青色灯のスイッチを入れながら声をかけると、勝手知ったるとばかりに「任せてくださいよ隊長!」とパトロールカーを操り、犯人の前に停めたのである。

 

 しかし犯人はいきなり現れた警備員を前にしても動じる様子はなく、むしろ敵意をむき出しにして今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だった。

 

 「(こいつはヤバい!)」

 

 直感でそう感じとった俺はとっさに車外に出ると、テーザーガンを構えて犯人に警告を発した。

 

 「動くな!それ以上近づいたら撃つ!」

 

 しかし犯人はそれを知ってか知らずか、こちらに襲い掛かってきたのである!

 

 「くそっ!」

 

 テーザーガンの引き金を引き犯人に命中させる。バチチチチチチチ!と電流が流れる音はしたものの、犯人は止まらずパトロールカーの上を飛び越え俺に襲い掛かってきた。

 

 「なっ!?電撃使いか!」

 

 とっさにテーザーガンを捨て、特殊警棒を取り出し犯人の喉元めがけて一突きする。

 

 「はっ!」

 

 「ぐぇっ!」

 

 警棒は犯人の喉仏を貫き、地面にたたき落とす。

 

 「クソッたれ!手を後ろに回せってんだオラ!」

 

 犯人は口から泡を吹きながらもなお抵抗し続けており、なかなか拘束できない。すると、犯人の体周囲が帯電し始めた。

 

 「っ!まずいっ!」

 

 俺は対発電系能力者用の無力化武器である超即効性の睡眠ガススプレーを、犯人の口元めがけて吹き付けた。それからものの10秒もしないうちに犯人はおとなしくなり、気を失った。帯電状態も解消されていく。

 

 

 「隊長!大丈夫ですか!?」

 

 古賀はパトロールカーから出るタイミングを見失い、どうやら出張所へ連絡してくれていたようだ。こちらに出てきて俺の様子を窺ってくる。

 

 「ああ、なんとかな。しかし何なんだこいつは?暴力的にもほどがあるだろ・・・。」と手錠をかけ終わり俺は立ち上がる。

 

 「そういえば、被害者は無事か?」

 

 古賀にそう聞くと、古賀もいきなりのことで状況が分からないらしく、周囲を見回す。すると一人の女学生がこちらに駆け寄ってきた。

 

 「君がこれの持ち主?」

 

 俺が犯人の持っていたハンドバッグを見せると、女学生はそれを受け取りホッとしたのか、泣き出してしまった。見る限りでは長点上機学園(ながてんじょうきがくえん)の生徒のようだ。

 

 「うん、よしよし、怖かったよな。でももう大丈夫だ。ところで怪我はないか?どこか痛いところは?」

 

 俺が背中をさすりながらそう聞くと、女学生は首を横に振った。

 

 「そうか、それならいいんだ。さて、ちょっと立てるかい?落ち着くまで車の中にいるといい。」

 

 俺は女学生の手を取ると、パトロールカーに乗せてドアを閉めようとした。しかし女学生がそれを制止し、俺も一緒に中にいてくれというのだった。

 

 「うん、ちょっと待っててな。古賀、ちょっといいか?」

 

 俺は古賀に声をかける。

 

 「どうしたんです?」

 

 犯人の所持品などを調べていた古賀が聞き返してくる。

 

 「ちょいとこの子が落ち着くまで車内にいるよ。それとなく状況とかも聞き出しておくから、古賀は護送車が来るまで犯人の見張りと周辺の調査を頼む。」

 

 「はいよ、イケメン隊長さん。」

 

 なにやら意味深な笑みを浮かべつつ言われたセリフに言い返そうとしたが、服の裾を女学生に摘ままれてしまったため、仕方なく車内に戻ることにした。女学生はまだ肩を震わせ泣いている。相当怖かったのだろう。俺はその女学生の背中をさすり、落ち着くまでしばらく待った。

 

 

 ―しばらくして、落ち着きを取り戻した女学生は小さな声で「ありがとうございます、もう大丈夫です。」と言ってきた。

 

 それを聞いた俺は背中から手を放し、改めて事情聴取に移る。

 

 「よし、それじゃあ少し落ち着いたところで、まずは君の名前と学校を教えてもらえるかな?」

 

 そう聞くと、女学生は頷いた後に「長点上機学園1年の、新橋恵(しんばしめぐみ)と言います。」と教えてくれた。

 

 「うん、新橋さんね。ありがとう。それじゃあゆっくり、話せるところからでいいから何があったか教えてもらえるかな?」と状況の聴取に入る。

 

 新橋は一度、小さく深呼吸をしてからゆっくりと話し始めた。

 

 「えっと、最初は私、セブンスミストに服を買いに行こうと思って歩いてたんです。そしたらいきなり後ろの方で男の人の怒鳴り声?みたいな、ものすごく怖い声が聞こえてきて・・・、びっくりして振り返ったらものすごく怖い顔でこっちに走ってくる男の人が見えて、その後は・・・。」

 

 最後はもう消え入りそうな声で、半分泣いてしまっている。

 

 「なるほど・・・、教えてくれてありがとう。しかしなんでコイツはいきなりそんなことを・・・、新橋さん、この人と面識あったりする?」

 

 そう俺が聞くと、新橋は首をふるふると横に振った。しかし直後、新橋は俺の顔を見据えて「あっ」と言った。

 

 「どうかした?」と俺が聞くと、新橋は「先生、ほっぺから血が・・・。」と言って自身の持っていた手鏡を取り出し、その傷口を見せてくれた。

 

 血は滲む程度しか出ていないが、横に2cmほどパックリと切れてしまっていた。どうやら先ほど、警棒で犯人の喉を突いた際にやられたらしい。改めて犯人の右手を見てみると、携帯式のナイフが握られていた。あまりに突発的な攻撃だったために気付けなかったらしい。

 

 「ああ、これくらいかすり傷だよ。」

 

 ヒリヒリし始めた傷口を意識の外に追いやりながら俺はそう言ったものの、新橋は心配そうな顔をしている。そしてなにやら意を決したような眼差しになると、「あ、あのっ!」と声を出した。

 

 「どうしたの?」

 

 俺が聞き返すと、新橋は「私に傷の手当てをさせてくれませんか?」と言ってきた。

 

 俺は遠慮したかったのだが、新橋は「さっき助けてもらったお礼も兼ねて」と言うことを聞いてくれない。

 

 「分かった、分かったから。それじゃあお願いするよ。ちょっと待ってて、救急キットを今―。」

 

 「あ、それなら私の持ってる治療パッドを使ってみてください。」と、見た目は普通の傷パッドなのだが、なにやらこの裏にジェルのようなものが塗布されているものを差し出してきた。

 

 「これは?」

 

 俺が聞くと、新橋は若干恥ずかしそうにしながら「これ、私が開発したものなんです。微生物の力と、植物の持つ治癒能力を応用しているんですけど、これを貼ってから24時間以内には比較的小さな傷なら完全に治っちゃうんです。ついでに言うと浸潤してきた体液や免疫細胞を傷口の周りに保つ湿潤治療(しつじゅんちりょう)も並行して行えるので、火傷とかの治療にも使えるんですよ。大きな傷だと1~2週間くらいかかりますけど、大抵の傷だったら治ります。」と説明してくれた。

 

 

 俺は素直に感心しながらその説明を聞いていたが、ふと疑問に思ったことを口にする。

 

 「新橋さんって、もしかしてそういう方面で長点上機に入学したの?」

 

 それを聞いた新橋は照れくさそうにしながら「あはは・・・、まぁ一応は研究者、って言えば聞こえはいいですけど、まだまだですよ。それに能力も強能力者の『集中治療』ですから、強度としては普通の学生と大差はないですよ。」と答える。

 

 しかし俺は、聞きなれない能力名を耳にし、それを改めて聞いてみる。

 

 「新橋さん、その『集中治療』って能力、もしかして治癒系能力の一種だったりするの?」と聞くと、新橋はきょとんとした顔で「はい、それがどうかしたんですか?」と聞いてきた。

 

 「いや、だったらその能力で傷とか治せばいいのに、どうして医療分野の研究開発をしてるのかなって思って。」

 

 そう俺が答えると、新橋は少し悲しそうな顔になり、「はい、確かにそれが理想なんだと思います。でも、私だけかもしれませんがこの能力は消耗が大きくて、傷の酷さにもよりますが多くても一日に2回くらいが限界なんです。それに、この能力そのものが希少で、皆がその能力を持っているわけじゃない。だからこそ私は誰にでも使える科学で人を治したい。そう思うんです。」と言い、しかしその後に赤面しながら「あはは、なんか語っちゃいましたね。お恥ずかしい・・・。」と俯いてしまった。

 

 しかし俺はすっかり感心してしまい、「いや、恥ずかしがることないよ。すごくカッコいいと思うよ。」と称賛を送る。

 

 それを聞いた新橋はさらに赤面してしまい、「さ、さぁこのパッドを貼りましょうそうしましょう!」とわたわたしている。

 

 しかし貼る直前、お互いの顔が近いことに新橋が気付き、若干緊張した、赤面した面持ちでそっと傷口にパッドを貼ってくれた。パッドが貼ってあるところからひんやりとした、心地よい感触が伝わってくる。

 

 

 ―そんなこんなで新橋の緊張もほぐれ、一息ついていると警備員の護送車がやってきて犯人を拘置所まで護送していった。証拠品に関してはこちらでいったん預かった後に第7学区本部へと移送することになる。そして俺はいったん車外に出て、古賀が押収した証拠品を見せてもらった。

 

 「ふむ・・・、さっき持っていたナイフと、携帯電話と、音楽プレーヤーか。」

 

 「はい、犯人が持っていたのはこれだけでした。身元が分かるようなものは何もなかったです。」

 

 古賀が若干悔しそうに吐き捨てる。

 

 「まぁそこらへんはアイツが口を割らない限りははっきりしないだろうなぁ・・・。とにかくこれはウチでいったん預かるぞ。」と俺は証拠品を入れておくためのスーツケースをパトロールカーのトランクに入れつつ答える。

 

 「あ、それと隊長、忘れ物ですよ。」と先ほど俺が手放したテーザーガンを古賀が返してくれた。

 

 「お、ありがとな。」

 

 カートリッジを交換し、安全装置をかけてホルスターにしまう。すると、車内から新橋が声をかけてきた。

 

 「あのぉ、私はいつまでこうしてれば・・・?」

 

 「おっとごめんよ、どうする?一人で帰れそうか?もし不安なら寮まで俺たちが送ってくけど、どうする?」

 

 俺がそう聞くと、少し考えたのちに新橋は「えっと・・・、できれば送っていってほしいです・・・。」と答えた。

 

 時刻は午後12時半過ぎ。長点上機学園は第18学区にあるので、行って来ると往復で30分はかかるだろう。帰り際にコンビニでも寄って昼食でも買っていこうか。

 

 

 その後は他愛ない話をしながら新橋を学生寮まで送り届け、第7学区まで帰ってきた。時刻は1時を回るところだった。古賀が俺も思っていたことを口にする。

 

 「隊長、コンビニでも寄って昼メシ買いません?さすがに腹がすきましたよ・・・。」

 

 「俺もちょうどそう思っていたところだ。グリマ寄ってこうぜ。」

 

 

 そしてパトロールカーのままコンビニの駐車場に入り、降りようとした矢先、無線機に緊急連絡が入る。

 

 「芝浦隊長!こちら出張所神田です!たった今風紀委員第177支部より応援要請が入りました!第7学区ふれあい広場前、いそべ銀行にて強盗事件が発生した模様です!」

 

 なんてタイミングの悪さだ。と思いつつも無線機を手に取り、「こちら芝浦、了解!直ちに現場に向かう!追加情報等あれば追って知らせてくれ!」と指示を出す。

 

 

 古賀はすでにパトロールカーの青色灯のスイッチを入れ、サイレンを鳴らしコンビニの駐車場を飛び出していた。ふれあい広場まではここからなら10分とかからず着ける!急がなくては・・・!




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の美琴、黒子、飾利、涙子がファミレスで落ち合い、その後向かったクレープ屋でたまたま強盗事件に遭遇するところのシーンまでを書いてみました。今回は原作キャラは出てきてないですが、その代わりオリジナルキャラクターが新たに出てきましたね。初めて完全に独立したストーリーを描いた感じがします。
 警備員らしいアクションシーンも書けたので、個人的には書いてて楽しかったですね。まぁ毎回楽しいんですが。
 次回、第4話「守るべきものと護りたいもの」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


2018.11.27追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.11.28追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話「守るべきものと護りたいもの」

 皆さんこんにちは。前回「日常と非日常」では、警備員である芝浦と古賀が恵をひったくり犯から助け、そして昼食を買おうとコンビニに入った矢先に銀行強盗が起きたところでお話が終わりました。今回はその続き、アニメの方だと銀行強盗が発生し、黒子と飾利が警備員へ連絡したシーンから、ラストの「Only My Railgun」が流れるところまでのお話となります。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 ―急行する車内の無線機から、新たな情報が続々と入ってくる。林と鈴木も向かっていること、「見学ツアー」の子供たちがふれあい広場にいること、犯人は3人であることなどだが、その中にひときわ気になる情報が一つあった。「柵川中学の生徒が現場にいる可能性あり」というものだった。俺はそれを聞き、焦燥感に駆られる。

 

 

 現場まであと5分ちょっとというところでその情報は入ってきた。「柵川中学の女子生徒一名が犯人による暴行を受け負傷した」という内容だった。俺はそれを聞き、テーザーガン、睡眠ガススプレー、催涙ガススプレーの点検を行い、そして実弾を装填してある弾倉の確認と、既に弾倉を装填済みの拳銃の薬室に初弾を装填、安全装置をかけホルスターにしまった。

 

 そして、正面を見据えたまま、「・・・古賀、今日に限ってはお前の本気を出していいぞ!」というと、古賀は二ヤリと笑って「了解です隊長!」と言い、一気にアクセルを踏み込んだ。

 

 タコメーターが一気にレッドゾーンまで回り、サイレンを掻き消す勢いでエンジンがうなりを上げる。タイヤに動力を伝えるゴムベルトが焼ける匂いが鼻先をくすぐる。

 

 

 そして、緊急走行でも5分とかかる道のりを、3分ほどで到着し、広場横の道路にパトロールカーを停め車外に飛び出した。どうやら最初に現着したらしい。現場には爆破された銀行の防犯シャッター、破壊された警備ロボ、なぜかフロントから地面に突き刺さっている白い車などとんでもない状況だったが、そんなことはお構いなしに俺はいつも見ているセーラー服を探す。そして男の子と一緒に道路脇に座っている女子生徒と、その女子生徒を心配そうにしている風紀委員腕章をつけた特徴的な髪飾りが目に入った。

 

 「初春!佐天!二人とも大丈夫だったか!?」

 

 俺はそこに駆け寄りながら大声でそう言うと、二人はそろってこちらを見てくる。

 

 「芝浦先生!私は大丈夫です!でも佐天さんが・・・!」と初春。

 

 そして俺は佐天の前にかがみ、様子を窺う。佐天の肩は若干震えていた。そして右の頬に蹴られた跡があるのを見つけ、俺は持ってきた救急キットを取り出す。

 

 「佐天、もう大丈夫だ。俺が来たからもう心配ない。・・・ほら、とりあえず傷の手当だけしちゃうからちょっと我慢しててな。」と、とにかく佐天を安心させるために優しく声をかけつつ傷の手当てを行う。

 

 そして傷の手当てを終え、改めて佐天の方に向き直ると、やはり少しだけ肩を震わせている。隣に立っている男の子が不思議そうな目で佐天を見つめている。俺はそれとなく初春に目配せし、初春に男の子を連れて行ってもらうように促すと初春は気を利かせて男の子をバスガイドの方へと連れて行ってくれた。

 

 

 俺はそれを確認すると佐天の手を取り、何も言わずパトロールカーへと向かう。佐天は若干驚きはしたものの、何も言わずについてくる。そして佐天に落ち着くまでパトロールカーの中に居れば良いと言い、佐天をパトロールカーの後部座席に乗せる。佐天は少し安心したのか、若干ではあるが緊張がほぐれたようだ。しかしそれが引き金となったのだろう。自然と佐天の目から涙が零れ始めた。

 

 「えっ、私、なんで泣いて・・・?」

 

 佐天は自分でもなんで泣いているのか理解が追い付いていないらしい。俺は佐天の隣に座ると、ドアを閉めて佐天の肩を抱き寄せる。

 

 

 佐天は涙目になりながらも驚いた顔でこちらを見上げてきたが、俺は真正面を向いたまま一言、「佐天が無事でよかった。本当に。無事でよかったよ。」と言うと、佐天はまるで(せき)を切ったように泣き始め、警備員に支給されている特殊ベストにしがみついてきた。

 

 そして「うっ・・・うぅっ・・・、芝浦センセ・・・、怖かった、怖かったよぉ・・・。」と聞こえてきたので、俺は佐天の肩に置いていた手で頭をなで、同じ空間を共有していた。

 

 それを傍目に見ていた古賀はと言うと、「さってと、現場の確保と状況整理でも始めますかねぇー、あーあ、林と鈴木の奴ら早く来ないかなぁ。実質俺一人なんだけど・・・。」とか言いながら軽い足取りで仕事に向かっていった。

 

 

 ―しばらく佐天は泣いていたが、いつの間にか泣き声は止み、佐天は安心しきった顔で俺に体を預けてきていた。そして、佐天は静かに口を開きこんなことを聞いてきたのである。

 

 「先生、私にできることって、何なのかな・・・?」

 

 俺は逡巡したのちに、ゆっくりと口を開く。

 

 「佐天、今回のことは誇りに思っていい。佐天はあの男の子を強盗から守ったんだ。自分の身を危険にさらしてまで誰かを守れる人は、そうそう居ない。それが赤の他人ならなおさらだ。その強さは、成績や能力の強度なんかよりもよっぽど大切で、一番強い能力(チカラ)になる。―佐天、君は強い。大丈夫。大丈夫だよ。」

 

 それを聞いた佐天は小さな声で「・・・ありがと。」と言い、それから「・・・ごめんなさい。」とも言った。

 

 俺はそれを聞き、佐天の頭をなでながらやさしい声で「お前なぁ・・・、ごめんなさいって思うくらいならもうちょっと慎重に行動しなきゃ。自分が怪我しててどうするんだ?」と言った。

 

 すると佐天がムッとした顔で「えー、でもセンセ―さっき『私は強い』って言ってくれたじゃんかー!」といつもの調子に戻った声で言ってきた。

 

 それを聞いた俺は内心「もうこれなら平気そうだな。」と思いつつ、「いーや、その強さってのは『自分も相手も守れて』初めて強いって言えるからな。佐天はまだまだ半人前だ。」と冗談半分で言ってみる。

 

 すると佐天は「それって私が弱いって事じゃんかー!」と俺が先生であることも忘れて言い寄ってくる。

 

 それに対し俺は笑顔で「いやまあ、だからこそ佐天や他の皆がどうにもできないことは俺たちに任せろ。ついでに皆を必ず守ってやる。もちろん、佐天も大事な生徒だからな、何があっても護り抜くつもりだ。」と答える。

 

 それを聞いた佐天は急に恥ずかしくなったのか、俺を「先生」だと再認識したからかは分からないが、体を離して照れ笑いを浮かべている。俺はそれに対して肩の力を抜いた笑顔で応えるのだった。

 外では御坂が古賀から状況聴取を受けており、初春と白井とうちの出張所から来た警備員らが現場の状況整理などにあたっている。隣では何やら、佐天が一人でホクホクしながらニヤけていた。

 

 

 ―しばらくして本部やほかの支部からも応援の警備員が到着し、本格的な現場検証が始まると同時に犯人らへの事情聴取が始まった。俺は古賀のもとへと向かい、現場検証に加わる。その姿を認めた古賀が、おもむろにこんなことを言ってきた。

 

 「隊長、やっぱりイケメンっすねぇ~。今日の昼に聞いた答え、期待しちゃってますからきちんと答えてくださいね~?」と、盛大に冷やかしながら。

 

 俺はそれを無視して古賀に状況説明を求める。古賀は若干つまらなさそうにしたがそれも束の間、すぐに警備員の顔になると説明を始めた。

 

 「今回の現場は見ての通り、銀行強盗です。犯人は3人で、金庫を無理やりこじ開けて金を強奪したようです。ただ、一つ気になることがあって、初春ちゃんの話だと既に防犯シャッターは下りていたらしいんですが、そうなると警備員に警報が伝わるはずですが、今回はどうやらその回線をすでに切断されていたらしく事前に計画された犯行であることが伺えます。」

 

 「ちょっと待て、事前に切断って、この銀行のセキュリティシステムはどうなってたんだ?警備ロボは?」

 

 俺がそう聞くと、古賀は頭を掻きながら「いやぁ、それがここの銀行、セキュリティシステムがかなり古かったらしくて未だに配線を通していたらしいんですよ。警備ロボに至っては起動はしたらしいんですが、ログが消えてしまうほどの大ダメージを受けていたのでほんの数秒で無力化されたんでしょうね。民間の負傷者が居なかったのが奇跡ですよ。」と答える。

 

 しかし俺は「・・・佐天は蹴られてケガしたけどな。」と言うと、古賀は「やっぱりその事で『個人的に』犯人と話したいんじゃないんですか?」と分かったような口を聞いてくる。

 

 俺は若干迷ったものの、「まぁ確かにな。」と答えると、古賀が「やっぱりね。んじゃまぁ現場は俺たちに任せて、白馬の王子様はあちらにいらっしゃる悪魔の戦士との面談でもしてきてください。」と護送車の一台を指さしながら言ってきた。

 

 

 俺は古賀に礼を伝え、速足で護送車まで向かうとそこにいる警備員に「事情聴取をする」という名目のもと護送車に乗り込んだ。護送車に入ってきた俺を見て、犯人は「またか」といった雰囲気を放ちつつ舌打ちをした。俺はあくまでも冷静さを保って犯人の正面に座ると、口を開いた。

 

 「俺が来たのは事件とは関係ない、しかしとても重要なことを君に聞きたかったからだ。」

 

 犯人はそれを聞き、不思議そうな顔になる。俺は話を続けた。

 

 「君は小さい男の子を無理やり連れて行こうとしたうえに、女の子を思い切り蹴り飛ばしたよな?」

 

 そういうと犯人は「なんだそんなことか」といった雰囲気で、「それが何だってんだよ。」と答えた。

 

 俺はそれに対し頭にきたが、努めて冷静に言い返す。

 

 「君はあの二人に対してなんとも思わないのか?特に君は男だし、女の子の顔を蹴るだなんてとんでもないことだとは思わないのか?」

 

 そう俺が問いただすと、男は「へっ、あんなガキなんぞどうだっていいわ。あーでも、あの女の子は可愛かったかな。あの時は慌てて蹴っちまったけど、まぁ仕方なくね?不可抗力ってやつ?俺の彼女になってくれるんなら話は別だけどよ、別に俺の知ったことじゃねぇしやっぱどうでもいいや。」と答えた。

 

 それを聞いた俺は立ち上がると犯人の顔面を一発、思い切り殴り飛ばした。

 

 そしてその後は――詳細は言えないが――犯人との「面談」を2時間ほどした後に護送車から出てくると、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。犯人はというと護送車の隅に体育座りになったまま放心状態になっている。まぁ「どうでもいい」が。

 

 

 どうやら御坂が佐天の為に活躍してくれたことも分かったので、ヤシの実サイダーを買って御坂のもとへと向かい、ヤシの実サイダーを手渡して改めてお礼を言った。御坂は警備員である俺がそれを知っていることに若干気まずそうにしていたが、しかし俺は言及するつもりは無かったので、お礼だけを言うと古賀の元に戻った。

 

 古賀が「良い面談はできました?」と聞いてきたので、俺はさわやかな笑顔で「うん、そりゃもうバッチリだよ。」と答えると、古賀は若干顔を引きつらせて乾いた笑い声を出した。

 

 

 ―陽はだんだんと傾き始めており、夕焼け色に学園都市は染まり始めていた。ふと佐天の方を見るとどうやら先ほどの男の子と、そのお母さんと何やら話しているらしい。すると、男の子の元気な声で「お姉ちゃんありがとう!」と聞こえてきて、それを聞いた佐天は照れくさそうに、しかし柔らかく笑っていた。それを見て俺もまた笑顔になるのだった。

 現場検証は本部から来た応援の警備員に引き継ぎ、俺と古賀は「見学ツアー」の参加者たちをバスガイド、運転手と共に確認し、そして全員いることを確認したのちに観光バスを見送った。それからしばらくは現場近辺の安全確認と、再度被害状況の確認をしていたがそれも終わり、撤収の準備をしているとなにやら心配そうな声が聞こえてきた。そちらの方を見ると御坂、白井、初春、佐天の4人が集まっており、初春は相変わらず佐天のことを心配しているようだった。そして白井はというと、御坂の背中に抱きついており・・・これ以上は言及するまい。しかし佐天はそれを見て再び柔らかく笑っていた。俺はそれを見て安心して撤収作業に集中できたのだった。

 

 

 ―俺は必ず守らなければならない。この学園都市の平穏と日常を。そして護らねばならない。この笑顔と楽しい時間、皆と過ごした思い出を。

 

 

 ちなみに、古賀の言っていた「ロリコン教師」のレッテルは、出張所に帰り着いた後に自主鍛錬をするための道場で、古賀を一揉みして返上させてもらった。ただ、俺が佐天や初春のことを好きなのに変わりはない。その点に関しては古賀も「冗談だった」と後で謝ってきたので不問とした。もちろん「好き」とは言っても異性としてではなく、生徒として。二人ともかわいい生徒であり、大切な存在であり、護るべき存在である。そのためにも俺は、愛銃の手入れを欠かさず行い、自分の腕を磨き、そして何より出張所の皆を信頼して学園都市のパトロールに出かけるのである。

 

 

 明日もこの平穏が続くことを祈って―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話の銀行強盗が発生したシーンから、ラストまでを書いてみました。ようやく第1話が完結し、なんとなく書くペースを掴めたような気がします。次回以降はより深い部分のストーリーも書いていきたいと思っているので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
 また、「書庫」のオリジナル設定資料に関して、読者の皆さんの疑問点や改善点などを教えてくださるとうれしいです。私も十二分に配慮して編集しているつもりではありますが、それが至らず意味の分からない単語や設定をそのままにしていることもあるかと思いますので、読者の皆さんとそういった点を解消していけたらと思っています。
 次回、第5話「音楽プレーヤーとスキルアウト」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


2018.11.27追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「音楽プレーヤーとスキルアウト」

 皆さんこんにちは。前回「守るべきものと護りたいもの」では銀行強盗が発生し、そして涙子を励まし、銀行強盗を絞り上げて最後はみんなが笑顔になったような、そんなお話でした。今回はアニメ第1話~第2話の間のストーリー、より事件の真相に近い部分の情報に芝浦と古賀が触れるお話となります。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 翌日、朝礼を済ませた俺たち日勤組は、各々シフトに入り昨日の銀行強盗の報告書やら書類やらをまとめたり、その他の雑務をこなしていた。俺と古賀はというと第7学区警備員本部へと昨日のひったくり犯の持っていたナイフと携帯電話、そして音楽プレーヤーを証拠品として届けることになっていた。

 

 「それじゃあ本部に行ってきます。帰りはお昼前くらいになると思うので、何かあればすぐに連絡してください。」と出張所の皆に言い残し、古賀と共にパトロールカーへと乗り込んだ。

 

 清々しい朝の空気の中、通学している学生たちを横目にパトロールカーを走らせていく。古賀も朝の気持ちいい空気を楽しんでいるのか、今日は珍しく静かだった。

 

 

 第7学区警備員本部はその名の通り、第7学区の中心部にある警備員の本部であり、第7学区内では最大の人員数、車両数、装備数を誇る施設だ。新たに開発された新装備も優先的に配備されており、この建物の中には証拠品解析を専門に行う部署とその設備もあり、そこには最新鋭の解析機器と科学に秀でた警備員の隊員達がいて、昼夜を問わず事件解明の為に証拠品解析にあたっている。

 また、「先進状況救助隊(MAR)」と言われる警備員傘下の救助部隊の部署もあり、様々な救助任務を請け負ったりもしているという。しかしその一方で学園都市統括理事会による影響も大きいらしく、上からの命令によっては隊員一人として現場に行かせられなくなってしまうという噂もあるが、その辺りは本当のところはよく分からないというのが実情である。

 

 

 しばらくして本部の入り口に差し掛かった。本部の周りは高さ5mほどの鉄筋コンクリートで出来た塀で覆われており、その外周は自律型警備ドローンが常にパトロールしている。出入り口はこの正面ゲートと、普段はシャッターで閉じられている出動用の車庫出入口のみである。そして正面ゲートは高さ2mくらいの鋼鉄製のゲートで閉じられており、その上部には2つの監視カメラがある。正面は常に5体の自律型警備ロボットと、2体の自律人型武装警備ロボットが目を光らせており、何とも近付き難い雰囲気を醸し出している。

 

 「いつ来てもものすごい威圧感だよなぁここ・・・。」と俺は毎日ここに出勤している警備員たちの気が知れないといった風に古賀に話しかける。

 

 古賀は「まぁでも、それも仕方ないんじゃないですか?高位能力者からの襲撃も視野に入れたらこうなりますって。」と肩をすくめる。

 

 すると2体の自律型警備ロボットが左右に近づいてきて、機械音声で話しかけてくる。その他の警備ロボットが1mmも動かないあたりが実に不気味である。

 

 「オツカレサマデス。セキュリティカードノテイジヲオネガイシマス。」

 

 俺はそう言われ、セキュリティカードを警備ロボットのセンサー部にかざす。古賀も同様にかざしていた。

 

 「セキュリティカードヲスキャンチュウ・・・ジョウホウショウゴウ・・・ジョウホウノガッチヲカクニンシマシタ。ツヅイテモウマクニンショウヲオコナイマス。センサーブニメヲチカヅケテクダサイ。」

 

 そして俺は言われた通り目をセンサー部に近づける。

 

 「モウマクスキャンヲジッコウチュウ・・・スキャンカンリョウ。ジョウホウショウゴウ・・・ジョウホウノガッチヲカクニンシマシタ。」

 

 古賀も網膜スキャンが終わったようだ。ようやく「俺たち」のスキャンは終わったわけだが、さて次は・・・。

 

 「コレヨリバクハツブツナドノスキャンをオコナイマス。」と警備ロボは言い、パトロールカーの前後、対角線上に広がるとスキャンを開始した。

 

 数秒でスキャンは終わり、1体の警備ロボが近づいてきて「スベテノスキャンヲカンリョウシマシタ。セイシキニシンニュウヲキョカシマス。」と言うと、先ほどまでピクリとも動かなかった他の警備ロボと共に右側に整列し、その直後に鋼鉄製の分厚いゲートがゆっくりと横に開いていく。

 

 

 こうして警備ロボの手厚い歓迎を受けた俺たちは、正式に侵入許可をもらい本部の敷地へと入っていく。敷地内に入って来客用の大型駐車場にパトロールカーを停め、スーツケースを持って本部へと入った。正面入り口から中に入ると、いかにも「お役所」といった雰囲気が漂っており、事務所では警備員の面々がPCに向かったり、書類を広げたりして仕事していた。俺と古賀はそれを横目に、迷うことなく証拠品解析を専門に行う部署に向かう。そして目的地である「証拠品解析室」と書いてある部屋へと向かい、ドアを開け中に入る。

 

 「失礼します。第34出張所の芝浦と古賀です。昨日のひったくり犯から押収した証拠品を届けに来ました。」

 

 

 すると、聞き覚えのある声が俺と古賀の名前を呼んだ。

 

 「あれ、芝浦と古賀じゃん。お前たちも昨日の銀行強盗の関係じゃん?」と特徴的な言い方。

 

 俺はその人の姿を認め、「お疲れ様です、黄泉川(よみかわ)教官。俺たちはその件とはまた別件ですよ。」と見知った女性警備員の名前を呼ぶ。

 

 「もう芝浦、『教官』はやめるじゃん。『先生』って呼ばないと、今度一杯付き合わせるじゃん?」とニヤニヤしながら黄泉川先生。

 

 俺は顔を引きつらせながら「え、遠慮しときます。黄泉川先生・・・。」と答えた。

 

 

 この人の名前は黄泉川愛穂(よみかわあいほ)。第7学区第73活動支部に所属している。とある高校の体育教師で、とても生徒想いな警備員である。ただしかなりの大酒飲み。格闘技能がとても高く、チンピラはおろか強能力者くらいの能力者でさえも「武器」を使わずに制圧してしまうという。(盾などを使ってどつき回して制圧する様子を何人もの警備員が見ているが、ある日一人の警備員が「黄泉川先生、それって完全に武器の扱いでは?」と聞いたら黄泉川先生曰く、「あくまでこれは防具じゃん。だから武器じゃないじゃん?」と言われたらしい。)しかしどんなに凶悪な犯罪者だろうと、子供に対しては絶対に銃を向けないという誇りを持っており、詳細は分からないがどうやら過去に何かあったらしいことが伺える。

 逆に子供のためなら武器を使うことはためらわず、何が何でも相手を制圧し確保してしまう。ちなみにさっき俺が黄泉川先生のことを「教官」と呼んでしまったのは、警備員訓練生時代に1週間だけ特別講師として黄泉川先生に鍛えてもらったことが原因だ。しかしその当時に黄泉川先生の「子供に絶対銃を向けない」という講義を聞いてからは、俺も黄泉川先生に影響されてそのスタイルを取るようになった。それ以来は同じ警備員ということもあり、現場で顔を合わせたりしているうちに仲良くなり、今ではプライベートでも友人同士として交流がある。

 

 

 黄泉川先生は笑顔で「冗談じゃんよ芝浦~、だってお前、前に一緒に呑みに行ったらすぐに顔を真っ赤にして倒れちゃったじゃんよ。」と言ってくる。

 

 俺は若干気まずくなりつつも、さっきから気になっていたことを尋ねてみる。

 

 「そういえば、今日は鉄装(てっそう)先生は一緒じゃないんですか?」

 

 俺がそう聞くと、黄泉川先生は呆れた顔で「鉄装も今日は一緒なんだけど、今はちょっとトイレに籠ってるじゃん。あいつここの雰囲気でお腹痛くなったとか言って、トイレに入ってもう30分も経つじゃん。」と答えた。

 

 なるほど鉄装先生だったらそれも在り得るかもしれないと思いつつ、俺は一人で納得する。

 

 

 鉄装先生こと、鉄装綴里(てっそうつづり)は、黄泉川先生と同じく第73活動支部に所属する警備員である。俺と古賀よりも1年先輩の警備員ではあるが、しかしかなりおっちょこちょいな性格の人で、よく黄泉川先生に怒られているのを見かける。警備員として学生を守る気概と使命感は強いものの、格闘技能や射撃技術などはお世辞にも高いとは言い難く、また修羅場に弱いなど警備員としてはあまり頼りがいが無いとは思う。

 後輩であるはずの俺たちにさえ、時々敬語を使ってしまうような真面目な性格で、後輩である俺から見ても中々に先輩らしからぬ先輩だという印象はあるが、だからといって悪い先輩ではなく、むしろ積極的に俺たちのことを心配してくれるような優しい先輩というのが俺の印象だ。それは学生たちに対しても変わることはなく、警備員として見れば頼りないと言えるが、教師としてみるならとても優しくて真面目で、良い先生だと言える。その実、俺の教師としてのビジョンは鉄装先生から学んだ部分も多い。また黄泉川先生とは長い付き合いらしく、よく一緒に呑みに行ったり、銭湯に行ったりしているらしい。俺も黄泉川先生つながりで知り合った仲であり、よく一緒に焼肉なんかを食べに行っている。(しかしよく食べすぎて動けなくなってしまい、俺が家まで送るところまでがワンセットである。)

 

 

 しかし流石に30分もトイレに籠っているというのは心配である。俺は余計なお世話かもしれないと思いつつも黄泉川先生にトイレを見てきたらどうかと提案する。

 

 「ったく、鉄装のやつは後輩にまで心配かけて・・・、ちょっと待ってるじゃん。」と黄泉川先生は言い残し、女子トイレの方に向かっていった。

 

 そういえば、と俺はまだスーツケースを解析チームに預け忘れていたのを思い出し、スーツケースを預け古賀の元へと戻ってきた。それとタイミングを同じくして黄泉川先生が青い顔をしている鉄装先生を連れて帰ってきた。

 

 「ちょ、ちょっと鉄装先生、大丈夫ですか?かなり顔色が悪いですけど・・・。」と俺は心配する。

 

 鉄装先生は相変わらずお腹を押さえており、とてもでは無いが話せる様子ではなかった。

 

 「とりあえず鉄装先生のためにも本部から出てコンビニでも行きましょう。流石にこれはかわいそうですよ。」と古賀が提案し、俺と黄泉川先生で鉄装先生を駐車場まで連れて行き、お互いに乗ってきたパトロールカーに分乗して本部の敷地を出ることにした。

 

 

 帰りは特に警備ロボのスキャン等はないのだが、相変わらずゆっくり開く鋼鉄製のゲートを見るに、恐らく黄泉川先生の乗っているパトロールカーでは鉄装先生がお腹を押さえながら「早く・・・早くぅ・・・!」と言っているのは容易に想像できた。そして警備員のパトロールカー2台は最寄りのコンビニへと入り、駐車場に車を停めた。その時に鉄装先生が停まったかどうかという瀬戸際でパトロールカーを飛び出し、コンビニのトイレへと駆け込んでいくのが見えた。それを見ていた民間人らが何事かというような感じで驚いていた。

 時計は11時あたりを指しており、黄泉川先生が少し早いが昼食にしようと提案してきたので、3人でコンビニで昼食を買うことにした。今日の昼食を物色していた俺だが、ついでに鉄装先生のためにも何か買おうと思い立ち、スポーツドリンクと暖かいお茶と、タオルハンカチをかごに入れた。その後は自分の昼食と飲み物を購入しパトロールカーへと戻った。既に古賀が先に戻ってパトロールカーのエアコンをつけて車内を冷やしてくれていたので、俺はその中へと入る。

 遅れて黄泉川先生が鉄装先生と共に戻ってきた。俺は二人を自分たちの乗っているパトロールカーへと誘う。鉄装先生はいくらか顔色はよくなったが、先ほどまでの腹痛で体力を消耗しているようで生気はあまり無かった。俺は二人のいる後部座席へと振り返り、鉄装先生へと声をかける。

 

 「鉄装先生、大丈夫ですか?さっきよりは良くなりました?」

 

 俺が声をかけると、鉄装先生は申し訳なさそうにしながら「あ、芝浦君と古賀君、心配かけちゃってごめんね。うん、さっきよりは良くなったから、もう大丈夫だよ。」と説得力のない声で答えた。

 

 俺はそれを聞くと、先ほど購入したタオルハンカチと暖かいお茶を差し出す。

 

 「鉄装先生、まずはこれで冷や汗を拭いてください。体が冷えると余計にお腹が痛くなってきますからね。そしたらゆっくりでいいんでお茶を飲んでください。」

 

 俺がそう言うと鉄装先生は申し訳なさそうにして、目尻に涙を浮かべながらそれを受け取った。

 

 そして俺に向かって「芝浦君ありがとね。本当にありがとう。このお礼は必ずするから。」と言うので、俺はそれに対して「はい、でもお礼っていうならそうですね・・・、鉄装先生に元気になってもらうことが、一番のお礼ですかね。」と優しく答える。

 

 それを聞いた鉄装先生は涙を浮かべながら「芝浦君はほんとに優しいね・・・。ありがとね。」と答えた。

 

 その優しさは鉄装先生から学んだんですけどね。とは口に出さず、「どういたしまして」とだけ答えた。それを見ていた黄泉川先生と古賀が俺に「あれあれ~?お二人さんなんだかいい雰囲気じゃん?」とか、「芝浦隊長ってロリコン教師じゃなくてただの女たらしだったんですね。」とか言ってきたので、古賀に対して一発かましつつ黄泉川先生に「いやぁ、だって女性に優しくするのは当然でしょう?」と答えておいた。

 

 そのやり取りを聞いていた鉄装先生は今度は腹痛ではなく発熱してしまっているようだった。

 

 

 ―そして各々昼食をとっていたが、おもむろに口を開いて、黄泉川先生がこんなことを聞いてきた。

 

 「なぁ、芝浦、お前今日の証拠品の中身、なんだったか教えるじゃん?」

 

 俺は不思議に思いつつも、「えっと、確か携帯用の折り畳みナイフと、携帯電話と音楽プレーヤーですね。」と答える。

 

 それを聞いた黄泉川先生は「やっぱりか・・・。」と何やら考え込んだ後に「芝浦、これはまだ非公式の情報なんだが、ここ最近の犯人は大抵、音楽プレーヤーを持ち歩いてるじゃん。」と話し始める。

 

 俺はその意図するところが分からず、黄泉川先生にさらなる説明を求める。古賀と鉄装先生も真剣な顔でその話に耳を傾けている。黄泉川先生は俺の催促を受け、話を続けた。

 

 「実は、昨日の銀行強盗の犯人も音楽プレーヤーを持っていてな、そしてお前たちのひったくり犯、私たちが知っているだけでも2件じゃん。他にもいろんな事件の証拠品があそこに運ばれてくるわけだが、ここ最近は目立って音楽プレーヤーの数が多くなっているらしいじゃんね。」

 

 そして、黄泉川先生はさらに真剣な表情になり―。

 

 「で、その音楽プレーヤーの中には、全て共通の音楽ファイルがインストールされていたらしいじゃん。ただタイトルも制作者も不明で、そんなものがどうして全ての音楽プレーヤーにインストールされていたのかは分からないが、一つ気になるのはその音楽ファイルを持っているのがスキルアウトの連中か、能力レベルの低い学生たちに限られているって事じゃん。」

 

 それを聞いた俺はふと、銀行強盗の事件を思い出す。そして一つ思い当たったことを口にしてみる。

 

 「でも黄泉川先生、昨日の銀行強盗の犯人、発火能力者でしたけど強能力者くらいだったって聞きましたよ?強度が低いって言ってもそれなら平均的か高いくらいじゃないですかね。」

 

 俺がそう言うと黄泉川先生はこんなことを口にした。

 

 

 「―それが書庫の情報と合致していれば、の話じゃんね。」

 

 その場にいた全員が、お互いに顔を見合わせた。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話~第2話にかけてのお話を書いてみたので、アニメにはない時間軸のお話になりますね。そして警備員の黄泉川先生と鉄装先生が登場しました。果たして警備員である芝浦からの視点では、この事件はどのように映るのか。次回以降に期待です。
 次回、第6話「書庫の情報と現場の情報」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.05追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.12.13追記
一部、脱字の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「書庫の情報と現場の情報」

 皆さんこんにちは。前回「音楽プレーヤーとスキルアウト」では本部に証拠品を届けに行った芝浦と古賀が、黄泉川先生と鉄装先生と出会い、そして黄泉川先生から事件の真相に近い話を聞くところでお話が終わりました。今回もアニメ第1話~第2話の間のストーリーになりますが、どうやら黄泉川先生が大きなヒントを教えてくれるようです。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。



 「――それが書庫の情報と合致していれば、の話じゃんね。」

 

 黄泉川先生以外の、俺を含めたその場にいる全員が意味が分からないという風に顔を見合わせた。

 

 

 それもそのはず、「書庫」は学園都市が誇る超高性能なデータベースであり、学園都市にいるすべての人が閲覧できる。「書庫」には学園都市にいる大人から学生までを含めた全ての人の氏名や性別、年齢、生年月日、能力名といった情報はもちろん、所属する学校から学生寮の部屋番号に至るまで全てが記録されている。

 また、ある噂によると学園都市で秘密裏に研究・製造されている秘密兵器なんかの情報もあるらしいが、しかしそういった情報が機密事項になればなるほどアクセスするための権限と許可が厳しくなっていく。そして何より、「書庫の情報は絶対正確である」というのが、学園都市にいる人々の共通認識だ。

 

 

 だからこそ、俺たちは黄泉川先生の言わんとしていることがよく分からなかった。「書庫」の情報と食い違いがある?何かの間違いだろう。そう思った俺は、黄泉川先生に疑問をぶつけてみる。

 

 「黄泉川先生、書庫の情報と食い違いがあるって、そんなことあり得るんですか?」

 

 俺がそう聞くと、黄泉川先生は俺の目を見据えて、「少なくとも、あの銀行強盗は私の知る限りでは食い違っているじゃん。」とあっさりと言われてしまった。

 

 それを聞いた俺はあのひったくり犯のことを思い出していた。確かに発電系能力者ではあったが、見た感じいかにも能力レベルが低くて、ついでに言うとスキルアウトによく居そうな出で立ちをしていたことを今になって認識する。

 

 もしかしたら、あのひったくり犯も・・・。と俺は思いつつ、そのひったくり犯で思い出したもう一つのことを黄泉川先生に聞いてみる。

 

 「黄泉川先生、これは私の思い違いかもしれないんですが、例の音楽プレーヤーを使っていた人たちってなんというか・・・、こう、狂暴になったりしてませんでした?」

 

 俺がそう言うと、黄泉川先生は驚いた顔で「よく知ってるじゃん芝浦。そう、どうやらその音楽ファイルを持っていた人たちは大抵、狂暴になったり犯罪行為をしやすくなったりしているらしいじゃん。どういう理屈や原理なのかは分からないが、普通の犯人とはちょっと違う感じの連中も多いらしいじゃん。」と答えた。

 

 それを聞いた俺は、さらに確信を深めていく。

 

 俺が深刻そうな顔で考え込んでいると、黄泉川先生が今度は明るい声で「まぁそうは言っても、非公式の情報じゃんね。今はまだ分からないことも多い。もしかしたら結局はただの音楽ファイルだったって可能性もあるじゃん。」と重く圧し掛かっていた空気を吹き飛ばすように言うのだった。

 

 

 その後は半分冷めかけている昼食を食べ、俺は鉄装先生にスポーツドリンクを渡して、お互いに自分の所属する警備員施設への帰路についた。そして俺は帰っている間、さっきの話で出てきたキーワードを思い返していた。

 音楽ファイル、情報の食い違い、狂暴化、低レベルの能力者、スキルアウト・・・。俺ははたと思い立ち、古賀に声をかける。

 

 「古賀、ちょっと寄って行ってもらいたいところがあるんだけど。」

 

 

 ―公立柵川中学校。その駐車場にパトロールカーを停め、俺は校舎へと向かう。

 

 古賀が後ろから「芝浦隊長、学校に仕事の忘れ物でもしたんですか?」と聞いてきた。

 

 「ああ、ちょっと風紀委員室に忘れ物をな。」俺はそう答える。

 

 そしてまずは職員室に行き、俺は風紀委員室の鍵を取りに行く。古賀はと言うとやり残していた仕事があったのを思い出したらしく、俺が戻ってくるまでその仕事をしているというので、俺は一人で初春のいる1年生の教室へと向かった。時刻は午後2時過ぎ。ちょうど5時限目の授業の途中だろう。教室の中をのぞくと担任の大圄(だいご)先生が公民の授業をしており、給食後ということもあってか、うつらうつらとしている生徒が何人か見られる。

 俺の姿を見つけた大圄先生が、「ちょっと待っててください」と目で伝えてきたので俺は廊下で授業が終わるのを待つことにした。

 

 

 午後2時半。5時限目が終わり休み時間となった学校の中は、あっという間に生徒たちの喧騒で包まれる。教室から大圄先生が出てきて俺にあいさつを交わす。

 

 「こんにちは芝浦先生。今日はどうされたんですか?」

 

 俺も大圄先生に挨拶すると早速本題を切り出す。

 

 「いえ、ちょっと今調べている事件のことで、風紀委員の初春に伝えたいことがありまして。」

 

 俺がそう言うと、大圄先生は快く「そういうことでしたら。では次の授業は初春だけ別行動ということで、担当の先生にお伝えしておきますね。」と言ってくれたのだった。

 

 俺は大圄先生にお礼を言うと、教室の中で何やら佐天と話している初春に声をかける。

 

 「初春、ちょっといいか?」

 

 俺がそう言うと初春は廊下の方まで出てきて、ついでに言うと佐天も一緒についてきた。

 

 初春は不思議そうな顔で「どうしたんですか芝浦先生?今日は警備員のお仕事じゃないんですか?」と俺の服装を見て聞いてくる。

 

 俺は「今も立派に仕事してるぞ。ついでに言うとその仕事の話で初春に用があってきたんだがな。」と答える。

 

 初春は真剣な顔になり、「わかりました。・・・あれ?でも次の授業はどうするんです?」と最後は頭にはてなマークを浮かべた。

 

 それに対し大圄先生が「ああ、初春さんは次の授業は別行動ってことにしておくから、芝浦先生と行っておいで。」と答える。

 

 しかし、そのやり取りを聞いていた佐天が「え~、初春次の授業いないの~?いいなぁあたしもサボりたいなぁ。」とか言ってきたので、それに対し俺は「こらこら、別に初春はサボりに行くわけじゃないんだぞ。」と答える。

 

 それに便乗するように初春も「そうですよ佐天さん。私は風紀委員なんですから。」と言うのだった。

 

 佐天はちょっとふてくされたような顔をして、「ちぇー、まぁ仕方ないか。頑張ってね初春。次の授業のノート、後で貸したげるから。」と最後は笑顔で初春に答える。

 

 「うぅ・・・、ありがとうございますぅ~。」と初春は佐天に対しお礼を言い、そして大圄先生が「そういうことだから、佐天さんは次の授業、寝ないできちんと受けないとだめだよ?」と言うのだった。

 

 

 そしてお互いに別れ、俺と初春は風紀委員室に向かう。少ししてチャイムが鳴り、6時限目の開始を伝えていた。俺と初春は風紀委員室に入り、そして備え付けの椅子にお互いが向き合うように座り、俺は今日ここに来た本題を切り出す。

 

 「初春、昨日の銀行強盗の関係で話があるんだ。」

 

 俺がそう言うと、初春は真剣な顔で耳を傾けてきた。俺はその様子を確認して話を続ける。

 

 「これはまだ噂程度に過ぎない話なんだが、どうやら最近、ある音楽ファイルが出回っているらしい。そしてその音楽ファイルはここ最近逮捕された犯人の大半が所有していたという話だ。」

 

 俺は一息置き、話を続ける。

 

 「そしてその音楽ファイルは、低レベルな能力者かスキルアウトが主に持っていたらしい。そしてどうやら、その音楽ファイルを使っていた犯人の大半が、書庫にある能力レベルとの食い違いがあるという話だ。」

 

 俺がそう言うと、初春は誰もが思うであろう疑問を投げかけてきた。

 

 「それで、その話と私に何か関係があるんですか?」

 

 

 俺は頷き、話を続ける。そして、今日もっとも伝えたかったことを伝える。

 

 「初春。君には風紀委員として、そして佐天の親友として、佐天を守ってほしいんだ。」

 

 初春はそれを聞き、深刻な表情になる。そしてこう切り出した。

 

 「芝浦先生は・・・、芝浦先生は佐天さんがそんなものを使うって本気で思っているんですか?」

 

 俺は初春の目をまっすぐに見据えて答える。

 

 「そんなこと、思っているわけないじゃないか。」

 

 初春はさらに取り乱して続ける。

 

 「じゃあなんで芝浦先生は私にそんなことを言うんですか!?佐天さんのことを信じているなら、なんでそんなことを・・・!」

 

 俺はそれを聞き、優しい声で答える。

 

 「初春、佐天は君のように風紀委員ではないし、無能力者だ。だからこそ君に守ってほしい。いや、君にしか守れない。だからこそこうしてお願いしておきたいんだよ。」

 

 初春は少し落ち着きを取り戻し、そしてさらなる疑問をぶつけてくる。

 

 「じゃあ、じゃあ私にできることって何があるんですか?」と俯いたまま。

 

 俺は答える。「初春、君には佐天の傍にいてあげて欲しい。もちろん俺もできうる限り警備員として守ってやりたいが、悔しいことにいつだって傍にいてやれるわけじゃない。だからこそ初春にしか頼めないんだよ。」と真剣な声で。

 

 

 初春は顔を上げると、そこには風紀委員としての顔があった。俺はその顔を正面に見据えてさらに続ける。

 

 「佐天は都市伝説だとかそういったものにはかなり鋭い。まぁ、今回のこれが本当に噂なだけで、もしかしたらただの無害な音楽ファイルかもしれない。でも万が一のことも考えると、風紀委員である初春がついていてくれたら俺も安心して事件の捜査に集中できる。一刻も早く事件を解決し、全容を明らかにするためにも協力してほしい。」

 

 そして初春は、凛とした声で「わかりました。だったら私も私にできることを全力でやってみます。」と応える。

 

 それを聞いた俺は次に笑顔で「まぁ、もし助けが必要になったら言ってくれ。俺は警備員である以前に、風紀委員顧問であり、実質的な佐天のもう一人の担任って感じだからな。初春のことは俺が守るよ。」と初春に告げる。

 

 初春は若干顔を緩ませ、「はい、そうなったらとことん頼らせてもらいますね。」と言い返してきた。

 

 そしてその後に、「あ、芝浦先生、『助け』っていうならちょうど今思い出したことがあるんですけど・・・。」と言ってきた。

 

 「ん?何でも言ってみ?」と俺が言うと、初春は「実は、今ものすごく欲しい服があるんですけどお金が無くて・・・。」と答えた。

 

 

 そこで俺はふと思い出した。身体測定の日に遅刻して初春に何でも奢るといったことを。なるほどあの時の約束を今ここで持ち出してきたか。忘れていたなんて口が裂けても言えな―。

 

 「芝浦先生、もしかして忘れてたんじゃないですよね?」と笑顔で初春。鋭い。

 

 「ま、まさか忘れてたわけないじゃないか!あはははは・・・。」と顔を引きつらせながら苦笑い。

 

 「もう・・・、それで芝浦先生、次のお休みっていつですか?」と初春。

 

 俺はシフトを思い出しながら、「んーと、確か明日は非番だったと思う。」と答える。

 

 初春は目を輝かせて「本当ですか!私も明日は風紀委員の仕事がお休みなんですよ!放課後にセブンスミストに一緒に行きましょうそうしましょう!」と言うので、俺はそれを微笑ましく思いながら、「ああ、いいよ。」と答える。

 

 

 かくしてここに、初春との放課後デートの約束が(半ば強引に)取り決められてしまった。古賀が知ったら面倒くさいことになりそうである。

 

 

 そしてその後は初春と音楽ファイルについての意見を交わしたり、風紀委員の資料を見せてもらっているうちに6時限目のチャイムが鳴り、俺と初春は風紀委員室を後にしたのだった。俺は初春を教室まで送り届け、古賀の待っている職員室に向かう。

 

 職員室のドアを開けると、古賀が「あともうちょっとで終わりそうなんで10分くらい待っててもらえますか?」と言ってきたので、俺は廊下に備え付けてある自販機で黒豆サイダーを2本買った。

 

 

 そこで俺は一人で考え込む。昨日のひったくり犯と銀行強盗の共通点と、そして初春や佐天、御坂や白井のことを。―本当に、大丈夫だよな。

 

 

 すると職員室のドアが開き、「すいません芝浦隊長、お待たせしちゃって。」と古賀が声をかけてきた。

 

 俺は「おう、お疲れさん。」と言いつつ黒豆サイダーを手渡す。

 

 「あ、すいません、頂きます。」と古賀は黒豆サイダーを受け取り、そしてそれを飲みながら俺たちは駐車場へと向かった。

 

 

 ちなみにその後の帰路で、俺はうっかり口を滑らせて初春との放課後デートを古賀に聞かれてしまい、それはもうとてつもなくめんどくさいことになったというのはまた別の話である。

 

 

 

 ―総人口230万人の学園都市。科学の粋を集めたこの大都市に産み落とされた、一つの黒い染みが着々と広がっていることに、俺も古賀も気付く由はなかった。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話では前回同様、アニメ版「とある科学の超電磁砲」第1話~第2話にかけてのお話となりましたが、芝浦先生と古賀先生はこの事件に今後、どのように立ち向かっていくのでしょうか。警備員といえどもなかなか事件の真相にはたどり着けないのか、それとも・・・?
 次は飾利と芝浦先生が放課後デートするようですよ。放課後デート。ん・・・?デート?果たしてうまくいくのでしょうか。
 次回、第7話「先生と生徒」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「先生と生徒」

 皆さんこんにちは。前回「書庫の情報と現場の情報」では芝浦先生が黄泉川先生に「音楽ファイル」についての話を聞き、そして飾利に「佐天を守ってほしい」とお願いしていましたね。今回は一応アニメの方の時間軸では第2話冒頭~美琴と黒子がプール掃除をしているシーンまでのお話となります。果たして「放課後デート」はうまくいくのでしょうか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 翌日。シフト終わり直前になってその通報は入ってきた。いつものように自動音声アナウンスが流れる。

 

 「第7学区、エリアH、2198番横断歩道付近の路地裏にて激しい閃光を確認したとの市民からの通報あり。負傷者は居ない模様。被害状況の確認の為に出動してください。」

 

 「だーっ!あとちょっとだったのにー!」時計を睨んでいた鈴木が机に突っ伏す。

 

 シフト終わりまであと15分というところ。本当にあとちょっとのところだったのである。なんてタイミングだとは思ったものの、通報が入った以上は仕方がない。

 

 「はぁ・・・、鈴木、行くぞ!」

 

 重たい腰を気力のみで持ち上げた林と鈴木は、いつものようにパトロールカーに飛び乗り現場に向かっていった。今日は芝浦と古賀は非番のため、代わりに林と鈴木がその分を埋めているのである。今日は特にこれと言って大きな事案もなかったため、残っていた仕事を片付け終えていた出張所の面々にはこの通報は痛かった。

 

 

 ―しばらくして現場に到着した林と鈴木はその路地裏へと入っていく。そして二人して絶句した。それもそのはず、「激しい閃光」の残した爪痕は、それはそれは酷いものだったのである。大きく抉れて焼け焦げたアスファルト、溶けた建物の外壁、立ち込める有機溶剤のような匂い。

 しかし林はそんな中で、一部だけ無事なアスファルトに目を留めた。

 

 「ん?何でここのアスファルトだけ無事なんだ?」

 

 不自然なまでに綺麗な状態のアスファルトを見つめ、腕組みをして考え込む。果たしてこんな能力を使える能力者がいるのだろうか。するとさっきから、現場検証用の小型AIM拡散力場検出器を持ってウロウロしていた鈴木が声をかけてくる。

 

 「林副分隊長、今回もあの『おてんば娘』の仕業みたいですよ・・・。」

 

 検出器の判定結果は「電撃使い」。それも超能力者級の。となるとこの有様を作り出した人物はこの学園都市には一人しかいない。林は頭を抱える。本当に頭が痛くなってきそうだった。

 

 「はぁ・・・、まったくどうしようもないな。それで、もう一人のほうはどうなんだ?」

 

 少なくともここには二人以上いたと仮定して林は鈴木に質問する。

 

 しかし鈴木は、「あれ、おっかしいな。全然測定できないですよ。」と林に言う。

 

 林は鈴木から検出器を受け取り、そして測定するための設定を行う。しかし―。

 

 「あれ、本当だ。なんだこれ?壊れちまってるのか?」

 

 検出器の画面には「unknown」の文字。しかしこの検出器も全ての能力を検出できるわけではないと言うのは訓練で身をもって知っているので、独力での現場検証を諦め、現場の封鎖と確保に切り替えた。警備員に支給されている、「立入禁止区域」と書かれた黄色いテープでまずは現場を封鎖し、次いで警備ロボットをその前に1体配置して林は本部に連絡を取る。

 

 「こちら第34出張所の林です。先ほど通報を受けた2198番横断歩道の路地裏で現場検証をしていたのですが、どうにも妙な反応を検出したので、本部から解析チームをこちらに向かわせてくれませんか?」

 

 本部の隊員は「妙な反応ってなんなんですか?検出器の故障というわけではなく?」と言ってきた。

 

 それもそうだろうな。と思いつつ林は答える。

 

 「はい、えっと・・・、画面には「unknown」って表示されてます。AIM拡散力場は微弱ながらに観測されているようですが、種類までは断定できないようです。」

 

 それを聞いた本部の隊員は、無線の向こうで何やら話した後に「わかりました。直ちに解析チームを向かわせます。既に現場を封鎖している場合はそのままお帰りになって結構です。」と何やら慌てた様子で言ってきた。

 

 林は不思議に思いながらも、「了解しました。では我々はこれで引き揚げます。後でそちらに検出器のデータを転送しておきます。」と答え、鈴木と共に出張所に帰るのだった。

 

 

 ―この事について林から相談の電話を受けていた芝浦は、林にアドバイスをしていた。

 

 「うん、確かにあの検出器は利便性は高いけど、全部の能力を判定できるわけじゃないし、それに精度もそんなに高くはないからね。本部の解析チームが来てくれたんなら、あとはデータを本部に転送して任せればいいと思うよ。それから、例の『おてんば娘』には俺の方から注意しておくから。」

 

 「はい、わかりました。お願いします。お休みだったのにすみませんでした。相談に乗っていただいてありがとうございます。」

 

 「大丈夫大丈夫。また何かあればいつでも連絡してくれ。」

 

 「はい。お疲れ様でした。失礼します。」

 

 

 芝浦は電話を切り、そして時計を見る。16:30。初春とは17時に「Joseph’s(ジョセフ)」というファミレスで待ち合わせをしている。俺はその店には行った事があまりないのだが、どうやら初春と佐天はよく、御坂や白井と共に行っている行きつけの店らしい。これなら余裕をもって行けそうだ。そう思っていると再び電話が鳴る。相手は―「古賀」。俺は嫌な予感を感じつつも、電話に出る。

 

 「・・・もしもし?」

 

 「あ、芝浦隊長、今日は初春ちゃんと『放課後デート』の日ですよね?」

 

 やっぱりか。電話の向こうでニヤけた顔をしているのが容易に想像できる。

 

 「それがどうしたってんだ?お前には関係ないことだろう。」

 

 すると古賀が、「いえいえ、ちょっと私から隊長にささやかな『アドバイス』をしてあげようかと思いまして。」

 

 完全に馬鹿にしてるなこれは・・・。とは思いつつも、昨日の今日で忘れろというのもさすがに無理はあるだろう。俺は古賀を適当にあしらいつつ、今日のデートプランについて思考を巡らせていた。

 

 そして10分ほど電話をし、切る直前に古賀が「自分の生徒に手を出したら駄目ですよ~。」とか笑いながら言ってきたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。時刻は16:40近く。俺は適当に返事をしてから電話を切る。

 

 「えっと、まずは銀行でお金をおろしてそれから・・・、ああクソッ、古賀の奴きちんと待ち合わせの時間伝えたはずだよな?なんであのタイミングで電話してくるんだよっ!」と俺は準備を急ぐ。

 

 ナビによると俺の家からJoseph’sまではバイクで最短15分、残り20分弱ということを考えると、とても銀行でお金をおろしてる余裕などない。仕方なく俺は、最後の手段を取ることにした。

 

 「・・・あ、もしもし?初春か?すまないが、ちょっと警備員の関係で電話をしててな、待ち合わせの時間に間に合いそうにないんだ。」

 

 俺は携帯で初春に連絡を取る。しかし、次に聞こえたのは意外な返答だった。

 

 「えっと、芝浦先生ごめんなさい。実は今、御坂さんの学校の学生寮に遊びに来てて、私もちょっと間に合いそうにないんですよ。あ、でももう向かいますので、先にジョセフに向かっててください。」と言うのだった。

 

 それを聞いた俺は若干腑抜けた顔になってしまったが、しかしいくら中学生とはいえ女性を待たせるわけにはいけないと思いなおし、準備を急ぎつつ初春に返事をする。

 

 「そうか、分かったよ。それじゃあこっちはこっちで先に向かってるから、道中気を付けて来るんだぞ。」

 

 「はい、ありがとうございます。なるべく早く行きますね。」と初春が答える。

 

 

 そして俺は電話を切り、準備を進めていく。まずは部屋着から私服に着替える。私服と言っても普段はバイクを移動手段としているため、プロテクター入りのジャケットを半袖Tシャツの上から羽織り、下は無難にジーパンという何とも平凡な服装だ。さらにバイク用のレッグポーチを着け、そこに携帯電話と財布、特殊警棒と手錠をしまう。セキュリティカードは警備員として一番なくしたら困るもののため、ジャケットにあるベルクロで留められる胸ポケットに入れておく。そして白いジェットヘル(初春用)をリュックに入れ、同色のフルフェイスヘルメットを手に家を出る。

 そして車庫に駐車してある某ハヤブサのようなスポーツバイクにまたがり、指紋認証を行う。指を触れると、バイクのAI音声が起動する。

 

 「指紋認証・・・照合を確認。おかえりなさい芝浦さん。エンジン正常、タイヤの空気圧は適正値。ガソリン残量は80%。前後ブレーキによるタイヤロックを解除します。Enjoy for you’re Driving!」

 

 そして、「カチンッ」というロック解除の音が鳴るのを確認し、サイドスタンドを蹴り上げてバイクのセルボタンを押し、エンジンを始動する。「ブォンッ」というエンジンの音が鳴ると、再びAIが自己診断を行う。

 

 「エンジン始動。回転数正常。ギアニュートラル。発進準備、完了しました。」

 

 俺はそれを聞き、ギアを入れてまずは銀行へと走り出した。

 

 

 ―財布を潤した俺は、しばらくしてJoseph’sへと到着し、店内へと入る。どうやら初春はまだ来ていないようだ。店員がお冷を持ってきてくれたので、それを飲みながら時間をつぶしていると隣のテーブル席にいる男子高校生らしき3人組の話が聞こえてきた。

 

 「なぁ、お前本当に『幻想御手』使ったのかよ?」

 

 「ああ、あれマジでスゲェぞ。お前も使ってみたらどうだ?」

 

 「うん・・・、ちょっと使ってみようかな。だってそれさえあればもう馬鹿にされなくて済むんでしょ?」

 

 「馬鹿にされないで済むもんじゃねぇよ!チートだぜチート。あれさえあればもうどんな事があってもへっちゃらだぜ!?」

 

 「でもちょっと怖いかな。あまりよく分からないものだし・・・。」

 

 「お前ビビりだなぁ。んなこと言う前にちょっとだけでもいいから試してみろって。」

 

 ―そんな会話を俺はゲームの攻略法か何かだと思って聞き流していたが、しかし次の瞬間、そんなものは吹き飛ばされることとなる。

 

 「―まぁでも、その『音楽を聴いて能力のレベルが上がる』なら楽なもんだよね。」

 

 俺は誤って手に持っていたコップを落としかける。かろうじて落とさなかったものの、しかし今聞いた言葉と黄泉川先生から聞いた話が共通点を作り出す。「その音楽を聴いて能力のレベルが上がる」、「音楽ファイルを使っていた犯人の大半が『書庫』にある能力レベルと食い違いがある」―。俺は席を立ち、その男子高校生たちのもとへと歩みより、そして声をかける。

 

 「君たち、ちょっと今の話、詳しく聞かせてもらえるかな?」

 

 俺がそう言うと、大人であることに加えてこんな話を聞いてくるのは「そういう類」の人間だと勘付いたのだろう。

 

 男子高校生たちは「なんでもないですよ先生。俺たちはこの後予定があるんで、これで。」とそそくさと立ち去ってしまった。

 

 

 確証がない以上は無理やり引き留めるわけにはいかなかった。俺は頭の中に様々な思考を巡らせながら再び席へと戻る。やはりあの音楽ファイルは存在するのだろうか・・・。はたまた、全く別のものなのか・・・。依然として分からない部分は多い。より積極的な捜査が必要なようだ。

 

 

 「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

 

 「あ、違います。待ち合わせです。」

 

 ふと、店員と聞き覚えのある声とのやり取りが耳に入る。俺はそれが誰なのかをすぐに察したが、はて、「2名様」?そして俺の予想通り初春が俺の姿を見つけ、こちらに来る。・・・何故か佐天も一緒についてきているわけだが。

 

 「芝浦先生、お待たせしちゃってごめんなさい。」

 

 「おーっす芝浦センセ―!なんか面白そうだったからついてきちゃった。」

 

 初春は申し訳なさそうに、佐天ははにかみながら各々挨拶をしてくる。

 

 「あ、ああ、俺も今来たとこだから大丈夫だよ。ところで・・・。」と俺は初春に返事をしながら佐天の方を見る。

 

 「あ、えっと、その、実は・・・。」

 

 

 ―初春の話によると、遡ること数十分前。どうやら御坂たちの学生寮に遊びに行っていたのは初春だけではなく、佐天もそこにいたというのだ。まぁ、確かに初春が一人でそういったところに遊びに行くのは考えづらいと今になって思い至る。そしてその後に学生寮を出る前に交わしたあの電話。その話を横で聞いていた佐天が無理やりついてきてしまったらしい。

 

 

 「―で、今のこの状況に至る。と。」

 

 一通りの初春の説明を聞いた俺は、すでに初春との「放課後ほのぼのデート」から、初春と佐天との「放課後ハラハラハーレムデート」に移り行く感触を、どうすることもできないまま大きなため息をついた。それを見ていた佐天が喰いついてくる。

 

 「ちょっと芝浦センセ―、なんでため息なんかつくんですか?こぉーんなに可愛い女子中学生たちとデートできるなんて、素直に喜ばなきゃ損ですよ!」

 

 「ちょ、ちょっと佐天さん、あんまり先生を困らせたら駄目ですよぅ。」

 

 初春がわたわたしながら佐天をなだめる。俺は少しばかり財布の中身が心配にはなったものの、しかしこれも可愛い生徒のためだと踏ん切りをつける。

 

 「ったく・・・、来ちまったものは仕方がない、佐天の分まで何か奢ってやるよ。」と俺が言うと、佐天は目を輝かせて、初春は驚いた表情で「やったー!さっすが芝浦センセ―、分かってますねぇ!ふふ~ん何買おっかなぁ~♪」、「えっ、良いんですか!?本当に良いんですか!?芝浦先生のお財布大丈夫ですか!?」と騒いでいる。

 

 俺はそれを微笑ましく思いつつ、「ああ、男に二言はない。それに、生徒は先生のお財布の心配なんかすることないんだぞ。」と初春に応える。

 

 

 ―こうして、当初予定されていた「放課後ほのぼのデート」は、佐天の乱入によって「放課後ハラハラハーレムデート」へと変貌を遂げたのであった。果たしてどうなることやら・・・。先が思いやられる俺であった。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想を教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回のお話ではアニメ版「とある科学の超電磁砲」第2話の冒頭~美琴と黒子がプール掃除をしているシーンまでのお話になりますが、まぁこうなりますよね。芝浦先生ドンマイ。しかし男子高校生たちが何やら気になることも話していましたね。「幻想御手」とは何なのか。芝浦先生はどのように動いていくのか。今後の展開に期待です。
 そして次回、いよいよデート本番です。果たして芝浦先生は「放課後ハラハラハーレムデート」を無事終えることができるのか。芝浦先生のお財布の中身は一体どれだけ残るのか。乱入者は本当にこれだけで済むのか(!?)。
 次回、第8話「ハーレム王と小悪魔彼女」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.11.30追記
細かい部分の修正を行いました。

2018.12.03追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「ハーレム王と小悪魔彼女」

 皆さんこんにちは。本日連投となります。前回「先生と生徒」では芝浦先生が飾利、涙子とのデートに入る直前でお話が終わりましたね。冒頭には何やら事案も発生していましたが・・・。今回は前回の続き、アニメの方の時間軸も前回と同じになります。「放課後ハラハラハーレムデート」は一体どのように進行していくのか。芝浦先生の心配を他所に物語は始まるのです。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 こうして、俺と初春と佐天はJoseph’sを出て、ひとまずバイクのところへと向かう。そこで俺は一つの大きな、致命的な問題に直面する。俺が初めに考えていたデートプランでは、初春をバイクの後ろに乗せてセブンスミストに向かい、そこで服を買い終えたらどこかのレストランに寄って夕食、その後は初春をそのまま学生寮に送り届け帰宅する。というものだった。しかし佐天の乱入によってそのプランは破綻。バイクという移動手段も使えない事態へと陥ってしまった。俺はどうしたものかと腕組みをして考え込む。すると、初春が質問をしてきた。

 

 「芝浦先生、もしかして今日はこのバイクに私を乗せていくつもりだったんですか?」

 

 「ああ、まぁそんなところだ。しかしまいったな。バイクには2人以上は乗れないぞ。」と佐天の方を見る。

 

 すると佐天が「えー、そうなんですか?でも頑張れば乗りますよ、多分!」と適当なことを言う。

 

 俺はどうしたものかと考え、そこで一番無難な方法を取ることにした。

 

 「仕方がない。こうなったらバスで向かうしかないだろう。」

 

 俺がそう言うと初春はちょっと残念そうに、佐天はバイクに乗りたいという欲求を全開にして「そう、ですよね・・・。そうなっちゃいますよね。やっぱり。」、「えー、頑張ればいけますって。だから乗せてくださいよ~。」と言うのだった。

 

 

 ―何とか佐天をなだめ、初春を元気づけた俺はバスに揺られながらつり革につかまっていた。初春と佐天は座席に座り、お互いに何やら話している。

 ちなみにヘルメットやジャケットなんかはひとまずJoseph’sへと預けることにした。俺が教師で警備員であることと、今のこの状況を話したら店員は快く預かってくれたので本当に助かった。後で何か飲み物でも持っていこう。

 それはさておき、俺は先ほどの男子高校生たちの話を思い返していた。「幻想御手」、「聴くだけでレベルが上がる」、「あまりよく分からないもの」・・・。音楽を聴くだけでレベルが上がる、そんな話が本当にあるのだろうか。仮にそれが本当だったとして、それの開発者は一体だれなのか、それを使ったとして副作用や健康被害などは無いのだろうか。この学園都市のどこまで広がってしまっているのか―。

 

 「・・・センセ―、芝浦センセ―?」

 

 俺は名前を呼ばれ、我に返る。佐天が不思議そうな目でこちらを見ていた。

 

 「どうしたんです?そんなに怖い顔しちゃって。」

 

 「あ、いや、ちょっと考え事をな。」

 

 俺がそう答えると、佐天は「ふーん・・・。って、ちゃんとあたしとのデートに集中してくださいよ!」と何やら誤解を生みそうなことを言ってきた。

 

 それを隣で聞いていた初春も「ちょ、ちょっと佐天さん!?芝浦先生は『私たち』とデートしているんですよ?佐天さんだけなんてズルいですっ。」とこれまた誤解を生みそうな言い方をする。

 

 そのやり取りを聞いていた周りの乗客たちが、何やらヒソヒソと話す気配が伝わってきた。俺はいてもたってもいられず、二人に声をかける。

 

 「あーもう、分かった分かりました。俺が悪かった。だからもう誤解を生むような言い方はやめてくれ・・・!」

 

 それを聞いた二人は周りからの視線に気づき、お互いに顔を赤らめて苦笑いをしていたのだった。

 

 

 バスに揺られること20分。セブンスミストに到着した俺たちは店内に入る。冷房の効いた快適な店内で汗ばんでいた身体から温度が奪われていくのを感じ、俺は少しホッとする。しかしそれも束の間。俺はいつの間にか二人に両手を取られていた。

 

 「さぁ行きますよっ!本番はここからですっ!」

 

 やけに気合の入った初春と、それに加勢する気満々の佐天に引っ張られ、俺は為す術もなく、周りから好奇な目で見られているのを気にする暇もないまま、連れ回されるであろうこの後の運命に身を委ねるしかなかった。

 

 

 ――案の定、俺は二人に連れ回され、次から次へとかごに放り込まれていく服(一部下着類)を見て絶望に打ちひしがれていた。こいつらは遠慮というものを知らんのか?とも思ったが、「生徒が先生のお財布なんか気にするな」といった手前、強く止めに入ることもできないまま荷物持ちをしていた。

 

 「・・・芝浦、先生?」

 

 一体いつ終わるとも知れないこの荷物持ちタイムをしていると、後ろからどこかで聞いたことのある声が俺の名前を呼んだ。振り返ると、そこには私服姿の一人の女の子が立っていた。

 

 「あれ・・・?新橋・・・さん?」

 

 私服姿だったので一瞬分からなかったが、その整った顔立ちは、俺がいつかひったくり犯からハンドバッグを取り返したあの長点上機の女学生によく似ていた。俺が名前を呼ぶと、その女の子は目を輝かせる。

 

 「はい!新橋です!やっぱり芝浦先生だったんですね!こんなところでまたお会いできるなんて嬉しいです!」

 

 まるで子犬がしっぽを振っているかのような可愛らしさを放ちつつ、新橋は感激する。俺も笑顔でそれに応える。

 

 「久しぶり。新橋さんも何か服を買いに来たの?」

 

 「はい。芝浦先生に助けていただいたあの日に買おうと思っていた服を買いに来ました。」

 

 どうやらあの日以来、なかなかこちらには来られなかったようだ。いや、外に出歩くのが怖かった、と言うべきだろうか。無理もない話だ。

 

 「そうだったのか。それで、どうかな?もう外に出歩いても大丈夫にはなってきた?」

 

 俺は優しい声で新橋に問う。新橋は若干暗い表情になりながらも、口を開く。

 

 「えっと、正直言うとまだ怖いです。でもお洋服は欲しいし、それにまたああいうことがあっても守ってくれる人がいる。だから思い切って今日、こっちに来てみたんです。」

 

 そして新橋は俺に笑顔を向けてきた。俺はそれを見て、何か警備員として対策できることはないかと思案する。そして一つの提案を思いついた。

 

 「新橋さん、またああいったことがあった時のために、防犯グッズとして売られている発信機付きの防犯アラームなんかはどうかな。それならボタンを押した瞬間に警備員本部に通報が行くから、お守りとして。いやまぁ、もう二度とあんなことが無いのが一番なんだけどね。」

 

 俺がそう言うと新橋は嬉しそうに「芝浦先生、ありがとうございますっ!そんなものがあるなんて知らなかったので、今度探してみますね。」と言った。

 

 それに対して俺は「いや、別にそんな高いものでもないし、今度プレゼントするよ。警備員として不安を抱えている学生を見過ごすわけにはいかないからね。」と言うと、新橋は「いえいえっ、さすがにそれは申し訳ないですよっ!」と断りを入れてくる。

 

 そこで俺は、新橋に提案する。

 

 「うーん、じゃあこれは俺の個人的なプレゼントってことで。前に傷を治してくれたお礼も兼ねてね。」

 

 そう言うと新橋は何を思ったのか、顔を赤らめながら反論してくる。

 

 「こ、こ、個人的なプレゼントってそんな・・・!それにあれは私を助けてくれたお礼なので気にしないでくださいっ!」

 

 「いやいや、そういうわけにはいかないよ。それに俺はあくまでも仕事をしただけだから、むしろこっちが助けてもらっちゃったくらいだし。だからお返しさせてよ。ね?」

 

 俺がそう言うと、新橋はまだ赤い顔をしながら「わ、分かりました・・・。」と了承する。

 

 俺は笑顔で「うん、ありがとう。」と答える。

 

 すると何やら、背後から強烈な視線を感じたので振り返ると、そこにはさっきまでお互いに服の物色をしていた初春と佐天が、怪訝(けげん)な表情でこちらを睨んでいるのだった。

 

 

 「芝浦先生、その子は一体誰なんですか?」と怖い顔をして初春。

 

 「まさか芝浦センセ―・・・、3股かけてたんですか!?」と冗談なのか本気なのか分からないことを言い出す佐天。

 

 俺は呆れた顔をしながら「違う違う。前に警備員の仕事で助けた子だよ。お前たちの先輩だぞ?」と二人に紹介する。

 

 次いで新橋が「初めまして。長点上機学園1年の、新橋恵です。」と二人にあいさつをする。

 

 それを聞いた二人はなぜか安堵し、「なーんだ、先生が助けた子だったのか~。って、先輩!?」と佐天は直後に驚いていた。

 

 それもそうだろう。新橋は二人よりも先輩ではあるが、身長は佐天よりも低く、なおかつスタイルは貧にゅ・・・スレンダーな体型で、初春と変わらないくらいだった。むしろ佐天の方が出るところは出ていて、私服姿で並んだら佐天が一番お姉さんに見えてしまいそうだった。

 しかし次に、新橋が俺に質問をしてくる。

 

 「あの、芝浦先生。この二人と先生はどういったご関係で・・・?」

 

 いい加減にそういう聞き方はやめてくれと内心思いつつ、俺は説明をする。

 

 「そういえば俺のいる学校をまだ言ってなかったね。俺は柵川中学の教師で、初春と佐天は俺の学校の生徒なんだよ。今日は約束してた買い物に来てたんだ。」

 

 それを聞いた新橋は納得する。そして初春と佐天が自己紹介をしてきた。

 

 「初めまして。柵川中学1年の初春飾利です。一応、風紀委員をしてます。よろしくお願いします。」

 

 「あたしも初春と同じ柵川中学1年の佐天涙子です。特にこれと言えるものはないけど、よろしくお願いします。」

 

 二人の自己紹介を聞き、新橋は笑顔で「はい。初春さんに佐天さんね。可愛い後輩ちゃんで嬉しくなっちゃった。よろしくね。」と先輩風を吹かせていた。

 

 

 「さて、それじゃあお互いに自己紹介も済んだし、初春、佐天、そろそろ会計に行っても大丈夫か?」と俺は両手のかご一杯に入った服の重みを感じつつ、二人に質問する。

 

 「あー、ちょっと待ってください!あと1着、いや2着だけ選んできますから!」と佐天。

 

 「ごめんなさい芝浦先生、私もまだ欲しい服があって・・・。」と初春。

 

 俺はもう二人がそれでいいなら好きにしてくれと思い、「分かった分かった、じゃあそれを持ってきたら会計しちゃうからな。時間もないし。」と二人に言う。

 

 そして二人はお礼を言いつつ再び服の向こうへと消えていった。

 

 

 それを見ていた新橋は何やら笑っており、俺はそれを見てやれやれといった感じで苦笑する。すると、新橋が話しかけてきた。

 

 「あの、芝浦先生、ちょっと聞きたいんですけど。」

 

 「ん?どうした?俺に答えられるものだったら何でもいいぞ。」

 

 俺は何気なく返答する。

 

 「先生って、私やあの二人のこと、名字で呼んでますよね?」

 

 「うん、それがどうかした?」

 

 「いえ・・・、下の名前では呼ばないのかなって、ちょっと気になって。」

 

 「うーん、まぁ生徒だしなぁ。特に呼ぶことはないかな。」と俺は普通に答える。

 

 しかし新橋は、何やら意を決したようにこちらを見据えて、こんなことを言ってきたのである。

 

 「・・・芝浦先生、私のことだけは、『恵』って下の名前で呼んでくれませんか?」

 

 俺は驚いて新橋の顔を見る。ついでに言うとかごを落としてしまった。彼女のほんのりと赤くなった頬を見るに、そういった意味合いで言っているらしい。俺は返答に窮する。

 

 「えっ、いやっ、でもそれはさすがに・・・。」

 

 「お願いです。私のことは下の名前で呼んでください。」

 

 新橋は今度はよりはっきりとした口調で、こちらに迫りつつ言ってくる。俺はどぎまぎしながらなんと言ったものかと思考を巡らせるが、回路はフリーズ直前でうまく機能しない。さらに新橋は身を寄せ、顔を見上げてくる。

 

 「ちょ、ちょっと待って、待ってくれ。」

 

 俺はそう言い、新橋の肩を掴んで距離を取る。

 

 すると新橋はむすっとした表情になり「芝浦先生って、実はヘタレだったんですね。」と冷たい視線を向けてくる。

 

 「なっ・・・、俺はそういう意味で言ったんじゃ―!」

 

 

 

 ―言い返そうとしたその時、店内に非常用ベルが鳴り響いた。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメ版「とある科学の超電磁砲」第2話冒頭~美琴と黒子が掃除をしているシーンまでのお話となりますが、まだまだ続きます。楽しくて2話じゃ収まりませんでした。ごめんなさい。やはり二人に振り回される芝浦先生・・・!いやぁ、本当に中学生ってパワフルですよねぇ(白目)。更にそこに割って入るようにして現れた恵ちゃんですが、中々に大人をからかうのが上手なようで。そして突如として鳴り響いた非常用ベル。これは大きな事件を知らせているのか、果たして・・・!?次回に続きます。
 次回、第9話「優先順位と自分の想い」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.01追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「優先順位と自分の想い」

※今回は痛々しい表現が多分に含まれています。閲覧する際にはご注意ください。※

 皆さんこんにちは。前回「ハーレム王と小悪魔彼女」では、涙子に加えて恵も芝浦先生とのデートに乱入し、そして思わせぶりな発言をしていましたが、しかし直後に非常用ベルが鳴ったところでお話が終わりましたね。今回も前回の続き、同じ時間軸のお話となります。どうやらここで、「放課後ハラハラハーレムデート」は終わりを告げてしまうようです。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 まるで耳をつんざくような甲高い音で、非常用ベルが突如として鳴り響いた。俺も新橋も一瞬固まる。

 

 

 しかし直後、俺は動き出していた。新橋が遅れてそれに気づき、俺の後をついてくる。持っていたセキュリティカードを、安全ピンで左胸に名札のように着けて、特殊警棒を取り出し警戒態勢に入る。遅れて、服の向こうから佐天と、腕章をつけながらやってくる初春の姿が目に入る。新橋はと言うと訳も分からず動揺している。

 

 「芝浦先生!一体何なんですかこの警報!?」

 

 初春が俺のところに来るなり聞いてくる。

 

 「恐らくは防犯アラームだろう。誰かがこの店のセキュリティに引っかかったらしいな。」と冷静に返す。

 

 そして次に、俺は「3股をかけているヘタレ教師」ではなく、一人の「護り人(アンチスキル)」として3人に指示を出す。

 

 「初春!直ちに警備員への通報を頼む!佐天、新橋は安全が確保できるまで俺から離れるな!」

 

 新橋と佐天は為す術もないまま、俺の傍で周りに目を泳がせている。それを横目に初春が警備員へと連絡を取る。

 

 「わ、分かりましたっ!・・・もしもし、風紀委員第177支部の初春と言います。たった今、第7学区の洋服店、セブンスミストにて防犯アラームが発令、警備員の応援を要請します!なお、現場には第34出張所の芝浦先生も一緒です!・・・はい、・・・はい、・・・分かりました!」

 

 そして初春は電話を切ると、俺たちの方へと向き直る。

 

 「佐天さん、新橋さん、あなたたち二人は安全の為に店外へと避難してください。芝浦先生、現状ではあなたがこの場にいる治安維持機関の最高指揮官です。私は今から、芝浦先生の指揮下に入り風紀委員として活動します。」

 

 俺は初春の目を見て頷く。佐天と新橋はそれを聞いて行動を開始した。

 

 別れ際、佐天が俺と初春に「じゃあ、気を付けてね初春。芝浦先生も。あたしの親友に傷一つでも付けたら、許さないかんね!」と言ってきた。

 

 俺は笑顔と親指を立ててそれに応える。初春はそれを聞いて涙目になりそうだったが、しかし今では無いと思い直したのか、すぐに風紀委員の顔になる。そして二人を見送った俺と初春は、それぞれ治安維持機関の隊員として行動を開始する。まだアラームは鳴り続けていた。

 

 「初春、ひとまず現場の特定を急ごう。こんなに広い店内ではどこが現場なのか見当もつかないからな。それに、客は逃げているがまともな避難誘導すら行われていないのを見るに、これはただ事ではなさそうだ。」

 

 それを聞いた初春は更に真剣な表情になる。

 

 「分かりました。では警備室に向かってみましょう。そこなら何かわかるかもしれません。」

 

 それを聞き、俺はその提案に賛成する。そして行動を起こそうとした、その時だった。

 

 

 「キャアアァアアアアーーーーーーー!!!!?!?!」

 

 遠くの方から――佐天と新橋が向かっていった方向から、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

 「今度はなんだ!?」

 

 俺は一瞬、あの二人の姿が脳裏によぎる。しかしそれをすぐに振り払い、冷静に思考する。

 

 「初春!お前は直ちに警備室へ行き、現場の特定を頼む!それから、現場を特定出来たらこの店のガードマンを連れて避難誘導を!俺もすぐに行く!」

 

 それを聞き、初春は向かおうとした。だがそれを呼び止める。

 

 「これも持ってけ!」

 

 そして俺は、初春に通信用のヘッドセットを投げ渡す。初春はそれを受け取り、『任せてください!』という表情を見せて警備室へと向かった。俺は現場が特定できない以上は闇雲に動くわけにもいかないため、声のした方向へと走り出す。

 走ること若干3分。その状況は最悪だった。大柄の男がナタのような大きな刃物を片手に、小柄な女の子を人質に取っていた。そしてその傍には恐怖で座り込んで動けないセミロングヘアーの少女。俺はそれを見た瞬間に、さっきの判断を後悔していた。

 そう、人質に取られていたのは、新橋恵だったのである。

 

 

 俺はひとまずその場に駆け寄り、佐天に声をかける。

 

 「佐天!大丈夫か!?」

 

 すると佐天は俺の方を向き、そしてしがみついてきた。

 

 「し、芝浦センセ―!どうしっ・・・、どうしようっ!新橋さんがっ・・・!」

 

 俺は佐天を立たせると、物陰にいるように指示を出す。そして笑顔でこう答える。

 

 「俺に任せろ。大丈夫。お前の親友には傷一つ負わせないさ。」

 

 そして新橋と、大柄な男の方へと向き直る。正面から見据えると、男が声をかけてくる。

 

 「ぁん?なんだぁテメェは?」

 

 それに対し、俺は一喝する。

 

 「警備員だ!大人しくその子を離せ!さもなくば・・・、無事では済まさんぞ・・・!」

 

 しかしそれを聞いた男はと言うと―。

 

 「はっ?警備員?ダッハハハハ!?笑わせんじゃねぇよぉあんちゃん?んな棒っきれで何ができんだ?あ?」

 

 どうやら「棒きれ」とは、特殊警棒のことを言っているらしい。恐らく相手は能力者・・・?俺は生唾を飲み込む。背中を一筋の汗が伝わっていくのを感じる。新橋は恐怖で顔を引きつらせ、声も出ないようだ。何とかしなくては・・・。すると、男がこんなことを言い出した。

 

 「まぁいいや、どうせこんな小娘を人質にしてても面白くないしよォ、あんちゃん『警備員』とか言ったな?てことはアレだろ?強いんだろ?だったらこういうのはどうだ?俺はアンタと『遊ぶ』代わりに、この子は逃がしてやるよ。悪くない条件だろ?」と男はニヤニヤしながら提案する。

 

 俺は逡巡する。新橋が俺にすがるような目を向けてくる。

 しかしその時、ヘッドセットから初春の声が聞こえてくる。

 

 「芝浦先生!初春です!どうやら現場は8階の高級服売り場のようです!今からガードマンの方と一緒に現場に向かいます!」

 

 俺はそれを聞き、一瞬揺らぐが迷っている暇はなかった。ヘッドセットの通話ボタンを押し、俺は即答する。

 

 「初春、すまない。そっちは任せた。・・・ああ、分かった。テメェを『満足』させてやるよ。それよりもまずはその子を開放しろ!」

 

 すると男はニタァと笑い、「いいねぇいいねぇ!そう来なくっちゃ面白みがないってもんだ。じゃあま、約束通りこの子は解放してやるよ。」と、新橋を押さえていた腕を緩める。

 ヘッドセットから初春の声が聞こえたような気がするが、果たして―。

 

 

 新橋はこちらへ駆け寄ってきた。俺は少しだが安心する。だが。

 

 「オラァッ!油断してんじゃねぇぞあんちゃん!」

 

 その「安心」が「油断」となり、俺は新橋の後ろからナタを振りかざして迫ってくる男に気づくのが一瞬遅れる。そして、そのナタが捉えた標的は―。

 

 「っっ!!させるかぁっ!!!!」

 

 俺は跳躍し、新橋との間に割って入る。間に合えっ・・・!

 

 『ガキィィイイインッッ!!!!』と激しい金属音がしたかと思うと、俺の右腕に想像を絶する荷重がかかってくる。たまらず両腕で警棒を押さえる。骨がミシミシと音を立てて軋むのが伝わってくる。しかし、何とか新橋にナタが当たるのを防げたことを確認した俺は、新橋が逃げるまで耐える。

 

 「ぐっ・・・・・!」

 

 「ヒャッハア!流石だぜ警備員のあんちゃんよォ!だが本番はここからだぜぇッ!」

 

 男は後ろに大きく―5mほど跳躍すると、今度はナタを腰に据えて、俺の腹をめがけて突進してきた!

 『ギャリィィイイインッ!!!!!』

 俺は辛くもそれを防ぐ。火花を散らしながら警棒とナタが擦れ合い、耳をつんざくような金属音が鼓膜を叩く。冷や汗がドワッと出てくる感触を感じながら、俺は体勢を立て直そうと必死になる。

 

 「くっ・・・、ハアッ、ハアッ、ハアッ、アイツは一体・・・。」

 

 「オラオラどうしたぁ!?もうへばっちまったのかァ!?」

 

 続く連撃。防戦一方の俺の持つ警棒は、塗装が次々と剥がれていき、次第に黒から銀色へと変色していく。しかし、俺はその連撃を受け流しつつ、ある一つのことに思い至る。

 ―相手は、能力者ではない。

 そう、相手はナタの威力そのものはすごいが、特にこれと言って能力を使っているようには見えなかったのだ。それに気づいた俺は、攻勢に打って出る。

 

 「せあッ!!!!」

 

 『ブォンッ』という風切り音を立てて、警棒は男の右横腹をめがけて打撃を加える。そして、男の横腹に当たった瞬間、『警棒が当たった方向にひしゃげて曲がった』。

 

 「―え?」

 

 「アン?なんだァこの弱っちい攻撃はよォ?」

 

 そして俺の左わき腹に打ち込まれる膝蹴り。防ぐ間もないまま『パキパキッ』という音と共に激痛が走る。そして、俺の体は気付けば、宙を舞っていた。

 「ひっ・・・・・!」という新橋の悲鳴が聞こえたような気がする。

 永遠に宙を舞っているかと思っていたが、しかし叶わず店内の床に叩きつけられ、二回目の激痛が襲う。

 

 「ぐ・・・・うああぁぁあああああああっっっっ!!!!?!?!??」

 

 痛みでたまらず俺は叫ぶ。そして左の肋骨が折れて(きし)む感触も伝わってくる。

 

 「ハッハー?どうしたあんちゃん?もう終わりかァ?」

 

 ナタを持った男が近づいてくる。俺の手にはひしゃげてしまった警棒はなかった。離れたところに落ちているのを見つけたが、動けそうにない。痛みの中で俺は考える。

 

 「(クッソ・・・、どうすれば・・・!)」

 

 「なんだなんだァ?さっきまでの威勢はどこに行っちまったんだ?もっと俺を楽しませてくれよォ?」

 

 男が俺の頭の上で何やら言っているが、そんなことを聞いている暇はなかった。そして俺は、最後かつ貧弱な手段に思い至る。

 

 

 「(痛みで左腕は動かせないか・・・。仕方ない。これで駄目だったらせめて佐天たちの盾くらいにはならないと格好がつかねぇな・・・。)」

 

 俺は心の中で自分を嘲笑する。そして、左胸につけていたセキュリティカードを取り出す。気付けばヘッドセットもどこかに吹っ飛んでしまっていた。

 

 「(あとはこれに賭けるしかない・・・!)」

 

 俺は立ち上がる。激痛が走る。再び叫びそうになるが、ぐっと堪えて男の目を見据える。男はニタニタと笑っていた。

 

 「お?なんだあんちゃん?奥の手ってやつがまだあるのかい?」

 

 俺は何も言わずに男へと歩み寄る。男は動じない。そして俺は『右手に持っていたセキュリティカードを横に思い切り振り切った』。

 『ジャッ』という音がした。男は何が起こったのかすら一瞬理解できなかった。しかし直後、両目が見えないことに加えて激痛が走る。

 

 「うあっ!?うあぁああっ!?!?なんだこれはァッッッ!?!??」

 

 そう、俺は男の両目をセキュリティカードで裂き切ったのだ。セキュリティカードの端からトロトロとした液体が垂れている。男はナタを捨て、目を押さえてうずくまる。俺はとっさにナタを蹴って男から離すと、男の腕に手錠をかける。そして男に対してこう吐き捨てた。

 

 「な?だから言ったろ?『満足させてやる』ってな。」

 

 男は戦意喪失し、目を抑えたままうずくまってじっとしてしまった。それはそれで逆に不気味ではある。

 

 

 すると、サイレンの音が近付いてきた。どうやら警備員の応援が来たようだ。ついでに言うと新橋と佐天も駆け寄ってきた。そして新橋はそのまま俺に抱きついてくる。

 

 「いっ―!!!」

 

 俺は三度(みたび)、激痛に襲われる。それに気づいた新橋がとっさに離れ、謝ってきた。

 

 「あっ、ごめんなさいっ!今すぐ治療しますね!」

 

 しかしその時、携帯のバイブレーションが鳴っていることに気付く。治療は正直言って受けたかったが、その電話に出る。

 

 「もしも―。」

 

 「芝浦先生!!もう!いきなり通信が途切れたから心配してたんですよ!?」

 

 電話の向こうから、初春がとても心配している声で俺の身を案じていた。俺はその声を聴き、平常心を取り戻していく。

 

 「あ、ああ、ごめんよ。こっちも手が離せなくってな。心配かけちゃったな。」

 

 「今からそっちに行きます!こっちはもう警備員の応援が来ているので大丈夫です!」

 

 「ああ、よろしく頼む。ついでに言うと救急隊も連れてきてくれると助かる。」

 

 「分かりました!」

 

 初春はそう言うと、電話を切った。そして新橋が待ちかねたと言わんばかりに話しかけてくる。

 

 「芝浦先生、今すぐ治療しないと命に関わります!とりあえずそこのベンチに座ってください!」

 

 新橋はそう言うと、俺をベンチまで連れていく。歩くだけでもその振動で激痛が走るが、冷や汗があふれ出てくるのを感じつつも何とか堪える。佐天が心配そうな顔をして俺と新橋についてくる。

 

 

 そして、新橋は俺に診察と治療を行おうとしたが、しかし俺はあるものを見つけ、新橋を止める。

 

 「ちょっと待て、あそこに見えてるのってなんだ?」

 

 俺はそれがある方向を指さして教える。新橋と佐天がその方向を見るや否や、佐天がそこに駆け寄る。そして―。

 

 「しっ・・・、芝浦先生!!!男の子が・・・、男の子が倒れてますっ!!」

 

 佐天は悲痛な叫びをあげた。新橋がすぐさま駆け寄る。俺は痛みで動けなかった。そして新橋が、深刻な表情でこう伝えてくる。

 

 「芝浦先生・・・、恐らくこの子は今、心肺停止状態です。今すぐに蘇生処置を行わなくては、まず助からないでしょう。」

 

 俺はそれを聞き、恐らく先ほどの男にやられたんだろうと推察する。そして俺は迷うことなく新橋にこう伝える。

 

 「だったらすぐにその子を治療してやれ!俺は後で良い!」

 

 しかし新橋は、依然として暗い表情のまま更に残酷な現実を告げてきた。

 

 「この子の・・・、この子の左腕が断裂(だんれつ)していて・・・出血量も恐らくは致命的です・・・。そして負傷者は2名。こういった場合は、より助かる可能性のある方を優先するべきなんです!」

 

 新橋の目には涙が浮かんでいた。それを聞いた佐天は新橋に問い詰める。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ新橋さん!この子を・・・、この子を見殺しになんてできません!お願いです。この子を助けてください!」

 

 まっすぐに見据え、佐天は新橋を説得する。俺も佐天に加勢する。

 

 「新橋、頼む。その子を今、この場で救えるのはお前しかいない!」

 

 「でも・・・!それだと芝浦先生が手遅れになっちゃいます!」

 

 「ふざけるな!!!」

 

 

 

  一瞬の静寂――。

 

 

 

 ――「新橋、お前は、お前はなんの為に今まで医療の研究をしてきたんだ!?お前の能力を使わなくても、絶対的な死に瀕している人を救うためだろうが!だったら今、治療するべきは俺じゃない!新橋恵!お前が今治療するべきは、そしてその能力を使うべきなのは、目の前にいるその男の子だ!」

 

 新橋は驚きと絶望が入り混じったような表情で、涙を目にいっぱい溜めてそれを聞いていた。俺は構わず続ける。

 

 「その子を救え!新橋恵!その子の未来を自分の手で守るんだ!救ってみせろっっッ!!!!」

 

 

 ―新橋恵は弾かれたように男の子の治療を開始した。別に芝浦先生に言われて使命感に燃えたとか、義務感があってやっているというわけではない。頭ではわかっている。芝浦先生を先に治療しなきゃいけないことも、この男の子の命は既に消えかけていることも。しかし(ココロ)がそれを上書きしていく。ただ、「救けたい」。その一心で新橋恵は手を動かしていく。

 まずはこれ以上の出血を止めるために、左腕に緊縛止血を行っていく。それと並行して、佐天に声をかける。

 

 「佐天ちゃん!心臓マッサージお願いできる!?」

 

 それを聞いた佐天は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに覚悟を決めると新橋の言うとおりに心臓マッサージを始める。

 ―学校の救命講習でやったとおりにやれば、大丈夫!佐天は自分にそう言い聞かせ、震える手で男の子の小さな胸を押し始める。男の子の体はすでに冷たかった。

 そして、新橋が左腕の止血を終え、「集中治療」を発動させて男の子の冷たくなった左腕と、断裂部とを繋いでいく。

 

 

 すると、初春が警備員と救急隊を連れて俺のもとへとやってきた。俺はそれを認めると、救急隊を新橋たちの方へと向かわせる。そして初春が心配そうに声をかけてくる。

 

 「芝浦先生!大丈夫ですか!?」

 

 俺は力なく笑うと、初春に声をかける。

 

 「ああ・・・、俺は平気―。」

 

 声をかけた、はずだった。視界が闇に包まれ、体に入っていた力が抜けていくのを感じていく。

 

 

 それからすぐに救急隊の尽力もあってか、奇跡的に男の子は現場にて心拍を再開した。佐天と新橋は緊張がほぐれていくのを感じ、救急隊も安堵の表情を見せる。そして新橋は芝浦に声をかける。

 

 「芝浦先生!私たちやりましたよ―。」

 

 

 

 ―新橋恵はこの時、自身の判断を後悔していた―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメ版「とある科学の超電磁砲」での時間軸は前回と同じですが、打って変わって非常にシリアスなシーンがたくさん出てきました。平穏な日常は、ある時にいきなり崩れ去るものです。そして負傷してしまった芝浦先生。果たして彼の運命やいかに。そして恵が次回、どのようにして物語に関わってくるのか。ご期待ください。
 次回、第10話「大切にしたいものと大切にするべきもの」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.03追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話「大切にしたいものと大切にするべきもの」

 皆さんこんにちは。前回「優先順位と自分の想い」では、突如としてセブンスミストにいたナタ男との戦闘に巻き込まれ、そして芝浦先生と男の子は重傷を負ってしまいました。果たして彼らは助かるのでしょうか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 俺は暗い闇の中にいた。深い、深い闇の中に。

 俺は一人で歩いていた。冷たい、冷たい空気の中を。

 どこからか声が聞こえる。ああ、この声は誰だったかな。思い出せないや。

 俺が俺でなくなっていく。「芝浦先生」という存在が崩れ落ちていく感覚がする。

 あの3人・・・ええと・・・、名前はなんだっけ。駄目だ、思い出せない。

 まぁいいか。なんだか暖かい光が見える。そこに行こう。そこに行けば暖かいから、少しは楽になれるかな。

 あとちょっと・・・、あと数十歩、あと少し歩けば・・・―。

 

 

 

 ――ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・。

 

 「――――あれ?」

 

 俺は目を開けた。目に入ってきたのは白い壁。いや・・・、これは天井か?

 

 「俺は・・・一体・・・?」

 

 だんだんと頭が働き始める。口元には酸素マスク。頭を右に動かすと、心電図が目に入った。それによりここが病院だと理解する。そして一気に記憶が蘇ってきた。

 

 「佐天・・・初春・・・新橋・・・!」

 

 俺は体を動かそうとする。しかし叶わなかった。何故か力が入らないのだ。訳が分からず混乱する。

 

 「クソッ・・・!なんで動かないんだ!動けっ!動けっつってんだろ!」

 

 「まったく、目が覚めたと思ったら騒がしいねぇ君は?」

 

 俺がもがいていると、初老の男性医師が病室に入ってきた。俺はその医師の顔を見て、カエ・・・とある両生類を思い浮かべるが失礼にあたると思い、それを振り払う。俺は男性医師に質問する。

 

 「お、おいっ!どうなってんだ!体が動かないぞ!」

 

 男性医師はやれやれといった風に答える。

 

 「ちょっとは落ち着いたらどうなんだい。今の君の体は麻酔から覚めたばかりだ。それに、『能力による治療の余波』であと1時間くらいはそのまま動けないよ。だが命に別状はない。あの子のおかげでね。あの子が無理をしてでも君に治療を施さなかったら、今頃死んでいただろう。」

 

 

 そう言うと男性医師は、病室の中のカーテンで仕切られている一角を開ける。そのベッドに寝ていたのは―。

 

 「し、新橋!?おい!新橋!聞こえてるか!?」

 

 「だからちょっとは落ち着いたらどうなんだい?まったく。彼女も命に別状はないよ。能力の使い過ぎで寝ているだけで、特に治療の必要もない。今夜一晩寝れば明日にでも退院できるだろう。」

 

 俺はそれを聞き、胸をなでおろす。そしてどうやら、俺を治してくれたのは新橋らしいと分かり、男性医師に問う。

 

 「先生、俺はどうなったんですか?あの後に俺は意識を失って、それから・・・。」

 

 男性医師は答える。

 

 「いや、ここに運ばれてきたときは既に完治していたよ。意識はまだ戻っていなかったがね。だから念のためレントゲン撮影とMRI検査を行ったが、負傷の痕跡はきれいさっぱり無くなっていた。私も驚いたがね、君の生徒の、初春くんだったかな。その子が説明をしてくれたんだよ。」

 

 それを聞き、俺は新橋に感謝する。彼女の目が覚めたらきちんとお礼を言おう。俺の命の恩人だ。そういえば、ともう一つ気にかかっていることを質問する。

 

 「先生、現場にいた男の子はどうなりました?助かったんですか?」

 

 それを聞くと男性医師は顔を緩め、質問に答える。

 

 「ああ、あの男の子なら今はICUだよ。まだ意識は戻っていないし、これから辛いリハビリが待っているだろうが、彼女のおかげであの子は左腕を失わずに済んだ。順調に回復すれば、また学校にも通えるようになるだろう。」

 

 俺はそれを聞き、本当に安心した。良かった、彼女が倒れてまで助けようとした命は無事つながった。それを聞いたら新橋はどんな顔をするだろうか。俺はそれを思うと、自然と笑みが零れた。そして最後に、恐らく無事であろう二人の安否を確かめる。

 

 「先生、俺の生徒・・・柵川中学の初春飾利と佐天涙子は無事ですよね?」

 

 男性医師は目を細めて答える。

 

 「ああ、二人とも無事だとも。君のことをずいぶんと心配していたよ。それと、佐天くんから伝言なんだが、『先生が倒れちゃって、仕方なく服は私たちのお金で買いましたけど、先生が元気になったらレシート持ってくのでお金はその時にくださいね!だから早く元気になってください!』だそうだ。君は本当に生徒から好かれているねぇ。」

 

 その可愛らしい文字で書かれた小さなメモを見せてもらい、俺はそれを見て笑顔になる。更には気力も沸いてきた。今なら何だって出来そうな気分だ。俺は起き上がろうとする。しかし力は入らない。それを見ていた男性医師はやれやれといった感じの視線を俺に向け、酸素マスクと心電図を外すと病室を後にした。俺は一人で苦笑すると、今日の事件を思い返す。窓の外はすでに、暗闇に包まれていた。

 

 

 今日のナタ男、あいつはどうやら能力者だったらしい。警棒がひしゃげるなんて予想外だった。しかし奴の眼には攻撃が効いた。つまり、あの男の能力は恐らく「筋肉を硬化・強化できる能力」と推測できるだろう。だから筋肉が少ない眼球には攻撃が通用した。しかしあの感触・・・、もう二度としたくない攻撃であることは確かだ。そして初春の対応してくれた高級服売り場でのアラーム・・・、あの男との関連性は不明だが、何かしらの関連性はあると見るべきだろう。しかし解せないのは、なぜあのナタ男が男の子を切りつけたのかだ。全くもってメリットがない。まるで切るのを楽んでいたとしか・・・。

 俺ははたと思い至る。今日Joseph’sで聞いた男子高校生たちの会話と、黄泉川先生から聞いた話、そして例のひったくり犯・・・。圧倒的な犯罪性と狂暴性、能力レベルの異常な上昇・・・。彼も「幻想御手」の使用者だった・・・?しかし「幻想御手」そのものがよく分からないというのが現状である今は、結論を出すのは性急すぎる。少なくとも、『何かしらの音楽ファイルを用いた可能性のある容疑者』程度に留めておくべきだろう。俺は一つ、小さなため息をついた。

 

 

  少し落ち着くと、俺はJoseph’sにバイクと、その装備を預けているのを思い出す。しかし体が動かないために、確認の電話をすることもできない。それに外はもう暗い。やはり明日の朝いちばんに謝罪の電話をするべきだろうと思い直す。それにしても本当に良かった。大きな事件だった割に死傷者の被害が少なかったのは、やはり新橋の力によるところが大きいだろう。何より死者は0人というのが、それを如実に表している。

 

 

 

 そんな感じであれこれ考え事をしているうちに、だんだんと体が動くようになってきた。あの男性医師の話だと、細胞というものはある一定以上のダメージが蓄積されたりすると、生命本能による防御機構が働いて休眠状態になるらしく、今回俺は、体幹部の細胞がその状態になったために、しばらく動けなかったというのだ。まぁ半分くらいは何を言っているのかよく分からなかったが。とにかく細胞が自分で休むらしく、それを俺は「体が動かせない」という形で体験したという話だ。なんとも不思議な話である。

 とりあえず動かせるようになっては来たので、ベッドの下にあった私物入れ用のタッパーから携帯を取り出し、今の時刻を確認する。時刻は00:43。既に日付は変わり、深夜になっていた。それを見て俺は新橋を起こさないように気を付けつつ、病院内にある自販機に飲み物を買いに行く。

 試しに歩いているときに左わき腹をさすってみたりしたものの、骨折しているような感触はなく、痛みもまた驚くほどに軽減していた。これなら無理をしなければ全くもって問題はなさそうだ。新橋の能力は本当にすごい。改めて俺はそう思った。ただ贅沢を言えば、その能力を使った反動がもう少しだけでも軽減されて、使用者本人の負担が減ればもっといいのだが。あの寝ている新橋の顔を思い出すと、嬉しい反面、とても胸が苦しくなった。

 

 

 そして俺は自販機で西瓜(スイカ)紅茶を買い、また病室に戻る。新橋が目を覚ましているかと期待したが、時間も時間で深夜ということもあり、彼女はぐっすりと眠っていた。俺はその寝顔を見て安心感を覚える。

 先ほど男性医師が置いていった佐天からのメモを改めて見てみると、そこに薄く水滴の跡が見て取れた。これはもしかすると佐天の涙なのか、あるいは単純に水滴なのかははっきりしないが、しかし佐天にもずいぶんと心配をかけてしまったことを心の中で反省する。彼女の想いには元気になった俺の姿で応えよう。

 嬉しい気持ちや暖かい気持ちと、心苦しい気持ちや申し訳ない気持ちがごちゃまぜにブレンドされている胸中に俺は、西瓜紅茶を流し入れる。そしてほっと一息。散らかり放題だった胸中が少しすっきりした気分になった。しかし病院というものは退屈である。携帯もむやみやたらに使えないし、大きな音を出すのは他の患者の迷惑になりかねない。俺はどうしたものかと考えあぐねた結果、新橋のベッドサイドへと椅子を持っていき、彼女の寝顔を眺めることにした。

 決してやましい考えからではない。彼女が目覚めたときに、誰かしら傍にいた方が安心すると思ったからだ。いきなり病院のベッドで目覚めて一人だなんて、寂しいにもほどがある。彼女にそんな思いはさせたくない。命の恩人だとか、そういうのは関係なく、単純に女の子だからそういう思いはしてほしくなかった。

 

 

 俺は残りの西瓜紅茶を飲み終えてから空き缶をゴミ箱に入れると、新橋のベッドサイドへと椅子を持っていき、そこに腰掛ける。今日は大変な一日だった。俺は警備員だからまだいいものの、彼女のような普通の学生には疲労が大きすぎる。まして能力を酷使していたとなれば想像を絶するだろう。すやすやと眠る彼女の寝顔を眺めながら、俺は「お疲れさま。今日はとても良く頑張ったな。ありがとう。」と心の中でつぶやく。

 そして彼女の寝顔を眺めつつ、そういえば、と新橋が俺にお願いしてきたことを思い出す。「私のことを名前で呼んでほしい」。彼女は確か、そんなことを言っていた。俺は命の恩人に対して、せめてものお礼をしたいという気持ちから、彼女を下の名前で呼ぶ練習を軽くしてみることにした。

 

 「め、めぐみ・・・、恵・・・さん?恵・・・ちゃん・・・?」

 

 我ながらとてつもなく呼び慣れていない事を感じ、一人で失笑する。

 

 「はぁ~・・・、これ、結構恥ずかしいんだよなぁ・・・。」

 

 なるべく小さい声で、新橋が起きないように気を付けてはいるものの、本当は聞こえているのでは、起きているのではという考えが頭の中をよぎり、耳たぶが熱くなってくるのを感じる。

 

 「ったく・・・、男として情けなさすぎるぞ・・・俺よ・・・。」

 

 その後もしばらく練習し続けたものの、やはりうまくいかずに断念してしまった。正直言って本人の真横で練習するのは、いくら寝ているからと言っても精神衛生的によろしくない。

 

 

 そして再び新橋の寝顔を眺める。しかし気持ちよさそうに寝ている彼女の寝顔を見ていると、こちらも眠気を誘われて、いつの間にか俺は睡魔の前に撃沈していた―。

 

 

 

 ―翌日。

 新橋恵は目を覚ました。良く晴れた、気持ちのいい朝だ。エアコンの効いている病室内は快適で、ぐっすりと眠れた。

 

 「んっ・・・んん~~~・・・。あふ・・・。眠いなぁ・・・。」

 

 見慣れぬ天井と部屋に、一瞬頭が混乱する。しかし昨日のことをはっきりと覚えていたので、能力を使って倒れた後にここに運ばれたんだと理解する。

 

 「ちょっとトイレ行きたいかも・・・。」

 

 新橋恵はそう独り言をつぶやき、ベッドから起き上がってトイレに行こうと横を向く。すると、何やら黒いものが目に入った。

 

 「んう・・・?髪の毛・・・?」

 

 新橋恵はその頭の主を認識するために顔を見る。そこにいたのは―。

 

 「ひゃわぁっ!?!?ししししししし芝浦先生!?!?!?」

 

 新橋恵はとっさに飛び起きて、僅か数cm目の前にあった男性の顔から遠ざかる。彼女の目は、彼女が尊敬する・・・いや、ちょっと違う。もっと親密な意味合いの感情を持っている男性の顔を認識する。すると、その声を聞いた芝浦先生がモゾモゾと動き始める。

 

 

 「ん~・・・・・?あれ・・・・・?俺、なんで・・・・・・?」

 

 寝ぼけ眼で状況が読み込めていない芝浦先生もカッコい・・・じゃなくて!

 

 「しっ、芝浦先生!おはようございますっ!」

 

 それを聞いた芝浦先生が眠そうにあくびをしながら答える。

 

 「ふわぁ~~~~あ・・・。おはよう新橋~~・・・ぐぅ・・・。」

 

 そしてまた眠りそうになっている芝浦先生。もしかして朝にめちゃくちゃ弱い?

 

 「ちょっ!起きてください芝浦先生!朝ですよ!」

 

 芝浦先生の肩を揺らして目覚めを促す。それを受けた芝浦先生は徐々に意識を覚醒していく。

 

 「ん・・・・・?ん・・・?んん???あれ?なんで俺こっちで寝てんの・・・?」

 

 それはこっちが聞きたいんですけど!?!?

 

 「あ~そっか、そういえば昨日、新橋の寝顔を眺めててそれで寝ちゃったのかぁ・・・。」

 

 寝ぼけてるのか知らないけど、なんか今この人すごく恥ずかしいこと言っていた気がするけど気のせい?私の寝顔を眺めてたって、それって・・・!?

 

 「とりあえず顔でも洗ってくるか・・・。新橋も歯磨きとかしてくるんだぞ~・・・。」

 

 芝浦先生はそう言って、洗面台の方に行っちゃった。なんだったのよもうっ!

 

 私は仕方なくトイレに行くことにした。はぁ・・・。でも寝顔を見られてたって・・・。ああもう恥ずかしいし、朝から心臓止まるかと思った~・・・。

 

 

 ―俺は顔を洗い、冷たい水で目を覚ます。そしてしっかりと意識が覚醒すると、先ほどの自分が言っていたセリフを思い出し、そして一気に冷静になる。まずい。あれを聞かれていたらかなりまずい。俺の教師としての立場が危うく・・・!

 そして急いで新橋のもとへと戻り、確認と弁明をする。

 

 「し、新橋っ!さっき俺が言ってたこと、聞いて・・・たよね?」

 

 新橋は若干、頬を赤らめながらうなずく。俺は人生で最大の過ちを犯したかもしれない。

 

 「せ、説明させてくれっ!あれはだな、その・・・、そう!新橋が目を覚ました時に誰かいた方が寂しくないと思って、それでっ・・・!」

 

 新橋はなぜか笑っていた。俺は訳も分からず唖然とする。すると、新橋がいつもの口調でこう言ってきた。

 

 「も~、芝浦先生って朝に結構弱いんですね。いつもと違う先生が見れたので、私もラッキーでした。でも、ありがとうございます。おかげで芝浦先生の狙い通り、私は目が覚めた時、寂しくありませんでしたよ?」

 

 新橋はにこやかな笑顔で俺にそう言ってくる。俺はそれを聞き、少し救われた気分になる。しかし次に新橋が言ってきたのは、俺が予想だにしなかったことであった。

 

 「芝浦先生・・・、もしかして昨日、私の事を名前で呼ぶ練習とかしてたり・・・しました?」

 

 俺はそれを聞いて心臓発作を起こしそうになる。一気に耳まで赤くなるのが自分でも感じられた。しかし無謀にも俺は、それを否定する。

 

 「なっ・・・!?そ、そ、そんなわけないじゃぁないですかっ!?」

 

 何故か敬語。それを聞いた新橋はいたずらな笑みを浮かべ、俺に詰め寄ってくる。

 

 「芝浦せ・ん・せ・い?素直に認めた方がいいと思いますよ?」

 

 俺は、もはやこれまでと思い直し、素直に新橋に謝罪する。

 

 「ごめんっ!そんなつもりじゃなかったんだ!ただ、俺のことを助けてくれた新橋に少しでもお礼がしたくて・・・。」

 

 それを聞いた新橋は驚いた表情を見せたが、しかし元の笑みに戻り、そして俺を自分の隣に座るように促してくる。俺はそれを聞き入れ、同じベッドサイドに腰掛ける。まだ顔は熱いままだ。そして新橋は何やらもじもじしていたかと思うと、いきなり腕を絡ませてきた。俺は驚いて新橋にやめてくれと言おうとしたが、できなかった。

 そこにあったのは先ほどまでのいたずらな笑みではなく、一人の恥じらう少女の、ほんのりと赤く染まった可愛らしい顔があったからだ。そして新橋は静かに、ゆっくりと口を開く。

 

 

 「芝浦先生・・・。私ね、とっても嬉しかったんだよ?あの日、私を助けてくれた時と、セブンスミストで会えた時。そして昨日、また私を護ってくれた。芝浦先生の方こそ私の命の恩人なんだよ・・・?」

 

 潤んだ瞳で、新橋は俺に淡々と話しかけてくる。その姿はどこまでも繊細で、軽く触れただけで儚く散ってしまいそうな、そんな雰囲気を放っていた。俺は何も言わずに新橋の言葉を聞き続ける。

 

 「そんな人に何もできないかもって思っちゃってたのは、私の方。昨日なんかは特にね。あのまま先生が死んじゃったらどうしようって、今まで出したことがないくらいの能力を使って、気付いたら私も倒れちゃってて、笑っちゃうでしょ。でも、その甲斐はあったかな。こうして先生とまたお話して、お出かけして、一緒に笑いあって・・・。そんな毎日が戻ってきたんだから。」

 

 そして新橋は、俺に向けて微笑みかけてくる。俺はそれを見て、たまらず新橋を抱きしめる。

 

 「新橋・・・、いや、ここまで来てそれはないな。恵。ありがとう。君には返しきれないほどの恩を受けてしまった。それをいつの日かきちんと返せるように俺も頑張るから、だからもう無茶だけはしないでくれ。これは俺からのお願いだ。俺の体は恵がまた治してくれるけど、恵のことは俺には治せない。だから怖いんだよ。すごくね。護り切れなかった時の代償が大きすぎて、とても怖いんだ。だから俺からのお願い、聞いてくれるかな?」

 

 俺は優しく恵に問いかける。恵は顔は見えないが、どうやら泣いているようだ。俺の言葉を聞き、恵もまた頷き返す。

 

 「うん・・・。うん・・・。もう無茶はしないよ。芝浦先生。ありがとう・・・。私を護ってくれて・・・。」

 

 

 

 俺はその言葉を聞き、優しく恵を抱きしめ続ける。いつか、その涙が枯れる、その時まで―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回はようやく翌日に移りましたので、アニメ版「とある科学の超電磁砲」での時間軸は、美琴と黒子がプール掃除の罰を受けているシーン(昼過ぎ)に入る直前までとなります。そしてどうやら、この一件を通して芝浦先生と恵との間に、特別な信頼関係が生まれたことでしょう。次回以降は大きく事件が進展していくようです。お楽しみに。
 ちなみに恵が芝浦先生に「名前呼び」の練習をしていたかどうかと聞いていたシーンについては、恵があの時に起きていたのか、はたまた単なるハッタリだったのか、そこは読者の皆様のご想像にお任せします。
 次回、第11話「仲間と戦友(なかま)」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話「仲間と戦友(なかま)」

 皆さんこんにちは。前回「大切にしたいものと大切にするべきもの」では、恵の尽力によって芝浦先生は命を取り留めましたが、最後は二人がお互いの気持ちを吐き出して、そしてより親密な関係になったところでお話が終わりましたね。今回から二人の関係はどのように変わっていくのか、そして「幻想御手」とは一体何なのか、大きく物語が進展していくことでしょう。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください


 俺と恵は、あの両生類に似た男性医師から今の俺たちの状態と、退院時期についての説明を受けていた。まずは二人とも医学的には健康体であること。しかし俺に関しては痛みが若干残っているため、一週間分の鎮痛剤を処方されること。恵は今日一日は激しい運動を控え、念のために学校を休んで休養すること。かと言って病院側としてもできることは無いため、今日の午後4時に退院予定であることなどを告げられる。俺と恵はそれを聞いて安心するとともに、お互いの顔を見て笑顔を見せた。

 

 「―とまぁ、こんな感じだね?それじゃあ僕は医局に戻るから、何かあったらすぐに呼んでもらえるかな?」

 

 俺はそれを聞き、了解の返事をするとともに感謝の言葉を告げる。しかし男性医師は首をゆっくりと横に振った。

 

 「芝浦くん、僕は医者としては何もしていないよ?君が本当に感謝するべきは、そこの可愛らしいお嬢さんじゃないのかね?」

 

 俺はそれを聞き、恵の方を見る。恵は柔らかく笑い返してきた。それを見て俺もまた、顔が緩んでくる。そんな俺たちの空気を知ってか知らずか、男性医師は特に何かを言うこともなく、病室を後にした。しかし心なしか、彼の顔はどこか笑っているように見えた。

 

 

 そして男性医師が出ていくや否や、恵が俺の背中に抱きついてくる。今日の朝の一件で、俺と恵の仲は大きく変わった。少なくとも、「先生と生徒」という枠では無くなっているように思う。俺は恵の暖かな体温を感じながら、幸せな気持ちに浸っていた。

 しかしそれは、突然鳴った空腹を知らせるサインによって台無しにされてしまう。気付けば時刻はすでに昼過ぎ。病院というところはどうしてこうも時間間隔が無くなるのだろうか。そして俺のお腹が盛大な音を鳴らしたかと思えば、それにつられるようにして、恵のお腹からも可愛らしい音が鳴った。それを聞いてお互いに恥ずかしくなり吹き出してしまう。

 

 「あはははっ、お腹すいたね~芝浦先生っ、ねね、お昼一緒に食べに行こうよ。」

 

 恵が抱きついたまま、ウキウキしながらそう言ってきたので、俺もそれに対して賛成の返事を返す。

 

 「おう、でもどうしようか、病院の敷地からは出られないし、あるとしたら病院にあるグリマか、小さいカフェしかないぞ。」

 

 「ん~、私はどっちでもいいよ?先生と一緒ならどこで食べても楽しいもん。」

 

 俺はそれを聞き、いきなり照れくさくなってくる。さてどうしたものか。

 

 「うーん、それじゃあカフェで何か食べた後に、コンビニに寄って行こうか。何か欲しいものとかある?」

 

 俺がそう聞くと、恵は一瞬目を輝かせたが、直後に気まずそうな顔になる。

 

 「あ~・・・、えっと、私のお財布の中身、昨日のセブンスミストでほとんど使っちゃったんだよねぇ~・・・。」

 

 俺はそれを聞き、あっけにとられてしまった。最初から俺が奢るつもりだったからだ。

 

 「恵はそんなこと気にしなくていいよ。俺が奢るからさ。」

 

 俺がそう言うと、恵は嬉しそうに顔をほころばせる。

 

 「えへへっ、先生ごめんね。でもありがと。お言葉に甘えてご馳走になりますっ。」

 

 「それで欲しいものはあるか?何でもいいぞ。」

 

 恵は少し考えたのちに、俺に答える。

 

 「それはあっちに行ってから考えるね。それよりもお腹すいちゃった。早く行こっ。」

 

 そして俺は財布と携帯を持ち、その途端に恵に手を取られ、引っ張られるままに今日の昼食を食べに行くのだった。

 

 

 病院の総合エントランスに降りてくると、そこは病室とは打って変わって騒々しい雰囲気に包まれていた。医師や看護師が行き来する足音、患者が話す声、開閉する自動ドアの機械音。

 それらの音の波を受けて、恵は少し体を強張らせる。昨日の今日というのもあり、やはり怖いのだろう。その様子を受けた俺は、恵の手を自分から握り返す。恵はそれを感じ取り、俺の顔を見ると心の底から安心したような笑顔を見せた。彼女の心に刻まれた傷は深い。俺はこの様子を見てそう思った。そして、その傷を癒していくのは、俺の役目でもあると強く思う。

 

 

 その後は俺が、恵をエスコートしつつカフェへと向かう。今日はラッキーなことにあまり人がおらず、カフェの中は静かで数人の医師や看護士が、コーヒーやサンドイッチなどを口に運んでいた。俺と恵は窓際の席に行き、メニューを開く。

 ここのカフェは主に軽食を取り扱っているらしく、基本的にサンドイッチやサラダ、ピザ、コーヒー類がほとんどだった。俺はメニューを見ながら今日の昼食を何にしようかと考える。すると、恵が声をかけてきた。

 

 「ね、先生は何食べる?」

 

 俺はメニューに目を落としつつ、曖昧な返事を恵に返す。

 

 「うーん・・・、迷うけど、ピザとサラダで、飲み物はアイスカフェラテかな・・・。」

 

 それを聞いていた恵は俺にメニューを見せ、そして一箇所を指さしてこう言った。

 

 「私、先生とこれ飲んでみたいなぁ~なんて思ったり・・・。」

 

 俺は恵の見せてきたメニューに目を向ける。そこには「期間限定!トロピカルな南国フルーツのミックスジュースで、あなたと彼女はもっと甘々な関係に・・・!?手軽に南国気分を味わえる、『スウィートフルーツ&カップリングドリンク』、税込み560円!彼女との甘いひと時をお手伝いします!」と書いてあり、いかにも南国と言ったグラスにマンゴーやピーチ、パイナップルと言ったフルーツが飾り付けられ、更にはあのカップルが飲むような、ハート形に形成された2本のストローがドリンクに入っている商品画像を見るに、恐らくこの飲み物は「そういった意味」のあるものだと俺は認識する。うん、認識するのはいいんだけど、俺とこれを飲みたいとかやっぱりそういう意味なのだろうか。

 そう思って恵の顔を見ると、思いっきり目が合ってしまった。恵は耳まで顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。どうやら本当にそういう意味らしいことを俺は察する。そして俺も内心ドキドキしながら、恵の提案を受け入れる。

 

 「ああ、いいよ。一緒に試してみよう。」

 

 俺がそう言うと、恵は驚きと喜びの感情が入り混じった笑顔を俺に見せてきた。どうやら今日の昼食は、人生で一番心臓に負担がかかる食事になりそうだ。

 

 

 その後はお互いに昼食を注文し、食べ終わったその時、男性店員がまるでタイミングを見計らったかのように例の「スウィートフルーツ&カップリングドリンク」を運んできた。その時に店員が俺に「がんばれよ」と視線でエールを送ってきたような気がする。俺は恵の顔を見るが、恵はドリンクを見つめたまま顔を赤くしている。それは俺も恐らく同じだろう。正直言うとかなり緊張している。しかしこのままというわけにもいかない。俺は腹を括る。

 

 「えっと・・・、じゃあ、飲んでみようか。」

 

 恵は俺の顔を見ると、期待感と緊張感の入り混じった瞳で答える。

 

 「は、はいっ!いた、いただきましょう・・・!」

 

 ここが病院であるということも忘れ、二人だけの空間を作り出す。そしてどちらからともなくストローを咥えて、冷たいドリンクを口にする。眼前数cmという距離にある女の子の顔。俺の舌は味覚を失い、視線は彼女の綺麗な顔に吸い寄せられ、まるで呼吸をするのも忘れるかのように魅入ってしまった。

 ―恵と視線がぶつかる。彼女の顔が一気に赤くなった。俺も顔が熱くなってくるのを感じる。しかし不思議なことに視線を外すことができない。気付けば俺も恵もストローから口を離し、お互いの静かな吐息が触れるくらいの距離で見つめ合っていた。すると彼女の方から唇を近づけて―――。

 

 「おやおやこれはこれは、長点上機学園の新橋恵さんではないですか。」

 

 突如として耳に届いた男の声によって、その時は終わりを告げた。

 

 その声が聞こえた瞬間、俺と恵はまるで、音速を超えていたんじゃないかと言うくらいの勢いで顔を離した。なんとも良いのか悪いのか、よく分からないタイミングで聞こえてきた声の主に俺は目を向ける。そこには白衣に身を包んだ、一人の男が立っていた。

 

 

 ここが病院であること、そして白衣を着ているということから、おそらく医師であるということが伺える。しかし疑問なのは、なぜこの医師が恵の名前、そして在籍校を知っているかということだ。先ほどまでの熱はすっかり冷めきってしまった俺は、恵にそのことを聞こうと声をかけようとする。しかし、明らかに様子が変わっている恵を見て、俺は何かあると察する。恵は怯えていた。まるで、会ってはいけないものに会ってしまった、そんな風に。

 そして更に男性医師は言葉をつなげていく。

 

 「いやぁ、こんなところで会うなんて偶然ですねぇ。今日はどうしてこちらに?いつもの研究成果を見せびらかしに来たのでしょうか?それともどこか具合が悪いので?」

 

 まるで彼女を馬鹿にしているかのようなこの男の言葉を聞いていた俺は、たまらず声をかける。

 

 「おいアンタ、さっきから黙って聞いていれば次から次へと・・・。恵に何の用だ?ただ文句を言いに来ただけなら帰ってくれ。」

 

 その言葉を聞いた男は俺に視線を向ける。その視線はどこか、不気味な色を放っていた。

 

 「はい?あなたは一体、彼女とどういうご関係ですかね?私と彼女は『個人的』に親密な関係にあるのですが、その私が彼女と話してはいけない理由があるのですか?」

 

 「個人的に親密」な関係・・・?俺は意味が分からず問い返す。

 

 「それってどういう事だよ。恵は明らかに怖がってんじゃねぇか。親密な関係ならこんな反応はしないと思うが?」

 

 俺がそう言うと、若干40代半ばであろう小太りの男性医師は、不敵な笑みを浮かべて衝撃的な事実を告げてきた。

 

 「私と新橋さんはだね、将来的に婚約することになっているのだよ。」

 

 「―――――!?」

 

 

 俺はその言葉が一瞬理解できなかった。いや、「理解したくなかった」というのが正確かもしれない。この男と恵が、将来的に婚約・・・!?何かの間違いだろう。そうであってほしいと俺は願いつつ、恵に確認を取る。

 

 「め、恵、コイツの言ってることは嘘なんだろ?じゃなきゃ恵がこんなに怯えてるわけ――。」

 

 「・・・・・・・・ごめんなさい。」

 

 俺の願望は、いとも簡単に砕け散ってしまった。どうやら本当のようだ。俺は頭の中が混乱するが、冷静さを保ちつつ状況を整理しようと努める。しかしこの男の声がそれを邪魔してくる。

 

 「はっはっはっはっはぁっ!!!どうですかどうですか!これでご納得いただけましたかねぇ?ご納得いただけたなら早急にお引き取り願いたく―。」

 

 「・・・うるせぇよ。」

 

 「はい?よく聞こえなかったのでもう一度お願いできますかね?」

 

 その言葉で俺は、完全にキレてしまった。

 

 「うるせぇって言ってんだろ!」

 

 そして席を立ちあがり、拳をかざす。

 

 「やめないかね君たち。」

 

 殴りかかったその時、聞き覚えのある声が俺の拳を止めた。

 

 

 俺は動きを止めて、その声のした方を見る。そこには先ほど病室で話していた、両生類に似た顔の医師が立っていた。そして彼が口を開く。

 

 「芝浦くん。まずは座りなさい。そして坂上(さかがみ)先生、君も少しやりすぎではないのかね?彼も彼女も僕の患者だ。仲良く話をするのは結構だが、ちょっかいを出したら承知しないよ?」

 

 俺は椅子に座り、会話を聞くことにした。すると「坂上」と呼ばれた医師はバツが悪そうにしてこう吐き捨てた。

 

 「ちっ・・・、カエル先生、別に私はちょっかいなんてかけていませんとも。ただ単に私の将来の妻と話していただけですよ。何もやましいことなんてありません。では忙しいのでこれで失礼します。」

 

 坂上はそう一気に言うと、そそくさと姿を消した。一瞬だが俺に、明らかに敵意のある視線を向けながら。

 

 それを見送ったカエル先生(暫定的にそう呼ぶことにする。)は、俺と恵を見ると真剣な顔でこう言ってきた。

 

 「二人ともちょっと着いてきてくれるかな。」

 

 

 そして俺と恵はカエル先生の後をついていく。そして通されたのは彼の書斎だった。こんなところに連れてくるということは、恐らく他の人に聞かれたらまずい話なのだろう。カエル先生は静かに口を開く。

 

 「さて、さっきはすまなかったね?何やら坂上先生が新橋くんと話していたようだが、大丈夫かね。」

 

 俺は恵の方を見る。恵は沈鬱な表情で俯いていた。どうやら先ほどの事実を知られてしまったことを後悔しているようだ。カエル先生はそれを見ながらも話を続けた。

 

 「ところで君たちを連れてきたのはほかでもない。新橋くんの能力についての話をしたくてね?まぁそこに腰掛けてくれるかな。」

 

 俺と恵は促されるままにソファに腰掛けて、カエル先生の話に耳を傾ける。

 

 「新橋くんの能力、『集中治療』は本来、人間の体細胞を修復するための能力で、自身のAIM拡散力場で対象の体細胞に干渉し、自然治癒力を限界まで高めることによって傷を癒す。それは君たちも分かっているね?」

 

 俺と恵は頷く。カエル先生は言葉を繋いでいく。

 

 「だがそれは、あくまでも『表の面』に過ぎないことが今しがた分かったんだけどね、新橋くんの能力、『集中治療』は傷を癒す反面、『人間の体細胞を自壊させる事も可能』だということも明らかになったんだね。」

 

 俺はそれを聞き、ショックを受けた。まさかそんなことが可能なのだろうか?いやしかし、恵がそんな使い方をするわけがないと思い直し、恵を見る。恵もまた俺と同じようにショックを受けていたようだった。しかしカエル先生はそんな事実を告げたにも関わらず、軽い口調でこう告げてきた。

 

 「新橋くん、何もショックを受けることは無いんだよ?単純に『そういう使い方もやろうと思えば出来る』と分かっただけで、この能力の使い手は君自身だし、使い方を決めるのも君自身なんだからね?」

 

 恵はそれを聞き、幾分か安心したようだ。俺も納得する。カエル先生はなおも説明を続ける。

 

 「しかし自身のAIM拡散力場をもって、体細胞の生命活動に干渉できるのだから当然と言えば当然なんだね?今までそれに気づかなかったのは、新橋くん自身がこの能力を『傷を癒すためだけ』に使ってきたからなんだが、ということはつまり、新橋くんはいつも通りの能力の使い方をしてさえいれば、この暗黒面は発動しないと言えるだろうね?」

 

 恵は真剣そのものの表情でカエル先生の話を聞いている。俺はなんとなくそれが頼もしく思えた。

 

 「さて、新橋くんの能力に関してはこれで以上なんだがね、芝浦くんはあと少しだけ付き合ってもらえるかな?」

 

 それを聞いた恵は不安そうな顔で俺の方を見てくる。俺は優しく笑いながら恵に答える。

 

 「大丈夫だよ。すぐに終わらせて病室に行くから、だからちょっとだけ待っててくれ。」

 

 俺がそう言うと恵は少しだけ不安な顔をしていたが、席を立つと病室へと戻っていった。それを見送った俺はカエル先生に向き直り、話の続きを聞こうと促す。

 

 「それじゃあここからは、新橋くんと、さっきの坂上先生に関係する話なんだけどね?彼女の能力にも大きくかかわってくる話だから、警備員の君には是非ともそれを知っておいてもらいたいんだが、覚悟はいいかね。」

 

 俺はカエル先生の目を見据えて頷くと、カエル先生は真剣な顔になり重たい口を開いた。

 

 

 「では単刀直入に言おう。新橋くんと、坂上先生の婚約に関する話なんだが―。」




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回でやっとアニメ版「とある科学の超電磁砲」第2話の美琴と黒子がプール掃除をしているシーンから先に進めました。このままだと時間軸が崩壊するんじゃないかとヒヤヒヤしてたのですが、何とかなったので結果オーライですね。そしてなんと、衝撃の事実が判明しましたね。「集中治療」にしても、恵と坂上の関係にしても、芝浦先生の胃に穴が開かないか心配ではありますが、それでも無慈悲にお話は進んでいくのです。はい。
 それから、今回のお話はちょっと長くなりそうなので、2話に分けてお届けしたいと思います。次回はカエル先生から様々な事実を告げられることでしょう。
 そういえばアニメを見返してて気づいたのですが、飾利と涙子は第2話の冒頭で、美琴とすでにセブンスミストに行ってたんですねぇ・・・。そうなるとこの作品の時間軸上では、同じ日に2回セブンスミストに行ってるということに・・・。まぁ一応この作品は芝浦先生視点から描かれるので、問題ないと言えばないのですが、しかし普通にミスりましたね。
 閑話休題、次回「仲間と戦友(なかま)2」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話「仲間と戦友(なかま)2」

 皆さんこんにちは。今回は前回からの続きです。
 どうやら今回は、芝浦先生の人生を大きく変える転換点になりそうです。果たしてどうなっていくのか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 ―カエル先生は真剣な顔になり、重たい口を開いた。

 

 「では単刀直入に言おう。新橋くんと、坂上先生の婚約に関する話なんだが―。」

 

 俺は再度告げられる真実に、もう一度向き合う覚悟を決めた。

 

 「―それは事実だよ。確かに新橋くんと坂上先生は、将来的に婚約することになっている。」

 

 真実は変わらなかった。俺は落胆する。しかしカエル先生が次に告げてきたのは、意外なことだった。

 

 「だが、『婚約を結ぶ』ことと『お互いに愛し合っている』ことはまた別問題でね、坂上先生は自分よりも若くてきれいな子を嫁にできるのだから文句はないだろうが、新橋くんとしてはどうなんだろうねぇ。」

 

 それはつまり―。

 

 「それって、恵は坂上のことを好きではない、ということですか?」

 

 俺がカエル先生に問いかけると、カエル先生は頷いた。

 

 「そうなるね。でなければあんな反応はしないだろう。しかし坂上先生はそれに気付いていないか、或いはそう言った反応を見て楽しんでいるかのどちらかだろうね。」

 

 俺はそのことを聞き、怒りに駆られる。しかしカエル先生がそれを制し、言葉を繋いでいく。

 

 「実は、坂上先生と新橋くんは意外なつながりを持っていてね、坂上家は代々、優秀な医師の家系で、新橋家はこれまた優秀な、代々続く研究者の家系なんだね。そして昔から新橋家の娘は坂上家に嫁ぐことが、昔からの両家の習わしとしてあったんだがね、しかしある時からしばらく、新橋家に女の子が生まれない時期があったんだよ。それ以来その習わしは行われなかったんだが、16年前にようやく新橋家に女の子が生まれたんだね。」

 

 そこまで聞けば誰だってわかるだろう。つまり、その16年前に生まれた新橋家の娘は、現坂上家の子息と婚約を結ぶことになる・・・。しかし俺はある疑問を口にする。

 

 「でもカエル先生、その坂上家の子息って、本当にあの男なんですか?普通はもっと若いでしょう。」

 

 しかしカエル先生は、その言葉を受けて小さくため息をついた。そして答える。

 

 「芝浦くん、さっきも言ったけど『坂上家は新橋家の娘を嫁がせる』という義務があるんだね。つまりそれは、『新橋家以外の嫁は作れない』ということにもなるんだね。だから坂上先生は今まで独身で、子供もいないだろう。ようやく新橋くんという娘が生まれて、坂上先生はある意味ではそのプレッシャーから逃れられるとも思っているんだろうね。」

 

 俺はそれを聞き、複雑な気持ちになる。しかし恵の気持ちを考えるならば、そんな古めかしい結婚なんて認めてはダメだ。

 

 「・・・カエル先生、俺はそういうの、間違っていると思います。そりゃあ確かにお互いに愛し合って、幸せな結婚をするなら『古き良き伝統』って言えるでしょうけど、今回のこれは、それとはまるっきり違う。一方的な坂上の求愛行動に過ぎないですよ!」

 

 俺は熱くなり、声を荒げる。それを聞いたカエル先生は自信に満ちた笑顔を俺に向けてくる。

 

 「君なら、そう言ってくれると思っていたよ。」

 

 

 その後もカエル先生から教えられた内容は驚くものばかりだった。まず第一に、この婚約にはおそらく、学園都市統括理事会が関わっているだろうということ。そして坂上の個人的嗜好も含まれているだろうが、その本来の目的は恵の「集中治療」を研究、解析して様々な実験を行うことであり、それの隠れ蓑であるということ。更には新橋家と坂上家の利権問題も絡んでおり、政治的な面でも撤廃するのは難しいだろうということ。

 俺は頭を抱える。問題が大規模すぎて、もはや俺の手には負えないだろうと思えた。俺はカエル先生に懇願する。

 

 「カエル先生・・・。俺は確かに警備員で、恵のことを守ってやりたい。だがな、こいつは俺の手には負えない。それに統括理事会が関わっているんなら、警備員としてそもそも動けなくなる可能性だってあるし、最悪の場合は俺と恵の命に関わるかもしれないんだ。だからお願いだ。俺なんかよりももっと力のある、しっかりと恵を守ってやれる人に頼んでくれ。」

 

 それを聞いたカエル先生は果たして、その頼みを聞き入れてはくれなかった。しかしその後に言われたのは意外な言葉だった。

 

 「芝浦くん、君は何か勘違いしていないかね?何もこの問題全てを君に丸投げしようって言ってるわけじゃないんだ。君にはあくまでも、僕の手伝いをしてほしいだけなんだね。」

 

 カエル先生の・・・手伝い?俺はさらなる理解を深めるべく、カエル先生の言葉に耳を傾け続けた―。

 

 

 「―失礼します。」

 

 俺はカエル先生の書斎のドアを閉じ、そして一息つく。今日聞いたことはじっくりと咀嚼していこう。とりあえず今は、一人で俺のことを待っているであろう恵の元へと戻る。

 

 「何か飲み物でも買っていくかな。」

 

 俺は途中にあった自販機で適当に飲み物を買うことにした。 そしてきなこ練乳とザクロコーラを買い、病室へと向かう。かなり話し込んでしまった。退屈してなければいいが・・・。

 

 

 病室のドアを開ける。

 

 「ごめんよ恵、結構話し込んじゃっ――。」

 

 恵は、『俺の寝ていたベッドの上で、乱れた服のまま何故かうつぶせに寝ていた』。

 

 

 刹那、時が止まる。

 

 

 「・・・・・・・・・えっと―。」

 

 その静寂が破れる。

 

 「ひゃあっ!?!?しっ、しっ、しばっ、芝浦先生っっ!!?!?」

 

 恵はガバッと起き上がると、顔を真っ赤にしてわたわたしながら乱れた服を直していき、それと同時に俺に弁解してくる。

 

 「えっ、えっと、ですね!?これはそのっ、決してやましい気持ちとかではなくてですねっ!?あのその、と、とにかくっ!こっちに来ないでくださいぃ!!!」

 

 よくよく見ると、ベッドのシーツはどうやら濡れている・・・?そして薫ってくる女の子特有の甘い匂い。俺はそれらを見て、まぁよくある思春期のアレなんだなと思い、そしてその場面に遭遇してしまったからには恵がこの反応なのも頷ける。だがしかし、俺はそれらを意識しないようにしつつ恵へと歩み寄る。

 

 「し、芝浦せんせいっ!?あの、えっと・・・。」

 

 恵は俺に怒られると思ったのだろう。固く目をつぶり、体を強張らせる。

 

 ポフッ―。

 

 「・・・へ?」

 

 恵は目を丸くし、俺の顔を見上げてくる。俺は恵の頭をなでていた。恵の高まっている体温が、手のひらを通じて伝わって来る。

 

 「えっと・・・、芝浦、先生?」

 

 「ほれ、これでも飲んでとりあえず落ち着け。」

 

 俺はそう言うと、先ほど買ったきなこ練乳を差し出す。

 

 「あ、ありがとう、ございます・・・。」

 

 恵はまだおどおどしつつも、それを受け取る。そして一口。若干落ち着いたようだ。俺もザクロコーラの栓を開けて喉に流し込む。炭酸の刺激が乾いた喉に心地良い。すると恵が口を開いた。

 

 「あの・・・、芝浦先生、その・・・、怒らないんですか・・・?」

 

 俺はその言葉を聞き、恵と同じベッドサイドに座る。湿ったシーツの感触が伝わってくるが、俺は優しく恵に答える。

 

 「俺が怒る?どうして?何に対して怒るんだ?むしろ謝らなくちゃいけないだろ。恵にとても恥ずかしい思いをさせたんだからさ。」

 

 それを聞くと恵は、若干顔を緩める。俺はなおも続ける。

 

 「まぁあれだ。そういうことができるってのも、元気がある証拠だ。むしろ恵はまだ16歳なんだから、そういうのが無い方が珍しいだろ。大丈夫、これは俺と恵だけの秘密だ。」

 

 そう言って俺は、恵に笑顔を向ける。恵は再び顔を赤くしてはいたものの、俺に視線を向けて柔らかく笑いかけてくる。しかし、俺はそこでちょっと恵をからかってみたくなってしまった。

 

 「でも、そうは言っても『俺の好きな人』の可愛らしい姿を見れたのは、ここ最近続いていた不幸の中の幸せってところかな。」

 

 それを聞き、ようやく顔の熱が引いてきた恵は、『ボッ』と音がしそうな勢いでまた顔を赤くする。そして俺に向かって質問をしてくる。

 

 「し、芝浦先生!?あの、今『俺の好きな人』って言ってましたけど・・・、それってもしかして・・・!?」

 

 うん、期待通りの反応だったけどそこだったのね。

 

 「あー、まぁな。昨日今日と、恵と一緒に過ごしてみて気付いたんだけどな、俺はどうやら君のことが好きになっているらしい。」

 

 俺がそう言うと、恵は顔を手で押さえて頭から湯気を出してしまった。俺はその姿を見て本当に、生きていてよかったと感じていた。そして彼女の肩を抱き寄せ、小さい肩に俺の頭を乗せる。恵はそんな俺の行動にどぎまぎしていたが、やがて彼女の小さな手が俺の頭を撫で始めた。

 そして俺は、彼女の暖かな体温と香りに包まれながら、カエル先生に聞いたことを思い返していた。

 

 

 ――「君には警備員として、新橋くんのボディーガードになってほしいと思っているんだよ。」

 

 カエル先生は俺の目を見てそう言ってきた。なるほど、手伝いってのはこのことらしい。

 

 「ボディーガード、ですか・・・。」

 

 しかし俺は、少なくとも2つの大きな問題を思い出す。一つは彼女の学校が第18学区にある長点上機学園であり、学生寮もそこにあるということ。二つ目はそのおかげで、ボディーガードをするにはとてもではないが警備員の仕事と両立はできないこと、そして彼女の傍にいてやれないことである。

 俺が考え込んでいると、カエル先生はまるでそのことを見越したような感じで俺に話しかけてきた。

 

 「距離的な問題ならこちらで何とかできるんだがね、僕としては一緒に暮らすのが一番だと思うんだが、君としてはどうかね?」

 

 俺は驚いてカエル先生の顔を見る。俺と恵が・・・同居!?いや待て待て、いくらなんでもそれはまずいだろう。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよカエル先生!いくらなんでもそれはまずいです。女学生と男性教師が同じ屋根の下で暮らすだなんて・・・。」

 

 しかしカエル先生はなおも続ける。

 

 「ん?君は警備員なんだし、まさか彼女に手を出すなんて真似はしないだろう?それに、このことを知っている新橋くんの頼れる相手と言ったら、君以外にいないからね。それに君は、誰よりも彼女から信頼されている。だからこそお願いしたいんだが、それでも駄目かね?―それからもし、同居する理由が欲しいなら、いっそ彼女と恋人関係にでもなってしまえば良いと思うがね?どうせ坂上先生から彼女を護るつもりなんだろう?」

 

 最後の方の提案には驚いたが、しかし俺はカエル先生の説得を受け、そして覚悟を決める。

 

 「・・・分かりました。彼女を護って見せます。」

 

 カエル先生はそれを聞き頷くと、席を立った。

 

 「それじゃあ僕は諸々の『手続き』をするから、君たちは直接新しい家に向かってくれるかな。今日の退院予定時刻は16時だから、それまでに帰り支度は済ませておくようにね?」

 

 そして一枚のメモと、切り取られた小さな地図を俺に渡すと書斎の机に向かい、PCをいじり始めた。

 

 

 ―俺は恵に優しく頭を撫でられながら、今日のこの後の予定を考えていた。とりあえず引っ越すことを恵に言わなくてはならないと思い、眼をあける。しかし眼下に広がるは、薄いピンク色と肌色の見え隠れしている病院着だった。どうやら前を閉じておくための紐が、まだ縛られてなかったようだ。俺は恵に声をかける。

 

 「なぁ、恵?」

 

 恵は俺の頭を撫でながら、優しく聞き返してくる。

 

 「ん~?どうしたの芝浦先生?」

 

 「これは教師としてアドバイスするんだが、服はきちんと着た方がいいぞ?」

 

 それを聞いた恵は、自身の体に視線を送る。そして顔を赤くし―。俺の顔は恵の肩に乗ったままで、逃げ場はなかった。彼女の撫でていた手が平手に変わり、目を覚ますような刺激を送ってくる。

 

 「っいってぇ!!!」

 

 「も、もうっ!!芝浦先生の変態っ!!エッチ!!!」

 

 いやエッチなのはお互いさまでは・・・。男というものはつくづく不憫だと、改めて思い知ったのであった。

 

 

 そして退院予定時刻になり、私服に着替えた俺と恵は、お互いに手を繋いで総合エントランスまで下りていく。そして受付で手続きを済ませ、出入口の自動ドアまで向かうとそこには、カエル先生が立っていた。

 

 「やぁ二人とも。退院おめでとう。もっとも、今回は私は何もしていないがね?」

 

 俺と恵はカエル先生に頭を下げる。すると、カエル先生が俺に一台の端末を渡してきた。どうやら携帯電話のようだ。

 

 「その端末には僕の連絡先が入っている。もちろん暗号回線だから盗聴の心配もないはずだ。何かあったらいつでもその番号に掛けてきてくれ。」

 

 俺はカエル先生から受け取った端末をポケットに入れ、そして病院の自動ドアから歩き出した。

 自分にできることを精一杯やろうと、そう心に決めて―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回はアニメ第2話~第3話にかけての時間軸になりますが、やはり坂上と恵の婚約は様々な思惑が絡んでいるみたいですね。そしてなんと、芝浦先生と恵は同居することに・・・!?これはナニかありますよナニかが。
 さらにはあの男が例の事件にも深く関わってくるかもしれません。果たして芝浦先生はいろんな意味で、無事に恵のボディーガードを務めることができるのでしょうか。ご期待ください。
 次回、第13話「始まることと始まってしまったこと」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.07追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「始まることと始まってしまったこと」

 皆さんこんにちは。前回「仲間と戦友(なかま)」では、カエル先生から様々なことを教えられた芝浦先生は恵のボディーガードをすることを決めましたね。そして更には同居まですることになってしまいました。果たして新居はどんなところなのか。しかしその前に、今回は普通の日常回となりそうです。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 ―俺はヒリヒリと痛む頬をさすりながら、恵に声をかける。

 

 「なぁ恵、これは俺からの提案なんだが、一緒に暮らしてみるってのはどうだ?」

 

 恵はその言葉の意味が分からず、ぽかんと口を開ける。しかし直後、冷たい視線を送りつつこう言ってきた。

 

 「・・・芝浦先生、ついに頭イカれちゃいました?はっ!?まさかさっき芝浦先生の頭を思いっきりひっぱたいたせいで・・・!?」

 

 「ちげぇよ!さっきカエル先生から頼まれたんだよ!恵のボディーガードになってくれって!それで一番いい方法が、同居生活ってだけだよ!」

 

 それを聞いた恵は納得したようだが、何やらニヤけ顔でからかってきた。

 

 「へぇ~?でも芝浦先生と一緒に暮らして大丈夫かなぁ。もしかしたら私の貞操が危ないかもしれないしぃ~。」

 

 それはどっちの意味で言っているのか分からなかったが、少しだけ頭にきた俺は仕返しをすることにした。

 

 「ああそうかよ、だったらもういい。今からカエル先生のとこに行って取り消してくる!」

 

 そして病室を出ていこうとする俺を、恵が捕まえてきた。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ芝浦先生!嘘ですごめんなさい!一緒に暮らしたいですっ!!」

 

 先ほどまでの余裕はどこへやら。予想以上に必死にお願いしてくる恵を見て、俺は仕返しをやめる。

 

 「まったく・・・、ほら、もう時間もないし、早く着替えな?」

 

 優しく声をかけてくる俺に安心したのか、恵は腕に込めていた力を緩めて、自分の寝ていたベッドサイドで着替え始める。

 

 「あのー、恵さん?つかぬことをお聞きしますけどカーテンは閉めないので?」

 

 俺が指摘すると、恵は病院服を脱ぎかけていた手を止め、恥ずかしそうに顔を赤らめながらカーテンを閉めたのだった。俺はそれをやれやれといった風に見届けると、自分のベッドサイドのカーテンを閉めて着替え始めた。

 

 しかし着替えというものは、どうしてこうも想像力を無駄に掻き立てられてしまうのだろうか。カーテンという布一枚で遮られた視界の向こうから聞こえてくる、衣服の擦れ合ったりする音が耳に入るたびに余計な妄想をしてしまいそうになる。すると、何やら向こうの方から恵の声が聞こえてきた。

 

 「芝浦先生と同居かぁ・・・、ふふふ、むふふふふ、えへへへへ・・・・・・。」

 

 ・・・一体、何を想像しているのかは知らないが、あまりよろしくないことを考えているだろうことは手に取るようにわかるな・・・。

 そして着替え終わり、総合エントランスへと向かおうとした時、恵が俺の服の裾を摘まみ、小さな声でこう言ってきた。

 

 「・・・手、繋いでください・・・。」

 

 潤んだ瞳で言ってくる恵を前にし、その願いを断る理由もない俺は優しく恵の手を掴む。しかし次に、恵の方から指を絡めてきた。俗にいう『恋人繋ぎ』というやつだ。そして恵は俺に笑顔を向けてきた。俺はそれを見て、しっかりと握り返して恵に笑い返す。そして一緒に総合エントランスへと降りて行った。

 

 

 「―先生?芝浦先生ってば、聞いてる?って、なんかニヤけてるし・・・。」

 

 まだまだ7月の初夏ということもあり、若干16時半では太陽はまだ頭上高く、容赦ない紫外線と熱を送ってくる。俺と恵はその下を、ファミレスのJoseph’sに向かって歩いていた。

 

 「ん?ああ、ごめん、ちょっと考え事をな。」

 

 俺がそう言うと、恵が不思議そうな顔で聞き返してくる。

 

 「えー、何考えてたの?・・・あ、もしかしてまたいやらしいこと考えてたんでしょー。」

 

 しかし直後にいたずらな笑みを浮かべて、俺をからかってきた。

 

 「なぜそうなる・・・。それよりも、―あっ!」

 

 俺はふと、重要なことを思い出す。恵が再び不思議そうな顔になる。そして俺は携帯電話を取り出し、恵に断りを入れる。

 

 「ちょっとだけ電話しても大丈夫?暑いと思うから、そこの日陰になってるベンチで休んでて。」

 

 恵はそれを聞くと、頷いてベンチに座った。俺はJoseph’sへと電話をかける。今日の朝一で電話しようと思っていたのをすっかり忘れていた。しばらくしてJoseph’sにつながり、女性店員が電話口に出る。

 

 「・・・あ、もしもし、先日バイクのヘルメットなどを預けた芝浦と申しますが・・・、はい、はい、あ、そうです。ちょっと入院してしまいまして・・・。・・・いえ、今日退院して、今からそちらに向かいますので、はい、はい、・・・失礼します。」

 

 うん、普通に優しい店員さんで助かったな。それにどうやらあの事件はニュースにもなっていたらしく、その甲斐もあって事なきを得た。しかし迷惑をかけたことに変わりはない。なにかお詫びでも持っていこう。そして俺はベンチに座っている恵のもとへと向かう。

 

 「お待たせ、ちょっとこの後に百貨店に行こうと思うんだけど、疲れてない?」

 

 俺がそう聞くと、恵は笑顔でこう言うのだった。

 

 「うん、大丈夫だよ。疲れたら芝浦先生にお姫様抱っこしてもらうから。」

 

 

 ――まさか本当にお姫様抱っこをすることになるとは・・・。俺は今、猛烈な恥ずかしさと恵の体温を含む暑さと戦っていた。道行く人が俺と恵の姿を見て、クスクスと笑っているのが先ほどから目に入る。

 あの後はしばらく歩いていたが案の定、恵が疲れてきてしまい、そして冗談だと思っていた『お姫様抱っこ』はこうして実行に移されているのである。もちろん単純に疲労しただけならこんな事をする必要はない。なぜ俺がこの方法を取っているか、それは単純明快かつ、簡単な理由である。

 恵が疲れてよろけてしまったときに、軽く右足首をねん挫したのだ。だったら「集中治療」で治せばいいじゃないかと思うだろうが、昨日の今日で再び能力を使うわけにもいかず、とりあえず百貨店で包帯や湿布などを買うまでの間はこうして悪化を防ぐことにしたのである。最初は恥ずかしがっていた恵も今となっては「お姫様」そのものである。

 

 「ほらほら、先生ガンバレっ、先生ガンバレっ、あとでジュース買ってあげるから♪」

 

 恵がハンカチで俺の汗を拭いながら応援してくる。俺はもう何も考えずに歩みを進めることにした。百貨店まではまだ、恐らく10分くらいはかかるだろう。それまでに熱中症にならなければいいが・・・。

 

 

 「つ、着いたぁ・・・。」

 

 ようやく百貨店に到着し、店内のベンチに恵を座らせる。

 

 「お疲れさまー芝浦先生。それじゃあ約束通りジュースを奢ってあげよう~。」

 

 恵はそう言うと、俺に120円を渡してきた。

 

 「これで好きなの買ってきて良いよ、あ、私は黒豆サイダーね。」

 

 結局はプラマイゼロじゃねぇか・・・。と思いつつ、俺は答える。

 

 「良いよ、どうせこの後に包帯とか買って応急処置するんだし。それはとっときな。」

 

 そして俺は自販機で黒豆サイダーとSURVIVAL+1を買った。それらを手に恵のもとへと戻る。そして恵に黒豆サイダーを手渡すと、俺はSURVIVAL+1を一気に流し込んだ。火照って乾ききった体に冷たいスポーツドリンク風味が沁みわたっていくのを感じる。それを見ていた恵が俺を自分の隣に呼ぶ。

 

 俺は恵の隣に座り、どうしたのかと聞いてみるが何故かこっちを向いてくれない。俺が不思議に思っていると、恵は黒豆サイダーを一口。そして―。

 

 「んむっ!?」

 

 俺の口内に広がる黒豆サイダーの炭酸と風味。そして唇に伝わってくる柔らかな感触と、黒豆サイダーでもSURVIVAL+1の風味でもないまた別の甘み。それらのブレンドされた『味』が、俺の脳内回路を支配していく。当然のごとく訳も分からず体が固まる。

 一体どれくらい続いたのか、時間感覚が曖昧なままその感触は無くなり、そして目の前には耳まで赤くなって黒豆サイダーを手に持っている恵の姿があった。俺が声をかけるべきかどうか迷っていると、恵が静かに口を開いた。

 

 「・・・今のが、さっき言ってた『ジュース』だから・・・。」

 

 その声は少しだけ震えていた。俺はその姿がたまらなく愛おしくなり、そして恵を抱きしめ―、たくなったがそれをやめる。なぜなら百貨店という場所柄、人目の多い場所であるために、先ほどの光景は不特定多数の見知らぬ客に見られてしまっていたからだ。現に今、数人のギャルっぽい女学生がこちらに携帯のカメラを向けている。

 

 「め、恵っ!さっさと買い物終わらせるぞ!」

 

 俺の反応で恵も気付いたのだろう。慌てて立ち上がる。

 

 「そっ、そうですねっ!そうしまっ―。」

 

 『グキッ』という音とともに、恵はその場に崩れ落ちたのだった。

 

 

 買い物を終え、俺は恵の足首に応急処置を施していた。先ほどよりも腫れが強まり、明らかに悪化している。恵は半分涙目になりながら手当てを受けていた。

 

 「・・・これでよしっと、後は家に帰ってからしっかり冷やさないとなぁ。今はこれしかできないから、早く帰るぞ?」

 

 そして俺は恵に背を向け、そこにしゃがむ。

 

 「芝浦先生?」

 

 「ほら、おぶってやるから早く乗れ。さっきみたいなお姫様抱っこはこの荷物じゃ無理だからな。」

 

 俺の手には、先ほど買ったお菓子の詰め合わせの入っている紙袋と、薬局のレジ袋が握られている。そして背中に感じる心地よい重量感を確かめると、俺は立ち上がってJoseph’sへと向かい始める。

 

 「ねぇ、芝浦先生?」

 

 恵が俺に話しかけてくる。

 

 「どうした?」

 

 「なんかその・・・、ごめんね?いろいろ迷惑かけちゃって・・・。」

 

 恵は唐突に謝ってきた。俺はそれを聞くと、明るい声で答える。

 

 「何言ってんだ、しょうがないだろ。足首を怪我したのもそうだし、それに坂上の事だって恵のせいじゃない。そこに勝手に首を突っ込んだのは俺の方だよ。だから恵は何も悪くない。大丈夫。俺が護ってやるから安心しろ。こう見えて警備員の分隊長なんだからな?」

 

 恵はそれを聞くと、俺の首元に息を吹きかけてきた。ゾワッとした感触に俺は変な声を上げそうになる。

 

 「―っ!!!おいっ!やめろって!」

 

 「ふっふっふっ、既にマウントは取っているのだよ芝浦くん?」

 

 そして繰り返される連続攻撃。恵を振り落とすわけにもいかず、かと言って防御策もない俺はJoseph’sに着くまでの間、その『攻撃』に耐えるしかなかった・・・。

 

 

 ようやくJoseph’sに着いた俺は、まだ首の後ろに違和感を感じつつも、店員にお詫びの詰め合わせを渡してバイクの元へと戻る。そこには恵がバイクを興味深そうに眺める光景があった。

 

 「よう、お待たせ。」

 

 俺が声をかけると恵が振り返って笑顔を見せる。そして、バイク乗りならとても嬉しい一言を放った。

 

 「ね、芝浦先生、このバイクカッコいいね!」

 

 俺はそれを聞き、満面の笑みで恵に答える。

 

 「おうよ、カッケェだろ?今からこれに乗って一緒に帰るんだからな。」

 

 そして恵に、本来なら初春に貸すはずだったヘルメットを手渡す。

 

 「えっ!?今から一緒に乗るの!?ちょっと怖いかも・・・。」

 

 しかし恵は不安そうだ。

 

 「大丈夫だよ。ゆっくり走るから。絶対に怖い走り方はしない。」

 

 俺は恵の目をまっすぐに見据えてそう言い切った。それを聞き、恵はヘルメットを被る。俺もヘルメットを被り、そしてバイクの指紋認証を行う。そしてバイクのAI音声が起動する。

 

 「指紋認証・・・照合を確認。おかえりなさい芝浦さん。エンジン正常、タイヤの空気圧は適正値。ガソリン残量は65%。オイル温度は若干低めですが、問題ありません。前後ブレーキによるタイヤロックを解除します。Enjoy for you’re Driving!」

 

それを聞いた恵は「ふおぉぉぉおお!!」とか言ってワクワクしていた。それを見て俺も顔が緩む。

 「カチンッ」という音と共にロックが解除される。サイドスタンドを蹴り上げてバイクのセルボタンを押し、エンジンを始動すると、「ブォンッ」というエンジンの音が鳴り、再びAIが自己診断を行う。

 

 「エンジン始動。回転数正常。ギアニュートラル。発進準備、完了しました。」

 

 そして俺は恵に乗り方を指示していく。

 

 「よし、それじゃあまずは俺の肩に手をかけて、そこのステップに足を乗せて、・・・そう、それでいい。そしたらそのまま乗っちゃって。よし、それじゃあ腕を腰に回して、しっかりつかまってて。」

 

 そして恵が乗ったことを確認した俺は、ギアを入れてスロットルをひねる。ゆっくりと走り出したバイクは、そのまま学園都市のオレンジ色に消えていった。

 

 

 そして新しい家へと到着。無駄に広い車庫へとバイクを止め、エンジンを切る。

 

 「よし、やっと着いたな。恵、自分で降りれそうか?」

 

 恵は首を横に振る。ねん挫している足首を降りる際、最初に地面につかなければいけないので、自力では降りられないようだ。

 

 「んー、ちょっと待っててな。」

 

 俺はサイドスタンドを出し、バイクを安定させる。そして背負っていたリュックを地面に捨てて、恵に声をかける。

 

 「よし、そのまま俺の背中に乗っかれるか?」

 

 そして再び恵の体重を感じる。そして俺は恵を背負ったままバイクから降り、リュックを拾うと玄関へと向かった。

 

 

 「なんていうか・・・。」

 

 「すごいね、この家・・・?」

 

 俺と恵は玄関に来ただけで圧倒されていた。それもそのはず、玄関を開けるためには指紋認証、網膜認証、声紋認証、物理的2重ロックの解除、セキュリティコードの入力が必要だったからだ。流石に警備員の施設でもここまでのセキュリティはあまり見ない。そのセキュリティ端末を目の当たりにして、果たして今日中に家に入れるのかと不安になってくる。

 

 「あ、そういえば・・・。ちょっと降りれるか?」

 

 俺はそう言うと恵を降ろし、カエル先生にもらったメモを広げる。

 

 「えーと、なになに?『玄関の開け方は見てもらうと分かると思うが、かなりセキュリティは厳重でね。だけど一番最初にかかっているのは物理的2重ロックだけだから、それを鍵で開けて入ってもらえるかな。鍵は君のバイク用ポーチに入っているはずだよ。』・・・マジか、鍵・・・鍵・・・、あった、これか!」

 

 そして2本の鍵をそれぞれの鍵穴にさし、ロックを解除する。ようやく玄関が開き、家の中へと入る。

 

 「ふぅ・・・、恵、とりあえず休んでな。いろいろ準備しちゃうから。」

 

 家の中は段ボールでいっぱいだった。今からこれらを片付けていかなければならない。恵は靴を脱ぎ、リビングに向かうとさっそく備え付けてあるエアコンで涼み始めた。それを見て俺は日常が返ってきたことを実感すると同時に、これから始まる新たな生活には期待と不安の入り混じっている気持ちでいっぱいだった。

 

 

 果たして警備員の仕事をしながら、俺はこの少女を護り抜くことができるのだろうか―。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメの方では前回と同様の時間軸のお話となります。うん、普通の日常回でしたね。つか芝浦先生と恵がイチャイチャしすぎて、そろそろ本質的なところを書いていかないと読者の皆さんから怒りを買いそうで怖いですね・・・。
 そして次回、ようやく新居に着いた二人の新たな生活がスタートしていきます。どんな生活になるのでしょうか。そしてもちろん何も起きないわけもなく・・・!?
 次回、第14話「『今まで』と『これから』」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「『今まで』と『これから』」

 皆さんこんにちは。前回から少し、間が開いてしまいましたね。楽しみにしていた方には申し訳なかったです。ごめんなさい。
 さて、前回「始まることと始まってしまったこと」は普通の日常回でしたね。はい。ただただ芝浦先生と恵がイチャラブしただけで終わりました。ですが今回は、そんな甘ったるいものではない!・・・と言いたいですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 それではお待たせしました。ごゆるりとお楽しみください。


 「・・・よっし、こんなもんかな。」

 

 初めは今日中に片付けるのは無理かと思っていた無数の段ボールとの戦いに、ようやく終わりが見えてきた。しかし俺ができるのはあくまでも自分の荷物と、プライバシーに触れない範囲での恵の荷物であるため、俺はリビングでくつろいでいる恵に声をかける。

 

 「恵―、一応ある程度は片付けといたから、個人的なものは頼んだぞ。」

 

 しかし恵は、俺にこう答える。

 

 「えー・・・、今日はもう疲れちゃったし、明日でもいい?」

 

 俺は早く段ボールをまとめたかったので、毅然とした態度で応える。

 

 「いーや、今からやりなさい。」

 

 それを聞くと、恵は少しだけ頬を膨らませて自分の荷物に手を付ける。そこで俺は、ある交換条件を提示した。

 

 「ふふん、今日の晩御飯、俺が手作りしてやろうか?」

 

 それを聞いた恵は、一瞬フリーズしたのちに目を輝かせる。そして猛烈な速さで片付け始めた。

 

 「おいおい、あんまり無理すると、足に響くぞ?」

 

 俺は半分心配になりつつも、しかし浮かれた気持ちでキッチンへと向かう。

 

 

 この家に来て、そして一通り見て分かったことは、まず地下1階、地上2階建ての洋式一軒家である事、生活スペースは地上2階に集約されていて、1階にはリビング、システムキッチン、バスルーム、トイレ等があり、2階には俺と恵の部屋、ベランダ、トイレ、簡易セキュリティコンソールがある。

 そして地下1階に関しては、この家の最重要区域であり、心臓部ともいえるエリアだった。まず、そもそも地下へ行く扉自体が圧延鋼板(あつえんこうばん)製の防弾ドア。そのドアにも物理、指紋、網膜、セキュリティコードによるロックが、内と外の両方からかけられる。更に内側のハッチをロックすれば、爆発にも耐えることができる。そして中に入るとそこは対爆シェルターとなっており、銃弾とほとんどの爆発に耐える事ができるため、非常時の避難に用いることができる。

 地下室の中には、セキュリティ管理用デスク、武器庫、非常時用生活スペース、救難信号発信機などがあり、まるで秘密基地のようである。食料なども備蓄されており、この部屋だけで成人2名が最大1週間、電気、水道、ガス等のライフラインが途絶えた状態でも生活が可能だ。武器庫には警備員に支給されている防弾装備、武装、弾薬が一式そろっており、それとは別に、恵が非常時に着用するためのボディーアーマーと防弾ヘルメット、救急キットが用意されていた。

 さらにセキュリティ管理用デスクは、この家の全てのセキュリティシステムを管理することができ、逆に言えばここを制圧されると、かなりまずい状況になる。しかしこの部屋の電子的ロックに関しては2階にある簡易セキュリティコンソールで管理できるため、離れていてもロックは掛けられる。

 ちなみにこの家のセキュリティシステムは、それこそ万全を通り越して、もはや要塞レベルにあることも分かったことである。まず第一にこの家の全ての外壁は防弾素材で造られていること。ガラスに関しても拳銃弾程度ではあるが防弾可能であり、非常時には防弾シャッターを降ろすことができること。そして地下へ行くためのドア以外のセキュリティを管理するのは、コンソールや管理センターでももちろん可能であるが、自律型AIによる管理もされており、声紋を登録した人であればそのAIに指示を出すことができる。ただしこの登録は最大2名であるため、俺と恵の声紋を既に登録済みだ。更にはこの家の外周、半径30mのエリアは全ての動的物体を自動的に監視、補足することが可能で、必要があれば外周4箇所に設置されている12.7mmタレットで迎撃できる。そしてそれをサポートする自律飛行型ドローンも4機(うち1機は医療用)配備されており、必要があれば自宅上空から監視、あるいは負傷者の救護に用いることができる。

 極めつけは庭に設置されている電磁フェンスであり、展開すると高さ10mの範囲までをカバーでき、そのフェンスに触れた場合は24時間、身体機能がマヒして動けなくなる。

 

 しかしこれらを見て、ここまでのセキュリティを敷かなければならないほどに俺の仕事・・・、恵のボディーガードという仕事には責任が伴い、またそれだけ重要であるともいえるだろう。はっきりとしたビジョンの見えない敵との戦いに、俺はどう立ち向かっていけばいいのか。その答えはすぐには出せそうにない。

 

 しかしそんなことを言っていても仕方がないので、今はできることをするしかない。そう、例えば今、俺が晩御飯を作ろうとしているように―。

 

 「あれ?」

 

 何か材料は無いものかと冷蔵庫を開けたが、しかし中身は空っぽだった。今になってそれも当然だと思い知る。ここは新しく引っ越してきたため、冷蔵庫には何一つとして食材は入っていなかったのだ。しかし調味料などは一式揃っている。ということは、保存などの兼ね合いから食材はすべて廃棄処分されたと考えていいだろう。

 さて困った。恵は自室で段ボールと絶賛格闘中だ。今から買いに行くとしても、恵が家で一人になってしまう。しかし買いに行かなければ今夜のご飯は抜きだ。俺はしばらく考えたのちに、セキュリティ管理AI「REX」を呼び出す。

 

 「REX、ちょっといいか?」

 

 男声の電子音声が答える。

 

 「はい、お呼びでしょうかマスター?」

 

 「今から買い物に出かけたいんだが、恵の安全を最大限、確保しておいてほしいんだ。出来るか?」

 

 俺がそう聞くと、抑揚はあまりないはずの電子音声が、どこか自慢げに答えてきた。

 

 「はい、マスターと恵さまの安全を確保するためのプログラムは、最大で100通りございます。様々な状況に完璧に対応して見せましょう。」

 

 俺はそれを聞くと、頼もしく感じた。彼ならうまくやってくれるだろう。

 

 「よし、それじゃあ頼んだぞ。あ、それと恵に何かあったらすぐに連絡を。俺が帰ってくるまでは、絶対に家の鍵を開けるな。そして危険がせまったら容赦せずに排除しろ。いいな?」

 

 「お任せください。恵さまとこの家は、私が守って見せますよ。お帰りをお待ちしています。」

 

 相変わらず頼もしいイケボで答えるREXにセキュリティを任せた俺は、2階にいる恵に声をかける。

 

 「恵ー?ちょっと今から出かけてくるけど、すぐに帰ってくる帰ってくるから留守番頼んだぞー。」

 

 「えっ!?ちょっと待って!私も一緒に行く!」

 

 「駄目だ、足を怪我してるんだから大人しくしてなさい。家のセキュリティはREXが管理してくれるから、大丈夫だよ。」

 

 それを聞いた恵は2階から降りてくると、俺の顔を見上げてきた。

 

 「ねぇ、じゃあさ、お出かけ前のキス、して?」

 

 そして悪戯(いたずら)っぽく笑いながらそう言ってきた。俺はそれを聞き、ごく自然に恵の唇を奪った。まるで恵が予想していなかったかのように。そして軽いキスを終える。

 

 「それじゃあ行ってくる。すぐに帰ってくるから。」

 

 恵の頭を撫でながらそう言うと、俺は今日の食材を買い出しに行った。恵は顔を真っ赤にさせて、俺の言葉は届いていなかったように思えた。

 

 

 そして俺は徒歩で、自宅から数十分の距離にあるスーパーへと向かった。今日の晩御飯の献立を考えながら、俺は歩みを進めていく。時刻は18時半を回っていた。いよいよ太陽も夕闇の向こうへと沈もうとしている。すると、携帯の着信が鳴った。発信者は・・・「REX」。俺はすぐに電話に出る。

 

 「どうした!何があった!?」

 

 そして抑揚のない声で応える電子音声。

 

 「テスト通話を実行しました。結果は成功です。」

 

 俺はそれを聞き、呆気にとられる。テスト通話・・・だと?

 

 「えっと・・・、つまり家では何も起こってないんだな?」

 

 「はい。自宅は至って平穏かつ良好な環境を保っております。恵さまの安全は100%確保しております。」

 

 「そ、そうか・・・、それならいいんだ。わざわざありがとう。」

 

 「はい。それでは通話を終了します。」

 

 そして電話を切り、俺は一人で苦笑する。その後は特に何もなく、予定していた買い出しを終えて帰路についた。家では恵がお腹を空かせて待っていることだろう。足早に家に向かう。

 ―しばらく歩いていると、ふと聞き覚えのある声が俺の耳に入った。

 

 「おやおや、これはこれは芝浦先生。お買い物の帰りですかな?」

 

 俺はその声が耳に入った瞬間、背筋を寒気が走り抜けるような感覚に襲われた。そして後ろを振り返る。この声は―!

 

 「何の用だ、坂上!」

 

 そこに立っていたのは、病院で恵に言い寄ってきた、小太りの40半ばであろうあの男であった。あの時と同じように、その視線には不気味な色が宿っている。俺が声をかけると、坂上は再び口を開く。

 

 「いえいえいえ、特に用と言うほどのものでもないのですがね、強いて言うなれば、『警告』しに来たとでも言えばいいですかねぇ。近いうちに貴方は死ぬことになるでしょうからねぇ。ヒェッ、ヒェッ、ヒェッ。」

 

 気味の悪い笑いと共に告げられた言葉は、それこそ寒気を通り越して、悪寒を感じるほどに真実味を帯びていた。ついに実力行使に出るということだろうか・・・。しかし俺はどうなっても構わない。恵が無事ならばそれでいい。そんなことを想っていると、坂上は薄ら笑いを浮かべ、こう告げるのだった。

 

 「―ま、貴方を勝手に殺すのも忍びないのでねぇ、まずは私の大事な大事なお姫様(実験体)を、私の根城へとご招待させていただきましたよぉ。既に彼らは仕事をしているでしょうねぇ。」

 

 俺はそれを聞き、一気に心臓が跳ねた。そして携帯の着信が鳴る。発信者は、「REX」。

 俺は坂上を一瞥すると、(きびす)を返して家へと走った。全力で。それと同時に携帯に出る。

 

 「どうした!状況を教えろ!」

 

 そして抑揚のないはずの電子音声が、どこか焦った雰囲気でこう言うのだった。

 

 「非常事態が発生しました。接近者を6名補足。いずれも能力者のようです。現在、レベル4の警戒態勢を敷き、迎撃態勢に入っています。実力行使の許可をお願いします。」

 

 どうやら非常にまずい状況になっているようだ。俺は即答する。

 

 「遠慮するな!相手を全員、無力化しろ!」

 

 それを聞いたREXは、待ってましたと言わんばかりに答える。

 

 「了解、電磁フェンスを最大出力で展開、警備ドローン展開、タレット発射準備完了、全ドアのロック及び、防弾シャッター展開。戦闘準備、完了しました。」

 

 「よし!俺が行くまで時間稼ぎを頼む!」

 

 そして俺は電話を切り、とにかく走った。頼む、間に合ってくれっ!

 

 

 

 家が見えてきたというところで、俺はとんでもない光景を目にする。既に電磁フェンスは突破され、タレットによる乾いた連射音が鳴り響いていたのだ。しかしそこで、マニュアルにも載っていなかったセキュリティが発動していることに気付く。それは、電磁フェンスの内側に、薄く光る赤い壁を展開していた。高さは・・・3mくらいだろうか。そしてそれに触れた相手の一人の腕が、まるで元々そこから先が繋がっていなかったかのように、少し湯気を出したかと思えば音もなく落ちていった。そしてその後に響いたのは、魂切(たまぎ)る絶叫。なるほど、あれはどうやら殺傷性の超高温レーザー防壁らしい。

 しかし、その光景を目にしたにも関わらず、他の仲間と思しき連中は引く気配はない。そして一人がその防壁へと突っ込んでいった。そして、その防壁を『すり抜けた』ように見えた。しかし疑問は直後に解消される。REXは防壁を突破され、次いで12.7mm弾の豪雨を浴びせたものの、そいつは平然と立っていた。恐らくは、体表面に何らかの強力なバリアをまとっているのだろう。俺はその光景を前に、思わず怖気づいてしまう。

 

 「まさか・・・、あれは・・・!?」

 

 噂には聞いたことがある。確か圧縮した窒素の塊を生成して、体表面に堅いバリアを形成できる能力があると。確か能力名は・・・。

 

 「・・・窒素装甲・・・だと!?」

 

 

 俺のその声が聞こえたのだろう。その仲間と思しき男が襲い掛かってきた。俺はレジ袋を置き、特殊警棒で応戦する。

 

 「くっ・・・!貴様ら、一体何者だ!?」

 

 男に問う。しかし男は無言のまま、能力を発動してきた。これは、発火系能力!?

 辛くも攻撃をかわした俺は、一瞬の隙をついて反撃に転じる。そして男の鳩尾(みぞおち)に一突き。次いで足を取り転倒させ、後ろ手に拘束すると手錠をかける。男は痛みで気絶し、動かなくなった。

 

 「くそっ、あと何人いるんだ!?」

 

 見る限りでは、おそらくリーダーであろう『窒素装甲』を使っている能力者が一人、腕を無くした男が一人、そして銃で援護をしている男が3人である。しかしそこで、俺は疑問を抱く。

 

 「(銃?能力者なのに銃を使ってるってことは、戦闘向きじゃないのか或いは、強度が低いのか・・・?)」

 

 しかし考えていても仕方がない。手始めに俺は、腕をなくした男のもとへと走り寄る。それに気づいた男はこちらを一瞥したが、戦意喪失しており抵抗はしてこなかった。

 

 「警備員だ!抵抗はよせ。傷に障るぞ。」

 

 俺はそう言うと、予備のハンドカフで片腕を近くにあったポールに拘束、もう片方の腕に応急手当を施し、そして銃を持っている男たちのもとへと向かう。

 

 

 「せあっ!!」

 

 警棒による不意打ち。右腕を殴られた男は驚いた表情を見せ、直後に顔が歪む。腕は変な方向に曲がり、完全に折れていた。続いて連撃を加える。左わき腹を殴られた男はうめき声をあげ、その場に倒れこんだ。しかしそれにより気付かれてしまい、こちらに弾丸の雨が襲い来る。俺はとっさに物陰に隠れ、その銃弾を(かわ)す。

 

 「(クソッ、このままじゃ(らち)が明かない!仕方ない、こうなったら・・・!)」

 

 銃撃が止んだ一瞬、相手が弾倉を交換した隙をついて、俺は男の持っていた銃を取りに走る。そしてローリングしながらアサルトライフルを手に取り、3連射。一人の右肩、右太もも、左わき腹に銃弾を撃ち込み無力化した。しかしもう一人が猛烈な弾幕を張ってくる。俺は先ほど警棒で無力化した男を物陰に引っ張ってくると、脈を確認する。

 

 「(・・・よし、生きてるな。すまないが、これを借りてくぞ。)」

 

 意識のない男の装備していたタクティカルベストを着用し、そして予備の弾倉へと交換する。そして撃ち込み続けている男へと向かって威嚇射撃。それによってひるんだ隙を狙い、顔を出して相手の右ひざと右肩に銃弾を撃ち込み、無力化した。

 そしてその二人の男のもとへと駆け寄り、銃を蹴り飛ばすと彼らの持っていた救急キットで応急手当てを施す。

 

 

 しかしその時、家のタレットによる銃撃が止んだ。いや、違う。あの「窒素装甲」を使っていた能力者によって、全て破壊されたのだ。応急手当を終わらせた俺は、弾倉を交換しつつ駆け寄り、そして警告を発する。

 

 「警備員だ!お前の仲間はすべて無力化した!無駄な抵抗はやめて、降伏しろ!」

 

 その声を聞いた相手は、果たして―。

 

 「それは、超ありえないですね。それに、降伏する状況にあるのは、あなたの方に超言えるんじゃないですか?」

 

 響いた声は女声だった。俺は驚きのあまり固まる。そして彼女はこちらに近付いてきた。俺は銃の引き金に指をかける。しかし相手は女の子だ。俺は心の中で葛藤する。

 

 「どうしたんです?撃たないんですか?超まぬけな判断ですね。」

 

 そして、すぐそこにまで迫ってくる彼女に対して、俺は――。

 

 「ああ、撃たない。」

 

 そう言うと、持っていた銃と警棒を投げ捨てた。それを見た少女は、呆気にとられる。そして俺は口を開く。

 

 「君に攻撃する気はない。」

 

 そして俺は、自分から彼女に歩み寄る。彼女は警戒を強め、身構える。

 

 「君の能力は、『窒素装甲』。空気中に存在する窒素を圧縮し、それを体表面に張り巡らせることで防御している。そうだろ?」

 

 それを聞いた少女は、それがどうしたのかといった顔で黙って聞いている。俺はさらに続ける。

 

 「しかし・・・、防御はできても攻撃は?格闘戦での足運びや動体視力、攻撃する手数などは俺よりも上だと言えるのかな。」

 

 歩み寄りつつ語る俺を前に、少女は動じない。俺は彼女の目の前に立ち、そしてタクティカルベストを脱ぎ捨てる。それを不思議な目で見上げる少女に、俺は最後の言葉をかける。

 

 「確かに防御で圧倒的に勝っている君に、拳で勝つことは俺にはできないだろう。だがいくら『鎧』が強かったとしても、それで『拘束を解く』ことはできない。」

 

 そして俺は彼女の腕を掴み、地面に倒すと後ろ手に拘束する。そしてその上にまたがると彼女の腕をそのまま抑え込む。

 

 少女は何が起こったのか分からないといった風に目を瞬いていた。

 

 「ほら、『鎧』が強くても『剣』が弱いとこうなるんだよ。」

 

 そして力を緩め、抑えていた腕を離す。少女は理解に苦しんでいるようだったが、しかし戦意を削ぐことはできたようだ。

 

 「今回は見逃してやる。というより、早くこいつらを連行して警備員に引き渡したいんだが、君は引き渡す気はないよ。まぁもっとも、『器物損壊』で連行しようと思えばできるんだが、あいにくと女の子を捕まえるのは苦手でね。」

 

 俺はそう言った後に、彼女にニッと笑うと、こう付け加えた。

 

 「でも、次にもし会う機会があったら、仲良くなれたら嬉しいかな。まぁ、それが平穏な状況じゃないこともあるんだろうけどさ。戦うような状況だったら、その時は思いっきりかかってこい。返り討ちにして拘束してやるよ。」

 

 

 そして彼女は、特に何を言うこともなくどこかへと消えていった。それを見届けた俺は、REXへと声をかける。

 

 「REX、医療用ドローンを使って応急処置を頼む。それと警備員への連絡を。」

 

 庭にあるスピーカーから電子音声が聞こえてくる。

 

 「了解。直ちに実行します。」

 

 そして1機のドローンが男たちのもとへと向かい、応急処置を開始した。すると家の玄関から恵が駆け寄ってきた。

 

 「芝浦先生!大丈夫!?ケガしてない!?」

 

 俺はそれに対し、笑顔で応える。

 

 「ああ、大丈夫だよ。逆に返り討ちにしてやったから。」

 

 そして倒れている5人の男を見た恵は、血相を変えて彼らに駆け寄る。

 

 「芝浦先生!救急キット持ってきて!この人、かなり出血してる!」

 

 俺は若干驚いたが、しかし恵だったら敵とか味方とか、そんなの関係ないんだろうなと思い直して家に走る。そして救急キットを持ち、恵の元へと戻る。その後は警備員と救急隊が来るまで、恵と共に応急処置に奔走したのだった。

 

 

 ―騒動もひと段落し、ようやく家の中へと入れた俺と恵は、二人して安堵のため息をついた。俺は恵に声をかける。

 

 「恵、怖い思いさせてごめん。これからはもっとよく考えて行動しなきゃだな・・・。」

 

 しかしそれを聞いた恵は、俺の頭をそっと撫でてくるとこう言った。

 

 「ううん、芝浦先生は立派に私を護ってくれたよ。だから怖くなかったし、芝浦先生が来てくれた時はまるで、白馬に乗った王子様が現れた気持ちになったから、だからあんまり自分を責めないで。ね?」

 

 俺は恵に気を遣わせていることに気付き、苦笑する。そして本来の目的を思い出す。

 

 「あっ、そういえば。恵、今からご飯作るからちょっと待っててくれ!」

 

 そして急いでキッチンへと向かい、料理に取り掛かる。今夜のメニューは和風おろしハンバーグだ。

 

 「えっ、でも私も手伝うよ?」

 

 恵がこちらをのぞき込みながらそう言ってきたが、俺はそれを制する。

 

 「いや、大丈夫。リビングでテレビでも見てて。それより足の治療に専念・・・って、足はもう痛くないのか?」

 

 俺がそう聞くと、恵はバツの悪そうな顔をしながら答える。

 

 「あ~・・・、えっと、さっきの人たちが来たときにね、すぐに逃げられるようにしなくちゃって思って『集中治療』で治しちゃったんだよね・・・。ごめんね?心配かけちゃったよね。」

 

 俺はそれを聞き、確かに心配にはなったがしかし、見る限りでは大丈夫そうなので優しく声をかける。

 

 「そうだったのか。まぁそういうことなら仕方がない。それにほら、疲れてるんだからさっさと休んだ休んだ。ご飯はそっちに持ってくから、適当にくつろいでなよ。」

 

 恵はそれを聞くと、申し訳なさそうにしながらもリビングのソファに腰掛けた。そして俺は料理を進めていく。

 

 

 

 しばらくして、出来立ての和風おろしハンバーグとみそ汁、サラダ、白米を持っていき、恵と一緒に食べる初めてのご飯の準備を整えた。そして両手を合わせ、二人の「いただきます」を皮切りに、少し遅めの晩御飯が始まった。しかしその時、包丁で切った指のケガを恵に見つけられてしまい、晩御飯よりも先に俺の指が、恵に『食べられた』のはあまりにもくすぐったくて恥ずかしかったのは秘密である。

 だが、今日のご飯が人生で一番楽しい時間になったのは言うまでもないだろう。食べ終わるまで、二人の楽しそうな声が響いていた。

 

 

 

 ―そして食べ終わり、二人でくつろいでいると家の固定電話が鳴り響いた。




 まずはここまで読んでくださりありがとうございます。いかがだったでしょうか。是非皆さんの意見・感想などを教えていただけたら幸いです。また、誤っている点などありましたら遠慮なく教えていただけると助かります。
 さて、今回もアニメでの時間軸は前回、前々回と同じお話となります。まぁ同じ日のお話なので当たり前と言えば当たり前ですが。
 そして!ついに!アイツが!出てきてしまいました!はぁーキモい。自分で書いてても「キモっ!?」ってなりましたよ。そして「窒素装甲」を使う謎の少女。彼女はいったい何者なのでしょうか。更に、不吉に鳴り響く固定電話の着信音。その相手は一体―!?次回に続きます。
 とりあえず前書きで話した「甘ったるいものではない!」というのは達成できた・・・と信じたいですね。甘々展開を欲していた方には少し物足りなかったとは思いますが、そこは我慢です。はい。
 次回、第15話「視えるものと視えないもの」また読んでくだされば嬉しいです。ではまたいつか。

2018.12.12追記
細かい部分の修正を行いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。