地獄からの観戦者 (hina)
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フリーザ編
フリーザ編-Ep.01


初投稿の初執筆です。
とりあえず投稿してみました。
色々勉強不足や拙い部分があるかと思いますが、読んでくれたら嬉しいです。
やる気があるうちは描き続けます。


 ここは、地獄。

 生前罪を犯した者達が行き着く、最終地。

 ここでは生前に犯した罪を償う為に、さまざまな悪人や罪人達が存在している。

 

 そんな場所を1人の男が歩いていた。

 彼の名前はトーマ、かつてフリーザの命を受け仲間達と様々な星々を力で制圧したサイヤ人だ。

 

 彼は現在生前犯した罪を償うべく、地獄で多くの仲間達と罰を受けていた。

 彼自身としては、生前自分達が行ってきた事が罪とは思っちゃいないが、死者の魂への絶対の権力とあの世を司る力を持つ閻魔大王が下した判決故仕方なく罰を受けている。

 

 この地獄にはかつてフリーザに母星ごと滅ぼされた惑星ベジータの住民が少なからず存在している。

 サイヤ人は戦闘民族ゆえか、一部の例外や変わり者を除き生まれた時から凶暴で残忍かつ冷酷な性格な上、好戦的で本能的に戦闘そのものを好む者が多い。

 そんな民族だからか、戦闘力の強さや戦いの中に身を置くことを至上と考えているものが多く、弱者からの略奪や虐殺を行う事を厭わない者達も同様に多く存在した。

 

 そんなサイヤ人だが、今から25年ほど前までかつて自分達と手を組んでいた宇宙の帝王フリーザの命を受け様々な星を制圧していた。

 しかし、長年にわたり自分たちを奴隷のようにこき使うフリーザに対し疑念を持ち、サイヤ人による全宇宙の支配を目論むようになったベジータ王やサイヤ人達は次第にフリーザに反感を強め始めていった。

 

 どんどん強くなり団結していく事で力をつけ始めたサイヤ人達を危険視したフリーザは、サイヤ人の伝説に語られる「超サイヤ人」の出現を恐れた事もあり、ベジータ王子や一部の使えそうな者、他の惑星に送り込まれたごく一部の例外を除き、サイヤ人の抹殺を実行した。

 その内容はとても苛烈なもので、遠征に出ている力あるサイヤ人は幹部や部下達で任務後で力が低下している状態を見計らって確実にとどめを刺させる程の念の入りようだった。

 極め付けは惑星ベジータに何十何百のフリーザ軍兵士共々乗り込んで自軍の兵士達ごと、自らの手によってサイヤ人ごと消滅させてしまったのだ。

 

 いくらフリーザの命とはいえ、多くの星や罪もない人の命を奪った事に変わりはないし、自ら進んで残虐的な行為を行った者も少なからず存在した為、死後多くのサイヤ人は地獄行きとなった。

 中には天国行きの判決が出た者もいたが、仲間や大切な者と別れたくない為、自ら地獄へ行った者もいた。

 

 トーマもそんなフリーザのサイヤ人抹殺の手によって殺された1人だ。

 彼の場合は仲間達と遠征に出ている最中に、フリーザ軍の幹部ドドリアによって殺されてしまった。

 

 そんなこんなあった彼だが、目下の目的は自分たちを裏切ったフリーザへの復讐などではなく、同族の男を探し出す事だった。

 

 

 

■Side:トーマ

 

 

「セリパの野郎、なんでオレがあいつを探さなくちゃいけねぇんだ。オレより、ギネが探した方が見つかるんじゃねーか?」

 

 

 自身に面倒な役目を押し付け送り出した仲間に悪態を付きながら、その男をすぐ探し出せそうな1人の女を想像する。

 

 今探している男は下級戦士にしては破格の戦闘力と戦闘勘を持ち戦闘以外ほとんど興味を示す事はなかった、自身が記憶する限り表立って女に興味を示した事はないし、生まれてきた自身のガキの戦闘力を見て悪態を吐くほど冷酷な奴だ。

 そんな奴と正反対の存在と言っていい女、名前はギネ。

 

 サイヤ人のくせに戦闘への欲求がほぼなく、遠征にもほとんど出ずに惑星ベジータで働いていた。

 誰に対しても気さくに話しかけ、明るく人懐っこい性格な上、面倒見は良いし、なんだかんだで一本芯が通ったところがあるからか、戦闘力が低いヤツを見下す気質のサイヤ人でもあいつは見下されていなかったように思う。

 

 そんな性格が正反対同士の奴等がいつのまにか一緒にいる事が当たり前になり、気がついたら夫婦になってやがった。

 あの2人がどうやって出会ったのかオレは知らないし、興味もないがギネと出会った事であいつは間違いなく何かが変わったことだけは分かる。

 具体的に何が変わったのか?と聞かれると言葉にするのは難しいがな……。

 

 

「ったく、あの野郎本当にどこ行きやがった?毎度毎度サボりやがって……。こういう時にスカウターがないのは不便だぜ。まぁ、死んでる奴まで探せるかは疑問だがな」

 

 

 ギネと同族の男の事を考えながらしばらく歩いていると、いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が見えてきた。

 そして同時に探している男の後ろ姿を確認する事ができた。

 その男は巨大な水晶の前に仁王立ちして水晶を見上げていた。

 

 

「ようやく見つけたぞ、バーダック」

 

 

 探していた男に呼びかけてみるが、呼ばれた男は呼ばれた事に気がついていないのか、あるいは気づいているが無視しているのか分からないが、水晶を見上げたままだった。

 流石にカチンときたトーマはバーダックに近づき肩を掴み、もう一度声をかける。

 

 

「おい!聞いているのか、バーダック!」

 

 

 肩を掴まれ呼びかけられているにも関わらず、バーダックは水晶を見上げたままだった。

 流石に様子がおかしいと気づいたトーマは、自身もバーダックが見上げている水晶に目を向けると、絶句すると同時に何故バーダックが自身の呼びかけに応えないのかを理解した。

 

 

「ッ!?フッ、フリーザ……」

 

 

 自分でも無意識のうちにその存在の名前を口に出していた。

 そこには文字通り自身達を地獄に叩き落とした全サイヤ人の仇にして最悪の存在が映し出されていた。



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フリーザ編-Ep.02

とりあえず続き。


 1人のサイヤ人の話をしよう。

 そのサイヤ人の名はバーダック。

 

 かつて彼はフリーザの命を受け4人のサイヤ人、トーマ、セリパ、パンブーキン、トテッポと共に惑星カナッサを襲撃した。

 任務を終えるとバーダックは仲間たちと談笑していたが、その際にカナッサ星人の生き残りトオロの不意討ちを受け、バーダックは気絶してしまう。

 

 トオロの放った「幻の拳」はバーダックに予知能力を与え、彼が死に際に放った「未来の姿を見てせいぜい苦しむがいい」という言葉通り未来を垣間見る事になった。

 

 仲間たちに連れられ帰還した後、妻のギネに見守られながら治療カプセルで治療中、カカロットの鳴き声を起点に惑星ベジータの消滅と彼の成長した姿の予知夢を見て困惑するが、仲間達が自分を置いて先にミート星へ向かったことを知り、ギネの制止を振り切り医療施設を後にする。

 出発の前に息子のカカロットを見つけ、再び惑星ベジータが消滅する未来を垣間見るが、彼の戦闘力2という数字に苛立ちその場から立ち去った。

 

 ミート星へ降り立つとそこは既に廃墟となっており、更に仲間たちの変わり果てた姿を見つける。

 瀕死のトーマからフリーザの裏切りを聞いたバーダックは、彼の白のスカーフを血染めしハチマキとして頭に装着する。

 そして現れたフリーザ軍の兵士を次々と撃破するが、その途中にも成長したカカロットがナッパと戦う予知夢を見る。

 予知夢に邪魔されながらも兵士たち全員を倒すが、突如そこにドドリアが現れ、彼のエネルギー波で大ダメージを負う。

 

 何とか生き延びたバーダックは惑星ベジータに帰還すると、カカロットが送り込まれる惑星が予知夢で見た惑星と同じものだと同族のサイヤ人に告げられ、今まで見てきた夢が全て現実になることを悟った。

 バーダックはギネにもうすぐ惑星ベジータ共々サイヤ人がフリーザに滅ぼされる事を告げると、惑星ベジータが滅ぼされる前に急ぎカカロットを予知夢で見た地球へ送る事を決意した。

 しかし、家族への愛情が深いギネはバーダックからカカロットを他の星に飛ばすことを聞かされた際には語気を強めて反対し、ポッドの打ち上げ直前まで「みんなで逃げよう」と提案したが、仲間を皆殺しにされ、フリーザへの怒りに囚われたバーダックにはその提案を受け入れる事はどうしても出来なかった。

 そして、涙を流すギネと2人カカロットが旅立つのを見送った。

 カカロットを脱出させる際にギネも一緒に惑星ベジータから逃そうとするが、ギネがバーダックと一緒に戦う事を望んだのでギネを惑星ベジータから逃す事は出来なかった。

 

 その後、トーマの遺言通り同族にこの事実を知らせフリーザに反旗を翻そうと試みるが、他のサイヤ人達にその発言を笑い飛ばされ信じてもらえなかった為、味方はギネただ1人となってしまった。

 たがギネは元々戦闘力が高いわけではなく、サイヤ人にしては異例と言って良いほど戦闘欲求がない為、最近はほとんど惑星ベジータで仕事をしていた事もありほとんど実戦経験がなかった。

 そんなギネを連れて行っても無駄死にさせてしまう可能性が高いと考えたバーダックは、ギネを気絶させギネを守るためにも絶対に勝つ決意の元、単身で滅びゆく運命に逆らうことを決意する。

 

 フリーザの宇宙船に向かう途中、ナメック星にいた成長したカカロットの姿をまたしても予知夢で見るが、その悟空が突如フリーザの姿に変わり自身を殺害。

 予知夢から目覚めたバーダックはその運命を変えるべくフリーザの宇宙船へ向けて飛び立つ。そしてそこから出てきた何十何百のフリーザ軍兵士を蹴散らし、遂に姿を現したフリーザと対峙する。

 

 バーダックは運命を変えるべく渾身の巨大エネルギー弾を放つが、フリーザは専用のポットに鎮座したまま指先から更に巨大なエネルギーの球体を放ち、それはバーダックの気弾はおろか、バーダックや自軍の兵士達まで吞み込みながら惑星ベジータへ直撃。

 死の直前バーダックは、最後の予知夢でカカロットがフリーザと対峙する未来を予見すると笑みを浮かべ、カカロットの名前を叫び彼が自身やギネの意思を引き継ぎサイヤ人達の敵を討つ事を願いながら、ギネや残っていた多くのサイヤ人と母星である惑星ベジータと共に散っていった。

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 あの忌々しいフリーザの裏切りによる、サイヤ人抹殺というかオレ自身が死んでから25年ほど経つ。

 

 あの時ギネを生かす為、殺されたトーマ達仲間の仇を討つ為にも絶対勝つと心に決めてフリーザの野郎に挑んだが、結局指一本あいつに触れる事なくオレは殺された。

 

 閻魔宮で地獄行きを閻魔大王とかいう野郎に宣告された時は、自身の判決は当たり前だと受け入れたと同時に二度とギネに会えなくなってしまったと思った。

 あいつは、サイヤ人の中でも変わり者だった為か生前人を殺していないからだ。

 過去に戦闘員としてよその星に出向く事があったが結局持って生まれた性格ゆえか、人を殺す事が出来ずオレと交際しだしてからは戦闘員をやめてしまった。

 そんな優しいあいつが地獄へ送られるとはオレは欠片も考えていなかった。

 

 一言だけでも、あいつを最後の戦いに連れて行けなかった事、フリーザを倒せなかった事を詫びたかった。

 なんて、どうしようもねぇらしくもない事を考えていたが、オレの予想は大きく裏切られた。

 

 なんと、地獄へ行った時、彼女がギネが仲間達と共にいたのだ。

 

 地獄で再会したギネは目に涙を浮かべ無言でオレに強烈なビンタを一発喰らわせた後、オレを抱きしめ泣きだした。

 そして、一言「お疲れ様」と言ってくれた。

 オレもギネを抱きしめ伝えたかった事を伝える事が出来た。

 

 それからトーマをはじめとする仲間達とも再会できたし、地獄に来た同族達に酒場でフリーザの裏切りを信じなかった事への謝罪も受けた。

 

 そうしてオレ達サイヤ人の地獄での生活が始まった。

 

 

 地獄に来てからの日々は正直退屈で仕方がねぇ。

 閻魔大王の命令で、生前の罪ってやつを償う為に罰を与えられちゃいるが、別にオレが悪い事をした自覚もねぇからちょくちょく罰というなの地獄での仕事をさぼっている。

 

 今頃ギネや他の仲間達は作業をやってんだろうな。

 戻った時にギネに怒られるんだろうが、まぁそんときゃそん時だ。

 

 オレは最近行く事が日課となった場所へ足を進める。

 いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が見えてきた。

 この水晶はこの辺をよく見回っている鬼達に聞いた話によると、極たまに現世の映像を映すらしい……。

 らしい……というのは、オレも長い事ここにいるが一度もこの水晶に何かが写っているのを見た事がないからだ。

 まぁ、人間のオレと地獄の鬼であるあいつらの時間の感覚は違ぇだろうし、あいつらのたまにの感覚がそれこそ数百年や数千年単位って事もありうるのだ。

 

 そんないつ映るか映らないか分からない水晶に毎日足繁く通っているのには理由があった。

 

 

「現世の映像か……」

 

 

 つぶやきにも等しいその言葉は、ほぼ無意識と言って良いほどポロっと出てしまった言葉だった。

 生前バーダックが襲撃した惑星カナッサで与えられた未来を見る力はフリーザに殺されたと同時になくなってしまった。

 

 死ぬ間際に垣間見たあの予知夢は間違いなく成長したカカロットとフリーザの野郎だった。

 オレが死んだ年数から考えてもそろそろあの予知夢で見た時が近いはずだ。

 何より最近妙な胸騒ぎを感じ、気がついたらオレはここに無意識に足を運ぶ事が多くなった。

 かつて予知夢を使える事を経験したからか、戦士としての勘なのかは分からねぇがこの感覚には従っていた方が良い事は何となくわかる。

 

 予知夢で何度もボロボロになりながらも諦めず立ち上がり、どんな強敵にもワクワクした顔して立ち向かっていき最後には勝利を納めていたカカロット。

 その戦いそのものを楽しむ姿はある意味、どのサイヤ人よりもサイヤ人としての本能に忠実なようにも見えた。

 そんなあいつの成長の過程を見る事が出来たからか、戦闘力が2ってだけで苛立ち見限ったガキにこんな都合よく期待する自分に、我ながら都合がいいと呆れるが不思議とあいつなら宇宙の帝王フリーザすらどうにか出来てしまうのではないか?と割と本気で考えているあたりオレもギネの能天気がうつったのかもしれねぇ。

 

しかし、バーダックのそんな考えも虚しく、見上げていた水晶は今日も後ろの風景を歪めて映しているだけだった。

 

 

「今日も無駄足だったか」

 

 

 そんな事をため息と共に呟き、バーダックが帰ろうと後ろを振り向いたその瞬間だった。

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 後ろからノイズのような音が聞こえた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 振り返って見ると先ほどまで風景を歪めて写しているだけだった水晶が光り、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 

 

「こっ、これは!?」

 

 

 いきなりの展開に普段冷静なバーダックも流石に驚愕した。

 しばらくひどいノイズが走った水晶に釘付けになっていたいたが、徐々にノイズが収まり明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 緑色の空と緑色の海に包まれた星の荒野、そして激怒している自身を殺した憎い宿敵とその敵と向かい合っている2人の男と2人のガキ。

 

 そこにはあの予知夢を見てからバーダックが長年待ち望んでいた光景が確かに水晶に映し出されていた。

 しかし、その映し出された光景には決定的に欠けている存在いた……。

 そう、絶対に映し出されると信じて疑わなかった、自身やギネ、他の滅ぼされたサイヤ人の意思を引き継いだ息子の姿が……。

 

 

「な、なぜだ!?なぜお前が此処にいないんだ……カカロットよぉー!!!!!」

 

 

 自身が見た予知夢と似通っているが確かに違った光景を目の当たりにし、疑問や落胆、そして怒り等、様々な感情が綯い交ぜになったバーダックの心からの叫びは誰に聞かれることもなく、虚しく地獄に響き渡った。




ストックはもうない。
後はやる気次第。


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フリーザ編-Ep.03

3連休のおかげで続きが書けたのでとりあえず投稿します。
今回は捏造ばかりで、書いててメッチャ疲れました。
受け入れられない人もいるかもしれませんが、そん時はごめんなさい。

次回からが本編です。


 かつて惑星ベジータに1人変わった女のサイヤ人が存在した。

 その者は生れながら凶暴で残忍かつ冷酷な性格な上、好戦的で本能的に戦闘そのものを好む者が多い一族の中では正しく異端の存在だった。

 冷酷な本能を殆ど持たずに生まれた為、穏やかな性格で戦い自体に向いていなかったのだ。

 だが、持って生まれた性格や本人の在り方が幸いしたのか、一族の中で疎まれたり孤立するなんて事はなかった。

 

 その異端のサイヤ人の名はギネ。

 

 後に宇宙の帝王フリーザを下し宇宙一の超戦士へと至る孫悟空ことカカロットの母親だ。

 

 気に入らない存在であれば親でも殺す戦闘民族サイヤ人の血を引いているにも関わらず、家族や他者への愛情が深かった異端の存在ギネ。

 彼女が居たからこそ、後の孫悟空によるフリーザ撃破は可能になったと言っても過言ではないだろう。

 

 彼女の夫であるバーダックは下級戦士と位置付けされていながら、異例の戦闘力と戦闘センスを誇っていた。

 しかし、バーダックは戦い以外にはほとんど興味を示す事がなく、それは人間関係にも当てはまり他者へのコミュニケーション能力は壊滅的だった上、自分と同じチームになった人間が死のうが彼の心が動く事はなかった。

 

 だがそんなバーダックに転機が訪れた。

 たまたまギネと同じチームになり任務に当たった際、敵から放たれた攻撃が自分にも被害が及ぶのでついでに自身の近くに居たギネを護った事から彼女との縁が生れた。

 その後も元々戦闘に向いていないギネは任務中何度も危険な目に合い、その度にバーダックに救われた。

 戦闘ではまったく役に立たないギネなのだが、何故かバーダックも他のチームメイト達もギネを邪険にする事はなかった。

 それは彼女がいるだけで任務中常に付き纏う殺伐とした空気が和らぎ、自然と心地よい空気が形成されているのを無意識のうちに理解できていたからだろう。

 

 ギネとの付き合いは色々な面でバーダックを変えた。

 何度突き放してもギネは気にせず人懐っこい顔でバーダックに話しかけ、戦いを生業とするサイヤ人からしたら怪我なんて日常茶飯事で、治療カプセルを使えばすぐに回復するにも関わらず、怪我する度に涙を浮かべ本気で心配してくれた。

 そんな事はバーダックからしたら生れて初めての経験だった。

 そして、1人の女の行動の1つ1つに自分の心が揺れ動かされるなんて経験も同時に初めての事だった。

 

 最初の頃は自分の心が揺れ動かされる度に言いようのない苛立ちを覚えていたが、自身が彼女のことを1人の女として好意を抱いていると理解してからは、不器用ながらもバーダックの方からもギネとのコミュニケーションをとるようになっていった。

 そうして、さまざまなミッションを同じチームで共にこなすうちに2人はいつしか、恋人になり夫婦となっていった。

 

 夫婦になってからの2人の人生はまさしく順風満帆だった。

 

 ギネはバーダックと交際するようになってからは苦手だった戦闘を行う戦闘員をやめ、惑星ベジータの肉の配給所で働くようになった。

 バーダックはギネと共に過ごす内にかつては他者とのコミュニケーションが壊滅的だったが、優しさや人の心の暖かさを少なからず感じたり他者へ示す事が出来るようになった為、不器用ながらも他者とのコミュニケーションを確立する事が出来るようになった。

 そのおかげか、後に最高の仲間と呼べる4人と出会う事が出来た。

 

 そして何よりギネにとって幸せだったのは、2人の子宝に恵まれた事だろう。

 

 長男のラディッツは顔は父親そっくりだが、髪型は自分とそっくりな男の子。

 次男のカカロットは顔も髪型も父親そっくりな男の子。

 

 2人共バーダックの血を引いている割に戦闘力が低かったが、半分は自分の血を引いていた為きっと戦闘力に関しては自分の血を色濃く受け継いでしまったのだろうと息子達に対して心苦しく感じてしまった。

 しかし、自分は戦闘力が低くても不幸せと思った事はなかったし、才能をあげられなかった代わりに愛情だけはどのサイヤ人よりも子供達に注ぎバーダックと一緒に大切に育てていこうと心に決めていた。

 

 だが、そんな幸せな時間は長く続く事は無かった。

 

 カカロットが3歳を前にした頃、バーダックや仲間達がフリーザの命で惑星カナッサを襲撃した時の事だ。

 バーダックは襲撃した星の生き残りの妙な攻撃を受け、意識を失った状態で惑星ベジータへ帰還した。

 

 帰還したバーダックは一見大した怪我を負っていないようであったが、治療カプセルの中でうめき声を漏らし続けているのをギネはしっかり見ていた。

 だから、治療カプセルでの治療が終わった後もしばらく任務を休んで静養するべきだとバーダックに訴えたが、「じっとしているより体を動かした方が早く回復するんだ」とギネの制止を聞き流し、自分が治療中に仲間達が襲撃に向かったミート星へとバーダックは旅立っていった。

 

 次の日ギネの前に大ダメージを負ったバーダックが姿を見せ、バーダックはギネに惑星カナッサで与えられた「未来をみる力」とミート星で行われたフリーザの裏切りとサイヤ人抹殺計画について語った。

 それを黙って聞いていたギネはとても信じられる内容ではなかったが、それ以上にバーダックがこんなくだらない冗談を言う男でない事を誰よりも理解していたので、すんなり受け入れる事ができた。

 だが、その後に告げられたカカロットを他の星に飛ばす事だけは、いくらバーダックの言葉でもギネは受け入れる事が出来なかった。

 しかし、破滅への時間は刻一刻と迫っていた為ギネは、バーダックに「みんなで逃げよう」と訴えるが仲間を皆殺しにされ、フリーザを必ず倒すと心に決めたバーダックによって聞き入れてもらえなかった。

 このバーダックの選択は皮肉にも、ギネと出会った事で人を大切に想う心が宿ったからこそ生まれた選択でもあった。

 

 バーダックの決意を感じ取ったギネは涙ながらにカカロットを見送り、バーダックと共にフリーザに立ち向かう事を決意する。

 必ず2人で生き残って2人の子供を迎えに行き、かつて心に決めた息子達に誰よりも愛情を注ぎ大切に育てる為に、家族4人一緒に幸せに暮らす為に……。

 

 だが、そんな心優しい異端のサイヤ人の決意も虚しく、惑星ベジータは宇宙の帝王の前にあっけなくバーダックやギネ、他の多くのサイヤ人と共に宇宙のチリとなったのだった。

 たった1つの小さな希望を残して……。

 

 

■Side:ギネ

 

 

 あたし等サイヤ人がフリーザの奴に滅ぼされ地獄に来て、もう何年になるだろう……。

 

 あの時バーダックに言われたことを信じていなかった訳ではないが、告げたのがバーダックでなかったら到底信じられない内容だった。

 フリーザによるサイヤ人抹殺計画。

 あたしはバーダックと共になんとかその計画を阻止しようと、フリーザに挑もうと決意したが、バーダックによって気絶させられた為フリーザと戦うことが出来なかった。

 

 それどころか、自分が死んだ時も気絶していた為、気がついたらいきなり目の前に自分の何倍もあるスーツを来た赤い鬼がいたもんだから、ついうっかりエネルギー弾を放ってしまった。

 まさかその巨大な鬼が閻魔大王っていう死後の世界を管理している偉い人だなんて、いきなり分かるわけがない。

 あれに関しては完璧不可抗力なので、自己紹介をされた後は全力で謝って許してもらった。

 そんなドタバタした状態だった為、正直自分が死んだということを認識するまでには、実は結構時間が必要だった。

 

 あたし自身は本来、生前大きな罪を犯していない為天国に行けるはずだったらしいのだが、バーダックや他の仲間達や多くの同族が地獄に行くことになっていると聞いたので、あたしも地獄に送ってもらった。

 

 地獄では生前の罪を償う為に罰と言う名の仕事が与えられるので、なんと仕事をこなす為肉体を与えられるのだ。

 その為余計に自分が死んだという実感が湧いてこなかった。

 

 だが、あたしが地獄に来て程なくしてバーダックも地獄にやって来た。

 あいつの姿を見た瞬間、ラディッツやカカロットの事が急激に恋しくなり、もう二度と子供達に会えない現実に気がつき呆然とした。

 その時になって、ようやく私は自分が死んだ事を本当の意味で理解した。

 そして、自分に力がなかった為、最後のフリーザとの戦いをバーダック1人に押し付けてしまった事が本当に情けなかった。

 色々な感情が溢れてしまった私はバーダックの胸で涙が枯れ果てるまで泣いた。

 

 そうしてあたし達サイヤ人の地獄での生活が始まった。

 

 

 地獄に来てからの日々はあたしにとって、正直生きていた頃とあまり大差ない。

 バーダックや他のサイヤ人達は、生きていた頃の様に好き勝手に戦ったりする事が出来ないので、退屈で仕方がねぇ。

 とか言っているが、あたしは生きていた時も惑星ベジータの肉の配給所で働いていたので、仕事内容が変わった程度にしか感じていなかった。

 

 地獄に来た当初はサイヤ人がこんな事やってられるか!とか言って、閻魔大王を倒し地獄を制圧してやる!とか息巻いていた奴もいたが、流石に死者の魂への絶対の権力をもつ閻魔大王相手では勝負にならなかった。

 そもそも戦闘力云々の話ですらなく、死者は閻魔大王に逆らえないという、いわゆる理もしくは法則ってやつなんだろう。

 

 まぁ、そんな事があってからは大抵のサイヤ人が閻魔大王から与えられた仕事をこなす様になった。

 そして、あたしは今日もいつものように仕事に励んでいた。

 

 

「なぁ、ギネ。トーマのやつはまだ戻らないのかい?」

 

 

 後ろから苛立ちが篭った声をかけられたので振り向くと、あたしとは違う場所で作業をしていたセリパが不機嫌そうな顔で立っていた。

 丁度あたしが用事の為少し現場を離れている間、毎度毎度仕事をサボっているバーダックを連れてくる様にセリパがトーマを探しに行かせたらしい。

 

 

「いや、まだ戻っちゃいないね」

 

 

 あたしの返事を聞いたセリパはさらに不機嫌の度合いを深めた様だ。

 だがセリパの機嫌が最悪なのも少しは分かる気がする。

 トーマが出発してから既に1時間程時間が経過している為、探しに行けと言ったのがセリパだった為、トーマの分の仕事までする事になったからだ。

 

 

「へっ、どうせトーマのやつもバーダックと一緒でサボってんじゃねぇーのか?」

 

 

 あたし等の会話に加わったのはセリパと共にやって来た、パンブーキンとトテッポだ。

 ちなみに言葉を発したのがパンプーキンでトテッポは横で頷いている。

 2人の言葉を聞いたセリパは、今にも2人をぶっ殺しそうなほど鋭い眼光で睨みつける。

 

 

「もし、そうだったら。あたしのこの手で2度目の死ってやつをくれてやるよ」

 

 

 もし今トーマがここに戻って来たら、確実にセリパは問答無用でエネルギー弾をぶち込むくらいは簡単に想像がついた。

 

 

「あー、もう我慢できない。あたしはトーマを探しに行く」

「あ、ならあたしも着いていくよ。バーダックのいるところの心当たりがあるからさ」

 

 

 どうしても怒りが治らないのか、ついに元凶を探しに行くと言い出したセリパに同伴するギネ。

 

 

「おっ、面白そうなもんが見れそうだから、オレも着いていくぜ」

「オレもだ」

 

 

 そして、仲間の面白そうな姿が見れると確信して同伴を名乗り出る野次馬2人。

 4人はギネを先頭に空へと飛び出した。

 ギネはバーダックがどこにいるのか知らなかったが、何となくだが居場所に当てがあった。

 そして、そこに間違いなくバーダックは今いると言い様のない確信があった。

 

 しばらく飛び続けると、目的の場所が見えて来た。

 そこには、いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶があった。

 そして、その水晶の前に探していた2人の男の後ろ姿が確認できた。

 

 

「バー……ッ!?」

 

 ギネはバーダックに声をかけようと思い、彼の名前を叫ぼうとした。

 だが、その言葉は最後まで発する事が出来なかった。

 

 

「ギネ、いきなり止まってどうしたんだい?」

 

 

 急に飛行をやめ、宙に浮いているギネを共にやって来た3人は後ろから不思議そうに見つめていた。

 だが、呼びかけに応えないのでセリパがギネの顔を覗き込むと、ギネは全身を震わせながら、信じられないモノを見た様な驚愕の表情を浮かべていた。

 そして、震える指先を水晶に向け口を震わせながら最悪の存在の名前を口に出した。

 

 

「フ……フリー……ザ……」

 

 

 ギネの口から漏れ出たその名前を、セリパの耳は確かに拾った。

 驚き、急ぎ視線を水晶に向けると、ギネの言葉を証明する様に確かにあの最悪の存在が映し出されていた。

 その姿を見た瞬間、セリパはつい数秒前まで抱いていたトーマへの怒りなど彼方へすっ飛ばし、呆然としているギネの手を掴むと自分たちよりも前からこの映像を見ていたであろうバーダックとトーマの元へ全速力で飛んでいった。

 

 

「バーダック!トーマ!これは一体どういうことだい!?」

 

 

 無言で水晶を見上げている2人にセリパが声をかける。

 しかし反応が返って来たのは、2人のうち1人だけだった。

 

 

「セリパか。オレも詳しくは分からん。バーダックを探しに来たら、こうなっていやがった」

 

 

 水晶から目を離し、状況を説明してくれたのはトーマだ。

 だが、そのトーマも詳しい状況は分かっていない様で、簡単な説明をしたらすぐまた水晶に視線を戻した。

 

 ふと、ギネの手を掴んでいたあたしの右手から震えが伝わってくきた。

 震えの原因であるギネを見るとギネは水晶ではなく、無言でバーダックを見つめていた。

 その顔からは、あたしには分からない複雑な想いが篭っている様だった。

 ギネの視線の先のバーダックはギネとは対照的に、表情には何の感情も浮かべていないいつもとまったく同じもんだった。

 だが、その目だけはまるで戦闘時と同じくらい真剣な目をしていやがった。

 

 セリパが水晶に目を向けると、水晶には最悪の存在フリーザの他に、どこか自分たちを従えてた王に似た男とハゲの男、そしてサイヤ人とは違う緑色で触覚を生やした異星のガキ、最後に何処か知っているヤツを思い起こさせるガキの5人が映っていた。

 しかし、この水晶は普段こんな映像を映さない。

 だが、普段あり得ない光景が目の前に確かに存在している。

 

 

「いったい、何が起きてるっていうんだい……」

 

 

 このただ事ではない状況につい漏らしてしまったセリパだったが、その言葉は他の5人が心の中に抱いていたものと全く同じものだった。

 だが、その中でも2人、バーダックとギネは何が起こっているのか理解できていないながらも、この水晶から映し出している光景から目を逸らしたらいけないと心が訴えかけていた。

 

 そして、その心からの訴えは間違っていなかった。

 

 この日地獄にいるバーダック、ギネ、そしてその他のサイヤ人達は目撃することになる。

 

 惑星ベジータ消滅の日に残した小さな希望の光が、強き黄金色に光り輝き宇宙の帝王を下すその瞬間を……。

 




多分もうちょびっとなら頑張れる


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フリーザ編-Ep.04

今回は短い。ってか、3話が長すぎた。
感想くださった皆さん、感想ありがとうございます。
今回の話から、コミックスを片手に読むと面白いかも。


■Side:バーダック

 

 

 いつもの日課で訪れた水晶から映し出された光景を目にして、オレは自分が予想していた光景と違っていて柄にもなく取り乱しちまった。

 どうやらオレはテメーで思っていた以上に、カカロットに期待しちまっていたようだ。

 だから、水晶に映し出された光景が予知夢と違っていた事に想像以上のショックを受けちまった。

 

 だが、映ってねぇモンはしょうがねぇ。

 それにオレの中の何かが、訴えかけやがる……。

 カカロットは必ず現れると……。

 

 

 今、オレの目の前で、1人のサイヤ人がフリーザの野郎と戦っていやがる。

 こいつにそっくりなツラをオレは、いや、オレ達はよく知っている。

 そいつはかつて、オレ達サイヤ人の王として偉そうに踏ん反りがえっていた男だ。

 

 下級戦士のオレはツラを突き合わせた事は数えるくらいしかなかったが、あの偉そうなツラは覚えている。

 そして、目の前でフリーザと戦っている男はその男にとても良く似ていた。

 あのうっとおしいヒゲは無いが、それ以外はまさに瓜二つだ。

 

 恐らくは、あの男ベジータ王の息子のベジータ王子だろう。

 

 

「なぁ、あいつってベジータ王に似てないか?まさか、息子か?」

「じゃないかい?この前来たナッパやラディッツから王子は生きているって言ってたからね」

 

 

 どうやら周りのトーマやギネ達も状況は分かってはいないが、とりあえず落ち着いたのか、バーダックと同じ様に王子とフリーザの戦いを観戦していた。

 

 それにしても、王子のやつ明らかにサイヤ人の戦闘力のレベルを超えていやがる。

 オレは生きている頃からそこらのエリート戦士に負けているつもりはなかったが、こいつは明らかに昔フリーザに挑んでいた頃のオレより戦闘力が上だろう。

 

 その証拠にフリーザが付けていた、オレ等が生きていた頃よりはるかに性能が向上しているであろうスカウターが、あいつの戦闘力を測りきれずぶっ壊れやがった。

 それに何よりオレを一撃で沈めたフリーザの野郎相手に、ギリギリだがついていけてやがる。

 流石サイヤ人の王子ってか?やるじゃねぇか、王子の野郎!

 

 

「へー、王子のヤツかなりやるね。あのフリーザに何とか食い下がってるしさ」

「親父よりすでに強くなってんじゃねぇか?」

「だが、フリーザはまだまだ余力がありそうだな。このまますんなり行くとは思えんな」

 

 

 王子の戦いを見ていたセリパとパンブーキン、トーマの会話がバーダックにも聞こえていた。

 

 確かにな。この戦い間違いなくここから荒れるだろう。

 あのフリーザがそう簡単にやられるとは思えねぇ。

 

 だが、今の戦いを見ている限りじゃ、そこまで圧倒的な差がある様に見えねぇのも事実だ。

 この程度じゃ、他の2人が加われば間違いなくフリーザが不利だ。

 本当にこれがフリーザの実力なのか?

 

 バーダックがフリーザの実力に疑問を抱いたのとほぼ同じタイミングだった。

 戦い合っていたフリーザと王子が一旦距離をおいたのだ。

 そして、バーダックの抱いた疑問が間違っていなかった事を裏付けされる発言が飛び出したのは。

 

 

『変身しろフリーザ!』

 

 

 水晶から聞こえてきた王子の発言にオレ達は耳を疑った。

 いや、情けねぇ事だが信じたくなかっただけなのかもしれねぇ。

 

 

「へ、変身だと!?冗談だろ?」

「フリーザが変身するだなんて、聞いた事ないよ!?」

「王子のやつ何言ってやがんだ!?」

 

 

 どうやら仲間達もオレと同じ心境だった様だ。

 だが、そんなオレ達の思いはフリーザの言葉によってガラスのようにあっさりと砕け散った。

 

 

『いいだろう…………!!そこまで死にたいのなら見せてやる!!!』

 

 

 そこからのあいつの変化は正に劇的だった。

 戦闘服を吹っ飛ばしたかと思ったら、身体が震え上半身から急激に膨れ上がり小柄だったフリーザの身長が2mを超え体格も筋骨隆々になり、角も水牛のように伸び曲がった形状に変化していた。

 しかも、水晶ごしのオレですら変身前と変身後では明らかに発せられる威圧感のケタが増しているのが分かりやがる。

 

 

『へ……へへ…………気をつけろよ……。こうなってしまったら前ほどやさしくはないぞ……』

 

 

 変身したフリーザはんな事を言ってやがったが、この変身がハッタリじゃねぇ事は戦わなくても分かる。

 そんぐれぇ、別次元の存在になりやがった。

 

 だがオレ達もそして、戦っている王子達も知らない。

 この劇的な変化ですら、まだ地獄の入り口に片足を突っ込んだ程度だということに……。




ストックがちょい溜まったので、あと少しは投稿できそう。


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フリーザ編-Ep.05

お待たせして申し訳ない。
モチベーションはまだあるのですが、今結構忙しいのでなかなか執筆が進んでいません。

今回は結構長編ですので、そちらで勘弁願いたい。
今年中にあと2話くらいは投稿できればいいな。



■Side:トーマ

 

 

 バーダックを探しに来たら、まさかあのフリーザと王子が戦っている光景を目の当たりする事になるとはな……。

 しかも、最初の方は王子はフリーザとほぼ互角の戦いをしていやがった。

 

 だが王子のヤツがフリーザを挑発し、ヤツが変身してから全ての状況が一変しやがった。

 

 姿形だけじゃねぇ。発せられる威圧感から何から全て変わりやがった。

 だが、オレが一番背中に冷や汗が流れたのは、あいつから発せられる雰囲気が変身する前より更に冷酷に、そして残忍になった事だ。

 信じられねぇ。サイヤ人のこのオレが水晶越しなのに冷や汗が止まらねぇ。

 

 しかも、フリーザ本人の言葉を信じるなら戦闘力は100万以上は確実。

 

 こんなの……、どうしようもねぇ……。

 オレのそんな思いとは裏腹に水晶の中の戦いは続いた。

 

 

『ばっ!!!!』

 

 

 フリーザが片手を上げただけで、ヤツ等が戦っていた島は激しく砕け飛んだ。

 王子と他の3人は何とか難を逃れた様だ。

 

 

『さーて、どいつから地獄をみせてやろうか……きめた!!!』

 

 

 そう言って飛び出したフリーザのスピードはこれまでとケタ違いだった。

 

 

「なっ、なんてスピードだ!!」

 

 

 同じく戦いを見ていたパンブーキンが、あまりのスピードに驚愕の声を上げる。

 

 

 向かった先にはフリーザ軍の戦闘服を着たハゲだ。

 フリーザは水牛のように伸び曲がった角をハゲに突き刺し、流れ出た血を舌でペロリと一舐めした。

 

 ハゲはどうやら、一緒にいた異星のガキを守った事でスキができた様だ。

 情けないヤツだ。ガキを守ってテメーがやられてちゃ世話ねぇぜ……。

 

 

 フリーザが角で刺し貫いていたクリリンを放り飛ばすと、悟飯が放り飛ばされたクリリンを追う。

 その悟飯をフリーザは超スピードで追い越し、悟飯の前に躍り出る。

 

 

『あいつを助ける気か?ムダだすぐに死ぬ。それより自分の身を心配したらどうだ?』

 

 

 確かにフリーザの言う通りだ。あのハゲは助からねぇだろ。

 それにしても、なんだってあんな甘ちゃんのガキがフリーザに戦いを挑んでやがるんだ?明らかに場違いだ。

 そら見ろ。フリーザ相手に震えてるじゃねぇか。

 

 

 フリーザが目の前に現れた事で、震えている悟飯をトーマは恐怖で震えているのだと思った。

 だが、それは大きな勘違いだ。

 

 

『ど……どけ…………、どけーーーー!!!!!』

 

 

「な、何だあのガキは!?」

 

 

 ガキが叫び声を上げると同時に、あのフリーザ相手に蹴り、アッパー、ボディへの強烈な連打、そしてそれを上回る強烈な蹴りでフリーザを吹っ飛ばした。

 更に駄目押しとガキとは思えねぇほど強烈な連続エネルギー弾をフリーザ相手にブチかましやがった。

 

 

「し、信じられねぇ……、あのガキ、フリーザの野郎を吹っ飛ばし地面に這い蹲らせやがった……。一体何モンだ?」

 

 

 あまりの事態に、つい無意識に言葉にだしちまった。

 だが、驚いたのはオレだけじゃない様で、言葉に出していないだけでパンブーキンやトテッポも驚愕の表情を浮かべていやがる。

 あのバーダックですら目を見開いてやがる。

 

 だが、ギネやセリパの女達はオレ達とは違う事が気になった様だ。

 

 

「ねぇ、さっきから気になってたんだけど、あの子ってサイヤ人よね?」

「やっぱ、ギネもそう思うかい?あたしもさっきから思ってたんだよ。ってか、あのガキ何処かあんたに似てない?」

「えっ、そうかい?あたしは何処かバーダックに似てるなって、思ったんだけど……」

「いや、バーダックはあんな平和ボケしたツラしてないだろ。やっぱ、あんたに何処か似てるよ。まぁ、フリーザに攻撃を喰らわした時の戦いっぷりは確かにバーダックを思わせる部分がないこともないけど……」

 

 

 こんなすげぇ戦いの最中に何下らない事考えてやがるんだ。

 だが、確かにあのガキの今の戦いっぷりは何処かバーダックを思わる。本当にサイヤ人なのか?だとしたら誰の子だ?

 

 だが、そんなオレ達の疑問はあっさりと第三者の声によって解決した。

 

 

「あのガキが親父やオフクロに似ていても不思議ではない。あのガキは、カカロットの息子だ」

 

 

 バーダックとギネの第一の子、ラディッツによって。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

 あの子を見た時、何故だか他人の様な気がしなかった。

 戦いとは無縁そうな優しさを感じさせる顔。本当は戦いなんか好きではないんじゃないだろうか?

 

 だが、そんな気持ちを必死に押し殺してフリーザに立ち向かっている姿は、何故だかあたしにバーダックを思い起こさせた。

 きっと、あの子は何か大切なモノのために今あの戦場に立っているんだ。

 

 そんな子が信じられない事に、あのフリーザを吹っ飛ばし地面に這い蹲らせた。

 やはりあの子はサイヤ人の血を引いているのではないだろうか?

 

 あたしと同じ疑問をどうやらセリパも抱いた様だ。

 だが、セリパはあたしが抱いた印象とは違いあの子があたしに似ていると言った。

 その時、あたしの中で1つの可能性が頭によぎった。

 

 

 そして、その可能性が正しいものだと告げる存在が現れた。

 

 

「ラディッツ!それに、ナッパ!」

 

 

 いきなり現れた長男とナッパにギネは驚いた様な顔を向ける。

 

 

「時間が経っても戻ってこないから探しに来てみれば、随分面白いものを見ているではないか。オフクロよ」

「まったくだぜ。普段オレ達がサボろうとすると喧しく喚くくせに、こいつはどういう事だ?」

 

 

 視線を水晶に向けながら、ギネに言葉を発するラディッツとナッパ。

 だが、ギネが聞きたかった事はそんな事ではない。

 

 

「あの子がカカロットの子供だって!?それは本当かいラディッツ?」

「ん?あぁ、本当だ。前に会った時は今よりも更にガキだった。その上めそめそ泣き喚いている情けないヤツだったが、随分見違えた」

 

 

 やはり、あたしの考えは間違っちゃいなかった。

 本当にあの子はカカロットの子なんだ。

 あの子を見れば分かる。あの子は間違いなく大事に育てられた子だ。

 あんな子を育てられたって事は、カカロットは送られた星できっと幸せに暮らし成長したのだろう。

 

 こんな時だってのに、その事実があたしにはとても嬉しかった。

 本当はあたし自身がカカロットやラディッツを、幸せにしてやるつもりだった。

 だけど、それはフリーザのせいで叶わなかった。

 その後悔は死んで随分経つというのに、未だあたしの中で消えずに残り続けていた。

 

 現にラディッツはあたし達サイヤ人がフリーザに滅ぼされた事を知らぬまま、フリーザ軍の兵士としてその生涯を過ごした。

 そして任務遂行の為、人員補強を行おうとカカロットを地球に迎えに行き、仲間になることを拒否したカカロットとその仲間と戦って死んだ。

 親のあたしとしては大切な息子達が、お互い殺し合いをした事が本当に悲しかった。

 

 自分が抱いた感情がサイヤ人としては異質なものだという事は、ギネ自身重々理解していた。

 親兄弟でも気に入らなければ殺し合うのがサイヤ人。

 だが、それでもやはり大切な存在同士が殺し合いをして、実際に片方が命を落としてしまった事はギネにとってとても辛い事だった。

 

 

 自身の後悔を思い出し、気持ちが沈み始めていたギネの意識を呼び起こしたのはまたしてもラディッツの発した言葉だった。

 

 

「それにしても、あのガキ。やはり逆上して理性を失うと戦闘力が急激に上昇するのだな。その部分はあの時と変わっていないのか」

「あぁ、あのガキ、オレと戦った時も逆上して急激に戦闘力を高めて攻撃してきやがった。あの急激な戦闘力の上昇は混血だからできる事なのか?」

 

 

 先程の戦闘を見ていたのだろう。ラディッツとナッパは冷静に先程の悟飯の戦闘を分析していた。

 

 

「おい、ところでアイツは誰だ?」

 

 

 ナッパは水晶に映ったフリーザを指差しながら、あたしに問いかける。

 そうか、こいつらはフリーザが変身しところを見てなかったのだろう。だったら分かるわけもないか。

 

 

「フリーザのやつだよ」

「「フリーザだと!?」」

 

 

 あたしの発した言葉がよほど信じられなかったのだろう。

 2人は驚愕した表情を浮かべて、あたしの方を振り向いた。

 その気持ちはよく分かる。何せ変身する瞬間を見ていなかったら、あたしも信じられなかっただろうからね。

 

 

「あんたら2人の気持ちはよく分かるけど、本当だよ。あたし達はあいつが変身するところをしっかり見てたからね」

 

 

 どうやらあたしと全く同じ事を考えていたヤツがもう1人いたらしい。

 あたし達の会話に加わって来たのは、あたしの横にいたセリパだ。

 

 

「変身だと!?フリーザはオレ達と同じ変身タイプだったのか!?」

「あぁ、王子も変身前のフリーザとはほぼ互角だったんだけど、変身してからのあいつは全く別次元の強さになっちまったよ」

 

 

 フリーザが変身タイプだと知らなかったのか、2人は更に驚いた様だ。

 

 

「変身する前とはいえ、あのフリーザと互角に戦っていたとは流石はベジータという事か……」

「けっ!何がベジータだ!オレはアイツに殺された事、未だ許しちゃいねぇぞ!!」

 

 

 ラディッツがセリパの言葉を聞いて、冷静にベジータの戦闘力について分析すると、それを聞いたナッパはベジータに殺された事を思い出したのか怒りを露わにした。

 

 

「そんな事より見ろ、あのガキ今の攻撃でかなりの体力を消耗したみたいだな。」

 

 

 ラディッツが水晶を指さすと、息を切らせ肩を上下にした悟飯が映し出されていた。

 

 

「かなり息が上がってやがる。逆上して感情に任せて力を振るったせいだろうが、先ほどみたいにフリーザと戦うのは不可能だろうな。」

「凄い攻撃だったからね!流石のフリーザもダメージ受けたんじゃない?王子もいるし、倒せるんじゃないか!」

 

 

 ラディッツが今の悟飯の状況を分析すると、セリパは先程の攻撃を思い出し、このままべジータと共に挑めばフリーザを倒せるんじゃないかと予想する。

 だが、その楽観した予想に冷水をかぶせる存在がいた。

 

 

「そいつはどうだかな?」

 

 

 今までずっと黙っていたバーダックが言葉を発した事で、皆の視線がバーダックに集まるが、バーダックは顎を水晶に向けて一言。

 

 

「見な」

 

 

 全員の視線が水晶に集まると、悟飯に吹っ飛ばされて地面に這いつくばっていたフリーザが立ち上がっていた。

 しかも多少埃にまみれた程度で、ほとんどダメージは受けていない様だった。

 

 

「な、なんてヤツだい!?あの攻撃を受けて無傷なのか……」

 

 

 ギネは、あまりの事態に声を震わせる。

 

 

 起き上がったフリーザは先程までよりも更に放出されるパワーと威圧感を上げ、自分を吹っ飛ばした悟飯を見上げていた。

 そして、ゆっくりと浮き上がり悟飯の目の前まで上昇する。

 フリーザから発せられる威圧感が増した事と先程の攻撃が全く効いていなかった事等、さまざまな要因のせいで悟飯は恐怖のあまり震える事しか出来なかった。

 悟飯の前に現れたフリーザは、腕を一閃するだけで悟飯を吹っ飛ばし地面に激突させた。

 

 

『この程度で終わるんじゃないぞ。お楽しみはこれからなんだからな』

 

 

 余程悟飯の攻撃が頭にきたのか、吹っ飛ばした悟飯に向けて追撃しようとするフリーザだったが、それを隙と捉え攻撃する存在がその場にはいた。

 

 

『はーーーーーーーーーーっ!!!!!』

 

 

 べジータだ。フリーザの背後から超特大のエネルギー破を放った。

 放たれたエネルギー波はフリーザの背中に轟音を響かせて直撃した。

 

 

「やったぜ!あれなら、流石のフリーザでもただじゃすまねぇ!!」

 

 

 今の攻撃を見ていたパンブーキンは、あまりの破壊力にフリーザのダメージを確信する。それはこの場にいるほとんどのサイヤ人達も同じだった。

 そして、それは攻撃を放ったベジータも同じだった様で、高笑いを上げていた。

 しかし、その高笑いもすぐに止まることになった。

 

 

「うっ……、嘘だろ……?」

 

 

 何故なら、爆煙が開けたフリーザは超特大のエネルギー波を受けたのにも関わらずほぼ無傷だったからだ。

 

 

『そうあわてるなよベジータ……あのチビの後でタップリ遊んでやるって!』

 

 

 そう告げられた、ベジータは水晶越しで戦いを見ている地獄のサイヤ人達から見ても顔面蒼白だった。

 その表情だけでも、ベジータの心が既に折れているのが分かった。

 

 だが、それをバカにできるサイヤ人はここにはいなかった。

 何故なら彼らはだてに戦闘民族ではない。戦いを生業として生きて来た者達だからこそ理解できた……。

 今のベジータが自分達よりも、遥かに高い戦闘力を持ち強い事が……。

 

 そのベジータの全力の攻撃をまともに受けても、ほぼ無傷のフリーザ。

 この事実はこの場にいるサイヤ人達にとっても、とてつもない衝撃だった。

 

 そのフリーザは、地面に倒れた悟飯の前に悠々と降り立つ。

 

 

『さて……と……、どう料理してほしいのかな?』

 

 

 そうフリーザが言うと、カカロットの息子は苦悶の表情で立ち上がったと思うと、即構えをとりあのフリーザに立ち向かっていった。

 だけど、カカロットの息子の攻撃はフリーザに掠りもせず、余裕で避けていたフリーザにあっさりと反撃されてしまった。

 しかもフリーザの攻撃が相当重いのか、一撃攻撃を受けるたびに苦痛の叫びを上げている。

 それでも、カカロットの息子は諦めずにフリーザに挑み続ける。

 

 

「凄い……」

 

 

 あたしは、戦いがあまり好きではない。

 それでも、絶対に勝てない相手に何度攻撃されても立ち向かっていく、カカロットの息子の姿はとても尊いものに思えた。

 

 

「が、がんばれ……、頑張れ!カカロットの息子!!!」

 

 

 気づいたらあたしは両手を握りししめて叫んでいた。

 どう頑張ってもフリーザに勝てるとは思えない。それでも……、それでもあたしはこの子には負けて欲しくない。

 そんな気持ちで頭がいっぱいだった!

 

 だけど、現実はいつだって非情だ。

 ついにカカロットの息子は、フリーザに地面に叩きつけられ、2mを越える巨体から頭を踏みつけられて苦痛の叫び声を上げている。

 

 

『う……ぎぁああああ…………!!!!!』

 

 

 水晶越しのあたしにでさえ、カカロットの息子の頭がメキメキいって潰されるのが時間の問題だと言うのがわかる。

 そして、それは踏みつけている本人であるフリーザには、あたしなんかより明確に後どれくらいの力を込めればカカロットの息子を殺せるのか理解できているのだろう。

 

 

『ここまでだな。死ね!』

 

 

 そう言って、踏みつける足により力を込めるフリーザ。

 それに比例するように悟飯の悲鳴もより激しいものへと変化した。

 そんな悟飯を楽しそうに見ていたフリーザだったが、ふと思い出した。

 この場にはもう1人、自分に逆らった愚か者がいた事を。

 

 

『どうしたベジータ!!助けにこんのか!?こいつはもうすぐ息の根をとめるぞ!』

 

 

 明らかな挑発だった。

 そんな事はベジータも見ていたサイヤ人達にも理解できた。

 普段のベジータなら挑発なんかされたらブチ切れて、あっという間に飛び出していただろう。

 

 だが、今のフリーザ相手に攻め込む程ベジータは愚かではなかった。

 何故なら、想像をはるかに超えるパワーをもつフリーザにどう対処して良いのか分からなかったからだ。

 そして、それは地獄にいたサイヤ人達も同じだった。

 たった1人を除いて……。

 

 

「王子!何やってんだい!さっさとカカロットの息子を助けな!」

 

 

 大声を張り上げたのはギネだった。

 別に状況が理解出来ていないわけではない。それでも、家族への愛情が深い彼女は、これ以上自分の孫がやられる姿を見るのが我慢できなかったのだ。

 

 

「無茶を言うな、オフクロよ。今のフリーザに無策で突っ込むなんて自殺行為だ」

「そうだぜ。それに、あのベジータが使えなくなったヤツの為になんか動くかよ!」

 

 

 ギネの言葉に反応したのは、彼女より冷静な分、状況を見てもっともな事を言うラディッツと実際使えなくなったと言う理由でベジータに殺されたナッパだった。

 だが、それでも彼女は止まらない。

 

 

「あんた達こそ何言ってんだい!さっきまでのあの子の戦いっぷりを見てただろう!今、ここであの子を失えばフリーザに勝てる確率はもっと低くなるんだよ」

「そいつはどうだかな。確かにあのガキの戦闘力は大したもんだ。だが、あのガキを助けて王子と2人で挑んだとしても、フリーザには勝てんだろう」

 

 

 2人の言葉に納得できないギネは、悟飯の有用性を主張するが、その言葉は今度はトーマによって否定され現実を突きつけられる。

 

 

「なら、今カカロットの息子を助けても死ぬのが少し伸びる程度ってことかい?」

「だろうな。確かに、王子もあのガキもサイヤ人の戦闘力のレベルを大きく超えている。だが、そんなあいつらをも遥かに上回るのが今のフリーザだ。はっきり言って、勝ち目なんてない!」

 

 

 トーマの言葉を聞いた、ギネはついにうなだれてしまった。

 本当は彼女にも分かっているのだ。この状況がもう既に詰んでしまっているなんて事には。

 それでも、何とかなるって信じたかったのだ。

 

 ふと、ずっと黙っているバーダックが気になって視線を向けるとバーダックは表情一つ変えないで、腕を組んで水晶を見つめていた。

 だが、ギネは見逃さなかった。

 組んでいる腕にバーダックの指が深々くめり込んでいる事を。

 

 

 そうだよね……。あんたもあたしと同じで悔しいんだね……、バーダック。

 あんたはいつもそうだ。顔には出さないけど、大事なヤツがやられた時はいつも心の中でアツく怒りに燃えていた。

 今だって、本当はカカロットの息子の所に行って一緒に戦ってやりたいんだね。

 

 

 ギネがそんな事を考えていた時、バーダックやギネの悔しさ等お構いなしに、ついに水晶の中のフリーザによって絶望の時が来た事を告げられるのだった。



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フリーザ編-Ep.06

今回はラディッツさんについて書いてみました。
それにしても、ドラゴンボールの映画めっちゃ面白かった!
あの作品見たら、このシリーズとは別に新しいシリーズ書きたくなった!


■Side:ラディッツ

 

 何の偶然からか、オレとナッパはオフクロ達を探しに来たら、いつも何も映さないはずの水晶に、これまた何故そんな事になったのか経緯等は不明だが、どこかの星でフリーザと戦っているベジータやカカロットの息子の姿を目にする事になった。

 フリーザが変身する種族だった事にも大いに驚いたが、それ以上にオレを驚かせたのはカカロットの息子の成長っぷりだろう。

 オレが地球に行った時、カカロットに言う事を聞かせる為、あのガキを攫ったがその時はメソメソ泣いてばかりで戦闘民族サイヤ人の素質をカケラも感じさせなかった。

 

 だが、そんなガキが今オレの目の前であのフリーザと戦っていやがる。

 しかも、明らかに前に地球で戦ったカカロットよりも強くなっている。

 それだけじゃない、オレはフリーザ軍で多くの戦士達を見てきた。

 そいつ等と比較しても、明らかにこのガキの方が強い事が見てとれた。

 

 認めるのは癪だが、このオレより明らかに戦闘力は上だろう……。

 たった1年程だと言うのに、何と言う進歩だ……。

 

 だが、そんなカカロットの息子でもあのフリーザ相手では手も足も出ないのが現状だ。

 スピード、パワー共に大したモンだが、それを悉くフリーザは上回っている。

 フリーザからしたら、カカロットの息子との闘いはただの戯れでしかないのだろう。

 

 

 ラディッツが悟飯とフリーザの戦闘力の差を分析した通り、水晶の中の悟飯はすでにフリーザにボロボロにやられ、ついてに頭を足で踏みつけられ今にも殺される寸前だった。

 

 

 あの状態はマズイ、あと少しフリーザが力を加えるだけで、カカロットの息子は頭を潰され間違いなく即死だ。

 このまま、フリーザが飽きるまでいたぶって、それで終わりだ。もはや時間の問題と言っていいだろう。

 

 

 そして、その考えは正しかった。

 散々悟飯をいたぶったフリーザだったが、ついに終わりの時がきた事をフリーザの口から告げられた。

 

 

『フィニッシュだ!!』

 

 

 カカロットの息子の頭を踏みつけていた、フリーザがついにカカロットの息子の頭を踏み潰し殺そうと、より足に力を込めようとしていた。

 その時、オレの視線の端で必死に水晶に向け、震える手を伸ばす女の姿を捉えた。

 視線を横に向けると、そこにはオフクロが震えながら絶望した顔で水晶に叫んでいた。

 

 

「やっ、やめて!!!」

 

 

 どうにも出来ないことは、母にも理解できているだろう。

 オレには理解出来ない事だが、サイヤ人にしては異例と言ってもいいこの母には孫と呼べる存在の命が奪われるのは、我慢できないのだろう。

 

 

 ギネの姿を見て瞬時にギネの内心を予想したラディッツは、ふと自身が子供の頃を思い出した。

 

 

 まだ自分が幼かった頃、この母はたくさん自分に笑いかけて抱きしめてくれた。

 良い事をすれば褒めてくれたし、悪い事をすれば本気で怒ってくれた。

 言葉にするのは難しいのだが、何というか母といる時はいつも暖かかった。

 

 他所の親子関係の事なんて当時は気にしたこともなかったが、どことなくうちと他所の家は違う事は子供ながら理解できていた。

 それを本格的に自覚したのは、果たしていつの時だっただろうか?

 自分が母に甘やかされて育ってきたのをハッキリ認識したのは……。

 

 惑星ベジータが消滅して親父とオフクロが死に、残ったサイヤ人はオレとベジータ、ナッパの3人だけだった。

 親父とオフクロが死んだ時、オレは面にこそ出さなかったものの内心では本気で悲しかった……と思う。

 

 当時まだ8歳くらいだったオレは、惑星ベジータで戦闘技術を学ぶ為、同世代のやつらと戦闘訓練を積んでいた。

 だが、たまたまベジータやナッパと共に任務に出る事になり、惑星ベジータを離れている間に惑星ベジータは消滅してしまった。

 

 そのままなし崩しでフリーザ軍に入隊する事になったが、ベジータもナッパも惑星ベジータが滅んだ事にショックは受けても、親や同胞が死んだ事には欠片も興味を示さなかった。

 それから、オレ達は3人で一緒に任務に出る事が多くなった。

 

 3人で過ごすうちにオレはベジータとナッパからサイヤ人のなんたるかを学んだ。

 ナッパは元々上級戦士として活動していたし、ベジータは王子だからだろうか、オレと同い年だと言うのにちゃんとした教育を受けてきたのだろう。

 その身、その行動、その戦闘力をもって戦闘民族サイヤ人を体現していたように思う。

 

 いくつもの星に攻め行くたびに、その凶暴さ、残忍さ、冷酷さを敵に見せつけ、戦闘そのものを2人は楽しんでいた。

 そして、オレもいつしかあいつ等と同じように戦闘そのものを楽しむようになっていった。

 その頃には、オレも他人を貶める事にかけらも抵抗感を抱くことはなくなっていた。

 

 今だから言える事だが、オレは最初任務で他の星を制圧するときに、少し抵抗感を持っていた。

 惑星ベジータで戦闘訓練を受けている時や、親父や周りの大人達にサイヤ人は他の星を制圧する事が仕事だと聞いていた。

 だが、いざ自分がその立場になった時、特に子供を守ろうとする母親を見た時は攻撃する事を大いに躊躇った事を覚えている。

 

 そんなオレを見兼ねたナッパが、その親子をオレの前でアッサリと消しとばした。

 消し飛ばされた親子を呆然と見ていたオレに、ナッパが言った言葉は今でもオレの中で鮮明に覚えている。

 

 

「ラディッツ、俺たちサイヤ人は戦うことが全てだ。変な情けはロクな結果をうまねぇ……。今のお前の躊躇はサイヤ人としては邪魔なもんだ。やるからには徹底的にやれ。じゃねぇと、死ぬぞ」

 

 

 普段オレの事を泣き虫ラディッツとか弱虫ラディッツってバカにする男だが、その時だけは真剣にサイヤ人としての生き方を語ってくれたから余計に鮮烈に残っている。

 

 きっとその時だろう……。

 オレが、自分が今まで母に甘やかされて育てられて生きてきたのを、正確に自覚できたのは……。

 

 そいつを自覚してからのオレは、必死だった。

 何故なら躊躇したと言う事実はオレの中で弱さとして、自覚されたからだ。

 それを払拭する為に、どんな相手だろうが関係なく目の前に立つなら容赦無く消しとばした。

 

 そうやって、オレ、ベジータ、ナッパの3人で長い事フリーザ軍で過ごした。

 そんな俺たちの時間もついに終わりがやってきた。

 

 ベジータがフリーザ軍の任務として、とある星を制圧すると言う任務を引き受けたのがきっかけだ。

 だが、その星に住む奴等はなかなか戦闘力が高い事で有名だった為、流石の俺たち3人でもてこずることは簡単に予測できた。

 フリーザ軍から助っ人を呼べば解決する問題だったのだろうが、プライドの高いベジータはサイヤ人として引き受けた任務だった事もあり、サイヤ人以外の人間をメンバーに加えるつもりがそもそも無かったようだ。

 

 オレとナッパはそんなベジータの考えに少し不安を覚えたが、一度決めたベジータが考えを変える事がない事も長い付き合いから理解していた。

 そんな時だ、奴の存在を思い出したのは……。

 

 昔、惑星ベジータが滅んでフリーザ軍で働く事に必死だった時、オレのスカウターの通信履歴に親父からカカロットが地球という惑星に送られたという連絡が届いていたのだ。

 だが、当時のオレは自分のことに必死でカカロットの事などすぐ忘れてしまっていた。

 

 カカロットの事を思い出したオレは2人に相談して、ヤツを新たな仲間として迎える為に地球に飛び立った。

 

 そこで再会した弟は、オレの期待を大きく裏切る成長を遂げていた。

 ヤツの使命である地球を滅ぼしてすらいなく、それどころか地球人と仲良くしていやがった。

 

 顔は親父にそっくりだったが、感じられる雰囲気はどことなくオフクロを思い出させるものだった。

 

 仲間になる事を拒否したカカロットに言う事を聞かせる為、息子をさらって飛び立った時、ふとカカロットと息子の様子が頭をよぎった。

 そして、カカロットから発せられる雰囲気がオフクロにどこか似ていたからか、自分が幼少の頃の母と過ごした記憶も何故か思い出した。

 

 かつて、自分の弱さとして切り捨てた母との思い出だったが、カカロットと息子の関係は正しく昔の母と自分ではないかと茫然と心の中で思ってしまった。

 

 久しく忘れていた母の事を思い出したからだろうか、その時オレは20年ぶりくらい母の事を考えた。

 

 もしかしたら、母はオレやカカロットに……。

 

 

「なっ、なんだ!?」

「あれは!?」

 

 

 周りからあがった驚きの声にオレは過去から現在に意識を戻し、水晶に視線を向けるとそこには信じられない光景が映し出されていた。



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フリーザ編-Ep.07

はぁー、つかれた。なんとか今年中にもう1話書けたぁ。
今回は、結構長文になっちゃったので、みなさん気合い入れて読んでください。


■Side:ナッパ

 

 

 オレは生まれてから死ぬまで、ずっと戦ってきた。

 若い頃は同族であるサイヤ人達とそして惑星ベジータが滅んでからはベジータやラディッツと共に、自由気ままに色々な星に攻め込み戦いの限りを尽くした。

 その戦いにまみれた人生の中で、多くの戦士達を見てきた。

 

 特に宇宙を支配しているフリーザ軍に入ってからはそれまでの人生で知らなかった、サイヤ人の戦闘力を大きく上回る強者にも出会った。

 だからだろうか、オレは自分が宇宙の強者の力を知った気になっていた。

 

 だと言うのに……、くっ!?フリーザの野郎なんて強さだ!

 気に入らねぇが、あのガキもベジータもオレやここにいるサイヤ人達を大きく上回った戦闘力を持っていやがる。

 いや、恐らくあのフリーザの側近であるドドリアやザーボン、ギニュー特戦隊さえも上回っている可能性が高ぇ。

 

 それなのに……、その2人が全く相手にならない……だと……。

 

 

 水晶に映された悟飯をいたぶり頭を踏みつけているフリーザを見て、ナッパはフリーザのあまりの強さに先程映し出されたベジータ同様に自身の全身が震えているのが分かった。

 生前の話になるが、ナッパはベジータがドドリアやザーボン、ギニュー特戦隊を上回る程の力をいずれ手にする事をほぼ確信していた。

 それは、戦闘の天才であるベジータが幼少の頃より共にいた事で、ベジータの強さと成長のスピードを一番近くで見てきたからだ。

 

 ドドリア、ザーボン、ギニュー特戦隊は宇宙規模で見ても上位に入る強者だ。

 そいつらを下してしてしまう程の力を手にしたベジータと自分、ラディッツの3人でかかれば、宇宙を支配しているフリーザ相手にもどうにか勝利出来ると密かに考えていた。

 だからこそ、地球のドラゴンボールの使い方をラディッツの復活よりも、フリーザを倒せる確率が上がる、ベジータが提案した不老不死にのったのだ。

 戦闘を永遠に楽しむ為と言う理由もあったが、それと同じくらいフリーザを倒して自分たちサイヤ人が宇宙の覇権を握る為に。

 

 だが、今のフリーザの強さを見てナッパは自分の考えが如何に浅はかだったのかを心底痛感していた。

 例え不老不死を手に入れていたとしても、フリーザの前では死ねないが故に地獄の苦しみを永遠に味合わされただろうと簡単に予測出来てしまったからだ。

 それくらい、今水晶に映し出されたフリーザは規格外と言ってもいい存在だった。

 

 フリーザの強さを目の当たりにして、ナッパが己れの過去を省みているその時、さんざん悟飯をいたぶっていたフリーザがついにとどめを刺そうと悟飯の頭を踏みつけていた足により力をかけようとしたその瞬間だった。

 水晶を見ていたサイヤ人達にとって、信じられない映像が映し出された。

 

 

『うぐっ!!!!』

「なっ、なんだ!?」

「あれは!?」

 

 

 オレは、驚きのあまりつい言葉を発していた。

 フリーザの野郎が今まで聞いたことのないような呻き声をあげたかと思ったら、エネルギー弾を円盤状にした様な攻撃がフリーザの尻尾を切り裂きやがった!!

 オレはあの技を知っている。あ、あれは、あの地球人が使った技じゃねぇか!?

 

 

 ナッパが地球での苦い経験を思い出したその時、技を繰り出した人物が水晶に映し出された。

 フリーザ軍の戦闘服を纏ったハゲ、もとい先程フリーザの角に貫かれたクリリンだ。

 

『なっ!!?』

『なにっ!?』

『なっ、なんであいつが……!!!!あ……あいつは、す、すくなくとも相当のじゅ……重症だったはずだ…………!!!な、なぜだ……!?』

 

 

 復活したクリリンを目にしたフリーザとベジータは、あまりの事態に驚きの声を上げた。

 特に自身がトドメを刺したことに疑いを持っていなかったフリーザの驚きは一入だった。

 

 

「おっ、おい、あのハゲさっきフリーザのヤツにやられなかったか?」

「どうなってんだい!?」

 

 

 それは地獄にいる者達も同様だった。

 フリーザにやられた姿を見ていた、トーマ達もクリリンの復活に驚きの声を出している中、1人だけ違う事に意識が向いていた。

 

 

「よ、よかったぁ〜。カカロットの息子助かったよぉ〜〜〜」

 

 

 涙を浮かべながら、心底ホッとしたような声を上げたのはギネだ。

 クリリンが繰り出した技を察知したフリーザが避けようと飛び上がった事により、悟飯は何とか生き残ることが出来たのだ。

 

 クリリンが復活したことで、水晶の中の戦いは次なる局面に突入する。

 

 

『気円斬』

 

 

 クリリンが繰り出した、複数の気円斬がフリーザにせまる。

 自身がトドメを刺した存在が予想外の復活をした事で生じた動揺の為か、先程尻尾を切られた痛みが頭に残っているからか、フリーザは必死で自分に向かってくる気円斬を避ける。

 

 

『べ〜〜〜!!!』

『お……、おのれ〜〜〜〜〜〜!!!』

 

 

 舌を出しフリーザを挑発するクリリン。

 挑発+尻尾を切られた事で完全に頭に血が上ったフリーザは、その心情を表したように怒りを押し込めたような表情でクリリンを睨みつけると、クリリンに向かって飛び出す。

 その光景を地獄のサイヤ人達はポカンとした顔で見ていた。

 

 

「あの、ハゲすげぇな……。フリーザ相手に挑発なんて殺してくれって言ってるようなもんだぜ……」

「ただもんじゃないね……。あのハゲ……」

 

 

 フリーザが向かってきたので、フルスピードで逃げるクリリンだったが、元々のスペックが段違いな為あっという間に追いつかれしまった。

 

 

『どうやって復活したのかわからんが……、よくもこのフリーザ様の尻尾を切ってくれたな……!!』

 

 

 クリリンの前に姿を表したフリーザは、ただでさえ現在の形態は気性が粗いのに、これまでの人生で味わった事がないほどの屈辱を味わったせいで、その表情は正に怒り心頭だった。

 

 

『今度は、2度と復活出来ぬよう粉々にしてくれるぞ!!!!』

 

 

 フリーザの怒りを正面から受けたクリリンは、その怒りの圧から表情を強張らせたが、瞬時に次の手に打って出る。

 

 

『太陽拳!!!!』

 

 

 その名の通り太陽のごとき強烈な光がフリーザの視界を光で塗り潰した。 

 

 

『あうっ!!!くっ……、目が……!!!』

「くっ、何が起こった!?」

「これは、強烈な光を起こし視界をつぶしたのか??」

 

 

 あまりに強烈な光を至近距離で受けてしまった為、流石のフリーザも目を瞑らざる負えなかった。

 また、太陽拳の威力は地獄から観戦していたサイヤ人達ににも少なからずダメージを与えていた。

 そして、そんな大きな隙を逃すほど幼少期から武道に身を捧げ、強敵達と闘ってきた男は甘くはない。

 

 

『ベジータいまだーーっ!!!攻撃してくれーーー!!!!』

 

 

 瞬時に相手との力量を察したクリリンは、自分1人では太刀打ちできない事を理解していた。

 確実にダメージを与える為、近くで戦いを見ていたベジータに協力を求める。

 こういう自分に足りないものを素直に受け止め、かつて敵であった存在であろうと必要であるなら頼る事が出来る心の強さこそ、クリリンという男の本当に凄いところなのかもしれない。

 

 だが、そんなクリリンの頑張りは空振りに終わることになる。

 何故なら、協力を求めたベジータはクリリンやフリーザの事など一切見ていなかったからだ。

 

 

 オレが地球で戦った地球人のチビハゲがいきなり現れたかと思ったら、無謀にもフリーザの野郎を挑発しやがった。

 だがヤツは頭に血が上った事で怒りで思考が鈍ったフリーザを誘い込み、強烈な光でヤツの視界を奪いやがった。

 最初からこれが狙いだったのかっ!?

 

 ちっ!思い出すとムカッ腹が立つが、地球で戦った奴らはみんなそうだった。

 あいつらは戦闘力自体は大した事ないカスのくせに、やたら小賢しい技を使う。

 その中でも、あのはチビハゲは特にその手の技を多く持っていやがった覚えがある。

 

 今回もその小賢しい技であのフリーザを出し抜きやがった。

 こいつは間違いなくチャンスだっ!!

 あのチビハゲとベジータの同時攻撃なら、あのフリーザにもダメージがあたえられるかもしれねぇ。

 

 

「って、ベジータの野郎、見てねぇじゃねぇか!!!!」

「何やってんだい!?王子!!」

 

 

 絶好のチャンスを棒に振った、ベジータを見てオレとギネはつい声を上げてしまった。

 

 

「くっそ〜、せっかくのチャンスなのに王子のヤツ、こんな時に何やってんだよ!」

「にしても、ベジータらしくないな。こんなチャンスを逃すヤツではないのだが……」

 

 

 ナッパ達と同じようにパンブーキンもせっかくのチャンスが潰れた事を残念がっていたが、付き合いが長いラディッツはあまりにベジータらしくない行動だった為首を傾げている。

 そこで、水晶を見ていたトーマがベジータの視線の先で何かが行われている事に気が付いた。

 

 

「おいっ!!あれを見てみろ!!!あそこで何かやってるぞ!!!!」

 

 

 水晶に映し出されていた、ベジータの視線の先をトーマが指で指し示した。

 そこにトーマ以外の視線が突き刺さる。

 

 

「何だ??カカロットの息子に異星のガキが何かやっている……のか??」

「あのガキ、ナメック星人じゃねぇか!!ってことは、ここは……、まさかナメック星かっ!?」

「なっ、何だい、いきなり大声で!?何か知っているのかい?ナッパ」

 

 

 水晶にはデンデがフリーザにやられた悟飯を回復している光景が映し出された。

 それを見ていた地獄のサイヤ人の内、地球でピッコロの正体を見抜いたナッパがデンデがナメック星人である事に気付いた。

 

 

 そうかっ!!そういう事か!!何でベジータとカカロットのガキが一緒に戦っているのかずっと疑問だったが、ここがナメック星だったら納得がいくぜ。

 恐らく地球での戦いの事はスカウターでフリーザに筒抜けだったのだろう。

 それでフリーザは知っちまいやがったんだ……。

 

 どんな願いでも叶えちまうっていう、ドラゴンボールの事を……。

 

 そして、それに気付いたベジータがフリーザを追ってナメック星にやってきた。

 恐らくあいつの計画では、フリーザ達より先にドラゴンボールを見つけて不老不死の願いを叶えるつもりだったんだろう。

 

 地球人共は、オレが地球でナメック星人の野郎をぶっ殺しちまった事で地球のドラゴンボールがなくなっちまったから、オレ達が殺したヤツ等を生き返らせる為にやって来たのだろう。

 あの時ラディッツと共にくたばったカカロットを生き返らせたように……。

 

 だが、ヤツ等はどういう経過かまでは分からんがフリーザに見つかり現在に至るってところか。

 共闘しているのも、相手がフリーザという強大すぎる敵だからって理由程度だろう。

 でないと、あのベジータがカスの地球人とまで一緒にいる理由がねぇ。

 

 カカロットのガキがいて、カカロットの野郎がいねぇのは、地球でベジータの野郎にぶっ殺されたってところか……、ざまぁねぇぜ。

 

 

 ナッパが自分の脳内で、状況を分析していると横から大声が飛んできた。

 

 

「ナッパ!ナッパってば!!聞いてるのかい!?」

「うおっ!?」

 

 

 あまりの声量ゆえ、ビックリして視線を声の主に向けるナッパ。

 どうやら声をかけて来たのは、セリパだったようだ。

 何度も呼びかけたのだろう。それでもナッパが反応しなかった為に若干イラついているようだ。

 

 

「なっ、何だよ?セリパ」

「何だよ?は、私のセリフだよ。あんた、あの異星のガキがナメック星人で、今水晶に映っている星がナメック星って言ってたね?何を知ってるんだい?」 

「別に大した事じゃねぇ。オレがあのガキがナメック星人だって気付いたのは、地球でカカロットやその仲間達と戦った時、その中にナメック星人がいやがったのさ。そいつにあのガキがそっくりだったってだけだ」

「へー、確かカカロットが送られたのって、地球っていう辺境の惑星だろ?そんなところに、ナメック星人がねぇ……。それに何だって、カカロットの息子達までナメック星にいるのさ?」

「そいつは……

 

 

 ナッパが口を開いたその瞬間だった。

 セリパがナッパから色々聞き出している間に、水晶の中の状況は刻一刻と変化していた。

 

 

「なっ!?何だと!!」

「おいおい、まじかよ……。どうなってんだ??」

 

 

 驚きと困惑の声が上がったので、2人は会話を断ち切って水晶を見てみると、そこには信じられない光景が映し出されていた。

 先程フリーザにボロボロにされて、まともに動けなくなっていた悟飯が復活して、ベジータとクリリンがいる戦線に復帰していたのだ。

 あまりの事態に驚いた2人は目を丸くしてしまった。

 

 

「えっ!?あの子さっきまでボロボロだったじゃないか。私達が目を離している間に何があったんだい??」

「いや、それが、私達もよく分からないんだけど……、あの、ナメック星人だっけ?その子がカカロットの息子の近くで何かやってたら、いきなりカカロットの息子が復活したんだ……と、思う……」

 

 

 セリパの疑問に答えたのはギネだったが、その表情は困惑に染まっているのが見て取れた。どうやらギネ自身よくわかっていない為、回答はしどろもどろだった。

 その時水晶を見上げていたバーダックがボソリと呟いた。

 

 

「どうやら、あのナメック星人のガキには治癒能力があるようだな……」

 

 

 その言葉を聞いた他のサイヤ人達の視線がバーダックに集まる。

 水晶から視線を逸らさずに、バーダックの言葉は続く。

 

 

「宇宙には、特殊な能力を持っている奴も多い。あのナメック星人のガキが治癒能力を持っていても不思議じゃねぇ。それに、あのガキが治癒能力を持っているんだったら、さっきのハゲが復活したのも説明がつく」

 

 

 自身も他所の星の人間に不思議な能力で一時的にとはいえ、未来予知が出来るようになったバーダックは身を以て特殊な能力を備えた存在がいる事を知っていた。

 だからこそ、他のサイヤ人達よりも状況を分析し理解するまでにそれほど時間を要さなかった。

 

 

「にしても、さすがサイヤ人の血を引いてるだけあって、復活したら戦闘力が随分向上したみたいだな」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、他のサイヤ人達は改めて水晶に視線を移す。

 そこには、バーダックの言葉を証明するように、これまでとは比較にならないほどの気を放っている悟飯が映し出されている。

 

 

「でもよ、バーダック。いくらあのガキがパワーアップしたからといって、フリーザに通じるのか?」

「無理だな。だからこそ、あのナメック星人のガキは戦いの鍵になる。フリーザのあの表情を見る限り、野郎はまだあのガキが治癒能力を持っていることに気付いてねぇ」

 

 

 水晶には、またしても自分が痛めつけた存在が復活した事に困惑の表情を浮かべたフリーザの姿も映し出されていた。

 

 

『……バカな…………!あのチビもよみがえった……!や、やつもたしかに死にかけていたはずだ…………!』

「やはりな。バレるのは時間の問題だろうし、何度も使える手でもねぇ。だが、あの戦闘力の上がりっぷりを考えれば、あと数回復活すれば戦いとして成立するくれぇには差を埋められる可能性もある」

 

 

 バーダックの言葉を聞いていた周りのサイヤ人達の顔に希望の色が宿る。

 だが、その後続くバーダックの言葉に希望の光は霧散することになる。

 

 

「あくまで可能性の話だ。現状を見る限り、パワーアップしたカカロットのガキと王子とハゲの3人がかりでもフリーザの相手にはならねぇ。サイヤ人の特性である復活による大幅なパワーアップを考慮したとしても、あと何回復活する必要があるのか不明だ。それに何より、フリーザをぶっ倒すには決定打に欠ける。人数も力も圧倒的に足りてねぇんだよ」

 

 

 確かに、バーダックの言う通り可能性の域を出ない話だぜ。

 ギネやセリパの話じゃぁ、フリーザの戦闘力は100万を超えてるって話だ。

 あのガキは確かにパワーアップしたみてぇだが、フリーザにはまだまだ遠く及ばねぇ気がする。

 

 今あいつらが生きていられるのは、フリーザがあいつ等を舐めてかかっているから以外の何物でもねぇ。

 しかし、さっきからガキやチビハゲが予想外の復活を遂げた事でフリーザの怒りは確実に増してやがる。

 フリーザが遊びをやめた瞬間、あいつ等の死は確定する……。

 

 

 バーダックが改めてちゃんと言葉にした事で、現状があまりにも救いがない状態だと認識した地獄のサイヤ人達は全員その表情を曇らせた。

 彼等からしたら、自分達を滅ぼしたフリーザと残り少ない同胞が戦っているのだ。

 別段、サイヤ人は同族意識などが高い種族ではないが、やはり自分達の仇であるフリーザは同じサイヤ人の手で倒して欲しいというのが、ここにいる全員の総意だった。

 それが、例え自分を殺した存在や混血児だったとしてもだ。

 

 だが、相手は正真正銘自分の力とカリスマ性で宇宙を支配した恐怖の帝王。

 勝敗の天秤はそうやすやすとは動かない。

 

 確かにバーダックが語った可能性が現実になる可能性もあるだろう。

 だが、その望みはあまりにも薄い。

 そんな事は、誰の目にも明らかだった。

 

 誰もが勝利を諦めたその瞬間だった。

 

 水晶から驚きと喜びの声が聞こえてきたのは……。

 

 

『はっ!!!』

『なにか来るぞっ!!!!』

 

 

 最初に聞こえてきたのは、ベジータとチビハゲの驚きの声だった。

 そして、次に聞こえてきたのはカカロットの息子の喜びに満ちた声だ。

 

 

『あっ!!!ピ……ピッコロさんっ!!!!!』

 

 

 俺たちが水晶に視線を向けた時、そこには、白いターバンと白いマントをはためかせ腕を組みフリーザに視線を向けている野郎が1人映っていた。

 そして、その野郎は一言だけはっきりと言葉を紡いだ。

 

 

『待たせたな……』




ようやくピッコロさんの登場!
こっから、さらにバトルは加速します。
次の執筆も頑張ります!!


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フリーザ編-Ep.08

なんかランキングがすげぇ事になってんだけど・・・。

それでは、今年最後の投稿です。
楽しんでもらえたら、嬉しいです。


■Side:セリパ

 

 

 バーダックが語った、カカロットの息子や王子、ハゲの3人とフリーザの戦力差の違いと、そのあまりにも絶望的すぎる状況に、私たち地獄にいるサイヤ人達は誰もが3人の敗北を覚悟した。

 そんな時だった、水晶から驚きと喜びの声が聞こえてきたのは。

 そして、私達が水晶に視線を向けた時、そこには、白いターバンと白いマントをはためかせ腕を組みフリーザに視線を向けている野郎が1人映っていた。

 

 そして、その野郎は一言だけはっきりと言葉を紡いだ。

 

 

『待たせたな……』

 

 

 その野郎を見た瞬間だった。

 私のそばにいた2人の男が同時に声をあげたのは。

 

 

「「あっ、あいつは!!(俺を殺したやつ/俺が殺したやつ)!!? ん?」」

 

 

 そして、その2人はお互いに顔見合わせて不思議そうな表情をしていた。

 

 

「おい、弱虫ラディッツ。テメェ、まさかあんなカスにやられちまったんじゃねぇだろうなぁ?」

「うっ、うるさいぞナッパっ!!」

 

 

 こんな時に何やってんだい。この2人は。私は頭を抱えた。

 ったく、しょうがないねぇ。

 

 

「あんたら、うるさいよっ!!喧嘩するなら他所でやりな!!!」

「「っ!!?」」

 

 

 私の怒声を聞いて、2人はびくっ!!と体を震わせたかと思うと喧嘩を辞め水晶に目を向ける。

 ったく、男ってのはいつまでたってもガキなんだからさ……。

 それにしても、カカロットのガキのあの喜びっぷりを見ると、あの男どうやら仲間ぽいねぇ。

 

 それに、さっきのナメック星人のガキと似通った特徴をしているって事は、あいつもナメック星人か……。

 そう言えば、さっきナッパのヤツが地球でナメック星人と戦ったって言ってやがったねぇ。

 そうか!!こいつがその、ナメック星人か。

 

 だが、ナッパの言葉を信じるならこいつは死んでるって事になるけど……、どうなってるんだ??

 

 

「にしても、せっかくの援軍があのカスとはなぁ。これじゃぁ、正直3人だった時とたいして変わりゃしねぇじゃねぇか」

 

 

 この中で最後にピッコロと戦ったナッパが正直な感想を述べる。

 そして、それは水晶の中のベジータも同様の考えだったようで、せっかくのドラゴンボールの願いをピッコロの復活に使った事に腹を立てていた。

 そんな時だった、地獄のサイヤ人達にとっては耳を疑うような発言が水晶から聞こえてきたのは。

 

 

『さて……宇宙のゴミを片付けてやるか……。オレ1人でやる。お前達は手を出すな』

 

 

 なっ、なんだって!?あのナメック星人あのフリーザ相手に1人で戦いを挑むって言ったのかい!?

 

 

『えっ!?』

『い!?』

「なっ、なんだと!?」

「あいつ、死ぬ気か!?」

 

 

 ナメック星人の発言に、水晶の中のカカロットのガキやハゲ、そして地獄にいる私たちも一様に驚きを隠せなかった。

 

 

「あいつ、来たばかりで、フリーザの恐ろしさを分かってねぇんじゃないか??」

「へっ、カスがあのフリーザの相手になるかよ。身の程知らずってヤツだぜ」

 

 

 トーマやナッパは、ナメック星人の野郎が状況を分かってないからあんな発言をしたんだと判断したらしい。

 確かに、その可能性が一番たかいだろうからねぇ。

 正直、あたしもあのナメック星人がフリーザに勝てるとは思わない。

 

 そんな事を私が考えていると、水晶の中ではフリーザとナメック星人が向かい合っていた。

 

 

『ウジ虫どもが……』

 

 

 フリーザにとっては、言葉通り虫が一匹増えた程度の認識なんだろう……。

 だが、次の瞬間、私達は信じられない光景を目撃することになる。

 

 

『だっ!!!!!』

 

 

 掛け声とともに飛び出したピッコロは数十メートル離れていた距離を一瞬で詰め、フリーザの右頬をぶん殴り、吹っ飛ばした。

 さらに、吹っ飛ばしたフリーザに一瞬で追いつき追撃のナックルハンマーを喰らわせようとしたが、フリーザもやられっぱなしではない。

 紙一重でピッコロのナックルハンマーを躱し、お返しとばかりに強烈な蹴りで吹っ飛ばした。

 

 今度はフリーザが追撃しようと吹っ飛ばしたピッコロを追う。

 だが、界王の修行とネイルとの融合でパワーアップしたピッコロもやられてはいない。

 瞬時に態勢を整えて、頭突きでフリーザを迎え撃った。

 

 ピッコロの頭突きを食らい、顎が跳ね上がったフリーザだったが、今度は吹っ飛ばされる事はなく逆に尻尾でカウンターを食らわせ、ピッコロを吹っ飛ばした。

 そして、追撃とばかりに強力なエネルギー波を落ちていくピッコロに向けて放つ。

 エネルギー波が着弾するよりも早く、地面で態勢を整えたピッコロはエネルギー波を左腕一本で迎え撃った。

 

 

『ぐあああああ!!!!!』

 

 

 気合いの乗った掛け声とともに繰り出された、左腕の一閃はフリーザの強力なエネルギー波を弾き飛ばした。

 

 

『弾き飛ばした!!!!』

 

 

 これには、流石のフリーザも驚きの顔をしながら声をあげる。 

 そして、お返しとばかりに今度はピッコロの強力なエネルギー波がフリーザを襲う。

 

 

『!!』

 

 

 放たれたエネルギー波のデカさにフリーザが驚きの声を上げるが、フリーザの体はエネルギー波に飲み込まれた。

 フリーザに直撃したエネルギー波は凄まじい轟音を響かせ爆煙を上げている。

 爆煙が収まった時、そこには明らかにダメージを受け、ガードの態勢をとった状態のフリーザの姿があった。

 

 

『……、お……おのれ…………!!』

 

 

 予想以上に強力な攻撃を受けたフリーザは、苦々しい表情でピッコロを睨みつける。

 

 

「す、すげぇ……、あのフリーザにダメージを与えやがった」

「おいっ……、ナッパ……お前、本当にあのナメック星人を殺ったのか!?」

「どっ、どうなってんだ!?地球で戦った時と強さの次元が全くちげぇ!!!あのナメック星人、この短期間に何があった!?」

 

 

 ピッコロとフリーザの戦いを見ていた地獄のサイヤ人達は、あまりにレベルの高い戦いに驚きの声を隠せなかった。

 特に地球でピッコロを殺したナッパの驚きっぷりは、他のサイヤ人よりも遥かに高かった。

 

 

「すごいね、バーダック。あのナメック星人、フリーザのヤツと互角に戦ってるよ」

「いや、互角じゃねぇ。あのナメック星人の野郎の方がフリーザ以上の戦闘力をもっていやがる」

「ほっ、本当かい!?」

 

 

 ギネは喜びのあまり満面の笑顔で、バーダックの腕を揺さぶるが、バーダックは視線を水晶に向けたまま何事もなかったかのようにギネに答える。

 だが、バーダックの言葉はギネにとっては信じられないものだった。

 先程までは勝敗の天秤が負けに傾いていおり、ほとんど諦めていたのだ。

 なのに、今はその天秤の傾きが逆になったと言われたからだ。

 

 

「だが、あのフリーザがそう簡単に終わるとも思えねぇんだがな……」

 

 

 ボソリと呟かれた、バーダックの言葉は誰に拾われることもなく、地獄の空気に消えていった……。

 

 

 ピッコロの攻撃を空中で受けた、フリーザはピッコロを睨みつけたままゆっくりと、地上へ降り立つ。

 苦々しい表情と共に、禍々しいオーラを撒き散らしたフリーザだったが、「にた〜」って表情を浮かべ、一瞬でピッコロとの距離を詰める。

 距離を詰めたフリーザはピッコロの左頬に強烈なエルボーを叩き込み、体制が崩れたピッコロに追撃のパンチを食らわせよとする。

 

 しかし、上空に避ける事で追撃を躱すピッコロ。

 だが、これまでと段違いのスピードでピッコロを追い越しさらに上空に現れるフリーザ。

 そして、ナックルハンマーをピッコロに叩き込む。

 

 ナックルハンマーを叩き込まれたピッコロは猛スピードで地面へと激突する。

 

 

『くっくっく…………』

 

 

 その様子を空中から笑みを浮かべながら、眺めているフリーザ。

 

 

「なっ、なんて野郎だい!!さっきまでとスピードが段違いじゃないか!!!」

「あいつ、これまで全く本気じゃなったのかっ!!!!」

 

 

 地獄のサイヤ人達はフリーザが隠していた実力を目の当たりにして、驚愕の表情を浮かべる。

 たった1人を除いて。

 

 

「やはりな」

 

 

 その1人とはバーダックだ。

 バーダックはこの中で唯一フリーザと直接対峙して、その力の片鱗を味わった存在だ。

 その経験と元々生まれ持った戦闘勘が、フリーザの底知れなさをビンビンと伝えてくるのだ。

 

 

「さて、こっからどうなるか……」

 

 

 あのナメック星人が、最初フリーザとサシで戦うって聞いた時は、身の程知らずな野郎だと思った。

 けど、蓋を開けてみりゃぁ、あのフリーザと互角で戦ってやがる上に、ダメージまで与えやがった。

 こんなヤツを本当にナッパが殺ったとは、どう考えても思えないんだけどねぇ。

 

 だが、フリーザの野郎も負けちゃいない。

 ナメック星人から攻撃を受けてから、明らかにスピード、パワーが上がりやがった。

 

 さっきまでの、カカロットのガキと王子、ハゲの3人と戦っている時から遊んでいるのは分かっちゃいたけど、隠していた実力がここまで底知れないとは、流石に予想外だ。

 あのナメック星人、フリーザからかなりいいのを貰っちまったぽいけど、大丈夫かねぇ??

 

 

 セリパがナックルハンマーを叩き込まれたピッコロの心配をしている時、水晶の中で動きがあった。

 砕けた地面の下敷きになっていた、ピッコロが『く……』と苦痛の表情を浮かべ、姿を現したのだ。

 その姿は、マントやターバンがボロボロになっており、ピッコロ自身にもダメージが与えられているのが、誰の目からしても明らかだった。

 

 

『くっくっく……、さっきは悪かったな。貴様を舐めていたんだ。だが、想像以上にできるんでな。実力を見せることにした。実力をな……』

 

 

 そのフリーザの言葉に、ナメック星で戦いを見ていた者達も、地獄のサイヤ人達も共にフリーザの底知れなさに戦慄を覚える。

 だが、相対しているピッコロだけは違った。

 

 口の中に混じった血を『ぺっ』と吐くと同時に立ち上がり、着ていたマントを脱ぎ、頭に巻いていたターバンを外す。

 ピッコロの身から離れたマントとターバンは普通のマントとターバンでは聞くことが出来ない、音を響かせて地面に激突する。

 そして、またしても皆が耳を疑う一言をこのナメック星人は平然と言い放った。

 

 

『オレもだ……、本気でやろう……』

 

 

 特に相対していた、フリーザの驚きは相当なものだった。

 

 

『なんだと!?いままでは、本気じゃなかったってのか?くっくっく……、知らなかったな、ナメック星人がホラをふくとは……』

『すぐにわかるさ…………』 

 

 

 相対していたフリーザ、そして戦いを見守っていたベジータ、地獄のサイヤ人達はたかがマントやターバンを脱いだからとって、戦闘力が大きく向上するはずがない。と、ピッコロの発言をハッタリだとほぼ決めつけていた。

 だが、ピッコロの事を知っているクリリンや悟飯は、ピッコロがマントとターバンを脱いだ意味を正しく理解していた。

 ピッコロが普段身につけているマントとターバンは、特別製で重量がとてつもなく重いのだ。

 

 つまり、ピッコロはそんな重りを身に付けたままフリーザと互角に戦っていた。

 それを脱いだと言う事は、これからがピッコロにとっての本気なのだ。

 それを理解した、クリリンと悟飯はピッコロの勝利を確信する。

 

 

『貴様らに殺されたナメック星人の怒りをおもいしれ!!!!』

 

 

 ピッコロ、クリリン、悟飯の3人が勝利を確信し、これから反撃を開始する為にピッコロの怒りの啖呵が切られたその瞬間だった……。

 

 この戦いが始まってから、何度も信じられないような事が立て続けに起こった……。

 

 圧倒的な実力差故に絶望的な光景が何度ももたらされた……。

 

 その度に戦士達は、工夫や策、他人の力などを借りて絶望を乗り越えてきた……。

 

 だが、今まで起こった全ての絶望がヤツにとっては本当にただの戯れでしかなったとしたら……、戦っている戦士等が感じる絶望はどれほどのものだろうか……。

 

 今、真の絶望がヤツより語られる……、宇宙の帝王フリーザによって……。

 

 その時、ピッコロ、クリリン、悟飯、ベジータ、そして地獄のサイヤ人達は知ることになる……。

 

 『絶望』という言葉の本当の意味を……。




皆さん今年もありがとうございました。
来年もこの小説が続けられる様頑張ります。


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フリーザ編-Ep.09

みなさん、明けましておめでとうございます。
ようやく、今年最初の投稿です。
今年もよろしくお願いします。


■Side:パンブーキン

 

 

 いきなり現れたナメック星人が、まさかあのフリーザの野郎と互角の戦いをやりやがるとは、サイヤ人でもねぇのに大した野郎だ。

 だってぇのに、フリーザの野郎が隠していやがった実力はさらにそのナメック星人の力を上回るモンだった。

 どっちもとんでもねぇバケモンだが、どうやらフリーザの野郎が一枚上手のようだ……。

 

 だが、あのナメック星人の野郎も着ていたマントとターバンを外してから、これからが本気だと言いやがった。

 フリーザ相手に実力を隠して戦っていたっていたなんて、オレには俄かには信じられねぇ事だ。

 それに、マントやターバンを外したぐらいで、戦闘力が急激に上がるなんてこたぁねーと思うが、こいつが、ハッタリでないのだとしたら、勝負はまだ分からなくなる。

 

 もし、ハッタリだった場合、あのナメック星人の野郎……、間違いなく殺されるぞ。

 

 

『貴様らに殺されたナメック星人の怒りをおもいしれ!!!!』

 

 

 これから反撃を開始する為に、ナメック星人の野郎が怒りの篭った啖呵を切ったその時だった。

 フリーザの野郎がニヤリと笑いやがったのだ……。

 その笑いを見た瞬間オレは、これまで感じた事がないほどの悪寒に全身が襲われた。

 

 そして、その悪寒がまさしく正しいものだったのだと、最悪の形で証明されやがった……。

 

   

『勘違いしているようだな!いま見せたのが本気だと思ったのか?』

『なに!?』

 

 

 フリーザの発言を聞いたピッコロは、発言の真意を理解できなかった為、疑問の言葉を返すことしか出来なかった。

 だが、フリーザはそんなピッコロ等気にせず、言葉を告げる。

 その言葉に込められた意味をしっかり理解させるように、ゆっくりじっくりとただ事実だけを語り出す。

 

 

『貴様は、今のこのオレが、変身したものだということを知らんのだろう……。貴様にも与えてやるぞ。ベジータ達と同じこのオレに対する恐怖を……!』

『変身だと……?』

『よし!先に絶望感を与えておいてやろう……。どうしようもない、絶望感をな……』

 

 

 フリーザに告げられた言葉にピッコロはまたしても、疑問の言葉で返すことしか出来なかった。

 告げられた言葉の内容をしっかり受け止め理解すれば、続くフリーザの言葉も何となく予想出来たのかもしれない。

 だが、ピッコロはフリーザの続く言葉を予測する事が出来なかった。

 

 いや、もしくは予想出来ていたかもしれないが、それを言葉にする事で現実になるのを恐れたのかもしれない……。

 そして、ついに告げられる……。

 宇宙の帝王と呼ばれる存在の、真の力のその全貌が……。

 

 

『このフリーザは変身するたびにパワーがはるかに増す……。その変身をあと2回もオレは残している……。その意味がわかるかな?』

『な……なんだと…………!?』

 

 

 フリーザがもたらした、恐るべき事実。

 その事実は、ピッコロ、クリリン、悟飯、ベジータ、そして地獄のサイヤ人達全ての存在に衝撃を与えた。

 今彼らの胸の内にあるのはただ一つ『絶望』だけだった……。

 

 

「そ、そんな……、うっ……うそ……、だろ…………?」

「あ、あいつ……あと2回も変身を残してるだって……」

「くっ……」

 

 

 フリーザの野郎が告げた、とんでもない事実にオレが周りを見渡せば、どんな戦場でも勇ましかったヤツ等が全員、顔面蒼白になって震えていやがった。

 いや、オレ自身もあいつ等と変わらねぇ……。

 あのバーダックすら今まで表情を変えずにこの戦いを見ていやがったのに、流石に今回の件は衝撃が強すぎたのか呆然と水晶を見上げていやがる。

 

 

 フリーザ以外の全ての者達が絶望に押しつぶされそうになっているその時、戦いはさらなるステージに突入する。

 

 

『はーっはっは、よーく見ておけ!!フリーザ様の第2段階の変身を!!!かああああ…………!!!!!』

 

 

 フリーザの野郎が気合いの掛け声を発すると共に、これまで見たことがない密度の邪悪なオーラが撒き散らされたと思ったら、背中から複数の角の様なものが生えやがった。

 だが、それだけでは終わらない。

 次に肩、そして頭に生えていた角などがこれまでと明らかに異なる形へと、どんどん姿を変えていきやがる……。

 そして、最後に頭部が後ろに長く伸びやがると、変身が終わったみたいでその姿からは、以前の形態とは比較にならないほどのオーラを身にまとっていやがった……。

 

 

『ふうっ……、お待たせしましたね…………。さあて……、第2回戦といきましょうか…………』

 

 

 変身が完了したフリーザは、前の形態の時と違い、荒々しい態度はなりを潜めていた。

 今のフリーザは、姿形だけが変わったのではない。冷静さという新たな武器が備わったのだ。

 そして、その真価はすぐ発揮される事となる。

 

 

『重い装備を外して身軽になりましたか……、という事はさらにスピードに磨きがかかった事でしょうね……。そうとう自信がおありになるようだ……』

 

 

 変身する前には、気づく事のなかったマントとターバンの秘密に現在のフリーザは容易く気付いた。

 これだけでも、変身する前と現在では大きく異なるのが見て取れる。

 

 

『どぉれ、ちょっと拝見……』

 

 

 言葉を発したフリーザは、一瞬でピッコロとの距離をゼロへと詰める。

 だが、ピッコロはフリーザに近づかれる寸前、上空へと飛び上がる事で攻撃を回避するが、それを更にフリーザが超スピードで追う。

 追いつかれそうになったピッコロが更にスピードを上げる事で、フリーザを突き離しにかかる。

 

 

『くそったれ!パワーがてめぇなら、スピードはオレだ!!!!一生かかっても追いつけんぞ!!!』

 

 

 確かに、重りを外し本気となったピッコロの今のスピードは、これまでのフリーザだったならば反応する事すら出来ない超スピードだっただろう……。

 だが、フリーザは第二形態から第三形態へと進化する事で、これまでとは別次元への存在へと進化していた。

 スピードを上げ、フリーザを突き離しにかかったピッコロだったが、その動きは急制動させられる事になった。

 

 

『!!まっ、まさか……!!!』

『これはこれは、お久しぶり…………』

 

 

 何故なら、突き離しにかかっていた存在が急に目の前に現れたからだ。

 

 

『ひゃあ!!!!』

『お……おあっ……!!!』

 

 

 フリーザが掛け声と共に、指を向けるとピッコロの左足に激痛が襲う……。

 更にフリーザが指をピッコロに向けると、フリーザの指付近の空気が一瞬歪む。

 

 

『ひゃあ!!!』

『くっ!!!!』

 

 

 攻撃を感知したピッコロだったが、指から発射された攻撃のスピードが早すぎて右頬を掠める。

 

 

「何だ!?今、何が起きやがったっ??」

「見ろ!!ナメック星人の足に傷が出来てやがる!!それに、頬にもだ!!」

「まさか、今攻撃したってぇのか!?まったく見えなかったぞ!?」

「あの野郎……、移動のスピードだけでなく、攻撃のスピードまで桁違いに上がってるってのかいっ!?」

 

 

 ピッコロすらギリギリ視認する事が出来るレベルの攻撃や、以前とは桁違いのスピードに驚きの声が上がる。

 地獄のサイヤ人達がフリーザ第三形態の桁違いの性能に圧倒されていると、水晶の中の戦いは更に苛烈さを増していく。

 

 

『ひゃひゃひゃひゃひゃ……!!!』

『ぐっ、ぐああっ!!!』

 

 

 フリーザの指から繰り広げられる、超速の攻撃にピッコロはすでにボロボロの満身創痍状態だった。

 

 

「くそ!とんでもねぇ速さだ!!あっ、あんなの避けきれんぞ!!!」

 

 

 ラディッツがフリーザの攻撃に歯噛みしていると……、水晶からフリーザとピッコロ以外の存在が戦いへと割り込んだ。

 

 

『だぁーーーーーっ!!!!!』

「あの子っ!?」

 

 

 ボロボロになっているピッコロを見ている事が出来なかった悟飯の飛び蹴りがフリーザを襲う。

 そして、悟飯が飛びたした事に一番驚いた反応を示したのはギネだった。

 

 

『!!』

 

 

 超スピードで迫る悟飯の攻撃を察知したフリーザは、ギリギリで上に飛んで回避するが、怒りで戦闘能力が向上した悟飯は超スピードでその更に上へと一瞬で移動する。

 

 

『お前なんか死んじゃえーーーーーっ!!!!フルパワーーーだーーーーーーっ!!!』

 

 

 怒りで感情が高ぶったことで、限界以上の力を引き出した悟飯から強大なエネルギー波がフリーザを襲う。

 その威力は離れていたベジータ、クリリンにも余波だけで強力な衝撃を与える。

 そして、その強力な攻撃をフリーザは回避する事が出来ず、真正面から受け止めることしか出来なかった。

 

 

『ぐっ……ぐおおおおお…………!!!』

『うぅ……うぐぐぐぐぐ…………!!!』

 

 

 強力な攻撃を受け止め耐えるフリーザと、強力なエネルギー波を放ち続ける悟飯。

 両者ともその表情は正に必死だった。

 

 

『でゃあああああ…………!!!!』

『ぐぎぎぎ…………!!!!』

 

 

 悟飯が更に力を振り絞り、エネルギー波に力を込めることで均衡が崩れ始めた。

 必死で耐えていたフリーザだったが、ついに地上ギリギリまで押し込まれた。

 

 

「いけ!カカロットの息子!!!!」

「後少しだよ!!気合い入れな!!!」

 

 

 地獄のサイヤ人達も悟飯の予想以上の奮闘に、必死の声援を送る。

 

 

『どおおーーーーーっ!!!』

 

 

 後少しでフリーザに大ダメージを与えるところまで追い詰めたが、必死の叫びを上げながらフリーザは悟飯のエネルギー波をそのまま悟飯へと跳ね返した。

 

 

『!!』

 

 

 自身が放ったエネルギー波がそのまま跳ね返った事に、驚愕の顔を浮かべた悟飯だったがもう遅い。

 あと数舜で悟飯にエネルギー波が着弾しそうだったその瞬間、横からエネルギー波が放たれ悟飯へ向かっていたエネルギー波は軌道変更を余儀無くされる事となった。

 結果として、無傷の悟飯だったが強力なエネルギー波を放った代償は高かった。

 

 

『はあっ、はあっ、はあっ、あ……ありがとう、ピ……ピッコロさん…………』

 

 

 限界以上の力を今の一撃に込めたからだろう、悟飯は肩を上下にしながら明らかに疲労の色を強く見せていた。

 

 

『今のは跳ね返されちまったが……、つ……強くなったな、悟飯……。オ……オレは嬉しいぜ…………』

『で……でも、もうダメだ…………こ、渾身の力を込めてやったのに……フ……フリーザには通じなかった……』

 

 

 弟子が攻撃して、師匠がフォローするという師弟として絶妙なコンビネーションを発揮した2人。

 予想以上の成長を見せた悟飯の凄まじい攻撃を見て、師匠としてつい嬉しくなったためだろう。珍しく悟飯を褒めるピッコロ。

 本来なら悟飯も満面の笑顔で喜ぶのだろうが、自身が放った全力の攻撃がまさか、そのまま跳ね返されるとは予想しなかったのか、その表情は強張っていた。

 

 

「ちっ……、今ので決めておければよかったんだがな……」

 

 

 バーダックが呟くように囁いたのを、オレの耳は逃さなかった。

 

 

「おい、バーダック今のどういう事だ?」

「別に大した意味じゃねぇさ……。フリーザの野郎、変身する度に大幅に力を増すばかりか、ダメージまでも回復しやがる……」

「あぁ、確かにそうだったな……」

「だが、裏を返せばあの野郎を変身さえさせなければ、ヤツが全力を出す事は出来ねぇ……。

 本来なら全力のヤツを倒すのが望ましいんだろうが、流石にここまでバケモンだと最終形態とやらになったら、どれくらいの力を持っているのか想像もつかねぇ……。

 今のガキの奇襲、防がれこそしたが、あのフリーザにもダメージを通すには十分の威力だった。

 流石に倒す事は出来なかっただろうが……、攻撃さえ通ってれば、あのナメック星人と共に即座に追撃すれば、勝機はかなり近づいただろう」

「なるほどなぁ。だが、フリーザの野郎はそいつをギリギリとは言え、見事対処しちまったってことか……」

「ああ、宇宙の帝王って称号は伊達じゃねぇ。それに、もしかしたら気付いちまったかもな……」

「な、何にだよ?」

「あのガキ「ゴハン!」ん?」

 

 

 バーダックとパンブーキンが話していると、そこに声が割り込んできた。

 2人が声のした方に振り向くと、ギネが怒ったようにこっちを見ていた。

 

 

「どうしたギネ?ゴハンってなんだ?こんな時に腹でも減ったのか?」

「ちがうよ!ゴハンってのは、あの子の名前だよ!!」

「なっ、名前だぁ!?何でお前があのガキの名前を知ってんだ?」

「また、ガキって言った!!ほら、さっきあのピッコロってナメック星人がゴハンって言ってたじゃないか!」

「そういやぁ、んなこと言ってやがったか……」

「会った事はないけど、家族のあたし等がガキっていうのはなんか寂しいじゃないか」

「お前なぁ〜」

 

 

 バーダックが呆れた表情をギネに見せると、ギネは孫の名前がわかったのが嬉しかったのかとても良い笑顔をしていた。

 そんな2人の世界を見せられたパンブーキンは、内心でこいつら「今がどんな時かわかってんのか?」ってツッコミを入れざるを得なかった。

 

 

「はぁ、なぁバーダック、そろそろ教えてくれや。あのガキ「だから、ゴハンだってば!」ゴハンの何にフリーザは気付いたってんだ?」

「あぁ。パンブーキンよぉ、お前も色々な星を制圧したから色々な星のヤツを知ってるとは思うが、宇宙広しといえ、こんな短時間で戦闘力の向上を行える種族なんてそういねぇ事は知ってるよな?」

「あぁ、それがどうしたってんだよ?」

「そうなのかい?」

 

 

 バーダックが語った言葉に同意を示すパンブーキンと、話の内容に興味を持ったようで、会話に加わってきたギネ。

 だが、ギネの方はバーダックやパンブーキン程、よその星に攻め入っていないので、その辺の事はあまり詳しくないようだった。

 

 

「んな事ができる種族は、オレが知る中じゃぁ1つしか存在しねぇ。それは、オレ達サイヤ人だけだ!」

 

 

 2人に向けていた視線を改めて、水晶に向けるバーダック。

 そこには何かを考えている様子のフリーザが映っていた。

 

 

「サイヤ人だけが大怪我の後、復活する事により大幅なパワーアップを可能とする。

 そして、その特性をあのガ「ゴハン」ゴハンはフリーザの目の前で堂々と晒しちまいやがった……。

 あいつは、フリーザはムカつく野郎だが馬鹿じゃねぇ。恐らく今の攻防だけでゴハンがサイヤ人の血を引く者だって事に気付いた可能性は十分にある」

「確かになぁ。王子と一緒にいる時点で、ゴハンのヤツがサイヤ人の関係者だって事に気づくには十分かもな……」

「あぁ。だが、問題なのはこっからだ。

 フリーザの野郎はサイヤ人に妙な執着を持っていやがる。

 ゴハンがサイヤ人だって気付いたら、一気に決着をつけるために最後の力を解放する可能性はでけぇ……」

「そっ、そんなぁ!」

 

 

 ギネが悲鳴に近い声を上げると同時だった。

 水晶の中から最悪の存在の声が響いたのは……。

 

 

『ようし……!くっくっく……、この姿のままあなた達全員を粉々にするのは簡単な事ですが……、殺す前に死よりも恐ろしい究極のパワーというものをご覧に入れましょう!』

 

 

 前置きの言葉を述べたフリーザは、両手を広げ自分に刃向かった愚か者達に改めて宣言する。

 その宣言は受けた者達にとっては、まさに死の宣告に等しい宣言といえよう。

 

 

『大サービスでご覧に入れましょう!!わたくしの最後の変身を……わたくしの真の姿を!!!うおおおぉお!!!』

 

 

 フリーザの掛け声と共に、これ迄見た事がない程の強大で邪悪なオーラがフリーザより放出される。

 今この瞬間バーダックの考えが正しかった事が証明されようとしていた……。

 それも、戦士達にとっては最悪な形として……。

 

 全宇宙を支配下に置く、最強最悪の存在がその真の姿を現すまで後わずか……。

 今ナメック星に真の地獄が顕現しようとしていた……。




今回の話は、結構長くなりましたが、10話はこれよりさらに長いです。
一応今さっき、10話は書き上げたのですが、これから見直しして修正すれば、投稿できる状態です。
正直、9話より10話の方が疲れました。

近いうちに、またお会いできるかと思います。
ではでは・・


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フリーザ編-Ep.10

おそくなって、本当にごめんなさい。


■Side:ラディッツ

 

 

 オレを殺したナメック星人が現れてから、戦いの展開は大きく変わったと言っていいだろう。

 フリーザが変身タイプだったというのも驚いたが、まさか全部で3段階もの変身を可能にするとはな……。

 第2形態の時点でベジータやカカロットのガキも歯が立たなくなり、殺されるのも時間の問題だと思ったが、何とかしぶとく生き残りやがった。

 

 だが、ナメック星人が戦いに加わり第3形態になってからのフリーザは、パワー・スピードがさらに上がり、第2形態には見られなかった冷静さが備わった事で単純なパワーアップよりも厄介な存在へとなりやがった。

 このオレから見ても、ナメック星で戦っているヤツらはよくやっている……。

 単純な戦闘力では、フリーザ相手では全く勝負になっていないが、小賢しい技や知恵、そしてフリーザ自身の余裕から生まれる隙を見事について喰らい付いている。

 

 だが……、裏を返せはこの状況は、あくまでフリーザがヤツらに付き合っているだけの話なのだ……。

 その気になれば、フリーザと戦っているヤツらは1分もしないで、瞬殺される事だろう……。

 そして、その時はもう間も無く訪れるだろう……。

 

 

 ラディッツが水晶を見ながらこれまでの戦いとこれからの考察をしていると、水晶の中では戦いが更なるステージへ突入しようとしていた。

 フリーザが最後の変身を披露すると宣言し、気合いの掛け声とともにこれまで以上のオーラを放出しだしたのだ。

 

 

『があああああ……!!!』

 

 

 禍々しいオーラを放ち続けている、フリーザの姿を見ていた地獄のサイヤ人達はその禍々しさに、自然と冷や汗が流れて仕方なかった。

 実際に対峙している訳でもないのに、ここまでの絶望感を味わった事は過去になかった。

 

 

「くそっ!ついにフリーザの野郎が最後の変身を行いやがった!!!!」

「今までだってバケモンだったてのに、どうすんのさ!!!」

 

 

 トーマやセリパが述べた様に、地獄にいるサイヤ人達にはこの戦いで悟飯達が勝つビジョンが全く浮かばなかった。

 そんな時だった……、ありえない光景が映し出されたのだ。

 

 なんと、クリリンがベジータに向かって気功波を至近距離から叩き込んだのだ。

 気功波で腹を貫かれたベジータは、笑みを浮かべながら地上へと落ちていった……。

 

 

「おっ、おい……、あのハゲ、王子に向かって攻撃しやがったぞ……」

「ついに、トチ狂っちまったのか??」

 

 

 クリリンの謎の行動に、地獄のサイヤ人達だけでなく、悟飯やピッコロも同様に驚いていた中で、1人だけベジータの思惑に気付いた存在がいた。

 

 

「なるほどな……、確かにフリーザに対抗するには現状それしかねぇかもな……。だが、そいつでどこまで奴との差を埋められるか……」

 

 

 ベジータの思惑に気付いたのは、先ほどまでギネ達にサイヤ人の特性について語っていたバーダックだ。

 だが、バーダックはベジータがパワーアップしても、フリーザを上回るほどのパワーアップは望めないのではないかと、内心で考えていた。

 

 水晶の中ではデンデによって、悟飯、ピッコロ、クリリンが回復されている姿が映し出されていた。

 その時だった……、水晶の中から轟音が響き渡ったのは……。

 

 フリーザが変身を行なっていた場所は、現在爆煙が立ち上がっていてフリーザの姿を隠していた。

 

 

「つ、ついに……、フリーザの野郎の変身が完了しやがったか……。ヤツの真の姿が拝めるってわけか……、正直、見たくはなかったが……」

「あぁ、どんな化け物じみた姿になってるのか、想像もつかねぇぜ……」

 

 

 地獄のサイヤ人達が変身したフリーザに思いを馳せている時、ナッパが水晶の端に映っている異変に気付いた。

 

 

「おい!あれ見てみろ、ベジータのヤツも回復してもらったみたいだぞ!!!」

 

 

 ナッパが指を指した水晶の端では、デンデによって回復されたベジータが映し出されていた。

 しかも、回復してくれたデンデを蹴っ飛ばしている、なんとも恩知らずな行動をとっている姿が映し出されていた。

 恐らく、最初に回復を頼んだ時に拒否され、長い時間放置されていた事が原因なのだろうが、デンデの有用性を理解しているからこそ殺さなかったのだろう。

 

 だが、続いてベジータから飛び出した言葉には、地獄のサイヤ人達にとって信じられないものだった……。

 

 

『フ……フリーザでもなんでもきやがれ!オレはたった今、超サイヤ人になったんだ……!』

 

 

 ベジータの表情はこれまで見た事がないほどの、自信に満ち溢れていた。

 

 

「おい……、超サイヤ人て、あれだよな?確か伝説の……」

「あぁ……、確か1000年に1人現れるとかなんとかっていう……」

「それが、王子って事?」

 

 

 地獄のサイヤ人達は、まさか自分達一族の伝説がこんなところで出てくるとは思わなかった為、ベジータの言葉に困惑していた。

 だが、その困惑も長くは続かなかった……。

 何故なら……、水晶には変身を終えた宇宙の帝王の真の姿が、ついに映し出されたからだ。

 

 

「ついに、姿をあらわしやがったか……」

「あっ、あれが……、本当にフリーザ……?」

 

 

 バーダックやギネが困惑した様な声を上げたのもしょうがないだろう……。

 何故なら、変身を終えたフリーザはこれまでと全く異なる変身を遂げていたからだ。

 

 これまでは、変身を重ねてもどこか第1形態の特徴を引き継いだ形態をしていたが、最終形態は余計な棘などの装飾を一切排除した、いたってシンプルな人型の形態だった為だ。

 しかも、身長もそこまで高くなかった為、外見だけみれば今までの形態の中で1番弱く見えてしまう。

 

 

「おいおい、ずいぶん可愛らしい姿になっちまったじゃねぇか!」

「あぁ!あんま強くなった様には見えねぇよなぁ!!!」

 

 

 ナッパやパンブーキンは、その外見から最終形態のフリーザを舐めてかかっている様だった。

 だが、それは他のサイヤ人達も同じだった様で、若干余裕を取り戻していた。

 だが、この男は違っていた。

 

 

「お前等の目は節穴か?外見に惑わされてんじゃねぇ!!!ちっ、こいつは想像以上にヤベぇぞ……」

「どうしたってのさ?バーダック……」

「さっきフリーザが変身している間、王子とゴハンはあのナメック星人のガキに回復してもらって、また大幅なパワーアップを遂げやがった。

 特に王子はほとんど瀕死だった状態からの、復活だったから、戦闘力の向上はかなりのもんだろう……。

 オレは正直に言えば、パワーアップしたゴハンと王子、そしてあのナメック星人の野郎がいれば、変身したフリーザ相手でもなんとか食い下がる事ぐらいは出来ると考えていた……。

 だが、ヤツの今の姿を見てハッキリ分かった……。

 あいつ等じゃぁ、万に一つも勝ち目なんかねぇ……」

 

 

 皆がバーダックに視線を向けた時、あのバーダックが冷や汗を流し若干震えていたのだ……。

 どんな相手にも屈したことが無いこの男がだ……。

 ここにいるサイヤ人のほとんどは、バーダックの戦闘勘をよく知っていた為、バーダックが本気で述べているのだということを瞬時に理解した。

 

 地獄のサイヤ人達が冷や汗を流していると、ついにフリーザの真の力がナメック星にいる戦士達に牙を剝こうとしていた。

 水晶の中のフリーザが腕を上げた瞬間だった……。

 地獄のサイヤ人達やナメック星にいる戦士達は、一瞬光が走ったと感じた時には事態は大きく動いていた。

 

 

『これで、もう復活はできない……』

 

 

 光が一瞬走ったと感じたその後に響いた轟音により、皆の認識が現実に追いつくと、そこにはデンデの死体が転がっていた。

 

 

「みっ、見えなかった……、攻撃が一切見えなかった……。あの野郎、ナメック星人のガキが復活させていたって気付いていやがったのか……」

「どうするのさ!?これで、王子達はもう復活することが出来ないじゃないか!!!」

 

 

 デンデの死は地獄のサイヤ人達にも大きな動揺を与えていた。

 それはそうだろう、悟飯にしろベジータにしろデンデに復活してもらえていたからこそ、ギリギリで死を免れ、サイヤ人の特性により大きくパワーアップする事が出来ていたのだ。

 そのデンデが死んだという事は、今後パワーアップも望めないどころか、戦闘不能に陥入れば二度と戦うことも出来ず死を迎えるだろう。

 

 デンデを殺した事で、これまでさんざん回復によって煮え湯を飲まされたフリーザの溜飲が下がったのか、その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。

 戦士達がデンデの死で動揺していると、フリーザはそんな事全く気にする素振りも見せず、一瞬で悟飯、クリリン、ピッコロの前に移動してみせた。

 その移動速度は、正しく消えたと形容するに相応しい速度だった。

 

 

『約束でしたよね、地獄以上の恐怖を見せてあげるって…………』

 

 

 フリーザが告げたその瞬間、先手を取る様に戦士達は動き出した。

 

 

『だああああぁーーーーーっ!!!!』

『くっ、くそーーーーーっ!!!!』

『ちっ!!!!』

 

 

 最初に動いたのは、悟飯だった。

 そして、それにのっかるようにクリリンとピッコロも瞬時に攻撃に加わる。

 3人からの息もつかせぬ連続攻撃がフリーザを襲う。

 

 だが、フリーザはそれを余裕の表情で躱し続ける。

 しかも、恐ろしい事にフリーザはその場を一歩も動いていないのだ。

 

 このままでは埒が明かないと感じたのか、ピッコロが1人空中へ飛び上がると気功波を地上にいるフリーザへ向けて放つ。

 それを、空中へ飛ぶ事で躱すフリーザ。

 そして、その隙を逃さないとばかりに悟飯とクリリンがかめはめ波と連続エネルギー弾で追撃する。

 

 2人の攻撃が当たろうとした瞬間、3人の目の前からフリーザの姿が忽然と消えたのだ。

 

 

『!?きっ、消えたっ……!!!』

 

 

 思わずクリリンが言葉を発したその瞬間だった、フリーザの動きを唯一捉えていた存在が声が声を上げる。

 

 

『後ろだ!!!!』

『そのとおり』

 

 

 フリーザの動きを捉えていたのは、ベジータだった。

 そして、ベジータの言葉を肯定しながら悟飯達3人の後ろに姿を現すフリーザ。

 姿を現したフリーザは、先ほどの反撃と言わんばかりに攻撃を放つ。

 

 その攻撃の対象となったのは、悟飯だった。

 だが、悟飯は目の前で放たれたはずのその攻撃に反応する事が出来ず、動くことすら出来なかった。

 

 

『よけろバカ!!!』

 

 

 攻撃が悟飯へ直撃するその瞬間、またしてもフリーザの動きを見切ったベジータに蹴り飛ばされる事で命を拾った悟飯。

 ベジータ以外の3人は、フリーザから繰り出される攻撃があまりに速すぎて、唖然とした表情をしていた。

 そして、それは地獄で観戦しているサイヤ人達も同様だった。

 

 

「なんだよ……、あの攻撃……、全く見えねぇぞ……」

「光ったと思ったら、攻撃が終わってるだと……」

「だけどよ……、さっきから気になってたんだが、ベジータのヤツ、フリーザの攻撃が見えてるんじゃねぇか?」

 

 

 確かに、トーマやパンブーキンが言った様にフリーザの攻撃には驚いた……。

 だが、それ以上にナッパが言った様に、ベジータにはさっきからフリーザの動きが見えている様に思えてならん。

 まさか、本当にベジータにはあのフリーザの動きが見えているのか??

 

 だが、フリーザにとっては、まだ今までの攻撃もお遊び程度って感じだな……。

 現にフリーザのツラはまだまだ余裕があるって感じだ。

 にしても、あのベジータが他人を助ける姿を見るとはな……。

 

 

 水晶には助けられた悟飯が、ベジータにお礼を言っている様子が映し出されていた。

 

 

『勘違いするな、助けたわけじゃない……。貴様らにいいものを見せてやろうと思ってな……』

『ま、まさか、お前勝つ自信があると言うのか…………!?』

『まぁな……、貴様らは邪魔だ。引っ込んでよく見ておくんだな』

 

 

 ベジータの言葉を聞いて、悟飯、クリリン、ピッコロの3人は惚けた表情でベジータを見ていた。

 

 

『たいした自信だねベジータ……、それとも恐怖のあまりアタマがおかしくなったのかな?』

 

 

 フリーザはベジータの発言がただの虚勢と判断したのか、その表情は余裕の笑みが浮かんでいた。

 

 

『今のうちにそうやってニヤニヤ笑っていろ……!ここにいるのが貴様の最も恐れていた超サイヤ人だ』

 

 

 ベジータの宣言に一瞬だけ、目を開いて驚きの表情を覗かせたフリーザだったが、ベジータから感じられる実力にそこまでの脅威を感じなかった為、やはり虚勢と判断したのか、その表情はまたすぐに余裕の笑みを浮かべる。

 

 

『ふっふっふっふ……、相変わらずジョーダンきついね……』

 

 

 そのやり取りを見ていたバーダックは、ふと昔のことを思い出していた……。

 そう、自分がフリーザに消し飛ばされる寸前にフリーザが発した言葉を……。

 

 

「超サイヤ人……か……」

「ん?親父、どうかしたのか?」

 

 

 バーダックの呟きを拾った、ラディッツが問いかける。

 

 

「いや、そういやぁ、フリーザの野郎が超サイヤ人を警戒してやがったのは、確かだったってのを思い出しただけだ……」

「そうなのか!?ってか、フリーザは超サイヤ人の事しってたのか!?あれは、サイヤ人の伝説というか、おとぎ話みたいなモノで、その姿を見た事があるヤツはいないって聞いたが……」

 

 

 ラディッツにはバーダックの発言が信じられなかった。

 今水晶の中で、圧倒的な強さを見せているフリーザが警戒する様な存在がいる事もそうだったが、その存在がサイヤ人の自分からしても空想の域を出ない様な伝説の存在だったからだ……。

 

 

「あいつが、どういう経緯で超サイヤ人を知ったのかまでは、オレも知らねぇ。だが、あいつは惑星ベジータを吹っ飛ばす前、オレと対峙した時に確かに言いやがったからな……」

「た、対峙しただと!?親父、惑星ベジータがフリーザに破壊される前にフリーザと戦っていたのか!?」

「ん?なんだ?知らなかったのか?」

「知るわけないだろう!!」

 

 

 ラディッツは、まさかバーダックが惑星ベジータが滅ぶ前に、フリーザと戦っていた等知る由もなかったので、この反応は当然といえば当然だ。

 

 

「そ、それで……、フリーザは何て言ってやがったんだ?」

「ああ、『伝説の超サイヤ人とやらが現れたりすると……不愉快ですからねぇ』ってな……」

 

 

 若干疲れた様に問いかけるラディッツにバーダックは当時を思い出す様に、フリーザが自身に向けて言った言葉を語る。

 

 

「超サイヤ人は、フリーザさえ警戒させる何かがある……ってことか?」

「さぁな。そもそも、伝説って言われちゃいるが、誰も見たことがねぇんじゃな……」

 

 

 2人は超サイヤ人にフリーザが警戒するだけの何かがあるっていうのは予測がたっても、バーダックが言った様に、誰も見た事ない存在なので、全く予想がつかなかった。

 そんな2人に第三者の存在が声を掛ける。

 

 

「はっはっは……、案外、大昔にフリーザの先祖が超サイヤ人に痛い目にあってたりしてなぁ!」

「そんな事あるわけないだろう……」

 

 

 2人の会話に入ってきたのはナッパだった。

 ナッパの言動のあり得なさに、呆れた様な表情を浮かべながら反論するラディッツ。

 バーダックも内心では、ラディッツと同じ事を考えていたその時だった……。

 

 死んでから感じることがなかった、懐かしいあの痛みがバーダックを襲ったのだ……。

 痛みで頭を押さえ一瞬目を閉じて、目を開いた時にはバーダックの目の前の光景は大きく様変わりしていた。

 

 バーダックの目の前には、見慣れた地獄の光景ではなく、何処か懐かしさを感じる別の惑星で2人の存在が対峙していた。

 1人は、金髪で翠色の瞳をした自分とよく似た服装をした男。

 もう1人は、どこかフリーザに似た面影を感じる事が出来る存在。

 

 バーダックが目の前の事態に、困惑していると……

 

 

「親父!!」

「はっ!……ラディッツ?」

 

 

 ラッディツに大声で呼ばれた事で、目の前の光景は見慣れた地獄の景色に戻っていた。

 バーダックらしくない惚けた顔でラッディツを見ると、先ほどまで話していたラディッツとナッパが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 その様子に気付いた、他のサイヤ人達もバーダック達の元へやってきた。

 

 

「どうしたんだい?ラディッツ??」

「おふくろか!親父が急に頭を抑えてな……」

「な、なんだって!?」

 

 

 ラディッツから事情を聞いた、ギネはバーダックが昔、妙な状態になっていた事を思い出し、バーダックに駆け寄る。

 

 

「大丈夫かい?バーダック!!」

「ああ……、心配するな、ちょっと立ちくらみを起こしただけだ……」

「立ちくらみって……」

 

 

 頭をふって、片手でギネを制するバーダック。

 そして、それを心配そうに見つめるギネ。

 誰の目から見ても、今のバーダックは様子がおかしかった。

 

 

「本当に大丈夫か?顔色悪いぞ、お前」

「無理すんなよ」

「大丈夫だって、言ってんだろ!それより、王子が仕掛けるみてぇだぞ」

 

 

 心配になったトーマやパンブーキンが声を掛けるが、これ以上この話題を引っ張りたくなかったバーダックは水晶を指差し、皆の意識を他に移す。

 

 

(ちっ、なんだって、こんな時にあの力が発動すんだ?死んでから一度も発動しなかったのに……)

 

 

 皆の意識が水晶に移った事を確認したバーダックは、先程の事を思い出していた。

 

 

(あの力は未来を見るための力だったはずだ……。くそっ、あの2人がどこのどいつかは分らねぇが、今起こっているこの戦いとなんか関係があるのか?それとも、別の何かか??)

 

 

 しばらく、考え込むバーダックだったが結局答えは出ず、これ以上考えても無駄だと思い、皆と同じ様に水晶に視線を移す。

 水晶にはフリーザに向かって飛び出したベジータが映し出されていた。

 

 

『カカロットの出番はないぜっ!!!!』

「はえぇ!!」

 

 

 誰が言ったのかは、分らなかったが確かにベジータの動きは、第三形態のフリーザすら上回る程、速く力強いものになっていた。

 これが、ベジータの言う超サイヤ人の力なのか!?

 

 

 ラディッツがベジータのパワーアップに驚いていると、ベジータの超スピードの攻撃をフリーザはそれを更に上回るスピードで躱す。

 だが、ベジータはそれをも見切っていた。

 

 

『見えてるぞ!!!!』

 

 

 ベジータが躱したフリーザに追撃をかけ、ベジータの手刀がフリーザにヒットした瞬間だった。

 ヒットしたフリーザの体がブレたのだ……。

 そして、まるでそこには最初から何も存在していなかったかの様に、フリーザの姿が忽然と消えてしまった。

 

 

『な……!!!』

 

 

 その状況が信じられなかったベジータは、驚愕の表情を浮かべながら首を左右に振りながらフリーザの姿を探す。

 そんな時、ベジータの耳にフリーザの声が届いた。

 

 

『はっはっはっはっは……』

『!?』

 

 

 声のした方に、急ぎ視線を向けると腕を組み余裕の表情でベジータを見上げているフリーザがそこにはいた。

 

 

『ちょっと本気でスピードをあげたらついてこれないようだね……、それでも超サイヤ人なのかな……』

『バ……バカな……、く……くく…………』

 

 

 冷や汗を流し震えながら、まるで現実を受け入れられない様に歯を噛みしめるベジータ。

 

 

『はっきり言って、そんな程度のスピードではこの僕にはとても勝てないよ。

 笑わせないでくれ。所詮超サイヤ人なんてただのくだらない伝説だったんだ』

『オ……オレには、こ……これが限界だというのか……!!

 バカな……そ……そんなはずはない……!!』

 

 

 フリーザから告げられた言葉は、ベジータのプライドや自信を大きく傷つけた。

 そして、ベジータの中で何かが切れた……。

 

 

『オレは…………、オレは超サイヤ人だーーーーーっ!!!!!くたばれフリーザーーーーーッ!!!!!』

 

 

 追い詰められたベジータは、自分の中にある全ての力をエネルギー波にのせ、フリーザ目掛けて放った。

 その凄まじさは先ほど、フリーザに向けて悟飯が放ったものとは比較にならなかった。

 

 

「血迷ったか、王子の野郎!!あれじゃ、ナメック星も吹っ飛ぶぞ……!!!」

 

 

 ベジータの攻撃に、地獄で見ていたバーダックはつい声を上げてしまった。

 それは、当然だろう。ベジータの攻撃は当たるにしろ、避けられるにしろ、どちらにしろ星を吹っ飛ばすには十分すぎるほどの威力が込められているのだから。

 

 だが、バーダックの心配はあり得ない形で杞憂となってしまった。

 そう、この存在によって。

 

 

『きえええっ!!!』

 

 

 奇声を上げたと思ったフリーザだったが、なんと超巨大なエネルギー波にむかって突っ込んでいく。

 もうまもなく直撃すると思った瞬間、なんとフリーザは超巨大なエネルギー波を左足の一蹴りで、真上と跳ね返したのだ。

 あり得ないスピードで上空へ飛んでいく、エネルギー波。

 

 

『あ……ああ…………、あ…………』

 

 

 跳ね返されたエネルギー波を呆然とした表情で見上げるベジータ。

 

 

「う……嘘だろう…………」

「あ……あのエネルギー波を……、片足だけで……蹴り飛ばしやがった……」

「い……今の王子の攻撃、と……とんでもない……威力だったのに……」

 

 

 地獄にいるサイヤ人達は、フリーザがみせたあり得ない行動に心底動揺を隠せなかった。

 避けるなら分かる。

 エネルギー波で相殺するのも分かる。

 

 だが、あれ程の超巨大なエネルギー波を蹴り返すっていうのは、いくらなんでも想像の埒外だ。

 そして、それはフリーザへの恐怖へと帰結する。

 

 

『今度は……、こっちからやらせてもらうよ……かるくね……』

 

 

 そのフリーザの台詞は、今のベジータにとって正に死の宣告に等しかった。

 当のベジータは、もはや震え涙を流す事しか出来なかった。 

 

 ベジータは生まれて初めて心の底から震え上がっていた……。

 真の恐怖と決定的な挫折によって……。

 恐ろしさと絶望に涙を流したのも初めてのことだった……。

 

 ベジータはすでに戦意を喪失していた……。

 

 

 それでも、フリーザは止まらない。

 一瞬でベジータへ近づくと、そのスピードを生かしたまま頭突きを喰らわせる。

 さらに、吹き飛んだベジータをあびせ蹴りで地面へと叩きつける。

 

 口から血を吐き出しながら、猛スピードで地面へ落下したベジータは、轟音と共に巻き起こった砂埃の中で横たわっていた。

 攻撃自体はたった2発なのにも関わらず、すでにベジータは満身創痍だった。

 

 

『ゴ……ゴホッ…………、……うっ…………』

 

 

 痛みでもはや声もあげられなくなっているベジータの頭上に、フリーザが現れる。

 そして、倒れているベジータの首に尻尾を巻きつけると、無理やり引っ張り起こす。

 尻尾により持ち上げられた、ベジータは背後からフリーザに強烈な右パンチを喰らう。

 

 

『ごふっ!!!』

 

 

 あまりの威力に、口から血を吐き出すベジータ。

 その威力は滅多なことでは損傷することがないフリーザ軍の戦闘服が砕けている事からも、凄まじさが容易に想像がつく。

 

 そんな時、ふとフリーザが思い出した様に悟飯達へ視線を向ける。

 

 

『手助けしたかったらいつでもどうぞ……』

『…………』

 

 

 フリーザに声をかけられた悟飯達だったが、何も返す事が出来なかった。

 まるで次元が違う戦闘力を持つフリーザへの恐怖のため、3人はまるで金縛りにあった様に動く事が出来なかったのだ……。

 

 そして、それは地獄のサイヤ人達も同じ事だった。

 ベジータがこの様な状況になっているにも関わらず、誰一人として言葉を発する事が出来なかった。

 

 そこまで、フリーザという存在の恐怖が蔓延してしまったのだ。

 

 フリーザは相変わらずベジータの背後から、両手でパンチを打ち続けていた。

 フリーザがパンチを打ち込む度、ベジータの口から血が吐き出される。

 

 そして、それを黙って見ている事しか出来ない、悟飯、ピッコロ、クリリン、そして地獄のサイヤ人達。

 

 だが、そんな時間もついに終わりがやってこようとしていた。

 しばらくベジータを殴り続けいていた、フリーザだったが首に巻きつけ、ベジータの体を支えていた尻尾で、ベジータを岩壁へと投げとました。

 

 

『つまらん……、戦う気がまるで無くなちゃったようだね……。ちょっと早いけど、トドメをさしちゃおうか!』

 

 

 ついに、フリーザによってベジータへの最後通告が告げられる。

 岩壁に叩きつけられたベジータへフリーザが近づき、ベジータの首を左手で持ち上げ、トドメをさそうとしたその瞬間だった。

 

 ズザァ……っと地面が、擦れる音が響いたと同時に突風が吹き荒れたのは……。

 

 音の方へ視線を向けると、1人の男がそこには立っていた。

 

 男の視線はフリーザ1人を睨みつけていた。

 

 

 男が現れた時、地獄でこの戦いを観戦していた1人のサイヤ人が笑みを浮かべていた。

 

 

「ようやく現れやがったか……、カカロット!!」

 

 

 今、数十年前から予知されていた因縁の対決の火蓋が、ついに切って落とされようとしていた。




エピソードオブバーダックの話をなんとしても入れたかったんや!


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フリーザ編-Ep.11

バトルシーンがむずいよー


■Side:ギネ

 

 

「ようやく現れやがったか……、カカロット!!」

 

 

 あたしの横でバーダックがそんな台詞を口に出していたが、あの男を一目見た時から、あの子が何者なのかあたしには一目で分かった。

 なぜなら、今私の横にいるバーダックにそっくりだったからさ。

 でも、ちょっと違うところもある。

 

 着ている服は、あたし達サイヤ人はまず見た事がない様な服装だし、顔つきだって今は敵の前だから険しい顔してるけど、本当はよく笑う優しい子なんだろう。

 その姿からなんと無くだけど、想像がつくよ……。

 

 あんたは地球でいい人達に囲まれて、楽しくやってたんだね……。

 最後に会った時は、まだ赤ん坊だったのに……、立派になったんだね……。

 ねぇ、カカロット……。

 

 

「カカロットだと!?あいつ、生きてやがったのかっ!?てっきりベジータに殺られてるとばっかり思ってたぜ……」

「いや、さっきベジータがカカロットの出番がどうたらって言っていたではないか……」

 

 

 カカロットの登場に、ナッパやラディッツが何か言っているが、私は久しぶりに見る事が出来たカカロットに夢中で気にしなかった。

 ナッパのバカが、大変失礼なことを言っていた気がするけど……。

 

 

「へぇ、あれがバーダックとギネの次男坊かい!!」

「確かに、顔だけ見ればバーダックそっくりだな……」

「いや、バーダックはあんな平和ボケしたツラしてねぇだろ……」

「それは、ギネの血のせいだろう」

 

 

 あたしとバーダックの昔からの仲間達も、カカロットには興味津々て感じだった。

 こっちも、なんか失礼な事を言っているけど、今は気分がいいので気にしない……。

 

 

「にしてもよぉ、カカロットの野郎何しに来やがったんだ?まさか、フリーザに戦いを挑むわけじゃねぇよなぁ?」

「いくらなんでも、それはないだろう。下級戦士のあいつがフリーザと戦えるだけの力があるわけないではないか」

 

 

 横から聞こえた、ナッパとラディッツの会話であたしは今がどういう状況なのかを思い出した。

 そうだった……、カカロットの目の前には今フリーザがいるのだ。

 せっかく見る事が出来たカカロットだけど、正直あたしは今すぐ仲間達と共にフリーザの前から逃げてほしいと思わずにはいられなかった。

 

 そんなあたしの気持ちなど知りようがない、当のカカロットは水晶の中で、仲間や息子達に何か話しかけ、王子の前にいるフリーザの元へ歩いていく。

 

 

『きさまがフリーザか……、思っていたよりずっとガキっぽいな……』

 

 

 フリーザを目にした悟空は、自分が想像していた姿よりフリーザの外見や雰囲気が幼く見えたのだろう。

 つい口から本音が出た様だった。

 

 

『まだゴミが残っていたのか……』

『ベジータはオラと戦う約束したんだ、邪魔するなよ』

 

 

 いきなり現れた存在に舐めた口をきかれたからか、フリーザも辛辣な言葉を返すが悟空は意にも介していない様だった。

 2人が口でやり取りを行なっていると、フリーザの足元で気を失いかけていたベジータが、ようやく悟空の存在に気づいた。

 

 

『カ……カカロット……、お、お……おまえ…………』

『カカロット……!?その名前は……サイヤ人か!!』

 

 

 ベジータは、悟空を一目見た瞬間何かに気づいた様だった。

 だが、フリーザはベジータが発したカカロットという、悟空のもう一つの名前を聞き、悟空がサイヤ人であったことに驚きを示した。

 そして、悟空の顔を改めて見た時だった……

 

 

『はっ!!!』

 

 

 一瞬何かに気づいた様子を見せたのち苦々しい顔を浮かべ、悟空を睨みつけるフリーザ。

 その一瞬に何を思い浮かべたのかは、フリーザにしか分からない。

 

 悟空がサイヤ人だと分かったからか、それとも先程の一瞬で何かを思い出したからか、フリーザは改めて悟空を敵として認識した様だった。

 

 

『サイヤ人は1匹たりとも生かしておかないよ……。バカだねぇ、おとなしく震えてりゃよかったのに……』

『かもな……』

 

 

 嘲りの笑みを浮かべるフリーザに対して、まるで感情を押し殺しているかの様に淡々とした返事を返す悟空。

 だが、2人の会話は長く続かなかった……。

 

 

『そらっ!!!』

 

 

 掛け声と共に最初に動いたのはフリーザだった。

 繰り出された低空の飛び蹴りはフリーザより身長が20cm程高い悟空からしてみれば、かなりの厄介な上、スピードも相当なものだった。

 だが、悟空は瞬時に体を倒し、片手を地面に突きフリーザよりもさらに低い位置から蹴りを繰り出した。

 しかも、今度は逆に身長差を活かし、フリーザが自身に蹴りを当てるよりも早くフリーザの横っ面に蹴りを叩き込む。

 

 カウンターという形で蹴りを喰らい吹っ飛んだフリーザだったが、瞬時に体勢を立て直しバック宙の要領で地面に着地する。

 サイヤ人が今のスピードにカウンターを合わせられるとは思っていなかったのか、一瞬頬を抑え顔を顰める。

 だが、その表情は瞬時に「にや……」と不気味な笑みに変わると、フリーザは悟空に向かって人差し指を向ける。

 

 

『やばいっ!!!よけろ悟空ーーーーーっ!!!!』

 

 

 フリーザの動作を見て、次に行われる攻撃が先程自分たちに行なっていた攻撃だと予想がついたクリリンは悟空に向かって叫ぶ。

 

 

『なまいきだよ、おまえ』

 

 

 クリリンの叫びも虚しくフリーザの指先から数十発のビームが無情にも放たれてしまった。

 あのベジータをしてようやく目で追う事ができる程の超速で、しかも高威力なフリーザのビームが悟空に迫る。

 

 だが、悟空は冷静に片手を突き出し、そのビームを片手だけで全て跳ね返していく。

 跳ね返されたビームはその威力から、ナメック星の大地にどんどん大きな傷跡を残していく。

 そして、数十発のビームが全て止んだ時、フリーザの前には無傷のままの悟空が目の前に立っていた。

 

 

『まさか……、全部弾き飛ばした……片手だけで……』

 

 

 さすがのフリーザもこの展開は予想外だったのか驚きの表情を浮かべる。

 

 

 だが、フリーザ以上に驚きに包まれている存在が別にいた。

 それは、地獄で観戦しているサイヤ人達だった。

 彼等は今の一瞬の攻防を目の当たりにして、呆然としていた……。

 

 だが、それは当然かもしれない。

 ここにいるサイヤ人達にとって、カカロットこと孫悟空は、バーダックとギネの息子で下級戦士って情報しかなかったのだ。

 ナッパやラディッツから多少の情報が入っていたとしても、ここまで戦える存在とは正直予想もしていなかった。

 

 そんな存在が、サイヤ人の王子であるベジータが手も足も出なかった化物と互角に戦っている。

 これは、一種のカタルシスと言ってもいいだろう。

 

 

「すっ、すごい!すごいよ!!カカロット!!!!」

「ギネ!!あんたの次男坊やるじゃないか!!!」

 

 

 最初にショックから復活したのはギネだった。

 自分の息子が初めて戦っている姿を見て、彼女のテンションは最高潮だった。

 そして、それが伝わったのかセリパも興奮したようにギネに声を掛ける。

 

 

「おいおい……、聞いていた話と随分違くねぇか?バーダックの話じゃカカロットって下級戦士だっただろ?」

「ああ、確実にベジータ王子より上の戦闘力を持っているな……」

 

 

 女性陣が興奮しているのに対して、男性陣は冷静に悟空の戦闘力について分析していた。

 だが、そんな中で今だに悟空の力を認められない者達もいた……。

 

 

「マ、マグレだぜ……、カ……カカロットの野郎があんなに強いわけねぇ……」

「…………」

 

 

 ナッパとラディッツは目の前で起きた出来事がいまだに信じられないのか、呆然と水晶を見ていた。

 その横で、バーダックは漸く自分が過去に予知した状況になり、しかも自分が期待していた通りの力を発揮している息子の姿を見て、静かに笑みを浮かべていた。

 地獄のサイヤ人達が、カカロットにそれぞれの想いを抱いている、その時だった……、彼等の王子の笑い声が聞こえてきたのは……。

 

 

『は……、はーーーーーっはっはっは……、フ……、フリーザ……!

 本気でやったほうがいいぜ……。

 こ……、こいつこそ……き……貴様の最も恐れていた……、ス……、超サイヤ人だ!!!』

『!!』

 

 

 ベジータが告げた言葉にフリーザは目を見開いて、驚きの表情を浮かべる。

 その表情を見たベジータは、痛みで最早身体を動かす事すらしんどい状況にも関わらず、震える体に力を入れ上半身だけ起き上がらせ強気の笑みを浮かべ言葉を続ける。

 

 

『そ……そうだ!あの伝説の全宇宙最強の戦士……超サイヤ人だ……。

 ふ……ふっふっふ……、フリーザ……、も……もう、てめえはおしまいだ……。

 ざ……あまあみやがれ…………!!』

 

 

 その瞬間だった……。ベジータの胸をフリーザのビームが貫いたのは……。

 胸を貫かれたベジータは、口から血を吐きながら力が事切れた様に後ろに倒れこむ。

 

 

『が……がはっ……』

『知ってたはずだろ!?ボクがくだらないジョークが嫌いだって事をさ……』

 

 

 フリーザが不機嫌そうにベジータに告げるのを見て、悟空の表情に怒りが宿る。

 

 

『おい!ベジータはもうほとんど身動きさえ出来ねえ様な状態だったんだ……!

 わざわざ止めを刺すこたあねえだろ……!』

『超サイヤ人だなんて、つまらない伝説にいつまでもこだわっているからさ。

 ボクはくどいヤツが嫌いなんだ』

 

 

 フリーザは悟空の怒りなど知った事ではないと言う感じで言葉を告げる。

 それに対し、悟空が顔を歪めると、足元からベジータの弱々しい声が聞こえてきた。

 

 

『カ……カカロット……、ま……まだきさまは……そんな、あまいことをいって……やがるのか……。

 ス……超サイヤ人じゃ……な……なかったのか…………。

 バ……バカやろう…………!非情になれ…………!

 あ……あまさなくせば……き……きさまは、き……きっとなれたはずだ…………。

 ス……超サイヤ人に…………!』

『オ……オラはおめえみてえに非情に徹するなんてどうやったって出来ねえ……。

 だいたい、その超サイヤ人……てのがよくわからねえ……』

 

 

 ベジータの正に命を振り絞った言葉だった。

 そして悟空にもベジータが自分に対してとても大切な事を語ってくれていると言うことは理解できても、その内容をどうしても受け入れられる事がで出来なかった。

 それでもベジータは命を振り絞りながら言葉を続ける。

 

 

『ス……超サイヤ人てのは……うっ……ゴホッ』

『それ以上喋るな!死を早めるだけだぞ!』

 

 

 なんとか言葉を発していたベジータだったが、流石に心臓を貫かれていては長く喋る事が出来ず、またも口から血を吐き出す。

 流石にこれ以上はマズイと思ったのか、悟空もベジータを止めようとするが、ベジータは止まらない。

 

 ベジータ自身嫌でも分かっているのだろう……。

 自分がもう助からないと言う事を……。

 

 

『よ……よ……よく聞けカカロット……。

 オ……オレや貴様の生まれた星…………、惑星ベジータがき……消えて無くなったのは…………、きょ……巨大隕石の衝突のせいなんかじゃ……な……な……なかったんだ……』

『心臓を貫いたのにしぶといね。話はまだ続くわけ?』

 

 

 ベジータが痛みを堪え、必死で話を続ける中、フリーザだけはつまらなさそうにベジータを見る。

 フリーザのそんな態度が余計にベジータが胸に隠し持っていた想いを刺激したのか、ベジータの手は怒りで無意識に力が入り、じゃりじゃりと地面に指をめり込ませるとそのまま地面の土ごと力強く握りしめる。

 それと同時に、ベジータの目から涙があふれ一筋の線となって頬を伝い落ちた。

 

 

『フ……フリーザが殺りやがったんだ……!

 オ……オレ達サイヤ人はあ……あいつの手となり足となり命令どおり働いたってのに……』

『…………!!』

 

 

 ベジータから告げられた内容に、フリーザ以外の悟空、悟飯、クリリン、ピッコロの4人は驚愕の表情を浮かべる。

 そして、同じくベジータの言葉を聞いていた地獄のサイヤ人達も全員が一様に表情を苦いものへと変えていた。

 

 

『オ……オレ達以外は全員殺された……。

 貴様の両親もオレの親である王も……。

 フリーザは……ち……力をつけ始めたサ……サイヤ人の中から超サイヤ人が生まれるのを、お……恐れたからだ……』

『ふっ……、よくいうよ……』

 

 

 ベジータが告げた言葉を、鼻で笑い飛ばすフリーザ。

 ベジータの言葉が真実かどうかは、フリーザ以外判断はつかないが、フリーザが惑星ベジータを吹き飛ばす間際、超サイヤ人について言及したのは事実だった。

 

 強く握り締めていた右手を開き、弱々しく隣に立っている悟空に向けるベジータ。

 その顔はとめどなく溢れ出る涙と、戦いで出来た傷と血によってボロボロだった。

 

 

『た……たのむ……、フリーザを……フリーザを倒してくれ…………、た……のむ。

 サ……サイヤ人の……手……で……た……たおして……』

 

 

 その言葉を最後にベジータの手は地面にバタンと落ちる。

 

 

『やっとくたばったか……、じゃぁ恐怖のショーを再開しようか』

 

 

 ベジータが死んだ事等どうでも良いとばかりに、さっさと戦いを再開させようとするフリーザだったが、悟空の視線はベジータの亡骸に注がれたままだった。

 その表情には確かに悲哀の感情が見てとれた。

 

 

『おめえが泣くなんて……、おめえがおらに頼むなんて……、よっぽど悔しかったんだろうな……』

 

 

 呟く様に吐き出された言葉の後も、ベジータの亡骸を見つめ続ける悟空。

 その表情にはいつしか、悲哀の感情の他に何か大きな決意が込められている様だった。

 

 それから数秒後、悟空はベジータから視線を外しベジータの亡骸の後ろに視線を送る。

 『キッ』と悟空がそこを睨む様に気合いを入れると、大きな音を立てて人1人埋められるくらいの穴が出来ていた。

 悟空は、そこにベジータの亡骸を埋めてやろうと、ベジータの亡骸に近づく。

 

 

『わかってるぜ……、サイヤ人の仲間が殺されたのが悔しいんじゃねぇんだろ……?

 あいつに、いい様にされちまったのが悔しくてしょうがねぇんだろ……?

 おめえの事は大キライだったけど、サイヤ人の誇りはもっていた……』

 

 

 亡骸を埋めてやりながら、悟空はベジータに語りかける。

 

 悟空とベジータの間に友情等といったプラスの感情は皆無と言っていいだろう。

 なんせ、彼らは出会ってたった一度の死闘を演じただけで、口で会話した時間よりも拳で語り合った時間の方が長い位なのだ。

 そんな彼らなのだが、不思議と悟空にはベジータがどう言う人間なのかよく理解できていた。

 

 死ぬ間際の懇願は、きっとベジータにとってプライドを大きく傷つける行為だったはずだ。

 だがそれでも、ベジータは言わずにはいられなかったのだろう。

 何故ならそれは、彼がこれまで人生の中で長い事、胸の奥に押し殺していた想いだったからだ。

 

 本来であれば自分の手でフリーザを倒したかっただろう。

 だが、それは同族の敵討ち等では決してない。

 彼は戦闘民族サイヤ人の王子として、サイヤ人が誰かにいい様に使われていた事が我慢出来なかったのだ。

 

 そして、そんなベジータの想いは、今1人のサイヤ人に確かに伝わり受け継がれた。

 

 

『オラも少しだけ分けてもらうぞ、その誇りを……』

 

 

 ベジータの亡骸を埋め終えた悟空は、フリーザに向き直る。

 その表情は大きな決意が込められており、真っ直ぐフリーザを睨みつける。

 そして、孫悟空は宣言する。

 

 

『オラは地球育ちのサイヤ人だ……!』

 

 

 きっと、この時だったのだろう。

 地球育ちの孫悟空が戦闘民族サイヤ人、カカロットを初めて受け入れたのは。

 

 

『おめえ達に殺されたサイヤ人の為にも、そしてここのナメック星人達の為にも、おめえをぶっ倒す!!!』

 

 

 多くの亡きサイヤ人とナメック星人、そして仲間達の想いを背負った最後の戦士、孫悟空が今フリーザにその熱き想いと共に開戦の合図を告げる。

 

 

 

■Side:ラディッツ

 

 

 カカロットがフリーザをぶっ倒す!!と宣言した時、オレは柄にもなく胸がアツくなった。

 それが何故なのかと問われれば、言葉にするのは難しいのだが……。

 

 あいつと地球で再会した時に、あいつは自分がサイヤ人であることを否定しやがった。

 オレはそれが多分許せなかったのだろう……。

 使命を忘れ、のうのうと地球人と仲良く暮らしているあいつが。

 

 そんなあいつが、自分がサイヤ人である事を受け入れた。

 それはベジータの死が切っ掛けである事は間違いないだろう。

 

 正直なところベジータの死に様は無様としか言いようがない。

 だが、あいつの語った想いはこのオレにもどこか感じさせられるものがあったのも事実だ……。

 

 オレがそんな事を考えていると、横から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「へっ、ベジータの野郎、ようやくくたばりやがったか!ざまぁ、ねぇぜ……」

「ナッパよ、口と表情が合っていないぞ……」

「うるせぇ……」

 

 

 ナッパの台詞を聞いて、オレがナッパを見るとヤツの表情は台詞と異なりどこか暗かった。

 オレの言葉への返しも何処と無く覇気がない。

 もしかしたら、ベジータの死はオレが思っている以上にこいつには重くのし掛かっているのかもしれない。

 

 そして、それに一番驚いているのはナッパ本人なのかもしれんな……。

 

 

「ナッパは知っていたのか?惑星ベジータがフリーザに滅ぼされたのを?」

「いや、オレも知らなかった」

 

 

 オレは話を変える様に、ナッパに声をかけるとヤツは話に乗ってきた。

 

 

「ベジータのヤツはどこでそれを知ったんだろうな?そして、何故それをオレ達に黙っていたのだろうな……」

「ベジータはフリーザ軍の幹部とも会っていたから、案外偶然知っちまったのかもな……」

 

 

 オレ達の間に沈黙が流れる……。

 

 

「あいつは、サイヤ人の王子である事に誇りを持っていやがった……。

 だからこそ言えなかったのかもな……、サイヤ人が他の誰かの手によって滅ぼされたなんて事は……。

 特に同じサイヤ人である、オレ達には……」

 

 

 沈黙を破ったのはナッパだった。

 ポツリと呟く様に吐き出されたその言葉には、ベジータをガキの頃から一番近くで長年見続けたからこそわかる何かが篭っている様な気がした……。

 オレが黙ってナッパを見ていると、ふとあいつの口角が上がる。

 

 

「くっくっく……、にしても、まさかあのプライドの塊みてぇなベジータが下級戦士のカカロットを頼るとはなぁ!!!

 人生何が起こるか分からねぇとは、正にこんな事を言うんだろうなぁ!!!」

 

 

 笑いながら話すナッパを見て、オレも人生の大半の時を一緒に過ごした我らがサイヤ人の王子を思い出した。

 そして、確かにヤツらしくないと思い、笑わずにはいられなかった……。

 

 

「で、ナッパ……、我らが王子は下級戦士のカカロットに、オレ達サイヤ人の宿願を託したみたいだぞ?」

 

 

 オレがお前はどうするんだ?って視線を向けるとナッパは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「はっ!カカロットなんかがフリーザに勝てるわきゃねぇだろう!!!」

 

 

 そう言って、話は終わりだと告げる様にナッパの視線は水晶に向けられる。

 口ではカカロットの勝利等ないと断言し起きながら、その目にはこの戦いをきっちり見届けてやるって気持ちがありありと見て取れた。

 

 そんなナッパに苦笑を禁じ得ないオレも水晶に目を向ける。

 確かにナッパの言う通り、正直オレもカカロットがフリーザを倒せるとは思っていない……。

 だが、あのベジータがカカロットを認めたのは紛れも無い事実。

 

 もしかしたらベジータには、オレ達に感じ取れない何かをカカロットから感じ取ったのかもしれない……。

 だとしたら、オレが出来る事はただ1つ……。

 

 

「無様を晒すなよ、カカロットよ!!!」

 

 

 オレも地獄から、この戦いの結末を見届けよう……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

『きさまら、この場から離れるんだ!!オレ達は邪魔だっ!!!!』 

『悟飯っ!!!!はやくしろっ!!!!』

『お父さん死なないで!!!フリーザをやっつけて!!!』

 

 

 カカロットとフリーザの戦いが本格的になる事を見越して、ナメック星人とハゲ、そして悟飯の3人はカカロットとフリーザから大きく距離をとる。

 水晶には構えを取っているカカロットと、両手を広げ仁王立ちしているフリーザ。

 水晶越しだと言うのに、2人からのとんでもないプレッシャーで押しつぶされそうになる。

 

 

 ギネが2人のプレッシャーで押し潰されそうになっていると、向かい合っていた悟空とフリーザの時が動き出した。

 

 最初に仕掛けたのは悟空だった。

 フリーザに向かって飛び出し、一瞬で距離をつめると強力な右ストレートを繰り出す。

 だが、それを左腕で軽々と受け止めるフリーザ。

 

 悟空の拳の威力を証明する様に、受け止めたフリーザの後ろの芝生や水面には衝撃の波紋が広がっていた。

 

 しばし、悟空の右ストレートを左腕で受け止めていたフリーザだったが、お返しとばかり悟空の顔目掛けて右ストレートを繰り出す。

 だが、悟空はそれを首を逸らす事で躱し、カウンターの左を合わせるが、今度はフリーザが上体を前に折る要領で悟空のカウンターを躱し、拳が頭上を過ぎ去ると瞬時に上体を起こし反動で蹴りを繰り出す。

 その蹴りをバック転の要領で躱し、上空へ飛び上がる悟空。

 

 それを逃すまいとフリーザは両目からビームを出し追撃する。

 だが、ビームが当たる瞬間悟空の姿が消えると、瞬時にフリーザの後ろに現れる。

 そして、後ろから右の一撃を浴びせようとするが、今度はフリーザの姿が悟空の視界から消える。

 

 

『!!』

 

 

 悟空が気を読んで、後ろを振り向くと水面からフリーザが飛び出して来た。

 そして、両手からエネルギー弾を繰り出す。

 

 瞬時に反応した悟空は、そのエネルギー弾を正面から受け止めるが、威力が強く地面を擦りながらも押し込められていく。

 

 

『く……!!!ぐあっ……!!!ぎ……ぐぐ……!!!』

 

 

 ズザザザ・・と音を立て、地面を擦りながら押し込まれていく悟空だったが。

 いつのまにか、悟空の後ろには巨大な岩石が迫っていた。

 しかし、悟空は為すすべも無くエネルギー弾ごと巨大な岩石に押し込まれていく。

 

 

『だっ!!!』

 

 

 フリーザのエネルギー弾と共に巨大な岩石の中間部分まで、押し込まれた悟空だったがようやくエネルギー弾を上空へ弾き飛ばした。

 

 

『い……いちちち……!!おーいてえ!』

『…………』

 

 

 崩壊する巨大な岩石の中から、まるで大したダメージでは無いみたいに現れる悟空。

 そして、それを真顔で見つめるフリーザ。

 

 

 

「すげぇ……」

 

 

 あたしの横にいたパンブーキンが呆然とした顔で声に出した言葉は、まったくもって同感だった。

 いや、あたしだけじゃ無くここにいる全員、同じ気持ちだと思う。

 周りを見渡せば、皆呆然とした表情で水晶を見ていたが、その目からはこの戦いを一瞬でも見逃すまいって気持ちが見て取れた。

 

 戦いがあまり好きじゃないあたしでも、この戦いのレベルがとんでも無い事は分かる。

 そして、この戦いを行なっているカカロットがあたしでは想像出来ないくらい努力してきたのも……。

 

 わたしは祈る様に顔の前で手を組む。

 そして、自然と次の言葉が出ていた。

 だって、あたしが今カカロットにしてあげられるのは、それだけだったから……。

 

 

「頑張れ!カカロット……」

 

 

 

『思っていたより、ずっと強い様だね。

 ちょっと驚いたよ。ギニュー隊長の上をいくヤツがこの世にいるなんてね……。

 でも……、ボクには敵わない』

 

 

 ニヤリと余裕の表情を浮かべるフリーザ。

 

 

『かもな……。でも、分かんね〜〜ぞ〜〜』

 

 

 悟空の方もまだ力を隠しているのか、こちらもまだまだ余裕の表情だった。

 

 

『ほっほっほ……、わかるよ』

 

 

 悟空の言葉を聞いても余裕を崩さないフリーザ。

 そして、言葉を言い終えると同時にフリーザの両目がカッと見開くと、悟空が立っていた巨大な岩石が轟音と共に弾け飛ぶ。

 フリーザが繰り出した気合い砲を躱した悟空は、フリーザの頭上に一瞬で移動するとお返しとばかりにフリーザに気合い砲を叩き込む。

 

 頭上から繰り出された気合い砲を受けたフリーザだったが、水面に叩きつけられる寸前でフリーザの姿が搔き消える。

 

 

『オラの気合い砲から脱出した!!』

 

 

 悟空が驚きの声をあげると同時に、フリーザが悟空の背後に現れると強力な蹴りで悟空を水面に叩き落とす。

 叩き込まれた衝撃が強すぎて凄まじい水しぶきを上がる。

 

 

「カカロット!!!」

 

 

 水面に叩き込まれたカカロットを見て、あたしは思わず声を上げていた。

 叩き込まれたカカロットはまだ姿を現さない。

 

 

「まさか……、いまのでやられたんじゃ……」

 

 

 セリパがあたしが頭に浮かんだけれども、拒否した最悪な事を口に出す……。

 本当にあんたはこれで終わっちまったのかい?カカロット……。

 

 あたしは、不安になって、ついバーダックの方に視線を向けるとバーダックは真剣な顔で水晶を見続けていた。

 その顔には、まだ終わってねぇって書いてある様だった。

 

 あたしが、そんな事を考えていると、あたし達の頭によぎった最悪な考えは思わぬ相手から否定されることになる。

 

 

『はやく上がってこいよ!キミがそれぐらいで参るわけないからねぇ!!』

 

 

 フリーザの言葉に、あたしは弾かれた様に水晶に視線を向ける。

 だが、一向にカカロットは姿を現さない……。

 

 しばらく、静寂の時が流れる。

 本当にカカロットは大丈夫なのだろうか?と不安になり始めた時だった。

 水面からエネルギー弾がフリーザ目掛けて物凄いスピードで飛び出てきた。

 

 カカロットが出てくると予想していたフリーザは、驚きの表情を浮かべエネルギー弾を躱す。

 

 

『あいつじゃない!!』

 

 

 フリーザが驚きの声を上げ、エネルギー弾を躱した瞬間を見計らう様に、またしても水面からフリーザ目掛けて物凄いスピードで2発目のエネルギー弾が飛び出てきた。

 

 

『こっちか!!!』

 

 

 フリーザは今度こそカカロットと予想していたのだろう。

 嬉々とした顔で攻撃体勢をとったフリーザだったが、またしても予想が外れ、驚きの顔を浮かべ2発目のエネルギー弾を紙一重で躱す。

 あたしが、思わずおしい!と思ったその瞬間だった。

 

 待ち望んでいたあの子の声が聞こえてきたのは……。

 

 

『だっはーーーーーっ!!!』

 

 

 2発のエネルギー弾で完璧に自分から意識を外すことに成功した悟空は、フリーザの背後からドロップキックを叩き込み、先ほどのお返しとばかりに水面に叩き落とす。

 だが、威力が強すぎたのか、水面に激突したフリーザは水切りみたいにで水面を飛び跳ね、陸地にある巨大な岩石に体ごと叩きつけられる。

 フリーザが叩きつけられた岩石は衝撃で轟音を上げながら崩壊する。

 

 

『大成功!』

 

 

 奇襲が成功して喜びの声を上げる悟空だったが、崩壊した岩石からガラガラと音が聞こえて来た。

 悟空が視線を向けると、フリーザが起き上がるところだった。

 

 起き上がったフリーザは、首をコキッコキッと左右に振りながらまるで応えていない様だった。

 

 

『…………あら〜〜、ぜんぜん応えてない…………』

 

 

 流石にこれには予想外だったのか、冷や汗を浮かべ苦笑いを浮かべる悟空。

 そんな悟空を、身体についたホコリを払いながら余裕の笑みを浮かべながら見上げるフリーザ。

 

 

『ここまでやるとはね……。

 ボクにホコリをつけたのは親以外ではキミが初めてだよ』

 

 

 一度言葉を切ったフリーザは、これまでよりも更に深い笑みを浮かべる。

 その笑みには先程までとは比べ物にならないほど、残忍な笑みだった。

 

 

『生まれて初めてかもしれないしれないな……。

 こんなにわくわくするのは……。

 どうやって料理しようか……』

『まいったな〜。少しぐらいは応えると思ったんだけど……』

 

 

 フリーザのあまりのタフさに、流石に困った様な声を出す悟空。

 そんな悟空を尻目にフリーザは次に悟空に攻撃するべく行動に移る。

 

 

『ちょっとおどかしてやるか……ん〜〜〜〜〜…………』

 

 

 フリーザが自分の足元に転がっている、先程崩壊した巨大岩石のかけらに手を向けるといくつもの小さい岩石が宙に浮く。

 

 

『へ?』

 

 

 フリーザの行動を理解できなかった、悟空が驚きの声をあげると同時だった。

 

 

『はっ!!!!』

 

 

 フリーザが浮かべたいくつもの岩石が、悟空目掛けって物凄いスピードで一斉に飛んでくる。

 

 

『よっ!!ほっ!!たっ!!』

 

 

 最初は躱し続けていた悟空だったが、流石に数が多かったのか拳と足を使って岩石を砕く悟空。

 

 

『ちくしょう!!!超能力ってやつか!!』

 

 

 だが、それがフリーザの狙いだった。

 先程悟空が2発のエネルギー弾でフリーザの意識から悟空を一瞬忘れさせた様に、今度は悟空の意識から一瞬フリーザの存在が消えた。

 悟空が全ての岩石を処理した瞬間、悟空の頭上にフリーザが現れる。

 

 

『かかったね』

『しっ、しまっ……』

 

 

 悟空が驚愕の声を上げようとした時に、はもう遅かった。

 フリーザの超能力である金縛りによって、動きを封じ込められる悟空。

 だが、フリーザの攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 動きを封じられた悟空を更にエネルギー弾で包み込んだ。

 

 

『う……うごけ……ねえ……!!!』

 

 

 必死に自分の身体の主導権を取り戻そうと、もがく悟空だったがフリーザの超能力からは抜け出せない。

 そして、それを残忍な笑みを浮かべながら見下ろすフリーザ。

 

 

『こんどは死ぬかもね』

 

 

 その言葉を合図に、エネルギー弾に包まれた悟空は猛スピードで地面へ吹っ飛ばされる。

 そして、フリーザの言葉通りまともに受ければ死ぬには十分が威力が込められていた。

 

 

『おああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 絶叫しながら吹っ飛ばされる悟空。

 地面に着弾したエネルギー弾は、そこに込められたエネルギー量を証明する様に強力な威力を発揮した。

 その攻撃から伝わる衝撃は、戦いに巻き込まれない様にかなり遠く離れた場所で観戦していた、悟飯、クリリン、ピッコロが踏ん張らないと立っていられない程だった。

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

「おいおい、流石にヤベェんじゃねぇか!?」

「今の攻撃の威力とんでもねいぞ!?!?」

 

 

 フリーザの攻撃を目の当たりにしてその威力に、あたし達地獄のサイヤ人は思わず声をあげる。

 だが、あいつだけ違う反応をしたんだ。

 

 

「カカロットの野郎やるじゃねぇか!!」

 

 

 その言葉の主にあたし達全員の視線が集まる。

 そして、あたしはその言葉の意味をそいつに問いかける。

 

 

「どういう意味だい?バーダック??」

 

 

 バーダックは一瞬こちらに視線をよこすと、すぐに視線を水晶に戻しあたし達に語り出す。

 

 

「どういう意味も何も、カカロットの野郎、爆発した瞬間に金縛りから脱出しやがった。見ろよ」

 

 

 バーダックに言われあたし達が水晶に視線を向けると、フリーザの目の前にカカロットが飛んでくる。

 しかも、ほとんどダメージを受けていない様だった。

 どうやら、あたしの息子はあたしが想像していた以上にタフだった様だ。

 

 そして、カカロットのタフさはどうやらあのフリーザの予想よりも上だったみたいだ……。

 あのフリーザがほとんど無傷のカカロットを見て、驚きの表情を見せたかと思ったら、その表情を引き締め真顔でカカロットを睨んでいるのだ。

 

 だが、あたし達はまだ知らない……。

 今までのハイレベルな戦いそのものが、この2人にとってほんの小手調べ程度でしかなかったなんて……。

 この時のあたし達には、想像すらしてなかったんだ……。

 

 

『おい、あんまり他人の星をこわすなよ』

『しつこいヤツだね……。さすがにちょっとムッときたよ……』

『オラもだ……』

 

 

 空中で向かい合い言葉を交わす2人。

 だが、2人の雰囲気はどこかこれまでとは違っていた……。

 お互いこれまでの手合わせで気付いてしまったのだ……。

 

 今発揮している力程度では、目の前にいる敵を倒すことは出来ないという事を……。

 

 

『くっくっくっ…………、ウォーミングアップはこれぐらいにして、そろそろその気になろうかな…………』

 

 

 敵を倒すのに力が足りていないのであれば、更なる力を引き出せばいい……。

 なぜなら、自分にとっては今までは唯の準備運動でしかなかったのだから……。

 そう言う様に、余裕の笑みを浮かべる宇宙の帝王。

 

 だがそれは、目の前の男も同様だった様だ……。

 

 

『オラもだ」

 

 

 フリーザの余裕の笑みを受けても、更に笑みを返す事が出来るこの男もまだ本領を発揮していなかったのだ……。

 

 長き因縁を背負った地球育ちのサイヤ人と宇宙の帝王のバトルは更なるステージへ突入する。

 

 果たして、この戦いに勝利するのはどちらなのか……。

 

 2人の第二ラウンドの火蓋が、切って落とされようとしていた。




この話の後ずっとバトルシーンばっかりなんで、地獄のサイヤ人達入れるのめっちゃ大変


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フリーザ編-Ep.12

はー、疲れた。
12話が1番書くのが疲れました。
結構長編なので、気合い入れて読んでください。

そして、楽しんでもらえたら嬉しいです!


■Side:バーダック

 

 

『くっくっくっ…………、ウォーミングアップはこれぐらいにして、そろそろその気になろうかな…………』

『オラもだ』

 

 

 水晶から聞こえてきた声には、流石のオレでも驚きを隠せなかった。

 あんだけの戦いをやっておきながら、こいつらにとっては、まだまだ準備運動だったというわけか……。

 ちっ、つくづくオレは人を見る目がなかったって事か……。

 

 あん時のオレは生まれたばかりのあいつを見て、その戦闘力の低さに、思わずクズだと判断したが、オレの方がよっぽどグズじゃねぇか……。

 本当に……、立派になったもんだぜ……。

 

 だがよぉ、カカロット……、お前の力はまだまだこんなもんじゃねぇんだろ?

 このオレに見せてみろ!!お前の真の力を!!!

 

 

 水晶の中では2人の男が、空中で向かい合っていた。

 2人の間に会話はなく、ただ強い風だけが吹いていた。

 

 だが……、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

『地上戦と空中戦……どっちがお得意だ?』

 

 

 最初に口を開いたのはフリーザだった。

 発したその言葉には単純に自分の方が強者だから、弱者であるお前の方に合わせて戦ってやるよっていう意図がありありと見て取れた。

 だが、この男にはそんな事は関係ない。

 

 

『…………どっちかっつうと、地上戦かな……』

 

 

 孫悟空にとって、強者と戦えるのは何よりもワクワクする事なのだ。

 その相手と少しでも自分の力を発揮して戦えるのであれば、悟空にとって喜ばしい以外の何物でもないのだ。

 

 悟空の台詞を聞いたフリーザは、ニヤリと笑うと近くの島を親指で差し、首をクイッと島の方に向ける。

 2人は共に先程フリーザが指し示した島に降り立つと、またしても向かい合う。

 

 

『サービスがいいな……。それとも余裕ってやつか?』

 

 

 そう言いいながら、悟空は胴着の上を脱ぎ捨てインナーだけの姿になる。

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、余裕の笑みを浮かべている。

 

 

『ふっふっふ……、こうみえてもボクは優しいんだ…………。

 そうだ!もう1つ、とっておきの大サービスをしてあげるか……!

 両手を使わないでおいてやるよ。どうだ?』

『両手を?気前がいいんだな』

 

 

 準備運動をしながらフリーザの言葉を聞いていた悟空だったが、流石に両手を自ら使わない発言には驚きを示したが、不快な感じでは無いようだった。

 だが、地獄のサイヤ人達にとってはフリーザの言葉は挑発にしか聞こえなかった様だ。

 

 

 

「両手を使わないだって!?あいつ、カカロットの事完全に舐めてるよっ!!!」

「やっちまぇ!!!カカロット!!!」

 

 

 ここにいるのは、戦闘馬鹿とも言っていい奴らばかりだ。

 相手にナメられるというのは、死にも等しい屈辱に感じる者達ばかりなのだ。

 当然この男も、口にこそ出さないが腹の中は怒りが込み上げていた。

 

 

 ちっ、フリーザの野郎!完全に遊んでやがる……。

 あの野郎のニヤケたツラをさっさとブッ飛ばせ!!カカロット!!! 

 

 

 

 バーダックの険しい視線が注がれた水晶では、カカロットこと悟空が首をコキッコキッと左右に振ったり、屈伸運度等の準備運動を続けていた。

 準備運動を終えた悟空は一息吐くと、フリーザに向き直る。

 

 

『さてと……、こっちから仕掛けていいか?』

『もちろんだよ。おスキなように……』

 

 

 悟空の台詞に余裕の表情で肯定の意を返すフリーザ。

 しばし、2人の間に静寂が流れる。

 だが、向かい合っている2人の空気はとてもピリピリとひりつくものだった。

 

 そんな空気を破ったのは、宣言通り悟空だった。

 赤いオーラを身に纏い一瞬でフリーザとの距離をゼロにすると、強烈な右ストレートを繰り出す。

 しかし、その右ストレートを上に跳ぶことで躱したフリーザは、跳んだ反動を活かした飛び蹴りを悟空の顔面めがけて繰り出す。

 

 繰り出された飛び蹴りを上体を倒すことで躱す悟空だったが、追撃の2発目の蹴りが無防備となった悟空の下半身めがけて放たれる。

 しかし、それを読んでいた悟空は上体を倒した状態で両手を地面につき、バック転の要領でフリーザの2発目の蹴りを回避すると、地面に足がつくと同時にフリーザに向けて連続蹴りを繰り出す。

 だが、フリーザは悟空の鋭い連続蹴りの全てをスウェーイングで躱しながら近づくと、尻尾で悟空の視覚の外から攻撃を繰り出し悟空を吹っ飛ばす。

 

 吹っ飛ばされた悟空は空中で体勢を整え、片足が地面に着くと赤いオーラを身に纏い瞬時にフリーザとの距離を詰める。

 そして、フリーザの尻尾を摘む。

 

 

『でやあああーーーーーっ!!!!』

 

 

 掛け声と共に物凄いスピードでジャイアントスイングの様に回転すると、回転の勢いをのせたままフリーザを岩石へ放り投げる。

 フリーザが激突した岩石はあまりの威力に轟音を立てながら崩壊するが、その中からフリーザが腕を組んだまま猛スピードで悟空めがけて飛び出してきた。

 その姿はまるで、先ほどの攻撃など一切効いていない様だった。

 

 瞬時に悟空との距離を詰めたフリーザは、悟空に膝蹴りを繰り出すが、それを右腕で軽々と受け止め弾き返す悟空。

 弾き返したことで開いた距離を悟空が詰めると、フリーザも同様に距離を詰め近距離で打ち合いに突入した。

 お互い一撃一撃がとんでもない破壊力を秘めているため、2人の拳や蹴りがぶつかる度、大気が悲鳴をあげ衝撃が走る。

 

 両手足が使える悟空に対して両足だけのフリーザ。

 その差は如実に差を発揮し始めた。

 最初のうちは互角の打ち合いだったのだが、徐々に悟空の攻撃の方がフリーザを捉える回数が増えてきたのだ。

 

 

『ちっ!!』

 

 

 苦々しそうな表情で、悟空の拳を躱すフリーザ。

 お返しとばかりに強烈な蹴りを繰り出すが、またしても悟空の左腕に受け止められ、そして弾き飛ばされるとフリーザの腹部に隙ができた。

 その隙を見逃すまいと放たれた悟空の連続蹴りがフリーザの腹部に直撃する。

 

 流石にダメージが通ったのか顔を歪めるフリーザだったが、意地でその痛みを吹っ飛ばし再度悟空に強烈な右蹴りを放つ。

 しかし、またしても悟空はその右蹴りを左腕でガードするが、それがフリーザの狙いだった。

 フリーザの攻撃をガードした事で、悟空の時間は間合いゼロの状態で一瞬膠着する。

 

 その隙を狙ってフリーザは、悟空の首に自分の尻尾を巻きつけ締め上げる。

 悟空は自身の首を締め上げる尻尾を剥がそうと、力を込めて引き剥がしにかかるがなかなか外れない。

 それはそうだろう。フリーザもこのまま締め殺す勢いで、締め上げげているのだ。

 

 その証拠にフリーザの額にも複数の血管が浮き上がっていた。

 それだけフリーザの方も力を込めているのだ。

 

 

『が……あああ……』

 

 

 締め付ける強さが強烈な為、ついに悟空の口から苦痛の声が上がるが、次の瞬間悟空はフリーザの尻尾を力強く握ると、尻尾を自身の口の近くまで引き上げる。

 そして、ガブッと効果音が鳴った様にフリーザの尻尾にかじりつく。

 

 

『!!』

 

 

 流石のフリーザでもこの攻撃?は予想外だったのか、声にならない悲鳴を上げ悟空の拘束を思わず緩めてしまう。

 拘束が解けた悟空は、未だ痛みで悶えているフリーザの顔面に右回し蹴りを叩き込む。

 そして、この隙を逃すまいと回し蹴りにより体勢が崩れたフリーザとの距離を瞬時に詰めフリーザのボディに何発ものパンチを叩き込む。

 

 その威力についにフリーザの顎が上がり、口から一筋の血が流れる。

 これに頭にきたのか、フリーザの怒りが込められた反撃が悟空を襲う。

 

 

『があっ!!!』

 

 

 怒りでフリーザが悟空に叩き込んだのは、強烈な右パンチだった。

 そう、右パンチだったのだ……。

 

 悟空を吹っ飛ばしたというのに、フリーザの顔はどこか苦々しそうだった。

 

 対して吹っ飛ばされた悟空は、ズザザッと滑りながら地面に倒れるが、すぐに起き上がるとニヤリと笑う。

 

 

『手は使わねぇんじゃ、なかったけ?』

 

 

 悟空の言う通り、フリーザは確かに言った。

 両手は使わないと。

 だが、フリーザは右手を解禁してしまった。

 

 いや、正確に言うのであれば、解禁させられたのだ……。

 それは、サイヤ人孫悟空の戦闘力が宇宙の帝王フリーザの予想を上回った瞬間だった。

 

 

『…………ふふふ……、サービス期間は終わったのさ……』

 

 

 明らかに負け惜しみともとれる台詞を吐くフリーザに、悟空は真剣な目を向ける。

 悟空からしてみれば手を使わせたと言うだけで、別段勝った気等さらさらしていないのだ・・。

 

 

『じゃぁ、オラもたまにはサービスというか忠告をしてやろうか?

 おめえはよ……、自分の強さに自信がありすぎるんだ……。

 そのせいで、スキだらけなんだよ……』

『…………そりゃあ、どうも……』

 

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザの顔は相変わらず笑みを浮かべているが、先程までの笑みとは少し異なっていた。

 

 

 

「すげぇ……、あのフリーザと……まともに戦ってやがる…………」

 

 

 オレの耳に誰かの呟いた様な声が聞こえてきた……、恐らく声の主はトーマだろう。

 思わず口に出した様なその言葉は、ここにいる奴等全員の気持ちそのものと言っていいだろう。

 両手を使っていないとはいえ、あのフリーザにカカロットは一歩も引いてねぇ。

 

 それどころか、むしろカカロットの方が戦いを優位に進めてるぐれぇだ。

 何でだろうな……?あいつの戦いを見てるとオレの方までアツくなってきやがる……。

 

 そいつはきっと、あいつの今の強さを支えてやがるのが、フリーザみてぇな天性のもんなんかじゃなく、必死に努力して得た力だからだろうか?

 あいつの戦いを見てると、ほとんどその動きに無駄がねぇ。

 攻撃の1つ1つの動きがとんでもねぇ練度で繰り出されてやがる。

 

 恐らくカカロットの野郎には、感覚だけでなく自分の身体をどう使えば威力を逃さずに高い攻撃を繰り出せるのか、しっかり頭の中で理解してやがるんだろう。

 そして、それを無意識に繰り出せる様になるまで、とんでもねぇ数の反復練習を繰り返し、身体に叩き込んだんだろう。

 そんな事が初見でも分かっちまうくれぇ、あいつの戦いの技術は凄まじい。

 

 カカロットがフリーザとの戦いを優位に進められているのも、野郎が両手を使っていないのと先程カカロット自身が言った様にあのヤツ自身の慢心もあんだろう。

 だが、単純な戦闘技術の練度だけだったらカカロットの方が上だ……。

 

 ……とは言え、フリーザの野郎はそんな簡単にやられる程ヤワなヤツじゃねぇ。

 これからはフリーザも両手を使うみてぇだし、さっきのカカロットの攻撃でヤツに火がついたのは確実だろう。

 それは、あの野郎のツラを見れば嫌でも伝わって来やがる……。

 

 フリーザからしてみれば、先程までは格下相手に遊んでるつもりだったんだろうが、これからは違ぇ……。

 これからは、カカロットを敵として認め、確実に始末するために戦うつもりなんだろう……。

 

 だからだろうか?あいつが今浮かべてやがる笑みには、先程までには感じられなかった戦いに対しての真剣さが窺えるのは……。

 恐らくこれからが、本当の意味でのフリーザとの戦いになるはずだ……。

 

 正直、あの野郎がどれだけの力を隠しているのかオレには読めねぇ……。

 だけどよ……、てめえだってまだ全力じゃねぇんだろ……?

 なぁ、カカロット……。

 

 

 バーダックが考えに耽っていると、水晶から件の2人の声が響いてきた。

 

 

 

『君は強いよ。正に驚異的と言ってもいいほどにね……』

『そいつは、どうも』

 

 

 悟空とフリーザが改めて向かいながら会話をしているが、両者の間にはこれまでとは比較にならないほどピリピリとした空気が流れていた。

 恐らく、その原因は間違いなくこの存在のせいだろう。

 

 

『でも、この戦いに飽きてきたよ。そろそろ決着をつけようと思うんだけど……、一応最後に聞いておこう……。

 どうかな、ボクの下で働いてみる気はないか?

 それだけの力を消してしまうのは、惜しいのよ。

 ギニュー隊長より、余程いい仕事をしてくれそうだからね』

「なっ……、な……、なんだってぇ!?」

「おいおい、マジかよぉ……?」

 

 

 フリーザは悟空との短い戦いの中で、悟空の実力を十二分に評価していたのだろう。

 実際これまでにフリーザ自身が言葉にしていたが、ここまでフリーザに戦闘力で迫った存在は同じ一族の者を除いて存在しなかったのだろう。

 だからこそフリーザは、例え敵対していた存在であったとしても、悟空が自身の下に着いた時に齎される利益と天秤にかけ悟空を部下にした方が自身にとって有用だと判断したのだろう。

 

 だが、その言葉に真っ先に驚きの声を上げたのは、悟空本人ではなく地獄のサイヤ人達だった……。

 特に真っ先に叫び声をあげたギネの顔は、顎が外れるんじゃないかと言うくらい口を広げ呆然と水晶を見ていた。

 他のサイヤ人達も驚きの声こそ出さないまでも、皆唖然とした表情を浮かべていた。

 

 だが、彼等の意識は次の者の言葉で現実に引き戻される。

 

 

『ジョーダンじゃねぇって。オラがそんな申し出受けると思うか?』

「……はっ!よく言ったよ、カカロット!!!さすが私の息子だよ!!!」

 

 

 悟空の言葉で真っ先に復活したギネは、またしても声を上げるが、フリーザの言葉のショックが強すぎたせいか若干変なテンションだった。

 そんな、ギネの変なテンションとは対照にフリーザは悟空の返答を予想していたのだろう。

 態度を変える事なく、冷めた笑みを浮かべたままだった。

 

 

『そう言うとは思ったよ。サイヤ人という連中はバカで頑固だからね……。

 じゃあ、君に残された道はたった1つ、死ぬしかない……』

『どうかな?そう簡単にはいかねぇぞ』

 

 

 フリーザからの誘いを断った時点で、フリーザにとって悟空は完璧に殺す対象に変わったので、改めて死の宣告を告げる。

 だが、そんな死の宣告を受けても悟空の表情には強気の笑みが浮かんでいた。

 

 しかし、悟空のその笑みはすぐに崩れ去ることになる……。

 

 

『くっくっくっ……、大した自信だね。

 だが、ボクは気づいているよ。

 君は本気で戦うと言っておきながら、まだかなりのパワーを残していると……』

『…………バレたか……』

 

 

 フリーザの正確な読みに、冷や汗を浮かべる悟空。

 だが、フリーザの言葉はまだ止まらない。

 

 

『そいつを計算に入れても、ボクの計算では…………、約50%つまりマックスパワーの半分も出せば君を宇宙のチリにする事が出来るんだ……』

『…………なに……?そいつは、ちょっと大ゲサだぜ…………へへ…………。

 ハッタリをかましすぎだ…………』

「そ、そうだぜ……、さ、さすがにそれは言い過ぎだろ……」

「あ……、あぁ、お、追い込まれたから……、あ、焦ってるだけだよ……」

 

 

 これまで強気の笑みを浮かべていた悟空も、そして水晶から観戦していた地獄のサイヤ人達も今まで散々フリーザの強さを見て来た。

 だが、幾ら何でも今回ばかりはその言葉をすんなりと受け入れられる事ができなかった。

 いや、正確に言えば受け入れたくなかったのだろう……。

 

 だが、思い出して欲しい……。

 フリーザはこれまで自分の実力に関して、一度も嘘をついた事がないって事を……。

 

 

『楽しかったよ…………。

 こんなに運動をしたのは本当に久しぶりだった…………』

 

 

 この言葉が死の宣告とばかりにフリーザの顔から笑みが消え、初めて構えらしいポーズをとる。

 真顔となったフリーザと向き合っている悟空は自然と顔に冷や汗が流れる。

 そして、発せられるプレッシャーからフリーザの言葉がハッタリじゃない事を敏感に察知した。

 

 その瞬間だった、目の前数メートル先にいたフリーザの右肘が気付いた時には悟空の顔に炸裂していた。

 あまりの威力で、悟空の顔が跳ね上がる。

 だが、何とか耐える悟空だったが鼻からは鼻血が流れていた。

 

 

『…………』

 

 

 フリーザの攻撃に反応すら出来なかった悟空が冷や汗を流しながら、構えをとる。

 そんな悟空に余裕の笑みを向けたフリーザの姿がブレると同時に、悟空が反応出来ないスピードでしゃがみ悟空の足を払う。

 足を払われた悟空は、片手を地面につけて何とか倒れる事を回避するが、それとほぼ同じタイミングでフリーザの尻尾が悟空の首に巻きつく。

 

 巻きついた尻尾で悟空の体を引き寄せたフリーザは、がら空きのボディに強烈なエルボーを叩き込む。

 

 

『ぐふっ……!!!あ……あぐぐぐ…………』

 

 

 あまりの威力で、悟空が声にならない声を上げながら腹を抱え倒れこむ。

 そんな悟空にフリーザは背を向けて悠然と立っている。

 悟空は痛みをこらえ、フリーザの背後から蹴りを繰り出すが空中に飛ぶことで回避される。

 

 フリーザが地面に着地した事で、悟空とフリーザの間に数メートルの距離が開いた。

 その距離を悟空は赤いオーラを纏い瞬時に詰めフリーザにパンチを叩き込もうとするが、悟空のパンチが当たる前にカウンターの形でフリーザの強烈な蹴りが悟空に炸裂し、逆に吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされた悟空は、背中から地面に激突しズザザザ……と地面を滑る。

 

 

『ぐぐ……、うっ…………』

 

 

 うめき声を上げながらも、瞬時に立ち上がる悟空。

 だが、その表情には余裕のカケラもなかった……。

 

 

『はあっ……、はあっ……、はあっ……』

『ついに息が切れ始めたようだね……。

 でも、これで死なないだけでもすごい事だよ』

 

 

 ボロボロの悟空に対して余裕の笑みを向けるフリーザ。

 

 

 

「やっ、やばいよ!カカロットのヤツ一方的にやられ始めたよ……」 

「そ、そんな事ないよ……、これからだよ……」

 

 

 セリパのヤツがカカロットが一方的に攻撃を受けている状態に焦りの声を上げると、祈るような仕草で水晶を見ているギネがそれを否定する。

 ギネの目には若干涙が浮かんでやがる。

 サイヤ人としては異例と言ってもいいコイツからすれば、せっかく見る事が出来た自分のガキがやられている姿を見るのはかなり辛い事だろう。

 

 にしても、まじいな……、カカロットとフリーザ……、隠していた実力に差がありすぎたみてぇだな……。

 今はまだ、なんとかギリギリで反応して急所を外していやがるが……、このまんまじゃジリ貧だ……。

 しかも、あの野郎の言葉を信じるならあいつの本当の力はまだまだこんなもんじゃねぇ……。

 

 だが、カカロットのヤツも追い込まれちゃいるがオレの勘ではまだ全力を出し切っている気がしねぇ……。

 あいつが隠している力がどこまでフリーザに対抗できるかはわからねぇ……。

 

 どうする?カカロット……?

 

 

 

『だっ!!!』

 

 

 フリーザのエルボーがまたしても、悟空の身体を吹っ飛ばす。

 

 

『ぐっ……!!!』

 

 

 吹っ飛ばされた悟空に瞬時に追いつき追撃を行おうとしたフリーザだったが、空中で体勢を整えた悟空は舞空術で近場の岩石の上に退避する。

 退避した悟空は地上にいるフリーザに視線を向けると、ニヤリと不吉な笑みを浮かべたフリーザの姿を捉える。

 

 フリーザはおもむろに人差し指と中指の2本の指を立てたまま腕を持ち上げる。

 2本の指先は光り輝いており、高密度のエネルギーが収束しているのが見て取れた。

 

 

『…………!?』

 

 

 その様子を怪訝そうな顔で見ている悟空の目の前で、それは起こった。

 フリーザが持ち上げていた腕を一閃すると、悟空の目の前で光の筋が走った。

 2本の指に集約されていたエネルギーは地平の彼方どころかそれよりも更に先の海をも切り裂いた。

 

 

『!!』

 

 

 その威力に驚愕の表情を浮かべる悟空。

 今の攻撃でフリーザは文字通りナメック星を切り裂いたのだ。

 悟空が改めてその傷跡に視線を向けると傷はどこまでも続いており、直撃したら間違いなく悟空は死んでいただろう。

 

 それは戦っている悟空自身よく分かっているのだろう。

 悟空の表情は正に顔面蒼白だった。

 

 

『…………な……なんて技だ…………!!』

 

 

 絞り出したような悟空の声には、明らかにフリーザに対しての恐れが混じっていた。

 

 

『言ったはずだよ。いざとなればこんな星くらいまるごと破壊する事だって出来るとね……。

 惑星ベジータを消滅させたのはボクなんだよ…………』

 

 

 そんな悟空に余裕の笑みを向けるフリーザ。

 だが、今の悟空にフリーザに対して笑みを返すほどの余裕はなかった。

 悟空自身今のわずかな戦闘で、ハッキリ理解してしまったのだ。

 

 冷や汗を流し苦々しい表情を浮かべたままフリーザに視線をむける悟空は、ついにポツリと本音を漏らしてしまった。

 

 

『ま……まいったな…………、勝てねぇ…………』

 

 

 悟空がつい漏らした本音は幸いな事に誰に拾われる事なく、ナメック星の風に消えていった。

 

 

 

「今……、フリーザの野郎……何やりやがった……?」

「あの……線みたいな傷跡……まっ、まさか……、星を切りやがったのか……??」

 

 

 地獄のサイヤ人達も悟空同様、フリーザの規格外の力を目にして改めてその底知れなさに身体を震わせていた。

 

 

「にしてもよ……、カカロットの野郎……マジでヤベェんじゃねぇか??さっきからやられっぱなしじゃねぇか??」

「何か考えがあるのだろうか……?それとも……」

 

 

 ナッパとラディッツも他のサイヤ人同様フリーザの力に恐れを抱いてはいたが、それ以上に悟空の状況の方に目がいっていた。

 ギリギリで凌いでこそいるものの、明らかに劣勢になっている。

 この状況が悟空の考えのもと、そうなっているのなら良い。だが、そうでない場合は彼らサイヤ人の宿願はその時点で終わってしまうのだ。

 

 

「考えなんてねぇ……、どうやらオレ達が考えていた以上にフリーザの野郎がバケモンだったってだけだ……」

 

 

 ラディッツの言葉を拾って現実を突きつけたのはバーダックだった。

 2人がバーダックの方に視線を向けると、あのバーダックの顔に冷や汗が流れていた。

 ラディッツがバーダックに言葉をかけようとしたその時、水晶から声が聞こえてきた。

 

 

『心配しなくてもいいよ。

 今みたいなヤツで一瞬に殺したりはしない……。

 そんなんじゃ、ボクの腹の虫は収まらないからね……。

 今更悩んだって遅いよ。仕掛けてきたのはそっちの方なんだからね』

 

 

 フリーザの言葉にナッパとラディッツはいよいよ悟空の最期を覚悟する……。

 だが、2人はこの男の言葉にまたしても意識を奪われる。

 

 

「確かに、カカロットの野郎ではフリーザに勝つのは厳しいかもしれねぇ……。

 だけどよ……、あいつは……、まだ、諦めたわけじゃねぇみてだぜ?」

 

 

 バーダックの発した言葉で2人が悟空に視線を向けると、何かを悩んでいた表情を浮かべていた悟空の顔に決意の色が宿る。

 そして次の瞬間、その決意に色を宿したように孫悟空の体は赤い光に包まれた。

 

 

『うおおおおぉぉぉ…………!!!!』

 

 

 カカロットの叫びと共にあいつの身体から、これまでとは比べ物にならない真っ赤なオーラが吹き出した。

 まるでカカロットの力に呼応する様に大地や大気が震えてやがる……。

 

 水晶越しだってのに、なんてプレッシャーを発しやがるんだ!あの野郎!!!

 こいつが……、カカロットの本気かっ……!!!

 

 

 悟空から発せられるとてつもないプレッシャーに、流石のフリーザの表情にも警戒の色が宿る。

 

 

『だっ!!!』

 

 

 界王拳20倍で限界まで力を高めた悟空は、掛け声と共に飛び出すとフリーザの反応を上回る速度で近づき、フリーザの横っ面を殴り飛ばす。

 

 

『か……、め……』

 

 

 自身が最も信頼し得意とする技を放つため、更に気を高めながら、吹っ飛ばしたフリーザを猛スピードで追撃する悟空。

 

 

『は……』

 

 

 フリーザに追いついた悟空の拳がフリーザを捉えようとするが、悟空の攻撃よりも早くフリーザは体勢を整え、上空へ退避する。

 

 

『め……』

 

 

 上空へ退避したフリーザの真下で、悟空の両手が右の腰の横に据えられ、両手の中にこれまで高めた気が瞬時に収束し光を発する。

 

 

『波ーーーーーー!!!!!!』

 

 

 その叫びと共に悟空は両手を前に突き出し、両手から極大なエネルギー波をくり出した。

 20倍界王拳で限界まで高められた気を全て収束した、全力のかめはめ波。

 その威力は水晶越しで見ている地獄のサイヤ人達からみても、とてつもないエネルギー量が込めらえているのが理解できた。

 

 

『ぬ!!!』

 

 

 そのとてつもないエネルギー波にたった今、捕捉された存在がいた。

 だが、その存在、宇宙の帝王フリーザは顔色こそ変えはしても、なんとその極大のエネルギー波を片手で受け止めた。

 

 フリーザが悟空のかめはめ波を受け止めた瞬間、ナメック星に轟音が響き渡った……。

 極大のエネルギー波とフリーザの腕の押し合いは、まさに一進一退だった。

 

 必死の表情で両手に気を送り込む悟空と、必死の表情でその攻撃を凌ぐフリーザ。

 

 

 

「頑張れ!!カカロットーーー!!!後少しだよ!!!」

「気合い入れなーーーっ!!!」

「根性見せろっ!!!」

 

 

 その凄まじいやり取りを見ていた、地獄のサイヤ人達も自然と声が上がっていた。

 この戦いを見ていた彼等も分かっているのだ。

 今放っているこのエネルギー波が悟空にとって全力全開の攻撃で、これを凌がれると後がないということに……。

 

 だが、弱者に希望を抱かせない絶対的な強者だから、ヤツは宇宙の帝王として君臨し続けられたのかもしれない……。

 

 

『う……ぐぐぐぐぐ……!!!』

 

 

 悟空のかめはめ波とフリーザの片腕の戦いは、未だ続いていた。

 エネルギー波に対して素手のフリーザは、状況的にかなり不利だった。

 それを証明する様に、フリーザの表情に余裕は無く口からは苦しみの声が上がっている。

 

 

『ぐぉおおーーーーーっ!!!!!』

 

 

 渾身の叫びと共に、フリーザはかめはめ波を抑え込んでいた左腕に更なる力を注ぎ込んだ。

 すると拮抗していたやり取りに、ついに変化が訪れた。

 フリーザの強大すぎるパワーの前に、ついに悟空のかめはめ波は限界を迎え轟音と共に大爆発を起こした。

 

 

『…………!!! く……くそったれめ……!!!!

 な……なんてことだ…………!! た……たいして、き……きいちゃいねぇ…………!!

 こ……今度もハッタリじゃ、な……なかった…………。

 ほ……本当にあいつ……半分の力しか使ってなかった……』

 

 

 爆発が収まった後、その場にはかめはめ波の構えをとった状態で冷や汗を流し、信じられない様な表情を浮かべた悟空は、あまりの事態に震えながら改めてフリーザの規格外さを思い知っていた……。

 

 

 

 オレは冷や汗が流れるのを止められなかった。

 今の強力なエネルギー波は明らかにカカロットの全力の攻撃だったはずだ。

 だというのに、フリーザの野郎は多少ダメージを負ったみてぇだが、未だピンピンしてやがる。

 

 しかも、マズイ事に今の攻撃でカカロットのヤツかなりの体力を持っていかれたみてぇだ。

 それを証明する様に水晶の中のあいつは、空を飛ぶ力すらなくなったのかゆっくりと地面に降りていく。

 地面に降り立ったカカロットは、肩を上下に揺らし息もかなり上がり、立っているのもやっとの様だ。

 

 にしても、まさか本当に半分の力しか使ってなかったとは……、いくらなんでもバケモンすぎだぜ……フリーザ……。

 

 

 

 だが、そのフリーザも今の攻撃は予想を大きく超えていたのか、ボロボロになった姿を晒し苦々しい表情を浮かべ、エネルギー波を受け止めていた左手に視線を向ける。

 フリーザの左手は今の攻撃でかなりの傷を負っていた。

 

 

『い……今のは危なかった……。な……なんであいつにあんな凄まじいパワーが……』 

 

 

 未だ左手に残る痛みが、悟空が放った攻撃が自分を倒しうるものだと理解したフリーザに、怒りの感情が宿り自然と左手に力がこもり、グッと握りしめる。

 

 

『サイヤ人め…………!!!』

 

 

 怒りの籠った声をあげたフリーザは物凄いスピードで、悟空の前に降り立つ。

 

 

『ハアッ、ハアッ……』

『今のは痛かった……、痛かったぞーーーーーっ!!!!!』

 

 

 息も絶え絶えの立っているのもやっとな悟空に、自身の怒りをぶつける様に怒りの叫びと共に超速のスピードで頭突きを喰らわせるフリーザ。

 頭突きを喰らった悟空は、なんの抵抗をする事も出来ず、吹っ飛ばされ地面に崩れ落ちる。

 

 

『が……はあっ……』

 

 

 口から血を吐きながら、なんとか立ち上がろうとする悟空に悠然と歩いて近づくフリーザ。

 悟空が四つん這いで両の手に力を入れ立ち上がろうとしていると、既に目の前にフリーザの足があった。

 首を上げ視線にフリーザの顔が映ったと同時に、悟空の顎の下に衝撃が走った。

 

 フリーザの足が悟空の顎を蹴り上げたのだ、身体ごと宙に浮かされた悟空に更なる追撃の蹴りが叩き込まれ、またしても吹っ飛ばされる。

 

 

『……ぐ……う……が…………』

 

 

 もはや体力の限界を迎えた悟空は、地面の上でうめき声を上げることしかできなかった。

 だが、それでも諦めずにヨロヨロと立ち上がる悟空。

 

 それを冷めた様な表情で見つめるフリーザ。

 

 

『さっきの勢いはどうしたんだ?とうとうパワーを使い果たしてしまったのか?』

『うぐっ……、くっ……』

 

 

 フリーザの問いに対しても、もはや言葉を返すことすら出来ない悟空だったが、フリーザに向ける目には強い光が宿っていた。

 その瞳からは、こんなにもヤバイ状況だというのにも関わらず、一欠片の諦めの感情も見いだせなかった。

 

 その表情を見たフリーザは、不快そうに顔を歪め右腕を上げると、その右腕を一閃する。

 すると轟音と共に衝撃が走り、悟空の目の前の地面は大きく抉り取られていた。

 

 

『もうそれまでの様だな。そろそろ死にたいだろう?』

 

 

 悟空の状態を見て、まともな抵抗すら出来ないと判断したフリーザはついに悟空に死の宣告を突きつける。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「終わりだな……」

 

 

 あたしの横でパンブーキンが呟いた様に声を上げたのが聞こえた。

 だが、あたしはそれに対して何も返すことが出来なかった。

 今のあたしには、水晶の中のカカロットの事以外どうでも良かったからだ。

 

 今もボロボロになりながらも、立ち上がるあの子の姿を見てあたしは涙を堪えることが出来なかった。

 

 

「ギネ……」

 

 

 そんなあたしに気付いたのか、セリパがあたしを気遣う様な声を上げ手を握ってくれた。

 そして、あたしが涙を流しながらセリパに顔を向けるとセリパは、優しげな笑みを浮かべながら話し出した。

 

 

「なぁ、ギネ。あんたの次男坊は本当に凄い男だね。こんな状況だってのに全然諦めてないんだかさ……」

「うん……、本当に凄い子に育ったよ……カカロットは……、あたしと違ってさ……」

 

 

 セリパの優しさが籠った声に、あたしの胸は余計に締め付けれた。

 今のあの子に何もしてあげられない自身の不甲斐なさに、悔しくてしょうがなかった。

 

 

「ようやくあの子に会えたってのに……、また……、あいつに……、フリーザに奪われる……」

 

 

 あたしは、これからカカロットに起こる事を予想し絶望で顔を両手で覆い膝から崩れ落ちた。

 だが、そんな崩れ落ち震えているあたしにセリパの声が届く。

 

 

「確かに、あんたの息子はフリーザに殺られちまうのかもしれない……。

 でもさ……、あいつは……、あんたの息子はまだ諦めちゃいないみたいだよ……。

 どんな時でも諦めないあの姿は、本当に父親にそっくりだね。

 それに、誰かの為に一生懸命になれる所は、あんたにそっくりだ……」

 

 

 その言葉にあたしは、両手を顔から外しセリパを仰ぎ見る。

 あたしと視線があったセリパは不敵な笑みを見せると、水晶に目を向ける。

 

 

「バーダックもあんたも惑星ベジータが滅ぶ時、最期の最期までフリーザ相手に足掻いたんだろ?

 だったらさ、あんたの息子が諦めないうちはしっかり見ててやんなよ。

 もしかしたら、奇跡ってヤツが起きるかもしれないよ??」

 

 

 そのセリパの言葉につられて、水晶を見るとにボロボロになったカカロットが映し出されていた。

 そして、その時に確かに聞こえてきたんだ……。

 呟きの様なあの子の声が……。

 

 

『空よ……大地よ……海よ……いま、この時…………この世に生きとし生けるすべてのみんな、オラに元気を分けてくれ!!!』

 

 

 その言葉が意味するところは、正直あたしには分からない。

 だが、きっと諦めるにはまだ早いと、あたしに思わせるには十分な力強さを感じた。

 

 

 

 フリーザは目の前の事態に困惑していた。

 自身に刃向かったサイヤ人にトドメを刺そうとしたその瞬間、ヤツは何かボソボソと呟くと両手を上げて動かなかくなったのだ。

 

 見るからに全身ボロボロで今にも倒れそうだが、先ほど自分にあれほどの攻撃を行なった相手だ……。

 この行動にもきっと何か意味がある……。

 フリーザにはそう思えてならなかった……。

 

 

『なんだそれは……、また、何かつまらん事を考えているな?

 そんなにフラフラで何ができるというのだ?』

 

 

 だが、そのサイヤ人こと孫悟空には、フリーザに返事するだけの余裕はなかった。

 集中力を切らしてしまうと、せっかく集めたあれが霧散してしまいそうだったから。

 

 

『どうした?何かをしようとするつもりなんだろ?してみろよ!

 それともそいつは、お手上げの降参っていうことなのか?』

 

 

 悟空を挑発し、その動向を見極めようとしたフリーザだったが、またしても無反応な悟空に苛立ちが募る。

 

 

『いいかげんにしろ、いつまでそうしているつもりだ……』

『さ……さあ、いつまでかな、へへ…………』

 

 

 フリーザの苛立ちを感じ取った悟空は何とか会話に応じるが、今やっている事が露見してしまえば全て終わってしまう為、はぐらかした返答をしてしまった。

 だが、それが結果的にフリーザを煽ってしまう事となった。

 

 

『きさまーーーーーっ!!!!』

 

 

 悟空の返答を聞いたフリーザは、バカにされたと感じたのか、苛立ちをぶつける様に悟空を蹴り飛ばす。

 

 

『はあ……、はあ……』

『さあ、どうした!何かの攻撃をするつもりなんだろ!?』

 

 

 蹴り飛ばされた悟空は、息も絶え絶えになりながらもまたしても起き上がり両手を上に翳す。

 そして、先ほどと同じ内容の質問を繰り返すフリーザ。

 

 

『へ……へへへ…………、ま……まあ、そう、あせるなよ…………』

 

 

 ボロボロになりながらも、なんと口を開いた悟空をフリーザは苦々しい表情で睨みつける。

 

 

『ふざけるなよ…………』

 

 

 片手を上げたフリーザは、掌を悟空に向けると気合い砲を放つ。

 為す術もない悟空はフリーザの気合い砲を真正面から受け、またしても吹っ飛ばされ海の中に叩き落とされた。

 

 

 

「おっ、おい……、カカロットのヤツ何考えてんだよ??」 

「ああ、なんで両手を上げて、何もしねぇんだ??」

 

 

 地獄のサイヤ人達も皆、悟空の行動に疑問を持ってはいるがフリーザ同様それが何を意味するのか理解できていなかった。

 

 

「親父、カカロット野郎はなんで何もしないのだ?」

「オレが分かるわけねぇだろうが!!だが、あいつの目はまだ死んじゃいねぇ……、何を狙ってやがる??」

 

 

 ラディッツの質問に流石のバーダックもまともな返答を返すことは出来なかった。

 だが、言葉にした様に悟空が何かをしようと企んでいるのは敏感に感じ取っていた。

 

 そんな、地獄のサイヤ人達の気持ちを察した様に水晶のアングルが急に変化する。

 今までは、悟空やフリーザを大きく映して出していたが、一気に2人の存在が遠くなり地獄のサイヤ人達の目にその存在が姿を表した。

 

 それは、直径50mを超えるとてつもなく大きなエネルギーの塊だった。

 そして、今尚大きくなり続けている様だった。

 

 

「なっ、なんだよ!?あれ……」

 

 

 ラディッツの横で呆然とナッパが声を上げる。

 だが、バーダックはその巨大すぎるエネルギーの塊を見て、それを誰が生み出したのか瞬時に見抜いた。

 

 

「なるほどな……、とんでもねぇ隠し球持ってんじゃねぇか!!!カカロットの野郎!!!」

 

 

 バーダックの言葉には明らかに歓喜の色が宿っていた。

 そして、バーダックの言葉を聞いた地獄のサイヤ人達の視線がバーダックに集まる。

 

 

「どういうことだい?バーダック!?」

 

 

 特にギネの喰いつきっぷりは、他の者達を遥かに凌駕していた。

 ギネに視線を向けたバーダックは自分の予想を語り出した。

 

 

「あの馬鹿デケェエネルギーの塊はカカロットの野郎が作り出したってことだ。

 あんだけのエネルギーの塊だ……、作るのには相当な時間が必要になるはずだ……。

 あいつが、さっきからフリーザ相手に無抵抗で攻撃を受けているのも、恐らくフリーザに気取らせない為だろう……。

 幸いあんだけ高度な位置で作っていれば、フリーザの視覚には入らねぇ……。

 まったく、あんな状況だってぇのに野郎考えやがったぜ……」

 

 

 確かに、バーダックが述べた様に巨大なエネルギーの塊こと元気玉は、フリーザや悟空の遥か上空で今尚成長を続けていた。

 気を察知できないフリーザでは、上空に視線を向けない限り気付く事はないだろう。

 

 

「だが、こいつは時間との勝負だ……。

 何かの拍子でフリーザが気付いたら、速攻でヤツはカカロットを殺しにかかるだろう……。

 あいつが、今尚カカロットを生かしているのは、カカロットの行動が読めないっていう1点に警戒しているからだ。

 そいつが、バレてしまえば、フリーザが手加減する必要は無くなる……」

「てことは……、カカロットがフリーザが気付く前にあのエネルギーの塊を完成させて、フリーザに叩き込む事ができれば……?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、ギネは自分の頭によぎった事を口に出した時、バーダックの口角が大きく上がり不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「あんだけのエネルギーの塊だ、流石のヤツもただじゃぁすまねぇだろうよ!!!」

 

 

 バーダックの一言で地獄のサイヤ人に希望の光が宿る。

 その光は、今尚ナメック星の上空で成長を続ける希望の光がもたらした、僅かばかりの元気だったのかもしれない。

 

 

 

 水晶の中では、フリーザに海に叩き落とされた悟空が、陸に上がろうとしているところだった。

 その姿は動いているのが不思議なくらいボロボロになっており、口からは荒い呼吸が繰り返し行われていた。

 

 その様子をフリーザは不機嫌そうな顔で見ていた。

 

 

『サイヤ人は何を考えているのか分からん……。

 昔からそうだった……、不愉快な連中だ…………』

 

 

 何も反応する事が出来ない悟空を見て、フリーザの表情に残虐な笑みが浮かぶ。

 

 

『ボクはもうこのつまらない戦いを、これ以上続ける気はない。

 この星もろとも、お前にトドメを刺してやる。

 もう1匹のチビのサイヤ人も、死ぬことになる。

 これでこの世からサイヤ人は消えて無くなる……』

 

 

 そう告げると、フリーザは悟空に向け人差し指を突きつける。

 

 

『所詮、超サイヤ人というのは夢物語だったな…………、ん?』

 

 

 フリーザが悟空にトドメを刺そうとした瞬間だった、悟空の後ろの水面に丸い何かが映っている事に気が付いたのだ。

 

 

『…………太陽じゃない……、なんだ…………!?』

 

 

 頭上を見上げたフリーザは、あまりの事態に驚愕の表情を浮かべる。

 

 

『な……なんだ……!?あれは!ま、まさかエネルギーの塊……』

 

 

 そして、言葉にしたと同時に瞬時に先程までの悟空の行動の意味を理解すると、驚愕の表情を浮かべたまま悟空に視線を向ける。

 

 

『きっ……、貴様が……!!!

 な……、あんなものを上空に作ってやがったのか……。

 どこにあんなパワーが残っていたんだ…………』

 

 

 とうとう元気玉の存在に気付いてしまったフリーザは、その存在に驚きこそしたものの、残忍な笑みを浮かべ、改めて悟空に人差し指を悟空に突きつける。

 そして、元気玉の存在がバレた悟空は悔しそうな表情で項垂れていた。

 

 

『だまし討ちをするつもりだったか……情けないヤツめ!

 だが、せっかくの苦肉の策も無駄になってしまったな……』

 

 

 フリーザの人差し指にエネルギーが集まろうとした瞬間、悟空は顔を上げフリーザに殴りかかる。

 

 

『くそーーーーーっ!!!』

 

 

 だが、今の体力が低下した状態の悟空のパンチはあっさりフリーザに受け止められ、目の前にエネルギーが籠った人差し指を突きつけられる。

 

 

『消えろ!!!』

 

 

 フリーザの言葉を聞き、死を覚悟した悟空だったが、殺されるその瞬間、悟空の視界からフリーザが消えたのだ。

 フリーザを悟空の視線から消し去ったのはピッコロだった。

 悟空が殺されるその瞬間、フリーザを海の中に蹴っ飛ばしたのだ。

 

 

『ピ……ピッコロ……!!!』

『さっさと元気玉とやらを、完成させちまえっ!!!』

 

 

 驚きのあまり、事態を把握できていない悟空に、行動を促すピッコロ。

 そして、自分のやる事を思い出した様に表情を引き締める悟空。

 

 

『す……すまねぇ…………!!』

 

 

 一言礼を述べ、ボロボロの身体を引きずりながらも立ち上がった悟空は、力強く両手を掲げ元気玉の完成に集中力を注ぐ。

 

 

『早くしろ悟空!!!オレの力では今の不意打ちが精一杯だ!!!』

 

 

 ピッコロが悟空に向かって声をかけたとほぼ同時だった、フリーザが勢いよく海から飛び出してきた。

 

 

『まだウロウロしていやがったのか…………!!!あのナメック星人め〜〜〜!!!』

 

 

 その表情には、悟空を殺す邪魔をされたからか途轍もない怒りが込められていた。

 それを見たピッコロは、全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。

 

 

『まだか!?孫悟空!!まだ元気玉は完成せんか!?

 フリーザの野郎、もうすっかりアタマにきてやがるぜ!!!

 うてっ!!!もう、うっちまえ!!!』

『だ……ダメだ、もう少し……もう少し……!!!』 

 

 

 フリーザの怒り具合から、不完全な状態の元気玉を打つ様に悟空を急かすピッコロだったが、今の元気玉ではフリーザを倒す事が出来ないとしっかり理解しているからこそ、悟空はギリギリまで粘る。

 だが、その様子を見ていたフリーザはますます怒りを露わにする。

 

 

『どいつもこいつも、こそこそ動き回りやがって…………!!!うっとおしいハエどもが〜〜〜!!』

 

 

 フリーザが言葉を発したその瞬間、何かに気づいたフリーザは後ろを振り向くと、2発のエネルギー弾が直撃する。

 3人がエネルギー弾の発生先に視線を向けると、遠く離れた岩石の上からクリリンと悟飯が手をかざしている姿が見えた。

 

 悟飯とクリリンの存在を視界に収めたフリーザの中で、ついに何かが切れた……。

 

 

『あんなところにも、まだハエが逃げずにいたとは…………。

 ふふふ……、まったく人をイライラさせるのがうまいヤツらだ……』

 

 

 不気味な笑みを浮かべたフリーザの口角はピクピクと震えており、頭には血管が浮かんでいた。

 しかし、次の瞬間キッと表情を引き締めると全てのモノに宣言する。

 

 

『もう、ここまでだ!!!

 この星もろとも貴様らをゴミにしてやるーーーーーっ!!!』

 

 

 フリーザが宣言をしたのとほぼ同じタイミングだった、遂に悟空の元気玉が完成したのだ。

 

 

『よし!!!出来たぞ!!!!』

 

 

 悟空が元気玉の完成を声に出した時、フリーザの人差し指の先に30センチ程のエネルギーの塊が出来上がっていた。

 そのエネルギーの塊には、ナメック星を破壊するには十分すぎる程のエネルギーが込められていた。

 

 

『やれーーーーーっ!!!』

 

 

 フリーザの攻撃に気付いたピッコロは、悟空に攻撃を促す。

 そして、ついに皆の希望が詰まった元気玉を完成させた悟空の両手がフリーザに向けて振り下ろされた……。

 

 

 

 今、あたしの目の前で超巨大なエネルギーの塊があのフリーザに向けて、物凄いスピードで落下している。

 フリーザにバレた時は、もうこれまでかと思ったけど、カカロットは諦めず仲間たちの協力の元、なんとかあの超巨大エネルギーの塊を完成させた。

 

 

「いっけぇーーーーーーっ!!!」

「やっちまえーーーーーっ!!!」

 

 

 完成された超巨大なエネルギーの塊を見て私達は、つい自然と声を上げていた。

 そして、その超巨大なエネルギーの塊がついにフリーザ目掛けて放たれたのだ。

 その光景は正しく太陽が落下している様だった。

 

 その様子を私達は固唾を飲んで、見守っていた。

 

 

『しっ……しまった……!!!』

 

 

 超巨大なエネルギーの塊が自身に向かって降りて来ている事に気付いたフリーザは、すぐさま指先のエネルギーの塊を消し両手で超巨大なエネルギーの塊を受け止める。

 

 

『こんなもの…………!!!』

 

 

 流石のフリーザも50mを優に超える超巨大なエネルギーの塊には為す術がないのか、どんどん地上に押し込まれていく。

 だが、それでもフリーザに諦める気配は感じられない……。

 必死の形相を浮かべ、両手で超巨大なエネルギーの塊を押し返そうと足掻いていた。

 

 こんな表情のフリーザ……、あたしは見たことがない…………。

 いや、きっと今まで誰もこんな必死で足掻くフリーザを見たことはないだろう……。

 

 

『こ……ここ……、こんな……もの…………!!!こっ、こんな…………』

 

 

 だが……、そのフリーザの必死の形相がついに絶望に変わる瞬間が訪れた……。

 

 

『こっ……うあああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 必死に足掻いたフリーザだったが、カカロットが放った超巨大なエネルギーの塊に絶叫と共に飲み込まれ、ナメック星の大地へと落ちていく。

 

そして……、ついに……、ついにあたし達サイヤ人が長年、夢にまで見た光景が訪れようとしていた……。

 

 超巨大なエネルギーの塊はナメック星の大地へ激突した瞬間、そこに込められたエネルギーを解放する様に轟音と凄まじい光を放ち大爆発を起こした……。

 

 あまりの眩しさと激しい音に、あたしは僅かに水晶から目を逸らす。

 

 轟音と光が収まり、あたしが水晶に視線を向けると、そこには穏やかな海だけが水晶に映っていた……。

 

 先程まで戦いを繰り広げていたカカロットとフリーザ、そして2人が戦っていた陸地さえもその姿を消していた……。

 

 まるで、戦いなんて初めから無かったんだとばかりに、穏やかな海だけが水晶の中には映し出されていたんだ……。




地獄からの観戦者 フリーザ編 完!

じゃ、ダメだろうか?


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フリーザ編-Ep.13

多分みんなが1番読みたかった部分を勢いに任せて書いてみました。
正直、賛否両論あるかと思いますが、自分はこう思うので、違った意見を持つ人には正直ごめんなさい。

楽しんでもらえたら嬉しいです。


■Side:ギネ

 

 

 あたしが見ているこの光景は現実なんだろうか……?

 さっきまで目の前の水晶では、あたし達サイヤ人の希望を背負った息子とあたし達から全てを奪い去った宇宙の帝王の凄まじい戦いを映し出していた。

 だというのに、今水晶が映し出している光景は穏やかな波音をたてる海だけだった……。

 

 先程まで本当に戦いなんておこっていたのか?と感じさせるその光景を、あたし達はただ呆然と見つめていた……。

 

 

「やりやがった……、あ……、あいつ……、本当にやりやがった……」

 

 

 あたしが声の上がった方に視線を向けると……、あたしはまたしても自分の見ている光景を疑う事になった。

 なんせ長い事こいつの女房をやっているけど、こいつ……バーダックのこんな間抜けな顔を見たのは初めてだったからだ……。

 

 

「ねぇ……、バーダック……、あたし達が見ているこの光景って……、夢……じゃないよね……??」

「あぁ、あいつは……、カカロットは確かにフリーザの野郎をやりやがった!!!」

 

 

 あたしの問いかけに、バーダック自身もようやく実感が湧いたのか、あたしに向けていつも浮かべる不敵な笑みを見せてくれた。

 その瞬間だった……、あたし達の周りで大歓声が上がったのは。

 

 

「うぉおおおおおーーーーーーっ!!!本当にフリーザの野郎をやりやがった!!!」

「ねぇ、本当だよね!?本当に……、あのフリーザを倒したんだよねぇ!!!ねぇ!!!」

「しっ……信じれねぇ……!!!カカロットの野郎、マジかよ……」

 

 

 そんな中、ふとラディッツが思い出した様に声を上げる。

 

 

「そう言えば……、カカロットの野郎はどうなった……?」

「そうだよ!!カカロット……カカロットはどうしたのさ???」

 

 

 ラディッツの言葉にギネは、喜びの表情から一転青褪めた表情で水晶に視線を向ける。

 

 

「心配すんな、カカロットのやつはあそこだ……」

 

 

 だが、そんなギネを安心させる様に普段より柔らかい声でバーダックは水晶の端の方を指さす。

 そうすると、水晶がまたしてもこちらの意思を察した様に、遠目に映っていたモノをズームする様に表示した。

 そこには、ナメック星人に引っ張り上げられる形で海から陸に姿を現したカカロットが映し出されていた。

 

 

『はあっ、はあっ』

「カカロット!!!」

 

 

 あたしは、カカロットの姿を見て喜びの声を上げた。

 映し出されたカカロットの姿は満身創痍でかなりボロボロなうえ、息がかなり上がっている様だった。

 無理もない。あれほどの攻撃を繰り出した上、あの超巨大なエネルギーの塊を完成させるまでフリーザの猛功を耐え続けたのだ。

 

 寧ろ、あの程度の怪我で済んでいる事の方が、あたしには奇跡に思えてならなかった……。

 

 あたしがそんな事を想いながら、水晶を見ていると休んでいるカカロットの元に息子のゴハンと仲間のハゲがやってきて、カカロットとナメック星人の男と共に喜びを分かち合っていた。

 今のカカロットの表情は、フリーザと向き合っていた時の険しい表情とは違い、疲れの色が強いもののとても優しい顔で笑っていた。

 

 そんなあの子の姿を見て、あたしは改めてあの子が今尚こうして五体満足の身体で……、何より生き残ってくれた事に自然と涙が流れた……。

 

 本当に……、本当によく頑張ったね……カカロット……。

 

 あんたは……、あたしの自慢の息子だよ……。

 

 

 だけど……、あたし達はまもなく思い知る事になる……。

 

 世界ってヤツはどこまでいっても、不条理だって事をさ……。

 

 そして、そいつはいつだって突然やってくるんだって事も……。

 

 

 

『そ……そ……そんな…………』

 

 

 浮かれているあたし達の耳に、場違いだと言っていい程の何かに驚愕した声が届いた。

 皆がその声を頼りに、水晶に視線を向けると、カカロットの仲間のハゲが全身を震わせている姿が映し出されていた。

 その姿にあたし達は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 だが、何故あのハゲがあんなに全身を震わせているのか、その原因をあたし達はすぐ知る事になる……。

 絶望を含んだ叫び声と共に……。

 

 

『フリーザだーーーーーっ!!!!!』

 

 

 ハゲが叫び声を上げた瞬間、一筋の閃光が走る。

 何が起きたのか理解出来ていないあたし達は、さっきまでのバカ騒ぎが嘘の様に、呆然とした表情でその光景を見ている事しか出来なかった。

 そして、意識が現実にようやく追いついた時には、ナメック星人が何者かに心臓を撃ち抜かれて倒れ伏し、ゴハンの悲鳴にも似た叫びが水晶を通して地獄に響き渡る……。

 

 

『ピッコロさーーーーーん!!!』

「……え?……なに?……何が……起こったの??」

 

 

 あたしは倒れ伏したナメック星人を見て、呆然と呟いた。

 そして、次の瞬間、水晶に映し出された存在を見て、あたし達は驚愕する事となる……。

 何故ならそこには、あたしが二度と視界に入れたくなかった存在が映し出されていたからだ。

 

 

「フ……フリー……ザ…………」

 

 

 水晶に映し出されたその姿は、全身ボロボロになり息も絶え絶えで、尻尾も半分失い満身創痍だと言うのに、しっかりと2本足で立っているフリーザだった。

 カカロット達を見下ろすその表情には、怒りを超え憎しみすら籠った表情を浮かべていた。

 そして、自分をこんな目に合わせたヤツ等を絶対に許さない!という意志が強く感じる事が容易に出来た。

 

 

『さ……流石のオレも今のは死ぬかと思った……。

 このフリーザさまが死にかけたんだぞ……』

 

 

 フリーザの途轍もない怒りを感じ取った悟空は、瞬時にクリリンと悟飯の2人に視線を向け声を上げる。

 

 

『逃げろおめえ達!!

 オラが最初にやって来たところのすぐ近くに宇宙船がある!!

 ブルマを連れてこの星を離れろ!!!』

『な、何言ってんだ…………!

 なに、考えてんだ悟空…………!そんなこと…………』

 

 

 悟空の言葉に不吉な予感を感じ取ったクリリンは、顔中に冷や汗を流しながら、焦った様に悟空に声をかける。

 だが、悟空は長い付き合いであるクリリンすら見た事がない剣幕でクリリンの言葉を封じる。

 

 

『さ……さっさといけ!!!ジャマだ!!!

 みんなそろって死にてえか!!!』

 

 

 今のフリーザの姿を見た瞬間、瞬時に皆殺しにされると直感した悟空は、自身が囮になりフリーザを足止めしようと考えた。

 その為、急ぎ2人をこの場から避難させようとしたのだが、そんな事この存在が許すはずが無かった……。

 

 

『貴様らを許すと思うか?1匹残らず生かしては帰さんぞ……』

 

 

 残酷で冷徹な笑みを浮かべながら発せられたその言葉には、これまでのフリーザには常に感じられた遊びなど一切なく。

 確実に『殺す』という純粋な殺意のみ込められていた。

 

 そして、それを証明するかの様にフリーザは早速行動に出る。

 

 

『ダメージはくらっても、貴様らごとき片付けるのはわけないぞ!!!!』

 

 

 怒声を発したフリーザは、即座に右手を上げ掌をクリリンに向ける。

 すると、クリリンの身体は瞬時に自由を奪われる。

 

 

『!!』

 

 

 クリリンが突然の事に声にならない声を発すると、身体はクリリンの意思を無視して宙に向かって勝手に浮かび上がっていく。

 

 

『うっ、うわあああーーーーーっ!!!!』

 

 

 自身の身体の自由を奪われたクリリンは、驚きの叫びを上げながらどんどん上空へとその身体を上昇させる。

 

 

『クリリーーーーーン!!!』

 

 

 それをただ見ている事しか出来ない悟空は、必死の形相で叫ぶ事しか出来なかった。

 そんな時、フリーザの方からとてつもなく嫌な気配が伝わってきた。

 即座にフリーザの方に視線を向けた悟空は、その表情を見た瞬間、無意識に叫んでいた。

 

 

『やっ、やめろフリーザーーーーーッ!!!!』

 

 

 悟空の叫びを聞いたフリーザは、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべると掲げていた右手を容赦無く握りつぶした……。

 

 

『悟空ーーーーーっ!!!!』

 

 

 その叫びを最後にクリリンの肉体は一瞬膨れ上がると、瞬時に爆発し爆炎に包まれながら弾け飛んだ。

 燃えながら弾け飛んだ残骸を、魂が抜けた様な呆然とした表情で見つめる悟空……。

 そして、そんな悟空の様子を残忍な笑みを浮かべながら笑い声を上げるフリーザ。

 

 

『くっくっく……、お次はガキの方かな?』

 

 

 フリーザに次の標的にされた悟飯は、恐怖で表情を歪めながら後ずさる……。

 そんな時に、悟飯の横から小さな声が発せられた。

 その声は気を抜いてしまえば、聞き逃しそうなほど小声だったが、フリーザと悟飯には確かに聞こえた。

 

 2人が視線を声の発生源に向けると、そこには俯き全身を震わせている悟空の姿が目に映った。

 

 

『ゆ……許さん……、よくも……よくもぉ…………くっ……』

 

 

 だが、そこにいる悟空はそれまでと何かが違っていた……。

 ただ俯き全身を震わせているだけだと言うのに、纏っているプレッシャーがこれまでとは桁違いだったのだ。

 さらに、フリーザには感じ取れなかったが、気を感じる事が出来る悟飯には、特大の元気玉を放ちドン底まで低下していた悟空の気が、どんどん高まっていっているのに気付いた。

 

 

『くっ……くぅ……』

 

 

 悟空の気の高まりに呼応する様に、周りの石や砂は重力を無視するかの様に宙に浮き上がり、更にはナメック星の大地は割れ、海は荒れ狂い、空からはいくつもの雷が落ちる。

 これだけの異常事態を起こして起きながらも、悟空の気の上昇はまだ続いていた。

 そして、その異常はついに悟空自身にも訪れていた。

 

 気が高まるにつれ、悟空の髪が逆立ち、時折髪の色が黄金色へと変化したと思ったら、また黒髪へ戻るという現象を先程から何回も繰り返しているのだ……。

 しかも、だんだんその間隔が短くなっている。

 

 悟空に起こっていく異常に、フリーザと悟飯の2人は言葉どころか動くことすら忘れ、ただ見入っていた。

 

 

『よくも……よくもぉ……くっ……うぅ……うぅぁああああああーーーーーっ!!!!!』

 

 

 そして、ついに悟空は悲しみを超える怒りの咆哮を上げ、自身の中に宿る力を完全に解き放った。

 その瞬間、全身から黄金色のオーラが吹き出し、ナメック星を黄金色の爆轟が満たした。

 悟空の髪は完全に黒髪から金髪へ、瞳は黒から碧色へと変化していた。

 

 

『!?なっ、何!?』

 

 

 そのあまりの変わりっぷりに、フリーザは驚愕の表情を隠せなかった。

 そんなフリーザを黄金色に包まれた戦士は、険しい表情を浮かべ碧色の瞳で睨みつける。

 

 

 

「なっ、何だよ……、あれ……??」

「カカロットのやつ……、どっ……どうしちゃったのさ…………」

 

 

 水晶の中のカカロットの急激な変身には、あたし達地獄のサイヤ人も驚愕を隠せなかった。

 黄金色のオーラを纏っている今のカカロットは、見た目だけじゃなく雰囲気や性格まで変わっている様だった。

 何より水晶越しだと言うのに、伝わってくる威圧感が尋常じゃない……。

 

 

「あの変身もカカロットの妙な技の1つ……なのだろうか?」

 

 

 あたし達がカカロットの変化に戸惑っていると、ラディッツが確信を持ってない推測を口にする。

 しかし、それは次の存在によって否定されることとなる。

 

 

「いや……、あの変身は……カカロットの技なんかじゃねぇ…………」

「何か知ってるのかい?バーダック!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたあたしが彼の方を見ると、当のバーダックは信じられないものを見たと言わんばかりに両目を見開き、若干身体が震えている様だった。

 その様子と返事がなかったことに、あたしはただ事じゃないと感じ、再度バーダックに声をかけてみる。

 

 

「ねぇ!ねぇってば!!バーダック!!!あんたどうしちゃったのさ!!!」

 

 

 肩に手を置き揺らしてみるが、それでもバーダックの視線は水晶から離れなかった……。

 考えるまでもなく、原因はカカロットに起きた変身だろう……。

 いったい……、あの変身は何なんだろう……?

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 一体何がどうなってやがる……?

 オレは今自分が見ている光景に驚きを隠せなかった……。

 誰かに身体を揺すられている様な気がするが、そんな事が気にならないくらい、オレは混乱の極致って状態だった。

 

 カカロットが変身した姿と非常に似た姿の存在を、オレは知っている……。

 先程数十年ぶりに発動したあの力で、確かにオレは見た……。

 今のカカロットによく似た姿のヤツを……。

 

 

『なっ、なんだ!?あいつのあの変化は……!!

 サイヤ人は大猿にしか変わらんはず……、……どういう事だ…………!?』

 

 

 水晶の中からフリーザの動揺が混じった声が聞こえてきた。

 

 だが、今あいつが発した言葉にオレは何故だか引っかかりを覚えた……。

 ……なんだ?……オレは一体何が引っかかった??

 

 オレが思考の海に沈んでいる時、水晶の中では、変身したカカロットが息子達を逃がそうとしていた。

 ゴハンはカカロットの発言に戸惑いを隠せない様だったが、カカロットの剣幕におされ、それ以上は何も言わず大人しく負傷したナメック星人を抱え飛び立った。

 

 だが、こいつがそんな事を許すはずがなかった……。

 

 

『はーーーっはっはっは!!!このまま逃がすわけがなかろう!!!』

 

 

 飛び立ったゴハンの背後を狙う様に、フリーザの指先にエネルギーが集まる。

 今にも攻撃が発射されようとしたその瞬間、カカロットの姿が瞬間移動をしたと錯覚するぐらいの速度でフリーザの目の前に現れる。

 いきなり目の前に現れたカカロットに、驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 

 フリーザの目の前に現れたカカロットは、フリーザがゴハンに向けていた右腕を無造作に掴む。

 だが、そこに込められた力はそうとうなものだったらしく、腕を掴まれたフリーザの顔が痛みからかどんどん歪んでいく。

 

 

『いい加減にしろ……、このクズやろう……!!!

 罪もないものを次から次へと殺しやがって……、ク……クリリンまで……』

 

 

 カカロットの表情と言葉にはフリーザへの明確な怒りが籠っていた。

 そして、それに伴う様にフリーザの腕を掴んでいる手にも力が加わっている様だった。

 

 あまりの痛みで苦痛の表情を浮かべていたフリーザだったが、何とか力付くでカカロットの手から腕を抜き取ることに成功する。

 

 

『くっ!!!』

 

 

 腕を抜き取ったフリーザは即座に後ろに跳び、カカロットから距離をとった。

 しかし、その表情には距離をとった安心や、カカロットへの怒り等の表情ではなく、ただ驚愕だけが占めていた。

 まるで目の前で起きている事態が、信じられないとばかりに……。

 

 

『な……なぜ貴様に、そ……そんな力が……、ま……まさか……き……きさま…………』

 

 

 オレは水晶の中のカカロットとフリーザのやり取りを見ながら、先程から頭の中で引っ掛かっている事について考えていた……。

 

 ……サイヤ人……変わる……大猿…………変わる……変わる?……!!……まさか…………!?

 

 色々考えを巡らせたオレは、ついに1つの推測が頭の中で浮かび上がった……。

 

 カカロット……、お前は……本当に…………!?

 

 

 バーダックが悟空の変身について1つの可能性を見出した時、ついに悟空の怒りが爆発した。

 

 

『オレは怒ったぞーーーーーっ!!!!!フリーザーーーーーッ!!!!!』

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「すっ……すごい……」

 

 

 あたし達は目の前で起こっている事態に驚きを隠し得なかった……。

 怒りの叫びを上げてからのカカロットは、先程までフラフラだったのが嘘の様にフリーザ相手にとてつもない戦いを繰り広げていた。

 

 

 

 黄金のオーラを纏った悟空は怒りの叫びをあげると、フリーザの反応を超える速度で近づきその顔面を殴り飛ばす。

 そして、吹き飛んだフリーザに瞬時に追いつくとナックルハンマーを頭上から叩きつける。

 攻撃を受けたフリーザは物凄いスピードで地面に向けて落下すると、轟音を響かせながら地面に激突する。

 

 フリーザが激突した地面は大きくひび割れ、砂煙も高く上がっていた。

 攻撃の威力が強すぎたのか、フリーザの姿は攻撃の衝撃で出来たひび割れた大地もとい岩石の下に隠れてしまっている。

 だが、数秒もしない内に爆発みたいな音と衝撃が走ると、そこにはほとんどダメージを受けていないフリーザが立っていた。

 

 気を外側に放出する事で、周りにあった岩等を吹っ飛ばしたのだ。

 姿を現したフリーザはゆっくりと浮かび上がると、空中から見下ろしていた悟空と同じ位置まで飛翔する。

 悟空と同じ位置まで戻ったフリーザは、不愉快そうな顔を隠しもせず悟空を睨みつける。

 

 

 

「おいおい、本当にカカロットのヤツどうしちまったんだよ……。

 さっきまで、ボロボロだったくせに、あの姿になってからフリーザの野郎を圧倒し始めやがったぞ」

「ああ、あの姿になってから確実に戦闘力が増しやがったな……」

 

 

 パンブーキンとトーマは姿を変えたカカロットの戦闘力に驚愕しながらも、冷静にカカロットの戦闘力を分析していた。

 この辺はやはり戦闘民族の性なのだろうか……。

 でも、変身してパワーが増すって……まるで……。

 

 トーマ達の言葉に引っ掛かりを覚えたが、それはあたしだけではなかった。

 

 

「戦闘力が増すって、大猿になったわけじゃないのにそんな事ありえるのかい?」

 

 

 あたしと同じ疑問を抱いたセリパがトーマ達に疑問を上げていた。

 

 だが、トーマ達が答えるよりも早く水晶の中から聞こえた声で、あたしの視線はまたしても水晶に引き寄せられた。

 何故ならそれは、あたしにとっては目を背けてはいけない罪そのものだったからだ……。

 

 

『偉そうな事をいいやがって……、貴様らサイヤ人は罪のない者を殺さなかったとでもいうのか?』

 

 

 言葉を発したフリーザの顔には、貴様らサイヤ人も自分と同じ穴のムジナだと言外に語っていた。

 あたしは、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に痛みみたいなのを感じた。

 そして、同時にとてつもない罪悪感が押し寄せた。

 

 それは、他の星を制圧した事を今更後悔しての事ではない。

 きっとカカロットは生まれてこのかた、他の星を制圧なんてした事はないはずだ……。

 それなのに、あいつは今目の前の最悪な存在に自分と同じ存在だと言われているのだ……。

 

 あたし達の罪が……何の罪もないあの子まで同じモノだと貶める……。

 それが情けなくて……、申し訳なくて……しかたなかった……。

 

 だが、それを受けたカカロットの表情はとても冷ややかなモノだった。

 そして、一言……顔色ひとつ変えずにただ事実だけを述べる。

 

 

『だから滅びた…………』

「なっ!?」

「んだとぉ!!」

 

 

 カカロットの受け答えが気に入らなかったのか、フリーザは更に表情を不愉快そうに歪めた。

 だが、あたしの周りのいたヤツ等もカカロットの今の言葉には、怒りを隠せない様だった。

 

 

「カカロットの野郎……!!オレ達が滅んだのが当然みたいなこと言いやがったぞ!!ふざけやがってぇ!!!」

「流石に今の言葉は頭にくるぜ……」

「なんで、あたし達が滅びなきゃなんないのさ!!!」

 

 

 特に怒りを露わにしていたのが、惑星ベジータ消滅の時とほぼ同じタイミングで死んだ、バーダックやあたしの昔の仲間達だった。

 正直今のカカロットの言葉は、あたしもショックだった……。

 

 そんな時、ふとあたしは思い出した……。

 あの時一番怒っていたのが誰だったかという事を……。

 

 あたしは、その人物に視線を向けるとその人物はぼそりと呟いた……。

 だが、その内容はあたし達が想像すらしていない様な言葉だった……。

 

 

「分かってんじゃねぇか……、カカロット」

「えっ?」

 

 

 あたしはバーダックが呟いたその言葉が信じられなくて、つい自然と呆けた様な声を出していた。

 そんなあたしに普段と変わらない顔したバーダックが、不思議なものを見る様な目を向ける。

 

 

「どうした?ギネ?」

「え……いや……、バーダックは……怒ってないのかい?」

「怒るって……、何にだ??」

 

 

 あたしが言葉を選ぶ様に問いかけると、バーダックは尋ねられた意味が分からないとばかりに首をひねる。

 

 

「カカロットのさっきの言葉にだよ!!」

 

 

 埒が明かないと感じたあたしは、バーダックに直球で聞いてみた。

 そしたら、バーダックはようやく理解した様な表情を浮かべる。

 そして、静かに口を開く……。

 

 

「ああ……、あれか。別に怒る事なんてねぇだろ……事実だしな……」

「なんだってぇ!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、あたしが少なからず衝撃を受けていると思わぬところから横槍が入った。

 あたしとバーダックが声の主に視線を向けると、全身に怒りを滲ませたセリパだった。

 セリパだけじゃない、トーマやパンブーキン、トテッポまで声にこそ出さないまでも、険しい顔でこちらを睨んでいた。

 

 

「バーダック!!あんたのその言葉……どういう意味だい……??」

 

 

 セリパはバーダックの答え次第では、今すぐにでも戦闘を辞さないって雰囲気を醸し出しながらバーダックに問いかける。

 だが、そんなセリパにバーダックは冷ややかな目を向ける。

 

 

「どういう意味も何もねぇよ……。オレ達はただフリーザに負けて滅んだ……。

 それが事実だ。……違うか?」

 

 

 バーダックの言葉はどこまでも冷ややかだった。

 その雰囲気と視線に気圧されたセリパは、一瞬後ずさるがすぐに持ち直したのか、バーダックを睨みつける。

 

 

「だとしても、あたし達サイヤ人が滅びるのが当然だったとでもあんたは言うつもりかい!?」

 

 

 セリパの言葉を聞いたバーダックはただでさえ冷ややかだった視線を、さらに細める。

 そこには、少なからず怒りが感じられたのはあたしだけだろうか……?

 

 

「セリパよぉ……、オレ達は生きている間色々な星を制圧して滅ぼして来た。

 その滅ぼしてきた星のヤツ等がよぉ、自分達が滅びる必要なんかあったのか?

 なんて、テメーに問いかけたらテメーはなんて答えんだ?」

「ああ?んなの、弱いテメー等が悪いんだろ!!!って言って終いさ!!!」

 

 

 バーダックの問を聞いたセリパは、頭に血が上っているのかよく考えもせず反射的に答える。

 だが、その回答はバーダックも同じ考えだった様で、同意を示す様に頷く。

 

 

「ああ、オレもお前と同じ考えだ。そいつ等が弱いからオレ達サイヤ人に星を滅ぼされた。

 ただ、そんだけだ……。

 滅ぼされたくなかったら、オレ達より強ければいい」

 

 

 そこで言葉を切ったバーダックの目に力が宿り、セリパ達を睨みつける。

 

 

「だけどよ、それはオレ達にも言える事じゃねぇのか?

 惑星ベジータの件は、色々あったが面倒くせえ事を除けば、結局のところオレ達サイヤ人がフリーザより弱かった。

 だから、滅びた……。

 散々テメー等が吐いてきた理屈だ……。それが自分達には当てはまらねぇなんてこたぁねぇだろ……。

 それが、分かってるからカカロットの野郎は、オレ達が滅びたのは必然だって言ったんだろうぜ!!」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたサイヤ人達は、皆一様に顔を顰める。

 そう、彼等だって分かっているのだ。

 この世は弱肉強食であり、力あるものこそが正義なのだ。

 

 そして、自分達はその理屈で数多の星を滅ぼし制圧してきた。

 惑星ベジータの時は、滅ぼす側から滅びる側にただ回ってしまっただけなのだ。

 

 それでも納得いっていないのか尚もセリパは喰いさがる。

 

 

「でも、あいつは……フリーザはあたし等サイヤ人を油断させて……、星の外から攻撃して惑星ベジータを吹っ飛ばしたじゃないか……」

 

 

 弱々しく吐き出されたセリパの言葉をバーダックは鼻で笑い飛ばす。

 

 

「ふん、だから何だ?油断してなかったら、フリーザに勝てるってか??

 そもそも、あいつの下でいい様に働かされていた時点で、オレ達サイヤ人はあいつに負けてんだよ……。

 惑星ベジータの消滅なんて、そいつの延長線上での出来事でしかねぇんだよ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたセリパは遂に項垂れてしまう。

 だが、その言葉を聞いていたあたしはどうしても気になって仕方なかった事があった。

 

 

「ねぇ、バーダック……。そこまで自分達の滅びを受け入れておきながら……、どうして、あんたは惑星ベジータが消滅する時にフリーザに立ち向かっていったんだい?

 しかも、かなり怒ってたよね??」

 

 

 あたしの問いかけを聞いたバーダックは、一瞬苦い表情を浮かべると、あたしの視線から外れる様に背を向ける。

 それを不思議そうにあたしやセリパ達の視線はバーダックの背中に集まる。

 

 

「オレ達戦いに身を置く者にとって、強者は絶対だ……。

 だけどよ……、戦ってもいねぇのにそいつより弱いなんて認めるほどオレは人間出来ちゃいねぇんだよ……。

 それに、オレは黙って殺られてやるほど、お人好しでもねぇ……」

 

 

 そこで、バーダックの言葉は途切れる。

 皆が怪訝そうな表情でバーダックの背中を見つめると、バーダックはまた語りだす……。

 その時、バーダックの握りしめている拳が震えている様に見えたのは、きっと気のせいでは無いだろう。

 

 

「あの野郎はオレ達サイヤ人を好き放題使いまわした挙句、ゴミみたいに切り捨てやがった……。

 強者は絶対だってのは理屈では分かっててもよぉ……、……我慢……出来なかったんだ…………」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたセリパ達は、結局お前も同じ様なもんじゃねぇかとばかりに苦笑を浮かべる……。

 そしてあたしは、目の前の男が口にしなかった内心にまで想いを馳せる。

 

 

(本当はセリパやトーマ達が殺されたのが許せなくて、悔しくて、悲しくてあんたはあの時怒りに震えたんだろう?

 はぁ……、あんたは本当に不器用な男だねぇ……、ねぇ、バーダック)

 

 

 自分の旦那の不器用さに改めて苦笑を浮かべた、あたしだった。

 そんな時、バーダックがゆっくりと振り向き水晶を見上げると、そこに映し出されたフリーザを視界に納めポツリと一言漏らす。

 

 

「もし……、あいつがただオレの前に敵として現れたら、オレはきっとあいつをここまで憎むことも無かったのかもな……」

 

 

 その吐き出された言葉には、あたしでも汲み取れない複雑な想いが籠っている様な気がした。

 

 あたしがバーダックにその言葉について問いかけようとした時、水晶から最悪の存在の声が響いた。 

 

 

『オレが滅ぼしたんだ。サイヤ人は何となく気に入らなかったんでね……』

 

 

 フリーザの言葉を聞いたあたし達は、その内容に思わず顔を顰める。

 事実だとしても、そんな理由で滅ぼされたんだとしたら、正直たまったもんじゃ無い……。

 

 こいつのせいで、あたしは愛しの我が子達を育てられなかったのだ……。

 その理由が、フリーザの何となくの気分だったなんて、正直笑えない理由である……。

 

 

 しかし、ギネ達地獄のサイヤ人達は怒りによって気付いていなかった。

 フリーザの言葉は一見して事実を述べている様だったが、現在の悟空に対して冷や汗を浮かべ苦々しい表情をしているフリーザの有様を見ると、その言葉が違った意味の様にも取れる事に。

 今のフリーザの言葉は自分自身に「サイヤ人なんかが自分に勝てるわけがない」と言い聞かせている様にも見えるのだ。

 

 そんな、フリーザの内面を見抜いたのは、この男だけだった。

 

 悟空は強気の笑みを浮かべると明確な敵意と共にフリーザに対して勝利宣言を突きつける。

 

 

『今度はこのオレが貴様を滅ぼす』

 

 

 その言葉に地獄のサイヤ人達は苦い顔を浮かべ俯いていたのに、信じられないものを見る様に水晶に視線を向ける。

 だが、言葉を投げかけられたフリーザは、冷や汗を浮かべながらも笑みを浮かべている。

 

 

『このフリーザを?

 くっくっく……、図に乗るのもそれぐらいにしておくんだな……。

 このオレに勝てるわけがない!!』

 

 

 そこで言葉を切ったフリーザは、悟空に今まで以上の強気の笑みを浮かべ口を開く。

 それは、この短い手合わせで実際に悟空の急激なパワーアップした力を体験し、破格の分析力を持つフリーザだからこそたどり着いた1つの答えだろう。

 

 

『も……もし、本当に、き……貴様が超サイヤ人であったとしてもだ……!!』

 

 

 そのフリーザの言葉に悟空は、静かに強気の笑みを返すだけだった。

 

 

 しかし、地獄のサイヤ人達は今のフリーザの言葉に驚愕の反応を示していた。

 だが、例外な反応を1人だけ示している存在がいた。

 

 

「やはり、フリーザの野郎もその答えに行き着きやがったか……」

 

 

 バーダックの言葉に他のサイヤ人達の視線が集まる。

 

 

「お、親父!!親父はカカロットのあの変身が、超サイヤ人だと気付いていたのか??」

 

 

 真っ先に反応をしめしたのはラディッツだった。

 だが、ラディッツの問いかけは他の者達の総意でもあった。

 

 

「いや、正直確証があるわけじゃねぇ。

 カカロットの今の姿が伝説の超サイヤ人かと言われても、見た事がねぇからなぁ……。

 ただ、色々考えると、そうなんじゃねぇかって思えてしょうがねぇんだよ」

「いっ、色々って何だよ??」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたナッパが、急かす様に問いかける。

 

 

「まず、さっき王子のヤツが超サイヤ人になった、とか言ってやがっただろ?

 オレはあれは超サイヤ人じゃねぇと思っている」

「なんか理由があるのかい?」

 

 

 セリパの問いかけに、頷き言葉を続けるバーダック。

 

 

「さっきの王子の姿は、普通のサイヤ人のままだったからな……」

「それが……理由なのかい?」

 

 

 今度はバーダックの隣のギネが、なぜそれが理由?って感じで首を捻っている。

 

 

「ああ、さっきまでの王子の自称超サイヤ人は、言ってしまえば戦闘力がただバカ高いサイヤ人でしかねぇんだ。

 それをオレは超サイヤ人って呼ぶとは思えねぇ……。

 超サイヤ人って呼ぶからには、決定的に普通のサイヤ人とは違う何かがあるはずだ」

「それが、破格の戦闘力じゃねぇのか??」

 

 

 パンブーキンの問いかけに首を左右に降るバーダック。

 

 

「確かにそれもあるかもしれん。だが、よく思い出せ。

 オレ達サイヤ人には瀕死の状態から復活する他に、もう1つパワーアップする方法があるはずだ……」

「大猿か!!!」

 

 

 バーダックのヒントを聞いて、トーマが声を上げる。

 その答えに笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「ああ……。オレは、超サイヤ人てのはサイヤ人の大猿以外の変身形態だと考えている……」

「変身形態……??」

 

 

 またしても、バーダックの言葉にギネは首を捻らせる。

 それを無視してバーダックは言葉を重ねる。

 

 

「大猿化は通常の状態から約10倍戦闘力が上昇する。

 その代わり、一部のエリートサイヤ人を除き、皆理性を失いサイヤ人の本能が表に現れる。

 また、巨大化する事でスピードも奪われるってデメリットもあるな……」

 

 

 そこで、言葉を切ったバーダックは水晶に映っている、黄金色のオーラを放っている金髪碧眼へと変化した息子へ視線を向ける。

 

 

「おそらく超サイヤ人ってのは、大猿のデメリットである理性を失う、巨大化によるスピードの減退を克服した新たな変身形態なんだろう。

 しかも、パワーアップの桁は見た限りだと大猿の時よりも大きい様だな……。

 だからこそ、カカロットの野郎は急激に戦闘力を増しやがった。

 雰囲気が変身前と大きく異なっていやがるのは、大猿ほどではないにしろ少なからずサイヤ人の本能が強く出てるからだろう……」

「なるほどな……、確かに説明されてみれば、あれが超サイヤ人だって言われても不思議じゃねぇかもな……」

 

 

 バーダックの答えにトーマは、冷や汗を流しながらも理解を示した。

 それは、どうやら他のサイヤ人達も同様だった。

 

 

「でも親父、カカロットの変身の切っ掛けはなんだったのだ?」

 

 

 ラディッツは悟空が超サイヤ人になった事を素直に受け入れたが、何がその壁を越える切っ掛けになったかまでは理解していなかった。

 自分もその場面を見ていたのにも関わらずだ……。

 そして、それは他のサイヤ人達も実は似たり寄ったりだったのかもしれない……。

 

 その辺を理解できないあたりが、長年サイヤ人の中から超サイヤ人が誕生しなかった理由の一端なのかもしれない……。

 

 

「そいつは「あのハゲ……というか、仲間の死だよ……」

「たかが、仲間の……死で……だと…………!?」

 

 

 ラディッツの問いに答えたのは、バーダックではなくギネだった。

 だが、その答えにラディッツは信じられないモノを見る様にギネを見る。

 そんな、ラディッツを悲しそうな笑みを浮かべギネは言葉を続ける。

 

 

「うん。あの子はあの時、自分の許容量を超える怒りと悲しみに心が耐えきれなくなったんだ……。

 きっと、カカロットにとって、とても大切な仲間だったんだろうね……。

 その純粋な怒りが、カカロットに超サイヤ人への扉を開いたんだよ……きっとね……」

 

 

 尚も信じられないといった表情を浮かべていたラディッツは、視線をバーダックに向ける。

 するとバーダックは、仕方ないとばかりにため息をはく。

 

 

「さっき、王子のヤツが死ぬ間際にカカロットに言ってやがっただろ?

 甘さを捨てれば、きっと超サイヤ人になれるって……。

 フリーザの野郎は、その最後の一押しをテメーで押しちまったんだよ……。

 別に甘さを捨てれば、誰でもなれるわけじゃねぇだろうが……、サイヤ人としても破格の戦闘力を持つカカロットだからこそなれたのかもな……。

 伝説の超サイヤ人によ……」

 

 

 そう言って、バーダックは改めて水晶に視線を向ける。

 それに伴って、ギネやラディッツ、そして他のサイヤ人達も水晶に視線を向ける。

 

 そこには、黄金のオーラを纏う絶対的な強者が映し出されていた。

 惑星ベジータが滅んで20数年……、ついにナメック星にて伝説は蘇った……。

 

 伝説の超サイヤ人と宇宙の帝王のバトルは更なるステージへ突入する。




はー、この章って本編では全然進んでないんだけど・・・。
やっぱ、前で綺麗に終わったし締めとけばよかった・・・。
なんで、あんな巨大な元気玉で死なんねん・・・フリーザ。

■追記
悟空のたがら滅びたの台詞の後、バーダック達がそれについて語っていますが、それについてはあくまで戦闘民族サイヤ人ならこう考えるだろうなぁーと思って書いています。
だって、彼ら多分他の星制圧するの、悪い事だとか絶対思ってないと思うし。

地球育ちの悟空としては、感想で頂いたとように力で他人を虐げてきた者達はより強い力で滅ぼされるって言うのが、多分正解なのではないでしょうか?


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フリーザ編-Ep.14

バトルシーンが難しいっす!!


■Side:バーダック

 

 

 水晶の中のフリーザは身体を捻り大きく右腕を引くと、引いた腕を勢いよくカカロットに向けて突き出す。

 すると、奴の掌から極大のエネルギー波が放出され、カカロットを襲う。

 しかし、攻撃を放ったフリーザはこれで終わりではないとばかりに、今度は反対の左手で先ほどと同様のエネルギー波を放ち、更に、間髪を入れず右手左手と両の手から何十発もの極大のエネルギー波を放ち続ける。

 

 あいつの攻撃のせいで、水晶はフリーザのエネルギー波とそれが齎す爆炎しか映し出されていない。

 これだけで、今あいつが放ったエネルギー波の攻撃規模がとんでもねぇ事が分かる・・。

 その攻撃の範囲と威力には、見てるこっちの方が冷や汗が流れてきやがる……。

 

 あれだけの規模と数の攻撃だ、流石のカカロットのヤツもノーダメージとは考えづれぇ……。

 だが、オレの予想は大きく外れることになった。

 

 フリーザが放ったエネルギー波とそれが齎した爆煙が止んだ時、そいつは姿を現した。

 しかも、フリーザの攻撃が始まった時からほとんど位置が変わっちゃいねぇ。

 だがそれは、反応出来ず避けきれなかったからじゃねぇ。

 

 あいつにとって、今のフリーザの攻撃は避けるに値しなかったのだ。

 オレはあいつの姿を見て冷や汗と共に身体の奥から、言い様のない何かが湧き出るのを感じだ……。

 

 なるほどな……。こいつが、超サイヤ人か……。

 伝説になるはずだ……。

 

 

 バーダックの視線の先には、黄金色のオーラを纏った金髪碧眼の戦士が無傷の状態でフリーザを睨みつけていた。

 

 

『お前はもうあやまっても許さないぞ……』

『ふ……ふふ…………』

 

 

 無傷な状態の悟空を、しばし驚愕の表情で見つめていたフリーザだった。

 しかし、悟空の言葉を聞き、思い出した様に強気の笑みを浮かべようとする。

 だが、内心の焦りが収まらないのかその笑みは酷く不恰好なモノだった。

 

 そんなフリーザに向けて、悟空は静かに右掌を向ける。

 するとドンッ!!という轟音と共に空気が震えたと感じた時には、フリーザの身体は数十m先へと吹っ飛ばされていた。

 縦回転しながら吹っ飛んでいたフリーザは、なんとか空中で体勢を整える。

 

 

『ハァ……、ハァ……』

 

 

 体勢を整えたフリーザには、冷や汗と共に驚愕の表情だけが張り付いていた。

 さらに、肩を上下に大きく揺らし、その姿からは余裕のカケラも感じられなかった。

 そんなフリーザを不敵な笑みを浮かべ、見つめる悟空。

 

 数十mの距離を空けて向かい合っていた2人だったが、そんな時間は長くは続かなかった。

 

 悟空の姿がブレたと認識した時には、一瞬でフリーザとの距離を詰めその顔面にエルボーを叩き込んでいた。

 

 

『くっ』

 

 

 エルボーを喰らったフリーザは、苦悶の声を上げながらも、なんとか体勢を整える。

 だが、その瞬間を見計らった様にフリーザの顎に悟空の強烈な左アッパーが炸裂し、またしても吹っ飛ばされる。

 さらに追撃とばかりに、超スピードの威力を乗せた悟空の頭突きがフリーザの背後に突き刺さる。

 

 

『ぐあっ!!!!!』

 

 

 その威力についにフリーザの口から血が吹き出る。

 だが、それがフリーザに再度火をつけたのか、痛む身体を無理やり動かし、悟空に攻撃を仕掛ける。

 

 

『くっ……!!ぎっ!!!!!』

 

 

 フリーザが繰り出した右蹴りを左腕でガードする悟空、さらに左エルボーを悟空の顔面めがけ繰り出すが、今度は悟空の右手があっさり防ぎ弾き返す。

 弾き返したことで開いた距離を悟空が詰めると、フリーザも同様に距離を詰め近距離で打ち合いに突入した。

 お互い一撃一撃がとんでもない破壊力を秘めているため、2人の拳や蹴りがぶつかる度、大気が悲鳴をあげ衝撃が走る。

 

 だが、2人の間には決定的な違いがあった。

 至近距離で打ち合いを行なっているというのに、冷静に攻撃を繰り出す悟空に対して、フリーザには一切の余裕が感じられなかった。

 

 このままでは分が悪いと感じたフリーザは、後方に飛び悟空との距離を空ける。

 

 

『ふーっ!!ふーっ!!』

 

 

 後方に飛んだフリーザの顔には玉の様な汗が浮かび上がり、その表情は怒りと屈辱からか、かなり歪んだ表情で悟空を睨みつけていた。

 そんな怒りをぶつける様にフリーザは即座に人差し指を悟空へ向ける。

 すると、間髪を入れず人差し指から一筋の光が光速のスピードで放出される。

 

 その攻撃の正体は、クリリンやベジータを散々苦しめた光速のビームだった。

 一見その細い見た目故、威力を感じさせないが、見掛けに寄らずその攻撃力は星を破壊するには十分過ぎる程の威力を持っていた。

 そんな、光速のスピードと恐ろしい破壊力を持った攻撃が悟空へと迫る。

 

 しかし、悟空はそんな光速の攻撃を顔色一つ変えず、フリーザの攻撃を上回る速度でわずかに横に移動し躱してみせた。

 

 

『よ……よけた…………!!!!』

 

 

 その恐ろしい反応速度に、驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 だが、自慢のビーム攻撃が避けられた事が受け入れなれなかったのか、再度攻撃を繰り出す。

 今度は避けさせないとばかりに、一気に10発近く指から光速のビームを放つ。

 

 しかし、悟空は先ほど同様、顔色一つ変えず、その場からほとんど動くことなく最小限の動きだけで躱し切ってしまった。

 

 その有様をまざまざと見せつけられたフリーザの顔が、先程までよりもさらに怒りで歪む。

 

 

『お……おのれ…………あ……当たりさえすれば……き……貴様なんか…………』

 

 

 苦々しい表情を悟空に向け怨嗟の声を上げるフリーザ。

 フリーザの様子を見ていた悟空は、不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

『あててみろよ』

『!!』

 

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、一瞬驚いた顔を覗かせる。

 しかし、悟空の言葉の意味を理解した瞬間、その表情は瞬く間にこれまでとは比較にならないほど怒りと屈辱で顔を歪め、身体を震わせていた。

 

 

『な…………なにを〜〜〜〜〜…………!?

 ふ…………ふざけやがって…………、後悔しやがれーーーーーーっ!!!!!』

 

 

 ついに怒りの頂点に達し、怒りの咆哮を上げたフリーザは抑えきれない殺意を込めて指先からビームを放出する。

 凄まじい速度で自分に迫るその攻撃を、避ける素振りすら見せず悠然と佇む悟空。

 

 そして、フリーザの全霊の殺気が籠った攻撃はついに悟空を捉える。

 着弾と共に凄まじい轟音をナメック星に響かせたフリーザの攻撃。

 その攻撃を顔面で、真正面から受けた悟空の顎が勢いよく跳ね上がる。

 

 しかし、攻撃虚しく悟空は跳ね上がった顎をゆっくりと下げ、鋭い眼光をフリーザに向ける。

 そして、口から一筋の血を流しながら不敵な笑みを浮かべる。

 

 

『星は壊せても……たった1人の人間は壊せない様だな…………』

 

 

 その姿を見たフリーザは、ついに全身を震わせ驚愕の表情を浮かべていた。

 その表情にはこれまでとは違い、明らかに悟空に対しての畏怖が込められていた……。

 

 

『な……な……なにものだ…………』

 

 

 震える口から、何とか絞り出す様に言葉を発したフリーザ。

 

 

『とっくにご存知なんだろう!?』

 

 

 そんなフリーザに、不敵な笑みを向ける悟空。

 そして、彼はついに自分の存在について名乗りを上げる。

 

 

『オレは地球から貴様を倒すためにやって来たサイヤ人……。

 穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……』

 

 

 静かに言葉を発していた悟空は、そこで言葉を切ると、表情を改め鋭い眼光でフリーザを睨みつける。

 

 

『超サイヤ人孫悟空だ!!!!!』

 

 

 悟空の叫びに呼応する様に、全身から膨大な量の黄金のオーラが放出される。

 

 その凄まじい姿を見たフリーザは、自身の全身から冷や汗が流れるのを止められなかった……。

 しばし、茫然とした表情で悟空を見つめていたフリーザだったが、最強の宇宙の帝王としてのプライドがフリーザを現実へ連れ戻す。

 茫然とした表情から何とか笑みを浮かべたフリーザだったが、その笑みは誰が見ても無理やり浮かべた作られた笑みだというのが分かるほど、ぎこちないモノだった。

 

 

『……や……やはりな…………。

 どうやら本当に超サイヤ人らしいな…………。

 ふ……ふっふっふっ…………』

 

 

 ぎこちない顔で笑うフリーザを、静かに、だが鋭い瞳で見つめる悟空。

 

 

『穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた……か。

 なるほど……いくら頑張ってもベジータにはなれなかった訳だ……』

 

 

 強がりで何とか笑みを浮かべながらも、言葉を発し続けていたフリーザの言葉が途切れる。

 しかし、次の瞬間フリーザは全身をブルブルと震わせ、両こぶしを硬く握りしめていた。

 そして、無理矢理作られた笑みはついに崩れ去り、怒りと屈辱が混ざった様な複雑な表情を浮かべる。

 

 

『ち……ちくしょーーーーー…………!!!

 ちくしょおおお〜〜〜〜〜っ!!!!!』

 

 

 ついに感情を爆発させたフリーザは、怒りの咆哮を上げる。

 咆哮を上げたフリーザは、しばらく怒りと屈辱が混ざった様な複雑な表情を浮かべ、身体を震わせていた。

 その内心がどんなものだったのかは、フリーザ本人にしか分からない……。

 

 そんなフリーザを冷静に静観していた悟空は、ついにフリーザへ最後通告を突きつける。

 

 

『終わりだ!フリーザ!!』

 

 

 

■Side:ラディッツ

 

 

「すげぇ……、圧倒的じゃねぇか……」

「あのフリーザが手も足も出ねぇなんて……」

 

 

 オレ達地獄のサイヤ人は超サイヤ人へと変身を遂げた、カカロットの戦闘力の高さに言葉を失っていた。

 だが、どんな時にも例外はいるものだ……。

 例えばこんな2人みたいに……。

 

 

「凄いじゃないか、ギネ!!!あんたの息子、本当にすごいよ!!!!」

「…………」

 

 

 興奮した様な顔でセリパがオフクロに向かって声をかける。

 しかし、オフクロはセリパが声をかけたというのに返事もせず複雑そうな顔で水晶を見ていた。

 それを不思議に思ったセリパは、改めてオフクロに声をかける。

 

 

「どうしたんだい?ギネ??」

「ソン……ゴクウ…………」

「ん?」

 

 

 セリパの問いかけに反応を示したのか、オフクロは呟く様に声を発した。

 それは、先程水晶から聞こえてきた男の名前だった……。

 だが、セリパにも、そしてこのオレにもオフクロが何が言いたいのか理解することが出来なかった……。

 

 

「ソンゴクウ……。それが、あんたの今の名前なんだね……。

 あたしやバーダックがつけたカカロットではなく……」

 

 

 その言葉を聞いて、ようやくオレはオフクロが何を気にしていたのかに気が付いた。

 そして、それはセリパも同じだった様だ。

 

 

「ギネ……、あんた…………」

 

 

 複雑そうな顔で自分を見つめるセリパに気付いたのか、オフクロはセリパに視線を向けると何と言葉にして良いか分からない笑みを浮かべる。

 オレには正直オフクロが何故そんな表情を浮かべるのか理解できなかった。

 だが、その笑みを見ていると何故だか分からんが、何ともいえない気分になった。

  

 

「まぁ、しかたないよね……。あの子は赤ん坊の時に地球に送られたんだ。

 きっと……、カカロットって呼ばれた事すら無かったんだろうね……。

 そんな事は分かっているんだ……。

 でもね……、それをあの子の口から実際に聞くと、……やっぱりちょっとキツイかな…………。

 何言ってんだろうね……、こんな大事な時に、あたしは……」

 

 

 言葉を発したオフクロの表情を見た瞬間、自分でもよく分からんが無意識にオレは口を開いていた。

 

 

「確かに……、オレがカカロットと地球で会った時、ヤツは自分は地球で育ったソンゴクウだと言っていたな……。

 それどころか、カカロットという名前は自分の名前ですら無いとも言っていた……」

「ラディッツ!!!あんた!!!」

 

 

 オレの言葉を聞いたオフクロは、さらに表情を暗くし俯く。

 そして、そんなオフクロを見てセリパがオレに怒声を上げる。

 だが、オレはそんな事等無視して言葉を続ける。

 

 

「だが、今は少し違っているかも知れん……」

「え?」

 

 

 呆けた様な声を上げ、オレの顔を見つめるオフクロ。

 

 

「ヤツは名前だけでなく自分がサイヤ人である事すら地球で会った時は、否定していた……。

 だが、ヤツは先程フリーザに対して、確かにこう言いやがった……。

 「自分は地球育ちのサイヤ人」だと……。

 それは、自分がサイヤ人であるという事を少なからず受け入れた……、という事ではないのか??」

「そっ、それって……」

 

 

 オレの言葉でオフクロは何かに気付いたのか、その顔には笑みが浮かんでいた。

 そして、まだオレが子供だった頃によく見た事がある様な表情を向ける。

 

 

「ありがとう。ラディッツ」

 

 

 オフクロが笑顔で向ける視線に居心地の悪さを感じたオレは、視線をオフクロから外し水晶の方に向け、思考を切り替える。

 

 

「それにしても……、これが……、超サイヤ人の力…………」 

 

 

 オレは今、目の前で起きている事態に、驚愕の感情を隠せなかった。

 先程親父の説明によって、カカロットが超サイヤ人へと至ったのは理解していたつもりだった。

 だが……、どうやらオレは何も理解して等いなかった様だ…………。

 

 超サイヤ人……。

 千年に1人現れるという伝説の戦士……。

 サイヤ人なら誰でも1度は聞いた事がある程、有名な伝説だ。

 

 だが、その伝説はあくまで、おとぎ話としかオレ達サイヤ人は捉えていなかった。

 それはそうだろう……。これまで、サイヤ人の歴史の中にはベジータ等、数多の力あるエリート戦士が存在した。

 しかし、どんなエリート戦士でもその伝説を蘇らせる事は出来なかったのだ。

 

 そんなおとぎ話の様な伝説を、下級戦士として判断された男が蘇らせた……。

 確かにカカロットは、サイヤ人として見ても異常と言っていい戦闘力を持っている……。

 しかし、ヤツは下級戦士……。

 

 そんな想いがあったからだろうか……、オレは超サイヤ人と言っても、下級戦士がなれる様な変身ならその力もたかが知れている。

 と、心のどこかで考えていた……。いや、思い込もうとしていたのかもしれん……。 

 

 だが、改めてその力を目の前でまざまざと見せつけられると、その思い込みが大きく異なっていた事を嫌でも実感させられた……。

 

 迸る黄金のオーラを纏った金色の戦士の一挙手一投足は、ただただ凄まじかった……。

 

 あのフリーザを全く寄せ付けないほどの、圧倒的な戦闘力……。

 これが……伝説の戦士の力……。

 これが……オレ達サイヤ人が持つ可能性の真の力……。

 

 

「なるほど……、フリーザがオレ達サイヤ人を滅ぼすはずだ…………」

 

 

 フリーザがどういう経緯で、超サイヤ人の事を知ったのかは親父達どころか誰にも分からない。

 しかし、もしフリーザが超サイヤ人についてオレ達サイヤ人以上に何かを掴んでいたとすれば、あいつの立場からすればオレ達は相当やっかいな存在だったのかもしれんな。

 だから、滅ぼした。

 

 超サイヤ人に目覚め、伝説を再現する存在が誕生するのを恐れて……。

 

 しかし、今その伝説は蘇った……。

 しかも、他ならぬヤツ自身の行動が、その最後の一押しをしてしまうとは……、こいつはなんとも皮肉な話だな。

 

 

 

 ラディッツが地獄で超サイヤ人の力に驚愕している頃、ナメック星の上空で向かい合う悟空とフリーザ。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。

 

 静寂を破ったのは悟空だった。

 ゆっくりとした動きで両手を前に突き出し、それぞれの手を上下に手首を合わせる。

 合わせた手をさらにゆっくりと右腰だめに移動させる。

 

 悟空の動きを見ていたフリーザは、その動作の意味を瞬時に理解する。

 先程自分に向けて放たれたエネルギー波を再度繰り出すのだと、推測したのだ。

 しかも、前回とは違い今の目の前の存在のパワーでそれを放てば、自分を滅ぼすには十分過ぎるほどだと理解していた。

 

 そんな危機的状況に直面したフリーザは必死で頭の中で打開策を思案する。

 そして、僅か数秒で自身の勝利方法を導き出してしまった。

 戦闘力だけでなく、この聡明な頭脳もまた、フリーザが宇宙の帝王として君臨する為の力の一端だったのかも知れない。

 

 そして、それを実行に移すべくフリーザは行動に出る。

 

 

『言っておくが、オレは貴様なんかに殺されるぐらいなら、自ら死を選ぶぞ……』

「あの野郎何考えてやがる……?」

 

 

 冷や汗を流しながらも、強気な笑みを浮かべるフリーザ。

 だが、地獄から戦いを見ていたバーダックはフリーザの言葉を聞き、怪訝そうな顔を浮かべる。

 バーダックには、いかに悟空との戦闘力に差が開いたとしてもフリーザがそう簡単に自ら死を選ぶとは考えられなかったのだ。

 

 

『スキにしろ……』

 

 

 しかし悟空はバーダックとは違いフリーザの思惑に気付く事なく、冷めた目でフリーザを見つめる。

 そんな悟空に邪悪な笑みを向けると、フリーザは瞬時に両手をあげる。

 すると、フリーザの両手の間に小型だが膨大なエネルギーが込められた塊が顕現する。

 

 

『だが、オレは死なん……。死ぬのは貴様だ……。

 オレは宇宙空間でも生き延びられるぞ。

 だが、貴様らサイヤ人はどうかな?』

『!!』

「あっ……、あの野郎まさか……!?」

 

 

 フリーザの言葉を聞いた悟空の表情に驚愕の色が宿るのとほぼ同じタイミングで、バーダックの頭に最悪の可能性がよぎった。

 悟空に浮かんだ驚愕の表情に、愉悦を感じたフリーザは勝利の笑みを浮かべる。

 そして、バーダックの頭によぎった最悪の可能性を無情にも実行にうつす。

 

 

『この星を消す!!!!』

 

 

 その叫びと共にフリーザは、頭上に掲げていた両手を勢いよく地面に向けて振り下ろす。

 すると、振り下ろされた両手の間で力を蓄えていたエネルギーの塊は、猛スピードで地面もといナメック星に向けて落下していく。

 

 

『しまったあ!!!!!』

 

 

 猛スピードで落下していくエネルギーの塊を見て、驚愕の表情を浮かべ叫び声をあげる悟空。

 しかし、もう遅い。

 いくら伝説の超サイヤ人とはいえ、この攻撃をどうにかするには圧倒的に時間が足りなかった……。

 

 

『ふっとべーーーーーっ!!!!!』

 

 

 宇宙の帝王の叫びと共に、ナメック星全域が白い光に包まれた……。

 その数瞬後、星が砕ける程の轟音が世界に響き渡った……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!!!」 

 

 

 あたしは真っ白に染まり轟音を轟かせた水晶に向けて、無意識に叫び声を上げていた。

 

 

「くそっ……!!!……あの野郎、カカロットに勝てねぇと踏んで星を破壊しやがった……」

 

 

 あたしの耳に悔しさを滲ませたバーダックの声が届いた。

 だが、あたしはカカロットの安否が気になって水晶から視線を動かす事が出来なかった……。

 

 

 水晶はフリーザの攻撃後、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 

 

「サイヤ人は宇宙空間では、生きられない……。

 だが……、フリーザは生きられる……。

 種族としての性能の差が、勝負を分けたというのか……」

「そんなの……、ありかよ…………」

 

 

 トーマとパンブーキンもバーダック同様に、戦いの結末に納得がいっていないのか、その表情は悔しさを滲ませていた。

 

 

「本当に……、これで……終わっちまったのかい…………?」

 

 

 呆然とした表情で水晶を見上げながら、セリパは呟く。

 

 だが、彼等の悔しさや落胆も仕方のない事だろう……。

 彼等からしたら、自分達から全てを奪った存在を、あと一歩というところまで追い詰めたのだ。

 しかも、それを成したのが自分達サイヤ人の最後の同胞と言っても過言では無い存在だったのだ。

 

 しかし、結果だけ見てしまえば、またしても彼等サイヤ人はフリーザに勝つ事が出来なかった……。

 

 さらに、彼等の落胆に拍車をかけたのが超サイヤ人の存在だった。

 自分達一族に伝わる伝説の再来。

 そして、その凄まじいまでの力を目の当たりにして、彼等は勝利を無意識に確信していた。

 

 だけども、負けた……。

 しかも、実力ではなく種族の性能という、自分達ではどうしよう無いものによってだ……。

 

 理不尽だと言いたい者もいるだろう……。

 しかし、どんなに言葉を並べたところで結末は変わらないのだ……。

 彼等もそれを痛いほど実感していた。

 

 地獄にいる全サイヤ人達が絶望に打ち拉がれていると、その空気を打ちやぶる声が聞こえてきた……。

 しかも、それは彼等からしてみれば、あり得ない存在の声だった。

 

 

『ぎっ……、ぐっ…………』

 

 

 その声が聞こえた瞬間、あたしは俯いていた顔を即上げて水晶を見つめる。

 水晶は未だ砂嵐の様なひどいノイズが走った状態だった。

 しかし、確かに先程聞こえたのだ……。

 

 

「まっ……、まさか…………」

 

 

 先程聞こえた声が、私の中に一つの可能性を示す。

 正直、信じられないという想いがあったのは事実だ。

 だけど、あたしと同じ様に周りのヤツ等も同じ可能性に行き着いたのか、皆の不安と期待が入り乱れた視線が水晶に注がれる。

 

 答えは程無くして映し出された……。

 あたし達が抱いた可能性を肯定するかの様に、水晶の砂嵐の様なノイズが徐々に収まっていく……。

 そして、水晶はついに映し出した……。

 

 あたし達の最後の希望の姿を……。

 

 

「カカロットッ!!!」

 

 

 その姿を見た瞬間、あたしは両目に涙を貯め、またしても無意識に喜びの声を上げた。

 あたしだけじゃ無い。

 周りのヤツ等からも似た様な歓声が上がる。

 

 まだ、終わってない……。

 あの子の戦いも、あたし達サイヤ人の願いも……。

 

 

 

 水晶が映し出した悟空は、衝撃に耐える様に両手をクロスさせ顔をガードしていた。

 だが、それは仕方ないだろう。

 空中で静止している悟空の下には、巨大過ぎる穴が空いていた。

 

 そして、その穴からはプラズマの様な光が無数に生まれては消えていた。

 その光景からして、先程のナメック星にフリーザが放った攻撃の威力が、とんでも無いものだったと推測できる。

 

 

『ち…………!パワーを抑えすぎたか…………!!』

 

 

 自分の予定通りに星が消滅しなかった事に、悔しげな表情で地面の巨大過ぎる穴を見つめるフリーザ。

 

 

『星の爆発に自分も巻き込まれるのを恐れたからだ……、しくじったな。

 お陰でオレは命拾いをしたがな……』

『命拾いだと?くっくっく…………。

 貴様には何も分かっていない様だな……』

 

 

 悔しがっているフリーザを見て、冷静に口を開く悟空。

 しかし、悟空の言葉を聞いたフリーザは、その内容が可笑しかったのか悔し顔を引っ込め、邪悪な笑みを向け驚愕の事実を口にする。

 

 

『この星の一瞬の爆発は避けられたが、中枢は破壊された……。

 どういう事か分かるか?

 あと5分もすれば今度こそ放っておいても大爆発を起こし、ナメック星は宇宙の塵となる……』

『なにっ!?』

 

 

 フリーザの語った内容に、流石の悟空も驚きと焦りを隠せなかった。

 せっかく助かったというのに、実は僅かばかり破滅への時間が遅くなっただけだと聞かされれば、驚きや焦りもするだろう。

 

 

『………………5分もあれば十分だ……。

 貴様を倒し、仲間と共に地球から乗ってきた宇宙船で脱出する』

 

 

 しばらく焦りで顔を歪めていた悟空だったが、覚悟を決めたのかフリーザを倒して脱出する事を選んだ。

 しかし、その悟空の言葉を聞いたフリーザは、その物の言いように不機嫌さを隠せなかった。

 怒りでしばし無言で悟空を睨みつけていたフリーザに凶悪な笑みが浮かぶ。

 

 

『残念だったな……。

 希望が残されているのはオレの方だ……。

 少なくとも貴様よりは大きな希望が……』

 

 

 凶悪な笑みを浮かべ、悟空に事実を聞かせる様に静かに語っていたフリーザの言葉がそこで途切れる。

 そして表情を凶悪な笑みから真顔へ変え、ついにフリーザは宣言する。

 

 

『こうなったら見せてやるぞ!!100%の力を!!!

 オレを倒せるわけがないんだ!!

 覚悟しろ!!!』

 

 

 恐るべきフリーザの宣言を聞いても、悟空の態度に変化は見られなかった。

 それどころか、冷静にフリーザを見つめていた。

 その様子はまるで、何かを見極めている様だった。

 

 

『なぜ今になってフルパワーを……?

 分かっているぞ……、全力を使うとお前の身体そのものが耐えられないからだ……』

『…………』

 

 

 悟空はこれまでの戦いで、フリーザの力量を正確に把握していた。

 超サイヤ人になり、感情が高ぶっていても冷静に正確な見極めを行う事が出来るのは、悟空がこれまでの人生で培った武道家としての経験が活きているのだろう。

 

 悟空の言葉を聞いたフリーザは、顔を苦々しく歪めていた。

 それは、無言の肯定と言っても過言ではないだろう。

 フリーザの様子を見て、悟空は自分の見立てが当たっていた事を確信する。

 

 

『時間を稼がせるわけにはいかん!!!

 決着をつけてやるぞ!!!!!』

 

 

 残り時間が限られているので、早速悟空が攻撃に移ろうとするよりも早くフリーザは動いた。

 

 

『ばっ!!!!!』

 

 

 フリーザが突き出した両手から強力な衝撃波が放たれ、悟空を吹っ飛ばす。

 そのあまりの威力に悟空は数百m下の海へ叩き込まれる。

 しかし、すぐに海から飛び出した悟空は舞空術で空へ戻ってくる。

 

 

『ぐっ!!』

 

 

 戻ってきた悟空は数百m先のフリーザを睨みつけるが、その悟空にフリーザはニヤリと笑みを向ける。

 

 

『ふ……ふははははは……!!

 見くびったな!!言っておくが今のは、まだ全力じゃないぞ!!!

 70%ほどかな……』

 

 

 フリーザの笑みを見た悟空は、数百mの距離を詰めようと黄金のオーラを纏い飛び出す。

 自分に物凄いスピードで近づく悟空を見ながらついに、フリーザも決意を固める。

 

 

『そしてこれが……お待ちかね100%!!!』

 

 

 次の瞬間、フリーザの身体から膨大な量の気が放出される……。

 

 

『!!』

 

 

 その光景を見た悟空は、フリーザに近づくのをやめ空中に静止する。

 

 

『気が膨れ上がって充実していく……。

 ついに100%パワーってやつのお出ましか……』

 

 

 気を感知出来る悟空には、フリーザから発せられる力がどんどん高まっていくのが手に取るように理解できた。

 しかし、その表情には笑みが浮かんでいた。

 こんなヤバイ状況だというのに、強い者と戦える事に喜びを覚えてしまう辺り、悟空は紛れもなく戦闘民族サイヤ人なのだろう……。

 

 

 

「おいおい、カカロットの奴、空中で止まっちまったぜ……、どうしちまったんだよ??」

「まさか……、あの野郎……フリーザがフルパワーになるのを待っているのか!?」

「はぁ!?もう星が消し飛ぶまで、5分もないんだよ???」

 

 

 空中で動きを止めた悟空を見て、ナッパやラディッツ、セリパが声を上げる。

 そんな時、水晶から件の存在の声が響いた。

 

 

『聞こえてますよ。界王様』

「ん?あいつ……何言ってんだ……??」

 

 

 しかし、その言葉の内容は誰にも理解できなかった。

 

 

「もしかして、誰かと話してんのか??」

「誰かって、誰さ??」

「オレが知るわけねぇだろ……!!」

 

 

 言葉の内容で、トーマが何となく頭に浮かんだ予想を口にしたが、悟空の声以外聞こえないので確証には至らなかった。

 そんな地獄のサイヤ人達の事など知りようが無い、悟空の会話は続く。

 

 

『確かに、こんなチャンスは二度とないかもしれない……。

 宇宙一強いヤロウのフルパワーを拝見するチャンスは……』

「!!……やはり、あいつフリーザのフルパワーを待ってやがったのか……」

「にしても……、一体何の話してやがんだ……??」

 

 

 訳が分からず怪訝そうな顔をしている地獄のサイヤ人達の気持ちを汲んだのか、水晶から悟空以外の声が響きだした。

 

 

(な……なんだと……!?

 ご……悟空!お前自分が何を言っているのか分かっておるのか……!?

 ど……どうしたというんだ…………!!)

「なっ、何だこれ!?」

「もしかして……、この声がさっきからカカロットが会話していた相手か……??」

 

 

 突如聞こえだした姿なき声に、流石の地獄のサイヤ人達も驚きを隠せなかった。

 しかし、そんなサイヤ人達も、次の言葉を聞いた瞬間、これまでの騒ぎが嘘の様に静まり返る。

 

 

『フルパワーのフリーザと戦い……、そして勝つ!!』

 

 

 悟空の言葉を聞いて、皆が驚愕の表情を浮かべる中、1人だけその言葉に強気の笑みを浮かべた存在がいた。

 

 

「それでこそ、サイヤ人ってもんだぜ……カカロット!!!」

 

 

 1人静かに口を開いたのは、悟空の父バーダックだった。

 その表情は何とも言えない喜びが浮かんでいる様だった。

 しかし、悟空と会話していた界王はバーダックの様に悟空の意見を受け入れる事は出来なかった。

 

 

(こっ、これはゲームじゃ無いんだぞっ!!!

 悟空っ!!!悟空ーーーーーっ!!!)

 

 

 界王の言葉を聞いて、ついに悟空の中で抑え込んでいた感情が爆発する。

 

 

『クリリンの仇を討つんだ!!!

 あいつは2度死んだ!!!

 もう、ドラゴンボールでも生きかえれない!!!』

 

 

 感情を爆発させ、怒りの叫びをあげた悟空は、俯くと何かに耐える様に全身をブルブルと震わせる。

 

 

『クリリンはいい奴だった……。

 本当にいいヤツだった……1番の仲間……。

 こ……粉々にしやがって…………』

 

 

 今の姿と会話によって、悟空の中に押さえ込まれていた怒りの凄まじさ察した界王。

 

 

(だ……だったら奴がフルパワーになるのを待つ事もなかろう!!

 そ、それに悟飯達はどうなる!!)

『大丈夫……悟飯達は助かる…………』

 

 

 何とか悟空を説得しようと試みる界王だったが、悟空の意志は硬く。

 この会話を最後に悟空の方からテレパシーを切る。

 

 テレパシーを切った悟空は、フリーザの方に視線を向ける。

 そこでは、フリーザがフルパワーに向けて力を高めていた。

 

 

『85%……、90…………』

 

 

 そんなフリーザを強気な笑みで見つめる悟空。

 

 

『フリーザ……貴様がフルパワーになっているのを待っているのは……、最高の貴様を叩きのめしたいからだ……。

 戦士として悔いのない様に……。

 貴様だって自分のフルパワーを試してみたくなったんだろ?

 そうでなきゃ、もう1発星を撃って、それで終わりにしてたはずだ……』

 

 

 距離が空いている悟空の言葉が聞こえていたわけではないだろう。

 しかし、その言葉に応える様にフリーザの顔に邪悪だが強気な笑みが浮かぶ。

 

 

『…………ひひひ……』

 

 

 そうしている間にも、フリーザの力はどんどん高められていく……。

 そして、ついに……その瞬間がやってきた……。

 

 それは、決して劇的な変化ではなかった……。

 しかし、それは明らかにこれまでとは大きく異なっていた……。

 

 フリーザの周りで大きな衝撃音が響くと、そこにはこれまでよりも一回り大きくなったフリーザが存在していた。

 発せられるオーラや内包している気の量もこれまでのフリーザとは、比べ物にならなかった。

 

 ここに来て、ついにフルパワーとなった宇宙の帝王が姿を姿を現した。

 

 

『待たせたな…………。こいつがお望みのフルパワーだ』

『時間がないんだ。早いとこカタをつけようぜ……』

 

 

 ナメック星が滅ぶまで、あと残り数分……。

 戦闘民族サイヤ人の伝説の戦士とフルパワーとなった宇宙の帝王の、真の戦いが始まろうとしていた。

 

 戦いは更なるステージへ突入する。




今回の話で、フリーザとのバトル終わらせたかったんだけどなー。
まだ、続きそうです。


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フリーザ編-Ep.15

ちょいとマズイ抜けがありましたので、再投稿!
15話楽しんで下さい。


■Side:バーダック

 

 

 一瞬で距離を詰めたフリーザの拳が、深々とカカロットのボディに突き刺さる。

 あまりの威力にカカロットの身体が、無意識に前かがみになる。

 そのカカロットの頭を両手で掴んだフリーザは、追撃とばかりに顔面に強烈な膝蹴りを叩き込む。

 

 膝蹴りにより、完全に体勢を崩したカカロットに、フリーザによる強力な拳打が無数叩き込まれる。

 フルパワーってヤツは伊達じゃないのか、1発1発の攻撃力がこれまでとは雲泥の差だった。

 その証拠に、先程まではフリーザの攻撃など殆ど効いていなかったカカロットに、確かにダメージを与えてやがる。

 

 

『ぐ……、ぐふっ…………』

 

 

 拳打から解放されたカカロットは、ダメージゆえか前かがみの状態で苦悶の声を上げている。

 そんなカカロットをフリーザの野郎は、ムカつく笑みを浮かべながら得意げな顔で見てやがる。

 本当にムカつく野郎だ……。

 

 

『はあっ……はあっ……くっくっく…………、どうだ?

 今のはこれから見せる最終攻撃の為の準備運動だぞ』

 

 

 ……随分息が上がってやがるな?

 やっぱり、カカロットが睨んだ通りフルパワーってのは、相当無理している様だな……。

 

 とは言え……、そのカカロットがフリーザの相手にならねぇと話になんねぇんだがな……。

 

 

『……だろうな…………。

 そんな程度じゃガッカリするところだ……』

『……!く…………!』

 

 

 って、どうやら心配いらねぇみたいだな……。

 しかも、フリーザの野郎カカロットの言葉を聞いて、相当頭にきたみてぇだな。

 顔を歪ませて、かなりいいツラしてやがるぜ。

 

 

『貴様が死ぬ前に、一言褒めておいてやろう……。

 見事だ……。素晴らしい強さだったぞ、超サイヤ人……!

 確かに宇宙一だ…………。このフリーザさえいなければな!』

 

 

 ちっ!かなり頭に来てやがんだろうが……、感情を上手くコントロールしやがったか……。

 今の状況は、あの野郎にとっても結構マズいってだろうからな……。

 下手を打てない場面だと理解しているからこそ、怒りを押さえ込み冷静になりやがった……。

 

 

『この星の寿命も近い。

 精々もって、あと2〜3分になってしまったかな?

 焦るだろ?え?超サイヤ人……』

 

 

 しかも、この場面に来て挑発による心理戦をしかけ、カカロットの精神に揺さぶりをかけ焦せらせるつもりか。

 だがな、フリーザ……そいつは無意味だぜ……。

 なんせ、カカロットの野郎はテメェをぶっ倒す事しか考えてねぇんだからな。

 

 

 バーダックの考え通り、フリーザから挑発の言葉を浴びせられたというのに、悟空は不敵の笑みを浮かべ冷静そのものだった。

 そのあまりの冷静な様子に、怪訝そうな表情を浮かべるフリーザ。

 そして、1つの見当違いな考えに行き当たる。

 

 

『そうか、時間稼ぎか……。

 あのガキたちがこの星を脱出する為の……。

 くっくっく……、まぁいいさ、逃したところで次のターゲットを地球にする。

 死ぬのが僅かに伸びるだけだ……』

 

 

 その見当違いのフリーザの発言に、冷ややかな笑みを浮かべる悟空。

 

 

『時間稼ぎだと?そんな必要はない。

 貴様はここで死ぬ。これから、ここで……』

『くっくくくく……』

 

 

 悟空の台詞を聞いたフリーザは、感情を押し込めた様に俯き笑い声を上げる。

 しかし、次の瞬間、勢いよく顔を上げたフリーザの表情は憤怒によって歪んでいた。

 

 

『でかい口をきくのもそこまでだ!!!!

 今すぐ黙らせてやるぞ!!!!』

 

 

 怒声をあげるフリーザに対して、冷静に構えを取る事で応える悟空。

 そんな悟空の様子に、さらに怒りのボルテージを上げるフリーザ。

 

 

『ばあーーーーーっ!!!!!』

 

 

 声を上げながら、超スピードで悟空に迫るフリーザ。

 そのフリーザをカウンターで迎え打とうと、右拳を構える悟空。

 しかし、悟空が右拳を振り抜くよりも早く、フリーザは悟空の目の前で急上昇する。

 

 悟空が視線を上げた時には、両手を構えたフリーザの姿がそこにはあった。

 次の瞬間、悟空に強力な衝撃が上空から襲いかかる。

 フリーザが悟空に向けて気合い砲を叩き込んだのだ。

 

 

『ぐっ!!!』

 

 

 気合い砲による衝撃で、一瞬だけ動きを封じられた悟空。

 そのスキを逃すまいと、悟空の背後に瞬時に現れたフリーザは強烈な左ストレートを繰り出す。

 しかし、悟空は驚異的な反応速度で僅かに身体を捻り、その攻撃を回避する。

 

 さらに悟空は回避と同時に、フリーザが繰り出した左腕を自分の左腕でホールドする。

 そして、背後にいるフリーザの顔面に自分の首を勢いよく後に倒す事で、頭突きを喰らわせる。

 

 

『がっ……!!!』

 

 

 痛みで一瞬気が緩んだフリーザに追撃をかける様に、悟空はホールドしていたフリーザの左腕を両手で掴む。

 そして、ジャイアントスイングの要領で高速で振り回し、上空へ投げ捨てる。

 

 悟空に投げ捨てられたフリーザは、猛スピードで上空へとその身を上昇させていく。

 自分の身体のコントロールだけでは、勢いを殺しきれないと判断したフリーザはエネルギー波を放ち、勢いを殺す。

 やっとの思いで勢いを殺したフリーザは、憎々しげに下にいる悟空に視線を向ける。

 

 そこには、右腰だめに両手を添え、自身へ鋭い視線を向ける悟空がいた。

 

 その構えを見たフリーザは、悟空の次なる攻撃を予測し自身も次の攻撃の準備に移る。

 

 

『うおおおおお……!!!』

 

 

 咆哮とともに膨大な気がフリーザから放出される。

 それは次第にフリーザを中心にエネルギーの膜の様に変わり、バリヤみたいに円状の形へ姿を変える。

 その形状には外敵からの、いかなる攻撃をも通さない気概が伺えた。

 

 バリアを展開したフリーザは、そのまま悟空へ向け猛スピードで突撃する。

 そして、それを待っていた様に悟空は右腰だめに添えていた両手を前に突き出す。

 

 

『くたばれフリーザーーーーーッ!!!!!』

 

 

 叫びと共に悟空の両手から、極大のかめはめ波が放出される。

 その数秒後、バリアを纏ったフリーザと悟空のかめはめ波はナメック星に轟音を轟かせ激突した。

 

 2人の全力のパワーを込めたやり取りは、ただでさえボロボロなナメック星に更にダメージを与える程、壮絶なものだった。

 

 

『ぐあああああ…………!!!』

『うおおおおお…………!!!』

 

 

 互いに全力の力を振り絞る悟空とフリーザ。

 正に2人の攻防は一進一退だった。

 

 

「やれぇーーー!!!カカロット!!!」

「今度こそ、フリーザを沈めちまいな!!!」

 

 

 悟空とフリーザの戦いを見ていた地獄のサイヤ人達も、この攻防には自然と血を騒がせていた。

 

 

「ん?なんだ……?」

 

 

 他のサイヤ人達同様戦いを見ていたバーダックは、何故だか急に嫌な予感がしたのだ。

 そして、その予感は的中することになる。

 必死に悟空のかめはめ波を突破しようと試みていたフリーザの表情が、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。

 

 次の瞬間、バリアを展開していたフリーザが悟空のかめはめ波の射線上から弾ける様に離脱したのだ。

 そして、そのままかめはめ波を放ち続けている悟空の視界の外から、超スピードで突っ込む。

 

 反応が遅れた悟空は、攻撃中だったという事もありフリーザの攻撃をまともに受け、吹っ飛んでしまう。

 しかも、かなりの威力だったらしく勢いを殺しきる事も出来ず海の中を猛スピードで落ちていく。

 

 

『どうだっ!!!ざまーみろ!!!

 貴様ごときが、このフリーザに勝てるわけがなかったんだ!!!!

 はっはーーーーっ!!!』

 

 

 吹っ飛んだ悟空を見て、息を荒げながらも勝利の笑みを浮かべるフリーザ。

 

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 ギネが心配そうな叫び声を上げるが、悟空は姿を現さない。

 

 

「おいおい……、流石にマズくねぇか……?」

「ああ……、今のは相当な威力があったぜ……」

 

 

 パンブーキンとトーマがフリーザの攻撃力に、驚愕の反応を示す。

 しかし、そんな中1人だけ別の事に気が付いた存在がいた。

 

 

「あれ……?ねぇ、なんだかナメック星の空が暗くなってない……?」

 

 

 最初に異状に気付いたのはセリパだった。

 

 

「あっ、ほんとだ……」

「星が消滅する前だから、何らかの異状が起きてんじゃねぇのか?」

 

 

 セリパの発言により、いつの間にかナメック星の空が、夜みたいに真っ暗になっている事に気が付いたサイヤ人達。

 それだけ、悟空とフリーザの戦いに全員が注力していたという事だろう。

 

 そして、地獄のサイヤ人達に遅れてこの存在も、異状に気付いた。

 

 

『空が……、なんだ……!?

 星が爆発する前の異状か……!!』

 

 

 水晶の中のフリーザも、周りを見る余裕が出来たからか、漸くナメック星の異状に気が付いた。

 しばらくナメック星の様子を観察する様に見回すフリーザ。

 

 

『ハア……ハア……、どうやらすぐにこの星から離れた方が良さそうだ。

 爆発に巻き込まれれば、更に激しく体力を失ってしまう……』

 

 

 これ以上ナメック星に止まるのはマズイと判断したフリーザは、急ぎ離脱しようとしたその瞬間、フリーザの両目はその存在を確かに捉えてしまった。

 信じられないという表情を浮かべたフリーザだったが、残念な事にそれは見間違いでは無かった。

 

 フリーザの視線の先、海から黄金のオーラを纏った男がゆっくりと浮かび上がって来た。

 空中で静止したしたその男は、多少息を切らしているものの五体満足でそこに存在していた。

 両眼から覗くその鋭い瞳は、まだ決着は付いていないと言外に語っていた。

 

 

『…………この、しつこいくたばりぞこないめ……』

 

 

 その姿を見たフリーザの顔に、苛立ちの感情が宿る。

 

 

『いいだろう!!今度は木っ端微塵にしてやる、あの地球人のように!!!!』

 

 

 憎々しげにその男を睨みつけたフリーザは、その苛立ちを爆発させる。

 しかし、その台詞はこの男にとって……、孫悟空にとって正に逆鱗に触れる行為だった……。

 

 

『あの地球人の様に?……クリリンのことか……クリリンのことかーーーーーっ!!!!!』

 

 

 フリーザの台詞を聞いた悟空は、怒りを爆発させる様に全身から黄金色の凄まじい量の気を放出する。

 抑えきれない怒りを含んだ瞳でフリーザを睨みつけていた悟空だったが、ふと何かに気づいた様に視線をあさっての方向に向け、口を開く。

 

 

『変えてくれ、その願い!!

 フリーザとこのオレを除いた者達すべてを!……に』

「なんだ??何言ってんだ!?」

「カカロットの野郎、また誰かと話してやがんのか??」

 

 

 急に意味不明な言葉を発した悟空に、地獄のサイヤ人達はまたしても困惑の表情を浮かべる。

 しかし、瞬時に先ほど聞こえた姿なき声と再度話しているのかと予想するが、先程と違って今はその姿なき声は聞こえなかった。

 

 

「あぁ??でも、さっきみたいに変な声が聞こえねぇ……あ?」

 

 

 ナッパが姿なき声が聞こえないと言葉にした瞬間だった……。

 先程同様またしても水晶は、悟空以外の声を拾い出した。

 

 

(き……聞いておったのか悟空……!気持ちは分かるが……、こ、ここはひとまず……)

『今ここで決着を着けなければ、オレは一生あんたを恨む……!』

 

 

 だが、ここでも地獄のサイヤ人達を無視して悟空と界王の会話は続く。

 さらに、水晶は先程と違って界王以外の声をも拾い始めた。

 

 

(デンデよ、最長老だ。

 お前の近くで神龍が最後の願いを待っているはずだ。

 すぐに行って、その3つ目の願いを言って欲しい。

 3つ目の願いは……、『フリーザと孫悟空というサイヤ人を除いた全ての者を、地球に移動させて欲しい』だ)

「今度は違うヤツの声まで、聞こえ出したぞ……」

「てか、トーマこれ何の話ししてんの……?」

 

 

 最長老の声に驚きの声を上げるパンブーキン。

 だが、それ以上に話の内容が気になって仕方ないセリパは、自分たちの仲間の中でバーダックと同じくらい頭の回転が早い男に話をふる。

 

 

「あー、推測でもいいか?

 恐らくだが、ナメック星には何らかの方法で、自分の願望を叶えられる道具でもあるんじゃないのか??」

「ドラゴンボールか!?」

 

 

 トーマの推測に喰いついたのはナッパだった。

 

 

「ドラゴンボール?何だそれは?」

 

 

 逆にトーマから質問されたナッパは、ニヤリと得意げな笑みを浮かべる。

 

 

「なんだ、知らねぇのか!!

 ドラゴンボールってのは、頼めばどんな望みだろうと叶えてくれる代物だ!!

 死人を生き返らせる事だって、可能らしいぜ!!!」

「なるほどな……」

 

 

 ナッパの言葉を聞いて、1人納得顔のトーマ。

 

 

「なに、1人分かった様なツラしてんだよ!!!」

「そうだよ!!あたし達にも教えなよ!!!」

 

 

 そんなトーマに、パンブーキンとセリパが声を上げる。

 2人に呆れた様な視線を向けるトーマ。

 

 

「はぁ、お前等本当にバカだな……。

 いいか、この星にはカカロットのガキや見えてねぇだけで、他にも生き残ってるヤツがいるかもしれねぇ……。

 さっきの声の主とかな……。

 だが、この星が消し飛ぶまで残り3分ぐらいしかねぇ……。

 そんな短時間で、この星にいる全員が脱出出来ると思うか??

 普通に考えて不可能だろ……、そこで、さっきナッパが言っていたドラゴンボールってヤツを使うんだろうぜ……」

「全員を地球へ移動させる為にかい?」

「そんな事出来んのかよ??結構な広さっぽいぜ、この星……」

 

 

 トーマの推測に信じられないって顔を浮かべるセリパとパンブーキン。

 ドラゴンボールの力を知らなかったら、この反応も仕方のない事だろう。

 

 

「出来るんじゃねぇか?さっき話していたヤツ……最長老とか言ったか、名前からしておそらくこの星の権力者だろう。

 そいつが指示を出したって事は、不可能じゃねぇんだろう。

 それに、もしナッパが言っていた様に、人を生き返らせる事が可能なほどの性能を持っているのだとしたら、ナメック星から地球へ人を送るぐらい出来ても不思議じゃねぇしな……」

 

 

 言葉を終えたトーマに未だ信じられないって表情を浮かべている2人だったが、反論できる材料もないので口を閉ざした。

 そんな時、横から第三者の声が聞こえてきた。

 

 

「でも、カカロットとフリーザはその移動には含まれてないんだろ??」

 

 

 トーマが声の主に視線を向けると、不安そうな表情を浮かべたギネが立っていた。

 

 

「ああ、会話の内容から察するに、姿の見えねぇ声だけの2人はフリーザはともかく、カカロットも地球へ移動させるつもりだったみてぇだな。

 だが、あいつ自身がそれを拒否しやがった。

 カカロットとしては、なんとしてもここでフリーザと決着を着けたいんだろうよ……」

「そう……だよね……」

 

 

 トーマの言葉を聞いて、さらに不安の度合いが増した表情を浮かべるギネ。

 

 

「心配すんな、ギネ!あいつは必ず勝つ!!」

 

 

 声の方にギネが視線を向けると、腕を組んだバーダックが水晶を見上げていた。

 その表情には悟空の勝利を微塵も疑っていない様だった。

 

 その姿を見て、ギネも覚悟を決める。

 

 

「必ず生きて帰るんだよ……、カカロット……。

 あたしもここから最後まで見届けるから……」

 

 

 地獄のサイヤ人達がナメック星の会話の推測等を行なっている間にも、悟空達の会話は続く。

 

 

(わ……わかった……。

 ……もう、何も言わん…………お前がそれほど望むなら……。

 必ず生きて帰るんだぞ……悟空……)

『ああ、しかし随分知恵を絞ったな、界王様……』

 

 

 界王との会話でフリーザの言葉で爆発した悟空の怒りも幾分か落ち着き、これから戦いを再開させようとしたその瞬間だった。

 フリーザが何かに気づき、驚愕の表情を浮かべたのを悟空は見逃さなかった。

 

 

『!?……あれは…………、ド……ドラゴンボール…………』

 

 

 驚愕のあまりつい声に出してしまったフリーザ。

 それにより、悟空も何故フリーザが驚愕の表情を浮かべていたのかを理解する。

 数秒程、2人は揃ってナメック星の神龍ポルンガに目を奪われていた。

 

 しかし、そんな時間は長く続くはずもなく……。

 

 先に動き出したのは、フリーザだった。

 超スピードでポルンガへ向けて飛び出す。

 

 

『くっ!!!!』

 

 

 飛びだしたフリーザに気付いた悟空も、フリーザが何をしようとしているのかに勘付き、後を追うように超スピードで飛び出す。

 フリーザがあと僅かでポルンガに接触出来る距離まで近づいた瞬間、悟空が目の前に姿を現しフリーザを殴り飛ばす。

 

 

『邪魔をするなぁーーーー!!!』

 

 

 いきなり目の前に現れ、悟空に殴り飛ばされたフリーザは、怒声と共に右ストレートを繰り出す。

 しかし、それにカウンターを合わせ逆に吹っ飛ばす悟空。

 だが、フリーザも瞬時に体勢を整え悟空に突撃してくる。

 

 突撃してくるフリーザに悟空の方からも距離を詰め、近距離で打ち合いに突入した。

 双方ともここが正念場とばかりに、全力で拳を振るう。

 その威力にナメック星の空に、いくつもの衝撃が走る。

 

 打ち合っていた悟空の攻撃を躱しドロップキックをボディに叩き込んだフリーザ。

 そして、その勢いを活かしポルンガに向け飛び立とうとした瞬間、あり得ない声が響き渡った。

 

 

『フリーザーーーーーーッ!!!』

 

 

 声の発生源に2人が視線を向けると、こちらに物凄いスピードで1人の男が飛んできた。

 その姿を捉えた瞬間、悟空は嬉しそうな笑みを浮かべたが、フリーザは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

『ベジータ!!!』

「王子だと……!?!?」

「何で、死んだ王子が生き返ってんのさ???どうなってんだい……!?」

 

 

 悟空が名前を呼ぶと、ベジータは悟空の目の前で静止する。

 その姿を見た地獄のサイヤ人達は驚きの声を上げる。

 

 不敵な笑みを浮かべたベジータは、悟空の頭から爪先までじっくりと視線を送る。

 そして、悟空の目を見つめる。

 

 

『カカロット……、貴様とうとう超サイヤ人に…………』

 

 

 ベジータの言葉を聞いた悟空は、不敵の笑みを浮かべる。

 しかし、2人の会話はここで途切れることになる……。

 

 

『貴様が……なっ……何故だ!!!何故……、生きているのだ!!!!』

 

 

 ベジータが生きている事が信じられないのか、焦った様に声を上げるフリーザ。

 フリーザの声を聞いて、ベジータの中でフリーザへの怒りが膨れ上がる。

 忿怒の表情で右手を突き出しフリーザへ向ける。

 

 

『こんのぉーーーーー…………』

 

 

 突き出した右手にエネルギーの塊が形成され、叫びと共に攻撃が放たれようとした瞬間、それは起こった。

 今にも攻撃を繰り出そうとしたベジータが忽然と姿を消したのだ……。

 

 それとほぼ同じタイミングで、悟空とフリーザの背後に顕現していたポルンガの身体が光に包まれ、姿を消す。

 姿を消したポルンガのいた場所から、7つの球が天に向かって猛スピードで飛び上がる。

 

 

『ああっ……!!!……まっ……待てぇーーーーーーっ!!!!!』

 

 

 その光景を何も出来ず、唖然とした表情で見上げるフリーザ。

 そのフリーザに強気な笑みを浮かべる悟空。

 

 

『どうやら願いは叶えられなかったようだな……。

 オレもヒヤッとしたぞ……』

 

 

 呆然とした顔で悟空を見つめるフリーザ。

 

 

『…………何故ベジータが生きている??

 あいつは、確かにオレが殺したはずだ…………』

 

 

 そんなフリーザに悟空は種明かしする様に口を開く。

 

 

『地球のドラゴンボールで、お前らに殺された連中を生き返らせた。

 そして、ここのドラゴンボールで、この星にいる貴様とオレを除いた全ての連中を地球に移動させた』

 

 

 悟空の説明を聞いたフリーザの表情が、一気に忿怒によって歪む。

 

 

『そんなゴミ共の為に……、オレの不老不死へ願いを踏みにじったのか……貴様等は…………!!!』

 

 

 フリーザが怒気と共に発した怒声を無視する形で、悟空は静かに口を開く。 

 

 

『この時を待っていた……』

 

 

 苦々しい表情を浮かべたフリーザに、不敵な笑みを向ける悟空。

 そんな悟空の表情を見て、フリーザも表情を改め不敵な笑みを浮かべる。

 

 

『星が縮み始めた……。

 おそらく爆発まであと2分となかろう……。

 オレに殺されるのが先か、星の爆発が先か…………。

 どちらにしても、宇宙空間で生存できない貴様には死しかない……』

『かもな……』

 

 

 自身の言葉を聞いても、焦り一つ見せない悟空に、フリーザもようやく目の前のサイヤ人について本当の意味で理解した。

 

 

『死を覚悟してまで、どうやらこのフリーザと決着をつけたいらしいな……!』

 

 

 フリーザの言葉に肯定の意を返す様に、不敵な笑みを向ける悟空。

 そして、ゆっくりと地上へ降りていく。

 

 その光景を見て、フリーザの方も愉快そうに笑みを浮かべる。

 

 

『肉弾戦か……。

 そこまでとことん決めたいか…………、いいだろう』

 

 

 悟空同様、地上へ降り立つフリーザ。

 

 星が崩れ落ちる中見つめ合う両者。

 戦闘民族サイヤ人の伝説の戦士とフルパワーとなった宇宙の帝王の、最期の戦いが今始まろうとしていた。

 

 戦いはついに最終ステージへ突入する。




ポルンガへの願いの部分は、アニメ版を参考にしています。
だって、ナメック語描けねぇんだもん。

あー、まだ戦いは続くのかー。


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フリーザ編-Ep.16

この話で終わらせる予定だったのですが、長くなりすぎたので分割します。

残りわずかですが、楽しんで頂けると幸いです。



■Side:バーダック

 

 

 星が縮み、砕けた大地から溶岩が吹き出す。

 空は星の異状を訴えるがごとく、いくつもの雷鳴を轟かせる。

 そんな死の星と化したナメック星で2人の男が、星の消滅など関係ないとばかりに縦横無尽に飛び回り、いくつもの轟音と衝撃を撒き散らしながら戦っている。

 

 そんなバカ2人が動きを止め向かい合う。

 

 

『あと2分もすれば、死ぬかもしれない……、貴様も哀れなやつよ』

 

 

 ニヤリとムカつく笑みを浮かべるフリーザ。

 その表情は自分が負ける等とは、微塵も考えてねぇ様だった。

 しかし、その表情は呆気なく崩れ去ることになる……。この男によって。

 

 

『哀れなのは貴様の方だ……。

 猿野郎と忌み嫌っていたサイヤ人に、やっつけられてしまうんだからな……』

 

 

 勝者の笑みを浮かべるフリーザに、不敵の笑みで応えるカカロット。

 こちらの方も自身が負けるとは、塵も考えてねぇ様だ。

 

 だが、カカロットの言葉は、宇宙の帝王であるフリーザのプライドを大きく傷つけたみてぇだ……。

 野郎の顔が怒りによって一瞬歪むが、直ぐに元のムカつく笑みを浮かべる。

 

 

『ふん!どんなに強がりを言ったところで、この星が爆発するのを眺められるのは……、このオレだぁーーーーー!!!!!』

 

 

 叫びと共に飛びたしたフリーザの右拳がカカロットに繰り出されるが、それを同じく右の拳で迎え撃つカカロット。

 2人の拳がぶつかった瞬間、ナメック星にまたしても轟音と衝撃が走る。

 衝撃によって、2人の身体が一瞬大きく仰け反るがほぼ同じタイミングで持ち直し、両手で組みあう。

 

 組み合った両者は力比べだとばかりに、押し合う。

 2人の力の圧力で両者が立っている、ナメック星の大地が大きく陥没する。

 ほぼ互角の押し合いをしていた2人だったが、とっさにフリーザが組み合っていた片手を外し、カカロットの顎にアッパーを叩き込む。

 

 アッパーにより背後から地面に倒れ込んだカカロットに、フリーザの追撃が迫る。

 しかし、そのフリーザの顔面に倒れた状態からパンチを叩き込むカカロット。

 一瞬身体が仰け反ったフリーザだったが、瞬時に体勢を整え、倒れたカカロットの右足を掴む。

 

 

『はぁあああーーーーっ!!!』

 

 

 叫びと共に掴んだ右足を持ち上げると、そのままカカロットの身体ごと地面に叩きつけるフリーザ。

 しかも、1度だけでは無く何度も叩きつける。

 その度に大地にヒビが入り、その威力を物語る。

 

 

『この星が爆発するまで、まだ少し間がある……!!

 もう少しこのオレを楽しませろ……!!!』

 

 

 そして、近くの巨大な岩石に向かってカカロットを投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたカカロットは、そのまま巨大な岩石に叩きつけられる。

 そして、岩石の方はその威力に耐えられず、轟音を上げながら崩れ落ちる。

 

 だが、フリーザの攻撃はまだ止まらない。

 カカロットを投げ捨てた岩石に瞬時に近づくと、崩れ落ちた岩石の中から飛び出ているカカロットの腕を掴むと、上空へ投げ飛ばす。

 抵抗する事なく上空へ投げ飛ばされたカカロットの更に上空へ瞬時に移動したフリーザは、強烈な蹴りを繰り出し再びカカロットを地面に叩きつける。

 

 背後から轟音と共に地面に激突したカカロットに、駄目押しの追撃を繰り出すべく飛び出すフリーザ。

 移動速度を乗せた強力な膝蹴りがカカロットのボディに炸裂しようたした瞬間、カカロットの両手がフリーザの膝蹴り受け止める。

 

 

『くっ……、ぐぅ……!!!』

 

 

 何とか力ずくで両手をこじ開け様としたフリーザだったが、カカロットの両手はビクともしない。

 これでは埒が明かないと思ったのか、フリーザは瞬時に後方へ跳ぶ。

 

 フリーザが後方に跳んですぐ、カカロットも起き上がる。

 その身体は散々フリーザの猛攻を受けたにも関わらず、ほとんど大きなダメージを受けていない様だった。

 野郎なんてタフさだ……。

 

 そんなカカロットの様子に、当然フリーザの野郎も気付いているのだろう。

 散々攻撃を繰り出していたにも関わらず、その瞳には一切の油断がなく鋭い視線をカカロットに向けてやがる。

 

 再び静かに睨み合う両者……。

 

 しかし、そんな2人の周りは、静寂とはいかなかった。

 順調に爆発までの時間が経過しているのか、空には雷鳴が鳴り響き、海は荒れ、大地はどんどんひび割れ崩れ落ちる。

 2人が立っている大地にも、ちらほら溶岩が吹き出てやがる……。

 

 

『オメェと決着が着けられて、嬉しいぞ……。

 この勝負、オレが必ず勝つ!!!』

『小癪な……』

 

 

 周りの事など気にせず静かに睨み合っていた両者だったが、カカロットの言葉がその静寂を破る。

 カカロットの言葉を聞いたフリーザは、不敵な笑みを浮かべ応える。

 

 次の瞬間、2人の姿が消える。

 超高速の打撃戦へ突入したのだ。

 そのあまりのスピードに、このオレでも見えない事がありやがる……。

 

 両者はナメック星の空を縦横無尽に飛び回り、いくつもの轟音と衝撃を撒き散らす。

 

 

「はえぇ……」

「ああ……、これじゃぁ、どちらが優勢か分からねぇな……」

 

 

 他の連中も2人の凄まじいスピードに、驚きを隠せねぇ様だ。

 そんな時、フリーザの拳がカカロットの顔面を捉える。

 フリーザの拳をモロに受けたカカロットは、猛スピードで海に向かって落ちていく。

 

 それを見たフリーザは、空中から地面に降り立つと両手を掲げる。

 

 

『はぁああああ!!!!』

 

 

 掛け声と共に、フリーザの頭上に巨大なエネルギーの塊が現れる。

 その大きさは直径50mを余裕で超える巨大なものだった。

 そして次の瞬間、両手を海に沈んだカカロット目掛け勢いよく振り下ろす。

 

 振り下ろされた腕と共に、巨大なエネルギーの塊が海の中にいるカカロットに向かって真っ直ぐ落ちていく。

 

 

「おいおい、あんなん喰らったらタダじゃすまねぇぞ……!!!」

「それどころか、爆発したらナメック星が今度こそ吹っ飛ぶぞ……!!!」

 

 

 放たれた巨大なエネルギーの塊にナッパやラディッツが驚愕の声を上げる。

 だが、順調に海に沈んでいたエネルギーの塊が途中で止まる。

 まるで、何かに止められている様に。

 

 オレ達が何事だ?と思考した瞬間、その答えは水晶に映し出された。

 

 

『ぎっ……、ぐっ……』

 

 

 海底で巨大なエネルギーの塊を両手で受け止めているカカロットの姿が映し出されたのだ。

 だが、いかに超サイヤ人といえどもあの規模のエネルギーの塊を受け止めるのは容易じゃ無いのか、苦悶の声が上がっている。

 

 

「カカロット!!!」

 

 

 オレの耳にギネの心配そうな叫びが聞こえる。

 

 

『だりゃぁあ!!!!!』

 

 

 ギネの声が聞こえた……なんてこたぁねぇんだろうが、ギネの声に応える様にカカロットは巨大なエネルギーの塊を殴り飛ばす。

 殴り飛ばされたエネルギーの塊は空に向かって飛んでいく。

 

 

『はあっ……、はあっ……』

 

 

 巨大なエネルギーの塊を殴り飛ばしたカカロットは、ゆっくりと空中に浮かび上がる。

 流石に今の攻防は体力を消耗したのか、息が荒くなってやがる……。

 だが、ヤツの戦意はかけらも衰えちゃいねぇ……。

 

 両の目から覗く、その鋭い瞳が何よりもそいつを物語ってやがる。

 しかし、今の攻撃……、確かにカカロットにダメージを与えたが、ダメージを受けたのはカカロットだけじゃねぇ……。

 今の攻撃で仕留められなかった事で、精神的にフリーザにもダメージがあったみてぇだな。

 

 野郎の方が攻撃してやがったのに、ツラに一切の余裕がねぇ……。

 こいつは、まだまだ勝負は分からねぇな……。

 

 

 バーダックの予想した通り、確かにフリーザにとっては今の攻撃で仕留められなかったのは、精神的ダメージがあった。

 しかし、そんなダメージを宇宙の帝王のプライドで覆い隠したフリーザは、苦々しい表情を引っ込め不敵な笑みを浮かべる。

 

 

『ふっふっふ……、流石超サイヤ人だな……。

 いいだろう……、ハッキリと教えてやる……。

 生き残るのはこのオレだという事を……』

 

 

 次の瞬間、フリーザは即座に右掌を悟空に向け気合い砲で悟空を吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされた悟空は、瞬時に体勢を整えフリーザに向かって突撃する。

 そんな悟空に、フリーザの方からも飛び出す。

 

 激突した2人はまたしても、空中で凄まじい近接戦闘を開始する。

 手数はほぼ互角、両者凄まじスピードで繰り出される拳と蹴り。

 埒が明かないと感じたフリーザは、またしても悟空を気合い砲で吹っ飛ばす。

 

 しかし、瞬時に体勢を整えた悟空もお返しとばかり、気合い砲を放ち逆にフリーザを吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばしたフリーザに追撃をかけようと、舞空術で追いかける悟空。

 だが、悟空が追撃を仕掛けるよりも早くフリーザは空中で体勢を整え、悟空を睨みつける。

 

 

『ふん!このオレが猿などに負けるはずがない!!

 たかが……、サイヤ人の猿などになぁ……!!!!』

 

 

 怒りの叫びを上げると同時に、フリーザの全身から凄まじい気が放出される。

 そして、凄まじい気を纏いながら悟空に向かって猛スピードで突撃する。

 2人の距離がほぼゼロになった瞬間、ナメック星の空にまたしても大きな衝撃と轟音が響き渡る。

 

 そして、またしても超高速の近接戦闘に入った2人は、今や住人がいなくなったナメック星の居住地を破壊しながら戦闘を続ける。

 先程まではほぼ互角の手数の攻防だったが、現在は若干フリーザが押している様だ。

 

 

『どうだ!!下等生物のサイヤ人なんぞに、オレは負けんぞぉ!!!!

 たかが、サイヤ人なんぞにぃーーー!!!!』

 

 

 叫びと共に、気分が高まったのかフリーザの攻撃に大振りが目立つ様になる。

 だが、今目の前にいる相手は、そんな大雑把な攻撃で倒せる程、安い相手ではない。

 フリーザが繰り出した大振りの蹴りを受け止め、締め上げる悟空。

 

 

『ぐあっ!!!』

 

 

 フリーザが一瞬苦痛の声を上げるが、瞬時に怒りの表情を浮かべ、掴まれた足とは逆の足で悟空に蹴りを叩き込む。

 蹴りによって体勢の崩れた悟空は、締め上げていたフリーザの足を解放してしまう。

 その瞬間、自由になったフリーザは体勢の崩れた悟空の真上に瞬時に移動し、全体重をのせた蹴りを悟空の身体に叩き込む。

 

 しかも、そのまま足で悟空の身体を押さえつけながら、地面に向かって猛スピードで落下していく。

 あと数瞬で地面と激突する瞬間に、悟空はフリーザの押さえつけから逃げ出す。

 そして、地上に降り立った2人はそのまま殴り合いに突入する。

 

 またしても、互角の攻防を繰り広げる2人だったが、フリーザの右ストレートを躱した悟空がカウンターでフリーザを吹っ飛ばす。

 だが、瞬時に体勢を整えたフリーザが再度突撃して拳を繰り出そうとするが、またしても悟空はそれを躱し今度は蹴りによるカウンターでフリーザを吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされたフリーザは、ナメック星人の家に突っ込み家を崩壊させる。

 

 背を向けたまま直ぐに起き上がったフリーザは、怒りの表情を浮かべ振り向く。

 

 

『猿がぁーーーーー!!!!』

 

 

 怒りの咆哮を上げた瞬間、瞬時に悟空の目の前に移動したフリーザは意表をついて尻尾で攻撃するが、悟空はそれをギリギリで回避する。

 そして、フリーザの背後をとった悟空は、フリーザの背後から強烈な拳による一撃を叩き込む。

 その威力にフリーザの口から、空気とツバが一気に吐き出されれる。

 

 だが、なんとか堪えたフリーザは体勢を整え、悟空のボディに強烈なパンチを叩き込む。

 そして、パンチによって身体が前屈みになった悟空の真上に瞬時に移動すると、強烈な蹴りを叩き着込む。

 フリーザの蹴りをモロに受けた悟空は、そのまま地面に激突する。

 

 しかも、星の崩壊によって地面が脆くなっているのか、悟空が激突した衝撃で崩壊した地面から溶岩が勢いよく吹き出す。

 

 崩れ落ちた地面から勢いよく現れた悟空は、猛スピードでフリーザに向けて突撃する。

 それを見たフリーザの表情が苦々しそうに歪む。

 

 

『くっ……くそぉ!!!サイヤ人ごときに何時迄も手間取っていられるかぁ!!!!』

 

 

 すると更に気を放出したフリーザは、突撃してくる悟空に自らも飛び出し殴り飛ばす。

 そして、体勢が崩れた悟空の背後からパンチと蹴りを重ねて繰り出し、トドメとばかり頭上からナックルハンマーで、またしても悟空を地面に叩きつける。

 

 

『はっはっは……!!!どうだ……、猿野郎!!!!』

 

 

 倒れ伏した悟空を見て、腕を組み愉快そうに声を上げるフリーザ。

 だが、そんなフリーザの笑い声も直ぐに止まることになる……。

 

 

『これだけか……?』

『なにっ……!?』

 

 

 倒れ伏していた悟空が声を発しながら、何事もなかったかの様に起き上がる。

 そして、悟空の発した言葉に苛立ちの表情を浮かべるフリーザ。

 

 

『これだけか……?と聞いているんだ……!!』

 

 

 そんなフリーザに、冷めた視線を向け再度問いかける悟空。

 そんな悟空の態度がフリーザの怒りに更に油を注ぐ。

 

 

『なっ……生意気なぁーーーっ!!!』

 

 

 怒りと共に気を爆発させたフリーザは、猛スピードで悟空に迫り右拳を叩き込もうとする。

 しかし、それを最小限の動きで躱した悟空の強烈なパンチがフリーザのボディに突き刺さる。

 その威力が凄まじかったのか、フリーザの顔が苦痛で歪み血を吐き出しながら地面に崩れ落ちる。

 

 信じられないと言った表情で、フリーザが悟空を仰ぎ見る。

 そんなフリーザを冷めた目で見下ろす悟空。

 

 何とか起き上がったフリーザは、再び悟空に向け拳や蹴りによる攻撃を繰り出すが、フリーザの攻撃は1発も悟空に掠りもしなかった。

 そのうち焦ったフリーザの攻撃が大振りになり、繰り出した蹴りを跳んで回避した悟空は、近場の岸壁に着地すると勢いよくフリーザに飛び蹴りを放つ。

 猛スピードで迫る悟空の蹴りを何とか躱したフリーザだったが、悟空はフリーザが躱した瞬間肉体をコントロールし空中で静止させ、躱された足とは逆の足でフリーザの横っ面に強力な蹴りを叩き込む。

 

 その凄まじい蹴りに吹っ飛ばされたフリーザは、地面を擦りながら倒れ臥す。

 

 

『くっ……』

 

 

 倒れたフリーザが自分を蹴飛ばした悟空に視線を送ると、先程までの場所に悟空はいなかった。

 それどころか、フリーザが気付かぬうちに、いつの間にか倒れ伏したフリーザの横に悟空は立っていた。

 それに気付いたフリーザは、急いで起き上がろうと両手に力を入れ上半身を起こす。

 

 その瞬間、フリーザの首に悟空のラリアットが叩き込まれる。

 またしても地面に倒れ伏したフリーザに、悟空の追撃の蹴りが炸裂する。

 悟空の蹴りで吹っ飛んだフリーザに瞬時に追いついた悟空は、空中で更にフリーザに強烈なパンチを叩き込んだ。

 

 続けざまに強力な攻撃を受けたフリーザは、為す術もなく近場の岩石にその身を激突させる。

 その衝撃で崩れた岩石がフリーザの上に降り注ぎ、その姿を覆い隠してしまう。

 

 その様子を静かに見つめている悟空。

 

 それから数秒後、フリーザが壊した岩石の山がグラグラと音をたて崩壊を起こす。

 そこから、肩を上下に揺らし息の荒いフリーザが姿を現した。

 その様子から、一連の悟空の攻撃が確実にフリーザにダメージを与えているのが理解できる。

 

 姿を現したフリーザは悟空を一瞥すると、悟空と距離を開ける様に後ろに跳ぶ。

 しかし、フリーザが着地した際、背中にトンと小さな衝撃が走る。

 フリーザが背後を見ると、そこには距離をとったはずの孫悟空の姿があった。

 

 驚愕の表情を浮かべたフリーザだったが、またしても悟空から距離を取ろうと飛び上がる。

 今度は先ほどよりも早く、更に遠くへ。

 だが、フリーザがどんなに悟空から距離を離れようとしても、フリーザが着地したその場に必ず孫悟空の姿が付いて回った。

 

 それに苛立ちを覚えたフリーザは、距離をとるのをやめ悟空に向かって飛び出す。

 フリーザから繰り出される無数の拳と蹴りを、悟空は最小限の動きだけで躱してみせる。

 どれほど拳を振るっても当たる気配が無い事に、ついにフリーザの表情に冷や汗が浮かび上がる。

 

 そんなフリーザに鋭い視線を向ける悟空。

 次の瞬間、悟空の強烈なパンチがまたしてもフリーザのボディに突き刺さる。

 先ほど同様、フリーザの顔が苦痛で歪み血を吐き出す。

 

 更に畳み掛ける様に、今度は悟空の無数の拳と蹴りがフリーザに繰り出される。

 だが悟空と違いフリーザは、避けることも受けることも出来ずそれらをほぼ全部まともに喰らってしまう。

 痛みで顔を歪めるフリーザの頭上に現れた悟空は、ナックルハンマーでフリーザを地上へ叩き落とす。

 

 地上へ落下したフリーザは、轟音と衝撃、そして凄まじい量の砂埃を上げ地面に激突する。

 だが、直ぐに立ち上がったフリーザは、地面に降り立った悟空から距離をとる様に離れる。

 

 

『はあっ……、はあっ……』

 

 

 悟空からある程度距離をとったフリーザは、荒い呼吸を上げながら悟空を睨みつける。

 しかし、その表情には僅かばかり先程までには見えなかった感情が、込められている様な気がした。

 

 

『くそぉ……』

 

 

 その感情を認めたく無いのか、フリーザの口から悪態が溢れる。

 だが、それ以上にフリーザの心を締める感情があった。

 

 

『ぐぅ……、この10倍……、いや100倍にして返してやる!!』

 

 

 それは、屈辱だった……。

 宇宙の帝王であるフリーザにとって、ここまで自分に屈辱を与えた存在はいなかった。

 いや、そういう存在は、存在自体フリーザが許さなかった。

 

 しかし、今自分の目の前に、その許されざる存在がいる。

 そんな事、フリーザのプライドが許せるはずなかった。

 

 そんなフリーザを構えをとったまま、静かに見つめる悟空……。

 まるで、何かを見極める様に……。

 その瞳はフリーザの心に宿る屈辱や、フリーザ自身が目を逸らした感情さえ見透かしている様だった……。

 

 しばらく、無言で向かい合っていた2人。

 だが、唐突にその時間は終わりを迎える事になる……。

 

 

『やめだ……』

 

 

 構えを解きながら、言葉を発したのは悟空だった。

 その言葉と行動に驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 

 

『なっ、なんだとっ!!や……やめだ……とは、どういうことだっ…………!!!』

「なっ……、嘘だろう……!?」

「何で……、もうあと少しでフリーザをぶっ殺せるのに……!!!」

 

 

 だが、それは地獄のサイヤ人達も同じだった。

 あと少しで自分達から全てを奪ったフリーザを倒せるというのに、それをしないと言っているのだ。

 彼等はフリーザを討ち亡ぼす瞬間が見たくて、今までこの戦いを見守ってきたのだ。

 

 そんな彼等が驚愕の反応を見せるのは、仕方のない事だろう……。

 

 動揺するフリーザや地獄のサイヤ人達の事など気にするそぶりも見せず、冷静に言葉を重ねる悟空。

 

 

『貴様は100%のパワーを使った反動でピークを過ぎ、気がどんどん減っている……。

 これ以上戦っても無駄だとオレは思い始めた……』

 

 

 そんな悟空を驚愕の感情を隠しきれない、唖然とした表情で見つめるフリーザ。

 

 

『もう、オレの気は済んだ……。

 貴様のプライドは既にズタズタだ……。

 この世で誰も超えるはずのない自分を、超える者が現れてしまったのだからな……。』

 

 

 今まで冷静に言葉を発していた悟空が、ここで一旦言葉を切る。

 そして、その表情に不敵の笑みが浮かぶ。

 

 

『しかもそいつは……、ふん……たかがサイヤ人だった……』

 

 

 その瞬間、唖然とした表情を浮かべていたフリーザが顔を顰め身体を震わせる。

 そんなフリーザを視界に収めても尚言葉を続ける悟空。

 

 

『今の怯え始めた貴様を倒しても意味はない……。

 ショックを受けたまま生き続けるがいい、ひっそりとな……。

 オレは地球へ帰る。今からならギリギリ間に合いそうだ……』

『…………な……な……』

 

 

 悟空のあまりの物言いに、怒りや屈辱等で頭に血が上って上手く言葉を発する事が出来ないフリーザ。

 そんなフリーザの事等気にするそぶりも見せず、超サイヤ人を解除し言葉を続ける悟空。

 

 

『フリーザ……、二度と悪さすんじゃねぇぞ……。

 おめえのツラはもう見たくねぇ……』

 

 

 その言葉を最後に、悟空はフリーザに背を向け舞空術で空へ飛び立つ。

 

 

 

「あぁっ!!カカロットのヤツ本当に飛んで行っちまいやがった……」

「せっかくフリーザをあそこまで追い詰めたってのに、何考えてやがんだ……!!!」

「甘いのだ!!カカロットのヤツは!!!」

 

 

 水晶が映し出したカカロットの背に向かって、地獄のサイヤ人達は怒りや落胆の気持ちを吐き出す。

 正直オレもこいつ等と気持ち的には似た様なもんだった……。

 だが、こいつ等は肝心なことを忘れてやがる……。

 

 オレはそいつが、無性に腹が立って仕方なかった……。

 

 

「ごちゃごちゃ、うるせえぞ!!てめえ等!!!」

 

 

 オレは無意識に怒声を上げていた……。

 しかし、今のこいつ等がこんな言葉で止まるはずがなかった……。

 

 

「バーダックは何とも思わないのかい……!?もう少しで、あのフリーザを倒せたんだよ!!!」

「そうだぜ!!オレ達サイヤ人の悲願があと少しで叶ったんだぜ!!!」

 

 

 オレに言葉を返したのは怒りを浮かべたセリパとパンブーキンだったが、他のヤツ等も似た様な表情でオレに視線を向ける。

 例外なのはギネくらいなもんか……。

 

 ちっ……、どいつもこいつも、しょうがねぇ……。

 オレはそのザマに吐き気がした……。

 そして、こいつらに思い出させてやる事にした……。

 

 あいつが齎した勝利によって……、こいつ等が目をそらしている現実を……。

 

 

「確かに……、オレもお前達と気持ち的には似た様なもんだ……。

 カカロットの野郎が下したこの決断も、正直あめぇと思ってる……」

 

 

 オレを睨みつける同胞達に、オレは静かに自分の正直な意見を語り出す。

 その言葉を聞いたヤツ等は、若干安堵した様な表情を浮かべる。

 

 だが、オレの話はまだ終わっちゃいねぇ……。

 大事なのは、こっからだ……。

 

 その気持ちに呼応する様にオレの目に力が籠る……。

 オレの雰囲気が変わったことを感じたのか、周りの奴らの顔色が変わる……。

 

 

「だがな……、勘違いすんじゃねぇ……。

 この戦いに勝ったのは……、オレ達じゃねぇ……」

 

 

 そう……、同じサイヤ人であるあいつがフリーザに勝ったから、こいつ等は勘違いした……。

 まるで……、自分達までもがあのフリーザに勝利した様に……。

 

 だが、違ぇだろ……、そうじゃねぇだろ……。

 思い出せ……。

 オレ達は…………。

 

 …………オレ達は、あの憎っくきクソ野郎に敗北して、星ごと滅ぼされちまったってことを…………。

 

 

「フリーザに勝ったのはカカロットだ!!!」

 

 

 オレは自分の中に溜まった怒りを吐き出す様に、大声で周りのヤツ等に現実を突きつけた。

 大声を上げたことで、幾分か落ち着きを取り戻したオレは、静かに言葉を続ける。

 

 

「戦いに身を置くオレ達にとって勝者は絶対だ……。

 その勝者であるあいつが決めたのなら、そいつが全てだ!!!

 フリーザに負けたオレ達に、あいつを責める権利なんてハナからねぇんだよ……」

 

 

 オレの言葉を聴き終えたあいつ等は、まるで夢から覚めた様にその表情を苦々しいモノへと変える。

 

 こいつ等だって本当は分かってんだ……。

 カカロットが勝ったからといって、自分達まで勝者になった訳では無いという事を……。

 

 

「でっ……でもっ……!!!」

 

 

 だが、頭では分かっちゃいても消えねぇドス黒いモンが腹に収まってるのもまた事実。

 

 そいつがこれまでの自分の在り方を変えるモンだったとしても……。

 託すしかなかった……。

 自分達の願望を……、自分達の願いを……。

 

 

 自分達が目を逸らしていた現実を思い出しても、フリーザを諦められないセリパ達はその想い何とか言葉にしようとしていた。

 だが、そいつを言葉にしようにも上手く言葉に出来ないでいた。

 その様子を見ていたオレはこいつ等が言葉を発する前に、別の考え方を提示してやる事にした……。

 

 まぁ、気休めにもなんねぇかもしれねぇがな……。

 

 

「それによ……、ある意味ここで簡単に倒しちまうよりか、生かしておいた方がフリーザにとっては地獄かもしれねぇぜ?」

 

 

 オレの言葉に、周りのヤツ等に疑問の表情が浮かぶ。

 

 

「どういう意味だい?バーダック」

 

 

 怪訝そうな顔でこちらを見るセリパ達へ、オレは自分でも分かっちまうくらい人の悪い笑みを浮かべる。

 

 

「あいつがこれまで宇宙の帝王なんて名乗ってこられたのは、最強無敗だったからだ……。

 あいつがこれまで同様強者である事実は変わらねぇが……、これまで通りにはいかねぇだろう……。

 今まで散々好き放題やってきたんだ、あいつに恨みを抱いているヤツは結構いんだろう……。

 そいつ等は言葉にしないまでも、必ず目や表情に無意識に蔑みの感情を浮かべるだろうぜ……。

 そんな屈辱を……、あのプライドが高いフリーザが耐えられると思うか??」

 

 

 オレには怒りと屈辱で身を震わせているフリーザの姿が容易に想像できた。

 その姿を思い浮かべるだけで、笑いが込み上げてくるぜ……。

 

 

「あっ……」

 

 

 オレの言葉に何名かは、何かに気づいた様な表情を浮かべた。

 まぁ、今オレが言った事が本当に起こるとは限らねぇ。

 だが、それでもこいつ等の頭を冷す分には……自分を納得させるには十分だろう……。

 

 

「ある意味死んで地獄に来るより、生きてる間そうやって晒されモンになる方が、あいつにとってはここなんかよりよっぽど地獄かもな……」

 

 

 

 地獄で一悶着あっている頃、ナメック星ではフリーザが空を飛ぶ孫悟空の背中を見つめていた。

 屈辱で全身を震わせ、怒りと憎しみの表情を歪めながら。

 

 

『ふ……、ふざけるな……、オレが……、オレがぁ……、オレが負けるかぁ…………!!!!!』

 

 

 プライドを踏みにじられたフリーザは、ついにその憎悪を爆発させる。

 

 地上を離れ宇宙船へ向けて飛行していた悟空は、後ろから迫ってくる気配を敏感に察知し、とっさに身を捻る。

 すると、次の瞬間、頰に痛みが走る。

 攻撃元へ悟空が視線を向けると、そこには攻撃が外れた事に悔しげな表情を浮かべるフリーザの姿があった。

 

 

「カカロット!!!」

 

 

 バーダックがセリパ達と話している間も、ちょくちょく水晶に視線を向けていたギネは悟空が攻撃を受けたその瞬間を見逃さなかった。

 地獄のサイヤ人達はギネの叫び声で水晶に視線を向ける。

 そして、フリーザと悟空の戦いが、まだ終わっていないことを悟るのだった。

 

 フリーザの姿を捉えた悟空の顔が歪む。

 その表情は、様々な複雑な感情を押し殺している様だった……。

 

 

『どうしようもねぇバカなヤツだ…………。

 オラは、最後のチャンスを与えてやったんだぞ……』

 

 

 悔しさを滲ませた様に吐き出されたその言葉には、僅かながらの遺憾の意が込められている様だった。

 

 

『くっ……、フ、フリーザーーー!!!』

 

 

 フリーザの様子を見た悟空は戦いに備え、気を高める。

 悟空の気持ちに呼応する様に、全身から吹き出した黄金色のオーラが全身を包み込む。

 

 

 

「だっ、ダメだよ!!カカロット!!!」

 

 

 水晶に映し出された悟空の姿を見て、戦いを続ける気だと気付いたギネは声を上げる。

 

 

「どっ、どうしたのさっ!?ギネ」

 

 

 必死な表情で声を上げるギネに、セリパが驚いた様に声を上げる。

 そんなセリパに焦った様な顔を向けるギネ。

 

 

「忘れちまったのかいっ!?

 もうこの星が爆発するまで1分もないんだよ……、戦いを続ければ、フリーザはともかくカカロットが死んじまう!!!」

「あっ!!!」

 

 

 悟空の勝利宣言とその後のいざこざで、爆発までの時間が頭から抜けていたセリパ達の顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

 

「でっ、でもよ……、地球にもドラゴンボールってやつがあるんだろう?

 だったら、そいつで生き返れるんじゃねぇか??」

「いや、そいつは恐らく無理だろう……」

 

 

 パンブーキンの意見で皆の顔が一瞬幾分か明るくなった。

 しかし、その意見をバーダックが斬って捨てる。

 皆が何故?という表情を浮かべバーダックに視線を向ける。

 

 

「さっきカカロットの野郎が、姿が見えねえ奴と話してただろ?

 フリーザに殺されたあのハゲは1度蘇ってるから、2度とは蘇れねぇって……。

 カカロットは1度死んで蘇ってんだろ?

 だったら、あいつがここで死んじまえば……2度と蘇れねぇってことだ……」

 

 

 バーダックの説明を聞いたギネは益々表情を青くする。

 

 

「あんたには、悟飯が待ってるんだよ!!!早く逃げて、カカロット!!!」

 

 

 

 ギネが地獄で必死に自身に向かって叫んでいるのを知りようがない悟空は、戦闘へ意識を切り替える。

 

 黒から碧へと変わった瞳が、先ほど自身へ攻撃し、今尚背後に留まり続けているエネルギーを円盤状に圧縮した塊を一瞥する。

 その攻撃は悟空の仲間であるクリリンが、第2形態のフリーザの尻尾を切り落とした気円斬にとてもよく似ていた。

 

 悟空が気円斬へ視線を向けたその瞬間、フリーザは腕を振る。

 すると、フリーザの意思を汲み取った様に空中に留まり続けていた気円斬が悟空目掛け再度攻撃を開始する。

 猛スピードで迫る気円斬を超スピードで躱す悟空。

 

 しかし、フリーザが放った気円斬はいくら悟空が回避したり舞空術で引き離そうが、何度でも執拗に悟空に向けて攻撃を繰り返す。

 

 

『ふはははははっ!!!そいつはどこまでも追いかけていくぞ!!!

 そしてどんなモノも切り裂くんだ!!!』

 

 

 空中で悟空が気円斬を避ける様子を、地上から笑い声を上げながら愉快そうに見上げるフリーザ。

 しかし、件の悟空は愉快そうなフリーザとは対照的に完全に冷めきっていた。

 

 

『こんなのが最後の技だとはな……、見損なったぞフリーザ!』

 

 

 しばらく、気円斬を空中で回避していた悟空だったが、避けるのをやめフリーザに向かって飛び出した。

 気円斬の方も悟空が飛び出した事で、悟空の背後を追いかける様に追従する。

 その様子にフリーザは悟空の考えを瞬時に予測する。

 

 

『む、ふん!作戦は読めるぜ、こっちに向かってきてギリギリで躱し、オレに当てようってんだろ!!

 オレがそんなつまらん作戦に引っかかると思うか…………!!』

 

 

 悟空に向けてフリーザが怒声を上げるが、フリーザの言葉など無視して悟空はフリーザに向けて猛スピードで突っ込んでくる。

 

 

『そんな古い手には引っかからんぞ!!!』

 

 

 そして、フリーザの予想した通り、悟空はフリーザにぶつかる寸前で急上昇する。

 それに合わせて、フリーザは腕を上に振り上げ追従していた気円斬を悟空目掛けて操作する。

 

 フリーザに操作された気円斬は、これまでよりも更にスピードを上げ上昇している悟空目掛け飛んでいく。

 しかも、どんどんその距離が詰まっていく……。

 もう、悟空と気円斬の距離はあと僅かというところまで迫っていた……。

 

 そして、ついに気円斬は悟空の身体を切り裂いた……。

 

 

『やった!!!』

 

 

 その様子を見ていたフリーザは、喜びのあまり満面の笑みで歓声を上げる。

 しかし、その表情はすぐに崩れ去る事になった。

 切り裂いた悟空の身体がブレたと思ったら、忽然と姿を消したのだ。

 

 

『!?』

 

 

 驚愕の表情を浮かべるフリーザの背後から声が響く。

 

 

『こっちだフリーザ!!』

 

 

 声の方に顔を向けると、そこには五体満足の悟空の姿が存在した。

 悟空が移動した事に全く気づけなかったフリーザは、冷や汗を流しながらも苦々しい顔を浮かべる。

 そして、先程の気円斬を自分の手元へと呼び戻す。

 

 

『ふっ、残像だったか……猿め、なかなかやるじゃないか…………』

 

 

 冷や汗を流しながらも無理やり強気な笑みを浮かべる、フリーザ。

 そんなフリーザを静かに見つめる悟空。

 

 しばらく、見つめあっていた2人だったがそんな時間も長くは続かなかった。

 悟空はため息を吐くとフリーザから視線をそらす。

 まるで、もう興味がないとばかりに……。

 

 

『やはり今の貴様とは、まったく戦う気が起きねぇ……。

 そんなつまらん技で望みを繋ぐ様じゃな……』

『くっ……』

 

 

 悟空の言葉にフリーザ自身多少は自覚があるのか、無理やり浮かべていた強気な笑みから悔しげな顔に変わる。

 そんなフリーザに視線を向ける悟空ははっきり告げる。

 

 

『どうしても決着を着けたかったら、体力を回復させ、さらに腕を磨くんだな』

 

 

 悟空から言外に相手にならない宣言をされたフリーザは、その事が納得出来ていないのか、屈辱に顔を歪め身体を震わせている。

 

 

『こ……このオレの技が……、つ……つまらん技だと……』

 

 

 フリーザはおもむろに左手を上げると、そこに2枚目の気円斬が顕現する。

 

 

『ならば、2つならどうだぁ!!!』

 

 

 フリーザの叫び声と共に2枚の気円斬が悟空に迫る。

 それを、冷めた目で見つめる悟空。

 

 

『分からんヤツめ!!』

 

 

 気円斬が直撃する寸前で舞空術で上空へ移動する悟空。

 しかし、2枚の気円斬も悟空を追う様に上空へ進路を変更する。

 

 2枚の気円斬が自分を追いかけている事を確認した悟空は、急遽反転し2枚の気円斬の間をすり抜けフリーザへ迫る。

 そして、当然の如く2枚の気円斬もそんな悟空を追う様に進路を変更する。

 

 猛スピードで突っ込んでくる悟空に嘲笑を浮かべるフリーザ。

 

 

『同じパターンとは芸のないヤツめ…………!!!』

 

 

 だが、フリーザの予想は外れる事になる。

 突っ込んで来ていた悟空が右手をフリーザに向けると1発のエネルギー弾が発射される。

 しかし、発射されたエネルギー弾が着弾したのはフリーザではなく、フリーザが立つ数m前の地面だった。

 

 エネルギー弾が着弾した地面は、威力が小さかった為か大きな崩壊を起こすことはなかった。

 しかし、変わりに大きな砂埃を上げる。

 それは、フリーザの視界を覆い隠した。

 

 

『うっ!!!』

 

 

 視界一面が砂埃で覆われたフリーザだったが、事態は刻々と迫っていた。

 悟空を追っていた2枚の気円斬がフリーザ自身に迫っているのだ。

 

 

『くそっ!!こんな子供騙しに引っかかるもんかぁ…………!!!』

 

 

 とっさに上空へ飛び上がる事で、2枚の気円斬を回避する事に成功するフリーザ。

 

 

『猿野郎はどこだ……!!!』

 

 

 とっさの事態への対処で、フリーザは悟空の存在を見失ってしまった。

 フリーザが首を左右に向けても悟空の姿を確認する事は出来なかった。

 その為、上に視線を向けた瞬間そいつは現れた。

 

 フリーザが視線を上に向けると、自身の目の前に悟空によって繰り出されたエルボーが迫っていた。

 とっさに回避しようとしたフリーザだったが、時すでに遅し……。

 悟空の超強力なエルボーがフリーザの頭に炸裂する。

 

 

『げはぁ……!!!』

 

 

 あまりの威力に、フリーザの口から血が吐き出される。

 しかし、何とかそれを堪えたフリーザは体勢を立て直し悟空へ向けて拳を振るう。

 だが、その悟空は身を逸らすだけで躱してしまう。

 

 その様子に憎々しい表情を浮かべたフリーザは、さらに何発もの蹴りや拳を繰り出すが、全てあっさりと躱され1発も当てる事が出来なかった。

 

 

『ひぃやぁ……!!!』

 

 

 苛つきがピークに達したフリーザは、掛け声と共に渾身の一撃を悟空の顔面めがけて繰り出す。

 しかし、その拳による一撃もあっさり悟空の手によって止められてしまう。

 

 悟空はフリーザが繰り出した拳を、左手で受け止めそのまま握りしめる。

 そして、そのまま力任せに引っ張りフリーザの身体を自身の元へと引き寄せ、ボディへ強烈な膝蹴りを叩き込む。

 

 

『貴様では、相手にならんわ!!!』

 

 

 膝蹴りの痛みで前かがみになったフリーザの顔に、悟空の往復ビンタが炸裂する。

 何十発もの往復ビンタを間抜けな表情を晒しながらフリーザは為す術もなく受け続ける。

 

 だが、何とか往復ビンタから抜け出したフリーザは悟空と距離を取る為、後方へ飛ぶ。

 しかし、着地するより前に悟空がフリーザの頭上に瞬時に現れナックルハンマーを頭へ叩き込む。

 強力なナックルハンマーによって猛スピードで地上へ落下するフリーザ。

 

 それを超える超スピードで追いついた悟空はさらに追撃の頭突きを叩き込む。

 追撃の頭突きによって、更に落下スピードが増したフリーザ。

 これまでの悟空の攻撃+駄目押しの強力な2発の攻撃に、ほとんど気を失いかけていたフリーザだったが、地面に激突する寸前で意識が覚醒する。

 

 意識を覚醒させたフリーザは、空中でとっさに体勢を整え両足で地面に着地するが勢いを殺す事までは出来なかった。

 フリーザが着地した地面は、星の滅びと相まって脆くなっていた事もあり衝撃を吸収しきれず、着地した瞬間陥没してしまう。

 

 

『はぁ……はぁ……、くぅ……このオレがサイヤ人なんかに……』

 

 

 陥没した穴の中で、屈辱で顔を歪めたフリーザは空に浮かぶ悟空に視線を向ける。

 まるで見下されている様に感じるその視線に、苛立ちを覚えたフリーザは戦いを続行するべく地面を蹴り穴から飛び出す。

 

 その瞬間、フリーザの頭上から声が響いた……。

 とっさの事でその内容を理解できなかったフリーザ……。

 だが、それを理解した時には全てが遅かった……。

 

 長く続いた戦闘民族サイヤ人の伝説の戦士と宇宙の帝王の最期の戦い……。

 それは、本人達すら予想し得なかった形で結末を迎えてしまう……。




訂正というかお詫び。

以前感想で、ナッパとラディッツは惑星ベジータが隕石の衝突でないことを知っていた。
という内容のものをいただきました。
今回この話を書くためにアニメを見直したら、確かにナッパがベジータとラディッツに話しているシーンがありました。
今作では2人は惑星ベジータが消滅した理由を知らないって書いてますが、原作はともかくアニメ版では知っていたみたいです。
自分の勉強不足で混乱させた方は申し訳なかったです。


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フリーザ編-Ep.17

お待たせして申し訳ない。
2話連続投稿なので、お気をつけて。


■Side:ギネ

 

 

『立つんじゃねぇ!!伏せろ!!!ふせろーーーーーっ!!!!』

 

 

 カカロットの必死な声が水晶から地獄に響き渡る。

 あたしは最初その声が誰に向けられているものなのか、理解できなかった。

 声を掛けられた者は何とかカカロットの声に反応した様だったが、その者の視線がそれを捉えた時には既に遅かった。

 

 

『!!』

 

 

 回避しようと動き出した時には、既に身体に喰い込んだそれは、一切の手心なしにその者の身体を真っ二つに切り裂いた。

 

 

『そっ……そんな…………』

 

 

 予想外の事態に驚愕の表情を浮かべた当人を無視する様に、無情にも上半身と下半身は別れ崩れ落ちる。

 ドサッと虚しい音と共に呆気なく地面に崩れ落ちたその姿を見て、あたしは心の中で漠然と、なんともあいつらしくない姿だなぁ……と思ってしまった。

 きっと、この時のあたしは事態に頭が追いついていなかったんだと思う……。

 

 水晶が映し出すあいつ……宇宙の帝王フリーザの真っ二つになった姿を見ても、あたし達は誰も声を上げる事が出来なかった。

 いや、あたしだけじゃなく周りの奴等も、きっとこの予想外の事態に頭が追いついていないんだ。

 本来なら喜びの声を上げるところだと言うのにだ……。

 

 その証拠に、皆呆然とした表情で水晶を見つめていた。

 それだけ、この衝撃の光景が信じられなかった……。

 

 でも、この事態に驚きを隠せないのは、きっとあの子も同じなのだろう……。

 あたしが水晶に視線を向けると、空中に浮かぶカカロットの姿が映し出されていた。

 

 カカロットは驚きを隠しきれず、空中から複雑そうな表情でフリーザを見つめている。

 その表情は心なしか、今のフリーザの様子に心を痛めている様にあたしには見えた……。

 

 

(あぁ……、あの子はこんな戦いの結末を望んでなんていなかったのか……。

 やっぱりお前は優しい子だね……、カカロット)

 

 

 本当にカカロットがそう望んでたのかは分からない。

 だけど、今のあの子の表情を見て、あたしにはそう思えてならなかった。

 

 数秒程フリーザを見つめていたカカロットだったが、静かにフリーザの横に降り立つ。

 

 

『自業自得とはいえ、貴様らしくない惨めな最期だな……』

『ち……ちくしょう……ちく……しょう…………』

 

 

 カカロットが言葉を掛けても、まともに返事を返す余裕すらないのか、フリーザはただ痛みを堪える様に顔をしかめ、ひたすら怨嗟の言葉を吐き続ける。

 そんなフリーザにしばらく視線を向けていたカカロットだったが、静かに背を向ける。

 

 

『オレはなんとしても地球へ帰ってみせる。

 おめぇは自分で破壊してしまった、このナメック星と運命を共にするんだな……』

 

 

 背を向けたままフリーザへ最後の言葉を告げたカカロットは、ゆっくりと歩き出した。

 

 あたしは、未だ混乱した頭で今度こそ戦いが終わったのだと安堵した……。

 あとは、この子が無事にナメック星から脱出してくれればそれでいい……。

 カカロットは今度こそ助かるんだ!!!

 

 その事を頭が理解した瞬間、あたしの頭はゆっくりと現実に追いつくように回り出そうとしていた。

 だが、ここで予想外の事態が起こった。

 歩き出したカカロットが急に歩みを止めたのだ。

 

 あたし達がその行動に疑問を覚えたと同時に、答えは水晶よりもたらされた。

 

 だが、それは……あたし達地獄にいるサイヤ人達にとって……、とても信じられないものだった……。

 

 

『た……たの……む……、た……助けて……たす……助けて……くれ…………』

 

 

 それは今にも消えてしまいそうな程、とても弱々しいか細い声だった……。

 だが、確かにそれはあたし達の耳に届いた……。

 

 

「うっ……、うそ……だろ……」

「あの……、フリーザが……命乞い……だと……」

 

 

 トーマとパンブーキンが唖然とした表情を浮かべながら、吐き出された言葉はあたし達全員の心境を代弁していた。

 あの滅多な事では驚いた表情を浮かべないバーダックでさえ、例外なく皆と同じ様に驚いた表情を浮かべていた。

 

 あたし達にとって、フリーザという存在は最強無敵の絶対強者だった……。

 この戦いが始まってから、カカロットやゴハン、王子等強力な力を持った戦士達がフリーザに戦いを挑んだ。

 しかし、何度もフリーザの強大な力の前に死ぬ寸前まで追い詰められた。

 

 だが、あたしはどんな絶望的な状態でも彼らの勝利を心から願っていた。

 

 しかし、今のフリーザの状態を見てあたしはようやく気づいた……。

 あたしは、いや、あたし達は彼らの勝利を願っている傍ら、心のどこかでフリーザは決して倒せない存在だと勝手に思い込んでいたのだ……。

 

 だから、あたし達はフリーザが命乞いをする姿にこんなにも、衝撃を受け動揺したのかもしれない……。

 

 

 未だショックから抜け出せない、あたしは水晶に視線を向ける。

 そこには、フリーザの言葉を聞いて動きを止めたカカロットが映し出されていた。

 

 その表情は、何かを堪える様に歯を食いしばった複雑な表情を浮かべていた。

 

 

『た……助けてくれええ……!!』

 

 

 フリーザが再度上げた命乞いの言葉に、カカロット顔に怒りの感情が宿る。

 

 

『勝手なこと言いやがって!!貴様はそうやって命乞いした者を一体何人殺したんだっ!!!』

『た……たの……む…………!』

 

 

 フリーザに向けて怒りのこもった言葉をカカロットが投げかける。

 しかし、フリーザの方には会話する余裕がない程ダメージを受けているのか、またしても命乞いの台詞を吐く。

 

 そんな無様なフリーザの様子を見たカカロットは、しずかに左手をフリーザに向ける。

 

 あたし達はその様子を固唾を呑んで見つめる。

 この攻撃によって今度こそフリーザを消し去るのだと思ったからだ……。

 

 しかし、あたし達の予想は大きく外れる事になる……。

 

 

 あたし達が見守る中、カカロットの左手からエネルギーの塊が放出されると、そのエネルギーはフリーザの全身を包み込んだ。

 その光景を見てあたしの周りから、驚愕と怒りの声が上がる。

 

 

「なっ、なんだと……!?」

「バカな……!!フリーザにエネルギーを与えるだとっ……!!!」

「なに考えてんのさっ!!!」

 

 

 そう、カカロットはなんと瀕死の状態のフリーザに自身のエネルギーを分け与えてたのだ。

 これには、流石のあたしも驚きを隠し消えれなかった。

 

 

『オレの気を少し分けてやった……。

 貴様なら多分その身体でも十分動けるはずだ……。

 あとは勝手にしろ……!』

 

 

 あたし達の驚きなど知らないカカロットは、エネルギーを与えられて驚いた表情を浮かべている倒れ伏したフリーザに言葉を告げ、背を向け歩き出していた。

 

 

「おいおい、カカロット野郎……、本当にフリーザにトドメを刺さねぇつもりかよ……」

「だから、あいつは甘いというのだっ!!!」

 

 

 困惑の表情を浮かべたナッパと怒りを露わにしたラディッツのやりとに、どちらの気持ちもわかってしまう分あたしの気持ちも複雑だった。

 ふと、隣に立っているバーダックに視線を向けると腕を組み目を閉じていた。

 まるで、気持ちを落ち着かせようとしているその姿に、バーダックもカカロットがやった行動に対して思う所があるのだろう……。

 

 

「おい」

 

 

 水晶から視線を外していたあたし達を、これまで一言も喋らなかった男の声が引き戻す。

 めったに口を開かない男、トテッポに視線を向けると、トテッポは水晶に向けて指を向けていた。

 それにつられて、視線を水晶に向けると倒れ伏していたフリーザが起き上がっていた。

 

 下半身と左腕を無くしたフリーザは、上半身だけで宙に浮かび上がる。

 切断面からは夥しい量の血を流しながらも、先ほどまでと違いしっかりと意識は持っている様だ。

 その証拠にカカロットの背中を睨みつける目には、嘗てないほどの憎しみが込めらていた。

 

 

『こ、こいつは意外だったな……。オレにエネルギーを分け与えるとは……』

 

 

 フリーザの声に振り返ったカカロットは、心底不思議そうな顔をフリーザに向ける。

 

 

『貴様は宇宙空間でも生きていけるんだろ?

 だったら、さっさとこの星を脱出するんだな。

 生き延びて命の有難さを思い知るがいい!』

 

 

 カカロットの言葉を聞いたフリーザは一瞬苦々しい表情を浮かべたが、直ぐに嫌味な笑みを浮かべる。

 

 

『く……くっくっくっ…………、この星はもう爆発寸前だ……、どこへ行こうというのだ……?

 どう足掻いても、宇宙空間では生きられない貴様を待っているのは”死”だけだ……』

「くっ……」

 

 

 フリーザが浮かべているムカつく嫌味な笑みに、一瞬怒りを覚えたあたしだったが、あいつが言っている事は紛れもない事実だった。

 しかし、焦っているあたしとは対照的にカカロットは冷静だった。

 

 

『……たしかに、オレの乗ってきた宇宙船まで行く時間はもうない。

 こうなったらお前の宇宙船を頂くつもりだ』

「なるほど、フリーザの宇宙船は近くにあるんだ!!!」

 

 

 カカロットの言葉を聞いて、近くに宇宙船がある事にあたしは心の底から安堵した。

 しかし、ここに来て世界の不条理がカカロットを襲う。

 

 

『はっはっはっ……!!あの船はベジータが壊して跳べるものか!!!

 皮肉だな勝負に勝った貴様は死んで、オレは助かるんだ!!!

 こ……、このフリーザ様にエネルギーを分けるなんて生意気な事をするからだ……』

「あの野郎っ……!!!」

「だから、フリーザになんてエネルギーを与えてやる必要なんてなかったんだ……!!!」

 

 

 カカロットを嘲笑う様に告げられたフリーザの言葉に、地獄のサイヤ人達の怒りが爆発する。

 だけど、あたしはそんな事よりも絶望的なカカロットがどうやったら助かるのかを考えるので頭がいっぱいで、他の事に気を避ける余裕はなかった。

 

 だが、そんな時水晶の中から力強い言葉発せられた。

 

 

『オレも生きてみせる』

 

 

 自分の思考の海に沈んでいたあたしは、その力強い声で現実に引き戻された。

 背中だけしか映し出されていなかったが、その力強い背中からカカロットがまだ諦めちゃいない事を雄弁に語っていた。

 だったら、あたしは最後まであの子を信じるだけだ。

 

 

 フリーザに背を向けた悟空は舞空術で空へ飛び立つ。

 黄金色のオーラを纏って飛び立った悟空はどんどんフリーザから遠ざかる。

 

 

「ちっ、結局フリーザにトドメは刺さねぇのか……」

「まぁ、そんな余裕もないのも事実だけど……すっきりしないよね……」

 

 

 小さくなったカカロットの姿に、未だフリーザにトドメを刺さなかった事に納得がいっていないパンブーキンとセリパが口を開く。

 バーダックが前に言葉にした通り、フリーザの生殺与奪権はカカロットにあるとあたしも思う。

 だけど、わざわざ自業自得で瀕死になったフリーザを助けてまで救ってやる必要があったのかと問われれば、それは否だと思う。

 

 フリーザは助けられたからと言って、善人になる様なヤツじゃない。

 きっとこれからも多くの者を傷つけ、破壊し奪い続けるだろう。

 あたし達サイヤ人を滅ぼした様に……。

 

 あたしはサイヤ人だから善人じゃないけど、きっと宇宙の平和ってヤツの為を思うならこの場でフリーザを倒していた方が、よかったと思う。

 でも、あの子は……カカロットは……、そんな如何しようも無いフリーザにも変わってほしいと思っているのだろうか?

 

 いや、単純に強いヤツとまた戦いたいから生き残らせたのかもしれないね……。

 あの子は、サイヤ人の本能である戦闘欲求にどのサイヤ人よりも忠実そうだから……。

 

 あたしは自身の中でなんとか、この戦いの結末を受け止め、改めて水晶に視線を向ける。

 そこには飛んでいる息子の……カカロットの後ろ姿が映し出されていた。

 その後ろ姿に……しょうがない子だねぇ……と親ながら誰よりもサイヤ人である息子に、呆れた笑みをあたしは浮かべた。

 

 そんな時だった……、水晶から怨嗟のこもった声が発せられたのは……。

 その声は決して大きいものではなかった……。

 呟く様に発せられたにも関わらず、その声は明確な意思をもっていた……。

 

 敵意という名の明確な意思を……。

 

 

『オ……オレは宇宙一なんだ…………!!

 だから……だから貴様はこのオレの手によって、死ななければならない……!!』

 

 

 宇宙一という称号に取り憑かれたその者は、狂気を宿した瞳を飛翔する敵に向ける。

 これまでの人生で味わった事がない程の屈辱を味わった為か、もはやフリーザに正常な判断を下せるほどの精神的余裕は残されていなかった。

 

 ギネや地獄のサイヤ人達が水晶から発せられた不吉な言葉に嫌な予感を覚えつつ、水晶に視線を向けたその瞬間だった。

 

 

『オレに殺されるべきなんだーーーーーっ!!!!!』

 

 

 フリーザの狂気すら感じられる叫び声をと共に、残った右手から極太のエネルギー波が放出される。

 エネルギー波は飛翔した悟空目掛けて、一直線に進んでいく。

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 急激な展開に声を上げる事が出来なかったサイヤ人達の中で、ギネだけは悲鳴にも似た声を上げる。

 

 その声に反応した訳ではないのだろうが、舞空術で飛翔していた悟空は背後より迫り来る気配に視線を向ける。

 そして、自身に迫るエネルギー波を視界に収めた瞬間、瞬時に怒りの表情を浮かべる。

 

 

『バカヤローーーーーッ!!!!!』

 

 

 怒りの咆哮と共に、悟空の右手から繰り出されるエネルギー波。

 そのエネルギー波はフリーザの極太のエネルギー波を一瞬で飲み込み、押し返していく。

 もはや勝負にすらなっていなかった……。

 

 

『!!』

 

 

 自身に迫り来るエネルギー波に驚愕の表情を浮かべるフリーザ。

 だが、言葉を発する間も無くフリーザの身体は光の奔流に飲み込まれた……。

 

 滅びいくナメック星に轟音と共に爆風が巻き起こる。

 爆風が収まった時、そこには巨大な穴がぽっかりと空いていた……。

 

 そして、その場に宇宙の帝王フリーザの姿は跡形もなく消え去っていた……。

 

 

 

 エネルギー波を放った悟空は、繰り出した右手を突き出した体勢のまま固まっていた。

 その右手が僅かばかり震えている様に見えるのは、目の錯覚だったのかもしれない。

 

 爆風により黄金色へと変貌を遂げた髪が酷く靡いていた為、その下に隠れた悟空の表情を伺う事が出来たのは、偶然にも2人だけだった。

 

 数秒程固まっていた悟空だったが、くるりと背を向け猛スピードでその場を後にする。

 水晶は舞空術で飛翔している悟空を捉えていた。

 その光景を呆然と見ていた地獄のサイヤ人達だったが、ようやく現実に意識が追いつき始める。

 

 

「なぁ……、さっきの攻撃で……フ……フリーザの野郎消えちまったよな……??」

「ああ……、確かに跡形もなく……吹っ飛んでたな……」

「今度こそ本当に……フリーザの野郎を……倒したのかい……?」

 

 

 自分達が見た光景が信じられないのか、仲間達に現実なのかを確かめる様に口を開くトーマ達。

 ナッパやラディッツ等は信じられないとばかりに、未だ唖然とした表情を浮かべていた。

 だが、声に出して互いに現実だと認識した瞬間、地獄に大歓声が響き渡った。

 

 

「うぉおおおおおーーーーーーっ!!!カカロットの野郎、今度こそフリーザの野郎をやりやがった!!!」

「ねぇ、本当だよね!?本当に……、あのフリーザを倒したんだよねぇ!!!ねぇ!!!」

「すげぇ、流石超サイヤ人だぜ!!最後のフリーザなんか歯牙にもかけてなかったぜ!!!」

 

 

 大歓声を上げるトーマ達4人とは対照的に、こちらの2人は静かに実感を噛み締めている様だった。

 

 

「あのフリーザが……マジかよ……」

「ふん、危機的状況にならんとトドメをさせんとは愚か者め……」

 

 

 未だ信じられないといった表情を浮かべるナッパ。

 そして、ラディッツは悪態こそついているがその表情は笑みが浮かんでいた。

 

 そんな喜びを露わにしているサイヤ人達の中で、2人だけ未だに水晶に視線を向ける者達がいた。

 それは、水晶に映し出されている孫悟空の父と母である、バーダックとギネだった。

 

 

「ねぇ、バーダック……、あんたフリーザを吹っ飛ばした時のカカロットの顔見たかい?」

「ああ……」

 

 

 静かに口を開いたのはギネだった。

 そして、ギネと同じく悟空がフリーザにトドメをさした時、偶然悟空の表情を捉えたバーダックはがギネが何を言いたいのか察した。

 

 

「あの子は、あんなとんでもない悪党でも殺してしまった事に悲しみを覚えてしまう程、優しい子なんだね……」

 

 

 ギネはフリーザにトドメを刺した時に、一瞬見えた息子の表情を思い出していた。

 仲間を殺した相手だというのに、カカロットの表情に嬉しさ等の感情はなく、とても悲しそうで辛そうな表情を浮かべていたのだ。

 

 

「いったい誰に似たんだろうね……?あんな、優しくて甘いサイヤ人なんて見た事がないよ……」

 

 

 どこか寂しげな笑みを浮かべたギネがバーダックに視線を向ける。

 

 

「はっ、そりゃお前の血だろうぜ!!あんな甘いサイヤ人なんてカカロット以外だとお前くらいなもんだ」

 

 

 視線を水晶に向けたまま告げられたバーダックの言葉に、心当たりがあるのか若干気まずい表情を浮かべるギネ。

 だが、バーダックはそんなギネを尻目に言葉を続ける。

 

 

「けどよ、今回はそんな甘いカカロットがフリーザを倒しやがった。

 きっと、オレ達サイヤ人の在り方じゃ、超サイヤ人は復活できなかった……。

 他者の為に本気で怒りを宿す事が出来るカカロットだからこそ、超サイヤ人になる事が出来たんだ……。

 あいつのそういう優しさってヤツが、きっと今回の勝因なのは間違いねぇ」

 

 

 そこで一旦言葉を切ったバーダックはギネに視線を向ける。

 バーダックの言葉にいつしか聞き入っていたギネとバーダック、2人の視線が重なる。

 そして、バーダックははっきりギネに告げる。

 

 

「その優しさって強さをあいつに最初に宿したのはお前だ……ギネ」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、驚いた表情を浮かべたギネだったがその表情は直ぐに笑み変わった。

 

 

「何言ってんだい?他者の為に怒るってんなら、あんたも同じだろバーダック。

 あの子はあたし達の息子なんだ。あたし達2人のいいトコを持っていて当然だろ?

 だからさ、あたし達はあの子の親である事を誇ろうよ。

 あたし達サイヤ人の悲願を達成してくれたあの子の事をさ!」

「ああ、そうだな……」

 

 

 ギネが笑顔で告げたその言葉に、バーダックは他者に見せた事がない様な穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

 確かに、悟空はフリーザを倒した時に少なからず悲しく辛い気持ちを胸に抱いたのかもしれない。

 だが、その行動を少なくとも2人だけは誇りとしてくれる存在がいた事だけは、紛れもない事実だった。

 

 

 バーダックとギネが再度水晶に目を向けると、フリーザの宇宙船の中を走り抜けている悟空の姿が映し出されていた。

 

 

「あとはカカロットが、無事に地球へ還ってくれるといいんだけど……」

 

 

 心配そうな表情を浮かべるギネ。

 

 

『ここかっ!!』

「やった、操縦室だ!!」

 

 

 宇宙船の操縦室にたどり着いた、悟空は急いでパネルを操作しようと近づく。

 

 

『発進スイッチは……、よし!!いいぞ、乗ってきた宇宙船とほとんど同じだ!!こいつだ!!』

 

 

 悟空がスイッチを押した瞬間、宇宙船を起動させた音が水晶から響き渡る。

 しかし、フリーザが述べた様に故障している為か途中で音が途切れてしまう。

 

 

『頼む、動け!!!動いてくれっ!!!

 動けーーーっ!!!ちくしょう…………!!!』

 

 

 何度も発進スイッチを押す悟空だったが、宇宙船が起動する事はなかった。

 だが、事態は一刻の猶予も残されていないのだ。

 大きな揺れが突如として、悟空の乗ったフリーザの宇宙船を襲った。

 

 今や崩壊寸前のナメック星の大地が砕けのか、宇宙船が大きく傾いた。

 その衝撃で床に倒れる悟空。

 

 これでは、例え宇宙船が奇跡的に起動出来たとしても飛び立つ事は不可能だろう。

 

 

「カカロットッ!!!」

「こいつは、いよいよ本格的にヤベェな……」

 

 

 その光景にギネとバーダックの顔にも焦りが宿る。

 

 

「ちょっと、カカロットのヤツ大変な事になってるじゃないか!!!」

 

 

 フリーザを倒した事で浮かれていたセリパ達だったが、水晶から聞こえる音で現実に引き戻されたのか、血相を変えてやってきた。

 

 

「セリパ……」

「ギネ……、フリーザの宇宙船は本当にダメだったんだね……」

 

 

 ギネはやって来たセリパに、悲痛な表情を浮かべた顔を向ける。

 その表情でフリーザの宇宙船が本当にダメだった事を悟ったセリパ達。

 

 

「どうしようもねぇのかよ、バーダック!!!」

「カカロットが乗って来た宇宙船が一応あるみてぇだが、こっからじゃだいぶ距離があるみてぇだ……」

「それじゃぁ、爆発までには無理か……」

 

 

 打つ手なしの状況に地獄のサイヤ人達は何も解決策を見いだす事が出来ないまま、視線を水晶に向ける。

 水晶の中では、未だ激しく揺れ続ける宇宙船の中で倒れていた悟空が、舞空術で身体を宙に浮かべ瞬時に右手からエネルギー波を放ち宇宙船に穴を開け、宇宙船から脱出している姿が映っていた。

 

 脱出した悟空は空中から、先ほどまで自身がいた宇宙船を苦々しい表情で見つめていた。

 宇宙船は半分以上、崩れた地面の中に埋もれていた。

 

 打つ手がない悟空を嘲笑うかの様に、無情にもナメック星の崩壊は刻一刻とその歩みを進めていた。

 異常事態で燻んだ空からは雷鳴が響き渡り、砕けた地面からは溶岩が至る所から吹き出していた。

 

 改めてその絶望的な光景を、目の当たりにした悟空。

 

 

『爆発する……』

 

 

 ポツリと呟く様に吐き出されたその言葉は、悟空自身もはや打つ手がない事への諦めの表れだったのかもしれない……。

 

 

『ちくしょおおおおお…………!!!』

 

 

 黄金のオーラを撒き散らしながら、力の限り咆哮をあげる悟空。

 その切ない咆哮は無人となった、滅びが進むナメック星に虚しく響き渡る……。

 

 

「カカロット……」

 

 

 その姿を地獄から見ていたギネの目から、ついに涙が溢れ落ちていた……。

 周りのサイヤ人達も皆、悲痛の表情でその姿を見つめていた。

 

 自分達の悲願を果たしてくれた最後の同胞が、こんな事で死なねばならない事に、彼らも少なからず思うとところがあったのだろう。

 しかし、いかに伝説の超サイヤ人といえども、サイヤ人である以上宇宙空間では生きられない。

 もはや、最後の同胞に残された運命は”死”だけだろうと、誰もが思っていたその瞬間だった。

 

 

「ん?あれは……、まさか……!!」

 

 

 1人の男が水晶の端に小さく映っていた、その存在に気がついた……。

 その驚きが混じった声に、皆の視線が男の元へ集まる……。

 

 

「どうしたんだい!?バーダック」

 

 

 ギネが声の主であるバーダックに声をかけるとバーダックは、水晶の端を指差す。

 

 

「あの端に映っている小さい玉、1人用のポッドじゃねぇか?」

「えっ!?」

 

 

 その言葉にギネは弾かれた様に、バーダックが指差す場所に視線を向ける。

 

 

「あっ!!!」

  

 

 フリーザの宇宙船の近くであるその場所に、確かに5つの小さな玉が映し出されていた。

 その丸い物体はフリーザ軍に族した事がある者なら、お馴染みの1人用の小型宇宙船だった。

 なぜそれが、こんなところにあるのかというと、フリーザによって召集されたギニュー特戦隊が乗って来たものだった。

 

 

「あれだったら、もしかしてまだ動くんじゃねぇか……??」

 

 

 バーダックのその言葉に地獄のサイヤ人達に、希望の光が宿る。

 しかし、肝心のカカロット事孫悟空は、そのポッドの存在に気づいていなかった。

 

 

「お願い、気づいてカカロット!!あんたは助かるんだよっ……!!!」

 

 

 そんなギネの叫びも虚しく、悟空は悔しさに耐える様に俯き身体を震わせ、ナメック星を見つめていた。

 

 そして、ついにその時はやって来た……。

 ナメック星が収縮を続けた結果、ついに限界に達したのか圧縮したそのエネルギーを解放しようと、大地を突き抜け強力なエネルギーが至る所から吹き出す。

 これまでなんとか形を留めていたナメック星だったが、内包したエネルギーに耐えきれずどんどん姿を崩壊させてゆく。

 

 先程までは異常事態でナメック星全体を薄暗い空が覆い、薄暗かったが今や大地から吹き出したエネルギーが放つ光によって、星全体が光に包まれていた。

 その光景はまるで、ろうそくの炎が消える前に一瞬大きくなる様に最後の輝きを最大限に放とうとしている様だった。

 

 

『くそっ……!!もう……どうしようもねぇのか…………』

 

 

 刻一刻と進むナメック星の滅びを見ながら、悟空は悔しさを滲ませた言葉を吐く。

 

 

「カカロット!!お願い気づいて……」

「あいつ、地球育ちだから、ポッドのこと知らねぇんじゃねぇか??」

「くそっ!!どうにかあいつに伝えられねぇのかよ……!!」

 

 

 地獄からその様子を伺っていたサイヤ人達は、すぐ近くに助かる術があるのに伝えられない事に苛立ちを感じ得なかった。

 

 

「どうするのさ?もう、本当に時間がかないよ……。

 いくら超サイヤ人と言っても、宇宙空間に投げ出されたらカカロット死んじまうよ……!!」

「つっても、どうしようもねぇじゃねぇか……」

 

 

 トーマやセリパ、パンブーキン等が、どうにか悟空に伝える方法がないか模索している中、ギネは1人絶望に押しつぶされそうになっていた。

 ようやく、映像とはいえ再会出来た息子が死ぬ姿を目の当たりにしなければならないとは……。

 世界はどこまで残酷なのか……と、思わずにはいられなかった。

 

 ギネが世界の不条理に打ちのめされている時、いよいよ僅かに形を保っていた悟空が浮いている下の地面が本格的に轟音を立てながら崩れ落ち、溶岩の中に沈み始めた。

 それに伴い、半分ほど地面の中に埋もれていた宇宙船や近くにある、ギニュー特戦隊が乗って来た5つの1人用ポッドも溶岩の中に沈もうとしていた。

 

 

「くそっ……」

 

 

 その様子を見ていたバーダックの悔しそうな声を聞いたギネは、自然と叫び声を上げていた。

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 ギネの悲痛のこもった叫び声が上がった時、偶然なのかもしれないが、水晶の中の俯いていた悟空がピクリと反応を示した。

 そして、漠然と眺めていた崩れ落ちる地面の破片の中に紛れた、その存在についに気がついた……。

 

 

『あれはっ!?』

 

 

 それに気づいてからの悟空の行動は素早かった。

 一瞬で黄金色のオーラを全身に纏った悟空は、瞬時に舞空術で今尚溶岩へと落下している1人用ポッドへと飛び出した。

 

 

「やった!!気づいた!!」

「よっしゃあーーーーーっ!!!」

「急ぎな!!カカロットッ!!!」

 

 

 悟空の行動でポッドの存在に気づいた事を理解した、ギネ達は歓喜の声を上げる。

 

 

『まにあえーーーーーーっ!!!』

 

 

 叫び声をあげながら飛翔する悟空は、何とかポッドが溶岩に落ちる前にたどり着くことができた。

 瞬時にポッドの中に身を滑り込ませると、適当に左右の壁やハッチの裏側にあるスイッチを適当に叩く。

 すると、適当に叩いたスイッチの中に発進スイッチがあったのか、入り口のハッチが閉じ始めた。

 

 

「やったぁーーーーーっ!!!バーダックやったよ!!!

 カカロットは助かるんだ!!!」

「あぁ……、そうだな……」

 

 

 水晶に映し出された、ポッドを見てギネは満面の笑みを浮かべてバーダックに飛びつく。

 ギネに飛びつかれバーダックは、苦笑を浮かべながらも穏やかな声でそれに応える。

 

 

「ギネ見ろ、ポッドが飛んでいくぞ……」

 

 

 バーダックの言葉でバーダックから離れたギネは、再び視線を水晶に向ける。

 水晶の中では、ハッチが閉じたポッドが落下を止め、空中に静止している姿が映し出されていた。

 もう間も無く、宇宙へと猛スピードで飛び出すだろう。

 

 ギネはポッドの入り口に当たる部分に備え付けられた、窓ガラスに視線を向ける。

 そこには、よく見えないが傷だらけとなった息子が確かに存在しているのが分かった。

 どうやら、ポッドが起動した事で安心したのか、超サイヤ人は解除されて元の状態に戻っている様だった。

 

 しかも、これまでの疲労が一気に噴き出したのか、ポッドの中の息子はかなりぐったりしており半分気を失っている様だった。

 

 

「お疲れ様、カカロット……。ゆっくり休みな……え?」

 

 

 ギネが労いの言葉を口に出した瞬間、信じられない事が起こった。

 ギネは目の前に光景に、驚きを隠せなかった……。

 水晶の中のポッドの中にいる息子を見つめていたら、水晶の中の息子がこちらに視線を向けてきたのだ……。

 

 最初は偶然かと思った……。

 しかし、水晶の中の息子は一瞬驚いた顔をしたと思ったら、次の瞬間満面の笑みを浮かべたのだ。

 

 

「えっ……?カ……カカロット……?」

 

 

 だが、奇跡の時間は長くは続かなかった。

 ギネが驚きのあまり息子の名前を口に出したタイミングで、ポッドは宇宙へ向かって猛スピードで飛び出したのだ。

 

 

「あ……」

 

 

 それを呆然と見ている事しか出来なかったギネ。

 水晶の中のポッドは滅びゆくナメック星の中を力強く宇宙へと進んでいく。

 その光景を見たギネは、ふいに昔の事を思い出していた……。

 

 数十年前も彼女は息子を、カカロットをこうやって見送ったのだ……。

 あの時は、いつか必ず迎えに行くと彼女は心に決め、息子を見送った。

 しかし、それは終ぞ叶う事がなかった……。

 

 だが、息子は送られた星で立派に成長して、彼女の前に姿を現した……。

 だったら、母である彼女に出来る事はただ1つだった。

 

 

(あんたは、地球で幸せになりな。カカロット……)

 

 

 母の願いを託して力強く進みゆくポッドが、水晶から姿を消した。

 その瞬間、水晶の中からこれまで聞いた事がないほどの爆発音と、閃光が地獄を照らした。

 爆発音が収まり、地獄のサイヤ人達が水晶に視線を向けると、そこには何も映し出されていない、彼らが見慣れたいくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶だけが、変わらず存在するだけだった。




次でラストだぁー。
長かったー。


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フリーザ編-Ep.18 Epilogue

お待たせして申し訳ない。
2話連続投稿なので、お気をつけて。
ここまでお付き合いくださった、全ての読者の皆さんに感謝を。

最終話楽しんでくれたら嬉しいです。


 ここは、地獄。

 生前罪を犯した者達が行き着く、最終地。

 ここでは生前に犯した罪を償う為に、さまざまな悪人や罪人達が存在している。

 

 そんな場所を1人の男が歩いていた。

 彼の名前はバーダック、かつてフリーザの命を受け仲間達と様々な星々を力で制圧したサイヤ人だ。

 

 しばらく歩いていると、彼の目の前にいくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が姿を現した。

 そして、その前に1人の女性が佇んでいるのが見えた。

 彼がこんな所までわざわざやって来たのは、この女性を迎えに来たためだった。

 

 

「こんなところで何やってんだ、ギネ?」

 

 

 バーダックは水晶の前に佇む自身の妻に声をかける。

 

 

「バーダック……」

 

 

 声をかけられたギネは水晶から視線を外し、来訪者である自身の夫に視線を向けるが、すぐに視線を水晶へと戻す。

 ギネの横にやって来たバーダックもギネと同じ様に視線を水晶へ向ける。

 そこには、いつもと変わらず後ろの風景を歪めて映している巨大な水晶が存在していた。

 

 だが、彼らは知っている……。

 この水晶が1年以上前に映し出した奇跡を……・。

 

 

「あれから、もう1年以上経ってんだな……」

「うん……」

 

 

 バーダックがポツリと呟いた言葉に、相槌を返すギネ。

 

 

「お前、あれからちょくちょくここにやって来てるみてえだが、何か気になる事でもあんのか?」

 

 

 1年以上前、彼らが見上げている水晶は、現世で起こったとある戦いを映し出した。

 その戦いは、彼ら2人にとっても、とても大きな意味を持つ戦いだった。

 そして、激闘の末、彼らが最も望んだ形で戦いは終結する事ができた。

 

 だが、ギネにとっては未だ心残りがある様で、戦いが終わって1年以上経っているにも関わらず、足繁くこの水晶にちょくちょく通っているのだ。

 当然、それを夫であるバーダックが知らないわけがなかった。

 そして、その心残りというモノにも、大体の予想が付いていた。

 

 

「カカロットの事か……」

 

 

 バーダックが口にした名前を聞いた瞬間、ギネの肩がピクリと震える。

 その反応を見て、バーダックはやはりかと、ため息を吐く。

 彼らの息子であるカカロット事孫悟空は、1年以上前にナメック星で、彼らサイヤ人の宿敵である宇宙の帝王であるフリーザと激闘を繰り広げた。

 

 その戦いはあまりに凄まじく、最期は戦っていた星まで爆発して消え去ってしまったほどだ。

 彼らの息子はその戦いに勝利こそしたが、星が爆発する寸前にギリギリ脱出したという経緯を持つ。

 バーダック達は目の前の水晶が映し出した、ナメック星の爆発をその目で見ている。

 

 その凄まじさに、ギリギリ脱出したカカロットが爆発に巻き込まれたのではないかと、ギネは心配しているのだ。

 だから、一目だけでも無事な息子の姿が見たくて、1年以上足繁くこの水晶に通っているのだ……。

 

 だが、この水晶は滅多な事では現世を映す事はない事で有名な水晶でもある。

 あの戦いを映し出して以来、この水晶が現世を映し出した事はなかった。

 それ以前に、1年以上前に戦いを映し出す以前は、果たしてなん年前にその水晶が現世を映したのかすら、定かでないのだ……。

 

 それを知っているから、バーダックはため息を隠せなかった。

 それに、何もこの水晶を頼らなくても、悟空の生存を確かめるだけだったら方法は他にもあるのだ。

 

 

「ギネ、カカロットの生存が知りたければ、閻魔に聞きに行けばいいんじゃねぇのか?」

 

 

 バーダックの言葉にギネは弾かれた様に、顔をこちらに向ける。

 その表情は正に”その手があったか!”と書いてある様だった。

 それを見て、またしてもバーダックはため息を吐きたくなった。

 

 まぁ、地獄の住人である彼等が閻魔大王に謁見するのは、色々な手順が必要で正直面倒なのだが、不可能ではないのだ。

 それに、いつ映し出すか分からない水晶の前で待ち惚けを喰うよりかは早いだろうし、確実だろう。

 

 

「おら、早速閻魔に会える様に地獄の鬼に話をつけに行くぞ」

「うん!あ、でも……」

 

 

 バーダックの提案に笑顔で答えたギネだったが、すぐに表情を暗くする。

 バーダックがどうした?と顔で訴えるとギネは、少し悲しい笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「いや、もうあの子の姿を見る事が出来ないんだなぁーって、ちょっと思っただけさ……」

「しょうがねぇさ……、オレ達は死者なんだからよ……」

「うん……、そうだね……。

 寧ろ1度姿が見れただけでも、奇跡……なんだよね……。

 それでも、少し寂しいなぁ……って、思っちゃうんだよ……」

 

 

 本来は自分が愛情を持って育てたかった息子にようやく、映像とはいえ会えたのだ。

 サイヤ人の中でも異端の存在であるギネの事をよく知るバーダックは、何となくだがギネの内心を察する。

 

 

「ギネ……」

 

 

 察する事は出来ても、バーダックもギネも既に死者なのだ。

 どうすることもできないが故に、バーダックは複雑そうな顔でギネを見つめる事しかできなかった。

 そんなバーダックに気づいたのか、ギネは無理やり笑顔を浮かべる。

 

 

「あはっはっはっ……、あたし、何言ってんだろうね?

 バーダックも気にしないでくれていいよ……。

 さ、閻魔大王に会える様に鬼に頼みに行こ、行こ!!」

 

 

 ギネは、バーダックにまくし立てる様に言葉をかけると背を向け歩き出す。

 その姿をバーダックは痛々しいものを見る様な目を向ける。

 そして、改めて水晶に目を向けるが、水晶は変わらず後ろの風景を歪めて映しているだけだった。

 

 

「無駄か……」

 

 

 そんな事をため息と共に呟き、バーダックはギネに追いつこうと、後ろを振り向いたその瞬間だった。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 後ろから以前聞いた事がある、ノイズのような音が聞こえた。

 慌てて振り返ってみると先ほどまで風景を歪めて写しているだけだった水晶が光り、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 

 

「こっ、これは!?」

「どうしたんだい!?バーダック!!」

 

 

 異変に気付いたギネも走って、バーダックの元へやって来た。

 そして、水晶の異変に気付いたのか驚愕の顔をバーダックに向ける。

 

 

「バーダック……、これ……」

「ああ……、前にフリーザの野郎との戦いを映し出した時もこんな感じだった……」

 

 

 徐々にノイズが収まり明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を水晶は映し出した。

 しかし、以前と違い音は一切聞こえてこない。

 

 

 それは、とても綺麗な青空だった。

 その青空を切り裂く様に丸い物体が猛スピードで落下していく……。

 そして、それは程なく凄まじい量の砂煙を上げ、地面に激突した。

 

 音は聞こえてこないが、激突した時は相当な轟音が響き渡った事だろう。

 さらに、その衝撃の威力を証明する様に、丸い物体が激突した半径10mくらいはクレーターとなっていた。

 そんな大規模破壊を行なった、丸い物体の前面がゆっくりと開く。

 

 そして、次の瞬間1人の男が変わった服装を身に纏い姿を現した。

 その男こそ、ギネが1年以上無事を祈り続けた息子だった。

 

 息子の元に10人近くの人間(おそらく息子の仲間達だろう)が、笑顔で出迎える様に近づいていくのが映し出されていた。

 その中には彼の息子もいる様だった。

 

 仲間に帰還を祝福された息子は、ナメック星での戦いでは見せた事がないほどの優しい顔をしていた。

 きっと、こちらが彼の本来の顔なのだろうと、ギネは瞬時に理解した。

 その幸せそうな光景を目にして、ギネは長年自分の胸の中にあった蟠りが消え去っていくのを感じた。

 

 それは、ナメック星での爆発に巻き込まず命が助かった事もそうだが、何より息子が地球で幸せに生活している事が知れたのが嬉しかった。

 

 

「カカロットは、地球で楽しくやってるんだね……。

 あの時、地球へ送って本当に良かった……」

「ああ……」

 

 

 満面の笑顔から吐き出されたギネの言葉に、バーダックも穏やかな声で答える。

 もう少し、この幸せに包まれた光景を見たかったギネとバーダックだったが、今回の奇跡の時間はどうやら長くは続かない様だった。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 今まで現世を映し出していた水晶が、またしてもノイズのような音を発したと思ったら、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになってしまったのだ。

 そして、程なくしていつもと変わらない、後ろの風景を歪めて映すだけとなってしまった。

 

 

「終わっちゃったね……」

「ああ……」

 

 

 2人は今や何も映し出していない水晶を見つめながら、呆然と呟いた。

 たった、数分だけの奇跡だったが、それでもこの2人には十分すぎるほどの奇跡だった。

 その証拠に2人の口元には、確かに笑みが浮かんでいたからだ。

 

 しばらく、2人は水晶を見つめていたが揃って水晶に背を向け歩き出した。

 彼らが知りたかった全てを知る事が出来た故に……。

 

 そうして、今度こそ水晶の前から最後の地獄からの観戦者が姿を消したのだった……。




一応これの続きみたいな話があるので、それを今後空いている時間にでも書いていこうと思います。

今日か明日には活動報告で今後の活動というか、執筆について書こうと思いますので、良かったら見てください。

最後までお付き合いありがとうございました。

Thank you.


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Story of Bardock
Story of Bardock-Ep.01


お久しぶりです。
てなわけで、フリーザ編After Storyがはじまるよー。


 ここは、閻魔界。

 見渡す限り黄色い雲に覆われた世界。

 その世界には1つの宮殿が立っていた。

 

 あらゆる者は死ぬと、まずここへ訪れる事になる。

 その宮殿の中で額に”閻”と書かれた二本の角の生えた帽子を被り、背広にネクタイの洋装をしている、身長10mはある巨体の男が彼の体格に合わせた、巨大な木製の机に座っていた。

 机の上には数多の書類や、台帳がのっかっており彼の仕事量がそれだけで伺える。

 

 

「天国行き……、地獄行き……、地獄行き……、天国行き……、地獄行き……」

 

 

 彼は、自身の前に次々と現れる魂の生前の行いを、手元の閻魔帳に基づいて瞬時に見極め、天国行きか地獄行きかの決定を次々と行っていく。

 この男こそ、この世とあの世の法則を司り、死者の魂に絶対の権力とあの世を司る力を持つ閻魔大王だ。

 閻魔大王が判決を下し、ハンコを押した死者の書類が彼の机の下に用意されている箱に次々と収まっていく。

 

 

「今日の大王様は少し厳しいオニ……」

 

 

 その書類を見て、箱の前で待機していた、普通の人間サイズの赤鬼が呟く。

 ちなみに彼はワイシャツにネクタイ、スラックスの洋装をしている。

 それは彼だけに限ったことではなく、閻魔大王の元で働く鬼達は、皆彼の様に人間サイズでワイシャツにネクタイ、スラックスの洋装という、まるで日本のサラリーマンみたいな格好をしているのだ。

 

 

「おや?書類が……」

 

 

 急に書類が上から降ってこなくなり、疑問に思った赤鬼だったが、その答えが上司の口らか齎される。

 

 

「なんだ?珍しい……、もう死者がいないではないか」

 

 

 閻魔大王が発した言葉に従い、赤鬼が閻魔大王の前に顔を向けると死者の魂が1つもなく、閑散としていた。

 この閻魔宮は第七宇宙と分類される宇宙の全ての死者の判決を行うため、普段は死者の魂で溢れかえっているのだが、ごく稀にこの様な日がある。

 

 

「ふむ、どうやら今日は宇宙が平和だと言うことだな。良いことだ」

 

 

 閻魔大王は嬉しそうに強面の顔に笑みを浮かべる。

 彼自身が言った様に、彼の前に魂が現れないと言う事は、宇宙の全ての命が健やかである証拠なのだ。

 

 

「そうですねオニ。しかし、ここ1年ほど前から徐々に死者の数が減っていましたが、最近は急激に減った様な気がしますオニ……」

 

 

 赤鬼は閻魔大王に同意しつつ、ここ最近の死者の数を思い出していた。

 

 

「孫悟空がナメック星でフリーザを下してから、フリーザ軍が機能しなくなったのが原因だろうな……。

 あの戦いで、フリーザ軍の幹部も根こそぎ死んでしまったからな……。

 まぁ、フリーザ自体はナメック星では何とか一命を取り留めたが、復活するまでに相当な時間を要したみたいだからな。

 その間は、いくら大王であるコルドがいたとはいえ、以前の様な大々的な行動は取れなかったのだろう……」

 

 

 閻魔大王は喋りながら、1年以上前自身が味わった衝撃を思い出していた。

 宇宙を荒らし回っていたフリーザ軍の戦士や、幹部達が次々と自分の前に魂となって現れたのだ。

 あの時は、久方振りに驚いたのを覚えている……。

 

 

「だが、決定的だったのは地球で未来からやって来た少年が、フリーザとコルドの両名を討った事だろうな……。

 それによって、宇宙を支配していた奴ら一族は、ほぼ滅んだ。

 残った残党達ではフリーザや幹部達が行なっていた様な大規模な破壊や、略奪は出来んだろう」

 

 

 フリーザとコルドが揃って閻魔宮にやってきた時は、あまりの事態に閻魔大王達は開いた口が塞がらないほど驚いた。

 しかも、この2人を殺したのが未来人等というおまけ付きだ。

 正直、頭が痛くなった……。

 

 人間が時を行き来するのは本来重罪だ……。

 もし、これがあのお方が目覚めている時に行われていたら、あの未来人の少年は間違いなく破壊されていただろう……。

 と、閻魔は内心で考えていた。

 

 今回はフリーザとコルドという宇宙の中でもトップクラスの罪人を倒してくれた褒美として、黙認したのだ……。

 それに、今罰しなくても、死後、彼が閻魔宮に訪れれば、どちらにしろその時に罰を与えねばならない事は確実なのだ。

 時の行き来というのは、それだけ重罪なのだ……。

 

 だから、何も早急に罰する必要は無いと判断したのだ。

 それに、件の少年は世界にとって、とても重大な使命を帯びている様な予感を閻魔大王は感じていた。

 

 フリーザを切っ掛けに、とある少年のことに思いを馳せていた閻魔大王だったが、その思考は下からの声で中断することになる。

 

 

「大王様、それでは今後は宇宙は平和になるんですか?オニ」

 

 

 赤鬼からの質問に、閻魔大王はしばし考えた後、残念そうに静かに首を振る。

 

 

「どうであろうな……。今はフリーザやコルドといった絶対的な支配者がいなくなり、落ち着いておるだけやもしれん……。

 奴らの椅子を狙って宇宙中の力ある悪党達が争い出せば、その時は多大な犠牲が出るやもしれん……。

 ワシとしては、このまま宇宙の平穏が少しでも長く続いて欲しいものだが……」

 

 

 閻魔大王は人間の人生とは比較にならない程、長い期間存在し続けて来た。

 そして、その役職柄、これまで宇宙中の様々な死者に直に合い裁いて来た。

 それは言い換えれば、この宇宙の歴史の経過を見て来たも同義なのだ。

 

 長い事宇宙の歩みを見て来た閻魔大王だらからこそ、実感を持って言えることがある。

 永遠に続く平穏など無いと……。

 フリーザ達が行って来た暴力による悪もあれば、精神的に苦痛を与える悪だってある。

 

 形は違えど、悪は必ず宇宙に存在する。

 そして、それを正す者が現れ平穏をもたらす。

 その繰り返しなのだ……。

 

 だが、閻魔大王はそれが悲しい事だとは思っても、悪い事だとは思っていない。

 何故ならそれは、この宇宙の者達が成長する為に必要な事だというのを理解しているからだ。

 今回のフリーザやコルドといった巨悪の存在も、今後の宇宙にとって必要な存在だったのだろう……。

 

 

「大王様〜!!!」

 

 

 思考の海に沈んでいた閻魔大王だったが、地獄へ通じる出口から息を切らせながら走って来た、メガネを掛けた小太りな青鬼の声で現実に引き戻された。

 

 

「なんだ?騒々しい」

「はぁ……、はぁ……、それが……、地獄の者が……、だ……大王様に、謁見を申し出ておりましてオニ……、はぁ……」

 

 

 閻魔大王が青鬼に視線を向けると、青鬼は息を切らせながら要件を告げる。

 内容を告げられた閻魔大王は、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 

「ふむ、地獄から謁見を申し出る者は偶におるが、何故お前は、そんなに慌てているのだ?」

 

 

 閻魔大王からしたら、言葉にした通り地獄からの謁見はそこまで珍しいことでは無い。

 だが、目の前の青鬼はわざわざ走ってやって来た。

 その意味が分からなかったのだ。

 

 

「そ、それが……謁見を申し出た者が、早く伝えないと自ら乗り込むぞ!と力ずくで突破しようとしましたので、走ってやって参りましたオニ……」

 

 

 閻魔大王は青鬼の言い分に頭が痛くなった。

 

 

「はぁ……、情けない……。

 貴様ら、それでも地獄を管理する鬼か!!!

 地獄の者の謁見はしかるべき手順を踏む様に、取り決めてあったでろうが!!!」

 

 

 閻魔大王の一喝で、青鬼と赤鬼は揃ってビクッ!!と身体を震わせる。

 そんな鬼達を尻目に閻魔大王は言葉を続ける。

 

 

「それで……、ワシに謁見を申し込んで来たのは何者だ?」

「そ、それが……、バーダック……という者でしてオニ……」

 

 

 ギロリと強面の顔を向けられた青鬼は、冷や汗を流し、たどたどしく答える。

 

 

「バーダック……、どこか覚えがある様な……」

「サイヤ人ですオニ……」

 

 

 謁見者の名前を聞き、記憶に引っ掛かりを覚えた閻魔大王は顎に手をやりながら思考するが、すぐに思い出す事は出来なかった。

 しかし、青鬼から齎された追加情報で、1人の男を思い出した。

 たった1人で宇宙の帝王フリーザに挑み、敗れ去った男を……。

 

 

「そうか……、あの時の……」

 

 

 宇宙の帝王フリーザに直接戦いを挑んだ者は意外と少ない……。

 大抵フリーザに行き着く前に、周りの兵士や幹部達に殺されてしまうからだ……。

 しかし、彼の男は男の一族が辿った結末を鑑みれば、仕方のない事なのかもしれないが、無謀にも直接フリーザに戦いを挑み、そして戦う機会を得た。

 

 結果だけ言えば、男は宇宙の帝王の前にあっさりと敗れ去った……。

 しかし、彼の男が命を懸けて繋いだ命と願いは、確実に次なる命へ受け継がれた……。

 そして、1年以上前に男の宿願はついに果たされる事となった……。

 

 男の息子の手によって……。

 

 

「このタイミングでやってくるとは、何かの縁か……」

 

 

 先ほどまで自身達がフリーザの事を話していた事を思い出した閻魔大王は、妙な縁を感じてならなかった……。

 それに、少なからず興味もあった。

 自身の弟弟子にも当たり、あのフリーザを倒した孫悟空の父親が自身に何の用があるのか……。

 

 

「ふむ、よかろう。本来は正式な手続きが必要だが、今日は見ての通り時間も空いておる。その者を連れて参れ」

「はっ、はいオニ!!」

 

 

 閻魔大王の言葉を受けた青鬼は急いで回れ右をした後、元来た道を駆けていった。

 その様子を見ていた赤鬼は、閻魔大王に声を掛ける。

 

 

「よろしかったのですか……?オニ」

「まぁ、たまにはよいじゃろう……」

 

 

 それから程なくして、青鬼と共に1人の男が閻魔大王の前に姿を現した。

 

 

「なるほど……、息子によく似ている……。

 いや、あいつが貴様に似たのか……。

 久しいな、バーダック」

 

 

 閻魔大王は自身の前に姿を現した男を見て、1年以上前にやってきた自身の弟弟子である孫悟空と目の前の男が確かな血縁者である事を改めて実感した。

 何故なら男と孫悟空は、殆ど瓜二つと言って良いほど似通っていたからだ。

 しかし、確かな違いも存在する。

 

 頬についた十字傷、目付き、額に巻いている赤いバンダナ、そして何より纏っている雰囲気が孫悟空のそれよりはるかに刺々しい。

 

 

「ほぅ……、あんたがあいつの事を知っていたとはな、閻魔大王……。

 そう言えば、ラディッツのバカと殺り合って、1度くたばったんだったか……、カカロットは……」

 

 

 閻魔大王の言葉に意外そうな表情を浮かべた後、すぐに原因に行き着いたバーダックは言葉を発する。

 バーダックの言葉に頷いた閻魔大王は、さっそく要件を聞くべき声を掛ける。

 

 

「それで、ワシに何の用だ?バーダック」

 

 

 閻魔大王に問われたバーダックは、一瞬話す事を躊躇する様な素振りを見せるが、意を決したのか口を開いた。

 

 

「実は……あんたに聞きてぇ事がある……。

 あんたは、オレが死ぬ前に持っていた力について知っているか?」

「お前が持っていた力……?……だと」

 

 

 バーダックが発した言葉の意味を上手く理解できなかったのか、閻魔大王は首を傾げる。

 

 

「ああ、オレは生前仲間達と共に、とある星を襲撃した。

 そこで、その星の生き残りに不意討ちを受け、その後から未来を垣間見る力を手に入れたんだ」

「ふむ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いた閻魔大王は、しばし顎に手を当て考えた後、自身の机の上に乗っている閻魔帳を捲りだす。

 いくつかのページをめくった後、目的のページを見つけたのか、手を止めそのページに目を通し始める。

 

 

「なるほど……、惑星カナッサを襲撃した時に受けた攻撃の事だな……。

 カナッサ星人の「幻の拳」によって、貴様は予知能力の力を得た訳じゃな?」

 

 

 閻魔帳から目を離した閻魔大王は、バーダックに視線を向ける。

 向けられた視線に頷く事で応えたバーダックは、更に言葉を続ける。

 

 

「オレはその力のお陰で、当時フリーザがオレ達サイヤ人に何をするつもりのか、部分的にだが知る事が出来た……。

 そして、まだ当時赤ん坊だったカカロットが、成長してフリーザの野郎と戦う運命にあるって事もな……。

 だから、オレはギネの反対を押し切り、カカロットを地球へ送ったんだ……。

 オレ自身は、その後、あんたも知っての通り惑星ベジータ共々フリーザの野郎の手によって消されちまった訳だがな……」

 

 

 言葉を切ったバーダックに、これまで黙って話に耳を傾けていた閻魔大王は、視線で先を促す。

 ”ここからが本題なのだろう?”と意味を込めて。

 視線の意味を正確に捉えた、バーダックは再度口を開く。

 

 

「死んで地獄に来てしばらく経った時に、ふと気付いた事なんだが……、死ぬ間際に散々オレに未来を見せ苦しめたあの力が、地獄に来てからは1度も発動していない事に……。

 まぁ、あの力自体元々オレ自身の力じゃねぇから、死んだ事ですっかり無くなっちまったモンだとオレは考えていた。

 実際、それから数十年1度も発動しなかったしな……」

 

 

 ここで言葉を区切ったバーダックは、静かに目を閉じる……。

 その様子は、何かを思い出そうとしている様だった……。

 しばらく、そうしていたバーダックだったが再び目を開けると口を開く。

 

 

「あんたも知ってるよな?1年前に起きたナメック星での戦いのことは……」

「ああ・・」

 

 

 バーダックの問いに、頷く閻魔大王。

 

 

「実は……、オレや地獄にいた他のサイヤ人達も、あの戦いを見ていたんだ……」

「なっ、何だと!?どうやってだ!?」

 

 

 閻魔大王はバーダックの言葉に驚き、立ち上がる。

 

 

「あんたも知ってんだろ?地獄にあるあのデケェ水晶の事はよ……」

 

 

 立ち上がった閻魔大王に冷静に言葉を告げるバーダック。

 だが、バーダックの言葉に今度は唖然とした表情を浮かべる閻魔大王。

 

 

「まさか……、あれが起動するとは……。

 いや……、周りにいたのが貴様らサイヤ人達なら、可能性はあるか……」

「?……何を言ってるのか、分からんが、話を続けていいか……?

 というより、これからが本題だ……」

「あ、ああ……、すまんかった……。続けてくれ」

 

 

 椅子に座りなおした閻魔大王を見て、話を再開するバーダック。

 

 

「どういう切っ掛けだったかまでは詳しく覚えちゃいねぇが……、あの戦いを見ている最中、数十年ぶりにオレに未来予知の力が発動しやがった……。

 いや、あれは……正確には未来予知……と言って良いのか、分からねぇんだが、少なくともあの瞬間……オレの意識は……、確かに地獄以外の場所に存在してやがった……」

「ふむ……、それで、貴様は何を見たんだ……?」 

「あー……」

 

 

 閻魔大王の言葉を受けたバーダックは、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる……。

 その表情を見て不思議そうに首を傾げる閻魔大王。

 

 

「ん?どうした?ここからが、本題なのだろう??」

「あー、まぁ……、そう……なんだけどよ…………」

「なんだ?やけに歯切れが悪いのう……」

 

 

 バーダックの反応に、本日初めてまともな会話をした閻魔大王からしてみても、現在の様子は目の前の男には似合わないと感じた。

 目の前の巨漢の男からの視線に観念したのか、バーダックは一つため息をつくと再び口を開く。

 

 

「オレがあの時見たのは……、何処か別の惑星で……2人の野郎が向き合ってやがったんだ……。

 1人は……、金髪で……翠色の瞳をした野郎……。

 もう1人は、どこかフリーザに似た感じの野郎……」

「ふむ……、フリーザに似た者という部分については、多少気にはなるが……、それ以外は特に気になる様な予知ではない気がするのう……?」

 

 

 閻魔大王の視線は、”何がそんなに気になっているのだ?”と告げていた。

 そんな閻魔大王の反応を予測していたのか、バーダックも同意する様に軽く頷いた後、再び言葉を発する。

 

 

「確かに、オレも最初この予知を見た時は、金髪の野郎よりもフリーザに似た野郎の方が気になった……。

 だが……、奴の……カカロットがフリーザとの戦いで見せたあの姿を見てから、オレはもう1人の金髪の野郎の事が頭から離れなくなった……」

「あの姿とは……、貴様等サイヤ人に伝わる伝説……”超サイヤ人”の事だな……?」

「ああ……」

 

 

 バーダックは地獄から水晶を通して、実際に孫悟空が伝説を体現してみせたのをその目で見ていた。

 また、閻魔大王はフリーザが死んで閻魔宮に来た際、彼の審判を行なった時、生前のフリーザの行いが記述された閻魔帳を読み、孫悟空がナメック星で”超サイヤ人”に目覚めたのを知ったのだった。

 そして、孫悟空以外にも超サイヤ人が存在している……、正確には今後現れる事も……。

 

 

「それで、お前は息子が超サイヤ人になった姿を見て、何故自分の予知に出てきた金髪の男が気になりだしたのだ……?」

 

 

 ここまでバーダックの話を聞いても、閻魔大王にはバーダックが言わんとしている事を正確に汲み取ることが未だ出来ていなかった。

 

 

「あんた、カカロットが超サイヤ人になった事は知っている様だが……、あいつの姿がどんな風に変化したのかは、知っているのか……?」

「いや、ワシはフリーザの裁判で閻魔帳に記述されていたモノに目を通しただけ……、まっ、まさか……!!」

 

 

 バーダックの問いに答えていた閻魔大王は、言葉を発している内に1つの推測が頭に浮かんだ。

 その瞬間、驚愕の表情を浮かべバーダックに向ける。

 バーダックも、閻魔大王の頭に浮かんだ推測を察したのか、同意する様に軽く頷く。

 

 

「ああ……、あんたが今頭に浮かんだ通りさ……、オレが予知で見た金髪の野郎……。

 そいつが、超サイヤ人へと変身したカカロットにそっくりだったのさ」

「むぅ……」

 

 

 バーダックが発した言葉に、閻魔大王は難しい顔を浮かべながら顎に手を当てる。

 

 

「つまり、貴様の見た予知と言うのは、息子がまたしてもフリーザに似た存在と戦う……というものだったのか?

 だが……、そんな予知だったら、お前がわざわざワシの所に相談になどやって来るとは思えんのだがのう……?」

 

 

 現状伝説の超戦士”超サイヤ人”に変身できるのは、カカロット事孫悟空だけだ。

 それを踏まえて、閻魔大王はバーダックの予知の内容に当たりをつけるが、目の前の男がそんな事の為にわざわざ自分の所にやって来るとは到底思えなかった……。

 きっと、この話には更なる続きがあるはずだと、閻魔大王は予想した。

 

 そして、その予想は正解だった。

 

 

「ああ、あんたの予想は正解だ……。

 もし、オレの予知に出てきた野郎がカカロットだったら、オレはわざわざあんたの所になんて来やしねぇ……。

 あの予知に出てきた、超サイヤ人は別のやつだ……」

「なるほど……。その口ぶりからすると、お前はその超サイヤ人の正体に心当たりがありそうだのう……?

 そして……、その人物があり得ない人物だったから、言葉にするのを躊躇っていた……、そういう事か?」

 

 

 閻魔大王が発した言葉にバーダックは、苦虫を噛みしめた様な表情を浮かべる。

 

 

「ちっ、白々しいぜ!その口ぶりからすると、あんたもその超サイヤ人の正体に大凡の予想はついてんだろう?」

「まぁな、さて……、それじゃあ答え合わせといこうじゃないか……、バーダック……。

 貴様の予知に出てきた超サイヤ人……、そいつは……、何者だ……?」

 

 

 閻魔大王の言葉を受け、バーダックは静かに目を瞑る。

 それはまるで、記憶の中にある予知を思い出している様だった……。

 数秒ほど目を瞑っていたバーダックだったが、静かに目を開け口を開く。

 

 

「そいつは……」

 

 

 この後の閻魔大王との会話によって、バーダックの運命は大きく変わることになる……。




次の投稿はマジで未定です。
いつになるかしら?


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Story of Bardock-Ep.02

オリジナルの話ってめちゃくちゃ疲れる。
お待たせして申し訳ありませんでした。
それでは、どうぞ。


「そいつは……、頬に十字傷を持ち、額に赤いバンダナを巻き、フリーザ軍の戦闘服を纏ってやがった……。

 髪型、そして髪と瞳の色以外瓜二つだったんだ……、オレとな……。

 最初は、偶然オレと似た服装をした他人だと思っていた……。いや、思い込もうとしていたのかもしれねぇ……。

 実際、今のオレと違っている部分も多かったからな……。だが……」

「貴様の息子、孫悟空……いや、カカロットがフリーザとの戦いで蘇らせた、お前達サイヤ人の伝説。

 ”超サイヤ人”へと変身した姿と予知の中の男が瓜二つだったのだな?」

 

 

 閻魔大王の問いかけにバーダックは静かに頷く。

 

 

「あぁ……。カカロットは見た目だけだったら、オレに瓜二つだからな……。

 オレが超サイヤ人へと変身したと仮定した時、その変身した姿は、ほぼ間違いなくあいつが超サイヤ人へと変身した姿と同じになったはずだ……。

 その考えに行き着いた時に思ったんだ……。

 あの予知に出て来た超サイヤ人は……、オレ……だったんじゃねぇか……ってな」

 

 

 自分の考えを静かに語っていたバーダックが、ここで言葉を区切ると苦笑を浮かべる。

 

 

「まぁ、死んじまって地獄にいるオレに、そんな未来なんてモンがあるとは思えねぇがな……。

 それに、死んでから1度も予知なんてなかったんだ。

 今回の事も単なる白昼夢かもしれねぇ……」

「ふむ……」

 

 

 ここまでのバーダックの言葉を聞いていた閻魔大王は、身体を椅子に深く沈め両手を組み、何かを考える様に目を瞑る。

 その仕草はバーダックから齎された情報を整理し、自身の考えを纏めている様だった。

 

 そんな閻魔大王の様子をしばらく見つめていたバーダック。

 だが、程なくして閻魔大王の閉じていた目が開き、バーダックを見据える。

 

 

「なるほどな……。

 死者である貴様自身の時間は、生者としての時間と考えると確かに止まっていると言って良いだろう……。

 それなのに、地獄ではない別の場所に存在した貴様自身の未来を予知したと……。

 しかも、他者に与えられ、死後に無くした筈の力の突然の発動……」

「ああ……」

 

 

 自身が聞いた内容の認識が間違っていないか再度バーダックに確認をとった閻魔大王は、机に広げている閻魔帳に視線を向ける。

 そして、とある記述に目を止める。

 

 

「”幻の拳”……」

「あん?」 

 

 

 閻魔大王が呟く様に口にした言葉に怪訝そうな表情を浮かべたバーダックだったが、そんなバーダックを無視して閻魔大王は机に広げていた閻魔帳をめくり出した。

 しばらくページをめくっていた閻魔大王は目的のページを見つけたいのか、閻魔帳に記述されている内容に目を通す。

 

 

「なるほどな……”幻の拳”とはそういう類のものか……、それでか……」

「おい!何かわかったのか?」

 

 

 バーダックの若干苛立ちが混じった言葉で、閻魔帳から視線を上げた閻魔大王は口を開く。

 

 

「貴様に予知の力を預けた術……”幻の拳”について調べておったのだ」

「さっきの感じだと、何か分かったみてぇだな?」

「うむ。”幻の拳”は対象者……今回の場合だとバーダック、お前に当たるわけだ。その頚椎に拳を放った際、対象者の魂と脳に術を施す様だ……。

 魂……つまり貴様の存在の力をエネルギーとし、術によって変革した脳に未来を見せるという事だろう……」

 

 

 死んで20数年経って初めて自分にかけられた術の性質を知ったバーダックだったが、閻魔大王の言葉を聞いて余計に疑問が増えた。

 

 

「術の性質は分かったが、何でそいつが死んで使えなくなっちまったんだ?

 まぁ、使えたら使えたで、あの頭痛が毎度起こるのは勘弁してほしいがよ……」

「推測ではあるが……、原因は魂だろうな……。

 貴様は地獄の住人だから、地獄へ行く際スピリッツロンダリング装置を受けたからな。

 肉体の方は魂が記憶している肉体情報を元に、惑星ベジータで滅んだ時のものを完全再現しているからのう」

 

 

 閻魔大王が口にした推測に、怪訝そうな表情を浮かべるバーダック。

 

 

「スピ……なんだそれは……?」

「スピリッツロンダリング装置だ!貴様も地獄に行く前に受けただろうが!!」

「あぁ……、あれかぁ……」

 

 

 バーダックは、地獄に行く前に受けたよく分からない機械を思いだす。

 そこで、バーダックはふと頭によぎった疑問を口に出す。

 

 

「そういえば、あれはいったい何の装置なんだ?」

「スピリッツロンダリング装置とは、魂を浄化する装置の事だ。

 使用用途は主に2つだな。

 1つ目は、死後地獄に落ちる魂は、生前の悪の心が強すぎる者も多いのでな、地獄に行く前に一度軽く魂を浄化するのだ。

 そうする事で、地獄に行っても生前ほど悪事を働こうとする気持ちを起きづらくする。

 まぁ、地獄にいるやつらはどいつも悪人だかりだから、逆に悪事に発展する事も少ないがのう……。

 せいぜい、力の有り余った奴らが喧嘩しているくらいか……。

 2つ目は、地獄での刑を終えた者の魂や、天国で転生を待っていた魂と共に完全に浄化し、輪廻の輪に還し転生させ新たな命として現世に戻すのだ」

 

 

 閻魔大王の説明を聞き、心当たりがあったのか納得した様な表情を浮かべるバーダック。

 

 

「なるほどな……。

 地獄で再会したら態度がおとなしくなったと、感じたヤツが何人かいたのはそう事だったのか……ん?」

 

 

 喋っていたバーダックは、先ほどの閻魔大王の説明でとある部分が引っかかった。

 

 

「ちょっと待て……!スピリッツ何とかって装置は魂を浄化するんだよな……?」

 

 

 自身の頭にふと浮かんだ考えを確認するべく、バーダックは閻魔大王に視線を向ける。

 バーダックの視線で彼が何がいいたのか察した閻魔大王は口を開く。

 

 

「そうだ、それが理由だ。

 スピリッツロンダリング装置で魂を浄化された際に、”幻の拳”から魂にかけられた術の大部分まで一緒に浄化されてしまったのだろう。

 ここまでくれば、貴様が死後、予知が出来なくなった理由も分かっただろう?」

「ああ……」

 

 

 閻魔大王の言葉に力強く頷いたバーダックは、言葉を続ける。

 

 

「肉体というか脳か……は、”幻の拳”ってやつを喰らった後の状態だが、魂の方は浄化された時に術の効果まで一緒に浄化しちまった。

 脳と魂、どちらかが欠けたら予知はできねぇ……。

 つまり……、今のオレは予知なんて出来ねぇ……て事だろ??」

 

 

 自身の考えを自信を持って言葉にしたバーダックだったが、閻魔大王は静かに横に振る。

 

 

「逆だ。これは、あくまでワシの推測だが……、今回貴様が予知を見たのは偶然という訳ではない。

 生前ほどではないだろうがお前はその気になれば、今でも予知自体を見る事は可能だろう。

 まぁ、好きなタイミングで見れるかは知らんがな……」

 

 

 閻魔大王の発言に、疑問を浮かべた表情を浮かべたバーダックが口を開く。

 

 

「あ?どういう事だ?

 てめぇが予知を見るには、術が施された脳と魂が必要だって言ったんじゃねぇか!

 だが、肉体はともかく魂は浄化されたから、予知は使えねぇんじゃねぇのか?」

 

 

 バーダックの言葉に、閻魔大王はやれやれと言った様に首を左右に振ると口を開く。

 

 

「ワシは、完全に魂から術の効果が消えたとは一言も言っておらんだろう?

 貴様らサイヤ人がカナッサ星人に行った事は、彼らからしたら到底許せる事ではない。

 つまり、あの術はそれほど負の感情が込められて行使された術なのだ……。

 そんな術が、スピリッツロンダリング装置で軽く浄化した程度で消える訳があるまい?

 あくまで、術の大部分が消え去っただけだ……」

 

厳しい表情を浮かべバーダックの目を真っ直ぐ見た閻魔大王は、静かに言葉を発する。

だが、その言葉には確かな重みがあった。

それは、この術にはそれだけ術者の強い想いが込められている事を理解しろと言外に告げていた。

 

ふぅ、と一息ついた閻魔大王。

 それにより、2人の間に流れていた重苦しい空気は緩む事となった。

 そして、続きを話すべく再び閻魔大王は口を開く。

 

 

「今回貴様に予知が発動したのは、お前の息子とフリーザの戦いを見た事で、お前が1番魂に刻みつけている時間へ立ち戻ったからだろう。

その瞬間とは、たった1人でフリーザへ戦いを挑み、息子に自身の意志を託した瞬間だろうな……。

その想いが強すぎて、魂が無意識に反応して術を発動させたのだろう」

「なるほどな……、確かに一理あるかもな」

「なんだ?やけにあっさり納得するのだな……」

 

 

 素直に納得するバーダックに、少々拍子抜けしたと言わんばかりの表情を浮かべる閻魔大王。

 そんな閻魔大王の様子に対して、気にした様子もなく口を開くバーダック。

 

 

「ふん、あんたが言った事にいくつか思い当たる部分があったからな……。

 あんたが言った事は、あながち間違ってねぇのかもなって思っただけさ」

 

 

 口にしてから、バーダックはあの戦いについて、改めて思いを馳せる。

 

 確かにフリーザとカカロット、そしてその仲間達の戦いは、地獄に来てから一番心動かされた出来事であった事は紛れも無い事実だった。

 それに、バーダック自身フリーザへ対して、消化しきれていない様々な感情がある事を自覚していた。

 

 それらを踏まえると、あの時のあの戦いを見て、魂が強く反応する事は十二分にあり得る事だと思った。

 それなら、術が発動してもおかしくはないのかもしれない。

 バーダックは、そう結論付けることにした。

 

 これで、術が発動した理由は大凡だが判明した。

 バーダックは、もう1つ気になっていた予知の内容について、目の前の相手に聞いてみた。

 

 

「まぁ、術が発動した理由は分かったが、オレが見た予知については何か分かるか?」

「ふむ、それについては正直ワシにも分からん……が、仮説程度なら思い浮かばんこともない……」

「本当かっ!?」

 

 

 閻魔大王の返答に、バーダックは驚きを隠せなかった。

 正直ダメ元での問いだったのだ。

 

 バーダックが浮かべた驚きの表情が、可笑しかったのか苦笑した様な表情を浮かべる閻魔大王。

 

 

「大層なリアクションだが、あくまで仮説だ。

 確証もないし、証明する方法もない。それでも聞くか?」

「ああ、あの予知の力はバカにできねぇ事は身を以て知ってるからな……。

 もし、あの予知が本当にこれからオレに起こる事だったら、知っておきてぇ」

 

 

 バーダックの目に力強い意思を感じ取った閻魔大王。

 

 

「ふむ、よかろう。

 ワシが考えるに、貴様が予知した未来とはこの2つのうちのどちらかじゃろう」

「可能性が2つもあるのか!?」

 

 

 閻魔大王の言葉に驚きを隠せないバーダック。

 そんなバーダックに頷くことで応える閻魔大王。

 

 

「1つ目は、貴様自身が生き返ることだ。

 これは、貴様自身も考えたことではないか?」

「ああ、死人が生き返るなんて事はねぇと思ってたが……、ナメック星での戦いでカカロットの仲間が生き返ったとか言ってやがったからな。

 それに、宇宙にはドラゴンボールって、とんでもねぇモンまであるみたいだからな」

「そうじゃ、宇宙には死者すら生き返せる神秘の力を宿す道具が存在するし、その様な事象を起こせる存在もおる。

 だから、貴様自身が生き返る可能性も無いとは言い切れん。

 これが仮説の1つ目じゃな」

 

 

 閻魔大王が語った仮説の1つ目はバーダック自身考えたことでもあったので、大した驚きもなく受け入れることができた。

 だが、目の前の男は自身が思いつかなかった2つ目の仮説があるという……。

 それが何なのか見当がつかないバーダックは、目で2つ目の仮説を話せと促す。

 

 

「2つ目の仮説じゃが、こちらは内容を話す前に言っておくが、限りなく可能性は低いじゃろう。

 それに、半分空想の域に入っている話だ。

 それでも構わんか?」

「ああ、元々オレはあんたが言った仮説の1つ目くらいしか思い浮かばなかったんだ。

 どんな空想だろうと、可能性があるなら聞いてやるよ。

 ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと話な」

 

 

 バーダックに一言断りを入れた閻魔大王は再び口をひらく。

 

 

「2つ目は、貴様自身が死んでいなかった可能性の未来を予知した場合だ」

「……は?」

 

 

 バーダックは目の前の存在が言った事が瞬時に理解できなかった。

 そして、閻魔大王もバーダックの反応に無理もないと言った感じの表情を見せる。

 

 

「まぁ、そんな反応も無理もないじゃろうな。

 死者であるお前が死者としての自身の未来を予知することも無くは無いだろうが……、その場合は少なくとも地獄での光景を予知せねばおかしい。

 だが、お前が死者でありながらも、予知した様な状況になったのなら、ワシは何者かに力を封じられたか、存在そのものが消されたという事になる。

 その様な状況になったら、あの世とこの世の法則が崩壊するじゃろう。

 そうなったら、この宇宙の理自体が崩壊していると考えて良い」

 

 

 そこで一息ついた閻魔大王。

 

 

「つまり、あんたをどうにかすれば、死者でも現世に行く事は可能って事か……」

「まぁ、理屈で考えればの。

 だが、この宇宙には、そんな状況を許さないお方がおられる。

 もし、仮にワシがどうにかなって、死者と生者が入り乱れる様になった場合、ありとあらゆる存在は破壊され、再構築されるだろう。

 あのお方は宇宙の理の乱れを絶対に許しはせんじゃろうからな……」

 

 

 閻魔大王の言葉を聞いて引っ掛かりを覚えたバーダックは、首を捻る。

 

 

「あのお方?何者だ……そいつ?」

「お前は知らんでも良い……。

 お前があのお方にお会いする機会は無いであろうからな。

 ただ、宇宙には絶対的な力を持つ存在がいるとだけ認識してれば良い」

「ふーん、そうかよ。

 それで……、その”あのお方”ってヤツがいる限り死者としてオレが現世に行くのは不可能だって事でいいのか?」

 

 

 ”あのお方”ってヤツの存在も気になるバーダックだったが、今は予知の方が重要だったため、話を先に進めるべく、ここまでの話を纏める。

 

 

「そうじゃ。厳密に言えば死者でも現世に行けなくは無いが……、それはワシの許可と現世の協力者が必要になるのでこちらも無いだろう」

「つまり、どうやってもオレが死者のまま現世に行く方法は無いってわけか……。

 それで……、”オレ自身が死んでいなかった可能性の未来”って事になるのか……。

 どういう意味なんだ……これ?」

 

 

 ここまでの話で、とにかく死者である以上自身が予知した様な状況になる様な事は限りなく低い事を理解したバーダック。

 だが、いきなり”自身が死んでいなかった可能性”と言われてもさっぱり理解できなかった。

 

 

「バーダック、お前並行世界という言葉を知っておるか?」

「並行世界?……なんだそいつは……?」

 

 

 聞いた事がない言葉に首をかしげるバーダック。

 

 

「そうだな……、言ってしまえば、”別の可能性の世界”とでも言ってしまえば良いか……」

「別の可能性だぁ?」

「そうだ。例えば、お前が惑星ベジータの消滅時に運良く生き残ったり……とかな……」

 

 

 閻魔大王の言葉に顔を顰めるバーダック。

 先程はどんな空想だろうと、可能性があるなら聞いてやる。と言ったが、ここまで話がぶっ飛んでるとは思っていなかったのだ。

 

 

「おいおい、いくらなんでもそんな事はありえねぇだろ……」

「だ、か、ら、可能性の話だと言っておるだろう。

 それに、あながち無いとも言い切れんぞ。

 星の爆発という膨大なエネルギーがあれば時空に影響を及ぼすには十分じゃろうしのう」

 

 

 呆れた表情を浮かべるバーダックとは対象に、どこか楽しそうに話す閻魔大王。

 これは反論するだけ無駄だと、悟ったバーダックは話を先に進める事にした。

 

 

「並行世界ねぇ……、その可能性の世界とやらが本当にあるとして、なぜオレがその世界の事を予知として見るんだ?

 それに、あんたの話を信じるとして、あの爆発から生き残ったって今のオレからしたら20年以上前の過去の事じゃねぇか。

 過去の事を見るのも予知なのか?」

 

 

 バーダックの疑問はもっともだった。

 閻魔大王が言った並行世界が本当に存在するのだとしても、不確定な事が多すぎるのだ。

 

 

「並行世界の事をなぜ予知できたのかは、正直ワシにも分からん。

 じゃが、お前からしたら過去になるのだろうが、生き残った後のお前をなぜ予知出来たのかなら、おおよそ推測がたつ。

 先程も言ったじゃろうが、死者である貴様自身の時間は、生者としての時間と考えると止まっておるのだ。

 止まった時間の先だったら、立派な未来であろう?」

「おいおい……、なんかこじつけが過ぎやしねぇか?」

 

 

 自信満々に語る閻魔大王に呆れた様な声を出すバーダック。

 だが、急に閻魔大王の表情が真面目なものへと変わる。

 

 

「バーダック……、この予知はきっと意味があるものだとワシは思うぞ」

「あん?意味……だと?

 そいつはフリーザみてぇな奴が現れる事か?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて首を横に振る閻魔大王。

 

 

「いや、今更フリーザと同等の存在が現れてもお前の息子がいる以上、それほど脅威でも無いであろう。

 問題なのは、貴様が”超サイヤ人”になれる可能性があるという事だ……」

「ああ……、そっちか」

「ん?どうした?」

 

 

 明らかにテンションが下がったバーダックに、不思議そうな表情を浮かべる閻魔大王。

 その表情に気づいたバーダックは、バツが悪そうな顔を浮かべる。

 

 

「あー、オレが超サイヤ人になれるって言われても正直、実感がねぇと思っただけだ……」

「ふむ……、お前達サイヤ人は戦闘民族故強くなる事は喜ばしい事だと考えると思ったが、違うのか?」

「あながち間違っちゃいねぇが……、”超サイヤ人”ってのはオレ達とっちゃお伽話みてぇなモンだったからな。

 あいつのあの姿をこの目で見ても、未だに実感がわかねぇんだよ」

 

 

 そう言葉を吐いたバーダックは静かに目を閉じる。

 目を閉じた暗闇の世界に、黄金色の圧倒的なオーラに身を包んだ超戦士が鮮明に蘇った。

 あのフリーザを圧倒した、一挙手一投足の凄まじい攻撃。

 

 あれだけの力を持っているのだ、伝説になって当然だとバーダックは思えた。

 1人の戦士として、その圧倒的な戦闘力に身震いすら起きた。

 それと同時に……

 

 

 バーダックが1人思いに耽っていると、それを呼び起こす様に閻魔大王の声が響いた。

 

 

「なるほどのぅ、でも良いのか……?その可能性を閉ざしても……」

「あ……?」

 

 

 その言葉はバーダックを呼び起こすには十分すぎる響きを持っていた。

 それと同時に、バーダックは言われた言葉をよく理解する事が出来なかった。

 どういう意味だと?閻魔大王に視線を投げかける。

 

 

「お前の息子、孫悟空……いや、カカロットはこれからもさらに強くなるじゃろう。

 あの男は今の自分に満足する様な男では無い。

 昨日よりも今日、今日よりも明日と少しでも自分の限界へ挑むべく修行するだろう。

 それは、ナメック星での戦いを見ていたお前なら分かるであろう?」

 

 

 閻魔大王に言われてバーダックは、ナメック星でのカカロットの戦いを思い出す。

 超サイヤ人に変身する前から、サイヤ人として破格の戦闘力を持っていた。

 だがそれは、本能と持って生まれた戦闘能力で得たものでは決してなかった。

 

 とてつもなく長い時間をかけて、自分を追い込み今の自分よりもさらに強くなる為に訓練を重ねてきたのだろう。

 あいつの力の根底にあるのが、そういう努力によって培われたものだというのは、あの戦いを見せられれば嫌が応にも理解させられるものだった。

 そして、あいつはこれからもこれまでどうり自分を鍛え、更なる領域に足を進めるだろう。

 

 オレ達サイヤ人が誰1人進んだ事がない、未知なる領域へ……。

 

 

「お前は……、そんな息子と戦ってみたくはないのか……?」

「っ!?」

 

 

 目を見開き、固まるバーダック。

 それほど、今の閻魔大王の言葉はバーダックの心に突き刺さるものだったのだ。

 そして、その反応を見た閻魔大王はさらに言葉を続ける。

 

 まるで、バーダックの心を覗き見た様に……。

 

 

「戦ってみたかったのじゃろう……?超サイヤ人へと変身した息子と……」

 

 

 その問いに無言で応えるバーダック。

 そんなバーダックを同じく無言で見つめる閻魔大王。

 しばらくそんな時間が続いたが、先に音を上げたのはバーダックだった。

 

 

「はぁ……、そーだよ……、カカロットの奴がフリーザの野郎と戦ってる姿を見た時、オレはあいつと戦いたくてしょうがなかった。

 そんくれぇ、あん時のあいつの戦いはオレを熱くさせた……。

 けどよ……、あいつとオレが戦うなんて不可能だろう……」

 

 

 あのナメック星の戦いを見終えてからバーダックの胸には、歓喜と同時にどうしようもない虚しさがつきまとった。

 心の底から戦いたいと思った相手と戦う事が出来ない。

 これは、サイヤ人であり戦士であるバーダックにはとてつもない苦痛だった。

 

 自分の胸の内を吐露したバーダックを見て、閻魔大王は静かに口を開く。

 

 

「戦う事が出来る……、と言ったらどうする?」

「なにっ!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるバーダック。

 そんなバーダックを無視して話を進める閻魔大王。

 

 

「もちろん、今のままではお前達は戦うことは出来ん。

 理由は分かっておるな?」

「あ、あぁ……、カカロットの奴は現世の人間で、オレが死者だから……」

 

 

 言葉を発していたバーダックは、自身の言葉で閻魔大王が言いたい事に予想がついた。

 

 

「まさかっ……!?カカロットが死んだ後にオレと戦わせるって事か!?」

 

 

 その言葉に、大きく頷く閻魔大王。

 

 

「そうじゃ。あらかじめ言っておくが時間がかかり過ぎだと言われれば、それくらい我慢しろとしかワシは言えん。

 それに、あいつが生涯をかけて鍛え上げたその力を、お前は味わってみたくないか?」

 

 

 強面な顔に挑発的な笑みを浮かべた閻魔大王に、強気な笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「へっ、あいつと戦えるんだったら、いつだろうと構わねぇよ!

 それに、ただでさえ実力に開きがあるんだ……、あいつが死ぬまでにオレがあいつを越えてやる!!」

「ふっ……、それでこそサイヤ人……いや、カカロットの父親と言うべきか……。

 あいつの強い者と戦うことに、ワクワクするのは血筋だったと言うことか……。

 だがな、バーダック。お前が息子と戦うに当たって1つ条件を出す」

 

 

 強気な笑みを浮かべたバーダックの表情が、胡散臭いものを見る様な表情へと変わる。

 

 

「条件……だぁ?」

「そうだ……。だが、これはお前にとって悪い条件ではない」

「……なんだよ?」

 

 

 しぶしぶといった感じで話を聞く事にしたバーダック。

 

 

「バーダック……、お前タイムパトロールになる気はないか?」

「タイムパトロール……?なんだ、そいつは?」

 

 

 首を捻るバーダックに閻魔大王は待ってましたとばかりに言葉を続ける。

 

 

「この世には、時を司る界王神様という方がおられる。

 タイムパトロールとは、その方の元で歴史改変を食い止める仕事を行なっておる者達のことだ。

 タイムパトロールになれば、歴史改変を行なっておる悪人どもとも戦えるし、時の界王神様がおられるトキトキ都には多くの猛者がおる。

 そこで腕を磨けば、お前と息子の間にある差もかなり縮まるだろう。

 どうだ?やってみんか?のう?」

 

 

 鼻息荒く捲し立てる様に言葉を吐いた閻魔大王は、勢い余っていつの間にか机から身を乗り出していた。

 そんな閻魔大王をバーダックはジト目で睨んでいた。

 

 

「白々しいこと言ってんじゃねぇよ……。

 そのタイムパトロールってヤツ、重大な仕事なんだろうが人手が足りてねぇとかじゃねぇのか?

 だから、オレの話を聞いて丁度良さそうだから、タイムパトロールってヤツにしようとしてるんだろ?」

「なっ、なんのことじゃぁー……」

 

 

 バーダックの言葉が図星だったのか、ギクッとばかり体を震わせた閻魔大王はバーダックから視線を外す。

 そんな閻魔大王に溜息を吐くバーダック。

 

 

「おい、1つだけ答えろ!」

「なんじゃ?』

「本当に強いヤツと、戦えるんだろうな?」

 

 

 嘘は許さないとばかりに、閻魔大王の目を見据えるバーダック。

 そして、そんなバーダックの目を真っ直ぐ見据え真剣な表情で閻魔大王は頷く。

 

 

「ああ、本当だ。

 今のお前以上のヤツと戦えるだろう」

 

 

 それを聞いたバーダックの顔に、強気な笑みが浮かぶ。

 その笑みは何処か彼の息子、カカロットが強敵を前にした時に浮かべる笑みと似通っていた。

 

 

「いいぜ、閻魔大王。

 そのタイムパトロールってヤツになってやるよ!!

 そして、カカロットがあの世に来るまでに、あのクソガキを越えてやる……!!!」

 

 

 それからしばらくして、バーダックは閻魔大王の推薦の元、トキトキ都に趨き時の界王神の元、様々な歴史改変を行なっている者と戦う事になる。

 そして、持って生まれた戦闘感と戦う毎に強くなるサイヤ人の特性を活かしてメキメキと強くなっていく事になる。

 

 だが、彼の願いである息子との初対決は彼が思っているよりずっと早く、実現する事になるのをこの時の彼はまだ知らない……。




この話でバーダック強化の下地は出来上がったので、いつか悟空と対決させる事が出来る様になったかと思います。
それにしても、悟空とのバトルと映画のブロリーどっちを先に書こうかしら・・・。


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Story of Bardock-Ep.03

今回の話は、27,000文字と長くなりすぎたので3分割して投稿します。
この話は導入部分の為かなり短いですが、明日はかなりの量になるかとおもいます。

この話から、とある人物が登場します。
よかったら、楽しんでください!


「だらぁ!!!」

「はあっ!!!」

 

 

 2人の男が同時に繰り出した拳は轟音をたて、ぶつかり合う。

 その拳に込められた力が尋常じゃなかったからか、2人は同時に弾け飛んだ。

 しかし、両者共しっかり着地を決め、目の前の相手をしっかり見据えていた。

 

 片方は額に赤いバンダナを巻き、頬に十字の傷を持ちフリーザ軍の戦闘服を身にまとった男。

 もう片方は、背中に剣を背負い黒いジャケットを着用した青年。

 服装だけ見れば、まったく共通点が無い2人だが、この2人には明確な共通点があった。

 

 それは、髪と瞳、そして2人から放出されているオーラの色だ。

 逆立った金色の髪に、エメラルドにも似た輝きを持つ碧眼、そして見る者を圧倒する黄金のオーラ。

 ここまで、特徴が一致すれば2人が無関係な存在だと思う者は、まずいないだろう。

 

 そう、この2人は広い宇宙の中でも、戦闘民族と呼ばれる戦闘に特化した種族の血を引く者達だ。

 そして、2人が現在、当たり前の様になっているこの姿こそ、彼らの一族に古くから伝わる伝説の戦士の姿なのだ。

 

 

 しばらく相手の出方を伺っていた、2人だったが先に動いたのは青年の方だった。

 青年は超スピードで男に向かい飛び出す。

 

 

「ちっ……」

 

 

 舌打ちをした男は顔を顰めながら、こちらに向かってくる青年を見据える。

 そして、青年を近付かせまいと瞬時に右手を相手に向ける。

 

 

「はあぁっ!!!だだだだだだ……!!!」

 

 

 右手から掛け声共に、凄まじい数のエネルギー弾が連射される。

 しかし、青年はその全ての数のエネルギー弾を紙一重で躱し、男との距離をどんどん詰めてくる。

 そして、全てのエネルギー弾を掻い潜った青年は、ついに男の懐に入り込み強烈な右ストレートを男の左頬に叩き込む。

 

 

「はあっ!!!」

「ぐうっ……!!!」

 

 

 右ストレートをモロにくらった男は、天性のタフさで何とか吹っ飛ばずに耐え切ったが、今の強烈なパンチで顔ごと上半身は仰け反ってしまった。

 しかし、男はそこで怯むのではなく、今にも崩れ落ちそうな足に喝を入れ、お返しとばかりに自分の目の前にいるであろう青年に向かって拳を放つ。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 その拳は、男の気迫の篭った素晴らしいパンチだった……。

 当たれば、相手にもそこそこのダメージは与えられたかもしれない……。

 しかし……、その拳は何者をも捉える事はなかった……。

 

 

「後ろですっ……!!!」

「なっ……!?」

 

 

 拳を振り抜いた男の背後から凛とした声が響き、驚きの声を上げると同時に瞬時に後ろを振り返ろうとした瞬間、背中に衝撃が走った。

 

 

「がああっ……!!!!!」

 

 

 衝撃が走ると同時に、今度こそ男の身体は吹っ飛んだ。

 数十メートル程吹っ飛んだ男は、勢いよく地面に激突する。

 激突した地面は、凄まじい轟音と共に陥没し砂煙が舞っていた……。

 

 砂煙が治ると、陥没の中心地では男が何とか立ち上がろうとするが、力尽き仰向けに倒れこむ。

 全身ボロボロで、息もかなり上がっているというのに、なんとか意識だけは繋ぎ止めた様だった……。

 

 

「はあっ……、はあっ……、はあっ……、はあっ……」

 

 

 男が倒れ込んだのと同時に、金色の髪は黒髮へ、碧眼は黒眼へとその色を変えていた。

 正確に言うなら、変わっていた髪と眼が元に戻ったと言う方が正解だろうか。

 男の肺が、全力で酸素を求めていると、頭上からまたしても凛とした声が響いた。

 

 

「一旦休憩しましょう……。バーダックさん……」

 

 

 倒れている男バーダックは、目だけ自分の頭上に立つ青年に向ける。

 

 

「はあっ……、はあっ……、そう……だな……。トランクス……。

 ちっ……、同じ超サイヤ人なのに全然歯がたたねぇ……」

 

 

 バーダックが見上げているトランクスは、多少服に埃などが付いているが、ほぼ無傷で息一つ切らさずそこに立っていた。

 しかし、バーダックの言葉を受けたトランクスは静かに首を横に振る。

 

 

「いいえ、それを言うなら、バーダックさんの成長スピードの方が異常です。

 タイムパトロールになり、トキトキ都に来て3年で戦闘力1万程から、超サイヤ人に覚醒し、ここまで成長しているんですから。

 流石、悟空さんの父君ですね……」

「……何で、そこでカカロットの名前が出んだよ……」

 

 

 トランクスの言葉に若干不機嫌そうに、バーダックが呟く。

 その呟きを聞いたトランクスは苦笑を浮かべる。

 

 

「確かに、バーダックさんと悟空さんは戦闘スタイルは違います。

 ですが……、どことなく似てるんですよ……。

 勝負所というか、一瞬の隙を見逃さないと言うか……逆境の戦いの中で活路を見出し勝ちに繋げようとする所とか……、そういう所はそっくりだと思いますよ。

 お2人は……」

「そう言うテメェは、全然親父に似てねぇよな……。

 今だに信じられねぇぜ……、テメェがあのベジータ王子の息子だって……」

「あはは……、悟空さんにも大層驚かれましたよ……。

 でも、オレは間違いなく誇り高いサイヤ人の王子、ベジータの息子ですよ」

 

 

 ベジータの息子である事に誇りを持っているトランクスは、堂々とした笑みをバーダックに向ける。

 そんな、トランクスに「ふんっ……」と鼻を鳴らしながらも、薄っすらと笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「ふぅ、閻魔が最初にタイムパトロールの話を持って来た時は、眉唾物だったが、ここに来てよかったぜ……。

 オレ1人だと修行しても、カカロットとの差はどうしたって埋まらなかっただろうからな……」

 

 

 バーダックが何と無しに吐き出したその台詞に、トランクスは優しそうな笑みを浮かべ、目の前の男と初めて会った時のことを思い出していた……。

 

 

「あれから、約2年半か……」

 

 

 そうして、トランクスは2年半前のあの日を振り返る……。

 目の前の男を自身の弟子にした、あの日の事を……。




続きは、明日投稿します。


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Story of Bardock-Ep.04

昨日の続きです。
3分割した内の2つめです。
続きは明日投稿します。

楽しんでもらえると、嬉しいです。


 トランクスが初めてバーダックを知った時の印象はあまり良いモノではなかった。

 自分が世話になった孫悟空と同じ顔をしていながら、性格はまったくの正反対で朗らかな悟空に対し、バーダックは何処か荒々しいところが目に付いたのだ。

 しかも、最初はお互いに素性を知らないままだった。

 

 バーダックより先に、タイムパトロールになっていたトランクスは新人がサイヤ人である事くらいしか、聞かされていなかった。

 なので、バーダックが孫悟空の父であり、自分の師匠である孫悟飯の祖父である事を知ったのは、バーダックがタイムパトロールになって半年ほど経ってからだった。

 タイムパトロールになった当時のバーダックは、戦闘力たったの1万程度だったのでトランクスほど大きな案件は任されていなかったので、任務で一緒になることも少なかった。

 

 だが、ある日別々にそれぞれ違う犯罪者を追っていた、バーダックとトランクスが現場で鉢合わせしてしまったのだ。

 そして、戦闘になりトランクスはバーダックの目の前で”超サイヤ人”に変身し、自身とバーダックが追っていた犯罪者を纏めて一瞬で倒した。

 戦闘が終わり、超サイヤ人を解除したトランクスがバーダックに視線を向けると、そこには信じられないモノを見たと言わんばかりの驚愕した表情を浮かべたバーダックの姿がそこにはあった。

 

 最初は自身の標的まで、自分が倒した事に驚いているのか?と考えたが、それにしては様子がおかしいので、トランクスは声を掛けてみることにした。

 

 

「どうか……しました?」

 

 

 トランクスに声を掛けられた事で、はっとした表情を一瞬浮かべた後、何かを考える様な表情を浮かべたバーダックは意を決した様に口を開いた。

 

 

「テメェ……、さっきのは、超サイヤ人……か……?」

「えっ?ええ……そう……ですけど……」

 

 

 バーダックの雰囲気に、若干気圧されたトランクスはどもりながら返事を返す。

 しかし、次にバーダックが発した言葉はとても聞き逃せるものではなかった。

 

 

「まさか、カカロットのヤツ以外にも超サイヤ人になれるヤツがいるとはな……」

「えっ!?」

「ん?どうかしたか……?」

 

 

 驚きの声を上げたトランクスに、不思議そうな表情を浮かべながら、声をかけるバーダック。

 しかし、次のトランクスの発言で今度はバーダックが驚くことになる。

 

 

「今……カカロットって、言いましたよね?

 えっと、バーダック……さん?でしたよね……?

 カカロット……、孫悟空さんのことご存知なんですか?」

「ーーーー!?……お前、カカロットの知り合いか?」

「はいっ!昔、とてもお世話になったんです。

 今のオレの強さがあるのも、悟空さんや息子の悟飯さん、そしてその仲間達のおかげなんです……」

 

 

 どこか懐かしそうに、息子や孫の話をするトランクスに不思議な感覚を覚えたバーダックだった。

 

 

「あの……、バーダックさんは悟空さんと、どういうお知り合いなんですか……?」

 

 

 何処か問いかけに遠慮が混じっていたのは、バーダックが悟空と過去に敵対していた可能性を考えたからだろう。

 サイヤ人というのは、気に入らない存在であれば親でも殺すと言われているほど、戦闘が身近な民族なのだ。

 同族だからと言って、全員が皆仲間で仲良しというわけではないのだ……。

 

 むしろ、サイヤ人は同族とも積極的に戦いを行う民族と言っても過言でないのだ……。

 だからこそ、目の前の小僧は自分に遠慮がちに聞いたのだろう。 と、バーダックは判断した。

 

 その気になれば自分等歯牙にも掛けない程の戦闘力を持っているのだから、遠慮なく聞けば良いものを……と、そのサイヤ人らしからぬ所に、何処か地球で育った息子を思い出したバーダックは自然と口を開いていた。

 

 

「オレは……、カカロットの親父だ……」

「悟空さんの……、父親……!?」

 

 

 バーダックの言葉に驚愕の表情を浮かべるトランクス。

 

 

「父さんから、下級戦士と呼ばれる人達は顔のタイプが少ないと聞いていたので、てっきり悟空さんと同じ顔をしているサイヤ人だと思ってました……。

 まさか、悟空さんの父親だったなんて……。

 あっ、すいません……。下級戦士と言われて、あまりいい気分はしませんよね……」

 

 

 自分が失言していた事に、気付いたトランクスはバーダックに向け頭を下げる。

 だが、バーダックはそんなトランクスの行動を制する。

 

 

「気にするな。オレが下級戦士なのは事実だし、何よりテメェより弱え……。

 テメェもサイヤ人なら強者が、弱者にそう簡単に頭を下げるんじゃねぇ……。

 それに、テメェは下級戦士だから=弱いって訳じゃねぇって事を、身を以て知ってんだろ?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いた、トランクスは勢いよく頭をあげる。

 

 

「はいっ!悟空さんはオレが知っている中でも、最高の戦士の1人です……!!!」

 

 

 自身の目を真っ直ぐに見据え、ハッキリと言葉を紡いだトランクスに満足そうな笑みを浮かべるバーダック。

 そこで、改めて目の前のトランクスを見て、そのサイヤ人らしからぬ容姿にふと疑問を覚えたバーダック。

 

 

「テメェ……、その青い髪と青い瞳……、純血のサイヤ人じゃねぇな……?」

「あっ、はい!オレは、サイヤ人と地球人のハーフなんです」

「地球……カカロットが育った星か……、あいつ以外にもサイヤ人が送られてやがったんだな……。

 カカロットとベジータ王子以外には、生き残りはいないと思ってたんだが……。

 ん……? だが、妙だな……? 地球へ行ったラディッツやナッパからは、カカロット以外のサイヤ人が居たとは聞かなかったが……」

 

 

 バーダックが自分が口にした、疑問に頭を悩ませていると目の前の青年からとんでもない爆弾発言が飛び出した。

 

 

「あっ、オレ……、その……ベジータの……息子なんです!!」

「……は?」

 

 

 時が止まるとは正しくこういう事なのだろう……。

 バーダックは今目の前で、何処か照れた様な笑みを浮かべる小僧が言った言葉の意味を理解できなかった……。

 

 ダレガ……ダレノ……ムスコ……ダッテ……?

 

 

 超サイヤ人になった時以上に、あり得ないモノを見た表情で自分を見ているバーダックに不思議そうに首をかしげるトランクス。

 

 

「あのー、バーダックさん……? 大丈夫ですか……?」

 

 

 あまりに、目の前の人物が動かないので、心配になったトランクスがバーダックに声をかける。

 声を掛けられた事で、フリーズしていたバーダックの思考がなんとか回り出す……。

 

 

「あー、わりぃ……、いきなりボーッとしちまって……。

 あー……もう一度聞くが……、本当にテメェの親父は……、あの……ベジータ王子……なのか……?」

 

 

 そのバーダックの物言いでバーダックが何が言いたいのか理解したトランクスは、苦笑する。

 

 

「ええ、オレの父親は確かに、サイヤ人の王子ベジータですよ。

 似てないでしょう?髪と瞳の色は母からの遺伝なんです。

 昔……、初めて悟空さん……あなたの息子さんにお会いした時にも驚かれました……」

 

 

 未だ目の前の小僧と地獄の水晶で見た、ナメック星の戦いに参加していたベジータに、共通点を見出せず戸惑いを隠せないバーダックだった。

 だが、先程のトランクスの戦いを思い出したバーダックは、戦っている時のトランクスの表情がどこかベジータに似ている事に気が付いた。

 何より、トランクスの何処か誇り高くあるその姿に、ベジータの血を感じずにはいられなかった。

 

 

「なるほど……、姿はともかく、戦闘力とその在り方を親父から受け継いだわけか……」

「えっ?」 

 

 

 バーダックが1人納得する様に呟いた言葉に、不思議そうに首を傾げるトランクス。

 自分が口にした事が、何処か小っ恥ずかしく感じたバーダックは、トランクスの視線から顔をそらす。

 

 

「ふん……、なんでもねぇよ……」

「そうですか……? あっ、あの……、ちょっと聞きたいことがあるのですが……」

 

 

 急に自分から顔をそらした目の前の男に、少し疑問を覚えたが、それ以上に気になる事があったトランクスは改めてバーダックに声をかける。

 

 

「なんだよ……?」

 

 

 顔を逸らしていたバーダックが、ぶっきらぼうな態度でトランクスに視線を向ける。

 

 

「先程から気になっていたのですが……、バーダックさんの頭にある輪っかって死者の輪っか……ですよね?」

「ん? こいつか?」

 

 

 トランクスに言われてバーダックは、自分の頭上に浮いている光る輪っかを指差す。

 すると、トランクスは肯定する様に頷く。

 

 

「そうだ。 こいつはお前が言った様に死者の輪っかだ……」

「と、言うことはバーダックさんは、死者……なんですよね……?」

「当たり前だろ」

 

 

 さも当然の様に口にするバーダックに、トランクスの目が鋭くなる。

 そして、真剣な表情でバーダックに問いかける……。

 

 

「どうして……、タイムパトロールなんかになられたんですか……?

 知っているとは思いますが、今のバーダックさんは死んでしまえば、魂が消滅してしまい、現世だけでなくあの世からもいなくなり……完全に存在そのものが消えてしまうと言うのに……。

 閻魔大王様の推薦と、時の界王神様が仰られたので単純に戦闘がしたいから……とは思えないのですが……」

 

 

 先程まで、どこか遠慮しがちだった小僧とは全く別物の、歴戦の戦士の風格すら漂わせたトランクスに内心で驚きを隠せないバーダック。

 だが、目の前の相手は自身から片時も目をそらさずに、こちらの眼を真っ直ぐ見ていた。

 その眼は、嘘は許さないと言外に告げていた。

 

 ここで適当に遇らったとしても、これまでのやり取りから、目の前の相手がいきなり力ずくで襲ってくる事は無いだろう。 と、バーダックはこの短い間でトランクスの事を評価していた。

 しかも、この問いかけ自体、本人の好奇心というのも少なからずあるだろうが、自身を心配して問いかけているのだろう。

 

 まったく、あれほどの戦闘力をもっていながら、なんて甘いヤツだ……。

 バーダックは、そう思わずにはいられなかった。

 だが、不思議とこいつになら正直に話してもいいかもしれない……と、バーダックが考えるより先に自然と口が言葉を発していた。

 

 

「強くなるためだ……」

「えっ……?」

 

 

 バーダックの呟く様に吐き出した言葉に、疑問の表情を浮かべるトランクス。

 だが、そんなトランクスを無視する様に、バーダックの言葉は続く。

 

 

「オレには、いつかどうしても戦いたいヤツがいる……。

 だが、今のオレじゃあ、そいつに勝つどころか、まともな勝負にすらなりゃしねぇ……。

 そいつを越えるために、オレはタイムパトロールになったんだ……!!」

 

 

 強さを焦がれる様に追い求めるバーダックの姿に、彼もかつての自分の様に大事な人を何者かに奪われ、復讐するために力を求めているのだろうか? と、トランクスは一瞬考えたが、その考えは間違いだと瞬時に思い直した。

 何故なら、バーダックの言葉や雰囲気には殺意や憎しみ等といった暗い感情は一切感じられなかったからだ。

 

 寧ろ相手の事を強者だと認めているが故に、その相手と全力で戦ってみたい……。

 自分が認めた相手だからこそ、全力で挑み自分の力でその相手を超えたい……。

 そういう純粋な気持ちが伝わってきた。

 

 それに気付いた時、トランクスは自然と笑い声を上げていた……。

 

 

「ふっ……、あっははははは……!!!」

 

 

 目の前で可笑しそうに笑うトランクスを見て、不機嫌そうな顔を浮かべるバーダック……。

 

 

「んだよ……? 何笑ってやがんだテメェ……!!」

「あっ!すいません……。 でも、やはりあなたも、サイヤ人なんですね……」

 

 

 不機嫌そうなバーダックに慌てて頭を下げた後、どこか懐かしい者を見る様に笑みを浮かべる……。

 その眼差しに何かを感じ取ったバーダックは、それ以上口を開く事なく、トランクスの視線から顔を逸らす。

 そんなバーダックを見て、トランクスは1つの提案を口にする。

 

 

「バーダックさん……、オレと戦ってみませんか……?」

「なにっ……!?」

 

 

 トランクスの提案に、その思惑が読めないバーダックは驚きと困惑の表情を浮かべる。

 そんなバーダックの内心を察したのか、トランクスが再び口を開く。

 

 

「何故、こんな提案をするんだ……? って顔をしてますね……。

 そうですね……、理由は簡単です……。

 あなたも、そして、オレも、サイヤ人だから……、ただ、それだけです……。

 どうします……? 断ってくれても……、戦いから逃げても構いませんよ……?」

 

 

 まったく理由になっていない、何処か挑発を含んだ言葉だったが、バーダックの眼を見つめるトランクスの眼は真剣そのものだった。

 そんな眼を向けられて逃げるなど、バーダックの中には存在しなかった。

 そもそも、先ほどの物言いに黙っていられるほど、大人しい性格をしてもいなかった……。

 

 

「上等だぜ……、やってやるよ……!!!」

 

 

 強気な笑みを浮かべ、バーダックが声を上げた瞬間、身体から間欠泉の様に白い透明なオーラが吹き出し、周りに転がっていた石や瓦礫を吹き飛ばす……。

 竜巻の様に荒れ狂う気の嵐がトランクスを襲うが、トランクスはそれを平然と受け流し立っていた……。

 

 次の瞬間、バーダックはトランクスに向かって飛び出した……!

 普通の人間だったら、認識すら出来ない超スピードで接近したバーダックは、右拳をトランクスの顔面目掛けて振り抜く。

 しかし、それをトランクスは顔を僅かに逸らす事で、躱す。

 

 躱された拳を引っ込めると同時に、バーダックは瞬時に強烈な右の蹴りをトランクスに向け放つ。

 しかし、それを左腕であっさり受け止めるトランクス。

 自分の渾身の蹴りで微動だにしないトランクスの様子に、僅かに顔を顰めるバーダック。

 

 そんなバーダックに蹴りを受けた状態のまま、冷めた様な眼で視線を向けるトランクス。

 その眼は言外に「こんなものか?」と告げている様だった。

 

 

「ちっ……」

 

 

 舌打ちと同時に後方に飛び、着地後、瞬時に超スピードで撹乱する様にトランクスの周りを廻るバーダック。

 廻りながら、トランクスのスキを探るバーダックだったが、一見ただ突っ立っているだけでスキだらけの様に見えるその姿には、欠けらもスキ等無かった……。

 埒が明かないと判断したバーダックは、トランクスの背後から左の突きを繰り出す。

 

 しかし、トランクスはバーダックに視線を向ける事なく、その突きを身体を斜めにズラす事であっさり躱す。

 躱したトランクス目掛けて今度は、右拳が放たれるが、またしても身体を軽くズラす事で躱す。

 その後も連続して高速でパンチを放ち続けるが、その全てを視線をバーダックに向ける事なく全て躱し切るトランクス。

 

 だが、それも長くは続かなかった、バーダックが何十発目かの右の突きを放つと、それを左に軽く身体をズラし躱したトランクスが軽く右腕を上げる。

 するとトランクスの裏拳が、パンチを打った直後のバーダックの顔面にカウンターとして打ち込まれる。

 

 

「ぐっ……!!!」

 

 

 軽い動作といっても差し支えない動きだったが、裏拳を打ち込まれたバーダックは10メートル以上吹っ飛んだ。

 しかし、天性のタフさを持つバーダックは空中で体勢を整え、着地する。

 バーダックは痛みが残る裏拳が当たった辺りを触ると、鼻から血が流れていた……。

 

 

「ちっ……」

 

 

 苛立つ様に鼻を拭い、改めてトランクスに視線を向けるバーダック。

 すると、視線の先にいるトランクスがゆっくりと振り返り、これまで同様に攻撃する事なく佇んでいた。

 

 

(くそっ……!!

 やる前から戦闘力に差があるのは分かっちゃいたが……、ここまで差があるとはな……。

 しかも、あの野郎……まるで後ろに目がついているみてぇに、こちらの攻撃を正確に躱しやがった……。

 ありゃ、気配を読んだとかのレベルじゃねぇな……。

 こいつは、撹乱してスキを突くのは無理だな……)

 

 

 内心で悪態を付きながらも、冷静に先程の攻防を振り返るバーダック。

 トランクスとの間に大きな戦闘力の差はあれど、バーダックとて一流の戦士なのだ。

 これくらいの事で焦って自分を見失ったりはしない。

 

 元から圧倒的にバーダックが不利な勝負なのだ……。

 だからこそ、やみくもに攻撃し無駄に体力を消耗するのではなく、冷静に自分がやるべき事を考える必要がある。

 バーダックは構えを取りながら油断なく、トランクスに視線を向けながら思考を巡らせる。

 

 そんな、バーダックをトランクスは静かに見つめて……。

 

 

(今の一連の攻撃……、オレを倒す為のものではなく、こちらの動きを探る様な感じだったな……。

 視線で軽く挑発しても、冷静さを失わないし、今だって闇雲に攻撃するのではなく、しっかり自分のやるべき事を考えている……。

 なるほど……、流石悟空さんの父親というだけの事はある……)

 

 

 トランクスもバーダック同様、先程の攻防を振り返っていた。

 そして、この短いやりとりでバーダックの戦士としての有能さに気が付いた。

 これまで歩んできた人生で、トランクスは殆ど状況が不利な戦いを生き抜いてきた。

 

 人造人間、ゴクウブラック、ザマス……、タイムパトロールになる以前の戦いでトランクスは常に苦戦を強いられてきた……。

 トランクスがこれまでの戦いで生き残ってこれたのは、運も当然あるだろうが、何より状況判断能力の高さだろう。

 無闇やたらに戦うのではく、退く時は退き、相手が自分よりも強者であるなら、勝つための情報収集や分析は怠らない。

 

 そういう、自分がやるべき事をしっかり把握して、実行して来たからこそ、どんなに絶望的な状況でもトランクスは生き残れてこれたのだ。

 そんなトランクスだからこそ、目の前のバーダックが自分との戦闘力差では勝ち目がない事を理解していながらも、少しでも勝ちを拾うために自分がやるべき事を冷静に思考しながら戦っている姿には好感を覚えた……。

 

 

(とは言え……、オレとの戦闘力の差は明白だ……。

 先程の攻撃で、オレに下手な撹乱は通じないと理解したと思うが……、この人はこれからオレとどう戦う……?)

 

 

 静かに、そして探る様な視線で見つめられているバーダックは、表情にこそ出していないものの、内心では大分参っていた……。

 何故なら、どれだけ思考しても目の前の相手には有効な攻め手が無いのだ。

 思いついたとしても、その一瞬後には明確にその攻撃が通用しないビジョンが鮮明に浮かんでしまう……、そんな堂々巡りに陥っていた……。

 

 これが、まだ戦いになるだけの戦闘力の開きだったなら、バーダックも効果があるかはともかく思いついた攻撃を試しに実行しただろう……。

 しかし、目の前の男と自分では勝負にならないほどの戦闘力の開きがある。

 たった1つ失敗するとその時点でこの戦いは終わる……。

 

 バーダックは、それを無意識に感じ取っていた……。

 だからこそ、動けない……。

 

 両者の間でしばらく、無言のにらみ合いがしばらく続く……。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

「ふぅ……、面倒くせぇ……。

 どんだけ、考えても答えがでねぇのなら、やる事は1つだ……」

 

 

 軽く息を吐き、何かを振り払う様に呟いたバーダックは、これまで以上に腰を下げ低く構えた。

 

 

(くる……)

 

 

 トランクスが内心でそう思った瞬間、バーダックは先程以上の超スピードでトランクスに近づく。

 しかも、体勢を限りなく低くしてだ。

 一瞬でトランクスの懐に潜り込んだバーダックは、右ストレートを放つ。

 

 しかし、先程同様トランクスは右に最小限の身体をズラす事でそのパンチを躱す。

 だが、それを予想していたバーダックは瞬時にしゃがむとトランクスの両足を刈るべく横一直線に右足を振り抜く。

 その蹴りを軽く跳ぶ事で、またしても躱すトランクス。

 

 バーダックは蹴りの勢いと反動を利用し身体を回転させ立ち上がり、跳んだトランクスの顔目掛けて左手の裏拳を放つ。

 その裏拳を空中で上半身をそらす事で、躱すトランクス。

 しかし、自身の眼の前を横に通過した裏拳がその場で瞬時に止まったかと思うと、一気にバーダックによって引き戻される。

 

 そして、引き戻された左の反動を活かして、右拳がトランクス目掛けて放たれる。

 それを後ろにバック転して回避したトランクスは、バーダックから距離をとる。

 

 再び距離が開いた両者の視線がぶつかる……。

 

 

「ちっ、予想しちゃいたが、今のも軽く躱しやがるか……」

 

 

 自分の全力の攻めをあっさりと躱し切ったトランクスに、苦虫を噛み締めた様な表情で睨むバーダック。

 しかし、そんなバーダックにトランクスは静かに首を横に振る。

 

 

「いえ、思っていた以上に鋭い攻撃でしたよ……。

 しっかり、こちらの動きを予測して考えられていた攻撃でした……」

 

 

 トランクスの言葉に嘘はなかった。

 正直な話トランクスはあの場から自身が動かされるとは、思ってもいなかった。

 今のトランクスはバーダックの全力よりも少し強いくらいに気を抑えて戦っていた。

 

 なので、今の状態なら普通にバーダックの力に合わせて互角の格闘戦を行ったりすることも出来たのだ。

 バーダックとしては、戦っていてそちらの方が楽しいのだろうが、バーダックが気の感知やコントロールについての技術がない事はを一目見て看破したトランクスは、その重要性を理解させるために敢えて今の様な戦い方をしていたのだ。

 トランクスの当初の予定では、気を抑えていると言っても現状、素のスペックで上回っており、気を読むことで相手の動きを正確に把握する事が可能なので、今の状態でもバーダックの攻撃を全部躱し切る等、さほど難しい事では無いと思っていた。

 

 だが、思っていた以上にバーダックの攻撃は鋭く、計算されたものだった。

 攻撃全てを躱し切ったものの、自分がどの様に動くのかをしっかりと予想し、誘導されてしまったのだ。

 それは、体術や戦闘での駆け引きだけだったらバーダックはトランクスと互角……もしくは上回っている可能性があるのだ……。

 

 

「へっ! 実力をほとんど出してねぇ奴に言われも、嬉しかねぇな……!!」

 

 

 バーダックは悪態を吐きながらも、冷静な思考で今での戦いを分析していた。

 

 

(ちっ!あいつの動きを読んで、誘導する事は出来ても全ての攻撃が躱されるんじゃ意味がねぇな……。

 にしても……、あいつはどうやって、あそこまで正確にオレの動きを把握してやがるんだ……?

 背後から攻めた時は、視線すらこちらに向けていなかったところを見ると、眼で見て攻撃を避けている訳じゃなさそうだが……)

 

 

 トランクスの思惑通り、バーダックはこれまでの戦いで自分にはなくトランクスが持つ何かしらの力に気付いていた。

 しかし、それに気付いていても、それが何なのかまでは理解出来ていなかった。

 サイヤ人は、フリーザ軍から支給されていた、スカウターやスカウトスコープ等で数値化されていた数字で相手の戦闘力を把握していた。

 

 なので、トランクスや悟空、地球の戦士達みたいに気を感知するという概念がそもそもないのだ。

 とはいえ、戦闘経験が豊富なバーダックは見ればその存在が強者かどうかぐらいは判断が出来るし、相手の気配くらいなら察知できる。

 しかし、目の前の相手トランクスは気配の感知等では説明がつかない程、背後からの攻撃だというのに正確にこちらの動きを読み切った。

 

 まるで、本当に後ろに目がついているかの様に……。

 

 

(ふぅ……、このまんま野郎が、回避に徹していたら攻撃を当てられるのは、いつになるやら……。

 正直奴の攻撃が当たれば一撃で終わるリスクはあるが……ヤツから攻撃してくれた方が、まだやりようはあるんだがな……。

 よくよく考えてみれば、圧倒的に実力に差があるオレに勝負をふっかけた時点で、この野郎は何かしらの目的を持っているはず……。

 それに……、この野郎の性格からして、攻撃してくるにしてもいきなりオレをぶっ倒す事は無いだろう……。

 遊ばれてるみてぇで、腹は立つが現状あいつが強者で、オレが弱者である以上、あいつがどう戦おうがオレが文句言える筋合いじゃねぇしな……。

 まぁ、とりあえず……、挑発して攻撃を誘ってみるか……)

 

 

 バーダックが、トランクスに攻撃を促すべく挑発を口にしようとした瞬間、バーダックにとって予想外の出来事が起きた。

 今まで回避や防御に徹していたトランクスがバーダックに向けて飛び出したのだ……。

 

 

「なにっ!?」

 

 

 その予想外の行動に驚きの声を上げた時には、既にバーダックの懐にトランクスが侵入していた。

 そして、トランクスの左拳がバーダックの顔面に向かって放たれる。

 それを何とかギリギリ顔をそらす事で、回避し思わず安堵するバーダック。

 

 しかし、次の瞬間バーダックのボディに衝撃が走る。

 トランクスの右拳がバーダックのボディに突き刺さっていた。

 

 

「がはっ……!!!」

 

 

 思わず身体がくの字になり、頭が下がる。

 そこに、息つく暇もなく追撃の蹴りが迫り来る。

 それを視界の端に捉えたバーダックは、気力を振り絞り後方に跳ぶ。

 

 しかし、後方に跳んだバーダックを逃がさないとばかりに、トランクスも追う。

 一瞬距離が出来た事で、わずかに時間を得たバーダックは心と体勢を整え、トランクスを迎え撃つ。

 

 

「はあぁっ!!!」

「だりゃぁ!!!」

 

 

 2人の拳が空中でぶつかり合い、弾け飛ぶ。

 すぐに体勢を整えた2人は、乱打戦に突入する。

 2人から高速に繰り出されれる、拳と蹴りの打つかる音と衝撃が周りに響き渡る……。

 

 両者とも数十発もの攻撃を繰り出していたが、共にまだクリーンヒットはない。

 2人共、自分が持てる攻撃技術を駆使して攻撃を繰り出しているのだが、同様に防御や回避も持てる技術を駆使して、相手の攻撃をまともにヒットさせていないのだ。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 トランクスの拳がついにバーダックの顔面を捉え、撃ち抜く……。

 だが、この男のタフさは尋常では無い。

 息子や孫がいくつもの戦いで発揮して来た、尋常ならざるタフさがここで活きる。

 

 パンチによって、身体が仰け反るが、瞬時に下半身に力をいれ踏ん張りを効かせる。

 

 

「なめんなっ!!!」

「なにっ……!?ぐっ……」

 

 

 そして、瞬時にトランクスの顔面めがけて強力なパンチを放つ。

 バーダックの予想外のタフさに、驚いたトランクスは反応が遅れ、そのパンチを喰らってしまった。

 パンチを喰らわせたバーダックは、すぐさまトランクスから距離をとる。

 

 

「へっ……、ようやく……テメェに1発喰らわせる事ができたぜ……!!」

 

 

 ようやくバーダックの顔に、笑みが浮かぶ……。

 バーダックの視線の先にいるトランクスは、ゆっくりと殴られた左頬に手を添え摩る。

 正直なところ、全くダメージを受けている様子はなかった。

 

 というか、全くダメージを受けていなかった……。

 現にトランクスの表情はどこか、楽しそうな笑みを浮かべていた……。

 

 

「正直、驚きました……。

 気付いているとは思いますが、オレはかなり気……貴方に分かりやすく言えば、戦闘力を抑えて戦っています。

 それでも、今のあなたにはかなりのダメージを与えるくらいには、力を出していました。

 ですが……、貴方はそんな状態のオレにしっかりついて来ただけでなく、攻撃にも耐え切りました……。

 貴方に当てたのは2発だけですが、今の貴方の戦闘力では最初のボディへの1発でも十分気絶させる威力があったはずです。

 それなのに貴方は耐えた……。

 2発目は1発目よりも力を込めたのに、堪えた上に力の乗った反撃まで……、これは、正直予想外でした」

 

 

 笑みを浮かべながら自分を賞賛するトランクスに、居心地が悪くなったバーダック。

 トランクスの雰囲気にすっかり、気を削がれたバーダックは構えを解き、ずっと疑問に思っていたことを問いかける。

 

 

「テメェ……、本当は何が目的だったんだ……?

 正直な話、オレとテメェとじゃあ実力に違いがあり過ぎる……。

 本来だったら、戦いが成立しない程にな……」

 

 

 何処か自嘲が混じった様な言葉を吐いたバーダックを見つめ、トランクスは静かに口を開く。

 

 

「理由は2つありました。

 1つ目は、オレとの戦いの中で”気”の扱いを習得する事がどう言う事なのかを身を以て知ってもらう為でした。

 そして、2つ目はオレの力を戦いを通して知ってもらいたかったからです」

 

 

 その言葉に首を傾げるバーダック。

 

 

「気?」

「オレと戦っている時、撹乱したり、目に見えない死角や背後から攻撃しているのに、まるで自分の動きが読まれている……、そう言う感じを抱きませんでしたか?」

「やっぱり、オレの動きを何らかの方法で掴んでやがったのか……。

 そいつが、”気”の扱いを習得するって事……なのか……?」

 

 

 トランクスはバーダックの言葉に頷く。

 

 

「そうです。気というのはその人が持っている体内エネルギーの事です。

 貴方達は、それをスカウター等を通して計測し、戦闘力として認識していますが、オレはそれを自分で感知しているんです。

 気というのはコントロール出来れば、エネルギー波等の放出するモノだけでなく、自身の身体を強化する事も可能です……。

 バーダックさんも無意識でしょうが、力を解放すると同時に身体を強化しているわけです。

 なので、気を感知出来るオレには、例え眼をつぶっていたとしても、しっかりとバーダックさんの姿が認識できます……」

「スカウターも無く、相手の力を把握出来る……か……。

 しかも、スカウターみたいに計測してから数値化し、画面に映すまでのラグもなく瞬時にそれを感知する……。

 なるほど……、道理でオレの攻撃が当たらないわけだ……。

 しかも、テメェの話から察するに”気”、自身の体内エネルギーとやらをコントロールする術を磨けばオレは更に強くなる事が出来る……。

 そういう事だろ?」

 

 

 バーダックの言葉に頷く事で肯定の意を示すトランクス。

 トランクスの言葉で”気”の扱いを習得する事がどれだけ、戦いに役立つのかを瞬時に理解したバーダック。

 だが、ここでバーダックは疑問は疑問を覚えた……。

 

 

「”気”の扱いを習得する事の有用性は理解した……。

 それで……、何故それをオレにわざわざ教えた……?」

「それは……、今後の貴方には必要な事だと思ったからです……。

 貴方が強くなるには、気を理解する必要がある……。 オレにはそう思いました……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは押し黙る……。

 確かに、気……体内エネルギーをコントロール出来るって事を知る、知らないとでは戦い方に大きく差が出るだろう……。 バーダック自身そう思ったからだ……。

 

 だが、それでも疑問はやはり残る……。

 

 

「仮に……テメェが言った様に、”気”の扱いを習得する事がオレに必要だったとしよう……。

 だが、何故それを教える……? テメェに何の得がある……?」

 

 

 バーダックの懐疑的な視線に、静かでそして穏やかな笑みを浮かべる……。

 その表情はここではないどこか遠くを思い出している様だった……。

 

 

「先程……、あなたは戦いたい相手がいる……、その為に自分は強くならなければならない……。

 強くなって、相手を超えたい……、そう言いましたよね……?」

「ああ……」

「その時のあなたの姿が似ていたんですよ……、オレの父に……」

「父って……、王子にか……?」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは意外そうな表情を浮かべる。

 バーダックにとってのベジータの印象は、ナメック星での戦いで見た程度だったので、正直自分で努力して相手を超えてやろうって気概がある様な奴には見えなかったのだ……。

 そんな、バーダックの反応にトランクスは、苦笑いを浮かべる。

 

 確かに、ベジータの事をよく知らず、振る舞いだけを知る人間には、超えるべき目標の為に自分の限界を超えるべく日々修行しているベジータの姿は想像出来ないかもしれない、と思ったのだ。

 だが、だからこそ、言わねばならない……。

 そして、伝えなければならない……。

 

 そんな父が、自分にとっていかに誇りであるのかを……。

 父が目指し、目の前の男の息子と競い合い、高め合った果てにたどり着いた、我らがサイヤ人の可能性の極地を……。

 自分もその極地を目指す1人のサイヤ人として……。

 

 

「昔、父さんは地球へ初めてやって来た際、悟空さんとの戦いに破れ、追い返されたたそうです……。

 まぁ、これはあくまで父さんの主観であり、実際は引き分けだったと……オレの師匠である悟飯さん……あなたのお孫さんから聞いています……。

 でも、それは、当時の父さんの中ではとてつもない衝撃であり、屈辱だったのだと思います……」

 

 

 トランクスの話をバーダックは静かに聞いていた……。

 

 

「超エリートであるサイヤ人の王子が、下級戦士の出来損ないに敗れる……。

 そんな事は、許されない……、許せるはずがない……。

 きっと、当時の父さんはそう考えていたと思います……。

 だけど、その考え方に変化が起きたのは、きっとナメック星での戦いが切っ掛けだったのだと思います……」

 

 

 ナメック星の名前が出て、バーダックの脳にあの絶望と恐怖にまみれた戦いが思い出されていた……。

 そして、そんな絶望と恐怖を乗り越えた戦士達と、散っていた誇り高き王子の姿を……。

 

 

「ナメック星での戦いで、父さんは悟空さんの中にサイヤ人の可能性を見たのだと思います……。

 自分の限界に挑み続け、鍛え上げ続ければサイヤ人に超えられない限界などないと……。

 そして、その可能性を最も決定づけたのが……」

「超サイヤ人……。 そうだろ……?」

 

 

 確信を持ちながらも問いかけるバーダックに、首肯するトランクス。

 

 

「そうです……。 それから、父さんは変わったそうです……。

 オレが知っている父さんは、常に悟空さんを超える為に生活の大半の時間を修行へ費やしていました……。

 そして、父さんは遂に超サイヤ人への覚醒を果たしました……」

「王子のヤツも、超サイヤ人へと目覚めたのか……!!!」

 

 

 バーダックの表情が驚愕に染まる。

 確かに、ナメック星のでの戦いでベジータの戦闘センスや、才能は感じ取っていた。

 しかし、超サイヤ人になる前のカカロットよりも数段、力が劣っていたのも事実だ……。

 

 だが、それを覆した……。

 まさしく、執念と努力……、そしてなにより”サイヤ人の王子としてのプライド”がかの王子をその次元へと引き上げたのだろう……。

 それに気づいた時、今ベジータと同じ相手を追っているバーダックは、素直にベジータへの尊敬の念が生まれた。

 

 

「すげぇヤツだな……。 お前の親父は……」

「えぇ……、本当に……」

 

 

 バーダックからの賛辞に、どこか誇らしそうな笑みを浮かべるトランクス……。

 

 

「ですが、すごいのは貴方の息子さんもですよ。

 父さんが悟空さんより強くなれば、悟空さんはそれを上回る様に強くなる……。

 あの2人は、今までも、そしてこれからもオレ達サイヤ人の誰もが見た事ない景色を、2人で走破して行くのだと思います。

 共に高め合いながら……」

「そうか……」

 

 

 先程のトランクスと同様の笑みがバーダックの顔に浮かぶ……。

 だが、それは、次第に好戦的な笑みへと変わる……。

 

 

「あいつと戦うのが、ますます楽しみになって来やがったぜ……。

 カカロットがサイヤ人への限界へ挑み続けるなら、オレはあいつのそれより先の領域に行く……!!!」

 

 

 その発言を聞いた、トランクスの表情が驚きに変わる。

 

 

「バーダックさんが戦いたかった相手って、悟空さん……息子さんだったんですかっ……!?」

「あぁ……、そういや、言ってなかったか……。

 今のお前の話のおかげで、俄然やる気になったぜ……!!」

「でっ、ですが……、悟空さんは現世の人間で、バーダックさんは死者ですよね……? どうやって、戦うんですか……?」

 

 

 バーダックはトランクスに、閻魔大王との間で交わされた約束の話を簡単に説明した。

 自分がタイムパトロールになったのは、強くなるためでもあるが……、1番の理由は息子と戦う機会を手にするためである事を……。

 

 

「つまり……、悟空さんが亡くなってあの世に来た時に、バーダックさんは悟空さんと戦えるって事ですか……」

「そうだ……。 お前が言ったように、カカロットはきっとこれからも強くなりやがるんだろう……。

 正直、あいつがくたばる迄にどれくらいの強さになんのか、今のオレには想像もつかねぇ……。

 だが、ただでさえ差がついてやがんだ、おれだって無茶しねぇとあいつには追いつけねぇ。

 だから、オレはタイムパトロールになったんだ……!!」

 

 

 気迫のこもった言葉を告げたバーダックの姿に、やはり父親であるベジータを思い出さずにはいられないトランクスだった……。

 そして、同時に孫悟空という人間の偉大さにも改めて気付かされたのだった……。

 ベジータやバーダックだけじゃない、孫悟空と実際に戦ったり、その戦ってる姿を見た物は自然と心を動かされ、彼の背中を追う様になっている気がする……。

 

 かく言う自分もその1人だ……。

 そんな事を思いながら……、ふとトランクスの笑みを浮かべる。

 

 

「本当に不思議な人だ……悟空さんは……。

 それにしても……、悟空さんがあの世に来たらか……。 ……ん?」

 

 

 呟く様に言葉を吐いていたトランクスだったが、自分が口にした内容に引っかかりを覚えた。

 そんなトランクスの様子を不思議そうに眺めるバーダック。

 

 

「どうかしたか……?」

「ああ……、いえ……今更ながら、バーダックさんはどうして、悟空さんが超サイヤ人になった事を知ってるのか……? って疑問を覚えまして……」

「んだよ……、そんな事か……。 地獄から見てたんだよ……。 ナメック星での戦いを。 2年くらい前にな……」

「見てた……?」

 

 

 不思議そうな表情を浮かべたトランクスに、バーダックは地獄にある水晶について語って聞かせた。

 そして、それを使ってフリーザとの戦いで息子であるカカロットが”超サイヤ人”に覚醒した姿を、その目で見た事を……。

 

 

(フリーザとの戦いが……2年前……か……。

 という事は……、バーダックさんが普段生活している時代は、初めてオレが過去にやって来てフリーザを倒して半年くらいか……。

 なるほど……、だからか……)

 

 

 説明を聞いた後、トランクスはバーダックから齎された情報を整理しながら、内心で自身が引っ掛かりを覚えた理由に気が付いた。

 急に黙り込んだトランクスの様子に、首を傾げるバーダック。

 

 

「おい、どうした? 急に黙り込みやがって……」

 

 

 声を掛けられたトランクスはビクゥ!!と身体を震わせる。

 

 

「えっ!? あっ……、す、すいません……。 急にでぼーっとしてしまって……。

 なっ、何でもないんで、気にしないでください……」

 

 

 明らかに怪しい反応のトランクスに、疑惑の目を向けるバーダック。

 そんな空気に耐えられなくなったトランクスは、強引に話題変更の手段をとる。

 

 

「そっ、それより、バーダックさん。

 オレがバーダックさんの戦った2つめの理由なんですけど、覚えてますか……?」

「ん? あー、確か……”お前の力を戦いを通してオレに知ってもらう”ため……、だったか……?」

「そうです……!!」

 

 

 バーダックの言葉に、笑みを浮かべるトランクス。

 しかし、次の瞬間、真剣な表情を浮かべ真っ直ぐバーダックの目を見てトランクスは口を開く。

 

 

「バーダックさん……、もし本当に息子さん……悟空さんを超えたいのであれば……、オレと一緒に修行しませんか……?」

「なにっ!?」

 

 

 急なトランクスの提案に、驚きと疑問のこもった声を上げるバーダック。

 しかし、そんなバーダックを無視する形で、尚もトランクスは口を開く。

 

 

「はっきり言います……。

 今のまま、あなた1人で頑張っても、あなたは決して悟空さんに追いつく事は無い……!!!」

 

 

 トランクスの断言する様な物言いに、バーダックの目に険しさが宿る。

 今にも戦いが再開されそうなほど、両者の間には剣呑な雰囲気が立ち込める。

 しかし、そんな雰囲気にも動じず、トランクスは口を開く。

 

 

「勘違いしないでください……。

 それは、貴方に才能がないとか言う話ではありません。

 修行のやり方もロクに知らず、共に高め合う人間がいない貴方では、限界があると言う話です。

 1人での修行に限界がある事を……得られる力が少ない事を……、オレは誰よりも知っています……」

 

 

 どこか哀愁が込められたその台詞に、バーダックは何も言えなくなった……。

 それだけ、今の言葉には重みがあったのだ……。

 力を切望したにも関わらず、どれだけ望んでも手に入れることが出来ず大切なモノを失った者の確かな重みが……。

 

 

「「…………」」

 

 

 両者の間に沈黙が流れる……。

 しかし、互いの眼がそれる事は一時もなかった……。

 そんな時間に終止符をうったのは、こちらの男だった……。

 

 

「オレは……、カカロットに追いつけると思うか……?」

 

 

 視線をトランクスから外し、ポツリと呟いたのはバーダックだった。

 この半年、息子と戦う事を目標に自分なりに鍛えて来たバーダックだったが、自分が思うほどの成長を遂げていない事は本人が1番自覚していた。

 だが、それは無理もない事だろう……。

 

 比較対象である悟空とバーダックでは、現在の力の差があり過ぎるのだ。

 なので、ちょっとやそっとの上達では全然足りないのだ。

 その事実がバーダックを自然と焦らせていた……。

 

 しかし、どれほど優れた戦士だろうと、1人での修行では限界があるのだ。

 そのよい例が、トランクスの父ベジータだろう。

 彼は、長年ライバルである孫悟空を超えるべく、1人で修行を続けてきた。

 

 しかし、彼がどれだけ1人で頑張ろうが年が経つにつれ、2人の実力差は開く一方だった。

 だがそれは、ベジータに悟空ほどの才能がなかったからでは決してない。

 2人の差を決定的にする要素は別のところにあったのだ。

 

 ベジータは、幼少の頃より様々な星を制圧する過程で数多くの戦いをこなして来た。

 単純な戦闘経験だけだったら、悟空より多いかもしれない。

 しかし、ベジータは自己を追い込み鍛え上げるという経験は、ほとんどして来なかったのだろう。

 

 元々サイヤ人は戦闘民族で、生まれつき戦闘力が高い傾向がある。

 特にベジータは王族で、しかも生まれながらにして歴代のサイヤ人の中でも高い戦闘力を有して生まれて来た。

 さらに、幼少の頃より天才と言われて育って来たのだ。

 

 戦闘訓練こそ積んではいただろうが、大体は持って生まれた天性の力で大抵の戦いは乗り切って来れただろう。

 そんな彼が、同族で、しかも蔑んでいた下級戦士である孫悟空に敗北した。

 それだけでなく、戦って数ヶ月しか経っていないというのに、ナメック星で再会した時には自身とは比べ物にならない程の実力差が存在していた……。

 

 そして、決定的だったのが、サイヤ人の伝説”超サイヤ人”への覚醒を果たし、サイヤ人の宿敵である宇宙の帝王フリーザの撃破。

 このわずか数カ月の出来事はサイヤ人の王子ベジータにとって、自身の価値観を塗り替えるには十分だった。

 これまで、自分の才能や知略を用いた戦略でどうにか物事を解決しようとしていた彼が、初めて自身を追い込み鍛え上げる事を決意したのだ。

 

 だが、先に記述した様に、1人での修行は、いかに環境を整えようと色々限界があるのだ。

 もし、それを覆せるとしたら、サイヤ人より高度な種族か突然変異でもない限りは不可能だろう。

 

 対して悟空は、祖父に始まり、仙人、仙猫、地球の神等、様々な武術の達人から幼い頃から師事を受けてきた。

 さらに宇宙でも武術に対して造詣が深い界王や大界王という偉大なる神々の元で、修行を積んでいたのだ。

 つまり、悟空は自身を効率よく鍛える方法の引き出しが、ベジータより圧倒的に多いのだ……。

 

 それは、何も肉体や技の話だけではなく、精神的な面でも同様だ。

 心技体という言葉が示す様に、心と技と体の全てを鍛えて初めて本当の強さが手に入るのだ。

 悟空は多くの師匠の元で、肉体や技だけでなく心の修行も積んで来ていたのだ。

 

 そういう下地があるから悟空は、固定概念に縛られず自身を鍛えるにはどうするのが効率的なのかの最適解を見つけるのが上手いのだ。

 

 また、師匠が居るという事の利点は、他にもある。

 1人で修行するという事は、自身の長所や短所も自身が把握出来る範囲でしか理解する事は出来ない。

 しかし、武術の知識を持つ師と共に修行すれば、自身では気付かない長所や短所を指摘してもらえ、尚且つ改善する方法も教えてもらえたり、共に考えることも出来るのだ。

 

 同じ時間を修行に費やしていながら、悟空とベジータに実力差が生じたのは、”師匠の存在”と”修行のノウハウの有無”この2点だろう。

 現にベジータは、ある時期に悟空と共に、とある人物に弟子入りしてからは、あまり時間をかけずに悟空との実力差を埋めてみせた。

 つまり、ベジータには悟空と同等の才能がちゃんと備わっていたのに、それを開花させてくれる存在がこれまではいなかったのだ。

 

 長々と書いてしまったが、バーダックも1人で修行を続けていると、ベジータ同様自分の持つ才能を開花出来ない可能性があるのだ。

 

 

 どこか不安気に呟く様に質問をしたバーダックをしっかり見据え、トランクスは自身の考えを口にする。

 

 

「バーダックさん、あなたの質問に、オレが応えられる答えは1つです。

 それは、正直分からないという事です。

 なんせ、相手はあの悟空さんですからね……。

 だけど、1つ分かる事があります……」

「……」

 

 

 バーダックもトランクスから視線を外す事なく、お互いの視線が交差する。

 

 

「それは、あなた自身が考えている以上の努力をしないと、永遠に悟空さんに追いつく事がないという事です」

「ちっ……」

 

 

 はっきりと告げられたトランクスの言葉は、バーダックが無意識の内に目を逸らしていた事実でもあった。

 それを言葉にされた事で、自覚してしまったのだ。

 2人の間に沈黙が流れる……が、またしても空気をやぶったのはこちらの男だった。

 

 

「ふぅ……、今のオレは意地を張ってられる立場じゃねぇよな……」

 

 

 そう呟いたバーダックの表情はどこかスッキリしており、先ほどまであった迷いが一切なくなっていた。

 そして、決意のこもった表情をトランクスに向ける。

 

 

「頼む……、オレに……修行をつけてくれ……!!!」

 

 

 そう言うと、バーダックは静かに頭を下げる……。

 孤高の戦士バーダックが初めて自身の足りないモノを埋めるために、頭を下げた瞬間だった。

 

 

「はいっ! オレが持てる全ての技術をあなたに伝えます……!!」

 

 

 バーダックの決意に応える様に、力強い笑みを浮かべたトランクスはバーダックに向かって右手を差し出す。

 そして、バーダックもトランクスの気持ちに応える様に、その右手をしっかりと握り返す……。

 

 

「へっ、すぐにてめぇに追いついてやるよ……!!!」

「ええ、期待しています……。

 あなたが強くなってくれれば、オレも修行になります。

 オレにも目指すべき強さがあるので、一緒に強くなりましょう……!!!」

 

 

 この瞬間、時を超え2人のサイヤ人の師弟が生まれたのだった……。

 やる気に溢れたバーダックを見て、トランクスはふと思った……。

 

 

(悟飯さんに修行をお願いしていた時のオレも、こんな感じだったのだろうか……?

 まさか、あなたの祖父をオレが鍛えることになったと、あなたが知ったら、あなたはどんな顔をするのかな……?

 ねぇ……、悟飯さん……)

 

 

 亡き師匠に、しばし思いを馳せたトランクスだった。

 

 

「さて、任務も終わったのに随分長いしちまったな……。

 そろそろトキトキ都に戻るか」

「あっ……、そうですね」

 

 

 こうして、2人はトキトキ都に戻るため移動を開始する……。

 

 

「トキトキ都に戻ったら、早速修行をつけてくれよ……。 なぁ、師匠」

「師匠はやめてください、トランクスでいいです……」

 

 

 どこか、冗談混じりに師匠呼びするバーダックに、苦笑いを浮かべるトランクス。

 

 

「へっ、じゃあ、よろしく頼むぜ!トランクス」

「はい!」

 

 

 強気な笑みを浮かべたバーダックに触発される様に、トランクスも力強い笑みで応える。

 そんなトランクスに満足したのか、バーダックは再び歩き出す。

 自身の先を歩くバーダックの背に、静かに視線を向けるトランクス。

 

 

「あと、2年半か……」

 

 

 静かに呟かれたその言葉は、誰に聞かれることもなく消えていった……。

 そして、バーダックの後を追う様にトランクスも歩き出す……。

 

 こうして、バーダックはトランクスの弟子となり、修行に励む日々がスタートするのだった……。

 そして、時は2年半後の現代へと進む。




それでは、また明日!


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Story of Bardock-Ep.05

ちょっと遅くなってすいません。
楽しんでもらえると嬉しいです。


「振り返ってみると、この2年半色々あったな……」

 

 

 初めてバーダックに出会った日の事を思い出していたトランクスは、バーダックと過ごした2年半を振り返る。

 正直、師匠のトランクスから見てもバーダックの成長速度は予想以上だった……。

 初めて会った時は、戦闘力1万程度だったのに、1年と少しで超サイヤ人への覚醒を果たしてしまったのだ。

 

 しかも、こちらが伝える技術の吸収力も凄まじく、使いこなすまでにさほど時間を要さない辺り、やはり悟空の父親なのだと実感する場面も多々あった。

 基本的に、バーダックは任務以外ではトランクスとの組手を主にした修行に時間を当てていた。

 組手の中で、悪いところや足りていない技術をその度に、トランクスが指摘したり教えたりしていくスタンスで続けてきた。

 

 また、トランクスが任務でいない時は、トキトキ都にいる様々な相手と自分からコミュニケーションを取り組手を行い、実践の中でメキメキと力をつけていった。

 

 

 今にして思えば、時の界王神様が自分に彼が悟空の父親だと伝えなかった理由も、今なら何となく予想もつく。

 きっと、バーダック本人に自分の足りていないモノを自覚させるためだったのだろう……。

 

 

 トランクスが過去を振り返っていると、足元からガサッと音がした……。

 視線を向けると、先ほどまで足元で大の字になり息も絶え絶えだったバーダックが起き上がろうとしていた。

 起き上がったバーダックは、構えをとり闘志みなぎる視線をトランクスに向ける。

 

 

「さて……、続きやるぞ……! トランクス……!!」

「ええ……、それでは、行きますよ! バーダックさん……!!」

 

 

 そう言うとトランクスは、バーダックから距離を取る様に後方へ跳び、着地すると同時に構えをとるトランクス。

 しばらく、睨み合う両者……。

 組手だと言うのに、緊張感が高まる……。

 

 ほどなくして、ほぼ同じタイミングで両者が飛び出す。

 

 

「だらぁ!!!」

「はあっ!!!」

 

 

 2人の男が同時に繰り出した拳は轟音をたて、ぶつかり合う。 

 その衝撃で、2人を中心に地面が陥没しトキトキ都を大きく揺らす……。

 

 2人の男の拳は、未だぶつかり合っている。

 まるで力比べをしている様だ。

 しかし、両者の表情は決定的に異なっていた。

 

 

「ぐぐぅ……」

 

 

 バーダックが顔を顰め歯を噛み締め呻く様な声を上げ、明らかに全力なのに対して、余裕の表情でバーダックの拳を受けているトランクス。

 

 

「ちっ……、はあああああぁっ……!!!」

 

 

 舌打ちしたバーダックは、このままでは状況が悪いと瞬時に判断すると自身の気を解放する……。

 すると、バーダックの全身が黄金に包まれ、髪は金色、瞳は碧眼へと変化し、黄金いろのオーラを身に纏う。

 

 

「おらぁっ……!!!」

「ぐっ……」

 

 

 超サイヤ人へと変化した事で、パワーアップしたバーダックが掛け声と共に拳に力を込める……。

 すると、さすがにノーマルの状態では超サイヤ人との純粋な力比べでは部が悪いのか、トランクスの表情から余裕が消える。

 

 

「はあっ……!!」

 

 

 掛け声と共にトランクスの身体から白い透明なオーラが吹き出す。

 そして、バーダック同様に拳に力を込める……。

 トランクスが力を解放した事で、押され気味だった拳は、再び拮抗した状態に戻る。

 

 拳に込められている力が、どんどん増す事で2人の周りの地面の陥没はさらに広がり、それだけでなく建物にまでヒビが入るなどの損害がで始めた……。

 さすがに、そんな状況を看過出来るほど、このお方は寛容ではなかった……。

 

 

「いい加減にしなさい!2人共っ!!!」

 

 

 その怒声に、今まで力比べをしていた2人はビクッ!!と身体を震わせる……。

 そして、2人揃って恐る恐る怒声がした方に顔を向ける。

 すると、そこには顔を真っ赤にし、仁王立ちした少女がいた。

 

 

「と、時の界王神様……」

 

 

 トランクスが冷や汗を流しながら、その少女の名を呼ぶ。

 そう、この少女こそ現在のトランクスとバーダックの上司にあたる時の界王神だったのだ。

 

 

「あなた達さっきから、ズドンバコン煩いのよ!!

 修行するんだったら、然るべき場所でやりなさいっ!!!

 ちゃんとトキトキ都のルールにあるでしょうがっ!!!」

 

 

 自分の怒りをマシンガンのごとく、ぶつけて来る時の界王神。

 お怒り状態の時の界王神に視線を向けたバーダックは、不満そうにボソリと呟く……。

 

 

「ちっ、ロリババアが来やがったか……。 いいトコだったのによ……」

 

 

 その呟きは、近くにいたトランクスの耳にも届いていた。

 

 

(ちょっ……、バーダックさん、何て事を……。

 どうか、時の界王神様には聞こえていません様に……)

 

 

 バーダックの呟きに、更に冷や汗を流すトランクス。

 だが、トランクスの祈りが叶う事はなかった……。

 何故なら、目の前に居られるお方こそが、最も近くにいる神なのだから。

 

 

「誰がロリババアですってーーーっ!!?」

「んだよ、聞こえてたのか……? 年の割に耳はいいじゃねぇか」

「むっきぃーーーっ!!!」

 

 

 バーダックの呟きをしっかり拾っていた時の界王神は、更に怒りを爆発される。

 だが、バーダック追い打ちにより怒りの臨界点を超え遂には、訳が分からない叫び声を上げ地団駄踏む。

 

 

「おっ、落ち着いてください……。 時の界王神様……」

 

 

 さすがにほっとく訳にもいかないので、止めに入るトランクスだったが、聞こえていないのかてバーダックにぎゃあぎゃあ文句を言い続ける時の界王神。

 哀れトランクス……。

 さすがにバーダックの方も、いい加減うるさくなって来たのか、話を逸らす為自ら話題を振ることにした。

 

 

「んな事より、例の組織について何か分かったのかよ……?」

「うっ……」

 

 

 バーダックの問い掛けに、痛い所を突かれたのか、呻き声を上げ時の界王神の動きが止まる。

 そして、これまでとは比較にならないほど、ドヨーンと重苦しい雰囲気を醸し出した……。

 

 

「まだ……」

 

 

 ポツリと呟かれたその言葉に、バーダックとトランクスの表情も僅かに曇る。

 一応記述しておくが、2人のこの反応は、時の界王神の仕事が遅いことへではない。

 彼らは、1年ほど前からとある犯罪組織を追っていたのだ。

 

 ここ1年程その組織の手の者と幾度なく戦った、バーダックとトランクスだったが、組織の名、規模、主導者の名など一切掴めていないのだ。

 時間に干渉する術を持つ、その組織を一刻も早く壊滅させる為に、時の界王神は組織の痕跡を探す為、大勢のタイムパトロール隊員を色々な時代へ調査の名目で飛ばした。

 そして、その調査で上がって来た膨大な量の情報を、ここ最近ずっと整理していたのだ。

 

 しかし、それだけ大規模な調査を行ったのにも関わらず、成果は殆どなかったのだ……。

 

 

「大規模な組織だと言うのに、まったく痕跡を残さないというのは厄介ですね……」

「だな……。 組織としてかなり徹底されてんだろうな。

 フリーザ軍のヤツ等は、フリーザの目が届いてねぇとこじゃ結構好き勝手やってやがったが、この組織の連中は目的の事以外は、余計な事はしねぇ様に厳命されてんだろう……」

「相当に統率力がある者が上にいる……、と言う事でしょうか?」

「どうだかな……。 ここまで完璧に徹底して痕跡を消してるトコを見ると、逆に部下の連中は全員操られてんじゃねぇか? とさえ思えてくるぜ……」

 

 

 自分の横で、組織についてあれこれ考察している2人の言葉を聞いて、ようやく復活した時の界王神も会話に加わる。

 

 

「はぁ、まぁ、今後はこれまで以上に色々考えて動く必要があるでしょうね……」

「とりあえず、今後も調査を続行するということですね……?」

「そうね……。 奴らの狙いが分からない現状そうするしか手はないしね……。

 さて、そろそろ私は仕事に戻るわ」

 

 

 そう言って、時の界王神は2人に背を向け歩きだしたが、「あっ!」と声を上げたると歩みを止め2人の方へ振り返った。

 振り返った時の界王神の顔はとても、いい笑顔だった……。

 2人はその笑顔を見て、嫌な予感を覚える……。

 

 

「そういえば、言い忘れてた事があったわ……!!

 バーダックくん……、あなたに罰を与えます……!!!

 私をロリババアと呼んだ罪は重い……!!!」

「ちっ、覚えてやがったのかよ……。

 しかも、組手で物壊した事で罰を受けるんじゃなくて、てめぇをロリババアって言った事で罰を受けるのかよ」

「もちろん、そちらの罰も一緒にかかってるわよ」

 

 

 ビシッ!と指をバーダックに突きつける時の界王神。

 上手く話題を逸らしたのに、時の界王神がロリババア発言を覚えていた事に舌打ちしたバーダックだった。

 しかし、然るべき所で修行を行っていなかったのは自分の落ち度であることも理解していた。

 

 なので、今回は特に文句を言うことなく罰を受け入れる事にした……。

 

 

「しょうがねぇ……。 で?オレにどんな罰を与えるつもりなんだ? 時の界王神様よぉ……」

「ふっふっふ……。 今の君に一番効く罰といったらこれしかないわよねー」

 

 

 時の界王神が浮かべる人の悪い笑みに、罰を受け入れるつもりだったバーダックは速攻バックレたくなった。

 

 

「バーダックくんは、罰として地獄に帰ってもらいます!!

 つまり、私がいいと言うまでトランクスとの修行は禁止です☆」

「なっ、なんだと!? ふざ……「はーい、強制退去ー!!!」」

 

 

 時の界王神が下した罰にバーダックが文句を言おうとした瞬間、バーダックの全身が光に包まれる。

 そして、徐々にバーダックの身体が透けていく。

 バーダックの身体がトキトキ都から地獄へ転移しようとしているのだ。

 

 

「たまには、家族サービスしてあげるのよーっ!!

 せっかく可愛い奥さんがいるんだからー!!

 あと、例の組織に動きがあったら戻してあげるからねー!!!」

「てめぇ、ふざけんなーーーっ!!!」

 

 

 絶叫と共にトキトキ都から完全に姿を消す、バーダック。

 その場には満面の笑顔の時の界王神と、唖然としたトランクスの2名だけ残っていた……。

 

 

「あのー、時の界王神様……いくらなんでも、ちょっと厳しすぎでは……?」

 

 

 恐る恐る問いかけるトランクスに、今まで満面の笑みを浮かべていた時の界王神の表情が一変する。

 その表情は何処か哀愁が漂っていた……。

 

 

「トランクス……。 バーダックくんが普段いる時代ではね、明日が何日か知ってる……?」

 

 

 時の界王神の変わり様に、驚きを隠せないトランクスはこんな受け答えしか出来なかった。

 

 

「えっ……?」

「明日はね……、エイジ767年5月26日なのよ……」

「ーーーっ!?」

 

 

 時の界王神が告げた日にちに、トランクスの表情が驚愕に染まる。

 何故なら、その日はトランクスにとって忘れられない日だったからだ……。

 

 

「明日、エイジ767年5月26日は、地球の命運を決める”セルゲームが”開催される日……。

 つまり……、孫悟空くんが2度目の死を迎える日なのよ……」

 

 

 目標としていた息子が、明日死ぬ等、想像すらしていないバーダックを他所に物語は更に続くのだった……。




Story of Bardockはあと1話か2話で終わらせて、その後に「悟空、天国にやって来ました編(仮)」をやろうと思います。


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Story of Bardock-Ep.06

お待たせしました。
それでは、続きをどうぞ。


 一度動き出したものは、何であれそう簡単には止まらないものである……。

 時だろうと、人間だろうと、運命であろうと……。

 そして、叫び声だろうと……。

 

 

「てめぇ、ふざけんなーーーっ!!!」

 

 

 時の界王神より、無理矢理地獄に戻される事になったバーダック。

 視界の光景が、トキトキ都から地獄に一瞬で置き換わる寸前に、あのチンチクリンのロリババアに吐いた咆哮は今地獄に響き渡っていた……。

 その時、バーダックのすぐ近くから声が聞こえてきた。

 

 

「うわっ! いきなりなんだいっ!?」

「あん……?」

 

 

 驚きに満ちた女性の声はとても良く聞き覚えがある人物の声だったので、幾分か冷静さを取り戻したバーダック。

 そして、そちらに視線を向けると1人の女サイヤ人が立っていた。

 

 2人のサイヤ人の視線が交差する。

 

 

「……ギネ?」

「……バーダック?」

 

 

 2人は呆然としたまま、何とかお互いの名前を口にする。

 しばらく、無言で見つめ合う両者。

 まるで、現実に理解が追いついていないようで、2人そろって間抜けな顔を晒していた。

 

 しかし、そんな時間も長くは続かず、ようやくフリーズしていた思考が動き出した。

 

 

「よぉ……、久し「バーダックーーーッ!!!」うおっ……!!!」

 

 

 久しぶりに会った女房に声を掛けた瞬間、自身の声を遮る形でギネがバーダックの胸に猛スピードで飛び込んできた。

 飛び込んで来たにスピードが早すぎた為、うっかり体勢を崩しそうになり、驚きの声を上げるバーダックだった。

 しかし、そんなバーダックの事なんぞ知ったこっちゃねーとばかりにギネの口が開く。

 

 

「バーダック!! あんた、3年も帰ってこないなんて一体どういうつもりだい……!!!

 いきなり閻魔大王からの仕事だって言って、いなくなって……、あたしが……、あたしがどれだけ心配したと…………」

 

 

 3年間貯め続けた怒りを爆発させるように、口からマシンガンの如く怒りの言葉を吐き出すギネ。

 その言葉の弾幕に為す術のないバーダックは、抱きつかれた体勢のままギネの言葉を聞いていた。

 しかし、しばらくするとギネの身体が僅かに震えているのに気が付いた……。

 

 そこで初めて、バーダックは自身がどれだけギネに心配をかけていたのかを悟ったのだった。

 

 

「心配かけたな……。 すまねぇ……」

「ーーーっ!!」

 

 

 静かにギネを抱きしめ、謝罪するバーダック。

 すると、ギネは一瞬驚いたように身体を震わせたが、静かにバーダックを抱きしめた……。

 

 

「おかえり……。 バーダック……」

「ああ……」

 

 

 しばらく抱擁を交わしていた2人だったが、お互いに落ち着いたので、家に帰り久しぶりに夫婦2人の時間を過ごした。

 ちなみに、2人の長男のラディッツは、成人している事もあり別の家で暮らしている。

 

 

 余談だが、地獄のサイヤ人たちは例の水晶から少し離れた所に、集落を作って暮らしている。

 そこは、地獄を管理している鬼達によって、サイヤ人達に与えられた土地だった。

 

 サイヤ人達みたいな惑星規模ではないが、種族の大半が滅んでしまう事は宇宙ではたまにあったりするのだ。

 その様な場合、同じ種族や星、国の者は大体同じ場所で生活を送る事になるのだ。

 これは、単純に同じ価値観を持つ者同士の方が互いの常識が通じる為、無闇矢鱈に争いにならないという考えの元その様になっている。

 

 とはいえ、地獄の刑の度合や刑期は人によって違うので、人によっては全く別の場所で生活していたり、そもそも地獄でも自由に出歩く事が許されていない者も存在する。

 

 本来地獄にいる者達は死人である為、食事や睡眠等取らなくても死ぬ事は無いが、それでもやはり労働した後等は、空腹感や睡眠欲等が生まれてしまう。

 その為、集落によってはしっかりと家が建っていたり、土地を耕して食料を育てていたりもする。

 当然これは、地獄の刑での時間外に行っている。

 

 そして、地獄にいるサイヤ人達も刑の時間外に、ベジータ王の命令を受けた非戦闘員達主導の元、家の建築と畑の開拓を行なった。

 サイヤ人達の身体能力を持ってすれば、重機などは必要ない為、しっかりとした計画を立てる者さえ存在すれば、家の建築や畑の開拓等はさして時間が掛からなかった。

 ある程度の生活基盤が出来た後は、より良い生活を追求する為、非戦闘員達は更なる研究を進めた。

 

 その結果、食べられる食料が増え、畑で育てる作物は一気に増えた。

 その作物は大変出来が良く、近くの集落とも取引が生まれるレベルだった。

 これにより、サイヤ人の集落の財政はかなり向上した。

 

 これらの出来事は、地獄のサイヤ人達の価値感を少なからず変えた。

 かつては、他の星を侵略し制圧してから、他者へ売り払い生計を立てていたサイヤ人が初めて、自分達で何かを生み出し育てた。

 そして、それを他者が評価し認めてくれた。

 

 戦闘民族サイヤ人が、農耕民族サイヤ人になった瞬間だった……。

 信じられない様な成長を遂げた彼らだったが、彼らがこうなったのには、しっかりとした理由があった。

 

 地獄での戦闘行為は、基本禁止なのだ……。

 これを破った者は、閻魔大王によって大きな罰を受ける事になる。

 いかに、生前強力な力を持っていようが、死者である以上、閻魔大王が持つ”死者の魂への絶対の権力”には逆らえないのだ。

 

 最悪、無限に等しい時間を封印され苦痛を味わい続け過ごす事だって、十分あり得る。

 また、やりすぎれば存在そのものすら、消される可能性だってあるのだ。

 それらのリスクを天秤に掛けると、どうしたって無闇矢鱈に戦闘行為等は行えない……。

 

 とはいえ、サイヤ人達から戦闘欲求が消えたわけではない。

 彼等みたいに戦いに生き甲斐を感じる種族がいるのもまた事実だ。

 そう言う者達に必要以上に戦いを禁じるのも、無駄な争いを働く切っ掛けを与えることになりかねない。

 

 なので、下記の2つのルールさえ守れば、ある程度の戦闘行為は容認されていたりもする。

 

 1.相手を殺さない

 2.他の集落への侵略は厳禁

 

 上記の2つのルールを守れば、戦い自体は出来るので地獄のサイヤ人達は、同族同士で殺さない程度で戦ったり、近くの集落の者と腕試しをしたりしている。

 それが、今の地獄のサイヤ人達の生き方だ。

 

 

 

 バーダックが地獄に戻って翌日。

 その日は、地球の日付でいえばエイジ767年5月26日だ。

 オフであるバーダックと違い、ギネは地獄の刑と仕事の為、バーダックが起きた時には既に家を出ていた。

 

 ちなみにバーダックの地獄の刑だが、現在はタイムパトロールの仕事が地獄の刑の代わりになっている。

 これは、閻魔大王からバーダックにタイムパトロールになる事を勧めた為、その様な処置が取られている。

 

 ギネが作り置きしてくれた食事を食べ終えたバーダックは、1人で修行するべく出かける事にした。

 家を出る際、部屋の時計に目を向けると、もうすぐ正午になろうとしていた……。

 

 

「バーダック!!!」

 

 

 家を出て、静かに修行できる場所を考えながら歩いていると、自分を呼ぶ声が聞こえたのでそちらに視線を向けるバーダック。

 

 

「ん? なんだ……ベジータ王じゃねぇか」

「ふん、下級戦士の分際でこのワシにその様な口を聞くのは貴様だけだぞ……。 バーダックよ」

「はっ……、オレに敬語を使わせたかったら、力付くでやってみな……!! サイヤ人だろ……?」

「ちっ……、相変わらずなヤツだ」

 

 

 偉そうな声でバーダックに話しかけてきたのは、お供を2人連れたサイヤ人の王ベジータだった。

 本来ならベジータ王が言った様に、下級戦士であるバーダックは彼に敬語を使うべきなのだろうが、この男も2人目の息子同様、他人に敬語を使うのが苦手な人間だった。

 バーダックの対応に、顔を顰めたベジータ王だったがこの2人のやりとりは何だかんで数十年続いているやりとりなので、今やサイヤ人達にとってみれば日常風景なので、お供の2人や通行人は何も言わずに見守っていた。

 

 

「それで、オレになんか用かよ……? ベジータ王」

「ふん、貴様が閻魔大王の命を受け、妙な仕事に就いたとギネから聞いたのでな。 3年間どこで、何していた?」

「何で、あんたにそんな事言わねぇといけねぇんだよ……?」

「3年前フリーザが、地獄にやって来たのは知っているな?」

「ああ……、そいつがどうしたってんだ……?」

 

 

 ベジータ王の口からフリーザの名前が出た事により、バーダックの目が鋭くなる。

 そんな、バーダックの様子にベジータ王もようやく目の前の男が、まともに話を聞く気になったと判断し、さらに口を開く。

 

 

「まだ、確定情報ではないのだが、どうやらフリーザが妙な動きをしているらしいのだ……」

「妙な動き……だと……?」

「うむ……。 まだ詳しい調査は出来ておらんが、最悪の場合、奴は地獄を支配する為に動き出すやもしれん……」

「閻魔の野郎がいる限り、フリーザの野郎が好き勝手出来るとは思えねぇが……、あいつが大人しくしているタマでもねぇ……か……。

 正直な話、よく今まで動き出さなかったって思うくれぇだぜ。

 フリーザの野郎は、クズだがバカじゃねぇ……。

 動くとしたら、それ相応の勝算があるからだろうな……」

 

 

 バーダックの言葉に、重々しく首を縦に降るベジータ王。

 

 

「もし、フリーザが動き出した場合、あの者が必ず襲う集落は何処だと思う……? バーダックよ……」

「ーーーっ!?」

 

 

 その問いかけで、ベジータ王が何が言いたいのか瞬時に理解したバーダック。

 

 

「……オレ達、サイヤ人てわけか……。

 あいつはカカロットにプライドを奪われ、トランクスによって命を奪われた……。

 2人のサイヤ人によって何もかも奪われたわけだから、当然といえば、当然か……」

「……トランクス、誰だ、その者は……? 地球には貴様の息子以外にもサイヤ人がいるのか?」

 

 

 バーダックの口から飛び出した、自分の知らないサイヤ人の名前にベジータ王は首を傾げる。

 そのベジータ王の反応に、バーダックは人の悪い笑みを浮かべる……。

 そのバーダックの笑みに、嫌な予感を覚えるベジータ王だった。

 

 そんな、ベジータ王の内心等知りようがないバーダックは、これから告げる事実に目の前の男がどの様な反応を見せるのか楽しみでしょうがなかった……。

 なんせ、自分もあいつに真実を告げられた時は、大きなショックを受けたのだ……。

 肉親である、目の前の男は自分以上の反応をしてくれるはずだと、大きな期待を抱くバーダックだった。

 

 そして、ついに、バーダックの口からそれが告げられたのだった……。

 

 

「トランクスってのはな、あんたの孫さ……。 ベジータ王よ」

「……は?」

 

 

 バーダックに告げられた言葉を、しっかりと王の耳にも届いた。

 しかしベジータ王はその言葉の意味を、上手く認識することが出来なかった。

 その証拠に、彼はバーダックの前でだらしなく口を唖然とした表情を浮かべている。

 

 その反応を面白そうに、眺めているバーダック。

 

 

「おいおい、どうした王よ……? 聞こえなかったのか? あんたの孫だって言ったんだよ……。

 よかったな。 あんたの血はちゃんと受け継がれる様だぜ……?」

「まっ、孫……? ワシに……孫だと……? ワシに孫がいるのかっ!! バーダックーーーッ!!!」

 

 

 しばらく、脳内でバーダックの言葉を反芻していた様だが、孫の存在を自覚した瞬間ベジータ王はバーダックに突っ込んできた。

 

 

「うおっ!!!」

 

 

 物凄い形相で突っ込んできた王を、驚きながらも横に僅かに移動する事で回避するバーダック。

 バーダックが回避した事で、頭から地面に突っ込むベジータ王。

 勢いがあり過ぎたのか、地面に激突した時、周りに凄まじい音が鳴り響いた。

 

 

「おいおい……、ちょっとは冷静になれよ……」

 

 

 バーダックが、無様に地面とキスをしているベジータ王に呆れながら言葉を掛けると、王は鼻を押さえながら起き上がる。

 鼻から血が流れているところをみると、そこそこのダメージはあった様だ。

 痛みで冷静になったからか、ベジータ王は頭に浮かんだ疑問を口にする。

 

 

「うぐぅ……、そもそも、貴様なぜワシの孫の事を知っておるのだ……?」

「ああ……、んなことか。 実はな……」

 

 

 そこでバーダックは、タイムパトロールやトキトキ都、そしてトランクスが以前話してくれた過去について話せる範囲内で語って聞かせた。

 

 

「なるほど……、タイムパトロールとはその様な組織なのか……。

 それにしても、ワシに孫がいたことも驚いたが……、まさか、その孫が歴史を改変し、その罪を償う為にタイムパトロールになっているとはな……」

「まぁ、あいつの話だとオレ達がいる今の時代では、あいつは赤ん坊らしいがな……。

 それに、オレ達がいるこの世界線ではあいつは、トキトキ都にいるあいつみたいにはならねぇ……って話だ」

「そうか……。 それは良い事だ……」

 

 

 話を聞き終えたベジータ王は、複雑そうな感情を抱きながらも、安堵した表情をしていた。

 

 

「それにしても、ワシらの子達は孫に随分世話になったのだな……」

「ああ……。 あいつがいなかったらオレのガキは、病でくたばっていたみてぇだし、あんたの息子やオレの孫は、人造人間ってフザけた奴等に殺されていたらしい……。

 あいつが、罪を背負ってくれたから、オレらのガキどもは今を生きていられんだ……」

「そうだな……。 バーダックよ、お前がトキトキ都に戻ったらワシからも礼を言っていたと伝えておいてくれ」

 

 

 サイヤ人の王であり、普段は他人に厳しいこの男も、面識はなくとも肉親であるトランクスの生き方には何かしら感じ入るものがあった様だ。

 

 

「さて、貴様のせいで話が脱線してしまったが……、フリーザが動いた場合、我々サイヤ人を狙ってくる確率が高い事は貴様も分かっているであろう?

 その場合、1人でも戦力は多い方が良い……」

「まぁ、そうだろうな……。 フリーザが動く時は地獄にいるヤツの配下、フリーザ軍が動くって事だからな……。

 あいつが地獄に来て3年……、すぐに動かなかったのは戦力を整えていた可能性も十分に考えられるからな……。

 結構な人数がいると考えていいだろう……」

 

 

 バーダックの言葉に重々しく頷くベジータ王。

 

 

「貴様は、下級戦士だが戦闘力は上級戦士を凌駕しておる。 フリーザが攻めてきた時は、貴様も前線に出ろっ!!!」

「へっ、言われなくても、そん時はちゃんと戦ってやるよ……。 今度こそオレがあの野郎に引導を渡してやるっ!!!

 とは言え、オレは地獄を空けることが多い。 もし、オレがいない時にヤツが動いたら非戦闘員を閻魔の元へ飛ばせ。

 そうすれば、オレに連絡がつく様にしといてやる」

「うむ、それではワシは他かの集落との会合があるので、そろそろ行く。 それではな、バーダック」

「ああ」

 

 

 バーダックとの会話を終えたベジータ王は、背後の臣下達を引き連れ去っていた。

 残されたバーダックも、修行するべく歩き出だした。

 

 

「さて、どこで修行するか……。 近くでやるとトーマ達が来やがりそうだしな……。

 今日は1人で修行してぇ気分だから、静かに修行できる場所は何処かねぇもんか……」

 

 

 歩きながら、修行できる場所を考えているバーダックの頭に、絶好の修行スポットがよぎる。

 

 

「そうか、あそこだったら、邪魔する奴はいねぇな……」

 

 

 そう呟くとバーダックは舞空術で空へと飛び出す。

 しばらく、地獄の空をバーダックが飛んでいると、いくつもの強大な針の上に鎮座した巨大な水晶が見えてきた。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 バーダックが徐々に高度を下げ、水晶の前に着地しようとした時、水晶の前に1人の女性がいることに気がついた。

 しかも、その女性はバーダックにとってとても馴染みのある者だった。

 その女性の後ろに降り立ったバーダックだったが、女性はバーダックに気づく事なく水晶を見上げていた。

 

 その様子に違和感を感じたバーダックは、女性同様視線を水晶に向けるが水晶は何も映し出していなかった。

 何故女性がそんなに一生懸命水晶を見上げているのか疑問に思ったバーダックは、その女性に声をかけることにした。

 

 

「こんな所で何やってんだ……? ギネ」

「バーダック……」

 

 

 バーダックに声を掛けられたギネは、水晶から視線を外しバーダックを視界に収めると、静かにバーダックの名前を呼んだ。

 その時のギネの表情は、どこか追い詰められた様な、焦りと不安が混じった表情を浮かべていた。

 

 

「どうした……? 何かあったのか?」

 

 

 問いかけらたギネは、目を伏せしばらく沈黙を保っていたが、バーダックの問いかける視線に耐えられなくなったのか、静かに口を開く。

 

 

「朝からさ……、嫌な予感がずっとしてるんだ……。

 最初は気のせいだって思ってたんだけど……、時間が経つにつれてどんどんその予感が強くなって、それが何なのか分からないんだけど……、気がついたらここに来てたんだ……」

 

 

 ギネは語り終えると、自身の後ろに鎮座している巨大な水晶に目を向ける。

 ギネの言葉を黙って聞いていたバーダックは、彼女がどうしてここに訪れたのか瞬時に理解した。

 

 

「なるほどな……。 ここに来れば、こいつがその嫌な予感ってヤツの正体を映してくれるかもしれないって思ったのか」

「うん……。 でも、こいつは何も映してくれない……。 ははっ……、嫌な予感ってヤツもあたしの勘違いなのかもしれないね……」

 

 

 無理やり笑みを浮かべながら喋るギネ。

 そんなギネに、視線を水晶に向けたままバーダックが口を開く。

 

 

「ふんっ、別にこいつが、何も映さねぇからって何も起きねぇとは限らねぇだろ……。

 まぁ、嫌な予感だってんなら、外れた方がいいのかもしれねぇがな」

 

 

 いつも通りぶっきらぼうな口調だったが、そこには確かにギネを気遣った優しさがあった。

 その事に気付いたギネは、今度こそ本当の笑みを浮かべる。

 

 

「ははっ、そうだね……。 嫌な予感だったら外れた方がいいんだから、映さないっていうのは良い事なのか……!!

 あんたの言う通りだね、バーダック」

 

 

 そんなギネの様子に、バーダックの口元にも僅かに笑みが浮かぶ。

 バーダックの言葉でようやく落ち着いたギネは今更ながらバーダックが、どうしてこんな所にいるのか気になった。

 

 

「そういえば、バーダックはどうしてこんな所にいるのさ……?」

「あ? オレは修行する為にここに来たんだよ。 そしたらお前がこんな所で深刻なツラしてやがったんだろ」

「修行……、あぁ、トレーニングのことか。 って、バーダックってそんな自主的にトレーニングとかしてたっけ?

 長期間戦場外れた時とかに鈍らない様にしてた事はあったけど……」

「別に良いだろ? トキトキ都にはオレより強えヤツが修行して日々強くなってやがんだ。

 そいつを越える為には、オレも遊んでるワケにはいかねぇんだよ……」

 

 

 修行する本当の理由は、息子であるカカロットを越える為なのだが、流石にそれをギネに言うのは恥ずかしかった為、敢えてボカした回答をしたバーダックだった。

 それに、トキトキ都にいるトランクスを超える事も、今やバーダックの目標の一つだった為、あながち嘘でもないのだ。

 そんな、やる気に満ち溢れたバーダックを見て、ギネは優しい笑みを浮かべる。

 

 正直ギネは、最初にバーダックがタイムパトロールになると聞いた時、あまり良い感情は持っていなかった。

 死人であるバーダックが、もう一度死んでしまうと、今度は存在そのものが消えてしまうのだ。

 それは、つまりギネや他のサイヤ人達から、バーダックという存在の記憶や痕跡が全て消えるという事だ。

 

 それを理解していたので、ギネはバーダックに本当はタイムパトロールになって欲しくなかった。

 だが、カカロットとフリーザの戦いを見た後くらいから、バーダックの様子が何処か変だったのにも気付いていた。

 そんなバーダックの状況を変えるには、タイムパトロールになるのが1番近道なのも何処かで感じ取っていた。

 

 だから、ギネはバーダックがタイムパトロールになると言った時、心の底では反対したくても反対しなかった。

 だが、今のバーダックの様子を見ると、あの時反対しなくてよかったと心の底から思うギネだった。

 

 

「そうかい。じゃぁ、バーダックはしっかり修行……?とやらを頑張りなよ。

 あたしは仕事に戻るよ。 抜け出してきちまったから、きっと他の連中も怒ってるだろうからさ」

「ああ」

 

 

 未だ嫌な予感が消えたわけではないが、バーダックのおかげで幾分か冷静になれたギネは、バーダックに背を向け、舞空術で空へ飛び出そうとした瞬間、その音は2人の耳へ確かに届いた……。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 その音に聞き覚えがあった2人は、弾かれた様に音の発信源に目を向ける。

 すると、音の発信源である巨大な水晶が光り、砂嵐の様なひどいノイズが走ったテレビの画面みたいになっていた。

 徐々にノイズが収まり明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 

 綺麗な青空と戦闘で傷ついたであろう荒れ果てた荒野、その中に2人の存在が映し出された。

 

 1人目は見るからに化け物だった。

 だが、何処か様子がおかしい……。

 身体を限界までに膨らませたその化け物は狂気じみた笑みを浮かべ、目の前の者を見下ろしていた。

 

 2人目は逆立った金髪をした少年だった。

 化け物の前で地面に膝をつき、何かを後悔する様な表情を浮かべ、項垂れていた。

 

 水晶が映し出した映像の中の状況が全く分からない、バーダックとギネだったが、状況が切迫している事だけは見て取れた……。

 2人が訳も分からないまま、映し出された映像を見ていると、映像の中の2人の間に、いきなり3人目の登場人物が一瞬で現れた。

 まるで瞬間移動でもしたのではないかと思われる様に姿を現した3人目の登場人物は、バーダックとギネの両名にとても馴染み深い人物だった。

 

 その人物は、2人目の少年と色こそ違っているが同様の、サイヤ人ではまず身に付けることがない様な服装を身に纏っていた。

 その服は地球では道着と呼ばれる服だ。

 鮮やかな山吹色の道着に青いインナーを身に纏った男の姿は、かつてナメック星で見た装いとほぼ同じだった。

 

 その道着も所々破けた所がある事から、きっとこの男も戦っていたのだろうという事が推察出来る。

 本来は黒色である髪を金色に逆立て、瞳を鮮やかなエメラルドにも似た輝きを持つ碧眼。

 その碧眼には、父譲りの力強さと母譲りの優しさが確かに宿っていた……。

 

 その者の名は……

 

 

「カカロット……」

 

 

 自然と口から自身の息子の名を呼んだ時、ギネの中に芽生えていていた嫌な予感は確信へと変わった……。

 

 今日自分が感じ取っていた予感は、この時の事だったのだと……。

 

 そして、映像の中に映る自分の子がこれから死ぬのだと……。

 

 そういう確信が、確かにギネの中で芽生えるのだった……。

 




ようやくここまで来たぜ。
やっと、下準備が完了したぜ。
次から新章だぜ。


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あの世へやって来た孫悟空編
セル編-Ep.01


おまたせして、申し訳ない。
ようやく新章スタートです。
正直、この話はいらないかもしれんので、次の話に飛んでもいいかも…。


 エイジ767年5月26日。

 

 

 その日は地球に住む者にとって、その後の運命を左右した日だと言っても過言ではなかった。

 そして、1人の英雄が誕生した日でもある。

 きっと後の歴史書でも、似た様な記述がされる事はほぼ間違いないだろう。

 

 もし違いがあるとすれば、それは地球の運命だけでなく、宇宙の運命すら左右する日だったという事くらいだろうか……。

 この日、地球のとある場所で地球に住む者達の命運を決める武道大会が開催された。

 

 

 その武道大会の名は”セルゲーム”。

 

 

 主催者の名は、セル。

 かつて地球に存在した私設武装組織レッドリボン軍に所属していた、超天才科学者ドクター・ゲロが作り出した人造人間だ。

 ドクター・ゲロは超天才の名に恥じぬ、科学者だった。

 

 ただ、問題だったのは、彼はその天才的な頭脳を人々の役に立つ事に使わず、悪に利用してしまった事だろう。

 彼ほどの人間がその気になれば、多くの人間を幸せに出来たというのに……。

 彼は、かつて自身が所属していた組織レッドリボン軍が壊滅した後、ずっと1つの目的の為だけにその生涯を費やして来た。

 

 その目的とは、レッドリボン軍を壊滅させた張本人、”孫悟空の抹殺”である。

 ドクター・ゲロの執念は凄まじく、彼はその天才的な頭脳をフル活用して、その目的を完遂する為に最強の人造人間を自ら生み出す事を決意する。

 その方法は、正に様々だった。

 

 彼は長い年月をかけ、地球に存在するありとあらゆる武道家のデータを集めた。

 そして、その蓄積したデータと自分のこれまでの研究成果を組み合わせる事で、様々なタイプの人造人間を生み出した。

 人間をベースにしたタイプもあれば、完全な無から作り出されたロボットタイプ等も存在した。

 

 そして、その執念の最高傑作とも言える存在が、人造人間セルだ。

 セルの力は強大だった。

 宇宙の帝王フリーザをも下した、サイヤ人の伝説”超サイヤ人”の力を持つ孫悟空、ベジータ、トランクスの力すらセルは上回っていた。

 

 だが、それも仕方ない事なのかもしれない。

 何故ならセルは、サイヤ人、フリーザ一族、ナメック星人、地球人等さまざまな強者の遺伝子を宿し、生まれて来たのだ。

 その上、数多くの人間の生体エネルギーと2体の人造人間を吸収しているのだ。

 

 セルがその気になれば、ドクター・ゲロの宿願は一瞬で事が足りただろう。

 だが…、彼にとっては残念ながらそうはならなかった。

 完全体になったセルは、自身の存在理由である”孫悟空の抹殺”よりも自身の楽しみである、強者との戦いを選んだ。

 

 そして、地球に住む者達は突如として知る事になった……。

 自分達の命が実は風前の灯だと言う事を……。

 それは、セル自身の手によって全世界に知らされる事になった。

 

 セルゲームより9日前のとあるテレビ局で、それは起こった。

 

 

「おはよう、世界の諸君……。 これからほんの僅かな時間だけテレビにお邪魔させてもらう事にした……。

 実は平和に暮らしている諸君達に、素晴らしい知らせを持って来たのだ。

 もっと、楽しくスリルに満ち満ちた毎日を送れるような知らせを……。

 私の名前はセルという……」

 

 

 セルは自らテレビ局に乗り込み、テレビを通して自身の存在を全世界に知らしめた。

 

 

「さて、素晴らしい知らせとは……、本日から9日後の5の26日正午より……、『セルゲーム』という武道大会を行う事にした……!

 諸君達人間が戦う相手はわたし1人だ。 君達は何人でもいい。

 1人ずつ私と戦って、君たちの代表選手が負けたら次の選手と交代するというやり方だ……。

 したがって、選手の人数が多いほど君達は有利になる。

 いくら私でもたくさん試合をすれば疲れるかもしれんからな……。

 ルールは天下一武道会とほぼ同じだ。 降参するかリング外に身体の一部がついてしまったら負け……。

 そして、一応手加減してやるつもりではいるが、殺されてしまっても負けとなる」

 

 

 突如としてテレビに乱入し、いきなり武道大会を開催すると宣言したセルに、地球に住む者達は困惑した事だろう。

 ひょっとしたら、いきなりの非日常感に少しワクワクした者や、馬鹿な事をやっていると嘲笑する者もいたかもしれない。

 しかし、セルが述べた「殺されてしまっても」という言葉が飛び出した時、テレビを見ていた者達の中には、恐怖心を抱いた者がいたかもしれない。

 

 だが、人間という者はいい加減なもんで、自分に被害がない時は無責任にしてられるものだ。

 セルが数百人を消し去った化け物だというのに、テレビの中でセルがいくら「殺す」と言っても大抵の者は、本気にせず精々頭がイカレた奴が何か言っている程度にしか考えなかったのではないだろうか?

 だが、セルはそんな呑気な考え方をしている者達の考えを根底から覆した。

 

 

「…もし、代表選手全員が私に負けてしまった場合……、世界中の全ての人間を殺す事にした。

 恐怖に引きつった顔を眺めながら、最後の1人たりとも逃さず徹底的に……な」

 

 

 全世界に盛大な大量殺人予告を告げた後、デモンストレーションの如くその場で気功波を放ち街を破壊する事で自身の本気度を伝えた。

 セルのテレビを通してのパフォーマンスは、全世界を混乱と恐怖に落とし込むには十分すぎるほどの効果を見せた。

 セルを世界の脅威と認識した王国は、セルに対して防衛軍による総攻撃を行ったがセルに傷一つ負わせる事が出来なかった。

 

 その事実が国王の口から世界中に伝わった時、地球に住む者達はいよいよセルゲームへ参加する者達へ希望を託すしかなくなった。

 しかし、相手は防衛軍すら無傷で下す最高の人造人間セルだ。

 そんじょそこらの相手では一瞬で勝負がついてしまうだろう。

 

 例えそれが、格闘技の世界チャンピオンだったとしても、例外ではない……。

 

 

 

 エイジ767年5月26日……、セルゲーム当日。

 地球の運命は孫悟空をはじめとする戦士達に委ねなれた……。

 

 

「さてと! さっそくオラから戦わせてもらおうかな!」

 

 

 最初にセルに戦いを挑んだのは、これまで幾度も地球を守って来た、地球育ちのサイヤ人孫悟空だった。

 孫悟空は、息子の悟飯との1年間の精神と時の部屋での修行により、これまでの超サイヤ人を超え更に力を増していた。

 その戦闘力は、悟空よりも長い期間、精神と時の部屋で修行した同じ超サイヤ人のベジータとトランクスをも上回っていた。

 

 そんな悟空とセルとの戦いは、正しく激戦だった。

 互いが持てる力と技を駆使して、繰り広げる戦いは正に一進一退だった。

 しかし、戦闘が進むにつれ両者の間に明確な差が出始めてきた。

 

 徐々にセルの攻撃が悉く悟空の攻撃を上回り始めたのだ。

 いや、この言葉は語弊がある。

 元々セルと悟空の間には、明確な実力差があったのだ。

 

 セルは悟空に合わせて戦っていただけで、戦闘が進むにつれ隠していた実力を徐々に開放していただけに過ぎないのだ。

 そして、その開放した実力に悟空が追いつけなくなっただけなのだ。

 しかし、そう簡単に諦める孫悟空ではない。

 

 彼は、普段はトボけた発言や世間知らずな面を見せる事が多いが、戦闘に関しては正に天才だった。

 自力で勝てないのであれば、戦略を持って戦う。

 自身だけが持つ瞬間移動を活かしたかめはめ波や、連続エネルギー弾による飽和攻撃等でなんとかセルに食い下がった。

 

 しかし、どれだけ悟空が戦略を駆使して戦おうが、セルの優位を覆す事は出来なかった。

 そして、遂に悟空に目に見える程の疲労が現れた時、それは起こった……。

 

 

「まいった! 降参だ! おめえの強さはよーく分かった! オラはもうやめとく」

 

 

 悟空の突然の降参宣言に、その場にいる全ての者が耳を疑った。

 それは、彼の仲間達だけでなく、今まで戦っていたセルも例外ではなかった。

 しかし、それも仕方ない事だろう……。

 

 孫悟空という人物を知っている者だったら、彼が疲労程度で勝負を諦めたりするはずがない事は誰もが知っていたからだ。

 これまでどれほど実力が離れていようが、悟空はギリギリの所で食い下がり、諦めず最後の最後には勝利を手にして来たのだ。

 そんな姿を幾度も見て来た彼の仲間達は、特に悟空の発言が信じられないモノだっただろう。

 

 それに、悟空以外にまともにセルと戦える者がいるとも思えなかったのも、その気持ちに拍車をかけた。

 そんな周りの事など気にした素振りを見せず、悟空はセルに1つ提案をする……。

 

 

「じゃあ、次に戦うヤツをオラが指名してもいいか?」

「貴様、本当に降参する気か……!」

 

 

 悟空の発言に、敵であるセルすら困惑の表情を浮かべていた。

 そんな、セルに笑みを見せながら悟空は言葉を続ける。

 

 

「今度の試合で、多分セルゲームは終わる。 そいつが負ければ、もうおめえに勝てるヤツいねえからだ……。

 だがオラは、さっきおめえと戦ってみてヤッパリそいつならオメエを倒せると思ったんだ」

「なに!?」

 

 

 悟空の確信を持って放たれた言葉に、興味を惹かれたのかセルの顔つきが変わる。

 それに気付いた悟空は、更に笑みを深め言葉を続ける。

 

 

「だから、オラは全てを任せて降参した……」

「ということは、そいつは貴様はもちろん私よりも強いとでもいうのか?」

「ああ」

「くっくっく……、では聞こうか、その存在するはずもない者の名を……」

 

 

 悟空とセルの視線が交差する……。

 周りの者達は困惑の表情を浮かべながらも、悟空が言うセルを倒しうる者の名が告げられるのを待っていた。

 悟空は静かにセルから視線を外し、その者に期待を込めた眼差しを向ける。

 

 そして……、ついにその者の名が悟空の口から告げられる……。

 

 

「オメエの出番だぞ、悟飯!!」

 

 

 悟空が名前を告げた瞬間、セルゲームの会場にいた全ての者が驚愕や困惑の表情を浮かべた。

 それは、指名された悟飯本人も例外ではなかった。

 しかし、それも仕方ないだろう……。

 

 悟空が指名した孫悟飯は、超サイヤ人にこそ覚醒しているものの9歳の少年なのだ。

 しかも、彼は元来戦いが好きな性格ではないし、力は強くてもまだまだ戦士として未熟な部分が目立つ彼は、仲間達からしてもどちらかと言えば守ったり戦いから遠ざけたい存在だった。

 そんな存在を父である悟空が、率先して戦いの舞台に立たせようというのだ。

 

 しかも、相手は悟空すら勝てなかったセルだ。

 仲間達は誰1人として、悟飯がセルと戦って勝てるビジョンが浮かばなかったのだ……。

 しかし、そんな仲間達の考えを他所に悟空は悟飯の元に近づき声をかける。

 

 

「やれるな? 悟飯」

「ボ…ボクがセルと……?」

 

 

 悟空の問いかけに、未だ困惑の表情を浮かべながら悟飯が悟空に問いかけると、この状況に黙っていられなかったのかピッコロが2人の会話に割り込む。

 

 

「無茶を言うな悟空! 戦えるわけないだろう!

 確かに見違えるほど実力は上がったが、相手は貴様でも敵わなかったセルだぞ!!」

 

 

 苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべたその表情は、心の底から悟飯の身を案じて反対しているのが伺えた。

 しかし、そんなピッコロを諭す様に悟空は口を開く。

 

 

「ピッコロ、悟飯はオラ達の思っている以上に信じられない様な力を持っているんだ。

 考えてもみろよ。 こいつはもっとチビの頃からみんなと同じ様に戦っていた……。

 オラがそんぐらいのガキだった頃は、てんで大した事なかったさ」

「し…しかし、いくら超サイヤ人になったからといって……、そ、そんな急には……」

 

 

 慌てている周りと違い、冷静に悟飯の実力について話しを続ける悟空だったが、悟飯が幼少の頃から一緒に戦って来たクリリンも悟空が言うほどの実力を兼ね備えているとは俄かには信じられなかった。

 悟空はクリリンに顔を向けると、自身が何故悟飯に後を任せる気になったかの理由を口にした。

 

 

「精神と時の部屋で、深く深く封じ込められ、眠っていた力が解放され始めたんだ。 本人に聞いてみてやろうか?」

 

 

 悟空は悟飯の前で跪き両肩に手を乗せると、悟飯の眼をしっかり見て優しく問いかける。

 

 

「どうだ悟飯…、さっきの父さんとセルとの戦い凄すぎてついていけないと思ったか?」

「……お…思わなかった…。 …だ、だって2人とも思いっきり戦っていなかったんでしょ……?」

 

 

 悟空の問いかけに、僅かに躊躇いを見せた悟飯だったが、自身に向ける悟空の眼差しに何かしら感じ入るものがあったのか、悟飯は正直に自身の感じていた事を口にする。

 その言葉に笑みを深くした悟空は、優しい口調で悟飯に語りかける。

 

 

「セルはどうかしらんが父さんは思い切りやっていたさ。 つまり、おめえには手を抜いている様に感じたんだろ?」

「………」

 

 

 悟空の問いかけに、戸惑いの表情を浮かべ無言になる悟飯。

 その行動は言外に悟空の言葉を肯定していた。

 そして、それは周りにいる仲間達にも伝わったのだろう。

 

 

「そ…そうなのか!? 悟飯……」

 

 

 ピッコロが悟飯に問いかける。

 すると、未だためらった様な表情を浮かべながらも、悟飯はしっかりと首を縦に振った。

 

 

「は…はい」

 

 

 その言葉に、ベジータは驚愕の表情を浮かべ、セルは愚かなと鼻で笑い飛ばした。

 悟飯の前にいる悟空は笑みを浮かべると、悟飯の両肩に載せる手に力を込める。

 

 

「やれ、悟飯! 平和な世の中を取り返してやるんだ。 学者さんになりたいんだろ?」

 

 

 悟空の期待のこもった眼差しを、しばらく困惑した様な表情で見つめていた悟飯だった。

 しかし、悟空の向ける眼差しの中に、自分に対して絶対的な信頼が篭っている事に気がつき、自然と表情に力強い笑みが浮かんだ。

 

 

「わかりました。 やってみます」

 

 

 ついにセルと戦う事を決意した悟飯は、纏っていたマントを脱ぐ。

 そして、セルへと緊張した様な表情で視線を向ける。

 そんな悟飯の背中を悟空が優しくポンと叩く。

 

 背中を叩かれた悟飯は視線を向けると、力強い笑みを浮かべた悟空と目が合う。

 悟空は頷くと、悟飯も頷くとその場から飛び出し、セルの前へと降り立った。

 

 

 

 そして、ついに悟飯とセルとの戦いが幕を開けた。

 

 

 誰もが予想した通り、悟飯とセルとの戦いは一方的に、セルの優勢で事が進んでいた。

 確かに、悟飯は凄まじい力を持っていたが、スピード、タフネス……どれをとっても悟空以外の仲間達では相手にもならないだろう。

 だが、今相手をしているのはその悟空すら下したセルなのだ。

 

 それに加え、悟飯は元々戦いに向いていない性格のせいか、どうしても受け身に回ってしまう事が多いため、セルの攻撃を避けたり防御したりで中々攻めに転じる事が出来ないでいた。

 いや、それ以前に父親の悟空や目の前のセルみたいに、戦いを楽しめない悟飯にとってこの戦いそのものが無意味だと思っていた。

 セルの攻撃をなんとか、持ち前のスピードを活かし躱していた悟飯だったが、少し本気を出したセルにあっさり捕まり、強烈な頭突きを喰らわされると、続けてセルの重いパンチが悟飯の顔面を何度も撃ち抜く。

 

 そして、トドメとばかりに気合砲で岩場へと叩きつけられる。

 セルの気合砲の威力は凄まじく、叩きつけらた巨大な岩は盛大に崩れ落ちる。

 あっけなく瓦礫の下に沈んだ悟飯に興味が失せたのか、セルは再度悟空へ向き直る。

 

 

「さぁ、孫悟空。 くだらないジョークはもう終わりだ!

 さっさと仙豆を食べて、もう一度戦え!!」

 

 

 しかし、悟空は不敵な笑みを未だ浮かべていた。

 

 

「バーカ! 後ろをよく見てみろよ」

「なに?」

 

 

 悟空に言われて、セルが後ろを振り向くと多少怪我を負ってこそいるが、殆どダメージを受けていない悟飯がセルに向かって歩いてきていた。

 

 

「!!」

 

 

 これには、流石のセルも驚きを隠しえなかった。

 

 

「……こいつは驚いた、ことのほかタフじゃないか……」

 

 

 悟飯の思わぬタフさにようやく、悟飯に興味を抱いたセルだったが、セルとは対照的に悟飯はどこまでも冷めきっていた。

 

 

「も…もうやめようよ……。 …こんな戦い意味無いよ……」

「へ!?」

 

 

 突然飛び出した悟飯の言葉にセルは一瞬訳がわからないといった表情を浮かべるが、その言葉の意味を理解した瞬間邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「はっはっは、何を言い出すかと思えば、このセルゲームは意味がないからやめろだと?

 意味はある。 私にはこれが趣味だしお前達には地球人を救うため…」

「ぼ…僕は本当は戦いたくないんだ…。 殺したくないんだよ……。 たとえお前みたいに酷いヤツでも……。

 ……お父さんみたいに戦ったりするの好きじゃないんだ」

 

 

 何とかこの戦いを言葉で終わらせようとする悟飯だったが、そんな悟飯をセルは鼻で笑う様に言葉を続ける。

 

 

「……貴様が戦いを好きじゃないのはよくわかった……。 …だが、私を殺したくないと言う意味がよく分からないんだがね。

 貴様には100年経ってもこの私を殺す事は出来ん。 どうだ、ちがうか?」

「ボ…ボクにはだんだん分かってきたんだ……。

 お父さんがセルを倒せるのはボクだけだって言った事が…。

 …ボクは昔から怒りでカッとなると自分の意思を超えとんでもない力でめちゃくちゃな戦いを始めてしまうらしんだ。

 …だから……きっとお父さんはそいつを計算して……」

「……ほぉ…」

 

 

 悟飯の言葉は一聞すると子供の戯言に聞こえなくもなかった。

 しかし、セルは自身もサイヤ人の遺伝子を身に宿した、ドクターゲロが作り出した人造人間だ。

 その為、セルはサイヤ人の遺伝子が持つ可能性を軽くみる事はなかった。

 

 更に、孫悟空が悟飯に戦いを任せている現状からも、セルの卓越した頭脳は悟飯が言っている事を一蹴する事が出来なかった。

 それによって、セルの興味は完全に悟飯に向いたのだ。

 セルの表情に邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「失敗だったな」

「え!?」

「そんな話を聞いて怖気づくとでも思っていたのか!?

 やはりガキだな……。 それどころか私はどうしても貴様を怒らせたくなった!!」

「!!」

 

 

 セルの言葉に驚愕の表情を浮かべた悟飯に強烈な衝撃が襲う。

 セルは自身の言葉を証明する様に、悟飯の怒りを解放するべく猛攻を始めたのだ。

 

 

「さあ怒れ!!! 怒って真の力を見せてみろ!!!」

 

 

 しかし、悟飯もただやられているわけではない。

 戦闘経験は悟空に及ばないまでも、今や悟空に匹敵する戦闘力を有しているのだ。

 持ち前のスピードを活かし、大振りとなったセルの攻撃をかわした悟飯はお返しとばかりセルの顔面に強烈な蹴りを叩き込む。

 

 悟飯の蹴りよって尻餅をつき、口から血を流すセル。

 しかし、セルは瞬時に起き上がると口から流れる血を親指で拭うと、悟飯に不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「何が何でも貴様を怒らせてやるぞ……」

 

 

 それからは、セルの独壇場だった。

 セルは自身の持つありとあらゆる技を活かし、悟飯を追い込んでいく。

 しかし、セルがどれだけ悟飯に攻撃を仕掛けても悟飯の怒りが解放される事はなかった。

 

 そこで、セルは攻め手を変えることにした。

 

 

「強情なヤツだ……。 どうやら自分の痛みだけでは怒りが湧いてこんらしいな…。

 ……では、お前の仲間達に相談してみることにするか」

「!!」

 

 

 セルの言葉に、悟飯の顔色が変わる。

 そんな悟飯を無視して、セルは悟飯の仲間達の元へ猛スピードで飛び出す。

 

 

「やっ、やめろーーーっ!!!」

 

 

 悟飯の叫び声が虚しく響く中、セルは瞬時に仙豆を持つクリリンの前に姿を現すと、仙豆が入った袋をクリリンから強奪する。

 セルは悟飯を精神的に追い込むべく、まず手始めに回復する手段を奪うことにしたのだ。

 邪悪な笑みを浮かべたセルは、悟飯に視線をむける。

 

 そのセルの様子に、とてつもない嫌な予感を覚える悟飯。 

 

 

「なっ、なにをするつもりだっ!!」

「なんでもするさ、貴様が怒って真の力を発揮するなら。 貴様が妙に怒りを我慢するから仲間が痛い目にあうのだ」

 

 

 セルの言葉に悟飯にこれまでにない程の焦りが生まれる。

 

 

「や、やめてくれ…!! じ、自分でも、お、思う様にコントロール出来ないんだ…!! だ、だから…」

「…だから、仲間を痛めつけて、その力を引き出させてやろうというのだ」

 

 

 必死に悟飯はセルに呼び掛けるが、そんな悟飯の意見など聞く耳を持たず、行動を起こすべく視線を悟飯の仲間達に向ける。

 

 

「くそ…っ!!」

 

 

 言葉では止まらないと判断した、悟飯は悪態を付きながらセルの行動を止めるべく飛び出す。

 しかし、そんな悟飯をセルはカウンターで蹴り飛ばし、瓦礫の中に叩き込む。

 

 

「怒るなら思いっきり怒ってみろ!!!」

 

 

 未だ中途半端な怒りしか見せず、瓦礫の中に沈んだ悟飯を一喝するセル。

 そんなセルの頭上を大きな影が覆う。

 

 

「む!?」

 

 

 瞬時に頭上に視線を向けると、人造人間16号が目の前に迫っていた。

 そして、16号の太い両腕に囚われてしまう。

 悟飯や周りで戦いを観戦していた悟空達も、16号の突然の行動に驚きの声を上げる。

 

 しかし、なぜ16号がそんな行動を起こしたのか、誰も理解していなかった。

 だが、その答えはすぐ分かることになる、16号の言葉によって。

 

 

「お前達を巻き込んで犠牲にしてしまう事を許してくれ!! オレはセルと共に自爆する」

「!!」

 

 

 16号のセリフに捕まっているセルや周りの者達は、1名を除き驚きの反応をする。

 しかし、周りの反応を無視して16号は言葉を続ける。

 

 

「これが身体に秘められていた使ってはいけない最後の力だ!! いくら貴様でもこれだけ密着していれば粉々になる!!」

「くっ!!!」

 

 

 16号の言葉を聞いたセルの顔にわずかに焦りが生まれる。

 そんなセルの反応を尻目に自爆するべく、身体に仕込まれた機能を発動する為に意識を集中する16号。

 そして、ついにその時が訪れる…。

 

 

「だーーーーーっ!!!」

 

 

 掛け声と共に、16号の身体の中に仕組まれた爆弾が機能を発し、セルや周りにいる悟飯達までをも巻き込み跡形もなく吹き飛ばす……筈だった……。

 セルや16号を生み出した、稀代の天才科学者ドクター・ゲロが作った爆弾だ……。

 もし、効果を発揮していたらその威力は確かに驚異的なものだっただろう。

 

 しかし……、そうはならなかった……。

 静寂が辺りを包む……。

 

 

「!? な…なぜだ……、なぜ爆発しない……」

 

 

 彼は確かに自分の中に在るはずの機能を発動した筈だった。

 しかし、現実は彼の考え通りの結果にならず、未だ自身も、そして滅ぼす筈だったセルも共に存命している。

 混乱の極みの16号に予想外のところから、この状況の解答が語られることになった。

 

 

「じゅ…16号…自爆はできない……!!

 カプセルコーポレーションでお、お前を修理してた時…、博士がお前の身体にとんでもねぇ爆弾が隠されてるのを発見してさ……。

 物騒だったんで、と…取り除いた…って言ってた……」

 

 

 静寂を破ったのは、クリリンだった。

 クリリンは以前セルに半壊させられた16号を修理する為に、カプセルコーポレーションに運び込んだ張本人だった。

 その時に、修理を行ったブリーフ博士やブルマから16号の状況を聞いていたのだ……。

 

 クリリンの言葉によってもたらされた情報に、普段無表情の16号の顔に僅かな焦りが生まれる。

 しかし、16号の焦りなど関係なく、時は進む。

 

 

「くっくっく…。 残念だったな16号……。 もっとも爆弾ごときで私が死んだとは思えんがね」

 

 

 16号の両腕の囚われていたセルは、笑い声を上げると同時に手のひらから気功波を放出し16号の身体をバラバラに吹っ飛ばした。

 

 

「!!」

 

 

 セルの行いに驚愕の表情を浮かべる悟飯。

 そんな悟飯の反応をよそに、ドサッと無機質な音を立て唯一無事だった16号の頭部が地面に落ちる。

 地面に虚しく転がった16号の頭部に近づいたセルは、それを足で踏みつける。

 

 

「くっくっく……。 所詮貴様はドクター・ゲロの失敗作だったようだな」

 

 

 セルは踏みつけていた、16号の頭をサッカーボールよろしく蹴っ飛ばす。

 視界から完全に消えた事により16号に興味が失せたセルは、視線を戦いを観戦していた悟空達に向ける。

 

 

「今度は貴様達の番だ……。 1…2、3……4……7人か……。 よし……」

 

 

 セルは視界に収めた悟空達を見て、邪悪な笑みを浮かべるとグッと身体に力を込め上半身を軽く反らす。

 するとセルの背後の両翼が左右に大きく開き、セルの背中に収まっていた尾の先端がググ…と音を立て突起状態から大きな穴へと変貌する。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 セルの掛け声と共に尾の穴から、ボボボッと音を立て何かが排出される。

 

 

「ウキキ……」

 

 

 セルから排出された者達は、奇声を上げながら目を開き立ち上がる。

 その姿は正に小さなセルと言ってもよかった。

 

 

「さぁ行け! セルジュニア達よ、あの岩の上にいる7人が相手だ。 痛めつけてやれ、なんなら殺してもかまわんぞ」

「キーーーーーッ」

 

 

 冷酷なセルの一声と共に飛び出す7人のセルジュニア。

 向かってくるセルジュニア達を迎え撃つ為に、構える悟空達。

 

 

「ムダだ。 絶対に勝てはせん。 小さくても私の子供達だぞ」

 

 

 セルの言葉は正しかった。

 悟空、ベジータ、トランクスという3人の超サイヤ人がいるというのに、セルジュニア相手にあっという間に劣勢状態に追い込まれたのだ。

 3人の超サイヤ人はまだ、なんとかセルジュニアと戦いという形になっているが、サイヤ人ではない、クリリン、ヤムチャ、天津飯、ピッコロは殆どやられ放題だった。

 

 仮に孫悟空がセルとの戦いの後、すぐに仙豆で体力を回復していたら多少は状況が異なったのかもしれないが、体力を回復しなかったのが此処で大きく裏目に出た。

 そんな、仲間達がやられていく状況を目の当たりにした悟飯の気が、徐々に膨らみ始めた。

 

 

「お! わずかに気が膨らみ始めたな……。 いいぞ、やっと怒りを感じだしたようだ……」

 

 

 セルは悟飯の状態を目敏く感知すると、自分の思惑通りに事が進み口元に笑みを浮かべる。

 しかし、まだだ……。

 まだ、セルが望む状況には事足りない。

 

 そこで、セルは更に悟飯を追い込むべく行動に出る。

 

 

「はやく真価をみせんと取り返しのつかん事になるぞ。 よく見るがいい、ベジータやトランクスでやっと互角の戦いだ……。 体力を失っている孫悟空もあぶない……」

 

 

 セルの言葉を聞き、目の前の状況に表情を絶望に染める悟飯。

 その表情は必死にこの状況を覆したいが、悟空の言うような凄まじい力の引き出し方が分からず、焦っている様でもあった。

 しかし、焦る悟飯の目の前で事態はどんどん最悪の方向へ加速する。

 

 セルジュニアの猛攻により、クリリンやヤムチャ、天津飯はもはや虫の息だった。

 動けなくなった、彼らを笑みを浮かべながらいたぶる様に攻撃し続けるセルジュニア。

 

 

「や…やめて……。 やめてくれって言ってるだろ……」

 

 

 悟飯は無力感に苛まれながら、その様子を涙を流しながら見続けることしか出来なかった。

 いつしか、彼の口からは懇願にも等しい言葉が吐き出されたが、それが聞き入れられる事はなかった。

 そんな状況にも関わらず、悟飯の気は更に上昇していた。

 

 セルが予想した通り、仲間が痛めつけられた事により、怒りで悟飯の内に眠る力が表に出はじめた証拠だった。

 悟飯の状態を邪悪な笑みを浮かべながら観察していたセルは、悟飯の力の解放があと一歩まで来ている事を看破する。

 そして、最後の一押しをするべく行動に移る。

 

 それは、悟飯にとって最悪の事態だった……。

 

 

「よし、セルジュニアたち!! お遊びはここまでだ!! 殺したければ好きに殺していいぞ!!」

「!!」

 

 

 セルの台詞に悟飯の顔が絶望に歪む。

 だが、悟飯の絶望に反して悟飯の中に眠る力が更に解放されていく。

 悟飯の逆立っていた髪が悟飯の怒りに反応して、ぞわぞわと忙しなく揺れ動いていた。

 

 その様にセルは更に笑みを深くする。

 

 

「やれっ!! 殺してしまえ!!!」

 

 

 セルは悟飯を炊きつける為に、セルジュニアに命令を下す。

 そんな時だった、ドンと音を立てた後ゴロゴロと悟飯とセルの間に転がってくるモノが現れたのは。

 

 

「ん?」

「じ…人造人間……」

 

 

 転がってきたモノの正体は、頭部だけになった16号だった。

 

 

「そ…孫悟飯……、正しい事のために、た…戦う事は罪ではない……。

 は…話し合いなど通用しない相手もいるのだ……。

 せ…精神を怒りのまま自由に解放してやれ……。

 き…気持ちは分かるが、もう、我慢する事はない……」

 

 

 16号が語る言葉を悟飯は、涙を流しながら茫然と見つめながら聞いていた。

 その言葉は、精神的に追い込まれた悟飯の心にスッと入り込んだ……。

 しかし、それに不快を感じた者が近くにいた。

 

 

「いいアドバイスだが、私は私のやり方でやっているのだ……」

 

 

 不快そうに言葉を告げたセルを無視する様に、16号は言葉を続ける。

 

 

「オ…オレの好きだった自然や動物達を……、ま…守ってやってくれ……」

「…………」

 

 

 笑みを浮かべながら悟飯に願いを托す16号と、視線を合わせる悟飯。

 だが、それも長くは続かなかった……。

 次の瞬間、悟飯の視界に黒い影が上から落ちて来た……、その瞬間……虚しく音が響いた。

 

 

 グシャッ…

 

 

 音が響いた後、バラバラに飛び散る16号の頭部を構成していたパーツ達……。

 正常な形が破壊された事により、ジジッと音を立てながら、その機能を停止していく……。

 その様子はまるで、16号という存在の命が消えてしまった事を伝えているようだった……。

 

 

「あ…っ、あ、あぁ……あ……」

「余計なお世話だ、出来損ないめ」

 

 

 茫然と16号の残骸を見つめている悟飯……。

 目の前の事態に心が停止し静寂に包まれた彼の中で、何かが大きな音を立てて切れた……。

 

 

プツン

 

 

 それが理性の鎖だったのか、力を封じ込めていた鎖だったのかは分からない……。

 だが、確かに今この瞬間、孫悟飯の中で何かが切れた……。

 

 

「うぉあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 叫び声と共に悟飯の身体から、今までにない程の膨大な気が放出される。

 それは、気の嵐となって周りにあるありとあらゆるモノを吹き飛ばす。

 ついに……、ついに悟飯の怒りが限界を超えた瞬間だった……。

 

 膨大な気の嵐によって、巻き起こった土煙が収まった時、その者が姿を現した……。

 紫電を身に纏い、これまで以上に逆立った髪に、怒りによって鋭くなった眼……。

 

 

 超サイヤ人を超えた超サイヤ人……、孫悟飯がそこに立っていた……。 

 

 

「か…、変わった……」

 

 

 悟飯の変わりようをその目に捉えたセルは、茫然と口を開く。

 

 

「もう、許さないぞ。 お前達……」

 

 

 膨大な気と圧倒的な威圧感を身に纏った悟飯は、ゆっくりとセルへと近づく。

 

 

「……!!」

 

 

 悟飯から発せられる雰囲気に、僅かにセルが呑まれる。

 しかし、次の瞬間、その表情に狂気の笑みが浮かぶ。

 

 

「や…やっと真の姿を見せたか……!! …これで、お、面白くなって来たぞ……」

「……」

 

 

 興奮しているセルと対照的に、どこかセルを冷めた眼で見つめる悟飯。

 2人の距離が数十cmと近づき、お互い攻撃するには十分すぎる間合いだった。

 先に動いたのは、悟飯だった。左手が僅かにブレる。

 

 

「う!?」

 

 

 セルが気づいた時には、左手に握りしめていた仙豆が収まった袋が悟飯の手の中に移っていた。

 

 

「き、貴様仙豆を……!!!」

 

 

 一瞬の出来事で惚けていたセルだったが、視界に収めた事実に驚愕の声を上げざるを負えなかった。

 しかし、そんなセルを尻目に悟飯は一瞬でセルの視界から姿を消す。

 急いでセルが、視線を動かすと悟飯は倒れているクリリンに攻撃を仕掛けていたセルジュニアの前に移動していた。

 

 

「!!」

 

 

 突然目の前に現れた悟飯に、驚きの表情を浮かべるセルジュニア。

 しかし、自身の力に絶対的な自信があるからなのか、生まれて間もない上、気を感知する能力が乏しいからなのか、セルジュニアは悟飯の小さな姿を視界に収めると、邪悪な笑みを浮かべる。

 その表情は、目の前の相手もそこに転がっている人間と同じ様に、いたぶってやると言外に告げていた。

 

 しかし、そんな眼を向けられているにも関わらず、悟飯は冷徹な眼差しをセルジュニアに向けるのだった。

 

 

「きき……、ひゃあっ!!」

 

 

 セルジュニアが奇声を上げながら、悟飯に飛びかかる。

 セルジュニアは外見だけ見れば、セルと似た姿をしているが悟飯以上に小さい。

 しかし、戦闘能力は超サイヤ人へと変身したベジータやトランクスに匹敵する。

 

 当然、攻撃能力も高いのだ……。

 だが、今の悟飯はそんなセルジュニアを腕を一閃するだけで、存在そのものを消し飛ばす。

 

 

「ーーーっ!!」

 

 

 これには、周りのすべての者が驚愕するしかなかった。

 悟空達やセルジュニア、そしてセルすらこの例外ではなかった。

 

 しかし、驚愕よりも仲間がやられた事に怒りを感じたのか、セルジュニア達は瞬時に気持ちを立て直し怒りを露わにする。

 

 

「ぐぎぎぎぎぎ……!! キャアアーーーーーッ!!!!」

 

 

 怒りの籠った眼差しを悟飯に、向けた瞬間、それまで相手にしていた悟空達をほっぽり出して残っていた6体総出で悟飯に向けて飛び出す。

 6体のセルジュニアが襲って来ているという危機的状況にも関わらず、悟飯の表情が変わることはなかった。

 冷めた表情で6体のセルジュニアを視界に収める。

 

 

「あーーーーーっ!!!!」

 

 

 叫び声を発すると同時に、セルジュニア達の視界から悟飯の身体が搔き消える。

 次の瞬間、目の前に姿を現した悟飯によって繰り出された、蹴りにより1体、返す刀で繰り出されたパンチにまた1体と瞬時に2体のセルジュニアを破壊する。

 しかも、それだけでは終わらない。

 

 一瞬の出来事に惚けているセルジュニア達を、蹴りにより追加で3体消滅させてしまう。

 残った1体は破壊される仲間達の残骸を見て、悟飯に恐怖を抱き逃亡を図るも、瞬時に悟飯に追いつかれ手刀による一閃で首を飛ばされ、破壊されてしまう。

 ほんの数秒の出来事だった……。

 

 悟空達が苦戦したセルジュニア達を、息一つ乱さず一掃する悟飯。

 しかし、セルジュニアを全員倒したというのに、悟飯の表情には何一つ感情の変化が起きていなかった。

 怒りが感情を支配しているからなのか、攻撃に対して一切の躊躇が消えているのだ。

 

 

「これでみんなを……」

 

 

 空中に佇んでいた悟飯は手に持っていた仙豆が入った袋をトランクスに投げると、視線をセルに向ける。

 視線の先のセルは苦々しい表情で悟飯を睨んでいた。

 悟飯は視線をセルに固定したまま、セルの前に悠然と降り立つ。

 

 再び相対する悟飯とセル。

 

 

「いい気になるなよ、小僧……。 まさか本気で私を倒せると思っているんじゃないだろうな……」

 

 

 苦々しい表情を浮かべていたセルだったが、なんとかその感情を飲み無理やり笑みを浮かべるが、その笑みは何処かぎこちなかった。

 しかし、そのぎこちない笑みも長くは続かなかった……。

 

 

「倒せるさ」

 

 

 悟飯が発したただ一言。

 しかも、その一言には何の感情も籠っていなかったのだ。

 ただ事実のみを述べた。ただ、それだけ。

 

 それが理解できた故に、セルの表情から笑みが一瞬消えた……。

 しかし、それも瞬時に余裕の笑みに変わる……。

 

 

「……ふん、大きく出たな……。 では、見せてやるぞ! このセルの恐ろしい真のパワーを……!!

 かあああああ……!!!!」

 

 

 セルの掛け声と共にセルの身体から膨大の気が放出される。

 あまりの気の大きさに、地球全体が震え上がる。

 大地はヒビ割れ、雲は何処かへ消し飛んだ。

 

 

「ああっ!!!!!」

 

 

 だが、それでもセルの気の上昇は止まらない……。

 ドンッと音を立てて衝撃が走ったかと思ったら、更にセルの気が上昇したのだ。

 かつてないほどの気の高まりに、悟空達は表情を強張らせる。

 

 

「はあああああ……」

 

 

 ようやく、セルの気の上昇が止まると、悟飯達の目の前には、圧倒的な気を身に纏ったフルパワーを解放したセルが姿を現した。

 

 

「どうだ……、これが本気になった私だ……」

 

 

 自身の強さを誇示する様に、セルは悟飯に凶悪な笑みを向ける。

 しかし、セルのフルパワーを見ても悟飯は自身の勝利が微塵も揺るがないとばかりに、一言で斬って捨てた。

 

 

「それがどうした」

 

 

 自身のフルパワーを見ても悟飯の様子に変化がない事に一瞬、顔を顰めるセル。

 しかし、自分の実力に揺るぎない自信を持っているセルはフルパワーを解放した自分が万が一にも負けるはずがないと考え直し、口元に笑みを浮かべる。

 

 

「くっくっく……」

 

 

 そして、目の前の調子に乗っている小僧に現実を教えるべく、遂にフルパワーとなったセルが行動に出る……。

 セルの口から笑みが消えた瞬間、周りの者達の認識が置いていかれるほどの超スピードで悟飯に近づいたセルは、最大限に気を高めた右拳を悟飯の左頬に叩き込む。

 自身の力に絶対的な自信があるセルは、自分の拳をモロに悟飯が喰らった事に笑みを浮かべるが、その笑みはすぐに消える事となる。

 

 攻撃を食らったはずの悟飯が、大したダメージもなく冷めた眼で自身を見ていたからだ。

 その眼は言外に、この程度か?と語っている様だった。

 

 

「!?」

 

 

 この悟飯の反応には流石のセルも、目を見開き驚愕を露わにする。

 だが、セルは瞬時にその驚愕を飲み込み追撃の左拳を悟飯に繰り出す。

 

 

「ぎっ!!!!!」

 

 

 凄まじい速度と威力を持った拳が悟飯を襲うが、悟飯はその拳を右腕でガードしお返しとばかりに左拳をセルのボディへ叩き込む。

 

 

「あ…ぐうっ……!!!」

 

 

 悟飯の強烈なボディへのパンチが、セルの身体をくの字へ大きく曲げる。

 だが、まだこの程度ではセルは止まらない。

 何とかボディへの痛みを堪えたセルは、苦し紛れにお返しとばかりに悟飯に攻撃を繰り出すが、それを瞬時にしゃがんで回避する悟飯。

 

 しかも、苦し紛れに繰り出された攻撃だったからか、セルの攻撃は大振りだった事もあり。

 攻撃を避けられた後のセルは無防備な状態を晒していた、今の悟飯はそんなスキを逃すほど甘くはない。

 一瞬身体でタメを作ると、その力を一気に解放するように大地を蹴る。

 

 そして、解放された力をのせた拳が的確にセルの顎を撃ち抜いた。

 撃ち抜かれたセルの身体は大きく宙へ跳ね上がるが、何とか空中で体勢を整え地面に着地する。

 しかし、セルの身体は明らかにゆらゆらと揺れており、足元がおぼつかない様だった。

 

 たった2発の攻撃だというのに、誰の目にもセルが大きなダメージを負っている事が見て取れた。

 

 

「バ…バカな……。 な…何故この私が……たった2発のパンチで、こ…これほどのダメージを……」

 

 

 セルは自身の現状に驚愕を露わにしていた。

 その後、セルは自身のプライドにかけて悟飯に全力で挑み掛かるも、全てにおいて悟飯はセルを上回った。

 そして、セル自身も悟飯の方が自身を上回っている事に気付くまでに然程時間を要しなかった。

 

 だが、強さと勝敗は、また別である……。

 追い込まれたセルは戦いを楽しむのではなく、貪欲に勝利を狙い始めたのだ。

 その為には、どんな卑怯な手も厭わなかった。

 

 セルはサイヤ人の細胞の他にフリーザの細胞をもその身に宿していた為、それを活かし悟飯もろともフルパワーのバカでかいかめはめ波で地球そのものを吹っ飛ばそうとしたのだ。

 だが、それすらも悟飯はセルをも上回るもっとでかいかめはめ波で押し返した。

 これによりセルは、肉体にもそうだが、それ以上に精神へ大きくダメージを負ったのだった。

 

 この時点で悟飯の勝利はほぼ揺るがないものとなった。

 もし、この時点で悟飯がセルにトドメをさしていれば、その後の歴史は大きく異なったのだろう。

 だが、今の悟飯は怒りに自我が支配されていた事や、セルをも上回る力を手に入れ調子に乗っていた部分もあったのだろう。

 

 その為、セルへのトドメを後回しにし、セルを苦しめる為に戦いを引き延ばす事を選択した。

 この選択を悟飯は生涯後悔する事になるのだが、今の悟飯にはそれを知る術はなかった。

 

 それからのセルは、逆上し自分を見失いながらも悟飯に挑むが、逆上した事で巨大化してまでパワーに偏った攻撃を行った事により完全にスピードが死んでしまった。

 そんな状態のセルが現在の悟飯の相手になるはずもなく、強烈な左蹴りを顔面に叩き込まれてしまう。

 それにより、ついに完全体セルが限界を超えてしまった。

 

 悟飯の度重なる攻撃により、完全体を維持できなくなったのだ。

 悟飯の攻撃により、吸収していた人造人間18号を体内から排出した事で、完全体から第2形態へ退化してしまったのだ。

 第2形態のセルではこの場に集っている戦士達では、簡単に倒せてしまう。

 

 この時点で、セルの完全なる敗北が決まったと言っても過言ではないだろう。

 

 

 だが……、本当の地獄は……ここからだった……。

 

 

 第2形態に退化したセルは、自身をこんな目にあわせた悟飯に怒りと憎しみを抱きながらも、自身の勝利が完全に潰えた事を理解していたのだ。

 その為、セルは最後の手段に打って出た。

 

 

「ぐふ〜〜〜、ぐふふ〜〜〜!! うう…うぐぐぐ……!!!

 ゆ…、ゆるさん……、許さなぁーーーーーい!!!!!」

 

 

 セルが怒りの咆哮を上げると、セルの全身からとてつもない気が放出される。

 

 

「んぬぬぬぬぬ……、ぬいいいいい……!!!! いいい……」

 

 

 気が高まるにつれ、セルの形態がどんどん変わっていくのだ。

 だが、その変化は完全体の時のような正常な形態変化ではなく、どこか危険を孕んだ変化だった。

 セルの肉体が風船の様にどんどん膨らんでいくのだ。

 

 まるで、自身の中に内包されているエネルギーを限界まで溜め込んでいっている様だった。

 セルの身体が限界まで膨れ上がった時、セルから悟飯達へ最悪な言葉が告げられる。

 

 

「ぐひっ!! ぐふふふふふ……!! き…貴様らは、も、もう終わりだ……!!

 あ…あ…あと1分でオ…オレは自爆する……。

 オ…オレも死ぬが貴様らも全部死ぬ……! ち…地球ごと全部だ……!!」

「な、なにっ!?」

 

 

 驚愕の反応を示す悟飯や悟空達。

 だが、瞬時に我に返った悟飯はセルに攻撃するべく構えを取る。

 

 

「おっと! 攻撃しない方がいい……。

 このオレに衝撃をあたえれば、その瞬間に爆発するぞ。

 もっとも、ほんのちょっと死ぬのが早くなるだけだがな……。

 はっははははーーーーっ!!! あと、1分だ!!!」

 

 

 狂気を孕んだセルの笑い声が木霊する中、悟飯は成す術もなく立ち尽くす……。

 ここに来て、先ほどの悟飯の選択が最悪の形となって、裏目に出た。

 どれだけ力を持とうと悟飯は9歳の子供なのだ。

 

 精神的にも未熟で、悟空達ほど戦いの経験があるわけでもない。

 だからこそ、悟飯は追い込まれた存在がどれほどの脅威なのかを本当の意味で理解していなかったのだ。

 後悔が悟飯を襲う中、時間は無情にも過ぎていく……。

 

 

「うへへへへへ……、あ、あと30秒だ……」

「あ……」

 

 

 セルの言葉に合わせてセルの肉体がまた少し巨大化する。

 その様子が、悟飯に如実に限界が近い事を告げていた……。

 

 

「あと20秒……」

 

 

 セルが告げる亡びへのカウントダウンに、ついに悟飯は膝から崩れ落ちる。

 

 

「く、くそ……!! ボ…ボクのせいだ……。 は…はやくトドメを刺しておけば……」

 

 

 蹲り、悔しそうに両腕を大地に叩きつけ後悔を吐露する悟飯の様に、狂気の笑みを浮かべるセル。

 

 

「あーーーっはっはっはっはっは……!!!」

 

 

 一頻り笑い声を上げたセルは、悟飯の苦しんでいる様子にこれまでの溜飲が幾ばくか下がったのか、悟飯に視線を向ける。

 

 

「あ…あと、4秒……。 こ、この勝負…引き分けに終わったが…貴様らの、く、苦しむ顔が見れて満足だ……。 ぐひひ……!!」

 

 

 いよいよ、地球の運命も残り5秒を切ってしまった。

 誰もが、このままセルの自爆に巻き込まれ死ぬのだと、死を覚悟した瞬間、それはおこった……。

 悟飯とセルの間に割り込む様に、1人の男が瞬間移動してきたのだ……。

 

 その者はこれまで、地球の危機を幾度も救ってきた正に英雄と呼ばれるべき男……。

 

 その英雄がまたしても、地球と仲間達や家族の危機を救うべく動き出した……。

 

 その英雄の名は……、孫悟空。

 




えらく長くなってもうた…。


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セル編-Ep.02

2話投稿なので、興味ある方はそちらも見てください。
ぶっちゃけ、零 - 壱は読まなくてもいいかも…。
それでは、続きです。


■Side:ギネ

 

 

 あたしは、あの日の光景を忘れる事は2度とないだろう……。

 

 あの日、朝から嫌な予感を覚えていたあたしは、仕事中にも関わらず自然とあの巨大な水晶が鎮座する場所へと赴いていた。

 だが、あたしを出迎えた水晶は、いつもと変わらず背後の地獄の風景を歪めて写すだけで、あたしが抱えている嫌な予感を解消する手助けはしてくれなかった……。

 

 

「はぁ、ここに来れば何か分かるかと思ったけど……、そう上手くはいかないよね……」

 

 

 水晶に反射する落胆した自分の顔を見ながら、あたしは1人ボツリと呟く。

 本当なら昨日3年ぶりに帰ってきたバーダックに相談したかったのだが、あたしが仕事で家を出る時間にはまだバーダックの奴は起きていなかったのだ。

 あいつもこの3年間働いていて疲れているだろうから、起こすのが躊躇われたのだ。

 

 

「はぁ、こんな事なら、あいつを起こして話を聞いてもらえば良かったかなぁ……?

 でも、嫌な予感て言っても、それが何なのかも分からないし……、はぁ……」

 

 

 あたしはこの胸を締め付ける様な焦燥感を、どうする事もできず途方に暮れながら水晶を見つめていた。

 すると、あたしの後ろから聞き慣れた男の声が聞こえてきた。

 

 

「こんな所で何やってんだ……? ギネ」

 

 

 あたしが振り返ると、そこにはあたしの予想した通りの男が立っていた。

 

 

「バーダック……」

 

 

 あたしが彼の名を呼ぶと、彼は何か違和感を感じたのか何か引っかかる様な表情を浮かべ軽く首をかしげる。

 

 

「どうした……? 何かあったのか?」

 

 

 どうやら、あたしの顔を見ただけであたしの様子がどこかおかしいことに気付いた様だ。

 普段ぶっきら棒な態度を見せておきながら、こういう機微を察知するあたり本当にこの男は人を見ているんだなぁと、あたしは改めて感じ入った。

 こうなっては、バーダックに隠し事をしても、どうせバレるだろうし、そもそもあたしは隠し事に向かない。

 

 だから、あたしはバーダックに話すことにした。

 まぁ、もともと隠す気なんて無かったんだけどさ……。

 

 

「朝からさ……、嫌な予感がずっとしてるんだ……。

 最初は気のせいだって思ってたんだけど……、時間が経つにつれてどんどんその予感が強くなって、それが何なのか分からないんだけど……、気がついたらここに来てたんだ……」

 

 

 あたしの言葉を聞いたバーダックは納得した様な表情を浮かべると、視線をあたしの後ろの水晶に向ける。

 

 

「なるほどな……。 ここに来れば、こいつがその嫌な予感ってヤツの正体を映してくれるかもしれないって思ったのか」

 

 

 少し話を聞いただけで、あたしの行動を理解したバーダック。

 

 

「うん……。 でも、こいつは何も映してくれない……。 ははっ……、嫌な予感ってヤツもあたしの勘違いなのかもしれないね……」

 

 

 本当は、バーダックに嫌な予感について相談したいんだけど、正直何て言っていいのか分からないあたしは笑ってごまかすことにした。

 正直上手く笑えている気はしなかったが、誤魔化せただろうか?

 なんて、あたしが考えていると、横からバーダックの声が聞こえて来た。

 

 

「ふんっ、別にこいつが、何も映さねぇからって何も起きねぇとは限らねぇだろ……。

 まぁ、嫌な予感だってんなら、外れた方がいいのかもしれねぇがな」

 

 

 視線は水晶に向いたままで口調もいつも通りぶっきら棒だったけれど、明らかにあたしの事を気にしてくれている事が分かった。

 そんな目の前の男の様子がおかしくて、あたしの口元も自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

「ははっ、そうだね……。 嫌な予感だったら外れた方がいいんだから、映さないっていうのは良い事なのか……!!

 あんたの言う通りだね、バーダック」

 

 

 あたしが笑った事に気を良くしたのか、バーダックの口元にも僅かに笑みが浮かんでいた。

 バーダックのおかげで、幾分か気分が軽くなったところで、今更ながらあたしは何故バーダックがこんな所にいるのか?と疑問に思うのだった。

 どうやら、嫌な予感てヤツのせいで自分が思っていた以上に頭が回っていなかった様だ……。

 

 

「そういえば、バーダックはどうしてこんな所にいるのさ……?」

「あ? オレは修行する為にここに来たんだよ。 そしたらお前がこんな所で深刻なツラしてやがったんだろ」

「修行……、あぁ、トレーニングのことか。 って、バーダックってそんな自主的にトレーニングとかしてたっけ?

 長期間戦場外れた時とかに鈍らない様にしてた事はあったけど……」

「別に良いだろ? トキトキ都にはオレより強えヤツが修行して日々強くなってやがんだ。

 そいつを越える為には、オレも遊んでるワケにはいかねぇんだよ……」

 

 

 まさか、あのバーダックが自主的にトレーニングをするなんて、長い事こいつといっしょにいるあたしでも驚きを隠せなかった。

 だが、今のバーダックはかなり充実している様に見える。

 ここまでバーダックを変えてしまうとは、きっとタイムパトロールになっていい出会いがあったんだろう。

 

 正直あたしは、最初にバーダックからタイムパトロールになると聞いた時、あまり良い感情は持っていなかった。

 死人であるバーダックが、もう一度死んでしまうと、今度は存在そのものが消えてしまうのだ。

 それは、つまりあたしや他のサイヤ人達から、バーダックという存在の記憶や痕跡が全て消えるという事だ。

 

 それを考えると、あたしはバーダックに本当はタイムパトロールになって欲しくなかった。

 だけど、カカロットとフリーザの戦いを見た後くらいから、バーダックの様子が何処か変だったのも分かっていた……。

 そんなこいつの状況を変えるには、タイムパトロールになるのが1番近道なのもなんとなくだけど何処かで分かってたんだ。

 

 だから、あたしはバーダックがタイムパトロールになると言った時、心の底では反対したくても反対しなかった。

 だが、今のこいつの様子を見ると、あの時反対しなくてよかったと思う。

 

 

「そうかい。じゃぁ、バーダックはしっかり修行……?とやらを頑張りなよ。

 あたしは仕事に戻るよ。 抜け出してきちまったから、きっと他の連中も怒ってるだろうからさ」

「ああ」

 

 

 まだ嫌な予感が消えたわけじゃないけど、バーダックのおかげでかなり気分がスッキリしたあたしは、バーダックに背を向け、空へ飛び出そうとした瞬間、それは起こった。

 かすかに響いただけだったのだが、その音は確かにあたしの耳へ届いた……。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

 その音に聞き覚えがあったあたしは、弾かれた様に音の発信源であるであろうそれに視線を向ける。

 すると視線の先では、音の発信源である巨大な水晶が光り輝き、砂嵐の様なひどいノイズを走らせていた。

 あたしは、この光景を以前見たことがあった……。

 

 徐々にノイズが収まり、水晶は明らかにこれまで映し出していた地獄とは違う光景を映し出した。

 綺麗な青空と戦闘で傷ついたであろう荒れ果てた荒野、その中に2人の存在が映し出された。

 

 1人目は見るからにヤバい化け物だった。

 だが、何処か様子がおかしい……。

 身体を限界までに膨らませ見ただけで身の毛がよだつ狂気じみた笑みを浮かべ、目の前の男の子を見下ろしていた。

 

 2人目は逆立った金髪をした、どこか見覚えがある様な男の子。

 化け物の前で地面に膝をつき、何かを後悔する様な表情を浮かべ、項垂れていた。

 その痛々しい姿に、あたしは何故だか急に胸が締め付けられた……。

 

 いきなり水晶が映し出した映像に訳が分からず困惑していたあたしだったが、明らかにあの化け物がやばいヤツだという事は分かった。

 あまりに水晶が映し出した状況がわからず、バーダックに尋ねようと視線を向けるとバーダックも視線を水晶に向けていた。

 だが、何故だかとても険しそうな表情をしていたのだ。

 

 バーダックもあたしと同じ様にあの化け物がやばいと思ったのだろうか?と一瞬考えたが、それにしてはバーダックから切迫した雰囲気が伝わってくるのだ。

 あたしと違ってバーダックは、何か知っているかと思って声をかけようとした瞬間、映像の中の2人の間に、いきなり3人目の登場人物が一瞬で現れた。

 まるで魔法でも使った様に姿を現した3人目の登場人物は、あたしとバーダックにとって忘れられない人物だった。

 

 その人物は、男の子と色こそ違っているが同様の、あたし達サイヤ人ではまず身に付けることがない様な服装を身に纏っていた。

 鮮やかな山吹色の服に青いインナーを身に纏った男の姿は、かつてナメック星での戦いで見た時とほぼ同じ装いだった。

 着ている服が所々破けた所がある事から、きっとこの男も戦っていたのだろうという事が予想できた。

 

 本来は黒色である髪を金色に逆立て、瞳を鮮やかなエメラルドにも似た輝きを持つ碧眼。

 その碧眼は以前見た時は、あの子の怒りを表している様にとても険しい目つきだったが、今は大分険しさがとれ、あの子本来の優しさが見て取れた……。

 

 その男の名は……

 

 

「カカロット……」

 

 

 あたしは自然と息子の…あの子の名前を口に出していた……。

 そして、その時確信したんだ……。

 今日、自分が感じていた嫌な予感は、この時の事だったのだと……。

 

 そして、映像の中に映るこの子がこれから死ぬのだと……。

 そういう確信が、何故だか分からないけど確かにあたしにはあったんだ……。

 

 

 

 あたしとバーダックは、突如現れたカカロットの姿を静かに見守っていた。

 何故なら、映像に映し出されたあの子の姿が力強さと共に、どこか儚げだったからだ……。

 それが、あたしに言いようのない不安を与えていた。

 

 すると、片手を化け物の腹に手を添えた映像の中のカカロットが口を開いた。

 

 

『ここまでよくやったな、悟飯。 すごかったぞ!』

『お…お父さん……』

「ゴ、ゴハンだって!?」

「そうか……、ゴハンも超サイヤ人に目覚めてやがったのか……。 あの歳で大したモンだ」

 

 

 カカロットが口に出した男の子の名前に、あたしとバーダックは驚きを隠せなかった。

 以前見た時は、戦闘能力は高かったが、どこか子供特有の甘さと優しさが見て取れた。

 だけど、今映像に映し出されているゴハンにはそれが全く感じられなかった。

 

 それ以上に、まさかカカロットの他にゴハンまであたし達サイヤ人の伝説、超サイヤ人になっているのに驚きを隠せなかった。

 

 カカロットに声を掛けられたゴハンは、突如現れた父親に驚きを隠せない様だった。

 いったいこの子達のこの状況はどういう事なんだろう……?

 だが、その疑問はすぐに解消される事になる……。

 

 あたしやバーダックにとって、最悪の形となって……。

 

 

『母さんにすまねぇって言っといてくれ。 いつも勝手なことばっかしちまって……』

 

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、遺言の様な言葉を告げるカカロット。

 それを聞いたゴハンは、驚きと戸惑いを隠せない様な表情をしていた。

 恐らくあたしも似た様な表情を浮かべていたんだと思う……。

 

 そんなゴハンにカカロットは笑みを向ける……。

 

 

『グッバイ!悟飯!』

 

 

 そうゴハンに告げるとかカカロットは、額に人差し指と中指の2本をあて真剣な表情を浮かべる。

 すると、次の瞬間……カカロットと化け物以外の全ての光景が一瞬で変化した。

 

 

「えっ……!?」

『お、お、わっ、ば、バカッ! そ、そんなヤツつれてくるなぁーーー!!!』

 

 

 突然変化した光景に、あたしは驚きの声を上げる。

 すると、水晶の中から、急に現れた黒い服を着た小太りのおっさんが驚きの叫び声を上げ、一緒にいる猿と虫の様な奴が慌てている様子が映し出された。

 

 

『わ、わりぃ界王様、ここしかなかったんだ……』

『そっ、そんなこと言ったって……』

 

 

 訳が分からないあたしやバーダックをよそに、映像の中はどこかコミカルだった。

 小太りのおっさんの反応からして、結構やばい状況なはずなのに……。

 だが、それも次の瞬間に崩壊する事となる……。

 

 

『くぅ、くっそぉ〜〜〜〜〜っ!!!!』

 

 

 化け物が叫び声を上げた瞬間、水晶の中の世界が突如として震えだす。

 震えが大きくなるにつれて、カカロット達がいた小さな星の地面にどんどんヒビが入り、崩壊していく。

 叫び声を上げた化け物はその身体にさらに限界まで大きく膨らませていく……。

 

 もはや、破裂する寸前だった……。

 

 

「ちっ、やっぱり…か……。 このバケモン自爆するつもりだっ!!」

「えっ!?」

 

 

 化け物の様子を見ていたバーダックが苦々しい表情で叫んだ。

 私は驚いてバーダックに尋ねようとした瞬間…、ついに化け物が限界を迎えた……。

 

 

『うおぉおぉーーーーーっ』

 

 

 化け物が上げた断末魔と共に、水晶の中は光に包まれた……。

 あまりの眩しさにあたしとバーダックは腕で視界を覆う。

 すると、かつて聞いたことがない様な爆発音が水晶から地獄に響き渡った……。

 

 音が静まり、あたし達が水晶に視線を向けた時、水晶はいつも通りの地獄の風景を歪んで写すただの巨大な水晶に成り代わっていた……。

 そのいつもと変わらない様子に、あたしは先ほど見ていた映像が幻だったのではないか……?と錯覚してしまいそうだった。

 

 

「な…なんだったんだい……? さ、さっきの…幻じゃないよね……?」

「…………」

 

 

 あたしの問い掛けにバーダックは、腕を組みながら水晶を苦々しい表情で見つめていた……。

 何も答えてくれないバーダックに、あたしは再度問いかける。

 

 

「ねぇ…、さっきのカカロットだったよね? そうだよね? バーダック……」

「ああ……」

 

 

 今度は、なんとか返事だけ返してくれたが、視線は未だ水晶に固定されたままだった。

 その様子に、あたしは嫌な予感を覚える……。

 

 

「あの子に何が起こったんだい? あんたは何か気づいてるんだろう? 教えておくれよ、バーダック」

 

 

 バーダックの腕をゆすり、問いかけるとバーダックがゆっくりと視線を向ける。

 その視線はまるで、あたしの心を見透かしている様だった。

 

 

「本当は察しがついてんだろ……? あいつがどうなったのか……」

「ーーーっ!?」

 

 

 バーダックのその言葉に、あたしは軽く身体を震わせる……。

 そう、本当はバーダックに聞かなくても分かっていた……。

 あの子がどうなったかなんて……。

 

 だけど、それを認めたくなくて……、あたしが抱えていた嫌な予感が現実になったのを否定して欲しくて、みっともなくバーダックに縋ったのだ。

 

 

「あいつは、自分のガキや家族…そして、育った故郷を守る為に死んだ……。 ただ、そんだけだ……」

 

 

 あたしの目をしっかりと見つめ、いつもの様にぶっきら棒な態度で淡々と喋るバーダック。

 だけど、いつもと変わらないその態度の裏に、どこか悲しげな感情が込められている事をあたしは見逃さなかった……。

 そして、それが現実から目を背けていたあたしの心を決壊させる切っ掛けとなった……。

 

 気が付くと、あたしの目から勝手に涙が流れていた……。

 そして、自分が涙を流していると認識した瞬間、もう、ダメだった……。

 

 

「カ…カカロット……、うっ、うぅ…カカロットぉ〜……、カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 あたしは両目から涙を出しながら、天に向かって慟哭の叫びを上げると膝から崩れ落ちた。

 両手で顔を覆っているにも関わらず、あたしの涙は地獄の大地を濡らし続けた……。

 

 

「な、なんで……なんであの子が…、あ、あんな酷い死に方を…しなきゃいけないのさ……。

 あ…あたしは……、あの子だけは…、カカロットだけには……自分の人生を最期まで楽しく生きていて欲しかったのに……。

 そ、それなのに……、それなのにどうしてあの子が死なないといけないのさ……」

 

 

 あたしは、あの子に愛情を注いで育ててあげる事が出来なかった……。

 どんなにそれを望んでも、あの子を残して死んでしまったあたしには不可能だったからだ……。

 だから、ナメック星の戦いを水晶を通して見た時、立派に成長したあの子を見てあたしは心の底から救われたんだ……。

 

 あの子は、地球という星で、あたしやバーダックに変わって愛情を持って育ててくれた人に出会えたのだろう。

 それだけじゃない。 共に命を預けられる仲間や、生涯を共にする伴侶、そして幸せの結晶の子供まで得ていた……。

 そんな、あの子を見た時に滅びの運命のサイヤ人の中で、あの子だけは……カカロットだけはその運命とは無縁で生涯を幸せに過ごして欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 だけど……、あたしの願いは叶わなかった……。

 この世界には、神って奴がいるらしいが、やはり地獄にいる人間の願いなんて聞き届けてくれないって事なんだろうか……。

 この世界は、本当に理不尽だ……。

 

 

 

■Side:バーダック

 

 

 修行の為にこの場に来て、僅か数分の間にとんでもねぇ事になりやがった……。

 オレは目の前で蹲り、涙を流しているギネに目を向ける。

 正直なトコ今のオレがこうやって、冷静でいれんのはギネがこういう状況だからだろう……。

 

 カカロットの死は、オレにとっても衝撃だった……。

 オレはここ3年間、遠い未来にカカロットが天寿ってやつを全うした後、あいつがあの世にやってきた時あいつと戦う為に、腕を磨いて来た……。

 何故ならカカロットはオレにとって自分のガキであると同時に、目標でもあったからだ……。

 

 あいつが、ナメック星でフリーザと戦っている時に見せたその姿は、オレの固定概念ってヤツを木っ端微塵にぶっ壊しやがったからだ。

 オレはいつのまにかサイヤ人の限界なんてモンをテメーの中で勝手に作っていた。

 その限界をあいつは、あっさりと飛び越えたばかりか、伝説の超サイヤ人なんてモンにまでなりやがった……。

 

 今でもあの時のあいつの姿はオレの眼に焼き付いている……。

 いくら血を流し傷つこうが、何度でも立ち上がり立ち向かい限界を超えていくあいつの姿が……。

 その姿を思い出すたび、オレは自分の中に流れるサイヤ人の血が、熱く沸騰した様になるのを感じていた……。

 

 そう、あいつと…カカロットと……全力で戦いてぇと……。

 

 ナメック星での戦いで生き残ったあいつは、これからもっと強くなるとオレは確信していた……。

 現に、さっき水晶で見たあいつは、僅か数年でナメック星でフリーザの野郎と戦っていた時よりずっと強くなっていた。

 そんなあいつが、生を全うし長い戦歴と鍛錬によって鍛え上げられた力をもって、オレの目の前に立った時どんだけ強くなってやがんのか考えると正直ワクワクした。

 

 正直、そんな日が早く来る事を望んでいたことは、否定しねぇ……。

 

 だがよ……。

 

 

「いくらなんでも、早すぎるぜ……。 バカ息子が……」

 

 

 サイヤ人は戦闘民族だから、若い期間が他の星の奴らよりずっと長ぇ……。

 カカロット程度の年齢だったら、まだまだこれからと言っていいくれぇだ……。

 だが、あいつの未来は潰えた……。

 

 あいつが最後に望んだ、ガキや家族…そして育った星を守り通して……。

 

 本当に、この世界ってやつは…ままならねぇモンだな……。

 

 

 

ピ、ピピッピ…、ピピッピ……ピピッピ……。

 

 

 バーダックとギネが互いに感傷に浸っていると、2人の耳に響き渡る電子音が聞こえていきた。

 するとバーダックは、この電子音に聞き覚えがあるのか、顔をしかめるとズポンのポケットに手を突っ込み、掌に収まるくらいの板状の機会を取り出した。

 どうやら、音の発信源はその機械からだった様だ。

 

 

「ちっ…、こんな時になんだってんだ……?」

 

 

 バーダックは忌々しそうな表情を浮かべながら、板状の機械を操作する。

 すると、板状の機械に備わっていたモニターに1人の男の姿が映し出される。

 これは、タイムパトロールの隊員の通信機だ。

 

 

「お忙しい時にすいません。 バーダックさん」

 

 

 通信機に映し出されたのは、トキトキ都にいる筈のトランクスだった……。




まさか、プロローグである零話がこんなに長くなるとは思わんかった、続きは今週中にあげます。
申し訳ない。


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セル編-Ep.03

連日投稿です。
すいません。この話で零話終わるって言ってたんですけど、文字数が2万超えたんで、区切り良いとこで一旦投稿します。
もうしばらく零話お付き合いください。


 水晶が映し出した映像で、悟空の死を目撃する事となったバーダックとギネ……。

 バーダックとギネが互いに息子の死に感傷を抱いていると、タイムパトロールの隊員であるバーダックの端末に通信が入った。

 そこに映し出されたのは、トキトキ都にいる筈のトランクスだった……。

 

 

「トランクスか…。 悪りぃが、今立て込んでんだ……。 用なら後にしてくれ……」

 

 

 バーダックは横目で未だ項垂れているギネを確認し、流石にこのまま放っておくわけにはいかないと考え通信を切ろうとする。

 だが、そうはならなかった……。

 

 

「分かっています。 孫悟空さんが亡くなった件…ですね……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは僅かに顔を顰めながら、1つの考えに行き着く。

 

 

「そうか…、トキトキ都には様々な世界の歴史が記録され保管されてやがる……。

 隊員でも、自分が普段生活している歴史より後の歴史は原則知らされる事はねぇ……。

 だが、過去だったら、権限さえあればありとあらゆる歴史を知る事が出来る。

 トランクス…、お前カカロットが今日死ぬ事を知ってやがったな……?」

 

 

 トランクスを睨みつける様に疑問をぶつけるバーダック。

 そして、バーダックの問いにトランクスは表情を曇らせる……。

 まるで、後悔を噛みしめる様に……。

 

 

「はい…。 バーダックさんが考えている通りです。

 オレは今日悟空さんが死ぬ事を知っていました……。

 ただ、オレが悟空さんの死を知ったのはトキトキ都で調べたからではありません」

「なに?」

「その疑問を答える前に、質問なのですが……、バーダックさんはどうやって悟空さんが死んだ事を知ったんですか?」

 

 

 バーダックはトランクスにこれまでの事情を説明する。

 事情を聴き終えたトランクスは、納得した様な表情を浮かべ頷く。

 

 

「なるほど……。 以前バーダックさんが言っていた水晶で見ていたのですね」

「ああ…、それで、てめぇは何で今日カカロットが死ぬ事を知ってやがった……?」

「……そうですね。 説明します。 何処から話しましょうか……」

 

 

 トランクスはオレから視線を外すと、何かを振り返る様な表情を浮かべる。

 数秒程考え込んでいたが、何かしらの整理がついたのだろう。

 いつもの力強い瞳でオレを見つめ、語り始めた。

 

 

「あの日…、バーダックさんにとっては今日ですね。

 オレは悟空さんや悟飯さん、そして父さん達と共にあの戦いに参加していたんです……」

「なんだとっ!? どういう事だ? この時代のテメェはまだ赤ん坊だったはずだ……」

「はい、バーダックさんの言う通りです。 その時代のオレは赤ん坊で間違いありません。

 バーダックさん……以前オレの過去をあなたに話したと思うのですが、覚えていますか……?」

「ああ…。 確かテメェのいた時代では、2人の人造人間なんてふざけたモンが暴れていて、戦える戦士がお前以外に死んだ世界……だったか?

 だが、お前1人ではその2人には勝てねぇから…タイムマシンで過去に……っ!! まっ、まさか……」

 

 

 バーダックは、自身の口にしていた言葉で、何故トランクスがあの場にいたのか察する事が出来た。

 

 

「そうです…。 オレは過去にタイムマシンで戻る事で本来心臓病で死ぬはずだった孫悟空さんの命を救い、当時の悟空さん達から3年後の未来に人造人間って敵が現れるのを伝えました。

 そして、その戦いの中で人造人間の弱点を見つけ、オレの時代の人造人間を倒す手掛かりを手に入れるつもりでした……。

 ですが、オレが不用意な介入をしたからか歴史は、オレが知っているモノと大きく変わってしまったんです。

 その最たるものが…、セルの存在でしょう……」

「セル……。 そいつが…あの緑色の…カカロットを殺した化け物の名前かい……?」

「ーーーっ!?」

 

 

 突如会話に介入してきた第三者の声にトランクスは驚いた表情を浮かべる……。

 バーダックは、視線を声がした方向に向けると、ゆっくりと立ち上がるギネの姿が眼に入った。

 

 

「ギネ……」

 

 

 ギネは立ち上がるとバーダックの横まで移動し、バーダックが持っている通信機に映し出されたトランクスに視線を向ける。

 

 

「あ、あなたは……?」

「あたしの名前はギネ。 カカロットの…あんたが言うソンゴクウの母親さ」

「ご、悟空さんの母親!?」

 

 

 いきなり通信機に姿を現したギネに、驚きを隠せないトランクスだったが、目の前の存在が悟空の母親だと知り、更に驚いた表情を浮かべる。

 

 

「えっと……、初めまして。 オレはサイヤ人の王子ベジータの息子、トランクスっていいます。

 悟空さんや悟飯さんには、大変お世話になったんです」

「ーーー!? あ、あんたがベジータ王子の息子だって!?」

 

 

 トランクスの言葉に今度は、ギネが驚きの表情を浮かべる。

 

 

「えっ、本当に…? あ、あんまり似てないんだね……。

 あ、でも、目元は何処かベジータ王子に似てる気がする……」

「テメェ等、関係ねぇ話は後にしやがれ! 話が脱線してんじゃねぇか!!」

 

 

 互いに衝撃を受けた2人による場違いなほのぼのした会話に、苛立ちの声を上げるバーダック。

 すると、トランクスとギネははっとした表情を浮かべ、真剣な表情を浮かべる。

 

 

「えっと、何処まで話しましたっけ……?」

「セルってヤツの名前が出たところまでだよ……」

「そうでしたね。 それでは、続きをお話しします」

 

 

 ふぅ…と、一息吐くと、トランクスは再び語り始めた……。

 

 

「歴史の流れとは、ちょっとした事でその流れを大きく変化させます。 それは、良い意味でも…悪い意味でも……。

 本来の歴史では病死するはずだった悟空さんをオレが未来からの技術で救い、未来での出来事を伝えた事で、死ぬはずだった仲間達も生き残る事が出来ました。

 だが、タイムマシンというモノを使用した、代償が最悪な形としてその時代に現れたんです」

「それが、さっき言っていたセルってヤツだね……」

「そいつは、一体何モンだ…?」

 

 

 苦々しい表情を浮かべながら語るトランクスに問いかける、ギネとバーダック……。

 

 

「セルは、オレがやって来た未来より更に3年経った未来からやって来た人造人間です……。

 ヤツは、未来のオレを殺し、タイムマシンを奪う事で今バーダックさん達がいる時代にやって来ました……」

「「っ!?」」

 

 

 トランクスは、目の前で驚愕の表情を浮かべている2人に苦笑する。

 まぁ、今話している相手が死んだと聞けばしょうがないか…と考えたのだ。

 

 

「セルがわざわざ時を超えた理由は、完全体になる為です……」

「完全体……?」

「ええ。 セルは、人造人間17号と18号を吸収する事で、完全体になる事が出来るんです。

 この2体の人造人間が、おれがいた時代で暴れまわっていた人造人間です」

「そいつは、厄介だな……」

 

 

 トランクスから明かされる、セルの情報に顔を顰めるバーダックとギネ。

 

 

「にしても、トランクス。 未来にも2体の人造人間はいるんじゃねぇのか?

 お前はそいつらを倒す切っ掛けを得る為に、過去に行ったんだろ?」

「そ、それが…、セルがやって来た未来ではどういう訳か、2体の人造人間がすでにいなくなっていた様なんです。

 恐らくですが、未来のオレは過去で2体の人造人間を倒す方法を見つけ、その方法を実行し、成功したんだと思います……」

「なるほどな…。 だから、その時代でセルが誕生した時には、既に2体の人造人間はいなくなってたって訳か…。

 それでヤツは、2体の人造人間が存在する時代を求めて、未来から過去にやって来たって訳か……」

 

 

 バーダックの言葉に、頷く事で肯定の意を示すトランクス。

 

 

「未来から過去へやって来たばかりのセルは、タイムマシンに乗る為にわざわざ自身を退化させていた為、ものすごい弱い存在でした。

 しかし、地中で約3年間休眠する事で最低限の力を取り戻し、地上で活動を再開してからは2体の人造人間を吸収する為に、動き出しました……」

「なんだか、そいつ完全体ってヤツになる為とはいえ、えらい苦労してやがんな…。

 そこまでして、セルってヤツは完全体になりたかったのか……?」

「そう…なのでしょうね……。 実際戦ったオレとしてはあいつが完全体へ執着した理由も分かる気がします。

 実際完全体のセルは、恐ろしく強い上に頭もキレるとんでもない存在でしたから……」

 

 

 バーダックは、セルの完全体への執念に若干呆れていた…。

 ギネもバーダックと同じ事を考えていたのか、うんうんと首を上下に動かし相槌を打つ。

 だが、実物を知っているトランクスからしてみれば、セルの執念を馬鹿にする事は決して出来なかった……。

 

 完全体セルとは、それだけの労力を払う価値があるほどの存在だったのだ……。

 

 

「それで、セルってヤツは動き出してどうしたんだ?」

「流石のセルも活動を開始した当初の戦闘力では、17号18号はおろか、当時の悟空さんを含めたオレ達の戦闘力にも及ばなかった様で、ヤツは…「ちょ、ちょっと待って!」…えっ? な、何でしょう? ギネさん」

 

 

 バーダックが先を促しトランクスが喋っていると、いきなりギネが大声で割り込み、それに驚いた表情を見せるトランクス。

 トランクスは驚いた表情を浮かべたままギネに発言を促すと、ギネは堰を切ったように口を開く。

 

 

「あ、あんたの話を聞いていると、そ、その人造人間17号と18号ってヤツは、あのカカロットより強いのかい?

 あの、フリーザを倒した超サイヤ人のカカロットよりも?」

 

 

 そのギネの発言に、ある程度事情を知っていたバーダックはギネの疑問に納得の表情を浮かべる。

 確かに、ナメック星での悟空の戦いを見ているギネからしたら、その悟空が負ける姿など想像も出来ないのだろう……。

 だからこそ、2体の人造人間がカカロットより強いと聞いて、驚きを隠せないのだろう……。

 

 そこで、ふとバーダックは頭に疑問が浮かんだ……。

 

 

「ギネ、それを言うならこいつのいた未来だって、その2体の人造人間にメチャクチャにされてんだぜ?

 そんなに、疑問に思うことか?」

「だって、この子の未来では、カカロットは病気で死んじゃうんだろ? …って、あの子本当なら病気で死んでたの!?」

「おいおい、今更そこに疑問を持つのかよ……。 あー、トランクス、悪りぃがちょっとそっちの話を先にしてくれ。

 カカロットが死んだって事が気になって、話に集中しねぇと面倒だ……」

「あははは……。 分かりました」

 

 

 普段とは違う一面を見せるバーダックと、コロコロと表情を変え何処か悟空を感じさせるギネに、自然と笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「えっとですね、オレがいた時代の歴史では、悟空さんは今バーダックさん達がいる時代から約3年前にウイルス性の心臓病で亡くなっているんです。

 さすがの超サイヤ人も残念ながら病気には勝てなかったんです」

「そう…なのかい……」

 

 

 違う歴史の事とはいえ、やっぱり息子が死んだと言う話はギネにとって辛いものだった……。

 

 

「悟空さんの死後3年後に、17号と18号が動き出し、悟空さんの仲間達や世界中の人間を殺し、世界をメチャクチャにしたんです……。

 かろうじて逃げ延びた孫悟飯さんが、オレに戦いを教えてくださった師匠だったのですが、その悟飯さんもオレがタイムマシンで旅立つ4年前に人造人間に殺されました……。

 それからは、ずっと1人でオレは戦って来ました……」

「あんた…、どれだけ辛い人生を送ってきのさ……」

 

 

 ギネは目の前の青年が辿った壮絶な人生に、自然と涙を流していた……。

 そんなギネに困った様に優しげな笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「当時のオレも超サイヤ人になれてはいましたが、2体の人造人間相手では手も足も出ませんでした…。

 そんなある日、オレの母が長年研究していたタイムマシンが完成したんです。

 母は人造人間にやられっぱなしじゃシャクだからと、奴等をやっつけてしまった平和な未来があってもいいんじゃないかって…、そんな想いでタイムマシンを作っていました。

 そして、その平和を掴む為に必要な人物が悟空さんだったんです……」

「カカロットが…? あんただって超サイヤ人になれるんだろ……?

 そんな、あんたが敵わないんじゃ、カカロットだって……」

 

 

 ギネの言葉に、トランクスはゆっくりと首を左右に振る。

 

 

「違うんです…。 超サイヤ人だからって事が重要じゃないんです……。

 孫悟空という人は、どんな絶望的な状況だってどうにかしてくれる……。 そんな、希望を抱かせてくれる方なんです……。

 オレの母は、誰よりもそれを知っている人でした……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは思い出す……。

 あの、ナメック星での息子の姿を……。

 そして、2人は静かに笑みを浮かべ、トランクスが言わんとする事を理解する。

 

 

「だから、悟空さんさえ生きていれば、未来は大きく変わるんじゃないかと母は考え、オレに悟空さんの病気の特効薬とタイムマシンを託してくれたんです。

 そして、オレは過去へと旅立ち、悟空さんに出会って病気の特効薬を渡し、未来での出来事を伝える事が出来ました。

 こうして、悟空さんは病気での死を克服し、来たる人造人間との戦いに向け修行を開始する事になったんです」

「なるほどね…。 あたしは、あんたに礼を言わないといけないね……。

 ありがとう。 遠い未来から息子を助ける為にやって来てくれて……」

 

 

 話を聴き終えたギネは、トランクスに礼を述べ、静かに頭を下げる。

 そんなギネに、トランクスは慌てた様に言葉を返す。

 

 

「あ、頭を上げてください! 悟空さんを助けたのは先程言った様にオレの為でもあったんですから、礼を言われる事じゃありません」

「確かに、あんたにもあんたの理由があったんだと思う……。

 でも、あんたが来てくれなかったら、この時代のカカロットも病気で死んでたんだ……。

 だから、あたしはあんたにすごく感謝してる!」

 

 

 真っ直ぐと自分を見つめるギネの瞳に、一瞬呆けた様な表情を浮かべたトランクスだったが、すぐに可笑しそうに笑みを浮かべる。

 そんなトランクスに、不思議そうに首を傾げるギネ。

 

 

「ああ、すいません…。 あなたと同じ事を悟空さんの奧さんにも言われたんです……。

 それを思い出しまして……」

「あっははっは……、そうかい! カカロットはいい嫁さんを貰ったんだね!」

 

 

 トランクスの言葉に、満面の笑みを浮かべるギネ。

 

 

「さて、ギネが知りたかった未来のカカロットについて、分かったところで、続きを頼むぜ、トランクス…!」

「あ、そうだった…。 ごめんね……。 話の腰を折っちゃって……」

「いえ、気にしないでください! えっと、過去からやって来たセルが地中から出て、活動を開始したところからでしたっけ?」

「ああ…、動き出したセルがどうしたかってトコからだな……」

 

 

 バーダックの一声で、ようやく本来の話に戻る事が出来た一同。

 

 

「そうでしたね…。 えっと…、流石のセルも活動を開始した当初の戦闘力では、17号18号はおろか、当時の悟空さんを含めたオレ達の戦闘力にも及ばなかった様です。

 このままでは目的を達する事が出来ないと考えたセルは、戦闘力を上げる為に生体エネルギーを吸収し始めたんです」

「生体エネルギー…、なんだそいつは……?」

「つまり、生きた人間を吸収して、吸収した人間の生命力を戦闘力に変えたという事です……」

「げぇ…、なんだいそりゃ……」

 

 

 セルのおこなった行為に、バーダックとギネも嫌悪の表情を浮かべる……。

 サイヤ人も全体的に見れば残虐非道ではある為、強さを得られるなら似た様な事を行うサイヤ人がいても可笑しくはない。

 だが、ギネは普通のサイヤ人とは価値観が大きく異なっているし、バーダックも自らの力で戦いを楽しみたいタイプだ。

 

 少なくとも、ここにいる2人にとってはセルが行った行為は、聞いていてあまり良い気はしなかった。

 

 

「そうやって、いくつもの街の人間がセルの犠牲になりました……。

 そしてあいつは、ほんの数日の間についに17号と18号に匹敵するほどの戦闘力を身につけたんです。

 この時代の17号と18号はオレがいた時代の2人より更に強く、3年間修行して超サイヤ人に目覚めた父さんや仲間達をあっさり倒す程でした……」

「おいおい…、どんだけ強ぇんだよ…。 その2人の人造人間てヤツは……」

 

 

 散々トランクスから、その強さを言葉で聞かされていた2人だったが、まさかそれに備えて修行していたベジータ達の強さを圧倒的に上回るとは、流石に想像の埒外過ぎて、もはや呆れるレベルだった……。

 

 

「とはいえ、当の人造人間達は、その当時セルの存在の事を知らず、暇つぶしも兼ねて悟空さんを倒す事を目的とし世界中を放浪していたんです……」

「カカロットを倒す? カカロットはそいつらに何か恨みでも買ってやがったのか……?」

「そう言えば、バーダックさんにも、何故人造人間が生み出されたのかって、話した事なかったですね……」

 

 

 バーダックの言葉で、今まで散々人造人間の強さや所業の話はしたが、何故その人造人間が生み出されたのかを話した事がなかった事を思い出したトランクス。

 

 

「2人の人造人間もセルも、ドクター・ゲロという天才科学者が生み出したんです。

 ドクター・ゲロは、かつて地球に存在したレッドリボン軍って組織に存在していた科学者なんです。

 レッドリボン軍はかつて、地球で悪さを働いていた私設武装組織だったのですが、その組織を壊滅させたのが悟空さんだったんです。

 組織壊滅後、ドクター・ゲロは悟空さんに復讐をする為、研究に明け暮れました……。 そして……」

「その研究の成果ってやつが…、人造人間て訳か……」

「はい…。 ですから、全ての人造人間には孫悟空の抹殺という指令がインプットされているらしいです……」

 

 

 トランクスの説明に理解と驚きの表情を浮かべる、バーダックとギネ。

 

 

「地球の科学力はよく分からないけど…、超サイヤ人になったカカロットや王子、そしてトランクスより強い存在を作り出すって、そのドクター・ゲロってヤツは相当なヤツだね……」

「ええ…、ヤツがその頭脳を悪事ではなく、良い事に使っていたら多くの人間を幸せにする事が出来た事は間違い無いでしょうね……」

「で、その超天才に恨みを買ったバカ息子やお前らは、セルってヤツがパワーアップしてる間、何やってやがったんだ? 何もしなかったって訳じゃねぇんだろ……?」

 

 

 バーダックの質問に、トランクスは重々しく頷く。

 

 

「セルが人々を襲い、パワーアップを果たしている間、オレと悟空さん、悟飯さん、父さんの4人は超サイヤ人を越えるための修行を行っていました……。

 悟空さんと父さんは、たった1回の人造人間との戦闘でこれまでの超サイヤ人では、勝負にならない事を悟り、超サイヤ人を進化させる考えに至ったんです……。

 本当に凄いですよ…、あの2人は……。

 オレは何年もあいつらと戦って来たけど、超サイヤ人を超えるなんて考えた事すらなかったんですから……」

「超サイヤ人を超えるだって!? そんな事が出来るのかい?」

「まぁ、お前の話を聞く限り、お前達もパワーアップが必要なのは分かるが、そんな簡単に超サイヤ人を超えられるモンじゃねぇだろ……?

 時間的猶予もそんなにあるとは思えねぇが……」

 

 

 バーダックもトキトキ都でトランクスと修行した事により、超サイヤ人に変身できる様になってはいるが、彼はまだ超サイヤ人の第一段階までしか変身できないのだ。

 超サイヤ人を越えるのがそう簡単な事で無い事は、身を以て知っていたのだ。

 そのバーダックの質問に、応えるべくトランクスは再び口を開く。

 

 

「確かに、バーダックさんのいう通り、オレ達には時間がありませんでした。

 しかし、地球の神様の神殿に、利用できる人数は2人までですが、1日で1年分の修行が出来る部屋があるんです。

 そこで、最初にオレと父さん、次に悟空さんと悟飯さんがその部屋に入りました……」

「そ、それで…? う、上手くいったのかい……?」

 

 

 緊張を孕んだ様な声で問いかけるギネに、無言で力強く頷く事で肯定するトランクス。

 それにギネは笑顔で応える。

 

 

「す、凄いよ!! ただでさえ強い超サイヤ人を超えちゃうなんて、あんた達4人本当に凄いよ!! ねぇ、バーダック!!」

「ああ…、1年という期間はあったんだろうが、超サイヤ人を超える事は並大抵の修行じゃ無理だ……。

 それを4人共やってのけるなんて、大したモンだ……」

「って事はさ、パワーアップを果たしたあんた達が、人造人間を倒したって事……?

 あれ…? でもそうなったら、カカロットが死ぬなんて結末にはならないのか……。

 ねぇ、トランクス、それからどうなったんだい?」

 

 

 テンションが高かったギネだったが、悟空の死という結末を思い出し、自身が考えた様な展開にならない事を察する。

 

 

「オレ達がパワーアップに向けて修行を行なっている間、既にパワーアップを果たしたセルと17号達はついに戦う事になったんです。

 そして、その結果17号がセルに吸収されてしまったんです。

 第二形態に進化したセルは、姿形を変えただけでなく、パワーもスピードも桁違いにアップしていたのです。

 しかしそれほどのパワーアップを果たしても、セルは満足しません……。

 その理由は、分かりますよね……?」

「完全体になる事…、だよね……?」

 

 

 トランクスの質問に、ギネが答えると正解とばかり頷く。

 

 

「セルは、いよいよ完全体になるべく、17号が吸収される間に逃げた18号を追うべく行動に出たんです。

 そして、時を同じくして、オレと父さんも”精神と時の部屋”、1日で1年分の修行が出来る部屋から出てきたんです。

 オレと父さんは、さっそくセルを倒すべく神様の神殿を後にしました……」

「いよいよ、あのバケモンと戦う訳か……」

 

 

 現在悟空を目指して、修行しているバーダックは超サイヤ人を超えた強さというモノに興味ある様で、若干声に力が籠っていた。

 

 

「気を感知できるオレ達は、すぐにセルを発見しました。

 そして、すぐに父さんとセルの戦いが始まりました……。

 父さんは戦闘開始早々、超サイヤ人を超えた形態に変身しました。

 そして、修行の成果を遺憾無く発揮し、第二形態となったセルを終始圧倒していました……」

「おぉ…!! 流石王子!!」

「僅か1年で、そこまでの強さを王子は手にしたのか……。

 …ん? おい、トランクス…、王子はこの時点でセルを追い詰めてたんだよな……?」

「ええ…、まぁ……」

 

 

 バーダックの問いに、苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべるトランクス。

 そんなトランクスに2人は首をかしげる。

 

 

「確かに、父さんはセルを追い詰めたんですけど…、ここでサイヤ人の悪い癖が出たと言いますか……」

「悪い癖…?」

「父さんからしたら、せっかく1年間修行したのに、当のセルが想定していたより弱かったんです……。

 なので、まぁ、消化不良といいますか……。

 そこで、追い込まれたセルが完全体になれば負けないと言ってしまったので、父さんが完全体になったセルの強さに興味を持ってしまったんです……」

「なるほどな……」

 

 

 バーダックもサイヤ人である為、強いやつと戦いたいという気持ちはよく分かる……。

 それに、せっかく鍛えた力を存分に解放出来ない事がどれほどストレスなのかも知っている……。

 そんなバーダックからしたら、ベジータが完全体のセルの強さに興味を惹かれたのは仕方がない様にも思えた。

 

 

「父さんはセルを完全体にするべく、セルを逃がそうとしました……。

 しかし、オレは地獄の様な未来はもうたくさんだった為、逃げようとしたセルを倒そうとしたんです。

 その時のオレも父さんに負けないくらいの戦闘力がありましたので…、しかし、そのタイミングでセルが18号を発見してしまったんです……」

「うわっ、最悪のタイミングじゃないか……」

 

 

 ギネは驚愕の表情を浮かべ声を上げる。

 それに同意する様に、トランクスは頷く。

 

 

「セルは、早速18号を吸収するべくオレの目の前から18号に向かって飛び出しました……。

 オレは、セルの吸収を防ぐべく後を追い飛び出したのですが、そこで、父さんの妨害にあってしまったんです……。

 そして、オレが父さんの妨害にあっている間に、ついに…セルは18号を吸収して、完全体へとその姿を変えてしまったんです……」

「ついに、セルが完全体になりやがったか……」

 

 

 セルが完全体になった事で、バーダックとギネの顔にも緊張感が宿る……。

 そして、トランクスの口が重々しく開かれる……。

 

 

「完全体のセルは、それまでとは次元が違う強さでした……。

 父さんはさっそくセルに戦いを挑みましたが、セルに殆どダメージを与える事が出来ませんでした……。

 父さんがセルに気絶させられた後、オレは父さんをパワーで上回る超サイヤ人の形態で戦いを挑みましたが、ヤツにあっさりとその形態の弱点を見抜かれ、勝機が無いと判断したオレはあいつに降伏しました……」

「そ…、そんなに強いのかい……? 完全体のセルってヤツは……」

 

 

 最早想像の次元を超えてしまった、セルの強さにギネは身体を震わせながら驚愕の表情を浮かべる……。

 バーダックも黙ってはいるが、驚きを隠せない様な表情をしていた……。

 

 

「そ、それで、あんたはどうなったんだい? トランクス……」

「セルは、わずかな期間で強くなったオレ達に興味を抱きました……。

 そして、時間があればさらなるパワーアップが可能なのか?と質問してきました……」

「えっ? なんで、セルはそんな事を聞いてきたんだい……?」

「なるほどな…。 今度は、セルの野郎が王子と同じ様な考えを持った訳だな……」

 

 

 バーダックの問いに首肯するトランクス。

 

 

「そうです…。 セルは先程の父さんと同じ様に、完全体になった力を試したいと考えていました……。

 後、単純にヤツは戦いを楽しみ、恐怖に怯えひきつった人間の顔をも見る事も……。

 だからセルは、それから10日後に武道大会を開くとオレに言ったんです」

「武道大会…?」

「ええ…、その武闘大会の名前は…”セルゲーム”。

 悟空さんが死に…、バーダックさんとギネさんが水晶で見た戦いです……」

 

 

 トランクスが述べた言葉で、バーダックとギネの表情が一変する……。

 ここからが、彼らが知りたかった本題……。

 トランクスが語る内容に彼らは何を思うのだろうか……。

 

 そして、続きを語るべく、トランクスは喋り出す……。

 あの激闘の1日を……。




続きは、今週中にアップいたします。
良い加減、悟空視点の話が描きたい…。


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セル編-Ep.04

良い加減、零話を終わらせたいのですが、文字数が多くなりましたので、連日投稿します。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 トランクスによって、悟空達の話を聞いていたバーダックとギネの2人。

 そして…、ついに話は、運命の日に突入する……。

 孫悟空が死に、宇宙の命運を左右した武術大会…”セルゲーム”が開催された日へ……。

 

 目をつぶり、ふぅ…と、息を吐き出すトランクス。

 トランクスにとっては、もう10年以上前の出来事ではある……。

 しかし…、この日のことは今でも鮮明に思い出す事が出来る程、記憶に強く残っている……。

 

 気持ちの整理がついたトランクスは、再び目を開け、語り出す……。

 あの激闘の1日を……。

 

 

「セルゲーム当日…、まず最初にセルと戦ったのは、悟空さんでした……。

 精神と時の部屋での修行を終えた悟空さんの強さは、オレや父さんを遥かに超えたモノでした……。

 当然、セルと悟空さんの戦いは熾烈を極めました……。

 お互いが持てる力と戦術を駆使し、一切気が抜けない…そんな戦いでした……」

 

 

 トランクスが語る言葉を、バーダックとギネは無言で、しかし真剣な表情を浮かべ聞いていた……。

 

 

「しかし、戦況は徐々に悟空さんが不利になっていきました……。

 全力で戦っている悟空さんに対して、セルは未だ余力を残しているのが、見ているオレ達にも分かったからです。

 そして、ついに悟空さんに目に見えて疲労の色が強くなってきたんです……」

 

 

 ギネが悲痛の表情を浮かべる……。

 それを見たトランクスは、一瞬言葉を止め、ギネに言葉をかけようとしたが、それを止めたのはバーダックだった。

 

 

「それで…、それからあいつはどうなったんだ……?」

「あっ、はい。 えっと、疲労の色が強くなった悟空さんは、そこでセルに降参したんです……」

「えっ!?」

「なっ、なんだとっ!?」

 

 

 トランクスが述べた言葉に、夫婦揃って驚愕の表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「なっ、なんで…、何でカカロットはそこで降参しちゃったんだい?

 まだ、そこまで決定的に負けてた訳じゃ無いんだろ……?」

「はい…。 確かに悟空さんはまだまだ戦える状態でした……。

 戦っていたセルも、悟空さんの降参には驚いていたくらいですから。

 しかし、悟空さんはセルに次に自分が指名する相手は、自分よりも強く、そしてセルゲームを終わらせる存在だと告げ、次に戦う人物を指名して、舞台を降りました……」

「次に戦うって…、カカロットは、あんたや王子より強かったんだろ……?

 本当にそんなヤツがいるのかい……?」

 

 

 ギネの言葉を腕を組みながら、無言で聞いていたバーダックは、先程水晶で見た光景を思い出していた……。

 そして、その映像に映っていた息子以外のもう1人の戦士の姿を思い出した……。

 

 

「まさかっ!? トランクス…、カカロットが次に指名したヤツってのは、ゴハン…か……?」

「なっ!! ゴハンだって!? 何言ってんだいバーダック!!」

 

 

 バーダックの口から飛び出した名前に、ギネは驚きの声を上げる。

 しかし、バーダックはそんなギネを無視して、トランクスに視線を向ける……。

 

 

「そうです…。 バーダックさんの言う通りです……。 よく分かりましたね」

「さっき見た水晶の映像を思い出したんだ…。 そこにゴハンの姿が映ってやがったからな……」

「あっ!!」

 

 

 バーダックの言葉で、ギネも先程の映像を思い出した……。

 

 

「ほ、本当に…、カカロットは…ゴハンをセルと戦わせたのかい……?」

 

 

 映像を思い出したとはいえ、息子が幼いゴハンを自分よりも強い相手に戦わせたのが信じられないギネは、再度トランクスに確認する様に問いかける。

 そして、トランクスはギネに無言で首肯し、肯定の意を示す。

 

 

「そ、そんな…。 あの子まだ10歳にもなってないだろ……?

 それなのに、あんなバケモノに1人で挑ませるなんて、カカロットは何考えてんだい!?」

「まぁ、サイヤ人なら別に珍しい事じゃねぇが…、わざわざテメーが引っ込んでまでゴハンを舞台に立たせたんだ……。

 あいつには勝算があったんだろ…。 違うか? トランクス……」

「ええ…、その通りです……。

 今思えば…、あの時、あの場で悟空さんただ1人だけが、セルを倒す未来が見えていたのかもしれませんね……」

 

 

 そしてトランクスは語り出す……。

 これから語るのは、長年地球を守ってきた英雄の話では無い……。

 偉大なる英雄の父を超え、その遺志を継いだ小さな少年の戦いの物語……。

 

 

「悟空さんに指名され、セルと戦うことになった悟飯さんですが、やはりその場にいた全ての人間の予想した通り、すぐに劣勢に追い込まれました。

 戦闘力だけ見れば、悟飯さんも悟空さんに負けていなかったのですが、悟飯さんは悟空さんに比べ、戦いの経験が遥かに劣っています。

 その為、同じ戦闘力でも悟空さんみたいに戦う事が出来ませんでした……。

 しかし、それ以前にどうも悟飯さんは戦いそのものに消極的で、なかなかセルに攻撃する事が出来ないでいました……」

「おいおい…、そいつは戦い以前の問題じゃねぇか……」

「仕方ないよ…。 ゴハンはサイヤ人の血を引いてるって言っても、地球で育った子なんだから……。

 あの子は本来戦いが嫌いな優しい子なんだよ……」

 

 

 トランクスが語る悟飯の戦いっぷりに、顔をしかめるバーダックと悟飯の心情に理解を示すギネ。

 

 

「だとしても、このまんまじゃセルに殺されて終わりだろうが…!!

 そんな事言ってる場合じゃねぇだろ……」

「それは…、そうなんだけどさ……」

 

 

 ギネもバーダックが言わんとしている事は理解しているのだ……。

 だが、普通のサイヤ人とは価値観が違うギネからしてみれば、悟飯の気持ちもよく分かるのだ……。

 

 

「そもそも、カカロットのヤツはゴハンのそういう性格を知ってたんじゃねぇのか?

 それなのに、何故アイツはゴハンを戦いの舞台に立たせたんだ……?」

 

 

 バーダックは、悟飯の性格がギネと同じ様に戦いに向いてないと判断し、いくら戦闘力が高かろうが戦う遺志が低い人間を何故、悟空が戦いの場に立たせたのか疑問を覚えた……。

 

 

「悟飯さんは、子供の時から怒りが限界に達すると我を忘れて、とんでもない力を発揮したらしいんです。

 悟空さんは悟飯さんと精神と時の部屋で修行しているうちに、悟飯さんの中に深く深く封じ込められ眠っていた力が解放され始めたのを感じたんだそうです。

 セルを倒すには、その力を解放させるしか無いと考えたようです……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 まさか、悟飯にそれだけの潜在能力が隠されているとは、思いもしなかったのだ……。

 

 

「戦いに消極的だった悟飯さんは、セルに悟空さんの思惑を伝え、戦いをやめる事を提案した様なんです。

 しかし、当然そんな事で止まるセルではありません。

 それからセルは、悟飯さんを怒らせる為に、ありとあらゆる手段を用いて悟飯さんを攻撃しました。

 ですが…、悟飯さんは自分への攻撃ではなかなか怒る事は無く、次にセルはオレ達を攻撃して、オレ達が傷つく姿を見せる事で悟飯さんの怒りに火をつけようとしたんです。

 その為に、あいつが用いた手段がセルジュニアです……」

「セルジュニア? 何だい…? それは……」

「簡単に言えば、セルの子供です……。 あいつは、自分の身体から子供を生み出す事が出来るんです。

 しかも、戦闘力も高く、セルとほぼ同じ能力を持った子供です……」

「こっ、子供だって……!?」

 

 

 まさか、自ら子供を生み出すとは、セルの意外な能力に驚くギネ。

 

 

「トランクス…、今更なんだが、セルもお前の居た未来に存在する人造人間17号、18号と同じ人造人間なんだよな……?

 そいつらもセルみたいな事が出来んのか……?」

「いえ、出来ません……。

 そもそも、セルと17号、18号とではまったく、その成り立ちが違うんです……。

 17号と18号は、元々人間だった存在を改造して生み出されたんです。

 それに対して、セルは悟空さんや父さん、そしてその仲間達や、地球に存在する優秀な武道家、更にフリーザ親子の遺伝子を採取して培養して生み出された存在なんです。

 なのでヤツは、悟空さんや父さん、果てはフリーザの技すら使用する事が出来ます……」

「なっ…、なんだいそりゃ……!?」

 

 

 セルの誕生の秘密を知ったバーダックとギネは、驚きを隠せなかった……。

 そして同時に、セルの飛び抜けた強さの理由もようやく納得する事が出来た……。

 

 

「さて、話が脱線してしまいましたが…、セルから生み出されたセルジュニアはオレ達に向かって襲ってきました。

 ヤツらは当時のオレや父さんとほぼ互角の強さを持っていました。

 その為、セルとの戦いで消耗した悟空さんや、サイヤ人でない他の仲間達はセルジュニアにいい様に痛めつけられる事になりました……」

「ひっ、酷い……」

 

 

 セルの所業に顔を歪ませるギネ。

 

 

「結果としてセルの思惑は、成功したと言ってもいいでしょう……。

 悟飯さんは仲間達がセルジュニアに傷つけられる姿を見て、無意識に少しずつ潜在能力を解放していきました。

 そして、ついに悟飯さんの怒りが限界を迎えるんです……。

 17号、18号と一緒に行動していた、人造人間16号がセルに半壊されながらも悟飯さんに、戦う事の意味を説いたんです……。

 正しい事の為に戦う事は罪ではない…。 精神を怒りのままに解放してやれ…と。

 そして、彼が好きだった自然や動物達を守ってくれと言い残し、彼はセルに完全に破壊されました……。

 それを見た瞬間、悟飯さんの中で眠っていた力が、ようやく解放されたんです……」

 

 

 その時を、思い出したのかトランクスは一度喋るのをやめ、目をつぶる……。

 そして、目を開くと再び喋り出す。

 

 

「怒りによって真の力を解放した悟飯さんは本当に凄かったです……。

 その姿は紫電を身に纏い、見た目から通常の超サイヤ人とは異なっていました。

 感じられるその力の波動も、完璧に超サイヤ人の壁を超えていました……」

 

 

 どこか畏怖を込めて語るトランクスに、自然とギネとバーダックはその時の悟飯がどれだけ凄かったのかを想像する……。

 実際は、2人が想像している以上にすごいのだが、その姿を見ていない2人にはそれが限界だった。

 

 

「悟飯さんとセルの第2ラウンドが始まりましたが、そこからは一方的でした……。

 真の力を解放した悟飯さんは、全てにおいて完全体のセルを上回っていました。

 しかし、自身が完全なる存在であるプライドからセルは、何とか立ち向かいますが、そのプライドが折れるのもそう長くはありませんでした……。

 悟飯さんの強烈な攻撃に、セルはどんどん追い詰められていきました……。

 その焦りから、セルは自分を見失い、それが却ってセルを追い詰める事になりました……」

「おぉ…、すごいじゃないか……。 そんな凄いヤツを一方的にブチのめすなんて……」

 

 

 これまでセルの強さを散々聞かされたギネとバーダックは、そこまで一方的に戦いを進める悟飯に驚愕を露わにする。

 そんな2人を見て、トランクスはあの時の自分もきっとこんな感じだったんだろうなぁと思いながら笑みを浮かべる。

 

 

「悟飯さんに散々、追い詰められたセルは、ついに限界を迎える事になります。

 悟飯さんの度重なる攻撃に、完全体を維持する事が出来なくなったんです……。

 体内から18号を排出したセルは、第二形態にその姿を変えました……」

「やった! それじゃあ悟飯が勝ったんだね!!」

「ええ…。 確かに、悟飯さんは戦いに勝ちました……。

 しかし、ここから最悪の展開になるまでほんの数秒の出来事でした……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネは脳裏に先程水晶で見た息子の姿を思いだす……。

 そして、それがトランクスが言う最悪の展開だと瞬時に察する2人。

 

 

「第二形態に戻ったセルは、完全に勝ち目がなくなった事を悟り、さらに形態を変化させていきました……。

 風船の様に身体をどんどん膨らませ、その様子はまるで自身の中に内包されているエネルギーを限界まで溜め込んでいっている様だした……」

「なるほどな…。 勝ち目がなくなったセルは、自分を下したゴハンや地球もろとも自ら自爆するつもりなんだな……」

「はい…」

 

 

 結末を知るバーダックが、セルの形態変化の理由を言い当てる。

 それに、表情を暗くして頷くトランクス。

 

 

「バーダックさんが言われた通り、セルの形態変化は全てを巻き込み自爆する為でした……。

 しかし、自爆まで残り10秒を切った時に、悟空さんが穏やかな笑みでこちらを振り向きこう言ったんです……」

『やっぱ、どう考えてもこれしか…、地球が助かる道は思い浮かばなかった…。 バイバイみんな……』

「そう言って、悟空さんはセルの元へ瞬間移動して、悟飯さんに別れを告げ、再度瞬間移動でセル共々界王星へ移動したんです。

 そして…、セルの自爆に巻き込まれ、命を落としたんです……」

 

 

 トランクスが告げた言葉をバーダックとギネは無言で受け止める……。

 しばらくの時間、3人の間に静寂の時が流れる……。

 そして、その静寂を破ったのは悟空の母であるギネだった……。

 

 

「ねぇ、トランクス……。 カカロットは…あの子は……最後に…笑って…た…ん…だよね……?」

 

 

 言葉を紡ぐたびに、ギネの両目から涙が溢れ出す……。

 そんなギネに、トランクスは力強く頷く……。

 

 

「はい! 悟空さんは、バーダックさんとギネさんの息子さんは最後まで笑ってました……。

 きっと、息子である悟飯さんの成長が…、心の底から嬉しかったんだと思います!!」

 

 

 トランクスの言葉を聞いたギネの頭に、自分が水晶で見た映像がフラッシュバックする……。

 その映像では、確かに悟空は最期の最期まで笑っていた……。

 

 

「そうだね…。 うん…、笑ってた……。

 後悔なんて一欠片もないくらい、あの子は笑ってた……。

 あの子は、自分が大切なモノをちゃんと守り通したんだね……」

「ええ、悟飯さんやご家族だけでなく、オレ達や地球に住む全ての人間を悟空さんは守り通したんです……。

 今、オレがここでこうして居られるのも、あの時悟空さんが守ってくれたおかげなんです……。

 悟空さんには、本当に感謝しても仕切れません……」

 

 

 自分を見つめるトランクスの力強い瞳に、ギネは自然と笑みを浮かべる……。

 

 

「そっか…。 それは、あの子の母親として、とても誇らしいよ……!!

 ありがとう、トランクス。 あの子の事を話してくれて……」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべ、とても優しい口調でギネはトランクスに向け礼を述べる。

 そんなギネを、バーダックも優しげな笑みを浮かべ見つめて居た。

 しかし、すぐにいつもの仏頂面に表情を戻すと、口を開く……。

 

 

「ふぅ…、随分ヤベェ戦いだったみてぇだが、客観的に見ればカカロット1人の命だけで済んだってのは、本当に奇跡みてぇだな……」

 

 

 何気なくバーダックが呟いた言葉に、トランクスの表情が曇る……。

 それに、バーダックとギネは首を傾げる。

 

 

「どうかしたのかい? トランクス……」

「いえ…、実は…まだ…、セルゲームは終わっていないんです……」

「なっ、なんだとっ!?」

「どど…、どういう事だい!? トランクス……!! セルの野郎は、カカロットと一緒に自爆して死んだんだろ!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるバーダックとギネに、トランクスは首を左右に振って応える。

 

 

「実は…、セルはあの自爆で死んでいなかったんです……」

 

 

 トランクスが告げた衝撃的な内容にギネは、膝から崩れ落ちる……。

 

 

「う…うそ……。 じゃっ…じゃあ…、カカロットは…、あの子は無駄…死に…だったのかい……?」

「いいえ!それは違います!! 悟空さんの死は、決して無駄なんかじゃありません……!!」

「えっ……?」

 

 

 茫然とした表情で呟いたギネの言葉を、トランクスは全力で否定する。

 それを、茫然とした表情で見つめるギネ……。

 

 

「あの時…、悟空さんが命をかけてくれなければ、オレ達はあの時点で終わっていました……!!」

「だ、だけど…、セルのヤツは生きてたんだろ……?」

「ええ、確かにセルは生きていました……。

 あいつは、頭の核が破壊されない限り何度でも再生が可能なんです……。

 その核が自爆の時に、運良く無傷だった為、あいつは助かったんです……」

 

 

 トランクスの言葉に言葉を無くすバーダックとギネ……。

 

 

「しかも…、あいつは18号を吸収していないのに、何故か完全体として復活していたんです。

 それだけじゃありません。 あいつは、自身を構成するサイヤ人の細胞のお陰で大幅なパワーアップすら果たしていました。

 その戦闘力は、超サイヤ人の壁を超えた悟飯さんに勝るとも劣らない程でした……。

 更に…、セルは悟空さんの瞬間移動すら学習して戻ってきたんです……」

 

 

 トランクスが告げた絶望的な状況に、バーダックは苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべる……。

 

 

「そいつは…、更にセルを倒す難易度が、跳ね上がったって事じゃねぇか……」

「ええ…。 しかも、復活したセルはこれまでの様な油断は一切ありませんでした……。

 なので、すぐに片を付けるべく、全力のかめはめ波…気功波によって、地球諸共全てを消そうとしたんです……。

 ですが、それを阻むべく、セルの前に立ち塞がった人がいたんです……」

「それって……」

 

 

 ギネの言葉にトランクスは無言で頷く……。

 

 

「そうです…。 悟飯さんです……。

 ですが、悟飯さんはセルの攻撃から父さんを守る為に、左手を負傷してしまったらしいんです……。

 そんな状態では流石に、パワーアップを果たしたセルに勝てないと、悟飯さんは勝負を諦めたらしいんです」

「何やってやがんだ、王子もゴハンも……」

 

 

 大事な場面で大ポカをやらかした2人に、バーダックは顔を顰める……。

 

 

「そ、それで……」

 

 

 不安な表情を浮かべながら、ギネはトランクスに先を促す。

 

 

「勝負を諦めた悟飯さんを再び立ち直らせたのは、あの世に行った悟空さんだったそうです」

「カ…カカロットが!? 一体どうやって……?」

 

 

 トランクスの言葉に、ギネは驚きの声を上げる…。

 

 

「悟空さんがセルと瞬間移動した星は、界王星って星なのですが、その星は界王様が住んでおられる星だったんです。

 界王様は、この宇宙で上から数えて4番目に偉い神様なのです」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックとギネはギョッとした表情を浮かべる……。

 

 

「ちょ…、ちょっと待てトランクス……。 そんな偉い神をカカロットのヤツはもしかして……」

「ええ…。 セルの自爆に巻き込んでしまったんです……」

「ええっーーーーー!!! ちょ、ちょっと、それ…、あの子大丈夫なの? 死んだ後メチャクチャ怒られるんじゃないの?」

「いや…、怒られる程度じゃすまねぇだろ……。 普通に重罪だろ……」

「ど…どうしよう、バーダック! カカロットのヤツ、地球を救ったのに地獄に来ちゃうのかな……?」

「地獄に落とされるだけで、済めばいいがな……」

 

 

 悟飯とセルの戦いの結末も気になる2人だったが、それ以上に息子である悟空がやらかしたとんでも無い事に戦々恐々する2人。

 しかし、そんな2人に救いの手を差し伸べるのは、この男だった……。

 

 

「それについては、心配いりません。

 悟空さんは界王様の弟子なので、巻き込んだ事は怒られた様ですが…、大したお咎めは受けていませんので、安心してください……」

「「ほっ…」」

 

 

 トランクスが述べた言葉に安堵の表情を浮かべる、夫婦2人。

 そんな2人の様子に笑みを浮かべたトランクスは、再び語り出す……。

 

 

「えっと、話を続けますね……。

 悟空さんは界王様のお力をお借りして、あの世から下界にいる悟飯さんに声をかける事で、悟飯さんを再び立ち直らせたんです……。

 そして、ついに悟飯さんとセルの最後の戦いが幕を開けました。

 勝負は簡単…、互いの全力の気功波を打ち合って、それに打ち勝った者が勝者となるものでした……」

 

 

 トランクスの言葉を真剣な表情で聞くバーダックとギネ……。

 

 

「途轍もない力が込められた2つのエネルギーの塊は、地球の地面を破壊しながらも拮抗していたらしいです。

 ですが、パワーアップしたセルの力は凄まじくセルの気功波が徐々に悟飯さんの気功波を押し返し、ついに悟飯さんの目の前までセルの気功波に押し込まれた。

 最早、これまでかと誰もが思った時に、セルの元へ1発の気弾が打ち込まれた様なんです……。

 セルが気弾の出所に眼を向けると、そこにはボロボロの父さんの姿があったそうです…」

「おぉ…!! 今度は王子がゴハンを助けたんだね!!」

 

 

 興奮した様に声を上げるギネに、頷き言葉を続けるトランクス。

 

 

「そうです……。

 そして、それがセルにとって命取りとなりました……。

 セルが父さんに気を取られた瞬間、悟飯さんは最後の力を爆発させました……。

 力を爆発させた悟飯さんの気功波は、一瞬でセルの気功波を押し返しセルごと呑み込んだらしいです……。

 そして、完全にセルを消滅させる事に成功したんです……」

 

 

 ふぅ…と、一息吐くトランクス。

 

 

「こうして、悟空さんや悟飯さんおかげで地球に…、いえ宇宙に平和が訪れました……。

 これが…、セルゲームの全てです……」

 

 

 とてつもなく長く、密度の濃い話を聴き終えたバーダックとギネは、息子と孫に思いを馳せる……。

 死者として数十年過ごしたバーダックとギネは、姿に変化が無い事もあり、どうも時間の感覚に疎いところがあった。

 しかし、こうやって自分達が残したものが、成長し繋がっていった事を改めて聞くと、随分時が経ったものだとしみじみ感じる……。

 

 

「ねぇ、バーダック……」

「なんだ…?」

「あんたが、カカロットを地球に送った時、私ものすごく反対しただろ……?」

「ああ…」

「でもさ…、今は…、あの子を地球に送って、本当に良かったって心の底からそう思うよ……」

「そうか…」

「うん!」

 

 

 バーダックとギネの2人は、穏やかな笑みを浮かべる……。

 

 

(ねぇ、カカロット…。 あんたの息子は本当に大したヤツだね……。

 あんなとんでも無い化け物を倒しちゃうなんてさ……。

 きっと、あんたもトランクスが言った通り、息子の成長が見れて嬉しかったんだろうね……。

 あんたが死んだのは残念だけど、あんたは後悔なんてしてないんだろうね……。

 あんたも、あの世に来たって事は、いつかあんたに会える日が来るのかな……?

 まぁ、あんたは天国に行くだろうから、そう簡単に会えないだろうけど…、いつか…会えるといいな……。

 

 でも、今はまぁ…、お疲れ様…、カカロット……)




次で、零話は完全に終わります。
今週中には投稿できると思いますのでお楽しみに!


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セル編-Ep.05

みなさんこんばんは。
ようやく零話が終わりを迎えましたー。
本当に長かった、今回の話も楽しんでもらえると嬉しいです。


 トランクスからセルゲームの全容を聞かされたバーダックとギネ。

 水晶で悟空の死の瞬間を見た事で、感傷に浸っていた2人だったが、トランクスから悟空や悟飯がどういう想いで戦い、そして、どういう経緯で悟空が死ぬ事になったのかを知った2人は幾分か、気持ちを立て直す事が出来たのだった。

 

 

「礼を言うぜ、トランクス…。 カカロット達の事を話してくれてな……」

 

 

 バーダックは、長い時間をかけて自分達に話をしてくれた師匠に向けて礼を述べる。

 

 

「いえ、最後ら辺はオレも他の人から聞いた事を話しただけですので、あまり詳しくお話し出来なくて申し訳ないです……」

 

 

 トランクスの言葉に引っ掛かりを覚えたギネは、首を傾げる。

 

 

「ん? どういう事だい…? あんたもセルゲームってヤツに参加してたんだろ……?」

「あー…実はオレ……、セルが復活して界王星から地球へ戻って来たと同時に、あいつに殺されたんです……。

 なので、悟飯さんがセルを倒したところを、実は見てないんです……」

「「ーーーっ!?」」

 

 

 ギネからの質問に、苦笑いを浮かべながら口を開くトランクス。

 その衝撃的な内容に驚愕の表情を浮かべる2人。

 そして、戸惑いながらギネが口を開く。

 

 

「えっ、で、でも…、あんた今、生きてる…よね……?」

「ええ。 セルとの戦いの後、ドラゴンボールで生き返らせてもらったんです……」

「あっ、それ知ってるよ!! 確か、なんでも願いが叶うって言うヤツだろ……?

 ナメック星での戦いで、カカロットとフリーザが話してたヤツだ!!」

 

 

 ギネの言葉に頷き正解の意を示すトランクス。

 それに、満面の笑みを浮かべるギネ。

 

 

「よかったね、トランクス! 生き返れて……!!」

「ええ、本当によかったです…。 当時のオレはまだ、未来でやるべき事がありましたので……」

 

 

 当時の事を思い出したのか、どこかホッとした様な表情を浮かべるトランクス。

 そんなトランクスに、バーダックが声をかける。

 

 

「そういや、お前はその為に、未来からやって来てたんだったな……、ん……?」

「どうしたんだい? バーダック……」

 

 

 喋っていたバーダックが突然、何かに気が付いた様な反応をする。

 それに、首を傾げながら問いかけるギネ。

 すると、バーダックが再び口を開く……。

 

 

「いや、トランクスが生き返ってんなら…、カカロットのヤツも生き返ったんじゃねぇか…? って、思ってよ……」

「ああっ!!!!!」

 

 

 ふと呟く様にバーダックが述べた言葉に、ギネがそうだ!!って表情を浮かべ叫び声を上げる。

 そして、期待の籠った眼差しをトランクスに向ける。

 しかし、その期待が叶う事はなかった……。

 

 トランクスは静かに首を左右に振り、口を開く。

 

 

「残念ですが、地球のドラゴンボールは過去に一度生き返った事がある人間を生き返らせる事は出来ないんです……。

 悟空さんは過去に地球へやってきたサイヤ人を倒す為に、一度命を落としているんです……。 なので……」

「そういや、ラディッツのバカが地球に行った時に、あいつも一緒に死んだんだったか……。

 だから…、生き返らせる事が出来ないって訳だな……」

「ほんと、困った子たちだよ…。 うちの息子共は……」

 

 

 トランクスの言葉にバーダックとギネは何とも言えない雰囲気で口を開く。

 

 

「オレ達もなんとか悟空さんを生き返らせようとしたのですが、悟空さん本人に止められたんです……」

「えっ…? ど、どうして……?」

 

 

 悟空がせっかく生き返る機会を棒に振った事に、戸惑いの声を上げるギネ……。

 すると、トランクスはギネ達から視線を外すと、当時を振り返る様な表情を浮かべる。

 しかし、すぐにギネ達に視線を戻し、再び語り出す。

 

 

「オレ達がなんとか悟空さんを生き返らせようとしていると、あの世から悟空さんがオレ達に語りかけて来たんです……。

 そして、自分が生きていると、悪いヤツを引きつけてしまう様だから、自分が生き返らない方が地球は平和になると言って、生き返る事を拒まれたんです。

 ただ、誤解しないでほしいのですが、悟空さんは決して犠牲になろうと思った訳では無いという事です……」

 

 

 トランクスは、念を押す様にバーダックとギネに語りかける。

 

 

「悟空さんは生前に地球を救ったりしていた為、特別にあの世でも肉体が与えられるそうなんです。

 そして、あの世には過去の達人が沢山いらっしゃるので、あの世の生活も楽しそうだと笑っていました。

 それに、界王様も本来ならオレと同じタイミングで生き返る事が出来たのですが、悟空さんに付き合ってくださるとの事で、1人ではないとも言ってました……。

 正直…、あまりに悟空さんの様子がいつもと変わらず明るかったので、悟空さんが死んだというのにあんまり悲しくはなかったですね……」

「はぁ…、まったくあの子は……」

 

 

 トランクスが告げた内容に、バーダックとギネは息子の呑気っぷりに呆れて、ため息をはく。

 しかし、息子が自分の死をそれほど重く受け取っていない事を知れたからか、ギネの表情に笑みが戻っていた……。

 

 

「それで……?」

「えっ?」

 

 

 急にバーダックから声を掛けられ、トランクスは不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「えっ?じゃねぇよ…。 セルとの戦いは終わったんだ……。

 一応お前が未来からやって来た目的は果たしたんだろ……?

 お前はそれからどうしたんだよ……?」

「ああ…、その事ですか……。

 セルを倒した次の日に、オレは父さんや母さん、そして悟飯さん達に見送られながら未来に帰りました。

 そして、帰って直ぐに人造人間が暴れているという情報を掴んだので、そのまま人造人間の破壊に向かいました。

 過去で人造人間を停止させる装置の存在も知りましたが、その時のオレは既に人造人間を超える戦闘力を身につけていたので、特に問題なく2体の人造人間を破壊する事に成功しました」

「そっ、それじゃあ……!!」

「ええ…。 ようやく…、オレのいた未来の世界に平和が訪れました……」

 

 

 人造人間を破壊したって言葉を聞いたギネが喜びの表情を浮かべると、トランクスはしみじみと噛みしめる様に世界が平和になった事を告げた。

 しかし、その時のバーダックとギネは気付いていなかった……。

 トランクスのその言葉に、とてつもない回顧の念が込められているという事を……。

 

 何故なら、トランクスが苦労して手にした平和な世界はとある存在によって、再び戦火に塗れ、今はその存在すら消滅してしまったのだから……。

 だが、今の彼等はトランクスがそんな重い過去を背負っていることなど知りようがない。

 彼等がその事を知るのは、これから先の未来なのだから……。

 

 だから、バーダックとギネは純粋にトランクスの長年の悲願が叶った事を喜んだ。

 

 

「やったじゃないか…! トランクス!! 本当にあんたは大したヤツだよ……!! ねぇ、バーダック!!!」

「ああ…、大したモンだ……」

 

 

 2人から伝えられる純粋な祝福に、トランクスは照れた様な表情を浮かべる……。

 目の前にいる2人が師匠である悟飯や、その父悟空の面影を持つ者だったからか、トランクスは2人を通して悟飯と悟空の姿を垣間見た気がした……。

 そんな事を考えていると、自然とトランクスの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「ありがとうございます。 バーダックさん、ギネさん」

 

 

 こうして、今度こそバーダックとギネが知りたかった全ての話が、終わりを迎えたのだった……。

 

 

 

「そういや、トランクス…。 今更だが、お前オレ達にカカロットの話をする為に、わざわざ通信してきたのか……?」

「確かに、それもあるのですが…、実はもう1つ重要な話があり連絡させてもらいました……」

「重要な話…?」

 

 

 トランクスが言う重要な話というのが、タイムパトロールの仕事に関する事と予想したバーダックは視線をギネに向ける。

 すると、ギネもバーダックの意図を察したのか頷く。

 

 

「どうやら、あたしが聞いたらマズイ話っぽいから、あたしは暫く離れてるよ……」

「あっ! ギネさん、待ってください!」

 

 

 ギネが気を利かせて2人から距離を置こうと、背を向ける。

 しかし、その行動にトランクスが待ったをかける。

 それに、驚いたような表情を浮かべ、振り返るギネ。

 

 

「確かに、本来ならギネさんに聞かれるとマズイのですが、黙って貰えれば大した問題にはならないと思いますので、ここにいてもらって大丈夫です。

 今からお話しする内容は、ギネさんにとっても無関係ではありませんので……」

「ギネにも無関係じゃねぇ…だと……?」

「どういう事だい……?」

 

 

 トランクスから飛び出した言葉に、疑問の表情を浮かべるバーダックとギネ。

 そんな2人を尻目に、トランクス喋り始める……。

 

 

「これから、お話しする事は時が来るまで、お2人の胸の中に留めておいてください……」

 

 

 トランクスの言葉に、2人は無言で頷き了解の意を示す。

 それを確認したトランクスは、再び口を開く。

 

 

「実は、バーダックさんにご協力していただきたいことがあるんです……」

「協力? 仕事じゃなくてか……?」

「はい…。 正直に言えばこれはバーダックさんじゃなくても役目は全う出来るのですが、オレはバーダックさんが適任だと思ったんです」

「随分回りくどい言い方するじゃねぇか…。 さっさと要件を話しな」

 

 

 中々本題を話さないトランクスに苛立った態度を見せるバーダック。

 そんなバーダックに苦笑いを浮かべるトランクス。

 

 

「そうですね…。 バーダックさんに協力して欲しい事というのは…、ある人と戦って欲しいのです……」

「なにっ!?」

 

 

 トランクスの突然の申し出に、驚いた表情を浮かべるバーダック。

 そして、バーダックの横で話を聞いていたギネが気になった事をトランクスに問いかける。

 

 

「ところで、何者なんだい…? バーダックに戦ってほしい相手って……」

「強えのか…? そいつは……」

 

 

 ギネの言葉に、バーダックの表情が引き締まりトランクに問いかける。

 すると、トランクスは力強く頷く。

 

 

「強いです…。 少なくとも今のバーダックさんよりも確実に……」

「ほぉ……」

 

 

 トランクスの言葉に、バーダックは不敵な笑みを浮かべる……。

 その表情は何処か楽しそうだ……。

 しかし、隣にいるギネは、反対に不安げな表情を浮かべる……。

 

 

「バーダックより強いヤツに、バーダックと戦って欲しいって……」

「ああ、心配しないで下さい。 命に危険が及ぶ事は絶対にありません……」

 

 

 不安気に呟くギネに、トランクスは安心させる様に口を開く。

 その言葉を聞いたギネはほっとした表情を浮かべる。

 

 

「ほ、本当かい……?」

「ええ。 あの人は、戦う事が大好きですが、不必要に人を殺したりする様な事は絶対にしません」

「その口振りだと、お前はそいつと面識があんのか……?」

「ええ、あります…。 とても、お世話になった方です……」

 

 

 バーダックの質問に、トランクスは懐かしそうな笑みを浮かべる。

 そして、2人に衝撃的な事を口にする。

 

 

「というか、その人はお2人も良く知っている人ですよ……」

「えっ!? 誰なんだい? バーダックに戦ってほしい相手って……」

 

 

 トランクスの言葉でギネは驚きの表情を浮かべる。

 バーダックも声にこそ出さないが、興味を惹かれているようだった。

 そして、ついにトランクスの口からバーダックの対戦相手の名前が告げられる。

 

 

「バーダックさんに戦ってほしい相手の名前は、孫悟空さん…つまり、お2人の息子さんです……」

「ーーーっ!!」

 

 

 トランクスから告げられた名前に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 

 

「カ、カカロット…だって……? ど、どうしてあの子と……」

 

 

 驚きのあまりしばらく固まっていたギネだったが、ようやく頭が回り出したのか戸惑った声を上げる。

 しかし、そんな彼女の横から曇った笑い声が聞こえて来た……。

 

 

「くっ…くくく……」

 

 

 ギネが声の出所に視線を向けると、そこには彼女にとって、とても珍しい光景が広がっていた。

 なんと、あの普段滅多に笑わないバーダックが笑い声を上げているのだ……。

 残念ながら、表情は俯いているのでよく分からないが、恐らく口元には笑みが浮かんでいるのだろう……。

 

 長年連れ添っているギネでも、声を上げて笑うバーダックの姿なんて、滅多に見る事はなかった……。

 あまりの珍しさに驚いたギネは、戸惑いながらもバーダックに声をかける……。

 

 

「バ…バーダック……?」

 

 

 ギネが声をかけたほぼ同じタイミングで、俯いていたバーダックが顔を上げる。

 その顔には、とても好戦的な笑みが浮かんでいた……。

 

 

「へっ…、なるほどな……。 確かに、こいつはお前が言う通りオレが適任だな…、トランクス……」

 

 

 戦意に溢れたギラギラした眼をトランクスに向けるバーダック。

 そして、そんなバーダックの様子にトランクスも力強い笑みを浮かべる……。

 そんな2人の様子に、気圧されながらもギネはどうしても気になった事をトランクスに尋ねる。

 

 

「ねぇ…、トランクス……。 どうしてバーダックとカカロットをわざわざ戦わせるんだい……?」

「別に理由なんて何だっていいだろ……」

「あんたは、それでいいだろうさ…。 でも、トランクスには何か明確な目的があるんじゃ無いのかい……?」

 

 

 ギネの言葉にバーダックが、そんなモンはどうだって良いという表情を浮かべるが、ギネはどうしてもその理由が知りたかった……。

 何故なら、いつかカカロットがあの世に来たら、バーダックはどうにかしてでも、戦う機会を得ようとする事は予想がついていたからだ……。

 つまり、わざわざこんな機会を用意しなくても2人の戦いはいずれ起こったという事だ。

 

 しかし、トランクスはその機会をわざわざ用意するという…、これにはきっと何か理由があるのだとギネは考えたのだ。

 そして、そのギネの考えは正しかった……。

 

 

「ええ…。 ギネさんの言う通りです……。

 オレが悟空さんと戦ってほしいと言ったのには、理由があります……。

 その理由をお話しする前に、改めて約束してください…。 今からオレが話す内容は絶対に他の人に漏らさないと……。

 もし、破った場合、お2人の安全が保証できなくなります……」

 

 

 真剣な表情で2人を見つめるトランクス。

 そして、その雰囲気に2人はトランクスの言葉に嘘がない事を理解する。

 

 

「分かった…。 他人には話ゃしねぇよ……」

「あたしも……」

 

 

 2人から言質が取れたので、再びトランクスは口を開く。

 

 

「実は…、正確な時期は言えないのですが、悟空さんは今から10年以内に再び生き返ることになります……」

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 

 早速飛び出した爆弾発言に、バーダックとギネは驚きの表情を浮かべる。

 そんな2人を尻目に、トランクスは話を続ける……。

 

 

「今から10年以内に、この宇宙の命運を大きく左右する戦いが起きます……。

 そして、その戦いの起点となった場所が地球なのです……。

 その戦いで悟空さんはとある方から命を頂き、復活するのです……」

「ほ、本当…に……?」

 

 

 トランクスの話を聞いたギネは、両手を口に当て驚いた様な表情を浮かべながら問いかける。

 それに力強く頷く事で、肯定の意を示すトランクス。

 それを見たギネの両目から、自然と涙が流れ出した……。

 

 しかし、今度の涙は先程流した悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった……。

 そんなギネを優しそうな笑みを浮かべながら、バーダックが背中をポンと叩く……。

 そこに込められた意図を察したギネは、両手で覆った顔を何度も縦に振る……。

 

 そんなギネを見ながらも、ふと気になった事をバーダックは口にする……。

 

 

「まぁ…、あいつが生き返る事は別にいいとして、わざわざあいつを生き返らせねぇといけねぇなんて現世の奴等は何やってやがったんだ……?」

 

 

 そのバーダックの疑問に答えたのは、トランクスだった。

 

 

「今度の敵は、セル以上に強く、そして厄介な能力を持っているのです……。

 今回の戦いで生き残った、悟飯さんや父さん、そして他の仲間達も必死に戦ったのですが、その能力によってほぼ全滅状態に追い込まれ……」

「止むに止まれず、あいつを生き返らせるって事になるんだな……」

 

 

 バーダックの言葉に頷くトランクス。

 

 

「それで…? どうしてオレとカカロットを戦わせる必要がある……?」

「悟空さんは、その戦いでとても重要な立ち位置に立つ事になります……。

 その為には、どうしても力が必要になります……。

 セルを倒した超サイヤ人の壁を超えた悟飯さん以上の力が……」

「超サイヤ人の壁を超えた超サイヤ人をも超えた力か……」

 

 

 トランクスから語られた内容を、真剣な表情で反芻させるバーダック。

 そんなバーダックを尻目にトランクスは言葉を続ける。

 

 

「悟空さんは、悟飯さんの超サイヤ人の壁を超えた…、これいい加減言いづらいので、便宜上超サイヤ人2と呼ぶ事にします……。

 とにかく…、悟空さんは超サイヤ人2の姿をその眼で見ています……。

 まず、悟空さんがあの世に来てから修行の目標とするのは、間違いなくその領域になると思います。

 そして、今の悟空さんの戦闘力を考えると、遅くとも3年以内には超サイヤ人の壁を超えるでしょう……」

「たった3年でかっ……!?」

 

 

 トランクスの言葉に驚愕の反応を示すバーダック。

 超サイヤ人になったばかりのバーダックからしてみれば、3年かけてようやく超サイヤ人になれたのだ。

 それなのに息子はたった3年でその壁を越えると言われれば驚きたくもなる。

 

 だが、トランクスはバーダックの言葉にゆっくりと首を左右に振る。

 

 

「違いますよ、バーダックさん。 長くて、3年なんです……。

 オレの見立てではさらに早い段階で、悟空さんは壁を越える様な気がします……。

 なんと言っても、悟空さんですから……」

 

 

 しみじみと語るトランクスに、息子のデタラメさの一端を感じざるを得ないバーダックとギネ……。

 

 

「でもさ…、実際今のバーダックとカカロットってどれくらい実力差があるんだい……?

 カカロットって超サイヤ人だよ…? バーダックに勝ち目なんてあんの……?」

 

 

 このギネの言葉に、バーダックの表情がムッとなるが…、ギネはバーダックを貶した訳じゃなく、純粋に疑問に思ったので言葉にしたのだ。

 そして、それに返事をしたのは当のバーダックではなく、トランクスだった。 しかも、正直に……。

 

 

「今のバーダックさんだったら、まず勝ち目はありませんね……。

 バーダックさんは、ようやく超サイヤ人の第1段階になったばかりですから……。

 対して悟空さんは、超サイヤ人の第4段階ですからね…。 しかも、限りなく超サイヤ人2に近い状態ですし……。

 同じ超サイヤ人でも、戦闘力に開きがありすぎます……」

 

 

 自分の実力をよく知るトランクスの自分と息子の戦力分析を聞き、その差に顔を顰めるバーダック……。

 するとギネの声が話に割り込んできた。

 

 

「あの〜、ちょっと確認したいんだけど…、今バーダックが超サイヤ人になれる…って、言わなかった……?」

 

 

 2人がギネに視線を向けると、眼をまん丸とした様な表情のギネがそこにいた……。

 

 

「ええ…、そう言いましたけど……?」

「ああ…、やっぱり…私の聞き間違いじゃなかったんだ……。

 へぇ〜、そ〜、ふ〜ん……、って、ええええええーーーーーっ!!!!!」

 

 

 いきなり叫び声を上げたギネ。

 そのあまりの声の大きさに、トランクスとバーダックは咄嗟に耳を抑える……。

 すると、いつの間にかバーダックの前に移動していたギネが、バーダックの両肩にガシッ!と手を置き、そのまま強く揺さぶる……。

 

 

「ど、ど、どう言う事だいバーダック!!! あんた、いつの間に超サイヤ人なんかになってんのさーーーーーっ!!!

 あ、あんた分かってんの? 超サイヤ人だよ? 伝説だよ? 1000年に1人なんだよーーーーーーっ!!?」

「ちょ、お、おち、落ち着け…ギネ……」

 

 

 ぐらんぐらん揺さぶられながらも、なんとか言葉を発するバーダックだったが、聞こえていないのかギネの揺さぶる力がどんどん強くなる。

 

 

「ちっ…、ふんっ!!」

 

 

 このままでは、さすがにマズイと判断したバーダックは、舌打ちと同時に気を解放する。

 すると、バーダックの全身を黄金色の光が包み込む……。

 次の瞬間、バーダックの髪は黒から黄金色へ、瞳はエメラルドの様な碧眼へとその姿を変える。

 

 そして、ギネの両腕を掴む……。

 すると、これまで暴れまわっていたギネの両腕が嘘の様に固定される……。

 未だ混乱してるギネは、腕が固定されたことに気づいていないのか、ぎゃあぎゃあ言いながら固定された腕を振ろうとしている。

 

 

「落ち着け! ギネ!!」

 

 

 バーダックに一喝され、ギネの身体がビクッと震える……。

 そして、焦点が定まっていない様な眼でバーダックをじっと見る……。

 すると、最初はぼーっと見ているだけだったが、次の瞬間、両目を大きく開き驚きの声を上げる……。

 

 

「カ、カカロットッ……!?」

「あん…? 何言ってやがんだてめぇは…、いつまでも寝ぼけてんじゃねぇ!!」

「えっ!? あ、あんたバーダック…かい……?」

「はぁ…、ようやく正気に戻りやがったか……」

 

 

 ギネが正気に戻った事を確認したバーダックは、超サイヤ人を解除しいつもの姿に戻る。

 その様子を見ていたギネは、未だ信じられない様な様子で口を開く。

 

 

「あんた、本当に超サイヤ人へ変身できる様になったんだね……」

「まぁ、トランクスと3年修行したお陰でな……」

 

 

 ようやく事態が落ち着いたのを見計らって、トランクスが口を開く。

 

 

「あの〜、大丈夫ですか…? ギネさん……」 

「あ、うん、大丈夫…。 ごめんね、話の腰を折っちゃって……」

「はぁ…、こいつは昔からテンパるとこうなるんだ……」

 

 

 ギネが苦笑いを浮かべる横で、疲れた様な表情を浮かべるバーダック。

 そんな2人にトランクスは苦笑いを浮かべる。

 

 

「そう言えば、トランクス。 お前さっき超サイヤ人の第1段階とか第4段階とか言ってやがったが…、あれはどういう意味なんだ……?」

「ああ…、あれですか……」

 

 

 バーダックの質問に、納得の表情を浮かべるトランクス……。

 

 

「先程、セルとの戦いについて話した時に、超サイヤ人を超えた話をしましたよね……?」

「ああ…。 確か1日で1年分の修行が出来る部屋ってトコで修行してたよな……?」

「そうです…。 超サイヤ人は超サイヤ人2になるまでに全部で4つの段階が存在します。

 第1段階は、現在のバーダックさんがなっている状態…、つまり超サイヤ人に覚醒したばかりの状態の事を指します。

 第2段階は、一回り身体付きが大きくなり、パワー、スピードが増した状態になります。

 第3段階は、第2段階よりも更に身体が大きくなり、スピードが失われる代わりに、とてつもなくパワーが強化された状態になります。

 そして、第4段階は見た目は第1段階と変わらないのですが、スピード、パワー全てがアップした状態になります」

「なるほどな……。 ちなみに、そいつはわざわざ1つずつ段階を踏まないといけねぇのか……?」

「いえ、バーダックさんにはいきなり第4段階を目指してもらいます……。

 修行方法は、昔悟空さんからお聞きしていますので、それを実践してもらえれば、バーダックさんなら問題ないと思います」

 

 

 トランクスから伝えられる、超サイヤ人についての情報を真剣な表情で聞いているバーダック。

 念願の悟空と対決出来るのはいいが、まだ自分の実力が劣っている事を誰よりも実感していたのは彼なのだ。

 少しでも早く息子に追いつきたいバーダックは、強くなる為に貪欲になっていた……。

 

 そんなバーダックの姿を見たギネは、少し驚いたがその何処か楽しそうな表情を見て優しげな笑みを浮かべる。

 そして、そう遠くない未来で、目の前にいるこの男は息子にも負けない強力な戦士として、立ちはだかるのだろうと予想する……。

 何故なら、このバーダックという男は、やると決めた事は大抵やり遂げる男だという事を、ギネは誰よりも良く知っているから。

 

 

「とりあえず、バーダックさんには悟空さんと戦うまでに、超サイヤ人を超えた超サイヤ人…超サイヤ人2に覚醒してもらいます。

 その為には、これまで以上に厳しい修行になりますが、ついてこれますか……?」

 

 

 何処か挑発が含んだトランクスの問いに、バーダックの表情に不敵の笑みが浮かぶ……。

 

 

「へっ、誰にモノ言ってやがんだ!

 上等だぜ、トランクス!! カカロットだけじゃなく、ついでにお前も超えてやるよ!!!」

 

 

 念願の悟空との戦いが決まり、目標が定まったバーダックがその熱いを込め啖呵を切る。

 そんなバーダックを見ながら、ギネは息子に思いを馳せる……。

 

 

(ふふ…、覚悟してなよ…カカロット……。 あんたの親父は、きっと、あんたの度肝を抜くよ……)

 




ようやく、次から悟空視点で物語が書けるぞー。
感想お待ちしております。


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あの世一武道会編-Ep.01

とうとう悟空があの世にやって来ました!
楽しんでくれたら、嬉しいです。


■Side:悟空

 

 

 オス!オラ悟空!!

 セルとの戦いで死んだオラは、今界王様と一緒に閻魔界から出ているオンボロの飛行機に乗っていた。

 

 

「なぁ、界王様〜。 まだ着かねぇんか? 大界王星ってトコに……。

 オラ早く、あの世の達人たちと会って、戦ってみてぇぞ。 きっと、スゲェヤツ等ばかりいんだろうなぁ〜」

「もうちょっと、時間がかかるのぅ。 大界王星は天国のずっと上にあるからなぁ、行くのは時間がかかるんじゃ」

「へぇー、そうなんかぁ」

 

 

 オラ達は今、あの世の達人に会う為、大界王星ってトコに向かっている。

 大界王星には、閻魔界から出ている飛行機でしか行くことが出来ねぇらしく、2人揃って飛行機に揺られている。

 舞空術で行けたら楽なんだけど、行けねぇもんはしょうがねぇもんな……。

 

 暇になったオラは、隣に座っている界王様に目を向ける。

 正確に言えば、界王様の頭に浮かんでいる輪っかにだ。

 今更考えると、セルとの自爆に巻き込んだってのに、オラに付き合って一緒に死人になってくれるなんて、本当に良かったんかな?

 

 ふと気になった、オラは聞いてみることにした。

 

 

「なぁ、界王様…。 オラが言うのもなんなんだけど…、本当に良かったのか……? 生き返らなくて……」

「いやほんと、お前が言う事じゃないなぁ……。

 まぁ、ワシからしたら生きているのも、死んでいるのも大して変わらんからどっちでもいいがな……。

 強いて言えば、在り方が変わったくらいだな……」

「ふーん、よく分かんねぇけど…、界王様が良いってんならそれでいいや!」

 

 

 界王様の返事を聞いて、オラが安心した様に答えると、オラの返事を聞いた界王様の顔がムッとした表情をする。

 

 

「これ、悟空! お前はもうちょっと反省せんか! ワシは界王なんだぞ!!」

「悪かったって! 何度も謝ってんじゃねぇか。 界王様もしつけぇなぁ……」

「しつこいとはなんじゃぁーーーっ!!」

 

 

 オラ達がそうやってぎゃあぎゃあやってると、オラの視界の端にキラキラ光るモノが目に入ってきた。

 

 

「ん? んん…へっ、あれが天国か!? デッケェんだなぁーーーっ!!!」

 

 

 飛行機の窓から外を見ると、オラの視界いっぱいにデッケェ星が飛び込んできた。

 そのデカさは、前に宇宙からみた地球より、遥かにデカく感じる。

 オラが天国のデカさに驚いていると、隣から界王様の声が聞こえてきた。

 

 

「そろそろ着くぞ! 悟空」

「えっ、どこどこ…どこ?」

「ほれほれ、あそこだ!」

「えっ? どこ?」

 

 

 界王様に言われて視線を動かしてみるが、オラにはやっぱり天国しか見えねぇ。

 すると、界王様がオラが眼を向けていた場所よりずっと上の方を指差す。

 

 

「あれが、大界王星だ!」

「へぇーっ! なんだ…思ったよりちっちぇ星だな!!」

「あっ、こら! なんてこと!!」

 

 

 さっきの天国の印象が強すぎて、思わず本音を言ったら横から怒った界王様の声が聞こえてきた。

 

 

「わりぃわりぃ、界王様の星よりずっとデッケェや!」

 

 

 オラが謝ると、界王様は唸りながらむぅとした表情を浮かべる。

 

 

「それも十分失礼じゃ!!」

 

 

 

 悟空と界王がそんなやりとりをやっている間に、大界王星についた悟空達。

 2人で大界王星を歩いていると、いろいろな所から活発な声が聞こえてきた。

 悟空が視線を動かしてみれば、組手をしてる者達や、型の修行、筋トレ、瞑想…等、様々な修行をしている者達で溢れかえっていた。

 

 

「すんげぇや! 流石に強そうな連中ばっかだなぁ!!」

「界王様!」

 

 

 悟空が大界王星で修行している者達に驚嘆の声を上げると、どこからか界王を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「おぉー! 頑張っとるなぁ!!」

「お久しぶりです……」

「ご無沙汰しています……」

 

 

 呼ばれた界王が声の主達に視線を向けると、嬉しそうな表情を浮かべる。

 そんな界王に修業していた2人の男が頭を下げる。

 彼等の頑張っている姿が見れて、嬉しかったのか界王も笑顔で労う。

 

 

「へー、界王様ってあの世じゃ結構有名人なんだなぁ……?」

「ヤツ等は、北の銀河出身だからなぁ」

「へっ? じゃあ、オラと一緒か?」

 

 

 どうやら、界王に声を掛けてきた2人は悟空の先輩にあたる様だ。

 悟空がそんな事を考えていると、界王様から驚きの言葉が飛び出る。

 

 

「まぁ、お前よりざっと2300年ほど先輩といったところじゃ!」

「へー…2300年……、ええっ…!!? 2300年!!? そんな長い事、修行してんのかっ!?」

 

 

 悟空があの世の達人達に驚愕していると、そんな悟空をほっといて界王はどんどん1人で歩いていく。

 それからもしばらく歩いていると、悟空達の前に白くてデカイ建物が見えてきた。

 

 

「ここが、大界王様の住んでおられる、大界王殿だ」

「へーっ! いよいよ会えんだなぁ! あの世で1番強え大界王に……」

「大界王様と言え! 様と! あんまり失礼をすると後で痛い目を見るぞ!!!」

 

 

 界王のあまりに剣幕に、驚いた悟空は大界王がどんなヤツなのか改めて気になった……。

 

 

「そんなに強えのか? 大界王…「様!」…様って……」

 

 

 悟空の質問に、今まで怒った表情だった界王が真剣な表情を浮かべる。

 その顔には、冷や汗が流れていて、ちょっとヤバそうな雰囲気だった……。

 

 

「実を言うとワシでさえ、まだ大界王様が戦っておられる所を見たことがないんじゃ……」

「ふーん」

「だがな! その強さは言葉では決して伝える事が出来ない程素晴らしく、また恐ろしいモノだと言い伝えられておる……」

「へぇーーーっ!!!」

 

 

 悟空が大界王の強さに驚嘆の声を上げていると、「ん?」と隣の界王から何かに気が付いた様な声がしたので、悟空が界王に眼を向ける。

 

 

「あああっーーーっ!!! いやいや、これはね、ワシが欲しかった車だ!!! いいな!いいな!大界王様いいなぁーーーっ!!!

 ワシも欲しいなぁーっ、コレ!! おぉ、このお尻がこりゃまたセクシィーっ!! きゃぁー、最高最高!!」

 

 

 悟空が眼を向けた時には、すでに大界王殿の前に止まっていた車の前に移動していた界王は、子供みたいに車の周りをウロチョロして変な声を上げていた。

 

 

(そういや、界王星にも似た様な車があったけなぁ……)

 

 

 そんな事を内心で考えている悟空。

 しかし、このまま放っておくといつまで経っても終わりそうにないので、声を掛ける事にした。

 

 

「界王様、早く行こうぜ!!」

「あーーーっ!!! お前は!!!」

 

 

 悟空が界王に声をかけると、悟空の後ろから大きな声が聞こえてきた。 

 

 

「ん?」

 

 

 悟空が振り返ると、そこには凄く驚いた顔した背の低い界王と同じ様な格好をした者と、ピッコロみたいな緑色の肌をした背の高い者が立っていた。

 誰だろう…?と悟空が考えていると、今度は振り返った悟空の後ろから先程の声に負けない大きな声が聞こえてきた。

 

 

「んーっ……なっなんじゃあ? って、西の界王!!!」

 

 

 界王は叫び声を上げると、悟空の目の前にいる西の界王と呼ばれた者の前に走ってやってきた。

 2人は顔を合わせると、揃って「うぅーーーっ!!!」と言いながらメンチを斬り合う様に睨み合う。

 目の前でいきなり繰り広げられる、その尋常ならざる雰囲気に、唖然とした表情を浮かべ、困惑する悟空。

 

 

「えっ!? あれっ!? ど、どうしたんだ……? なに!? なに!? 何これ?」

 

 

そんな、悟空の事なんてほったらかしに、2人の界王は話を続ける。

 

 

「お前、どうしてここにっ!?」

「お前こそ、なぜっ!?」

「ふん、ワシは今日、久しぶりにこのパイクーハンに会いに来たんじゃ…。 なにしろ、パイクーハンは西の銀河一の武道家だからな……!!」

 

 

 西の界王の言葉に悟空が「えっ!」と驚きの声をあげ、西の界王の横にいる長身の男に眼を向ける。

 

 

「あっはははっ…、…ん……?」

「なっ、なんじゃ!?」

 

 

 悟空の反応に気を良くしたのか、大声で笑っていた西の界王が、ふと何かに気づいた様に界王をじーっと見る……。

 その様子が不気味だったのか、界王はたじろいだ声を上げる。

 しばらく、じーっと見ながら界王の周りをぐるぐる周ってた西の界王……。

 

 

「あーーーっ!!!」

「なぁーーーっ!!?」

 

 

 いきなり大声を上げた西の界王に、驚いた反応を返す界王。

 しかし、そんな界王を無視して、今度は大声で笑いだす西の界王。

 

 

「あっはははーーーっ!!!」

「へっ!?」

 

 

 いきなり大声で笑いだした西の界王に、訳が分からないといった表情を浮かべる界王。

 

 

「おっ、お前死んだのかっ……!?」

「あーーーっ!! こっ、これはっ……!!」

 

 

 笑いながら、死んだ事を突っ込まれた界王は、顔を赤くしながら頭の輪っかを両手で隠そうとする。

 しかし、そんな事しても隙間から死者の証である輪っかが見え隠れしていた。

 

 

「界王が死ぬなんて…、あっははは……、こりゃいい! お前の下らんジョークよりずっと笑えるわ!! あっはははーーーっ!!!」

「くだらんジョークとはなんだっ!! くだらんジョークとはっ!! これには色々、事情があったんじゃ……」

 

 

 界王が死んだ事が、よっぽどおかしかったのか、笑い転げる西の界王。

 そんな西の界王に、流石に頭に来たのか、怒った様に言い返す界王。

 そんな2人のやりとりを見て、悟空が口を開く。

 

 

「オラが、界王様を巻き込んじまったんだ……」

 

 

 すまなそうな声で会話に割り込んだ悟空に、視線を向ける西の界王。

 

 

「ん? なんだぁ、この小僧は……?」

 

 

 不機嫌そうな声で口を開く西の界王に、悟空は名乗りを上げる。

 

 

「オラか? オラ孫悟空だ!」

「悟空は、北の銀河にある地球という星を救った正義の武道家でな、とてつもなく強いヤツなんじゃ!!」

 

 

 悟空が名を名乗ると、補足する様に界王が自慢気に悟空の事を紹介する。

 そして、悟空が強いと聞き、西の界王の顔つきが変わる。

 

 

「なにっ!? とてつもなく強いだとぉ? ふん!しかしこのパイクーハンほどではないだろう?」

「いや! 悟空の方が強いな!!」

 

 

 悟空よりパイクーハンが上だと告げた西の界王だったが、それに間髪入れず悟空の方が強いと返す界王。

 

 

「まっさかぁ〜! いや!パイクーハンの方が強いに決まっておる!!」

「いーや! 絶対に悟空だ!!」

 

 

 強がりを言うなよ。みたいな笑みを浮かべ、もう一度パイクーハンの強さを主張する西の界王。

 しかし、それに自信満々の笑みで、再度悟空の方が上だと主張する界王。

 その界王の表情に腹が立ったのか、界王の前にダッシュで近づき大声を上げる西の界王。

 

 

「絶対に! 絶対に! パイクーハンだぁーーーっ!!!」

「わからんっ奴だなぁ!!!」

「わからんのは、そっちだっ!!!」

 

 

 互いに本人達を他所に、ヒートアップしていく2人の界王。

 そして、ついに界王から本人達をも巻き込む言葉が吐き出される。

 

 

「ならば、勝負させるかっ!?」

「えっ?」

「あっ!」

 

 

 界王の言葉に、今まで2人のやりとりを見守っていた悟空とパイクーハンが驚きの表情を浮かべる。

 しかし、2人が何かを言う前に西の界王が自信満々の声を上げる。

 

 

「望むところだっ!!!」

 

 

 本人達の意見を他所に、勝負をする事になった2人は視線を合わせる。

 困惑気な悟空に対して、無表情のパイクーハン。

 

 

「さぁ! 行け悟空!!」

「えっ!? 行け!って、ここで戦うんかっ!?」

 

 

 未だこの事態に思考が追いついていない悟空は、界王の言葉に戸惑いの声を上げる。

 すると、西の界王の方もパイクーハンに号令を下す。

 

 

「パイクーハン、軽くやっつけちゃいなさい!!」

 

 

 まさに、一触即発という状況の中。

 突如、第三者の声が響き渡る。

 

 

「ちょっと、待ってぇ〜ん!!」

「うん…?」

「あ…、あの声は……」

 

 

 突如響いた声に、悟空が首を傾げる横で、額に冷や汗を流す界王。

 そして、界王だけでなく、西の界王も声の主の正体に気づいた為、2人揃って声を上げる。

 

 

「「大界王様!!」」

 

 

 声の主である、大界王の名を呼んだ2人の界王とパイクーハンは、即座に大界王殿に向かって跪く。

 

 

「えっ…? どこ……?」

 

 

 跪いた3人を他所に悟空は、立ったまま大界王の姿を探す。

 そんな悟空の姿に、ギョッ!とした表情を浮かべる界王。

 

 

「これこれこれこれ悟空っ!! 頭が高い!頭が!!」

 

 

 口を開いた界王が即座に悟空の頭を掴み、跪かせようとした瞬間、それはおこった。

 突如大界王殿の屋上が光ったかと思った瞬間、屋上から一筋の光が走り、悟空達の目の前に落ちてきた。

 光が地面に激突した瞬間、大きな音と煙を巻き上げる。

 

 悟空達が唖然とした表情を浮かべていると、徐々に煙が収まり、そこに上下デニムでブーツを履き、肩にラジカセを担ぎサングラスをかけた、大層ファンキーな爺様が立っていた。

 

 

「はぁーい!!!」

 

 

 4人にとてもつもなく、軽い声で爽やかな笑みを浮かべ挨拶する爺様。

 

 

「「だ、大界王様!!」」

 

 

 2人の界王が改めて、目の前の人物の姿を見て名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた大界王は、ラジカセから流れてくる音楽を鼻歌で歌いながら、独特なステップを踏みながら4人の元へ近づいてくる。

 その様子は正にノリノリだった……。

 

 

(こっ、これが大界王様ぁ……!?)

 

 

 そんな大界王の様子に、悟空が内心で信じられない。とばかりに驚きの声を上げる。

 しかし、現状だけ見ればそれは仕方ないかもしれない……。

 悟空が唖然とした表情を浮かべたまま、大界王に視線を向ける。

 

 4人の元に近づいた大界王は、勢いよく肩に担いでいたラジカセを地面に置くと、ポチッ!っとボタンを押す。

 すると、今までラジカセから流れていた曲がストップする。

 4人が唖然とした表情で大界王を見ていると、大界王が早速、口を開く。

 

 

「取り込み中のところ悪いんだけんど…、あー、パイクーハンちゃん。 ちょっと、くーじごまで行ってきてくれない?」

「はっ!」

 

 

 大界王直々の命に、パイクーハンが簡潔に返事し頭を下げる。

 

 

「”くーじご”…って、なんだ……?」

「地獄の事じゃ…。 地獄のくを持ってきてくーじご!」

 

 

 大界王が言ったくーじごについて、悟空が首を傾げていると、その言葉の意味を界王が小声で教えていた。

 そんな2人を尻目に、大界王は言葉を続ける。

 

 

「くーじごで、ちょっと困ったことが起きちゃってさぁ!」

「「「困ったこと?」」」

 

 

 大界王の言葉に、2人の界王と悟空が反応する。

 

 

「最近セルってヤツが、まえんちゃんに、くーじごに送られちゃったらしいんだけどさぁ」

「えっ!? セル!?」

 

 

 軽い口調で話す大界王の言葉から飛び出した、セルの名前に驚きの表情を浮かべる、悟空と界王。

 

 

「そのセルが、フリーザとか言う奴らを従え暴れ回ってるそうなのよ」

「セルが…!?」

「フリーザ達を…!?」

 

 

 軽い口調とは裏腹に、飛び出すかつての強敵達の名に、驚愕の表情を浮かべ、驚きの声を上げる界王と悟空。

 

 

「だから、ちょっと行って、片付けてきて欲しいわけ!」

「かしこまりました!!」

 

 

 大界王の言葉を聞いたパイクーハンは一つ返事で、即座にこの場から姿を消す。

 

 

「あっ!! 1人じゃ無理だっ!! オラも行く!!!」

 

 

 それを見た悟空は、セルやフリーザの恐ろしさをよく知っている為、即座にパイクーハンの後を追うべく飛び出した。

 

 

「ごっ、悟空! 勝手にそんなっ!!」

「まぁ、いいじゃん〜!! 北の界王ちゃん、好きな様にやらせてあげれば!!」

 

 

 いきなり飛び出した悟空に、焦った様に声を上げる界王だったが、大界王から許しが出たので困った様な表情を浮かべ、どんどん小さくなる悟空の背中を視線で追う。

 そんな事を知らない悟空は、先行するパイクーハンとの距離をどんどん詰める。

 背後から近づく、悟空の気配に気づいたのか、パイクーハンが視線を悟空に向ける事なく口を開く。

 

 

「助っ人を頼んだ覚えはないぞ……!」

「オメェ…、セルやフリーザを知らねーから、そんな事が言えんだ…!! あいつら凄く強えんだぜ……!!」

 

 

 2人が地獄に降り立つと、セル達が暴れ回ったせいか、建物や乗物が破壊され、荒れ果てていた。

 

 

「こりゃ、ひでぇな……」

 

 

 その様子に、悟空が思わず口を開くと、近くの茂みから2つの気配が近づいている事に気がつく悟空とパイクーハン。

 

 

「「ん?」」

 

 

 2人が揃って、茂みに視線を向けると、ガサガサと音がしたと思ったら、巨漢の青鬼と、赤鬼が飛び出してきた。

 

 

「お願いですオニ!」

「どうか、見逃してくださいオニ!!」

 

 

 何かから逃げてきたのか、悟空とパイクーハンに気付いてない2人は、命乞いする様にその巨体を小さくして土下座する。

 いきなり土下座した2人の鬼に驚いた、悟空とパイクーハンだったが、2人に見覚えがある事に気が付く悟空。

 

 

「あれっ? オメェ達、ゴズとメズじゃねーか!?」

 

 

 悟空の言葉に、驚いた様な表情で顔で顔を上げる2人。

 

 

「えっ? …あっ! オメェは前に蛇の道から落ちてきた、孫悟空!!」

「ふぅ、よかった…。 セルの仲間じゃなかったオニ……」

 

 

 悟空の姿に安堵の表情を浮かべる2人。

 しかし、2人からセルの名前が出た事で、悟空の表情が引き締まる。

 

 

「オラ達、そのセルを退治しにきたんだ!!」

「「えぇっ…!? 本当オニ……!?」」

 

 

 悟空の言葉に、驚愕の表情を浮かべる2人。

 

 

 

 悟空とパイクーハンがゴズとメズに話を聞いているその頃、地獄のとある場所ではセルやフリーザ達が暴れまわっていた……。

 

 

「ぐぅあ…」

 

 

 1人の赤鬼が苦痛の声を上げながら仰向けに倒されると、その赤鬼の顔面をドスン!!と何者かの足が踏みつける。

 

 

「どうだ…? これから誰に従えばいいか…、よぉーく分かっただろう……?」

 

 

 その存在とは、数日前地球で孫悟空の息子、孫悟飯に敗れて地獄にやってきた、ドクター・ゲロの最高傑作、人造人間セルだった。

 そして、そのセルの周りには、宇宙の帝王フリーザやその父であるコルド大王、そしてギニュー特戦隊等を始めとするフリーザ軍達が我が物顔で闊歩していた。

 

 

「ここのボスは誰だ……?」

 

 

 セルは踏みつけた赤鬼に向け、問いかける。

 しかし、踏みつけられた赤鬼は必死になって喋ろうとするが、痛みでうまく言葉を発することが出来ない様だった。

 痛みで、呻いている赤鬼に苛立ったセルは、更に力強く顔を踏みしめる。

 

 

「聞こえんっ!!」

「セ…、セル…っ……」

 

 

 何とか、言葉を吐き出した赤鬼に邪悪な笑みを浮かべたセルは、その赤鬼の襟元を掴み自分の目線まで引き上げる……。

 

 

「フン! セル様…、だろう……?」

 

 

 そう言って、更に邪悪に笑みを深めたセルは、掴んでいた赤鬼を近くの針山に向かって投げつける。

 

 

「オニッーーーッ!!!」

 

 

 投げられた鬼が叫び声を上げる。

 あと、数瞬で針山に激突するその瞬間、シュンと風を切り裂く様な音を立て、何者かがその鬼を窮地から救い出した。

 

 

「むぅ?」

 

 

 セルが何事かと視線を空中に向ける。

 すると、視線の先には、この場にいる大半の者にとって因縁の相手と言って良い存在が空中に佇んでいた。

 

 

「オメェ等、地獄に来てまで悪さを続ける気かっ!?」

「フッ!」

「孫…悟空……!?」

 

 

 悟空の姿を見た瞬間、セルは不敵な笑みを浮かべ、フリーザは忌々しそうに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 そんな2人を見下ろしながら、悟空は再び口を開く。

 

 

「ちっとも、反省してねーよだなぁ!!」

「これはいい…、どうやらお前も死んだらしいな! また会えて嬉しいよ。特選隊のみなさん……」

 

 

 悟空の頭上にある死者の輪っかを見たフリーザは、悟空が死んだ事に笑みを浮かべる。

 そして、今こそ積年の恨みを果たすべく、行動に出る。

 フリーザに声をかけられた、ギニュー特戦隊のジース、バータ、リクーム、グルドの4人がお馴染みのポーズをとると、即座に悟空に向け飛び出す。

 

 

「パイクーハンッ……!!」

 

 

 向かってくる4人を視界に収めた悟空は、救出した赤鬼をパイクーハンに向かって放り投げる。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 即座に気を解放した悟空は、4人の攻撃を紙一重で躱し全員を一撃で気絶させ、血の池地獄に叩き込む。

 

 

「なっ…、なんと……!?」

「悟空のヤツ…、いつの間にあんな……」

 

 

 悟空の現在の戦闘力に冷や汗を流しながら驚愕の表情を浮かべる、コルド大王とフリーザ。

 しかし、そんな2人をこの存在が一喝する。

 

 

「うろたえるなぁ!! あの程度何でもない…。 私がヤツを殺したのだからなぁ……」

 

 

 今の悟空の戦いを見ても、不敵な笑みを浮かべるセル。

 そんなセルを気に入らないとばかり、額に血管を浮き立たせながらも笑みを浮かべるフリーザ。

 

 

「さ、流石セルさんですね……。 お願いしますよ……」

 

 

 フリーザの言葉を受けたセルは、両翼を広げ勢いよく地面を蹴り、空中に佇む悟空に向かって飛び出す。

 

 

「ぶらぁ!」

 

 

 勢いよく飛び出したセルは、物凄いスピードで悟空へ近づいてくる。

 

 

「むっ!」

 

 

 セルの姿を視界に収めた悟空は、迎え撃つべく構えをとろうとした瞬間、悟空とセルとの間に何者かが、セルをも上回るスピードで割り込む。

 

 

「なっ…、何だっ!?」

「何っ!?」

 

 

 予想外の割り込みに、驚きの声を上げる、悟空とセル。

 その何者かは、全身に炎を纏い、あっという間にセルに近づくと強烈な蹴りでセルの顎を蹴り飛ばす。

 

 

「うぐぅ……」

 

 

 蹴り飛ばしたのは、悟空と一緒に地獄にやって来たパイクーハンだった。

 パイクーハンの強烈な一撃で、意識が朦朧となったセルは拳による追撃の2撃目により、ついに意識を手放し、先のギニュー特戦隊の4人と同じく血の池地獄にその身を落とした。

 

 

「バ、バカなっ……」

 

 

 その様子を、驚愕の表情で見つめるフリーザとコルド大王。

 しかし、それはこの2人だけではなかった。

 悟空もパイクーハンのあまりの強さに、驚きを隠せなかった……。

 

 

「なっ、なんてスピードだ……」

 

 

 今の一連の戦いを思い出した悟空は、自然と言葉を吐き出していた……。

 そんな悟空を尻目に、パイクーハンは視線をフリーザ達向けると、フリーザ達が認識するよりも早く2人に近づき、一撃でフリーザとコルド大王を昏倒させる。

 2人が気絶したのを確認したパイクーハンは、再び宙へ飛び出し、先ほどセルを含めた5人が落ちた血の池地獄の上に姿を現す。

 

 水面より10m程上空に現れたパイクーハンは、その場で胸の前で腕をクロスさると、もの凄いスピードで回転し始める。

 パイクーハンの高速回転により、発生した竜巻で沈んでいた5人が血の池地獄から針山へ吹っ飛ばされる。

 

 

「「「「「うわぁーーーっ!!!!!」」」」」

 

 

 叫び声を上げながら、針山へ吹き飛んだ5人はそのまま、気絶した2名共々地獄の鬼達によって、今までよりも更に厳重な牢に収監される事になった。

 

 

「くっそーーーっ!!!」

「やられるばかりで、死ねんとは……」

「くぅ…、まるで地獄だ……」

 

 

 こうして、彼等のクーデターは幕を閉じたのだった。

 そんな彼等を近くの岩場から眺めていた、悟空とパイクーハン。

 牢に入るまでに暴れたら、また彼等がセル達の相手をしなければならないので、彼等が無事収監されるまで見守っていたのだ……。

 

 しかし、ようやくセル達が無事収監されたので、これにて2人の任務は無事に終わりを迎えたのだった。

 

 

「これでもう、あいつ等も悪さしなくなんだろ!」

「ああ…、そうだな!」

 

 

 牢に入ったセル達を見て、腕を上にあげ伸びをしながら、安堵の声を上げる悟空。

 そして、そんな悟空に力強い笑みを見せるパイクーハン。

 そんなパイクーハンを見て、改めて悟空は先程のパイクーハンの強さを思い出すのだった……。

 

 

(スゲーや! こんな強えヤツがいるなんて! あの世も結構ワクワクすっぜ!!)

 

 

 自分を超える強さを持つパイクーハンの存在に、あの世でも楽しくやっていけそうだと確信する悟空。

 悟空がそんな事を考えていると、隣のパイクーハンから声が聞こえて来た。

 

 

「さて、戻るぞ! 悟空…。 大界王様と界王様達に任務完了の報告をしなければ……」

「ああ…、そうだな!! …ん……?」

 

 

 既に空へ飛び出したパイクーハンに相槌を打ち、悟空も空へ飛び出そうとした瞬間、ふと何かを感じて後ろを振り向く。

 

 

「どうした…? 悟空……?」

「いや…、なんでもねぇ……。 戻ろうぜ、パイクーハン」

 

 

 悟空の様子に疑問を持ったパイクーハンが声をかけるが、しばらく、ジーッと地獄を見て回っていた悟空が静かに首を左右に振る。

 悟空に促されたパイクーハンは首を傾げるが、特に気になっている訳でもないので、悟空と一緒に地獄の空へ飛び立つ。

 しばらく2人で地獄の空を飛んでいると、悟空がパイクーハンに向かって声をかける……。

 

 

「なぁ、パイクーハン! いつかオラと戦ってくれねぇか?

 さっきのオメェの戦い見てたら、オラ、ワクワクしちまってよぉ!」

 

 

 いきなりの戦いの申し込みに、驚いた表情を浮かべるパイクーハン。

 しかし、悟空から向けられる眼差しや表情がとてもキラキラ、ワクワクした純粋なモノだったので、パイクーハンの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「フッ…、いいだろう! オレもお前の強さには興味がある……」

「おっ!? 本当かっ!?」

「ああ…、近いうちに手合わせしよう」

「よっしゃあ! 楽しみだなぁーーーっ!!」

 

 

 パイクーハンの返事に、笑顔で喜びの声を上げる悟空!!

 大の男が子供の様に純粋に喜ぶ姿を見て、更に笑みを深くするパイクーハン。

 

 

「フッ…、おかしなヤツだ……」

 

 

 こうして、孫悟空のあの世での生活がスタートしたのであった……。




続きはないので、これからちょこちょこ書いていきます。
お楽しみに!


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あの世一武道会編-Ep.02

今回めちゃくちゃ捏造設定入れているので、気に入らない方がいたら申し訳ない。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 時間は少し遡る……。

 

 孫悟空が界王と共に大界王星へ向け、飛行機に乗り込む数時間前、地獄では大変な事が起きていた……。

 

 

「ちっ…、孫悟飯め……。 まさか、あんな小僧にこの私が破れる事になるとは……」

 

 

 苦々しい表情を浮かべ、悪態を垂れているのは、つい先程地獄へやって来た人造人間セルだった。

 孫悟飯との戦いで敗れた彼は、閻魔大王から問答無用で地獄へ叩き落とされたばかりだった。

 しばらく、悟飯への怒りで頭がいっぱいだったセルだが、そんな事をしていても事態は何も変わりはしない…と思い、思考を落ち着ける。

 

 そうして、ようやく周りを見回す余裕が生まれたセルだった……。

 

 

「なるほど…、ここが地獄というヤツか……」

 

 

 セルの視界に飛び込んできたのは、現世ではまずお目にかかれない、赤い血の色をした池や、剣山の様な山、そして、黄色い空……。

 現世に比べると、何とも物悲しい雰囲気な場所だった……。

 

 

(フン! なんともつまらん場所だな……)

 

 

 そんな事を考えていると、セルの前に1匹の鬼が現れた。

 

 

「オメェが新しく地獄に来たヤツかオニ?」

 

 

 セルは無言で視線だけ、鬼に向ける。

 鬼はそんなセルの事など気にせず、話を続ける。

 

 

「さっそくだが、生前の罪を償ってもらう為に、オメェにも働いてもらうオニ」

「生前の罪…、だと……?」

 

 

 鬼の言葉に、セルが不機嫌そうな顔で反応する……。

 そもそも、人造人間であるセルにとって、孫悟空の抹殺や人を殺す事などはそもそも悪としてインプットされていないのだ。

 確かに知識としては、自分がやって来た事が悪だという事は分かるが、それでも所詮この世は力あるものが正義。

 

 それが実情なのだ……。

 それを、強者である自分が、弱者に対して行った事の何が悪い事なのか、セルには一切理解できなかった。

 むしろ、完全なる生物である自分の役に立てたのだから、感謝して欲しいほどだった。

 

 そんな心持ち故に、現在弱者を殺した程度で地獄で罪を償わされそうになっているこの状況に、セルは胸糞悪くなって来ていた……。

 セルが内心でそんな事を考えていると、目の前の鬼がまたも話しかけて来た。

 

 

「オメェ、ちゃんと話を聞いているのかオニ……?」

 

 

 まったく反応を示さないので、鬼もセルが自身の話を聞いていないと判断して問いかけたのだ。

 しかし、セルの方もいつまでもこんな茶番に付き合ってやる気もなかった。

 

 

「ああ、すまない…。 まったく聞いていなかった……。

 悪いが、私はこれまで自分がやって来た事が悪だとは思ってはいないのでね……。

 つまり…、罰を受ける気はさらさら無いんだ」

 

 

 そう言うと、セルは鬼に向けて、右掌を向ける。

 すると、セルの掌からエネルギー波が放出され、悲鳴を上げる間も無く鬼を跡形も無く消し飛ばす……。

 

 

「フン! グズが……」

 

 

パチパチパチ……

 

 

 セルが消え去った鬼に一瞥をくれてやると、背後から何者かの拍手の音が聞こえて来た。

 

 

「ん?」

 

 

 セルが振り返ると、そこにはセルにとってもある意味関係が深い存在が笑みを浮かべ立っていた。

 

 

「あなた、素晴らしいパワーですね……」

「貴様は…、フリーザ」

 

 

 セルに拍手を送ったのは、かつて未来からやってきたトランクスに殺されたフリーザだった。

 フリーザの方も、セルが自分の事を知っていた事に僅かばかり驚いた様な表情を浮かべる。

 

 

「おや? 私の事をご存知とは……、以前どこかでお会いしましたか……?」

「フン、生憎私と貴様が顔合わせたのは、今が初めてだ……。

 しかし、私を構成する細胞に貴様と同じ遺伝子が使われているというだけだ……」

「私の遺伝子…だと……?」

 

 

 セルの言葉にフリーザの眼と気配が鋭くなる……。

 フリーザの様子にセルの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

 一触即発の雰囲気を発しながら見つめ合う両者。

 

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった……。

 

 

「フッ…、まぁ、いいでしょう……。 あなたが何者か興味はありますが、今は置いておきましょう……」

「ほぅ…、流石は宇宙の帝王と言っておこうか……。

 敵わないと分かっておきながらも、その様な態度を欠片も見せないとはな……」

 

 

 セルの何処か自分を馬鹿にする様な台詞に、僅かに顔を顰めるフリーザ。

 しかし、フリーザの方もセルと改めて対峙して、向き合っただけだというのにセルが自身よりも強いという確信を得てしまったのだ。

 そうなれば、ここでセルと敵対関係になるのは得策ではない。と瞬時に判断したフリーザ。

 

 

「フン! その物の言い様…、本来なら殺して差し上げるところですが…、今は少しでも強力な戦力が欲しい……。

 あなた…、私と協力関係を結びませんか……?」

「協力関係だと……? 貴様とか……?」

 

 

 突然のフリーザからの申し出に、訝しげな表情を浮かべ首を傾げるセル。

 そんなセルに、笑みを浮かべながらフリーザは口を開く。

 

 

「ええ……。 正直退屈なんですよ地獄って所は……。

 頭の悪そうな鬼が偉そうに威張り散らす上、好き勝手に戦う事すら出来ない……」

「ふむ、分からんな……。 そんなに退屈ならば、好き勝手すれば良いではないか……?」

 

 

 うんざりとした様な表情を浮かべ言葉を発するフリーザに、不思議そうに言葉を返すセル。

 しかし、そんなセルの言葉を首を左右に振る事で否定するフリーザ。

 

 

「そうもいかないのですよ…。 貴方は地獄に来て間もないから知らないのでしょうが……、死者である以上、閻魔大王には絶対に勝てないのです……」

「絶対に勝てない…だと……? どういう事だ……?」

 

 

 フリーザの言葉に怪訝そうな表情を浮かべ問いかけるセル。

 

 

「閻魔大王には、”死者の魂への絶対の権力”という力を持っています。

 この力により、忌々しい事に閻魔大王は死者に対して絶対的な権力…、つまり私達に絶対厳守の命令を下す事が出来るのです。

 それだけでなく、”あの世を司る力”で、あの世を管理している閻魔大王には死者の攻撃が効かないのです……」

「なるほど……、つまり下手に暴れて、閻魔大王の怒りを買えば、こちらは大した抵抗も出来ずに消されるというわけか……」

 

 

 フリーザから閻魔大王の力を聞かされたセルは神妙な表情を浮かべ、敵対した場合の結末を予測する……。

 そして、フリーザも既に同様の結果に考えが行き着いたのか、無言で頷く。

 だが、そんなフリーザに対して邪悪な笑みを浮かべ、セルが問いかける。

 

 

「フン! 閻魔大王の厄介な力は理解した……。

 しかし、貴様はすでにそれを攻略する術を考えているのだろう……?

 その為には、人数とある程度の力を持つ存在が必要になる……。

 だから私に協力を持ち掛けた…。 そういうことだろう……?」

 

 

 セルの言葉に、フリーザも同様の邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ええ…。 話が早くて助かりますよ……。

 それで…? あなたは、どうします……?」

 

 

 フリーザの言葉で、セルはこれまでに語られた内容について思考する……。

 

 

(恐らくフリーザが述べた閻魔大王の厄介な力とやらは、本当の事だろう……。

 でなかったら、すでにこいつは行動を起こしていただろう……。

 恐らく、現在は行動を起こす為に何かしらの準備を行っているという所だろう……。

 正直、こいつに協力しなくとも、私の頭脳であればこいつが考え出した計画も考えつくだろう……。

 仮にこいつの計画が成功したとしても、私ならばこいつを始末する事は造作もない……。

 だが、考え過ぎかも知れんが…、もし何かしらの方法で閻魔大王の力までこいつが得た場合は厄介な事になる……。

 それに、今こいつを始末すると、人手が必要になった時に使えるコマがいなくなる……)

 

 

 一瞬で様々な状況を想定したセルは、ついに結論を出す……。

 

 

「いいだろう…。 その話のってやる。 ただし…、条件がある……」

「条件…? なんでしょう……?」

「貴様の部下になるつもりはない……。 あくまで対等な協力関係という事なら貴様の話に乗ってやる!!」

 

 

 セルの言葉に、笑みを浮かべていたフリーザがピクッ!と反応したが、直ぐに手を顎に添え考える様な仕草をとる。

 

 

「ふむ…、まぁ…それでいいでしょう……。 それではよろしくお願いしますよ……。

 えっと…そう言えば……、まだ、貴方の名前を聞いていませんでしたね……」

 

 

 フリーザの言葉に、不敵な笑みを浮かべるセル。

 

 

「セルだ……。 私の名前は究極の人造人間、セル」

「セルさんですが…。 それでは改めてよろしく願いしますよ……」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ差し伸べされたフリーザの手を、同じく邪悪な笑みを浮かべたセルが握り返す。

 

 

((邪魔になったら、存在ごと消してやる……))

 

 

 こうして、それぞれの思惑を抱え、最悪の2人が地獄で手を組んだのだった……。

 

 

 

「それで…、さっそくだが、これからどうするのだ……? フリーザ」

「そうですね…、貴方という強力な助っ人を得たので、そろそろ行動に移るとしますか……」

「ほぅ……」

 

 

 フリーザの言葉にセルが興味深そうな声を上げる。

 

 

「計画実行は今から3時間後にしましょう……。 我々が今後地獄で好き勝手するには、まず邪魔な閻魔大王を封じる必要があります……」

「閻魔大王を封じる…か……。 そんな事が出来るのか……?」

「ええ、貴方もここに来る前にスピリッツロンダリング装置での処置を受けたのでしょう……?」

「あの妙な機械のことか……?」

 

 

 セルの言葉に、頷き言葉を続けるフリーザ。

 

 

「地獄の住人達に限らず、閻魔大王の元にやってくる死者達は魂の状態で閻魔大王の元へ行きます……。

 そして、閻魔大王の判決後、地獄に行く者は生前の悪の心が強すぎる者もいるので、地獄に行く前に一度軽く魂を浄化する様なのです。

 そうする事で、地獄に来ても生前ほど悪事を働こうとする気持ちを起きづらくする為の処置らしいですね……。

 そして、スピリッツロンダリング装置で処置を受けた後、地獄へ送られ生前の罪とやらをつぐなう為に肉体が与えられる……」

「なるほど…、あの妙な機械はそんな事の為に使われていたのか……。

 それで…? そのスピリッツロンダリング装置が何だというんだ……?」

 

 

 スピリッツロンダリング装置の事は分かったが、それが何故閻魔大王を封じるのに必要なのかセルには、地獄に来て間もないセルには理解できなかった。

 

 

「先程もお話しした様に、スピリッツロンダリング装置は悪の心を浄化する為の機能があります……。

 つまり、負のエネルギーを蓄積する機能があるという事です……」

「負のエネルギー…ねぇ……」

「ええ、そしてこれまでのあの装置を利用した期間や人数を考えると、その負のエネルギーは膨大な量になります……。

 閻魔大王を封じるには、この膨大な量の負のエネルギーが必要になるのです……」

「ふむ……」

 

 

 フリーザの言葉を聞き、顎に手をやり思考するセル。

 しかし、いかに超人的な頭脳をもつセルとは言え、これだけではあまりに情報が少ない為その膨大な量の負のエネルギーを使って、閻魔大王を封じる方法は流石に思い浮かばなかった。

 

 

「膨大な量のエネルギーがあるのは、分かったがそれをどう使う……?

 閻魔大王を封じると言ったが、口で言うほど単純なモノではないだろう……」

 

 

 セルの鋭い指摘に、フリーザは底冷えのする様な冷たい笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、確かに簡単ではありませんでした。

 地獄に来て、地獄を支配しようと考えましたが、たまたま閻魔大王の権能を知る事が出来た私は、それを無効化する為の準備に、約3年の月日を要したのです。

 その中でも最も力を注いだのは、人材の確保です。

 戦闘員だけでなく、知識や技術ある者を組織に取り入れるのには、大変苦労しました……。

 ここでは、そう簡単に人を殺す事は出来ないので、力で脅す事もままなりません……」

 

 

 死者は2度死ぬと、存在そのものが消える。

 しかし、閻魔大王が健在であれば地獄でも天国でも死者同士が戦って死んでも、存在が消える事はない。

 例え、死んだとしてもすぐに復活する事が出来る。

 

 死者が2度目の死(存在が消える事)を迎えるのは、大きく2つの原因が存在する。

 

 1つ目は、死んだ状態であの世から現世に戻り、再び死んでしまった場合。

 2つ目は、閻魔大王が何かしらの原因で”あの世を司る力”を封じられた場合。

 

 上記の2点の状態でない限り、実質2度目の死を迎える事はない。

 地獄で死ぬ事は無いのに殺人を禁止している理由は、人を殺す事を日常化させてしまえば、また悪感情が育ちいつまで経っても魂の浄化が進まないからだ。

 だから、地獄で2度目の死は無いとはいえ、殺人が起きた場合、大きなペナルティを負う様になっている。

 

 しかも、この仕組みの凄い所は、仮に隠れて殺人を行っても、殺された者が閻魔殿に送られてしまうのだ。

 そして、その場で閻魔大王に尋問され、隠し事をする事すら許されず洗いざらい殺された状況を自白させられるのだ。

 仮に殺された側が殺した側の姿を見ていなくても、閻魔殿にはそれを特定する仕組みがしっかりと用意されているのだ。

 

 なので、どれだけ巧妙に殺人を行おうが、結局殺人を行った事がバレてしまい、殺人を行った者はペナルティを受けてしまうのだ。

 

 

「なので、力による恐怖心で従えるだけではなく、しっかりと参加した者達に旨みがある様に交渉しなければならなかったのですよ……」

「ほう…、力による支配が出来ない状態でも、人を従えるとは…流石は宇宙の帝王と呼ばれていただけはあるな……。 大したものだ……」

 

 

 フリーザがこの3年行ってきた事には、セルも素直に感心した。

 セルはフリーザと違って、人の上に立った事は無いし、本来であれば力による恐怖心で人を従えるだろう。

 だが、今回の様な状況になってしまったら、人を従えるには対話による交渉しか手段が無くなってくる。

 

 セルの超人的な頭脳では、それがそう簡単じゃない事をよく理解していた。

 これは、生前宇宙の帝王としていくつもの星を手に入れてきたフリーザだからこそ身についたスキルでもある。

 彼は、力による恐怖で人を従えていた反面、自分にとって有益となる存在なら敵や気に入らない相手であろうと交渉して、配下に加え働きに見合った報酬を与えていた。

 

 つまり、元々人と交渉する術をフリーザは備えていたと言う事だ……。

 今回は、今までもっとも頼みの綱だった自身の戦闘力という武器は使えなかったが、それがなくともこれまで多くの存在と交渉を交わしてきたのだ。

 人が…、特に悪人がどういうモノを欲しているかなど、既に知り尽くしていたのだ。

 

 そして、モノで動かない者であれば、言葉を使いその者の心理をつき巧みに交渉を進めたのだ。

 そうやって、地獄に来てからもフリーザ軍の規模を粛々と拡大させてきたのだ……。

 全ては、地獄を手中に収めるために……。

 

 

「それで…? 結局貴様はどうやって閻魔大王を封じるのだ……?」

 

 

 再度セルに問われた事で、ついにフリーザの口から計画の根本となる概要が話される。

 

 

「私が地獄で引き込んだ者の中に、優秀な知識を持つ者達がいたのですよ。

 その者達に強力な結界を生み出す装置を作らせました。

 そして、そのエネルギーとなるのが……」

「なるほど、その負のエネルギーというわけか……」

 

 

 セルの言葉に邪悪な笑みを浮かべ、無言で頷くフリーザ。

 

 

「しかも、負のエネルギーとは悪感情から出来ているので、それをエネルギー源にしている結界の中に取り込まれれば、徐々に心が悪感情に蝕まれ悪感情に順応出来れば良いが、出来ない場合はそのまま発狂し、死んでしまいます」

「なるほどな……」

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ告げられた内容に、セルの方も邪悪な笑みを浮かべる。

 しかし、ここでふと疑問に覚えた事を口にするセル。

 

 

「とは言え…、3時間後とは随分早急にその計画とやらを進めるのだな……。 フリーザよ……」

「それは、貴方のせいですよ……セルさん」

「何だと……?」

 

 

 これまで散々準備に時間をかけて来たフリーザが、自分という強力な力を持つ存在を味方に引き入れたとはいえ、早急に計画を実行しようとする事に僅かながらに疑問を覚えたセル。

 しかし、その原因が自分だと言われてさらに疑問が増えたのだった。

 

 

「理由は、貴方が先程の鬼を殺してしまった事です。

 恐らく貴方が鬼を殺した事は既に閻魔大王に伝わっているでしょう。

 そうなると、貴方は数時間もしない内に閻魔殿によばれる事になるでしょう。

 そしたら、最悪どこかに幽閉される可能性があります……。

 ただ、貴方は地獄に来たばかりですので、地獄のルールを知らないと相手も考えるでしょう。

 これまでの傾向から考えて、地獄に来たばかりの悪人は大抵最初は鬼に反発する者も多いのです。

 なので、あちら側もこういう事態はある程度想定しているのです。

 あまり派手に暴れない限り、閻魔大王の対応も早急になる事はないでしょう……。

 しかし、そう楽観視も出来ないので、計画の実行を3時間後にしたのですよ。

 正直な話、私としてはあなたを見捨てても構わないのですが、あなたほどの戦力が失われるのはやはり惜しいんですよ……。

 計画を成功させるためにはね……」

「フン! なるほどな……。 なかなか地獄という場所は厄介な所というわけか……」

「とりあえず、あまり時間もありませんので、そろそろ我々の本拠地へ移動しますよ」

 

 

 そう言って、フリーザは空へと飛び出した。

 そしてセルもフリーザを追う様に空へと飛び出した。

 しばらく2人が地獄の空を飛行していると、巨大な都市が見えて来た。

 

 

「これは……」

 

 

 セルはその都市の大きさに、僅かながら驚いた。

 ここに移動してくるまでに、地獄には人が住んでいるであろう場所がいくつも確認できた。

 しかし、大抵は村や集落と言っていいほどのレベルだった。

 

 だが、今セルの目の前に広がっている光景は明らかにそれらとは比較にならないくらいの文明を誇っていた。

 

 

「どうです? 我が本拠地は……」

「正直驚いたぞ…! ここだけ別世界じゃないか……」

「そうでしょうとも! …と自慢しましたが、別にここだけ特別栄えているわけではありませんよ……。

 他にもここと同じ様に栄えている都市はありますからねぇ……。

 地獄で割り振られる領土には、大抵同じ星や同じ一族…といった生前関わりが深い者達が一纏めにされます。

 私の場合は、同じ一族とフリーザ軍がそのまま一纏めにされ領土を与えられました。

 なので、科学力に特化した星出身の者達が多い場所は、ここと同じ様に栄えていたりしますね……。

 ここが栄えているのは、私が地獄で引き抜いた知識ある者達の成果ですがね……」

「なるほどな……」

「さて、無駄話をしている暇はありません…!! さっさと行きますよ!!!」

 

 

 そういうと、フリーザは都市で1番高い建物の屋上へと降りていく。

 そして、セルもフリーザに続く形で降りていく。

 屋上に降り立つと、2人の前に5人の漢達が跪いていた。

 

 

「お帰りなさいませ!! フリーザ様!!!」

「「「「お帰りなさいませ!! フリーザ様!!!」」」」

 

 

 最初に声を発したのは真ん中で跪いた、肌が薄い紫色をした筋肉隆々の漢だった。

 そして、それに続く形で他の4人の漢達も声を上げる。

 

 

「戻りましたよ! 特戦隊の皆さん……」

 

 

 出迎えたギニュー特戦隊に声をかけたフリーザ。

 そして、セルは無言で目の前に跪いている漢達に視線を向け、瞬時に彼らの戦闘力を把握する。

 そんなセルの視線に気づいたのか、ギニューがセルに視線を向ける。

 

 

「何だ? 貴様は……?」

「彼はセルさんといいます…。 私の新たな協力者ですよ……」

「協力者…? 新たな配下ではないのですか……?」

「えぇ、彼とは計画を遂行するまでは対等の関係を結んでいます。 あなた達も失礼がないように……」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 フリーザの横に堂々と立っているセルに声をかけたギニューに、フリーザからフォローが入る。

 対等の関係という言葉が出た時は、僅かに驚いた表情を浮かべた5人だったが、フリーザから命令されれば、どんな事であろうが素直に承諾する。

 何故なら、彼らは宇宙の帝王フリーザの忠実なる僕なのだから。

 

 

「セル、フリーザ様が貴様と協力関係を結ぶと言われるのであれば、我らに異論はない」

「フン!」

 

 

 ギニューに声を掛けられたセルだったが、興味がないのか一瞬視線を向けるがすぐに他所に向ける。

 セルの態度にムッとした表情を浮かべるギニュー。

 しかし、この漢はそんな事で激怒したりしない。

 

 

「何だっ? 貴様は恥ずかしがり屋なのか?セルよ!! それでは、仕方ない貴様には我々のとっておきを見せてやろう!!! お前達!!!」

「「「「おぉ!!!」」」

 

 

 ギニューに声を掛けられ、残りの4人も立ち上がる。

 5人の漢達から発せられるただならぬ雰囲気に、セルは自分に挑んで来るのか?と一瞬考えたが、それは盛大な勘違いだった。

 

 

バッ!! 「リクーム!!!」 バーーーン!!!

バッ!! 「バータ!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「ジース!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「グルド!!!」  バーーーン!!!

バッ!! 「ギニュー!!!」 バーーーン!!!

 

 

「「「「「みんなそろって、ギニュー特戦隊!!!!!」」」」 ドガーーーーーン!!!!!

 

 

「………」

 

 

 いきなり盛大におかしなポーズを決めた5人に、ぽかーんとした表情を向けるセル。

 しばらく両者の間に静寂の時が流れる…。

 セルは、静かにフリーザの方に顔を向ける。

 

 セルの視線の先のフリーザも何とも言えない、表情を浮かべていた。

 

 

「フリーザ…、貴様と手を組んだら、私もこんな妙なポーズをとらないといけない等と言うわけではないだろうな……?」

「そんな訳ないだろうっ!!!」

 

 

 フリーザの怒声に、表情にこそ出さないまでも、密かにほっとしたセルだった。

 仮にあの様な妙なポーズをやれと言われていたら、問答無用でここにいるやつ等を吹き飛ばしていただろう……。

 

 

「こ、こほん! それよりギニューさん…、今から3時間後に例の計画をスタートさせますよ……!!」

 

 

 ギニュー特戦隊のせいで、妙な空気になっていた場の雰囲気をフリーザの言葉が再び引き締める。

 フリーザの言葉を聞いた、ギニューをはじめとした特戦隊の面々の顔つきが鋭くなる。

 

 

「はっ! 分かりました、フリーザ様!!!

 必要な装置の方は既に準備が出来ていますので、後は最終準備さえ整えばいつでも計画に移れます!!!」

 

 

 ギニューの言葉に満足そうに頷くフリーザ。

 そして、再び口を開くフリーザ。

 

 

「それでは、計画について改めて確認しましょう。

 今回の計画の目的はスピリッツロンダリング装置によって発生した、膨大な量の負のエネルギーの確保です。

 負のエネルギーを確保したら、我が軍で開発した結界発生装置へとエネルギーを送り込みます。

 すると、すでに配置した各地の端末が起動し、閻魔殿を含めた閻魔界そのものを結界の中に閉じ込める事が出来ます。

 そうすると、閻魔大王の権能をも封じ込める事ができます。

 閻魔大王さえ、排除してしまえば私達を邪魔する存在はいなくなる。

 まぁ、仮にいたとしても、その人達には2度目の死をプレゼントして差し上げましょう……。 ここまではいいですね……?」

 

 

 フリーザの言葉に各々頷く。

 

 

「それでは、計画実行についての話に移ります……。

 計画実行時ですが、流石に我々全てでスピリッツロンダリング装置のある閻魔界に乗り込めば目立ってしまいます。

 なので、今回は計画実行部隊と囮部隊の2つに部隊を分けます。

 私、セルさん、パパ、ギニュー隊長を除いた特戦隊の皆さんは囮部隊です。

 なので、ギニュー隊長……、計画の成功はあなたにかかっていると言っても過言ではありません……。

 私達が派手に暴れて地獄の鬼や閻魔殿のやつ等を引きつけておきますので、その間に計画を遂行しなさい。

 連れていく面子は、あなたに任せますので少数精鋭でおねがいしますよ……」

「はっ!! このギニュー必ずやフリーザ様のご期待に応えてみせます!!!」

 

 

 フリーザから勅命を受けたギニューは、再び跪きフリーザに頭を垂れる。

 

 

「さて、何か質問がある方はいますか……?」

 

 

 そう言ったフリーザは、周りを見渡すが質問は上がらなかった。

 

 

「よろしい…。 ようやく…、ようやく我々にとって楽しい時間がやって来ますよ!!! ホォッホホホホーーーーーッ!!!!!」

 

 

 これまでの鬱憤を晴らすかの様な宇宙の帝王の邪悪な笑い声が、地獄の空に響き渡った……。

 そんなフリーザをこれから起きるであろう戦いを想像して、邪悪な笑みを浮かべながら見守る人造人間セル。

 この2人の巨悪の前にあの世の住人達は、あの世を守りきる事が出来るのであろうか……?




閻魔大王の設定は正直、こうでもしないと閻魔大王って何回殺されてもおかしくなくね?って思ったからです。
映画やテレビの設定をなんとか落とし込む為に無理矢理感が否めませんが、許してください。


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あの世一武道会編-Ep.03

これにて、フリーザ達のクーデターは終わりを迎えます。
次からは、本当にあの世一武道会について書いていきます。


 3年かけて地獄転覆を企てていたフリーザはセルという強力な助っ人を得て、ついに計画を実行する事を決意した。

 今、フリーザの眼下にはフリーザ軍の本拠地に集った、大勢の配下の悪人達が勢揃いしていた。

 その数百は下らない配下達は、自分たちの頭上に立つ圧倒的な強者のオーラを放つ帝王に興奮の目を向ける。

 

 そんな自分の言葉を待つ配下達に向け、ついに宇宙の帝王フリーザの口が開かれる。

 

 

「皆さん、遂にこの日がやって来ました!!!」

「「「おおぉーーーーーっ!!!!!」」」

 

 

 フリーザの言葉を聞いた悪人達は凶悪な笑みを浮かべ、雄叫びを上げる。

 配下達の歓声がやむと再び口を開くフリーザ 。

 

 

「地獄にやって来てからというもの、我々は常に我慢を強いられて来ました……。

 しかし、それも今日で終わりです!!!

 忌々しい閻魔大王や、地獄の鬼達に裁きの鉄槌を下し、この地獄を恐怖と殺戮で塗り替えるのです!!!」

「「「おおぉーーーーーっ!!!!!」」」

 

 

 宇宙の帝王フリーザの宣言により、巨大な本拠地を揺るがすほどの大歓声が再び上がる。

 これまで我慢に我慢を重ねた地獄の悪人達は、ついに自分達の力を思う存分解放出来る事に喜び勇んでいた。

 

 

「それでは、フリーザ軍、全軍出撃!!!」

 

 

 フリーザの後ろに控えていた、ギニューの言葉で天井が左右に大きく開かれる。

 そして、自分達の頭上に姿を現した空に向かって、次々と血に飢えた獣達が放たれたのだった……。

 

 

「さて、ギニューさん、それでは手筈通りよろしくお願いしますよ。

 仮に私達が捕まったとしても、あなたが計画を成功させれば私達はすぐに出てくる事が出来ますからねぇ……」

「はっ!! お任せ下さい!! フリーザ様っ!!!」

 

 

 そう言うと、ギニューは背後に控えていた4人を引き連れ、空へと飛び出した。

 今回の計画の要は、ギニューとこの4人の計5人が本命部隊だ。

 ギニューを見送ったフリーザは、さらに自身の後ろに控えていた2人に目を向ける。

 

 

「ザーボンさん、ドドリアさん、貴方達は念のために、地獄の各地に設置した端末の確認に向かいなさい……。

 我々の計画の邪魔になる様な者は、1人残らず始末しなさい。

 本来なら、私の側近である貴方達だと目立ってしまう可能性も大きいのですが、この計画には各地に設置した端末も重要ですからねぇ……。

 貴方達なら、まずやられたり失敗する心配はないでしょう……。 頼みましたよ!!」

「「はっ! フリーザ様!!」

 

 

 フリーザの命を受けた、ザーボンとドドリアも空へと飛び出した。

 2人を見送ったフリーザに背後から声が掛けられる……。

 

 

「フッフフフ…、いよいよだな、フリーザよ……!!」

 

 

 フリーザが振り向くと、そこにはどこかフリーザに似た面影をもつ巨体の男が立っていた。

 

 

「遅かったね、パパ…。 もうすぐパーティーがはじまるよ!!」

「なに、久しぶりに血が騒いでな……。

 ようやく、私達を殺したサイヤ人達を存在ごと消し去れるのだと思ったらな……」

 

 

 フリーザ達はこれまでの調査で地獄に自分たちがかつて滅ぼした、サイヤ人達が存在している事をしっかりとつかんでいた。

 

 

「ふふっ、確かにそれも楽しみだけど、それはこの計画が終わってからのお楽しみだよ、パパ。

 今殺しても、あいつらはすぐに復活してしまうからねぇ……」

「そうだったな…。 それで…、あいつがお前の協力者か……?」

 

 

 フリーザとフリーザの父、コルド大王は壁に背を預けている存在に目を向ける。

 

 

「ええ…、彼がセルさんだよ……」

「なるほど…、ただ者ではないな……」

 

 

 壁にもたれ掛かっているセルの姿を一目見て、コルド大王もフリーザ同様、セルの底知れない実力を感じ取った。

 この一族は、力だけで宇宙を支配して来たわけではないのだ……。

 人の力を見分ける才覚も持ち合わせていたからこそ、彼らは宇宙を効率よく支配し、また文明を大きく発達させるに至ったのだ。

 

 2人の視線に気付いたのか、目を閉じていたセルが瞼を開け、2人と視線を合わせる。

 セルと視線を合わせた2人は、視線を合わせただけだといいうのに、背筋に寒気の様なものが走るのを感じられずにはいられなかった。

 そんな2人の様子がおかしかったのか、セルの口元に笑みが浮かぶ。

 

 

「フッ…、どうした……? 宇宙を支配した一族が浮かべる顔だとは思えない様な表情をして……」

 

 

 セルの言葉に、フリーザとコルド大王の表情が苦々しく歪む。

 しかし、そんな2人を無視してセルは口を開く。

 

 

「それで…? これから私達はどうするのだ……? お前の話では、私達も囮とやらを担当するのであろう?」

「え、ええ…、そうです! 貴方の働き、期待していますよ……。 セルさん……」

 

 

 セルの問いに、何とか無理矢理浮かべた笑みで、返事を返すフリーザ 。

 そんな、フリーザの様子を小馬鹿にした様な笑みを浮かべたセルは、空へと飛び出す。

 そんな、セルを憎々しい表情でフリーザは見上げる。

 

 

「あ、あいつ…、こ、このフリーザ様をバカにしやがって……!!!

 計画が完了したら、完全に存在ごと消し去ってやる……」

「確かに、味方だったら良いが…、後々の事を考えると、早々に対処した方が良いだろう……!!」

「ふぅ、とりあえず、今は計画の成功が最優先だからね…。 今は生かしおいてあげるさ……」

 

 

 セルを追う様に、フリーザとコルド大王も空へと繰り出した。

 

 

 

 そして、時は現在へ流れる……。

 

 

 

 セルとフリーザ達は、近くの集落から侵略を開始した。

 襲われた大抵の者達は、閻魔大王の権能を恐れている為、フリーザ達に反撃せずに逃げる事を選んだ。

 しかし、元々地獄にいる者達は悪人で血気盛んな者も多いので、当然反逆する者達も現れた。

 

 だが、フリーザ軍には、ただでさえ戦闘力の高い者達が揃っており、さらに人数も多い為、襲われた者達は殆ど殺されてしまった。

 しかも、これまでの鬱憤を晴らす様に、あえて甚振る様に時間をかけ、痛め付け殺すという非道まで行っていた。

 当然そんな事をしていれば、地獄の鬼達も黙ってはいない……。

 

 フリーザ軍を取り抑える為に、地獄の鬼達も総出で事に当たったが、一般戦闘員はともかく、セルやフリーザ、コルド大王はおろか、特選隊にも戦闘力で劣っていた為、あっという間に返り討ちにあってしまった。

 そして、また1匹の鬼がセルによって、剣山の様な針山へその身を投げつけられた。

 

 

「オニッーーーッ!!!」

 

 

 投げられた鬼が叫び声を上げる。

 あと、数瞬で針山に激突するその瞬間、シュンと風を切り裂く様な音を立て、何者かがその鬼を窮地から救い出した。

 

 

「むぅ?」

 

 

 セルが何事かと視線を空中に向ける。

 すると、視線の先には、この場にいる大半の者にとって因縁の相手と言って良い存在が空中に佇んでいた。

 

 

「オメェ等、地獄に来てまで悪さを続ける気かっ!?」

「フッ!」

「孫…悟空……!?」

 

 

 暴れていたフリーザ達の前に姿を現したのは、セルとの戦いで死んであの世にやって来た、孫悟空だった……。

 悟空の姿を見た、セルは不敵な笑みを浮かべ、フリーザは忌々しそうに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 そんな2人を見下ろしながら、悟空は再び口を開く。

 

 

「ちっとも、反省してねーよだなぁ!!」

「これはいい…、どうやらお前も死んだらしいな! また会えて嬉しいよ。 特戦隊のみなさん……」

 

 

 フリーザの掛け声により、飛び出した4人のギニュー特戦隊攻撃から再び始まった因縁の対決。

 しかし、今回ばかりは、セルやフリーザ達にとって運が悪かったとしかいいようがなかった……。

 この場に現れたのが、悟空だけだったらセルやフリーザ達の勝利は揺るがなかっただろう。

 

 しかし、今回悟空と共に地獄にやって来たのは、大界王星で長年修行を積んだ西の銀河一の武道家、パイクーハンだった。

 その実力は、現在の悟空の戦闘力を遥かに上回っていた。

 途轍もないスピードと強さで、セル、フリーザ 、コルド大王をあっと言う間に下すパイクーハン。

 

 その実力に共にやって来た、悟空も驚きを隠せなかった。

 パイクーハンの圧倒的な攻撃により、発生した竜巻でセルやフリーザ達は針山へ吹っ飛ばされる。

 

 

「「「「「うわぁーーーっ!!!!!」」」」」

 

 

 叫び声を上げながら、針山へ吹き飛んだセル達は、地獄の鬼達によって、厳重な牢に収監される事になった。

 

 

「くっそーーーっ!!!」

「やられるばかりで、死ねんとは……」

「くぅ…、まるで地獄だ……」

 

 

 こうして、彼等のクーデターは幕を閉じた…筈だった……。

 

 

「ふぅ…、こんなに早くやられた事は業腹ですが…、何とか囮の役割は果たしたでしょう……」

 

 

 牢の中で、ポツリとフリーザが呟くと、これまで怒りや悔しさの声を上げていた者達の声がピタリと止まる。

 そして、皆の視線がフリーザの方へ注がれる。

 

 

「計画では、もうそろそろ本命のギニューさん達が、閻魔界へ侵入しスピリッツロンダリング装置を抑える頃だと思うのですが……」

「あんな雑魚が本当に使えるのか…?」

「たっ、隊長が雑魚だとぉ!!!」

 

 

 自分が立てた計画内容を思い出し、本命の計画遂行状況を推察するフリーザに、セルが人選がギニューでよかったのかと問いかける。

 その言葉に、ジースを筆頭に特戦隊の者達が怒りをあらわにするが、フリーザに視線だけで黙らされる。

 

 

「確かに、ギニュー隊長は戦闘力だけだったら、私や貴方には遠く及びません。

 しかし、彼には特殊な能力が使えましてね…、今回の作戦遂行にはその能力が必要不可欠なのですよ……」

「特殊な能力だと…? 何だそれは……?」

 

 

 フリーザの言葉に疑問の表情を浮かべ問いかけるセル。

 

 

「ギニュー隊長には、ボディチェンジという他人の肉体と自分の肉体を入れ替えるという能力が使えるのです。

 今回の彼らの目的は、戦闘によるスピリッツロンダリング装置の奪取ではありません。

 閻魔大王や鬼達に気付かれずに、施設に潜入して装置を奪取する事です」

「なるほどな…。 施設で働いている鬼とボディチェンジとやらを行い、鬼と入れ替わり侵入するという事か……」

「ええ…、ギニュー隊長はああ見えて、数多くの任務もこなしているので判断力もありますからねぇ。

 能力と経験を考えれば、彼以外にはこの任務は務まらないのですよ……」

 

 

 フリーザ達がそんな事を話していると、突然牢のドアが勢いよく開かれる。

 そして、鬼達によってフリーザ軍の戦闘服を着た、5人の男達が牢の中に叩き込まれる。

 フリーザ達は、その中の1人の顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「ギ、ギニュー隊長!? な、何故ギニュー隊長がこんな所にっ……!?

 ま、まさか…、し、失敗したのかっ!?」

 

 

 どうやらギニューは気絶しているせいか、大声を上げたフリーザに無反応だった。

 それが気に障ったのか、フリーザはギニューに近づくと蹴りを叩き込む。

 

 

「起きろ!! ギニュー!!!」

 

 

 無残に蹴り飛ばされたギニューに向かって、怒声を飛ばすフリーザ。

 今の蹴りで意識が戻ったのか、ギニューの身体がピクリと反応する……。

 

 

「うっ…、ここは……」

「お目覚めかい…ギニュー隊長?」

「はっ!? フ、フリーザ様っ……!?」

 

 

 フリーザの声を聞いた事で、完全に意識が覚醒したギニューに絶対零度の視線を向けるフリーザ。

 

 

「それで…、どうしてお前がこんな所にいるっ!? 計画はどうしたっ!?」

 

 

 再び発せられた怒声に、ギニューは即座にフリーザの前に跪く。

 

 

「も…、申し訳ありません…フリーザ様……。 計画は失敗しました!!!」

 

 

 ギニューから発せられた言葉に、フリーザは苦々しい表情を浮かべる。

 長年かけた計画が失敗したからか、怒りによって身体からは禍々しい気が溢れ出していた……。

 フリーザは人差し指をギニューに向ける。

 

 人差し指の先には、膨大なエネルギーを圧縮した光が輝いていた。

 怒りで頭に血が上ったフリーザには、地獄の法など頭から完全に消え去っていた。

 ここで、フリーザがギニューを殺してもギニューはすぐに復活して、フリーザの立場が今以上に悪くなるだけなのだが、そんな事にすら考えが及ばなくなっていた。

 

 

「オレの計画は完璧だった……。 何故失敗したのか答えろっ!!!」

 

 

 フリーザから発せられる強烈な殺気に、ギニューの全身から冷や汗が吹き出る。

 

 

「サ、サイヤ人です……」

「…何だと? 今…、サイヤ人…と言ったのか……?」

「はい…、我々の邪魔をしたのはサイヤ人の男でしたっ……」

 

 

 ギニューから発せられた言葉に、ピクッと反応を示したフリーザ 。

 しばらく牢の中に張り詰めた空気が流れる。

 しかし、その時間も長くは続かなかった……。

 

 フリーザの指からエネルギーの塊が静かに消えたからだ。

 それと同時に、牢の中の空気も幾分か和らいだ。

 

 

「まずは、聞かせなさい…。 貴方達に何が起こったんですか……?」

「はっ! それでは、話させていただきます…。 あれは……」

 

 

 そして、ギニューは語り出す……。

 宇宙の帝王フリーザが長年かけて計画した作戦が失敗した、その時の様子を……。

 

 

 

 時間は数時間ほど遡る……。

 

 

 

 フリーザ軍の本拠地を出陣した、ギニューを含めた本命部隊5人は猛スピードで地獄の空を飛行していた。

 今回の計画は、時間との勝負なのだ……。

 いかに、フリーザやセルが陽動をしてくれているからといって、ここが死後の世界である以上安心は出来ない。

 

 何故なら死後の世界には、現世の世界にはない理が存在するからだ……。

 それは、単純に戦闘力だけでは片づけられない事態も容易に起こり得るという事だ……。

 

 

「ギニュー様、囮部隊からの連絡です…。 囮部隊は予定通り本拠地の近くの集落に侵攻を始めした」

「分かった! こちらも予定通りあと数分で、目標施設の真下に着く。 急ぐぞっ!!」

「「「「はっ!!!!」」」」

 

 

 背後の部下から報告で、計画の進行状況を確認したギニューは改めて背後の部下達に檄を飛ばす。

 今ギニュー達が目指している場所は、閻魔界にあるスピリッツロンダリング装置が設置されている施設だ。

 地獄は閻魔界の真下にある。

 

 閻魔界と地獄の間には境目として黄金いろの雲がある為、その雲を突き抜ければ閻魔界までなら地獄の住人も行く事は可能だ。

 しかし、閻魔界より上にある、天国や界王星、大界王星へは行く事は出来ない。

 ギニュー達はスピリッツロンダリング装置がある施設の真下まで移動し、そこから天国と地獄の境の雲を突破し、施設に侵入する予定なのだ。

 

 

「事前調査によれば、例の施設の入り口の見張りは通常2人。

 だが、今の時間帯は見張りの内の1人が場を離れる……。

 休憩か他の業務かは知らんが、その時間はおおよそ1時間…、その間に残りの見張りと入れ替わる」

 

 

 ギニュー達はこれまでの調査で、施設内の鬼達の行動をある程度把握していた。

 今回の計画では、ギニューが見張りの鬼と入れ替わり施設内に侵入後、監視室を用意した即効性の強い睡眠薬を散布する事で無効化した後、残りの4人を施設内に手引きする。

 そして、スピリッツロンダリング装置を奪取しようとしているのだ。

 

 その後、結界装置をスピリッツロンダリング装置が生成した負のエネルギーを、エネルギー源として装置を稼働するつもりなのだ。

 

 

ピピピッ…

 

 

 ギニュー達が目標ポイントを目指し飛行していると、ギニューのスカウターから通信を知らせる音が聞こえてきた。

 

 

「私だ! そちらの様子はどうだ? ギニュー」

「ザーボンか。 こちらは後数分で目標ポイントへ到達する!!」

「なるほど、順調だな……」

 

 

 ギニューに通信して来たのは、ザーボンだった。

 

 

「そちらは、どうだ? ザーボン」

「私もドドリアも確認を済ませたが、端末の方は問題ない」

「つまり、我々が成功すれば万事が上手くいくという事だな!!」

「そういう事だ…。 期待しているぞ、ギニュー!!」

「フッ! 当然だ、私は超エリート部隊、ギニュー特戦隊の隊長なのだからなっ!!!」

 

 

 ザーボンとの通信を終え、それから5分ほど飛行して、間も無く予定のポイントへ到着しようとした時に、ギニュー達の目前に1人の男が背を向け佇んでた。

 

 

「何者だ……?」

 

 

 ギニューがそう呟くと、目の前の男が静かに振り向く。

 その男の顔を見て、驚きのあまり驚愕の表情を浮かべギニューは飛行をストップさせる。

 そんなギニューの様子がおかしかったのか、目の前の男は不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「よう…!」

「き、き、貴様は…、そ、ソンゴクウ……、な、何故貴様がここにいる……!?」

 

 

 予想外の状況に、ギニューの口から驚きの声が上がる。

 ギニューにとって、孫悟空とは、ある意味でトラウマのような存在だった。

 何故なら、ギニューはナメック星で悟空のせいで、カエルと体を入れ替えるハメになったのだ。

 

 

「ほぅ、どうやらテメェはカカロットと何やら縁があるみてぇだな……?」

「……何だと?」

 

 

 目の前の男の言葉で、幾分か冷静になったギニューは改めて男の姿を確認する。

 先程は、男の顔だけで悟空と勘違いしたが、よくよく見れば、男が身につけているのは旧型のフリーザ軍の戦闘服。

 そして、額には赤いバンダナを巻いており、左頬には十字の傷。

 

 何より、目つきが以前みた悟空と大きく異なっている事に、ようやく気が付いた。

 

 

「貴様…、何者だ……?」

「オレはただのサイヤ人だ…、名乗る程のもんじゃねぇよ……」

「ほぅ…? では、そのただのサイヤ人がここで何をしている……?

 私達は急いでいるのだ…、あいにく貴様のような輩を相手している暇はないのだ!!」

「何を…か…」

 

 

 男は言葉をボツリと呟くと、口元に不敵な笑みを浮かべる。

 すると、身体から間欠泉の様に白い透明なオーラが吹き出す。

 

 

「はっ!こんな所にオレがわざわざいた理由なんて1つしかねぇだろ!!

 テメェ等の邪魔をする為さ!! こっから先は行き止まりだ!!!」

 

 

 気を解放して戦闘態勢万端の目の前の男に、憎々しい表情を浮かべるギニュー。

 

 

「たかが、サイヤ人ごときがオレ達の邪魔をするだとっ? お前達やってしまえ!!!」

 

 

 ギニューの言葉で後ろに控えていた4人の部下達が、一斉に男へ襲いかかる。

 男は全く焦った様な表情を浮かべず、向かって来た4人を迎え撃つ。

 1人目の攻撃を顔を横にずらし、紙一重で交わすと強烈な右のパンチをボディに叩き込む。

 

 2人目がその隙に、攻撃を加えようとするが男の姿が忽然と消える。

 2人目が認識できないほどの超スピードで背後に回り込み、背後からの蹴りを叩き込んだ。

 

 先2人があっさりとやられたので、3人目は遠距離からのビームによる攻撃を繰り出す。

 しかし、その攻撃を男は片手であっさりと払いのける。

 その払いのけたビームは、攻撃を伺っていた4人目に激突する。

 

 自分の攻撃で4人目がやられた事に、驚愕の表情を浮かべた3人目だったが、そんな隙を男が見逃すはずがない。

 3人目が気が付いた時には、既に目の前に男が迫っていた。

 そして、声を上げる暇もなく、男の強烈な右ストレートが3人目の顔面に叩き込まれた。

 

 僅か数秒の出来事だった…。 男はあっという間に4人のギニューの部下達を下し視線をギニューに向ける。

 

 

「……なるほど、ただのサイヤ人では無いという事か」

「次は、テメェの番だ……!!」

 

 

 2人の視線が激しく交差する。

 張り詰めた緊張感が場を支配する。

 しばらくそんな緊張が続いたが、2人の姿が忽然と消える…。

 

 続いて、轟音と衝撃が地獄に響き渡る。

 原因は、男の腕とギニューの腕がぶつかったからだった。

 そして、弾かれる様に離れると同時にギニューが男に向かってエネルギー弾を放つ。

 

 しかし、即座に体勢を整えた男はそのエネルギー弾を躱すとギニューに向かって突撃する。

 

 

「ちっ!」

 

 

 自分に向かってくる男に、苦々しい表情を浮かべるギニュー。

 ただでさえ、時間が無いというのに、目の前の男がそう簡単に片付けられる存在でも無いという事を、先の部下と男の戦闘を見て確信していたからだ。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 ギニューの間合いに入り込んだ、男の拳がギニューに向かって繰り出される。

 しかし、その拳を躱しギニューはカウンターの要領で男に繰り出す。

 だが、男はその拳を繰り出した拳とは逆の手で払いのける。

 

 男とギニューはゼロ距離での接近戦に突入する。

 2人の男が繰り出す拳の音が地獄の空に響き渡る。

 

 

「だぁ!!!」

「ちぇい!!!」

 

 

 男とギニューの拳が激突する。

 その衝撃で2人は弾け飛ぶが、即座に体勢を整えた2人は構えたまま向かい合う。

 

 

「ふん! なかなかやるじゃないか!!

 サイヤ人と侮っていたが、認めよう…、貴様は間違いなく強者だ……!!!」

「そいつは光栄だな! フリーザ軍きってのエリート部隊の隊長様に褒められるとはな……」

「だが…、生憎とオレには時間がないのでね……。 悪いがそろそろ終わらせてもらうぞっ!!!」

 

 

 ギニューの言葉に、男は気を引き締めた様な表情を浮かべる。

 そんなに男に不敵な笑みを浮かべたギニューは、静かに両腕を開く。

 その構えは、対象者にとって絶望にも近い能力を発動する為の構えだった……。

 

 ギニューの全身を怪しい光が覆う…。

 そして、遂にギニューはその能力を発動させる。

 

 

「チェーーーンジ!!!!!」

 

 

 ギニューの叫びと同時に全身から光が男に向かって放たれる。

 もう、あと数瞬で男に光が直撃する瞬間、ギニューの目の前から男の姿が忽然と消える。

 

 

「!?」

「後ろだっ!!!」

 

 

 突然の事態に驚きの表情を浮かべる、ギニュー。

 そして、背後から声が響いたと思ったら途轍もない衝撃が、ギニューの背後から叩きつけられる。

 

 

「がふっ!!!」

 

 

 あまりの威力に地面に撃墜させられたギニューは、倒れたまま痛みを堪えた表情で頭上に目を向ける。

 すると、男が腕を組んだままギニューを見下ろしていた。

 

 

「ちっ!」

 

 

 未だ痛む体に舌打ちしつつ、ギニューはなんとか立ち上がる。

 すると、男がギニューの目の前に降り立つ。

 

 

「ボディチェンジって言ったか? テメェの能力は……。

 身体を入れ替えられるのはゴメンなんでな、悪りぃが潰させてもらったぜ」

「貴様…、どうしてオレの能力のことを……」

 

 

 自分の手の内がバレていた事に苦々しい表情を浮かべるギニュー。

 そんな、表情を浮かべているギニューとは対照的に、男は無表情でギニューを見つめていた。

 だが、ふと何か気になる事でもあったのか視線を明後日の方向に向ける。

 

 

「どうやら…、あっちも終わった様だな……」

「何の事だ…?」

 

 

 突然男が発した言葉に、ギニューは背筋に寒いものが走るを感じた。

 

 

「ん? ああ、どうやら…ちょうど今フリーザの野郎達がやられた様だぞ……」

「なっ、何だと!?」

 

 

 ギニューの表情に驚愕の色が浮かぶ。

 しかし、男はそんなギニューを無視して、言葉を続ける。

 

 

「別にそんな驚くことでもねぇだろ…、相手をしたヤツはカカロットともう1人だ。

 ただでさえ、カカロットより弱えフリーザがやられるのは、当然と言えば当然だろ……。

 まぁ、フリーザの近くに馬鹿デケェ気が感じられたから、そいつが一瞬でやられたのは驚いたがな……」

 

(カカロットと一緒に来たヤツは何もんだ? 明らかに今のカカロットの実力を超えてやがる……)

 

 

 言葉を発しながら男が、悟空と一緒に来たパイクーハンに思いを馳せていると声が聞こえてきた。

 

 

「カカロットとは、あの、ソンゴクウと言う男の名だったな……。

 あいつが、地獄にいると言う事はあいつも死んだという事か……。

 それにしても…、またしても、あの男に我々の計画が阻まれるとは……、どこまで我々の邪魔をすれば気がすむというのだっ!!!」

 

 

 男が視線を戻すと、怒りで全身を震わせているギニューの姿がそこにあった。

 

 

「だが…、まだだ!! まだ終わってはいないっ!!!

 貴様を倒して、オレが計画を遂行すればまだ終わりではないのだっ!!!」

 

 

 全身に闘志を漲らせ、構えをとるギニュー。

 その表情からは、絶対に計画を遂行するという意思が伺えた。

 

 

「オレを倒すねぇ…、テメェのその気概は認めてやる……。

 だが、悪りぃがテメェには無理だ……、はあっ!!!」

 

 

 男が気合を込める様に叫ぶと同時に、男の全身から黄金いろのオーラが吹き出す。

 すると、黒色だった髪が黄金色へと変わり、黒い瞳は、どこかエメラルドを感じさせる様な碧眼へと変化する。

 宇宙を股にかけたフリーザ軍の超エリート部隊の隊長である、ギニューですら見た事がないほどの圧倒的な力が地獄に顕現する。

 

 その力は、地獄の大気を震わせる…。

 遠く離れた息子に、力の波動を感じさせるほどに……。

 

 男から発せられる圧倒的なオーラに、ギニューは無意識に後ずさる。

 

 

「なっ、何だ!? その姿は…。 サイヤ人は大猿にしか変わらない筈……」

「本当なら、テメェ相手には見せる必要はねぇんだが、テメェがさっき見せた気概への礼だ……。

 こいつは、超サイヤ人ってんだ…。 名前くらいは知ってんだろ……?」

 

 

 男から発せられた言葉に、驚愕の表情を浮かべるギニュー。

 

 

「ス、超サイヤ人だとっ…!? あ、あの伝説の…、フリーザ様すら下したという……」

 

 

 超サイヤ人と聞いて、しばらく動揺した様子が見て取れたギニューだったが、覚悟を決めたのか目の前の圧倒的な存在に視線を向ける。

 

 

「ふぅ、超サイヤ人か…、凄まじいな……。

 なるほど…、フリーザ様すら下すわけだ……。 オレは貴様に敗れるのだろう……」

 

 

 目の前の存在の力に、どこか敬意を込めながら喋るギニュー。

 その内容からも分かる様に、彼は既に自身の結末を確信していた。

 だが、それでも彼の誇りが無様に散る事を許しはしない。

 

 

「だが、ここで逃げるわけにはいかん!! 何故ならオレはギニュー特戦隊の隊長、ギニューだからな!!!

 ここでおめおめと逃げ帰れば愛すべき部下達に顔向けできん!!! 行くぞ!!超サイヤ人……!!!!」

 

 

 再び全身に気を張り巡らせた、ギニューは超サイヤ人へ向け飛び出した。

 

 

「へっ! テメェの様なバカは嫌いじゃねぇぜ!!!」

 

 

 決着は一瞬だった……。

 気を失う前にギニューが見た光景は、自身のボディに突き刺さる拳だった……。

 そして、意識を失うその瞬間、確かにギニューは聞いた……。

 

 

「テメェーの気概、大したもンだったぜ……」

 

 

 圧倒的な強者に、そんな事を言われたからか、ギニューはフリーザの部下としては無念と考えながらも、戦士としてはどこか誇らしく意識を手放した……。

 

 

 

 そして、時は再び現在へ戻る……。

 

 

 

「これが、私たちに起こった全てです……」

 

 

 フリーザの前に跪いたギニューは、自分たちに起こった全てをフリーザに報告した。

 

 

「超サイヤ人…だと……!? ソンゴクウやあの男の他に、まだ居たというのかっ……!?」

 

 

 驚愕の表情を浮かべているフリーザに、後ろから声がかけられる。

 

 

「別にそんなに驚く事でもないだろう…? 今の地球には超サイヤ人は4人もいる。

 地獄に1人くらい居たとしても、不思議じゃない……」

「くっ…、忌々しい猿どもめ……」

 

 

 フリーザに言葉をかけたのは、セルだった。

 そして、セルの言葉にフリーザが苦々しい表情を浮かべる……。

 そんなフリーザに跪いたギニューから声がかけられる。

 

 

「フリーザ様、私に罰をお与えください。

 長年フリーザ様が計画した作戦を遂行できなかった私に!!」

「「「「隊長っ!?」」」」

 

 

 ギニューの言葉に他の特戦隊の4人が驚きの声を上げる。

 フリーザはそんなギニューに冷酷な目を向ける。

 

 

「確かに、お前が計画を遂行していればこんな事にはならなかった……」

 

 

 フリーザから発せられる、強烈な殺気にセル以外の牢屋の住人達から一気に冷や汗が吹き出る。

 

 

「消えろ!!!」

 

 

 その言葉と同時に、人差し指をギニューに向けるフリーザ。

 すると人差し指から、一筋の光が飛び出し、ギニューの眉間を撃ち抜く。

 眉間を撃ち抜かれたギニューは、力が抜けた人形みたいにドサリと倒れると、死体ごと姿を消す。

 

 ギニューの死体が閻魔大王の元へ移動したのだ。

 

 その後、フリーザやセル、フリーザ軍の面々は地獄を転覆しようとした罪により、これまで以上の罰を与えられる事となる。

 特にフリーザは、計画の首謀者ということで、全身を拘束させらえれたミノムシ状態で木に吊るされ、お花畑で楽しそうにパレードをする妖精達を永遠に見続けるという、フリーザにとって苦痛でしかない罰を与えられるのだった……。

 

 これにて、地獄を揺るがすクーデターは幕を閉じたのだった……。

 

 

 

 ギニューがフリーザに殺された、その頃、地獄の荒野に1人の男が佇んでいた。

 その者は、先程までギニューと戦いを繰り広げていた男だった。

 男は、ポケットから端末を取り出し、ボタンを操作する。

 

 すると、端末の画面に1人の男が映し出される。

 

 

「お疲れ様です!! バーダックさん。 地獄での件は終わりましたか…?」

「ああ。 ギニューの野郎を倒して、地獄の鬼達に渡しておいた…。

 これでよかったんだろ?トランクス……」

 

 

 そう、ギニューの相手をしていたのは、孫悟空の父バーダックだった。

 バーダックの言葉に、トランクスは大きく頷く。

 

 

「本来は我々が歴史に介入するわけにはいかないのですが、あの世が乱れてしまったら、その影響は計り知れません。

 下手したら、この宇宙そのものが消えてしまう自体になりかねません……。

 なので、今回はこの時代の人間でもあるバーダックさんにご協力頂いたというわけです」

「まぁ、何でもいいさ! なかなか骨のあるヤツと戦えたからな……」

 

 

 バーダックの言葉に、苦笑いを浮かべるトランクス。

 しかし、内心では、こういう所は、息子と似てるんだなぁと思わずにはいられなかった。

 

 

「とりあえず、これで任務は完了です。 戻ってきてください」

 

 

 トランクスがそう言うと、バーダックの全身が光に覆われる。

 そして、次の瞬間には、バーダックの姿は地獄から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 




ギニュー隊長って、なんだかんだで戦士っぽくて結構好きだったんですよね。

続きは、活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

また、Twitterもはじめましたので、よかったらそちらもお願いします。
こちらも活動報告からご確認ください。


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あの世一武道会編-Ep.04

今日投稿できて、本当によかった。
楽しんでもらえたら嬉しいです。




 ここは、地獄。

 生前罪を犯した者達が行き着く、最終地。

 ここでは生前に犯した罪を償う為に、さまざまな悪人や罪人達が存在している。

 

 そんな場所で今日も生前の罪を償う名目で、とある一族の者達が自分達に課せられた作業をしていた。

 

 

「セリパ、これお願い!!」

「あいよー」

 

 

 ギネから渡された箱を担ぎ、目的の場所まで運ぶセリパ。

 

 

「よし、今日はいいペースで作業出来てるから予定より早く終わりそうだね……」

 

 

 ギネが周りで作業を続けている同族達を見ながら呟くと、箱を運び終えたセリパが戻って来る。

 

 

「いやー、今日はみんな凄いやる気だねぇー。 いつもこんくらいやる気がありゃいいんだけどねぇー」

「サボり常習犯のあんたが何言ってんのさ!!

 まぁ、昨日フリーザがあんな事になっちゃったからねぇ…。

 何だかんだで、みんなあいつの事はずっと不安だったんじゃない……?」

 

 

 ギネの言わんとしている事が理解できたのか、セリパも頷き口を開く。

 

 

「あいつが死んだって聞いた時は嬉しかったけど、地獄に来たって聞いた時は、いつかあたし等サイヤ人を潰しにくるって考えていたヤツも多かったみたいだからね……」

「そうだね……。 地獄の環境を考えればありえないんだけど、相手はあのフリーザだからね……、あいつならそれすらどうにかしちまいそうって無意識に考えてたヤツも多かったみたいだね……。

 現に、あいつは失敗したとは言え昨日動き出したわけだし……、フリーザっていう存在はあたし等が考えていた以上に、不安を与えていたのかもね……」

 

 

 2人はフリーザが地獄にやって来てからの、この3年間を振り返る。

 フリーザが地獄にやって来た時は、地獄中に衝撃が走った……。

 地獄にいる者達はほとんどの存在が、悪人や罪人だ。

 

 蛇の道は蛇ではないが、悪人や罪人だからこそ地獄にいる者達は一般の者達よりフリーザという存在の恐ろしさをよく理解していた。

 そして、同時にフリーザの強さも嫌という程理解していた。

 フリーザが地獄にやって来る数年前、ナメック星で悟空に敗れた時も地獄にはフリーザが敗れたという噂が流れたが、ほとんどの者は噂話として信じていない者の方が多かったくらいだ。

 

 それくらい、フリーザの不敗神話は宇宙全域で絶対的なモノとなっていた。

 だからこそ、フリーザが地獄にやって来た時は、地獄中が大いに揺れたのだ。

 

 その時の想いは、正に人それぞれだっただろう……。

 ギネ達サイヤ人みたいに、一度滅ぼされた者達はまた滅ぼされるのでは?という恐怖。

 悪の帝王に魅入られた者達は、退屈な地獄を変えてくれる存在だという期待の眼差しを。

 

 良くも悪くも、この3年間は皆、心のどこかで、フリーザという存在を意識しなかった日はなかっただろう。

 だが、そんな日々もついに昨日終わりを迎えた……。

 

 

「それにしても、昨日は色々すごかったねぇ……」

「そうだねぇ……」

 

 

 セリパのしみじみした呟きに、同意する様にギネも頷く。

 そして、2人は昨日に思いを馳せる。

 いつもと変わらない日常だったはずが、気づいた時には地獄転覆まであと一歩って事態にまでなっていた昨日を……。

 

 

 

☆ 時は昨日へと遡る……。

 

 

 

「ふぅ……、もう何年もこの作業やってるけど、全然終わる気配がないよね……」

「まったくだぜ!! 別に今更作業をさせる事に文句は言わねぇから、せめて違う事をさせろって言いたくなるな」

 

 

 ぼやくように呟いたギネに同意する様にパンブーキンが声を上げる。

 そんな2人に背後から声がかけられる。

 

 

「お前等、泣き言なんて言ってねぇでさっさと手を動かせ!

 今日はいつもより作業のペースが遅れてんだから、このまんまじゃいつまでたっても終わんねぇぞ!!」 

 

 

 ギネとパンブーキンが後ろを振り向くと、黙々と作業を続けているトーマとトテッポの姿が目に入った。

 どうやら、トーマは作業しながらギネとパンブーキンに声を掛けた様だ。

 今ギネの周りには、トーマとパンブーキン、トテッポの3人が一緒に仕事をしていた。

 

 少し離れた場所では、ラディッツやナッパも同様の作業をやっているのが見える。

 つまり、長年つるんで来たヤツ等が集まって作業しているという状況なのだが、今日はいつもと様子が違っていた。

 タイムパトロールとなって現在地獄にいないバーダックがこの場にいないのは当然として、本来いるべき者が1人いないのだ。

 

 

「ちっくしょー、セリパのヤツがサボったからオレ等にシワ寄せがきてんじゃねぇか……」

 

 

 ギネの隣のパンブーキンが、ここにいない人物の名を恨みがましく呼びながら、しぶしぶ手を動かす。

 それに同意する様に、ギネもため息をつきながら作業を再開しようとした時、ギネ達の頭上から声が降って来た。

 

 

「おーい!! 大変だーーーっ!!!」

「セリパ!! あんた仕事サボってどこいってたのさ!!!」

 

 

 突然の声にギネ達が頭上に視線を向けると、仕事をサボっていたセリパが大声を出しながら、猛スピードでギネ達に近づいて来ているのだ。

 そんな彼女に、彼女がサボったせいで仕事量が増えてイライラが溜まっていたギネが怒りの声を上げる。

 

 

「はぁ……、はぁ……、そ、それどころじゃないんだって!! フ、フリーザがついに動き出したんだ!!!」

「なっ、何だって…!?」

 

 

 息を切らせながらセリパから飛び出した言葉に、ギネが驚愕の表情を浮かべ声を上げる。

 ギネだけじゃなく、周りで働いてたサイヤ人達も同様の表情を浮かべていた。

 

 

「さ、さっき、地獄中の鬼達が同じ方向に急いで移動してたんで、気になって鬼に声をかけたら、フリーザ達が集落を襲ってるって言ってたんだ……!!」

「おいおい、流石に冗談だろ……? 地獄でそんな事をすりゃあ閻魔に消されるだけだぜ……? 流石に、フリーザの野郎もそんな事は分かってんだろ?」

「嘘じゃないって!! あたし等の集落の近くの鬼達もいなくなってるだからさ!!!」

 

 

 セリパの口から語られた追加の情報に、パンブーキンの顔に苦笑いが浮かぶ。

 それがセリパの癇に障ったのか、興奮した様に声を上げる。

 そんなセリパの意見を肯定する様な声が、パンブーキンの横から上がる。

 

 

「落ち着け2人共!! あのフリーザの事だ、無策で動いたわけじゃ無いって事も十分に考えられる……。

 いや、むしろあいつが地獄に来て3年……、今まで何もなかった方が異常だったのかもしれん……」

「ト、トーマ……、そ、それじゃあ……」

 

 

 仲間内では冷静なトーマが、セリパの言葉を肯定する様なセリフを口にしたので、顔を青くしたギネがトーマを見つめる。

 ギネだけじゃ無い。その場にいたサイヤ人達も同様の顔をしてトーマを見つめる。

 そんな同胞達に重々しく頷き、トーマは再度口を開く。

 

 

「今はまだ可能性の話だ……。 だが、オレ達はあいつが如何に狡猾なヤツか身を以て知っている……。

 あの野郎なら、閻魔の力をどうにかする方法を探し出したとしても不思議じゃねぇ。

 とにかく、今は情報が不足しているから情報が欲しい……。

 フリーザの野郎は、ナメック星でカカロットにやられて、オレ達サイヤ人にかなり恨みを持ってやがるだろうから、ここへも必ずやってくるだろう……。

 対策を打つためにも、オレは王にこの事を伝えに行く!! セリパお前も来い!!!

 他の奴らは、集落にいる全サイヤ人に声をかけて、中央広場に集めろ!! いいな!!!」

 

 

 そう言い残すと、トーマは舞空術で空へ飛び出す。

 続いてセリパが焦った様に、トーマを追うべく空へ飛び出していった。

 

 

「おいおい……、マジかよ……」

「と、とにかく、今はトーマが言った様に住民達に声をかけよう!!」

「そうだな……」

 

 

 未だ理解が追いついていないパンブーキンが呆然とした表情で呟くと、それを叱咤する様にギネがこの場にいる仲間達に聞こえる様に声を上げる。

 そんなギネの言葉に、トテッポが重々しく頷く。

 そして、それぞれが今やるべき事を成す為にサイヤ人達は空へと飛び出していった。

 

 

 

 トーマとセリパはベジータ王が住む屋敷の前に降り立つ。

 王の屋敷の前には2人の門番が立っていた。

 

 

「どうした? 王に何か用か?」

 

 

 門番の1人が2人に向かって声をかけてきた。

 

 

「王に至急伝えたい事がある……。 フリーザが動き出したっていう情報が入った」

「なっ、何だと!? フリーザだと……、本当なのか!?」

「真偽は定かでは無い……。 だが、本当だったら放っておくわけにもいかん。

 だから、王に報告して情報を集める為にも偵察隊を出してもらいたくて、ここに来た」

「わ、分かった!! オレが案内する」

 

 

 トーマの言葉を聞いて、2人の門番は驚愕の表情を浮かべる。

 そして、門番の内の1人に案内されて、王の屋敷にトーマとセリパの2人が入ると、屋敷の中では王に仕える側近達が忙しなく動き回っていた…。

 その様子を見たセリパがポツリと呟く。

 

 

「なんか……、こっちも慌ただしいね……」

 

 

 セリパの言葉にトーマも無言で頷く。

 門番に案内されて、広めの部屋に入ると部屋の真ん中にあるデカイ机でベジータ王が真剣な表情で、側近達から次々渡される報告書に目を通していた。

 そんな王に門番が声を掛ける。

 

 

「失礼致します!! 王よ、この者達から至急お伝えしたい事があるとの事です!!!」

「何だっ? 今忙しいのが見てわからんのか!!!」

 

 

 門番の言葉に作業を続けながら、視線すらこちらに向けず、苛立った声で返事を返すベジータ王。

 しかし、続いて聞こえてきた言葉に動きを停止させる。

 

 

「フリーザについての報告との事でしたので、お通ししました」

 

 

 動きを止めたベジータ王の視線が報告書からトーマとセリパの2人に向く。

 

 

「それは、フリーザが奴らの本拠地近くの集落へ侵攻したという報告か……?」

「知っていたのか!?」

 

 

 ベジータ王の言葉にトーマが驚いた声を上げる。

 

 

「当然だ! 奴らがいつ攻めて来ても良い様に、フリーザの本拠地近くのいくつかの集落とは、あいつらに気付かれない様極秘に交易を結んでいたからな……。

 そこの1つから先程、フリーザ達が奴らの本拠地近くの集落を襲っていると連絡を受けた」

「へ〜、意外と仕事してんだね……。 王様も……」

 

 

 ベジータ王が普段からフリーザを警戒して対応していた事に、意外そうな声を上げるセリパ。

 

 

「フン! ヤツが地獄に来た経緯を考えれば、我々はいつ襲われるとも分からんからな……。

 打てる手は打っておく事に越した事はない。 それで、貴様らの報告は、フリーザが暴れているという事を知らせに来ただけか?」

「いや、どうやらセリパが地獄の鬼に聞いたところ、地獄の鬼達も総出で奴らの対応に当たるらしい」

「そうか……。 だが、ヤツ等では動き出したフリーザ達を止める事は出来んだろう……。

 報告によれば、フリーザや大王のコルド、ギニュー特戦隊の他に、フリーザをも上回る強力な助っ人がいるらしいからな……」

 

 

 トーマから地獄の鬼達の対応を聞いたベジータ王は、報告書からの情報と照らし合わせ、戦況を即座に分析する。

 それを聞いたトーマとセリパはフリーザをも上回る強力な助っ人の存在に、表情を青くする。

 彼等は、地獄の水晶でナメック星で繰り広げられた、超サイヤ人へと覚醒した悟空とフリーザの本気の戦いを見ていたからだ。

 

 フリーザすら異次元と言って良いほどの強さを持つのに、そのフリーザすら上回る存在とは、もはや存在の埒外だった……。

 

 

「なぁ、王よ……。 フリーザ達はここにやってくると思うか……?」

「まぁ、まず間違い無いであろう……。 フリーザは我々に恨みを持っているという事もある……が、それ以前にヤツが地獄を征服する気でいるなら、どちらにしろここへはやってくるだろう」

「だよな……」

「フリーザは使える者は生かして利用しようとするだろうが……、我々サイヤ人は恐らく皆殺しにするだろう……」

 

 

 フリーザ達が攻めてきてもまず勝ち目がない事は、ここにいる全てのサイヤ人達は分かっていた。

 いくらサイヤ人が戦闘民族で戦いが好きだからと言って、勝てない相手……しかも、負けたら存在ごと消えてしまう様な状況では流石に好戦的になる事は出来なかった。

 ベジータ王の言葉に部屋中が重い空気に包まれた、そんな時だった……。

 

 

「王!! 大変です!!! 交易を結んでいる集落から通信が届いています!!!」

「分かった。 繋げ」

 

 

 通信機のそばに座っていた、側近の1人の声が部屋中に響き渡った。

 ベジータ王が部下に指示を出すと、部屋に設置されている巨大モニターにサイヤ人とは違う人物が映し出された。

 

 

『突然の通信失礼する』

「イメッガの集落の長か……。 突然どうした……? フリーザ達に更なる動きでもあったか?」

『ああ、たった今、我が集落の偵察部隊から連絡が入ったのだが、フリーザ達がやられ、地獄の鬼達に捕らえられ牢に収監された様だ』

「なっ、なんだと!? それは本当かっ!?」

 

 

 交易を結んでいる、イメッガの長からもたらされた情報に、ベジータ王は驚愕の表情を浮かべ驚きの声を上げる。

 ベジータ王だけではない。

 その場にいた、他のサイヤ人達も同様の表情をしていた。

 

 

『本当だ……。 天国から遣わされた2名の戦士があっと言う間に奴らを制圧した。

 閻魔大王が迅速な対応をとったお陰であろうな……」

「2名の戦士だって……? たった2人であいつらを制圧したって言うのかい!?」

「お、おい!! セリパ!?」

 

 

 長から伝えられた情報に、思わずセリパが驚きの声を上げる。

 長同士の話し合いに割り込んだセリパを、慌ててトーマが止めようとセリパの口を塞ごうとするが、イメッガの長がそれを手だけで気にするなとジェスチャーする。

 そして、再び口を開く。

 

 

『そういえば、2人の内1人はサイヤ人だったと聞いている……』

「サイヤ人だと!?」

 

 

バーーーン!!!

 

 

 ベジータ王が驚きの声を上げたと同時に、部屋の扉が勢いよく開かれれる。

 

 

「トーマ、セリパ!! みんなを広場に集めたよ!!!」

 

 

 勢いよく部屋に入って来たのは、仲間達と集落中の同胞を集めに行っていたギネだった。

 部屋中の視線がギネに集まる。

 

 

「あ、あれ……? みんな、どうしたの……?」

 

 

 部屋中の視線が自分に集まっている事に気付いたギネは、戸惑いの声を上げる。

 

 

「貴様はもう少し大人しく入って来れんのか!!!」

「ご、ごめんなさぁーーーい!!!」

 

 

 ベジータ王に一喝され、即座に頭を下げるギネ。

 

 

「と、ところで……、今どんな状況なんだい……?」

「そ、それが、どうやらフリーザ達は既に誰かに倒されたみたいなんだ……」

「ええっ!? 地獄にフリーザを倒せるヤツなんかいたのかい!?」

 

 

 ギネは近くにいた、セリパに声をかけるとセリパが簡単に状況を説明する。

 フリーザが倒された事に驚きの声を上げる。

 

 

「しかも、2人で奴らを制圧したらしい…」

「それについて、詳しく話を聞いている所に貴様がやってきたのだ!!」

「も、申し訳ありません……」

 

 

 セリパの言葉を捕捉する様に、トーマとベジータ王が言葉を続ける。

 そして、ベジータ王の言葉を聞いて、シュンと項垂れるギネ。

 

 

「さて、うちの者達が大変失礼した。 イメッガの長よ。 話を続けてもらえるか……?」

『はっはっは……。 聞いていたサイヤ人の印象と随分違うな、ベジータ王よ。

 たしか、フリーザ達を倒したサイヤ人についてだったな……』

 

 

 脱線した話を戻す様に、ベジータ王がイメッガの長に話しかける。

 すると、イメッガの長はたいして気にしていない様に、笑い声をあげる。

 

「フリーザを倒したサイヤ人? カカロットの事……?」

「違うよギネ……。 暴れていたフリーザ達を天国から来た2人があっと言う間に倒しちゃったんだってさ!

 それで、その内の1人があたし等と同じサイヤ人なんだってさ」

「えっ!? たった2人でフリーザ達を倒しちゃったのかい!?」

 

 

 イメッガの長の言葉にギネは、フリーザを倒した存在という事で息子の名を口に出すが、それをセリパが先に聞いた情報を伝える事で否定する。

 セリパから聞かされた内容に、先程のセリパ達同様にギネも驚愕の表情を浮かべる。

 

 

『ふむ、たしか報告では、そのサイヤ人はフリーザ達と何やら因縁がある様だったと聞いている……。

 その者が姿を現した時、フリーザがとても強い関心を示していたらしいからな……。

 たしか名前は……、ソンゴクウ……?とか言っておったか……」

「「「えっ!?」」」

 

 

 ギネ、セリパ、トーマはイメッガの長の口から飛び出したサイヤ人の名前に、驚きの表情を浮かべる。

 そんな反応を示した3人にベジータ王が声を掛ける。

 

 

「ソンゴクウ……? 聞いた事ない名だな……。 貴様達はその者の事を知っておるのか?」

「知ってるも何も、ソンゴクウってのは、ギネの下の息子の名前だ!!」

「何っ!? ギネの下の息子の名前はカカロットって名ではないのか!?」

「あいつどうやら、ガキの頃に頭を打ってサイヤ人としての記憶が無くなってやがるらしいんだ。

 それで、ソンゴクウってのは、あいつが送られた星で付けられた名前だ……」

 

 

 ベジータ王の問いにトーマが答える。

 

 

「というか、何でカカロットが天国なんかにいるのさ!? あの子まだ、20代後半ぐらいだろ?」

 

 

 天国から遣わされた戦士が、悟空だと知ってセリパが驚きの声を上げる。

 セリパの言葉に、先日地獄の水晶で悟空が死んだのを知っていたギネの表情が僅かに曇る。

 そんなギネの表情の変化を、トーマは見逃さなかった。

 

 

「ギネ……、お前まさか……、カカロットが死んでいた事を知っていたのか……?」

「な、何だって!?」

 

 

 トーマの言葉にセリパがまたしても驚きの声を上げ、ギネに視線を向ける。

 2人から向けられる視線に、ギネは無言で頷く。

 

 

「ど、どうして……、あの子は伝説の超サイヤ人だろ……? 今や宇宙最強って言ってもいい存在じゃないか……。 まさか…、病気かい……?」

 

 

 セリパの言葉にギネは静かに首を左右に振り、静かに口を開く。

 

 

「昨日、あの水晶で見ちゃったんだ……、カカロットが死ぬところをさ……。

 そして、その後にバーダックの仕事仲間に色々教えてもらったんだ……、カカロット達のことを……」

「色々って……?」

 

 

 再び口を開いたセリパの問いに、ギネは言葉を続ける。

 

 

「実は、カカロットが育った星に、とんでもない敵が現れたらしいんだ。

 そいつの強さは、超サイヤ人となったカカロットや王子以上だったらしいんだ……」

「な…「なっ、なんだとぉ!?」うわぁ!!ビックリした!!! いきなり大声出してどうしたのさ? 王」

 

 

 ギネの言葉に驚きの声を上げようとした、セリパ以上に大きな声を上げるベジータ王。

 ギネ達3人の他に、部屋中の視線がベジータ王に集まる。

 だが、ベジータ王はそんな事等気にしたそぶりも見せず、ギネに近づく。

 

 

「な、何!?」

 

 

 無言で近づいてきた、ベジータ王に若干恐怖を感じるギネ。

 そんな、ギネの言葉を無視して、ベジータ王の両手がガシッとギネの両肩を掴む。

 

 

「ギネ、王子が超サイヤ人になったというのは本当か!?」

「へ?」

「本当かと聞いている!!」

「ああ……、本当だよ……」

 

 

 有無を言わせず、問いかけるベジータ王に戸惑いながらも返事を返すギネ。

 そして、ベジータが超サイヤ人へ覚醒したと知ったベジータ王の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

「そうか……、そうか……さすが我が息子だ……」

 

 

 感慨深げに呟くベジータ王。

 だが、その感慨も長くは続かなかった……。

 

 

「だが、超サイヤ人になった王子やカカロットより強い敵が現れたって本当かよ……?」

 

 

 話を戻す様にトーマがギネに問いかける。

 

 

「うん……」

「嘘でしょ!? じゃあ、カカロットはそいつに殺されちゃったのかい……?」

「だがよ、ナメック星でのカカロットの戦いを見たが、超サイヤ人になったあいつが負けるなんて信じられねぇぞ……。

 しかも、今は王子も超サイヤ人になれるんだろ……?」

 

 

 セリパもトーマもナメック星で超サイヤ人へと覚醒した悟空の戦いを、その目で見た事があるからこそ、ギネの言葉を俄かに信じる事が出来なかった。

 

 

「我々サイヤ人の伝説”超サイヤ人”よりも強い存在など、俄かには信じられん。

 しかもそれが2人も揃っているというのに、それ以上の強さを持つ存在などいる筈がない!!

 ……と言いたいところだが、貴様の息子が死んだという事が事実なのであれば、認めたくは無いが事実なのだろう……」

 

 

 ベジータ王の言葉にセリパとトーマは口を噤む。

 そんな2人を尻目に再びベジータ王がギネに問いかける。

 

 

「だが、カカロットが死んだと言うなら、その敵との戦いはどうなったのだ……?

 まさか!? 王子も死んだというのか……!?」

 

 

 ベジータ王の問いかけに、ギネは静かに首を振り、再び口を開く。

 

 

「その敵を倒したのは、カカロットの息子……ゴハンだよ……」

「カカロットの息子って、あのチビがかい!?」

「嘘だろ!?」

 

 

 ギネから飛び出した名前に、セリパとトーマが驚愕の表情を浮かべ口を開く。

 それも仕方ない事だろう。2人の中での悟飯はナメック星での戦いで見た、幼い姿で止まっているのだから……。

 

 

「カカロットの息子が、超サイヤ人の王子とカカロットをも超える敵を倒したと言うのか? 一体どうやってだ……?」

 

 

 悟飯の存在を知らないベジータ王は、2人より幾分か冷静だった事もあり単純に頭に浮かんだ疑問を口に出した。

 

 

「ゴハンも既に超サイヤ人へと覚醒を果たしていたんだ。

 あの子は、その敵との戦いの中で、カカロットや王子にも超えられなかった超サイヤ人の壁を超え、超サイヤ人を遥かに超える力を手にしたらしいんだ……。

 そして、その強さでその敵を、あと一歩というところまで追い込んだ……」

「あと一歩……?」

 

 

 怪訝そうな表情で再度ベジータ王が問いかける。

 

 

「ゴハンに追い込まれたそいつは勝ち目がない事を悟ると、ゴハンやカカロット、王子はもちろん、星諸共自爆して全てを消し去ろうとしたんだ……」

「なっ、何さそれ!?」

 

 

 セリパが驚きの声を上げるが、ギネは言葉を続けた。

 

 

「その敵は、自分の身体を風船の様に膨らませていき、もうそいつ自体に攻撃したらいつ爆発してもおかしく無い状態だったんだ。

 もう、誰もが全てを諦めたその時、あの子だけが……カカロットだけが、その危機的状況を打開する方法を持ってたんだ……」

 

 

 静かに語り続けるギネの口調に、その場にいる者達も緊張感に包まれる。

 話の内容からして、もう自爆に巻き込まれる未来しか思い描く事は出来なかった。

 だが、そんな未来を打開する方法があるとギネは口にした。

 

 この場にいる誰も、その打開方法を思い浮かぶ事が出来なかった。

 そして、そんな皆の気持ちを代弁する様に、トーマが口を開く。

 

 

「打開する方法だと……? 一体どうやって……?」

 

 

 皆の視線が集まる中、ギネは静かに眼を閉じる。

 ギネの脳裏には、地獄の水晶で見た一部始終の光景が映し出されていた……。

 その中でも特に思い起こすのは、あの時のあの光景……。

 

 これから死ぬというのに、孫の成長を心の底から喜び、優しそうな笑顔を見せる息子の顔だった……。

 

 

「ギネ?」

 

 

 セリパの呼びかけに、はっ!とした表情を浮かべ、眼を開けるギネ。

 そんなギネに、心配そうな表情を浮かべセリパが再び口を開く。

 

 

「大丈夫かい……?」

「ああ……、うん……。 大丈夫……」

 

 

 どこか儚い笑みを浮かべ返事を返すギネ。

 そして、一息吐いた後、再び話を続けるために口を開く。

 

 

「カカロットは、瞬間移動…つまり、一瞬で遠くまで移動する技を身につけていたらしいんだ……。

 それを使って、敵が爆発する数秒前に他の星に移動したんだ……。 そして……」

 

 

 言葉を続けていたギネの口が突然止まったと思ったら、俯き身体を震わせる……。

 そんなギネの様子で、悟空がその後どうなったのか、この場にいる全ての者達が察する事が出来た……。

 部屋の中の空気が物悲しい雰囲気に包まれる……。

 

 サイヤ人は別段仲間意識が強い民族ではない。

 なぜなら、親子であろうと平気で殺しあったりするほど、戦闘を好む民族なのだ……。

 そんな、彼等からしてみれば同族の死とは、身近なモノであり日常の光景でもあった。

 

 だが、そんな彼等にも共通の想いがある……。

 いや、あったというのが正解だろうか……。

 それは、自分達サイヤ人をいい様に扱い、用済みとなったら星諸共消滅させたフリーザへの恨みだった……。

 

 本来であれば、20数年も経てばそういう感情は多少なり薄まったりするのかもしれない。

 だが、死んだ事で歳をとる事もなくなり、姿形が変わる事が無く色々な意味で止まってしまった彼等。

 そして、現在の生活が生前の罪……自分達がやって来た事を見つめなす時間が多い為か、多くのサイヤ人達がフリーザへ抱いた感情を長い期間消化する事が出来ないでいた。

 

 誰しも、叶うのであれば自分達をこんなめに合わせたフリーザに一泡吹かせたいと考えていた。

 だが、彼らがどれだけ望もうと、それが彼らの手で実現する事は無かった。

 何故なら、彼らは既に死んでいるのだから…。

 

 そんな彼らサイヤ人の宿願とも言える想いを果たしてくれたのが、僅かに生き残った同族の1人カカロットこと孫悟空だった。

 悟空の勝利は地獄にいたサイヤ人達を少なからず変えた。

 超サイヤ人という伝説を蘇らせた事もそうだが、それ以上に長年自分たちの奥深くに燻っていた感情から解き放つ切っ掛けを作ったのが悟空だったのだ。

 

 そんな自分達にとって新たな一歩を踏み出す切っ掛けを作った存在が命を落としたとなれば、心が少なからず動かされてもしょうがない事なのかもしれない。

 

 

「そうか……、あいつの育った星でそんな事があったのか……」

 

 

 最初に沈黙を破ったのはトーマだった。

 トーマに続いて口を開いたのは、セリパだ。

 

 

「あの子はやっぱり、あんたの子だね……ギネ……」

「え?」

 

 

 セリパの言葉に俯いていたギネが顔を上げる。

 両目に涙を溜め呆けた様な表情でギネがセリパに視線を向けると、困った様な笑を浮かべて再び口を開くセリパ。

 

 

「カカロットは……あんたの息子はさ、自分のガキや嫁さん……、そして仲間や育った星を守る為に死んだって事だろ……?

 そんなの、あたしや他のサイヤ人達じゃあまず無理だと思うんだ……。

 優しいあんたの血を引いてるからこそ、カカロットはそんな事が出来たんだと思うんだ……。

 そして、その結果大切な奴等や多くの人の命を救った……。

 それはきっと、とんでもなく凄い事なんだとあたしは思うよ……」

 

 

 柄にもない事を言ったからか、若干顔を赤くするセリパ。

 そんなセリパが可笑しかったからか、呆けていたギネの顔にも笑みが浮かぶ。

 

 ギネだって、分かっているのだ。

 先日トランクスの話を聞いて、息子がどんな想いで死んでいったかなんて事は……。

 だけど、想いが理解できたからといって、すぐさま悲しみが消えるわけではない……。

 

 それこそ、時間が解決してくれる問題なのだろう……。

 

 その後、イメッガの長からパイクーハンや悟空の活躍によりフリーザ達の顛末を聞かされたサイヤ人一同。

 フリーザが牢に収監された上に、今回の件で重大な罰を食らう事になり今後自由に活動する事が出来ないと聞いた時は、部屋中のサイヤ人達から歓声が上がった。

 それだけ、多くの者達がフリーザが地獄に来てから、不安な日々を過ごしていたという事なのだろう。

 

 だが、そんな不安な日々もようやく終わりを迎える事となった。

 それもこれも、悟空とパイクーハン、そして人知れず行動していたバーダックのおかげである。

 

 こうして、サイヤ人達にいつもの日常が戻って来たのであった……。

 

 

 

☆ 時は再び現在へ戻る……。

 

 

 

「そういえばさ……」

「なんだい?」

 

 

 昨日の事を思い出し、セリパは言いづらそうに口を開く。

 そんなセリパに不思議そうに首をかしげるギネ。

 ギネの視線を受け、しばらく口をもごもごさせながら言葉を探していたセリパが意を決した様に、ギネに向かって口を開く。

 

 

「あんたさ、息子に……カカロットに会う気は無いのかい……?」

 

 

 どこか遠慮を含んでいながらも、真剣な表情で問いかけるセリパ。

 そんなセリパの問いに、一瞬驚いた様な表情を浮かべるギネ。

 しかし、セリパの優しさに気付き、直ぐに優しい微笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「ああ、その事かい……、確かに今すぐにでも会いたいけど……、残念ながら今はまだ会えないんだ……」

「それって、あの子が天国の住人だから会うのに時間がかかるって事かい?」

 

 

 ギネの言葉に首を傾げながら、セリパが再び問いかける。

 しかし、ギネは首を左右に振りそれを否定し、再び口を開く。

 

 

「今は、まだあの子に会うべき時じゃないんだ……」

「それって、どう「おおーーーい!!!」……ん?」

 

 

 ギネの言葉に妙な引っかかりを覚えたセリパが、それについて問いかけようと口を開いたそのタイミングで、大きな声が2人の会話を遮る様に響き渡った。

 ギネやセリパ、そして周りで作業していたサイヤ人達が皆、作業の手を止め、いきなり響き渡った声の方に視線を向ける。

 視線の先には、眼鏡をかけた赤鬼がサイヤ人達に近づいて来ていた。

 

 

「ん? あんたは初めて見る鬼だね……?」

 

 

 他のサイヤ人達より鬼の近くにいた、ギネが近づいて来た鬼に声をかける。

 

 

「おぉ、ちょと聞きたいんだが、ここはサイヤ人の集落であってるかオニ?」

「そうだよ」

「よかったオニ、この辺は初めてだから迷ったかと思ったオニ……」

 

 

 鬼の質問にギネが答えると、安心した様な表情を浮かべる赤鬼。

 

 

「あんた、あたし達サイヤ人に何か様なのかい?」

 

 

 赤鬼の言葉を聞いたセリパが、赤鬼に尋ねるとはっ!とした表情を浮かべ再び口を開く。

 

 

「おぉ、そうだったオニ! お前らここにギネってサイヤ人がいると思うだが、知らないオニ?」

 

 

 鬼の口から飛び出した名前に、驚きながらギネとセリパは顔を見合わせる。

 

 

「あの……、そのギネってヤツは何か悪い事でもしたのかい……?」

 

 

 なぜ目の前の鬼が自分を探しているのか分からないギネは、正体を隠したまま恐る恐る問いかける。

 すると、目の前の鬼が再び口を開く。

 

 

「いや、そう言う話は聞いていないオニ。 閻魔大王様が呼んでいるのでオレがここに来たオニ」

「閻魔大王が?」

 

 

 自分が何かをしたわけではない事が分かり、安心するギネだったが、さらに状況が分からなくなり首をかしげる。

 

 

「それで、お前達ギネってヤツの事知ってるオニ?」

「ああ……、ギネはあたしだよ」

 

 

 再度問いかけられ、これ以上は何も聞き出せそうにないと判断したギネは、自分が探している人物だという事を告げる。

 ギネの言葉を聞いた、赤鬼は驚いた表情をした後、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「おぉ、お前がギネだったか!! なるほど、確かにあいつにどこか似てるオニ!!」

「あいつ……?」

 

 

 赤鬼の言葉に、ギネは首を傾げる?

 それは、隣にいたセリパも同じだった様で、赤鬼に問いかける。

 

 

「あいつって誰だい? 誰がギネに似てるんだい?」

「誰って、孫悟空の事オニ」

「「えっ!?」」

 

 

 鬼から飛び出した、予想外の人物の名前に驚きの声を上げるギネとセリパ。

 

 

「ソ、ソンゴクウってカカロットの事だろ!? 何で、あんたがカカロットの事をしってるのさ!?」

 

 

 再びセリパが赤鬼に問いかける。

 隣のギネも同じ事を思ったのか、首を縦にブンブン振っている。

 

 

「何年か前に、あいつが死んで界王様の元へ修行に行く時に、地獄の雲の上にある蛇の道から地獄へ落っこちて来たことがあったんだオニ。

 そん時に知り合ったんだオニ。 いやー、あの時は楽しかったオニ……」

 

 

 セリパの問いに懐かしそうな表情を浮かべる赤鬼。

 そして、はっ!と何を思い出したのか、再び口を開く。

 

 

「そういえば、まだ名乗っていたなったオニな。 オレの名前はゴズ。 よろしくだオニ」

 

 

 名乗りと共に、手を差し出したゴズ。

 そんなゴズの手をおずおずとした様子で握り返すギネ。

 

 

「孫悟空には、昨日も世話になったオニ。 あいつには、地獄の鬼達も本当に感謝しているオニ!!」

 

 

 ゴズの言葉で、ギネの表情に笑みが浮かぶ。

 息子の行で誰かに感謝されるというのは、母親としてやはり嬉しいものがあったのだ。

 

 

「さて、閻魔大王様がお前に用があるとの事なので、そろそろ行くオニ」

 

 

 ゴズの言葉に、頷くギネ。

 

 

「それじゃセリパ、ちょっと行ってくるよ!」

「ああ、行っといで!」

 

 

 セリパに挨拶をしたギネは、先に歩き出したゴズを追う様に、歩き出す。

 10m程進んだ時に、何かを思い出したのか、ふと歩みを止めセリパの方を振り返る。

 

 

「?」

 

 

 そんなギネの様子に、セリパが首を傾げると、ギネが口を開いた。

 

 

「あのさ、セリパ……。 さっきの話の続きなんだけどさ、カカロットには時が来たらバーダックと2人で会いに行くから大丈夫だよ!!

 心配してくれてありがとね!!」

 

 

 笑みを浮かべながらセリパに手を振ると、ギネは再び歩き出した。

 そして、突然のギネの言葉に、一瞬驚いた表情を浮かべたセリパだったが、すぐに安心した表情を浮かべ手を振る。

 

 自分に向けて、言葉を発した時のギネの表情が、とても嬉しそうな笑みだったのを思い出しながら……。




続きは、活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

また、Twitterもはじめましたので、よかったらそちらもお願いします。
こちらも活動報告からご確認ください。

今日11月23日は、私がハーメルンで投稿してからちょうど1年になります。
正直ここまで長く続くとは思いませんでした。
ですが、応援してくださる皆さんのおかげで、ここまで続ける事ができました。
どこまで、続ける事が出来るかは分かりませんが、これからも頑張ろうと思います。

読んでくださった、全ての方に感謝を。

Thank you.


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あの世一武道会編-Ep.05

大変長らくお待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。



 ここは、閻魔界。

 見渡す限り黄色い雲に覆われた世界。

 その世界には1つの宮殿が立っていた。

 

 あらゆる者は死ぬと、まずここへ訪れる事になる。

 その宮殿の中で額に”閻”と書かれた二本の角の生えた帽子を被り、背広にネクタイの洋装をしている、身長10mはある巨体の男が、彼の体格に合わせた巨大な木製の机に座っていた。

 机の上には数多の書類や、台帳がのっかっており、彼の仕事量がそれだけで伺える。

 

 そして、その巨大な机の前に1人のサイヤ人が冷や汗を流しながら立っていた。

 

 

(ゴズに言われてここまで来たけど、ここってめちゃくちゃ緊張するんだけど……)

 

 

 内心でギネがそんな事を思っていると、目の前の閻魔大王が口を開く。

 

 

「すまんな、こんなところまで来てもらって」

「いえ!」

 

 

 重々しい口調で紡がれた言葉に、ギネはピンと背を伸ばし口を開く。

 そんなギネの様子が可笑しかったのか、強面の表情に笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「さて、今日来てもらったのは、お前の息子についてだ」

「カカロットの事……? でしょうか……」

 

 

 閻魔大王の言葉を聞いた、ギネは首を息子同様敬語が苦手なのか、傾げながら辿々しい口調で問いかける。

 すると、ギネの言葉を肯定する様に閻魔大王は頷く。

 

 

「実は、明日あの世で、あの世一武道会という武道大会が開かれる」

「はぁ……」

 

 

 閻魔大王の言葉に、要領を得なかったギネは、なんとか言葉を返すが、続いて発せられた言葉に驚きの表情を浮かべる。

 

 

「その大会に、貴様の息子カカロットも参加することになっておる」

「えっ!?」

 

 

 ギネの様子にニヤリと、人の悪そうな笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「息子の戦う姿を見てみたいとは、思わんか?」

「み、見れるのかい!?」

 

 

 閻魔大王の言葉に、すっかり敬語を忘れ興奮した様子で言葉を返すギネ。

 そんなギネに頷く閻魔大王。

 

 

「ほ、本当に!? 嘘じゃないよね!? ねっ!?」

「ああ、本当だ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべながらも、信じられないとばかりに閻魔大王に詰め寄るギネ。

 そんな、ギネに断言する様に口を開く閻魔大王。

 自分を見つめる閻魔大王の目に、嘘はないと判断したのかその場で、飛び上がらんばかりに喜びの声を上げるギネ。

 

 

「やったぁーーーーーっ!!!」

 

 

 そして、そんなギネの様子に笑みを浮かべる閻魔大王。

 だが、ふとギネが我に返ったのか、おずおずと閻魔大王に問いかける。

 

 

「あの……、でもいいのかい? あたしって一応罪人なんだよね……?」

「なに、これはお前の息子が地獄を救ってくれた礼と、お前が普段から真面目に罰を受けている褒美だ。

 ありがたく受け取っておけ。

 それに、本来お前は天国へいける身分だったからな、少しくらいいいだろう……」

 

 

 ギネの言葉を聞いた閻魔大王は、何てことない様に返事を返す。

 閻魔大王の言葉を聞いて、ホッとした表情を浮かべながらも、悟空の戦う姿が観れるのが嬉しいのか、その表情には笑みが浮かべるギネ。

 そこで、ふと疑問が浮かび、再び閻魔大王に問いかけるギネ。

 

 

「あの……、カカロットの試合って、どうやったら見れるんだい? あたしも天国へ行けたりするのかい?」

「いや、流石に地獄の者を天国へ上げるわけにはいかん。 なので、お前には地獄から観戦してもらう事になる」

 

 

 ギネの質問に、首を左右に振り言葉を返す閻魔大王。

 

 

「まぁ、流石にそこまでは望めないよね……」

「すまんな……」

 

 

 閻魔大王の言葉をある程度予想していたのか、残念そうな表情をしながらも、納得するギネ。

 そんなギネに済まなそうな表情を浮かべる閻魔大王。

 

 

「それじゃあ、あたしはどうやってカカロットの戦いを見ればいいんだい……?」

 

 

 再び問いかけるギネに、うむと頷くと、閻魔大王が口を開く。

 

 

「お前達サイヤ人の集落の近くに、巨大な水晶があるであろう?」

 

 

 閻魔大王の言葉に頷くギネ。

 

 

「以前バーダックから聞いたのだが、お前達は前にその水晶でナメック星で戦っている息子とフリーザの戦いを観たのだろう?

 今回もその時と要領は同じだ。

 あの水晶に、あの世一武道会の様子を映し出すので、それで観戦するといい。

 ああ、明日はお前の罰は免除しておくので気にせず観戦するといい」

「へー、閻魔大王は、あの水晶を自在に扱えるんだね……」

 

 

 閻魔大の言葉に、ギネはこれまでお世話になった地獄の水晶の事を思い出す。

 しかし、あの水晶はまるで気まぐれな猫の様に、映像を映す時と映さない時があるのだ。

 むしろ映さない時の方が、圧倒的に多い。

 

 そんな、水晶を目の前の存在は事も無げに、観たい映像を映し出すと言う。

 流石地獄の主人だけの事はあるという事だろう。

 と考え、ギネが言葉にしたのだが、閻魔大王はその言葉に、苦笑いを浮かべる。

 

 

「あれは古くから地獄にある水晶でな、別にワシのモノというわけではない。

 それに、使うだけだったら誰でも使う事は出来るぞ?」

「えっ!? そうなの!?」

 

 

 予想外の言葉に、ギネは驚きの声を上げる。

 そんなギネに頷く閻魔大王。

 

 

「あれは、”想いの水晶”と呼ばれるモノでな、地獄の特殊な鉱石が死者の念を吸収して生まれたモノだ……」

「死者の念を吸収して生まれるって、どういうことだい?」

「地獄に落ちる者達は悪人や罪人だが、そんな者達にも大切な存在はいるものだ……。

 死後、その大切な存在の事を気にかける者達は大勢いる……。

 そんな死者が生者の事を案じ、少しで良いから様子を見たいという想いが天国と地獄……つまり、死後の世界には常に渦巻いておる」

 

 

 閻魔大王の言葉に、ギネ自身思い当たる部分があったのか、無言で頷く。

 何故ならギネ自身、自分が死んだ時、息子2人がどうなったのか気が気ではなかったのだ。

 叶うなら、息子達の姿が見たいと願った事は、1度や2度ではない。

 

 きっと、ギネだけに関わらず、大なり小なり地獄にもそんな事を想っている者は常に存在するのだろう。

 

 

「そんな、大切な者を想う気持ちが、鉱石に蓄積されて形となったものが、あの”想いの水晶”だ。

 あの水晶は、強く純粋な人の想いに反応する様になっておる……」

「純粋な人想い……」

 

 

 呟く様なギネの言葉に、頷くと再び口を開く閻魔大王。

 

 

「お前達は、3度あの水晶を使ったと聞く……。

 その時も強い想いを抱いて、あの水晶の元を訪れたのではないのか?」

 

 

 閻魔大王の言葉に、ギネはあの水晶は発動した時の事を思い出す。

 

 1度目、フリーザとの戦いの時は、ギネがあの場に到着した時には既に水晶は映像を映し出していたので、どの様な想いであの水晶が起動したのかは分からない。

 だが、2、3回目は自分もその場にいたので分かる。

 確かに、あの時は息子の事を心の底から案じていたからだ。

 

 ギネの反応を見て、閻魔大王はギネに心当たりがあった事を理解する。

 

 

「だから、あの水晶を使用したければ、純粋に対象の姿を想い描けば良いという事だ。

 だが、それがなかなか難しいものでな……、邪念や邪な気持ちがあるとあれは起動せん……。

 そういう意味では、3度もあれを起動させたのは大したものだと言えよう」

 

 

 言葉と共に向けられる何処か優しい眼差しに、ギネは恥ずかしい様な照れた様な笑みを浮かべる。

 

 

「とまぁ、今のが本来の使用方法なのだが、もう1つ使用方法があっての……、今回はそちらの方法を使用しようと考えておる」

「もう1つの使用方法?」

 

 

 閻魔大王の言葉に首を傾げるギネ。

 

 

「あの水晶はな、強い波動を受信する事が可能なのだ。

 今回のあの世一武道会は、天国や閻魔界、そして天界では皆が見られる様にカメラで撮影して放映される事になっとる。

 そのカメラからの波動を地獄では遮断しておるのだが、お前が以前使用した水晶では見れる様にするので、そちらで観戦するといい」

「何だかよくわかんないけど、分かった! とにかく、あたしはいつもの水晶からカカロットの戦いが見れるんだね!!

 ありがとう!閻魔大王!!」

 

 

 嬉しそうな表情を浮かべた後、ギネは頭を下げる。

 そんなギネに、笑みを浮かべる閻魔大王。

 

 

「さて、ワシの用事はこれでお終いだ。 お前も地獄に戻るといい」

「うん!分かった!! あっ、聞き忘れてたけど、その大会って何時くらいから始まるのさ?」

 

 

 閻魔大王の元から去ろうとしたギネが、肝心な事を聞いていないのを思い出し、再び閻魔大王の方に向き直る。

 すると、閻魔大王もうっかりしていた。といった表情を浮かべる。

 

 

「おぉ、忘れとった。 朝10時からだ」

「10時か……。 了解!! それじゃあね!!!」

 

 

 そう言うと、ギネは笑顔を浮かべ手を振りながら、閻魔大王の前から今度こそ姿を消すのだった。

 

 

 

☆ Side Out

 

 

 

 ギネが閻魔殿で、閻魔大王と話をしているその頃、トキトキ都ではバーダックとトランクスが組手をしていた。

 2人は修練場に轟音を轟かせながら、縦横無尽に動き回る。

 只人ではその全てを追う事の出来ない超スピードで繰り出される、拳と蹴り。

 

 その威力から、修練場の地面と壁には、既に幾つものヒビとクレーターが出来上がっていた。

 だが、そんな事など御構い無しに、2人の男は拳と蹴りを出し続ける。

 そんな時、トランクスがバーダックの懐にあっさりと潜り込み、拳を繰り出す。

 

 

「はぁ!!!」

「ぐっ……、だぁ!!!」

 

 

 トランクスの強烈な右拳がバーダックの左頬を撃ち抜くが、それに持ち前の頑丈さで耐え、お返しとばかり同じく右拳を繰り出す。

 だが、バーダックの拳を左手で軽くいなし、体勢が崩れたバーダックのボディを右拳で撃ち抜く。

 

 

「がはっ!!!」

 

 

 トランクスの強烈な拳にボディを撃ち抜かれた事で、バーダックの肺から空気が奪われる。

 だが、トランクスの攻撃はまだ終わらない、ボディを撃ち抜いたその拳ですかさずバーダックの顎を撃ち抜く。

 顎を撃ち抜かれたバーダックの身体は、宙へ浮き上がる。

 

 宙へ浮き上がったバーダックに、トランクスの強烈な回し蹴りが放たれる。

 その蹴りはバーダックの身体を捉え、後方へと吹き飛ばす。

 猛スピードで飛ばされたバーダックは、轟音を立てながら修練場の壁へ激突する。

 

 

「ぐっ……、ま、まだだ……、まだ終わっちゃいね……ぐっ!!」

 

 

 盛大に背中を壁に打ち付け、倒れたバーダックだったが何とか気力で立ち上がる。

 だが、負ったダメージが大きすぎたのか、再び膝をつく。

 既にバーダックの身体はボロボロになっていた、組手を初めて1時間ほど経つが、その間にこうやって吹っ飛ばされたのは1度や2度ではきかない。

 

 

「はぁ…はぁ……はぁ……」

 

 

 流石に1時間休憩もなく全力で戦っていたからか、気もかなり消費していた。

 普通に戦うだけなら、1日だろうと戦えるバーダックだが、気を全力で解放した状態で、しかもダメージを受け続ければ流石に1時間でも疲労を負う。

 少しでも乱れた呼吸を正し、立ち上がろうとするバーダックの目の前に水の入ったボトルが差し出される。

 

 バーダックが視線を上に向けると、ボトルを差し出してるトランクスの姿が目に入る。

 

 

「お疲れ様です。 今日はここまでにしましょう」

 

 

 そう声をかけたトランクスは、バーダックとは違い無傷で、あれだけ動き回ったというのに呼吸すら乱していなかった。

 トランクスの言葉にバーダックは驚いた表情を浮かべる。

 

 

「なっ!? ま、まだオレはやれる!!」

 

 

 だが、やる気はあっても、身体は言う事を聞かない。

 何とか身体に力を入れて立ち上がろるが、その立ち姿はフラフラだった。

 そんなバーダックに、トランクスは優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「ええ、知ってますよ。 ですが、修行には休息が必要だとも教えて来ましたよね?

 これ以上はただ身体を痛めつけるだけです」

「はっ、上等じゃねぇか!! そうなりゃ、サイヤ人の特性で更に強くなれんじゃねぇか!!」

「ええ、確かに戦闘力だけでしたら、確かに上がるでしょう。

 ですが、単純に戦闘力が上がっただけでは、悟空さんには勝てません。

 今、バーダックさんに必要なのは戦闘力ではなく戦闘技術の方です。

 これ以上続けても、痛みや疲労で意識も散漫になりますので、効率も良くありません。

 なので、今日はお終いです」

 

 

 トランクスの言葉でこれ以上の組手の続行は不可能だと判断したバーダックは、溜息を吐くとトランクスからボトルを受け取る。

 そして、ボトルの半分ほど一気に水を飲み干した後、余った分を自身の頭へぶっかける。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 少しさっぱりしたからか、幾分か冷静になったバーダックはドカッと座り込む。

 座ると疲労感が一気に押し寄せて来て、トランクスが言っていた様に、相当の疲労が溜まっていた事を改めて自覚する。

 そして、ふと目の前に座るトランクスに眼を向ける。

 

 疲労困憊の自分とは対照的に、目の前の男は疲れすら感じさせない平然とした様子で座っている。

 もう、3年ほどこの男の元で修行しているが、時間が経てば経つほど男との力の差を実感せずにはいられない。

 確かに超サイヤ人に変身出来る様になったり、トランクス以外のヤツと戦ったりした時に自分の成長を感じる程度には成長したと思う。

 

 だが、それでも自分の師匠であるこの男の領域は果てしなく遠い……。

 バーダックが自分の方をじっと見つめている事に気がついたトランクスが、不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「どうかしました?」

「いや、なんでもねぇ……。 そういやよ、何で最近は超サイヤ人での組手をしねぇんだ?

 お前、超サイヤ人をコントロールする修行をするみたいな事言ってたじゃねぇか」

 

 

 トランクスから向けられる視線から、僅かに顔を逸らしたバーダックは話を変える為、今回の修行で気になった点を質問する事にした。

 そんなバーダックの様子にトランクスは気にした素振りも見せず、口を開く。

 

 

「ああ、それですか……。 今はその修行の準備段階だと思ってください。

 超サイヤ人をコントロールする修行に入ったら普通の状態での修行は殆ど出来なくなりますからね」

「ん? どういう事だ?」

 

 

 トランクスの言葉に首を傾げるバーダック。

 不思議そうな表情をしているバーダックに再び口を開くトランクス。

 

 

「超サイヤ人をコントロールする修行というのは、長期間超サイヤ人の姿でいてもらう事なんです。

 バーダックさんも超サイヤ人になって気付いていると思いますが、超サイヤ人になると肉体的疲労が高かったり軽い興奮状態になったりしますよね?」

「ああ……、そう言えばそうだな」

 

 

 トランクスの言葉にバーダックは思い当たる部分があり頷く。

 

 

「肉体的疲労も興奮状態も、超サイヤ人の姿でいる事に慣れていないから起こる事なんです。

 まずは、超サイヤ人でいる事が当たり前の状態に持っていく事、それが超サイヤ人をコントロールする修行です。

 なので、バーダックさんにはそれが出来るまで、コントロールする修行が始まったら寝る時以外は常に超サイヤ人でいてもらいます」

「なるほどな……。 それにしても、寝る時以外は超サイヤ人になったままってのは地味にしんどそうだな……。

 だが、超サイヤ人の状態に慣れてしまえば、身体に負荷をかけずに、より強力な力を行使する事が出来る様になるって事だな。

 そして、そいつが、前にお前が言っていた超サイヤ人の第4段階ってヤツだろ?」

 

 

 バーダックの問い掛ける様な視線に、トランクスは頷く。

 

 

「ええ、その通りです。 確かにこの修行を行えば、第2、第3段階みたいに身体を大きくする事なく超サイヤ人の真の力を引き出す事が出来ます。

 ですが、この修行はバーダックさんが言った利点の他にもまだ、大きな利点が隠れているんです。

 それは、何だと思いますか……?」

 

 

 バーダックはトランクスの言葉に、顎に手を当て考える。

 トランクスの口振りから、答えは既に自分も知っていると判断したのだ。

 そして、バーダックは思考を巡らせる。

 

 

(そう言えば、身体への負荷だけじゃなく、超サイヤ人になった時の興奮状態も今回の修行で解消されるんだったか……。

 って、事はそいつに関係してやがんのか……?

 興奮状態が解消されるって事は、超サイヤ人になっても平常心でいれるって事だ……。

 こいつは、よくよく考えると結構デケェメリットだ。

 今まであまり自覚した事はなかったが、戦いにおいて冷静でいられるかそうじゃないかは大きな違いがある。

 超サイヤ人になると、自然と興奮状態になるって事は、平常心ではないって事だ……、そいつは冷静な判断を下すには邪魔になりかねないモンだ……。

 つまり、超サイヤ人ってのは、強力な力を得る変わりに、そういうデメリットも負っちまってるって事か……。

 だが、トランクスが言ってる利点ってのは、本当に平常心を保つって事だけなのか……?

 こいつの口振りから察するに、もっと先がある様だが……)

 

 

 長らく考えているバーダックの様子をトランクスは笑みを浮かべ見ている。

 現在の様な光景はトランクスとバーダックの修行では、よくある事だ。

 これから何かをしようという時、トランクスはその意味を必ずバーダック自身に考えさせる様にしているのだ。

 

 それは、この修行がなぜ必要なのかを本人が考え、理解した上で修行した方が効率が良いし成長も早いからだ。

 トランクスは早くに師匠を亡くし、修行の効率が悪く、あまり成長する事が出来なかった過去を持っている。

 だが、過去へ戻り自身の父親であるベジータと修行する事で、大きな成長を遂げる事が出来た。

 

 ベジータは元々口数が多い方ではない、修行をする時もやる事だけを述べそれに付き従う事がトランクスは多かった。

 師匠である悟飯との修行の時は、悟飯がある程度その修行の意味を教えてくれたが、ベジータにはそれが一切なかった。

 一見、意味を教えてくれる悟飯の方が師匠として優れている様にも思えるが、経験が足り無いトランクスにはそれだけでは足りなかったのだ。

 

 その修行の意味は理解できても、それが何故必要なのかを考える部分がトランクスは身につかなかったのだ。

 だから、悟飯が死に1人で修行をする立場になった時、自身をどう鍛えれば良いのかをトランクスは正確に見極める事が出来なかった。

 だが、ベジータとの修行を経て、そのトランクスの欠点は払拭される事になる。

 

 ベジータは先に述べた様に、口数が少ない。

 その為、何故今こんな修行を?っと考える事態が常にトランクスには付き纏った。

 そうやって、常に修行の意味や必要性を強制的にだが、自身で考える様になってからは、これから先に自身がどう成長すればいいのかも見えてくる様になった。

 

 ベジータが意図してそうした訳ではないだろうが、結果的にはトランクスはベジータとの修行で自分で自分を高める術を身に付ける事が出来た。

 その自身の経験から、トランクスはバーダックにも修行の意味や必要性を自身で考えさせる様にしているのだ。

 タイムパトロールの仕事をしている以上、自身もいつどうなるか分かったものではない。

 

 自身がいなくなった時、過去の自分みたいにバーダックが困らない様、トランクスは今から力の使い方だけでなく、考える力も身につけさせようとしているのだ。

 そして、今もバーダックはトランクスの教え通り、自身の修行の目的を思考し続けている。

 

 

(そもそも、平常心を保つっていうのはどういう事だ……?

 超サイヤ人の状態で、今みたいな普通の状態と同じ精神状態を保つ事が出来るって事か……?

 そもそも、超サイヤ人は怒りをキッカケに変身してんだよなぁ……。

 って事は、あの興奮状態はある意味当然と言えば当然なのか……?

 ん? ちょっとまてよ……、興奮を鎮めて普通の状態と変わらない精神状態を維持した後、超サイヤ人になった時と同じ様に激しい怒りに目覚めたらどうなるんだ……?

 確か、超サイヤ人は『穏やかな心』で『激しい怒り』によって目覚めるだったはずだ……。

 ……なるほどな、そういう事か……)

 

 

 長いこと考える様な表情をしていたバーダックに、笑みが浮かぶ。

 それを確認したトランクスはバーダックに問いかける。

 

 

「もう1つの利点の正体が分かりましたか?」

「ああ」

 

 

 トランクスの問い掛けに、不適な笑みを浮かべるバーダック。

 そして、自分の考えを披露するべく口を開く。

 

 

「2つ目の利点とは興奮状態を抑え、平常心を獲得すること。

 興奮状態より、平常心の状態の方が戦闘を行う上では、圧倒的に有利だからな。

 だが、本当の目的は、超サイヤ人を超えた超サイヤ人……、つまりお前が前に言っていた超サイヤ人2とかいうヤツになるのに必要なんだろ……?」

 

 

 バーダックの答えに笑みを浮かべるトランクス。

 

 

「流石ですね。 その通りです。

 バーダックさんが言われた様に、超サイヤ人2になるには、超サイヤ人の状態で平常心になり、超サイヤ人に覚醒した時と同じ様に強い怒りによって、覚醒を果たします。

 なので、超サイヤ人の先を目指すにはどちらにしろ、この修行は必要になるということです」

「なるほどな……、確かにそいつは時間がかかりそうな修行だな。

 それで、今は普通の状態でこれまでお前に叩き込まれた、体術や気の扱いの復習ってところか……」

 

 

 これから行う修行がわかった事もあり、最近の修行を振り返るバーダック。

 そして、その考えを肯定する様に頷くトランクス。

 

 

「で、いつからその超サイヤ人をコントロールする修行に入るんだ?」

「そうですね、正直今からでもいいのですが、その前にまずは、バーダックさんには敵情視察をしてもらいたいと思います」

「敵情視察だぁ?」

 

 

 更なる強さを得る修行方法を聞いて、若干急かす様に修行開始について問いかけるバーダックだったが、そんなバーダックに、敵情視察をしてこいと申し付けるトランクス。

 トランクスの言葉に、首を傾げながら、トランクスの言葉を復唱するバーダック。

 

 

「明日、バーダックさんの時代で、あの世一武道会という大会が開かれます。

 その大会には、あの世の達人たちが多数参加するそうです。

 そして、その大会に悟空さんが参加されるそうなんです」

「カカロットが?」

 

 

 トランクスの言葉に、興味が引かれたのかバーダックが関心を示す。

 

 

「ええ、バーダックさんにはその大会を見てきてもらいたいです。

 そして、現在の悟空さんと自分の力の差をしっかり把握して来て欲しいんです」

「そいつは、かまわねぇがあいつが本気を出す相手が、あの世にいんのか?」

 

 

 現在の地獄の状況を考えて、天国も似た様な状況だろうと判断したバーダックは、正直悟空が苦戦する姿を想像出来なかった。

 だが、そこでふと先日の事を思い出し考えを改める。

 

 

「いや……、そう言えば1人いやがったか……。

 カカロットと一緒に地獄に来たヤツ……、あいつはカカロットより強い気をしてやがったな……。

 そいつが相手だったら、正直勝負は分からねぇか……」

 

 

 バーダックの言葉に、トランクスは頷き口を開く。

 

 

「そうです。 バーダックさんが昨日悟空さんの他に感じた気の相手……、その人との戦いでは悟空さんも本気にならざるを得ません。

 その戦いを、バーダックさんには見てきて欲しいんです。

 本気になった時、追い込まれた時に悟空さんがどういう戦いをするのかを……」

 

 

 真剣な表情で言葉を告げるトランクス。

 その言葉には、言外に今後戦う相手の戦いをしっかり目に焼き付けて、対策を練れと告げている様だった。

 それだけ、トランクスは、悟空とバーダックの戦いが重要なモノだと捉えているのだ。

 

 

「そうだな……、今のあいつの本気とやらは確かにオレも気になるところだ……。

 分かった。 それで、その大会ってヤツはどこで見れんだ?」

 

 

 トランクスの雰囲気で、気を引き締め直したバーダック。

 

 

「あの世一武道会は、バーダックさんが以前言ってらした地獄の水晶から見る事が出来ます。

 なので、今日の修行はもう終わりなので、この後、地獄に戻ってもらって構いません」

「ほぉ、あの水晶でなぁ……」

 

 

 まさか、馴染みの水晶であの世で行われる大会が見れる事に、意外そうな表情を浮かべるバーダック。

 そんな、バーダックを他所にさらに言葉を続けるトランクス。

 

 

「なんでも、特例でその水晶だけは地獄で唯一、あの世一武道会を放映するみたいですよ」

「特例? なんでだ?」

「すいません。 そこまでは、ちょっと……」

「まぁ、いいか。 さてと……」

 

 

 特例という言葉に、バーダックが首をかしげるが、その理由まではトランクスも把握していなかったのか、頭を下げる。

 だが、バーダックもそこまで気になっていたわけではないのか、話を切り上げると立ち上がる。

 

 

「そんじゃ、オレは地獄に戻るぜ」

「ええ、こういう言い方が正しいかは分かりませんが、楽しんで来てください。

 確かに、悟空さんと戦う為に試合は見ていて欲しいですが、せっかく息子さんが戦う姿を見る事が出来るんです。

 応援してあげれば、悟空さんはきっと喜ぶと思いますよ」

 

 

 笑みを浮かべながら告げるトランクスの言葉に、ポカンとした表情を一瞬浮かべるバーダック。

 だが、すぐにその表情をいつもの仏頂面に戻す。

 

 

「はっ!地獄からじゃ応援とやらをした所で声なんて届く訳ねぇだろ」

 

 

 そう言うと、ズボンから端末を取り出し操作するバーダック。

 すると、バーダックの身体が光に包まれる。

 

 

「じゃあな」

「ええ」

 

 

 互いに別れの挨拶を告げると、今度こそバーダックの姿はトキトキ都から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 

 

 

☆ Side Out

 

 

 

 次の日、ギネとバーダックは2人で例の水晶の前にやって来ていた。

 

 

「まさか、バーダックまでカカロットの試合を見にくるなんて思わなかったよ」

「トランクスのヤツが、見ておけって言ってやがったからな……」

 

 

 バーダックと一緒に息子の試合が見れる事が嬉しいのか、笑顔を浮かべるギネに対していつも通り仏頂面のバーダック。

 

 

(それにしても、まさか特例がギネのおかげだったとはな……)

 

 

 昨日地獄に帰って来たバーダックは、トランクスが言っていた特例の正体を知る事となった。

 まさか、その理由がギネの日頃の行いだったとは、流石のバーダックも驚きを隠せなかった。

 

 

(まぁ、こいつの場合は天国行きを蹴ってまで、地獄にやって来たという理由も大きいみたいだがな……)

 

 

 バーダックがそんなことを考えていると、ギネの声が聞こえて来た。

 

 

「ねぇ、バーダックあんたも座りなよ」

 

 

 バーダックがギネの方に視線を向けると、シートを水晶の前に広げ座っているギネの姿が目にはいる。

 しかも、持って来たバスケットから、次々に食べ物や飲み物を取り出して並べている。

 完璧に観戦モードに突入していた。

 

 そんなギネの様子に、ため息を吐いたバーダックはギネの横に腰を下ろす。

 

 

「はい、バーダック」

「ああ」

 

 

 ギネから差し出された、飲みモノを手に取るバーダック。

 

 

「それにしても、楽しみだね!! まさかまた、カカロットの試合が見れるなんてさ!!」

「そうだな……」

 

 

 楽しそうに喋るギネに、バーダックも普段人には見せない様な穏やかな笑みを浮かべる。

 2人で穏やかな時間をすごしていると、2人の目の前の水晶が光を帯びる。

 そして、もう何度目かとなるお馴染みの音を地獄に響かせ始める。

 

 

ジ……ジッ、ジジッ……ジジッ……

 

 

「あ、始まるみたいだよ!!」

 

 

 ギネが声を上げ2人で水晶に視線を向けると、音の発信源である巨大な水晶が光り輝き、砂嵐の様なひどいノイズを走らせていた。

 だが、しばらくすると、ノイズが直り水晶にきのこ頭のマイクを持った、司会者と思われる男が映し出された。

 

 

『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今より、北の界王死んじゃった記念、あの世一武道会を開始いたします!!』

 

 

 きのこ頭の甲高い声により、ついにあの世一武道会が幕を開けるのだった……。

 はたして、ギネやバーダックの前で悟空はどの様な試合を行うのか、2人は期待に満ちた表情で水晶に目を向けるのであった。




続きは、活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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あの世一武道会編-Ep.06

お待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 いよいよ始まったあの世一武道会。

 東西南北の各銀河出身のあの世の達人達が覇を競い合うべく、これまで鍛えた技を駆使した戦いが繰り広げられる。

 その戦いぶりは、笑いあり涙ありと喜劇の様な試合もあれば、流石達人と呼ぶべき高度な技と技の応酬による素晴らしい試合もあった。

 

 大会を観戦していたギネとバーダックも、戦闘民族の血を引いているだけあって、様々な戦い方を見せるあの世の達人達の試合は見ていてとても楽しめるものだった。

 だが、そんな楽しい時間も残るは後1試合となってしまった。

 そう……、残る試合は、彼らの息子である孫悟空ことカカロットとパイクーハンによる決勝戦。

 

 この次の試合に勝利した者が、このあの世一武道会の頂点に立ち、大界王様の元で修行出来るという栄誉を得る事が出来るのだ。

 

 

「いよいよ決勝だね、バーダック!!」

「あぁ」

 

 

 これまでの試合で、息子の戦いぶりを存分に観る事が出来てテンションが高いギネが笑顔でバーダックに声をかける。

 そんなギネに対して、いつも通り仏頂面でギネが持って来た食べ物を食べながら返事を返すバーダック。

 バーダックは普段あまり表情の変化が乏しいので、よく知らない者だと不機嫌なのか?と勘違いされる事があるが、これがバーダックの平常運転なのだ。

 

 ギネにしてみればバーダックが仏頂面なのはいつもの事なので、再び口を開く。

 

 

「それにしても、あの世の達人達っていろんな戦い方をするんだね」

「そうだな……。 オレ達サイヤ人は戦闘民族だからか、バランスの良い強さを持っているが、あの世の達人って呼ばれる奴等は何かに特化した力を持ってる傾向が強えみたいだな」

 

 

 ギネも試合を見ていて、バーダックと同じ印象を持ったのか、大きく頷く。

 

 

「そうだね、特にカカロットが2番目に戦った東の銀河のアークアってヤツなんて、正にその最たる例だよね」

「ああ……、あのリングを水場に変えた野郎か。 確かにそうだな。

 どんな場所だろうと自分が有利なフィールドを作り出せるってのは、かなり有利だよな。

 あの野郎、リングを水場に変えた途端、人が変わった様に攻撃的になりやがった上に、攻撃のスピードもなかなかのモンだった。

 カカロットに目眩しの技があったから、野郎の意表をついて水場から上空へ脱出し、水場と化したリングごと消し去るエネルギー波を打つ事が出来たが、並のヤツだったらあいつの攻撃から抜け出すことすら困難だっただろうな……。

 水の中ってのは、想像以上に身体が動かねぇからなぁ……」

 

 

 バーダックの言葉に自分から話題を振ったギネだったが、意外そうな表情を浮かべる。

 

 

「へー、カカロットが結構あっさり勝ってたから、あまり大した事ないのかと思ってたけどあいつ強かったんだね」

「あいつと同じ様に水の中でも自由に呼吸出来たり、動けたりしたなら話は変わるが、少なくともオレ達にはどちらも無理だからなぁ。

 この試合に関しちゃあ、カカロットの野郎が上手くやったって感じだな……」

「あの子って、ナメック星での戦いの時も思ったけど、結構戦いに関しては頭回るよね……」

「お前に似てすっとぼけたツラしてるのにな……」

「なんだってぇーーー!?」

 

 

 怒りの表情でポカポカとバーダックの頭を殴りつけるギネ。

 だが当のバーダックは、ここ3年ほど超サイヤ人3を上回る強さを持つトランクスの修行を受けているので、ほとんどダメージを受けていなかった。

 ちなみに、ただの地球人が現在のギネのパンチを1発でも貰えば、大怪我は間違いない威力である。

 

 今回あの世一武道会をトランクスの言いつけから観戦する事になったのだが、この大会に参加した達人たちが見せた、様々な戦い方は修行中のバーダックには大変勉強になっていた。

 

 

(宇宙にはいろんな種族がいる事は知っちゃいたが、まさかここまで色々な方面に特化した戦い方をする奴等が存在したとはな……。

 スピードに特化したヤツもいれば、種族の強みを活かした戦いをするヤツ、それに、あのパイクーハンって奴やカカロットと同じ銀河のオリブーってヤツみたいに、自らが鍛え上げた力で戦うヤツ……。

 最初にカカロットと戦った芋虫野郎も、カカロットに軽く小突かれたぐれぇで変身する為に繭になりやがって、その期間が長すぎて、あっけねぇ終わり方しやがったから拍子抜けしたが、もしかしたら変身が完了したらとんでもねぇ戦士になった可能性だってあんだよな……。

 強さってモンにも色々あるもんだな……。 チッ!そんなヤツ等と戦えるなんて、羨ましいじゃねぇかカカロットの野郎!!)

 

 

 ギネの攻撃を受けながら考え事に没頭するバーダック。

 そして、攻撃していたギネもバーダックが何やら考え事をしている事に気が付き、攻撃の手を止めようとした瞬間、水晶から大歓声が巻き起こった。

 2人が水晶に視線を向けると、キノコ頭の審判が再びリングの中央に立っている姿が映し出されていた。

 

 

「いよいよ決勝の時間みてぇだな……」

「そうだね、パイクーハンってヤツ今までの戦いからして、相当強いみたいだけどカカロット勝てるかな?」

「さあな……、パイクーハンって野郎はまだ本気を見しちゃいねぇから、あいつの底が全く読めねぇ……。

 まぁ、それはカカロットの方も同じだがな」

 

 

 パイクーハンのこれまでの戦いを見て、只者じゃないと感じたギネが不安そうにバーダックに問いかける。

 しかし、バーダックの方も言葉にした様に、未だ本気を見せない2人の実力を見通す事は出来なかった。

 だが、これだけは確信していた。

 

 

「この戦い……、これまでとは違い、あいつ等は間違いなく全力を出すだろう。 激しくなるぜ、この試合……」

 

 

 バーダックが呟いた言葉にギネは一瞬不安そうな表情を浮かべるが、すぐにパン!と両手で自分の頬を叩く。

 いきなりのギネの行動にバーダックが驚いた表情を浮かべ、ギネに視線を向けると、そこには先程までの不安そうな表情ではなく気合が入った笑みを浮かべたギネがいた。

 

 

「よし! それじゃあ、あたし達はカカロットを一生懸命応援するしかないね!

 せっかくあの子の全力の戦いが見れるんだ、しっかりこの眼に焼き付けないと!!」

 

 

 ふん!と両手を握り気合を入れた格好のギネを見て、バーダックは苦笑を浮かべる。

 だが、そんな行動もこいつらしいかと思い直し、視線を水晶に向ける。

 

 

『さぁ、ついに決勝の時がやってまいりました!!』

 

 バーダックが視線を向けたと同時に、審判の声が水晶から響き渡る。

 そして、その声に試合会場に押し寄せた多くの観客達の歓声が上がる。

 次の試合が決勝という事もあり、現地は相当な熱気に包まれているようだ。

 

 

『決勝は西の銀河代表、パイクーハン選手!!』

 

 

 パイクーハンの名前が呼ばれると、水晶に片手を挙げ歓声に応えるパイクーハンの姿が映し出された。

 

 

『対するは北の銀河代表、孫悟空選手でぇーす!!』

 

 

 続いて悟空の名前が呼び出されるが、水晶には誰もいないリングが映し出されていた。

 

 

『そ、孫悟空選手、いらっしゃいましたら早くリングに上ってください!!』

「えっ!? カカロットはどこ行っちゃったんだい?」

 

 

 決勝だというのに、未だ舞台に悟空が上がっていない為、審判が慌てた様な声を上げる。

 そして、その様子を見ていたギネも姿を表さない息子に、驚きの声を上げる。

 会場がどよめきに包まれる中、水晶が突如アングルを変える。

 

 そこには、皿を何枚も積み上げ、幸せそうな表情で今にも骨付き肉にかぶりつこうとしている悟空の姿が映し出された。

 

 

「へ?」

 

 

 突然映し出された、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた息子の姿に気の抜けた声を上げるギネ。

 悟空の口が肉に触れるか触れないかというタイミングで、突如横からニョキっと手が映し出され、悟空の持っていた骨付き肉を取り上げる。

 

 

『おかわりじゃない!!』

 

 

 怒ったような声を上げた界王が、悟空から骨付き肉を取り上げるが、瞬時に界王が持っている反対側の骨にかじりつく悟空。

 

 

『そんなのんびりしている場合か!! 決勝だ!! お前の出番だぞ!!!』

『ちょ、ちょっと待ってくれよ!! まだ、残ってんだって!!』

 

 

 肉にかじりついたまま、リングまで界王に引きづられる悟空。

 

 

『な、なんと!! 孫悟空選手はお食事中でした!!!』

 

 

 審判の実況に会場中に笑いが巻き起こるが、そんな息子の姿を水晶で見ていた、地獄の両親は2人して頭を抱える。

 

 

「何やってんだ、あいつは……」

「今はそんな事してる場合じゃないだろ……、カカロット……」

 

 

 バーダックとギネが頭を抱えている間に、ついに孫悟空が決勝の舞台に降り立った。

 互いに不敵な笑みを浮かべる悟空とパイクーハン。

 そんな2人に触発されてか、観客席からは大きな歓声が飛び交う。

 

 特に、悟空の出身銀河である北の銀河とパイクーハンの出身銀河である西の銀河の応援は相当なものだった。

 

 悟空とパイクーハン、そしてそれを見守る観客達の熱が最高潮に達したその瞬間、ついにその時が訪れた。

 

 

『それでは、はじめてくださーい!!!』ゴォーーーン!!!

 

 

 審判が試合開始の宣言をするのと同時に、大界王が持っていたドラを叩く。

 ついに、幕を開けたあの世一武道会の決勝戦。

 

 

「いっけぇ!!カカロットォーーーッ!!!」

 

 

 試合開始と共に、声を上げるギネ。

 

 

『はぁーーーーー!!!!!』

 

 

 声を上げながら飛び出した悟空は、パイクーハンへと猛スピードで近づく。

 あっという間にパイクーハンの懐に飛び込んだ悟空は、顔面に強烈なパンチを叩き込む。

 そして、続けざまにボディや顎にアッパーや蹴りを次々と叩き込む。

 

 悟空からの攻撃をまったく防御する事もせず、全て受けるパイクーハン。

 しかし、悟空の凄まじい連続攻撃が止んだ時、そこには信じられない光景が広がっていた。

 なんと、連撃を受けたパイクーハンが、未だ不敵な笑みを浮かべたまま、まったくダメージを受けた様子もなく平然と立っていたのだ。

 

 そんなパイクーハンに訝しげな表情を浮かべ、問いかける悟空。

 

 

『なっ、なぜ避けねんだ……?』

 

 

 悟空が問いかけると、意味ありげな笑みを浮かべるパイクーハン。

 そんなパイクーハンの様子に悟空も、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

『そうか……、オラのパンチなど避けるまでもねぇちゅう事か……。 でも、オラも本気じゃねぇんだ』

 

 

 悟空が鼻をかきながら茶化すように口を開く。

 その際、一瞬だけ悟空はパイクーハンから視線を逸らす。

 そんな悟空の様子に、パイクーハンが「フッ!」と笑みを浮かべる。

 

 

『だろうなぁ!!!』

『ぐぅあ!!!』

 

 

 パイクーハンの強烈な右パンチが悟空を吹っ飛ばす!!

 あまりの威力に、悟空の身体が宙に浮き上がると、その隙を逃すまいとパイクーハンは両手を悟空に向ける。

 吹っ飛ばされた悟空は、空中で体勢を整え着地しようとしたその瞬間、そのタイミングを狙ったかのように、パイクーハンの左右の手から2筋のエネルギー波が悟空に向け放たれる。

 

 しかし、エネルギー波が悟空に直撃するよりも早く、一瞬地面に片足をつけた悟空は超スピードでパイクーハンの頭上へ瞬時に移動すると、反撃のナックルハンマーを振り下ろす。

 だが、その攻撃を悟空を上回る、恐るべき超スピードで回避するパイクーハン。

 そのあまりのスピードに、悟空は一瞬パイクーハンの姿を見失う。

 

 パイクーハンの姿を捉えるべく、悟空は眼と感覚を研ぎ澄ますと背後から無数のエネルギー弾が迫っているのを感知する。

 悟空はとっさに宙へ飛び上がり、お返しとばかりパイクーハンへエネルギー波を放つ。

 

 

『はぁ!!!』

 

 

 それを躱したパイクーハンは、再び悟空に向けエネルギー波を繰り出す。

 だが、次の瞬間パイクーハンの鋭い感覚が、自分に近づいてくる存在を感知する。

 視線を背後に向けると、先ほど躱した筈の悟空のエネルギー波が再び自分に迫って来ていたのだ。

 

 悟空は、パイクーハンのスピードならエネルギー波を躱すと予想して、予め追尾弾を放っていたのだ。

 悟空の追尾弾を躱すべくパイクーハンが舞空術で飛び上がる。

 それを見て、悟空は自身の作戦が上手くいったと笑みを浮かべるが、次の瞬間顔を引き締め視線を上に向ける。

 

 視線の先には自身に迫ってくる、パイクーハンのエネルギー波があった。

 

 

『うわっ!!!』

 

 

 驚いた声をあげると悟空もパイクーハン同様、舞空術で飛びす。

 なんと、パイクーハンも悟空と同じ作戦をとっていたのだ。

 舞空術で飛び出した2人の後を、それぞれのエネルギー波が追尾する。

 

 しばらく、追尾してくるエネルギー波を引き離そうとリングの上空を飛び回っていた2人だったが、どちらのエネルギー波も一向に離れる気配はなかった。

 このままでは埒が明かないと判断した悟空は、自身の背後についてくるエネルギー波に一瞬視線を向けた後、パイクーハンに向かって飛び出した。

 だが、悟空と同じタイミングでパイクーハンも背後にエネルギー波を携えたまま悟空に向かって飛んで来ていた。

 

 2人の視線が交わる。

 互いに不敵な笑みを浮かべたまま悟空とパイクーハンの距離がどんどん縮まっていく。

 そして、2人の距離がほぼゼロとなり正面衝突になるその瞬間、2人は同時に急上昇する。

 

 だが、2人の背後を追尾していたエネルギー波は、その急激な動きについていく事が出来ず、エネルギー波同士が正面から激突する。

 2つのエネルギー波が衝突した事で、とてつもない爆発音を轟かせながら会場を眩い閃光が埋め尽くす。

 ギネやバーダックが見ている水晶など、光で真っ白になり2人は思わず手で目を覆う。

 

 

「くっ、なんて戦いだい!!」

 

 

 目を顰めながら、なんとか戦いを観ようと眼を凝らすギネ。

 その甲斐あってか、ギネは真っ白な世界の中で2筋の影が高速で上空からリングへ降り立つのを捉える事が出来た。

 

 再びリングに姿を現した悟空とパイクーハン。

 2人は瞬時に近づくと、正面から互いの両手をガシッ!!と組み合う。

 どうやら力比べをする腹づもりらしい。

 

 

『くっ!!』

『ぐぅ……くっ!!』

 

 

 双方ともかなりの力を込めているからか、組み合っている手からビリビリとスパークが生じる。

 しばらく均衡をたまっていた2人だったが、悟空の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

『ふっふふふ……、はぁ!!!』

 

 

 掛け声と共に、更に両手に力を込めた悟空が一気に均衡を崩しにかかる。

 手を組んだ状態で、どんどんリングの端までパイクーハンを押し込んでいく。

 

 

「いいよ、カカロット!! そのままそいつを舞台から落っことしちゃえ!!!」

 

 

 ついにリングの端までパイクーハンを追い詰めた悟空に、歓喜の声を上げるギネ。

 もはや勝利目前という風にも見えるので、ギネのこの反応は当然といえば当然なのだが、現在悟空と戦っている相手は、そう簡単にやられてくれるほど甘い存在ではないのだ。

 

 

『フッ……、その程度の力で終わりか? 悟空……』

『なにぃ!?』

 

 

 追い込まれたパイクーハンの顔にニヤリと笑みが浮かぶ。

 それに、怪訝そうな表情を浮かべる悟空。

 

 

『ならば、こちらから行くぞ!!!』

 

 

 宣言と共に、パイクーハンが全身に力を込め1歩2歩と徐々に歩みを進める。

 それに伴い後退していく悟空。

 このまま、パイクーハンが悟空を押し返すのかと、誰もが予想したん瞬間、パイクーハンの歩みが止まり再び均衡が訪れる。

 

 これには、観客どころかパイクーハンも予想外だったのか、驚きの表情を浮かべる。

 

 

『へっへへへ……』

 

 

 パイクーハンの表情から、パイクーハンの心情を読み取ったのか、得意げな笑みを浮かべる悟空。

 だが、そんな時間も長くは続かなかった。

 

 

『はぁ!!!』

 

 

 これまで両手で組み合っていた両者だったが、突如パイクーハンが掛け声と共に蹴りを繰り出したのだ。

 だが、その蹴りが当たる前に悟空は後方宙返りであっさりと躱す。

 元々、当てるつもりもなかったのか、パイクーハンは追撃をする事なく、着地した悟空を静かに見据える。

 

 そして、悟空も同じようにパイクーハンを見つめる。

 その表情には笑みが浮かんでおり、この戦いが心底楽しいという事を言外に語っていた。

 

 

(なんて、楽しそうな顔してんだ、あの馬鹿息子は……)

 

 

 あまりに悟空が楽しそうに闘っているので、観戦しているバーダックはつい心で突っ込んでしまった。

 

 

『思っていた以上だ……、悟空』

『そっちこそ、オラ嬉しくてワクワクしちまうぜ……!!』

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、パイクーハンを見つめる悟空。

 そんな悟空をじっと見つめるパイクーハン。

 まるで、悟空の底を探るように鋭い視線を向ける。

 

 わずかな時間そのような時間が続いたが、その時間はあっけなく終わりを告げる。

 突如パイクーハンが自身が身に纏っていたベルトやガウンを脱ぎ出したのだ。

 突然の行動に、目の前の悟空や観客達、そして、水晶で戦いを見ていたギネやバーダックも戸惑いの表情を浮かべる。

 

 そんな周りの事など気にする素振りも見せず、ズボンにTシャツと身軽な姿になるパイクーハン。

 観ている全ての者がその行動に、意味を見出せなかった。

 確かに先ほどまでに比べると、幾分か身軽になった。

 

 だが、わざわざ試合を止めてまで、衣服を脱ぐ必要性があるとは誰にも思えなかったのだ。

 しかし、それが大きな勘違いである事を観ている全ての者は知る事となる。

 自身が身に纏っていた衣装を手の中で一纏めにしたパイクーハンは突如、悟空に向かって投げつける。

 

 鋭い速さで投げ出された一塊りとなった衣装は、悟空に届く前にリングに轟音を上げながら激突する。

 悟空の1mほど前に横たわっている一塊りとなった衣類に、全ての観客達の視線が引き寄せられる。

 よくよく見ると、衣類の下のリングにいくつもの大きなヒビが入っていた……。

 

 あの世の達人達の激闘に耐えるように、用意された丈夫なリングにだ……。

 まるで、とてつもない重量のモノをブツけられたように……。

 

 悟空は自分の目の前にあるそれに、おもむろに片手を伸ばす。

 そして、それを掴み持ち上げようとした瞬間、驚愕の表情で声を上げる。

 

 

『ぐっ、ぐぅ、なっ……、なんだこれっ……!?』

 

 

 持ち上がらないのだ……。

 見た目はただの衣装だというのに、あの孫悟空が持ち上げることが出来ないのだ……。

 

 

「なるほどな……。 あの野郎なんてヤツだ……」

「どういう事?」

 

 

 悟空の様子に、状況を把握したバーダックはポツリと口を開く。

 小さな声量だったが、隣に座っていたギネの耳はバーダックの言葉をしっかり拾っていたので、バーダックに問いかける。

 

 

「あの野郎、今までとんでもねえ重りを身に付けた状態で戦ってやがったんだ……。

 あのカカロットが簡単には持ち上げる事が出来ねぇくらい重いモンをな……」

「えっ!? でも、あいつ今まで普通に動いて戦ってたよね?」

「ああ……、つまりあいつはこれまで本気で戦っちゃいなかったって事だ。

 それなのに、あのスピードで戦闘を続けてやがった。

 そして、重りを外したって事はこれからがあいつの本気って事だろうな……」

 

 

 バーダックの言葉にギネは不安そうな表情で、水晶を見つめる。

 だが、水晶の中の息子はギネとは反対にとても楽しそうな表情を浮かべていた。

 バーダック達が地獄でそんな会話をしている事を一切知らない悟空は、パイクーハンが投げ捨てた衣類の塊を、両手で持ち上げる。

 

 

『なるほど、今までのはウォーミングアップだったちゅうわけか……』

 

 

 そして、勢いよくリングの外に投げ捨てる。

 投げ捨てられた衣服の塊は先程のパイクーハンが投げた時以上の轟音をたて、リングの外の地面に激突する。

 そんな悟空に『なかなかやるな!』と何処か楽しそうな笑みを浮かべるパイクーハン。

 

 そんなパイクーハンに悟空は、どこか懐かしそうな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

『オメェ、なんだかピッコロみてぇなヤツだな』

『ピッコロ……?』

 

 

 自身を鍛える為に、重りを纏っていたパイクーハンに悟空は仲間であり、かつてのライバルであるピッコロの姿を思い出したのだ。

 だが、ピッコロの事を知らないパイクーハンは、不思議そうな表情で首を傾げる。

 そんなパイクーハンに、悟空は楽しそうな表情で口を開く。

 

 

『オメェと同じように、オラをワクワクさせてくれた武道家だ!!』

 

 

 あの世に来てから、本気で闘いたいと思っていた男が、いよいよその真価を発揮する気になった事で、悟空のテンションは最高潮に達していた。

 身軽になったと同時に戦意も向上したのか、向き合っているパイクーハンから伝わる威圧感が桁違いに上がったのだ。

 これまでの戦いで、パイクーハンが悟空の実力を認めたという事だ。

 

 それが、悟空にも伝わったのだろう。

 だからこそ、自分もパイクーハン同様全力で戦う事を決意する。

 今まで浮かべていた嬉しそうな笑みを、不適な笑みに変え口を開く。

 

 

『ならば、オラも……、ぐぅ……うぅううう……』

 

 

 突如悟空の全身を黄色の膜が覆うと、髪が逆立ち全身を取り巻く様にビリビリと幾重にもスパークが発生する。

 

 

『はぁあああああぁぁぁ!!!』

 

 

 雄叫びと共に、全身からとてつもない量の気が吹き出る。

 まるで嵐のような気の奔流に、会場にいた観客達は身を守る様に顔を隠す。

 

 嵐が収まり、観客達が再び悟空に目を向けた時、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 先程まで、黒髪黒目の男が立っていたその場所に、髪を金色へ染め上げ、エメラルドの様な美しい瞳と黄金色のオーラを身に纏った超戦士が不敵な笑みを浮かべ立っていたのだ。

 

 

「そうだよなぁ……、力を隠してたのはあいつだけじゃねぇんだ……。

 お前だって、まだ全力を出しちゃいねぇんだよな……」

 

 

 超サイヤ人へ変身した悟空をみて、不敵な笑みを浮かべながらバーダックがはポツリと呟く。

 そして、そんなバーダックを隣に座っていたギネは優しそうな表情で見つめる。

 バーダックの仏頂面に特に変化は無いが、彼がこれから繰り広げられる闘いにワクワクしているのが、ギネには分かっているのだ。

 

 となりでギネが自分に優しそうな笑みを向けている事など露知らず、バーダックは真剣な表情で水晶を見つめる。

 

 

(ようやく本気になりやがったか、カカロットのヤツ……。

 さて、トランクスにも言われたが、今のあいつとオレの実力の差ってヤツを認識する為にも、こいつはしっかり観ておく必要がある……。

 今のお前の力、しっかりと見せてもらうぜ、カカロット!!!)

 

 

 地獄で自身に期待の眼差しを両親が向けている事など知らない悟空は、目の前の好敵手に不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

『さぁ、早ぇとこ続きをはじめようぜ!!!』

 

 

 悟空の言葉に、パイクーハンも悟空同様ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

 ついにお互いの真の力を解放した悟空とパイクーハン、闘いは、次なるステージへ突入する……。

 

 果たしてどちらが優勝するのか……。




続きは、活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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あの世一武道会編-Ep.07

お待たせしました。
今年最後の投稿です。
今年も皆さんありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。

楽しんでもらえたら嬉しいです。


 ついに幕を開けたあの世一武道会の決勝戦。

 悟空もパイクーハンも共に、これまで鍛えた力と技を駆使して正に決勝にふさわしい戦いを繰り広げている。

 そして、闘いは次なるステージへ突入する。

 

 これまで纏っていた、かなり重い重りを脱ぎ捨て身軽になったパイクーハン。

 そして、超サイヤ人へ変身した孫悟空。

 

 互いに向き合っているだけだというのに、両者から伝わる気迫はこれまでとは一線を画していた。

 その気迫が、観客達だけでなく、会場全体に伝わる。

 

 余談だが、今回のあの世一武道会の会場は、大界王殿の特殊な部屋で行われている。

 広大な空間に、いくつもの小惑星が浮かんでおり、その中で一番大きい惑星にリングや観客席が設置されているのだ。

 その光景から選手や観客達は、まるで宇宙空間にいる様な錯覚を覚えるほどだった。

 

 さて、話を再び主役達に戻そう。

 2人の緊迫した雰囲気が、会場の空気にも伝わったのかリングの上でピカッ!と雷が光り、雷鳴が轟く。

 会場にいる全員の視線が、リング上の2人の男達に集まる。

 

 これから繰り広げられるであろう激戦を見逃すまいと、全ての者達が固唾を吞んで見守っている。

 

 

『いっ、いったい、これからどんな闘いが繰り広げられるのでしょうかっ!!!

 私にはまったく予想もできませーーーんっ!!!!!』

 

 

 2人の男が醸し出す雰囲気にきのこ頭の審判も触発されたのか、発せられる言葉に緊張が宿る。

 周りが緊張に包まれる中、リングに立つこの男だけは笑みを浮かべていた。

 そして、心底楽しそうな表情で口を開く。

 

 

『オラにだって、予想もつかねぇ……』

 

 

 審判の言葉に、悟空がポツリと突っ込むと即座に両手を右腰だめに移動させる。

 そして、一瞬で全身の気の両手に集約させ始める。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ、めぇ、波ぁーーーーーっ!!!!!』

 

 

 悟空が突き出した両手から、エネルギー波が放出される。

 凄まじいスピードで、パイクーハンに迫るかめはめ波。

 あと、数瞬で直撃するという瞬間、かめはめ波の射線上から突如として姿を消すパイクーハン。

 

 目標を見失ったかめはめ波は、地面に直撃し轟音と共にリングを破壊する。

 だが、そんな事など気にした素振りも見せず、悟空は感覚を研ぎ澄ませパイクーハンの気を探る。

 そして、悟空の鋭い感覚は瞬時にパイクーハンの気配を捉える。

 

 

『逃すかぁ!!!』

 

 

 右手を瞬時にパイクーハンに向け、エネルギー弾を繰り出す。

 だが、またしても凄まじいスピードであっさりと躱すパイクーハン。

 しかし、悟空もパイクーハンの気を読み、次にパイクーハンが移動する場所を予測して次々とエネルギー弾を繰り出す。

 

 数多のエネルギー弾がパイクーハンを襲うが、それを余裕を持って次々と回避するパイクーハン。

 それに業を煮やしたのか、苦々しい表情を浮かべた悟空は瞬時に左右の手にエネルギー弾を顕現させ、それを繰り出す。

 2つのエネルギー弾がパイクーハンの身体にヒットしようとした瞬間、またしても悟空の目の前からパイクーハンの姿が消える。

 

 しかも、今回は目で追えないどころか、気配すら感じる事が出来なかった。

 その為、感覚を研ぎ澄ませながらキョロキョロと辺りを見回す悟空。

 そんな時、悟空の頭上から声が聞こえてきた。

 

 

『はっはははっ!!! ここだ悟空!!!』

『ん?』

 

 

 悟空が視線を上に向けると、リングの上に浮かぶ小惑星に両手を組み、仁王立ちしたパイクーハンの姿があった。

 パイクーハンの姿を見た悟空は、驚愕の表情を浮かべていた。

 その表情から、悟空がパイクーハンの動きを追えなかったのは明らかだった。

 

 

『変身して、大分パワーが上がった様だが、それでも私にはついて来れない様だな』

 

 

 小惑星に立ったパイクーハンは、見下ろしながら悟空に告げる。

 

 

『フッ! もう少し期待していたんだがね……」

『くっ……』

 

 

 パイクーハンの言葉に、悔しそうな表情を浮かべる悟空。

 

 

 

 地獄で観戦していた、ギネ達もパイクーハンの恐るべきスピードに驚きの声を上げる。

 

 

「あっ!! あいつ、いつの間に!?」

「あの野郎……、なんてスピードしてやがんだ……」

 

 

 バーダックとギネも悟空同様、パイクーハンの姿を見失っていたのだ。

 しかも、目の前で戦っている悟空とは違って、遠目から観ている2人がパイクーハンの動きを追えなかったのだ。

 これには、ギネはともかくバーダックは大きな衝撃を受けていた。

 

 

(目の前で闘っているカカロットが野郎の動きを捉えられないのは、まだしょうがねぇ……。

 だが、遠目から観ているオレの目が捉えられないスピードだと!?

 って事は、ヤツに遠距離での攻撃はもうほとんど通じねぇって事か……。

 こんな野郎相手に、お前はどうやって戦う……? カカロット……)

 

 

  

 悟空やバーダックがパイクーハンのスビードに驚愕している中、当の本人は、次の攻撃に移るべく行動を起こそうとしていた。

 小惑星から宙へ浮き上がったパイクーハンは、空中で途轍もないスピードで回転する。

 それに伴い、パイクーハンを中心に巨大な竜巻が発生する。

 

 

『ああっ……』

 

 

 その規模の大きさに、悟空は思わず動揺した声を上げる。

 竜巻から発せられる強烈な風が会場を襲い、悟空や観客達は吹き飛ばされないように、その場に止まる事に注力せざるを得なかった。

 そこで、悟空は思い出す。

 

 この技は、あのセルをも一撃で倒した技なのだ……。

 そんな悟空の動揺を感じ取ったのか、パイクーハンの表情に不敵の笑みが浮かぶ。

 

 

『くらえっ!!! ハイパートルネードッ!!!!!』

 

 

 パイクーハンの叫びと共に発生させた竜巻が悟空にを飲み込むべく動き出す。

 必死にリングで踏ん張りながらも、パイクーハンの行動から眼を逸らさなかった悟空。

 悟空の眼は、自身に向かってくるハイパートルネードをしっかり捉えていた。

 

 だが、現在の状況ではまともに動く事が出来ず、悟空はハイパートルネードに飲み込まれてしまう。

 ハイパートルネードの竜巻によって発せられた、数多の風の刃が悟空の身体をズタズタに切り裂く。

 

 

『ぐぁあああぁぁぁーーーーーっ!!!!!』

「カカロットォーーーッ!!!」

 

 

 悟空が発した絶叫にギネが心配の声を上げる。

 竜巻という名の風の結界に閉じ込められた悟空は、既に全身傷だらけになっていた。

 だが、何とかこの場から逃れようともがく悟空。

 

 

『ぐっ、ぐぅ……、がぁあああーーーっ!!!』

 

 

 しかし、もがけばもがくほど悟空の身体を、ハイパートルネードの風の刃が切り刻んでいく。

 

 

『ふっふふふ……、悟空、お前の身体はもう限界に来ている!!!』

 

 

 悟空の様子に勝利を確信するパイクーハン。

 だが、ここで予想外の出来事が起きる。

 

 

『ぬっ、くぅ、ぁあああああーーーーーっ!!!』

 

 

 雄叫びと共に、全身に力を行き渡らせる悟空。

 すると、これまで、竜巻の風の流れに流され続けた悟空の身体が、竜巻の中心で動きを止めたのだ。

 

 

『なにっ!?』

 

 

 これには、流石のパイクーハンも驚愕の表情で驚きの声を上げる。

 しかし、悟空の行動はまだ終わりではなかった。

 

 

『はぁあああああーーーーーーっ』

 

 

 竜巻の中心から自身の気を爆発させる事で、竜巻そのモノを吹き飛ばしたのだ。

 そして、自由になった悟空は、瞬時にここぞとばかりに反撃に出る。

 

 

『超界王拳ーーーっ!!! はぁっ!!!』

 

 

 一瞬で全身を真紅に染めた悟空は、瞬時に空中に浮かぶパイクーハン目掛けて飛び出し、殴り飛ばす。

 超サイヤ人の状態で界王拳を使用した事で、スピードとパワーが跳ね上がった悟空の攻撃に、ハイパートルネードを破られて僅かに動揺していたパイクーハンは反応する事が出来ず、上空に浮かぶ小惑星へ殴り飛ばされる。

 そのあまりの威力に、小惑星へクレーターを作り背中から激突するパイクーハン。

 

 そんなパイクーハンのスキを見逃すほど、悟空は甘く無い。

 即座に両手を右腰だめに移動させる。

 ちなみにこの時、既に界王拳は解除されている。

 

 超サイヤ人の状態での界王拳は身体への負担が大きすぎるので、長時間維持出来ないのだ。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ……がっ……』

 

 

 追撃の為に、悟空はかめはめ波を放つべく気をチャージしていたのだが、悟空の攻撃よりも早く、小惑星からオーラを全身に身に纏ったパイクーハンが超スピードで飛び出して来た。

 そして、そのまま悟空へ強烈な頭突きを喰らわせ、悟空をリングへ叩き落とす。

 だが、悟空も瞬時に起き上がると、右手に気の塊を顕現させる。

 

 悟空の視線の先には、自分に向かって突撃して来るオーラを身に纏ったパイクーハンの姿があった。

 次の瞬間、悟空は右手からエネルギー波をパイクーハン目掛けて放出する。

 悟空のエネルギー波とパイクーハンが轟音を立てながら激突。

 

 その凄まじい衝撃が、会場を襲う、その衝撃に観客達はおもわず身を竦める。

 

 

『はぁあああああーーーーーっ!!!』

 

 

 悟空は、パイクーハンを吹き飛ばすべく右手に力を注ぐ。

 だが、パイクーハンも負けていない。

 強烈なエネルギー波を物ともせずにグングン悟空に向かって、進んでくる。

 

 2人の距離がどんどん近づく。

 それに伴い、悟空の表情が険しくなる。

 

 

『くっ!!!』

 

 

 バチン!!!と悟空のエネルギー波が弾け飛び、その反動で悟空の上半身が僅かに逸れる。

 邪魔なエネルギー波がなくなったパイクーハンは、そのスキを逃す事なく、瞬時に悟空に近づくと強烈な蹴りを叩き込む。

 

 

『ぐぅあ!!!』

 

 

 蹴り飛ばされた悟空は、倒れた状態で滑りながらリング端まで飛ばされる。

 だが、悟空の視線は片時もパイクーハンから離れる事はなかった。

 リングの外へ落とす為、パイクーハンの追撃が悟空に迫る。

 

 

『はぁっ!!! ……なにっ!?』

 

 

 パイクーハンが繰り出した蹴りがあと僅かでヒットする瞬間、悟空は宙へ飛び上がりギリギリ回避する。

 それに驚きの声を上げるパイクーハン。

 パイクーハンが『くっ!!』と悔しそうな表情で、後ろを振り向くと眼をギラギラさせた孫悟空の姿がそこにはあった。

 

 再び向き合う、両者……。

 

 

『はぁ、はぁ、はぁ……』

『はぁ、はぁ、はぁ……』

 

 

 僅かな時間で行われた凄まじい攻防に、流石の2人にも疲労の色が見え始めた……。

 だが、互いの眼には些かの戦意の衰えも感じられなかった。

 むしろ、互いの全力を解放出来る事に喜び、口元には笑みを浮かべていた。

 

 

 

「すっ…凄い……」

 

 

 ギネは呆然とした表情で、無意識に言葉を発していた。

 それほど、水晶の中で行われている悟空とパイクーハンの試合が凄まじかったのだ。

 いつしか、応援する事も忘れ、2人の一挙手一投足に眼を奪われていた……。

 

 だが、それはギネだけではなかった。

 隣に座っているバーダックも2人のハイレベルな攻防に、真剣な表情で眼を向けていた。

 

 

(なんて闘いをしやがんだ、こいつらは……。

 それに、さっきのカカロットの技……、あいつは何だ!? 急激にパワーとスピードが増しやがった……!!!

 激しくなるとは思っちゃいたが、まさかここまでとはな……。

 今のところカカロットよりもパイクーハンってヤツの方が優勢って感じだが、カカロットのヤツも何とか喰らい付いてるって感じだな……。

 さっきのあの技も、すぐに解除したって事は長く使えるシロモンじゃねぇって事だろうしな……。

 とはいえ、2人の間にはそこまで決定的な実力差はねぇ……、何か裏をかけれりゃあいつにも十分逆転の可能性はある……。

 だが、それを簡単にやらせてくれる程、パイクーハンも甘くねぇだろがな……)

 

 

 これまでの戦いを観て、これからの戦いの展開を予想しようとするバーダックだが実力が伯仲し過ぎていて、なかなか展開が読めずにいた。

 

 

「ふぅ……、なかなか楽しませてくれるじゃねぇか……」

 

 

 一息はいたバーダックは、水晶の中の2人に好戦的な眼を向ける。

 戦いの先が読めないという事は、水晶の中の2人はバーダックよりも更に深い領域に至っているという事だ……。

 そんな奴らが目の前で全力で闘っている……、そんなモンを見せられては、流石のバーダックもアツくならなざるを得なかった。

 

 

「さて、こっからどうなるか……」

 

 

 ポツリと呟き口元に笑みを浮かべながら、バーダックは再び水晶に視線を向ける。

 

 

 

『こっ、ここまでやるとはな……。 ハッキリ言って、予想以上だ……』

『おめぇ強えからなぁ……。 オラ強えヤツと戦うと嬉しくって張り切っちまうんだ!!』

 

 

 悟空の言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべるパイクーハン。

 

 

『嬉しいのは、私も同じだ……。 終わらせるのが残念なくらいにな……』

『なっ、なにっ!?』

 

 

 パイクーハンの言葉に、驚きの表情で声を上げる悟空。

 だが、そんな悟空の事などお構いなしに、必殺の技を繰り出すべくパイクーハンは体内の気を高める。

 

 

『はぁ〜〜〜っ!!!』

 

 

 次々と流れる様な動作で様々な構えを取るパイクーハン。

 目の前の悟空は、パイクーハンが違う構えを取る毎に体内で気が循環し、気が急激に高まっているのを感じ取る。

 そして、気の高まりが最高潮に達した瞬間、パイクーハンは正面に両拳を突き出す。

 

 

『サンダーーー・フラーーーーーッシュ!!!!!』

 

 

 必殺の掛け声と共にパイクーハンの両拳が一瞬光ったかと思ったら、轟音と共に超速で悟空に向かって凄まじい威力の炎が迸る。

 あまりの技の速さに気が付いた時には、既に悟空の全身を凄まじい威力の炎が飲み込んでいた。

 その威力は凄まじく、リング上だけじゃなく観客席にも被害が出るほどだった。

 

 炎が治った時、パイクーハンの技の威力を証明するかの如く溶けたリングの上で、ボロボロの状態で倒れている悟空の姿があった。

 しかし、何とか意識を繋ぎ止めた悟空は、フラフラと立ち上がる。

 

 

『くっ、ぐぅ……』

 

 

 全身が痛むのか、動く度に無意識に苦痛の声を上げ、表情を歪める悟空。

 だが、何とか立ち上がり再びパイクーハンに向き合うと、そこには悟空にとって絶望的な光景が広がっていた。

 悟空の視線の先では、パイクーハンが追撃を行う為、再びサンダー・フラッシュの動きに入っていたのだ。

 

 それを見た、悟空の表情が凍りつく。

 先程の攻撃で負ったダメージがまだ抜けて無く、まともに身体が動かせないのだ。

 

 

 

「マズイッ!!!」

 

 

 地獄から試合を観戦していたバーダックは、思わず声を出してしまった。

 しかし、そんな事を気にする者などこの場にはいなかった。

 何故ならバーダックの隣りに座っているギネも、青い表情で水晶を見つめていたからだ。

 

 

 

 そんな誰しもが、最悪の未来を予想したタイミングで、パイクーハンの両拳が再び前に繰り出される。

 そして、会場に再び閃光と業火が迸る……。

 

 

『サンダーーー・フラーーーーーッシュ!!!!!』

「カカロット逃げてぇーーーっ!!!」

 

 

 とっさにギネが悲鳴の如く、叫び声を上げる。

 しかし、残念ながら、今の悟空はまともに身体を動かせる状況ではなかった。

 だが、先程の経験から、悟空は技のタイミングだけは覚えていたので、動かない身体に鞭を入れ、無理やり防御体勢をとる。

 

 次の瞬間、防御体勢の悟空をパイクーハンのサンダーフラッシュの炎が一瞬にして飲み込む。

 だが、それだけでは終わらない。

 悟空だけでなく、界王達によって丈夫に作られた会場の一部をも焼き尽くす勢いで、パイクーハンの炎はその威力を遺憾無く発揮する。

 

 あまりの技の威力に、会場は大きく揺れ、観客席の至る所にヒビが入り、崩れた瓦礫が観客達を襲う。

 サンダーフラッシュが治った時、リングの上では防御体勢のまま倒れ臥したボロボロの状態の悟空の姿があった。

 

 

「あ…ああ……、そ、そんな……」

「ちっ……」

 

 

 水晶が映し出した悟空の様子に、ギネとバーダックは、流石に敗北を覚悟する。

 そして、それは闘っていたパイクーハンも同様で、勝利を確信する。

 

 

『フッ!』

 

 

 口元に笑みを浮かべたパイクーハンは、宙へ飛び上がると悟空に向かってトドメのエネルギー波を繰り出す。

 バーダックやギネ、そして観客達の誰もが、悟空の敗北を確信した瞬間、それは起こった。

 エネルギー波が悟空にヒットする瞬間、悟空の身体が忽然と消えたのだ。

 

 

『なにっ!?』

「えっ!?」

 

 

 まさかの事態に驚きの表情を浮かべ、声を上げるパイクーハン。

 そして、それは地獄で観戦しているギネも同様だった。

 パイクーハンは、すぐさま表情を引き締め、上空に視線を向ける。

 

 その視線の先には、飛び上がった悟空の姿を捉える。

 

 

『くっ!!』

 

 

 舞空術で悟空に向かって、勢いよく飛び出すパイクーハン。

 悟空とパイクーハンは、物凄いスピードで武空術でどんどん上空へ飛翔していく。

 

 

 

 地獄の水晶には、舞空術で飛翔している悟空の姿が映し出されていた。

 

 

「良かった!! カカロット無事だったんだ!!!」

 

 

 ギネが、喜びの声を上げるが、それを隣の男が冷静な声で制する。

 

 

「無事なもんか……、さっきの技のせいで相当ダメージを負ったはずだ……。

 今のあいつは、かなり無理してやがんだ。

 だが、このまま長期戦に持ち込んでも、あいつに勝ち目はねぇ!!」

「そ、そんな……!?」

 

 

 バーダックの言葉に、ギネが悲痛な表情を浮かべる。

 

 

「ねぇ、バーダック……。 この闘いどうやったらカカロットは勝てるんだい?」

 

 

 不安そうな表情でギネはバーダックに問いかける。

 そんな、ギネを水晶から視線を外し見つめるバーダック。

 正直バーダックの中でも、悟空が勝利するビジョンが見えていなかった。

 

 だが、ギネの言葉から彼女がまだ悟空の勝利を諦めていないと感じ取ったバーダックは口を開く。

 

 

「正直、カカロットの奴があのパイクーハンって野郎に勝つのはかなり厳しいだろう……。

 単純な実力差で言ったら、パイクーハンの方が1枚上手だ」

 

 

 バーダックの言葉に、表情に影を落とすギネ。

 しかし、そんなギネを無視してバーダックは再び口を開く。

 

 

「だが、これまでの闘いから見て決定的な実力差とも思えねぇ……。

 そいつを考えれば、パイクーハンの裏をつく事さえできれば、あいつが試合に勝つ事は不可能じゃねぇ……」

「そっ、それって、まだカカロットにも逆転のチャンスがあるって事だよね!?」

 

 

 バーダックの言葉に、バッ!と顔を上げたギネは、どこか期待の眼差しをバーダックに向ける。

 それに、苦笑するバーダック。

 

 

「まぁ、そうだな……。

 あくまで、可能性の話だけどな……。

 そもそも、あのパイクーハンがそう簡単にスキを見せるとは思えねぇし、かなり確率的に低いがな……」

 

 

 バーダックの追加情報で、悟空がかなり部が悪い戦いをしているのを改めて認識するギネ。

 

 

「とにかく、もう一度足を止めたらあいつの負けは、ほぼ確定だ……。

 あのサンダーフラッシュって技はスキが見当たらねぇ……。

 次に、あの技を喰らったら、流石にカカロットでも耐えきれねぇだろう……」

 

 

 バーダックの言葉に、戦いの終わりが近い事を嫌でも意識させられるギネ。

 だが、たとえどれだけ状況が不利でも、彼女は今もなお、勝つ為に全力で闘っている息子の勝利を微塵も疑って等いなかった。

 だからこそ、彼女は今自分ができる事をやる……。

 

 

「頑張れ、カカロット!!!」

 

 

 水晶を見上げながら、ありったけの自分の願いを込めて応援するという、ただ1つの事を……。

 この想いが、少しでも息子を支える力となる様に……。




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あの世一武道会編-Ep.08

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

ついに、あの世一武道会編ラストの投稿です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 サンダーフラッシュを間一髪で回避した悟空は、何とか上空に逃げる事に成功する。

 しかし、すぐさまそれに気付いたパイクーハンが悟空を追うべく恐ろしいスピードで迫ってくる。

 

 

『はぁっ!!!』

 

 

 パイクーハンの右手から悟空に向かって、エネルギー波が繰り出される。

 それに気付いた悟空も、すぐさまパイクーハンのエネルギー波に向かって、右手からエネルギー波を繰り出す。

 悟空とパイクーハンのエネルギー波がぶつかり、会場全体を光が染め上げる。

 

 しかも2人の力が強すぎた為、2つのエネルギー波が爆発した凄まじい衝撃が悟空とパイクーハンを襲う。

 

 

『なぁ!!!』

『ぐぅあ!!!』

 

 

 あまりの衝撃に、2人は正反対の方向にそれぞれ吹き飛ばされる。

 相当威力が強かったのか、吹き飛ばされた悟空とパイクーハンの身体はくるくると回転しながらどんどん離れていく。

 しかし、その時間も終わりを迎える事となる。

 

 今回のあの世一武道会の会場は、大界王殿の特殊な部屋で行われている。

 広大な空間に、いくつもの小惑星が浮かんでおり、その中で一番大きい惑星にリングや観客席が設置されているのだ。

 つまり、この空間がいくら広かろうと終わりが存在するのだ……。

 

 しかし、そこまで遠くに飛ばされれば、当然会場からは一部の者を除いて、視認する事が出来ない。

 

 

『孫悟空選手、パイクーハン選手、共にあまりに上昇した為、姿が見えません!!!

 一体今勝負はどうなっているのでしょうかっ!!?』

 

 

 2人がいない会場では、きのこ頭の審判が戸惑いの実況を上げている事など、2人は知る由もなかった。

 余談だが、ギネやバーダックが見ている地獄の水晶は今も、ハッキリと悟空とパイクーハンの姿を追っていた。

 しかも、半分に悟空の姿を映して、もう半分にパイクーハンの姿を映すという気の使いっぷりである。

 

 

 

『うわぁああああーーーーーっ!!!』

『くっ、ぐっ……、うっ……』

 

 

 未だ身体を回転させながら吹き飛ばされ続けている、両者の視界に行き止まりが飛び込んでくる。

 ついに2人は、この広大な空間の端まで飛ばされてしまったのだ。

 だが、当の2人はそんな事など一切気にする素振りを見せず、すぐさま着地の体勢に入る。

 

 シュタ!とほぼ同じタイミングで、天井に足をつき、その反動を利用して飛び出す両者。

 凄まじいスピードで飛び出した両者は、すぐさまの互いの標的を発見する。

 リングより遥か上空で、再び顔を合わせた両者の拳が凄まじい轟音を轟かせながら激突。

 

 その反動で、吹き飛んだ両者は再び互いの拳を振り抜く。

 そこからは、乱打戦へ突入だった。

 悟空がパンチを繰り出せば、お返しとばかりパイクハーンの蹴りが飛んでくる。

 

 凄まじい打撃音を互いに生み出しながら、悟空とパイクーハンは拳と蹴りを繰り出し続ける。

 

 

『ふっ、はぁ、だりゃっ!!!』

『はっ、ふぅ、はぁあっ!!!』

 

 

 両者一歩も引かない乱打戦。

 既に互いに数百発以上の拳や蹴りを繰り出しているというのに、まともなヒットは互いになかった。

 そんな時、両者は共に拳を大きく引き、勢いよくそれを互い目掛けて繰り出す。

 

 

『はぁっ!!!』

『ふっ!!!』

 

 

 2人の拳が再び轟音を轟かせながら、激突する。

 だが2人の拳はまるで互角だと言わんばかりに、ギリギリと均衡を保っていた。

 だが、拳を繰り出した両者は互いに、すぐさま逆の拳を勢いよく振り抜く。

 

 再び轟音を立てぶつかる両者の拳、しかし、今回は均衡が保たれることはなく、その反動で吹き飛ばされる両者。

 

 

『かめはめ……」

 

 

 悟空は吹き飛ばされながらも、瞬時に右腰だめに両手を添えると、体内の気を一気に集約さえる。

 

 

『波ぁーーーっ!!!』

 

 

 そして、パイクーハン目掛けてかめはめ波を繰り出す。

 しかし、パイクーハンは余裕の表情で、自身に迫る悟空のかめはめ波を迎え撃つ。

 なんと、悟空のかめはめ波を腕を一閃して、弾き返したのだ。

 

 

『なっ!?』

『フン!』

 

 

 驚愕の表情を浮かべる悟空に、不敵な笑みを向けるパイクーハン。

 どうやらパイクーハンには、正面からのかめはめ波は通じない様だ。

 それが分かっているのか、「くっ!」と表情を歪める悟空。

 

 すると、悟空の目の前から忽然とパイクーハンの姿が消える。

 そして、次の瞬間、悟空の頭部を強烈な衝撃が襲う。

 なんと、パイクーハンは感知される事なく、一瞬で悟空の頭上に移動してエルボーを叩き込んだのだ。

 

 パイクーハンの強烈なエルボーを喰らった悟空は、凄まじいスピードで一直線にリングへ落ちていく。

 

 

 

「カカロットーーーーーッ!!!」

 

 

 ギネは思わず、声を上げる。

 落下している悟空の顔が、かなりグッタリしている様に見えたのだ……。

 バーダックが言った様に、かなり無理して闘っていたのだろう。

 

 そして、轟音と凄まじい量の砂埃を上げ、リングに叩き落とされた悟空。

 何とか、意識を手放す事だけは回避したが、これまでのダメージが尾を引いているのか、起き上がる事が出来ずにいた。

 だが、それでもまだ勝負を諦めていない悟空は、何とか起き上がろうと身体を動かす。

 

 

 

『あがっ…、ぐっ…、くっ……』

 

 

 だが、そんなスキを見逃すほど、この男は甘くはない……。

 シュタ!という音共に、上空から降りて来たパイクーハン。

 

 

『よし、トドメだ!! サンダーフラッシュでリングの外に吹っ飛ばしてやる!!!』

 

 

 今の状態の悟空を見て、今度こそ勝利を確信したパイクーハン。

 確実に仕留める為に、自身の最高の技を繰り出すべく行動に移る。

 パイクーハンは、サンダーフラッシュを繰り出すべく、再びサンダーフラッシュの動きに入る。

 

 

 

「ど、どうしよう……、バーダック!!!」

「くっ……」

 

 

 水晶の中で、サンダーフラッシュを発動させる為の動作を行なっているパイクーハンに、ギネは慌てた様な声でバーダックに問いかける。

 しかし、流石のバーダックでも今の状態から逆転する方法は考えつかず、自分が闘っているわけでもないのに悔しそうな表情を浮かべる……。 

 それほど、パイクーハンのサンダーフラッシュという技にはスキがなかったのだ。

 

 

 

 地獄で、ギネやバーダックがこの状況からでも逆転する方法を思案していた様に、彼らの息子も同じくこんな絶望的な状態でも勝利を諦めず今出来る事に全力を注いでいた。

 悟空は、なんとか上体だけ起き上げた状態で、パイクーハンに視線を向ける。

 目の前で行われている3度目となるサンダーフラッシュの動作。

 

 パイクーハンの一挙手一投足を見逃すまいと、悟空は全集中を観ることに費やす。

 その真剣な表情は確実に、この技のスキを見抜くと言外に告げていた……。

 

 全ての観客が見守る中、ついに最強の技を繰り出す為の一連の動作が終わりを迎えようとしていた。

 気を感知できる者には、これまで以上の力がバイクーハンの中で高まっているのを感じ取ることが出来た。

 そして、それだけの気を解放する為の最後の動作が今、行われる……。

 

 両手を悟空に向け、突き出すパイクーハン……。

 

 

『サンダーーー……』

 

 

 必殺の技を繰り出されようとしたその瞬間……、悟空の瞳は確かに捉えた……。

 これまで、散々自分を苦しめてきた技の唯一のスキを……。

 

 

『今だぁ!!!』

 

 

 悟空は瞬時に起き上がると、人差し指と中指を立て、額に当てる。

 

 

『フラーーーーーッシュ!!!!!』

 

 

 長い闘いを締め括るべく、パイクーハンのサンダーフラッシュがついに炸裂する。

 勝利を確信したパイクーハンはニヤリ!と笑みを浮かべる。

 だが、そんな時に真横からあり得ない声が聞こえてきた……。

 

 

『かぁ、めぇ、はぁ、めぇ……』

 

 

 パイクーハンが驚きの表情で、そちらに視線を向けると、かめはめ波を放つべく気を集約している悟空の姿を視界に捉える。

 その姿に両眼を見開くパイクーハン。

 だが、サンダーフラッシュを発動しているパイクーハンは、瞬時に動く事が出来ない。

 

 そんなパイクーハンに向かって、ついに悟空の逆転の一手が下される……。

 

 

『波ぁーーーーーっ!!!!!』

 

 

 悟空の両手から収束されたエネルギーが一気に解放され、パイクーハンに向かって繰り出される。

 光の波はパイクーハンに向かって真っ直ぐ進んでいき、アッという間にパイクーハンを飲み込む。

 そして、光が収束した時、観客たちは確かに目にした……。

 

 リングの上で両手を突き出した男と、リングの外に倒れ臥した男の姿を……。

 

 会場全体が静寂に包まれる……。

 

 そんな中、激戦を制した男は、ただ1人残ったリングの上で場外に倒れ臥した強敵を視界に納め、緊張を緩めるかの様に一息吐く……。

 

 

『ふぅ……』

 

 

 その一息を合図としたかの様に、会場の時は動き出す。

 

 

『パ、パイクーハン選手……場外!! あの世一武道会、優勝は孫悟空選手と決定いたしましたっ!!!!!』

 

 

 きのこ頭の審判の甲高い声が、あの世一武道会の覇者の名を告げたのだ……。

 その瞬間、会場が大歓声に包まれる……。

 

 

 

「か、勝った……、カカロットが勝ったんだぁーーーっ!!!

 やったよ!!! バーダック!!!」

 

 

 呆然とした表情で水晶を見ていたギネが、きのこ頭の審判の声で現実に引き戻される。

 そして、水晶の中で笑みを浮かべる息子の姿を見て、ついに喜びを爆発させる。

 その際、となりにいたバーダックに勢いよく抱きついていて、バーダックが後頭部を打撲したのは本人しか知らない……。

 

 あまりの痛さに、声すらバーダックは上げられなかったのだ。

 後頭部を打撲したバーダックはギネに文句を言ってやろうかと思ったが、倒れた自分の胸の上で喜びを爆発さているギネに何も言えなくなった。

 何故なら、自分もその気持ちが少しは分かるからだ……。

 

 それくらい、この決勝戦は両者とも見事な闘いだった。

 そんな闘いをカカロットが制したのだ、ギネが嬉しくないわけがない……、そう思ったのだ。

 だが、流石にこのままでは動きづらいので、とりあえず一度落ち着いてもらう為、ギネの頭をポカリと殴りつける。

 

 

「いったぁーーーーっ!!!」

「よう、ちょっとは落ち着いたかよ? いつまで人の上で暴れてんだ、テメェは……」

 

 

 涙目で抗議する様な視線を向けるギネに、バーダックが冷静に言い放つ。

 バーダックの言葉を聞いて、ギネはようやく自分の状況を認識するといそいそとバーダックの上から降りる。

 

 

「あはははっ、ごめんね! バーダック」

「ったく、テメェはよぉ! 笑って誤魔化してんじゃねぇよ!!」

 

 

 笑って誤魔化すギネに、鋭いツッコミを入れるバーダック。

 バーダックのおかげで冷静になったギネは、改めてバーダックに向き合う。

 

 

「ねぇ、バーダック……カカロットは勝ったんだよね?」

「ああ」

 

 

 ギネの問いに、短くだがはっきりと答えるバーダック。

 その言葉に、再び笑みを浮かべるギネ。

 2人は揃って、水晶に向け視線を送る。

 

 水晶の中では、悟空が場外で倒れているパイクーハンに手を差し伸べ、起き上がらせていた。

 

 

 

『やられちまったな……』

 

 

 立ち上がったパイクーハンは、どこかスッキリした様な表情で口を開く。

 

 

『サンダーフラッシュを3度も打ったのは不味かったな……。 オラ3度目で、初めてオメェの動きがハッキリと見えたんだ」

 

 

 悟空の言葉に驚きの表情を浮かべるパイクーハン。

 だが、すぐにその表情を一変させる。

 

 

『ふっふふふ……、なるほど……、大したヤツだ、お前は!!!』

 

 

 初めてパイクーハンの表情に笑顔が浮かんだのだ。

 しかし、それも束の間、悟空に背を向け歩きだすパイクーハン。

 

 

『大界王様としっかり修行しろ!! オレも負けない様に修行を続けて、今度こそお前を倒す!!!』

 

 

 パイクーハンの言葉に、嬉しそうな笑みを浮かべる悟空。

 

 

『ああ!! だが、オラだって負けねぇ!!!』

 

 

 悟空の言葉を受けた、パイクーハンは背を向けたまま右手を上げ応える。

 言葉を交わした時間はほとんどない2人だが、この試合で拳を通して多くの事を語り合ったのだろう。

 今のこの2人の間には、たしかに絆と呼べるモノが存在していた。

 

 

 

「なんか、ああいうのって良いね……」

 

 

 水晶を通して今の息子と友の語り合いを見ていたギネは、胸を熱くせずにはいられなかった。

 

 

「そうだな……」

 

 

 そして、バーダックもそれには素直に同意する。

 だが、ギネは気付かなかった……。

 バーダックがパイクーハンを見つめる視線に、どこか羨望の念が混ざっていた事を……。

 

 

「そう言えばバーダック……、あたし1つ分からない事があるんだけど……」

「ん?」

 

 

 ギネの突然の言葉に、ギネに視線を向けるバーダック。

 バーダックが自身に視線を向けた事を確認した、ギネは気になっていた疑問を口にする。

 

 

「最後の時にさ、カカロットってどうやって、パイクーハンのサンダーフラッシュを回避したんだい……?

 あたしには、いきなりあいつがパイクーハンの横に現れた様に見えたんだけど……」

「ああ……、それか……。

 その認識は間違ってねぇよ、あいつはおそらく瞬間移動を使ったんだろうからな。

 前に、トランクスがカカロットは瞬間移動が使えるって言ってただろ……?」

「あっ!! そういえばそんなこと言ってたね……。

 あれ? でも、何であの子そんな手が使えるなら、もっと早い段階で使わなかったんだろ……??」

 

 

 バーダックの言葉で、以前トランクスが話してくれた内容を思い出すギネ。

 だが、そこで再び疑問が浮かぶギネ。

 

 

「そりゃ使えねぇだろ……。

 さっきあいつも言ってたが、3度目になってようやくサンダーフラッシュの動きを捉えたんだ。

 闇雲なタイミングで瞬間移動しても、パイクーハンなら瞬時に気を察知して、サンダーフラッシュをカカロットに向け放っただろうよ。

 それが分かってるから、カカロットのヤツはギリギリまであいつの動きを見切る事を優先したんだ……。

 そして、最後の最後でようやくあの技のスキを見つけたってところか……」

「なるほどねぇ……。 やっぱあの子は大したモンだね!!!」

「まったくだ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いて、改めて息子の凄さを再認識するギネ。

 そして、それは喋っているバーダックも同様だった。

 バーダックが言った様に、打開する技を持っていてもそれを活用出来るかどうかは、本人次第なのだ。

 

 それを、彼らの息子はしっかりと活用するべきタイミングで活用して、勝利を収めた。

 これは、口で言うほど簡単ではない、それが分かってるからこそ、バーダックもギネの言葉に素直に同意したのだ。

 2人は再び、水晶に視線を向ける。

 

 水晶の中では、今正にあの世一武道会の表彰式が行われようとしていた。

 

 

『では、優勝した孫悟空選手、どうぞこちらまでいらっしゃって下さい!!!』

 

 

 きのこ頭の審判兼司会者の声が水晶から響き渡る。

 大歓声の中、名前を呼ばれた悟空が、きのこ頭に近づいたその瞬間、突如会場に予想外の人物の声が響き渡る。

 

 

『ちょこっと待った!!!』

 

 

 会場全体の視線が、声の主に集まる。

 その視線の先には、この大会の主催者である大界王の姿があった。

 

 

『今の勝負ルール違反があった為、悟空ちゃん、パイクーハンちゃん共に失格よーーーん』

 

 

 突如発せられた大界王の言葉に会場全体がどよめく。

 そして、当然この状況を見ていた地獄でも……。

 

 

「えっ!? 何でっ!?』

 

 

 ギネは大界王の言葉に、狼狽えた表情を浮かべる。

 そんな、ギネや会場の観客達を尻目に、大界王は再び口を開く。

 

 

『悟空ちゃん……、確か悟空ちゃんとパイクーハンちゃんはこの会場の天井に足をつけたわよね……?』

『天井に……? あっ……ああ、着けたけど??』

 

 

 大界王に話を振られた悟空は、試合中の事を思い出す。

 そして、大界王が言っている事に心当たりがあった為、素直に答える。

 悟空の言葉を聞いた、大界王はどこからともなく分厚い本を取り出す。

 

 

『この『あの世一武道会ルールブック』、第1351条に『会場の天井も床と同一と見なす、何故ならリングを逆さにひっくり返せば天井は床になるからである』そう書いてあんのよ』

 

 

 分厚い本事『あの世一武道会ルールブック』に視線を向けながら、大界王は悟空とパイクーハンのルール違反を主張する。

 これには、会場中の観客達がブーイングを上げる。

 それを代弁する様に、きのこ頭の審判兼司会者が口を開く。

 

 

『大界王様、それはいくら何でも無理やりやしませんかぁ!?』

 

 

 そして、またしても地獄でこの状況を見ていた、この人もきのこ頭に同意しながら怒りの声を上げる。

 

 

「そうだ、そうだ!!! なんだよ、それぇ!!! ふざけるんじゃないよ!!!」

 

 

 プンスコと地団駄を踏みながら怒りの声を上げるギネ。

 

 

「はぁ……、あの世ってのも随分いい加減なトコなんだな……」

 

 

 目の前で繰り広げられる茶番に、半分呆れた様な声を上げるバーダック。

 ギネや観客たちが怒りの声を上げるそんな中、当の本人である悟空は特に怒った様子も見せずに口を開く。

 

 

『そっか、ルール違反じゃしょうがねぇなぁ……』

 

 

 素直に自分のルール違反を受け入れる悟空。

 悟空からしたら勝者の特権である『大界王様の修行』よりも、それ以上にパイクーハンと心ゆくまで戦えた喜びの方が上回ったのだろう。

 そんな悟空の内心を見透かしてか、大界王が笑いながら口を開く。

 

 

『そうねぇ、まぁ2人共よく闘ったから、もう2、300年も修行したらあたしが見て上げないでもないわよ?』

『2、300年かぁ……、よぅーーーし、頑張っぞぉーーーーーーっ!!!』

 

 

 大界王の言葉に、新たな目標を定めた悟空は、片手を上げながら楽しそうに気合いを入れる。

 死者である彼には、無限に近い時間があるのだ……。

 そんな彼からしてみれば、目標があった方が張り合いがあるのだろう。

 

 ちなみに、悟空が気合を入れている様子を大界王がどこかホッとした表情で見つめている事は誰にも気付かれる事はなかった。

 

 

「はぁ、あの子は本当にしょうがないねぇ……。

 でも……まぁ、あの子がそれで良いって言うなら、こんな結末もありかな……」

 

 

 水晶に映し出された息子の笑顔に、母親であるギネは呆れながらも笑顔を浮かべる。

 ギネ同様水晶を見つめていたバーダックは、今回の大会について振り返っていた。

 

 

(ふぅ……、トランクスに言われたから観に来たが、正解だったな……。

 思っていた以上の収穫だった……。

 それにしても、カカロットのヤツ……熱い闘いをしやがるじゃねぇか……。

 あいつと戦うのが、ますます楽しみになったぜ!!!

 とは言え、今のオレじゃまだまだあいつの相手にはならねぇ、こいつばかりはオレ自身の問題だからな……。

 となると、やる事は1つしかねぇ!!!)

 

 

 突然立ち上がったバーダックに、視線を向けるギネ。

 

 

「どうかしたのかい? バーダック」

「ああ、わりぃがやる事が出来ちまったから、トキトキ都へ戻るぜ」

 

 

 バーダックの言葉に笑みを浮かべるギネ。

 そんな、ギネに怪訝そうな表情を浮かべるバーダック。

 

 

「なんだよ……?」

「やる事って、修行だろ? あの子の闘いを見て熱くなっちゃったんだろ?」

「ぐっ!!」

 

 

 自身の内心を見透かしたギネの言葉に、少し恥ずかしくなってギネから視線を逸らすバーダック。

 そんなバーダックに、優しそうな笑みを浮かべ口開くギネ。

 

 

「いってらっしゃい、バーダック」

 

 

 視線をそらしていたバーダックが、ギネ言葉で再び視線を彼女に向ける。

 そこには先程まで水晶の中で激戦を繰り広げた息子と、確かに血の繋がりを感じさせる妻の優しい笑顔があった。

 この笑顔は自分の生き方を変えた笑顔だ……。

 

 きっと、こいつの中にある優しさってヤツを、下の息子は特に受け継いだんだろう……。

 そして、それを力に変える術を身につけた、稀有なサイヤ人……。

 それが、オレ達の息子……カカロット……。

 

 オレが初めて純粋に闘ってみたいと思った、サイヤ人……。

 

 そいつには、眼の前のギネがいてくれなければ出会う事は出来なかった。

 そう考えれば、こいつには感謝しかねぇな……とバーダックはふと考える。

 バーダックは、珍しく優しい笑みを浮かべた表情でギネを見つめ口を開く。

 

 

「行ってくる!!!」

 

 

 バーダックは力強く、ギネに告げると背中を向け歩き出す。

 そして、バーダックの全身を眩い光が包み込む。

 次の瞬間には、バーダックの姿は地獄から綺麗さっぱり消え去っていた……。

 

 

(オレは必ず強くなる!!! 待っていろ、カカロット!!!)




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編
孫悟空VSバーダック編-Ep.01


ついに、「孫悟空VSバーダック編」の投稿です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 ここは、大界王星。

 銀河中の英雄達が集う土地……。

 生前、様々な功績を残した英雄が、その功績を認められ、死後もその先の領域へ至る為、自己を鍛えるのが許された土地……。

 

 そんな土地で、一際高さを誇る山の頂で1人の男が、座禅を組み、瞑想し己自身と向き合っていた。

 その男の名は、孫悟空。

 しかし、この名は彼の本当の名では無い……。

 

 生来の名は、カカロット。

 

 惑星ベジータで生まれ、戦闘力の低さから下級戦士と判断され、生まれて間も無く地球を滅ぼす為(そういう事になっている)に送り込まれたサイヤ人だ。

 しかし、運命とは面白いもので、地球に送られたカカロットは、地球へ送られて間も無く誤って崖から落ち、その際に頭を強打し、彼は生来の名と共にサイヤ人の凶暴性を喪失してしまう。

 それから、彼は地球人、孫悟空として生きる事になる。

 

 自分を拾い、育て最初の道を示してくれた祖父、孫悟飯。

 出会いは最悪だったが、自分を閉ざされた世界から連れ出してくれた最初の友、ブルマ。

 初めてのライバル、ヤムチャ。

 自分の武道の根幹を作った生涯の師、亀仙人。

 苦楽を共にした生涯の親友、クリリン。

 互いの武をぶつけ合った、天津飯。

 最初は敵だったが、多くの助けを受けた、ピッコロ。

 サイヤ人の誇りを自分へ伝えてくれた生涯のライバル、ベジータ。

 未来を変えるべく、自分を延命させる為に時を超えた少年、トランクス。

 常に自分を信じ支えてくれた妻、チチ。

 自分を親という存在にしてくれて、死ぬ前に自分を超えた姿を見せてくれた息子、孫悟飯。

 

 その他、多くの者たちと出会い、世界を旅し、世界の広さを知り、己を知った。

 その中で、多くの者達と戦い、気が付けば、地球や宇宙を救っていた。

 そんな摩訶不思議なアドベンチャーみたいな、人生を歩んできた孫悟空。

 

 しかし、何事にも終わりがある様に、孫悟空の人生にも終わりが訪れる。

 孫悟空は、人造人間セルとの戦いで地球や、仲間、家族を守る為に、その命を散らしたのだ。

 その様な経緯を経て、あの世へやってきた孫悟空。

 

 そんな、孫悟空が非業の死を遂げ、あの世にやって来てから既に6年もの年月が経とうとしていた……。

 

 

「ふぅ、どうもダメだな……」

 

 

 眼を開いた、悟空は一息吐くとポツリと呟く。

 そして、その表情はどこか優れなかった。

 悟空はここ半月程とある目的の為に修行を行なっていたのだが、どうもそれが上手くいっていないのだ。

 

 悟空は徐に立ち上がると、人差し指と中指を立て額に当てる。

 そして、その場から姿を消す……。 

 シュン!という音共に移動したその場は、悟空が先程までいた山の麓の巨大な湖だった。

 

 そこに、ビーチパラソルの下に備えたビーチチェアに横になり、車の雑誌を読んでいる界王の姿があった。

 界王は雑誌から視線を外し、悟空に目を向ける。

 

 

「ん? 戻ったか、悟空」

「おう! ただいま界王様」

 

 

 悟空は、界王の横に座ると目の前の巨大な湖に目を向ける。

 陽の光をキラキラと反射させる湖面。

 そして、爽やかな風が自分の頬を撫でる。

 

 山育ちの悟空にとって、こういう穏やかな光景はすごく落ち着いた。

 

 

「それで、どうだった……?」

 

 

 横から声をかけられた、悟空は視線を界王に向ける事なく、口を開く。

 

 

「今日もダメだった……」

「そうか……、まぁ、そう簡単にいくもんでも無いだろうからなぁ〜。

 気長にやればいい、お前には時間があるんだ……」

「そうだな、でも、感覚からしてもうちょっとだと思うんだよなぁーっ」

 

 

 悟空の言葉に、界王は呆れた声で口を開く。

 

 

「超サイヤ人を超えた超サイヤ人をさらに超えるか……、お前一体どこまで強くなる気なんだぁ?」

「何だよ? 強くなる事はいい事だろ?」

 

 

 界王の言葉にむくれた表情で応える悟空。

 そんな悟空にやれやれと言った表情を浮かべる界王。

 

 

「はぁ、お前にそんなこと言うだけ無駄か……。

 それで、最近ずっと座禅を組んで瞑想しておるが何か進展はあったのか?」

「いや、正直変わりねぇな……。

 感覚的には、超サイヤ人2に初めてなった時と似てんだけどなぁ……。

 だから、超サイヤ人2の壁を超えた領域に片足を突っ込んでるのは間違いねぇと思うんだけど……、どうもなぁ……」

 

 

 会話から分かるように、悟空が行っていた修行とは超サイヤ人2の壁を超える修行だった。

 あの世に来て間もない頃、大界王星で修行を始めた悟空は、セルゲームの時に息子の悟飯が見せた超サイヤ人を超えた超サイヤ人……超サイヤ人2の領域に至る事を目標としていた。

 だが、その領域には2年もしない内に到達する事が出来た。

 

 これは、悟空があの世に来る前からかなり修行を積んでいた事と、師である界王のおかげでここまで短時間でこの領域に至ったのだ。

 それからは、界王の指導や自分で考えた様々な修行を行い、自分を高めて来た……。

 そんな悟空だったが、半月ほど前から超サイヤ人2で修行を行っていると違和感を覚える事が多々増え始めたのだ……。

 

 ごく稀にだが、自分が把握している以上の力が出る時があるのだ。

 そして、悟空には過去にこれと似た様な経験をした事があった。

 そう、超サイヤ人2の領域に至ろうとした時だ。

 

 その経験から、悟空は自分が超サイヤ人2の壁を越えへ新たな領域に足を踏み入れようとしている事を自覚する。

 それから、超サイヤ人2の壁を超えるべく修行を行なっているのだが、その修行が難航しているのだ。

 

 

「超サイヤ人2の時は、先に完成形を見てたからなぁ……。

 だから、そこまで大変じゃなかったけど、今回はそいつがねぇからなぁー。

 時間がかかるのはしょうがねぇ……。

 けど、何となく分かんだ……。

 超サイヤ人2を超えた領域……超サイヤ人3は2とは比べモンにならねぇくらいスゲェってな……」

 

 

 真っ直ぐ前を見ながら、自分の新たな可能性をワクワクした表情で語る悟空。

 そんな悟空の姿を見て、界王は無意識にポツリと呟く。

 

 

「お前は、初めて会った時から全然変わらんなー」

「ん? 何か言ったか、界王様?」

 

 

 界王の呟きが聞こえたのか、悟空が視線を界王に向ける。

 

 

「何でもないわ!!」

「? ……ま、いっか。 それより界王様、オラ腹減っちまったぞ……、メシ食いに行こうぜ!!」

 

 

 自分の吐いた言葉が小っ恥ずかしくなった界王は、慌てた様子でそっぽを向く。

 その界王の様子に首を傾げる悟空。

 しかし、それも束の間、悟空は己の欲求を解消するべく立ち上がる。

 

 

「お前、仮にも死人じゃろうが!!」

「死んでても腹は減るんだから、しょうがねぇだろ!!」

 

 

 立ち上がった悟空に呆れた表情の界王。

 だが、死んでも解消されないサイヤ人の3大欲求の1つ空腹に襲われた悟空は、腹を摩りながら反論する。

 そんな悟空にやれやれと首を振りながら、ビーチチェアから起き上がる界王。

 

 

「ったく、お前はしょうがない奴だな……」

 

 

 そう言いながら悟空に触れる界王。

 界王が自分に触れた事を確認した悟空は、人差し指と中指を立て額に当てる。

 

 

「んじゃ、行くぞーーーっ!! えっと、バブルスの気は……、あった!!!」

 

 

 悟空はメシの事を考え、笑顔を浮かべながら界王の付き人である、猿のバブルスの気を探る。

 そして、バブルスの気を即座に感知し、シュン!という音共にその場から姿を消す……。

 

  

「よっ! バブルス!!」

「ウホッ!!」

 

 

 移動した悟空と界王の目の前に、猿のバブルスが立っていた。

 悟空がバブルスに声をかけると、バブルスも片手を上げ、悟空に応える。

 そして、悟空は今立っているのが、いつも界王と暮らしている家ではなく、外である事に気がつく。

 

 

「あり? 何処だ、ここ? ……ああ、大界王殿の前か」

「ウホッ!!」

 

 

 しかし、視線を動かしてすぐに見覚えがある建物を発見し、自分達がいる場所を認識する。

 それを肯定する様に、バブルスが返事を返す。

 

 

「オメェ、こんなところで何やってんだ?」

「どうせ、散歩でもしておったのだろう」

「ウホォ!!」

 

 

 バブルスが大界王殿の前にいる事に疑問を覚えた悟空は、バブルスに問いかけるが、バブルスより先に界王が口を開く。

 そして、界王の言葉を肯定する様に、バブルスは肯く。

 

 

「ふーん、なぁ、バブルス、オラ達今からメシ食いに行くけど、オメェも一緒に行くか?」

「ウホォ、ウホォ!!」

「よし、じゃあ行くか!!!」

 

 

 悟空が食事に誘うと、喜んだ様に飛び跳ねるバブルス。

 そんなバブルスにニカッ!と笑みを見せた悟空は、界王とバブルスを連れ、飯屋に向かおうとしたその瞬間、悟空達に声がかけられる。

 

 

「あら? そこにいるのは、北の界王ちゃんと、悟空ちゃんじゃなぁ〜い!!」

「ん?」

 

 

 声をかけられた悟空達は、声がした方に視線を向ける。

 すると、そこには上下デニムでブーツを履き、肩にラジカセを担ぎサングラスをかけた、大層ファンキーな爺様事大界王が立っていた。

 

 

「「大界王様っ!?」」

「はぁーい!!!」

 

 

 悟空達が驚きの声を上げると、大界王は片手を上げフランクに返事を返す。

 大界王の出現にとっさに跪く、界王とバブルス。

 そこでギョッ!とした表情で未だ立ったままの悟空に目を向ける界王。

 

 

「これこれこれこれ悟空っ!! 頭が高い!頭が!!」

「あっ、いきなり何すんだよ!? 界王様!!」

 

 

 悟空の様子に気付いた界王は即座に悟空の頭を掴み、跪かせ様とする。

 そして、突然頭を掴まれた悟空は、驚きの声を上げる。

 そんな2人のやりとりを見た大界王は、口を開く大界王。

 

 

「あーあー、いいから!いいから! 北の界王ちゃん」

「へ?」

 

 

 大界王の言葉に悟空の頭を掴んだまま驚きの、表情を向ける界王。

 そんな界王を無視して、大界王は悟空に目を向ける。

 

 

「ほぉ……!! ふむ……、これは、これは……」

「「「?」」」

 

 

 悟空をじっと見たまま、何やら思案げな表情を浮かべる大界王。

 突然の大界王の様子に、首を傾げる3人。

 しばらくそんな時間が続いたが、大界王の様子にうかつに口を挟めない悟空と界王。

 

 しかし、その時間も長くは続かなかった。

 

 

「なるほど……、しばらく会わない間に随分鍛えたみたいねぇ……、悟空ちゃん……」

「え? あ、ああ……、まぁな……」

 

 

 沈黙を破り悟空の眼を見て口を開く大界王。

 気のせいか大海王の雰囲気が先程までの軽いものから、一気に重くなった様に感じる悟空。

 その為、返事に戸惑いの感情が宿ってしまった。

 

 そんな、悟空を無視して再び大界王が口を開く。

 

 

「しかも、今新たな領域に足を踏み入れようとしている……。

 けど、それがなかなか上手くいっていない……、そうよね……?」

「!? 分かんのかっ!?」

 

 

 大界王の言葉に驚きの声を上げる悟空。

 だが、大界王はまたしても悟空を無視して口を開く。

 

 

「悟空ちゃん、君これから地獄に行って来なさい!!」

「へ?」

 

 

 突然の大界王の言葉に、惚けた表情を浮かべる悟空。

 だが、すぐに言葉を理解して口を開く悟空。

 

 

「えっと、地獄ってあの地獄だよな……? どうして、突然そんな所へ??」

 

 

 大界王の言葉の意味がわからなかった悟空は、人差し指を下に向け、問いかける。

 悟空の言葉に頷く大界王。

 

 

「そこに、悟空ちゃんを次なる領域へ導く者がいるからよん!!」

「導く者……、だって……?」

 

 

 急に軽い口調で、悟空の問いに答える大界王。

 そして、その言葉を反芻するかの様に言葉に載せる悟空。

 だが、それも束の間真剣な表情で、大界王に問いかける悟空。

 

 

「何者だ? そいつ……」

「その子は、君と同じサイヤ人で、伝説の黄金の戦士の更に先の領域に至る者……。 今の悟空ちゃんと同じ様にね……」

 

 

 ギラッ!とサングラスを光らせながら、応える大界王。

 まるで、サングラスの下の眼まで鋭い眼差しを浮かべている様だった。

 だが、そんな事今の悟空には、関係なかった……。

 

 何故なら、彼の口にはいつもの……あの強い奴と戦える時のワクワクとした笑みが浮かんでいたからだ。

 

 

「つまり……、そいつもオラと同じ様に超サイヤ人を超えた超サイヤ人……超サイヤ人2の力を持ってるって事か!!」

「そういうことっ!!」

 

 

 悟空の言葉に笑みを浮かべる大界王。

 そこで、悟空の横にいた界王が口を開く。

 

 

「あの、大界王様……、地獄に行ってその者と会い、悟空は何をすれば良いのでしょうか……?」

「そんなもん決まってんだろ、界王様!!」

「へ?」

 

 

 界王の質問に、大界王が答えるよりも先に悟空がさも当然と口を開き、大界王に不敵な笑みを向ける。

 そんな悟空の様子に訳が分からないと、呆けた顔を向ける界王。

 界王の視線の先の悟空は、大界王に向け口を開く。

 

 

「大界王様は、地獄に行ってそいつと戦ってこい!って言ってんだ!! そうだよな??」

 

 

 悟空の言葉に、満面の笑みを浮かべ肯く大界王。

 

 

「へへっ……! ワクワクすんなぁーーーっ!!!

 あの世一武道会以降、強えヤツと戦えなかったからなぁ……」

 

 

 まだ見ぬ対戦相手を思って、喜びの声を上げる悟空。

 

 

「なぁ!なぁ! もう、オラそいつと戦いに行ってもいいんかっ??」

 

 

 悟空は興奮した様子で、大界王に詰め寄る悟空。

 

 

「ほっほほほ……、いいんじゃなぁい!」

「よぉーーーし、それじゃさっそく……」

 

 

ぐぅーーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 悟空が地獄へ向かう為に舞空術を行おうとした瞬間、獣の泣き声の様な異音が周囲に響き渡る。

 その場にいる全員の視線が、悟空に集中する……。

 

 

「は、ははっ……。 そういや、オラ腹が減ってるんだった……」

 

 

 照れた様に、頭をかく悟空。

 その様子に、ズッコケる界王とバブルス……。

 そして、流石の大界王も頭に冷や汗を浮かべる。

 

 そんな、周りの事などお構いなしに、話を進める我らが孫悟空。

 

 

「よし! 闘いの前に、まずはメシだな!!

 メシを喰わねぇと、力でねぇしな!!

 じゃ、大界王様、オラ、メシ喰ったら地獄に向かうから!! んじゃな!!!」

 

 

 そう言いながら、飯屋へ向け駆け出す悟空。

 

 

「ああ……」

 

 

 呆けた様子でその場に取り残される、大界王と界王とバブルス。

 しかし、悟空と付き合いの長い界王は、すぐさまハッ!とした様な表情を浮かべ、現実へ帰還する。

 

 

「そ、それでは大界王様、私達もこれにて失礼させていただきますっ!!

 行くぞ、バブルス君!! 待てぇーーーっ、悟空ぅーーーっ!!!」

 

 

 界王は悟空を追うべく、大界王に頭を下げると、バブルスを連れ悟空が向かった方に駆け出す。

 3人が慌ただしく去った後、1人残された大界王は複雑そうな表情で3人が駆けていった方向を見つめる。

 

 

「ふぅ、時の界王神様に言われて、悟空ちゃんを地獄へ誘導する事には成功したけど……、一体今から何が起こるのかしら……」

 

 

 大界王が言葉にした様に、今日彼が悟空達の前に姿を現したのは偶然ではなかった……。

 彼は、今日の朝トキトキ都にいる時の界王神から1つ指令を受けていたのだ。

 その指令とは……。

 

 『孫悟空の力を見極め、彼が次なる領域に至りかけているのであれば、地獄へ導け』

 

 というものだった。

 何故、こんな指令が送られて来たのか、大界王にはその真意が分からない。

 だが、歴史を管理する時の界王神がわざわざ指令を出したという事は、この世界の正しい歴史に必要であるという事だ。

 

 いかに大界王といけど、現在の時間の中に生きる者である事に変わりはない。

 それ故に、大界王も未来の事は知り得ないのだ……。

 

 

「でも、まぁ……悟空ちゃんなら、なんとかするでしょ!!」

 

 

 そう言いながら、ルンルンと軽い足取りで大界王殿に足を向ける大界王。

 

 

「見せてもらうわよん! 悟空ちゃん!!」

 

 

 足取りと同じ様に軽い口調で言葉を紡ぐ大界王。

 これから起こる出来事が、きっと楽しいモノであると確信して。

 

 

 

ガツガツガツガツガツ……モグモグ……。

 

 

 机いっぱいに積み上げられた大小様々な皿。

 そして、それを呆れた様な表情で見つめる、神と付き人。

 彼らの視線の先では、今なお皿を積み上げる1人の男が幸せそうな顔して、食事を楽しんでいた。

 

 だが、そんな時間もようやく終わりを迎える。

 これまで小気味よい音を立てていた、彼の箸の音が止まったのだ。

 それと同時に、ドン!と皿を置く音が飯屋中に響き渡る。

 

 

「ぷはーーーっ!!! 食った!!食った!! 美味かったぁーーーっ!!!」

 

 

 満足そうな表情で、笑顔を浮かべる悟空。

 

 

「毎度毎度、お前は本当によく食うなぁ……」

「ウホォ!!!」

 

 

 悟空が積み立てた皿の山を見ながら、界王とバブルスが呆れた声を上げる。

 そんな界王達を尻目に、椅子から立ち上がる悟空。

 

 

「さてと……」

 

 

 悟空の様子に、これからの悟空の行動を予測する界王。

 

 

「行くのか?」

「ああ!!」

 

 

 大界王の言葉に、ワクワクした表情で言葉を返す悟空。

 そんな悟空に、しょうがない奴だなぁ〜と言った表情を浮かべる界王。

 

 

「まぁ、気を付けて行ってこい!! ワシはこちらからしっかり見させてもらうからな!!!」

「ああ!!」

 

 

 そう言って、ふわりと浮き上がる悟空。

 しかし、それを慌てた様で止める界王。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! 悟空!!」

「何だよ? 界王様」

 

 

 出鼻を挫かれたからか、不満そうな表情を界王に向ける悟空。 

 

 

「地獄に行くなら、閻魔のところから行け!!」

「え? 何でだ? 前にフリーザ達を止めに行った時は、直接行けたじゃねぇか??」

「あれは、緊急事態だったからじゃ!! 本当はあの世の住人が簡単に地獄へ行ってはいかんのだ」

「へぇー、そうなんか……。 じゃあ、しょうがねぇなぁ……」

 

 

 そう言うと悟空は、浮いていた身体を地面に付ける。

 そして、人差し指と中指を立て額に当てる。

 

 

「えっと、閻魔のおっちゃんの気は……、あった!!! んじゃ、界王様行ってくる!!!」

「うむ!」

 

 

 シュン!と風を切る様な音と共に、大界王星から姿を消す孫悟空。

 

 

 

 ここは、閻魔界。

 見渡す限り黄色い雲に覆われた世界。

 その世界には1つの宮殿が立っていた。

 

 その宮殿の中で、今日も業務に勤しんでいる巨漢の男がいた。

 その男の名は、閻魔大王。

 この世とあの世の法則を司り、死者の魂に絶対の権力とあの世を司る力を持つ、言うならば死者の世界の管理者だ。

 

 彼の仕事の1つに死者の判決といいうものがある。

 これは、死後閻魔宮に訪れた魂の生前の行いを、手元の閻魔帳に基づいて瞬時に見極め、天国行きか地獄行きかの決定を行なっていくというものだ。

 彼が座っている机の上には、数多の書類や、台帳がのっかっており彼の仕事量がそれだけで伺える。

 

 

「天国行き……、地獄行き……、地獄行き……、天国行き……、地獄行き……」

 

 

 閻魔大王が判決を下し、ハンコを押した死者の書類が彼の机の下に用意されている箱に次々と収まっていく。

 そうやって、いつも通り業務をこなしている閻魔大王の耳に、シュン!という風を切り裂く様な音が聞こえて来た。

 

 

「ん?」

 

 

 閻魔大王は、書類から眼を離し、机の下に目を向ける。

 そこには、1人の男が立っていた。

 

 

「よう!」

 

 

 気軽な様子で、手を上げ自身に挨拶をする男。

 そして、その男は閻魔大王も知っている男だった。

 

 

「おおぉ!! 孫悟空ではないか!! どうした突然」

 

 

 突然の来訪者に机から身を乗り出し、喜びの声を上げる閻魔大王。

 そんな閻魔大王に、悟空も笑みを浮かべる。

 

 

「久しぶりだな! 閻魔のおっちゃん!

 あのよ、オラちょっと地獄に用事があんだけど、行っていいか?」

「ん? 地獄へ? どうして突然……?」

 

 

 悟空の言葉に、首を傾げる閻魔大王。

 

 

「なんか、大界王様から地獄に強えヤツがいるから、そいつと闘ってこいって言われてさ!!!」

「大界王様から……? もしかして、あいつの事か……?」

 

 

 悟空の言葉を聞いた閻魔大王は、脳裏に1人の男の姿を思い浮かべる。

 閻魔大王の様子に悟空が再び口を開く。

 

 

「ん? おっちゃん、そいつの事知ってんのか?」

「ああ……、まぁ……な……」

 

 

 悟空の問いに曖昧な様子で、応える閻魔大王。

 

 

「大界王様から聞いたんだけど、そいつもオラと同じサイヤ人なんだろ?」

「ああ……。 フリーザが惑星ベジータを滅ぼした時に、共に散ったサイヤ人だ」

「そうなんか……、フリーザに……」

 

 

 閻魔大王の言葉を聞いた悟空は、若干表情を暗くする。

 フリーザの件は、同じサイヤ人である悟空やトランクスが片を付けた。

 だが、改めて滅ぼされたサイヤ人の話を聞くと、どういう反応をしていいのか分からないのだ……。

 

 そういう奴らが実際にいたのは、知っていた。

 ナメック星での戦いでは、そいつらの想いも背負って戦った。

 だが、改めて聞かされると何とも言えない気分が襲って来た。

 

 そんな悟空の内心を察してか、閻魔大王が口を開く。

 

 

「まぁ、あやつもお前みたいに強い奴と闘えれば嬉しかろう……。

 悟空、お前の地獄への進入を許可しよう」

「あっ、ああ……、サンキュー、閻魔のおっちゃん!!」

 

 

 閻魔大王の言葉に、悟空は思考を打ち切り、閻魔大王に礼を述べる悟空。

 

 

「あちらの通路を抜けると、地獄へ行くことが出来る」

 

 

 閻魔大王は、自分から見て左手の通路を指差し悟空を案内する。

 

 

「分かった! あんがとな、おっちゃん!!」

 

 

 そう言うと、悟空は閻魔大王に背を向け歩き出す。

 そんな悟空の背を見ながら、閻魔大王はポツリと口を開く。

 

 

「思わぬ形ではあったが、お前の望みがようやく叶うのだな……、バーダック」

 

 

 そう言いながら、閻魔大王は数年前にこの場で交わした約束のことを思い出す……。

 

 

(お前は、ワシとの約束を守って、タイムパトロールとなってくれた……。

 その報酬として、息子である悟空と闘わせる約束を交わした。

 だが、お前は悟空があの世に来ても、闘わせろとは一言も言わなかった。

 しかし……、ついにその時がやって来たのだな……)

 

 

「お前の想いと力、存分に息子にぶつけるといい……、バーダック」

 

 

 もうしばらくすると、地獄では大規模な戦闘が行われる事だろう。

 あの2人の人格や、大界王様が絡んでいる事を考えれば、地獄への被害は最小限で収まるだろう。

 

 

「さて、ワシも早く仕事を終わらせねばな!! あの2人の闘いなど、見逃せるものかっ!!!」

 

 

 そう気合を入れ直しながら、手元の書類に眼を向ける閻魔大王。

 

 

 

 閻魔大王に言われた閻魔宮の通路を抜けると、悟空の視界には以前訪れた地獄の景色が広がっていた。

 地獄のどこか生暖かい風が、悟空の頬を撫でる。

 悟空は地獄の景色を見ながら、ポツリと呟く。

 

 

「フリーザにやられたサイヤ人か……、どんなヤツなんだろうな……」

 

 

 だが、それも束の間、悟空は真っ直ぐ地獄の風景を見つめる。

 

 

「ま、いっか! 考えた所でしょうがねぇ、とにかく会えばわかんだろ!!」

 

 

 そう言って、悟空はふわりと浮き上がると、身体から真っ白いオーラを身に纏う。

 次の瞬間、凄まじいスピードで地獄の空を飛翔する。

 

 

「楽しみだなぁ!!! オラ達以外の超サイヤ人なんてよ!!!」

 

 

 ワクワクした表情で飛翔していた悟空だったが、突如空中で停止する。

 

 

「そう言えば……、オラそのサイヤ人が何処にいるのか知らねぇや……。

 それどころか、そいつの名前も知らねぇ……。 どうっすかな……」

 

 

 そう、悟空は肝心な対戦相手の事を一切聞かないで、ここまでやって来てしまったのだ。

 それに気付いた悟空は、空中で頭を抱える。

 

 

「しょうがねぇ、一か八かサイヤ人の気を探ってみるか……」

 

 

 悟空は、人差し指と中指を立て額に当て眼を瞑る。

 そして、広大な地獄の中からサイヤ人の気を探り始める……。

 すると、悟空の感覚がサイヤ人らしき気を感知する。

 

 しかも、1つ2つではなく、複数感知したのだ……。

 どうやら、地獄のサイヤ人達は1カ所に集まって暮らしている様だ。

 そして、その中で知っている気を発見する。

 

 

「こいつは……、確か……ラディッツとあの時ベジータと一緒にいたサイヤ人の気だ……」

 

 

 悟空の脳内に2人のサイヤ人の姿が浮かび上がる。

 だが、今回用があるのは、この2人ではない。

 悟空は更に感知に集中する。

 

 すると、複数のサイヤ人の気の集まりから、少し離れた場所にもう2つサイヤ人の気を感知したのだ。

 そして、その1つの気を感知した瞬間、悟空の表情が激変する。

 

 

「見つけたぁ!!!」

 

 

 喜びの感情を爆発させた悟空は、次の瞬間、シュン!という音と共に姿を消す。

 まだ、見ぬ強敵を求めて……。

 

 

 

 地獄に住むサイヤ人達の集落の近くの荒野で、1人の男が佇んでいた。

 男は、師匠である男に、今日この場所にいる様に言われたのだ……。

 正直、訳が分からなかったが、師であるあの男が今の自分に無駄な事をさせるはずがない。という信頼感だけは持っていた。

 

 その為、師の言葉にしたがって、ここにやって来た。

 

 

「ったくよぉ、トランクスのヤツ、何だってこんな所にオレを呼び出したんだ……?」

 

 

 だが、いつまで経っても何も起こらない事に、苛立ちを込めた様に言葉を吐く。

 そう、この男こそ、今回の物語のもう1人の主人公、サイヤ人カカロット事孫悟空の父、バーダックだ。

 

 

「ようやく、超サイヤ人2の力を身に付けて、修行もいい感じに進んでやがったのに……。

 これがくだらない用事だったら、あいつ覚えてろよ!!」

 

 

 6年前、トランクスから、いずれ悟空が生き返る事を知らされたバーダック。

 そして、その際に悟空の持つ力が宇宙の命運を左右すると聞かされていた。

 その為には、孫悟空があの世にいる間に、力を高める必要があるのだ。

 

 サイヤ人は、戦いの中でこそ、その真価を発揮する。

 孫悟空が、さらなる高みに至るには、全力でぶつかれる相手が必要となる。

 その相手に選ばれたのが、バーダックだった。

 

 元々悟空と戦いたかったバーダックは、その提案に2つ返事で飛びついた。

 そして、それからは、悟空を超える為に、師であるトランクスと修行に励んできたのだ。

 その甲斐あってか、今のバーダックは超サイヤ人の壁を超え超サイヤ人2を大きく超える領域に至っていた。

 

 

「はぁ……、あと5分経って何も起こらなかったら、引き上げるか……。

 勝手について来た、あいつには悪いけどな……」

 

 

 バーダックは、そう言いながら、自分から少し離れた岩場に呆れた様な表情を向ける。

 だが、次の瞬間バーダックの表情が驚愕に染まる。

 シュン!という風を切り裂く様な音と共に、背後に懐かしい気配を持った強大な気が背後に現れるたのだ……。

 

 バーダックはゆっくりと振り返る……。

 

 そこには、自分と似た髪型や顔を持ちながらも、目元は自分の妻の血を感じさせる男が立っていた……。

 

 何度もその姿を見た……。

 

 死ぬ前に散々苦しめられた予知で……。

 ナメック星でのフリーザとの戦いで……。

 あの世で一番の強者を決める戦いで……。

 

 そして、幾度も仮想敵として想像した、自身の脳内で……。

 

 その度に、自身の心は突き動かされ、身体をアツくさせた……。

 こいつと本気で闘ってみたいと……。

 そんな、男が今、自身の目の前に確かに立っていた。

 

 バーダックは、自分の昂る心を必死に抑えながら、真っ直ぐ男の眼を見据える。

 そんな、バーダックに男は笑みを浮かべる。

 

 

「よう!」

 

 

 そう言って、右手を上げ笑みを深めた男……、孫悟空事カカロット。

 

 死後の罪人を裁く土地で、ついに再会を果たした父親と息子……。

 

 今、地獄史上最強の親子対決が始まろうとしていた……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の2話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.02

お待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


「はぁあああ!!!」

「だらぁあああ!!!」

 

 

 2人の男が繰り出した拳がぶつかり、轟音と共に地獄の大地を大きく揺らす。

 ぶつかった拳はギリギリと音を立て、均衡を保つ。

 込められた力がよほど強いのか、バチバチとスパークを轟かせる。

 

 だが、そんな事等この2人には関係ない。

 何故なら、今目の前にはそんな事が些末に映るほど、魅力的な存在が互いの眼の前にいるのだから……。

 2人は拳を通して、互いの力を感じ取り好戦的な笑みを浮かべる。

 

 疼くのだ……、身体が……、血が……。

 彼らの中に流れる戦闘民族サイヤ人の血が、目の前の相手に狂喜しているのだ……。

 2人は同時に、拳を引っ込めると勢いよく蹴りを繰り出す。

 

 

「だりゃぁあああ!!!」

「オラァアアアア!!!」

 

 

 ぶつかった瞬間、またしても轟音と衝撃を振りまきながら、ビリビリと空気を揺らす。

 その威力から2人の軸足を中心に、大地にいくつもの大きなヒビが走る。

 そんな、傍迷惑な闘いを繰り広げる男達を、遠くから眩しそうに見つめる1人の女性の姿があった。

 

 

「ははっ!! バーダックもカカロットも本当に楽しそうだ……」

 

 

 彼女の名前はギネ、現在目の前で闘いを繰り広げている、バーダックの妻にして、カカロット事孫悟空の母である。

 

 

「まったく、しょうがないんだから……、家の男共は……」

 

 

 彼女は眼に涙を溜めながらも、目の前に光景に心の底から笑みを浮かべる。

 

 

 

☆ 時は数分前へ遡る……。

 

 

 

「よう!」

 

 

 そう言って、右手を上げ笑みを深めた男をバーダックは無表情でジッと見つめる……。

 バーダックがあまりに反応を示さないからか、男は困った様な表情を浮かべ再び口を開く。

 

 

「なぁ、オラの声、聞こえてるよな……?」

「ああ……」

 

 

 返事を返したバーダックに、男は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「オス、オラ悟空!!

 いやー、よかった!! オメェ何の反応もしねぇから、てっきり耳が聞こえねぇのかと思ったぞ……」

「そいつは、悪かったな……。 元々こういうタチなんだ……」

「へー、そうなんかぁ!!」

 

 

 悟空は、バーダックの腰に巻かれているモノに目を向ける。

 

 

「やっぱ、尻尾があんだな……」

 

 

 かつては悟空にも生えていたそれは、今や見なくなって等しい。

 悟空にとってはデメリットの方が大きいので、先代の地球の神によって切除された。

 それは悟空だけでなく、経緯は違えど彼の息子やライバルもいつしか無くしていたモノだった。

 

 悟空は尻尾をなくした事を後悔した事はない……。

 だが、こうやって改めて見ると、悟空達が無くしたそれこそが、目に見えるサイヤ人の象徴だったのかもしれない。

 

 ジッと自分の尻尾を見つめる悟空の言葉を聞いたバーダックは、不思議そうに首を傾げる。

 

 

「? サイヤ人なんだから尻尾があって当たり前だろ……」

「ははっ! そりゃ、そうだよな……」

 

 

 さも当然と言わんばかりのバーダックに、曖昧な笑みを浮かべる悟空。

 だが、そんな悟空を今度はバーダックがジッと見つめる。

 正確には、先程の悟空と同じ様に、悟空の腰あたりを見ていた。

 

 

「寧ろ……、サイヤ人のくせして尻尾がねぇお前の方がおかしいんだ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は驚いた表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「へぇ! 尻尾がねぇのにオラがサイヤ人だって分かんのか!!」

 

 

 だが、悟空の言葉を聞いたバーダックは、呆れた様な表情を浮かべ口を開く。

 

 

「はっ! テメェ鏡を見たことがねぇのか……。

 殆どオレと似た様なツラしておいて、オレ達のツラはサイヤ人ではよくある顔なんだよ……」

「ああ……、なるほどなぁ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空はそう言えばといった様子で、まじまじとバーダックの顔に視線を向ける……。

 

 

「本当に、オラそっくりのツラしてんなぁ……。 ……でも、オラここまで目付きは悪くねぇな……」

「ほっとけ!」

 

 

 いきなりな悟空の無礼な発言に、ツッコミを入れるバーダック。

 そんなバーダックが、はぁ!とため息を吐くと、話を切り替えるべく口を開く。

 決して、自分を見つめる悟空の視線が煩わしくなったのでは無い……、多分……。

 

 

「それで……、オレに何か用か……? 無駄話をしに来た訳じゃねぇんだろ……」

「ああ、そうだった!! いきなりで悪いんだけどよ、オメェ、オラとちょっと手合わせしてくれねぇか??」

 

 

 バーダックの言葉で、ここに来た目的を思い出した悟空は、ポン!と手を打つ。

 そして、ワクワクした笑みを浮かべ、真っ直ぐバーダックを見つめ、手合わせを申し込む……。

 そんな悟空をジッと見つめるバーダックが、静かに口を開く。

 

 

「(騒がしいヤツだな……、こういうトコはギネそっくりだな。 だが……)手合わせか……」

 

 

 そして、その表情に不敵の笑みが浮かへる。

 

 

「いいぜ!! 相手になってやるよ!!!」 

 

 

 そう言って、構えをとるバーダック。

 そんなバーダックに悟空も同じく、不敵の笑みを浮かべ構えをとる……。

 2人が構えをとったことで、場の緊張感が一気に高まる。

 

 もはや、いつ闘いが始まってもおかしくなかった。

 だが、ここで悟空の表情が、何かを思い出したかのような表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「っと、ところでよ、ずっと気になってた事があんだけど、いいか……?」

「あん? 何だ……?」

 

 

 悟空の言葉に、せっかく気分が盛り上がっていたのに、水をさされたバーダックが不満げな様子で答える。

 そんなバーダックを尻目に、悟空はある方を指差す。

 

 

「いやよ、さっきからあそこの岩場に隠れてるヤツ……、オメェの知り合いか?」

 

 

 悟空の指差した方向に視線を向けたバーダックは、苦々しい表情を浮かべる。

 

 

「(まぁ、気を感知出来るこいつが、あいつに気付かねぇわけねぇよな……)ああ……、オレの女房だ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は驚きの表情を浮かべ、声を上げる。

 

 

「へー、オメェ結婚してるんだな!! でも、何であんな所に隠れてんだ……?」

「さあな……。 だが、今は都合がいい……、何せこれからここは……、戦場になるんだからよっ!!!」

 

 

 バーダックの妻が何故岩場に隠れているのか、疑問を覚える悟空。

 だが、バーダックはそんな悟空の疑問をはぐらかす。

 そして、話は終わりだと、身体から膨大な気を放出する。

 

 そんな、バーダックに悟空も笑みを浮かべ、身体から気を放出する。 

 

 

「へへっ!! 確かにな……。 そう言えば、まだオメェの名前聞いてなかったな……」

「オレの名か……。 そうだな……、お前がオレに勝ったら、教えてやるよ……」

 

 

 悟空に名を問われたバーダックは、人の悪い笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「なんだそりゃ!?」

 

 

 バーダックの言葉に、どこか呆れた様な表情で口を開く悟空。

 だが、すぐに表情を笑みに変える。

 

 

「まっ、いっか! じゃあ、オメェに勝って、オメェの名を教えてもらうとすっかな!!!」

「へっ! やれるモンなら、やってみな!! くそガキがっ!!!」

 

 

 バーダックの言葉を合図に、気を高め、互いに戦闘態勢が万全に整った両者は、ほぼ同時に飛び出す。

 ついに、幕を開けたサイヤ人の親子対決……。

 

 

 

■Side:ギネ

 

 

「始まったっ!!!」

 

 

 あたしの視線の先で、バーダックとカカロットの拳が激しくぶつかる。

 その凄まじい衝撃が、離れた場所にいるあたしを容赦なく襲う。

 

 

「くっ、なんて衝撃だい……」

 

 

 あたしは、吹き飛ばされない様にその場に止まる事に全力を注いだ。

 だが、あたしの事などお構いなしに、うちのバカ共は、どんどん戦闘を加速させていく。

 2人が超速で繰り出す拳や蹴りが、轟音となって、地獄の空気を揺らす。

 

 しかし、当たれば互いにただでは済まない威力の攻撃を、互いに向かって繰り出しているというのに、2人の顔は本当に楽しそうだった。

 そんな、2人の顔を見ていると、あたしまで嬉しくなってくる。

 

 

「ははっ!! バーダックもカカロットも本当に楽しそうだ……」

 

 

 今日の朝、突如地獄へ帰って来たバーダック。

 バーダックは、師匠であるトランクスから、今日の午後にあたし達が住んでる集落から少し離れた荒野に行く様に伝えられたと言っていた。

 最近修行が上手くいっていたらしいバーダックは、この突然の申し出に若干腹を立てていた。

 

 だけど、師匠であるトランクスの事を信頼していたバーダックは、なんだかんだ言いながらも、午後には言われた通り、荒野に足を運んだ。

 バーダックはどうやら気付いていなかった様だけど、あたしはその話をバーダックから聞いた時に、ついに来るべき時が来たのだと思った。

 そう、バーダックとカカロットが闘う時が……。

 

 だけど、前にバーダックと相談して決めた事があった。

 その決め事とは、いずれカカロットとバーダックが戦う時に、カカロットがもしバーダックの事を父親と認識していなかった時は、そのまま知らせずに闘うというものだ。

 あり得ないとは思うが、バーダックが父親と知って、カカロットが本気にならないのを防ぐ為だ。

 

 その為、カカロットと闘う時は、会うのはバーダックだけで、ギネは立ち会わないと2人の間で決めていた。

 だけど、あたしはやっぱり一目カカロットをその眼で見たかった。

 だから、あたしはバーダックが荒野に向かった時に、こっそりと後をつけた。

 

 荒野に訪れたバーダックは、近くの岩場に飛び乗ると1人静かに風景を見つめていた。

 あたしは、そんなバーダックから少し離れた岩場に身を隠し、事の成り行きを見守る事にした。

 バーダックが荒野に訪れて10分程立った時、突如、バーダックの背後にカカロットが姿を現した。

 

 

「えっ!?」

 

 

 思わぬ事態に、あたしは隠れているのを忘れ、驚きの声を上げる。

 だけど、瞬時に今の状況を思い出し、両手で口を塞ぎ、息を殺す。

 あたしは、再び視線を2人に戻す。

 

 幸いな事に2人に気付かれる事は無かったみたいだ……。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 あたしは、安堵のため息を吐く。

 そして、私の眼はあの子の姿に釘付けになる……。

 

 

「うわぁ……!!!」

 

 

 思わず口から喜びの声が出てしまった。

 

 今まで、何度もその姿を見て来た……。

 ナメック星でのフリーザとの戦いで……。

 あの世で一番の強者を決める戦いで……。

 

 だけど、そのどれもが水晶を通してで、実際にあの子の姿を見た事はなかった……。

 そんなあの子が、今目の前に確かにいる……。

 最後に直接眼にした時は、あんなに小さかったのに……。

 

 

(本当に……、立派になったんだね……)

 

 

 本当は今すぐ、飛び出してあの子の元へ駆け出したい。

 でも、それは出来ない……。

 だって、この闘いの為にバーダックがどれほどの想いを込めているのか……、努力して来たのかを知っているから……。

 

 それを、あたしの一時の感情で無にするワケにはいかない。

 わたしは、必死で自分の感情を押し殺す。

 そんな、あたしの視線の先で、ついにバーダックが構えをとる。

 

 そして、そんなバーダックに対して、同じ様にカカロットも構える。

 ついに、闘いが始まるのか?とあたしが思った瞬間、突如カカロットが何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、バーダックに話しかける。

 

 

「ん? どうしたん……えっ!?」

 

 

 あたしが首を傾げながら、2人の動向を見守っていると、カカロットが私の方を突如指差したのだ。

 あたしは、とっさに身を隠す。

 そして、再びゆっくり身を乗り出して2人に視線を送る。

 

 すると、視線の先では、カカロットに大した様子も見せず、バーダックは会話を進めていた。

 それを見た瞬間、あたしの脳内に一つの可能性が浮かび上がる。

 

 

(もっ、もしかして……、あの2人……あたしの事に気付いてる!?)

 

 

 あたしが内心でそんな事を考えながら、頭を抱えていると衝撃が私の身体を襲う。

 ハッ!となって、あたしが視線を向けると、2人の身体から白いオーラが立ち昇っていた。

 

 

「始まる……」

 

 

 あたしが、ポツリと呟いた瞬間、2人は同時に力強く地を蹴り動き出す。

 そして、次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃があたしを襲った。

 2人の繰り出した攻撃で、2人を覆い隠す量の砂埃が舞い上がる……。

 

 その中に、2つの人影をあたしは確かに捉える。

 あたしは、これから起こる2人の闘いを一瞬たりとも見逃すまいと、全集中力を使って2人の姿に目を向ける。

 それが、今バーダックの妻として、そして……カカロットの母親としてあたしが出来る唯一のこと……。

 

 

「頑張れ、2人共……。 あんた達の闘い、あたしがちゃんと見届けるから!!」

 

 

 

■Side:トランクス

 

 

「始まったわね……!!」

 

 

 オレの横で時の界王神様が、口を開く。

 オレ達の目の前では、強大な水晶に闘いを始めた悟空さんとバーダックさんの姿が映し出されていた。

 映像の中の2人は、まるで相手の動きを探りながらも、次々と拳や蹴りを繰り出していく。

 

 だが、1つだけ見ていて分かる事がある。

 

 

「あの2人、とっても楽しそうね……」

「ええ……」

 

 

 オレと同じ事を時の界王神様も感じていたのか、2人の戦いで感じた事を口にする。

 そう、まだ互いに全力ではないが、2人とも本当に楽しそうに闘っているのだ。

 流石、純血の戦闘民族サイヤ人と言った所なのだろうか……。

 

 いや、それだけじゃないか……。

 少なくともバーダックさんはこの闘いを何年も心待ちにしていたのだ。

 そんなバーダックさんの願いがようやく叶ったのだ。

 

 バーダックさんからしてみれば、この瞬間が楽しくないワケがない。

 オレがそんな事を思っていると、オレの横から声がかけられる。

 

 

「ねぇ、トランクス……。 あなたどうしてバーダック君に、今日悟空君と闘う事を伝えなかったの……?」

 

 

 視線を横に向けると、不思議そうな表情で時の界王神様がオレを見上げていた。

 

 

「正直、特に理由はないんです……。

 ですが、バーダックさんはここ数年悟空さんと闘う為に、物凄い執念で修行をして来ました。

 正直、自分でもやりすぎと思うくらいのハードな修行でもバーダックさんは、弱音一つ吐く事はありませんでした。

 それだけ、悟空さんと闘う事への想いが強かったんだと思います」

「なるほど……、予め伝えちゃうと、想いが強すぎる分闘う前から、余計な力が入りすぎちゃうって思ったのね……」

 

 

 オレの言葉を聞いた時の界王神様は、オレの考えを予測して口を開く。

 そして、それが正解であった為、オレは素直に肯き、苦笑を浮かべ口を開く。

 

 

「まぁ、あの人には無用の心配だったかもしれませんが……」

「でもまぁ、今かなりいい状態で闘えてるみたいだから、結果的には良かったんじゃない?」

 

 

 ウィンクしながらオレを見つめる界王神様。

 そんな時の界王神様にオレは笑みを返す。

 

 

「それで、トランクスとしてはこの戦況どう見るの……?」

「正直、まだお互い手の内を何一つ見せていないので、何とも言えません。

 ですが……、オレは現在予想される悟空さんの力を、上回るだけの力をバーダックさんに身につけさせたつもりです……。

 ただ、相手はあの悟空さんです……。 

 僅かな戦闘の中で、あの人は急成長してバーダックさんに追いつく可能性は十二分にあります」

 

 

 オレの言葉を聞いた時の界王神様は、思案気な表情で口を開く。

 

 

「なるほど……、つまり全く予想がつかないという事ね……。

 まぁ、今回の戦いの目的は、悟空君を超サイヤ人3へ覚醒させる事が最優先事項だから、勝負の行方は二の次なのよね……」

「本人達は、そんな事お構いなしで、闘ってるんでしょうけどね」

 

 

 タイムパトロールの隊員としてはどうかと思うが、オレは素直に思った事を口にする。

 しかし、時の界王神様はオレの言葉を聞いて、まるで我が子を見つめる母親の様に優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「それでいいのよ……。 全力の中でないと人は己の殻を破れないのだから……」

「そうですね……」

 

 

 オレはこれまでの人生で、時の界王神様が言った様な経験を何度も経験して来た。

 だからこそ、心の底から時の界王神様の言葉に同意を示した。

 オレは水晶に視線を向ける。

 

 

(バーダックさん、オレは限られた時間ではありましたが、オレに出来る最大限の事をあなたに教えたつもりです……。

 今の貴方なら、悟空さんとも十分に渡り合える……。

 これまで貴方が長い間、胸に宿した想いを存分に解放して闘ってくださいっ!!!

 そうすれば、きっと悟空さんは……、貴方の息子さんは貴方の想いに応えてくれます)

 

 

「頑張れ……、バーダックさん!!!」

 

 

 

☆ 時は再び現在へ戻る……。

 

 

 

「はっ!!」

 

 

 悟空の繰り出した拳を、左腕でガードしたバーダックは、お返しとばかりに右拳を振り抜く。

 しかし、悟空はそれを紙一重で躱し、バーダックの懐に飛び込む。

 そして、すかさず左拳をボディに叩き込む。

 

 

「だりゃぁ!!!」

「くっ!!」

 

 

 バーダックの表情が僅かに歪む……。

 だが、バーダックの足は下がらない、それどころか一歩踏み出し、左拳を悟空の顔面に叩き込んだ。

 

 

「オラァ!!!」

「がっ!!」

 

 

 バーダックの拳に、今度は悟空が声を上げる。

 しかし、悟空もバーダック同様、下がる事はせず、再び拳を繰り出す。

 そこらからは、超接近戦での乱打戦だった。

 

 2人は次々に様々な角度から拳と蹴りを繰り出す。

 並のサイヤ人だったら、既にこの段階で、数え切れない程の敗北を喫しているだろう。

 だが、この2人の限界はこんなものではない。

 

 2人は攻撃を繰り出す毎に、自分の中に眠る力を徐々に開放してく。

 その証拠に、2人の戦闘が進むにつれ、攻撃の余波で傷つく規模が増えているのだ。

 そして、今2人は互いにノーマル状態での気が最高潮に達しようとしていた。

 

 2人は、ほぼ同じタイミングで拳を引くと、その拳に最高に高まった気をのせ、勢いよく繰り出す。

 

 

「だりゃあああああ!!!」

「オラァアアアアア!!!」

 

 

 2人が繰り出した拳が、真正面から激突する。

 その瞬間、轟音と共に、2人を中心に地面が吹き飛び直径数百mのクレーターが形成される。

 クレーターの中心で、互いに拳をぶつけ合ったまま不敵な笑みを浮かべる親子。

 

 2人は、瞬時に距離を取り向かい合う。

 

 

「思ったよりやるじゃねぇか……」

 

 

 悟空に向け、ニヤリと笑みを浮かべるバーダック。

 そんなバーダックに悟空も笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「オメェもな……!! オラが想像していたより、ずっと強え!!!

 けど……、オメェの強さはまだまだこんなもんじゃねぇんだろ……?」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、挑発的な眼をバーダックに向ける悟空。

 だが、バーダックはそんな悟空を鼻で笑い飛ばす。

 

 

「へっ! それは、テメェもだろ!! お互いウォーミングアップは十分だろ……?」

 

 

 好戦的な笑みを浮かべたバーダックの言葉に、悟空も不敵な笑みを浮かべる。

 次の瞬間、地獄の大地が大きく揺れる……。

 だが、誤解しないでほしい……。

 

 この揺れは、自然に起こったものではない……。

 これは、たった2人の人間の人智を超えた力が引き起こした、超常現象だ……。

 その地震の震源地に立つ男達の周りを、石が、瓦礫が、砂粒が重力に逆らう様に舞い上がる。

 

 2人は、互いに気を全身に巡らせ練り上げていく、高まった気は全身から間欠泉の様に純白の気を爆発させる。

 次第に純白の中にキラキラと光る粒子が加わり、その色合いをどんどんか変化させていく。

 それに伴い、2人の全身を黄金色の膜が覆うと、髪が逆立ち全身を取り巻く様にビリビリと幾重にもスパークが発生する。

 

 

「「はぁあああああぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 2人が雄叫びを上げた瞬間、純白の気が完全な黄金色へ変化し、これまでとは比較にならない程の大量の気が吹き荒れる。

 まるで嵐のような気の奔流の中で、2人は黒髪を金色へ染め上げ、黒眼をエメラルドの様な美しい瞳へと変化させる。

 嵐と地震が収まった時、そこには殆ど瓜二つの黄金色のオーラを身に纏った超戦士が不敵な笑みを浮かべ向かい合っていた。

 

 2人は静かにスッと構える。

 先程までの事が嘘の様に、静寂が2人を包む。

 そんな中、緊張感で場が張り詰める。

 

 そんな時、2人の近くの岩場から、小石がガタッ!と転がり落ちる。

 その瞬間、その場から2人の超戦士の姿が消える。

 たが次の瞬間、轟音と共に鈍い音が地獄の空気を震わせる。

 

 

「がっ……!!!」

「ぐっ……!!!」

 

 

 なんと、悟空の右拳がバーダックの左頬に突き刺さり、バーダックの左拳が悟空の右頬に突き刺さっている。

 2人は互いの拳の威力に、声を上げるが、瞬時に拳を引き戻す。

 先に攻撃を仕掛けたのはバーダック。

 

 バーダックは、悟空目掛けて右足を一気に振り抜く。

 しかし、それを悟空はバックステップで交わすと、再びバーダックの懐に飛び込むべく前に出る。

 蹴りを躱され、体勢が不十分なバーダックは、瞬時に右手で悟空の足元にエネルギー弾を放ち懐への侵入を阻む。

 

 だが、悟空も即座にエネルギー弾に反応し空中へ飛び上がると、お返しとばかりバーダック目掛けてエネルギー波を繰り出す。

 それをバックステップで躱したバーダックは、空中の悟空目掛けて飛び出す。

 悟空も、自分に向かってくるバーダックを迎え撃つ為に構える。

 

 バーダックの強烈な右が、悟空を襲う。

 しかし、それをギリギリ躱した悟空は、バーダックの胸にカウンターの形で右拳を叩き込む。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 悟空の拳を受けたバーダックの口から苦悶の声が上がる。

 そんなバーダックに、悟空の追撃の左拳が迫る。

 しかし、バーダックはその左拳が振り抜かれるよりも早く、先程繰り出した右手を引き戻し、悟空の顔に右肘を叩き込む。

 

 

「がっ……っ!!」

 

 

 今の一撃で、僅かに悟空が体勢を崩した隙に、バーダックは瞬時に悟空の頭上に移動し、悟空の頭にかかと落としを繰り出す。

 だが、悟空はそれを首を横に振る事で、回避する。

 そして、瞬時に右手にエネルギーの塊を顕現させると、かかと落としを繰り出して体勢が不十分なバーダックに叩きつける。

 

 

「はぁーーーーーっ!!!」

 

 

 悟空の雄叫びと共に、右手から強力なエネルギー波が放出され、至近距離からバーダックに襲いかかる。

 

 

「ちっ!!」

 

 

 バーダックは舌打ちと同時に、とっさにガードの体勢をとった事で、直撃は免れたが、今の一撃のせいで完全に視界から悟空の姿を見失う。

 しかし、バーダックの鋭い感覚が突如頭上に気配を捉える。

 瞬時に、バーダックが視界を上に向けると、悟空のナックルハンマーが眼の前に迫っていた。

 

 これは躱せないと判断したバーダックは、自分から上昇して距離を詰める。

 バーダックが距離を詰めた事で、ナックルハンマーはその威力を殺され、不完全な威力のままバーダックの頭に止められる。

 だが、攻撃が止めれられた悟空は現在自分の腰付近にあるバーダックの顔面目掛けて、左膝蹴りを繰り出す。

 

 しかし、その膝蹴りを、バーダックの左手が受け止める。

 そして、バーダックは反対の手で繰り出された左足の足首をガッ!と乱暴に掴む。

 バーダックはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべる。

 

 

「オラァ!!!」

「うわっ!?」

 

 

 バーダックは、悟空の足を力一杯引っ張る。

 足を引っ張られた悟空は、驚きの声と共に体勢を大きく崩す。

 そんな悟空を無視して、バーダックはすかさず両手で悟空の足首を持つと、その場で回転する。

 

 

「くっ、ぐぅ……、くぅ……」

 

 

 バーダックのジャイアントスイングによって振り回される悟空は、なんとか抵抗しようとするが回転が早過ぎてなかなか身動きが取れない。

 そして、回転が最高潮が達した瞬間、悟空を岩場に向け投げ飛ばすバーダック。

 

 

「うわぁーーーーーっ!!!」

 

 

 投げ飛ばされた悟空は、大声を上げながら凄まじいスピードで岩場に突っ込んでいく。

 そして、次の瞬間、岩場に突っ込んだ悟空は、突っ込んだ衝撃で凄まじい音を立てながら崩壊した岩石ともみくちゃになりながら沈む。

 その場には、崩壊し積み上がった岩石の山が出来上がっていた。

 

 だが、その山は一瞬で崩れ去る事になる……。

 カラッ……と小さな音が鳴ったかと思ったら、ガラガラと大きな音を立てながら、どんどん岩石の山が崩れ去り、吹き飛ばされた孫悟空が姿を現したのだ。

 

 

「いっちーーーっ!! あいつムチャクチャすんなぁ……」

 

 

 口ではそう言いながらも、ほとんどダメージを受けていない悟空は、空中へ浮かぶバーダックへ視線を向ける。

 そんな悟空に、空中で腕を組み不敵な笑みを浮かべるバーダック。

 そんなバーダックに笑みを浮かべ口を開く悟空。

 

 

「へっ! ワクワクしてくるぜ……!!!」

 

 

 そう言いながら悟空は、再びバーダックへ向け飛び出す。

 

 多くの人達に見守れながら、ついに実現した親子対決。

 

 だが、闘いは更にその激しさを加速させていく……。

 




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の2.5話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.02.5

お待たせしました。

ついに、40話を迎える事が出来ました。
まさかここまで続ける事が出来るとは思いませんでした。
これも皆さんのおかげです。
まだまだ、話は続きますが今後も応援してもらえると嬉しいです。

楽しんでもらえたら嬉しいです。


■Side:ラディッツ

 

 

「フーン、フーン……、フフーン……♪」

 

 

 オレは眼の前の光景に何とも言えない表情を浮かべる……。

 オレの眼の前では、頭に麦わら帽子、そしてオーバーオールを身に纏い、ついでに足元に長靴を装備している。

 いわゆる農業ファッションを着こなした、筋骨隆々の男が鼻歌を歌いながら作業を続けていた……。

 

 まぁ、この服装は畑仕事をする時に皆着るので、男が特別というわけではない。

 ないのだが……。

 

 

(お前似合いすぎだろ……)

 

 

 オレは、そんな事を考えながら目の前の男に目を向ける。

 その男は、物凄いスピードで畑の雑草を除去していく。

 しかし、その男の手がふと止まり、こちらに視線を向ける。

 

 その男とオレの視線が交差する。

 男はオレの手が止まっている事に気が付くと、憤怒の表情を浮かべる。

 

 

「ラディッツ!! てめぇ、何サボってやがんだっ!!!」

「はぁ……」

 

 

 男から飛び出た言葉に、オレはついため息をついてしまった。

 オレの様子に男は不思議そうに首を傾げながら、男が近づいてくる。

 

 

「なんだ、どうした……?」

「いや、まさかお前がここまで農業にハマるとは思わなかったぞ……。 ナッパよ……」

 

 

 ナッパからの問いかけに、オレは首を振り本心を隠しながら口を開く。

 そんなオレの言葉にナッパが顔を真っ赤にして口を開く。

 

 

「ば、馬鹿野郎! ハマってるわけねぇだろ! オレは戦闘民族サイヤ人だぞ!!」

「はぁ……、鼻歌を歌いながら雑草を採っていた奴が言うセリフではないだろ……」

 

 

 オレは、ナッパの言葉に再びため息を吐きながら口を開く。

 オレの言葉を聞いたナッパは、歯噛みしながらこちらを睨みつける。

 

 

(戦闘民族サイヤ人ともあろう者が、土と戯れて情けない等、こいつには決して言えんな……。

 まぁ、農業で今の我々の暮らしが成り立っているのも、紛れもない事実なのだが……)

 

 

 オレは先程隠した本音を内心で思い浮かべながら、眼の前の畑に目を向ける。

 そこには、広大な敷地に様々な野菜が植えられた立派な畑が広がっていた。

 これは、オレやナッパ、そしてその他多くのサイヤ人達が育てた作物達で、今のサイヤ人の暮らしを支える立派な収入源だ。

 

 まさか、自分が畑仕事をする事になろうとは、生前の自分では考えもつかなかった……。

 そう言えば……、いつ頃からだっただろうか……?

 畑で作物を育てるのが日常になったのは……?

 

 そう思いながら、オレは地獄に来てきてからの日々を思い出すのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 地獄に来てから、サイヤ人の集落で暮らす事になったオレとナッパ。

 ここには、フリーザによって惑星ベジータが消滅した時に共に死んだ同胞達が多く存在していた。

 その中には、オレの両親の姿もあった。

 

 数十年振りに再会したオフクロは、涙を浮かべオレとの再会を喜んでくれた。

 オフクロがオレと再会した時に発した言葉は、何故だか今でも強く記憶に残っている。

 何度も何度もオレに向かって「ごめんね」と謝り続けたのだ。

 

 正直、あの時はどうしていいか分からず、オフクロに抱きつかれたまま動く事が出来なかった。

 そんなオレを見かねてか、親父がオフクロを優しく引き剥がしてくれた。

 それから、オフクロはオレがどの様な生き方をして来たのかを、聞きたがった。

 

 正直、あまり話したい気分ではなかったのだが、オフクロの顔を見ると何故だか断る気にもなれなかった。

 オレは自分がどの様に生きて来たのかを少しずつオフクロに語った。

 オフクロはオレの話を、何がそんなに面白いのか?と疑問に思うほど、笑みを浮かべ聞いていた。

 

 しかし、会話の中で2度ほどその笑みが曇ったことがあった。

 

 1つ目は、オレがフリーザ軍で働いていたと言った時だ。

 オフクロはどこか辛そうで、そして済まなそうな表情を浮かべていたが、当時のオレは何故オフクロがその様な顔をしたのか理解できなかった。

 

 そして2つ目は、オレが死んだ原因を聞いた時だ。

 親兄弟で殺し合う事等、サイヤ人にとっては日常茶飯事だが、この母は他のサイヤ人とは違った感性を持っている。

 そう、あの不出来な弟の様に……。

 

 その為、オレ達兄弟が殺し合った事が悲しかったのだろう。

 その証拠と言うわけではないが、とても寂しそうな表情を浮かべていた。

 全てを話し終えたオレに、オフクロは笑みを浮かべながら礼を言った。

 

 その笑みを見た時に、オレはふと思った。

 こうやって、オフクロと長い時間話しをしたのは何年ぶりだっただろう……。

 この笑みを最後に見たのはいつの事だったろうと……。

 

 しかし、すぐに思い出す事が出来なかった……。

 もう、思い出せないくらい昔の事なのかと認識した瞬間、ずいぶん長い時が経ったのだと、何処か他人事のような感想を抱いたのを覚えている。

 ちなみに、母に無理やり連れてこられ、隣で話を聞いていた親父は何も言わず、ただ頭をポンと軽く叩くだけだった。

 

 たったそれだけだったが、その単純な行動にとても意味が込められている様な気がした。

 

 それから程なくして、オレは惑星ベジータの消滅の真相を知り、大きな衝撃を受けた。

 そして、何故オレの話を聞いた時に、オフクロがあの様な表情を浮かべていたのか理解した。

 それと同時に、自分の同胞達を殺した奴の下で、何年もいい様に使われ続けたオレの人生とは、一体なんだったのか……と本気で落ち込んだ。

 

 だが、悔やんだところでオレの生は返ってこない。

 これが、オレの地獄での生活の始まりだった……。

 

 

 

 それから、ここで暮らす様になったが、オレは地獄のサイヤ人達のあり方に愕然とした。

 何故なら、生前の奴らの生き方と、あまりにも乖離していたからだ。

 かつてのサイヤ人達の生き方は、他の星を侵略し制圧した後、その星を売る事で利益を生み出してきた。 

 

 言い方を変えれば、戦いによって命を繋いできた民族なのだ。

 だが、ここでのサイヤ人達はどうだ……?

 他者の決めたルールに従い、戦闘ではなく農業で暮らしていると知った時は、フリーザに支配されている時と同じではないか!と酷く怒りを覚えた。

 

 戦いで他者から奪うのがサイヤ人。

 自分達の自由も戦って勝ち取るのが、我ら一族のやり方……、そう思っていた。

 それが、なんてザマだと……。

 

 当然オレも地獄に来る時に、ここでのルールは聞かされていた。

 その中でも特に遵守するべき2つのルール。

 

 1.相手を殺さない

 2.他の集落への侵略は厳禁

 

 これを破ったものは、大きな罰が下されると聞かされていた。

 だが、地獄に来たばかりのオレは、まだ閻魔大王の事をよく知らず、その力の恐ろしさも理解していなかった。

 その為に、戦う事をやめ、他者の決めたルールに従順に従う同胞達を見て、サイヤ人の面汚しめと内心で蔑んでいた。

 

 だが、どうして奴らが自分達の生き方を変えなければならなかったのかを理解するまでに、そうは時間はかからなかった。

 この地獄という土地は、当然ながら生前罪を犯した者達が訪れる。

 自分が生前の行いをどう思おうが、閻魔大王が悪と判断すれば、それは悪になる。

 

 そういう土地柄故か、地獄に訪れた者の中には、地獄でも悪事を働こうとする者は少なくない。

 だが、悪事を働いたらすぐに、その者に罰が下される。

 

 初めての場合は、慣れていない故の事として比較的処分が甘い。

 そして、2度目は厳重注意。

 最後の3度目は、もはや自由すら許されない厳重処分となる。

 

 この様に地獄では基本的に3段階の罰があり、3度目を犯した者は、未来永劫牢の中でその自由を奪われ続ける。

 

 ただ、数年前にフリーザが犯した様な、地獄を揺るがす大事件等の場合は1発アウトである。

 地獄での閻魔大王の権能には、死者である以上、逆らう事が出来ない。

 地獄にいれば、嫌でもそれを眼にする機会は多いのだ。

 

 

(それを理解してから、オレは改めて認識させられた……。

 オレは2度と生前の様に、戦いで生きていく事は出来ないのだと……)

 

 

 それからは、オレも地獄にいる同族たちと同じ様に、生前の罪とやらを償いながら生活を続けた。

 それから1年程経った時、ナッパが地獄にやって来た。

 あいつもやって来た当初、いろいろ聞かされて衝撃を受けていた。

 

 だが、惑星ベジータがフリーザに滅ぼされたと聞いた時は、何処か合点がいった様な表情を浮かべていた。

 もしかしたら、こいつはオレと違い薄々だが惑星ベジータの消滅の理由に気付いていたのかもしれない……。

 オレ同様、地獄のサイヤ人達のあり方に、あいつも最初は思うところがあったみたいだ。

 

 しかし、惑星ベジータが滅んだ時にガキだった頃のオレと違い、ナッパには地獄にいるサイヤ人の中に知り合いが多かった。

 だから、閻魔大王の恐ろしさもそいつらから聞いたのか、オレよりも早く、ここでの生活を受入れていた様に思う。

 それからは、あいつもオレ同様ここで生活を送っている。

 

 生活と言っても、死者であるオレ達は、本来食べる事も寝ることも必要ない……。

 だが、生前の習慣や欲ってやつは死んでも抜けないらしく、動けば疲れ、腹もすけば眠くもなる。

 なので、生きていた頃と同様に、衣食住が必要になってくる。

 

 この地獄って場所は、ルールを守り、生前の罪を償う刑罰をしっかり受ければ、ある程度の自由は認められているのだ。

 つまり、生前の罪を償い終わるまでは、どういう形であれ、ここで過ごしていかねばならないということだ……。

 そうなれば、ここでの生活をより良いものにしたいと考えるのは当然のことだろう。

 

 だが、惑星ベジータが滅び、多くのサイヤ人達が地獄にやって来てこの土地を与えられた時は、本当に何もない状態からのスタートだったと聞く。

 食事等は、地獄の鬼達から決められた時間に僅かに貰う事が出来たらしいが、与えられた土地は住居等はまったくない土地だったらしい。

 唯一の救いは、与えられた土地の中に川や森があった事だ。

 

 サイヤ人達は自分達の肉体性能を駆使して、何とか、寝床と飲み水、僅かながらの食糧を確保する事に成功する。

 しかし、生活として決して豊だったとは言えなかった。

 それから間も無く、サイヤ人達は自分達が住んでいる集落の近くに、別の集落がいくつか存在する事を知る。

 

 その内の1つの集落を訪れると自分達との生活の格差に愕然とした。

 その集落には、なんと畑やその他の産業が築かれており、自分達でしっかりと自給自足出来る体勢が整っていたのだ。

 当初それを見たサイヤ人達は生前の様に、この集落を襲い自分達のモノにしようと考えたらしい。

 

 だが、地獄のルールでそれは禁じられている……。

 

 中には、そんなモノは無視して、集落を襲おうという意見も多く出た。

 だが、それをベジータ王は絶対に許さなかった。

 王はフリーザによって惑星ベジータが滅ぼされた原因の一端は自分にあると考えていた為、今度こそ同胞達を守る為に王として責務を全うしようと考えたらしい。

 

 だが、当時の地獄のサイヤ人達には何もない、これでは周辺の集落との交易は結べない。

 奴らにあったのは、せいぜい戦闘力に優れた肉体だけだ。

 ベジータ王は、今後自分達の生活を豊かにする為にどうするべきかを模索する。

 

 そして、1番最初に王がとった政策が、サイヤ人達を他の集落に労働力として派遣する事だった。

 オレ達サイヤ人は戦闘民族と呼ばれるだけあって、宇宙の中でも肉体スペックが高い部類に位置する。

 だから、ベジータ王はそれを活かす事にした。

 

 そして、それは功を奏する事となる。

 周辺の集落では開拓や建築に取り組んでいる所が多かったのだ、果ては運送業まで重宝される事になったのだ。

 それで得た利益で、周辺の集落から様々な資材や食糧を購入し、サイヤ人の集落を充実させて行った。

 

 だが、ベジータ王はいつまでもこのままの状態が続くとは考えていなかった。

 開拓や建築はいつか、終わりがやってくるのだ。

 そうなると、これまで得ていた利益は得られなくなり、徐々に生活の水準を落としていかざる終えなくなる。

 

 そこで、次にベジータ王が考えた政策が農業だった。

 これまでは、他所の集落から食糧を調達していたが、今後収益が減るのであれば、食糧の調達量も必然的に減る。

 我らサイヤ人はそもそもよく食べる種族なのだ。

 

 一説には我らサイヤ人が変身した大猿……あれこそが、我らの本来の姿と言う者も存在する。

 それを考えれば我らサイヤ人の食事量も納得出来る。

 そんなサイヤ人の胃袋を満足させるだけの量となると、得た収益のほとんどを食糧の調達に当てていたと考えていいだろう。

 

 だが、収益が減ると言うことは購入できる量も限られてくる。

 ベジータ王の政策は、当初それを少しでも緩和させる為の処置として考えれたモノらしい。

 しかし、この政策が思わぬ利益を生むことになった。

 

 地獄のサイヤ人達が作り出した作物は、完成度が高く、近くの集落との交易が生まれる程だったのだ。

 これにより、食料問題と金銭問題のどちらも一気に解決する事となり、サイヤ人達の暮らしを更に豊かにした様だ。

 それから、地獄のサイヤ人達は集落上げて農業に取り組むことになった。

 

 当然反対する者も最初は多かった。

 農業に関しては、今後収益が減ることを見越して自分達が食べられる物を少しでも増やすという名目で始めたのだ。

 なので、非戦闘員達がその仕事を行っていた。

 

 だが、彼らの中には生前科学者として惑星ベジータで戦闘で使用される道具の研究を行っていた者達も存在していたのだ。

 その科学者が半分道楽で始めたのが、作物の品種改良だ。

 そして、彼らが完成させたのが、通常の育てる時間よりも短く、しかも美味い作物だ。

 

 この品種改良のおかげで、短い期間で美味い作物の生育を行う事が出来る様になったのだ。

 別に科学者達もこれで利益を生む為に、研究していなかったわけではなく、サイヤ人は食う量が多いのだから、単純に収穫量が増えれば良い、更に美味ければ尚良し。

 ぐらいにしか考えていなかったが、それが利益につながった。

 

 それであれば、ベジータ王や側近達は集落を維持し発展させる為には、農業に力を入れるのはある意味当然の流れとも言えるのだろう。

 しかし、農業を非戦闘員以外の者達もせねばならないとなった時、少しばかり問題が発生した。

 大抵のサイヤ人……、特にエリート戦士達が自分達は戦闘民族なのだからという自負を持っていた為、農業をやる事に抵抗を示した者も多かったのだ。

 

 だが、地獄ではその戦闘能力はほとんど活かされる事がないのが実情だ。

 それに、地獄のサイヤ人は何もないところからのスタートだっただけに、集落にいる者1人1人がどうやったらこの集落を発展させられるのかを少なからず考える様になっていた。

 この考える力が厳しい環境で鍛えられたのが、大きかった。

 

 結局、プライドと実利どちらをとるべきかとなった時に、後者を選択する者が多かったのだ。

 反対していた者達も、実利を選択してからは、渋々ながら農業に取り組む事となった。

 だが、これは地獄のサイヤ人達に、利益だけじゃなく大きな変化をもたらした。

 

 これまで、侵略や略奪しかまともにやってこなかったサイヤ人が、初めて自分達で何かを育て作り上げた。

 そして、それが多くの者に喜びを与える結果になった。

 これは彼らがこれまで感じた事がなかった、何かを彼らに与える事となった。

 

 そういう経緯を経て、サイヤ人達は集落全体で農業に取り組むことになった。

 だが、その様な経験を経ていない、オレやナッパは、地獄で暮らす様になった時、周りのサイヤ人達との意識の差に困惑した。

 オレが地獄にきて間もない頃、この集落が農業で収益をあげていると聞いた時は、何を言っているんだ?と本気で混乱した。

 

 しかし、実際サイヤ人の集落の近くには多くの畑があり、様々な作物が育てられていた。

 その為、オレやナッパもこの集落に居着いてからは、畑に駆り出される様になった……。

 最初は、戦闘民族サイヤ人が何故そんな事をせねばならんのだ!と怒りをぶちまけた事もあった。

 

 だが、働かざる者食うべからずと言う言葉がある様に、畑の世話をしなければ飯がもらえないのだ。

 最初こそ、意地を通して食事を諦め、農作業をする事を拒否していた。

 先にも言ったが、今のオレは死んでいるので、食事は必要としない。

 

 だが、それも長くは続かなかった……。

 理由は様々で、オフクロに説得させられた事もそうだ。

 最初こそ聞く耳を持たなかったが、流石に何日も言われ続けると折れざる終えなかった。

 

 だが、1番の理由は、目の前で旨そうに飯を食われると、食事が必要でないとは言え精神的にキツかったからだ。

 死んでも欲が残る以上、飯が食えないというのは想像以上にキツかった……。

 正直、地獄で初めて飯を食った時は、惑星ベジータで昔食べたモノとは比較にならない程美味く驚いた。

 

 別にオレはグルメではないし、生前もそんな良いモノを食べて来たわけではない。

 しかし、そんなオレでもハッキリ分かるくらい、ここの飯は美味かった。

 地獄のサイヤ人達が作った作物が何故利益を上げているのか、その時になって初めて分かった様な気がした。

 

 それからは、オレもいやいやながらも他のサイヤ人達と同じ様に農作業をする様になった。

 オレから1年程遅れてやってきたナッパも、当時はこんな事を言っていた。

 

 

「超エリートのオレが、何故畑仕事なんぞしなきゃいけねぇ!! オレは絶対やらねぇからな!!!」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

(なんて事、言ってたんだがなぁ……。 それが今じゃこれだからな……)

 

 

 昔を思い出したついでに、初めてナッパが地獄にやって来た頃を思い出したラディッツは、今や立派な農夫に成り果てた男に目を向ける。

 未だ赤い顔でオレを睨みつける農夫。

 

 

(本当に変わったな、ナッパ……。 今のお前を見たら、あのベジータはなんて思うのだろうな……)

 

 

 昔を思い出していたからか、ラディッツの頭に懐かしい人物の名が思い出される。

 

 

(ベジータ……か……)

 

 

「なぁ、ナッパよ……。 ベジータの奴は今頃どうしているのだろうな……?」

「あぁ? ベジータだぁ? いきなりどうしたんだお前……?」

「いや、何となくあいつのことを思い出してな……」

 

 

 突然のラディッツの言葉に怪訝そうな表情を浮かべるナッパ。

 しかし、ラディッツが浮かべている何処か懐かしそうな表情を見てしまい、ナッパの脳裏にもベジータの姿が思い浮かぶ。

 あの、苛烈にして誰よりもサイヤ人を体現していた王子の姿を……。

 

 

「さぁな……。 あいつの事だ、今も宇宙中を荒らし回ってんじゃねぇか……?

 聞いた話じゃ、カカロットの野郎も死んじまったんだろ?

 今の宇宙であいつを邪魔出来る奴なんかいやしねぇだろ……、気にいらねぇがな……」

「お前、まだベジータの事恨んでいるのか? サイヤ人なら、同族に殺されるのも珍しくないだろうに……」

 

 

 ナッパの言葉に呆れた様な表情を浮かべるラディッツ。

 しかし、ナッパはラディッツの言葉に、また顔を真っ赤にする。

 

 

「当たり前だろ!! 闘って殺られたなら分かるが、身体が動かねぇ時に殺られたんだぞ……!! ベジータの野郎!!!」

 

 

 拳をプルプルさせながら、ベジータへの怒りを爆発させるナッパ。

 

 

「そういう所は変わらんなぁ……。 ん?」

 

 

 つい先程、変わったと思ったばかりだったが、やはりナッパはナッパなのだなぁと思ったラディッツだった。

 その時に、ラディッツは違和感を感じ、足元に目を向ける。

 次の瞬間、地面が大きく揺れる。

 

 

「こっ、これは!?」

「な、何だ!? 地震か!?」

 

 

 ラディッツとナッパは驚きの声を上げる。

 しかし、ラディッツはナッパが上げた言葉に違和感を覚える。

 

 

「地震だと!? そんなバカな……!?」

「じゃあ、これが地震じゃなかったら、何だってんだ!?」

「いや、まぁそうなんだが……」

 

 

 何故ラディッツがここまで、地震に驚いているのかというと、彼が地獄来てから10年ほど経つが今まで地震など1度もなかったのだ。

 それどころか、地震が起きたって話すら聞いた事がなかった。

 2人が揺られながら、会話を続けていると、地震が次第に治っていく。

 

 

「止まったか?」

「ああ、どうやらそうみてぇだな?」

 

 

 完全に揺れが止まり、2人は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「畑は無事みてぇだな……」

 

 

 ポツリとナッパがそう呟き、ラディッツも畑に目を向ける。

 そこには、収穫まで後わずかという所まで育った作物があった。

 ラディッツ自身は、未だに自分が農業をやることに抵抗はあるが、この畑がサイヤ人に利益をもたらしている事は理解している。

 

 それに、ここまで育てるのに自分も少なからず手を貸しているのだ、今更ダメになるのは、心情的に腹が立つのは確かだった。

 だが、それにしたって……。

 

 

「1番最初の心配が畑とは、もはやすっかり農夫だな……。 ナッパ」

「じゃかぁしぃ!!!」

 

 

 ナッパに皮肉を言ったラディッツだったが、ナッパの怒声に一蹴されたので、話を変える事にした。

 

 

「しかし、地獄で地震とはな……」

「ああ……、ここに来て初めて……だよな……?」

「ああ」

 

 

 オレの言葉に、ナッパも珍しく真剣な表情を浮かべる。

 それだけ、ここでの地震とは珍しい事態なのだ。

 だが、オレ達は更なる異常事態に遭遇することになる。

 

 

ズドォーーーーーーーーーーン!!!

 

 

 轟音と共に大気が揺れ、凄まじい衝撃がオレ達の身体を襲う。

 

 

「ぐっ、これはっ……!?」

「くそっ!! 今度は何だってんだっ……!?」

 

 

 突然の事態に、オレとナッパは再び声を上げる。

 だが、衝撃は治まる様子を見せず、絶え間なく轟音と共に、地震や大気を揺らす。

 しかし、ラディッツにはこの感覚に覚えがあった……。

 

 

「もしや……、誰かが闘っている……?」

「何だと!?」

 

 

 ラディッツの言葉に、ナッパが驚きの声を上げる。

 そんなナッパを尻目にラディッツは言葉を続ける。

 

 

「だが、今日は、闘技場が使える日じゃなかったはずだが……」

「って、事はどこかのバカが、どっかで闘ってるってことだな!!

 どこのバカ野郎だ!! このままじゃ畑が滅茶苦茶になるじゃねぇか!!

 探し出してとっちめてやる!!!」

 

 

 怒りを露わにしたナッパが空へ飛び出す。

 ちなみに、地獄ではサイヤ人みたいに戦闘欲求を持つ者も多いので、闘いが出来る場所を設けている。

 

 

「結局、畑が大事なのではないか、お前は……」

 

 

 飛んで行ったナッパを見送りながら、ラディッツはポツリと呟く。

 

 

「はぁ……、オレも行くか……」

 

 

 ナッパを追うべく空へ飛び出したラディッツ。

 2人が衝撃の元に向かうべく空を飛んでいると、2人の視線の先に4人の人影が映り込んだ。

 

 

「あれは……」

「セリパ達じゃねぇか……」

 

 

 ラディッツとナッパが、前を飛んでいる者達の名を口にすると、4人がこちらに振り向く。

 4人はラディッツとナッパに気付き声をかける。

 

 

「よう!」

「あんた達も、このバカ騒ぎを起こしてる奴らの事が気になったのかい?」

 

 

 口を開いたのは、パンブーキンとセリパだ。

 

 

「まぁな!! って事はお前達もか?」

「当たり前だろ? この揺れのおかげで仕事にならねぇんだ」

 

 

 ナッパの言葉にトーマが口を開く。

 そんな事を話しながら、6人が飛行を続けると、どんどん伝わってくる衝撃が強くなってくる。

 それだけじゃない、闘いを行なっている者達の凄まじい緊張感が伝わってくるのだ。

 

 その証拠に、6人のサイヤ人の顔がいつしか戦士の表情に切り替わっていた。

 

 

「どうやら近いな……」

 

 

 緊張を含んだ声で、トーマが口を開く。

 

 

「ちょっと、あれ見て!!」

 

 

 大声を上げたのは、セリパだった。

 皆の視線がセリパに集まる。

 セリパは皆の視線を無視して、人差し指をとある場所に向ける。

 

 皆がセリパが指差した方に目を向けると、岩場に立つ1人の女性の姿があった。

 

 

「あれは……、ギネか?」

「とりあえず、行ってみよう!!!」

 

 

 パンブーキンが女性の名を口にすると、セリパが急いで飛び出す。

 セリパの後を追う形で、他の5人もギネに向かって飛び出す。

 

 

「ギネーーーッ!!!」

「え? セリパ!?」

 

 

 何処からか自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきたので、ギネは声が聞こえて来た方に視線を向ける。

 そこには、こちらに手を振り近づいてくるセリパの姿があった。

 しかも、よくよく見るとセリパだけじゃなく、トーマ達やラディッツ、ナッパの姿があった。

 

 困惑しているギネの前に、6人が降り立つ。

 

 

「あんた達、どうしてここに!?」

 

 

 ギネが、驚きの表情のまま口を開く。

 

 

「いやさ、さっきからすごい衝撃があたしらの集落まで響いててさ、それでどっかのバカが闘ってんだろうなって思ってさ……」

「ああ……。 だが、あそこまでとんでもねぇ闘いが行われているとはな……」

 

 

 ギネの質問にセリパが答える。

 それに同意しながらも口を開いたトーマの視線は、遥か先を見つめていた。

 トーマの言葉に皆の視線が、トーマが見つめている方向に集まる。

 

 そこでは、2人の男の激しい戦闘が行われているのであった……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の3話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.03

お待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


■Side:ギネ

 

 

 超サイヤ人に変身したバーダックとカカロットの闘いは、変身する前よりも更に激しさを増した。

 互いが繰り出す攻撃の1つ1つが、あたしからしたら致命傷に思えるのに、そんな攻撃を2人共笑みを浮かべ繰り出しているのだ。

 本当にどうしようもない戦闘バカだと思うよ……、家の男共は……。

 

 あたしがそんな事を思いながら、2人の闘いを観ていると、あたしの頭上から声が聞こえてきた。

 

 

「ギネーーーッ!!!」

 

 

 あたしは声がした方向に眼を向ける。

 

 

「え!? セリパ!?」

 

 

 あたしの視線の先には、こちらに手を振りながら近づいてくるセリパの姿があった。

 しかも、よくよく見るとセリパだけじゃなく、トーマ達やラディッツ、ナッパの姿があった。

 困惑しているあたしの前に、6人が降り立つ。

 

 

「あんた達、いったいどうしてここに!?」

 

 

 あたしが、驚きの声を上げると、セリパが笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「いやさ、さっきからすごい衝撃があたしらの集落まで響いててさ、それでどっかのバカが闘ってんだろうなって思ってさ……」

「ああ……。 だが、ここまでとんでもねぇ闘いが行われているとはな……」

 

 

 セリパの次に口を開いたトーマは、言葉は私達に向けたものだったが、視線は完全に別のところに向いていた。

 トーマの言葉で、あたしや他の5人もトーマと同じ方向に目を向ける。

 あたし達の視線の先では、バーダックとカカロットが激しい闘いを繰り広げていた。

 

 

「凄まじいな……」

 

 

 トテッポが2人の闘い振りに、思わず口を開く。

 

 

(まぁ、そう思うよね……。 なんせ、超サイヤ人同士の闘いなんだから……)

 

 

 トテッポの言葉に内心でそんな事をあたしが思っていると、パンブーキンから声がかけられる。

 

 

「なぁ、ギネ……。 あれって……、もしかして、片方はカカロットか……?」

「うん、そうだよ……」

「なっ、なんであいつが地獄にいるのさ!?」

 

 

 フリーザとの戦いを見ていたパンブーキンは、超サイヤ人になったカカロットを見た事があったからか、すぐに闘っている2人の内の1人がカカロットだと分かった様だ。

 パンブーキンの問いにあたしが素直に答えると、あたしの隣にいたセリパが、カカロットが地獄にいる事に驚きの声を上げる。

 だが、あたしが口を開く前にナッパが更なる疑問を口にする。

 

 

「んな事より、カカロットの野郎と闘ってる奴は誰だ……? あの姿……、あ、あいつも、ス、超サイヤ人……だろ……?」

「た、確かに……。 でも、いったい誰だ……? カカロット以外に超サイヤ人になれるサイヤ人なんていなかったはずだ……」

 

 

 唖然とした表情で、言葉を発したナッパに、同じ様な表情でトーマももう1人の戦士に注目する。

 そんな中で、1人の男が静かに口を開く……。

 

 

「親父だ……」

「な、何だと……!? んなわけねぇだろ!! バーダックは下級戦士だぞ!!!」

 

 

 ラディッツがポツリと呟いた言葉に、ナッパがあり得ないと言った表情を浮かべる。

 しかし、ラディッツはそんなナッパを否定するかの様に口を開く。

 

 

「それを言うなら、カカロットだって下級戦士ではないか……。

 だが、超サイヤ人になったカカロットと瓜二つの顔をしていて、あの、古いフリーザ軍の戦闘服……、間違いない!!

 そうだろう、オフクロよ?」

 

 

 ラディッツは真っ直ぐあたしに視線を向ける。

 ラディッツはあの超サイヤ人の正体がバーダックだと確信している様だった。

 あたしは内心で「流石あたし達の息子」と思いながら、笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「うん、正解!! 今カカロットの相手をしているのは、バーダックだよ……!!」

 

 

 あたしの言葉に、周りがどよめきに包まれる。

 

 

「ええっーーーーーっ!?」

「嘘だろ!? あいつ、いつの間に超サイヤ人なんかになってやがったんだよ!?」

「バーダックが……、伝説の戦士に……」

 

 

 セリパやパンブーキン、そして、滅多に表情を変えないトテッポまでが驚いた表情を浮かべていた。

 そんな中、トーマが真剣な表情であたしに声をかける。

 

 

「ギネ、バーダックが超サイヤ人になれたのは、あいつが閻魔から受けた仕事とやらで地獄を空けている事と関係があるのか?」

 

 

 トーマの鋭い指摘に、あたしは一瞬ギクッ!と肩を揺らす。

 しかし、別に超サイヤ人の事は隠す程の事でもないので、素直に話す事にした。

 何より、あたしもバーダックがタイムパトロールとして、どんな事をしているのかよく知らないしね……。

 

 

「うん、詳しい事はあたしの口から……、というか多分バーダック本人も詳しい事は言えないのかもしれないけど、どうやらそうみたいだね……」

「あいつ一体どんな仕事やってんだよ……」

 

 

 あたしの言葉に、呆けた様な表情でパンブーキンが口を開く。

 

 

(いや、本当にね……)

 

 

 パンブーキンの言葉に、あたしは内心でそんな事を思いながら、苦笑いを浮かべる。

 

 

「それよりさ、あの超サイヤ人がバーダックとカカロットだって言うのは分かったけど、何であの2人が闘ってるのさ……?」

 

 

 次に口を開いたセリパは、バーダックが超サイヤ人に目覚めた事以上に、何故カカロットとバーダックが闘っているのかが気になる様だ……。

 その証拠に、こちらに目を向けちゃいるが、チラチラと2人の闘いを見ている。

 よっぽど気になるんだね……。

 

 

(確か……、バーダックとカカロットが闘う本当の理由って、他の人には言ったらダメだったよね……)

 

 

 あたしとバーダックは、カカロットが死んで間もない頃、バーダックの師匠であるトランクスから、カカロットがいずれ生き返る事を聞かされた。

 そして、生き返る理由が宇宙の命運を左右する戦いに参加する為だとも。

 その戦いで、カカロットはとても重要な役目を担う事になる……と、トランクスは言っていた。

 

 カカロットが生き返った時に、しっかり役目を果たす為には、どうしても強大な力が必要になる。

 その為には、地獄にいる間にカカロットの実力を伸ばす必要があるのだそうだ。

 トランクスの話では、カカロットはそもそも、ほっといても自分で修行して自分を高めるだろうと言っていた。

 

 だが、真にサイヤ人がその戦闘力を大きく飛躍させる事が出来るのは、強敵との戦いの中だけらしい。

 流石戦闘民族といった所なのだろうか……。

 とにかく、カカロットがこれまで以上の力をつけるには、強敵が必要だと言う事だ……。

 

 そして、その相手に選ばれたのがバーダックだった……。

 まぁ、バーダック自身はずっとカカロットと闘いたがってたから、闘う理由はなんだってよかったんだろうけどさ……。

 結局のところ、この闘いとは、カカロットを更なる強さに導くための闘いなんだよね……。

 

 まぁ、バーダックがそんな事を気にして闘っているかまでは、分からないけど……。

 でも、そんな事この連中には言えないしねぇ……。

 

 

「あー、いや、それがあたしにも分かんないんだよね……。

 今日の朝、難しそうな顔でバーダックが帰ってきたからさ、気になって後をつけたら、ここに来たんだよ。

 そしたら、いきなりカカロットが現れて2人で闘いだしたんだ……」

 

 

 闘っている理由が理由だけに、あたしは2人が闘っている理由を誤魔化す事にした。

 だが、あたしの言葉を聞いたトーマは何やら納得した表情を浮かべる。

 

 

「なるほどな……。 カカロットがここに来た理由までは分からねぇが、互いに超サイヤ人へ至ったサイヤ人だからな……。

 もしかしたら、闘いを始めたのに深い理由なんてねぇのかもな……」

「ああ……、単純にどっちが強えのかやってみたくなっただけかもな……」

 

 

 トーマとパンブーキンの言葉に、あたし以外の面子は納得した様な表情を浮かべる。

 確かにあの2人だったら、理由がなくても出会ったら、こうやって闘ったかもしれない……。

 そんな事を考えながら、あたしは視線を2人の方に向ける。

 

 あたし達の視線の先で、2人の伝説の戦士の闘いは更なる激しさを増していく。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「だだだだだっ!!!」

「おりゃりゃりゃりゃりゃっ!!!」

 

 

 黄金のオーラを撒き散らしながら、高速で拳と蹴りを繰り出す悟空とバーダック。

 2人が攻撃を繰り出す事に大地と大気に衝撃が走る。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 バーダックの強烈な右拳が悟空を襲う。

 しかし、それを躱した悟空はカウンターの形でバーダックに蹴りを叩き込む。

 

 

「だりゃあ!!!」

「ぐうぁ!!!」

 

 

 悟空の蹴りで勢いよく後方へ吹き飛ぶバーダック。

 そんなバーダックに悟空が左掌を向ける。

 

 

「はぁーーーっ!!!」

 

 

 掛け声と共に、悟空の左手からエネルギー弾が放たれ、猛スピードでバーダックへ迫る。

 吹き飛ばされていたバーダックは、空中でくるりと体勢を整えると迫って来るエネルギー弾を右手で一閃し弾き飛ばす。

 そして、勢いよく悟空に向かって飛び出す。

 

 悟空は向かって来た、バーダックを迎え撃つべく拳を構える。

 そして、間合いに入った瞬間、その拳を凄まじいスピードで繰り出す。

 しかし、悟空の拳が当たる直前に、バーダックは悟空の頭上へ一瞬で移動する。

 

 悟空の頭上へ移動したバーダックは悟空の頭にエルボーを叩き込むと、そのまま背後に回り込み強烈な蹴りを叩き込んで、悟空を吹き飛ばす。

 

 

「がはっ!!!」

 

 

 背後からの攻撃に思わず声を上げる悟空。

 吹き飛んだ悟空に追撃を喰らわせるべく、悟空を追いかけるバーダック。

 だが、バーダックが追いつくよりも早く、体勢を立て直した悟空は、バーダックの顔面に強烈な左を叩き込む。

 

 そして、そのまま右アッパーをバーダックに叩き込み、おまけとばかりに、強烈な回し蹴りをバーダックに喰らわせ、吹き飛ばす。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 悟空の連続攻撃に、今度はバーダックが思わず声を上げる。

 だが、バーダックが痛みに身を任せる余裕はなかった。

 何故なら、バーダックの目の前には、悟空の拳が迫っていたからだ。

 

 

「ちっ!」

 

 

 バーダックはとっさに、左手で悟空の拳を受け止め、右拳を繰り出す。

 しかし、バーダックの右拳も同じく悟空の左手に受け止められる。

 

 

「だりゃぁ!!!」

「オラァ!!!」

 

 

 2人はほぼ同じタイミングで互いに向かって膝蹴りを繰り出す。

 互いに繰り出した膝蹴りがぶつかった瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が地獄の大気を大きく揺らす。

 互いに両手をホールドしながら、膝を付き合わせた両者の距離はもはや30cmを切っていた。

 

 そんな、距離で2人の視線が交差する。

 2人は互いの眼を真っ直ぐ睨みつける。

 だが、その様な時間は長く続かなかった。

 

 2人は同時にニヤリと好戦的な笑みが浮かべると、ほぼ同時に頭を引く。

 そして、勢いよくお互いの頭に頭突きを叩き込む。

 2人は揃って、痛みに顔を顰めるが、互いの表情を見て相手の額に己の額をくっつけた状態で口元に笑みを浮かべる。

 

 

「テメェ、何て石頭してやがんだ……」

「オメェこそ!! おー、痛ぇ……」

 

 

 こんな状況なのに、笑みを浮かべながら口を開く両者。

 流石に今の体勢は窮屈だったのか、2人は互いに距離をとり地面へ降り立つ。

 そして、改めて向かい合う両者。

 

 

「まさか、ここまでやるとは思ってなかったぜ……」

「オメェこそ!! オラあの世に来て、相当修行したつもりだったんだがな……」

 

 

 悟空の言葉に、バーダックはフッ!と笑みを浮かべる。

 

 

「修行か……、オレもありがてぇ事に、鍛えてくれるヤツに恵まれたからな……。

 今のオレの強さがあるのは、そいつのおかげだ……」

「へー、オメェをここまで鍛え上げるなんて、オメェの師匠は大したヤツなんだなぁ!!」

 

 

 バーダックは言葉にした通り、今日こそトランクスに感謝した日はなかった。

 あの日、フリーザと戦う眼の前にいる男の姿を見た時、バーダックは全身を突き抜ける衝撃を受けた。

 眼の前の男は、サイヤ人の持つ可能性というものを、正しく体現した様な存在だった。

 

 伝説の超サイヤ人へ覚醒した事もそうだが、それ以上にサイヤ人が持つポテンシャルに甘んじず、更なる先を目指すべくその力を鍛え上げた。

 まぁ、この男の場合、鍛えないとそもそもポテンシャルを発揮出来なかった可能性はあるが、それは考えたところで仕方ない。

 実際、バーダックの眼の前にいる男は、何年も何年も己に厳しい修行を課し続け、己を高みへと押し上げた。

 

 その結晶が、どんな絶望的な状況でも、不可能を可能にする精神と限界を超えながらも更なる力を引き出す最強の戦士、孫悟空となった。

 そんな男と、バーダックは心底闘ってみたいと思った。

 だが、生憎と当時のバーダックの力量ではどうやったって、悟空とは勝負にならなかった。

 

 2人の間には、それだけ隔絶した実力差が存在したのだ……。

 そんなバーダックを鍛え上げたのが、ベジータの息子であり、タイムパトロールの先輩でもあるトランクスだった。

 トランクスの修行は正直キツかった……。

 

 言葉には出さなかったが、心が折れそうになった事は幾度もあった。

 だが、悟空と……カカロットと闘いたいという強い想いがバーダックを支え続けた。

 そして、約10年の歳月を経てようやく、バーダックは悟空に並ぶ力を手にする事が出来たのだ……。

 

 

「そういえば……」

「ん?」

 

 

 昔を振り返っていたバーダックは、ふと思い出した様に口を開く。

 その言葉に悟空は首を傾げる。

 

 

「フリーザの野郎を倒したサイヤ人とは、お前の事だろ……?」

 

 

 バーダックはあえて、他人事の様に悟空に問いかける。

 

 

「ああ……。 確かにオラが倒した! まぁ、トドメを指したのは他のヤツだけどな!!」

 

 

 バーダックの問いに悟空は素直に答える。

 

 

「そうか……。 なら、オレはテメェに礼を言わねぇといけねぇわけだな……」

 

 

 真っ直ぐ悟空を見て口を開いたバーダックに、悟空はゆっくり首を振って口を開く。

 

 

「礼なんかいらねぇよ。 あいつにはオラ自身も色々思うトコがあったからな……」

「かもしれねぇ……。 だが、お前がオレ達地獄にいるサイヤ人達の望みを(そして、オレの想いを)叶えたのも事実だ……。

 だから、礼を言っておく……。 ありがとな……」

 

 

 ぶっきら棒だが、確かな誠意が籠もったその言葉に、悟空の胸はアツくなる。

 そして、笑みを浮かべる。

 

 

「へへっ……、そう言ってもらえると、正直悪い気はしねぇな……!!

 けどよ、今のオメェだったら間違いなくフリーザは倒せると思うぜ!!」

「当然だ!! オレの目指す強さは更に先なんだからな……!!」

 

 

 そう言うと、もう話は終わりだ、と言う様にバーダックは再び構える。

 構えたバーダックを見て、悟空も楽しそうな笑みを浮かべ構えをとる。

 再び2人の間の空気が張り詰める。

 

 

「だあっ!!!」

「はあっ!!!」

 

 

 ほぼ同時に飛び出した両者は、互いに右拳を繰り出す。

 2人が繰り出した拳が、轟音を響かせ、凄まじ衝撃を撒き散らしながらぶつかる。

 しかし、2人は即座に拳を引くと、その場で超接近戦へ突入する。

 

 次々に繰り出される拳と蹴り、それを互いに捌き受け、躱し反撃する。

 超接近戦での打撃戦だと言うのに、2人は互いにまだ1発もクリーンヒットをもらっていなかった。

 しかし、その均衡が崩れる時がやって来た。

 

 

「だらぁ!!!」

 

 

 悟空の強烈な右が、バーダックの左頬を捉えたのだ。

 そして、僅かに体勢が崩れたバーダックに向かって、回し蹴りを叩き込む。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 何とか耐えたバーダックは、すかさず左拳を繰り出す。

 しかし、それを頭を下げて躱した悟空がカウンターの要領で同じく左拳を繰り出す。

 それを見たバーダックは、とっさに右手で悟空の左手を跳ね上げる。

 

 しかしそれも束の間、悟空の右拳がバーダックを襲う。

 バーダックはとっさに後方へ飛び退く。

 そして、着地と同時に悟空へ向け猛スピードで飛び出す。

 

 バーダックを迎え撃つべく、構える悟空。

 すると、バーダックが悟空が立つ場所より1m程前の地面に向かってエネルギー弾を繰り出す。

 着弾したエネルギー弾のせいで、悟空の視界を砂埃が覆う。

 

 しかし、気でバーダックの位置を把握している悟空は、構わず間合いに入ったバーダックに向かって拳を繰り出す。

 だが、それを躱したバーダックはそのまま悟空の間合いに入り込み、ボディに強烈なボディブローを叩き込む。

 

 

「吹き飛べっ!!!」

「ぐはっ!!!」

 

 

 ボディブローを受けて悟空が、上空へ吹き飛ばされる。

 バーダックは追撃する為、悟空を追い舞空術で飛び出す。

 吹き飛ばされた悟空は、先程喰らったボディブローの威力が凄まじかったのか、腹を押さえながら上昇を続けていた。

 

 しかし、すぐにバーダックが自分を追って来ていることに気づいた悟空は、その場で動きを止め右掌をバーダックに向ける。

 

 

「はっ!!!」

 

 

 そして、悟空の右手から不可視の攻撃、気合砲が放たれる。

 

 

「がっ!!」 

 

 

 ドン!という音共にバーダックの全身を衝撃が襲い、身体を落下させていく。

 

 

「はっ!! はっ!!!」

 

 

 落下するバーダックに、続け様に追撃の気合砲を繰り出す悟空。

 

 

「ちっ!!!」

 

 

 しかし、今度はとっさにガードの体勢をとる事でこれ以上の落下を防いだバーダック。

 だが、安心している暇はなかった。

 ガードの上から悟空が強烈な蹴りを叩き込んだのだ。

 

 それにより、一気に地面に落下していくバーダック。

 悟空は、落下していくバーダックを見ながら両手を右腰だめに移動させる。

 

 

「かぁ、めぇ……」

 

 

 悟空の両手に眩い光と共にエネルギーの塊が形成されていく。

 落下していたバーダックは、その悟空の姿を捉える。

 

 

「あれは!?」

 

 

 バーダックはその構えを知っていた……。

 これまで何度も水晶を通して見て来た戦いの中で、幾度となく繰り出された、あの恐るべき必殺の技を……。

 

 

「ヤベェ!!!」

 

 

 これから悟空が繰り出す技を知っているバーダックは、流石に直撃は不味いと考え、即座に身体を制御し舞空術で地面に降り立つ。

 

 

「はぁ、めぇ……」

 

 

 地面に降り立ったバーダックの視線の先には、既に体内の気を集約させ眩いばかりのエネルギーの塊を顕現させた悟空の姿があった。

 

 

「間に合えっ!!!」

 

 

 バーダックは即座に強力なエネルギーの塊を右手に顕現させる。

 悟空のかめはめ波にライオットジャベリンを当て、相殺は無理までも威力を弱める算段だ。

 流石に気を込める時間に差があり過ぎた為、相殺は無理だと瞬時に判断したのだ。

 

 だが、その目論見はあっけなく崩される事となる。

 今にもかめはめ波を放とうとしていた悟空の身体が僅かにぶれる。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、視線の先の悟空の姿が忽然と消えたのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 目の前の光景に驚きの声を上げるバーダック。

 だが、驚いてる暇はなかった。

 突如背後に、強大な気を感知したからだ。

 

 しかし、もう遅い……。

 既にチャージを完了した悟空は、バーダックに振り向く暇さえ与えない。

 

 

「しまっ……」

「波ぁーーーーーっ!!!!!」

 

 

 ついに、繰り出された悟空のかめはめ波。

 両手から集約されたエネルギーが一気に解放され、強大な光の波は一瞬にしてバーダックを飲み込む。

 光が収束した時、地面にはかめはめ波が抉った後が一直線に伸びていた。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「バーダックーーーーーッ!!!」

 

 

 ギネはかめはめ波に飲み込まれたバーダックを見て、思わず声を上げる。

 

 

「おいおい……、何だよ今の……?」

「分からん……、カカロットの奴、一瞬で親父の背後に現れた様に見えたが……、一体何をした……?」

 

 

 ナッパとラディッツは今の悟空の攻撃に、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「にしても、大丈夫かよ? バーダックのやつ……」

「直撃だったな……」

 

 

 パンブーキンとトテッポがバーダックが沈んだ瓦礫の山に目を向ける。

 

 

「もしかして、本当に……」

 

 

 セリパが不安げな声を上げるが、それを否定する声が上がる。

 

 

「いや、どうやらまだ終わりじゃねぇみたいだぞ……」

「「えっ?」」

 

 

 否定の声を上げたのはトーマだった。

 トーマの言葉に驚きの声を上げるギネとセリパ、そして他の面子もトーマに視線を向ける。

 皆の視線を尻目に、トーマは口を開く。

 

 

「見ろよ……。 カカロットの奴……、あんなスゲェエネルギー波を喰らわせたってのに、バーダックが沈んだ瓦礫の山から一瞬たりとも視線を外さねぇ……。

 きっと、あいつは分かってんだ……。 バーダックがまだやられてねぇってな……」

 

 

 トーマの言葉で、全員が悟空に視線を向ける。

 視線の先の悟空は、未だ緊張感を維持した表情で青い瞳を瓦礫の山に……、その中にいるバーダックを見つめていた。

 

 

「にしても、さっきのアレはどうやって攻撃したんだ……? 全く見えなかったぞ……」

 

 

 皆の視線が悟空に集まる中、トーマが顎に手をやりながら不思議そうにポツリと呟く。

 トーマの言葉を拾ったギネが、「あっ!」と何かを思い出した様な声を上げる。

 皆の視線がギネに集まる。

 

 

「それならあたし分かるよ!!」

「えっ!? ギネそれ本当かい……?」

 

 

 ギネの言葉に、ギネの隣にいたセリパが驚きの声を上げる。

 だが、声に出していないだけで、この場にいる全員が似た様な表情を浮かべていた。

 

 

「オフクロ、本当に先程カカロットが何をやったかわかるのか!?」

「うん! 前にあの世一武道会って大会で、カカロットが使った技だから間違い無いよ!!」

 

 

 ラディッツの問いに、笑顔で応えるギネ。

 

 

「あの世一武道会ってーと、確か6年前くらいに大界王星ってトコで行われた、あの世一の達人を決める大会って言われたヤツだろ?」

「そう言えば、ギネとバーダックはその大会観てたんだっけ?」

 

 

 パンブーキンとセリパはギネが口にした「あの世一武道会」という名に、当時の記憶を呼び起こす。

 

 

「うん! それでね、あの世一武道会の決勝でカカロットはパイクーハンて奴と闘ったんだけど、そいつのサンダーフラッシュって技が物凄い強力でさ。

 しかも、その技には全然スキがなくて、発動するとカカロットでも躱す事も反撃することも出来なかったんだ」

 

 

 闘いの凄まじさを伝えたかったのか、大げさな身振り手振りを交えながら言葉を発するギネ。

 普段だったら、皆笑みを浮かべるところだが、発せれた言葉の衝撃が強すぎて驚きの表情を浮かべる。

 

 

「あのカカロットが、マジかよ……!?」

 

 

 皆の心情を代弁する様に驚愕の表情で、驚きの声を上げるパンブーキン。

 そこで、トーマが真剣な表情でギネに声をかける。

 

 

「なぁ、ギネ……。 1つ質問なんだが、その時のカカロットは超サイヤ人……、本気だったのか?」

「うん、それは間違いないと思うよ」

 

 

 ギネの言葉に、再び場は驚きに包まれる。

 彼らも、この戦いの前、初めて悟空が超サイヤ人に覚醒したフリーザ戦を見ているし、現在バーダックと繰り広げている激闘も見ている。

 だからこそ分かる、6年前とは言え、孫悟空が決して弱いはずがないと。

 

 それなのに、そんな悟空が躱す事も反撃する事も出来なかった技が存在するなど、彼らには俄に信じられなかった……。

 

 

「それで……? オフクロよ、カカロットはその技をどうやって攻略したんだ?

 そして、その時に使った何かが、先程の攻撃と関係しているのであろう……?」

 

 

 他のメンバーが驚きの表情を浮かべる中、ラディッツが真剣な表情でギネに発言を促す。

 

 

「カカロットはね、”瞬間移動”って技が使えるんだ」

「瞬間移動だと!?」

 

 

 ギネの言葉に、驚きの声を上げるラディッツ。

 だが、驚いているのはラディッツだけではない、瞬間移動の意味が分かる者は一様に驚いた表情を浮かべていた。

 そんな中で首を傾げ口を開くナッパ。

 

 

「何だよ……、瞬間移動って……?」

「瞬間移動とは、一瞬で異なる場所へ移動するという事だ……。 なるほど、どうりで……」

 

 

 ナッパの疑問に答えたラディッツは、納得した様な表情を浮かべギネを見つめる。

 ラディッツの思考を察したギネは、それを肯定する様に頷き、再び口を開く。

 

 

「あたしが、最初にカカロットが闘いで瞬間移動を使ったのを見たのが、さっき言ったあの世一武道会の決勝戦。

 パイクーハンとの激闘で、カカロットはもうほとんど動く事すら出来なくなっていた。

 そこで、パイクーハンがカカロットにトドメを刺す為に放ったのが……」

「さっき言ってた、サンダー何とかって技だね……?」

 

 

 ギネの言葉を引き継ぐ様に、セリパが口を開く。

 そして、それを肯定するに頷くギネ。

 

 

「さっきも言った様に、カカロットはパイクーハンの技に反応は出来ても、スキがなさ過ぎて躱す事も反撃する事も出来なかったんだ。

 だけど、カカロットは3回目にしてようやく、パイクーハンの技の動きを眼で捉える事が出来たんだって。

 そこであの子は、サンダーフラッシュが放たれた瞬間、パイクーハンの横に瞬間移動して、カウンターという形でかめはめ波を叩き込んで、パイクーハンを場外に落としたんだ」

「似ているな……、さっきバーダックに技を喰らわせた時と状況が……」

 

 

 ギネから聞いた内容に、トーマは先程の悟空の攻撃を思い浮かべる。

 

 

「それにしても、瞬間移動って……かなりエグい攻撃だね……」

「だよなぁ……。 あんなの予測しても躱せるモンじゃねぇしな……」

 

 

 トーマの言葉で、セリパとパンブーキンも瞬間移動の恐ろしさを改めて思い出す。

 

 

「そうだね……。 でも、きっとバーダックはカカロットが持てる力を全部使って闘って欲しいと思ってると思うんだ……」

「ま、闘いに卑怯だ何だってのは、結局言い訳に過ぎんからな……。

 瞬間移動がカカロットが使える技であるなら、それが有効であるなら使うのが当然だろう……」

 

 

 ギネはセリパやパンブーキンの言葉に同意しつつも、バーダックの心情を察する。

 そして、それに追随する形で、ラディッツも口を開く。

 2人が口にした事は、正にバーダックが考えている事と同じだった。

 

 

「確かに、バーダックなら負ける事よりも、力を隠された状態で勝った方が怒りそうだな……」

 

 

 2人の言葉に、バーダックとの付き合いが長いトーマはバーダックの人となりを思い出し、苦笑を浮かべる。

 その笑みに周りの者達も同意する様に、似た様な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 瞬間移動かめはめ波をバーダックに叩き込んだ悟空は、未だ緊張を解いてはいなかった。

 視線の先には、今の攻撃で築かれた瓦礫の山があった。

 そして、悟空の鋭い感覚はバーダックが未だ健在なのを捉えていた。

 

 

(ちっ! 瞬間移動の事は知ってたが、実際に使われるとここまで厄介だとはな……。 だが……)

 

 

 瓦礫の中でバーダックは今の攻撃を振り返っていた。

 口では悪態をついているが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

「コレだぜ、コレ……。 こんな闘いがオレはしたかったんだ!!!」

 

 

 好戦的な笑みを浮かべながら、言葉を発したバーダックは全身に気を巡らせる。

 それに伴い、自身の中に眠る力を解放させる……。

 まるで、バーダックのテンションに呼応する様に、全身から凄まじい気の嵐が放出される。

 

 その中には、これまでの黄金のオーラの中には混じっていない紫電の光が混じっていた。

 

 

「うーん、あいつから感じられる気はそこまで減ってねぇから、あまりダメージを受けているとは思えねぇんだけどな……」

 

 

 悟空は、未だに瓦礫の中から姿を現さないバーダックに首を傾げる。

 しかし、悟空の鋭い感覚はすぐに異変をキャッチする。

 

 

「ん? これは……、気が急激に高まってる……?」

 

 

 悟空は、視線の先の瓦礫に沈んでいるバーダックの気が膨らんでいくのを感じ取っていた。

 そして、次の瞬間轟音と共に目の前の瓦礫の山が一瞬にして、吹き飛んだ。

 まるで大規模な爆発の様な凄まじい衝撃に、悟空はとっさに両手で顔を守ろうとする。

 

 だが、悟空はそうする事が出来なかった……。

 何故なら……。

 

 両腕を中途半端な状態で止めてしまった悟空は、自分の腹部に眼を向ける。

 そこには、拳が深々と突き刺さっていた。

 

 

「がはっ……」

 

 

 肺から一気に空気を吐き出した悟空は、痛みで顔を歪めながらも、自分の腹に突き刺さっている拳から肘、肩と視線を動かす。

 そして、自分に拳を叩き込んだ男の姿をその眼に捉える。

 その男を見た瞬間、悟空が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「オメェ……」

 

 

 その男は、先程悟空自身がかめはめ波で吹き飛ばした男だった……。

 だが、明らかに先程までと変わっていた……。

 外見が大きく変わったわけでは決してない……。

 

 だが、男から発せられる雰囲気……。

 全身から吹き荒れる凄まじい気の奔流……。

 そして、迸る紫電……。

 

 悟空は、その姿をよく知っていた……。

 

 

「超サイヤ人……2……」

 

 

 悟空がポツリと呟いた瞬間、男はニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「続きと行こうぜ、クソガキ!!!」

 

 

 悟空の眼を真っ直ぐ見据えながらそう言葉を発したのは、超サイヤ人2へと変身したバーダックだった。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の4話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.04

お待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 深々と突き刺さる拳に顔を歪めたまま、悟空は眼の前の男に視線を向ける。

 そこには紫電を身に纏った、黄金の超戦士の姿があった。

 その姿は、伝説の更なる向こうへ至った者だけが辿り着ける形態。

 

 かつて、地球を襲った未曾有の危機を救う為、立ち上がった戦士達がいた。

 その中には、とある一族で伝説と呼ばれた、強力な力を持つ黄金の超戦士達が4人もいた。

 その比類なき力は長きに渡り宇宙に君臨し続けた、最強の一族すら下す程のモノだった。

 

 しかし、そんな力を持つ4人すらをも大きく凌駕する強大な敵が地球を襲った。

 多くの者がその存在には、何人たりとも勝つ事が出来ないと半ば諦めた。

 だが、そんな中で黄金の超戦士の1人が父の意志を継ぎ立ち上がった。

 

 彼は誰よりも心優しい少年だった。

 争い事が嫌いで、願うならば夢である学者になる為に、暖かな家族や大好きな動物達に囲まれながら遊び、勉強がしたかった。

 だが、それを成すには強大な敵を打ち滅ぼす以外方法はなかった……。

 

 少年は戦いの中で葛藤しながらも、自身の中に眠る真の力を解放する……。

 そして、誰も到達した事がない領域へ足を踏み入れるのだった……。

 少年はその強大な力を持って、巨悪を討ち滅ぼした……。

 

 そんな奇跡とも呼べる偉業を為し得た力……。

 それを彼らはこう呼ぶ……。

 

 

「超サイヤ人……2……」

 

 

 かつて自分の息子である孫悟飯がその扉を開き、今や自分もその領域に至った強大な力。

 その力が現在、孫悟空を襲っている。

 

 

「続きと行こうぜ、クソガキ!!!」

 

 

 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた男は、そう言うと悟空の腹から拳を引き抜き。

 悟空の顎に強烈なアッパーを叩き込む。

 

 

「ぐぅわぁーーーーーっ!!!」

 

 

 その拳の威力に盛大に吹き飛ばされる悟空。

 何とか空中で体勢を整えようとするが、悟空の視線の先に一瞬でバーダックが姿を現す。

 しかも、すでに拳を構えていた。

 

 

(ヤベェ!!)

「喰らいやがれっ!!!」

 

 

 バーダックの姿を視認した瞬間、内心で焦りながらもとっさに両腕をクロスさせ防御の体勢をとる悟空。

 しかし、バーダックはまるで防御など関係ないとばかりに、防御の上から悟空を殴りつける。

 凄まじい衝撃が悟空の両腕を襲う。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 悟空は顔を歪めながらも、なんとかバーダックの強烈なパンチを受け止める。

 だが、とても安心できる状況ではなかった。

 何故なら、バーダックの拳は未だに悟空の防御を突き破ろうと動き続けているからだ……。

 

 防御を破れられないように、更に両腕に力を込める悟空。

 しかし、それを嘲笑うかのようにバーダックがニヤリと笑みを深める。

 

 

「はぁあああああっ!!!」

 

 

 バーダックの掛け声と共に、バーダックが纏う紫電が混じった黄金の炎が一層強くなる。

 それに呼応する様に、バーダックの拳の威力が一気に跳ね上がる。

 そして、ついにバーダックの拳は悟空の防御を突破する。

 

 バチン!!!という凄まじい音と共に悟空の防御を吹き飛ばしたバーダックの拳は、そのまま悟空のボディに深く突き刺さる。

 そして、そのまま力一杯殴りつける。

 その凄まじい威力に、まともに声さえ上げる事が出来なかった悟空は、猛スピードで地面へ落下していく。

 

 轟音と凄じい量の砂塵を上げながら、背中から地面に落下した悟空は、痛みを堪えながら視線を上空に向ける。

 視界は舞い上がった砂塵のせいで最悪だったが、悟空はその姿を確かに捉える。

 上空で両手に高密度のエネルギーの塊を顕現させたバーダックの姿を。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 バーダックは両手に顕現させたエネルギーの塊を備えたまま、凄まじいスピードで悟空に向かって落下して来る。

 その姿を捉えた瞬間、悟空の背中にとてつもない悪寒が走る。

 あのエネルギーの塊を喰らえば、ただでは済まないと本能が察知したのだ……。

 

 そして、悟空が予想した通り、バーダックは両手のエネルギーの塊を悟空に叩きつける算段なのだ。

 悟空との距離を凄まじい速さで埋めるバーダック。

 あと僅かで、バーダックの両手のエネルギーの塊が悟空の身体にヒットしようとした瞬間、悟空は人差し指と中指を立て額に当てる。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、バーダックの視界から悟空の姿が忽然と消える。

 しかし、超サイヤ人2に成った事で、更に研ぎ澄まされたバーダックの鋭い感覚は僅かな空気の揺らぎすら感知してみせる。

 

 

「逃すかぁ!!!」

 

 

 バーダックは空気の揺らぎを感知した場所に向かって、左手のエネルギーの塊をエネルギー弾として凄まじいスピードで放つ。

 すると、そこへ瞬間移動した悟空が姿を現す。

 悟空は突如迫って来たエネルギー弾をとっさに、両手で受け止める。

 

 

「ぐっ、ぐぎ……、ぐぅ……」

 

 

 険しい表情で呻き声を上げながらも、全身に力を込める悟空。

 しかし、踏ん張っている両足は、ずざざざ……っとバーダックのエネルギー弾によって後方へ押し込まれていく。

 だが、悟空もやられっぱなしではない。

 

 キッ!と表情を引き締める……。

 

 

「くっ……、はぁああああああ……!!!」

 

 

 悟空の掛け声と共に全身から黄金色のオーラと共に凄じい気が放出される……。

 そして、両足に更に力を入れ、踏ん張る力を強める。

 その結果、悟空の身体は何とかその場に止まる事が出来る様になった。

 

 

「ぐぅぎぎぎぎぎ……、ったぁりゃあ……!!!」

 

 

 歯を噛みしめながら、呻き声を上げる悟空は両腕に力を込める。

 そして、エネルギーを受け止めたまま勢いよく両腕を真上に振り上げ、エネルギー弾を真上へ弾き飛ばす。

 何とか、エネルギー弾の直撃を回避した悟空だったが、バーダックは悟空に安堵の暇を与えるつもりはなかった。

 

 

「よく、弾き飛ばした……。 だがな……、もう1発あんだよっ!!!」

 

 

 両腕を振り上げた状態の悟空の前に瞬時に姿を現したバーダックは、残った右手のエネルギーの塊を悟空のボディに叩きつける。

 

 

「吹っ飛べ!!!」

「ぐぅあああーーーーー!!!」

 

 

 バーダックのエネルギーの塊をモロに受けた悟空は、凄まじいスピードで背後の岩山まで吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた悟空は凄まじい勢いのまま岩山にぶつかる。

 そして、その衝撃で轟音と共に崩壊した岩山は、大小様々な大きさの石や岩となり悟空の全身を埋め尽くした。

 

 バーダックは悟空が沈んだ、岩や石が積み上がって出来た山を静かに見つめる。

 そのまま舞空術で空中へ浮かび上がる。

 10m程上昇したバーダックは、右手に強力なエネルギーの塊を顕現させる。

 

 そのエネルギーの塊は先程悟空にダメージを与えたモノよりも、込められたエネルギーの量が多いのか、スパークがバチバチと走っていた。

 バーダックはその塊ライオットジャベリンを勢いよく、悟空が沈む岩や石が積み上がって出来た山に向け投げ放つ。

 強力なエネルギー弾と化した、ライオットジャベリンはバーダックの狙い通り悟空が沈む場所へ着弾する。

 

 地獄が一瞬にして閃光に包まれる……。

 全てのモノが純白の世界に包まれた次の瞬間、かつて無い程の轟音と衝撃が地獄に響き渡る……。

 爆発が収まった時、その場には巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

 そんなクレーターの中心で、1人の男が静かに佇んでいた……。

 あれほどの攻撃を受けた為、既に着ている道着はボロボロになっていた……。

 その男はゆっくりと、空中に浮かぶバーダックに視線を向ける……。

 

 男とバーダックの視線が交差する……。

 男はバーダックを見つめたままふわりと浮き上がると全身から紫電が混ざった黄金のオーラを爆発させる。

 そして、次の瞬間バーダックの眼の前に男が姿を表す。

 

 そのあまりの移動速度にバーダックは思わず目を見開く。

 

 

「なっ!? ……がはっ!!」

 

  

 バーダックが気がついた時には、男の右拳がバーダックのボディに容赦なく突き刺さる。

 そのあまりの威力に、バーダックを体内の空気を一気に吐き出す。

 バーダックは痛みで顔を歪めながら、顔を上げる。

 

 拳を喰らった際、思わず顔を下げてしまったのだ。

 しかし、バーダックの眼の前にいたはずの男は、忽然と姿を消していた。

 だが、バーダックの鋭い感覚がすぐさま背後に強大な気を感知する。

 

 バーダックは、ゆっくり振り返る。

 すると、眼の前に男の右掌が突きつけられる。

 そして、次の瞬間、空気がドン!という音と共に大きく振動したかと思ったら、バーダックの全身をとてつもない衝撃が襲う。

 

 

「がっ!!!」

 

 

 あまりの衝撃に、思わず声を上げるバーダック。

 しかし、男の攻撃はそれだけでは終わらない。

 続けざまに、ドン!ドドン!!という音と共に空気が大きく揺れる。

 

 それに伴ってバーダックの全身が大きくグラつく。

 そんなバーダックのボディを、一瞬で眼の前に現れた男の拳が再び容赦無く撃ち抜く。

 

 

「ごはっ!!!」

 

 

 さらに、続け様に左アッパーを顎に叩き込むと、追い討ちとばかりに強烈な右拳を顔面に叩き付ける。

 

 

「ぐわぁ!!!」

 

 

 そして、おまけとばかりに強烈な回し蹴りでバーダックを地面へ蹴り飛ばす。

 凄まじい勢いで、落下したバーダックは轟音と共に地面に叩きつけられる。

 叩きつけられた衝撃で、大きくひび割れた大地に横たわるバーダック。

 

 

「くっ……」

 

 

 痛みで表情を歪めたバーダックは、よろよろと立ち上がる。

 立ち上がったバーダックは、視線を空中へ浮かぶ男へ向ける。

 そこには、紫電を含んだ黄金の炎を纏った超戦士、超サイヤ人2孫悟空がバーダックを見下ろしていた。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「なっ、なんだよ……? 何なんだよ、この闘いは!?」

 

 

 2人の余りの闘いっぷりにナッパは身体をプルプルと震わせながら、驚愕の表情を浮かべ声を上げる。

 生前は、数多の星々に攻め込み生涯を戦いに費やして来た。

 だが、そんなナッパでもここまで凄まじい闘いは見た事がなかった。

 

 

「超サイヤ人同士の闘いとは、ここまで凄まじいモノなのか……」

 

 

 呆然とした表情で呟くラディッツ。

 しかし、その言葉を彼の母親であるギネは否定する。

 

 

「違うよ……。 この闘いはもう超サイヤ人同士の戦いじゃ無いよ……」

 

 

 ギネの言葉に、その場にいた全ての者が首を傾げる。

 そして、皆の気持ちを代弁する様にセリパが口を開く。

 

 

「それって、どういう意味だい……? ギネ」

 

 

 皆の視線が集まる中、ギネは激しい闘いを繰り広げる悟空とバーダック眼にを向ける。

 

 

「あれは……、超サイヤ人を超えた超サイヤ人……超サイヤ人2同士の闘いなんだよ……」

 

 

 ギネの発した言葉に、その場の全員が怪訝そうな表情を浮かべ再び首を傾げる。

 

 

「超サイヤ人……2……?」

「何だよ……それ……?」

 

 

 安直なネーミングだったからだろうか?何名かは眉を潜める者もいた。

 ギネは思わず苦笑いを浮かべ、口を開く。

 

 

「あたしもよくは知らないんだけど、前にバーダックの師匠と話した事があったんだけど……」

 

 

 ギネが超サイヤ人2について説明しようとした時、ある言葉に反応したトーマが思わず声を上げる。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! バーダックの師匠だと!?」

 

 

 その声量と、普段は冷静なトーマにしては珍しく狼狽た様子に、思わず目を丸くするギネ。

 

 

「えっ? う、うん……」

 

 

 トーマの剣幕に驚きながらも、ギネは彼の質問に吃りながらも返事を返す。

 当のトーマは、その言葉に驚愕の表情を浮かべる。

 だが、それはトーマだけではなかった。

 

 

「バーダックが誰かに教えを乞うなんて、信じられないんだけど……」

「まったくだぜ……、あいつが誰かの言う事を素直に聞く姿なんて想像がつかねぇ……」

 

 

 セリパやパンブーキン……、トテッポといった古くからの仲間達は皆一様に驚きの表情を浮かべていた。

 

 

(うーん、そんなにバーダックが誰かに教えを乞う姿が意外だったのかな……?

 まぁ、普段が普段だけに分からなくは無いんだけど……)

 

 

 仲間達のあまりの驚きぶりに、逆に冷静になったギネは、ふとそんな事を内心で思い浮かべる。

 そんなギネの肩をトントンと誰かが叩く。

 ギネがそちらに視線を向けると、ラディッツとナッパが立っていた。

 

 2人は無言だが、眼で先を話せと促していた……。

 

 

「えっと……、話を進めていいかな……?」

 

 

 ギネがそう言うと、無言で頷くラディッツとナッパ。

 そして、今まで周りで狼狽た面子もようやく復活して来る。

 

 

「あ、ああ……。 悪いな、話の腰を折って……」

「それで? バーダックの師匠が何て言ってたんだい……?」

 

 

 ようやく話が出来る場が戻り、再び口を開くギネ。

 

 

「えとね……、バーダックの師匠の話では、超サイヤ人2とは超サイヤ人の壁を超えた超サイヤ人の事を言うらしいんだ……」

 

 

 ギネの言葉にまたしても、周りは首を傾げる。

 

 

「超サイヤ人の壁を越える……? それは、どういう意味なんだ? オフクロよ……」

 

 

 ラディッツの言葉に、ギネは顎に手を当て少し考えた様な表情を浮かべると、再び口を開く。

 

 

「えっとね……、超サイヤ人……、ちょっと分かり辛いから、超サイヤ人の事を超サイヤ人1って言うね……。

 超サイヤ人1には、全部で4つの段階が存在するんだって……」

 

 

 ギネの言葉に、周りから驚きの声が上がるが、ギネはそれを無視して話を進める。

 

 

「超サイヤ人の4段階目……それが超サイヤ人1の状態での完成形なんだってさ。

 さっきまでバーダックやカカロットが成っていた形態がこれなんだと思う……」

 

 

 ギネの言葉を受け、ナッパがギネに質問する。

 

 

「と言う事は……、オレ達が見たフリーザとの戦いで初めて超サイヤ人に覚醒した時のカカロットは、超サイヤ人1の1段階目だったって事か……?」

「そう言う事になるんだろうね……」

 

 

 ナッパの言葉を肯定する様に頷くギネ。 

 その言葉に、再び周りから驚きの声が上がる。

 

 

「あんなスゲェ戦いをしといて、未完成の超サイヤ人だったって事かよ……」

「流石伝説と呼ばれるだけはあるよね……」

 

 

 フリーザとの戦いを見ていたパンブーキンやセリパは、あの時の悟空の戦いぶりを思い出す。

 しかし、それすらも超サイヤ人の力の入り口でしか無いと知り、唖然とした表情を浮かべる。

 そんな、周りの連中を尻目に、ギネは説明を続けるべく再び口を開く。

 

 

「それで、超サイヤ人2なんだけど、そもそも超サイヤ人1の完成形と言うのが、超サイヤ人の状態でも平常心を保てる状態の事を言うらしいんだ……」

「平常心を保つ……?」

 

 

 セリパがギネの言葉に首を傾げる。

 言っている意味がイマイチよく分からないのだろう……。

 そこで、ギネは分かりやすい例を提示する事にする。

 

 

「思い出してほしいんだけど、初めてカカロットが超サイヤ人に成った時、それまでのカカロットと人が変わったみたいじゃなかった……?」

「言われてみれば、変身前に比べるとかなり荒々しい雰囲気や口調になっていたな……」

 

 

 トーマはフリーザとの戦いで、超サイヤ人へと覚醒した時の悟空を思い出し口を開く。

 ギネはトーマの言葉を肯定する様に頷く。

 

 

「どうやら、超サイヤ人というのは、大猿化ほどじゃないけどサイヤ人の本能が強く表に出るみたいなんだよね……。

 そして、変身すると軽い興奮状態になるらしいんだ……」

「なるほどな……。 サイヤ人の本能である凶暴性が表面化した上、更に興奮状態か……。

 説明されてみれば、確かに思い当たる節はいくつもあるな……」

 

 

 ギネの説明を受け、トーマは顎に手を当て自身の記憶を探る。

 記憶の中の超サイヤ人となった悟空と、ギネが言った事を照らし合わせると、思い当たる節がいくつも出て来た。

 それはトーマだけでなく、あの戦いを見ていた全ての者達がそうだった。

 

 皆の表情で、自身が言いたかった事が伝わった事を確信したギネは、再び口を開く。

 

 

「それに引き換え、さっき迄のカカロットやバーダックはどうだった……?」

 

 

 ギネの言葉を受け、その場の全員が先程までの悟空達の様子を思い出す。

 

 

「なんか、ごく自然というか当たり前に超サイヤ人の姿でいたよね……。

 2人共変身する前と、性格が変わった様には見えなかったし……」

 

 

 記憶を思い出しながら喋っているせいか、どこかハッキリしない様子で口を開くセリパ。

 そんなセリパの言葉を肯定する様に頷くギネ。

 

 

「つまり、あの2人は完全に超サイヤ人をコントロールしているって事なんだよ……。

 そして、その状態から更に力を付け、超サイヤ人の限界を超えた者だけが、超サイヤ人の壁を突破する事が出来る……。

 それが……、伝説の戦士の更に先……超サイヤ人2なんだってさ……」

 

 

 ギネの言葉を受け、地獄のサイヤ人達は改めて2人の超戦士に目を向ける。

 視線の先では、伝説の戦士を更に超えた者達の戦いが、更に激しさを増していくのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「だりゃあ!!!」

「オラァ!!!」

 

 

 超サイヤ人2へと姿を変えた悟空とバーダックの拳が激しく激突する。

 激突した衝撃で互いに弾け飛んだ瞬間、瞬時に体勢を立て直しバーダックの間合いに飛び込んだ悟空はバーダックに向け右拳を繰り出す。

 バーダックはそれを左手で捌く、しかし追撃の悟空の左拳がバーダックの右頬に突き刺さる。

 

 そして、更に鋭い右蹴りでと左膝蹴りを連続で叩き込み、体勢が崩れたバーダックをアッパーで上空へ殴り飛ばす。

 だが、悟空の攻撃は終わらない。

 上空へ吹き飛んだバーダックの元へ瞬間移動で一瞬で移動する。

 

 

「波ぁーーーっ!!!」

 

 

 瞬間移動したと同時に、両手を突き出した悟空。

 悟空の放った気功波は一瞬にしてバーダックを飲み込む。

 だが……、次の瞬間気功波が弾け飛んだ……。

 

 バーダックが瞬間的に気を全身から爆発させ、気功波を吹き飛ばしたのだ。

 そして、今度はこちらの番だとばかりに悟空に向かって飛び出す。

 悟空は自身に向かって来るバーダックを迎え撃つべく拳を構える。

 

 しかし、悟空の間合いに入るよりも早くバーダックは右拳を振り抜く。

 次の瞬間、何かが悟空の顔の横を凄まじスピードで通過する。

 なんと、バーダックの拳の拳圧により圧縮された空気が塊となって悟空に襲い掛かったのだ。

 

 更に、バーダックは続け様に左右の拳を数回振り抜く。

 

 

「はっ!! だりゃあ!!!」

 

 

 凄まじいスピードで振り抜かれた拳から、合計4発の拳圧の塊が悟空を襲う。

 しかし、悟空はそれを左右の腕と足を使い、弾き飛ばす。

 だが、その隙に悟空の背後を取る事に成功するバーダック。

 

 自身の背後をとったバーダックに向け、悟空は振り向きざまに拳を放つ。

 だが、悟空の拳は体勢が不十分だった事もあり、あっさりとバーダックの左手に受け止められてしまう。

 そんな悟空のガラ空きとなったボディへ、強烈なボディブローを叩き込むバーダック。

 

 更に、ボディブローで体勢が完全に崩れた悟空へ、追撃の右蹴りを勢いよく振り抜く。

 まともに喰らった悟空は、後方へ吹っ飛ぶ。

 しかし、吹き飛ばされた悟空は空中でくるりと体勢を整えると、気を開放しバーダックへ向け凄まじいスピードで飛び出す。

 

 一瞬で距離を詰めた悟空がバーダックの間合いに入った瞬間、2人は同時に拳を繰り出す……。

 

 

「だりゃぁあああ!!! ……がはっ!!!」

「オラァアアアア!!! ……ぐはっ!!!」

 

 

 凄まじい轟音と共に地獄に衝撃が走る。 

 悟空の右拳はバーダックの左頬に突き刺さり、バーダックの左拳は悟空の右頬を捉えていた。

 2人は受けた拳の威力に、お互い顔を仰け反らせる。

 

 しかし、ギリッ……と歯を噛み締めた2人は、ほぼ同時に逆の腕を振り抜く。

 再び凄まじい音が響き渡る。

 今度は悟空の左頬にバーダックの拳が突き刺さり、バーダックの右頬を悟空の拳が捉える。

 

 

「ぐっ!!!」

「がっ!!!」

 

 

 2人は互いの拳の威力に、正反対の方向に吹き飛ぶ。

 しかし、悟空は吹き飛びながらも、両手を右腰だめに移動させる。

 対するバーダックも右手を大きく引く。

 

 

「かぁ、めぇ、はぁ、めぇ……」

「はぁあああああっ……!!!」

 

 

 2人は己の内に内包する力を引き出し、集約させ形にする。

 それに伴い2人の全身を包む、紫電を発した黄金色の炎が激しく燃え上がる。

 顕現させた力の塊は2人のテンションに呼応する様に、更に輝きを増していく。

 

 悟空とバーダックの視線が交差する。

 その瞬間、2人の口元に不敵な笑みが浮かぶ。

 まるで、互いの技のどちらが強いのか比べるのが楽しみだと言わんばかりに……。

 

 そして……、その勝敗は間も無くハッキリする事となる……。

 

 

「波ぁーーーーーっ!!!!!」

「くたばりやがれぇ!!!!!」

 

 

 まるでタイミングを合わせた様に、2人は集約したエネルギーを一気に解き放つ。

 想像を絶する程の破壊力が込められたエネルギーの塊が、互いに向け繰り出される。

 轟音と共に発せられた、一筋の極大の光の波と、力を極限にまで凝縮された塊が正面からぶつかる。

 

 悟空の全力のかめはめ波とバーダックの本気のライオットジャベリンがぶつかった瞬間、大気と地面が木っ端微塵に吹っ飛ぶ。

 込められたエネルギーが尋常じゃ無いからか、2人の技がぶつかった衝撃は地獄全体を大きく揺らす。

 だが、技を繰り出した当人達はそれどころではなかった……。

 

 

「はぁあああああーーーーーっ!!!!!」

「だぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 2人は周りの事などお構いなしに、己の技に力を込め続ける。

 悟空のかめはめ波とバーダックのライオットジャベリンは、まるで互角と言わんばかりに一進一退の攻防を繰り広げている。

 かめはめ波が少しでも押し込めば、ライオットジャベリンが押し返し、また逆に、ライオットジャベリンが押し込めば、かめはめ波が押し返す。

 

 その様な攻防が先程から幾度となく繰り返されている。

 

 

(スゲェ……!! オラがこんだけ力を込めているのに、押し込めねぇ……)

(チッ!! カカロットの奴、どんだけ気を内包してやがんだ……)

 

 

 2人は更に互いの技に力を込める。

 込められたエネルギーが増えたからか、かめはめ波とライオットジャベリンが一回り大きくなる。

 

 

「ぎっぎぎぎぎ……!!!」

「ぐっぐぐぐぐ……!!!」

 

 

 歯を食いしばりながら己の中から力を引き出し、技を出し続ける悟空とバーダック。

 額に血管と大量の汗を浮かばせている姿から見ても、お互い余力がある様には見えない。

 正に意地の張り合いだった……。

 

 いつまで、その様な時間が続くのかと思われたその瞬間、2人の意地の張り合いは思わぬ形で終わりを告げる事になる……。

 これまで互いに拮抗していたかめはめ波とライオットジャベリンが突如、大爆発を起こしたのだ。

 超サイヤ人2の全力が込められていただけいに、その爆発は凄まじいモノだった……。

 

 地獄全体が光に包まれたと思った瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が全身を襲う。

 その衝撃の威力は星の爆発にも引けを取らないのでは無いか?と錯覚してしまうほど、観ている者達に本能的恐怖を与える。

 そんな、破壊と光に包まれた世界で、2人の男の姿が浮かび上がる。

 

 

「だだだだだっ!!!」

「おりゃりゃりゃりゃりゃっ!!!」

 

 

 なんと、かめはめ波とライオットジャベリンが爆発した瞬間、2人はほぼ同時に相手に向かって飛び出していたのだ。

 今の打ち合いで、互いに大きく気を消耗しているはずなのに、そんな事を微塵も感じさせず2人は空中で拳と蹴りを高速で繰り出し続ける。

 そして、2人は互いの右腕を大きく引くと、勢いよく振り抜く。

 

 2人の拳がぶつかった瞬間、轟音と共に、大気が弾ける様に衝撃が走る。

 互いの拳がぶつかった衝撃の余波で、先程の気功波による打ち合いで生じていた多大な砂塵等が一瞬にして吹っ飛ぶ。

 2人は即座に、互いの右腕を引く。

 

 

「だりゃ!!」

 

 

 悟空がバーダックの顔面に向かって、風を切り裂く様な鋭い右蹴りを繰り出す。

 それを頭を下げ躱したバーダックは、悟空の蹴りが頭上を通過した瞬間、即座に身体を起こし悟空の顔面に向かって左拳を繰り出す。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 バーダックの放った拳が悟空の右頬に突き刺さる。

 その衝撃で、悟空は後方へ吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んだ悟空に追撃を仕掛ける為、猛スピードで飛び出すバーダック。

 

 吹き飛ばされた悟空は視線の先に、自分を追って来るバーダックの姿を捉える。

 だが、まだ迎え撃つ体勢が出来ていない悟空は、とっさに右手から気弾をバーダック目掛け放つ。

 

 

「はっ!」

 

 

 悟空が放った気弾は真っ直ぐ、バーダックへ向かって飛んでいく。

 あと僅かで気弾がバーダックにヒットしようとした瞬間、バーダックが右手を一閃して気弾を弾き飛ばす。

 だが、悟空にとってはそれで十分だった。

 

 そもそも、今の気弾はダメージを与える為のモノではなく、時間を稼ぐ為のモノだったのだから。

 気弾の処理をした事で、ほんの僅かだがバーダックの動きに遅れが生じたのだ。

 その僅かな時間で、体勢を整える悟空。

 

 そんな悟空との距離を一瞬で詰め、拳を握るバーダック。

 バーダックが拳を振り抜こうとした瞬間、悟空は後方斜め上へと飛び退く。

 そして、バーダックが拳を振り抜いた瞬間、全身から気を爆発させ推進力を上げる。

 

 

「だりゃあ!!!」

 

 

 凄まじいスピードでバーダックの懐に飛び込んだ悟空は、合わせた両手でバーダックの頭をおもいっきり殴り飛ばす。

 

 

「がっ!!!」

 

 

 カウンターという形でナックルハンマーをモロに受けたバーダックは、凄まじいスピードで地面へ落下して行く。

 バーダックは落下しながら、思わず顔を顰める。

 だが、それは今の攻撃の痛み故では無い……。

 

 今の悟空の攻撃は間違いなくバーダックの攻撃のタイミングを完全に読んだ上、通常のカウンターよりも更にダメージを与えるために繰り出された攻撃だったからだ……。

 

 

「チッ!」

 

 

 それに気付いてしまい、簡単に攻撃を読まれてしまった自分自身にバーダックは思わず舌打ちする。

 だが、今のバーダックには自身に怒りをぶつける様な余裕はなかった……。

 何故なら、視線の先にはバーダックに追撃をかけるべく、凄まじいスピードで真上から迫って来る悟空の姿を捉えていたからだ。

 

 

(チッ! おちおち考え事も出来ねぇじゃねぇか……。

 しかも、さっきのカウンターのせいで、ちっとばかり身体の反応が鈍い……。

 今、接近戦になったら分が悪いのは、間違いなくオレだな……。

 あと数秒もすれば回復すんだろうが……、それじゃあ間に合わねぇ……)

 

 

 僅かな時間で、冷静に自身の状況を分析するバーダック。

 

 

「しょうがねぇ……」

 

 

 そう言うと、バーダックは右手を突き出し、掌を向かって来る悟空の方に向ける。

 

 

(正直、さっきの打ち合いでかなり気を消耗したから、あんまデケェのは打ちたくねぇんだがな……。

 けど、このまま接近戦に持ち込んでも、分が悪いのは目に見えている……。

 ここは時間を稼ぐか……)

 

 

 バーダックの右掌にエネルギーの塊が顕現する。

 そして、次の瞬間、バーダックの右手から巨大なエネルギー波が放出される。

 バーダックは悟空の動きを止めるために、あえて大きめのにエネルギー波を繰り出した。

 

 向かって来る悟空に向かって、バーダックのエネルギー波がぐんぐん迫る。

 バーダックの予想では、次に悟空が起こす行動は、防御もしくは回避。

 最悪なのは、エネルギー波を弾き返される、もしくは、エネルギー波による打ち返しだった。

 

 だが、仮に後ろの2つが起きても、対処する方法が無いわけでは無い。

 そう考えるバーダックだったが、次の瞬間、彼は大きく眼を見開く……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 まるで、巨大な光の柱の様なエネルギー波が悟空に迫る。

 悟空の視界から見たそれは、まさしく光の壁が自身へ迫って来る様だった。

 悟空は、その光景につい笑みを浮かべる。

 

 そして、次の瞬間悟空は、自身の周りに高密度の気のバリアを展開しエネルギー波の中に突っ込む。

 その光景は、かつてナメック星でフリーザに悟空自身がやられた事の再現だった。

 悟空は、バーダックのエネルギー波を見た瞬間、規模は確かにデカイがそちらに気を取られすぎて、全体的に力が散漫になっている事に気が付いたのだ。

 

 そんな攻撃だったら、突っ切る事は可能と判断した悟空。

 その考え通り凄まじいスピードで、バーダックのエネルギー波を突き進んでいく。

 そして、ついにバーダックのエネルギー波を突破した悟空がバーダックの前に姿を表す。

 

 

「だりゃぁあああ!!! 」

 

 

 そして、突破した勢いそのままにバーダックの顔面に強烈な右拳を叩き込む。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 悟空の拳をモロに受けたバーダックは、凄まじいスピードで地面へ落下していく。

 バーダックは背中から轟音を経て、地面へ激突した。

 あまりの衝撃に、凄まじい量の砂塵が巻き上がる。

 

 その光景を尻目に、悟空はシュタッと音を立て地面へ着地する。

 しかし、次の瞬間悟空の体勢が大きく崩れ、思わず膝をつく……。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

(流石に超サイヤ人2同士の闘いとなると、ダメージがデケェ……。

 オラが思っていた以上に、気も体力も消耗しちまったみてぇだ……)

 

 

 そんな事を悟空が考えていると、横からズザッという音が聞こえて来る。

 悟空は音がした方に視線を向け、思わず驚きの表情を浮かべる。

 

 

「なっ!?」

 

 

 悟空の視線の先には、先程地面に沈んだはずのバーダックがしっかりとした足取りで立っていた。

 その姿からは、確かにこれまでの攻撃で受けたダメージが容易に確認できる。

 だが、闘いを続けるのにはまったく問題を感じさせなかった……。

 

 

(こ、こいつ……、なんてタフさだ……)

 

 

 バーダックの想像以上のタフさに驚きを隠せない悟空……。

 そんなバーダックは膝をつき、肩を上下させている悟空に、どこか挑発的な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「おいおい……、もうヘバっちまったのか……?」

 

 

 その言葉に、思わずムッとした表情を浮かべる悟空。

 悟空は足に力を入れ、立ち上がるとバーダックに向け、笑みを浮かべる。

 

 

「へっ……、まさか!! オメェが起き上がるのが遅かったから、ちょっと休憩してただけさ……」

 

 

 そんな悟空の言葉を聞いたバーダックは、フッと笑みを浮かべる。

 

 

「そうかよ……。 そんじゃ、続きと行くか……」

 

 

 そう言うと、バーダックは好戦的笑みを浮かべ構える。

 

 

「臨むところだ!!!」

 

 

 バーダックに応える様に悟空も笑みを浮かべ構えをとる。

 

 悟空とバーダックの親子対決……。

 互いに限界以上の力を行使する2人の闘いは、更なる展開に突入しようとしていた……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の5話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.05

お待たせしました。
最近は仕事と転職活動の課題制作が忙しくて、執筆時間が取れませんでした。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


 凄まじい打撃音が絶え間なく地獄に響き渡る。

 その音を発し続けている2人の男は、まるで鏡合わせの様にそっくりな顔をしていた。

 だが、それは致し方ない事だろう……。

 

 何故なら彼等は自分たちの一族では、下級戦士と位置付けられる存在だ。

 下級戦士……、それは戦闘を生業とする彼等一族にとっては、ある意味侮蔑の対象と言ってもいいだろう。

 彼等の一族は生まれてすぐに、己の戦闘力を検査され、「優秀な者」か「そうで無い者」かの篩に掛けられる。

 

 下級戦士とは、明らかに「そうで無い者」に属するだろう。

 戦闘要員ではあるが、戦闘力が低いが故に使い捨てにされたり、生まれてすぐに他所の星に飛ばされる事も多く、もっとも扱いが悪い文字通り最下層な戦士の事なのだ……。

 それ故に同族達でも彼等を馬鹿にする者は多い。

 

 そもそも彼等の一族は、顔のパターンが少ない。

 特に下級戦士と呼ばれる者達は似た様な顔をした者が多い。

 それ故に、例え血が繋がっていなくても、双子の様な人相の別人が存在するのだ。

 

 そんな一族の血を引き、同じ下級戦士だから今闘っている2人の容姿が似ているのだろうか?

 確かにそれもあるだろう……。

 だが、理由はそれだけではない……。

 

 今闘っている2人は文字通り、血で繋がった存在だからこそ、ここまで似ているのだ……。

 父と子……、最も強い血の繋がりがある2人だからこそ、この2人はここまで似通っているのだ。

 それは何も容姿に限った話では無い……。

 

 彼ら親子は誰かの為に本気で怒り、そして、それを力に変え強大な敵に立ち向かっていくという気高い精神までもが似ていた。

 何より、『強いヤツと全力で闘いたい』というサイヤ人の本能に、誰よりも彼らは忠実だった。

 そんな、戦闘バカな親子の戦いは、更に凄まじい展開に突入しようとしていた……。

 

 

 

「はぁあああ!!!」

「だらぁあああ!!!」

 

 

 掛け声と共に、互いに繰り出した右拳が轟音と共に激しくぶつかる。

 2人はぶつかった衝撃で、正反対の方に吹っ飛ぶが、即座に体勢を整え構えたまま向かい合う。

 互いの視線が交差する……。

 

 

「へへっ……」

「ん?」

 

 

 突如笑みを浮かべた悟空に、怪訝そうな表情を向けるバーダック。

 そんなバーダックを見て、彼の内心を察した悟空は少し困った様な笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、悪りぃな……。 オメェと闘ってると何だか悟飯と修行していた時の事を思い出してさ……」

「ゴハン……?」

 

 

 悟空の言葉に首を傾げるバーダック。

 

 

「あ、悟飯ってのは、オラの息子なんだけど……。

 オラ死ぬちょっと前まで、そいつと1年間ぐらいみっちり修行しててさ……。

 そん時は、あいつとこうやって毎日組み手してたっけなぁ……」

 

 

 懐かしそうな表情で話す悟空に、バーダックはほぼ無意識に口を開く……。

 

 

「お前の息子ってことは、そいつも強えんだろうな……」

 

 

 その言葉に一瞬驚いた様な表情を浮かべた悟空だったが、すぐに笑みを浮かべる。

 だが、その笑みはこれまでバーダックの闘いの中で見せたどの笑みとも異なっていた。

 まるでその存在を愛しむ様に浮かべたその笑みは、間違いなく親の表情だった……。

 

 バーダックが悟空が浮かべた表情が親の顔だと理解できたのは、今の悟空と同じ様な笑みを浮かべる存在を身近でよく知っていたからだ……。

 

 

(こんな顔もする様になったんだな……。 あの時のガキが……)

 

 

 バーダックは自身が親として、子供達に何かをしてやれた訳でない事をよく理解していた。

 特に目の前にいる次男坊には、残してやれたのは精精命だけで、他のモノは何一つ残してやれなかった。

 それ以前に、自身では子供に対して愛情が希薄だと思っている……。

 

 そんなバーダックだったが、今の悟空の表情を見て、いままで感じた事がない感情をその胸に宿した。

 それ故か、今のバーダックは悟空と同じ様な笑みを浮かべていた。

 その表情を見た悟空は、少し驚いた様な表情を浮かべる。

 

 

「ん? どうかしたか……?」

 

 

 驚いた表情を浮かべる悟空に、不思議そうに問いかけるバーダック。

 

 

「あ、いや……、何でもねぇさ……」

 

 

 バーダックの問いかけに悟空は静かに首を横に振ると、自身の自慢の息子について話すべく口を開く。

 

 

「そういや悟飯の話だったな……。 そうだなぁ……、オメェの言う通り、とんでもなく強えヤツだ……。

 なんせ、当時9歳やそこらのガキだったのに、オラより先に超サイヤ人の壁を越えて、超サイヤ人2になっちまったんだからなぁ……」

「ほぉ……、本当に大したヤツじゃねぇか……」

 

 

 悟空の言葉に、バーダックは珍しく素直に称賛を送る。

 だが、それも仕方ない事だろう……。

 何故なら、バーダックは生前数多の経験を積み、死後、トランクスとの厳しい修行を約10年近く経験して今の領域にたどり着いたのだ……。

 

 その領域に、僅か9歳の子供がたどり着いたと聞けば、やはり驚かずにはいられない。

 以前トランクスから話は聞いていたが、あの時は、この領域に至るのが、まさかここまで大変だとは思っていなかった。

 

 

「にしても9歳で、超サイヤ人2とはなぁ……。

 そのガキ、将来はとんでもねぇ事になりそうだな……」

 

 

 バーダックが悟飯の才能と潜在能力に驚嘆の声を上げる。

 だが、悟空はそれに苦笑い浮かべる。

 

 

「あーそいつは、どうだろうなぁ……」

「ん?」

 

 

 悟空の言葉に首を傾げるバーダック。

 

 

「いやな、あいつは元々オラ達みてぇに闘いが好きってわけじゃねぇんだ……。

 あいつが、超サイヤ人2なんてとんでもねぇ力を身につけたのは、それが必要な状況だったからだ……。

 あいつからしてみれば、そんな力は使わねぇに越した事はねぇんだろうしな……」

「なんだそりゃ!?」

 

 

 話を聞いたバーダックは、驚愕の表情を浮かべる。

 純粋なサイヤ人のバーダックからしてみれば、それだけの才と力を持っていながら、闘いに興味がない事に驚きを隠せなかった。

 そこで、ふと以前トランクスから聞いた話を思い出した……。

 

 

(そういや、トランクスから前に話を聞いた時も、ゴハンの奴は戦うのを躊躇していたと言ってやがったな……。

 あん時は、ギネがゴハンは優しいからあまり戦いが好きじゃねぇんじゃないか、とか言ってやがったが、どうやらあいつの予想は当たってたみてぇだな……)

 

 

 昔の事を振り返っているバーダックを尻目に、悟空が再度口を開く。

 

 

「まぁ、あいつの将来の夢は偉え学者さんだからなぁ……。

 あんま力は関係ねぇだろうしな……」

「はぁ!?」

 

 

 悟空の言葉に今度こそ、信じられないと言った表情を浮かべるバーダック。

 

 

「サイヤ人が学者だと!? そんだけの力を持っててか……?」

「ああ。 てか、そんなに驚くことなんか……?」

 

 

 バーダックのあまりの驚きっぷりに、悟空は不思議そうな表情を浮かべる。

 そんな悟空にバーダックは思わず問いかける。

 

 

「お前は、息子がそんなんで、何とも思わねぇのか……?」

 

 

 バーダックの言葉に少し、考える様な素振りを浮かべた悟空だったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「うーん、あいつはもっとガキの頃から、ずっと偉え学者さんになりてぇって言ってたからなぁ……。

 あいつが好きな様に生きてくれた方が、オラとしてはうれしいかな!!」

 

 

 子供の頃から、自分のせいで息子には多くの苦労を掛けてきた。

 本来なら大人である自分達が守るべき存在なのに、いつも最前線に立たせてしまった。

 そんな息子に何度助けられ、命を救われた事か……。

 

 本来なら戦いが好きでは無い息子……。

 それなのに、文句を言う事もなく息子はいつも勇敢に戦った。

 そんな息子の夢が叶うのを、悟空は本気で願っていた……。

 

 

「それによ、あいつは、誰かの為に本気で怒れるヤツだ……。

 本気で怒った時の悟飯に勝てるヤツは、この世界には存在しねぇ!!

 だからまぁ、オラは悟飯の事に関しちゃあ何も心配してねぇんだ……」

 

 

 悟飯の優しさや、その力だけじゃなく、心の強さを誰よりも知っているからこそ、息子に対して絶対的な信頼の言葉を述べる悟空。

 しかし、その表情は直ぐに困った様な笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ、せっかく身につけた力だから、そっちも大事にしてくれりゃ、もう言うことはねぇな……」 

 

   

 自分の言葉にははっ……と笑いながら頬をかく悟空。

 そんな悟空を静かに見つめるバーダック。

 今の言葉で、悟空は悟空なりに息子の事を考えているのだと分かったので、これ以上は自分が何かを言うのは無粋だと思ったのだ。

 

 そんな時、悟空が何気なく呟いた言葉がバーダックの耳に届く。

 

 

「にしても、不思議なんだよなぁ……」

「ん?」

 

 

 言葉に反応し、バーダックが視線を向けると腕を組み、首を捻る悟空の姿があった。

 バーダックの視線に気付いた悟空は、少し困った様な笑みを浮かべ再び口を開く。

 

 

「いやよ、今までにも他のサイヤ人とも戦った事はあんだ……。

 でも、こんな気持ちになった事はなかったなぁ……と思ってさ……。

 まぁ、そいつらと戦った時は、やたらでけえモンがかかってたから状況が違うんだけどな……」

 

 

 悟空の言葉にバーダックは黙ったまま耳を傾ける。

 そんなバーダックを悟空は見つめる。

 

 

「オメェと闘ってると、悟飯や死んだじいちゃんと組み手をしていた時の事を、やたら思い出す……。

 なんて言うか……、そう、懐かしい感じがすんだ……、何でなんだろうな……?」

「懐かしい……か……」

 

 

 悟空の言葉を受け、バーダックはポツリと言葉を発していた。

 そして、脳裏に自身の妻の姿が浮かび上がる。

 

 

(ギネのヤツが今の言葉を聞いたら、間抜けヅラ晒して、間違いなく喧しく泣くんだろうなぁ……)

 

 

 ふぅ、と一息吐くと、バーダックは思考を切り替え口を開く。

 

 

「懐かしくなっても不思議じゃねぇんじゃねぇか……。

 ここらはサイヤ人の気が多く存在してやがる……。

 惑星ベジータが滅んだ時にいなかったって事は、お前、飛ばし子だったんだろ……?

 お前が覚えていなくても、お前の身体や本能はサイヤ人の事を覚えてたんじゃねぇのか……?」

 

 

 バーダックの言葉に悟空は、視線をバーダックから外しサイヤ人の集落がある方へ向ける。

 

 

「ここには、多くのサイヤ人がいるんだな……」

「ああ……。 フリーザの野郎に惑星ベジータが滅ぼされた時にいたヤツは大抵いるな……」

「そっか……」

 

 

 バーダックも悟空同様、集落の方に視線を向け、地獄のサイヤ人達について口を開く。

 それを聞いた悟空は、何とも言えない表情を浮かべる。

 

 

「って事は、あそこにはオラの父ちゃんや母ちゃんがいるかも知れねぇんだな……」

「ふん! 何だ、その歳になっても、親離れが出来てねぇのか……? てめぇは……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたバーダックは、内心でギクッとしながらも、悟空に嫌味を返す。

 

 

「いやな、悟飯の話をしてたら、オラにも父ちゃんや母ちゃんがいたはずなんだよなぁーって思ってよ……。

 ちょっと気になっただけさ……」

 

 

 バーダックの嫌味など対して気にもとめず、何でも無い様に口を開く悟空。

 

 

「……」

 

 

 悟空の言葉に、複雑な表情で押し黙るバーダック。

 そんなバーダックの様子に首を傾げる悟空。

 

 

「ん? どうかしたんか……?」

「いや……、何でもねぇ……。 それより、無駄話は終いだ……。 続き……、やんだろ……?」

 

 

 悟空の問いに首をふり、話を終わらせたバーダックは再び構える。

 

 

「当然!!」

 

 

 そんなバーダックに笑みを浮かべ、同じく構える悟空。

 2人はほぼ同じタイミングで、地を蹴り、一瞬にしてその距離をゼロにする。

 最初に攻撃をしかけたのは、バーダックだった。

 

 バーダックは、悟空に向け右拳を勢いよく振り抜く。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 悟空は頭を下げバーダックの右拳を躱すと、力強く踏み込みバーダックのボディに右拳で強烈なボディブローを叩き込む。

 

 

「だりゃぁ!!」

「がはっ!!」

 

 

 悟空のボディブローを受けたバーダックの身体がくの字に曲がる。

 そんなバーダックの頭に、ナックルハンマーを容赦なく叩きつける悟空。

 

 

「せいやぁ!!」

「ぐっ!!」

 

 

 悟空のナックルハンマーを受けたバーダックは、地面に思いっきり叩きつけられる。

 しかし、悟空の攻撃はまだ終わらない。

 バーダックが倒れた瞬間、宙へ跳び、地面に倒れ伏したバーダック目掛けて、凄まじい早さで飛び蹴りを繰り出したのだ。

 

 視界の端に飛び蹴りを繰り出した悟空の姿を捉えたバーダックは、躱す為に身体を横に回転させる。

 次の瞬間、バーダックの横数十cm隣に凄まじい音と共に悟空の蹴りが着弾する。

 蹴りの威力で、地面はヒビ割れ、大量の砂塵が舞い上がる。

 

 そんな中、その場を離れ体勢を整えたバーダックは、悟空の追撃に備える。

 

 

(チッ! 単純な体術だったらどうやら、カカロットの方がオレよりも1枚上みてぇだな……。

 フリーザの野郎との戦いを見ていた時から思ってたが、こいつの体術の練度は相当なモンだな……)

 

 

 バーダックがそんな事を考えていると、砂塵の中から悟空が凄まじいスピードで飛び出してくる。

 悟空はバーダックに近づくと、右拳を振り抜く。

 それを、左腕でガードしたバーダックは、お返しとばかりに同じく右拳を繰り出す。

 

 悟空はバーダックが繰り出した拳を避ける事はせず、バーダックの拳の勢いを殺さない様に、左手を繰り出された拳の腕に当てパンチの軌道をずらす。

 そして流れる様に、右手でバーダックの右手首を掴み引っ張ると同時に、身体を反転させバーダックの身体を背負う。

 更に、軌道をずらす為に当てていた左手をバーダックの右腕に絡める。

 

 そして、そのままバーダックを背負い投げの要領で、勢い良く地面へ叩きつける。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 その威力に、思わず声を上げるバーダックだったが、すかさず左掌を悟空に向けエネルギー弾を放つ。

 悟空は瞬時にバーダックから距離を取り、そのエネルギー弾を回避する。

 その隙にバーダックもその場から飛び退き、体勢を整え、構えたまま向かい合う両者。

 

 

(今……、オレは何をされた……? 拳を繰り出したと思ったら、気がついたら地面に叩きつけられてやがった……)

 

 

 数多の戦闘を経験したバーダックも、悟空が今使った様な相手の力を利用した体術のテクニックは経験した事がなかった。

 悟空が使った技は、地球の柔術に由来する技で、かつて自分の足で世界中を周り、色々な武術を眼にしてきた経験が今なお悟空に息づいている証拠だった。

 地球の武道家達は、確かに宇宙規模で見たら弱者の方が圧倒的に多い。

 

 だが、彼等が生み出して来た技の数々が決して劣っているわけでは無いのだ。

 

 

(瞬間移動といい、さっきの妙な技といい、攻撃の幅が広い奴だぜ……。

 だけど……、こいつはそんだけ強くなる為に、色々やって来たって事なんだろうな……)

 

 

 そんな事を考えていたバーダックだったが、ふぅ……と一息吐くと、思考を切り替える。

 

 

(にしても……、どうもさっきから後手に回ってんなぁ……。

 こりゃ、オレの攻撃のタイミングを完全に読まれてやがんなぁ……。

 ここらで、どうにかしねぇと、このまんまじゃジリ貧だな……。 ……ん?)

 

 

 そこでバーダックは相対する悟空の姿に違和感を感じる。

 バーダックは目を鋭くし、悟空の全身を観察する様に目を向ける。

 

 

「こいつは……」

 

 

 そして、悟空の違和感の正体を看破する……。

 

 

(今まで普通に闘っていたから意識しなかったが、こいつ……よく見れば、妙に肩を上下させてねぇか……?

 それだけじゃねぇ……、僅かだが息が荒くなってきてやがる……)

 

 

 バーダックの観察した通り、視線の先の悟空は構えてはいるが、僅かに肩を上下させ、僅かに呼吸が荒くなっていた。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

 バーダックが色々考えている時、相対している悟空も思考を巡らせていた。

 

 

(マジいな……。 気の減り具合はお互い似た様なモンだけど、肉体のダメージは確実にオラの方が上だ……。

 ダメージを与えた回数はオラの方が多いってのに、あいつなんてタフさだ……。

 このまま闘いを続けたら、いつかあいつに押し切られちまう……。 どうすっかなぁ……)

 

 

 悟空もバーダック同様、バーダックに視線を向け観察する。

 

 

(ダメージは間違いなく受けている……。 けど、オラほどダメージを負っちゃいねぇ……。

 元々あいつがタフなのか、オラの攻撃と同等の攻撃を受け慣れてんのか知んねぇが、見た目ほどのダメージは負ってねぇ……。

 っとなると、今までと同じ様に攻撃しても、あいつにはそこまで大きなダメージは与えらんねぇって事だな……。

 こりゃ、オラがあいつに勝つ為には、もう、あいつの裏をかくしかねぇかな……)

 

 

 そんな事を考えていると、悟空の視界にこちらに向かって飛び出して来るバーダックの姿を捉える。

 悟空はバーダックが間合いに入った瞬間、構えていた右拳を、勢いよく繰り出す。

 しかし、バーダックは全く防御や避ける素振りを見せず、敢えて一歩前進して悟空のパンチを左頬に自ら受ける。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 悟空の拳を受けたバーダックは、顔を顰めて思わず声を上げる。

 そんなバーダックの行動に、悟空は驚きの表情を浮かべる。

 だが、次の瞬間、左頬に悟空の拳を喰らったままのバーダックの瞳がギラッと悟空を射抜く。

 

 その瞳に射抜かられた悟空は、背筋に寒気が走るのを感じる。

 思わずその場を離れようと思った瞬間、バーダックが悟空に向かって、強烈な右拳を叩き込む。

 

 

「オラァ!!!」

「がっ!!」

 

 

 拳を左頬に打ち込んだままの体勢だった悟空は、避ける事が出来ず、バーダックの拳をモロにくらってしまう。

 拳を喰らった悟空は、なんとか踏ん張り、その場に止まる。

 そして、今度はバーダックに向け左拳を繰り出す。

 

 すると、またしてもバーダックは自ら一歩前進して、悟空の攻撃を自ら右頬に受ける。

 

 

「がっ……」

 

 

 しかし、次の瞬間攻撃を受けた状態で、悟空に向け同じく左拳を悟空に叩き込む。

 

 

「ダラァ!!!」

「がはっ!! オメェ……!?」

 

 

 反撃の拳を喰らった悟空は今の攻防で、バーダックの狙いに気付き目を見開く。

 バーダックは自身のタフさが、悟空のタフさを上回っている事に気付き、相打ち覚悟での接近戦を仕掛けて来たのだ。

 自身が悟空の攻撃を受けている間は、悟空も足を止めざるを終えない。

 

 そうすれば、バーダックの攻撃は確実に悟空に当てる事が出来る。

 しかし、当然いい事ばかりでは無い……。

 この戦法は、確実に攻撃を当てられる反面、自身も確実にダメージを受けてしまう。

 

 バーダックは自身の肉体の強靭さにかける事で、勝機を見出したのだ……。

 

 

「へっ! どうやらお前はオレの攻撃のタイミングを掴んだみてぇだからな……。

 だが、こうすりゃ避ける事は出来ねぇだろ……?」

 

 

 驚いた表情の悟空に、不敵な笑みを浮かべ口を開くバーダック。

 バーダックの言葉を聞いた悟空はその場から飛び退き、距離を開ける。

 2人は再び向かい合う。

 

 だが、笑みを浮かべるバーダックに対して悟空の表情は険しかった。

 

 

(こいつ……、なんて戦い方をしやがんだ……。

 いくら自分から踏み込んで、ダメージを減らしてるからって、オラに確実に攻撃を当てる為だけに、自ら攻撃を受けるなんてよ……。

 けど……、こいつはいよいよマジいな……。

 このままじゃ、オラの方が先にまいっちまう……)

 

 

 そんな事を考えていると、バーダックが悟空に向かって飛び出して来た。

 

 

「くっ!!」

 

 

 悟空は、とっさに上空へ飛び出す。

 そして、そんな悟空を追うべく、バーダックも舞空術で空へ飛び出す。

 悟空は上昇を続けながら、チラッと追って来るバーダックに視線を向ける。

 

 バーダックは凄まじいスピードで、ぐんぐん悟空との距離を詰めてくる。

 そして、その距離が5mを切った瞬間、突如上昇を止めた悟空が、バーダックに向かって振り返る。

 

 

「天津飯!! 技を借りるぜぇっ!!!」

 

 

 そう言って悟空は、両手を頭の前に翳す。

 

 

「太陽拳っ!!!」

 

 

 悟空に迫っていたバーダックの眼の前で、太陽が顕現する。

 突如現れた強烈な光に、バーダックの視覚は一瞬にして蹂躙される。

 

 

「ぐおっ!!! 眼がぁ……っ!!!」

 

 

 強烈な光を至近距離で眼に入れてしまった為、バーダックは思わず両手で眼を抑え痛みに悶える。

 悟空の計画通りバーダックに大きなスキが出来た。

 そして、悟空はこのチャンスをモノにすべく最後の攻撃に出る。

 

 

「はぁあああああっーーーーーっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に、悟空の全身からとてつも無い量の気が放出される。

 紫電を含んだ炎は、これまでに無いほど勢いよく燃え上がる……。

 悟空が解放した途轍も無い力に、地獄全体が竦み上がり震える。

 

 

「これで決めるっ!!! かぁ、めぇ……」

 

 

 気を全開に解放した悟空は、両手を右腰だめに移動させると、全身の気を集約させ始める。

 両手の中に顕現した、青い光の塊はかつて無いほど力強く輝く。

 そして、今尚その輝きは、悟空の気を喰らい増していく……。

 

 

「ぐっ……、な、何が起きやがった……!?」

 

 

 太陽拳を至近距離でモロに受けたバーダックは、未だ視覚を封じられていた。

 だが、そんな時に、自分の頭上から途轍も無い気を感知する。

 バーダックは、弾かれた様に頭上に顔を向ける。

 

 

「なっ、なんだ……!? この途轍も無い気は……!?」

 

 

 思わず顔をあげたが、視覚が封じられている為、当然ながら視覚からの情報は何も得られなかった。

 だが、バーダックは鋭い感覚で悟空の狙いを即座に看破する。

 

 

(チッ! カカロットの奴、この機会に勝負を決めるつもりだな……!!

 ヤベェ……、今感じられる気を、まともに喰らったら、流石にただじゃ済まねぇ……!!)

 

 

 現状を把握したバーダックは即座に、悟空の邪魔をするべく、気を感知した方に向け強力なエネルギー波を放つ。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 バーダックから放たれた強力なエネルギー波は、真っ直ぐ悟空の方へ進んでいく。

 悟空とエネルギー波の距離がどんどん縮まる。

 あと僅かで、バーダックのエネルギー波が悟空にヒットしようとした瞬間。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空の身体が忽然と消える。

 目標を見失ったエネルギー波は、悟空が一瞬前までいた場所を虚しく通り過ぎる。

 バーダックは、自身が放ったエネルギー波がヒットしなかった事を即座に感じ取る。

 

 今のバーダックは、眼が見えない分、尋常じゃ無い集中力で気配を感知する事に努めていた。

 

 

「チッ! 瞬間移動か……。 だが……、あいつが姿を現した瞬間、即座にこいつを打ち込んでやる……!!」

 

 

 バーダックは、右手にエネルギーの塊を顕現させる。

 だが、次の瞬間バーダックは驚きの声を上げる……。

 

 

ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!ーーーシュン!

 

 

「なにっ!?」

 

 

 バーダック耳に風を切り裂く音が鳴り続ける。

 そして、その度に、悟空の気の位置がどんどん変わるのだ……。

 悟空はバーダックの周りを、瞬間移動を連続使用して現れては消えて、消えては現れてを繰り返しているのだ。

 

 

(くっ……、瞬間移動は連続でも使えんのか……!!

 これじゃあ、カカロットの奴がどこにいるのか分からねぇ……)

 

 

 バーダックの表情に僅かに焦りの色が浮かぶ……。

 

 

ーーーシュン!「はぁ……」

 

 

 バーダック耳に瞬間移動を続けている悟空の声が聞こえてくる……。

 それと同時に、悟空から感じられる気が増しているのを感じ取る。

 バーダックはギリッと歯を噛み締める。

 

 

「くっ!! 舐めんじゃぁねぇーーーーーっ!!!!!」

 

 

 バーダックの全身から強大な気が放出される。

 それに伴い、紫電が混じった黄金の炎が激しく燃え上がる。

 次の瞬間、バーダックは全方位に向かって無差別にエネルギー弾を放つ。

 

 

(何処にいるのか分かんねぇなら、全部潰しちまえばいい話だろうがぁ!!!)

 

 

 凄まじい数のエネルギー弾が、バーダックを中心に悟空に襲い掛かる。

 そのあまりの数に、驚きのあまり眼を見開く悟空。

 

 

(なんて奴だっ!! オラの動きを封じる為にこれだけのエネルギー弾を……。

 けど……、ここで引くワケにはいかねぇ!!

 このチャンスを逃せば、もうオラの勝機はほとんど残っちゃいねぇんだから……)

 

 

 覚悟を決めた表情を浮かべた悟空は、全神経を総動員してバーダックのエネルギー弾を避け続ける。

 それと同時に両手を通して、自身が生み出した美しくも凄まじく強大なエネルギーが篭った塊に更に力を込める。

 

 

ーーーシュン!「めぇ……」

 

 

 悟空の両手に顕現したエネルギーの塊が更に輝きを増す……。

 極限にまで高まった悟空の気を目一杯喰らったそれは、もはや悟空が育った地球の如く、美しくも力強い純粋な蒼い輝きを周囲に振り撒いていた……。

 ついに、機は熟した……。

 

 

「だぁあああああっーーーーーーっ!!!!」

 

 

 未だ視覚が戻らないバーダックは、持てる力の限り周囲にエネルギー弾を放ち続ける。

 左右の腕を高速に動かして繰り出されたそれは、周囲の被害などお構いなしだった。

 その為、宙に浮いているバーダックを中心に半径数kmの地面は、既に凄まじい事になっていた。

 

 そして、その被害は今尚拡大している……。

 轟音と共に地獄の大地を蹂躙し続けるバーダック……。

 それだけの事をやらかしても彼は止まらない……。

 

 分かっているのだ……。

 今止まれば、その瞬間、とてつもない攻撃が自身を襲うという事を……。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 その風を切り裂く様な音は、バーダックの耳によく響いた……。

 自身が繰り出したエネルギー弾が起こす、耳を塞ぎたくなる程、煩い爆発音が響く中でだ……。

 バーダックは思わず動きを止め、上を向く……。

 

 この時になって、ようやくバーダックの視覚がうっすらと戻って来た。

 未だはっきりとしない視覚の中で、バーダックは確かに見た……。

 まるで惑星の輝きの様に、力強い光に包まれた自身の好敵手の姿を……。

 

 そして、その光が最も強い場所には、文字通り惑星すらをも容易く屠る力が込められていた。

 その強大な力が……、ついに解放され、バーダックに襲いかかる……。

 

 

「波ぁーーーーーっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に両手をバーダックに突き出す悟空。

 次の瞬間、集約されたエネルギーが一気に解放され、極大の一筋の光の波となって、バーダックを一瞬で飲み込む。

 そのあまりの威力と規模に、バーダックは声すら上げる事が出来なかった。

 

 

「はぁあああああっーーーーーーっ!!!!」

 

 

 悟空の咆哮にも似た叫びに呼応する様に、かめはめ波は今尚その威力を増していく。

 まるで1本の光の柱の様に空と大地を繋いだ光の波は、その威力を持って地獄の地面を蹂躙していく。

 これが地球で行われたら、間違いなく地球は破壊されていただろう。

 

 その恐ろしくも美しい光の波は、やがて役目を終えたかのように徐々に細くなっていく。

 そして、光が完全に収束した時、地獄の地面には途轍も無く巨大なクレーターが出来上がっていた……。

 その中心で、超サイヤ人が解けた、バーダックが静かに横たわっていた……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の7話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.06

お待たせしました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


「はあっ……、はあっ……、はあっ……」

 

 

 肩を大きく上下させながら、悟空は眼下に広がる巨大なクレーターに眼を向ける。

 そのクレーターの中心で、超サイヤ人が解け、静かに倒れているバーダック。

 その姿を見た瞬間、悟空は「ホッ……」とした様な表情を浮かべる。

 

 

「くっ……」

 

 

 流石に激しい闘いを繰り広げた後に、全力のかめはめ波を放ったせいで、気が完全に底を突きかけていた……。

 正直、未だに超サイヤ人2の姿を維持出来ているのが奇跡に近かった。

 だが、姿は保てていても、その光は幾分か陰って見えた……。

 

 悟空は徐々に高度を下げながら、ゆっくりと地面へ降り立つ。

 しかし、これまでの疲労が一気に吹き出し、両手を膝に当て前屈みになる。

 

 

「はあっ……、はあっ……、ヤバかった……。

 今ので決めらんなかったら、オラの方が負け……くっ!!」

 

 

 その場を即座に飛び退く悟空。

 次の瞬間、今まで悟空が立っていた場所にエネルギー弾が着弾する。

 着地した悟空は、エネルギー弾が飛んで来た方に鋭い視線を向ける……。

 

 そこにはボロボロの姿になったバーダックが、左手をこちらに向けて立っていた。

 

 

「オメェ……」

 

 

 バーダックの姿を視界に収めた悟空は、驚きの表情を浮かべ思わず言葉を発する。

 そんな悟空に、不敵な笑みを浮かべるバーダック。

 

 

「はあっ……、はあっ……、流石に……、さっきの攻撃は……、はあっ……、ヤバかったぜ……。

 つい、意識を飛ばしちまった……」

 

 

 かめはめ波によるダメージのせいか、今も息絶え絶えなバーダックだったが、その瞳からは一欠片の戦意の喪失が感じられなかった。

 そんなバーダックを唖然とした表情を浮かべる悟空。

 

 

「オレが立ち上がったのが、予想外……って、ツラしてやがるな……。

 はあっ……、はあっ……、まぁ、無理もねぇ……。

 実際さっきの攻撃で、そうなる可能性は十分にあった……。

 オレが、今こうやって立ってられのは、はあっ……、はあっ……、単純に運が良かったからだ……」

「運?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いた悟空は、怪訝そうな表情で口を開く。

 それに頷いたバーダックは、あの刹那の出来事を思い出し口を開く。

 

 

「お前が瞬間移動で、オレの頭上に移動したタイミングくらいで、オレはようやく僅かだが眼が見える様になってきやがったんだ……。

 そして、お前が盛大に溜めた気を解放するべく、オレに両手を向け、気を解放する瞬間、オレはお前の攻撃を回避する事は無理だと判断した……。

 だから、あの瞬間一か八かでオレは自分の身体の周りに、高密度のバリアを展開した……」

「なっ!?」

 

 

 バーダックの言葉に、驚愕の表情を浮かべる悟空。

 そんな悟空に、作戦が成功しニヤリと笑みを浮かべるバーダックだったが、それをすぐに引っ込める。

 そして、「ふぅ……」と一息吐き吐くと、深刻な表情を浮かべる。

 

 

「さっきも言ったが、正直運が良かったんだ……。

 バリアを展開出来たまでは良かったが、結局そいつも一瞬で吹っ飛ばされちまった……。

 それで、さっきのあのザマだ……」

 

 

 そう言ったバーダックの言葉には、何処か自嘲の色が含まれていた。

 先程気絶した事はバーダックの中で、それ程許せる事ではなかったのだ……。

 これがもし、悟空がこれまで経験して来た様な、デカイもんがかかった闘いだったら、あの時バーダックが気絶したからといって、ここまで気を抜いただろうか?

 

 おそらく、もっと注意深くバーダックの様子を観察し、動いた瞬間対応した可能性の方が遥かに高いだろう……。

 バーダック自身もそれが分かっているのだ……。

 今こうして、自分が悟空の前に立ているのは、状況が有利に働いたに他ならないと……。

 

 ここで、眼を瞑り何かを振り切る様に「ふぅ……」と一息吐くバーダック。

 そして、再び眼を開いた時に、先程まで感じられた自嘲の色は一切消え失せていた……。

 いつしか、バーダックの粗かった呼吸も落ち着いていた……。

 

 バーダックは戦意の篭った眼で、悟空を見つめ再び口を開く。

 

 

「だが……、そいつのおかげでお前の攻撃を多少軽減出来たのも事実だ……。

 あれがなかったら、オレは今もあそこで眠ったままだったろうぜ……」

 

 

 そう言って、バーダックは先程まで自分が寝ていたクレーターを親指で指差す。

 

 

「せっかく、拾った命だ……。 悪りぃが、この借りは、きっちり返させてもらうぜっ!!!」

 

 

 その言葉を合図に、バーダックの全身から黄金色のオーラが吹き出し、一瞬で黒髪を金髪へ染め上げ、黒瞳を碧眼へと変える。

 そして、更に気を解放する。

 

 

「はぁあああああっ!!!!!」

 

 

 一気に超サイヤ人2へと姿を変えたバーダックは、スッと構える。

 構えたバーダックの表情には何処かこれまでに感じられなかった、覚悟というか凄みが宿っていた。

 それに触発されたのか、悟空は真剣な表情で無意識に構えをとっていた。

 

 だが、表情とは裏腹に内心では、この状況に危機感を抱いていた。

 

 

(ヤベェ……、さっきの事で、どうやらこいつの中で何かが変わっちまったらしい……。

 伝わって来る威圧感が、一気に増しやがった……)

 

 

 バーダックから発せられる雰囲気に、悟空のこめかみから頬へと一筋の冷たい汗が流れ落ちる。

 

 

(正直、さっきの攻撃でオラの体力も気も底をつき掛けてる……。

 闘いながら体力を回復させてぇとこだが、そんな事を許してくれる相手でもねぇしなぁ……。

 どうすっかなぁ……)

 

 

 悟空が内心でそんな事を考えていると、バーダックが悟空に向かって飛び出す。

 バーダックは、一瞬で悟空との距離を詰めると、勢いよく右腕を振り抜く……。

 

 

「オラァ!!!」

「ぐっ」

 

 

 悟空はとっさに、バーダックの拳を左腕で受ける……。

 しかし、悟空の身体は徐々にずざざざ……っと後方へ押し込まれていく。

 

 

「くっ!(こいつ……、さっきよりも攻撃力が上がってやがる……)」

 

 

 思わず表情を顰める悟空。

 体力が底を突き、身体に力が入らず踏ん張りが効かないのだ……。

 悟空の異常は、拳を放ったバーダックの方にもダイレクトに伝わった。

 

 ニヤリと笑みを深めると、更に拳に力を込めるバーダック。

 

 

「はぁあああああっ!!!!!」

「ぐっ……、ぐっ……」

 

 

 突然重くなったバーダックの拳に悟空は更に顔を顰める。

 たが、2人の均衡は長くは続かなかった。

 何故なら……。

 

 

「だらぁ!!!」

「ぐわぁ!!!」

 

 

 バーダックの拳がついに、悟空の左腕を吹っ飛ばしたからだ。

 身体が大きく仰反る悟空。

 悟空はとっさに体勢を元に戻そうとするが、眼の前には既に追撃の拳を放たんとするバーダックの姿があった。

 

 

(ヤベェ!!!)

「オラァ!!!」

 

 

 内心で悟空が声を上げたほぼ同じタイミングで、バーダックの追撃の拳が放たれる。

 その拳は悟空の右頬に容赦なく突き刺さる。

 

 

「ぐわっ!!!」

 

 

 バーダックの拳をモロに受けた悟空は後方へ勢いよく吹っ飛ぶ。

 吹っ飛ばされた悟空は身体をコントロールし、即座に体勢を立て直そうとする。

 たが、そうはならなかった。

 

 

「なっ!?」

 

 

 驚きで思わず両眼を見開く悟空。

 何故なら眼の前に、たった今自分を吹っ飛ばしたバーダックの姿があったからだ。

 バーダックは悟空を殴り飛ばして直ぐに、追撃を仕掛ける為に飛び出したのだ。

 

 

「くっ!!」

 

 

 悟空は即座に防御の構えをとるべく、両腕を動かそうとする。

 だが、もう遅い……。

 反応が遅れた悟空と違い、バーダックは既に拳を解き放つ準備を終えていたからである。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 未だ吹っ飛んだ状態の悟空のボディに向かって、バーダックは勢いよく拳を振り下ろす。

 凄まじい威力の拳がボディへ突き刺さり、そのまま悟空を地面へ殴り飛ばす。

 殴り飛ばされた悟空の身体は、信じられない速度で背中から地面へ叩きつけられる。

 

 

「がはっ!!!」

 

 

 背中から地面へ叩きつけられた悟空は、一瞬にして肺の中の空気を吐き出す。

 また、バーダックの拳の威力を物語るかの如く、悟空が地面に激突したと同時に、地面には大きなヒビが生まれ、凄まじい量の砂塵が舞い上がる。

 

 

「ぐっ……、あがっ……」

 

 

 地面に横たわった悟空は、苦痛の表情でバーダックに殴られた腹を思わず抑える。

 だが、そのまま痛みに身を任せる時間は今の悟空には無かった。

 何故なら、視界は舞い上がった砂塵のせいで最悪だったが、悟空の鋭い感覚が、自身が倒れている上空からバーダックの気が高まっているのを感知したからである。

 

 その気の高まりに、追撃を予測した悟空は即座に跳ね起きる。

 そして、悟空が起き上がったと同時に頭上から無数のエネルギー弾が降ってきた。

 その光景は、まるで光の雨の様だった……。

 

 その数の多さに、思わず顔を顰める悟空。

 

 

「くっ!」

 

 

 次々と降ってくるエネルギー弾を、素早く動きながら躱す。

 だが、やはり数が多過ぎるのか、流石に躱すのにも限界が訪れる。

 躱しきれないと判断した悟空は、即座に両手でエネルギー弾を弾き飛ばす。

 

 

「だだだだだっ!!!」

 

 

 両手を高速に動かしながら、次々とエネルギー弾を捌き、弾き飛ばす悟空。

 弾き飛ばされたエネルギー弾は凄まじい音を立てながら地面へ着弾し、爆煙と砂塵を舞い上がらせる。

 今や悟空の視界は爆煙と砂塵に覆われて、ほとんど何も見えない状況だった。

 

 だから、今の悟空は視界ではなく、ほとんど感覚によりバーダックが放った、凄まじい数のエネルギー弾を捉えていた。

 だが、そのエネルギー弾の雨がピタリと止んだ。

 視界を覆われた悟空は、バーダックの姿を捉えるべく、さらに感覚を研ぎ澄ます。

 

 だが、次の瞬間、悟空の背中を衝撃が襲う。

 

 

「があっ!!」

 

 

 背後から受けた攻撃により、吹っ飛ばされる悟空。

 攻撃を仕掛けたのは、当然バーダックだった。

 バーダックは、大量のエネルギー弾を放った後、視界が悪くなった事を利用して、気を消し悟空の背後へ近づき、そのまま蹴り飛ばしたのだ。

 

 蹴り飛ばされた悟空は、地面に激突する瞬間、両手を地面に着ける。

 そのまま倒立回転跳びの要領で身体を捻り、後ろ向きに着地する。

 そして、着地した瞬間バーダックに向かって飛び出す。

 

 バーダックとの距離を瞬時に詰めた悟空は、バーダックに向かって右拳を繰り出す。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 悟空が繰り出した拳を左腕で受けるバーダック。

 しかし、即座に左腕を一閃し悟空の拳を弾き飛ばす。

 そして、その勢いを利用して右拳を悟空の顔面に叩き込む。

 

 

「オラァ!!!」

「がっ!!」

 

 

 悟空の上半身が大きく仰反る。

 そんな悟空の懐にすかさず踏み込んだバーダックは、ガラ空きとなったボディに強烈なボディブローを叩き噛む。

 

 

「ぐふっ!!」

 

 

 思わず声を上げる悟空。

 倒れそうになる身体を強靭な意志で押さえつけ、何とかその場に踏み止まる、

 そして、お返しとばかりにバーダックに向かって左拳を繰り出す。

 

 

「だりゃ!!!」

 

 

 悟空の繰り出した拳がバーダックを襲う。

 しかし、即座に頭を下げ拳を回避するバーダック。

 そして、身体を起こすと同時に悟空の顎に強烈なアッパーを叩き込む。

 

 

「オラァ!!!」

「がはっ!!」

 

 

 バーダックのアッパーにより、悟空の身体が宙に浮く。

 その悟空に瞬時に近づいたバーダックは、悟空の身体に拳の連打を叩き込む。

 

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃっ!!!」

 

 

 凄まじい威力の拳が、次々と悟空に突き刺さる。

 

 

「ぐぅあああああ……っ!!!!!」

 

 

 為す術の無い悟空は、その威力に思わず大声を上げる。

 2人のサイヤ人による闘いは、大きな転換期を迎えようとしていた……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

■Side:トランクス

 

 

「ようやく、勝負の天秤が傾き出したわね……」

「ええ……」

 

 

 水晶を見ながらオレの隣に立ってこの闘いを観てらした、時の界王神様がポツリと呟く。

 それに同意する様に、オレも首を縦にふる。

 

 

「先程の悟空さんのかめはめ波の時は、かなり焦りましたが……。

 咄嗟にバリアを張るとは、流石バーダックさんだと思います!!」

「あの一瞬でよく間に合ったわよね……」

 

 

 オレ達はこれまでの闘いを振り返る。

 そこで、ふと思い出した様に時の界王神様が口を開く。

 

 

「ねぇ、トランクス……。

 あなた、バーダック君にいつか悟空君と闘う事は教えていたのよね……。

 けど、この闘いが悟空君を超サイヤ人3へ覚醒させる事が目的だって伝えたの……?」

 

 

 時の界王神様の問いに、オレは首を横に振る。

 

 

「いえ、伝えていません。

 オレは今回バーダックさんには余計な事を気にせず、闘ってもらおうと思っていましたから……」

「それは、どうして……?」

 

 

 オレの言葉を聞いた、時の界王神様は不思議そうに首を傾げる。

 オレは、水晶から視線を外し時の界王神様と眼を合わせ、口を開く。

 

 

「今回悟空さんは、地獄に来てパイクーハンさん以来の強敵と闘う事になりました。

 この6年程あの世で修行して培った力は、この闘いを見て分かる様に相当なものです……。

 ですが、サイヤ人の力というモノは闘いの中でこそ、その真価を発揮するのモノだとオレは考えています」

 

 

 そこで一旦言葉を区切ると、オレは再び2人が闘っている様子を映し出した水晶に眼を向ける。

 

 

「オレはこの闘いで追い込まれれば追い込まれるほど、悟空さんの超サイヤ人3への覚醒が早まると予測しました。

 だからこそ、悟空さんとの闘いを大望していたバーダックさんを、悟空さんと同等以上に鍛え上げたワケです……。

 まぁ、オレが思っていた以上にこの6年で悟空さんの実力が上がっていたんで、この状況になるまでに大分時間がかかりましたけど……」

 

 

 オレは(流石悟空さんだ……)と内心で思いながら、つい苦笑いを浮かべてしまう。

 それほど、先程のかめはめ波の時は、マズいと思ったのだ……。

 実力もそうだが、あの戦略も本当に見事だった……。

 

 「ふぅ……」と一息吐いたオレは、気を取り直して再び口を開く。

 

 

「悟空さんは今、バーダックさんの攻撃によりボロボロになってはいるモノの、決定打は絶対に貰わない様に対処しています。

 これは、先程までの悟空さんには無かった動きです……。

 今、悟空さんの中では、かつて無いほど感覚が研ぎ澄まされているということでしょう……」

「つまり、超サイヤ人3へ近づいていると……?」

 

 

 時の界王神様の言葉にオレは首を縦にふる。

 

 

「そもそも、本来であれば今悟空さんは超サイヤ人2を維持出来るワケがないんです……。

 先程の、全力のかめはめ波はそれほど大量の気が込められていましたから……」

「でも、悟空君は今も超サイヤ人2の状態を維持してるわよね……?」

「ええ、だから今の状態がそもそも異常なんですよ……」

 

 

 オレの言葉を聞いた、時の界王神様は不思議そうに首を傾げる。

 

 

「悟空さんはこの闘いの中で、バーダックさんのタフさが自身を遥かに凌駕している事に気が付きました。

 なので、接近戦では技術で上はいっていても、倒し切るには至らないと判断し、先程の全力のかめはめ波で勝負を決めようとしたんです。

 今のバーダックさんを倒すならば、悟空さんの全ての気を注ぎ込む必要があります」

「実際、凄まじいかめはめ波だったわよねぇ……」

 

 

 時の界王神様は先程のかめはめ波を思い出したのか、驚嘆の声を上げる。

 オレもそれに同意する様に頷く。

 

 

「しかし、あれほど凄まじい威力のかめはめ波を放ったにもかかわらず、悟空さんは超サイヤ人2の状態を維持している。

 これは、多分悟空さん自身も予想していなかった事だと思います。

 悟空さん程の人だったら、自身の気の総量を把握しているはずなのに……」

「つまり、今の悟空君は自分でも正確に自身の力を把握出来ていないという事……?」

 

 

 オレは時の界王様の言葉に頷く。

 

 

「正確に言えば、把握していないのではなく、超サイヤ人2の壁を超える段階に差し掛かった事で、自分が思っている以上の力が出てしまうのでしょう……。

 そして、今もその状態が続いている……。

 本来であれば、ガス欠状態に陥って、変身が解けてもおかしくないのに、未だ超サイヤ人2を維持して、バーダックさんと闘いを続けている。

 恐らく、本能的な部分で超サイヤ人2を解けば、一瞬でやられてしまうという事を理解しているのでしょう……。

 だから、無意識に眠っている力を引き出して、超サイヤ人2の状態を維持している……」

「なるほど……、つまり追い込まれた事で、悟空君の中で超サイヤ人2と3との境界線が曖昧になって来ているのね……」

 

 

 時の界王神様もようやく、今の状況を飲み込めたのか納得した様な表情を浮かべる。

 

 

「って事は、つまりあたし達が望んだ方向に事態は進んでいるってことよね!!」

「ええ、そうなりますね……。 ただ……」

「ただ?」

 

 

 言葉を濁らせるオレに、不思議そうな表情を浮かべる時の界王神様。

 そんな時の界王神に、オレはこれまで思っていた懸念を口する。

 

 

「超サイヤ人の壁を超えるには、1つ足りないモノがあります……」

「足りないモノ……?」

 

 

 時の界王神様は、オレの言葉を不思議そうに復唱する。

 オレはそれに頷くと、再び口を開く。

 

 

「はい……。 超サイヤ人は感情が大きく昂った時に、その真の力を解放します。

 その中でも、特に怒りの感情を切っ掛けとした解放が多いんです。

 最初にオレが超サイヤ人へ目覚めた時も、師匠である悟飯さんが殺された事で、殺した人造人間や力が無かった自分自身への怒りが切っ掛けでした。

 そして、セルとの戦いの中で超サイヤ人の壁を超えた悟飯さんも怒りを切っ掛けに、超サイヤ人2へと覚醒しました」

 

 

 「なるほど……」と小さく呟くと、手に顎を添える時の界王神様。

 

 

「つまり、あなた達が大きな壁を超える為には、何かしらの感情の初露……、特に怒りの感情が必要という事ね……」

「ええ……。 状況的には、悟空さんは超サイヤ人3へ覚醒する間際だと思っていいでしょう。

 後は、この闘いの中で悟空さんの心を大きく揺さぶられる様な出来事が起これば……」

 

 

 オレは時の界王神様に視線を向ける。

 すると、時の界王神様はオレの言葉を引き継ぐ様に、口を開く。

 

 

「超サイヤ人3への扉が開かれる……。 そういう事ね……」

 

 

 その言葉にオレは静かに首肯する。

 オレ達は2人のサイヤ人が激戦を繰り広げている水晶に、再び目を向ける。

 これから起こるすべての出来事を見逃さない為に……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「オラァ!!!」

「ぐぅ……」

 

 

 バーダックが勢いよく振り抜いた拳で、悟空の身体が大きく後退する。

 闘いはバーダックが優位に事を進めていた。

 しかし、バーダックの表情には、喜びの感情が一切浮かんでいなかった……。

 

 

「チッ!」

 

 

 今の状況に、思わず舌打ちするバーダック。

 そして、たった今殴り飛ばした悟空に目を向ける……。

 

 

「はあっ……、はあっ……、はあっ……」

 

 

 身体中を傷だらけにし、荒い呼吸で肩を上下に大きく揺らしながらも、構えをとる。

 そんな悟空の様子に、思わず顔を顰める……。

 

 

(どういう事だ……? 何で倒れねぇ……?

 今のこいつは、どう見ても死に体だ……。

 だってぇのに、ここぞというところで攻めきれねぇ……)

 

 

 

 今の悟空を倒すには十分過ぎる程の攻撃を、既にバーダックは繰り出していた。

 しかし、どれほど激しい攻撃を繰り出そうが、悟空を地に伏せるまでには至らなかった。

 それどころか、最早勝ち目が無いと言っても良い状況にも関わらず、悟空の眼は決して勝負を諦めていなかった。

 

 悟空は真っ直ぐバーダックの眼を見つめる。

 

 

「くっ!!」

 

 

 バーダックはその悟空の視線に、思わず後ずさりそうになる……。

 状況的には誰がどう見てもバーダックの方が優勢だというのにだ……。

 何故だか分からないが、今の悟空はとてつもなく危険だとバーダックの本能が訴えているのだ。

 

 それに苛立ちを隠せないバーダック……。

 

 

「いい加減、倒れやがれっ!!!」

 

 

 バーダックは悟空に向け、勢いよく飛び出す。

 一瞬で距離を詰めたバーダックは、悟空に向け凄まじ速さで左拳を繰り出す。

 それをふら……っとよろける様に、頭を下げた悟空はギリギリ回避する。

 

 そして、拳が頭上を通過した瞬間、一歩踏み出しがらバーダックのボディに強烈なボディブローを叩き込む。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 バーダックのボディに、今の悟空の姿からは信じられない威力のボディブローが突き刺さる。

 その威力に思わず声を上げ、くの字に身体を曲げるバーダック。

 だが、バーダックに痛みに身を任せる時間は無かった……。

 

 何故なら、目の前に悟空の左回し蹴りが迫っていたからだ……。

 

 

「ちっ!!」

 

 

 バーダックは、舌打ちと同時に後方へ跳ぶ、そして、着地と同時に再び凄まじい速さで悟空へ飛び出す。

 そして、その勢いのまま悟空へ向け強烈な右拳を繰り出す。

 そんな凄まじい拳を悟空は、右頬薄皮1枚ギリギリで躱すと同時に力強く1歩踏み込む。

 

 そして、バーダックの顔面目掛けて思いっきり右拳を振り抜く。

 

 

「だりゃあ!!!」

「がはっ!!!」

 

 

 悟空の振るった拳は強烈なカウンターとなって、バーダックの顔面に凄まじい勢いで突き刺さる。

 その拳のあまりの威力に、バーダックはふらふらと後ずさる……。

 そんなバーダックとの間合いを即座に詰めた悟空は、強烈なアッパーでバーダックの顎を殴り飛ばす。

 

 

「おりゃぁ!!!」

「ぐはっ!!!」

 

 

 アッパーによって殴り飛ばされたバーダックは、綺麗な弧を描いて地面へ背中から崩れ落ちる。

 だが、バーダックはすぐに立ち上がると、先程カウンターを喰らった鼻を左手で拭う。

 そこで、バーダックは左手に着いた、あるモノに眼を細める。

 

 バーダックの左手に、血がついていたのだ……。

 この闘いの間に、すでに何回も傷を作って血を流してはいる。

 だが、今左手に着いた血は、間違いなく先程のカウンターを喰らって流れた血だった……。

 

 

(どうなってやがる……? 体力も底を突き、身体もボロボロで今にも倒れそうなくせしやがって……。

 こいつ……、攻撃力が上がってねぇか……?)

 

 

 バーダックは、探るように鋭い視線を悟空に向ける。

 

 

「はあっ……、はあっ……、はあっ……」

 

 

 視線の先の悟空は、上下に大きく揺らし肩で息をしながらも構えの体勢をとっていた。

 その姿は、バーダックが思った通り、立っていられるのが不思議なほどボロボロで疲労困憊の様子だ。

 だが、バーダックの鋭い感覚は、悟空の異常性を即座に感知する……。

 

 それにより、バーダックの眼は更に鋭いモノへと変わる……。

 

 

(やはりか……、こいつ気が先程までよりも高まってやがる……。

 しかも、尋常じゃ無い高まり方だ……。

 まるで、今まで蓋をされていたものが開いた様な……、いや、今そいつが開こうとしている状態なのか……?)

 

 

 今の悟空は、とてつもない密度の気が、まるで幕を貼ったみたいに全身を覆っていたのだ。

 その尋常じゃ無い気の高まりに、バーダックはこめかみから頬へと一筋の冷たい汗が流れ落ちる。

 それほど、今の悟空の状態は明らかに異常だった……。

 

 更に、追い込まれた事により感覚が研ぎ澄まされ、本当に危ない攻撃はしっかり回避や防御をし、攻める時はちゃんとダメージになる様に攻撃していた……。

 先程から自分の本能が訴える、悟空の危険さの正体を理解したバーダック。

 だが、そんな事で勝負を捨てるバーダックでは無い。

 

 バーダックは「ふぅ……」と一息吐くと、思考を切り替える……。

 

 

(今のあいつは、疲労で動けねぇ分、自分の間合いに入ったら反撃する様にしてやがる……。

 正直、今のあいつと接近戦をするのは、ヤベェ……。

 1発1発が凄まじい威力な分、喰らい続けると、オレの方もただじゃ済まねぇ……)

 

 

 自分が勝利する為に、思考を巡らせるバーダック。

 それと時を同じくして、悟空もバーダック同様思考を巡らせていた。

 

 

(くっ……、身体がほとんど言う事気かねぇから、あいつが間合いに入った時を狙って攻撃して来たけど、こいつはいよいよマズイな……。

 さっきから、意識が所々で飛んじまう……)

 

 

 何とかバーダックの攻めを凌いでいた悟空だったが、いよいよ本当に後がない状況だった。

 反撃はしていても、所々は意識が飛んでいて無意識で行っているくらいには追い込まれていた。

 だが、ここまで追い込まれても悟空は勝利を諦めていなかった……。

 

 

(へへっ……。 オラの負けず嫌いも相当なモンだな……。

 別にこれで負けても、地球が無くなったり、誰かが死んじまう訳じゃねぇのによ……)

 

 

 悟空は未だ負けを認めない自分に、内心で苦笑いを浮かべる。

 

 

(それに、何だろうな……? さっきから妙に身体の奥底から力が溢れて来やがる……。

 身体はボロボロで、体力も底を突きかけてるってのによ……)

 

 

 悟空はチラッとボロボロになった、自身の身体に目を向ける。

 

 

(きっと、オラの限界はここじゃねぇんだ……。

 あいつとのギリギリの闘いで、オラの中で超サイヤ人3への扉がようやく開かれようとしてんだ……。

 だったら……、全部出し切ってねぇのに、ここで倒れる訳にはいかねぇっ!!!)

 

 

 悟空が決意を新たに、キッ!とバーダックを見つめる。

 バーダックと悟空、両者の視線が交差する。

 2人の間に、静寂の時が流れる……。

 

 しかし、その時間もすぐに終わりを告げる。

 悟空同様、決意を込めた表情を浮かべたバーダックが勢いよく上空へ飛び上がったのだ。

 そんな、バーダックに鋭い視線を向ける悟空。

 

 50m程上空で上昇を止めたバーダックは悟空に視線を向ける。

 そして、全身に力を巡らせ、一気に開放する。

 

 

「はぁあああああっーーーーーっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に、バーダックの全身からとてつも無い量の気が放出される。

 紫電を含んだ炎は、勢いよく燃え上がる……。

 気を全開に解放したバーダックは、静かに右手を引く。

 

 バーダックの右掌に、青白い光の塊が顕現する。

 その青白い光の塊は、散々激戦を繰り広げた後だといういうのにも関わらず、力強く輝いていた。

 そして、今尚その輝きは、バーダックの気を喰らい増していく……。

 

 上空で繰り広げられる光景を見て、悟空はバーダックの意図を察する。

 だから、それに応えるべく、悟空は両手を右腰だめに移動させる……。

 そして、これまでに何度も行って来た様に、お決まりのあの言葉を口にする……。

 

 

「かぁ……、めぇ……」

 

 

 悟空の全身から、紫電を含んだ眩いばかりの黄金の炎が吹き出す。

 そして、両手の中に全身の気を集約させた青い光の塊が顕現する。

 

 

「はぁ……、めぇ……」

 

 

 悟空が一言発する事に、青い光の塊は悟空の気を喰らい更に輝きを増していく……。

 互いに一番信頼出来る技を準備した、2人の視線が再び交わる。

 

 

(接近戦がダメとなると……、もう力で押し潰すしかねぇ……。

 正直、カカロットがこの先どうなるのか、気にならねぇワケじゃねぇが……、いい加減こっちの方も限界に近い……。

 今のあいつの気の高まり方は尋常じゃねぇが、今ならまだ押し切れるはずだ……)

(あいつは、この一撃で決めるつもりだ……。

 ここで踏ん張らねぇと、本当に負けちまう……。

 頼むぜ、オラの身体……もってくれよっ!!!)

 

 

 2人が発する凄まじい気に、地獄の大地が震え上がる……。

 そんな中、2人の男は己の中に眠る力を更に解放し、地獄を蹂躙していく。

 黄金の炎を爆発させ、眩いばかりの光を放つ、凄まじいエネルギーを内包した塊を備えた両者。

 

 互いの気が最高潮に達した瞬間、ついに闘いの終止符を打つべく2人の男達は、己の全力を解放する……。

 

 

「これで終わりだぁ!!!!!」

「波ぁーーーーーっ!!!!!」

 

 

 互いに今持てる力を全て注ぎ込んだ、エネルギーの塊を解き放つ両者。

 力を極限にまで凝縮された塊と一筋の極大の光の波が、正面からさ凄まじい轟音を轟かせぶつかる。

 

 

「だぁあああああーーーーーっ!!!!!」

「はぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 この闘い2度目となるバーダックのライオットジャベリンと、悟空のかめはめ波の撃ち合い。

 2人は互いの持てる力を全て注ぎ込む。

 お互い言葉にしなくとも、嫌と言うほど理解しているのだ。

 

 この打ち合いを制した方が、この戦いの勝者だと言う事を……。

 1度目の打ち合いの時は、長い均衡の末、互いの力に耐えられずに暴発した。

 だが、2度目の打ち合いは1度目の時とは様子が違っていた……。

 

 

「ぐっぐぐぐぐぐ……っ」

 

 

 悟空が険しそうな表情で呻き声を上げる。

 視線の先には、徐々にかめはめ波を押し除け悟空へ迫ろうとしているライオットジャベリンの姿があった。

 その光景に、バーダックがニヤッと笑みを浮かべる。

 

 

「よし!このまま押し切ってやる!! はぁあああーーーっ!!!」

 

 

 目論み通り事が運び、気持ち的に余裕が出たのか、闘いに終止符を打つべく更に力を込めるバーダック。

 それに呼応する様に、ライオットジャベリンの進みが勢いを増す。

 

 

「ぐっ!(ヤベェ……、更に力が増しやがった……。 あいつ、まだ余力があんのかっ!?)」

 

 

 勢いが増したライオットジャベリンに悟空の表情が更に、険しくなる。

 もはや、悟空とライオットジャベリンの距離は10mを切っていた……。

 そして、今なおその距離を潰すべく突き進もうとしていた。

 

 

(くっ! まだだ……、まだ終わりじゃねぇ!! 引っ張り出せ、オラの中にある全ての力を限界まで引っ張り出せ!!!)

 

 

 悟空は自分の身体から無理やり力を引き出す……。

 

 

「がぁあああああ……」

 

 

 全身に大粒の汗と血管を浮かべながら、気を引き出しかめはめ波に注ぐ悟空。

 それに応える様に、かめはめ波の威力が増す。

 かめはめ波の威力が増した事で、ライオットジャベリンの進みが止まる。

 

 

「ん?」

 

 

 これまで順調に悟空に向かっていた、ライオットジャベリンの進みが止まった事に眉を顰めるバーダック。

 だが、その原因を即座に察知したバーダックは表情を顰める。

 

 

(チッ! カカロットの気が更に高まってやがる……。

 あいつの気は、まだ上がるってのかっ……!?

 あとチョットだってのに、本当に最後の最後まで大したヤツだぜ……、お前は……。

 だがよ……)

 

 

 内心で悟空のしぶとさに舌を巻きながらも、バーダックもライオットジャベリンに力を込める。

 

 

「オレは負けねぇ!! オレは……オレはお前に勝つ為にここにいるんだからなぁ!!!」

 

 

 この闘いに誰よりも想いを捧げて来たバーダック。

 孫悟空事カカロットを倒す為に、10年と言う月日を費やして来た……。

 だからこそ、絶対にこの闘い負けるわけにはいかなかった。

 

 その気持ちを爆発させる様に、自身が繰り出した技に力だけじゃなく気持ちも注ぎ込む。

 それに応える様に、ライオットジャベリンが再び悟空に向け進行を始める。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 かめはめ波を通して、ライオットジャベリンから伝わって来る力が増し顔を顰める悟空。

 だが、何故だかこの攻撃にはとてつもなく強い想いが込められているのが、伝わって来た。

 しかし、今の悟空にはそれを深く考えている余裕は無かった……。

 

 何故ならライオットジャベリンと悟空との距離は、5m程まで縮まっていたからだ。

 

 

(まだだ……、まだ足りねぇ!! もっと……、もっと力を絞りだせっ!!!)

 

 

 どんどん自身に迫って来る、力を極限にまで凝縮された塊を見据えながら己を鼓舞する悟空。

 

 

(まだ……、まだ、オラには先がある筈なんだ……。 全ての力を出し切ってねぇのに負けるわけにはいかねぇ!!)

 

 

「ぐ……ぐ……ぐががが……、があああああ…………」

 

 

 もはや言葉にならない声を上げ、力を引き出し続ける悟空。

 そんな切羽詰まった状況だったからだろう……。

 悟空は自身に起き始めた異変に、まったく気付いていなかった……。

 

 2人の闘いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の7話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.07

お待たせしました。
人生何度目かの転職活動、ポートフォリオ作るのは大変だわ……。

さて、いよいよ悟空VSバーダックの闘いもいよいよ佳境です。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


■Side:ギネ

 

 

 今あたしの視線の先では、バーダックとカカロットが互いに放ったエネルギー弾とエネルギー波がぶつかっていた。

 言葉にするとなんて事無いけど、その2つの技が齎した影響は決して馬鹿に出来るモノではなかった……。

 地獄中に響き渡るのでは無いかと思う程の凄まじい音と、立っているのもやっとだと思う程の衝撃を撒き散らしているからだ。

 

 

「くっ、あいつ等なんて威力の技を出しやがるんだ!! 衝撃だけで吹っ飛びそうだ!!」

 

 

 2人の技のぶつかり合いで生じた凄まじい爆風に、思わず腕で目を覆いながら、必死に踏ん張っているトーマが声を上げる。

 だが、声に出していないだけで、周りにいるあたしやパンブーキン、セリパ、トテッポ、ナッパ、ラディッツも似たような状況だった。

 

 

「おい! あれを見ろよ!!」

 

 

 そんな中、何かに気付いた様な声をパンブーキンが上げる。

 あたし達が、視線を凝らした先では、バーダックのエネルギー弾がカカロットへ、あと僅かという所まで、迫っていた。

 

 

「バーダックのヤツ、いよいよカカロットを追い詰めたんだね!!」

「いけぇ!! バーダック!!! そのまま決めちまぇ!!!」

 

 

 その様子にセリパやトーマは喜びの声を上げる。

 それが聞こえたわけじゃ無いだろうけど、バーダックのエネルギー弾がカカロットとの距離を更に縮めた様に見えた。

 もはや、カカロットとエネルギー弾の距離は5mを切ろうとしていた。

 

 

「必死に耐えてやがるって感じだな……。 カカロットの野郎……」

「ああ……。 実際、随分前からガス欠状態だったっぽいが、寧ろよくここまで粘ったもんだ……」

 

 

 付き合いが長い、トーマ達とは違い、戦闘民族サイヤ人として冷静に戦況を見極めているナッパとラディッツ。

 そして、この2人が指摘した様に、今のカカロットは誰がどう見ても、限界を迎えている様に見えた……。

 でも、あたしには……。

 

 

「頑張れ……、頑張れ……、カカロット……」

 

 

 いつしか、あたしの口は言葉を発していた。

 別に意識したわけじゃ無い、その為か、あたしの言葉はとても小さかった。

 だけど、今、目の前で必死で闘っているあの子を見ていると、どうしても応援せずにはいられなかった。

 

 ここにいる誰もがバーダックの勝利を確信している。

 あたしだってそうだ……。

 でも、あの子は……、あの子だけはまだ自分の勝利を諦めていない……。

 

 あんなに、全身に血管を浮き上がらせ、大量の汗を出している所を見ると、本当に限界以上の力を出しているんだろう。

 でも、バーダックの強力なエネルギー弾は、カカロットの頑張りなど関係なしに、その距離をどんどん縮めている。

 諦めてしまったら、すぐ楽になれるのに、あの子はそうしない……。

 

 我が息子ながら諦めが悪いというか……、負けず嫌いというか……、一体誰に似たんだろうか……。

 きっと、あの子の中ではまだ可能性があるって思ってるんだろう……。

 だって……、あの子の瞳はまだ、一欠片の諦めの色も宿っていないんだから……。

 

 あたしが、そんな事を漠然と考えていると、誰かの手が勢いよく、あたしの肩を叩く。

 

 

「ギネッ!!!」

 

 

 その声に驚いた様に、あたしは勢いよく振り返る。

 

 

「セリパ……」

 

 

 そこには、真剣な表情をしたセリパの姿があった。

 あたしは、驚きのあまり呆然とした表情でセリパに視線を向ける。

 そんなあたしの事等、お構いなしとばかりに、セリパは口を開く。

 

 

「ギネ……、あんたさ、バーダックとカカロット……、どっちに勝ってもらいたいと思ってるんだい……?」

 

 

 いつもよりもやや低い声で問いかけられた、セリパの問いに、あたしは自分でも両肩がビクッとなったのを感じる。

 正直痛い所を突かれたと思ったのだ……。

 

 

「そ、それは……」

 

 

 あたしは、セリパの問いに瞬時に答える事が出来なかった……。

 バーダックがこの闘いに向け、どれだの想いや気持ちを込め、長い期間頑張って来たのかを知っていたからだ。

 だから、当然バーダックに勝ってもらいたいという気持ちは強い。

 

 だけど、同じ位、今必死で頑張っているカカロットにも負けないで欲しいと思ってしまうのだ……。

 答えあぐねている私に向け、セリパは再び口を開く。

 

 

「答えられないかい……?」

「……」

 

 

 真っ直ぐあたしの眼を見て問いかけるセリパ。

 セリパの真剣な眼が、まるであたしを攻め立てているように感じたのだ……。

 彼女はバーダックを応援しているようだったので、カカロットを応援したあたしは若干気まずかった。

 

 あたしは、つい顔を伏せてしまう……。

 

 

「ぷっ……、くっくくく……」

「え?」

 

 

 突然聞こえて来た笑い声に、あたしは思わず顔を上げ、セリパに目を向ける。

 そこには、笑いを堪えようとしたのに耐え切れなかった様な、微妙な笑い顔を浮かべたセリパの姿があった。

 今のセリパの姿には、先程見せた真剣さは皆無だった。

 

 この時点で、あたしは自身がからかわれたのだと悟り、セリパをジト目で見つめる。

 

 

「あっははは……!! ごめんって、あんたがあまりにも複雑そうな表情をしてたから、ついね……」

 

 

 あたしのジト目など気にした素振りも見せず、いつもの活発な笑みを浮かべ、口を開くセリパ。

 そんなセリパの雰囲気に、あたしも少し気持ちが軽くなった……。

 

 

「でもさ、さっきあたしが言った事は、本当に聞きたかった事なんだ……。

 ギネ、あんたはさ、どっちに勝って欲しいんだい……?」

 

 

 先程と違い、優しげな表情で問いかけるセリパ。

 雰囲気が和らいだおかげか、あたしは自分の気持ちをようやく吐き出す事が出来た……。

 

 

「あたしは……、正直どっちを応援したらいいか……、分からないんだ……。

 カカロットと闘う為に、長い時間を努力に費やして来た事を知ってるから……、バーダックに勝って欲しい。

 でもさ、今頑張っているカカロットを見ると、あの子にも負けて欲しく無いって思っちゃうんだ……」

 

 

 セリパはあたしの言葉を、静かに聞いてくれた。

 そして、あたしの話を聴き終えたセリパは、静かに口を開く。 

 

 

「そっか……。 どっちにも勝って欲しいし負けて欲しく無いか……。

 ははっ……、そいつは、流石に無理でしょ! 何よりそんな事をあの2人が望んじゃいない」

「うん……」

 

 

 セリパの言葉を聞き、あたしはまた顔を伏せてしまう……。

 そう……、そうなのだ……。

 セリパの言う通り、あの2人は、そんな事は一欠片も望んじゃいない。

 

 だからこそ、今尚2人は死力を尽くして頑張っているのだから……。

 再び顔を伏せたあたしを見て、セリパは「はぁ……」と溜息を吐くと再び口を開く。

 

 

「でもさ……、あんたは、それでいいんじゃないの……?」

「え?」

 

 

 セリパの言葉を聞いたあたしは、思わず顔を上げる。

 そこには、不敵な笑みを浮かべたセリパがあたしを真っ直ぐ見つめていた。

 

 

「だってさ、あんたはバーダックの嫁であるのと同時に、カカロットの母親だろう?

 あんたがそんな気持ちになるのは当然さ……。

 だったらさ、両方を応援しても誰も文句なんざ、言えやしないよ……」

「でも……」

 

 

 セリパの言い分は分かる……。

 だけど、あたしはどうしても踏ん切りがつかないでいた……。

 そんなあたしを見て、セリパは再び口を開く。

 

 

「でももへったくれ無い! あんたは、2人に優劣をつけられないんだろ?」

「うん……」

「だったら、堂々と両方応援しな!!

 さっきみたいに、小声でボソボソ言ったって、応援されている方は力なんて出やしないよ!!!」

 

 

 セリパの言葉に、あたしは両眼を見開く。

 

 

「さっきも、言ったけど、あんたがどっちを応援したって誰も文句を言うヤツなんていないよ。

 もし言うヤツがいたら、あたしがぶっ飛ばしてやるよ!!!

 それが例え、バーダックだろうとね!!!」

 

 

 ウィンクしながらサムズアップするセリパを見て、あたしは自然と自分の顔に笑みが浮かぶのを感じる……。

 

 

「セリパ……。 うん!ありがとね!! 何かいろいろ吹っ切れたよ!!!」

 

 

 あたしは、視線をカカロットの方に向ける……。

 「すぅーーーっ」と限界まで息を吸い込む。

 そして、それを言葉として一気に吐き出す……。

 

 あたしの想いや気持ちをめいっぱい乗せて、あの子に届ける為に……。

 

 

「頑張れーーーっ!!! カカロットーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「くっ……、ぐぅぐぐぐ……」

 

 

 必死に身体の中から気を引き出しながら、両手から放出し続ける悟空。

 彼の視線の先には、今尚自身へ迫るバーダックのライオットジャベリンの姿があった……。

 

 

(くそっ……、全然押し返せねぇ……。

 あとちょっとで、壁を超えれそうな感じはしてんだけど、このままじゃ、その前にやられちまう……。

 オレは……、オラの限界はここまでなんか……)

 

 

 限界まで力を絞り出している悟空だったが、バーダックのライオットジャベリンとの距離は刻々と縮まっていた。

 流石の悟空もここまで力を絞り出しても状況が改善され無い事に、焦りを隠せずにはいられなかった……。

 だが、自身の感覚では確かに己の中に眠っている力が在るという自覚だけは存在した為、それだけが今の悟空の心を支えていた。

 

 しかし、ここまで追い込まれても悟空は壁を越えられずにいた……。

 その事がじわじわと、悟空の心に焦りを生んでいく……。

 そして、また少しライオットジャベリンが悟空との距離を縮める……。

 

 

「くっ! がぁあああああ……!!!」

 

 

 悟空は歯を食い縛り、顔を更に顰めながら、無理矢理力を引き出す……。

 その結果、何とかバーダックのライオットジャベリンを少しだが押し返す事に成功する。

 だが、自身から5m先に押し返すので精一杯だった……。

 

 その事実が悟空に重くのし掛かる……。

 そして、更に悟空の心を折るかの如く、気持ちとは裏腹に肉体の方がいよいよ限界を迎えようとしていた……。

 

 

「ぐっ!(ヤベェ……、急に身体が重く……)」

 

 

 限界以上の力を引き出した反動が、突如、悟空に襲いかかり始めたのだ……。

 悟空の両腕がブルブルと震える……。

 もはや、腕を上げているのもやっとだった……。

 

 そして、この事態により、ついに孫悟空の強靭な意志が砕かれる……。

 

 

「も……、も……もうダ……『頑張れーーーっ!!! カカロットーーーーーッ!!!!!』……えっ?」

 

 

 限界を迎えた悟空が勝負を諦めようとした、その瞬間……。

 ライオットジャベリンとかめはめ波の打ち合いで凄まじい轟音が鳴り響く中、悟空の耳は確かにその声を拾った……。

 どこか懐かしい感じを抱かせる、力強い女性の声を……。

 

 悟空は思わず声がした方に視線を向ける……。

 そこには岩山の上に1人の女性が立って、必死になってこちらに向かって声を上げていた……。

 

 

『諦めるんじゃ無いよ、カカロット!!! そんなエネルギー弾なんてさっさと吹っ飛ばしちまいな!!!』

 

 

 声を上げている女性を悟空は状況を忘れ、呆然とした表情で見つめる……。

 そして、ふと頭に疑問が浮かぶ……。

 

 

(あいつは、確か……、今オラが闘ってるヤツの嫁じゃなかったか……?)

 

 

 視線の先の女性はバーダックとの戦いの前に、岩山に隠れていた者と同じ気をしていたので、悟空はすぐに女性の正体を看破する。

 

 

(何で、オラの名前を知ってるんだ……?)

 

 

 だが、そんな悟空の疑問等知ったこっちゃないとばかりに、女性は悟空から視線を外すと、バーダックに向け更に口を開く。

 

 

『バーダック!!! あんたもいつまでノロノロやってんだい!!! カカロットはもう虫の息じゃ無いか!!!』

 

 

 悟空は、女性の言葉を聞いて今度こそあんぐりと口を開き驚きの表情浮かべる。

 だが、何故だろうか……。

 そんな女性を見ていたら、悟空は自然と口元に笑みを浮かべていた。

 

 

「へへっ……、何だあいつ……、無茶苦茶言ってらぁ……」

 

 

 笑みを浮かべていたが悟空の口元が、再び引き締まる……。

 そして、折れかかっていた悟空の瞳に再び闘志が宿る……。

 

 

「さっさと吹き飛ばせ……か……。 そうだな、オラの限界はまだまだこんなモンじゃねぇ!!!」

 

 

 悟空は自身に迫る、ライオットジャベリンをしっかり見据える……。

 今の悟空には、何故だか先程まであった焦りが嘘の様に消えていた……。

 それどころか、心が軽くなった様な不思議な感覚を味わっていた……。

 

 悟空は静かに眼を閉じる……。

 

 

「すぅーーーっ、ふぅーーーっ」

 

 

 大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すとカッ!と眼を開く悟空。

 

 

「がぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 咆哮にも似た声を上げる悟空……。

 それと同時に、凄まじい量の気が悟空の全身から吹き出し、黄金の炎が激しく燃え上がる……。

 

 

(あいつの言う通りだ、まだ力を全て出し切ってねぇのに諦めるなんてオラらしくもねぇ!!!

 限界なんて、今までだって、何度も乗り越えて来たじゃねぇか!!!

 いい加減、オラの……、オレの中に眠る力よ、さっさと起きやがれぇっ!!!!!)

 

 

 その時だった……。

 悟空は、確かに感じ取った……。

 自身の中にあった何かが、断ち切れるのを……。

 

 

ーーープツン!!!

 

 

「うぉあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 悟空の全身を眩い光が包み込む……。

 

 

 

「なっ、何っ!?」

 

 

 悟空の異変に最初に気づいたのは、打ち合いをしていたバーダックだった……。

 だが、バーダックが驚きの声を上げた理由は、悟空が眩い光に包まれたからでは無い……。

 伝わって来るのだ……。

 

 ライオットジャベリンを通して、今打ち合っている男の気が桁違いに跳ね上がったのを……。

 

 

「ぐっ!!!」

 

 

 バーダックは、咄嗟にライオットジャベリンの威力を上げるべく力を注ぎ込む。

 これは考えての行動では無かった……。

 バーダックの本能が、自身に迫る危険を察知して無意識にさせた事だった……。

 

 だが、次の瞬間バーダックの表情が驚愕に染まる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 たった今力を注ぎ込んだ、ライオットジャベリンが凄じいスピードで自身に迫って来たからだ。

 バーダックの背筋に凄じい悪寒が走る……。

 即座に、ライオットジャベリンのコントロールを破棄して、その場から凄まじいスピードで距離をとるバーダック。

 

 次の瞬間、バーダックの数cm隣をライオットジャベリンと共に、一筋の極大な光の波が通り過ぎる……。

 バーダックは唖然とした表情で、上空へ昇って行った極大のエネルギー波を見つめる。

 だが、それも束の間、ハッ!とした表情を浮かべ、地面へ……極大のエネルギー波が放たれたであろう場所へ視線を向ける。

 

 

「!!」

 

 

 そして、今度こそバーダックは言葉を失う……。

 バーダックの視線の先には、1人の男が両手を空へと突き出した状態で立っていた……。

 男は、静かに両手をおろす……。

 

 そこには、腰まで伸ばした黄金の髪をはためかせ、凄じい量の紫電を身に纏った男の姿があった……。

 男とバーダックの視線が交差する……。

 眼を合わせた瞬間、バーダックの本能がとてつもない警鐘を鳴らす。

 

 一眼見ただけで理解してしまったのだ……。

 あれは、今の自分とは隔絶した存在だと言う事を……。

 だが、バーダックは必死でその思いを封じ込める。

 

 バーダックは男に向かって飛び出す為に、全身に力を巡らせる……。

 そして、飛び出そうとした瞬間だった……。

 バーダックの眼が大きく見開かれる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 ほんの数瞬前まで地面に立っていた男が拳を構えそこに居たからだ……。

 誤解がない様に言っておくが、バーダックは片時も男から視線を外していなかった……。

 だと言うのに、バーダックは男が自分の間合いに入るまで、男が移動した事に全く気づかなかった……。

 

 しかも、風を切り裂いた様な音がしなかった事から、男は瞬間移動ではなく純粋なスピードでバーダックが知覚出来ない速度で近づいたのだ……。

 そして、驚愕の表情を浮かべたバーダックに向かって、男は容赦無く右拳を振り抜く……。

 吸い込まれるかの様に、男の拳は凄まじい音を立てバーダックのボディへ突き刺さる……。

 

 

「がはっ……」

 

 

 その瞬間、痛みを感じるよりも早く、バーダックの身体は凄じい勢いで後方へ吹っ飛ぶ……。

 勢いが弱まり始めた瞬間、バーダックは何とか身体をコントロールし、空中で静止する。

 次の瞬間、先ほど殴られた腹部にとてつもない痛みが走る……。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 思わず片手で腹部を抑えるバーダック……。

 だが、視線だけは片時も、男から離す事は無かった……。

 今の一瞬で男とバーダックの距離は、1km近くも離れていた。

 

 しかも、男はバーダックを殴り飛ばした場所で自分の右拳を見つめ静かに佇んでいた……。

 

 

「チッ!」

 

 

 顔を顰め舌打ちしたバーダックは、即座に両手にエネルギーの塊を顕現する……。

 

 

「はあぁっ!!! だだだだだだ……!!!」

 

 

 バーダックの左右の手から凄まじい量のエネルギー弾が繰り出される……。

 その全てのエネルギー弾が1つ残らず男の方へ向かっていく……。

 しかし、バーダックの表情が再び驚愕に染まる……。

 

 

「なっ!?」

 

 

 男の姿がブレたと思ったら、男は大量のエネルギー弾の中を超スピードで避けながら近づいて来るのだ……。

 そして、次の瞬間……。

 一瞬で距離を詰めた男が、バーダックの目の前に現れる……。

 

 

「だらぁ!!!」

 

 

 男が繰り出した強烈な左拳が、バーダックの顔面に突き刺さる。

 

 

「がっ!!!」

 

 

 痛みで声を上げたバーダックは、凄じいスピードで地面へ落下していく……。

 痛みで顔を歪めながらも、バーダックは冷静に地面と自身との距離を測っていた。

 

 

(チッ! ヤツの拳の威力が強すぎて、身体のコントロールだけじゃ、勢いを殺しきれねぇ……。

 しょうがねぇ……、地面に激突する前に、気功波で勢いを殺す!!!)

 

 

 どんどん地面とバーダックの距離が近づく……。

 バーダックは気功波を放つべく、右腕を伸ばそうとした瞬間、バーダックの視線の先にありえない存在が姿を現す。

 なんと、殴り飛ばした張本人が、殴り飛ばされ凄まじい速度で落下していたバーダックより先に、地面に立っていたのだ……。

 

 

(い、いつの間に……!?)

 

 

 バーダックが驚きの表情を浮かべると、男はトン!と軽やかに宙へ跳び落下しているバーダックとの距離を詰める。

 そして、次の瞬間、男は右足を勢いよく振り抜く……。

 

 

「ぐぅ……」

 

 

 男の蹴りを受けたバーダックは、地面へ激突する前に今度は上空へ凄じいスピードで吹っ飛んでいく。

 だが、バーダックもただやられた訳ではない……。

 今度は、男の蹴りが自分に当たる瞬間、両腕を滑り込ませ何とかガードする事に成功したのだ。

 

 

(よし! 今度は何とかガードが間に合った!!

 一旦体勢を立て直さねぇと、このままじゃ何も出来ずにやられちまう……)

 

 

 バーダックがそんな事を考えていると、彼の瞳は、自身に近づいて来る男の姿を捉える。

 ほぼ無理矢理体勢を整えたバーダックは、男を迎え撃つべく構える。

 その時、バーダックの眼は確かに捉えた……。

 

 男の右拳が眩い光を放っているのを……。

 その光景を見た瞬間、バーダックの全身にとてつもない悪寒が走る……。

 しかし、もう遅い……。

 

 男は力強く光り輝く拳を、勢いよくバーダックに向かって突き出す……。

 

 

「龍拳ーーーーーっ!!!!!」

 

 

 男が拳を突き出した瞬間、男の全身からとてつもなく膨大な気が放出される……。

 放出された気は一瞬にして、巨大な黄金の龍の形へと成り変わる……。

 それを眼の前で見ていたバーダックは、一瞬にして黄金の龍に捕獲される……。

 

 捕獲されたバーダックは、自身の全身を拘束している龍がとてつもない密度の気で形成されているのを即座に感じ取る……。

 次の瞬間……自身を拘束している龍が眩い光を発する……。

 バーダックは、それにとてつもない危機感を抱く……。

 

 

「ぐっ……、がぁ、ぐぅ……」

 

 

 何とか龍の拘束から抜け出そうとするバーダックだったが、いつしかバーダックの全身は目も開けていられない程の眩い光に包まれていた……。

 そして、次の瞬間……とてつもない衝撃がバーダックを襲う……。

 

 

「ぐぅあああああーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 なんと、バーダックを拘束していた龍が凄まじい轟音を轟かせ、大爆発を起こしたのだ……。

 その大爆発を至近距離でモロに受けるバーダック。

 爆発が収まった時、もはやバーダックはほぼ意識を手放していた……。

 

 バーダックは、重力に従って地面へ落下していく……。

 今のバーダックには、もはや舞空術を使う体力も気力も残っていなかった……。

 しかし、バーダックが地面へ激突する事はなかった……。

 

 何故なら、バーダックの身体を何者かが、空中で受け止めたからだ……。

 

 

「うっ……」

 

 

 朦朧とした意識の中で、バーダックは首を少しだけ動かす。

 視線の先には、自身を受け止めた者の姿があった……。

 バーダックと男の視線か交わる……。

 

 

「ありがとな! オメェのおかげで、オレはようやく超サイヤ人2の壁を超えることが出来た……」

 

 

 男はバーダックに向かって、優しげな表情で言葉を告げる……。

 だが、残念ながら今のバーダックには口を開く体力すら無かった……。

 だから、バーダックはしっかり目に焼き付ける事にした……。

 

 自身に勝利した男の姿を……。

 超サイヤ人2を遥かに超えた存在へと至った、偉大なる超戦士……超サイヤ人3の姿を……。

 自分の身体を優しく抱きとめ、穏やかな笑みを浮かべる、息子……孫悟空事カカロットの姿を……。

 

 だが、それも長くは続かなかった……。

 徐々にバーダックの目蓋が閉じ始めたのだ……。

 だから、バーダックは最後の力を振り絞る……。

 

 バーダックは悟空に眼を合わせたまま、口元に穏やかな笑みを浮かべる……。

 例え、言葉に出来なくとも、少しでも今の自分の気持ちが伝わる様に……。

 

 

(フッ……、楽しかったぜ……。 バカ息子……)

 

 

 そうしてバーダックは完全に意識を手放した……。

 

 

 

 悟空は意識を手放したバーダックを静かに抱きとめる……。

 そして、静かに自身の腕の中で眠るバーダックに視線を向ける……。

 悟空の中で、今日の激しくも、とても心が踊った闘いがフラッシュバックする……。

 

 悟空の口元には、いつしか笑みが浮かんでた……。

 

 

「本当に大したヤツだったぜ……」

 

 

 悟空は、自身の腕の中で眠る好敵手に、改めて感謝と尊敬の念を込め賛辞を送る。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 悟空が力を抜くように息を吐くと、腰まで伸びていた髪が短くなっていく……。

 それに合わせるかの如く、身体から吹き出していた黄金の炎も徐々に弱まり、ついには鳴りを潜める……。

 そして、黄金色だった髪と、エメラルドの様なグリーンの眼がいつもの黒色へ戻る……。

 

 完全に変身を解いた悟空は、人差し指と中指を立てゆっくりと額に当てる。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空はバーダック共々、その場から姿を消す。

 こうして、サイヤ人の親子の闘いは終わりを告げたのだった……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の8話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

Thank you.


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孫悟空VSバーダック編-Ep.08

お待たせしました!
楽しんでもらえると嬉しいです!

最近感想が少なくて寂しいので、ブログでも此方でも良いので感想欲しいなぁ。
結構読まれてる筈なのにおかしいなぁ?


 長い激闘の末、ついに超サイヤ人3へと覚醒し、バーダックとの闘いに終止符を打った孫悟空事カカロット。

 気を失ったバーダックを抱え、悟空は人差し指と中指を立てゆっくりと額に当てると、とある人物の気を探る。

 その人物の気はすぐに見つかった……。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 風を切り裂く様な音と共に、悟空はバーダック共々、その場から姿を消す。

 

 

ーーーシュン!

 

 

 再び風を切り裂く様な音が響いた時、悟空の視界には先程までとは別の光景を映し出していた。

 そう、悟空の目の前には、呆けた表情を浮かべる1人の女性が立っていた。

 

 

「え?」

 

 

 いきなり目の前に現れた悟空に、呆けた表情のまま思わずといった様子で声を上げる女性……。

 そんな女性に悟空はニカッ!とした笑みを向ける口を開く。

 

 

「よう!」

「あ……、うん……」

 

 

 元気よく挨拶した悟空に対し、女性の反応はどうも鈍い……。

 その事に首を傾げる悟空。

 

 

「どうしたんだ、オメェ……? さっきは滅茶苦茶ハッキリ喋ってたじゃねぇか……?」

「え……? あ、うん……」

 

 

 悟空の問いにも呆けた様に返事を返す女性。

 女性の内心など知りようがない悟空は、未だ呆けた表情をしながらも、自分をじっと見つめる女性に思わず首を傾げる。

 しかし、腕に伸し掛かる重みで、この場に来た理由を即座に思います。

 

 

「なぁ、オメェこいつの嫁なんだろ……? こいつの事頼めるか……?」

 

 

 悟空は女性に向かって、抱えていたバーダックを差し出す。

 女性は今まで、悟空の事に夢中で悟空の腕の中で眠っている存在の事をすっかり忘れていた……。

 だが、気を失ったバーダックの姿を視界に捉えた瞬間、これまでの事が嘘の様に素早い動きを見せる。

 

 

「バーダック!!!」

 

 

 女性は声を発したと同時に、悟空の元に近付き、バーダックの様子を心配そうな表情を浮かべ確認する。

 

 

「心配いらねぇ……って、こいつをこんな風にしたオラが言う事じゃねぇけど……、心配すんな……。

 気を失ってるだけだ……。 しばらくすれば目を覚ます」

 

 

 悟空は女性を安心させる様に、穏やかな口調で口を開く。

 その言葉を聞いた女性は、「ほっ……」とした様な安心した表情を浮かべ、悟空からバーダックを受け取り、抱き抱える。

 女性は慈愛の表情を浮かべ、激戦を繰り広げた男を見つめ口を開く。

 

 

「お疲れ様、バーダック……」

 

 

 女性は、バーダックを近くにいた仲間に引き渡す……。

 そして、再び悟空の方に視線を向ける……。

 すると、そこには女性の方をじっと見ながら、顎に手を当て、「うーん……」と言いながら首を傾げる悟空の姿があった……。

 

 その姿に、思わず声を上げる女性。

 

 

「なっ、何だい……?」

 

 

 女性に声を掛けられた悟空は、眉を寄せながら口を開く。

 しかし、その言葉は何処か歯切れが悪かった……。

 

 

「いやよ……。 オメェ……、オラとどっかで会った事あるか……?

 オラ、オメェとは会った事がねぇと思うんだけど……。

 オメェを見てたら、何でか妙に懐かしい気持ちになんだよな……。

 それに、オラの名前も知ってたし……」

 

 

 悟空の言葉を聞いた女性は、両目を見開く……。

 しかし、すぐにそれを引っ込めると、とても穏やかな笑みを浮かべる。

 気のせいか、彼女の眼にはうっすらと涙が浮かんでいる様に見える……。

 

 

「あ、あたしが……、あたしが、あんたと会った事があるかって……?

 そんなの……、あるに決まってるよ……」

 

 

 声を震わせながら口を開いた女性を、悟空は驚いた表情で見つめる。

 だが、悟空は言葉を発する事が出来なかった……。

 何故なら、目の前の女性は大粒の涙をぼろぼろと流していたからだ……。

 

 そして、彼女は告げる……。

 己の名と、悟空との関係性を……。

 

 

「あたしの名は、ギネ……。 あんたの……あんたの母親だよ……、カカロット……」

 

 

 涙を流しながらも、息子と再会出来た事に喜びの笑みを浮かべるギネ……。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、両目を見開きぷるぷると人差し指でギネを指しながら口を開く。

 

 

「母親……、って事は……、オメェが……、オメェがオラの母ちゃん……、なんか……?」

 

 

 悟空の言葉にギネは静かに頷く……。

 そんなギネを見て、今度こそ悟空は口を大きく開けて驚きの声を上げる。

 

 

「えぇーーーーーっ!!?」

 

 

 悟空の余りの声量に、周りで成り行きを見守っていたトーマ達は思わず耳をふさぐ。

 しかし、そんな周りの事が見えていないのか、悟空は驚愕の表情でギネを見つめる……。

 そんな息子の反応が面白かったのか、ギネは可笑しそうに「くすくす……」と笑い声を上げ口を開く。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「いや、だってよ……。 オラにも母ちゃんて……本当にいたんだなぁ……。って思ってよ……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネの表情が僅かに曇る……。

 そんなギネの様子に、悟空は不思議そうな表情で首をかしげる……。

 ギネは悟空の眼をじっと見つめると、静かに口を開く……。

 

 

「ごめんね……」

「え?」

 

 

 ギネから飛び出た突然の謝罪に、悟空は困惑した表情を浮かべる。

 

 

「あんたを1人で地球へ送った事さ……。

 あたしは、あんたと一緒に居てあげる事が出来なかった……。

 迎えに行くって……、また会おうねって……、あんたと約束したのに……」

 

 

 涙を流し悲痛な表情を浮かべ言葉を発していたギネは、言葉を発し終えると、そのまま顔を伏せる……。

 身体を震わせながら流した涙が、ポタポタと地面に落ち、1つまた1つと小さな染みを生み出していく。

 そんなギネに、これまで黙って話を聞いていた悟空は、ゆっくりと近付く。

 

 そして、悟空はギネの肩にポン!と、右手を乗せる……。

 悟空が触れた瞬間、ギネの身体がビクッ!と震える……。

 だが、ギネは顔を伏せたままだった……。

 

 そんなギネに、悟空は優しく語りかける……。

 

 

「なぁ、顔を上げてくれねぇか……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、涙で濡れた顔をゆっくりと上げる……。

 そこには、太陽があった……。

 正確に言えば、ニカッ!と太陽の様に輝かんばかりの笑顔を浮かべた息子の顔があった……。

 

 悟空とギネの視線が交差する。

 悟空はギネの眼をしっかり見つめて、口を開く。

 

 

「ありがとな……。 オラを地球へ送ってくれて……」

「え……?」

 

 

 息子の言葉に、ギネは呆けた様な表情で声を上げる。

 そんなギネに「へへっ……」と笑いながら悟空は、再び口を開く。

 

 

「確かにさ、いい事ばかりじゃ無かったさ……。

 オラを拾って育ててくれたじいちゃんが死んで、1人になった時とか寂しかったし悲しかった……。

 でもよ、それ以上に地球に行ったおかげで、たくさんの仲間達と出会う事が出来たんだ!!」

 

 

 自身の過去を振り返りながら、自分がこれまでどう生きて来たのか、悟空は母に語って聞かせる……。

 地球へ送ってくれた、感謝を込めて……。

 

 

「それに、家族も出来た……。

 オラはあんまりいい父親とは言えねぇけど、オラにはもったいねぇくらい立派な息子と嫁がさ……。

 これは、オラが地球に行かなかったら決して得られなかったモンだと思う……。

 だからさ……」

 

 

 言葉を切った悟空は、改めてギネの目をしっかり見据え、二カッ!と太陽の様な笑みを浮かべ口を開く……。

 

 

「オラを地球へ送ってくれてありがとな……。 母ちゃん」

「カカロット……」

 

 

 息子の笑みを見て、ギネは涙を流さずにはいられなかった……。

 だがこれは、決して悲しみの涙ではない……。

 これまで、ギネは悟空を地球へ送った事を後悔して来た……。

 

 地獄の水晶や悟空と面識のあるトランクスのおかげで、悟空が地球で幸せに暮らしていたのは知っていた。

 だから、地球へ送ったのはよかったという想いはあった……。

 それでも悟空に対して、後ろめたい気持ちが消えなかったのも事実なのだ……。

 

 そんな後ろめたい気持ちを、悟空の笑顔は一瞬にして吹き飛ばしてしまった……。

 今、この瞬間こそが、本当の意味でギネが救われた瞬間だった……。

 

 

「話は終わったか……?」

 

 

 悟空とギネの耳に、第三者の声が響き渡る。

 2人は声がした方に、そろって視線を向ける……。

 そこには、上半身を起こしたバーダックの姿があった。

 

 ちなみに、悟空との闘いで気絶したバーダックは、今までトーマ達によって地面に寝かされていたのであった。

 バーダックの姿を見たギネは、驚いた表情を浮かべ口を開く。

 

 

「バーダック!? あんたいつから……!?」

「お前がわんわん泣き出した頃だよ……。 煩くておちおち寝ちゃいられねぇ……」

 

 

 ギネの問いに、いつもの皮肉で返事を返すバーダック。

 そして、バーダックは続いて悟空に視線を向ける……。

 悟空とバーダック、父と子の視線が交わる……。

 

 

「オメェが、オラの父ちゃん……なんか……?」

 

 

 何処か戸惑った様な声で、バーダックに声をかける悟空……。

 そんな悟空の様子が可笑しかったのか、バーダックは口元に穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「ああ……。

 そういや、お前が勝ったら名前を教えてやるって、約束だったな……。

 ギネ達からもう聞いたかも知れねぇが、オレの名前はバーダックだ……」

「バーダック……」

 

 

 自身の父の名を呟く悟空……。

 そんな悟空の様子を見て、バーダックが再び口を開く。

 

 

「フン! 戦闘力2のガキがまさかここまで強くなるとはな……」

「へ?」

 

 

 バーダックの言葉に、不思議そうな表情を浮かべる悟空。

 悟空の表情で考えを察したバーダックは、「フッ……」と口元に笑みを浮かべると、再び口を開く……。

 

 

「お前が生まれてすぐに、惑星ベジータで戦闘力を計測した時の数値だ……。

 あん時は、将来下級戦士どころか戦闘要員としてやっていくのは無理だろうと思ったが……、まさか、どのサイヤ人よりも強くなっちまうとはな……」

 

 

 何処かしみじみとした感じで、言葉を述べるバーダック。

 そんなバーダックだったが、ここで一度言葉を区切ると静かに目を瞑る……。

 バーダックの脳裏には、先程の闘いが思い出されていた……。

 

 しばらくして、目を開けたバーダックはポツリと口を開く。

 

 

「お前が最後に見せたあの姿……」

「超サイヤ人3のことか……?」

 

 

 悟空が告げた言葉を聞いたバーダックの脳裏に、先程実際に闘った超サイヤ人3の姿が浮かび上がる。

 超サイヤ人2とは隔絶した、新たな超サイヤ人の形態……。

 今思い出しても、ゾクゾクとして来る……。

 

 

「超サイヤ人3……か……。 とにかく、あれは本当に見事だった……。

 まさか、超サイヤ人2の上があるとはな……、オレにもまだまだ先があるって知る事が出来た……」

 

 

 正直、勝負に負けた事は、素直に悔しかった……。

 悟空に勝つ為に、並々ならない努力をバーダックは費やして来たのだから、当然と言えば当然だ。

 だが、それ以上に楽しかった……。

 

 自分が持てる力の全てを解放して、積み上げた技術を遺憾なく発揮する……。

 勝つか負けるかのギリギリの攻防は、心底心が踊った……。

 そして、それ以上に自分にはまだまだ先がある……、強くなれるのだと言う事が知れた……。

 

 その事が、敗北よりも大きくバーダックの心を満たしていた……。

 

 

「ところでバーダック……。 あんた、傷は大丈夫なの……?」

 

 

 声をかけたのは、2人の会話を聞いていたギネだった。

 ギネは、2人の会話が途切れたのを見計らって、声をかけたのだ……。

 心配そうな表情を浮かべるギネに、いつものぶっきら棒な態度で返事を返すバーダック。

 

 

「それを言うなら、オレよりカカロットの心配をしてやれ……。

 実際のダメージはオレより、そいつの方がデカイはずだ……。

 力を覚醒させるまでに、相当無理をしてたはずだからな……」

「えぇっ!?」

 

 

 バーダックの言葉を聞いたギネは、驚いた表情で悟空に振り返る。

 

 

「ははっ……」

 

 

 コロコロ表情を変えるギネに、悟空は苦笑いを返す……。

 実際、バーダックとの闘いで大分無理をしたせいで、身体中ガタガタだった……。

 そんな悟空に、ギネは慌て近づき声を掛ける。

 

 

「カ、カカロット!! あんた大丈夫なのかい!?」

「え? あぁ、何と……」

 

 

 心配そうに自身に言葉をかけるギネに、悟空は少し戸惑いながらも返事を返している最中、それは起こった……。

 

 

ぐぅーーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 その場にいる全員の視線が、悟空に集中する……。

 

 

「ははっ……、思いっきり闘ったから、オラ腹減っちまったぞ……」

 

 

 少し照れた様に、頭をかく悟空。

 その場にいた、ギネやバーダック、他の者達もあまりの腹の虫のデカさに、思わず頭に冷や汗を浮かべる。

 しかし、それも束の間……。

 

 

「あっははは……、そうかい。 だったらさ、あんたメシ食っていきなよ!!

 すぐに、戻らないといけないって事はないんだろ……?」

「いいんかっ!?」

 

 

 ギネからの申し出に、顔全体をキラキラさせた悟空が喜びの声を上げる。

 そして、ギネは続いてバーダックへ視線を向ける。

 

 

「もちろん! バーダック、あんたも食べるだろ?」

「ああ……、そうだな……」

 

 

 ギネの問いに、バーダックも腹が減っていたのか、腹をさすりながら応える。

 バーダックの返事に満足した様な笑みを浮かべたギネは、最後の家族に視線を向ける。

 

 

「よし! 後は……、あんたはどうすんだい……? ラディッツ」

「なにっ!?」

 

 

 突如、話を振られたラディッツは驚いた表情を浮かべる。

 だが、ギネからしたら何故ラディッツが、そんな表情を浮かべているのか理解できず首を傾げる。

 

 

「あんた何、驚いた顔してんのさ?」

「いや、何故オレがカカロットなどと一緒に……」

 

 

 ギネからの問いに、何処か戸惑った声で返事を返すラディッツ。

 だが、その言葉を聞いたギネはムッとした表情を浮かべる。

 

 

「何言ってんだい! あんたはカカロットの兄ちゃんだろ!!」

「いや、だからってだな……」

 

 

 ギネの言葉になんとか反論を返すラディッツ。

 だが、母親から向けられる視線に耐えられなくなったラディッツは、思わずギネから視線を外す。

 そして、その先には因縁の弟の姿があった……。

 

 

「「…………」」

 

 

 視線を合わせた2人の間に、剣呑な雰囲気が立ち込める。

 2人の雰囲気にギネは驚いた様な表情で、2人の顔を交互に見る。

 

 

「えっ!? ど、どうしたんだい……? 2人共……」

「はぁ……、まったく……、お前は……。 

 ちっとはこいつらの事を考えてやれ……。

 カカロットはラディッツに息子を拉致られた上に、殺し合った中なんだろ……?」

「あ……」

 

 

 狼狽た声を上げるギネに、バーダックは溜め息をつき、以前聞いた彼らの関係性を口にする……。

 バーダックの言葉で、それを思い出したギネは、思わず苦い表情を浮かべる。

 

 

「オメェ……」

「……」

 

 

 目が合ったラディッツに悟空が声を掛けると、ラディッツは悟空から視線を外す。

 悟空も別にラディッツの事は嫌っていた事もあり、そこまでして話す間柄でもないので、そのまま互いにスルーしようとした。

 だが、それに待ったをかけた存在がここにいた……。

 

 

「ねぇ、カカロット……。 あんた、まだラディッツの事を恨んでいるのかい……?」

 

 

 2人の間に割り込んだのは、2人の母ギネだった……。

 ギネの言葉で悟空は、少しだけラディッツについて考える……。

 そして、考えが纏ったのか、口を開く……。

 

 

「正直、あんまりいい印象は持ってねぇ……。

 まだ、小さかった悟飯……、あっ、悟飯てのはオラの息子な……。を攫っていったヤツだからな……。

 その上、地球人を100人くれえ殺して来いなんて、無茶苦茶な事も言うしよ……」

「そっか……」

 

 

 悟空の話を静かに、聞いていたギネは、少し寂しそうに返事を返す。

 ギネも悟空の話を聞いたら、悟空がラディッツに対してそう言う印象を持ってもしょうがないと思ってしまった。

 だが、母親としては兄弟の仲が悪いのは、やはり嫌だったので、彼女はここで自分に出来る範囲で行動に出る事にした。

 

 ギネは、真剣な表情で悟空の眼を見つめて、口を開く。

 

 

「あのさ……、ラディッツの事許してやってほしいんだ……」

「え?」

「オフクロ!?」

 

 

 ギネから飛び出した言葉に、悟空だけでなくラディッツも驚きの声を上げる。

 そんな息子達を無視して、ギネは尚も言葉を重ねる。

 

 

「確かに、あんたの息子を攫った事についてはラディッツが全面的に悪い……。

 それでも、あの子の事を許してやって欲しいんだ……。 頼むよ……」

 

 

 そう言って、悟空に対して頭を下げるギネ。

 突然のギネの行動に、慌てた様子で声を上げる悟空とラディッツ。

 

 

「え!? ちょっ……頭を上げてくれよ!! 母ちゃん!!!」

「そ、そうだ!! 何故オフクロがカカロットに頭を下げる!?」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いたギネは、不思議そうにキョトンとした表情で首を傾げる。

 

 

「え? だって、子供が悪い事したら、親が謝るのは当然だろ……?」

「オフクロは、オレの事を幾つだと思っているんだ!?

 オレはとっくに、自分の事は自分で責任が持てる歳だ!!」

 

 

 予想外のギネの返答に、ラディッツは顔を真っ赤にする。

 だが、それも束の間、表情を険しくし、悟空を睨み付ける。

 

 

「それに……、オレはあの時、自分がやった事が、間違っていたとは思わん……。

 あの時、実際カカロットの力がオレ達に、必要だったのは事実だ……。

 甘っちょろいコイツには、あれ位の事が必要だったのだ……」

 

 

 ラディッツの言葉で悟空の表情が、若干険しいモノになる……。

 そんな悟空を無視して、ラディッツは更に口を開く。

 

 

「だが……、地球で貴様達に殺されたおかげで、サイヤ人を滅したフリーザの命令をアレ以上聞かなくて良くなった事だけは、礼を言ってやる……」

 

 

 そう言って、悟空から視線を外すラディッツ。

 ラディッツの言葉が意外だった悟空は少し驚いた表情を浮かべ、ふと思った疑問を口にする。

 

 

「オメェ……、オラ達に殺された事を恨んでねぇのか……?」

 

 

 悟空の質問に視線を外していたラディッツは、「はぁ……」と溜め息を吐く。

 そして、ゆっくり振り返ると、再び悟空と目を合わせる。

 

 

「正直、当時オレよりも格下だった貴様達にやられた事は、思う所はある……。

 だが、サイヤ人が戦場で散るのはよくある事だ……。

 だから、戦場で死ぬ事など、とっくの昔に覚悟は出来ていた……」

 

 

 真っ直ぐ自分の眼を見て、言葉を述べるラディッツに、何処かベジータと似た様なモノを感じ取った悟空。

 

 

(こいつもやっぱり、サイヤ人なんだなぁ……)

 

 

 内心でそんな事を思った悟空。

 ラディッツの言葉には、十分過ぎる程の覚悟が篭っていた。

 だとしたら、自分はこれ以上言う事はないと思った悟空は、静かに口を開く。

 

 

「そっか……」

 

 

 2人の間に再び沈黙が流れる……。

 そんな時だった、おずおずとした様子でギネが2人に語りかける……。

 

 

「あのさ……、せっかくこうして家族が全員揃ったんだ……。

 もう、こんな機会なんて二度と無いかもしれない……。

 だからさ……、1度くらいみんなでご飯くらい……、ダメ……かな……?」

 

 

 不安そうな表情を浮かべ、悟空とラディッツを見つめるギネ。

 母親にそんな表情で見つめられた兄弟は、流石に罪悪感を懐かずにはいられなかった……。

 

 

「そうだな……、みんなで飯食うのは、美味えもんな……」

 

 

 「フッ……」と、穏やかな笑みをギネに向ける悟空。

 その言葉にギネの表情がパァっと、明るくなる……。

 そして、続いてギネはラディッツに視線を向ける……。

 

 ギネからの期待のこともった視線に、ついにラディッツも折れざるを負えなかった。

 

 

「はぁ……、今回だけだぞ……」

「うん!」

 

 

 息子達からお許しが出た事で、ギネのテンションは一気に最高潮に達した。

 そんな時、ギネの頭にポン!と男の手がのせられる……。

 ギネが、手の主の方に視線を向けると、自分を静かに見つめるバーダックの姿があった……。

 

 

「帰るか……」

「うん!!」

 

 

 静かに述べられたバーダックの言葉に、ギネは笑顔で頷く。

 そして、愛すべき息子達に声をかけた。

 

 

「2人共、家に帰るよ!!」

「おう!!」

「ああ……」

 

 

 母の呼びかけに、2人の息子はそれぞれ応える……。

 そうして、親子4人は家に帰るべく、仲間達とその場を後にするのであった……。

 

 

 

 

「へー、ここが地獄のサイヤ人達が住んでる所なんか……」

 

 

 ギネ達と一緒に、サイヤ人の集落を訪れた悟空は思わず声を上げる。

 戦闘民族とずっと聞かされていたサイヤ人が暮らす割には、結構居心地が良さそうだと感じたのだ。

 

 

「結構いいトコだろ……?

 ここはね、あたし達が地獄に来てから、みんなで力を合わせて作ったんだ!!」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、少し自慢気に返事を返す。

 そんなギネに感心した様な声を上げる悟空。

 

 

「へー、凄えんだな……!!

 なあ、村の外にいっぱい畑があったよな……?

 あれも、サイヤ人達が育ててんのか……?」

 

 

 移動中に、そらから沢山の畑を見た悟空はずっと気になっていた事をギネに質問する。

 

 

「そうだよ! この村のみんなで育ててるんだ!!」

「みんな……? え……?」

 

 

 ギネの言葉に、思わず驚いた様な表情を浮かべる悟空。

 そして、ギネの隣にいる男に思わず視線を向ける。

 

 

「おい! 何だその目は……?」

 

 

 視線の先にいたのは、悟空の兄ラディッツだった。

 ちなみに、トーマ達やナッパは集落に戻って来た段階で、すでに別れている。

 今この場にいるのは、バーダック、ギネ、ラディッツ、カカロットの親子4人だけだった。

 

 悟空は、視線が合ったラディッツに問いかける。

 

 

「オメエも畑仕事してんのか……?」

「くっ……」

 

 

 悟空の問いに、まるで屈辱だと言わんばかりに表情を歪めるラディッツ。

 ラディッツが一瞬、どう返事したモノかと考えていると、ラディッツが口を開く前に、横にいたギネが悟空の問いに笑顔で答える。

 

 

「そうだよ! ラディッツも当然、畑で作物を育ててるんだ」

「フン! 笑いたければ笑え……。 サイヤ人が農業等、無様だとな……」

 

 

 ギネの言葉を聞いたラディッツは、思わず肩を落とす。

 そして、悟空の向け自嘲の笑みを向け口を開く……。

 しかし、肝心の悟空は何故、ラディッツがそんな風に言うのか理解できなかった……。

 

 

「何で笑うんだよ……? オラも昔修行で、畑仕事してたしな……」

「へー、カカロットもやってたのかい……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、少し驚いた様な表情を浮かべる。

 言葉こそ述べなかったが、ラディッツも似た様な表情をしていた。

 そんな2人に笑顔で頷く悟空。

 

 

「ああ! オラの最初の師匠の修行で畑を素手で耕すっていうのがあったんだ……」

「何だ、その修行は……?」

「変わった修行だね……」

 

 

 突如飛び出した悟空の言葉に、2人は意味が分からん?といった様な表情を浮かべる。

 だが、悟空も初めてその修行をした子供の時に、何故こんな事をするのか?と疑問に思ったので、2人の気持ちはよくわかった。

 

 

「まあな……。 でも、案外バカに出来ない修行なんだぜ……。

 あれをやると、パンチを打つ時の身体の正しい使い方をマスター出来んだ……」

「正しい使い方……?」

 

 

 悟空の言葉に、ギネは意味がわからないと言った様な表情を浮かべ、首を傾げる。

 

 

「ああ……。 オラがガキだった頃、初めてその修行をした時にな、腕の力だけで土を耕してたんだ……。

 だけどよ、腕の力だけでやっても、あんまり掘れねぇし、すぐに疲れんだ……」

 

 

 悟空の話をギネはふむ!ふむ!と興味深そうに聞いていた。

 ギネの隣にいたラディッツや少し離れた場所にいたバーダックも、興味がない風を装っていながらもしっかりと耳を傾けていた……。

 

 

「この修行を長い事やっていくうちに、次第に大きな穴が掘れる様になんだ……。

 何でかというと、背中や肩……、その他身体の正しい使い方をマスターしねぇとデケェ穴は掘れねぇからだ……。

 毎日やってると、無意識の内に身体をどう使えばいいのかってのを、身体自身が覚えんだ……」

 

 

 一度言葉を切った悟空は、ギネの前でとても綺麗な正拳突きを繰り出す……。

 軽く繰り出された突きだったが、その突きは、武道家として悟空が何年も鍛錬を積み重ねた至高の一撃と呼んで良かった。

 ギネは思わず「わぁ!」と歓声を上げる。

 

 

「パンチを打つ時も一緒でよ、腕の力だけで打ったパンチと、全身を使ったパンチじゃ、当然全身を使ったパンチの方が威力が高ぇ……。

 だけど、その全身を使うってのが、なかなか難しくってよ……。

 そいつを自然と身につける事が出来るのが、この修行って訳だ……」

「へー、カカロットの師匠ってすごい人なんだね……」

 

 

 悟空のちょっとした武術講座を聞き終えたギネは、素直に感心した様な声を上げる。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「ああ、亀仙人のじっちゃんは本当にスゲェ……。

 オラ強さではじっちゃんを超えちまったけど、まだまだ敵わねぇ部分がいっぱいあると思ってる……」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべ、自身の師匠を語る悟空に優しげな笑みを向けるギネ。

 

 

「そうかい……。 あんたは地球で本当にいい出会いをして来たんだね……」

「ああ!! 地球にはスゲエ奴がいっぱいるんだ!!!」

 

 

 そんな風に、会話をしながら4人がサイヤ人の集落を歩いていると、1つの建物が悟空の眼に止まる。

 

 

「おっ? あのデケェ建物はなんだ……?」

「ん? ああ……、あれか、ベジータ王の屋敷だ……」

 

 

 悟空の問いに答えたのは、ラディッツだった……。

 ベジータ王と聞いて、悟空の脳裏に1人の男の姿が浮かび上がる。

 悟空は自身の思った考えを確かめる為に、再び口を開く。

 

 

「ベジータ王って……、もしかしてベジータの父ちゃんか……?」

「ああ……」

 

 

 悟空の考えを肯定する様に、頷くラディッツ。

 自身の考えが当たっていた悟空は、会話の流れで何気なくラディッツに問いかける。

 

 

「へー、やっぱベジータに似てんのか……?」

「容姿はよく似ている……。 だが、他はどうだろうな……」

 

 

 悟空の問いに、どうも歯切れの悪い返事を返すラディッツ……。

 それに疑問を覚えた悟空は、不思議そうに首を傾げる……。

 

 

「ん?」

「いや、オレはベジータの事はそこそこ知ってはいるが、王の事はよく知らんのだ……。

 だが、この村を無から作り上げた手腕を見ると、統治者としてはそこそこ有能なのでは無いか……」

 

 

 悟空の視線に気付いたラディッツは、どこかバツが悪そうな表情をうかべる。

 だが、自身が王に対して抱いていた、評価を素直に口にする……。

 

 

「ふーん……」

 

 

 ラディッツの返事を聞いた悟空は、正直統治についての事等よく分からないので、生返事を返す。

 そこで、ふと1番重要な質問をしていなかった事に気がついた悟空は、さっそく尋ねてみる事にした。

 

 

「ところでよ……、やっぱ、王様って事は強えのか……?」

 

 

 ワクワクした様な表情で問いかけられたラディッツは、ジト眼で悟空を見る。

 

 

「貴様が何を考えているか知らんが、ここでお前の相手を出来るヤツは親父だけだ……。

 それに、王はオレが知っているベジータよりも戦闘力は低い……。

 そういう意味では、ベジータはかなり若い時に、王を超えたって事なんだろうな……」

「へー、流石ベジータだな」

「ん?」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いた悟空は、改めてベジータの凄さを実感する。

 そんな悟空を見て、ラディッツは不思議そうに首を傾げる。

 そんなラディッツに、今度は悟空が首を傾げる。

 

 

「どうした?」

「いや、貴様が妙にベジータを認めている様だったのでな……。

 フリーザと戦った時は、止むを得ず共闘したのだろうが、その後は敵同士だったのでは無いのか……?」

 

 

 ラディッツの問いに、悟空は腕を組み、少し考える様な仕草をする。

 そして、考えが纏ったのか自身の考えを口にする。

 

 

「うーん、フリーザとの戦いの後もオラ達は色々あったかんなぁ……。

 でも、敵同士って事はなかったさ……。

 まぁ、共通の敵がいたってのもデカかったんだろうけどよ……」

 

 

 そこで言葉を切った悟空は、ふと遠くを見つめる様な表情を浮かべる……。

 その時、悟空が何を思ったのかは本人にしか分からない……。

 

 

「それによ、ベジータは戦いの天才だ……。

 あいつとの闘いは、心底オラをワクワクさせてくれんだ……。

 それによ……、あいつだけだったかんなぁ……オラに付き合ってくれたのは……」

 

 

 悟空はこれまで多くのライバル達と競い合って来た。

 だが、悟空が強くなればなるほど、かつてのライバル達との溝は開いていった……。

 彼らも、そして悟空自身もいつしか、それを当たり前だと受け入れる様になった……。

 

 だが、そんな中でベジータだけは、いくら悟空との溝が開いても諦めずに、自分を鍛え悟空に追いつこうとしてくれた……。

 そして、いつも必ず追いついて来てくれた……。

 そんなベジータに悟空は心のどこかで、救われていた……。

 

 いくら自身が強くなろうと、必ず追いつき追い越そうと競ってくれる相手がいる……。

 だからこそ、悟空は更なる強さを遠慮なく追い求める事が出来た……。

 

 闘いは1人でする事は出来ない……。 

 共に競い、拳を交える相手がいて、初めて闘う事が出来るのだ……。

 例えこの先悟空が更に強さを増しても、そこには必ずベジータという強者が存在する……。

 

 これ程嬉しい事は、悟空には無かった……。

 

 まぁ、ベジータ本人は自身のプライドを取り戻す為にやっている事なので、悟空の救い等知った事では無いのだろうが……。

 

 

「何ていうか……、王子とカカロットは好敵手……ライバルって感じだね!!」

 

 

 ラディッツと共に悟空の話を聞いていたギネは、悟空とベジータの関係をそう評した。

 ギネの言葉を聞いた悟空は、キョトンとした表情を浮かべる。

 だが、それも束の間、何処か嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「ライバルかぁ……。 へへっ……、そうなんかもしんねぇな……。

 オラ、あいつには絶対負けたくねぇかんな……」

 

 

 こんな風に3人が話をしていると、突如3人に声がかけられる。

 

 

「おい! お前等いつまでくっちゃべってんだ?」

 

 

 3人が視線を向けると、バーダックがとある一軒家の前で立ち止まっていた。

 地球では見た事がない珍しい形式の家に、悟空は目を向ける。

 

 

「へー、これが母ちゃん達の家かぁ……」

「何言ってんだい……?」

 

 

 悟空の言葉に、ギネは不思議そうな表情を浮かべる。

 そんな、ギネの反応に、悟空は首を傾げる。

 

 

「え? 違うんか……?」

「確かにここは、あたしやバーダックの家だけど、ラディッツ、そしてカカロット……、あんた達の家でもあるんだよ……?」

 

 

 ギネの言葉に、悟空は少し驚いた表情を浮かべる。

 だが、すぐにいつもの人懐っこい、二カッ!とした笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「そっか……」

「うん! おかえり! カカロット……」

「おう! ただいま!!」

 

 

 笑顔のギネに出迎えられた悟空は、笑みを浮かべて家に足を踏み入れる……。

 30年以上の月日を経て、孫悟空事カカロットは、生まれた星ではないが、確かに家族が待つ、実家に帰還したのだった……。




ブログサイトの方で新章「孫悟空VSバーダック編」の9話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

話は変わりますが、現在息抜きに、るろうに剣心と鬼滅の刃のクロスオーバー作品を書いているのですが、これって需要あるんですかね?
構想としてはこんな感じです。

・主人公は剣心(人斬り抜刀斎)
・幕末の動乱の後、旅に出た剣心が鬼と遭遇する。
・鬼の血鬼術により、鬼滅の刃の舞台の時代までタイムスリップする
・何やかんやあって、鬼殺隊に力を貸す事になる
・後は考え中・・・

みたいな感じです。
まだ、1話を書いている途中なので、完成するかどうかも分からないのですが、要望が多ければ完成すれば投稿します。


Thank you.



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孫悟空VSバーダック編-Ep.09

お待たせしました!
無事サイヤ人の日に投稿できてよかった。
楽しんでもらえると嬉しいです!

最近感想が少なくて寂しいので、ブログでも此方でも良いので感想欲しいなぁ。


 バーダックとの激闘を終えた悟空は、母であるギネから食事の誘いを受け、彼女とバーダックが住む、自身の実家へ数十年ぶりに帰還した。

 ちなみに、ここへは、ギネとバーダック、そして兄であるラッディツと共にやって来た。

 

 

「ちょっと、待っててね! すぐに準備するから!!」

 

 

 そう言ったギネは、悟空達をリビングに通すと、すぐに台所へと消えていった。

 残されたバーダック、ラディッツ、カカロットの親子3人。

 

 

「とりあえず、お前等も座れ……」

 

 

 ソファへドカッと座ったバーダックが、いつまでも立ったままの息子達に声をかける。

 

 

「ああ……」

「うむ……」

 

 

 悟空とラディッツは床であぐらの姿勢で座る。

 静寂がその場を支配する……。

 これまで、会話を成立させていたギネが抜けた事で、3人から一切の会話が無くなってしまった……。

 

 場に気まずい雰囲気が流れようとし出した時、悟空がふと思いついた様に口を開く……。

 

 

「そう言えばよ……、サイヤ人て普段どんなもの食べてんだ……?」

 

 

 悟空の言葉に、バーダックとラディッツは顔を見合わせる。

 

 

「どんなって……、なぁ……」

「ああ……、逆にオレ達は普段貴様がどんなモノを食ってるか、知らんから何とも言えん……」

 

 

 ラディッツの言葉を聞いた悟空は、納得した様な表情を浮かべる。

 

 

「あ、そりゃそうか……。

 いやな、前にベジータが地球のメシは美味ぇみたいな事言っててよ……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたラディッツは、少し懐かしそうな表情を浮かべ口を開く。

 

 

「ベジータはガキの頃から常に戦場にいたからなぁ……。

 ヤツからしたら、食事は栄養補給が目的であって、美味さは求めておらんかったんだろうな……。

 それこそ食えるモンだったら、なんでも食ってやがったからなぁ……」

「へー、そうなんかぁ……」

 

 

 ラディッツの言葉に、ベジータの過去を知らない悟空は興味深そうな声を上げる。

 そんな会話を続けたいた悟空に、今度はバーダックから質問が飛ぶ。

 

 

「カカロット……、王子はフリーザとの戦いの後、地球に居ついちまったのか……?」

 

 

 バーダックからの問いに、悟空は腕を組み、少し眉を寄せた様な表情で過去を振り返る。

 

 

「うーん……、多分そういう事になんじゃねぇか……?

 オラもフリーザとの戦いの後、1年くれぇ地球を空けてたけど、戻った時にベジータがいたからなぁ……。

 それに、今はガキもいるしな……」

 

 

ーーーガタッ! 

 

 

 突然した大きな音に言葉を述べていた悟空と、それを聞いていたバーダックは音の出処に、咄嗟に目を向ける。

 そこには、立ち上がり驚愕の表情を浮かべ、わなわなと震えるラディッツの姿があった……。

 悟空とバーダックは、そんなラディッツに何事だ!?といった視線を向ける……。

 

 そして、ラディッツと悟空の視線が交差する。

 その瞬間、一瞬で悟空との距離を詰めたラディッツが、ガシッ!!と悟空の両方を力強く掴む。

 

 

「ガ、ガキ……!? ちょ、ちょっと待て、カカロット!!! あ、あの……、べ、ベジータに……、こ、こ、子供が生まれたのかっ!?」

「あ、ああ……、あいつに似て、目つきが悪い男の子だ!! 今……6つか7つくれぇの歳になんのかな……?」

 

 

 凄じい剣幕のラディッツに、驚いた表情を浮かべながらも悟空はラディッツの問いに答える。

 それを聞いていたバーダックはポツリと口を開く。

 

 

「という事は、そのガキが王家の末裔って事になんだな……」

 

 

 バーダックの言葉に首を傾げる悟空。

 

 

「まつえい? なんだそれ……?」

「……はぁ、末の血族……、つまり血筋的に一番若い奴の事だ……。

 家で言ったら、お前の息子のゴハンがそれに当たるな……」

「へー!!!」

 

 

 悟空からの質問に、呆れた表情を浮かべながらも律儀に答えるバーダック。

 そして、バーダックのおかげで1つ賢くなった悟空は、感心した様な声を上げる。

 そんな悟空に、「はぁ……」と溜め息を吐くバーダック。

 

 続いて、もう1人の息子に目を向けるバーダック。

 そして、再び呆れた様な表情を浮かべ「はぁ……」と溜息を吐いて、口を開く。

 

 

「おい、ラディッツ!! テメェもいつまで惚けてやがんだ!!!」

「え?」

 

 

 バーダックの言葉に少し驚いた様な表情を浮かべた悟空は、隣に視線を向ける。

 そこには、呆けた様な表情でブツブツ1人言を言っているラディッツの姿があった。

 

 

「ベジータに子供……、サイヤ人の王子……、ベイビー……」

 

 

 ラディッツの姿を見た悟空は、スクッと立ち上がる。

 悟空はラディッツに近づくと、腕を振り上げる。

 

 

「よっ!」

 

 

 振り上げた腕で、ポカッ!と軽くラディッツの頭を叩く悟空。

 

 

「はっ! ベジータに子供が生まれたとか、そんな幻聴が……」

「幻聴じゃねぇよ……。 いつまで、現実逃避してんだ……、テメェは……」

 

 

 現実世界に帰還したラディッツだったが、ベジータに子供が出来た事がそんなにショックだったのか、なかなかその事実を受け入れられないでいた。

 だが、いつまでも現実逃避をしている息子に、バーダックが呆れた様な声を上げる。

 

 

「うぐっ……」

 

 

 バーダックの突っ込みを受けたラディッツは、車に轢かれたカエルの様な声を上げる。

 そんなラディッツの様子に、悟空は過去の自分の事を思い出し声を上げる。

 

 

「まぁ、オラも気持ちは分からなくねぇなぁ……。

 実際、初めて聞いた時は、オラもかなり驚いたかんなぁ……」

 

 

 そんな風に悟空が過去を思い出していると、ラディッツから声が掛けられる。

 

 

「おい、カカロット……」

「何だよ?」

 

 

 声をかけられた悟空が、ラディッツの方に視線を向ける。

 すると、そこには何かを言いたいのだが、上手く言えないと言った様子のラディッツの姿があった。

 だが、当然悟空にそんな事を察する機微など持ち合わせていない。

 

 ラディッツの様子に首を傾げる悟空。

 

 

「どうしたんだよ……?」

 

 

 悟空が改めてラディッツに声をかけると、彼の中で何かしらの踏ん切りがついたのか、真剣な表情を浮かべ口を開く。

 

 

「ベジータのガキは、ちゃんとあいつの……、あの超天才の血を……才能を受け継いでいるのか……?」

 

 

 ラディッツの雰囲気に何かしらの想いを察した悟空は、腕を組み過去の出来事を思い出す。

 ベジータの息子、トランクス……。

 悟空は、過去に2人のトランクスと出会っている。

 

 1人目は、自身を助ける為に悲惨な未来からやって来た青年。

 2人目は、まだ生まれて間もない赤ん坊。

 

 未来のトランクスを知っている悟空からしてみれば、赤ん坊のトランクスもきっと同じ潜在能力を持っているんだろうと予測はついた。

 だが、平和になった現代に生きるトランクスが、悲惨な未来を経験して死に物狂いで強くなった未来のトランクス程強くなるのかまでは正直分からなかった。

 だから悟空は、自身が思う素直な気持ちを口にする事にした……。

 

 

「どうなんだろうな……? オラがそいつと会った時は、まだ赤ん坊だったかんなぁ……。

 だけどよ、あいつの潜在能力は相当高いと思うぜ……。

 なんせ、ベジータとブルマのガキだからなぁ……。

 後はまぁ、そいつがベジータ……(や、未来のあいつ自身)みたいにしっかり修行するかどうかじゃねぇか……?」

 

 

 その言葉を聞いたラディッツは、少し安心した様な表情を浮かべる。

 そして、ポツリと口を開く。

 

 

「そうか……、そのガキなら……ベジータもなれなかった、超サイヤ人にもなれるかもしれんなぁ……」

「え?」

 

 

 ラディッツから突如飛び出した言葉に、驚いた様子で声を上げる悟空。

 そんな悟空に訝しげな表情を浮かべ、口を開くラディッツ。

 

 

「なんだ……?」

「いや、なれっぞ……。 超サイヤ人に……」

 

 

 問いかけるラディッツに、逆に困惑した様な表情を浮かべながら口を開く悟空。

 しかし、悟空の言葉をすぐに理解できなかったのか、間抜けな表情で口を開くラディッツ。

 

 

「は?」

 

 

 そんなラディッツの様子を見て、悟空は再び口を開く。

 

 

「だから、ベジータもなれるんだって、超サイヤ人に……。

 まぁ、あいつが超サイヤ人になれる様になったのは、オメェが死んだ……」

「何だとぉーーーーーっ!!?」

 

 

 悟空の言葉を遮る形で、大声を上げるラディッツ。

 そのあまりの声量に、近くにいた悟空は思わず両手で耳を塞ぐ。

 

 

「オメェ、さっきから何なんだよ!!

 そんなに、ベジータが超サイヤ人になれる様になった事が意外だったんか……?」

 

 

 両手で耳を塞いだ悟空は、ラディッツに批難する様な眼を向ける……。

 そんな息子達に、バーダックがやれやれと言った感じで首を振り、口を開く。

 

 

「まぁ、こいつの驚きは、分からんでもねぇな……。

 お前は知らんかもしれんが、超サイヤ人てのは、オレ達サイヤ人にとっては、正しく伝説の存在なんだよ……。

 そいつになれるって聞けばなぁ……」

「だからって、ちょっと驚きすぎだろ……」

 

 

 バーダックの言葉に、悟空は少しむくれた様な表情を浮かべる。

 自分達を棚に上げて会話をしている父と弟に、バッ!と振り返るラディッツ。

 

 

「ええい、黙れ!! その伝説を体現している、規格外の者共よ!!!」

 

 

 バーダックと悟空をビシッ!と指差さし、更に言葉を続けるラディッツ。

 

 

「大体何なのだ!! 超サイヤ人とは1000年に1人の伝説の存在ではないのか!?

 それなのに、ここ数年で3人も誕生しているではないか!!!」

「オラの息子の悟飯も超サイヤ人になれるから、4人だぞ!!(本当は、未来のトランクスも入れれば5人だけど……)」

 

 

 怒りの声を上げるラディッツにツッコミを入れる悟空。

 そんな悟空に、ギロッと鋭い視線を向けるラディッツ。 

 

 

「やかましいっ!!!」

「おおぅ!?」

 

 

 ラディッツの怒声に、思わず顔を引き驚きの声を上げる悟空。

 そんな2人の耳に、ポツリと呟かれた声が聞こえる。

 

 

「伝説の戦士、超サイヤ人なぁ……」

 

 

 声に反応した悟空とラディッツが揃って向けた視線の先には、顎に手を当て何かを考えているバーダックの姿があった。

 バーダックは悟空達の視線など無視して、更に口を開く。

 

 

「なれる様になってみれば、別に言う程の伝説でもねぇな……」

 

 

 そう言ったバーダックは、ラディッツに視線を向ける……。

 

 

「ラディッツ、お前が言ったその伝説の戦士ってヤツは、オレはその気になれば、サイヤ人であれば誰でもなれんじゃねぇかと思ってる……」

「なっ、何を……?」

 

 

 バーダックの言葉に、驚愕の表情を浮かべるラディッツ。

 だが、その反応も当然と言えば当然だろう。

 サイヤ人にとって、超サイヤ人の伝説とはそれほどまでに大きいのだ。

 

 かつての自分もラディッツと似た様な考えを持っていたので、バーダックもラディッツの気持ちはよく分かっていた。

 だが、今は違う……。

 そこで、自分と同じく超サイヤ人に目覚めたもう1人の息子に目を向ける。

 

 

「カカロット、お前はどう思う……?」

 

 

 バーダックからの問いに、悟空は腕を組み考える様な仕草を取る。

 悟空は、自身や周りの超サイヤ人に目覚めた者達の事を思い出し、考えを纏める。

 

 

「うーん……、そうだなぁ……。 父ちゃんの考えはあながち間違ってねぇんじゃねぇか……?

 サイヤ人が修行を積んで、ある程度のレベルに到達して、切っ掛けを掴めば、誰でもなれんじゃねぇかな……」

「切っ掛け……」

 

 

 悟空の言葉を聞いたラディッツは、悟空の言葉を反芻する様に、その言葉を自身の口の中で転がす。

 そして、ラディッツの脳裏にフリーザ戦の光景がフラッシュバックする。

 その戦いで伝説の領域に足を踏み込んだ、弟の姿を……。

 

 あれは、一体何が切っ掛けだったか……。

 ラディッツは更にあの時の事を思い出すべく、自身の記憶を更に呼び起こす。

 そして、ついに思い出した……。

 

 1人の男がフリーザによって爆殺された光景を……。

 そして、悲しみを超える怒りの咆哮を上げる弟の姿を……。

 その時、ふと思い出した……。

 

 あの時、誰かに言われた言葉を……。

 

 

『あの子はあの時、自分の許容量を超える怒りと悲しみに心が耐えきれなくなったんだ……。

 きっと、カカロットにとって、とても大切な仲間だったんだろうね……。

 その純粋な怒りが、カカロットに超サイヤ人への扉を開いたんだよ……きっとね……』

 

 

 その言葉を思い出した時、ラディッツはハッ!とした表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「怒りか!!」

 

 

 悟空とバーダックはラディッツの言葉に共に頷く。

 そして、バーダックは再び口を開く。

 

 

「サイヤ人達が、超サイヤ人を伝説なんてモノとして捉えてんのは、要は、サイヤ人の中にめったに超サイヤ人に覚醒出来るだけの戦闘力を有している者がいねぇからだ……。

 だが、それだったら、なれる様になるまで自分自身を鍛え上げればいい……。

 オレも、カカロットも、そして、王子もそうして来たんだからよ……。

 あとは、まぁ、切っ掛けを掴めるかどうかだな……」

 

 

 その言葉を聞いたラディッツは神妙な表情を浮かべ、口を開く。

 

 

「自分自身を鍛える……、純粋な怒りか……」

 

 

 自身の世界へ閉じこもったラディッツを他所に、今のバーダックの言葉に気になった事があったのか、今度は悟空が口を開く。

 

 

「なぁ、サイヤ人って自分を鍛えたりはしねぇのか……?」

 

 

 悟空からしたら自身を鍛える修行は、ライフスタイルの一部だし、ベジータも地球に来てからは常に修行に明け暮れていたので、サイヤ人はそういうモノだと思っていたのだ。

 だが、どうもバーダックの話を聞いていると、違った様に感じたのだ。

 悟空の問いを受けたバーダックは、少し考えた様な素振りをした後、口を開く。

 

 

「そうだな……、サイヤ人は戦闘民族だから、当然戦闘訓練は行う……。

 だが、自分自身を高める様な修行はしねぇな……。

 サイヤ人は生まれながらに、そこそこの戦闘力を持って生まれて来やがるからな……。

 だから、持って生まれた力にやたら自信をもってやがんだ……」

「へー……、そう言えば、初めてベジータに会った時もそんな感じだったなぁ……」

 

 

 バーダックの言葉を聞いた悟空は、初めて会った時のベジータの様子を思い出す。

 悟空の口から飛びだした名に、バーダックはベジータが幼少期の頃、惑星ベジータで聞いた噂を思い出した。

 

 

「王子は歴代の王族の中でも、特に才能が抜きん出てやがったらしいからな……。

 そいつを考えると、王子がそんな風になんのは、ある意味当然と言えば当然だろう……」

 

 

 3人がこんな風に会話を続けていると、ギネが料理を抱え笑顔でやって来た。

 

 

「お待たせーーーっ!!!」

 

 

 ギネは、テキパキと料理を机に並べていく。

 サイヤ人4人分の料理となると、流石に量が多く、机の上はすぐに料理でいっぱいになった。

 

 

「おぉ!! 美味そうだなぁーーーっ!!!」

 

 

 並べられた料理を見て、悟空は眼をキラキラと輝かせる。

 

 

「えへへっ……、今日は普段より腕によりをかけて作ったからね!! 3人ともたーんと召し上がれ!!!」

 

 

 悟空の言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべるギネ。

 ギネの許しが出た事で、悟空は即座に箸を掴み料理へと手を伸ばす。

 そんな悟空の様子を、どこか緊張した様子で見つめるギネ……。

 

 料理に眼を奪われた悟空は、そんなギネの様子に気づく事なく箸で掴んだ料理を口へ運ぶ。

 モグモクと咀嚼していた悟空が、ごっくんと飲み込む。

 次の瞬間、悟空はニカッ!と太陽の様な笑顔をギネに向ける。

 

 

「母ちゃん、料理うめぇんだな!!! 滅茶苦茶美味ぇぞ!!!」

 

 

 悟空の言葉に、ギネはホッ……と胸を撫で下ろすと、3人と同じ様に料理に向かって手を伸ばす。

 卓上は、3人のサイヤ人の戦士によって料理を奪い合う戦場と化していた。

 遅れたら、自分の食べる分がなくなると、判断したギネも、他の3人に負けない様に箸を動かす。

 

 女だろうとサイヤ人……、普通の人より食う量は多いのだ……。

 そうやって、初めての親子4人での食事の時間は穏やかに過ぎていった……。

 ギネは地獄に来て、今日程幸せだと思える日は無かった……。

 

 そして、こんな時間がいつまでも続けばいいと思った……。

 だが、どんなに願おうと、何事にも終わりはやって来る……。

 

 

 

「カカロット……、もう帰っちゃうのかい……?」

 

 

 家の前で、悟空に悲しそうな表情を向けるギネ。

 そんなギネに、何処かすまなそうな表情を向ける悟空。

 

 

「ああ……、流石にいつまでもここにいる事は出来ねぇかんなぁ……。

 それに、界王様も待ってるだろうし……」

「そうだよね……」

 

 

 ギネも悟空の言わんとしている事は、よく分かっているのだ……。

 本来天国の住人である悟空が、地獄にいる事自体あまり許される事ではないのだ……。

 だが、それでも……、ようやく親子として過ごす事が出来る様になったのだ……。

 

 それが、もう終わりだという事が、ギネの胸を強く締め付ける……。

 表情を暗くしたギネは自然と俯く……。

 そんなギネに悟空は、静かに言葉をかける……。

 

 

「また、会えっさ……」

「え?」

 

 

 ギネが顔を上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべた悟空の姿があった……。

 

 

「そう簡単には来られねぇだろうけど、また必ず母ちゃんに会いに来るさ……」

「本当かい!?」

 

 

 悟空の言葉を聞いたギネは、何処かすがる様に悟空を見つめる。

 そんなギネに悟空は、笑みを浮かべ力強く頷く。

 

 

「ああ!!」

 

 

 その言葉で、ギネの表情に再び笑みが宿る。

 そんなギネを見て、悟空は感慨深そうな表情でポツリと呟く……。

 

 

「オラが本当の母ちゃん達に会えたって聞いたら……、じいちゃん驚くだろうな……」

 

 

 今日本当の両親や兄弟と過ごして、自分も人の子だったのだなぁ……と漠然と思った悟空。

 その時、ふと自分が子供の時の事を思い出した……。

 まだ、自分の世界がパオズ山の中だけで完結していたあの頃……。

 

 悟空の日常には、常に1人の人物が側にいた……。

 その人物こそ、地球に飛来したサイヤ人の遺児……カカロットを拾い、地球人孫悟空として育てた男……孫悟飯だった……。

 孫悟飯は高齢だった為、悟空を実の孫の様に可愛がり、時に厳しく育てた……。

 

 悟空もそんな祖父の事が大好きだった……。

 だが、とある悲劇で祖父は帰らぬ人となってしまった……。

 しかし、祖父は死して尚、自分を心配してあの世から様子を見る為に帰って来てくれたり、チチと結婚する時に八卦炉に訪れた際は、結婚を本気で祝福てくれた上に、問題可決に力を貸してくれた。

 

 今の孫悟空があるのは、間違いなく祖父孫悟飯のおかげである……。

 初めて実の家族と過ごして、もう1人の大切な家族を思い出した悟空だった……。

 

 

「じいちゃんって、あんたを拾って育ててくれた人かい……?」

 

 

 悟空の言葉が聞こえていたギネは、悟空へ問いかける。

 そんなギネに笑みを浮かべ、口を開く悟空。

 

 

「ああ、そうだ!!」

「ねぇ、カカロット……。 その人は、今どうしてるんだい……?

 あんたの話じゃ、既に死んでしまってるんだろ……?

 その人も天国にいるのかい……?」

 

 

 悟空の言葉を聞いて、ギネはずっと気になっていた息子を育てた人物の事を問いかける……。

 

 

「ん? じいちゃんか……? じいちゃんは今、杏仁様のトコでアルバイトしてんだ!!」

「杏仁様……?」

 

 

 聞いた事が無い名前に、首を傾げるギネ。

 そんなギネに再び口を開く悟空。

 

 

「そうだ! あの世と現世の境目にある五行山って所に、八卦炉ってのがあんだけど、そいつの管理をしてる人だ」

「へー、よく分かんないけど、偉い人だってのは分かったよ!!」

 

 

 悟空からの説明を聞いても、聞いた事が無い土地や名前が出て来て、よく分からなかったので、素直に口にするギネ。

 こういう所は、悟空とよく似ていた。

 いや、悟空が彼女に似たのだろう……。

 

 悟空は、ふと何故母が祖父の事を聞いたのか気になったので、聞いてみる事にした。

 

 

「でも、母ちゃんは何で、じいちゃんの事なんて聞いたんだ……?」

「えっ? だって、あんたを育ててくれた人なんだろ……?

 だったら、あたしには、あんたの母親としてその人に礼を言う必要があるのさ!!」

 

 

 悟空の問いに、さも当然だろ?といった表情を浮かべるギネ。

 そこで言葉を切ったギネは、少し言いづらそうに口を開く……。

 

 

「ねぇ、カカロット……、その人に会う事って出来るかな……?」

 

 

 ギネの言葉を聞いた悟空は、少し考えた素振りを見せた後、口を開く。

 

 

「うーん、だったらよ……、今度じっちゃんのトコ連れてってやるよ!!」

「えっ!? いいのかい!?」

 

 

 名案と言った感じで口を開いた悟空に、驚きの表情を向けるギネ。

 そんなギネに、笑顔を向ける悟空。

 

 

「ああ!! って、あれ……? でも、地獄の人間を地獄から出していいんか……?」

「あ……」

 

 

 ギネを五行山に連れて行くつもりだった悟空だったが、ギネが地獄の住人だった事を思い出す。

 そして、ギネも悟空同様、自身が地獄の住人であった事を忘れていた。

 2人の間に、どうしよう……といった雰囲気が流れるが、それも束の間、悟空が再び口を開く。

 

 

「ま、閻魔のおっちゃんにでも聞いてみっか……。

 もし、ダメだったらじっちゃんに地獄に来て貰えばいいんだろうし……」

「ははっ……。 そうだね!!」

 

 

 他力本願な悟空の言葉に、ギネは思わず笑い声を上げる。

 そして、その後も短いながらも何気ない会話を続ける母と息子……。

 だが、ついに別れの時がやって来た……。

 

 

「さて、そんじゃオラはそろそろ戻るとすっかな……」

「そっか……。 死人に言う事じゃないけど、元気でね……!! カカロット……」

 

 

 悟空の言葉に、未だ寂しそうな表情を浮かべるギネ。

 だが、再会の約束があるからか、先程までに比べると幾分かギネの表情は明るかった。

 

 

「ああ!! 母ちゃんもな!!!」

 

 

 ギネの言葉に力強く頷いた悟空は、後ろに控える2人に目を向ける。

 ラッディツは、悟空と視線が合うと、「フン!」と視線を逸らす。

 そんなラディッツに、「ははっ……」と苦笑いを浮かべる悟空……。

 

 そして……。

 

 

「また闘ろうぜ……、カカロット……!! 次はオレが勝つ!!!」

 

 

 悟空と目が合ったバーダックは、不敵な笑みを浮かべ、再戦を申し込む。

 そんなバーダックに悟空も、同じく不敵な笑みを浮かべ口を開く……。

 

 

「ああ!! もちろんだ!!!

 じゃあな、母ちゃん、ラディッツ……、そして、父ちゃん!!!」

 

 

 二カッ!と笑顔を浮かべながら別れの挨拶を告げると、悟空の姿は風を切り裂くような音と共に、地獄から消える……。

 フリーザの凶行によって引き裂かれた、サイヤ人の家族の再会はこうして終わりを告げた……。

 だが、彼らはこうして再会する事が出来た……。

 

 今度はそう遠くない未来に、彼らはまた再会を果たすのだろう……。

 今日みたいに互いに笑みを浮かべながら……。




ブログサイトの方で新章「サイヤ人の悪魔編」の1話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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サイヤ人の悪魔編
サイヤ人の悪魔編-Ep.01


お久しぶりです。
ようやく、新章の投稿が出来る事となりました。
楽しんでいただけると嬉しいです。


 皆さんは、「パラレルワールド」と言う言葉をご存知だろうか?

 もしくは、「並行世界」または「ifの世界」や「可能性の世界」と呼ばれていたりする。

 上記に挙げた様に呼び方は様々ではあるが、その意味は殆ど同じである。

 

 つまり、「選択」や「場合」によってはあり得たかもしれない世界という事だ。

 今回の物語はこのパラレルワールドからスタートする。

 始まりの舞台となったのは、これまでの物語に登場した悟空やバーダック達……地獄からの観戦者達とは異なる世界の地獄。

 

 その男は、地獄の1番奥底……もっとも厳重な牢に幽閉されていた……。

 

 

「お疲れー、交代だオニ」

 

 

 牢の前で番をしていた赤鬼に向かって、交代にやって来た青鬼が声を掛ける。

 赤鬼は青鬼に顔を向ける。

 

 

「ようやく交代の時間オニか……」

 

 

 自分の腕の時計を確認しながらも、ようやく任務が終了した事に「ほっ……」とした表情で安堵の声を上げる赤鬼。

 なぜ彼がここまで安堵の表情を浮かべているのかというと、それは、現在彼らがいる場所に理由があった。

 ここは、地獄の最下層……。

 

 生前、そして死後に悪行の限りを尽くした凶悪な罪人が収容される最後の場所。

 この最下層の牢に閉じ込められたが最後、2度と外へ出てくる事は出来ない。

 その魂が擦り減るまで、未来永劫、魂と身体を特殊な鎖に繋がれ、死者には絶対に破壊できない牢で過ごしていかなければならない。

 

 つまり、ここ地獄の最下層は、凶悪な罪人達が収容されている事もあり、いかに特殊な鎖や牢で安全だと分かっていても、恐ろしい事この上ないのだ。

 特に、現在赤鬼と青鬼がいる場所は、つい昨日ここに収容された罪人の牢の前だった。

 それも相まって、見張りをしていた赤鬼は、見張り中いつその罪人が牢から飛び出して来るのではないか?と気が気ではなかった。

 

 

「罪人はどうしているオニ?」

「大人しいモンオニ……。 本当に昨日まで暴れていたヤツとは思えんオニ……」

 

 

 交代にやって来た青鬼が尋ねると、赤鬼は肩を竦めて扉のある部分を指差す。

 指の先には、牢に備え付けられたドアに設けられたスライド式の覗き窓だった。

 青鬼は、板をスライドして覗き窓から中を覗き込む、

 

 そこには、全身を鎖で封じられた長身の男の姿があった……。

 

 

「眠っているオニ……?」

 

 

 身動きしない男の様子に、青鬼は男が眠っているのか?と首を傾げる。

 だが、その時、項垂れていた男の首がゆっくりと起き上がる……。

 青鬼の両肩がビクッ!!と跳ね上がる。

 

 そして、とっさに青鬼は板をスライドさせ覗き窓を閉じる。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

「ど、どうしたオニ!?」

 

 

 突如息を荒げた青鬼に、赤鬼は驚いた表情を浮かべ口を開く。

 青ざめた表情の青鬼は、身体を震わせながら口を開く。

 

 

「う、動いた……」

「え?」

「だ、だからヤツが動いたオニ!!」

 

 

 青鬼から飛び出した言葉が理解出来なかった……、いや、したくなかった赤鬼は首をかしげて再度問いかける。

 気が動転している青鬼は、赤鬼の態度など気にする事なく、慌てたように口を開く。

 そんな青鬼に、ジト目を向ける赤鬼。

 

 

「いや、そりゃ動くオニ……」

 

 

 鬼達がそんな風に牢の前で騒いていると、突如牢の中から声が聞こえて来た……。

 

 

『うぅううううぅ……っ』

 

 

 地を震わす様な唸り声に、騒いでいた鬼達は肩をビクッ!!と奮わせると、揃って、そろーっと牢の方へ目を向ける。

 すると、再び牢の中から声が聞こえて来た……。

 

 

『ぐぅううう……っ』

 

 

 この地獄の最下層に投獄され、呻き声を上げている男こそが、今回の物語の中核と成る存在だった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 牢の中で、男は静かに目を覚ます……。

 その瞬間、僅かに痛みが走り思わず声を上げる……。

 

 

「うっ……」

 

 

 目を覚まし首を上げようとした時、何か音がした様な気もするが、男にとってそんな事はどうでもよかった……。

 男は自身の身体に目を向ける……。

 そこには、傷だらけの身体があった……。

 

 そして、自身の全身を覆い隠すように拘束する鎖が目に入る……。

 

 

(オレは……、捕まったのか……?)

 

 

 男は未だハッキリしない思考で、漠然とそんな事を考える……。

 そして、どうしてこんな事になったのか思い出すべく、自身の最後の記憶を探る。

 

 

(オレは確か……)

 

 

 未だ頭がハッキリしない状態で、男は少しずつ自身の過去を思い出す。

 

 

 

☆ 時は昨日へと遡る……。

 

 

 

 男は気が付いたら、自身の目の前に巨大な机に座った巨大な赤い男がいた。

 だが、男は何故自分がこんな所にいるのか分からなかった……。

 そして、今は何故だか思い出せないが『自身はこんな所にいる場合ではない……。 あの男との戦いはまだ終わっていない!!!』という強い想いが湧き上がったのを覚えている……。

 

 赤い男は男のその想いを阻む者だった……。

 それに気付いた瞬間、男は赤い男に向かって飛び出していた……。

 

 

「おぉおおおおーーーっ!!!」

 

 

 凄まじいスピードで、赤い男との距離を詰めた男は問答無用で拳を繰り出す。

 しかし、男が繰り出した拳が赤い男にヒットしようとした瞬間、男の見ていた景色が一瞬にして切り替わった。

 より正確に言えば、自身を除いた全てのモノが数瞬前とは異なっていた。

 

 赤い男や周りにいた鬼達も、全ての存在が男の周りから消えていた。

 男は何事だ!?と言った風にあたりを見回す。

 だが、辺りには人っ子1人いやしなかった。

 

 何故なら、男がいる場所は荒野だったからだ……。

 男は、自身を突き動かす『ある男を殺す』という想いに突き動かされ、即座に行動を起こす。

 男はふわりと浮き上がると、全身に真っ白いオーラを身に纏う。

 

 次の瞬間、凄まじいスピードで空を飛翔する。

 しばらく、飛翔していると小さな集落が見えて来た。

 男は、そこへ降り立つ。

 

 突如集落に来訪した男に、集落の住人が話しかける。

 

 

「おまえ、何処の集落の者だ……?」

 

 

 声をかけて来た集落の者に、男はギロリと視線を向け口を開く。

 

 

「ここは、何処だ……?」

 

 

 男は集落の者に問いかける。

 すると、集落の男は不思議そうに首を傾げ、口を開く。

 

 

「何処って、ここは地獄の北の地区の集落だ……」

「地獄……」

 

 

 男は集落の男が告げた内容を反芻するように、ポツリと呟く……。

 その言葉を理解した瞬間、男は眼の前のカスは何をフザケた事を言っているのかと思った……。

 思わず、眼の前のカスを殺してしまおうかと思った瞬間、男の視界にとあるモノが映り込む。

 

 男の視線の先、正確には集落の者の頭の上……、そこに輪っかが存在したのだ。

 それを視界に収めた瞬間、男の中で嫌な予感が湧き上がる……。

 だからこそ、男は確認する必要があった……。

 

 

「地獄というのは……、あの地獄か……?」

 

 

 ボソリと呟くように述べた男の言葉に、集落の者は不思議そうな表情を浮かべ口を開く。

 

 

「? お前が何を言いたいのか知らんが、地獄といえば死んだ罪人が行き着く場所だろ……?

 お前もそうなんだろ……? 頭にちゃんと輪っかがあるしな」

 

 

 集落の者が「ほれ」といった様子で、男の頭上を指差す……。

 男はゆっくりと自身の頭上に視線を向ける……。

 

 

「!?」

 

 

 それを確認した瞬間、男は眼を大きく見開く……。

 そこには、確かに集落の者が言った様に、集落の者と同じ輪っか……死者の証を示す、死者の輪が存在していた。

 その瞬間、男の中にこれまであやふやだった記憶が一気に蘇る……。

 

 因縁の男を殺す為に、宇宙を渡り、地球でその男の息子達と戦ったこと……。

 新惑星ベジータで、因縁の男と戦ったこと……。

 すべての始まりとなった、あの遠い幼い日のことを……。

 

 すべてを思い出した瞬間、突如男の全身から膨大な気の嵐が吹き出す……。

 

 

「■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 咆哮の様な叫び声と共に、これまで黒髪黒眼だった男の姿が、金髪碧眼へと変化する。

 

 

「うぉおおおおおーーーーーっ!!!!!」

 

 

 まるで黄金の巨大な柱と見紛うばかりの、膨大で暴力的なオーラを周りに振り撒き、地獄そのものを男の強大な力が大きく揺らす。

 揺れが落ち着いた時、男の周りには廃墟が広がっていた。

 先程まで話していた集落の者も、その他、ここで生活を続けていた者達も、跡形もなく消し飛んでいた。

 

 そんな、廃墟の中に男は1人立っていた……。

 

 

「■■■ッ■ォォォ……」

 

 

 憎しみを表情に浮かべながら、男はその名を口にする……。

 そして、再び男は猛スピードで地獄の空を飛翔する……。

 

 

「ふはははははーーーっ!!!」

 

 

 狂った様な笑い声を上げながら、飛ぶ男……。

 それからの男の行動は、ただただ凄まじかった……。

 目に映る全てのモノを、ただただ破壊して行った……。

 

 あの世では閻魔大王の権能が働いている間は、2度目の死を迎える事はない。

 何故なら、ここで言う2度目の死とは存在の喪失を意味するからだ……。

 存在が喪失してしまうと、誰の記憶からもその者の事が無かった事になるのだ……。

 

 だが、生前と同じ様に肉体に必要以上のダメージを受けたりすると、擬似的に死んでしまう。

 その場合は、再び閻魔大王がいる閻魔界に飛ばされる。

 何故こういう仕組みを採用しているかというと、地獄では、殺人を禁じているので殺しがあった時にすぐに把握する為なのだ。

 

 だが、今回はそれが裏目に出た……。

 男が地獄で暴れ回り、多くの地獄の住人を殺して回っているので、今や閻魔界は死者で溢れかえっていた。

 そして、その対応に閻魔大王をはじめ多くの鬼達が当たっていた。

 

 

「ええい! ■■■■め、好き勝手地獄で暴れおって!!!」

 

 

 閻魔大王は、ダン!と机を叩き、ここにはいない今回の騒動を引き起こした男に向かって悪態を垂れる。

 しかし、いくら悪態をつこうと状況が改善されるわけではない。

 閻魔大王は、自らを落ち着かせるべく静かに目を閉じる。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 深い深呼吸をしたの後、再び目を開く閻魔大王。

 

 

「しょうがない……、おい!」

「はいオニ!」

 

 

 閻魔大王に声を掛けられた鬼がビクッ!と震えた後、直立不動の姿勢をとる。

 そんな鬼に向かって、閻魔大王はこの状況を解決するべく指令を出す。

 

 

「あの世の達人の派遣を要請しろ!!!」

「はいオニ!!!」

 

 

 閻魔大王から指令を受けた鬼は、指令を遂行するべくダッシュでその場を後にする。

 

 

「これで、一先ずはなんとかなるであろう……」

 

 

 あの世の達人には、強力な使い手達が多く存在する。

 彼らであれば、今回の事件の元凶も何とか対処できるであろう……と考える閻魔大王。

 

 

(まぁ、いざとなったらワシが出るしかないのだろうが……。

 ワシの身に何かあったら、あの世そのものが立ち行かなくなる……。

 それを考えれば、迂闊には出ていけん……。

 ワシにまで出番が回って来んといいのだが……)

 

 

 口には出さないが、自らも戦いに赴かねばならない事を内心で考えつつも、閻魔大王は今回の事件に直接ではないが大きく関わる男の事を思い浮かべる。

 そして、幸か不幸かその男もあの世に存在していた。

 閻魔大王は、今回の事件をどうにか出来るのは、その男しかいないと考えていた……。

 

 

「頼むぞ、■■■……」

 

 

 希望と願いを込めて呟かれたその声は、誰に拾われる事なく静かに消えていった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

  爆煙が空へと立ち昇る中、狂った笑い声が地獄の空を響き渡る。

 

 

「ふはははーーーっ!!!」

 

 

 笑い声を上げている男は、自らが滅した集落の様子を満足そうに見下ろしていた。

 その様はまるで、悪魔の様であった……。

 その時、ふと悪魔の視界にとあるものが映り込む。

 

 

「ん?」

 

 

 悪魔の視線の先には、集落の生き残りらしい者達が、必死に逃げている姿があった。

 その必死に逃げている様に悪魔は、ニヤァ……と笑みを浮かべる。

 

 

「虫ケラが……、まだ生きていたか……」

 

 

 悪魔は逃げている人達に向かって、右掌を向ける。

 すると、悪魔の右掌に緑色のエネルギーの塊が顕現する。

 悪魔は狂気の笑みを浮かべたまま、問答無用で右掌に顕現したエネルギーの塊をエネルギー弾として打ち出す。

 

 悪魔が放ったエネルギー弾は凄まじい速度で、逃げる人々に近づいて行く。

 もうすぐ、恐怖と絶望に染まった悲鳴が上がると思った悪魔は、更に笑みを深める。

 しかし、悪魔の思惑は外れることになる。

 

 

「む?」

 

 

 悪魔が放ったエネルギー弾が、後僅かで逃げる人達にヒットしようとした瞬間、突如現れた別のエネルギー弾によって悪魔のエネルギー弾が吹き飛ばされたのだ。

 目の前で起こった事態に、僅かに顔を顰める悪魔。

 だが、その時悪魔の後ろから、男の声が響き渡る。

 

 

「やめろ!! ■■■■!!!」

 

 

 その声を聞いた、悪魔は弾かれた様に後ろを振り返る。

 

 

「■■■■■ッ!?」

 

 

 そこには、悪魔が殺したくて殺したくてしょうがなかった、因縁の男の姿があった。

 

 

「オメェ、地獄に落ちても、まだこんなことを続けてんのか?」

 

 

 怒りで顔を険しくした因縁の男は悪魔を睨みつけながら、口を開く。

 だが、悪魔にとってもはや男の言葉は耳に届いていなかった。

 何故なら、自分が殺すと決めた宿敵とようやく相見える事が出来たからだ……。

 

 狂気に染まった悪魔の中で、憎悪と歓喜が爆発する……。

 その瞬間、地獄を悪魔の気が蹂躙する……。

 

 

「うぅう……、■■■■■……、■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 地獄全土を覆い尽くすほどの強大な力をその身から爆発せる悪魔。

 その瞬間、悪魔の身体がこれまでとは比較にならないデカさに膨れ上がる。

 全身が3mを優に超え、筋肉の鎧を身に纏い、眼は碧眼が消え失せ白眼と化した異質な姿。

 

 そして、暴力的までに破壊のオーラを身に纏ったその姿は、暴力と破壊の化身だった。

 その姿を、悪魔の父親は、かつてこう評した……「伝説の超サイヤ人」と……。

 伝説の超サイヤ人となった悪魔は黄金のオーラを吹き出し、身に纏うと同時に、男に向かって猛スピードで飛び出す。

 

 男から発せられる凄まじい気の圧に、思わず顔を顰める男。

 

 

「くっ!!」

 

 

 突っ込んでくる悪魔同様、男も即座に黄金のオーラを身に纏い、それまで黒上黒眼だった姿を金髪碧眼へ変える。

 悪魔と男の因縁の戦いが、地獄を舞台にして再び繰り広げられる。

 彼ら2人は互いに、同じ種族であった事もあり、戦闘を生業とする一族。

 

 その戦いは、かつてない程激しいモノとなった。

 伝説の壁を2つ超えた姿だで戦う男と、同じく伝説だが突然変異と言っても過言ではない異質な姿で戦う悪魔。

 互いが持てる力の全てを使って、この戦いに望んだ……。

 

 そして、ついに戦いに決着が着こうとしていた……。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

 長時間の戦いで、ついに男の姿が金髪碧眼から黒髪黒眼へと戻る。

 両肩を大きく揺らしながらも、まだ勝負を諦めていないと言った様に、真っ直ぐ悪魔を睨みつける男。

 そんな、男に向かって、悪魔は狂気を含んだ笑みで口を開く。

 

 

「よく頑張ったが、とうとう終わりの時が来た様だなぁ……」

 

 

 そう言って、悪魔は左掌を男に向ける。

 すると、左掌に高密度の緑色のエネルギーの塊が顕現する。

 そこに込められたエネルギー量は、星一つを優に破壊する程、強大なモノだった。

 

 

「くっ!」

 

 

 眼の前で今なお威力を増す、エネルギーの塊に思わず顔を顰める男。

 そんな男に向かって、ついに悪魔は戦いに終止符を打つべく、最後の一手を繰り出す。

 

 

「終わりだぁ!!!」

 

 

 悪魔が狂気の笑みを浮かべ、掌からエネルギーの塊を解き放とうとした瞬間、それは起こった。

 

 

ーーーバシュ!バシュ!バシュ!バシュ!

 

 

 なんと、大地から4本の鎖が突如飛び出してきたのだ。

 そして、瞬時に悪魔の四肢に絡みつき動きを止める。

 

 

「なにぃ!?」

「あれは!?」

 

 

 とっさの事態に、驚きの声を上げる悪魔と男。

 悪魔は、鎖から逃れようと必死で両手足を動かす。

 

 

「ぐぅ!!がぁ!!こ、こんなもの!!!」

 

 

 しかし、いくら悪魔が暴れようと、鎖が千切れるどころかヒビ1つ入る事はなかった。

 そんな悪魔を未だ事態が把握し切れていない男は、唖然とした様子で見つめていた。

 そんな時、男の心に閻魔大王からのテレパシーが届く。

 

 

(■■!! 聞こえるか!?)

「その声は、閻魔のおっちゃんか!?)

 

 

 男は突如自身の脳裏に響いた声に、弾かれた様に反応する。

 そんな男を無視して、閻魔大王は用件を述べる。

 

 

(今、■■■■を封じている鎖は、魂の鎖と言ってな、肉体だけではなく魂をも縛る鎖なんじゃ!

 時間が掛かってすまんかった! 久しぶり過ぎて封印を解くのに時間がかかってしまってなぁ。

 とにかく、今のあいつは、まともに動く事が出来ん!

 決着をつけるなら、今じゃ!! 頼むぞ、■■!!!)

 

 

 若干早口で伝えられた内容に、残念ながら男は全てを理解する事は出来なかった。

 ただ、このチャンスを逃せば、悪魔を倒すチャンスは2度と無い事だけは理解する事が出来た。

 

 

「とにかく、あいつを倒すチャンスは今しかねぇって事だな!! よし!!!」

 

 

 男はキッ!と表情を引き締めると、全身に気を行き渡らせ一気に解放する。

 

 

「はぁっ!!!!!」

 

 

 掛け声と共に、男の全身からとてつも無い量の気が放出される。

 それと同時に、男の姿が再び金髪碧眼へと変わる。

 だが、それだけでは終わらない。

 

 

「はぁあああああっーーーーーっ!!!!!」

 

 

 このままでは悪魔を倒し切る事は出来ないと判断した男は、ボロボロの身体にムチを打ち再び限界まで力を引き出す。

 しかし、悪魔の方もただ黙ってやられるのを待つわけではない。

 男が悪魔を倒す準備にとりかかっている時間、悪魔の方もこの状況を脱する為に必死だった。

 

 

「ぐぅううう……、うぉおおおおおーーーーーっ!!!!!」

 

 

 自分を縛り付ける忌々しい鎖から脱する為に、更に力を上げる悪魔。

 それはそうだろう……。

 何故なら、ようやく悪魔にとって長年の悲願が達成されようとしているのだ。

 

 

 

ーーーピキッ!

 

 

 

 その音は、とても良く響き渡った。

 そして、その音によって、この場にいた2人の表情は一変する。

 男は驚いた表情を浮かべ、悪魔はニヤッ……と邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

(急げ、■■!! 信じられんが、ヤツは魂の鎖から逃れようとしておるっ!!!)

 

 

 男より先に事態を察した閻魔大王は、急かす様に男に声をかける。

 

 

「くっ!」

 

 

 閻魔大王の声を聞いた男は、表情を引き締め悪魔を倒すべく更に気を貯める。

 対する悪魔は、自分を縛る鎖を完全に破壊するべく、更に身体を大きく動かす。

 悪魔が動くたびに、鎖のヒビはどんどん広がっていく……。

 

 悪魔の四肢を縛る鎖は、最早限界に近かかった……。

 

 

 

ーーービキッ、ビキッ! バキン!!!

 

 

 

 ついに、悪魔の右手を封じていた鎖が立ち切れた。

 最早、悪魔が鎖から完全に開放されるのも、時間の問題だった。

 だが、ここで1人の英雄が立ち塞がる。

 

 幾度も、宇宙や自身が育った星を救ってきた、強く心優しき英雄が。

 

 

「はぁああああああっ!!!」

 

 

 男の掛け声と共に、男の全身を凄まじい量の黄金のオーラが包み込む。

 男は自身が持てる全ての力を解放し、それを左手に集約させる。

 男の左手が眩い光に包まれる。

 

 そして、男は悪魔に向かって凄まじい速さで飛び出す。

 自身に近づく男の姿を捉えた悪魔は、対処する為に、即座に鎖の破壊をやめ、男を迎え撃つべく、解放された右手で拳を作る。

 一瞬で距離を詰める両者……。

 

 2人の視線が……、交差する……。

 

 

「■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

「■■■■ーーーーッ!!!!!」

 

 

 互いの名を呼ぶ、悪魔と男。

 その光景は、いつかの焼き直しの様だった……。

 巨大彗星が近づき、星の寿命が残り僅かとなった時、彼らはかつて死闘を演じた……。

 

 あの時は、仲間や息子の力を借りた男の勝利で終わった……。

 そして、その時も彼らは最後に互いの力を拳に込めてぶつかった……。

 死して、2度目となった男と悪魔の因縁の戦い……。

 

 ついに、戦いの幕が降りようとしていた……。

 

 

「でぇあああっ!!!」

 

 

 悪魔が繰り出した鋭い一撃が、男に迫る。

 男はその一撃をしっかり見つめながら、尚も悪魔との距離を詰める。

 その表情には怯えや恐怖といった負の感情は、一欠片も見当たらなかった……。

 

 悪魔の拳が男の顔にヒットしようとした瞬間、男は僅かに顔を逸らす。

 あまりに鋭い悪魔の拳は、男の頬をスパッ!と切り裂き、男の頬から血が流れる。

 だが、そんな事を気にする余裕は男にはなかった。

 

 悪魔の拳を掻い潜った男は、ついに自身の間合いに到達する……。

 そして、自身の左腕を悪魔に向かって、思いっきり振り抜く……。

 

 

「許せねぇーーーーーっ!!!!!」

 

 

 最高にまで気を高めた男の左拳が、深々と悪魔のボディに突き刺さる……。

 そして、男の拳は悪魔の筋肉の鎧を深々と抉り抜く……。

 魂の鎖によって動きを封じられた悪魔は、為す術もなくその一撃をその身に受ける。

 

 男の拳に込められたエネルギーが、まるで波紋の様に悪魔の全身に行き渡る。

 そして、次の瞬間、身体全体を廻ったエネルギーが大爆発を起こし、悪魔の全身を粉砕する。

 

 

「ゔぅあかぁなぁあああああーーーーーっ!!!!!」

 

 

 断末魔の如き叫びを上げる悪魔。

 因縁の男の強烈な一撃により、ついに悪魔は倒される。

 地に倒れ臥した悪魔は、朦朧とした意識の中で、自分を倒した男に視線を向ける……。

 

 そこには、静かに……自身を見下ろしている因縁の男の姿があった……。

 

 

(な……、何故だ……? 何故……このオレが……あんな……カスに……、■■■■■なんかに……、また……しても……)

 

 

 言葉に出来ない想いを心に抱きながら、悪魔はゆっくりと目蓋を閉じる……。

 こうして、男と悪魔の因縁の闘いは終止符が打たれたのであった……。

 

 

 

☆ 時は再び現在へ……。

 

 

 

「ぐぅううう……」

 

 

 全ての出来事を思い出した男……、いや、悪魔は歯を食い縛り呻き声を上げる。

 悪魔の脳裏に、自身を撃ち倒した憎き男の姿が浮かび上がる。

 脳裏に浮かんだその姿に、思わず拳を握る悪魔。

 

 余りに力強く拳を握ったからか、悪魔を縛る鎖がギシッ!と音を立てる。 

 

 

(何故だ……? 何故ヤツを殺せない……!?)

 

 

 伝説の超サイヤ人の状態ではなく、魂をも縛る鎖によって封じられたせいか、普段よりか幾分か悪魔の思考は冷静に物事を捉えていた……。

 いつもそうだった……。

 力では間違いなく、自身が勝っているのに、最期には必ず自身が敗北している……。

 

 悪魔は自身が他の存在よりも突出した存在なのを、生まれた時から理解していた……。

 だからこそ、赤子の時とはいえ、自身を初めて負かした存在である、あの男の事が許せなかった……。

 そして、それはこれからも変わる事は無いだろう……。

 

 悪魔は何度も男を打ちのめした、だが男は何度も何度も立ち上がり自身に立ち向かって来た。

 その姿に、最初は悪魔も無駄な事をと鼻で笑っていた……。

 しかし、いくら倒れようと男の目からは戦う意志が消えたり、絶望の色が宿る事は無かった……。

 

 そんな男の姿に、悪魔はいつしか言いようのない苛立ちを感じていた。

 そして、気がつくと自身はいつも男に敗北していた……。

 実際に戦ったのは、今回を含めると2度だが、男の意志を継いだ子供達にも悪魔は敗れてしまった……。

 

 悪魔は訳がわからなかった……。

 自身が負ける要素は何一つ無いというのに……、何故負けてしまうのか……。

 悪魔はふと、自身の全身に目を向ける。

 

 今の悪魔は、戦いで使用された魂の鎖が四肢だけじゃなく、全身を拘束していた。

 しかも、強度も戦いで自身の四肢を封じたモノよりも頑丈になっていた。

 この鎖はそう簡単に破壊できない事を、今の冷静な悪魔は漠然と感じ取っていた。

 

 

(無様だ……)

 

 

 悪魔は、自身の今の姿にそう思わずにはいられなかった……。

 

 

(オレは、このまま終わってしまうのか……?)

 

 

 悪魔はふと、そんな事を考えてしまった……。

 今まで何者よりも強者であった悪魔は、自身の終わり等考えた事もなかった……。

 そんな悪魔が、初めて自身の終わりを考えてしまった……。

 

 

「これで……、終わり……?」

 

 

 ポツリと感情の抜けた声で悪魔が呟いた瞬間、悪魔の全身をこれまで感じたことがない悪寒が襲う。

 それは、恐怖だった……。

 終わりという事は、全てが無に帰すということだ。

 

 悪魔の思考がそこまでの答えを導き出したかまでは分からない。

 だが、悪魔の本能……、いや生物としての本能が自分という存在が消えて無くなる事に恐怖したのだ。

 その恐怖を抱いた瞬間、悪魔の中で様々な感情や記憶が駆け巡る……。

 

 そして、その様々な感情や記憶は一つの形となって、悪魔の中に集約する。

 それは、後悔だった……。

 その初めて湧き上がった感情は、悪魔の心をじわじわと締め付ける……。

 

 そして、問いかけるのだ……。

 

 

(お前はこのまま終わって良いのか……?)

 

 

 自身の心の中に響くその問いに、悪魔は身体を震わせる……。

 

 

「まだだ……、まだオレは終わってなどいない……」

 

 

 そう呟いた悪魔の脳裏に、因縁の男の姿が再び浮かび上がる。

 

 

「ギリッ……」

 

 

 思い出した男の姿に、苦々しい表情で歯を噛み締める。

 どこか虚だった悪魔の瞳に、再び光りが宿る……。

 それは、決して褒められた動機や感情では無いのだろう……。

 

 しかし、あまりに強い力を持って生まれたが為に、悪魔は幼少の頃より実の父親に力を封じられ、復讐の道具として生きてきた。

 悪魔には幼い頃より自由など、ましてや自身を理解してくれる者など存在しなかった……。

 そんな悪魔がただ唯一執着した存在、それこそが、因縁の男だった……。

 

 自由を奪われ、暗い感情によって育てられた悪魔に、唯一許された自由がそれだった……。

 それだけが、悪魔が己を奮い立たせる感情や想いとなった……。

 たった、それだけが悪魔の行動原理だったのだ……。

 

 まだ、何をすればよいのか定まってはいない……。

 だが、このまま終わるわけにはいかない……。

 ただ、そんな想いだけが悪魔を突き動かした……。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 悪魔は全身に力を巡らせる……。

 悪魔の黒い瞳が、碧眼へと変化し、垂れ下がっていた黒髪が、ブワッ!と逆立つと瞬時に黄金色へと輝く。

 そして、自身の後悔を消し去るべく、因縁の存在の名を口にする……。

 

 

「■■■■■……、■■■ッ■ォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 

 まるで、新たに自身の決意を世界に示す様に、悪魔は声を上げる……。

 黄金の超戦士へと姿を変えた悪魔は、更に力を解放する……。

 とてつもない気の嵐が、牢獄の中を荒れ狂う。

 

 

「うぉおおおおおーーーっ!!!!!」

 

 

 力の解放に伴い、悪魔の身体が膨れ上がり、筋肉の鎧を身に纏い、眼は碧眼が消え失せ白眼へと変化する。

 伝説の超サイヤ人へと化した悪魔の力の解放は止まらない……。

 しかし、自身を縛る鎖はビクともしない……。

 

 だが、そんな事では、今の悪魔は止まらない……。

 自身を縛り付ける障害を断ち切る為に、更に力を解放する悪魔。

 

 

「ぐぅおおおおおーーーっ!!!!!」

 

 

 彼らサイヤ人は感情の高まりによって、力を大きく上昇させる……。

 そんなサイヤ人の中でも、悪魔は規格外の潜在能力の持ち主だったと言えよう……。

 そんな悪魔が初めて、自身の意志で何かを変えるべく力を使おうとしていた……。

 

 その常軌を逸脱した超パワーは、地獄だけでなく、あの世全体……だけに止まらず、現世にも届いていた。

 そして、そのあり得ないパワーは、あり得ない現象を引き起こす……。

 

 

 

ーーーバチッ、バチバチッ!!!

 

 

 

 力を解放し続ける悪魔の近くで、何も無い空間にスパークが走ったのだ……。

 しかし、悪魔はそんな異常事態に気付く事は無かった……。

 

 

「がぁああああああああああーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 悪魔は咆哮と共に、更に力を解放する……。

 

 

 

ーーーピキッ!

 

 

 

 悪魔の力に耐えきれなくなったのか、ついに悪魔を拘束していた鎖にヒビが入る。

 1度入ったヒビは、どんどんその割れ目を広げていく。

 そして、ついにその時が訪れる……。

 

 

「だぁっ!!!!!」

 

 

 悪魔の掛け声と共に、ついに全身を拘束する鎖が勢いよく弾け飛ぶ……。

 

 

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」

 

 

 流石に破格の力を持つ悪魔と言えど、自身の魂までをも縛る鎖を断ち切るのは容易ではなかった。

 それは、そうであろう……。

 本来死人であり、悪人である悪魔はこの鎖を断ち切るのは絶対に不可能であるはずなのだ……。

 

 だが、そんな不可能すら悪魔は可能にしてしまった……。

 それは、悪魔の想いが今この時だけは純粋であったからだ……。

 純粋なる殺意……。

 

 恨みや憎しみなど、そういうドス黒い感情を一切排除したただ純粋なる想い、それが悪魔に奇跡を齎した……。

 力を使いすぎた悪魔は、伝説の超サイヤ人の姿を保つ事が出来ず、通常の超サイヤ人へとその姿を変える……。

 その時になって、悪魔は初めて自身の周りで起きた異変に気づく……。

 

 

「ん?」

 

 

 自身の背後から妙な感覚を感じ取った悪魔がゆっくりと振り返る。

 すると、そこには人1人程通れそうな、空間の歪のような穴が出来ていた。

 先程まで存在しなかった空間の歪みに、怪訝そうな表情を浮かべる悪魔。

 

 悪魔はやっくりとその歪みに近づく……。

 そして、歪みの前に立った悪魔は表情を一変させる……。

 

 

「感じる……」

 

 

 空間の歪みの前に立った悪魔は、その中からとても良く知った気配を感じ取る……。

 悪魔がじっとその穴を見ていると、徐々に穴が収縮していく。

 元々悪魔が放出した膨大な超パワーによって発生した偶然の産物……。

 

 どうやら、あまり長い時間穴を維持する事は出来ないようだ……。

 その状況を見た悪魔は、迷わず穴の中に身を投じる……。

 

 悪魔はこの地獄で、初めて恐怖と後悔を知った……。

 そして、自身の存在が消え失せるその時になって、初めて悪魔は思った事がある……。

 

 

(自分は何がしたかったのだろう……?)

 

 

 そう思った時に、悪魔の脳裏に思い浮かんだのは、やはり因縁の男の姿だった。

 男を倒すまでは、終われない……。

 何も成さずに消えるのは嫌だ……。

 

 悪魔は漠然とそんな事を思った……。

 これまで何も無かった悪魔だからこそ、自身の存在が消えるその時になって、初めて自身の望みを知る事が出来た。

 これまでは、サイヤ人の本能に呑まれ、自身のプライドを傷つけた男を殺す為に本能のまま暴れ続けた。

 

 だが、今は少しだけど悪魔は自身の事を知る事が出来た……。

 知る前と知った後、結局悪魔がやるべき事は変わらない……。

 だが、知っているのと知らないのとでは、その過程は大きく異なるものだ……。

 

 これは、その為の第一歩……。

 

 

「待っていろ、■■■■■……。 今度こそ、貴様を 血祭りにあげてやる!!!」

 

 

 空間の歪みに飛び込んだ悪魔は、ニヤリと笑みを浮かべ高らかに宣言する……。

 宿敵である因縁の男に、今度こそ引導を渡してやると……。

 

 これは、悲しい悪魔の変革の物語……。

 かつて伝説の超サイヤ人と言われ、本能のまま暴れまわった悪魔は新たな世界で再び因縁の男と相見える……。

 そこで悪魔は、新たな自分と出会う事になる……。

 

 だが、この時の悪魔……、伝説の超サイヤ人ブロリーは、そんな事等知る由もなかった……。




ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の2話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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サイヤ人の悪魔編-Ep.02

感想でみなさんの熱いブロリー愛をたくさん感じることが出来ました。
だけどごめんなさい。
ちょっと話の都合上、3話くらいラディッツとナッパのお話になります。
楽しんでいただけると嬉しいです。

次回はいよいよ50話!
せっかくなので、番外編で何か書こうかな?


 ここは、地獄。

 生前罪を犯した者達が行き着く、最終地。

 ここでは生前に犯した罪を償う為に、さまざまな悪人や罪人達が存在している。

 

 そんな場所で、現在2人の男が互いの拳を交えていた……。

 

 

「ふん!!!」

「オラァ!!!」

 

 

 1人は、腰まで届く黒髪を生やした長髪の男。

 もう1人は、スキンヘッドで体格の良い男だった。

 そして、彼らは互いに猿の尾に似た尻尾を腰にベルトの様に巻いていた。

 

 つまり、彼らは同じ一族の者だった。

 1つ断っておくが、現在彼等が拳を交えているのは決して争っているからではない。

 彼等が現在行っているのは、所謂組手、もしくは手合わせと呼ばれるものだ。

 

 2人が同時に放った拳が真正面からぶつかり合うが、元々の力量差からか長髪の男が後方へ吹っ飛ぶ。

 

 

「ちっ!」

 

 

 舌打ちしつつも空中で体勢を整え、地面に着地する長髪の男。

 しかし、長髪の男に安心している時間はなかった。

 何故なら、すぐ眼の前に拳を振りかぶったスキンヘッドの男の姿があったからだ。

 

 

「はあっ!!!」

 

 

 スキンヘッドの男は、長髪の男に向かって勢いよく拳を振り抜く。

 凄まじい速度の拳が、長髪の男に迫る。

 その拳が当たれば、ただではすまないと理解している長髪の男は顔を顰める。

 

 

「くっ!!!」

 

 

 長髪の男は咄嗟の事態に、歯噛みしながらも瞬時に決断を下す。

 なんと、長髪の男は後方へ退避するのではなく、敢えてスキンヘッドの男との距離を詰めたのだ。

 これには、スキンヘッドの男も一瞬驚いた様な表情を浮かべる。

 

 だが、次の瞬間ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「そんなに、死にてぇならこれでくたばれぇ!!!」

 

 

 スキンヘッドの男が繰り出した拳が、長髪の男の顔面にヒットするその瞬間、長髪の男は首を捻り薄皮一枚で拳を回避する。

 そして、そのままスキンヘッドの男との距離を更に詰め、ガラ空きとなったボディに右拳を叩き込む。

 

 

「ふん!!!」

「おぉっ!!!」

 

 

 カウンターの形で叩き込まれた拳の威力に、思わずスキンヘッドの男の口から苦悶の声があがる。

 だが、長髪の男の攻撃はまだ終わらない。

 ボディへ拳をたたき込んだ拍子に、僅かに下がったスキンヘッドの男の顎に向かって、アッパーを続け様に叩き込む。

 

 

「ぐぉっ!!!」

 

 

 アッパーを叩き込まれたスキンヘッドの男の身体が、後方へ吹っ飛ぶ。

 そこにチャンスを見出した長髪の男は、瞬時に自身の右手に力を集約させる。

 すると、長髪の男の右手が光に包まれバチバチッと凄まじい音を立てる。

 

 

「終わりだ!! ナッパ!!!」

 

 

 長髪の男は、右手に集約させたエネルギーをスキンヘッドの男……ナッパへ向け解き放つ。

 解き放たれたエネルギーは、塊となってナッパへ向かって凄まじいスピードで向かっていく。

 勝利を確信した長髪の男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 だが、事は男の思惑通りには進まなかった……。

 後僅かでエネルギー弾がナッパと呼ばれたすキンヘッドの男にヒットしようとした瞬間、一瞬早く空中で体勢を立て直したナッパがカパッと口を大きく開ける。

 すると、凄まじい威力のエネルギー波がナッパの口から放出される。

 

 そのエネルギー波は、長髪の男が繰り出したエネルギー弾を一瞬で飲み込み、そのまま長髪の男目掛けて凄まじい速度で突き進む。

 

 

「くっ!」

 

 

 そのあまりの早さに、避ける事が不可能だと察した長髪の男は咄嗟に防御の構えをとる。

 次の瞬間、ナッパが放ったエネルギー波は男を一瞬で飲み込む。

 閃光に飲み込まれた長髪の男の全身を、凄まじい衝撃とダメージが襲う。

 

 

「ぐぅあああーーーっ!!!」

 

 

 閃光が収まると、そこにはボロボロとなった長髪の男の姿があった。

 防御した事で何とか倒れる事なく、立ったままの姿だったが、それも束の間……。

 

 

「がはっ……」

 

 

 流石にダメージが大きかったのか、ドサッと地面に両膝を突き、そのまま前のめりに倒れ込む。

 

 

「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」

 

 

 倒れた長髪の男は、そのまま荒い呼吸を上げる。

 そんな男の元へナッパが、勝者の笑みを浮かべ悠然と近づく。

 

 

「はぁ……、はぁ……、惜しかったなぁ……、弱虫ラディッツ……。 下級戦士にしてはなかなかだったぜ!」

「はぁっ……、はぁっ……、くそっ……」

 

 

 

 ナッパの言葉を聞いたラディッツは苦々しい表情を浮かべ、悪態を垂れる。

 そんなラディッツの態度を「フン!」と鼻で笑い飛ばすナッパ。

 だが、ナッパの方もラディッツとの闘いでかなり疲弊していた為、かなり息が上がっていた。

 

 ナッパはじっと未だ倒れているラディッツを真剣な表情で見つめると、ラディッツの隣へドカッと座り込む。

 突然自身の隣に座ったナッパの行動に疑問を覚え、怪訝そうな表情を浮かべ首を動かしナッパへ視線を向けるラディッツ。

 そんなラディッツの視線に気付いているだろうが、無表情のまま視線を真っ直ぐ固定したまま遠くを見つめるナッパ。

 

 ナッパの意図が掴め無い為、こいつは何がしたいんだ?とラディッツが内心で首を傾げていると、隣に座ったナッパがラディッツへ視線を向ける事なく口を開く。

 

 

「聞かせろ……、ラディッツ……」

 

 

 ようやく口を開いたかと思ったら、突然ラディッツへ問いかけるナッパ。

 だが、当のラディッツはナッパが自身に対して何を聞きたいのか分からなかった。

 なので、ラディッツは思った事をそのまま返す事にした。

 

 

「何をだ……?」

「チッ!」

 

 

 ラディッツの返答が気に入らなかったのか、顔を顰め舌打ちするナッパ。

 そんなナッパの態度に、ますます訳が分からんといった表情を浮かべるラディッツ。

 ここに来て、ようやくダメージが抜けて来たラディッツは、起き上がるとそのままナッパの横に同じく座り込む。

 

 

「それで、お前は何が知りたいのだ……? ナッパよ……」

 

 

 仕切り直しとばかりに、今度はラディッツからナッパへ問いかける。

 ナッパは、チラリと一瞬ラディッツへ視線を向けると、再び目線を正面に戻す。

 よほど言いにくい内容なのか、中々話を切り出そうとしないナッパ。

 

 しばらく沈黙の時間が2人の間に流れる。

 いつまでも話し出しそうに無いナッパに、「はぁ……」と溜息を吐いたラディッツは静かに立ち上がる。

 

 

「用が無いなら、オレは戻るぞ……」

 

 

 そう言って踵を返し、歩き出すラディッツ。

 そんなラディッツの耳にポツリと声が聞こえて来た……。

 

 

「さっきの闘い……」

「ん?」

 

 

 ラディッツがその声に反応して、振り向く。

 だが、やはりこちらに視線を向ける事のないナッパの姿があった。

 ナッパはラディッツが自身の方を見ている事に気がついているのか、ラディッツに視線を向ける事無く、再び口を開く。

 

 

「昔のお前の力なら、オレとあそこまで闘う事は出来なかったはずだ……。

 いつの間にこれ程の力をつけやがった……」

 

 

 ナッパの言葉にラディッツは一瞬驚きの表情を浮かべる。

 だが、何故ナッパが今のような態度をとっているのか、直ぐに理解してしまった……。

 サイヤ人は戦闘民族故、戦闘力至上主義な部分がある……。

 

 ナッパは先程の手合わせで、格下だと思っていたラディッツに思っていた以上に苦戦を強いられてしまった。

 こんな事、互いが死ぬ前では有り得ない事だった。

 いや、それ以前にサイヤ人の歴史でも上級戦士がそれ以下の戦士と互角に戦う事など有り得ない事だった……。

 

 サイヤ人は生まれた時から、ある程度の戦闘力を有して生まれてくる。

 そして、生まれてすぐに素質を検査される。

 その時の数値が高い者が上級戦士となり、低い者は下級戦士やその他の職につく。

 

 言ってしまえば、生まれてすぐに人生の身分が決まってしまうのがサイヤ人の社会体系なのだ。

 一見すると随分乱暴な様な気もするが、実際生まれてすぐに戦闘力が高かった者は成長してからも優秀な戦士となり、結果を残す者が多かった。

 一部の例外を除いてその様な事実がある以上、現在の様な社会体系になっても可笑しくはない。

 

 それがナッパとラディッツが、育って来た世界だった……。

 しかし、その絶対ともいえる不文律が今崩れようとしていた……。

 いや、正確に言えば既にもう崩れていたのだ……。

 

 孫悟空ことカカロットやバーダックといった下級戦士によって……。

 だが、ナッパはそれを例外だと捉えていた。

 何故なら彼らは、過程は違えど共に伝説の領域へと至った存在だからだ。

 

 しかし、そんな例外と思っていた存在の他に、しかも昔から知り、自分より遥かに格下だと思っていた存在に善戦された。

 これには、今までサイヤ人の不文律を絶対だと思っていたナッパの価値観を揺るがすには十分だった。

 だが、これまでのプライドが邪魔してしまい、ラディッツに素直に聞く事が出来なかったのだ。

 

 それ故に、ナッパは今の様な態度をとってしまったのだ。

 ラディッツもかつてはナッパと同じ考えを持っていたが故、ナッパの今の気持ちが手にとる様に理解できた。

 しかし、今のラディッツは生まれた時の戦闘力が低くとも、上級戦士以上に強くなれる事を知っている。

 

 ラディッツは、かつての自分の様に未だサイヤ人の考え方に囚われているナッパへ向け口を開く。

 何故自分が変われたのか、その理由を……。

 

 

「なぁ、ナッパよ……。 お前3ヶ月前の親父とカカロットの闘いを覚えてるか……?」

「あん? 当たり前だろ!! あんなスゲェ闘い忘れようがねぇ……」

 

 

 突然ラディッツから飛び出した言葉に、ナッパは怪訝そうな表情を浮かべながらも、ラディッツの問いに答える。

 娯楽の少ない地獄において、悟空とバーダックの闘いはあの場にいた全てのサイヤ人にとってある種最高の見せ物だった。

 戦闘民族の血が流れているサイヤ人にとって、自分が戦う事もそうだが、戦いを見るのも好きなのだ。

 

 しかも、サイヤ人にとって伝説と言われる存在、超サイヤ人同士の戦いだ。

 口では悟空やバーダックを下級戦士と言って見下しているナッパも、血には逆らえ無いのか、あの2人の激闘には興奮を覚えた1人だった。

 そんなナッパの言葉に、頷いたラディッツは再び口を開く。

 

 

「あの闘いの後、オレ達家族4人で食事をとった時の事だ……。

 親父の口から、とんでもない言葉が飛び出したのは……」

「とんでもない言葉だと……?」

 

 

 ラディッツの言葉に首を傾げるナッパ。

 ナッパの言葉に頷いたラディッツは、まるであの時の事を思い出すかの様に、僅かに視線を上に向ける。

 

 

「親父やカカロットからしたら、オレ達が伝説だと思っていた超サイヤ人とはその気になれば、サイヤ人であれば誰でもなれる程度のモノらしいぞ……」

「はぁ!?」

 

 

 突然ラディッツから飛びだした言葉に、ナッパは驚愕の表情を浮かべ驚きの声を上げる。

 予想通りの反応を返すナッパに思わず苦笑を浮かべるラディッツ。

 そんなラディッツの様子に、バカにされたと思ったのかナッパが思わず声を上げる。

 

 

「テメェ、ラディッツ何笑ってやがる!!!」

「いや、きっとオレも親父やカカロットからこの話を聞いた時は、同じ様な反応をしたのだろうなと思ってな……」

 

 

 怒声を上げるナッパに、何処吹く風といった様子で言葉を返すラディッツ。

 そんなラディッツの姿を見たせいか、怒りの感情を顕にしていたナッパも幾分かクールダウンする。

 

 

「チッ! で、その超サイヤ人がサイヤ人であれば誰でもなれる程度のモノってのは、一体どういう事だ……?」

 

 

 冷静になれた事で思考が働き出したナッパは、話の軌道修正を図る様にラディッツの言葉の真偽を確かめるべく問いかける。

 真剣な表情で問いかけるナッパに、ラディッツの方も表情を引き締め、再び口を開く。

 

 

「ナッパよ、お前、これまで親父やカカロットの事をどこか特別な存在だと思っていなかったか……?」

「あん?」

 

 

 突如投げかけられた、ラディッツの言葉に首を傾げるナッパ。

 だが、当の問いかけをしたラディッツはナッパの反応など気にした様子もなく、再び口を開く。

 

 

「オレは……、正直、あの2人の闘いを見てから、いや……カカロットに至ってはそれ以前からだが……あいつ等は特別な……、選ばれた存在だと思っていた……」

 

 

 ナッパはラディッツの言葉に、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに真剣な表情で押し黙る。

 正直、ラディッツはバーダックはともかく、カカロットこと孫悟空の事はいくら強くなろうが、どこかで下級戦士として見下しているのだろうと、ナッパは思っていたからだ。

 正確に言えば、ナッパ自身がそう思っていたので、ラディッツも同じなのだろうと思っていた。

 

 だが、ナッパがそう思っていたとしても、仕方ない事なのかもしれ無い……。

 それ程、サイヤ人の社会に根付く、生まれてから与えられる身分というモノは絶対なのだ……。

 だからこそ、ラディッツの言葉にナッパは驚きを隠せなかったのだ。

 

 だが、今目の前にいるラディッツは、自分より戦士としての階級が低い父と弟を、自分とは違い特別な存在だと思っていたと口にした……。

 それは、下級戦士に劣っていると……自ら認め、自分の弱さを受入れた事に他なら無い……。

 これは、サイヤ人の社会に生きて来た人間からしたら、とてもじゃないが容易に認められるモノではない。

 

 それだというのに、目の前のラディッツはどこか清々しい表情でその事を口にする。

 そんなラディッツの様子に、ナッパは何故だか自分がとても小さい存在の様に思えてならなかった。

 だが、それを受け入れられるほど、今のナッパの器は大きくもなかった……。

 

 だから、そんな自分の気持ちを打ち消すように、ナッパは大きな声を上げる。

 

 

「そ、それがどうした!!!」

 

 

 虚勢をはったナッパの言葉を受け、真剣な表情を浮かべていたラディッツの口元に微笑が浮かぶ。

 そんなラディッツの姿が、またしてもナッパを苛つかれせる。

 思わず口を開こうとしたナッパだったが、それを遮る様に再びラディッツが口を開く。

 

 

「親父達曰く……、オレ達が伝説と持て囃している”超サイヤ人”とは、サイヤ人であれば、ある程度の戦闘力に到達し、切っ掛けを掴めば、誰でもなれる程度のモノらしい……」

「なっ!?」

 

 

 ラディッツから飛び出した言葉に、本日何度目かの驚愕の表情を浮かべるナッパ。

 だが、そんなナッパを無視して、更に言葉を続けるラディッツ。

 

 

「オレ達サイヤ人が、超サイヤ人を伝説として捉えているのは、要は、サイヤ人の中に超サイヤ人に覚醒出来るだけの戦闘力を有している者が誕生しなかったからだ……」

「そっ、そんな事……」

 

 

 ラディッツの言葉に思わず反論しようと思ったナッパだったが、ふと脳裏に浮かんだ男の戦いに神妙な表情を浮かべ押し黙る。

 急に口を閉じたナッパの姿に、僅かに首を傾げるも再び口を開くラディッツ。

 

 

「サイヤ人は戦闘民族故に生まれた時から、程度は異なるが高い戦闘力を有している者が多い。

 そして、その生まれ持った力でサイヤ人の人生は決まると言っても過言ではない……。

 何故なら、オレ達サイヤ人の社会では、生まれ持った戦闘力=身分と同義だからだ」

 

 

 淡々と喋るラディッツの言葉に、ナッパは静かに耳を傾けていた。

 

 

「戦闘力=身分という社会体制になったのは、お前も知ってのとおり生まれながらに戦闘力が高い者は、成長してからも優秀な戦士になる者が多いからだ。

 だからこそ、今の様な社会体制になったのだろう。

 だが……、ある意味、そいつがオレ達サイヤ人を超サイヤ人から遠ざけたのだと、今のオレは考えている……」

「ん? どういう事だ……?」

 

 

 これまで静かに耳を傾けていたナッパだったが、ラディッツから飛び出した言葉に思わず口を挟む。

 不思議そうな表情を浮かべるナッパに、真剣な表情で向き合うラディッツ。

 

 

「ナッパよ、よく思いだして欲しい……。

 オレ達サイヤ人は生まれ持った戦闘力をいかに上手く扱うかのトレーニングはしても、自分自身を限界まで追い込み続け、更なる高みに到る修練を積む者などいなかったはずだ……」

 

 

 ラディッツの言葉にナッパは、これまでの自分や周りのサイヤ人達が行って来たトレーニングの光景を思い出す。

 そこで、ある事に気付いた。

 確かに、ラディッツが言った様に、自身の力を上手く扱う為のトレーニングは積んだ。

 

 しかし、それはナッパが戦士になりたての頃だった……。

 その後は、殆どトレーニング等をした記憶が無かったのだ……。

 ましてや、ラディッツが言った様な自分自身を限界まで追い込む様な修練など、皆無だった……。

 

 だが、これはナッパに限った話ではない。

 ナッパ以外の、ラディッツ、トーマ達、そして、今や修行の虫と言っていい、バーダックやベジータでさえ戦場に出る様になってからは、殆どトレーニングなんてしていなかったのだ。

 だが、これにはちゃんとした理由があった。

 

 サイヤ人は戦闘を生業としているだけあり、惑星ベジータで戦闘員として認められれば、上級下級問わず数多の戦場へ送られる。

 それ故、実戦経験はやたら積む事ができる。

 正直それがサイヤ人なりのトレーニングになっていたのだ。

 

 数多の戦場で戦って来たサイヤ人は、経験を積み、その過程で戦い方や自分の力の使い方を洗練させていった。

 確かに、それも自身を高める方法の1つだろう。

 だがそれは、あくまで自分が今現在持っている戦闘力をより上手く扱う訓練でしかないのだ。

 

 更に付け加えれば、サイヤ人は任務を行う際、基本チームで行動する事が多い。

 それ故に、サイヤ人が他の星に攻め込む際、有意な立ち位置で戦闘を進める事が多い。

 そんな、有意な立ち位置にいて、しかも格下の者達と戦う事が殆どなのだ……。

 

 そんな状態で、自身の限界を超える状況なんて、まず起こり得なかった……。

 ナッパがそんな風に、考えていると隣からポツリと何処か自嘲を含んだ声が聞こえて来た。

 

 

「振り返ってみると、オレ達は自身の限界を超える程の戦いを殆どした事もなければ、自分自身で追い込んだ事もない……。

 ずっと、種族としての才能に胡坐をかき、ぬるま湯に使って力を奮って来ただけだ……」

 

 

 自身が思っていた事を、より強烈な言葉として口にしたラディッツに思わず眼を向けるナッパ。

 そんなナッパとラディッツの視線が交差する。

 そして、ラディッツはナッパの眼を真っ直ぐ見て、現実を突きつける。

 

 

「そんなオレ達に、サイヤ人の限界を超えた”超サイヤ人”なんかになれるはずがなかったのだ!」

 

 

 静かだが、確な意志が籠もったその言葉が、ナッパに重くのしかかった。

 しかし、ナッパはラディッツから視線を外す事はしなかった。

 何故かは分から無いが、ナッパはラディッツにはその言葉の先……、限界を超えた超戦士……”超サイヤ人”への道が見えているのでは無いかと無意識に思ってしまったからだ……。

 

 そして、その想いが表情に出てしまったのだろうか……。

 ナッパを見ていたラディッツの表情が、一瞬驚きのモノへと変わる。

 そして、フッ……と笑みを浮かべると、表情を引き締め再び口を開く。

 

 

「つまりだ……、長くなったが、超サイヤ人になりたかったら自分の限界を何度も超えるほど、自分自身を追い込み鍛え上げなければなら無いという事だ……」

「自分自身の限界を超えるか……」

 

 

 ラディッツの言葉を反芻するように、真剣な表情で呟くナッパ。

 普段は大雑把な男だが、やはり戦闘民族の性なのか、強くなる為には貪欲だった。

 無意識にこれまでの話を頭で整理していた、そんなナッパの耳に、ポツリとだが、確かな意志が籠もった言葉が聞こえて来た。

 

 

「オレは、超サイヤ人へなってみたい……」

 

 

 声がした方に、ナッパが視線を向けると、視線を地面に向けたラディッツの姿があった。

 だが、ラディッツの眼は地面へ向いてはいるものの、見ているのは地面などではなく、何処か違う景色を見ている様であった。

 付き合いがそこそこ長いナッパは、ラディッツの眼が捉えているモノの正体を何となくだが察する……。

 

 

「闘ってみたくなったか……? テメェの弟や親父と……」

 

 

 ナッパの言葉に、バッ!と頭を上げ、驚いた表情でナッパを見つめるラディッツ。

 そんなラディッツの姿に思わず、してやったりと笑みを浮かべるナッパ。

 

 

「へっ!何を驚いたツラしてやがる。

 別にお前がそう思ったとしても、何ら不思議はねぇ……。

 オレ達は戦闘民族サイヤ人……。 死んでいようが、戦いを求める本能が消えるわけじゃねぇ……」

 

 

 そこで、言葉を切ったナッパは、ラディッツから視線を外し、もはや見慣れた地獄の空へ目を向ける。

 

 

「強えヤツがいて、自分も強くなる方法が分かっている……。

 だったら、やるしかねぇだろ……。 それがどんなに険しくともよ……。

 幸い、オレ達には時間だけはあんだ……」

「ナッパ……」

 

 

 ラディッツはナッパの言葉に驚きを隠せなかった。

 何故なら、己が超サイヤ人へ成りたいと口にした時、きっとナッパは否定するだろうと思っていたから。

 だが、実際にナッパの口から飛び出したのは、否定ではなく肯定の言葉だった……。

 

 昔のナッパだったら、ラディッツが超サイヤ人へ成りたいなどと口にした、まず否定されていただろう。

 もしかしたら、ナッパも自身と同じ様に父や弟の戦いを見て何かしら燻っていたのかもしれ無い。

 そんな事を想いながら、ラディッツもナッパと同じ様に地獄の空へ視線を向ける。

 

 

「そうだな……」

 

 

 そう言ってラディッツは、口元へ笑みを浮かべる。

 

 英雄の兄はこの日、初めて本気で強くなる事に覚悟を決めるのだった……。

 彼がこれからどう成長するのかは、まだ誰も知り得無い……。

 だが、彼の覚悟が本物であるなら、彼はきっとたどり着くだろう……。

 

 伝説の超戦士……”超サイヤ人”へ……。




ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の3話を投稿しました。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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サイヤ人の悪魔編-Ep.03

大変長らくおまたせいたしました。
「サイヤ人の悪魔編」遂に再開します。
毎週月曜日に投稿いたしますので、楽しんで貰えると嬉しいです。


 ナッパの言葉を受け、超サイヤ人を目指す事を本気で決意するラディッツ。

 

 

「そう言えば、ナッパよ……。 さっきオレ達って言ったか……?」

 

 

 先程ナッパが述べた言葉を思い出し、妙な引っ掛かりを覚えたラディッツが視線をナッパに向ける。

 そこには、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべたガチムチスキンヘッドの姿があった。

 その姿に嫌な予感を覚えるラディッツ。

 

 

「もしやと思うが……、お前も超サイヤ人を目指すとか言うのではなかろうな……?」

「あ? 何言ってんだ……? 当然だろう?」

 

 

 さも当然とばかり、逆に驚いた表情で返事を返すナッパに、いよいよ頭を抱えるラディッツ。

 だが、ここでラディッツにとって、予想外の言葉がナッパの口から飛び出す。

 

 

「まぁ、聞けや! オレとトレーニングする事は、お前にとっても悪い話じゃねぇ」

 

 

 頭を抱えていたラディッツだったが、その言葉に興味を惹かれたのか視線をナッパに向ける。

 

 

「お前、フリーザの野郎とベジータ達がナメック星で戦ってた時の事覚えているか……?」

「フリーザとの戦い……、しかもベジータ達だと……?

 それは、カカロットがやってくる前……、ベジータ、カカロットの息子、ナメック星人とハゲの地球人の4人でフリーザと戦っていた時の事を指しているのか……?」

「そうだ! オレはよ、あの戦いこそオレ達が強くなるヒントがあると思ってんだ!」

「? ……どういう事だ?」

 

 

 ナッパの言葉を聞いたラディッツは、思わず首を傾げる。

 そんなラディッツに、ニヤリと笑みを浮かべるナッパ。

 

 

「あの時、あいつ等4人とフリーザとの間には絶望的な戦闘力の差があった……。

 だが、あいつ等は何だかんだいって、あのフリーザの最終形態まで引っ張り出した……。

 こいつは、何でだと思う……?」

「? ……フリーザが戯にヤツ等に付き合ったからだろう……?」

「確かに、最終形態はそうだろうなぁ……。 だが、第3形態までだったらどうだ……?」

 

 

 ナッパの言葉を受け、ラディッツは再びあの時の戦いを脳内で思い出す。

 そして、改めて思い出すと、その戦いの凄まじさに戦慄する。

 正直、自分があの場にいて、あそこにいた面子の様に、最後まで戦う意志を持ち続けられたのか疑問に思うほどだった……。

 

 戦闘民族サイヤ人であるラディッツがそう思うくらい、フリーザとベジータ、悟飯、ピッコロ、クリリンとの間には絶望的な戦闘力の差があった。

 改めて振り返ると、よくあの戦力差で悟空がやってくるまで持ちこたえたものだと、ベジータ達の運の高さに驚愕する。

 だが、果たして本当に運だけで、あの宇宙の帝王相手に生き残るのことが出来るのだろうか……?

 

 何か彼等が生き残れる要因があったのではないだろうか……?

 ラディッツがそんな事を考えていると、ラディッツの脳裏に1人のナメック星人の姿が浮かび上がる。

 

 

「そういえば……、あの場には妙な力を持ったナメック星人のガキもいたんだったな……、あっ!」

 

 

 突如何かに気づいたラディッツは、勢いよくナッパの方に視線を向ける。

 するとそこにはニヤリと、人の悪そうな笑みを浮かべるナッパの姿があった。

 

 

「そうだ! あいつ等があの戦いをなんとか成立させた1番の要因は、サイヤ人の特性を活かした事にある!!! ……と、オレは考えている」

「瀕死の状態から復活すると、大きく力を増すというあれだな……」

 

 

 ナッパの言葉を受け、ラディッツは自身達一族が持つ特性を思い出す。

 そこで、再びナッパが口を開く。

 

 

「こう言っちゃぁなんだが、あの戦いの中で1番戦闘力が高くその力を発揮したのは、ナメック星人の野郎だ。

 だが、生き残れたという点だけに絞れば、ベジータとカカロットのガキの力が大きかったとオレは思っている……」

「そうだな……。 特にカカロットのガキの戦闘力の伸びは眼を見張るものがあったな……」

 

 

 ナッパの言葉に、ラディッツ自身も思い上がるフシがあったのか同意するように頷く。

 そんなラディッツを尻目にナッパは言葉を続ける。

 

 

「カカロットのガキも、そしてベジータもあの戦いで瀕死の重傷を負った……。

 その後、あのナメック星人のガキの妙な力により回復した……。

 そいつによって、あいつ等はサイヤ人の特性により大きな戦闘力の向上を果たした……」

「なるほどな……」

 

 

 これまでのナッパの言葉を受け、ラディッツはナッパが何を言いたいのか理解した。

 

 

「つまりお前は、オレ達もあの時の2人の様に瀕死……とまではいかなくとも、自身の限界までダメージを負った後、回復する事で大きな戦闘力の向上を果たそうというのだな……。

 確かに、それは1人では決して出来ないトレーニング方法だ……。

 だから、お前は自身と一緒にトレーニングする事が、オレのメリットになると、そう言いたいのだな……?」

「そういうこった!」

「まぁ、確かに2人でトレーニングすれば単純な戦闘力だけでなく、戦闘技術の向上も見込めるか……」

 

 

 自身の意図を正確に理解したラディッツに、ナッパはニヤリと力強い笑みを浮かべる。

 ナッパの話を聞いて、ラディッツも確かに短期間で強くなるには、その方法も有効だろう……。と考えた時点で、ふと重大な問題に気が付く。

 正直、その問題の解決方法を目の前の単細胞が持っているとは思わないが、一応聞いてみる事にした。

 

 

「なぁ、ナッパよ……。 確かにお前が言ったように2人でトレーニングをし、限界まで追い込むのはいいとして、どうやって短時間で身体を回復をさせるつもりなんだ……?

 まさか、自然に回復するのを待つつもりではないだろうな……?

 そんな事をしていては、回復に時間をとられ、まともなトレーニングなんて出来んぞ……?」

 

 

 何故ラディッツがこんな質問をしたのかには、ちゃんと理由があった。

 一応短時間で身体を回復させる方法はあるのだ。

 サイヤ人の集落にあるメディカルマシーンを使えば、それが可能となる。

 

 ちなみに、ナメック星で悟空がフリーザの宇宙船で使ったメディカルマシーンより新型なので、10分程でどんな大怪我も完治する事が出来るのだ。

 だが、昔と違って今は手合わせだろうと戦闘を行うには、ある程度の制限がある。

 特にネックとなっているのがメディカルマシーンの使用に、利用申請を行う必要がある事だ。

 

 申請が通らないと、メディカルマシーンを使う事は出来ない。

 これは、無闇矢鱈に戦闘を行わせない為の処置の1つでもあった。

 地獄には殺人を犯してはならないという法が存在する。

 

 これを犯すと、下手したら2度めの死……所謂存在の消滅に繋がりかねないのだ。

 それを少しでも回避する為に用いられたのが、メディカルマシーンの使用の制限だった。

 メディカルマシーンが使え無いという事は、戦った後のダメージを短期間で癒す事が出来無いという事だ。

 

 そうなると、日頃の刑罰や集落で決まっている畑仕事にも支障が出てしまい、重いペナルティーを受けてしまう事になる。

 それは、地獄のサイヤ人達にとって避けたい事態だ。

 そのような理由で、意外とこのメディカルマシーンの使用の制限のおかげで、地獄のサイヤ人同士の私闘は軽減された。

 

 その結果、同族や親兄弟だろうと平気で殺すと謂れたサイヤ人の集落でも、殺し自体は滅多に起きる事が無くなった。

 だが、地獄には、サイヤ人の様に戦闘欲求を持つ種族も多数存在する。

 それを解消する為に、闘技場という戦闘が行える施設が用意されている。

 

 月に数日その施設が開放され、同じ集落や他の集落の者と戦うことが出来る。

 そこで、日頃の鬱憤や戦闘欲求を解消する様にしているのだ。

 そんな日には、メディカルマシーンも自由に使える。

 

 しかし、今回のラディッツとナッパのトレーニングでは、メディカルマシーンの使用許可は残念だが降りないだろう。

 つまり、短時間での身体の回復が出来ないという事だ。

 ラディッツの発言はそれを懸念してのモノだった。

 

 だが、いい意味でラディッツの思惑は外れる事になる。

 何故ならラディッツが視線を向けると、再びニヤリと人の悪い笑みを浮かべたナッパの姿がそこにあったからだ。

 

 

「へっ! オレがそんな事考えてねぇと思ったのか? ちょっと、ついて来いよ!!」

 

 

 そう言って、ナッパは突如立ち上がると、勢いよく空へ飛び出す。

 突然飛び出したナッパに疑問を覚えながらも、ナッパを追ってラディッツも飛び出す。

 ナッパを追う形で地獄の空をしばらく飛翔していると、ラディッツの眼下に廃墟群が飛び込んできた。

 

 

(ここは……?)

 

 

 眼下に広がる廃墟群にラディッツが想いを馳せていると、先に飛んでいたナッパが高度を落とし始めた。

 ナッパは廃墟群の中でも1番高い建物の屋上へ降り立つ。

 そんなナッパの隣へ、ラディッツも同じ様に降り立つ。

 

 

「こっちだ! ついて来な!!」

 

 

 そう言うと、ナッパはズンズンと建物の中へ入っていく。

 そんなナッパの様子に溜息を吐きながらも、ラディッツもナッパの後を追って建物に足を踏み入れる。

 しばらく歩いていると、ラディッツは建物の中の雰囲気がどことなく自身が知っているものに似ている事に気がついた。

 

 

(何だここは……? 初めて来た場所のはずなのに、妙に懐かしい気分になる……。 ここは一体……?)

 

 

 自身の中に、浮かんだ考えに戸惑いながらもラディッツは足を進める。

 そんな時、突如先に歩いていたナッパの声が聞こえて来た。

 

 

「おっ! ここだ、ここだ!!」

 

 

 ラディッツがナッパに視線を向けると、閉じた扉の前で、立ち止まっているナッパの姿があった。

 

 

「ちょっと、待ってな!」

 

 

 そう言うと、ナッパは扉の横に備え付けられていたパネルを操作する。

 廃墟なのにエネルギーが通ってるのか?と一瞬考えたラディッツだったが、どうやらその心配は杞憂だった様だ。

 プシューという音共に、目の前の扉がスライドして開いたからだ。

 

 扉が開いた事で、2人は部屋の中に足を進める。

 

 

「こっ、これはっ!?」

 

 

 ラディッツは、部屋の中に鎮座する複数の巨大な機械を見て驚きの声を上げる。

 

 

「へっへへへ……。 こいつがありゃぁ、お前が言っていた問題も解決すんだろ?」

 

 

 そう言って、ポン!と機械に手を触れるナッパ。

 そう、今ナッパが触れているものこそ、ラディッツ達が強くなる為に必要とした機械。

 『メディカルマシーン』だった。

 

 

 「ど、どうしてメディカルマシーンがここに……?

  いや、それ以前にこの建物は何だっ!?」

 

 

 まさかの事態に、ラディッツは狼狽た態度で声を上げ、ここへ連れて来たナッパに視線を向ける。

 そんなラディッツの様子に、ナッパは得意げな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「ここはなぁ……、フリーザ達が使用していたアジトさ……」

「フリーザだと!?」

 

 

 ナッパから飛び出した予想外の名前に、驚愕の表情を浮かべるラディッツ。

 

 

「お前も覚えてるだろ? 6年前にフリーザ達が何をやらかしたのか……」

「ああ……。 その結果、あいつらは今も自由を奪われ拘束されているのだったか……」

「そうだ……。 そして、ここはあいつ等が使っていたアジトって訳だ……」

 

 

 6年程前、地獄はかつて無い危機的状況に陥ろうとしていた。

 宇宙の帝王フリーザと、最強の人造人間セルが手を組みクーデターを企てたのだ。

 フリーザは、地獄に落ちた事で生前従えていた自身の軍を無くしてしまった。

 

 だが、そこはやはり宇宙の帝王と呼ばれた存在。

 フリーザは僅か数年で、あらゆる分野の優秀な人材を地獄中から集め、生前従えていたフリーザ軍に勝るとも劣らない第2のフリーザ軍を作り上げたのだ。

 そんな、フリーザ達が本拠地として使用していたのが、今ラディッツ達がいる施設だった。

 

 フリーザ達のクーデターは、あの世からやって来た孫悟空やパイクーハンの活躍もあって、大きな被害を出す事なく終結した。

 軍の指導者であるフリーザや、上層部であるギニュー特戦隊やコルド大王等もまとめて捕まった事で、第2のフリーザ軍は自然消滅してしまった。

 その結果、この建物はほとんど、もぬけの殻になってしまった。

 

 フリーザがクーデターの為に用意した、物資などは残った残党達がそれぞれ持ち逃げしてしまったので、ほとんど残っていない。

 だが、施設自体はほぼ手付かずにそのまま残された。

 これは、もしフリーザ達が何かの拍子に解き放たれた時、かつての自身のアジトを好き放題使用しているのがバレて、報復されるのを残党達が恐れたからだ。

 

 その放置されたフリーザ軍のアジトを1年前たまたまナッパが発見したのだった。

 正直、見た目はほぼ廃墟だったので、建物に入ったのは単なる気まぐれだった。

 建物の中は電気など付いておらず、時間帯的に昼間だというのに、光が一切差し込まないので真っ暗だった。

 

 適当に施設内を歩いていると、たまたまコントロールルームに出たので、ナッパはダメ元でキーボードに触れる。

 正直、電気がついていない時点で、この施設はエネルギーが供給されておらず、システム自体は死んでいるだろうとナッパは考えていた。

 だが、ナッパがキーボードに触れ、適当にキーを押すと、目の前のモニターが輝く。

 

 まさかシステムが生きているとは思っていなかったナッパは、思わず「うおっ!?」と間抜けな声を上げてしまう。

 その場には誰もいないが、変な声を上げた事がよっぽど恥ずかしかったのか、思わず赤面してキョロキョロ周りを見渡すナッパ。

 改めて誰もいない事にほっとしたのか、再び目の前のモニターに視線を移すナッパ。

 

 最初こそ、適当にシステムを触っていたナッパだったが、触っている内に自身がかつて触った事があるシステムに似ている事に気がつく。

 だが、これは当然といえば当然だろう。

 この施設自体、フリーザ軍が使用する為に作られた施設だ。

 

 ナッパはフリーザ軍に長年所属していた事もあり、フリーザ軍が使っているシステムに馴染みがあった。

 多少アップデートこそされているが、システムの根本的な部分は変わっていなかったのだ。

 ナッパの様な筋肉達磨が、システムを触れる事に違和感を覚える者も多いだろうが、よく考えて欲しい。

 

 この男も軍に所属して任務を与えられ、任務内容を確認して、宇宙船を操作し、任務をこなし、任務完了の報告等をして来た筈なのだ。

 当然、組織に属する者として最低限、組織が使用するシステムの扱い程度は心得ていた。

 自分がかつて触れた事があるシステムに似ている事に気がついてからのナッパの作業は迅速だった。

 

 このコントロールルームの端末の権限で見れるデータを片っ端から開いていた。

 その結果、この施設がフリーザ達が使用していたアジトだという事を知る事が出来た。

 さらに、このアジトにどんな施設や設備があるのか等も大まかにだが、把握する事が出来たのだ。

 

 その際に分かった事だが、このアジトは建物自体にヒビが入ったりして廃墟同然だったが、施設の機能はまったく問題なく稼働できる様なのだ。

 そもそも、この施設は半永久的にエネルギーを生成する装置が用意されているので、よほどの事がない限り、施設が機能不全に陥る事はない。

 現在電気等が付いてい無いのは、長年施設が使用され無かった事で、システムが自動で省エネモードに切り替えたせいだった。

 

 見た目がボロボロになっていながらも、施設の運用にまったく支障をきたさないところは、流石宇宙の帝王フリーザが集めた優秀な者達が作ったアジトだと言えるだろう。

 

 ちなみに余談だが、ナッパやラディッツはその宇宙の帝王フリーザが、お花畑で蓑虫みたいに拘束され、妖精達のパレードを見せられる様な、屈辱的な目に合っている事など毛ほども知らなかった……。

 実際、根っからの悪人であるフリーザからしてみればリアルに地獄でしかないと思う……。

 

 

「まぁ、んな経緯でオレはこの施設に、メディカルマシーンがある事を知ったって訳だ……」

「なるほどな……」

 

 

 ナッパからこの施設や、メディカルマシーンを知るに至った経緯を聞いたラディッツは納得した様な表情を浮かべる。

 そして、自身が何故ここを懐かしいと感じたのか、その理由も同時に理解した。

 生前のラディッツは、惑星ベジータで過ごした時間よりも、フリーザ軍で過ごした時間の方が遥かに長かった。

 

 そんなラディッツからしてみれば、この施設は自身が生前過ごした場所を思い起こすには十分だったのだ。

 思わぬ形で郷愁の念に駆られる事になったラディッツだったが、ここに来た目的を思い出し、視線をメディカルマシーンに向ける。

 

 

「こいつがあれば、ダメージを気にせず限界まで追い込む事が出来るな……」

「ああ……」

 

 

 真剣な表情でポツリと呟いたラディッツの言葉に、同じく真剣な表情で頷くナッパ。

 しかし、次の瞬間ナッパは得意げな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「メディカルマシーンさえ自由に使えりゃぁ、オレ達もサイヤ人の特性を活かしたトレーニングで戦闘力の強化が可能となるはずだ!!!

 戦闘力を上げることさえ出来りゃぁ、超サイヤ人になんのも夢じゃねぇぜ!!!」

 

 

 メディカルマシーンが自らの手柄で自由に使える様になった事で、得意げな表情で能天気な発言をするナッパ。

 しかし、そんなナッパに冷水を浴びせる様に、ポツリとラディッツが呟く。

 

 

「いや、恐らくそれだけじゃ足らんだろう……」

「あん?」

 

 

 水を刺された事が不満なナッパは、不機嫌を隠しもせず、ギロリとラディッツに視線を向ける。

 だが、視線を受けたラディッツは、浮かれた考えを正す様に真剣な表情でナッパを見つめる。

 ラディッツの醸し出す雰囲気に、ナッパの表情も思わず真剣なものへ変わる。

 

 そんなナッパの変化に、彼が話を聞ける状態になったと判断したラディッツは再び口を開く。

 

 

「確かに、オレ達には戦闘力の強化が必要だ……。

 だが、それだけじゃあカカロットや親父……、そしてベジータの様にはなれんだろう……」

「ベジータ?」

 

 

 突如飛び出したベジータの名前に、ナッパは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「カカロットが言っていたが、ベジータも超サイヤ人への覚醒を果たしたらしい。

 それだけじゃない、カカロットのガキもな……」

「何だと!?」

 

 

 ラディッツから齎された爆弾発言に、ナッパの表情が驚愕に染まる。

 そんなナッパの表情を見て、ラディッツは苦笑いを浮かべる。

 

 

「流石に驚くよな……。

 だが、だからこそオレは親父やカカロットが言っていた事に信憑性があると思った訳だがな……」

「あん?」

 

 

 ラディッツの発言の意図が掴めなかったのか、首を傾げるナッパ。

 そんなナッパへ呆れた視線を向けるラディッツ。

 

 

「さっき言っただろう?

 超サイヤ人はサイヤ人であれば切っ掛けがあれば誰でもなれるってヤツだ」

「ああ! そういえばそんなこと言ってやがったな……」

「流石に短期間に超サイヤ人へと覚醒を果たした奴がこれだけ多数現れれば、親父達の言葉もあながち間違っていないのかもなと思ったのだ……」

「なるほどな……」

 

 

 確かに僅か数年で複数人の超サイヤ人が誕生しているのであれば、伝説の千年に1人の戦士とは大袈裟だったのかもしれない。

 ラディッツ同様ナッパもそう考えてしまった。

 

 

「にしても……、ベジータの野郎まで超サイヤ人へなってやがったのか……」

「まぁ、あいつもカカロットが超サイヤ人へ覚醒した事は知っていたからな、そこを目指すのは当然ではないか?

 下級戦士が伝説の戦士へ目覚めて、王子である自分が遅れをとっているなど、あいつのプライドが許さんだろ……」

「確かにな……」

 

 

 自身を殺したベジータが超サイヤ人へ目覚めた事に、少し苛立ちを覚えたナッパ。

 だが、ラディッツの言葉を聴き、確かにベジータだったらそうするかもなぁ……と長年仕えてきた王子の性格を知るナッパは、その姿を容易に想像できた。

 

 

「まぁ、今はベジータの事なんてどうでもいい……。

 それで、戦闘力の強化だけだと足りないってのはどういう事だよ……?」

 

 

 ベジータの事は頭の外へ追いやり、先程のラディッツの言葉を思い出したナッパは改めて問いかける。

 そんなナッパへラディッツは、自らの考えを打ち明ける。

 その表情には、どこか覚悟が宿っていた……。

 

 

「戦闘力の強化以外に、今のオレ達に必要なのは、戦闘力のコントロールだ!!!」

 

 

 意を決して、口を開いたラディッツ……。

 果たして、ラディッツが言う戦闘力のコントロールとは、2人に何を齎すのか……。

 

 続きは、次回……。




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サイヤ人の悪魔編-Ep.04

「サイヤ人の悪魔編」第4話です。
これにて、ラディッツとナッパ強化のお話は終わりです。
次から、皆さんお待ちかねの彼が再び物語に登場します。


「今のオレ達に必要なのは、戦闘力のコントロールだ!!!」

 

 

 意を決して、自身の意見を述べるラディッツ……。

 だが、ラディッツの言葉を聞いた、ナッパは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「戦闘力のコントロール……? それだったら、オレ達も普通に出来るだろ……?」

 

 

 ナッパの言葉にラディッツは首を横に振る。

 

 

「確かに、ナッパが言うように、オレ達は戦闘力を上げたり下げたりさせる事が出来る。

 だが、それはオヤジに言わせればコントロールしているのではなく、単純に力の使い方を知っているレベルの技術らしい……。

 その為、オレ達が普段全力で力を開放していると思っている戦闘力さえも、実際は本来出せる戦闘力の7割程度しか良くて出せていないと言っていた……」

 

 

 ラディッツの言葉に驚愕の表情を浮かべ、口を開くナッパ。

 

 

「なっ、何だと!? それじゃあ……」

「ああ、オレ達は自身が認識している以上の戦闘力を出す事が可能だという事だ……。

 その為には、今までみたいに漠然と戦闘力を高めていては駄目なのだ。

 自身の中に在る力をしっかり認識し、制御下に置くことで力を練り上げ戦闘力の質を高める事で、ようやく自身が持つ本当の全力を出す事が可能になる。

 それを行う為に戦闘力のコントロールが必要になるのだ……」

 

 

 ラディッツの説明を受け、普段当たり前にやっていた戦闘力の扱いがここまで奥深い事だった事に衝撃を受けるナッパ。

 だが、これは戦闘力……気が持つ可能性のほんの触り程度でしかなかった。

 驚愕の表情を浮かべるナッパに、再び言葉を発するラディッツ。

 

 

「ナッパよ、お前も地球でカカロットやその仲間達と過去に戦った事があると言っていたな?」

「ん? あ、ああ……、あいつら自体は大した戦闘力を持っちゃいなかったが、妙な技を色々持ってやがったな……」

 

 

 ラディッツの問いに、ナッパは顎に手を当て地球での戦闘を振り返る。

 そんなナッパの言葉を受け、ラディッツは同意するように頷く。

 

 

「オレもお前とほぼ同じ認識だ。

 だが、その妙な技……特に戦闘力のコントロール……。

 親父の言葉を借りるならば、”気をコントロールする術”が今のオレ達には必要なんだ……」

「なんだよ……? 気のコントロールって……」

 

 

 雑魚と見下していた地球人の技術を学ぶ必要があると聞いた瞬間、嫌そうな表情を浮かべるナッパ。

 たが、超サイヤ人へ到ったバーダックの名前が出た事で、渋々と言った表情でラディッツへ問いかける。

 そんなナッパの様子に、ラディッツは自身も初めて父親から気のコントロールについて話を聞いた時の事を思い出す。

 

 気のコントロールとは、地球で戦った弟やナメック星人が使っていた技術と同様のモノだと言う事に気がついたのだ。

 そして、その時に今のナッパと同じ様な表情を自分も浮かべていた事を思い出し、苦笑を浮かべる。

 しかし、直ぐに表情を元に戻し、再び口を開くラディッツ。

 

 

「今までの会話の流れで凡そ分かっているとは思うが、気のコントロールというのは、戦闘力のコントロールの事だ。

 お前も地球の奴らと戦った時に、こんな経験はなかったか?

 例えば、スカウターで表示されている戦闘力と実際に喰らった攻撃の威力に差があるとかな……」

「そういやぁ……、そんな事もあった様な……。

 まぁ、大した威力じゃなかったから、あんま覚えてねぇがな……。

 それが、どうしたんだよ……?」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、改めて地球での戦闘を振り返るナッパ。

 しかし、当時戦った地球の戦士達とナッパの間では残念ながら戦闘力に開きがあり過ぎた。

 それ故に、スカウターの数字と実際の攻撃力に差があったとしても、ナッパにとってみれば誤差でしかなかったのだ。

 

 その為、言われてみればそうだったかも?程度しかナッパの印象には残っていなかった。

 だが、今回はそのスカウターの数字と実際の攻撃力の差が重要なのだ。

 

 

「つまりだ、あいつらはスカウターで計測している数値以上に、攻撃する際に瞬間的に自身の戦闘力を高めていたって事だ……」

「あっ!!!」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、ようやくラディッツが言いたい事に気がついたナッパ。

 

 

「お前も知っての通り、普通戦闘力を解放しスカウターで計測すればその数値は、ほとんど一定で変動する事がない。

 それこそ、変身とかしない限りはな……。

 だが、あの地球人達はスカウターの数値以上の戦闘力を発揮する事が出来る。

 しかも、スカウターが計測出来ないほど瞬時に力を引き出す……、いや、高める事が出来るんだ……。

 これこそが、本当に戦闘力をコントロール出来ている証拠なのだと思う……」

 

 

 改めて、言葉にされた事でその技術がどれほど高度で、しかも恐ろしいかを再認識させられたナッパ。

 ナッパやラディッツ、フリーザ軍の流れを組む戦士達はスカウターを使う戦闘に慣れてしまっている。

 彼等はスカウターで計測した戦闘力を元に、自身の戦闘力と比較して戦いを進める。

 

 だが、地球の戦士達はその常識を覆す術を持っているという事だ。

 地球の戦士達とは戦闘力に大きな開きがあったから、あまり大した脅威にならなかった。

 だが、これが自身と大差ない戦闘力を持つ者がこの技術を持っていたとしたら、どうだろう?

 

 スカウターの数値を鵜呑みにして戦闘を開始すれば、計測出来なかった相手の本当の力により大きな痛手は免れないだろう。

 戦闘に生きたナッパだからこそ、その恐ろしさに危機感を抱かずにはいられなかった。

 まさか、見下していた地球人達がそんな高度な事を行っていた事に正直驚きを隠せなかった。

 

 だが、話はここで終わりではなかった……。

 

 

「事の重要性をようやく理解した様だが、この話の面白いのはこれからだ……。

 ナッパ、あいつ等はな、自身の戦闘力を最大から0まで自由自在にコントロールする事が出来るらしいぞ……」

「なんだと!?」

 

 

 ラディッツの言葉を受け、驚愕の表情を浮かべ思わず言葉を発するナッパ。

 それ程、今ラディッツが述べた内容はナッパにとって衝撃的内容だった。

 何故なら戦闘力を0に出来るという事は、スカウター等で存在を捉える事が出来ないという事だからだ……。

 

 実際、ナメック星でスカウターを使う者達からの追跡から、この技術を使ってクリリン達は逃げ延びている。

 生前数多の星を制圧して来たナッパにとって、逃げたり不意打ちを行おうとした隠れた敵を見つけるのに、スカウターには大いに助けられて来た。

 だが、そんなスカウターから逃れられる術があるというのだから、これには素直に驚きを隠せなかった。

 

 

「オレ達も戦闘力を上げたり下げたりは出来ても、流石にそこまでの精密なコントロールは出来ん……」

「むぅ……」

 

 

 しみじみと呟くラディッツに、悔しそうにだが同意する様に頷くナッパ。

 ラディッツやナッパ、それにフリーザといった地球以外の力ある生命体は当然戦闘力のある程度のコントロールは出来る。

 そんな彼等からしても、悟空を始め地球の武道家達ほどの精密なコントロールは出来なかった。

 

 ましてや、生きている者が戦闘力を0にする事などまず不可能だというのが常識だった。

 それ故に、彼等にとって戦闘力が0とは死を意味するに等しかった。

 もしこの技術を活用すれば、追跡から逃れるだけでなく、不意打ちや死の偽装など戦略的に多岐に活用できる事が用意に想像できた。

 

 だからこそ、ラディッツやナッパは戦闘力を0に出来る術が存在した事に驚きを隠せないのだ。

 

 

「さらに……」

「まだ、あんのかよっ!?」

 

 

 言葉を続けようとするラディッツに、すでに情報過多となったナッパは思わずツッコミを入れる。

 そんなナッパのツッコミに、ラディッツ自身彼の気持ちがよく分かるのか、疲れた表情を浮かべながら重い溜息を吐く。

 

 

「はぁ……、今のお前の気持ちはよく分かる……。

 オレも初めて親父からこの話を聞いた時は、お前と同じ心境だったからな……。

 だが、これが最後だ……。 と言うよりも、ある意味これが1番重要と言っていい……」

「なんだよ……? 1番重要って……」

 

 

 ラディッツの疲れた表情を見て、幾分か冷静さを取り戻したナッパは話の続きを促す。

 そんなナッパの言葉に、ラディッツは頷くと再び口を開く。

 

 

「あのな……、戦闘力のコントロールが出来る奴等は、自分以外……つまり他者の戦闘力を感知出来るそうだ……」

「……は?」

 

 

 ラディッツの言葉に、今度こそナッパはポカンとした表情を浮かべる。

 その表情は正にこいつ何を言っているんだ状態だった……。

 だが、ようやく脳がラディッツの言葉を理解したのか、全身を震わせながらその表情が驚愕に染まる。

 

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!?」

「うんうん、お前の気持ちはよぉーーーく分かるぞ、ナッパよ!!!」

 

 

 驚愕の表情を浮かべるナッパに、どこか悟りを開いた様な笑みを向けるラディッツ。

 そんなラディッツの笑みが癇に障ったのか、怒りの表情を浮かべるナッパ。

 

 

「てめぇ、ニヤついてんじゃねぇぞ、ラディッツ!!!

 とういうより、どういう事だ一体!?」

「どうもこうも、言葉通りの意味なんだが……。

 つまりな、カカロットや親父……、そして地球の奴等はスカウターがなくとも他者の戦闘力を感知する事で相手の位置や強さを把握出来るという事だ……。

 正にスカウターいらずとはこの事だな……」

「そっ、そんな事が可能なのか……!?」

 

 

 ラディッツの説明に、ナッパは再び驚愕の表情を浮かべながら逆に疑問を投げかける。

 そんなナッパの問に、ラディッツは重々しく頷き口を開く。

 

 

「戦闘力のコントロールとは、まず自身の中に流れる戦闘力……つまり気を感知する所から始まるそうだ……。

 そういう意味でも、まずこの自分の戦闘力を感知出来るようなるというのは必須だろうな。

 その応用で、他者の戦闘力も感知出来る様になるそうだ……。

 お前もこいつの有用性は十分理解出来るだろう……?」

 

 

 視線を向けられたナッパは重々しく頷く。

 上記に記述したが、ナッパ達は生前スカウターの恩恵を多大に受けてきた。

 だが、スカウターは機械だ……。

 

 当然不具合を起こす事もあれば、破損し故障する事もある。

 特にナッパ達は戦闘要員として、フリーザ軍に在籍していた。

 そんな彼等からしたら、戦闘中にスカウターを装備して戦う事等ざらだった。

 

 その為、激しい戦闘中や戦闘を行った後にスカウターが壊れる事がまれにあったのだ。

 スカウターが壊れてしまった時は、任務にかなり支障をきたしたものだ。

 だが、気のコントロールをマスターすればそれらの問題はクリアされる。

 

 しかし、当然だがスカウターを使うメリットも存在する。

 遠くにいる者との連絡等はその最たるモノだろう。

 だが、それを差し引いたとしても、自身で他者の戦闘力を感知出来るメリットは大きい。

 

 特にスカウターは、敵の存在を感知し戦闘力を計測して、それを画面上に表示するという一連のプロセスがある為、若干タイムラグが発生するのだ。

 その為、とっさの対応に弱い弱点が存在する。

 だが、自身で戦闘力を感知出来れば、それらの弱点は解消できる。

 

 それ等を加味して、ナッパが出した結論は1つだった。

 

 

「なるほどな……。 つまり……、戦闘力のコントロールが出来る様になると、計り知れねぇメリットがあるって訳だな……」

 

 

 ナッパの言葉を受け、ラディッツは重々しく頷き口を開く。

 

 

「ああ……。 戦闘力を扱える事とコントロールする事では、似ているようでまったく別だって事だな……」

 

 

 だが、ここまでの話を聞いて、ナッパは妙な引っ掛かりを覚える。

 

 

「ラディッツよぉ、散々人に戦闘力のコントロールの有用性を語って聞かせたんだ……。

 お前、戦闘力のコントロールの方法について、何か知ってんじゃねぇのか……?」

 

 

 鋭い視線で、ラディッツを睨み付けるナッパ。

 だが、当のラディッツは元々隠す気等なかったのか、軽く頷き口を開く。

 

 

「ああ、親父から多少な……」

 

 

 ラディッツは、あの日……バーダックと悟空が戦った日。

 親子4人で食事をした際に、2人の話を聞いて、彼らが超サイヤ人へ至ったのは才能だけでない事を強く感じ取っていた。

 彼らがあそこまで強くなれたのは、強くなる為にそれに見合うだけの努力と時間を彼らが積み重ねたからだ。

 

 それを自覚してからは、ラディッツも時間が空いている限り1人でトレーニングを積んだ。

 だが、1人では出来る事が限られるし、そもそも自分を追い込むトレーニング……、つまり修行を行った事が無かったラディッツは何をすれば良いのかよく分かっていなかった。

 ただ闇雲にトレーニングを積んだからといって、強くなるわけではない。

 

 悟空やバーダックは自身を導く師によって、彼らに見合った修行を付けてもらい、その後もその経験から自身を高める修練を個人でも行って来たから強くなれたのだ。

 だが、ラディッツにはそんな自身を導いてくれる師と呼べる存在はいなかった。

 なので、ラディッツは意を決して、たまたま地獄に帰省していた父にどうやって強くなったのか、聞いてみる事にした。

 

 ラディッツの父バーダックは、突然の息子の問いに一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐにいつもの仏頂面を浮かべる。

 だが、自身へ問いかけるラディッツの姿から何かを感じ取ったのか、ポツポツと自身がどういう修行を行なって来たのかを語って聞かせた。

 もしかしたら、かつての自分……、トランクスに出会う前の強くなりたいけど何をやっても思う様な成果が得られなかった頃の事を思い出したのかもしれない……。

 

 とにかく、そういう経緯でラディッツは、バーダックから色々な話を聞いていた。

 気のコントロールについても、その1つだった。

 しかも、実演付きでだ……。

 

 そのおかげで、ラディッツは自分1人だけで修行を行なっても、短時間でナッパに匹敵する力を得る事が出来たのだ。

 

 

「なるほどな……。 お前が昔に比べて強くなってやがったのはそういう理由か……」

 

 

 ラディッツのパワーアップの謎が解けた事で、納得の表情を浮かべるナッパ。

 

 

「まぁな……。 だが、まだ思う様には戦闘力のコントロールが出来てはいない……。

 なかなか厄介だぞ、こいつは……」

「だが、そいつをマスターしねぇと、カカロットやバーダック、ベジータには追いつけねぇって事だな……」

「あぁ……。だが、戦闘力のコントロールをマスターせずとも超サイヤ人になる事自体は出来るかもしれんと親父は言いていた。

 しかし、気のコントロールをマスターしていないと、本当の意味で超サイヤ人の力を引き出す事は出来ないのではないかともな……。

 親父やカカロットの様に、超サイヤ人以上の領域へ行く為には戦闘力のコントロールは必須だと思っておいた方がいいのだろうな……」

「なるほどな……」

 

 

 2人はバーダックから聞いた話を踏まえて、その後も今後の修行方針について話し合った。

 それからしばらくして、修行方針が決まった2人は早速行動に移る事にした。

 

 

「よし、とにかく今後の方針は決まったな!

 おい、ラディッツ! せっかくメディカルマシーンがあんだから、早速手合わせすんぞ!!

 幸いこの辺はあまり人が寄りつかねぇからな。

 オレ達が本気で戦っても文句言ってくるヤツはいねぇだろ!!!」

「そうだな……。 早速やるとするか!!!」

 

 

 そう言って、2人は部屋を出て行った。

 こうして、英雄の兄とサイヤ人の王子の元側近の修行の日々が幕を開けたのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

ビーッ!!!ビーッ!!!プシュゥーーーッ!!!

 

 

「ふぅ、すっかり元通りだな……。

 あれからほぼ毎日、こいつの世話になってるが本当に大したもんだぜ……」

 

 

 そう言って、ラディッツはたった今自身が出て来たメディカルマシーンに目を向ける。

 先程までナッパとの修行でボロボロで傷だらけだった身体は、今や傷一つ残ってはいなかった。

 

 

「あれから、半年か……」

 

 

 ポツリと呟く様に、ラディッツは口を開く。

 そう、ナッパとラディッツが共に修行を初めて既に半年の月日が流れていた。

 この期間、2人はほぼ毎日、本気の手合わせを行い、その度にメディカルマシーンで傷を癒して来た。

 

 もはや、メディカルマシーンで傷を癒すのは2人にとって1日のルーティンと言っても過言じゃなかった。

 だが、その甲斐あってか2人の戦闘力は半年前とは比較にならない程向上していた。

 しかも、半年前とは違い今はしっかりと気のコントロールまで行える様になっていた。

 

 何故2人がこの短期間で戦闘力を大きく向上させた上、戦闘力のコントロールをモノに出来たかには理由があった。

 その理由とはラディッツの父バーダックが原因だった。

 ラディッツ達が修行を始めたのとほぼ同時期から、タイムパトロールになってからは滅多に地獄に帰ってこなかったバーダックがちょくちょく地獄へ帰ってくる様になったのだ。

 

 そもそもバーダックが滅多に帰ってこなかった1番の理由は、悟空と闘う為に自身の戦闘力を高める為にトキトキ都で修行を行わなければならなかったからだ。

 だが、悟空との闘いを終えた事で一区切りついたのか、修行は依然続けている様だが、昔ほど時間に追われる必要がなくなったからか、仕事に余裕がある時はちょくちょく帰ってくる様になったのだ。

 そして、そんなバーダックに2人は頼み込んで、修行の相手をしてもらったのだ。

 

 そうして、2人は一応だが師匠を確保する事に成功する。

 だが、バーダックの修行は修行というにはあまりに苛烈でもはや扱きだった……。

 毎回初めこそ面倒くさそうに相手をしているものの、時間が経つにつれどんどん攻撃の手が激しくなるという物凄いスパルタっぷりを発揮したのだ。

 

 バーダックと2人の間には、隔絶した実力差があるというのに、全く容赦が無く、ギリギリ2人が気絶しないレベルで、ボコボコにするのだ。

 しかも、罵声と怒声という有り難くないおまけ付きだ。

 ヌルい攻撃や、気の抜けた対応をしようものなら、一切の容赦の無い攻撃と罵倒が飛んで来るので、2人は気が気じゃなかった。

 

 それだけ容赦の無いバーダックの鋭い攻めを凌ぐ為に、付け焼き刃の気のコントロールだろうと何だろうと自身達が持つ全ての技術や精神力を動員して2人は喰らい付いていった。

 その甲斐あって、2人はいつの間にか当たり前に気のコントロールを組み込んだ戦闘が出来る様になっていた。

 正直、この2人の戦闘力の伸びは、修行をつけていたバーダックから見ても目を見張るほどのものだった……。

 

 それだけ辛いバーダックの修行という名の扱きを2人が何度も自ら受けたのには、しっかりとした理由があった。 

 それは、単純にバーダックと修行を行った日は、辛かった分、成長した実感を得られたからだった。

 後は、2人のプライドがバーダックにやられっぱなしを良しとしなかったのだ。

 

 今更サイヤ人の階級制に拘る2人ではなかった。

 だが、下級戦士と判断され、努力で伝説の領域に足を踏み入れた男に、そもそもスタート地点で勝ってるいる自分達が、気持ちで負ける訳にはいかない!という妙な意地を持ってしまったのだ。

 しかし、その意地がなかなか馬鹿に出来なかった……。

 

 結果としてだが、この意地は2人を大きく成長させる切っ掛けとなったのだ。 

 毎回バーダックにボコボコにされた2人は、次こそはバーダックを見返す為にと、それまで2人で行なって来たものよりも更に激しい内容の修行を行う様になったのだ。

 その為、毎日修行後の2人は、互いの攻撃を限界まで喰らって虫の息の状態で、半分身体を引きずりながら、メディカルマシーンへ入っていた。

 

 そのせいで、かつてのフリーザ軍のアジトの入り口からメディカルマシーンがある部屋までの廊下は、消す事が難しい程2人が流した血で赤く染まっていた。

 そんな常軌を逸する様な修練を半年も続けて来たのだ……。

 その結果、それに見合うだけの戦闘力を2人が有する様になるのは当然といえば当然なのだ……。

 

 だが、それだけの厳しい修練を積んでも、2人は未だ超サイヤ人への覚醒を果たせないでいた……。

 

 

「ふぅ……、さて、そろそろ戻るとするか……。 ん?」

 

 

 ラディッツは、自身が出て来たメディカルマシーンの隣にある、別のメディカルマシーンに目を向ける。

 だが、そのマシーンは稼働しておらず、もぬけの殻だった。

 その様子にラディッツは首を傾げる。

 

 

「どういう事だ……? ナッパのヤツここに一緒に来たはずなのに何処へ行った……?」

 

 

 ラディッツが気になったのはナッパの存在だった。

 修行を終えた2人は確かにここへ一緒にやって来たのだ。

 だが、当のナッパは現在メディカルマシーンの中どころ部屋の中にすらいない。

 

 その事に、ラディッツが疑問を覚えるのは当然だった。

 

 

「オレと同じタイミングでここにやって来たのだから、治療を終えるのも同じはずなんだが……」

 

 

 首を傾げながら普段ナッパが使っているメディカルマシーンに近づき、中を覗き込むラディッツ。

 

 

「ふむ、どうやら使った形跡はない様だな……。 という事は、あいつまだ治療していないのか……?」

「おぉ、ラディッツ……。 お前、もう治療が終わったのか」

 

 

 ラディッツがメディカルマシーンの中を覗いていると、後ろからナッパの声が聞こえて来た。

 その声にラディッツ振り返ると、ボロボロの状態のナッパの姿があった。

 

 

「ナッパ!? お前、治療もせずに何をやっているのだ……?」

「ん? ちょっとよ、こいつを探してたんだよ……」

 

 

 ラディッツの問いかけに、ナッパは手に持っていたとある機械を差し出す。

 ナッパの掌には、ラディッツ達にとって見慣れた機械が乗っていた。

 

 

「それは……、スカウターではないか」

 

 

 そう、ナッパが持っていた機械とは、昔ラディッツ達がよく使っていた、相手の戦闘力を測る機械……スカウターだった。

 だが、何故ナッパがそんなものを探していたのか、ラディッツにはその意図が掴めなかった。

 

 

「何故今更スカウターを? オレ達は既に気を察知できる様になっているだろう……」

 

 

 ラディッツが言葉にした様に、半年の修行のおかげで、2人は既に他者の気を感知する事など当たり前に出来る様になっていた。

 つまり、今の自分達にはそんなモノは必要ないだろうと、ラディッツは言外に告げているのだ。

 そして、当のナッパも同意する様に首を縦に振る。

 

 

「まぁな……。 確かにお前が言った様に今のオレ達にはこいつは必要ねぇ……。

 だがな、ちょっと興味があったんだよ」

「興味だと……?」

 

 

 ナッパの言葉に、ラディッツは不思議そうに首を傾げる。

 そんなラディッツに人の悪い笑みを浮かべるナッパ。

 

 

「お前、最後にスカウターで測った戦闘力の数値、覚えてるか……?」

「戦闘力の数値だと……? 確か……1500くらいだったか……」

 

 

 ナッパの問いかけに、ラディッツは過去に測った自身の戦闘力を思い出す。

 その戦闘力を聞いて、ナッパは小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。

 

 

「へっ! ずいぶん低い数値だな!!」

「やかましい!!!」

 

 

 とりあえずナッパにツッコミを入れたラディッツは、「ふぅ」と一息つくと改めてスカウターに視線を向ける。

 

 

「……で、お前は結局何がしたいんだ……?」

「ちょっとよ、昔と比べてどれくれぇ成長したのか調べてみようと思ってな!!!

 オレ達は気で自分や相手の強さが分かる様になったが、数値としてどれくれぇ上がったのか、ちょっと気になったんだよ!!」

「ふむ、なるほどな……。 そう言われてみると、確かに気になるな……」

「だろ!!!」

 

 

 得意気な笑みをラディッツに向けるナッパ。

 ラディッツも確かに今の自分が昔に比べてどれくらい成長したのか気になったので、戦闘力を改めて計測する事に異論はなかった。

 しかし、ここでラディッツはふとナッパが持つスカウターを見て思い出した事があった。

 

 

「だが、そのスカウターで計測出来るのか……?

 今のオレ達のフルパワーの戦闘力は、自分で言うのも何だが相当高くなっているはずだぞ」

 

 

 ラディッツの記憶の中のスカウターは、最新式のものですら2〜3万程度の戦闘力で計測不能を起こしていた。

 昔はその数値がはるか遠いものであったが、今のラディッツにとってその程度の戦闘力は軽く力を込めただけで達する事が出来る数値になってしまった。

 それ故に今の自分とナッパの戦闘力をスカウターが計測し切れるのか、気になったのだ。

 

 だが、それはどうやらいらない心配だったらしい。

 

 

「そいつは心配ねぇ……。

 こいつは、あのフリーザの最終形態の戦闘力くらいまでなら、何とか耐えられるくらいのスペックがあるみてぇだからな……。

 いくら、オレ達が強くなったっつっても、流石に超サイヤ人と戦える最終形態のフリーザレベルまでは、まだ至ってねぇからな……」

 

 

 どうやらナッパやラディッツが死んでいる間に技術の方も進歩したせいか、2人の戦闘力にも耐えられるスカウターが既に開発されていた。

 恐るべきフリーザ軍の科学力である。

 

 

「なるほど……。 それならばオレ達の戦闘力くらいなら計測出来そうだな……」

「そう言う事だ。 さて、オレがメディカルマシーンで治療を終えたら、早速こいつで計測してみようぜ」

 

 

 そう言い残したナッパは、全身ボロボにも関わらず意気揚々とメディカルマシーンの中へ入っていた。

 そんなナッパの様子に溜息を吐きながら、ラディッツは部屋の壁へ背を預ける。

 

 

「はぁ、あいつが治療を終えるまで、オレは待たねばならんという事か……。

 それだったら、治療を終えた後にスカウターを探せばいいものを……」

 

 

 自身への迷惑を一切考えないナッパの行動に愚痴を吐きつつも、ラディッツはナッパの治療が終わるまで1人目をつぶり時間を潰すのだった。

 表情にこそ出さないが、自身がとれくらい成長したのかを楽しみにしながら……。

 そうやって、新たに修行に目覚めた2人のサイヤ人の時間は、今日もゆっくりと過ぎてゆくのだった……。

 

 

 

■スカウターでの計測結果(最大戦闘力数)

 

ナッパ:1,300万 

ラディッツ:1,295万




ナッパとラディッツの戦闘力は、人造人間出現時の悟空のノーマル状態のフルパワーより少し弱いくらいです。

戦闘力は下記のサイトを参考にさせていただきました。
http://dragonballbp.web.fc2.com/char/songoku.html


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サイヤ人の悪魔編-Ep.05

「サイヤ人の悪魔編」第5話です。
いよいよ、例のあの人が再び物語に登場します。
彼が、この世界で何を見て感じるのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。


■Side:ギネ

 

 

「ふーっ、結構遠くまで来たなぁ……」

 

 

 あたしの名前はギネ。戦闘民族サイヤ人さ。

 今から数十年前、宇宙の帝王フリーザに母星である惑星ベジータを破壊され、そのまま死んじまって、今じゃ立派な地獄の住人さ。

 まぁ、あたし自身は他のサイヤ人達と違って、戦闘欲求があまりなかったせいか、生前特に悪い事はしてなかったから、本当は天国行きだったらしいんだ。

 

 だけど、旦那のバーダックやセリパ、トーマ達といった仲間達が全員地獄行きって聞いて、あたしも地獄に行くことを選んだんだ。

 地獄ってだけあって、ここでの暮らしは最初はしんどかったけど、みんなで頑張ったおかげで今は大分快適に暮らせるようになって来た。

 いつもは、生前の罪を償う為の刑罰や、サイヤ人の集落で育ててる野菜の世話をしているんだ。

 

 だけど、今日は久しぶりに1日休みだから、暇だし集落を飛び出し自由気ままに散歩してるんだ。

 久しぶりの休みだった事もあり、調子に乗って集落から随分離れた土地まで来てしまった。

 あたしは荒野の一番高い岩場に降り立つと、休憩がてらその場に腰を下ろす。

 

 休憩しているあたしの脳裏に浮かぶのはウチの男連中の事だった……。

 ふと、眼下に広がる景色に目を向けると、その光景はどこかあの時のあの場所に似ていた。

 

 

「そういえば、あの2人が闘ったのもこんな荒野だったけ……。

 バーダックとカカロットがやりあってから、あと1月位で1年になるのか……」

 

 

 ポツリと呟いたあたしの脳裏に浮かぶのは傷だらけになりながらも、楽しそうな笑みを浮かべながら拳を交える2人の戦闘馬鹿の姿だった。

 まぁ、ウチの旦那と息子なんだけど……。

 とにかくすごい闘いだった……。

 

 あれから、ウチの男連中はどこか変わった様に思う。

 バーダックは次こそカカロットに勝つために、口にこそ出さないがこれまで以上にトレーニングに励んでいる様に思う。

 と言っても、普段はタイムパトロールの仕事で家を空けている事が多いから、あんまり会えなんだどさ。

 

 少し前まではちょくちょく帰ってきてたんだけど、最近また忙しくなって来たのか、ここ最近はあまり帰ってこないんだよね……。

 けど、会うたびに前よりなんだか強さが増している気がするんだよね……。

 きっと、カカロットに負けたのが本当に悔しかったんだね……。

 

 でも、何ていうのかな……、嫌な感じがしないんだよね……。

 あの闘いでカカロットが新しく目覚めた力……”超サイヤ人3”というサイヤ人の新たな可能性と直に手合わせできたからかな? 

 今は、その領域に自分も至り、次こそはカカロットに勝つという目標を掲げ、その目標を達成するために楽しそうに日々を送っている様に見えるんだよね。 

 

 実際カカロットと闘った後から、バーダックはいい顔をする事が増えたように思う。

 あいつとはもう随分長い事一緒に過ごしてきたけど、バーダックがこんなに楽しそうに日々を過ごしているのを見るのは初めてだった。

 人ってヤツはいくつになっても、成長できるんだね……。

 

 

「バーダックは生きてた時より、死んでからの方が人生を謳歌してるかもしれないね。

 それにしても、成長かぁ……。

 成長という意味で、あの闘いで、1番変わったのはあの子かもしれないねぇ……」

 

 

 そう口にしたあたしの脳裏に浮かび上がったのは、ウチの長男坊の姿だった。

 あの子とは、幼い頃に死に分かれた事もあって、地獄で再会した当初あたしやバーダックと何処か距離感を掴みかねていた様に思う。

 まぁ、あたしは自分からラディッツにどんどん話しかけていったから、比較的短い時間で距離を縮められたけど、バーダックとはなかなか距離がつめられた感じはしなかったんだよね……。

 

 2人共あんまり自分から積極的に口を開く方じゃ無いから、仕方ないと言えば仕方ないんだけどさ。

 この辺はやっぱり親子なんだなぁ……って思うよね。

 なんて言うのかな、必要最低限の会話しかしない?みたいな感じだし……。

 

 でも、そんな2人の関係が改善され始めたのは、あの闘いのすぐ後だった。

 なんと、ラディッツからバーダックに積極的に話しかける事が増えたのだ。

 

 

「あれには、本当にビックリしたなぁ……」

 

 

 話の内容は、バーダックがどうやって強くなったかだった……。

 最初は、若干戸惑っていたバーダックだったけど、ラディッツの真剣さが伝わったのか、結構真面目に受け答えしてる姿は新鮮だったなぁ。

 しかも、言葉だけじゃ伝えられないと思ったのか、自分からラディッツをトレーニングに誘って手解きした時なんて、明日は槍でも降るんじゃ無いかと、割と真面目に思ったほど、あたしの中では衝撃だったね。

 

 しかも、トレーニングから帰って来た時のバーダックは、口ではラディッツの事を弱いとか根性が無いとか色々言ってたけど、何処か楽しそうに笑みを浮かべていたのをあたしは見逃さなかった。

 きっと、本人に言ったところで否定されるんだろうけど、バーダック自身ラディッツが強くなろうとしている事が嬉しかったんだろうね。

 それからも、ラディッツはバーダックが地獄に帰ってくる度に、トレーニングを申し込みにやってくる。

 

 その申し込みに面倒そうな表情を隠しもせず文句を言うんだけど、何だかんだ言って結局毎回付き合ってあげるあたり、バーダックも結構楽しんでるんじゃ無いかな。

 そういえば、ラディッツと一緒にナッパのヤツも一緒にトレーニングを申し込みにやってくる様になったけど、あいつも一緒にトレーニングをしてるのかな?

 ここ半年程、2人で集落を抜ける事が増えた様だけど、2人揃って何処かでトレーニングでもやってるのかな?

 

 それにしても、あのラディッツが強くなる為とはいえ、素直に人に頼ったり周りの目を気にせずトレーニングする様になったのは、正直予想外だったなぁ……。

 あの子って、王子や中級戦士のナッパと共にいた時間が長かったからか、やたらプライドだけは高くなってたからなぁ……。

 そんなあの子の価値観を変えるぐらい、バーダックとカカロットの闘いはラディッツにとって大きなものだったんだろうね……。

 

 まぁ、単純に父親と弟に負けたく無いってシンプルな理由なのかもしれないけど、この変化はあたしにとっては嬉しい変化だね。

 実際あの子がどれくらい強くなるのか、あたしには分からないけど、あの子の負けず嫌いっぷりは子供の頃からよく知ってる。

 きっと、あの子もそう遠く無い未来、バーダックやカカロットに負けないくらい強くなるんだろう。

 

 そうなる様にあたしは思っている。

 ちょっと、親バカが過ぎるかな……?

 まぁ、とにかくバーダックにしろラディッツにしろ、ウチの男共は今日も何処かで自分が強くなる為に汗を流しているんだろう……。

 

 そんな事を考えると、その2人に火をつけたウチの次男坊の姿が思い浮かぶ。

 

 

「父ちゃんと兄ちゃんは頑張ってるよ。 あんたはどうなんだい……? カカロット……」

 

 

 1年ほど前にようやく再会出来た、ウチの次男坊。

 あの子がまだ赤ん坊だった時に別れて以来の再会だったから、また会えて言葉を交わせて本当に嬉しかった。

 昔バーダックがいきなりカカロットを地球へ送るっていい出した時は、あいつの正気を疑ったけど、今にして思えばあの時のあいつの判断は英断だったと思う。

 

 でないと、カカロットもあたし等と一緒に死んでたわけだしね。

 それにしても、生まれてすぐの戦闘力測定で僅か2しかなかった子が伝説の”超サイヤ人”に目覚めて、あの憎き宇宙の帝王フリーザを倒すなんてねぇ……。

 あたしも実際にその戦いを見てたけど、いまでも信じらんないや……。

 

 しかも、いつのまにか子供まで出来てるし……。

 あたし、知らないうちにお婆ちゃんになってるし……。

 でも、それだけ多くの出来事や出会い、力を得る為の努力をあの子が積んできたって事だよね……。

 

 あの子を直に見て、言葉を交わして改めて思った事だけど、きっとあの子の周りにはいい仲間達が集まっているのだろう。

 そんな仲間達に囲まれて育ったから、あの子はあんなに輝かしい笑顔を浮かべられるのだと思う。

 正直、あの子の成長を間近で見られなかったのは、今でも心残りだ。

 

 けど、あの子がこれまで歩んできた道に自ら誇りを持っている事が知れた事は本当に幸いだった。

 その中で培って来た、あの子の強さや在り方がサイヤ人の常識を覆し、バーダックやラディッツ、ナッパそしてベジータ王子を変えたんだろうね……。

 本当に我が息子ながら不思議な子だよ、あんたは……。

 

 きっと、あんたもバーダック達に負けずに天国で己を磨いているのだろう……。

 そうだろう……? カカロット……。

 

 

「さて、そろそろ戻ろうかな……」

 

 

 何気なく視線を空に向けると、空が少し暗くなっている事に気がつく。

 地獄の空には、太陽は無い。

 なので、夜が近づくとどんどん空の色が暗くなってくるのだ。

 

 休憩し始めた時に比べると、大分暗くなっている。

 どうやら随分長い事ここで時間を潰してしまった様だ。

 そろそろ、集落へ戻るべくあたしは立ち上がる……。

 

 

「さて、今日の晩ご飯は何にし……」

 

 

 

ーードサッ!!!

 

 

 

 あたしが呑気に今日の晩ご飯の事を考えていると、あたしの背後から突如物音が聞こえて来た。

 

 

「ん?」

 

 

 音が気になったあたしは、そちらに目を向ける……。

 すると、あたしがいる岩場から少し離れた所に、うつ伏せで倒れている者の姿があった。

 その姿を見た瞬間、あたしは勢いよく岩場から飛び出し、倒れている者の元へ近づく。

 

 

「うわっ!! 何……これ……」

 

 

 あたしは倒れている者の姿を見て、思わず顔を顰め驚きの声を上げる……。

 倒れていたのは上半身裸の細身の男だった。

 だが、問題なのは男の全身がズタズタの傷だらけだった事だ……。

 

 あたしもサイヤ人だから、大怪我をした奴らはたくさん見て来た。

 だが、そんなあたしから見ても、今目の前で倒れている男の怪我の具合は尋常じゃ無かった。

 全身から血を流し、傷を負っていない箇所を探すのが難しいほど、男の肉体には切り傷や打撲跡等が刻まれていた。

 

 あまりの怪我の具合に、身体に触るのも躊躇われるので、とりあえずあたしは倒れている男に声をかける事にした。

 

 

「あ、あんた、大丈夫かい……?」

「……」

 

 

 あたしが声をかけても、男はピクリとも動かなかった。

 正直、息をしているのかも疑問に思うほど男は身動き一つしない。

 ここが地獄である以上、目の前の男も死んでいるんだろうけど、ここまで酷い傷を負っていたら、仮の死を迎えていても可笑しく無い。

 

 この地獄では、本来死ぬ事はない。

 何故なら閻魔大王の権能によって、2度目の死……つまり存在の喪失が起きない様になっているからだ。

 あの世で仮に死んでしまう程のダメージを受けると、仮の死を迎え閻魔大王の元へ強制召喚される。

 

 その後、殺人を犯した者が捕らえられ、罰せられる。

 地獄で2度目の死が起きる時は、閻魔大王が何かしらの要因で力を封じられている時か、何かしらの理由で肉体を与えられ現世などで死を迎えた時だけだ。

 今のこの男の状態だと、仮の死としていつ閻魔大王の元へ召喚されてもおかしく無いほどだった。

 

 あたしは、男の口元に手をかざす。

 すると、あたしの手に軽くだが生暖かい風が当たる。

 どうやら、目の前の男はこんな状態にも関わらず、しぶとくも生き延び、仮の死から争っている様だ。

 

 あたしは、改めて倒れている男に目を向ける。

 漆黒の様な黒髪に、筋肉質の上半身……腰に尾は生えていないが、同族だからこそ感じられるシンパシーで、あたしはこの男がサイヤ人である事を即座に看破する。

 とりあえず、こんなところでほっとく訳にもいかないから、あたしは意を決して男の身体に触れる。

 

 

「ぐっ、がぁ!!!」

 

 

 あたしが身体に触れた瞬間、男から痛みのせいか大きな声が上がりあたしはとっさに手を引いてしまう。

 まさか、触れただけでこの反応とは、どうやらこの男の怪我は自分が思った状態より、もっと酷いのかもしれない……。

 

 

「ど、どうしよう……。 このままじゃ、この人運べない……」

 

 

 あたしはこの状態に途方に暮れていると、ふと視界の端に持って来ていた鞄が目に入る。

 

 

「あっ! もしかして、あれなら……」

 

 

 あたしは、急いで鞄を引き寄せると中から小瓶を2つ取り出す。

 

 

「頼むから少しは効いておくれよ……」

 

 

 そう呟きながら、あたしは小瓶の中の液体を、とりあえず1本分男に向かって振りかける……。

 

 

「うっ……」

 

 

 液体を振りかけられた男は、液体が身体にかかった事が気持ち悪かったのか、液体が身体に及ぼした効果によってか呻き声を上げる。

 しかし、あたしが振りかけた液体は見事あたしの期待に応えてくれた様だった。

 何故なら、先程までに比べると幾分か男の身体から傷が消えていたからだ。

 

 

「ふぅ、どうやらちゃんと効いてくれたみたいだね……。

 まぁ、あれだけの大怪我だから、見た目がマシになったからと言って安心は出来ないんだけど……」

 

 

 ちなみに、あたしが男に振りかけた液体とはメディカルマシーンで使用される治療液だった。

 現在のサイヤ人の集落ではメディカルマシーンは滅多に使う事が出来ない。

 けど、日常生活を送っていれば多少は怪我を負うこともある。

 

 その様な時のために、傷薬として小さい瓶で販売されているのだ。

 最近、バーダックとラディッツが一緒にトレーニングを積んだりする事も増えたので、家の治療液が以前に比べて消費が早くなった。

 だから、朝のうちに買い足しておいたんだ。

 

 まぁ、量が量だから完全に治療するのは無理だけど、表面だけでも直す程度は出来るんだよね。

 

 

「さてと……、次は反対側だね……」

 

 

 あたしは、うつ伏せになっている男の身体に再び触れる……。

 だが、先ほどとは違い今度は男から声が上がる事は無かった……。

 

 

「よっと……」

 

 

 あたしは両手で、うつ伏せだった男の身体を仰向けにする。

 

 

「うわっ、やっぱこっちの方も酷い傷……」

 

 

 背中側は治療液のおかげで大分マシになったが、治療液がかかっていないお腹側は未だ酷い傷が残っていた……。

 特に目を引くのは、お腹から胸にかけて残る一筋の傷だった……。

 他の傷とは違い、深々と男の身体を抉る様に付けられた、明らかに戦いによって刻まれた傷。

 

 あたしはまるで引き寄せられる様に、その傷へ無意識に手を伸ばしていた……。

 

 

「ぐっ!!!」

 

 

 あたしが傷へ触れた瞬間、再び男から苦悶の声が上がる。

 その声にあたしはビクッ!!と身体を震わせ、とっさに傷から手を引く。

 そして、ゆっくりと声を発したであろう男の顔に視線を向ける。

 

 視線の先の男は、眉間にシワを寄せながらも未だ眠り続けていた。

 どうやら、起きているわけでは無い様だ……。

 その事に、あたしはホッ……と胸を撫で下ろす。

 

 そして、改めて男の顔に視線を向ける。

 顔だけ見ると、大人しそうな上に、何処か幼さが残る様な印象を受ける。

 正直、顔だけでは男の年齢を察する事は出来なかった。

 

 まぁ、あたし等サイヤ人は他の種族より、若い期間が長いから見た目以上に年齢がいっているヤツはざらにいる。

 にしても、顔だけ見れば、とても今みたいな酷い傷跡が残るほどの激闘を行える様な人間には見えない……。

 だが、あたしはそこで自身の考えを改める……。

 

 何故なら目の前で眠っている男はサイヤ人なのだ……。

 そう考えれば、闘いでどれだけ酷い傷を負っていても別に不思議では無い。

 そう考えて、あたしは一旦思考を打ち切り、もう1本の治療液が入った瓶に手を伸ばす。

 

 

「さて、こっち側も……」

 

 

 そう言って、あたしは2本目の治療液を男の身体に振りかける。

 すると、みるみる表面の傷が塞がっていく。

 まだ、大分傷は残っているが、最初に比べると大分マシになった。

 

 あたしは再び男の顔に視線を向けると、男の方も多少傷が癒えた事で楽になったのか眉間のシワが幾分が和らいだ様に見える。

 この様子なら、男を移動させられそうだと判断したあたしは、空き瓶を鞄にしまい、鞄を肩にかける。

 そして、男に近づくとそのデカイ身体を背中に背負う。

 

 

「誰だか知らないけど、もうちょっと頑張りなよ……」

 

 

 そう背中の男に一言かけて、あたしは空へと飛び出す。

 だけど、その時あたしは気付いていなかった……。

 背中に背負った男があたしが声を掛けた瞬間、僅かに目を開けた事を……。

 

 続きは次回……。




ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の6話を投稿しました。

下記のサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。

https://bike-life.site/

Thank you.


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番外編 祖父との再会
番外編 祖父との再会-上


お久しぶりです。
しばらく小説を書く気が起きなくて、サイヤ人の悪魔編が更新停止中ですが、ようやく最近少しずつ書く気が復活してきました。
リハビリがてら番外編の短編小説を書いてみましたので、楽しんでもらえると嬉しいです。
この番外編は全3話になります。


 物語は本編から数年前に遡る……。

 今回の物語は、あの世一武道会が終わって1週間程立った頃の事である……。

 

 あの世一武道会でパイクーハンという強敵と闘った孫悟空。

 結果的には、悟空が勝利を治める形となったが、当の悟空自身は正直あの戦いで勝利出来たのは半分運が良かったと考えていた。

 それからの彼は、次こそはちゃんと実力でパイクーハンに勝つ為に、修行に精を出す毎日を送っていた。

 

 

「はぁっ!! だりゃぁ!! だだだだだっ!!!」

 

 

 両手両足に界王お手製の重りを身に付け、次々と風を切り裂く様な鋭い突きや蹴りを繰り出す悟空。

 そんな悟空の側で、どこか呆れた様な表情を浮かべ視線を向ける存在が立っていた。

 その視線に気付いたのか、悟空は動きを止め視線を向ける。

 

 

「ん? どうしたんだ界王様? そんな顔してよ?」

「はぁ……」

 

 

 そう、呆れた様子で悟空を見つめていたのは、彼の師でもある界王だった。

 そして、悟空に声を掛けられた界王は、弟子の言葉に大きな溜息を返す。

 そんな師の様子に首を傾げる悟空。

 

 

「何だよ、変な顔してよ……?」

「悟空よ、ついこの間あの世一武道会が終わったばかりだと言うのに、毎日毎日修行ばかりして、よく飽きんなぁ……」

 

 

 どこか呆れの混じった界王の言葉に、眉を八の字にし不満そうな表情をする悟空。

 

 

「だってよぉ、界王様だってこの間の試合見ただろ……?

 あの、パイクーハンの強さをさ!!」

「まぁなぁ〜。 確かにパイクーハンは強かったなぁ……」

 

 

 悟空の言葉を受け、界王もあの世一武道会で見たパイクーハンの姿を思い出す。

 その所作の一つ一つが洗練されていて、長年様々な武道家を見て来た界王からしても、彼はズバ抜けていた。

 そんな相手と闘ったのであれば、悟空が刺激を受けるのも納得出来る。

 

 そんな事を界王が考えていると、更に悟空の声が聞こえて来た。

 

 

「それにさ、セルと戦った時の悟飯みたい超サイヤ人の先なんてモンまで、あんだぜ!?

 オラはきっとまだまだ強くなれる!!!

 そう考えるとオラ、ワクワクが止まらねぇんだ!!!」

 

 

 太陽の様な笑顔で、自身が強くなる事が楽しくてしょうがないと述べる悟空。

 そんな悟空の姿に、界王はまたしても内心でため息を吐く。

 悟空が修行の虫だという事は、これまでの付き合いから嫌というほど分かっていた。

 

 しかし、こうも毎日修行しかしていない姿を見ると、こいつには他にやりたい事はないのだろうか?と思ってしまったのだ。

 しかも、悟空があの世に来てから、まだ1週間とちょっとしか経っていない。

 普通、新しい土地に来れば、どんな所があるのかとか観光ではないが見て回ったりするものだが、悟空はそんな事は一切無かった。

 

 初めて界王と共に現在修行している大界王星に訪れてからは、今みたいに修行しているか、同じく北の銀河出身のあの世の達人達と手合わせしているかのどちらかだった。

 まぁ、修行の虫であり戦闘バカである悟空からすれば、大いにあの世を満喫しているといっていいだろう。

 その点については界王自身も、予想できていたので特に文句はない。

 

 それに、悟空があの世でも肉体を持つ事が許されているのは、生前の功績が認められ、あの世でも修行を積むためだからだ。

 なので、悟空の行動は何一つ間違ってはいないのだが、流石に最近の悟空の修行の熱の入れ方はちょっと異常だった。

 生前であれば、寿命や肉体の衰え等、出来る事に対して色々な期限が存在するが、あの世ではそんな事は一切ない。

 

 むしろ、悟空はこれから悠久の時を過ごさねばならないのだ。

 それを考えれば、もう少し余裕を持って物事に取り組んでも良いのではないか?と自身が悠久の時を過ごす者としての経験から、界王は思ったのだ。

 生前と同じ感覚で、物事を行っていると、歳をとったりしない分、いずれ代わり映えのしない毎日に、精神が磨耗したりする者がたまに現れたりするのだ。

 

 悟空の性格を考えれば、そんな心配は正直杞憂であろうと界王は思っている。

 だが、それでも楽しい事は長く続けば続く程、あの世での生活が楽しめるのも確かだ。 

 なので、界王は悟空に修行以外でもあの世での生活に、楽しみを見いだして欲しいと思っていた。

 

 

「悟空よ、お前が強くなりたいのは、よぉーーーく分かった。

 だが、お前は死人なのだから時間は沢山ある……。

 修行をするものいいが、たまには他にやりたい事とかないのか?」

「え?修行以外……? う〜ん……何かあっかなぁ……」

 

 

 界王の問いかけに、悟空は腕を組み考えるように首を捻る。

 しかし、しばらく待っても悟空からの回答が得られなかった為、再び界王の口が開く。

 

 

「例えば、会いたい者とかおらんのか?

 せっかくあの世に来たのだから、現世では会えなかったヤツにも会えるじゃろ?」

「会いてぇヤツか……」

 

 

 界王からしたら、あの世ならではのつもりで口にした事だったが、悟空は界王の言葉で、少し表情を曇らせる。

 

 

「ん?」

 

 

 珍しい様子の悟空に気づいた界王は、不思議そうに首を傾げる。

 そんな、界王の視線に気づいたのか、悟空は困った様な表情を浮かべ、観念した様に溜息を吐く。

 

 

「はぁ……、実はあの世に来た時から会いに行かなきゃなんねぇ……って、ずっと思ってる人がいんだ……」

「ほぉ、お前にもそんな者がおったのか!!」

 

 

 悟空から飛び出した言葉に、界王は珍しいと感じたのか、少し驚いた表情を浮かべる。

 そんな界王の姿に、悟空は苦笑を浮かべる。

 

 

「まぁな……」

「して、何者なんじゃそいつは?」

 

 

 普段あまり見せない反応をする悟空が珍しく、悟空にそんな態度をとらせる存在が気になった界王は、何者か問いかける。

 界王の問いかけに、悟空は何処か憂いを帯びた表情を浮かべ、その存在の名を告げる……。

 

 

「オラのじいちゃんだ……」

 

 

 悟空の口から飛び出した名に、これまで何処か面白半分に聞いていた界王の表情が真剣なものへと変わる。

 

 

「じいちゃんと言う事は、地球へ流れ着いたお前を拾い、育てた者の事だな……?」

「ああ……」

 

 

 以前、悟空の身の上話を聞かされた事があった界王は、悟空が述べたじいちゃんが彼にとってどういう存在なのか、瞬時に見当がついた。

 そして、だからこそ、悟空の態度や言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

 

 

「会いたい者がいるのなら、何故会いに行かん?」

「……」

 

 

 界王は悟空から祖父は幼い頃に亡くなったと聞いていた。

 話を聞いている感じ、悟空はとても祖父の事を大切に思っている印象を受けた。

 しかし、そんな相手とようやく再会出来る様になったというのに、悟空が祖父との再会を迷っている様に界王は感じた。

 

 現に、界王が問いかけても悟空は押し黙ったまま、口を開こうとしない……。

 その様は、いつもあっけらかんとしている悟空からは考えられない姿だった。

 そんな悟空の姿に、界王は他人が簡単に踏み込んだら不味い話題だったと察するには十分だった。

 

 この気まずい空気を変えるべく、界王が話題を変えようと口を開こうとしたそのタイミングで、今まで黙っていた悟空が静かに口を開く。

 

 

「オラさ……、ガキの頃に、無意識の内にじいちゃんを殺しちまってんだよ……」

「!?」

 

 

 突如飛び出した爆弾発言に、驚愕の表情を浮かべ悟空を見つめる界王。

 その表情には驚愕のほかに困惑の感情も浮かんでいた。

 悟空との付き合いがそこそこ長い界王からしてみれば、悟空が無意識とはいえ、殺人を犯す筈が無いと知っていたからだ。

 

 ましてや、自身が大事に想っている祖父となれば尚更だ……。

 そんな悟空が、どうしてそんな事にと……。

 その様な感情が宿った表情で悟空を見つめる界王。

 

 そして、悟空の方も界王と顔を合わせる事は無かったが、自身を見つめる界王の内心を察したのか、再び口を開く。

 

 

「界王様も知ってると思うけど、オラ達サイヤ人は満月を見ると大猿になっちまうだろ……?」

「あ、ああ……。 あ!そういう事か!!」

 

 

 悟空の言葉を聞いた界王は、思わず声を上げる。

 サイヤ人の特性を知っている界王は、その僅かな言葉だけで、何故悟空が祖父を殺してしまったのか、正確に予想がついたのだ。

 そして、その予想が正解だとばかりに、悟空は笑を浮かべる。

 

 

「流石界王様……。 話が早くて助かるぜ。

 オラ達サイヤ人は、大猿になると理性を失っちまう……。

 まぁ、ベジータみてぇな例外もいるみてぇだが、前に悟飯が大猿になった時は理性がほぼなかった。

 オラ自身も何度か大猿になっちまった事があるみてぇだけど、正直そん時の記憶はねぇ……」

 

 

 改めて、サイヤ人が大猿になった時の状態を言葉にする悟空。

 しかし、ここで一旦言葉を切ると、何かを思い出すかの様に、軽く視線を上に向ける……。

 今の悟空の瞳が映している光景が、どの様なモノか分からないが、間違いなく大界王星の景色で無い事だけは、悟空の表情から察する界王だった。

 

 静寂の時間が2人の間に流れる。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。

 悟空は「ふぅ……」と一息吐くと、再び口を開く。

 

 

「どうやらオラは、ガキの時に誤って満月を見ちまって大猿になっちまったみてぇなんだ……。

 そして、そん時にじいちゃんを……」

「そうか……」

 

 

 過去に自身がしでかした事を、辛そうな表情を浮かべ絞り出す様に吐き出す悟空。

 そんな悟空の告解にも似た言葉を受け、師であり銀河の一角を納める偉大なる神は、その事実をただあるがままに受け入れたのだった。

 そして、まるで迷子の様に佇む、自身の弟子へ問いかける。

 

 

「だから、会いに行っていいのか迷っていると言うわけか……?」

「ああ……」

 

 

 界王に自身の内心をズバリと言い当てられた悟空は、少し俯いたまま力なく頷く。

 そんな悟空に、尚も界王は言葉のナイフをもって切り込んでいく。

 

 

「だが、お前は祖父に謝りたいと思っているのだろう……?」

「ああ……」

 

 

 まるで、悟空の心を覗いたかの様に、正確に彼の心を解体していく界王。

 

 

「だったら、行けばいいではないか……」

「いや、そうなんだけどよぉ……」

 

 

 界王の言葉に、悟空自身行かなかればいけない事は重々承知している事が見て取れた。

 だが、悟空の中で何かが引っかかっているのか、どこか踏ん切りがついていない様子だった。

 そして、その何かを界王は正確に察していた……。

 

 だが、界王からしてみれば、それはいらぬ心配の様に思えてならなかった。

 なので、少し呆れた様子で「はぁ……」と大きなため息をつき、再び口を開く。

 

 

「きっとお前の祖父は、お前の事を恨んでなどおらんと思うぞ?」

「っ!?」

 

 

 界王に自身の心のなかで引っかかっていた部分を言い当てられた悟空は、驚いた顔で界王を見つめる。

 そんな悟空に、ニッ!と得意げな笑みを浮かべる界王。

 そんな表情を見せられて、若干負けたように感じた悟空は不貞腐れた表情を浮かべ口を開く。

 

 まぁ、何が負けたのかは分からんが……。

 

 

「……何で、界王様にそんな事が分かんだよ……?」

 

 

 そんな悟空の問に「ふむ……」と、顎に手を当て少し考える様な仕草をとる界王。

 だが、その答えはすぐに見つかったのか、どこか優しげな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「強いて理由を挙げるなら、お前の祖父だから……かなぁ〜」

「何だそれ!?」

 

 

 界王の解答に、訳が分からないといった表情を浮かべる悟空。

 しかし、そんな悟空に再び口を開く界王。

 

 

「では聞くが、悟空……。 お前、息子の悟飯の事を恨んでおるか?

 こう言う言い方は厳しいかもしれんが、お前がセルとの戦いで死んだのは、あやつが原因と言っても良い。

 あやつが、サイヤ人の本能に呑まれず、さっさとセルを倒しておれば、お前やワシが死ぬ事は無かった……」

「……」

 

 

 界王の言葉に押し黙る悟空。

 しかし、そんな悟空を無視して、更に言葉を続ける界王。 

 

 

「まぁ、実際にワシを死なせたのはセルだ。

 しかし、間接的にではあるが、お前やワシを殺した原因は、セルを必要以上に追い詰めたお前の息子悟飯だというのも、また事実だ……。

 お前は、そんな息子の事を恨んでおるか……?」

 

 

 少々厳しい口調で問いかける界王に、悟空は界王の眼をしっかり見つめ口を開く。

 

 

「そんなの……、答えるまでもねぇよ……。

 オラは悟飯の事を、少しも恨んじゃいねぇ!!!

 それに、界王様に迷惑をかけちまったのは、オラ自身の責任だ……」

 

 

 自身を見つめ力強く答える悟空の姿に、満足そうな笑みを浮かべ頷く界王。

 

 

「ふっふっふ……。 そう言うと思ったぞ……。

 つまりは、そう言う事じゃよ悟空……」

「え?」

 

 

 先程までと違い、どこか優しさが感じられる界王の口調に、悟空は戸惑った声を上げる。

 悟空はこの段階になっても、界王が自身に何を言いたいのか、よく理解できていなかった。

 そんな悟空に、界王は解答を示すべく口を開く。

 

 

「お前は自身が死ぬ事になった原因の息子を許した……。

 そんなお前を育てた祖父なら、きっとお前の事を許している……。

 いや、そもそも怒ってすらおらんかもしれんなぁ〜」

 

 

 軽い感じで言葉を述べる界王の姿を見て、悟空は記憶の中の祖父の姿を思い出す。

 時に厳しい面を見せる事があったが、それ以上にいつも優しい笑みを浮かべ自身を見守ってくれた祖父。

 その姿を思い出して、悟空は無性に祖父に会いたくなった……。

 

 

「そうだな……。 よし!オラ今からじいちゃんのトコ行ってくる!!!」

「うむ! それがいいだろう!!!」

 

 

 界王の言葉で、少しだけ長年の胸のつかえが取れた悟空は、これまで悩んでいたのが嘘の様に、さっそく祖父に会いに行く事を決意する。

 この切り替えの速さは、悟空の美点の一つと言ってもいいだろう。

 そんな悟空に、満足そうな笑みを浮かべ賛同する界王。

 

 悟空は、さっそく祖父の元へ赴くべく人差し指と中指を立て額に当てる。 

 

 

「えっと、じいちゃんは五行山にいるんだったけか……」

 

 

 瞬間移動をする為に祖父の気を探ろうとする悟空だったが、悟空が何気なく呟いた言葉を聞いた界王が突如口を開く。

 

 

「ちょっと待て、悟空!!」

 

 

 突然の界王の言葉に、驚いた表情を浮かべる悟空。

 

 

「何だよ? 界王様……」

「お前の祖父は、天国ではなく五行山におるのか……?」

「多分な……。 昔オラの嫁のチチと五行山に行った時に、バイトしてるって言ってた」

 

 

 悟空から祖父悟飯が天国でなく、五行山にいると聞いた界王は顎に手を当て少し考える様な仕草をとる。

 

 

「ふむ……、五行山か……」

「どうかしたんか、界王様?」

 

 

 悟空に声をかけられた事で、考えが纏まったのか界王が口を開く。

 

 

「悟空、念のために閻魔に許可をもらってから行け」

「え? 何でだ……?」

 

 

 界王の言葉に疑問を持った悟空は、首を傾げる。

 そんな悟空に界王は自身の考えを口にする。

 

 

「五行山は、あの世と現世の狭間じゃ。

 お前だったら問題は無いだろうが、あの場所は担ってる役目柄デリケートな場所なんじゃ。

 それに、今のお前は死者だからなぁ、一応閻魔に許可を貰っておけ」

「ふーん、面倒だけど、しょうがねぇか……」

 

 

 界王の言葉を聞いた悟空は、少々面倒くさそうな表情を浮かべるが、再び人差し指と中指を立て額に当てる。

 そして、今度は祖父ではなく閻魔界にいる閻魔大王の気を探る。

 

 

「よし、あった! 閻魔のおっちゃんの気だ!!

 それじゃ、界王様! オラ行ってくる!!!」

「おう、楽しんでこいや!!!」

 

 

 ニカッ!と笑みを浮かべる悟空に、界王も笑みを浮かべる。

 さっそく瞬間移動を発動しようとしたところで、悟空が「あっ!」と何かを思い出した様な声を上げ、界王に視線をむける。

 

 

「そうだ……。 言い忘れてた……」

「?」

 

 

 悟空の様子に不思議そうな表情を浮かべる界王。

 そんな界王に笑みをむける悟空。

 

 

「あんがとな、界王様!!

 界王様のおかげで、オラじいちゃんに会いに行く決心が出来たぞ!!!」

 

 

 悟空の発言に、一瞬ぽかんとした表情を浮かべる界王。

 しかし、それも束の間いつもの笑みを浮かべる。

 

 

「気にせんでいいわい、ほれ、さっさと行かんかっ!!!」

「ああ!! じゃ、行ってくる!!!」

 

 

 そう言って、今度こそシュン!と風を切る様な音と共に、大界王星から姿を消す孫悟空。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 ここは、閻魔界。

 見渡す限り黄色い雲に覆われた世界。

 その世界には1つの宮殿が立っていた。

 

 その宮殿の中で、今日も業務に勤しんでいる巨漢の男がいた。

 その男の名は、閻魔大王。

 この世とあの世の法則を司り、死者の魂に絶対の権力とあの世を司る力を持つ、言うならば死者の世界の管理者だ。

 

 彼の仕事の1つに死者の判決といいうものがある。

 これは、死後閻魔宮に訪れた魂の生前の行いを、手元の閻魔帳に基づいて瞬時に見極め、天国行きか地獄行きかの決定を行なっていくというものだ。

 彼が座っている机の上には、数多の書類や、台帳がのっかっており彼の仕事量がそれだけで伺える。

 

 

「天国行き……、地獄行き……、地獄行き……、天国行き……、地獄行き……」 

 

 

 閻魔大王が判決を下し、ハンコを押した死者の書類が彼の机の下に用意されている箱に次々と収まっていく。

 そうやって、いつも通り業務をこなしている閻魔大王の耳に、シュン!という風を切り裂く様な音が聞こえて来た。

 

 

「ん?」

 

 

 閻魔大王は、書類から眼を離し、机の下に目を向ける。

 そこに、1人の男が立っていた。

 

 

「よう!」

 

 

 気軽な様子で、手を上げ自身に挨拶をする男。

 そして、その男は閻魔大王も知っている男だった。

 

 

「おおぉ!! 孫悟空ではないか!!!

 見たぞ、この間のあの世一武道会!!!

 もの凄い闘いで、ワシも久しぶりに熱くなったわっ!!!」

 

 

 突然の来訪者に机から身を乗り出し、テンションぶち上げで喜びの声を上げる閻魔大王。

 そんな閻魔大王に、悟空も得意げな笑みを浮かべる。

 

 

「へっへー! サンキュー!!

 あのさ、オラちょっと閻魔のおっちゃんに頼みがあんだけど……」

「ん? ワシに頼み……? どうした突然……?」

 

 

 悟空の言葉に、首を傾げる閻魔大王。

 

 

「オラ、五行山に行きてえんだけど、行っていいか?」

「五行山じゃと……? また、どうしてそんな所へ……?」

 

 

 悟空の言葉に、さらに首を傾げる閻魔大王。

 そんな不思議そうな表情を浮かべる閻魔大王に、悟空は自身の目的を告げる。

 

 

「いやよ、そこでオラのじいちゃんがバイトしてるはずなんだ」

「五行山でバイト……、あっ!お前のじいちゃんとは孫悟飯の事か!!!」

 

 

 悟空の言葉を受け、少し考える素振りを見せる閻魔大王。

 だが、それも束の間、何かを思い出した様な表情を浮かべた閻魔大王は、悟空の言うじいちゃんの存在を思い出し、少し驚いた表情を浮かべ悟空の祖父の名を口にする。

 閻魔大王の口から、祖父の名前が出た事に今度は悟空の方が驚きの表情を浮かべる。

 

 

「おっ! おっちゃんじいちゃんの事知ってんのか!?」

「当然だ! あやつに五行山のバイトを進めたのはワシだからな!!

 女好きのあやつは喜んで、引き受けおったわ!!」

 

 

 悟空の問いかけに、さも当然とばかり頷き、悟飯が五行山のバイトを引き受けた時の事を懐かしそうに語る閻魔大王。

 そして、何故悟空が五行山へ行きたいと言い出したのか、その真意も察しがついた為、閻魔大王は納得した表情を浮かべ口を開く。

 

 

「なるほどな……。 祖父に会いに行く為に五行山へ行きたいと言うのだな……?」

「ああ!!」

 

 

 閻魔大王の問いに、力強く頷く悟空は。

 

 

「ふむ……、まぁ、お前は界王様の弟子でもあるし、いいじゃろう……」

「本当か!?」

 

 

 悟空が五行山へ行く事に少し思案する様な表情を浮かべる閻魔大王だったが、同じ界王の弟子である悟空に便宜を図る事にした。

 五行山はあの世とこの世の間に存在する場所である為、本来は悟飯の様な例外を除き、あの世の住人の立ち入りは出来ない場所なのだ。

 しかも、五行山の魂達はまだ閻魔大王の裁定を受けていない者達だ。

 

 地球の死者達は、五行山を経由してあの世へやってくる。

 言ってしまえば、死者になって一番最初に訪れる場所が五行山なのだ。

 当然死んで間もないばかりの者達なので、まだ死者としての自覚が薄く存在が曖昧なのだ。

 

 閻魔宮で行われる閻魔大王の裁判とは、ある意味死者としての存在を定着させる儀式でもあるのだ。

 不思議なモノで、死ねば閻魔大王に裁かれるという事は、何故だか全宇宙で真偽はともかく言い伝えられている。

 その影響か、閻魔大王に裁かれると誰も彼もが自身が死んだ事を嫌でも実感し、死者である事を自覚してしまうのだ。

 

 そして、自身が死者である事を認める事で、ようやくその者は死者としての存在が安定する訳だ。

 存在が安定しない魂は、いろいろな力に影響されやすいデリケートな存在なのだ。

 そんな場所に、強大な力を持つ悟空が訪れる事を閻魔大王は危惧したのだ。

 

 だが、悟空が無闇矢鱈に力を解放する事がない人格である事も知っているし、五行山の主人のアンニンが優秀なのも知っていた。

 なので、悟空が五行山に訪れても大した問題にはならないだろうと判断したのだ。

 閻魔大王が内心でそんな事を考えている事など知らない悟空は、閻魔大王の言葉に嬉しそうな表情を浮かべる。

 

 そんな悟空の表情に、閻魔大王も笑みを浮かべる。

 

 

「うむ、五行山への道を案内させよう……。 オイ、そこの者……」

「はいオニ!!!」

 

 

 閻魔大王に声をかけられたのは、これまで閻魔大王と悟空の側で成り行きを見守っていたスーツ姿をした青鬼だった。

 

 

「話は聞いていたな……? こやつに、五行山への道を案内してやれ……」

「はいオニ!!!」

 

 

 閻魔大王の言葉を受け、姿勢を正し返事を返す青鬼。

 上司と部下のやりとりを終えた青鬼は、さっそく悟空に向け声を掛ける。

 

 

「それでは、案内させていただきますオニ!」

「ああ、よろしくな!」

 

 

 自身に対し丁寧に深く一礼する青鬼に、悟空も笑顔で応える。

 青鬼が悟空に対して丁重な対応をとるのには訳があった。

 悟空は、あの世では所謂『あの世の達人』と言われる存在の1人だった。

 

 『あの世の達人』とは、生前さまざまな功績を残し、その功績が認められ、死後も肉体を与えられ大界王星で修行を行える一握りの者達のことだ。

 それ故、『あの世の達人』は界王や閻魔大王とは別の敬いの対象になっている。

 それは、あの世に来て間もない悟空も例外ではないのだ。

 

 しかも、『あの世の達人』とは滅多に誕生しない為、青鬼は内心『あの世の達人』を間近に見られて興奮していた。

 そんな内心を抑えながらも、職務を全うするべく青鬼は口を開く。

 

 

「こちらですオニ!」

 

 

 自身を案内するべく歩き出した青鬼に続き、悟空も歩き出そうとしたところで、悟空は再度閻魔大王に視線をむける。

 

 

「色々あんがとな、閻魔のおっちゃん!!!」

「うむ! ああ……、1つ言い忘れとった。

 今後はワシに許可を取らずとも五行山へ行っても良いからな!」

「本当か!? そいつは助かる!!! じゃあな、おっちゃん!!!」

 

 

 閻魔大王の心遣いに感謝を述べた悟空は、閻魔大王に別れをつげ青鬼のあとを追う。

 五行山へ続く道は閻魔宮から少し離れているのか、宮殿を出てすでに20分ほど歩いていた。

 その間青鬼は、滅多に会えない『あの世の達人』の悟空に様々な質問をした。

 

 そして、その質問に悟空が答える形で歩いてきた為、2人はあまり時間が経った様な感覚はなかった。

 しかし、そんな時間も終わりを迎える事になる。

 2人の目の前に巨大な門が立っていたからだ。

 

 

「へー、でっけぇ門だなぁ……」

 

 

 目の前に聳え立つ門の大きさに、感心した様な声を上げる悟空。

 

 

「一応閻魔大王様が通れる様に作られていますので……。

 この先へ五行山へ続く階段がありますオニ、少々お待ちくださいオニ」

 

 

 青鬼は門の柱に近づくと、柱に備えられているボタンを操作する。

 すると程なくして、門がギィッと重々しい音を立てながらゆっくりと開く。

 

 

「これが、五行山へ続く階段ですオニ!!」

 

 

 開かれた門の中には、下が見えないほど延々と下へ続く階段があった。

 門の中は薄暗い空間であった為下の方は真っ黒になっており、肉眼ではどこまで続いているのか検討がつかなかった。

 階段のあまりの長さに、思わず悟空は声をあげる。

 

 

「ひゃぁー、長ぇ階段だなぁ……」

 

 

 驚きの表情を浮かべ階段を見つめる悟空の横で、青鬼が悟空の言葉を肯定する様に頷き口を開く。

 

 

「ええ、五行山はあの世とこの世の間にはりますので、結構長い階段になってますオニ」

「ふーん、そう考えりゃぁ、この長さもしょうがねぇのかな……?」

 

 

 青鬼の言葉を受け、悟空は視線を階段に固定したまま、納得?した様な言葉を口にしながらも、内心は別の事を考えていた。

 

 

(流石に、蛇の道よりは長くねぇよなぁ……?)

 

 

 かつて経験した100万キロの道のりを思い出したのだ。

 初めて蛇の道を走破した時は、半年程かかったのだ。

 今となっては大した距離ではないが、それでも最初の大変だった記憶は多少残っているのか、この様にゴールが見えないモノを見ると無意識に比較対象にしていた。

 

 

「ま、考えたところでしょうがねぇか!! 案内サンキューな!!!」

 

 

 答えが出ない事を考えていても仕方ないと思考を切り替える悟空。

 そして、ここまで案内してくれた青鬼に礼を述べる。

 

 

「いえいえ私も楽しかったですオニ!!

 道中お気をつけて下さいオニ!!!」

 

 

 青鬼の言葉を受け、悟空はニッ!と笑みを浮かべる。

 そして悟空はふわりと浮き上がると、身体から真っ白いオーラを身に纏う。

 

 

「よし、行くか!!!」

 

 

 その言葉を合図に、悟空は凄まじいスピードで五行山へ続く階段を降っていく。

 懐かしき、最初の家族がいるであろうその地を目指して……。




ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の3話を投稿してあります。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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番外編 祖父との再会-中

祖父との再会2話目になります。
久しぶりにも関わらず、色々な方へ読んでいただけて大変嬉しいです。
引き続き楽しんで貰えると嬉しいです。


 閻魔界の門から五行山へ続く階段を、舞空術を使いひたすら下り続ける孫悟空。

 だが、なかなか終わりが訪れず、薄暗い空間を飛び続けていた。

 視界で捉えられるのは、永遠に続く階段だけなので、あまり見ていて楽しい光景ではなかった。

 

 だが、そんな時間もようやく終わりを迎えようとしていた。

 視界の先にようやく小さな光が見えてきたのだ。

 

 

「おっ、ようやく出口が見えて来たな……」

 

 

 終わりが見えた事で、スピードを上げる悟空。

 そして、程なくして悟空は全ての階段を下り終える。

 階段を下り終えた場所は、少し開けた空間になっていた。

 

 そんな空間の端に、五行門と書かれた巨大な門が立っていた。

 空中に浮いている悟空が視線を上げて、ようやくその文字を確かめる事が出来る事からも門の巨大さが分かるだろう。

 

 

「おぉ、この門懐かしいなぁ!!!」

 

 

 悟空はその門を見て、かつてチチと一緒に五行山へ訪れた時の事を思い出す。

 現在悟空が見上げている門は、正確には以前チチと訪れた時に通った門とは異なる門だ。

 かつて悟空とチチが通った門は現世側の門で、今回悟空が通る門はあの世側の門だからだ。

 

 ちなみにだが、現世側の門には現世の人間が簡単に五行山に入れない様、様々な試練が用意されているが、あの世側の門には試練は用意されていない。

 だが、意匠がまったく同じだった為、悟空が懐かしさを感じるのは仕方がない事だった。

 過去の思い出が蘇った事で、地球に残してきたチチの姿が頭に浮かび、少ししんみりした気持ちを覚える悟空。

 

 自身が下した決断を間違いだとは思わないが、それでも自身の死を知った妻が悲しんだ姿は容易に想像が出来た……。

 少し五行門の前で、地球にいる妻へ思いを馳せた悟空はゆっくりと門へ近づく。

 

 

「よっ!っと!!」

 

 

 門へ近づいた悟空は両手で、その大きな扉を押す。

 すると、ギィッ……と重々しい音を立てながらゆっくりと門が開く。

 悟空は門を潜ると、ゆっくりと地面へ降り立ち歩き出す。

 

 しばらく細い通路を歩き、そこを抜けると、そこにはとてつもない広大な空間が広がっていた。

 その中央には、大きな山が軽く入るほど巨大な炉……八卦路が鎮座していた。

 そのあまりの大きさには、過去に一度見た事がある悟空でさえも、思わず声を上げる。

 

 

「相変わらずデッケぇなぁ……」

 

 

 悟空が視線を上げると、八卦路の上の方では轟轟と真っ赤な炎が燃え盛っていた。

 そして、その更に上には巨大な鍋の底が見てとれた。

 余談だが、この巨大な鍋が立てる湯気に乗って、地球の死者達はあの世へ登っていくのだ。

 

 

(ここは変わらねぇなぁ……)

 

 

 かつて見たその姿と何一つ変わらないその様に、懐かしさを覚える悟空。

 しかし、それも束の間、ここに来た目的を思い出す。

 

 

「さて、じっちゃんは何処にいんだ……?」

 

 

 悟空は祖父・悟飯の気を探すべく自らの感覚を広げる。

 すると、悟空の鋭い感覚がここより少し離れた場所に2つの気を捉える。

 

 

「ん? こっからちょっと離れた場所に2つの気を感じる……」

 

 

 悟空がそちらに視線を向けると、目の前には八卦路の外壁しか見えなかった。

 どうやら悟空が感知した気の持ち主達は、今悟空がいる場所を八卦路の正面としたら、ちょうど真後側の更に先にいるようだ。

 

 

「よっ!」

 

 

 悟空は軽く声を上げると、舞空術で空中へ飛び出す。

 そして、あっと言う間に八卦路どころかその上にかかっている鍋をも飛び越える。

 再び地面に降り立った悟空の目の前に、先ほど通ってきた様な通路が再び姿を表す。

 

 

「どうやら、この先にじいちゃんとアンニン様がいるみてぇだな……」

 

 

 悟空は感知した気の元へ向かう為、通路に向け足を踏み出す。

 しばらく通路を歩いていると、一面様々な花に覆われた庭園に出る。

 よくよく見ると、小さな川も流れている様で、その美しい光景に思わず悟空は驚嘆の声を上げる。

 

 

「へぇー、綺麗なトコだなぁ……!!! ちゅうか、五行山にこんなトコあったんか……」

 

 

 しばらく、その美しい光景を堪能した悟空だったが、満足したのか再び歩き出す。

 懐かしい気の元へ……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 悟空が訪れた庭園の中央に、宮殿が立っていた。

 その宮殿は、大き過ぎず小さ過ぎずといった、落ち着いた見た目なのだがどこか威厳を感じさせる建物だった。

 そんな宮殿のすぐ側に、小さな東屋が立っていた。

 

 そこには、円形のテーブルとそれを囲う様に数脚の椅子が並んでいた。

 そんな東屋で茶を飲みながら、談笑をしている者達がいた。

 

 1人はこの五行山の主人・太上老君ことアンニンだった。

 そして、もう1人はアルバイトでこの地で働いている孫悟空の祖父・孫悟飯だ。

 既に日課といっても差し支えがないほど、長い年月この時間になるとお茶をするのが習慣となった2人。

 

 いつもの様に、2人で茶を飲みながら談笑をしていたのだが、五行山の主人であるアンニンは、先程五行山に何者かが訪れた事を感知していた。

 

 

「おや、珍しい……。 この五行山に客なんて……」

「何? 客ですとな……」

 

 

 めったに訪れる者がいないこの地へ、何者かが訪れた事に面白そうな笑みを浮かべるアンニン。

 しかし、アンニンとは対象に悟飯は少し警戒した表情を浮かべる。

 アンニンが述べた様に、この五行山へ人が訪れる事は珍しい。

 

 この地は、あの世と現世の狭間という特殊な場所という事もあり、現世の人間が訪れる為には試練を超える必要がある。

 また、あの世の人間は基本的にここへ来る事はないし、何より閻魔大王の許しが必要となる。

 その様な理由から、この地へ訪れる者は、いい意味でも悪い意味でも皆一癖も二癖もある者が多いのだ……。

 

 そして、大抵はやっかい事を抱えてやってくる。

 悟飯がこの地で働きだしてからも、数える程だがやっかい事を抱えてこの地を訪れた者達がいた。

 その主な理由は、現世の者が死者を連れ戻そうとここまで、侵入してくるのだ。

 

 大抵は試練をクリア出来ずに、その場で帰るか死ぬかするのだが、ごく稀にここまで訪れる者がいるのだ。

 だが、その者も悟飯やアンニンには勝てず、結局現世に帰されるのだ。

 その様な面倒な事が過去にあったので、面白そうな笑みを浮かべるアンニンとは違い、悟飯は警戒した表情を浮かべたのだ。

 

 しかし、最後にこの地へ訪れた者の事を思い出し、警戒した表情を浮かべていた悟飯の顔が少し柔らかいものになる。

 

 

(そういえば、最後にこの地へ訪れた者は悟空とその嫁じゃったなぁ……。

 もう、随分と時が経っておるが2人は元気にやっとるのかのぉ……)

 

 

 最後にこの土地を訪れた者は、悟飯の孫である悟空とその嫁チチだった。

 彼らがこの地を訪れたのは、八卦路の底に空いた穴から、その炎が漏れ出した事が原因だった……。

 チチの父であり悟飯の弟弟子・牛魔王が住む家がその消えない炎に包まれた為、牛魔王が焼死寸前まで追い込まれてしまったのだ。

 

 そして、その原因である八卦路の炎をどうにかする為、2人はこの地へやって来たのだ。

 あの時も、大変だったがそれ以上に、悟空と再会出来た事が悟飯にとっては嬉しかった。

 自身が残して逝った時は、まだ幼い子供だった……。

 

 正直あの世に来てからも、残して来た悟空の事を考えない日はなかった。

 しかし、再会した悟空は武道家としても立派に成長した上に、嫁まで迎えていた。

 これほど、嬉しい事はなかった。

 

 

(次に会う事が出来るのは、きっと悟空が死んでからじゃろうなぁ……。

 まだまだ先は長いが、その分土産話も多くなるじゃろうて、あの嫁と共に幸せに長生きして欲しいわい……)

 

 

 悟飯が孫に思いを馳せていると、再びアンニンの声が聞こえてきた。

 

 

「おや、どうやらお客様がおいでなさった様だよ……」

 

 

 アンニンの言葉に「はっ!」とした表情を浮かべ、現状を思い出した悟飯はアンニンが視線を向けている方に自身も視線を向ける。

 すると、1人の男がこちらにゆっくりと歩いてくる姿が目に入った。

 その男の姿に、悟飯は驚きの表情を浮かべ、アンニンは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「なっ!?」

「これまた、懐かしい顔じゃないか!」

 

 

 悟飯が驚きの声を上げるのも仕方ないだろう……。

 ちょうど、その者の事を思い出していたら、突然本人が現れれば、誰だって驚く。

 しかし、その姿は悟飯の記憶の中の姿と少々異なっていた。

 

 悟飯の記憶の中の男の姿は、まだどこか幼さが残る青年の姿だった。

 しかし、こちらに歩いてくる男からは、既に幼さは消えていた。

 その代わり、歳を重ねた事で様々な経験を積み重ね、更に立派な大人の姿となっていた。

 

 その姿を捉えた悟飯は、思わず無意識のうちに口が動いていた……。

 

 

「ご、悟空!!?」

 

 

 悟空の姿を見て、驚きのあまり立ち上がり悟空へ駆け寄る悟飯。

 そんな祖父の姿を見て、久しぶりに祖父と再会した喜びを表現する様に、悟空は太陽の様な笑顔を浮かべる。

 

 

「久しぶりだな、じいちゃん!!!」

「うむ、久しぶりじゃな悟空!!! 息災じゃったか……?」

「ああ、まぁな!!!」

 

 

 成長した悟空の突然の来訪に驚いた悟飯だったが、悟空の笑顔を見て大人になっても変わらんなぁ……と優しげな笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「そうかそうか!!! それは何よりじゃ……。

 嫁さんや、武天老師様も変わりないか……?」

「ああ!! チチも亀仙人のじっちゃんも皆んな元気だ!!! あとな、オラ子供が産まれたんだぜ!!!」

 

 

 悟空の言葉をニコニコとした表情で聞いていた悟飯だったが、悟空の突然の発言に驚きの表情を浮かべる。

 

 

「何と!? 子供じゃと……、そいつは目出度い!!! 男の子か? 女の子か?」

「男の子だ! チチと話し合って、じいちゃんの名前と同じ悟飯って名付けたんだ!!!」

「何と!? ……そうか……そうか……。 ワシの名前を大切な子の名前にのぅ……」

 

 

 悟空に息子が産まれただけでも、嬉しいニュースだった悟飯。

 しかし、それ以上に悟空が大切な息子に自身の名をつけたと知り、悟飯は思わず目頭が熱くなる。

 

 

「こんなに嬉しい事はないのぅ……。 悟空、遅くなったがおめ……」

 

 

 嬉しさの涙を浮かべ悟空にお祝いを述べながら、自身より大きくなった悟空の肩に手を伸ばそうとし、視線を上げた悟飯の手と口が突如止まる。

 そして、表情を一変させる……。

 その表情は、信じられないモノを見たと言わんばかりに驚愕の色に染まっていた。

 

 中途半端な状態に伸ばされ、止まった手はブルブルと震えていた……。

 

 

「ん……? どうしたんだ……?じいちゃん……」

 

 

 突然固まった悟飯に、不思議そうに首を傾げ声をかける悟空。

 悟空の言葉を受けた悟飯は、震える手で悟空の頭にあるそれを指差し、掠れた様な声で言葉を発する。

 

 

「ご、悟空よ……。 あ、頭の、そ……それは……?」

「ん? これか……?」

 

 

 悟飯の質問の意図が掴めない悟空は、不思議そうな表情で自身の頭の上に浮かぶ輪っかを指差す。

 死者の証たる死者の輪を指さす悟空に、首をぶんぶんと何度も縦に振る悟飯。

 そんな悟飯に悟空はあっけらかんと口を開く。

 

 

「これは死者の輪だ! じいちゃんだって頭に付いてるじゃ……「こっ、このバカモンがーーーっ!!!!!」いいっ!!?」

 

 

 悟空の言葉を遮る様に、悟飯の雷の様な怒声が響き渡る。

 そのあまりの声量に、悟空は思わず驚きの声を上げる。

 悟空の目の前には、先程までの好々爺だった祖父の姿は既になく、烈火の如く怒りに燃えた祖父の姿がそこにあった。

 

 その怒りの炎は、八卦炉の炎にも負けないぐらい凄まじかった。

 

 

「何で、お前が死んでおるんじゃ!?

 しかも、まだ幼い子供や妻を残して!!!

 大体お前は……「まぁまぁ、落ち着きなさいよ……。 悟飯ちゃん」」

 

 

 初めて見る本気で怒った悟飯の姿に、タジタジとなる悟空。

 そんな悟空に助け舟を出す様に、これまで2人のやり取りを静観していた、五行山の主人・アンニンが悟飯の言葉を遮る様に口を開く。

 しかし、相当悟空が死んだ事が許せず、頭に血が上っているせいか、普段ならアンニンに対して絶対荒い態度をとらない悟飯が、この時ばかりは激しい口調で反論する。

 

 

「ですが、アンニン様!!!」

 

 

 怒りに染まった表情で自身を見つめる悟飯とは対照的に、冷めた表情を浮かべ口を開くアンニン。

 

 

「私は、悟空が自ら死ぬ様な奴とは思えない……。

 という事は、やむを得ない事情があったんじゃないのかい……?

 それとも、悟飯ちゃんは自分の孫が自ら命を断つ様な疎か者だと思っているのかい……?」

「そっ!そんな事はありませんぞっ!!!」

 

 

 何処までも冷静なアンニンの言葉に、悟飯は「はっ!」とした表情を浮かべ即座に返事を返す。

 悟飯の答えに納得した表情を浮かべたアンニンは、優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「だったら、まずは落ち着いて、悟空の話を聞いてやろうよ……。

 気持ちは分かるけどさ……」

「はい……。 醜態を晒してしまい申し訳ありません、アンニン様……。

 悟空もすまんかったな……」

 

 

 アンニンの言葉で冷静を取り戻した悟飯は、自分を収めてくれたアンニンと、訳も聞かず怒声を浴びせた悟空に深々と頭を下げる。

 そんな、祖父の姿に悟空は少し困った様な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「いいって、オラ気にしてねぇから……。

 それに、オラが死んだ事が悲しいから、そんなに怒ってくれたんだろ……?

 だったら、尚更怒れねぇよ……」

 

 

 悟空の言葉を受け、悟飯は少し照れた様な困った笑みを浮かべる。

 そんな、祖父と孫の様子に優しげな笑みを向ける五行山の主人。

 しかし、いつまでもこんな場所で立ち話もどうかと思ったアンニンが、2人へ呼びかける。

 

 

「さて、こんな所で立ち話も何だから、一旦場所を移そうじゃないか!

 久しぶりのお客だ、美味い茶と菓子ぐらい出してあげるよ」

 

 

 そう言って東屋へ歩きだしたアンニン。

 その後を追う様に、久しぶりに再会した祖父と孫は歩き出すのだった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 東屋に移動した3人は、アンニンと悟飯が用意したお茶とお菓子を一通り楽しんだ。

 少し場が落ち着いたところで、アンニンが軽い口調で悟空へ向け口を開く。

 

 

「それで悟空、お前どうして死んでしまったんだい……? 病にでもかかったのかい……?」

 

 

 八卦路の火を絶やさない為に、数万年この五行山で八卦路を見守り続けて来たアンニンは、それだけ多くの魂……人を見て来た。

 そんなアンニンから見ても、今の悟空が自身や悟飯が遠く及ばない程の力を持っている事に気が付いていた。

 それ故に、悟空が誰かに殺されるというビジョンがアンニンには想像出来なかった。

 

 だから、若くして死んでしまった悟空の死因を病と予想したのだった。

 しかし、その予想は大きく異なっていた。

 

 

「いや、実はな……」

 

 

 アンニンに話を振られた悟空は、その台詞を皮切りに自身が何故死ぬ事になったのか2人に語って聞かせた。

 

 地球を襲った未曾有の危機……。

 レッドリボン軍の残党、ドクターゲロが生み出した最強の人造人間セルとの激戦……。

 その過程で自身が命を落とした事を……。

 

 

「……てな訳で、オラは自爆しようとしたセル共々、他の場所に瞬間移動して、その爆発に巻き込まれて死んじまったんだ……」

 

 

 自身の生前最後の戦いを語り終えた悟空は、一息つくためにお茶を口にふくむ。

 悟空の話を聴き終えたアンニンは、語られた戦いの凄まじさに神妙な表情を浮かべ口を開く。

 

 

「なるほどねぇ……。 現世ではそんな事が起きていたわけかい……」

「ああ……」

 

 

 五行山はあの世と現世の狭間という特殊な場所にある為、正確には現世に存在するわけではない。

 それ故、この地にいるアンニンや悟飯は基本的に現世の事には疎い。

 いや、正確には興味がないのだ……。

 

 数万年規模で存在しているアンニンからしてみれば、現世の移り変わりなど些細な事でしかないのだ。

 しかし、そんなアンニンでも流石に地球崩壊規模の戦闘が行われたというのは、見過ごせない。

 地球……現世が崩壊してしまえば、五行山にも多大な影響が出ただろう。

 

 しかし、それを目の前にいる男とその息子や仲間たちが命懸けで解決してくれた。

 アンニンはその事に、感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。

 

 

「正に、悟空は地球を救った英雄ってわけか……。 ん?」

 

 

 悟空と話していたアンニンが悟空から視線を外した瞬間、何かに気づき少し驚いた様な表情を浮かべる。

 それに気づいた悟空は、アンニンが視線を向けた方に自身も視線を向ける。

 そして、アンニン以上に驚きの表情を浮かべ思わず声を上げる。

 

 

「えっ!? じっ、じいちゃん! どうしたんだ!? 腹でも痛ぇんか!?」

 

 

 2人の視線の先では、これまで静かに悟空達の話を聞いていた悟飯の姿があった。

 問題なのは、その悟飯が俯き震えながら静かに涙を流していた事だった。

 悟空に声をかけられた悟飯は、涙を流しながら口を開く。

 

 

「悔しくてのぉ……。

 本当だったら、お前はまだ息子や嫁と楽しく生きれたはずなのに……。

 その大切な時間を、悪党のせいで失われたと思うと……」

 

 

 心の底から悔しさを滲ませ、悟空の失われた時間に涙する悟飯。

 悟飯は俯いていた顔を上げ、悟空の目をしっかりと見つめ、とても優しげな笑みを浮かべる。

 

 

「悟空よ……。 お前が死んだ事は残念だが、よく息子や嫁、そして仲間達や地球を守ってくれた……。

 よく頑張ったな……。 お前はワシの誇りじゃ!!!」

「じいちゃん……」

 

 

 祖父からの労いの言葉に、悟空は胸に温かい気持ちと同時に、少し申し訳ない気持ちを抱いた。

 セルと戦ったのは、地球を守る為という想いは確かにあった。

 セルとまともに戦えるのは、地球では自分達しかいなかったからだ。

 

 だが、何よりも自身が強い強敵と戦いたかったという理由が1番だった。

 例え、自分の実力ではセルに勝てないとしても、1年間鍛えた力がどこまでセルに通じるのか実際に戦って試してみたかった。

 悟空がセルと戦ったのは、突き詰めれば強い相手と戦いたいというサイヤ人の本能に従った結果だった。

 

 だから、悟空は自分がセルとの戦いで死んだ時、あまり悲しいと思わなかった。

 強敵とも思いっきり戦えたし、何より息子の悟飯が見せてくれた成長の嬉しさがその悲しさを上回ったのだ。

 だからこそ、セルとの戦いが終わった後、自身の結末含め納得していた。

 

 それ故に、仲間達が生き返らせてくれようとしてくれた時も、簡単に死を選ぶ事ができた。

 だが、こうして自分の死に対して涙を流し、労ってくれる存在が、今、目の前に確かに存在する。

 この五行山へ訪れた際、チチの事を思い出した時もそうだが、自分の為に涙を流してくれる存在が孫悟空には確かに存在するのだ……。

 

 

(オラは、死んだ事を後悔しちゃいねぇけど、簡単に死を受け入れすぎちまったのかもしんねぇなぁ……)

 

 

 この時になって、悟空はあの世に来て初めて、自身の死が周りの人達に及ぼす影響を考えるのだった……。




ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の3話を投稿してあります。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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番外編 祖父との再会-下

お待たせしました。
祖父との再会3話目になります。
引き続き楽しんで貰えると嬉しいです。


 祖父に会う為に、五行山に訪れた孫悟空。

 数十年ぶりに祖父との再会を果たした悟空だったが、祖父・悟飯は孫の死因を知り、その過酷な運命に涙を流した。

 しかし、そんな悟飯が落ち着いたのを見計らい、アンニンは話題を変える意味も込め、再び悟空に話を振る事にした。

 

 正直な話、悟空の死因よりも五行山の主人としてはそちらを確認する方が重要だったのだ。

 

 

「色々あって今更って感じだけど、悟空、今日はどうしてここへ来たんだい……?

 また、前みたいに何かあったのかい……?」

 

 

 アンニンが悟空に問いかけたのには、理由があった。

 何故なら、悟空はかつて五行山で起きた問題を解決してくれた恩人でもあったからだ。

 その問題とは、八卦路の底に空いた穴から炎が漏れ、悟空の妻の父・牛魔王の城が炎に包まれ、焼死寸前に陥るという事件が起きたのだ。

 

 炎に包まれた城に残された牛魔王を救うべく、悟空とチチはどんな炎をも消す事が出来ると云われた芭蕉扇を探す冒険を行った。

 冒険の末、芭蕉扇を手にする事は出来たが、それでも八卦路の炎を消す事ができなかった。

 通常の炎であれば、どんな業火であろうが芭蕉扇で炎を消す事が可能だった。

 

 だが、八卦炉の炎は通常の炎とは異なるため、芭蕉扇でも鎮火することが出来なかったのだ。

 その事に困り果てた悟空とチチ。

 そんな2人の前に占いババが現れ、この炎の正体が八卦路の炎だという事を知った2人は、八卦路がある五行山へ向かう事になったのだ。

 

 2人は様々な試練を共に乗り越え、五行門を超える事に成功する。

 そうして、2人は五行山で悟空の祖父・孫悟飯と再会し、五行山の主人であるアンニンと対面する事になったのだ。

 悟空とチチは、アンニンや悟飯の協力を得て、八卦路の底に空いた穴を防ぐ事に成功する。

 

 こうして、牛魔王は助かり、八卦路の問題も解消されたのだ。

 その様な過去があった為、アンニンは悟空が再びこの地へ訪れたという事は、自身が気付いていない問題が起きたのか?と危惧していたのだ。

 

 しかし、その心配は杞憂だった……。

 

 

「いや……、今日はじいちゃんに会いに来たんだ……」

 

 

 悟空の言葉を聴き、アンニンはほっと胸を撫で下ろすと同時に、妙な引っ掛かりを覚えた。

 気のせいか、言葉を発した時の悟空の表情や言葉が少し硬い様に感じたのだ。

 

 

「ワシに……? 死んだから会いに来たということかのう?」

「まぁ、それもあんだけど……」

 

 

 自身に会いに来たと言われた悟飯は、悟空がここに来た理由を予想する。

 しかし、悟空から返って来た言葉は妙に曖昧なものだった。

 悟飯もアンニン同様、悟空の表情や言葉が少し硬い事を感じ取り、不思議そうに首を傾げる。

 

 2人は悟空の様子から、今日この場に訪れた本当の理由が別にある事をなくだが察する。

 そんな2人の視線を受けたせいか、悟空の表情が先程よりもさらに硬くなる。

 よほど言いづらい事なのか、悟空はなかなか言葉を発せられずにいた……。

 

 悟飯とアンニンは、未だ口を開くことが出来ないでいる悟空を急かす事なく、言葉を発するのを見守る事にした。

 しばらく、沈黙の時間が3人の間に流れる……。

 それから少しして、ようやく覚悟を決めたのか、固く結ばれた悟空の口が開く。

 

 

「実は……今日はじいちゃんに謝りに来たんだ……」

 

 

 ようやく重い口を開いた悟空の言葉に、悟飯は不思議そうに首を傾げる。

 

 

「謝る……? はて……、ワシはお前に謝ってもらう様な事など特に無いが……?」

 

 

 その姿や言葉には、本当に悟空に謝られる事が考えつかないのか、心底不思議そうな表情を浮かべていた。

 そんな祖父の姿に、悟空は界王が言っていた事を思い出し、フッと笑みを浮かべる。

 しかし、それをすぐに引っ込め、自身のやるべき事をやる為に、悟空は祖父の眼をしっかり見つめ口を開く。

 

 

「じいちゃん、オラな、じいちゃんがどうして死んじまったのか、もう理由を知ってんだ……。

 じいちゃんを殺しちまったのは……、オラ……だろ……?」

 

 

 悟空の言葉を、悟飯は表情を変える事なく受け止める。

 だが、言葉を聞いた瞬間、僅かにだが悟飯は確かに身体を震わせる。

 それは、悟空やアンニンといった一流の武道家でないと、気づかないほど僅かな揺れだった。

 

 しかし、それは悟飯が確かに動揺した証だった。 

 達人である悟飯も、2人に自身が一瞬動揺した事がバレている事は当然分かっていた。

 だが、それを認めるわけにはいかなかったので、勤めて冷静に口を開く。

 

 

「……何のことじゃ?」

 

 

 表情からは一切動揺を感じさせず、悟空の言葉の意味が本当に分からないと言った表情を浮かべる悟飯。

 そんな悟飯に、悟空は静かに語りかける。

 

 

「じいちゃんは、大猿の化け物に殺された……。 そうだろ……?」

「……」

 

 

 悟空の問いかけに、肯定する事も否定する事もせず無言で応える悟飯。

 そんな悟飯に向かって、悟空は更に言葉を続ける。

 

 

「その大猿は、オラ達サイヤ人が満月を見ると変身する姿だ……」

「サイヤ人……?」

 

 

 聞いた事がない言葉に首を傾げる、悟飯とアンニン。

 そんな2人に悟空は、自分が知る自身の出自について語り出した……。

 

 

「オラは元々地球を滅ぼす為に、他の星から送り込まれた宇宙人だ……。

 だけど、ガキの頃に頭を打ってサイヤ人としての記憶を無くしてしちまったらしい。

 その後は、じいちゃんのお陰で地球人・孫悟空となったんだ……」

「……」

 

 

 頭を擦りながら言葉を続ける悟空。

 そして、悟飯も悟空の頭に無言で視線を向ける。

 悟飯は悟空が触れている箇所に酷い傷跡があることを知っていた。

 

 何故なら、その傷を手当したのは悟飯本人だったからだ。

 悟空は悟飯が拾った当初、とても手がつけられない程気性が荒かった。

 だが、それが落ち着いたのが、頭に大怪我を負った頃からだった。

 

 それを思い出した悟飯は、表情にこそ出さないが、内心で悟空の言葉に納得していた。

 そんな悟飯の内心など知らない悟空は、いよいよ話の核心に触れようとしていた。

 

 

「今から数年前にな、オラの兄貴ってヤツや同じサイヤ人のヤツ等が地球にやって来たんだ……。

 そん時に、オラは自分が何者なのかを知る事になったんだ……。

 そして、大猿の事も……」

 

 

 そこで言葉を切った悟空は、まるで自分の心を落ち着ける様に、一息付く。

 そして、再び祖父の眼を見て口を開く。

 ここへ来た目的を果たすべく……。

 

 

「大猿の事を知った時、じいちゃんを殺したのが自分だって、分かったんだ……。

 だから、いつかあの世に行った時、謝ろうって決めてたんだ……。

 本当にすまねぇ!じいちゃん!!!」

 

 

 全てを話終え、悟飯に向かって深く頭を下げる悟空。

 これまで悟空の向かい側でじっと話を聞いていた悟飯は、静かに立ち上がる。

 そして悟空の元へ近づくと、悟飯は悟空の頭に優しく手を乗せ撫でる。

 

 

「そう、じゃったか……。 お前は全てを知ってしまったんじゃなぁ……」

 

 

 久しぶりに祖父に頭を撫でられ、その懐かしさに思わず身体を震わせる悟空。

 そして、下げていた頭を上げ不安気な表情で悟飯を見つめる。

 

 

「じ……、じいちゃん……」

 

 

 自身を不安そうな表情で自身を見つめる悟空に、優し気な笑みで応える悟飯。

 だが、そんな好々爺の顔が突如、キリッ!とした表情へ変わる。 

 

 

「ふう、いつまでそんな顔をしとるんじゃ、悟空よ!!!」

 

 

 そう言うと悟飯は、これまで頭を撫でていた手で悟空の頭を叩く。

 まるで、腑抜けていた孫に気合を入れる様に……。

 仮にも悟空の祖父、武道家・孫悟飯の一撃だ……。

 

 完全に気が抜けていた悟空は、モロにその一撃を受けてしまう。

 

 

「いてっ!!!」

 

 

 突然、頭を叩かれて思わず両手で頭を抑える悟空。

 だが、悟飯同様、悟空も一流の武道家だ。

 それ故に、今の祖父の一撃が憎しみや怒り等といった負の感情から来るものではなく、自身に喝を入れる為のモノだと言う事を理解してしまった。

 

 

「……って、怒ってねぇんか……?」

 

 

 悟空は不思議そうな表情を浮かべ、祖父を見つめる。

 しかし、当の祖父はそれこそ不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。

 

 

「怒る……? 何でじゃ……?」

 

 

 祖父の表情から、悟空は本当に祖父が怒っていない事を察する。

 しかし、祖父を殺した罪悪感があった悟空は、ここで曖昧なまま話を終わらせる事は出来なかった。

 そこで、更に踏み込むべく口を開く。

 

 

「いや、だって……「まぁ……」え?」

 

 

 まるで自身の言葉を遮るように言葉を発した悟飯へ、驚きの表情を向ける悟空。

 そんな悟空を、朗らかな笑みで受け止める悟飯。

 その表情は悟空が幼い頃、毎日自身へ向けられた、とても良く知っている笑みだった。

 

 その笑みを見た瞬間、悟空は悟飯が自身が言いたかった事を全て理解している事を察した。

 そして、悟飯も悟空の表情を見て、悟空に自身が察していた事が伝わった事を察する。

 

 

「確かにワシは大猿の化け物に殺された……。

 じゃがな、悟空よ……お前は大猿だった時の事は覚えておらんのじゃろう……?」

「あ、ああ……、サイヤ人が大猿になると理性を失っちまうんだ……」

 

 

 まるで事実確認をするかの様な祖父の問いかけに、悟空ははっきりと頷く。

 そして、悟飯はその悟空の返答に納得した様な表情を浮かべる。

 

 

「なるほどのう……。 じゃから子供の時のお前も何も覚えとらんかったんじゃなぁ……」

 

 

 悟空の言葉で、初めて大猿を見た時の事を思い出す悟飯……。

 突如パオズ山に現れた大猿の化け物……。

 眠っていた悟飯は、大猿の化け物の咆哮に思わず眼を覚ます。

 

 そして、自身の股下で眠っていたはずの悟空の姿がない事に気がついた悟飯は、急いで家を飛び出した。

 すると、悟飯の目に飛び込んできたのは、体長10メートルは優に超える大猿の化け物だった。

 その大猿の化け物は、凄まじい力で暴れ回っていた。

 

 悟飯は大猿の凶暴性や、その強大な力に武道家として危機感を抱いた。

 一流の武道家でもあり正義感が強かった悟飯は、一瞬大猿を止めるべく戦いを挑もうとした。

 確かに大猿は凶暴で強大な力はあったが、言ってしまえばそれだけで、知性などは微塵も感じなかった。

 

 正直、自身が戦いを挑めば、勝利を得られる確信が悟飯にはあった。

 だが、ここで自身が大猿と戦えば、周囲にも多大な被害が出ることは火を見るより明らかだった。

 そうなれば、いなくなった悟空に危険が及ぶ可能性が出てくる。

 

 悟空をほっておくという選択肢は悟飯の中になかった。

 結局戦いを挑む事はせず、大猿の眼を掻い潜りながらパオズ山中を探しまわった。

 だが、いくら探しても悟空の姿を発見する事は出来なかった……。

 

 一晩中探し回り、夜が明けた時、悟飯はそれを見てしまった……。

 これまで、好き勝手暴れていた大猿が、突如動きを停止させると、みるみると縮んでいくのだ。

 その事に驚き、何が起こったのか確かめたくなった悟飯は、一旦悟空の捜索を中止して警戒しながらも急いで大猿の元へ向かう。

 

 そして、大猿がいたであろう場所に到着した時、悟飯は大猿の正体を知る事になった……。

 大猿がいたであろう場所に、寝る前は確かに服を着ていたはずの孫が、何事もなかったかの様に猿の様な尻尾を揺らしながらスヤスヤと眠っていたのだ……。

 悟飯はその光景を見て、大猿の正体が何者か理解せずにはいられなかった……。

 

 正直な話、地球の平和の事を考えるのであれば、ここで悟空を殺してしまった方がよいのではないか?と考えなかった訳ではない……。

 それほどまでに、大猿へ変身した時の悟空の凶暴性や暴れっぷりは凄まじかった……。

 だが、それ以上に悟空への愛情が上回った悟飯は、結局悟空を殺す事が出来なかった。

 

 殺さない判断をした以上、悟飯は自身の中で悟空……大猿の面倒を見る事を決心した。

 それからの悟飯は、一体どうして悟空が突然こんな事になったのか、必死に考えた。

 大猿になった時の悟空と、普段の悟空ではあまりに異なっていたからだ。

 

 普段の悟空の性格を考えれば、あそこまで暴れ回ったりする事はない……。

 なので、変身さえさせなければ、悟空が無害な子供だという事は、悟飯自身が一番よく分かっていた。

 それに、これまで一緒に暮らして来た経験から、悟空がそう簡単に変身す事がない事も分かっていた。

 

 となれば、変身する切っ掛けや原因があったはずだと考える悟飯。

 そこで、これまでの生活を振り返り、昨晩とこれまでで何が違っていたのかを考えた時、悟飯の頭に一つの可能性が浮上する。

 それは、昨晩が”満月”だった事だ……。

 

 悟飯は今でこそパオズ山で隠居した生活を送っていたが、若い頃は武天老師の下で修行して、その後は世界中を武者修行の旅で回った過去がある。

 その時に、こんな話を聞いた事があった……。

 ”満月の夜、人間が狼男になる”というものだった……。

 

 その話を覚えていた悟飯は、悟空の変身の切っ掛けも満月だったのでは?と当たりをつける。

 普段の悟空や悟飯は、かなり早い時間に眠りにつくので、夜に外に出る事はない。

 だから、これまで気付かなかったのだ。

 

 それから、悟飯は悟空にこう言い聞かせる事にした。

 

 

「満月の夜は、大猿の化け物が出るから、決して外に出てはいけない」

 

 

 この言いつけを守り出してからは、パオズ山に大猿の化け物が現れる事は無くなった……。

 孫悟飯が亡くなるその日まで……。

 

 

「じいちゃん……?」 

 

 

 悟空の言葉に「はっ!」とした表情を浮かべる悟飯。

 どうやら、ずいぶん長い事、過去の思い出に浸っていた様だ。

 こちらを心配そうに見つめる悟空に、少々恥ずかしくなった悟飯は「こほん!」と一息入れる。

 

 

「まぁ、つまりじゃ、あの時のお前は、お前であってお前で無かった訳じゃ……。

 それにな、ワシは武道家じゃ……。

 いつ死んでも良い覚悟はしておった……。

 じゃから、死ぬ時もほとんど悔いなどなかった……。 幼いお前を残して逝く事以外はのう……」

 

 

 悟空の眼をしっかり見据え、悟飯は自身の思いをしっかり伝える。

 これ以上余計な重荷を背負い続ける必要はない、という想いを込めて……。

 

 

「じゃが、お前はちゃんと自分の人生をしっかり歩き、武道家としても人間としても立派に成長しおった……。

 そんなお前に、何を怒る事があろうか……」

「じいちゃん……」

 

 

 祖父が向ける自身への無償の愛情に、悟空は思わず目頭があつくなり眼に涙が貯まるのを感じる。

 それと同時に、悟空は長年心の奥底にあった心の重荷がなくなるのを実感するのだった。

 悟空の様子を見て、悟飯は悟空が長年背負ってきた重荷から開放された事を悟る。

 

 

(ふぅ、これで悟空がワシの死に対して、これ以上後ろめたさを持つ事はないじゃろう……。

 それにしても、せっかく悟空が久しぶりに会いに来てくれたというのに、先程から随分湿っぽい雰囲気が続くのぅ……。

 まぁ、話の内容が内容だっただけに、仕方ないのやもしれんが、こういう時は皆笑顔がいいのじゃがのぅ……。

 さてはて、どうしたものか……)

 

 

 湿っぽい雰囲気が続き、いい加減この空気を変えたかった悟飯。

 内心でどうしたものか……と考え、考えがまとまった悟飯は場の空気を変えるべく動き出す。

 その表情は、イタズラっ子が浮かべる様なニヤリと人が悪い笑みを浮かべる。

 

 

「それにのう、ワシからしてみれば、こんなに早くお前があの世に来てしまった事の方が、遥かに怒っとる。

 まぁ、理由が理由だけに仕方ないとはいえな……」

「ははっ!!」

 

 

 悟飯の表情を見て、その言葉が自身をからかっているものだと気付き、涙を貯めていた悟空の表情にいつもの太陽の様な笑みが戻る。

 こうして、孫から祖父への懺悔の時間は終わりを迎えたのだった。

 2人に笑みが戻った事で、これまで2人の様子を見守っていたアンニンがぽつりと言葉を零す。

 

 

「それにしても、セルか……。

 もしかして、あの時のあいつがセルだったのかもしれないねぇ……」

「ん? アンニン様、セルの事知ってんのけ……?」

 

 

 何かを考える様に顎に手を当て、難しそうな表情を浮かべるアンニンに、彼女の言葉を拾った悟空が不思議そうな表情を向け問いかける。

 悟空の問いに、アンニンは静かに首を横に振る。

 

 

「いや、あたしはセルってヤツの事は知らないよ……。

 この五行山は、あの世と現世の間だから、お前がこの間まで生きていた現世とはちょっと違った場所なのさ……。

 だから、ここにはあまり現世の出来事は流れて来ない……。

 まぁ、知ろうと思えば知れるけどね……」

「へー! 確かに前来た時から不思議な場所だと思ってたけんど、ここってそんな場所だったんか……」

「まぁ、生きた人間が行けるのは、ここまでだね。

 此処から先は、完全に死者の世界さ……」

 

 

 悟空の問いに応える為、五行山という場所について軽く説明するアンニン。

 しかし、それが質問の内容から外れていた事に気付き、「あっ!」とした表情を浮かべる。

 

 

「……と、話がずれてしまったね……。

 この間、この五行山からとても邪悪な魂があの世へ昇っていったのさ……。

 数年前にも、とんでもない邪悪な魂が登っていったけど、この間のヤツもそれに負けず劣らず凄かったからねぇ……。

 長年、ここで色々な魂を見送ってきたけど、あれほど邪悪な魂は初めて見たよ……」

 

 

 あの世に昇っていたセルの魂を思い出したのか、アンニンは苦々しい表情を浮かべる。

 それほど、セルの魂は邪悪だったのだろう……。

 そして、その表情を見た悟空も自身が戦ったからこそ、セルの恐ろしさが分かっている為、険しい表情を浮かべる。

 

 

「多分、悟飯にやられたセルだろうな……。

 そして、数年前に見た邪悪な魂ってヤツは、フリーザだろうな……」

「おや? そっちも知り合いなのかい?」

 

 

 悟空の言葉を聴き、アンニンはまさか数年前の邪悪な魂の持ち主とも知り合いだった事に、驚きの表情を浮かべる。

 そんなアンニンに、苦笑いで応える悟空。

 

 

「ああ、どっちもオラが闘った相手だかんな……。

 ちなみに、フリーザはオラが生まれた星を破壊したヤツで、宇宙の帝王って呼ばれるくれぇ、悪ぃヤツだったんだ!!」

「なるほどね……。 それだったら、あのドス黒さも当然といえば当然だったわけか……」

 

 

 悟空の言葉で、フリーザが自身が思っていた以上の悪党だと知り、魂の邪悪さに納得した表情を浮かべるアンニン。

 そして、改めて目の前で茶を啜っている男が、自身の想像以上の経験を積んできた事を実感せずにはいられなかった。

 アンニンからしてみれば、人の一生など瞬きにも等しい程一瞬だ。

 

 だが、そんなアンニンからして見ても、孫悟空という男が歩んだ軌跡は異常といえた。

 

 

「それにしても、お前は生前、色んなヤバいヤツ等と戦ってたんだねぇ……」

「ははっ……!! 確かにな!! どいつもこいつも皆強かったぞ!!!」

 

 

 どこか呆れた様な表情を自身に向けるアンニンへ、どこ吹く風といった様子で笑顔で返事を返す悟空。

 そんな孫の様子に、改めて笑みを浮かべる悟飯。

 こうして、重い雰囲気の語らいは終わりを告げるのだった……。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 話が一段落した3人は、再びお茶を飲みながら談笑に講じていた。

 その時、悟飯はお茶を啜りながら、改めて目の前に座る孫に視線を向ける。

 そこには、本来死者では持ち得る筈のない肉体を当たり前の様に持ち、お茶を啜り饅頭を頬張る孫の姿があった。

 

 

「ところで、悟空よ。

 お前、肉体を持っておるという事は、あの世でも修行する事を許されたという事か……?」

「ん? ああ、地球や宇宙を救ったりしたから閻魔のおっちゃんが特別扱いしてくれたんだ!!」

 

 

 悟飯の問いかけに、口の中の饅頭を飲み込んだ悟空は、得意気な笑みを浮かべ返事を返す。

 その返事に笑みを浮かべる悟飯。

 

 

「そうかそうか! あの世には、沢山の素晴らしい達人がおるからのう……。 お前も大いに励むといい」

「ああ!! この間、あの世一武道会ってのに参加したんだけど、あの世っておもしれぇ使い手が沢山いて、オラ、ワクワクしちまったぞ!!!」

 

 

 悟飯の言葉を受け、先日行われたあの世一武道会で戦った、さまざまなあの世の達人達を思い出す悟空。

 これまで戦った事がなかった様なタイプの達人が沢山参加しており、悟空も大いに刺激を受けた。

 

 

「あの世一武道会……? そんな大会があの世であったのかい?」

 

 

 ワクワクした表情を浮かべる悟空の横で、悟空の言葉を受け不思議そうな表情を浮かべるアンニン。

 

 

「ああ!! えっと……、正式な名前は……『北の界王死んじゃった記念、あの世一武道会』だったかな……?」

「「ブーーーッ!!!」」

 

 

 悟空の発した衝撃の言葉に、アンニンと悟飯は思わず口に含んでいたいたお茶を勢いよく吹き出す。

 そんな2人の様子に、驚く悟空。

 

 

「な、何だよ!? 2人して……」

「ごほっごほっ!!! だ、だって、お前! 今、北の界王様が亡くなられたって……」

 

 

 アンニンは勢いよく立ち上がると、悟空に信じられないといった表情を向ける。

 しかし、そんなアンニンとは対象に悟空はあっけらかんと、更なる爆弾を投下する。

 

 

「ああ、確かに死んじまったぞ……?

 ちゅうか、オラが巻き込んで死なしてしまったんだけど……」

「ええっ!?」

「な、何じゃと!?」

 

 

 悟空の爆弾発言に、アンニンと悟飯は驚愕の表情を浮かべる。

 そんな2人の態度に不思議そうな表情を浮かべる悟空。

 

 

「あれ……? オラ言わなかったっけ……?」

「「聞いてない(とらん)!!!」」

 

 

 2人からの怒声を受け、その声量に思わず耳を塞ぐ悟空。

 思わず抗議の声を発しようと2人に視線を向けると、視線の先の2人は、どういう事だ?と何処か据わった眼をこちらに向け、無言の圧力で説明を要求していた。

 2人の視線に悟空の米神から冷や汗が一筋流れる。

 

 2人の視線に押される形で、悟空は口を開く。

 

 

「えっと……、セルが自爆する時、オラがあいつと一緒に瞬間移動して地球とは別の場所で、あいつの自爆に巻き込まれて死んだ話はしたよな……?」

 

 

 2人は無言で大きく頷く。

 

 

「オラの瞬間移動は、オラが知っているヤツの気を感知して、そして、そいつの元へ移動する技なんだ……。

 そんで、時間もなかったから、界王様がいる界王星に移動して、オラと一緒に界王様も死んじまったんだ」

 

 

 悟空の話を聴き終えた2人は、目の前の男のとんでもない所業に、思わず身体を震わせる。

 界王の死とはそれ程までに、本来であれば重大な事なのだ……。

 

 

「な……、なんちゅう事を……」

「お前、よく今まで無事だったね……」

 

 

 事の重大性を理解している2人は、仕方ないとはいえ界王殺害という大罪を犯したにも関わらず、未だ特に罰を受けず呑気に茶をしばいてる目の前の男に信じられないといった視線を向ける。

 そんな視線を受けた悟空は、思わず眉根を寄せる。

 

 

「無事じゃねぇよ……。 あの後、界王様から滅茶苦茶怒られたしな……」

「「当たり前だ(じゃ)!!!」」

 

 

 あまりに的外れな悟空の発言に、ついにアンニンと悟飯の怒りが爆発する。

 そんな2人の怒声に、再び耳を塞ぐ悟空。

 そんな悟空の様子を見て、幾分か落ち着いたアンニンは「ふぅ」と一息つくと、不思議そうな表情を浮かべ悟空へ問いかける。

 

 

「というか、悟空……。

 さっきから気になってたんだけど、お前、界王様と随分親しい様だけど、あのお方とどんな関係なんだい……?」

 

 

 アンニンの問いかけに、悟空は腕を組み、少し考える様に首を傾げる。

 だが、すぐに答えがでたのか、笑顔を浮かべる。

 

 

「界王様との関係……? うーん、一言で言えば師匠と弟子だろうな!!」

「で、弟子!? あの滅多に弟子を取られない界王様の……!?」

 

 

 悟空の発言に、アンニンは驚愕の表情を浮かべる。

 北の界王は彼自身優れた武道家である事は天界では周知の事実で、その彼に弟子入りしたいあの世の達人は数え切れないほど存在する。

 しかし、先のアンニンの発言どおり滅多に弟子を取らない事でも有名だった。

 

 そして、その数少ない弟子の1人が閻魔大王であった。

 だが、それも数千年前の話で、それ以来弟子をとったという話を聞かなかった。

 それを知っているアンニンからしたら、悟空が界王の弟子になれた事に驚きを隠せなかった。

 

 

「ああ! 今から6年前くれぇかな……?

 さっき言ったと思うんだけど、オラの兄貴ってヤツが地球へやって来た時に、オラそいつを倒す為に、相討ちで1回死んじまってんだよ……。

 だけど、1年後に2人のサイヤ人が地球へやって来る事が分かって、しかも2人共オラの兄貴よりも強い事が分かったんだ。

 だから、前の地球の神様から、あの世で界王様に修行をつけてもらえって言われて、界王様がいる界王星に行って、修行をつけてもらったんだ」

 

 

 懐かしそうに界王の弟子になった経緯を話す悟空。

 そんな悟空の言葉を受け、悟飯とアンニンは改めて目の前の男の規格外さを再認識するのだった。

 

 

「はぁー、昔からただ者では無いと思ってたけど、まさか、お前があの界王様の弟子とはねぇ……」

「まったくですなぁ……。 この世で4柱しかおられぬ、界王様の弟子とは……。

 しかも、そんな偉大な神の一柱を仕方ないとはいえ、巻き込んで死なせてしまうとは、これはワシも界王様に謝罪に行くべきかもしれませぬなぁ……」

 

 

 孫のしでかした不始末に本気で頭を悩ませる悟飯。

 だが、やらかした当の本人はあっけらかんと無責任な発言をぶちかます。

 

 

「う〜ん、別にじいちゃんが謝らなくてもいいんじゃねぇか……?

 界王様を死なせちまったのは、オラなんだし……。

 それに、セルとの戦いの後、地球のドラゴンボールで生き返れたのに、自分で死ぬ事を選んでたしな!

 まぁ、オラに付き合ってくれたからなんだけど……」

「な、何と!? だったらますますお礼を述べに参らねばならんでは無いか……」

 

 

 まさか孫に付き合って、生き返る事すら放棄した界王にいよいよ頭が上がらなくなった悟飯。

 祖父が真剣に頭を悩ませてる側で、饅頭を頬張り祖父を見つめる孫。

 

 

「そこまで、気にする事じゃねぇと思うんだけどなぁ……」

 

 

 悟空の呑気な発言に、悟空と界王の関係が決して悪いものでない事を察するアンニン。

 この様子だと、確かに悟飯がお礼を述べる必要はないのかもしれないと内心で思ってしまった。

 だが、それは置いておいても、流石に悟空の態度に呆れた様な表情を浮かべる。

 

 

「お前は気にしなさすぎだと思うけどねぇ……。

 でも、本当に大丈夫なのかい……?

 他の界王様方や、大界王様に知られたら大ごとになりそうだけど……」

 

 

 北の界王とは師弟の関係故、許されたかもしれないが、流石に事が事なので、アンニンは不安気な表情を浮かべ悟空に問いかける。

 

 

「うーん、他の界王様達は、界王様が死んだのを知った時は、腹抱えて大笑いしてたけどなぁ……。

 それに、さっき言ったあの世一武道会も界王様が死んだ記念とか名前がついてたし、大丈夫なんじゃねぇか?」

「えぇ……」

「神々の考えはワシ如きでは、計り知れぬという事ですかなぁ……」

 

 

 悟空の言葉に、頭を抱えるアンニンと、遠い目をする悟飯。

 その後も、悟空達はあの世一武道会の話や、界王様との生活等たわいもない話に花を咲かせた。

 悟飯はあの世での生活について喋る悟空の姿を、目を細めとても楽しそうな表情で眺めていた。

 

 だが、そんな楽しい時間も終わりを迎えようとしていた。

 

 

「それじゃな! アンニン様、じいちゃん!!」

 

 

 五行門の前で、アンニンと悟飯に別れを告げる悟空。

 

 

「うむ! また気軽に来るといい、待ってるよ、悟空!!!」

 

 

 そう言って悟空に笑みを向けるアンニン。

 アンニンが喋り終わると、悟飯が悟空へ近づき、ポン!と悟空の肩に手を乗せる。

 

 

「今日はお前と久しぶりに話せてとても楽しかったわい。

 お前が、こんな早くに死んでしまった事は、今でも残念じゃが、あの世でも楽しくやっているようで、安心したわい……。

 界王様にご迷惑をかけるでないぞ」

「ああ! わかってるよ、じいちゃん」

 

 

 優しく語りかける悟飯に、太陽の様な笑みを返す悟空。

 そんな悟空に、朗らかな笑みを返す悟飯。

 

 

「またの、悟空……」

「ああ、またな! じいちゃん」

 

 

 再会を誓い、笑顔で別れを告げる祖父と孫……。

 そんな両者の姿を、優しそうな微笑みを浮かべ見守る、五行山の主人……。

 

 それから間も無く、どちらからともなく離れる祖父と孫……。

 そして、悟空は2人に背を向け歩き出す……。

 そんな悟空の姿を、悟飯とアンニンは悟空が通り抜けた五行門が閉まるまで見続けた。

 

 そして、2人は門が閉じる瞬間、確かに見た。

 こちらに、太陽の様な笑顔を向ける男の姿を……。

 

 

 こうして、祖父と孫の数十年ぶりの再会は終わりを告げた……。

 

 だが、今度はそう遠くない未来に、彼らはまた再会を果たすのだろう……。

 

 今日みたいに互いに笑みを浮かべ、仲良くお茶を飲みながら……。




明日から「サイヤ人の悪魔編」を毎週月曜日に更新を再開します。
お待たせして申し訳ありませんでした。

ブログサイトの方で「サイヤ人の悪魔編」の3話を投稿してあります。
活動報告で紹介しているサイトで公開しています。
興味がある方は、そちらを見てもらえると嬉しいです。


Thank you.


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