優しさにたどり着くために (トップハムハット卿)
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#1.1話から同棲って…

どうも、初めましてトップハムハット卿です。
青ブタが大好きなので、アニメ化で脚光を浴びているこのタイミングで書き始めて見ました。




「これ……もしかして、のどか!?」

 

愛斗は読んでいる雑誌の記事を見て目を疑った。

 

《ネクストブレイクはこのグループだ! "スイートバレット"》

 

プロフィールを見る限りでは、高校生ばかりのユニットらしい。

そのメンバーの1人、豊浜のどかを愛斗は知っている。

 

腹違いではあるが、のどかは愛斗の姉に当たる。

 

「中学までは黒髪だったのに、今では金髪とは…」

 

アイドルとは、やはり派手さも重要なのだろう。

でも、他のメンバーはみんな黒髪だ。

 

「よく分からんな」

 

アイドルの事情などさっぱり分からない。

今度会った時に理由でも聞いてみようか。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

愛斗の口からは大きなため息がこぼれる。

学校に行くのを憂鬱に思う人も少なくはないと思う。

愛斗もそのうちの1人。

 

それに、愛斗の場合はどこからか広まった"ある噂"のせいでクラスから完全に浮いていた。

 

「あと3年間もこれが続くと思うと、ほんと憂鬱だな」

 

まだ1年生の5月。この先の高校生活を考えるとさらに憂鬱だ。

 

 

 

愛斗が通う峰ヶ原高校は、七里ヶ浜のすぐ側にある神奈川県の高校。

通学で使用する江ノ電は、ローカル線ではあるものの、毎朝の通勤時間帯では賑わっている。

 

電車に乗り込むと、周りの学生は「昨日のテレビが〜」とか、「宿題が〜」と話している中、愛斗は誰と話すわけでもなく、静かにスマホの画面を見つめる。

 

 

学校の最寄り駅の七里ヶ浜駅に着くと、後ろから愛斗に声をかける人物が2人。

 

「おはよう、愛斗」

「おはようございます。国見さんに梓川さん」

「ん、おはよ」

 

彼らは愛斗が先日から始めたファミレスでのアルバイトの先輩であり、同じ峰ヶ原高校に通う先輩でもある。

 

学年は1つ違いだけど、気さくに話しかけてくれるとても良い先輩だ。

 

 

 

愛斗の席は、教室の真ん中の列の1番後ろ。

さ行だと、どうしても出席番号がその辺になってしまう。

 

同じクラスに話せる相手がいない愛斗にとっては、退屈な席だ。

せめて窓際が良かった。

 

 

「あっ…」

 

前席の生徒の声とともに、愛斗の机の下に消しゴムが転がり込んできた。

 

「はい、どうぞ」

「あ、ありがと」

 

消しゴムの持ち主は、俯いてお礼を言ってくれた。

 

「朋絵〜、早くこっち来なって〜」

「今行くー!」

 

呼ばれて去っていった。

 

「朋絵、あいつと関わっていじめられたらどうすんのよ〜?」

「あはは、ごめんごめん」

 

 

「俺はそんなにいじめっ子に見えるのかね…」

 

誰にも聞こえない音量でポツリと呟く愛斗。

 

愛斗は、過去に一度も人を虐めたりしたことはない。

むしろ、かなり温厚な方だ。

 

 

 

学校が終わるとバイト先のファミレスに向かい、バイトに勤しむのが愛斗の日常だ。

 

今日もしっかりと給料分の働きをして、さっきタイムカードをスキャンし終えて上がったところだ。

 

「お疲れ」

「お疲れ様です」

 

佑真も同じ時間で上がりだったらしい。

 

「あーそうだ。愛斗、昨日言ったこと考えてくれたか?」

「科学部の件ですか?」

「そうそう」

 

この峰ヶ原高校には科学部なるものが存在する。

部員は1人らしい……。

 

その唯一の部員の生徒から、愛斗はぜひ入部してほしいと佑真と咲太経由で勧誘を受けたのだ。

 

「バイトがある日は無理ですけど、それ以外の日なら。という条件付きでも良ければ入部したいなぁなんて思ってます」

「おぉ!そうかそうか!」

 

佑真は後輩の嬉しい返事に大喜びだ。

 

「そんじゃ、早速明日の昼休みにでも双葉のところに行くか!」

「了解です」

 

 

「じゃあ、また明日!」

「はい、また明日」

 

 

 

まっすぐ家に帰ると、玄関先に来訪者が座っていた。

 

「おっそい」

「は?」

 

その来訪者とは……

 

「こんな時間にどうしたのさ、のどか」

 

先日、雑誌で顔を見たばかりの人物。

アイドルグループ "スイートバレット"の豊浜のどかがそこにはいた。

しかも大きなキャリーケースを持って…。

 

旅行に来たついでにでも寄ったのだろうか。

 

「今日から、あんたの家に泊まるから」

 

久しぶりに会えた喜びよりも、この状況に理解が追い付かない。

 

「拒否権は?」

「当然無い」

「ですよね」

 

夜遅い電車で、女子高生であるのどかを1人で帰らせるわけにもいかないため、この状況で愛斗に拒否権など無い。

 

この瞬間、愛斗とわがままお嬢様との同棲が決まったのだった…。




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#2.同棲生活は問題ばかり…

姉弟の同棲スタート。


「おなか減ったから、何か作ってよ」

 

家に上がって、のどかの第一声はこれだ。

急に押し掛けてきたうえにご飯までねだるとは、なんとも図々しい。

 

「俺もご飯まだだからちょうどいいや、作るね」

 

メニューを考えながら、冷蔵庫の扉を開ける。

 

「あ・・・」

「どうかしたの?」

 

空っぽだった。

バイトの帰りにスーパーに寄ろうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。

 

「買い物しなきゃいけないの忘れてた・・・・。買い置きのカップ麺でもいい?」

「はぁ?現役アイドルの晩御飯がそんな栄養のないもので良いと思ってんの?」

 

そう思うなら、突然押し掛けることなんてしなければいい。

 

「分かったよ、今から買いに行ってくるね」

「しょうがないからアタシもついて行ってあげる」

「いや、いいよ。必要ないものまで買わされそうだし」

「いいから、さっさと行く!」

 

わがままお嬢様、もとい姉の理不尽は相変わらずだなとため息をこぼす愛斗。

 

 

 

 

 

「のどか、これはもちろん自分でお金出すんだよね?」

 

愛斗の知らぬ間にカートには大量のオレンジジュースが積み込まれていた。

 

「あんたの家に財布置いてきた」

「はぁ!?なら、このジュース返してきてよ」

「一度カートに入れたものを戻すのはマナー違反」

「どの口が言ってるのさ。まったく・・・。さすがに、持つのは手伝ってね?」

「分かってるっつの」

 

なぜオレンジジュースばかりなのか聞いたら「ジュースはオレンジ!これ常識だから」と答えてくれた。

 

「最近の常識って難しいなぁ」

 

 

 

 

買い物を済ませた帰り道、のどかの手には食材とジュースの入った袋、それに対して愛斗はのどかの倍の数のジュースと食材を持たせられていた。

ちなみに、愛斗のほうは量が多いので段ボールに詰めてある。

 

 

 

 

「ねぇ、あれって・・・」

 

愛斗の家の前に立っている人物をのどかが見つけた。

 

「あ・・・姉さんだ」

 

愛斗とのどかに気が付き、こちらに向かってくる。

 

「ずいぶんとたくさん買ったのね」

「半分以上は俺の買い物じゃないけどね」

 

少し居心地が悪そうにのどかが口を開く。

 

「麻衣さん、こんばんわ」

 

彼女は桜島愛斗の姉で元国民的人気子役(現在は活動休止中)の桜島麻衣だ。

 

「こんばんわ、のどか。愛斗、夕食に作ったハンバーグが余ったからお裾分け」

 

そう言って麻衣はタッパーを渡してくれた。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「うん、ハンバーグありがとね。おやすみ」

 

 

 

麻衣に会ったからか、家に帰ってからののどかは少し元気がない。

 

「・・・」

 

 

でも、愛斗が晩御飯を作り終え食卓に並べる頃にはすっかり元通りののどかになっていた。

 

 

「美味しそう!! アンタは料理の腕はほんと一流よね」

 

 

母親と麻衣が忙しく、昔から晩御飯を一人で作って食べる機会が多かったため、愛斗の料理の腕は今ではプロ顔負けレベルだ。

 

 

「ん~!!美味しい! 愛斗の料理がこれから毎日食べられるなんて最高」

「同棲は良いけど、俺はのどかとは結婚しないからね」

「そーゆー意味じゃないっつの! バカ愛斗!」

 

そんなやり取りもしながら、のどかのおかげで久しぶりににぎやかな晩御飯になった。

麻衣から貰ったハンバーグも、凄く美味しかった。

 

 

 

 

「あ、そうだ。お風呂の順番どうする?」

「んー、アタシは別にどっちでも」

「じゃあ、一緒に入る?」

「しね」

 

ゴミを見るような目で愛斗を見るのどか。

 

「冗談だって。俺が先に入っちゃうね」

 

これ以上ふざけるとさらに機嫌を損ねてしまうため、愛斗はそそくさと風呂場に向かう。

 

「アタシが入るって答えても断るつもりのくせに」

 

一人になったリビングでポツリとのどかが呟く。

 

 

 

 

 

愛斗が上がり、のどかもお風呂からあがるとまた問題が発生。

 

「アタシの脱いだ服は?」

「洗濯してもう干した」

「は?」

「心配しなくても、ちゃんと洗濯機に入れて回したよ。もちろん、洗濯ネットに入れてあるから大丈夫」

 

脱衣所に脱ぎ捨ててあったのどかの服も、ついでに洗濯しておいた。

 

「いや、そういうことじゃなくて!」

「あ、下着は手洗いしないとダメだった?」

「違う!!」

 

「じゃあ何さ?」

「アンタに下着見られたくないの!」

 

顔を真っ赤にして訴えるのどか。

 

「べつにいいじゃん、姉弟なんだし」

「良くないっつの!アタシの下着で変なことしてたら殺す」

「しないって。のどかの下着に興味ないし」

「それはそれでムカつく!!」

 

理不尽な怒りをぶつけられ、どうしようもない愛斗。

 

 

下着の件は置いておいて、もう一つ問題があった。

 

「のどか、寝るのどうする?」

「アンタの部屋の床に布団敷いて寝る」

「うちに来客用の布団なんて無いよ?」

「はぁ?なら、どうすればいいのよ」

「それは俺のセリフだって・・・」

 

泊まりに来る友だちもいないため、愛斗は自分のベットと布団しかもっていない。

 

「明日、のどかの布団を一緒に買いに行こう。放課後予定空けておいてね」

「うん」

「今日は俺がリビングのソファ、のどかは俺のベット。これでいい?」

「アンタのベットで寝るのは嫌だけど、仕方ないから我慢してあげる」

 

ベットを譲ったのに…と言いたい気持ちを、ここはグッとこらえる。

 

「はいはい、ありがとうございます。それじゃあおやすみ」

「ちょ、ちょっと待って!」

「はい?」

「まだ眠くないから、少し付き合って」

 

そう言って、愛斗を隣に座らせる。

 

「分かった。のどかが眠くなるまでね」

 

 

「アンタはさ……、聞かないの?」

「ん?」

「アタシがここに来た理由」

「俺のご飯を食べるため?」

「真面目に聞いてんの」

 

ふざけるとすぐ睨まれる。

昔から、のどかは少し冗談が通じにくい。

 

「また母親と喧嘩したのかなぁとは思ってた」

「やっぱそうだよね。アタシの家出する理由なんてそれくらいだし」

「どうして麻衣姉さんのとこじゃなくて、俺のところなの?」

「そ、それは………、麻衣さんは芸能界の先輩だから……」

 

腹違いの姉妹とはいえ、芸能界の先輩でもある麻衣を頼るのはのどかには厳しい。

アイドルもいろんな苦労があるらしい。

 

「そう言えばアンタは、高校はどうなの?」

 

中学生の時、愛斗に起こったことを知っているのどかとしては、愛斗が高校では上手くやれているのか少し、いやかなり心配していた。

 

「まぁぼちぼちだよ……。ねぇ、眠たくなってきたからリビングに帰っていい?」

「ダメ。まだ話したいことあるし」

「そうは言っても…」

「それくらい我慢しろっつの」

「えー」

 

我慢しろと言われても、人間は睡魔に抗えないのだからしかたがない。

 

「アンタが変なことしないって誓えるなら、このベット一緒に使わせてあげる」

「それは遠慮しとこうかな…」

 

さすがに姉弟で1つのベットで寝るのは愛斗も躊躇ってしまう。

 

「遠慮するなっての!」

 

無理やり愛斗の腕を引っ張ってベットに寝かせる。

 

「はぁ、分かったよ。でも、狭いって文句言わないでね?」

 

 

 

バイトの疲れもあったせいか、愛斗は横になるとすぐ眠りについた。

 

 

幸せそうな寝顔の(愛斗)に向かって、のどかは呟く。

 

「アンタはこれくらいの荒療治が必要なのよ。

アンタの心の傷はアタシが絶対に治してみせる。

だから、(アタシ)にくらい心を開けっつの」

 

 

のどかがなぜ愛斗の家にしばらく住むことにしたのか、母親と喧嘩したというのはもちろんホントの理由だが、真の理由は愛斗が昔負った心の傷を治すため。

 

「ほんと、世話がかかる弟なんだから…。おやすみ……ちゅっ」

 

愛斗の頬にキスをし、のどかも眠りにつく。




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#3. 噂の真実…

高評価を1件いただきました!
ありがとうございます!

お気に入りもありがとうございます!

でも感想は来ない……w

では3話です。どうぞ


「ん……、狭い」

 

何かに締め付けられるような感覚がして、愛斗は目が覚めた。

その正体は、のどかだ。

 

「そういえば、のどかは寝相悪いんだった」

 

幸せそうな寝顔ののどか。

それはいい。問題は愛斗を抱き枕の如く抱き締めていること。

しかもガッチリとホールドがキメられているのでなかなか抜け出せない。

おかげで夢の中では蛇に捕えられて食べられそうだった。

 

「困ったな…」

 

いつまでも寝ている訳にはいかないので、上手く身体をくねらせて脱出する。

 

 

朝ごはんを済ませ、愛斗とのどかはそれぞれが通う高校へと通学する。

学校の制服を持ってきたのか心配だったが、大きなキャリーケースにバッチリ入っていた。

 

 

 

 

昼休み、愛斗は佑真と咲太と一緒に理科室を訪ねることになっていた。

 

「君が噂の1年生?」

「おい、双葉…」

「あ、ごめん。そういうつもりで言ったんじゃない。梓川と国見から君のことを聞かされるから、ついね。気を悪くさせたなら謝るよ」

 

少し無神経だったと、理央は謝る。

 

「気にしてないので大丈夫ですよ。それで、なぜ俺なんでしょうか」

 

愛斗は佑真と咲太から科学部への勧誘を受けた時点から、この疑問を抱いていた。

 

「それは簡単だよ。君は頭がいい、しかも文理問わず。

そんな君が科学部の活動に力を貸してくれたらかなり活動の幅が広がるんじゃないかと思ったから」

 

「ありがたいお言葉なんですが、俺が入ると風評被害を受けると思うのでとても迷惑をかけちゃいます」

「それは気にしなくていいぞ。双葉も『変人』ってあだ名付いてるから」

 

いつも白衣を来ている理央は、『博士』や『変人』といった呼び方をされることがよくある。

まぁ、そう言う咲太もまた、とある噂によってクラスから浮いているわけだが…。

 

「梓川に言われたくはないね。でも、梓川の言う通りだよ。私はそんなこと気にしないから」

「バイトのある日は参加できないですが…」

「それでかまわない。君が暇な時に来てくれるだけでもありがたい」

 

どうやら、愛斗が思ってた以上に理央は勧誘に本気らしい。

 

「分かりました。それなら入部させていただきます」

 

 

それなら断る理由は無い。

愛斗は科学部に入部することに決めた。

 

 

 

 

 

 

「可愛いの買えて良かったー!」

 

昨日約束していたのどかの布団の件で、買い物に来ていた2人。

気に入ったのが買えたらしく、のどかはとても上機嫌だ。

 

「まさか、僕のベットよりも高いとは……」

 

のどかとは反対に、テンションが下がっている愛斗。

最近は布団も質の高いものは、お値段がけっこうするらしい。

 

「これも必要経費と割り切るしかないか…」

「そうよ、そんな小さいこと気にしない気にしない!」

 

「人のお金だからって高い布団選んだくせに」

「そんなに言うなら、アンタも寝かせてあげるわよ」

「いや、それはいいや」

「あっそ、じゃあ絶対寝かせないから」

 

どの口が言えたことだろうか。

 

 

「のどか、ちょっとこれ持ってて」

「はぁ? あ、ちょっ!!」

 

何かを見つけたらしく、駆け足でそちらに向かう愛斗。

目線の先には、男二人と女の子が一人。

 

「もしかして、君一人ぃ?」

「お兄さんたちと遊ぼうよぉ」

「え、えっと……」

 

いかにもって感じのチャラチャラした輩に絡まれている女の子に、愛斗は見覚えがあった。

というよりか、同じクラスなので見覚えどころか名前も分かる。

 

「そういうお兄さんたちはナンパですか?」

「あ"?なんだお前は?」

「この子の彼氏ですよ」

「チッ、彼氏持ちかよ。……行くぞ」

 

捨て台詞も"いかにも"って感じだ。

絵に描いたような輩で、少しおかしく思ってしまう。

 

「あんなのに絡まれたら、はっきり断らないとめんどくさいよ。次からは気をつけたほうがいいかも。それじゃあ、ばいばい」

「ま、待って!桜島くん!」

 

彼女の静止も聞かず、その場を離れる愛斗。

 

 

 

 

 

 

「遅いっつの!いつまでこんな重いものをアタシに……って、その子は誰?」

 

強引に別れたはずの彼女は、愛斗に付いてきていた。

 

「私は、古賀朋絵です。桜島くんのクラスメイトの…」

「なんで付いてくるのさ。古賀さん」

「ちゃんと…、ちゃんとお礼が言いたいからだよ!」

「お礼なんていいよ。それより、俺と話してるのを他のクラスメイトにでも見られたらどうするのさ」

 

朋絵はクラスカーストトップのグループに所属しているため、余計に心配になってしまう。

 

「それは……」

「ちょっと待って、それどういうこと?」

 

険しい表情をしたのどかが、2人に尋ねる。

 

「なんでも無いよ。早く帰ろう、のどか」

「アンタは黙ってて!!」

 

珍しく、のどかが本気で怒っている。

 

「アタシ、古賀さんと話があるから。愛斗は先に帰ってて」

 

反論したら殺すと言わんばかりの剣幕で言うのどか。

愛斗は素直に従うしかなかった。

 

 

 

「ついてきて」

 

そう言って、のどかが朋絵を連れてきたのは近所の公園だ。

 

「座って」

 

2人でベンチに腰掛ける。

 

「古賀さん…だっけ?」

「は、はい。そうです」

 

ナンパの次は、金髪の女に絡まれるという事態に、朋絵は今日の自分の不運を呪った。

 

「アタシは愛斗の姉の豊浜のどか。

いきなり質問して悪いけど、もしかして、高校で愛斗の変な噂流れてる?」

「……はい。中学の時の噂が…」

「はぁ…、やっぱりね……。

それ、嘘だから。愛斗はいじめなんて今まで1回もしたことない。

むしろその逆。アイツはいじめられてる子を守ろうとしてた」

 

中学の頃、愛斗の仲の良かった友達が些細なことでクラスメイトから無視されるようになった。

でも愛斗はいつもと変わらず、その子に接していた。

 

 

中学生の時は特に、無視などの嫌がらせはエスカレートしやすい。

その子への嫌がらせも、無視からだんだんいじめへと変化した。

グループチャットで悪口を書かれ、机には落書きされ、終いには家の電話にもいじめっ子たちからの電話が来るようにもなった。

 

そんな中でも、愛斗はその子への態度を変えることはなかったのだ。

それだけではなく、担任の先生にいじめのことを相談した。

だけど、「本人が先生に直接言わないから」と取り合ってはくれなかった。

 

いじめが続くようになって、その子はやがて不登校になった。

だから愛斗は部活が終わると毎日、その子の家にその日の授業の内容をまとめたものや連絡物を届けに行くようにした。

 

その時期くらいから、愛斗は周りから避けられ始めた。

いじめられっ子を庇うということは、周りの流れに逆らうことと同じ。

"多数が正義"そんな空気を作り出している集団に逆らうのだから、それも当然の流れなのかもしれない。

 

 

そんな状態が少し続いたある日、その子が久しぶりに登校してきた。

 

 

でもその子はいつもと様子が違う。

愛斗を少し避けているようにも思えた。

そして、いじめっ子たちとも仲良く話していたのだ。

 

異変を感じつつも、その子が無事学校生活に帰ってきたことを嬉しく思った愛斗は、気にしなかった。

 

 

 

その日の昼休み、愛斗は生徒指導室に呼ばれた。

 

中に入ると、担任と生徒指導の先生、いじめられていた子、いじめていた子、そしてなぜか愛斗の部活の顧問がいた。

 

嫌な予感がした。

 

愛斗が椅子に座ると、担任が口を開く。

 

「皆さんに集まってもらったのは、ここにいる白石くんがある生徒からいじめを受けていると私に話してくれたからです。白石くん、先生に話してくれたことをそのまま、ここで話してください」

 

そう言われ、白石も話し始める。

 

「僕は、いじめを受けています。この1ヶ月本当に辛かったです」

 

「さぞ辛かったでしょう。先生達はあなたの味方です。怖がらずにあなたをいじめていた生徒の名前を教えてください」

 

芝居めいた話し方で担任はそう言った。

 

 

「はい………」

 

一呼吸置き、白石は続けた。

 

 

「愛斗くんです。そこにいる桜島愛斗くんです」

 

 

「え?」

 

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 

「桜島くん、それは本当ですか?」

 

本当なはずがない。愛斗はいじめられていた白石をずっと味方していたのだから。

 

「いや、違います。だって俺は……、いじめていたのは橋本たちの方です。白石くん、なにを言ってるんだ?」

 

「先生、そいつ嘘ついてます。僕達は白石くんを桜島のいじめから守っていました。そうだよなぁ?白石」

「う、うん…」

 

愛斗はこの瞬間、ハメられたのだと気づいた。

いじめっ子のリーダー、橋本の親は地方議員で、おそらく担任と白石は買収されたのだろうと。

 

「白石くん、ホントのことを言ってよ」

「うるさい!僕はホントのことを言ってる!

いじめられるのはもう嫌なんだよ!」

 

「やっぱりそうなんですね」

 

違う。

 

「俺たちに罪を擦り付けようとするなんて、最低だな。桜島」

 

違う。違う。

いじめてなんていない。

守ろうとしただけなのに。

 

「違う……! 違います監督!僕はやってません!」

 

部活動で信頼してくれていた監督なら、信じてくれるだろうと愛斗は願った。

 

「この状況で、まだそんなことを言うのか」

 

蔑むような目で顧問は愛斗に言った。

 

 

「桜島。お前はもう明日から部活に来なくていい。

お前みたいなやつは、チームの輪を乱すだけだ」

 

「そんな……」

 

 

なにがいけなかったのか。

自分は間違ったことをしていたのだろうか。

 

自分のやってきたことは正しいと信じてたのに…。

 

いじめられている彼を救うために尽くしてきたのに。

愛斗は、裏切られたのだ。

そして何よりショックだったのは、信頼していた顧問にさえも裏切られたこと。

 

そう思った瞬間、愛斗の心の中で大事な何かが崩れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「──愛斗はその後、高校への推薦状の取り消し、所属していた野球連盟からは追放。

プロ野球選手を目指して愛斗にとってはきっと、それが1番辛かったと思う。

 

それ以来、愛斗は誰にも心を開かなくなった。誰も信頼しなくなったの。

友達だけじゃなく、家族であるアタシやお姉ちゃんにも。

心を開いているように見えるかもしれないけど、あの子は昔から人付き合いが得意だったからそう見えるだけ。

 

心の奥の扉は、あの日から1度も開いたことはないの」

 

 

一通り話し終え、一呼吸置く。

 

 

「これがことの真相。まぁ、信じるか信じないかは古賀さん次第……って、何で泣いてんの!?」

 

のどかの話を聞いている朋絵の頬には、いつの間にか涙が伝っていた。

 

 

「すみません…、だって、だって!

こんなのってあんまりにも……

みんなにも伝えなきゃ」

 

「それはダメ」

「なんでですか!?」

 

みんなの誤解を一刻も早く解きたい朋絵は、のどかが止める理由が分からない。

 

「アンタがみんなにそのことを伝えて、信じてもらえなかったらどうすんの?浮いてるやつの味方をする人は、今度はその人も輪から外されるのよ。愛斗を庇ったせいで古賀さんが孤立することになったら、1番責任を感じるのは愛斗。だから古賀さんは、ホントのことを分かってくれただけで十分」

 

のどかの言葉にぐうの音も出ない。

 

「この話はこれくらいでお終い。長話に付き合わせてごめん。気をつけて帰んなよ?」

「は、はい」

 

 

そうは言われたが、朋絵はこれからの学校生活でどうするべきかを帰り道であれこれ悩みながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……、狭い」

目が覚めると、身体がまた動かなくなっている。

 

「またか」

 

またものどかにホールドされている愛斗。

きっとのどかは寝ぼけて愛斗のベットに入り込んだのだろう。

 

「せっかく買ったのに使わないのはどうなんだ…」

 

 

のどかの寝相の悪さに、やれやれとため息をこぼす。

 

わがままお嬢様との同棲は、まだまだ問題は山積みだ。




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#4. くっついたんですけど…

先に言っておきます。
超展開の4話です!


ある日の昼休み、教室の一角でクラスのカーストトップに君臨する女子たちの恋バナが行われていた。

 

「クラスで1番カッコイイのって、ぶっちゃけ誰だと思う?」

「んー、サッカー部の北山くんとか?」

「あ〜、分からなくもない。朋絵は?」

 

話を振られ、少し戸惑う朋絵。

都会の学校に慣れるのに精一杯で、男子のことなんて今まで意識する余裕は無かった。

 

それでも、なんとかクラスの男子を思い出しながら答える。

 

「えーっと、顔だけなら桜島くん…かな」

「たしかに顔はめっちゃイケメンだけど、いじめっ子はダメでしょ〜」

「顔だけは良いのにねー」

 

リーダーの玲奈の言葉に他のふたりも同調する。

 

「その噂のことなんだけどさ、実は何かの勘違いだった……って可能性は無いかな?」

 

少し口に出すのは勇気がいったが、先日のどかの話を聞いた手前、朋絵の中の正義感が言わないことを良しとはしない。

 

「どゆこと?」

「え、えっと、なんというか、普段私たちが見てる桜島くんって凄く大人しいから、ほんとにいじめなんてしてたのかなぁって」

 

玲奈は愛斗の噂を聞いたときから、愛斗を毛嫌いしている。

だから余計に言いづらかった。

でも、言ってしまったのだから後はもう機嫌が悪くならないことを祈るだけ。

 

 

「んー、言われてみればそうかも」

 

意外にも、玲奈は納得してくれた。

 

玲奈がそういえば、もちろん他のふたりも同じだ。

そして、日奈子がニヤニヤしながら朋絵を見る。

 

「もしかして朋絵、桜島のこと好きなの?」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「照れなくてもいいって〜!」

 

いつの間にか、あらぬ誤解が生まれていた。

 

「ここは、朋絵のために一肌脱ぎますか〜」

「そうだね。応援する。でも、まずは桜島の噂のことからね。もし事実だったら、ウチらの朋絵をそんな怖いやつと付き合わせるわけにはいかないし」

「みんな、ありがと…。あはは」

 

心配しすぎな気もするし、そもそも朋絵は愛斗のことを好きなんて一言も言っていないのに、そういう流れになってしまった。

 

みんなが愛斗の噂について疑い始めたのは嬉しいが、困ったことに新たな誤解を産んでしまったために、なんとも言えない心境の朋絵であった。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜、どうしよ〜!!」

 

先日の愛斗の件とは別に、また新たな問題が増えた朋絵。

 

その問題というのは……

 

「前沢先輩は玲奈ちゃんが狙ってるのに…!

なのに告られるとか空気読めてなさすぎ!」

 

この学校のバスケ部で1番上手い、そしてカッコイイと評判の3年生、前沢先輩に今日の昼休みに告白されてしまったのだ。

 

というのも、玲奈の誘いで最近はバスケ部の練習を見に行くことが多くなり、先輩に顔を覚えられた。そうしたら告白されてしまったのだ。

 

「どげんすればいいとね!わからん!いっちょんわからん!」

 

枕に向かって叫ぶ朋絵。

取り乱すあまり、出身である博多の言葉が出てしまっている。

 

付き合うのはもちろん論外だが、振るのもダメ。

そもそも、告白されてしまった時点でアウトなのだ。

 

でも告白されてしまったものは仕方ない。

時間を戻すことなんて朋絵には出来ない。

 

悩んでいると、1つの名案が浮かんだ。

 

「そうだ!!

玲奈ちゃんが前沢先輩以外の人を好きになれば、私が前沢先輩を振っても問題無いよね!?」

 

ほとんどヤケクソだが、今はそれくらいしか思いつかない。

 

「それしかないよ!

お願いします!玲奈ちゃんが前沢先輩以外の男子を好きになりますように!

前沢先輩以外の男子とくっつきます(・・・・・・)ように!!!」

 

前沢先輩からの告白が発覚する前にそうなってくれと、今はそう願うしかなかった。

 

 

 

【朋絵side】

 

 

 

次の日の朝。

 

 

 

 

朋絵は昨日の告白の話が玲奈の耳に届いていないか、気が気で無いため、朝からソワソワしている。

 

 

「あ、朋絵。おはよー」

「お、おはよー玲奈ちゃん」

「朋絵、なんか調子悪い?」

 

いつもと朋絵の雰囲気が違うことに気づき、少し心配する玲奈。

 

「そんなことないよ!元気元気!」

「そ、ならいいけど」

 

そんなことを話しながら、教室へ向かう。

 

 

教室へ入ろうとしたその時、玲奈が誰かとぶつかった。

 

 

「きゃっ!」

 

その瞬間、朋絵の目の前が一瞬だけ眩んだ。

 

 

 

【愛斗side】

 

最近になってものどかの寝相は相変わらずで、愛斗は今朝も蛇に食べられそうになる夢を見ることになった。

 

そろそろ蛇とは顔馴染みの仲良しさんになれそうだ。

 

そんないつもと変わらない朝を過ごし、学校へ通学する。

 

教室も1日学校なのかと少し憂鬱な気分ではあるが、避けられるものではない。

 

教室で自分の机に座り、読書をしていたが、トイレに行きたくなって愛斗は席を立った。

 

 

教室から出た直後、誰かとぶつかってしまった。

 

「きゃっ!」

 

その瞬間、目の前が一瞬だけ眩んだ。

 

 

 

 

 

 

眩しさから目を閉じたが、目を開けるとそこには朋絵がいた。

ぶつかった相手は朋絵だったのかと気づく。

 

「ごめんね、古賀さん」

「え、古賀さん?」

 

不思議そうな顔で聞き返す朋絵。

 

「急に苗字で呼ぶなんてどうちゃったの?玲奈ちゃん」

 

さすがに人違いにもほどがある。

クラスのリーダーともいえる香芝玲奈と自分を間違えるなんて。

そもそも、愛斗は男で玲奈は女、間違えるわけがない。

 

「それにしても、さっきぶつかったのって桜島くんだったのかな?どこに行っちゃったんだろうね」

 

理解が追いついていない愛斗の頭の中から、声が聞こえてきた。

 

「痛いなー、まったくどこ見て歩いてんのよ……ってあれ?いない?」

 

その声を聞いた瞬間、愛斗は1つの可能性に行き着いた。

そして手洗い場の鏡の前へと走る。

 

「え、あ、ちょっと身体が勝手に!!

これどうなってんの!?」

 

頭の中からそんな超えが聞こえてくるが、今は無視だ。

この目で何が起きたのかを確認するしかない。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

鏡の前で自分の姿を見ると……、

 

「嘘……だろ……」

 

そこには香芝玲奈の姿が映っているのだ。

 

「なんで俺が香芝さんになってるんだ!?」

「はぁ?アンタどこから喋ってんの?」

 

周りを見ても愛斗の姿は無い。

でも愛斗の声は聞こえる。

そんな奇妙な事態に、玲奈の理解も追いついていない。

 

「香芝さんこそ、どこから喋ってるのさ」

「アタシはもちろん……」

 

そう言いかけて、玲奈は一つ気がついた。

 

 

「私は動いてるつもりは無いのに、身体が勝手に……」

 

玲奈は意図していないはずなのに、なぜか腕が、指が、そして口が動いている。

 

起こっていることを理解した途端、強烈な寒気に襲われる。

それと同時に、全てが繋がった。

いや、繋がってしまった。

 

「あたしの中に……、桜島がいる!!!???」

「……そういうことだね。香芝さん……」

 

なんと、香芝玲奈と桜島愛斗が物理的に、いや、これを物理的と言っていいのかは置いておいて、とにかくくっついて(・・・・・)しまったのだ。

 

そこへ、遅れて朋絵が合流する。

 

「急に走っていくから、驚いたよ。はぁ、はぁ」

「朋絵、どうしよう」

 

深刻そうな顔で言われ、朋絵も少し身構える。

 

「アタシ、桜島とくっついちゃった」

「………へ?」

 

 

自分たちでも完全に理解できている訳では無いが、事の次第を朋絵に伝える愛斗と玲奈。

 

 

「てことは、玲奈ちゃんの中に桜島くんがいるってこと!?」

「「そう」」

嘘のようなホントのことに、3人は頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

玲奈と愛斗の2人は、第三者から見て消えてしまった愛斗はどういう扱いになっているのかを知るために、ただ今いろいろと探索中だ。

 

[名前はおそらく、"香芝玲奈"から"香芝愛奈(まな)"に変わってる。そして桜島愛斗は元々存在していないという扱いになっている。ただし古賀さんだけは俺の事を覚えてる。そんな感じっぽいね]

「そうね……って、なんでアンタはそんなに冷静なのよ」

[慌てたところで、解決するわけじゃないからね]

「それはそうだけど……、まぁいいわ」

 

他に分かったことと言えば、口に出さなくても会話が出来ること。

意識は2つあるが身体は1つしかないため、脳内で会話ができる。

アニメやマンガで見かける、自分の中の天使と悪魔みたいな感じだ。

 

それと、喋るのは基本的に玲奈だ。

だけど愛斗も喋れないわけではない。

お互いの意思で、交代できるのだ。

 

今のところはそれくらいしかまだ分からない。

 

[俺と香芝さんが離れる日は来るのかな…]

[来てもらわないと困るわよ。アンタとこのまま一緒なんて絶対嫌]

 

「よし、授業始めるぞ〜」

 

先生の号令と共に授業が始まる。

 

「今日は、抜き打ちで小テストをやるぞ~。点数悪かったやつは補習な」

 

[補習なんて冗談じゃないわ。放課後は朋絵たちと買い物に行く約束なんだから]

 

意気込む玲奈だが、中間テスト前のこの時期なので、問題作成者側にも気合いが入る。

ざっと目を通してもなかなか難しい問題が並んでいる。

 

[ちょっと貸して]

 

悩んでいる玲奈を見兼ねて、愛斗が代わりに腕を動かす。

 

[す、凄い…]

 

自分の腕が勝手に動き、みるみる解答欄を埋めていく。

 

 

 

あっという間に解き終えてしまった。

 

「これ……便利かも」

 

すっかり忘れていたが、愛斗は入試の成績はクラスで1番良い。

自分の中にクラスで1番成績がいい愛斗を宿しているメリットを見つけた玲奈だった。

 

 

 




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#5. 問題だらけなんですけど…

前回の投稿から少し日にちが経ってしまいましたが、5話です!
どうぞ!




「」 ←声に出した会話
[] ←心の中の会話
です


くっついてしまった愛斗と玲奈に、新たな問題が発生した。

 

それは、トイレだ。

 

[ちょっと、これトイレってどうすればいいのよ]

[まぁ、身体を共有してるんだから仕方ないんじゃない?]

[仕方ないって何よ! アンタにトイレしてるとこ見られるなんてありえない]

 

愛斗に限らず、他の人に見られるのは嫌。

当然の考えだろう。

 

[そんなこと言ったって、どうすればいいのさ]

[目を閉じてればいいの!]

[いや、それだと香芝さんも前見えないよ?]

 

身体を2人で共有しているのだから、玲奈が見るものは愛斗も見ることになるし、逆に玲奈が見ないものは愛斗にも見ることは出来ない。

 

[それでもいいの! アンタに見られるよりはマシ!]

 

必死に訴える玲奈。

逆の立場だったら確かに嫌だなと愛斗は思う。

 

でも、これからずっとトイレでは目を瞑るつもりなのだろうか。

 

そんなことを考えながら、愛斗は視界が明るくなるのを待った。

 

 

 

 

放課後、いつも通り朋絵たちと共に帰る玲奈。

 

だが、愛斗とくっついてしまったせいで、いつも通りの玲奈ではいられなかった。

 

「愛奈ちゃん、今日はなんかいつもと少し雰囲気違うね?」

 

そう聞いてきたのは日奈子だ。

 

「そ、そう?」

「私も思った。体調悪いとか?」

 

亜矢も続く。

 

「そんなことないって。ねぇ?朋絵」

 

とりあえず、朋絵に助け舟を求めておく。

 

「うん、いつもの玲…愛奈ちゃんだと思うけどなぁ」

 

だが2人はまだ納得していない様子だ。

愛斗とくっついたことをさすがに話す訳にもいかない。

おそらく信じてはもらえないだろう。

 

となると、この状況が解決されるまではあまり一緒にいない方がいい。

 

ごめん、用事思い出したわ。先に帰るね」

 

3人にはそう言って、逃げるように帰宅した。

 

 

 

 

 

 

「──はぁ…。ほんとこれからどうすればいいの……」

 

ベットの上で仰向けになり、何度目か分からないため息をつく。

 

[中間テストも近いし、勉強するべきなんじゃない?]

「そーゆーこと言ってんじゃない!」

 

愛斗からのズレた返答にイラッとする玲奈。

 

[原因が分からないのに、この状況の解決策を考えるのは無理だよ。それならテスト勉強したほうが絶対いい]

「こんな状況で勉強なんか出来るわけないじゃん!大体、アンタの意見なんか聞いてないし!」

[そんなこと言ったって……]

「黙ってて。大嫌いなアンタが私の中にいるってだけでも無理なのに、指図されるなんてもっと無理」

 

不満を心の中の愛斗にぶつける。

 

[分かったよ]

 

そう言うと、愛斗は一切口を開かなくなった。

 

 

 

 

 

「これどうやって解くのよ……」

 

勉強はやらないはずだったが、明日提出の課題があったことを思い出し、机で教科者と睨めっこをしている。

 

だが、この課題がなかなかに難しい。

さっき愛斗にあんなことを言ってしまったので、愛斗には頼りたくない。

 

しばらく悩んだが………解けなかった。

 

「ねぇ、これどうやるの?」

[………]

「ねぇ」

[………]

「ねぇってば!」

 

愛斗からの返事は返ってこない。

その代わりに、手が動いた。

 

「あっ…」

 

スラスラとシャーペンがノートの上を駆け、あっという間に解けた。

しかも、ご丁寧に解説もついている。

 

「すごい…。しかも、超分かりやすい」

 

さすがはクラストップの頭脳と感心する玲奈。

それと同時に、愛斗への罪悪感も湧いてくる。

 

「あのさ、さっきはごめん……。強く言いすぎた」

[こちらこそごめんね。もっと香芝さんの気持ちも考えて喋るべきだった]

 

[[……]]

 

気まずい。

共感する人も少なくないと思うが、喧嘩した後お互いが仲直りのために謝り合う時、少し気まずくなることがある。

今はまさにそれだ。

 

何か話題は無いかと考えていると、ふと朋絵が言っていたことを思い出した。

 

[ねぇ、アンタってさ、ホントにイジメなんてしてたの?]

[唐突だね。古賀さんに何か言われた?]

[朋絵は関係ない。私が疑問に思っただけ]

[なんで?]

[別に、なんでもいいじゃん。いいから答えてよ]

 

玲奈がクラスの中で一番噂を妄信していたと言っても過言ではない。

それなのに噂のことを聞いてくるということは、朋絵から何か聞いたんだろう。

愛斗はそう確信していた。

 

[んー、どうなんだろうね。みんながそう言うんだから、俺は虐めてたんだと思う]

[なんでそんなに曖昧なの]

[俺の昔のことはどうでもいいよ。それより、宿題の続きやらないと]

 

そう言って、愛斗は玲奈の代わりに宿題を解き進める。

 

[ちょっと、話を逸らさないでよ]

[俺はその話をあまりしたくないんだ]

[…あっそ。なら聞かない]

 

 

朋絵の言う通りなのかは分からないが、愛斗の"いじめ事件"の噂の裏には何かがあると玲奈は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろお風呂入ろうかな…」

[随分遅いんだね]

「女子はだいたいこれくらいの時間に入るよ」

[へぇ。俺は晩御飯食べたらすぐ入る派]

「あっそ」

 

 

 

 

脱衣場に来て、気がついた。

 

「ちょっと待って、まさかお風呂もアンタと一緒?」

[まぁ、そうなるね]

 

「裸を見られるなんて……最悪」

[また目隠しでもする?]

 

文句を言われても、愛斗にはどうしようもない。

 

「いい!あーもう!裸でもなんでも見なさいよ!この変態!」

 

やけっぱちになった玲奈から理不尽な言われようの愛斗。

 

[俺は別に、見たくないんだけど]

「は?それはそれでムカつく」

 

[うそうそ。わー、とっても見たいなぁ]

「は?きも。死んで」

 

なんて理不尽な。

 

そんなやり取りをしながらも、服を脱ぎ終えてお風呂場へと入る。

 

「感想は?」

[は?]

「だから感想! 私の裸を拝んでおきながら、何も感じないわけないでしょ!」

[香芝さんって着痩せするタイプだったんだね]

「驚いた?スタイルには自信ある」

[へぇ]

「それだけ?他に無いの?興奮したとか」

[香芝さん、欲求不満なの?それとも、見られて興奮するタイプの人?]

「ち、違うわバカ!!」

 

真っ赤な顔で否定する玲奈。

 

「はぁ、これからお風呂の時は毎回こうなるのかと思うと憂鬱…」

 

頭を抱える玲奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、くっついてから1週間が経った。

 

愛斗と玲奈はどうなったのかと言うと……

 

 

 

「これ、いつになったら終わるの?」

[それは俺が聞きたい]

 

まだくっついたままだ。

 

でも、この一週間で2人の距離はかなり縮まった。

物理的な距離は0だが、精神的な距離も縮まったのだ。

1週間も一緒に過ごしていれば、自然とそうなるものかもしれない。

 

 

そんなある日の帰り道。

 

 

「あれ、君って1年の子だよね?」

 

 

声をかけられた。

その相手は、同じ峰ヶ原高校の3年生で男子バスケ部の上沢先輩だ。

 

「そうです!」

 

憧れの上沢先輩から声をかけられ、玲奈は目をキラキラさせながら返事をしている。

 

「いつも練習見に来てる子だよね?可愛いから覚えたよ」

「そ、そんな!可愛いだなんて!」

 

玲奈はとても嬉しそうだ。

玲奈が"上沢先輩のことを狙っている"と、この一週間で何十回と聞かされてきた愛斗は2人のやり取りを見守っている。

でも、愛斗には1つ気がかりなことがあった。

 

それは上沢先輩の噂だ。

 

玲奈とくっつく前に、佑真から聞いたことがあった。

バスケがこの学校で一番上手い。大学生の彼女がいる。

そして、今の彼女が全然ヤらせてくれなくて欲求不満らしい。

 

信じているわけではないが、佑真が言っていたということもあって絶対に嘘だとも思えない。

 

もし本当だったら、どうすればいいのか。

そんなことを考えていた。

 

 

 

「よかったらさ、俺と付き合わない?」

 

そう言われた直後、お尻に不快感を感じた。

 

「きゃっ」

 

 

上沢先輩が玲奈のお尻を触ってきたのだ。

 

「あ、あのー、これは…?」

「ん?ダメだった?」

 

頭がおかしいのだろうか。

オッケーなわけがない。

 

「え、えっと…」

 

そう言っているうちに、だんだんとエスカレートし、今度はお尻を揉み始めた。

 

さすがに玲奈もマズいと思ったのか、拒否を見せる。

 

「ちょ、やめてください」

「えー、いいじゃん。それに、体は気持ち良さそうじゃん?」

 

AVの観すぎではないだろうか。

愛斗にとっては気持ち良さなどない。嫌悪しかない。

でも玲奈の憧れの先輩なので、どうするかは玲奈に任せるしかない。

 

気がつけば先輩の顔が間近にあり、キスをしようと迫ってきている。

 

玲奈の体は震えていた。

 

震える玲奈の唇は小さく、こう呟いた──

 

 

 

 

 

「……助けて……」

 

 

 

その瞬間。

 

「──うっ!?」

 

先輩が急にうめき声をあげる。

どうしたのかと思い、下を見ると…

 

自分の膝が先輩の股間に直撃していた。

 

「え!?」

 

あまりの衝撃に膝をつく先輩。

 

「痛えな、コノヤロー」

 

立ち上がろうとする先輩の顔面に、自分の足が振り抜かれた。

 

「ぐはっ!!」

 

その時点で、自分の意思で身体は動いていないと玲奈は気づいた。

 

─すなわち、愛斗が動かしているのだと。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

「ふざけてるのはどっちだ! 後輩にレイプ紛いのことしやがって。玲奈は、あんたに憧れを抱いてた!毎日毎日、あんたを見ては「かっこいい」だの「好き」だの言って嬉しそうにしてたんだよ! なのに、あんたは玲奈に何をしようとしてたんだよ!!!」

 

そう叫んで、先輩の股間にさらに強烈な蹴りをぶち込む。

 

「ぐはっ!!!」

 

そして残りライフが0…というかオーバーキルされた先輩の胸ぐらを掴む。

 

「次、玲奈に手を出そうとしたら、あんたのそれが一生使えないようにしてやるよ。もちろん、他の女の子に同じことをしようとしてもだ。分かったか?」

 

股間へのキックが効いたのか、怯えるような目でこちらを見る先輩。

 

「分かったら返事!」

「は、はい!もうしません!」

 

そう返事をすると泣きべそをかいて逃げていってしまった。

 

周りに誰もいなくなり、愛斗はふと我に帰る。

 

「もしかして、やばかった?」

[当たり前じゃん!明日からどうすんのよ!]

「あーー、ごめん!」

[もう、ホント信じられない……。もうバスケ部の練習見に行けなくなっちゃったじゃん…]

「ほんとごめんって」

[でも……ありがとね。先輩には失望した]

「そっか」

[アンタのせいで失恋した]

「ごめんって」

[許さない]

 

そう言いながらも、玲奈は少し嬉しそうだ。

 

[でもさ、なんで助けてくれたの?]

「男に尻を触られるのが耐えられなかったから」

[はぁ!?てことは私のためじゃなくて自分のためにやったの!?]

「まぁ、そうなるね」

[私の感謝を返せバカ!]

 

理由を聞いて玲奈は呆れている。

 

「まぁ、結果的に香芝さんのためにもなったから良しってことで」

[はぁ…、まぁいいわ。てか呼び方!]

「へ?」

[さっきは玲奈って呼んでくれたのに、今は香芝さんなんだ?]

「ダメ?」

[アンタのせいで失恋したんだから、罰として玲奈って呼ぶこと!いい?]

「わかったよ、玲奈」

[それで良し。さっきはありがとね、愛斗]

 

 

最低な先輩のおかげで、2人の距離はさらに縮まったのだった。




個人的には玲奈ちゃん好きだなぁ

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#6. ついに……!?

お久しぶりです。
久しぶりすぎて、僕のことを覚えている人はもういないかもしませんねw

おまたせして申し訳ないです。6話です


少しずつ日中の気温も高くなり始めてきた6月。

季節はもう初夏だ。

 

2人がくっついて、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた。

終わりの見えなかった共生は、不意に終わりを迎えることになる。

 

 

 

[ねぇ、もしかして俺たちはずっとこのままなの?]

「んー、どうだろ。何をすれば元に戻るのかが全然分かんない」

[前みたいに「早く戻りたい!」って騒がないんだね]

「騒いだところで戻れないって、この1ヶ月で嫌という程感じさせられたから。それに、別に私はこのままでも困らないし」

 

玲奈は少し変わった。

初めの頃に比べて、愛斗との生活に肯定的になってきた。

反対に、愛斗はそろそろ自分の体に帰りたくてたまらない様子ではあるが……。

 

 

[玲奈は困らなくても、俺は困るんだけど]

「この私と共生してるんだから、文句言うなし」

[誰が相手だったとしてもだよ。早く自分の体に戻りたい]

「まぁ、戻るまで我慢しなって」

 

 

会話が一段落したところで、玲奈は気になっていたことを尋ねてみる。

 

「愛斗ってさ、彼女いたことあんの?」

[は?唐突だね]

「ちょっと気になったの。いいから答えてよ」

[へぇ。俺は恋人はいたことないよ]

「そーなんだ。なんか意外」

[そうかな?]

 

自分の噂についていろいろな人に吹聴していた玲奈がそう思うことこそが、愛斗にとっては意外だった。

 

「私が言うのもアレだけど、アンタさ、"あの噂"さえなければ絶対モテたと思うよ」

[んー、それはどうだろうね]

「絶対そう。顔はカッコイイし運動神経も良い。頭も良くて料理もできる。女の子の理想が詰まったような人間じゃん」

[そんなに褒められると照れるな~。まぁ、もう手遅れなんだろうけどさ]

 

玲奈への皮肉を込めたのが伝わったのか、玲奈は申し訳なさそうに俯く。

 

「それは……ほんと、ごめん」

[別に玲奈が悪いわけじゃないよ。中学の頃の俺が悪い。それに、玲奈が言わなくても誰かが同じよう広めてたかもしれないし]

「アンタは悪くない!この1ヶ月で確信した。アンタは人を虐めたりしないってね」

[そう言ってもらえると嬉しいね]

 

1ヶ月前の玲奈からは信じられないような発言だ。

 

 

「私が責任取って、アンタの彼女になってあげよっか?」

[随分上からだね]

「初めての彼女がクラスで1番可愛い私になるんだから、当然じゃん」

 

得意げに言う玲奈。

愛斗はここで、少しいじわるを思いついた。

 

[俺と付き合うってことは、エッチなこともするけどいいの?]

 

この1ヶ月で分かったのだが、玲奈はそういう方面の話に関しては初心だ。

今まで何人かの男子と付き合ってきた玲奈だが、いずれの相手とも手を繋ぐくらいにまでしか関係は進まなかった。

玲奈自信が、がっついてくる男子が苦手で、相手がキスやそれ以上の行為を求めてくると急に冷めてしまうらしい。

 

玲奈は愛斗に過去の恋愛話を愚痴ることが多かったため、愛斗はそのことを知っていてこの質問をしてみたのだ。

 

「……い、いいよ」

[……は?]

 

聞き間違いだろうか。

 

「だから、アンタとならエッチしてもいいって言ってんの!!」

[え、は!?なんで!?]

 

予想外過ぎる返事に、愛斗は動揺が隠せない。

 

「1ヶ月も裸を見られたんだから、エッチなんていまさらでしょ。体が戻ったら、アンタの童貞を貰ってあげてもいいけど」

 

愛斗の動揺っぷりを見て、玲奈は少し勝ち誇ったような表情をしながらからかう。

 

[処女のくせに、偉そうだなぁ]

「な……!!?アンタこそ童貞のくせにうるさい!」

 

愛斗からの強烈なカウンターパンチで、玲奈は顔が真っ赤だ。

 

[まぁ、責任なんか感じなくていいからさ。玲奈は好きな相手とちゃんと付き合いなよ]

「あ、私は……やっぱ、なんでもない」

 

何かを言いかけて黙ってしまった。

 

「いや!やっぱり言う!私は………アンタが、愛斗が好き!」

 

玲奈がそう叫んだ瞬間、辺りが突然眩しくなり視界が奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく見えるようになり、玲奈は目の前の光景に驚く。

 

 

「え、愛斗…?」

「あれ?玲奈?」

 

「もしかして、戻ったの!?」

「たぶんそうみたい!!」

 

「「やったー!!!」」

 

嬉しさのあまり、抱き合う2人。

 

「あ、そう言えば。元に戻る前、何か言ってなかった?」

「え……もしかして、聞こえてなかったの?」

「うん」

「じゃあ言わない」

 

そう言って少し悪そうな笑みを浮かべる玲奈。

 

「えー、ケチ」

「ケチで結構」

「性悪」

「なんとでも言いなさい」

「処女」

「な!?うるさい童貞!!」

「あははっ!それは怒るんだ」

 

真っ赤な顔で言い返す玲奈見てケタケタと笑う愛斗。

 

 

「それじゃあ、僕は家に帰るよ」

「うん。また明日ね」

 

 

 

 

「僕がいない間、のどかはちゃんとした生活が送れてたのかな……」

 

 

愛斗と玲奈がくっついていた期間は約1ヶ月。

つまり、その間はのどかが一人暮らしをしていたことになる。

家事が壊滅的にできないのどかを1ヶ月も一人暮らしさせていたのかと思うと……。

帰って家の惨状を見るのが少し怖くなった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

玄関の扉の前で深呼吸をして覚悟を決める。

 

ガチャリ

 

「ただいま……」

 

リビングへ行くと、のどかがポツリとソファーの上で膝を抱えながらテレビを見つめている。

 

「のどか、ただいま」

「え、愛斗……?」

 

愛斗が帰ってきたのが信じられないとでも言うような表情を浮かべるのどか。

 

「うん。僕だよ」

 

ここで、1つの疑問が愛斗の中で生じた。

 

(のどかの中で、僕は何が理由で1ヶ月も家を空けてたことになってるんだろう)

 

存在を確かめるように、ゆっくりと愛斗の方に近づいていくのどか。

 

「愛斗…、ほんとに愛斗なのね……」

 

そして愛斗の目の前まで来ると

 

 

 

バチィィン!

 

 

 

強烈なビンタが愛斗の頬に炸裂した。

 

「今までどこ行ってたのよ!!」

「え、ちょ、のどか!?」

 

「この1ヶ月、アタシがどれだけ心配したと思ってんの!?

なかなか帰ってこないと思って学校に電話したら、「そんな生徒はいません」って言われて、喧嘩中だったお母さんに聞いたら「麻衣ちゃんに弟なんていない」って………。

そんなはずないと思って、麻衣さんに聞いたら……………「妹のアタシ以外に弟妹はいない」って……!!」

 

「のどか……」

 

「アタシは信じたくなかった! だって愛斗がこの世界から急に消えるわけないじゃん!でも、誰に聞いても「桜島愛斗」は存在しないことになってた…。悪夢を見ているのかと思ったわ。でも全然覚めてくれないの……。何回寝ても、何回朝を迎えても愛斗は帰ってこない。

愛斗、アンタがいないと、アタシはダメなの!

アンタは……アンタは私の心の支えなのよ…。

だから、いなくなったりしないでよ………」

 

そう言って、力いっぱいに愛斗を抱きしめる。

 

「ごめん、ホントにごめん」

「謝ったって許さない………。でも、晩ご飯作ってくれたら許してあげる」

「分かったよ、ありがと。何が食べたい?」

「ハンバーグ」

「冷蔵庫に何か入ってる?」

「ううん、空っぽ」

「じゃあ買い出しに行こうか」

「うん」

 

 

 

買い出しから帰って、晩ご飯を食べた後、家の大掃除が始まったのはまた別の話…。

 

 

 

 




どうだったでしょうか!
僕は玲奈ちゃんと離れるのが個人的には、少し寂しいなぁと思ってます。

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