「今日はありがとうございました」
「いやいや、こっちのセリフだよ。君達のおかげでお客さんいっぱい来てくれたし、これバックね」
今日も無事ライブが終わった。
ここらの界隈ではだいぶ名が売れてきたおかげか、30人ぐらいのお客さんが毎回入ってくれている。
ありがたい限りだ。
「それじゃまたよろしくね。君達そろそろCD作ったら?レコーディングしたくなったら、ちょっとは安くするからぜひ言ってね」
「お!バンド内でもそろそろCD作りたいって話上がってるんでお願いすると思います、詳細が決まったら連絡しますね」
「オッケー、待ってるね~」
精算が無事終わり、外で待ってるメンバー達に合流する。
「精算終わりましたー。これバックです」
「お、今回もなかなか入ったみてぇだな。まぁ、俺は今は金に困ってねぇし俺の分はトシにやるよ」
「僕も、トシ君の生活費にしてよ」
「もちろん私のもね」
「……毎回すいません、ありがたいっす」
毎度の事ながらメンバーのみなさんには頭が上がらない。
バンド内で俺が唯一の学生で、みなさんは社会人という事もあるが、大人の余裕が眩しい。
「トシまた新しい機材買ったんでしょ?このバンドの曲はほとんどトシ君が作ってくれてるんだし、それくらいはね」
ギターの河口さん。
メンバー唯一の女性で紅一点的な位置だが、ショートカットで遠目に見たらただのイケメンである。
「そうだよ、僕達は仕事してるけど、トシ君は学生で一人暮らししてるんだもん。それくらいは大人に甘えてよ」
ベースの原さん。
眼鏡をかけた優しい雰囲気……というか普通に優しい人。
こう見えてライブになると荒れ狂う、演奏中にベースのヘッドが襲ってくることが多々ある。
「まぁ、俺達はライブができりゃ満足だからな。出世払いで大人になったら酒でも奢ってくれりゃいい」
ドラムのコリアスさん。
筋肉ムキムキのハーフ、生粋の日本育ちのため英語は喋れないらしい。
実はどこかの社長らしく、メンバー内で一番お金持ち。
「ありがとうございます……、そういえば川上さんがRecしないかって。少し安くしてくれるそうですよ」
「お!そいつはいいな!曲もそこそこあるし、ミニアルバムでも作るか」
「僕も賛成、今は仕事も忙しくないしちょうどいいね」
「私も同感、それじゃあどの曲録るか考えておこうか」
「了解です、曲と、いつ録るかですね。それじゃあそれぞれ入れたい曲と都合のいい日にちをメールしてください。まとめておきます」
「さっすがリーダー頼りになるぜ!」
リーダーって……、まぁこのバンドに誘ったのは俺だけども、このメンツの中でリーダーを名乗るのはハードモードだよ……。
「あ、あの!!!」
「ん?」
声をかけられた気がしたので振り返るとツインテールの女の子がいた。
「どうかした?」
「『invidia』のボーカルの方ですよね!!ライブが見てました!すごいカッコよかったです!!!」
「おぉ!見てくれてたの!ありがとね!みなさん、この子ライブ見ててくれたらしいですよ、カッコよかったって」
「おぉ!こんなちっちゃいのにハードコアにはまっちまうなんて、不良だなぁ!!!最高じゃねぇか!!」
コリアスさんが脇の下に手を入れ、そのまま持ち上げ回りだす。
場合によってはセクハラで訴えられる状況だが、女の子が小さいのと、ムキムキハーフだがイケメンなおかげで微笑ましい光景に見えなくもない。
まぁ、我々『invidia』は先程コリアスさんが言ったようにハードコアバンドなため、女の子のファンなんてめったにいないからコリアスさんも嬉しいのだろう。
「ほらコリアス、その子目回しちゃってるから下ろしてあげな」
「おぉ!そいつはわりぃことしちまったな、すまねぇな嬢ちゃん!」
「ううぅ……、だ、だいじょぶです……」
パッと見大丈夫じゃなさそうだけど、いい子やなぁ。
「うちのゴリラがごめんね。君みたいな若い女の子のファンは珍しいから、年も考えずにはしゃいじゃったみたいで」
「い、いえ、大丈夫です。あの、もしかしてギター弾かれてた……?」
「そうだよ、河口紀美、よろしくね」
「私、中野梓っていいます!!!私もギター弾いてて、それで、凄い上手だなって思って、フレーズもカッコよかったし……」
「ははは、ありがとね。でも、うちのバンドの曲を考えてるのはほとんどトシなんだよ」
「そうなんですか!?」
うわ、こっちに矛先が向いた。
こんなに目キラッキラされるとなかなかこっぱずかしいな。
「いや、ソロフレーズとかアレンジとかはみなさんに任せきりですし」
「いやいや、持ってくるdemoの段階であそこまで完成度高いとこっちも気合い入れなきゃいけないからね」
「でも、みなさん凄かったです!ギターはもちろん、ドラムはあんな早いブラストビートを簡単そうに叩いてましたし、ベースはソロのスラップにパフォーマンスに圧倒されちゃいました!」
中野ちゃんの力説にそれぞれ、いやいや、とか言いながらまんざらでもなさそうな顔をしてる。
まぁ、この人達普通にプロでやっててもおかしくないからな。
たまにスタジオミュージシャンとして誘われることがあるみたいだし。
「それに、ボーカル!私、あんなに歌が上手い人初めて見ました!それにデスボイスもすごい声量でしたし、ギターを弾きながらあれを歌うなんて……感動しました!」
「おぉ、あ、ありがとね。今Recするって話してて、そのうちCDができると思うから、よかったらまたライブ見に来てよ」
「本当ですか!?絶対行きます!!!……あ、すいませんお話中だったのに急に声をかけちゃって。……わ、わたし、また来ますから!がんばってください!!!」
そう言うと中野ちゃんは早足に帰ってしまった。
途中で我にかえって恥ずかしくなったらしい、顔が真っ赤だったなぁ。
「……行っちゃいましたね」
「いい子じゃねぇか、こりゃRecも全力でやらなきゃならねぇな」
「当たり前でしょ、手抜きなんてしたらトシに首にされちゃうよ」
「いや、そんなまさか……」
「それは困る、僕も家に帰って練習しようかな」
「原さんまで、あまりからかわないでくださいよ……」
「ははは、ごめんごめん。それじゃあそろそろ解散しようか、トシ君明日も学校あるでしょ?僕も仕事があるしね」
「おう!そんじゃ、俺も帰るとするか。今日も楽しかったぜ、じゃあな!」
「私も、いろいろ決まったらメールするから。さわ子によろしくトシ。じゃあね」
「お疲れ様でしたー。またよろしくお願いします」
こうして今日も無事ライブは成功でした。
平日は学校に行き、曲を作りながらたまにライブをする。
K-ON!の世界に転生した俺、山中斗心の日常は今のところこんな感じである。
さて、次はどんなバンドの曲をオマージュしようか。
今回のオススメバンドは envy です。
激情系ハードコアバンドで、私が激情系ハードコアにはまるきっかけになったバンドです。
アルペジオのセンスがはんぱないって。
ボーカルの動きが狂喜じみてるので、一見の価値あり。
オススメは、フジロックでのgo mad and markという曲の動画です。
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2話
マシンガンみたいな音出します。
バケモンです。
「お疲れ様でーす」
「お疲れー、トシ君学校もあるのに頑張るねぇ」
「欲しい機材は尽きないっすからねぇ……」
「さすが、今度CD作るんでしょ?俺も欲しいからライブ決まったら教えてよ」
「あざっす、了解です」
学校終わりのバイトはキチィぜ。
まぁ、楽器屋だから暇なとき試奏とかさせてもらってるから楽しいんだけどね。
曲作る時間も欲しいからなぁ……、新しい曲はCHONみたいなのにしようと考えている。
ハードコアの曲だけだとお客さんも限られちゃうし、どうせならいろんなジャンルを手広くやりたい。
テクニックは問題ない、今までもハードコアだけじゃなく聴かせる曲もやってきたし、メンバーみなさんオールマイティーにどのジャンルでもやれるようになった。
河口さんにクリーンのアルペジオを弾くように頼んだときは大変だった……、歪みがないと体が疼くらしい。
「トシ君!お客さん来てるから!バンドの事考えるの一旦ストップ!」
「あ、すいません。じゃあ、ちょっと行ってきますわ」
危ない危ない、過去に思いを馳せるところだった。
というか若干馳せてた。
お客さんは、……あれは高校生かな?
四人の女子高生がギターを見ている。
本来店員として、うちのブランドのギターをおすすめするべきなんだが……、ありゃもうGibsonに心奪われてるな。
「いらっしゃいませぇ、ギターをお探しですか?」
「え、あ、はい。私、ギター初心者でギターを探しに来たんですけど……」
「なるほど、……初心者の方でしたら安めのギターで練習をするというのも手ではりますね」
「……そうですよねぇ」
「ですが、長く使うというのであれば最初から高いギターを買うのも私はいいと思いますよ。見た目で選ぶという方も多いですから」
「そうですよね!!!」
おぉ、ショボンってしたと思ったらいきなり元気になった。
よっぽどこのギターが気に入ったんだな。
……しかし、25万するぞこれ。
さすがに高校生には高いと思うんだが。
ん?なんか四人で集まって相談始めたな。
「おい、唯。本当にそのギターにするのか?25万だぞ?」
「でもね、りっちゃん。店員さんも言ってるよ?見た目で選ぶ方もいますって!」
「そうだよね、初めての楽器なんだし、気に入ったヤツがいいよね」
「そうか、……こうなったら、やはり値切るしかないか!」
「あ!それじゃあ私が値切ってみてもいいですか?私、やってみたいです!」
「おぉ!行ってくれるかムギ隊員!」
「任せてくださいりっちゃん隊長!」
どうやら相談が終わったらしい。
値切りかぁ、……正直一バイトの俺にはそこまで権限はないんだけどなぁ。
「あのぉ、……値切ってもいいですか?」
「……少々お待ち下さい」
よく見たらこの子社長の娘さんっぽいし、社員さんに丸投げしよ。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「これくらいでいかがでしょうか?」
「5万円!?!?!?ムギ隊員、……お前いったい」
「実は、パパがここの社長なの」
どうやら後ろでは値切り交渉が捗ったらしい。
すいません社員さん、俺には社長令嬢を止めることはできなかったよ。
「……で、今教えたコードを順番に鳴らせばフレーズができますよ」
「えーと、これと、これと、これで……すごい!ギター弾けた!ねぇねぇ見て見てみんな!私ギター弾けるようになったよ!」
喜んでもらえたらしい、ずっと物欲しげに眺めていたので試奏をしてもらった。
GreenDayは簡単なパワーコードだけで弾けるから初心者にはやりやすいと思う。
「おぉ!やるな唯!」
「すごいわ唯ちゃん!」
「そのフレーズカッコいい、……なんの曲?」
「え、わかんない。店員さん、なんて曲ですか?」
「え、あーと、海外のバンドの曲ですよ」
ちなみにこの世界では、有名なプレイヤーやバンドはいるのだが、曲が若干変わっている。
著作権の関係かな?
前世の記憶で探してみたら微妙な違和感がありまくりで気持ち悪くなったのはいい思い出だ。
いや、よくはねぇか。
「それより唯、ムギにお礼言えよ~。なんとそのギター5万円で売ってくれるってよ」
「えぇ!?ほんと!?ムギちゃ~ん!!!ありがとぉ~!!!」
「うふふ、これで唯ちゃんも一緒にバンドできるわね」
おぉ、女子高生が抱き合ってる。
これはいい百合ですねぇ。
抱き合う前にギターを下ろしてくれと思わないでもないが、ほとんど購入決まったようなものなので野暮は言うまい。
こうしてまた新たなバンドマンの門出に立ち合えたのは嬉しいことである。
というか今原作始まったぐらいのとこだったんか……。
ーーー
ーー
ー
「お買い上げありがとうございました、またなにかギターのことで質問があるようでしたらいつでもいらしてください」
「はい!ありがとうございました!」
元気がよろしい。
あと後ろのカチューシャしてる子、頼むから社長の娘さん使ってドラムセット安く買うとか怖いこと言わないで。
いいぞ真面目そうな子、まとも枠っぽい、頼むからカチューシャの子を押さえといてくれ。
これ以上あれやられると経営難不可避だからね。
「「「「ありがとうございましたー」」」」
「またお越し下さい」
先輩がぐったりしている。
「どうしたんですか先輩?」
「……店長に怒られるかなぁ」
「……そんときゃ俺も一緒ですよ」
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「すいませーん」
「あぁ、いらっしゃいませ。本日はどんなご用ですか?」
「この前教えてもらったコードは弾けるようになったんですけど、他が全然わからなくて。……オススメの本とかありますか?」
「でしたら、こちらの猿でもわかるシリーズが個人的にはオススメですね。題名通りに初心者の方でも分かりやすいですし、簡単で有名な曲の楽譜も載っているので飽きずに練習できると思いますよ」
「じゃあそれを買います!」
まさかの即決。
ギター弾きたくて仕方ないんだろうなぁ。
わかる、わかるよ、my new gearって気持ち。
「うちでは楽器教室もやってますから、もし興味があったらぜひ。マンツーマンで教えてもらえますし、体験教室もありますから」
「楽器教室!いいなぁ!私も……」
突然なにかを思い出したように固まってしまった。
新たな顧客を確保したと思ったのだが。
「大丈夫ですか?」
「……テストが、あります」
「なるほど、……でしたらテストが終わったらまた言っていただければ、体験教室できるよう手配しますよ」
「本当ですか!?」
「はい、一応お名前をうかがってもよろしいですか?」
「平沢唯っていいます!」
「平沢唯さん、……はい、ありがとうございます。では、テストが終わりましたまたいらしてください」
「ありがとうござます!それじゃあまた来ますね!」
「お待ちしています、テスト頑張ってくださいね」
原作主人公は走って去って行った、さすが主人公だけあってエネルギーが違うな。
精神年齢40近くいってる内面おっさんとはレベルが違うぜ。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「……追試になってしまったので、まだテスト勉強が終わりません」
「……でしたら追試が終わった頃に体験教室することにしましょうか。……あの、追試頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
なんていうか、リビングデッドって感じだったなぁ。
今回のオススメバンドは、deringer escape plan です。
カオティックハードコアバンドです。
流血します。
ダイブなんてしません、観客の上を走ります。
ベースの原さんの動きのイメージはこのバンドです。
基本的にどのライブ動画でもイカれてます。
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3話
『ベース 原』で検索かけたら一番上に出てくる人で間違いないと思います。
「ちょっと聞いてよトシ~、私軽音部の顧問になっちゃったんだけど~」
「はいはい、よかったですね」
「よくないわよ!顧問っていろいろ大変なんだからね~、部活で休みもなくなるし~、いろいろ手続きもあるし~」
「はいはい、大変大変」
「ちょっと~、ちゃんと聞いてるの~?」
「はいはい、聞いてる聞いてる」
「聞いてない~」
酔っぱらいのダル絡みは犯罪だと思う、いやマジで。
どうやら姉さんが軽音部の顧問になったらしい。
正直やっとかと思わなくもないが、まぁアニメと違って生活してるから長く感じるのはしょうがないだろう。
「つーかわざわざ愚痴りに来たのかよ……明日も学校だろ?」
「いいじゃない姉弟なんだから、着替えも置いてあるんだし。それにあんたの家のが学校に近いしね」
「まぁ、別にいいけどよ。……俺これからRecしに行くから適当に寝といて」
「高校生のくせに夜遊びとはいい度胸ね、どんどんやれ」
「おいそれでいいのか教師」
「いいわよ別に、紀美もいるし、コリアスさんも原さんもいい人達だしね。あ~、私もまたバンドやりたいな~」
「やりゃいいじゃん」
「ダメよ~、これでも学校では優しくて美人な学校中の憧れさわ子先生なんだから」
「はいはい、ワロスワロス。そんじゃ行ってきます」
「あんた覚えてなさいよ~。……気をつけてね、行ってらっしゃい」
さてと、そんじゃ記念すべき発Recだし、気合い入れて行きますか。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「……すいません、今のところもう一回録っていいですか?若干音程が気になったんで」
「いいわよー、それじゃ2小節前からいくわね」
ーーー
ーー
ー
「クソ!すまん、気に入らねぇから今のところもっぺん頼む」
「はい~」
ーーー
ーー
ー
「すいません、ちょっとシールド外れてしまったんでもう一度お願いしますね」
「あの、原さん?Recだから別に動かなくても、……いや、なんでもないわ。それじゃいくわね」
ーーー
ーー
ー
「なんか今のところ変じゃなかった?」
「特に変には感じなかったけど……」
「いや、気になるからもう一回弾くわ」
「……オッケー」
ーーー
ーー
ー
「なんとか終わりましたね……」
「こうなるだろうとは思ってたけど、実際やってみると疲れるわね……」
現在深夜3時、8時頃から初めてRecに6時間、簡単なmix作業で1時間。
川上さんが死にかけてる、今度お礼になんか持ってこよう。
「いやぁ、久しぶりのRecは楽しいぜ!なかなかいい感じになったんじゃねぇか?」
「そうだね、これならみんな納得してくれるんじゃないかな」
「まぁもうちょっと詰めたい所もあったけど、これ以上やったらねぇ……」
川上さんが河口さんのセリフで一瞬ビクッてなった。
さすがに俺もこれ以上は勘弁して欲しい、明日の学校が厳しくなりそうだ。
しかし、5曲入りのミニアルバムをこの時間でできたのはメンバーのテクニックがあってこそだ。
「これなら次のライブの時には物販に並べられますね」
「CDのデザインはトシの持ってきたのでいいだろうし、俺のツテでプレスはしておく」
「さすが社長、頼りになる」
「ハッハッハ!任せておけ!」
正直本当に助かる。
業者に頼むにしてもやり取りが大変だから、それがないだけでもだいぶ楽になる。
さぁ、あとはライブでどれだけ捌けるかだ。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「よろしくお願いします!」
「はい、よろしくね。まずは自己紹介からしようか、俺は山中兎心。トシって呼ばれてる」
「トシさんですね!平沢唯っていいます!唯って呼んでください」
「唯ちゃんね、よろしく」
さて、今日は唯ちゃんの体験教室当日である。
まぁ、講師は俺なんですけどね。
バイトのはずなんだが、ライブを見に来てくれた店長が「you、ギター弾けるやん」って言ってそのまま講師になってしまった。
「ジーーー」
「えっと、なにかな?」
唯ちゃんがすごい見てくる。
「トシさんって、さわちゃん先生の弟さんですか?」
「あ、バレた?後で言ってビックリさせようと思ったんだけど」
「やっぱり!なんとなく似てるなぁーって」
「軽音部のことは姉さんから聞いてるよ、唯ちゃんのことも初心者なのに頑張ってるって」
「えーー、照れるなぁ~」
まぁ、但し書きで「あれで勉強も頑張ってくれれば」ってつくんだけどね。
「とりあえず時間ももったいないし、練習を始めようか」
「はい!」
「まずは手のストレッチから始めよう」
「ストレッチ?ギターは弾かないんですか?」
「ストレッチをしておくと指が動きやすくなるからね、練習の前にやっておくといいよ。こうやって指を順番に開いて、閉じてを繰り返していく」
「なるほど!よーし!……あれ、こ、この!む、難しぃ~」
「最初は誰でもそうだよ、ゆっくり順番にやっていこう」
ーーー
ーー
ー
「さて、それじゃあギターを弾こうと思うんだけど……、唯ちゃんチューナーは?」
「ちゅーなー?ってなんですか?」
「チューナーっていうのはギターの音程を合わせるのに使うやつなんだけど……、え、今までどうやってチューニングしてたの?」
「えっと、弾いてみて違うなぁって思ったら、こうやって……、はい!」
「……あー、絶対音感持ちか。おけ、大丈夫」
「ん?」
そういや絶対音感持ちって原作でも言ってたわ。
チートやなぁ、いいなぁ。
「とりあえず簡単なコードから弾いていこうか」
「はい!あ、この前の曲弾きたいです!」
「オッケー、あれはね……」
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「ありがとうございました!」
「いや、まさか1曲完璧に弾けるようになるとは……。初心者とは思えないね、唯ちゃん才能あるから頑張ってね」
「はい!頑張ります!」
原作主人公はさすがだったよ。
軽音部はみんな顔面偏差値も高いし、出るとこ出たらサイサイみたいに売れそうだよなぁ。
「……あのぉ、すいません」
「トシさん!お客さんだよ!」
「え、あぁ、ありがと。……君は」
そこには、この前ライブに来てくれていた女の子、中野梓ちゃんがいた。
あれ?俺ここでバイトしてるって言ったっけか?
「あの、この前ギターの河口さんに偶然お会いして、そしたら山中さんがこのお店でギター講師をしているとお聞きしたので、教えてもらいたいなと思って……」
「あー、河口さんか。うん、全然大丈夫だよ、ちょうど今唯ちゃんに体験教室してたとこだから」
「私平沢唯!よろしくね!あなたもギター弾くの?」
「あ、はい。中野梓と言います、よろしくお願いします。ギターはまだまだなので山中さんに教えていただこうと」
「じゃあ、あずにゃんだね!」
「あ、あずにゃん?」
唯ちゃんのコミュ力は見習うべきものがあるよね。
俺じゃあ初対面の人にはこんな絡みはできない。
「えー!?トシさんバンドもしてるの!?」
「え、あ、うん」
「山中さんのやってる『invidia』ってバンドは、この辺りじゃ知らない人はいないぐらい有名なバンドなんですよ!」
「えーいいなぁ、私も見てみたいなぁ」
「あー、よかったらCDもってく?サンプルで何枚かあるからあげるよ。はい、中野さんも」
「え、いいんですか!?」
「うん、今度レコ発ライブするからぜひ見に来てね」
「行きます!絶対行きます!」
「あ、ずるい!私も行く!」
お客さんが増えるのはいいことです。
どうやら二人は意気投合したらしく、連絡先を交換している。
今度のライブに一緒に来てくれるらしい。
「それじゃあ私は帰るね、トシさんもありがとね!私ギター教室やることにするよ!」
「毎度ありがとうございます、気をつけてね帰ってね」
「CDありがとねー!みんなにも聴かせてあげるから!あずにゃんもまたね!ライブ楽しみにしてるからー!」
元気やなぁ、あんなに走って転ばないといいけど。
「元気な人ですね……」
ですよね。
「それで、どうする?俺はこの後時間あるから、中野さんがよければ体験教室できるけど」
「いいんですか!?」
「いいよ、こちらとしてもお客さんが増えるのはありがたいからね」
「それじゃあぜひ!」
ありがてぇ、ギター講師は歩合制でお客さん増えれば増えるほどお賃金が上がるからなぁ。
……というか若干原作崩壊させた気がしなくもないけど、気のせいだよね?
今回のオススメバンドはCHONです。
今までのハードコアから一転して、インストバンドです。
ゲームミュージックみたいで聴きやすいと思います。
でもバカテクです。
作業中とかに聴くと捗ります。
でもバカテクです。
ライブ動画でCD音源ほぼそのまま弾きます。
バカテクです。
バカです。
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4話
上手くします。
異論は認めません。
ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!
「次で最後の曲だ!今日はありがとう!最後まで楽しんで行ってくれ!!!」
ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!
最前列でもみくちゃになりながら、周りに合わせてメロイックサインもどきを掲げる唯ちゃんの姿に笑いそうになってしまう。
唯ちゃん、それメロイックサインじゃなくてキツネや、babymetalじゃないんだから。
いや、「うぉぉぉぉ」じゃなくて。
まぁ、楽しんでくれてるようでなによりである。
河口さん、原さん、コリアスさんと視線を交わす。
次で最後の曲だ、ライブハウスのボルテージは最高潮、体力だけじゃ足りない、魂引きずり出していかないと。
「それじゃいこうか、……全力でかかってこいやぁっ!!!!!」
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「カッコよかったよトシさん!もうぐわぁぁぁってなってどしゃゃゃってなってごぉぉぉぉって!!!」
「はいはい、ありがとね唯ちゃん。最前列にいるの見えてたよ、怪我してない?」
「うん!すごい疲れたけど、すっごい楽しかった!!!」
楽しんでもらえてよかった。
こうして初めて見てくれた人が楽しんでくれるのはバンド冥利に尽きるというものだ。
この瞬間に、バンドをやっていてよかったと心底思う。
「みんなもすごかったって言ってたよ!ね!みんな!ね!」
唯ちゃんの視線の先には、前に唯ちゃんと一緒にギターを買いに来た女子高生3人がいた。
「あぁ、ギターを買ったときの。来てくれてありがとね、うるさかったでしょ」
「いえ、すごかったです。確かに激しかったけど、でも激しいだけじゃなくて綺麗なフレーズもあったし……。な、律!」
「うんうん!ドラムもすごい音量だったし!すごいカッコよかったです!」
「ありがとね、唯ちゃんに話は聞いてるけどみんなも楽器をやってるんだよね?メンバーの人と話してみる?勉強になると思うよ」
「本当ですか!?私田井中律っていいます!パートはドラムです!ほら、澪もベースの話聞きに行こうぜ」
「わ、私、秋山澪って言います。話は聞きたいけど、でも、ベースの人ちょっと怖そうだし……」
この子はちょっと人見知りかな?
……まぁ、人見知りじゃなくても原さんはパフォーマンスだけ見ると狂人のそれだからな。
「原さんはライブ中はあれだけど、普段はすごく優しい人だから大丈夫だよ」
「え、じゃ、じゃあ少しだけ……」
二人をそれぞれ原さんとコリアスさんに紹介する。
二人ともいい人だしすごいプレイヤーだから勉強になるだろう。
「えーと琴吹さんで合ってるかな?」
「はい、琴吹紬といいます。気軽にムギちゃんと呼んでください!トシさんですよね?ライブ、すごかったです!上手く言えないけど、とにかくすごかったです!」
「お、おぉ、ありがとうね。残念ながらうちのバンドにキーボードはいないけど、俺が打ち込みを作ってるから少しなら話もできるよ」
「打ち込み?……途中に入っていたキーボードの音ですか?」
「そ、ノートパソコンを繋いであらかじめ作っておいた音を流してるんだよ」
「そんなことができるんですか!?」
ーーー
ーー
ー
軽音部のみんなとの話も一段落ついた。
どうやら唯ちゃんが部室にCDを持っていき、みんなで聴いてくれたらしい。
そこで唯ちゃんがレコ発ライブに行くと自慢した結果、せっかくだから軽音部全員で見に行くという話になったそうだ。
ありがてぇ、マジで。
ちなみに、梓ちゃんは途中まで一緒にいたらしいのだが、人の波に飲み込まれてはぐれたらしい。
大丈夫だろうか?
「それじゃあ私達は帰るね!またねトシさん!」
「遅いから気をつけて帰ってね、みんなも今日は来てくれてありがとね」
さて、心配だから梓ちゃんを探すとするか。
ーーー
ーー
ー
「いたいた、大丈夫?これ、水だけどよかった」
「トシさん!?あ、ありがとうございます。すいません、挨拶に行こうと思ってたんですが……」
「いやいや、途中で人波に飲み込まれる梓ちゃんが見えたから心配だったんだよ。怪我してない?」
「はい、大丈夫です。少し疲れましたが、座っていたらだいぶよくなりました」
梓ちゃんは背が低いからステージを見るには前の方に行くしかないんだよね、……次やるときは女性と高齢者用の席でも作ろうかな。
せっかく来てくれてるのに見れないのは申し訳ないからなぁ。
「あの、すごいカッコよかったです!CDで聴いて楽しみにしてたんですけど、やっぱり生で見ると全然違くて……私感動しました!」
「よかった、バンド冥利に尽きるよ」
「新曲も全然違う雰囲気で、インスト曲をライブで聴いたのは初めてだったんですけど、みなさんすごい上手で。私もあんな風にバンドがしたくなりました!」
「梓ちゃんは軽音部とか入ってないんだっけ」
「はい、私の中学には軽音部がないので……」
「それじゃあ外で組むか……知り合いなら紹介できるけど」
「いえ、まだ技術が不安なので外で組むのは……」
「じゃあ高校生になったらかな、桜ヶ丘に行きたいんだっけ?」
「はい、唯さんに軽音部のみなさんに紹介してもらって。高校生になったらぜひ一緒にやらないかと」
「いいなぁ、同じ学校のメンバーでバンドかぁ。そういうの憧れるなぁ」
「みなさん優しい人達みたいなので、今から高校生活が楽しみです!」
「うん、曲ができたら言ってくれれば川上さんに紹介するし、なんなら対バンもしたいしね」
「本当ですか!?ぜひ対バンしてみたいです!!!」
俺は今高校三年だから梓ちゃんが高校生になったら大学生になってるだろうけど、楽器屋のバイトと講師は続ける気だからね。
……大学生になれるよね?なれるはず、たぶん、メイビー。
「もう遅い時間だけど、梓ちゃんは迎えとか来てくれるの?」
「いえ、さすがに両親に悪いので迎えは頼んでないです。駅から近いですし、大丈夫ですよ」
「いや、さすがにこの時間に一人で帰すのは怖いなぁ。……ちょっと待っててくれる?」
「はい、大丈夫ですけど。一人で帰れますよ?」
「いいからいいから」
ここで登場しますは、本日車で来ているはずの我が姉。
機材とか運ぶの手伝ってもらったからまだいるはず。
「いたいた、姉さん」
「トシ、いいライブだったわよ。なにか用?」
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま」
さすが我が姉わかってる。
「と、いうわけで姉さんが送っていってくれるから。遠慮せず足にして」
「いえ!さすがに悪いですよ!」
「なに言ってるのよ、教師としてこんな可愛い子を一人で帰すわけにはいかないわよ。お礼は今度会ったときに猫耳つけてくれればいいから」
「……猫耳?」
「たまに変なこと言うけど教師なのは本当だから、それに姉さんも昔はギター弾いてたから、ギターの話でもしながら乗せていってもらいなよ」
「……本当にいいんですか?」
「いいのいいの、ほら乗った乗った」
梓ちゃんは姉さんに車に押し込まれるとそのまま夜の闇に消えていった。
はたから見たらちょっとした拉致だったけど悪いことはしてないから許してもらえるだろ。
「おーい、トシー!そろそろ打ち上げ始めるぞー!!!早く来いよ!」
「はーい、今行きますー」
とりあえず、初レコ発ライブは大成功ということでいいでしょう。
……いいよね?
今回のオススメバンドは toe
日本のインストバンドで個人的に一番好きです。
ライブは狂ってます。
演奏中に何回かイッてます。
ドラムの人がリリーフランキーに似てます。
エソテリックという曲のライブ動画を初めて見たときに鳥肌が立ちました。
あとリリーフランキーだなと思いました。
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5話
にゃんにゃんしたいんだなぁ
人間だもの
みつを
「唯ちゃん達の教室はここかな?」
「パンフレットだとここですね、……すごいしゃがれ声が聞こえてくるんですけど」
「……あぁ、じゃあ間違いないわ」
今日は桜ヶ丘の学祭にお邪魔している。
唯ちゃんにお誘いを受け、梓ちゃんと一緒に唯ちゃんの教室を探してたのだが……。
「い゛ら゛っしゃーい゛、あ゛!ドジざん゛!あ゛ずに゛ゃん゛!」
「……うちのバカ姉がごめんねホントに、ホントに」
「い゛い゛んだよ!頼んだのは私だから!そ゛れより焼き゛そばどうだい゛!サービスす゛るよぉ!」
「それじゃあ2つお願いします」
「ま゛い゛どぉ!!!」
ギターボーカルの特訓と称して、姉さんが唯ちゃんを鍛えた結果、ご覧のように当日に喉を潰してしまったらしい。
マジでなにやってんだあの教師。
「は゛い゛!焼き゛そばお゛待ち!ラ゛イブも゛見て゛い゛って゛ねー!」
「ありがと、楽しみにしてるよ」
「私も唯さん達のライブ楽しみです!」
ーーー
ーー
ー
「お!お二人さんデートかい?お化け屋敷いかがですかー!」
「で、デートじゃないです!!!なに言ってるんですか律さん!!!」
さすがに高校三年が中学三年とデートしてたら捕まらないにしろよくないでしょう。
……真っ赤になって否定する梓ちゃんが見れたからグッジョブ律ちゃん。
「中でムギがお化け役やってるからよかったら見てってやってよ、梓ちゃんにはちょっと刺激が強いかもしれないけどね~」
「お!お化けなんか怖くないです!やってやるです!行きましょうトシさん!」
煽りスキルたけぇな律ちゃん。
てか煽り耐性低いな梓ちゃん。
ーーー
ーー
ー
「うらめしや~」
「お、ムギちゃん。お疲れ様、ライブ楽しみにしてるね」
「あら?トシさんに梓ちゃん、いらっしゃ~い」
「ムギさん、そんなお化けっぽい演技しながら挨拶しないでも」
「怖くなかったかしら?残念……」
ショボンとしてしまった。
「あれ、トシさんに梓ちゃんと……ムギ?」
あら、澪ちゃんどうしてお化け屋敷の中にいるんだ?
ーーー
ーー
ー
とりあえず固まっていても邪魔になるので、お化け屋敷を後にして軽音部の部室で話を聞いた。
どうやらライブ本番前の練習をしたくてメンバーを探していたが、みんなクラスが忙しく練習できないらしい。
わかる、本番前って緊張するよね。
「まぁ、あんまり緊張しすぎても演奏に支障がでるかもしれないからね。俺はライブ前には好きなバンドの曲とか聴いてリラックスするようにしてるよ」
「好きなバンド……」
「澪さんはどんなバンドが好きなんですか?」
梓ちゃんの質問に、澪ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらこちらをチラチラ見て。
「……最近はずっと『invidia』ばっかり聴いてる」
あら嬉しい。
「それは嬉しいなぁ、……でもリラックスできる感じじゃないね」
ハードコアだからなぁ、さすがになぁ。
……あ、そーだ。
「それじゃあせっかく3人もいるんだからセッションでもする?最近梓ちゃんと作ってる曲があるから、よかったら澪ちゃんがベース乗せてみてよ」
「あ!それいいですね!ぜひやりたいです!」
「えぇ!?私が!?そ、そんな、セッションなんてやったことないし……」
「大丈夫大丈夫、ある程度コードは考えてあるから。それに気が紛れてリラックスできると思うよ」
「……それじゃあ、ちょっとだけ」
よし、正直俺がやりたいだけだけど、一旦ライブのことを忘れてみるのも一つの手だと思うし。
前に『invidia』でやったインスト曲は紆余曲折あってtoeっぽくなっちゃったから、梓ちゃんとchonっぽいの作ってた所なんだよね。
「それじゃあまずは……」
ーーー
ーー
ー
「……とりあえず形にはなったかな?」
「やっぱりすごいです澪さん!初めてだったんですけど合わせたのにこんなにピッタリなんて!」
「原さんに教わった練習の成果かな、でもトシさんはもちろんだけど梓もそんな難しいフレーズが弾けるなんて。今から一緒にバンドをやるのが楽しみだよ」
楽しんでもらえたようでなによりだ。
時間も調度いいだろう、部室の外に気配がするし。
「こらぁーー!!澪ーー!!私達じゃなくてその二人とライブする気かぁ!カッコいいことしやがってぇ!私達も混ぜろー!!!」
「ずる゛い゛よ澪ち゛ゃん!!!私達と゛は遊びだったの゛!」
「綺麗な音楽だったわぁ、聞き入っちゃった……」
思いの外好評価で嬉しい。
……本格的にバンドでやってみるのもありだな。
「それじゃあメンバーもそろったみたいだし、俺達はおいとましようかな。ライブ楽しみにしてるよ」
「そうですね。せっかくですからライブでみなさんの演奏を聴きたいですし」
「え゛~二人と゛もも゛う行っち゛ゃうの゛~?」
「そうだそうだ!澪だけズルいぞー!」
「それじゃあまた今度機会があったらみんなでセッションしてみようか、今日はひとまずライブに集中しなきゃだからね」
機会があったら、便利な言葉だぜ。
とりあえず澪ちゃんの緊張をほぐすというミッションは達成されたのでおいとましよう。
ーーー
ーー
ー
講堂の中は人でいっぱいだった。
この人数の前でライブするとかうらやましいな。
ライブハウスはライブハウスのよさがあるけど、こういう広いステージも違った良さがある。
聴かせるインスト曲ならこっちの方が映えるかもしれないな。
「すごい人です……」
「学祭とはいえこの人数の前でライブするのは緊張しそうだね。リラックスしてるといいけど」
言ってるうちに軽音部達がステージに出揃った。
見た感じ緊張は……、してるなありゃ。
まぁ、演奏に支障が出るレベルではなさそうか。
横を見ると、梓ちゃんがキラキラした目でステージを見ている。
「梓ちゃんもこういう所でライブしたくなった?」
「はい、それにみなさんのバンド見るの初めてなので楽しみです!」
「そだね、ギターは唯ちゃんに聴かせてもらった……っていうか教えたから知ってるけど、ちゃんとした演奏は俺も初めて聴くから楽しみだ」
お、どうやら演奏が始まるらしい。
今回のオススメバンドはATTILAです。
ファック!ビッチ!サックマイコック!
基本的にこんな感じです。
悪いバンドです、以上。
pizzaという曲が最高です。
ファッキンパイナッポー!!!ヴォォォォォ!!!っいうブレイクダウンが最高にアホです。
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6話
異論は認めません。
シマパンが印象的だった学祭も終わり、そろそろクリスマスが近づいてきた。
演奏の後に感想を言いに行ったら澪ちゃんに逃げられた。
脱兎のごとく。
でも澪ちゃんの歌上手かったし、みんなも楽しそうに演奏していてよかったと伝えてもらった。
「トシさん!聴いてる?」
「あ、ごめん、ボーっとしてた」
「わかる~、私もよくボーっとしちゃって和ちゃんにしかられるんだ~」
「で、クリスマスの話だったっけ?」
「そうそう、うちでクリスマスパーティーするからトシさんもどうかなーって。あずにゃんも誘ってるんだ~」
「クリスマスパーティーねぇ、まぁ今年はライブの予定もないし暇だとは思うけど、でも俺が行ったら邪魔になるんじゃない?」
「そんなことないよぉ~!みんなもぜひ来て欲しいって言ってたし」
「ん~、だったらお邪魔しようかなぁ。姉さんは誘ってあるの?」
「あ!さわちゃん先生のこと忘れてた!誘わなきゃ!」
「たぶん今年もクリスマスは寂しいことになってるからぜひ誘ってあげてね」
毎年のように家で酒に溺れるからなあの人。
延々と愚痴を垂れ流す機械が横にある状態でのクリスマスとかマジ勘弁。
一ヶ月前に彼氏と別れたらしいから、うちに来たら絶対ウザイことになる。
「プレゼント交換するから用意しておいてね!……あ、あと一人一芸だよ!」
「プレゼントは暇なときに買っておくとして……、一芸かぁ」
「フフフ、楽しみにしてるからね!」
女子高生にウケる一芸とか難易度高いな。
ーーー
ーー
ー
「梓ちゃんはプレゼント決めた?」
「はい、なんとか決まりました!トシさんも決まりました?」
「うん、面白そうなものがあったからそれにするよ。ところで梓ちゃんは一芸なにするか考えてる?」
「あぁ、唯さんが言ってたヤツですか。あれ、澪さんに聞いてみたら嘘みたいですよ」
マジかよ、騙されてたわ。
やるな唯ちゃん、さすが原作主人公。
「……そうだったんだ」
「……信じてたんですね」
「ギター一本でできるインスト曲でも披露しようかと思ってたんだけどね……」
「ぜひやりましょう!みなさんに一芸するよに説得しておきます!せっかく練習しているのにやらないなんてもったいなすぎです!」
小さい握り拳を作り、目をキラキラさせてずいぶん前のめりに食いついてきた。
……こんな妹が欲しかったなぁ。
「じゃ、じゃあ練習しておこうかな」
「はい!楽しみです!」
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
ここが唯ちゃんの家か、立派な一軒家だなぁ。
チャイムを鳴らすと「はーい」と声が聞こえてくる。
「はーい、どちらさまで……。あ!もしかしてお姉ちゃんが言ってた、ギターの先生のトシさんですか?」
「はい、唯ちゃんのギター講師をしてる山中斗心です。君は唯ちゃんがいつも話してる妹さんかな?」
「はい!平沢憂です!お姉ちゃんがいつもお世話になってます、憂って呼んでください」
しっかりしたいい子や、唯ちゃんとはだいぶ違うタイプな子だなぁ。
「みなさんもう来てるのでどうぞあがってください。……あの、その荷物は?」
「あぁこれ?これはプレゼント交換の景品だよ、みんなには内緒にしておきたいから、玄関に置いといてもいいかな?」
「なるほど!はい!大丈夫ですよ」
選んだプレゼントが思ったより大きかったので運ぶのに台車を使った。
正直当たった子が持って帰るのめんどくさいとは思うけど、まぁ使えない物じゃないから勘弁して欲しい。
「ありがとう、じゃあお邪魔します。あ、よかったらこのお菓子食べて」
「わぁ!ありがとうございます!」
さすがに手ぶらは申し訳ないからね。
しかし、クリスマスを姉さん以外と過ごすのは久しぶりだなぁ。
高校にも友達はいるにはいるが、一緒にクリスマスを過ごすようなヤツはいないし。
バンドメンバーもコリアスさんと原さんは妻子持ちだから、クリスマスは家族優先ないいパパだからな。
あ、河口さんは彼氏がいないときは姉さんとうちに来て愚痴ってたわ。
「お邪魔します、お、みんなもう来てたんだ」
「あ!トシさん!いらっしゃ~い」
軽音部のメンバーと梓ちゃんはすでに到着していたらしい。
澪ちゃんが俺の顔を見て、顔を赤くしたあと居心地悪そうにしている。
……シマパンなんて忘れたよ、俺は大人だからね。
「……あれ?姉さんは?」
「さわちゃん先生はまだ来てないよ?トシさんと一緒じゃないの?」
「いや、別々に行くって話だったから。……まぁそのうち来ると思うよ」
マイペースな姉さんは放っておいてもいいと思う。
すねるかもしれないけど社会人なのに時間守れない自業自得というやつだ。
……あ、噂をすれば姉さんが忍び込んできた。
無駄にスニーキングうまいな。
「そっかぁ、……それじゃ和ちゃんも遅れるって言ってたし、先に始めよっか!」
「そうね」
「「「「……え!?」」」」
ちょっとした阿鼻叫喚になった。
しかもコスプレを強要しだしたし。
いや、唯ちゃんはノリノリだったからいいけど、澪ちゃんと梓ちゃんは本気で嫌がってるからダメだろ。
「はいストップ」
チョップ
「痛っ!?もう、なにすんのよトシ~」
「仮にも教師なんだから、男の前で女子高生にコスプレさせようとするなよ……」
「「トシさぁ~ん」」
澪ちゃんと梓ちゃんがメシアを見るような目でこちらを見ている。
姉さんを凶行を阻止している間に真鍋さんも到着したらしい。
「はじめまして、真鍋和といいます。トシさんですよね?唯がお世話になってます」
「こちらこそはじめまして、山中斗心です。真鍋さんのことも唯ちゃんから聞いてるよ」
「和で大丈夫ですよ。みんなも名前で呼んでいるみたいですし、私もトシさんとお呼びするので」
「じゃあ和ちゃんでいいかな?学校で姉さんが迷惑かけてるかもしれないけどごめんね?」
「ちょっとそれどういう意味よ~」
そのままの意味だよ。
「それじゃあみんなそろったし、さっそくプレゼント交換するかー!!!」
「「「「おーーー!!!」」」」
これが若さか!
ちなみに俺のプレゼントはでかすぎるので、引換券という形にしてある。
見た目一番ショボいけど気にしない、いいね?
「それじゃあプレゼント交換するわよー!!!」
こうしてプレゼント交換が始まった。
みんなでジングルベルを歌いながら手渡ししていき、歌が止まったところで持っているプレゼントを受け取るらしい。
……てか姉さんのプレゼント、一ヶ月前に別れた彼氏にあげるつもりだったやつじゃね?
張り切ってだいぶ早めに買ってるのを自慢された覚えがある。
使い回すなや。
「……ストップ!!!さぁ、プレゼントはなにかしらー!!!」
最終的に姉さんは律ちゃんのプレゼントになった。
姉さんが開けた瞬間、ビックリ箱が顔面にクリーンヒットした。
無言で律ちゃんにサムズアップする。
「……フフフ、アッハッハッハッハ!!!楽しいわぁーーー!!!たのすぃわぁーーー!!!メリィクリスマスゥーーー!メリィィクリィスマスゥゥゥゥ!!!」
ぶっ壊れた。
いつものことだから気にしないけどな。
俺がもらったプレゼントは姉さんのチョイスしたデスメタルバンドのCDだった。
前も思ったけど彼氏にあげるもんじゃねぇよな、聴くけど。
唯ちゃんが「これを彼氏にあげるつもりだったんですか?」と聞いて姉さんがまた騒ぎだした。
どんまい。
「私のプレゼントは……手紙?」
「それは俺のプレゼントだね、開けてみてよ」
「トシさんのですか!?開けてみます……引換券?」
「そ、ちょっと大きいやつだから邪魔になるかと思って玄関に置いてあるんだ。今持ってくるよ。」
玄関に置かせてもらっていたプレゼントを居間に持ってくる。
「うわ!?デケー!」
「なになに!?何が入ってるの?」
「あの!開けてもいいですか!?」
「いいよ~」
澪ちゃんが包装を丁寧に剥がしていく。
こういうところだよね、姉さんだったら問答無用で破り捨てるし。
少しは澪ちゃんとかムギちゃんとか和ちゃんに学んだ方がいいと思う。
「これは……ギターアンプ!?」
「惜しい、ギターアンプの形をした冷蔵庫だよ。前に懸賞で応募したら当たったやつなんだ。俺は使わないから、よかったら自分の部屋とか部室とかで使ってよ」
「え、こんな高そうなものいいんですか!?」
「うん、懸賞だからタダだったからね。ホコリ被らせとくのもったいないから」
「澪!それは我が軽音部の部室に置くことにしよう!そうすれば夏場でもムギのお菓子を冷たくしておける!」
「そうだねりっちゃん!ぜひ軽音部に置くべきだよ!」
「わかったわかった、……ありがとうございますトシさん、この冷蔵庫はみんなで大事に使いますね」
「うん、仲良く使ってくれたら嬉しいかな」
こうして無事?プレゼント交換は終わった。
和ちゃんの海苔の缶詰というチョイスは個人的に好きです。
「よーし!それじゃ一芸披露でもするか!」
ーーー
ーー
ー
憂ちゃんの腹話術がなかなかの完成度だった。
姉さんの紅葉は女捨ててる感じあるから他所ではやるなよ?
ムギちゃんのマンボウの真似は芸術点高かった、推せる。
あと澪ちゃんのミニスカサンタは破壊力あった、さすがに直視するのは憚られたので見ていないふりをしてこっそり見てました。
ごちそうさまです。
現在は梓ちゃんが持ってきたアコギでふわふわタイムの弾き語りをしている。
なかなかの完成度に軽音部が喜んでる。
「……どうだっでしょうか?」
「すごいよあずにゃん!さすがだよ!」
「あぁ、弾き語りにするといつもと違った感じで面白いな」
「こりゃ来年からボーカルは梓かな?」
「りっちゃん!?私はクビなの!?」
「ハハハ、冗談冗談」
みんなに誉められて照れてる梓ちゃん可愛い。
さて、次はいよいよ俺の番か。
「次はトシさんだよ~」
「はいはい、それじゃあちょっと準備するから待ってねー」
「ん?トシさん、そのちっちゃいアンプみたいなのなに~?」
「これはアンプだよ、ライブとかだと使えないけど部屋で弾く分には十分な音量は出るからね」
「可愛い~!いいなぁ、私も買おうかなぁ」
「可愛いって……でも一つ持ってると便利かもしれませんね」
確かに便利だし可愛い、見た目マーシャルそのまま小さくした感じだからインテリアとしても使えなくもない。
「あれ、そのギター7弦ですか?」
「本当だ!私のより一本多い!いいなぁ~」
「なに言ってるんですか唯さん、7弦ギターは弦が増える分ネックも広くて運指が大変だし、ミュートする弦も増えるから大変なんですよ」
「そうだな、それに放課後ティータイムじゃ7弦を使う曲はないし」
「そっかぁ~、7弦にしたらギータがもっとカッコよくなると思ったんだけどなぁ」
「6弦ギターは7弦にはできませんよ……」
「ところでトシさんはどんな一芸をするんですか?」
いい質問だ澪ちゃん。
「最近作ったインスト曲を披露しようかなって。……といっても普段『invidia』でやってるような激しいのじゃなくてリラックスできる曲だから安心していいよ。和ちゃんや憂ちゃんもいるからね」
さすがに慣れてない人にメタルみたいなギターを聴かせるほど鬼畜じゃない。
姉さんとか河口さんはやりかねないけど。
「……よし、それじゃあ準備できたからそろそろいくね。まだ仮だけど、タイトルは『bell』……
ーーーー
ーーー
ーー
ー
……とまぁこんな感じなんだけど、どうかな?」
……反応がない。
全員固まってしまっている。
あ、唯ちゃんが復活した。
「すごい!!!すごい綺麗だったよトシさん!!!」
「お、おぉ、ありがとう」
「……すごかったです!こんな綺麗な音色でタッピングまでしてほとんどミスもないなんて、さすがですトシさん!!!」
唯ちゃんと梓ちゃんに好評でよかった。
その後も続々と復活した軽音部メンバーが絶賛してくれた。
ちなみに律ちゃんは運指を見ていて酔ったのか、途中から目をつぶっていたの見えてたからな?
「……唯、あなた本当にすごい人にギター教わってるのね」
「でしょー!トシさんはすごいんだよ~」
「よかったら和ちゃんと憂ちゃんの感想も聴きたいな。この曲は普段ライブに来たことがない人でも楽しめないかなと思って作った曲だから」
ちなみに参考にしたのはichikaさんの『a bell is not a bell』という曲だ。
綺麗なインスト曲だから、ライブ慣れしてない人でも興味を持って欲しいと思って作ったからね。
「そうですね、……私はあまり音楽は聴かないので細かいことは言えないですけど、すごくいい曲でした。できればもっと聴いていたいと思えるような」
「私もです!お姉ちゃんのギターは聴いたことがあるけど、ギターってこんな音も出せるんだなって感動しました!」
「ならよかった、……もしかしたらそのうちライブとかCDも作るかもしれないから、その時はぜひ来て欲しいな」
「はい、ぜひ誘ってください」
「あ!ズルイ!私も私も!」
「私もです!」
掴みは上々みたいでよかった。
こういった普段音楽を聴かない人達がライブに興味を持ってくれると嬉しい限りだ。
それだけで今日来たかいがあった。
「トシさん!私にもさっきのピロロ~ってやるやつ教えて~!」
「唯さんにタッピングはまだ早いと思いますよ?」
「え~、あずにゃん厳しいよぉ~」
……まぁタッピング教えるのはいいんだけど、そうすると変な上達の仕方することになると思うよ?
前にスウィープ奏法だけ練習してた先輩がいたけど、スウィープはめちゃくちゃ上手いのにコードは一つも知らないっていう変人になってたからね。
……いや、どこで使うのそのスウィープ?
「あ、そういえばトシ、あんた軽音部でコーチしない?」
「「「「「「え?」」」」」」
いきなりなに言い出してんだこの姉は。
「私は一応顧問だけどギターしか教えられないじゃない?トシなら全部の楽器を一通り教えられるから調度いいかなぁ~って」
「いいよそれ!さわちゃんさすが!」
「たまにまともなこというよなぁ~」
「……りっちゃん、たまにってどういうことかしら?」
「げ!?いや、それは……」
体罰はあかんやろ体罰は。
「でも桜が丘って女子高だろ?さすがに男の俺が行くのは問題になるんじゃないか?」
「それなら大丈夫よ、もう校長先生から許可はもらってるから」
「は?」
「私の弟だって言ったら問題ないって、このさわ子先生を甘く見ないことね!」
「さわちゃん外面だけはいいからなぁ~」
「……だけってどういうことかしら?」
律ちゃんこりないなぁ。
「トシさん!コーチしてよ!トシさんがコーチだったら澪ちゃんもムギちゃんも嬉しいよね!!!」
「……確かに、練習といっても独学でやってきただけだから。……もしトシさんが迷惑じゃないなら、コーチしてくれたら嬉しい、かな」
「私もです、音の作り方だけでも教えてもらえたら嬉しいです」
マジか、いや、学校終わりにバイトない日なら全然行けるけどなぁ。
「……ん~、じゃあとりあえず仮コーチとして何回かやってみようか?軽音部はいいかもしれないけど、他の生徒達から苦情があったら不味いからね。女子高に年の近い男がいるのを嫌がる子もいるかもしれないからね」
俺の言葉に、若干不安そうにしていた和ちゃんがホッとするような表情を見せたので正解だったのだろう。
「ってことで大丈夫かな姉さん?」
「え?あ、うん、いいんじゃない?」
話聞いてなかっただろこいつ。
ーーー
ーー
ー
こうして、クリスマスパーティーは無事?終わり新曲のお披露目は成功、そして、桜ヶ丘での仮コーチをすることが決まった。
あと姉さんが、無礼すぎた罰として律ちゃんにミニスカサンタコスをさせていた。
しかも、可愛いからと前髪を下ろさせていたためメチャクチャ恥ずかしがってた。
澪ちゃんの時のように見ないフリをしようとしていたら、姉さんに罰にならないからとしっかり見ろと言われた。
感想を求められたので「前髪を下ろしているのも可愛いくて似合ってる」と伝えたら真っ赤になって隠れてしまった。
なにあの可愛い生き物。
今回はichikaさんを紹介します。
最近ではゲスの極み乙女のキノコっぽい人とインストバンドを組んで知名度が上がってきましたね。
ichikaさんはとにかくバカテクです。
バカです、わけわかんないです。
音の数が一人でギター弾いてるとは思えないような、なんかもうわけわかんないことになってます。
でも、メチャクチャカッコいいです。
ぜひ『a bell is a not bell』聴いてみてください。
京都に行きたくなります。
ちなみに途中に書いたスウィープ狂いは、実在している私の先輩です。
スウィープを教える代わりにコードを教えてと言われましたが、需要と供給って知ってる?
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7羽
俺の大学受験も無事終わり、近くの大学に進学することができた。
バンドサークルがあったので見学に行ったら『invidia』のファンという人がいて照れてしまった。
あまり活動には参加できないが、たまに顔を出す程度でいいからと入部することになった。
軽音部のコーチとしてはもう何度かお邪魔している、今は新歓に向けての練習中だ。
まぁ、梓ちゃんが無事合格したから一人は確定してるんだけどね。
どうせならもう一つバンド組めるぐらい人が集まるといいよね。
『invidia』の活動ももちろんしている。
音源も作成できたので、今はコンテストに応募しているところだ。
グランプリを取れれば、有名なフェスに出演することができるらしいので頑張りたい。
一次の音源審査は通ったので、次はネットでの一般投票、そして上位10バンドが実際にライブを行って、グランプリを決めるらしい。
正直メンツ的には残ってもおかしくないと思っているので、あとはジャンル的に一般受けするかといったところだ。
まぁ、なるようにしかならないと思うので、そこまで気にしてはいない。
ーーー
ーー
ー
「……なるほど、で、今のところ梓ちゃんしか捕まえられていないと」
大学の方がいろいろ落ちついたので、新歓ライブが近いという軽音部を見に来た。
なぜかキグルミで出迎えられた。
「ちなみになんでキグルミ着てるの?誰がどれ?」
「かわいいからだよ!」
「おっけー、唯ちゃんはわかった」
話が一番通じる澪ちゃんに事情を聞くと、姉さんが持ってきたらしい。
バカじゃねぇの?
ちなみに、二番目に話が通じるのは以外にも律ちゃん、根は真面目らしい。
唯ちゃんとムギちゃんはネジ飛んじゃってる時がたまにある。
「……すいませーん」
「お邪魔します……あれ、男の一人だ」
後ろから声がしたので振り向いてみると、そこには憂ちゃんと見知らぬ癖っ毛ツインテールの子がいた。
事情を聞いてみたところ、どうやらあまりにも人がいないことを心配した憂ちゃんが友達を連れてきたらしい。
友達は純ちゃんというらしく、ベース志望らしい。
できた妹だ、……というか憂ちゃんは入部しないのだろうか?
「よし!それじゃあコーチ!よろしくお願いします!」
「……ごめん聞いてなかった、もう一回お願い」
「えー?だからー、1年生にカッコいい演奏を見せてあげてくださいってー」
「いや、とりあえず放課後ティータイムの演奏見せてあげなよ」
「そうだよりっちゃん!私達、先輩なんだからね!!」
そりゃそうだ、あくまでコーチですからね。
まぁ、コーチの腕が心配だから弾いてみろって言われたら弾くけど。
せっかく1年生が入ってくれそうなら、先輩達のカッコいいところを見て決めて欲しい。
ーーー
ーー
ー
「……お姉ちゃんカッコいい!」
「……すごかったです!」
しっかり後輩の心を掴めたらしい。
純ちゃんは後半澪ちゃんに釘付けだった、澪ちゃん背高いし姿勢もいいからベースが映えるよね。
これなら純ちゃんも軽音部に入ってくれそうかな?
「……失礼します、……あれ、演奏終わっちゃいましたか?」
「あ、あずにゃん」
「はい、友達を連れてきたんですけど……」
「やるなあずさ!大丈夫大丈夫、これからトシさんが演奏してくれるから!」
なに言ってんだこの子、いやグッじゃなくて。
「本当ですか!?よかった!ほら、春香も聴くでしょ?」
「トシさんってあずさが教わってる人だよね?……じゃあ聴いてみようかな」
……気がついたときには、すでにやるしかない空気が出来上がっていた。
いつの間にやら唯ちゃんのギターを渡され、1年生は椅子に座り、2年生がその後ろに控えている。
もう にげられ ない。
「……はい、じゃあ弾きます」
ーーー
ーー
ー
「……とまぁ、こんな感じかな?」
7弦じゃないので、前回の『bell』は弾けなかった。
仕方ないので、みんなが知っているであろうプリンセスオブモノノケから、アシタカせっ記を弾いてみた。
反応は上々だ。
「さすがあずさの師匠……あの曲ってギター一本で弾けるんだ……」
「トシさんは普段はオリジナルバンドでギターボーカルしてるから、歌もすごく上手いんだよ」
あずさちゃんあんまりハードル上げないでお願い。
純ちゃんは大丈夫かな?固まってるけど。
「すごかったです、ね!……純ちゃん?」
「……決めた、私軽音部入る」
お気に召したらしい、よかったよかった。
(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)
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